明日の歌と少女とつかむ腕 (茶の出がらし)
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序章 帰国と返却と空の穴
一つ、世界の終わりを望む真木の野望を打ち砕くもアンクを失った火野映司
二つ、それから時を経て仮面ライダーポセイドンから失われたと思われていたコアメダルを取り戻す
三つ、幾度かの事件に巻き込まれ、半年ぶりに日本に帰ってくることに
遠い異国。とある空港のロビー。
赤道に近い地域にも関わらず、黒いスーツといういでたちの男が携帯電話で話していた。
「…はい、はい。わかりました。予定通り明日の夜には戻ります。奴も一緒です。はい、では後ほど、会長」
男が電話を切るのと同時に館内の放送が流れる。
『From 12 o'clock to Japan, check-in will begin shortly.(12時発日本行き、まもなく搭乗手続きが始まります)』
「もうそろそろだな…hey!(おい)」
近くに座っていた男、日本人にはない浅黒い肌に声をかけた。
「It is a flight soon. Where is he?(そろそろフライトだ。彼はどこに?)」
そう聞かれた男はうとうとしていたのか、慌てて周りを見回した。
「I've been here a while ago ...(さっきまでここにいたんだが・・・)」
「何をしているんだ…まったく」
スーツの男は舌打しつつ、携帯を操作する。電話をかけるがつながらない。空港だから電源を切っている・・・というわけではない。そもそもあの男に携帯を持つという考え自体がないのだ。
「Hey! There it is!(おい、いたぞ!)」
と、先ほどの男が手を振り、前方を指差している。そこには、
「…Don't lose anymore, if you have something important, have it properly(もうなくしちゃだめだよ、大事なものならちゃんと持っていてね)」
「Thank you very much!(ありがとう!)
エスニックのテイストが強い服装。茶色のサルエルパンツに様々な色の入った手縫いらしきシャツの男が、現地の少女に向けてぬいぐるみのようなものを手渡している。左右がはねた独特の髪型に優しげな表情、日本人らしい肌色の腕には、なぜか長い棒が握られ、その先には派手な色の下着、というかパンツが干してあった。
「Eizi!! What are you doing like this?(エイジ!!こんなところで何やってるんだよ?)」
「I was looking for a girl because she was crying and she was looking for a doll(女の子が泣いていてさ、人形探してるって言うから一緒に探してたんだよ)」
エイジ、と呼ばれた青年は笑いながら英語で答える。
と、スーツの男が青年に声をかける。
「火野、携帯はどうした?」
「あ、後藤さん。すいません電池切れちゃってて・・・」
「…充電しておけ。あと、もうすぐ搭乗手続きが始まる。準備しろ」
「は、はい…すいません…」
スーツの男―後藤は踵を返しつつ、言った。
「相変わらず、荷物はそれだけなのか」
「もちろん、ちょっとのお金と明日のパンツがあれば生きていけますから」
そう言って青年は―火野映司は笑った。
※
欲望から生まれた怪人、グリード。
彼らグリードの根幹である「コアメダル」、それをめぐる戦いから数年。
火野映司は未だ旅を続けていた。
かつての相棒である彼のメダルを握りながら。
※
「ところで、何で後藤さんが俺を迎えにきたんですか?確かもう警視庁に戻ってたような…」
十数時間に及ぶフライトの末、日本に到着した映司と後藤は車に乗ってとある場所へと向かっていた。
普段は途上国を主に旅している映司にとって、窓の外を流れる風景は一時濃い時間をすごした日本とはいえ、新鮮であることに変わりはない。
そんな映司の問いに助手席に座る後藤が答えた。
「今回は鴻上会長からの依頼で、特例だ。里中に頼んだら『暑いし砂埃とか苦手なんで』と言っていたらしい。伊達さんもいないし、しょうがないとはいえ、有給を3日も使ってしまった」
「里中さん…相変わらずですね…」
「お前こそ、研究所と連絡も取らずになんであんなところにいたんだ。そもそもお前が鴻上ファウンデーションと連絡さえ取っていれば俺が出張ることもなかったんだ」
「それはそうなんですけど…、たまたま知り合った人を手伝って、また別の人と知り合って、また手伝って、って繰り返してたら…」
「お前のほうが相変わらずだな…」
呆れたように後藤は言った。
「日本に来たのは半年振りになるのか?」
「はい。例の平行世界融合の件で戻ったとき以来ですね」
「あの事件か…。市民の避難誘導でそれどころではなかったが、グリードも現れたんだってな」
「…グリード、か」
窓を眺める映司の目が細まる。どこか遠くを見るような視線に後藤は心の中で舌打をした。
「(しまった…余計なことを言った…)」
「大丈夫でしたよ!色んなライダーが駆けつけてくれたおかげで何とかなりましたし」
ポケットの中、二つに割れたメダルに触れ、
「…アイツとも、ちゃんと話せましたから」
映司は言う。その顔には寂しさはあれど、後悔はなかった。
「そうか…そろそろ着くぞ」
「はい」
いつの間にか二人を乗せた車は巨大なビル―鴻上ファウンデーションへと到着していた。
※
「ハッピバースデイ トゥユー、ハッピバースデートゥーユー…」
鴻上ファウンデーションの最上階に位置する会長室、そこの主である初老の男性-鴻上光生は歌いながらスポンジケーキに生クリームを塗りたくっていた。
「会長」
と、鴻上の背後から長身の女性が声をかけた。
「火野さんと後藤さんが戻られました。数十秒で到着するそうです」
「ご苦労里中君」
そう返した鴻上は出来上がったケーキを見て満足げに頷き、一人ごちる。
「火野君が戻り、あれが完成した…またもや欲望の渦が、彼を中心に回り始める、か」
窓際の棚に置いてあるあるものをみやり、いつものように叫ぶ。
「ハッピーバースデイ!!!」
※
「里中さん、お久しぶりです!!」
「お久しぶりです火野さん。後藤さん、3分遅刻、減給ですよ」
「俺はもうここの社員じゃない」
会長室前のスペースで再会を喜ぶ映司にクールに返す里中。もっともこれは彼女にとっての平常運転なので映司も後藤も特に気にしない。
「会長、火野さんと後藤さんです。」
会長用のデスクの後ろで腰掛けている鴻上に向けて映司はあいさつした。
「お久しぶりです、鴻上さん」
「火野君、久しぶりだね。最後に話したのは君が研究エリアから抜け出した1か月前以来だ」
「えーっと、すいません、勝手にいなくなったりして」
反省するそぶりを見せる映司に鴻上は笑って答える。
「いいんだよ、元々君の協力があっての研究だからね」
「ならいいんですけど・・・」
映司は鴻上ファウンデーションのある研究の客員研究者、ということになっている。映司が手伝い、また自身の為にもしている研究、それは、
「鴻上さん、研究に何か進展はあったんですか?」
「その前に、君に借りていたものを返そう。里中君」
「はい」
そう言って里中は鴻上のデスクにあったジュラルミンケースを差し出す。
「借りてたものって…まさか」
後藤の言葉に鴻上が頷く。
「そう、ドクター真木が吸収し、仮面ライダーポセイドン―湊ミハル君の体内に取り込まれ、そして君が回収したコアメダルと、君から借りていたオーズのベルトだ。」
映司が開けたジュラルミンケースの中には赤・黄・緑・黒・青、それぞれの色が三枚ずつ、合計15枚のメダルと黒色に青いラインが入り、メダルが三枚入るようなデザインのバックル―オーズドライバーが収められていた。
「会長!コアメダルは封印しておくと!」
「後藤君。君は半年前の事件のことを聞いていなかったのかね?」
「半年前の事件って、あの」
呟く映司に里中が言う。
「はい。最上魁星が起こした並列世界融合事件です」
並列世界融合事件。
裏で世界を操っているとまで言われている組織、財団Xの研究者、最上魁星が並行世界合体装置「エニグマ」を使って並行地球同士を融合させようとした事件である。異なる世界の地球が衝突し星そのものが破壊されかねない中、仮面ライダーと呼ばれる戦士たちが危機を救ったのは一部の人々しか知らない。
「それは聞いてますよ。警視庁の方でも対応に追われていましたから…、だけど、それと火野にメダルを返すことと何の関係があるんですか?」
「あの事件で我々は、財団Xがコアメダルを複製していることを知った。幸い火野君や帝都大附属病院のライダーたちのおかげでそこから復活したグリードを撃退できた」
しかし
「重要なのはグリードが再び復活する可能性が出てきた、という点だ。この前のように都合よく戦ってくれる者が現れると断言できるかね?」
「それは―」
「なにより、財団Xが作ったメダル―人造コアメダルと呼称しているが―が複数枚紛失しているという情報が入っている。いつどこでグリードが現れるかもしれないこの状況で、戦える者が一人でも増えることは安全保障の面ではむしろ喜ばしいことなのじゃないかね?後藤君」
「鴻上さんは、グリードたちがまた暴れるから俺に戦えって言っているんですか?」
「そんなことは言っていないよ。あくまで備えあれば憂いなし、ということだ。それにそれは君の物。返すのは当然のことだ」
「しかし会長、なにも火野が戦わなくても!こいつはもう一般人です!戦いなら俺に―」
「それにね後藤君。彼は先の最上魁星にメダルを持っていない状態で立ち向かおうとしたのだよ。彼は今やわが社の研究員だ。安全のためにも装備を返すのは順当なはずだが?」
「くっ…」
何も言い返せない後藤の前に映司が一歩出る。
「大丈夫ですよ後藤さん。グリードを放っておけないのは本当のことだし―」
「この手が届く世界を救うために、これは必要です。」
そう言って映司はベルトを服のポケットにしまい、メダルを同じく入っていたホルダーに収めた。
「それと、これは君にプレゼントだ」
鴻上が手に持っていた包みを手渡す。開けてみると円筒形の機械が入っていた。
「なんですかこれ?ベルトに似たデザインですけど」
側面にオーズドライバーと同じような青いラインがあり、スライド式の蓋を外すと中には円形に掘られた溝があった。
「これは、財団Xのラボにあったものだ。…解析の結果、コアメダルを修復する機能があると思われる」
「コアメダルを…修復?」
無意識に映司の声が震え、思わずポケットに入っているもの―二つに割られたタカコアに指が触れる。
「そうだ。と言っても、その機能を使うには動力が足りないらしい。現状は使えない状況だ」
しかし、と鴻上は続ける。
「財団X、最上魁星のラボからそれの動力として利用できる物の名前は判明している。古文書に記されており解読は難解だが、その単語だけは彼も読み解いていたようだ」
「その、動力と言うのは…」
映司の問いに鴻上はテーブルに置いてあったケーキを示す。プレートにはアルファベット
で単語が記されていた。
「曰く、【フォニックゲイン】と呼ばれるものだ」
※
それから一時間後。
鴻上ファウンデーションで後藤と別れた映司は、かつて寝泊まりしていた店「クスクシエ」に向かっていた。
「フォニックゲイン…検索しても何も出てこないし、何語かもわかんないなあ…」
パンツのかかった棒片手に歩く姿は、日本の日常風景とは明らかにミスマッチしていたが、本人はどこ吹く風である。それよりも先ほどの鴻上とのやり取りが映司の頭の中を占めていた。
「アンク…」
掌にある二つの欠片。かつて共に戦い、消えてしまった名前を呟く。
「…いや、再生する可能性が出てきたんだ。あと少しで届くんだ。アイツに」
よし、と頷き映司は進む。クスクシエまであと少し。吉報としてこのことを伝えなきゃ、と前向きに歩く映司の目に映ったのは
「みんなーのアイドル~、ひーなたんだよ☆」
色とりどりのパステルカラー、お菓子のような内装になっているクスクシエ店内と、その中央でこれまたパステルカラーの衣装を着込んだ見知った女の子がポーズをとっている姿だった。
「ひ、比奈ちゃん?」
「いらっしゃ・・・え、映司君!???」
目を見開き映司を見る女性―泉 比奈は近づき言う。
「えっと、今お店で、ネットアイドルフェアやってて・・・」
「ネットアイドルって、千代子さん相変わらずだね・・・」
もしかして店長である千代子もパステルカラー調の恰好をしているのだろうか。正式な年齢は不明(誰も聞かない)で美人ではあるがこの格好は厳しいのでは…。
「ちょっと、映司君!?」
などと映司が考えている間に懐かしい声が聞こえてきた。
「やだー、来るなら言ってくれればよかったのに!後藤君とか比奈ちゃんのお兄さんとか呼んでパーティーしましょ!!」
「いや!千代子さん!後藤さんには会いましたし、あとで信吾さんには俺から挨拶しますから!…それよりその服…」
「これ?似合ってるでしょ?今日のコンセプトは【ネットアイドルをプロデュースする喫茶店のマスター】よ!」
そう言う知世子は、白い柄シャツ、緑色のエプロンに薄いオレンジのレンズのサングラスに帽子。誰とは言わないが13話くらいで裏切りそうな恰好だ。
「知世子さんはアイドルじゃないんですね・・・」
「そうなの!アイドルは比奈ちゃんに任せて、私はプロデュースに徹するっていうコンセプトなの!!」
「そうですか・・・」
相変わらずの姿に苦笑いする映司。それから店内のカウンターに通され、飲み物を貰うと休憩なのか比奈が近づいてきた。
「映司くん、いつ帰ってきたの?半年前に日本から出ていったきり連絡もないし・・・」
「あー、ごめんね。半年前の事件のあとちょっとごたごたしてて。しばらくは日本にいると思うから、信吾さんにも挨拶しないと」
「そうなんだ。あ、そういえば映司君に渡すものがあるんだった」
言って比奈はカウンターの中にあるバックから小包を取り出して映司に手渡す。
「なに?これ」
「この間、映司君にお世話になったっていうお医者さんから受け取ったの。何かのゲームって言ってたけど」
「お医者さんにゲーム・・・、もしかして宝生先生かな」
「あ、そうだ。確か名刺貰って、そんな名前だったような」
小包と一緒に入っていた紙片を確認する。そこには『帝都大附属病院 小児科医 宝生 永夢』と書いてあった。
「そっか。エグゼイドが」
仮面ライダーエグゼイド―宝生永夢は先の並行世界融合事件の首謀者、最上魁星のいるアジトに乗り込んだ際、異世界からきたという仮面ライダー、クローズと共にグリードと戦ってくれたライダーの一人である。
事件の後も交流し、仮面ライダーならではの話をした。その際に「今度映司さんにぴったりのゲームを送ります!」と言っていたが、本当に送ってくるとは、と思いながら小包を開く
「これって、ドレミファビート!」
「比奈ちゃん知ってるの?」
中には赤、緑、黄のラインが入ったボディに、幾何学模様が彫られた半透明のパーツ、起動用のボタンが付いた機械―ガシャットと呼ばれるゲームソフトがあった。
「少し前に流行ったゲームで、ポッピーピポパポっていうキャラクターを救い出す音楽ゲームですよ。友達とよくやってたなあ」
「ぽっ、ポッピー?よくわかんないけど、これはゲームのソフトってことなのかな」
「うん…でも、市販のソフトとは少し形が違うような…」
比奈は映司の手にあるガシャットを見て言う。
「へえ…、あれ?これよく見るとタイトルが違うんだけど」
「えっ?、あ、本当だ」
タイトルロゴとデフォルメされたDJのキャラクターからドレミファビートだと思い込んでいたが。
「タトバビート?」
「タトバってオーズの?」
ガシャット正面に描かれたDJ少年の下側に『TATOBA BEAT』と筆記体で書かれている。よく観察するとキャラクターは映司が変身する姿―仮面ライダーオーズに似ている。
「ってことは、これオリジナルゲームってことじゃないですか?すごい!」
「さすがゲーマーライダーだね。っと。手紙がある。」
ガシャットの下に折りたたまれた紙片。四つ折りにされたそれを開くと手書きの文字でメッセージが書かれていた。
『映司さんへ
いつ日本に戻るかわからないので、お友達だっていう女の子に渡しました。このゲームは前に言った通り、映司さんにぴったりのゲームになっています。黎斗さんに頼んでちょっとした仕掛けもしてもらいました。ぜひ楽しんでください!
追伸;日本に戻ってゲームをプレイしたら教えてください。一緒に遊びましょう!』
「黎斗さんって、あの壇 黎斗ですか?ゲンムコーポレーション社長の?」
「多分そうだね。敵になったり味方になったりする人らしいけど…」
「それ、なんかアンクに似てますね」
「確かに・・・、あ、そうだ比奈ちゃん!すごいもの貰ったんだよ!ひょっとしたらアンクが…」
その言葉は最後まで続かなかった。
ゴーン、という爆発音のようなものと共に大きな地響きが足元から響く。
「な、なに!?」
「比奈ちゃん!千代子さん!外へ逃げて!」
いち早く反応した映司が二人を外へ逃がす。机の上に置いてあったガシャットをポケットに収め、クスクシエの外に出る。
「まだ揺れてる…ただの地震じゃない?」
「比奈ちゃん!映司君!大丈夫!?」
「大丈夫です…、映司君、あれ!!」
千代子の問いに答えた比奈が空を指さす。その先には、
「なんだ、あれ…」
四角い巨大な穴みたいなものが光を放っている。空間が直接裂けているようなそれは、クスクシエの上空50メートルくらいの位置で静止している。
バキバキバキ
という音に振り向くとクスクシエの庭に生えていた樹木が音を立てて抜けていった。
「木が!!それになんだか上から引っ張られているような・・・」
「あれに吸い込まれているんだ!!二人とも逃げて!!」
言いながら映司はオーズドライバーを取り出し、メダルホルダーを開く。重力を操れるコンボ―サゴーゾコンボに変身すればこの状況を回避できるかもしれないと思ったからだ。
しかし。
「ちょっと、何か光ってるわよ!?」
知世子が示す先、謎の穴からすさまじい光が照射された。
「キャッ!映司君!!身体が浮いちゃう!」
「比奈ちゃん!掴まって!!」
手を伸ばして比奈の手を取る映司。と、もう片方の手で持っていたメダルホルダーをしまって手近なものを掴もうとしたその時
「!!メダルが!」
上空から放たれた光に触れたメダルが次々と上空へ飛んでいく。
「私たちも浮いてるわー!!」
知世子の叫びと共に、さらに光が強くなり、
三人はクスクシエと共に謎の穴に吸い込まれていった。
※
「・・・じくん・・・、映司君!!」
「比奈ちゃん・・・」
「よかった・・・3時間も目が覚めなかったから。千代子さん、映司君起きました」
「よかった~、映司くん、怪我はない?」
「大丈夫です、よかった、2人とも無事で・・・、外はどうなってますか?」
周りを見渡すと先ほどまでいたクスクシエの店内だが、数人いたはずの客の姿はない。
「お客さんは気付いたらいなくて・・・、外はその・・・なんというか・・・」
立ち上がり、外に出た映司は比奈の言葉に頷いた。
「ここは・・・?」
クスクシエは住宅街の中に位置していたが、映司の目の前に広がる光景はいつものそれとは違う。
「私立リリアン音楽院・・・?こんな学校あったかしら?」
千代子の言葉に二人は首を横に振った。
「クスクシエごとどこかに移動したってこと?」
「かもしれない。とにかく今は情報を集めないと。俺は近くを見てきます。千代子さんと比奈ちゃんは—」
「私も行きます!」
「・・・わかった。千代子さんはここにいてください。誰か来ても通さないように」
「わかったわ。気を付けてね」
その言葉に頷いで返すと二人は外に向けて歩き出した。
※
「とりあえず、日本ってことはわかったけど・・・」
それから30分ほど。
映司と比奈は市街地らしき場所の一角にあるベンチに腰掛けていた。周囲は元にいた街よりは発展した街並みが広がっており、該当テレビには風鳴翼というアーティストが歌う姿が映し出されている。
「比奈ちゃん、あの歌ってる人知ってる?」
「ううん、見たこともないです」
「ってことはやっぱり、元いたのとは別の世界に来た、ってことなのかな・・・」
「別の世界・・・、並行世界ってことですか?」
「かもしれない。断言はできないけどね」
そう言いつつ思い出すのは半年前の事件。異なる世界同士が合体しようとしたあの事件を経験した映司からすれば、この世界が並行世界だとしも不思議ではないと感じていた。
「お金も普通に使えそうだし、言葉も問題なさそうだ・・・問題は—」
そう言って映司は手元のもの―メダルホルダーを広げつつ言う。
「メダル、何枚か落としちゃいましたね・・・」
比奈の言葉に映司は項垂れる。ホルダーの中のメダルは何枚かなくなっていた。
「コンドルとライオン、サイ、ゴリラ、タコ、か。どこ行っちゃったんだろ」
「どうやって探しますか?」
「・・・とりあえず今日はもう暗いし、クスクシエに戻ろう。メダル探しはまた明日できるし―」
ウヲオオオオオオオン
言いかけたその時、頭上の該当スピーカーからサイレンが鳴り響いた。
「なにこれ!?」
「わからない・・・とにかく行こう!!」
映司は比奈の手を取って走り出した。
※
サイレンから遡ること4時間近く前。
「響―?なにしてるの?」
「未来、これなんだろ、コインかな?」
「コインっていうかメダル?動物みたいな柄が書いてあるね」
リリアン音楽院敷地内にて、コアメダルが二人の女の子に拾われていた。
しんしんしんふぉぎあー。
と言うことで始まりました。新シリーズです。
かなりの亀更新ですが、応援してくれたらうれしいです。
宜しくお願いします。
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