とある飛空士への召喚録+日本国 (創作家ZERO零)
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自衛隊兵器設定資料集

とりあえずは、海自だけでも。


オリジナル兵器あり。

 

海上自衛隊

『やまと型大型護衛艦』

『いずも型ヘリ搭載型護衛艦』

『しょうかく型航空護衛艦』

『もがみ型中型護衛艦』

『こんごう型イージス護衛艦』

『あたご型イージス護衛艦』

『まや型イージス護衛艦』

『あきづき型汎用護衛艦』

『あさひ型汎用護衛艦』

『ふぶき型多機能護衛艦』

『おおすみ型輸送艦』

『21式46センチ三連装砲』

『21式20.3センチ二連装砲3基』

『21式二連装高性能20ミリ機関砲』

 

 

航空自衛隊

『F-4EJ改ファントム』

『F-15Jイーグル』

『F-2ヴァイパーゼロ』

『F-3零戦』

『E-767AWACS』

『C-2ブルーホエール』

『B-3爆撃機』

 

 

 

陸上自衛隊

『HOWA5.56小銃』

『SFP9拳銃』

『10式戦車』

『AH-01サムライ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海上自衛隊

『やまと型大型護衛艦』

転移先の世界情勢や、レヴァームと天ツ上への戦力誇示のために建造された自衛隊初の『超弩級戦艦』。戦艦の配備は、日本の歴史上実に75年ぶりとなる。

操艦や戦闘指揮には「Advanced Integrated CIC(AICIC)」と呼ばれる新システムを採用。攻撃を受けた際の生存性向上のため船体の奥深い位置にCICを移動し、そこから操艦、エンジン制御、ダメージコントロール、消火制御、通信などあらゆるコマンドを遠隔操作することが可能になっている。

搭載した46センチ三連装三基による攻撃力は、現代でも十分通用するレベルにまで改良されている。一番砲塔及び二番砲塔は背負い込み式でVLSの後ろに、三番砲塔はヘリコプター甲板の後方に配置されている。

 

スペック

基準排水量:4万8000トン

全長:260メートル

全幅:34メートル

機関:揚力装置6基

武装:

46センチ三連装砲3基

62口径12.7センチ砲4基

21式二連装高性能20ミリ機関砲8基

VLS前後300基(前方150、後方150)

ASM-3改四連装発射管6基

HOS-303魚雷発射管2基

C4I:

イージス武器システム

海軍戦術情報システム

レーダー:

SPY-1D1基

OPS-281基

艦載機:ヘリコプター4機

装甲:複合装甲

同型艦:4隻

艦名

・やまと

・むさし

 

 

 

『しょうかく型航空護衛艦』

転移後の世界情勢やレヴァーム天ツ上の軍事力を受けて建造された、自衛隊初の『正規空母』。アングルド・デッキを採用しており、コストを下げるためにスキージャンプ式空母となっている。

 

スペック

基準排水量:3万8000トン

全長:330メートル

全幅:最大76メートル

機関:揚力装置4基

武装:

二連装高性能20ミリ機関砲4基

RAMミサイル4基

C4I:海軍戦術情報システム

レーダー:

FCS-3 1基

OPS-28 1基

艦載機:

ヘリコプター6機

F-3戦闘機60機

同型艦:4隻

艦名:

・しょうかく

・あかぎ

・たいほう

・とさ

 

 

 

 

『いずも型ヘリ搭載型護衛艦』

前級である『ひゅうが型護衛艦』をさらに大型化し、武装を簡略化した護衛艦。ヘリコプターの運用に重点を置いて設計されており、自衛火器は最低限に抑えてある。行動するときは、艦隊を組んで行動することになっている。

 

スペック

基準排水量:2万6000トン

全長:248メートル

全幅:38メートル

機関:揚力装置4基

武装:

二連装高性能20ミリ機関砲4基

RAM 2基

C4I:海軍戦術情報システム

レーダー:

FCS-3 1基

OPS-28 1基

艦載機:

ヘリコプター11機

同型艦:4隻

艦名:

・いずも

・かが

 

 

 

『たかお型中型護衛艦』

自衛隊初のミサイル巡洋艦として建造された。艦隊の中核を担う旗艦級として建造され、やまと型やしょうかく型が居ない艦隊の指揮を取る。イージスシステムを搭載しており、従来の護衛艦よりもステルス性を考慮した設計で、デカいイージス艦という感じ。

武装は多く、中でも対地支援を念頭を置かれた新規開発の18式20.3センチ単装砲砲は203ミリという大口径ながら、かなりの連射力を誇る。

 

スペック

基準排水量:1万8000トン

全長:240メートル

全幅:30メートル

機関:揚力装置4基

武装:

20.3センチ二連装砲3基

二連装高性能20ミリ機関砲6基

VLS前後200基(前方100、後方100)

SSM-3改四連装発射管4基

HOS-303魚雷発射管2基

C4I:

イージス武器システム

海軍戦術情報システム

レーダー:

SPY-1D 1基

OPS-28 1基

艦載機:ヘリコプター3機

装甲:複合装甲100ミリ

同型艦:8隻

艦名:

・たかお

・あづま

 

 

 

 

 

 

『まや型イージス護衛艦』

はたかぜ型の代艦としてイージス艦2隻の建造が認可され、イージス艦8隻体制が整うことになり、建造されたのが本級。その後の護衛隊群増強に伴い、本型は10隻に増産されることとなった。本型はあたご型の設計をもとに、電気推進を採用している。そのため、飛空艦への改造時の負担が少なかった。

 

スペック

排水量:1万250トン

全長:170メートル

全幅:21メートル

機関:揚力装置4基

武装:

62口径12.7センチ砲1基

21式二連装高性能20ミリ機関砲4基

VLS 64+32セル

SSM-3改四連装発射管2基

324ミリ三連装魚雷発射管2基

C4I:

イージス武器システム

海軍戦術情報システム

レーダー:

SPY-1D 1基

OPS-28 1基

艦載機:ヘリコプター2機

同型艦:4隻

艦名:

・まや

・はぐろ

 

 

 

『あたご型イージス護衛艦』

海上自衛隊は初のイージス護衛艦であるこんごう型を導入し、8艦8機体制の4個護衛隊群の所要であるミサイル護衛艦4隻体制を充足した。

しかし、2000年代になり老朽化に伴ってたちかぜ型が耐用年数を迎える見込みとなっており、護衛隊群の編制を維持するためには、更に2隻のミサイル護衛艦を建造する必要があった。そうして建造されたのが本級である。

基本的には、こんごう型の性能向上型となっている。ヘリコプター格納庫を増設し、艦型をステルス性の高いものに変更している。飛空艦への改造に至り、主翼と21式二連装高性能20ミリ機関砲4基が追加されている。

 

スペック

排水量:1万トン

全長:165メートル

全幅:21メートル

機関:揚力装置4基

武装:

62口径12.7センチ砲1基

21式二連装高性能20ミリ機関砲4基

VLS 64+32セル

SSM-3改四連装発射管2基

324ミリ三連装魚雷発射管2基

C4I:

イージス武器システム

海軍戦術情報システム

レーダー:

SPY-1D 1基

OPS-28 1基

艦載機:ヘリコプター1機

同型艦:2隻

艦名:

・あたご

・あしがら

 

 

 

『こんごう型イージス護衛艦』

海上自衛隊初のイージス艦として就役したのが本級。アーレイ・バーク級をモデルに作られているが、艦橋が大型化して旗艦級としての能力を多分に発揮できるように改良されている。飛空艦への改造に至り、ヘリコプター格納庫を増設。ヘリコプターを運用できるようになった。

 

スペック

排水量:9400トン

全長:161メートル

全幅:21メートル

機関:揚力装置4基

武装:

54口径12.7センチ砲1基

21式二連装高性能20ミリ機関砲4基

VLS 61+29セル

SSM-3改四連装発射管2基

324ミリ三連装魚雷発射管2基

C4I:

イージス武器システム

海軍戦術情報システム

レーダー:

SPY-1D 1基

OPS-28 1基

艦載機:ヘリコプター1機

同型艦:4隻

艦名:

・こんごう

・きりしま

・みょうこう

・ちょうかい

 

 

 

『きたかぜ型汎用護衛艦』

レヴァームと天ツ上の軍事力に触発され大量建造が開始された新型汎用護衛艦。あきづき型やあさひ型をベースに、将来発展性を確保しつつ取得コスト低減を図ることに主眼をおいて設計されている。あきづき型、あさひ型を元に両型の欠点や弱点を補強し、大型化を施した海上自衛隊の汎用護衛艦の傑作。

 

スペック

排水量:8250トン

全長:161メートル

全幅:19.5メートル

機関:揚力装置2基

武装:

62口径12.7センチ砲1基

連装高性能20ミリ機関砲2基

VLS 64+32セル

SSM-3四連装発射管2基

324ミリ三連装魚雷発射管2基

レーダー:

SPY-1D 1基

OPS-28 1基

艦載機:ヘリコプター2機

同型艦:24隻

艦名:

・きたかぜ

・はやかぜ

 

 

 

『あさひ型汎用護衛艦』

あきづき型を元に対潜戦の核となるセンサーにバイ/マルチスタティック・オペレーション機能を付加するとともに、電気推進の導入が図られたのが本型である。

本型は、19DD(あきづき型)をベースに、将来発展性を確保しつつ取得コスト低減を図ることに主眼をおいて設計されている。このため、全体的な艦影は19DDと類似するが、OPY-1の固定式アンテナ4面が艦橋部に集中配置されているため、後部構造物はよりすっきりした。まや型同様、電気推進のため飛空艦への改造時の負担が少なかった。

 

スペック

排水量:7250トン

全長:170メートル

全幅:21メートル

機関:揚力装置4基

武装:

62口径12.7センチ砲1基

21式二連装高性能20ミリ機関砲4基

VLS 64+32セル

SSM-3改四連装発射管2基

324ミリ三連装魚雷発射管2基

C4I:

海軍戦術情報システム

レーダー:

SPY-1D 1基

OPS-28 1基

艦載機:ヘリコプター2機

同型艦:2隻

艦名:

・あさひ

・しらぬい

 

 

 

『あきづき型汎用護衛艦』

海上自衛隊では、03中期防より第2世代の汎用護衛艦(DD)の整備に着手した。むらさめ型、たかなみ型と移行した後、同型をもとに船体を拡大してFCS-3やOQX-XXなどの装備を追加したのが本級。

飛空艦への改造に伴い、21式二連装高性能20ミリ機関砲を4基搭載することになり、一部を大型化、煙突も撤去した。下部にも折りたたみ式のCIWSを搭載し、下部への防御力を高めている。

 

スペック

排水量:6800トン

全長:150メートル

全幅:18メートル

機関:

揚力装置4基

各部スラスター18基

主翼:エンジェル・ウィング1対2枚

武装:

62口径12.7センチ砲1基

21式二連装高性能20ミリ機関砲4基

VLS 32セル

SSM-3改四連装発射管2基

324ミリ三連装魚雷発射管2基

C4I:

海軍戦術情報システム

レーダー:

SPY-1D 1基

OPS-28 1基

艦載機:ヘリコプター2機

同型艦:4隻

艦名:

・あきづき

・てるづき

・すずつき

・ふゆづき

 

 

 

『もがみ型多機能護衛艦』

地域警備のため建造された3900トン級の小型護衛艦。従来の護衛艦よりもステルス性を重視して作られており、突起物が少ない。

 

スペック

排水量:3900トン

全長:132メートル

全幅:16メートル

機関:

揚力装置2基

各部スラスター12基

主翼:エンジェル・ウィング1対2枚

武装:

62口径12.7センチ砲1基

21式二連装高性能20ミリ機関砲2基

VLS 16セル

SSM-3改四連装発射管2基

HOS-303魚雷発射管2基

C4I:

イージス武器システム

海軍戦術情報システム

レーダー:

SPY-1D 1基

OPS-28 1基

艦載機:ヘリコプター2機

同型艦:22隻

艦名:

・もがみ

・くまの

・のしろ

・みくま

 

 

 

 

『おおすみ型輸送艦』

 

 

 

 

『46センチ三連装砲』

やまと型大型護衛艦に搭載されている口径46センチの大口径砲、日本が保有する砲としては最大を誇る。誘導砲弾を使用した際の最大射程距離は350キロを誇り、これは対艦ミサイルに匹敵する。この砲の登場でやまと型は空母や原子力潜水艦に次ぐ戦略的価値を生み出していると言っても過言ではない。

 

スペック

口径:460ミリ

砲身長:45口径

重量:1500トン

初速:毎秒1500メートル

有効射程:350キロ以上

発射速度:毎分6発

 

 

 

 

『20.3センチ二連装砲』

本砲システムは、新しい軽量な20.3センチ砲と、砲塔などの付随的システムによって構成される自動砲システムである。

もがみ型中型護衛艦を建造するにあたり、対地支援能力の向上が求められた。そのため、米軍のMK.71 8インチ砲を元に二連装砲化、もがみ型に取り付けられる程の重量にまで削減したのが本システムである。

 

スペック

口径:203ミリ

砲身長:55口径

重量:135トン

初速:毎秒900メートル

有効射程:55キロ以上

発射速度:毎分24発

 

 

 

 

『二連装高性能20ミリ機関砲』

ロシアのコールチクCIWSを参考に作られた艦載複合型CIWS。M61バルカン砲を二門搭載し、ファランクスのレーダーレドームを流用して装備。ミサイルは搭載されていないものの、二本に束ねられたバルカン砲の防御力は絶大である。

 

スペック

口径:20ミリ

銃砲身:6本×2

重量:7トン

初速:毎秒1100メートル

有効射程:1490メートル

発射速度:毎分1万発(二本合わせて)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

航空自衛隊

『F-4EJ改ファントム』

『F-15Jイーグル』

『F-2ヴァイパーゼロ』

『F-3零戦』

『E-767AWACS』

『C-2ブルーホエール』

『B-3爆撃機』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸上自衛隊

『HOWA5.56小銃』

『SFP9拳銃』

『10式戦車』

『AH-01サムライ』

 

 

 

 

 



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第一章
第1話〜接触〜


活動報告でのアンケートの結果を経て投稿します。
今作は駆け足で進みます。


第1話〜接触〜

 

 

 2015年1月

 

 その日は突然訪れた。

 日本国の夜空が明るくなる現象に加え、他国との連絡が完全に途絶えてしまった。これを受け自衛隊は各基地に厳戒態勢を命じ、情報収集に写ろうとしている。

 そして、茨城県にある航空自衛隊百里基地のレーダーサイト基地では、レーダ画面を見つめる百里管制隊の隊員がいた。先ほどの厳戒態勢を経て警戒人数が増えている。

 

「ん?」

 

 管制官の隊員がレーダー画面上にある一つの点を見つけた。その点は東京上空のど真ん中をゆっくりとしたスピードで飛行している。

 問題なのは、先ほどまでこの空域はまっさらで何の反応もなかったことだ。それなのに、この反応は急に現れた。

 

「な、なんだこれは!?」

 

 隊員は思わず声を上げた。

 一つ目は低速であることからプロペラ機かと思われる。しかし、もう片方はあまりにも巨大だった。まるで船、それも数千トンクラスの大型艦である。それが対空レーダーに映っている。

 

『東京上空に所属不明機を発見! 戦闘機隊はスクランブル発進せよ!』

 

 一気に百里基地の飛行場が慌ただしくなり、戦闘機隊の第7航空団が対応する。いきなりのスクランブル発進だが、彼らは慣れた勢いと手つきで『F-4EJ改』を発進可能にする。

 

『テイクオフ』

 

特徴的なくの字の誘導路を進み、アフターバーナーを全開にして発進する『F-4EJ改』。百里から『幻影』の名を持つ飛行機械が次々と飛び立った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 狩乃シャルルは今の状況が信じられなかった。

 突然夜空が光ったかと思うと、目を瞑るような光がシャルル機と近くで哨戒していた飛空駆逐艦〈竜巻〉を包み込んだ。何が起こったかはわからない。

 それだけではない。今自分達が飛んでいるのは陸地の上だった。数々の灯りも見え、ここに人が住んでいることがわかる。見たことのない土地であった。

 

「一体どうなっているんだ? 大瀑布は?」

 

 シャルルの疑問は尽きなかった。今まで飛んでいたのは、大瀑布の上空2000メートルだった筈。

 しかし、今眼下に広がる都市には大瀑布などどこにもない。とりあえずは〈竜巻〉に連絡を取ろうとした時、彼の方から連絡があった。

 

『電探に感!北東方向から高速で接近する物体あり!とてつもない速度で迫っています!』

「なんだって?」

 

 シャルルはその方向に目を向ける。その時、夜空にピカリと何かが光ったかと思ったら、それが高速で接近してきた。シャルルと竜巻の前方を、とんでもない風圧で通り過ぎる。

 目まぐるしく変わる状況。しかし、シャルルの目がその通り過ぎた物体の正体を捉えていた。矢尻のような鋼鉄の翼と機首、灰色の機体、そして後方から吹き出す陽炎。

あれは……

 

「ジェット機……?」

 

 レヴァームが開発をしているという、新世代の航空機エンジンであるジェットエンジン。シャルルは実物を見せてもらったことがある。先ほどの戦空機から発せられていた音は、まさしくそのジェットエンジンの音だった。

 シャルルの疑問を振り払うように、ジェット戦空機はそのまま高度を上げる。そして機体の国籍マークを月光の下にあらわにした。

 

「日の丸……?」

 

 見たことない国籍マーク、日の丸を掲げる国家なんて聞いたことがない。

 やがて、そのジェット機は編隊飛行をするシャルルと〈竜巻〉を挟み込むように並んだ。いつのまにか陽炎はなくなり、低速で回りを旋回している。

 

『こちらは日本国航空自衛隊、第7航空団である。貴機は日本国の領空を侵犯している。直ちに引き返されたし』

 

 ジェット機からレヴォーム語らしき言語で通信が入ってきた。

 

『信じられねぇ、昔の駆逐艦がそのまま空を飛んでいやがる……どうなっているんだ?』

『無藤、おしゃべりはよせ。繰り返す、日本国航空自衛隊、第7航空団である。貴機は日本国の領空を侵犯している。直ちに引き返されたし』

 

 航空自衛隊、日本国。

 どちらも聞いたことのない言葉だった。言語はレヴァーム語で話されているが、彼らの顔つきは黒いヘルメットに覆われて見えていない。シャルルは通信機を繋ぎ、通じるかどうかわからないがレヴァーム語で語りかける。

 

「こちらは神聖レヴァーム皇国空軍所属、狩乃シャルルです。あちらは飛空駆逐艦の『竜巻』です」

 

 シャルルは混乱する〈竜巻〉の代わりに、応答する。

 

「単刀直入に質問します、此処はどこですか?」

『何を言っている? 此処は日本国の上空だ』

「我々は『日本国』という国を知りません」

『何だと?そんなはずはない、嘘はやめろ』

『そうだ、此処の上空を飛行するには政府の許可が必要だ。でないと俺たち航空自衛隊が飛んでくる』

「『航空自衛隊』という組織も、初めて聞きました」

『『…………』』

 

 嘘ではない、本当のことを言ったまでだ。しかし、彼らは信じられないのか一触即発の雰囲気になる。

 自然とシャルルの操縦桿を握る手に汗がにじむ、シャルルはこいつらに勝てるかどうか考えていた。

 このジェット機の飛空速度は目測だが、マッハを超えているかもしれない。そんな化け物みたいな飛行速度を叩き出せる戦空機相手に、アイレスVで太刀打ちできるかどうか怪しかった。

 緊張感が辺りの空域を包む。〈竜巻〉の方でもそれぞれの対空砲座に兵士が付き、一触即発の雰囲気が漂っていた。しかし、航空自衛隊を名乗るジェット飛空機械は、どこかに通信を入れるとそのまま合図をしてきた。

 

『着いてこい、百里まで案内する』

「ここの基地に着陸しろ、という事ですね?」

『ああ、そうだ。話が早くて助かる、速度を緩めるから北東の方向に行くぞ』

 

 シャルルは無駄な争いを避け、彼らの指示に従った。〈竜巻〉の方でも彼らの指示に従う事になったようで、ジェット機の先導の下で北東へ飛空する。

 彼らが『百里』と呼んだ基地に着くのは、すぐ後だった。ジェット機の速度が高く、アイレスVの最高速度で何とか追いついていた。やがて、光に照らされた基地らしき場所が目に映る。

 

『誘導灯がある。そこに着陸しろ』

「分かりました、〈竜巻〉はどうしますか?」

『この船は近くの港に待機させる』

「分かりました」

 

 そのまま、シャルルは高度を下げる。明るい基地の滑走路は、夜でも着陸しやすそうであった。

 

『海猫……』

 

 後ろのジェット機から、自分のパーソナルマークを呼ぶ声がする。それを尻目に、シャルルは着陸態勢に入った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「状況はどうなっていますか?」

 

 神聖レヴァーム皇国首都、皇都エスメラルダの宮殿にて、卓越した美貌を持つ女性ファナ・レヴァームが口を開いた。

 

「エスメラルダだけでも相当な混乱が広がっており、様々な憶測が広がっております。現在警察だけでなく近衛兵を動員して治安維持に勤めています」

「他の都市でも同様の混乱が広がっており、早急な対応が必要となります。しかし、あの現象を目の当たりにした者も多く、多くの混乱が広がる恐れがもあり注意が必要です」

 

 議題は言わずともがな、あの光る現象についてだ。夜中の勤務をしていたファナたちは、突如空が光る現象を目の当たりにした。

 

「皇国民には事態の説明と今後の方針をラジオなどで早急に伝えてください。また民間人の暴動が起こった場合は、なるべく穏便に……」

「長官、大変です」

 

 その時、軍の総司令官であるセスタ・ナミッツが、勢いよくドアを開けて入ってきた。

 

「ナミッツ提督、如何されましたか?」

「はい。トレバス暗礁の部隊から緊急入電があり、大瀑布があった場所の数十キロ先に陸地があることが判明しました」

「その場所に陸地ですか?」

「はい、間違いありません。さらには行方不明になっていた狩乃シャルル機と、飛空駆逐艦〈竜巻〉との連絡が取れました」

 

ファナはその情報に、ハッとして耳を傾ける。狩乃シャルル機が行方不明になっていた情報は伝わっており、彼女にとって気が気でない事態であった。

 

「彼らは『日本国』という国と接触し、現在は彼らの『自衛隊』と呼ばれる組織の基地に身を置いているそうです」

「日本国だと……聞いたことがない……」

「そんな場所に陸地……? 一体どうなっているんだ……?」

 

会議室内に、疑問の声が漂う。

 

「ナミッツ提督、日本国とは何処まで分かっていますか?」

「彼らは、トレバス暗礁から数十キロ先の陸地を領地に持つ列島国家であるそうです。狩乃シャルル飛空士が言うには『卓越した技術力を持っているかもしれない』とのことです」

「…………」

 

 突然レヴァームと天ツ上の間に現れた、謎の国家『日本国』。会議室の中にはナミッツの報告を疑う者もいたが、ファナが制する。

 

「ナミッツ提督、今すぐ使節団を乗せた艦隊の準備を。天ツ上にも同じように対応するように打診してください」

「? 長官、一体どうするおつもりですか?」

 

ファナは一呼吸置き、口を開く。

 

「日本国という国が、本当に存在するのか、この目で確かめるのです。使節団の準備を」

 



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第2話〜日本とレヴァーム〜

本作の日本には『とある飛空士シリーズ』存在しない設定です。


 

 あれから夜が明け……

 海上自衛隊横須賀基地には、多くの報道関係者と野次馬がスマホや高解像度カメラを片手に写真を撮っていた。基地のフェンスを挟み、上空に浮かぶ物体を写真に収めようとしている。

 

「まさかの光景だな……」

 

 百里基地司令官の猪木空将補はテレビを見ながら、そう言った。テレビに映る空に、鯨のような船がそのまま浮いていた。飛空駆逐艦『竜巻』というこの船は、横須賀基地上空に居座っている。

 駆逐艦の艦長によると、この船を待機させるためには特別な装備が必要らしい。そのため、空で待機してもらうことになっている。

 

「まさか、駆逐艦が空を飛ぶとはな……」

 

 そう言って、猪木空将補は唖然とした声を上げた。朝のニュース番組の話題は、横須賀上空に居座る駆逐艦の事でいっぱいだった。

 

『ご覧ください! 第二次世界大戦期の駆逐艦が空を飛んでおります! ここ横須賀基地上空に突如現れた謎の飛行船! 一体どこの船なのでしょうか!? 現場からは以上です!』

 

 興奮鳴り止まない様子のキャスター、すでにネットでもこの駆逐艦のことは話題になっている。

 突如起きた、海外と通信がつながらない現象。日本中が大混乱に陥っている中での、突然の来訪。ネットでは様々な憶測が広がっており、政府の発表を待っている。

 

『ありがとうございます。さて、ここからは専門家とのご意見を交えてお送りしたいと思います。東京大学天文学部の櫻井教授です』

『よろしくお願いします。早速ですが、昨夜の夜空が光る現象と合わせてお送りいたします』

 

 その後、専門家が昨夜起こった夜空が光る現象と海外との通信障害について話し合う。EMP攻撃を予想する人もいたが、日本国内の通信機器が使えることを根拠に否定される。そして、話題は百里にいる飛行船についての話題に移る。

 

『この飛行船、どう見ても第二次世界大戦期の吹雪型駆逐艦を上下対称にしたように見えます。なので、これは純粋な戦闘艦かと』

『だとしたら、一体どこの国のものなのでしょう? 自衛隊の物ですか?』

『現代技術では、飛行船でもない鋼鉄製の船をそのまま浮かべることは不可能です。なので、自衛隊の物ではないかと』

『では、一体どこの?』

『それについては色々憶測がありますが……』

 

 まだ民間には秘密であるが、乗務員との交渉により彼らが『神聖レヴァーム皇国』と『帝政天ツ上』という国からやってきたと名乗っている事は知っている。秘密を隠していることに少し罪悪感を覚えながらも、報道を見ていた。

 そんな事をしていると、基地内の部下が扉をノックした。テレビを消し、「入れ」と命令して入れさせる。

 外から入ってきたのは、部下と一人の黒髪の青年であった。彼こそが、百里基地に着陸したプロペラ機のパイロットだった。

 

「はじめまして、私はここ百里基地の司令官を務める猪木空将補です。他国では少将クラスにあたります」

「はじめまして、狩乃シャルル大尉と申します。基地司令にお会いできて光栄です」

 

 礼儀正しくお互いに挨拶を交わす。相手の教養が高い、猪木空将補はそう感じていた。おそらく軍人としてのレベルも高いのだろう。

 二人はソファに向かい合って話をする。狩乃シャルルは当たりのものが珍しいのか、目線をキョロキョロとさせている。

 

「さて、単刀直入に質問したいのだが……君はどこから来たのかね? あの現象の直後に君と駆逐艦が突然空に現れたそうじゃないか」

「はい、私はここから200キロほど北西に離れた場所にあるトレバス暗礁の飛空場からやってきました。神聖レヴァーム皇国の基地です」

「うーむ……実は私も『神聖レヴァーム皇国』という国は聞いたことがない。『竜巻』の艦長が言っていた『帝政天ツ上』という国も初めて聞く」

「私も、同じく『日本国』という国は初めて聞きました」

 

 どうやら、お互いに初めてのことが多すぎるらしい。

 

「やはりそうなるか……」

「どう致しましたか?」

「……実はな、我が国の政府から自衛隊向けに発表があり『我が国とその領土が別の惑星に転移した可能性がある』と言われたのだ」

「別の星に転移……ですか?」

「そうだ、もしかしたら我が国と一緒に君たちの国も転移をしてきたのかもしれない。君たちの言う『大瀑布』も無くなっているのだろう?」

「はい、その通りです」

「つまりは、その可能性も捨てきれないと言うことだ」

 

 シャルルは猪木空将補にそう言われて、だんだんと納得していた。

 

「ちなみに、君の機体は我が国の歴史上初めて見るレシプロ機なのだが、あれはどんな性能を持っているのかね?」

「はい、あの機体は『アイレスV』といい、最高時速は720キロ、武装は20ミリ機関砲を4門、さらには自動空戦フラップを装備しております」

「自動空戦フラップを……良い機体ですな、美しさを感じる」

「ありがとうございます」

 

その後も会談は続いた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 海上自衛隊佐世保基地から出航した第2護衛隊群は、一路日本海だった海域を捜索していた。

 政府から神聖レヴァーム皇国とかいう国の使節団がやってくるという連絡を受けた第2護衛隊群は、その場所を捜索している。

 何度かにわたる航空偵察によって発見された新しい陸地。そして、そこにいると思わしき文明の痕跡。それを探るために彼らは進行していた。

 

「異世界か……」

 

 旗艦となるひゅうが型護衛艦『いせ』の艦橋から、内野海将補はそう一言呟く。

 

『こちらCIC、偵察機が帰っていきます』

 

 ほっと胸を撫で下ろす内野海将補、どうやら戦闘機ではなかったようだった。

 先ほどから青灰色の見たことのないプロペラ機が、艦隊上空を旋回していた。攻撃指示を出していなかった為無視したが、何もせず帰ってホッとした。

 

『〈あしがら〉より感! 巨大な飛行物体を対空レーダーで確認!』

「来たか……数は?」

『260メートル級が2隻、護衛艦と思しき2000トンクラス級が6隻です! 円陣で真っ直ぐこちらに向かってきます! 速力50ノット!』

 

 政府から報告のあった、空飛ぶ船かもしれない。洋上艦艇ではないから速度が出ているのだろう、50ノットというのはなかなかに速い。

 

「分かった、引き続き頼む」

『り、了解!』

 

 どうやら、政府の報告は正しかったようだった。空飛ぶ船、今こうしてレーダー画面を見て見れば分かる。これほどまでに巨大な鋼鉄製の飛行船は地球上にはなかった。

 

「本当に異世界に来たのかもな……外交官たちに甲板上に待機するように伝えてくれ。本艦だけを前に出す、私も行くぞ」

 

 そう言って、内野海将補は階段を下って『いせ』甲板上に出る。お互いの距離がある程度縮まった時、それが見えて来た。

 

「あれは……」

 

 まさしく、空飛ぶ船と言っても指し違いない偉容さだった。鋼鉄の塊である船が、何隻も空を悠々と泳ぎ、こちらに向かってきている。

 第二次世界大戦期の艦艇がそのまま空を飛んでいる、そんな異様な光景が目の前の空に広がっていた。

 

「御園さん見てください! 空と飛ぶ戦艦ですよ戦艦!! それに空母まで!」

「ありゃ一体どういう仕組みで飛んでいるんだ……?」

 

 隣にいる外交官の佐伯と御園も思わず興奮の声を上げる。『いせ』甲板上の他の自衛官達も、思わず空を見上げている。

 

「内野海将補、空母が降りてきます」

 

 その時、平べったい甲板を持った『いせ』のような船──おそらく空母──がズンズンと降りて着水をした。音を立てて水しぶきを上げる。

 

「よし、あの船と接岸して臨検をする。用意してくれ」

「はっ!」

「外交官殿も、準備を」

「分かりました」

 

 どうやら光信号が通じるようで、『いせ』と不明飛行船は隣り合わせで接岸してお互いに機関を停止させた。

 そこに向かって不明飛行船の方からタラップがかけられる。そして、向こう側から何人かの外交官らしき人物がやってきた。

 

「私は日本国海上自衛隊の内野海将補です。ここは我が日本国の近海であり、このまま進むと我が国の領海に入ります。貴船の国籍と、航海目的を教えて……!?」

 

 と、その外交官らしき人物の後ろから、一人の女性が出てきて内野海将補は戦慄した。彼女のあまりの美しさに、思わず固まってしまっている。

 

「し、失礼いたしました!」

「? どう致しましたか?」

「い、いえ……それより日本語が通じるのですね」

「ええ、通じます。私は神聖レヴァーム皇国外務局外交官、アメル・ハルノートと申します」

 

 髪の長い男性──アメル・ハルノートは、透き通るような声で内野に話しかける。

 言葉の壁がなくなったことで、自然と安心感が出る。そして、いよいよその美しすぎる女性が前に出て自己紹介をする。御園と佐伯もその美しさに固まっていた。

 

「私は神聖レヴァーム皇国の執政長官、ファナ・レヴァームと申します。私共は貴国『日本国』との国交成立のために艦隊を派遣しておりました。前回、我が国の戦空機と天ツ上の駆逐艦が貴国の領空を侵犯してしまった事、申し訳なく思います」

 

 美しすぎる女性──ファナ・レヴァーム『執政長官』の名を聞き、内野海海将補は戦慄した。彼女らは『神聖レヴァーム皇国』のトップなのだ。失礼のないようにしなければならない。

 

「わ、分かりました。この件は我が国の政府にお取り次ぎ致します。では、こちらに」

 

 そう言って彼らレヴァームの外交官は、内野海将補の下に甲板上を歩く。

 

「これは……空母のように見えますが艦載機はオートジャイロだけなのですね」

「ですね、オートジャイロ母艦なのかもしれません」

 

 後ろで軍士官らしき人間とアメルが話しているのを尻目に、内野海将補は彼らを客室に連れて行く。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「参謀、あの艦隊どう思う?」

 

 使節団艦隊旗艦『エル・バステル』の内部で、艦隊司令官のマルコス・ゲレロはそう言って謎の艦隊を見据えた。

 

「奇妙な船体に砲が一門だけ、という不思議なレイアウトの船ですね……装置からして両用砲でしょうか?巡洋艦クラスだと思われますが、武装が少ない事しかわかりません。空母の方が脅威でしょう」

「そうか、我々と戦えばどうなる?」

「おそらくこの距離なら空母は戦力外です。巡洋艦が脅威になるでしょう。ですがこちらに戦艦がいるので、我々が有利かと」

「なるほどな、君の言う推察は確かに正しいかもしれん。だが私は……勝てないと思うよ」

「何故です?」

 

そう言って、マルコス長官は隣にいるレーダー逆探知機の画面を見る。

 

「これをよく見ろ。相手の艦隊から発せられるレーダー波はかなり強力だ」

「そんなに強力なのですか?」

「ああ、それもこちらの機器に支障を与えているレベルだ」

 

 参謀はそこまで言われて、あの謎の艦隊に対する感情を少し変えた。

 

「おそらくだが、彼らの船は相当強力な対空艦隊なのかもしれない。まだ見ぬ武器もあるだろう。もしかしたら、蹴散らされるのは我々になるかもしれんよ」

「なるほど……だとしたら侮れません。考察を続けましょう」

 

 そう言われて、参謀は自衛隊に対して脅威を覚えた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 日本国が正式に別の惑星へと転移したことを認め、日本国がクワ・トイネ公国と接触したその日。外務省はまたも大忙しとなった。

 そして、舞鶴市の自衛隊基地で空を見上げる外務省の朝田と篠原も、これから忙しくなる日本人の一人だ。空に浮いているのは、空飛ぶ戦艦と空母の艦隊、鋼鉄の飛行機械の塊であった。

 

「なんだあれ……ラ○ュタのゴ○アテか?」

「装甲と武装、排水量を考えたら飛行船の類じゃないぞ! まさか、重力制御が出来るのか!?」

 

 朝田は軍事には知識はなくても、船のことはある程度知っている。そのため、その大質量を浮かべているかの船の異様に驚くしかないのだ。

 周りでも、フェンスの向こうから必要以上に写真を撮る一般人や、ぽかんと口を開ける自衛官、それを伝える報道関係者など様々である。皆一様に空を見上げている。

 もし、重力制御ができるのなら技術力は日本より上かもしれない。今回の交渉には、日本の未来が掛かっている。そう思うと朝田達に緊張が走る。

 やがて、外交官を乗せた『いせ』が舞鶴の港に着いた。タラップが降ろされ、その中から異国の外交官が出てきた。しばらく興味津々に見ていた朝田と篠原だったが、そのうちから一人の女性が出てきて更に戦慄する。

 

「はじめまして、私は神聖レヴァーム皇国外務局外交官のアメル・ハルノートと申します。こちらは、神聖レヴァーム皇国執政長官、ファナ・レヴァーム殿下にございます」

「し、執政長官!?」

 

 執政長官とは地球上で訳すと『執政官』、地球にあった国家『共和政ローマ』における最高職である。

 しかも、『殿下』と呼ばれていることから皇族だとも推測できる。これは、失礼のないように接しなければならない。

 

「し、失礼いたしました! 私は日本国外務省外交官、朝田泰司と申します! こ、こちらは補佐の篠原です!」

「よ、よろしくお願いいたします……!」

 

 彼らの狼狽ぶりを見たファナは、フフッと微笑みかける。

 

「そこまで硬くならなくても大丈夫です。あなた方が案内を担当される外交官ですね?」

「は、はい。よろしくお願いします」

「では、首都までのご案内をお願いいたします」

 

 そこまで言われて、朝田は気を取り直して対等な立場で話すことにした。

 

「失礼いたしました。それでは、自動車で一度京都まで向かいます」

 

 そう言って、彼らは用意されたリムジンに来賓を乗せる。チラリと横目で野次馬を見ると、彼らもファナの美しさに固まっていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 豪華な車に揺られるファナは、初めて見る『日本国』の景色に見惚れていた。地方都市なのに、それなりに発展した街。コンクリートでできた白い街並み。

 そしてレヴァームではまだ建設が始まったばかりの高速道路まで。ファナはだんだんと、『日本国』の技術が計り知れないことに気付いていた。

 

「これから向かう京都という街は、どのような街なのです?」

「はい、京都は我が国では1300年以上前から都として栄えてきた都市です。今でも歴史ある街並みが残っており、風情があります」

「なるほど、それほど歴史が深いとは……それは楽しみです」

 

 ファナは白バイによる警護の中、リムジンに揺られる。リムジンは車とは思えないくらい静かで快適だった。

 

「ところで、首都まではどれくらい離れているのですか?」

「大体、500キロくらいですかね?」

「なるほど、では飛空機で行くのですね」

「いえ、列車で行きます」

「え?」

 

 その言葉に驚く。列車で500キロを移動するとなれば、何時間もかかる。下手すれば一日、都市計画の間違いではないだろうか?

 

「ああ、失礼。我が国では、時速300キロ以上で走る『新幹線』呼ばれる列車を実用化しております。京都から首都まで伸びているので、それで向かうことになりますね」

「れ、列車が時速300キロですか……?」

「脱線などはしないのです?」

 

 信じられない。レヴァームでは特急列車でも時速150キロが限界で、天ツ上が研究中の『弾丸列車』は210キロほど出るが、脱線を危惧して170キロほどしか出していない。

 

「脱線の原因は解消しておりますゆえ、快適に乗っていただけるかと思います。事故も開通から50年以上無事故です」

「なんと…………」

 

 アメルとファナの二人は、いよいよこの国がとんでもない事を理解しはじめた。侮っていたわけではないが、改めて見える技術力の差に驚きの連続である。

 



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第3話〜交渉〜

 

 『新幹線』と彼らが呼んでいる列車の内部は、かなり快適であった。車内は揺れがほとんどなく、ものすごく快適であった。

 横浜の駅で横須賀から飛空艦でやってきた天ツ上の使節団と合流し、一路東京へと向かう新幹線。いくつもの大都市を通り過ぎ、列車はやがて日本の首都東京に着いた。

 その都市の次元は違かった。エスメラルダでも新市街はかなり発展しているが、東京程ではない。

 何もかもが正確に動き、人の量も多く、ビルの高さも天を貫かんとするものばかりである。中には、634メートルだと言う高い電波塔もあった。

 

「これは……凄まじい都市ですね……」

「ええ、エスメラルダですら霞んでします」

 

 この摩天楼に比べたら、エスメラルダだってまだまだ山の一角に過ぎない。ファナ達使節団の面々は、日本の実力をひしひしと感じでいた。

 もしかしたら、レヴァームや天ツ上よりもさらに技術が進んでいるかもしれない。軍事技術についてはまだわからないことが多いが、それでも民生技術で負けているのは事実だった。

 街の人間が『スマホ』と呼ばれる小さな板のような物を持ち、歓迎される使節団一行のリムジンを撮影している。そのような小さな機械を作る技術は、レヴァームにも天ツ上にもない。

 一行はそのまま外務省の庁舎に連れてこられ、とあるプロジェクターの前に座った。レヴァームと天ツ上の一行はプロジェクターが何か分からなかったが、朝田が簡単な説明をして解決した。

 

「それでは皆様、まずはお互いにわからないことが多いかと思います。そこで、映像を用意しました。これより我が国についてご説明いたします」

 

 日本国外務省の職員が、会議室のプロジェクターを使用して日本国の概要を説明する。

 スイッチを押すと映像が始まり、日本に関する紹介映像が流れて始めた。その内容は多岐に渡るが、自然、文化、建築技術などが流れている。

 軍事に関しても、惜しみなく説明される。仕組みは説明しなかったが、日本が保有する自慢の戦車や戦闘機、護衛艦の数々が説明される。

 優美な映像と澄んだ音声に驚愕していたレヴァームと天ツ上の面々であったが、転移国家であるという日本の主張を証明する別世界の記録の数々に、それを信じ始める。

 

「改めてまして、神聖レヴァーム皇国並びに帝政天ツ上の皆様、本日は遠路遥々ご足労いただき、誠にありがとうございます。私は日本国外務省、朝田と申します。皆様のご案内を務めさせていただきますので、以後お見知り置きください」

 

 やがて、会議室で事前協議が行われる。まずお互いの国が何処にあるのか、今まで何をしてきたのかをお互いに話し合って理解を深めた。

 

「なるほど……つまりはあなた方もこの世界に転移してきたと……」

「はい、そうなります。元々我々の世界には神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上以外に国と大陸はなく、あとは果てしない海と両国を隔てる滝だけでした。もちろん、日本国という国は聞いた事もありません」

 

 会議室の日本の外務省の面々が少しざわついた。それも仕方がない、彼らはレヴァームと天ツ上をこの世界の大国だと思っていたからだ。

 しかし事実、先ほど会談したクワ・トイネ公国の人間達と交渉した際に「レヴァームと天ツ上に関しては知らない」と言っていた。あながち間違いではなさそうだ。

 

「なるほど、分かりました。それでは共にこの世界を歩むための話し合いをしましょう」

「ええ、そのつもりです」

 

 ファナ達一行と日本国の面々はその後も協議を続ける。その後、事前協議は成功に終わり、一行は明日日本国の首相と会談をする事となった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「朝田殿、私は是非とも貴国の軍について知ってみたいのだが、よろしいだろうか?」

 

 会談が終わった後、レヴァーム軍総司令官のセスタ・ナミッツは朝田にそう質問した。彼とて軍人の一人、やはり自衛隊の装備については気になるところがあるのだろう。それも、日本側は予測済みであった。

 

「はい、そう言うと思い準備しておりました。明日、航空自衛隊の百里基地で特別セレモニーが行われる予定です。そこへ行きましょう」

「おお、是非とも」

「その基地には我が国が保護した貴国のパイロットも居りますので、もしよろしければ面会の時間も作ります」

「おお、そこまでしていただけるのですか。誠に感謝する」

 

 一行は、明日二手に分かれて日本を視察することになった。ファナとマクセル達使節団は、外交交渉と市街地視察のために東京に残り、ナミッツ達は百里基地に行く予定だ。

 次の日の、航空自衛隊百里基地。茨城県にあるこの飛行場は、首都防空の要として昔から自衛隊の基地として重要視されていた。

 その基地に、本来いるはずのない第三飛行隊のF-2戦闘機まで配置されている。今回、レヴァームと天ツ上、そして最近接触したクワ・トイネ公国に対するセレモニーの一環で近くの基地から集められていたのだ。

 

「ナミッツ司令」

 

 使節団が航空祭の来賓席にいた時、傍らから一人の青年の声がした。目を向けると、レヴァーム軍の飛空服に身を包んだ黒髪の青年がいた。

 

「お、君が保護されたという飛空士かね?」

「はい。ご無沙汰しております、狩乃シャルル大尉と申します」

 

 狩乃シャルル、その名前を聞いてナミッツはやっと思い出し、彼に挨拶をする。狩乃シャルルの名前は中央海戦争時のあの作戦の時に、ナミッツの耳にも伝わっていた。

 彼が日本国に一時的に保護されており、ファナは彼と『竜巻』の返還についても協議をしていた。

 

「構わず、隣に来たまえ」

「ありがとうございます」

 

 その様子を見て、朝田は少し疑問に感じた。パイロットとはいえ、一卒兵に過ぎない人間がここまで総司令官と肩を並べているのは異様だったからだ。

 

「有名なパイロットなのかな……?」

 

 朝田が疑問を持っているときに、航空祭が始まった。彼らにとっては見慣れない飛行機が、2機滑走路に並んだ。

 

「シャルル大尉、あれはなんという戦空機だ?」

「あれは日本の主力戦空機の一つの『F-2』という機体です。あの機体は凄いですよ」

 

 『F-2』と呼ばれた機体が、いよいよ滑走に入る。後ろから陽炎を引いて爆発的な勢いで上昇していく。

 

「は、速い!」

 

 ナミッツは見ただけで分かった、あの青色の戦闘機がかなり速い速度で滑走していることを。ジェット機があるとは聞いていたが、まさかこれほどとは思っていなかった。

 

『ただいまより、F-2戦闘機の機動飛行が行われます。F-2戦闘機は我が国のマルチロール戦闘機で、最高時速はマッハ2.0、時速2400キロオーバです』

「なんと……朝田殿、今2400キロと言ったか? 聞き間違いでは?」

 

 ナミッツが狼狽しながら質問してくる。彼とて軍の最高司令官、航空機のことについても詳しいのだろう。

 

「はい、間違いありません。F-2戦闘機の最高時速は2400キロオーバです」

「なんと言う速さだ……」

 

 ナミッツが吠えているうちに、青色の戦空機F-2が通り過ぎていく。その速さは、全力ではないにしろかなりの速さである。時速2000キロオーバ、というのもあながち嘘ではなさそうだ。

 

『まずは宙返りからです』

 

 青色のF-2はプロペラ機では考えられないほどの上昇角度で、垂直上昇をし始める。

 主翼上部には空気が白い雲を作り、翼端では主翼下部から上部へ回り込む空気によって白い航跡を引く。機体は宙返りを果たし、そのまま水平飛行に移る。

 雷鳴のような轟が周辺一帯に響き渡る。機体の後ろからは、赤い陽炎が見え、アフターバーナーを点火していた。その飛空機は、短時間のうちに空へと消えていった。

 

「凄まじいな…………」

「言ったでしょう? この国の戦空機は凄いと」

 

 シャルル大尉が、そう言ってナミッツに話しかける。

 

『さあ皆さま、F-2が戻ってきました!』

「凄いな、もうか……!」

 

 F-2はそのまま轟を発しながら基地上空を旋回し始める。その旋回性能は、アイレスVや真電改にも見劣りしない。

 

『F-2は各種武装を満載した状態でもこの機動をほぼ維持できます。この間、パイロットは旋回中に大きなGがかかります』

「各種武装……爆弾や空雷を積んでもこの機動を維持できるのか……」

「はい、F-2は対艦攻撃機としても制空戦闘機としても作られているので、機動性も高いのです」

「言葉に表せぬ凄まじさだ…………」

 

 ナミッツは最早開いた口が塞がらなかった。時速2400キロオーバともなれば、アイレスVや真電改ではとても太刀打ちできない。しかも空雷や爆弾もとんでもない量を積めるという。

 そんな化け物を、この国は何百機も保有しているという。いよいよ、日本はとんでもない国だとナミッツ達は理解した。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 百里基地にて、ナミッツ司令は狩乃シャルルとの面会を許された。一応事前の説明でシャルルの処遇や領空侵犯の件は、今後の交渉が終わるまで保留にされている。

 少なくとも日本側は「悪いようにはしない」と言っているので、おそらくシャルルと〈竜巻〉の領空侵犯は無かったことにされるだろう。

 

「シャルル君、ここでの生活はどうだい?」

「まず、衣食住は完璧に揃えてくれています」

「ああ、そうではなく何か知り得たことがないかということだ」

 

シャルルは敬礼をして。

 

「失礼しました。ここでの生活は全てが新鮮です。『液晶テレビ』なる映像機器や、『タブレット』と呼ばれる情報端末機器。凄まじい技術力です」

 

 シャルルは忌憚なく述べ、目上であるナミッツ司令にも分かりやすく教える。

 

「しかもこれが軍事だけでなく、民間にも広がっているという事実……この国の豊かさには目を見張るものがあります。おそらくレヴァームでも、ここまでの生活水準を手に入れるには数十年掛かるでしょう」

「そんなにか……確かに先ほど見せてもらった戦闘機も含め、彼らは我々の常識が通用しない。面白い国だが、油断はできない」

「国交を持つときは、悪い眼鏡を外さなければなりません。我々の常識で判断しては、彼らに失礼です」

「ああ、それは身をもって知ったよ」

 

 その後も彼らは設けられた時間の中で情報交換をし、ナミッツ司令は東京へと戻っていった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 さらに次の日、ファナ達レヴァームの使節団は首相との本格的な交渉のため、首相官邸にリムジンで向かっていた。

 

「着きました、ここが政府官邸です」

 

 いよいよ、ファナ達の戦場へと辿り着いた。首相官邸はガラス張りでできており、敷地も合わせて美しい見た目をしていた。

 

「行きましょう」

「ええ」

 

 ファナ達使節団は、日本国との交渉のために首相官邸へと入っていった。しばらく歩き、会合のために用意されたと思しき対面の部屋に案内される。

 

「まずは、神聖レヴァーム皇国の皆さま、遠路遥々お越しいただきありがとうございます」

 

日本国の武田 実成首相が挨拶をする。日本国では、内閣総理大臣が政治を取り仕切る国体であり、レヴァームと天ツ上にも見られなかった民主主義だった。

 

「いえいえ、我々こそ貴国の素晴らしい交通システムを見させていただきました。誠にありがとうございます」

 

 その後、会談が始まる。

 

「農林水産省の日村です。単刀直入に申し上げますが、私たちは今、食料を欲しております。必要項目は──」

 

 手元の資料に日本語で書かれた資料が配られる。日本語(天ツ上語)が通用するので、今回はそのままである。

 

「なるほど……総量が一年に5500万トンですか……」

 

 この数字は別段珍しくない。レヴァームと天ツ上の人口は日本国を超えているため、食料はさらに必要なくらいだ。

 

「はい、貴国は共に農業が盛んな国と伺っております。クワ・トイネ公国からの交渉で『賄い切れる』との回答をいただきましたが、リスク分散という観点で貴国にも食料の輸入を打診します」

 

 日村達農林水産省が提唱したのは、リスク分散であった。クワ・トイネ公国が食料を輸出してくれるとの事だが、それでも緊急時に禁輸を盾にしてきたらまずい。

 そのため、リスク分散という形でレヴァームと天ツ上にも食料の輸入を打診したのだ。

 

「なるほど、どれも我々の知っている作物ですので輸出は可能です。ですが、日本国内には飛空艦が離発着できる設備はありますでしょうか?」

「いえ、ありません。では、それを解決すれば可能という事でしょうか?」

「はい、可能です」

 

 日本国の面々に明るい顔つきが芽生え始めた。

 

「外務省の佐藤です。それについては神聖レヴァーム皇国の教授の下、湾岸施設の拡張整備を整える事を考えております。その代わりと言ってはなんですが、貴国らの国土のインフラ整備も我が国がしたいと思っております」

 

 その言葉に、今度はレヴァームの面々が驚く場であった。

 

「よろしいのですか?」

「はい、我が国としてはインフラ整備に全力で取り組ませていただきます。民生技術に関しても、いくつかの物を輸出したいと思っております」

 

 今度も、レヴァーム側が驚く。食料を輸出し港を整備するだけで、それに余り余るインフラを整備してくれるというのだ。日本国の温情には頭が上がらない。そして次に、レヴァーム天ツ上との防衛協議が始まった。

 

「防衛省の厳田です。我が国としては貴国らが所持している『揚力装置』や『水素電池』に関する技術を求めております。これに先立ち、我が国からも軍事技術の一部を輸出したいと思っております」

「輸出をしてくれるのですか?」

「はい、ですがこれは貴国の技術協力が交換条件になります」

 

 そこまで言われて、ファナ達は少し迷い始めた。たしかに、ここまで日本国について見せられて、レヴァームの使節団の面々は日本国が自国より上だと痛感していた。

 しかし、日本が唯一持っていない技術として『揚力装置』や『水素電池』の技術がある。それを持つ事ができれば、レヴァームと天ツ上は日本に対しても優位に立てるかもしれない。

 しかし、先ほど日本国は「食料を輸出して、揚力装置と水素電池に関する技術をくれれば、インフラ整備と技術輸出をする」と言ってくれた。そこまで恩を売られて、こちらは何もしないのは国家として良くない。

 交渉が上手いと思った。彼らはあらかじめ欲しい技術と交換でこちらに技術を渡してくれるというのだから、悪くない条件ではある。

 そこまで考えたのは、ナミッツやマクセルも一緒だったようだ。互いに目配せをして、お互いにうなずいたところでファナは口を開く。

 

「分かりました、我が国からも必要な技術を協力できるよう、掛け合ってみます」

「ありがとうございます」

「いえいえ、対等な関係なら必要なことです」

 

 こうして、神聖レヴァーム皇国と日本国の交渉は成立した。その後も日本国は帝政天ツ上との国交を成立させ、新しい世界へ三人四脚で歩んでいく事になる。

 



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第4話〜それぞれの反応〜

今作の日本は、諸事情により2020年1月の日本が召喚されています。
とある事をやりたかったので、このように致しましました。


 

 日本国との国交成立後、とあるレヴァームの会議室にて。彼らは映写機に映された、一つの映像に見入っている。

 エスメラルダよりもはるかに高い摩天楼、天を貫かんとする電波塔、沢山の人が通る綺麗に舗装された道路、空をゆく巨大なジェット機、そして地上を時速300キロで走る高速鉄道。

 

 そして舞台は変わって別の場所を写す。

 

 撮影機器が追いつかない速度で飛行するジェット戦空機、最高時速はマッハを超えるらしい。

 巨大な大砲を持った戦車が正確なスラローム射撃をする様子、その命中精度は神業クラスだった。

 装甲車から出てきた兵士達が自動小銃で連携して目標の撃破をする様子も映し出される。

 さらに舞台は海上に移る。海上を行く戦闘艦は殆どが巡洋艦クラスの船体に砲が一門だが、その分強力な威力を誇る対艦誘導空雷を多数持っている。その強力な一撃は重巡洋艦ですら一撃で破壊する。

 その全てが飛空艦ではないが、戦術も戦略も何もかもが違う。言うなれば未来の技術だ。彼らにとって、レヴァームと天ツ上の技術は70年以上前に当たるらしい。

 

「凄いな……あれが日本という国か……」

「凄まじい国力だ、国が豊かなのがよくわかる」

「この映像も画質が綺麗で音も鮮明でした、技術力の高さが思い浮かびます」

 

 今見せられたのは、日本国から貸し出されて使い方を教えられた『プロジェクター』と呼ばれる映写機による物だ。

 使い方も教えてもらっているため、壊すことはないだろう。それに、中身はブラックボックス化してある。

 

「皆様に見てもらったのは事実です、彼ら『日本国』は我が国よりもかなり高い技術力を有している。彼らとどう付き合っていくか、今後のご意見を下さい」

 

 映像が終わったタイミングで、ファナが口を開いた。彼女は日本を視察して国交を成立させた後、視察しなかった閣僚達に日本の映像を見せたのだ。

 

「私としては、日本とは友好な関係を結びたい。軍事技術で勝てる相手ではないし、戦争なんてもってのほかだ。それどころか、彼らと友好な関係を築ければ我が国の技術力も高まると来た。これは、彼らとは友好的な関係を結ぶのが一番でしょう」

 

 マクセル大臣はそう言って自身の意見を述べた。彼のいう意見に、皆が頷く。政治仇であったナミッツですら、頷いている。

 

「軍としては、彼らの技術力をいち早くものにしたいところだ。日本は揚力装置や水素電池の見返りとして古い技術なら輸出してくれるらしいし、それを元に我が国の軍事力を鍛えたい」

 

 ナミッツはそう言って日本の技術を褒め称えて、自分の軍に有用できないかを模索していた。

 

「それから、一つ分かった事がある。我が国では航空機の時代になっても戦艦の建造をしてきたが、彼らの歴史を辿るとやはり空母の方が有効だと分かる。今後の建造は飛空母艦に絞ったほうがいいだろう。」

「ああ、彼らの持つ誘導空雷についてもさらに研究を重ねなければ」

 

 軍部から様々な意見が出てくる。ファナは「これだから軍部は……」と少し呆れていたが、ファナとしても民生技術は欲しいところだった。

 

「そういえば、日本の文化は天ツ上とよく似ているな。天ツ上はどう思っているのやら……」

「彼らの洗練された文化には目を見張るものがあります、サブカルチャー関係なども是非とも輸出して欲しいところですね。我が国の子供達も喜びますよ」

 

 文化交流に関しては、後々検討されている。

 さらには日本にある書店の本も買って良いと言われた為、日本の大型書店にはレヴァームと天ツ上の軍服を着た軍人達が本を買い漁っている光景が見られ、ネットで話題となった。

 

「彼らの世界でも大規模な大戦があったのだな。日本はそれに一度負けているとはいえ、よくここまで復興した物だ」

「スクラップ&ビルドとはよく言ったものです。軍隊を国防軍のみ配置しているのも、心掛けがあります」

「『抜かずの剣こそ己の誉』か……我が国も彼らの姿勢を見習わなければな」

 

 この日の会議は深夜にまでおよび、その間閣僚達は日本に対する興味で溢れていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 そして、両国の注目の的である日本国でも、レヴァームと天ツ上に関する報告会が開かれていた。

 歴史は遡り、神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上の起こした『中央海戦争』について語られる。投入された『真電』の強さ。初戦におけるレヴァームの連戦連敗、天ツ上の連戦連勝。そして、エスト・ミランダ沖海戦における形勢逆転。

 その後、奇跡が起こって引き分けに持ち込んだ『淡島沖海戦』など。

 

「以上が、『神聖レヴァーム皇国』と『帝政天ツ上』に関しての報告です」

 

 彼らレヴァームと天ツ上に派遣された使節団はそう言って報告を締めくくった。突如日本を挟み込むように一緒に転移して来た神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上。

 両国が抱えていたいざこざ(狩乃シャルルの返還や駆逐艦『竜巻』の返還について)が解消し、晴れて国交成立をさせた時に報告会が行われていた。

 

「なるほど……彼らは地球ともこの星とも違う別の惑星からやって来たのだな。しかも地平線がない平面惑星で、しかも1000メートルを超える滝で阻まれているとは、にわかには信じがたい……」

 

 環境大臣が、そう言って疑問を投げかけた。彼らの地理、そして飛空艦ができた理由なども映像内では語られていた。

 

「全くです、ここまで驚く事が連続で起きると、もう何にも驚かなくなりそうです。にしても彼らの軍事力は凄まじいですね……

「戦争が痛み分けに終わったとはいえ、その保有戦力は第二次世界大戦期の大日本帝国やアメリカ合衆国をはるかに超えている」

「かなりの軍事大国ですよ。しかも空に船を浮かべて、さらに海水から燃料を作り出すなんて……よくこんな無茶苦茶な発明が出来ましたね」

 

 他の大臣達も、口々に感想を言う。彼らから見たら、レヴァームと天ツ上は第二次世界大戦期の大日本帝国とアメリカ合衆国に匹敵する。

 しかし、その国力と技術力は一部で当時の日本とアメリカを大きくリードしている。

 

「にしても、帝政を敷く天ツ上はともかく、レヴァームは未だに絶対王政が続いているのだな。フランス革命みたいな事は起こらなかったのか?」

「あちらではレヴァームと天ツ上以外に大陸も国も存在しなかったらしいですし、革命が起き辛かったのでしょうね」

「一方の天ツ上は維新改革で復権制度より有利だった、だから序盤の戦争はかなり有利に進んでのだな」

 

 地球にいた日本からすれば、レヴァームの絶対王政制度は不思議だった。フランス革命のような事が起きなかったのも不思議だったし、それを言うなら天ツ上の歴史と文化が日本とよく似ている事も気になっていた。

 

「ともあれ、神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上とは今後も良い関係を築き、協力体制を整えたいと思うが、どうだろう?」

「私もそれがいいと思います」

 

 防衛大臣が、まず最初に意見を開いた。

 

「現代の自衛隊の技術ならば、レヴァームと天ツ上に対しても十分対抗できるでしょう。しかし、彼らは軍事大国です。まともに相手するのはやはり難しいでしょう。それならば、友好的な関係を築いた方がよろしいかと」

「ああ、彼らとの技術交流で日本にも『飛空艦』とやらも実用化できれば、輸送に革命が起きる。経済発展も促されます」

 

 防衛大臣に続いて財務大臣も頷いた、それを機にほとんどの官僚が頷いている。後には、文部大臣が残った。

 

「どうした? 文部大臣?」

「あの、このようなことを言うのは心苦しいのですが……彼らはまだ絶対王政や帝国主義が残っている世界から来たのですよ、将来暴走して戦争にでもなったら……と思うと」

「……たしかにその可能性も捨てきれん、私だってそう思いたくないさ。だが、もし仮に戦争になったら全力で受けて立つ事になる。そんな事が起こらないように全力を尽くそうじゃないか」

 

武田総理がそこまで言うと、文部大臣も納得した。幸いにも、レヴァームと天ツ上は日本に対して友好的だった。

 しかし、異世界全てがそうではない。

 日本とレヴァーム、天ツ上はこの世界の厳しさを思い知る事になる。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 防衛省防衛装備庁の会議室。そこでは、転移に対する今後の活動予定をまとめていた。

 

「政府も思い切った決断をしたな」

「ええ、転移前では予想できませんでした」

 

 転移後、レヴァームと天ツ上の軍事力を警戒して、日本政府は防衛対策について大きな見直しを行った。防衛費は大幅に拡張され、各種対策が閣僚会議と各省庁の予算委員会で決議された。

 

○ 搭載機数40機以上の航空護衛艦(DDV)4隻の建造と、航空護衛艦隊整備。つまりは空母打撃群の配備。在日米軍から指導を受ける。現在建造中、3年後の実用化を目指す。

○ 中型護衛艦(DDC)6隻の配備、つまりは旗艦級ミサイル巡洋艦の配備。キーロフ級やタイコンデロカ級、あたご型を参考にして設計、建造中。3年後の実用化を目指す。

○ 大型護衛艦(DDB)2隻の配備、つまりは戦艦の配備。レヴァームと天ツ上や、この世界の勢力に対する戦力誇示を目的としている。日本における実に75年ぶりの戦艦配備となる。

○ 飛行護衛艦への改造。レヴァームと天ツ上の技術提供によってもたらされた揚力装置を用いて、現行の護衛艦を4年で全て飛行艦化する。

○ 防衛力に難があるため、8個護衛隊群に増強する。

○ それに伴う各種護衛艦の新規建造、更新、増数。

○ 水素電池搭載型潜水艦の建造、配備。4年後の実用化を目指す。

○ 通常動力潜水艦の増数。

○ 新型護衛艦『もがみ型護衛艦』の改修、建造。

○ 飛行輸送艦の配備、および飛行護衛艦の爆撃化

○ 次期主力戦闘機『F-3』の開発、量産化。すでに初飛行している先進技術実験機をベースとして新規戦闘機の開発を行う。超音速巡航と推力偏向ノズルを備えた高機動性を実現し、高度なステルス性能の付与、艦上機として運用できることとする。2年後の実用化を目指す。

○ 『F-2』の改修。

○ 戦闘機数の増強。

○ 新型輸送機の開発、配備。飛行艦はコストが掛かるため、飛行艦とは別で輸送機を開発する。『C-5』クラスを目指す。

○ 『C-2』の大量生産。

○ 戦略爆撃機の開発、配備。

○ 自衛隊の増員。自衛隊の志願者急増に伴い40万人規模の体制とする。

○ 現行戦車を10式戦車へ全て更新。74式は全て退役か売却。戦車保有数は増数。

○ 新型国産小銃、および新拳銃SFP9の早期配備。

○ 各種装甲車の増強。

○ 新型攻撃ヘリコプターの開発、配備。OH-1を参考に新型の攻撃ヘリを開発する。2年後の実用化を目指す。

○ 新型輸送ヘリの開発、配備。

○ 日本版GPS衛星の配備、それに伴う各種GPS誘導弾の研究。GPS誘導が可能な巡航ミサイルも開発する。

○ 現用対艦ミサイルのプログラム改編。この星の気候と飛空艦に対抗する為、対艦ミサイルを空の目標も探知できるようにする。

○ ASM-3改の開発、配備。超音速対艦ミサイルで、レヴァーム天ツ上の飛行戦艦にも対抗できるレベルに改良中。

○ 新世界惑星における、宇宙空間からのロケット再突入に関する研究

○ 早期警戒衛星の配備。

○ イージス・アショアの配備。

 

 などなど、多岐にわたる。これは旧世界でのアメリカの軍拡を追う形だが、日本の法体制や自衛隊の存在意義などを踏まえて、新世界での防衛力を強化する点が決定的に違う。

 

「何せ、二つの軍事大国の間に転移してきましたからね。もしもの時を備えて軍拡をしておくのは正解です」

「彼らを疑っているわけではないのだがな……まあ、それにしても国民もよく反対しなかったな?」

「レヴァームと天ツ上が軍事大国である事をバラしたら、むしろ『軍拡をするべき』と騒ぎはじめましたからね。まだ、国内ではレヴァームと天ツ上に対する不信感があるのでしょうね」

「全く、極端から極端に走る国民性なんだから……」

 

 自衛隊幹部は、これから地獄の忙しさになる事を危惧してため息をついた。

 

「そういえば先生、水素電池の解析はどうなっています?」

 

 幹部に「先生」と呼ばれた、防衛装備庁の研究者が発言を始める。

 

「はい、かなり進んでいて、もうすでに水素電池の国産1号型を試作しております。海水から燃料を作り出すだなんて、夢のような技術ですよ」

「もうですか。やはりすごいですね、この水素電池とやらは……」

「揚力装置とやらも凄いです、特定の合金の周りで高速でプロペラを回す事で反重力を生み出すなんて、なんで地球では気付かなかったのでしょう?」

 

 レヴァームと天ツ上から唯一輸入したのが、この水素電池と揚力装置であった。日本どころか、旧世界の地球にすらなかった技術で、日本でも実用化すれば輸送や発電に革命が起きると言われている。

 何せ、水素電池は海水から無限に発電する。どれだけ大きな発電施設を建てようが、燃料代は無料だ。近年問題になっていた原子力発電施設もこれに代行する形となっている。

 そして、揚力装置は船を空に浮かべる事ができる。これを使えば、船は空を飛び陸上をも飛ぶ事ができる。

 さらには速力も上がるため、輸送に革命が起きるのだ。自衛隊でも、揚力装置を取り付けた飛行艦の配備が計画されて、すでに何隻かドックで改造には入った船もある。

 

「それより、これでジェット機を回す事はできるのか?」

「電気によるジェットエンジンの稼働はJAXAが開発していたピュアエレクトリック方式がありますが、水素電池があるならもっと簡単な方法で回せます」

「どんなのだ?」

「水素電気は、水から水素と酸素を分離させて蓄電します。このうちの水素を取り出してそれを燃料にすれば、ジェットエンジンでも回せるんです」

「なるほど、つまりは水素で飛ぶんだな?」

「はい、効率もかなり良くなるのでスーパークルーズも可能になります」

 

 スーパークルーズとは、航空機が超音速での長時間の飛行、つまりは巡航を行うことのできる能力である。現代の航空機には欠かせない能力だ。

 新しい自衛隊に向け、彼らは準備を進める。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「東さん! ついに〈ちょうかい〉も飛行艦への改造が始まりましたね! これで日本は飛行イージス艦を持つことが出来ますよ!」

 

 興奮鳴り止まない状態で、部下が話しかけてくる。灰色に光る色と、きっちりと向いた美しいSPY-1レーダー、スマートな船体。呉基地の造船所ドックで、1隻のイージス艦がその身を委ねている。その名は〈ちょうかい〉だ。

 

「横須賀の方でも護衛艦の改造が始まっているからな、一早い配備を目指さなければ」

「にしても、これだけ大きな船を空に飛ばすなんて、レヴァームと天ツ上も侮れませんね。揚力装置、輸入しておいて正解でした」

 

 日本では、レヴァームと天ツ上の揚力装置や水素電池の有用性を理解し、輸入を始めた。そして、僅か一ヶ月で日本製の揚力装置と水素電池を作り上げたのだ。

 その性能は、レヴァーム天ツ上製よりもさらに上をいく言われているほどだ。揚力装置の出力は従来の2倍高くなり、水素電池に至っては触媒の交換が必要なくなり、水さえあれば無限に航行出来るようになった。

 その内、レヴァームと天ツ上の飛空艦に対抗する為、そして飛空艦の有効性を理解した為に、自衛隊の護衛艦を飛行艦に改造する計画が発案された。機関には日本製揚力装置と水素電池を使用し、古くなった船は同時に近代化改修をする。

 

「にしても、船に主翼を追加するとな。まあ、空を飛ぶから当然か」

 

 

『ちょうかい』の飛行艦への改造計画として、以下が挙げられる。

 

○ 機関を揚力装置とプロペラに換装。水中スクリューは残す。

○ 燃料庫は水素電池スタックを換装。

○ 下部にもCIWSを追加、着水時は格納できる。

 

 改造は多岐渡るため改造が終わるのは年単位の時間がかかると予想されている。そのため、しばらく海自はローテーションを見直す必要がありそうだ。

 

「そういえば、あっちのドックでは新しい船の建造が始まっていますね。あれはどんな船なんです?」

 

 部下が指したのは、隣にある六つのドックであった。何やら櫓のような構造物がそびえ立ち、忙しく工事の音がする。

 

「あれか? あれは新しく配備する中型護衛艦のドックだ」

「中型護衛艦ですか、どんな船になるんでしょうか……?」

「なんでも、他国で言う『ミサイル巡洋艦』に当たるらしい。旗艦級として建造されていて、船体も大きくなるそうだ」

 

 日本が巡洋艦を保有するのは太平洋戦争以来、実に75年ぶりである。それも、タイコンデロカ級やキーロフ級を元に設計するらしいので、国民からの注目を集めている。もちろん、最初から飛行艦として建造される予定だ。

 

「その名も〈たかお型中型護衛艦〉。日本海軍の高雄型重巡洋艦の2代目に当たる。主砲は陸自のものを流用した新規開発の203ミリ艦砲を搭載。VLSは前後合わせて200セル、対艦ミサイル16発、イージスシステム搭載、装甲100ミリの大型艦だ」

「203ミリ艦砲に装甲100ミリ!? それって時代錯誤じゃないですか?」

 

 イージスシステムや対艦ミサイルの搭載量増加はまだわかる。しかし、いくらなんでもそこまで大型化かつ、大艦巨砲主義のような装備をこれでもかと追加するのはいったいどう言う事だろうか?

 

「主砲は対地支援用、射程は55キロあるからな。装甲はキーロフ級を元にしたからそれに習った形だな」

「へぇ……面白いですね。完成はいつ頃で?」

「1番艦は3年で建造が終わるんじゃないか?まあ、それも俺が指揮しなくちゃいけないんだが……」

 

 二人は、新しい船の面白さに話題が尽きなかった。船を空に飛ばすなど前代未聞、日本初の試みであった。

 

「なら、尚更頑張らなくちゃなぁ」

「そうだな。よし、仕事に戻るぞれ

 

 東と部下は、これからさらに忙しくなる事をむしろ楽しみにしていた。

 



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閑話休題〜ネットの反応〜

今回はネットの反応です。


転移現象から数日経たずに、日本の生き残ったインターネット界では、連日議論が重ねられていた。

 

 

【スレタイ:横須賀に現れた謎の飛行船について】

 

 

0001:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 8:18:07

スレ立てしました。

 

0002:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 8:18:36

>>1 スレ立て乙です。

 

0003:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 8:19:01

一体なんだろうな、テレビで映っていたあの飛行船。どう見ても国旗とか自衛隊のものじゃ無いし、そもそも鋼鉄製の飛行船なんて日本にゃないし……

 

0004:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 8:19:35

というか、アレの材質は鋼鉄製で合っているのか? 横須賀にあるんだったら普通に考えて、自衛隊の秘密兵器じゃなくて?

 

0004:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 8:20:05

>>4 秘密兵器だったら普通堂々と横須賀の港に停泊していたりとかしないだろ。

 

0005:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 8:20:15

>>4 報道陣に存在バレてるし、自衛隊がそんなヘマやらかすわけない。

 

0006:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 8:20:30

じゃあ……一体なんだってばよ……?

 

0007:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 8:20:45

ところで、あの飛行船空飛んで待機しているみたいだけど、一体どうやって浮いているの……?

 

0008:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 8:21:08

排水量、武装からしてどう見ても飛行船の類じゃなさそうだしな。どちらかというと、「第二次世界大戦期の駆逐艦を空に浮かべた」の方が正しい。

画像から見るに、アレは駆逐艦クラス。武装も127ミリクラスの連装砲が前部1基に後部2基と吹雪型駆逐艦に似ている配置、そして千数百トンクラスと思われる排水量から駆逐艦だと予想できる。

 

0009:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 8:21:16

>>8 助かる。

 

0010:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 8:21:25

>>8 オタク特有の早口助かる。

 

0011:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 8:21:30

今回はマジで助かる。現代艦艇にはそぐわない砲配置から察するに、こいつは自衛隊のもんじゃないな多分。

 

0012:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 8:21:48

じゃあマジでなんなんだろう……

 

 

 

-中略-

 

 

 

0351:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:30:40

【速報】舞鶴市に巨大な飛行戦艦現る(画像付き)

 

0352:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:30:58

( ゚д゚)

 

0353:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:31:01

( ゚д゚)

 

0354:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:31:09

( ゚д゚)

 

0355:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:31:12

(゚д゚)

 

0356:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:31:36

こっちみんな

 

0357:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:31:40

いやいや待って待って、コレ何? 宇宙戦艦ヤ○ト? ラ○ュタのゴ○アテ?

 

0358:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:31:55

いや、いやいやいや、マジかよコレ合成じゃなくて本物かよ……しかも空母まであるじゃん。

 

0359:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:32:09

ネットニュースだけじゃなくて各種報道機関でも報道されているから、デマじゃない。

 

0360:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:32:22

さっきは政府から「日本が別の惑星に転移しました」って言われて「は?」ってなったけど、今度は飛行戦艦かよ……疲れるわ。

 

0361:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:32:34

報道機関のヘリコプターから見た感じ、こりゃ戦艦だな。三連装砲4基に副砲やら高角砲やら対空砲やら……やたらと重武装だな。

 

0362:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:32:53

いや本当とマジでコレどうやって浮いているの!? 装甲とか排水量とか考えたら飛行船の類じゃないでしょ。

 

0363:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:33:12

重力制御? ミ○フスキークラフト? どちらにせよこの世界日本より進んでね? やばくね?

 

0364:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:33:25

日本が技術的に不利になる可能性もあるの? それやばくね? 侵略されるじゃん。

 

0365:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:33:36

いや、浮いている技術は凄まじいけど、見たところ大昔の戦艦みたいな感じになっているから、戦術的には第二次世界大戦レベルだと思う。

 

0366:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:33:48

でも確か、自衛隊の対艦ミサイルって速度遅いし弾種は榴弾でしょ? そもそも空飛ぶ目標を追尾できないし、戦争になったら負けんじゃね?

 

0367:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:33:59

>>366 ASM-3ならワンチャン……

 

0368:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:34:03

>>367 あれは改良中でまだ配備されてない。

 

0369:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:34:14

【速報】飛行戦艦の正体、『神聖レヴァーム皇国』の船だと判明。

 

0370:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:34:25

>>369 マ?

 

0371:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:34:35

>>370 マ、政府から発表があった。この世界の国家かも知れないから、国交開設に向けて協議を行うらしい。

 

0372:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:34:53

>>371 何のために戦艦で来たの? 明らかに砲艦外交じゃん。

 

0373:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:35:10

>>372 それに関しては後々謝罪くるだろ。

 

0374:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:35:26

食料輸出してくれるんかな……列島外との交流失った今だと、食料早く欲しいところだし……

 

0374:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:35:50

【速報】横須賀にも同様の飛行戦艦現る。

 

0375:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:36:18

>>374 え? 今度は横須賀?

 

0376:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:37:40

>>375 今度は『帝政天ツ上』って国らしい。海自の第一護衛隊群が対応している。

 

0377:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:38:30

神聖レヴァーム皇国? 帝政天ツ上? どっちも聞いたことないなぁ……やっぱり異世界か……

 

0378:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:39:28

こう次々と意味不明な事態が起こると、インフレ起きそう。

 

0378:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:39:53

両方とも日本と敵対しないとは言い切れないし、戦争にならないか不安だ……

 

0380:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:40:06

【速報】神聖レヴァーム皇国の使者、美しすぎる美人がいる。

 

0381:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:40:12

>>380 え? どうゆこと?

 

0382:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:40:29

>>381 テレビ付けて観ろ、『いせ』から人が出てきた。めっちゃ美しい、光り輝いている。

 

0383:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:40:38

視聴中……( ゚д゚)

 

0384:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:40:49

( ゚д゚)

 

0385:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:40:56

( ゚д゚)

 

0386:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:41:12

(゚д゚)

 

0387:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:41:24

こっちみんな

 

0388:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:41:38

いやいやいや、待って、マジで超美人じゃん。芸能人とかモデルとか全部霞むレベル……

 

0389:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:41:48

ヤベェ……めっちゃ綺麗(語彙力喪失)

 

0390:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:42:19

【速報】超絶美人さん、神聖レヴァーム皇国の執政長官『ファナ・レヴァーム』という名前らしい。

 

0391:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:42:28

>>386 ファ!? 執政長官!?

 

0392:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:42:37

>>387 マジマジ、政府から発表があった。

 

0393:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:42:49

執政長官って、レヴァームって国の国体わからないけど国のトップに近いやん……

 

0394:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:42:54

執政長官が遥々来日!? すごいやんけ!!

 

0395:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:43:15

これで日本もこの国と国交開設か……

 

0396:ネットニュースの名無しさん 2020/1/17 15:43:26

美人すぎて言葉に困るレベル、これからは尊敬の意味を込めて『ファナ様』と呼ぶことにしよう。

 

 

 

 

 

 こうして、ファナ・レヴァームは日本で尊敬と畏敬の意味を込めて『ファナ様』と呼ばれることになった。

 数日後のとある動画サイトにて……ここでは、国交開設に向けた協議のニュース映像が流れていた。各報道機関も、神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上との国交開設のニュースで賑わっていた。画面に、ファナ・レヴァームが現れる。

 

コメント

「ファナ様!!」「ファナさーま!!」「ファナ様は俺の嫁」「ファナ様prpr」「←おまわりさんコイツです」「イケメン外交官そこ代われ」

 

 すると、コメント欄が賑わい始め、弾幕も相次ぐ。今やファナ・レヴァームは日本でアイドルのような存在として祭り上げられていた。ファナが報道陣に向けて微笑みかける。

 

コメント欄

「きゃぁ!ファナ様!!」「ファナ様が微笑んだ!!」「ファナさーま!!!」「ファナ様は俺の嫁!!」「ファナ様prpr」「←お巡りさんコイツです」

 

 ニュースのキャスターが日・レ会談の様子の報道内容を読み上げる。

 

『神聖レヴァーム皇国のファナ・レヴァーム氏と、日本の武田首相による国交開設に向けた会談が行われました。会談の中でファナ・レヴァーム氏は「日本とは良い関係を築いていきたい」と述べ、武田首相も同じ思いであることをお互いに述べ、共に握手を交わしました』

 

コメント

「ファナ様のおてて!」「おてて!おてて綺麗!!」「ファナさーま!!!」「ファナ様は俺の嫁!!!!!」「ファナ様prpr」「←お巡りさんコイツです」「武田そこ代われ」

 

 連日、日本のネット界はファナ・レヴァームのことで一杯であった。

 




次回は文化交流なんですが、その前に一つだけ気になる点が……
ポケモンとか、アズールレーンとかの名前を出したいのですが、タグで「多重クロス」とか付けてないのに出しちゃっていいんですかね?
「ニコニコ動画」とか、「YouTube」とかはOKみたいですけど……


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閑話休題〜異文化交流〜

始まりは一枚の絵だった。とあるSNSをやっている名もなき絵師が、一枚の絵をそのSNS上にアップした。

 

 

【神聖レヴァーム皇国 飛空戦艦エル・バステルちゃん】

 

 

そう、紛れもなくそれは日本を訪問したレヴァームの戦艦『エル・バステル』を擬人化したイラストだった。

 

長く伸びた金髪をポニテでまとめ、スカートがついたレヴァーム空軍の制服を着込み、三枚の主翼と三連装砲4基が誇らしく向くメカメカしい機械を後ろに背負っている。

 

この何の変哲もないイラストは、描いた本人もそんなに反応が来るとは思っていなかった。軽い気持ちで描き、投稿したのだった。しかし、その反響は凄まじかった。

 

 

「すごい! 可愛い!!」

「凛々しくてカッコイイ!」

「ア○レンにいそうなくらい完璧」

 

 

などなど、いいね&リツイートは10万にまで上り、その後もこの『エル・バステルちゃん』の様々なイラストが投稿されていった。そして、とある会社の目に留まる。それは、かの有名な『アズールレー○』の日本運営だった。

 

 

「是非ともこの子をウチのゲームで使わせてください!」

 

 

『アズールレー○』は中国産のソーシャルゲームであったが、転移により大陸との通信が途絶えてしまった。そのためこの会社は、日本の独自路線でこのゲームを運営をする事にしたのだ。

 

そこで、目をつけられたのが中央海戦争に活躍した、神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上の艦艇達だった。彼女らを女性として擬人化する事で『アズールレー○』本編に出し、ゲームに実装したのだ。

 

『飛空戦艦エル・バステル』だけでなく、『重巡空艦ボル・デーモン』や『飛騨型飛空戦艦』なども次々と実装され、アズールレー○のレヴァーム天ツ上艦艇は賑わっていった。

 

何気ない一枚の絵が、ここまで反響を呼ぶとは絵師も思っていなかったらしい。

 

その後も『艦○これくしょん』や『ドール○・フロントライン』などの、様々な擬人化ゲームにてレヴァームと天ツ上の兵器が登場し、レヴァームと天ツ上の兵器や歴史が再現された。

 

日本人の性である擬人化には、余熱がないようだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それではこれより! 各班に分かれて日本に関する用品を集める! 皆準備はいいな!?」

「「「「「応!!」」」」」

 

 

東京のど真ん中の秋葉原、秋葉原駅の前でレヴァームと天ツ上の軍人数十名が軒並み集まって集合していた。その中には、保護されていた立場から解放された狩乃シャルルの姿もあった。

 

 

「いよいよですね、シャルルさん!」

「うん、日本側が書類の購入を許可してくれてありがたいよ」

 

 

かなわらのメリエルがワクワクした表情でシャルルに話しかける。彼らの目的、それは日本に関する情報や、日本の世界での戦史の情報を集める事だった。

 

ここ秋葉原には、日本の電化製品や書店が多く集まっている……らしい。そのため、軍の高官や参謀、技術者、そして直接日本を見た飛空士として狩乃シャルルがこの活動に選ばれたのだ。

 

 

「それでは、それぞれの班に分かれて散策開始! 予算は日本円で一人8万円、集合は一八:○○とする! では解散!」

 

 

そうして、レヴァームと天ツ上による諜報活動が始まった。ある一行は、大規模な書店にまで行き、情報を集める。

 

 

「宝大陸社? 何々……『別冊宝大陸 特集!自衛隊と神聖レヴァーム皇国&帝政天ツ上が戦えばこうなる!?』……?」

 

 

参謀はその雑誌を読み始める。

 

 

「な!? こ……これは……!」

 

 

そこには、日本の自衛隊の兵器の性能とレヴァーム天ツ上の艦艇の性能が比べられていた。お互いの性能や戦い方、そして戦空機の採用予想が張られている。数値は全然違うが、それでも「日本が圧勝する」と記載されていた。

 

 

「こ……これは?『SSM-3』……?」

 

 

次のページには、日本が「開発中」と謳う兵器群が写真付きで紹介されていた。見出しの下には、『超音速艦対艦ミサイル』と言う分類が記載されている。

 

 

「つまりは空雷か!!」

 

 

レヴァームと天ツ上の間でも、誘導する空雷は存在する。しかし、この日本の空雷は重量660キロの爆弾が、時速3600キロ以上で、距離にして400キロ以上を飛翔し、動く敵であっても磁石が吸い付くように着弾すると言う。それが、飛空艦対策として空の目標も追尾できるように改造中だとの事。

 

 

「イージス艦?」

 

 

さらに読み進めると、更なる記載があった。それは演算処理システムにより同時に200以上の目標を追尾し、迎撃できる「最強の盾」と称されている。

 

 

「これはすごいぞ!!」

 

 

レヴァームの参謀は、自国が「負ける」と言われたことよりも、新たなる戦術の開発に勤しむきっかけを作るのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

一方のシャルル達は、書店が集まっているという外神田中央通りに出向いていた。目的はもちろん、日本の書店で戦史や技術についての本を集めるのだ。

 

 

「ここは凄いところだね……」

 

 

シャルル達が見上げる先は、一面カラフルな漫画? の登場人物や、その絵画で埋まっていた。中には「パーニラ! パニラ! パーニラ!」と大きな音を上げる宣伝車らしきものも行き交っている。どれもレヴァームと天ツ上では見なかった光景だ。

 

 

「「アニメイク?」」

 

 

そんなシャルル達が着いたのは、青い外壁を纏った一つのビルだった。看板には『アニメイク』と書かれている。

 

 

「どうやらここが日本の書店らしいですね」

 

 

傍のメリエルが語りかける。何かがおかしいと思っていたが、シャルルは数人の参謀を連れてその書店に入る。

 

 

「なんだここは!?」

「すごいです! これ漫画ですか!?」

 

 

中に入って2階に上がると、そこは漫画天国であった。様々な種類の漫画が売られており、そのどれもがレヴァームと天ツ上では見なかった絵柄だった。

 

 

「すごいぞ……設定も何もかもがレヴァームと天ツ上では見たことない……」

「見てくださいシャルルさん! この絵可愛くないですか?」

 

 

シャルルが手に取っているのは『鬼滅の○』、メリエルが見せたのは『ご注文はウ○ギですか?』の表紙だった。試し読みとして配られている中身を見ると、さらにのめり込む。

 

 

「こ……これは!? 鬼退治モノなのか? すごい面白いじゃないか!」

「なんか可愛い……ほのぼのしちゃう……」

 

 

すっかり日本の漫画にのめり込む二人であった。

 

 

「おい! こっちには小説もあるぞ!!」

「本当か!?」

 

 

シャルル、メリエルと参謀達が駆け足でその方向に向かう。

 

 

「おお! こっちも面白そうだぞ!」

「すごい! こんなにたくさん!!」

 

 

彼らはすっかり本来の目的を忘れてのめり込んでいた。まあ、本来の目的である「日本の世界の戦史に関する本」は別の班が入手するのだが。

 

 

「おい、アレ……」

「あれってレヴァームと天ツ上の軍人さんか?」

「ラノベ選んでる……」

 

 

その様子が物珍しいのか、日本人たちはスマホで写真を撮っていた。中には軍人とツーショットを撮っている者もいて、SNS上で話題になった。そして彼らはそれだけでは物足りず、さらに上の階へ歩みを進める。

 

 

「これは……!? 戦車モノじゃないか!」

「こっちは戦空機……おお! 海戦モノもあるぞ!!」

 

 

陸軍の参謀が手に取ったのは『ガール○&パンツァー』、海軍の参謀が手に取ったのは『荒野のコ○ブキ飛行隊』と『ハ○スクール・フリート』であった。彼らが手に取ったのは、どれも円盤。DVDであった。そのため、ある問題に直面する。

 

 

「あの……こちらは専用の再生機器がないと見れないのですが……」

 

 

そう、再生機器の問題である。DVDをなんたるか分かっていなかった彼らにとって、再生機器が必要なのは考え付かなかった。しかし、その問題はすぐに解決する。

 

 

「「「「「なら買います!!!」」」」」

 

 

そうして、彼らが向かったのは……

 

 

「「「「「ドドバシカメラ?」」」」」

 

 

日本の家電量販店、ドドバシカメラであった。彼らは店員に話を聞いて、DVD再生機器を売っている階層にまで辿り着く。

 

 

「これは……『平成30年度観艦式』……日本の自衛隊の映像じゃないか!」

「こっちは……『陸上自衛隊富士総合火力演習』……陸軍か!」

 

 

そこでアニメ以外の自衛隊に関するDVDをさらに集め、せっかくなので何人かの班に分かれてここの家電を買い漁ることにした。

 

 

「ゲームソフト?」

 

 

そんな中、シャルルが目をつけたのはテレビゲームであった。店員から操作方法を聞き、シャルルは生まれて初めてゲームをプレイする。

 

 

「!? これは……人工合成した映像を見せているのか!!」

 

 

シャルルがプレイしているのは、『エー○コンバット7』であった。出てくる戦空機は皆シャルルが見たことないジェット機である。

 

 

「これは日本のジェット機じゃないか!! そうか、これは飛空士が娯楽感覚で訓練するための機械なんだな……!」

 

 

シャルルは少しだけ勘違いをしながら、『エー○コンバット7』をプレイし続ける。僅かな間でシャルルは操作をマスターし、ステルス戦空機『F-22』を巧みに操って敵を撃破していく。

 

 

「こんな凄い機械が……家庭にも普及しているのか!? すごいぞ日本!!」

 

 

シャルルは興奮しっぱなしでゲームをプレイし続けていた。

 

 

「シャルルさん……?」

 

 

それを傍からメリエルが氷点下の目線で見つめている。

 

 

「あ……えっとこれは、その……」

「何遊んでいるんですか、買うもの買いましたか?」

「まだです……」

 

 

と、まくしたて上げられるシャルルであった。

 

 

「? おや〜メリエルだって何か買っているじゃないか?」

 

 

と、シャルルはメリエルの両腕に何かの箱が抱えられているのを見つけた。袋からは、『零式艦上戦闘機52型』と書かれているのが見えた。

 

 

「え!? こ、これは日本の世界の戦空機の模型です! 決して遊び道具じゃ……」

「日本では、それを『プラモデル』って言って娯楽商品扱いなんだよ?」

「うっ……」

 

 

その後、シャルルは『エー○コンバット7』とゲーム機『P○4』を買い占め、その日の諜報活動は終了したのだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「なんなんですかこれ……」

 

 

神聖レヴァーム皇国の大使館(旧アメリカ大使館)にて、パーティーに呼ばれた天ツ上の皇族の聖天殿下はそう呆れていた。

 

 

「日本の最新の商品は国外に輸出できないので、大使館でしか出来ないのです……それで、両国の文化交流という名目でパーティーを開催したら……」

「大の軍人が漫画や遊び道具で遊び呆けている訳か……」

 

 

その様子には、外交官の朝田も思わず苦笑いだった。なぜならレヴァームと天ツ上の軍人達が、漫画やアニメ、ゲームにのめり込んでいるのだ。

 

 

「見ろ! 戦車に女子が!!」

「戦車道ですね、この世界では花道茶道に続く嗜みとして親しまれているようです」

「これだけ大きな空母、我が国でも作れないだろうか……」

 

 

『ガール○&パンツァー』にのめり込む陸軍参謀。彼らは戦車道を見て戦術の研究をしている。

 

 

「やったぞ! 大和が出たぞ!!」

「「おお!!」」

「建造280回……消費した資材は幾千万……ようやく我が鎮守府も大和型戦艦を持つことができましたね……グスン」

 

 

そして『艦○コレクション』にハマる海軍参謀たち。『大和』が出るのにかなり苦労を重ねたようだった。

 

 

「何で事だ! 東京が!!」

「何とかできないのか! 早くこいつを止めないと被害が……!」

「これは実写か? 一体どうやって撮影しているんだ……」

 

 

そして、日本の特撮『ゴ○ラ』にハマる軍人達まで。

 

 

「グワァ! またやられた! レールガン強すぎだ!」

「格闘戦の基本はジェット機でも変わらないみたいだね……ほら、また1機撃墜」

「ああ!?」

 

 

レヴァーム随一の秘宝であるシャルルでさえ、『エー○コンバット7』の対戦にのめり込んでいる。

 

 

「これね、日本で70年前に使われていた『零戦』って言う戦空機なの」

「へぇ、日本もプロペラ機があったんだな……」

「それからこの戦艦大和の素晴らしいディテールを!! 主砲も対空砲も動くんですよ!」

「本当だ! 素晴らしい精度だ!」

「こいつ……動くぞ!」

「そしてこれが四式戦闘機『疾風』、最上型重巡洋艦『最上』、宇宙戦艦ヤ○トのドレッドノート級宇宙戦艦、機動戦士ガ○ダムの『ザクⅡ』で、それから……」

「おい……なんか変なの混じってないか?」

「変なのとは何ですか!? 見てくださいこの『ザクⅡ』を……素晴らしいディティールのモノアイに120ミリマシンガン! この素晴らしいフォルム! それから……」

 

 

中にはプラモデルを手に取って色々やっている軍人もいる。と、パーティー会場に聖天の専属執事がいた為、聖天と朝田は声をかけた。

 

 

「おお、これはこれは聖天様……ようこそおいでくださいました」

「爺やまで……何をしているか?」

 

 

爺や呼ばれた執事は、テーブルにパソコンを広げて何かをプレイしていた。

 

 

「これは『月に○り添う乙女の作法』にございます」

「皇族の執事がエロゲって……」

 

 

朝田は少し知っているのか、少し呆れていた。

 

 

「エロゲとは?」

「いわば官能小説にございます。男女が恋愛をする話なのですが、こちらの絵をご覧ください」

 

 

聖天の執事が見せたのは、一枚のCGイラストだった。青い髪をした女の子が、恥ずかしがっている絵が書かれている。

 

 

「この女子、実は女装した男子なのでございます」

「え? そうなのか?」

「そうでございます、日本では『男の娘』と呼ぶ属性なのだとか。中々に良いストーリーでして、満足できました。しかし、主人公の男子が愛らしい見た目をしているのに、挿絵が女子に比べて少なかったのが唯一の不満ですかな……」

「皇族の執事がエロゲレビュー……」

「…………これは爺やの趣味だから」

 

 

その後もペラペラとエロゲの内容をレビューする執事を尻目に、朝田と聖天は日本の製品が置かれている場所にたどり着く。

 

 

「これは?」

「ウェアラブル機器ですね、それを装着すれば動きをコンピュータ上に投影することができるのです」

 

 

聖天の体にその端末をつけて、試しに踊ってみる。

 

 

「おお! これはすごい! 絵の中のおなごが私の動きに合わせて動いているぞ!!」

「ちなみに、これを使った『バーチャルYouTuber』と言われる職種が今日本で流行っておりまして……」

「バーチャル……何と?」

「『バーチャルYouTuber』です、なりたいキャラクターを自分で動かしながら、世の中で配信をすることができるのですよ」

「それは真か!?」

 

 

と、聖天が子供らしい目つきで目を輝かせている。

 

 

「あ、後でブラックボックス化した端末をあげましょうか……?」

「頼む!!」

 

 

その後、聖天は日本政府からバーチャルYouTuberのための機器を譲り受け、身分を偽って配信を開始した。こうして、天ツ上初のバーチャルYouTuber、『聖夜天使』が爆誕したのだった。

 




と、言うわけで今回は異文化交流となりました!
ちなみに、爺やの『月に寄り添う乙女の作法』の感想は私の個人的感想ですw
つり乙の二次創作も書いてみたいですねー


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第二章
第5話〜動乱〜


 

 クワ・トイネ公国

 

「すごいものだな、レヴァームも天ツ上も。明らかに三大文明圏を超えている。もしかしたら我が国の生活基準も、三大文明圏を超えるやもしれぬぞ」

 

 レヴァームと天ツ上、そして日本が転移してきてから二カ月が経とうとしていた。レヴァームと天ツ上、そして日本はお互いに国交を結ぶだけでなく、周辺の異世界国家とも国交を結んでいた。

 その中の一つが、クワ・トイネ公国とクイラ王国だ。そして、彼らにとってこの二か月間は、クワ・トイネにとってこれまでの歴史上最も発展した二ヶ月であったとされている。

 日本が主導して、クワ・トイネやクイラのインフラ整備を行っており、あらゆる輸出品を惜しまなかった。

 大都市間を結ぶつなぎ目のない道路。日本本土にあったような鉄道と呼ばれる大規模輸送機能。さらには電気も輸出された。

 この電気の存在は大きい。発電施設はレヴァームと天ツ上の出資で作られた水素電池による発電施設だ。水素電池は海水から電力を無限に生み出す。いくら大規模な発電施設を建てようが燃料費はタダだ。

 さらにはレヴァームと天ツ上は飛空艦たちが発着可能な湾岸設備が整えていた。主にマイハーク周辺である。

 

「ここクワ・トイネもすっかり変わってきました。我が国のような辺境国家が、文明圏内国を超える生活基準を手に入れるなど、世界の常識からすれば考えられないことです。ですが、使節団からの報告書は何度読んでも信じられません」

「ああ、もしもこれが全て本当なら、国の豊かさは本当に文明圏を凌駕するな」

 

 首相カナタと秘書は、興奮鳴り止まない。その分、かなり仕事が増えて多忙な毎日を送っているがそれでも満足そうだ。それだけ、レヴァームと天ツ上、そして日本は凄まじいということだろう。

 さらには軍備も着々と整えられ始めていた。レヴァームと天ツ上から輸入した、『銃』や『装甲車』などの兵器や装備などを使って訓練を行なっている。

 できれば日本からも輸入をしたかったが、日本では武器輸出に消極的でなかなか渡してもらえなかったのが残念なところである。これは、レヴァームと天ツ上との間で決められた協定が関係している。

 日本は技術力がレヴァームや天ツ上を超えている為、もし仮に武器輸出をした場合、レヴァームと天ツ上の軍需産業が打撃を受ける可能性があった。

 そのため、日本はインフラを輸出する代わりに日本製兵器は輸出しない方針をレヴァームと天ツ上との間で固めたのだ。

 

「しかし、彼らが平和主義で助かりましたね……彼らの技術力と国力で亜人廃絶を唱えられていたかと思うと……かなりゾッとします」

 

 その言葉にカナタは少しだけ顎を抱えると、怪訝そうな顔をする。

 

「いや、そうでもないぞ」

「どういうことですか?」

「……なんでもレヴァームと天ツ上は数年前まではお互いに敵同士で、共に差別をし合っていたらしい」

「え!? そうなのですか? 二国はかなり仲が良いように見えますが……」

「それはレヴァームのトップのファナ・レヴァーム殿の努力のお陰でな。数年前まではお互いを『猿』や『豚』と呼んで、人間以下として差別をしていたらしい」

 

 カナタの口から語られる昔のレヴァームと天ツ上の関係は、とても今の関係からは想像できない壮絶なものだった。

 他人を人間以下と勝手に区別して、差別して迫害する。やっていたことはロウリア王国と同じであった。そんな事をかの二つの国々は行なっていたのだろうか。

 

「そして、それは戦争にまで発展した。彼らはその戦争を『中央海戦争』と呼んでいるらしい。その戦争で、今まで見下されてきた天ツ上人は自分たちが『猿』ではなく『サムライ』であるとレヴァームに知らしめたのだ」

「サムライ……?」

「天ツ上における騎士のようなものだそうだ。ともかく、彼らはその戦争を経てお互いを認め合い、差別をやめて歩み寄っているのだよ……」

 

 語られる壮絶な真実。あれほどの強大な力を持つ国同士がぶつかり合う様子など、秘書にはとても想像できなかった。

 

「まあ、それより……」

 

 カナタは秘書に振り返る。

 

「帝政天ツ上の密偵からの報告は確かなのかね? ロウリア王国が近いうちに攻める準備を整えていると……」

「ええ、直接王城に潜入している密偵の情報が、大使館伝いで伝わってきました。間違いありません」

「侵攻までどれくらいの期間がありそうだ?」

「準備期間からして、3週間ほどかと」

「ううむ……中々に近いな……」

 

 帝政天ツ上の密偵は、ロウリア王国内に侵入してジン・ハーク城の内部の様子を探っていた。その情報はクワ・トイネやクイラにも共有され、伝わっている。

 

「一応、ギムの周辺の住民全員に『避難勧告』を……いや、『避難命令』を出しておけ」

「はい、わかりました」

 

 そこまで言うと、カナタは東の方角を窓から見渡す。美しい夕日が、穀倉地帯の広がる地平線に落ちて行く。その向こうにはロウリア王国があった。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

ロウリア王国 王都ジン・ハーク

ハーク城 御前会議

 

「今宵は我が人生最良の日だ!!クワ・トイネ公国、並びにクイラ王国に対する戦争を許可する!!!決行は一週間後、各人の検討を祈る!!!!」

 

 ロウリア王国にとっては世界最大の都市ジン・ハーク。これからも、この先もロデニウス大陸最大の都市として栄えるであろうその都市で、この国の行く末を決める会議が行われていた。

 その会議は、王の労いの言葉ロウリアを称える言葉と共に終了した。しかし、それを不快な表情で見つめる人間が一人いる。

 

「何が亜人殲滅だ……下らない……まさに蛮族だな」

 

 彼の名はヴィルハル、パーパルディア皇国からの使者である。ロウリア王国はこの戦争に際して六年もの歳月の間、隣国のパーパルディア皇国から支援を受けていた。それを元に、今回の亜人殲滅戦争を仕掛ける手筈となっていた。

 しかし、パーパルディア人の彼からしたらこんな戦争は野蛮でしかない。まさに蛮族、亜人たちが気の毒だ。そう思っていた。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

日本国 首相官邸

 

「帝政天ツ上のスパイから、ロウリア王国で近いうちに軍事行動があると言う情報は本当だな?」

「はい、大使館からの連絡では、間違いないようです」

 

 帝政天ツ上のスパイは優秀で、ロウリア王国の情報を逐一報告してきた。それによると、近いうちにロウリア王国によるクワ・トイネへの侵攻があると言う。

 

「クワ・トイネ公国からは、我が国の食料の50パーセント以上を彼らから輸入しています。残りはレヴァームと天ツ上からですが、クワ・トイネが侵略されれば、我が国やレヴァームと天ツ上が建設した施設や要人がロウリア王国の手に渡ります。ここは、自衛隊の派遣を検討すべきです」

 

 環境大臣がそう言って、自衛隊の派遣を打診した。しかし、それに対して防衛大臣がため息をついて難色を示す。

 

「とは言っても、クワ・トイネへは海上で派遣することになります。しかし、現在海上自衛隊では護衛艦の飛空艦への改造がローテーションで行われていて、さらに各艦の増産をしているので、はっきり言って戦争が起こった場合に派遣できるのは、防衛との兼ね合いで一個護衛隊のみでしょう」

「それで足りるのですか?」

「難しいでしょう……本土防衛に二個護衛隊、予備に一個護衛隊群を残しますが、派遣できるのが一個護衛隊群となれば作戦能力に支障が出ます。正直、レヴァームと天ツ上に任せた方がいいでしょうね」

 

 政府関係者でいちばんの懸念とされていたのが、戦力の少なさである。現在は増強期間であるため、しばらくは使えない部隊もいる。そのため、ここは本音を言うとレヴァームと天ツ上に頼みたいところだった。

 

「しかし仮に、レヴァームと天ツ上に頼んだとして、我が国だけが派遣をしなかったら国内外から非難されるますよ? それこそ、レヴァームと天ツ上からの信頼にも傷がつきます」

 

 外務大臣も、自衛隊頼りであった。そんなことはお前たちの仕事でやってくれ、と防衛大臣は言いたかったが、グッと堪える。

 

「まあまあ、我が国としても異世界での橋頭保を失うのは我が国にとっても痛手だ。ロウリア王国とでは、我が国やレヴァーム天ツ上とは対話出来ないからな。レヴァームと天ツ上の動向によって……どうするかを決めよう」

 

 と、その時「失礼します」の一言を持ってして一人の外交官が入ってきた。

 

「神聖レヴァーム皇国から外務省宛に連絡です」

「なんだね?」

「はい、連絡によりますとレヴァームは、クワ・トイネ公国とロウリア王国との亀裂に際して軍を派遣する用意をしているとのことです」

 

 その言葉に、日本の官僚たちは一気にどよめく。もちろん、『ロウリア王国に対する牽制』と言う言葉に対してだ。その後も詳しく説明される。

 

「……つまり、レヴァームはクワ・トイネ公国とロウリアが戦争になった場合、すぐさま駆けつけるつもりなのか?」

「はい、そうです。この件には天ツ上も賛同しているようで、我が国が加われば三国がクワ・トイネに介入する事になります」

 

そこまで言われて、武田総理は悩む。

 

「総理、ここは日本も有事の際は自衛隊を派遣する準備を整えた方が良いかと」

「クワ・トイネは我が国の食料供給の半分を担っております。彼らを失うのは手痛いかと」

「待ってください、私は反対です。今の自衛隊に十分な規模の派兵をする余裕はありません。輸送艦があっても、護衛艦が足りないのです」

「総理、ここはご決断を」

 

そこまで言われ、綾部総理は項垂れる。そして、下した決断は……

 

「分かった、やろう。我が国も自衛隊の派遣を行おう」

 

 ここに、日本初の海外戦闘派遣任務が決断された。



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第6話〜戦役の笑い〜

久しぶりですが、+日本国の更新を再開いたします。
今回の話に合わせ、前の話の方も調整や修正を加えました。


 

 

中央暦1639年4月11日

クワ・トイネ、ロウリア国境付近

ロウリア王国東方征伐軍

 

 

「明日、ギムを落とすぞ」

 

 

クワ・トイネとロウリアの国境付近、その小高い丘の上にて1人の男がそう呟いた。この国境地帯、それも数十キロ東に進むだけでクワ・トイネ領に入ることの出来るこの場所に、10万人を超す大軍が集結していた。

 

何度も何度も、クワ・トイネの外務局から兵を引くように勧告があったらしいが、王国はこれを全て無視している。戦争をする事は、もはや決定しているのだ。

 

 

「クックック……あの忌々しい亜人共がこの戦争で根絶やしになる……まさに夢のようですねぇ?」

 

 

東方征伐軍副将のアデムは、気持ちの悪い笑い声を響かせながら伝令兵に話しかける。伝令兵はこの男の部下に配属された事を不幸に思い、アデムに対して恐怖すら抱いている。

 

 

「さ、左様ですね……ギムでの()()()はいかがいたしましょう?」

 

 

怯えながら話す伝令兵は、クルクルと笑みを浮かべるアデムに対して話しかける。

 

 

「そうですねぇ……ギムでの略奪は咎めません、好きにしなさい。男も女も嬲っていいですが、使い終わったら全て殺処分する様に」

「はっ……」

 

 

今の命令は全軍に伝えるべき内容だ。伝令兵の顔が強張り、彼は逃げるように背を向ける。

 

 

「いや、待て!」

 

 

しかし、その途中で止められて伝令兵はビクリと強張った。

 

 

「やはり……嬲ってもいいが、数十人ばかりは生かして逃しなさい。恐怖を伝染させるのです。それと、騎士団の家族がいた場合は、なるべく残虐に処分しなさい……ひっひっひっ」

 

 

アデムのおおよそ人間が思いつくような命令を逸脱した指示でも、全軍に共有しなければならない。伝令兵はそう思いながらも命令を忠実に伝えた。

 

アデムは将軍パンドールを差し置いて、半ばこの東方征伐軍を牛耳っている。いつからか亜人排他主義に完全に偏ったロウリア王国で、比較的まともなパンドールの立場は小さめだ。その上パンドールは貴族出身のため、あまり前線で指揮を取ろうとしない怠け者だ。

 

その分、残虐で性格に難のあるアデムが東方征伐軍で好かれ、彼が実質的な将軍の立場にまでなっている。パンドールは半ばお飾りも同然で、アデムが戦闘後の処理もしている。

 

しかし、そのアデムの処理には残虐非道とも言うべき行動があった。冷酷で亜人を人とも思わない価値観で、亜人を玩具の様に弄んでは捨てる。彼の占領地で見せた残虐性が広まった今では、こうあだ名されている。

 

──恐怖のアデム。

 

彼は人間の心を持っていない。亜人どころか同じ人間種ですら、歯向かうものを惨殺したり嬲ったりしてきた。一部の兵士は、「もしかしたら本当に()()()()()()()()()()()()()」と疑っている。

 

 

「さてさて……殲滅の宴を始めましょうか」

 

 

恐怖が不適に笑う。冷酷で、気味の悪い笑みはこれからどれだけ人を殺すのだろうか?

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

同日 クワ・トイネ公国

マイハーク港

 

 

マイハーク市に広がるマイハーク港は、天然の良港として知られている。入り組んだ湾の形と、城壁のように連なったサンゴの岩が海上に突き出ているので、昔から防衛拠点として機能していた。

 

レヴァームと天ツ上、そして日本はここをクワ・トイネとの貿易拠点として湾岸施設の整備を行った。日本主導で大型の船や飛空艦が発着できる様に湾内を整備、さらにはレヴァームと天ツ上の主導で旧式砲台を構えた要塞を建設。いつしかここは、マイハーク()()と呼ばれる様になっていた。

 

それだけ尽くすのは、三国がここマイハークを重要視している証拠である。貿易拠点として三国の企業や船舶が数多く往来するため、ここは新世界における橋頭保と言ってもいい。

 

 

「パンカーレ提督、艦隊が来ました」

「おお、来たか!」

 

 

そのマイハーク港の空に、飛空艦が多数到着する。その中で目立つ赤色の船は貨物船で、武装は施されていない。しかし、その船の船体には大きく「丸」と書かれてマストには日本の日の丸旗を掲げている。

 

この船団は、日本がレヴァームにチャーターした車両貨物船「飛翔丸」他四隻の飛空輸送船だ。日本からの用船で日本からマイハークにまで空を飛んで来たのだ。

 

「レヴァームにチャーターした」と言うが、実際に建造したのは日本である。新世界に転移し、レヴァームと天ツ上と接触した日本。技術提供を受け早速国産飛空艦の建造に取りかかった日本だが、建造は直ぐには終わらない。完成したのは「飛翔丸」などを含めた中型船まで。それに日本は今まで飛空艦を運用した実績がなく、船員のノウハウもままならない。

 

そこで日本は、日本人の幹部船員を乗船させた日本飛空艦をいったんレヴァームや天ツ上に貸し出し、その地で船員を乗船させたうえで日本が用船する方式を取った。

 

つまりは、日本の居た旧世界における「マル・シップ制度」をそのままレヴァームや天ツ上にも法整備した形だ。これなら飛空艦の運用実績が少なくても、しばらくは運用することが出来る。

 

 

「凄いな……あれがレヴァームと天ツ上の飛空船達か……!」

 

 

クワ・トイネ海軍提督パンカーレと参謀のブルーアイが、港を見下ろす司令部から双眼鏡を覗く。日本国籍の船団を護衛するのは、神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上が誇る飛空艦隊達だ。

 

神聖レヴァーム皇国からは旗艦「エル・バステル」を始めとし、飛空母艦「スセソール」「ガナドール」、重巡「ボル・デーモン」などの第一艦隊。レヴァームの主力艦隊であり、最精鋭だ。

 

帝政天ツ上からは旗艦「敷島」や装甲飛空母艦「翔鷹」と「翔鷹」を抱える第三艦隊が。彼らはクワ・トイネから一番近くの港を母港にしており、補給と迅速な展開をする為に白羽の矢が立てられた。

 

 

「相変わらず飛空艦は凄まじい大きさだな……」

「はい、我々の軍船とは比べ物にならないほどの大きさです」

 

 

一番小さい「駆逐艦」クラスでも、軍船の何倍ある事やら。そんな物体が鉄で出来ており、更には空を飛ぶと言うのだから、未だに目を擦りたくなる。

 

 

「彼らは戦術も大きく違うのか……」

「はい、新海軍学校で習いましたが、彼らは衝角ではなく大砲で戦うそうです」

 

 

クワ・トイネ海軍の軍船の基本戦術は機動戦法だ。ロウリア王国海軍の物量に身を任せた白兵戦に対しては、クワ・トイネ側に勝ち目がない。そこで、相手に乗り込ませる隙を与えない機動戦を仕掛け、衝角を使って敵船を沈める海戦を行うドクトリンが、クワ・トイネ海軍の戦術である。

 

しかし、レヴァームと天ツ上、そして日本の出現により海戦の常識は大きく崩れる。「大砲」を用いた遠距離戦法は、白兵戦でも機動戦でも勝ち目がない。クワ・トイネ海軍がレヴァームと天ツ上の教示の下、近代化を推し進めるほどの衝撃だった。

 

 

「そういえば、日本の艦隊はまだ来ないのか?」

「いえ、日本の艦隊は洋上艦らしいので後から来るそうです」

「なるほど……では今日来たのは陸軍か」

「そうなります。オオウチダ将軍率いる第七師団という、日本で一番練度の高い部隊だそうですよ?」

 

 

日本の海上自衛隊の艦隊も、すでに横須賀を出発してクワ・トイネを目指している。護衛艦は洋上艦のため、飛空艦には追いつけないので後から来る事になっている。今回来たのは、陸上自衛隊の第七師団の部隊だ。

 

 

「お待ちしておりました、神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上の皆さま。そして、日本の自衛隊の皆さま。この度は援軍に感謝いたします」

 

 

港では、クワ・トイネ政府のカナタ首相が出迎えの儀式に自ら出席し、歓迎式をしていた。

 

 

 

「神聖レヴァーム皇国空軍、第一艦隊司令官のマルコス・ゲレロです」

「帝政天ツ上海軍の八神武親です。この度は第三艦隊を任されました」

「日本国陸上自衛隊、第七師団長の大内田和樹です。貴国の危機、必ずや救って見せましょう」

 

 

結論から言うと、日本はクワ・トイネへの自衛隊早期派遣を決定した。日本としては、レヴァームと天ツ上に置いていかれる事とクワ・トイネから輸入する食料事情を考えて派遣に至ったのだろう。

 

港に接岸した船団は、日本の整備したコンクリートで補強された港に接岸し、タラップを下ろして物資を降ろし始めた。積荷のほとんどはトラックや補給物資で、戦闘車両は「飛翔丸」に積まれている。

 

到着した指揮官達は歓迎会に出席した後、クワ・トイネ海軍第二艦隊の司令基地で作戦会議を行うことになった。早速だが、状況は切迫した緊張状態の為早めの対応を求められる。

 

 

「ロウリア王国軍は1週間前から、国境線から西方10キロの地点に基地を作り、兵士達を配備中です。その数は約10万人」

 

 

クワ陸軍の西部方面を取り仕切る将軍、ノウの説明を聞く指揮官達。数だけ見れば現代戦でも中々お目にかかれない陸上戦力に、大内田は唸る。現代兵器や近代兵器を持つ自分達から見たら、装備も練度も劣った相手。しかし、ここにいる指揮官は誰一人として油断はしていない。

 

 

「ロウリアの予想目標は、国境線の町ギムかと思われます。橋頭保としては十分な位置にあり、食糧などの備蓄も多いため狙う可能性が高いです」

「なるほど……まずは拠点として落としておきたい、という事ですね」

 

 

十万人の兵士で一気に攻め落とす、という事は無さそうだが、ギムにいる防衛隊だけでは防ぎきれない物量だ。早急に対策を纏めなければならない。

 

 

「一つ疑問なのですが、ロウリア王国は二国と戦争を行うつもりなのでしょうか?無謀では?」

 

 

帝政天ツ上陸軍、第七師団長の松下健男中将がノウ将軍に質問する。

 

 

「彼らはクイラ王国を相手にする可能性は低いでしょう。クイラ王国には山岳戦闘に長けた亜人部隊を多数保有しています。陸戦だけでは、ロウリアも苦労するでしょう」

「おそらくですが、彼らは陸上だけで蹴りをつける訳ではありません。海上の要所であるここマイハークも同時に狙い、落とし、クイラに対するシーレーンを潰すつもりだと予想されます」

 

 

クワ・トイネ公国とクイラ王国の国境地帯は、山岳に覆われている為陸上輸送が捗らない。そのため、ロデニウス大陸を大きく迂回してクイラ王国に向かうシーレーンが、クイラに対する輸送手段だ。

 

 

「クイラへの輸出が滞れば、戦わずして干上がる。ロウリアはそう考えている訳ですね?」

「本当は日本の方々が整備してくれた鉄道網がありますし、そう簡単には干上がらないのですがね」

 

 

カナタがそう言うと、会場に苦笑いが溢れた。

 

 

「そうですね……敵の侵攻ルートが予想できているのなら、私に考えがあります」

「どんなのでしょう?」

 

 

大内田の発言に、指揮官達が注目する。

 

 

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大内田は不敵に笑った。その笑いは、アデムとは違う人間の笑いだ。彼の笑いは、これからどんな勝利を導くのだろうか?



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第7話〜開戦の火〜

 

 

数万人の足音が、大地を太鼓のように叩く。足踏み音が、穀倉地帯の麦に足跡をつける。その様子は人の大津波のようであり、砦の上からそれを見つめる西部方面騎士団団長モイジを緊張させた。

 

 

「あれが……ロウリア軍……!」

 

 

既に総司令部には魔信で連絡をしているが、砦の兵士達に対しても知らせるため赤い狼煙を上げる。赤い狼煙は他国が侵略してきた合図、今までに無い緊急事態だ。

 

 

「ロウリア側からの返信は?」

「いえ、まだです。確実に届いていますが、全て無視されています」

「なるほどな、敵は既に侵攻する気か……」

 

 

モイジは唇を噛み、獣人族特有の尖った歯によって歯形から血が出る。宣戦布告も無しの卑怯な先制攻撃に、ロウリアに対する憎しみが募る。

 

 

「団長! 総司令部から指示が来ました!」

「読め!」

 

 

ここで司令部が「死守せよ」と命令したら、流石に文句の一つでも付けてやりたくなる。しかし、届いた指示は意外な事柄であった。

 

 

「はっ! 司令部はギムを放棄する事を決定しており、我々には『撤退せよ』と指示されております!」

「そうか……」

 

 

モイジは司令部がまともな判断をしてくれて助かった。これなら、自分以外の部下や兵士たちを無駄死にさせずに済む。既に民間人はほとんど避難しているため、後は残りの僅かな人々が逃げる隙を稼げれば良い。

 

 

「よし、ならば直ぐに戦闘だ! 撤退戦をするぞ!!」

「はっ!」

 

 

陸上の戦いでも、まず先陣を切るのはワイバーンだ。ロウリア王国の100騎に対し、クワ・トイネ公国の24騎はセオリー通りの空対空爆撃ではなく、二騎一組の隊に纏まった。

 

これに対し、100騎を空中から指揮をする竜騎士団長アルデバランは、数の差を生かして一気にケリを付けるつもりだ。相手の数の少なさを笑い、魔信を持って命令を下す。

 

 

『全騎、マルチ隊形を取れ』

 

 

ワイバーンが指示通りに動き、それぞれ定められた隊列を作り上げる。縦5列に横20列の、地上から見れば圧巻の光景だ。マルチ隊形はワイバーンの空中戦術の一つで、導力火炎弾による面制圧射撃の基本陣形だ。

 

ワイバーンは導力火炎弾を撃つ時、首を真っ直ぐにしなければ撃つことができない。つまりは正面にしか撃てないのだ。その僅かな制圧能力を上げるため、そして導力火炎弾を効率よく斉射するため、このような奥行きの無いようにズラリと並ぶのだ。

 

 

「5……4……3……2……1……」

 

 

カウントダウン共に、ワイバーンの口に火球が生成される。不規則に回転を続ける導力火炎弾は、発射の時を今か今かと待ち構える。

 

 

「発射!」

 

 

その号令と共に、空を焦がすような火球が吐き出される。放たれた火炎弾は一直線に進んでいき、クワ・トイネ公国のワイバーンに殺到する……筈だった。

 

 

『全騎散開!!』

 

 

クワ軍の竜騎士の掛け声と共に24騎は解き放たれ、各自の竜騎士が火炎弾の僅かな合間を縫って回避した。バレルロール、上昇、超低空飛行など。それぞれのワイバーン達が火炎弾を避け、全速で突撃してくる。

 

 

「何!?」

 

 

結果、ロウリア側が落とせたワイバーンはたった一騎だけだった。マルチ隊形で戦う間もなく殲滅する予定だったのが、僅かな戦果しか挙げられなかった事に焦りを感じる。マルチ隊形は面制圧能力は強いが、乱戦にはとても弱いのだ。

 

 

「まずい! こちらも散開しろ!!」

 

 

アルデバランが指示を出したときには、クワ軍のワイバーンはロウリア軍の懐に入っていた。すれ違い様に飛んでいた竜騎士が撃ち落とされる。

 

 

『行くぞ! ロウリアの野郎共に意地を見せてやれ!!』

 

 

クワ軍のワイバーンが乱戦に突入する。彼らは数の少なさを感じさせない闘志で、初期対応が遅れたロウリア軍を次々と墜していった。

 

 

『くそっ! 後ろに着かれ……グギャァ!』

『一騎!!』

『こいつら! 亜人の癖……グワッ!!』

『俺も一騎!!』

 

 

クワ軍の竜騎士によって、次々と火の玉となって墜ちていくロウリア軍。乱戦になれば、ロウリア側のアドバンテージは少なくなる。100騎もいるワイバーン達はあまりに膨大で、アルデバラン一人では指揮しきれない。空がワイバーンで埋め尽くされるため、誰が誰だが分からなくなるのだ。

 

 

「散開しろ! 固まらずに広がって対処するんだ!!」

 

 

その命令も、戦場の混乱によって伝わるのに時間がかかる。その混乱を突くように、クワ軍の竜騎士が無双していく。

 

 

『こいつ……!』

『!? 後ろか!』

 

 

一人の竜騎士がロウリアの竜騎士に後ろを取られる。斜め後ろから迫ってくるロウリアのワイバーンが、大口を開けて火炎弾を放とうとする。

 

 

『喰ら……!?』

 

 

しかし、取られた後ろに向かってクワ軍の竜騎士は引き金を引いた。長く黒い棒から鉛の散弾が放たれ、僅かな距離にいたワイバーンを撃ち落とした。

 

 

『おい、大丈夫か?』

『ああ!』

 

 

クワ軍の竜騎士の腕には、黒い棒が握られていた。火を吹いたのは、彼の持っていたレヴァーム製の散弾銃だ。

 

 

『二騎一組で行くぞ! ついて来い!』

『了解!』

 

 

数で勝てないのなら、それを補う戦術を取ればいい。クワ軍は二騎一組で空戦を行い、互いを援護する事で確実な空戦をしていた。しかし、それで残りのクワ軍は確実に減ってしまっている。

 

しかし、クワ軍の戦意は削がれていなかった。自分達こそがギムを守るのだと、硬く誓われた騎士団精神が彼らを空に留まらせた。そして、その騎士団精神は地上でも巻き起こっていた。

 

 

「我に続けぇぇぇぇ!!!」

「「「「うぉぉぉぉぉ!!!」」」」

 

 

雄叫びを上げ、竜騎士隊の決着を待たずに突撃する騎兵200騎が居た。それを率いるのは団長モイジ。彼は逃げる家族に最後の別れを告げ、味方の撤退の時間稼ぎの為に突撃を敢行した。騎兵200人は、彼に自ら着いていった。

 

 

『モイジ団長だ!! 我らも団長に続けぇぇぇぇ!!!』

 

 

クワ軍の竜騎士隊も、モイジに勇気付けられて士気が上がる。地上と空、二つの戦場で二つの勇姿が戦場をかき乱す。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「くそっ! 騎兵に突破されているでは無いか! 早く足止めしろ!!」

 

 

副将アデムは焦ったように唾を飛ばす。クワ軍のまさかの突撃に、ロウリア軍は混乱状態にあった。数では万単位のロウリア軍が優勢だが、騎兵はその陣地を無理やり突破して斬り込もうとしてくる。狙いはおそらく……

 

 

「アデムゥゥゥゥゥ!!!!」

 

 

獣人族特有の、遠吠えに似た雄叫びが聞こて来る。目線を向けると、向かってきたのはクワ軍団長モイジだ。

 

 

「その声は! 猛将モイジか!!」

「いかにも!」

 

 

「猛将」と謳われる団長モイジは、たった一騎で敵陣深くにまで斬り込んできた。まさかの事態に、周りの兵士達も慌てる。モイジの狙いは副将アデムの命。自らの命と引き換えに、彼だけは討ち取るつもりでいた。

 

 

「その首! 貰ったぁぁぁぁ!!!」

 

 

モイジが天ツ上から輸入された長刀を振り上げる。獣人族特有の卓越した腕力により振り下ろされるは、人間の首など簡単に切れる。しかし、その一撃は地中から出てきた影によって弾かれた。

 

 

「な!?」

 

 

モイジは体勢を立て直し、なんとか馬にしがみつきながら停止した。アデムへの一撃を防いだのは、おぞましい魔物だ。巨大な蛇の胴体に百足のような脚が取り付き、ウネウネと音を立てている。

 

 

「クックック……危ないところでしたが、流石のモイジも百足蛇の鱗は切れなかったようですねぇ?」

「む、百足蛇だと!?」

 

 

アデムが使役しているこの蛇は、高位の魔物である「百足蛇」だ。本来ならば、百足蛇はどんな優れた魔法を使っても使役することは出来ないと言われている。それが何故か、アデムに懐くように体をくねらせている。

 

 

「いいでしょう、まずは貴方から殺して差し上げますよ? こいつの力をとくと思い知るが良いのです!」

「望むところだ!!!」

 

 

モイジは臆する事なく百足蛇に突撃していく。百足蛇はウネウネと体をくねらせ、足でモイジに向かっていく。

 

手に持った長刀は重たく隙が大きいが、その分一撃が強力だ。自在に地を這う百足蛇を倒すには、切れそうな弱点を狙うしか無い。

 

 

「うらぁっ!!」

 

 

長刀が振るわれる、狙うは蛇の弱点である腹。しかし、下から上へ薙ぎ払うように振るった長刀は、百足蛇の足によって固められていた。

 

 

「くっ!」

 

 

モイジは不利を悟って馬を駆け、長刀を百足蛇から振り解いた。馬で距離を取るモイジを追いかけ、百足蛇が地を這う。

 

 

「来るがいい!!」

 

 

モイジは馬を急停止させ、長刀で百足蛇の一番大きな前足──鎌の様な鉤爪が付いている──を長刀を横にして防ぎ切る。

 

 

「うっ……」

 

 

しかし、鎌状になっている鉤爪はモイジの鎧を貫いて肌に触れた。百足蛇の前足には毒がある。神経毒では無いが、モイジの命は保ってあと数分と言ったところだろう。

 

 

「戻りなさい」

 

 

アデムの命令により、主人から距離をとっていた百足蛇は後ろに下がる。馬の上で息を切らしているモイジは、毒の苦しみに耐えながらアデムを睨む。

 

 

「さて、どうしますか? このまま苦しんで死ぬか、それとも一思いに首を取られるか。選ばせてあげましょう」

 

 

アデムが挑発するようにそう言った。

 

 

「フッ……どっちも選ばん。貴様の首を取る!」

「亜人風情が戯言を!!」

 

 

アデムは杖を振り、百足蛇を突進させた。

 

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

 

モイジも最後の力を振り絞って突撃をする。長刀の先の刃を向け、槍として一点を狙う。生き物の弱点を、その槍で貫く。

 

 

「はっ!!!」

 

 

百足蛇にぶつかるその寸前で馬の向きを変え、百足蛇の傍をすり抜ける。そして、長刀は百足蛇の右目に深々と突き刺さった。

 

 

「今度こそ!!」

 

 

百足蛇を怯ませた一瞬、モイジは長刀を捨てて腰から剣を抜いた。

 

 

「かくごぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

モイジはアデムに向かい、首へ刀を振り下ろす。しかし、当のアデムは……君の悪い笑顔を作っていた。

 

 

「!?」

 

 

アデムまであと少し。その時モイジは自分が馬と共に打ち上げられるような浮遊感を感じた。

 

 

「な……」

 

 

その正体は、百足蛇の尻尾であった。長い尻尾を鞭のように振り上げ、馬ごとモイジを空高く飛ばしたのだ。奴には、切り札があったのだ。

 

 

「しまっ……」

 

 

百足蛇の尻尾の先が、針のように尖る。そして空中に身を投げられ、回避のできないモイジの心臓に向かって串刺しをした。

 

 

「ぐっ……ガハッ……!」

 

 

モイジは致命傷を負い、口から血を吐いた。

 

 

「フフッ……捕まえましたよ」

「くっ……」

「亜人風情が……よくも私の魔獣に傷をつけてくれましたなぁ? 許さんぞ……!」

 

 

アデムが怒り気味に言う。しかし、モイジは朦朧とする意識の中でも決して弱みを見せなかった。

 

 

「公国……万歳……!」

「殺せ!」

 

 

モイジに突き立てられた尻尾が振り払われ、勢いよく地面に叩きつけられた。モイジの意識は、そこで途絶えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ギムが攻撃を受けたそうだな?」

 

 

レヴァーム空軍と天ツ上海軍、そして日本国海上自衛隊が基地を置いているマイハーク。その会議室にてマルコス武親中将は部下に尋ねた。周りには八神中将やパンカーレ提督もいる。

 

 

「はい、ギムに居た民間人は全員避難完了し、騎士団は8割が撤退しました」

「ついに始まりましたな」

「ああ」

 

 

八神中将がそう言い、マルコスも頷く。

 

 

「……その際、竜騎士隊は全滅。騎士団団長のモイジ団長が時間稼ぎの為単身で突撃し、戦死したそうです」

「そうか……」

 

 

ギム防衛隊はよく頑張ったと思う。圧倒的不利の中、それでも諦めずに敵に一矢報いたのだから。

 

 

「しかし、ギムからの撤退がうまく行きましたので、上層部の戦略は上手くいくかと思います」

「そうだな。しかし……日本の自衛隊上層部は、ギムをあえて放棄するなんで作戦よく考えついたな?」

 

 

ギムをあえて放棄する戦略を考えたのは、大内田ではなく自衛隊上層部である。大内田などの現地指揮官は、その戦略を元に行動する立場だ。

 

 

「それからマルコス長官。日本国の第一護衛隊群の8隻が、本日マイハークに到着いたします」

「たった8隻だけ?」

 

 

パンカーレ提督が言う。レヴァーム空軍や天ツ上海軍から送られてきた戦力に比べれば、たった8隻は微々たる、それこそやる気を疑いたくなる少なさだった。

 

 

「パンカーレ提督、ご安心ください。日本の8隻はこちらの80隻に相当します」

 

 

パンカーレは、マルコスの言っていることの意味が分からなかった。

 

 

「それほど、彼らの船は頼りになる存在なのです」

 

 

それほど練度が高いのか、それとも船の性能が桁違いなのか。自衛隊の実物を見ていないパンカーレにとっては、まだ判断できないことであった。

 

 



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