左手の薬指 (鯖缶)
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1話

「…たす…けて……」

 

誰かの声が、世界に響く

その声は、どこにでも流れて

誰にも聞こえない

 

「……………」

 

円環の理は、誰にも助けてもらえない

 

 


 

「はぁ…眠い…」

 

「なぁに言ってんだよ、今は朝だぞ?」

「俺は夜勤明けなんだよ」

 

レンチをガチャガチャと鳴らしながら

隣の友人を突き放す

 

「眠いんだよ俺はぁ…はぁ…」

 

「そんなに眠いんなら顔洗ってこい」

「そーする」

 

話を打ち切って俺は

水道のある工場の片隅に向かう

そこで限界を超えた俺は

意識を落とすのだった

 

 

………………………………………………

 

「また、会えたね」

「…また、この夢か」

 

俺は、昔から同じ夢を見る

大抵は月に一度、多い時は週に一度程度

それでも、連日見ることはなかった

 

内容はほとんど同じ

桜色の髪の少女が現れる

そこから先は、

いくつかのパターンに分かれるが

それを逸脱することはなかった

 

「…今日はどのパターンだ?」

「もう、つれないなぁ…◾️◾️くんは」

 

「俺の名前を知って居るのはいつもの事だが、理由は教えてくれないんだな」

「それじゃあ今日は何をしようか」

 

何を聞いても、帰ってくる言葉は同じ

会話が成り立っていないのはわかるが

それだけの話だ

 

雰囲気で俺がこっちに来るのを嫌がって居るとも察していないようだし

この夢を二ヶ月以上見ない事も無かった

 

「そうだね、おはなしをしよう?

聞かせてあげる」

 

黒の髪を持つ少女の話、今日はどうやら『三番目』らしい、今日も覚えては居られそうにない

 

「ほむ…彼女は、とある中学校に二年生から転校してきたの、それ以前は心臓の病気でね?ずっと入院して居たんだ」

 

「内容そのものは完全にまどか☆マギカなんだが…どうせ忘れちゃうんだよなぁ…」

 

うろ覚えだが、彼女の語る内容は

『魔法少女まどか☆マギカ』の主人公『暁美ほむら』にしか思えない

さらに言えばどう見ても

俺の夢に出てくるヒトの外観は…アルティメットまどか、の髪が黒くなって、すこし成長したような外見だ

 

「でもそれを、なんでか夢の外じゃあ思い出せない、なんでだろうなぁ…」

「もう、聞いてるの?……

続きよ?金色のお姉さんが居なくなってしまったあと、彼女が飛び込んできて…」

 

やはり、それは過去に見たストーリーをなぞるような形で話が進む

 

…………………………………

 

「これで終わり…あ、

今日はそれだけじゃなくて

お願いがあって来たんだ」

「お願い?」

 

正直言って聴く気にはなれなかったが

とりあえず聞いてみよう

どうせ向こうのほうには俺の言葉は聞こえて居ないのだから

 

「私を…ううん、

過去の私たちを助けて!」

「…はぁ?」

 

「もちろん、無理をいう分は力添えさせてもらうけど、私は直接過去に干渉できないから、貴方の力を貸して欲しいの」

「…で?」

 

こういうパターンはなかった

五つのパターンのうちに存在しない

派生パターン、最初のうちはあったこともあるが、ここ5年間異常はなかったというのに

 

「珍しいな…だけど

まずは起きなきゃ、

今工場で寝落ちしてるんだから」

 

「今から貴方には転生してもらうの

お願いね」

 

「…出来るもんならしたいですよ全く」

 

こんなストレスフルな世界、

さっさと抜け出してしまいたい

 

「ただでさえ糖尿病検査とか筋繊維がどうとかめっちゃ引っかかってるんだから

いっぺん死んだ方が良いかもしれないけど」

 

「じゃあそうしよっか、体を作り直すんだね」

「は?」

 

()()()()()()()()()、今よりもっと頑丈にしなきゃね、時間は私達と同い年かな?」

「できれば前の方に転生したいんだけど」

 

適当に言ってみただけであって

そもそも今まで基本的に会話が成立することがなかったというのに、何故突然に?という疑問はさておき、偶然の一致かもしれないので

全く別の答えを返して試してみる

 

()()()()()()()()()()()()()

 

やはりだ、会話が成立している

何があったんだ、どういう事だ?

 

「転生時間的にも前に出来る?」

()()()()()()()()()

「五年くらい前で」

 

「じゃあ…15-5だから10歳に転生で、 それじゃあ行くね…諦めないで」

 

その言葉が聞こえた瞬間

俺は目覚めた

 

「…なんだったんだ?…」

 

その声はいつもより軽く、明るく

そして高く細かった

 

「…は?」

 

夢にしてはリアルすぎるその感覚

そもそも今まで見ていたのが夢だというのなら、目覚めた今は現実のはずだ

これはこれでおかしい

 

「…どうなってるんだ…」

 

さっきの世迷い言のように

転生したとでも言うつもりか?

 

インフォメーション(お知らせだよ)!)

「はっ!?」

 

(最初のうちだけだけど、ちょっとだけお手伝いできるの、それじゃあ情報の説明をするね)

 

頭の中、いや

心の内側から響く声に愕然とした

それは明らかに、夢で聞いていた声と同じ声だったのだから

 

「待て待て待て待て待ちなさい!」

(本当に最初のうちだけだから急ぎたいんだけど…)

「あぁ、わかったよはいはい降参だ転生した事実は認めてやる、そのお知らせとやらを聞かせてくれ」

 

(はい、それじゃあ最初に

今はワルプルギスの夜到来から定義時間的に五年前、転生は恙無く終了しました

体に、どこかおかしな所はある?)

 

「…いや、特にない」

今のところ、年齢が戻っている以外は

 

(それじゃあ次に進むね、転生した状況は、だいたいわかると思うけど

10歳だから、小学四年生だね

見滝原第一小学校に通ってるよ

身体的には問題なし、学校での評判も普通、ここまではいい?)

「うん、大丈夫」

 

(おお〜役になりきってるね

その調子でこれからも頑張ってね)

 

「説明」

(もー…つれないなぁ

まぁいいや、えっと、お金の話だけど

目の前のタンスの中段左に、通帳が入ってるよ、最初の資金が20万円、月々の家賃光熱費水道代天引きで10万円づつ支給です)

「なんか生々しい上にリアルだよ!?」

 

(貯めるのも使うのも自由です

けど、一応言っとくね?

《ご利用は計画的に!》)

 

「クレジットカードじゃないんだよ!」

(ナイスツッコミ、っと

まぁお金の話はこれで終わり、あとは家具とか、家の条件の説明だよ

立地は頑張りました!

中学にも小学にも近くて、マミさんの部屋にもすぐ行ける、そんな地点を探しました

何処にも徒歩10分圏内だよ

 

家具の方は…ベッド、タンス、テーブル、テレビ、以上…だよ?ごめんね?)

(いいよそんな気にしなくて

物がない方が汚れにくい、

俺は掃除苦手だからな)

 

軽く手を振りながら否定する

こんなことにいちいち気を使うあたり

やっぱりアルまど様なんだな

 

(最後に、転生のお願いを聞いてもらった分のお礼です…さぁ、あなたの願いを教えて)

 

「俺の願い…?」

(あなたの願いを実現するの

名誉でもお金でも良いけど、一つだけだから注意してね)

 

「まさかのQB式!?」

(えっと…結果的にそうなっちゃった)

 

「うぉぁソウルジェム(実質死刑宣告)は嫌だなぁ…」

 

頭を振って嫌なイメージ(破砕シーン)を振り払いつつ願い事を考える

 

「そうだな」

 

イメージは定まった

 

「俺は、正義の魔法使いになりたかったんだ、もしも願いが叶うのなら

俺に、その力をくれ」

 

(うふふっ…あなたの願いはエントロピーを凌駕した、なんてね

それじゃああなたに、あなたの器に収まるギリギリの力を上げる

どうか…過去の私達を…たす…けて)

 

雑音が入る

そして雑音は徐々に強まり

まどかの声は薄れていく

 

(あなたの因◾️◾️固◾️する

◾️憶は消◾️せてもらう◾️ら…◾️れじゃ◾️頑張って)

 

その声を最後に

ぷつんと糸が切れるように

初めからなかったように

 

声と記憶が消えていく

 

俺の記憶が消されていく…



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2話

「…ふぁぁ………」

 

あくび一つとともに目を覚まして

僕はとりあえず身を起こした

 

「…えっと…まずは」

 

頭の中で、やるべきことをイメージする

取り敢えずはまず、パンを焼こう

トースターよりフライパンで焼く方が自分の調整が出来る分、好みの味に出来る

慣れるとトースターより早いし

 

「えっと…冷蔵庫は…」

 

今日は何があったっけな…

 

って、何もないじゃないか

「おっかしいなぁ…計画的消費とかとした覚えないのに…」

 

僕は適当に見繕おうとした冷蔵庫に、早々に見切りをつけて朝食を諦めた

どうせ学校の学食で食べられる

 


 

学校を終えて、帰ってきたは良いものの

結局なにをするかというと買い出しだ

 

「なにもできないわけじゃないけど…正直一人暮らしは辛いよなぁ…10歳では」

 

20歳とかなら一人暮らしでも

全く問題はないんだけど

半分程度の歳しかない僕は身長も足りないし洗い物とかがかなり厳しい

 

「…まぁ…やるしかないか」

 

それからは口をつぐんで

内仕事を済ませてから

明日の用意を行う

 

「…教科書の入れ替えとかで済むなら楽なんだけどなぁ…」

学校用品を入れ替えたり洗濯したりしながら呟く、やることは多いけど時間は有限だ、一人では手が回らないことも多いけど

それは要努力といった所

 

「出来る事は出来る、それは妥協しない」

 

ゆっくりと夕食を作って

午後9時に夕餉だ、

時間は遅いけど仕方ない

 

半額が20:30とかのところだってあるのだから仕方ない

 

「ごちそうさまでした」

 

自分で作って自分で食べるのだから、あまり言う意味もないけど

それでも一応は言っておく

 

「よし、宿題も終わってるし、もう寝ようか」

 

音読とかは無視するが

一応、算数のドリルとかは学校で終わらせているので、帰ってきてからはすることも少ない、

 

「…おやすみ」

 

ベッドダイブですやぁ…

 

 

「はっ!寝てた!」(6:30)

 

なお学校には遅刻しない模様

 

「小学四年の勉強とか10年前に通り過ぎたし」

 

全ての授業が楽すぎてもはや寝ている方が有意義なレベルなので、しっかりと宿題分まで勉強を終わらせておき、しっかりとノートもとった上で自己流の解釈まで注釈を入れ、より良い計算方法や内容を記入した上でその場合の相応しい問題文まで『提案』として書いておく

 

その上で寝る

 

こうすると大抵の先生は諦めてくれるので、このスタイルは今のところずっと続行中だ

 

「これが10歳児のすることかよ…」

「まってなんで微分知ってるのかな」

「まず過去分詞とか教えてない…」

「鉄原子Feをアボガドロ定数分集めた時の体積が…とか式量を…とか

どう見ても高校レベルなんだが…」

「ペリーはいいけどなんで勝暗殺未遂まで書くのか…」

 

こんな具合で勉強に対しては完璧な様子をみせつけていると、それをやっかんだか

周りの馬鹿どもが突っかかってくる

無論買い出しやら日々の掃除やらに加えて学校やら周辺の側溝掃除やらどう考えても子供には過剰な労働をこなしている僕は身体的にはかなり頑強であり、

 

物理的な攻撃でのいじめは意味を成さないので、今度は精神的ないじめを始める

のだけれど、せいぜい靴を隠したり

ゴキブリを入れたり

座席のあたりに大量の釘を転がしたりするくらいのレベルではこちらも意味がない

 

そこでついつい手を出すのだ

子供から見れば何かにつけて完璧な僕の唯一の欠点、親がいないことに

 

「やい親無し!」

「親無しー!」

「あ?」

 

正直に言えば、親がいない程度

なんの障害にもならない

そりゃあ家事がとどこおるのは問題だけど、それを指して致命的とは言わない

社会的な欠陥には見えるけど

 

親がいない、妻がいない

それで就職できないのは警察くらいだ

 

あの組織は保守的だからね

 


 

「ただいま」

 

今日も今日とて家事がある

お仕事は多いなぁ…

 


 

「いつものように帰ってきたはずなんだけど…」

 

いつもの通学路を通っていたはずなんだけど、気づいた時には

謎の現象に巻き込まれていた

 

「…はぁ…」

 

頭がいたい、こんな現象は度々あったけど、その度に何かあった気がする

 

「…なんというか…なんだかなぁ」

 

今回の“それ”は

ひどく歪んだビルの黒いシルエットに挟まれた通路、

無秩序なオブジェクトが乱立しているが、なんらかの発光部分以外は全て黒く塗りつぶされたシルエットに成り果てている

 

踏切や信号機といった路上に置いてあるものが多いけど…これは一体…

 

「まぁ、大概この結界は外装

奥へ行けば真結界が出てくるはず

だけど…当然行くわけないよな」

 

なにせ僕は一般人そのもの

あんなファンシーかつキラキラしてる()()とは違うのだから

 

Hello ebryone

guten Tag

 

お前ら何語だよそれ…

 

いつのまにか多数の何か…乱雑な人形シルエットのようなもの?に囲まれていた

というか、奴ら気のせいでなければ

シルエット状態のビル壁から出現した

 

「逃げられません勝つまでは…」

 

ふと、そんな下らない一言が口を衝く

 

どうせこいつらのほとんどは非戦闘タイプ、ボディバランスが悪いので

ろくに動かないことすらある

 

身体能力が足りない僕でも!

 

「…純粋な物理攻撃も、通用する!」

 

シルエットが故に変形の可能性を考えて、相手との接触面積の大きい組討、投げ技は考えないものとしてショートなパンチを繰り出し

 

シルエットに拳が当たることを確認する

無策に一旦攻撃、これは一つの賭けだけど、自分からの物理攻撃が可能であるか否かを認識することができる

 

大抵の魔女の使い魔は

無茶苦茶な外形でもとりあえず人型なので、物理攻撃は通用する

例外は変形する(フレキシブル)タイプと実態がない(ゴースト)タイプ

鎧のような外皮を持つ(アーマード)タイプ、そして接触自体が危険であるタイプ

この四種類はそれぞれ別の理由で

近接物理しか攻撃手段がない凡俗の人間には脅威となる

 

そんなのと出会ってしまったら基本的には\(^o^)/(オワタ)となるのだが

 

「はっ!」

 

このように、例外となるものも

当然のように存在する

 

「マスケット銃か」

 

どこから現れた銃が乱射され

一瞬にして十数体の使い魔(シルエット)が消滅する、それと同時に…今回現れた少女は、金色の髪の縦ロールという、どう見てもお嬢様な髪型の…僕と同じ程度の歳の少女だった

 

「…そこのあなた、早く下がって!」

「了解した」

 

少女からの声に従い

そっと後退っていき

 

「「「Bonjour」」」

 

退路に犇めく“それ”を見た

 

「うわ…めっちゃいるじゃん」

 

一体一体は大したことないけど

やっぱり消すのには時間がかかる

その間に複数から攻撃を受ければ危険だ、そもそもこのシルエット達の攻撃手段が把握できていない

 

「…まずいなぁ…」

 

現状“それ”の脅威度は低いが

群れとなれば話は別、逃げるのを最優先としたいが、結界の外に出れば安全というわけでもなし、むしろ結界の中で逃げた方が本来的な意味では安全だ

 

「よし、奥に行くか」

 

「「「「「Wii like it」」」」」

 

足音は静かながらに

徐々に迫ってくる使い魔に追われながら結界の奥へと向かうのだった

 

結界の奥へと進むと

黒く染まった線路やら踏切やらが徐々に減り、反対に植物のようなものが見えるようになってきた

 

「…これは…」

 

羊歯類特有の広く薄い葉を持つ植物、実芭蕉(バナナ)の木であると思われる、苺の木?これは葡萄のようだがわずかに違う、ツルが藤色なんてさすがに品種違いではごまかせない

 

「どれもミニチュアサイズならことを除けば、果物系統の木だな」

 

巨大なはずの木がミニチュアに

なっている事に違和感を感じながらも

さらに進むと………



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3話

木々の間、そして上を飛び回りながら

大量のマスケット銃を召喚、発砲、使い捨て、消滅させるサイクルを繰り返し

 

魔女と思われる巨大な鉢木と

戦っている少女がいた

 

Har=Monika

 

《鉢◾️◾️の魔女、そ◾️性質は◾️◾️》

 

「ダメだ…全然理解不能…」

 

やっぱり魔女の外見通りの巨大な鉢木にしか見えない、攻撃方法は謎の枝での叩きつけ、棘針による刺突、この二つのようだけど

 

「…遠距離あるある、弾が無駄になりすぎて決定力が足りない」

 

まぁ遠距離攻撃主体では宿命のような『あるある』なのだけれど

彼女はそれをカバーできていない

それでは弾が無駄に消費されている

 

最初に会った人は自分で名乗っていたけど、彼女たち『魔法少女』は魔力に制限があるらしいから、いつかは魔力が切れてしまうだろう

 

「…そうなったら、俺死ぬよな?」

「!?そこの人!早く逃げて!」

 

大きく跳躍した少女は

たまたま俺を視界に捉えたらしく

叫び声が上がるが

 

「無理!後ろからめっちゃ来てる!」

「…じゃあこれで!」

 

少女が手を伸ばした瞬間、俺を守るように黄色いリボンでドームが形成される

なんとも幻想的な風景だな

 

「…銃とか使ったことないしなぁ」

もし彼女の使っているマスケット銃を渡された場合には確実に持て余す自信があった

 

やってやれないことはないかも知れないけど、いきなりそれは博打に過ぎる

 

「黄色のリボン…なんか見覚えがあるような…」

 

具体的にはなにか首のあたりに嫌な感じがする少女のことを思い浮かべながら

僕はリボンの壁をしばらく眺めていると

唐突に、それが揺れた

 

ドゴゴン!という音と共に

何かが激突したらしい

 

「…こわぁ…」

 

それからもゴガンドガンと音は続き、その度にリボンの結界はひどく歪む

 

「これは怖い…」

壊されたら一瞬で死んでしまうのだけれど、ここまで歪むともうリボンの方がぶつかりそうになる、相当な強度があるはずだから

それ自体がぶつかってきてもかなり痛いと思うし、密閉空間における衝撃の伝わり方を考えると外壁はそのままにミンチにされる可能性だって拭えない

 

「危ないなぁ…」ゴガキャアッ!

 

「うわ」

ゴシャァ!

 

枝による刺突がついにリボンの防壁を突き破り、僕に突き刺さった

 

「…意外と…ささっても…血出ないんだな…」

 

貫かれた結果か、リボンの防壁が消滅し、その壁に遮られていた視界が回復した

そこには、全身を血塗れにして

四肢を壁に縫いとめられている金髪少女の姿があった

 

それが見えた瞬間、

視界が白く変わる(頭痛が走る)

 

「マミさん!」

 

知らないはずの(かつて見ていた)少女に叫ぶ

 

誰か(彼女)の名前を

 

「え…」

 

意識を失っていた少女は、

その声によって目を覚まして

 

「…あ…っ!」

 

彼女の魔法(繋ぎ止める力)を展開した

 

僕と魔女の間に、リボンの壁が構築される

そう、彼女は、命の危険がある状況で自分よりも他人を優先したのだ

 

既に抜かれている触手(根とも枝とも取れるナニカ)は傷口を抉っていたらしく

今更のように血が吹き出して、薄れて消えゆく黄色いリボンを赤く染めていく

 

「…が…ぁぁぁっ!」

 

何ができるか、何をするべきか(状況を打破するために何を成すか)

 

それに意味はあるのか、確実に出来るのか(リスクとリターンを考えた上で)

 

今の一瞬に閃いたイメージに賭けた

 

コモン(アロー)=ナウ』

 

右手の中指に指輪が現れ

腰には手形のベルトが出現する

それら二つを触れ合わせて

 

僕の魔法(俺の力)が発現する

 

「ハッ!」

ナニカを代償として、指輪が輝き

それと同時に、右掌に光の矢が顕現し

 

同時に声を上げる、イメージは射出

 

それだけで、

光の矢は真っ直ぐに発射され

 

魔女の触手を刺し貫く

コモン(アロー)=ナウ』

 

再びアローを詠唱、ベルトの音声がやたら騒がしいけど、そんなことは(様式美だから)気にしない

 

コモン(アロー)=ナウ』

 

二、三度目の光の矢は

魔女から逸れ、その背後へと飛んで行く

 

killyou

「っ!」

 

四度目の詠唱を始めようとした瞬間

それの威力が十分であることを察したのか、魔女が接近して触手を伸ばしてきた

 

飛びのこうした瞬間、激しい虚脱感とともに姿勢が崩れ、僕の体に触手が突き刺さる…事はなかった

 

「…!」

「理由は後で聞かせてもらうわ」

 

そう、一条のリボンが

俺の足を引き、刺突の軌道から体を逸らしたのだった

 

アローは魔女ではなく

その背後の少女を捕らえる触手をこそ狙っていたのだ

 

「んぐっ!」

傷を擦る痛みは、もはや真っ当に伝わってこない

 

「…ごめんなさい」

「大丈夫」

 

わずかな言葉でのコンタクト

しかしその会話は魔女にとって

あってはならないものだったのか

しきりに触手を震わせ始めた

 

その様子は今にも暴れ出そうとしているように見える

 

「来る!」「!」

警告を飛ばすより早く、刺突が飛び

 

少女はリボンの防壁を一点に集中させて強度を上げた盾でそれを防ぐ

 

続く一撃は二人とも回避し

それに憤ったか

魔女は4本の触手を増やし始める

 

「…4本だったのが、8本か…」

 

「こうしてみると、タコみたいに見えるわね」

「たしかに、あんた回復魔法は?」

「心得はあるけど、貴方は?」

「僕の魔法は今の所これだけだ…」

 

塞がるどころか傷口が開くような行動ばかりしているツケか、膝が折れる

 

「もう…ちょっとだけ耐えて

後で治すわ」

「…その間に死にそう

 

kill them oll!

二人で会話しているのがそんなに嫌なのか、鉢植えという本来移動できない形状ながらに触手で地面を押してジャンプ、突撃を仕掛けて来る

 

「来たわね…ティロ !」

 

マスケット銃が巨大なリボルバーに変形し、黄色の光を放ち

 

「フィナーレ!」

その一言とともに、その口径に似合うほどのごんぶとビームがブッパされた

 

「………ha?」

 

さっきまで実弾主体で戦闘していた遠距離使いが突然ビーム弾を

柱と見紛うほどの直径をしたビームを、突然ブッパするとは思わなかった

故に僕のこの声も必然である

 

と思いたい

 

「…仕留めたわね」

「…だと良いんだけど」

 

reglitbro

 

「ダメかぁ…」

 

魔女は平然と立ち上がって来た

 

コモン(ブラスト)=ナウ』

すかさずの詠唱が響き

直後に魔女が弾き飛ばされる

先の『(アロー)』の魔法とは異なる、衝撃波を発射する面制圧型の攻撃魔法らしい

「もう一度頼む!」

 

叫ぶと同時に思考は再開する

奴の姿は『鉢植え』なら植物であるはず

草木ならばこれが通じるはず

 

「えぇ!ティロ ・フィナーレ!」

コモン(グリル)=ナウ』

 

閃光が放たれるのと同時に、魔女が突然発火する

 

そう、本来は生木に対しての炎は効果が薄いが、グリルは肉焼き用の加熱魔法

その温度は700度を超えて、なおかつ持続性が高い

 

それだけの条件が揃えば

生木であろうと発火に至るのは道理

 

「ギャァァァァッ!」

 

最後だけは、誰にでもわかる断末魔

そしてその声の終わりを確認せずに

僕の意識は薄れていく

 

「ぁ…まず……」

 

多量に血を喪失し、魔法を限界まで使い

生命力も魔力も欠乏している

そんな状態で意識を保てるわけがなく

 

結局僕は、情けなくもそのまま気絶したのだった



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4話

「……」

 

無音で目を覚ました僕は

取り敢えず視線を空中に彷徨わせて

 

路地裏では無いことを確認した上で心の中で呟いた

 

(知らない天井だぁ…)

 

どうやら、どこかのお宅にお邪魔しているらしいのだけど、前後関係が把握出来ない

 

そっと身を起こして

激痛に呻きそうになる口を押さえながら、立ち上がって、壁にかけてあった時計を見る

 

時刻は19:20

 

下校時刻…16:30頃から結界に入ったはずなので、三時間くらい寝ていたと見える

けど、そはの間の記憶がすっぽりと抜け落ちている、なんでこんなところにいるのかはまるで不明

 

「…」

 

そぉ〜っと部屋を去ろうとしたところで、ドアが開く

 

「あら?もう起きたの?」

 

そこに現れたのは()()()()()()金髪の少女

 

「起きましたよ…痛って…ここどこですか?」

 

僕は取り敢えず、(答えはわかりきっているけど)問うべき事を問う

 

「ここは私の家よ、別に何もないわよ?」

「先に言われるとは…で、帰って良いですか?」

「ダメ、絶対」

 

「そんな薬物みたいなセリフ…」

 

やめてくださいよ、と言う前に

少女は僕の言葉を遮る

 

「いい?腹部抉傷は治癒魔法で治せたけど、それもあくまで魔法で無理矢理治したに過ぎないの、現にもう傷は無いはずなのに痛いでしょ?」

「…それは認めざるを得ないけど」

 

「だから無理に動いてはいけないの、今日はウチに泊まっていって」

 

「それは断固として拒否させてもらう」

「拒否権はありません」

 

仮にも小学生の身である僕が

『人の家に上がり込んで一泊』とは、倫理的な問題を感じるから嫌だといっているんだけど

 

それは残念ながら理解されないらしい

 

「…ご両親は?」

「…………居ないわ」

 

その深刻げな表情から大体のことを察した俺は、取り敢えず

 

「…失礼だったね

その点については謝らせてもらう」

「いいえ、もう乗り越えた事だから」

 

両親がいない、と言うのに僕と同じくらいの歳の少女がが一人暮らし?僕も言えた身分ではないけど、それはあまりにおかしいと言わざるを得ない、法定的に責任能力がない存在(子供)である少女が一人暮らしは危険すぎる

 

「…泊まっていって」

「………明日学校あるので」

「今日は金曜日よ?」

 

「ばれたか…そもそも無謀だったな」

 

相手が同じ学生だったのでは騙せないのも道理だろう

 

「…わかりました、今晩だけは泊めさせてもらいます」

 

苦渋の決断であった

 

「はぁ…」

「なに?」

「いえなんでもありませんよ」

 

そっとため息をついた僕は

狙いすましたようなセリフを問いを入れてきた少女に笑顔を向けて誤魔化しつつ

 

時刻を確認した

19:40、半額セールが近い

「スーパーの半額…今日は取り逃しちゃったなぁ」

結界に呑まれるのは不安だが

 

それでもそこそこ経験回数がある

最初の頃は魔法少女に出会えるか否かで生死が別れるようなこともあったが

3回目辺りからは慣れてきたのか、単独で逃走成功することも出来るようになっていた

 

「まぁ無理をするつもりも無かったんだけど」

「…そういえば、まだ聞いていなかったわね、あなたが使っていた魔法のこと」

 

そして、沈黙が続く

 

 

「………何もわからないんだけど?」

「どういうことですか?」

「そもそも魔法を僕が使ったってどういうこと?僕は至って普通の人間だよ?」

 

「そう、あくまでシラを切るつもりなのね、でも無駄よ…あなたの記憶を

見させてもらうわ」

「?」

 

熱を測る時のように手を当ててくる少女

 

「…っ!……嘘…プロテクト?」

 

「まだよ!………!」

 

「なんでこんなに…再構築される!?」

 

 

ブツブツと何事かを呟きながら僕のおでこに手を当てている少女(よく見たらかなりかわいい)

 

「で、なにやってんですか?」

「…見て分からない?あなたの記憶には何か、不自然に改竄された痕が…きゃっ!」

 

パッと身を離して

ようやく奇行の理由を語り出す少女

 

「…わたしにはプロテクトを解けなかったけど、あなたの記憶には

なんらかの改変を受けた痕があったわ、あなたは何かを失っている

それはきっと、あなたの行使した魔法についての記憶よ」

 

「…はぁ…」

 

と言われても全く記憶にない

記憶にないものは理解のしようもない

 

僕が魔法を使うなんてありえない

 

僕が混乱しているうちに

少女はさっさと部屋を出て行く

「ちょっと待ってて、いまグリーフシード持ってくるわ」

 

随分魔力使っちゃったから、ソウルジェム浄化しなきゃ

 

だそうだけど、ソウルジェムやらグリーフシードやらその辺のことはよく知らない

 

たぶん『魔法少女』特有の都合なんだろう、分かる気もしないが

 

「…おまたせ、見てみて、これが『グリーフシード』よ」

 

彼女が手のひらに乗せていたのは

黒い球体を貫通するピンのようなもの

 

「グリーフシードは魔女が落とすアイテムでね?こうやってソウルジェムに当てると

ソウルジェムの穢れを吸い取ってくれるのよ」

「あんまり知りたくない情報だぁ」

 

彼女が手のひらに乗せていたグリーフシードを、左手中指の指輪から出現させた指輪から出現させたソウルジェム に当てる

 

ソウルジェム というのは

魔法少女の変身アイテムらしい

 

詳しい話はこれも知らない

 

「えっと…まずは魔法少女について説明するわね」

 

いいえ、(説明はいら)ないです

 

「キュウべぇに願いを叶えてもらう代わりに、魔法少女として魔女を倒す使命を与えられる、それが魔法少女、その変身アイテムがこれ

ソウルジェムなのよ」

 

なるほど…それは知ってました

っていうかそんな中途半端な説明が説明になると思ってるんですかね

存在の根幹から解決しないと説明にならないんですが?

 

ソウルジェムの材質とかどう見てもただの宝石じゃないでしょうし

 

「時間経過とか魔力を使うと、ソウルジェムは濁って穢れが溜まって行くわ…だから

穢れが溜まる前にグリーフシードで浄化しなきゃいけないの」

 

「…はぁ…ソウルジェムって、なんで魔力使うと濁るんですか?」

「…それは…たしか、魔法少女の魔力はソウルジェムを源としているから

その魔力が減少すると、魔力で光ってるソウルジェム の光が薄れるのよ」

「…で、グリーフシードに穢れを移すとまた魔力が戻るから光が戻る?」

 

「詳しくは知らないけど、そういうことを聞いた覚えがあるわ」

 

少女の説明はやはり感覚的というか

抽象的であり、具体、定量的な証拠や理論を伴わないもので、やはり

なにか怪しいと思わせる

 

「…わかりました、それで

……僕、記憶ないんですよね?僕からはなにを話せばいいんでしょう」

 

こてん、と首を傾げてみると

少女は一瞬止まって、

それから優しく微笑んだ

 

「それじゃあ、まずは名前から」

 

「わかりました、名前はミカゲハルマ

御影石のミカゲに天候の晴れ、磨くと書いて『御影晴磨』です」

 

正直、小学四年生に晴れ以外はわからないと思うけど、僕はだいたいわかる

 

「分かったわ、晴磨くんね

…あ、私も名前言ってなかったわね、私は巴マミ、よろしくね」

「よろしくお願いします」

 

そっと手を合わせて

軽く触れ合わせる

 

「握手がわりに、と」

「んふふ…意外といいわねコレ」

 

笑みを深めた巴さんは

僕に声をかけてきた

 

「それじゃあ晴磨くん、私の魔法少女活動について、協力してくれないかしら?」

「…え?」

 

理解が追いつかない僕に

追い討ちをかけて来る巴さん

 

「私は『正義の魔法少女』をやっているの、魔女から一般人を守れるのは私たち魔法少女だけ、でも魔法少女のほとんどは自分のグリーフシードを確保するためだけに活動している

だから私は人を守るためにこの力を使うと決めたの」

 

「…なるほど、それはご立派な事だ」

「でしょう?」



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5話

「でしょう」

 

得意げな表情になる巴さん

 

「でも、断らせてもらいます」

「えっ?」

 

「ですから、お断りさせていただきます」

「……なんで?」

 

途端に表情を弱くして

潤んだ瞳でこちらを見て来る巴さん

そんな巴さんに、はっきりと告げる

 

「僕は魔法を使えない、巴さんの話では使っていても、いざとなって僕が確実に使える証拠がない、生死のギリギリってラインでようやく思い出せるものだとしたら使えるのかもしれないけど

それが間に合うかどうかも分からない、他人の話一つを根拠に命をかけられる程、僕は身軽ではないんですよ」

 

臆病な僕にとっては、生命の喪失は恐怖の根源であり、それそのものを克服することはできない

 

そして、使えるかどうかもわからない効果不明の魔法なんて不確定な要素に命を預けられる程に僕は夢を見ていない

 

そう伝えてあげると

巴さんはとても悲しそうな顔をして引き下がった

 

「そう…よね

やっぱり、魔女と戦うのは怖いわよね」

 

その表情はなんとも言えない庇護欲を掻き立てるのだが…やはり僕は

僕自身の命を優先させてもらう

 

「使い魔程度ならモノによっては相手になるケースもあるけど、戦闘力の高いタイプとか接触が危険なタイプは無理です、そもそも魔女と戦うのは僕には役者不足だ」

「じゃあ使い魔だけでもいいわ!」

 

バカな…僕が条件を見せた瞬間に食いついてきた?!しかも根本的に否定ルートは変わってないのに!?

 

「そもそも結界に入ったらどこに飛ば(案内)されるかも分からないのに

使い魔の相手だけなんて無理ですよ

だからそもそも僕は」「私が一緒にいるから大丈夫よ!絶対守ってみせるから!」

 

そもそもモノがわかってない話し方なんだよなぁこれが

 

「まるで大丈夫だと思えないのは僕だけなんでしょうか…」

「あなただけ、そう、あなただけよ

今日から一緒に魔女狩りよ!」

 

「…えっ?」

「そうね、チーム名はおいおい考えるけど…二人だからそもそもチームにはならないわね…」

 

イタリア語らしい単語を呟きながら何かを考えているようだ…?

 

「あなたが使っていた魔法は緑色の矢と爆風の魔法、私が使うのは黄色のリボンの魔法だから…矢の魔法を『アルコ・フィレッツイア』として…それに合わせるなら私のす方が…」

 

「矢を打ち出すならもう普通にアローでいいんじゃないでしょうか」

「ダメよ、魔法少女たるもの

どんな時でもオシャレは忘れないのが鉄則なんだから」

 

そんな鉄則は僕には適用できないと思うんだけど…そもそも僕はなんで協力を前提にされてるのかな!?

 

「…はぁ…もういいですよ」

 

諦めるように呟いた直後

 

「幻影の魔法とかは使えるの?」

「だから僕は魔法そのものに対する記憶がないんですけど」

 

派手にツッコミを入れることになった

 

「僕の明日はどっちだ…」

 

どちらにあったとしても、とにかく昨日と同じ方向にはない事に違いはないだろう

 

「…矢を出すなら大技としては増殖した矢が天空から降り注ぐような技が一般的だけど、あなたには出来るのかしら…」

「知りませんよそんなの

そもそもそんなスタンダードがあるなんて知りませんでしたよ!」

 

「あなたがそういう技を開発したとしたら、名前はどうするの?」

噛み付くように返した僕に

平然とさらに返して来る巴さん

 

しかも僕の肩に手を載せている

さりげなくロックされた

答えるまでは離してくれないという気配が伝わってきたので、もともと向いていない分野に必死に頭を巡らせて

 

「あるとしたら『ソドム・ディザスト』か『シュート・ザ・ムーン』かな…」

 

「由来は!?」

 

食い気味で返してきたなぁ

 

もしかして中学二年生とかそういうタイプなのかなぁこの人…

 

「前者は聖書において、ソドムとゴモラの街に降り注いだ智天使(ケルビム)の放った矢、それは硫黄と火とともに街に災いをもたらした

なので『災害』ディザスターを名前に合わせて短縮して、地名を当てました

 

後者は…銃弾とか矢って、撃つ時に重力の補正を気にして射点を上に向けるじゃないですか、バラけるとか増殖するとかはよく分かりませんけど、数をまとめて撃つなら質量も大きいと思います…だから『()に向かって矢を撃つ』って意味でシュート・ザ・ムーンです」

 

本当は『夜逃げ』という意味も込めて、ここから逃げ出したい、と暗に言っているのだけれど、気づいている様子はない

 

「…はぁ……」

「英語、ギリシャ語も取り入れていくべきなのかしら…」

 

何を言っているのかは相変わらずまるで分からないのだけど

取り敢えず手だけは離してくれたので、離れて深呼吸する

 

…ん、この部屋なんかいい匂いするなぁ…

 

「…ねぇ、お腹すいた?」

「え?僕は別にそういう意味でいい匂いとか言っていたわけじゃ……あ」

 

まってこれじゃあ僕が女の子一人暮らしの家に上がり込んで急に深呼吸していい匂いとか言い出す変態じゃないか!

 

「…だいたい的確に現状を表してて泣けて来るよ…」

 

「やっぱり、もう夜だから軽めのになるけど、夕ご飯作るわね」

「え?(そっちの解釈で)いいの?!」

 

何か深刻な勘違いを犯している気がしてならないんだけど、いいんだろうか

 

「もちろんよ、ウチに泊まるんでしょ?」

 

有無を言わさない視線が僕を貫く!

これは今更に帰るとは言い出せない

 

「うん」

「よろしい、それじゃあちょっとまっててね」

 

僕が頷くと、途端に

突き刺さるような視線はふわりとほどけて花の咲くような笑顔を見せてくれた

 

これが魔法少女じゃなければなぁ…

 

真っ当な恋愛に恵まれただろうに

 

「何か言った?」

「いえなんでもありません」

 

薄ピンクのエプロンをつけた少女がこちらに視線を向けてきたが、即座に切り返して話を終了させる

 

今なら『日本しりとり強制終了大会』ベスト8狙えるくらいの話題切りが出来る

 

「…………」

することもなし、話すネタもなし

知らぬ厨房では手伝うこともできぬ

 

結局何一つせずに座っているだけだったけど、巴さんは最初からそれを想定していたのか笑顔のままだ

 

「はい、お待ちどおさま」

「…そんなに待ってないですな」

 

少なくとも僕の感覚としては30分も待っていない、

 

「ナポリタンとコーンスープ…?」

「ええ、一人暮らしだと手の込んだものを作ることは少ないから

自然とこういう簡単な料理の技術だけは上がるのよねぇ」

 

「だとしたらその彩りの良いサラダはなんなんですかねぇ」

 

カットトマトとキャベツを中心に歯応えを残すために厚めのスライス胡瓜(キュウリ)、辛過ぎない新玉葱などの添えられた、野菜単体では嫌われやすいそれを用いた見事な一皿をチラ見しながら呟く

 

「ドレッシングとか要らないなこれ」

「ウチにはドレッシング置いてないのよ、だからこうやって工夫するの」

 

微笑みを崩さずにトンデモ発言を繰り出す巴さん

 

「え?ドレッシング無いの

……いやでもこのサラダにはドレッシングはたしかに要らない、ほかの具材でも同じクラスの質を維持できるのなら不要でもあるか…?」

 

真面目に考え込んでしまった僕を、謎の感覚が襲う

 

「ほら、よそ見しないの」

巴さんが僕の頬をつついて来たのだった

「あ、いただきます!」

 

僕は慌ててフォークを取るのだった

「はい、召し上がれ…ふふっ…」

 

僕が一口食べ進めるたびに

巴さんの笑みが深まっていく気がするのは何故なんだろうか…致命的な失敗を犯している気がする

 

 




みんな『R』好きなんですね

R-TYPEのパイロットでアナザールートとなります


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ここからが2話相当
6話


「ごちそうさまでした」

 

「お粗末さま…感想はいただけるかしら?人に手料理を振る舞うことがあんまりなかったから」

「え?美味しかったですよ?

僕に語彙力期待されても料理関係については手も足も出ないので、如何ともしがたいですが」

 

「いいのよ、その一言で十分

美味しいって言ってくれるだけで、作る側としては嬉しいわ」

 

この子はなんなんだろうか…魔法少女でさえなければモテただろうに勿体ない話だ

 

「………」

 

怪我の負荷のせいか、

それとも食事を摂ったからか

急激に眠くなってくる

 

「…すみません、ちょっと…寝させてもらいます」

 

「あ、ちょっと待っててね」

空の皿をさっと持って行ったマミさんはキッチンの流し台の方に皿を置いてから

階段を上って二階に移動し?

 

「…まてよ?」

 

ここの部屋、窓の外から見える光景的に絶対高い位置にあると思っていたのだけれど二階?

 

「……!」

 

頭の中で間取りを思い浮かべつつ

ガラス張りの壁に近づき

夜景を眺める…どう見ても高所にある

 

というかこの構造、多分高級マンションだ

 

「おまたせ、毛布持ってきたのだけど…使う?…ほんとはベットを使った方がいいと思うけど、流石に2台目は無いの」

 

逆にあったら怖いと思う

 

「ありがとうございます

毛布、使っちゃっていいんですか?」

 

「えぇ、そのために持ってきたんだから」

 

聖女かな?だれにでもそんな甘い顔をするから勘違いされるんですよ!

もっと毅然とした対応をしなきゃ

具体的には僕を追い出さなきゃ

 

僕は自分に何を言っているのだろうか…(困惑)

 

「…すいません、使わせてもらいます」

 

考えているうちに意識の維持が難しくなってきた僕は、その一言だけを残して目を閉じるのだった

 


 

視点 M・T

 

 

「突然気絶しちゃったときはどうしようかと思ったけど…こうしてみると

寝顔は可愛いわね…」

 

滑らかな頬をゆびでなぞり

そっと撫でてみる

 

最初に見たときは不運な一般人だと思った。ソウルジェムの気配…魔法少女の反応もなかったわ、でも彼は結界の最奥にまで単独で進入してきて、使い魔に襲われながらも何とか対処していた

 

次に見たときは目を疑った

お腹を触手に貫かれて、

穴を開けられてもなお立って

あまつさえ魔法すら行使して見せた

 

今また見ると、ただの可愛い子供なのに、彼にはいろんな顔がある

記憶を失っている、何かに奪われているようだけど、私が腕を上げたら

その封印だって解いてあげるわ

だって、初めてできた『友達』なんだもの

 

彼は恥ずかしがって『他人』って主張していたけど、わざわざ家にまで泊まっていくような『他人』なんていないわ

 

「うふ…ふふふっ…」

 

彼を見ているだけで、

なんだか楽しくなる

 

体がかるい…こんなにしあわせな気分になるなんて初めて

 

「…もう、夜もこわくないわ」

 

一言つぶやいて

最後に彼の頬を撫でる

 

「おやすみなさい、晴磨くん」

 

あしたの朝は、何を出そうかしら

夜のナポリタンは手早く作れるものにして、あんまり手間を掛けられなかったから

明日は手の込んだものにしようかしら

 

「美味しいって言ってくれると良いなぁ…」

 

自然と明日に期待してしまう

…そろそろお風呂に入らなきゃ

 

名残惜しいけど手を離して

さっと彼のそばを立つ

 

良い女はさりぎわも格好良くないといけない、お母さんがいつも言っていたわ

 

「…今日はいい夢を見られそうね」

 


視点戻り

 

「…なんか言ってたけど

なんて意味だったんだろう…」

 

ぼんやりした頭でも

流石に触られればわかる

 

何か言っていたみたいだけど…

いいやおやすみ……

 

……

 

「…ふぁぁぁ……」

 

大きくあくびをしながら目を開く

 

「いい匂い……!?」

 

空気に漂う甘い香りに、思わず呟いて、その一言から連鎖的に記憶が戻ってくる

 

「あら、起きたの?」

「巴さん!…あ、おはようございます」

「うふふ…おはよう、御影くん」

 

「それじゃあ僕は帰らせ」「朝ごはん、もう用意しちゃったから、食べていって?」

 

有無を言わさない言葉が僕を襲う

 

「…せっかくなので」

 

「それじゃあ毛布畳んじゃって?

その辺に置いてくれればいいから」

 

「はい」

 

なんというか、指示なれしてる人なんだな…巴さんって

 

「はい、朝だから軽くね、ハムとチーズのフレンチトーストとクロックムッシュ

朝は紅茶派?コーヒー派?」

 

「いえまず朝食は適当に残り物な事が多いので、ドリンクに注意した事がないです」

 

なんというか…朝食って

適当に時間かからない雑料理か昨日の残り物ですませるような感覚だったのだけど

レストランかなにかのような洒落たシロモノが平然と出てきて僕は今とても驚いてるんですよ

 

「ダメよ?ちゃんと夕食は夕食、朝食は朝食って分けなきゃ、昼は学校だから仕方ないにしても、その二食については妥協しない事

画面の前のみんなも、約束よ?」

 

キッチン側に向かって微笑みながら謎のポーズを取る巴さん

 

カメラ目線なんだろうか

 

「ちゃんと時間帯に適したメニューっていうのがあるのよ、栄養学の観点からも、心理学の方から見ても、連続で同じものを食べるのは良くないわ」

「すごく正論なのはわかるんだけど何か意味が違うんだよなぁ」

 

呟いて………

 

「あ、コーヒーでお願いします」

「はい、うけたまわりました」

 

話を戻す

そして20分後

 

「ごちそうさまでした、今日も美味しかったです…それじゃあ僕はこの辺で」

 

失礼なのはわかっているが

速やかにフェードアウトを試みる

 

「待って」「えっ」

 

服の裾を掴まれて転びそうになり、危ういところで踏みとどまる

 

「ここの場所分からないでしょ?昨日の結界があった場所まで送るわ」

「…いえ、大体わかりますよ

ありがとうございました」

 

速やかに帰りたい、その一心である

 

「じゃあ電話番号、交換しておきましょう、これからの魔女狩りで速やかに連絡出来るか否かは死活問題だもの」

「僕携帯持ってないんで」

 

もちろん嘘だけど、それだけ言い残してさっさと立ち上がり、一つお辞儀をする

 

「お世話になりました」

 

「ぇっ…ぁっ…」

すっと姿勢を戻して

服の裾を取られないように

一方離れてから玄関側から外へ出る

 

「…うわやっぱ高い…」

 

地味に高所恐怖症…というわけでもなく、ただ単に事実として呟きながら

渡り廊下の端にあったエレベーターで1階に降りて、未だにジクジクと痛む腹を抑えながらマンション(魔王城)から離れる

 

魔法ねぇ…

 

「そんな言葉だけで誤魔化せる僕じゃない…筈なんだが、あの人の行動は

明らかに異常だったよなぁ…」

ドッキリにしても仕込みに時間や手間をかけ過ぎている、明らかに倫理的な問題になるだろう泊まり込みまでさせてやる事は壮大な嘘?

コストパフォーマンス(費用対効果)が劣悪すぎる

 

「…一宿一飯…いや、二飯か?

の分くらいは信じてみるか…」

 

少なくとも、腹の痛みは現実だ

というわけで、俺が魔法を使ったというのも、嘘ではないと信じよう

 

 

「……迷った」

 

高級住宅街は来た事なかったからなぁ

小学校の学区範囲である以上、市を出ることはないと思う

 

というわけで裏技を使います

 

まず、とにかく高級住宅街を抜けて

一般的な戸建ての家が並ぶ住宅街に向かいます、そういう場所の近くには繁華街、商店街が近いです…ここでポイント

 

戸建ての家かアパートに着いたら

塀の下あたりにだいたい付いている住所表示を確認します(郵便受けでも可)

 

これを把握したのち、近くの繁華街でコンビニに入り、求人雑誌を買って(無料のやつでok)

 

この雑誌の求人情報に載っている地図、およびコンビニでも取り扱いのある電話帳などから市内の位置情報を確認できます、以上、解散!



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7話

「…具体的な魔法の詳細聞いてなかったなぁ…」

 

なにか呪文の詠唱とかいるんだろうか、道具とか使うんだろうか、それとも魔法陣とかが出るんだろうか

 

魔法といえば主にこの三通りに分かれると思うのだけれど、どれなのかは聞いていない、そもそも道具を使うのであれば詳細を聞かないと類推すらできない

 

「…どうするか…」

 

『魔法使い』心惹かれるワードではある、だけどそれに付随するものがわからない

 

…うぅん……僕は一体

『何の』『魔法使い』なのか…

 

流石にさっさと出ていった手前

今更になって聞きに戻るという訳にもいかないし、電話番号も交換したいないのだからアポイントメントも取れない

 

「…うわ…今更になって失策…」

 

部屋のベッドの中で

ひっそりと頭を抱える僕だった

 

「…さて、気を取り直していこう」

 

魔法使いと言ったら有名なのは漫画やゲームなら『魔法陣ぐるぐる』『ドラゴンクエスト』小説なら『ゼロの使い魔』『ハリーポッター』など多岐に渡る

 

ぐるぐるが①、杖で魔法陣を描き、対応する名前を宣言することで魔法を発動していた。

 

ゼロの使い魔、ドラクエ、ハリーポッターが②、杖を持って魔法を宣言することで魔法を発動していた、なお杖なし呪文(ワンドレスマジック)は高練度な人物に限るようだが、これらの世界のいずれでも可能らしい。

 

「可能ならハリポタ式がいいんだけど…」

 

逆にどうしようもないのは『ぐるぐる式』発動に時間がかかる上に誤発動もある。

ΤとΔを間違えて発動するとか主人公もやっていたし

 

「…そうだったらまず覚えるところから始めなきゃならないな…」

 

一番簡単と相場が決まっている

火属性の魔法をイメージしよう。

 

「さて、ハリポタ式ならまずは杖を用意しなきゃ話にならないけど

それ以外だと仮定すると…」

 

人差し指を立てて…

 

「イグニス」

ラテン語での『炎』を宣言する

ラテン語は古来魔法に多用されて来た古の言語なので多分これで…

 

見事に何も起きないですね

 

「…ファイア」

 

気を取り直して英語に切り替え

 

「…何も起きない…」

 

ちょっと虚しくなる

 

「…えっと…じゃあ………」

 

次に多いのが掌からでるタイプなので

とりあえず手を窓の外に向けて。

 

「…ん?」

その時、僕は僕自身の手の指に

指輪が付いていることに気づいた。

 

「指輪?」

 

その指輪はやたらとゴツくて

銀らしき金属装飾が施された大きな石が付いている、恐ろしく似合わない。

 

「コレか?魔法の起動鍵は」

 

そう呟いた瞬間、

頭の中にシルエットがよぎる。

 

そのシルエットは黒いローブを着た長身な人影で、今僕がつけているものと似た、やたらゴツい指輪と、同じくやたらゴツいベルトをしていた

 

 

「!」

 

その人影の真似をして、

指輪をベルトにかざす

 

コモン(コネクト)=ナウ』

指輪が光ると同時にベルトが音を発して

 

慌てて手を向けた窓側に、

緑の魔法陣が展開する

 

10秒ほど待って見て、何も起きなかったので手を動かしてみるも

魔法陣は宙に浮いたままだ。

 

僕は意を決して、

その魔法陣の中に手を入れる

接続(コネクト)と鳴っていたから、どこかに繋がっているのかもしれない

 

「…なにこれ?」

 

何かに当たった手を、

それを握ったまま引くと

 

「…鉤爪?」

 

手甲と鉤爪が一体化したような武器?が出てきた、それと同時に魔法陣が消滅して

ナニカが急激に失われた感覚

 

「!……」

 

多分これが、いわゆる所の『魔力』に相当するものなのだろう

あんまり詳しくはわからないけど。

 

「…力が抜けるな…」

 

なんというか、表面的には変わらないけど中抜きしているというか

水風船の水を空気と入れ替えたような、確実に何かが欠けた感じがする

 

「これが魔力の欠乏…?」

 

いや、欠乏というにはまだ動ける感じはする、ゲームやアニメでも

魔力を使うと疲労して

最終的には体が動かなくなるというのが一般的だっただけに、まだ動ける自分が魔力欠乏状態とは言い難い。

 

「まだ使える…よな、よし」

 

とりあえずもう一度ベルトに指輪をかざして

 

コモン(コネクト)=ナウ』

展開された魔法陣に手を突っ込んで、

その鉤爪?を置いてくる

 

「…よし!」

 

とりあえず元の場所?に送り返したような感覚はあるが、当然ながら魔力は戻っては来ない。

 

「とりあえず、これが魔法の使い方だってのはわかった、今日はこれでよしとしよう」

 

明日は日曜だから、何処かバレないような場所で練習しないと

 


 

「おはようございまぁす」

 

僕以外は誰もいない部屋に朝の挨拶をしながら、そっと起き上がり、

ぱっと服を着替える。

 

特に時間を掛けるようなことではないし、どうせ安物で済ませているんだから

ファッションがどうとか気にするようなことでもない。

 

「…さて、今日は…」

 

寝起きで動かない頭で

市内の地図を思い浮かべる。

 

「よし、工場の方に行こう」

 

東側の郊外に古い廃工場がある

資材置き場などもそのままに残っていて、多分何か事業の失敗が響いた結果、工場はそのままに片付けもしないで会社が撤退してしまったのだろう。

 

おかげで設備もそのままと聞いた

その辺なら人もいないだろうし

そもそも騒音など誰も気づかないだろう

 

 

 

「よし到着」

 

移動には少々時間がかかったけど

特段の問題はなく終了し、廃工場に着いた

 

「…まずは」

 

コモン(コネクト)=ナウ』

 

鉤爪を召喚して、右手に握り

 

「ふっ!はっせい!やあっ!」

 

声を上げつつ、空を薙ぐ

特に重かったりはしない鉤爪だけど、それでも振るのならば感覚は覚えないといけないということで、物理的な意味での練習に精を出して

 

「…よし」

 

右手で握ったそれを持ったまま

もう一度言う指輪をベルトにかざす

 

「えっと今度は…!」

 

コモン(アロー)=ナウ』

 

遠距離攻撃のイメージで魔法を使うと、展開された小さな魔法陣から

光の矢が発射された

 

「…これがメインかな…」

 

正直に言えば、魔力消費量と一発あたりの威力が釣り合わない感じがあるが

それでも文句は言えないだろう

 

「そもそも遠距離があるだけで十分だよな、よし!」

 

まずは何発撃てるかの実験をしよう

 

コモン(アロー)=ナウ』

コモン(アロー)=ナウ』

 

都合4回目で強烈な脱力感

体の方はまだ動くけど

中身がスッカスカになっているような嫌な感じ、多分これ以上…使ったら

体の方も動かなくなると思う

 

「魔法使用の制限回数は…5回」

 

正直実戦は難しいレベルの回数だけど、まぁ有効利用できるだろう

 

体を動かすのは厳しいけど

限界に到達して倒れるのでは意味がない、その限界のギリギリで立ち回る必要だってあるだろう

 

だから体を動かすのは必要だ

まずは動かなくては何もできない

魔法に頼りきってはいけない

僕自身の積み重ねてきた肉体的な意味での修行を積み直すんだ

 

「大丈夫、まだ動ける」

 

格闘の動きに移り、

ゆっくりと体を動かす

徐々に早めて、体が追いつかなくなるまで加速する、そしてそこからは

いかに最高速を維持するかのスタミナ勝負に入る

 

小一時間ほど腕を振り続け

跳躍や蹴りを入れて

 

「…よし!そろそろ体の限界…」

 

体が動かなくなったあたりで一旦やめて、十五分間休憩を取り、それから再開して

今度は限界の半分くらいの回数を同じ時間で行う

 

過負荷を掛けすぎるのもよくない

適度に休憩を入れつつ

負荷をかけ直す、その際に負荷を調整して、やれる分だけをしっかりやる

 

その時の記録を残しておいて

次に生かす、これが必要だと思う

 


 

「疲れた……」

 

長いため息とともに

重い体を引きずって家へと帰り

そのまま風呂入って寝る

 

夕食?知らん

 

「明日学校ダァ…」

 

筋肉痛確定している体で学校

体育がない分マシだと思う事にしよう




R- typeを転生特典にした時の特典なんですが

A案・機体を召喚して乗り込む(サイズ等はそのまま)
B案・機体そのものに変身する(等身大に縮小)
C案・服装・武装がその機体の意匠をモチーフにしたものになる

R版は主人公の性別、女性ですよ


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8話

………ぁぁあ……筋肉痛…

 

でも動かなきゃ…動かなきゃ…

 

「東棟一階での英語の授業の直後に技術科の授業で西棟三階に行くのは遠いよ…」

 

そもそも筋肉痛がひどいのに移動教室とはなにを考えているのか…いや

カリキュラムだから仕方ないんだけど

 

長い長い階段をゆっくりゆっくり登っていくその姿は、まるで戦場にでも

出征する兵士のように見えたと言う

 

 

 


 

あれから一週間ほど過ぎた

 

一日おきごとに身体訓練と魔法の習熟訓練を繰り返しているのだけど

あまり成果は出ていない

魔法使用の回数も5回が限界のままだ

 

「まぁ、そう簡単にポンポンは出来るようにならないよね」

 

魔法の指輪に対しての知見こそ深まれど、肝心の魔法威力や発動速度の向上、無音での発動なんかはできていない

 

ちなみに魔法威力は川の水面に向かってアローを打ち込んだ時の移動距離から目測しているのだが、今までみたところ、射程や威力がかわっている様子はない

 

「今日も今日とて…疲れる…」

 

魔力は十分だが、疲労が激しい

昨日の夜に『訓練』をしてから

今日体育の持久走で走っているので、脚が本当に辛い

 

のだが、夜の買い出しは怠らない

(怠ったら死ぬからです)

 

「…はぁ…」

「あら?」

 

知らず識らずのうちに

気を抜いてしまっていたのだろう

 

そしてそれは不幸と不運、たまたまタイミングが被ってしまったのだろう、それと遭遇してしまったからには

 

「御影くん?」

「…巴さん…」

 

絶望あるのみ

 

「御影くん!」

カゴを片手に持ったまま小走りでやってくる巴さん、完全に捕捉されている

 

マズイ…捕まった

「御影くんもお買い物?奇遇ね」

「そうですね」

 

完全に無の表情になった僕はら

最終奥義、受け流しの姿勢にはいる

 

「もう、釣れないわね」

「そうですね」

 

何を言われても同じ単語で返すつもりなのだが、それは巴さん相手には、あまりにも悪手だと言わざるを得ない手だった

 

「ちょうどよかったわ、この後私の家に行きましょ?夕食はご馳走するわ」

「そうですね」

 

「ところで、前に携帯電話持ってないって言ってたから、私の方で用意させてもらったわ、やっぱり連絡手段(これ)が無いと不便でしょう?」

「そうですね」

 

普通に差し出された携帯を受け取ってしまってから、ようやく気づいた(手遅れ)

 

「それじゃあ会計済ませちゃうから、適当にまってて」

「アッハイ…」

 

結局、夕食は巴さん家で食べることが確定してしまったのだった

 

「…どうしよう…しくじった」

 

嘆いても現実は変わったりしない

 


 

というわけで

「はい、お待たせ」

 

現在の僕は巴家(マンション)に上がり込んで夕食をご馳走になっていた

 

「味はちょっとした自信があるの、どうぞ召し上がれ」

「……いただきます…」

 

今日の夕食はラザーニャ・アル・フォルノをメインとしたイタリア料理

…というか、なぜレストランくらいでしか見ないような代物を家で作れるのかが謎で仕方がない

 

「初めて食べるけど、これ(ラザニア)美味しい…」

「ありがとう♪」

 

随分と気合が入っているが

マミの感覚として普通らしい

特に喜ぶでもなく賞賛を受けている

 

「美味しい…んだけど、まずは」

「これね」

 

なぜ突然家にあげたのか、と言った話を仕掛けようとしたタイミングで

パッと携帯を出されて一瞬戸惑うも、すぐに電話番号の登録だと気付き

 

「そういうのって、渡す時点で登録しているものじゃない?」

 

「えっと…」

 

「つまり、やり方がわからなかった?」

「………」

 

若干赤面しているのを見る限り

そういうことなのだろう

 

「だいたいわかったよ、オーケーだ、とりあえず番号交換しちゃおうか」

 

巴さんの携帯の電話番号だけ表示してもらい、それを自分の方の携帯に登録、同時にその番号に電話をかけて、巴さん側の携帯電話でその着信履歴の番号を登録しておく

 

「これでよし、登録できたよ」

 

さりげなくメールアドレスの方は無視して電話番号だけ登録しているあたり

なかなか頑張っているつもりなのだけど、着拒とかしないあたり、根本的に人を捨てられない僕の情けなさが見える

 

「まぁ、昨今の携帯電話は機能も複雑化してるし、仕様書とかでも理解しきれないことも多いからね、機能を使いこなすってのも難しいだろう」

 

そもそも自分の携帯電話のスペックを完全に使いこなすような人はほぼいない

限定された一部機能をばかり

使っている人の方が圧倒的に多いだろう

 

それもそれで仕方ないのだが

マミの場合は行き過ぎていた

 

なにせ登録している電話番号の数がたったの4個、それも両親と学級連絡網の前と後だけであるらしい

そして当然連絡網などそうそう使うようなものではなく、両親の電話に出るものはいないので、実質ゼロ

 

そしてそこに、ついに新しく番号が追加されたのだ

 

「あ、ありがとう」

「いいよこれくらい、別に構うほどでもないし、むしろ美味しい夕食ご馳走になってる僕の方がお礼言うべきだと思うくらいだよ」

 

携帯電話を返して、

すでに食べきっていた皿を流し台の方に持っていく、調理待ち中に

間取りの方はだいたい把握させてもらったので、その足取りに迷いはない

 

「…」

 

ちなみに、マミは無言で登録された番号を見つめていて、動く様子がない

 

「…どうしたの?」

 

晴磨はしかたなく声をかける

「なんでもないの、ただ…」

 

「ただ?」

「嬉しくて、つい」

 

こちらに向けられたのは、

輝かんばかりの笑顔

 

彼女自身がまれに見るほどの美少女であるため、並の男なら一撃轟沈であるが

僕はなんとか耐えることに成功

緩みそうになる表情を押し殺して、あくまで無表情、平静を装いきるのだった

 


 

「で、どうしてこうなった?」

 

次の土曜日、僕は

 

魔女狩りに付き合わされていました

 

「ほらいくわよ、御影くん」

「あ、はい…」

とりあえずこれには一言くらい言わせてほしい

 

「どうしてこうなった?」

 

どうやら巴さんはどうあっても僕を結界に放り込みたいらしい、今まで一カ月にニ回以上魔女の結界に入ったことは無かったというのに…

 

「…とりあえず最初に言っておく

僕の魔法は使用可能な回数が少ない!期待しないでね!」

「え?」

 

すごく驚いた顔をされるが

「僕は魔法少女じゃないから魂を削って魔法を使うんだ、だから僕が魔法を使うってのはつまり命と魂を消費するってこと」

 

取ってつけたような嘘の設定をぶち上げて、驚愕している巴さんの方に寄ってきた使い魔を物理パンチ連発で仕留める

 

「…さぁ、魔女の方に行ってくれ

できるだけ速く仕留めてね、僕はここで使い魔を引き寄せて時間を稼ぐから」

 

「で、でも…」

「構わないで!むしろ早く行ってくれないとどんどん危険になるんだから!僕を助ける為にも早くここの魔女を討伐して!」

 

「行ってくるわ!」

 

笑顔で巴さんを送り出して

早速魔法を発動する

 

コモン(コネクト)=ナウ』

 

出現した魔法陣から鉤爪を召喚し

それを握って…ひたすら格闘

 

見たところ、というか殴ったところ、例の近接無理なタイプじゃないので

僕としても加減なく、呵責なく

そして一切の容赦なく

 

近接オンリーで仕留めさせてもらう

 

「はぁぁあっ!」

 

最初は全力で、次にどの程度が必要なのかを確認するための調整を行う

 

最初から手を抜いていたら

どのくらいのパワーがとかいう前に詰む可能性が高いので、まず一発全力で当てる

 

これは魔法を得る以前からやっていた戦法でもある、近接無理な奴は見た目でわかるから、そういうの相手には逃げる一択だけど、倒せる奴はどれくらい必要なのかを測りつつ

最低限の消耗で逃げるのが良い

 

「これなら普通に倒せるな」

 

しかし、爪の威力は十分

これなら戦うことも出来る



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9話

本当に久しぶりの更新になってしまった…


「ヨイショ!」

 

視界内の最後の一体を切り伏せてから走り出す、名前からして空間接続魔法のコネクトで直行も考えたんだけど、それをすると移動経路が分からないから戻れないことに気づいてやめた

 

「走る…かな」

 

それが一番妥当だという事で

とりあえず走り出す

 

「…遠いなぁ…」

 

ひたすらに先へと進むと

まだ現実的なオブジェクトがある表側の結界から、本当に意味不明な内側の結界への境界面を超えたらしい

 

「…!」

 

使い魔が飛び出してきたので

不意打ちじみた一撃をなんとかかわして、地面を転がりつつ鉤爪を投げる

 

反撃にもならないような小技だけど、それをかわすようなこともなく正面から受けた使い魔は消滅した

 

「…ふぅ……」

 

大きく息をついて、ゆっくりと立ち上がり、今のは危なかったな…などと呟きながら

投げた鉤爪を拾って

再び走り出す

 

痛む体を無理やりに動かしているため、所々フォームが狂って体勢を崩すが

それでも構うことなく無理やりに走る

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

足だけを全力でかつ静かに動かしながら結界の最奥に突入して…そこで地獄を見た

 

赤と黒で構成された肉質な壁と、生物的に蠢く床、何かの体内のような空間に

黄色いリボンでできた蜘蛛の巣と糸を無数に散らかして、高速で移動する魔女を床や天井やら壁やら様々な場所からリボンが伸びて縛り上げようとしている

 

もともとかなり地獄めいた空間だったのだろうが、これは輪をかけてひどい

 

「…一撃で!終わらせるから!」

 

今まで形成していたマスケット銃は少なくて二丁、多くて四丁、必ず自分の手元に出現していた、だが今形成されたのは少なくとも十丁を超える数

 

空間にそのまま固定されているように巴さんとの相対位置を維持しながら

それらが一斉に乱射される

 

そしてその連射が切れると同時に

巴さんの手元には巨大なリボルバーに見える異形の銃が形成された

 

「ティロ ・フィナーレ!」

 

その一発を最後に

巴さんと対峙していた

 

身体の魔女 astrid

 

は完全消滅して、その展開していた結界も即座に霧散した

 

「はぁ…急いで彼のところに行かなきゃ!」

 

「もう来てますよ、巴さん」

 

巴さんの後ろから声をかけると

反射的にマスケット銃が形成されたので、一応射線から外れるように屈んで

 

よく顔を見せる

 

誤認されるのはごめんだからね

「御影くん!」

「はい、御影くんですよ」

 

急に笑顔になった巴さんは

パッと飛び込んできて…

 

「みかげくうぅん!」

「いたたたたたっ!」

 

抱きついてきた、魔法少女衣装のまま、つまりは、比類なき身体能力のままで

 

「ごぁぁぁっ……」

潰れる虫かなにかのような声をあげていると、ようやく僕が圧死しかけていることに気づいてくれたようで、僕から離れると

「大丈夫?怪我してない?」

 

心配そうな表情で問うてくる

正直、巴さんの一撃()が一番効いた、と返しておく

 

「大丈夫だよ、魔法もほとんど使わずに済んだし」

笑顔を見せると

途端に表情が緩む巴さん

 

「良かったわ…でも、なんで最初に教えてくれなかったの?」

「?…なんのこと?」

 

僕が惚けると、急に顔色を変えた巴さんは青筋を浮かべた笑顔で僕の耳を引っ張る

 

「惚けないで、寿命を削る魔法なんて初めて聞いたわよ?」

「それは言ってなかっただけだね

どうでもいい情報の重要度が上がったからその場で提示しただけだよ?」

 

「それを詭弁というんじゃない?

そんなことはどうでもいいわよ

細かいこと、しっかりと、全部聞かせてもらうんだから!もう連行よ連行!」

 

そのまま、僕は巴さんの家に連れ込まれるのだった…

 

「そもそも!身体能力が一般人なんじゃ戦力として足りないわよ!キュウべぇと契約して、魔法少女になるべきだとおもうわ」

「魔法少女って…あのさ

僕は男なんだけど?」

 

「比喩よ比喩、そういう表現!」

「ごまかせないぞ、いま一瞬表情が歪んだことは絶対にごまかせない…」

「もう!御影君ったら!」

 

結局、話はロクに進むことはなかったが、それはそれ、むしろ適当に言っている分

話が進まない事は即ち

ボロが出ないことに直結するのだから、話が進まないほうがありがたい

 


 

「…はぁ…帰ってきた…」

 

魔女の結界に突入することは多々あれど、本格的に戦闘になる事は極めて珍しい

一当てして逃げる事の方が多いからだ

 

まぁそれでも?

使い魔数体だったら撃破することもあったし、特に問題ではないのだ

根本的に疲れた原因は

巴さんにある

 

巴マミ…やはり、僕の体力を削ることに掛けては天才的な能力を発揮する少女だ

なまじ顔が良いのも困る

 

美少女はそれだけで社会的な影響力というやつが全く違うのだ

 

「はぁ…なんだい彼女は…疲れるなぁ」

 

ため息を吐きながら未来への予定を立て直す、主に悪い方向への修正が入った未来予想図は、想定よりも酷い状況を示していた

 

一応考えていたはずの未来がガラガラと崩れていく…あぁ…(クソデカため息)

 

まず考えている未来の指針を立て直す必要があるだろう、今の状況では

考えられる変更点となるポイントは5つ、まず僕が存在することで

マミさんの交友関係が変化する

つまりぼっちじゃなくなる

 

2つ、まみさんがぼっちじゃなくなることで連鎖的にまどかの好感度が上がりづらくなる

3、行動半径の変化のため、パトロール経路が変化する(ハコの魔女と遭遇しない可能性発生)

4マミらない可能性が生まれる

5マギレコ時空に変化または介入する(かもしれない)

 

こんな感じで時空が変動している可能性が湧いてくる

 

「まぁ、やることは本編のクリアまでやれば僕は部外者だからな…よし」

 

マミさんを病院に出てきた魔女

お菓子の魔女『shallotte』に殺させない事

これが最大にして最初のポイントになる…ワルプルギスの夜と戦うまでに

戦闘することになる最悪の敵は

マミさんに限ってはshallotteなのだから…いや、PSP版のまどかマギカに限れば

公園に居る魔女が最悪の敵(トラウマ的な意味で)なのだが、アニメではこちらが最悪の敵(相性的な意味で)だ

 

やるべきことは分かるな?

そう、マミさんのストーキングだ

マミさんをつけ回し、原作のふさわしいタイミングで助けに入る

これさえなせばもう怖いものはない

根本的に第二形態ならシャルロッテは変形が可能という能力を見落としたのが

原作での『マミっ』につながる失敗であるので、それを僕がカバーすれば良いだけだ

 

無論、僕自身も鍛えなければマミる対象が変わるだけであり、それでは結局

直接殺すか間接的に殺すかの違いでしかない…それでは意味がない

なので根本的に自分が一番鍛える

その上で周りにもその水準を求める

 

「結局こうなるのか…」

 

ため息をつき直して、ゆっくりと目を閉じる

 

「よし、夕食作るか!」

 

俺は思考を放棄して

まずは冷蔵庫の中身を確認するのだった…

 

 


 

翌日になり、動かない体を強引に動かしながら学校へ向かう

 

「あぁ…辛い…」

 

呟いていると

友人に背を叩かれたり、消しゴムをぶつけられたり、靴箱に手紙が入っていたりするが、完全に無視して眠る

 

「……………………」

 

眠っていると、いつのまにか一時間経っていたようで、休み時間に入っていた

 

そんなことを5回分繰り返すと

もう1日が終わろうとしている

結局、体力が万全に回復することもなく、消耗した分を補填した、程度の感覚のままではあるが、それでも回復した魔力を使って

帰り際にアローで練習し

 

やはり5回分以降は使えずに倒れることになった

 

「さすがに無理をし過ぎたか…今日は魔女もいないし、大人しく家に帰ろう」

 

立派なフラグではあるが、

結局回収はされなかった



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