「物売り」に色付けして見ました。
辛めなご意見ご感想頂けたら幸いです。
え~、江戸ともうしました時分は夏になりますとクーラーがない代わりに風情なんてものがありました。
昼下がりになりますと、打ち水をした庭先で風鈴がチンチロチンと涼し気に鳴っております。
そこへ聞こえてまいりますのが道ゆく物売りの声でございます。
のんびりと眠た気な声で、
「へ~ろいん、まりふぁな~♬へ~ろいん、まりふぁな~♬」
こいつの声を聴いておりますとついついうとうとっと眠りかけてしまいますが、そこをぐっと堪え、こちらも眠た気な声で呼び止めるんでございます。
「お~い、おやじ。1グラムくれんかぁ~?」
「へぇ、まいどありぃ~。5文になりやすぅ~」
「5文か、よしよしあれ?巾着が見当たらんぞ?」
「旦那、旦那、手に持ってるじゃありゃせんか?」
「これはこれは、では5文お確かめくだせぇ」
「へぇまいど。」
「これこれ、モノはどうした?まだ貰うてないぞ?」
「はぁ?今ほどわたしましたが?」
「なにを寝ぼけたことを…おやじ、お前さんの手に持ってるパケは何ぞや?」
「いやこれは失敬」
なんてやり取りをしてますとちょうど夕涼みにいい時間となるんであります。
キセルに詰めましてぷかぷかっとやっておりますとなんともマッタリといい気分になって暑さも忘れ、またまたうとうとっと眠りかけてしまいますが、これを後から起こしてまわる奴がおる。
われ鐘のような声で、
“シャブやっシャブやいっ、手々噛むシャブやっ!”
これにはたまらず眠気を奪われまして、旦那は半ば動転した声で呼び止めるんでございます。
「やいおやじ!はようよこせ!何処ぞで見張っておるかわからん!」
「へぇ、1両」
「おう、また頼む」
ささっと済ませてこそっとけえるんで余計に怪しい。
こいつはキセルに詰めるまでは同じでありますが、上からではなく下から炙って煙をすうっと吸い込むんでありんす。
するってえとたちどころにブルっと震えるような快感が眠気どころか食欲まで奪い去っちまう。
このままじゃ眠れねぇなんて言い訳しながらギラギラしたツラで吉原でしっぽりなんてのがお決まりなんですが、欲は張るが倅は中々腫れねぇもんで、せっかく落とした花魁に
「役立たず!」
なんて振られた挙句、大門では町奉行が待ち構えていたりするんですよ。
旦那は薬がきれたのか手が震え冷や汗がタラリとおちる。
それを見逃さなかった町奉行が
「なんでぇ、おめぇさんまだ薬絶ってなかったのかい?」
「へぇ、薬を断てなかったなかった上に役に勃たなかったんでありやす」
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