とっとこ(グラ)ハム太郎 (zhk)
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初めましてだな!少年!!

友達に見せられた謎コラから思い付きました。

後悔もなければ反省もありません


 唐突だが、本当に唐突だが俺はガンダムが好きだ。

 

 初めて見たのはまだ俺が小学生にも満たないような頃。生粋のガノタであった俺の父が、夜に一人で初代劇場版ガンダム三部作を見ているところにたまたま入ったのがきっかけだった。

 

 そこで俺は見た、何体と押し寄せてくる敵をものともしない白い機体、ガンダム。けれど無双、と呼ぶほどのものではない。けれど、そこに俺は強さとカッコよさを見た。垣間見てしまった。

 

 その日はそのまま父の隣にちょこんと座り、結局父が見ていた一本をまるまる見きってしまった。見終わった俺の興奮は尋常じゃなく、どったんばったん暴れまわったらしい。まぁ夜遅くだったのでしっかり父親からの拳骨と説教を食らうことになったが。

 

 俺にとっての転換期ともなったガンダムの初視聴からというもの、俺はひたすらガンダムにがっつりとのめり込んでいった。父が持つDVDは擦りきれる程までに見、家にないものは家から少し離れたレンタルショップまで行って借りてまで見る始末。

 

 新作が劇場でやると知れば公開初日に並んででも見に行き、どれだけマイナーな漫画であっても必死に探して買って読んだ。

 

 そんな生活をひたすら齢五歳程度からやっていれば、やはりというべきか当然というべきか、俺が完全なガンダムオタクになるのに長い時間を掛けることはなかった。

 

 逆に成長するにつれて物の見方の変化が俺に出始めて、それぞれの思想や機体の作り、使う武器などにまで手を出し始め、親父の知識すら越えるガノタになったのは、なんと俺が中学に入学する位の時。

 

 中学生ともなれば行動範囲もかけられる費用も増えたことで、俺のガンダム熱はさらに加速していく。

 

 好きな機体が使えると知ってゲームをするためにPS4を買ったり、なにかのイベントのチケットを必死でとろうとしたり、いやーまじで楽しいや。

 

 で、そんな中学生活をしていたある日、俺の元に新作の期間限定上映の情報が入ってきた。映像化されるのはなんと、あの映像化不可とまで言われた閃光のハサウェイ。

 

 こりゃ見るっきゃないと。これを公開日に見ない奴はガノタなんか名乗れねぇよと。そう息込んだ俺は公開初日、遠くの映画館へ足を運んだ。

 

 楽しみだ~楽しみだ~とアホ面かましながら上映を映画館内でポップコーン片手にニコニコしながら待ってた、そんな時だった。急に目蓋が重くなったのだ。

 

 確かに昨日楽しみすぎてほとんど寝れてないから、映画館という寝るには快適すぎる場所に来て眠くなってんだろうなと感じた俺だったが、やっぱり眠気よりも今からやる映画の方が何百倍も大切だ。

 

 なので閉じかかる目蓋を開けようとするも、何故か上がらない。むしろ目蓋はどんどん下がってきて、俺の視界をどんどん狭めてくる。

 

 えっ待ってなにこの謎現象?と思うよりも、いや今から始まるんだけど!?という焦りの方が俺は強かった。必死に、それこそ死ぬ気で目を見開こうと全力を尽くすけど、何故か知らんが目蓋が開かない。

 

 焦りに焦り、なんとかどうにかしようと試みるも虚しく、俺はそのまま完全に目を閉じてしまった。

 

 目が完全に閉じられてしまったら、どこからか来ていた目閉め強制力(俺命名)は完全に消え、俺はすぐさま目を開く。

 

 さぁ楽しみにしていた映画のスタートだ!いっしゅんたりとも見逃すつもりはない!!そう思って開いた目には、どこかのお茶の間が入ってきた。

 

 どこよここ…………ってな感じに、俺はぽっかりと口を開けてたと思う。誰だってそうなるでしょ映画館で謎の目閉め強制力に目を閉じられて開けたら、まったく見覚えのないお茶の間で俺正座してんだもん。

 

「おお、気づきよったか」

 

 と、困惑してる俺に対面に現れた老人が声をかけてきた。

 

 真っ白の髭はむっちゃ長くてダンブルドアみたいだ~とか小学生の感想のような者を感じさせるほど、まさにTHE老人って感じの人であった。

 

「えっ?起きとるよな?」

 

「あっ、はい!起きてます」

 

 俺がなんの反応も返さない事に困ったんだろう、眼前の老人は眉を少しだけ潜めて焦ったようにこっちに聞いてきた。いや焦ってんのはこっちなんだよジジイ。

 

「え、ここどこですか?俺ガンダム見に映画館へ居たはずなのに。てかあんた誰ですか??」

 

「まあ落ち着け。焦るのは仕方がないじゃろうな。なんせお主は…………」

 

 

 

 

「死んだんじゃから」

 

 ……………………は?

 

 何言ってんだこの髭ジジイ。

 

 俺が、死んだ?dead?俺が?

 

 ……………………は?(迫真)

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?どゆことっすか!?ちょっと待ってください!!俺が死んだ!?何故!?」

 

「死因は心臓麻痺じゃ。そう決まっておったからの」

 

「決まってた?意味がわかんないんですが?」

 

「順を追って話すとするかの」

 

 そう言って白髭ジジイは、その無駄に長い髭をもさもさ触りながら話し始めた。

 

「人というのはな、生まれた時から寿命というのが決まっておるのじゃ。いつ、どのように死ぬのか。お主ら人間の言葉で言うなら、その人の運命という奴じゃな」

 

「人間って…………あなたは人間じゃないんですか!?」

 

「ん?ワシは神じゃよ」

 

「かっ!?神っ!?!?」

 

 神!?まさかの!?確かになんか神っぽい風貌だけど!!てか神ってホントに居たのかよ!!

 

「それで、ワシらは生まれ落ちた人間を観察し、その人の決まった時間が終わればその者に決められた死を与えるのが仕事なのだ。」

 

「嫌それ神じゃない!!もはや死神じゃないですか!!」

 

「死神はお主らが勝手に作ったものじゃ。神の仕事はこっちが本命なのじゃ。」

 

 えぇ…………まさかの神様全部死神でした。俺達すっげぇ物騒なのを崇めてたんだね…………死んでから知る衝撃の真実。

 

 あれ、待てよ。ちょっと待て。

 

「俺はどうなってんですか?じゃあ映画館の中で死んでるって事ですか!?ハサウェイ見れずに!?」

 

「そういうことになるの」

 

「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 そんな…………そんな!?

 

 むっちゃ楽しみにしてたのに!!公開初日にどうにか時間作ってきたのに!?それが今からやるってとこで俺の寿命の時間切れで見れなかった?

 

 運無さすぎるでしょ俺ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!なんでこんなことに!!」

 

「仕方がなかろう。これがお主の運命なのじゃ、受け入れるしかない」

 

「あんたが手を下したんだろーが!!」

 

「悪いがワシは仕事なんでな」

 

 殺した本人がまったく悪びれないんですけど!!見る寸前で病死とかどんな嫌がらせだよ…………もう最悪だぁ…………

 

「打ちひしがれるのもわかるがの。そろそろ話を進めてよいか?」

 

「あーうん…………もう…………この際何でもいいですよ…………はい…………」

 

「面白いくらいに消沈しとるの」

 

 そりゃするっての。ここまで絶望したのも人生で一回あるかないかだよ…………俺が何したってんだよ…………この仕打ちは酷すぎる。

 

 哀しみの涙がポロポロと目から流れてきそうなのをどうにか堪えて神様を見る俺の背景には、きっと青い線が大量に縦に伸びている事だろう。

 

 ほら、あれだよ、ちび○子ちゃんとかで藤木君とかにある感じだよ。今なら藤木くんの気持ちがわかる気がする。そうか、俺は藤木君だったのか(意味不明)。

 

「それでじゃ、寿命を終えるとゆったりとした穏やかな天国へ行くか、記憶を全て消して現世で赤子から始めるかの二択が与えられる。さて、四崎香月(しさきかづき)君。お主はどちらを選ぶ?」

 

 天国行くか記憶リセットで赤子からリスタートの二択とかどこの素晴らしい世界の話なんだよ。なんかもうどーでもよくなってきた…………ハサウェイ見れなかった時点で天国もリスタートも変わら…………ん?

 

 四崎?四崎??

 

「あのー」

 

「ん?なんじゃ?」

 

「四崎?今四崎って言いました?」

 

「そうじゃ。人間界、特に日本をよく見てきたが、四に長崎の崎とはなかなか珍しい名字もいたもの━━━」

 

「違うんですけど…………」

 

「……え?」

 

 呆けたような顔で、白髭神様がこっちを見た。いやだって……

 

「俺の名前、四の四崎じゃなくてどこどこ市とかの市崎です。市崎香月です」

 

「えっ?ホントに?」

 

「ホントです」

 

「……ちょっと待って?」

 

 白髭神様はそう言うと、すっと俺に背中を向けてなんか分厚い本を開いて確認し始めた。

 

 なにこれ?俺すごい嫌な予感するんだけど。いやまさか、まさかな。だって相手は神様だぜ?そんなねぇ、死なせる人間違えたなんて事はないでしょう。ねえ?

 

 ぶつぶつと呟く白髭神様は、突然あっとなにかに気がついたような声を漏らしたかと思うと、額に汗を浮かべつつこっちを見てきた。

 

 そして、

 

「ごめん。間違えたわ、わし」

 

 あっさりと俺の嫌な予感を踏みやがった。

 

「…………間違えた?」

 

「……うむ」

 

「四崎香月さんと市崎香月()を間違えて殺しちゃったと。あんたはそう言ってるのか?」

 

「…………うむ」

 

 シーンと、冷たい沈黙が流れる。

 

 いつの間にか正座で座ってる白髭神様は、少し間をおいておもむろに頭を上げると、

 

「すまんな♪」

 

「ふんっ!!」

 

「うげぶっ!?」

 

 舌を出してふざけた謝罪をしてきやがったから顔面にパンチ一発。白髭ジジイは勢いのまま気持ちのいいぐらい飛んでいく。

 

「い、痛いなお主!神であるワシを殴るとは何事か!?」

 

「殴ってなぜ悪いか!!」

 

 今回はブライト艦長じゃなくても殴るわ、こんなポンコツ神。厳かなのは見た目だけかこの野郎。パッと見ダンブルドアだから完全に俺騙されてたわ。

 

「なんですか?お前は、勝手にミスで殺されて、大好きで楽しみにしてたもん見れなくなって、殴らずにいろってのか?あ"?」

 

「い、いやだから、すまんかったって。間違いだった━━━」

 

「間違いなら殺しても許されるってか?お前人間なめとんのか?命なんだと思ってんだ?お?」

 

「ひっ!?」

 

 胸ぐらがっちり掴んで持ち上げる。あんまりこういう暴力とかは好きじゃないけど、今回ばかりは堪忍袋の尾が完全に切れた。許しておけん!

 

「さっさと俺をあっちに帰して四崎とかいう変わった名字の奴連れてこいや。んで速く、一刻も速く俺にハサウェイ見せろ今日公開初日だったんだぞ!!」

 

「公開初日ならまだ日はあるからいいんじゃ…………」

 

「初日じゃなきゃ駄目なんだよてめぇにはわかんねぇだろーけどよー!!」

 

「ひぃ!?すみませんすみません!!」

 

 涙目になって謝っても許すかよこの無能ジジイ!!完全にキャラ崩壊してんだよ!!これがむっちゃ可愛い女神様とかなら許すことも考えてやったけど、こんなジジイにされてもなんも嬉しくねぇ。というより余計なんか腹立つ。

 

「謝罪はいいからさっさと戻せ!!一分一秒が惜しいんだよ!!」

 

「あの……その……蘇るのは無理です……」

 

「……は?」

 

 なんかよくわからん事をいい始めたから手にかける力を強める。このままポキっていいかな?俺このまま神殺ししちゃっていいかな?ガングニールのかけてきた二千年のコトバノチカラでぶっ飛ばすぞお前。

 

「ち、違うんです!!不可能なんです!!死んだ人間を蘇らせるのは!!」

 

 ジタバタしながらほざき始めた神様(笑)をぽいっと落とす。神様はそのまま背中からお茶の間畳に打ち付け、あががと苦悶の声を漏らす。ざまぁないぜ!!

 

「んで、不可能って?」

 

「ひ、人は死んだら蘇られないのです。神に与えられている力は、人を死に導き次の生を与える事のみでその逆は誰であっても出来ません。死と生は神にとっても不可逆なのです……」

 

「まじ……かよ……」

 

 つまりは、勝手に殺されて蘇ることも出来ない。

 ↓

 続きも見れない。

 ↓

 絶望!!

 

「どうしてくれんだこん野郎っ!!!」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃすみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「俺まだ未練たらったらなんだぞ!まだ見たい奴もあるし積みガンプラだって残ってるしなにより彼女だって出来てないんだぞ!!んで記憶なくして再スタートか天国行きか選べだぁ!!てめぇ何様のつもりだ!?」

 

「すみませんすみません神様ですすみません!!」

 

 完全に神と崇める人間の構図として完全におかしくなってるけど、そんな些細な事知ったこっちゃない。どうにか、どうにか向こうに戻る方法を考えねば!このくそ神を生け贄に捧げてでも!!

 

「あ、あの!一つだけ、一つだけなんとかなるかもしれません!!」

 

「え?」

 

 ブンブン躊躇なく神様振ってると、急に神様がそう言ってきた。ので、とりあえず振るのは止める。胸ぐら掴むのは離さないけど。

 

「なに?蘇れるの?」

 

「そ、それは無理ですが…………転生!転生というのはどうでしょうか!?」

 

「転生??」

 

 転生ってあれか?なろうとかである死んで神様にチートみたいな力を貰って別の世界に行くみたいなやつか?

 

「そ、それなら今の記憶を保持したままでいられます。あなたのいた世界線ではなく違うものにはなってしまいますが…………」

 

「う~ん」

 

 どうしたものか…………この神様がここまで言ってるんなら、本当に元の世界に戻るのは不可能な話なんだろう。であれば遺憾だけど、誠に遺憾だけどその転生する方法がベストかもしれない。

 

「転生するとしたら、そこはどんな世界なんだよ」

 

「は、はい!!ええっと…………」

 

 神様はさっき俺の名前を探してた本とは違う本を引っ張り出してきた。ほっそい指で文を伝いながら、神様は俺へ少しビビりつつ話し出す。

 

「ええっと…………お主がいたところより少し近未来のようです…………」

 

「ふーんなるほど。近未来ってどんくらい?」

 

「六十年ほどですね」

 

「六十年!?」

 

 むっちゃ未来じゃん!?六十年ったら色々普通に変われるレベルだぞ!?だって今から六十年前だったら…………なにがあってなにがないんだ?わからん。

 

「色々と違う点もありますが、生活する上で困ることはたいしてないですね。」

 

「んー。けどそれしかないんでしょ?それ以外だったらあれでしょ?天国か記憶ゼロでスタートなんでしょ?」

 

「そ、そうなりますね…………」

 

 最初のあの老人風な感じどこ行ったんだよ……完全にビビりな爺さんになってんじゃん…………

 

「あ、あの転生なさいますか?」

 

「あーうん。それでいいよ、てかそれしかないし」

 

「ありがとうございます!!これで失敗もなんとか隠蔽出来るぞ

 

 なんか今すげー聞き逃しちゃいけないような情報が流れた気がするけど、もうこの際無視だ。一々あのアホ神殴ってても意味ない。こっちが疲れるだけだ。だったら、

 

「で、神様。チートは?」

 

「…………へ?」

 

 搾取出来るだけ搾取して、後々楽してやろうではないか。

 

「いやほら、転生っていったら神様が転生者にチートくれるのが定番なんですよ。だからさ、ほら。なんかないんですか?」

 

「それはお前らの娯楽の話で…………」

 

「あ"?」

 

「あっはい!わ、ワシからあなた様に直接なにか力を与えるという事は出来ませんが、あなたのガイドというか、色々手助けしてくれる存在を送ります!!これでよろしいでしょうか!?」

 

「んーまぁいいやそれで。ガイドってどんな人なの?」

 

「それはこちらでなんとかしますので!はい!必ずあなた様の助けになると思うので!!」

 

「ならお願いします」

 

 よしっ、神様の使者みたいな奴を仲間にもつけれたし。とりあえずあっちでの人生はなんとかなりそうだ。えっ?やることがえげつないって?

 

 間違いで殺されて挙げ句の果てに天国行きか記憶を消せと言われれば、こうもなろう(カロッゾ風)

 

 大体、死にましたでへぇーとかでいられる現代ラノベの主人公の方がおかしいんだよ。死に無頓着過ぎるだろ、俺くらいあたふたして神様にキレるのが普通です。きっと、多分。

 

「それでは、こちらの道を進んでいただければ転生という事になります。」

 

 神様は自分の後ろに出てきた光の道を指差してそう言う。踏んだら足抜けそうだとか思ったけどそんな事はなく、きちんと足が地面を着いた感覚がある。どうなってるんだろうとか気になるけど、神様だから何でもありかで流そう。じゃなきゃ色んな事に突っ込まねばならんくなるし。

 

「今回は本当に迷惑をかけて申し訳ない…………」

 

 あっキャラ戻った。俺が居なくなるから余裕できたなこのジジイ。

 

「もういいですよ。今後絶対にないようにお願いしますがね。」

 

「は、はい……以後こんなことがないように気を付けます!!」

 

 まったく、間違いで罪のない人殺されたら可哀想で仕方ない。それもこんなアホ神のせいとか悔やんでも悔やみきれないからな。俺だってまだ悔やんでるんだもん。

 

「んじゃもう俺行きますね」

 

「お主の来世に、幸運あらんことを」

 

 誰のせいだと思っとんじゃ。元凶に幸運なんていのられたかないんだけど。あとキャラ固定しろよブレブレだぞお前。

 

 とは思ったけれどこんなんでも、こんなんでも(大事な事なので二回言いました)神様だ。加護を授けてくれたと考えれば、悪い気はしない。

 

 そんなこんなで、俺は目の前の道へ足を踏み出した。

 

 最後に見た白髭神の目が、やけに悪そうなのがすごく俺の中で印象に残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんながあったのが大体六年前。俺、市崎香月(しさきかづき)は転生して第二の生を歩んでいた。

 

 現在六歳。すくすくと心優しい親の下で成長している真っ最中。

 

 勉学の方も何の問題もなく、まさに順風満帆の暮らしを過ごしていた。

 

 唐突に長い長い人生をしょうもないミスで終わらされたけれど、この生活もこれはこれで悪くないかもしれない。

 

 そう、ある一点を除けば…………

 

『少年!起きろ!起きるんだ!!そろそろ起きねば、母が作った朝食が食せなくなるぞ!?』

 

 けたたましく響くイケボが耳のすぐ近くから聞こえてくる。これが女子なら喜ぶべきシーンかもしれないけど俺にそっちの趣味はないし、こいつ(・・・)がいてそんな趣味を持つのは本当に危険だ。

 

 騒がしい声に叩きおこされるように布団からむくりと起き上がる、すると布団付近にいたんだろう。俺が起き上がると同時に布団がめくれ上がったため、そいつはころりころりと俺の眼下に転がっていった。

 

『やっと目を覚ましたか。相変わらず、君は朝が苦手なのだな。それは早々に解消するべきだと進言しておこう。』

 

 もっさりとした丸っこい体に短い手足。触れば気持ちの良さそうな茶色の毛。六歳の俺の手の平の上に乗りそうな小さな体躯。そして…………

 

 そんな体とは、明らかにアンバランスなヒトの顔。

 

 鮮やかな金髪に滲んだ緑みたいな瞳。かなり整った顔がついたそいつは、俺の方を振り向きながらニヤリと笑ってキメ顔をして。

 

『おはようカヅキ!この私、グラハム・エーカーが君に朝の到来を伝達しよう!!』

 

「ははは…………おはよーハム太郎…………」

 

 可愛らしいハムスターの体である事を一瞬でぶっ壊す顔面に、俺は今日渇いた笑みが溢れてくる。

 

 そう、彼こそが神が俺に送った転生生活のガイド。俺がこの世界に新しく生を受けた時からいる。名をグラハム・エーカー。

 

 体はハムスターで顔と精神はグラハム・エーカーである。さしずめグラハムスターと呼ぶべきか。

 

 いや、そんな事より…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キモい。

 

 

 

 




プロッテ?

それならグラハムスターがぐちゃぐちゃにして食べました。

好評なら続くかもです。


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友達を作るぞ!少年!!

なんだかんだで書けました。

筆が動く動く!


 グラハム・エーカー。

 

 それは機動戦士ガンダム00に登場する人物で、ユニオンに所属しフラッグを駆るエースパイロット。

 

 最初の方は普通の軍人だったけれど、ガンダムの登場からその機体性能に惚れ込み、徐々に徐々に変人、そして変態へとなっていく。

 

 パイロットの腕は凄まじく、接近戦を最も得意としている。その実力は性能差が圧倒的であるガンダムに対し量産型のフラッグと呼ばれる機体で拮抗するほど。

 

 この作品の中では彼と同じようにガンダムに対してシーソーバトルを繰り広げていた者は何人もいるのはいるけれど、それらの人物は体が改造されてたり何らかのバックアップがあったり機体が良かったり。

 

 そのため技術だけでガンダムと互角に戦えたのは彼しかいない。作中で主人公側とは少し立場が違う者達のガンダムと戦った時には、たった一機で三機のガンダムと渡り合った。これの放映後、グラハムが乗るフラッグがバカ売れしたのは有名な話し。

 

 義理堅く、そして人格者ではあるため部下からの信頼も厚く、何人ものフラッグ乗りが彼へと付き従っている。

 

 が、こいつ、さっき言った通りガンダムが現れた事でどんどん変態と化していくのだ。

 

 例えば、通信が取れない状況下で通話が出来ないにも関わらずコックピット内でガヤガヤと一人で騒いだり、ガンダムに対して好意を抱いたり(パイロットにも。ガンダムにもである。)、最後主人公と戦っている最中唐突に告白したり(主人公へ、もちろん相手は男)。

 

 言ってても思う。変人だと。公式ホモと言われても仕方ないと。

 

 それでも戦闘技術や部下を思う気持ちは本物(ついでにガンダムへの愛)なので、この作品の中でも人気はかなり高く、ギャグとシリアスの両方をこなせる優秀な人間なのだ。

 

 確かに俺も好きなキャラクターだ。あのスローネアインの腕をオーバーフラッグカスタムがスローネアインのビームサーベルで切り裂くシーンは胸熱で、見たときはおおー!!と一人で叫んだもんだ。

 

 好きなキャラクターだ。好きなキャラクターではあるんだけど…………

 

『カヅキ、窓ばかり見ずに授業に集中しろ。これでは無為な時間を過ごすことになるぞ?』

 

 机の端でどっしりと座るグラハム顔のハムスターが、俺にそう注意してくる。

 

 いやホント、なんでこうなった?

 

 あのカッコいいグラハムがハムスターと混ざってんだよ。どういう神経してたらこんな化け物が出来上がるんだよ。

 

 俺もびっくりしたもん。転生して目を開いたらこいつがいて、

 

『初めましてだな!少年!!』

 

 とか言ってくるんだもん。ビビらねぇ方がおかしいわ。名言をその見た目で言われてもなんも嬉しくないんだけど。

 

 でもこんなんでも、このグラハムハムスターはあのクソ白髭神様が俺にもたらした転生人生を上手く進めるためのガイド役だ。

 

 あの神様やっぱ頭おかしかったんだよ。あと絶対俺の事恨んでんだよ。じゃないとこんなキメラ送ってこない。ただの善意でこれなんならあの神サイコパスかなんかだ。

 

『カヅキ!!授業に集中せんか!!』

 

「はいはいわかってますよ」

 

 ちっこい手をブンブン振りながら怒り始めたグラハムに俺はぞんざいな返事をしつつ、視線を窓から九十度右に回転。そろそろ聞いとかないとこいつが本気で騒ぎだしそうだから言うこと聞かないといけん。

 

 眼前では我らが担任が小さな画面の中で絶賛授業中。

 

 俺がいた時代とは全然違い、授業も全部タブレットでの映像授業。まぁ六十年も経ったらこうなってもおかしくないわな。技術の発展ってしゅごい。

 

 画面で先生が指示棒で指すホワイトボードには、足し算と引き算の説明がしっかり書かれており、先生はそれを真剣にわかりやすく説明してる。

 

 うん、暇だわ。

 

 だってまだ小学校低学年の教養授業だぞ?俺前世では一応中二までは普通に過ごしてたからね?聞かなくても全部答えれるし。

 

 それにあの先生の甘ったるい猫なで声が鬱陶しい。なーにがわかる人ーだ、仕事なんだと思うけど背筋に悪寒が走る。

 

『ふむ、今やっているのは初等の算数か。まさにこれは基本中の基本、これが出来ねば今後社会の荒波では生きてはいけん。気を引き締めて取りかかれ』

 

「気を締めなくてもわかるわ」

 

『さぁ、まずはあの女教師が書いた式から解くんだ。2-1だ。どれだけ難しくても諦める事は、この私が許さんぞ』

 

「あのグラハムさん?俺の事バカにしてます?」

 

 この式が難問になる中学二年ってどんな奴だよ。そいつはもう勉強が出来ないとかの次元じゃない。もっと根本的なとこに問題があると俺は思いますね。

 

 とりあえず担任がやれと言った問題を手早く解いて、端末を横にずらして居眠りの体勢へ移る。

 

 はっきり言って教師がこっちをしっかり見ていた前世の時と違い、今はそうやって監視してくる輩もいないので居眠りとかはし放題だ。本当に大丈夫なのかこの制度と思ってしまうけれど、俺以外の皆は誰一人寝ることなく真剣に問題に取り組んでるのでその心配は杞憂なんだろう。皆真面目だねぇ~

 

『また寝るつもりか、そうやって貴様はまた怠惰でいるつもりか?』

 

「やるべき事はやってるし。怠惰ってのは違うと思う」

 

『怠惰でないのなら、まずは体を起こせ!』

 

「痛い痛いっ!耳を引っ張るな耳を!!」

 

 どこにそんな力あるんだよと聞きたくなるパワーで俺の耳を千切らんばかりに引くグラハムへデコピン一発。ぐわっ!!という悲鳴と共にグラハムは転がっていった。

 

『拒絶するか、いいぞ。そうでなくてはやりがいがない。君の人生をより良い方向へ導くという、私の使命のな!!』

 

 そんなところで燃えないでください。

 

 現在このグラハムスター、長いからハム太郎でいいや。グラハムと他愛ない雑談と洒落こんでいる訳だが、それに周りがなにか言ってくる事はない。

 

 そう、このグラハム、俺以外には見ることも触ることも出来ないのだ。俺じゃない奴が触れようとしたら体をすり抜け、グラハムがなにかを持てば第三者からは物が勝手に浮いているように見えるのだ。

 

 分かりやすく言うと幽霊みたいな存在ということ。やだなーこんな幽霊。

 

 以下の理由から、今の俺は机にうつ伏せになりながらなにか独り言に興じる変な奴、という具合になってる。

 

 怪しい奴だな今よく考えると。

 

『君が暇なのも理解できる。しかし勉学というのは重要な事だ。またゼロからやってみることで新しい見解、見識な君の中で生まれるかもしれない。』

 

「うーん。例えば?」

 

『君がいた時代にはなかった物はどうだ?』

 

「あー、それは確かに」

 

 ここは完全に俺がいた場所とは違う世界だ。オタク風に言えば世界線が違う、とでも言うんだろうか。

 

 だから歴史の本とかを見てみても、俺が聞いたことないような事が過去に起こったりしてる。第三次世界大戦が起こったってのを知ったときはマジで度肝を抜かれたのをはっきり覚えてる。

 

 その差異というのは大きな事から小さな事まである。この違いを見つけるために、この勉強という事を一からするのは重要なのだというグラハムの意見は理解できる。

 

「けどやる気が起きないんだよ…………」

 

 そ、結局ここにたどり着く。

 

 重要性はしっかり理解してる。けど実際蓋を開けてみれば知ってることばっかりなんだ。この手の事は六十年程度では変わらないでしょ。知らんけどと思わざるを得ない。

 

『しかしだな…………先延ばしにし続けるにはあまりにもこの世界は━━━』

 

「なぁグラハム、今からフラッグ語りする?」

 

『いいだろう!私のフラッグファイターとしての知識を披露して見せようではないか!!』

 

 チョロい(ゲス顔)

 

 こいつは基本こう面倒臭い奴だけれど、こうやって自分の好物(exフラッグ、ガンダム等々)を吊るしてやればあっさり誘導出来る。

 

 もう既にグラハムは満面の笑みを浮かべながらフラッグについてつらりつらりと語り始めてる。それを聞くだけでもこのちょー暇な時間潰しにはなるんだ。

 

 さーて、授業の残り時間は大体20分ちょい。フラッグ関連で話してればあっさり終わるくらいだな。オタク談義と入りますか。

 

 そんな事を考えていた時、ツンツンと俺の肩を誰かがつついた。

 

 反応するようにそっちを見ると、俺の隣に座る女の子が迷惑そうに目を細めてこっちを見てくる。

 

「えっと…………なんすか?」

 

「市崎くん。うるさい」

 

 にべもなく、ばっさりと端的に隣の少女はそう言うやいなやすぐにぷいっと俺から視線を外して手元の端末から授業へ集中しちゃった。

 

『一人で騒ぐからだぞ、カヅキ』

 

「いやそれブーメラン」

 

 さっきまでフラッグについて語ってたのはテメーだろーがと言ってやりたかったが注意された手前また騒ぐ訳にもいかない。

 

 ので、再度端末を見ることになりました。

 

 数分経たずに夢の世界に旅立ちました。

 

 おもんないんだもん。仕方がないね。

 

 

 ━━━━

 

 昼食の時間。俺の中での小学校のこの時間と言えば、机と机をくっつけてなにか話しながら食べるのが俺の印象だ。実際そうだったし、俺はそれを経験してきた。

 

 けれど、今俺がいる学校ではそうはいかない。精密機器を大量に使うからだ。端末だのなんだのが机に置いてあるのに、そこで飯なんて食べてたら壊れるかもしれない訳だし。

 

 という訳で昼食は普通学校にある大きな食堂で食べる事となってる。ここでなにか頼むもよし、持ってきたお弁当を食すもよし。

 

 なので俺は両親が作ってくれた弁当を食堂で広げてる。

 

 一人で。

 

 おいコラそこ。空しいとか言うな。悲しくなるだろ。

 

 むっちゃ広い食堂の隅の方で、俺は一人で椅子に座って机に弁当を置いてるんだよ。対面に椅子はあるけどそこには誰も座ってない。いるのはグラハムだけ。どんな状況だよホントに。

 

『どうした?食べないのか?モグモグ…………』

 

「いやさ…………なんというかさ…………」

 

 声をかけてくるグラハムは弁当の卵焼きをむしゃむしゃと食べながらってなに勝手に食ってんだこいつ。

 

「こういう食事ってさ、もっと大人数で楽しくワイワイするもんじゃないの?ほら、あっこみたいにさ」

 

 俺が見る方向には、俺のクラスメイト達が集まってワイワイガヤガヤと楽しげに昼食をとっているのが目に入る。疎外感が半端じゃない。

 

「なんでこうなったんだろう…………」

 

『カヅキに友人と呼べる者がいないからだろう?』

 

「その原因は間接的にお前にあるんだけどな」

 

 俺に何も言わずにどんどん弁当に隙間を作ってくガイドさんへジト目を向け、深いため息を吐いた。

 

 考えてみよう。今は4月下旬。俺が入学したのが今月の上旬。期待を膨らませながら入学したらクラスの中に、なにもない所に向かってなんか喋ってる奴がいたら皆どう思うでしょーか?

 

 答えは簡単。

 

「なにあいつ?やベー奴じゃん。近づいたらやばそうだし避けとこ。」

 

 である。

 

 そうなりますね。うん、なんとなく察してた。でも聞いてよ、初ホームルームからギャンギャン喧しい見えない怪物ハムスターが俺の肩にいるんだぜ?無視しろって方が難しいでしょ。

 

 で、原因のハムスターはなに食わぬ顔で飯食ってるし。あーもう弁当半分ないじゃん。こいつマジで一回ぶっ殺してやろうかな真面目に。

 

『ふむ、友人がいないというのは少し問題だな。』

 

 俺にはお前が目下第一の問題だよ。

 

『カヅキが自分から周りに声をかけていくというのはどうだ?さっき君を注意した少女などな』

 

「あれはどう考えても注意されるべきはお前だっただろうが。」

 

『今重要なのはそこではない。それで、どうなんだ?』

 

 こいつ何事もなかったように流しやがった。後で覚えてろよ。

 

 でも隣のあの子か…………確か名前は……北山?だっけ?あの子俺苦手なんだよなぁ…………

 

 なんかずっーとむすっとした顔してるし、淡々としてるし、ちょっと怖い。席替えして初めてのお隣だったからなんとか声とかかけたけど、うんとかすんとかだけで終了。相手が返さないのでキャットボールにならんのだ。

 

 そんな北山さんもよく一緒にいる女の子がいるし。あの子はえっーと…………なんだっけな名前、なんか明るそうな名前だった気がするけど思い出せない。

 

 他のクラスメイトは俺の独り言(グラハムとの会話)を気味悪がって近寄ってこないし、俺は幽霊が見えてるとか噂すら流れ初めてるし。しかも他所のクラスにまで。

 

 間違っちゃない。間違っちゃないが見えるとしてもこんな幽霊はビビるビビらない以前に気持ちが悪い。誰かこの気持ちを共感できる奴が欲しい今日この頃。

 

 今のとこ飯を食べるのも一人だし、帰るのも一人だし、休み時間も一人だ…………グラハムを人として数えなければ。

 

 あれ?これってさ…………

 

「俺もう詰んでね?」

 

 うん。なんかそんな気がする。

 

 だって他のクラスの奴にまで変人として認知され初めてて、クラスメイトからは煙たがられてて。これもう俺友人とか作れないんじゃない?

 

 ヤバい。それはマジでヤバい。このまま六年間過ごすのは俺の精神的なダメージが大きすぎる。小学校から既にボッチスタートとか洒落にならないから。俺はあの千葉のボッチのように強くもなければ処世術もない。

 

 てことはダメじゃん。もうチェックメイトじゃん。ボッチの学校生活スタートなの?友人なしの?寂しい学校生活が?嘘だ…………嘘だと言ってよバーニィ!!

 

「あぁぁぁ…………どうしよ…………どうにかしないと色々と終わっちまう…………」

 

 ガックリと倒れ項垂れるようなぼやきを告げると、グラハムはちらっと大人数で集まるクラスメイトの集団の方向を見たかと思うと、

 

『カヅキ、ここは私が手を貸そう』

 

 まさかの救援宣言を下した。

 

「えっ?まじで!?」

 

『ああ、私は君を導く義務がある。君と私は運命共同体だ。であれば、助けるのは道理というものだろう?』

 

 すげぇ…………今この瞬間だけ、グラハムがむっちゃ心強く感じる!!この男からはなんだってやってのけて見せそうな、凄みがある!!

 

「でもどうするんだ?」

 

『簡単だ。あれをやる。頭を下げてくれ』

 

 グラハムがそう言った瞬間、俺の顔が喜びから不安の青色に染め変わった。

 

「嫌だ!それだけは俺嫌だぞ!!」

 

『諦めろカヅキ!私ならどうとでも上手くやって見せる!!君はいいのか!このまま虚しく一人で居続ける六年間になるとしても!?』

 

「それも嫌だ!けどそれを止めるための過程も嫌だ!!断固辞退する!!」

 

『それは私のセリフだっ!!』

 

 グラハムのやらんとしてることを理解したからこそ、俺は拒否の意を込めてブンブンも首を横に振りまくる。

 

 これだけは勘弁してください!あれはマジで気持ち悪くなるから!!

 

 あっ!おい!その仕方ないかみたいな顔をやめろ!!強行手段に出ようとするな!!

 

『問答無用!!これもすべて、カヅキ、君を思っての事なのだ。許せ!!』

 

 うおおおおおっという力強い叫びと共に四足で助走をつけたグラハムは四肢を曲げ、そのまま大きく飛び上がった。止めようとする俺の手を巧みに体を動かしすり抜け、体を丸め俺へと肉薄し、

 

 ペタッと俺の頭の上に大の字でダイブした。

 

 途端、俺の体に電流走る。

 

 比喩のように聞こえるが、体感本気で電流流されてる気分。視界がフラッシュして明滅してなんだかよくわからなくなってあばばばばばばばばば!!!

 

 そして視界に一際強い光りが入り、体を走る電流が強まったと思った次の瞬間!

 

『うぼぉ!?』

 

 まるで吹き飛ばされたように、俺の体が後ろに飛んだ。一気に反転する視界。それをどうにか前に戻すと、そこにはなんと、

 

 俺がいた。

 

 頭上のグラハムの顔は白目になっており、代わりに俺の目の前にいる俺はいつもの俺がしないような笑みを見せながら、

 

「どうやら、今回も無事に上手く言ったようだな」

 

 グラハム口調で俺に話しかけてきた。

 

 これが、神の使いとなってるグラハムが出来る技術。憑依。導かれる人、俺の体を借り一時的にグラハムの意識を俺の体にリンクさせるというもの。俺の体をグラハムに貸している形だ。体を貸してる間、俺が逆に浮遊霊のような存在になってしまう。この間は俺(本体の精神)は他者からは見えないのだ。

 

『お前力付くでこれをやるのはやめろって何度もいってるだろ!?元の体に戻るとき反動かなんか知らんけど気分悪くなるんだぞ!?』

 

「今回は友人が出来る必要経費だと思ってくれ。」

 

 いつもの芝居がかった口調を俺の体でやるからなおのこと違和感が凄い。というか頭のグラハムの本体白目向いてんだけど。本体不在でもぬけの殻だからか?どっちにしろ変人感が凄い。顔の上に顔を置いたゆっくりみたい。

 

『んで?これをしたからには良い案があるんだよな?』

 

「無論だ。この私が信じられないのか?カヅキ」

 

 50%50%(ヒフティヒフティ)ってとこですね。日頃の行いで考えてください。

 

「善は急げだ。この状態を維持するのは時間制限がある。手早く終わらせるとしよう」

 

 すっと椅子を後ろに下げ、グラハムはそのまま迷いなく談笑してるクラスメイトの集まりへと歩を進める。

 

 本当に大丈夫なんだろうか?今からでも遅くないから、無理矢理にでも体の主導権を引っ張り戻すか?

 

 いや、待て。グラハムはこれでも人格者だ。だからこそ原作であれだけの優秀な部下達が彼のもとに集まったんだ。

 

 今回は、その彼の人としてのカリスマにかけるべきかもしれない。

 

 そうだ、忘れていたが彼はグラハム・エーカー。不安なときこそあれど、彼は決めるときは決める男だ。原作の中でもそうだったじゃないか!!

 

 なら、俺は信じる。実直で芯の強い、グラハム・エーカーという男を!

 

「失礼」

 

「「「えっ…………」」」

 

 会話に花を咲かせていたクラスメイト達は、俺(中身グラハム)が入って来た瞬間、まるでお通夜の時のように静かになった。

 

 そんな急に?さっきまでお祭り騒ぎだったじゃん。そんなに俺が嫌か?そうなのか、泣きそう。

 

 だが、それを変えるためにグラハムは行ってくれたんだ。頼むグラハム!!すべてはお前に懸かっている!!

 

「えっと…………市崎?なんだよいきなり」

 

「失礼と言った」

 

 一人の疑問をばっさりと切る。グラハムが陣取ったのは大人数が座る長テーブルの誕生日席。注目が集まりやすい席に異物が入り込んだためか、全員の視線が今グラハムの元へ収束していく。

 

 少しの沈黙が流れる。その間、グラハムは両の手を噛み合わせ、そこに顎を乗せてる。碇ゲン○ウポーズだ。なんだか無性に後ろに立ちたくなってくるポーズだ。

 

「私は…………」

 

 長い長い沈黙を破り、グラハムは遂に口を開く。漂う謎の緊張感から固唾を飲んでる同級生達、そしてグラハムは言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美少年を、こよなく愛している」

 

「「「…………は?」」」

 

 ………………は???

 

「私は美少年が嫌がりながらも、私に屈服していく状況を好むのだ。より強く、より反抗的ならばなおよし。それでこそ!それでこそ我が心は燃え上がるというもの!!」

 

 ぐっと握りこぶしを作り、真剣な表情、眼差しで、

 

 こいつは唐突に自分の性癖を暴露しやがった。それも皮は俺で。

 

 完全に全員がポカンとした顔でグラハムを見てる。外面俺だから実質は俺が見られてる。

 

 そうか…………そうだった…………

 

 カッコいいとか、人格者だとか、そんな事よりもまず。

 

 こいつは公式認定重症ホモだというのを完璧に忘れてたわ。

 

「以上だ。ご清聴感謝する」

 

 唖然とするクラスメイト達を無視し、グラハムは悠然と立ち上がって元々座っていた席へと戻り腰を下ろす。

 

 それと同時に、俺の精神が俺の体へと吸い寄せられ、気がついた頃には自分の体は自分の自由が効くようになっており、机の上でグラハムハムスターが堂々と胸を広げて立ってる。

 

『ふっ、上出来だろう。友人を作りたければまずは自分の事を明かすことが重要だ。だからこそ、私が己が内の欲を見せたのだ。これで私たちは人となる第一歩を踏み出せたと言ってもいいだろう』

 

 …………あー。うん…………

 

 とりあえず、まぁ…………

 

 

「なんて事してくれたんじゃこのクソキメラがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

「な、何故だぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 食堂の中に、悲しすぎる俺の慟哭が鳴り響いてった。最後の最後まで、グラハムは何故俺がここまでキレたかを理解する事はなかった。

 

 後日、あのグラハムの一件が俺の全力のギャグだと思われ、俺のクラスメイトからのあだ名が『変人ホモ』となり、弄られキャラとしてクラスに、そして学校に定着しなんだかんだで友人が出来る事となった。

 

 解せぬ…………

 

 

 

 

 

 

 




グラハムが何でもありになってるって?

挟まれて潰されて死なないんだからこれくらいするでしょ?(諦め)


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休みの日だぞ!少年!!


とっとこ~走るよ(グラ)ハム太郎~♪

だ~いすきなのは~♪

フラッグと!

美少年である!!

というお話です。

頭がいかれてそうですが、作者の頭は正常です(当社比)


「へ?留守番?」

 

 グラハム目覚まし(生き物です)による強烈な朝のスタートを切り、いつもの如く死んだような顔つきで朝食を貪っているなか、母さんがそう俺に切り出してきた。

 

「そうなの。今日自治会の集まりがあってね、一日中そっちに私顔出さなきゃいけないのよ。お父さんも仕事でいないから、留守番お願いね?」

 

 ほう、留守番か。

 

 授業を端末での映像授業で済ます時代に会合は行かなきゃいけないのかとか、未だに自治会というシステムが生きてるのかとか多々疑問点が浮かんだけれど一番はやっぱり…………

 

 一人でグータラしてられるぜひゃっほい!!

 

 今日は土曜日で学校も休み。学校ではホモだの不思議君だの謂れのない弄りで色々疲れてるんだ。そんな中でのこの休みとは、神も俺をまだ見捨ててなかっ━━いやおれそいつに殺されてんじゃん。前言撤回だわ。

 

 父さんも母さんもいないのであれば、何をやっても咎める者はいなくなるわけだ!ふぉー自由の身サイコー!!

 

「わかった。」

 

 なので迷いなく了承する。当たり前だよな?何して過ごそうかなー買ってもらって積んでたガンプラでも作ってようかな?それとも前買ったゲームを一気に進めるってのもありだな?

 

 鞄を持って準備を終えた母さんはすぐに家を出、この少し広めの家には俺しかいなくなった。それを確認するやいなや、俺は横にポテチ置いて~コーラを置いて~。まるで干妹人のような完全セットを用意。

 

 あとはこれを部屋に運んで、最高の一日を過ごせばいいだけ。家事?料理ならお湯を沸かしてればなんとかなるなる。

 

 さぁ今から始まる愉悦な時間。気分を上げて扉を蹴り開け、バンっという大きな音が始まりを告げるのだっ!!

 

『カヅキ!少年の人形をねーぷねぷしていたら腕が取れてしまったぞ!?非常事態だ!すぐに手を貸してくれ!!』

 

 なにやってんのお前。

 

 朝俺を起こしてから静かだなーと思ってたら、俺の部屋で刹那のフィギュアをねぷねぷしてたってか。

 

 キモいわこのホモ野郎(ド直球)

 

 ねーぷねぷするなよフィギュアを。

 

「てか腕が取れるって一体何をしてたんだよ」

 

「無論、ナニをしていたに決まっているだろう」

 

「意味深にカタカナ表記にしないでください」

 

 上がった気分全部グラハムに叩き落とされてしまうという出落ちを食らったが、こんなことを気にしてはいけない。気にし続けたら俺の精神が擦りきれて死ぬ。擦りきれて死ぬ(重要なので二回)

 

 てか最近そのフィギュアなんかボロボロなってんなと思ったら原因お前だったのかよ。なにキモいオタクが美少女のフィギュアに対してしそうな事してんだよ。よくこんな奴に部下ついてきてたなと心底思うわ。

 

「で、腕とれたって?これ根っこからボキッて逝ってんじゃん。フィギュアがこんな壊れ方するとか見たことねぇよ。ウルトラマン人形とは訳も用途も違うんだぞ?」

 

『愛でるだけでは、私の心は満たされないのだよ』

 

「満たす満たされない関係なく堪えてくれない?お願いだから。」

 

 そんな獣のように本能の赴くままになるな。どうにか理性というブレーキをきっちり踏みしめて人生?を歩んでください。

 

 しっかしこりゃもうどうにもなんねぇわ。残念だけど、ゴミとして捨てるしかないか。折れた刹那フィギュアの腕と本体を持つと、俺は部屋の端の勉強机の下に置かれてるゴミ箱へポイっと投げ捨てた。

 

『少年~!!カヅキ!君はなんたる外道な行いを!?』

 

「いやあれは直せないって。もう完全に折れちゃってるから」

 

『のりでもなんでもくっつければいい話だろう!?』

 

「すぐポロって取れるのが関の山だよ。諦めろグラハム」

 

 クソっ!!と本気で悔しがるグラハム。どんだけ刹那に愛を捧げてるんだこの人。そろそろガチでドン引きしそうだ。さっきも言ったけど本当にこれでオーバーフラッグス隊長なんだよなぁ…………世界ってわかんないよね。俺もわかんないわ。

 

『少年…………君の意思は忘れはしない。カヅキ!再度彼を手に入れに向かうぞ!!あの機械の腕で目標を捕らえるあれだ!!』

 

「UFOキャッチャーな。嫌だよあれ金むっちゃ取られるし」

 

『なんと!?あの時は君はすぐに快く了承してくれたではないか!!』

 

「してねぇよ」

 

 お前が俺がたまたま入ったゲームセンターで刹那のフィギュアを見つけて、勝手に暴走して俺の体を乗っ取って金注ぎまくってゲットしただけだろーが。事実を曲解するんじゃねぇ。

 

 あれのせいでその月金欠になったんだから。小遣いの3分の2もつぎ込むなっての。引き際を考えろ引き際を。

 

「大体今日は出掛けられないぞ。母さんもいないし」

 

『む?母はどこへ?』

 

「自治会の会合だって。一日かかるらしい」

 

『ああそれは今日だったのか。右隣の通りの範馬という筋肉質の男と、サングラスをかけた平和島という男がそんな話をしていたのを覚えている』

 

「まって?ご近所の話だよね?なんか人外の代表みたいな名字と特徴を持つ人が頭に過ったんだけど」

 

 自販機投げたりじゃんけんでチョキでグーに勝ちそうな人達だよねそれ?てかお前どこでその人達の情報仕入れたんだよ。俺よりご近所の事知ってるんじゃない?

 

「まぁそう言うことで俺は留守番頼まれてんの。だから外出はなしだ。」

 

『うむ…………ならば何をするつもりだ?』

 

「色々あるぞ。ガンプラ組んだりゲームしたり…………ポテチとコーラを堪能しながらな。」

 

 堂々と語りつつ、俺はガンプラを組み立てる準備を開始。グラハムが推すせいで、俺のガンプラ置き場にゃフラッグが三種類くらいポージングして置かれてる。それもすべて機種が違う。

 

 フラッグは作り飽きたしなににするか…………ここまで来たらダブルオー関係の機体を作りたい。だったらちょうどサバーニャを買ったとこだしそれにするか。

 

 サバーニャ。ホントにカッコいいよね。全身に搭載されたホルスタービットとライフルビット。二丁のライフルとその全身の武装から放たれるビームによるELSの一掃シーンはもう凄かった。なんというか、うん凄かった(ボキャ貧)

 

 ああいう全身武装とかのタイプの機体は大体俺の好みどストレートだ。○○最終決戦仕様とか、フルアーマーとかいう類いが好きなのはロマンを追い求める男児であれば通る道だから仕方ない。同士はきっとたくさんいるはず。

 

 さて、じゃ作りますかと。ニッパーニッパー…………ん?

 

 行方不明のニッパーを探していると、俺の机にドンっと大きめの箱が置かれた。表紙に描かれているのは青色を貴重としたブレイブ指揮官専用機。

 

『カヅキ!私はこれの製造を所望する!!』

 

「すっげぇさっきの俺の独白聞かしてやりてぇよお前に」

 

 誰が好き好んでフラッグ、オーバーフラッグ、オーバーフラッグカスタム作って最終型のブレイブまで連チャンで作らなきゃならんのだ!!俺はそこまでのフラッグおたくじゃねぇ!!

 

 フラッグは嫌いじゃないけど俺の好きなのはこう重々しく色んな射撃武装が乗ってるやつなの!!フラッグなんて見てみろ!!追加武装つけたらあの刹那フィギュアみたく折れそうな見た目だぞ?

 

 だから俺は今日はサバーニャを作る。誰がなんと言おうと作る(強固な意志)

 

「グラハム、却下です。今日は絶対にこっちを作る」

 

『なに!?気でも狂ったのかカヅキ!!これを作り、そして一般型のブレイブを作りさえすればフラッグシリーズは揃うのだぞ!?』

 

「なにがさえすればだ!ガンプラ一個真剣に作るのにどんだけ集中力がいると思ってんだ!そんな簡単にホイホイ二つも連続で作れるか!!」

 

『君も知ってるだろう!私は我慢弱く、落ち着きのない男なのだと。」

 

「知ってるよ!!非常によく知ってるよ!!我慢をも少ししれお前は!!もうここ最近フラッグ関連しか作ってないんだよ!!本命はガンダムなんだよ!!ガンダムを作らせてくれよ!!」

 

『なら少年のあのガンダムを!!』

 

「今日はこっちを作るんだよ!!異論は聞かんし認めん!!」

 

『ぬぅ!!頭の硬い男だっ!!』

 

 おめーにだけは言われたかねぇよこのハムスターが。

 

 かしましい喧嘩が一段落した頃にはニッパーが俺の手に舞い戻っており、やっと作業が初められるというところであった。

 

 まずは箱オープン!なんだかんだガンプラ組み始める時ってこの瞬間が楽しいんだよね。この一つ一つから表紙のかっくいい機体が出来上がるんだと考えると、正直わくわくが止まらない。

 

『カヅキ』

 

「んあ?なんだ?」

 

『時間潰しにラジオをつけてはくれないか?少年の人形もない今、君もそちらに没頭するのであれば私も暇を持て余すのでな』

 

 こいつの中での刹那フィギュアねぷねぷの占める大きさ半端じゃねぇぞ。それないだけでやることなくなるってどんだけあれに固執してたんだこいつは…………

 

 けどそれを断る理由もないし、俺も静かな部屋で黙々と何かをやり続けられるほど凄い集中力もないから、ラジオ聞きながら程度が丁度いいだろう。

 

 本棚の上に置かれた小さなラジオの電源を入れ、カチカチとボタンを押しながらチャンネルを合わせる。するとラジオのスピーカーから、快活そうな女性の声が流れて来た。

 

「これでいいか?」

 

『ああ、感謝する』

 

 グラハムも満足感したのか、俺が買った漫画を背もたれにしてゆったりし始めた。なら俺も、こっちに集中しますか。

 

 ランナーが入った袋を破り、取り扱い説明書を読みつつ広げたランナーを上手く組めるように整理し並べかえていく。この作業が結構重要で、これをしないと次の工程に上手く進めなくなるのだ。

 

 このせいでイライラのは結構よくある話。でも俺の場合並べたランナーを時折乱入してくるグラハムにぐちゃぐちゃにされる方が腹立つけど。残念ながらこちらは誰とも共有できない。ちくしょう。

 

『もうそろそろ春も終わり、夏の季節の訪れを感じさせる今日この頃ですが、新入生や新社会人の人達はクラスや職場に慣れ始めた頃合いだと思われます。新しい生活は、皆さんどのようなものですか?』

 

 そうですね、相棒(笑)のせいで初手から変人扱い。加えて相棒(笑)の謎すぎる性癖暴露のせいでホモ扱いを受け弄られてます。こんな小学生活悲しすぎんか?

 

 最近の小学生はホモネタも知ってるんだね。何人かがやりますねぇ!とか言い始めた頃には俺はもう悲しくなったよ。ネットの普及が変なとこに弊害を出し始めてる気がする…………

 

『さて!徐々に暑くなってくるなか、熱くなってくるといえば今年もこの話題がそろそろ盛り上がってくる頃合いですね!』

 

 ギャグのつもりで言ってるんだろうか?だとしたら駄々滑りしてるって自覚はこのアナウンサーにはあるだろうか?唐突に親父ギャグ入れてくるやんこの人。ほら、グラハムもなんか困惑してんのか眉がへの時になっちゃてんよ。

 

『魔法師の卵同士の熱い熱いぶつかり合い、九校戦!全国に九つある国立魔法大学付属の高校から選りすぐりの選手達が凌ぎを削る毎年人気のこの行事!今年は一体どんな戦いを見ることが出来るんでしょう?私も楽しみです!!』

 

 九校戦というワードを聞いて、もうそんな時期かと時の流れの速さに少し驚いた。

 

『九校戦か…………あれは見ていて確かに面白いな。私の世界にも君の世界にも、魔法と呼ばれる存在はなかったからな。』

 

「俺としては魔法なんかよりも不思議な現象が今絶賛俺の後ろで起こってるからな。感覚麻痺ってるわ」

 

 グラハムが感慨深く、俺がテキトーに流すように口にした言葉、魔法。それは俺がいた世界とこの世界の大きな違いを証明する物であった。

 

 魔法。おとぎ話で出てくるような物は、この世界では鉄の製造方法とかと同じような扱いで現実の技術として体現している。

 

 それが初めて確認されたのは、こちらの世界で1999年に起きたもう一つの大きな差異点である第三次世界大戦でだ。

 

 人類滅亡予言って言ったあと実行したら予言合ってたあいつらスゲー!って言われんじゃね?とかいう見るからに頭おかしい理由で核兵器を使ったテロを特殊な力、いわゆる超能力を持った警察官が防いだのが始まりらしい。

 

 戦争中であったためか、この超能力を色んな国がスポットを当て始める。するとゆっくりと魔法を伝えてきた人達が出てきたのだ。

 

 それにより研究が進んで、特殊な力である『超能力』を一般の人間にも使えるようにしたものが『魔法』なのである。

 

 で、その魔法を使う人の事を魔法師と呼び、世界各国はこの核兵器すら止めうる魔法師の育成に全力をかけている。って昨日N○Kのドキュメンタリーでやってた。

 

 けどやっぱ魔法があるって凄いよな。生で見たことはないけどなんか火をドバーって派手に出したり、氷をガッシャンガッシャン出したり出来るらしい。効果音ばっかりなのは見たことないからであって、決して俺の語彙力が貧弱な訳ではない。

 

『魔法…………か。カヅキは魔法が使えるのか?』

 

「知らん。使ってみたいとは思うけど、あれって才能が関わってくるんだろ?俺って才能って奴に嫌われてるから魔法が使える事はまずないと思う」

 

 そう、魔法が一般人に使えるように研究された物であるとは言ったものの、やはり使うには資格、才能が必要らしい。

 

 詳しい事とかの説明もドキュメンタリーでやってたけどなんか複雑すぎて理解できんかった。なんかサイオン?とかいうよくわからん奴を感じるとか出来ないと無理とかなんとか。

 

 ま、そんなの関係ないですけどね!(ライド風に)

 

 だってあれですし?魔法師って危ない戦闘とかしないといけないんでしょ?(偏見)それに超実力主義で、弱きものは死ねぇい!ってされるんでしょ?(無知)成長するかどうかも才能しだいらしいし?そんなやべーとこに飛び込む勇気なんてナイナイ(ヾノ・∀・`)

 

 でも万が一、億が一魔法が使えるのなら…………

 

 絶対モテるよね。うん絶対モテる。

 

 魔法師ってだけで皆からわーすげー!!て言われるんだからさ、モテるでしょ。知らんけど。

 

 それに魔法だったらガンダムでのあれこれとかが再現出来るかもじゃん?クアッドキャノンとか、月光蝶とか。月光蝶出来たらやべーな。全部砂に変えちゃうじゃん。

 

『っ!カヅキ』

 

 ファンネルとかも出来るもんなんかね?物を移動するとかくらいなら魔法でなんとでもなりそうだから出来そうな気がするし、クールに大多数を一人で相手とかやってのけてみたいわー。

 

『カヅキ、聞こえているか?カヅキ?』

 

 見える、見えるぞ。襲われそうになってる可愛い女子、そこへ颯爽と助けに入る魔法を使う俺。襲いかかる輩を千切っては投げ、千切っては投げで一掃して可愛い(絶対必要)女子に優しく手を差しのべる。

 

 これは惚れるね!俺のリア充生活がスタートだ!!魔法師って最高かもしれないなぁーあはははは!!

 

『カヅキ!!』

 

「なんだようるさいな。どした?」

 

『いや…………気にしていないならいいのだが。』

 

 唐突に俺を呼んできたグラハムは、小さい指で俺の手元を指差した。そこには俺が切ってる最中のランナーがあって、

 

 接続部分がきれいに切られたパーツの一つがあった。

 

「…………」

 

『…………』

 

 …………オーケーオーケー。焦らずにまず状況把握しようか。手元でパーツがあって、それは他の部分と繋げる部分がガッツリ切れてなくなってる。

 

 まぁでも?こういうのってミスってもなんとかなることはよくあることだし?だから今回も問題よね?そう思って組み立て説明書を震える手で読む。

 

 しかし現実は残酷である。

 

 あれ?もしかしてこれ…………胴と腕をくっつける部分?予備パーツもない?

 

「…………」

 

『何か注意が散漫になり、手元をよく見ていないように見えたので注意しようと思ったのだが…………』

 

 グラハムさんは優しいね…………その優しさが心に染みるよ…………

 

 けど、まぁ、うん。

 

「やらかしだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 くっだらねぇ妄想のせいでサバーニャの腕死んだ事には変わりないけどね!!

 

 最悪だぁ…………

 

 哀れむような視線を送るグラハムと、絶望に打ち菱がれる俺。そんな中でも空気を読まずに陽気な音声を流し続けるラジオ。

 

 カオスな空間が、そこには出来上がってしまった。

 

 休日は、まだ始まったばかりである。

 

 始まったばかりなんだよなぁ(涙目)

 

 





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嬉しいですね!!


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これはまずいぞ!少年!!


※この世界のゲーム機は現代のゲーム機の流行と流れが同じです。

そのため、2020年よりもあとなのにSwitchが最新なのです。この世界線はゲーム機の発展が遅れたのだ。

発展が、遅れたのです。

なので突っ込まないでくだちい。




 結局、俺作のサバーニャガンダムの腕を繋げることは叶わなかった。必死にどうにか直せないかと考えましたが無理でした。

 

「はぁ…………休みの日の初手からめんどーな事になったもんだよまったく…………」

 

『あれは君が集中を切らしなにか別の事を考えていたのが悪いのだろう?ならばこれは、君の責任だ』

 

「うっ…………わかってるっての」

 

 的確に正論を嫌なとこに突いてきやがるこいつ…………人形ねぷねぷする変態野郎の癖に。

 

 悲しきサバーニャの姿に心を打たれつつも、これもこれで戦闘でボロボロになってた劇場版終盤の状況を表してると思えば悪くなく見える。…………終盤で片腕以外無傷ってことになるなこれじゃ。後で少し傷とかうまい具合につけとこ。

 

「しっかし、やっぱこういうのは疲れるわ。」

 

『破損後もどうにかしようと大分集中していたようだしな。時計を見てみろ』

 

 グラハムに促されるがまま備え付けの時計を見てみると、時計の短い針が一の数字を指していた。俺が始めたのが十時頃だったから、三時間くらいやり込んでたわけか。好きな事をやってると時間が流れるのは早いもんだ。嫌なこともこれくらい早く流れればいいのに…………

 

「ポテチとか食ってたし腹も減ってないな。グラハムは」

 

『私もカヅキのポテチを途中もらっている。そこまで空腹という事はない。』

 

「だよな…………」

 

 もう昼飯時なのだが、俺もグラハムも完全に朝からポテチとコーラというグータラセットを口にしてたためか、まったくと言って良いほど腹が減ってない。むしろ謎の満腹感すらある。

 

 昼飯はもうなしでいいか。準備も面倒くさいし。ガンプラ作る気力ももうないし、ゲームでもすっか。

 

「グラハム。今暇だよな?」

 

『見ればわかるだろう?』

 

「ならスマブラするぞスマブラ」

 

『ふっ…………いいだろう。その勝負受けさせてもらう!!』

 

 グラハムの了承を受け、棚からコントローラーを二個取り出す。Switchだと思ったか?残念だったな、取り出すはWiiのリモコンだよ。

 

 あのね?俺だってSwitchであの綺麗な映像のなかやりたいのよ。けどそんな金ないの。Switchだけでいくらすると思ってんだよ、二万ちょいだぞ?小学一年に買えるもんじゃない。父さんにねだればなんとかなるかもだけど、父さん仕事でほとんど家にいないからなぁ…………

 

『そういえば、なんだが』

 

 Wiiの電源を入れ、テレビの入力切り替えを行ってるとグラハムはそう切り出してきた。

 

『君の父は、一体なんの仕事をしているんだ?』

 

「へ?えーっと…………なにしてるんだろ」

 

 そういえば、俺父さんがなんの仕事をしてるのか知らんわ。もうこっちの世界にやって来て6、7年経ったけどそれを父さんにも母さんにも聞いたことなかったな。

 

 俺の父さんは前述の通り、仕事が忙しいのか家に帰ってくる事があまりない。最近なら俺が入学の時に顔を出したくらいだな。

 

 けれど決して仕事を最優先にしてて家族の事をほったらかしてるとかそういう訳じゃない。時たまに帰って来た時には仕事で疲れてるだろうに、俺に気さくに話してくれたり相手してくれたりしてる。

 

「父さんからもそういう話はしないし、もしかしたら仕事の話とかを家ではしないタイプなんじゃない?」

 

『なるほど。公私をしっかり分けているということか。それなら納得が行くな。しかしそこをしっかり分けられるとは、なかなか出来ない事だ』

 

「ねー俺もほんとに思うわ」

 

 だって絶対愚痴とかあるじゃん。仕事の中だったら苛立ちとかさ。父さんは家に居るときはまったくと言って良いほどそれを見せないんだよ。いっつもにこやかで、俺も母さんも自然に笑顔が漏れるような人だ。

 

 すげぇよ…………父さんは。俺もあんな父親になりたい。まず彼女が出来るかが怪しいけど、そこは出来るんだよ。きっと、多分。

 

 さて思考をテレビ画面に切り替えると、ちょうど映ってるのはキャラ選択場面。まぁ使うのは鎧来たビーム撃つ人一択。

 

 グラハムって絶対剣使うインファイト系のキャラ使うから、引きながら撃ってりゃ勝てるんだよねー。あと最後の切り札が極太ビームなのが好印象。青色だからサテライトキャノンっぽいから"月が見えたっ!!"って言うのは日常茶飯事。

 

 え?体ハムスターなのにグラハムはどうやってリモコン操作するのかって?リモコンに体乗せて体全身動かしてやってるよ。

 

 俺だって最初はびっくりしたけどさ…………なんかグラハムだから、これくらいはやるかなって(洗脳済み)

 

「んじゃやるか。ぶっ潰してやる!」

 

『いざ尋常に、勝負!!』

 

 日頃の鬱憤、ここで晴らさずしていつ晴らす!ホモ呼びにされた事やその他諸々の苛立ち全部ぶつけてぶっ倒してやんよいっひひひひ!!

 

 と、そんな時だった。

 

 トゥルルルル、トゥルルルル。

 

『「ん?」』

 

 別に急にドッピオの物真似がやりたくなったとかじゃない。居間にある固定電話から呼び出し音が聞こえてきてるんだ。

 

 ゲーム画面は今端っこで丸にクロス字入ったのがくるくる回ってる。もう今からゲームが始まるって感じだけど、電話が鳴ってる以上そっちを無視するわけにもいかない。

 

 と、いうわけで、

 

「ゲームは一旦後で。先に電話に出るぞ」

 

『了解した』

 

 俺の声かけにすぐ了承したグラハムはそこから飛び上がり、俺の右肩に着地。なんだかポケモン乗せてる気分になってくるけれど忘れてはいけない。乗っているのは朝から自分の推しの美少年のフィギュアをねぷねぷするホモハムスターだ。やべ想像したら吐き気してきた。

 

 自分の部屋を出てそのままリビングへ直行。そしてすぐさま固定電話を素早く取り耳に当てると、そこから聞こえてきたのは聞きなれた声だった。

 

『あっ香月?私私、お母さん』

 

「開口一番が詐欺の模範みたいな挨拶なのは突っ込むべきなの?」

 

 もうオレオレ詐欺じゃん。ここまで世間一般で知られるオレオレ詐欺挨拶をかましてくるとは、右肩の怪物と何年も過ごしてきた猛者の俺でさえびっくりです。

 

「んで、どうしたの?会合は今日一日中なんじゃなかったっけ?」

 

『そうなんだけど、なんだかんだで早く終わったの。皆意外に呆気なかったの。二、三秒でけりがついたし』

 

「え会合の話だよね?なんだかそれだけ聞くと凄い不穏なように聞こえてくるんですけど。」

 

『やだわーそんな事ないじゃない?あっちょっと待って』

 

『市崎の姉御…………俺はまだ戦えますぜ』

 

『そうだよ。まだこっちも完全にやられたわけじゃない』

 

『今ちょっと息子と電話中なの。だからちょっと静かにしてなさい』

 

ドガッ!!バキッ!!ボゴッ!!

 

 この電話の奥で何が起きてるんだ…………(震え声)

 

 もう明らかにただの自治会の会合じゃ説明出来ない音と単語が聞こえてんのよ。なに戦えるって?なにこの爆音?あっちで天下一武闘会でもやってるん?

 

『あっごめんね。ちょっとやんちゃな子がいたから注意してたの。平和島君も範馬君ももう少し落ち着いてくれたらいいのに。若いっていいわね』

 

 その二人なの!?相手してたのはその二人だったの!?ちょっとやんちゃの振れ幅絶対おかしいよそれ!?母さんその二人あっさり黙らせたとか何者?怖いぃ…………

 

『話を戻して。だからもう帰るわ。お留守番ありがとうね。それじゃ切るわね』

 

「あっハイ…………うん」

 

 なんかもうどうしていいかわからんので淡白な返事しか出来んよ。ここの自治会って…………きっとあれだ、拳で語り合う感じなんだよ。機動武闘伝な感じなんだな。あははは…………(現実逃避)

 

 ツーツーという虚しい音が耳に入ったので、俺は力なく受話器を元の場所に置いた。

 

『母はなんと?』

 

「会合が早く終わったから、もうすぐ帰ってくるってさ」

 

『そうか。此度はそこまで猛者はいなかったという事か。さすが母殿だな』

 

 お前は誰目線なの?えっなんか知ってんの?この地域そんなバイオレンスな所なのやっぱ。やべぇとこに生まれ落ちてしまったのかもしれないな俺は…………

 

「それじゃ戻るか。」

 

『うむ!!』

 

 電話も終わったのでここにいる用はない。ずっとポーズ状態のスマブラが俺達を待っているんだ。すぐに行かねばスマブラが可哀想だ(意味不明)

 

 そして俺は踵を返す。が、そこで俺の肘が何かにぶつかった。

 

「ん?ってうおっ!?」

 

 肘の違和感にそちらを向くと、何かが俺の足元に落ちてきた。

 

『カヅキ、一体どうしたというのだ』

 

「いやなんか落としたっぽい…………段ボール?こんなのあったか?」

 

 足元に転がってるのはなんだか埃を被った段ボール箱。上を見てみると、俺の頭上の棚の一部分がすっぽりこの段ボール箱一個入るくらいに空いてる。

 

 俺の肩があの棚を支える柱に当たって棚が揺れて、んでこの段ボールが落ちてきたってことか。この程度の衝撃で落ちるってあの棚大丈夫か?

 

「どうしよこれ。あそこまでは届かないし…………お?」

 

 少し考えていると、段ボール箱の蓋がすっと開く。その中にはなんだか色んな物がごちゃごちゃと入り乱れていた。

 

 大きな拳銃や小振りな拳銃、変わった形のタブレットとか腕輪、ブレスレットなんかまで。拳銃とは言ったけれど、明らかに弾丸を発射したりするような感じじゃないみたいだ。

 

「えっ?なにこれ?」

 

『これは一体…………統一性もないようだな』

 

 そう、グラハムの言うとおりこの段ボールに入ってるこれらはまったく共通性がない。というかなんなのこれ。この拳銃とかマジでわからん。

 

「結構デカイんだな」

 

『おいカヅキ!むやみやたらに触るな。これがどういう物かもわからないんだぞ!?』

 

「大丈夫だって~ちょっとくらい」

 

 段ボールの中の拳銃を手にとって調べる俺に小言を言ってくるグラハムを軽い感じで聞き流す。だってずっと棚のとこで眠ってたやつだぜ?ちょっとやそっと触ったって問題ないって。問題あったら家に置いてないっての。

 

 しっかしなんじゃこれ?映画とかで大人が持つくらいのサイズの銃だぞ。演劇の小道具かなんかかな?だとしたら納得いくんだけど。もしかして父さんってそういう演劇関連の仕事とか?

 

 だとしたらこんなのがうちにあるのもわかる。父さんが小道具関連の作成とかならなおのことだ。

 

 なーんだそういうことか~。俺のキレッキレッの名推理でわかってしまったわ~。俺の頭のよさが自分でも恐ろしく感じちゃうね(自画自賛)

 

 気が緩みに緩みまくった俺は、なんの躊躇いもなく引き金へと指をかけリビングの机に置かれてるガラスのコップに照準を合わせる。

 

「どう?様になってる?」

 

『はぁ…………君という奴は…………』

 

 なんだよまだ文句言うのか?わかった、グラハムまだこれが危険な物だと思ってるんだな?なら俺が答えを見せて『持ち方が甘い』…………ひょ?

 

『このサイズの大型拳銃を片手で持つバカはいない。右手でグリップをしっかりと握り、そして空いている左手を下から添えるようにするのが基本姿勢だ。』

 

 あっれぇ~?なんか知らん内に拳銃の構え講座が始まったぞ?

 

 そういえばグラハムって軍人だったな、今更だけど。俺の中でもうグラハムってただの美少年大好きおじさんだっから。確かにグラハムならこういう類いの物の使い方をよく知ってるのは納得だわ。

 

「えっとこんな感じ?」

 

『脇をもっと閉めるんだ。空きすぎていると引き金を引いたときのブレがひどくなる。』

 

「こう?」

 

『そうだ。』

 

 グラハムに言われた通りにやってみると、本当になんだか安定した。この銃口の上の突起みたいな奴もふらふらしなくなったし。さすが本業、さすがは元エースパイロット。

 

「すっげぇなグラハム。やっぱ全然ちg━━」

 

 そう言いながらカチャリと。

 

 俺は引き金を引いた。

 

 別に深い事は考えてなかった。演劇の小道具だし、グラハムにきちんとした構え方まで教わったんだから、やっぱり引き金まで引きたくなるじゃん?だからなんとなく引いてみた、ただそれだけ。

 

 けど、深く考えなかったのがいけなかったんじゃないかなと思う。だって棚の奥に入ってたって事はただのガラクタって可能性もあるし、

 

 本当に触れちゃいけない奴だっていう可能性もあったんだから。

 

 引き金を引いた。そしたら変化はすぐに起こった。

 

 急に俺の持つ拳銃が甲高い音を出し始め、そして青く光出した。そして銃口から飛び出る一際強い青の閃光。

 

 飛び出た青の光はそのまま真っ直ぐ真っ直ぐ進んでいってガラスのコップに直撃。途端、ガラスのコップがパリんという音と共に破片を撒き散らしながら爆散した。

 

 粉々に砕け散ったの。一瞬で。

 

『…………』

 

「…………」

 

 グラハム共々唖然とする。

 

 えっ?ナニガオキタノ?

 

 拳銃の引き金を引いた。

 ↓

 なんか青い光が出た。

 ↓

 光の弾丸がガラスのコップに飛んでった。

 ↓

 コップ爆・殺!!

 

「いや意味わかんねぇよ!?」

 

『なんなんだ今のは!?一体何をしたのだカヅキ!!』

 

「わっかんねぇよ!!ただ引き金をちょこっと引いただけで━━━」

 

『あえて言ったはずだ!無闇に触るなと!!』

 

「おめーもノリノリで俺に構え方教えてたじゃねーか!!」

 

 何勝手に俺はなにも悪くない風出してんだよ。このまま俺だけ悪くなるのは俺が許さん。お前も共犯者の仲間に入れてやるって言ってんだよ!!

 

 いやいつもの如くグラハムとの謎口論で論点ずらしてたけど今回のはなんかいつものと度が違う。目の前の謎現象が理解不能すぎて俺もグラハムもなんとも言えない。

 

「これただの演劇の小道具とかじゃないの!?まさかのビームライフルだったんですけど!!」

 

『落ち着けカヅキ!!ビームライフルではなくリニアライフルかもしれない!!』

 

「お前は平常運転だなおい!?それフラッグの基本武装だろ!?こんな状況でもフラッグの愛は忘れないってか笑えねぇよ!!」

 

 どうするよこれ…………やっちゃった感が否めなさすぎる…………どう収集つけたらいいの?

 

『…………カヅキ、とりあえず割れたコップを早急に片付けねば』

 

「へ?どして?怪我するから?」

 

『それもあるにはあるが…………もう少ししたら母が帰ってくるのではないのか?』

 

 ……………………あっ。

 

 ヤベェェェェェェェェ!?!?!?

 

 そうだ母さんがもうすぐで帰ってくるんだった!!すっかり失念してたし!!

 

「グラハム!すぐにビニール袋!!俺は箒と塵取り取ってくる!!」

 

『あいわかった!!』

 

 伊達に無駄に長い時間を過ごしていないので、グラハムもすぐに俺の意思を汲み取って短い四足をじたばたさせつつビニール袋を探しに行き戻ってくる。その口にはしっかりとスーパーの袋があった。

 

『カヅキ!これを使え!!』

 

「サンキュー!!これでなんとか━━━」

 

「ただいま~」

 

 無慈悲な母の声が、玄関口から木霊する。うっそーん早くない?

 

 ヤバいヤバいヤバいヤバい!!急げ急げ急げ!!

 

『カヅキ!時間がないぞ!!』

 

「わかってる!!」

 

 さささっとこんな動き出来たのかと自分でもびっくりするくらいのスピードで割れたガラスを集め、グラハムが用意した袋に投入。すぐさま袋の口を閉じてゴミ箱へ向かう。これで終わりだ!間に合え…………間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

 

 ガラスの破片入りの袋をゴミ箱へダンクっ!!それとコンマ一秒くらいの差で母さんがリビングへ入ってきた!!

 

 気づいてないよな?気づかないで?お願いだから気づくな……頼む!!

 

「ただいま~。香月、留守番しっかり出来た?」

 

「う、うん!バッチリだったよ!?」

 

 ヨッシャァァァァァァァァ!!なんとかなったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

 危なかった…………本当に危なかった…………まさにギリギリの戦いだ。けど間に合った。心臓が縮むかと思ったけど、これでなんとか平和のまま終われる━━━

 

「ん?これって…………」

 

 が、そこで母さんは机の上のあるものを手に取った。机に何かあったっけ?と思いつつ見てみると、

 

 ポツンと置かれてました。主犯各のあの拳銃。

 

 そっち直すの忘れてたぁぁぁぁぁ!?!?

 

 ヤッベェ俺なんて盆ミスを!!こんなの殺人事件で死体隠したのに指紋つき凶器をポイ置きしてんのとおんなじだわ!!いや例え分かりにくいな俺!?(自問自答)

 

「香月…………これはなに?」

 

『「ヒェ…………」』

 

 母さんのどすの聞いた声に怯え声が漏れる。てか待てお前までビビってんの?母さんどんだけ怖いんだよ、グラハムさんガタガタ震え始めてんだけど!?

 

「あっ……その……えっと……」

 

 駄目だ、全っ然いい言い訳が思い付かん!!

 

 ああ!?時間を置くうちになんか母さんの黒いオーラがどんどんデカなってる!?やべぇ最早背後のオーラがスタンドみたいになってる!!ほっといたらあれ人の形するやつだぞ!!

 

「ご、ごめんなさいっ!!」

 

 もうこれしかない!ありのまま、包み隠さず言う事しかこの状況からは逃れられない!!

 

「電話のあとにいきなり変な段ボールが落ちてきて、興味本位で開けたらなんか色々と入っててそのうちの一つ使ったらなんか変な光が出てガラスのコップが割れたんです!!」

 

「…………」

 

「ほんっとにごめんなさい!わざとじゃないんです!!全部偶然で、この銃がそんなのだなんて知らなくてぇ!!」

 

 情けなかろうが関係ない!ひたすら謝罪!今の俺にはそれしか出切ることがない!!これで許されなかったとしたら俺は終わりだ…………あの受話器の向こうの惨劇を俺も味わうことにっ!?

 

 がっつりと、サラリーマンすらびっくりの完璧九十度礼をして誠意を見せる。そんな俺へ一歩、また一歩と母さんがにじり寄ってくる。

 

 怖ぇぇぇぇぇぇ!!威圧感半端ねぇって!!こんなんできひんてふつう!!

 

 接近した母さんはトンっと俺の肩へ手を置いた。俺と母さんとの距離は目と鼻の先。覚悟を決めて、俺はゆっくりと顔を上げた。

 

 そして、母さんは━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「香月は魔法が使えたのね!?」

 

 歓喜した表情を浮かべてた。

 

 えぇ…………?魔法?俺が?

 

 どゆこと?俺怒られんじゃないの?遠ざけた受話器にも響き渡ってくる音がなる攻撃を今から受けるんじゃないの?

 

「えっと…………怒らないの?」

 

「怒る?そんなのするわけないじゃない!まさか香月が魔法をつかえたなんて!!お父さんにも伝えなきゃ!!」

 

「あの…………母さ━━」

 

「あっもしもしお父さん!ビックニュースよ!!香月がね、魔法を使ったのよ!!えぇホントよ!!今日はお祝いしなくちゃ!!」

 

「あのー母さんー?」

 

「今日は赤飯ね!!私が腕によりをかけて作るわ!!お父さんも仕事休んで帰ってくるって!!派手に祝うわよぉ~!!」

 

 早口で捲し立てられて困惑してる俺(とグラハム)を置き去りにしながら、母さんは超上機嫌に買い物袋を持って韋駄天のような速さで買い物に出掛けてしまった。

 

 えっと……うん。とりあえず、まぁ。

 

 俺は魔法が使える才能があるみたいです。やったぜ?

 

 

 

 

 

 





母親が睨みをきかせてから、グラハム君はずっと香月の肩の上でガタブルしてます。



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始めての魔法教室だぞ!少年!!


この作品がランキングに乗りました!

まさか冗談半分で書いた作品が乗るとは思ってなかったのでビックリしてます。

それとお気に入りの伸びがスッゴい・・・

30人?皆グラハムハムスター好きすぎない?

あっ、感想とか送って頂ければ、作者は餌を貰った犬のように喜びます。感想も返します。

感想ほちぃ・・・・(乞食)




「はいそこまで!!」

 

 遠くで立ってる女の人の掛け声をしり目に、手元の銃を下げる。ずっと上げっぱだったから腕が痛い…………

 

 俺の周りには俺と同じような銃を持った同い年くらいの子達がいるけれど、皆マラソン大会後みたいな感じでその辺に横になったりゼーハー肩で息したりしてる。なんかそんな中で俺だけけろっと涼しい顔してるのが現状なんだけども…………浮いてる感がスッゴい。

 

「市崎君だっけ? 凄いね君!! 三十分もサイオン弾を撃ち続けるなんて!! サイオン保有量がとても多いのね!!」

 

「あ、はい…………そうなんですか…………」

 

 にこやかに俺へと近づいてきた女の人が、俺を手放しに褒め称えてくる。むず痒いなーとか、照れるな~とか、俺ならこれくらい余裕っすよ!! とか、そんなほざける気分じゃない。

 

(後ろからの視線が半端じゃないんだよな…………早く帰りたいよぉ…………)

 

 俺の背中に集まってくる、周りでへばる子達から向けられる明らかに好意的ではない視線の数々。所々からは舌打ちとかまで聞こえてくるし…………あっ今隣の子もした。

 

『さすがだなカヅキ! 周りの者達が君へ嫉妬の瞳をギラつかせるほどとは。やはりこういうものは、やってみなければわからないものだったのだ。』

 

 頭の上に陣取ってるグラハムが自信満々になんか言ってるけど、それが俺は辛いって言ってんのよ? わかる? わからないか俺喋ってないんだから。全部心のなかでの独り言だから。

 

 なぜだ…………なぜ、俺はこんな地獄にいるんだ…………

 

 導入にちょうど良い感じの事を頭に浮かべつつ、遥か遠くを見るような視線で部屋の一角を眺めながら、俺は数日前の事をほわんほわんと思い出して見た。

 

 ━━━━

 

 数日前

 

 俺の始めての魔法発動(おおよそが事故と偶然によるもの)のお陰で、俺に魔法を使える才能が見つかりました。

 

 もうそのあとはドンチャン騒ぎ。母さんはやったやったとはしゃぎ始めるわ、久々に帰って来た父さんも良かったなぁー! と俺を抱き抱えてぐるんぐるん回りだす始末。なんだこれは、どこかの祭りかなにかでしょうか? 

 

 話を聞いてみると、父さんも母さんも昔は魔法師になることを夢見ていたけれど、まず魔法を使うことすら出来ずに夢を叶えるスタートラインにすら立つことを許されなかった。

 

 けれどそれでも諦めきれず、時折魔法を使う道具、CADって言うらしいけどそれを買っていたんだという。けれどそれも俺が生まれた事により、もう現実を見なければと二人して決意。買っていたCADをすべて棚の奥深くに直していたのだとか。

 

 で、それを俺が全部偶々引っ張り出して、偶々俺が使ったら魔法が使えちゃったのがつい最近。自分達の叶わなかった夢を、自分の息子が体現してくれる可能性を秘めているということでここまで熱くなったようだ。もう二人とも途中泣き始めて、俺が混乱するというカオスになった。

 

 わっちゃわっちゃと喜び合う両親を前に、俺はただただ圧倒されるのみ。時折相槌を打ったりはしたけれど、俺自身どうしていいかわからない。

 

 確かに魔法が使えるってのは嬉しい。ホントに嬉しい。どれくらい嬉しいかっていうと、お祝いが終わったあと部屋で一人喜びの舞いを踊るくらいには嬉しかったりする。

 

 いやでも本気で嬉しい!! だって神様から貰った転生特典があのグラハム・エーカー(怪物)だぞ? もう何事もなく、ただの変人として過ごしていくしかないと思った矢先にこれだ。

 

 もしかしたら、さっきまでしてた妄想だって現実の物になるしれないし? 魔法師ってモテるだろうし? 引く手あまたなクールでカッコいい魔法師って事で黄色い歓声も浴びれるかもしれない!! (過剰妄想)

 

 ひゃー! 来ましたわー!! ついに、俺の時代が来ましたわー!! 苦節何年、ついに俺の方に風が吹いてきましたたよー!!! 

 

「それで香月。まだわからないことだらけだけどどうする?」

 

「父さん。家の近くに魔法を教えてくれる塾があるの! そこに香月を入れるっていうのはどうかしら?」

 

「そりゃあいい! 香月もそれでいいか?」

 

「ん? うん! それでいいよ!!」

 

「わかったわ。それじゃ今度一緒に行きましょ」

 

 途中話聞いてなくてテキトーにうんって頷いて答えちゃったけどまぁいいよね? 大した事じゃなさそうだし。

 

 これから楽しくなりそうだぞー!! 目指せ!! 最強の魔法師!! なんちって? アハハハ!! 

 

 回想、終わりっ!! 閉廷っ!! 

 

 ━━━━

 

 

 

 

 いやアハハじゃねぇよ!? なに楽観視してんの過去の俺!? 

 

 完璧に魔法使えて浮かれてきってたんだねはっきりわかんだね。周りの話なんかまともに聞かずにウンウンテキトーに返事するからだ。

 

 結論。

 

 こうなったのは百パーセント私が悪いです。まる。

 

『しかし、君にあれほどの熱意があるとは私も思っても見なかった。誰しも何かに情熱をぶつけるもの。例えば私も隠していたが、かの少年とフラッグ、そしてガンダムをこよなく愛している!!』

 

 知ってる。てか衆知の事実です。逆にあれで隠してるつもりだったのならお前はもう少し本音を包み隠す練習をしてください。

 

 閑話休題(ほーこーしゅーせー)

 

 結局俺がうんとあの時返事してしまったため、母さんはウキウキでこの魔法指導専門の塾へ連絡。そして俺はまず体験という形でここにやって来る事となったのだ。

 

 そしてわかった新事実。俺は他の人よりも、サイオン保有量? とやらがとても多いらしい。

 

 まずサイオンというのは、この世界で魔法を使うために必要不可欠な存在だ。起こった事とかを記録するのにそれが必要らしくて、魔法で色んな事を起こすにはこのサイオンを使ってその記録とやらを弄ることで発動出来るようです。

 

 で、その魔法を使うためにサイオンを使用するんだけど、それらはすべて自分の体内にあるサイオンを使用することになる。この体内にあるサイオンの量というのが、サイオン保有量というのだ。

 

 サイオン保有量が高いと、魔法を何度も使っても疲弊したりすることがない。つまり他のやつよりも持久力が高いわけだ。

 

『他の者の動きを見ていたが、早い者で最初の5分ほどでもう音をあげている者も見られた。それらから鑑みれば、やはりカヅキのサイオン保有量は他者と比較して頭一つ抜けているようだ。』

 

「やっぱあの女の人の言うとおりなんだ。体にダルさとか倦怠感が全然ないし」

 

『…………ダルさも倦怠感もどちらも同義語だぞ?』

 

「…………」

 

 痛いところを突かれたので無言でグラハムの言葉を聞き流す。今は少し休憩の時間のため、全員が持ってきたタオルで汗拭いたり水筒の飲みもん飲んだりしてる中、俺はこの演習室の端っこでグラハムと会話中。

 

 知り合いとかいないから仕方がないね。母さんはなんかこの後用事あるとかでどっか行っちゃったし。ここ家から結構近いから対して問題じゃないけど、やはり新参者って事で居ずらい…………

 

「ここではどうにかキチンとした友好関係を作りたい。魔法よりもそっちの方が優先度は高いわ」

 

『なら、また私が君の体を借りて━━━』

 

「絶対嫌だ」

 

『何故だ!? 上手くいって学校で他の者と仲良さげに会話出来ているではないか!?』

 

 お前にはホモだの変人だのの弄りをされてる俺が楽しそうに見えてるの? 笑ってるけど心へのダメージ半端じゃないよ? まだ子供だから、弄りの刃キレッキレッなのよ。躊躇のない言葉が俺を襲ってるのよね。

 

「あとお前どうせ絶対ここでも性癖暴露スタートだろ。もう既にスタートからなんか不穏なんだから、お前はあんま目立つように動くな」

 

『それは、彼らの事を言っているのか?』

 

 と、そこでグラハムは珍しく敵意を向けるような目で演習室の一部でたむろっている集団を見た。

 

 そこにはさっき俺と同じように耐久練習みたいなのした男子のほとんどがおり、彼らはとある一人を中心に固まっている。

 

 何を隠そう、中心にいるのはちょっと前俺の隣で全力舌打ちしてた奴である。時折彼らは俺の方を見ては、何やらゴニョゴニョと言ったりしてる。ナズェミテルンディス!! 

 

「けどこうも注目されると緊張するんよなぁ…………疲れる、精神的に」

 

『まぁそう言うな。それだけカヅキが注目を集めるほど稀有な存在だということだろう? むしろ喜ばしい事じゃないか。』

 

「それが俺には疲れるって言ってんの」

 

 きついよまじで。ここまで皆の注意を集めるなんて経験すら前世を入れてもなかったってのに。俺は端っこでこうやって静かに一人でモブに徹してるくらいがちょうどいいの。なろう小説よろしく無自覚チートなんてやれるたまじゃないんだし。

 

 大体、ああいう自分を理解してないやつって俺本当に嫌いなの。なんか俺凄いことした? みたいな顔してえげつない事やる主人公とか特に。特にそれでハーレムとか作る奴はぶっ殺してやりたいくらい嫌いです!! (私怨)

 

「香月くん」

 

 頭上から唐突に降り注いできた声にグラハム共々顔を上げてみる。

 

 んだよこちとら静かにしてたいんじゃこれ以上注目浴びたくないんじゃよ誰だよ話しかけて来る奴!? なーんていうさっきまで友達作りたいとかほざいていた奴が考えないであろう事を思いつつ見てみると、そこにいたのはここのインストラクターの女の人。俺を褒め称えてた人だ。

 

「どう? まだ始まったばっかりだけど、魔法の演習は楽しんでる?」

 

「えっと…………はい…………楽しい…………です」

 

 しさき かづき のとくせい! コミしょう! 

 

 初対面の人に明るく近づかれたりするとどもり目も合わせられなくなり、最終的にはただ相手の会話に相槌打つだけのbotになる。

 

「でもさっきのは本当に凄かったね! お母さんやお父さんから魔法を教わってたの?」

 

「いえ…………魔法が使えるって知ったのも…………つい最近だったのじぇ」

 

「へぇそうなんだ」

 

 情けなく噛んだ俺に突っ込むことなく、インストラクターの女の人は真摯に話しかけてきてくれる。それが逆にキツい。

 

 だってよぉ~この人どっからどう見ても陽の者だもん。明らかに相容れないって! この誰でも手をとって仲良くなれるよ! みたいな明るさはキツいですよ!? 加えて美人なのよ!? 

 

 あとあんたなんでそんな薄着なの!? 確かに最近暑くなってきてるのはわかるけどもう半袖着る? それで前屈みにならないで谷間が見えるから!? 視線がそっちに誘導されるから!! デカいのはわかったから!! (なにがとは言わない)

 

 なに誘惑してるんですか? 美人でデカくてどうだって自慢してるんですか? こっちは未成年ですよ? 犯罪ですよ? わかってんのかこの女は? おぉ? (強気)

 

 講師がそうやって一人でいる奴のとこに来るのはボッチを哀れむが故の行動なんだろ? 俺の尊敬してやまない伝説の千葉のボッチ様が言ってたぞ!! 

 

 それにあんたが来たから余計に注目浴びてんじゃん!! もう見てよあそこの例の集団の目!! 嫌悪感がかくしきれてないって!! 本音が胸から直接飛んできてるから!? 

 

 もうやだよこれ…………本当に帰りたい。やる気もほとんどなくなってるしさ。体調悪いって言ってもう帰ろうか━━━

 

「きっと凄い才能持ってるんだよ! 絶対に伸びるから、わからないことがあったらなんでも聞いてね!!」

 

 パッと花の咲いたような笑顔で、インストラクターの人は俺にそう言った。

 

 凄い才能持ってるんだよ! 

 

 凄い才能持ってるんだよ! (リピート)

 

 凄い才能持ってるんだよ! (リピート)

 

 カッコいいね! (妄想)

 

 インストラクターさんはそれだけ告げると、そのまま俺の下から離れて次の演習の準備をしに行く。その間ずっと俺の頭の中でインストラクターの言葉がリピートアフターミーしてる。

 

 才能あるって…………カッコいいって…………(言ってない)年が近かったら彼氏にしたいって…………(言ってない)

 

 フッフッフッ…………アッハッハッハッ!!! 

 

「グラハム!」

 

『む? どうした?』

 

「俺にはやっぱ、魔法の才があったみたいだ」

 

『なんだと!?』

 

 ああそうさ! だってあんな美人の先生が凄い才能があるって言ったんだぞ? あの美人な先生が(超重要)

 

 それに俺は腐っても転生者。どんな過程で転生しようと、どんな情けなく悲しき相棒と共に過ごしてきたと言っても、俺が天下無敵の転生者であることは揺るがない事実!! 

 

「注目を浴びる? 上等! むしろ全員の目を俺に釘指しにして離さないようにしてやんよ!! キャッキャッウフフな黄色い歓声を! 俺がすべてかっさらってやらぁ!!」

 

 ━━━━

 

 

 演習その二。移動系魔法による物体の移動。

 

「あれ? なんで? 先生! これなんか全然うごかないんですけど? 動いてる? ホンのちょっとずつ? 普通こんなもんなんですか? えっ? 皆数秒で終わる…………?」

 

 

 

 

 

 演習その三。加重系統魔法による圧力量。

 

「先生~? 圧力計壊れてまーす。周りの人よりも位が一つ小さいんです。絶対壊れてますって。先生がやったって変わらないって━━━普通に起動しましたねはい…………」

 

 

 

 

 演習その四。振動系統魔法による物体の振動。

 

「先生…………いや、振動はしてるはしてるんですけど…………これってもうただ横にブランブラン動いてるだけっす…………ブブブッて感じではないです。これって…………あっもういいです。なんとなく察しましたから」

 

 

 

 ━━━━━

 

 

 結果はっぴょー。

 

 一番最初のサイオン弾的当て。他を寄せ付けない圧倒的なサイオン保有量を見せつける市崎香月選手。

 

 その他すべての演習、他を寄せ付けない圧倒的な惨憺たる結果を見せびらかした市崎香月選手でした。現場からは以上です。

 

 はい雑魚~。俺ってば非常に雑魚~。言葉に出来ないくらい雑魚~。

 

 なーにが俺は転生者だあっさり無双してやるぜ(出来うる限り最大のカッコつけ)! だ…………何一つまともに成功しとらんじゃないか。

 

 もう最後の方なんて、あのインストラクターさんの諦めるような悟ったような表情は痛々しくて仕方がなかったわ。グラハムに切った啖呵が啖呵だったために、出来なかった時のダメージが尋常じゃねぇ…………死にたい…………

 

『カヅキ…………この間テレビで見たのだが…………今日カヅキが行った物はすべて基礎単一系統魔法と呼ぶらしい。それでだな…………』

 

「どしたの? 言いたいなら言っていいよ。もうこれ以上ダメージなんて食らわないから。今ここが底辺だから。落ちるとこまで落ちてるから。」

 

『…………魔法師の卵であれば、あの程度ならっていなくとも簡単にこなせるらしい』

 

 さらに下があったー(涙目)

 

 えっなに? 俺はもうこの時点で劣悪なの? 既に? スタートラインに立った時点でハンデ持ちなの? きっつ。いやきっつ。

 

 始めての魔法教室で、まさかの基礎の基礎、出来て当たり前すらまともにこなせないなんて…………こんなの絶対おかしいよっ!! (まどマギ)

 

 だって周りが量産ザクなら俺ボールくらいって事だろ? あのザクにサッカーボールよろしく蹴られて死ぬ連邦の動く棺の、いや下手したら砲台が俺にはないかも。…………考え始めたら泣きたくなってきた。

 

『だが安心しろカヅキ。一番下にいるということは、これ以上落ちるところはない。伸び代しかないということなのだ。なにも悲観し続ける必要はない。』

 

 グラハムさんのありがたいお言葉が胸に染みるぅ~。

 

 そうだよね! まだ俺達は小学生! 何もかもが始まったばっかりだ! であれば、ここからの伸びで挽回なんていくらでも出来るはず!! そうだよね!? (必死)

 

 転生チートは無理でも成り上がりだっ!! 俺は貧弱クソ雑魚ボール君からせめてモビルスーツには成長してみせるぞ!! 

 

「というわけで今日はもう終わったし帰ろう。母さんが家で美味しいご飯を作って待ってる。」

 

『帰れば少し今後の相談もしよう。魔法についての知識を私と君とで色々と共有しておいて方がなにかと役に立つし、その過程でなにかを覚えられれば御の字だ』

 

「グラハムナーイスっ!!」

 

 やっべぇ今日グラハムがなんか相棒相棒してるっ!? どうしたんだ今日のお前!? なんか魔法に当たったせいで正常になったのか!? 頭の病院行くか? いや待て、正常になったら行かなくていいのか。

 

『…………カヅキ、今君は少し失礼な事を考えていないか?』

 

「思われてる自覚があるなら、全面的に失礼に思われるようなところを直せ」

 

 変態趣味と男色趣味と変人的行動、加えて独断での俺の体の使用。挙げ出したら切りがないんですけど…………

 

「というかなんか変だぞ今日のお前。テンション上がってんの? いつもの変態行動が鳴りを潜めてるから逆に怖いんだけど」

 

『ふっ…………どうやらそのようだ。新しき物というのは、やはり心が惹かれ踊るもの。魔法という前いたあの世界では体験すらすることなかった事象が目の前で行われ、興が乗ったのやもしれん』

 

「…………ふーん。そか」

 

 その気持ちは凄く理解できる。今まで見なかった目新しい物が現れたら、誰だって気分は高揚する。俺が始めてガンダムを映像で見たときがそうだったみたいに、今のグラハムも同じような気持ちなんだろう。

 

「とりま体を勝手に奪うのはNG。これは絶対、次やったらお前の目の前で刹那フィギュアを粉々にしてやる」

 

『なんとっ!? なんという残虐な!! やられる側の少年の気持ちを、君は考えているのか!!』

 

 相手の了承無しにフィギュアを腕がとれるまでねぷねぷする輩に言われたかないんです(正論)

 

 このまま会話してるといつまでも話してしまいかねない。グラハムがまだ耳元で美少年とはっ!! って感じで凄い気迫で語ってくるがど根性で無視する。相手してたら帰れない。というか腹が減ったから早く帰りたい。

 

「おい! あそこにサイオンしか持ってないむのーがいるぜ!!」

 

 そんな時だった。俺とグラハムの背後から、明らかに俺へ向けての貶しが飛んできたのは。

 

 入り口のドアのガラスから後ろを見てみると、俺のちょうど右斜め後ろのベンチにたむろする少年達。というかあの俺に熱い視線(悪い意味)を向けてた奴等じゃん。

 

「最初にチョーシ乗った癖に、その後はまともに発動も出来ないとか、才能ないんじゃないですかぁ?」

 

「言ってやんなって。可哀想だろ? あれでも頑張ってたんだからよ?」

 

「さっすが桃地君! こんなよわっちい奴にもやさしいねー!」

 

 桃地、とか言う奴が中心なんだと横目で彼らを見てると、なんと桃地君、サイオン弾撃ち耐久の時俺の隣でやってた人だわ。舌打ちしてたもんねー君。

 

『貴様らっ!! 言わせておけば━━!!』

 

「グラハム、静かに」

 

 煽り耐性ゼロなグラハム君をどうどうと諌めつつ、関わりたいとは微塵も思わないけれど俺は桃地とその取り巻き軍団の方向へと体を向き直した。

 

「…………なにかな? 俺は早く帰りたいんだけど…………」

 

「かぁー! 聞いたかお前ら! 無能様は、あんだけみっともないとこ見せといて自主練習もせずにさっさと帰るってよ!!」

 

「うわまじかよっ!?」

 

「意識低いなぁ?」

 

 なんだこいつら(呆れ)

 

 疲れるなぁこういう奴等ってまじで。テキトーにハイハイ言って帰るか…………

 

「お前、魔法をもっと上手くなりたいか? ん?」

 

「まぁ。なりたいな。」

 

 唐突な桃地君の質問タイム。その間もニタニタと気持ち悪い笑みを消すことのない腰巾着AとB。まさかこんな古典的ないじめの形があるとは思わなんだ。時代が進んでもこういう類いの事はなくならないのね…………オニイサンカナシイ。

 

「なら俺が、お前に教えてやるよ。この魔法の名家、桃地家の俺様がなぁ!!」

 

 自信満々に語る桃地君だったけど、

 

 桃地家って何? 名家なの? 知らんわぁ。

 

 なんかどっかで聞いた事あったっけなぁ? 魔法の名家とかなら時々ニュースとかで名前を聞くのもあるけど、七草とか、十文字とか。百地はないな、うん、知らない。

 

(グラハムなんか知ってる? 桃地って名家らしいんだけど)

 

『知らん。私も君同様それなりに色々な情報を積極的に集めようとはしているがテレビはもちろん、ラジオでもその名前を聞いたことがない。彼の嘘ではないのか?』

 

 あー、その可能性は大いにあるかも。このお年頃でこんなお山の大将してるんでしょ? だとしたらちょっと自分を大きく見せたがるし、こんな見え見えの嘘を言うかもしれないし。

 

「あの、その話は凄くありがたいんだけど、俺はお断りさせてもらうわ」

 

「…………は?」

 

 うわっ、何言ってんだみたいな顔しやがったよこいつ。多分断るなんて考えてもなかったんだろうな、どんだけ自信家なんだよ。

 

 普通断るだろお前みたいな奴の話なんて。こんな嫌味ったらしい奴と誰が好き好んで関わるか。俺だって付き合う友人くらいは選ばせろっての。

 

「というわけで俺はこれで。演習の時とかは色々と教えてくれると助かるかな」

 

 嘘だ近づいてくんなこの性根ひんまがり野郎。

 

 魔法に関してはインストラクターさんに聞きますー他の優しそうな子に聞きますー少なくともお前には絶対に聞きませーん。

 

 と、言いたいけれどその全部を俺は胸に留めて彼らに背を向ける。

 

 まあ俺は大人だからね? 桃地君の若さゆえの過ちも俺は寛大に笑顔で流してあげようじゃないか。冷静な対応を見せるのが大人(精神年齢的に)だから。笑顔は完璧作り笑顔だけど。

 

 本音を言えば面倒な波風を立てたくないってだけ。ここで色々と魔法に関して学んでいく日々が始まるのに、初日からこうも行く気も失せるような事はしたくないのだ。

 

 だから俺はクールに去るぜ。例えグラハムが本物のハムスターが威嚇する時のようにグルルと肩で吠えていたとしても、相手からは見えてないので旗から見たらクールなんだぜ。

 

「へっ! これだから才能ない奴は! 向上心も生まれてくる時に落っことして来たのか?」

 

 けど諦めない桃地君。そろそろ鬱陶しいな、あとこいつなんか無駄に語彙力あるから内容が腹立つ。

 

 無視だ無視。こういう手の奴はもう相手をしないに限る。そうして俺が一歩踏み出した時、

 

「あの魔法の腕じゃ、よっぽど才能ない親なんだな!」

 

 桃地は俺に、そう言ってきた。

 

「知ってるか? 魔法の技能って、ほとんど親のをまるまる受け継ぐんだって。ということは、お前の親はお前とおんなじで才能無しって事だ」

 

「うわー可哀想ー!」

 

「帰ったらママとパパに言っとけ! ママとパパのせいでみんなにバカにされたーってな!!」

 

 ギャハハハハハと、あまりに下品な声が俺の耳にこだまする。同時にあの日、母さんと父さんが俺が魔法を使えたって事で祝ってくれた時の事を思い出した。

 

 あの日、父さんと母さんはまるで自分の事のように俺に魔法の才があることを喜んでくれた。それこそ、涙を流してまで。

 

 二人には夢があった。魔法師になるという夢が。けれど、それは無惨にも願うことすら烏滸がましい夢だった。

 

 けれど、それでも諦められなかったからCADを買っていたんだ。それらが自分には使えないとわかっていたとしても。それほどまでに、俺の両親は自分の夢に真剣だったんだ。

 

 それを、こいつらは簡単に踏みにじりやがった。無能だと、才能がないと。

 

 お前らになにがわかる。お前らに、父さんと母さんの何がわかる!! お前らみたいな、他人を見下す事しか出来ない人間に!!! 

 

 俺の頭にそう浮かぶのと、握り拳を作ったのはほぼ同時だった。理性なんて関係ない。精神年齢が俺の方が大人だとか関係ない。

 

 これだけは、これ以上は、

 

 俺をここまで育ててきた尊敬する人達を侮辱されるのは許せなかった。

 

 だから、俺は━━━

 

「その汚ならしい口を閉じろ。」

 

 自分の声が自分の前から聞こえたことに驚きました。

 

 えっ? と思った時には俺の体はふわふわと宙を漂い、眼前には俺の背中とポカンとした情けない顔を見せる桃地達。

 

 なんだろう、ものすごいデジャブ。それと凄い嫌な予感がする…………

 

 恐る恐る、目の前の俺の頭を見てみると、

 

 乗ってました。グラハムスターの本体が白目を向いて。

 

「貴様達の雑言は彼に免じて聞き逃してやろうと思っていたが、堪忍部の尾が切れた。」

 

 この芝居かかった口調、まるで演劇してるみたいな空気感。

 

 間違いない…………

 

 こいつこの状況で俺の体乗っ取りやがった!! 

 

 何してんの!? いや本当に何してんの!? そこは俺がこいつらに怒るとこだよね!? 掴みかかる準備満タンだったのに出鼻完全に挫かれたよお前に!! 

 

「才能がなんだ。それはあくまでも本人に眠る潜在能力でしかない。そんなもの、たゆまぬ努力でどうとでもなる。引き出せる。才能とは、所詮その程度の物でしかないのだ」

 

 おーい!! ちょっと!? 体返して!? 早急に!! 出来るだけ迅速に!! ほら、皆唐突の俺のキャラ変についてこれてないから、な? だから早く戻して!? 

 

「な、んだよ。魔法は才能がすべてなんだよ! 生まれた時から、出来る奴と出来ない奴の区別がつけられてんだよ!! だからお前は、生まれた時から負け犬なんだよ!!」

 

 なんで冷静になるんだよ桃地!? そのまま唖然としてれば戻ったらどうにかなったのに!? ああもうめちゃくちゃだよ。

 

「ふっ、なるほど。才能がすべて、君はあくまでもその考えを通すつもりのようだな」

 

 なに両腕組んで納得してんの? とりあえず体返して? ね? お願いだから、グラハムさん? 聞こえてます? グラハムさーん? 

 

 駄目だこいつ完全に俺の声が耳に入ってない!! もうグラハムワールドになってらっしゃるよ!! どうしたらいいの? どうしようもねぇよ!! (自問自答)

 

 グラハムのすぐ横でギャーギャー騒ぎ立てるもグラハムが聞こえてなければ他の誰にも聞こえないので完全に詰みの状態。そんな中、グラハムは桃地へこう言った。

 

「ならば、私は君に果たし合いを所望するっ!!」

 

「「「…………は?」」」

 

 ……………………は? (憤怒)

 

 果たし合い? 俺と、桃地が? 

 

 何故? どうして? 

 

「私は魔法に関して才能はゼロに等しい。が、君はちがう。その君に私が勝って見せれば、この私の考えの正しさが証明出来る。違うかね?」

 

 そっか~。俺が桃地に勝てば、グラハム論がじっしょうされるんだね! やったねグラハム!! 

 

 てなると本気で思ったのか!? 勝てるわけねぇだろうがアホかこのホモ!! 

 

 相手は自称名家のイキリキッズでも、俺よか何倍も強いぞ!? だって俺の隣でやってたからわかるもん。俺が四苦八苦艱難辛苦してる演習、こいつ鼻歌歌いながらあっさりくりあしてるんだぞ!? 

 

「アッハッハッハッ!! お、お前、桃地君に勝てると思ってんの!?」

 

「桃地君は、ここの一年生でもトップレベルなんだよ! 相手にもならないって!!」

 

 ほら見ろ! 一年最強だぞ!! 成り上がりするぞって意気込んだけどこんな高跳びは駄目だって!! まずは返せ!! 体の使用権返せ!! 

 

「問題ない。勝つのは私だ。」

 

 問題大有りだよ!? なんでお前が自信満々なんだよ!! どっから来るんだよその自信は!? 

 

「どれだけの実力差であろうとも!!」

 

「今日の私は、阿修羅すら凌駕する存在だっ!!」

 

 広めの玄関口で、俺の声でグラハムがそう叫んだ。存在だっ!! のだっ!! をむっちゃ強調したから響く響く。

 

「お、お前…………なんなんだよ!!」

 

 あまりの変人っぷりに、恐れ戦く桃地君以下腰巾着AとB。そんな彼らを尻目に、グラハムは不敵に笑って見せた。

 

「あえて言わせてもらおう!! 市崎香月であると!!」

 

 中身別人なんだよなぁ…………(現実逃避)

 





悲報

主人公、この作品始めてのシリアスをグラハムに奪われシリアルになる。


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決戦だ!少年!!


腹を壊しました。

痛かったです。

なお、この話には一切関係ありません。

ご理解の上でお読みください。


 というわけでやって参りました本日二度目の演習室。演習をした時の場所より小さめの自主練習に使う用なので実質二回目ではないけれど、細かいことは気にしない。

 

 母上には、「ちょっと今後のお話が先生からあるから遅くなる」という嘘を公衆電話を使ってペラペラ言ってあるので晩飯が冷たいんだけどなんていう仲が冷めてきた夫婦間にありがちな事はないので問題なし。

 

 それより近所に未だに公衆電話がある事に驚きだよ。携帯が圧倒的に発展してるこのご時世、未だにこの緑のボックスに休暇は与えられないブラックさ。これが日本の末路を風刺してると言うのか…………

 

 とまぁ逃れられない現実から目を背ける無意味な行動はこれくらいにしておこう。だって目の前数メートル先で既に桃ちゃん準備完成してるんだもん。

 

 あーもうめちゃくちゃだよ、どうやったって勝てっこないって。天地がひっくり返ってもグラハムがノンケになるような事があったとしても勝てんよ。

 

『カヅキ、私は君が勝つと信じているぞ』

 

「どの口がほざいてんだ? あ? お前には後で刹那人形ぶち壊しの刑が待ってるから覚悟しろよ?」

 

『!?!?』

 

 当たり前だよなぁ? 数分前にしっかり言ったでしょうが。それなのに勝手に体乗っ取って勝手に話進めやがって、その結果がこれなんですよ? 理解してます? 

 

「あんだけ自信あったみたいだから聞くけどさ…………なんか勝ち筋とか見えてるわけ?」

 

『そんなものはないさ』

 

 知 っ て た(絶望)

 

 絶対勢いで話してんだろうなとは察してたよ。少し、ほんの欠片くらいでも俺がお前に期待したのがバカでした。

 

『才能差が、戦いの結果に直結する絶対条件ではないさ。であるなら、私達に勝機がないとは一概に言えないだろう?』

 

 言えます(正論)

 

 経験、才能、その他諸々から考えても俺の勝てる未来が見えてこない。そんないきなり格上殺し出来たら俺この辺で有名人になれるわ。もし仮に成功したのなら愚者のアルカナ持って魔術師殺し名乗ってやんよ。

 

 というよりまず魔法に触れてきた時間が違うじゃないか。相手はほぼ確実に何度も魔法を行使してきたある意味ベテランで、こっちはつい最近使えることに気がついたど初心者だ。

 

 強いて桃地に勝ってる点といえば人間性くらいだと思うけど、それは果たし合いにまったく関係ないので除外する。除外したくないけど、除外したら勝ってるとこなしになっちゃうからしたくないけどやむなく除外する。

 

 あれ? そういえばさ…………

 

 この勝負どうしたら勝ちになるの? (今更)

 

「なぁ? この勝負の勝利条件ってなに?」

 

「は? お前それも考えずに挑んだのかよ。バカじゃねぇの?」

 

 辛辣ぅ…………けど言わせてもらいたい。

 

 それもこれも俺の肩の上でサトシのピカチュウみたいに乗っかってる化けもんが悪いんだよ。この果たし合いに関して言えば俺の意思は一切関係ないことを最初に理解してもらいたい。

 

 まさにリアル違うっ!! クリボーが勝手に!! なのだ。だから俺は悪くない。これも全部グラハムって奴の仕業なんだ。俺は悪くねぇ!! (ルーク感増し増し)

 

「普通なら魔法を使った組み手ってのは、相手を戦闘不能に追い込んだら勝ち。けどそれじゃあ、お前が勝てないだろ? なんてったってサイオン保有量しか能がないんだから!!」

 

 まったくもってその通りです。(確信)

 

「だから今回は、お前にハンデやるよ。俺かお前、どっちかが相手に魔法を当てればそれで勝ち。これを十本勝負して、お前は俺から一本でも取れたら勝ちだ。」

 

 ほうほう…………ということはつまり? 

 

 ①戦いは十回勝負。

 

 ②なんでもいいから魔法を当てたら一本。

 

 ③俺は桃地から一本取りさえすれば、それだけで勝利

 

 ふむふむ…………

 

 勝てるんじゃね? 

 

 魔法当てるだけでいいんだろ? なら乱れ撃ちすりゃいいじゃん。なんせ俺は持久力だけは他の奴よりも頭三つくらい抜けてるから(グラハム比)

 

 とりあえず当てる。んで俺は桃地の攻撃に当たらないようにすればいいってことでしょ? いいのかこれ…………俺むっちゃ有利じゃん! 

 

 このハンデなら光明も見えてきたぞ。もしかしたら桃地はジャクシャヲ見下す癖があるだけで案外やさしい奴なのかもしれないな(チョロい)

 

「ルールはわかったか? とっても簡単だろ?」

 

「ああ、分りやすくて助かる」

 

 腰から抜きますは、両親が買っていたCADの中でも特化型と呼ばれる種の物。そう、あの俺が始めて魔法使った時の大型拳銃だ。

 

 明らかに俺の体に合ってないけど、なんだかんだ初めてということだったので愛着が沸いてるのだ。

 

 策は簡単。相手の魔法に当たらずに、こちらはとりあえず持ち前のサイオン量を活かして撃ちまくる。ひたすら撃ちまくる。

 

 単純明快、やることは至ってシンプル。あとはこれを傾向させるだけ。

 

「さて…………俺も俺でお前には少しイライラしてんだよ。両親をバカにされたりしたからさ」

 

 まぁその怒りもグラハムの謎行動のせいで遥か彼方に飛んでいったんだけども。一騎討ちなんで空気感作っていこう空気感。

 

 それに、こいつに対してそれなりに怒りを感じてることに関しては、紛れもないし隠す気もない事実なんだから。

 

「だから、少し痛い目見てもらう(どうにか頑張って)」

 

「ハッ!! 雑魚が!! やれるもんならやってみろや!!」

 

 両者の掛け合いをゴングに、グラハム主催の果たし合いが幕を上げるっ!! 

 

 さぁ! 乱れ撃つぜっ!! サイオン弾っ!!! 

 

 

 

 

 

 

 ━━━━━

 

 はい。現在果たし合い九本目が終了したところなのですが、私、市崎香月はというと…………

 

 演習室の床と仲良く添い寝している状態であります。床が冷たくて気持ちいいよぉ…………

 

 あのね、勝てる気しないんだけど( ゚ ρ ゚ )ボーー(諦めの顔)

 

 両者動かずに魔法の撃ち合いになって、何故だかしらないけど俺が撃つ奴が当たるよりも先に、俺に魔法が当たるの。それもむっちゃ痛いよくわからん真空弾みたいな奴が。それもサイオン弾より早いし。あんなのずるいぞ!! 反則だ反則!! 

 

 加えてあいつ、的確に痛いとこ狙ってくんの。顔とか腹とか股間とか。あそこに真空弾当たった時はこの世のすべてを悟った気分だった。

 

「おいおい見ろよ! あーんな大口叩いてたのに、あっさりやられてやんの!!」

 

「プププっ!! だっせぇ!!」

 

「あしゅら? だっけ? 全然すごくねぇじゃん!!」

 

 はーいちょっと待って。阿修羅も大口も全部俺ではないんですよ。まるで俺がカッコつけて惨敗してるみたいに言うのはやめてもらえませんか? (揺るがない事実)

 

「おいおい、俺様がせっかくハンデつけて十回勝負もしてやってんだぜ? これで一回も勝てないって事はないよな? えぇ??」

 

 ウザい…………ただその一言に尽きるわ。

 

 なーにがハンデで十回勝負にしてやっただ! お前ただ俺をいたぶって楽しんでるだけだろこのドSくず野朗が!! 弱いものいじめはモウヤメルンダッ!! (アスラン)

 

 痛いんだぞその空気弾!? なんかよくわからんし透明だから避けにくいし!! てか飛んできてるのかも微妙に分かりにくいし!! なんだよそれ、お前はいつから吉良吉影なんなんだ…………桃地は多分隠れて手を愛でてるんだきっと。俺にはわかるぞ(確証なし)

 

「次でラストだぞ? 頑張れー才能ない無能やろー」

 

「どうせ負けるって! 今のうちに降参しろって!!」

 

「諦め悪いのはダサいだけだぞ~?」

 

 ガヤがうるさいんだよただの桃地の腰巾着がっ!! ぶっ殺してやろうかあぁ!? 無理だけどよぉ!? 返り討ちにされるのが目に見えてるけどよぉ!? ごめんなさいねぇ!? 

 

 あーもう身体中痛い…………唇切れっちゃってるし…………インストラクターさーん、これいじめですよー? こんな一方的な暴行見過ごしていいんですかー? 仕事なくなりますよぉー? 

 

 プライドを投げ捨てて第三者に助けを求めたくなるけど、残念なことにこの自習室は完全に密室でインストラクターさん達はこの部屋の外。助けは来ることはない。

 

 ので、俺にはこのまま無惨にボコられて笑い者にただされるがままか、どうにか勝って一矢報いるかの二択が強いられるわけなんだけど…………さてどうしたもんか。

 

 俺の攻撃は数撃ちゃ当たる戦法だったけど効果は一切見られない。それより撒き散らす前に空気弾が俺に飛んできます。勝つには空気弾に当たらず、当たってくれる感じがまったくしないサイオン弾を桃地にぶつけないと言えないわけなのだ。

 

 特に問題は、あの桃地が撃ってくる空気弾だ。

 

 見にくい、速い、痛いの三拍子が揃ってるこのチートみたいな魔法を攻略しない限り、サイオン弾をぶつける策も成功しない。

 

 どうしたもんかねぇ…………

 

『カヅキ』

 

 と、悩んでるときにこの九回の戦闘において一切口を開く事すらなかったグラハム先生がついに動いた。

 

『まだ戦う気持ちは消えていないか?』

 

「ギリギリ…………でもそろそろ折れそう。あの空気弾が鬱陶しすぎて━━」

 

『空気弾は気にしなくていい。撃ってくるタイミングはもう読めた』

 

「……えっ?」

 

 無駄遣いと思ってたイケボから放たれる、なんだか物凄い心強い一言。

 

「読めたって…………どのタイミング?」

 

『本当に細かな事だ。空気弾が飛ぶほんの少し前、桃地は手元のタブレットに親指を乗せる。その後すぐにカヅキへ空気弾が飛んできていた。この九回の戦いすべてでこれは確認できた。ほぼ確定だろう』

 

 すっげぇ…………それって本当にコンマ何秒とかの世界の話なんじゃないの? それ見えたの? やべぇ…………エースパイロットの動体視力まじやべぇ…………(ボキャ貧)

 

『最後の一戦、私が言うタイミングでしゃがむんだ。ならば空気弾はカヅキの頭上を通っていく。そこを狙ってサイオン弾を叩き込めばいいのだが…………問題は君のエイム力だ』

 

「うっ…………当たる気がしないんですよね…………」

 

『これに関しては仕方がない。まだやり始めたばかりだ、照準が定まらないのも無理はないだろう。だがこの魔法以外君がまともに使えるものがないこともまた事実だ。』

 

「そーなんだよね…………」

 

 俺のガバエイムでは桃地の空気弾をグラハムのサポートによって避けられたと仮定しても、結局はサイオン弾が当たらないので勝てない。

 

 当たらなければどうということはないという偉大なシャアの言葉にあるように、俺が当てなければどうしようもないのだ。

 

「当てる…………要は魔法を当てれば…………」

 

 あっそうか。

 

 魔法を当てれば勝ちなのか。

 

「グラハム、回避のタイミングを任せる。」

 

『…………何か妙案が思い浮かんだ。そんな顔だな』

 

「そこまでのもんじゃないけど。まぁ上手くいけば勝てないこともない」

 

 そう、本当に上手くいけばのはなし。ほとんど賭けに近いことだし、初手のグラハムの声に即座に反応出来なかったら俺の負けだ。

 

 けど馬鹿な俺にはこれくらいしか勝つ方法が思い付かないし、余裕を持っての勝利なんざ今更夢のまた夢だ。

 

 俺には桃地の言うとおり才能とかセンスとか言われるもんがないわけだから、泥臭く行くしかないわな。

 

 それに…………

 

「さすがに負けっぱなしでいるのは、俺の貧弱プライドも許してくれそうにないからな」

 

『ふっ、同感だ。勝ちに行くぞ! カヅキ!!』

 

「おう!」

 

 やることは決まった。あとは実践するだけ、腹を括ろうやる気を出そう。

 

「お? やっと準備が出来たか? んじゃ、さっさとボコって帰るか」

 

「そう簡単にはいかせないぞ。こっちはだって勝ちに行くんでね!」

 

 話から唐突にCADの銃口を桃地の方向へ向けて引き金を引きまくる。奇襲? 知らないよ、なりふり構ってられませんよ勝つまでは!! 

 

 狙いを定めるとかそんな事は考えず、ただサイオン弾を撒き散らす。それだけなら今までの九回の手法はまったく同じ。

 

 けれど、桃地はまるであり得ない物をみたような顔になった。そりゃそうだろうな。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 走り銃口がブレブレになるのも気に止めずに撃ちまくる。うわぁ全っ然当たんない…………悲しくなってくるわぁ…………

 

「ただの自殺行為じゃねーか!! そんならこれで終わりだっての!!」

 

 動揺から立て直し、桃地は右手のひらを接近する俺へと向ける。そして━━━━

 

『今だカヅキっ!!!』

 

 待ちに待ったグラハムの声が聞こえた。

 

「信じたぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 自己への叱咤の掛け声と共に走る勢いのまま体勢を一気に下げてスライディングを仕掛ける。瞬間、俺の頭上を前髪を吹き荒らしつつ空気弾が飛んでいった。こいつまた股間狙ったな! 下道め!! (義輝)

 

 ともあれ回避は成功。桃地と俺の距離はぐんぐん詰まり、もうほぼ桃地の目下、足元辺りまで接近できた。

 

 射撃が当たらない。それは、あくまで遠距離から構えて撃てばの話だ。

 

 であるなら、絶対外れない距離から撃ってしまえば確実に当たる。俺が出した結論とはそんなバカみたいなことだった。

 

 が、そんなバカみたいな事を普通する奴がいないからこそ桃地に対して完璧な奇襲となり得る。

 

 桃地の呆けた顔がよく見える。それにここまで来ればもう回避できない。回避するより、俺が引き金を引くスピードの方が圧倒的に速いっ!!! 

 

『ゆけぇカヅキィィィィィィ!!』

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

 これで俺の、

 

 俺達の勝ちだっ!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と思っていました。

 

 確信してました。

 

『「あっ……………………」』

 

 俺のCADが宙を舞うまでは。

 

 桃地がCADを蹴り飛ばしたとか、CADに向けて正確無比な魔法の射撃を放って弾いたとか、そういう事ではないのです。

 

 外的要因が原因ではなく、原因は…………

 

(手ぇすべったぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?)

 

 そう、緊張して出た手汗で元より大きく持ちにくかった大型拳銃CADがシュポッと、本当に気持ちよく俺の手からCADが抜けていった。

 

「……………………」

 

「……………………」

 

『……………………』

 

「「……………………」」

 

 俺、桃地、グラハム、腰巾着A&Bという四人と一匹がいるにも関わらず、誰もなにも一言も喋らない。そうこうしてると、俺の手から飛んでいったCADが俺の頭に当たった。痛い。

 

「…………あのーですね。すみませんでした。空気弾は許してください」

 

 何故だかわからないが、なんだか謝っといた方がいいような気がして。あと空気弾を食らうのはもう嫌なので、俺は満面の笑みで桃地に対して謝罪と懇願した。

 

 すると、桃地も優しそうな笑みを見せた。ああ、これで許してくれると思ったとき、

 

「バーカ、死ね」

 

 股間に空気弾が飛んできました。

 

 瞬間、宇宙の摂理を理解したような気分になって、

 

「おおおう~っ!?!?」

 

 鈍痛が、股間を襲う。

 

 痛いなんてもんじゃない。なんかこう、説明できないんだけど…………うん、痛い。むっちゃ痛い。この世の終わりかってくらい痛い(意味不明)

 

「「「ギャハハハハハハハ!!!」」」

 

『だ、大丈夫かカヅキっ!?』

 

 演習場の床で転げ回る俺を見て大笑いする桃地達と、真剣に心配しに来るグラハム。優しさし嬉しいけれど、その優しさではこの鈍痛は弱まらない。

 

「これでわかったか? 魔法は才能がすべてなの。才能ないお前は、こんなだっせぇ姿がお似合いだぜ!!」

 

 桃地がそう言うと、またもギャハハハハハハハという汚い笑いが演習場に轟く。その笑い声は徐々に遠くなっていき、ガチャンという音を最後に聞こえなくなった。恐らくもう演習場を出たんだろう。

 

『……大丈夫か?』

 

「痛みは引いた…………だいじょぶ。」

 

 むくりと体を起こし腹を押さえる。まだ若干痛みは残ってるものの、動けないほどじゃない。

 

「あーっ!! 悔しいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!」

 

 くっそが!!! あそこでミスるか普通!? あんな距離俺であっても絶対サイオン弾外さないし桃地のド畜生も避けれんかったのに!! 

 

『…………カヅキの気持ちもよくわかる。が、相手は格上だったんだ。ここまで健闘出来ただけでも万々歳だと言えよう』

 

「まぁそりゃそうだけど…………けどあと少しで! あと少しで勝てたんだぜ!? あーもう!!」

 

 頭をガリガリとかきむしりながら、最後の最後にミスを犯した自分が嫌になる。

 

『カヅキ』

 

「あ? なに!?」

 

 自分への苛立ちをぶつけるようにグラハムへ尋ね返した。こんなの完全な八つ当たりだ、俺に勝負強さがなかったのが悪いだけなのに。それでもこの悔しさをあっさりと流すなんて、俺には出来なかった。

 

 けど、グラハムはそんな俺の八つ当たりに対し嫌な顔一つせず言った。

 

『その今の気持ちをよく覚えておけ』

 

「…………へ?」

 

 どゆこと? といった具合の俺を見つつ、グラハムはそのまま話を続けていく。

 

『今回君は、この敗北から自分の実力のなさ、そして悔しさの涙を流した』

 

「いや泣いてはないんですけど」

 

『黙って聞け』

 

「はいっ!!」

 

 珍しく真剣じゃん…………珍しく(重要)

 

 ちょっとビビって声上擦っちまったぜ。

 

『この敗北は、ただの敗北ではない。君を大きく飛躍させられる敗北だ。なぜ負けたのか、なぜこうなったのか。そして、どうすれば勝てたのか。考えることが多くあるはずだ』

 

 なぜこうなったのかに関しては十中八九お前のせいだと思うんですがどうでしょうか? (正論)

 

 でもグラハムの言うことも一理ある。俺がどれだけ出来ないのかは今日一日でひじょーによくわかったし。弱点がわかれば、そこを今後改善するという目標が出来上がるわけで。

 

 こう考えるなら、案外今回の果たし合いもなんだかんだで悪くないかもしれない。

 

 もしかして、グラハムはそれを考慮した上でこんな形の勝負を挑んだのか? いやないな。それは絶対にないわ。考えた俺がバカだった(本日二回目)

 

 まぁ…………でも…………

 

「ありがとな。グラハム」

 

 こいつがいて助かった。本当に。

 

『礼には及ばんさ。これが私の役目なのだから。なので少年のフィギュアを壊すことに関して免除してもらいたい』

 

「それは拒否します」

 

『何故だっ!?』

 

 そこはしっかりと区別するわ。確かにやって良かったとは思ったけどそれは結果論。罰はしっかり受けてもらう。

 

「んじゃ帰るか。そろそろ帰らんと母さんにマジで怒られそうだし」

 

『ま、待ってくれ!? どうにか、少年だけは!?』

 

「聞こえない~な~」

 

『カヅキィィィィィィ!!』

 

 けたたましい叫びに耳を押さえつつ、俺は演習室を出る。

 

 けどこの果たし合いを他の奴が見てなくて良かったぁ。見られてたら俺精神的に死んでると思う。特に女子に見られたら。

 

 さすがに同い年の女子にあんな醜態見られたら死ぬ。もっかい神様んとこに行くはめになってたかもだし。

 

「そこに関しては助かったって思っとくか」

 

『なんの話をしている! それよりも少年のフィギュアだけは五体満足でいさせてあげてくれ!! まだ来たばかりの5代目なんだ!!』

 

「知るかんなこと!! 俺は言ったからな次勝手にやったらそうするって!! それでもやったお前が悪いんだよ!!」

 

 わいのわいのと騒ぎながら、俺達は帰路についた。インストラクターさんかすっごい変なものを見る目で俺を見ていたのが悲しかったです。まる。

 

 

 

 

 





本当に誰も見てなかったんですかねぇ(伏線)

黒髪の表情に乏しい子が見てた気がする(ネタバレ)


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才能差が今後を分かつ絶対条件ではないさ


始めてまともに原作メンバーと関わる。

6話目にしてやっとか・・・・・・

原作が遠いぜ。




『ここ数日、君と共に魔法について研究、実践を繰り返してみたが、やはり結論から言って君には魔法を発動するために使用するサイオンは大量には保持しているものの、それを使用するための処理能力が圧倒的に足りていない事がよりわかった』

 

「そう…………です…………ねっ!!」

 

『こういう類いの研究などはあまり私の性分ではないのできちんとした事が言える訳ではないが、処理能力に関して言えば今後身体的に成長することによって伸びていくと思われる』

 

「な…………る…………ほど…………!!」

 

『けれども、やはりこの時点で既に処理能力で大きな差が出来てしまっている以上、成長したとしてもその点に関しては他者と比べて大きく劣ってしまう事はやむを得ないと考えざるを得ないだろうな』

 

「あ…………のさ…………」

 

『む? どうした?』

 

『なんで…………さ…………

 

 

 

 

 

 今…………俺は腕立て伏せをしてるわけ? それもこんな朝早くに、家の庭で』

 

 長々としたグラハムの見解を途中でどうにか断ち切って、俺はやっと今の現状の異常さについて述べることが出来た。

 

 現時刻は朝の5時。朝の、5時だ。ちなみに俺がグラハム目覚ましによって起こされたのは朝の4時。小学生の目を覚ます時間じゃないって。俺は修行僧かなにかなのか? とりあえず止めてるけど、休憩挟みながらずっとやってたから二の腕パンパンなんですよね。

 

『カヅキ、最初に述べた通り、君は他の者とは類を見ないものを持ちながら、他の者が当たり前に持っている物を持っていないのだ。それは理解できているな』

 

「そりゃ知ってるよ。ここ二日でいやというほど試したしな。」

 

 ちょうど桃地によるレベル差リンチがあったのが今から三日前の金曜日。そこから土、日と運よく休日だったため、俺とグラハムはあーでもないこーでもないと言いながら魔法についての研究と、俺がどれだけ魔法が使えるのかというのを調べたのだ。

 

 結論から言うと、まぁ酷かった。万能なグーグル先生に初心者が使える魔法と調べて試すけど、まず魔法がうまい具合に起動しない。起動しても、ただの笑い者にしかならないようなしょっぼいもんばっかり。

 

 あと調べたなかでわかったけれども、桃地が使っていた空気弾はそのままエア・ブリットと言って、初心者でも使える強力な魔法らしかった。もちろん俺は使えなかったけどね!! 

 

 ついでに大量にあるCADを全部使ってみたけれど、やはり処理能力が低くても使える特化型しか俺は使えない事が判明。ま、そこは問題ないっしょ。だって汎用型使ってもそんな入れるほど魔法ないしね? (涙目)

 

『うむ、ならばこの鍛練の理由も自ずと見えてこないか?』

 

 見えてこないですね。(確信)

 

 魔法を使うためには、脳内でその魔法に関しての処理をしなければならない。それが俺は他の人間より非常に低いのは知ってる。だからこそ使える魔法が本当に単純な物しか使えないんだ。

 

 けどそれに筋トレするのとどう関わってんの? まったく関係性ないじゃん。なんでお前はわかって当然だろうみたいな表情なんだよ。

 

 俺が目指してるのはグラップラーじゃなくて魔法師なんだよね。グラップラーになりたきゃ魔法の塾じゃなくて隣の通りの範馬さんとこに弟子入りに行くわ。

 

『はっきり言おう。君のその処理能力では、一般的な魔法師になろうとしてはただの劣等者にしかならん』

 

 うわ~…………心にぶっ刺さるキッツイ一言。まぁ実際そうだから仕方がないんだけどね…………あはは…………はぁ。

 

「んで? 才能なしなのは、もうお前にもこの二日での実験でも桃地にも耳が痛くなるほど言われて理解しましたよ。」

 

『まぁそう自分を卑下するな。なにもこのままただの弱者で君を終わらせるほど、私も諦めてはいないさ』

 

 ニヤリとグラハムは口角を上げる。これとこの中村ボイスだけならカッコいいんだけどなぁ…………外観ただのふてぶてしいハムスターなんだよなぁ…………残念ポイントが高すぎる。

 

『私はただ、君は普通の魔法師は目指すことは難しいと言ったまでだ。だが考えてみよ。普通が難しいなら逆に特別な、君にあった型の魔法師になればいい? 簡単な事だろう?』

 

 ???? 

 

 俺の理解力が足りないのか、それともグラハムのなんか無駄に遠回しな言い方が悪いんだろうか。一向にグラハムが言いたいことを理解も出来なければ頭にも入ってこない。

 

 ん? 特殊な魔法師? 俺の型に合う魔法を使う?? 

 

 全然わかんないよ!! グラハムの言ってること!! (早見ボイス)

 

『まだわからんのか。なら少しヒントを出そう。この二日間、ただ自分の才のなさを知っただけではなかったであろう? 反対に自分が使える物もわかったではないか。』

 

「使える魔法…………あっ」

 

 そーゆーことね。やっと理解したわ。

 

 グラハムが言いたいこともわかったので、とりあえず俺はおもむろに立ち上がると目を閉じ、少し集中する。

 

 すると、俺の足元に魔法式が展開された。それに合わせ、俺は走るようにその場を蹴った。

 

 瞬間、魔法式の形はグルリと変わり俺の体が加速する。加速するといっても全速力で走った時の最大加速一歩手前程度ではあるけれど、たった踏み込み一回で出るようなスピードじゃない。

 

 一歩踏み出したあと、俺はすぐに反対側の足のかかとを地面に擦らせ急ブレーキ。少し庭の芝が剥がれたようか気がするが気にしない。…………あとで直しとこ。

 

「ふぅ…………これの事言ってるんだろ?」

 

 大きく頷き返すグラハムを見ながら、俺は自分の中で出来たグラハム理論が合ってた事を確信する。

 

 俺が今グラハムに使って見せたのは、魔法にある八系統の内の一つ、加速魔法だ。

 

 対象物の加速度ベクトルに干渉するこの魔法のお陰で、俺は前へ進もうとする力のベクトルへ魔法で干渉、増大させた事によって今のスピードを出せる。

 

 これが、二日間調べあげたなか使えたサイオン弾以外の魔法だ。

 

 えっ? これ以外はって? 

 

 私がそんな多種多様に魔法が使える、と思っていたのかぁ? (ブロリー感)

 

 二日間大量に調べてこれだけだよ。いやまだわかんないけど、他の系統も使っては見たけどもまず一番単純な基礎すらまともに使えなかったので、お察しください。

 

『この加速魔法が、君のなかでの切り札となるだろう。だが、通常加速魔法は減速の魔法と同時併用するものだ。だが君の処理能力だと加速魔法を一つ使うので精一杯だろう。』

 

「…………確かに」

 

 認めたくないものだな…………自分自身の、処理能力の無さ故の弱さというものを(シャア)。

 

『であれば、加速魔法で加速してしまった自分を自分自身で止める必要がある。そのために筋力が必要なのだ。』

 

「まぁ言いたいことは理解できたけどさ、それなら脚力とかでよくないか? 別に腕立てとかしなくても…………」

 

『人間の体というものは、一部分だけを強化しても上手く扱うことは出来ない。どの部分も同じように強化してこそ、十全に扱うことが可能となるのだ』

 

 なるほど…………だからこういう筋トレがいるのか。これならちょっとずつ加速魔法で上げれるスピードも上がっていく訳だし…………ん? 

 

「待って、これスピード上がれば上がるほど、俺への負担上がっていくんじゃないの?」

 

『…………』

 

 おいこら、黙るんじゃないよ。不安になるでしょうが。

 

 えっ? そういうことだよね? 普通は減速の魔法で安全に止まれるけど、俺はそれを自分の足で強引にしなきゃいけない訳で。であれば、速くなればその分足へかかる負荷はどんどん増加するし。

 

『カヅキ、私もエンジンのリミッターをカットし12Gという重力に耐え、やっとガンダムに肉薄出来たのだ。つまりは…………そういうことだ』

 

「一国のエースとただの小学生に同じ事を求めないでください」

 

 こっちは一回一回の魔法に命かけてられないんです。俺が12Gなんて受けたら内臓破裂して死んでしまいます。割りとマジで。

 

 けど今のところ成長出来るようなところがそこしか思い付かない(グラハムも彼もバカ)

 

 まぁ少しずつやってたら、体もスピードに慣れるでしょう。魔法師になるって言ってもまだ俺は小学生。そんなまだ子供で命かけて魔法使う子となんて万が一、いや億が一にもこの平和な日本という国ではない。絶対に。フリじゃないよ? 

 

『よし、談笑もこれくらいにして。接ぎに行くぞ』

 

「へ? まだやるの…………?」

 

『当然だ。まだまだ練習量が足らんくらいだ。差は大きいのだから、それだけやらねばならんことも多い。気を引き締めてゆくぞ』

 

「ういー」

 

 けどもう既にオデノカラダハボドホドなんだよなぁ。急遽作ったライダーシステムなんて大層なもんじゃなくて、ただの腕立て伏せでだけど。もやし少年の細腕を舐めないでいただきたいね。

 

『次にやるのはエイム力の向上だ。CADは持ったな。』

 

「おうさ」

 

 掲げるは、因縁の大型拳銃CAD。今回はプラスもう一丁。

 

 これはグラハムからの意見で、『一丁でも火力が申し分ないのだから、二丁使えるように訓練しておくべき』との事だったので、あの段ボールから引っ張ってきた。

 

 これで二丁拳銃、出来れば腰に剣を二振りつけて双剣双銃(カドラ)と洒落混みたいけれどもう二丁拳銃だけで腕が限界値なので無理。

 

『今からやるのは至って単純な事だ。ここに、昨日父上が久しぶりに飲んでいたビールのものを含むいくつかの空き缶がある。ちなみに母上が目を離した隙にシンクから拝借してきたものだ』

 

 なにやってんのお前(飽きれ)

 

 もう突っ込んでたら俺が疲れる。これはスルーだスルー。

 

『この空き缶を私が投げる。それに合わせ、君は飛ぶ空き缶を照準に収めてタイミングよくサイオン弾を放つんだ。タイミングよくだぞ。だが途中飛んでくる旧少年人形の腕や足も飛んでくる。それを撃ったら、私は君を許すことは出来ないかもしれない』

 

 いやもはやこれリズム天国じゃねぇーか。タイミングを強調するんじゃねぇよ、この前リズム天国やってた時妙に興奮してたのはそういうことだったのか。やらさなきゃ良かったぜ。

 

 てか刹那のフィギュアの破片残してたのかよ。あれもう何代目? 俺の部屋にストック置くようになってから数えてなかったんだけどそんなにあったの? あと当たって怒るなら最初から投げるんじゃない。

 

 刹那が可哀想だろ(グラハムへの罰として折ってる張本人)。

 

 これだけ突っ込みたい事が出てきたけど、俺は突っ込まんぞ。俺はそろそろ本格的にグラハムへのスルースキルを身に付けねばならないんだ。そうすれば、俺も教室で一人言を喋ってる寂しい奴だとは思われなくなるし。

 

 だから聞くだけ。これは練習なんだから、コントじゃねぇんだから。

 

「でも俺今日から二丁だぞ? 一個を二つで狙っていいのか?」

 

『いや、それでは視野や対応力が身に付かない。そのため、異なる方向から飛んでくる空き缶を二丁のCADで撃って欲しい。右から来るものを左で撃っても構わない。』

 

 そんなに空き缶あったんだ…………父さんも疲れてんだな。今度の父の日になにか送ってあげよう。

 

「けど、それだとグラハム以外にもう一人誰かがいるんだけど。母さん起きてるの?」

 

『母上にこんな朝早くから起きてもらい、これの手伝いをしてもらうのは忍びない。それに、母上に来てもらわずとも大丈夫だ。』

 

 大丈夫って、他に誰かいるのか? と疑問を頭に浮かべてると、

 

『ふんぬぅぅぅぅぅぅぅ!!』

 

 グラハムが力強くうなり始めた。え? なに急にって思うのもつかの間、グラハムの体が波打ち始めて。

 

 そして、

 

『『ふんっ!!』』

 

 分裂した。縦に真っ二つに。

 

 そしたら、おんなじ顔で分裂前の半分の大きさのグラハムスターが出てきた。

 

「…………は?」

 

 いや…………えっと…………は?? (困惑)

 

『これで問題ないだろう。時間が惜しい、早く練習を━━━━』

 

「いやちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!? なにお前はフツーに始めようとしてんの!? この異常事態にお前はなにも思わないのか!?」

 

 普通に二等分されたぞ!? こればっかりはスルースキル有り無し関係なしに突っ込むわ!? なにお前無性生殖して増えるタイプの動物だったの? やっぱグラハムは人間じゃなかったんだなって思いました(現実逃避)

 

「大体分裂って!? そんなの出来るなんて知らなかったぞ!?」

 

『私もつい最近まで知らなかったが、少年を愛でているときに勝手に出来たのだ』

 

「勝手に!? そんなお手軽に出来る感じなの!?」

 

『私は乙女座だからな。この程度、動作もないさ』

 

「乙女座はそんな特殊クラスみたいな名前じゃないわ!! 大体お前━━━」

 

『ガタガタうっせぇなこのガキは!』

 

 そんな時だった。唐突に罵声が俺の耳に入ってきたのは。

 

 グラハムは目の前にいるのでこいつじゃない。こいつなら目の前にいながら横から話してくるなんて芸当も容易くしそうだけど、今はグラハムよりも疑惑を向ける相手がいる。

 

 それはグラハム二号機なんだけど(勝手に命名)、グラハムにしては口調が荒い。

 

 声が飛んだ方を見ると、外観はやはりグラハムにハムスターだ。うん、いつも通りだ(洗脳済み)。けどなんか態度がデカイというかなんというか、それになんか足でリズム刻んで……ん? リズム? 

 

『ったく、さっさとするぞ。ジャズもねぇんだからやる気も起きねぇし。』

 

『すまないな。何故か分裂すると、もう片方はこのように粗暴になるのだ。何故かは、私にもわかっていない』

 

「あーうん、そう、ですか…………」

 

 いや粗暴とかそういうことじゃなくて。

 

 外面一緒で絶対中身違うでしょ!? 

 

 いやどっちも中も外も一緒っちゃ一緒だけど!! 粗暴な方のグラハム絶対中身グラハムじゃないって!! 

 

 ジャズ聴きながらサンダーボルト宙域をフルアーマーガンダムで突っ込んでく人だって!? ジャズが聞こえたら来る火力厨の兄ちゃんだって!! 

 

『さて役者は揃った、ならば始めようか。カヅキ構えろ!』

 

『暇潰しだが、まあいい。ガキ! 俺を夢中にさせてみろ!!』

 

 あーもうめちゃくちゃだよ。(諦念)

 

 ちゃっかり二人(二匹?)して配置につき、もう手に空き缶持ってるし。

 

 もうなんだか色々どうでもよくなったので、そのままグラハムとグラハム二号と一緒に練習権リアルリズム天国しました。

 

 理解できない? 俺が一番頭がついていってないので安心なさいな。

 

 ━━━━━

 

 もう腕上がらん…………死ぬ…………

 

 あのままずっと撃ちっぱなしってなんだよ。バッティングセンターじゃないし、リズム天国でも長くても5分ちょいで終わるんだぜ? 俺の場合はサイオン尽きないからって一時間ぶっ通しだよ。

 

 それに最後はなんかグラハム二号もご満悦っぽかったし。火力がねぇんだよとか言われても知らねぇよ。こちとら大容量バックパック持ちながらマシンガン腕に固定されとるような輩に、フルアーマーな火力求めないでください。不適応すぎるので。

 

『カヅキ、この訓練を毎朝行う。そして夕方からはランニング、加えて私が格闘術を指南しよう。ユニオン軍式を徹底的にな』

 

「待って。ランニングはともかくなんで格闘術?」

 

『護身術だ。』

 

「いやでも今ユニオン軍式って━━━」

 

『護身術だ。』

 

「軍隊の格闘術って相手を殺すことに特化してるんじゃ━━━」

 

『護身術だ!』(迫真)

 

「そっかぁ」(諦め)

 

 護身術は大切だからね。襲われた時に無力じゃ駄目だからね。それに加速魔法と合わせたら一気に接近して格闘術で沈められるしね。一石二鳥だね。

 

 帰ってからも大変な事が続くのかと項垂れている場所は教室の俺の席。スルースキルを身に付けようなんて意気込みはグラハムとグラハム分裂事件でどこかに消えました。

 

 だから今もなお、俺は教室の座席に横たわり、一人ぼそぼそとなにもないところへ話しかける怪しい人になっております。悲しいね、バナージ(バナージは悲しくない)。

 

 まだ始業まで20分ほどある。これなら少しくらい寝ても問題ないでしょ。てか朝5時にグラハムが起こしてくるのはマジで予想外だった。昨日の夜に『今日は疲れたから早く寝た方がいい』なんて優しさに乗るんじゃなかった。グラハム、策士なり、掛かる私は愚かなりってか。やかましいわ。

 

「グラハーム。先生来たら起こしてくれ。それまで寝る。」

 

『了解した。ゆっくり休むといい』

 

 グラハムの労いを聞きつつ、体を起こしてうんと一伸び。腕や肩、加えて足がビキビキと痛く乳酸溜まってる感半端ない。休みたいなぁ(切実)

 

 そう考えてまた顔を伏せようとした時、コツコツと軽い足音がこちらへ近づいてくるのに気がつく。ふと視線だけそちらに向けると、やって来たのは現在お隣さんの北山さんだった。

 

 北山さんは、学校に来る時間が結構ばらついているタイプの人だ。それは北山さんが時間にルーズなのではなく、よく一緒に来る光井さん? だっけな。が時々寝坊してくるかららしい。なんで知ってるかって? たまたま聞こえたの。

 

 いつも通り、北山さんは何を考えてるのか判断つきにくい表情のまま自分の席までやって来て、いつも通り自分の鞄を机の上に置き、

 

「おはよう、市崎君」

 

 いつもと違って、俺へそう挨拶してきた。

 

 うん??? どしたの北山さん。今日は機嫌いいのか? 

 

 いつもは挨拶せずに、そのまますっと座って授業の準備したり光井さんとこ行ったりするだけで、俺に挨拶なんてしたことないのに。なんか良いことあったのか? 

 

「お、おう…………おはよう」

 

 だけど挨拶されたからには返さない訳にはいかない。何故なら私は日本人だから。何事もないような感じで返したけれど、俺の心のなかでは困惑すぎて頭のなかクエスチョンで埋まりかけだ。

 

 そんな俺をほって置きながら、北山さんは自分の席にすっと着席。そのまままたいつも通り進むかと思いきや、またも北山さんはこちらを見て口を開く。

 

「金曜日は大変だったね。桃地君に目をつけられて」

 

「あぁ、もうあいつ躊躇なくボコボコに苛めてくるんだよ。嫌になるわまったく…………」

 

 ほんっとあいつ嫌い! 弱者苛めて何が楽しいんですかぁ? 性格ゴミだな!! 魔法の才能しかない奴め!! そーいう奴はモテないんだぞ! 知らないけど!! 

 

「帰ってから言い訳が大変だったんだよ…………もう至るところ痛いし次会ったらただじゃおか……な……い」

 

 あれ、なんかおかしい。おかしいぞ。

 

 俺は何の話をしてる? 桃地と果たし合いしてフルボッコにされた事だ。

 

 それを誰に? お隣の北山さんに。

 

 何故? 北山さんが振ってきたから。

 

 …………あれ? 

 

 だらりだらりと嫌な汗が額から徐々に流れていく。今の会話から、一番なってほしくはなかった状況へとそれぞれのピースが当てはまっていく事に、俺の中で警鐘が止まんない。

 

「…………もしかして、もしかしてだけどさ。あれ、見てたの?」

 

「うん。私もあそこに通ってるから。行ったらちょうどやってたの。」

 

「どれくらい?」

 

「最初から最後まで、かな。」

 

 仁辺もなく、無情にも、北山さんはそう言った。言ってしまった。

 

 グラハム、わりぃ…………俺。

 

 死んだわ(精神的に)

 

 ガツンっ!! と勢いよく頭を机に叩きつける。隣で北山さんがビクッと驚いてるのがなんか可愛かったけど今はそれどころじゃない。

 

 あれを見られてた? ボッコボコに痛め付けられて、勝機が見えたみたいな事してオオポカやらかしたあれを、最初から最後までしっかり見られてたと。

 

 うん、普通に死ねるわ。

 

 ここまで屈辱的な事ある? 情けなく負け続けるのをさ、クラスの女子に見られるんだぞ? それも勝てたってとこであり得ないミスをやらかしたんだぞ? 

 

 恥ずかしすぎるわ。ほんと、マジで。

 

 まさか桃地はこれすらも計算に入れてのフルボッコだったというのか!? 恐るべし桃地!! 俺を肉体的だけでなく精神的にも傷だらけにするとはっ!? 

 

「市崎君大丈夫?」

 

「あー大丈夫でーす。恥ずかしくて死にかけてるだけ。てか死ぬだけだから」

 

「恥ずかしい? なんで?」

 

 なんでと、なんでと聞きますか北山さん…………まさかの傷口を抉りに来ますか…………S気質があるのかこの子…………

 

「だって見てて思ったでしょ? 一方的にボコボコにされて一勝もあげれてない。終わったらただのボロ雑巾に成り果ててたし」

 

 俺の股間もボロ雑巾になりかけたけど。

 

「ダサかったろ? 笑っていいんだよ? うん、笑われるような事だったんだから…………」

 

 ここまで来れば、いっそのこと開き直った方がダメージが少ない。ジリジリとほじくりまわされるよりもそっちの方が断然マシだ。

 

 さぁこい! 俺は(精神的にきっと)大人だから、笑われたって自然な対応をして見せるさ!! 心は泣いていようが大丈夫!! あとでグラハムに愚痴るだけさ!! 

 

 そう思って心構えをして待っている俺へ、北山さんが投げ掛けたのは、

 

「私は凄いと思うよ」

 

 罵倒でも嘲笑でもなく、称賛だった。

 

「……え? 凄い? どこが?」

 

「確かに、やられてるのを見るのはなんだか目をそらしたくなる感じだった。私も何度も止めに入ろうかとも思った。けど…………」

 

 

「市崎君の目が、ずっと諦めてなかったから」

 

「俺が?」

 

 自分を指差しながら尋ねると、北山さんはそれに対しコクリと頷く。

 

「いやほとんど諦めだったよ? 最後の一回避けられたのもほとんど偶々だったし、それがなかったら出来なかったし。痛いのはイヤだから早く終わんないかなぁなんて考えながらやってたんだから。」

 

「でも、最後まで勝ちは捨ててなかったよね?」

 

「…………まぁ、そうともいうかな?」

 

 勝ちを捨ててなかったかと聞かれれば、答えを俺はNOとは言い切れない。負けるだろーなーとかは思っていたのは事実だ。けれども、両親をバカにしたあの野郎に一泡どうにか吹かせてやると思ってたのも、また事実。

 

「あんな完全に不利な状況なのに、勝つことを諦めずにどうにか出来ないかって考えるのは、きっとなかなか出来ることじゃないよ。だから私は、市崎君のこと凄いと思う」

 

 手放しの褒め称えに、どこかむず痒さを感じつつ少し顔を背ける。でもそっちに仁王立ちするグラハムスターがいて、そっちを見てるとなんか不快だったから顔を北山さんに向き直した。

 

「魔法使うの苦手なの?」

 

「苦手というかなんというか…………俺他の人よりも処理能力が大分劣ってるんだよ。だから魔法も簡単な物しかまだ上手く使えない感じ。北山さんは?」

 

「私は今上級生と一緒に授業受けてるから」

 

「へー上級生と一緒にかー。え?」

 

 今何て言った? 上級生と一緒に? 

 

「…………実は同級生じゃないとかないよね?」

 

「むっ、私はまだ一年生。」

 

「だよね~。ってことは飛び級!?」

 

 眠気も全身の筋肉痛もぶっ飛ぶくらいの驚きが俺を襲う!! ついでにいきなり動いたので腕の痛みが遅れてやって来る!! 痛い!! 

 

「最初は皆と一緒にやってたんだけど、その内どんどん上に上がっていって。今三年生と一緒に受けてる」

 

「マジかよ…………」

 

 ばっか優秀じゃん。俺と比べたら月とすっぽんじゃん。やべぇ…………北山先輩マジぱねぇっす。

 

「えっと…………それじゃあお願いしたいんだけど、魔法に関して色々教えてくれない? 俺完全初心者でしかも才能もないからさ。頼む!!」

 

 ここで出来た縁だ。そう簡単に手放してなるものか!! 塾には先生はいるものの、生徒の分母に対して先生の数が全然合ってない。なら実力主義の魔法の世界なんだから、先生は優秀な生徒に着くのは明白。必然的に俺は独学で学んでいかねばならなくなってくる。

 

 グラハムによるサポートがあるとは言っても、さすがに初心者が二人揃ったところでといった具合だ。であれば! ここで飛び級もしてる天才の北山さんに教えを乞うた方がいいに決まってる!! 

 

 頼む!! お願いします!!! どうか、どうか!! 

 

「うん、いいよ」

 

 あっさり許可してくれました。

 

 彼女は天使か? 天使なのか? 苦手とかなんか怖いとか思っててすみませんでした。

 

「私もよく演習室借りて練習してるから、そのときに色々と教えてあげる。これからよろしくね、市崎君」

 

「…………香月でいいよ。市崎って言いにくいだろうし。あと君ずけもいらないから」

 

「そう? じゃあ、よろしくね香月」

 

「よろしく」

 

 にこやかに言う彼女へ、俺も笑ってそう返した。

 

 なんだかんだ小学生になって数ヶ月。俺に始めて友人と言えそうな人が出来た、大きな第一歩の瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちなみに、師匠って呼んでもいい?」

 

「…………雫がいい」

 

 しかし師匠呼びは許してくれませんでした。残念…………

 

 





グラハムは分裂が出来るなんておかしいと思った

そこのあなた。

グラハムにそんな事すら出来ないと思う

その思考が間違いです。

頭が柔らかくないと、グラハムには着いていけません。






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ゲームをするぞ!少年!!

小学校生活を大きくキングクリムゾンして、

原作に関わりにイクゾー






 前略。

 

 前世のお父様お母様。もはや別世界となってしまってるあの世界で、両者ともに元気にお過ごしでしょうか? 

 

 俺、市崎香月は元気です。

 

 毎日子供にやらせる限度を軽く超えたようなトレーニングを課されてはいますが、それでも必死に生きております。(乾いた笑みを浮かべつつ)

 

 どちらにも感謝し始めれば切りがないのだけれど、まずは不本意ながら、俺としても本当に不本意ながら(ここ重要)両親より先に死んだことを謝ります。ごめんなさい。

 

 俺は何にも悪くないし、死ぬ気すら毛頭なかったんだけれど、その辺りは二人が寿命をしっかり終えた後に出会うダンブルドア似のクソジジイに言ってください。そいつに関してはどう処しても構いません。そいつのせいで俺死んだんで。

 

 俺が死んでしまい、きっと両親どちらも悲しんでいると思います。悲しんでるよね? そう信じてますよ? うん、絶対そうだと信じたい。けれど、転生後の世界(こっち)でまぁ元気に生きているので勘弁してください。

 

 あと遺品整理と行って部屋に入ったとしても、絶対に机の三段ある棚の一番下は開けないでください。俺の黒歴史と性癖のたまり場となっているので。開けられたら俺が羞恥心できっとこちら側で死ぬかもしれないので見過ごしてね! 息子からのお願いだよ? 

 

 さて、こちら側での生活ですが最初は不安しかありませんでしたが、二人ほど友人も出来てきております。二人とも魔法の塾も学校も同じということですが、二人は魔法に関して天才です。

 

 勝てません。勝てる気がしません。男だから根性見せろとか父さんは言うやもしれませんが無理です。こっちの世界では才能が全てです。

 

 ふざけて友人の一人に身長が伸びてないなうんぬんでバカにしたところ、レーザーが飛んできたと言えば怖さはわかってくれると思います。

 

 出来れば同性の友人が一人でも欲しいとは思いますが、そこはきっとおいおい出来ると僕は信じています。多分、恐らくですが…………

 

 そちら側にはなかった魔法の才が発覚し、才能の無さに枕を濡らし、それでも練習を繰り返してもう七年ほどになってしまいました。

 

 ですが七年間練習を積み重ねて来ましたが技能も処理能力も伸びる兆しが一向にありません。

 

 毎日朝からハムスターの化け物に痛め付けるような筋トレを課せられ、学校が終わったらそのまま魔法を教わる塾に行って授業を受け、そして友人二人にしごかれる。帰ったらまたもハムスターの化け物のターン。夜の町に繰り出すという名前だけはいいランニング、加えてハムスター式格闘術を指南される。

 

 本当に俺は小学生なんでしょうか? (困惑)

 

 これを七年間やり続けて今更なんだって感じだけれど、文にしてみたらホントに中学にも上がってないような子供にやらせることじゃないですねわかります。もう中学生だけれども。

 

 それにこれだけやって伸びない魔法技能って…………才能って怖いですね(涙目)

 

 そんなんだから塾でも冷ややかな視線を向けられる毎日。そろそろ塾の先生の瞳にも優しさという感情が見えなくなって参りました。けれどもこんな無能を見捨てずに色々と教えてくれる天才な友人二人には感謝しかありません。

 

 代わりとっていってはなんですが、視野の広さと身体能力はバカみたいに上がりました。どのくらいかというと、魔法で加速し全力でスピードを上げても、自分の足で強引に方向転換や急停止が出来るくらいに。

 

 最初はこんな事したら足ぶっ壊れるしてか出来るわけねぇじゃぁんww!! (某子役風)って思ってたのに、人間成長しようと思えば成長出来るもんなんですね。この調子で魔法の方も伸びて欲しいんだけどなぁ…………

 

 とまぁこんな感じで過ごしているうちに、もう俺ももう中学生。本格的に勉強も難しくなってくるでしょうし、なんだかハムスターの俺のレベルアップへの熱意がどんどん上昇していくのが不安で仕方ありません。

 

 けれども数は少ないですが良き友人もおり、優しいこちらでの親にも恵まれ、充実してると言っちゃ充実してる生活をおくっています。

 

 なんだかんだ文句も多く語ってきた訳ですが、これでも結構こちらの生活も悪くないなと思っています。

 

 なので、俺が死んだということばかり思わずに違う世界で楽しくやってるんだと笑いながらに思ってくれるなら、俺としても気が楽だし嬉しい限りで━━━。

 

『会いたかったぞ!! ガンダムっ!!!』

 

 なんか聞こえた。

 

 頭を鈍器で殴られたんじゃないかってくらいの大音量の声が飛んできたのは俺の右側。ベッドに横になってる俺は薄目だけ開けてそっちを見る。

 

 そっちでは、案の定グラハムスターが小さめのテレビにかぶり付くようにしながら家庭用エクバやってた。

 

 なんだよ、こっちはお前の地獄メニューが終わってもう色々と疲れたから夕食前に寝てるってのに。良さげな感じで前世の両親へ語りかける感じの導入してるってんのに、雰囲気ぶっ壊れだよ。

 

 画面ではずっーとダブルオーを追っかけてるスサノオが映ってる。その調子じゃオーバーヒートして止まっちゃうぞ。あっ、ダブルオー覚醒した。

 

 オーバーヒートして完全硬直してるグラハム使用のスサノオは不動の構えで、ダブルオーのブッパを余すことなくその身に受けた。そして画面に映る、大きな赤字のLOSEの文字。

 

『クッ!? 何度私の顔に泥を塗れば気が済むんだ…………ガンダムっ!!』

 

 むやみやたらに突っ込むからだろ、とは思ったけど言わない。今の方が見てておもろいしなんか言って絡まれる方がダルい。

 

 なんだかまだワチャワチャ言ってるけど、ま、無視していっか。グラハム式トレーニングで疲れてるのに、そこからグラハムのテンションに付き合ったら倒れる自信しかない。

 

 てか中学一年生に10キロマラソン2セットなんて普通やらせる? 中学の強めのクラブ活動でもそんなのするかわからんよ? その後ちょっとだけ休憩したら今度はグラハムと組み手だし。

 

 えっ? グラハムはハムスターだから組み手出来ないだろうって? 出来るんだよ、こいつ通りかかったまったく見知らぬ第三者の体を乗っ取って使うから。

 

 もちろん許可もなにも取ってない。ただ一言失礼するって言ってるけど相手は聞こえてもなければ見えてもないので実質無断で借りてる。まさに外道。

 

 けどそのお陰で大人相手もそれなりに戦えるくらいには実力ついた訳だけど、それでも喋ったこともないような人の体を使わせてもらってると考えると罪悪感は抜けない。

 

 グラハムにこれについて言ったら、失礼すると言ってるから何も気にする必要はないってさ。お前の倫理観どうなってんだよ。万能なのか、お前の失礼するは。

 

 そんなこんななトレーニングの下りがつい数十分前にあったもんで、俺の体は非常に疲れてる。もう目を開けるのも嫌だ、なので俺はグラハムの相手なんてしたらきっと死んでしまいます。

 

 つい最近もらったスマホにイヤホンをぶっ指し電源を入れる。アクセスするのはYo-tube、選ぶのは雨音一時間耐久。このシトシトした音が寝るにはちょうどいいんだよなぁ~。イヤホンはノイズキャンセラー着きなので、グラハムがどれだけ騒ごうが俺は安眠を謳歌できるという訳だ。

 

 晩飯まであと一時間ちょい。今日は父さんも帰って来て一緒に食えるらしいんでいつもよりちょいと遅め。なので休む時間は充分すぎるほどある。

 

 なのでイヤホンで両耳を塞いでスマホをわきへ置く。準備は整った、あとは寝るだけだ。

 

 ポツポツという心地のいい音が耳へと入り込んでいく。なんとも心地のいい音色によって、大分疲れていた俺の体を睡魔が襲ってくるのは目を瞑ってすぐだった。

 

 あぁ、前世の父さんと母さんがこっちを見て微笑んでる…………なんか二人が死んだみたいなんだけど、細かいことは突っ込まないよ俺は。死んだのは俺でしょとか言わないから。俺は空気の読める男だからね。

 

 瞼が上がらない…………それこそあの劇場の時みたい…………そのまま俺は、深い眠りへと体を沈ませ

 

『まだだっ!! まだだガンダムっ!!!』

 

 られませんでした。

 

 おっかしいなぁ。ノイズキャンセラー入ってるから、ほとんどの外界の音はカット出来るはずなんだけど

 

『私の君への感情は愛!! 何もかもを凌駕し得るこの力のすべてを今、君にぶつけよう!!」

 

 あっ、音量が小さいのか。ならグラハムの声が入ってくるのも納得だな。てかうるさいなあいつ、近所迷惑にかるだろーが。ああもう無視だ無視。

 

 再度音量を上げ、グラハムに背中を向ける形で俺は体を丸める。シトシトくらいの雨音は音量を上げた事で少し大降りな感じになってしまってるが致し方ない。これもすべて、俺の静かなる睡眠のためだ。

 

 瞼を閉じれば映る綺麗な雨の景色。静かなそこには俺しか居なくて、まるで世界に人が俺しかいないみたいに感じられて、

 

『私と君は、運命の赤い糸で結ばれているのだ。そう、戦う運命にっ!!!』

 

『君の圧倒的な性能に私は心を奪われた。この気持ち…………まさしく愛だっ!!』

 

『君の視線を釘付けにし、この気持ちを証明して見せよう!!』

 

『私の愛のグラハムスペシャルが、君の心を穿━━━━』

 

「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 怒りの叫びを上げつつ跳ね起き、体を大きく動かして飛び蹴りをグラハムへぶっぱなす。グラハムがコントローラーを握ってるとかオンラインで対戦中だとかは知らん。

 

『むっ!! カヅキ、寝ていたのではなかったのか?』

 

「寝てたかったよ優雅にな!! お前がイヤホン突き抜けるくれぇの叫び声をバンバンあげなきゃなぁ!!!」

 

『それは…………すまなかったな』

 

「すまなかったで済むならニューヨークポリスデパートメントは要らねぇんだYO!!」(ケン)

 

『や、やめろカヅキ!! 頭を掴むな痛い痛い!!』

 

 なーにが私の愛のグラハムスペシャルだ! ゲームするだけで愛を覚えるんじゃねぇよ!! ギャルゲーとかならまだ理解できるけどこれ対戦ゲームだぞ? 唐突に相手に愛を囁くなそして騒ぎ立てるな!! 

 

「俺は寝たいの!! お前の超人育成トレーニングで疲れてんの!!」

 

『わ、わかっている! だが今は離してくれ!! このまま元帥でいられるかどうかが懸かっているんだ!!』

 

「てめぇ勝手にランクマ潜ってたんかい!? しかも降格しかけなの!? お前がやる時はフリーの方にしろってあんだけ言ったろうが!!」

 

『それでは私の戦闘意欲が我慢しきれんかったのだ!! 私は我慢弱いのだ!!』

 

「バトルマニアかお前は!? そろそろ理性ってのを覚えろこのハムスターホモが!!」

 

 あーもうなんでこうこいつは自分勝手に行動するかねぇ!! 家でゆっくり休むことも出来やしねぇよ!! 

 

 とそんな風にグラハムの頭をゴリゴリと押さえていると流れてくる敗北のBGM。そして画面にチョコンと出てきたのは、戦犯をかまされた相方からこちらへの迫真の『助かりました』。ほんっとにすみません。

 

『ぐぅっ!! 降格してしまったではないか!! どうしてくれるのだカヅキ!!』

 

「いやどうしてくれるもなにも、お前はランクマに潜るなって言ってんのに勝手に潜るからだよね? 普通怒るのはお前じゃなくて俺だよね? なんで俺が怒られんの?」

 

 色んな意味で怒りたいのはこっちだ。これ以上いらん事やらかしやがったらボーグ魔法で消し飛ばすぞこんにゃろう。

 

『やはりあのガンダム、少年が乗っているというのか…………ならばもう一度挑むまで!! この愛を彼に届けるその時まで私はぁ!!』

 

「はーいこれ以上ポイントを落とさないでくださーい。」

 

 このグラハム(チンパン)に触らせてたら駄目だ。このままやらせてたら大尉辺りまで落ちそうだし。てかずっと同じ人の使うダブルオーとやってんじゃん。しつこすぎないこのハムスター? やだこいつストーカーなの? 

 

 ホモで厨二臭くてストーカーとか救いようないぞこれ。普通の人だったら通報待ったなしだし。良かったなお前俺以外の人に見えなくて。

 

 もう一騒ぎしたら眠気なんてどっかいちまったよ。目もパッチリなっちまったし、寝れる気がしない。そろそろこいつを部屋から追い出すことを考えるべきなのかもしれない。俺の平穏を守るために。

 

「ったく、粘着質にずっと同じプレイヤーに挑んでたら変人だと思われるぞ俺が。」

 

『私は少年を見つけて果たし合いを挑んだだけだ!』

 

「少年って、ダブルオーのプレイヤーの人女の人じゃね? Lina☆って絶対男じゃないでしょ。」

 

 ネカマの可能性は否定できないっちゃ出来ないんだけど、このゲームでネカマになる必要性が感じられない。

 

 とりあえず相手の人と相方に謝罪文送っとくか。ここまで無礼な事したんだからそれくらいはしないとな。それにあわよくばこの女性プレイヤー(希望的観測)とお近づきになれれば嬉しいですねグヘヘ……ん? 

 

 ピコンとなった画面を見ると、そこにはチャットが一通俺のとこに来てた。相手は…………さっきのLina☆さん。なんだろ一体、もしかして怒ってんのかな? だとしたら早急に謝らねばならないよね…………

 

『スメルムーンただの雑魚で草』

 

 …………は? 

 

 唐突な煽り文に驚きを隠せない市崎香月。ちなみにスメルムーンは俺の名前、香月を英語にしただけです。結構カッコよくね? うん、そうだよね! カッコいいよね!! 

 

 いやいやまぁね? グラハムがここまで荒らしに荒らしたんだし? むっちゃしつこく挑んでたのに連敗だったみたいだし? 

 

『ホントに元帥?』

 

『別の人に運んでもらったですかぁ? ww』

 

『キャリー雑魚乙』

 

 …………は? (憤怒)

 

 キャリーなんかされてませぇぇぇぇぇぇん!! 自力で元帥にまでなってんですぅぅぅぅぅ!! 意味合い違うけどプレイヤー別の人で俺ではないですぅぅぅぅぅ!! 

 

 かぁ~っ!! これだから民度の低い奴は!! 勝ったらイキって相手を煽るしか脳がないんか? もうちょい大人になれやこの無礼女!! 

 

 ステイステイ、落ち着け俺。ここで俺が熱くなって食って掛かったら駄目だ。争いは同じレベルの者でしか起きない。俺が喧嘩を買えば、こーんな礼儀なしな女と同格になっちまう。

 

 ここは俺が大人になって、定型謝罪文を送りつつ抜けるのが正しいだろう。ふう、またしても俺は冷静な対応を見せてしまったぜ(イケボ)

 

 これで万事平和的に━━━

 

『負け犬で逃げるとかwww』

 

『名前と同じでプライドも残念www』 

 

 …………あ"ぁ"? 

 

 なんだァ? てめぇ…………(香月、キレた!!)

 

 あーそう、そーいう風な態度をとるのね。

 

 ふーん( ・-・)。そっかぁ。

 

「なぁグラハム、あいつに負け続けて無念か?」

 

『当たり前だ!! ここまでの屈辱は受けたことがない!!』

 

 ゲームですよグラハムさん? あなたの屈辱レベル低くないですか? いや今はそれを置いといて。

 

「なら弔い合戦と行くか。この礼儀もまともに知らない野郎をぶっ飛ばしてやる」

 

『頼むぞカヅキ!! 私のスサノオを使え!!』

 

「いや俺射撃機専門なんでお断りしますね」

 

『何故だぁぁぁぁぁぁぁ!?!?』

 

 うるさいグラハムは放置、そのまま俺はなにもチャットを送らずに対戦依頼だけを送信。

 

 さてさてさーて? ちょっと痛い目みてもらいますかぁ? 

 

 誰に喧嘩を売ったのか、教えてやろうじゃないか。

 

 ━━━━━

 

『あっれぇ? ( ゚ 3゚)どうしたんですかLina☆さーん? これで10連敗ですよぉ?』

 

『ねぇねぇどんな気持ち? 一撃も入れれずにボコられるってどんな気持ち?』

 

『楽しくてシャゲダンが止まらないww』

 

『最後の方なんて僕使ってたのドアン君でしたよぉ?』

 

『ドアンパーンチ、キモティですねぇ!』

 

 ジャンジャン煽る。ひたすらに煽る。

 

 大人気ない? 俺はまだ小学生です。

 

 煽りすぎ? 目には目を、歯には歯をです。

 

 いつもならあーそーですかぁみたいな感じで流してやったけど、今回ばかりは頭にきました(加賀)

 

 弱すぎませんかねぇLina☆さんよぉ? ちょっと元帥の広間に遊びに来るには早かったんじゃないですかねぇ(ゲス顔)

 

 負け続けて苛立ったのかチャットも返さないLina☆さん。本当に一方的なリンチだったからね、心が折れるのもしゃーないしゃーない。どのくらい一方的かっていうと、三戦目でグラハムが興が乗らんって言って見なくなるレベル。

 

 あっ、通信切られた。勝ったな(愉悦)

 

 途中途中英語でチャット来てたけど、もしかしてあの人外国人なのかな? なんか物騒そうな単語が送られてたけど知らん。

 

 俺は日本人だ(英語読めない)

 

『しかし、君もよくやる。これでは虐めだと言われても反論できないぞ?』

 

 そこでグラハムが俺にジト目を向けつつそう言ってくる。それに対し、俺はふっと笑って返した。

 

「あのなグラハム、こういう手の輩はしっかりと痛め付けとかないと懲りないんだよ。だから俺は教育しただけ、きょーいく」

 

『私には憂さ晴らしにしか見えなかったのだが…………』

 

 そそそんな事ないよー? 俺がいつも魔法に関してやられっぱなしだからって、そ、それをぶつける訳ないじゃないですかー(動揺)

 

「それに、あいつは俺の地雷を踏みやがった」

 

『ほう? というと?』

 

 聞くか、聞くのか。ならば教えてやろうじゃないか。

 

 奴、Lina☆は言ってはならない事を口にした。

 

 それは!! 

 

「あいつ俺のプレイヤーネーム残念だって言いやがったんだぜ!?」

 

『…………それに関しては、私も違う名前はなかったのかと思ったぞ』

 

 自分の飛行技術にグラハムスペシャルなんてつける奴には言われたくない(ドングリの背比べ)

 

 でもまぁ過程はどうであれ、

 

 これで あ く は 去 っ た(地上最強の男)

 

 というか楽しくなって忘れてたけどもう結構いい時間よな。それなのに父さんが帰ってくるような感じもなかったら、母さんが夕食が出来たって言って呼んでくれる感じもない。

 

「なぁグラハム、母さん俺の事呼んでた?」

 

『いや、そんな物は聞こえなかったぞ。もしや何かトラブルでも━━━』

 

 ドタタタタタっ

 

 おっ、噂をすれば足音が。でもなんか急ぎ足だな。なんかあっ━━━

 

 ガタンっ!!! 

 

「うおっ!?!?」

 

 ぼんやり考えてたら、母さんが勢いマックスで扉を開けてきた。

 

「母さん? 一体どしたの?」

 

「香月…………」

 

 母さんはなんだか深刻な面持ちで、俺の肩を持つ。

 

 えっなに? なんかあった? もしかして父さんが事故とか? 

 

 真剣な顔の母さん、固唾をがぶ飲みする俺、構えるグラハムスターというなんだかカオスすぎる空間に真面目な空気が流れ始めた。

 

「香月、落ち着いて聞いてね…………」

 

「う、うん…………」

 

「父さんが…………お父さんがっ!!」

 

「父さんがっ!? どうしたの母さん!?」

 

 なんなの!? 事故なの!? 襲われたの!? 

 

 落ち着いて聞いてと言った母さんが一番動揺してるなか、俺は頭をフル回転して何があったのかを予測する。そして浮かび上がるのは、最悪の想像。

 

 まさか、まさか、父さんは…………もう…………

 

 そんな想像のなか、母さんは重々しく口を開いた。

 

「お父さんが…………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さんが沖縄なの!!!!」

 

「…………???」

 

 ?????? 

 

 カオスな空間が、よりカオスになった。

 

 

 

 

 

 




お父さんは沖縄だった編、始まります。


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沖縄だぞ!少年!!

この小説を読んでいる皆様。

自宅待機、しよう!!

グラハム・エーカーとの約束だ!!




 雲一つない爽やかな空。

 

 汚れ一つない鮮やかな白い浜辺。

 

 太陽の光をすべて反射して輝く、青々とした海。

 

 美しい景色に馴染みのない景観。燦々と俺を照らす太陽は、その力強さをありありと俺に示してくれてる。

 

 そんな中、俺はキャップを目深に被りつつ、こう言いました。

 

「暑っつい…………」

 

 楽しいー! とか、すげー! とかだと思った? 

 

 それよりクッソ暑い。もう暑い。溶けるわこれはマジで。

 

『貧弱だぞカヅキ。この程度の暑さで音を上げるなど。たかが37、8度ではないか。弱々しい』

 

 グラハムさん? たかがの基準値がなんかおかしいんですけど。東京の方で高くて36度だぞ? 2度も違うんだぞ2度も。わかってんのか、この差のデカさが。おおう? 

 

 とまあこんな感じで、俺の少し前を四足歩行で歩み続けるグラハムスターといつも通りの談笑をしつつも、鍔の下から辺りを見渡す。

 

 冒頭で言った通り、左手にはそれこそ有名なビーチなんじゃないのってくらいの海と白浜が広がってる。まぁきっと有名なビーチなんだと思う。知らんけど。

 

 ここまでの会話でなんとなく察しているかもしれないけれど、今俺達は東京にはいません。

 

 なんと市崎一家とペット(キメラ)は、現在沖縄に旅行に来ておりますーわーパチパチー(棒読み)

 

 何故か、それは父さんが沖縄になったから。ではない。あの日、父さんは帰りにガラポン抽選会してるとこに出くわしたようで、たまたま一回引けたので引いてみた。

 

 するとなんとびっくり! 一等沖縄旅行券をゲット出来たのだ。当たっておいてなんだけど、ガラポンってまだ現役なんだな。これだったり固定電話だったりハイテクになってんのかどうなんかこりゃわかんねぇな。

 

 母さんはそれを電話で伝えられて大喜び、おかしくなって俺のとこで変な風に言うくらいにおかしくなってた。

 

 父さんも夏休みはどうにか休みがとれ、俺も魔法の塾へ何日か旅行で休むことを伝えると、神からの幸運を手にした市崎一家プラスグラハムは夏休みを利用して沖縄に羽を伸ばしにやって来た、という訳だったのだ。

 

 解説終わりっ! 閉廷っ!! 

 

「まさか本当に当たってるとは思わなんだ。人生何があるのかわかんねぇもんだよな」

 

『人生とは長い旅路だ。山もあれば谷もあるだろう。その中で、今回は偶々幸運にもオアシスに巡り会えたのだ。乙女座の私は、この喜びを体現せずにはいられない!!』

 

 笑顔で笑いながら空中ゲッタンをかまし始めるグラハム。どうやって一切地上に足をつかずにできてるのか、神の使いというのは、不思議ですね(諦めた顔)

 

 あとさぁ、一個気になってたんだけどさぁ。

 

「お前、なんかでっかくなってってない?」

 

『む?』

 

 振り向くグラハムのサイズ感は、もう野良猫とかリードのついて散歩してる犬とかと遜色ないレベル。もうハムスターって名乗るのも烏滸がましいくらいの巨体になってきてる。

 

 おかしいな? 会った当初は手に乗るサイズの(大きさだけなら)可愛いげのあるハムスターだったのに、今ではもう家にいるペットみたいな感じになってる。

 

 なんだろう…………あれだ、そうにゃんこ先生みたいな感じだ。にゃんこ先生ほど良くはないけれど。

 

『やれやれ、カヅキも妙な事を聞くものだ。私も生き物なのだから成長するのは当たり前だろう?』

 

「えっ?」

 

『えっ?』

 

「お前そのなりで生き物語るの?」

 

『もちろんだ。それ以外に君は私が何に見えるというのだ?』

 

 怪物ですね、はい。

 

 顔は人間、体はハムスター、大きさは小型の犬と同レベルってそれはもう怪物です。自然界にはまず発生しない生き物なので。

 

 それよりも俺はお前が自分を生き物だと考えてる事にびっくりだわ。なんなのお前、鏡見たことない? ホテル戻ったら写してやるからその目に焼き付けろ。

 

 さて、そんなこんなでゆったりとこのクッソ暑いなか一人と一匹で沖縄散策してるんだけれど、いやーやっぱなんだかんだ言っても海が綺麗だ。

 

 前世と今世の両方を合わせれば二十年くらい生きてきたけど、俺は一度もこの目で海を見たことなかったんでものすごい綺麗に見える。心が洗われるわぁ。

 

『うむ、鮮やかな景色だ。それこそ、戦場で出会う少年とかのガンダムのようにっ!!』

 

「あー隣のホモの邪心も綺麗さっぱり洗い流してくれないかなー?」

 

 今のグラハムの言葉のせいで一気に心がやさぐれちゃったよ。あの海に行った時にはグラハムをしゃぶしゃぶしようか。そしたら少しはマシになるよきっと。海の方が汚れそうだけど。

 

「写真の一枚でも撮っとくか。せっかく来たんだし。」

 

『そうだな。ならばポーズはどうする?』

 

「お前は撮らん。景観が損なわれる」

 

 撮るのは景色だ。誰が好き好んでこんな化け物のバックを沖縄の景色にするんだよ。お前の写真集でも作るのか? ならハッシュタグに怪物降臨ってしといてやるよ。

 

 短パンのポケットからスマホを取り出してカメラを起動。スマホを横持ちにしてピントを合わせる。いやはや、技術の進歩は凄まじいもんだ。このスマホのカメラも俺がいた時の超高性能カメラみたいな感じで撮れるんだもんな。さすがは六十年後、ハイテクですねぇ(老人感)

 

 おっ、ピント合った。それじゃあとはボタンを押して…………

 

『とうっ!!』

 

「あっ!? おまっ!?」

 

 グラハムがタイミングを合わせて飛んできたのに気がついたけれどもう遅い。俺はそのまま勢いで写真をパチャリと撮っちゃった。

 

『ふっ、撮らないのであれば、自分から写りにいけば良いのみ』

 

「なにやってんのお前? 写りたがりか?」

 

『せっかく沖縄に来たのだ!! 私も写真の一枚くらい望んでもバチは当たらんだろう!?』

 

「なんか今日お前修学旅行に来た学生みたいなノリだな。俺よりはしゃいでんじゃん」

 

 あのはっちゃけて写真むっちゃ撮り出す感じのアレ。お前陽キャだったのか? まぁホモ公言出来るんだからそれもそうか。

 

 それに撮った写真のポーズよ、なんで両手がっつり上げて万歳してんのに顔真顔なんだよ。これもう○夢君じゃんよ。いつのまに仲良くなったの? 同じ穴のムジナだからなの? 

 

「あーもうわかった。入っていいよ。俺は好きに撮るから」

 

『感謝する』

 

 出来れば入ってほしくないけど、こいつにも日頃の感謝も込めてこれくらいは優しくしてやるか。おいこら全部片手上げるか両手上げるかのポーズにするな。お前と淫○君はマブダチなの? リスペクトしちゃってんじゃん。

 

 結局写真を一通り撮り終えても、グラハムは頑なにあのポーズだった。やっぱりホモは汚い、はっきりわかんだね(確信)

 

 けどグラハム写ってない奴とかはやっぱり沖縄ってだけあって大分綺麗な写真が撮れた。さすが近未来スマートフォン、優秀!! 

 

「あっ、これあいつらに送ってやるか。今頃東京でぐーたらしてるだろうし」

 

『嫌味だと思われるぞ?』

 

「嫌味だからな」

 

 これくらいしか自慢できる事がない自分がなんだか悲しくなってくるけど…………

 

 早速写真を雫、そしてほのかと作っているグループへ投下。メッセージは沖縄満喫中とかでいった。自分でもセンスを感じない文だけれども仕方がない、文才なんて俺にゃないんだから。

 

 ちなみにほのかとは、一年の時から雫とよく一緒にいた子だ。俺が雫に色々と魔法を教えてもらうなかで仲良くなった。二人して天才で、心が折れそうになった事が何度あったか。

 

 ピコン。

 

「おっ、返信来た」

 

『どちらからだ?』

 

「雫だけど…………ん? 写真? 」

 

 スマホに上がったのは画像が送られたことを指す通知。なんなのか気になった俺は何も深いことを考えずにアプリを開いた。

 

 そこに写っていたのは、水着姿の雫と同じような服装をした雫の家族。バックには俺の眼下に広がる海に負けず劣らずなビーチがあった。

 

 そして間髪入れずにメッセージが一本。

 

『こっちは小笠原で海を満喫中。(^-^)v』

 

 …………そうだ、完全に忘れてた。

 

 雫は金持ちだったんだ。

 

 大分前に言ってた気がする。小笠原に別荘があるって。それともう一つ、近くのビーチはプライベートビーチになってるって。

 

 …………うん。なにも勝ててないわ。むしろ敗北感がすごい。マウントもなにもとれやしない、俺はいつになったらあのチビッ子に勝てるんだ。一生懸かっても無理そう…………

 

『香月は何してるの?』

 

『海辺付近の遊歩道を散歩中』

 

『やってることがお年寄りみたい』

 

 誰が年寄りだ。こっちだって好きで散歩してるんじゃないんだよ。

 

 お前にわかるか? 片や両親が久しぶりにゆっくり出来るからって息子の俺ですら嫌になりそうや甘~い雰囲気になってて、片や隣ではグラハムが外へ行くぞっ!! ってうるさいし。もう出るしかないじゃない!! (マミさん風)

 

 まぁ? その両親の空気を読んで二人の時間を作って上げたんだぞ? 俺は出来た息子だよまったく(自画自賛)

 

『二人ともズルい!! ((ヾ(≧皿≦メ)ノ))』

 

 そこへほのか参戦。ズルいって言ってる事はもしやほのか、東京に一人なのか。可愛そうに。お土産にサーターアンダギー買ってってやるから。それで満足してください。

 

『私は誘ったよ?』

 

『家の用事で行けなかったの!!』

 

『私も行きたかった~』

 

『ドンマイヽ(´・∀・`)ノ』

 

『ふんっ( ̄^ ̄)』

 

 あーあ、ほのかふて腐れちゃったよ。ま、今回ばっかりは仕方ないしな。ただここで何か送ると俺に怒りの矛先が向きそうなので自嘲する。面倒事は避けるに限るぜ。

 

『そうだ、今日塾で聞いたんだけど、桃地君が北陸の方に転校するんだって』

 

「なにっ!?」

 

『なんとっ!?』

 

 唐突なほのかから飛んだ情報に、俺もグラハムもビックリ。てか頭の上に乗るな。首への負荷が半端じゃないから。

 

『それでなんだか塾でお別れ会みたいなのするんだって。二人は来る?』

 

『嫌だ』

 

『断固拒否する』

 

 おお、俺と雫がほとんど同時に返信した。あいつも桃地の事嫌いだからな。俺? 俺にとってあいつはトラウマもんです。見かけるだけで未だに腹の下らへんがスゥースゥーするし。

 

『むぅ、これでは逆襲が出来んな』

 

「しゃーないしゃーない。」

 

 悔しそうなグラハムだったが、はっきり言ってこれは俺にとってありがたすぎる。万々歳だ。これでいちいち嫌味とか皮肉とか、陰湿な弄りをしてくる輩がどっか行くんだから。

 

 けどお別れ会か。出来れば招待状を本人から渡されたかったな。だったら目の前で破って『お前を殺す』ムーヴが出来たってのに。でもやったら速攻で股間アタックだな。

 

 しかしこれで、俺の長きに渡るイビられ生活が終了する!! 遂に塾にも俺の平穏がやって来るんだ。六年も待った甲斐が会ったよ。

 

 他人の転校でウキウキになる俺。他人から見ればただのグズだけど、相手は虐めっこだから。そこ考慮してね? 俺も情状酌量の余地があるから。余地しかないから。

 

 そんな事を思いつつ、夏休み明けの生活がより一層楽しくなるなと鼻唄を歌いながら上機嫌になっていた。そんな時だった。

 

「おい、なに眼飛ばしてンだガキ?」

 

 急にドスの効いた低い声が耳に入ってきた。えっなにすみませんでしたスマホ見てただけなんですと、頭に一瞬で謝罪の言葉を思い浮かべる三下魂を露にしながら視線を上げる。

 

 視線の先には、軍服をテキトーに着たヤンキーみたいな大柄な男が二人。さっきのドスの効いた声は明らかに彼らの内の一人の物であったけれど、彼らは俺ではなく近くにいた子供二人を、もう見た感じ虐めてますと言わんばかりに囲い込んでる。

 

 一人は目がキッと鋭い男の子、もう一人は女の子なんだろうけど、こっからじゃうまい具合に男の子の背に隠れて見えない。

 

「ほっ…………俺じゃなかった。けどあれ軍人だよな?」

 

『あれは恐らくだが、取り残された血統(レフト・ブラッド)と呼ばれる者達だろう。』

 

「レフト…………なんだって?」

 

 なんだ? その厨二病患者が好きそうな単語。

 

『レフト・ブラッド。沖縄に駐屯していたアメリカ軍がハワイへ引き上げた際に取り残された子供達の事だ。彼らは国防軍に引き取られ、そのまま軍人になった者達。彼らは立派な軍人として任務を立派に果たしているらしい』

 

「えぇ…………明らかにそんなしっかりした軍人って感じじゃないんだけど」

 

『彼らはそのレフト・ブラッドであった者達の子供、いわゆる第二世代なのだろうな。彼らも軍人ではあるものの、素行の悪いものが多く沖縄では大きな問題の一つとなっている。』

 

「へぇ。やっぱ軍関係ってこともあって、グラハムもしっかり調べてたんだな」

 

『以上が先日読んだ観光サイトの注意書きだ』

 

「ごめん、感心返してくれる?」

 

 観光サイトて。お前どんだけこの旅行楽しみにしてたんよ。夜な夜なプレステでなんか調べものしてるなーとは思ってたけど、これについてだったんかい。

 

「てことは要約すると、アメリカにポイ捨てされた子供はしっかり軍人してたけど、その子供は沖縄でオラついてるって事でおけ?」

 

『うむ、概ねその通りだ。』

 

「てことは、今あの子らはヤンキーに絡まれてるわけか」

 

 大変だな。でも運がなかったんだよ。こういうのは、関わっちゃ駄目だ。だって相手は腐ってても軍人でしょ? 俺がどんだけ鍛えてても勝てないし暴力はそれなりに問題になっちゃう。

 

 悲しいけど、これ現実なのよね(スラッガー中尉)

 

 だから俺はクールに去っていきます。俺は知りませんと、関係ありませんと去っていきますよ。

 

 くるりと彼らに世を向けるように体を百八十度回転。そのまま来た道を真っ直ぐ引き返していく。

 

 そう、これが正解。俺はこのまま平和な沖縄旅行を過ごして…………

 

「ビビって声も出ねぇかよ!!」

 

「土下座するなら許してやってもいいぜぇ?」

 

 過ごして…………

 

「人様にぶつかったんだから、きっちり謝んないとなぁ?」

 

「じゃないと、どうなるかわかってるよな?」

 

 過ご、して…………

 

 …………はぁ。

 

「なぁ、グラハム」

 

『なんだ?』

 

「ここって俺らが泊まってるホテルの近くだよな?」

 

『そうだな』

 

「海に遊びに行くって行ったら、あそこの海になるわけだよな?」

 

『そうだな』

 

「なら、あのヤンキー軍人が俺や父さん母さんにもうざ絡みしてくる可能性があるって事だよな?」

 

『そうだな』

 

 よし。グラハムがなんか全肯定modみたいになってるけど、確認することは確認した。

 

「だからなグラハム? 今からやるのは、後々面倒事になるであろう事を事前に処理するんだよ。だからこれは、あの兄弟? の二人が可愛そうだとか、あのヤンキー軍人のやってることが納得出来ないとか、そんな理由じゃないんだよ。理解した?」

 

『フッ、理解しているよ』

 

 微笑を浮かべるグラハム。なんだかその笑顔は、生暖かい感じだ。

 

「…………なんだよ」

 

『なにもないさ。ただ、素直じゃないなと思っただけさ』

 

「うっせ」

 

 誰がなんと言おうと、これは予防行動なんだよ。俺はそんな困ってる人助けにいく正義感なんて持ち合わせてない。これは予防、後の面倒事への予防なのだ。

 

『さて、彼らを止めるとして、何か策はあるのか?』

 

「ある…………けど下手すりゃ相手さん怒って力ずくになるかも。」

 

『そうなればサポートしよう。今は、君が思うようにやるといい』

 

「後押しありがとうございますねっ!」

 

 そうと決まればやろう。もう一度体を反転し、兄弟? を囲い込むヤンキーズの方へ走り寄る。手に持ったスマホを手早く起動してヤンキーズの方向へ向けつつ、彼らの手の届かない、けれども会話は出来るくらいの距離で俺は立ち止まった。

 

「おいっ!!」

 

「んあ?」

 

「お?」

 

 俺の呼び掛けに、ヤンキーズは注意を兄弟? から俺へと向け直す。あっ待って、思ったより威圧感が…………。

 

 けど呼び掛けたんだ、ここで引き下がれない。引き下がったとしたらそのままずるずるとヤンキーズに絡まれるだろうし、そうなれば後日にまた絡まれる可能性も上がる!! 

 

 大丈夫! 策もある!! こんな奴等、ビビる価値もないわ!! 言ってやる、言ってやるぞぉ!! 

 

「しょの子達を虐めるな! きゃわいしょうだろ!」

(その子を虐めるな! 可愛そうだろ!)※香月の言い分

 

 噛んだ、盛大に噛んだ。一番決めなきゃいけないところで。

 

 シーンと、また懐かしいあのイヤーな空気が流れたと思うと、ヤンキーズが吹き出した。

 

「アハハハハ!! わ、笑わせんなよ!!」

 

「きゃわいしょうだって? よく頑張って出てきましたね?」

 

 うっ…………痛いとこを! ええい立て直しだ!! このまま強引に続けてやる!! 

 

「うるさい! いいのかお前達、そんな態度をとって!」

 

「「あ"?」」

 

 ヒェ…………あ、に点々ついてるって。ヤンキー特有の奴だって! 

 

『大丈夫だ。彼らにはまだ圧をかけることしか考えていない。武力行使するほどではない。続けろカヅキ』

 

 本当か? 本当だよな? 信じるぞ? お前マジでそれ嘘だったら俺ぶちギレるからな!! 

 

「お、俺はお前達が二人を囲んで絡んでるところをビデオで撮ったんだぞ! どうだ!!」

 

 おうおう、なんか口調が丸まま小学生みたいになってる。俺の予想じゃこう、なんかクールに行く感じを予想してたんだけどなぁ。

 

「へぇ? それがどうしたんだよ」

 

「ビデオ持って警察んとこでも行くのか? 対応してくれりゃいいけどな?」

 

 やっぱり警察は対応してくれないんですね…………グラハムの説明から、もしかしたらとは思ったけど。だって警察が動くんなら観光サイトに書くような事態にはならないしね。

 

 出来れば警察を頼りたかったけどそれも役に立ちそうにない。なら、本当に俺が咄嗟に思い付いたこれしかない。

 

 あーもう! 素直に警察呼んどけばよかったな!! けど遅いよな!! わかってますよはい!! やるしかないんですよねわかります!! もうどうとでもなれぇや!! 

 

「本当に、いいんですか?」

 

「あ? 何がいいんだよ」

 

「言ってみろや」

 

「そうですか。だったら、

 

 

 

 

Yo-tubeで流してやるぜHAHAHA!! 

 

「「っ!?!?」」

 

 ヤンキーズ二人に動揺走るっ!! 

 

「いいのかなぁ~? いいのかなぁ~? 俺がボタンポチっと押したらすぐにネットに大拡散だよぉ? 世間は軍人が小学生を虐めるこの図をどー思いますかねぇ??」

 

「…………っ!」

 

「この野郎!!」

 

 おおキレてるキレてる。

 

 ぜーんぶハッタリ、嘘ばっかりだけど。

 

 Yo-tubeに流す? 流し方知らんよ。まず、映像すら撮ってないし。

 

 けど、この嘘は大分この二人に刺さるはずだ。

 

 グラハムの言うように、このレ……レ……なんだっけ? まあいいや、ヤンキーズの素行の悪さは沖縄の大きな問題だ。

 

 であればそんな彼らがなにも悪いことをしていない小学生を虐めてる映像が出回ればどうなるか。ネット民のいい餌だ。速攻で住所特定されて個人情報がネットを行き交う事でしょう。

 

 それに彼らは軍人だ。ならこういう関連の問題が発覚したら軍内部でもただじゃ済まないはず! 

 

「お前調子乗ってんじゃ━━━」

 

「動くな! 動いたら、俺がすぐにでもボタン押して動画が世界へgoするぞ! それでもいいのか! 立場的にも、今後的にも考えて!!」

 

「くっ…………」

 

 さぁ全力で嘘をつけ。本当だと思わせろ。スマホを見られたらアウトだ。だから裏だけ見せて、いつでも押せるという事をより現実的にする。

 

 頼む…………頼む。このまま引き下がって!! 

 

「ちっ。覚えてろよガキ。」

 

 おっ? これは? もしや? 

 

 ヤンキーズの一人はそう俺に吐き捨てると、もう一人を引き連れながらこの場を去っていった。終始、俺をギラつくような目で睨みながら。

 

 これは? つまり? 

 

「勝ったぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「っ!?」

 

 ヤンキーズが見えなくなったのを確認するなり、俺はガッツポーズをかました。あっ男の子の後ろの女の子がビビっちゃった。ごめんね。

 

 見たかこんにゃろ!! オラつかせやがって!! 小学生に負けてやんの!! だっせぇなアハハハハ!! (勝利の宴)

 

『見事だったな。よくここまで考えたものだ。』

 

「ちゃっかり嘘にかかってくれたお陰だわ。それがないと上手くいかなかったし」

 

『どちらにせよ、結果は君の勝ちだ。なかなかな手腕、見せてもらったぞ。』

 

「へへ、そりゃどーも」

 

 グラハムの称賛に顔がニヤつく、いやーそれほどでも。

 

「すまないが、君は誰と話しているんだ?」

 

「…………へ?」

 

 そこで少年が俺に話しかけたことで、ようやく俺は現実に帰って来た。

 

 あれ? ちょっと待って? 俺、調子に乗ってグラハムと喋ってたけど、こいつ他の奴には見えてないんだよな? 

 

 俺めっちゃ恥ずかしいことしてたんじゃない今? 

 

「助けてくれて感謝する。ちょうど困っていたところだったんだ。」

 

「お、おう…………そっか」

 

 それに気がつくと、額から嫌な汗がドボドボ流れてきた。あーホントに俺って絞まんないね。こう、なんか最後に残念になる感じ。どうにかなりませんかねぇ。

 

「なんの礼も出来なくて悪いが、俺達はここで失礼する。妹共々、感謝するよ」

 

「お、おう…………そっか」

 

 なんかこの男の子、グラハムに声似てない? そっくりなんだけど。

 

 少年はそう言うと、後ろの妹に声をかけ俺に背を向ける。が、その時妹さんが俺の方を向いて、一礼した。

 

 その時、俺に電流走る。

 

 妹さんむっちゃ美人や!! 

 

 なにあの綺麗な黒髪!! 透き通る白い肌!! もはや二次元のレベルなんだけど!! あんな子おる普通!? そんなんできひんって!! 

 

 なーんて事を考え、というかあの妹さんに見惚れてるうちに、兄弟二人はもう俺から大分距離が離れたところに行ってしまった。

 

『カヅキ…………』

 

「なに?」

 

『…………無理は言わない。諦めた方がいい。色々な意味で』

 

「お前そーいうこと言う!?」

 

 わかってるよ!? わかってますよ!? あんな可愛い子が俺みたいなフツメン野郎に食いついてくれるなんて思ってないから!! あわよくば今のでカッコいい…………惚れたわなんて展開期待してないから!? 

 

 嘘ですっ!! (トランクス)

 

 ちょっと期待しました! だってするでしょ普通!? 男ならするって!! お前ホモだからわかんないだろうけどさぁ!! あーイケメンになりたかったよぉぉぉぉぉ!! 

 

 世の中って、非情だよね? (涙目)

 




香月「お前あの子と声似てない?」

グラハム『たまたまだろう』

香月「いや絶対似てるって」

グラハム『たまたまだろう』

香月「いやだから━━」

グラハム『たまたまだ』(迫真)

香月「アッハイ。」


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絡まれたぞ!少年!!


コロナで暇すぎて、最近ロスリックで刀振ってます。

敵強すぎィ!!死ぬぅ!!






 沖縄生活二日目。

 

 そのスタートは、俺が予想していたよりも遥かに早いものだった。

 

『起きろカヅキ! このグラハム・エーカーが、朝の5時の到来を伝達しよう!!』

 

「うーん…………」

 

 もう何億回と聞いたグラハム目覚ましだけれども、何度聞いても慣れない。というか慣れるわけない、こんな化け物が朝っぱらから目の前にいる光景なんて。

 

 いや、話したい事はそんな事じゃない。

 

「なんだよ、まだ朝の5時なんだろ? なぜに起こしたし。」

 

『何故、か。君もよくわからない質問を私にするものだ』

 

「いやよくわかんねぇのはお前の行動だよ。」

 

 今ちょうど夜明けくらいの時間なんだけど。日の出は綺麗だよ? さすがは沖縄って感じではあるけどさ。俺頼んでないよね? 

 

 まだ夜明けが見たいから起こしてって俺が頼んだんならわかるけど、お前唐突に叩き起こしてきたよ。それをお前はさもなんで起こされたかわかるだろみたいにされてもわかんねぇよ。

 

『よくわからないとはなんだ。いつも私はこの時間に君を起こしてるではないか?』

 

「いやまぁそうだけど、それは平日の普通の日であってな…………」

 

『そんな事はどうでもいい。すぐに着替えたまえ。走りに行くぞ』

 

 んーんーんー? (困惑)

 

「ちょっと待て、今お前なんて言った?」

 

『すぐに着替えて走りに行くと言ったのだ。天気も良好、これほどよい環境もなかなかないぞ?』

 

「いやいやいや、いやいやいや。」

 

 絶対に、嫌です。(確固たる意思)

 

 そらそうでしょうよ。せっかくのさ、沖縄旅行だよ? 楽しみたいのよ、ゆっくりしたいのよ。それなのにやる普通? なーんで沖縄に来てまで早朝長距離マラソンしなきゃならんのだ。

 

 俺は旅行に来てるんだ、決してスポーツ競技で体を痛め付けに来てるのではない。断じてない。

 

 と、言うわけなので、

 

「二度寝、としゃれこむか」

 

『ならんと言っているだろうっ!!』

 

「ふげぶっ!?」

 

 グラハムの体重を乗せたタックルの一撃が俺の頬に直撃。体が大きくなってきた事もあってなかなかの一撃だ、脳が震える(物理)

 

「痛ったいなお前っ!? 何すんだよ!!」

 

『君はわかってるのか!? ここまでの好条件なのだぞ? 鍛練を行わないなどあり得んだろう!? 古事記にもそう書いてあるはずだ!!』

 

「書いてねぇよんなこと!?」

 

 古事記:現存する日本最古の歴史書。内容は天地開闢 から推古天皇の記事であり、天候による鍛練についてなど書かれたトレーニング本などではない(←これ重要)

 

「とにかく嫌だ! 俺は出ないぞ! このホテルの布団が俺に居てほしいよぉって語りかけてくるから無理!!」

 

『またそうやって! 君の好みの口出ししたくはないが、何でもかんでも擬人化して心の安定剤にするのはよろしくない!! 体を動かすんだ!!』

 

「嫌でーす!! テコでも俺は動かないね!!」

 

『むむ、相も変わらず強情な!! あの少年のように素直にならぬか!!』

 

「俺は刹那がお前に素直になったとこなんて見たことないね!!」

 

『私の今日の夢では、そうだったのだ!!』

 

「いや知らーん!?」

 

 知るわけないだろお前の夢の話なんて!? てかそれ妄想だし、事実でもなんでもないんだけど。

 

「それに、俺運動用の服持ってきてないから。全部家のタンスの中で寝てるから、どっちみち無理だって。今回ばっかは諦めろグラハム」

 

 そう、そう! 俺はいつも修練(ほぼ強制)の時はジャージなどを着てやってるけれど、今はそれらは手元にない。あるのは完全に運動に向かないような服ばかり。

 

 どうだ! これなら、いくらお前でも反論出来まいて!! 

 

『その程度の問題、もう解決済みだ』

 

「…………ん?」

 

 解決、済み? 

 

 一体どゆことだ? 

 

 そんな俺の疑問を考えていると、その時、不思議な事が起こった。

 

 グラハムが口を開き、そこへ腕を突っ込んだ。そして次に腕を引っ張って戻して来ると、

 

 グラハムの腕には俺が着なれたウェアやズボンが握られていたからだ。

 

 ……………………は? 

 

『よし、これに早く着替えるんだ。これならば、君もすぐに動けるだろう?』

 

「う、うん…………」

 

 あ、あれ…………? なんかおかしいぞ? 今何が起きた? 

 

 グラハムが、自分の口に手を突っ込みました。

 

 そしたら、グラハムは口から俺の服を引っ張り出して来ました。

 

 つまり、グラハムは俺の服をずっと体の中に収納してたと。

 

 ほぉほぉ、なるほど。

 

「いややっぱ納得できんわ!?!?」

 

 どゆこと? どゆこと?? お前の体は四次元ポケットと化してるの!? 明らかに体が大きくなってるとは言っても体積にあってないぞ!? 

 

「色々聞きたいことあるけど、お前いつから俺の服を体に仕込んでやがった!?」

 

『沖縄に行く前日からだが?』

 

「昨日1日中ずっとジャージを腹に入れてたってのか!?」

 

 よくそれで私は生き物だって豪語出来たな(呆れ)

 

 リスとかビーバーでもこんなの無理だぞ。やっぱりグラハムって化け物なんだ、再度しっかり理解できたわ。

 

 てか今からこれ着るの? グラハムが口から出した奴を? やだよ、絶対やだよ!! 生理的に嫌だよ!! 

 

『さぁ、これを着て外に行くんだ。さぁ! さぁ!!』

 

「嫌だ! それとこれを着るのも嫌だ!! なんか所々光ってんのが余計に気持ち悪いから嫌だ!! 俺は二度寝するんだ!!」

 

『まだそのような事をっ!! そうするのであれば、君が二度寝したあとずっと枕元でシャゲダンしてやろう。私が夜のSGGKだ!!』

 

「やめろ!! あとお前は絶対に若林君に謝れ!!」

 

 なんだ夜のSGGKって!? なにをセーブし続けるんだよ!? 何を守護し続けるんだよ!? 童貞か? 童貞なのか!? お前ホモだから関係ないだろーが!! 

 

 あーもう話してたら埒が開かない。強行手段に出た方が絶対に早いわこれ。そう判断した俺はすぐさま布団を頭までかけ、外界のあらゆるものを遮断。そしてそのまま瞳を閉じた。

 

『…………そうか、それが君の答えなのか。ならば仕方あるまい』

 

 おっ? ついに諦めたか? やっとまた静かな眠りにつける。このまま俺は10時くらいまで寝てやるんだ。もう何人たりとも、俺を起こすことは出来ぬぅ!! (ブロリー)

 

『きっと昨日の黒髪の少女も、努力に励む人であれば尊敬するのであろうな。時を惜しまず、ひたすらに夢へと進んでいけるような、そんな人を。』(無自覚独り言)

 

「うしっ、走りに行くか」

 

 瞬間的手のひら返し、俺でなきゃ見逃しちゃうね。

 

 いやーね? こんなに天気もいいし、風も心地いいんだぜ? こんなの走るしかないじゃん。走る以外選択肢ある? ないよね(反語)

 

 グラハム様が出してくださった服一式を着るのに約10秒。着ていたパジャマを乱雑にベッドの上に投げ捨て、俺はキリッと、キッリッ! とグラハムの方へ視線を投げる。

 

「さぁ行くぞグラハム! 沖縄の海が、風が、太陽が、あの子が!! 黒髪ロングの清楚美少女が!! 俺を待っている!! グラハム、俺のあとに続け!!」

 

『ふっ! そうだ! それでこそだカヅキ!!!』

 

 安寧の眠りを捨て、俺はキャッキャウフフにあの子と過ごせるように!! 俺は彼女が好感を持てるような男になるのだ!! 

 

 待ってろリア充ライフぅ!! 

 

 グラハムが渡した服は、なんだか変な臭いがしたけれど俺は気にしなかった。気にしたくなかった。

 

 

 ━━━

 

 ぬわああああん疲れたもおおおおん(迫真)!! 

 

 勢いであんな事を言うんじゃなかった。本当にするんじゃなかった。

 

 あのせいでグラハムが俺に火がついたと勘違いして、ランメニューを増量、いつもは20キロなのに今日は30キロも走るはめに。それもこんっなくっそ暑いなか。

 

 何回死ぬかと思ったか、いや実際何回か死んでるのかもしれない。もしやここで俺は生きてると思い込んでいるけど実はまさか!?!? 

 

『何を下らない事をやっているんだ?』

 

「疲れて頭おかしくなってんの。ほっといてくれや」

 

『そうか、それは災難だったな』

 

 俺にとってはお前が災難ですわ。

 

 もう足が重いのなんの。重りのってんのかってレベルで足が重い。もう動けないし動きたくない。

 

 まったく、誰だよあんなグラハムの見え見えの甘言に乗ったバカなやつは! 俺がこの手でぶん殴ってやりたいね! (自分)

 

『しかし、せっかく海に来たのだ。横になってるだけでは楽しめないぞ?』

 

「楽しめない間接的な理由をお前が持ってると理解して? お願いだから」

 

 絶賛浜辺にシートをひき、パラソル刺して影を作って寝そべってるんだけどね? 俺だって泳ぎたいよ? けどもう朝の地獄の30キロランで足ボロボロなわけよ。だから無理なんだわ。行ったら多分沈んであいるびーばっくしちゃうわ。

 

「あとグラハム、泳ぎに行きたいなら一人で行ってきていいぞ。俺はここで寝てるから」

 

『ふむ、ならば仕方がない。私はこの美しい青の海を満喫してくるとしよう! さらばだっ!!』

 

 ヒョー!! と奇声を上げながら海へ飛び込むグラハムスター。もうノリが完全に学生じゃないあの子? 一応大人だよな? 

 

 というかハムスターって泳げるんだっけ? あれをハムスターと呼ぶべきかどうか物凄い悩むところではあるんだけど、一応図体はハムスターなんだし。

 

 けどまぁ大丈夫でしょ。グラハムだし。分裂したり体が四次元ポケット化してるグラハムだし。心配する方がおかしな話ってもんでしょ。

 

 あ~眠いぃ~…………1時寝5時起きはさすがに中学生にはきちぃてぇー。俺は昨日がっつり寝れて遅起きする気満々でモンハンってたのに…………下位から上がれなくてSwitchブン投げたけど。誰かキャリーしてください(悲痛)

 

 もうだめだ、眠気に勝てない。寝る、寝るしかない。右隣でパリピがワイワイやってるのがもうほとんど気にならないくらいに眠気が俺をボコりに来てる。寝るしかないよねそうだよね。

 

 なんかパリピの方を向いて寝るのはなんか癪なんで左を向こう。そうすると体に疲れがどっと来て眠気が一気に増した。よし、このまま寝るとします━━━━

 

 と、そこで俺は気がついた。

 

 俺が向いた左側の少し離れたところに、昨日の兄弟がいる事に。

 

 それも、あの黒髪ロング清楚美少女はなんと! なんとっ!! 水着っ!!! 

 

 眠気が飛んでった。いや、寝てる暇なんてありゃしねぇぜこれは!! 

 

 いざ見てみてるとやっぱ美人だわぁ、髪むっちゃ綺麗だし顔むっちゃ整ってるし。もう二次元から飛び出してきましたって感じだよな。周りと比べて不自然すぎるくらいに。寝てるみたいだけど寝顔が超かわゆす。

 

 それになんと言っても! なんと言っても! 水着の露出が多いっ!! あの水着選んだ人わかってるねぇ。ナイスチョイス!! 

 

 まさかこんなところで出会えるとは! センチメンタリズムな運命を感じずにはいられないっ!! (グラハムの声真似で)

 

 これはあれですね、俺とあの子が運命の赤い糸で結ばれてるって証拠ですね間違いない(妄想)

 

 話しかけに行くか? いや、いきなり話に行ったら『なにこいつ? キモッ』って思われるか? そう思われたり顔に出されたら俺このまま海に身投げする自信があるわ。

 

 待てよ、『昨日あんな事あったけど大丈夫だった?』と、心配する感じで行けばどうだ? これなら、あくまでもあの行動が善意によるもので、尚且つ俺は君達を心配してたよアピールが出来るのでは!? 

 

 俺、もしかして天才? (自信過剰)

 

 これは勝ったな間違いない※コミ症によるデバフの効果を鑑みない結果予想です。

 

 うしっ!! 思い立ったが吉日、話しかけに行くぜっと思ったけど、あの黒髪ロング清楚美少女の横に兄の方もすわってんだよね。

 

 なんか…………こう言っちゃ悪いけど、あの妹なのに兄の方はぱっとしない。

 

 いやイケメンなんだよ? 俺なんかより遥かにイケメンでクールな感じの絶対モテるだろお前○ねやって感じなんだけど、やっぱあの妹が黒髪ロング清楚美少女なだけあって釣り合ってない感が否めない。

 

 それになんかこう…………なんて言ったらいいんだろうなぁ。変な雰囲気を出してるって言ったらいいんだろうか? 

 

 俺の知ってる中学生とは何かが違うような、そんな空気。特殊な例の雫もちょっと違うっちゃ違うけどそれともまた違う。

 

 どっちかって言うと…………鍛練中に時折出すグラハムの雰囲気に似てるような、そんな気がするんだけどなぁ…………

 

 そんな事を考えてた次の瞬間、少し強めの風が俺の頬を撫でた。

 

 うひょ~冷たくて気持ちいい~。ここまで暑いとこういう海風がかなり心地いいんだな、沖縄に来て見つけた俺の発見だ。

 

 それに今はパラソルによる影もあるし、より快適度は増してるし。あれ、影なくなった。

 

 強風に煽られて傾いたのか。動きたくないけど、この快適さも捨てがたい。しゃーない、動くか。そう思ってぐだりながら体を起こすと、

 

 カツンと、俺の足がパラソルに当たった。

 

 瞬間、パラソルが揺らめき右に倒れた。そう右に。

 

 パリピがワイワイやってる、右隣に。

 

 あっやべ。そう思ったがもう遅い。

 

 パラソルは支えをなくし、重力と風に押される力に身を任せ、そのままパリピ軍団が騒いでいる中にパタンと倒れた。

 

 これだけなら、まだなんとかなったかもしれない。相手側のテリトリーに風のせいで入り込んでしまっただけだし、すみませんと一言謝れば済むだろう。これでも三下感を醸し出すことに感しては定評があるし。

 

 けど、俺をさらに不幸が襲う。

 

 パラソルはただ倒れるだけじゃ飽きたらず、ワイワイやってる中でなんか一番いかつそうな男の人の頭を勢いよく叩きやがった。

 

 ぶつかった途端、さっきまでのガヤガヤが嘘のように静かになり、陽キャ軍団の全員がパラソルがぶつかったイカつい男とパラソルの持ち主である俺とを視線を行き来させる。ちょやめろ、そんなんしたら俺が倒したみたいになるでしょーが! 

 

「あ、あのー、すみませんでした。大丈夫ですか?」

 

 恐る恐る当たった男の人の方に歩み寄りながら、上擦る声をどうにか抑えつつ尋ねてみる。ん? あれ? 

 

 この男の人、どっかで…………

 

「ったく、なにしやがんだって…………」

 

「「あっ」」

 

 男が完全にこちらを振り向いた事で、俺は思い出した。

 

 こいつ昨日のヤンキー軍人の一人じゃねぇか!? 

 

「これはこれは、昨日は世話になったなぁ? ああ?」

 

「えっと…………き、奇遇ですね!? 当ててすみませんでしたそれじゃ俺はこれで!!」

 

 まずいまずいまずいまずい!! 

 

 こんなとこで再会とかやめてくれってんだよ神様っ!? あの黒髪ロング清楚美少女との運命的は再会ならまだしも、この筋肉ゴリゴリヤンキー軍人との再会なんて誰が望むってんだよ!! 少なくとも俺はのぞまねぇよ!! 

 

 ここはすぐさま逃げるに限る! 相手にしてたらなにされるかわかったもんじゃないしなにより人数があっちの方が圧倒的に多いっ!! パラソルとシートを回収したら速攻で離脱っ!! 

 

「おいちょ待てよ」

 

 はい逃げられませんでした。俺が離れるより先にキ○タク風に言いながら腕を捕まれました。わーさすが軍人、動きが素早いですねー(現実逃避)

 

「おーい、お前ら、このガキが俺とジョーを動画で脅した張本人だぜ!!」

 

 はっ!? 急になに言い出すんだこの筋肉!? 

 

 筋肉ヤンキー軍人が周りの陽キャ軍団に言うと、なにまだ子供じゃんとか、あーあ目つけられたとか至るところから声が聞こえてくる。

 

 けど、ほとんどが哀れまれてる感じから、ほぼ確定でよくないことになるんでしょうねこの後。やめてよ、こんな幼気(いたいけ)な子供になにするってんですか!? 警察呼びますよ!! 意味ないらしいけど!! 

 

「さーてガキ、あの動画消してもらおうか? じゃないと、どうなるかわかってるよな??」

 

 ポキポキ指ならしながら脅すんじゃねぇ! 怖いだろうが!! 足すくんじゃうだろうが!! 

 

「ほら、さっさと出せやスマホ。」

 

「い、いや…………その、ですね…………」

 

「あ"?」

 

 ヒィィィィィィィィィィィィ!?!? 怖ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!? 

 

 これ完全に怒ってらっしゃいますよね!? 激オコぷんぷん丸になっちゃってるよ!? もう物騒な気配しか感じないよ!? 

 

 言えない…………あれはぜーんぶ嘘で、動画なんて端から録ってませんでしたー(笑)なんてこの状況で言えるわけない!! 言ったら死ぬに決まってる!! 

 

 どうにか話を誤魔化せ! えーと…………なにか、なにか…………ないな! 挙げられる話題が何一つ思い浮かばん!! 

 

 そうだ! グラハム! こういうときのグラハムじゃないか!! あいつに助けを頼めばなんとか━━━

 

『この波は良いものだ!! 行くぞ! 我がフラッグボード!!』

 

 何やってだあいつ(呆然)

 

 どっからサーフィンボード持ってきたんだよてかなんでお前サイズのなんてあるんだよ。助けてくれよそんな浜辺から離れたところにいるんじゃなくてさ、お前が導く少年がピンチなんだよ? お前遊んでて言い訳? 

 

 駄目だ、もうあいつ完全に遊びモードに入っててこっちの声なんて聞こえそうにない。ほんとあいつ肝心な時しか使えないよな。今からでも神の使い変えてくれないかなぁ? 

 

「おいこらガキ! スマホ出せって言ってるだろーが!!」

 

「ヒィ!? い、いや、今は手元に無くて…………」

 

 これ事実。スマホは今頃ホテルの部屋の机の上で充電されてる頃だろう。あったらあの黒髪ロング清楚美少女の写真を一枚でも撮っとるわ(内心だけ強き)!! 

 

「そうか、それは仕方ないな」

 

「ですよね! しょうがないですよね!」

 

 なんか納得したっぽいぞ! これはなんとかなるかも「なら、代わりがいるよな?」…………ふぇ? 

 

「代わりだよ代わり。盗撮したんだ、一発や二発、殴られても文句は言えないよなぁ?」

 

 言えるわ!! あまりに理不尽すぎるだろそれは!? そんなんただお前が憂さ晴らしに俺をボコりたいだけじゃねぇか!? 

 

 さすがにこれはヤバイだろ! 陽キャ軍団も止めてくれないと…………

 

「やっちまえゲイル~」

 

「死なない程度にねぇ」

 

「可愛そうなガキ。ありゃ終わったな」

 

 ちょいちょいちょい、君らこれを見て見ぬふり? むしろ助長するの? ただの中学生だよ? このままじゃホントに殴り殺されるよ俺? だってよ、俺アーサーなんだぜ? (シーブック)

 

「それじゃ、景気よく一発行くか。ま、歯が折れないように祈っとけや!!」

 

 そう言って男は大きく腕を振り上げて俺へ振り下ろす。痛みと目の前の男への恐怖で顔を反らそうとしたその時、

 

 俺の体は反射的に飛んできた男の腕を掴んでいた。

 

 男の腕を掴むと体を反転し背を男に向け、もう片方の腕を曲げて肘を開ききった男の脇へ。そしてそのまま男が殴りかかってきた勢いを殺さず受け流すように横へ払う。

 

 するとなんと不思議、殴りかかってきたゲイルって呼ばれる男はいとも簡単には砂の地面にばたりと転げ落ちた。

 

 …………え? なに今の? 

 

 俺がやったんだよな? けどなんか、無意識的に体が動いたんだけど。それこそ、グラハムとやってる組み手みたいな感じで…………はっ! 

 

 もしかして、動きが体に染み付いてて勝手に動いたの? そんな事ホントにあるの!? でも、今目の前で同じような事起きたし…………

 

 俺、まさか結構強い? 

 

 それもそうだ、だって本物の軍人に一からみっちり毎日絞られてんだぞ? これくらい強くたっておかしくないんじゃないか? 

 

 だとしたら、もうこんなヤンキー野郎怖くないんじゃね? 

 

 ほう、ほうほう、ほうほうほう。

 

 だったら、少し痛い目みて貰いますかねぇ(ドヤ顔)

 

「さっさと立てよおっさん。一発や二発、俺に殴るんだろ?」

 

「てめぇ! 調子乗りやがってこのクソガキがぁ!!」

 

 男が拳を振るう、振るう。

 

 俺が避ける、避ける。

 

 見える…………見えるぞ! 動きが見える! (アムロ)グラハム憑き人間のパンチより遅いから回避出来る!! 

 

 ふっふっふっ! これで確信した!! 

 

 俺は! 強い!! 

 

 これまで調子に乗ってオラオラ利かせてたんだろうなヤンキー軍人さんよぉ!? どうよ、子供に弄ばれてるこの状況? 楽しいですか? 俺は楽しいですよぉ? (煽り性能高め)

 

 ひたすら殴ってきて、ひたすら避け続ける。さーてどこで反撃してやろーかなー? 出来ればあの顔に一発殴ってやりたいんだけど、こいつなんか無駄に顔イケメンだし。なんか腹立つし。

 

 うし、次殴ってきたのに対してカウンターで顔に一発入れてやろう。その顔面漫画みたいにぺしゃって凹ましてやんよ!! 

 

「このガキが!! 死ねや!!」

 

 ゲイルがそう言いつつ俺へ蹴りを放とうとしてくる。

 

 あーはいはいキックね? なーんの問題もありませんよ? だって私最強ですし? それくらいどうってこと…………ん? 

 

 足がなんか光って…………あれ加速魔法? もしやこいつ魔法師!? 

 

 ちょっと待てちょっと待て!? さすがにそれは捌けんって!! 魔法使えるなんて知らないっての!! 当たったら骨折とかじゃ済まないって!! 顔ぶっ飛ぶレベルの加速魔法かけてるって!! 

 

 ヤバいヤバいヤバいヤバい死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! 

 

 咄嗟に顔を腕で防御したけど、絶対激痛が来るんだろうな。出来れば顔が不細工にならないようにはお願いしたいです…………なーんて思った瞬間、

 

 大きな何かが、俺の背後から吹き荒れた。

 

 それは、膨大すぎるサイオンの山。それらは俺を通りすぎ、ゲイルへとぶつかった。

 

 すると、ゲイルはまるで蹴り方がわからなくなったかのようにストンのその場に座り込み、呆然と俺の方を見た。

 

 なんだ…………なんだ今の。ゲイルのおっさんが使った魔法が、まるでさっきのサイオンの山に押し潰されたみたいに…………

 

「ここは、公共の浜辺だ。騒ぎすぎるのはやめてもらいたい」

 

 そこで聞こえたのは第三者の声。音源は俺の背後から。振り返りそっちを見てみると、俺のちょうど後ろに、昨日助けた兄弟の兄が仁王立ちみたいなかんじで立っていた。

 

「これ以上騒ぐというのなら、こちらもそれ相応の対応をとらせてもらうが…………それが嫌なら、少しは静かにしてくれるとありがたい」

 

 抑揚があまりなく、感情が感じられない声音。まるでそれは機械のよう。俺と同じくらいの年齢の子供が出すような声音じゃない。

 

 なんだ…………こいつ…………すげぇ(小並感)

 

「わ、わかった…………静かにしてるよ。悪いな…………」

 

 彼の言葉に対し、陽キャ軍団もなにかしら感じたのかそれを潔く受理し、そそくさと倒れるゲイルを引っ張って自分達の張るテントへと戻っていった。

 

「大丈夫か?」

 

「……へ!? あ、ああ!! 大丈夫大丈夫!! こっちにはダメージ全然なかったし!!」

 

 うわビックリした~、急に話しかけてくるんだもん。ビビるわ。

 

「危なかったな。あのまま蹴られていたら、恐らく頭にヒビが入っていただろう。まったく、一般人に対して魔法を使うとは…………」

 

 軽蔑するような視線を送ってる兄くん(香月命名)

 

「これで昨日の借りは返した。悪いが、妹を見てなくちゃいけない。それじゃ」

 

 兄くんはそう言うと、また何事もなかったみたいにスタスタと眠り続ける黒髪ロング清楚美少女の妹さんのところまで行き、その場に腰を下ろした。

 

 現場に残されたのは、俺ただ一人。

 

 その後、泳ぎに泳いで楽しみまくり、こちらで何かあったことにすら気がついてなかったグラハムに一発拳をぶちこみ、早々にビーチから撤退したけれど、それからもずっとあの謎の兄妹の事が頭から離れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 





ちょっとずつシリアスに向かってると思いたい


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逃避


ちょっと遅くなった上に文量少なめです。

かつ、ここからはギャグなしの真剣な話が進みます。

お覚悟を。(ルリマ)


 世界と言うものは、案外平和なものなんだと思っていた。

 

 ニュースでどこがで紛争が起きていると聞いても、どこかをどこかの軍隊によって攻撃されたという話を聞いても、所詮俺のいる場所とはかけ離れた所の話であって、あくまでも俺には関係ないんだと考えたいた。

 

 それで何人亡くなったと聞いても、俺にはあまりピンと来なかったし、その事態に対して憤りや恐怖なんかも感じたことはなかった。

 

 普通、そんなもんなのだと思う。結局、被害に合っているのは俺でも俺の知り合いでもなく、俺とはまったく関係のない赤の他人。このような感じのニュースに対して強くなにかを感じる人もいるにはいるだろうけど、俺の感受性は、そこまで高いものじゃなかった。

 

 俺の近辺ではなにも起きていない。不自由もなく、ただ笑って一日を過ごしていられる。命のやり取りがこの時間、この同じ空の下で行われているのだとしても、俺周辺が平和であったなら、それはもう俺にとっては平和途呼ぶにふさわしかった。

 

 だから、世で起きているような大きな事件なんてものがあっても、世界は案外平和に進んでいるんだと思ってた。思い込んでいた。

 

 けど、そんな思い上がりは、朝つけたテレビのキャスターが焦りながら語る内容とテロップ、そしてホテルの部屋の外から聞こえてくる慌てるような足音が、簡単に打ち砕いて見せた。

 

『西方海域より侵攻』

 

『宣戦布告なしの、潜水艦隊による奇襲』

 

『現状慶良間諸島において迎撃中』

 

 見慣れない、聞き慣れない言葉がスピーカーから流れ、画面にはまるで災害が起きた時みたく、左端と上部が切れ、そこには情報が絶え間なく流れ続けており、それらすべてが、今、ここで起こっている現象を俺に示唆していた。

 

 けれど、俺は理解できなかった。理解しようがなかった。

 

 だって昨日までなんともなかったじゃないか。昨日まで、普通にこの部屋の窓から覗き見える海で泳いで遊んだり、グラハムの鬼シゴキにヒィーヒィー言ったり。

 

 楽しかったり大変だったり、騒がしくも平和だったじゃないか。

 

 それなのに、それなのに今日起きてみればこんな事に。

 

 そうだ、これは全部夢なんだ。全部、ただの悪い夢。

 

 眠い中グラハムに叩き起こされる日々を遊び疲れたりするなかでしてたから、きっと寝付きが悪くて妄想拗らせたようなこんなのが見えてしまってるんだ。だから、目を瞑ってぼおっとすれば、またいつも通りの朝になって…………

 

「香月! なにやってるんだ!! 早く準備しなさい!!」

 

「あっ…………ご、ごめんなさい…………」

 

 けれど、俺のそんな願いも虚しく悲しく、父さんが動揺と焦燥がありありと浮かぶ表情と声音で急かすことが、この目の前の映像がここで起こっているすべてなんだと言うことを、嫌でも理解させられてしまう。

 

「ここから一番近いシェルターは、車で10分かからないわ。今から急いでも十分間に合うはずよ」

 

「いや駄目だ。この辺りは人も多いしホテルも多く乱立してる。住んでる人達だけじゃなくて、僕達のような旅行者もそっちに向かうはずだ。だから行くなら少し離れた所の方がいい」

 

「でも、もう侵入されてるから出来るなら近い方がいいんじゃないの?」

 

「侵入と言っても、ニュースの情報通りならまだ慶良間諸島の方に侵入してきた輩はいるはず。こっちまで来るには大分時間がかかるから、そこに関しては問題ないよ」

 

「少し遠い場所…………なら、恩納空軍基地のシェルターね」

 

「車をとってくるから、二人はすぐに駐車場の方へ来てくれ。」

 

 父さんと母さんが、今後が関わる大事な話をしているけれど、それもすべて頭に入ってこない。耳には入るけれど、それらは全部入った方と反対側に流れていったみたいに、頭にかからない。

 

 その間にも、俺は淡々と準備を進めたけれど、それもなんだかゲームのキャラクターを操作してるような、第三者の目線から見てる気分だ。

 

 聞こえること、感じる雰囲気、すべてが浮世離れしていて、そう感じざるを得ない。が、そんな時だった。

 

『カヅキ』

 

 静かに、そして端的に、聞き慣れた声が俺を呼ぶ。

 

 いつも通りのグラハムの呼び掛けに、どこか心の中で安堵した。グルリグルリと変わり始めた日常の中でも、こいつだけはきっと変わらずに俺を助けてくれるだろう、そんな考えが俺の中ではあったんだろう。

 

 だからグラハムへなにかを求めるような視線を向けるため、声が飛んだ方向へと顔を動かすと、グラハムはカツッと俺の手元に何かを運んでいた。

 

 それは、俺が使っていた大型拳銃の形をとったCAD。持ってきた覚えはないけれど、きっとグラハムがまた腹の中に隠していたんだろう。けれど、疑問点はそこじゃない。

 

 なぜ、今これを出したのか。そう尋ねようとグラハムの目を見て、俺は息を飲んだ。

 

『持っておけ。ここからは、私も何が起こるか想像がつかん。常に最悪の事を想定して動くんだ。』

 

 語る言葉、俺を指す眼差しにいつものふざけたような物はまったくといっていいほど感じ取れない。代わりにあるのは、沖縄で出会った兄妹の兄が出したような、あの独特の空気感。

 

『最大限サポートはする。が、それでも足りないかもしれない。その時は、迷いなくそれを使って身を守れ』

 

 その空気感が、どこか、

 

『今やここは戦場と化した。生き死にすべてが、今後の君の行動と判断に懸かっていると、深くその頭に叩き込んでおけ』

 

 この非日常の幕開けに、酷く合っているような気がして、

 

 俺は、いつもの平和が完全に塗り変わってしまったのだと、今やっと理解ではなく納得させられたのだった。

 

 ━━━

 

 たどり着いた基地のシェルターには、俺達家族を含めそれなりの人数が身を隠していた。

 

 中身はドーム状で、二百人くらいならあっさりと入りきりそうなくらいの広さはある。それはやはり軍が保有するシェルターというだけあるんだろう。

 

 父さんと母さんが隣にいるなか、俺はホテルから移動してからというもの、しきりに腰に直しているCADを触ってる。

 

 シェルターに避難したからもう安心だ。軍も近くにいるからなにかあっても大丈夫。そんな父さんと母さんが話しているような内容の事を思えるほど、俺には余裕がなかったのだ。

 

 確かに父さんと母さんの言うことも十分に納得出来る。逆に今この沖縄で、近くに身を守ってくれる人がいるというのはこれ以上にないくらい心強い事だ。

 

 だが、それでも俺は安心出来なかった。なにか不安な事があったのかと聞かれればたくさんあると言い返したいけれど、大きな理由はそれじゃない。

 

 肩に居座るグラハムの纏う雰囲気が、いつまでたってもいつもの感じに戻らないのだ。この独特の空気感、壁越しに辺りを見渡すように見る彼の目が、俺に油断をするなと強く語りかけてくる。そのグラハムの意志が、俺の手をCADから離させてくれない。

 

 敵が襲ってきたら、CADを取って引き金を引く。

 

 敵が襲ってきたら、CADを取って引き金を引く。

 

 頭の中で、緊急事態に陥った際の対処を反復するが、する度に不安は消えるどころかなおも増大する一方。

 

 加えて、『本当に打てるのか?』という疑問が頭を過り始める始末。

 

 今まで人へ魔法を━━魔法と言うのもおこがましいようなただのサイオン弾だが━━━撃った事はあるにはあるが、それはあくまでもただの模擬戦。こんな、自分の命の懸かった実戦なんて経験している訳がない。

 

 そんな中、自分へ銃口を向けられたとき、俺はこのCADをしっかりと相手へ向けて自分を守ることが出来るのだろうか? 

 

 駄目だ、弱気になっちゃ。出来るか、じゃない。しなきゃいけないんだ。グラハムも言ってたじゃないか、ここはもう平和な場所じゃない。ただの無法の戦場になりつつあるんだ。

 

『カヅキ』

 

「な、なんだ?」

 

『あまり固くなりすぎるな。意識することも大事だが、強ばりすぎるのもあまりよろしくない。平常心だ、かつ注意を払うんだ。いいな?』

 

「あ、ああ…………」

 

 生返事をグラハムへと返してしまったが、はっきり言ってそんな事出来るわけがなかった。

 

 突然旅行に来た場所に何者かが侵入してきたという事実だけでももう心のなかがてんやわんやなのに、加えて戦えるようにしとけ、平常心でいろなんて無理だ。

 

『今、俺には無理だとでも思ったか?』

 

「っ!? お前、なんで…………」

 

『これでも、相手の心意を見抜くのは得意でね。』

 

 笑みを見せたグラハムは、すっと肩から座り込み俺の足元へと飛び降りた。

 

『私は無理な事を頼むつもりはない。君には、それが出来る技能があると信じているから私は君へそう言うのだ。心配することはない。私がいる。』

 

 グラハムはそう言うが、違う、そうじゃないんだ。

 

 こいつは俺を買い被りすぎなんだ。俺は、俺にはなんにも…………

 

「子供の癖に生意気なっ!!!」

 

 と、いきなり怒声がシェルター内に響き渡った。

 

 声の音源を目で辿っていくと、顔を真っ赤にして怒る男性。その後ろには彼の家族と思わしき一団が。

 

 そんな怒る男性がその迸る感情を向けているのは、

 

 なんと、あの兄妹の兄だった。

 

「誤解されているようですが、我々魔法師は一個人に奉仕する役割は持ちません。社会の秩序を保つために動くのです」

 

 淡々と彼の口から流れ出るのはすべてが正論。同じく魔法師を目指す身として、一番に理解しなければいけない内容だ。

 

 が、それは男の怒りを収める結果には結び付かなかった。

 

「このガキっ!!」

 

 怒り心頭と言った具合に、男は兄の襟首を掴んで詰め寄った。男は明らかに兄よりも図体も身長も大きい。

 

 なのに、兄の方はビビるどころか驚く素振りも見せず、ただただ、軽蔑と嘲りをはっきりと視線で男へと告げていた。

 

「いい加減にしてください。子供の前でこんな事をやって、恥ずかしいと思わないんですか?」

 

 すべてを物語る視線を彷彿とさせる声音で言ったその言葉に、男ははっと驚いたように後ろにいた自分の家族を見た。

 

 そこにあったのは、家族からの、ひいては自分の子供からの明らかな失望と侮蔑の瞳だった。親族から向けられる負の感情にやっと気がついた男は、兄を一瞥しつつも怒りを抑えて彼から目を背けた。

 

 この一部始終のなか、兄は驚くだとか怒るだとか怖がるだとか、そのような感情は一切見せなかった。作業のように、何もかもがそう進むとわかっていたような、その素振りは自分と同い年くらいとは到底思えなかった。

 

 あれはもはや、グラハムや他の軍人と変わらない態度だ。

 

 男を論破した彼は、なにか近くにいた女性(家族なんだろう、黒髪の妹もいたことだし)に言伝てされたかと思うと、片手にCADを持ちながらシェルターを出ていってしまった。

 

 その背を、俺はじっと眺めていた。

 

 俺と背は変わらない。下手をすれば鍛えている俺の方がガタイは大きいかもしれない。

 

 けれど、その彼の背中は、とても大きいもののように感じられて仕方がなかった。

 

自分の弱さを、彼の背中が俺へ見せつけているような、そんな気さえした。

 

 





久しぶりのシリアスはなんだかむずかしい。



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その手に覚悟を掴んでみせろ


真剣に書くって疲れる

そう感じました。


 俺は、市崎香月という人間は、昔から才能と呼ばれる物に恵まれた試しがなかった。

 

 勉学も、運動も、どれをとってもだ。

 

 やることなすこと、すべてが平均。そうであればいい方で、下手をすれば平均以下の結果が現れることなんてざらにあった。

 

 他のやつが一聞いて十出来るのが普通だとしたら、彼は一聞いて五を理解するのが精一杯だった。

 

 幼い俺は、それが悔しくて仕方がなかった。誰かは何もしなくても出来ていた、誰かは何も言われなくても理解していた、そんな事をよく両親に愚痴っていたそうだ。

 

 そうなった時、両親は決まって俺に言っていた。

 

『努力が足りないのだ』、と。

 

 他者を見て、何もしていないと考えることは愚かなのだと。他の者も、自分が見ていないだけでそれらが出来るようになるほどの努力をしているのだと。

 

 だから、俺もきっと(……)努力をし続ければ周りと同じように出来るようになる。前世、父も母も俺にそう言い聞かせた。

 

 両親の言葉を信じ、俺は努力した。自分で言うのも何だけれども、これでも結構頑張った。他の奴に負けないように、もう悔しい思いをしないように。

 

 けれども、そんな努力は才能というたった二文字に叩き潰されていった。

 

 俺が新しく出来るようになったとしても、その頃には周りは俺が出来た事の二段階は上のステップへ進んでいるんだ。自分よりも後に始めた者はあっさりと俺を追い越し、その背をどんどんと小さい物へと変えていってしまう。

 

 それが世界の摂理なんだろう。同じ人間だったとしても、出来ることの限度は人それぞれ違い、願っても頑張ったとしても、その限界は変わるわけじゃない。

 

 それが、才能なのだと。

 

 けれども俺はバカだった。こんな俺でも、何の才能もない俺でも、諦めずに進み続ければ何か大きな物を手に入れられるんじゃないかと思っていたんだ。

 

 悩んでも、苦しんでも、それらはすべて成長するための糧となる。俺がハマっていたガンダムの主人公達のように、俺もきっとと。そう願って歩み続けた。

 

 が、現実、そして世界はそんな俺に冷たかった。

 

 伸びない自分。

 

 他人にはない何かを見つけるクラスメイトや友人達。

 

 愚直にし続けるも結果に直結しない自分。

 

 持ち前の何かで大きな賞を獲得するクラスメイト。

 

 猪みたいにがむしゃらにいるにつれて、より露になっていく他者との差。それは歴然であり、埋めようと考えることすらあり得ないものだった。

 

 これだけなら、まだ良かった。だが、風潮が悪かったんだろう。努力することはカッコ悪いという謎の考えにより、誰もが俺の努力を否定し始めた。

 

 どうせ出来ないんだ。

 

 やるだけ無駄だ。

 

 他へ時間を割いた方が効率的だ。

 

 他人の心にもない言葉は、まだ幼かった俺を傷つけるには簡単すぎた。鋭すぎた。

 

 それからだった、俺が努力という言葉を忘れたかのように生きるようになったのは。

 

 目指すのは平凡。他人と比べられようが何しようが、自分には関係のない話。

 

 だって俺には才能がないんだから。

 

 より良い結果を叩き出すために必要な最低条件が、俺にはないんだから。

 

 仕方がない。どうしようもない。

 

 なら、諦めた方が早い。

 

 苦悩があって、それを乗り越えて強くなる。そんな物は創作物だけの話なのだと気がついた。おいそれと困難を乗り越えて、ない才能をがらくたの山から探し当てる無意味な行為に、俺はなんの価値も見いだせなくなった。

 

 だから、創作物の中だけでもそんな夢が見たかったからか、俺はよりガンダムを筆頭にしたアニメなどに没頭した。

 

 才能ない自分が、まるで物語の主人公のように生きる姿を妄想して、

 

 自分の中に残る悔しいという感情を、圧し殺すために。

 

 ━━━

 

 あの兄が外へ出てからというもの、シェルター内は完全な静寂に支配されきっていた。

 

 もう何かいざこざが起きるような感じはなく、誰もが静かに座り込んで黙りこくっている。

 

 誰一人として何も発さない、無音の空間となり果てていた。

 

 シェルター内は、という言葉が必要だが。

 

 シェルター外からちょこちょこと聞こえてくるパンパンといった感じの乾いた音。それは連続的だったり、断続的だったり。それが何を意味するのか、そんなのはグラハムに聞くまでもなく理解していた。

 

 基地内で、戦闘が行われているということ。

 

 グラハムが想定する最悪の事態が、徐々にその足音を俺の下へ近づけているのを嫌でも感じてしまう。

 

 CADを触る指が震える。ここは安全だと思いたいけれど、もうそうやって現実逃避をしてることすら許してくれない状況下。

 

 シェルターから出ていった兄の方は、未だにここへ戻ってきたようには見えない。第一、帰って来たならシェルターの扉が開くだろうし、それがないということはそういうことなんだろう。

 

 帰ってこれないのは、途中で戦闘に巻き込まれたのか。それとも…………もう既にこの世には…………後者の方が、圧倒的に高いのがこの戦場なんだろう。

 

『死』

 

 生きてるなかで、意識すらすることがなかったそれがもう眼前に広がり始める。

 

 明確な『死』が蔓延る空間。こんな異常空間から、本当に生きて帰れるんだろうか? 

 

 これは物語なんかじゃない。銃弾を何発も体に受けてへっちゃらでいられるようなご都合展開なんてない。

 

 死ぬときは死ぬ。それは皆平等に、理不尽に俺達へと降りかかるんだから。なら、その時はもしかしたらもうすぐなのかもしれない。

 

 瞬間、俺の頭に浮かぶのはシェルター内が血の海で埋まる光景。父さんや母さん、あの黒髪ロングの妹、ここにいるすべての人が生き絶えている光景。

 

 途端に吐き気が一気に涌き出てきたけどそれをどうにかこらえる。大丈夫、大丈夫…………それはあくまでも本当に最悪の時だ。絶対になるって決まった訳じゃないし、そう悲観し続けるのも良くないだろう。

 

 それに思い出せ、俺はここの軍人を普通にいなせたじゃないか。微力だろうとなんだろうと、俺には力がある。

 

 グラハムもいるんだ、何かあったら俺も動けばいい。この今触っているCADで…………でも、

 

 もし失敗して死んだら? 

 

 っ…………駄目だ駄目だ駄目だっ!! 思考が悪い方へ悪い方へどんどんループしてる。良くない傾向だ、切り替えろ。落ち着け…………落ち着け俺…………そうだ、深く息を吸って吐く。深呼吸だ、まずは冷静にならないと━━━

 

 ガンっ!! 

 

「ひぃっ!?」

 

 唐突に開いたシェルターのドアの勢いのよさに、あまりに情けない声が俺の口から漏れ出た。けれどもそれを気にする精神的余裕は俺にも周りにもあるはずがなかった。

 

 入ってきたのはついさっきここから出ていった兄、ではなく小銃を手にした軍人達だった。一瞬敵が入ってきたのかと身構えたがどうやらそうではなく、この基地所属の兵士のようだ。

 

 その中には、俺が投げ飛ばしたゲイルとやらの姿も。

 

「敵がこの基地内に侵入しています。このままでは奴等がここへやって来るのも時間の問題です! すぐに地下シェルターへご案内いたしますので、ついてきてください!」

 

 地下シェルター…………そうか、これよりも安全なところがあるのか。

 

 なら早くそこへ行かなきゃ。ここに居たら死んじゃうっていうならなおのこと。

 

『駄目だ、カヅキ』

 

 そう思って立ち上がり、案内する軍人達についていこうとしたその時、グラハムが俺の制した。

 

「なんだよ、今は急がなきゃいけないんだってお前もわかって━━━」

 

『奴等についていってはいけない。恐らくだが奴等は味方じゃない。』

 

「は? んなわけないだろ、あれはここの軍の服だろ。お前もここに来るまでに見ただろうが」

 

『わかっている。だが私が言いたいことは━━』

 

「香月! なにやってるんだ!! 早く行こう!!」

 

 グラハムが最後まで言うことは叶わず、父さんが俺を急かした事で遮られてしまった。

 

 そのまま押し出されるようにシェルターから出るも、目の端にあの黒髪ロングの妹とその家族と思われる一団が来てくれた軍人と何か話しているのが見えた。

 

 そうだ、まだあの子の兄が戻ってきてない。ここで移動しちゃったら離ればなれになっちゃ━━━━

 

『っ!?!? 屈めカヅキ!!』

 

「へ?」

 

 いきなりのグラハムの怒号に呆けた次の瞬間、目の前の軍人がシェルターから出た俺を含む一団へ向けて、

 

 発砲した。

 

 誤射じゃない。明確な殺意が籠った掃射。それによる弾丸の雨嵐がなんの対応もとれるはずがない一般人へと降り注ぐ。

 

 咄嗟に、本当に咄嗟に屈んで頭を下げた事で弾丸は俺の頭上を通っていく。耳に響く発砲音、轟く悲鳴と生々しい音が俺の耳へと否応なく入り込んで来る。

 

 あっ、銃声が止んだ。そう思って顔を上げれば、

 

 そこは地獄絵図だった。

 

 大きく広がる血だまり、腹や足を穿たれて苦悶の声を上げている父さんと母さん、その他シェルターにいた人達。

 

 そして、頭や喉に弾痕が出き、どこか遠くを見つめながら動かなくなった人。

 

 死んでる。死んで、しまっている。

 

 立ち上がって、普通でいられているのは、俺ただ一人。それ以外は銃撃を受けてしまった、あるいは致命傷を受けてしまってる。もうきっと、あれは助からないんだろうな

 

 あれ? 待って。

 

 なんで、俺はこんな冷静に見れてるんだ? 

 

 何が起きてるんだっけ? 

 

 俺は何を見てるんだっけ? 

 

 音がなんだか凄く遠くで鳴ってるみたいで、誰かが耳元で語りかけてるみたいだけど、それすら何故か入ってこなくて。

 

 そしたら、目の前の軍人さんは丁寧な動きで空になったカートリッジを取り出して、中身の入った物を腰から抜いてマシンガンへと入れる。

 

 そして、銃口を俺に向けてきた。

 

 銃口を…………向けて…………

 

 銃口を…………俺へ…………

 

 瞬間、背中をぞわりと冷たい何かが撫でた。

 

 まるで氷を服の間から入れられたようなその感覚は、俺へ向いた銃口から。

 

 感じるそれは、明らかすぎる殺意。死神に睨まれているこの感覚は、さっきまで少し遠くにいた『死』そのものが、今自分の目の前に立って俺へ狙いを定めているのだとはっきりと告げていた。

 

 現実逃避から引き戻され、強引に見たくなかった現実を直視させられる。

 

 死ぬ。

 

 死ぬ。

 

 隣に転がる人のように、眉間をあの黒い穴から飛ぶ鉛玉にいともあっさりと貫かれて。こんな距離、外す方が難しい。

 

 膝が震える、歯がギチギチと揺れる。

 

 視線が眼前で俺を狙う銃口に吸い寄せられた。

 

『カヅキ! CADを取れ!! 早くっ!!』

 

 肩口でグラハムが吠える。けれど、指が動かない。あれだけ指で触っていたCADはどこにあったか、それすら頭に浮かばなくなった。

 

 頭にあるのは、他者から叩きつけられた『死』という現象への恐怖だけ。

 

「あっ…………あっ…………」

 

 か細い声が、俺の喉から垂れ流れた。弱々しく、脆く、儚いその声は、誰の耳にも入らない。

 

 カチリ、と。軍人は俺へ向けるマシンガンの引き金に指をかけた。弾薬も入っている。ただ一度、引き金を引くだけで、

 

 俺の命は、簡単すぎるくらいに霧散するんだ。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」

 

 そこからは、もうほとんど本能的だった。

 

 生き延びる。死にたくない。ただ一つの動物的本能に身を任してしまった。

 

 CADを使わず、強引に自分へ加速魔法をかける。それも全力で。そして、

 

 俺は一目散にその場を駆け出した。

 

 倒れる人も、

 

 尊敬し、感謝を感じる両親も、

 

 まだシェルター内に残されているであろう、あの黒髪ロングの妹も、

 

 すべてを投げ捨てて、自分の安全を、自己だけを完全に守るために。

 

 俺の本能が下した決断は、逃走だった。

 

『カヅキっ! 止まれ!! まだあそこには父と母がっ!! 怪我人がいるのだぞ!?』

 

 グラハムの声が聞こえる。けれども足は止めない。

 

 加速魔法で強化された体が、何度も壁にぶつかりながらも止まる事をやめない。止まってくれない。

 

 自分の体が自分の物じゃなくなったみたいに、俺はひたすらに安全な場所を目指し、グラハムの声を無視し、走り続けた。

 

 そして、途中見つけた一つの部屋へ、俺は勢いを止めることなく飛び込んだ。扉を蹴破るような形で入り、止まらない勢いは俺の体を大きく投げ、部屋のなかにあった荷物を吹き飛ばすように転がっていく。

 

 痛い。痛い痛い。そう思えながらも、まだ体は勝手に動き続ける。

 

 開ききってしまった扉を、もたつく動きで閉め、手近に転がる荷物を扉へ押し付けた。重めの荷物、それこそ、簡単には扉を押し開けられないくらいには重めの荷物を。

 

 そこまでやって、俺は体の所有権をようやっと生存本能から取り戻した。呼吸が荒い。汗も震えも止まる事を知らない。ぐちゃぐちゃになった思考は、俺に吐き気を催させて…………

 

『何故だ…………なぜ逃げたカヅキィィィィィ!!!』

 

 ガツンと、俺の頬へ衝撃が走った。

 

 それは、誰かに殴られた感覚に似ていた。口のなかに血の味が広がり、コロコロと何かが転がる。今ので、歯が一本折れたのかもしれない。

 

 けれど、そんな事よりも、俺は違うことが衝撃的だった。

 

 俺を殴ったのは、他でもないグラハムその人だ。しかし、彼は体はハムスター、しかも大きさはペットの子犬程度しかない。俺を殴り飛ばせるような力はないはず。

 

 そう、ハムスターなら。

 

 俺の目の前にいたのはハムスターではなく、紛れもないあのグラハム・エーカーその人だったのだから。

 

 怒りを顔に露にしながら、グラハムは座る俺の胸元を掴み強引に引き上げる。

 

『あそこには、まだ怪我を負った人が! か弱き乙女が! 銃火にさらされ続けている!! 相手は軍人、太刀打ちなど出来るはずもない!! けれど、カヅキ、君は違うだろう!!』

 

「俺…………が…………」

 

『そうだ! 君には、彼らに対抗する力があった! 魔法も、身体技能も、体術も!! 助けを待つまでの時を稼ぐような力が君にはあった!! それを君は、ただ保身のためだけに!! それを恥とは思わないのかっ!!!』

 

 恥…………恥? 

 

 助けなかった事が恥なのか? 

 

 力を持ちつつ、何もしなかった事が恥なのか? 

 

「ふざけんな…………」

 

『なんだ、言いたいことがあるならはっきりと━━』

 

「ふざけんなって言ってんだよっ!!!!」

 

 掴むグラハムの腕を払いのけ、強引に彼を突き飛ばした。

 

「なんで、なんで俺がやらなきゃいけないんだよ!! 魔法が使えるからか? ただ早くなることしか出来ないのに!? 体術が使えるからか? 本職の軍人に敵うわけねぇだろクソがぁ!!」

 

『しかしっ!!』

 

「しかしもかかしもあるかってんだ!! 俺には無理なんだ!! あんな軍人、それも人を簡単に殺せる武器を持ってる奴に立ち向かうなんて、俺には出来っこないんだよ!!!」

 

 勝てる訳がない。行けるわけがない。

 

 俺には何もない。他人にはあるかもしれない勇気も、度胸も、力も、なにもありはしない。

 

 だって俺は、ただの中学生のガキだ。

 

 ほんのちょっと魔法が使えて、ほんのちょっと格闘術もあって、それだけでなんでも出来る気になってた、ただの馬鹿なガキ。それが俺だ。

 

 そんな俺が? あの状況で? 皆を助けるような大立回りを演じろってか? 出来るわけがない。出来ると本気で思ってんなら、それはグラハムの買いかぶりでしかないんだ。

 

「俺はお前とは違うんだ! 軍のエースで、何でも出来るような才能があって!! そんな奴とは違う!! 物語の主人公なんかでも、チートを持ってもない!! ただのしがないガキでしかねぇんだよ…………」

 

「もう…………勘弁してくれよ…………俺には…………俺にはなんにもないんだよ。空っぽなんだよ…………ただの非力でビビりな、雑魚でしかねぇんだよ。俺に、高望みしないでくれ…………」

 

 昔からそうだ。俺は、何も持ってない。何も持てない。

 

 高尚に努力しても実らない。

 

 自分の事しか考えてない。

 

 他人を(おもんばか)る余裕もない。

 

 器量も、強さも、心も、まるで強くない。

 

 何もかもが貧弱な、弱々しい奴。

 

 それが、俺なんだ。

 

「ははっ、笑えよ。お前は見間違えたんだよ。俺なんかに何を見たのか知らないけど、俺は結局大切に育ててくれた親すらこんなあっさり捨てる屑野郎なんだよ。だから、神様も俺になんにもくれないんだろうな。自業自得ってな、笑えてくるよ」

 

 自嘲する俺に対し、グラハムはなにも語らない。静かに、俺を見下ろすだけ。

 

『悔しくないのか?』

 

 たった一言、グラハムは切欠に俺へ言った。

 

『現実から逃げ、何も出来ない自分から逃げ、悔しいとは思わないのか? 後悔しないのか?』

 

「悔しい? 後悔? あるわけないだろ。俺はもう自分にも愛想をつかしてるんだから━━━」

 

『その言葉を、君は本心だとはっきり言えるのか?』

 

 もちろん。そう答えようとした。

 

 なんの事はない、もう今更だ。後悔も悔しさもありはしない。あるのはただの、自分への失望だけ。

 

 そうだ。そのはずだ。ならなぜ…………

 

 俺はそう返すことが出来ない。

 

 答えは簡単だ。

 

 悔しいからだ。後悔しているからだ。

 

 自分の無力さを、何も出来ない自分を、両親を、シェルターにいた人全員を捨てて逃げた事を。

 

「言えない……言えないよ。悔しいに決まってんだろ、後悔してるに決まってるだろ! けどあの時俺に何が出来たってんだよ、俺にはあの状況で皆を救うなんて、大それた才能も技能もないんだよ!! 何もない俺が、どうやるのが正解だったっていうんだよ…………」

 

 力も勇気も持たない俺が出来ることなんて、ただ自分の身を守るだけ。

 

 これが限界だ。悔しさがあっても、後悔してても、ここから進むなんて俺には到底無理なんだ。

 

 打ちひしがれる俺へ、グラハムが投げた言葉は、

 

『下らないな』

 

 そんなざっくらばんとしたものだった。

 

「…………へ? 下らない?」

 

『ああ、下らない。実に下らない。そんな事を君は悩んでいたのか。なら、この際君に言っておこう。』

 

 

『君には、世間一般で言われる才能と呼ばれるものは持ち合わせていない』

 

 はっきりと、グラハムは迷いも躊躇もなしに俺へそう言った。

 

 ほら、やっぱりそうだ。何年も見てきたグラハムも言うんだ。これが現実、これがすべ『だが、何もない訳じゃない』…………え? 

 

『君は言ったな。自分には何もないと。だから何もすることは叶わないのだと、君は言った。だがその言葉は訂正してもらおう。』

 

 腕を組み、語り始めるグラハムはしっかりと俺を見据えた。

 

『確かに君には才はない。だがな、私は君に可能性を見ている。どんなことでも、諦めずに泥臭く立ち続けるその芯の強さに』

 

「芯の…………強さ?」

 

『そうだ。君は愚痴をこぼし、文句を垂れ、駄々をこねることは今まで何度もあった。が、私が課すメニューは必ずこなしてきた。はっきり言って、私は君がすぐに音を上げて諦めるものだと思っていた。それほどまでに、私が君に課したものはレベルの高いものなのだ』

 

 そりゃそうだろうな。あんなものを平均にされたらたまったもんじゃない。けど、それがどう関係して…………

 

『諦める事はいつでも出来た。自分のプライドを理由にして、投げ出すことも出来たはずだ。だが君は、そんな事はしなかった。何故か? 才能がなくても、君はなりたかったのだろう? 魔法師という存在に』

 

『どれだけ笑われようと、どれだけ他人の余りある才を見せつけられても、君はたゆまぬ努力で歩み続けた。違うか? それほどまでに、君は夢に見たのだろう?』

 

「……………………」

 

 何も返せなかった。

 

 努力したのは、グラハムが叱咤激励してたからだ。

 

 諦めたかった、投げ出したかった。けど俺にはそれを口にする勇気がなかっただけ。

 

 けど、それでも…………

 

 魔法師に強く憧れていたのは、疑い無い事実だ。

 

 俺には才能がない。勉強もそこまで出来ないし、足も早くない。コミュニケーション能力も低ければ、協調性もさほど高くない。

 

 ないない尽くしだった俺が、転生して見つけた数少ない才能。それが魔法だった。

 

 何もなかった俺にあった、唯一の才能。その発覚は、俺が今まで目を背けてきた夢という存在にスポットライトを当てるには充分すぎた。

 

 俺のこの魔法が使えるという才能で、物語の主人公のように誰かを守るヒーローみたいになりたいなんていう子供じみた夢に。

 

『努力とは、必ず実る訳ではない。どれだけ試みても叶わなかった者も、私は何度も見てきた。君の言うとおり、私は自分の眠れる才を引き出せた数少ない人間なのだろう。そこは認める。だがな、』

 

『折れることなく、諦めることなく歩んできた君の努力自体を否定することは、私が許さない』

 

 詰め寄る彼の鈍色の瞳は、嘘を語っているようにも感じない。というより、こいつが嘘をつけるほど殊勝な事が出来るはずがない。

 

『君の折れない姿勢に、私は可能性を見たのだ。プライドに固執した私とは違い、がむしゃらに遮二無二に、歩みを止めることのない君へ。だからこそ、私はここに宣言しよう。』

 

 

 

『君は、人にはないものを持っている。それも尊く、美しい諦めぬ心というものを。私が保証する。』

 

 グラハムの一言をきっかけに、ほろりと頬に雫が伝う。

 

 ああそうか、あったんだ。俺にも。俺にしかないものが。

 

『勇気がないというのなら、私が君の背中を押そう。抗いたいが力が足りないというのなら、私が力を貸そう。それが、私の存在意義なのだから。これを伝えた上でもう一度尋ねる』

 

『君は自分の選択や行いに、後悔や悔しさは感じていないか? 今なら、まだ間に合うぞ』

 

 間に合う、それが何についてか。そんな物は聞くまでもない。

 

 俺は物語の主人公なんかじゃない。

 

 颯爽と現れて、カッコよく敵を倒すなんて出来ない。

 

 どんな輩も寄せ付けない圧倒的な力もない。

 

 あるのは貧弱な魔法と、年齢にそぐわない身体能力と、諦めの悪く頑固な意志。そして、

 

 これ以上にない、最高の相棒。

 

 たったこれだけ。これだけが、俺の持ち物。

 

 けど、これで充分だ。

 

「グラハム…………サポートを頼めるか?」

 

 ゆったりと立ち上がり、腰からCADを抜いてグラハムに尋ねた。目の端に映る彼の口元が、ニヤリと上がる。

 

 足が震える、まだ心の奥底がビビってる。けどそんな事知ったこっちゃない。

 

 俺はもう、何も出来ない自分に悔しがったり、後悔なんてしたくないから。

 

 無様でも、醜くても、泥臭くても。

 

 俺は、非情な非日常に抗ってやる。

 

『その言葉を待っていたぞっ!! カヅキっ!!!』

 

 満足げな声を上げながら、グラハムの影が揺らぐ。すると、彼の姿は霧のようになり、すっと俺の中へと入り込んだ。

 

 途端、視界がクリアになる。

 

 今まで見えなかった物が見えてくるようで。憑き物がとれたみたいな感じ。

 

 グラハムが体へ入ってきた事へ違和感はなかった。それよりも、

 

 あいつがすぐそこにいてくれるという安心感が、俺の恐怖心すら和らげた。

 

『カヅキ、時間がほとんどない。すぐに行くぞ!』

 

「ああ!!」

 

 どこからか聞こえてくるグラハムの声に勢いよく返事を返し、自身に再度加速魔法をかける。

 

 そして、俺は床を蹴る。一心不乱に。

 

 もう慣れきった速さが、周りの気色をぐんぐんと後ろへ流していく。

 

 見えたシェルターの入り口。まだ父さんも母さんも生きている事に安堵するも束の間、軍人の一人がマシンガンの銃口をシェルター内に向けた。

 

 シェルター内には、彼女がいたはず。あの黒髪の少女、奇妙な兄の妹が。

 

『カヅキ! 撃て!!』

 

「わかってる!!」

 

 手に持つCADを対象である軍人へ向け、脇をしめ狙いを安定させ引き金を引く。

 

 何千、何万とやって来たこの一連の動きは恐怖と空気感に圧されつつも淀みなくしっかりと動き、CADから飛んだサイオン弾は軍人へクリーンヒット。

 

 真横からサイオン弾を受けた軍人はぐえっと鈍い声を上げ、バタリとその場に倒れた。

 

「ザック!? 一体誰が…………っ!?」

 

 残る一人の軍人が、俺に撃たれ倒れた一人を介抱しにいった直後、こちらを見て固まった。

 

 なんとこっちを見た残る最後の軍人(他の奴もいるにはいるけど何故か固まったみたいに動かない)は、あの海でひと悶着を起こした軍の魔法師、ゲイルその人だった。

 

「またてめぇか!! 何度も何度も邪魔しやがって!! 鬱陶しいんだよ!!」

 

 ガチャリと肩から下げるマシンガンの銃口がこちらを向いた瞬間、

 

『右に飛べ!』

 

 グラハムの声に反応し右に飛ぶ。すると俺が元いた場所を弾丸が通り過ぎた。

 

『前傾姿勢で一気に詰めろ!』

 

「わかった!!」

 

 照準をゲイルが俺に合わせるより先に、体を大きく前へ倒して駆け出す。もちろん足には加速魔法の効果付き。

 

「なっ!?」

 

 加速し瞬間的に肉薄してきた俺へ、ゲイルは驚愕に目を見開き反応がワンテンポ遅れた。

 

 そう、好機が訪れた時だった。

 

『そのまま一撃、決めてみせろ!!』

 

 グラハムの力強い言葉に、俺は踏み込みで答えて見せた。

 

 一歩、加速のスピードを乗せたまま。

 

 二歩、勢いを引いた右手に合わせ。

 

 三歩、引いた拳を出せる力すべてを出して。

 

「ぶっ飛べやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「うがぶぉ!!!」

 

 一気に、ゲイルの顔へ綺麗なストレートをぶちかました。

 

 何か嫌な音がゲイルの顔から聞こえつつも、ゲイルは体を後ろへ飛ばされ、床に転がり完全に動かなくなった。

 

 …………やった? やったのか? 

 

 勝った、勝ったんだ!! こんな俺でも、なんとかなったんだ!! 

 

 歓喜の思いが心の中から沸き上がってくる。才能のない俺でも、この状況を打開せしめた。貧弱ながらも、俺はヒーローになれたんだ。ここにいる人の救いになれたんだ!! 

 

「やった!! やってやったぞグラハム!!」

 

『ああ見ていた。よくやった、カヅキ』

 

 心からの賛辞が、グラハムから俺へ送られた。それが、俺がやり切れた、逃げずに戦えたんだという事を示していた。それを、その事実を、何もないと思っていた自分が起こして見せた事が喜ばしくて仕方がない! 

 

『喜ぶのは良いが、父や母、負傷した人の救助をせねば…………』

 

「あっ! そうだった!!」

 

 今はそんな事をしてる場合じゃない。今もなお母さんも父さんも、銃弾によるケガで苦しんでいるんだ。少しでも治療しない━━━━と━━━━

 

「あれ?」

 

 なんだ? なんか手がベットリして気持ちが悪い。何かついてたっけな? 

 

 そう思って手のひらを見ると、赤い血が輝いていた。

 

 …………え? 

 

 ふと、困惑しながら俺は下を見る。

 

 真下には、右下腹部から俺の服へ広がっていく血液。

 

 なんで、なんで俺…………血なんか流して…………

 

 と思った時、俺の体を衝撃が襲う。

 

 味わった事ないような衝撃、一撃一撃受ける度に体が痛み、まるでぼろ雑巾のように飛ばされた。

 

 衝撃も痛みも受け流せず、俺は流されるがままに床に倒れ伏した。そこから広がるどろっとした俺の体から流れ出る鮮血。そしてバタバタと走り寄ってくる大勢の足音と銃声。

 

 あっそっか、俺背後から、撃たれたんだ。

 

 なんか…………銃で撃たれるって…………痛いけど…………熱いんだな…………撃たれたところが…………じんじん…………する。

 

 ああ…………意識が朦朧としてきた…………これは、あれだ…………あの映画館での時と…………おんなじだ。

 

 俺…………死ぬんだ…………

 

 やだなぁ…………死にたく…………ないなぁ。

 

『カヅキ! しっかりしろ!! カヅキっ!!!』

 

 なんだか…………遠くで…………グラハムが俺を呼んでる…………気がする。

 

 ごめんな…………せっかく助けてもらったのに…………こんなおわりかたなんて…………

 

 俺…………おまえが…………いてくれて…………よかったと…………

 

 あっ…………ダメだわ。

 

 死んだ。

 

 確信めいた何かを感じ、重くなったまぶたを重力に逆らわずに閉じる。

 

 そして俺は、俺を呼ぶグラハムに言葉を返すことなく、

 

 静かに意識を投げ打った。

 

 





※これはギャグ小説です

※これはギャグ小説です

※これはギャグ小説です

大事な事なので三回言いました。





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逃げ出せ グラハムの森


シリアス?

ああ、グラハムが踏んじゃってなくなったよ。

だからここからはずっとギャグのターンだ。


 地平線の彼方、海のどこかに、エーカー島と呼ばれる島がある。

 

 人口はゼロ、最近流行りの無人島移住パッケージとやらでめでたく有人島となる、そんな島。

 

 木が生え川が流れ、自然豊かな島に、移住してやって来た少年が一人。

 

 名前はカヅキ。虫取り用の網を片手に、楽しげに彼は飛行機から降りる。

 

 わくわく、どきどき。初めての島へと訪問に心踊るカヅキ少年。ここで新たな生活が彼を待っていると思うと、彼も高揚を抑えられないようだ。

 

 そして遂に、彼の無人島生活が、幕を開ける!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや待てなんだこれ」

 

 手に握られてる虫取網ぶん投げて、俺は冷たい目で吐き捨てる。

 

 えっ? 急に? 何このあつ森感満載の世界観。てかあつ森だよね? あの今流行りの。報道ス○ーションのあつもりぃ!! の方じゃなくて。

 

 えっ? なんで?? (困惑)

 

 なんで俺無人島にいるの? あんな現実じゃ絶対に実現不可能な無人島移住パッケージが実現した? んなご冗談を。

 

 あとこの島の名前よ。エーカー島って、エーカー島って(大事なので復唱)

 

 よりにもよってあいつが島の名前なの? つけたたぬきち頭イカれてんのか。もしやたぬきちもホモ? だとしたらまさに獣なんだけど。動森の闇だぞこれ。

 

 疑問点が降って沸いて止まらん。けどまぁ、多分きっとこれは…………

 

「夢だな。うん…………」

 

 夢だなも(たぬきち感)

 

 きっと寝る前にあつ森やりまくってたのが悪かったのか。だってさ? 楽しいんだもんタランチュラ乱獲。あれで生計経ててれるってあの世界の蜘蛛の価値は計り知れない。

 

 うーん、頬を引っ張っても痛い。夢の中じゃ痛みは感じないって言うけれど、これは感じるタイプの夢なのかもしれない。新種じゃないか。夢だって進化するんだね、知らんけど。(バカ)

 

 なんだかんだ言ったけれど、夢なら遊べるだけ遊んでやろう。俺もあのゲームやりながら無人島生活に憧れてたし。あーいう俗世から離れて暮らすって楽しそうじゃない? 

 

 と、言うわけで、

 

「いつ覚めるかわからないし、すぐに行動するのが吉だろーな」

 

 これは夢(仮定)なので、いつあのグラハムスター目覚ましに叩き起こされるかわからん。あの公害レベルの騒音を聞くまでに、やれるだけ楽しんでおかねば。

 

 ここは夢の中。グラハムも現れないし、俺も久しぶりにのびのびと行動させてもらおうか━━━

 

「おーい、早く進んでくれないか? 後ろがつっかえてるんだよ。どっこい」

 

 おっ? この口調で話す奴はあいつしかいない。そうだ猿のさすけだ。もう語尾にどっこいなんて癖の強いもんつけるのはあいつしかいない。

 

 結構あのキャラ俺好きなんだよ、なんか癒されるというかなんというか。

 

 じゃなくて、今は退く方が先だ。そう考えたら俺ずっと飛行機の出入り口の所で突っ立ってるやベー奴だったのか。反省反省。

 

「わりぃ、無人島ってのが楽しみで受かれてたわ。今退くか…………ら…………」

 

 笑顔で振り向いたけど、その笑顔はホントに一瞬で消し飛んだ。

 

 なんでって? 知りたい? 

 

 後ろにいたのは、さすけではなかったからだよ。

 

 体が猿、頭はがっつりグラハムのよくわからん生き物だったから。

 

 うん…………うん?? 

 

 なにこれ? (ゴロリ)

 

「これからここで一緒に生活するんだよな? 俺ははむすけだ。よろしくな、どっこい」

 

 猿なのにはむすけなのな(当然の疑問)

 

 いや唐突にグラハムワールド? 島の名前はなんかナレーションがエーカー島だとかほざいてたけどさ、グラハム要素それだけじゃないの? まだあるの? 

 

 もうこれ以上同じようなパターンで出てこられたら、SAN値削られるんだけども。

 

 と、そんな時だった。またも俺の背後に人━━いんやもう人じゃないのがいるからなにかでいいや━━何かの気配を察知。

 

 疲れたように俺が振り向いて見れば、俺の後ろにいたのはどうぶつの森シリーズを代表する金取りだぬき、たぬきちだった。

 

 人気だよね、あいつ。パッと見可愛いよね。それは俺も同意するよ。

 

 でも背後にいるのは顔面グラハムタイプなんだよね。

 

 はい、SAN値チェックでーす(棒読み)

 

「カヅキさんですね。無人島を感じてるところだと思うんだけれども、今からオリエンテーションを行うので無人島中心部に集まって欲しいんだなも」

 

 その顔面でだなもを使うんじゃねぇよ気持ちが悪いっ!! 

 

 それは可愛らしいキャラが使って意味があるんだよ!! オメーみたいなごりごりのホモ野郎が使っていい語尾じゃないんだよ!! 

 

 てかキモい。何もともかくまずキモい。あのふくよかな体型のたぬきちでさえアンバランスなグラハムの頭がついてんだぜ? 気持ち悪い以外何でもないだろ。

 

 悪夢だ…………まさに悪夢だぜこれは。死神13(デスサーティーン)でさえましな夢見せるレベルの悪夢だぜ…………

 

 まだグラハムが俺を起こしてくれる気配はない。手のひら百八十度回転してそろそろ起こしてほしいところなんだけどなぁグラハムさーん? 

 

「他の人はもう集まってるので、出来るだけ早く来て欲しいだなも」

 

 俺は早く帰りたいんだなも(悲痛)

 

 でも着いてかないと話進まないんだよね? ああわかったよ! 着いてくよ! 着いてきゃいいんだろ!! (投げやりオルガ)

 

 すったらほったらとグラハム式たぬきちの後を追いつつ、辺りを見渡すと木にはサクランボが生えてる。ゲームしてて思ったけどサクランボって木になるの? やっぱサクラになるからサクランボなのか? わからん(バカ)

 

 で、たどり着いた無人島中心部。

 

 そこはもうね、地獄だったよ。

 

 サイの体にグラハムの頭。鳥の体にグラハムの頭。犬の体にグラハムの頭。猫の体にグラハムにマスクつけてる奴。

 

 俺は狂気入りオッケーですか? (白目)

 

 もう頭おかしなるで? 右見ても左見ても前見てもグラハムの顔だし。どいつもこいつも顔と体のサイズあってないし。どいつもこいつも狂ってやがるっ!! (カイジ)

 

「それでは皆さん揃ったので、点呼をしていきたんだなも。おはむさん」

 

 サイの体の奴が返事した。いやサイなのにハムなの? 

 

「ハムーニョさん」

 

 鳥の体の奴が返事した。いや鳥なのにハムなの? (二回目)

 

「ブシドーさん」

 

 猫体マスク付きが返事したってそこはハムつけろよ。流れだろ? そういう流れだろ? なんでお前だけ完全にミスターブシドー感だしてんだよ。

 

「最後にカヅキさん」

 

「んえっ? あっ、はい」

 

 なんだかもうよくわからないときは、とりあえず返事しとけばいい感じになるって母さんが言ってた。だから返事します(現実逃避)

 

「皆さんいますね。では、どーもどーも。皆さんようこそおいでくださいました。この無人島移住パッケージを企画したたぬき開発の社長、はむきちだなも」

 

 たぬきなのにハムなの? (三回目)

 

 この世界の住人は皆はむってつけないとだめなの? なんの縛りプレイなの? ネーミングがもう奇々怪々なんよ。全員ハムスターと勘違いしてもおかしくない名前なんよ。そこんとこどうなんでしょーかニ○テン○ウさん。

 

「この島で困った事があったら何でも相談してくれて構わないだなも。まめはむとつぶはむと共に、皆さんの生活を全力でサポートして行くだなも」

 

 という言葉ではむきちの後ろに陣取っていたまめはむとつぶはむも笑いながら手をこちらに振ってくる。

 

 ちっちゃくて可愛らしいけど顔面はグラハム。もう救いようのないキメラだよあれは。ちっちゃければ許されると思ったか、少なくとも俺は許せないわ。

 

「ではこれから、夜にやるキャンプファイアーのための準備を行うだなも。とりあえず、全員で木の枝を集めてくるだなも」

 

 うーん、この辺は忠実なのな。キャンプファイアーで燃やされる木集め。どうせそのあとにここのサクランボとってジュースも作るんだし、木の枝取りながらそっちも確保して行けば効率が…………

 

「皆で木の枝を集めて、大きなフラッグカスタム人形を作るだなも。そのあと、木になってる果物を採取していくだなも。それじゃ協力して頑張って━━━」

 

「ちょちょちょ! 待って、お前今なんて言った?」

 

「? 木になってる果物を採取してくると言った…………」

 

「そっちじゃねぇよ!? その前だよ前!?」

 

「木の枝で、フラッグカスタムの人形をつくるだなも?」

 

「そこだそこ!!」

 

 急な路線変更!? フラッグ!? ここで!? なんにもない無人島で食料や火元よりもフラッグカスタムが最優先なの!? お前の価値観どうなってんだよ。

 

「フラッグカスタムの人形を作るのは当たり前だなも。カヅキさんは何を言い出すんだなも」

 

「これ俺がおかしいの? いやそんなわけないない。木の枝ってキャンプファイアーで燃やす用じゃない?」

 

「キャンプファイアーにフラッグは欠かせないだなも」

 

 どの辺に? キャンプファイアーのどこにフラッグが必要な場面がある!? 呪術的な人形だったのかフラッグって。真ん中において踊ったりするわけ? 

 

 グラハムの顔の動物が、木組みのフラッグカスタム人形を中心にキャンプファイアーして踊る。どんなホラー映画かっていうくらいにやベー絵面。フロムゲーに出てきそう。

 

「ああ、そうだなも。もしやカヅキさんは、フラッグを崇めるのが嫌なんだなも?」

 

「え? 崇める? いやフラッグってそもそも崇める対象じゃないっていうか、そんな頭おかしいことしたくないっていうか…………」

 

「「「「あ"?」」」」

 

 急にキレる!? 沸点がわかんねぇんだけど!? どう森キャラ(顔は除く)が出しちゃいけない種の声だったって今の!! 

 

 ちょ、やめろって。空気感変えんなって。和やかな雰囲気どこ行ったんだよ。ついでにお前らの目のハイライトもどこへ出掛けたんだ今すぐ連れ戻してください不穏だから。

 

「なるほど、背教者でしたか。ならば、力づくで(フラッグ)を崇める信徒になってもらうだなも。なに、怖いのは一瞬だなも。安心してていいだなも」

 

「その言葉に安心できる要素が皆無なんですが…………待って待って、なんで俺を囲むように皆陣形整えているのかな? はむきちさんはその手にある斧は何に使うの? カヅキさんちょっと怖いんだけれども…………?」

 

「大丈夫だなも。どんな武器でも、この世界では二回やられてつられない限り、生きることは可能だなも」

 

「それ違うゲーム!? 殺人鬼と老いかけっこする奴だから!? あっちは全年齢じゃないから!?」

 

 ほんわかゲームからのホラゲへの切り替わりが急展開すぎてついていけてないって!! あっやめろマスクネコ!! 羽交い締めにするなって!! HA☆NA☆SE! HA☆NA☆SE!! 

 

「さぁ、あなたも神の寵愛を受けるだなも」

 

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 はむきちが斧を振り上げるのに対し、大きく叫ぶ俺。けどはむきちは斧を止めずに、そのまま力のまま振り下ろして…………

 

 

 

 

 

『おはようカヅキ!! このグラハム・エーカーが! 君に朝の到来を伝達しよう!!!』

 

 叩き起こされた。

 

 寝惚け眼を擦って時刻を確認すると、机に置かれたデジタル時計が示すのは朝の5時。いつもの時間だ。

 

 チュンチュンと雀の鳴き声が聞こえるなか、俺はぼそりと呟く。

 

「なぁグラハム…………フラッグってさ、

 

 神なのかな?」

 

『…………頭でも打ったのかカヅキ?』

 

 なんかばかにした感じのグラハムの言い方が腹が立ったけれど、夢見が悪すぎるんで突っ込むのはなし。

 

 ━━━━

 

 ぱぱぱと手早くパジャマから運動着へ着替えながら、俺は肩にグラハムを乗せつつリビングへ足を運ぶ。

 

 朝からまったく最悪な夢を見た。なんだあれは? (疑問)グラハムの森だよあれは。(解答)

 

 きっとグラハムによるグラハムのフラッグと刹那のための島が出来上がるんだろうなー。島民の顔が皆グラハムって、想像すると今でも気持ち悪くなってくる。

 

『朝はいつも調子が良くはないが、いつにも増して今日は酷いな。何かあったのか?』

 

「夢の中でな、あつ森やってたんだよ」

 

 登場人物は全員お前でな。

 

『なるほど、確かに君が寝たあと私が独自に島に少年の絵を描いていたからな。まさか君の夢にまで影響が出るとは、さすがは最新式のゲーム機器。侮れんな』

 

「今なんか看過出来ない言葉が聞こえたんだけれども。お前もしや俺の島荒らした? ねぇ? 荒らしたの?」

 

『荒らしたのではない。華やかにしてみせたのだ。島に少年はよく映える』

 

「どう映えるんだよ」

 

 刹那に映え要素を感じるのは上級者すぎる。それを人の島で本人の承諾なしに行うのは害悪すぎる。

 

 なので後で刹那人形破壊してやる。悪いな刹那、恨みはないが手足を折られてくれ。

 

『まぁその程度なら構わない。私としては、あの時の事がトラウマにでもなってるのかと心配していたのでな。』

 

「そっちに関しては大丈夫そう。もう一月も前の話だからな。」

 

『一月、か。案外時の流れというのは早いものだ。』

 

 一月、そう、あの沖縄での一騒動からもう一ヶ月が経っていた。

 

 全身を撃ち抜かれ、あっこれ死んだわと思って気を失ったあと、目を覚ましたのは極楽浄土ではなくベッドの上。

 

 なんと、私奇跡的に生存してました。イエーイ、ぶい。

 

 なんか銃弾を身に受けたらしいんだけども、そのあと軍の人が駆けつけてくれて危機一髪。て感じだったらしい。

 

 いやはや、医療技術の進歩は凄まじいね。俺もう銃弾の雨あられ、全身血だらけになってたのに生き残れるんだもん。ハイテク万歳! テクノロジーの進歩に栄光あれーー!! (ガルマ風味)

 

 とまぁそんな具合に生き残り、母さんも父さんも銃弾による傷は浅くなんとかなった。目覚めてからスマホ確認したら通知が偉いことになってたのは本当にビックリした。

 

 大半が雫とほのか。なんだか沖縄の件はニュースになってたみたいで、大分心配してくれてたようです。何度も連絡しても通じないからって泣きじゃくりながら電話で話す雫とほのかはなんだか新鮮でした。役得役得。

 

 というか通知切っといてよかったぁ。俺のスマホの通知音って某動画配信者の名言の『あ"あ"ゴミカス!!!! ○ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!! 』だから。あんときに流れてたら確実にシリアスブレイクしちゃう。

 

 こんな具合に騒動は終結。その後沖縄に関する情報は統制やらなんやらが強いせいか聞くことも調べることも出来ないままでしゅーりょー。

 

 ま、俺としては結果平和が帰って来たで終われるから満足してる。けど心残りつったら…………

 

「あの黒髪ロング清楚美少女とフラグが作れなかったくらいかな? あれは本当に残念だった」

 

『まだそれを言っているのか…………いい加減踏ん切りをつけるべきだ』

 

「わかってる。わかってるんだけどさぁ~」

 

 あっこまで美人な子ってなかなかおらんよ? 物語から抜け出して来てって言っても信じられるレベルの。

 

 一期一会、出会いは大切にって言うしさ。俺はあれを運命にしたかった。うん、したかった(過去形)

 

『結局あのあと、病院などで探しても彼女もその兄も、加えて彼ら二人の家族と思える者達と遭遇することすら出来なかったではないか』

 

「そうなんだよな、なんか不自然なくらいに会わなかったよな。いや、逆にあそこまで連続して会うこと自体が稀だったのか。ならやっぱあの黒髪ロング清楚美少女と俺は運命の赤い糸が!?」

 

『妄言を言うのもそこまでにしておけカヅキ』

 

 黙れお前が言うな変態ホモ太郎(正論)

 

 けど確かに? また会えたとしても俺のとくせい、コミ障のせいでまともに会話できる気がしないし? まぁ予定調和と言いますか? 予定調和…………だったのか…………うっ…………(自爆)

 

「ええい切り替えだ切り替え! うじうじせずに行こう! うん!! あの子俺の好みのドストレートだったけど、もう一生会えないだろうけど! もううじうじしないっ!」

 

『そうだ! まず手始めに20キロランから始めるとしよう。邪念を払うにはちょうどいい』

 

「うわー邪念と一緒にいろんな物まで払われそう。魂とか」

 

 愚痴りつつ玄関の扉を開く。あー快晴、俺の心は真逆の空模様だけど。皮肉かな空よ? 畜生めが。

 

「ん?」

 

 そこで俺は気がつく。家の外側、ちょうど我が家の玄関扉の左側に怪しげなトランクケースが置いてある事に。

 

「…………グラハム、なにあれ? 俺への新しいメニューで使う奴?」

 

『いや…………あんな物、私も見覚えがないのだが…………』

 

 えっ? グラハムじゃない? 

 

 じゃ誰よ? 父さんは最近帰ってきてないし、母さんがあんなもん持ってきたとこなんて見たことない。

 

 てことはなに? あれやっぱ不審物なの!? 

 

「やべぇ。やべぇよグラハム。これはあれかな、とりあえず警察に連絡を…………」

 

『何故急にそこまで怯えるのだ。たかがトランクケースだろう』

 

「バッきゃろう! お前トランクケース舐めてんのか!? トランクケースといえばお前、爆弾が入ってるってのが常識だろうが!!」

 

 サスペンスの定番だぞ! 崖で事件解決並みに定石なんだぞ!? えっ? 違う? まじ? 

 

『怪しげではあるが、危害を加える手の物ではないだろう。とりあえず開けてみてはどうだ?』

 

「え、やだよ」

 

『え?』

 

「え?」

 

 なんで開けなきゃならないんですかね(迫真)

 

 怪しいんでしょ? 危なくないかもだけど怪しいんでしょ? なら関わらない方がいいって。絶対ロクなもの入ってないって。もうポリスメン呼んで対処しましょ? 

 

 その方が絶対いいって。だから俺は見ない振りをわむ!? 

 

「悪いが、少し体を借りるぞカヅキ」

 

 あっさりと奪われる体の主導権。持ち主としてもっと強く保持してたい権利が俺にはない気が最近してきた。じゃなくて! 

 

『お前何する気だよ!? 開けるの!? あれ開けるの!?』

 

「放置しておいてもいいことなどないだろう。安心しろ、私がやる。君はそこで見ていればいい」

 

『いやそれ俺の体っ!! なんかあって傷つくのは俺なのよ!?』

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

『問題しかねぇよ!!』

 

 イーノックで返されて安心なんかする奴おらんわ! そんな心意気じゃ今回もダメだったよ(笑)って言われるって!! 一番いいの(ポリスメン)にしとけって!! 

 

「開けるぞ」

 

『だから少しは話を━━━━ん?』

 

 まったく話を聞き入れないバーサーカーグラハムは、躊躇なくパコンとトランクを開いた。そこにあったのは、

 爆弾でもなにか怪しげな物でもない。

 

 大きな二振りの刀だった。

 

 一本の長刀と、それより少し短めの長さの刀。加えてスティックのような物が二本。

 

 なにこれ? (ゴロリ再登場)

 

 体の主導権を奪い返しつつ、トランクからとりあえず二振りの刀を手に取る。刀身がむっちゃ綺麗。少し重みはあるけど振りやすいし、普通にその辺の物も切れそう。

 

『いや、これは刃がないぞ。』

 

「えっ? 刃がないって…………そんなの刀として欠陥品━━━」

 

 カチッ

 

「『ん?』」

 

 今なんか手元でカチッてなったぞ? 一体なんの音…………と、次の瞬間。

 

 両手に持ってた刀が光出した。

 

 いやなんの光っ!? (ラカン・ダカラン)

 

 刀は光を刀身へと纏うように沿うと、そこで停滞した。

 

 えっ? なに? 突然すぎてラカン・ダカランになっちゃったけど。これってもしかして…………

 

「CAD、なのか?」

 

『そのようだな。』

 

 この刀身を覆う光、これはサイオンだ。よく見ると柄の所にスイッチがあるし、ここを押してサイオンを流し込んで使うタイプなんだろうか。

 

『これで刃がついた、ということなんだろう。なるほど、サイオンなしで実践的な模造刀として扱え、サイオンを流すことで本物の刀として扱えるというわけか。変わった代物だな』

 

「ですなー。とりま試し切りしとく?」

 

『いや、やめておいた方がいい。見たところサイオンを流した状態であればかなりの切れ味だ。むやみやたらに振らない方がいい。これを使うには、ここは少し狭すぎる』

 

 それもそうか。んじゃボタンをもっかい押してと。

 

 するとまた刀が光り、刀にまとわりついていた輝きは消えてなくなった。

 

「それじゃこのスティックはなんだ?」

 

 トランクケースに入っていた二つのスティックを今度は取り出す。これも柄にボタンあるし。てことはCAD? 

 まぁボタンを押したらわかるか…………

 

 そんな甘い考えでボタンを押すと、スティックが赤く光り、

 

 オレンジの剣がスティックの穴から伸びた。

 

「うおうおうっ!?」

 

 もう今日何度めかわからない驚きを感じながらも、両手に持つスティック両方から出たオレンジの刀身に目をやると、どうやらこっちもサイオンによる剣みたいだ。サイオンっぽい粒子がふわふわしてるし。

 

 いや、ていうかこれ…………

 

「ビームサーベルそっくりじゃない!?」

 

『それは私も思っていたところだ!!』

 

 だよねやっぱり!! 振る度にビュインビュイン言ってるし、スティックから出たし!! これもう完全にビームサーベルじゃん!! 

 

 やっべぇテンション上がるぅ!! 転生して来て初めてここまでテンション上がるかもしんない!! 

 

『しかし…………なぜこんな物がここに…………』

 

「まぁーまぁー!! 細かい事はいいじゃないの!!」

 

 まさかこんなお宝が家の庭に転がってるとは!? 神様もいい仕事するねぇ!! 

 

 え? ポリスメンに届けなくていいのかって? いいでしょ、名前かいてないし落とし物だし(スーパー手のひら返し)

 

「それより早くこれ試そうぜ! 俺もうわくわくがとまんねぇよ!! あれ?」

 

 トランクケースに刀二振りとビームサーベル(仮)を素早く直していると、ポロっとトランクの間からなにかメモ用紙のような物がこぼれた。

 

 すっと紙が地面に落ちる前にキャッチし目を通すと、そこには手書きのメッセージが書かれていた。

 

 市崎香月へ、

 

 私のかけがえのない人を守ってくださった、感謝を込めて。これを送る。

 

 トーラス・シルバー

 

「…………てことはつまり、この刀型CADは俺への送り物ってこと?」

 

『ということだな』

 

 ならば、使うのも躊躇う必要はないということ。

 

 だってこれは俺のだから。トーラスさんとかいう誰だかまったく知らない人からの贈り物らしいから。

 

 ならばぁ…………答えは一つだ! (内海)

 

「行くぞグラハム!! 贈り物刀CADの性能実験と洒落こもうぜ!!」

 

『心踊るなカヅキ!!』

 

 トランク片手に全力猛ダッシュしてく俺とグラハム。

 

 こんな俺達に朝の夢見の悪さによる憂鬱だとか、トーラスが一体誰なのかなんてもう頭のどこにもなかった。

 

 だって俺もグラハムも、目先の事重視のバカだからね。

 

 仕方がないね。

 

 

 

 





トーラス・シルバー、一体誰なんだ(棒読み)



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目指すのだ!第一高校生!!(本意じゃない)


グラハム大暴走なお話

えっ?いつもだから暴走してるって?

否定はしない。


 進路決め、それは俺でなくても学生であれば誰もが悩み、考えるであろう事柄。

 

 自分の今後、文字通り進む先を決める人生の岐路とも言えそうな事だ。

 

 自分の能力、成績、そしてなにより自分のやりたいことを鑑みて、進路というのは決まっていく。親や友人、学校教師と相談しながら、悩みに悩んで正解のない答えを探す。

 

 まカッコつけて言ってみたけどよーするに、俺が今後どうするかの重要ポイントだって話だ。

 

 俺ももう中学三年。そろそろどの高校に行くかとかを本格的に考えなきゃいけない訳で。先生とも進路相談という名の二者懇談とかがあったりするんですよ。

 

 大切だよね、こういう二者懇談って。受験自体を前世今世合わせて初体験な俺でもそれはわかる。

 

 だってどこなら行けるか? とか、ここなら安全圏だとか、将来そうなりたいならここに行くべきだ、とか。人生の先輩であり、こういう受験とかへの対策とかよくわかってらっしゃる先生のお話だからね。そりゃ重要でしょうよ。

 

「だから何度も言ってるだろ市崎っ! お前では一高は無理だ!! 諦めてランクを落とせ!!」

 

「無理は承知の上だ! それでも私は自分の技術を、腕を高めるために! 極みを見るためにそこへ行く!!」

 

 参加したいなー二者懇談(死んだ目)

 

 おかしいな? 俺の進路のための二者懇談のはず。なのになーんで俺は俺の後ろで浮遊霊のように浮いてるんでしょうか? 遊馬の後ろにいるアストラルな気分だよホントに、勝利の方程式なんて揃いませんが。

 

 進路懇談をするから放課後指導室に来るようにって呼ばれて、んでそのままホイホイと指導室に行って教室に入った途端にあのバカハムスターは俺の体ふんだくりやがったし。

 

 まぁ体を奪われるのは問題じゃないとられた後の倦怠感とかはもうなんかとられ過ぎて、慣れた。(末期)

 

 俺の体のはずなのにグラハムが自由に奪えて、主人格は取り返せないという謎構成をどうにかしてほしいですね(キレ気味)

 

 で、問題というのはなんか最初に語った通り進路関係なんだけども。こいつ、なんと俺の体乗っ取って志望校を強引に変えようとしてるです。

 

 もう訳がわからないよ! (まどか風味増し増し)

 

 なぜ? もうなんで? why? 成績等から考えて、俺が無理せず行けるだろうっていう所を選んだのになぜお前がそれを否定しにかかる。

 

 あとお前、代わりに提示するのが第一高校って。あそこ魔法科高校だぞ? 魔法の才能ぶっちぎりな子らが集まるエルィィィィト(舌巻き)高校って理解してる? 

 

 超才能主義だよ? 実力主義だよ? 雫とかほのかとかが魔法に関して天才クラスの人が行くとこなんだけど。無理に決まってんじゃん俺じゃね。

 

 入れるのがもうエリートなのよ。俺は一般から見ても石ころレベルの才能しかないのよ。なのに俺は一高に行くと、そう仰るんだよこのハムスター。

 

 それで始まる教師と俺(中身グラハム)の口論。もうついてけないっす。あー空が青いなーふふふふ(現実逃避)

 

「それにどうしたんだお前は急に!? 提出した進路調査表には違うところ、それもお前の成績なら問題なく行ける場所を書いてるのに。なんで急に第一高校なんて志望するんだ!!」

 

「ふん、展望の変更などよくあることさ。その程度で焦るなど、まだまだ器が小さいな。ティーチャー。」

 

 俺は先生をティーチャーなんて呼ばない(憤怒)

 

 なんだティーチャーって。これは英語の授業じゃないんだから普通に呼べよ。あと教師相手に器の差でマウント取ろうとするんじゃあない。

 

「市崎…………二年間お前を見てきたけど、変人だ騒がしい奴だ中二病だとは思ってたけど、こんな突拍子もないことを言うような奴じゃなかったろ…………」

 

 ちょっと先生? 今出た変人も騒がしいと中二病も全部俺じゃないだけど。全部俺の体を乗っ取る悪霊ハムスターが悪いんだよ。あたかも俺がやベー奴みたいに言うんじゃない。

 

「市崎が魔法を使えるのは俺も知ってる。けどそれは北山や光井に比べたらかなり貧弱な物なんだろう?」

 

「だからなんだというのだ。そんな事、今の話には関係ないだろう?」

 

 あるんだなぁこれが(悲痛)

 

 魔法が上手く使えないから一高は無理だって話をしてるんだよ。関係ありありだよ、逆にどの辺が関係なかったんだよお前やっぱ頭おかしいんじゃないの? 

 

「ティーチャーよ。あなたは勘違いしている。私のサイオン保有量は並みの魔法師など優に越えて━━━」

 

「現代じゃ保有量はその人の実力じゃ直結しないんでしょ?」

 

「…………確かにそうかもしれん。だが私には、他人にはないこの加速魔法が━━━━」

 

「加速魔法って別に固有の魔法じゃないよ? それに加速魔法しか上手く使えないんでしょ? 確か第一高校の実技試験はそれ以外も判断基準に入ってるよ」

 

「……………………確かにそうかもしれん。だが私には、鍛え上げぬいたこの肉体が━━━」

 

「残念だけど、第一高校の試験は実技と言っても体は動かさないから。悪いけどその肉体は意味をなさない」

 

「さっきから聞いていれば! なんだ貴様は!? 反論ばかり、一体何様のつもりだ!!」

 

「お前の教師様だよ!!」

 

 そうだよ(呆れ)

 

 それも担任だよこの人。一年も二年も担任だったよ? お前も何回も見てるだろう。記憶力どうなってんのよお前。

 

 てか先生の言ってること全部正論だしな。固有の魔法なんてねぇよ。てか共有が使えないのに固有なんて豪華な物を求めるんじゃない。そういうのは主人公とかだけだから。

 

「な? 市崎。いい加減現実を見ろって。熱望だけじゃ夢は叶わないんだ。お前が必死に努力してるのも知ってる。先生この前も、お前がなんかすげー状態になって走ってるの見たし」

 

「すげー状態とはなんだ。ただ吐瀉物を吐きかけ、汗と鼻水でぐちゃぐちゃになっていただけだ」

 

 ちょっとグラハムさんっ!? 唐突なカミングアウトやめろって!! 

 

 先生は色々と気を使って誤魔化した感じで言ってくれたのになんで全部ぶっちゃけるんだよ!! そういうとこだけ素直にならなくていいから!! というかそろそろ返せや俺の体ぁ!! 

 

 ほら見ろ! 先生なんか微妙な感じの顔になっちゃってんじゃんかよ!! アハハアハハとほほ引き釣らせて笑ってんじゃんか!! 

 

「この際はっきり言おう。私は志望校を変える気はない。頑として、だ。」

 

 志望校は第一高校じゃありません(事実)

 

 書いてないし、それに俺の意思じゃないし。あそこに行かなくても魔法師にはなれるって、一高卒業生っていう博がつくだけだから、ね? そろそろステイしてくれたら嬉しいなーグラハムくーん? (迫真)

 

「…………はぁ。あまり、こういうことは言いたくないけれど、言うしかないんだろうな。包み隠さずに言おう。市崎、お前が一高に入学出来る可能性はゼロだ」

 

 知ってます。(食い気味)

 

「筆記ならもう少し頑張ればなんとか、という位だがあそこは実技が占める点が圧倒的だ。そこがダメダメとなると、最早合格は絶望的だ。」

 

 知ってます。(食い気味)

 

「よしんば、本当によしんば合格出来たとしても、だ。あそこは完全実力主義、成果を出せないものはあっさり切り捨てるだろう。弱者に対して不遇な環境であるし、あまりいい風潮だとも聞かない」

 

 知ってるよっ!! (キレ気味)

 

「それでも、お前は一高を目指すっていうのか? それは単にお前の見栄なんじゃないのか? その選択に後悔しないと誓えるのか?」

 

 誓えるかクソッタレ! 後悔もなにも俺はそこへ行くことなんて求めてないんだよ!! やりたくてやってるんじゃないんだよっ!! (ウッソ)

 

 ほら、グラハム! 先生もこう言ってるし諦めろって。なんでお前がそこまで一高に拘るか知んないけどさ、俺には無理なの。努力でなんとか出来るレベルの話じゃないから。

 

 だから、わかりましたって六文字を早く口にして、

 

「後悔など、するはずがない。」

 

 んーんーんー??? (困惑)

 

 話聞いてたのかな? 先生の真剣なお話は耳には入ってなかったのかな? わかって言ってるならマジでぶん殴るけどいい? いいよね? 俺被害者だもん。

 

「受かる可能性がない? そんな事誰が決めた。私は確かに、他者と比べて酷く劣っているように見えてしまうだろう。日々の行動にそれが表れてしまっているのだから仕方がない」

 

 見えてるんじゃなくて実際に劣ってるんだよ。

 

 あと日々の行動からでる変異さは九割九部あなたせいだから。残り一割もそのフォローに俺が謎行動してるだけだから実際100パーセントあなたのせいです。

 

「だが諦めない。その程度の壁、この揺るがない折れぬ心で突破して見せよう」

 

 無理です、無茶です、無謀です。やる気元気根気で突破出来るほど受験って優しくないの!! 

 

 知ってるか? 某塾だって言ってるだろ受験は気合いでは合格出来ないって奴!! 

 

 河川敷で胸のうちを叫んだって成績は上がらないの! つまりそういうことなの!! 待ってろキャンパスライフならぬ待ってろ浪人ライフになっちゃうって。俺高校浪人なんてなりたくないって!!! (必死)

 

「…………わからない、理解できないよ市崎。魔法師になりたいならここに書いてる志望校でもなれる。一高との差は早いか遅いかの差だけだ。なのにお前は自分からイバラ道を進むっていうのか? 俺にはわからないよ」

 

 私にもわからん(メタルマン)

 

 こんな怪物ホモハムスターの思考なんて読める奴いねぇっての。よくこんな変人(変態)についてったなダリルと

 ハワード。俺は無理だわ(経験から)

 

「何がお前をそこまでさせるんだ? 教えてくれよ」

 

 先生投げやりになってるって!! もう諦めてお願いだから!! もう俺のライフは(メンタル)はゼロよだから!! 俺はコンクリ舗装の道がいいんだよトゲだらけの所なんて求めてないの!! 

 

 先生の問いかけに、グラハムは答えずに不敵に笑いながら目をつむる。そして、指導室を静寂が支配する。

 

 …………

 

 ………………

 

 ……………………いや喋れよ!?!? 

 

 お前に聞かれてるんだよなに黙ってんだよ!! カッコつけてないでさっさと話せってんだよ!! 

 

 あーイライラするぅ!! て感じでグラハム(俺の体)の後ろでふわんふわんしながら悶えてると、ふっとグラハムは瞳を開いて口も開いた。

 

「魔法師になる。その夢のために妥協はしない。届く所へ、ではなく届かない場所へ届くように。中途半端ではなく、私が進む限界点へ。私の中にあるのは、たったこれだけだよ。ティーチャー。」

 

 堂々と、そして淀みなくグラハムは言った。

 

 …………スッゲェ。カッコいいと不覚にも思ってしまったがちょっと待ってくれ。

 

 前半はまだいいけど後半それお前の意思入ってない? お前が魔法もっと色んな奴見てみたいだけなんじゃないの? 俺もうここが限界なんだけど。ここが限界がいいな(懇願)

 

(…………何を言って。綺麗事ならいくらでも口に出来る。そんな事を誰も実践できないからこそ…………待て、実践ならもうやって見せてるんじゃないか?)

 

 担任の頭に浮かぶのは、自分の家の近所で嫌だ嫌だと喚きゲロを吐きかけながらも、前へ進む足を止めない香月の姿。

 

 限界への挑戦。それを彼はもう達成しているのだ。

 

(けど、それでも才能がある。どれだけの努力があってもそれは━━━っ!?)

 

 その時、担任は見た。香月(グラハム)がニヤリと笑って見せたのを。

 

 瞬間、担任に電流走る。

 

(まさか…………まさかこいつは、その才能という壁すらも超えていくつもりだというのか!? 生まれるときに神が与えた残酷な真実を嘲笑うように!?)

 

 ん? どしたんだ先生。なんか急に目を見開いたり口をポカンと開けたり、表情筋がバクってんだけど。そろそろ顔延びたりしそう(小並感)

 

(二年。二年市崎を見てきた。その中で、俺は完全にこいつがどういう人物か把握できていると思っていた。勘違いしていた。だがどうだ、本当の市崎香月という人間は向上心の怪物だったのか!?)

 

(やる…………こいつならやるかもしれない! この完全才能主義の世界へ、喧嘩を売るかのような、大きな一石を投じるかもしれない! 今のこいつには、やるといったらやる、凄みがあるっ!!)

 

 どしたの先生? 急に顔が劇画調に、どうやったら出来んだろあれ。俺もやってみたい。一人ジョジョごっことか出来そうじゃん(ボッチの思考回路)

 

「市崎…………お前の言いたいことはよくわかった」

 

 おっ、先生が動いた。この流れは一旦肯定してからのでもなで否定に入る奴ですね間違いな「俺が、俺が間違っていた。すまん」…………ふぉ? 

 

「俺はどうやら、市崎をなめていたらしい。お前を図る尺度が、俺の基準では小さすぎたみたいだ」

 

 何言ってんだこいつ? (困惑)

 

 いきなり難しい言い回しいっぱい使ってきたぞこの先生。あんたそんなキャラじゃなかったろ、どしたん急に。

 

「第一高校への志望の件、少しこちらで考えてみる事にする。」

 

 ……………………は??? 

 

 は??? (ガチトーン)

 

 いやなんで!? さっきまで完全否定だったじゃんかよ!? 教師が夢見させるような事させちゃ駄目でしょお!? 

 

 何があったの!? 本当に何があったの!? 表情筋とキャラを崩壊させたその先に何を先生は見たの!? 可能性なの!? 可能性の獣でも見えたの!? 

 

 駄目って言ってよ!! 役目でしょ!! (ふんたー)

 

「お前なら、きっと番狂わせを起こせる。俺はそう信じているぞ?」

 

 信じるんじゃあないよ!? 安全策を! 現実的な道を示してくださいせんせー!? 先生が行けって言ってるのイバラ道どころか溶岩地帯だから!! 

 

 あっ、体の所有権戻った。いやこのタイミングで戻されても!? 俺にどうしろと!? 一高目指すぜやったーで喜べってかバカじゃねーの!? 担任共々バカばっかだよほんと!! 

 

「一応一週間後、もう一度二者懇談をしてお前がどこに行きたいか聞く。その時にもお前の意志が変わらないのなら、一高(第一志望)へ行けるように俺が全身全霊でサポートしてやる」

 

「いやあの先生…………俺は…………」

 

「わかってる。一週間で変わるわけないだろって言いたいんだろ。んなの言わなくてもわかるって」ニカッ

 

 ニカッじゃねぇよ!? なにもわかってねぇよあんた!! 変わるよ! 今すぐ取り消したいよその話!? 

 

「先生、ちょっと待って…………」

 

「他の進路の先生とも相談しなくちゃいけないな。なに心配すんな、お前のその熱意を伝えればきっと他の先生も心打たれてオッケーくれるさ」

 

 こいつ思ったより人の話聞かねぇタイプだ!? どんどん話が進んでやがるっ!! 

 

 やばいって! これはヤバイって!! このままじゃ本当に第一高校が第一志望になっちゃう!? 今以上の努力とか体が耐えられないよ!? 

 

「うしっ、それじゃ懇談は終わりだ。俺はこの後会議があるから、もう帰っていいぞ」

 

「待って、待ってください先生。俺はっ!!」

 

 バタン。

 

 言うことだけ言ってさっさと出ていきやがったあのアホ教師。なに? うちの担任バカだったの? もっと理知的でリアリストだと思ってたのは俺だけなの? 

 

 あとグラハム、お前はなんで満足げなんだ勝手に人の進路ぐちゃぐちゃにしよって!! してやったりじゃねぇんだよ踏み潰すぞその無駄にイケメンな顔面んん!! 

 

 はぁ…………はぁ。落ち着け俺、まだ第一志望が一高になったと決まったわけじゃない。あのアホ担任は言ってた、来週また二者懇談をしてどうするかを聞くって。

 

 ならば、来週やっぱ無理ですって言えばまだ行ける! そうだ、それなら問題ない!! 

 

『カヅキ、これで君も魔の極みへ歩みを進める事が』

 

「はい元凶ハムスターは黙ってヘッドクロー決まっとこうねぇ~」

 

『あがががががっ!? 何故だ!! 気が触れたのかカヅキ!?』

 

 常時気が触れてる奴に言われたかねぇよ!! もうホントに許さねぇかんなお前!! 

 

 はぁ……(深いため息)

 

 なんかどっと疲れた。先行き雲行きがスッゴい怪しいんだけど、なんとかしなければ。俺の平穏のために!! 

 

 ガッチリグラハムの頭を握る手へかける力を徐々に増しながら、指導室の扉を横へスライドする。早く帰りたい。帰ってバトオペして寝たい…………ん? 

 

「「「あっ」」」

 

 開けた扉の目の前には、しまったと言わんばかりに口をあの発音状態で開けるほのかと雫がいた。あれ? なんでいんの? 

 

「あれ? なんでいんの?」

 

 思った疑問がそのまま口から流れてったよ。けどそりゃそうでしょうよ。なんでここにいるのさって話になるし。

 

「いや…………これはっ…………そのっ…………」

 

「香月の話が指導室の外まで聞こえてたから、ちょっと寄ってみただけ」

 

 ほのかと雫がなんか正反対な反応で返してくる。てか本当に寄っただけか? がっつり聞いてたんじゃないの? ほのかの慌て具合がそんな感じなんですけどそこんとこどうなのよ。

 

「そ、そんな事より!! 本当なの香月君!?」

 

「へ? 何が?」

 

「志望校! 第一高校にするって話だよ!!」

 

 ほのかの一言に強く同意を見せる雫。ブンブンさせるな頭を。てかがっつり聞いてんじゃん、もう完璧に盗み聞きしてんじゃん。

 

 そうだ、この二人ならわかってくれるはず。俺の実力もよく知ってるだろうし、二人に頼めばあのアホ担任も考え直し「一緒に頑張ろう香月君!!」ふぁ? 

 

「雫も私も第一高校なの! だから香月君も第一高校に志望するなら三人で行けるよ!」

 

「いやまそだけど…………」

 

「香月君なら行けるよ! ねえ雫!」

 

「うん、私も出来るなら三人一緒がいい。」

 

 何を根拠に言ってるんだ? 君らが正しい根拠を言えって!! 

 

 君ら天才は行けるだろうけども、俺は平凡以下の石ころ君なんだぜ? 合格出来るわけないでしょうよ? 

 

 ここはバッサリ無理ですって言って、二人にアホ担任への説明を手伝ってもらうとするか…………

 

「で、どうするの?」

 

「いや、どうするもこうするも━━━━」

 

「私は、香月と一緒の学校に行きたいな」

 

「わ、私も!!」

 

 雫とほのかの お願い! カヅキに大ダメージ!! 

 

 やめろっ!! そういう風に言うなや!! 揺らぐだろーが!! 

 

 俺も通いたいよ!! 話しやすい奴のいるとこ行きたいよ!! 中学入っても友人が出来ない悲しい悲しい香月君には君ら二人は重要なの!! 

 

 あと可愛いし! 二人むっちゃ可愛くなってるし!! 一緒にいたらワンちゃんあるかもだし!! 下心全快だけども!! 

 

 だけど、よく考えろ市崎香月。

 

 

 ・第一高校へ行くメリット

 

 雫とほのかがいる

 

 第一高校卒業の箔がつく

 

 

 

 ・第一高校へ行くデメリット

 

 バカムズいカリキュラム

 

 三年間日陰者

 

 まず合格出来るか怪しい

 

 周りはエリートだらけ

 

 卒業出来るかすら危うい

 

 家から遠い

 

 進級出来るかも危うい

 

 

 デメリット多過ぎィ!! メリットに対してデメリットが多過ぎるって!! 許容範囲をあっさり追い抜くレベルのデメリット量だってこれは!? 

 

 駄目だ…………いくら可愛い幼なじみと同じ学校へ通えるって言っても問題点が多過ぎる。てかまず合格も出来ないだろうし。

 

「悪いけど、俺は━━━」

 

「(*゜∇゜)キラキラ」

 

「(*゜∇゜)キラキラ」

 

 うっ…………そんな純粋な目をして訴えかけても駄目だ! 俺はNOと言える日本人になるんだ! 溶岩垂れ流しの道を歩くなんて、俺はまっぴらだ! 

 

 だから俺は、楽な道を━━━

 

「(*゜∇゜)キラキラ」

 

「(*゜∇゜)キラキラ」

 

「………………」

 

 楽な…………道を…………

 

「(*゜∇゜)キラキラ」

 

「(*゜∇゜)キラキラ」

 

「……………………」

 

 …………

 

 ……………………

 

「(*゜∇゜)キラキラ」

 

「(*゜∇゜)キラキラ」

 

「……………………一高、イキマス」(震え声)

 

 言った瞬間、ほのかは跳ねて喜び、雫はにっこりと滅多にない笑顔を見せた。

 

 はい無理、この二人に詰め寄られて断れとか無理。鬼畜だよホント、ヨーム戦にストームルーラーが置いてない位無理ゲーだわ。

 

 でもまあうん、頑張ったら言った先の高校で確実にボッチにはならないから、万々歳かな…………アハハハハハ…………はぁ。

 

 この一年は地獄だな(確定事項)

 

 

 

 

 





(香月に平穏は)ないです


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幕間 グラハム、同士と出会うっ!!

えー、この度は投稿が遅れて申し訳ありませんでした。

投稿が遅れた理由に関してなんですが、後書きで詳しく

それではどうぞ。


 唐突だが初めましてだな! 諸君!! 

 

 私の名はグラハム・エーカー! 彼、市崎香月の人生をより良く導くため、世界の神から遣わされた道先案内人であるっ!! 

 

 元々は人間の姿をしていたのだが、それでは彼を終始サポートするには少し弊害が出てしまう。なので、現在は顔のみを人間とし、体をハムスターとすることで香月のサポート(真顔)を行っている。

 

 手が短い、というのは少し難点ではあるがやろうと思えばやれるのが人間だ。多少の無理さえどうにかなるさ。

 

 さて、こちらの世界に来てからといもの、何かと私の目と注意を引くものが多くあるように見受けられる。そして、カヅキが目指す魔法師、加え魔法と呼ばれる存在はその中でもトップに君臨している。

 

 私が居た時代━━昨晩カヅキが眠りについたあと見たアニメの呼び名であれば世界線とでも言うのか━━では、魔法などというファンタジー染みたものは存在しなかった。が、こちらではそれが完全に定型化されている。

 

 この私の興味が引かれぬ訳がなく、奇しくもそれはカヅキも同じだった。それにカヅキには魔法の才がある! これはまさに、私を遣わせた神が魔の道を極めよと言っているに違いないっ!! (言っとらんby神様)

 

 そう考えた私は、彼を指導し始めたのだが、何分彼にはあまり才能がない。そのためか、カヅキは自分を卑下したり、すぐに諦めたりするような癖がついてしまった。

 

 これはいけない。彼には光るなにかがある。どれだけの者が小馬鹿にしようと、このグラハムアイズからは逃れぬことは出来ん!! 

 

 君がどれだけ諦めようとも、私は君の心の中に燻る火は見えているのだ! より高みへ、極みへと歩もうとする、君の熱意を!! (思ってませんby香月)

 

 しかし、このまま放置していれば、必ずカヅキは修羅の道ではない方を歩んでしまう。それはきっと、彼の真意ではないはずだ。

 

 だからこそ! 彼の人生の道先案内人として、私が彼が進むべき道を紡がねばならない!! (求めてませんby香月)

 

 やることは簡単であった。面談に入る瞬間に彼から体を奪い、私が彼の思いの丈を述べるだけでいいのだ。ふふっ、まったく彼もまだ子供だ。

 

 自分の真意がバレてしまったとわかっても、私を止めようとするのだから。謙虚すぎるというのも、時には困りものだな。

 

 わかっているさ。君が歩みたいのは、あのよくわからん書類に書かれた生温い道ではなく、修羅の道であることくらい(歩みたくないですby香月)

 

 教師を丸め込むのは、案外簡単だった。が、当の本人が折れるのは難しい事など、私はもう予想済み。なので、そこは彼の幼なじみである雫とほのかに任せればいい。彼は、あの二人にはめっぽう弱いからな。

 

 そんなこんなをすれば、カヅキもやっと自分の真意と向き合うことが出来るようになった。やれやれ、なかなか骨が折れる少年だ。だからこそ、燃えるという物なのだけれどね。

 

 すべてが終わったあと彼に物理的に燃やされたのは、もういい思いでさ。上手く行ったありがたさを言うのが恥ずかしかったのだろう。やはり、まだ彼も子供というわけか…………

 

 まぁそれでも、カヅキがこの国でもトップレベルの魔法指導を行える高等学校である、国立魔法大学付属第一高校、通称一高へ進学を決め受験勉強が始まった。

 

 同じ場所を目指す雫とほのかも、彼を応援するように勉強を見てくれる。これであればかなり力強い。鬼に金棒とはよく要ったものだ。

 

 そしてちょうど今、私のとなりでは雫とほのか、加えてカヅキによる勉強会が行われている。どうやら、かなり順調に進んでいる━━━━

 

「香月、そうじゃないよ。この演算だと、当て嵌めるのはαじゃなくてβ。それに途中式も間違えてるし、括るところも違う。加重系統の魔法の式のポイントが掴めてないよ」

 

「(´・ω・`).;:…」

 

「香月君、この問題なんだけど…………大問の3。エイドスに働きかけて魔法の発動を阻害するのはキャスト・ジャミングだけど、必要な特殊鉱石はアンティナイトだよ? アンモナイトじゃ、中生代の化石になっちゃうから」

 

「(´・ω...:.;::..」

 

「小論文も、話がきちんと纏まってない。もっと段階よく説明していかないと、読む人が上手く理解できない。そうなると一点もつかなくなる」

 

「それに、文章量が少し足りないかな? 九割は埋めないと、内容関係なくバツになっちゃうから。今からだと…………50文字くらいないとダメ、かな…………」

 

「(´・;::: .:.;: サラサラ..」

 

 うーむ…………そう上手く事は運んでいないようだ。現にカヅキはガッツリ灰になってしまっている。押せばすぐに風に乗って消えていきそうだ。

 

 まぁ魔法科高校の試験内容は、他の高校よりも範囲が広く深いようだ。カヅキが四苦八苦するのも仕方がないだろう。

 

 だが、それでもこれは君が選んだ道だ! (違いますby香月)どんな苦難があろうとも乗り越える他あるまい。だからこそ、私がいるのだ。

 

 とは言ったものの、雫とほのかの二人しかいない場合、私はカヅキへ不用意に話すことは禁止されている。主にカヅキ自身から。

 

 なんでも、この二人から変な目で見られるのだけは勘弁らしい。ふむ…………それではまるで、私が変な人間であるような言い方ではないか。心外だと言っておこう、私は至って正常だ(揺るぎない自信)

 

 そのため、私は完全に今時間をもて余してしまっている。暇潰しにカヅキへ話すことは出来ないし、勉強会という事で家の近くの図書館へとやって来てるためあの少年の人形を愛でることも出来ない。

 

 暇だ…………実に暇だ。最近ハマったパーティーパロットのマネの練習でもしておこうか? 顔の色を変えるまでは出来るようにはなったが、まだあそこまで早く回せん。要練習だな。

 

 しかし、いくら私がカヅキ以外には認識されることはないと言ってもここは静謐な場であるべき図書館だ。私だけ騒ぐというのは些か気が引けるし、加えて私が騒いだ事でカヅキの集中が削がれるかもしれん。

 

 どうしたものか…………

 

 そうだ、少し図書館内を探索してみるとしよう。いつもカヅキについて行ってるのみで、あまりこのような自己探索ということをしたことがない。これもいい機会だ、カヅキは雫とほのかの両名が見てくれているので問題ないだろう。

 

『しかし念には念をというしっな!!』

 

 体を左へ大回転。グルンと視界が一回転する頃には、私のもう一人の私が現れた。

 

『おお、どしたよ急に呼び出して』

 

『カヅキを見ていてやってくれ。なにかあったらすぐに知らせろ』

 

『え? ああ、わかった』

 

『なら頼むぞ』

 

 分身体グラハム2号機は、まだ状況がよく理解できてないようだがそんな事は知らない。私が理解できているから大丈夫だ。

 

 華麗に机から飛び床へ綺麗に着地。そのまま私は、短い手足をふんだんに使用して図書館内を駆け回る。

 

 なるほど、やはり図書館というだけあって蔵書が山のようにあるな。地域の情報資料から、カヅキがよく買っているラノベとやらまで。なかなかな品揃えだ。

 

 しかし、この私の体では本を読むことは愚か書庫から本を取り出すことすら敵わない。であるから…………

 

『失礼』

 

「うごっ!?!?」

 

 本棚を登り、ちょうどよく通った男へ一声かけ、その頭へと飛び移る。するとどうだろう、男は気を失って、代わりに男の体の使用権は私に移ったではないか。

 

 奪われた男には悪いとは思うが、先に私は失礼すると言ったのだ。なので何も問題はない(グラハム理論)

 

 それにナニをするのではないし、ただ少しの間体を間借りするだけだ。返すときに机で横になっておけば、蔵書を探している合間に居眠りをしてしまったとでも思うだろう。

 

 さて、これで体もゲットした。本来の目的である図書館の探索を行うことが容易になる。うむ、我ながら手際の良い行動だ。

 

 では何から手をつけよう…………やはりカヅキの助けとなるべく、私も魔法関係の知識をより明るくすべきなのだろうか? いや、それをしたとしても今からでは私はあの二人にも及ぶことは出来ないだろう。

 

 ならば私は肉体面や戦闘面であるな。適材適所、というやつだ。元より、私はこういう類いの方が性に合っている。

 

 そうと決まれば探すべきはトレーニング書だ。最近では、カヅキも私が課すメニューをかなり余裕をもってクリア出来るようになってきている。

 

 彼のような人材がユニオンにいれば、間違いなく優秀なフラッグファイターになったであろうな。

 

 おっと、話が脱線してしまった。そろそろ私一人の知識だけでは彼を鍛えるのに限界が来ている。だからこそ、他の戦闘技術を私が知り彼へ伝授していかねば━━━

 

「えっ?? …………ハムスター、の帽子???」

 

 と、本を探し歩く私の耳へか細い声が掛かった。否、掛かったというより耳に入ったと言う方が正しいだろう。

 

 ふと声の主の方へ視線を向けると、そちらには雫やほのか、カヅキと同じくらいの年であろう眼鏡をかけた少女がいた。

 

 私(本体)を、がっつりその目で射ぬきながら。

 

 …………待て。待て待て。落ち着け、落ち着くんだグラハム・エーカー。焦ることはなにも生まない、ただ自分自身の視野を大きく狭めるだけだ。

 

 さて、状況を整理しよう。目の前の少女は私を見ながらハムスターの帽子と言った。確かに、私が誰かの体に憑いてる状態は、旗から見れば遊園地などで売ってる被り物に見えなくもない。

 

 が、しかし。根底として、私はカヅキ以外の他人には視認することは出来ないのだ。そのように出来ているのだ。

 

 ならば、彼女は恐らく何かを見間違えたのだろう。そうだ、そうに違いない。

 

 であるなら、私がこの男から離れても彼女は同じようにこの男の頭頂部を見続けるだろう。

 

 ふっ、なんとも簡単なことだ。わかれば、すぐに体から離れるとしよう。これで万事解決…………

 

「(¬_¬)ジィー」

 

『…………』

 

「(¬_¬)ジィー」

 

『………………』

 

「(¬_¬)ジィー」

 

『見えているではないかっ!?』

 

「ひぃぇっ人の顔っ!?!?!?」

 

 私のいきなりの怒声に驚いたのか、少女がすっとんきょうな声と共に肩をビクリと揺らす。が、驚きたいのはこっちの方だ!!! 

 

 なんなんだ!? 私はカヅキ以外の人間には認知出来ないのではなかったのか!? 現に今まで、雫やほのかの二人にも認識どころか目を止められる事すらなかったと言うのに!! 

 

『貴様何者だっ!!』

 

「ふぇ!? え、えっと…………柴田です。柴田美月です…………」

 

『ふむ、シバタか…………』

 

 特に変わった様子はない、ただの学生のようだ…………何年か前に沖縄で会った少年のような特殊なプレッシャーも感じない。

 

『なぜ私が見える? 私は、普通であれば他の者には見えんのだ。それなのに何故?』

 

「ひぃっ!? あ、あの…………私は他人より目が良くて…………」

 

『目が良いだけで私が見えるわけがないだろうっ!!』

 

「ふぇ!? あ、す、すみません…………」

 

 私の怒号に、ペコリペコリと頭を下げるシバタ。うっ、私も動揺のあまり感情的になってしまった…………これは失態だな、だがイレギュラーがあるのは、非常に危険だ。

 

『まぁいい。ひとまず頭をあげろ。そして、より詳しくなぜ私が見えるのかを説明しろ』

 

「あっ、はい…………わかりました。」

 

『とりあえず情報収集が先だ。なぜ私が見えるのか、その答えを引き出さねば! 出さないと言うのなら…………少し強引な手を使うのも、私は躊躇わないと思えっ!!!』

 

 ━━━━

 

『そうか…………霊子放射光過敏症か…………それで偶々私が認識出来たと…………』

 

「はい…………そういうことです」

 

 うむ…………なるほど、霊子放射光過敏症。名前には聞いたことがあるけれど、患っている人と出会うのは初めてだ。

 

 確か霊子(ブシオン)の活動によって発現する光に過敏に反応してしまう…………だったか。そのため、大気中に存在する霊子すら、体に毒であるのだとか。

 

 だとすれば、彼女が私を認識出来たということは、私の体はある意味サイオンの塊だということなのか? 神が与えた体なので、詳しい事は私もよくわからぬが…………彼女が見えた以上、そう考えるほかあるまい。

 

『しかし、それだと生活ではそれなりに大変な事もあったのではないか?』

 

「はい。なので、目をコントロールするために、魔法の勉強をしてるんですけど…………」

 

『なるほど、ではここにもその勉強で来たのか?』

 

「へ? あ、いや…………今回は、その…………」

 

 急にもじもじとし始めるシバタ。まぁ図書館へと来る理由が、すべて勉強と言うわけでもないだろう。

 

 しかし、カヅキ以外に私を見ることが出来る人間がいると言うことはなかなか驚きだ。

 

 今までは偶々出会わなかっただけ、ということ。ならば今後は私も行動を気を付けねばならないかもしれんな(今更)

 

『私の主…………と言っていいかはわからんが、彼も魔法の勉強に励んでいてな。魔法師になるんだと意気込んでいたよ。シバタも魔法師になりたいのか?』

 

「いえ…………私は、そんな大きな目標は持っていません」

 

 少し困ったような顔つきで笑うシバタ。

 

「私はただ、この目をコントロール出来ればって理由だけで魔法を学べる学校へ行こうと思ってるだけです。ただそれだけですよ。私の目標なんてそんなものです」

 

 くしゃっと笑う彼女の顔は、どこか自嘲気味になるカヅキにそっくりだった。

 

 だからだろう。

 

『君は何を言ってるんだ? それも充分な目標だろう?』

 

 反射的に、私の口から反論がこぼれたのは。

 

『君のその目は特殊なものだ。そのせいで謂れのない中傷を受けることもあっただろう。けれども君は、それから逃れずに向かい合い、どうにかしようとしている。これのどこが程度の低い目標だというのだ?』

 

 目的がある。それだけでも、十分に尊敬されるべき事柄だ。

 

 目標もなく、夢もなく、ただただ時間だけを無駄に浪費していく人間などこの世界には何万何億と存在するのだから。

 

 加えて、彼女は自分を困らせてきた物を直そうと、どうにかしようとするのだから。それはそうそう出きるものではない。

 

『私の主にもよく言うのだがな、あまり自分を卑下するという行いはすべきではないぞ。自分を肯定出来るのは、最終的には自分だけなのだからな』

 

「ハムスターさん…………」

 

『ハムスターではないさ』

 

 すっと立ち、私は口角を上げて彼女へ言った。

 

『私の名はグラハム・エーカー。余裕があるのなら、覚えておくといい。シバタ。ではな、手間を掛けさせてすまなかった』

 

 謝罪として一礼。それが終わると、私はくるりんと彼女へ背を向ける。

 

 どことなく、カヅキに似ていたために口を出してしまった。だが、これが彼女の成長の糧となるのであれば、私も嬉しいものなのだがな。

 

 さて、そろそろカヅキのもとへ戻らねば。でなければ分離したグラハム2号機が癇癪を起こしかねない。なぜ私を分割したのに性格がおかしくなるのか、未だに理解に苦しむが…………ん? 

 

 コトン。と、私の背後に何が落ちる。振り返って見てみれば、それはどうやら小説のようだが…………

 

「あっ━━━」

 

 シバタが呆けたような声を漏らす。これはシバタの小説だろうか? 拾ってやるとしよう…………ん? 

 

 小説はちょうど栞が挟んであった場所で開かれており、そこには…………

 

 男が男をベッドへ組みしくイラストが描かれていた。

 

「わ、わぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 と、シバタは一気に顔を紅潮させて私から小説を奪うやいなや、勢いよく顔を机へ叩きつけてしまった。

 

「違っ!? これは、その!! あの、理由があってですね!? 興味があったとか、そんな事ではないんです!!!」

 

 早口で捲し立てるシバタには、明らかに余裕がない。が、私が気になる点はそこではない。今、そんな事に意識は向けていない。

 

『シバタ…………』

 

「あぁぁぁぁぁぁ違うんですグラハムさん!! 私は『さっきの絵を見せてくれ』…………え?」

 

『聞こえなかったのか。さっきの絵を、私に見せろと言ったのだ』

 

「はい…………わかりました」

 

 動揺しながら、周りに人がいないことを確認して、シバタはそっと私にイラストを見せる。

 

 そこには、嫌がる少年を強引にベッドへ押し倒す青年が描かれており、隣にはそれを表すような文が続く。

 

「ちょっと…………ちょっとだけ興味が湧いただけなんです。本当なんですよ?」

 

『…………いい』

 

「へっ??」

 

『いい!! 最高のシチュエーションではないかっ!!』

 

 興奮を露に、私は今日一番の笑顔とテンションでシバタが出した小説の挿し絵を指差す。興奮が、興奮が止まらないっ!! 

 

『組みしかれる少年。反抗的な態度をとりつつも、逃げ出す事は絶望的。そんな中で、相手の男に自分色に染め上げられていく…………なんという、なんという事だっ!! 悦びを隠せん!!』

 

「わ、わかります!? この良さが!!」

 

『ああ! とても理解できよう!! 私は、美少年が嫌がりながらも屈服していく状況を好む!!』

 

「わぁ!! すごくわかります!! いいですよねあの必死に折れないように耐える姿が堪りませんよね~ぐへへへ!!」

 

『…………』

 

「…………」

 

『「同士っ!!!」』

 

 固く結ぶ手と手。まさか、まさかこんなところで同好の者と出会えるとはっ!! 今日という日ほど、私は自分が乙女座であったことをありがたいと思った事はないっ!!! 

 

「語り合いましょうグラハムさん!! あなたなら私の話に着いてこれるはずです!!」

 

『奇遇だな! 私も同じ事をおもっていたぞ!! 語り尽くそうぞ、互いの気が済むその時まで!!」

 

「はいっ!!」

 

『「あっはっはっはは!!!」』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前急に離れたと思ったらどこ行ってたんだ?」

 

『ふっ、自分の内に秘めた思いを共有出来る友と出会えた。ただそれだけの事だよ。カヅキ。』

 

「なに言ってんのおまえ?」

 

 

 

 




はい。という訳で、投稿が遅れた理由なんですが、結構重たいです。お前の事なんて興味ねぇからっ!!って人は、後書きはスルーしていただいて構いません。

さて原因ですが、僕が軽い鬱のような状態になっていたのが原因です。

今僕は高校三年なのですが、努力してきたクラブの晴れ舞台であるインターハイが無くなり強制引退が決定し、家族で大きめのいざこざがあり、外出して気を紛らわすということも出来ず、ストレスがどんどんと溜まっていきまして。

結果、スマホを触る気力も起きないくらい精神的にやられました。

元々色んな事を溜め込みやすいものだったので、それも悪く作用したと思われます。

一応今はそれなりに回復はしましたが、また延長という事で憂鬱です。

けれども、きっと僕と同じような思いをしてらっしゃる方もたくさんいられると思われます。

なので、私が書く作品で少しでも他の人の心を安らぐ事が出来るならと、筆を取りました。

私が読者の皆さんに与えられる力なんて、本当に微々たるものもないでしょう。それは、誰でもない私自身が一番よく理解しています。

けれども、微々たるものだったとしても、力になれるのなら、僕としても嬉しい限りです。

今後も、僕は自分のメンタル面と相談しながら執筆を続けていくつもりです。こんな弱々しい僕ですが、今後ともお付き合い頂けたら幸いです。

そして、最後に・・・・・・

美月って絶対腐女子が似合うと思うんだよね。


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受験前夜だぞ!少年!!

香月くん、寝れないぜ。

そんなお話


 一高へ合格するための受験勉強、それはまさにえげつない厳しさだった。

 

 筆記はまだいい。元より理系的な思考が出きるタイプだったから、式とか単語とかはきっかけがあればなんとでもなった。

 

 雫とほのか、そして我らがグラハム先生によるスパルタ授業のお陰で、筆記だけの成績なら大分上位のレベルまでは行ける筆記で精々足を引っ張られたのは、長ったらしい小論文だけ。

 

 問題は、やっぱ実技なんですよねぇ…………

 

 才能の壁が大きいよ…………加速関連は確実に満点を叩き出せる自信はある。が、他は良くて平均ちょい下が最高。なんだこれ、ステ極振り縛りプレイじゃないんだから。

 

 でもこれでも結構成長したほうなんだぜ? 最初なんてあれだろ、CADぶっ壊れてんのかなって思うくらい悲惨な感じだったのに、今じゃまだまともになってんだから。努力ってすごいね(小並感)

 

 もう大変だったよ、マジで。いや冗談とかじゃなくて本気で。

 

 学校では雫とほのか両名から学校に加えて課題出されて、学校外ではグラハムによるスパルタ魔法授業。家ではひたすらパソコンで魔法の成功例を見てイメージトレーニング。もう毎日魔法よ、魔法漬けの毎日。

 

 CAD触らなかった日はこの一年なかったし、ノートも何冊書き潰したことやら。プレステとかゲームなんて受験勉強始めてからほっとんど触ってないし。

 

 ここまでやっと、受験許可が正式に降りる。もうヤバイよ、一高って天才の巣窟じゃん。おいおい死んだわ俺…………

 

 けど、うん…………勉強やってるのは、案外嫌じゃなかった。

 

 グラハムにはあんだけ文句も垂れたけど、やっぱ俺も男だし行けるなら上に行きたい。それに魔法は好きだし、大好きだし。

 

 男なら一度は名乗ってみたいじゃん、最強って。俺一応こんなんでも転生者だし。チートもクソもない代わりにキメラハムスターしかないけど。

 

 何よりね、可愛くなった幼なじみ二人と勉強という大義名分で一緒に居られるのはかーなーり役得でしたわ。朝は勉強見てもらって、昼は一緒に飯食って、夜はわからんとこを電話で聞く。

 

 まさに一日中絡んでるわけよ。これはもう付き合ってると言っても過言じゃないだろう(過言)

 

 いいのよ? 別に、努力して夢を掴もうとする俺に惚れても? 俺は全然ウェルカムだぜ? 可愛いから全然オッケーだぜ? 可愛いから(クズ)

 

 というわけで、うーだらうーだらと文句を口にした訳だけども、俺個人としては一高に行きたいと思ってる。途中強制的にあのホモハムスターに路線変更されたのはさすがにキレたけれども、今ではいい思い出だ。

 

 これが今までの流れ。そして、明日は遂に一高入試日。ここまで長かった。本当に長かった。積み上げて来た努力を、明日すべて吐き出すんだ。なんか表現悪いな…………

 

 と、とにかく! 泣いても笑っても明日だ。今日一日でやれることなんてたかが知れてんだ。今更徹夜でやったって明日に響くだけだろうし、何よりもう雫からメールで早く寝ろってお達しが来てる。

 

 だから俺は! 準備をきっちりかっちり終わらせて、確認を三回ぐらいやり終わって夜10時! さっさと寝て、明日に備える!! もう今日やることは、ベッドへダイブして爆睡するだけ!!! 

 

 さあ寝ようすぐ寝よう!! 一高は家からちと遠い。少し早起きになるからその分しっかり寝とかないとな。

 

 おやすみなさい…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寝れん」

 

 はい回想しゅーりょー。上記のことはすべて過去の回想でございます。今俺はというと…………

 

 絶賛布団の中で目を血走らせながら起きてますね。

 

 いやんなすっぽり寝れるわけねぇだろ。俺はあれだぞ、受験なんて前世でも受けてないんだぞ? 緊張するに決まってんでしょーが!! 

 

 何回起きて荷物確認したかもうわっかんねぇよ。一時間置きにカバンから道具出して、確認して、直すしてるし。

 

 時刻は2時。もう完全に深夜、カーテンから光なんざ入ってこないし、俺を照らすもんはなんもない。

 

 いやまーじでどうしよ…………本当に寝れないんだよ、お目目ぱっちりなんだよ。眠気が来ない…………学校の授業とかならすーぐ眠くなるのにな、先生の長話は催眠効果でもあるんだろうか? 

 

 さすがにこのまま寝れないのはまずいよな…………ここは少しリビングまで行って、お茶でも飲んで心身共に落ち着かせるっきゃないか…………

 

 そう思って、うつ伏せ状態からうじうじと動き始める。なんかうつ伏せの方が安心して寝れるんだよね、朝前髪ど偉いことになってるけど。

 

 かかってる布団を剥ぎ、すっと体と一緒に顔を上げる。すると…………

 

『なんだ、眠れないのかカヅキ』

 

 あらびっくり、眼前にグラハムのお顔が。

 

「うおうぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」

 

『ぬおっ!? なんだ、敵襲か!?』

 

 ほぼ条件反射でベッドから跳び跳ねてバックステップ。ドタドタ音だしたら下で寝てる両親に悪いなんてこの際考えない。

 

「おまっ!? お前、お前静かだなーと思ったらなにしてんの!?」

 

『なにとは…………そろそろ寝ようと少年の人形を取りに行こうと思えば、君が何かうんうん唸っていたのでな。少し顔を覗き込んだところだ』

 

「覗き込むなっ!! それもこんな夜更けにっ!!」

 

 普通にビビるわ!! 考えてもみろ、眠れないなーって顔上げたら、目の前に人間の顔つきハムスターがいるところを。その辺のホラゲーよりも恐怖度高いわ。

 

「てか観賞用フィギィアを抱き枕に使うなって何回も言ってんだろーが!!」

 

『あれをすると、心が安らぎ翌日の行動が快適になるのだ。君もやってみるか? 心地よいぞ?』

 

「いや痛そうなんでやめときます」

 

 樹脂で出来た人形抱えながら寝たら寝相でえらい目に合うわ。主に俺と抱き抱えるフィギィアの二つが。

 

 刹那人形は…………うん、なんかもうあれはいいかな。最早何代目かも不明だし。

 

『まぁそんな事は端に置いておこう。カヅキ、眠れないのか?』

 

「あーうん、明日のことを考えるとちょい緊張して…………」

 

『確かに。明日は人生最大とも言える大勝負だ。緊張するのも仕方がない。が、それでもきちんと休息をとらなければ、出せる力も出せずに終わってしまうぞ?』

 

「うっ…………まぁ、そうだけど…………」

 

 グラハムの癖に案外まともな事を言いやがる。いつもは『わー少年のフィギィアだーペロペロペロペロ』みたいな事やってるトラブルメーカーハムスターの癖に。

 

 けどそれでほいって寝れたらこんな丑三つ時まで起きてないんだよ。プレッシャーに弱いとその界隈から定評がある俺は、受験という重圧に絶賛押し潰されてるんだから。

 

『ふむ、ならば仕方がない。私が君に、とある筋から入手したよく眠れる安眠道具を渡そう』

 

「えっ? とある筋ってなに? そんなコネクトあるの? てか刹那のフィギィアとかならいらないぞ俺は」

 

『そうではない。あれは君のサイズには合わない、加えて私専用だ。』

 

 いやサイズが合ったとしても使いたかねぇよ。勝手に専用にしとけ俺は絶対使わないから。

 

 言い終えると、グラハムはなにやら自分の口に手を突っ込んでごそごそと何かを探し始める。ほんとどういう造りしてんだあいつの体。

 

 内部完全に四次元ポケットじゃん。やってることドラえもんと一緒だけど絵面が、絵面がキモい。口のなかガチャガチャ言ってるし、どんなもんその腹に納めてんのこのハムスター? 

 

 しっかし安眠道具か…………何があるんだろ? やっぱ妥当なのはアイマスクとか? その辺の物にあんま詳しくないからわかんないわ。

 

 とまぁそんな事を考えてたら、目当ての物を探し当てたのかグラハムが何かを引っ張り出す。うわ口むっちゃ伸びた、お前やっぱ人間じゃねぇや(再確認)

 

 グラハムが口から出した物はそれこそ俺の身長くらいの長さのクッション。それこそ、本当に用途がしっかりした抱き枕という感じで…………

 

『さぁ、このコマンドー式サリー抱き枕で明日に備えるんだ』

 

「いや微塵も欲しくねぇよ!!!!」

 

 いらねぇ!? いやいらねぇ!? (重要なので二回)

 

 なんでなの!? 抱き枕なのはわかるけど張るイラストがなんでコマンドーなの!? もっと他にあっただろうが可愛いキャラとかさ!? こんなゴツゴツのおっさんで気分が落ち着くわけないだろ!? 

 

 なんでサリー!? そいつ『うわぁぁぁぁぁぁぁん!!』って叫びながら崖に落とされる奴だろ!! 顔もそのシーンの顔してるし!! てかどこに需要があるんだよこの抱き枕!? 作ったやつ頭イカれてんじゃねぇの!? 

 

『なーに、心配するな。この抱き枕は優秀でな、ボタンを押せばコマンドー名言集を語ってくれるぞ』

 

「それのどこに心安らぐの!? 野郎ぶっ殺してやるって殺害予告耳元でされて落ち着く輩なんているわけないだろ!? アホかお前は!!」

 

『アホではない! グラハム・エーカーだ!!』

 

「知ってるわ!! 論点そこじゃねぇよ!!」

 

 どこでこんなモノ(ゴミ)売ってんのよ。コミケでも秋葉でも売っとらんぞこんなん。需要がねぇんだよ、需要が。抱き枕の効能に真っ向から喧嘩売りにいくこのスタンス、好きじゃないしむしろ嫌いだわ。

 

『それカヅキ、コマンドー名言集に高まる心が安らいでいくのがわかるだろう?』

 

「お前はこれで落ち着けると思いますか?」

 

『? だから渡したんだぞ』

 

 あーはいソウデスネ(諦念)

 

 こいつは感性が常人のものとは百八十度違うんだった。

 

 グラハムが吐き出したコマンドー抱き枕(ゲボ)は、勉強机の端に放置。なんだろう…………自分の部屋によくわからんのがいるという、なんともカオスな光景に頭痛が痛い(思考放棄)

 

「なんかさ、もっとまともなもんないの? こんなイカれた感じのやつじゃなくてさ」

 

『イカれてるとは失礼な。私の同好の士が、「攻め手が載る抱き枕、これはきっと新しい風が吹きますよ!!」と力作した作品だぞ』

 

「同好の士って誰よ? てかオーダーメイドなのこれ?」

 

 注文された業者どんな気持ちでこれ作ったんだろう…………

 

 これでコミケにでも出るつもりなの? 確実に誰も並ばないか、ある意味ネット上で伝説になるかの二択になる未来しか見えてこない。

 

『しかしカヅキがいやというなら仕方がない。他の手を考えよう』

 

 お願いだから今のは冗談だと言って欲しかったけどどうやらこいつ本気でコマンドー抱き枕で安眠出来ると思ってるらしい。ホモもここまで来ると怖くなってくるわ。

 

『ならば、子守唄はどうだ』

 

「子守唄?」

 

『そうだ、音楽というのは科学的にも精神の安定剤と成りうると検証されている。なら、私が君へ歌えば良いだろう?』

 

 えぇ…………(困惑)

 

 子守唄はわかるけどお前が歌うの? なぜ? スマホで調べてイヤホンで流せばいいんじゃないでしょうか? (名案)

 

『生の物でなければいけないらしいぞ?』

 

「あぁ…………そうですか」

 

 なんかもういいや、グラハムがそう言うならきっとそうなんでしょう知らんけど(投げやり)

 

「じゃあなに? 俺はただ静かに横になってればいいの?」

 

『ああ、時折合いの手をいれてもらえると助かる』

 

「子守唄ってライブみたいに合いの手いるもんだっけ?」

 

 子守唄:子供を寝かしつけたり、あやしたりするために歌われる歌。合いの手は通常いらない(ここ重要)

 

『さて、それでは歌うとしよう…………私の歌を聞けっ!!』

 

「シェリルの真似はやめい」

 

 咳払いを数度。喉の調子を合わせたのか、たかが子守唄にそこまで全力になるか普通? まぁグラハムだからと言えばそうなんだけど。けど子守唄ってなにを━━━

 

『もうだめ!! これ以上行きたくなァい!!!』(裏声)

 

 !?!?!?!?!?!?!? 

 

『あの人が死んでしまう…………地球に帰ったって、もう、あの人はいないわ。私まだ何も言ってないのに! 好きだとも、愛してるとも、抱いてとも言ってない、何一つ…………言えなかったのよぉ。』(裏声)

 

 ナニコレ? (遊戯)

 

 子守唄をするんじゃないの? この寸劇はなんなの? てか歌じゃないし、なんだか内容が不穏だし、グラハムの裏声が気持ち悪いし。

 

 あと、今のグラハムのセリフはどっかで聞いたことが…………

 

『本当はあの時、キスして欲しかった。…………抱いて欲しかった。好きだと言って欲しかったのよ。それなのに…………それなのに…………このまま、もう逢えなくなってしまうなんて…………絶対にいやァァァァァァァ!!』(裏声)

 

 このまま続くの!? 歌は!? 最近の子守唄ってミュージカル調なの!? んなわけあるかい!! 

 

 というか本当に聞き覚えあるぞ。いつだっけな…………確かなんかのアニメのセリフ…………

 

 ブチンっ!! 

 

 ん?? 

 

『お姉様、しっかりして下さい! このままじゃ、やられてしまうわ!』(グラハム2号機裏声)

 

 分裂したぁぁぁぁあ!? 配役が増えたぞオイ!! 

 

『コーチの六ヶ月はどうなるの? 本当はコーチだって、グラハムと一緒にいたいはずよ! 最後の六ヶ月よ!! 本当は、行くなと抱きしめてやりたかったはずよ! それをコーチは自分を捨てて、その半年を、あたし達にガンバスターに賭けたのよ! これは、その六ヶ月なのよ! グラハム!!』(裏声)

 

おめぇらどっちもグラハムだろうが!!名称分けろや紛らわしいっ!!

 

 というかコーチ? ガンバスター…………?? 

 

 あっ、

 

 これトップをねらえじゃねぇかよ!?!? それも一番熱いシーンの!! 

 

 てことは待て、もしかして子守唄って…………

 

『お願い! グラハム! 戦ってェ!!!!』(グラハム2号機)

 

『…………わかったわ、グラハム。合体しましょう!!』(グラハム)

 

『お姉さま!!』(グラハム2号機)

 

『『foooo!!!』』(野太い声)

 

 テレレッテッテテテテーレッ!! テレレッテッテテテテーレッ!! 

 

「やっぱf○y highじゃねぇーか!?!?」

 

 子守唄で選ばれる曲じゃないだろどう考えても!? 明らかにテンションガッツリ上げる用の曲だろうが!! 

 

 というかなぜ最後だけ地声になったし!! やるならそこも裏声頑張れよ!! 

 

 あかん…………これ乗ったら確実に俺もう今日寝れんくなる…………今のうちに耳を塞いで置かなければっ!! 

 

『あなたの六ヶ月。この六ヶ月戦ってみせるわ。あなたの為に。それが…………あなたと同じ時を生きる、唯一の方法なのね。』(裏声)

 

 グラハム迫真の演技っ!! なんて奴だ…………後ろにガンバスターが見えてきそうだぜ…………

 

 けど俺は乗らない。もう寝る確実に寝るだから、俺はガンバスターなんて叫ばない。

 

『ガァァァァァァァン!!』(グラハム地声)

 

 俺は寝る…………寝るんだ…………

 

『バァァァァァァァス!!』(グラハム地声)

 

 俺は…………俺は…………!! 

 

『『「タァァァァァァァァァァァ!!!!」』』

 

 はい、乗っちゃいました。

 

 男子だから、こういう熱い展開大好きだから、あと深夜テンションだから。なんか色々諸々コミコミだから、仕方ないね(現実逃避)

 

 結局、俺はそのままグラハムとグラハム2号機と一緒にギャーギャーと騒ぎ、途中でプツンと倒れるように寝た。騒ぎ終わった頃は、確か朝方の4時だったと思う。

 

 で、騒ぎに騒ぎ、ほぼ徹夜と同等の事をした結果。

 

「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"寝坊じだあ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"」

 

 寝坊、しちゃったぜ( ;∀;)

 

 




ガンバスター、知ってる人いるかな?

周りにいなくて悲しい作者です( ;∀;)


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走れ!少年っ!!


カヅキ君一高へダッシュという話


「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"急げぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 開口一番、冒頭一番から猛ダッシュ。大きく喚く俺へ周りが奇異な視線を向けてくるけど脇目も振らずに鍛えた脚力全開で走る走る。

 

 最悪だっ! マジで最悪っ!! 今までも何かと面倒事に巻き込まれる度(九割グラハムが原因)に最悪って思ってたけど!! 今回ので完全に更新しちゃったよ!!! 

 

「あーくそっ!! ガンバスターごっこなんざ深夜にやるんじゃなかった!! 深夜テンション死すべしっ!!」

 

『時間管理を自分でしっかりしないからだろうカヅキ!!』

 

「唆したのはテメーだろうがこのホモハムスターがっ!!」

 

 なーに自分は関係ありませんみたいな感じになってんだよ!? お前が子守唄だとかほざきながらfly high歌い出したのが原因だろ!? 

 

 えっ? 乗った俺も悪いだろって? ロボットファンはね、ああいうわかりやすい感じの熱くなれる奴が好きなの。ゲッターロボとか、グレンラガンとか。

 

 だから俺は悪くない。悪いのはグラハムと、カッコよすぎるトップをねらえが悪いんだそうに違いない(自己暗示)

 

 あーカバン持ってるから走りにくいっ!! CAD入ってるトランクが邪魔くさい、雫とかほのかみたいに簡単に収納出来る汎用型ならいいんだけど、俺のは特化型。しかも魔法を変えるのにカートリッジも変えなきゃだから必然的に荷物が多くなる。

 

 背中に教材や書類とかが入ったリュックサックに、片手に銀色のトランクケースなんていう奇々怪々な様相で騒ぎながら走ってんだからそりゃ注目も浴びるわな納得納得!! 

 

「てか暑っいなおいっ!! 汗が止まんねぇ」

 

『コートを脱げばいいではないか。』

 

「んな事してる時間も惜しいんだよ今はっ!!」

 

 いちいち止まってたら本当にタイムロスだ。今はオルガよろしく止まるんじゃねぇぞ精神で行かないと試験に参加できんくなっちまう。それじゃ今日までの努力が全部がパーになる。

 

「それだけはっ!! マジで勘弁だっ!!」

 

 アスファルトの地面抉れんじゃねぇのってぐらい力を込めて地面を蹴る。今だけはグラハムの超スパルタ訓練にありがたさを感じる。今だけは(念押し)

 

 受験日に寝坊とか笑い話にもならねぇ。俺受験にねぼうしてさ、受験受ける前に終わったんだよ(笑)てか? ブラックジョークにも程があるわ。あと笑ってんじゃねぇよ(憤怒)

 

『カヅキ赤信号だ』

 

「わーってるよ!!」

 

 グラハムの制止を乱雑に返事して、スピードに乗る体を強引にストップさせる。

 

 俺の家から一高までは結構な距離がある。まず駅まで行ってそこから電車、加えて一高最寄りの駅からまた歩かなきゃならない。

 

 が、バスを待ってる時間すら今はないので全力で走って駅に向かうしかない。幸い足はそれなりに早いから色々とまわってから駅に着くバスよりかは少し早く着く。けどそれでも間に合うかどうか…………

 

 加速魔法をフル活用して行けばあっさり着くんだけどなぁ…………こんな街中で魔法なんざ使ったらすーぐ人目に付くし、個人的な問題で魔法を使うのも一体どうなんだと思うし…………てかそれより、

 

「信号が長いっ!!」

 

『焦るなカヅキ。今焦っても特はない、少し落ち着いたらどうだ?』

 

「なーんでお前はこの状況でゆったりしてられんのよ!?」

 

 ちょっとは焦れ! 焦るのが普通だわこんなんだったら!! 受験遅れかけなんだぞお前のせいで!! ゆったりしてる暇なんてコンマ数秒も一高に着くまでないわ!! 

 

 ああ早く早くっ!! 早く青に変わって…………んぇ?? 

 

 その時、突然胸元のポケット入れていたスマホが振動する。振動の長さからして、電話がかかってきたんだろう。

 

「なんだよ今忙し…………い…………」

 

 最初は苛立ち百パーセントで話すけど、途中からそのパーセンテージは一気に急降下する。なぜって? 

 

 電話かけてきたのが雫だからだよ。

 

 …………出たくねぇ。猛烈に電話に出たくない。だって絶対怒ってんじゃん、怒ってないわけないじゃん。

 

 昨日早く寝ろって忠告したのに、約束の時間に来ずに連絡もなし、ひいては受験会場にもいない。一体どこで油を売っていたんだと、確実に思ってる。賭けてもいい、絶対そうだ。

 

「どうしたもんか…………」

 

『出るしかないだろう。連絡もなにも出来てないのだから』

 

「いやそうなんだけどね? お前はもう少し遅刻してる原因として罪悪感を感じてくれない?』

 

『ふっ、私は君を眠りへと導いた「マジぶっ殺すぞお前」すまなかった。本当にすまなかった』

 

 少しドスをきかせたら本気で謝るグラハム君。謝れるのは好評価だけど懲りないからマイナスの方が大きいです。そろそろ本気でペットショップに売り払うことを考えるべきなのかもしれない(真顔)

 

 と、そんな下らないコントをしてる場合じゃなかった。今も俺の手元ではスマホがブルブルと鳴り続けてる。そろそろ出ないと。

 

「…………もしもし?」

 

 おどおどとした感じで電話に出る。じとっとした汗が額と背中に流れてるのは、きっとずっと走ってたからという理由だけではないと━━━

 

『何してるの?』

 

「『ヒェォ…………!?!?!?!?」』

 

 待って待って待って待って待って待ってヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいっ!!!! 

 

「あ、あの、し、雫━━━」

 

『香月、聞こえなかった? 私は質問したの。何してるの?』

 

「はいっ!! ただいま全速力で一高に向かってますっ!!」

 

 怖ぇぇぇぇぇぇぇ!!! マジで怖ぇぇぇぇぇぇぇ!!! 半端ないって!? 雫の気迫半端ないって!! あんなん普通出来ひんて普通っ!!! (涙目)

 

 怒ってる!! 非常に怒ってらっしゃる!!! 俺の想定の約数十倍は怒ってらっしゃる!!! 

 

 グラハムにきかせた俺のドスがなんかスッゴい可愛く思えてくるし! グラハムなんてもう白目でガタガタ震えて現実からログアウトしちゃってるしぃ!! 

 

『おかしいよね? 七時に駅で待ち合わせだったよね?』

 

「はい、その…………緊張で寝れませんでした…………」

 

『…………』ミシミシ

 

 沈黙がっ!! 怖いっ!! (ボーちゃん風)

 

 ここまで恐れる沈黙が今までの人生にあっただろうか!? いいやないね!! (反語)

 

 てかミシミシって何の音!? なんか電話越しにスッゲェ不穏な音が聞こえてくるんだけども!? 

 

『私昨日連絡したよね? 明日に備えて早く寝てって。言ったよね?』

 

「いやでもね雫さん? 俺も一応は人間なんですよ? なので、緊張したり、気持ちが昂っちゃうのは些か仕方がないと思うんですが…………」

 

『言 っ た よ ね ?』ミシミシッ!! 

 

「はいおっしゃってましたねメール見ましたっ!!」

 

 反論出来ねぇ!? 雫の言ってることが正論すぎて反論出来ねぇ!? 

 

 あと音っ!? もうなんなのその音!? ミシミシッ!! ってやつ!! 怖いよっ!? 電話越しにかかるプレッシャーが半端じゃないのよ!? 今の雫には、俺を恐怖に陥れる程の凄みがあるっ!! (震え声)

 

『間に合うの?』

 

「それが、ちょうどバスが行った所だったから駅まで走ってんだけどギリギリ間に合うかどうか…………」

 

『絶対間に合わせて』

 

「断言は出来ないって! 駅に着いても電車がちょうど来てくれるかもわかんないし━━━』

 

『間に合わなかったら…………』ミシミシミシミシッ!!! 

 

 バキンッ!! 

 

『こうなるからね』

 

「いやどうなってんのぉ!?!?」

 

 何がどうなったんだよ一体!? 電話越しじゃわっかんないよ!! 見えないしわからないことがより恐怖を産むんだけど!! 

 

 けど、一つだけはっきりしてるよね? みんな、わかるよね? 

 

 俺、このまま受験に遅れたら受験どうこうの前に幼なじみに殺されるわ。(すべてを悟った顔)

 

 ツーツーという虚しい音が耳元へ入り込む。雫は告げることだけ言って電話を切ったんだろう。タイミングよく、俺たちを足止めしてた信号も赤から青へと入れ替わる。

 

「…………オッケーグラハム」

 

『…………ピコン』

 

「ここから第一高校まで最短距離のルート案内。出来るなら人気のないようなとこを。障害物とかは考慮せずに」

 

『了解した…………信号を渡ったあと、小さな脇道へ入れ。そこからは北西方向にひたすら真っ直ぐだ』

 

「わかった」

 

 とっととっこ歩いて脇道へ。入ってみると、そこは大通りの裏路地といった感じで、一人っ子一人いなければ人が通ってるのかも怪しいようなとこだった。

 

 右向いて、左向いて、辺りに人がいない事と大通りの人からは死角になる場所に自分がいることを確認。それが終わるや否や、

 

 加速魔法全力発動して猛ダッシュ。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ急げぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 走り出し、建物の壁をポンポンとマリオみたく蹴って上へ登り、家屋と家屋の屋根伝いに飛び移るように移動する。

 

 魔法を私的な事で使うのは宜しくないって? んな事言ってられっか持つものは使わなきゃ損なんだよ(手のひらクルクル)

 

『このままひたすらに真っ直ぐだ。カヅキの加速ならほぼ確実に間に合うだろうが出来るだけ急げっ!? 私も電話越しのあのプレッシャーを直に当たりたくなどない!!』

 

「そりゃ俺も同じ意見だよ!! 一秒でも遅れなんてしたら顔面握りつぶされそうで今も戦々恐々としてるっ!!」

 

 まだ耳にあのバキッて音残ってるから。遅れたらその音は俺の頭蓋骨が粉々になる時の音声に早変わりするだろう。やだ、俺の幼なじみったらバイオレンス♪ (現実逃避)

 

 ていうかトーントーンと軽く建物間飛んでるけど、これ出来るって俺も相当身体能力お化けになってるよね。いくら魔法の支援があっても普通は出来んて。グラハムの訓練ってしゅごいんだなぁ…………(遠い目)

 

『カヅキ、目の前の裏路地へ降りろ。これ以上加速魔法で走っていると、一高の警戒システムに引っ掛かりかねん』

 

「おうさ」

 

 グラハムの忠告に軽く返事して、手前の小さめの家屋の屋根からダイブ。さすがは国立の魔法学校、警戒システムとかもガッチガチなんだろうな、知らんけど。

 

 とりあえず、このまま綺麗に着地して右方向へダッシュ。そしたら一高方面に進める大通りに出れるから、あとは道沿いに全力ダッシュするだけ。

 

 いやー速いね、もんすごい速いね。さすがは加速魔法(停止、調整等をすべて自力で行う)全速力。電車とか使わなきゃ時間かかるところを速攻でとか。

 

 これは強魔法ですね間違いない(目をそらし)

 

 虚しいこと考えてないでさっさと飛ぼう。時間は有限なんだしこれ以上遅れると、雫が般若にレベルアップしそうだし。

 

 んなわけで途中途中で加速を緩めつつ屋根から飛び降り。高さはそこまで高くないので、きっちりタイミング良く膝を曲げれば問題ないでしょ。

 

 そ、問題ない。

 

()()()()()()()()()

 

「『え…………?』」

 

 飛び降りる予定地へ視線を下ろしたその瞬間、グラハム共々困惑の声がポロリと漏れた。

 

 誰かいるし。それもなんかいっぱい。

 

 それもなんかザ・ヤンキーって感じの厳ついカッコなんだけど。

 

 えっ? なんでいるの? なんて考える暇なんてなくて、

 

「おごっ!?」

 

 俺の足は、綺麗にアスファルトへつく前にゴロツキの一人の顔面にクリーンヒットしちゃった。

 

 ぶっ飛ぶゴロツキ、よろつきつつ着地する俺。そんな俺を驚嘆びっくりお目目ぱっちりで見てくる裏路地ゴロツキ軍団。

 

 うん、カオスだ(断言)

 

 どうする? どうしよ? どうしようか? 焦りすぎて脳内で三段活用出来ちゃったわ。テストじゃ古典も文法も出ないのにね、HAHAHA!! 

 

 じっと交わされる俺とゴロツキ君達の視線。あらやだ怖いよ睨まれてるよ。そりゃそうだよね? いきなり人降ってきたと思ったら唐突に仲間の顔面蹴り飛ばしたんだからね? 大丈夫かな蹴っちゃった人、あっ白目向いてる。

 

 うーんこの空気、ヤバいですね(ペコリーヌ)

 

 ここは…………あれだ…………俺なにもしてませんよー俺関係ありませんよーっていう天下無敵の第三者ムーブをかますしかないっ!! 

 

 やることは至って単純。

 

 相手に微笑み一礼。その後彼らに背を向けて、その場から離れる。

 

 以上。なーんて簡単だ。カップ麺作るより楽な仕事だぜ、やっぱ笑顔は世界を平和に導く。はっきりわかんだね。

 

 だから実践。ニコッと笑って相手の緊張を緩めるとこから始めよう。

 

「…………( ^ω^ )ニコッ」

 

 少し固かった気がするけども、これはすることに意味があるのだ。ここで笑顔を見せて、『俺は関係ないですよ』と。そう意思表示することが重要なのだ。

 

 ここまで来れば、あとはすたこらと逃げるだけ。さ、急いで一高へ

 

「おいゴラァ!」

 

 行かせてくれませんよねぇ。

 

 わかってたよわかってたけどさ。だってもうガッチガチに厳つい人らだもん。髪の毛ガッツリ染めてるし、ピアスしてるしなんかジャラジャラ鳴ってるし。

 

 俺とは絶対に相容れないタイプの人間だからね。超逃げたい。

 

「えと…………なんでしょうか?」

 

「なんでしょうかじゃねぇんだよ、おい。お前何したかわかってんのか? いきなり乱入してきてよ」

 

『なんだこいつは。やけに高圧的だな。』

 

 グラハムさーん? 少し黙っててくれません? この状況下でグラハムさんに割く余裕があんま無いので。

 

「すみません…………今すごく急いでるので、なんか邪魔しちゃったんなら、ホントに、ホントにすみませんはい…………」

 

 もういいや、平和的に終わらせたいから謝ってさっさと大通りに行こう。こういう手のやつは下手に出れば許してくれるって、きっと(希望的観測)

 

「ったく。こいつどうするよ?」

 

「見られたんだろ? なら黙らしとくしかないだろ」

 

 ん?? 見られた? 何を? 俺なんにも見てないんだけど、ただ屋根から飛び降りてゴロツキAを蹴り飛ばしただけなんだけども。

 

 えっ? 俺なんかやっちゃいました? (素朴な疑問)

 

 そして何かを示し合わせたのか、俺を囲うように並び始めるゴロツキ軍団。なに? 何が始まるの!? 

 

「あー悪いけど、お前をただで返すわけには行かないんだわ。現場を見られちゃったわけだし? わかるよね? 俺の言ってること」

 

 わからないですね(真顔)

 

 逆に何故こんなゴロツキに囲まれる理由を俺が理解出来ると思ったのか。コレガワカラナイ

 

 というか待って? この流れってさ。もしかしてさ…………

 

『リンチでもするつもりなのか?』

 

「やっぱそうなの!?!?」

 

 絶対そうだよねこれ!? あのヤンキー漫画とかにありがちな『おいこらちょっくら絞めてやんよ』的な奴だよね!? 東京ってこんな治安悪かったっけ!? 

 

『…………大丈夫なのか?』

 

「いや大丈夫じゃないよ!? どう見たって多勢に無勢だろこれは!! ボコられておしまいだって!!」

 

『いやそちらではなく、時間の方なんだが。受験』

 

 あっ(察し)

 

 さっと腕に着けてる時計で時間確認。加速魔法のお陰で少しは出来てた余裕が、なんということでしょう。

 

 ほとんどないではありませんか。

 

「ヤッベェマジで時間がねぇじゃん!?!?」

 

 これじゃ俺が死ぬぅ!! 雫にぶっ殺されて受験受けれずに色んな意味で死ぬぅ!! それは本気で、本っ気で嫌だ!! (断固たる意思)

 

「てめえさっきからギャーギャーと喧し━━」

 

「それどころじゃねぇんだよこの暇人ヤンキーっ!!」

 

「あごべっ!?」

 

 背負ったトランクケースをぶん回して突っかかってくるヤンキーの顔面へ全力で叩きつける。もう形振り構ってられん。ヤンキーにボコられるよりも、その後に来る物の方が俺へのダメージがデカいんだよ!! 

 

「何しやが━━」

 

「消えろイレギュラー!!」

 

「げはっ!?」

 

 トランクケースで殴る。ゴロツキBは倒れたっ!! 

 

「お前調子に乗るのもいい加減に━━」

 

「うっせぇバーカー!!」

 

「うぎゃっ!!」

 

 トランクケースで殴る。ゴロツキCは倒れたっ!! 

 

 トランクケースで殴る、殴る、殴る。

 

 ゴロツキをぶっ倒す勢いで、というか急がないとマジで死ぬっていう焦燥感でトランクケースをブンブンしてたら、気づけばゴロツキ達は全滅。

 

 文だけ見たらイキリト見たくなってるけど、武器は拳じゃなくて銀色のトランクケースでバックグラウンドでは受験に遅れかけて、幼なじみに殺害予告されてるってのがあるのでカッコよさがまるでない。

 

「お前らが悪いんだからな!! 変に絡んできたのが悪いんだからなっ!! 俺は悪くないぞこれは正当防衛だからなっ!!」

 

 俺は誰に言い訳してるんだろう? まぁいいや、邪魔野郎はもういない!! あとは俺が一高にたどり着いたらいいだけっ!! てか一人語りなんてしてないで早く行かねぇと!? 

 

『カヅキ少し待て!!』

 

「はぁ!?!? なに!! もう待ってられないって急がないと!!」

 

『あれを見てみろ!』

 

 お祭り男みたいなノリでグラハムが小さな指で俺の少し先を指差す。

 

 そこには、腕を後ろで拘束されてる帽子を目深に被った人が転がってた。俺よりも年下だろうか? 髪は耳元位までの茶髪のボブヘアー。

 

「えっなにこれ? ヤンキーじゃないよな? ゴロツキって感じでもないし…………」

 

『奴等の仲間であれば、このように縛る必要もないだろうな』

 

「それもそうだよなぁ…………ん?」

 

 縛る? 待てよ…………? 

 

 ①こんな人気のない裏路地にヤンキーいっぱい

 

 ②なんか見られて困るもんがあった。

 

 ③目撃者である俺を力づくで黙らせようとした。

 

 ④ヤンキーが集まってた近くで横たわる、なんか縛られてる子。

 

 ポクポクポクポクポク、チーンッ。

 

「これ絶対誘拐現場だろぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 絶対そうだよ!! 間違いなくそうだよ!! ヤンキーどもがこの子誘拐しようとしてたんだろこれぇ!! 状況証拠がもう完全に物語っちゃってる!!! 

 

 そりゃ見られたら強引にでも口封じしようとするわな!! こんなん見られたら通報待ったなしだもんな!! 俺だってそうするし誰だってそうするわ!! 

 

「どうしよ!? とりあえず警察呼ぶ? いやでも事情聴取とかなったら受験なんて言ってられなくなるし、かといってこれは…………」

 

『カヅキ! 時間がっ!!』

 

「わーってる急かすなっ!!」

 

 チラッと腕時計と縛られる子(帽子深く被ってるから性別がわからん)とを視線が行き来、数瞬脳内で思考して俺が出した結論。それは…………

 

「おぉい!! 起きろぉ!!!」

 

 全力で揺さぶって叩き起こす事。

 

 警察とかその他諸々は、悪いけど、本当に悪いけど被害者のこいつにやってもらおう。そうすれば俺は何の気兼ねもなく受験に向かうことが出来るし、事件も丸く収められる!! まさに一石二鳥!! 

 

「だから起きろてんだよゴラァっ!!」

 

 ガンガン肩を持って揺さぶりをかける。怪我をしてる可能性とかは考えません、だってこっちもこっちで切羽詰まってるからね。

 

 なのでなんだか囲ってたヤンキーと遜色ない感じになってる気がしなくもないけど気にしない。しないったらしない。

 

「ん…………んん…………あれ、ボクは…………」

 

「目覚めたな!!」

 

「えっ? へぇ!?」

 

 困惑してる? 知りませんこっちもガチで余裕無いので矢継ぎ早に行くぞオラァ!! 

 

「怪我ないか!」

 

「えっ? えっ、えっと…………」

 

「怪我ないか!!」

 

「えっ!? う、うん。大丈夫…………」

 

「立てるか!」

 

「た、立てる!!」

 

「ならすぐにこっから離れて警察に電話しといて! 襲われましたって言えば警察も対応してくれるから!! わかった!?」

 

「ふぇ? は、え…………」

 

「わかったかっ!!」

 

「は、はい!!」

 

 元気よい返事が出来るなら大丈夫だろう! 言いたいことは言い終えたんで、俺はさっとトランクケース(鈍器)を背中に背負い直して一高へダッシュ

 

「あ、あのっ!!」

 

 させてもらえないんですがぁ!! (キレ気味)

 

 何!? なんなの俺の袖をつかんでよぉ!? こっちゃ時間も余裕も色々も無いのよ!! 分かれよ! (理不尽)

 

「な、名前を…………聞いても…………いいですか?」

 

「市崎です!! 市崎香月!! すぐにこっから離れろよお前!! まだこいつらの仲間いるかもだからな! すぐにだぞ!!」

 

「は、はい!」

 

 返事を聞いた瞬間に踵を返して再度猛ダッシュ。

 

 あーもう最悪だよ!! 朝から遅刻はするわ般若()に怒られるわヤンキーに絡まれるわ誘拐未遂事件に巻き込まれるわっ!! どこぞの不幸なラノベ主人公じゃねぇんだぞこちとら!? 

 

 とりあえず言えるのは一言っ!! 

 

「間に合え、間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」

 

 いやホントに間に合って!? (懇願)

 

 





誘拐されかけた子に後処理を任せて放置するクソヤロウが主人公の小説があるらしい(小並感)


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