『花咲川の異空間』と呼ばれている、姉の弟です。 (龍宮院奏)
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俺の姉ちゃんは最高に可愛い!件について。

始めましての人は、始めまして。
知っている人はこんにちわ。龍宮院奏です。
この作品はリクエストを受けて制作しています。
他の作品もありますが、ちゃんと更新していくので、よろしくお願いします。


「なつき!見て欲しいものがあるの!」

俺と姉ちゃんを眩しくも照りつける太陽の下、その光に照らされて輝く何処まで果てしない青い海。波が歌い、カモメ達が踊る。

 

「お姉ちゃんなに?」

姉ちゃんは何時も俺の前を歩いていた。いや、走っていた。俺はそれに追いつこうと走るが、追いつかない。走っても、走っても、どれだけ走っても、姉ちゃんの速さには追いつけない。

 

「ほら、あそこ」

だけど、姉ちゃんはそんな俺を置いてけぼりにはしなかった。走って、走って、遠くに行ったとしても、また戻ってきて言うのだ。

 

「キレイ……」

 

「『なつきと一緒に見たかったの!』」

大きくて、絵に描いたような真ん丸で、オレンジ色の輝く夕日。その夕日が、何処まで果てしない海に沈んでいく光景を。

 

「私、なつきと一緒ならどんなことももっと楽しいと思うの!」

姉ちゃんに、俺は追いつくことは出来ない…。出来ないけど、出来ないからこそ、俺に出来ることがある。

 

「これからも私の側に居てくれるかしら?」

 

「うん!俺、ぜったいはなれない!お姉ちゃんのことだいすき!」

 

「私も大好きよ!」

追いつけないのなら、迎えに来たときに、帰ってきたときに、最大限の、姉ちゃんを笑顔にするために頑張るんだって。

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……、おも、重い……」

スマホの目覚ましでセットしてある音楽で、眠りの淵から意識を引き上げようとする。引き上げよとするのだが、何故かお腹の辺りが無性に重いのだ……。

 その正体を恐る、恐る、確かめるために掛け布団をゆっくり剥がすと、

「すぅ……、すぅ……」

 

「何だ……、姉ちゃんかよ……」

腹から背中に向けて手を巻き付かせて、体を最大限に密着させて寝ている姉・こころだった。

 

「姉ちゃんの寝顔、相変わらず可愛い……」

自分でも判っているのだが、まだ眠気が完全に抜けきっていないようで、膝の上に丸くなる猫を撫でるかの様に頭を撫でる。

 

「髪綺麗だし、何か良い匂いする……」

俺の光を呑むような黒髪と違い、姉ちゃんは太陽を一心に浴びたひまわりの花びらの様な金色。一本一本指を通す度、絡まること無く、すーっとすり抜けていく。

 

「やっぱり、俺の姉ちゃんは最高に可愛い……や……」

ほのかに香るシャンプーであろうオレンジの甘い香りに、姉ちゃんが密着する体温の温もりで、再び睡魔に心を突き動かされてしまった……。

 

 

 

 

 

 

「夏樹…、ねぇ夏樹ってば!」

深い眠りから意識を叩き起こすように、俺を呼ぶ姉ちゃんの声が聞こえる。

 

「な、なに……」

眠たい瞼を擦りながら尋ねる。

 

「何でも無いわ!ただ、夏樹と一緒に居るのが嬉しくて呼んだだけよ!」

そうだ、姉ちゃんは何もなくても、俺の名前を呼んでくるんだ……。その事に何時も何処かで安心して、俺が此処に居ることを教えてくれる。

 

「姉ちゃん……好き……」

半ば虚ろな意識だけれど、未だにお腹の上で抱きつく姉ちゃんの頭をもう一度撫でる。

 

「ふふっ、私も夏樹のこと大好きよ……。それにもっと撫でて欲しいわ」

撫でるたび、気持ちいいようで顔が優しくふにゃふにゃと笑みを浮かべる。この瞬間の顔を写真で保存したいが、そうすると姉ちゃんを撫でることを止めてしまうことになるので、

 

「うん……、良いよ……」

俺自身も、姉ちゃんを抱き寄せながら、オレンジが香る綺麗な姉ちゃんの頭を撫でるのであった。

 

 

 

 

 

 

「それにしても、すっかり寝過ごしたな……」

お互いにパジャマから着替えて、リビングに行く頃には10時を過ぎていた。

 

「でも、今日はお休みなんだから。偶にはこういう日も良いじゃない!」

姉ちゃんは寝起きにも関わらず、元気ハツラツだ。

 

「それもそうだな……、ふわぁぁぁ……」

が、俺は朝が苦手なので、寝起きのままである。

 

「全く夏樹ったら、朝が苦手なことは変わらないのね!」

小気味良い足音が背後からしたと思ったら、案の定助走をつけてからのジャンピングハグだった。

 

「っつ!姉ちゃん、危ないから」

 

「えへへ、大丈夫よ!」

いや、本気で危ないから。俺が少しでもずれていたら怪我す……。

 

「だって、夏樹は絶対私のことを受け止めてくれるって分かっているから!」

 

「……、ハンソク」

本当にこの姉ちゃんは卑怯だ、本当に卑怯なんだから……。あぁ、何だよもう、耳元で囁くな!そのままその声で俺は死ねるぞ!

 結局、姉ちゃんのジャンピングハグの危険さ、二重の意味での危険さから目が覚めました。

 

「じゃあ、朝ごはん作るから待ってて」

 

「は〜い!」

今日も、今日とて、俺の姉ちゃんは本当に可愛い……。

 

 

 

 

 

 

「姉ちゃん、今日はバンド練?」

朝食を終えて、コーヒを飲みながら今日の予定を聞く。

 

「そうね、今日は家でみんなで練習をする日だったわ」

 

「へぇ〜、何時から?」

 

「もうすぐよ」

 

「もうすぐって?」

ちょっと姉ちゃんの言葉から不穏な空気を感じざる負えないんだけど……。

 

「そのままの意味よ、だってほら!」

 

 

〘こころ〜ん!練習しに来たよ〜!〙

 

 

「今行くわ!」

玄関の設置されたカメラから、映像と音声が出される。それを確認するやいなや、椅子から風のごとく玄関へと去ってしまった。

 

「まだ、洗濯物とか掃除終わってないのに……」

俺の休日の数少ない家事の状況を考えながら。

 

 

 

 

 

 

 

「なっくん!おはよ〜」

 

「おはようございます、はぐみ先輩」

 

「お、おはよう。夏樹くん」

 

「おはようございます、花音先輩」

 

「おはよう夏樹くん、今日も良い朝だね」

 

「おはようございます、薫先輩。そうですね、日差しも丁度いい感じにさして。洗濯日和ですね」

 

「夏樹君さ、それ主夫の台詞だよ……。あと、朝からごめんね」

 

「別に主夫は間違ってないですよ、だって姉ちゃんのご飯とか作ってますから。それと、何時ものことですので大丈夫です」

 

「そっか、なら良かった。あと、おはよう」

 

「はい、おはようございます」

 

「それじゃあ夏樹、私達は練習しているから。何かあったらすぐに呼んでね!」

 

「分かったよ、じゃあ姉ちゃん練習頑張ってね」

 

「えぇ、今日も一日頑張るわ!」

姉ちゃんの掛け声にノリノリなはぐみ先輩と、薫先輩。そんな姉ちゃん達三人を見守る、花音先輩と美咲先輩。

 

 

「そういえば、ミッシェルはまだ来てないの?」

 

 

「こころ…、ミッシェルは遅れてくるって…」

 

 

「そうなの…、なら早く会いたいわ!」

姉ちゃんは『ミッシェル』=『美咲先輩』だと云うことを信じていないため、本当に美咲先輩には姉ちゃんがお世話になってます…。心の中で感謝を送りながら、食器の片付けを始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 姉ちゃんが先輩たちと練習をしている間に、差し入れ用のお菓子を作る。

 最初の頃は『夏樹、これ凄く美味しわ!』と言っていたクッキーを『また食べたい』言うので作り始めたのだが、

「案外、お菓子作ってる時とかが気が楽なんだよな…」

姉ちゃんが美味しそうに食べる顔を想像しただけで、微量の鼻血が出そうになるが血が入っては台無しだ。

「後は、型に入れて……」

 

 

 

「ふぇぇ〜……、ここどこ〜……」

 

 

 

「はぁ……またか……」

生地を型に入れるのを中止して、声のする方に走る。

 

「また迷ったんですか?」

少し廊下を走ったところに、花音先輩が涙を浮かべて蹲っていた。

「うん……。今日は大丈夫だと思って、美咲ちゃんについて貰わずに来たんだけど……」

「先輩、せめてそこは覚えてください」

そう言って、先輩に手を差し出す。一瞬、先輩が驚いたような表情を見せるので、

「何してるんですか?姉ちゃんのとこまで、送り届けますよ」

要件を言って、こちらから手を取った。

 

「な、夏樹くん…!」

 

「何ですか?」

何故か顔が茹でだこみたいに真っ赤な花音先輩。

 

「そ、その手……」

真っ赤にした顔をゆっくりと握った手の方に動かすので、

「あぁ、だって先輩に道だけ教えても迷いそうなので。この方が迷わず、早いですから」

「そ、そうなんだ……」

何かおかしなことを言った訳でもない筈なのだが、花音先輩は依然として顔が真っ赤だった。

 

 

 

 

 

 

「姉ちゃん、花音先輩の配達だよ」

 

 

「あら、花音!遅かったわね」

バンド練をしている防音の部屋には、楽器を持った先輩たちが演奏をしていた。

 

「ミッシェル、花音先輩が大丈夫って言っても付いていてあげて下さいね」

 

「わ、私?……わ、分かったよ」

今若干素の美咲先輩が出ていたような、姉ちゃんにバレるぞ。なぁ、姉ちゃん……。

 

 

「夏樹、何で花音とそんなに手を繋いでいるのかしら?」

 

 

「ね、姉ちゃん……?」

連れてきてからも無意識に手を握っていたままだった……。あの姉ちゃん、姉ちゃんの目のハイライトは何処へ?

 

 

「花音も着いてから何も言わなかってけど…」

 

 

「ご、ごめんね……。何か、あまりにも急な展開だったから、私頭の中パニック状態で…」

姉ちゃんが花音先輩に向ける目が何時もと違い、まるで親の敵を見るような目だ。

 

「あの姉ちゃん……、俺が先輩が迷子にならないようにしたんだよ……。だから、あんまり怒らないで……」

俺自身、こんな姉ちゃんは初めてだけど……。あんまり、見ていて気分が良いものでもない。

 

「そうなのね……」

姉ちゃんの中で何かの整理が着いたようで、目に光がただいましてきた。

 

 

「花音、もしまた家の中に出るときは誰かと一緒にね」

 

 

「う、うん……。分かったよ、こころちゃん…」

何時にもまして先輩の涙腺崩壊が近くなっているような……。

 

 すると姉ちゃんが俺の側に駆け寄ってきて、

「夏樹はあとでお話ね……。ワカッタ……?」

 

「あ、わ、わかった……」

耳元で明るい姉ちゃんじゃなくて、少し冷たい恐怖を感じさせる姉ちゃんが耳元でそっと囁いてきた。きっとこれは普通に考えれば『死亡フラグ』なのだろうが、俺には。

 

 

「こころん!なっくん鼻血出てる!」

ギャップ萌で、ご褒美なので、耳が幸せで、理性が少しばかり土に帰りました。

 

 

「全く、こころ。君は何を言ったんだい?」

薫先輩が落ち着いた様子を演じながら姉ちゃんにポケットティッシュを渡す、めっちゃ足震えてるからビックリしてるのだろう。

 

 

「う〜ん?姉弟の秘密よ!」

お、俺、今姉ちゃんに止血されてる……。姉ちゃんの手、姉ちゃんの手が、俺の頬に……。

 

「ね、姉ちゃん……、あとは自分でやる……」

これ以上は理性どころか、生命の危険に達する。

 

「だめよ、せめてこれだけはちゃんとやらせて」

 

「うぅ……」

結局、理性と生命の崩壊の狭間に揺れながら止血されるのであった。お話って何だろうな……。

 

 

 

 

 

 

 鼻血を止める為にリビングで少し休んだあと、手を止めていたお菓子作りを続ける。

「姉ちゃん、今日は何であんなこと言ったんだろうな……」

花音先輩が迷子にならないように、手を繋いで案内しただけなのにな……。生地を型に入れて、オーブンで焼いたり、油を張ったフライパンで揚げたりしながら考え込む。

「まぁ、姉ちゃんのことだから『ゲームで遊びましょう!』とかそんな感じだろうな」

あははは、と笑っていると差し入れのお菓子が完成した。お菓子と飲み物を台車に乗せて、姉ちゃんたちの部屋に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「姉ちゃん、午後の甘い一時のお誘いだよ。まぁ、差し入れだけど」

 

 

「夏樹のお菓子!」

 

 

「なっくんの手作りお菓子だ!」

判ってはいたけれど、反応早いな。すでに姉ちゃんはクッキーを手に持ってるし、はぐみ先輩は見てるだけじゃなくて食べて良いんだから。

 

「姉ちゃんたちでどうぞ、バンド練大変だろうから」

お菓子と飲み物を載せた台車を部屋に置き、部屋を後にする。後は夕飯を作るまで、書庫で買った漫画でも読み直すかな……。

 

「夏樹くんは食べないの?」

部屋を出る直前に花音先輩が尋ねる。

 

「えっと、俺作り専門なので。それに差し入れですし…」

少し驚ろき、チグハグながらに答えるも、

 

 

「夏樹、みんなで食べたほうが美味しいわよ。だから、夏樹も一緒に食べましょ!」

 

 

「姉ちゃんが女神過ぎる件について……」

血涙は出せないものの、腰の辺りから抱きついて上目遣いで言われればもう断るのが罪と言えるだろう。

 

「じゃあ一緒に食べる……」

俺の姉は本当にズルい……、がしかし、結果みんなで午後の甘い一時を過ごせるのだから結果オーライだろう。ちなみ、ちゃんと床(カーペット)にシートを敷いて雰囲気も出して。

 

 

 

「そう言えばさ、前から聞きたかったんだけどさ」

自家製クッキーとはちみつレモンティーを堪能する美咲先輩から、

「これ全部一人で作ってるの?」

目の前に広がるクッキー、マカロン、ミニケーキ、スコーン、ドーナッツ、カップケーキなどのをお菓子を見ながら聞いてきた。

「逆に先輩、休日に家から出ず、姉と過ごすことに幸せを感じている、しがない高校一年生に他に何をしろと?」

「うん、私の聞き方が悪かった…」

「いえ、俺の方こそすみません…」

先輩との間に微妙な空気が生まれしまったので、自分で弁明をする。

「書庫で本を読みふけっていても、段々と飽きてくるので。それにこっちのほうが、姉ちゃんの笑顔が直接的に関係してみれるので」

「おぉ、流石シスコン……」

「ねぇ美咲、『しすこん』って何かしら?」

「姉ちゃん、それは覚えなくて良いよ」

「うん、こころにはその内わかるよ……」

姉ちゃんへの過激な情報は極力避けることには、俺と美咲先輩それに花音先輩は特に注意している。でないと、姉ちゃんがとんでもない事をしでかすので。

 

「でもさ、本当に仲良いよね。こころんとなっくん」

 

「そうですか?普通ですよ」

 

「そうよ、夏樹と私は何時もこんな感じよ」

はぐみ先輩の言葉に同じタイミングで首を傾ける俺と姉ちゃん。

 

「えっと、夏樹くん……。多分、普通高校生の姉弟はそんなべったりくっついたりはしないと思うよ」

俺と姉ちゃんを見て、苦笑いを浮かべ花音先輩。

 

「そう言うもんですか?」

 

「そうだよ、だって『夏樹君があぐらかく』でしょ。その間に『自然にこころが座る』状況が出来ているんだから」

花音先輩に続いて美咲先輩まで。

 

「別に姉ちゃんが落ち着いてるので」

 

「そうよ、夏樹のここ落ち着くのよ」

俺の足の上に乗る姉ちゃんを、後ろから手を回して抱きしめる体勢で姉ちゃんはお菓子を食べている。

 

「仲が良いことは良いことだよ、あぁ儚い……」

 

「ほら、薫先輩だって言ってるんですから」

薫先輩のフォローに感謝しつつ先輩たちをみると、美咲先輩と花音先輩は苦笑していた。

 

 

「でも、なっくんの方が背が高いから『お兄ちゃん』に見えるけどね」

 

 

 俺の作ったチーズケーキを食べながら、今さらっと凄い事がはぐみ先輩の口から出てきたけど。

 俺が姉ちゃんの〘お兄ちゃん〙?

 え、俺と姉ちゃんの立場が逆転するの?姉ちゃんが、「夏樹」じゃなくて、「夏樹お兄ちゃん」って呼んでくるのか?

 いやでも、姉ちゃんは姉ちゃんで、今までもこれからも姉ちゃんな訳であって。だから俺は弟であることには変わりなくて、だからお兄ちゃんと言われることは……。

 

 

「でも、それも面白いかもね。ね、お兄ちゃん!」

 

 

 こころがその言葉を発すると、一瞬にしてこころを抱きしめていた夏樹君の目が虚ろになり……。

「こころ!やばいよ、夏樹君の思考が止まってる!」

何かが消えたようにピクリとも動かなくなった。

 

「俺が姉ちゃんの……姉ちゃんの弟じゃない……」

何やら小さい声で、ポツリ、ポツリと言っているようだが……、本人には相当ショックだったようだ。

 

「もう、夏樹ったら。大丈夫よ」

こころはそう言いながら、夏樹君の方に体を向き直す。

 

「さっきのはあくまでも冗談よ。夏樹は私の大事な弟、それは変わりわしないわ」

 

「ね、姉ちゃん……」

意識が有るのか無いのか不安定な夏樹君の目に光が戻る。

 

「だからね……、そんな悲しい顔しなくて良いんだから。ほら、笑顔が一番よ」

そしてなだめるようにそっと頭を撫でると、夏樹君の手が動きこころを抱きしめていた。

 

「俺、姉ちゃんの弟が良い……。姉ちゃん……」

 

「もう、本当に夏樹は私のこと大好きなんだから」

こころはそれを優しく受け止め、夏樹君が正常運転に戻るまで続いた。

 

 

 

 

 

正常運転に復帰した夏樹君は、〘お兄ちゃん〙発言のきっかけを作ったはぐみに少し怒り、

「それじゃ姉ちゃん、練習頑張ってね。俺、書庫にいるから」

 

「わかったわ、お姉ちゃん頑張るから」

出ていく時もこころとハイタッチをし、ハグをしてから出ていった。

 

「ねぇ、美咲ちゃん……」

 

「なんですか?花音先輩」

 

「夏樹くんってさ、こころちゃん以外を好きになったりするのかな?」

 

「さぁ…、あの重度のシスコンなら難しいんじゃないですか?」

 

「そ、そうだよね……」

 

 一瞬、花音先輩が夏樹君に好意を向けているのかと思ったが、

 

「夏樹くんはこころちゃん一筋だもんね」

実の姉に対する夏樹君の愛をしって、少しは考え直しているのだろう。だけど、花音先輩。

 

「でも、いつかは他の誰かと付き合うこともあるんじゃないんですか?」

 

「ふぇ?それってどういう……」

 

 

 

 

「さぁ、みんな!練習の続き行くわよ!」

 

 

 

「自分で考えて見てください、それじゃ私は着替えるので」

部屋を後にして扉により掛かり、深く溜め息をつく。あの重度のシスコンがどれだけ難しいのかは、私だって理解している。

 

 けど、

「その感情は花音先輩、あなただけじゃないですよ」

私で同じ様に、悩んで居るんですから。

 

 

 

 

 

 

 

「夏樹〜、何処に居るの〜」

 

 書庫に俺が勝手に取り付けたハンモックで買った漫画や家の蔵書を読んでいると、下の方から姉ちゃんの声がする。

 

「姉ちゃん〜、俺二階の西のステンドガラスの所。あの天使像の」

 

「わかったわ〜、じゃあそっちに今から向かうわ」

家の書庫は東西南北に目印の天使や伝説の聖獣が象られてたステンドガラスがある。それを目印にして、目的の本などを探す。ちなみハンモックをおいたのは、日当たりが良くて気持ち良いから。

 

「夏樹〜、今日の練習終わったわよ!」

はしごを登り、通路を走ってきたようで、また飛びついてくる時に助走がつけられていた。

 

「お疲れさま、今日はどんな感じだった?」

姉ちゃんを受け止め、朝のベッドの光景を思い出させるように、仰向けの俺にのかってきた。

 

「えっとね、今日はね……」

姉ちゃんからのバンド練について聞くのは日課で、俺の知らない姉ちゃんの一面も見れるし、姉ちゃんの中では何かアイデアが浮かぶそうで一石二鳥なのだ。

 

 

「それはそうと夏樹……」

 

 

「な、何かな姉ちゃん……」

何故かまた姉ちゃんの瞳のハイライトが旅に出ていったんだけど!姉ちゃん、それはそれで良いけどさ、圧が怖いから戻って!

 

「もう一度聞くわ、何で花音と手を繋いでいたの?」

昼間の一件のこと、まだ根に持っていたのか……。いや、でもちゃんと理由を話してないからいけないのか。

 

 

「いや、実はさ……」

事の発端を懇切丁寧に、わかり易くまとめて話してみる。こと細かくね。

 

 

「へぇ〜……、じゃあ手を取ったのは夏樹からだったのね……」

やべ、こと細かく言い過ぎた……。

 

「いや、だってその方が確実に迷わなくて済むでしょ」

 

「言い訳はいらないわ、私はそんな夏樹は好きじゃないもの」

 

「は、はい……」

姉ちゃん、確かに行動はメチャクチャな面もあるけど、以上に人を見てるんだよ。だから、俺が嘘をついて一瞬で見抜くし。内心、白旗を挙げてこれから起こることに覚悟を決める。

 

「夏樹はどうしてそう花音や皆に優しいのかしら……」

姉ちゃんらしからぬ、大きな溜め息が溢れる。

 

「でも、今日は皆もう帰ったの。だから……」

 

「待って、姉ちゃん何する気……」

瞳のハイライトが旅行状態の姉ちゃんの顔がどんどん迫って、もう少しでキ、キス……しそうなほど……。

 

「怖がらなくても良いわ、ただちょっと教え込むだけよ……」

俺の首筋を姉ちゃんの細く綺麗な指でなぞる、くすぐったい様な、ゾクゾクと変感覚に襲われる。

 

「ま、待ってよ、も、もしそういう事ならさ、俺と姉ちゃんなら犯罪だよ……」

 

「別に、私がお父様に頼めばすぐに法律だって変わるわよ……」

一向に姉ちゃんは止める気配は無く、依然首筋をなぞり、今度は耳たぶを唇で甘噛みしてきた。

 

「ふぁ……、ね、ねぇちゃん……。ほんとになにするの……」

耳に姉ちゃんの微熱と、柔らかな唇の感触が伝わり思わず声を上げてしまう。声を上げても止まることはなく、甘い香りと唇の感触で意識が蕩けていく。

 

「安心して……、夏樹は何も考えなくていいの……」

意識を留めなくては何か大事な物を失いそうだけど……、

 

「そうよ、良い子ね……。後は私に委ねてくれて大丈夫だから……」

ねぇちゃんがそういうならば、きっと……。

 

「痛いの一瞬だけだから…、アトハラクニナリナサイ……」

 

「ちょ、ねぇ…ちゃ…ん…」

こうして俺は何かの催眠に掛かったように眠りにつき、姉ちゃんの本性を知るすべもなく堕ちてしまった……。

 

 

 

「アイシテルワヨ…、アナタノエガオガワタシノシアワセナンダカラ…。ダカラワタシダケニミセテチョウダイ……」




こころの口調が上手く書けているのかは不安ですが、頑張りました。
私のヤンデレ系作品の中では珍しく?最初からヤンデレを発動させていってます。
実を言うと、こころがヤンデレ化した小説を読んで、こころが更に好きになりました。
ぽぽろさんの小説でしたね、あの作品を読んだから今の私が居ます。
ぽぽろさん、いつも小説楽しみにしています!
それでは、感想などお待ちしております。
ご閲覧していただきありがとうございました。


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俺と姉ちゃんが同じ学校じゃない件について。前半

暗い話が蔓延しているので、明るい話を読んで明るい気持ちに。
私には此処での活動しか出来ませんが、笑顔になってくれたら嬉しいです。


 甘酸っぱいオレンジの香り、人肌の温もり。記憶の断片を辿ると、最後に見たものは目からハイライトを無くし、俺に覆いかぶさるように迫っている……。

 

 

「姉ちゃん、それ以上はダメ!……って、夢か?」

 

 

 朝から姉ちゃんが俺にキスを迫ってくるを夢を見るとか、俺も末期かな?

 ここ最近姉ちゃんからのスキンシップは激しくなった。俺と二人きりの時はそれこそ〘恋人〙がするような事をしようと迫ってくる。

 正直、そんな事何処で覚えたんだよ!って、頭を抱えるほどに。もしかして、俺が買ってる漫画やラノベから?いや、貸してるのは割と明るいやつだし……。

 

 そんな事を悩みながら起き上がろうとするのだが、新たな疑問が二つほど現れてきたのだ。

 

 

「何で俺姉ちゃんの部屋で寝てるの?しかも何でパジャマに着替えてるの……」

 

 

 だって、昨日はハンモックの上で……。あ、夢じゃなかった。で、でも、キ、キスは迫られてないから。そこは夢とは違う部分だし、いやでも襲われているような気はしたけど……。

 

「あら、夏樹。起きたの?」

俺が必死に悩んでいる間に、俺の最愛の姉・こころが起きてしまった。

 

「お、おはよう……。姉ちゃん……」

別に姉ちゃんに恐怖を覚えてる訳じゃないけど、昨日の事と今日の事があるので何時もみたいに笑うことが出来ない。

 

「あ、あのさ、姉ちゃん」

 

「何かしら?」

 

「昨日さ、俺と姉ちゃんって何処にいた?」

まず俺が本当に書庫に居たのか、いや居たんだけど、そこから此処に移動した方法を聞いてみる。

 

「書庫のハンモックに居たわよ」

さすが姉ちゃん、曇りない瞳でちゃんと真実を言ってくれる。けど、それは今ちょっと怖い……。

 

「それから夏樹が寝ちゃったから、黒服さんに協力してもらって部屋に運んでもらったの」

 

「夢だと思いきや現実だった!」

否定したいよ、否定したいけどさ……。現に俺、姉ちゃんのベッドに居るし!あぁ、もう!よくわからないし、怖すぎだよ。でもこのベッド、姉ちゃんの匂いで包まれて最高だな!

 

「そうなんだ……」

 

「そうよ、最近夏樹と一緒に私のベッドで寝てなかったから」

 

「そう言えば、そうだったね……」

ここ最近は俺も姉ちゃんとの距離について改めて考えるために、互いに自分のベッドで寝ているわけだが。結局、姉ちゃんが俺のベッドに来るから、今も昔も変わらないんだけど。

 

「どう?幸せでしょ?」

俺の真横で笑顔で問いかけてくる。この横顔、見てて飽きない。

 

「うん、最高に幸せ……」

このまま俺昇天できる。

 

「そ、それでさ。もう一つ良いかな?何で俺パジャマ姿なの?俺、寝てたんでしょ?」

けど、それにはまだ早い。天に召される魂を引き止めて、次なる疑問を聞き出さなくては。

 

 

「あぁ、それなら私が夏樹を着替えさせたからよ」

 

 

「……うぅぅぅ!」

姉ちゃんの枕を拝借し、顔を蹲らせて声に成らない叫びを最大限に上げる。

 

「ねぇ、ホントに?ほんとに俺の服脱がして、着替えさせたの?」

ぷるぷると肩を震わせて、顔が真っ赤にしながら聞いたたと思う。

 

 がしかし、それに対しての姉ちゃんの反応は、

「えぇ、そうよ。私がちゃんと脱がして着替えさせたわよ!」

何故か物凄い、今まで見た中で五本の指に入るほどのキラキラした笑顔を見せていた。

 

 

「いやぁぁぁ……!」

最大限の女子ボイスで悲鳴を上げる。

 

 

「も、もうお婿に行けない……」

確かに俺と姉ちゃん、小さい頃は一緒にお風呂入ったりしてたけどさ……。流石にもう裸は見ないで……、ね、姉ちゃんでも恥ずかしい……。

 

 

 

「何でそんなこと言うのかしら?」

 

 

 

「へぇ?」

ちょ、姉ちゃん…。

 

 

 

「夏樹は私の大切な、大切な弟よ……」

 

 

 

「あ、あの姉ちゃん……」

 

 

 

「それなのに、ソレナノニ、ソレナノニ、ドウシテソンナコトヲイウノカシラ……?」

何故かまた姉ちゃんの瞳のハイライトが、家のリムジンを出張査定に申し込む為に出かけてしまった。家のリムジン最近燃費悪いから。

 

 

 

「キノウアレダケオシエコンダハズナノニ……マダタリナイノカシラ?」

 

 

 

教え込んだって?

「姉ちゃん……、俺の体に何かしたの?」

 

 

 

「シリタイノ?シリタイノナラオシエテアゲルケド……コウカイシナイ……?」

ちょっと待って、それどういう意味!まさか、お、俺の……。

 

 

「あ、あの……姉ちゃん、俺の体ってまだ清いまま?」

思わずダイレクトにど……ゲフンゲフン、と言おうとしたけれど、姉ちゃんがその言葉を知って聞いてくるのは面倒なので言うのはやめた。

 

「?夏樹の体はキレイだけど?」

あ、確信した。姉ちゃんの目に車を買いに行ったハイライトさんが帰ってきたから、多分俺が思うような危ない展開は無いのだろう。良かった……、俺だってせめてちゃんと交際した人とが良かったから……。

 

 

「姉ちゃん……、俺本当に姉ちゃんのこと好きだわ……」

姉ちゃんの一言と、瞳のハイライトに安心して思いっきり抱きしめる。姉ちゃん、一瞬驚いたように目を丸くしたけれど、

 

「もう夏樹ったら…、私のほうが大好きよ!」

姉ちゃんの方からも抱き返してきて、恐怖なんて地球の裏側に吹き飛んでしまった。

 

「じゃあ姉ちゃんさ、取り敢えず俺風呂に入ってくるわ」

昨日あのまま寝ているんだ、流石にお風呂に入ってさっぱりしたい。

 

「なら、偶には一緒に入らない?」

 

「は、入らないから!もう、年を考えて!」

 

「むぅ……別に何歳になっても姉弟なんだから良いじゃない……」

ほっぺたを膨らませて、拗ねる姉ちゃん。

 

「だとしても駄目だから、もう……姉ちゃんはもう少し自覚を持ってよ……」

姉ちゃんは女の子なんだから、俺にとっては複雑なの……。

 

「夏樹がそこまで言うなら仕方ないわね……」

 

「分かってくれてありがとう……、直ぐに上がるから。その後、姉ちゃんも入るでしょ?」

 

「えぇ、私も入るわ」

 

「じゃあ、俺が早めに終わらせるから」

ベッドから体を起こし、しがみついて離れない姉ちゃんを一度離して部屋に着替えを取りに向かう。

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、俺の体に何したんだろうな?貞操が奪われて無いなら……」

着替えを取り出し脱衣所で先程の疑問について、もう一度考えていたのだが……答えはあっさりとわかった。

 

 

 

 

「ね、ねね、ねねね、姉ちゃん!」

 

 

 

 

「夏樹、どうしたの?」

脱衣所から慌てて姉ちゃんの部屋に直行し、

 

「こ、ここ、これって姉ちゃんがやったの!?」

俺今は上半身しか見せてないけど、

 

 

「えぇそうよ、ワタシガワタシノ’’モノ’’ッテイウショウメイニネ……」

また、瞳のハイライトさんが消えてしまったけど、もうそんな事はどうでも良い。

 

 

 だって、だって……、

「だからって、〘キスマーク〙と〘歯型〙を付けることは無いでしょ!どうするのこれ、学校でバレたら社会的に死ぬよ」

首筋に〘キスマーク〙が三ケ所、胸元からお腹にかけて〘キスーマーク〙四ヶ所、〘歯型〙二ヶ所もついている。

 

 

「だって、こうでもしないとホカノオンナガヨッテクルデショ?」

俺の体を見つめて、首筋のキスマークを真っ暗な瞳をして舐めてくる。唾液の生温かさと、舌のザラザラとした感触が肌を伝う。その感触に体が跳ね、姉ちゃんは満足そうに俺を見つめてくる。

 

 

「ダカラツケタノ……、ワタシダケノア・カ・シ……」

本当に何処で覚えたんだろう、これ多分しばらくは消えないだろうな……。

 

 

「あ、そういえば。夏樹、あんまり裸でいると風邪ひくわよ」

悩んでいる俺の思考を姉ちゃんの一言で一蹴された。そうだった、俺脱衣所で上着脱いで気づいて……。

 

「いやぁぁぁ!姉ちゃん、判ってるなら早く言って!」

姉ちゃんには理不尽だと思ったけど、ちょっとだけ文句を叫びながら再びお風呂場に向かった。

 

「夏樹は偶におっちょこちょいなんだから」

部屋に残らされて、ぼそっと呟くこころだった。本当に我が家は今日も平和です。

 

 

 

 

 

 

「あ、美咲!花音!おはよう!」

 

「姉ちゃん、そんな急に走らないで」

 

 朝、学校に向かう途中で今日も迷子になりかけていた花音先輩を拾って歩いている途中に、

「おはよう、こころ。夏樹君」

我がバンドリーダーのこころと弟の夏樹君が、恋人繋ぎをしながら走ってきた。

 

「お、おはよう…。こころちゃん、夏樹くん」

ほら、花音先輩動揺しないの。毎日のことでしょ、こころと夏樹君が恋人繋ぎをしているのは。

 

「あれ、夏樹君?」

夏樹君の何時もと違う服装を見て、つい聞いてしまった。

 

「はい?」

 

「何で制服の下にパーカーなの?」

 

「あ、確かにパーカー着てる」

花音先輩も私に続いて夏樹君に聞いてみる。

 

「・・・・・・ぷい」

今無言の沈黙からわかり易く自分で、そっぽ向く時の効果音着けたよこの子!これは気になる……、そして可愛い……。

 

「ねぇ、夏樹君。羽丘の校則はあんまり分からないけど大丈夫なの?」

まずは簡単な揺さぶりを始めよう。学校という大きな物からなら少しは反応が期待できるはず。

 

「大丈夫なはずですよ…、前にモカ先輩も学校にパーカー着て来てましたから」

そうだった、パーカーなら青葉さんが着て行ったことがあったんだった。まさか、先に前例を出してくるなんて……。

 

「でもさ、学校の先生とかに言われたら大変じゃない?」

だけど、流石に先生というキーワードなら何かボロが出るはず。

 

 

 

「俺、学校じゃ本当に空気みたいなんで…。姉ちゃんは居ないし、男子も俺一人だし……。だから気配を消せばバレないかと」

 

 

 

「ごめん…何か本当にごめん…」

ボロを出させるはずが、傷を抉ってしまった!もう、私の馬鹿……。ほら、後悔している先から遠い目線になってるし。

 

「良いですよ、姉ちゃんとの学校が最も近いのが羽丘なので……。それに漫画とか持っていってるので、まぁ読む時間は殆どあの人達に消されてますけど……」

 

「夏樹くん、学校に漫画は持っていちゃだめじゃない…」

 

「花音先輩……、周りに異性しか居ない空間で、何もせずただ窓の外を眺めてられますか……」

 

「えっと、でもね…。やっぱり校則が…」

 

「毎日、毎日、何時間も孤独と戦うんですよ……。心の安息くらいは許してください……」

 

「そ、そうだよね…」

花音先輩の言うことは正しいけど、今の事を想像してみる……。自然と夏樹君の肩に向かって手が動き、

 

「大変だよね……、お互いに……」

 

「はい……」

私の手を取って両手で握りしめてくれた。やっぱり、苦労人同士だからかな。

 

 

「むぅぅぅ……」

あ、そうだった。こころが……って、すごいこっちを睨んでる。流石に怖いんだけど……。

 

 

「あの姉ちゃん、どうしたの?」

夏樹君も慌てて握ってくれた手を離して、こころの元へと行ってしまう。もう少し握ってて欲しかったな…。

 

「別に何でも無いわ…」

そうは言っても拗ねているの一目瞭然、夏樹君に目を合わせないし、私には何故か圧を感じる視線を向けてくるし。

 

 

「ねぇ、もしかして俺が何か怒らせるようなことしたの?」

 

 

「夏樹は直ぐに忘れるんだから…」

 

 

「いや、忘れた訳じゃないよ」

 

 

 忘れた?忘れたって何?ねぇ、こころと夏樹君の間に何があるの。姉弟の間に、そこまで何かがあるの…。

 

 

「じゃあさっきのは何」

 

 

「いや、こう…苦労人の傷の舐め合いと言いますか…。互いに労うと言いますか…」

夏樹君、必死に弁解しようとするのは分かる、それは物凄く嬉しい……。けどね……、言葉のチョイスがおじさんだよ!

 

 

「舐め合い……。美咲と夏樹はそんな事までするのかしら?」

おっと…、こころの目から光が消えたんだけど…。ねぇ夏樹君、これはどういう…。

 

 

「姉ちゃん、これはその言葉の表現でさ。実際にはしてないから、いくら俺が美咲先輩と仲が良くても実際の怪我舐めないよ…」

え・・・?私が怪我して血を出しても・・・消毒で舐めてくれないってこと・・・?それに今の言い方は何・・・『いくら仲が良くてもしない』って・・・。

 

「み、美咲ちゃん……?どうしたの……」

花音先輩が私の肩をそっと叩くので、胸のあたりにモヤモヤとした黒い感情渦巻く中で振り返る。一瞬驚いたように『ひぃ』と声を上げるが、「夏樹くん、今のはこころちゃんを落ち着かせるためだと思うよ」と次第に怯えながらこちらを見て言うので、

 

「そうですよね……」

黒い感情が消えはしないものの、少しだけ和らいで夏樹君に向き直ることが出来た。でもやっぱり今の言い方は傷つく。

 

 

「なら良いわ…」

こころは夏樹君の答えを聞くと、瞳に光が戻りどうやら落ち着いたようだった。

 

 その後は何事もなく、何時もと変わらずこころと夏樹君が手を繋ぎ登校。そんな二人を眺める私と花音先輩。

 ほんの一瞬だったけど、夏樹君の手温かかったな……。

 

 

「じゃあ姉ちゃん、学校頑張ってね。あ、何か遭ったら電話してね」

 

「分かったわ!夏樹の方も学校頑張ってね」

 

「あ〜やっぱり姉ちゃんと同じ学校が良い…」

 

「仕方ないよ、花咲川はまだ共学化の方針が決まってないんだから」

 

「まぁ、それが判って近場の羽丘に入学したんですけどね」

 

「理由が夏樹くん過ぎるよ…」

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

「行ってらっしゃい。夏樹!」

こうやって、毎日姉ちゃんと花咲川女学園に姉ちゃんと先輩たちと登校して、姉ちゃんを学校に送り届けてから、

 

「残り時間十分か……、階段二段飛ばしかな……」

少し距離が離れた羽丘学園までのジョギングが日課だ。

 

 

 

 

 

 

 

 羽丘学園、少子高齢化に伴い私立女子校であったのだが経営悪化を防ぐために共学化を決意。

 しかしまぁ、元はお嬢様系の進学校。そんな簡単に共学化なんて無理な話ですよ、だから試験段階で男子を少数入れることとなった。

 俺がその決意によって入学を許可された、唯一の男子生徒だ。

 

「はぁ……、間に合った……」

教室の扉の前に着くも始業チャイム二分前。ほんと、幸せの代償は大きい。息を整えて、汗を拭いて教室の扉を開ける。概ね授業が始まるの自分の席につき、近くの生徒と喋ったり、自主的に勉強したりしているのだが……。

 

「あ、おはよう弦巻くん」

 

「おはよう、弦巻くん。今日は遅かったね」

 

「弦巻くん、もしかして今日もお姉ちゃんと登校デートですか?」

 

 学校唯一の男子、しかももと女子校の中で……。さっき先輩には空気と言ったが、

『居ても居なくても気づかれない』ではなく『居ても居なくても大差は無いが、居ないと不便な存在』と言う意味だ。

 

「おはよう、姉ちゃんと登校デートじゃなくて。送ってるだけ」

最初の頃は緊張したよ、まわり全員女子だから。だけど、考えてみたら『姉ちゃんの知り合いのバンドメンバー合計人数がクラスの人数とほぼ一緒』という事実に気づき、そうなると普通に話せている自分がイメージ出来たので会話は普通に出来るようになった。

 

「本当に仲が良いよね」

 

「もう普通に恋人以上だよ」

 

「はいはい…、恋人じゃないから」

だから割とクラスでも、冗談で笑い合うこともできる。

 

 

 

「夏樹、おはよう」

 

「おはよう、明日香…」

俺が席につくと、前の席に座る戸山明日香が朝の挨拶をしてくれた。

 

「また今日は一段と疲れてるけど?」

 

「姉ちゃんの言動にビックリしたのと、誤解を生まずに説明する難しさを知った…」

バックを机の横に掛けて、そのままうつ伏せに倒れ込む。

 

「二つ目の方は良く分からなかったけど、お疲れ様っていうのは分かったよ……」

 

「ありがとう……。俺しばらく寝る……」

 

「あのさ…寝るって言っても…」

明日香の言いたいことは大体察しがつく、だって寝ようとした瞬間に始業のチャイムがなり始めたんだから。

 

「今日は久しぶりのクルシミマスかな?」

 

「それだけの屁理屈が言えるなら、頑張ってね」

明日香なりの応援がやってくると、前に向き直ってしまった。

 

 明日香も真面目に授業を受けるんだ…、俺もやるしか無いか……。

 

 授業中、姉ちゃんから着けられた〘キスマーク〙と〘歯型〙を隠すために着て来たパーカーが先生にバレるか不安だったが……、

「弦巻、その服装どうしたんだ?」

やっぱり簡単にバレました。

 

「えっと…、ワイシャツをクリーニングに出されてて、取り敢えずに着てきました」

 

「そうか、次からはクリーニングに出すタイミングはちゃんと考えておけよ」

 

「はい……」

バレたんだけど、まさかの注意だけで済んだ!え、マジですか…、先生神ですか!ほんとその場でついた嘘なのに、先生ありがとう御座います……。

 

 

 

 

 

「夏樹くん、さっきのあれって?」

 

「あぁ、嘘だよ。こっちにも事情があってな」

午前の授業が終わり、昼休みになると自然と俺と明日香の周りに集まりが出来てくる。その一人が、朝日六花。あだ名『ロック』、六花・ろっか・・・ロック。わかり易いだろ。

 

「でも、夏樹が校則違反するだなんて。もしかして、そのパーカーの下にはには漆黒の龍の封印が……」

 

「え、バレたか……。そう、この体には千年のも間を封印されてきた邪竜の刻印が、って違うから!」

 

「違うの?」

 

「あこ、流石に夏樹がちょっとそういうのが大好きな痛い人でも、学校でそういう事はしないよ」

 

「おいこら、人を厨二病患者にするな!俺は本当に成れると思うから言うだけだ」

 

「え、じゃあ今のは本当に!」

そして俺のこういう漫画とかのネタを拾ってくれるのが、宇田川あこ。『Roselia』というガールズバンドのドラマーで、その姉もまたバンドのドラマーである。

 

「いや、さっきの冗談だから」

 

「何だよ〜……」

少しばかりカッコいいを極めたいが為に、何故か厨二の道へと走る所がある。

 

「まぁ、そう落ち込むな。信じていれば、いずれ道は開ける」

 

「例えば、手から焔を出して『魔神鑑』ってやったりすることが?」

           

             ダーク・フレイムマスター

「そうそう…、かの有名な『闇の炎の使い手』のように!って何で知ってるの!」

 

「この前貸してくれた漫画で読んだ」

 

「あー、おけ」

明日香は別段あこや俺のように厨二に惹かれる事は少ないが、漫画は貸すと読んでくれて感想をくれる。

 

「な、夏樹くん…、手から炎だすの!?」

ロックがこうして、冗談を真に受けてくれるのも日常茶飯事。本当に楽しい限りだよ。

 

「出さない、だって熱いし、火傷するから。出すなら氷が良い」

 

「え〜、あこなら焔の方がカッコいいと思う」

 

「あこちゃんと、夏樹くんが超能力を……」

 

「はいはい、二人共。六花がまた誤解するから、そこでストップ」

 

「「は〜い……」」

俺とあこが主にこういうボケを話し、それに六花が戸惑い、明日香が六花を保護して俺とあこをお説教。

 

「明日香が六花のお母さんに見えるのは俺だけか?」

 

「あこも偶に思うよ。ロックが明日香にお世話されているの見ると」

 

「「ちょっと二人共」」

でも、あこも見えるんだ。やっぱり好きな漫画とかのジャンルが近いと、感性も似てくるのかな?

 

 

 

『え〜っと、生徒会からの連絡で〜す。一年A組の弦巻夏樹君、至急生徒会室まで来てください。

 繰り返します、一年A組の弦巻夏樹君、至急手作りのお菓子を持って生徒会室に来てください』

お昼時で賑わう昼休みに、突如として訪れる終末の鐘の音。

 

 

 

「ねぇ、あれって?」

明日香が放送を聞いて、苦笑いを浮かべる。六花もあこも同じように。本当に何であの人が生徒会長なんだか……。

 

 でも昼飯は食い終わって、手作りクッキー食べてた所だし。一人で食うやつ、一応持ってきて正解だったよ。

 

「多分、面倒事の依頼だろうな……」

 

「夏樹くん、生徒会じゃないのに何で何時も頼まれてるの?」

 

「そうだよ、それに先生にも頼まれごとよくされてるし」

六花もあこも言っての通り、俺は生徒会に所属していない。まだ入学して二ヶ月だぞ。けど、俺はどうしてか面倒事を頼まれる。

 

「俺もよく解らないけどな。まぁ、依頼は依頼だからな、報酬も出して貰ってるし」

 

「先生から何貰ってるの?」

明日香がすごい怪しいものを見る目で見てくるが、

 

「精々校則違反の免除と、成績がミジンコの大きさ分くらい上がるだけ」

隠すような報酬は貰ってない、綺麗な報酬だから堂々言える。

 

「それでパーカーはお咎め無しってこと?」

 

「イエスdeath!」

 

「何で英語なの急に」

 

「ノリだな」

 

「じゃあ、生徒会の報酬は何を貰ってるの?」

明日香の次は六花か。

 

「漫画、画集、シナリオ集。その時期によってオーダーするものは違うけど」

 

「もしかして、この前あこに貸してくれたゲームのシナリオ集も?」

 

「当たり、先輩からの報酬だよ。俺は正当な対価で貰ってるから」

 

「一体どんな仕事をしたらそんなに報酬が貰えるんですか……」

驚きを隠せない六花、表情豊かで見てて飽きない。

 

「理由は二つ……」

時計を見て、そろそろ行かないと依頼主がキレそうなので持ってきたクッキーと、ポーチを持つ。

 

「一つは、『依頼主に不利な利益は与えないこと」

机を元に戻して、次の授業の準備を整える。

 

「そしてもう一つは、『依頼は絶対に完遂させること』の二つだけだよ」

準備が終わりったので、

 

「うんじゃ、行ってくるわ」

依頼主の待つ生徒会室に向けて、明日香達に見送られるかたちで教室をあとにした。




こころのヤンデレを書いたり、読んだりして思ったんですが、
こころって、やっぱり闇が深いんですかね?個人的な見解ですけど。
でも、こころの色んな顔が見れて楽しいです。
次回の方では、厄介事、面倒事の処理ですね。
羽丘のメンバーは出来るだけ出します。
今回もご閲覧していただきありがとうございました。
感想などお待ちしております。

評価、有難う御座います!


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俺と姉ちゃんが同じ学校じゃない件について。後半

次は終点、羽丘、羽丘学園。るん♪会長にご注意下さい。
次は終点、羽丘、羽丘学園。猫大好き先輩にご注意下さい。
次は終点、羽丘、羽丘学園。慈愛のお姉さん先輩に癒やされて下さい。
次は終点、羽丘、羽丘学園。機械いじりの得意な素敵な先輩と仲良くして下さい。
次は終点、羽丘、羽丘学園。宝塚、だけど高所恐怖症な儚い先輩に歓声を上げて下さい。
一応先輩シリーズで考えて、使わなかったネタです。
歌詞はご指摘を頂き、サビだけに変更しました。


 我が羽丘学園の生徒会長を知らない人は居ないだろう。引きこもりや、余程人の声を遮断できる人で無い限り。

 有名なのには幾つかの理由がある。

 まず一つ、『天才であり天災』だから。何でも一目見ればそつなくこなし、いきなり熟練された者と同等の実力を発揮する点で有名。

 二つ目は、『現役アイドル』だから。俺の姉ちゃんがバンド・ハロー、ハッピーワールド!で活動しているように、現在大ガールズバンド戦国時代と呼ばれているほどのバンドブーム。その波にテレビのお偉いさんが乗っかって生まれたバンド・Pastel*Palette(パステルパレット)、そこに所属してアイドル兼バンドメンバーとして活躍している点。

 そして最期の理由。これは彼女に悪意が無いので、受け取る側の問題なのだが……。とにかく『行動が自由』なのだ。

 生徒会長である前から言動は周りが驚くような事を言ったり、したりしていたが、権力を持ったことで賛否は取るものの殆どが実行されている。

 

 

『なんかね、るん♪って来たの!』

 

 

 この一言でどれだけ人が振り回されてきたことか……。考えただけで頭痛がする。

 

 

 

 

 

「失礼します。弦巻夏樹、御依頼を受けて参りました」

 

「いいよ、はいって〜」

 

 重厚な木目調の扉をノックしてから、返事が来たので部屋に入る。

 

「失礼しまっ!」

 

「な〜つ〜き〜く〜ん〜!」

 

 扉を開けて入った瞬間に、腹のへその辺りに光速で何かが突撃してきた。

 

「ごふぁっ!」

勢いが思ったよりあったせいで、受け止めきれずに床に倒れ込む。後頭部を床に殴打し、腹部からは吐き気が催す。

 

「依頼主でも殴りますよ……。割と本気で……」

殴打した頭をさすりながら、依頼主で生徒会長の氷川日菜を睨みつける。

 

「え〜、私女の子だよ?殴らないでよ」

 

「今の俺には関係ありません、もう少し落ち着いた行動をしてください」

 

「ぶー、ぶー。なつき君の意地悪」

ほっぺを膨らまして言ってくるいるが、こんなの何時ものことだ気にしなくていいや。

 

「それで要件はなんですか?」

 

「ねぇ、今『何時もの事だから気にしなくて良い』って考えたでしょ」

 

「人の心をナチュラルに読まないで!」

本当に何でこんな人が生徒会長なんだろう……。

 

「ちぇ〜、まぁ良いや。それで今日呼んだ理由はね」

 ようやく本題に入る日菜先輩。でも、この前生徒総会で使う部活予算の決済を手伝ったから特に無いような……。

 

 

「何か暇だったから、遊びたくて呼んじゃった♪」

 

 

「アンタ、人の憩いの時間をぶち壊してそれかよ!」

おっと、先輩に対して口の聞き方がなっていなかった。

 

「先輩は馬鹿ですか?人の貴重な休み時間を奪っておいて、それだけですか?」

 

「言い方改めたつもりだろうけど、余計に罵倒が酷いよ……」

ちょっと泣きそうになる日菜先輩だが、

 

「俺だって、明日香や六花やあこと仲良くお昼休憩してたのに、急に校内放送かかるからビックリしてきたんですよ」

理由が馬鹿馬鹿しくて、正直もうやってられません。

 

「だって、校内放送の方がビックリするでしょ?」

 

「校内放送で遊ばないでください!」

 

「はい……」

三年生で生徒会長の女子生徒を正座させて、一年で唯一の男子生徒が説教している、そんな不思議な空間があった。

 

 

 

「日菜先輩!夏樹くんを呼び出してどうしたんですか!?」

 

 

 

 そんな空間に、生徒会の本当のメンバーである羽沢つぐみ先輩が生徒会室の扉を開けた。どうやら、教室から慌ててやって来たようで、肩で息をする程呼吸が乱れていた。

 けれど、自分の目の間で起こっている状況を目の当たりにしたつぐみ先輩は……。

 

「ねぇ日菜先輩……。生徒会の仕事が無い日に呼び出したったのって……」

何時も笑顔で優しいつぐみ先輩。裏では『大天使ツグミエル』と呼ばれているほどの優しい先輩だが、

 

「あ、いやその……。あははは……、ちょっとるんっ♪て来たから……」

 

「それでは詳しくお聞かせ願いましょうか……」

 

「は、はい……」

怒ると、それはそれは怖いの何の、天使が堕天した姿はサタンも裸で逃げ出すほどの怖さでしょう……。

 

「夏樹くんは後ろで逃げずにそこに居るように」

 

日菜先輩が怒られている間に教室に帰ってみんなと平和な休み時間を過ごそうとしたんですけど……。一応、見捨てたので持ってきたクッキーをお詫びの品にして。

 

「は、はい……」

 

「なつき君が私を見捨てて逃げようとするから……」

 

「俺の場合は完全に巻き沿いじゃないですか!日菜先輩が面倒な呼び方するか」

先輩の隣に並んで正座をし、先程日菜先輩にしていたことが自分自身にかえってきしまった。

 

「二人共、ちゃんと聞いてください!」

 

「「っつ!はい……」」

結局、日菜先輩は後輩を自分の勝手で呼んだこと、俺は制服の下の校則違反でつぐみ先輩にこってりしぼられました。

 

 

 

 

 

 残りの午後の授業はつぐみ先輩の説教で心が疲弊したので、若干寝ていました。

 午後の窓辺に差し込む日の光は、どうにも睡魔を生み出していく。その生み出された睡魔に撃沈、本当に途中から記憶が無いです。

 

「明日香…、ノート貸して…」

 

「え?寝てたの?今日の授業、テスト範囲でよく出るって言われたのに?」

帰りに明日香に頼んで寝ていた分の授業のノートを写すのに借りようとすると、俺は割と重要な時に寝ていたらしい。

 

「まじか…、最悪のときは勉強会しようぜ…」

 

「良いけど、テストで失点しないでよね」

 

「大丈夫だ、中間はクラス内トップテンに入ってるから」

 

「さり気なく自慢しないで…」

明日香が急に目を細めるので、ノートを借りて早く帰ることにした。

 

「そ、それじゃあ大事に借りさせてもらう。明日には返すから」

 

「ちゃんと持ってきてよね」

 

「おうよ、じゃあまたな」

 

「また明日〜」

 

 

 夏樹が教室を出ていった後で、バンド練習で先に帰ったあこ、バイトがあるので同じく先に帰ってしまった六花、そして取り残された自分という状況に気づき……。

 

 

「やっぱり一緒に帰れば良かったかな……」

寂しさを覚えて、ポツリと呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 下駄箱で上履きから靴に履き替えて校門に歩き始めると、視界が手で覆い隠されて暗くなった。

 

「だ〜れ〜だ?」

声の主は分かるけど、声が少し遠くに感じる。それにその周りにも数人居る……。

 

「手の主がひまり先輩、声の主がモカ先輩。あと、蘭先輩も巴先輩もつぐみ先輩も居ますよね?」

 

「何で判ったの!」

 

「あ〜あ、バレちゃった〜」

視界に光が戻り、後ろを振り返ろうとすると、

 

「これは引っかかったね〜」

モカ先輩が俺の肩に手を載せて、振り返る俺の頬に指を突き刺してきた。

 

「先輩やめてくださいよ」

 

「なんで〜、な〜くんのほっぺ柔らかいよ〜」

離れる気は無いようで、人の頬をおもちゃのようにつついてくる。

 

「モカ、そのくらいしておきなよ。夏樹も怒るよ」

 

「え〜、仕方ないな〜」

 

「蘭先輩、助かります」

面倒くさい、と言わんばかりの顔でモカ先輩の制服の襟を掴んで引き離してくれた。

 

「でもな〜くんも美少女なモカちゃんにほっぺ触れられて嬉しかったでしょ?」

引き離されてなおも、人の頬の話をするか。

 

「別に。姉ちゃんはまだしも、日菜先輩然り、俺のこと弄って楽しいですか?」

 

「そんな冷たいな〜、な〜くんは。モカちゃんは寂しいな〜」

出ても居ないのに、嘘泣きはやめて下さいよ。

 

「それで俺に何かようですか?」

モカ先輩は一度放っておいて。

 

 

「モカちゃんを放っておかないでよ〜」

 

 

「アンタもか!人の心を読むのは!」

奇想天外担当は日菜先輩と姉ちゃんと、香澄先輩とおたえ先輩で十分足りてるわ!

 

「えっとだな、今日私達バンド練習も無く珍しく全員が放課後暇なんだよ」

苦笑いを浮かべながら、ようやく本題を話してくれる巴先輩。

 

「それでね、みんなでカラオケに行こうって話になってね」

やたらとテンションが高いひまり先輩が後に続く。

 

「これから行こうって時に夏樹が見えたからさ」

どうやら事の発端はそんな事だったのか、先輩たちで普通に楽しいんで来て下さ。

 

 

「夏樹くんも一緒に遊ばない?」

 

 

「えっ?つぐみ先輩、今なんて?」

おかしいな、日菜先輩のせいで幻聴が聞こえる能力でも付与されたか?

 

「だから〜、な〜くんも遊ぼうよ〜ってお誘いしにきたの〜」

俺が聞き返すと、蘭先輩から開放されたモカ先輩が再び俺によって来て言ってきた。

 

「先輩たちの放課後に俺混ざっていいんですか?中々揃わないんでしょ…」

 

「そう何だけど、何か夏樹君見えたから『誘ちゃえ〜』て感じで」

 

「ひまりが提案したんだけど、私達も夏樹とだったら良いかなって」

俺だから良い?そこの所詳しく聞きたいところだけど、

 

「せっかくのお誘い、謹んでお受けします」

 

「やった〜、な〜くんとカラオケ初めてだから歌声気になる〜」

了承の返答を返すと、モカ先輩が今度はくっついて来た。

 

「先輩、熱いから……。あと、今から姉ちゃんに帰り遅くなるって電話するから離れて」

 

「本当にな〜くんはこころん好きだよね〜」

 

「好きですけど?俺の姉ちゃんですよ?マジで可愛いくて女神ですよ」

 

「夏樹のシスコン久しぶりに見た……」

 

「蘭先輩、聞こえてるから」

 

「わざと言ったの」

この赤メッシュ先輩は何故か姉の話題を出すとツンツンしてくる。何でだ?

 

 カバンから赤い下地に黒の装飾の携帯を取り出す。姉ちゃんの電話番号で電話繋げると、

『夏樹、どうかしたの?』

わずかワンコール掛かる前に繋がった。

 

「あ、姉ちゃん。あのさ、今日帰りちょっと遅くなるけど良い?」

聞いてから気づくとはつくづく自分が馬鹿に思えたのだが、今朝姉ちゃん機嫌悪っかったんだった。

 

『何でかしら?』

 

「あの…先輩たちと遊んできます…」

 

『へぇ……。そうなの……』

あ、これ完全に積んだな……。

 

「いや、あのこれは……」

 

 

 

 

 夏樹がこころに電話して不穏な空気が漂い始めた頃、誘った先輩たちの間では。

 

「夏樹君ってガラケー何だね……」

 

「でも、私夏樹のライン持ってるよ?」

ひまりの発現にすかさず、蘭が携帯を取り出して夏樹のラインを見せる。

 

「いや、私も持ってるけどさ」

 

「もしかしてあれじゃないのか、家族内専用携帯とか?」

 

「確かにありそう、でもそしたら携帯二個持ち?」

 

「スマホとガラケー、流石な〜くんの家はお金持ちだね〜」

モカは驚きもせず何時もどおりでいるけど、

 

「「「「お金持ちの考えはわからん(ない)」」」」

蘭、ひまり、巴、つぐみは密かに思った。

 

 

 

「わかった、じゃあ帰ったら姉ちゃんのリクエスト作るから」

 

「え?えっ……、うん。そうするから……、うん、うん、じゃあ帰ったら」

 

 

「大丈夫だったの?何か喧嘩してない?」

電話が終わるとひまり先輩が尋ねてきた。

 

「喧嘩じゃないですよ、ただ最近姉ちゃんの行動が読めなくて」

 

「私達からみたら普段でも読めないぞ」

 

「長い時間いれば凡そ何をするかはわかりますよ。巴先輩だって、あこの行動はだいたいわかるでしょ?」

 

「確かに……言われみればそうだな……」

 

「いや、納得するんだ」

 

「でも蘭、そこは姉弟の仲だからさ」

暗黙の了解に踏み入れてしまってはいけない、と首を振って止めるつぐみ先輩。本当に俺と姉ちゃんてなんて思われてるんだよ。

 

「で、結局カラオケは行けるの〜?」

モカ先輩は早く遊びたいようで、答えを急かしてくる。

 

「帰ってからが戦争ですけど、取り敢えずOKです!」

 

「な〜くん、グッド!」

親指を立てるモカ先輩。

 

 

「それじゃ、みんなでカラオケに行こう!えい、えい、お〜!」

 

 

「俺、カラオケ行くの初めてなんですよ」

 

「そうなの?友達といったりしなかったの?」

 

「中学時代はまぁ色々と……」

 

「なら、今日は初カラオケだな」

 

「な〜くんに先輩たちが沢山教えてあげよう。ねぇ、蘭?」

 

「え、あ、うん……。楽しんでいけば良いから」

 

「今日はよろしくお願いします」

 

 ひまりの号令は虚しくも誰も賛同せずに、夏樹の初カラオケに話題を咲かせて先に歩き始めるのだった。

 

 

「ねぇ、ちょっと置いてかないでよ!」

 

 

 

 

 

 初めてカラオケに来て俺だが、二つ学んだことがある。

 まず一つは、何で漫画やラノベでカラオケで勉強したり仕事をしたりするシーンがあるのか。カラオケルーム自体広いし、防音性がとにかく高い。実際、歌を歌っていて隣の部屋の人に聞こえたら嫌なわけだけど。

 それにしても、部屋に入る時隣でも歌ってるのが廊下で少し聞こえたけど、部屋に入った途端に聞こえないのは凄いと思った。

 それからもう一つ。この先輩たち、歌が馬鹿上手い。あ、言い方が悪かった。超絶的に上手いし、俺の存在感が消えていく。

 確かに先輩たちは『Afterglow』というバンドを組んで、商店街やライブハウスでライブをしているけど。何回かは見に行った、姉ちゃんのバンドのライブと被ったから。

 メインボーカルの蘭先輩は言わずもがな、モカ先輩然り、ひまり先輩然り、巴先輩然り、つぐみ先輩然り……。

 全員がハイレベルな歌声で歌う中で、初心者にどうしろと……。カラオケ怖い……。

 

「夏樹くん、大丈夫?顔真っ青だよ……」

 

「自分が今置かれている状況を再認識して、場違いだったのでは無いかと……」

 

「もうそんなこと無いよ〜、ひ〜ちゃんだってはしゃいで何時もよりテンション高いし」

 俺の両隣に座る先輩が心配して声を掛けてきた。

 因みに席は、中央に俺、左にモカ先輩、右につぐみ先輩、俺の席のお向かいに蘭先輩、左に巴先輩、右にひまり先輩という席配置。

 

「そうじゃなくて、先輩たち歌上手すぎですよ…」

 

「まぁ、モカちゃんたちはバンドやってるからね〜」

 

「カラオケ経験なし、歌基本歌わ無い人の実力差を見せられいるようで……」

 

「そんな緊張しなくて良いんだよ、ひまりちゃんみたいに楽しんで歌えば良いんだから」

 

つぐみ先輩の笑顔が不安に沈む心から、引き上げてくれる。

 

 

「はい、次は夏樹君の曲だよ」

ひまり先輩が丁度歌い終わり、マイクが回ってくる。

 

 

「な〜くんの歌楽しみ〜」

 

 

「どんなの歌うのかな〜」

 

 

 モカ先輩とひまり先輩のプレッシャーが凄いんだけど……。

 

 

「まぁ、気にせず頑張れ!」

 

 

「そうだよ、楽しめばいいんだよ」

 

 

「何時もどおりに、自分らしく歌えば大丈夫…」

巴先輩、つぐみ先輩、蘭先輩からのエールを受け取り、プレッシャーに負けないように気合を入れる。

 

 

「それじゃ、弦巻夏樹歌います!」

先輩に機械の操作方法を教えてもらい、悩みに悩んで選んだ曲が……。

 

 『ピースサイン・米津玄師』

                ***

 「もう一度 遠くへ行け 遠くへ行けと」

 

 「僕の中で誰かが歌う」

 

 「どうしようもないほど熱烈に」

 

 「いつだって目を腫らした君が二度と」

 

 「悲しまないように笑える」

 

 「そんなヒーローになるための歌」

 

 「さらば掲げろ ピースサイン」

 

 「転がっていくストーリーを」

                ***

 

 「君と未来を盗み描く」

 

 「捻りのないストーリーを」

 

 歌いきった……、なんとか声続いた……。歌に緊張していて、途中から記憶が曖昧だけど、意外とストレートに歌えていた気がする。

 自分のことと、姉ちゃんのこと、少し照らして合わせてたから……。

 

「な〜く〜ん……、凄い……」

 

 マイクをテーブルに置き、どっと座り込んでからしばらしくてモカ先輩が開口一番に褒めてくれた?

 

「夏樹君、今のすっごく上手だったよ!」

 

 今度はひまり先輩がテーブルから身を乗り出してきた。

 

「あぁ、夏樹、お前歌うまいじゃんか!」

 

「こころちゃんと違った雰囲気だけど、カッコよかったよ」

 

 巴先輩、つぐみ先輩まで……。

 

「夏樹、今の良かった…」

 

 蘭先輩が顔を合わせてくれないものの、ちゃんと褒めてくれた。どうやら、俺の歌声は先輩たちから認められたと言うことで良いのかな?

 

「これは私達も負けてられないよね」

 ひまり先輩がやけに張り切りだしたが、何か嫌な予感がする……。

 

「だな、先輩としての底力を見せてやるか」

 

「さんせ〜い〜、モカちゃんももっと頑張る〜」

 

 え、嘘でしょ……。俺、もしかして先輩たちの導火線に……。

 

「私も夏樹くんに負けないくらい頑張って歌うから!」

 

「バンドボーカルとして、此処は腕を見せないと…」

 

 火を着けてしまったようです……。先輩たちの目、メラメラ燃えてるのがわかります。でもそうなると、〘先輩たちのクオリティー高い〙が〘先輩たちのクオリティー超高い〙に成るってことでは……。

 

「俺……頑張らなきゃいけなくしたのか……」

 自分で自分の首を締めるという、今日はどうやらあまり運が向いてこないらしい……。

 

 

 

「時間ギリギリだけど、最後に何歌う?」

カラオケルーム貸し切り時間的に、曲を歌えるのラスト一曲くらいの時間だ。

 

「モカちゃんは疲れたので、どうぞ〜」

 

「え〜、モカちゃんダウンって……」

あれからモカ先輩、気合入れて歌ってたから……、でも凄くカッコよかったです…。

 

「じゃあ此処は夏樹のリクエストで終わらせる?歌ってもいいし、誰かに歌って貰ってもいいし」

 

「蘭が珍しいこと言うね〜。今日はどうしたの〜」

椅子でぐで〜っとしているモカ先輩が、じっと蘭先輩を見つめる。

 

「べ、別に…。私達は何回も来てるんだし、それに先輩としての…」

 

「「ふ〜ん〜」」

そんな発現を他所に、ニヤニヤと口元に笑みを浮かべるひまり先輩とモカ先輩。

 

「まぁ、ここは蘭の言うことも一理あるな。私はそれで良いぞ」

 

「巴ちゃんも良いって言うし、私もそれが良いかな」

 

「私も私も!」

 

「モカちゃんもさんせい〜で〜す〜」

先輩方で満場一致の回答が出揃ったので、

 

「じゃあ夏樹、あとは頼むよ」

 

「俺ですか…」

決定権は俺の元へとやって来た。

 自分が歌っても良くて、先輩たちにリクエストをしても良い……。これって誰かにリクエストして、そのリクエストされなかった方から何かされないよね……。そっちの方が心配なんですけど……、でもあんまり考えてると時間無いし……。

 全員で歌える曲がベストアンサーなわけで、六人が全員で歌える曲って……。

 

 

「先輩、よろしくお願いしますよ」

結局、考えに考え抜いた曲は六人で歌えるかは別だけど、盛り上がることは間違いないと思う。

 

 

夏「次は〜、終点、羽丘、羽丘学園。お荷物のお忘れにご注意ください〜」

 

蘭・モカ・ひまり・つぐみ・巴「1,2,3、4!」

 

 選んだ曲はナユタン星人さんの『ダンスロボットダンス』!

 

                ***

夏・モ・つ「ときめく心のモーションが」

 

蘭・ひ・巴「あなたに共鳴して止まないの!」

 

夏「合理とは真逆のプログラム」

 

蘭・モカ・ひまり・つぐみ・巴「知りたい 知りたい」

 

夏・蘭・モカ・ひまり・つぐみ・巴「ねぇもっと付き合って!」

 

夏・蘭・モカ・ひまり・つぐみ・巴「ダンスロボットダンス」

 

夏・「もーいいかい?」

 

夏・蘭・モカ・ひまり・つぐみ・巴「ダンスロボットダンス」

 

蘭・モカ・ひまり・つぐみ・巴「まーだだよ」

 

夏・蘭・モカ・ひまり・つぐみ・巴「ダンスロボットダンス」

 

夏・「もーいいかい?」

 

夏・蘭・モカ・ひまり・つぐみ・巴「ダンスロボットダンス」

 

蘭・モカ・ひまり・つぐみ・巴「もーちょっと!」

 

                   ***

夏・蘭・モカ・ひまり・つぐみ・巴「ダンスロボットダンス」

 

夏・「もーいいかい?」

 

夏・蘭・モカ・ひまり・つぐみ・巴「ダンスロボットダンス」

 

蘭・モカ・ひまり・つぐみ・巴「まーだだよ」

 

夏・蘭・モカ・ひまり・つぐみ・巴「ダンスロボットダンス」

 

夏・「もーいいかい?」

 

夏・蘭・モカ・ひまり・つぐみ・巴「ダンスロボットダンス」

 

蘭・モカ・ひまり・つぐみ・巴「もーいいよ!」

 

 先輩たちと初めてのカラオケは、先輩たちの歌の上手さに驚いたり、初めてながらに歌たった曲で褒めらりたり、凄く楽しかった。

 

 だから、

「先輩、また今度誘ってくれますか?」

 

「「「「「良いよ!(けど)」」」」」

 

 俺と姉ちゃんは学校が違う、けれどそれも案外悪いことばかりじゃない。

 だって、仲の良い友達、少し面倒な先輩とこうして楽しい先輩がいるんだから。




夏樹とAfterglowの皆さんとのカラオケ回という。
六人で何を歌えば盛り上がるのか、夏樹には何を歌わせるのか、この二つは悩みました。
つぐみ先輩は『ツグミエル』のままで…、裏版は怖いのでご勘弁を…。
でも、バンドリメンバーとのカラオケは体験したいものですね。
蘭先輩にちょっと可愛い系とか歌ってもらったりして。

今回もご閲覧していただきありがとうございました。
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俺と姉ちゃんが姉弟と見られない、一緒に出かける件について。前半

コラボ小説も書かなきゃいけなかったりするのですが……。
どうにも上手く書けずに、こちらを書いてみました。


「ねぇねぇ夏樹、これはどうかしら?」

左右両手に異なる種類の洋服を持って、俺に意見を求めくる姉ちゃん。

 

「両方似合うと思うけど、とりあえず試着してみたら?」

それに当たり障りのない返事をする俺。

 

「わかったわ!着替えたら感想を聞かせて頂戴ね」

 

「了解」

楽しそうにはしゃぎながら試着室へと入っていくのを見守っていると、

 

「可愛い彼女さんですね」

お店の店員さんが微笑みながら話しかけてきた。

 

「可愛いですよね……」

適当に相槌をうつが、

 

「俺の姉ちゃん……」

本当に似てないんだよな……、俺たち……。

 

 

 

 何故俺と姉ちゃんが洋服を見ているのか、それは数日前のカラオケの日に遡る。

 

 

 

 あの日姉ちゃんの機嫌は悪かったし、日菜先輩には絡まれるわで、本当に面倒だっだというか。でも、Afterglowの先輩方とカラオケに行って楽しかったことはこの上なかったのだが。

 

「お帰りなさい……」

そう何度も言うが機嫌が悪い中で俺はカラオケに行ったのだ。中学時代に行けなかったのは別に姉ちゃんが機嫌が悪くなるからじゃない、本当に色々あったのだ。それはいずれ語るけど。

 

「た、ただいま……」

物凄い頬をぷっくり膨らませて、『私は怒ってます、機嫌が悪いです』と主張していた。姉ちゃんは滅多に怒らない、というか俺の前以外でこんな顔をしたことが無いのだ。

 

「い、今ご飯作るから……」

靴を脱いで洗面所で手を洗いに行くのだが、無言で睨みながら俺の後を付いて来た。

 

「あ、あの姉ちゃん?」

 

「・・・・・・」

俺が質問しても答える気は無いようで、ずっと黙ったまま。

 手洗いを終えて荷物を部屋に置いて、キッチンに立つ。以前離れようとしない姉ちゃんに、

「今日は姉ちゃんの好きなオムライス作るからさ…。火とか扱うから少しだけ離れられる…?」

危ないので忠告するも、逆に抱きついてきてしまった。

 

「あの姉ちゃん?もしかしてこのまま作れと?」

お腹の辺りに手を回して、背中に体を密着させてくる姉ちゃん。まぁ当たるものも当たるけど、顔を埋めているのか息が掛かってくすぐったい。そのまま顔を縦動かすのが伝わってきたので、

 

「じゃあ気をつけてね…」

一度決めると中々諦めない、ちょっぴり頑固な性格を見せてくるため料理はそのまま続けることとなった。

 

 

「夏樹は私から離れたりしないわよね……」

料理中、開口一番に姉ちゃんが話したのその言葉だった。

 

 

「離れたりしないよ、姉ちゃんの帰る場所を守るのが俺だから」

抱きしめる力が強くなるのを感じて、調理を続けながら返事をする。

 

「じゃあ何で今日は行ったの……」

やっぱりカラオケの事根に持ってたんだ……。それもそうか、電話でもう反対されたもんな。

 

「先輩方に誘われたのと、一回行ってみたかったから」

 

「夏樹は私と蘭ちゃんたちのどっちが良いのよ……」

背中が熱い、抱きついているから熱いのは勿論だけど、これはその熱さじゃない……。

 

「俺は蘭先輩たちも大事だけど、姉ちゃんの方がずっと大事だよ」

調理の手を止めて、巻き付く姉ちゃんの手に自分の手を被せる。

 

「でも今日は行ったじゃない……」

 

「俺だって先輩との付き合いくらいはあるよ。姉ちゃんだって美咲先輩とかと遊んだりするでしょ?」

 

「美咲と遊んだりするけど……」

 

「姉ちゃんと居るのだって幸せだよ、それは誓って言える」

 

「だったら……」

 

「だけど、先輩たちと過ごすのも楽しいしんだよ」

 

「・・・・・・」

 

「今回は姉ちゃんと行けなかったけど、カラオケ今度は二人で行こうよ」

姉ちゃんの巻き付く腕を少しだけ離し、後ろで抱きつく姉ちゃんの方に向き直る。

 

「カラオケ初めてだったけど、もう凄い楽しいよ!姉ちゃんも絶対楽しめるって」

 

「なら今度は私と行ってくれる……?」

 

「勿論、姉ちゃんと俺で一緒に行こう」

ちょっとだけ、ちょっとだけだけど、姉ちゃんが笑い始めてくれた。

 

「それと姉ちゃん、今日カラオケ行く時にした約束憶えてる?」

 

「憶えているわ…。『私の好きな料理を作ってくれる』のと、『私のお願いを聞いてくれる』でしょ?」

 

「そうそう、料理は本当に何でも良いよ?オムライス以外も作るし。お願いに関しては危ないのは駄目ね」

 

「お願いを聞いてくれるのに、どうして夏樹が決めるのよ」

 

「だって……、姉ちゃん偶にとんでもないこと言うんだもん!その所為で俺何度心臓止まるかと思ったことやら!」

 ちなみに、今まで一番怖かったのわ南極に行くっていうのと、スカイダイビングをしながらお空でライブをするの二つだ。

 

「本当にあの時は幾つも神社参拝してお願いしたんだから……」

無事に帰ってきた時は身体の半分の水分が出てたんじゃないかという位に泣いて(生還が嬉しくて)、一週間は同じベッドで添い寝した。俺が姉ちゃんを抱きまくらのように抱きしめて、姉ちゃんがそんな俺を抱き返す感じで。

 

「とにかく、危ないことは俺の体(心)が保たないから駄目。それと先に言うけど、一緒にお風呂も駄目だからね」

 

「駄目なの?」

 

「もしかして入ろうとしてたの?」

 

「うん」

凄いは、一言で頷いたよ!

 

「姉ちゃんはさ、そういうの気にしないの?普通気にするでしょ?」

 

「そうかしら?でも私がこういう事をするのは夏樹の前だけよ」

 

 

「はっはは、それはそうだよ。そうじゃなかったら、見たやつを地獄(パラダイス)に堕とさなきゃだから」

俺以外に姉ちゃんの柔肌は見て欲しくない!でも、自分で見るのは恥ずかしい!だからこそ、他の男が少しでも見たら確実に殺す……。

 

楽園(パラダイス)?それは素敵ね」

 

「そうだね、素敵だね〜」

楽園の意味の認識がすれ違っているけど、姉ちゃんが楽しそうだから言わないでおこう。

 

 でもこういう事をするのは俺の前だけか……。じゃあ俺だけに見せる表情、行動……。

「姉ちゃん……」

 

 この時夏樹の中でこころの言葉がクリティカルヒットを成し遂げ、無意識に抱き寄せて頭を撫でていた。

 突然頭を撫でられて驚いていたこころであったが、自分の最愛の弟に頭を撫でられるのが気持ちよかったので、抱きしめてそのひと時を堪能した。

 幸せを堪能しすぎたせいか料理に手間が掛かり時間は遅くなったものの、二人での共同作業は楽しく、作った料理は何時もよりも美味しいものとなった。

 

 

 

「それで今日から暫くは俺の布団か姉ちゃんの布団で一緒に寝ると?」

夕飯の後に予想はしていたが再びお風呂騒動を起こした姉ちゃん。『水着を着れば大丈夫じゃないかしら?』と、期待半分常識の狭間に突き落とされながら悩んだ末に、やっぱりちゃんと断って一人ずつ入った。

 

 もしもあの場で同意していたら、姉ちゃんは間違いなく『姉弟』を越えることをしでかしていただろう……。ありえないだろうけど……。

 がしかしだ、今はもう終わったんだ。だから、だから今度は目の前の問題について考えよう。

 

「夏樹が約束したんだから、さぁ今日は私の布団よ!」

枕を抱えて部屋に俺を迎えに来た姉ちゃん。無論パジャマ姿にブランケットを被せているが、何と言うか……姉ちゃん綺麗だな……。透き通るような綺麗な肌、長く華奢な手足、念入りに手入れをされた髪……。

 

「ほら、ぼ〜っとしてないで行くわよ!」

思わず見蕩れてしまっていた。なぁ神よ、俺を姉ちゃんの弟にしてくれて感謝します。こんな素敵な姉ちゃんは他に……、

 

 

「な・つ・き!」

 

 

「うわぁ!姉ちゃん、ちょ危ない!」

神への感謝の言葉を述べていると、ブランケットをマントに見た立てて、たなびかせるようにして飛んできた。首元に華奢な腕が絡みつき、腰に足を巻いて落ちないように完全ロックされてしまった。

 

「早く〜、早く寝ましょう!」

お風呂から上がって時間が立っているはずなのに、良い香りがまだ続いている。

 

「姉ちゃん、シャンプー変えた?」

姉ちゃんのホールドを喰らいながら、部屋に向かって移動する。歩いている際に髪が揺れて匂いがしたのだが、何時もより香りが甘い気がする。

 

「もう分かちゃったの?そうよ、今日は新しいシャンプーを使ってみたの」

 

「へぇ〜姉ちゃんの可愛さが倍増で、俺は良いと思う」

 

「ありがとう夏樹」

褒められてご機嫌な姉ちゃんの声は弾んでいて、ニコニコと笑顔だった。姉ちゃんの笑っている姿を見ていると、俺自身笑顔になって胸の辺りが暖かくなる。

 

 

 部屋に入れば大きな本棚や屋根付きの大きなベッドなどが一目散に飛び込んでくる。俺の部屋はどちらかと云うと『作業場』のイメージになるが、姉ちゃんの部屋は『The・お姫様』のイメージになる。

 

「姉ちゃん、降ろすよ」

姉ちゃん一人だけが寝ても大きなベッドだが、俺が入っても十分スペースの有るベッドに腰掛ける。ふかふかの羽毛の掛け布団が身体を包み込む感触、まさに天国の居心地。

 

「そうだ夏樹。お願い事、もう一つ良いかしら?」

電気を消しに行こうとすると、姉ちゃんがパジャマの裾をクイクイと引っ張って聞いてきた。

 

「え、良いけど?何?」

 

「今度の休日、二人で一緒にお出かけしたいと思うの」

 

「良いよ、どこに行く?」

 

「そうね……、じゃあ二人でショッピンモールを周りたいわ」

随分と近場だけど、姉ちゃんが行きたい所ならいいかな。

 

「じゃあ今度の休みは俺と姉ちゃんのショッピンモール巡りね」

 

「えぇ!姉弟、二人で楽しみましょ!」

両手を上にあげてバンザイポーズする姉ちゃん。

 

「そうだね、姉ちゃんと二人はしゃぎますか」

俺も笑顔で微笑み返す。

 出かける約束を取り決めて、一度姉ちゃんの手が離れたので電気を消す。先に姉ちゃんがベッドに入り、次に俺が隣に入る。

 

「おやすみ、姉ちゃん」

 

「おやすみなさい、夏樹」

俺も姉ちゃんも、互いに向き合うようにし手を繋いで深い夢の中へと落ちていく。眠る途中、姉ちゃんの手から伝わる微熱と甘いシャンプーの香りが心地よく、ベッドの魔力も相まって熟睡できた。

 

 次の日、朝起きると二人して抱きうように寝ていて、やっぱり俺と姉ちゃんは本当に大好きなんだと思った。

 

 

 

 

 

 そして約束を決めたあの日から数日が経ち、今現在ショッピングモールの服屋で洋服を見ているわけだけど……。

「あ、そのごめんなさい…。余りにも…」

俺が静かに答えると店員さんは気まずそうにしていた。

 

「大丈夫ですよ…、慣れているので…」

しかしこのままにしておくのも不憫なので、毎度の挨拶をする。

 

「すみません……。でも、本当に可愛らしいお姉さんですね」

 

「そうですね、俺の姉ちゃんで居てくれるのが本当に嬉しいです。優しくて、賢くて、勇気があって、笑顔が素敵で、本当に…嬉しいですよ…」

自分で姉ちゃんの事を褒めているはずなのに、大好きな姉ちゃんを褒めて嬉しいはずなのに……。どこか少しだけ寂しいような……、胸がモヤっとするような気がした……。

 

「でも、その弟さんである貴方も素敵ですよ?」

 

「ふぇ…?」

え、今なんて言った?この店員さん何て言ったよ?というか、俺も何て返事してんだよ。

 

「姉さんとは確かに対象的な真っ黒な黒髪に、瞳。ですが、身長が有る分、細身ながらに服を着ているせいで判りにくいですが鍛えられているようですし。手足も長いですし、きちんと身嗜みも整えていらっしゃる様子」

 

「え、あ、いえ、本当にこれはその、姉さんと一緒に居るから少しは気を付けないとって……。服はそのネットの記事を参考に……」

 

「ほら、そういう所ですよ。お姉さん為に気を回せる所とかも、素敵なとこですよ」

 

「は、はぁ……」

そういうものなのか?普段通りにしていることなのだが?

 

「もしよろしければ、弟さんもコーディネートしましょうか?」

見る人が見れば、『この店員さん…ヤバイ…』と云った目つきをしているに違いないのだが……。

 

「えっと…姉さんが帰ってくる前に終わるようにお願いします……」

断るほどの気力も無く、折角だから姉ちゃんに褒めて貰いたいという思いもあり、コーデーをお願いすることにした。

 

 

 今回、俺は多くの事を学んだ。オシャレが凄い大変だっていうこと……。お金のやりくりもそうだけど、あれとあれが駄目、あれとコレはどうだとか、RPGの装備を考えているみたいだった。

 そして、店員さんにコーデを任せると徐々に熱をまして手が付けられないということ……。

 色んなコーデを考えてくれるのは有り難いんだけど……、目が血走ってくるんだよ……。

 

「やばい…姉ちゃん絶対に終わってるよ…」

店員さんの『プライドに掛けて』コーデしてもらった服を着て、姉ちゃんが入った試着室の近くに行く。

 

 

「姉ちゃん、ごめぇんっ!」

いきなり試着室から手が伸びてきて、俺を引き摺るように試着室へと連れ去っていった。勢いよく入ったせいで、壁に頭をぶつけてちょっと痛い……。

 

 

「どこに行ってたの…」

 

「っつ……、ごめっ……ん……」

打った部分を抑えながら、声が不機嫌な姉ちゃんの方に視線を向ける。向けたのだが、言葉が出てこなかった……。

 

「何であそこに居なかったのかしら?」

顔をグイッと近づけて、頬に吐息が掛かるが……、

 

「姉ちゃん……それ……」

 

「夏樹に見せようとしていたの。ちゃんと着てからどっちを買うか、感想を聞いてからにしようって思って待ってたのよ」

ぶぅ〜っと、頬をふくらませる姉ちゃんだが……。

 

「すっごく似合ってるよ……。うん、凄く似合ってる!」

肩が出るようなっている白のワンピースで、膝下まである丈、肘に掛かるか掛からない程の長さの袖。お腹の部分をリボン上の紐で結んでいるようで、後ろの方に蝶々結びの形になっていた。

 姉ちゃんが選んだ服を着た、マジで可愛い。もう一着ある、きっとマジ可愛い。

 

「そうかしら?やっぱり夏樹に感想を言って貰うのが一番ね!」

やめて、もう神を魅了しそうな姿なのに笑顔を向けたら俺死ねるから!(今現在テンションがおかしい……)

 

「それじゃあもう一着着てみるわ。二つとも買おうとは思うのだけど、夏樹が一番好きな方を」

 

「好きな方を?」

 

「内緒よ、ふふ」

 

「え、何するの!」

俺に褒めて貰えて嬉しかったようで、満足げな笑顔を見せてくれた姉ちゃん。本当にあれは反則だ……。

 というか、最後のは一体何よ!あれは何よ!超絶に気になるんですけど……。

 

「あ、弟さん。どうでしたか?お姉さんから感想言って貰えましたか?」

試着室から出て、姉ちゃんの言葉を考える暇もなく、先程俺のコーデをしれくれた店員さんが聞いてきたのだが……。

 

「すみません…、姉ちゃんの方に夢中で……」

 

「そうですか……、今度はちゃんと聞いてみて下さいね」

 

「はい……」

何故か少しばかり怒られているような気もしなくないが、お膳立てはしまくって貰ったんだ…当然か…。

 

「それでは会計の際にまた」

 

「あ、はい。有難うございました」

他のお客さんの相手もしなくてはならないようで、店員さんは風の速さで飛んでいってしまった。正確には獲物を見つけたという表現の方が正しいか……。

 

 

 店員さんが獲物を見つけ、接客を初めた数分後……。

 

「夏樹!今度の方はどうかしら!」

試着室のカーテンが勢いよく、シャーと音を立てながら開いた。スマホから顔を上げると……。

 

「そうだね……」

先程のは何と言うか『天から舞い降りし女神』という様な感じで、本当に『綺麗』その一言に尽きるのだった。がしかし、今着ているのは姉ちゃんが好むズボンのコーデ。

 上は赤と白のチェック柄のシャツ、普段着ているオーバーオールと思ったけれど短めのジーンズ。本当にシンプルで、先程とは打って変わっているきているが……、

 

「姉ちゃんらしくて、とっても似合ってるよ」

正直あのワンピース姿の方が新鮮というか、大人びて見えるのだけれど……。結局、何時ものコーデが一番似合うのだと思う。

 

「そう云えば、夏樹」

忽然と何かを思い出したように俺に尋ねてきた。

 

「何姉ちゃん?」

 

「いつの間に洋服をコーデして貰っていたの?」

 

「……さっき姉ちゃんが一着目を着ている時に」

今気づいてくれたのか…、もう少しだけ早く気づいて欲しかっ……。

 

 

「やっぱりそうだったのね。どうりで夏樹の雰囲気が違うと思っていたのよ」

気づいてた!え、本当に、さっきので気づいてたの!

 

 

「姉ちゃん、気づいていたなら感想頂戴よ……」

店員さんとあれこれ相談して考えたんだから。

 

「そうね、私に感想を言ってくれたんだものね。夏樹にも感想を言ってあげなくちゃ」

そう言うと、俺の事をまじまじと見て、時々何かを嗅ぐように近づいてきたけど……。

 

「夏樹、まず二つ言っておくわね」

 

「あ、うん……」

何だろう急に改まって……。

 

「まずは、その洋服のコーデはとっても似合っているわ。だから、その洋服は勝手着たままお出かけの続きをしましょう」

バシッ!と俺に指さして、満足げな笑みを浮かべる姉ちゃん。顔から察するに姉ちゃん受けは上々。

 

「でも良いの?おか」

 

「夏樹様、そちらはもう既にお支払いが済んでおります。あとはこころ様の洋服の会計だけですので」

 

「そうですか……。親父にはその…宜しく言っておいて下さい……」

 

「分かりました、では……」

いきなり現れて会計を済ませたと言っていたの、弦巻家の黒服である。本当は一人一人に名前があるのだが、『名前を教えてしまっては、お二人に危険が及ぶ可能性がありますので。申し訳ございませんがお答え出来ません』と言われたので、黒服さんと呼んでいる。

 端的に言って『ボディーガード兼姉ちゃんの望みを叶える工作員』。

 黒服さんと言うからには、本当に全身真っ黒なスーツにサングラスで、ほとんど会わないのでだけれど……。親父が心配しているのはこういう所で伝わってくる……。

 

「えっと、それでもう一つは何かな?」

黒服さんと会話で途切れてしまったが、姉ちゃんが俺に言いたいことはもう一つあったのだ。

 

 

「それはね、夏樹……。貴方、どうしてそう私がいるのに他の女と話すのかしら?」

 

 

 予想はしていた……。だって、最初の服の感想を聞くのに試着室に連れ込まれた時に、姉ちゃんの瞳に光が灯ってなかったもん。不味いなぁとは思っていたけど、今になって来るとは……。

 

「いや、最初は店員さんが姉ちゃんの事を『彼女』と間違えて話しかけてきたからさ」

ここでもしも言い訳でもしたら、きっと帰ってから何をされるか分らない。

 

 

「私が夏樹の『彼女』?それってつまり『恋人』ってことかしら?」

 

 

「まぁ…言葉通りにいけば…。でも、俺と姉ちゃんは姉弟だからさ。いくら外見が似てないとはいえ、ちゃんと『弟』ですって言っておいたから」

 

「そうなのね……」

あれ?光が帰ってきたけれど…何で元気が無いんだ。

 

「やっぱりあれなのかな?俺の髪の毛が黒いのが駄目なのかな……、姉ちゃんはその点かなり譲り受けてるからね……」

実際、何度か染めることを考えたのだけれど。

 

「私は今の夏樹が好き。だから、他の人の言葉で無理に変わらないで……」

姉ちゃんが、それを必ず嫌がるので、

 

「わかってる、染めないよ。正直、黒髪の方がヒーローには多いし」

染めることはしていない。実際に自分が金髪にしたのを想像したことがあったけれど、余りにも似合わないのだ。

 因みに、先輩方と明日香達にも聞いてみたことがあったけど、『染めないほうが良い』と断言されたので止めた。

 特に、有咲先輩と沙綾先輩、紗夜先輩とリサ先輩、蘭先輩とひまり先輩とつぐみ先輩、彩先輩と千聖先輩、美咲先輩と花音先輩、それに明日香にも厳しく『染めないで、絶対に!』と断言された。何故だ……。

 

「ふふ、そうね。夏樹の大好きなヒーローも、格好良い黒髪の人が大勢だものね」

元気が無いと思った姉ちゃんだったけど、それは杞憂だったみたい。

 

「でしょ、やっぱり『ハードボイルド』を目指すなら黒一択だね」

 

「夏樹は『ハードボイルド』?よりも、優しいお兄さんとかだと思うわよ」

 

「頭の中で今一瞬『体○のお兄さん』のイメージが出てきたんだけど…」

 

「確かに夏樹には似合いそうね」

笑いながら先程俺が『似合う』と言っていたワンピースを手に持ってレジへと歩き出し、

 

「でも夏樹は夏樹が『成りたい者』が一番似合うと思うわよ」

ただ一点に俺の顔を見つめて、太陽に負けないほどの笑顔で言うのだった。

 

「それもそうかもね……」

 

姉ちゃんが言うなら案外、自分の『成りたい者』が一番似合うのかもしれない。

 

 

 

「夏樹、ポイントカードって言うのが有るみたいなんだけど。これは作っておいたほうが良いのかしら?」

 

 

「すみません、ポイントカードの作成をお願いします」

 

 でも今日はそういう難しいことより、姉ちゃんとのお出かけを楽しむとしますか。俺の洋服を買った時にポイント付いたのかな?あ、服のタグ切らなくちゃ。




夏樹の言う『ハードボイルド』のイメージは、
『俺は自分の罪を数えた…。さぁ、お前の罪を数えろ』人だったり、
『てめえの願いはオレが叶えてやる、「弾丸(願い)」は込められた』の人や、
『この街の掟破る馬鹿と女大事にしねぇ糞野郎ってなァどっちも大好きなんだよ…俺らは』の人です。
最初の人以外は、同じ声優さんのキャラですがわかりますか?
この人たちの影響で、余計にカッコつけたい年頃なんですよ……。

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俺と姉ちゃんが姉弟と見られない、一緒に出かける件について。後半

お久しぶりです、お待たせしました。最新話です。



 ショッピングモール、様々な種類のお店が一度の場所に集結し、そこに居るだけでまる一日は過ごせる場所。休日なんかは『親子連れ』や『友人との買い物』などがあるが、意外と『カップル』と呼ばれる『リア充』共が闊歩しているわけだが……。

 

 

 

『フルコンボ〜!二人は運命の出会いで結ばれた恋人だどん』

 

 

 

「何故だ…、何でこうも機械まで俺と姉ちゃんを姉弟(きょうだい)として見れくれないんだ……」

 

 ショッピングモールなら割とどの店でも有るようなゲームセンターで、好きな曲に合わせて太鼓を叩くゲームを演ってみた。

『ねぇ夏樹、あれを演りたいわ』

『良いよ、姉ちゃんとやるの久ぶりだけど。楽しみ』

最初は本当に『姉ちゃんとの二人プレイ』で楽しみを持ってやっていたのだけれど……。何か普段あまり来ない所で、姉ちゃんと一緒に遊ぶってなって変な本気を出した結果……。

 

……やっぱり私と夏樹は恋人

 

 全三曲プレイ可能、けど演っていた筐体が『二人の仲を測定可能!どれだけ息を合わせられるかな?』という、あからさまなカップルが喜ぶような仕様の筐体だったのだ。でも一つ言うなら、息ぴったりで当たり前。16年間姉ちゃんの側に居続けてるんだから、姉ちゃんの呼吸くらいは簡単に再現できるから。

 

「姉ちゃん?」

さっきから一人で悶々としていたが、姉ちゃんは姉ちゃんで顔真っ赤なんだけど。さっきもそうだけど、姉ちゃんもしかして熱でもあるのかな。

 

「お〜い、姉ちゃん?」

 

「っ!何かしら、夏樹!」

ちょっと肩叩いたくらいでそんなびっくりしないでよ、泣くよ……。

 

「いや、ぼ〜っとしてるからさ。疲れたのかなって」

 

「そんな事は無いわ!ただ、久しぶりに夏樹とこうして遊んでるから嬉しくて」

 

「そう言われてみれば、そうだね」

実際俺は少し前までは受験生、姉ちゃんはバンド結成で色々と急がったし。中々、姉弟して遊ぶ時間は取れなかったからな。

 

「姉ちゃん、今度は別のゲームでもやる?」

 

「そうね…、じゃあ次はあれが良いわ!」

提案を聞いて辺りを見渡してから、ある筐体を指差す姉ちゃん。指した筐体は某配管工のおっさんや、桃のお姫様が出てくるゲームの派生作品のレーシングゲームのゲームセンター版だった。

 

「姉ちゃん、俺に勝てる?」

一時期は多少なれど来ていたので、少なくとも姉ちゃんよりは経験は有る。だからわざとではないが、少し挑発気味に尋ねてみる。

 

「ふふ、夏樹は私を甘く見ているようね」

おっと、姉ちゃんが俺の挑発に乗らずに挑発仕返してくるとは……。

 

「よし、姉ちゃん。もしも俺に勝ったら、願い事を一つ叶える」

 

「勝負かしら?良いわ、じゃあ夏樹が勝ったらどうする?」

 

「そうだな……」

今回は本当に負ける気がしないんだよな、だけど願い事で叶えて貰える内容が普通だとつまらないし……。だけど姉ちゃんに何か買ってもらうってのも思いつかない、というか俺が買う。となると……、俺何も無くない?普段の日常があまりにも満ち足りているから、普通に姉ちゃんに甘えて、甘えさせてを互いにしてるから本当に思いつかない!

 

「ごめん……思いつかないから後で言うね……」

 

「そうなの…?じゃあ、勝負の結果をみて決めて頂戴」

一瞬だけ姉ちゃんがしゅんっと、しょぼくれた子犬みたいな感じに成ったけど、すぐに勝負をする気合モードに成って席に着いていた。願い事を思いつかない状態でまさかの勝負とは、でも負けたくはないな。

 

「あ、そうだ姉ちゃん。さっきの条件で一つ良い忘れてた」

お金を二人分投入し、キャラを選択する最中に画面を見ながら条件に付け加えをする。

 

「姉ちゃんが勝った時の願い事、前みたいに俺からの制約は無いから。姉ちゃんの好きに決めてね」

 

・・・・・・ほんと!!!

おぉ……、凄い食いつき。シートからずり落ちそうだし……。

 

「本当だよ。でもまぁ、負ける気はしないから。俺、本気で行くから……」

姉ちゃんの方に身体を向けて、握りこぶしを作って突き出して宣言する。

 

「夏樹、私は夏樹ほどこのゲームをしてないけど……勝つのは私よ!」

姉ちゃんも同じ様に握りこぶしを作って、あいも変わらずの眩しい笑顔で宣言する。

 

「そうだと良いね……。だけど、今回は俺が勝つからね」

 

「望むところよ!」

 

 この後キャラ選択を終えた両者は、筐体のランダムに選択されたコース内で白熱したレースをしたとのこと。普段ならこのゲームで観客は見えないのだけれど、抜かせば抜き返し、アイテムを駆使すれば互いに100パーセントの確率で命中し、CPUを寄せ付けない圧巻のレースを繰り広げたので……無数の観客が集まるような試合になったとさ。ちなみに、夏樹のキャラは配管工のおっさんで紫の帽子の人、こころは王道のお花の名前のお姫様を使用しました。

 

 

 

 

 

「何故だ……、何故負けんたんだ……」

 

「ふっ、ふっふ〜。夏樹、お姉ちゃんを超えようだなんて、まだ早かったのよ!」

レースが終わり、画面に表示された結果を見て見るとほんの僅差でこころが勝利、夏樹は敗北していた。こころは勝利に歓喜して笑顔できゃっきゃっしながら、夏樹は悔しさと目の前の現実に驚いてその場で崩れ落ちていた……。

 

 が、数分後。夏樹は自分で大口きって宣言しておいて負けたことに赤面しながら『今すぐにでも灰になってこの場から消えたい』と心の中で叫んでいながらも。二人でやるゲームがとても楽しくて、またやりたいと思ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

「姉ちゃん、あんなにゲーム得意だったけ?」

もう一回とせがんだ勝負は、また姉ちゃんの勝ち。悔しくて三度目の正直で挑戦しても姉ちゃんの勝ちだった。経験的には俺の方が有るはずなのに……。

 

「う〜ん?得意なのかはわからないけど、夏樹とやるゲームが楽しかったから」

 

「むぅ〜……、次やる時は絶対に勝つ……」

 

「そうね、次は夏樹が勝つかもしれないわね」

でも今日は姉ちゃんとこうしてゲームが出来たということで、次は何処に行くのかな。

 

「あ、そうだ夏樹?」

 

「ん?何姉ちゃん?」

 

「約束憶えてる?」

 

「約束?」

姉ちゃんの言葉に首を傾げると、

 

「ゲームをやる前に約束したじゃない、

『姉ちゃんが勝った時の願い事、前みたいに俺からの制約は無いから。姉ちゃんの好きに決めてね』って」

一体何時の間にそんなスキルを身に着けて、駆使していたのか、鞄から取り出したスマホから勝負前の時刻が示された録音データが音声と共に示されたのだ。

 

「・・・・・・、ちょっと待って」

 

「いやよ、さ〜て何を叶えて貰おうかしら」

俺の呼びかけをまさかの一刀両断で断るだなんて。普段の3倍もの輝きを持った姉ちゃんは、嬉しそうにスマホを両手に持ちながら笑顔で見つめてくる。

 約束をしてしまったのだから約束は果たすべきなのだろうが、もしもだ……姉ちゃんのお願いが俺と姉ちゃんの境界を越えそうな物ならばそれは何とかして回避するが……。さっきの表情からはそんな考えは持っていなさそうだし、今回は無事に終わるかn……?

 

 

 

 その時、夏樹の腕に不思議な事が起こった!

 

 

 

「それじゃあ今日はこれで移動しましょ!」

 

 

 

 夏樹の右腕を愛しの姉であるこころの胸ががっちりとホールドした状態になり、手を小さくほんのりとした温かさを持ったこころの両手で包み込んだのだ。夏樹とこころはあくまでも『姉』と『弟』、つまりは『姉弟(きょうだい)』なのだが、夏樹とて高校一年生の男子。思春期真っ盛りの男子で全くと言っていい程異性に興味が無いわけではない、だからこそ実の姉であるこころのふとした行動に少なからずモヤモヤとした感情が時に渦巻くことは有ったが……、

 

(は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!ちょ、え、ま、えぇぇぇぇぇぇ!)

それがダイレクトに自分自身に関係することとなると、脳内でその情報を処理できなくなるのだ!

 

「あ、あのね、姉ちゃん……?」

 

「どうかしたの夏樹?そんなに顔を真っ赤にして?」

右腕から身体を離さないようにとしているのか、物凄い身体を密着させてくる姉ちゃん。もう顔近いし……。

 

いや……だってこれ……恥ずか……しい……

 

「そうなの?でも、離れてあげないんだからね」

極限まで密着したうえで耳元で囁く姉ちゃん、本当に周りの人の視線が痛いから。って、息吹きかけないで……。

 耳に当たる生温かな吐息、指を絡めるようにして手を繋ぎ、腕を包むように姉ちゃんの胸があたってくる。抵抗をしようと試みて、見て回るお店で姉ちゃんの興味の引きそうな物を見せたり。

 俺個人が犬とか見たくてペットショップに行ってみたら、子犬のふれあいのイベントが行われていた。『姉ちゃん、ほら子犬だよ。抱っこしてみたら?』と提案をするも……。

 

「どうしてなの?さっきから私の気を逸らすような事ばかりして?」

 

「もしかして、お姉ちゃんを試しているのかしら?」

 

「なら安心して……私はゼッタイニ貴方のソバヲ離れないから……。貴方の隣にはワタシだけだから……」

逆にここ最近併発してくる目のハイライトオフモードで、更に密着されました……。若干だけど、姉ちゃんが僅かに震えているような感じと、本気で指が潰れるような感覚がした……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉ちゃんは何食べる?」

 

「そうね?どれも美味しそうだから迷っちゃうわ!」

 

 先程とは所変わって、今現在俺と姉ちゃんはモール内のファミレスに来ています。普段の外出時は大抵俺が弁当を作り、外食はライブの打ち上げや香澄先輩達と遊びに行く時にしか使っていない。

 主な理由としては、お金を無駄遣いしたくない、って言うのがメインな理由。

 それでもう一つの理由は……何か俺や先輩達が作った料理以外で姉ちゃんが『美味しい』って言うのがね……何か嫌なんだよね……。だって……、大好きな姉ちゃんが普段俺の作った料理を食べて『美味しい』って笑顔に成ってくれてるのを見てるのに、顔も知らない奴が作った料理を食べて『美味しい』って同じ様に言うんだよ……。アハハハ……、勿論嫌に決まってるじゃん……だから来たくないんだけど……今回は仕方ないか。

 胸の内に秘めたモヤモヤとした思いを抑えながら、大好きな姉ちゃんとの会食を楽しむ夏樹。夏樹は顔に出てない、ましてや周りにオーラを出してないと自負して居るつもりだが……。

 

『やっぱり…ファミレスの時の夏樹って何処か違うのよね』

やはり相思相愛だからなのか、必死に隠している思いをこころの少し悟られ気味であった。けれどこころは敢えてそこには触れずに、今こうして夏樹と二人で過ごせることを楽しんでいた。

 その理由もまた簡単で、『夏樹が蘭ちゃん達と遊びに行った』というのに嫉妬していたのだ。いや、嫉妬というのは生易しい位で、本当はもっとドロドロとした何かだった。こころとしても夏樹がこころ自身の友達である蘭達と仲良くすることは本当に嬉しい。心のそこから嬉しくて、笑顔に成るのだが……同時また別の感情が相まってしまうのだ。だからあの日夏樹にあたってしまったのだ……。

 でもそんな自分を我が儘だと理解っていても、夏樹は笑顔で受け止めてくれる。それが嬉しくて、でも駄目だと理解っているのに……どうしても……。

 

「俺、決めたけど姉ちゃんは?」

 

「私も決まったわ」

互いにメニューを見ならが全く別のことを考えていたけれど、それも終わり料理を選んでいた。時間はそれ程掛からずに、すぐに注文のベルを鳴らした。

 接客に来た()の店員さんに俺が食べたい物、姉ちゃんが食べたい物を注文し、手早い確認で席を後にした。それにしてもあの店員さんは一体に何に怯えて居たんだろう、終始ずっと何か目線を下に下げていたけど……。

「あの店員さん、どうかしたのか……な……」

あれ?また?またなの?また目のハイライトさん仕事を投げたの?だからまた、姉ちゃんは琥珀色の瞳に光が無い状態でじっと見つめてきているの?

 

「夏樹は何を飲むのかしら?」

怖い…すごい笑顔だけど…目が笑ってない…。

 

「え、とと、取り敢えず見に行ってから考えるかな」

やっぱり普段明るい姉ちゃんがこうもハイライトを消した目で見てくると、本当に怖いというか何というか……。

 

「ん?」

席を立ち上がりドリンクバーに向かおうとすると、今度も俺の腕にしがみついて来ました。『私何か間違えましたか?』みたいな、もうお手上げですよ。

 

「ネェ……夏樹は……私と居るのがイヤなの……?だから…ワタシを見てくれないの?」

 

「お願いごと叶えてくれるって言ったわよね?なのにドウしてなのかしら?ネェ、ネェネェ?どうして?ドウシテナノ?」

 

「コタエテ……夏樹……」

姉ちゃんが俺の手を掴んで強く……ただ強く握りしめてきた……。光の消えた目で俺の瞳を見つめながら、ギュッと、痕がつくんじゃないという程に。

 

 姉ちゃんの真っ黒に染まりかけた琥珀色の瞳が俺の瞳を見つめてきて、目を逸らすことが出来なかった。普段とはかけ離れた姉の姿に少しだけ恐怖を覚えたのと、姉ちゃんに不安な思いをさせたという後悔が理由だ。散々『姉ちゃんが好き』と言ってるのにこのザマとは……、我ながらに頭が痛い……。

 

「嫌じゃないよ、むしろ楽しい。幸せ、すっごい幸せ。今日は久しぶりに一緒に遊んだり出来て」

別に怒った姉ちゃんを止めるわけじゃなくて、本当に素直な気持ちを伝える。俺と姉ちゃん、割と寂しがり屋だから。近くに居るのに構って貰えないのは、辛いって知ってるし……。

 

「不安にさせてごめんね、姉ちゃん」

少し大袈裟に姉ちゃんの頭をわしゃわしゃっと撫でる、ハイライトの消えた目が次第に色を取り戻してまた綺麗な琥珀色の瞳に戻った。

 

「……本当はもっとお仕置きとかしたいけど、今ので無しにしてあげるわ」

 

「え〜、俺お仕置きされる予定だったの」

 

「そうよ、折角姉弟(きょうだい)水入らずの時間なのに……。ちゃんと構ってくれないから……」

拗ねた表情でぷっくりと、柔らかそうなお餅みたいな頬を膨らませる。思わず指で触ると、案の定……めっちゃ柔らかかった。その感触が癖になって、「えい、えい」と何度か突きながら、「ちょっと夏樹」と笑う俺と姉ちゃんの姿はまさしく俺が朝面倒な存在だと思っていた『バカップル』のようであった……。

 

 

 

 

 

「「ご馳走様でした」」

ドリンクを自分達の机に運び、少しずつ飲みながら他愛のない話をしていると注文した料理が運ばれてきた。姉ちゃんも自分で選んだ料理を食べながら『美味しい』って言っていたけど、『やっぱり…夏樹の作る料理の方が美味しいわね』と随分とまぁ嬉しいことを言ってくれた。お店の人に聞かれたらどうしようと思ったけれど、不幸中の幸いか店員さんはちょうど誰もフロアには居なかった。

 

「この後どうする?アイスか何か頼む?」

 

「どうしようかしらね?」

 

「一応、ここのショッピングモール、アイスの専門のお店も有るしそっちに行ってもいいよ?」

 

「そうなの?でも、もう少し見てから考えるわ」

季節限定のメニューから定番の物まで載っているデザート一覧を見て悩む姉ちゃん、

 

「分かった。じゃあ俺飲み物補充に行ってくる」

それをよそに俺は俺で、空に成った自分のコップを持って再びドリンクバーに向かった。

 

 

 

「完成、ドク○ーペッパー×微炭酸オレンジジュースのミックス」

最近のドリンクバーは何かとジュースの掛け合せが出来る機能があるから、こうしてオリジナルの物が作れて楽しい。偶にだが、『これ当たりじゃね?』と意気込んで作った試作品(コーラ×メロンソーダ)は味が消えてしまったり、別の試作品(ド○ターペッパー×メロンソーダ)は何かこう……感覚的に違ったので止めた。だから行き着いたのがこれなのだが。

 

「姉ちゃん、ただいま〜。アイスか何か頼む?」

 

「おかえりなさい、夏樹。それがまだ決まってないのよ」

ドリンクを持って席に戻ってきたが、今日は珍しくまだ決め途中だった。何時も、いや何時もと言うほど来ていないが、出掛けた先で何か食べる時は数秒で決めるのに。数秒?何かもう直感だけで決めてる気がするけど、まぁ選んだのは全部美味しかった。

 

「へぇ〜、姉ちゃんが迷う日が来るだなんてな」

 

「ちょっと、何よその言い方」

 

「はいはい、ごめんて」

でもこうしてからかった時に、ぷく〜ってほっぺを膨らませるの本当に可愛い……。食べ物の詰めたリスのほっぺというか、ハムスター見たいと言うか……とにかく可愛いんだよ!

 

「別に、さっきも言ったけど。ここだけじゃないんだから、正直な話し……絶対他の所の方が美味しい……」

この店のパフェが不味いと言ってる訳じゃないから、ただ単純に別の所の方が種類が多いよって言いたいだけだから。

 

「はっは〜ん……、夏樹…そういう事ね」

 

「いや……、何を理解したの急に。姉ちゃん、流石の俺も理解んないよ?」

突如としてほっぺを膨らませるのをやめて、今度は『私判っちゃいましたよ〜、むふぅ〜』みたいなニヤケ顔をしてきた。凄いニヤニヤしながら顎触ってるんだけど、え本当に俺理解んないだけど……。

 

 

「大丈夫よ、夏樹。私はちゃんと全てお見通しなんだからね!」

 

 

 いやだからさ……何を?俺が想像していることを言えば『アイスの種類の多さ』しか無いけど、でもあの顔を見る限り絶対別の事考えてるよ……。

「わ〜、やっぱりお姉ちゃん凄〜い〜(棒読み)」

 

「夏樹……、流石に私だって今のが本心じゃないのは判るわよ……」

ちょっと冗談半分でやったのに……、そんな真顔で論破しなくてもいいじゃんか!本当に泣くよ、まじで泣くよ!

 

「まぁそれはそうと……、夏樹」

本当に今日は顔の表情がころころ変わるな、姉ちゃん。

 

「何?姉ちゃん」

何やら急に立ち上がり始めたので、俺も察して荷物をまとめて席から立ち上がると、

 

 

 

「アイス、食べに行きましょ!」

 

 

 

「はいはい、それじゃあ行こうか」

 

 

 

 俺の手を取り動き出した。この時、改めて自分が『弦巻こころ』の『弟』であることに幸せを覚えた。それと同時にほんの少しだけ……、ほんの少しだけ……世界線が違って『姉弟(きょうだい)』ではなく『恋人』と呼ばれる関係だったら……なんて考えたのは本当に内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで……さっきの『私はちゃんと全てお見通しなんだからね!』って言うのがこれ?」

姉ちゃんに手を引かれて店を出た後、例にもよって腕にしがみついてきた姉ちゃん。先程よりも何故か笑顔を増して見せる姉ちゃんと、対局的に俺に刺さる嫉妬の視線に挟まれて潰されそうだった。

 やっぱり姉ちゃんと密着?って言うのは家で二人の時が良いな〜的な事を言ってみたけど、どうにも最近姉ちゃんの瞳のハイライトが不調気味なのか真っ黒に染まった瞳で見つめて来るので……黙って頭を撫でながら移動しました。本当に姉ちゃんの心は難しい……。

 

「そうよ、実はさっき夏樹が話している時に奥の席で男の人と女の人が笑顔でやっていたの」

 

「ほう……男の人と女の人(カップル)がね……。公衆の面前でイチャツキやがって……、まじバル○……

 

「どうしたの?夏樹、また怖い顔して?」

 

「何でも無いよ、別に……」

 

「そう?ならほら、あ〜ん」

 

「あ〜む……、うん美味しい。やっぱり、こっちのアイスの方が良かったかもね」

 

「あ〜ん……、美味しい〜!そうね、こっちのお店なら色んなアイスが食べられるものね!」

 

「でしょ、でしょ。はい、姉ちゃんも俺のアイスあげる」

 

「あ〜……」

 

「え、俺もやらなきゃ駄目なの……?」

今現在、いやさっきからやっていたのは『食べさせ合い』ですね。あっはっは〜、男の人と女の人(カップル)爆裂魔法(エクス○ロージョン)打ち込まれないかな〜っておもっていたんですけど……。今現在進行形で俺も姉ちゃんと似たような事をしてま〜す、アイス美味しい〜。

 他人(カップル)がやっているのは見ていて……羨ましいとか思うくせして、自分は姉ちゃんと散々イチャツクという矛盾に満ちた行為だが。でも別に良いでしょ、姉弟(きょうだい)なんだから。

 その後も三段重ねのそれぞれ違ったアイスを二人で交換しながら堪能し、姉ちゃんもそれによってこの前の件についてはもう言わなくなった。

 

 

 

『私だって、遊びたいんだから!』と帰り道、今度は腕ではなく、背中におんぶでくっついてくる姉ちゃん。

『あ〜、はいはい。そうだね〜』と笑いながら受け流そうと俺を、その長く綺麗な手で巻き付いて……『何でそう返事が雑なのかしらね…』若干締められました。苦しくなって腕を『離して』の意を込めて叩くも、『今日は離さないわよ!』と嬉々として抱きつく力と占める力が増しました。

 息が出来ないことが原因だったのか、後ろから感じる姉ちゃんの……の感じに気を吸い取られたのか……何回か倒れそうになりながら家路についた。




今回は何回か書き直しに、書き直して仕上げました。
ナンパの遭遇とか入れようかなとも思ったんですけど、何かこころには合わないかなって。
それで結局姉弟のイチャラブ?と呼べるのかな?を書き上げました。
今回はこころ×夏樹でしたけど、一応他のキャラとの掛け合わせも検討しています。
何かこのキャラとの掛け合わせが見たいとか、こういうシチュエーションが良いなど、
そういう意見があったら感想の方でお願いしたいです。

今回もご閲覧頂きありがとうございました。
感想などお待ちしております。


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