【完結】バディーライズ! ――ガンダムビルドダイバーズ外伝 (双子烏丸)
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キャラ紹介(ネタバレ有り)☆★

〇カザマ・フウタ

 

 主人公その1。

 

 地方の片田舎に暮らす、写真撮影と模型が好きな割かし普通な17才の少年。幼馴染であり恋人でもあるミユと、よく一緒に過ごしている。

 リアルでは同年代よりやや小柄で幼い感じの姿で、GBNでは青い髪で猫耳の、航空機のパイロットスーツ姿。GBNは軽く遊ぶエンジョイ勢であり、ガンプラバトルの腕はアマチュア、決して強くない。

 性格は若干子供っぽいものの、意外に真面目な面もあり真剣に物事を考える部分もある。

 なおガンプラも好きではあるけれど、航空機のスケールモデルの方が好きだったりする。最も、模型趣味は勿論だけれど、それ以上にミユの事が一番大好き。

 

 彼が使うガンプラは『レギンレイズ・フライヤー』

 

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〇アラン・ミユ

  

 地方の片田舎に暮らすフウタの幼馴染み。

 リアルでは少し背の高い亜麻色髪の快活な女の子で、GBNでは白い髪で猫耳のワンピース姿。

 趣味はゲーム、昔から色々なゲームを遊んだり、家でよくフウタともテレビゲームをしたりもしている。

 実はVRMMOが苦手なフウタがGBNを始めたのも、ゲーム好きな彼女が誘ったからだ。けれどガンプラを作るのは苦手みたいで、フウタと一緒に作ることが多い。

 

 彼女のガンプラは『レギンレイズ・ホワイト』。ずっと前にフウタと作った思い出のガンプラ、ミユにとって大切なものだ。

 ちなみにガンプラバトルの腕はフウタよりも高い。

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〇タケヤマ・ジン

 

 主人公その2。

 

 地方の都市でフリーターとして働く二十七才の男性。ただ、少し童顔であるせいか数歳ほど若く見られることもある。 

 さえない表情と中肉中背、灰色の長めの髪に眼鏡をかけた外見、GBNのダイバールックは眼鏡がなく、旅人風の姿をしている。

 趣味はフウタと同じ模型。ガンプラ以外にもロボットプラモ全般が好きらしい。

 ある理由でガンプラバトルに強くなる事を願い、一緒に戦う相手を探しているとの事。

 

 使うガンプラは黒く塗装したガンダムF91。

 

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●フウタ、ミユ、ジンのダイバールック

 

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●フウタ、ミユのリアルでの姿

 

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●フウタ、ジンのリアルでの姿

 

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○ヒグレ・ジョウ

 

 三十代の男性、ヒグレ模型店の店主。

 彼の店はフウタとミユが小さい頃から通う馴染みの店で、二人とは顔なじみ。

 最近ではGBNをプレイするための端末も据え置いたらしく、ジョウ自身遊んでいるらしい。

 ……端末を据え置いてからかなりやり込み、実力はかなりのもの。

 

 使うガンプラはデスアーミー

 

 

〇ロッキー

 

 筋骨隆々の大男のダイバー。組織立って行動する悪質ダイバーの一員であり、初心者狩りなどの悪行を行っていた。

 フウタとジンにとって因縁がある相手として、序盤に立ち塞がる存在になる。

 

 使うガンプラはハイゴック。

 

 

〇シラサキ・マリア

 

 ジン同様に地方都市に暮らす女性。仕事はフリーのデザイナー、年齢は二十五才程。

 明るく天真爛漫な性格のせいで好かれやすく、あるきっかけでジンも彼女に一目惚れすることに。

 容姿はモデルのようにスタイルも良くて美人、赤い瞳と同じく赤い長髪が特徴的。

 なお現実でもGBNでも同じ姿である。

 

 そして、GBNにおいて上級ダイバーとされる程の実力者。彼女の兄、ハクノとともにタッグを組み、兄妹タッグバトルの腕前はそれなりに知られてはいる。

 

 彼女のガンプラは『ガンダムバエル・クリムゾン』、バエルソードに加えて実弾砲を複合するビームガンを携帯する。

 

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〇シラサキ・ハクノ

 

 マリアの一才年上の兄。長い銀髪を束ねたポニーテールの、不良じみた外見の青年である。マリア同様、彼も現実とGBNでも外見は統一。

 目つきも鋭く性格も口調も荒い青年、ではあるけれど決して悪人と言うわけではない。

 マリアと一緒に暮らしているわけではないものの、妹想い、若干シスコンじみた部分がある。そのせいで彼女に近づくジンに対しては良い感情を持っていない。

 

 

 GBNでは彼女とともにガンプラバトルで名を馳せる。

 彼のガンプラ『アヘッド・ブロッケン』、GNマシンガンの他に右腕の蛇腹剣が専用装備。

 マリアのガンダムバエルとコンビネーションを組んでの戦いを得意とし、単体でも相当な強さを誇る。

 

 

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●マリアとハクノのリアル、GBNでの姿。

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〇マノモ

 

 レーミの女友達。茶髪のポニーテールの、快活な性格の少女。

 明るくて人好きな雰囲気ではあるが、バトルに関しては一切手を抜かない性格だ。

 

 使うガンプラは『リーオー・ブラスター』、四本足に両腕のキャノン砲が特徴のガンプラだ。

 

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〇レーミ

 

 GBNの中級、もしくは上級のレベルに届く程の実力を持つダイバーの少女。

 外見はおかっぱ頭の、パーカーを着た無口、無表情の子。一見大人しく見えもするが、その実かなりの毒舌家で好戦的な面もある。 

 

 

 彼女が使うガンプラは銀と青に塗装されたストライクガンダム。頭部はジム風のバイザー付きの物に変更されている。

 

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〇カイン

 

 GBNの上級ダイバー。そしてフォース『ブラックホース』のリーダー。

 貴族風の恰好をした長い金髪の、キザな雰囲気と性格の美青年。女好きな所もあり気に入った女性は何人もアプローチをかけるのが困りどころ。

 しかしフォースを統率するリーダー性とカリスマはあり、メンバーからは慕われているとの事。

 

 

 彼のガンプラは『V2シュヴァルツドライ』、V2ガンダムをベースにした巨大な翼状のバックパックが特徴で、双剣を武器とする。

 

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●レーミとカインのダイバールック

 

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〇ta‐zu

 

 ゲストキャラ、Twitterのフォロワーであるta‐zu(@8CqewikVW8q2U06)さんから使用許可を頂きましたので。

 フォース「GUNSTAEDOM」に所属するダイバーであり、ガンプラバトルの実力は相当なもの。

 

 

 使う機体は『ターミナス・ハーキュリー』(

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)と『ジュピタリオス』(

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)

 詳細はこちらで

https://gumpla.jp/hg/447386

https://gumpla.jp/hg/81627

 

 

〇如月春揮

 

 桜花 如月さんの『Re:ソードアート・オンライン ~紅き双剣士』の主人公。ゲストキャラとしての登場になります。

 詳細はリンク先で。

https://syosetu.org/novel/191959/

 

 扱うガンプラはフリーダムガンダム

 

 

〇空野 秤

 

 蹴翠 雛兎さんから頂きましたオリキャラ。

 以下設定。

 

 ダイバーネーム:クラルテ

 本名:空野 秤

 ダイバールック:灰色かかった銀髪の長髪でポニテ。顔はイケメンとも美女ともとれるような感じである。身長は172㎝。

 使用ガンプラ:ガンダムグリムリーパー

 称号:戦場の死神

 紹介:

 ガンプラバトル界では知るぞ人ぞ知る有名人物であり、通称『クリアザリッパー』の名で通ってる人物。

 GBN内では誰でも簡単に改造出来て、完成度を上げる配信や、誰でも簡単に作れる作例配信等を上ている。

 なお、ダイバールックは現実世界の顔をほんの少しいじってコンプレックスである低身長を少し伸ばしたくらいである。

 上に苗字の違う異母兄妹を持ち、兄はプラモデルデザイナー兼次期社長、姉は有名ファッションモデル兼有名バーチャル配信者と、各方向で有名な兄妹を持つ。(なおこの二人は双子だったりする)。

 性格は優しく、男勝り。だがやや優柔不断であり、少し弱気である。ただ、決めるところはしっかり決める上、戦闘となると雰囲気がガラリと変わる。

 

 

 

 ガンプラネーム:ガンダムグリムリーパー

 

 ベースガンプラ:ガンダムデスサイズ、ガンダムアストレイゴールドフレーム天ミナ

 

 使用ガンプラ:

 ディスティニーガンダム

 ガンダムAGE-FX

 アストレイレッドドラゴン

 ガンダムバルバトスルプスレクス

 ガンダムバルバトスルプスレクスSD⇔CS

 1/100インフィニットジャスティスガンダム

 

 ガンプラの備考:ほぼミキシング機体。

 

 特殊能力:

 

 ミラージュコロイド

 可視光線を歪め、レーダー波を吸収するガス状物質。これを磁気で機体周囲に纏うことにより、視覚的および電波的にも自機の存在を隠匿する事が可能。さらに本機は、ハイパージャマーと合わせることで完全に自機の存在を消滅させ、ヴァリアブルフェイズシフト装甲と合わせることにより、外観を偽装することも可能となった。

 

 ヴァリアブルフェイズシフト装甲

フェイズシフト装甲の改良型。装甲に流す電流の量を調整する事でエネルギーの効率的な配分を可能としており、稼働時間の延長等が可能となった。また、この影響でカラーリングが戦闘中に変えられるようになった為、ステルス能力が高くなったという副次効果もある。

 

 ハイパージャマー

 バックパック上部に搭載されている電子妨害装置。本機を死神たらしめている装置の一つであり、作動させる事で敵機のカメラやレーダー探知を無効化する。また、ミラージュコロイドとヴァリアブルフェイズシフト装甲を合わせることでステルス効果が倍以上となり、完璧に機体を隠す事ができる。更にはミラージュコロイドシステムが水中やエネルギー不足等で使用不可の時に、代わりに姿を消すことも可能である。

 

 TANATOS

 Tactics Assist・New AI:To Organ drive System (戦略補助新型人工知能・機関稼働機能)の略。

 ファントムライトとNT-D、ifs、ALICEシステムをモデルにして、独自に作り上げたシステム。普段はAIが戦闘を補助しており、操縦者の負担を軽減できるようになっている。

 また、機関過剰稼働…オーバードライブができ、その発動時にはファントムガンダムのファントムライトのようにアンテナやリアアーマー等からミラージュコロイド粒子が噴出し、通常時の二倍以上の性能…瞬間速度に関しては三倍以上へとなる。また、ミラージュテレポートやファントムエッジ、バレットオービットが使用可能となり、ビーム兵器を無力化や反射によって完全に防ぐバリアフィールドを展開できるようになる。

 しかし、オーバードライブ稼働中は攻撃や防御等を含めて大量の粒子を使う為、過剰稼働できる時間は最大でも5分程度であり、それだけ動く為には約10分間、ミラージュコロイドを使わずに貯めなければならなず、更には粒子を使い切り自動解除された場合、ミラージュコロイドとビーム兵器が完全に使えなくなってしまい、機体性能もやや下がってしまうという弱点もある。

 

 武装・必殺技:

 

  ビームサイズ

 大型の鎌状のビーム兵装で本機の主要兵装。接近戦において確実に敵機を葬り去ることを目的としている。非使用時にはバックパックに懸架される。

 

 リアライザビット

 デート・ア・ライブに出てくる顕現装置(リアライザ)の能力を真似てAGE-FXのCファンネルを素材元にし、スクラッチした物。

 AGE-FXのパーツを使い、肩アーマーに2基、腰のサイドアーマーに2基、バックパックのマガノイクタチに4基セットできるようにしてある。

 透明化、自動回避、バリア展開、何度でも使える機雷能力、センサー・カメラ機能、ホログラム、機体ダメージ修復機能を持つ上に、これらのことを粒子を消費せずに使える為、オーバードライブ中や水中でも安定した運用ができるのが特徴。

 もちろん改造元となったCファンネル本来の使い方も可能である。

 しかし、その反面、遠隔操作時には大量の電気エネルギー必要とする為、マガノイクタチなどで電力を奪ったり補給する必要があったり、使用者のプレイスタイルも相まって大量のエネルギーを使う為に六分以上の使用ができなかったりする。

 また、機体ダメージ修復機能も大幅に回復するという訳ではなく、地道に修復していく為、完全に治るまではかなりの時間を必要とするため、基本的には小破から中破した部位の回復に当てられる。(ただし、一気に大量のエネルギー消費量を上昇させ、修復機能を上げた場合はこの限りではなく、損失した部位の再生すら可能となる)

 

 マガノイクタチ改

 ミラージュコロイドを利用した特殊兵器。ミラージュコロイドを散布し、バッテリーを強制放電させることで行動不能とする。また、放電した電気は自機にチャージすることが可能である。

 また、広域センサーとして機能する複合センサーが追加されている。

 

 マガノシラホコ改

 マガノイクタチに付属している実体槍。槍の先端部を射出することで敵機を攻撃する。ワイヤーで繋がれているため何度でも使用可能。

また、先端はSD⇔CSのバルバトスルプスレクスのテイルブレードを改造した物にしている為、元の機体よりも高い威力と貫通力を持ち、射出後も自在に操作が出来る様になっている。

 

 フラッシュエッジ2

 非使用時は左肩部に装備されている装備。

 ディスティニーガンダムから引っ張ってきた。

 投擲時はビーム刃に対する干渉反応を利用し投擲軌道をコントロールすることができるようになっており、更にビーム刃の長さを変更することで手持ち式のビームサーベルやビームナイフとしても使用可能な武装となっている。

 

 複合攻楯システム「トリケロス改弐」

 右腕部に装備されている複合兵装。対ビームシールドの表面にビームシールド発生器を、裏面にはビームライフル、ビームサーベル、ランサーダート、ストークグレネード×2を装備している。また、シールド縁辺は実剣としても使用可能。

 また、ビームサーベルは砲身から発振する方式も取れるようになっている。

 なお、不必要時は持ち手部分をシールド裏に畳めるように改造が施された為、腕に装備したまま別の武装を使用する事も可能になっている。

 

 グレイプニール改

 バルバトスルプスレクスのものを流用して作った装備。大元であるブリッツガンダム同様、左腕に装備されている。

 非常に早い速度で攻撃することが可能で、ナノラミネートアーマー等も軽々と貫く。ワイヤーは微量の電流を帯電させる事で粘性を得ることができ、その上自由自在に操作が可能となる。

 ウィズはこれを基本的には鞭として使っているが、使い方次第でブリッツのグレイプニールと同じく単純な打撃から、敵の捕獲や自機の固定、また、鉄血シリーズのナノラミネートアーマーの特性を生かし、ビームを切ったり、剣や盾として使うといった事もできるようになっている。

 

 グリフォン ビームブレイド改

 両脚部に内蔵されている膝から爪先間に設置された弓鋸状のビームブレイドであり、格闘戦用の武装で蹴撃時に使用され、その威力を倍化させる。

 蹴りによる斬撃も可能。

 また、足裏にビームサーベル発生装置を装着しており、ビームを発振する事でさらに間合いを伸ばすことができる。

 

 シュペールラケルタ ビームサーベル

 腰部に2基マウントしているビームサーベル。柄尻で連結した「アンビデクストラス・ハルバード」での使用も引き続き可能。

 また、リアライザビットやビームサイズに装着することで、ビームジャベリンとしてや小型のビームガンとしての機能を持たせることができるようになっている。

 

 



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第一話 アマチュアダイバー
始まりの日常(Side フウタ)☆★


 荒廃し、廃墟と化した都市。

 壊れかけたビル郡の間から見えるのは、三……いや、四体の巨人、MS(モビルスーツ)と称されるロボットだ。ずっしりとした体格の人型ロボット、さながら兵士を思わせるような姿である。

 ――GBNのノンプレイヤーダイバー、つまりNPDの操作するリーオー。AI操作なだけあり、近すぎず遠すぎずの距離間で、統率の取れた偵察行動を取る。

 

 

 最も、それは同時に機械的な、ある意味単純な行動原理にすぎない。

 四機がかりで偵察を行っていると言え、その動きは一定のパターン化しており、動きさえ見てさえいれば、隙を見つける事も十分に可能だ。

 

 ――そこっ! 真横ががら空きね!――

 

 内一体のリーオーが、左方の確認を終え、姿勢を変えようとした瞬間、数発の銃弾が胴体に撃ち込まれる。

 反撃する暇のない、先制攻撃。攻撃を受けたリーオーは胴から火花を散らしながらよろめき、爆発に包まれた。

 

 

 残る三機は臨戦態勢を取り銃を構えるも、今度は態勢が整う前に、倒された機体の近くに位置していたリーオーの至近距離に、一機のMSが

出現する。

 リーオーと異なり、西洋騎士の鎧や、竜のような形状のMS。

 それはモノトーン調の、改造されたレギンレイズ、『機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ』に登場するグレイズ系の最新鋭量産機と言う設定の機体だ。

 大部分はオリジナルと変わらないものの、両足はかぎ爪状に、胴体が通常よりも尖ったデザインであるとともに両肩アーマーが軽量化されたものへと改造されていた。

 特に特徴的であるのは、腰部に装着された大型ホバーユニット。それにより地上において、機動性は良好である。

 

 

 武装は先ほどの130㎜の口径を持つ大口径ライフルと、そして……両腕の攻守両用のガントレット。

 

 ――これで二機目……かな!――

 

 レギンレイズは左腕のガントレット、その尖った先端を頭上から刺し潰す。リーオーの頭部センサーの光は消え、機体は沈黙する。

 しかし、不意をつけたのはここまで。

 すぐさま敵機はマシンガンを斉射し、応戦に入った。さすがのNPDも、これ以上の先制を許すほど、馬鹿ではない。

 とっさにガントレットで弾を防ぎつつ、機体は廃ビルの陰へと後退。ビルを盾にしながらライフルで反撃する。

 ライフルの弾丸を受け、三機目のリーオーも倒れるが、最後の一機は盾持ち。

 手にしたマシンガンを放棄し、今度はビームサーベルを抜いて迫る。銃弾はリーオーのラウンドシールドに弾かれ、二機の距離は次第に縮まる。

 目の前で振り上げられるビームサーベル、しかしこのタイミングが絶好の好機、レギンレイズはそれよりも素早くライフルの銃口をリーオーに向け、引き金を引いた!

 

 

 ……しかし、響くのはカチッとした、乾いた音のみ。弾が発射されることは、なかった。

 

 ――もしかして、弾切れ!? そんな!――

 

 

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 レギンレイズのパイロットは覚悟して、思わず目を瞑る。

 だが、そんな時。

 襲い掛かろうとしたリーオーの真上から銃弾が降り注ぎ、その機体は爆発四散した。

 

《間に合って良かった! 大丈夫だった、ミユ?》

 

 

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 応援に駆け付けた機体も、同じくレギンレイズ。なお、こっちの方はブルーに塗装され、腰部には一対のスラスターウィングが取り付けられていた。

 青いレギンレイズは空中を滑空していたが、仲間の機体の元へと降下し、着地する。

 機体のコックピットハッチが開き、中から十代後半の少年が一人、手を振って表れた。

 

「ご苦労さま、これでこの辺りの敵機は片付いたさ!」

 

 年齢の割には少し小柄な体には、航空機のパイロットスーツを纏い、頭にはゴーグル、MSのパイロットとしては不自然ではあるかもしれないが、現実より自由な電子世界でなら問題ない。

 肩に少しかかるくらい長い髪に、気の強そうなややつり目な少年。でも今こうして笑いかけている顔は、可愛いくも見えた。

 

 

 すると、向こうのハッチも開いて、今度は同い年くらいの少女が顔を出す。

 

「ありがとうね。さっきは、フウタのおかげで助かったよ」

 

 フウタと呼ばれた少年は、少女の言葉にへへッと得意げに笑う。

 さっきまでレギンレイズで四機のリーオーを相手にしていた少女、ミユ。

 ふわっとして明るそうな、ちょっと垂れ目気味の可愛い女の子。白いワンピースの上から纏う薄い上着、そして左右に跳ね毛気味なショートカットである。

 そして、二人の少年少女はともに、猫耳と尻尾を生やしており、その毛と髪の色は少年が青、そして少女は白色であった。

 

「こっちも数機のリーオー相手に、ちょっと手こずったんだ。中級でしかも、その中でも簡単そうなミッションを受けたはずだけど、なかなか強敵って言うか……僕たちエンジョイ勢にはこたえるかな。さすが連戦ミッション、普通よりも手強い」

 

「でも、バトルは楽しかったわ! 大変だったけど、たまには良いね」

 

「いつもはもう少し、簡単なミッションばかりだから、新鮮味があるかもな。けどまだ……ミッションは終わってないよ」

 

 

 すると辺りに、地響きが響き渡る。

 二人のいる場所から、少し離れた場所のビル群、それが音を立てて崩れ、土煙から通常のMSよりも巨大な影が現れた。

 

「連戦ミッションのボス――サイコガンダム、か。うん! 相手にとって不足なし!」

 

 影の正体は、黒い巨体を持つガンダム、サイコガンダム。

 

「行くよミユ! これがこのミッション、最後のバトルだ!」

 

「うん! 頑張ろう、フウタ!」

 

 フウタ、ミユはそれぞれの機体に、再度乗り込む。

 サイコガンダムは頭部を二機に向けて、視認する。アイセンサーは鈍く、赤く輝き、戦闘態勢を取る。

 頭部、両手、胸部に、幾つものメガ粒子砲を備えた、MSとは名ばかりの移動要塞、その砲門はフータ達の機体めかけて、その牙を向く。

 

 

 地面と廃墟を薙ぐ、大出力のエネルギー、二機のレギンレイズはそれを掻い潜り――サイコガンダムへと突撃する!

 

 

 

 ――――

 

「やぁ、お二人ともご苦労さん! GBNは楽しかったかい?」

 

 GBNからログアウトしたばかりの二人、カザマ・フウタとアラン・ミユをそう言って出迎えたのは、三十代程の模型店店主。細身で長身の、緩い雰囲気の男性。見た感じは悪くないものの、あまり手入れをしないのか茶髪の髪はボサつき、顎にはやや無精ひげが目立つ。

 ちなみに現実のフウタは黒髪で、ミユは亜麻色髪、髪型もフウタが比較してほんの少し短いこと以外は現実と変わらず、それに服装も高校の制服姿であることくらいだ。

 

「うん! いつも使わせてくれてありがとう、今日も色々遊べて、楽しかったよ」

 

「ふっ、そう喜んでもらえて、こうして用意した甲斐があったってものさ。それに二人はウチの常連だしな、いつでも大歓迎、って事だ」

 

 ミユの言葉に、店主――ヒグレ・ジョウは、照れの混ざった笑いを浮かべる。

 彼の経営するヒグレ模型店は個人経営の小さな店だが、品揃えは決して悪くない。

 辺りの棚には自動車に航空機、船舶に城など多種の模型が並び、その中にはロボット――ガンダムシリーズに登場する『MS』をモデルにしたプラモデル、『ガンプラ』も多くあった。

 ガンプラ専門店には劣るものの、初代ガンダムやZ、ZZガンダム辺りの宇宙世紀のものから、ガンダムSEEDやООとも言ったアナザー系のものまで、満遍なくとり扱っている。

 

 

 そして――模型店奥の別室には、世界規模のネットゲーム、ガンプラバトル・ネクサスオンライン――GBNへと接続可能な専用端末が用意されている。

 ガンプラのデータを読み込み、オンライン上で対戦するガンプラバトルを主に、様々なミッションを楽しむ事が可能であり、また再現されたガンダム作品の各舞台を含めた広大な仮想空間と、他のプレイヤーとの交流、その自由度もGBNの人気を支える、大きな要因でもあった。 

 

 

「今日はミユと一緒に、連戦ミッションに挑戦してみたんだ! 最後のボスには苦戦したけど……何とかクリアしたよ」

 

 フウタはにこっと笑い、店主にそう言った。

 

「ははは、それは良かったじゃないか」

 

「それに、最近だとそろそろ、GBNがアップデートされるって話さ。そっちもちょっと、どんな風になるか楽しみだ。

 ミッションの後はミユとデート、サンクキングダムを一緒に散策したんだけど……やっぱり街並みや、海が綺麗だった感じ」

 

「ははーん、Wガンダムの舞台の一つだな? 確かにあそこは、デートするには打ってつけの場所なのは同意だぜ」

 

「まあね。けどやっぱり他にカップルも多かったし、人がちょっと沢山すぎたかも。今回はバトルフィールドじゃなくて、お祭りみたいなイベントがあったからね

 今度は、もっと静かな場所に行きたいぜ」

 

「フウタと一緒なら、私はどこでも楽しいよ。バトルはちょっと苦手だけど、それだって面白いもの」

 

 フウタはそう言っているものの、ミユにはとても、良い思い出が出来たみたいだ。

 そしてそれは、彼本人も同じく。

 

「僕だって同じさ。たまに一人だったり、GBN上のフレンドとも遊んだりするけど、やっぱりミユと遊んでいるときが、一番楽しいんだから」

 

 二人が通う高校では、GBNをやっているクラスメートは、知っている限り存在しない。

 人口の多い大都会の都市部ならともかく、ここはそこから遠く離れた地方のそのまた、少し大きいくらいの町である。

 模型店も、GBNをプレイできるのも町ではここだけ、更に言うならGBNの接続端末を店で用意したのも、数か月前とつい最近だ。

 それ以前はプレイするために、ここから離れた地方都市にあるガンプラ専門店、ガンダムベースへと、電車で一時間近くかけて行っていた。

 そこにはちゃんとGBNの専用筐体が用意されている。……が、さすがに一時間は長い。二人が遊びに行くのはせいぜい一、二週間に一度程度が、せいぜい関の山だった。

 

 

 それにここは、いわゆる田舎に片足を突っ込んでいるような、そんな町。いくらGBNでも、そうそう身近にプレイしている人間なんていない。

 店主の話では他に店のGBNへの接続端末を使う人間は、いるにはいるらしいが、時間帯が合わないのか、彼らと会う事は滅多にない

 フウタとミユも、リアルでも知り合いで、なおかつ一緒にプレイする相手は、互いしかいなかった。

 そして二人は昔からの幼馴染、また今は恋人でもある。……そうした意味でも互いの仲は、とても良かった。

 

「……ははっ、いつ見ても仲睦まじそうで、羨ましいじゃないか」

 

 これに、フウタは頷く。

 

「それは当然。だってずっと一緒だし、僕の事を想って好きでいてくれる、そんな相手だから。

 もちろん僕も、ミユの事を大切に思ってるし、かけがえのない幼馴染で……大好きな恋人さ」

 

「もう、フウタってば……いくらジョウさんの前でも、言い過ぎだよ。何か、恥ずかしいって、言うか」

 

 自分にかなり正直過ぎる性格の彼に、思わずミユは恥ずかしくなる。

 

「まぁ、それが君の彼氏の、良い所だろ?」

 

「ジョウさんまでそんな事を言って、私でも怒りますよ。それは……フウタの言う通り、私だって……」

 

 店主は若い二人の様子を、微笑ましく思うと同時に、ちょっとため息をつく。

 

「いいよな、本当に。――その一方で俺はと言うと、相変わらず相手が見つからない日々、さ。この間の合コンでも、良い相手はいなかったしな」

 

「はぁ、結局また失敗したんだ」

 

「失敗は成功のもと、だって言うだろ? 今回は良い所まで行ったんだが、相手から『自営業なんて今更流行らない』って言われたんだぜ?

 かーっ! 模型店の経営なんて、男のロマンじゃないか! 嫌だねぇ、それも分からないなんて」

 

 こんな様子の店主には、さすがのフウタも呆れ顔。

 

「相手が欲しいなら……まずそんな所を、少し直したらどう?

 ――さてと、それじゃそろそろ遅くなりそうだから、僕たちは帰ろうかな」

 

 

 外を見ると、もう日は沈みかけて黄昏色となっている。

 

「そうか、分かった。だがその前に……フウタ、ちょっといいか」

 

「……ん? 別にいいけど、何?」

 

 フウタは店主に顔を近づけ、話を聞こうとする。

 

「確か、明日は市内のガンダムベースで『アレ』が入荷する日じゃないか? 前々からフウタは、待ち遠しく思っていたみたいだから、忘れてるんじゃないか、心配でな」

 

「もちろん、朝早くから行って、並んで買いに行くとも。バイトで貯めたお金もあるし……用意も十分さ」

 

「それは良かった! けど店には早めに行って、並んでいた方がいいぜ。売り切れて買えない、なんてなったら困るだろ?」

 

「うん、分かってる。だってあのガンプラは……」

 

 ひそひそとそう話す二人の様子に、いぶかしむミユ。

 

「ねぇ? 私に内緒で、何を話しているの?」

 

 彼女からそう聞かれたフウタは、とっさにこう言った。

 

「――いや、ちょっと模型の塗装テクニックを、教えてもらっていただけ……さ」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

 何とかミユを誤魔化せた[?]ようで、彼は一安心した。

 

「ジョウさん、話についてはまた今度。

 ――あっ、そうそう、ついでもこれ買っとこうかな」

 

 と言って、フウタは少し近くの棚から、航空機の模型を手に取ってレジに置いた。

 

「おっと、これはまいどあり、だ。

 何々……へぇ、米軍機の『ヘルキャット』か。フウタは航空機の模型も、好きだもんな」

 

 彼はジョウに代金を払い、袋に入った模型を受け取る。

 フウタはガンプラも好きではあるが、他の模型、とりわけ航空機、戦闘機関係の模型も大好きであった。

 

「だって、空を飛んだりとか、格好いいじゃん。ありがとうジョウさん……じゃあね!」

 

「おう! ミユちゃんも、元気でな!」

 

「はい、今度はまたフウタと一緒に来ますね」

 

 店から出ていく二人を、店主であるジョウは、手を振って見送った。

 

 

 

 ――――

 夕暮れ時の、殆ど暗くなった帰り道。

 フウタとミユは、横に並んで歩いている。手にはさっき購入した、航空機の模型が入った、袋をぶら下げていた。

 

「あはは、今日も遅くなったね。ジョウさんの店でGBNを遊べるようになってからは、学校が終わった後にはよく、遊びに行ってるから。

 ……ところで、明日は学校は休みだけど、フウタはどうする? 一日中GBNで遊ぶことだって出来るけど……」

 

 しかし、フウタは首を横に振る。

 

「いや、明日はいいよ。それより昼の12時くらいに、ミユの家に行っても、いいかな? 両親とも仕事で遅いから、せっかくだから昼ご飯を一緒に……なんて」

 

 昼から会う約束をしたのは、朝の内に模型店に行くためだった。

 ミユは、その事についてはまだ知らない。が――

 

「もちろん、いいけど。……やっぱり、また何か隠してない、フウタ?」

 

「えっ!?」

 

 思わず、ドキッとしたフウタ。

 

「ははは……そんなこと、ないよ」

 

「フウタは正直すぎる性格だから、逆に嘘は下手なのは、気づいてる? さっきだって、今だって、怪しいのはバレバレなんだから」

 

「ううっ、かもしれないけど」

 

「でも、その様子だと変な事じゃないみたいだし、やっぱり気にしない事にしようかな? けど良かったら後で、何の事だったか教えてね」

 

 やはり二人は長い付き合い、嘘か本当かの区別はもちろん、それ以上の事もミユには分かった。……まぁ、フウタが正直な性格であるせいでも、あるかもしれないが。

「うん、後でなら、ちゃんと教えてあげられるさ。だから今は――」

 

「分かっているよ。けどちょっと、楽しみにはしてるね」

 

 ミユが見せる素敵な笑顔、それをただ一人、フウタへと向けられた。 

 そう言えば――、彼女はさらに、こう続ける。 

 

「たしか、明日の昼は私の家でお昼ご飯……だったね。家にはお父さんがいるけど、お父さんはフウタの事をとっても気に入っているから、きっと大歓迎ね」

 

 調子が戻ったフウタは、こんな提案もする

 

「そうそう、お昼ご飯なんだけど、料理は僕に任せてよ! 

 今は弁当店で調理のバイトをやっているから、料理の腕も前より上がったんだ。得意料理は青椒肉絲[チンジャオロース]! ピーマンやひき肉なんか冷蔵庫によくある材料で作れるから、とても良いんだ」

 

「へぇー、フウタの手料理、楽しみだな。前よりも上手くなっていたら、嬉しいな」

 

「前よりは絶対に上達してるはずさ、期待してて、ミユ」

 

 

 そんな話をしていたらいつの間にか、自宅へと帰りついていた。

 町のちょっとした住宅地、フウタ、ミユ、二人の家はちょうど、並ぶ住宅の中で隣接した位置にあった。

 今歩いている道の、手前にあるのがミユの家、その玄関先でフウタはミユを見送る。

 

「それじゃあ、また」

 

 ミユは頷く。 

 

「バイバイ、フウタ。……良い夢、見てね」

 

「ふふっ、ミユも。――明日は、どうか楽しみにしてて!」

 

 もちろん!――、彼女はそう言って、家の中へと入って行った。

 

 

 ミユが家に帰った後、フウタは一人、期待に胸を膨らませる。 

 

 ――明日、ようやくあれが買えるんだ……楽しみだな――

 

 期待で胸が膨らみ、もう明日が待ちきれない――フウタであった。




――――――――

今回登場した、フウタとミユのイラスト、そして二人の機体写真は以下の通りになります。良ければ!
 
登場人物

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……ちなみに表情別バージョン

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登場機体

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冴えない一日(Side ジン)☆★

 GBN、荒野のフィールドにて、三機のMAが飛翔する。

 闇夜を照らす、仮想空間とは思えない程に綺麗な月に照らされる機体の姿は、三機とも改造されたガザシリーズのMA形態だ。

 元々『機動戦士ガンダムZZ』に登場する、MS、MA両形態への変形機構を持つ可変機。…………なのだが、やたら派手な塗装に、刺を生やしていたりなどと、やたら世紀末的もとい攻撃的な外見となっている。

 

《さてと、次はどんな真似をしようか?》 

 

《低レアのアイテムを初心者に高く売りつけて、コインの大儲け、なんてどう?》

 

《だが、ポイントも稼ぎたいぜ。ミッション中にでも、高レベルのプレイヤーを騙し討ちすれば、たんまり儲かるんじゃねぇか》

 

 やたら物騒な会話を行う、アバターの柄までもが悪い、ガザのパイロット達。

 どう見ても、ただ普通にゲームを楽しむダイバーとは、とても思えない。

 それもそのはず、彼らはGBN内で迷惑行為を繰り広げ、『ガザ三兄弟』で名の知られる悪質ダイバー達であったのだから。

 

 

 

 彼らはこれから行う悪事について、色々と話し合っていた。

 

《確かにポイントも悪くねぇ。ここらで一気に、稼ぎたいとも思っていたしな》

 

 その中でリーダー格と思われる――ここではダイバーAと呼ぶ――ダイバーが、もう一人のダイバーBの意見に同意する。

 だが三人目になる若干オネエ口調のダイバーCは、やや否定的な様子。

 

《だけど、最近だと微妙に警戒されてるじゃない? 他のプレイヤーも集まるミッションだと、不意打ちをするのも面倒でしょ》

 

 これにはダイバーAも唸る。

 

《確かに、それはそうだ。何しろ俺たち悪質ダイバーを狙う、ヒーロー気取りの奴もいるからな、そいつに目をつけられるのも少し不味い》

 

 

 

《なら、一機でいる所を、三機で襲うなんてどうだ? いくらレベルが高くても、俺たちのコンビネーションなら!》

 

《それでもそんなに都合よく、そんなダイバーが一人でいないわよ》

 

 それでも懲りずに高レベルのダイバーを狙う、ダイバーB。ダイバーCは乗り気ではないが、対してタイバーBには、まだ当てがあるらしく、ある事を話す。

 

《ところがどっこい、実はそれに打ってつけの相手がいるんだ。

 ……こんな噂を、聞いたことあるか。あちこちのディメンションを一人放浪し、何かを探して回っている凄腕のダイバーがいるって事を》

 

 この話についてダイバーCは知らない様子だが、ダイバーAには聞き覚えがあった。

 

《ああ、その話なら俺も知ってるぜ。何ならあの『アヴァロン』の一員として、第二次有志連合戦でも活躍していたって話だ》

 

 

 

 GBNにおいては、ダイバー同士の協力要素も存在し、それが部隊システム、『フォース』である。同じ目的を持ち、専用のミッションへ共に挑む、それこそフォースの醍醐味とも言えた。

 その中でもランキング一位のフォースこそ、『アヴァロン』でる。

 リーダーを務めるのは、GBNチャンピオンであるクジョウ・キョウヤ。約二年前に起こったブレイクデカール、そしてELダイバーに関する事件に際して、ダイバー、フォースの連合軍となる『有志連合』を組織し、GBN全てを巻き込んだ第一次、第二次有志連合戦は、今でもダイバー達の間で語り草となっていた。

 

《確かにそんな奴なら、倒せばポイントが高く、手に入りそうだな……ふふふ》

 

 ほくそ笑んでいるダイバーAに、そうだろう、とダイバーBは言う。

 

《そのダイバーは見たことないガンダムに乗っているらしい。大きな特徴は、普通のガンダムより、小型ってことだぜ》

 

《小型の……ガンダムねぇ。何があるか知らないけど、私たちなら余裕そうね》

 

《俺が聞いた、その筋の話では、次はこのディメンションに現れるってよ。

 もし現れれば、その時は――》

 

 悪質ダイバー達がそんな話をしてた、まさにそんな時……『それ』は姿を現した。

 

 

 

 三機の前に現れた黒い影。

 夜の闇に紛れ、姿ははっきりと分からないが、人型のシルエットはまさしくMS。

 そして、頭部からのびる、角のような二本のアンテナと、輝く二つの目。

 それはまさしく―― 

 

《『ガンダム』……か》

 

 ガンダム――それはアニメ『機動戦士ガンダム』から始まる、一連のアニメシリーズで主役として活躍するMSであった。

 そのヒロイックなデザインは、今日に至るまでのガンダムシリーズの人気へと繋がり、GBNにおいても他のMSを凌ぐ高い人気を誇っている機体だ。

 

《それに見ろよ。あのガンダム、普通より小型だぜ。まさかあれが……》

 

 あの正体こそ、先ほど三人が噂した、凄腕のダイバー……なのだろうか。

 

 

《そうと決まれば、早速――倒してポイントを頂くぜ!》

 

 ダイバーAの合図に、B、Cともに応える。

 

()()()

 

 謎のガンダムに向かい、急襲を仕掛ける三兄弟のガンプラ。

 相手もそれに気づき、ライフルらしきもので応戦するも、ことごとくそれを避ける。

 MA形態は加速、機動性ともにMSよりも高い。そのためでもあるのだろう、が……

 

《ははっ! 全然当たらないぜ!》

 

《射撃が全然ダメじゃない、本当に凄腕?》

 

 噂とは全く違う様子に、思わず嘲笑するかのように三機はガンダムの周囲を飛び回る。

 ガンダムは相変わらずライフルで攻撃しているものの、それでも傷一つ、つけられはしない。

 

《それじゃ、そろそろ止めを刺すか。……行くぞ!》

 

 その声を合図に、三機のMAは方向転換し、ガンダムへと向かって行く。

 そして三方向からの、ビーム砲の一斉斉射、相手は成す術もなく次々とビームに貫かれ――爆発四散する。

 

 

 

《ひゃははは! どうだ! いくら凄腕だろうが、俺たちの敵じゃないぜ!》

 

 ダイバーBは得意げに大笑いした。だが、ダイバーCはやや、懐疑的だ。

 

《……だけど、あのガンダム、かなり弱すぎでしょ? あんな動き、初心者と殆ど変わらないわ》

 

《何言ってんだよ、確かに普通よりも小型の、ガンダムだったじゃないか? あれで間違いないぜ。弱かったように思ったのは、単に俺たち三人が、強かっただけの話だ!

 見てみろよ、きっと手に入ったポイントだって……》

 

 そう言って、ダイバーBがポイントを確認した。

 しかし、確認した瞬間、彼の得意げな様子は消えた。

 

《どうしたのよ?》

 

《……馬鹿な! ポイントがほとんど入ってない、だと!?》

 

 ポイントを確認した所、ほんの僅か入ってはいるものの……大して入っているとは、言えなかった。

 こんな中で、ダイバーAは何かに気づいたらしく、こんな事を言った。

 

《おい、二人とも、倒したガンダムの残骸を見てみろ》

 

 先ほど、爆散したガンダムのパーツ。

 頭部と胴体、肩など一部が、原型が残っており、それは三兄弟にも見覚えが、あるものだった。

 

《あれは……F91、じゃないのか》

 

 

 

 ガンダムF91――それは劇場アニメ『機動戦記ガンダムF91』に登場する主人公機。従来のMSよりも小型化した機体が中心に登場し、ガンダムF91もこれまでのガンダムと比較し、小型の部類に入った。

 

《確かに、小型のガンダムだが……確かお前の話では『見たことのないガンダム』だったよな》

 

 これにはダイバーBも、認めざるを得なかった。

 

《ああ。これは…………全く違う機体。ただの人違い、だな》

 

 

 

 ――――

 とある地方都市のガンプラ専門店、ガンダムベース。

 そこでGBNから、ついさっきログアウトしたばかりの青年が、溜息交じりでヘッドギアを外す。

 

「……はぁ」

 

 その傍に位置する、三角形に近い台座。GBNへとガンプラのデータをスキャンするデバイス――ダイバーギアの上には、彼の物と思われる、黒と金色に塗装されたガンダムF91が置かれていた。

 

 ――ディメンションで一人、ガンプラバトルの訓練をしていたのに、まさか三人がかりで襲われるなんて。

 一体、俺が何をしたってんだ――

 

 灰色を基調としたカジュアルな服装に、細目の眼鏡をかけている青年、顔立ちは整っているものの、若干冴えない雰囲気を漂わせている。年はおそらく、二十代半ば、と言った感じだろうか。

 

「ようやくログアウトしたか、随分と遅かったじゃないか、ジン」

 

 青年――タケヤマ・ジンの傍らには、少し前から待っていたのか、年が近い男性が二人。どちらも彼の仕事仲間、そして彼らもGBNのダイバーでもあった。

 

「ごめん、ちょっと待たせた」

 

「全く! 今日はGBNは程々で、その後飲みに行くって約束だったろ? せっかく良い店を予約したって言うのに、時間がないぜ」

 

 多分三人の中では年上で、先輩風を吹かせた青年は、そんな事をジンに言う。

 

「まぁまぁ。待っている間に僕たちは、ガンプラが買えたじゃないか。それで良しとしましょうよ、先輩」

 

 一方、ジンと同期らしいもう一人は、彼を弁護する様子を見せる。

 先輩とその同期の青年は、どちらも手にはガンプラの入った袋を持っていた。

 

「ま、それもそうか。……それじゃ、ジンも戻って来た事だし、早速飲みに行きますか!」

 

 

 

 ――――

 三人はガンプラベースから歩いて数分程度の距離にある、居酒屋へと向かった。

 それなりに良い所らしく、小綺麗な感じの店内。ジンたち三人は、テーブルを囲んで飲み物を頼みながら軽い食事をしていた。……そもそもメニューも、やや高めな物ばかり、あんまり多くは頼めない。

 

「くーっ! やっぱり飲み会一番のビールは上手いな! 身体に染みるぜ!」

 

 早速、届いたばかりのビールを飲み、ぷはっと酒臭い息を吐く先輩。その一方で、同期の方は、頼んでいた焼き鳥を食べていた。

 

「……にしても、相変わらずジンは、酒を飲もうとしないんだな。ケイジの奴だって、ノンアル程度は飲めているのにな」

 

 そして、ウーロン茶をちびちび飲みながらフライドポテトをつまんでいたジン。

 

「……ん?」

 

 自分の名前が呼ばれ、焼き鳥を頬張りながら、同期も顔を向けた。

 が、それは置いておいて、ジンはこう言い返した。

 

「仕方ありません、先輩。自分、ノンアルでも酔って次の日、頭が痛くなりますから」

 

「と言っても、明日は仕事休みだろう? たまには冒険ってのも悪くないぜ。……ほら、これなんか喉越しも良いし、フルーティーな味わいだぞ」

 

「はぁ、これ以上言うなら、パワハラで訴えますよ」

 

「ちぇっ! 連れないやつだな」

 

 と、そんな会話をしているものの、実際は関係としては良好で、悪いものではなかった。こうしたやりとりも、たまにあることだ。

 

 

 するとここで、何かを思い出したかのように、先輩はこんな事を聞く。

 

「まぁ、それはともかく。……ところで、だ。ちょっとはGBNは、上手くなったか?」

 

「うーん。やっぱり、俺はまだ……」

 

 この質問に、ジンは残念そうな表情だ。

 同期も同期で、何かを思い返す様子を見せる。

 

「元々僕たちは、時間を見つけてはたーまに、GBNで遊ぶ程度だったのにな。

 それなのに最近のジンは、僕たちより熱中した様子でさ、本当によくやるよ」

 

「それは勿論。だって、そうしないと、『あの二人』に勝てないだろ」

 

「話は聞いてるけどさ。その二人は世界ランク五百位代の、かなりの強者じゃないか。対する俺たちは、せいぜい行けて百万位くらいだろ? どう考えても程遠いに決まってる」

 

 同期の指摘に、ジンはグサッと来るも、こんな事を言う。

 

「けどさ、頑張ればそのうち、いつか……。だからさ、先輩やケイジ、どっちでも良いから協力してくれないか。二人を相手するには、こっちも二人じゃないと駄目なんだ。

 あれからGBNでもパートナーを探したんだけど、見つからなくてさ。……他に、頼れる人間がいないんだよ」

 

 しかし、先輩と同期の様子は、明らかに乗り気ではないと分かる。

 

「だから言ったじゃないか、僕たちの実力じゃ、全然届くわけがないって。世界の中で五百位近くの上位まで行くってことは、ゲームの腕もガンプラの腕も、並外れているに決まってる。

 ジンが頑張っているのは分かるけどさ、やっぱり諦めた方がいいさ、僕たちには無理だよ」

 

「……ケイジの意見には、俺も同感だ。今日みたいにたまに練習へ付き合う位なら構わないが、さすがにそんな無茶な事は、ご免だ。

すまない、悪いとは思うが、な」

 

 結局、二人はそこまで、ジンの味方になってくれる……と言うわけではないようだ。

 

 ――まぁ、俺だって無茶だって言うのは、分かっているけどさ。あきらめ切れるわけ……ないじゃないか――

 

 彼らなりには、親身になってはいる。決して責めることは出来ないと、分かってはいても、ジンは悔しくて両拳を握る。

 

「さてと、ちょっと暗くなっちまったな。……それじゃ! 仕切り直しと行こうか」

 

 そんな様子を察したのか、先輩は明るく振舞い、楽しい飲み会を再会する。

 同期、そしてジンも、何とか調子を取り戻す。……だが、彼の心の隅には、相も変わらず影が差していた。




――――――

今回登場したF91はこんな感じのデザインに。


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そして本作もう一人の主人公、タケヤマ・ジンのイメージイラストになります。後フウタの、私服姿も(^o^)


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待ちに待ったガンプラ!(Side フウタ)

「……ふぁーあ」

 

 眠気の冷めないフウタは、大きな欠伸をついた。

 窓には街の景色が、次々と流れて行き、ガタゴトと揺れる音がする。

 時間は朝の六時代、始発の電車に乗っているからなのか、他に乗っている人は少ない。……まぁ、ここが地方の田舎であることも、十分に要因とも言えるが。

 

 

 自分の暮らす町から、この辺りで一番大きな、地方都市へと。

 目的は地方に唯一あるガンダムベース、今日はそこに、あるガンプラが入荷されるからである。

 フウタが乗る電車はすでに街中に入り、もうすぐ駅に着きそうだ。

 社内に、終点の駅を伝える、アナウンスが流れる。

 

 ――そろそろ、降りる準備をしないとね――

 

 フウタはカバンを握り、席から立って出口付近へと移動する。

 やがて駅のホームが見えはじめ、ゆっくりと速度を落とし、そして軽く揺れたのち、停止した。

 ドアが開くと、彼は誰よりも早く駅へと、降り立った。

 

IMG_20200304_212850 (1)

 

 

 駅からまた、しばらく歩いた先に、ガンプラ専門店であるガンダムベースがあった。

 時間はまだ七時になったばかり。店の開店までは三時間も先だ。……しかし、すでに店の前では、十人程の人が並んでいた。

 

 ――やっぱり、あれが目的なんだろうな。……早く来て、本当に良かった――

 

 早速フウタも、その列へと並ぶ。

 

 ――後三時間、か。ちょっと長いけど、気長に待とう――

 

 幸い今日は暑くも、寒くもない丁度いい気候だ。

 それに楽しみだってある、数時間待つことくらい……楽勝だ。

 

 

 

 ――――

 ――三時間後。

 あれからさらに行列は伸び、人が集まっていた。

 そして、スタッフにより開店の用意がなされるとともに、人々は店の中へと入る。

 

 

 ガンダムベースの中には、所せましとガンプラが並ぶ。宇宙世紀、アナザー系を問わず、様々なガンダムシリーズのガンプラが、新しいキットから古いキットまで、多く取り揃えていた。

 時間があれば見て回りたい所だが、今日来たのはそんな事のためではない。

 

 

 店で一番目立つ場所に置かれた、いくつもの大型のプラモデルの箱。

 そのパッケージに描かれているのは、天使のような翼を広げた、青と白を基調にした美しいガンダム――ウィングガンダムゼロカスタムの姿であった。

『劇場版新機動戦記ガンダムW Endless Waltz』に登場する主役機、そのこれまでにないヒロイックなデザインには、ファンも数多い。

 先に来たお客は、次々とそのガンプラを手に取る。そして

ついに、フウタの番が来た。

 このゼロカスタムは1/144スケールのHG(ハイグレード)や、1/100のMG(マスターグレード)とは訳が違う。

 規格は1/60ものPG(パーフェクトグレード)。元々PGのゼロカスタムは販売されていたが、最近ではもう在庫は希少であり、ジョウの模型店はもちろん、このガンダムベースにさえも存在していなかった。

 

 

 それが今日、店へと入荷された。

 しかもただのPGゼロカスタムではない。フルカラーメッキが施された――限定品のゼロカスタム、PGのシリーズでは比較的初期のキットではあるが、それでも完成度の高い一品だ。 

 フウタはその大きな箱を持ち、瞳をキラキラとさせる。

 

 ――ようやく、このゼロカスタムが、手に入ったんだ。情報を聞いてから、数か月待った甲斐があった――

 

 

 手にしたガンプラを、彼はレジへと会計へ向かう。

 元々のPGですら一万円以上と高いが、これは限定品であるため、更に輪をかけて高額となっていた。

 しかしそんな事はフウタにとって、大したことではなかった。

 大きめのビニール袋に入れられ、店員から再度渡された、ガンプラの重さ。 

 

 

 

 これを感じた時、改めて彼は……ガンプラが手に入ったと、そう実感した。  

 

  

 ――――

 

「~♪ ~♪」

 

 街の河川敷の上を、上機嫌なフウタは鼻歌交じりで歩く。

 片手にぶら下げているのは、ガンダムベースで購入した限定版PGゼロカスタム。よほど、それが手に入ったのが、嬉しい様子だ。

 昼からはミユの家へと遊びに行く約束をしていたが、まだ時間に余裕がある。

 それに次の電車が来るまで、間もそれなりに長い、それまでの間、街の散策を楽しんでいた。

 こうして散歩したり、どこかに軽く旅行に行くのも、フウタのちょっとした趣味だった。

 一人でするのも良いし、ミユと一緒なのも……もちろん楽しい。

 

 

 外は雲一つない、快晴の青空。吹いてくる風も気持ちいい。

 こんな空の下、見える景色もより良く見える、そんな風に思えるフウタ。

 立ち並ぶ街並みと、河川敷の下には大きな川が流れ、風景を鏡面のように逆さまに反射させる。――どちらも、日の光に照らされて、キラキラと輝いていた。

 

 ――そうだ、せっかくだから一枚、写真でも撮ろうっと――

 

 フウタはポケットからタブレットを取り出すと、カメラモードで風景の撮影をしようとする。

 

 ――ちょっと角度が変かも、それにもっと広い範囲が撮りたいから――

 

 タブレットの画面に集中しながらフウタは動くも、そのせいで足元は、かなりお留守な様子。

 ……そして、それが次の瞬間に災いとなる。

 

 

 足元の僅かな窪みに引っ掛かり、思わずバランスを崩したフウタ。

「うわっ!」

 慌ててバランスを取ろうとするが、間に合わず彼は、盛大にひっくり返って後ろに転倒した。

 

 空と大地が――ほんの一瞬で、反転するのが見えた。

 

 

 

 後ろに転倒して、フウタは仰向けに地面へと倒れた。

 

「……いてて」

 

 幸い頭をぶつけなかったものの、背中を強く打って、かなりヒリヒリする。

 

 ――僕の、タブレットは――

 

 そっちの方は、とっさに右手に握っただったおかげで、傷一つついてない。

 しかし……その瞬間、あることに気が付き、ギョッとした!

 

 ――ちょっと待って! ガンプラの方はどうなった!?――

 

 とっさに周囲を見回すも、どこにも見当たらない。そもそもあんなに大きな箱、気づかないはずはない。

 ……だとすると。

 フウタは河川敷の下を見下ろした。するとそこには……

 

「――――そんな」

 

 目の前に流れる大きな川、ガンプラは川の上にぷかりと浮かび……下流へと流れて行く。

 唖然とし、脱力した彼は、へたりとその場に座り込んだ

 



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バディ結成 (Side フウタ&ジン)

「……」

 

 それからしばらく、河川敷の傍に、フウタは座り込んで景色をただ、眺めていた。

 さっきのショックから、立ち直れないでいる彼――。

 

 ――せっかく……せっかくあれを手に入れるのを、ずっと待ってたのに――

 

 今からガンダムベースに買いに戻っても、既にもう売り切れているだろう。

 溜息を深くつき、体育座りをした膝に、顔を埋める。

 昼からはミユとも会う約束もあるが……正直言って今は、それも少し難しい、かもしれない。

 にっちもさっちも行かない。思わず、再びため息をこぼしそうになる。

 

 

「「……はぁ」」

 

 

 

 すると、誰かと溜息が、重なったような気がした。

 ……右横を見ると、そこから少し離れた場所に、知らない青年が座っていた。

 

「……悪い。君がその――座っているのを見て、もしかしたら気分を落ち着けるにはいいと、思ったから」

 

 若干冴えない雰囲気の青年は、フウタの視線に気づいて、そう言い訳した。

 しかしフウタはあまり気にする様子はなく、僅かに笑みを浮かべる。

 

「僕は、別に構わないさ。お兄さんも……何か落ち込んでいるみたいだし――」

 

 改めて、青年を見ると、彼は大きな箱が入った袋を持っていた。少し透けて見えるその中身は、あの限定版ゼロカスタムだった。

 

「――それは、ゼロカスタムじゃないか。もしかして……」

 

「ん、ああ、これか。俺も気になっていたから、記念にと思って買ったんだ。えっと、君の名前は?」

 

「……カザマ・フウタ」

 

「俺はタケヤマ・ジン。にしてもフウタって名前か……なかなか、良い名前だな」

 

 名前を褒められて、ほんの少しはにかむフウタ。

 

「ん、ありがとう」

 

「ところで、フウタはあのゼロカスタム、買わなかったのか? 見たところ、ガンプラに興味がありそうでもあったから、もしかしてとは思ったけど」

 

 しかし、これを聞かれた途端にフウタの顔は、再び曇る。

 

「確かに、僕もあれが目当てだったさ。だけど……」

 

 先ほど不注意のせいで起こった災難、思わず彼は、その出来事の一部始終を、青年――ジンへと話した。

 

 

 

 ――――

「……と、言うことさ。ははっ、馬鹿みたいだろ?」

 

 フウタの話を、一部始終聞き終えたジン。

 ほんの少し沈黙した後、彼もまた、ある事を打ち明けた。

 

「それを言うなら俺だって……人の事は言えないさ。馬鹿なのは、こっちだって、な」

 

 そんな風に話され、少し気になる様子のフウタ。

 

「ジンさんも、何だか困っているみたいだね。僕も話したんだからさ、良かったら聞かせてよ」

 

 ジンは仕方ないと言うように、苦笑いする。

 

「確かにそうだな。ならちょっと、話すとしますか。

 まずは……ほら、この写真なんだが、見てもらっていいかな」

 

 ジンはそう言ってタブレットを操作し、ある写真を映し出す。

 フウタがのぞき込むと、そこに写っていたのは、ジンとそして、長い茶髪の女性のツーショットだった。

 思いっきり美人とは言えないものの、化粧っ気のない小綺麗な、眩しい笑顔の快活な女性だ。

 

「へぇ、もしかしてジンさんの、好きな人?」

 

「きっかけはほんの些細なことさ。俺がよく行く模型店で、何度か出会う内に仲良くなって……いつの間にか、彼女を好きになったのさ。

 それは向こうも同じで、言わば、両想いって奴だ。だけど――」

 

 深い溜息をつきながら、こんな事を続ける。

 

「――問題は、彼女の兄さんが、俺との交際を認めてくれな

い事だ。俺には妹を任せられないって、それはもう、猛反対」

 

「そっちもそっちで……大変なんだね」

 

 落ち込んでいる二人であるものの、それでも相変わらず、空は晴れ渡っている。

 そしてジンは、おもむろにポケットから、あるものを取り出す。

 

 

 

 取り出したのは――黒と金色の、オリジナルに塗装したガンダムF91、ジンのガンプラだった。

 彼は自身のガンプラを握り、正面から見つめる。

 

「ただ唯一、交際を認める条件は、彼女と兄さんの二人を、GBNのタッグマッチで倒せたら――って言う条件。

 これは兄の方が出した条件だけど、正直言って、かなり無茶なんだ。

 二人とも、タッグマッチでは名も知られる程にバトルの腕は高い。何しろ、GBNの世界ランキングで、五百位まで行く程だからな」

 

 世界規模のユーザーを持つ、GBN。

 五百位と聞くと、一見大したことはないように思える。だが、数千万は軽く超える世界中のユーザーの中での五百位――それは、上級ダイバーの中でも、さらに上級に位置するダイバーと言えた。

 

「それに対する俺はと言えば、最近特訓を始めたと言え、それでも全然。……バトルは大したことないしな」

 

 それを聞いたフウタは、仕方ないと言う風な様子だ

 

「でも、普通そんなものだよ。

 よほど才能があるか、もしくはGBNやガンプラに全力をかけているなら話は別だけどさ。僕も軽く遊んでいる程度だし、ガンプラだってまあまあ楽しんでいる、趣味だしね」

 

 確かに彼の言う通り、GBNそしてガンプラも、あくまで趣味の一つ。フウタも、そしてジンも、それは同じはあった。

 ――しかし、それはジンのある言葉から、変化する事になる。

 

「それに、タッグバトルを一緒にやる相手だっていない。数少ないリアルの友人も、GBNのフレンドだって、尻込みしているからな。

 ……いや、待てよ」

 

 彼は気が向いて購入した、限定版ゼロカスタムをちらりと見た。

 

「なぁフウタ、これは、そんなに欲しかった物なのか?」

 

「それは、もちろん」

 

 フウタは迷わず、即答する。

 

「だったら、頼む。俺と一緒に――タッグを組んで、戦ってくれないか?  

 もし勝てたら、その時にはこのゼロカスタム……フウタに

譲るよ」

 

 どうか、一緒にタッグを組んで欲しい――そう願い出た、ジン。

 戦う相手は、彼の恋人と、そしてその兄。

 ガンプラバトルの腕は高いと、フウタはそう聞いた。だが……

 

 ――それでも、僕だってGBNでガンプラバトルの経験はある。なら頑張って腕を上げれば、もしかすると――

 

 それに、限定版ゼロカスタムの存在。あれは、どうしてもフウタにとって……欲しい物だった。

 なら――答えは一つ。

 

 

 

「分かった。僕もジンさんと……一緒に戦うよ」

 



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第二話 腕試し
回想その1 フレンド登録(Side フウタ)


 ――――

 

 時間は正午を過ぎ、時刻は一時を回っていた。

 

「むぅ……遅いな、フウタ」

 

 家のリビングで、ミユは机の上で、頬杖をついていた。

 そうしていると、その机に一匹の白いネコが、ピョンと乗っかり彼女に頬ずりする。

 

「シャルルってば、もう、くすぐったいよ」

 

 この白い雄猫、シャルルもミユの家族の一員。ちなみに猫はフウタの家でも一匹――あっちは三毛の雌猫だが――飼っている。

 二人のGBNでの姿、ダイバールックに猫の要素があるのは、そのためでもあった。

 

「ミー!」

 

 ミユは机に乗ったシャルルを両手で掴み、床へと降ろした。

 

「まぁまぁ。気になるのは分かるが、たった一時間じゃないか」

 

 彼女の向こう側では、父親が新聞を片手にコーヒーを口にし、せっかくの休日をくつろいでいる。

 システムエンジニアとして働くミユの父親は、痩身のナイスミドルと言った男性。今でも女性に声を掛けられることもあるらしいが、それでも愛妻一筋の良い父でもある。

 

「でもお父さん、いつもならフウタは連絡してくれるんだよ? 何かあったのかも……」

 

 そんな時、家のインターホンが鳴った。

 もしかすると――、ミユは玄関に駆け寄り、声をかける。

 

 

 

「もしもし、どなたですか?」

 

「僕だよミユ。……遅れてごめん」

 

 この声は、フウタのものだった。

 ミユが玄関を開けると、そこには息切れをしている、フウタの姿があった。

 

「ちょっと用事があって、電車に乗り遅れてさ。

 でも! ミユと約束があったから、急いで走って来たんだ」

 

「……もう。急がなくても、連絡くれたら、それで良かったのに」

 

「あっ! そう言えば、そうだった。連絡する事も忘れていたなんて――」

 

 どうやら、急ぎすぎたせいで連絡の事まで、頭が回らなかったフウタ。

 ミユはちょびっと呆れた様子を見せるも、遅れながらも来てくれたことや、そしてフウタに会えたことに――嬉しそうな様子だ。

 

「ううん。ちゃんとフウマも来てくれたし、もういいんだ。

 ……ほら、いつまでもそこにいないで、家に入って来て。 フウタが青椒肉絲を作ってくれるって約束だから、私とお父さんも、待ってたの」

 

「ははは。待ちすぎたせいで、こっちもお腹ペコペコだとも。だが、フウタくんの手料理が食べれるなら、悪くはないさ」

 

 ミユとその父の言葉に、フウタは玄関から家の中へと上がる。

 すると白猫のシャルルは、彼の足元に絡みついて来る。

 

「ふふっ、シャルルも出迎えてくれるんだね。よしよし」

 

 彼は猫の喉元をやさしく撫でる。 

 そして早速、キッチンへと向かい、料理に取り掛かろうとした。

 

「さて、と。ちょっと時間がかかるかもだけど、楽しみにしてて。

 ――腕によりをかけて、料理するからさ!」

 

 冷蔵庫から材料を用意し、道具の準備をするフウタ。

 そして料理を始めるなか……彼は二時間前のある出来事について、少し思いをはせる。

 

 

 

 ――――

 時間はさかのぼり、朝の十一時頃。

 フウタとジンは、ガンダムベースへと戻り、そこでGBNへとログインした。

 ゴーグルをつけ、ログインするとともに、意識がふわりと浮かぶ感覚とともに……どこかへと向かって行くようなイメージ。

 そして――

 

 

 二人が立っていたのは、GBNのロビー。

 円形の広いホールに、あちこちにモニターがあり、ガンプラバトルの様子を映し出す。

 もちろんダイバー達も、数多い。

 オリジナルのダイバールックをした者もいれば、これまでのガンダム作品に登場したキャラクターのコスプレをした者

、そして各勢力の軍服や制服を着用した者など……多種多様だ。

 フウタの恰好は、パイロットスーツにゴーグル、そして青髪に猫耳と言った、いつものダイバールックだ。

 

「へぇ、それがGBNでのフウタ、なんだな。なかなか良い恰好じゃないか」

 

 声がした隣を見ると、そこにはジンの姿があった。

 しかし現実とは違い、黒ではなく灰色の髪となり、眼鏡はかけていなかった。

 そして格好もややカジュアルな現代風の服装から、まるで中世ファンタジーの、旅人のような恰好をしている。とりわけ背中に纏った灰色のマントなど、いかにもな雰囲気を感じさせる。

 

「まあね。じゃあまずは、先にフレンド登録から済ませておこうか」

 

 GBNではこうしてフレンド登録をしておけば、相手のログイン状況や現在地を知ることや、連絡など取り易くなる。

 今後何かあった時など、これで楽になるはずだ。

 二人はメニュー画面を開き、互いにフレンドの登録を行う。

「カザマ・フウタ……っと、こっちは登録したさ」

 

「僕もジンさんを登録したよ。これで今度は、直接会わなくてもGBNで連絡がつくはずだ」

 

 フウタ、ジンはフレンド登録を済ませた。

 そしてフウタの方は、少し考えた後、こんな事を話す。

 

「――さてと、手伝うって言ったはいいけど。まずは互いの腕を知っていた方が、良いんじゃないかな?」

 

「腕を知るって事は、フウタとフリーバトルって、ことか。場所はどうする? 俺としては……そうだな」

 

 ジンは画面を開き、周囲のマップを確認する。

 

「場所はそうだな、ちょっと離れているけど、この湖近くはどうだ。戦うには丁度いい感じじゃないか?」

 

 マップをのぞき込む、フウタ。

 

「うん。たぶん、ここなら良さそう。それじゃ早速行こう。

 ……こっちも用事が控えてるし、早く済ませよう」

 

 彼にはミユに昼ご飯の約束をしていた。とりあえず今日は、早めにこの用事を済ませたかった。

 

 

 

 ――――

 

 高層建造物から飛び立つ、二機のMS。 

 フウタのレギンレイズと、ジンのガンダムF91……世界観が全く異なるMSが同じ空を飛ぶ、これもまたGBNならではだ。

 

「……ジンさんのガンプラはさっき見させて貰ったけど、これが僕のガンプラ、名付けて『レギンレイズ・フライヤー』。AEUイナクトとのニコイチで、軽い改造だけどね」

 

 コックピットで機体を操縦する、フウタ。彼は横に表示される通信画面に映るジンに、こう話した。

 

〈たしか、鉄血のオルフェンズの、MSだったよな。オリジナルは緑だった気がするけど、そのブルーは塗装したって事かい?〉

 

「そう言うこと、青色が好きな色だしさ。本当はエアブラシだとかの方がいいんだろうけど、高いし扱いが難しそうだから、スプレー缶で塗ったんだ」

 

〈へぇ、でもなかなか綺麗な色じゃないか? 俺の場合は、全部筆塗りだからさ、微妙に塗装のムラが目立つんだよな……〉

 

 ジンも、そしてフウタもガンプラや模型は好きで、趣味の一つである。

 しかし、一言でガンプラ、模型と言っても楽しみ方もまた人それぞれ。塗装一つでも、スプレー缶や筆塗り、そしてエアブラシに無塗装などと、人によって千差万別だ。 

 加えて更に、接着や合わせ目消しに、プラ板、パテ盛りによる工作もあり言い出せばきりがないが――GBNではこれらの制作、工作技術もまた、重要な要素。

 

 

 何しろこのゲームは、単なるゲームの腕のみならず、ガンプラの完成度がそのまま、機体の性能へと左右される。

 攻撃力、装甲、機動性など、各種の性能はもちろん、一部MSに搭載される特殊システム、EXAMやトランザムなどの能力もまた、ガンプラの出来が良ければ良いほど高くなる。……逆を言えば、出来が不十分であれば、それも満足に使えないと言うことであるのだが、これはまた別の話だ。

 

「まぁ、そこは人それぞれ、好きに作るものだからね。……僕だって、自分より年下の相手が、もっと凄い模型を作っているのを沢山見てきたし」

 

〈言い出したら、きりがないって事か。ははっ、言えてる〉

 

 そんな話をしながら、フウタはふと外の風景を眺めていた。

 下には鬱蒼とした森が広がり、遠くには別のエリアとなる、雪山までも見渡せる。

 そして青く、広々とした空――、ついここが仮想世界であることを、忘れてしまいそうだ。

 どうやら、ジンも同じように風景を眺めていたらしい。彼はフウタにこう話す。

 

〈今更だけど、このGBNは、よく出来ているよな。こうして眺める風景や、空も、本物みたいに綺麗だ〉

 

 フウタもまた、同意を示す。

 

「そうだね。僕は現実世界でも、旅行や散策が趣味なんだけどさ、ここも負けず劣らずだよ。

 それにGBNでは……こうして空だって、飛べたりするし」

 

 そしてこんな事も、続けて話していた。 

 

「僕はガンプラの他に、航空機の模型なんか好きなんだ。

 だけど、こんな風に自分の作った模型に乗って、空を飛べるのはガンプラや、GBNならではだよね」

 

〈――そうだな。俺も交際出来たら、この空でデート、ってのも悪くない。

 まぁ、GBN歴の長い彼女にとって、珍しくないかもしれないけどな〉

 

 フウタはこれを聞いて、ジンが好意を抱いている女性の事を、きっと今思い浮かべているのだろうと、そう思った。

 

 ――ジンさんは好きな人のために、強くなろうとしているんだよね。……僕も、その気持ちは分かるし、出来る限り頑張ってみたいな――

 

 そう思っていると、下に目的地が見えて来た。

 

「さてと、ジンさん。考えている所悪いけど、そろそろ目的地だよ」

 

 フウタの声で、ジンははっとしたようだ。

 

〈おっと! ちょっと考え込んでたな。じゃあ……降りようか〉

 

 眼下には大きな湖が見える。二人は自らの機体を、その近くへと降下させる。

 

 

 

 

 ――――

 

 ――そうそうあの時、空の上ではそんな事を、ジンさんと話していたんだよね――

 

 フウタがこんな風に、さっきの出来事を思い出している内に、青椒肉絲は出来上がっていた。

 

 ――おっと、こっちも出来上がったね。ミユ達に持って行かないと――

 

 彼はフライパンからそれぞれ皿に三人分盛り付けると、ミユと彼女の父親のもとに運ぶ。

 

「はい! お待ち遠さま! あっ、でもちょっと待ってて、ご飯の方も用意するから」

 

 そう言って、またキッチンに戻るフウタ。

 炊いてあったご飯を茶碗によそって、青椒肉絲の皿の横に、置いて行く。

 そしてフウタもまた、テーブルへとついた。

 

「ふふっ、我ながらよく出来た感じ」

 

 テーブルには、三つのご飯茶碗と、青椒肉絲の盛り付けられた皿が置かれている。 

 ミユはその青椒肉絲を、しげしげと眺めた

 

「……へぇ、前の時より、とっても美味しそう!」

 

「だから言ったろ? 前よりも上達したって。それじゃ……いただきます、と」

 

 試しにまずは、フウタが青椒肉絲を一口。

 

「うん。味も……なかなか悪くない、はず」

 

 続いてミユと、その父親も……。

 

「ほう? これはなかなか、いけるじゃないか」

 

 彼女の父親はその味に、悪くはないと言った様子だ。

 そしてミユはと言えば。

 

「あっ! 全然美味しいよ、フウタ! ちょっとピリッとして辛いけど、良い感じだね」

 

「ミユが喜んでくれて、何より! 作った甲斐があったさ」

 

 美味しそうにしている彼女に、フウタは心底嬉しそうに笑っていた。

 

「いざとなった時には、ちゃんと料理も出来ないといけないしさ。……今度は、ハンバーグなんかにも挑戦しようかな」

 

 そう話す彼に、父親は少し茶化すように言う。

 

「いわゆる、フウタの花婿修行って事かい?」

 

「――もう! お父さんってば、恥ずかしい事言わないでよ!」

 

 恥ずかしがるミユはそう言うも、相変わらずの父親。

 

「まぁまぁ。だって幼馴染から、恋人だろう? だったら、このまま行けば……」

 

 

 

 これにはフウタは照れるかのように、少し頬を掻く。

 

「……そりゃ、まだ随分先だけど、僕だって家事が上手く出来るようにならないとね。家では料理以外の家事だって、こなしているしさ。

 ……その時にはちゃんと花婿として、ミユや、いつか出来る家族に、美味しい料理を振舞いたいんだ。まぁ、料理上手なミユには……ちょっと程遠いけど」

 

 そう話しながら、彼は照れる感情を誤魔化すように、自分の青椒肉絲を口にする。

 フウタの想いを聞いたせいか、やや顔を赤らめるミユ。

 

「フウタまで、そんな事言って」

 

「ちょっと気が早いかもだけど、別に、考えるくらいならタダだろ? 両想いでもあるしさ、その時には……良いと思うんだ」

 

 ミユはさらに顔が赤くなり、頬を膨らませて青椒肉絲をぱくつく。

 

「フウタははっきり言いすぎ! そんな事くらい、私だって……もぐもぐ」

 

 しかし青椒肉絲を食べながらも、まんざらでもない様子の、彼女であった。

 

 

 するとふと、ミユは箸をとめて、ふふっと笑う。

 

「……でも、始めたばかりの頃よりも、ずっと美味しくなってる感じ。このままだと本当に、追い越されちゃうかも。

 フウタがそう言うなら、私も負けてられないかな。今度は私が、フウタの家に遊びに行って、もっと美味しい料理を作らないとね」

 

 これにはフウタは心底、嬉しそうなようだ。

 

「それは嬉しいな。ミユの料理の方が、ずっと美味しいし!」

 

「料理の腕を磨いているのは、フウタだけじゃないんだから。さっきの話で言うなら、私だって花嫁修業って事、かな?」

 

「ふぇっ!」

 

 いきなりの言葉に、今度はフウタが変な声を出してドキッとした。

 

「くすっ、フウタが先に言ったのに、驚くことはないでしょ」

 

「……言うのと言われるのは、また違うさ」

 

 今度はフウタが、どぎまぎした様子。

 

「これで少しは、私の気持ちも分かったかしら?

 ――けど、それよりフウタも食べよう。早くしないと冷めちゃうよ」

  

「あっ……そうだった!」

 

 言われてみれば、まだ彼は殆ど自分の料理に口をつけてなかった。

 話に夢中になっていたフウタは、ようやく昼食を再開する。 

 自分の作った青椒肉絲を食べながら、ふとある事が頭をよぎった。

 

 ――そう言えば、ジンさんはどうしているかな。あれからまだGBNにいるって事だけど――

 



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回想その2 腕試し (Side ジン)★

――――

 フウタが幼馴染の家にいる頃、ジンはまだGBNに留まっていた。

 今は簡単なミッションを受け、機動新世紀ガンダムXの量産機、ジェニス、ドートレスとの戦闘を繰り広げていた。

 本編の第二話、主役機であるガンダムエックスを狙いに、ならず者――ヴァルチャーが襲撃に現れた展開を再現したミッションと言うこともあり、両機ともカラーリングも、カスタマイズもそれぞれ大きく異なる。

 

 

 ジンのF91はその機敏な動きで、キャノン、マシンガンなどの相手による飛び道具の攻撃を避けつつ、ビームライフルで次々仕留める。

 

 ――対して強いわけじゃないが、やはり、数が多い――

 

 内容は初心者向けミッションに近い難易度だけあり、一体一体の実力は大したことはないものの、敵の数はかなり多い。

 

 ――けどその分、腕を磨くには丁度良い。俺は、もっと強くならないと――

 

 ミッションでの戦いを、一人繰り広げるジン。

 そしてそんな中……彼もフウタ同様、さっきの事を思い出していた。

 

 

 

 ――――

 一、二時間前。

 フウタとジンは腕試しの場として、GBN世界に位置する、湖へと来ていた。

 その湖の周囲は、広い平野がある。そこはまさしく、戦うには最適ともいえる場所だ。

 

 

 二機のMSは、湖を挟んで向かい合う。

 その大きさも決して小規模ではなく、離れた距離に位置する機体は、それなりには確認できるものの、互いの姿は小さく見えた。

 ジンが乗るコックピットの中、モニターに映るフウタは、こう話しかける。

 

〈さて、それじゃお手合わせ……と、その前に。ジンさんのその武器、対策は用意していたみたいだね〉

 

 ジンが乗るガンダムF91は、オリジナルには存在しない装備である、長い実体の槍を手に持っていた。

 ちなみに本来の装備としては、ビームサーベルにビームライフル、そしてビームの収束率、射出速度の調整が可能かつ、高速で貫通力の高いビームを発射する可変速ビームライフル――ヴェスバーを背部に搭載していた。

 だが……。

 いくらアマチュアなジンでも、ある程度の知識は持ち合わせていた。

 

「これでも、それなりにGBNはしているからな。鉄血系の機体にはナノラミネートアーマーがあることや、ビーム兵器だと相性が悪いことぐらいは、俺だって!」

 

 対して、フウタが使うレギンレイズは、鉄血のオルフェンズの世界観の機体であることもあり、搭載されたエイハブ・リアクターの発するエイハブ・ウェーブに反応して実弾、ビーム兵器に対して高い防御力を発揮するナノラミネートアーマーが存在していた。

 頭部のバルカン以外はビーム兵器と言ってもいいF91にとっては、まさに手ごわい相手である。

 ジンはそれに備え、本来ない近接装備を用意し、戦いに挑んだ、と言うわけだ。

 

 

 

 フウタのレギンレイズは、自らの近接装備である一本の、パイル型の武器を構え、身構える。

 

〈相手にとって、不足なしって事かな。

 まぁ僕も、腕はそこそこだし自信はないけど、始めようか〉

 

 そして向こうのジンも、戦闘態勢に入る。

 

「そうだな、じゃあ手合わせ願おう。

 正直、大人げないと思うが……先手必勝!」

 

 彼は機体を一気にフルスロットル、高速でレギンレイズに突撃する。

 元々F91は機動性、加速性の高い機体。手にした槍に、その速度で威力を乗算――決まれば相手を貫くことも、容易なはずだ。

 

〈それくらいなら!〉

 

 対して、レギンレイズは上に跳躍して避ける。

 F91の槍の突撃を避けられ、とっさに相手の方へと薙ぐ行動を取るものの、向こうはその範囲よりも、高く跳躍して当たらない。

 

 

 と、今度はフウタのターン。

 レギンレイズが自身の背後に手を伸ばし、腰背部にマウントされているライフルを抜いた。そして真下に位置するF91へと乱れ撃つ。

 だが、その腕前はそこまで良くはない。

 狙う余裕があるならともかく、とっさの反撃による乱れ撃ち、フウタ程度の腕では大して当てられるわけがなかった

 つまりジッとしていれば、おそらく当たらない、はずだ。

 しかし……

 

 ――うわっ!――

 

 突然の反撃にジンは慌て、とっさに左にスラスターを思いっきり噴かして避けてしまった。

 そのせいで本来当たらないはずの弾が左肩に当たり、損傷を受ける。

 

 ――ううっ、これは下手な手を打ったか―― 

 

 ガンプラバトルがそれなりに上手い人間なら、F91に装備されたビームシールドで銃弾を防ぎながら敵機に向かって行き、そして攻撃を繰り出すなど、良い手があったはずだ。

 それに引き換え……ジンの取った手は、完全に悪手である。

 スラスターの出力をつい出しすぎたこと、また攻撃を受けたことにより、F91は避けた直後に態勢が大きく崩れた。

 

 

 

 フウタはこれを逃さない。レギンレイズは急降下し、ジンのガンダムF91めがけてパイルを構える。が、その判断と、動作に移るまでの速度も、若干遅い。

 それがジンにとって幸いし、何とかギリギリ態勢を整える猶予が出来た。

 飛来する機体――そして、振り下ろされるパイル。 

 態勢を戻したF91は槍を両手で握り、その長い柄で攻撃を防ぐ。

 両者はしばらくの間、拮抗してつばぜり合いとなる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……腕としては、互いに同じくらいって、感じか」

 

 ジンの言葉に、モニター上のフウタは、苦笑いする。

 

〈むしろ、どっちもどっちって所だね。互いにアマチュア同士って事だし、グダグダな戦いさ。

 これじゃ、やっぱり上位プレイヤー相手に戦うのは、程遠い〉

 

「それは、悔しいけど同感だ」

 

〈あの二人に勝つには、かなり腕をあげないといけない、か〉

 

 溜息交じりでこう話すフウタ。

 だが……彼はさらに、こんな事を続ける。

 

〈――だけど、ジンさんには悪いけど、僕の方が少し上手かも!〉

 

 ……だが、F91が両手とも塞がっているのに対し、レギンレイズがいま使っているのは、パイルを握る片腕のみ。  もう片方に握られた武器は……先ほどのライフルである、

 

〈もらった!〉

 

 フウタはそのライフルで、相手の胸部を撃ち抜こうとする。

 

 

 

 レギンレイズはライフルを向け、引き金を……。

 ――いや、それよりも僅かに早く、火を噴いたのはF91のヘッドバルカン。

 何十発ものバルカンの銃弾が、レギンレイズの頭部へと叩きつけられ、激しいショックと映像の乱れに、パイロットのフウタは怯む。

 ジンにとっては、運よく反射的に、とった行動だった。

 向こうが怯んでいる隙に、僅かに二機との距離を取る。

 

 

 攻撃のせいで未だ視界が回復しない、フウタのレギンレイズ。

 機体は腕に握る近接武器を、盲目的に振り回していた。この状態では迂闊に接近も出来ず、鎗の攻撃も阻まれるかもしれない。

 

 ――なら、これはどうだ!――

 

 ジンはF91背部のヴェスバーを展開し、高収束、高射出のエネルギービームを放つ。

 ナノラミネートアーマーはビーム兵器に、高い防御力を誇る。だが、模型の作りこみにより性能が左右されるGBNでは、絶対とは言い切れない。そして貫通性のある高威力のビーム兵器を、至近距離で受けたとしたなら――

 

 

 

 ガンダムF91による、会心の一撃。

 それを受けた相手の機体は吹き飛ばされ、平野の外縁の、森へと突っ込んだ。

 森の木々をへし折り、倒れるレギンレイズ。

 ……だが、すぐに金属の身体を起こし、機体は立ち上がる。

 視界はもう回復したらしく、装甲が砕け、複眼タイプの内蔵センサーが剥き出しになった頭部を、F91へと向ける。

 それにビームを受けた胴体も、致命傷にはなっていないものの、装甲は幾らか剥げてボロボロとなっていた。

 これなら、再度攻撃を命中させれば――。

 再度ヴェスバーにより、一撃を加えようとジンは試みる。

 

 

 ……が、レギンレイズはブースターで一気に加速し、発射寸前のF91に体当たりを食らわせた。

 体格差のある分、機体は激しく衝突したショックで、態勢を崩す。

 そして態勢が崩れたF91に、パイルを握り、先ほど損傷した左肩へと突き刺し抉った。

 このダメージで、左腕はだらりと下がり、動かなくなった。

 もっとも、槍を握っているのは右腕。

 F91は槍を薙ぎ、レギンレイズを引き離そうと試みる。

 

 

 後方に反撃を回避するフウタ、しかし再びパイルで打ちかかる。

 対してジンは片腕の槍で応戦。二機は激しく近接戦闘を、繰り広げる。

 

「こんな時に言うのも何だが、全力を出して戦うのは……気持ちいいな!」

 

〈ああ! いつもはちょっと軽く遊んでいるくらいだけど、たまには本気でやるのも悪くないさ!〉

 

 互いの武器がぶつかり合う音が、周囲に響く。

 確かにジン、そしてフウタは、GBNでは全然のアマチュアだ。

 その戦いも、上級、または中級ダイバーの目で見れば、かなり下手な所が目立つもの。……それでも、二人にとってはなかなかない、対等で、本気の戦いだった。

 機体はボロボロ、だが今まさにこの瞬間、その戦いを心から楽しんでいた。

 

 

 両者の近接戦闘、それはしばし、譲らない互角の戦いを見せた。……だが。

 レギンレイズの腕は、突然関節がおかしくなり、動かなくなった。さっきのヴェスバーのダメージは、胴体だけでなく腕部にも響いていたのだ。

 そのチャンスを、逃さないジン。

 何度目かの、槍による攻撃。それで相手のパイルを持つ腕ごと、切断して弾き飛ばす。

 

〈やるね! でもまだまだ!〉

 

 そう、まだライフルがレギンレイズに残っている。

 機体はライフルの銃口を、F91のコックピットがある胸部へ向ける。 

 そしてF91もまた、ヴェスバーを展開し、レギンレイズの胸を狙った。

 フウタ、ジンとも、そのタイミングは全く同じ。両者は動けず、その場で固まる。

 

「これは、引き分け――って事か」

 

〈……そうだね。やっぱり、どっちも実力は、同じみたいだし〉

 

 ジン、フウタはそう言い、構えた武器を下した。

 元々は互いの実力を知るための、戦いだった。だからこれ以上戦う必要も、もはやないのだ。

 

 

 

〈あーあ、戦うからには勝ちたかったけど、仕方ない〉

 

 引き分けと言う結果に、ほんの少しフウタは残念そうだった。

 

〈でもまぁ、楽しめたから、良いか〉

 

 ……それでも、やっぱり満足そうに、彼は笑った。

 対して、ジンも。

 

「まぁな。だけどこれで、俺たちは良い相棒に、なれそうな気もしたぜ」

 

〈相棒……ね。乗りかかった船だし、悪くないかも。それに、少しは強くなりたいっていうのも、思ったし〉

 

「たしかに、俺だってまだまだだし、これから伸ばして行きたいさ」

 

 こうして戦ってみて、改めて自分の力も分かった。

 そして互いの事も、知ることが出来た二人は、握手を交わそうと手を伸ばす。



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回想その3 不意打ち……そして決意(Side ジン)★

 ――だが。

 

 

 

〈……えっ!?〉 

 

 突如、どこからか飛来する、数発ものミサイル。

 それは全て、レギンレイズへと直撃。フウタは何が起こったか訳が分からないまま、機体は爆発に飲まれて、吹き飛んだ。

 

 

 さっきまで彼の顔が映っていた、モニターはブラックアウト、何も映らなくなる。

 

 ――何だと! これは一体――

 

 何が起こったのか、分からなかったのはジンも同じだった。

 

 ――さっきの攻撃は、湖からか!?――

 

 ジンがそう考え、湖に視界を移した瞬間……。 

 

 

 激しく水飛沫を上げ、姿を現した異形の姿。

 やたら長い両腕と左右に伸びるショルダーアーマー、頭部と一体化した丸っこい胴体と、短い脚。

 水色の、人型とは離れた身体を持つ機体は――ジオンの水陸両用MS、ハイゴックだ。

 その胴体部上面には左右に二門づつの、魚雷の発射管がある。加えて丸い頭頂部には、白いドクロのペイントが施されていた。

 おそらく、先ほどの攻撃は、このドクロマークのハイゴックによるものだろう。

 

 

 ――くっ! フウタの仇だ!――

 

 ジンのF91はヴェスバーで撃ち落とそうとするも、それが展開するよりも早く、水上を滑走するように飛翔し、その伸縮自在のフレキシブル・アームを伸ばす。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 アーム先のクローは、そのままF91の胴体を鷲掴みにする。

 クローの強力な腕力は、F91の胴体のみならず辛うじて動かせた右腕と、そして背部のヴェスバーまでもまとめて握り潰し、お釈迦にした。

 

 ――ヴェスバーまでも使えないか! けどまだ頭のバルカンが――

 

 もはや悪あがきでしかないが、唯一使用可能な武装、ヘッドバルカンを放つ。……だが、それはハイゴックの装甲を前に、ビクともしない。

 

〈フハハハハ! 残念だが俺のハイゴックは、そんな貧弱武装じゃビクともしないぜ!〉

 

 すると相手から通信が入り、画面にはいかつい水夫服の大男が現れた。

 頭に赤いバンダナキャップを被り、顔に浮かべる豪快な笑いは、水夫と言うより海賊みたいだ。

 

「お前は……」

 

〈悪いな、戦っている最中に! だが、そうやって他に誰もいないと油断したアマチュアは、俺にとって格好の獲物ってわけだ!〉

 

「って事は、初心者狩りかよ」

 

 クローの威力は更に増し、メキメキと機体がきしむ音がする。

 

〈初心者と言うか、俺が倒せそうな相手なら、誰でもな。

 結局、GBNは弱肉強食……悪く思うなよ!〉

 

 F91を掴むハイゴックの腕部には、ビーム・キャノンが

内蔵されていた。

 

〈――じゃあ、サヨナラだ!〉

 

 それとともに腕部のビーム・キャノンが火を噴き――F91を貫いた。

 

 

 

 ――――

 

 突然の奇襲にあえなく敗れた、フウタとジン。

 

「あーあ、結局ジンさんも負けちゃったか」

 

 ハイゴックに倒され、ジンがログアウトした所に、フウタがそう声をかけた。

 

「……ああ。まさかいきなり奇襲を仕掛けられるとは、思わなかったしな」

 

「まぁ僕なんか、何も分からず撃破されて、正直訳が分からなかったけどね」

 

 これには苦笑いを浮かべる、フウタ。

 

「ただ、分かったことと言ったら……お互いに、道のりは長いってことくらいか。

 もし本気で実力を付けるなら、しばらくはGBNに熱中して、出来る限り経験値を稼がないと」

 

「それは、違いない。俺も仕事で忙しい時以外は、出来るだけログインするようにするとも。もし時間が取れれば、二人でバトルの練習も、しておきたい所だ」

 

 本来の目的は、タッグバトルでの勝利だ。その辺りもどうにかしたいと、ジンは考えていた。 

 

「予定が合えばね。でも……世界ランキング五百位の相手と、か。頑張っても手が届くか……ちょっと不安だけどね」

 

 そう、二人が倒すべき相手は、上級ダイバーに位置する存在だ。

 単なるGBNのライトユーザーの二人が、どこまで行けるか……どちらも分からなかった。

 だがそれでも――

 

「それでも、出来る限りはやってみせるさ。まずは……」

 

 ジンはフウタに、こう言った。

 

「まずは俺たちを襲った、あのハイゴックを倒せるようになる事が、目標だ」

 

「僕たちを襲って来たの――ハイゴックだったんだ。もしかしてあの湖の中から?」

 

 真っ先に奇襲され、相手が誰かも分からず撃破されたフウタは、そう尋ねる。

 

「ああ、突然湖から飛び出して来てな。多分、あの様子だと水中からずっと、様子を見ていた感じだ。

 ……それに奇襲とは言え、腕としては俺たちよりも上、中級ダイバーくらいだと思う」

 

「ふーん、まぁやられた借りもあるしね。最初の目標は、そのハイゴックを倒せるようになるって事か」

 

 

 こうして二人の、とりあえずの目標が決まった。

 

「それじゃあ決まりだ。俺はせっかくの休日だからまたGBNに戻るが、フウタはどうする?」

 

「僕はこの後約束があるから、もう帰るよ。ミユと一緒に昼食を……って!」

 

 そう話しながら、ふと壁の時計に目を移したフウタは、急に表情が変わった。

 

「まずい! 時間が12時半を過ぎてる! 昼食って事だから、この時間には家についているはずだったのに。

 ……今からだと、帰りの電車は何時があるんだ!?」

 

 どうやらGBN内で、予想以上に時間を使ってしまったらしい。

 わたわたと慌てながら、彼は端末で電車の時刻を確認する。

 

「うげっ、後十分後に出発かよ! ……悪い、ジンさん。そう言うわけだから、僕はもう行くよ。連絡はまたGBNで、それじゃ!」

 

 フウタは慌ただしく、早口でそう言い残すと、ガンダムベースから出て行った。

 

 

 

 ――――

 

 ――その後、俺はGBNに戻って、今に至る……と――

 

 F91のビームライフルが、また一機のMSを撃墜した。

 残るは後僅か。ジンは一通りさっきの事を振り返り、今の戦いに再び集中する。

 敵のレベルも大したことはない上に、数さえも少ないのならば、もはや楽勝だった。

 次々と残りのMSの撃破する、ジンのガンダムF91。

 

 

 そして最後に残った、一機のヴァルチャー用ジェニス。

 手には大型のアックスを握り、ブースターで迫って来る敵機の姿が見える。

 だが……。

 

 ――全然遅い!――

 

 ビームサーベルを抜き、F91はジェニスの上半身と下半身を、真っ二つに切り離した。

 爆発する機体とともに、コックピットには次の表記が現れる。

 

『MISSION COMPLETE』

 

 

 ミッションをクリアし、一息つくジン。

 

 ――最初はあの数がきつかったが、今はあんまりそうでもなくなった感じだな。……ま、と言ってもこれは初級ミッションでもあるし、今度は中級で比較的簡単なミッションでも受けてみるか――

 

 と、今後についてジンは、少し思いをはせる。

 確かに目指す場所は遠いが、僅かでも着実に、伸びてはいる。

 それに……。

 

――今はこうして、一緒に戦う相棒も出来た。約束通り二人に勝って、彼女の兄に交際を認めてもらう事も、きっと夢じゃない――

 

 彼の胸には、希望の灯が今大きく、煌めいていた。

 




――――――


毎日投稿はここまでになります。次回以降は用意出来た順に挙げるために不定期になるかもですが、最低でも一週間に一話更新する予定ですので、よろしくお願いしますm(__)m


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第三話 大乱闘! 合同イベント!
ティーブレイク(Side フウタ)


 ――――

 それから一週間と少し後、フウタ、ジンともに時間を見つけてはGBNにログインし、ミッションなりフリーバトルなりでバトルの経験を積んでいた。

 二人はともに戦い、少しずつではあるものの、タッグとしての息も合い、実力もついて来た……と、互いにそう感じていた。

 

 

 

 ――――

 

「……にゃろう!」

 

 砂漠のバトルフィールドを縦横無尽に駆ける、何体もの四足歩行の機体。

 まるで動物を思わせる機体は、機動戦士ガンダムSEEDに登場するバクゥと呼ばれるMS。人型ではないが、一応、

 

 

フウタのレギンレイズ・フライヤーに向かい、背中のレールガンで砲撃を放つ。

 フウタはどうにか回避し、ライフルで応戦した。

 レールガンを放った機体、さらに続いて接近して来たもう一機も、とっさに撃破した。

 反射的な行動かつ、偶然ではあったものの、連続で二機撃破したフウタは、やや得意げな様子を見せる。

 

 ――これは、ライフルの扱いも上達したかな。ならこの調子で――

 

 そして後方に控えていた一機も、撃破しようとする……が呆気なく避けられた。

 集中的に狙って何発も撃つも、面白くないほどに外れ、一向に命中する気配がない。

 

 ――相変わらず僕の、ヘタクソ! 遠距離がダメなら――

 

 今度はパイルを持ち替え、近接戦を仕掛けるものの、それさえ俊敏な動きで避けられる。

 勢い余ったレギンレイズは転倒し、砂漠の砂に頭部を突っ込んだ、

 

「ぐえっ!」

 

 転倒して揺れるショックも、フウタに伝わる。

 

 ――ちぇっ! こんな感覚までいちいち再現するなんて――

 

 そう心の中で愚痴りながら、フウタはレギンレイズを起き上がらせる。

 目の前には、おそらく本ミッション残り一機の、バクゥの姿。

 

 ――確かにいつもよりも難易度の高いミッションを受けたけど、これでも一応、GBN全体では大した事ないミッションなんだよね。

 とくに、残りの一機はなかなか手ごわい、指揮官機……って感じか――

 

 つかさず、バクゥはレールガンで攻撃を仕掛ける。

 ――だが、レギンレイスはそんな中で向かい合い、真正面から向かって行く。

 馬鹿の一つ覚えと言うべきか、追い詰められた時にはよく、被弾お構いなしで正面から突っ込む戦法を、フウタはGBNで取っていた。

 ナノラミネートアーマーの防御力での、ごり押し。いかにもアマチュアらしい、単純な戦法だ。

 単純すぎるために、他のダイバーとの対戦などでは逆手に取られ、回避された後の集中砲火で撃墜されるのも、これまでに何度かあった。

 ……まぁ、それでも近いレベルのダイバーや、それなりのミッションなら有効な戦法でもある。それなりにGBNを遊んでいる程度のフウタにとっては丁度良いから、今でもよく使っているのだが。

 

 

 そして今回も、その戦法は有効だった。

 レールガンの攻撃は幾らか被弾し、破損したものの、バクゥに接近し、今度は上手く近接戦に持ち込んだ。

 バクゥの後期型であれば頭部にビームサーベルが装備されているが、生憎これは前期型、近接装備を持ち合わせていない相手ではレギンレイズが有利だった。

 最も、相手もそう簡単に倒されるはずもなくもがくも、フウタはそのコックピットに、パイルを突き立てた。

 

 ――ふっ、どんなもんだい!――

 

 何とかミッションをクリアしたフウタは、得意気に笑った。

 

 

 

 ――――

 

「おかえり、フウタ!」

 

 ミッションを終えてGBNのロビーへと戻ったフウタを出迎えたのは、幼馴染のミユ。

 

「ただいま。ミユも、GBNに来ていたのか」

 

「ジョウさんが、フウタがここにいるって、言ってたから。それで私も今さっき、ログインした所なんだ」

 

 彼女は手を後ろに回して、得意げに笑う。

 

「私もフウタと一緒に、GBNで過ごしたいの。ねっ、いいでしょ?」

 

 彼の顔を覗き込んで、上目遣いでちょっと甘えた感じの、可愛いらしい彼女の仕草。

 フウタは自分の幼馴染の、そんな仕草につい心を奪われていた。

 

「……ねぇ、フウタってばー」

 

 ちょっと呆けていた所に、ミユにそう言われた彼は、ようやく我に返った。

 

「あっ、うん、もちろん良いに決まってるさ。……そうだ! せっかくだから、少しカフェでゆっくりなんて、どうかな?」

 

 この提案に、ミユは嬉しそうに頷く。

 

「うん! まずはGBNで喫茶店デートって言うのも、いいな!」

 

 今回はちょびっと久しぶりのデート、フウタもミユも、心をときめかせていた。

 

 

 

 ――――  

 ロビー近くに位置する、ビル内のカフェにて。

 ミユは机に載った美味しそうなイチゴパフェの、アイスとイチゴクリームをスプーンですくい、口に頬張る。

 

「うーん! このイチゴパフェ、甘くて美味しい! フウタのチョコパフェは?」

 

「こっちも美味しいよ。なかなかに良い味って感じ」

 

 対してフウタは、チョコパフェを頼んで食べていた。

 

「でも……そう言えば、チョコパフェの味って言うか、味覚までも再現してるなんて。

 ここまで来ると、ちょっと気味が悪い気も、しないかな?」

 

「うーん、そうかな? フウタの考え過ぎな気がするけど」

 

「だって人一人の感覚を、仮想空間でここまでコントロールしてる訳だろ? そう考えると何だか、少しだけ、変な気持ちにもなるんだ」

 

 実を言うと、模型を作るのはそれなりに好きなフウタではあったものの、GBNに対して、確かに楽しんでいるものの……所謂、VRMMOの類はそこまでタイプ、と言うわけではない。

 景観やグラフィックは良いとは思う彼だが、こうしてゲームの中まで味覚や感覚までフィードバックされるのは、個人的に好きになれなかった。

 ゲーム全般が好きなのはミユの方で、GBNを始めたのも、彼女の勧めがあったから、なのだが……。

 

「でも、最近のフウタ、私以上にGBNばかりやっている気がするよ。……一緒に、外へ遊びに行ったりする事も少なくなったし、寂しかったんだから」

 

 しかし、この頃フウタはGBNに、多くの時間を費やしていた。

 それこそ学校が終わってからは模型店に行って、遅くまでログインする事も多々あった。ミユにはそれが、気になって心配していたのだ。

 

 

 

「……」

 

 そのせいか、ふと寂しい表情を見せるミユ。

 フウタはそれにシュンとして、呟いた。

 

「そんな思いをさせて、ごめん。ちょっと今、GBNでやる事が出来たせいで、そっちばかりに集中しちゃってたんだ。

 後でミユとの時間も、確保する予定だったんだけど……君に寂しいと思わせるなんて、僕は……」

 

 確かに彼は、ある理由でGBNに熱中して取り組んでいるものの、それでもミユの事を一途に、何よりも大切に思っていることには、変わりなかった。

 

「ううん。フウタが私の事を、大切に想っているのは、知ってるから……」

 

「当たり前さ。だって僕にとってミユが……一番大好きなんだし」

 

 だが、さすがのフウタでも、直接本人にそう伝えるのはやや気恥ずかしい。

 ……けど、言える時には、ちゃんと自分の想いを伝えたい、彼であった。

 何しろ――

 

「ふふっ。私も、フウタの事が大好きだよ」

 

 頬杖をついて、ミユがフウタに向けた、とても嬉しそうに微笑む笑顔……。

 彼女が笑ってくれるなら、少しくらい恥ずかしい想いをしたって、どうってことはなかった。

 

 

 

 するとミユは、ある事を聞いた。

 

「ねぇ、そう言えばフウタは、どうしてそこまでGBNに熱中しているの? ……理由があったら、教えてほしいな」

 

 フウタは少し考えるも、すぐにこう返事を返した。

 

「もちろん、構わないさ! それは――」

 

「やぁ! ここにいたのか、フウタ!」

 

 フウタが何かを言う前に、ふいに近くから、旅人姿の青年が現れ、そう声をかけて来た。

 

「……はぁ、ジンさん、何も今来ることは、ないじゃないか」

 

 青年はこの間、フウタと知り合いとなったダイバー、ジンであった。

 二人でいる所を邪魔されたせいか、フウタは少しご機嫌斜め。

 さすがにジンもその事に気づいたのか、申し訳ない様子を見せる。

 

「それは、悪かった。なら俺は少し席を外しておくから、しばらくは二人で……」

 

「待って! せっかくのフウタの友達だもん。

 ジンさん、でしたよね? 良かったら一緒にどうですか?」

 

 しかし、ミユはジンに対し、引き留める。

 これには少し困った様子の、フウタ。

 

「えっ、でも今ミユと二人なのに……」

 

「まぁまぁ。私はフウタに友達が出来たことが、嬉しいから。友達は、大切にしないとね」

 

「……むうっ、分かった」

 

 

 

 しぶしぶながらも、フウタは了承する。

 

「これは、ありがとう。じゃあお言葉に甘えて……」

 

 ジンはフウタ達の近くの席に、腰を下ろした。

 

「えっと、それじゃ俺は、オレンジジュースでも頼もうか」

 

「オレンジジュース? 大人なんだから、コーヒーを頼むかと思っていたけど」

 

 ジュースを頼もうとするジンに、こんな事を言うフウタ。

 そう言われた彼は、表情を緩める。

 

「俺はアルコールの入った酒だとか苦いコーヒーより、ジュースの方が好きなんだ。……別にいいだろ?

 それを言うなら、フウタだって、パフェを食べてるじゃないか」

 

「そりゃ、そうだけどさ」

 

 二人のそんな会話の様子を、ミユは微笑ましげに眺めていた。

 と、そこに注文したオレンジジュースが届く。

 ジンはジュースに一口、口をつける。

 

「ああ、なかなか上手いな。まるで現実と、全然変わらない味だ」

 

 ジュースの味に感心する彼に、ミユはこう話しかける。

 

「初めまして、ジンさん。私はミユ、幼馴染のフウタがお世話になってます」

 

「おっと、これはご丁寧に。と言っても、世話になっているのは、俺の方なんだけどさ」

 

「ううっ。ちょっとミユ、そんな言い方されると、何かこそばゆいよ」

 

「あはは、ごめんねフウタ。

 ……でも、ジンさんはフウタ知り合って、どれくらいになるのいですか? フウタからはまだ、あなたの事を聞いていなかったから」

 

 ミユの問いに、ジンは答えた。

 

「ああ、フウタとは初めて会ったのが、一週間くらい前になるな。直接会ったのはその時だけで、後はGBNで三度くらい、一緒になったくらい……まぁ、ついこの間さ」

 

「僕も、ちゃんとミユにこの事を伝えるつもりだったんだよ。

 ジンさんはある理由でタッグバトルで勝ちたい、上位ダイバーがいてさ、僕はそれに協力してバトルの訓練に付き合ったりしてたんだ」

 

 そうフウタは説明するが、ミユは首をかしげる。

 

「フウタたちがやっている事は、分かったけど……でも、どうしてフウタはジンさんに協力しているの? 

 だって、あんまりこんな事を、するなんて思えなかったから」

 

 

 

「……うっ!」

 

 彼女の質問に、フウタは表情を変えた。

 するとジンがこんな事を――

 

「その事についてか? 俺の聞いた話だとフウタは――」

 

「あー! 理由だったらもちろん、ガンプラバトルで強くなりたいからに決まってるじゃないか!」

 

 彼が話そうとすると、割って入るかのようにフウタが代わりに説明した。

 あまりにも慌てた素振りに、ジンは不審がる。

 

「おいおい、俺が聞いた理由とは……」

 

「黙っててよ、ジンさん! 

 ……その、このGBNだって長いから、この機会にそろそろ本気で腕を上げたいって、思ったのさ」

 

 ジンの言葉を妨げ、そう言い訳をするフウタ。

 

「うーん、フウタがそう言うことなら」

 

 少し怪しんでいるものの、ミユも一応は納得したようだ。

 対して、ホッと胸を撫でおろすフウタ。ジンは何か腑に落ちないように、オレンジジュースを一言、口にした。

 

 



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イベントの始まり(Side フウタ)

 ――――

 三人はしばらくカフェでゆっくりした後、店から出た。今は再び、ロビーへと戻って来ていた。

 ロビーにはいつも以上に

 

 

「さて……と、実はミユ、今日はジンさんとあるイベントに参加する予定だったんだ。

 タッグバトルの練習を兼ねて、ね」

 

 フウタはそう、横にいるミユに話す。

 

「へぇ! イベントって、どんな感じの?」

 

「ふふん! 今から受けるのは、これさ」

 

 端末を操作し、彼がある画面を表示させる。

 

 

 それは丁度今開催されている、アマチュア向けのイベントの紹介画面だった。

 内容は、初代機動戦士ガンダムの一大戦場、ジャブロー戦の再現イベントである。

 南米アマゾン川流域に位置する、地球連邦軍の大軍事基地。作中では一年戦争の半ば、地上で劣勢を強いられたジオン軍による大攻撃が、当基地に敢行された。

 対する地球連邦軍はジャブロー基地の堅牢さと、充実した戦力によりジオン軍を撃退、その後の主戦場は宇宙へと移って行ったきっかけにもなる。

 今回のイベントでは、大勢のダイバーが連邦軍、ジオン軍の両陣営に分かれて参加し、攻防戦を繰り広げると、言ったものだった。

 

 

 画面を見ながらジンも、こんな事を話す。

 

「参加資格は一定ランクより低いプレイヤーだけだから、それなりに対人戦の練習にもなる。

 ちなみに俺たちは、連邦軍側で参加する予定だ。かなりの相手と戦えそうだし、一週間の練習の成果や更に経験値を上げるには、丁度いいはずだ」

 

 フウタも頷く。

 

「ああ。最初にジンさんとGBNに行った時、ある悪質ダイバーにやられてさ。まずはソイツを倒せるように、なりたいって思ってるんだ」

 

 あの時、フウタとジンが腕試しで戦っていた時、いきなり襲って来た悪質ダイバーのハイゴック。最初の目的として、二人はその相手を倒すことを考えていた。

 

「フウタ達も、大変なんだね。でも、それだったら私は……邪魔かな」

 

 ミユはそう言うも、フウタは――。

 

「そんな事ないさ。今回の目的はジンさんとのタッグバトルの練習だけど、良かったらミユも参加しようよ! 

 せっかくミユと会えたんだから……僕だってもっと一緒にいたいしさ」

 

「いいの? なら――私も、フウタといたいかな」

 

 少年少女の、甘々な雰囲気。

 ジンはそれを後目に表情を緩め、少しやれやれと言った様子を見せる。

 

「全く、お熱いことで。……それじゃ、三人でイベントを、やって行くとしますか」

 

 こうしてフウタ、ジン、そしてミユ達三人は、ジャブロー戦の再現イベントを受けるべく、エントリーを行った。

 

 

 

 ――――

 イベントが行われる、バトルフィールドにて。

 フウタ、ミユのレギンレイズとジンのガンダムF91、そして他の参加者と思われるいくつかの機体は、地上の密林地帯で敵を待っていた。

 

 ――僕たちが任されたのは、この辺りの防衛って訳だ。特に――

 

 フウタが見るモニター映像には、地下に存在するジャブロー基地に通じる大型エレベーターの入り口がある。

 イベントにおける地球連邦軍側の参加者達は、地上と地下、それぞれのポジションごとに防衛範囲を定め、ジオン軍側のプレイヤーによる侵攻を防ぐことが目的となる。

 

 

 周囲にはガンダムООにおいて、太陽炉の搭載された初の量産機体であるジンクスに、Wガンダムに登場する複数のガンダム機の一つ、双剣を武器とするガンダムサンドロックなど、宇宙世紀とは異なる世界の機体が見える。

 また同じ宇宙世紀の機体ではあっても、初代よりも数年後の機体である黄金色のMS百式や、更に十数年先の機動戦士ガンダムUCの主人公機であるユニコーンガンダムまで、本来のジャブロー戦には決して集結しないものばかりだ。

 

 

 これらの機体はすべて、参加者であるダイバーのガンプラとなり、物によっては自分なりの塗装や改造が加えられているのもちらほら見える。

 また、この世界観に合わせ、NPDの操作する初期型ジムも配備されており、この辺りだけでも数十機のMS、MAがあちこちに存在していた。

 

〈思ったより、大きいイベントって感じだね〉

 

 通信画面ではミユが、そんな事を話していた。

 

「まあね。あんまりイベントとか、正直面倒で参加するような事、なかったんだけどさ。

 こうして見るとなかなか……ワクワクするな!」

 

〈私も! みんなの足を引っ張らないように、頑張らないと〉

 

 フウタが乗るレギンレイズの横には、ジンの機体であるガンダムF91が並ぶ

 そしてそこに、彼も通信に加わる。

 

〈俺もあんまり、こう言ったのは参加しないしな。だけど……ふむ、面白そうじゃないか〉

 

〈ジンさんも、頑張ってね!〉

 

〈ありがとう、ミユちゃん。

 ――それとフウタ、イベントを楽しむのもいいけどさ、本来の目的は忘れないでくれよ〉

 

 ジンの言葉に、フウタは勿論と、頷く。 

 

「一番は、僕とジンさんとのタッグバトルの上達のため、だよね。

 ミユには悪いけど、今回は僕たちがタッグで戦ってみることにするよ。だから――」

 

 実はフウタ、タッグバトルに関しては未経験と言うわけでは、決してない。

 ミユとよくGBNで遊ぶこともあり、ミッションなどで一緒にタッグを組んで、戦うことも珍しくなかった。

 腕は相変わらずアマチュアではあるものの、それでもアマチュアの中では、割とタッグには慣れている方だと自負もある。

 

 

 つまり、フウタとのタッグパートナーで言うなら、ジンよりもミユの方が先輩――なのだ

 

〈うん。ちょっと悔しいけど……ジンさん、私の代わりにフウタの事、お願いね〉

 

〈ああ! 君の代わりにフウタの面倒、ちゃんと見るとも〉

 

 二人の会話を聞き、少しぶすっと不貞腐れる、フウタの姿。

 

「バトルの腕は、どっちもどっちじゃないか。むしろ、ジンさんの方こそ、足を引っ張らないでよね」

 

〈了解了解。――さてと、だけどそろそろ、始まるっぽいぜ〉

 

 

 

 地上の密林を覆う、幾つもの黒い影。

 見上げると、上空には大きな翼を広げ、巨大な図体を持つ紫色の大型輸送機が見える。

 輸送機は一機だけでなく、十数機も――。その巨体で、青い空を覆っていた。

 

「ジオン軍の輸送航空機……ガウか。あんなに飛んでいるなんて」

 

 これこそジャブロー戦イベントの、スタートの合図だ。

 上空のガウはハッチを開き、多数のMSを降下させる。

 ザクにグフ、それにドム、加えてズゴックやゴックなどの水陸両用機と言った、当時ジオン軍に配備されていた機体が多く見られた。

 恐らく、こっちの方はNPDのMSであるだろうが、ジオン軍側に属するダイバーのガンプラと考えられる、ガンダムSEED のシグーに、続編のSEED Destinyのザクウォーリア等々の機体も多く見られる。更にはガンダムⅩの敵ガンダムとなる、刺々しい翼を広げる赤黒い機体……ガンダムヴァサーゴまでもがあった。

 そして――

 

〈なぁ、あれを見てみなよ〉

 

 F91が遠く指さす先には、降下するハイゴックの姿が、何機か見られた。

 確かに一年戦争期のMSであるものの、この戦場はアニメ『機動戦士ガンダム』の舞台だ。外伝作品である『機動戦士ガンダム 0080 ポケットの中の戦争』の機体であるハイゴックがNPDとして登場するとは考えにくい。

 だとすると――

 

〈多分、ダイバーの機体だと思うけど、もしかして――〉

 

 もしかするとあの時のハイゴックかと、ジンはそう考えた。しかし……。

 

「いや、あれは違うと思う。だってほら、頭部にドクロマークが書かれてないし」

 

 あの時二人を襲ったのは、ドクロマークのハイゴック、恐らくは別のダイバーのガンプラだろう。

 それはともかくとして、やはり改めて見ると、敵の数も多い。仮に他の味方と孤立し、集中攻撃でもされれば、厳しくなる。三人のみならず。出来るだけ別の味方ダイバーとも、一緒にいた方がいい。

 

〈やっぱり敵さんも……あんなにたくさん〉

 

「大丈夫! ミユの事は、僕が守るからさ」

 

 フウタは頼もし気に、そう言った。またジンも、こんな事を……。

 

〈それを言うなら、『僕たちは』だろ? 今は俺がタッグなんだから、忘れてもらっては困るな。

 ……と言うわけだから、ミユちゃんには傷一つ、付けさせはしないとも〉

 

 そんな二人の言葉に、ミユは嬉しそうに笑う。

 

〈あはは、まるでお姫様みたいね。でも……一番守んないといけないのは、拠点の方だって言うのは、忘れないでよ。

 ――私だって、ちゃんと戦えるんだから〉

 

 ジオン軍側の機体は、すぐ近くにも降下して来た。  

 三人は戦闘態勢を整え――迎え撃つ準備をする。

 

【挿絵表示】

 



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大乱闘、大交戦(Side フウタ)

 ――――

 

 地上で繰り広げられる、激しい戦闘。

 銃弾やビーム、ミサイルが辺りを飛び交い、あちこちで連邦軍側、ジオン軍側の戦いが繰り広げられる。

 フウタたちの防衛エリアにも、敵機の姿が次々に現れる。

 ガンダム作品の初代、機動戦士ガンダムの敵機の代名詞でもある、緑色で一つ目のMS、ザクⅡ。

 そのザクが真っ先に森林から姿を現し、ヒートアックスを振りかざす。

 

〈残念!〉

 

 ミユのレギンレイズはライフルを構え、ザクを撃ち抜き、撃破した。

 

〈ほらね? 私もやれば出来るんだから!〉

 

〈ミユちゃんも、やるじゃないか。……おっと〉

 

 と、今度は角付きでヒート・ロッドを持つ青色のグフに、太い体格で大型の脚部でホバー走行をするドム、どちらもジオン軍側のMSの特徴とと言える、一つ目のモノアイセンサーを輝かせ、迫る。

 

〈さてと、こっちも行くぞ――フウタ!〉

 

「ああ! ジンさん!」

 

 それぞれの機体、ガンダムF91とレギンレイズ・フライヤーはビームサーベル、パイルを握り、グフとドムに迫る。

 ビームサーベルはドムの上半身、下半身を真っ二つに、パイルはグフの胸部を貫いた。

 

 

 同時に二機を、倒したフウタとジン。

 

 ――ある程度、息はピッタリになってる感じだね。何度かGBNでジンさんと、練習した甲斐があった――

 

 はじめの頃から一週間近く経ち、二人はある程度タッグでの戦いは上達し、慣れていた。

 そして続けざまに表れる何機ものMSも、それなりに息のあったコンビネーションで次々と撃破して行く。

 ビームサーベルで切り捨て、ライフルで撃ち、ガントレットで潰したりなど……。

 すると、一機のドムが、フウタのレギンレイズに向けてバズーカを構える。

 

「させるかよ!」

 

 フウタはライフルの銃口をそちらに向けた――その時。

 

 

 別方向から放たれたビームが、ドムの身体を貫いた。

 見るとそこには、ビームライフルを手にしたガンダムMarkⅡの姿。

 それは少し離れた場所で戦っていた、別のダイバーの機体

の一つだった。

 すぐ近くの範囲にいるのは三人だが、そこまで離れてない場所では、数機ごとのグループに分かれ、敵機と応戦している。

 これにより、互いの援護、応戦も容易にしていた。だが……

 

 ――これは、手柄を取られたな――

 

 横から手柄をかすめ取られ、フウタは少しがっかりしていた。

 だがしかし。

 今度は横からドラゴンのような、やたら生物的でさらには、尻尾のようなものを持つ青い異形の機体が、彼に襲い掛かった。

 カラーリングといい、外見といいレギンレイズ・フライヤーにやや似ているが、これは機動戦士ガンダムAGEの敵MSガフランである。

 手の平からビームサーベルは放って切りかかり、レギンレイズはガントレットで防ぐ。

 

 ――と、こっちは、ダイバーの機体か。これは厄介かも――

 

 さっきまではNPDの操作していた機体を相手にしていたが、対人戦になると、話は別だ。

 それにビームサーベルを防いだものの、ガフランの腹部には収束型のビーム砲がある。

 

「くっ!」

 

 片腕のパイルで応戦しようとするも、武器は手ではたき落された。

 今度はとっさに、腰のライフルを抜こうとするも、その前に腕を掴まれ、動きを封じられる。

 敵機腹部のビーム砲門にはエネルギーが充填され、今まさに発射されようとする所だ。

 

 これは大ピンチ――そうフウタが思った瞬間。

 レギンレイズの横をF91が駆け抜け、その砲門にビームソードを突き立てた。

 腹部のビーム砲から、エネルギーをまき散らし、倒れるガフラン。

 

〈大丈夫かい、フウタ〉

 

 助けに入ったジンは、そう通信越しに気にかけた。

 

「ごめん、ちょっと面倒をかけた」

 

〈ま、こんな乱戦じゃ仕方ないか。……っと!〉

 

 今度はNPDのザクⅡがマシンガンを構えているのに気づき、つかさずビームライフルで撃ち倒した。

 

〈……だけど、俺みたいにもっと周りに気を配ってないと、ダメじゃないか〉

 

 ザクを倒したばかりで、ジンがほんの少し、気を緩めていた。

 ……すると、彼のF91の背後に、ドワーフを思わせる小柄のMS、グリモアが密林に紛れ、こっそりと迫る。

 円盤状の頭部に備えた三つのセンサーアイを光らせて、リアスカート内からプラズマナイフを抜いて構えた。

 グリモアの存在など、気付きもしないF91の背後から、一撃で仕留めようと――。

 

 

 

「させるか!」

 

 瞬間、レギンレイズのライフルが火を噴き、グリモアの頭を吹き飛ばした。

 

〈……なっ! フウタ!?〉

 

 いきなりフウタがライフルを撃ち、驚いてその方向である後ろを見て、倒れたグリモアの姿にようやく気付いた。

 

「ジンさんだって、言ってるそばから」

 

〈参ったな、本当に気づきもしなかった。今のは俺が悪かったさ〉

 

「謝らなくても、お互いさまだよ。……でもまだまだ、タッグとして未熟な部分があるな。今度からはもっと、自分の事にも気を配ることが……改善点かも」

 

 こんな感じで、二人は戦う度に反省点を見つけては、バトルの向上に役立てていた。おかげで、アマチュアの二人は一週間程で、それなりの協力プレイが出来るようになった。

 

〈それはそうだな。……って、おっと!〉

 

 今度は近くの水辺から、両腕にクローを備えた、首のないずんぐりした当時の水陸両用MSズゴックが二機、そして二機の中央にはその後継機となる、ZZガンダムに登場する水陸両用機、丸いボールの身体に長い手を生やしたMSカプールが存在し、同時に奇襲を仕掛けた。

 ズゴック二機はNPD、カプールのダイバーはNPDの攻撃タイミングに合わせ、三機がかりで仕留めようと企んだようだ。

 

 

 

 ……だが、それは少し甘かった。

 

〈ズゴック二機はこっちに任せてくれ!〉

  

 ジンはF91に備え付けられた左右二基のヴェスバーを展開し、放つ。

 二本の強力なビームは同時にズゴックを貫き、宙で爆散した。

 カプールはこれに慌て、退避しようとするも、間に合わない。

 

「ならあっちは、僕が仕留める!」

 

 その隙にフウタのレギンレイズが距離を縮め、跳躍する。 空中で二機は接近し、左腕のガントレットによる一撃で、機体の胸部は成すすべなく、叩き潰された。

 

 ――弾を使うのも、勿体ないしね――

 

 機能停止したカプールは、モノアイの光を失い……飛び出した水辺に落下。

 水飛沫をまき散らし、水中へと沈んで行った。

 

 

 

 良い連携を見せた、フウタとジン。

 

「ざっと、こんなもんだね」

 

 相手も恐らく同じくらいのレベルではあるものの、上手く決まれば、やはり嬉しいフウタであった。

 

〈ふむ、確かに。何だかんだ……前の時と比べて、そこは向上しているはずさ。

 さっきだって自分の事はともかく、その分互いの事は、気を配れていただろう?〉

 

「たしかに、上手くカバーはし合えていた感じかも。

 ――あっ! そう言えば、ミユは!?」

 

 実は、さっきのガフランの奇襲から、彼女のレギンレイズの姿を見失っていた。

 慌ててその姿を探すも、近くには姿がない。

 だが探しに行こうとした、その瞬間――、一つの影が行く手を遮った。

 

 

 

 ――ちっ! こっちは急いでいるのに――

 

 苛立っているフウタに、ジンは……。

 

〈心配しなくても大丈夫さ。こっちは俺に任せて、フウタは先を急いでくれ!〉

 

 現れた影の前に、ガンダムF91が立ちふさがる。

 

「ありがとう、ジンさん。そっちも無理はしないでよ」

 

 ここはジンに任せ、フウタは先を急ぐことにした。

 

 



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一方、苦戦中の……(Side ミユ)

 

 ――ううっ、あのガンダム、何だか手ごわい――

 

 ミユは一人、敵MSと戦闘を繰り広げており、その最中にフウタ達とも離れてしまった。

 襲い来るのは、先ほど見えたガンダムヴァサーゴ。

 伸縮自在なアームを伸ばし、前腕のストライククローで切り裂こうとするも、レギンレイズは何とか避ける。

  彼女の機体には、腰部のホバーユニットにより、陸上での機動性は高い。

 

 ――でも向こうだって、レベルは私たちと同じくらいなんだから――

 

 そう、いくら機体が強く見えたとしても、このイベントはアマチュア限定のイベント。ダイバーの腕、そしてガンプラの性能も、決して大きい差があるわけでない。

 何度も襲い来るクローの攻撃を避け、その高機動でヴァサーゴ後方へと回り込む。

 

 ――ここなら!――

 

 隙を見せた敵機に向け、レギンレイズはライフルを向けた。

 ……だが。

 

 ――えっ!?――

 

 ガンダムヴァサーゴのクロー先端から、突如ビームが放たれた。

 クロー自体の攻撃に気を取られ、そこからビーム攻撃が繰り出されるとは、考えもしなかった。

 ライフルはビームに貫かれ、爆散する。

 

 

 遠距離武器であるライフルを失ったミユ。

 残る武装と言えばガントレットのみだが、あのガンダム相手に近接戦闘は、かなり不利と言えた。

 

 ――ちょっと、これはまずい……かな――

 

 両腕を伸ばしじりじりと、彼女のレギンレイズ追い詰める、ガンダムヴァサーゴ。

 そして左右のクローで、一気に相手を切り裂こうとした、その時――

 

 

 

〈僕のミユに……何するんだよっ!〉

 

 途端、フウタのガンプラであるレギンレイズ・フライヤーが現れ、すぐ後ろから飛び蹴りを一撃、ヴァサーゴに繰り出した。

 敵機は前へと蹴り飛ばれ、木々の中に突っ込んで倒れた。

 

「……フウタ、来てくれたんだ」

 

〈良かった、無事でいてくれて。――僕が守るって言ったのに、危ない目に遭わせる事になるなんてさ、情けないよね〉

 

「ううん、そんな事ないわ。フウタが来てくれて、私……本当に嬉しいの」

 

 ミユは通信画面越しに、嬉しそうな笑顔を見せた。

 

〈こっちも苦戦してたけど、何とかこうして駆け付けたんだ。

 それに、僕と一緒にいた、ジンさんは――〉

 

 フウタがそうミユに話そうとした、ほぼ同じタイミング――、レギンレイズ・フライヤーのすぐ後ろの森林から、ジンのガンダムF91が現れた。

 

「ジンさん!」

 

〈悪いフウタ、それにミユちゃんも! ……倒し切れなくて連れて来てしまった!〉

 

 F91を追って出現したのは、巨大な鋏を持った濃紺色のMA。

 モノアイを持つ、まるで甲殻類のような姿であるが、その姿は三人の目の前で可変し、ヒト型のMSへと姿を変える。

 その姿は……。

 

〈こっちも、ガンダム。……Xガンダムの、ガンダムアシュタロンかよ〉

 

 姿を見せたのはガンダムアシュタロン、ミユを探そうと動いたフウタとジンの行く手を阻んだのも、この機体であった。

 後ろを振り返ると、先ほど蹴り倒されたガンダムヴァサーゴが、起き上がろうとしている所。アシュタロンは上空を跳躍し、その隣へと並ぶ。

 三機の前に立ち塞がる、ヴァサーゴ、そしてアシュタロンの二機。

 登場作品である機動新世紀Ⅹガンダムでは、この二機はニュータイプのフロスト兄弟が乗る機体と言う設定である。

 二人のニュータイプ能力である互いへの感応能力と卓越した操縦技術、そしてガンダムタイプである機体の高性能により、作中では主人公とその乗機、ガンダムⅩを苦しめた……そんな機体だ。

 

 

 

 ジャブロー戦イベントは佳境に入り、敵味方ともに多く犠牲が出ていた。

 最初の地点から幾らか離れたせいでもあるが、この辺りは自分たち三機と、そしてあのガンダム二機しか存在しなかった。

 ここなら味方や、敵に邪魔されることなく戦える。そう思ったのかフウタ、そしてジンは……。

 

〈さて、と、後は僕たちに任せてよ。ミユは下がってて、ここは二体二で戦ってみたい〉

 

〈まさかこの二機と戦うなんて、こっちは役不足かもしれないかもだが……タッグバトルには相応しい相手だ!〉

 

 作中のイメージもあり、恐らくタッグバトルの練習相手としては、かなり相応しい敵だろう。

 

 ――ここは、フウタ達に任せようかな。二人のタッグバトル、私は草葉の陰で応援しているね――

 

 ここは二人を信じて、ミユは後ろに下がった。

 相手にとって十二分に不足ない。目の前のフウタ、ジンのガンプラは、二機の敵ガンダムと向かい合い――武器を構える。

 

 

 



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二体二のガンプラバトル その1(Side フウタ)

 ――――

 フウタはミユのレギンレイズ同様の、大口径ライフルを構える。

 

 ――あの相手は、恐らく近距離、中距離に強そう。だけど――

 

 先手を打ったのは、相手の方からだった。

 ガンダムヴァサーゴは両腕のクロー、アシュタロンは背部の巨大鋏からビームを斉射する。

 フウタ、ジンの、レギンレイズとF91は左右に分かれて、攻撃を回避する。

 

 ――遠距離用の武装も、向こうにはあるわけだしね。とりわけヴァサーゴに関しては――

 

 一応、これらの機体に関しては知識があるフウタ。ただ遊んでいるだけなら、GBNをしていた期間も短いわけではない。自然と、ある程度どんな機体か、分かるようにはなっていた。

 

「ジンさん! 一緒にまとまるのは危ないはず、だから、各個撃破に努めることにしよう。もし余裕があったら、援護射撃をお願い!」

 

 フウタの指示に、ジンは頷く。

 

「了解、なら引き続き俺はアシュタロンを、フウタはそっちのヴァサーゴの方を頼む」

 

「ああ!」

 

 

 

 丁度二機の近くには、相手となるガンダムがそれぞれ存在する。

 フウタの目の前には、ガンダムヴァサーゴの姿が……。

 敵機はクローからビームを放つも、彼のレギンレイズは密林を盾にしながら回避を続ける。

 

 ――やっぱり、射撃の腕くらいは僕とどっこいどっこいだ。差はそこまでないはず、だけど――

 

 ヴァサーゴには自由に腕を伸ばす事を可能にする、両腕がある。通常のMSとはあり得ない方向からの攻撃……、これはかなり手ごわいはずだ。

 

 ――あのリーチ内に入ることは、避けたい所だ。ここは――

 

 先ほどのミユ同様、ライフルによる遠距離攻撃を考えるフウタ。

 相手がこちらの姿を再確認し、ビーム攻撃をしようとするその隙を狙い、ライフルを構え狙い撃った。

 

 

 だが、その一撃はガンダムヴァサーゴに避けられ、不発に終わる。

 

 ――くっ、やっぱりこっちも上手く行かないか。……っと!――

 

 するとライフル射撃直後の、僅かな不意を突かれ、ヴァサーゴはクローを伸ばし、こちらに迫った。

 

「――っ!」

 

 一撃目は、何とか避けて回避した。だが続けて二撃目が、すぐさま襲う。

 避ける余裕もなく、とっさに片腕のガントレットで防ごうとするも、甘かった。

 反射的にフウタが防御しようとする動作は、若干早すぎた。相手はそれを察知し、アームの方向を僅かに反らした。そして……。

 

 

 

 ガントレットを装備した片腕は、クローに裂かれて宙を舞う。丁度機体のフレーム関節を狙っての、斬撃。一撃で関節が砕け、機体の左腕は持って行かれた。

 

 ――僕のガンプラの、左腕が――

 

 腕を失い、後ろによろめくレギンレイズ。

 するとさっきのお返しと言わんばかりに、ヴァサーゴはその胴体に激しい蹴りを、お見舞いした。

 

「うわあぁっ!」

 

 機体の胴体に直接一撃を食らい、激しい衝撃と揺れが襲った。

 そして――。

 

 

 

〈……だっ!〉

 

 レギンレイズ背後に、何か固い物体が衝突する感覚がした。

 それは……さっき分散したはずの、ジンのガンダムF91であった。

 

「何でジンさんが!? ――まさか!」

 

 もしかすると、さっきのヴァサーゴによるビーム攻撃、あれは敢えて二機が合流するように、誘導するものだったのではないのか? フウタはそう考えた。

 そして合流させた狙いは――。

 

 

 二機の正面に立ち塞がる、ガンダムヴァサーゴ。

 両腕のストライククローをアンカー代わりに設置し、胸部を開き、展開した。

 中から現れたのは、胸部内部に内蔵された大口径メガ粒子砲であるヴァサーゴの専用武装――メガソニック砲だ。

 

 ――これで、同時に仕留めようって訳かよ――

 

 レギンレイズ、F91は先程の衝突で態勢を崩していた。

 エネルギーの充填は既に始まっている。今から回避しようにも、間に合いそうにない。

 ガンダムヴァサーゴはエネルギーを貯め、そして、フウタ達に向けて大出力のビームを放った!

 

 

 

 エネルギーの奔流に巻き込まれる二機。

 ヴァサーゴから放たれる太いビームに巻き込まれ、その姿はかき消えた。

 まさか、これでやられたのだろうか。

 ビームが収束し、ようやく姿が確認出来るようになると、そこには――

 

〈フウタ……まさか……〉

 

 通信画面には、驚くジンの様子。どうやら無事のようらしい。

 

「当然だろ。……予想通り、どうにか耐えたわけだしさ」

 

 ビームの範囲にあった木々はなぎ倒され、地面は抉れ、焼け焦げていた。

 だが、その中央にいながらも、ジンのガンダムF91は殆ど無傷であった。しかし……

 

 

 



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二体二のガンプラバトル その2(Side フウタ)

 フウタのレギンレイズ・フライヤーの全身は酷く焼け焦げ、装甲の大部分が剥がれていた。

 力なく、膝をつく機体。……F91の姿は、そのすぐ後ろにあった。

 

〈俺を、庇うなんて〉

 

「こっちはビームに耐性があるんだ。だから、盾代わりになった方がいいだろ。

 ……まぁ、見た目はこの有様だけど、どうにかまだ動きそうだしさ」

 

 

 

 一度は膝をついたものの、再びレギンレイズは立ち上がる。

 前にはガンダムヴァサーゴ、後ろにはガンダムアシュタロンが控えている。

 どちらむほぼ無傷。まさに、前門の虎後門の狼――と言った所だ。

 

「さてと、厳しいかもだけど、ここから巻き返していくよ。……まずは、一体ずつ」

 

 目の前にいるガンダムヴァサーゴ、なにしろあれ程の攻撃の後だ、エネルギーも消耗しているはずだ。

 だから、先にこっちから仕留めたい所である。

 

〈了解だ。

 ……ただ普通にやっても、厳しいかもしれない。だから、こうして……〉

 

 自分の考えた作戦を、ジンが話す。それを聞いたフウタは……複雑な表情を浮かべる。

 

「……なかなか、難しそうだね」

 

〈仕方ないさ、そっちはまともに動かないんだからさ。無理言うかもしれないが、出来るだけフウタが今いる場所の近くまで、誘い出してくれよ。

 何しろ……こっちも当てられる自信がないんだ〉

 

 苦笑いし溜息を一つ、フウタがついた。

 

「はぁ、こっちはボロボロなのに、ずいぶん無茶を言うよね。けど――了解」

 

 レギンレイズは片腕に握るライフルを構え、一方でガンダムF91はビームライフルを握る。

 

 

 

 そして……一気に行動を開始した!

 レギンレイズが構えたライフルは、正面のヴァサーゴを向けられ、銃撃を放つ。そして同時に、F91はブースターを全開にして、反対側のアシュタロンへと向かって行った。

 ――恐らく、さっきと同じ分担で、一対一をするつもりなのか。

 F91はガンダムヴァサーゴに接近し、その高機動で翻弄しながら、ビームライフル、ヘッドバルカンで応戦する。

 ただ、攻撃と言っても牽制する程度、それよりも相手のクロー、ビーム攻撃の回避に専念し、時間を稼いでいるようだった。

 

 

 一方、フウタと言えば……。

 ライフルで何度も狙い撃つも、ヴァサーゴは避ける。だが――向こうもビームによる反撃は、レギンレイズの射撃に阻まれ困難な様子だった。

 動かず、狙い撃ちに専念しているためか、最低でもどうにか相手の射撃を阻むくらいの役目を果たしていた。

 

 ――どの道、立てたは良いけど、足の関節のダメージが大きい。移動は満足に出来そうにないし、それに、向こうの攻撃を誘うにはこっちが都合良い。

 むしろ、こっちがあまり動けない事に、気づいてくれたら――

 

 どうやら、ヴァサーゴを動かすダイバーも、先ほどのダメージで殆ど動けないことに気づいたようだ。

 ビーム射撃で仕留めようにもライフルで阻まれ面倒であり、二度もメガソニック砲を放つのもまた、満身創痍の相手には勿体ない。

 ……だとするなら。

 

 

 ガンダムヴァサーゴはビームサーベルを抜き、レギンレイズへ迫る。向こうは動けず、近接装備もないに等しい。……これで楽に仕留められると考えたようだ。

 ナノラミネートアーマーの大部分が剥がれ、本体も損傷を受けた今、一撃でも食らえば一たまりもない。

 銃撃を避けながらも、ゲテモノじみた、異形のガンダムが迫る。

 そして、すぐにフウタの目の前にまで。

 ヴァサーゴはビームサーベルを、振り上げて止めを刺そうとする。

 ――しかし、その瞬間フウタは叫んだ。

 

「ジンさん! 今だ!」

 

 

 

〈――ああ〉

 

 すると、向こうでアシュタロンを相手にしていたガンダム

F91が、途端に別方向……レギンレイズとヴァサーゴがいる方向へと機体を向け、二門のヴェスバーとビームライフルの全門発射を行った!

 狙いは始めから、ヴァサーゴただ一機。

 フウタは囮として相手を誘導し、ジンはもう一方のアシュタロンと戦うと見せかけ、不意をついて全火力を一気に叩き込むの――それこそが二人の作戦だ。

  

 

 

 三本のビーム攻撃は、二人に迫ろうとする。

 フウタはどうにか動かせる背部ブースターを使い、すぐ横に避けた。

 そして――その場に残されたヴァサーゴ。F91の全門発射のうち、片側のヴェスバーの一撃はその翼に掠った程度であった。だが残るビームライフルの攻撃では右肩を破壊し、さらにもう片側のヴェスバーの光筋は、機体の腹部を深々と貫通した。

 肩部の爆発により腕は吹き飛び、穴を穿った腹部からは爆炎と煙が上がる。

 

 

 ガンダムヴァサーゴはぐらりと、後ろに傾き、仰向きに地面に倒れた。

 

〈……ふっ、どうやら大成功だな!〉

 

 ジンはその様子を、嬉し気に見ていた。――だが。

 彼のF91の背後から、両側の巨大鋏を構えた、ガンダムアシュタロンが襲いかからんとする。

 今のジンは隙だらけだった、そんなさ中、開いた鋏が上半身と下半身を真っ二つにしようと迫る。

 

 

 

 ――ズドン!

 

 

 瞬間、アシュタロンのガンダムフェイスが、銃撃の一撃で吹き飛んだ。

 

「へへっ、僕を忘れてもらっては、困るな」

 

 銃撃を放ったのは、レギンレイズの握るライフルだった。

 これもまた二人の作戦。ヴァサーゴへの攻撃を放ち、隙の生じたF91を襲おうとするアシュタロンには……フウタが

代わりに相手をするのが、作戦の続きだった。

 

 

 頭部を失ったガンダムアシュタロン。

 視界もクラッシュし、動きが止まる中、ガンダムF91は両手で二本のビームサーベルを抜き、そして――

 

〈止めだ!〉

 

 一撃、二撃――胴を中心に×の字に、機体を斬り裂いた。

 F91は斬撃とともに、その傍から退避する。

 斬られた傷から、火花をまき散らすアシュタロン。そして一気に火が上がったと思うと、大爆発を引き起こした。

 

 

 

 ――やるじゃん、ジンさん――

 

 目の前のジンの活躍、それを見ていたフウタは感心する。

 結局はどちらもアマチュアの、アマチュア同士の戦い。その程度ではあるものの……勝ちは勝ち。 

 上手く戦って、勝てれば嬉しいし、楽しくもある。

 

 

 だが、その背後では倒したと思われた、ヴァサーゴが動き出していた。

 半壊以上の、大破しかけた状態であるものの、片腕のクローをフウタのレギンレイズへと向ける。

 せめて、同じく半壊状態のレギンレイズなら……道連れに。

 そう考えていたのだろう、クローの先を向け、狙いを定めてビームの一撃で撃破しようとした……が。

 

 

 

「残念、甘いよ」

 

 それよりも早く、フウタはライフルを構え、ガンダムヴァサーゴに目掛けて撃つ。

 一撃を受けたヴァサーゴは、小さく爆発を起こして倒れ――今度こそ動かなくなった。   



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イベントの終わりに(Side フウタ)☆

 ――――

 

 これで、周囲の敵は最後だった。

 ようやくこれで、一息つくことが出来るはずだ。

 

 ――ははは、VRMMOはちょっと苦手なジャンルだけど、このGBNはまぁまぁ悪くない。……おっと!――

 

 突然、グラリと揺れたかと思うと、機体が傾き出した。

 とうとう脚部に限界が来たらしく、足関節の一部が破損し、地面に倒れようとする。

 

〈……っと、捕まえた〉

 

 倒れる瞬間、ガンダムF91が飛んで現れ、レギンレイズを支えた。

 

〈大丈夫かい、フウタ?〉

 

「ぐらって揺れて、小さく酔ったくらいだね。あはは……本当に、ゲームの中で酔うなんて、余計な所まで再現するものさ」 

 

 心配するジンに、軽く苦笑いをするフウタ。

 これを見て彼も、安心したような、表情を見せる。

 

〈まぁそう言うなよ。それより……今回はご苦労さま、こうして無事に勝てたのも、フウタのおかげだ〉

 

 ジンの賞賛に、フウタは少し照れたようだ。

 

「ん、ありがとう。でも、ジンさんの作戦も、あったおかげでもあるさ」

 

 

 

 二人がそう会話している時、ミユもまた戻って来た。

 

〈お疲れ様、フウタにジンさん〉

 

 フウタは彼女の機体に気づき、手を振った。

 

「ありがと、ミユ。御覧の通り、僕のガンプラはボロボロだったけど、どうにか勝てたよ」

 

〈本当に……ハラハラさせちゃって。助けに行こうって思ったけど、二人で頑張るって言ってたし……見てる方も大変だったんだから〉

 

 ガンダムヴァサーゴ、そしてアシュタロンとの二対二の戦い。ミユはその様子をずっと見守っていたわけだが、随分とドキドキさせられた。

 特に、メガソニック砲の直撃を受け、ボロボロになったフウタの機体が目に入った時には、つい助けに行きそうになる程だった。

 今の彼女は、どうにか無事でいてくれて、ホッと安堵している様子である。

 

〈だってよ、フウタ。彼女を心配させるなんて、いけない彼氏じゃないか〉

 

 そうジンはフウタ、茶々を入れる。

 

「むぅっ、言ってくれちゃってさ。でも、確かに心配させ過ぎたかもだし、後でお詫びにデザートとか奢るよ」

 

〈ふふっ! それじゃお言葉に甘えて……と言いたい所だけど、頑張ったのはフウタだし、私が奢らないとね。

 うーんと、夕方にプリンアラモードでも手作りして、持って行こうかな。……ジンさんにもご馳走したいから、良かったらお家の場所、教えてもらっていいかしら?〉

 

〈それは嬉しいな。けど、俺の住んでいる所は遠いし、悪いかも……〉

 

 と、そんな風にしている時、イベントに関する情報が届いた。

 

 

 それはイベント戦の結果発表。

 ――結果は、ジオン軍側の勝利。この辺りの防衛にこそ成功したが、別の侵入口から進行され、ジャブロー基地は陥落……連邦軍側は敗北したのだ。

 

〈残念だけど、私たちの負けみたい〉

 

「あーあ、これでも結構、頑張って戦ったのに」

 

 何しろ、あれほどの戦いの後だ。フウタは、ガッカリした感じを隠せずにいた。

 が、一方でジンは、彼に比べればその様子は薄かった。

 

〈合同での大きなイベントだから、仕方ないさ。それでも戦績分のポイントは入るんだし、良しとしようぜ〉

 

 これを聞いて、

 

「……ま、それはそうか」

 

 加えて、タッグバトルの経験値も、十分に上がった気がする。

 ……これなら、そろそろ例の悪質ダイバーが乗るハイゴックにも、リベンジが出来そう、かもしれない。

 

 

 

 ――――

 

 各々の機体から、地上に降りた三人。

 フウタはジンに声をかける。

 

「さてと……なら、そろそろ解散だ。ジンさんと今日約束したのは、今回のイベント戦だけだから、いいよね」

 

「それはまあ、な。どの道こっちも、今日は夜のバイトが入っているから、そろそろ切り上げるつもりだったしな」

 

 今の時間は、夕暮れの七時と、それなりに遅い時間である。

 もうそろそろ、帰るには良い頃合いだ。

 

「それじゃ私たちも帰ろうか、フウタ。あまり遅すぎると、お父さんお母さんも心配しちゃうよ」

 

「時間だって遅いしね。それじゃ、またねジンさん。……今度は、アイツへのリベンジマッチだ」

 

 フウタの元気ある返事に、ジンは頷く。

 

「ああ! 前回とは違うって所、見せてやるよ」

 

 あくまで、二人の最終目標は、ある兄妹タッグの打倒だ。

 ……だが、物事には順序がある。

 タッグとしてはそれなりに戦えるようになった、フウタとジン。なら、今度は次の段階に進む時だ。

 そんな信頼し合う二人を横目に、微笑ましげなミユ。

 

「うんうん。二人とも、良い感じのコンビ。ジンさん……これからも、フウタをよろしくね」

 

 彼女のお願いに、ジンは言った。 

 

「もちろん。こっちも世話になってもいるけど、まぁ任せて欲しい」

 

「そう言ってくれて、嬉しいな。……あ、そうでした、ジンさんのお家がどこか、まだ聞いていませんでしたね」

 

 つい先ほど、ミユがプリンアラモードを作って来ると言う話……その続きはまだ残っていた。

 

「ははは……。ミユちゃんには、負けたな。俺の住所は、そうだな……」

 

 そう、ジンは苦笑いしながらもうれしそうな様子で、彼女に住所を教えることにした……。




――――

今回は、フウタ、ミユ、ジンのそれぞれ三人の、GBN上でのダイバールック。
イメージとしてはこんな感じで!



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第四話 因縁の決着
訪れない待ち合わせ(Side ジン)


 日曜日の――真昼間。

 ジンは地方都市のとある喫茶店の前で、誰かを待っている様子だった。

 服装もカジュアルな感じの普段着から、何やら立派なジャケットを羽織り、髪も綺麗に整えていた。……どうやら、誰かを待っているようだ。

 

 ――このサンドウイッチなんか、なかなか旨そうだ――

 

 彼は暇つぶしに、入り口近くにある食品サンプルのメニューを、少し眺めていた。

 

 ――へぇ、プリンアラモードまであるのか。そう言えば、この間のミユちゃん手作りのプリンアラモード……あれも最高に美味しかったな――

 

 実は昨日、フウタとミユの二人がジンの暮らすアパートに、この前話していた通りプリンアラモードを渡しに、やって来たのだ。

 

 ――フウタの奴、『ミユの作るデザート、最高に美味しいんだ』って言ってたっけ。

 まぁ、ただの惚気かと最初は思ったけど、フウタの言う通りだったとは。……嬉しい誤算だったな――

 

 昨日食べた、彼女のプリンアラモードの味をつい、思い出していた時……。

 

 

 ――ピロリン!

 

 

 ズボンのポケットから、軽快な音がなった。 

 ジンはポケットに手を突っ込み、タブレッドを起動させると、チャットにメッセージが入ったという、通知があった。

 メッセージの相手を知った彼は、ぱあっと輝いた表情になる。 

 すぐにチャットを開き、その内容を確認する。

 ……しかし。

 

 

 だが内容を見た途端、落胆した様子を彼は見せた。

 

 ――はぁ、会うのが厳しい……か。でもこんな状況だと、仕方ないと言えば仕方ない――

 

 溜息をこぼしながらも、ジンはタブレットをポケットに戻す。

 喫茶店の壁にもたれながら、深呼吸をついて空を見上げた。

 

 ――もっと、強くならないとな。どの道彼女にふさわしい相手になるなら、俺は――

 

 

 

 ――――

 

「……何だ、誰かと思ったら、ジンさんじゃないか」

 

 いきなりそう声をかけ、現れたのはフウタだった。

 長ズボン、薄いシャツにパーカーを羽織った私服姿……。両ポケットに手を突っ込んで、彼はジンの顔を覗く

 

「フウタも、街に来ていたのか」

 

「先日ぶりだね! 僕はと言うと、街の水族館で『日本のクラゲ展』って言う企画があったから、それを見にと写真を撮りに来てたんだ。

 半透明でキラキラゆらめく、綺麗なクラゲ……。良い写真が撮れたよ! 良かったら後で見るかい?」

 

「ははは、だったら……後で見させてもらおうか」

 

 余程満足したのか、目を輝かせているフウタに、ジンは押され気味なようだ。

 

「本当ならミユと行きたかったんだけど、部活の練習が入ったって、事みたいだから。……また今度、一緒に行く時間を作りたいな。

 でもでも、ミユにはちゃんとお土産を買ったんだ。ほらこの『お魚さんクッキー』! なかなか可愛い感じだし、喜んでくれるかな」

 

 フウタは土産袋に入った、クッキーの箱を見せびらかす。

 いつものように、彼女の事を想っている……彼。

 ジンは口元に、軽い笑みを見せた。

 

「いい感じだな。俺も本当に、微笑ましいと思うさ」

 

 だが、その言葉にフウタは――。

 

 

 

「たしかに僕は、幸せ者かな。…………きっと、とても幸運、なんだろうな」

 

 嬉しそうにこう呟いたフウタ、その笑顔は確かに本心ではあった。 

 ――しかしほんの僅か、どこか複雑でそして、寂しいような雰囲気を見せた気も、ジンは感じた。

 

 

 

 

 ――――

 

「……フウタ?」

 

 違和感を持ったジンは、思わずそんな言葉が口に出た。

 対してフウタは、さっきまでの様子は何事もなかったかのように、気を取り直してみせる。

 

「何だよ、ジンさん! ――そんな変な顔してさ」

 

「いや……さっきの言葉、どう言う意味かって、少し気になって……」

 

 この問いを聞いてか聞かずか、フウタはそのまま続ける。

 

「――僕のことなんか、どうでもいいさ。それよりも、ジンさんこそ何やっているんだい? そんなに決めたような恰好をして、こっちの方が、僕は気になるな」

 

 ……すると、今度はジンの方が、他所の方向を向いて不自然な様子を見せる。

 

「それは……その、俺の用事は、もうなくなったさ」

 

「……そう、か。何だか僕も変なことを聞いて、悪い」

 

 こっちもこっちで、不用意な事を聞いてしまったことに、フウタは謝る。

 

 

 

 だが、その後フウタはこんな提案を続けた。

 

「――けどさ、もし用事がないなら、今からGBNに行かない?」

 

「ん?」

 

「ほら? 僕たちだってあれから、腕も上がっただろ? いよいよあのドクロマークのハイゴックに、リベンジでもしようと思ってさ」

 

 確かに、あのジャブロー戦再現イベントでも、実力のいくらかの向上は、二人とも感じていた。

 おそらく強敵ではあるかもしれないが、今なら……どうにかなるかもしれない。

 

「リベンジ……か」

 

 ジンはふと、考えこむ。

 

 ――けど、フウタの言う通りかもな。ちょっと気分転換にもなるし、落ち込みも晴れるかもしれないし――

 

 考えた結果、彼は答えた。

 

「OKだ。俺たちの力、見せてやろうじゃないか」

 

 フウタはうなづく。

 

「よし! じゃあ、ガンダムベースに行こう! ……ここからだと遠くないしね。

 ちなみにガンプラは、持って来ているかな? 僕は一応用意はしているけど……」

 

「心配しなくても、バッグの中にちゃんと入れているとも。念のために、な」

 

 こうして二人は、GBNにログインするためにガンダムベースへと向かう。

 



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人探し(Side ジン)

 ――――

 ガンダムベースにて。 

 フウタとジンはGBNにログインし、ロビーにいた。

 ネコミミ、パイロットスーツのフウタに、そして旅人風のジン。

 GBNのロビーに立つ、二人。

 

「さてと、探すのはいいけど……手間取りそうだね」

 

 ロビーには他にも大勢の、ダイバーがごった返している。

 フウタは、隣にいるジンに、こう聞いた。

 

「そう言えば、ドクロマークのハイゴックの悪質ダイバーって、どんな奴なんだい?」

 

「ああ、そうか。フウタはダイバーの姿を見る前に、やられたんだっけな」

 

「……ほっとけやい」

 

 あの時、不意討ちをされた事には、多少ショックでもあったらしい。

 フウタは少し、拗ねたようにぷいとそっぽを向いた。

 

「悪い悪い。確か……夫服を来た大男で 右目に眼帯、頭には赤いバンダナキャップ、海賊みたいな厳つい奴だ」

 

 あの時、短い間ながらもジンが通信で見たのは、そんな男の姿だった。

 まずはその男を、見つけることから始めなければいけない。

 

「OK、ジンさん。

 でも――探すのは、結構手間だろうね」

 

「それは、まあな」

 

 ジンもそれには同意を示し、頷く。

 何しろGBNの仮想空間はかなり広大だ、ロビーにいるかどうかすら怪しい上に、そもそも今ログインしているかどうかしているかも分からない。

 

「まずは聞き込みから、始めないと。

 とりあえずは一時間、聞き込みや調べたりして、探してみよう。少しくらいは、手掛かりは掴めるかもだし。

 ま……それでも何一つ分からなければ、また考え直すか」

 

「そうだな。

 んじゃ、あちこち調べて回りますか。一時間後に、またこここで会って情報交換しようぜ、フウタ」

 

「了解! なら一時間後、ロビーで!」

 

 ジンとフウタは、二手に分かれ、目的の男を探すことにした。

 

 

 

 

 ――――

 それから一時間の間、二人は聞き込みや情報端末を使用しながら、悪質ダイバーの事を調べてまわった。

 

 

 ジンは今、構想建造物の渡り廊下へといた。

 大きな窓からは、周囲の白銀の摩天楼が見渡せ、空にはSEEDの主役機、フリーダムガンダムなどと、飛行可能なガンプラもちらほら見えた。

 

「それで、眼帯とバンダナが特徴的な、大男の事なんだが……」

 

 今はちょうど、機動戦士ガンダムООの地球連邦用である緑色のパイロットスーツを着用する、赤毛っぽい茶髪かつロン毛の……いかにも自信過剰そうな感じのダイバーに話を聞いていた、ジン。

 

「そんなダイバー、オレは見たことないな。悪いな……力になれなくて」

 

「いやいや、こっちこそいきなり聞いて、悪かった。

 時間を取ってくれて、感謝するよ。えっと……コーラサワーさん」

 

 

 どうやら、このダイバーも知らないらしい。

 ジンはガンダムООの登場人物である、パトリック・コーラサワーそっくりのダイバーに礼を言って別れたのち、困った様子を見せる。

 

 ――参ったな。それなりに聞きまわったと思うけど、手掛かりすらつかめないとは。それに――

 

 人に聞きまわったのみならず、情報端末も使ってダイバーの検索もかけてみた、ジン。

 ……しかし、あの時見た海賊風の大男、それは見当たらなかった。

 もうすぐ約束の、一時間が経つころだ。

 

 ――ま、仕方ない。一度戻るとしますか。フウタの方では何か、情報を得ているかもだし――

 

 とりあえず約束通り、ロビーへと戻ることにした、ジンであった。

 

 

 

 ――――

 

 ジンはロビーに戻り、フウタの姿を探す。

 

 ――さてと、フウタはどこに、いるのかな――

 

 ロビーを歩きながら、周囲を見て回る。

 ……すると、いくらか離れた場所から、こんな話声が聞こえる。

 

「へぇ! ロッキーさんも、航空機を作っているんだ!」

 

「まあな。俺の場合はドイツ空軍の機体が好きでな。中でも主力戦闘機でもある『メッサーシュミット Bf 109』は特にいいな、あのスラっと機体と、イカすエンジン、まさに名機だな!

 単座戦闘機の先駆けでもあり、一撃離脱戦法を得意とするメッサーシュミット、エースパイロットも多く輩出もしたんだぜ。

 良かったらフウタも、作ってみるといいさ!」

 

 会話の先に視線を向けると、そこにはフウタがいた。

 そしてもう一人……金色の短髪をした、タンクトップ姿の大男が彼と、和やかに話している所だ。

 

「メッサーシュミット――何だかよさそうだね! 

 ……ところで、戦闘機の塗装の時に、どうしてもパーツの合わせ目が気になるんだけど、どうすれば良いんだろ?

 やっぱりパーツごとに塗装して、その後で組み立てるのが……不味かったりするのかな」

 

「ハハハ! 確かにそれはやりにくいかもな。

 ガンプラと違い、スケールモデル全般は接着剤による接着が必須なんだが……フウタのやり方だと接着の跡が目立ったり、塗料が剥げたりもするからな。かと言って合わせ目消しで削るのも、これもまた塗装後だと剥げてしまう。

 塗装するなら一通り組んで、前もって合わせ目を消した後で行うのが、理想的だな。色の塗分けが面倒なら、先にある程度くらい、同色の部分ごとに組んだ後で、塗装するのも良いかもな!」

 

「ふむふむ、確かに参考になるね。……助かったよ、ありがとう!」

 

「どういたしましてだ! 参考になって、何よりだとも。

 ところで話は戻るが、ドイツ空軍だとメッサーシュミットが有名どころだが、他にもフォッケウルフにユンカースなんかもあってだな。あっちの機体は……」

 

 

 

「おいおい、ここで何やっているんだ、フウタ」

 

 このままだと、話が長くなりそうだと考えたジンは、たまらずフウタに声をかけた。

 

「……あっ、ジンさんも戻って来たんだ」

 

「だってそう言う、約束だったからな。

 フウタこそ、一体どうしていたんだ? GBNでスケールモデルの話なんてしてさ、いくら俺でも、そんな事はしないぞ」

 

 ここはガンプラを楽しむ場であるGBN。なのに別の模型の話をここでしているのは、やや場違いであるのかもしれない。

 

「ごめんごめん、最初はガンプラの話だったんだけど、つい話がそれてさ。

 でも、このロッキーさんは模型全般に詳しいんだ。ガンプラはもちろん、他のロボットプラモや、戦車や航空機なんかのスケールモデルまで……尊敬するよ」

 

 大男――ロッキーも、これには人の良さそうな、照れ笑いを浮かべる。

 

「お褒めに預かり、光栄だな。ちなみに今は、二ホンの城の模型を作っているんだ。確か……姫路城って言う城の、模型だったかな」

 

 ジンはロッキーにも、視線を向けた。

 

「どうやら、うちのフウタがお世話になったみたいだ。

 だけど今俺たちは、人を探している途中で……」

 

 するとその話に、フウタは割り込む。

 

「あのさ、その事なんだけど」

 

「どうしたんだ?」

 

「僕たちが探している悪質ダイバー、実は…………このロッキーさんなんだ」

 



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動画と、そして果し合い(Side ジン)

 

「――は?」

 

 それを聞き、ジンは再度ロッキーの姿をちらと見た。

 あの時の悪質ダイバーは、海賊風のいかつい男だ。 

 その一方で、目の前にいるのは人の好さそうな、大男……。

 一見、両者は全く違うように思えたが、よく見ると体格や顔つきが共通し、若干の面影があった。

 ……そもそも、VRMMOというゲーム上、外見など多くはあてにならないが、確かに同一人物と考えても、不思議ではない。

 

「あまりジロジロ、見ないでくれたまえ。……照れるじゃないか」

 

 ロッキーの言葉に、ハッと我に返るジン。

 この男こそ、あの時自分とフウタを襲った悪質ダイバー。

 ……なら!

 

「――フウタ! そいつから離れろ!」

 

 途端、ジンはロッキーから距離を置き、強い警戒を見せる。

 フウタはその様子に、慌ててたしなめる。

 

「まぁまぁ、落ち着いてよ、ジンさん」

 

「落ち着けって? フウタこそ、この男が悪質ダイバーだって、言っていたじゃないか。なのにどうして仲良くなんてしていられるんだよ!?」

 

「その事もだけどさ、ロッキーさんは悪質ダイバーを、引退したみたいなんだ。

 ……話によると、上級ダイバーらしい男に、制裁を食らったって事でさ」

 

 フウタの説明に、ようやくジンもいくらか落ち着いた。

 ……だが、いまだにロッキーに対しては、疑惑の目をむけていた。

 ロッキーはその様子に、苦笑いをしながら肩をすくめる。

 

「ま、そう思うのも無理はない……か。

 だが俺も、もう懲りて改心しているんだ。あの時の事は、この通り、謝るとも」

 

 そんな事を彼は言うも、ジンはこう聞くことにした。

 

「本当かよ。また俺たちを騙すために、嘘をついているんじゃないか?」 

 

「嘘じゃないさ。ご丁寧に、ちゃんとその動画もあるみたいだしな」

 

「……動画って? 一体どんなのだよ」

 

 ロッキーの言う動画に、ジンは気になる様子を見せる。

 するとフウタが――。

 

「その動画だったら、ほら。……多分これ、だと思うよ」

 

 フウタはメニューを開き、ある動画の画面を出した。

 ロッキーとジンは、その画面を覗き込む。

 

「――ああ! それだよそれ! 俺が言うのも何だが、わざわざ動画にするとは……よくやるものだぜ」

 

 ロッキーはそんな事を言う一方、ジンもまた、興味を示す。

 

「GBNでは、こんな動画もあるのか。どれどれ、『キャプテンジオン』……だって?」

 

 表示されている動画のタイトルには、ブルーいマントと赤いマスク、スーツを身に纏った、一昔前のアメコミヒーローチックな大男の姿がでかでかと載っていた。

 フウタもこれには、反応に困る。

 

「ははは、いくらダイバールックは自由に弄れるとは言え、すごいな。

 インパクトが凄いって言うか、ロッキーさんよりずっとガタイが良いんじゃないの?」

 

「凄いのがダイバールックだけなら……こっちも苦労がなかったんだがな。

 このアメコミ男のガンプラも――また凄いの何の」

 

「ふーん。じゃあせっかくだから、ちょっと動画でも見てみようかな。

 ジンさんも、気になるだろ?」

 

 彼に話を振られたジンは、同意した。

 

「俺もその動画、どんなのか見てみたいな。

 ……ああ、それとフウタ」

 

「ん?」

 

「やっぱり……俺の事はさん付けじゃなくて、出来れば呼び捨てで読んでくれるかな? 何だか、その、こそばゆくていけない」

 

 実はジン、年上と言うことでフウタからはさん付けで呼ばれていたものの、以前から慣れていなくて――こそばゆく感じていたのだ。

 フウタはそれには、意外そうだったものの。

 

「ふーん。なら、了解だねジンさ……いや、ジン。

 じゃあ早速、動画でも見てみようかな」

 

 動画を見ようとすると、ロッキーも。

 

「おっと! 良かったら俺にも見せてくれないか?

 どんな感じなのか、気になるしな」

 

「もちろん大丈夫だよ。

 それじゃ、再生ボタンを……ポチッと!」

 

 フウタはジンとロッキーを背にしたまま、動画の再生ボタンを押した。

 

 

 

  ――――

 

 

 映像の舞台となるのは、周囲を雪と氷に閉ざされた、大規模な基地。

 あちこちから火の手が上がり、寒冷地仕様のジム・コマンドの残骸がいくつも転がる中、三機のハイゴックと、リーダー格に見える、ズゴックの改良型となる、一機のズゴックEの姿が現れる。

 全機とも、頭部にドクロマークの、ペイントが成されていた。

 

「えっと、内一機が、ロッキーさんだよね。残りの三機は?」

 

 フウタは動画を見ながら、そうロッキーに聞いた。

 

「残りの機体は俺のダイバー仲間、だった奴らさ」

 

「ってことは、同じく悪質ダイバーなの?」

 

「ははは! 俺はもう引退したがな、そんな所だ。

 ……この時は、何者かに呼び出されたんだっけな。『今までのマナー違反による迷惑行為に制裁を下す』って、そんな感じの果たし状的なメッセージが届いてさ。

 腐ってもガンプラバトルの腕にも、自信があった。そんで挑発に乗って、この場所へと来たわけだ」

 

 ジンはそんな解説も聞きながら、動画の続きを見ている。

 動画では、悪質ダイバーのガンプラが固まり、周囲を警戒していた。 

 すると――

 

 

 突然、雪の積もった山の頂上に、堂々と姿を現す一機のガンプラ。

 この出現に、ロッキーを含む悪質ダイバーも、驚いた様子だ。

 三機のハイゴックと、一機のズゴックE、軽四つのモノアイセンサーは、山の頂上を見上げる。

 

 

 そこに立っていたのは、深紅色のガンダムであった。

 ベースとなっているのは、劇場版『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』の主人公、アムロ・レイの最後の搭乗機となるνガンダムだろう。背部のマント状に配置されたファンネルが、特徴として目立っていた。

 だが赤色の機体と良い、本体そのものはシンプルなオリジナルよりも伸びた両肩や、チューブは走るややがっしりとした胴に、頭部の額に見えるピンク色のモノアイなど、元よりもかけ離れた要素も足されていた。

 極めつけは、マントのようなファンネル以上に目立つ、ジオンの紋章を模した大剣だ。

 まるでこの機体は――。

 

「連邦軍とジオン軍の機体、具体的には……νガンダムとサザビーの、ニコイチって感じだね」

 

 フウタはつい、そんな事を言った。

 ちなみにサザビーは同じ映画に登場する、ライバルであるシャアの機体だ。

 この機体はまさに、その二機両方の、要素を強く感じる。

 だが、彼の言葉にジンは。

 

「でもνガンダムとサザビーの、ただのミキシングってわけじゃないみたいだな。よく見ると新規のパーツっぽいし、もしかして、自作か?」

 

「自作って、凄いな! さすが上位ダイバー……なのかな。

 僕なんて別キットもパーツを取り付けたり、張り付けたりのミキシングが一杯一杯だって言うのにさ」

 

「ああ。改造だって凝っているし、こんなの、一体どうやったら作れるんだよ?」

 

 二人が映像のガンプラに驚いていると、ロッキーは解説する。

 

「こうした改造の多くは、ミッションなんかの報酬で手に入る、パーツデータを使って現実での射出成型機で金型を製造するんだぜ。

 一応ガンダムベースにあるっぽいんだが、……まさか、使ったことないのか?」

 

 ジンとフウタは、どうやらその通りらしい。

 

「まぁ……確かにミッションでデータっぽいのは貰ったり、ガンダムベースでもそれっぽい機械も見たことはあるんだけど、そこまで興味を持ったこともなかったな」

 

「僕も同じく。だって軽く遊ぶ分には、そう使おうとも思ったことないしね」

 

 結局、どちらもアマチュア。

 このアマチュアさには、ついロッキーも頭を抱える。

 

「……ったく! これだからあの時俺に、初心者狩りされたんだぜ。

 まぁいい。でも、あんな感じにまでオリジナルになると、自分でパーツの設計でもしたのか? 

 ただ言えるのは――あいつのガンプラ、νジオンガンダムは、滅茶苦茶強かったってわけだ」

 

 

 

 動画では、悪質ダイバー達が上のガンプラに対し、いかにも三下の悪党らしく『誰だお前は!?』と、声を上げた。

 ……すると向こうは、またいかにもヒーローらしく名乗り上げた。

 このガンプラに乗るダイバーこそが、動画の配信者でもある――キャプテンジオン。彼は悪質ダイバーの行った悪行を次々と明らかにし、それに制裁を加えると、声高に宣言した。

 

 

 無論、相手もそう言われて、ただで済ませるわけがない。

 血の気の多い、一人の悪質ダイバーのハイゴックが、バーニアを噴かせて一気に接近した。

 そしてお得意のクローを伸ばし、切り裂こうとしたが。

 νジオンガンダムは大剣――ジオニックソードを、一気に薙ぐ。

 クローと剣先は正面からぶつかり合う。が……それも一瞬。

 次の瞬間にジオニックソードはハイゴックのクローを、粉みじんに粉砕した。

 そして剣は、そのまま機体へと。成すすべもなくハイゴックは、真っ二つに切り裂かれた!

 

 

「ちなみに、さっきやられたのが……俺の機体だ」

 

 ロッキーは恥ずかし気に、そう話す。

 

「えっ嘘! あんなにあっさり」

 

「まぁ、それほど強いってことさ、フウタ。

 ――――ん? ジンの方は、そんな考えるような顔して、どうしたんだ?」

 

 一方、ジンは何か悩むような様子で、動画を眺めていた。

 

「うーん。いや……その、動画投稿なんて経験はないんだけどさ、ああして本人が戦っていて……これって誰が撮影しているんだろうって」

 

 これには、ロッキーも答えに困る。

 

「それは……まぁ、そういうものじゃないのか?」

  

 

 動画では、山頂から跳躍し、地上に着地を決めるνジオンガンダム。

 目の前には、残る二機のハイゴックと、中央のズゴックE。

 先程ロッキーがやられた事に、動揺を見せているものの……数で言えば、まだ自分たちが有利だ。

 

 

 今度は一気に、三機掛かりで――。

 二機のハイゴックは高速で雪原を滑走し、相手の後ろ両側を挟む。

 つまり敵機を中心に、三角形の頂点状に包囲。更にそのまま、両腕のビーム砲とミサイルで集中砲火を浴びせた。

 

 

 降り注ぐ、ビームとミサイルの嵐……。

 爆炎とエネルギーで雪は下の地面とともに吹き飛び、煙で辺りは見えなくなる。

 これには、通常のガンプラでは一たまりもない。

 やったか――。一人の悪質ダイバーはそう言った。だが……。

 煙、そして炎の中から現れる、傷一つない深紅の身体。

 νジオンガンダムは、全くの無傷。ファンネルで構成されたマントは、攻撃を防ぐ盾にもなるらしい。

 

 

 身体を覆うマント、それを一気に展開した――かと思うと、それが幾つも分離した。

 本来のビット兵器……ファンネルとして、周囲に展開し、そして三機同時に攻撃を放った。

 複数方向から襲う、ファンネルによるビーム攻撃。各々が回避を試みるも、ハイゴックが一機間に合わず、いくつものビームに貫かれて爆散する。 

 残るは二機。

 ファンネルのオールレンジ攻撃を避けるズゴックEと、ハイゴックではあったが……。

 確かに、ファンネルによる攻撃には強い注意を払っていたらしい。が……次の瞬間、ハイゴックの胴体は高威力の太いビームで貫かれた。

 それはファンネルではなく、ジオニックソードの射撃形態による、νジオンガンダムの遠距離攻撃であった。

 本体からの攻撃に、気に掛ける余裕すらなかった。

 胴体のほとんどは丸く抉れたハイゴックは、仰向けに倒れ、続けて爆発して散る。

 

 

 

 ……と、これで、後はズゴックEの一機のみに。

 展開したファンネルを、元のマント状へと戻し、そして近接形態となったジオニックソードを構えた。

 どうやら最後が、一騎打ちで決めるつもりらしい。

 そしてついに、覚悟を決めたズゴックEもまた、これに応える。

 クローを開き、相手と向き合い、同じく構える。

 両者対峙し、しばしの間、互いに動きを伺うも――。

 

 

 動いたのは、二機同時だった。

 大剣とクロー、互いの武器による一撃が迫り、そして交叉する。 

 一騎打ちを果たした二機は、それぞれ背を向け、動かなくなる。そして――。

 

 

 ズゴックEの中央に、縦に一直線、筋が入った。

 かと思うと、機体は左右に真っ二つに別れ、二つの大爆発を起こす。

 最後に、その爆発をバックに、キャプテンジオンのνジオンガンダムが……燦燦と映し出された。

 

 

 

 ――――

 

 動画を見終わった、ジンとフウタ、そしてロッキー。

 

「ふぅ、実は俺も……動画自体を見るのは初めてなんだが、やっぱり情けないな。

 このショックもあって、俺は悪質ダイバーを引退したってわけだ。まぁ、以前から辞めようとも思っていたし、丁度良かったってのもあるしな」

 

 ロッキーはため息交じりに、そんな事を話す。

 また、ジンの方では。

 

「どうやら、悪質ダイバーを引退したって話は、嘘ではないみたいだな」

 

「だから言っただろう? これからは心を入れ替えて、真っ当なダイバーとして、やっていくつもりさ」

 

「それはそれで、また疑わしいけどな」

 

 ジンはやっぱり、不審な様子でロッキーを見る。

 一方、フウタと言えば

 

「……でもさ、この動画の、キャプテンジオンってなかなかカッコいいな!

 あんな風に悪質ダイバーを、ギッタンバッタン倒してさ。チャンネル登録者が多いのも頷けるよ。ジンだって、そう思わない?」

 

「うーん、俺はちょっと微妙だな。確かに悪質、迷惑行為、マナー違反は褒められない事だけど、ああして個人で制裁を加えるのもどうかと……」

 

……が、ようやくここで、ある事を思い出したかのように、ハッとした。 

 

「……って、動画はどうでも良いんだ! 

 それよりロッキー……だったか、いくら改心したと言っても、あの時俺たちに襲い掛かって、迷惑をかけたのは事実だろ?」

 

 確かに、改心したとしても、ロッキーが今まで行った迷惑行為が、なかった事になるわけがない。

 

「弱ったな。そう言われると、俺に言い返す言葉がないぜ」

 

 困った様子の、ロッキー。

 するとそんな彼に、ジンは……。

 

「そこでだ、ここで今――あの時の借りを返させてもらうぜ! 

 もしあの時の事を帳消しにするつもりだったら、俺たち二人とガンプラバトル、受けることだ!」

 

 



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水陸両用MSの脅威(Side ジン)

 

 ここに来て、ジンによる勝負宣言。

 フウタはそれに、慌てて間に入る。

 

「ちょ、ちょっと!? 確かに最初の目的は悪質ダイバーへの敵討ちだけど、本人だって改心しているって事だし、今更戦うのもどうかと思うよ」

 

「おいおいフウタ、ここまで特訓したのは、まずはそいつを倒すって、目先の目的もあったからだろ?

 誰があの時の悪質ダイバーか分かったんだ。次に進むためにも、やはりケジメはつけるべきじゃないか」

 

「それに、『俺たち二人』って……改めて考えると、実質二対一じゃないか。それって、いくら何でも……」

 

 二人は、そう言いあっていた。 

 すると――ロッキーが、不敵な笑いを見せる。

 

「ふふふ……そう言うことなら、面白そうだな。いいだろう、そのガンプラバトル、受けてもいいぜ!」

 

 

 

 ロッキーもバトルをする気、満々な様子。

 

「ほう? ノリが良いじゃないか。あの時の事はともかく、そこは気に入ったな」

 

 さらにはジンもそんな様子。

 だが一方で、フウタは――

 

「ええっ、本当に……バトルするわけ」

 

「何を今更、そもそも今回GBNに行こうと言ったのは、フウタじゃないか」

 

 相変わらず、二人の言い合いは続いている。

 ここに来て乗り気じゃなくなったフウタに、言い返すジン。

 確かに、今日悪質ダイバーへの敵討ちに行こうと、言い出したのはフウタだ。しかし……。

 

「だから! これじゃ二対一だって、言っているだろ! 悪い人じゃないみたいだし、それってあんまりだと思わないわけ!?」

 

 どうやらフウタは、ロッキーが一人しかいない事を、気にしているみたいだ。 

 だがこれに……当の本人はこんな事を言った。

 

「ハハハ! お気遣いはありがたいな。

 だが、お前たち二人を相手にしても、俺は勝つ自信があるぜ」

 

「……なっ!」

 

「あの時二人の戦いを少し見ていたんだが、……あんなのじゃ、全然俺の方が上だな。確かに奇襲をしたにはしたが、もし仮に――正面から戦ったとしても、一分も経たずに蹴散らせる自信があるぜ。

 確かに悪質ダイバーなんかやっていたが、普通にバトルしてもそれなりに強いんだぜ。アマチュアの一人や二人、楽勝だとも」

 

 ロッキーは彼なりに、言い争いをなだめようとして、そう言ったのだろう。……が、如何せん言い方が不味かった。

 これにフウタは、ムッとした表情になる。

 口数もなくなり、少し沈黙。そして……。

 

「なぁ、ジン」

 

「……改まって、どうしたんだ?」

 

「前言撤回。お望み通り、二人で返り討ちにしようよ。あれから僕たちも成長したって――思い知らされてやるよ」

 

 さっきとは打って変わり、戦意に満ちた、フウタの様子。

 

「ふっ! ようやくその気になったか。

 ああ、俺たちの力を、見せてやろうぜ!」

 

 二人とも、戦う準備は満タンだ。

 ロッキーはこれに、面白そうに笑う。

 

「ようやく準備が、出来たみたいだな。

 一応は言っておくが、こっちもこっちで手加減はしないぜ。もしまたやられたとしても、恨みっこナシだぜ」

 

「……はっ! 言うじゃないか。そうと決まったら――さっさと始めようぜ、ロッキー!」

 

 ロッキーとジン、二人の視線の間に、火花は走る。

 

「もちろん、いいとも。

 ――ま、そっちが二人な分、こっちは戦う場所くらいは指定させてもらうさ」

 

 あの時自分たちを襲った、元悪質ダイバーのロッキー。

 彼との因縁の戦いが、今始まろうとする。

 

 

 

 

 

 ――――

 

 ロッキーが指定したのは、周囲を海に囲まれた、孤島のエリアであった。

 ――この島、なかなかに小さいかもだな――

 自身のガンプラである、ガンダムF91に乗り込んでいるジンは、辺りを見渡す。

 砂浜と、岩場、そして少々の草木が生える、平坦な島……。

 大きさも小規模、陸上をメインにした戦闘では、苦戦するかもしれない。

 

 

〈さて……と。張り切って行こうぜ、ジン!〉

 

 F91の横に並ぶ、フウタのレギンレイズは、既に戦闘態勢に入っていた。

 そして――。

 

 

 二機の前には、額にドクロマークがペイントされた、ハイゴックが立ち塞がる。

 

〈ハハハ! ライオンは兎を狩るにも全力を尽くす、と言うだろう?

 この海に囲まれたフィールドなら、俺のハイゴックが有利だからな。……さぁ、実力の違いを、思い知らせてやるよ!〉

 

 ロッキーに対し、ジンも言い返す。

 

「はんっ! 動画では開始早々に、出オチで真っ先にやられたくせに」

 

〈……うっ、嫌なことを、思い出させるじゃないか。

 だが、俺があの時あっさりやられたと言え――それがお前たちが俺より強いってことに、なるわけじゃないぜ?

 御託はいいから、かかってきな! 先攻は譲ってやるぜ!〉

 

 

 

「それなら……お望み通り!」

 

 F91はビームサーベルを抜き、構えた。

 

「フウタ、ここは俺に任せてくれよ。この一撃で――!」

 

 バーニアを噴かし、機体はハイゴックに接近する。

 そしてサーベルを振り上げ、斬撃を繰り出そうとするも……。

 

 だが斬撃を受ける直前、ハイゴックは後ろに跳躍し、これを避けた。

 

 ――くそっ、外したか!――

 

 跳躍した先は、後方に広がる海面。

 敵機は水飛沫を上げ、海中へと姿を消す。

 

〈おいおい! 逃がしたのかよ、ジン〉

 

「水中に逃げるとは……卑怯な! 正々堂々と戦えよ」

 

 姿を見せないハイゴックに、ジンはいら立つ。

 これにロッキーは、得意げに高笑いをしてみせた。

 

〈ハハハハハ! 言っただろう、全力を尽くすってな!

 海中はこの俺のフィールド、アマチュアのお前たちではどうしようもない!

 ……そして!〉

 

 

 

 突如、警報音が鳴り響く。 

 ――なっ!――

 高速で迫る、飛翔物体の影。

 とっさにジンは回避運動を取った、そしてフウタのレギンレイズも、同じく別方向に。

 

 

 それと同時だった。

 飛来したミサイルが、さっきまで二人がいた場所に着弾し、爆発を巻き起こす。

 

〈これはあの時、僕を倒したミサイルかよ!?〉

 

「らしいな! ……って!」

 

 と、今度は目の前の海中から、水面を突き破って四基のミサイルがジンのF91へと向かって来る。

 とっさに握っていたビームライフルで、ミサイルを撃ち落とそうと試みる。

 放たれたビームが、四基のうち二基のミサイルに当たり、爆発した。

 

 

 

 だが……残りのミサイルは、なおも接近する。

 回避も間に合わないと、ジンは機体腕部の、ビームシールドを展開して防御を行う。

 シールドに衝突したミサイルは爆発、煙で周囲の視界も一時的に悪くなった。

 通信でフウタの声が届く、

 

〈ジン! 大丈夫!?〉

 

「ああ、どうにかな。そっちは?」

 

〈こっちも何とか。……くっ!〉

 

 煙が晴れ、周囲を見渡すと、今度はさらに別方向からレギンレイズに向け、ミサイルが飛んで来るのが見えた。

 あっちはどうにか、回避運動をとり、それを避ける。

 

〈海に潜って、そこから攻撃をとばすなんて……僕たち、どうするんだよ。

 どこから来るかも分からないし〉

 

「とにかく、まずは視界を確保だ。こうすれば――」

 

 F91は孤島の中央で、レギンレイズの背中につき、二機で360度の視界を確保する。

 

 

 すると、水中からぷかりと、ハイゴックの頭部が顔を覗かせる。

 ロッキーからも、通信が届き――

 

〈ほう、そう来たか! 二人であることを活かすわけか〉

 

「ああ! これで思わない方向から、攻撃が来るなんて心配はないぜ!」

 

〈確かにそうかもだが……ガンプラバトルはそう、甘くないぜ〉

 

「ほざけ!」

 

 ジンは背部のヴェスバーを展開し、高出力のビームを浮かぶハイゴックの頭を狙い、放った。

 だが、すぐにまた海中に潜り、それを回避。ヴェスバーのビームは海面をかすった程度である。

 

 ――また、海に潜んだか――

 

 海に潜ったハイゴック。……と、すぐに海中からビームの弾が幾つも飛来する。

 これをビームシールドで防ぐF91だが、間髪入れずにレギンレイズの方にミサイルが飛来する。

 フウタは何とかライフルで撃ち落とすも、攻撃は止むことを知らない。

 二人の機体が位置する、孤島を囲む海。

 それこそまさにハイゴックの独壇場、全方向の海から、一方的に遠距離攻撃を振りまく。……完全に、向こうが圧倒していた。

 



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フィッシング! (Side ロッキー&ジン)

 

 

 海中からの、四方八方から繰り出されるミサイル、そしてビーム攻撃。

 二人はどうにか防戦するも――

 

 ――これだと、キリがないな――

 

 防御し、致命傷こそないものの、それでもあちこちに損傷が見られる。

 

〈くうっ! ガントレットが!〉

 

 再度飛来したミサイルを、右腕に装備した損傷だらけのガントレットで防いだ、フウタのレギンレイズ。

 ……だったが、ついに限界が来たガントレットは、このミサイル攻撃で砕けた。

 

〈心配しなくても、まだ左腕の方が残っている。だけど……〉

 

 フウタの表情は、難しい表情を見せる。

 

「ああ。水中にいる相手に、こっちは有効打を打てない。これじゃ一方的に、やられるだけじゃないか」

 

 向こうから一方に、攻撃を浴びせられる二人。

 F91のビームシールドも、そろそろ限界に近い。じわじわと……追い詰められて行く

 

 

 

 通信では勝ち誇った、ロッキーの様子。 

 

〈はははは! さて……どれぐらい、もつかな。

  あまりに全力を出しすぎて、少々大人げないかもだが、そっちは二人なんだから文句は言えないだろう?〉

 

「だが、こんなのって、反則すぎるじゃないか!」

 

 とうとうジンは、弱音をこぼした。

 

〈反則ではない。こっちは水陸両用MSの特性を、最大限に活かしているだけさ。持前のスペックや装備を活用することこそ、バトルの極意ってやつさ〉

 

 確かに、向こうの戦法は機体の性能を最大に活用していた。

 

 ――スペックや、装備を最大限に――

 

 この状況を打破すべく、ジンは考える、

 自身のF91、そしてフウタのレギンレイズはともに、水中での戦闘は得意でない。

 地上、空中から攻撃を行ったとしても、相手は海を自在に動き回りさらに、海水に阻まれて攻撃が通るかすら怪しい。

 

 

〈ちいっ! せめてあそこから、引きずり出せれば!〉

 

 フウタの言う通り。水陸両用MS相手に、同じく水中で挑むのは、アマチュア二人には無謀過ぎる。

 どうにかして、海から引っ張り出せれば……あるいは。

 

「引きずり出すって言っても、こっちにはビーム兵器ばかりで、そんな装備なんてないぜ。……せめて、何か引っ張り上げられるような物があれば」

 

〈ははは……そんな都合の良いものなんて、僕のレギンレイズにだって……〉

 

 こう話すジンに対し、苦笑いして否定しようとする、フウタであったが……。

 

 

 

〈……待てよ、引っ張り上げる、装備って言ったら〉

 

 彼のレギンレイズは、頭部のセンサーを、右手に握っていたパイルに向ける。

 

「ん? 妙な顔して、どうしたんだフウタ?」

 

 ジンはこれに気になる様子を見せるも、対してフウタは、得意げな笑みを見せ、言った。

 

〈上手く行く自信は、怪しいけどさ……良い方法を、思いついたんだ〉

 

 

 

 ――――

 

 海中を潜行する、ハイゴック。

 

 ――さてと、この様子なら……楽勝だな――

 

 ロッキーは余裕がたっぷりの、様子である。

 

 ――確かに少し、大人げなかったか。まぁ向こうから挑んで来た勝負だ、全力で行くのが、マナーってものだろ――

 

 そう、完全に有利であった彼ではあったが。

 

 

 突如、海中にライフルの弾が、数発撃ちこまれた。

 ……銃弾は海水に受け止められ、深く潜っていたハイゴックには届かないものの、明らかに向こうが、攻撃を仕掛けてきたことは分かる。

 

 ――ほう、そう来たか――

 

 ハイゴックはモノアイを上に向けると、海面に、一機のMSの影が映っていた。。

 波にゆらめいてハッキリとは見えないが、それはフウタの、レギンレイズ・フライヤーのものである。

 

 ――あのネコミミ小僧め、空中から俺を攻撃しようってか。

 だが甘いな! 逆に俺が、撃ち落としてやるぜ!――

 

 ロッキーはハイゴックの胴体に内蔵された、対空ミサイルとして使用可能な、魚雷を打ち上げた。

 

 

 狙いは海上を飛行する、レギンレイズ。

 魚雷は海面を突破し空に打ちあがり……爆発した。

 

 ――はっ! やったか!?――

 

 それを見てロッキーが勝利したと思った、そんな時……。

 

 

 

 爆発から再び機体の影が現れ、更に接近する。

 

 ――くっ! 意外と頑丈だな! それに、さっきの攻撃でこっちの場所も――

 

 影は海中に突入し、フウタのガンプラ、レギンレイズが近接装備のパイルを右手に、ハイゴックへと迫りくる。

 魚雷の攻撃を受けた、残る左腕のガントレットは、海中に突入したショックでバラバラと崩壊する。

 

〈こんどはこっちの番さ、ロッキーさん!〉

 

 ……が、それを気にすることなく、フウタの機体はハイゴックに接近しそして――掴みかかってパイルを打ち付けた!

 

 

 

 海中でもがく、二機の姿。

 

「正直こうも勝負に出るとは、驚いたぜ。……だが!」

 

 ハイゴックの長い両腕は左右に回り込み、クローでレギンレイズの機体を鷲掴みにする。

 

〈……っ!〉

 

「たった一機で来るとは俺も、嘗められたものだぜ。

 まぁ、海中なら残りのF91が来た所で、相手になりはしないんだけどな!」

 

 このままクローで握りつぶそうとした、ロッキー。

 だがフウタは……上手く行ったと言いたげな表情で。

 

〈確かに海中では、そうだろうね。でも――これはどうかな?〉

 

 

 

「なっ!?」

 

 ロッキーは訳が分からない様子だった。

 向こうはもはや、どうすることも出来ないはず。これ以上何が……。

 と、彼はそう考えていた時、映像にあるものが映った。

 

 

 それはレギンレイズの武器である、パイルの底面から延びる、黒いワイヤーだった。

 ワイヤーは上へと、海面上にまで続いている。

 

 ――まさか、これは――

 

 そう何か、ロッキーが気付いたそんな時、レギンレイズがバーニアを噴かし上昇を始めた。

 更に、それ以上の力で、ハイゴックまで上に引っ張られるのも、また感じた。

 

「そう言うことかよ! だが、させるか!」

 

 どうにか引き離そうとするも、それがかえって不味かった。

 相手は更に掴みかかりそして、引き離そうともがく隙に乗じ、パイルを腕の関節奥深くに突き刺した。

 

 ――くっ! しまっ!――

 

 ロッキーのハイゴックはぐんと、上に引っ張り上げられて行く。

 

 

 

 ――――

 

 レギンレイズのパイルには、その底面にワイヤーで伸縮自在の、アンカーが装備されていた。

 アンカーを射出し、相手の動きを封じまた、機体を足場に固定することを可能とするその機構。

 半面、使う癖が強い分、フウタが使う事はいままで無く、その存在も半分忘れかけていたが……今回はそれを、上手く応用した。

 

 

 孤島ではジンのF91が、ワイヤーを手に、バーニアを全開にしてハイゴック、そしてレギンレイズを引っ張り上げようとしていた。

 

 ――まるで釣り、みたいだな!――

 

 海中ではフウタが、機体でハイゴックに掴みかかり、地上に引っ張り出そうとしていた。 

 そしてジンのF91が、ワイヤーを通じて更に力を加え手助けを行う。これこそまさに、二人の連携であった。

 

 ――マンガみたいな方法だが、これで……どうだ!――

 

 引っ張り上げる先の海面には、白い泡が立ち始め、二機の影が濃くなって行く。そして――

 

 

 

 高く水飛沫を上げ、レギンレイズ、そしてハイゴックが宙に打ち上げられた!



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ロッキー撃破! (Side ジン)

 ――――

 

 海中から飛び出した、二機。

 レギンレイズはハイゴックを下にして落下し、ハイゴックは背部が、地上に強く叩きつけられた。

 

〈……やってくれるじゃないか。だが戦いは、これからだぜ!〉

 

 だが、いまだにロッキーのハイゴックは健在だ。

 再びクローで掴みかかろうとするも、間一髪でレギンレイズは後退し、距離を取る。

 

「やっぱり、これで済むわけがないか」

 

〈当たり前だろ。こっちなんか機体がガタガタになってまで頑張ったのに、出来たことと言ったら、海から引きずり出しただけじゃん。

 向こうにだって、そこまでダメージはないみたいだし〉

 

 レギンレイズは、海中での取っ組み合いで、あちこちの装甲が外れ、間接もガタガタで動きもぎこちない様子だった。

 対してハイゴックは、一見大したダメージは、ないように見えたが……

 

「いや、そうでもないぜ。左腕が若干、調子が悪そうだし――バックパックと右足の方だって」

 

 確かに、取っ組み合いでパイルの刺さった、左腕の関節からは火花が見られ、ダメージのせいか少し下がっていた。

 それにバックバックも半分へしゃげ、右足からは煙が上がっていた。

 

「多分、さっき落下した、衝撃でのダメージだろうな。

 あれじゃもしまた海中に潜ったところで、さっきのような動きはもう、出来ないはずさ」

 

〈そうか、あの戦法が使えないなら、数で有利なこっちが……〉

 

 

 

「――危ないっ!」

 

 だがその瞬間、ハイゴックが巨体に似合わない俊敏さで、一気にレギンレイズに距離をつめ、無傷な方の左腕のクローで鷲掴みにしようとした。

 

 とっさにジンのF91は、全力でレギンレイズを突き飛ばして庇った。だがそれでも――。

 

 

 すれ違いざまにクローが、機体の左腕が、握っていたビームライフルごと引きちぎった。

 凄まじい勢いで腕を持って行かれ、F91はよろめいた。

 

「くっ! 見た目の割には、ずいぶん早い動きじゃないか」

 

 モニターでは、ロッキーが余裕な様子を見せていた。

 

〈くくっ。まさか、地上での勝負なら、俺に勝てるとでも?

 さてと……第二ラウンドを、始めようぜ!〉

 

 

 

 

 ガンダムF91、レギンレイズは左右に分かれる。

 

〈このっ!〉

 

 フウタが乗るレギンレイズは、右腰にマウントしたライフルを引き抜き、ハイゴックを狙い撃つ。

 

〈あんなにデカい的、外すかよ!〉

 

 そう息巻くフウタ。ではあったが……。

 

 

 アマチュアの射撃など、動作で簡単に弾道が予測できる。

 ロッキーはその操縦で、銃弾をことごとく避けた。

 

〈やはりまだまだだな! これぐらい簡単に――〉

 

 と、そんな時、ハイゴックの真横から迫るF91。

 

「真横が、がら空きなんだぜ!」

 

 ビームサーベルで斬りかかろうとするも、相手はクローで防ぐ。

 

〈このクローは、普通よりも強化してある。そしてビームコーティングによって、こうしてビームサーベルを防ぐことさえ、造作もない!〉

 

 そして力も圧倒的。ハイゴックはその力で、ジンの機体を弾き返す。

 

「くはっ!」

 

 F91は浅瀬に飛ばされ、飛沫を上げて倒れこむ。

 

〈ジンっ! …………うわあぁぁっ!〉

 

 今度は、フウタのレギンレイズに、魚雷兼ミサイルが撃ち込まれる。

 

 

 

〈さてと、これで終わりかい。せっかく挑んで来たんだ、もっと楽しませて欲しいぜ!〉

 

 確かに、ロッキーは悪質ダイバーであったこともあり、闇討ちなどの卑怯な行為も、一度や二度ではない。

 それに実力も、上級ダイバーの域では、決してない。せいぜい中級ダイバー辺りが積の山、で、あるのだが……。

 

〈それならお望み通りっ!〉

 

 ミサイルを受けながらも、今度はパイルで向かって来る、レギンレイズ。

 だが――

 

〈ただ突っ込むだけではな!〉

 

 ロッキーはそう言うと、機体を僅かにそらし、パイルの突撃をいなす。

 そして腕を振り、パイルを弾くと、そのままクローで横一文字に装甲を切り裂いた。

 

〈――くうっ!〉

 

 フウタは後退し、ようやく態勢を取りなおしたF91の横へと並ぶ。

 

「やっぱりあの男、俺たちには……強敵すぎるな」

 

 そう、確かにロッキーは中級ダイバーには過ぎない。

 過ぎないのだが――フウマとジンはそれにさえ、全然届かないアマチュアだ。

 現にこうして、二人がかりでも、二人は苦戦している状態だ。

 

 

〈ふっ、そう固まっていると、いい的だぜ!〉

 

 ハイゴックは両腕を掲げ、二人の機体に向けて手の平を向けビーム砲からビームを放つ。

 二機は別方向に逃れるが、可動域の高いアームは、機体の動きを追う。

 

 

 追う動きも早く、ビームの弾丸は二機に迫って行く。……が。

 

 

 F91を追っていた左腕が、突如、その動作がガタつく。

 これを見て取ったジン。

 

 ――さっきのダメージが、まだ残っているのか。なら――

 

 彼は機体の方向転換を行い、今度はハイゴックの方へと向かって行く。

 

「……手負いの状態であれば!」

 

 ビームサーベルを抜き、迫るF91の斬撃。ロッキーは、とっさに調子の悪い、機体の左腕で防ごうとした。

 ……が、突然の行動で、損傷した腕に再び負荷がかかる。

 そのため防御に幾分かの遅れが生じ、防ぎきれずに胴体の左部に、一太刀の斬撃を受けた。

 

〈ぐあっ!〉

 

 一撃を食らい、ひるむハイゴック。

 しかし、斬撃は表面の装甲に傷をつけたにすぎず、未だに

相手は健在だ。

 

 

 

〈やるじゃないか……意外とな。だが――これで、決めさせてもらうぜ〉

 

 一撃を当て、油断していたジンの機体に、今度はハイゴックは右腕をぐんと伸ばす。

 

「――しまった!」

 

 胴体を鷲掴みにされ、途端に動きが封じられた。

 

〈このままコックピットごと、握りつぶして――〉

 

〈そうはさせないよ!〉

 

 その時、一筋のビームが、F91を掴んでいたハイゴッグの腕を貫いた。

 ビーム射撃によって切断され、長い右腕はボトッと落下する。

 

〈へへっ、僕を忘れてもらっては、困るな〉

 

 レギンレイズはついさっき落とした、F91のビームライフルを代わりに握っていた。

 

〈フウタも、やってくれるぜ! だが、バトルはまだこれからよ!〉

 

 ハイゴックは、残った左腕の、ビーム砲をレギンレイズに向けて放つ。

 装甲は殆ど剥がれ、フレームを狙ってのビーム攻撃に、フウタの機体はダメージを受ける。

 

〈ちいっ! まだ戦えるのかよ〉

  

 レギンレイズは膝をつき、動くことが出来なくなった。

 

〈くっ! ずいぶん手間をかけさせるじゃないか!……だが、やはり一番ボロボロな、そちらからバイバイだな!〉

 

 と、今度は胴体を向け、ミサイルで止めを刺そうとする。

 

 

 

「焦りを見せたな。――今度は、足回りがお留守だ!」

 

 身長が通常よりも低い、ガンダムF91。ジンはそれを活用し、ハイゴックの懐に入り込んだ。

 そしてビームサーベルで、二撃、三撃――、両足に斬りつけた!

 

 

 

 ……火花とスパークが飛び散り、足元から崩れ落ちたハイゴック。

 機体状況を確認しているのか、画面上のロッキーの目元がせわしなく動く

 

〈……足腰が、完全にお釈迦かよ。

 くっ……それでもっ!〉

 

 ロッキーもアマチュア相手に、負けるとは考えていなかった。

 なおも抵抗しようと、辛うじて動かせる左腕を動かそうとした。……が。

 

〈ボロボロの僕が言えたことじゃ、ないかもだけど……見苦しいよ、ロッキーさん〉

 

 フウタのレギンレイズは。そんなハイゴックの胴体に、ビームライフルの銃口を突きつける。

 更にはF91もまた、ビームサーベルの刃先を向ける。

 

「その通り。これで俺たちの、勝ちってことだ」

 

 ロッキーは悔しそうに、唇を噛む。

 ……だが、表情はすぐに、諦めたような顔へと変わり、そして――

 

 

〈仕方ない、か。ああ……どうやら俺の負けだと、認めるしかないな〉



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紅色のガンダム(Side ジン)★

 ――――

 ようやく、戦いを終えた三人。

 

〈ふぅ。結構大変な戦いだったけど、これでジンは満足?〉

 

 フウタの問に、ようやく戦いを終えた、ジンは落ち着いた表情を浮かべる。

 

「もちろんだぜ。はぁ、二対一なのに、ここまで苦戦するなんて……な」

 

〈やっぱりロッキーさん、強かったもんね。さすが僕たちよりも、腕が良いダイバーだね〉

 

 するとロッキーは、照れくさそうに笑う。

 

〈あははは、そりゃ、GBNはそれなりにやっているからな。

 ……けど、お前たちだって意外にやるじゃないか。確かにまだまだだとは思うが、それでもアマチュアにしては上出来だと思うぜ〉

 

 彼は彼で、この戦いで二人のことを認めていた。

 これにはジンも、少し打ち解けたような様子である。

 

「そう言ってくれると、嬉しいさ。悪質ダイバーではあったのかもしれないが、本当は良い奴なのかもな」

 

〈ま、とにかくこれで戦いも終わったんだ。あとは大人しく――〉

Eの姿。

 三機ともその頭部にはドクロマークのペイントが。フウタ、ジンもこれを見て、ある事を思い出した。

 

〈あれは、あの動画に出てきた……〉

 

「もしかして、ロッキーさんの仲間って事、なのか?」

 

 ロッキーは、これに申し訳がなさそうにしていた。

 

〈お察しの通り、あれは……俺の元仲間さ。

 最もあっちは、いまだに悪質ダイバーを続けているみたいだが〉

 

 通信の主は、三機の内ズゴックEからであった。

 

〈おいおいロッキー、それは冷たいなぁ。いきなりいなくなって、随分と探したんだぜ。それなのに、お前と来たら、勝手に足を洗っているんだからさ!〉

 

〈はんっ! そっちこそ、あんなに痛めつけられてよくまだ、こんな馬鹿馬鹿しい真似を、続けようと思えるなんてな!〉

 

 売り言葉に買い言葉、ロッキーはそう相手に返すも。

 

〈あれしきの事で、そう辞めてたまるかよ。まぁロッキーは、ああも情けないやられ方をしたんだ。……辞めたくなる気持ちは分かるがな〉

 

〈くっ!〉

 

〈悪いことは言わない。おとなしく、俺たちの仲間に戻って来いよ。また一緒に、大暴れしようじゃないか。

 

「……ロッキー」

 

 ジンはその様子を、伺う。

 対してロッキーは、思い悩むように沈黙していた。……が。

 

〈――断る! こいつらにも、改心したって、言い切っちまったからな。今更撤回できるかよ!〉

 

 きっぱりと、彼はそう言い切った。

 

〈さすが、ロッキーさん! ……と言うわけだから、元は仲間だったか何だか知らないけど、さっさと帰ってよね〉

 

 

 

 フウタも加わって、悪質ダイバー連中に言い放つ。

 ……だが、相手が悪かった。

 

〈俺たち相手に、気に入らんな。――やれ〉

 

〈……えっ!?〉

 

 それは突然の出来事。

 リーダーの指令を受けた、ハイゴックがいきなり海面から飛び出して、フウタが乗るレギンレイズに掴みかかった。

 こんな不意打ちで来るなんて、フウタも、そしてジンも予想外だった。

 

「フウタっ!」

 

〈野郎……やってくれるじゃないか〉

 

 一方、ロッキーはこれに驚く様子もなく、ある意味当然のことのように受け止める。

 

〈はっはっはっ! 俺らが悪質ダイバーだと、忘れて貰っては困る〉

 

〈離せっ! 離せよ!〉

 

 レギンレイズは抵抗しようともがく。

 が、ハイゴックは意に介す様子もなく、上半身と下半身を掴むと、いとも簡単に引きちぎった。

 

「よくもやってくれたな! このっ――」

 

 こんな事をされて、ジンも黙っていられなかった。

 

 片腕しか残っておらず、戦いでボロボロだが、それでも彼のF91はビームサーベルで、フウタをやったハイゴックに迫る。

 

 

 

 しかし、その背後は全くのがら空き。

 そんながら空きの背中目掛けて、もう一機のハイゴックが、ミサイルを放った。

 

「うわぁぁぁっ!」

 

 爆発に巻き込まれ、F91も大破。辛うじて残ったパーツも、吹き飛ばされる。

 そしてそのまま、地面へと叩きつけられた。

 

 ――くっ! ……動けよ!――

 

 もはや機体も殆ど動かず、立ち上がることも、出来ない。

 

 

 レギンレイズに、ガンダムF91、どちらもこれ以上、戦えはしない。

 そして、ロッキーのハイゴックも。

 同じく動けない彼の機体に、ゆっくりと海面から上がり、ズゴックEが接近する。

 

〈どうだ。俺たちに逆らうやつは、こうなるのさ〉

 

〈いい加減……こんな事、やめたらどうだ。今更すぎるかもだが、弱いものイジメは格好悪いぜ。

 やっぱりバトルは、互いに白熱するくらいが、丁度いいってな〉

 

 だが、これに悪質ダイバーは嗤う。

 

〈ロッキーだって散々これまでやっておいて、よく言うぜ。

 ……まぁいい。GBNは弱肉強食だ、お前はそこで、その真実をたっぷりと見ているといい!〉

 

 ズゴックEのモノアイは、ジンのF91へと向けられる。

 

〈まずはそこのガンダムからだ! ――アレン、止めを刺せ、出来るだけ残忍にな!〉

 

 倒れているF91に、手下のハイゴックが迫る。

 機体はクローを開き、そのまま相手を切り刻もうと――。

 

 

 

 ――――

 

 瞬間、閃光が宙を裂いた。

 突如襲来した、大出力のビーム射撃。

 狙いはF91を狙っていた。ハイゴック。あまりにも突然すぎた攻撃に、成すすべなく撃ち抜かれ、ジンの目の前で吹き飛んだ。

 

 ――俺たちを、助けに来たのか――

 

 一方、悪質ダイバーは動揺する。

 

〈機体の姿はない。……と言うことは、遠距離射撃か!〉

 

 と、そんな中、ビームが飛来した方角の大海原から、一機のMSが高速で飛来し、迫る。

 

〈――まさか、あれか〉

 

 太陽の逆光により、シルエットしか分からない。……が、その手元には機体の全長と同等の大きさを持つ、大型ライフルを手にしていた。

 謎の機体は、再びライフルを向ける。今度は、残ったもう一機のハイゴックを、仕留めるつもりだ。

 

〈今度はお前が狙われているぞ! ディック、用心しろ!〉

 

 ハイゴックはすぐさま、左に回避運動を取った。

 ――しかし、避けたその瞬間。ビームが飛来したのは、まさにその場所だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

〈ディック!!〉

 

 続けて、二機目のハイゴックも、攻撃を受け爆発四散した。

 相手は回避の動きを、読んでいたようだ。

 

〈おのれ……よくも!〉

 

 相手はもはや、すぐ其処まで迫っていた。

 この距離ならこちらの攻撃が届くと、そう踏んだ最後の悪質ダイバーは、ズゴックE両腕のビーム砲で応戦する。

 ビームの弾は次々と、敵機に飛来するも……向こうは高速度のまま、悉く避けて、なおも迫る。

 

〈くそっ、なんで当たらないんだ! ――――なっ!〉

 

 そうしている間に、視界に入ったのは、ライフルの銃口が、ついにこちらへと向けられる様だ。 

 ズゴックEは一瞬、固まったように止まった。

 そして次の瞬間――ゼロ距離射撃による圧倒的なエネルギーで、いとも簡単に上半身は吹き飛ばされた。

 

 

 

 ――――

 

 後に残ったのは、棒立ちのままの……ズゴックEの下半身。

 腰から上は、ものの見事に消し飛んで、跡形もない。

 

〈まさか……あんなに簡単に、やられるなんて〉

 

 これにフウタは、驚いたように目を丸くしていた。

 

〈あいつらは、中級ダイバーと言っても、なかなかの腕なんだぜ。それを、ああも容易く……〉

 

 かつて悪質ダイバーの、仲間であったロッキー。

 その分彼らの実力も、もちろん知っていた。

 なのにこうして蹴散らされ――驚きを隠せない。

 

 

 

 そして――

 

 助けに現れた、何者かのガンプラ……。

 目の前に立つそれは、深紅と黒、そして銀色のカラーリングが施された、改造されたガンダムバエルの姿だ。

 『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の登場機である、二本の剣と、背中の翼状のバックパックなどさながら天使のような容姿を持つ、ガンダム。

 

 

 元々は白と青とヒロイックなカラーリングであるが、その色がオリジナルと異なるのはもちろん、バックパックも黒と深紅の禍々しい翼へと変わり、手に持つ武器は大型のライフルであった。

 

 ――あの機体は、まさか――

 

 ジンの驚きは、二人のものとは、また違っていた。

 そう、彼にはあの機体に、見覚えがあった。

 深紅色のガンダムバエル、そのダイバーは――

 

 

〈――ごめんなさいね、ジン。待ち合わせに来られなくて〉

 

 

 

 

 

 ロッキーがそう言葉を続けようとした、まさにその時……だった。

 

〈悪いが、そうは行かない!〉

 

 突如何者かからの通信が、横から割り込んだ。

 それとほぼ同時に、孤島周囲の海の三方向から、それぞれ三体の影が姿を現す。

 

〈――お前たちは!〉

 

 ロッキーには、それに見覚えがあった。

 

 

 出現したのは、彼のガンプラと同じく、二機にハイゴックとそして、一機のズゴック



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第五話 閑話休憩
閑話(Side ジン)


 ある平日の、朝――

 

 ジリリリリ………… 

  

 狭いアパートの一室に、目覚ましの音が響く。

 

「うーん」

 

 私服のまま蒲団で寝ていたジンは、眠たげな目で頭を上げ、手を延ばして目覚ましを止めた。 

 

「……ふぁーあ」

 

 上半身を起こし、欠伸をしながら、背伸びをする。

 恰好は私服のまま。……朝着替えるのが面倒だから、前日の夜に前もって着込んで、そのまま寝るのが癖だった。

 

 

 

 若干寝ぐせがついたまま、ジンは起き上がり、先ずは洗面台に行き、顔を洗って髭をそる。そして野菜ジュースとカ〇リーメイトと言った簡素な朝食を口にし、再び洗面台へ、歯磨きと髪を整えて、荷物を取って仕事に行こうとした。

 

 

 

再び洗面台へ、歯磨きと髪を整えて、荷物を取って仕事に行こうとした。

 

 ――おっと、忘れる所だった――

 

 すると直前にある事を思い出し、慌てて部屋に引き返すジン。

 向かったのは部屋の片隅。そこには四角く小さいケースがあり、中の回転車の所に、灰色の毛玉がぽつんと乗っかっていた。

 

「やぁやぁ、ハム次郎。……腹が減ったかな?」

 

 ジンは指をケースに伸ばすと、ハム次郎と名付けたペットのハムスターが近づき、体を摺り寄せる。

 ケースの扉を開け、中から動き小さな毛玉を、その手の平に乗せる。

 

「一匹だけだと寂しいと思うが、俺が仕事に行っている間、留守を頼むぜ。

 ほら、餌もちゃんと、食べるんだぞ」

 

 そしてケース内の餌桶に餌を用意すると、再びケース内にハムスターを戻す。

 寂しい一人暮らしのジンにとって、これはちょっとした癒しのひと時……

 

「んじゃ、そろそろ俺は――」

 

 と、ふと今度は、別の物に目が映り、苦笑いを浮かべた。

 

 

 

 ――そう言えば、結構溜まっているな。……時間を見つけて、作りたいところだけど――

 

 そこにあったのは、積み上げられたプラモの箱。戦車、航空機などのスケールモデルでなく、全てロボット関係のプラモ。

 宇宙世紀、アナザー系を問わない各種ガンプラに、またその他の、〇トブキヤの〇レームアームズなどと言ったバンダイ以外のキットも、全体の半分を占めていた。

 ガンダムシリーズを問わず、ロボット関係は幅広くプラモデルを作るジン。しかし――

 

 

 ――けど、今はバトルの腕を上げてから、でないと。

 じゃあ……そろそろ仕事に向かうとしますか――

 

 そして今度こそ、ジンは仕事場へと向かうことにした。

 

 

 

 ――――

 

 タケヤマ・ジン、二十七歳。

 元々はどうだったかはともかく、今は複数のアルバイトを兼業して生計を立てる、言わばフリーターであった。

 フリーターをしながら、何とか正職を見つけようともしているが、そっちも上手く行っていないらしい。

 

 

 今は町の大型スーパーで、契約社員として働いている、ジン。

 商品の品出しを、現在はしている所……。

 

 ――ふぅ。ざっとこんな感じって、ところか――

 

 もうすぐ昼休み、それまでには、今やっている品出しを済ませたい所だった。

 すると――

 

「ん?」

 

 見ると中学生くらいの少年が一人、カゴを持ちながら何かウロウロと、辺りをうろついていた。

 その視線に気づいたのか、少年はジンの元へと駆け寄る。。

 

「あの、お兄さん」

 

「……どうしたんだい?」

 

「母さんにお使いを頼まれたんだけど、あと一つ、言われていた調味料がどうしても見つからなくてさ。良かったら、探すのを手伝ってくれたら嬉しいな」

 

 軽い様子で、そう頼む少年。

 正直、探し物の手伝いは余計な手間だし、面倒くさくもある。

 

 ――面倒では、あるんだけどね。

 ……でも、世話を焼くのもいいだろうさ。それにあの少年、フウタにも似ている。フウタには俺の願いを叶える手伝いも、してもらってるしな、今は俺が手助けするのも悪くない――

 

 ふと、GBNでのタッグバトルのバディ、フウタの事を思い出した。

 ジンは仕方ないな、と言うように肩をすくめる。そしてくすっと笑って――

 

「ああ、構わないぜ」

 

「やった! それで俺が探している、調味料ってのは……」

 

 少年から、調味料の種類を聞くジン。

 

「ふむふむ、あーね。それならこっちだな、ついて来てくれ」

 

 ジンはそう言い、スーパーの中を案内する。

 

 

 

 ――――

 

 向かったのは、当然、スーパーの調味料コーナー。

 

「ねぇ、この辺りは俺も見たんだけど……」

 

「まぁまぁ、ここは俺に任せてくれよ。確かこの辺りに……」

 

 そう言って、調味料の棚に手を飛ばし、中でも大きな調味料が並ぶ間に少し空いた、隙間へと入れた。

 隙間から取り出したのは、小さめの調味料だ。

 

「――! こんな所にあったのか!」

 

「分かりにくい場所だからね。そりゃ、仕方ないさ」

 

 ジンから調味料を受け取り、少年はニコッと笑う。

 

「ありがとう! お兄さん!」

 

「まぁ、いいってことさ。……うん?」

 

 するとジンは、少年の持つカゴの中身に反応した。

 

「……へぇ、SDガンダムのフィギュアじゃないか。成程ね、SEED Destinyのインパルスガンダムかい?」

 

 カゴには食玩が入った箱が一個、混じっていた。パッケージに載っているのは、ガンダムSEED Destinyの主人公機、インパルスガンダムの姿。

 

「へへっ! 僕の一番好きな機体なんだ! お兄さんも、ガンダムが好きな訳?」

 

 相手もガンダムを知っていると分かり、目で見て分かるほどに、少年は目をキラキラさせて顔を近づけた。

 おそらく、この少年――よほどガンダムが好きなのだろう。

 その勢いに、ジンも思わずたじろいでしまう。

 

「ん、まぁ……それなりには、知っているとも。

 インパルスで言えば、ザフトのパイロットである、シン・アスカの機体……だったっけ」

 

 大体知っているくらいのことを、ジンは簡単にこたえた。

 それに少年はうんうんと頷く。

 

「そうそう! Destiny前半の主人公機でさ、後継機のディスティニーガンダムも大好きだけど、やっぱり僕の一番はインパルスだね!

 ほら、こんな風に主翼を備えたバックパック『フォースシルエット』を備えた、フォースインパルスガンダムが基本形態なんだ。他にもバックパックを『ソードシルエット』に換装することでレーザー対艦刀を二本装備し、近接戦闘に特化したソードインパルスガンダムに、銃火力の『ブラストシルエット』に換装すると、ブラストインパルスガンダムになるんだ。

 このシステムはまさに、初代SEEDの主役機、ストライクガンダムの換装を踏襲した感じになるね! どちらも元々はザフトが開発した機体であるし、まさに技術の継承ってのを感じるよ。どの形態も、最高にカッコイイしね!」 

 

 と、早口で機体について、少年は語りだした。

 

「へぇ……それは良かったな。だけど、俺はまだ仕事が残って」

 

 さすがにジンは、ここで引き下がろとする。

 ……だが、少年の語りは止まらない。

 

「まぁ、少しくらいいいじゃないか。もうちょっと聞いて行ってよ!

 それにインパルスガンダムには、インパルスシステムってのがあってさ、中央の戦闘機、コアスプレンダーに、上半身と下半身はチェストフライヤーとレッグフライヤーの航空機になり、これら三機が合体してガンダムになるんだぜ。

 この合体システムも魅力だし、パイロットのシン・アスカもまた……」

 

 ガンダムファンらしい熱心な口調で、語り続ける少年。

 どうも聞き終わるまでは離してくれそうにない。ジンは観念した様子で、それを聞くことにした。

 

 

 

 ――――

 休憩室には、ジンの先輩と、同期のケイジが余りものの弁当を昼食にしながら、彼が来るのを待っていた。

 

「……遅いな、ジンの奴。まだ品出しが終わっていないのか?」

 

 休憩が遅いことを気にする先輩に、ケイジはまぁまぁと言う。

 

「いくらジンでも、そろそろ戻ってくるはずですよ。しばらく待っても来ないなら、僕が様子を見に……」

 

 二人がそんな会話をしているさ中――

 

「すみません! 品出しに遅れてしまいました!」

 

 丁度、そこにようやく、休憩に入ったジンの姿が現れた。

 先輩はジンに視線を向け、意外そうな様子でこう聞く。

 

「ご苦労さまだ、ジン。……だが、ちょっと仕事が終わるのが遅かったな。何かあったのか?」

 

 この質問に、ジンは苦笑いした様子で……。

 

「ははは、ちょっとガンダム好きの男の子に、絡まれましてね。

 インパルスガンダムについて熱く語られて……ずっと聞かされていましたよ」

 

 これには先輩も、ついでにケイジもつい笑ってしまった。

 

「ずっと聞いていたのか? くくっ! そうかそうか!」

 

「あはは、それは災難だね、ジン」

 

 ジンは少し、不貞腐れた様子でパイプ椅子を広げ、腰かける。

 

「はぁ、そう笑うことはないでしょう」

 

「まぁまぁ、悪かったよジン。だがそれより、腹も減ったろう。ほら、机にはジンのステーキ弁当が用意してある、ゆっくり食べて、腹でも膨らませば落ち着くさ」

 

 ジンの机の上には、余りもののステーキ弁当。

 

「……ま、それもそうか」

 

 消費期限は少し過ぎているがだが、食べれないことはない。

 休憩に入り、さっそく昼食でも口にしようと、彼は弁当の容器に手を伸ばす。 

 お腹はもう、ペコペコだ。

 

 

 



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閑話(Side フウタ)

 ――――

 

 その丁度、同じ日の出来事。

 

 

 田舎町の高校にて――。

 今は数学の授業。フウタは席に座り、退屈そうに授業を聞いていた。

 

「ふぁーあ」

 

 学力は高くもなく、かと言って低くもないフウタ。

 勉強はまぁまぁ出来るものの……別に好きと言う訳でもない。彼は授業に退屈していた。

 

 

 カザマ・フウタ、十七歳。

 片田舎に暮らす、大体普通の高校生だ。学力、運動能力ともにそこそこ、ちょっと強気な所があるものの、割かし好青年でもある。

 

「……と、言う事だから、この二次関数の図の、X軸は……」

 

 教壇では数学教師が、黒板に書かれた内容を解説している所。

 

 ――こう淡々と説明されてちゃ、眠くなるよ。……もうすぐ昼だし、お腹だって空いているんだ――

 

 それでも一応は、ノートに授業内容を書いている。

 フウタのひとつ前……右横の席で教科書を立ててその後ろでグースカ寝ている、クラスメートの男子よりはまだマシだ。

 

「……また、数式として書くとするなら、このように……」

 

 授業が進んでいる中でも、相変わらず眠り続けている、クラスメート。

 その隣には座っているのは、フウタの幼馴染であるミユ。放っておけずにクラスメートの肘をペン先でつつくも、一向に目ざめる気配がない。

 これには困ったように、彼女は後ろに座っているフウタに、ちらりと視線を向ける。

 

 ――うーん、こればっかりは――

 

 フウタもこれには困り果てた様子、そんな時……。

 

 

 

「そこ! 起きんか!」

 

 突然、手にしたチョークでクラスメートを指さし、数学教師は声を張り上げた、 

 クラスメートは驚き、ガバっと起き上がる。これには隣のミユまで、ビクッとした。

 

「……ふぁっ!」

 

 それでも若干呆けた様子の彼に、教師は畳みかける。

 

「授業中に居眠りとは、どう言うことだね、ナカガワ君?」

 

「ははは、嫌だなぁ……眠ってなんかいませんよ」

 

「なら、この式のXとYの値を答えたまえ。授業を聞いているなら、分かるはずだ」 

 

「うっ! それは……」

 

 何とかごまかそうとするクラスメート、ナカガワ・ヒロノブだったが、これには言葉が詰まる。

 

「はぁ……やっぱり、眠っていたのか。大体、ちゃんと授業を聞いていれば、居眠りはしないと思うのだがな。

 そもそも学生として、授業を疎かにするとは……」

 

 こうなると話が長い事は、フウタ、ミユも含め、クラスの誰もが知っていた。

 数学教師はくどくどと、説教を始める。

 もうすぐ授業時間が終わろうとしているが、この様子だと――昼休みに入るのはもう少し先になりそうだ。

 

 

 

 ――――

 

 説教のせいで、授業時間を幾らか過ぎた後、ようやく昼休みに入ったフウタ。

 

「ふぅ、結局五分、授業が終わるのが遅くなったな」

 

 昼休みの教室で、彼はちょうど昼食をとっていた所だった。

 

「仕方ないよ。あの先生、一度説教するとなかなか止まらないんだから」

 

 机を並べて、ミユもまた、向かい合わせに座っていた。

 彼女の言葉に、フウタはそうだね、と軽く頷く。  

 

「そりゃそうだけど、さ。でも……あんなタイミングで、居眠りなんてないだろ、ヒロ」

 

「ごめんごめん。だって、あまりに退屈だったから、つい」

 

 そしてもう一人、並べてある二つの机の横にもう一つ椅子を持って来て、さっき居眠りしていたヒロノブも席を並べていた。

 彼はフウタの数少ない友人で、そして――

 

「そう言えばさ、フウタは良い写真、撮れたのかよ。来週の金曜日は月一の、部活の展示会だぜ」

 

 フウタ、ヒロノブはともに、学校の写真部に所属していた。つまり二人は、部員同士でもあった。

 模型も趣味であるフウタだが、残念ながら模型部は、この学校にはない。入っている部活は、これだけだ。

 

「……おっと! 忘れてた。ちゃんと写真は用意しているからさ、楽しみにしててよ」

 

「二人の展示会かー。私は剣道部の練習が、その日に遅くまでかかりそうなんだ。気になるけど……厳しいかも。

 こっそり抜けて、見に行こうかな」

 

「もし見に行けなくても、どんな写真かコピーを貰ってくるから、大丈夫だよ。それにしても――」

 

 彼は弁当のタコさんウィンナーを箸でついばみ、美味しそうに口にした。

 

「ミユの作ってくれたお弁当、とっても美味しいな! このウィンナーや野菜炒めに、フワッとした卵焼き、やっぱりミユのお弁当は、世界一だねっ!」

 

 

 

 彼女の手作り弁当で、幸せそうなフウタ。

 そしてそれは……ミユも同じ。

 

「早起きして、頑張って作った甲斐があったよ。フウタがそんなに喜んでくれて、私も嬉しいな。

 ……でも、世界一は、ちょっと大げさかも」

 

 彼女は嬉し恥ずかしいような、そんな様子を見せる。

 

「ううん、そんな事ないよ。少なくとも僕にとっては、そうなんだからさ。

 これでまた、午後からの授業も、頑張れる! さてと、次は残りの卵焼きも……」

 

 ……と、フウタは弁当の、残りの卵焼きに箸を伸ばそうとする。

 その瞬間、横から別の箸が伸びて、その卵焼きを掻っ攫った。

 

「もらいっ!」

 

「おい、ヒロ! 人の卵焼きを横取りなんて!」

 

「へへん! 世界一って言われたら、どうしても気になってな! 別に一つくらいいいじゃないか」

 

 卵焼きを取ったのは、横に座っていたヒロノブ。フウタは手に持った箸で、卵焼きを取り返そうとする。

 

「これは、ミユが僕に作ってくれた弁当なんだ! 渡せるわけがないだろ!」

 

「まぁまぁ、友人のよしみだろ。、大目に見てくれよ」

 

「な訳――あるかよ!」

 

「落ち着いてよ、フウタ。後でまた美味しいのを、作るから、ね」

 

 大騒ぎのフウタとヒロノブに、たしなめるミユ。

 ……これもまた、ちょっとした日常だ。  

 



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第六話 遥か遠い……目標
二人の休日と、そして―(Side フウタ)


 

 今日は休日――

 せっかくの休みと言う事で、フウタはGBNの事は一旦忘れ、ミユとのデートを満喫していた。

 二人が歩くのは、海岸沿いの街通り。ミユは日の光にきらきら輝く海を横目に、心地良さそうに背伸びする。

 

 

「うーん! 水族館、フウタの言う通り、とても良かったな!」

 

 ミユは満足そうに、横を歩くフウタに話しかける。

 

「だろ? ミユもきっと、気に入ってくれると思ったんだ!」

 

「クラゲもきらきら綺麗だったし、写真だってたくさん撮っちゃったな。

 フウタはどう? 前に一度、見に行ってたって言ってたけど」

 

「もちろん僕も、色々撮らせてもらったよ。前回と少し、展示も変わってもいたしね。それに……」

 

 フウタはそう言いながら、手元のデジカメをいじくる。

 

「今回はミユとの写真だって、撮れたしね。

 ほら、見てよ!」

 

 すると彼は、デジカメで撮った、一枚の写真画像を見せた。

 写真は――長い八本足のゆらめかせ、水玉模様の傘が綺麗なミズクラゲが浮かぶ大水槽を背景に、フウタとミユが隣り合わせで写っているものだ。

 

「とっても良く、撮れているわね」

 

「そそ! あの時近くの人に頼んで、撮ってもらった僕たちのツーショット! これでまた、良い思い出が出来たって訳!」

 

 ――ふふん! そう言いたげな様子で、フウタは胸を張って、得意げだ。

 

「私と、フウタの思い出か。恋人になったのは去年くらいだけど、……幼馴染でもあるし、私たちの思い出、とても沢山だね」

 

 ミユはそんな思い出を懐かしみながら、こうも続ける。

 

「フウタは昔から、そんな感じだよね。あちこち行ったり、何かする度に写真を撮ったり……。

 小学生の時、私とフウタが初めて一緒にガンプラを作った時や、中学生だと私たちが家族ぐるみで、山にキャンプに行ったりとか……。よく二人で一緒に写ってたりしてたから、ちゃんと私もどんなのがあったか、覚えてるよ」

 

 するとフウタも、これを聞いて嬉しそうに……。

 

「どれもこれも、いい思い出だよね。

 ……だからこそ、写真と言う形で、残しておきたいんだ。

 特に、ミユとの思い出は、僕にとって何よりも大切な――そんな思い出だからさ」

 

 そう彼は、ニコッとした明るい笑顔を、ミユに向けた。 

 

 

 

 こんな様子の中、フウタはある場所に目を向ける。

 

「……あのさ。良かったら、あそこで休んで行かない? 

 長く歩いたわけだし、ここは少し、ゆっくりするのも悪くないと思うんだ」

 

 彼が指したのは、通りの横に位置するファミレスだった。

 全国展開し、あちこちでよく見かける……そんな店。

 しかし二人のデートなら、どこでだって楽しい。

 

「うん! 私もちょっと疲れてたし、それに喉だって乾いてたから」

 

「なら決まりだね。確かドリンクバーの無料券がいくつかあったから、丁度いいね。

 じゃあ――行こうか」

 

  そんなこんなで、フウタ達二人はファミレスへと、向かうことになるのだが……。

 

 ――それに、あの時の話だと、ジンは確か――

 

 デートを楽しむその一方で、フウタはほんの少し、脳裏にある事が、気にかかっていた。



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ファミレスにて(Side フウタ)

 ――――

 

 ファミレスの、あまり目立たないような席。

 そこでフウマとミユは、ドリンクバーでジュースを持って来て、一緒に頼んだ大盛りのフライドポテトを仲良くつまんでいた。

 

「あんまりファミレスって、行くことはないんだけど、さ。

 たまにはこんなのも、悪くないな」

 

 フライドポテトをつまみ、ケチャップをつけて口に運ぶフウマ。

 一方ミユは、ドリンクバーから持って来た、オレンジジュースを味わっている。

 

「うん。こう言うのも、全然いい感じ。

 ――ほらフウタ、あーん」

 

「にゃっ!」

 

 するとミユは、フライドポテトを一つつまんで、向かい側のフウタの口元へと持って来る。

 

「せっかくだから、こんなのも、悪くないんじゃない? ほらほら、口を開けて」

 

 確かに目立たない席である。

 しかし、それでも気恥ずかしいのか、周囲の様子をキョロキョロと伺うフウタ。

 

「そう気にしなくても、大丈夫だって。……そう周りなんて、他人の事なんて気にしないよ?」 

 

 ミユにそう言われるも、やはり恥ずかしさで顔を赤くするフウタ、だったが……。

 

「ちょっと恥ずかしいな。でも、確かに周りもいないみたいだし」

 

 こう言って、フウタは彼女の言う通り、口を開く。

 

「そうそう、じゃあ――」

 

 ミユはそんな彼の口元に、一本のフライドポテトを、ゆっくり差し入れた。

 そして、フウタは相変わらず赤面しながらも、ミユからのフライドポテトをもぐもぐと…… 

 

「どう? 美味しい、フウタ?」

 

 頬をついて、にこやかに笑いかけるミユ。

 フウマはややどぎまぎした様子だが、それでも照れ笑いを向け、こう答えた。

 

「……うん。少し照れるけど、ミユとこう言う事……何だか、いいな」

 

 こんな彼に、ミユはとても、嬉しそうに――。

 

「でしょでしょ! フウタとこうしていられて、私だって――」

 

 そうして、和気あいあいとしていた二人で、あったが……。

 

 

 

 ファミレスの扉が開き、誰かが一人、店内に入って来た。 丁度、なんとか入り口が見える位置にいたミユは、ほんの僅かに見えたその誰かを見て、はっとする。

 

「……ねぇフウタ、あれって」

 

 ミユの声に、フウタは後ろを振り返り、目立たないように様子を伺った。

 そして相手を見て、一言。

 

「やっぱり。話通り、ここに来たんだ」

 

 店に入って来たのは、ジンであった。

 しかも、服装もまた、バッチリと決めた様子で。それに何だか、緊張もしている様子であった。

 

 

 ジンは、周囲を伺い、ちょうど目に入った窓辺の席を選ぶと、そこに座った。

 フウタ、ミユの席とは、ほんの少し近い感じだ。

 緊張しながら、何やら待っている様子のジンをこっそりうかがう。

 

「まさかジンさんが、私たちと同じ店に来るなんて。……あれ、フウタ?」

 

 するとミユは、ある事に気づいたように、フウタにこう聞いた。

 

「そう言えば、フウタは何だかこの事を、知ってたみたい。『やっぱり』って……もしかして――」

 

 

 

 ……と、ミユが話を続けようとしていた、そんな時。

 再び店内に、誰かが入って来た。……しかも今度は、若い女性だ。 

 長く、そして綺麗な赤毛をたなびかせ、快活な雰囲気の、スタイル、容姿ともに良い――そんな女性。彼女は辺りを見回しそして、ジンの姿を見つけた。

  

 

 彼女はにこやかに笑って、彼に手を振り、近づく。

 ジンもまた笑顔で迎え、二人はフウタとミユ同様に、向かい合わせに席へと座る。

 その様子はまるで……。

 

「あの綺麗な人、ジンさんの――好きな恋人、かな」

 

 フウタはこくりと、頷く。

 

「そうさ。ジンはあの人のために、ガンプラバトルに強くなろうとしているんだ。

 そして今日の事だって――」

 

 



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女性ダイバーの正体(Side フウタ)

 

 ――――

 

 数日前――

 

 あの時GBN内で、深紅色のガンダムバエルに助けられた、フウタとジン、そしてロッキー。

 

「ほう? ……なかなか、良いガンプラじゃあないか」

 

 ロッキーは自身のハイゴックから降り、目の前に膝立ちして佇む、バエルを見上げる。

 そしれフウタと、ジンも、自分たちの機体から降りていた。さっきの戦いでボロボロになった、レギンレイズとF91はコックピットハッチを開き地面に倒れたままだ。

 フウタもまた、機体に見とれていた。  

 

「確かにカッコイイな。それに――」

 

 そして……あちこちには襲撃して来た悪質ダイバーの、ガンプラの残骸が、散らばっている。

 

「何機ものガンプラを、あんな一瞬で……。一体、どんなダイバーなんだろ? ねぇ、ジンはどう思う? 何だか知り合いみたいだけど」

 

 フウタは横のジンに問いかけた。すると、ジンは――。

 

「ん、ああ……。あのバエルのダイバーは、その」

 

 しどろもどろになりながら、ジンが説明に困っていた。

 まさに、そんな時だった。バエルのコックピットハッチが開き、人影が現れたのは。

 

 

 

「……ふぅ。三体一だったけど、あんまり大したことはなかったわね」

 

 バエルのコックピットから現れたのは、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』における、主人公側に対する敵組織――ギャラルホルンのパイロットスーツを着込んだ人物だ。

 赤いパイロットスーツを着込み、頭にはヘルメットもかぶり、顔は見えない。しかし、スーツから浮かぶ、曲線的な体つきと、出る所はちゃんと出ているスタイルの良さ。

 恐らく、パイロットは……

 

 ――女性、なのかな? あれは――

 

 フウタがそう考えている一方、ジンはただ、パイロットの姿を見つめていた。

 パイロットもまた、ジンの方に顔を向け……そして、両手でそのヘルメットを、外した。

 

 

 すると炎のように紅い長髪がふわっとたなびき、強気な雰囲気を感じさせる瞳の、美人の顔が覗く。

 

「さて、と……大丈夫だった、ジン? GBNにログインしていたみたいだったから、ちょっと顔を見たいと思って来てみたら……こんな事になっていたんですもの」

 

 やはり彼女は、ジンと面識があったようだ。

 ジンもまた、照れ笑いをしながら、彼女に言葉を返した。

 

「ははは、かっこ悪い所、見せてしまったな。でも――おかげで助かった。有難う、マリア」

 

 これに、マリアと呼ばれた女性は、にこっと微笑む。

 

「どういたしまして。――それに」

 

 と、彼女は今度は、フウタとロッキーに、視線を向ける。

 

「二人とは、初めましてかな。……ジンのお友達?」

 

 二人とは面識が全くないマリアは、好奇心に満ちた様子で、たずねた。

 これにロッキーは、その問いに答える。

 

「つい今日、俺は二人と会ったばかりさ。名前はロッキー、一緒にガンプラバトルしていた……対戦相手ってわけだ」

 

 さすがに、悪質ダイバーだった因縁については、言えない。

 その一方でフウタは……。

 

「僕はフウタ――ジンの相棒さ」

 

「へぇ?」

 

 フウマの一言、彼女はそれに、興味津々。

 

「ジンはガンプラバトルに、勝ちたい相手がいるんだ。僕はそれに協力するために、一緒に強くなろうとしてるのさ。

 ……いわゆる。『バディ』ってやつさ」

 

 するとそれを聞き、彼女は――

 

「……ふーん、成程。君が……ね」

 

 小声で、そうつぶやいたマリア。

 またフウタも、そんな彼女の様子に、気にかかるようだった。

 そして彼はある事を、悟った。

 

「まさか――あの人は」

 

「とにかく、リッキーにフウタ、宜しくね。……さてと」

 

 と、マリアは再び、ジンに向き合う。

 

「ジン、ごめんね。せっかく約束してたんだけど、お兄ちゃんが見張っていて……会いに行けなかったの。

 ……こうしてGBNならと思ったんだけど、今も時間がないんだ。会ったばかりだけど、私はもう行かないと」

 

 そう言う彼女は、寂しそうに、シュンとする。

 ……そして、最後にある事を、伝えた。

 フウタも横で聞いていた内容。それは――次の通りだ。

 

「だけど二週間後の、土曜日の昼、その日だったらお兄ちゃんも仕事が入っているみたいで、今度こそ……会えそうなの!

 それで、場所だけど――」

 

 

 

 ――――

 

 あの時、マリアが話していた場所、それがこのファミレスと言うことだ。見るとジンとマリアは、相変わらず和気あいあいと、

 

「……と言うことが、ここに寄った理由の、一つってわけ」

 

 一通りフウタから話を聞いた、ミユはふむふむと頷く。

 

「成程ね。ジンさんと一緒にいる、あの人が――リアルでのマリアさん、かしら。

 ……とっても、綺麗な人。私も大人になったら、あんな感じに、なりたいな」

 

 いわゆる、大人の魅力……と言うものだろうか。

 ミユはそんな、あこがれの眼差しで、女性の姿を眺めていた。

 

「そして、ジンの好きな相手って事。つまり――僕とジンが、ガンプラバトルで勝つべき、強敵さ。

 彼女のガンプラも、それはもう強かったし、恰好良かったんだからさ」

 

「私はどんなガンプラか見ていないから、そう言われると、気になっちゃうかも」

 

 二人もまた、自分たちで話に盛り上がる。

 

「さっきの話通り、鉄血のガンダム機体――ガンダムバエルの改造機なんだけど、僕にはあんなの、作れないな」

 

「ねぇねぇ、もしかすると……お願いしたら、ガンプラ見せてくれるかしら?」

 

「あはは! 二人の邪魔をしたら、悪いよ! 何しろ二人は――」

 

 

 

 

「二人は――何かしら?」

 

 すると突然、横から女の人の声がした。

 見るとそこには――さっきまでジンと一緒にいたはずの、女性の姿があった。

 

「「えっ!」」

 

 フウタ、ミユはともに、いきなり彼女が横にいた事に、思いっきり驚いた様子。

 そしてその反応に、クスクスと可笑しそうに笑う女性と……同じく

フウタ達に気づいた、ジン。

 

「はぁ……。わざわざ来ることは、なかっただろうに」

 

 彼はやや呆れたように、ため息交じりでそう、呟いた。

 

 



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兄妹、そして新米バディ(Side フウタ&ジン)

 ――――

 

 結局、四人とも集まって、同じテーブルに集まった。

 

「さてと、私の名前はシラサキ・マリア。ジンは君達を知っているみたいだけど……」

 

 ジンに会いに来た女性――マリアは、そうフウタとミユにたずねた。

 二人とは初めて会うにも関わらず、この気さくな感じ。

 するとマリアはフウタに視線を向け、こんな事を続ける。

 

「……でも、君は最近見かけた感じがするわね。

 もしかして、この前GBNでジンに会った時、一緒にいたあの子かしら?」

 

 彼女の問いにフウタはうなづく。

 

「これで二度目、って事だね。

 あの時バエルに乗っていた女性ダイバー、やっぱり、マリアさんだったんだ」

 

「GBNの時とは恰好は違ってたけど、面影はあるしそれに、ジンの知り合いと言ったらもしかしたら……って思ったけど正解ね! 

 確か名前は、フウタくん、だったかな」

 

「うん、それで会ってるよ」

 

「良かった! じゃあ改めて、宜しくと言った所かしら。

 そして、私の横に座っている可愛い娘は、フウタくんの彼女?」

 

 と、マリンは隣に座っているミユの肩をよせ、ギュッとする。

 

「……ひゃっ!」

 

 思わず変な声を出す、ミユ。

 

「何だか、とても良い子ちゃんって感じね。あなたとは本当に初めてみたいだから、名前が聞きたいな」

 

「えっと、ミユ……です」

 

 彼女は相手のペースに巻き込まれ、どぎまぎしている感じ。

 そしてフウタもまた。

 

「変なちょっかいは、やめてよね。ミユだって困ってるじゃないか」

 

「……あっと、これはごめんね。初めて会ったから、ちょっとスキンシップと、思ったんだけど。

 嫌だったかな? それだったら……ごめんね」

 

「ううん。ただちょっと、ビックリしただけ。私は平気だよ、フウタ」

 

 フウタはそれを聞いて、一安心。

 

「それは――良かった。だけど、女の人だったとしても、さっきの……僕の方が、ちょっと複雑な気がしたな。

 なんか、ミユが取られたような感じでさ」

 

 と、今度は彼が、少しぶすっとした様子をマリアに見せた。

 マリアはそんな彼に――

 

「君にも、気を悪くさせちゃったかな。……それも、ごめんなさい。

 ――でも、二人とも良い感じね。見ていると何だかこっちも、微笑ましく思えちゃう」

 

「……ん、そう言われたら、悪い気はしないな」

 

 さっきまで不機嫌だったのは、どこにやら。

 やっぱり調子の良い所があるのか、フウタはうって変わり、表情を緩めた。

 

 

 そんな中、ジンはフウタ、そしてミユに声をかけた。。

 

「でも二人とも、ずいぶんとマリンと、打ち解けた感じじゃないか。

 ……とまぁ、ちょっとはどんな人か、分かってくれたかな」

 

 

 

 そしてそれに、答えるフウタ。

 

「まあね。何だか明るくていい人で、それに美人さんだし、ジンが好きになったのも頷けるな」

 

「そんな風に言われると、照れちゃうわね!」

 

 と、マリアは嬉しそうに、はにかむ。

 ジンもまた、そんな彼女を横に、自慢げな様子だ。

 

「こうした所が、マリアの良い所なんだ。彼女の明るさで、何度助けられたか、一緒にいて……楽しいって、言うかな。

 多分、仲も普通以上には、良いと思うぜ」

 

 彼は嬉し気に、そう話す

 ……するとフウタは、少しムキになった様子で、こう言い返した。

 

「ジンの気持ちも、分からなくないけどさ、僕とミユの仲だって!

 だって――ずっと一緒にいるし、絆だったら自信があるし、負けないさ! どんな所が可愛かったり、好きだったりするか、いくらだって知ってるんだ。

 何なら今から……」

 

「ストップ、ストップ! フウタまで、やめてよっ! ……もちろんそう思ってくれるのは、いつも嬉しいんだけど、ここではちょっと……ねっ?」

 

 思わずこれにはミユも、止めて入った。

 フウタは……はっと我にかえる。

 

「っと、ついジンがああ言ったからさ。――ちょっと、対抗意識が湧いちゃってさ」

 

 

 

 こんなやりとりに、思わずマリアは大笑い。

 

「あはは! やっぱり二人とも、ずいぶん面白いわね!

 それにしても……君がジンの相棒、か。ねぇ、今の所どんな感じ? ガンプラバトルの腕前とか?」

 

 これには苦笑いを、つい浮かべるフウタ。

  

「正直言って、僕もジンもまだまだって感じさ。

 ――あの時、マリアさんに助けられたから良いけど。いくらボロボロだったとしても、僕たちはあの三機に、成すすべもなかったわけだからね」

 

「ああ。マリア達に及ぶには、もっと頑張らないといけないな。

 けど、いつかは必ず――」

 

 ジンもまた、強い決意を込めて、言葉を発した。

 

「フウタくんに、それにジンも……どうか、強くなってもらいたいわね。

 私も手加減したい気持ちはあるんだけど……ガンプラバトルで手を抜くのは、プライドが許さないからね。

 二人には悪いと思うけど、どうか頑張って欲しいの!」

 

「当り前さ。マリアと添い遂げるためにも、俺たちは君と君の兄さんに勝ってみせるさ!」

 

「さすがジンね。私も期待して――――」

 

 ジンの強気な言葉に、マリアが嬉し気な、そんな最中。 

 

「……誰が俺と、妹のマリアに勝つって?」

 

 突然、四人の前に現れた人物――。

 

「なっ! こんな所に現れるなんて!」

 

 マリア、そしてジンは驚きを隠せないでいた。

 

 

 

「怪しいと思って来てみれば、やっぱりかよ。

 おい! 相も変わらず妹に手を出そうとは、いい度胸じゃないか!」

 

 

 

 ――――

 

 現れたのは、ジンと同い年くらいの若い青年だ。

 ただ……

 

「この野郎、本当に……ナメた真似をしてくれるぜ!」

 

 青年はダメージジーンズに、白いシャツの上から黒光りした、装飾品のチャラチャラしたジャケットを羽織っていた。

 そして美形であるものの、その眼つきはかなり悪く、雰囲気もさながら不良のよう。銀髪に染めた長い髪は後ろに束ね、威嚇するように左右へ振る

 

「……うっ、これは、たまたまファミレスで一緒になったから、話をちょっとしてただけさ」

 

 この勢いにジンは押されるも、どうにかして言い返す。

 が――

 

「そもそも、だ。お前みたいなナヨっとして情けない奴に、大事な妹と関わらせるのも、俺は御免なんだ!」

 

 そうジンを責め立てる青年に、とうとうマリアも、黙っていられなかった。

 

「もう! 少し話すくらい、いいじゃない! だってせっかく、会えたんだから……」

 

 見た目は不良のような青年だが、妹には弱いようだ。

 彼は困ったような表情で、マリアに弁明する。

 

「しかし……だな。兄として妹の事を考えると、もっとずっと、良い相手と付き合ってもらいたいんだ。

 ――こんな、ひ弱な奴じゃなくてな!」

 

 青年はキッと、ジンを睨む。

 

「うっ……」

 

「ほら見ろ! もう言い返して来ないじゃないか。

 それに俺だって、チャンスを与えてないわけじゃないだろ。 

『ガンプラバトルで俺たち二人に勝てたら妹の交際を認める』って、マリアだって、その条件に同意しただろ?」

 

 これにはマリアも、同意する。

 

「それは、まあね。

 ――でも、ジンは、ようやく一緒に戦う、仲間も見つけたのよ。

 今はまだまだみたいだけど、そのうちきっと私たちに並ぶくらいに、なるはずなんだから!」

 

 

 

 すると、ここに来てようやく青年は、フウタとミユに意識が向く。

 二人ともさっきのやり取りは、間近で見ていた。

 思わず身構えるものの……青年はニッと笑いかける。

 

「これは妙な所を見せちまって、悪かったな。

 俺はシラサキ・ハクノ。ちょっとムキになっちまったが、これも妹が心配なせいだ、多めに見てくれたら――嬉しい」

 

 一見強面で、口の荒い部分もあるが、マリアの兄――ハクノは、悪い人ではないらしい。

 

「いや、僕たちこそ、邪魔して悪かったよ。

 僕はフウタ、そして彼女のミユ……初めまして、かな」

 

「よろしくね、ハクノさん」

 

「おう! 二人ともよろしくな! ところで――」

 

 

 

 ――と、その瞬間、ハクノの目には、好戦的な光が灯る。

 

「フウタ、と言ったな。……さっき言ってた、あのジンと組んだのは、本当かい?」

 

 彼の変容に、少し戸惑うものの、フウタは答える。

 

「ああ、もちろんさ」

 

「それは何より! で、次の質問だがフウタ、それに――ジンも、今『ガンプラ』は持って来てるか?」

 

「……! ちょっと、お兄ちゃん本気!?」

 

 するとそれに、何かを悟ったマリンは、思わず声を発する。

 

「問題ない、ちょっと遊んでみるだけさ。

 何より――あの二人が、どれだけやるのか、興味がある」

 

 

 

 ハクノはジン、そしてフウタに視線を向け、そして言った。

 

「時間はまだ昼の二時頃、休日なんだから時間もあるだろ?

 ……どうだ! この俺とお前たち二人で、ガンプラバトルでもしようじゃないか!」

 

 



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実力の差(Side ジン)★

 ―――

 

 街のガンダムベースで、フウタ、ジン達はGBNにログインした。

 そしてそのまま、フリーバトルをするべく、マップへと。……たどり着いたのは。

 

 

「……よし! ここなんか、悪くないだろうよ!」

 

 舞台となったのは、何一つ障害物のない、広大な草原のマップ。

 ハクノのガンプラと、それに向き合うフウタ、ジンのガンプラ、レギンレイズとガンダムF91。

 

 

「ああ、お兄ちゃんってば、こんな事を始めちゃうなんて」

 

「……大丈夫かな、フウタ。それにジンさんも……」

 

 バトルに巻き込まれないように、マリアとミユは遠くで三人を見守っていた。

 心配そうなミユに、マリアは励ます。

 

「乱暴な感じはするけど、ああ見えてお兄ちゃんは良い人だから、ちゃんと手加減はしてくれるはずよ」

 

「それなら、安心かも。……ん?」

 

 と、ここでミユは、あることに気づいた。

 

「手加減って……。まるで二人が、ハクノさんに――」

 

 これにマリアは……困ったように。

 

「あ……はは。それは……その、ね」

 

 

 

 ――――

 

 そんな二人の心配をよそに、ジンは目の前の相手に、高揚を隠せないでいた。

 

 ――ようやく、俺はここまで――

 

 ジンの見据えるモニターには、ハクノのガンプラ……その大柄な体躯が映し出される。

 

 

 上半身が大きく、さながら筋肉質な身体を思い起こさせるこの機体は……『機動戦士ガンダムОО』セカンドシーズンに登場する量産機『アヘッド』である。

 ガンダムООの作中において、電波攪乱、ビーム兵器の応用など万能とも言える物質であるGN粒子を生み出し、半永久的に稼働可能な強力なエネルギー源――GNドライブ、通称「太陽炉」。

 アヘッドはその模造品である疑似太陽炉を搭載した機体であり、作中ではファーストシーズンの主役機であり、かつオリジナルの太陽炉搭載機であるガンダムエクシアを、撃破さえしている。

 量産機と言えど、高性能な機体……それこそ、目の前の機体だ。

 

 

 ハクノから通信が入り、モニター上で彼は自信満々な様子を見せる。

 

〈ははは! そう言えば、ジン! お前にはこの『ブロッケン』を、見せるのは初めてだったな!〉

 

「まぁ……それは、な」 

 

〈俺はこの機体で、いくつものバトルをくぐり抜けて来たんだぜ。どうだ? なかなかのものだろ〉

 

 ハクノの駆るアヘッド、オリジナルが赤に近い成形色であるのに対し、彼の機体は黒とガンメタルを基調とした色となり、頭部はガンダムのようなツインアイ、胸部、肩部など機体各部には装甲の追加と言った、改造が施されていた。

 そして……右腕部には、腕と一体型となった剣が、一直線に伸びる。

 

 

 

 ――やはり手強い、相手になるか。でも、こっちは――

 

〈随分と強そうな相手だね。だけど……やれるだけは、やらないとね〉

 

 傍らにはフウタのレギンレイズも、臨戦態勢を整えていた。

 

「分かっている! ようやくの機会だ、俺だって、やってやるさ!」

 

 それでも、決して一人ではない。

 ジンは再び気持ちを奮い立たせ――戦いに挑む。

 

〈威勢だけは、悪くないぜ! だが……俺とこのガンプラ、アヘッド・ブロッケンには、到底及ばないと――思い知らせてやるよ!〉

 

 

 

 ―――――

 

 真っ先に動いたのは、ジンとフウタ。

 

 ――やはり、実力で劣る分は、先手で攻めなければ――

 

 二人のレギンレイズ、F91はタイミングを合わせそれぞれ左右から迫り、微動だにしないアヘッド・ブロッケンにライフルの標準を定める。

 いくらアマチュアでも、動きすらしない的を狙うのは、造作もなかった。

 

〈はっ! 一応動きも、チームプレイも、ちゃんとはしていると来たか〉

 

 二方向からライフルを向けられているにも関わらず、ハクノは余裕の表情。

 

「距離だって遠くない、この状態なら簡単に――」

 

 二人の機体は互いに、彼のガンプラ目掛けて引き金を引いた。

 それぞれの放ったビームと実弾は、相手を貫く。……はずだったが。

 

 

 

 

 瞬間、アヘッドの巨体は一瞬で掻き消え、銃撃はその場に残った、赤く輝くGN粒子を貫通したにすぎなかった。。

 

〈外した!? あの距離と、タイミングで?〉

 

 通信ではフウタが、動揺しているのが分かった。

 

「落ち着け! 瞬間移動ってわけでもない、きっとすぐ近くに……」

 

〈――まぁ、二人の実力では、俺の動きを捉えるなんて、無理か〉

 

 するといつの間にか、ハクノのアヘッドはレギンレイズのすぐ真後ろへと、姿を現していた。

 これにはフウタさえ、すぐ気づきもすることさえ、出来なかった。

 

「フウタ! 後ろだ!」

 

〈……! 嘘だろっ!〉

 

 ジンに言われ、フウタはとっさに振り返るも、再びアヘッドは高速移動し、二機から距離を置く。

 

〈全然動きだって、遅い!〉

 

〈言わせておけば!〉

 

 二人の機体は再度、今度は遠距離に位置する相手目掛けて、ライフル、ヴェスバーの斉射を試みるも、向こうはその全てを余裕で避ける。

 当然、全くかすりもせず、無傷のまま……。

 

〈アマチュア程度の腕で、そんな真似で俺に当たるわけ、ねぇだろ! ははは!〉

 

 ハクノの笑いに、ジンは焦りを覚える。

 

 ――たった一撃さえ、かすりもしないのか――

 

 

 この間のロッキー戦では、周囲が海である以上、相手が有利でもあった。

 だが……この何もない地形では、互いに環境による有利不利はないはずだ。

 なのに――この差は。

 

 

〈だから言ってるだろ? これが俺とお前との差だってな――ジン!〉

 

 その時、一気にアヘッドがジンのF91に、一瞬で距離を詰めた。

 ガンプラ同士頭部を向かい合わせ、モニター一杯に移る、改造されたアヘッドのツインアイ。

 

「ちっ!」

 

 至近距離にいるなら――。ジンは機体のビームサーベルを抜き、斬りかかる。

 ……が、それは空を切り、アヘッドは再び距離を離す。

 そしてハクノは、いくらかガッカリしたような、そんな様子で……こう言った。

 

〈やっぱり……全然、大したことないじゃねぇか。――さてと、じゃあもう、終わりにしようか!〉

 

 




 

 ちなみに、ハクノのガンプラ、アヘッド・ブロッケンはこんな感じ

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ボロ負け……(Side ジン)

 ――――

 

 そうハクノが宣言した、次の瞬間――

 赤いGN粒子を放出し、アヘッド・ブロッケンは宙を駆ける。

 

〈まずは見せしめに――悪いがフウタ、お前からだぜ!〉 

 

 右腕部の剣を構え、高速で迫りくるアヘッド。

 これにはフウタのレギンレイズ、その迫力にたじろぐ。

 しかし、それでも。

 

〈こうなったら、や……やってやるさ!〉

 

 レギンレイズは近接武器であるパイルへと持ち替え、応戦しようと試みる。

 猛スピードで迫り来るアヘッド相手に、パイルを構える。が、相手の右腕部の剣……それがある動きを見せた。

 

〈――まさか! あの武器は!〉

 

 それにフウタは何かを察した。

 しかし、もう手遅れだ。

 

 

 

 レギンレイズに僅かに動く暇さえ許さず、アヘッドはその真横を横切った、だけのように見えた。

 

〈え……うそ……〉

 

 唖然とするフウタ。

 それとほぼ同じタイミングで、彼のレギンレイズの腕や足、胴体に頭部などのあちこちが、不自然に、ズルっとずれた。

 そして、次の瞬間、機体の各部が無残にバラバラになって――地面に崩れおちた。

 

 

 たったの一瞬で、いくつものパーツに切断され、分解されたレギンレイズ。

 

「たったの、一瞬であんなに!」

 

 その様子をただ、見ているしか出来なかったジン。

 

〈さて、次は……ジン、お前がああなる番だぜ〉

 

 シロノはにやりと笑い、アヘッドをジンのF91に向けて、ゆっくりと歩みを進める。

 

「ひっ……」

 

 怯え、ただただ立ちすくむばかりのジン。

 すると無傷のまま転がっていた、レギンレイズの胴体から通信が入る。

 

〈気をつけろ! あのアヘッドの剣は、ただの剣じゃないんだ!〉

 

 この声に、はっと我に返ったジンは、反射的にバーニアを噴かして後退し、距離を離そうとした。

 そしてそのまま左右のヴェスバーを展開する。

 

 ――見たところ、向こうの武器はあれしかない。距離をとって攻撃すれば――

 

 ジンはそう考えた、しかし!

 

 

 

「なにっ!」

 

 バーニアで後退して間もなく、展開したはずのヴェスバーが両方とも、何か鋭利なものでスパッと切断された。

 ジンはわけが分からなかった。

 

 ――向こうの剣のリーチからは、確実に離れてたはずだ! なのにどうして――

 

 と、今度はビームライフルを構えようとした。だが……。

 その時正面のアヘッドが、剣を振るった。

 もちろん距離は離れている、当たるわけがないはずだが……。

 

 

 瞬間、振るった剣は形を変え、蛇のように曲線を描き、伸びて襲い来る。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……!」

 

 そしてビームライフルを握っていた右腕ごと、バッサリと切断する。

 

〈まだまだ行くぜ!〉

 

 再び鋭い軌跡を描き、続けてF91の両足を、一気に切り落とした。

 

「……くうっ!」

 

 姿勢を崩し、F91は地面に落下し、強烈に叩きつけられる。

 

 

 

 対して、ハクノのアヘッド・ブロッケンはゆっくりと、そして華麗に着地する。

 ヴェスバーにビームライフルも失い、更に両足と右腕まで失い、地面に転がるジンのガンプラ。

 そんなボロボロな機体に、悠々と歩み迫るアヘッド。

 

「この、よくも!」

 

 せめてもの抵抗として、F91はヘッドバルカンを打ち込む。

 しかしそんなもの、アヘッドの装甲には豆鉄砲に等しい。

 結局すぐにヘッドバルカンを使い切るが、相手には傷一つすらない。

 

 

〈くくく! 何とも無様な姿じゃないか、ジン!〉

 

 そう勝ち誇った様子のハクノ。

 もはやジンに打つ手なし、と思われたが。

 

 ――あくまでヘッドバルカンは、気を反らすための劣りだ

。本命はこの――

 

 唯一残ったF91の左腕。背中に隠したその手にはビームサーベルのグリップを隠し持っていた。

 

 ――いいぞ、あと少し近づくといい――

 

 ジンの望み通りアヘッドは更に歩みを進め、ついにすぐ傍にまで迫った。

 

 ――今だ!――

 

 ついにチャンス! 残り僅かな可能性をこの一撃にかけ、ジンのガンダムF91は全力でビームサーベルを薙いだ!

 

 

 

 

 ――――

 

〈はぁ……駄目駄目だぜ〉

 

 溜息交じりの、呆れたようなハクノの呟き。

 

 ……ザンッ!

 

 ジンのビームサーベルが届く暇さえ与えず、彼は機体の左腕までも切り落とした。

 アヘッドの剣は変幻自在に曲がりくねり、伸縮し……。彼の装備は、いわゆる蛇腹剣であった。

 そのトリッキーな攻撃に、 彼は手も足も出なかった。

 ……いや、それよりも。

 

 

 ハクノのアヘッドは、剣を元の形状に戻すと、その剣先をガンダムF91の頭部に突きつける。

 

〈これが俺とお前との……実力の差だぜ!〉

 

 

 

 

 ――――

 

 GBNをログアウトし、ガンダムベースを出た五人。

 

「さっきは 残念だったね。でも頑張っていたところ、とても素敵だったよ、フウタ!」

 

 さっきのバトルでボロボロに負けて、落ち込んでいたフウタを、ミユは励ます。

 彼女の気遣いに、フウタは微笑む。

 

「ありがとう。ミユがそう言ってくれて、元気出たさ」

 

「いいなフウタは……。一方で、俺は」

 

 フウタが元気を取り戻した一方、ジンは相変わらずの様子。

 

「えっと、ジン……」

 

「放っておけ! あんな負け犬、気にする価値もない!」

 

 同じくジンを励まそうとするマリアであった、しかし隣を歩くハクノに止められる。

 

「うっ……」

 

 猶更落ち込むジン。これにはたまらずフウタは……

 

「そう気にするなよ! 僕たちのレベルじゃ、負けることなんて珍しくないだろ?

 それよりも、次は勝てばいいんじゃないか。ようはもっと頑張ればいいんだ」

 

「……言われてみれば、確かにそうかもな。また頑張って、上達すれば……」

 

 

 

 と、その時。いきなりジンの前にハクノが立ちふさがる。

 その表情は、なかなかに不機嫌な感じに。

 

「――ホントに、物分かりの悪いな!

 さっきのバトルで、分かっただろ。お前と俺との圧倒的な実力差がさ。

 せっかく思い知らせるために、こうして戦ってやったんだ。――分かれよ」

 

 ハクノの威圧的な態度に、思わずジンは縮こまりそうになる。

 ……が、どうにか踏みとどまり、言い返す。

 

「それでも――俺はマリアを諦める、わけにはいかない!

 絶対に、ハクノさん、あなたに勝って見せる!」

 

 

 

「……ジンってば」

 

 思わぬ言葉に、マリアはドキッとする。

 その一方、ハクノもまた。

 彼は可笑しそうに、大笑いした。

 

「ハハハ! おかしな事を言うじゃないか。

 ……いいだろう! なら――」

 

 ハクノはビシっと、ジンを指さす。

 

「実は一ヶ月半後、GBNで中規模のタッグバトル大会がある。俺とマリアも参加する予定だが……その時、また相手してやろう。

 それまでにどれだけ追いつけるか、見ものだぜ!」

 

 一ヵ月半後の、タッグバトル大会。思いもよらない事実に、ジンは驚く。 

 しかし、こう言われた以上、後に引けない。

 

「ああ! ならその時、マリアとそして、ハクノさん! 俺とフウタが二人に勝利してやるとも!」

 

「えっ!? 一ヵ月半はちょっと……」

 

「何言っているのさフウタ! 次勝てば良いって言ったのは、君じゃないか!

 ……なに、それだけあれば、もっと上達するはずだ」

 

 

 

 ハクノは再び、笑いを見せる。

 

「本当に、面白い! なら一ヶ月半後……楽しみにしているぜ。

 せいぜい――ガッカリさせるなよ」

 

 そう言い残してハクノは、マリアとともに去って行った。

 残されたフウタとミユ、そしてジン。

 

「何だか、大変なことになっちゃったね」

 

 ミユの言葉で、今更我に返ったジンは、頭を抱える。

 

「ううっ……勢いに任せて、余計な事を言うなんて。たった一ヶ月半で、本当に大丈夫か?」

 

「だから、言わんこっちゃない」

 

 フウタはあきれたように、肩をすくめる。

 ……それでも彼は、こうも続ける。

 

「けど言ったからには仕方ない。できる限り……頑張ろうよ!」

 

 そう。こうなった以上、やれるだけはやりたい。

 それはジンも、同じだった。

 

「――ああ! どうにか、やるっきゃないだろうな!」



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第七話 優秀なコーチ!?
もう、大パニック!(Side ジン)


 ――――

 

 大都市を再現したバトルフィールドにて。

 フィールドに立ち並ぶ幾つもの高層建築物。それらをなぎ倒し、辺りを火の海にして闊歩する赤く巨大なモビルアーマー。

 

「あああああっ! ちょっ、マジかよ!」

 

〈だーかーら! 僕たちには無茶だって言っただろ! 見てみろよ!〉

 

 迫りくる巨大モビルアーマーに、ただ逃げることしかできない二人とその機体、レギンレイズ・フライヤーと、ガンダムF91。 

 とてもでないが、反撃する余裕もない。最も、二人で反撃したところで、大したことはないだろうが。

 周囲にいる他のダイバーも、迫る大質量に押しつぶされ、物体から伸びる大型クローに握り砕かれ、ビームに貫かれたりと、すぐ近くで次から次へと壮絶な最後を遂げる。

 

〈中級ミッションさえまだまともにこなせないのに、いくら合同でもシャンブロ討伐ミッションだなんて、中でもとりわけ難しいやつじゃん。

 あんなにバタバタやられてるのに、まだ僕たちが無事なのは、ある意味奇跡だよ!〉

 

「それは、まぁ……。ところでフウタは、大丈夫なのか」

 

 若干不機嫌ながらも、フウタは頷く。

 

「何とか、ね

 ビームに関しては大丈夫……と言いたいけど、こっちは何発も機体に命中して、大分装甲が剥がれているんだ。多分もう限界が近い感じさ

 ……誰かさんが、積極的に僕を盾代わりにしたせいで」

 

 画面越しに彼は、ムッとジンをにらむ。 

 

「仕方なじゃないか。レギンレイズのナノラミネートアーマーはビームに耐性があるんだから、チームワークって奴だ」

 

「そう言うなら、あの化け物に一撃くらい、当ててみたらどうなのさ!

 見てみろよ。あんなの相手に、どうやって…… 」

 

 

 背後から迫りくる大型の機体。それは例えるなら、エビやザリガニにのような甲殻類に近いフォルムの、超巨大モビルアーマー『シャンブロ』だ

 『機動戦士ガンダムUC』に登場する、大型の肩部と頭部、そしてクローが特徴的な本機体。

 水陸両用の機体であるが、その脅威は凄まじい。

 

 

 モビルスーツまでも掴める程の両腕のアイアン・ネイルとその巨大な図体そのものと言う物理的脅威は無論、頭部に内蔵された大口径メガ粒子砲に、両肩にそれぞれ一門用意された拡散メガ粒子砲……そして。

 

「……ちっ! 今度は一体何を」

 

 今度は、シャンブロは背部からいくつものプロペラ付きの物体を射出した。

 

〈あのヘリコプターもどき、何だって言うんだよ〉

 

「知るか! 俺だっていちいち全部のモビルスーツやモビルアーマーを知っているわけではないんだ」

 

 ジンもフウタも、実はシャンブロの事はあまり分かっていなかった。

 そのプロペラが付いた物体は一体何か、二人は知らなかったが……。

 

 

 

 あちこちに浮かぶ、謎の物体。

 だがそれを気にする余裕はない。

 

「やっぱり、逃げるだけでは勝てない……攻めろ! って事か」

 

 幸いシャンブロも、進撃を止めた。このチャンス、逃す手はない。

 他のダイバー達のガンプラも、これを機にシャンブロに攻勢に出る。

 バズーカにライフルによる遠距離攻撃に、ビームサーベルなど近接武器による格闘戦。

 一見無茶だが、でかい図体である分、懐に入られたら弱い部分もある。

 

〈そう言うことかな。僕たちも続くよ! ジン!〉

 

「まだこれだけいるんだ! 一気に攻撃を与えればあのデカブツも!」

 

 レギンレイズ、F91もそれに加わり、攻勢へと。

 フウタは機体持ち前の飛行能力を生かし、高く跳躍そして滑空。シャンブロの頭部側面に回り込んでライフルの弾丸を撃ち込む。

 一方、ジンは胴体下部へと接近し、F91最大火力の武装であるビーム兵器、ヴェスバーを最高出力で放つ。

 

 ――くっ! やはりボスキャラか。あまりダメージは入らないな――

 

 二人を含め、辺りから次々に攻撃を受けているにも関わらず、シャンブロは全く意に介す様子はない。

 しかし、それでも。

 

 ――だがダメージはちゃんと入っている。さっきの俺の一撃だって――

 

 見るとさっきのヴェスバーを受けた個所も。いくらか損傷しており、煙を上げている。

 してやったと、ジンは笑みを見せる。

 

 ――所詮はデカブツ、動かない今に攻撃を叩き込めば――

 

 そう考えたとき、シャンブロの両肩部の拡散メガ粒子砲砲門にエネルギーの充填される音がした。

 周囲の機体の多くも、次々とシャンブロから距離をとる。……が。

 

 ――こっちは射程外だ! そう警戒する必要もない――

 

 ジン、そして上空のフウタは、一切気にせず攻撃を続行する。

 彼のF91は再度ヴェスバーを撃ち込み、そして三撃目を与えようとしたその時、シャンブロの拡散メガ粒子砲が放たれた。

 

 

 砲門から放たれた、広範囲に広がる幾筋ものエネルギー。

 それらは全てジンやフウタには、当たりはしない、はずだった。

 

 

 しかし――エネルギーの光筋は、先ほどまで全く気にしなかった、あのプロペラ付きの物体に当たる。

 それは物体に当たった瞬間、全く別方向へと反射、そしてそれがまた別の物体に当たり、反射する。その攻撃範囲と射程は、まさに予想不能に、近いものだ。

 

 

 物体の正体は、シャンブロの無線誘導兵器――

リフレクター・ビット。

 それそのものには攻撃力はないが、ビットにはビームを反射させる役割があり、今のように自身のビーム攻撃を反射し、より広範囲の攻撃が可能となる。

 先ほど他のダイバーが退避したのも、リフレクター・ビットの存在を知っていたからだ。

 対してジンとフウタを含め数人のダイバーはそれを知らずに、気にしようとしなかった。

 その結果が――。

 

 

〈うあぁぁぁっ!〉

 

 リフレクター・ビットによって反射されたビームは、レギンレイズ・フライヤー腰部のウィングに当たり、そして墜落。

 周囲のダイバーの機体、退避したのも、そうでないのも、次々とビームが飛来し、中にはそれで撃破される者もいた。

 そして……

 

 

 ヴェスバーを放とうとしたF91、その背面に高エネルギーのエネルギーが直撃する。

 

「ぐっ! しまっ――」

 

 今まさにヴェスバーを使おうとしたのが、不味かった。 

 ビームの直撃により、そのエネルギーはまさにヴェスバーを放つために充填したエネルギーにまで誘爆し、本体巻き込んでの大爆発を起こした!

 

 

 ……一気に機体は大破し、手足などのパーツが吹き飛び。ギリギリ原型を保った本体が地面に転がる。

 右腕と左足は残っているものの、それすら動きすらしない。

 

 ――うっ、これじゃあもう。……えっ!?――

 

 するとさっきまで動きを止めていたシャンブロ、それが今になって動き出した。

 その進行方向のすぐそこに、無残な姿で転がっていたのがジンの機体。 

 ……つまり。

 

 

 壊れかけまともに映らないモニター一杯に迫る、シャンブロの巨体。

  

 ――ああ、くそっ。冗談だろ――

 

 巨体は次第にF91に迫り、そして……呆気なく潰された。

 

 

 

 ――――

 

「はぁぁぁ。まさか、あんな形でやられるなんてな」

  

 

 ジンはさっきの事を思い出して、思いっきり悔しそうな顔をしている。

 街の駅、そのホームにて、ジンとフウタ、そしてフウタと一緒に来ていたミユはベンチに座って、少し休憩をとっていた。

 今は帰りの電車待ち。それまで少し、時間つぶしと言うことだ。

 

「私は今回のミッションには参加しなかったんだけど……ねぇフウタ、どんな感じだったの?」

 

 ミユの質問に、フウタは少し苦笑いした。

 

「ははは……シャンブロの討伐ミッション、だったんだけどさ。それはもう、僕たちには滅茶苦茶難しかったんだ。

 二人ともやられちゃって、残ったダイバーがどうにか、倒したみたいなんだ。

 一応なんとかギリギリ生き残った僕には、ミッションクリアの報酬がいくらか入ったんだけどさ、ジンは……」

 

「シャンブロにペシャンコ、ポイントもパァ……。まぁ何度も経験はあるし、慣れてはいるんだけどな

 

「……ふーん。大変、だったんだね」

 

 ベンチで両足をふらつかせ、ミユはつぶやく。

 

「そりゃあね。……第一、最近無茶しすぎなんだ。

 やけに難しいミッションばっかり受けて、僕らの身の丈に合ってないんだよ」

 

「何言ってるんだ。今のままじゃ駄目だからこそ、困難なミッションを受けて受けて、腕をあげなきゃいけないだろ?」

 

 ジンの言葉にフウタは反論するも、彼だって負けない。

 

「かと言って、腕を上げるどころか、その前にボロ負けしてるじゃないか。

 何度も撃破されて、ポイントも失って、もうどっちも殆んどスッカラカンじゃないか」

 

 そして、一息ついてフウタは、なだめるようにこう続けた。

 

「そりゃあ……あんな実力差を見せつけられたら、焦るのも分かるよ。

 残り一か月と少しで、簡単に追いつけるってわけじゃ、ない事もね」

 

「……」

 

「だけど、だからこそ着実に、スキルを上げて行った方が良いんじゃないか。

 少なくとも今のような事を続けてたって、どうしようもないのはジンだって分かっているはずさろ?」

 

 図星だったらしく、ジンもこれには、項垂れた様子。

 

「俺も、分かっているとも。

 ただ、ゆっくり上達していっても、二人に勝てるのはいつになるか。

 せめて、誰かGBNの上手い人間に、コーチか何か頼めたらな」

 

 

 

 そんな話をしているさ中、アナウンスとともに、数両連なった電車が駅のホームに到着する。

 

「……あっ! 電車が来たみたいだね。

 それじゃジン、話の途中かもだけど、今日はこれで。今後のことは僕もちょっと考えてみるからさ、また何か思いついたら連絡するよ!

 じゃあね! ――ミユ、行こう」

 

「うん、フウタ! ……ジンさんも。色々大変かもしれないけど、あまり気を落とさないで、ね」

 

 フウタ、ミユの二人は、やって来た帰りの電車

へとのりこむ。

 

「あはは、俺は大丈夫さ。

 ……じゃあな。フウタに、ミユちゃんも」

 

 電車のドアが閉じ、窓越しにジンは二人に手を振る。

 

 

 

 そして電車は動き出し、ホームから出発。段々と、遠ざかって行く。 

 残されたジンは、一人困ったように頭を掻く。

 

 ――と言っても、どうしたものか。俺もちょっと考えなきゃな――

 

 彼もまた、そんな考え事をしながら、引き続き自分の乗る電車を……待つことにする。



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彼女への想いと、空回りな自己満足(Side フウタ)

 ――――

 

 それから、しばらくして。

 

 フウタ達の乗る電車は、ようやく目的地に到着した。

 電車から降り、駅から出たフウタとミユ。二人はともに家への帰路についていた。

 

 

 時間は昼間の二時半をいくらか過ぎたばかり、もうすぐ三時になる辺り。

 

「さてと、今日は天気が良いな! ジンさんとの用事も済んだことだし、息抜きに外を散策するのもいいかも」

 

 快晴の青空を眺めながら、気分良さそうなフウタ。

 

「今日はジンさん、仕事があるからって早めに切り上げたけど、まだ時間があるし……。うん、良いかも!」

 

「なら、どこに行こうかなー? ちょっと考えないと、だね。

 けど……」

 

 そんなフウタであったが、いくらか考え込むような様子を見せ、こんな事を話す。 

 

「……ちなみにGBNの事だけどさ……やっぱり、そう簡単には行かないよね。

 ミユだって見ただろ、ハクノさんのあの強さ。これは苦労、するだろうな」

 

 歩きながらフウタは、そんな事を話す。

 やっぱり彼も、色々気にしていたらしい。

 

「ふふっ、大丈夫だよ……フウタなら。

 だってジンさんと一緒に、とても頑張っているじゃない。

 私は見ていることが多いけど、それくらいちゃんと、分かってるよ」

 

 ミユは得意げに、少し心配そうなフウタに、素敵な笑顔を見せた。

 これにはフウタもつい、いつもの調子に。 

 

「そう、かな! ミユがそう言ってくれると、嬉しいよ!

 こうして僕の事を……いつも見ていてくれて、ありがとう」 

 

 フウタはそんな感謝を、彼女へと伝える

 彼の言葉に、ちょびっと頬を赤らめる、ミユ。 

「ふふっ、どういたしまして。何かそう言われちゃうと、私だって――」

 

「だってこうした感謝くらい、機会があるときにはちゃんと、伝えたいから。

 伝えられるときには、ちゃんと」

 

 

 

 ……すると、フウタはふと、何かを思い立った様子で、こんな事を話す。

 

「あっ……そうだ。ごめんだけど、今日は先に帰っていてもらってもいいかな? 僕、ちょっと寄りたい所があるんだ」

 

 いきなりの事に、ミユは不思議がるも。

 

「……? 私は良いけど、どこに行くの?」

 

「ちょっとジョウさんの所にね。プラモも見たいしそれに、少し話がしたくてさ」

 

「それだったら! 私も一緒にジョウさんの所に――」

 

 これを聞いて彼女はそう言うも、フウタは首を横に振る。

 

「悪いけど、今回は僕一人で、行きたいんだ。ちょっとミユに聞かれるのが恥ずかしい、話もするかもだし」

 

「……そっか。……うん、分かった」

 

 フウタの願いにミユは、寂しそうではあったものの、受け入れる。

 もちろん彼女の様子は、フウタにも分かっていた。

 

「本当に……ごめん。

 ……けどけど! すぐに用事を済ませて、ミユの所に戻って来るから。

 デートの予定もそれまでに考えとくからさ、家で準備してて」

 

 弁明するフウタ。ただ、これもミユの事を、愛しているからこそだった。

 ミユも彼が何かを隠しているのは、分かっていた。しかし同時に、彼の想いも……また理解していた。

 

 

 ミユは寂しさを振り払い、フウタに微笑みを投げかける。

 

「気にしないで、私は大丈夫。

 じゃあ、フウタが戻って来るの……待ってるからね」

 

 

 

 ちょうど道は、ここで別れていた。

 フウタとミユは、一旦離れ離れに。

 

「じゃあここで、一旦お別れか」

 

 そう言う彼女に、フウタは頷く。

 

「うん。でもすぐ僕も戻るから……じゃあ、また」

 

 彼は別れを告げ、ミユから去ろうと――。

 

 

 だが、フウタは一度、後ろの彼女へと振り返る。

 

「フウタ……?」

 

「――あのさ、僕だってミユの事、ミユに負けないくらい大切に思っているんだ。だから……」

 

 胸の想いを振り絞るように、彼はミユへと……そう伝える。

 これにミユは、優しい表情で……。

 

「もちろん! ちゃんと私も――分かってるから!」

 

 これを聞いて、フウタも安堵する。

 

「ありがとう、嬉しいよ。じゃあ、またね!

 …………あと少し、待ってて」

 

 最後の言葉は、ミユに聞き取れないくらい小さく、そう呟いた。

 

 

 

 ――――

 

 あれからミユと別れ、一人ジョウの経営する、ヒグレ模型店へとやって来た、フウタ。

 

「いらっしゃい! ……ん、フウタか? 今日はミユちゃんと一緒じゃないんだな」

 

 彼の姿に気づいたジョウは、少し物珍しい様子であった。

 

「まあね。今日は一人で、見に来たんだ」

 

「何だか珍しいが。けどまぁ、そう言う時もあるか。ま、適当に見て行ってくれよ」

 

 

 

 フウタは店内にある、プラモを眺める。

 

「今日は久しぶりに、ガンプラでも買おうかな。ちょっと、そんな気分な……感じがするし」

 

 そう言ってガンプラの置かれているコーナに足を運び、色々と見ていた彼。

 ――すると、ジンはそれを見て。

 

「……はぁ、何ていうか、面倒くさいな。

 見ていてソワソワしているようだし、プラモ以外に別の用事でもあるんじゃないか?」

 

「……」 

 

 この指摘に、フウタは沈黙し、複雑な様子になる。

 そして彼はちらと、ジンに視線を向ける。

 

「ははは……。実は、ちょっとね」

 

「ならさっさと、話したらどうだ。俺は回りくどいのは好きじゃないし、それに……そっちだって、早く話した方がスッキリするだろ」

 

「……分かった。じゃあ、ちょっと長くなるけど……」

 

 

 

 ――――

 

 どの道ジンには、話すつもりだった。

 フウタはこれまでのと経緯と、そしてGBNで苦戦している今現在の状況も、全部伝えた。

 

「ふーん、大体、状況は分かったとも。

 そりゃ……フウタの腕じゃ、厳しいだろうな」

 

「だから、僕たちにはGBNに手練れで、良いコーチが欲しいんだ。

 ……ジョウさんも、店が閉まった後でGBNを結構遊んでいるみたいじゃないか。だから、そんな相手を知ってたら、教えて欲しいんだ」

 

「――そう言えば、そんな話も俺はしてたっけ、な」

 

 実はジョウもまた、時間帯こそ違えどGBNをプレイしていたのだ。

 そもそも、店に接続端末に用意したのも、自分で遊びたかった事もまた、理由であったくらいだ。

 

 

 

「GBNのコーチとはな。……ふーむ」

 

 ジョウはフウタの頼みに、腕を組んで考え込む。

 

「もし知っていたら、どうか頼むよ。僕とジョウさんの仲じゃないか」

 

 強く頼み込むフウタ。これには彼も弱った表情になるも、やがてため息を一つ……。

 その後、返答を返した。

 

「ああ。それは構わないとも。丁度、一つ心当たりもあるからな」

 

「――やった!」

 

 フウタはやったと、ガッツポーズをとった。

 しかし……。

 

 

 

 ジョウはやや困ったような顔で、こう話す。

 

「ところで……だ。話の途中で悪いんだが、この前、ミユちゃんが一人でここにやって来たんだ。

 フウタ……お前があの子に、色々内緒にしているって、俺に相談して来たんだぜ」

 

「えっ……」

 

「まぁ。多分、変な事ではないのは彼女も分かってはいるみたいなんだが、何しろそんな状態が長く続いていて、心配している感じだったぞ」

 

「……うっ」

 

 これには下を向いて、フウタはしょげた。

 

「やっぱり、そうだよな。

 実はその事も、気になってはいたし、ジンさんに聞くつもりだったんだ」

 

 だからこそ、フウタはここに来たのだろう。この話は、どうしてもミユに知られたくはなかった。

 

「ミユってさ、近頃やけに心配そうにしているし。……責任はずっと隠し事を続けている、僕にあるんだけどさ……どうすればいい?」

 

 

 

 フウタはフウタなりに、切実だった。

 しかし、これにジョウは呆れたようだ

 

「どうすればって、そりゃ、本当の事をちゃんと言った方が、いいに決まっているじゃないか」

 

「――そんな!」

 

 するとフウタは強く動揺し、カウンター越しにジョウへと詰め寄る。

 

「うわっ! 急に驚かせないでくれ!」

 

「今のままじゃ、ミユに言えない! だって……だってさ……」

 

 言葉に詰まったように彼は、そのまま何も言うことが出来なかった。

 対してジョウは、さっきいきなりフウタが迫った驚きを、どうにか落ち着かせている。

 

「いきなり顔を近づけて、寿命が縮んだぞ、全く。そもそも、お前がこうしているのは、ゼロカスタムが目的だろ」 

 

 

 

 そう、フウタがジンとともににマリア、ハクノら上位ダイバーを倒すことに協力しているのは、ジンが持っているガンプラ、PGのウィングガンダムゼロカスタムが目的だった。

 このガンプラと交換条件に、ジンとタッグを組んでいるわけだが。

 ジョウは軽く一息つくと、なおも続ける。

 

「ゼロカスタム、か。……ははは、俺も覚えているとも、あの思い出は二人ともまだ、小さかった時だからな。

 だから、どうしてフウタがそれにこだわっているかも知っているが――大体、わざわざこんな事をしなくても、ミユちゃんはちゃんとお前の事を……」

 

「もちろん、ミユの想いくらい、僕も分かっているよ。だからこそ……こう頑張っている、わけだしさ」

 

 

 フウタもまた、そう彼に言い返す。しかし……

 するとジョウは、何か躊躇いながらも、ある事を聞いた。

 

「これは聞いていいかどうか、怪しい所なんだが……。ジンとの約束だったか、そもそもだ、どうしてわざわざ、あんな回りくどい事をしているんだ?」

 

「――ううっ」

 

 

 

 多分、とりわけ痛い所をつかれたのだろう、フウタはふいに顔を反らし、また俯く。

 

「大体、たしかにゼロカスタムのキットは珍しいかもだが、プラモはプラモ、必要なら他の店舗やネットで探すなりで、買いなおせばいいじゃないか。

 そりゃあ……値は張るだろうが、フウタがどうしてそんな面倒な真似をしているか、大方想像がつく。

 多分だが…………」

 

 と、ジョウは、自分の考えた予想ついて、フウタに話す。

 

 

 

 ――――

 

 ジョウの話を、一通り聞いたフウタ。 

 すると彼は、目を見開き――

 

「どうして、そこまで」

 

「はぁ、もしかしてとは思ったが、図星だったか。

 本当に、仕方がないな」

 

 こう言われて、フウタはなすすべもないようだった。

 ジョウは更に、彼にこう諭す。 

 

「なぁ……。俺から見ても、フウタはよくやっているじゃないか。

 彼女の想いにちゃんと応えているし、愛情を伝える努力だって頑張っている。ミユちゃんはお前の気持ち、もう十分に分かっているはずさ。

 ――なのに、まだ足りないと思ってるのか、フウタ? ある意味、お前のやっている事は、はっきり言って自己満足って奴じゃないのか。

 改めて聞くが、そうかもしれないと言うのに、やっぱりこんな事を……続けるのか?」

 

 最後に再び、フウタの意志を確認する、ジン。

 彼の言う事は、大体は正しかった。

 フウタの瞳は躊躇いで揺れるも、やがて意を決したように。

 

 

「それは、確かにあるかもしれない。……だけど! 僕が彼女のために出来ることは、全てやりたいんだ!

 自己満足かもしれないけど、そうでもしないと……僕は」 

 

 

 

 やはりフウタのかける想いは、強かった。

 ジンはこれに、お手上げであるかのように。

 

 

「分かった、分かった

 そこまで言うなら、もう止めはしないさ。

 ただ、一つだけ言わせてもらうなら……」

 

 彼にはあと少し、伝えるべき事があった。

 それは……

 

 

 

「実は少し前、ミユちゃんが一人でここにやって来て、俺に相談して来たんだ。

 フウタ……お前があの子に、色々内緒にしているってな。

 変な事ではないのは分かってはいるみたいなんだが、何しろそんな状態が長く続いていて、心配しているみたいだぜ。

 フウタの気持ちは分かったが、そのせいで彼女を心配させたら元も子もないだろ?

 今回は俺が何とか胡麻化して、ミユちゃんも一応安心した様子だったが……いつまでもこんなのは続けられないぜ」

 

 フウタは、こくりと頷く。

 

「僕も、もちろんずっとこんな状況を、続けるつもりはない。

 後一か月くらい後、どう転ぶにしろ決着をつけるつもりさ。

 正直無茶だとも思うけど、それまでに全力を尽くして、その後……ちゃんとミユに全部、伝える。……たとえ、勝っても負けても」

 

 そう、フウタだってミユに心配は、本当はかけたくない。

 自分のやっている事だって、ある意味ワガママであるのは分かっていた。

 だけど、あともう少し……。

 

 

 

 これにジンは、仕方ないな、とも言う表情で。

 

「――オーケー。なら俺も、フウタに協力しないとな。

 ただし! さっき言った通り、結果はどうなろうと、ミユちゃんには必ず打ち明けることだ」

 

「もちろん! ……ミユには、必ず」

 

「ミユちゃんには俺からも、今度会ったらこの事は伝えておくぜ。つまり、もう後には引けないってことだ。

 いいな? フウタ?」

 

「――ああ」

 

 再び、今度はさっきよりも強くフウタは頷いた。

 

 

 

「よし! 俺も、これで安心したぜ。

 さて、ようやく本題に入るが、フウタ達のコーチが必要なんだってな」

 

 再び話を戻し、ジョウはこう切り出す。

 

「そうだった、ガンプラバトルで勝つために、どうしてもね。

 ところで……コーチとなるダイバーって、どんな人なんだい?」

 

 これに、ジョウは得意げな表情。

 

「ふふふ! 誰かって? 今ちょうど目の前にいるじゃないか」

 

「……まさか、ジョウさんが」

 

 まさかの展開に驚くフウタと、そしてジョウの

ニッと見せる笑い。

 

 

「その通り! フウタは知らなかったかもだが、思っている以上に俺は、GBNをやりこんでいるんだぜ?

 ――お前たちに、いろいろ教えられるくらいにな」

 

 



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コーチ現る

 

 

 それから後日、再びGBNに集まった、フウタとミユ。

 

「……でも、ちょっと驚きかな。ジョウさんがそんなにガンプラバトルに詳しいなんて」

 

 GBNの広いロビー、その端のベンチに並んで座っている二人。

 ミユはそう言って、隣のフウタに視線を向ける。

 

「あはは。まぁ確かに、そんなイメージないもんね」

 

 フウタとミユ、二人はそんな談笑を交わしながら、ここに来るはずのジン、そしてジョウを待っている所だ。

 前もってしていた話によると、もうすぐ此処に

来るはず。なのだが。

 

「これはちょっと、遅いかも」

 

「そうだね、フウタ。ところで……」

 

 ミユは何か思い出したかのように、フウタにある事を聞いた。

 

「ところでだけど、ジョウさんから聞いたんだ。。フウタがあと一か月くらい、待っていてほしいことがあるって。

 ……ごめんね。フウタのことが心配で、どうしても気にしないでいられなかったんだ」

 

 やっぱり、ミユはずっと、フウタを気にかけていたのだ。

 これにはフウタの方が、申し訳ない気持ちだった。

 

「謝るのは、僕の方だよ。自分勝手な理由で隠し事をしていて、君にまで不安にさせてさ、本当に僕はダメダメだよ」

 

「ううん、フウタは悪くないよ。きっと何か、事情があると思うから」

 

「あはは……ちょっと、ね。

 ――でも、ジョウさんも言ったように、一か月後には全部話すから……少しでも安心してくれたら、僕も嬉しい」

 

 まだ少し申し訳なさそうな様子の彼に、ミユはニコッと、素敵な笑顔で笑いかける。

 

「大丈夫! 確かにちょっと気になるけど、フウタがそう言うんだもん。それまで待っていても、全然平気だよ」

 

「ミユ……! ありがとう」

 

 彼女の励ましと、その笑顔。フウタにとってはそれが、とても嬉しかった。

 

「うんうん。私もやっぱり、元気なフウタが良いもん。

 だけど一か月かー。たしかジンさんと一緒にマリアさんと戦うのも、その時だっけ。もしかして、何か関係があるのかな?」

 

「あはは……それは、まぁ」

 

 また言葉につまるフウタに、つい気をつかうミユ。

 

「あっ、ごめんごめん。ちょっと変なこと聞いちゃった。

 ……じゃあ、あと少し、待ってるからね」

 

 やっぱり、そんなミユに、助けられるフウタ。

 

 ――本当に、ミユにはかなわないな――

 

 彼はそう、ふと一人微笑んだ。

 

 

 

 

 するとそんなとき、一人の青年が現れ、声をかけて来た。

 

「おおっ! 先に来ていたんだな、二人とも!」

 

 手を振って表れたのは、ジンであった。

 

「やぁジン! ようやく来たんだね」

 

「悪い悪い、野暮用で遅れてさ。……ミユちゃんも、こんにちは、だな」

 

「こんにちは、ジンさん。お元気そうで何よりです」

 

「ははは、まぁ、元気ってことは元気だな。ところで……」

 

 ジンは再び、フウタに目を移す。

 

「前言ってたコーチ、フウタの知り合いなんだってな。なぁ、一体どんな奴なんだい?」

 

 

 

 彼はまだ、どんな相手がガンプラバトルを教えてくれるのか、詳しくは知らなかった。

 フウタはそれについて、簡単に説明する。 

 

「今日から教えてくれるのは、僕の行きつけの模型店の店長でもある、ヒグレ・ジョウさんって言う人さ。

 僕たちの小さい頃からの長い付き合いで、知り合いではあるんだけど、GBNで会うのは初めてなんだ」

 

「へぇ……」

 

「ログインする時間も合わないし、そう一緒にするような機会だって、なかったしね。

 だからジン同様、どんな感じなのか……ドキドキしているんだ」

 

 するとミユもまた、こんな事を。

 

「私も何だか、気になるな! GBNでのジョウさんの姿、どんな感じなんだろう

 キャラクターのコスプレかな。それとも、姿形まで全然違ったり、するかも」

 

 彼女はそう、色々と想像を膨らませる。

 

「あはっ! もしかすると女性の恰好でもしているんじゃない? 

 ほらよくネットゲームであるじゃないか、現実の性別と違う姿でゲームをプレイするってさ」

 

「えー。いくら何でも、そんな事しないんじゃない? フウタ?」

 

 フウタの冗談に、ついミユもおかしそうに笑う。

 

「十分あり得るぜ。ジョウさんって案外、そんな趣味を持ってそうな感じがしない?

 ああやって大人の余裕ってやつを感じさせているけどさ、その裏では……」

 

 

 

 ――ポカっ!

 

「……いてっ!」

 

「ちょっと遅れてみれば、ずいぶんと好き勝手言ってくれるじゃないか。えっ、フウタ」

 

「いたたっ……、痛いじゃないか、もう!」

 

 いきなりげんこつを喰らい、涙目になったフウタは振り返ると、そこには……。

 

「フウタは置いておくとして……これがGBNでの俺の姿さ、ミユちゃん。カッコいいだろ?」

 

 

 ようやく現れたジョウ。彼の姿は、年代物のスーツを身にまとい、その上からは灰色の使い古したような、まるでハードボイルド小説に登場する探偵の雰囲気を醸し出す、トレンチコートを着ていた。

 

「――へぇ! とても恰好良いです! ジンさん!」

 

 ミユに褒められて、ジョウは照れるように頭をかく。

 

「やっぱり、カワイ子ちゃんに褒めてもらえると、こりゃ嬉しいな。

 二人のダイバールックも初めて見たが、なるほど、どっちとも可愛くていいじゃないか。

 そして……ジンくん、だったっけ」

 

 と、今度はジンに対し、ジョウは声をかける。

 

「初めまして。あなたが、僕たちにガンプラバトルを教えてくれるって、フウタから」

 

「まあな。二人があまりにも、伸び悩んでいると聞いて、力を貸そうとな。

 ま、フウタにある条件をつけて、だがな」

 

 これを聞いて、フウタはぼそっと呟く。

 

「言われなくても、ちゃんと約束は、守るとも」

「……と言うことだから、今日からミッチリ、二人にガンプラバトルのイロハを教えてやるさ。

 ――少なくとも、これまでより多少は、様になる事は保証するぜ」 



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特訓!(Side フウタ&ジン)

 

 ――――

 

 フウタ、ジン、そして一緒にミユも、ガンプラバトルの特訓に参加していた。

 

「と、こうして参加したのはいいんだけどさ。……この格好、必要なの?」

 

 フウタは自分の身にまとう、ジャージの上着の生地を、片手で引っ張る。

 

「あはは……GBNでこんなの着るって、ちょびっと不思議だな」

 

「いくら仮想空間だからって、俺も結構、恥ずかしいんだぜ」

 

 ジャージ姿はフウタのみならず、ジンとミユも。

 ちなみに男性組はブルーで、ミユだけピンク色のジャージだ。

 

 

 

 そして三人の前には、両腕を組み堂々と立つ、ジョウの姿がある。

 恰好はさっきのままだったが、額には気合を入れるためか、バンダナを巻いていた。

 

「ははは! まずは形から、ってことさ。その方が、やる気出るだろ?」

 

「まぁ、そう言うなら……。いいか」

 

 理屈はよく分からないが、とりあえず納得することにした、フウタ。

 

「……と言うことで、君たちには俺直々に、特訓することにした。

 ちなみに内容はシンプル、前もって俺の考えたスケジュールを、きっちりこなしていくことだ」

 

 

 

 彼らは今、あるミッションに参加していた。

 

「まずは、効率的な動作の仕方を、色々学ばないとな」

 

 マップには、競争競技に使う、トラックが広がっていた。……それも、人間が使うものを、ずっと大きくしたものを。

 このサイズ、まさしくMS用のものだろう。

 しかも、そのコースには網やハードル、平均台にタイヤ等など、まさ障害物競走で使うような、多種多様な障害物が置かれていた。

 

 

 当然、これらもすべてMS基準の大きさ。見るとかなり、圧巻されそうだ。

 

「最初はこの、障害物競走をやってもらおうか。無論……自分たちのガンプラでな!」

 

 

 

 フウタ達の後方には、自分たちのガンプラ、改造レギンレイズ二機と、ガンダムF91があった。

 

「障害物競走……ガンプラで、か」

 

 ジンは実感が沸かない様子で、呟く。

 

「もちろんバーニアで飛んだりはなしだ。そっちはそっちでまた、別のコースを用意しているからな。岩山や宇宙空間だとか、色んな地形とかさ。

 ただ、ここではあくまで、人間と同じ動きで突破してもらうぜ」

 

 ジョウが用意したのは、これだけではなかった。

 

「動作の特訓の他にも、射撃精度を上げるためのバクや戦闘機の撃墜ミッションなんかや、回避運動の向上を目指す、トーチカなんかの砲台が多数用意されたエリアの突破ミッション、後は索敵・捕捉能力の力を付ける、探索そして捕獲ミッションだ。

 ……もちろん今日だけじゃない。これから数日はこうした色んなミッションを、俺の考えたスケジュール通りにやってもらう。

 くくくっ、しばらくは忙しくなるぜ」

 

 

 

 自信たっぷりの彼、だったが。

 どうやらジンは、これにやや、不服そうだ。

 

「あのさ、ジョウさん」

 

「……ん?」

 

「そのスケジュールや、ミッション内容については、大体分かっているさ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「これって全部……、しょせんただの基礎ミッションじゃないか。初心者だって、わざわざこんなミッションを受けないような内容なのに、本当に大丈夫なのか?

 もっと、こう、強い相手と戦ったり、難しいミッションを攻略したりとか……じゃないのか?」

 

 そう、これらジョウの用意したミッション、それは全て初心者がガンプラの操作を覚えるために用意された、基礎ミッションであった。

 フウタも、ジンも、アマチュアであっても初心者ではない。これにはいささか不本意な感情も、なくはなかった。

 

 

 最も、そんな感情はジョウも分かっていたらしい。

 

「そりゃ、そう思うのは無理ないよな。

 だが、ガンプラバトルだとかの上達には、一つ一つの基本動作をちゃんと身につけた方が手っ取り早い。

 多分二人ともそこもちゃんと出来ていないだろうからな、その辺りが出来さえすれば、その後は自分たちでバトルやミッションに挑戦するなりで、上げていけるはずだぜ。

 ……それに」

 

 ついでに彼は、こうも付け足した

 

「だが、基礎ミッションだとしても、難易度調整とかもあるんだぜ。

 まだこれは簡単だが、徐々に難しくしていくから、覚悟してくれよな」

 

 

 マリアとハクノとの闘いまで、残り約一か月……。

 ジョウによる特訓で、フウタとジンは果たして、どこまで様になるか……今はまだ、定かではない。

 



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[コラボ回]上位ダイバーの戦い(Side ハクノ&マリア)★

 ――――

 

 その一方で……。

 

 

〈行くわよ、お兄ちゃん!〉

 

「ああ! 今日こそアイツに、目にもの見せてやるさ!」

 

 GBNの世界ランキング、その三桁台に入る実力を持つシラサキ・マリアとその兄ハクノ。

 そして二人の駆るガンプラであるガンダムバエル・クリムゾン、そしてアヘッド・ブロッケン。

 

 

 舞台は荒野のフィールド。

 荒れた大地に、障害物となる岩山が複数存在する……ガンプラバトルの場。

 そして二人の対戦する、相手とは――

 

「フォース『GUNSTARDOM』の所属ダイバー、ta‐zuさんとそのガンプラ……ターミナス・ハーキュリー! そして――ジュピタリオス!

 

 今回のバトルこそ、必ず勝ってみせるぜ!」

 

 

 

 岩山の先に見える、通常のガンプラよりも大型かつ、武装を満載した刺々しいシルエットと、四足で大型のランスを持つ、さながらギリシャ神話のケンタウロスを思わせるシルエット。

 

〈お互いに二対二のタッグバトル。だけど、向こうは……〉

 

 と、マリアがそう言った瞬間、ケンタウロス型のシルエットが掻き消えた。

 

「消えただと! ……いや!」

 

 モニターに目を凝らすと、続けていくつもの残像が瞬間、瞬間に大地、岩山、そして宙に姿を残し、二人に迫る。

 

 ――あそこまで高速移動が可能だとは、やはり流石――

 

 ハクノの乗るアヘッドは、右腕の剣を構える。 ……何故なら、相手の狙う先は――彼だからだ。

 

 

 ――ギィン!

 

 相手のガンプラが持つ大型ランスと、アヘッドの装備する剣が交差する。

 

 ――はは……っ、二機同時に操縦するなんてさ。しかもジュピタリオスは遠隔操作だってのに……何だよ! この相変わらずの動きと、攻撃の重さは!――

 

 至近距離にいるためか、今ならガンプラの姿を、よく把握出来る。

 

 

 相手機の一つ――ジュピタリオスは、ガンダムWに登場する量産機リーオーとそして、リーオーのプロトタイプと言う設定を持ち超加速度と高機動を誇る高性能機……トールギスを元にした、純白の改造ガンプラだ。

 四足の脚部を持つ下半身はもちろん、金と銀の装飾が施された上半身と、水色のマント、さながら白銀の騎士とも感じさせる。

 

 

 アヘッドとジュピタリオスが、鍔迫り合う。……だが。

 

 ――こっちが押されているってか! 性能だって向こうのガンプラが高いってのも、分かっていたが。出力も……ダンチだな――

 

 

 腰の下部に装着された複数基のブースターを噴かし、ジュピタリオスとそのランスは、アヘッドを圧す。

 

 ――このままじゃ、やられる。一旦ここは――

 

 危険を感じたハクノは、今度は逆方向にGN粒子を出力方向を変換し、飛びのくように後退する。

 ジュピタリオスのランスは空を切り、外した。……かに見えたが。

 

「……っつ!」

 

 近接武装が装着された右腕、その動きが悪い。

 見ると、アヘッドの右肩は大きく抉れ、火花とスパークを散らしていた。

 

 ――完全に避けたつもりだったが、いつの間にこんな傷を!――

 

 攻撃は避けた、かに思えた。

 しかしアヘッドが飛びのく瞬時、ジュピタリオスは追撃を加えていたのだ。

 

 ――あんな一瞬で、よくも! だが、まだまだっ!――

 

 それでもハクノの戦意は喪失していない。

 腕はどうにかまだ動く、彼のアヘッドは再度態勢を整えそして、ジュピタリオスへと挑む。

 

 

 

 ――――

 

 

 ハクノのアヘッド・ブロッケンとジュピタリオスが戦闘を繰り広げている中、マリアのガンダムバエルは空中にいた。

 機体が持つ大型ライフルを構え、彼女はハクノの援護を試みる

 

 ――やっぱり動きが速いわね。これじゃ――

 

 しかし、ジュピタリオスの動きは早く、マリアでも狙いが定まらない。

 

 ――これでも射撃には、があるんだけどな。……くっ!――

 

 すると彼女のバエル目掛け、大型の弾が飛来して来た。

 これを何とか、間一髪で避けるマリン。

 

 ――うわっ、ととと! 何よあのデカい弾、冗談じゃないわ――

 

 弾が飛来した先には、ジュピタリオスとはまた別の機体が、大型のロングレンジバズーカを両腕で構え、深紅に鈍く輝くモノアイでマリアのガンプラを見据えていた。

 濃緑色で大型のガンプラ、バズーカの他にも機雷に榴弾砲、大斧、複合ライフルを各部にマウントした、物騒な姿。

 それは機動戦士ガンダムの外伝作品に登場するザクの強化機体となる、重武装かつ強大な推進力を誇るモビルスーツ、ケンプファーをモチーフとしたものになる。

 しかし、その身体を構成するのは、マリンのガンダムバエル同様、鉄血のオルフェンズの登場機体、マンロディとガンダムグシオンのパーツが主だ。

 

 

 機体の名はターミナス・ハーキュリー。

 この機体とそしてジュピタリオス、二機のガンプラを操るダイバー、ta‐zu。

 ジュピタリオスは遠隔操作だが、今このターミナス・ハーキュリーは彼が直接操縦していた。

 

 ――向こうは鉄血の機体、となるとナノラミネートアーマーでビーム攻撃は得策ではないわね。……なら、これならどうかしら!――

 

 実は彼女のバエルの装備である、大型ライフルもまた、ビームと実弾の使い分けが可能な複合兵器であった。

 マリアが乗るガンダムバエルは今度は、ターミナスへとライフルを向け、実弾を放つ!

 

 

 しかし相手は、それを余裕で避けた。

 マリアは更に連撃を撃ち込むも、それもまたかすりもしない。

 

 ――あんなに的が大きいのに、上手くいかないものね!――

 

 これもまた、実力と性能の差か。

 

 ――なら、もう少し距離を詰めれば――

 

 射撃の精度を上げるため、バエルはターミナス・ハーキュリーに迫り、射撃態勢をとる。

 だが……。

 

 

 ターミナスは再度バズーカを向けて、放った。

 しかしその一撃は、大きくガンダムバエルから

外れる。

 

 ――ふふっ! どこ狙っているの! こんなの全然――

 

 マリアはそう、甘く見ていた。

 確かにバズーカの一撃はガンダムバエルを外した。けれど、その本当の狙いは――

 

 

 

 ターミナス・ハーキュリーに接近し、再びライフルを構えるマリアのバエル。

 

 ――この短い距離なら外さないわ! 覚悟してよね――

 

 

 

 ……その時だった。

 背後から激しい爆発音が聞こえたと思った、瞬間、硬い何かがいくつも飛来し、ガンダムバエルの背部を直撃する。

 

「きゃああっ!」

 

 激突したのは全て、大小様々な岩の塊だ。

 あの時ターミナスが狙ったのは、ガンダムバエルでない。そのすぐ後ろに位置していた、岩山だった。

 バズーカの弾の一撃は岩山を砕き、その破片はマリアの機体を襲う散弾となった。

 

 

 岩石の散弾はバエルのバックパックにも命中し、損傷を与えた。

 機体は墜落し、地面に激突しそうになるが、どうにか態勢を整え、上手く着地した。

 

 ――っと、まさかあんな手段を使うなんてね――

 

 地上に着地した、ガンダムバエル。その正面に、悠々と出現するターミナス・ハーキュリー。

 機体はバズーカから、下部にガトリングが装着された複合ライフルへと持ち替え、戦闘態勢をとる。

 

 ――向こうはまだやる気ね。なら私も、それに応えないと――

 

 戦いはこれからだ。マリアもまた、バトルを再開する。

 

 

 

 

 ――――

 

 あれから両者は激闘を繰り広げ、しばらくして……

 

「結局……また、俺たちの負け、か」

 

〈あはは、やっぱり強いものね〉

 

 ハクノのアヘッドと、マリアのガンダムバエル。両機は満身創痍の姿で、並んでいた。

 対して、ta‐zuのガンプラであるターミナス・ハーキュリーとジュピタリオスは、無傷のままだ。

 

〈そうは言っても、二人ともなかなかやるじゃないか。

 まぁ、まだまだ……って所は、あるかもだけどな〉

 

 通信で二人に届く、青年の声。

 この声の主こそ、兄弟を圧倒したダイバー、ta‐zuなのだろう。

 

「そう言ってくれるとは、光栄だ。さすが世界ランク二桁台は、格が違うな」

 

 ハクノの言葉に、ta‐zuは笑って反応する。

 

〈ははは! といっても、上にはまだ、上がいるからな。

 チャンピオンのクジョウ・キョウヤにそして……『ビルドダイバーズ』の彼らとか、な〉

 

 ビルドダイバーズ……。ハクノとマリアも、その名前は知っていた。

 

〈二年前、GBN全体を大きな影響を与えたフォースね。……あの頃は私たちもまだ、GBNを始めたばかりの初心者だったわ。けど、あの出来事は凄かったから、よく覚えているな〉

 

〈ああ。第一次有志連合戦ではGBNを救い、そして第二次では今度は、一人の少女を救うためにGBNそのものを相手に戦った。……まさに、伝説だな。

 ……ところで〉

 

 するとta‐zuは、何か思い立ったかのように、こんな事を話した。

 

〈初心者……で、思い出したんだが、確かハクノとマリアは、アマチュアの二人と何やら因縁があるみたいじゃないか。

 確か一か月後くらいに、戦う約束までしてさ〉

 

「それは、な。まぁ相手はアマチュア、俺たちが負けるようなことは、ないけどな!」

 

 これには自信のある様子の、ハクノ。だが……。

 

〈さて、それはどうかな? あんまりそうだと、足元を掬われかねないかもだぜ〉

 

 こう話すta‐zuであったが、彼はこの事に、いくらかの興味を持った、そんな様子だ。

 

〈にしても……ちょっと、気になるな。もし時間があったら――〉

 

 

 

 




 今回はTwitter、GUNSTAで活動しているta‐zuさんより許可をいただき、こうしてガンプラを登場させてみました。
 ちなみにその写真は以下のように。

・ターミナス・ハーキュリー

【挿絵表示】


・ジュピタリオス

【挿絵表示】


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第八話 特訓の成果と……
特訓の成果!(Side フウタ&ジン&ミユ)


 ―――― 

 

 ジョウによる特訓は、数日かけて続いた。

 

〈ほら、射撃が甘い! 一発一発、ちゃんと狙って撃つことだ〉

 

 基礎ミッションの一つ、大量出現するボールの撃破ミッション。

 機動戦士ガンダムの量産機かつ、いわゆるやられメカである機体、ボール。 

 丸い本体に貧相なマニュピレーターが二本生え、上部の砲塔が唯一の武装である。

 

 

 舞台は宇宙空間。

 フウタ、ミユ、そしてジンはそれぞれ、自身のガンプラで次々とボールを撃破していく。

 ……ちなみに、三人が戦っている遠くでは、ジョウが乗る、一つ目の、まるで小鬼のようなガンプラ、デスアーミーが、遠巻きに観察していた。

 

〈……一応前よりは、上達はしているみたいだな。さて、今はどれくらい撃破したかな?〉

 

 通信によるジョウの応答に、返事をかえすジン。

 

「これで、五十六体目だ!」

 

 ジンが操縦するガンダムF91は、ビームライフルでボールを次々と撃ち抜いて行く。

 その一方で、フウタのレギンレイズもライフルで狙い撃つ。

 

〈僕は五十四体目、少し負けているけど、ジンには負けないさ。

 すぐに、巻き返すとも〉

 

 そう話しながら、レギンレイズはまたすぐ近くのボールに目をつけ、ライフルを構えた。

 放たれた銃弾は、本体中央のセンサーを貫通し、風穴を開けたボールは火を噴き、花火のように爆散した。

 もっとも、倒したところでまた次々と、ボールは大量に湧いて出る。

 

「ははは。でも本当に、きりがないな。……まぁ、制限時間一杯まで無限湧きするんだから、当然ではあるけどな」

 

〈だからこその、射撃練習だ。撃ちまくって、とにかく感覚を覚えるんだ。

 ……ほら、ミユちゃんを見習ったらどうだい〉

 

 

 

 ジョウのデスアーミーが指さす先には、ミユの乗るレギンレイズが、二人よりも正確かつ素早い動きで、より多くのボールを撃破していた。

 

〈すごいなミユ! 八十三体目って……僕たちよりも多いじゃないか〉

 

 自分の彼女のファインプレーに、ついフウタは感心する。

 

〈私、ゲーム関係が好きだから! だからコツを覚えたら、簡単なんだ〉

 

 彼の言葉に、画面に映るミユは、ふふっと笑う。

 

 

 

 ――――

 

 また、その後のミッションでも。

 

 

 ジャングルの中にいくつも見え隠れする固定砲台――トーチカ。

 

〈ほらほら! フウタにジンさんも、置いて行っちゃうよ!〉

 

〈あっ、待ってよミユ。……って、あだだだっ!〉

 

「だああっ! よくこんな中を、平気で行けるよな!」

 

〈それは僕も同意。そりゃ、僕たちも多少、マシになったとは言えさ〉

 

 トーチカから放たれる弾丸の嵐。

 このミッションはガンプラ操縦の回避運動の上達のためのもの。

 

 

 ジンもフウタも、何度も弾丸に阻まれながらも、それを何とか避け、先を進んでいた。

 しかし、二人の先を行っていたのは、やっぱりミユ。

 

 

 彼女のレギンレイズは背部のホバー推進器を使い、弾丸を避けてより先を進んでいた。

 

「本当に……よくやるよな」

 

 ジンがそう呟く中、遠くからジョウによる通信が届く。

 

〈だが二人も、それなりに上達しているように見えるぜ。最初とは……全然違うさ〉

 

 

 

 ――――

 

 今度は、総合的な実力向上のための、対戦ミッション。

 内容は、NPDの操作するリーオーNPDの、百人抜きだ。

 と言っても、NPDのレベルは中級のものであり、それを百体。最初の頃なら、とてもでないが太刀打ちすら出来なかったはずだ。

 

 

 

 舞台はアリーナ型の、バトルフィールド。

 今回はフウタとジンのみ。ミユとジンはアリーナの観客席で、生身で観戦していた。

 

「さすが、良い上達具合じゃないか」

 

「うん! フウタもジンさんも、とっても強くなったね」

 

 中央のフィールドでは、次々と出現するリーオーNPDを相手にする、フウタたち二人のガンプラがあった。

 

〈そっちは任せて、ジン! だから〉

 

〈ああ! こんな奴らくらい、今なら簡単に蹴散らせるとも〉

 

〈僕だって! 同じく行けるさ!〉

 

 レギンレイズと、ガンダムF91、二機は襲い掛かるリーオーを、何体も順調に撃破していく。

 今はもう、二人で九十体倒したところだ。

 

 

 二機は背中合わせで、取り囲むリーオーの残りを見据える。

 

〈もう後わずかだな。さてとフウタ、決めようか!

 

〈了解!〉

 

 フウタ、そしてジン。二人のガンプラはそれぞれライフルを構え――ビームと実弾を、リーオーめがけて撃ち放った!

 



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久々の羽休め(Side ジン)

 ――――

 

 今日の特訓を終えた一行は、息抜きでGBNのエリアを散策していた。

 場所は、中世風の雰囲気を思わせる、大きな町。

 

 ――そう言えば、最近こうGBNでゆっくり過ごすなんて、あんまり無かったな。

 たまにはこうしたのも、全然良い――

 

 ジンはぐっと、伸びをして、リラックスして町の情景を眺める。

 綺麗な家々が立ち並び、通りには屋台でグッズやアイテム……さらにはガンプラの追加パーツや武器のデータなども、販売していた。

 そして同じくGBNにログインしているダイバー達。

 ガンダム作品にちなんだ物や、オリジナルの恰好等々、様々な容姿をした彼ら彼女ら。

 

 

 

 そんなダイバー達が賑わうこの場は、まるでお祭りのようだ。

 ……GBNは、まさにそんな場所。ここではお祭り騒ぎはあちこちで、日常茶飯事と言える。

 

 ――こうして騒がしいのは少し苦手だけど、まぁ嫌いじゃない。だけど――

 

 ジンはちらと、横に目を移す。

 

「お祭りみたいな雰囲気、ワクワクだよね、フウタ」

 

「うんうん、せっかく時間も取れたことだし、ミユと楽しめるのは、やっぱりいい!」

 

 彼の横では、フウタとミユの二人が、仲良く手を繋いで歩いていた。

 

「どこに行こうかなー。

 ……あっ! まずはあそこの屋台を見よう! フワフワなハロのぬいぐるみ、気になっちゃって」

 

 ミユが指さす先にあったのは、屋台の一つ。

 そこにはいろいろなぬいぐるみが売っており、彼女はそれに目が奪われていた。

 ちなみに彼女の言う『ハロ』と言うのは、ガンダム作品に登場する、球体型の小型ロボットである。

 

「もちろんだよミユ! 僕も何か買おう、っと。やっぱりミユと、お揃いがいいかなー」

 

 ふと何気ないフウタの呟きに、ミユはちょびっと、むっとする。

 

「んもう、フウタってば。何か買い物するときは、しょっちゅうそれなんだから。

 もう少し、自分で選んだ方が、いいと思うんだけどな」

 

「あはは。だって、一緒がいいんだもん。その方が……思い出だって、もっと共有できる気もするし」

 

「そんなこと言われたら、私だって……」

 

 

 

 恋人らしく、ジンの横でイチャイチャしている二人。 

 

 ――二人はやっぱり、相変わらずだな。……まぁ、良いことだとは、思うけどさ――

 

 ただ、二人がそんな状況、一人疎外感を覚えるジン。

 やはりこれは……少し寂しい。

 

「ねぇ、ジン!」

 

「……ん?」

 

 そんな思いにふけっていた時、ふとフウタから声をかけられた。

 

「ジンもあそこのぬいぐるみ、見てみない?

 いつもだったら二人で過ごしたい所だけど、今回はジンとも一緒に、さ。

 ねっ、ミユ!」

 

 ミユは彼の提案に、ニコッと笑って同意した。

 

「もちろんだよ! ジンさんが気に入る、ぬいぐるみも見つけてあげる。

 ふふっ……そうしたセンスには、自信あるんだ」

 

「へぇ! それは、有難いな」

 

 フウタも、ミユも、決してジンを仲間外れにしているわけではなかった。

 

 

 

 これにジンははにかみ、そして。

 

「ははは……そうまで言われたら、こっちもな」

 

 照れたように頭を掻き、仕方ないな、と言うような様子だ。

 

「なら二人の厚意に、甘えようか。ありがとうな二人とも!」

 

 せっかくの休暇、やはり……こうでなくては。

 

 

 

 

 ――――

 

 それから三人は、町のあちこちを巡った。

 ミユの提案からぬいぐるみ屋の屋台から始まり、その後であちこち……店で買い物、料理にデザートを楽しみ、高台から景色を眺めたりなど、それなりにエンジョイしていた。

 

 

 

 ……ちなみに遠く離れた場所では。

 

 ――ほう? なかなか楽しめているじゃないか――

 

 望遠鏡を片手に、ジョウはその様子を眺めていた。

 町を談笑しながら歩く、フウタとミユ、それにジン……。

 

 

 ――これこそ青春って、やつか。いいものじゃないか――

 

 つい見ていて、笑みがこぼれる、ジョウ。

 しかし、一方でこんな事も。

 

 ――けど……ジンもそうだが、フウタの奴、よくやるよな――

 

 何やら思い出すような、懐かしい表情をふと浮かべる。

 

 ――昔のあの約束、ミユちゃんは、果たして覚えているだろうかな。

 何しろ、二人ともずっと小さい頃だ。フウタの方もよく覚えているもんだよ。……まぁ、あんな出来事があったのを知っているのは、俺もそうか――

 

 これにはジョウも、つい苦笑いをしていた、その時に……。

 

 

 

 ――ん? あれは――

 

 ふと別方向に、気になる人影がちらりと見えた。

 ジョウはその方向へと望遠鏡を向け、よく見てみると……その人影が誰であるか、分かった。

 

 ――これは面白い。見たところ……三人に近づいている感じだが――

 

 見覚えのある。誰かの姿。彼はそれに、興味を感じた。

 

 

 ――この先どうなるか。ま、こうして眺めている分には、面白いかもだな――

 



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二人の甘々なひと時(Side フウタ&ジン)

 ――――

 

 あちこち巡った後……

 様々な服装が用意された、町のアパレルショップ。フウタとジン達が今いたのは、そこだった。

 

「えへへ、似合うかな?」

 

 店の更衣室から出てきたミユは、ガンダムSEEDの組織、ザフト軍の女性軍服を身にまとっていた。

 黒と赤の上着に、ピンクのミニスカート。キャラで言うなら、作中でルナマリア・ホークなる人物が身に着けていた恰好……と言ったら分かりやすいか。

 

 

 彼女はそのコスプレをして、近くのベンチに座っていたフウタに、得意げにポーズをとる。

 

「とても可愛いよ! やっぱりミユは、何を着ても似合うね!」

 

「ありがと、フウタ! 軍服みたいだけど、可愛い服装で気にいったんだ。

 えっと、他にもまだまだ……」

 

 

 

 ミユは再び更衣室に戻ると、また試着を試す。

 機動戦士ガンダムの登場人物であるフラウ・ボゥのコスチュームに、Zガンダムの組織エゥーゴのパイロットスーツ、Ⅹガンダムのヒロイン、ティファ・アディールのワンピースに、またガンダムООの組織ソレスタルビーイングの女性服などなど……

 

「今度はこれを着てみたんだ! どう? ……ちょっと露出が多いけど」

 

 と、そう言ってまた更衣室から出てきた姿は――何と水着だった。

 

「にゃっ!!」

 

 この姿には思わず、フウタは顔を両手で覆った。

 見るとその顔も、若干赤い感じだ。

 

「ねぇフウタ、ちゃんと見てよー」

 

 フウタは顔を覆う手の指を開き、ちらと彼女の姿を見た。

 

「別にガンダムのコスプレってわけじゃないけど、これも気になっちゃって。

 ねぇねぇ、どう?」

 

 ミユが着ているのは、黄色くて、ヒラヒラした可愛らしいビキニ。

 もちろん似合っていて、これもとても可愛く思った、フウタではあったが。

 

「当然、似合っているよ。けど……かなりセクシーって言うか、その……。

 まさか水着で出てくるなんて、心構えをしていなかったんだ」

 

「へぇー。それはそれは」

 

 相変わらず顔を赤くしてどぎまぎしているフウタに対し、ミユは口に手を当てて、いたずらっぽくニヤニヤしていた。

 ……すると、彼女は一気にフウタとの距離を縮めると、上からかがんで覗き込んで来る。

 

「悪戯心て言うか、ちょっとフウタにドキドキさせたかったんだ。

 うん! この反応……大成功! そんなフウタも可愛いよ!」

 

 フウタが見ると、すぐそこに水着のミユの姿が、また……。

 彼女はフウタを覗き込んでいた。つまり一番よく見えるのは、間近にある顔と、そして……それなりに大きい胸の、胸元がすぐ目の前に。

 

「ミ、ミミミ……ミユっ!?」

 

 これには、先ほど以上にアワアワするフウタ。思わずベンチからも、落ちそうになるほどだ。

 この慌てようにはミユも少し驚くも、すぐにどうしてあんな反応をしたのか気づくと、さらにニヤつく。

 

「あははっ、なーるほどね。でもでも、ここは仮想空間なんだよ? 私は気にしてなんて、ないよ。

 まぁ、現実世界でも、フウタになら全然……大丈夫だけど!」

 

 いつもより悪戯っぽいミユと、それに振り回されているフウタ。

 これはこれで……また仲の睦まじいような、そんな感じだ。

 

 

 

 ――――

 

 今、仲の良いフウタとミユ。

 その少し離れた場所、アパレルショップの玄関近くには……。

 

 ――はぁ。やっぱ……寂しいな――

 

 壁にもたれかかって、ジンは息を一つつく。

 

 ――気を遣ってフウタ達を二人っきりにさせた

んだけど、二人だけの方が、何だか楽しそうじゃないか――

 

 遠目で二人の和気あいあいとした様子を眺めながら、複雑な表情だ。

 

 

 今はたったの、一人だけのジンは、再びため息をついた。

 

 ――にしても、やっぱり羨ましい、な。

 俺もいつか、あんな風に――

 

 と、ジンがそう思っていた、時だった。

 

 

 

 ――――

 

「なっ!」

 

 突然、目の前が急に真っ暗になり、何も見えなくなった。

 これに、ジンは驚く。

 それと同時だった。……後ろから、こんな声が聞こえて来たのは。

 

「くすっ! 誰だか、分かるかしら?」

 

 明るい女性の声。それがだれか、ジンは考えるまでもなかった。

 

「もしかして……マリア、なのか?」

 

 その言葉と同時だった。

 ジンの視界は急に元に戻り、辺りの様子が見えるようになった。

 そして、戻った視界の、端から顔を覗かせたのは――マリアであった。

 

 

 

「ピンポーン! 大正解!」

 

 長い赤毛の、快活な美女である、マリア。その姿は現実世界との差は、ないに等しい。

 

「ようやくちゃんと会えたわね、ジン! 私、とても嬉しいわ」

 

 会えて嬉しいのは、ジンもまた、同じだった。

 

「マリアに会えて嬉しいのは、俺もだよ。

 ……でも、信じられないな。お兄さんの方は、どうしたんだい?」

 

「あはは……それはね……」

 

 これには、思わずマリアは苦笑いを見せる。 

 

「実はお兄ちゃん、どうも風をこじらせたみたいで。今は家で、ぐっすりってところかしら、ね!」

 

 

 

 ――――

 

「……へくしっ!」

 

 部屋の蒲団の中で、大きなくしゃみの音がした。

 

「ううっ……くそっ」

 

 布団から上半身を起こし、真っ白く長い髪をばらけさせて、冷却シートを貼った額を手でおさえるハクノ。

 結構熱もあるように、呼吸も若干荒い、そんな感じだ。

 

 ――まさか、俺が熱で寝込むなんてな。ツイてないぜ――

 

 鼻をすすりながら、ハクノは再び蒲団へと横になる。

 

 ――俺はまぁいい。けど、問題は――

 

 と、彼は何やら、ある心配があるようだ。

 ……それは。

 

 ――マリアの奴、今どうしているんだぜ。困ったな、妹のことだろうから、多分――

 

 心配しているハクノではあった。

 だが、どうすることも出来ない。

 ……とにかく、今の彼は、ただ大人しくして、休養をとるしかないのだ。

 

 

 

 ――――

 

「……と、言うことで、お兄ちゃんには悪いけど、こうしてジンと会えたってわけ」

 

 マリアはそんな説明を、簡単にジンへと伝えた。

 

「喜んでいいか、悪いのか、何とも言えないけどさ、マリアに会えたのは俺も嬉しい。

 その気持ちは、確かさ」

 

「ジンならきっと、そう言ってくれると思ったわ!」 

 

 満面の笑顔を、彼へと見せるマリア。

 

「それでだけどね、せっかく会えたのに、会って終わり……だなんて寂しいでしょ?

 だから――これから、デートなんて、どう?」

 

 

 

 

「デ、デート……だって?」

 

 思わぬ提案に、ジンはドキッとした。

 一方、マリアは彼の様子を、面白そうに眺めている。

 

「そ! だって、最後にデートしたのは、もう何か月も前よ?

 だから――どうかしら、ジン?」

 

 マリアからの提案。

 もちろんジンにとっても、願ったり叶ったりのもの。……ではあるが。

 

 ――ただ、あの二人、そのまま放っておいて出て行ってもいいだろうか? せめて一言くらい――

 

 ジンは向こうにいる、フウタとミユに、目を向けた。

 しかし彼の心配とは裏腹に、二人は二人でよろしくやっていた。

 

 ――ま、あの様子だと、その心配はないか。

 それに向こうは二人で、楽しくやっているんだ。俺だって――

 

 フウタ達は、気にする必要はないだろう。

 そう考えたジンは、再びマリアを見ると、そして……。

 

「もちろん大歓迎さ! 久しぶりのデートなんだ、一緒に楽しまないと、損だもんな!」

 

 

 

 ――――

 

  ジンとマリンは、アパレルショップを出て、二人で街を散策した。

 さっきとは違い、二人っきりで、改めてお祭り騒ぎの街の通りを歩き、屋台を巡りながらと、楽しいひと時を過ごす。

 

 

 彼女は買い物よりむしろ、ゲームを楽しむのが好きだった。射的や輪投げ、スーパーボールすくいなどなど……。

 

「……くっ」

 

 射的用のライフルを構え、狙いを定めるジン。

 目の前の射的台には、景品となるガンプラが、いくつもあった。

 彼が狙うのは、その中で一番の大物、MGのガンダムエクシアだ。

 ガンダムОО、第一期の主役機であり、剣を主な武装である白と青の、細身でヒロイックなガンダムだ。

 

 

 射的台中心に目立つように置かれた、ガンダムエクシアの箱。

 

 ――大きい的なんだから、簡単かと思ったけど、な――

 

 ジンはライフルで狙い、弾を放つ。

 ……が、弾は目標から、ほんの少し外れた。

 

「ああっ、また外しちまった。あとちょっとだったのにな」

 

「残念ね、ジン。でも本当に、惜しかったわ」

 

 射的に熱中するジンと、それを温かく見つめているマリア。

 

「でも今度こそ、当ててみせるさ。格好よく決めてみせるから、見ててくれよ!」

 

 もう何度も挑戦している。

 コツもある程度つかみ、次こそ当てる自信があった。

 よく狙いを定め……そして!

 

 ――今だ!――

 

 何度目かの弾を、ジンは放った!

 弾はエクシアの箱へと向かい、ついに命中した!

 

「よしっ! やったぜ!」

 

 これにはガッツポーズを決めたジン、ではあったが……。

 

 

 弾の当たったガンプラの箱は、グラリと揺れた。……が、それはほんの僅か。とてもでないが、落下までには至らない。

 

「……ああ。あと……もう少しだったのに」

 

 これにはガクッと肩を落とし、気も落としてしまったジン。

 しかし、そんな彼に対して……マリアは。

 

「こうなったら、私がやってみようかな? 代わってもいい? ジン?」

 

「……たしかに、ここはマリアに任せるよ。

 俺の仇、取ってくれ」

 

 マリアはジンから、ライフルを受け取ると、同じく狙いのガンプラの箱に、狙いを定める。

 

「ちょっと違うかもしれないけど、狙いのコツはガンプラバトルと似た感じですもの。

 ……それに、射的のコツで言えば、景品の足元を狙うのが良いのよ!」

 

 そう言うやいなや、マリアはライフルを一気に放った。

 弾は箱の足元にピンポイントで当たり、そのままグラッとバランスを崩すと……下に落下した。

 

 

 

「やった! 見事に手に入っちゃった!」

 

 射的で手に入れたMGのガンダムエクシア、それを手にしたマリアは意気揚々だ。

 

「ははは……やっぱりすごいな、マリアは。本当にすごいぜ」

 

 彼女の活躍に、ジンはそう言わずには、いられなかった。

 すると、そんなジンに対して彼女は、手にしたガンプラを差し出した。

 

「ん! はいジン!」

 

「……えっ?」

 

「だってこれは、ジンが狙っていたものでしょ? ジンはあんなに頑張ってたし、私は最後の最後でちょびっと手を貸しただけ、だから……ね」

 

 マリアの、優しさ。

 ジンはそれを、ガンプラとともに受けとった。

 

「ありがとうマリア。俺、とても嬉しいよ」

 

 せめてものお返し、彼はそう、礼を伝えた。

 

 

 これを聞いた、マリア。

 彼女は、素敵な笑顔を、ジンへと投げかけた。

 

「ジンの喜ぶ顔が、私にとって一番のプレゼントだわ!

 それに……さっきの頑張っていた所、とっても恰好良かったよ!」

 



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思い出話 その1(Side ジン)

 ――――

 

 あれからまた、あちこち巡った後、マリアとジンは街の広場へと来ていた。

 

「ふぅ、とっても楽しかったわね!」

 

 水が噴き、滝のように流れ落ちる、立派な噴水がある広場。

 そこの、噴水のある人工の池の縁に二人は座る。

 手には買い物やゲームで手に入れた景品が入った袋と、そしてさっき買った大きな綿あめを、それぞれ手に持っていた。

 

「この綿あめも、美味しいわね。さっきはホットドックだとか、フライドポテトだとか食べたから、甘い綿あめは、食後のデザートにってね!」

 

 綿あめをなめながら、マリアは隣にいるジンに、ウィンクしてみせた。

 ジンも大人しく、綿あめをなめて、ちらと彼女を見た。 

 

「確かに、な。それに……」

 

「それに?」

 

 彼は照れながら、こうも続ける。

 

「こうしてマリンと共に、綿あめを食べて……、一人で食べるより、ずっと美味しいよ」

 

 これにはマリンは、つい笑ってしまった。

 

「あらら、ジンってば、そんな事言っちゃって。

 本当にジンは、面白いわね」

 

「そう、かな? マリンがそう言うなら、そうかもかな」

 

 彼女はまた、くすくすと笑う。

 

 

 

「そうよ、きっと。

 ……だって、初めてジンと出会った時も、そうだったから!」 

 

 

 

 ―――― 

 

 それは、一年ほど前の事だった。

 

 

 ある日、タケヤマ・ジンは、彼にしては珍しく、街のガンダムベースに来ていた。

 ……と言うのも、ジンはガンプラも、そしてガンダム作品そのものも、あまり好きではなかった。

 

 ――たまには、ガンプラを買って作るのも、まぁ悪くないか――

 

 彼が主に作るのはロボットプラモだが、ガンプラと言ったバンダイのプラモではなく、むしろフレーム〇ームズやヘキ〇ギア、そしてときどきフレーム〇ームズ・ガールと言った美少年プラモと言った。つまりメーカーとしてはコト〇キヤを推していた。

 ガンプラはあまり興味はなく、ガンプラを使った大人気のVRMMO、ガンプラバトル・ネクサスオンライン――通称GBNも、話としては知っていたが、そっちも別にやりたいとも、全然思ってはいなかった。

 

 

 

 今回はたまたま、気紛れでガンプラを買いに来た、たったそれだけだった。

 

 ――と言っても、本当にここは、ガンプラばかりだな――

 

 ガンプラ専門店である、ガンダムベース。

 置いてあるのは当然、ガンプラばかり。それもかなりの種類がある。

 慣れないこの空気に、ジンはやや戸惑っていた。

 それに、こうも沢山あると、何を買えばいいか……。

 

 ――しまったな。何を買うかくらいは、前もって考えておくべきだったか。……ん?――

 

 と、ジンは一つの物珍しいガンプラが、目に入った。

 彼はそれを手に取ると、しげしげと眺める。

 

 ――これは、ガンダムか。だけどカラーリングが――

 

 ジンの手にしたのはガンダム作品の初代となる機動戦士ガンダムの主役機、RXー78ガンダムのHGキット。ではあったが。

 通常のガンダムは、白と青、黄色と赤の、いわゆるトリコロールカラーだ。

 だが、このガンダムは、パッケージ上では白と青、そして水色とカラーリングが若干異なっていた。

 

 

 それに、ガンプラの箱のデザインも、見慣れないものだった。

 

 ――これは、ここでの限定品、って感じか。他の模型店では見かけないしな――

 

 このガンプラベースには、今ジンの持っているオリジナルカラーのガンダムはもちろん、他にも見慣れないガンプラも、ちらほらと見えた。

 ジンはガンダム作品を大まかには知っていて、アニメもいくつか見たこともあるが、決して詳しいとは言えなかった。

 

 

 そんな中、彼がガンダムの箱を、元の場所に戻そうとした。

 すると。

 

「ねぇ、そこのあなた!」

 

 突然、すぐ右隣から声がかけられた。

 ジンがそちらを見ると、自分よりいくらか若くそして美人な赤毛の、女性がいた。

 

「えっ、と!?」

 

 二十数年の人生の中、女性経験はほぼ無かった彼。

 いきなり美人から声をかけられ、思わずドキっとしてしまう。

 

「緊張しないでも、大丈夫よ。

 別に取って食おうって、わけでもないんだし」

 

「それは、悪かった。何しろ、いきなり知らない相手から声をかけられて、少し驚いたんだ」

 

 相変わらず緊張しながら話すジンに、彼女はおかしそうな様子だ。

 

「驚かせちゃったのね、それはごめんなさい!

 でも、知らない人、かー? 私はシラサキ・マリア、花の二十四才よ。……ほら、これで知らない人じゃ、なくなったわ。

 良かったら、あなたの名前も、教えてほしいな」

 

 いきなりの彼女のペースに、ジンは戸惑うも、ここは。

 

「俺は、タケヤマ・ジンと言うんだ。よろしく、マリアさん」

 

「マリア、でいいわ。さん付けはなんだか他人行儀な感じだしそれに、あなたの事も気に入ったから。

 私も直接呼ぶから、気にしないでいいわ、ジン!」

 

そう、これがマリアとジンの、初めての出会いであった。

 

 

 

「ところで……ジンはもしかして、ガンダムやガンプラ、好きなのかしら?

 私は――とっても大好きだな!」

 

 

 

 ――――

 

「初めて会った時、思い返しても懐かしいわね!

 ジンも、そう思わない?」

 

 ここまで昔を振り返って話しながら、マリアは懐かしそうにしていた。

 対して、ジンはと言うと。

 

「まあ、な。

 ここまでは、いいんだよ。ただ……」

 

 と、彼はそう話しながらなぜか、気恥ずかしそうな様子を見せる。

 

「その続きの話は、俺にとっては少し、いやそれなりに、恥ずかしいんだよな。

 あんな事を、ついマリアに言ってしまうなんて、な」

 

「まぁまぁ。その気持ちはある意味分かるし、あれがあったからこそ、こうしてジンとの絆だって、深まったもの」

 

 落ち込む彼を、励ますようにマリンは言った。

 そしてこう、言葉を発した。

 

「でも、あの時ジンがああ答えたのは、ちょっと驚きだったな。

 ……まさか、ガンダムなんて好きじゃない、なんて私に言うなんて」

 

 



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思い出話 その2(Side マリア)

 ――――

 

 一年前。

 シラサキ・マリアは、ガンダムが大好きだった。

 ガンダムのアニメも、そしてガンプラも。作品も宇宙世紀やアナザーを問わず、ガンダムと言うコンテンツそのもの、すべてが好きだった。

 それは彼女に兄である、ハクノも同じ。

 ……だからこそ、ガンダム関連で世界規模で人気を博すネットゲーム、GBNも絶賛、ハマっている最中だった。

 

 

 それこそやり始めたのは、さらにまた一年前。

 この時期はGBNにおいてブレイクデカールと呼ばれるチートアイテム、電子生命体であるELダイバーの騒ぎで盛り上がっていた時期であり、始めようと思ったきっかけになった。

 

 ……それからは、ジンとハクノの兄弟はメキメキとGBNに順応し、ガンプラバトルの腕も上げた。

 一年たったこの頃にはもう、世界ランク千位台に、到達していた程だ。

 

 

 ――――

 

 まぁ、それはさておき……。

 そんなガンダム好きのマリアが、ガンプラを購入するために、ガンダムベースへと訪れたときに偶然出会ったのが、ジンだった。

 あまりガンプラに慣れてない様子の彼に、マリアは声をかけた。

 ……が、返って来た答えは。

 

 

『別に、俺はガンダム作品なんて、好きじゃないんだ』

 

   

 そう言われた彼女は、ショックを受けた。

 だが一方で。

 

 ――そう言うなら、私だって引き下がれないわね。何がなんでもガンダムを好きになってもらうんだから!――

 

 心に火がついたマリア。

 

「そう! なら……ジンにはたっぷり、ガンダムについて色々教えないとね。

 絶対に、好きになってもらうんだから!」 

 

 マリアは、そう言うやいなや、ジンの手を引っ張る。

 これには訳が分からず、混乱するジン

 

「えっ! ちょっ!?」

 

「ここでゆっくり話すには、場所が悪いでしょ? だからるいて来て! 最適な場所があるの!」

 

 理解が追いつかないまま、ジンはマリアの勢いのままに、どこかへと連れていかれるのであった。

 

 

 

 ――――

 

「……はぁ」

 

「で、ガンダム作品……宇宙世紀を舞台にした作品で言うなら、ジムやザクなんかの量産機もいいの。

 バリエーションもとっても豊富で、世代を追うごとに次々増えていくのよ!

 ジムならジム改、ジムⅢ、名称は変わるけどジェガンって言う機体もあるのよ」

 

「……へぇ」

 

「私のオススメは0083に登場する、ジムカスタムね。一年戦争のジムを全般的にチューンアップした機体で、『特徴がないのが特徴』と言う言葉どおり目立った特徴はないけど、いかにもジムの強化型って感じが、とてもいいの!」

 

 

 

 ジンとマリアがいたのは、ガンダムベース近くの、小さな喫茶店だった。

 二人は向かい合って、ガンダムに関する話を長いことしていた。

 ……もっとも、話してばかりなのはマリアの方であり、ジンはほとんど聞き専ではあったが。

 返事も大体は生返事、ではあるものの……。

 

「そう言えば、よく分からない話ばかり、だったかしら?

 ごめんなさいね、でも、ちゃんと聞いてくれて、嬉しいわ」

 

「……俺こそ、何か気の利いたことを、話せたら良かったんだけどさ。どう言えばいいのか。

 でも、ガンダム……か、話を聞くと思っていた以上に、奥が深いんだな」

 

 話していたことの半分どころか、四分の一すら理解出来なかったジンであるが、それでもジンはガンダムと言うコンテンツがどれ程大きなものか、そして……。

 

「マリアは、ガンダムが好きなんだな。俺はそこまでよく分からないけど、さ、それは分かるとも」

 

 ジンのふとした、優しい言葉。これにはマリアも嬉しそうな表情を見せる。

 

「ふふ! その通り! 私のことを分かってくれて、嬉しいわね。

 でもガンダムはあんまり知らないとなると、そうね……ジンは、ゲームとか好き?」

 

 いきなりガンダムから話題が離れ、やや戸惑うも、ジンは答える。

 

「うん、まぁ、人並みには好きだぜ」

 

「良かった! なら、ジンにはGBNをオススメしようかな。そっちは……知ってたり、する?」

 

彼は頷いた。

 

「一応な。世界規模のVRゲームだって話は、聞いているよ。

 何しろかなり人気らしいしな。ガンプラを使う、ゲームだったっけ」

 

「その通りよ! ガンダム作品の舞台が色々再現された広大な仮想空間を舞台に、その世界を巡ったり、イベントを楽しんだり、……何より自分のガンプラを操縦して、バトルも出来ちゃうの!」

 これにテンションが上がったマリアは、ついテーブルから身を乗り出して、熱弁する。

 

「良かったらジンもGBN、遊んでみない? 私は結構ハマっているから、一からその楽しさを、貴方に教えてあげられるわ。

 ……でもちょっと、お兄ちゃんが厳しいけど」

「お兄ちゃん、だって?」

 

「あはは……。私には過保護ぎみの、お兄ちゃんがいるの。

 本当はとっても良い人なんだけど、もし男の人と仲良くしているなんて知れたら、何て言うか……」

 

 マリアはついつい、苦笑い。

 ジンもこれにつられてしまう。

 

「それは、大変だな。

 ……だけど、心配しなくても俺はそこまでガンダムに興味はないんだ。マリアの手を、煩わせないさ」

 

 

 

 

 やはり、ガンダムを好きにはなってくれない、ジン。

 これにはマリアもどうしたものかと、考える。

 

「うーん、ここまで熱く布教しても、これだなんて。困ったわね」

 

 彼女は考え込む様子を見せると、こんな事を、つい聞いてみた。

 

「ちなみにジンは、どうして……ガンダムの事、好きじゃないの?

 もしかすると、何か理由があるんじゃないかなって」 

 

 ここまで好きじゃないと言うことは、もしかしたら、何か理由があるかも。

 マリアはそう考え、質問した。

 

 

 

「……ああ。実はちょっと、訳ありでね」

 

 すると、何やら乗り気でないようだが、ジンは呟いた。

 

「そうなのね。なら、良ければ教えてくれないかしら? 私で良ければ力になるわ」

 

「マリアの気持ちは、もちろん嬉しいけど……」

 

 だがやはり、消極的なジン。

 

「私達もう、お知り合いでしょ? 今更恥ずかしがることはないじゃない」

 

「いや、その……きっと、話したらきっと、変に思われそうだ。それに、笑われるかもだし」

 

 きっと、相当にジンは心配なのだろう。

 そんな彼にマリアは励まして、元気づける

 

「大丈夫、大丈夫! 笑ったりなんてしないわよ。

 だから、ねっ? 教えてよ!」

 

 

 

 ジンはいまだに迷っているみたいだが、やがて覚悟を決めたのか、こんな事を話した。

 

「確か俺が7、8才くらいの小さい頃は、さ。ガンダムは好きだったんだ。

 ……中でも、ガンダムSEED Distiny、だったかな。それが大好きで見ていたんだよね。

 前作のSEEDも見てはいたんだけど、そっちはあんまり覚えていなくて、はっきりとガンダムと意識して見たのがそれさ」

 

「ガンダムSEED Distinyね! 私も好きよ! ストーリーの展開には賛否があるかもだけど、メカは前作以上に進化した感じがあったりもして、悪くなかったしね」

 

 ガンダム好きのマリアは、SEED Distinyもまた好きであった。

 

「でも、好きであったなら、どうして……」

 

 これに、ジンは悲しい目で、こたえた。

 

「マリアは知っていると思うけど、その作品には、ステラ・ルーシェって女の子が……兵士なんだけど、実際はとても純粋で、可愛い少女が登場したんだ。

。こんな事言うのは、アレだったんだけど、彼女が僕の初恋だった。……笑っちゃうだろ

 まぁその子は、作中で主人公であるシン・アスカと恋仲に落ちるんだけど、それでも良かった。彼女が幸せになってくれるなら」

 

「……ジン……あなたは」

 

 何かを悟った様子の、マリア。

 そして彼女の予想は、見事に的中していた。

 

「だけどアニメの後半で、ステラはデストロイガンダムに乗せられて、そして、殺された。

 あんな結末で、僕は辛かったんだ。

 それが今でも、心に深く、傷にさ」

 

 ――と、ついに感極まったジンは、小さくすすり泣きさえ始める

 

「本当に、そうした事ばかりだ。

 ミーアって名前の子も好きだったんだけど、彼女まで……。

 他のガンダム作品だって、ZZではプルとプルツーが、ガンダムAGEではユリン、そして鉄血のオルフェンズではラフタまで……さ。

 ガンダムシリーズはSF、ロボットものでもあるけど、戦争ものでもあるし、犠牲が出て当然なのは頭では分かっているんだよ。だけど……俺にはもう、耐えられなかった。だから……」  

 

「ガンダムが嫌いに。いや、嫌いとまでも行かなくても、苦手になったのね」

 

 こくりと、ジンは頷く。

 

「はは、は。やっぱりバカバカしいだろ。アニメにすぎないのに、こうもなるなんて。我ながら情けないぜ。

 こんな俺、笑ってしまうだろ?」

 

 そして自虐的にまでなり、追い詰められた彼。

 ではあったが……。

 

 

 

 マリアはジンに真剣な様子で、そして優しく言った。

 

「そんな事、全然ないわ。

 アニメでも辛いものは辛いし、悲しいのは、悲しいから」

 

「えっ?」

 

 意外な彼女の反応に、ジンは驚いた。

 今までその事を、何度も話したことがある。しかし、話しても理解されず、笑われもされたりと、どれも辛い経験だった。

 

 

 だが……。マリアはそんな自分の思いを、理解してくれた。

 それがジンには驚きであり、救いだった。

 

「ジンはきっと、優しい人。

 私……ますます貴方の事、気に入ったわ」

 

「俺が、優しい人、だなんて」

 

「もちろん、そうよ! 

 ……だけど、今日はそろそろ、帰らなきゃ。ちょっと用事があってね、時間がないから」

 

 と、マリアはそう言うと、席を立って先に出ていこうとする。

 しかしその前に。

 

「ねぇジン、また会っても、いいかな。

 辛い気持ちは分かるけど、ジンには少しでもガンダムを、好きになってもらいたいから。

 それにジンのことも、好きになったからね!」

 

 彼女はそう言うと、魅力的な眩しい笑顔を、なげかけた。

 ジンの答え。それはもちろん――

 

「ああ! 俺でよければ、よろこんで」

 

 

 これがマリアと、ジン。二人の絆の始まりだった。

 

 



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マリアの提案(Side ジン)

 ――――

 

「それから、だよな。俺とマリアの仲が、深まっていったのはさ」

その時の話を振り返りながら、やや恥ずかしそうにしながらも、ジンは話す。

 

「初めて出会ったのがあの時で、それからは時間を見つけて、何度も会ったりしたわね。

毎回お兄ちゃんに気付かれないようにしながら、大変だったんだから」

 

苦笑いしながらマリンは、そんなことを話す。

しかし同時に、こんな事も。

 

「けど、それからのジンとの思い出は、楽しくて面白かったわ。

Gガンダムだとか∀ガンダムみたいな、比較的悲惨じゃない作品を薦めたり、後は不幸なキャラの救済ルートのある、二次創作を探したりとかね。

ジンにガンダムが少しでも好きになってもらえるように、頑張ったな」

 

「マリアにオススメされた、ステラとシンとのハッピーエンドもの二次創作、あれは今でも忘れられないぜ。

戦争が終わって、普通の暮らしに慣れないステラに、手取り足取り教えながらイチャイチャするシン……。少しは、原作の悲劇と言うか、トラウマが和らいだよ。

もちろん原作とは違うかもしれないが、やはり救いのある二次創作も、またいいさ。これもマリアの、おかげだな。」

 

「どういたしまして、と言うべきかしら」

 

「おかげさまで。俺もいくらかは、ガンダムが好きにはなったさ。

そしてGBNも始めて、そこでもマリアと一緒に過ごしたりと、な。

現実でも、ゲームでも、マリアとの時間はとても楽しくて、大切なものなんだぜ」

 

今の二人の関係があるのは、まさにそうした積み重ねが、あったからだ。

あのフウタとミユ程の長い付き合いではないにしろ、その絆は引けをとらないはずだ。

 

「だからこそ、俺はフウタとともにマリアと、お兄さんであるハクノに、勝たないとな」

 

ジンの語りには、まさにその本気さが感じられた。

 

「ふふ! 期待しているわよ。きっと、ジンもフウタくんも、成長しているはずだから!」

 

信頼しているマリアに、彼は頷く。

 

「もちろんさ! あれからまた練習して、腕だって上がったんだぜ。

約束の大会ではきっと勝つさ」

 

「ふむふむ……へぇ、なるほど……」

 

するとマリアは、何やら含みのあるような表情を、ジンへと向ける。

 

「ん? どうしたんだ、マリア?」

 

気になったジンは彼女に聞く。

すると……。

 

「いえ、ね。実は丁度……また、どれくらい成長したのか、試してみたいの!」

 

 

 

――――

 

「……で。いきなりいなくなったと思ったら、今度はいきなりこんな所に呼び出して。

せっかく休みを満喫してたってのにさ」

 

さっきまでミユとイチャイチャしていたフウタ。

 ではあったのだが、いきなりジンによって外に呼び出され、少し不機嫌そうな様子だ。

 横に並んで、町のとある場所へと向かう二人。

 ちなみにミユは今、もう少し服を選びたいと言うことらしい。二人とは、後で追いつくとのことだ。 

 

「悪い悪い。けどさ、今回はようやく成長した実力を、実戦で活かせるチャンスなんだぜ」

 

「とは言っても、今回はゆっくりするって話だろ? 困るな。僕の断りなしにそんなの引き受けるなんてさ」

 

「そう言うなよ。まぁ俺だって、マリアと出会えて浮かれてたのはあるけどさ、少しくらいいいじゃないか。

 イチャつくのはその後ってことで、な?」

 

 ジンはなだめるも、やはりフウタは不満そうだ

 

「うー! でもマリアさんが、まさか来ていたなんてさ。

 ってことは、彼女と待ち合わせでもしたってわけ」

 

 これに頷く、ジン。

 

「その通りだぜ。……ちょうど、この道の先の広場で、待っているはずなんだ」

 

 

 

 二人の向かった道の先には、先ほどジンとマリアが一緒にいた、町の広場であった。

 しかし……。

 

「おかしいな。マリアとはさっきまで、ここにいたんだけどな」

 

 ここで彼女と待ち合わせをしていた、ジン。

 彼は周囲を見渡して辺りをうかがうも、探しているマリアの姿は、どこにもない。

 

「マリアさん、いないね。

 姿が見えないようだと、どっか少し、外しているんじゃない?」

 

 一方でフウタは、どこか気楽な、そんな様子。

 

「まぁいないならいないで、仕方ない。

 戻って来るまでの間、僕たちも適当に待っておくとしようか」

 

 

 

 

「たしかに。……どうせそう、遅くはならないしな」

 

 マリアが戻ってくるまで、ここで時間をつぶす……

 その考えにはジンも賛成だ。

 

「うん。そうしようか」

 ……でも、ちょっと腹が減ったな。――すみません!」

 

 するとフウタは、近くの目に入ったクレープ屋の屋台へと向かう。

 

「へい、らっしゃい!」

 

「……どうも」

 

 屋台の店員は、眼鏡をかけた黒い短髪の穏やかそうな青年。そして横には、紫のパーカーを被った、無口なおかっぱ頭の少女が、クレープを口に立っていた。

 青年はスーツ姿の上からエプロンを下げ、屋台の番をしている姿は、少しだけ不釣り合いにも、フウタは見えた。

 

 

 彼のそんな考えに気づいたのか、青年は照れ笑いをして、こう答えた。

 

「いやはや、実はここの店員が、用事があると言うことで席を外してさ。

 俺は偶然ここを通りかかったときに、少しの間店番を任されたんだ。……半分無理やりに、な」

 

「あはは……それは、災難だね」

 

「しかし一度頼まれたからには。きっちり仕事はしないといけないからな。

 そこはケジメ、ってやつさ」

 

「……私は、手伝ったらクレープをくれるって、言ったから。

 ようするに……ギブアンドテイク……はむはむ」

 

 一応少女も、店番のつもりらしい。

 しかし、全然やる気を感じず、呑気と言うか、マイペースなそんな感じだ。

 相変わらず横でクレープを食べてばかりの彼女に、青年は苦笑いだ。

 

「あはは……彼女のことは、まぁ気にしないでほしい。

 そんな事より、さぁ遠慮なく、何か頼むといい」

 

 そんな店番の青年に、フウタは少しメニューを眺めてから、注文した。

 

「なら、バナナクレープをお願い! ……ジンも同じのでいいよね?」

 

 これにジンは頷く。

 

「俺はそれで、大丈夫さ」

 

「決まりだね。じゃあバナナクレープを二つ、注文するよ」

 

 注文に青年は、了解する。

 

「オーケー! なら少しだけ、待っていてくれよ」

 

 彼はそう言うと早速、クレープ作りにとりかかった。

 

 

 

 ――――

 

 それから間もなくして。

 

「はいよ。これでいいかい?」

 

 出来上がったバナナクレープを、青年から受け取るフウタ。

 

「ありがとう! とても甘くて、美味しそうだ!」

 

 ホイップクリームとバナナの、見た目だけでも甘そうな、そんなクレープだ。 

 

「はい、ジンにも、ね」

 

 フウタはジンにも、クレープを一つ手渡した。

 

「ありがとう、フウタ」

 

 

 

 二人は広場のベンチに腰掛け、クレープを口にする。

 思っていたとおり、甘くて美味しいクレープ、二人はその味を満喫した。

 

「ごちそうさま……と。

 美味しかったのは、良かったさ。でも……」

 

 ジンはふうと息をついて、改めて周囲を見る。

 

「でも、マリアはやはり来てないな」

 

「たしかに、これはちょっと。遅いかも」

 

 フウタもこれには、遅いと感じた。

 

「もしかして、マリアはもう……」

 

 さすがに不安すら感じはじめた、その時……。

 

 

 

「ごめんごめん! 遅れちゃったわ!

 一回野暮用でログアウトしていてね、またログインしたりで時間がかかっちゃったの」

 

 遠くから二人のもとへと、駆け足でやって来る、マリア。

 

「……! やって来たか、マリア!」

 

「マリアさん、久しぶりです。それに……」

 

 やって来たマリアの傍には、後で追いつくと話していた、ミユの姿もあった。

 

「思っていたより、買い物で遅れちゃった。それでこっちに来る途中、マリアさんと出会って、こうして一緒について来たんだ!」

 

「ふふふっ、途中でミユちゃんにも出会ってね。ガールズトークにも花を咲かせてたのよ?」

 

 マリアは横のミユに肩を並べ、にこっと笑いかける。

 

「……さてと、ジンも、フウタくんも来てくれたのね。

 それじゃ、本題に入りましょうか」

 

 

 

 

「僕は一方的に、ジンに連れて来られたわけだけど、マリアさんは僕たちに何をさせたい訳?」

 

 実は細かい話は、まだ聞いてはいないフウタ。

 彼はそれについてマリアに尋ねる。

 

「それはね、フウタくん。二人がどれほど実力をつけたか、見てみたくてね。

 要するに、今からちょっと、ガンプラバトルをしてもらいたいってわけ!」

 

 マリアの提案、それにジンは反応する。

 

「実力を知りたいとは言っていたから、こんな事だとは、思っていたとも。だけど……」

 

「ガンプラバトル、と言うことは、マリアさんが僕たちと戦ってくれるわけかな?」

 

 

 

 二人の最終目標は、マリアとその兄、ハクノと戦って勝つことだ。

 マリア一人だけでも、かなりの強敵だ。今彼女と戦えば、経験値としては大きいだろう。

 ……だが。

 

「残念だけど、今回戦うのは私じゃないわ」

 

 思いもよらない、マリアの言葉。これには二人も驚く。

 

「えっ、俺はてっきり……」

 

「じゃあ一体、誰と戦うと言うのさ?」

 

 そんな反応に。マリアは少し可笑しそうに、答えた。

 

「ふふふ……。実は私の知り合いが、二人に興味を持ったみたいでね。

 あなたたちには――――その彼に戦ってもらうわ」 

 

 

 

 すると、ある方向から別の声が、割って入る。

 

「成程な。君たちが、例のアマチュア君か」

 

「……ふーん……よろしく」

 

 その方向を見ると、そこには。

 

「――! あなた達は、クレープ屋の!」

 

 フウタとジンの前にいたのは、さっきクレープ屋台で店番をしていた、メガネの青年と、パーカー少女の姿があった。

 

 

「君たちの話、マリアから聞いているぜ。

 ……さて、どれほどの腕か、楽しみだ」



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[コラボ回]プロとアマチュアと(Side ジン)

 ――――

 

 バトルの舞台となるのは、廃墟となった市街地のエリアだ。

 フウタとジンは、クレープ屋で手伝っていた青年と少女の二人組と、向かい合う。

 

「たしかフウタと……ジン、だったか。アマチュアの割には頑張ってい、いるんだろう?」

 

 青年の問に、ジンは頷く。

 

「ああ。本当にマリアから、色々聞いているみたいだな。

 けど、そっちばっかり知っているんじゃ、不公平じゃないのか。 

 二人は一体、誰なのさ」

 

「確かに僕たちは、全然知らないまま、こうなったしね。

 ……マリアさんの、知り合いだとは思うけど」

 

 

 ちなみにマリアと、それにミユは四人よりも少し離れた場所にいた。

 

「まぁ、そんな所ね、フウタくん。それに紹介もまだだったから、今やっておこうかな。

 ――まずは、あっちの大人しい女の子は私のフレンド、レーミ。

 彼女とはよくGBNで付き合いがあってね、ガンプラバトルの才能も、なかなかのものよ!」

 

 するとレーミと呼ばれたおかっぱのパーカー少女は

、小さく微笑んだ。

 

「紹介の通り。私は……レーミ。マリアさんの、一番弟子……です」

  

 見た感じ、無口で内気そうで、表情も豊かではなさそうではあるが、普通に良い子のように、見えた。

 

「よろしく、レーミさん。こうしてガンプラバトルが出来て、光栄だよ」

 

 フウタは彼女にそう、挨拶をかえす。

 ……しかし。

 

「でも……少し、不満……」

 

「え?」

 

「二対二じゃなくて、私一人でも……良かったのに。だって……あまり強そうじゃ……ないもん。私だけで余裕なのに……」

 

 ふてくされた感じで、そう言うレーミ。

 

 ――この女の子、可愛いけど少し、生意気な感じだな。まぁ俺たちは、まだアマチュアだとは思うけど、さ――

 

「でも……二人の実力試しには……付き合ってあげる。

 ……だって、暇だし。心配しなくても……ちゃんと手加減はして、あげるから」

 

 

「むむむ……」

 

 それにジンも、フウタも、何とも言えない様子だ。

 

 

 

「おいおい、それは少し失礼じゃないのかな、レーミ。礼儀はしっかり、しないとな」

 

 するとレーミの横にいた青年は、彼女の肩にぽんと手を置くと、そんな事を言った。

 

「あっ、ta‐zuさん。ごめんなさい……私、変な事を言ってしまって」

 

 さっきの二人に対する小生意気な態度はどこにやら、青年に対しては礼儀正しい感じで、接していた。

 マリアのことを師匠と読んでいた所も考えると、強い相手など尊敬する相手に対しては、敬意を見せる子なのだろう。

 

 

 

 そして、青年だ。

 短髪で眼鏡の、好青年そうな彼。

 レーミからta‐zuと呼ばれた青年は、二人に挨拶をする。

 

「では俺の番、か。俺のダイバー名はta‐zu

と言う。『GUNSTARDOM』というフォースに所属しているんだが、まぁ気楽によろしくな」

 

 こちらは印象通り、良い人のようだ。

 

「ああ、もちろん。御手柔らかにな」

 

「さっきもはなしていたと思うが、俺も、レーミもマリアから二人の話を聞いて、興味を持って、な。

 彼女とも一緒なのはたまたまだが、まぁ、タッグバトルだから丁度いいよな。前みたいに、俺が自分のガンプラを二機操縦してって言うんじゃ、面白みも少ないだろうしさ」

 

 なるほど、二人そろったのは、たまたまらしい。

 そしてジンは、ある事も一つ気になっていた。それは……。 

 

「ところでta‐zuさん、だったか。あなたももしかしてガンプラバトル、強いのかい?」

 

 ジンの質問に答えたのは、マリアであった。

 

「もちろんよ。彼の実力は、折り紙つき。

 ……だって、あの人は私とお兄ちゃん、二人で相手にしても勝てないくらい、強いのだから」

 

「なっ!」

 

 ギョッとするフウタ。

 

「じゃあ……っ、この二人を相手にするって言っても、勝ち目ないじゃあないかっ!」

 

 このリアクションにta‐zuはつい笑ってしまう。

 

「ははは! 大丈夫さ。ガンプラバトルの方法はちゃんと……考えてあるからさ」

 

 

 

 ――――

 

 

 ジンとフウタのガンプラ、ガンダムF91とレギンレイズ。

 そして対するは……

 

〈さて、ルールはさっき伝えた通り、俺とレーミのガンプラのどちらかに、一つでも傷を付けられたら君たちの勝ちって事だ。

 どうか、頑張ってくれたまえよ〉

 

 ta‐zuの愛機である、重武装を施した濃緑のトゲトゲしいガンプラ、ターミナス・ハーキュリー。

 

〈……まぁ本気を出せば、あっという間だから……手加減はするよ。

 そこはちゃんと……手心を加えてあげないと、ね〉

 

 そしてレーミの機体は、機動戦士ガンダムSEEDの主役機である、エールストライクガンダムだ。

 ただカラーリングは、銀と黒と濃紺色、そして頭部はジム系統に近いものにしているなど、オリジナルな部分も見られるガンプラだ。

 

〈むうー! 好き勝手言っちゃってさ、なぁジン?〉

 

 通信では膨れ面のフウタがそう言う、対してジンは。

 

「仕方ないさ、そこは。……ただ、こうして情けをかけられているっていうのは、少し惨めな感じは、しないでもないけどさ」

 

 その言葉に、ta‐zuは返答する。

 

「ハンデ、と言ってほしいな。たしかに俺たちは手心はある程度加えるが、だからといって簡単に勝たせるつもりはない。

 ……手心を加えるかわりに、バトルの制限時間は、十分間にしてある。それまでに勝利条件を満たさなければ、君たちの負け、と。

 どうだ? なるべくフェアにしようと、しているんだぜ?」

 

 たしかに、実力にかなりの差がある分、それをバトル条件により補っている部分は、ちゃんとある。

 どのみちまともに戦って、敵う相手ではない。

 ――なら。

 

「もちろん、分かっているさ。

 じゃあ……そろそろ始めようか!」

 

 プロとアマチュアの、両極端なバトル。

 果たして、ジン達はどこまで、太刀打ちが出来るのか。




今回も、ta‐zuさんとその機体の活躍回です。
もちろん、ちゃんと本人にも許可をとっていますよ!


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[コラボ回]猛攻(Side ジン&フウタ)★

 ――――

 

「くっ!」

 

 上空に見える。レーミのエールストライクガンダム。

 機体はその手に持つビームライフルを構え、下にいるガンダムF91を狙い、ビームを放つ。

 

 ――何だよ、逃げるだけで一杯一杯じゃないかよ――

 

 廃墟の中を低空飛行でかいくぐり、ジンの乗るガンダムF91は、上空からのビーム射撃を回避する。

 

 ――やっぱりガンプラバトルが上手いと、こうも違うのかよ。そりゃ、彼女の態度も当然か――

 

〈くすくす……ジンさんの相手は、私がしてあげます〉

 

 通信では余裕一杯の様子の、レーミ。

 ジンには反撃する暇も与えず、これはまるで、一方的な攻勢だ。

 

 

 廃墟の瓦礫まで崩れ落ち、それに激突したショックを受ける、F91。

 

 ―ーうわっ……と!――

 

 途端に態勢が崩れ、F91」はぐらついたかと思うと、そのまま地上に不時着する。

 

 

 

 先程よりも強い衝撃が、コックピットを襲う。

 

 ――いてて、こうも簡単に、とは――

 

 内心自分に苛立ちながらも、ジンは機体を起き上がらせて、改めて状況確認を行う。

 ……今いる場所は、スタジアムの中だった。

 廃墟の中でも、広いスペースが確保された、この場所。

 すると、そこに。

 

 

 

〈……ふふふ〉

 

 F91の前方に、空中から綺麗に着地を決める、レーミのエールストライクガンダム。

 

〈私……これでも実力の半分くらいしか、出してないのに。

 それに、マリアさんは私よりも……強いんだから〉

 

「たしかに、それは――」

 

 話では、彼女はあのマリアの一番弟子だ。

 つまり、今ここで苦戦しているようでは、まだまだ先は遠い、と言うことだろう。

 

「けど! やってみなくちゃ分からないだろ!」 

〈威勢だけは、いいのね。なら……〉

 

 するとストライクガンダムは、ライフルを後ろに直し、代わりにバックパックからビームサーベルを引き抜く。

 赤いビームの刃先が、淡く輝く。

 

 

 そしてその刃先をF91に向ける。

 

〈今度は近接戦なんて……どうかな?〉

 

 明らかに挑発的なレーミに、ジンは応えた。

 

「いいとも。その勝負、受けてやるとも」

 

 彼のガンダムF91もまた、ビームサーベルを抜き、構える。

 

 

〈私を……ガッカリ、させないでよね!〉

 

「俺だって、少しは強くなったんだ!」

 

 両者はともに武器を構え――互いに向かって行く!

 

 

 

 ――――

 

 一方、フウタの方も。

 

 ――うげっ! こんなのって、ないじゃないかよ!――

 

 比較的頑丈なビルの廃墟に隠れ、一歩も動けないフウタのレギンレイズ。

 と、言うのも……。

 

 ――今なら、大丈夫かな。攻撃も止んでいるし――

 

 そう考え、フウタはそおっと、ガンプラを廃墟の物陰から出してみた。

 ……が。

 

 ズガガガガッ!!

 

 凄まじい銃弾の嵐が、途端に襲いかかる!

 

「ひいいっ!」

 

 途端にすぐまた、廃墟の陰に引っ込んだフウタ。

 引っ込むと同時に、銃弾は止むが……。

 

 ――やっぱりこれじゃ、ここから動けやしないよ。どうすれば――

 

 

〈おいおい、これじゃ全然、勝負にならないじゃないか?〉

 

 通信では軽く砕けた口調で、ta‐zuが話しかける。

 

「うっ、放っといてくれよ。だいたいその武器、反則じゃあないか」

 

 ta‐zuのガンプラ、ターミナス・ハーキュリー。

 その手に持っているのは、ロングライフルに大型のマシンガンなどが装着された、複合ライフルだ。

 

〈くくく、俺のこのライフル――『ケルベロス』と名付けているのだがな、気に入っていただけたようで光栄だ〉

 

「武器まで改造しているのかよ! 本当に、よくやるよね」

 

〈上位に行くダイバーなら、それくらいは普通なんだぜ?

 それに、自分の作ったガンプラに、同じく自作の武器を携えてバトルするのも、楽しいじゃないか!〉

 

 

 通信越しの彼の表情、それは言葉通りに、楽しそうなものだった。

 

〈しかしまぁ……制限時間までここに釘付けにしているのもいいが、それじゃあ面白くない。

 ちょっくら、試してみるとするか〉

 

 と、ターミナス・ハーキュリーは武器を持ち替え、特大のバズーカを代わりに構える。

 

〈今オレのターミナスが構えているのは、特大のロングレンジバズーカ『ネメアレオス』だ。

 遠距離射撃のための兵装だが……破壊力は折り紙付きだ。それこそ、廃墟に隠れているフウタのガンプラを、その廃墟こと吹き飛ばせるくらいにな!〉

 

「……!」

 

 フウタは思わず、ギョッとする。

 

〈さぁ、上手く避けてくれよ!〉

 

 ネメアレオスを構え、その銃口から大型の砲弾を、撃ち放った!

 その砲弾は廃墟に迫りそして、大爆発とともに一気に――粉砕した。

 

 

 

 ――――

 

 ――ふっ、少しやりすぎたか――

 

 さっきまで廃墟のあった場所は、土煙とともに瓦礫の山と化し、跡形もなくなった。

 

 ――もしかして、あのままやられてしまったか? うーん、どうしたものか?――

 

 やりすぎた事を少し反省していた、ta‐zu。

 だったが……。

 

 

 

 ――ん?――

 

 途端、何かに気づいた様子の彼。

 そして反射的に機体を、横に飛び退かせた。

 

 ダン! ダン! ダン!

 

 と、同時に、さっきまでターミナス・ハーキュリーがいた場所に、何発もの銃弾が飛来する!

 

 

 ――――

 

 ――やっぱ、不意打ちはきかないか――

 

 土煙に紛れ攻撃を仕掛けたのは、フウタのレギンレイズだ。

 あのバズーカ攻撃をどうにか別の廃墟に飛び退いてしのぎ、その後爆発で発生した土煙に隠れての奇襲。ではあったが、失敗したようだ。

 やはり相手はプロ、小手先の奇襲などすぐに分かる。

 

〈ほうほう! よくやるではないか。褒めてやろう!〉

 

 土煙が晴れ、ターミナス・ハーキュリーとレギンレイズは正面に向き合う。

 

「一発でも当たればと思ったけど、残念だったな」

 

〈悪いがそう簡単には、いかないさ。

 さて、じゃあ今度はこの、『ヘイルストーム』の威力でも味わうか?〉

 

 ……すると、ターミナスの左右には二本の大筒、大口径の榴弾砲が、いつの間に設置されていた。

 

〈ネメアレオスは凌いだようだが、ヘイルストームの榴弾の雨……今度も、せいぜい頑張って足掻くことだ!〉

 

 途端に今度は、榴弾砲から上空に砲弾が打ち上げられ、上空で爆発する。

 そしてその爆発から、無数の弾に分裂し、さながら火の雨のように降り注ぐ。 

 

「はぁ……次から、次へと」

 

 次々と繰り出される、様々な武器による攻撃。

 フウタはまだまだ、苦戦しそうだ。

 

 




今回の登場機体は
 ta‐zuさんのターミナス・ハーキュリー
 
【挿絵表示】


 そしてレーミのエールストライクガンダム
 
【挿絵表示】


 ……ta‐zuさんとターミナス・ハーキュリーはせっかくのゲストさんと言うことで、もっと活躍させたかった感じかな


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ナマイキ少女(Side ジン)

 

 ――――

 

 廃墟のフィールドに、爆発と破壊が巻き起こる。

 それはターミナス・ハーキュリーの圧倒的火力によるものだ。

 様々な火気による攻撃、そしてそれから防戦どころか、ただただ必死に逃げ回る、フウタのレギンレイズ。

 ……最も、向こうはアマチュアの彼に対し、いくらか手加減をしていた。

 だからあえてどうにか避けられるよう、命中精度を加減して攻撃していたのだが、その分無駄に攻撃量が激しかった。

 

 

 

「あはは……派手にやってくれちゃって、もう」

 

 遠く上空を飛行しているのは、マリアのガンプラ。ガンダムバエル・クリムゾンだった。

 そのコックピットで、マリアは半分呆れながら、その惨状を眺めていた。

 

「すごいです、ね。これがプロの、戦いかな」

 

 ちなみにコックピットにはミユも一緒に、乗っていた。

 何しろ戦いもここまで激しくなった。とてもでないが、こちらが巻き込まれそうで、近づくことは出来ない。

 

 

 だからこうして、距離を離している、わけなのだが。

 

「でも……どんな感じ、なのかな? 爆発や炎が強くて、よく見えないよ」

 

 遠く離れたせいで、ミユにはよく、状況が分からなかった。

 しかし、マリアはと言うと……

 

「よく見れば、少し動いているのが分かるわよ。

 ……ほら、そこで色々ぶっ放して見えるのが、ta‐zuさんのターミナス・ハーキュリー。そして少し離れているところで、爆発から必死に逃げているのが、ミユちゃんの彼氏ね」

 

 彼女の言葉に、ミユはもう一度、よく見る。

 

「あっ、フウタのレギンレイズ! あんなに逃げているなんて……見ていて、可愛そうだな」

 

 これには思わず、同情してしまうミユ。

 

「ま、あれくらいやらないと、二人を呼んだ甲斐ないものね! ちなみにあれでも、ずいぶん手加減しているのよ?

 ちなみに……」

 

 今度は、別の場所にあるスタジアムを、マリアは指差す。

 激しい炎のせいで目立たないが、そこでは二機のガンプラが、ビームサーベルで戦っていた。

 

「あっちがレーミちゃんのストライクと、ジンのF91よ。

 あっちはビームサーベルでの、近接戦ね。ふむふむ……ジンは意外と、健闘しているのかしらね いや、遊ばれている、かもだわ」

 

 マリアは何やら、苦笑いをしている感じだ。

 

「あの子、若干性格が悪いところもあるから。どっちかって言うと、ジンの方が心配かも

 はぁ……一見大人しい子だけど、口を開けば、ね」

 

 しかし、それでもフウタとジンは、二人なりに努力していた。

 マリアにも、もちろん分かっていた。

 

「…二人とも、頑張っているんだね」

 

「そゆこと! ミユちゃん! 

 四人の戦いは、もうしばらくここで見ましょうね。

 ……あっ! そうそう!」

 

 

 するとマリアは何やら調子が変わったような、感じを見せる。

 

「うん?」

 

「実はミユちゃんに、前から聞きたいことが、あったんだよね? 今いいかしら?」

 

 この問にミユは戸惑うも、せっかくの頼みだ。

 

「私に……答えられることなら」

 

 ドキドキするミユと、この答えにぱあっと顔を輝かせる、マリア。

 

「そう来なくっちゃ。なら聞いちゃうわね。

 ……ねぇ、フウタくんとは、どんな風に恋人になったの?」

 

「……ふぇっ!」

 

 これには変な声を出して、顔を赤くするミユ。

 

「あははっ! 女の子どうしじゃない? 恥ずかしがること、ないわよ。

 ねぇねぇ! 私どうしても、気になるの!」

 

「ううっ……そこまで言うなら、すこしだけ」

 

 フウタとジンが戦う一方、こっちはこっちで、ガールズトークに華を咲かす、マリアとミユであった。

 

 

 

 ――――

 

 激しい炎と煙に、包まれる廃墟の町並み。

 現在進行系で今なお破壊が続くのをよそに、その一角のスタジアムでは。

 

〈……ふふふ〉

 

「くっ、このっ!」

 

 レーミのエールストライクガンダムと、そしてジンのガンダムF91は、互いにビームサーベルで近接戦を繰り広げていた。

 

 

 一見した所では、攻勢に出ているのはジン。レーミはただ防戦一方、に、見えるが。

 

 ――全然、攻撃が当たらないなんて。いや、それどころか――

 

 F91はビームサーベルを振るい、攻撃を繰り出す。

 が、それは全然本体に当たらない。

 しかも向こうは、ビームサーベルやシールドで防ぐこともなく、ただ機体のステップと動きだけで、上手く避けていた。

 もちろん、全然余裕な動きで。

 

〈やっぱり、大したこと……ないね。……目をつぶってたって、避けられるよ〉

 

「こなくそっ! このこのこの!」

 

 必死になるジン。であったが、尚更それは一撃一撃の精度を下げることになった。

 

〈……駄目、駄目ね。こんな無茶苦茶やったって〉

 

「ちっ!」

 

 と、今度はF91頭部のバルカンで、攻撃を仕掛ける。

 

 ――かすり傷でも本体につければ、こっちの勝ちだ、なら!――

 

 たしかにバルカンなら攻撃速度も、とっさの攻撃にも有効だ。

 近接戦で向こうは多分、集中しているはず、だったら――。そう考えていたが。

 

〈甘いわ〉

 

 バルカンが火を噴こうとした瞬間、ストライクガンダムは急にビームサーベルを頭めがけて振るった!

 サーベルの刃先はセンサーの真上の、バルカンの発射孔を一閃し、潰した。

 

〈私が……考えていないと、思った? でもこれくらいは、頭は回るのですね〉

 

「これも、駄目かよ」

 

〈でもまたされると……厄介。だから、潰させてもらったわ。これでバルカンは、もう撃てない。

 そして――〉

 

 

 

 突然、レーミのストライクが、再度斬りかかった。

 

「うわっ!」

 

 今度は胴体という急所を狙った攻撃、とっさにF91を飛び退かせて、これを避けた。

 

〈……何とか避けられはしたのね。当たってたら、上半身と下半身は……別れていたのに〉

 

 レーミは残念そうに、呟いた。

 でも同時に、少しだけ喜んでいたようだった。

 

〈でも……まぁ、筋としては悪くないよ。……褒めてあげる〉

 

「本当に、生意気な……女の子だ」

 

 しかし、レーミにはそれが許されるだけの、実力があった。

 悔しいが、それは本当だ。

 

〈褒め言葉と……受け取る。

 ――さて、と、ここからは私の番。もっと、もっと、頑張ってね〉

 

 

 

 今度はレーミが、攻撃を繰り出す。

 ビームサーベルによる、鋭い斬撃の数々。

 それはさっきの、ジンよりもずっと、精度の高い攻撃だ。

 

「なっ! ……ひいっ、はぁ。…………って、うわっぁぁ! ぶっ!」

 

 それを必死に避けるばかりの、ジン。

 悲鳴と奇声と、息が上がりながら必死で、ガンプラを操縦する。

 これにはレーミも、クスクスと可笑しそうだ。

 

〈ほらほら……必死になっちゃって!〉

 

 彼女のストライクガンダムは、確実にジンのF91を追い詰める。

 優れた剣捌きで、ガンダムF91の角や肩、の先を切断し、装甲にもいくつも切り傷をつけて行く。

 

 ――この、なめやがって!――

 

〈私が本気なら、これで十三回……ジンさんは倒されているの。

 ふふ……これでマリアさんに勝とうだなんて、百億年早い、です〉

 

 

 

 そしてついに、スタジアム端に追い詰められた、ジン。

 

 ――しまった。これじゃもう――

 

 まさに、絶対絶命と、言うべきか。

 

「あーあ、これで、終わりだね」

 

 ビームサーベルの切っ先を、突きつける。

 終わり……ただただ、目の前の少女に、弄ばれて――。

 

 ――このままで終わるなんて。何か方法が、あるはず――

 

 まだ手はないか、ジンが考えていると――。

 

 

 

 ――ん? そう言えば――

 

 今、改めて気づいたことがある。 

 それは……。

 

 ――俺のF91と、ストライクガンダム……。比べると、あっちの方が図体でかいな。

 いや――

 

 こっとが、小柄なのだ。

 

 ジンのガンプラである、ガンダムF91は、従来のMSよりも小型の機体だ。

 だから、他と比べるとこのように……と、言うわけだ。

 

 ――やっぱりこう見ると。本当に俺ってちっぽけな。……だけど、これを利用すれば。どの道他に手段が、思いつきやしないんだから!――

 

 

 

 ――――

 

 ジンの唯一出来る、手段。それは……。

 

「……マリアさんには悪いけど、飽きちゃった。……じゃあね」

 

 レーミのガンプラは、止めを刺そうと、ビームサーベルを振りかぶる。

 その時――

 

 

 F91は、一気にストライクガンダムの懐へと距離を詰める。

 

〈……くっ〉

 

 いきなりのことで、レーミは驚く。

 

「体格差を上手く活かせば!」

 

 隙が出来た所に、F91はビームサーベルで斬りつけようとする。

 

〈させない……っ!〉

 

 しかし、あと僅かと言うところで、レーミはギリギリで避ける。……が。

 

「何の!」

 

〈!!〉

 

 続けざまに何度も、ジンは斬撃を繰り出す。

 小柄である分、超至近距離で攻めれば、アマチュアと上級ダイバー、その有利さでいくらか穴埋めができればと、そう考えた。

 

 

 

 これにはレーミ、劣勢となり、勢いに押される。

 一撃でも当たれば、彼女の負けだ。だからこそ攻撃を受けないよう、本気で避ける。

 

〈いい加減に……してよね!〉

 

 と、レーミのストライクガンダムは、ビームサーベルで攻撃を受け止める。

 さらに――もう一本のビームサーベルを引き抜き、本気の反撃に出た。

 

「くはあっ!」

 

 回避は間に合わず、とっさに左腕のビームシールドを展開し、防ごうとするもそれさえ手遅れなほどに速く、そして鋭い一閃。。

 ストライクガンダムのビームサーベルは、シールドを展開しきれなかった左腕を直撃した。

 幸いその左腕が盾代わりとなり致命的なダメージは防げたものの、左腕は無残に大破し、使い物にならなくなってしまう。

 

〈うう……手加減だけで済ますつもりだったのに、本気を出させるなんて。

 ……思ったより、やるね。このままじゃ、まずいかも〉

 

 レーミは、そう呟く。と、同時に、彼女のストライクガンダムは上空に飛び立ち、F91に背を向ける。

 

 

「まてっ! 逃げるのか!?」

 

 まさかの行動に、ジンは言った。

 

〈このままチャンバラを続けるのも……退屈だもん。

 仕切り直し、だよ〉

 

「そんな勝手な!」

 

〈悪いけど……ジンさんには選択肢はない、です。

 残り時間は、あと少し。早くしないと……ですよ〉

 

 彼女はそう言い残し、ジンを置いてその場から、戦線離脱する。

 

 

 

 このバトルは、制限時間つきだ。

 時間内までにレーミ、もしくはta‐zuのガンプラにダメージを与えなければ……。

 

 ――結局、やるしかないってことか――

 

 レーミの言う通り、時間は残り少ない。

 それまでに、決着を。ジンは急いで、彼女を追跡する。

 



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[コラボ回]タッグバトルの真髄(Side フウタ&ジン)

 ――――

 

 辺りに爆発と銃弾が飛び交う中、フウタのレギンレイズは遮蔽物に身を隠しながら、ライフルで応戦する。

 

〈ほう? それなりには、出来るようになったじゃないか?〉

 

 ta‐zuは通信で、フウタにそう言った。

 

「どうにじゃ慣れて来たって言うか……いや、それでも、まだまだだけどね」

 

 何とか反撃が出来る余裕も生まれたものの相変わらず攻撃は当たらない。

 

〈それはよかった。なら――あともう少し、本気を出すとしようか〉

 

 途端、ターミナス・ハーキュリーの攻撃は一層

苛烈さを増す。

 

 ――くうっ! これ以上はさすがに持たないな。早く決めないと!――

 

 そう考えたフウタは、一気に勝負に出た。

 

 

 ライフルによる攻撃のさ中、銃弾のリロードで一瞬、攻撃に空白が生じるのを見た。

 瞬間、フウタのレギンレイズはバーニアの出力全開にして、ターミナス・ハーキュリーに肉薄する。

 

 ――攻撃が激しくて近づけなかったけど、近接戦ならきっと――

 

 自身の近接装備であるパイルを抜き、打ちかかろうとする。

 ターミナス・ハーキュリーに迫る、レギンレイズ。それに対し。

 

〈そう来たか。なら!〉

 

 途端、ターミナスは巨大な大斧を、ぬっと取り出して、そして――。

 

 キイン!

 

「くうっ!」

 

 レギンレイズの攻撃は、その大斧で軽々と防がれた。

 

〈近接戦を仕掛けるとは、驚いた。だがまだまだ……〉

 

 ターミナス・ハーキュリーは、ぐっと力を、斧に込める。

 

「――うわっ!」

 

 強大な力で、フウタのレギンレイズは後方に、吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされ、そのまま地面にぶつかり、倒れる。

 ……だが、どうにか起き上がろうと。

 

〈ふふふ……割かし根性は、あるんだな。残り時間ももう少ない、それまで――〉

 

 

 

 

 すると、その途中でta‐zuは、あることに気づく。

 

〈ん?〉

 

 こちらに迫る、一機のガンプラ、それは。

 

〈……ごめんなさい、少し、苦戦しちゃって〉

 

 レーミのガンプラ、エールストライクガンダム。それが今、こっちに向かって来ていた。

 

 ――うげっ! 冗談だろ!――

 

 まさかの援軍。これにはフウタも、困惑する。

 

 ――ジンは一体、何をしているんだよ、これじゃ――

 

〈悪い! ……まさか、合流するだなんて思わなかった!〉

 

 続けてジンも、こちらへとやってき来た。

 

 

 

 これで――ちょうど、二対二に。

 

「でも、こっちはアマチュアだぜ。いくら何でも、これは……」

 

 フウタは弱音を吐いたが、対してta‐zuは。

 

〈何を言うか。タッグバトルでそれぞれ一対一だなんて、都合の良いことなんてあるわけがない。

 ここからは俺とレーミ、二人を同時に相手して貰おうか!〉

 

 

 

〈……だってさ、フウタ。まぁ、マリアとハクノの二人で戦うときだって、この状況は十分あり得る。

 逆に考えれば、その経験が積める、絶好の機会じゃないか〉

 

 だが、逆にジンは、逆に戦意満満だ。

 

〈マリアのためにも、強くならないと……。そう俺が決めているのは、知ってるだろ? フウタ?〉

 

「だけど、いくら何でも無茶な。……けど」

 

 しかし、フウタもまた、ため息を一つついたと思うと、次の瞬間には覚悟を決めた表情に変わる。

 

「こうなったら仕方ないよね。僕だって――実際、ジンと同じくらいに、強くなりたい理由があるんだからね!」

 

 フウタとジンの、それぞれのガンプラは、目の前の強大な敵を前に、今立ち向かおうとする!

 

 

 

 

 ――――

 

「行くぜ、フウタ!」

 

〈分かってるよ! 狙うなら……〉

 

 二人のターゲットは、レーミのストライクガンダム。

 彼女はta‐zuほどのダイバーではない。二人で一気に畳みかければと、そう考えた。

 上空を飛行するストライク、それに向かいビームサーベルとパイル、それぞれの近接武器を構え跳躍する。

 

 

 ――ライフルでは外す可能性が高い、なら二機で迫れば――

 

 こう考えての攻撃、だったが。

 

〈やっぱり私の方に。……甘く見て、だよね……ちょっとムカつく〉

 

 自分が下に見られて、不満そうなレーミの呟き。

 それと同時に――

 

 

 

 瞬間、同時に迫る二機の真横から、無数の銃弾が飛来する。 

 それはターミナス・ハーキュリーの、マシンガンの雨だった。

 

「くっ!」

 

 攻勢から一転、ジンのガンプラはビームシールドを展開し、攻撃を防ぐ。

 フウタもまた、レギンレイズを操作し、両腕のガントレットをクロスさせ、防御をとるも……。

 マシンガンの威力は、相当なものだ。無数の弾丸の衝撃により、二機とも吹き飛ばされる。

 

 

 そのまま廃墟に勢いよく衝突し、廃墟はがらがらと崩れ落ちた。

 二人のガンプラは瓦礫の下敷きになるも、すぐにそこから、這い上がる。

 

〈……うっ、げほっ。ターミナスの攻撃、か。こっちの行動を読んでいたわけかよ〉

 

「みたい、だな。やはり一対一のようには、行かないか!」

 

 

 

〈ふふふ! たとえ一撃でも、俺たち二人を相手に、叶うかな?

 さぁそっちも、コンビで立ち向かうといい!〉

 

 ta‐zuはそう、呼びかける。

 

「分かっているさ。……なら、こっちも!」 

 

〈……どうだか。悪いけど……ここからはさらに、本気。

 どこからでも……来てみてよ〉

 

 また、レーミは相変わらずの挑発した、態度。

 それでも、ジンとフウタは、諦めない。

 

〈むっ! 相変わらず、自信満々だね。たった一度、しくじったくらいでさ〉

 

「そうだな、フウタ。一度でダメなら、二度、三度だって!」

 

〈だね! 僕たちだって、甘く見たら痛い目見るって、教えてあげないと!〉

 

 

 

 再び、レギンレイズとF91は、立ち向かって行く。

 狙うは……。

 

「また私を……狙うつもり」

 

 飛行する、レーミのストライクガンダム。

 また彼女を狙い、同時攻撃。

 

〈今度は僕一人で、近接で仕掛けるよ。援護よろしく!〉

 

「おーけー!」

 

 パイルを握り跳躍するレギンレイズ、そして、ビームライフルと両側のヴェスバーを展開し、ストライクガンダムに連射する。

 

〈やたらめったら……撃ったって〉

 

 襲い来るビームを、素早い身のこなしでかわすレーミ。

 

「やっぱ、厳しいかよ。……って!」

 

〈大サービスで、こうして来たぜ!〉

 

 するとF91の真横から、大斧を振りかぶる巨体、ターミナス・ハーキュリーが迫る。 

 とっさにジンは、それを避ける。

 

「まさか、そっちが近接で来るのかよ!」

 

〈驚いたか! これぞ、意外性だな〉

 

「全然! むしろ、大歓迎だぜ」

 

 ジンのガンダムF91もまた、ビームサーベルを構えそして、ターミナスを迎え討つ!

 

 

 

 それとほぼ同じころ。

 

 ジンの援護射撃が止んだものの、レギンレイズとストライクガンダムの距離は、ぐっと縮んでいた。

 

〈もらったよ! この一撃で!〉

 

 レギンレイズはパイルを、ストライクに振りかぶるが……。

 

〈全く……遅いよ〉

 

 レーミは余裕で、その攻撃を避けた。

 しょせんアマチュア、彼女にとっては全く問題ない。

 空振りしたレギンレイズは、ストライクガンダムの横を通り越した。

 しかし――

 

〈……えっ!〉

 

 とたんにレーミは、別方向にぐんと、機体が引っ張られれるのを感じた。

 

〈かかったね!〉

 

 その正体は、引っかけられたケーブル。

 それはレギンレイズが握る、パイルの根本に付属したものだ。

 

〈ジンのビームも、僕の近接攻撃も、囮! 狙ったのは、こうして……〉

 

 ぐっと、ケーブルを引っ張る、レギンレイズ。

 

〈そっちの動きをこれで、封じるためさ!

 こうして一撃を、加えさえすれば――!〉

 

 そう言ってフウタのガンプラは、身動きがとりにくいストライクガンダムに向け、パイルを持っていないもう片方の手で、ライフルを構えた。

 

 

 距離もほとんどない。これで、決まりだ!



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[コラボ回]着実な、成長(Side ジン)☆

 ――――

 

 レギンレイズと、ストライクガンダム。二機の距離は近く、さらにケーブルで動きも、制限してある。

 いくらアマチュアのフウタでも、この距離で何発か放てば、攻撃が当たるはずだ。

 一撃でも本体に当てさえすれば、二人の勝ちだ。

 

 

〈決めるぜ!〉

 

 

 レギンレイズはライフルの引き金を、引こうとした。

 だがその時!

 

 

〈!!〉

 

 いきなり真下から、回転してこちらに飛来する何かに、フウタは気づいた。

 それは――巨大な大斧。

 とっさにフウタは、機体を操作して斧を避ける。が、間に合わない。

 レギンレイズの左手は、握っていたライフルもろともに、バッサリと切断される。

 ついでに、ストライクガンダムの動きを封じていた、ケーブルまでも。

 

〈やった!〉

 

〈ははは、これは危なかったかな、レーミ〉

 

 斧をぶん投げたのは、下にいたターミナス・ハーキュリー。

 そのパイロットであるta‐zuは、レーミに声をかけた。

 

〈ちょっと……危なかった。ありがと〉

 

〈いいってことさ。……おっと!〉

 

 途端、今度はターミナスに、F91がビームサーベルで斬りかかって来る。

 

「はっ! いきなり斧を投げたことには驚いたが、丸腰の今なら!」

 

 ジンは威勢よく、叫んだ。

 ビームサーベルでの斬撃には、ターミナスはただ避けるばかり。

 

「ははは! 武器をなくしたのが仇になったな! 今度はそっちがピンチじゃないか」

 

 F91は連続で攻め続け、ついに相手を追い詰めた。

 

「……もらった! 今度こそ」

 

 ジンは決着をつけようとする。……しかし!

 

 

 

 

 ――!――

 

 一瞬、何か危険感じ取ったジン。

 とっさにターミナス・ハーキュリーから飛び退いた。と、同時に。

 

 

 中から、巨大な大斧が宙から落下する。それはさっきターミナスが投げたものだ。

 落ちたのは丁度、さっきまでF91がいた場所。いつの間にか誘導され、もしあのまま止めを刺そうとしたなら……。

 

 ――今頃あれで、真っ二つか。ゾッとするな――

 

〈上手く読んだな、ジン。これで、こっちが止めを刺せると、思ったんだがな。

 ……だが!〉

 

 ta‐zuの言葉が終わらない、次の瞬間、更に!

 

「ちっ!」

 

 すぐ真後ろに敵の反応。またジンは、機体を操作し今度は左に飛び退く。

 

 

 今度の攻撃は、後ろに迫っていたストライクガンダムの斬撃だった。

 ビームサーベルによる一閃。続けざまによる攻撃でも、どうにか対応出来た。

 

〈へぇ、ずいぶん……ましになったね〉

 

 レーミはそう、呟いた。

 

 

 

 彼女のストライクと、ta‐zuのハーキュリー。

 互いにビームサーベルと大斧、それぞれの近接装備を握り、横に並ぶ。

 

 

〈ごめん、ジンさん。こっちも失敗しちゃって〉

 ジンのF91の横にも、片腕を失ったフウタのガンプラが並ぶ。 

 残りの片腕にはパイルを握り、構えていた。

 

「いいさ。それより……」

 

 

 問題は、残り時間だ。

 残ったのは、もう一分もない。

 

「多分、残ったチャンスは、次で最後だ。これで決めないと」

 

 画面上のフウタは、頷く。

 

〈うん。でもどうにか、慣れて来てそれに、上達もした気がする。

 ……今度こそ〉

 

 俺は、そんなフウタの自信に応えるように、ビームサーベルを構えた。

 

「ああ! 少々危険な賭けだが、一気に決めるぜ!」

 

 ジンと、フウタ。二人は示し合わせるように頷くと、そのまま――相手に立ち向かっていく!。

 

 

〈ほう! 正面から来るとはいい度胸だ! なら俺たちもそれに答えよう!〉

 

 ta‐zuはそう言い、ターミナスの装備であるマシンガンを連射する!

 

〈その攻撃、大体なら慣れた!〉

 

 フウタのレギンレイズは、銃弾を避けながら、迫って行く。無論、完全には無理であり、あちこち破損しながらだが、それもものともしない。

 そしてジンのF91も、ビームシールドを展開して突き進む。

 

〈はぁ……横が、ガラ空き〉

 

 するとストライクガンダムが横から、ビームサーベルを振りかぶり迫る。

 

「させるかっ!」

 

 対してF91もビームサーベルで、防ぎいなした。

 自分の剣撃の勢いをそらされ、驚くレーミ。

 

〈そんな器用な真似が……出来るようになったの!? 短い間で〉

 

「そうさ! おかげさまで、な!」

 

 ジンと、そしてフウタの狙う相手、それは――

 

〈まさか俺を狙って来るとは、な。ふっ!〉

 

 狙うはta‐zuのターミナス・ハーキュリー。

 機体は迫る二機に向かい、大斧を持ち待ち構える。

 

「さぁ! ――これで勝負、つけさせてもらうぜ!」

 

〈そうさ、行かせてもらうよ!〉

 

 レギンレイズと、ガンダムF91、二機は同時にターミナスへと襲いかかる。

 

〈ta‐zuさん!〉

 

 援護しようにも、一瞬間に合わない。レーミはそう叫ぶ。

 

〈平気さ! これぐらいなぞ!〉

 

 だが彼は、動じない。

 余裕を持って待ち構え、そして……。

 

〈くはっ!〉

 

 ターミナスはまず、一瞬早く迫っていたレギンレイズの攻撃を、斧の刃先で受け止め、すぐに吹き飛ばす。

 

「フウタ! ……だが!」

 

 まだ自分がいる。ジンのガンプラはビームサーベルをターミナスへと振り下ろすも。

 

〈ふん!〉

 

 それは大斧の柄により、いとも容易く防がれた。

 

〈少しはましになったものの、やはり……まだまだか〉

 

 そして柄で弾くやいなや、斧をぶんと振り回し……F91を一閃した。

 

 

 

「――!」

 

 その強烈な一撃は、致命的だった。

 機能はダウンし、機体はそのまま膝をつき、動かなくなった。

 

〈ふっ、もはや戦えない、か〉 

 

 ta‐zuは勝ち誇ったように、そう言った。

 

〈制限時間も、もう僅かだ。結局俺の……〉

 

 ――その時。

 

 

 

〈!〉

 

 ta‐zuの乗るターミナス・ハーキュリー。その肩の一部に、あるものが掠った。

 それは、ビームの刃先を展開したままの、ビームサーベルだ。

 ビームサーベルはその肩に僅かな切り傷をつけ、地面に落下し、ビームの刃は消失した。

 

「……どうだ、さっきビームサーベルで斬りかかる前に、もう一本、上に投げておいたんだぜ。

 さっきのta‐zuの真似、とっさに真似したんだが、上手く行ったな」

 

〈……ほう〉

 

〈さすが、ジン。こんな手を用意していたなんてさ〉 

 

 ta‐zuは感心し、またフウタも驚く。

 

 

「大変な戦いだったが……これで、俺の勝ちだ。

 ほんの少しでも、傷はちゃんと、与えたんだからな!」

 

 

 

 ――――

 

「ふふふ! まさか、ジンとフウタくんが勝っちゃうなんて!」

 

 

 戦いが終わり、ジンやta‐zuたち四人のもとに、上空で観戦していたマリアとミユも降りて来ていた。

 

「……一撃でも当てれば勝ちという、ハンデをもらっての勝負だけどな」

 

「それは、相手が相手だからしょうがないわ! とにかくお疲れ様、ジン」

 

 

 

 また一方では。

 

「はー! 今回のバトル、大変だったよ。

 こうしてプロと、戦うなんてさ。……ミユには、情けない所を見せるし」

 

「ううん、そんな事ないよ。いつだってフウタは、私にとって素敵なんだから」

 

 勝ったとは言え、良いとこなしでへこむフウタと、そんな彼に優しい笑顔を投げかける、ミユ。

 

「そう……かな」

 

「もちろん! よしよし、フウタ!」

 

「……ああ! そう頭を撫でられると、ちょっと恥ずかしいよ」

 

 ミユはフウタの頭を撫で、彼は照れ恥ずかしがっていた。

 

 

 

「……さて。改めてよくやったな、ジンに、それにフウタも」

 

 今まで二人が戦っていた相手である、ta‐zuはそう言った。

 

「正直な所、アマチュアだと甘く見ていたが、思った以上の健闘ぶりだった。

 こんな戦い、俺たちも初めてだったからな。楽しませてくれて、ありがとう」

 

 これにジン、フウタも。

 

「こちらこそ。おかげでいい経験を、積ませてもらったぜ」

 

「凄いバトルだったよ。どこまで太刀打ち出来たかは自信はないけどでも、僕たちも頑張れた気がするんだ」

 

「……ふーん。ま、良かったんじゃない。アマチュアにしては、上出来」

 

 そう言う割には若干、レーミは、不機嫌そうな感じだ。

 

「へぇ、レーミちゃんがそう言うとはな」

 

「勘違い……しないでくださいよ。実際は二人とも、まだまだ。

 勝てたのはハンデをたっぷり、与えたから。これじゃ私はもちろん、マリアさんにだって全然……及ばないんだから」

 

「……うっ」

 

「レーミちゃんは手厳しいわね、あはは」

 

 

 

 するとマリアは、ジンのもとへと歩み寄る。

 

「マリア、俺は」

 

 ジンは彼女のことが、好きだった。そして彼女との仲を認めてもらい、結ばれることが彼の望み。

 だからこそ強く……それはマリンも。

 

「もちろん、分かっているわ。ジンは確実に強くなっているって、ちゃんと、私は分かるもの。

 だって、私もジンの事が……」

 

 するとマリアはジンの頬に顔を近づけると――

 

 

 

「!!」

 

 自分の頬に伝わる、柔らかい唇の感覚。

 仮想空間であろうとも、いま、マリアに何をされたのか、よく分かった。 

 

 

 彼女がジンの頬にした、キス。

 

「えっ、うそでしょジン!」

 

「キスだなんて……素敵だな」

 

「ヒュウ! やるね!」

 

「……むっ」

 

 これにはフウタ、ミユ、ta‐zuは驚き、レーミは不機嫌そうに頬を膨らませる。

 

 しかし、そんな状況は気にしない、ジンとマリア。

 

「えっと……俺に、キス?」

 

 キスが終わっても、どぎまぎしているジン。

 そしてマリアはそんな彼に、素敵な微笑みを見せる。

   

「改めて、強くなったね、ジン。私……惚れ直しちゃった」

 

「俺は……」

 

 とてもやさしい、彼女の一言。それにジンは。

 

「……みんなの、おかげさ。フウタとミユのサポートもそうだし、戦ってきた相手だった。

 ta‐zuさんとレーミとの闘いだって、良い経験にもなった、感謝だよ」

 

「それは、良かった! ふふっ、この勝負を頼んだ甲斐があったな」

 

 

 

 ――たしかに俺たちは強く、なれたのかな――

 

 それでも、着実に強くなっている、自分。

 

「ジンに、それにフウタくんも。二人ならきっと、私とお兄ちゃんにだって!

 ――だから、応援しているよ!」

 

 マリアだって、きっと期待してくれている。

 

 ――だから俺は、その思いにきちんと、応えたい――

 

 元からきちんと思ってはいた。……が、改めて、ジンはその気持ちを、固めるのであった。

 

 




 今回は本作のライバルである、マリアとハクノのイラスト。
 ちなみに二人は、リアルでも㎇Nでも、外見は同じな感じです。


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第九話 長く紡がれた、二人の絆
フウタの決心(Side フウタ)☆


「おはよう、母さん!」

 

 休日の、早めの朝。二階から元気な声で降りてくる、フウタ。

 リビングには彼の母親がいて、そんな彼に気づくと、にこやかに微笑みを返した。

 

「あら、おはようフウタ。何だかとても機嫌良さそうね」

 

「まーね! だって今日は、ミユとのデートだから!」

 

 見るとフウタはすでに着替えも済ませて、出かける準備を整えていた。

 そんな姿を見て、つい嬉しくなる、母。

 

「……フウタとミユちゃん、昔から幼馴染として仲良しですものね。お母さんも小さい頃から見て来たから、ミユちゃんがどんなに良い子か、よく分かるわよ。

 二人の関係、とてもいい感じだし、母親としても安心だわ」

 

「それって、どう言う意味だよ。

 ……とにかく、僕は行ってくるね。帰りは分からないから、鍵は持って行っておくよ」

 

 

 

 ――――

 

 

 母親に挨拶を済ませ、自宅を出たフウタはそのまま、すぐ隣のミユの暮らす家へと。

 インターホンを鳴らして、少し待つと中から聞こえる足音。そしてドアノブを回す音が聞こえたと思うと……。 

 

「おはよう! 今日は絶好の外出日和だね、フウタ」

 

 玄関から姿を見せたミユも、私服姿でフウタを出迎えた。

 

「やぁ! ミユの方も準備、出来たみたいだね」

 

「うん。だってフウタとこうして出かけるの、久しぶりだから。でも……」

 

 彼女はやや心配そうな、表情を見せる。

 

「そろそろマリアさんとの約束が近いのに、大丈夫? もちろん私との時間を作ってくれるの、とっても嬉しいよ。だけど、ちょっと心配で」

 

 

「平気平気! たまには息抜きだって必要だしそれに、十分に強くなった感じだから、ちょっとはね。

 ――あと、前にも話しただろ? どんな時だってミユとの時間は、僕にとって一番大切だから」

 

 こう話すフウタの表情。それはとても、輝いていた。

 

 

 

 

 ――――

 

 

 カザマ・フウタとアラン・ミユは、昔からとても仲が良い幼馴染。

 互いに物心ついた時から、家は隣同士のご近所。家族ぐるみの付き合いで、二人もよく互いの家を行き来したり、一緒に過ごしたりして、遊んだり……。それがフウタ達の、日常だった。

 

 

 ずっと小さい頃から、そして小学校、中学校に入ってからも、その仲は変わらなかった。

 自分たちの家族と同じくらい、いやあるいはそれより絆が深い二人。

 何しろフウタは……。

 

 ――僕には、こうしてミユが傍にいてくれるのがどんなに幸せかって、いつも思っているから――

 

 自分自身、あまり取柄のない人間だって言うのは、フウタは分かっていた。

 人付き合いも、成績も運動能力も、大体普通。 もちろん人よりやや明るい、意外に運動は出来る方、そして――周囲では珍しい模型趣味を持っているなど、まったくの普通……と言うわけではない。それでも際立った特別さはない、まぁ普通と少年と言えた。

 

 

 

 けれど、フウタには健気で優しくて、いつも想ってくれている幼馴染がいる。  

 決して自分は特別ではないけれど、それでも周りの同級生や普通にはない、特別で大切な存在が傍にいてくれた。

 それこそがフウタにとって、どれだけ幸せで特別なことであるか……小さい頃からずっとその思いが、心の底にあった。

 

 

 

 自分にだけ見せてくれる優しさや、笑顔、そして彼女の想い……。

 彼女のすべてが、フウタにはかけがえのないものだった。

 だから自分は、それ以上に彼女に、お返しがしたかった。幼馴染としての仲、そして友情。……だけど。

 

 

 そして何より、それ以上に、もっと、もっと、彼女を大切にしたかった。ミユの事が誰よりも、好きだった。

 だから――――今から一年前、高校に入ってからしばらくして、ミユに告白した。

 

 

 もちろんミユもフウタの事が、同じくらい大好きだった。だから告白はすぐに実り、それからの二人は恋人として、今まで過ごして来た。

 互いに両想いの、幼馴染カップル。それぞれ互いの事が大好きで、一緒にいるだけでも幸せだった。

 

 

 ――しかし。

 

 

 ――何の取柄もない僕だけど、それでもミユは好きでいてくれるんだ。……だからこそ、せめて僕も彼女が好きだと言う想いだけは、本気で証明したい。

 我儘かもしれないけど、そうすれば僕も、少しでもミユにふさわしいパートナーに、なれると思うから――

 

 それはフウタの、決心であった。 

 





今回はフウタとミユ、二人の私服姿でのイラスト。
うん……ラブラブですね(^^)/


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幼馴染との大切な、日常(Side フウタ)

「あー! うん! 風が気持ちいいな。そう思わない、ミユ?」

 

「そうだね、フウタ。こうして過ごすのも、素敵だよ」

 

 今日は学校は休み。フウタとミユは町の広い公園で散歩もとい、デートをしていた。

 歩く道の両側には鬱蒼と木々が生え、風が吹くたびに枝と葉がゆれるざわめきと、その匂いを感じる。

 

 

 ――あっ、あそこに珍しい鳥が、木にとまっているな――

 

 フウタはカメラを手に取って、木にいる鳥を、パシャリと撮影する。

 

「ふふっ。いい写真、撮れた?」

 

 写真を撮って満足げな彼に、ミユは微笑んで顔を覗き込む。

 それにフウタは、にかっと得意げな表情で。

 

「もちろん! ほら、綺麗に撮れてるだろ?」

 

「……あっ、ほんと。可愛い鳥さんだね」

 

「あはは。家に帰ったら、少し加工を加えて見栄えを良くしてから、印刷してアルバムに加えないと」

 

 模型も好きだけど、こうして写真を撮ることだって、好きなフウタ。ミユもそんなワクワクした彼を見ていると、つい微笑ましくなってしまう。

 

「ちょっと家から離れた場所だけど、来て良かったわね。気持ちいい場所って言うか、私も好きな所だから」

 

 ミユのそんな言葉。

 フウタはもちろんと、答えた。

 

「僕も。なんだかリラックスできるしそれに。昔から何度も、ミユと一緒に来た、僕たちの思い出の場所の一つだから」

 

 また、彼は笑ってこうも続ける。

 

「覚えてるかな? 一番最初ここに来たときなんて、僕たちは小さくて、どっちとも両親に連れられて、だったよね」

 

「うんうん。ちょっとだけだけど、覚えているよ。あの頃は私、怖がりで……。出てきたハチに驚いて、フウタに泣きついちゃったっけ。

 ほら……あそこで」

 

 

 

 ミユが指さした先、そこには小っちゃい子向けの、滑り台やアスレチックが一緒になったような、大きめの遊具などがある、遊び場があった。見ると今でも、あそこでは子供が何人も、遊んでいるのがわかる。

 

「昔はあんなに大きい遊具、なかったな。多分私たちが中学校にいた頃に、出来たのかな?

 でもあの遊び場で、何回も遊んだよね!」

 

「だね。高校生の今じゃ、もう遊ぶのは難しいけどさ

 でもあの頃も、良い思い出だね」

 

 遊具を見ながら、ふとそんな事を思う、フウタだった。

 

 

 

 ――――

 

 それからしばらく歩いてから、二人は噴水前の広場でゆっくりと。

 水を高く吹き上げる噴水を横に、フウタとそれにミユは何気ない話をしている

 

「……フウタってば、勉強ももうちょっと頑張らないとね。

 あと少しで期末テストもあるから、今のままだとちょっと厳しいんじゃない?」

 

「うーん、僕も復習だとか、してはいるんだけど、特に英語の文法がなかなか覚えられないんだ。

 ミユはどう?」

 

「自分で言うのはあれかもだけど、私は大体の所は大丈夫かな。

 国語に数学、英語に歴史地理……テスト範囲はちゃんと、カバー済みだから」

 

「さすがミユだね。……僕はそこまで頭、良くないからさ、羨ましいよ」

 

 勉強に自信満々の彼女に、フウタは照れ恥ずかしいような、顔を見せる。

 するとミユは励ますように……。

 

「そんなことないよ。フウタだって、もう少し頑張ればすぐ上達するんだから。

 良かったら今度、家で一緒に勉強しよう。苦手な所なんかも、教えることも出来るしそれに、勉強が終わったら一緒に……イチャついたりね」

 

 ついでにそんなことも言いながら、ミユは頬を赤らめていた。

 これにはフウタも同じ様子だ。

 

「あはは……うん、そうだね。それにミユとの勉強も、悪くないし。

 なら今度、その時間を作るから、その時に勉強を教えてほしいぜ」

 

「もちろん、私にまかせて。いつだって力になるんだから」

 

 ミユは彼に、とびっきりの笑顔を見せる。

 

「だって私――フウタの事が、一番大好きなだもん!」

 

 

 

 そう、二人は互いに両想い。

 ミユはそう言うけど、フウタだってミユの事が、一番だ。

 

「ありがとう、ミユ。君にそう思ってくれて僕は、きっと幸せものだな。

 けど、僕だって……」

 

 しかし彼が言葉を続ける前に、ミユはふふんと得意げに笑って、そして。

 

「もちろん、分かっているよ!

 でもよくフウタから言われるから、こんな時くらい私に花を持たせてよ、ね!」

 

 そう言う、フウタの幼馴染み。

 これには彼も仕方ないなと言う感じと、同じくらいにとても嬉しいっていう気持ちで、ほほ笑んだ。

 こうして互いに、ラブラブな雰囲気。ある意味これが二人の日常でもあり、そして一番幸せな、そんな時間だ。

 



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免許皆伝!(Side フウタ)

 ――――

 

「……さてと、夕方からはまたGBNかな。前話していたタッグバトルの大会までもう少しだから、気合入れてトレーニングしないとね」

 

 フウタはふと、そんな事を話した。

 

「そう言えば、フウタもそれにジンさんも、あれからまた腕を上げた感じだもんね。

 うんうん、よく頑張ったよ」

 

「それは……まぁ」

 

 と、彼は微笑むミユの顔を横目に、何だか複雑そうな表情でこたえる。

 ミユはこれに対して、若干不思議そうな感じだ。

 

「フウタってば、やっぱりそんな変な感じ。たまに見せるんだもん、その様子。どうしたのか気になるな」

 

「あはは、別にそこまで大したこと、ないよ」

 

「……でも、あまり無理はしないでね。頑張っているのは分かるけど、程々で大丈夫なんだから」

 

 さりげなく、彼女はフウタを気遣う。

 

 ――やっぱ、優しいな、ミユは――

 

 相変わらず彼には、ある秘密があった。ミユだって心配なのに。そうして自分に何も聞かずに優しくしてくれている。

 それは彼女にとって、フウタがとても大切な存在で、あるから。だからこそ……。

 

 

 ――僕はその期待に応えなきゃ……だけど、大丈夫だろうか――

 

 あれから実力は、めきめきと上がっていた。今なら中級、頑張れば上級ダイバーでさえ、上手くすれば相手に出来る、かもしれない。

 

 ――ジョウさんとのトレーニングも、この間一段落したんだ。僕たちの腕は彼だって、保証してくれたしさ。あの時――

 

 そう、ジョウとのトレーニングも、実はこの間無事に、完了していたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――

 

 一週間ほど前、GBNにて。

 

 

〈さて……。これが最終試験だ。用意はいいか、二人とも〉

 

 今いるエリアは、峡谷地帯。

 それなりに深い峡谷を挟み、平地にはそれぞれ二機のガンプラが向かい合っている。

 

「もちろんだとも! あれから俺も、ジンも成長したって見せてやるさ!

 

〈そう言うこと……だな。ま、全力で、行けるとこまでいってみせるぜ〉

 

 フウタ、そしてジンのガンプラである、レギンレイズとガンダムF91は並んで相手に向き合う。

 対して、その先にいるのは。

 

〈ずいぶん言うようになったな。ま、言葉が大きいのは、元々だったが〉

 

 ジョウのガンプラ、デスアーミー。

 太い体格で、ビーム砲を備えた棍棒を持つ、一つ目の鬼のような機体。

 

〈最終試験と言うことで、その内容はタッグマッチ。何しろ最終目標が、マリアとハクノの二人だから、これは外せない。

 なぁ……ミユ〉

 

 

 

 ジョウとタッグを組んだ相手、それはフウタの幼馴染の、ミユである。

 

〈はい、ジョウさん。

 ……でもこんな形で、フウタとガンプラバトルするなんて、ね〉

 

 ミユが乗るレギンレイズ、これもまた今回のバトルではフウタ達の相手になる。

 

「ミユも、一緒にトレーニングを受けていたしね。だから結構強くなっているのは、分かるけど……」

 

 フウタはやや、困ったような感じで、こう続ける。

 

「けどミユを相手に戦うなんて、僕にはちょっと、難しくてさ」

 

〈それを言うなら、私だって……〉

 

 そんな二人の雰囲気。これにはジン、思わず。

 

〈おいおい、せっかくのバトルなんだ。ちゃんとしてくれよフウタ〉

 

「……あっつ、ごめんごめん。ちゃんとやらないと、ね」

 

 これでようやく、戦闘態勢に入るフウタと、ジン。

 峡谷を舞台にしたタッグマッチ。これがジョウによる最終試験、二人は気を引き締め、それに臨むことになった。

 

 

 

 ――――

 

〈はあっ!〉

 

 高く跳躍し、ジョウのデスアーミーは武器である棍棒を、レギンレイズめがけて振り下ろす。

 

「そんなの、当たるかよ」

 

 しかしフウタは上手く反応し、避けてかわした。

 棍棒は空振りした。が、続けてデスアーミーは棍棒で鋭い突きを繰り出す。

 間髪入れない連撃。だが。F91は腕のガントレットで防御する。

 

「だから言っただろ、僕だって。……一撃必殺!」

 

 攻撃を防がれたことによる、少しの隙。フウタはそれを見逃さず、パイルを抜き、胴体目掛けて反撃を仕掛ける

 

〈!〉

 

 ジョウはそれに気づき、回避するも……。本体の脇の部分に攻撃がかすり、傷がついてしまった

 

〈やるな、フウタ。ずいぶんとマシになったと思うぜ〉

 

 通信でジョウは、フウタへと言った。

 

〈けど、これがタッグマッチだって、忘れたわけじゃないだろ?

 頭上注意、だぜ〉

 

「へっ? 一体何を……」

 

〈フウタ、ごめんね!〉

 

 瞬間、フウタの青いレギンレイズ、その頭上から白と黒のツートンカラーの、もう一機のレギンレイズがライフルを構えて出現した。

 

「えっ、まさか本気なの!?」

 

〈だってフウタのためなら、全力で行かないとって思うし。悪く思わないでよ〉

 

 ミユのレギンレイズは彼のガンプラを狙い、ライフルで撃ち放つ!

 

 

 

〈おっと! 忘れているのはそっちも、同じじゃないか?〉

 

 フウタとミユの間に割って入った、黒く塗装された、ガンダムF91。

 機体は腕のビームシールドを展開し、フウタのレギンレイズを守った。

 

「サンクス! ジン」

 

〈いいってことさ、これぐらい。……うわっと!〉

 

 ミユの攻撃を防いだはいいが、今度は下からビーム射撃が襲い来る。

 ビームを放ったのは、棍棒をライフルのように構えていた、ジョウのデスアーミーだ。

 

〈助けに入ったはいいが、まだ詰めが甘いな。そして――あまりボーっとするなよ、フウタ!〉

 

 続いてデスアーミーは、横からフウタのレギンレイズを蹴り飛ばした。

 確かに幾らか注意が逸れていたフウタ。彼のガンプラは強烈な蹴りをかまされ、そのまま吹き飛ばされ峡谷へと真っ逆さま。……しかし。

 

「残念! 引っかかったね」

 

〈これは、やってくれたな〉

 

 

 

 するとデスアーミーの足元には、ケーブルが絡まっていた。

 ケーブルはさっき吹き飛ばされたレギンレイズが持っているパイルから伸びたもの。そしてその勢いで、デスアーミーもろとも引っ張られ、ともに谷底へと落下して行く。と……思いきや。

 

「それに落下するのは、ジョウさんだけだよ!」 

 だがレギンレイズの方は、落下する直前にパイルを岩盤に突き刺し、同時にケーブルを外した。

 これには一機のみ、深い谷底へと真っ逆さまなデスアーミー。 

 

 ――これで、ジョウさんは倒した」ね。残るは――

 

 後はミユを残すだけ。フウタは崖から上がり、様子を見ると……。

 

〈ううっ、私の負け、だね〉

 

 そこには膝をついた彼女のレギンレイズと、それにビームライフルの銃口を突き付ける、F91の姿があった。

 

〈よぉ! こっちも決着、ついたぜ〉

 

 ジンは得意げに、そうフウタに声をかける。

 

〈フウタ……。私ちょっと、悔しいよ〉

 

 ミユのしょんぼりした様子、これには複雑なフウタ。

 

「えっと、お疲れ様、ジン。

 ――それにミユも、同じくらい凄かったよ。ジンが勝てたのだって、たまたまってものだし」

 

〈むっ、ひどいなフウタ。俺とミユちゃん、どっちが大切なんだよ〉

 

「そりゃ聞くまでもなく、ミユに決まってるじゃないか」

 

 ジンの不満に、さも当然と言わんばかりに、フウタの即答する。

 

 

 

〈……これで、どうにか一安心って、所だな〉

 

 ふと振り返ると、どうにか谷底からよじ登って来たらしい、デスアーミーの姿があった。

 

「あっ、無事だったんだね、ジョウさん」

 

 そう呼びかけるフウタに、ニッと彼は笑った。

 

〈そりゃ簡単には、やられんとも。しかし……二人とも、よくやった。

 俺のトレーニング、良い成果が上がっているじゃないか〉

 

〈それは良かった。じゃあ、あの二人にも――〉

 

〈おっと、ジン! 確かに腕は上がって、中級……上手くすれば上級ダイバーにだって相手出来るようになったが、マリアたちと戦うにはあと一押しって言うところか。

 そこは俺じゃどうしようもない。この先からは二人次第、ではあるのだが……〉

 

 

 そしてジョウは、よくやったと言う様子で、こう口にした。

 

 

「だが、俺から教えられることは、ちゃんと全部教えた。

 お疲れさまだ、フウタ、それにジン。これで免許皆伝……と、言った所だ」

    



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久しぶりの再会(Side フウタ)

 ――――

 

「ジョウさんとのトレーニング、大変だったと思うけど、よく頑張ったよね」

 

「まぁ、ね。それからはジンと一緒にミッション受けたり、前よりも難しいのを、普通に出来るようになっていたんだ。

 トレーニングの前なら二、三分も持たなかったのに。これも成長だ」

 

 フウタはそう、自信たっぷりの様子を、ミユに見せた。

 

「恰好良いよ、フウタ。

 でも不思議だな、あんなにガンプラバトルに本気を出しているなんて。今までそんな事なんてなかった気がするし、ちょっと気になるな」

 

「そりゃ僕には頑張る、訳があるからね。

 ……どうしても果たしたい理由って言うか、約束とも、言うか」

 

「ふーんそれって、何だろうね。」

 

 

 

 そう言ってミユは、ある事を思い出す。

 

「――たしか昔も、フウタはある約束をしていたっけ。私たちが小学校一、二年生くらいの小さい時、ジョウさんの模型店で、ね」

 

 彼女としては、さりげない話だったのだろう。しかしフウタは。

 

「えっ!」

 

 この話が出たとたん、フウタはドキッとした様子で、意外なそして、緊張した様子を見せた。

 

「ミユももしかして、覚えていたの? だってずっと小さい時の事じゃないか」

 

「もちろん! だって私とフウタとの、大切な思い出だから。それにあの時私……とても、嬉しかったんだから」

 

「それは何よりだけど、僕にとっては少し、恥ずかしくもあるんだよな……」

 

 その思い出を振り返りながら、フウタはちょびっと苦笑い。

 

「まぁ私たち、小さかったから。でも本当に素敵だったな。あの思い出は――」

 

 

 

 ミユが話を続けようとした、まさにそのタイミング。

 

 ♪♪♪

 

 ふいに何処かから、携帯電話の着信音が鳴る。

 

「あっ、電話。……僕のだね」

 

 鳴っていたのはフウタの携帯。彼はポケットから携帯を取り出す。

 

「もしもし……うん…………えっ。今は無理だよ、ミユとデートしてるし。後なら大丈夫だけど。

 ……悪いね。じゃあ、後でまた」

 

 一通り何か通話相手と会話する、フウタ。

 そして通話が終った後、ミユは彼に尋ねる。

 

「ねぇ、さっきの電話、何だったのかな?」

 

「電話はジンからさ。どうやら今日も、GBNで一緒にトレーニングしたいって。

 約束の大会までもう時間がないのは分かるけど、僕だってミユと過ごす時間は、大切にしてるて言うのに」

 

 彼女の問いに、彼はやや不満そうに呟く。

 

「まぁまぁ。私との時間を作ってくれるのは嬉しいけど、トレーニングだって大事でしょ」

 

「それは、そうだけどさ」

 

「ならそれも、ちゃんと頑張らないとね。

 どうしてそこまでしているのか分からなくても私、応援は出来るから」

 

 

 

 そんなミユの、励まし。フウタはそれに微笑みで返すと。

 

「ありがと! ミユがそう言うなら……僕も、ちゃんとしないと。

 ――ガンプラバトルを頑張っているのは、ミユの為でも、あるんだから」

 

「何か言ったフウタ? 最後の所、よく聞こえなかったけど」

 

 上手く聞き取れなかったミユは、何気なく尋ねる。それにフウタは、クスリと笑って。

 

「……ううん! 大した話じゃあないよ。それよりあとしばらく、デートを楽しもう。

 ジンに会いに行くのは、それからだ」

 

 ミユとのデートはもちろん大切、しかしジンとのトレーニングだって、もちろん重要。

 何しろフウタにとって――。だが、それはまた、別の話。

 

 ――やっぱりミユと過ごすのもいいけど、今は……こっちに集中するべきだな。

 何しろ――

 

 

 

 

 ――――

 

 それからしばらく公園でゆっくりデートした後、フウタとミユはジョウの模型店へと。

 

 

 何しろジンとの待ち合わせ場所は、GBN、そのロビーである。だからまずは、ログインから。

 

「来たよ、ジョウさん」

 

「こんにちは! お邪魔しますね」

 

 店に入った二人。店主のジョウはカウンターで新聞を読んでいたが、この可愛らしい常連に気づくと、にこやかに出迎えた。

 

「ようこそ、フウタにミユ。今日は買い物かい? それとも……」

 

「先にGBNだね。いつものようにトレーニング、買い物はその後にするよ」

 

「ほうほう! それは精の出ることで。んじゃ、今日も頑張ってくれよ」

 

 フウタは頷いた。

 

「もちろん! 僕には頑張る理由が、あるしさ!」

 

 それに、ジョウは何も言わなかった。ただ、それでも彼の様子に、少し微笑ましげな、そんな感じだ。

 

「……じゃあ、使わせてもらうね。いつもありがとう、ジョウさん」

 

 これからまた、ガンプラバトルの腕を磨く。

 まだ強くならないと――。ミユとの時間を使っていても、フウタにはちゃんと、その自覚があった。

 

 

 

 

 ――――

 

「……はぁ。少し遅かったじゃないか、二人とも」

 

 ジンと待ち合わせたのは、スペースコロニーの内部を模した、エリアだった

 スペースコロニーと言うのは、宇宙空間に作られた施設であり、人が宇宙で居住するためのものだ。

 円柱状の本体と、その内側側面に、地球と同じような地上が再現されている。重力は円柱をぐるぐる回す遠心力で作られ、太陽の光は側面の一部分にあいている透明な窓から、日の光を反射させて取り入れている。 

 円柱の内部にいることもあり、大地はぐるりとカーブを描いて、上空の向こう側には同じく、コロニーの地上が見える。

 何ていうか……不思議な光景だ。

 

 

 ちなみにスペースコロニーもまた、ガンダム作品の舞台にもなっている。

 だからこそGBNでももちろん、こうして再現されている訳である。

 

 

 ジンと合流した、フウタとミユ。

 

「こんにちは、ジンさん!」

 

「ごめん、遅くなって。それに……」

 

 

 

「おう! これでジンにフウタ、二人揃った感じかい。

 それにカワイ子ちゃんも一緒か! 見た感じ、フウタのアレか?」

 

 見るともう一人、見覚えがある大柄な男がいた。

 フランクな感じで出迎える彼。……それは。

 

 

「ロッキー! まさかここで会うなんて」

 

 彼は元悪質ダイバーの、ロッキー。フウタ達とも因縁があったが、今ではそれなりに仲の良い相手で、あるようだ。

 

「こっちも時間が、あったからな。まぁそれより……」

 

 と、ロッキーはにいっと面白そうな表情で、言った。

 

 

「どうやらまた、強くなったらしいじゃないか。ここで会ったも何かの縁、お手並み拝見したいものだぜ」 

 



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ロッキーとのタッグバトル(Side フウタ)

 

 ――――

 

 フウタとジンが対決するのは、ロッキー、それに彼と同じ元悪質ダイバーのディック。彼もまた、あれから足を洗ったらしい。

 

 

 

 バトルフィールドは大きな湖がある、湖畔地帯。

 

「だああっ!」

 

 フウタのレギンレイズは手にしたパイルを、目の前のハイゴックの頭めがけて振り下ろす。

 

〈何の!〉

 

 対してハイゴックはクローで、攻撃を防ぐ。

 

〈最初に戦ってから……どれくらい経ったっけな、えっと、二か月くらい、だったろうか〉

 

 目の前のハイゴックに乗るのはロッキー、彼は久しぶりの二人との闘いに、興味津々な様子だ、

 

「多分、それぐらいだね」

 

 ハイゴックは強烈な力をクローに込め、レギンレイズを弾き飛ばし、続けてミサイルを射出する

 だがとっさにフウタも、パイルからライフルに持ち替え、迫るミサイルを撃ち落とした。

 

〈へぇ? ……悪くない〉

 

「そりゃそうさ! これくらい、今の僕ならね」

 

 と、今度はライフルの銃口を、ロッキーのハイゴックに向ける。

  この距離なら、と――。フウタがそう考えた、瞬間。

 

 

 

「おっと!」

 

 いきなり後ろから、別のクローが伸び、掴みかかる。

 

〈くっ、ディックの奇襲も失敗か〉

 

〈すまないロッキー、しくじった!〉

 

 後ろに迫っていたのは、ロッキーの相棒、ディックのハイゴックだ。背後からの挟撃を仕掛けたようだが、フウタのレギンレイズはその間から避け、攻撃を回避した。

 

「へへん、どんなもんだい。そして――固まってると、危ないよ。

 ねぇ、ジン!」

 

 

〈おうとも!〉

 

 ジンのF91は上空から、ばっと登場した。そしてそれと同時にヴェスバーを展開し、まとまったハイゴック二機に狙いを定め、放つ!

 

 

〈くっ! これは……しまった!〉

 

 ロッキー、それにディックは回避運動を取るが。

 

〈ディック!!〉

 

 ジンの攻撃は以前よりも鋭さを増していた。

 手前にいたディックのハイゴックは、まんま胴体を貫かれ、爆散した。

 

〈これで一体撃破だ! 残るはロッキー、ただ一人だぜ〉

 

〈まさかディックがああも簡単に。それに俺も……〉

 

 ロッキーのハイゴックは回避出来たものの、右腕部が先ほどの攻撃で大破していた。

 

 

 ここから一気に畳みかける。

 フウタはロッキーのガンプラに、肉薄する。

 

「次は僕の番! 倒させてもらうよ、ロッキーさん」

 

 回避し、一瞬怯んだハイゴックに、彼のレギンレイズはライフルによる連射攻撃を与えた。

 だが簡単にはいかない。相手は大破しほとんど使えない右腕を盾替わりに急接近をかける。

 

「何だって!!」

 

〈ダメージを与えたからって、油断するなよな〉

 

 迫るハイゴックは次の瞬間、無事な方の左腕で突きをかました!

 

「……くうっ!」

 

 突きはレギンレイズの右腰を抉り、その膝をつかせる。

 フウタは再びライフルを向けようとするも、ハイゴックはぶんと腕を強く振り、機体もろとも湖の中に吹き飛ばす。

 

〈フウタの奴!〉

 

〈おっと、隙あり!〉

 

 ジンも応戦に入ろうとするが、ハイゴックは左手のクローを開き、内蔵されたビーム砲を放つ。

 ビームの弾をいくつも受け、ジンのF91もまた湖に墜落した。

 

 

 

 ――――

 

 ――ううっ、やっぱりロッキーさんもなかなかだな。と言うか前より腕上げてない?――

 

 湖にドボンと落ち、フウタは頭を抱えた。が、そうしてもいられない。

 

「うげっ! マジかよ」

 

 見るとあちこちから水だって入って来る。これは早く、陸に上がらないと。

 それにジンのガンプラも、同じく湖に叩き落されていた。

 

〈しまったな、よりにもよって水中とは。……おそらく、ロッキーも〉

 

 彼の嫌な予感は、すぐに当たった。

 突如向こうから高速で迫る物体、そして――

 

〈ぐわーっ!〉

 

 物体はジンのF91に激しく体当たりを仕掛けた。その正体は、ロッキーのハイゴックだ。

 今の一撃はかなり効いたらしく、F91は全身の関節からスパークを散らし、動けなくなる。

 

〈しまった……今ので全身がやられた。これじゃもうこっちは……〉

 

〈くくく! 水中ならこっちの独壇場、覚悟するんだな!〉

 

 強烈な体当たりを食らわせたハイゴックは、急旋回し、今度はレギンレイズの方へと。

 

〈もうジンは戦闘不能。次はフウタ、お前の番だぜ!〉

 

 再び体当たりを仕掛けるつもりらしい、ハイゴック。水陸両用機なだけあり、そのスピードは凄まじい。おまけにあの装甲の強度、あれで体当たりを食らわされたらジンの二の舞だ。

 ……しかし。

 

 ――確かに、この状況はこっちに不利すぎる。けど、向こうから体当たりをしに近づくなら―?

 

 レギンレイズはパイルに持ち帰ると、迫るハイゴックに向けて構える。

 

 ――こっちだって一撃を与えるチャンスでもあるんだ。もちろん、たぶんこれが唯一の――

 

 これで相手を倒さなければ、逆に自分が体当たりでやられるかもしれない。

 

 

 この一撃で、勝負は決まる。

 次第に迫る二機の距離。パイルを握り、レギンスはハイゴック目掛けて――!

 

 

 

 

 ――――

 

 バトルが終わり、フウタとジン、それにミユとロッキーは高層ビルの屋上で過ごしている。ちなみにロッキーと一緒だったディックは、用事があると言うことで、先に分かれた。

 

 

 ビルの柵にもたれ、フウタは自販機で買ったコーラをちびちび飲んでいた。

 

「いやー! いい勝負だったぜ。まさか最後は相打ちとはな」

 

 そんなフウタに、ロッキーは近づいて話しかける。

 あのバトル。最後はレギンレイズのパイルがハイゴックの動力部を貫いたが、同時にハイゴックの体当たりのダメージも受けた。それによりフウタのガンプラも操作不能となり、結局相打ち……と、言うわけだ。

 

「でも惜しかったな。あの時だってあと少しで、僕の勝ちだったのに」

 

「それは俺の言う言葉さ。実力は互角、だったんだからよ」

 

 と、ロッキーは我ながら妙なことを言ったような、そんな表情をした。

 

「俺と互角、か。本当にお前たちは、それなりに進歩したんだな。まぁ、それで上級ダイバー相手に戦えるかどうかは、怪しいけどな」

 

「もう、そんな事ないよ! ジンさんも、そして――フウタも、とっても強くなったんだから」

 

 すると横にはミユまでも現れて、そう話す。

 

「ミユちゃんは、とてもフウタの事を信じているんだな、さすが彼の彼女さんだ」

 

「それはもちろん! だって誰よりも、大好きな相手だもん!」

 

 フウタは勿論だが、やはりミユもミユで、彼に対する想いは強いのだ。

 

「そう言ってくれて、僕も嬉しいよ! やっぱりミユがいてくれるだけで、僕は……」

 

 

 

「……」

 

 しかし、ジンは渋い表情で、その様子を見ていた。

 何やら複雑な考え事をしている感じで、やがて意を決したように彼は、フウタの元へと近づく。

 いつもと少し違う、ジン。フウタはそれに気づく。

 

「あれ? ジンも僕に、何か話でもあるの?

 ……なんていうか、目が怖いよ」

 

 そんなふわふわした感じのフウタに、ジンはいつもより真剣な眼差しを向ける。そして――

 

 

「なぁフウタ、少しお前に話したいことがある。……二人だけでな」



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その内に秘めた想い(Side フウタ)

 

 フウタはジンに連れられて、人気のない通路に。

 

「それで、話したい事って何なのさ?」

 

 いきなりここまで連れて来られて、訳が分からないと言った様子のフウタ。対して、ジンの表情は……やや険しいものだった。

 

 

「話は、さっきのロッキーとの闘いについてさ。あれは、一体何だったんだ?」

 

「何だったんだって、言われても」

 

「フウタの戦い方は、俺から見て雑にも程があった。あんなに不注意に、相手に近づいて攻撃を受けるなんて、俺だってやらないぞ」

 

「……ああ。あれはたまたま、そうなっただけさ。勢いでつい、ね。次からはちゃんと気を付けるから、怒らないでよ」

 

 軽い調子でフウタは答える。

 

「じゃあもういいかな。ほら、屋上にはミユを待たせているしさ」

 

 そしてそのまま屋上へと、戻ろうとする彼であったが……

 

 

 

「おい!」

 

 フウタの肩をぐっと、ジンは掴む。

 

「いたた、強く掴んで……何だよ」

 

 これには彼も不機嫌そうに、掴んできたジンをにらんだが、向こうもまた同じ様子だ。

  

「どう見ても――フウタはたるんでいる。ジョウさんとのトレーニングが終わってから、いや、その間も……だったか。

 ミユちゃんと過ごしている時間ばかりで、本当に強くなる気はあるのか?」

 

「うるさいな。もちろん……あるに決まっている」

 

 このフウタの態度に、さすがのジンも怒りを抑えられなかった。

 

「なら、もっとガンプラバトルに集中してくれよ! 前から思っていたが、フウタはいい加減なんだよ。

 本当に、彼女がいるからって気楽でいいよな。何しろ素敵な子だもんな、ミユは。羨ましいよ、そうして彼女の好意があるだけでも、幸せなんだろうからさ。

 ……そんなんだから、俺と違って頑張る気も、どうせないんだろうよ」

 

 

 

「――っ!!」

 

 途端フウタの態度が豹変し、激情に満ちた表情でジンの襟首を掴む。

 

「いきなり、何のつもりだ!」

 

「黙って聞いていれば勝手なことばかり! ミユがいるから僕に、頑張る気がないだって!?

 僕が、どれだけ彼女の事を、想いに応えるために一生懸命やっているのか知らないくせに!」

 

 ここまでになった彼の姿は、ジンにとっても初めて見るものだった。

 

「……そりゃ、ジンさん程にガンプラバトルのトレーニングは出来てないだろうさ。

 けどミユの事――時間だって、僕は大切に大切にしないとなんだよ! 僕がジンさんとバトルを頑張っているのだって……」

 

「フウタが俺に協力しているのは、俺が持っているウィングガンダムゼロカスタムが欲しいって言う、自分の都合だろ。

 ……ミユちゃんとは関係ない。言い訳のつもりか」

 

「それは……っ!」

 

 これにフウタは、言い淀む。

 それに今のこの空気感、ジンもまたこれ以上、何か言うことは出来ないでいた。

 

 

 互いに無言で、しばらくにらみ合う。

 そして――。

 

「――もういい」

 

 ふいにフウタは一言言って、ジンから顔をそらす。

 

「僕はもう、これ以上ジンの顔は見たくない。

 じゃあ、ミユも待ってるから、合流したらもう……今日は帰る」

 

 そう言い捨てた後、一方的にその場から去っていくフウタ。

 彼の後ろ姿を眺めるジン。今は怒りよりも戸惑いの感情が、ずっと強かった。

 

 ――何か俺は、気に障ることでも言ってしまったのか。どうしてフウタは、あんなに――

 

 いくら考えても分かるものではないが、それでも、自分の相棒だ。

 さっきは怒りはしたが、相手は自分よりも子供。ジンは彼が、気がかりなのだ。

 

 

 

 ―――ー

 

 一方、屋上のミユとロッキーは。

 

「ジンさんと一体、何を話しているのかな」

 

 戻りが少し遅いので、ミユは心配していた。

 

「平気平気! どうせすぐに、戻ってくるさ!」

 

 対してロッキーはそう気楽な様子だ。

 

「でもそんなに、フウタの事を気にかけているなんてな。ずいぶんと彼氏思いなことで」

 

「えへへ! だって、なんだか放っておけない感じがあるし、何より私が大好きな、相手だから」

 

 これにはミユ、頬を掻きながら照れ笑い。

 

 

 

 そしてふと、彼女はこんな話もする。

 

「それに、フウタだって私の事を、とっても想ってくれるのも分かるから。だから私も負けないくらいに、ね」

 

「ああ! 確かにあのネコミミ坊や……失礼! フウタのミユちゃんに対するベタ惚れ具合もなかなかだからな。

 正直、ちょっと行き過ぎな部分もあると、思いもするが」

 

「……あはは、そう……だね」

 

 するとミユは、ロッキーの言葉に何やら、思う所があるようは、そんな表情を見せた。

 

「おや? 何やら悩んでいるみたいに見えるが、、どうしたんだ?」

 

 

 ロッキーに言われて、彼女は――

 

「もちろん、フウタに想ってもらえてとても嬉しいんだよ。

 だけどあんなに私の事を思っているのは……ちょっと、ある理由もあったりするんだ」

 

「理由だって? そりゃあ一体、どんなのなんだい?」

 

「うん。実はフウタ、ある事で思い詰めている事があるんだ。

 ――それはね」

 

 

 ……と、ミユが何やら説明しようとしていた、その時だった。

 

 

「えっ?」

 

 いきなり二人の真上に、覆いかぶさる巨大な影。見上げると丁度上空に巨大戦艦の姿があった。

  黒色の船体と、二本足のような前部と翼、それにブリッジ……。さながらその姿は黒いペガサスのようだ。

 

「あれは、アークエンジェル。……いいや、その同型艦の『ドミニオン』か」

 

 あの船は、機動戦士ガンダムSEEDに登場する宇宙戦艦――ドミニオンだ。

 二人とも突然そんなものが頭上に現れ、驚いていた。するとさらに……。

 

 

 上空のドミニオンから、次々とガンプラが出撃して、二人のいるビルを取り囲む。

 翼のついたバックパックを背負い、白と青を基調とした二本角の、一見ガンダムのような機体。

 それは同作品の続編であるSEED Distinyに登場する機体、ウィンダムである。

 

 

「しかし一体、何だ!? どう言うつもりなんだよ」

 

 数は全部で六機、内五機がビルを取り囲んでいて、一機のみ……ミユとロッキーの前に立ちふさがる。

 

「あの……これは一体、どう言うつもりなんですか? いきなりこんな事をするなんて、失礼です」

 

 目の前のウィンダムに、ミユは言った。

 すると――通信で若い青年の声が返って来る。。

 

〈ほうほう! ずいぶんと度胸もあるじゃないか!

 見た目もタイプだけど、そこも気に入った。やっぱり俺の目に狂いはなかったって、事か!〉

 

 そして胸のコックピットハッチが開き、中から現れたのは……。

 

 

「やぁ、素敵なお嬢さん! ここで会えたのも――まさに運命だね」

 



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女好きのキザ男(Side フウタ)★

  

 フウタは複雑な心境を抱えたまま、来た道を戻る。

 

 ――ジンのやつ、ああも言わなくても――

 

 さっき言われた事を引きずり、不機嫌そうな彼。

 しかし一方で、ジンが言ったこともまた、分かる部分ももちろんあった。

 

 ――僕が悪いのだって、分かっちゃいるよ。でも、だって俺には――

 

 そう考えてきた時、急に窓から入る日の光が何かに遮られ、暗くなった。それに、現れたモビルスーツの姿と、響くバーニア音も。

 

 

 ――何だ!? いきなりこんな。これは、感じ的にはここの屋上を包囲しているわけ――

 

 と、ここでフウタはある事を察する。

 

 ――屋上には、ミユがいるんだ! もしかすると何かされたり、されていたら――

 

 ミユは屋上にいたままだった。もしや――あそこにいる相手に、良からぬことをされているかもしれない。

 

 ――急いで、戻らないと――

 

 この先には屋上に続く階段がある。

 フウタは急いで、先へと駆け抜けるのであった。

 

 

 

 ――――

 

「――ミユっ!」

 

 フウタは階段を走り抜け、思いっきり屋上への扉を開いた。

 そこには……。

 

 

 

「おや? 君は一体誰かな?

 ……でも、こんな時に乱入するとは、いささか不躾けじゃないか」

 

 屋上には、周囲を取り囲むいくつものウィンダムと、それにガンダムSEEDの地球連合軍のパイロットスーツを身にまとった、何人ものダイバーがいた。

 そんなダイバー達の中心に、ミユがいた。

 

「フウタっ!」

 

 さっきフウタに話しかけたと思われる彼らの一人、恐らくリーダー格とも思える長身で、金色のパイロットスーツのダイバーに絡まれて、困り顔ではあったが、フウタを見てぱあっと笑顔を見せる。

 

 

 すぐにフウタはミユの元に駆け付けようとする。が、ダイバー達により行く手を塞がれる。

 

「……何だよ! 邪魔するなよ」

 

 そしてふと別方向を見ると、端には複数人で取り押さえられたロッキーも。

 

「フウタも来てくれたのか。それはいいが、この状況だもんな」

 

 上を見ると、そこには巨大戦艦ドミニオンが鎮座していた。何というか、凄い光景だ。

 だがそれよりも、この状況。はっきり言って意味が分からない。

 

 

 

「この、ミユに何をしているんだ!」

 

 とにかく、フウタにとって何よりも最優先事項は、何よりもミユのことだ。彼はきっと、彼女の傍にいる金色スーツのダイバーを睨む。

 

「何をって言われても、見ての通りナンパさ。

 丁度あの船で通りかかったら、カワイ子ちゃんがいたからね。だから、こうして降りて出迎えたわけなのだよ」

 

「ふざけた事をいうな! ミユは僕の大切な彼女なんだぞ!」

 

「へぇ、君が、彼女の彼氏ねぇ」

 

 するとダイバーは、ヘルメットに手を置くと、そのまま頭から脱いだ。

 途端、キラキラしたウェーブがかった長い金髪が舞い、キザな色男の笑顔が現れた。

 

「それは――失礼した。まさか彼氏持ちだとは思わなかったからな」

 

 そして彼は、仲間に指示を出す。

 

「と、言うことだ。……この小さい彼氏さんを、通してやりな」

 

 彼に言われ、さっきまでフウタの前を塞いでいたダイバーは、左右に道を開けた。

 フウタはすぐにそこを通り、ミユのもとへと駆ける。

 

 

「大丈夫だった、ミユ! 変な事とか、されたりしてないよね?」

 

 彼女の手を取り、心配そうなフウタ。

 これにはミユの方が、彼を安心させるように、笑ってみせる、

 

「いきなりあの人が絡んできて、ちょっと困ってはいたけど……特に変なことは、されてないよ。

 だから、ねっ? 安心していいよ」

 

 二人のやり取りを、横で聞いていた金髪青年は、苦笑い。

 

「おいおい、私は楽しくお話したり、ちょっとばかりデートのお誘いをしただけさ。

 変な事だなんて、するわけがないとも」

 

「デートだって!? お前っ!」

 

 これには思わず激昂するフウタ。

 

「おっと、そう怒るなよ。私だってついさっきまで、相手がいるなんて知らなかったんだ。

 ……でも、やっぱり可愛い子だ。少しだけで良いから付き合いたいものさ」

 

「誰だか知らないけど、これ以上言うと僕だって――」

 

 

 

 

「何だこれは! どうなっているのさ!?」

 

 すると丁度、そこにやって来たジン。

 

「フウタ! もしかしてお前と関係が……うわっと!」

 

 彼はさっきのフウタと同じく、行く手を阻まれた。

 

「あの、ジンさんも私の知り合いなんです! 通してあげて下さい」

 

「おっと、そうだったか。それは失礼!」

 

 道を開けてくれ、ジンも二人のもとへと。

 しかしフウタはと言うと、相変わらず不機嫌そうだ

 

「……どうして、来たのさ」

 

「そりゃ気になったからに決まっているだろ? さっきの事だって、ほら、言い過ぎた事は謝るからさ」

 

「……」

 

 ジンは謝った。さっきのトラブル、自分でもやり過ぎたと思ったからだ。

 ……しかし、フウタは相も変わらず。彼はそれさえ不快そうに、そっぽを向く。

 

「おい! 人が謝っているって言うのに、それはないぜ!」

 

 これにはジンもまた、怒りを露わにする。

 

「何を偉そうに! 大体ジンのそのムカつく態度、前々から――」

 

 互いににらみ合い、一発触発のこの状態。であったが――

 

 

 

「ちょっと、ジンさん! それに……フウタっ! 何があったか知らないけど、止めてよ!」

 

「おいおい……。これじゃ私の方が、混乱してしまうぞ。ミユの言う通り、落ち着きたまえ」

 

 二人の争いに、ミユと青年も、止めに入る。

 片やフウタの大切な人、片や気になる謎の人物。それに間に割って入ったこともあり、その注意も逸れた。

 

「……分かったよ。たしかにこんな場所で、不味かったよ。でも――」

 

 ジンへの敵意は、相変わらず。

 対して彼も、落ちついたがフウタの事は、無視を決めるようだ。

 

 

 

 青年は、ふぅと息をつく。

 忘れかけていたが、今のこの状況を作り出したのは、彼なのだ。

 

「とりあえずは落ち着いて、良かった。

 ……さて、と」

 

 気を取り直す感じで、青年は続ける。

 

「そう言えば自己紹介をしないと、いけないな。

 私はカイン・ウィルフォード、フォース『ブラックホース』のリーダーさ」

 

「ブラックホース、だって?」

 

 すると、さっきからずっと取り押さえられたままだったロッキーが、覚えがあるような感じで呟く。

 

「ロッキーは、知っているのか?」

 

「まぁな、フウタ。GBNでは珍しくない中堅のフォースで、実力は中の上、上の下と言ったものさ。

 だがそのリーダーは割と有名なんだぜ。その……あまり良くない意味でな」

 

 彼はカインに、ちらと視線を向けると。

 

「ブラックホースのリーダー、カイン。彼も上位に入るガンプラバトルの実力者……なんだが、女癖がかなり悪いのさ。

 可愛い女の子を見ると、誰彼構わず手を出しちまう、迷惑野郎さ」

 

 

 

 これを聞いてフウタ、ジン、ミユは、フォース『ブラックホース』のリーダーであるカインに、視線を向ける。

 

「さっきの紹介、まぁ、否定はしないとも。何しろ私は女の子が、とても好きであるからな。無論、可愛ければ可愛いほど、尚更さ!」

 

 そして彼はまた、ミユの方を見る。

 

「でも……やっぱり気に入ったな、ミユちゃんの事。彼氏持ちなのが勿体ないくらいだ」

 

「そう言われても……」

 

「ふざけているの? ミユは僕の恋人なんだ、誰にも渡すものかよ!」

 

 ミユは戸惑い、フウタは彼女を庇うようにして、前に出て立ち塞がる。

 するとカインは慌てて、首を横に振る。

 

「いやいやいや! いくら何でも人様の彼女を取るような真似はしないさ。

 ただ――」

 

 と、彼はふふっと、微笑んで提案する。

 

 

「けどせめて、一度だけミユちゃんとデートをしてみたい。

 ……そこで提案なんだが、そのデートをかけて俺とガンプラバトルをしないか。

 俺が勝ったら、彼女を少し借りてデートって事で。……たったそれだけだ、別に問題ないだろ?」

 





ちなみに、今回登場したウィンダムはこんな感じのガンプラだったり


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受ける挑戦と、拒絶するフウタ(Side フウタ)

 

「なっ――!」

 

 いきなりの提案で、フウタは目を見開いて、固まる。

 しかし、彼の次の反応は、もちろん。

 

「そんなの、駄目に決まってるだろ!」

 

「……駄目か? たった一度のデートと言うか、一緒に過ごすだけなんだが、それでもか?」

 

「駄目ったら駄目さ! そもそも、『少し借りて』だって? ミユは物なんかじゃないんだ

 いや……そうでなくても、僕は彼氏としてそんな提案、受けはしないさ!」

 

 きっと、フウタはカインを睨む。

 対して彼は、余裕満々。一体何を考えているのか。

 

「ふむ、そう来るか。フウタと言ったか、正直君のことはただの粋がっている子供くらいに思っていたが、ちゃんと芯が通っているじゃあないか。

 褒めてあげよう!」

 

「アンタみたいに女の子をやたらめったら手を出すような奴に言われてもな。

 そんなのと違って、僕はミユ一筋なんだ。幼なじみとして一緒に過ごして、いつも僕の事を想って大好きでいてくれる彼女が……さ!」

 

 

 

「……こんな時でも、フウタは相変わらずだね」

 

 少し呆れてはいるものの、ミユもそんな彼が、やっぱり好きなのだ。

 

「ま! それが僕だからね。……多分そこは、一生治らないだろうし、さ」

 

 フウタは得意げに、彼女にウィンクを向ける。

 

「そう言うことだからさ、もういいだろ?

 現実ならまだしも、ここは仮想空間だ。こんな人数で囲まれたって、いざとなればログアウトすればいいだけさ。

 だからもう、僕たちに構わないで欲しいな!」

 

 彼にしては、なかなかに決まった態度ではあった。つまり……恰好良かったと、言うことだ。

 

 

 

 これでもう、話はついたとフウタ達は思った。……しかし。

 カインの余裕はそのまま。そして……そのままこんな話を。

 

「ふむ、言いたい事は分かった。

 ――ただ、それなら彼氏らしく、格好良く私を倒せば済む話じゃないか?」

 

「それは……」

 

 思いも寄らない発言に、フウタは言葉を詰まらせた。

 

「そしたら君が愛しているミユちゃんにも、いい所が見せられるじゃないか。むしろ一石二鳥だとも。

 それとも……私と戦って勝てる自信がないのかな?」

 

「うっ!」

 

 それは幾らか図星だった。

 

「まぁ、それでも私は構わないけれどね。

 勝てない強い相手には勝負を挑まないのも、一つの手だ。うんうん、仕方ないとも」

 

「……」

 

 

 

 これはかなり困った状況だった。

 さっきの言葉で引き返すと思っていたフウタだったが、逆にカインに追い詰められた。

 ふと横を見ると、ミユは心配そうにフウタを見ていた。

 

 ――ミユがいるのに、ここで引き下がるだなんて、僕には――

 

 ああも言われて引き下がるなんて、とても出来なかった。

 

 ――だってミユを取られたり、負けたりするのは嫌だ。相手は強そうだし。けどここで逃げたら、それこそ彼女を失望させるかも。

 そんなの、もっと嫌に決まっている。……どうしたら――

 

 答えの決まらないフウタ。

 ……しかしその時。

 

「その勝負、俺たちが受けてやるぜ!」

 

 代わりに答えたのは、ジンだった。

 

「おや? 私はフウタに聞いたつもりだったんだが」

 

「俺はジン、フウタのバディーさ。だからタッグバトルと言う条件なら、戦ってやると言っているのさ。

 そっちはフォースなんだろ? だったそっちもタッグを組む相手くらいは工面出来るんじゃないのか?」

 

「……ジンのやつ」

 

 自分を置いて話を進めるジン。フウタは一人複雑な様子である。

 

「ふむ。タッグバトル、ねぇ」

 

「悪い話じゃないだろ。それとも、そっちがタッグで戦うのが苦手なら、話は別だけどな」

 

「ジン……か。ずいぶん言うじゃあないか」

 

 

 

 カインとジンの間に、視線が交差する。

 そして……。

 

「オーケー。ならそのタッグバトルの挑戦、受けようじゃないか」

 

 彼はその提案を、受け入れた。

 

「そうか。まぁ俺たちだってそれなりに強いんだぜ。簡単に勝てると思うなよ」

 

「ふっ、それは楽しみだな。……ただ、そう言えば」

 

 するとカインは、何かを思い出すかのような表情で、続ける。

 

「私が勝った時の条件は伝えたが、もし君たちが勝てた場合の話がまだだったな。

 そうだな……じゃあ、二人が私に勝てたら、『アレ』をプレゼントしよう」

 

 カインがそう言って示したのは、頭上に浮かぶ戦艦ドミニオンだった。

 さっきまでずっと待機していた周りのダイバー。しかしこの突飛な提案にはさすがに、どよめきを隠せない、

 

「待ってください、リーダー! それはいくら何でも不味いですよ」

 

「あのドミニオン、一体どれだけ掛かっているのか。それを……」

 

 騒ぐ周りではあったものの、カインは。

 

「ごちゃごちゃ騒がない。大体、私が負けると思っているのかな」

 

「それは……」

 

 彼に制され、途端に騒ぎは収まった。

 再び、カインはフウタ達に顔を向ける。

 

「と言うことで、この挑戦を受けるとしよう。……フウタも、それで構わないかな」

 

 さっきまでずっと黙りっぱなしのフウタにも、最終確認をとる。

 最も、こうなってしまえばもう後には引けなかった。フウタは黙ってこくりと頷く。

 

「了解したとも。――なら、さっそく勝負を」

 

 

 

 戦いの火ぶたが切って落とされようとした、その時。

 

「ああっと、リーダー!」

 

 取り巻きのダイバーが、何かを思い出した様子でカインに駆け寄る。

 

「どうした? 今から戦いを始めると言うのに」

 

「その、今は不味いですよ。何しろ……」

 

 彼は耳打ちで、何かを伝える。

 

「――おっと、それは私も忘れていた。これはいけないな」

 

 はっとした様子のカイン。そして改めてフウタ達に対して

 

「……悪いが今日は、既にあるダイバーとガンプラバトルの約束をしていたんだった。

 恥ずかしながら、前にその相手と戦って負けてしまったのさ。だからリベンジマッチを申し込んだわけだけど……すっかり忘れていた」

 

「へぇ、ちなみにどんな相手なんだい?」

 

 ジンは少し気になる感じで尋ねると、カインは

 

「それはな、ハクノって言う白髪の、ヤンキーっぽいやつなのさ。

 あっちもタッグで戦うのを得意としている感じだけど、私とは一対一でな。……最も、それでもかなり強い相手ではあるんだが」

 

「ハクノ……か」

 

 それはフウタとジン、二人にとっても因縁の相手だった。

 

「おや? もしかして知っている相手だったか?」

 

「まあな。俺たちにとっても因縁があるからさ」

 

「へぇ……世間は狭い、と言うことか。

 ――さて」

 

 

 

 すると上空のドミニオンから一機のシャトルが、屋上へと降り立つ。

 辺りのダイバーは続々とその中へと乗り込み、取り囲んでいたウィンダムも、飛び立って行く。

 

「そう言う事だから、私たちはこれにて失礼するよ。お楽しみは後で取っておくと、言うことさ。 さらばだ、フウタ、それにジン」

 

「……」

 

「ああ、次会った時には、目にもの見せてやるとも」

 

 フウタは結局黙ったまま。そしてジンは、そうカインに言葉を返す。

 

「ふふっ、それはどうかな?

 ……最後にミユちゃん。君とのデート、心待ちにしているよ」

 

 カインはミユに微笑みかけ、手を振る。

 そして、彼もシャトルに乗り込むと、機体はそのままドミニオンへと戻って行ったのであった。

 

 

 ―――― 

 

 フウタ、ジン、ミユ、そして……ロッキー。

 彼ら四人は飛び去って行くドミニオンの後ろ姿を、しばらく眺めていた。

 

「……はぁ、ようやく行ってくれたか。

 三人とも大変な目に遭ってしまったな」

 

 ロッキーは三人に、そう声をかける。

 

「特にミユちゃん、あのカインとデートの約束を取り付けられてしまうなんて。

 ……まぁ、あいつは面倒な奴だが、悪人ってわけじゃない。それにたった一回だけでもあるし、俺が言うのは何だが……あまり気にしないでくれたまえよ」

 

 彼はミユに励ましの言葉をかけるが、彼女は首を横に振る。

 

「私は大丈夫。だって、フウタとジンさんがいてくれるから。

 二人とも強くなったし、……あんな相手なんて、コテンパンにするんだから!」

 

 これにはジンも、ははは、と笑う。

 

「俺こそ悪い、勢いでついあんな勝手な事を言ってしまってさ。今考えると、あまりにも無責任すぎたな」

 

「大丈夫だよ。むしろジンさんがあんな風に言ってくれて、恰好良かったんだから」

 

「ありがとう、ミユちゃん。……とにかく、俺たちも全力を尽くして、絶対にあのカインって奴を倒すからさ。

 なぁ、フウ――」

 

 ジンはすぐ傍のフウタにも、声をかけようとした。……が!

 

 

 バシッ!!

 

 

 言葉を言い終えない内に、フウタは振り返ったジンの顔が目に入ったかと思うと、いきなりその顔面に強烈なパンチを食らわせた。

 

「なっ!!」

 

「フウタっ!」

 

 これには見ていたロッキーも、それにミユも、強いショックを受けた。 

 そして殴られた当のジンはと言うと。

 

 

 いきなり殴られ、後ろに数歩よろめいた。しかし殴られたと言っても、ここはGBN、つまり仮想空間だ。

 殴られたとしても、現実のように痛みなんて殆どない。……しかし何も言わずにいきなり殴りかかって来たこと、それはショックだった。

 

「――っ、どう言うつもりだよ!」

 

 ジンはあまりの理不尽に抗議するが、対してフウタは。

 

 

 

「それはこっちのセリフだ! 勝手にあんな勝負を受けるだなんて、何考えているのさ!」

 

 ここでようやく話した言葉は、ジンへの強い抗議の言葉だった。

 

「確かに俺も軽率だったし、悪いと思う。

 ……けどそれは、フウタが何も答えられなかったからじゃないか」

 

「だからと言ってあんな事、無責任じゃないか!

 絶対勝てる保証なんて、そんなのないのに……なのにあんな」

 

 ジンは弁明するも、それでもフウタの怒りは収まりきらない。

 もはやジンも、どうすればいいのか分からなくなって来た

 

「じゃあ、あの時にどう答えるべきだったんだ? それにもし、勝負を受けたくなかったのなら、普通に断りさえすれば済む話じゃないか」

 

 するとフウタは……また言葉を詰まらせてしまう。

 

「それは……だって……」

 

 

 

「止めてよ、二人とも!」

 

 するとミユは、とうとう二人を止めに入った。

 

「ごめんなさいジンさん、気持ちは分かるけどあまりフウタを責めないで。

 ……フウタも、あんな風に殴って、ジンさんに強く当たるなんて良くないよ。そこまで気にしなくても、私は全然大丈夫だから」

 

「……」

 

「――ほら、もし勝負に勝てなくても、たった一回のデートくらいじゃない。

 それだけで私とフウタの絆がどうにかなるって訳じゃないんだから。

 だから……そんなに思い詰めないで」

 

 

 

 ミユの言葉に、フウタはしばらくの間黙っていた。

 しかし――

 

「もっと、頼りにならなきゃなのに。……ミユにふさわしいパートナーとして、僕は」

 

 彼はそう、一人呟いていた。

 さすがにジンも、この様子には心配になる。

 

「おい、フウタ。……やっぱりお前」

 

 だが、そんな心配もフウタには届かない。

 途端に彼は、きっとジンを睨む。

 

「うるさいよ。言っただろ、ジンの顔なんて見たくないって。

 ……それに、ごめんミユ。本当に……さ」

 

 

 

 そう言い残すとフウタは、これ以上何も言わずにメニューを開き、GBNをログアウトした。

 

「あっ――」

 

 一方的に姿を消したフウタ。ジンはこの態度に、ますます気にかかる。

 

「あーあ、あの坊や、へそを曲げちまったよ。いきなり過ぎて、俺には何が何だか分からないぜ」

 

 この状況に、ロッキーは訳わからない様子であるが、それはジンも同じである。

 

「俺だってそうさ。今回のフウタはかなりおかしかった、どうしてああなったんだ?

 そりゃ、あんな態度にはムカつくけどさ、ああ怒ったり、落ち込んだりで……心配になるんだぜ」

 

 そんな風に話す彼に、ミユは近づく。

 

「あの、ジンさん」

 

「……どうしたんだい?」

 

「本当にごめんなさい。フウタがジンさんに、色々と迷惑をかけちゃって」

 

 彼女はとても、申し訳なさそうにしていた。

 

「俺はそこまで気にしてないさ。むしろ、あんなの初めてだったから、それは心配なんだけどさ」

 

「ありがとうね。あんなにひどい事言っちゃったのに、それでもフウタの事を気にかけてくれるんだ。

 私も、嬉しいよ」

 

 ミユはジンに、優しい笑顔を見せた。

 こんな風にされるのも、初めてだった。ジンは思わず照れて、頭を掻く。

 

「そりゃあ、どうも。

 ……ところでミユちゃんは、どうしてフウタがああなったのか。知っているかい? 君なら何か知っているんじゃないかってさ」

 

 そう尋ねたジン。すると……

 

 

 

「あそこまで落ち込んだのは初めてだけど、こうした事は前にも、何度かあったんだ。

 フウタがああなったのは、ね、それは――」 

 



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二人の知らない、成長(side ハクノ)★

 宇宙空間を駆ける、二機の機体。

 

 ――へぇ、前よりも良い戦いをするじゃないかよ――

 

 ハクノは『機動戦士ガンダムOO』の量産機アヘッドを改造した自分のガンプラ、アヘッド・ブロッケンを駆りながら、考えた。

 

 

 

 彼が戦う相手――ガンプラは、アヘッドのGNビームライフルによる射撃を高機動で回避しながら迫り来る。

 相手は……一機。それはV2ガンダムの改造機体。

 機動戦士Vガンダムの主役機、Vガンダムの後継機であるV2ガンダムは従来のMSに比べれば小柄ではあるものの、最高と呼ばれる程の性能を誇り更に、桁違いの加速、機動性を誇るミノフスキードライヴを内蔵していた。

 色合いはアヘッド・ブロッケンとほぼ同じ黒鉄色、外見も全体に刺々しく追加装甲が施され、更にバックアップは更に大型化……まるで蝶を思わせるような、小柄な本体とほぼ同等の物を備えている。

 

 

〈今度こそ、お前に勝ってみせるとも! ハクノ!〉

 

 パイロットは長い金髪のキザな青年。彼はそう叫ぶと彼のガンダムの専用装備である双剣を振るう。

 これにアヘッドは回避すると同時に、ウィンダムの左側に回り込み、右腕部に搭載された蛇腹剣で反撃だ。

 まるで蛇のようにうねる剣先、だがそれが届くよりも先に、相手は懐に入り再び斬撃を加えた。

 

「……くっ」

 

 とっさに後ろに飛びのくが、その一撃、いや二撃はアヘッド・ブロッケンの胸部装甲に深い斬撃痕を残した。

 ハクノは悔し気に顔をしかめるも、次にはにやりと笑みを浮かべる。

 

「はは、は。やってくれるじゃないか、カイン!」

 

 

 

 そう、ハクノが戦っていたのは、先ほどフウタとジンが出会っていたダイバー、カインであった。

 

〈前にやられてから、この日を待ってたのだよ。

 この私のガンプラ……V2シュヴァルツドライで君を、打倒してあげるさ!〉

 

 シュヴァルツドライ――それが、カインのガンプラの名であった。

 

「その心意気は褒めてやるぜ。……でもな」

 

 ハクノのアヘッド・ブロッケンはその手に持つGNビームライフルの銃身など、パーツをパージさせる。それにより武器の全長は短くなり、ビームライフルからGNサブマシンガンへと変わる。

 と、同時にマシンガンからビームを乱射するアヘッド。 

 ビームライフル時の一点集中の射撃でなく、複数の弾による連射、しかも二機の距離は互いに近距離。この状況なら――

 

〈くうっ〉

 

 V2シュヴァルツドライはすぐに回避を試みるものの、内四発のマシンガンの弾が機体各部に当たる。

 

 

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 これに続け、アヘッドは再度剣撃を繰り出してかかる。が、向こうもまた剣の刃先で攻撃を防ぐ。

 

〈続けて斬りかかってくるとはな。だが、こっちには剣が二本ある!〉

 

 そう、アヘッドの攻撃を防いだのは、双剣の片割れであった。つまりもう片方はがら空き、今度はシュヴァルツドライが空いた剣を振るいかかる。

 

 剣の刃先はアヘッド・ブロッケンの胴体を貫こうと。

 

「おっと――少し甘かったな!」

 

 予想通り。まさにそう言うかのようにハクノは笑みを浮かべた。

 次の瞬間、剣が届くよりも早く、アヘッドはその脚部で鋭い蹴りを見舞った。

 

〈!!〉

 

「例えそうだとしても、こっちにだって二本、足があるんだぜ。……そして!」

 

 蹴りを食らって、吹き飛ばされるシュヴァルツドライ。二機の距離は幾らか離れはしたが、アヘッドの蛇腹剣なら。

 

「これで、決まりだぜ」

 

 うねる剣は伸び、そしてシュヴァルツドライのその胸を――深々と貫いた。

 

 

 

 

 ――――

 

「しかし、まぁ良い勝負だったぜ。後少し実力が違えば、多分負けていたのは俺だったろうさ」

 

 ガンプラバトルの後、ハクノとカインの二人はロビーにてそんな会話をしていた。

 

「……ふっ。私もあれから腕を上げたとは思ったが、まだまだと言う所か」

 

「それでも俺のブロッケンに、あんな傷をつけた事は褒めてやるさ。

 ははは、もちろん俺としては悔しいって言うのもありはするんだけどよ」

 

 それでも満足の行く戦い、ハクノも、もちろんカインも、その気持は同じだった。

 

「また戦いたいものだな。三度目の正直、今度は私が勝つとも」

 

「くくく、さてな。悪いがその時には、また俺が勝たせてもらうさ」

 

 二人共互いに、そんな感じだ。

 

 

 

 すると……そんな中でカインはある事で話題を口にする。

 

「……そうだ。勝負で思い出したが、実はついさっきある二人にタッグバトルを申し込まれたんだ 最も、それは私が二人と一緒にいた、可愛い女の子と付き合いたいからなんだがな」

 

「ほう?」

 

 ハクノはそれに、いくらかの興味を持った。

 

「また女の子目的、か。出来ればほどほどにした方がいいとは思うが……まぁいいか。 

 それで戦う空いてってのは、どんな奴なんだ?」

 

「相手は見たところ、ただのどこにでもいるエンジョイ勢というか、言わば普通の奴らさ。

 姿は、そうだな。青い髪のネコミミ少年と、旅人風の格好をした灰色髪の青年の、二人組だよ」

 

「おい……それってまさか」

 

 カインの話に、彼は反応した。そしてこう尋ねかえした。

 

「もしやその二人の名前と言うのは、フウタとそれに……ジン、なんじゃないか?」

 

「おお、よく知っているじゃないか! ハクノの知人でもあるのかな?」

 

 苦々しげに、頷くハクノ。

 

「ちょっと因縁があってな。まさか、ここで名前を聞くとは。

 俺もまた、二人と戦う予定なのさ。でも……」

 

 彼は半分呆れた感じで、首を横へと降る。

 

「カインの言う通り、二人ともアマチュアのアマチュア。俺はもちろんカインさえ、足元にも及ばないだろうさ」

 

「ふむ」

 

 一人うんうんと納得するようなカイン。そしてこう口を開く。

 

「となると、私の勝利は確定か。少し拍子抜けであるが、まあいい。ミユちゃんとのデートは決まったも同じなのだからな」

 

  

 カインは余裕満々。 

 それは当然、戦う相手は自分より数段も格下だと、考えているからだ。

 しかし果たして、本当にそうだろうか?

 何しろハクノも、それにカインも、フウタとジンがあれからどれだけ成長したのか……まだ知らないのだから。

 

 

 




 カインの機体、V2シュヴァルツドライはこんな風。
 V2ガンダムがベースですが、だいぶ変わったかな


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気になるフウタに、ついて(Side ジン)

 ――――

 

 GBNをログアウトしたジンは、一人電車に乗っていた。

 電車に揺られて彼は、さっきの事にに思いを巡らせている所だ。

 

 ――うーむ、これはまた、妙ちくりんなことになったな――

 

 フウタは怒り出し、また女たらしのダイバーに絡まれては、何故か勝負を挑まれることになった。

 そして……ミユから聞いた話も。

 

 ――まさかあんな風に、ずっと考えていたとはな。……いや――

 

 

 

 まだはっきりとは、実は分かっているわけではない。何しろこの話をした当のミユでさえ……。

 

『でも私もはっきりとは、分からないんだ。

 あくまで私の考えだしそれに、フウタにも聞いたわけでもないから。だから……もし良かったらジョウさんに会って話してみるのもいいかもね』

 

 彼女から聞いた、フウタの秘密。それを確かめるためにジンは、ジョウに直接会いに行くことにしたのだ。

 ちなみにミユはミユで、フウタに会って話をして来るだそうだ。大好きな彼女からの言葉ならきっと、問題はないと思う。

 

 

 

 もちろんGBNで会った方が手っ取り早いとも考えたが、リアルでの彼は模型店を営んでいるらしい。だから彼は。

 

 ――せっかくだから何かガンプラでも、買いたいって思ってたしさ。丁度いいよな――

 

 店で何を買おうかとも、ジンは考えを巡らせる。しかし、それでも。

 

 ――けど、あくまでも目的は、フウタの事だ。

 だって放ってはおけないよな。何しろ俺は……フウタのバディなんだから――

 

 

 

 ――――

 

 それから電車を降りて、どこにでもあるような中規模な町へとやって来た、ジン。

 

 ――さてと、と。ここから模型店に向かうわけだが――

 

 彼の手元にあるのは、駅から模型店までの道筋が簡単に記された、手書きの地図。

 

 ――フウタから聞いた情報を元に書いてはみたが、これで大丈夫……か?――

 

 自分で書いた地図、お世辞にも上手いとは言えない出来のそれを見ながら、つい頭が痛くなる。と言っても、まぁ読めなくはないし、大体のことは分かる。

 

 ――ま、いいか。とりあえず行けば分かるし、それで着けば万々歳だ――

 

 まずは地図の通りに、行くしかない。

 ジンはそうすることにした。

 

 

 

 ――――

 

 と、心配はしていたものの、それは奇遇だった。

 

 ――全然あっけなく、簡単に到着してしまったな――

 

 目の前には、ヒグレ模型店と看板がかけられた

店があった。窓には模型のポスターが色々と貼られ、その隙間からは積まれた模型の箱がいくつも置かれている。

 まさに、個人経営の模型店、と言った感じだ。

 

 ――ここがリアルのジョウさんが経営している店か。現実で合うのは初めてだから、ちょっとドキドキはするぜ――

 

 とにかく、彼に会うためにここに来たのだ。

 ジンは店の扉を、そっと開いた。

 

 

 ――――

 

 扉もアナログな手動ドア。

 そして店の中はやはり、模型の箱だらけ。

 あちこちに積まれた箱の山が並び、棚にはスプレー缶や瓶に入った、多数の塗料が置かれている。

 

 ――これは、城のプラモか。それにあっちには戦闘機と戦車のものまで――

 

 いわゆる、スケールモデル。ガンプラなどとは異なり、現実世界に存在していた物を模した、模型である。

 ジンはあんまりそうしたのは作らないものの、様々な模型が置かれているこの場所、ただ見ているだけでも楽しかった。

 

 ――この空気感、個人経営の店ならではって感じだな。

 ジョウさんは、店にいると思うんだが――

 

 そう想い、彼はレジの方に目を向けたのだが……。

 

 

 

 ――あれ? まさかの、留守かよ。困ったな――

 

 レジには誰もいなかった。

 

 ――いくら個人でやっているにしても、不用心だぜ。泥棒が入って来たらどうする気なんだか

――

 

 半分呆れた感じの彼であったが、その時に後ろから。

 

「おや? これは新しいお客様かい? よく来てくれた、歓迎するよ」

 

 声がした方を見ると、そこには三十代の男性店員の姿がある。

 彼の姿、ジンには見覚えがあった。

 

「貴方は……ジョウさん、ですか」

 

 

 これまでGBNで、ガンプラバトルについて教えてくれた、ジョウ。

 彼はまさに同一人物、と言うことだろう。

 それに向こうも、ジンの顔を見て察した事があったようだ。

 

「おや、よく見れば君は、もしやジンかい?

 この頃フウタとタッグを組んでいるダイバーがいてな、君はそれとそっくりな気がしたのさ」

 

 ジョウの言葉に、ジンは頷く。

 

「そりゃ勿論。色々と教えてくれて、感謝しているさ。

 フウタからは模型店を営んでいるとも聞いたからな。リアルでも会って見たいとも思ったし、プラモも何か買いたかったしな」

 

「そうか、そうか。俺ももちろん大歓迎だとも。

 んじゃ……適当に見ていってくれよ」

 

 

 

 ジンは模型店のあちこちを眺めながら、買う模型を探していた。

 最も、彼が主に作っているのはロボット系の類。スケールモデルなどは範囲外なのだが。

 

「見た感じ、ジンはガンプラと言ったロボット物が好きらしいな」

 

 そんな彼を、ジョウはレジに頬杖をつきながら眺めてる。

 ジンはガンプラなどのロボット系のプラモがメインだ。だから見るのはそればかりであったからだ。

 

「そりゃあな。ガンプラはもちろん、他のキットだって色々と」

 

「ふむふむ。

 しかしそれ以外の、スケールモデルだとかも悪くはないぜ。実在したものを自分の手で再現するのは、ロマンでもある」

 

 ジョウはさらに、こんな話も。

 

「それこそフウタはガンプラも好きだが、どっちかって言うと航空機のスケールモデルが好きなんだよな。

 だからGBNのダイバールックでもパイロットスーツを着ていると言うか。まぁとにかく、それだけ好きなのさ」

 

「ふむ。それは俺も、分かる気がするぜ。

 ……あっと、そうそう」

 

 

 

 

 ジンはジョウに顔を向けると、ある話を切り出す。

 

「あのさ、ジョウさん」

 

「急に改まって、どうした?」

 

「フウタの事だけどよ、あいつ、ミユを滅茶苦茶好きなんだよな」

 

「……くくくっ、そりゃあそうさ。だって彼女は彼とこれまで、ずっと一緒にいたんだからな」

 

 何気ない彼の問に、ジョウは当然みたいに話す。

 

「フウタとミユちゃんは、昔から幼なじみ同士なのは知っているだろ?

 まぁ幼なじみとしても兄弟みたいな関係って場合もあるけど、二人の場合はそれとは違った。

 もっとも恋人になったのは高校に入ってからだが、そうなってからはもっと互いに好き好きというか、ラブラブでさ。

 俺も二人が小さい頃からの付き合いで、そんな風に恋人になったのも自分の事みたいに嬉しく、微笑ましくも思ってはいるんだが。それでも見ていると、たまに恥ずかしくなったりも……な」

 

 

 

 

 そんな事を話す彼だが、ふといくらか考えるような表情となる。

 

「ただ、フウタの奴は、少し真面目過ぎる所があると言うか。……だから、今回のガンプラバトルの事だって」

 

「やっぱり、関係があるのか」

 

「ん? もしや何か聞いたりとか、したのかい?」 

 

 やっぱり、と言うことは前もって何かを聞いていたということだ。

 ジョウはそう聞くと、ジンはまあねと、答えた。

 

「そうなんだ。……実はフウタと、ちょっと喧嘩と言うか、怒らせてしてしまってさ。

 だからミユちゃんに聞いたら、色々教えてくれた。どうして、あいつがああ怒ったり落ち込んだのか」

 

「そっか……」

 

 

 

 ジョウは腕を組み、考えるそぶりを見せる。

 

「やっぱり何か、知っているのかい?

 なら教えて欲しい。俺も、ちゃんとフウタに謝りたいんだ」

 

 ジンの言葉に、彼は何か決めたように、言葉を続ける。

 

「……分かった。そこまで言うなら、俺も答えられることは答えよう。

 さっき話した通り、フウタはミユちゃんの事を好きでいるのは、当然知っての通りだろう?」

 

 ジンは頷く。

 

「そりゃ、もちろん」

 

「………彼にとって、ミユちゃんは幼なじみ。それに彼女、とっても気立てがよくて健気な、いい子だからな。

 昔からミユちゃんに優しくしてもらって、フウタにとっては良い幼なじみだったのさ」

 

 だが、ジョウはため息を一つつく。

 

 

 

「だからこそ……か。フウタはそんな彼女に対して、自分が相応しい相手にならなきゃって、変な思い込みってのがあるんだ」

 

「はっ?」  

  

 ――それって一体、どう言うことだ?――

 

 これにはジンも、訳が分からない様子だった。

 

「フウタは……とりだって特別でもない、普通の少年さ。

 模型と写真が少し趣味で、家庭は普通、成績や運動神経も普通、人付き合いは僅かに苦手なくらいの、珍しくない奴だ。

 ただ、そんな彼にとって唯一特別だって言えるのが、ミユちゃんと言う幼なじみがいる事だった。あんなに絵に描いたような理想の幼なじみ、いるものじゃないからな。

 それはフウタ本人が、一番よく分かっていた」

 

「……」

 

「もちろんミユちゃんが大好きだって気持ちもちゃんとある。だが、同時にそんなミユちゃんに対して同じくらい、いやそれ以上に何かしないと、想いを伝えないとって言う強迫観念じみたのがずっとあるわけだ。

 あんなに自分を好きでいてくれるミユちゃんに、ふさわしい相手にならないと……ってな」

 

 思えば、フウタはよくミユに対して好きだとか、自分の気持ちをよく伝えていた。

 ミユに対してベッタリなのも、その面の裏返しである部分も少なからずあるのだろうと、そうジン

は考えた。

 

「やっぱり、ミユの話していた通り、だったな。そこは彼女も少し心配してたりしていてさ、隠し事や無理も、しているっぽくってさ」

 

「ああ……やっぱ、そうか」 

 

 ジョウもこれに想像通りとも言った、そんな顔をしていた。

 

 

 

 そして、ジョウはジンにこんな事を尋ねる。

 

「ところで、フウタが君の手伝いをしているのは、ウィングガンダムゼロカスタムのPGを、譲ってもらいたいと言う条件で、だろ?」

 

「そうだ。フウタにはその条件で、俺と組んでいるんだが……ジョウさんにはその事を話したっけな」

 

「いいや、たぶんジンからは聞いてないな。フウタから少し聞いたのさ。

 ではもう一つ質問だ。じゃあなぜ、ゼロカスタムを欲しいのか分かるかい? それに他の店を探したりネットを使ったりと手段は色々あるのに、どうしてこんな回りくどい手段で手に入れようとしているのは、どうしてか」

 

 この問にジンは……答えようとしたが。

 

「それは単純に、フウタがガンプラが欲しいから……と、言いたいところだが、それだけじゃないみたいだな」

 

 思い返せば、どうしてそこまでガンプラ一つにこだわっているのか、ジンには分からなかった。その為に数か月、一緒にガンプラバトルに励んでいる。ただのエンジョイ勢が、だ。

 

「考えても分からないな、俺には。どうして、フウタはあんなになって俺に付き合っているのか。

 もしや、ガンプラそのものが理由じゃ、ないのか?」

 

 それを察したジン。ジョウはその通りと、言いたいかのようだった。

 

 

「ようやく気付いたか。

 ――ああ、ウィングガンダムゼロカスタムそのものが理由じゃない。

 フウタが頑張っている、本当の理由は……」 

 

 



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十年前の回想と、フウタの約束(Side ジン)

十年前――

 

「やぁ、いらっしゃい、小さなお客さん」

 

 ジョウはその時は二十代と若く、店も父親の手伝い、アルバイトとして店員をしているくらいであった。 

 

「また遊びに来たよ! ジョウおじさん!」

 

「おじさんはないだろ、フウタ? 俺はまだ二十三……、まだまだ若いんだしさ」

 

 店にやって来たのは、小さい男の子だった。

 彼がまだ小さい頃のフウタ、よくこの模型店に遊びに来てガンプラを買って行く、言うなれば常連である。

 だからこの時から、フウタとジョウは互いによく会ってもいる、知り合いでもあったのだ。

 

「いいじゃん! 別に小さい事だし」 

 

「あはは、参ったなこりゃ? ところで……」

 

 ジョウはそう言って、フウタのすぐ隣に視線を向ける。

 

「そっちの女の子は、一体誰なんだい?」

 

 フウタは一人で来たわけではなく、もう一人、同い年の女の子を連れて来ていた。

 彼と手を繋いでいる、亜麻色髪の可愛い女の子。背丈はフウタよりも少し小柄。……この時はまだ、フウタの方が背が髙かったのだ。

 こっちは、ジョウにとっても初めて見た。

 

「あの、初めまして……です」

 

 女の子は少し緊張しているようで、ぎゅっとフウタの手を握る。

 

「大丈夫だよ、ミユ。あの人は悪い人なんかじゃないから。ちょっと、柄は悪いかもだけどさ」

 

「おいおい、そりゃひどい言いようだな。

 でもミユちゃんって、言うんだな。良い名前じゃないか。……俺はジョウ、よろしく」

 

「……うん」

 

 ミユも少し安心したのか、にこりと微笑んだ。

 これには一緒にいるフウタも、

 

「ミユが安心してくれて、僕も良かった。

 ……ジョウさん、彼女は僕の家の隣に住む子で、大の仲良しなんだ。

 だから、せっかくだから今回はミユも一緒にって、思ったんだ。プラモとかに興味を持っていたから、今日は一緒に来たわけ。

 ねっ、ミユ!」

 

 フウタとミユは顔を合わせ、にこっと笑いあう。

 

「ははは! 若いお二人同士、微笑ましいな。

 ちなみにさ」

 

 ニヤニヤしながら、ジョウはこう聞いてみた。

 

「ところでフウタ、彼女とはただの友達なのかい? それとも、恋人だったりか?」

 

「えっと、私は……」

 

 これにミユは、顔を赤らめてもじもじするも、フウタは。

 

「そりゃあもちろん、誰よりも大好きな、特別な人だよ! ジョウさん」

 

「わわわ、っ……フウタ!」

 

 いきなりそう言われて、ミユはさらに顔を真っ赤にしてしまう。

 これにはジョウも大笑い。

 

 

「ははははっ! これはまた、愉快な二人じゃないか。

 ……とにかく、見て行ってくれよ。ちなみにミユちゃん、もし何か欲しいのがあったら特別に、ある程度だったらタダでプレゼントするぜ」

 

「えっ! 本当にいいの?」

 

「もちろんさ。何しろお得意さんの、彼女なんだからな!」

 

「さすがジョウさん、太っ腹!

 ミユも何か作ってみたいって言ってたし、良かったね」

 

 まだ顔を赤らめたままだけど、ミユも嬉しそうな様子だった。

 

「じゃあ見て行こう! 僕のプラモもだけど、ミユのも一緒に、さ!」

 

 

 

 フウタは彼女の手を引いて、共にプラモを見て回っていた。

 

「へぇ……本当に、たくさんあるんだ」

 

 初めて来る模型店、ミユはワクワクとしている感じだった。

 あちこちにある、色んな模型。女の子であっても十分に楽しめている、その様子にフウタも嬉し気だった。

 

「まーね! 車のプラモもあるけど、こっちには飛行機のプラモだってね。

 僕としては飛行機の方も作りたいけど、ジョウさんからは大きくなってからって言われたから」

 

 二人は今度は、ガンプラコーナーへと。

 

「こっちのロボット……ガンプラなら、僕でも作れるから。

 だからミユも作るとしたら、こっちがいいかも」

 

「あっ! これはフウタの部屋にあるロボットだね」

 

「そうだよ。ガンダムって言うロボット作品の機体で、たくさんあるんだよ」

 

「ガンダム……面白そうだね、フウタ」

 

 

 

 ――へぇ、気に入ってくれているようで、何より――

 

 ジョウは一緒にガンプラを見ている小さな二人を、少し離れた所で眺めていた。

 

「……ミユはプラモを作るのが初めてだから、このハロだとかどう?」

 

 フウタが勧めたのは、ガンダム作品のマスコットである、丸いロボットのプラモ。

 

「こっちは可愛いね。それにこれなら、私だって作れそうだし」

 

「あとミユが作るなら、この小さいクマみたいなプチッガイもおススメだよ。

 どっちとも色は選べるから、好きなのを選べるんだ」

 

「うーん、どっちにしようかな。迷うよ……」

 

 そう悩んでいるミユ。――で、あったが。

 

 

 

「――あっ」

 

 すると彼女は、ふいに何かに目を奪われたように、固まった。

 

「どうしたの、ミユ?」

 

「ねぇフウタ、私……あれが欲しいんだ」

 

 ミユが指さしたのは、棚の一番上に置いてある、大きなガンプラの箱。

 

「あの白い翼のガンダム、とても恰好良くて、綺麗なの。

 だから私、これがいい」

 

「えっ、でもあれは……」

 

 しかしフウタはミユの願いに戸惑っていた。なぜかと言うと。

 

「ハハハ! いくら何でもそりゃ厳しいだろ。……PGのウィングガンダムゼロカスタムを、子供が作るだなんてよ」

 

 

 

 ミユが欲しいと言ったのは、パーフェクト

グレート――PGの、ウィングガンダムゼロカスタムだ。1/60の大きさのガンダム、もちろん組み立ても緻密であり、とても小さい子供に作れる代物じゃない。

 

「駄目かな、ジョウさん。……フウタも、私一人だと無理かもだけど、一緒だったら作れるって思うの」

 

「あっ……えっ、と」

 

「だってフウタは、模型が得意だから。これだって作れたり、するんじゃないかなって。

 ……お願いフウタ」

 

 期待の眼差しを向けられて。フウタは相当に困り顔。

 いくら彼でも、PGなんてまだ作れはしない。これにはたまらずジンも、助け舟を出す。

 

「おいおいミユちゃん。あのキットはな、二人には早いんだよ。

 何せ組み立てるのがかなり難しい。だから、悪いがそれは諦めてくれよな」

 

「そう……なの」

 

 ミユは残念そうに、しゅんとしょげた。

 

「あれはもっと、二人が大きくなってからだ。今はミユちゃんはフウタの言う通り、ハロやプチッガイを作った方が楽しいぜ」

 

 

 

 ジョウの説得に、ミユは頷く。

 

「……うん」 

 

 けれどやっぱり、ゼロカスタムのパッケージを、彼女はまだあきらめられないように、少し寂しいように眺めている。

 残念がっている、ミユ。だけど……

 

「ねぇ、ミユ」

 

「――フウタ」

 

 彼女の傍には、フウタがいた。

 

「確かにまだ、僕にはあれを作るのが難しいし、ミユにプレゼントする事だって、出来ない。

 けど、ジョウさんの言う通り、僕が大きくなったら……。それこそ、僕はミユが大好きだから。――だから」

 

 彼はミユの目を真っすぐ見て、そして幼いながらも純粋な心で言った。

 

 

「だから、もしゼロカスタムを作れるようになったら一緒に作ろう。大きくなって、それをミユにプレゼントして、そしたら。

 ミユ、その時には僕と――結婚して欲しいんだ!」

 

 

 

 ――――

 

「……ぶっ!」

 

 これにはジンも思わず吹き出す。

 

「フウタの奴、マジでそんな事を……」

 

 ジョウも思い出し笑いでニヤニヤしながら答える。

 

「そりゃ、まだ小さい頃だからな。結婚、と言うのもまだ分かっていない所もあったんだろ。せいぜい一番大好きな相手とする事ぐらいにしか……間違ってはいないが」

 

「でもあのフウタなら、あり得るかも、か」

 

 ずいぶんジンは、フウタとともにいた。だからそれくらいは分かる。しかし……。

 

「そう言うことだ。だから、ああしてゼロカスタムを手に入れるために、強くなろうとしているんだ。 ……フウタにとってあれは、今でも大切な約束。ミユへの好きだって気持ちの、証明でもあるからな」

 

 そうジョウは解説し、そして少しため息交じりで、続ける。

 

「あいつ、自信がないんだよ。

 何の取り柄もない自分が、本当にミユに好かれるに相応しいのか。だから……想いだけでも証明しようとあがいているんだ」

 

「だから、あの時も……」

 

 GBNでフウタが激高したのも、そこに触れたせいだ。そうジンは気づいた。

 

「ガンプラだけ手に入れる方法なら他にもある。なのにジンの提案を受けたのも、そうしたいフウタ自身のためさ。

 困難を乗り越えて、そして目的を果たした方がより、自分の想いに自信が持てるかもって。

 ははは……身勝手ではあるけど、全部ミユちゃんのためなんだよ。少なくとも、本人にとっては」

 

 

 フウタがゼロカスタムが欲しいのも、ガンプラバトルで強くなるのも、どちらもミユに想いを伝えたいため、そして彼女が好きだからこそ。

 ……そのために、ある意味ジンの提案を、利用した部分もあるかもしれない。けれど、フウタも本気ではあった。

 

「――そっか」

 

 話を聞いて、ジンは呟きそして……。

 

 

 

「ありがとう、ジョウさん。色々と教えてくれて。

 俺は――フウタとまた、ちゃんと話し合わないといけないな」

 

 



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公園での、二人の思い出話と(Side フウタ)

 一人フウタは、町の通りを歩いていた。

 別に目的がある訳でなく、ただ気を紛らわすために、だ。

 

 ――はぁ、僕も悪いことしたよな――

 

 彼も彼で落ち着いたらしく、反省もしていた。

 

 ――ジンも間違ったことは、別にしてないんだ。確かに頑張りも足りないかもだし、それにミユにはあんなに情けない所も見せたし――

 

 今更、会わせる顔もない。だからこうして一人でいる、わけなのだが。

 ……いつまでも、そうしているわけにも、やはりいかない。

 

 ――どうしよう。本当に……困ったな――

 

 

 

「おや? 誰かと思ったら、フウタじゃないか!」

 

 ふいに横から、誰かが呼び掛けて来た。

 

「……ハクノさん」

 

 そこにいたのは、銀髪を後ろに束ねた鋭い目つきの青年。彼は、マリアの兄である、ハクノだった。

 

「ここで会うなんて思わなかったよ。てっきり市内で暮らしているって、考えていたから」

 

「ははは! その通りなんだけどさ、欲しい旧キットが近くの店では扱ってなくてよ、こうしてここまでやって来たんだぜ。

 この町にはヒグレ模型店って言う、個人経営の店があるみたいでな。今から向かう途中だったんだ」

 

「……へぇ! あそこは僕もよく行く店なんだ」

 

 意外な名前を出されて、フウタの表情は少しだけ明るくなる。

 

「フウタの行きつけ、と言うわけだな、そりゃ楽しみだ。ところで――」

 

 ハクノは腰に手を当て、屈んで顔を覗き込む。

 

「その、さ……。大丈夫かい?何だか落ち込んでいるようにも見えるからさ。

 せっかくだ。話くらいなら、聞いてやるぜ」

 

 そう聞いてくる彼。さすがにフウタは悩んだものの、悪い人間ではない事は知っていた。

 ――だから。

 

「ちょっとだけ、ジンと喧嘩しちゃったんだ。どうしてかって言うと――」

 

 フウタは簡単に、さっきの事を簡単に説明した。

 

「ふむふむ……なーる程、な」

 

 話を興味深そうに聞いていた、ハクノ。……そして。

 

「そりゃあ悪いのは、ジンの奴だぜ。大体フウタは厚意であいつの手伝いをしているんだろ?

 なのに少し羽休めをしていたくらいで、バトルに全力を出していないだなんて、何様のつもりなんだと言う感じだぜ」

 

「……でも、僕だって言い過ぎたしそれに、手まで出ちゃったし」

 

「確かにフウタだってやりすぎな部分はあるかもけどさ、そこはまぁ、謝りなよ。

 結局は問題なんて突き詰めれば簡単で、悪いと思った部分については素直に、謝れば済む話だ。

 俺もたまに妹と喧嘩もするが、それで解決して来た。何しろ大切な妹だから……な」

 

 ハクノはそう言いながら、今度はフウタに。

 

「フウタもミユちゃんが大切なんだろう? さっきの話を聞いていれば分かるとも」

 

「それは、まあね。当然だよ。

 僕の大切な彼女……。ミユのためなら僕は、何だって頑張れる」

 

 何気なく呟くフウタは、真剣に続ける。

 

「むしろ頑張んないと。ミユは僕を、昔から好きで想ってくれているから。

 だからその気持ちを、裏切りたくなんてない」

 

「ふむ」

 

 顔に手を当て、考え込むようなハクノ。そして途端にニッと笑うと。

 

「少し考え過ぎかもだが、でもその真摯な想いは、好きだぜ。いっそ……改めてそれをミユちゃんに直接伝えるのも、いいんじゃないかい。

 多分行動で示そうとしているんだろ? けど、言葉でも伝わるんだからそれもきっと、悪くはないぜ」

 

 これにはっとする、フウタ。

 

 ――そう、かな。……僕は――

 

「うん。ハクノさんが、そう言うなら……もしかすると」

 

「そう言うことだと、俺は思うぜ。

 ――さてと、それじゃあ俺はそろそろこれで」

 

 ハクノはそう話すと、この場から立ち去ろうとする。

 最後に彼は、少しだけ付け足す。

 

 

「そりゃあジンの奴は、俺の大事な妹に手を出す気に食わない奴だ。だがフウタ、君にはそんな恨みなんてまったく無い。

 後、これはジンには内緒だが、俺も二人でタッグバトルをするのも楽しみにしている。

 だから――上手く仲直りするのを、心から願っているぜ」

 

 

 

 ――――

 

 ハクノと別れたフウタは、今はまた、別の所に来ていた。

 

 ――やっぱりこうしていると、何だか落ち着くよね――

 

 彼がいた場所、それは住宅地の中にある小さな公園だった。ブランコに滑り台に、砂場。しかし時間はもう五時過ぎで、遊ぶ子供の姿はない。

 フウタはそんな公園のブランコに座って、一人漕いでいた。

 前へ後ろへと、揺れるブランコ。揺れる度に空気を切り、風を感じて心地がいい。

 

 ――ここに一人で来たのも久しぶりだ。でもここは、僕とミユにとってとても大事な場所だから――

 

 

 だから、ここにいると良い気分にだってなる。

 フウタはそんな気持ちに浸りながら、携帯を触る。

 どうやらメールを送ろうとしているらしく、送り先は……ジンに対してだ。その内容は……。

 

 ――直接はアレだし、メールで謝ろう。それでも内容は考えなきゃ、だけど、うーん――

 

 携帯を握りながら彼は、メールの内容に頭を悩ませていた。

 どうしたものかと……考えていたところ。

 

 

 

「はぁ……ここにいたんだ。探してたんだよフウタ」

 

 ここに現れたのは、彼の幼なじみであり、彼女でもあるミユだった。

 

「もしかして、ミユにずっと探させちゃった、かな」

 

「あはは。店だとか場所だとか、町のあちこちを探したんだよ。

 ……ここは真っ先に探したんだけどいなくて。でももう一度来てみたら、フウタに会えた」

 

 それに彼女はおかしそうに、ふふっと微笑む。

 

「でも、フウタがブランコでこうして座っていて、私は探しにここまで来てさ。

 おかしいよね。だって『あの時』と、逆な状況だもん」

 

 ミユは微笑みながら、フウタの隣のブランコに並んで座る。

 

「あの時もまた、夕暮れ空の下で、こんな風に並んで座ってたよね。

 ……一年前、フウタが私に告白してくれた時」

 

 

 

 ブランコに座るフウタとミユ。二人は互いに、熱く見つめ合っている。

 

「そうだったよね。僕は告白しようとミユの事探してさ、そしてここで見つけたんだ。

 小さい頃によく二人で遊んだ、思い出の公園でさ」 

 

 もちろんフウタだって、よく覚えていた。

 

「学校の終わった放課後で、学校にも家にもいなくて、町のあちこちも探して回って。そして見つけたミユは、寂しそうにブランコを漕いでいたよね。

 とても僕は、心配だったよ」

 

 彼の話にミユは、恥ずかしそうに顔を赤くする。

 

「あの時は私のせいで、余計な心配させちゃったね。

 だって……見ちゃったもん。フウタが学校で別の女の子に、『好きだ』って言ってたところ。だからフウタは別の人が好きなんだって思って、それで……」

 

 これにはつい、フウタは可笑しそうに笑う。

 

「あははっ! あれはただ、少し友達だったからミユへの告白の練習相手として手伝ってもらってただけさ。

 僕はずっと、ミユの事が一番だから。別の誰かをそれ以上に好きになるなんて、あり得ないよ」

 

「だよ……ね。

 でもあの時は自信がなくて、そう思ったからこの公園で一人、落ち込んでいたんだよ。

 だけど、そこにフウタが探しに来てくれて、そして私に好きだって、告白してくれたよね」

 

 ミユも今でも嬉しい思い出らしく、照れていながらもニコニコしている。

 

「だってもう、フウタの一番にだなんてなれないって、諦めていたから。

 だから本当はフウタも私の事を同じように想っているって、凄く嬉しかったの」

 

「でも……それで思いっきりミユが抱きついてきたのは、驚きだったさ」

 

「あははー、それだけ私は、嬉しかったんだから」

 

 

 

 二人の雰囲気は、とても幸せ一杯な、そんな感じだ。

 フウタの思い悩んでいる様子も今では、十分に和らいでいる。それを見計らって、ミユは。 

 

「あのね、フウタ?」

 

「ん? どうしたかな」

 

「……GBNでの事なんだけど、フウタはどう思っているの?」

 

 これはまたミユも気になっていたこと。もちろんフウタはもっと、気にしていた。

 

「それは、その。あれから僕も考えてみたんだよ。

 ……やっぱり、僕もやりすぎた所もあった。そこは素直に謝らないとねって」

 

 フウタもあれから反省していると。それが分かって、一安心なミユ。

 

「良かった。だって、喧嘩別れだったから大丈夫かなって心配してたから。

 フウタは偉いね」

 

 まるで彼のお姉ちゃんみたいに、ミユはよしよしとフウタの頭をなでる。

 

「ううっ、そうされると照れる。これじゃ恋人じゃなくてまるで世話好きなお姉ちゃんみたいだよ。

 背丈も僕が低いわけだし、さ」

 

「つい、こうしたくなっちゃったんだよ。

 だって私、昔からフウタの世話を焼くのだって、好きなんだから」

 

「……むぅ」

 

 でもフウタもそう言いながら、やっぱりまんざらでもない感じ。 

 

「それでもさ、僕は偉くなんてないよ。

 だってまだ、ジンに言われた事は怒ってるし。……僕なりには、ミユとの時間を大切にしながら強くなろうと努力しているんだ。だって……」

 

 やっぱりそこは、フウタ自身心の整理がしきれていないようだった。彼には彼で、ある想いだってあったからだ。しかし……。

 その時、ミユは彼が考えもしない事を言った。

 

 

「――知っているよ。

 小さい頃、ウィングガンダムゼロカスタムを買ってくれるって約束、果たすためなんだよね。

 ジンさんがそのガンプラを持っているから、譲ってほしくて、一緒に頑張っているって」

 



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再び確かめ合う、幼馴染との絆(Side フウタ)

 

 これにはフウタも、驚いた。

 

「えっ!? どうして、知っているんだ?」

 

「……実は、お店でジョウさんにフウタが相談しているの、聞いてたんだ。

 フウタが心配でこっそりついて行ったら、ね」

 

 それはガンプラバトルで伸び悩んでいて、ジョウにコーチを紹介して欲しいと頼んだ時だった。

 

 ――あの時、ミユも話を聞いていたなんて。フウタは考えもしなかった。

 ゼロカスタムの事は秘密にして、プレゼントする時に驚かせるつもりだった。なのに、彼女はその事を既に知っている。

 戸惑うフウタに、ミユは続ける。

 

「私との約束、ずっと覚えてくれてたんだ。それだって、とても嬉しいよ。

 それに、フウタは驚かせるつもりだったから、私も知らないふりをしなきゃって思ってたけど。

 この機会だから、フウタと話をしなきゃって」

 

「話、だって?」

 

 彼女は頷く。

 

「うん。フウタって私のために、色々頑張ってくれているよね。

 そこまで想ってくれるの、きっと私にとっては幸せな事だって思うの。けど……フウタは頑張りすぎている部分もあったりで、私、ずっと心配しているんだよ」

 

「……」

 

 気にかけるミユ。フウタは自分でも少し申し訳ない様子では、あったものの。

 

「だって僕はそれだけ、ミユの事が大好きなんだ。 僕は勉強だって、運動だってそこまで出来るわけじゃないし、際立ってカッコいいとか性格が良いとかでもない普通の、大したことない奴なんだ。

 けど唯一、ミユ――君と言うかけがえのない幼なじみが、傍にいてくれた」

 

 フウタは真っすぐ、彼女を見据える。

 

「小さい頃からミユが好きで、それに僕に世話を焼いて、優しくだってしてくれる……。

 僕はだんだんと、ミユへの好きって言う感情が強くなっていったんだ。だからもっと深い関係になりたくて告白もした。

 僕も告白を受け止めてくれて、幸せだったよ。――だけど」

 

 途端、今度はその顔に不安の感情が現れた。

 彼は少し間を置いて、続きが気になるミユに、こう話す。

 

「でも僕は、やっぱり大したことないんだ。

 なのにミユがずっと僕の傍で好意を向けてくれたり、それに恋人にまでなってくれたのは……あまりに幸せ過ぎて。

 だからこんな僕自身その幸福と、そしてミユにふさわしいのか、自信が持てないんだよ。

 だから、少しでもふさわしい相手にならないといけないってずっと――そう思って来たんだ。それ頑張らないと、ミユへの好きだって想いを証明したくて。……だから」

 

 

 

 ここまで話したのは、フウタ自身も初めてだった。

 何しろ言う機会だってそこまで無かったし、それにいくらミユ相手でも、ここまでの気持ちは恥ずかしくて告白出来なかった。

 今だって、恥ずかしさとそれに情けなさで、まともにミユの顔も見れさえしなかった。

 

 

 だけど、ミユはフウタにとても優しい表情を浮かべると――。

 

「――えっ」

 

 途端彼が全身に感じたのは、暖かな体温。

 

「ミユ――僕に」

 

 ぎゅっと、小柄なフウタの体を包み込む、ミユの抱擁。

 思いも寄らないこの状況に、彼はドキっとする。そんなフウタの耳元でミユは呟く。

 

「フウタの気持ち、やっぱり嬉しいな。

 だってそこまで私を好きでいてくれている、私はそれだけで、幸せなんだよ」

 

 とても優しい、ミユの言葉。フウタは途切れ途切れに、返事をする。

 

「でも、僕は幼馴染ってだけで……ミユみたいに何か出来ている訳じゃ、ないんだよ。

 なのに……僕は、本当に好きだと想ってもらえるなんて……本当にいいのかな」

 

 声には少し涙声までも混じっていた。そんなフウタをミユは、まるで子供をなだめるように、続ける。 

 

「私はそんな真っすぐで、頑張り屋さんな……そして私の事を想ってくれている、フウタが好きなの。

 もちろんそれ以外も、全部が全部フウタの事なら、大好きなんだよ。

 これまでだって、今も。……もちろんこれからも」

 

 そしてふふっと笑って、さらに。

 

「私、ずっと嬉しいんだよ。そんなフウタが私を一番大切だって思ってくれて。

 だって……私、普通の女の子より背が大きかったりするし、それに学校のクラスには何人も可愛い子がいて、比べたら私はそこまで可愛く、ないもん。

 取り柄もほとんどないのにそれでも……私を好きだって、選んでくれたんだから」

 

 珍しくミユは、少しだけ自信ないように、下を向いて俯く。

 今度は慌ててフウタが、彼女を励まそうとする

 

「そんな事ないよ! ミユはとても可愛いし、優しいし……よく僕に勉強を教えてくれたり、美味しい料理を作ってくれるじゃないか!

 ミユがそう言ったって僕はちゃんとミユが一番で、とても大切な存在だって思っているから。だから――」

 

「……くすくすくす」

 

 するとそんな中、フウタは下を向いていたミユが、こっそり笑っているのが見えた。それに――自分でも言って、ある事に気が付き、はっとする。

 ミユはくいっと、顔を上げて彼に微笑みかける。

 

「ほら? 私だって、本当はフウタと一緒なんだよ。

 だから……フウタはそんな風に思っているかもしれないけれどね、私もちゃんと、フウタが凄いんだって、偉いんだって分かっているから。

 ……ねぇ、自分が大したことないなんて、思わなくていいの。そんな風に考えてたら……私だって悲しいよ」

 

 そう言われてしまったら、フウタも素直になるしかなかった。

 

「……うん」

 

 ミユの励ましに、まるで心のどこかにあった殻が、ぼろぼろと剥がれるような感じがした。

 

「僕も、ミユを悲しませるのは……嫌だから。

 自分でも無理してたし、それを隠したせいで、ずっと心配もさせていたんだよね。

 ――ごめん。僕は一人で、グルグルし過ぎていたよ」

 

 もう、フウタには変に焦ったり、無理しようと言う気持ちはなかった。

 

「いいの。……フウタはもう、大丈夫?」

 

 彼はもちろんと答えた。

 そして、今度はこんな事も。

 

「もちろん――だけど、無理とかじゃなくて、今度のバトルはちゃんと頑張りたいとも思っているんだ。

 やっぱり、一度は始めたことだしね。自分でもどこまで出来るか試したいしそれに、ミユに僕の恰好良い所、見て欲しいし」

 

 

 そしてフウタはミユに、もっと近づく。

 

「決して無理とかなんかじゃない。けれど、僕はやっぱりミユのために、頑張りたいんだよ。

 だって、世界で一番大好きな僕の幼馴染みで、そして恋人なんだから」

 

 すぐ傍にある、ミユの顔とそれに……唇。

 

「フウタが頑張るなら、私も応援しているよ。だって私は、フウタの――」

 

 二人は互いに気持ちを確かめ合うかのように――静かに口づけを交わした。

 

 

 

 フウタとミユの特別な一瞬。

 キスした後も、二人は幸せそうに見つめあっていた。……けれど。

 

 ――えっ?――

 

 ミユの頭越しに、フウタはその向こうに知っている人物が見えた。

 

「……ジン?」

 

 よく見ると、公園の木に隠れ、こっそりとジンがそこにいた。

 

「えっ? ジンさんが」

 

 これにはミユもまた振り向く。

 そして……二人の視線に気づいた、ジン。彼はこれはもう隠れてられないと諦めたのか、ゆっくりと姿を現す。

 

「……あはは、バレちまったか」

 

 やって来たジンの手元には、模型店で買ったガンプラが入った袋をぶら下げている。多分ヒグレ模型店で買って来たのだろう。

 

「まさか……ずっと、見ていたのかよ」

 

 フウタは気まずいのか、そんな感じの表情をしていた。

 

「えっと、ミユちゃんがフウタを励ましていた、辺りからか。

 もう少し早く姿を見せるつもりだったんだけどさ、二人がもっとラブラブしはじめたものだから、どうも出るに出れなくて……」

 

 ジンもまた、頭を掻いて照れている感じだ。

 

 

 ――これはちょっと、複雑かもね――

 

 フウタとジン、互いに困りながらも顔を合わせたままの二人を眺めて、ミユはそう思った。

 なにしろこんな所で出会ってしまったせいか、これ以上何を言おうか困っている。

 

「なぁ、フウタ」

  

 ……しかし、そんな中で先に口を開いたのは、ジンの方だ。やはり年上としての、責任を感じたのだろうか。

 

「ん? どうしたのさ」

 

「俺さフウタの事を探してたんたぜ。その、なんだ」

 

 そこから先の言葉は、なかなか言えずにいた。……が、ジンは勇気を出して。

 

 

「――さっきは、本当に悪かった! 俺、フウタの事をあまり考えないで、傷つける事を言ってしまって」

 

 彼はフウタに対して、頭を下げて謝った。

 

「フウタだって……フウタなりに考えて、頑張っているんだよな。

 俺はその事を考えなくて、勝手にあんな。……許してくれ」

 

「……」

 

 いきなり謝られて、フウタは戸惑った。けれど彼もまた、同じように。

 

 

「僕の方こそ変にムキになり過ぎた。

 ごめん、ジン。今度からはもう、あんな事起こさないよ」

 

 彼はまた、ミユに優しい視線を向ける。

 

「ミユの気持ちだって、今日僕は改めて分かったんだ。だからもう……無理に気負いなんてしない」

 

「そっか。フウタも知らないうちに、解決していたんだな。

 ――さすが、ミユちゃん」

 

 ジンに褒められて、嬉しそうなミユ。

 

「えへへ……。だって私、フウタの事が大好きだもん。力になれて良かったよ」

 

 

 

 これで、ジンもフウタも仲直り。……そしてまた、フウタの心の問題もまた、解決した。

 彼はいつもの調子に戻ると、ぐいっと背伸びをする。

 

「さて、と。ジンにもミユにも迷惑をかけたね。

 

 ――けど、僕はもう大丈夫。それに……」

 

 フウタはジンに、強気な視線を向ける。

 

「カインって奴だっけ、アイツを倒すんだろ。

 もし時間があるんだったら、今からヒグレ模型店にでも行かない? ……ガンプラバトルに向けて、少しでも特訓しないとだしさ」

 

 今の彼は、本当に良い表情をしている。

 ジンもこれには一安心だ。

 

「ああ! 今日は俺もまた、暇だしな。

 ――頼りにしているぜ、フウタ!」

 

 

 それにフウタは、自信満々に。

 

「……もちろんさ! 改めて、また頑張ろう」



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雪原での戦い(Side フウタ)★

 

 あれから、カインからまた連絡が入り、今度こそ勝負がしたいと伝えられた。

 そして、その指定された約束の時間と、場所にて。

 

 

「ここが、その舞台……か」

 

 GBNにログインしたフウタ、ジン、そしてミユ。

 対決に選ばれたのは、広大な氷原のエリア。

 雪と氷……それに空の曇り空からは、はらはらと雪が降る。

 

「うう、こんな景色の中にいると、つい寒く感じるよ」

 

 厚手のパイロットスーツのフウタや、それにマントを被っているジンとは違い、ミユはワンピースと薄い上着しか羽織っていない。仮想世界で実際はそこまで寒い感覚はないものの、気持ち的にやっぱりそう思ってしまうのだろう。

 

「感覚としては寒さはそこまでないはずだから、平気だよ。でも……そう寒く思ってしまうなら」

 

 そう言うと、フウタはパイロットスーツの上のジャケットを脱ぐと、ミユに被せた。

 

「これで少しは気持ち的に、ましになったかな」

 

 上着に身をくるんで、ミユは彼に嬉しい表情を見せる。

 

「ありがと。おかげで何だか、ポカポカするよ」

 

「それは良かった! ふふっ、ミユのそんな顔を見れて、僕だって――」

 

 もはやジンにとっては、フウタとミユのやりとりはいつもの事だった。ただ、前に二人についての話を聞いてからは、不思議な感覚も覚えていた。

 

 ――本当に二人とも、良い絆で結ばれているって言うかな。ま、それだけ一生懸命なのは良いことさ――

 

「だけど、フウタ。これからバトルが始まるのを忘れてないかい?  イチャイチャも程ほどにな」

 

 ジンの言葉に、得意げな顔を向けるフウタ。

 

「もーちろん! 忘れてなんて、いるわけないさ」

 

 そして彼は、氷原の先を見据える。

 向こうの空から迫る、戦艦ドミニオンの姿。………カインはあれに乗っているのだろう。

 

「ねぇ、ジン」

 

「改まってどうした?」

 

 迫る巨大戦艦を見据えて、フウタは言った。

 

「――今回のバトル、絶対勝つよ。あんな相手、ミユの前で負けられないから」

 

 いつも以上に彼は、真剣そのものな……顔をしていた。

 

 

 

 ――――

 

 空中に現れた、ドミニオン。

 そのカタパルトから二機のガンプラが飛び立ち、そして華麗に三人の前へと着地する。

 正面に立つのは、黒と黒鉄色のV2ガンダムをベースにした、大型の翼を持つ……改造ガンプラ。そしてその左後ろには、銀色に塗装されたウィンダムが一機、控えていた。

 

「あれが、カインのガンプラか。随分と小柄だな」

 

「ジンのF91と、似たり寄ったりじゃないか。……まぁ、あれ以降の宇宙世紀のMSは小柄だから、当然っちゃ当然か」

 

「それもそう、だな」

 

 そしてV2ガンダムのコックピットハッチが開き、現れたのは貴族風の恰好をした長い金髪の美青年、カインの姿。

 

「やぁ、こうして来てくれて、感謝するよ」

 

 カインは、以前はパイロットスーツではあったが、今回はそんな恰好。

 やっぱりキザな雰囲気は相変わらず、それでも恰好が似合っているのがまた、何とも言えなかった。

 

「その機体が、カインのガンプラか」

 

 ジンの問いに、カインはこたえる。

 

「そうだとも。これが私のガンプラ、V2シュヴァルツドライだ。……自慢の、愛機さ」

 

 自分たちよりもずっと作りこまれた機体。二人とも、つい目を奪われる。

 

「続けて自慢だが、私も、シュヴァルツドライもかなり強い。

 これを前にしてでもまだ、戦うと言うのかな」

 

 自信に溢れたカイン。では、あるが――。

 

「……ああ! 戦うって、約束したからな」

 

 フウタは自身満々に、前へと進み出る。

 

「ミユを賭けたバトル、負けられはしないさ。

 僕が勝ってちゃんと、格好いい所だって見せたいし」

 

「もちろん! 私も応援しているからね、フウタ!」

 

 傍にいるミユも、いつものように言ってくれる。そしてジンは。

 

「俺だって一緒なんだぜ。……まぁ、元気になって良かったとは、思うが」

 

 フウタと、ジン、二人はこれから戦う相手であるカインを、共に見据える。

 

「……それよりもまずは、あいつを倒さないとな」

 

「まーね! どうやら上級ダイバーみたいだし、実力を試すには申し分なしさ!」

 

 対してカインも、不敵に微笑む。

 

「以前と違い、随分言うようになったじゃないか。

 いいだろう……ミユちゃんとのデートは、私が貰うとも」

 

 二対二のタッグバトル、互いに戦う覚悟は――すでに出来ていた。

 

 

 

 ――――

 

 フウタのレギンレイズ・フライヤーは氷原の空を飛行し、ライフルを構える。

 ……しかし、相手は。

 

〈ふふふ……。悪くはないが、私にはまだ届かないな〉

 

 ライフルによる銃撃を、高速起動で飛び回り回避する、黒い影。

 

 ――ちいっ、全然当たらない。よくあんな無茶苦茶な動きを――

 

 フウタはそう苦い思いを抱くも、まともに考える暇なんて与えられなかった。

 

〈では――今度は私の番だな〉

 

 カインの乗るV2シュヴァルツドライ、その武器は……。

 

「なあっ!」

 

 レギンレイズに急接近したシュヴァルツドライ、その両手には二振りの双剣が握られていた。

 この双剣こそが、機体唯一の武装。つまりこの機体は近接戦闘に特化し、遠距離からの攻撃は不可能だ。そもそも飛び道具を持ってすらいないため、射撃で襲われる心配はない。

 ――しかし。

 

 

 まるで瞬きする間の、僅かな瞬間。

 離れていた位置にいたはずのシュヴァルツドライは、瞬時にレギンレイズの懐にまで迫った。

 避ける暇もなく、フウタは自身のガントレットで防御する。だがその一撃は強力だった。

 自分よりも図体の小さい機体による斬撃、それを受けレギンレイズは後方まで吹き飛ばされる。

 

 ――なんて威力だ! それにガントレットもこんなに――

 

 攻撃を防いだガントレットも、深々と斬撃痕が残る。これではあと一度、攻撃を防げるかどうかだろう。

 吹き飛ばされてすぐに、シュヴァルツドライは再び迫り切りかかる。

 

「くそっ!」

 

 フウタのレギンレイズはライフルからパイルに持ち替え、応戦する。

 襲い掛かる二本の剣で抵抗するのは、一本のパイル。反撃する暇もなく受け止めるだけで一杯一杯の状態だ。

 

〈確か君はこの間まで、アマチュアだったんだろ? それがここまで上達した事は……素直に褒めてあげよう〉

 

「その上から目線、気に入らないな!」

 

 レギンレイズはバーニアを噴かし、後ろに退こうとする。しかしすぐにシュヴァルツドライは高速で迫り更に攻撃を続行する。

 

 ――あの強力なバックパックがあるから、近接線だけでも十分なのか。いや、十二分以上さ――

 

 あの高出力、高機動のバックパックによる俊敏な動きと、そして瞬時に相手に迫れるほどのスピード。カインにとって飛び道具など、端から不要なのだ。

 

 

 そして斬撃を繰り出す、シュヴァルツドライ。

 機体の、いやカインの剣裁きは相当な実力だ。近距離戦闘に限定した分、その特化した剣術は高度な域にある。

 正直、フウタがこうして持ちこたえているのも奇跡に近い。全能力を注ぎ、双剣の攻撃をパイルやガントレットでどうにか防ぐ。

 

 ――こんなのって、一人じゃ持たないよ――

 

 フウタ一人で戦うには、無理がある相手だ。しかし、ジンの方も手が離せる状況ではない。

 

 

 

 ほんの僅かに確認すると、氷原上ではジンのガンダムF91と銀色に塗装されたウィンダムと戦っていた。

 

〈おっと! よそ見をする暇なんて、あるのかな?〉 

 

 重い一撃が、またフウタを襲う。

 今度は双剣を同時に、全力で振り下ろした。フウタは受け止めるもその勢いで、地上へと墜落する。

 割れて飛び散る、無数の氷の破片。

 

 ――今度はこっちも、地上戦ってわけ――

 

〈もし援護を期待しているなら、諦めることだ。

 あのウィンダムのパイロットは私に次ぐバトルの腕を持つ、実力者だからな!〉

 

「はっ! 別にそんな期待なんて。僕一人でも十分さ。……そりゃ、厳しい戦いかもだけど」

 

 とは言っても、やはりフウタには荷が重すぎる。

 

 ――でも、やるしかないか――

 

 これまでにない相当な強敵。でもフウタは彼なりに、今は戦うしか術はなかった。

 

 ――ジン、そっちだって頼りにしているんだから。だから……負けないでよね――

 

 

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信じあう二人と、ちょっとした奇策(Side フウタ&ジン)

 ――――

 

 一方、カイン率いるフォース『ブラックホース』のナンバー2と戦う、ジンはと言うと。

 氷原上でライフルを構え、射撃を繰り返す彼のガンプラ、ガンダムF91。

 

 ――やっぱ、簡単には行かないか。……っと!――

 

 対戦相手もまた彼に反撃を返す。

 銀色に塗装されたウィンダム。向こうもまたビーム射撃を繰り出すが、ジンも実力を上げていた事と、それにF91の機体そのものがウィンダム以上に小回りが利くためにその攻撃もまた当たってはいなかった。

 

 

 両者、殆ど当たらない射撃を繰り返すばかりの泥沼な射撃戦。

 

 ――おっ、命中したか――

 

 ジンのF91の放ったビームが、ウィンダムに命中したと、そう彼は喜んだ。

 ……しかし、確かに当たりはしたものの、当たったのはウィンダムの右肩装甲の一部を削った程度。

 どちらもたまに攻撃を当ててはいるものの、結局は大したダメージを与えられていない。

 

 ――全く埒が明かないぜ。……ここは!――

 

 そして互いにこの状況を打破しようと、近接戦を仕掛けもする。

 今回先に動いたのは、ジンの方だ。

 ビームサーベルを抜き、目の前のウィンダムへと急接近するF91。対して向こうもビームサーベルを構え、迫る。

  すれ違う二機、互いのビームサーベルが衝突し激しい閃光を放つ。そして何度か打ち合った末、再び距離を離す。

 

 

 結果、やはり決定的なダメージは与えられないままだ。

 最も、一フォースのナンバー2とされる程の実力を持つ相手と、元々ただのアマチュアだったジンがここまで対等に戦えるだけでも……実際かなり凄い成長だ。

 ただあまりにも互角な戦いで、若干泥沼化している。まさにそんな感じである。

 

 ――何か決定的な機会があれば一気に、形勢を覆せるはず――

 

 こんな状況に焦るジン。

 ……何故かと言うと。

 

 ――フウタはかなり苦戦しているな。ここは俺がさっさと奴を倒して、援護に行かないと――

 

 空中をちらりと見ると、そこにはシュヴァルツドライに押されに押されているレギンレイズの姿が。

 やはり相手が相手、フウタ一人の実力では厳しいのだ。

 

 ――こっちは何とかだが、このままじゃあいつ――

 

 そう心配した次の瞬間だった。

 シュヴァルツドライが双剣を振り上げ、レギンレイズへと叩きつけた。

 フウタの乗るレギンレイズは墜落し、氷原に叩きつけられる。

 

「嘘だろ!!」

 

 だが、ピンチは続けてジンの方にも。

 彼がフウタに気をとられている隙をつかれ、ウィンダムはバックパックの翼に取り付けられたミサイルを二発放った。

 

 ――しまった、こんな所で――

 

 とっさにライフルを構え、ミサイルを撃ち落とそうとするジン。

 一発目のミサイルはどうにか撃ち落とし、空中で爆発する。だが、その爆風の中からもう一発のミサイルが……。

 

 ――まずい! これは避けられないし、撃ち落とすのも――

 

 どちらとも、もう間に合わない。

 

 

 ミサイルは固まったままのF91に迫り、そして……大爆発を巻き起こした!

 

 

 

 ――――

 

 少し離れた場所で起こったその爆発が、目に入ったフウタ。

 

〈さて……と。そっちは大丈夫かな?〉

 

 目の前に悠然と立っているのは、カインのシュヴァルツドライ。

 先ほど猛攻を繰り広げていたのとは打って変わり、機体はただレギンレイズに向き合っている。

 

 

 斬撃を受け氷原に叩きつけられたレギンレイズ。だが幸いダメージは思ったよりも少なく、通常通りの動きは問題なかった。

 機体を起き上がらせて、フウタは後ろを振り返る。

 

「ごめんミユ。思いっきり墜落したけど大丈夫? 調子を悪くさせたかも」

 

「ううん、私は平気だよ」

 

 そう。実は今回は、フウタはミユと一緒にガンプラに乗ってのバトルだった。

 

「そう言えばフウタと一緒にガンプラに乗ったの、ガンプラバトルではあまりなかったね。

 ……普通の時はよく一緒に乗ったりはするんだけど」

 

「だよ……ね。でも、まさかこんな事になるなんて」

 

 今更ながらフウタはそんな気持ちで一杯だった。

 

『今日はフウタの傍にいたいんだ。だって、大好きな人が頑張っている所……すぐ近くで見ていたいから』

 

 このミユの気持ちに応えて、彼は一緒に乗って戦っていた。

 今度は、通信画面に映るカインに向かって……。

 

「……どう言うつもりだよ、ただ突っ立っているなんて。

 僕をおちょくっているのか?」

 

 まるで舐められたように思えて、不機嫌気味なフウタにカインは答える。

 

〈とんでもない! 私なりには全力を出して、戦ってはいるとも。

 ただ、ミユちゃんが一緒に乗っているのだろう。あまり無理させるわけにはいかない、フウタも彼女の彼氏ならもっと気を遣うといい〉

 

 この言葉に渋い表情をするフウタ。

 

「そんな事言われなくても! ……けど」

 

 ――やっぱ、無茶苦茶やられてばかりだから、かなり無理をかけたのかな。さっきの墜落だって――

 

 自分でも悪く感じて、それに不甲斐なさまで。

 しかしその時後ろからこんな声が。

 

「全然、大丈夫なんだから! これくらい私もガンプラバトルで慣れっこだもんね!」

 

 カインに対して言い返したのはミユ。

 振り返って見ると、彼女の表情はとてもキラキラしていた。

 

〈ほう、これは私の方が失礼したかな〉

 

「その通り! フウタだって本気で戦っているんだから、私の事は気にしないでカインさんも本気を出して欲しいの。

 ……それでもフウタは負けないんだから!」

 

 

 

 そしてミユはフウタに微笑む。

 

「ちょっとごめんね。好き勝手言い過ぎちゃったかも」

 

「まさか、ミユがあんな事を言うなんて」

 

 いきなりあんな風にされてフウタどきっとする。

 いつもの、でも彼にとってかけがえのないくらいに大切なミユ。

 そして彼女はいつも……

 

「フウタ……私も一緒についているからね」

 

 

 ――そうだよね。ミユはいつも僕の――

 

 いつも寄り添ってくれる自分の幼馴染――パートナー。

 

 ――確かに僕はまだまだ情けないかもだけど、それでも僕はミユが好きだって思ってくれる……相手なんだ。

 だから無理はしなくても自分なりに――

 

 背伸びなんてしなくても、今出来る限りは。

 

 

 

〈そう……か。ならばミユちゃんの意見を尊重しよう。

 ここからは――全力で行かせてもらう!〉

 

 双剣を構えシュヴァルツドライは全推力を叩きつけて急加速、一気にフウタのレギンレイズに突撃をかける。

 

 ――勢いがさっき以上だ。でも、こっちもいくらか動きは覚えたし対策くらいは――

 

 さすがにあの加速をそのまま受けるのはまずい。レギンレイズは機体ごとブースターで突撃方向と同じ向き、つまり後方に飛び退く。

 おかげで突撃の威力も和らいだ。けど、シュヴァルツドライは構わず斬撃を繰り出す。

 双剣の斬撃がいくつも放たれ襲い来る。

 

 ――それなりには見切った! こっちは一本だけどその代わりに、肉を切らせて骨を――

 

 全てをまともに受けるのは無理だ。ならレギンレイズの装甲で斬撃の一部を受け止める。

 ナノラミネートアーマーはビーム攻撃の耐性も高いが物理攻撃もかなり防げる。

 そして斬撃を装甲の厚い部分で防ぐなりいなすなりして受け止め、フウタは……。

 

 ――これでこっちにも少し余裕が出来た。だからようやく反撃だって!――

 

 彼のレギンレイズはシュヴァルツドライの斬撃の間に、いくらか隙を見つけた。

 レギンレイズのパイルはそこを狙い、かいくぐるように一撃を。

 

 

〈……!〉

 

 パイルの先はシュヴァルツドライの胸部に、ぐさりと突き刺さった。

 

 ――よし! 上手く入った! ――

 

 半分運が良かったのもあるが、攻撃は見事に急所へクリーンヒット。

 カインも想定外の反撃を食らい、シュヴァルツドライはレギンレイズから離れる。

 

 

「やったねフウタ! とても恰好良いよ!」

 

 後ろではミユがまるで自分の事のように喜ぶ。

 

「うん! やっと一撃当てられたよ」

 

 フウタもこれにはにっこり笑う。

 

「ほらね? やっぱりフウタは凄いんだから、もっと自信を持たないとね」

 

 ――やっぱりミユの言う通りだよな。……僕は――

 

 改めて彼女は自分の事をここまで分かっているんだと感じた。

 そんなミユと一緒なら何だって出来そうだと、そうフウタは思う。

 

「ここまで来たらあともう少しだよ……一緒に頑張ろう」

「うん! わざわざジンに頼らなくても、僕達二人でアイツを倒そう!」

 

 フウタ、ミユはともに前を睨む。

 

〈ふふ、ふ……さすがではないか。フウタもそれにミユちゃんも、そう来なくては〉

 

 再び二機は互いに構える。

 急所とは言えシュヴァルツドライに与えた傷は致命傷に届かず、未だに戦闘は十分に可能だ。

 

〈それでは続きを始めようか。二人とも〉  

 改めて戦闘を続行するシュヴァルツドライとレギンレイズ。

 未だに実力差が大きいフウタだが、その分は……気合で埋めるだけだ。

 

 

 

 ――――

 

 先ほどのミサイルを食らったジンのF91。

 爆風が晴れるとその姿は、影も形の消えていた。

 ミサイルを放ったウィンダムのダイバーはこれに微妙な思いを抱いていた。

 相手の姿はない。ミサイルは直撃したのか、だからバラバラになったのかとも考えた。

 しかし本当に跡形もなくなくなっていた。破片も残骸も見当たらない……これは。

 

 

 

 その時、いきなりウィンダムの右腕が何かによって切断された。

 これにはダイバーも驚愕し斬撃の放たれた先を確認した。……そこには。

 

 

 

「……さすがにさっきの事には驚いたぜ。あんなになるなんて思いもしなかったが、おかげでこうして反撃出来たわけだ」

 

 ビームサーベルを手にしたジンのガンダムF91。外装はボロボロだが、それでもミサイルの直撃を食らった割にはダメージが少ない。

 ……と言うのも。

 

 ――運が良かったと言うべきか、まさか足元の氷の下が海水だったなんて――

 

 そう、ミサイルは直撃したのではなくて正確には足元に命中した。

 爆破は足場の氷を粉砕し、F91は下の海水に落下したと言うわけだ。

 

 ――にしても、ううっ……びしょびしょだぜ。海水が随分と入っちまったからな――

 

 さっきまで海中にいたせいで、コックピットは水浸しで服もまた濡れていた。

 だが海に落とされたおかげで海中を移動しウィンダムの背後へと回り、奇襲をかけることが出来た。

 

 

 

 おかげで、相手の腕一本を切り落とした。

 続けてF91はビームサーベルを二本構え、ウィンダムに襲い掛かる。

 対して向こうも片腕で握るビームサーベルで応戦するが、片腕だけでは形勢はジンが有利だ。

 勢いに押されるウィンダム。シールドも切り落とされた右腕に装備していた。一本のビームサーベルで防ぎながら攻撃を繰り出し、かなり無理をしていた。

 

 ――このまま押し切らせてもらうぜ! ……って、しまった!――

 

 しかし向こうもまた対策は考えていた。

 ウィンダムは強くビームサーベルを横一文字に薙ぐと同時に、左に大きく飛び退く。

 続けてビームライフルに持ち替えて射撃に切り替える。

 

 ――また泥沼戦に持ち込もうって魂胆か――

 

 銃撃戦に持ち込まれたらまた面倒なことになる。

 だが応じないわけにはいかない。F91もまたライフルに持ち替えて、それに応じる。

 

 

 先ほどの、互いに殆ど射撃の当たらない泥沼な射撃戦。

 また二機はそんな戦いを繰り広げる。相手の攻撃もだが、ジンの射撃もなかなか当たりもしない。

 

 ――やっぱ、こうなってしまったか。……でも!――

 

 視線の先には氷原を駆け回り、ジンの射撃を避けながら反撃するウィンダム。

 しかしその瞬間。

 

 

 ――かかったな!――

 

 ウィンダムが氷原にステップを踏み出した時、いきなり足元の氷が砕けて半身が沈み込んだ。

 

 ――へへへ……甘いな。こんな事もあろうかと――

 

 実はジン、先ほど海中に沈んでいた時に少しある細工をしていた。

 

 ――あそこら辺の氷の足場、軽くバルカンでヒビを入れておいたんだよな。

 それこそいくらか力を入れれば割れてしまうようにさ――

 

 あえて俺は足場を脆くして、落とし穴のようにしてやった。そして狙い通りウィンダムは氷の穴にはまって身動きがとれなくなっていた。

 

 ――ま……ここまで簡単に引っかかるなんて――

 

 F91はライフルを構え動けなくなったウィンダムに三、四発ビームを放った。

 ビームはウィンダムの本体を貫いて、そのまま爆発四散だ。

 

 ――あんなに苦戦したのにこれは、随分と呆気のない最後だな。

 さて、俺の方は片付いたし――

 

 戦いはまだ終わってはいない。何しろまだ……離れた向こうではフウタとカインが激闘を繰り広げていた。

 

 ――ここは相棒として援護に行かないとな。待ってろよ、フウタ!――



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それぞれの、改める決意(Side フウタ&ジン)

 ――――

 

 V2シュヴァルツドライとレギンレイズ・フライヤー。

 二機のガンプラによる双剣とパイルによる迫撃戦。ガンプラにダイバー、それに武器まで何もかもカインに分がある。

 それでもフウタは気合と想いで、自分の持てる実力を限界以上に引き出していた。

 

〈はは……これはなかなかに良い戦いだ〉

 

 カインもこれには関心したように言った。

 シュヴァルツドライにもあちこちに傷がつき、フウタはちゃんとダメージを与えていた。

 

「そりゃ、ミユのためなら僕は――気合だけでいくらでも!」

 

 彼のレギンレイズは鋭いパイルの突きを繰り出し、シュヴァルツドライの右角をへし折った。

 

「惜しいな! あと少しで頭部を破壊出来たのに」

 

〈残念だったなフウタ。……しかし〉

 

 シュヴァルツドライは双剣の二振りを繰り出す。それを両腕の傷だらけになったガントレットでどうにか受け止める。

 

〈別に気合だけではないとも。気合いで引き出せる実力もあるからこそ、こうして私と渡り合えている。

 だから――自信を持っていい〉

 

 上級ダイバーであるカイン、それとどうにか渡り合っているのは事実だ。

 彼もまたここまでの域に到達出来てはいたようだ、……けれど。

 

〈最も、その実力もかなり気合で上増ししているようだ。――長くはもちはしないとも!〉

 

 

 

 瞬間、防いでいたガントレットがついに砕けた。ダメージが蓄積されてついに限界が来たのだ。

 

「くはっ!」

  

「フウタ!」

 

 剣に押しのけられて吹き飛ぶレギンレイズ。機体は後方の氷山にぶつかり倒れる。

 氷が砕け、倒れたレギンレイズは半分埋まる。

 

「……ううっ、やられちゃったね」

 

「これくらい全然平気さ」

 

 フウタはミユにニッと笑って機体を起こそうと。しかしその動きはガタガタでコックピットも揺れる。

 

「でも、何だか動きが変だよ」

 

「……」

 

「結構私たちもダメージ受けたもん。簡単になんて、行かないよね」

 

 装甲も殆ど剥がれ機体の動きにもぎこちなさが表に出ている。

 あれから戦いを繰り広げ、一時は攻勢に出れたもののやはり気合いでカバーするにも限界があった。

 もはや機体はシュヴァルツドライの斬撃を繰り返し受けてズタボロ。装甲は剥がれ傷まみれで、さらにフレームにまでかなりのダメージが入っている。動くだけでもガタガタで起き上がるのもやっとだ。

 

「これってまだ戦えるの?」

 

 ミユの問いにフウタは頷く。

 

「僕のガンプラも結構やられちゃったけど、まだ幾らかは平気さ。

 もう少しくらいなら。だからその間にアイツを」

 

 彼のレギンレイズ・フライヤーはその頭部カメラでシュヴァルツドライを睨む。

 

〈ふふふ、限界が近いようだな。ちなみに私もダメージを受けはしたが、君に比べれば大したことないとも。

 あんなにボロボロな相手など私の敵ではない。それに……〉

 

 シュヴァルツドライは剣の先をレギンレイズへと向けた。

 

〈そもそも量産機で私と戦うなど、無理があったのだよ。せっかくのGBNだ、せめてガンダムであればな!〉

 

 得意げに言い放つカイン。対してフウタも負けずに言い返した。

 

「余計なお世話! 僕はガンダムよりも量産機の方が好きなのさ!」

 

 最も口先だけで勝てれば苦労はない。

 今のカインとフウタの差は歴然。もはやまともに動くのが困難な機体では、対抗することは難しい。 

 

〈……とは言っても、とにかくこれで終わりにしよう!

 ミユちゃんとのデートは頂いた!〉

 

 シュヴァルツドライは一気に翼のバーニアを全開にして迫る。

 超加速を加えた斬撃の一撃、今のレギンレイズでは当たれば一たまりもない。

 

 ――これは避けられるか!? でも避けなきゃ――

 

 あれは防げない。動きが悪くなったレギンレイズは高速で迫る斬撃を避けられるか?

 

 

 

 しかしすぐ目の前まで迫り来るシュヴァルツドライの側面に、エネルギーの塊が叩きつけられる。

 

〈!!〉

 

 不意をつかれ驚くカイン。機体は軽く吹き飛ぶも、さすが上級ダイバーと言うべきかすぐに態勢を戻す。

 

〈くっ、これはまさか〉

 

 シュヴァルツドライは攻撃の主を確認するように頭部を向ける。するとそこにいたのは。

 

〈助けに来たぜフウタ!〉

 

 現れたのはジンのガンダムF91だ。

 

「来てくれたなんて、良かったね!」

 

 ミユはそう言って、フウタも……。

 

「ああ! ……でもジン、来てくれたのは嬉しいけれど、あのウィンダムはどうしたのさ」

 

 これには得意げなジンの顔。

 

「そりゃ倒して来たに決まっているだろ! 俺にかかれば、あんな奴なんて軽いさ」

 

〈ほう! 私のフォースのナンバー2だぞ。それを先に倒して来たとは〉

 

 自分の相棒が倒されたことにカインは何より驚いてしまう。

 そしてジンのF91はレギンレイズの隣に並ぶ。

 

〈俺たち二人、ここからが本番だぜ! なぁフウタ!〉

 

「……そうだね。僕とミユ、そしてジンの三人なら!」

 

 

 

 ここからは二対一の戦いだ。

 

〈その様子だとあまり動けそうにないな。フウタ、援護に回ってくれ〉

 

 フウタのレギンレイズはライフルへと持ち替える。

 

「指示されるのは少々癪だけど、ここは従ってあげるよ。何しろ僕は相棒だしね!」

 

〈サンキュー! んじゃ向こうも剣が二本と言うことだし、こっちも……〉

 

 F91も両手に二本のビームサーベルを握り、刃を放出させる。

 

〈双剣には双剣でと言うわけか。だが私の剣は一味違うと、とくと見せてやるとも!〉

 

 

 シュヴァルツドライとF91は互いに双剣とビームサーベルで近接戦闘を繰り広げる。

 最初は互角かと思われたが、すぐにシュヴァルツドライが優勢となり押される。

 やはり近接戦に特化した機体とバトルスタイル。例え同じくビームサーベル二本で応戦した所で、簡単に敵う相手ではない。

 

〈やっぱり強いな。さすがフォースのリーダーなだけある、さっきの相手よりも一回り手ごわい〉

 

〈勿論だとも! 私のパートナーを倒した事は褒めてあげるが、一緒にしてもらっては困る。

 この程度の腕ではな!〉

 

〈くうっ!〉

 

 シュヴァルツドライの高出力なバックパックは、剣劇に勢いをつけ威力を増すことにも使われる。

 その強力な一撃、これをビームサーベルで受け止めきれずに態勢を崩す。

 

〈それなりにはやるみたいだが、これで――〉

 

 瞬間にF91の背後から銃弾が飛来する。

 シュヴァルツドライは後ろに下がりせっかくの攻撃の機会を失った。

 

「残念だけどやらせはしないよ! ほらもう一発!」

 

 援護するのはフウタのレギンレイズ。ジンが直接相手をしている中、その後方からライフルで射撃を繰り出す。

 

〈これは……やるな〉

 

 ジンが斬撃、フウタは射撃でカインを責める。

 

 加えてさっきまでフウタと戦っていたダメージも。最初は大したことはないと思ったものの、戦闘が継続するたびに負担が生じ出す。

 

 ――少しだけだけど、動きがさっきより鈍くなった。これはいけるかも――

 

 

 今はややフウタ達が優勢だ。このまま押し込めば……二人はそう思ったが。

 

 

 

〈まだやられはしないとも!〉

 

 するとシュヴァルツドライは双剣を合体させ、両刃の剣へとする。そしてまるで旋風のように回転させて振り回す。

 

〈これは……くうっ!〉

 

 先ほど以上の勢いにおされるジンのF91。

 加えて下手に下がったのも不味かった。シュヴァルツドライは振り回す剣で更に迫り、その斬撃を胴体へとまともに受ける。

 ガンダムF91はよろめくも、まだどうにか戦える。ビームサーベルを握り直し続けざまに襲来する斬撃を防ぐ。

 ……が、途端に形勢は逆転された。苦境に立たされ追い詰められるジン。

 

 ――これは不味いな。あの状況をどうにかするには――

 

 フウタは考えた。そして考えた末にある事に気が付いた。

 両手で旋風のように剣を振り回すシュヴァルツドライ。しかしその腕は。

 

 ――シュヴァルツドライのあの右腕は殆ど動いていない。左腕を多く使って剣を振り回している、だとするなら――

 

 幸いカインはジンを倒すことに集中している。今はフウタのマークは手薄だ。

 

 ――それに二機とも動き回る中、あの左腕辺りはまだ狙いやすい――

 

 フウタのレギンレイズは手にするライフルを構え狙いを定める。

 狙うは武器を振り回すシュヴァルツドライの左腕。あれさえ使い物にならなくすれば、後はジンが倒してくれるはずだ。

 

 

 しかし……。

 

 ――でも腕がガタガタだ、上手く狙いが定まらないな――

 

 さっきまでの援護射撃はあくまで牽制、これを命中させようとするとかなり困難だ。なにしろシュヴァルツドライとF91が近接戦を繰り広げている。かなり狙うのは困難だ。

 

 ――あんなに打ち合っている中で腕を狙うなんて、ジンに当たったら――

 

 機体を操作する手が緊張で固まる。けど、そんな時。

 自分の手にもう一人、優しくそっと手をのせる。

 

「フウタなら、きっと出来るよ。……大丈夫だから」

 

 いつものミユの優しさ。こうして傍に寄り添ってくれる彼女に、彼はようやく心に決めた。

 

「うん! 僕はミユと一緒なら――」

 

 ――ミユがいてくれるなら、僕は何だって――

 

 再び集中するフウタ。

 シュヴァルツドライの左腕をよく狙いライフルの引き金を、ついに引いた。

 

 

 ライフルの銃弾は真っすぐに。それは剣を振り回しF91を追い詰めるシュヴァルツドライの左腕へと。

 

〈……何だと!?〉

 

 銃弾は左腕に直撃し、動作が止まる。剣の猛攻もぴたりと止み、その機会をジンは逃しはしない。

 

〈さすがフウタ! これで決めさせてもらうぜ!〉

 

 ジンのガンダムF91はビームサーベルをシュヴァルツドライめがけ……最後の一撃を放つ。

 

 

 

 

 ――――

 

 それから、次の日。

 

「あはは、僕達もやれば出来るものだね」

 

「そうだなフウタ! あの一撃のおかげで、俺はカインを倒すことが出来た。二人なら何だってな」

 

「かもだけど、何よりミユが一緒にいてくれたから僕は……。ちゃんと勝てて、ミユが取られなくて良かったよ」

 

「ふふっ、私のために頑張ってくれて嬉しかったよ。今回も恰好良かったんだから」

 

「フウタもミユも、本当に変わらずなんだな。

 いや、前よりいくらかラブラブ味が増した気もするな」

 

「そうかな? あはは、言ってくれると嬉しいな。

 ……それに」

 

 

 

 フウタは改めて辺りを見回す。

 そこは広くて立派なブリッジの中、たった三人では広すぎるくらいだ。

 

「って言うか、こんな大きい船を動かすなんて大変だぜ。フウタ、少しくらい代わってくれよ」

 

「こうして巨大戦艦を動かしたいって前言ってたじゃないか。それに、何だか面倒くさいし」

 

 彼の本音にジンは苦笑い。

 

「はぁ、せっかくカインから貰ったってのに、これじゃあな。

 いっそ売ってしまった方がいいんじゃないか?」 

 

 カインとの戦いに勝利し、三人は約束通りこの巨大戦艦ドミニオンを受け取った。

 こんなに大きくて立派な戦艦、貰うのは気が引けたがそれでも約束は約束だ。……向こうも勝ったらミユとデートする条件で勝負した。つまりお互い様、報酬は喜んで受け取るのが礼儀と言うものだ。

 

「えー、そんなの勿体ないよ! こんな凄いのが貰えるなんて普通ないさ。

 それに何だか縁起良くない? だって、ついにマリアさんとハクノさんとの決着は三日後、あと少しじゃないか」

 

「……ああ、確かにそうだな」  

 

 これにジンは改めて思い直すような表情で、返事を返す

 ……そう、ついにあの兄弟との決戦、タッグバトル大会がもう僅かに迫っていた。

 

「泣いても笑ってもついに決着か」

 

「だね。ちょっと不安だけど確かに強くなったし、今回だって上級ダイバーとのタッグバトルで勝てたじゃないか」

 

 二人ともあれから強くなったこと、これならもしかするとマリア達に勝てるかもしれない。

 

「ここまで来たんだ。絶対に勝ちたい、勝って俺はマリアと付き合いたい」

 

 改めてジンは自分の決意を話す。そしてまたフウタも。

 

「僕ももちろん勝つよ。ミユに自分の想いを……示すために」

 

 彼はそう言ってミユを見た。ミユもフウタに優しく微笑む。

 

 

 

 互いに戦いへの決意を固めたフウタとジン。もうすぐ……これまでの努力の成果が明らかになる。

 

「ふっ、お互いに気合いを入れないとな」

 

「もちろんさ! ……だけど今は」

 

 そう言うとフウタはミユと手を繋ぐ。

 

「ねぇ! せっかくだから二人で船の中を見て回ろうよ。どんな風なのかまだ見てないし、どう?」

 

 彼女は満面の笑顔を向けてこたえる。

 

「そうだねフウタ。私とフウタ、また一緒に思い出を作ろう!

 ――ジンさん、ごめんなさい。と言うことだから船の操縦をよろしくね」

 

「おい、ちょっと待ってくれよ……」

 

「戻るのは結構遅くなるかも! バイバイ、ジン!」

 

 フウタとミユ、二人は明るい笑顔を見せてジン

を置いて出かけていった。

 そして一人残されたジン。彼はそれに少し唖然とするものの、フッと微笑んだ。

 

 ――ああ言うのもまた悪くはないよな。なぁ、フウタ――

 



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最終章 賭ける想い
大会前にて その1(Side フウタ&ジン)☆


 

「……おはよう! フウタ!」

 

 フウタが玄関先に出るとミユが出迎えてくれた。

「おはようミユ。タッグバトル大会はようやく今日だね」

 

 彼女はにこりと微笑んでこたえる。

 そう、ついにこの日……大会での決着をつける時が来たのだ。

 

「まあね。今日のために今までずっと頑張ったわけだし、やるからには優勝さ!

 僕はもちろんジンだってきっと、そう思っているはずだし」

 

 話しながらフウタはジンの事を思い出す。

 元々のきっかけは彼だ。

 ジンの想い人であるマリアとつき合うために彼女とその兄ハクノ、二人との勝負を大会で行うと約束していた。

 

「ここまで長かったね、本当に。

 でも二人ならきっと大丈夫だよ。だから自信を持っていいんだから。

 ……だから、そろそろジョウさんの店に行こうよ。きっとジンさんだって待っているはずだから」

 

 フウタは彼女に勿論と言った。

 

「たしかに待たせたりしたら悪いもんな。

 じゃ――行こうか!」

 そして二人は共に、GBNにログインするためにヒグレ模型店へと向かうことにした。

 

 

 

 ――――

 

 家を出たジンは、街の通りを一人歩いていた。

 

 ――いよいよ今日な訳だが、ははは……いざとなったら実感が沸かないものだな――

 

 ついそんな風に思いながら道を歩く彼。

 ジンもまた大会が始まると言うことで、色々考えていた。

 

 ――俺なりには頑張ったけれど、大丈夫かな。

 きっと、マリアだって期待してくれているんだ――

 

 もちろんマリアの事だって考えていた。彼女と一緒になるために、ジンは勝つしかない。

 

 ――マリアは今頃、どうしているだろうな? 彼女もハクノと一緒に大会に出るはずだ。もうGBNにログインしたのか――

 

 

 こう思いを巡らせていたジン。

 すると、その彼の後ろから……。

 

「おはよう! ここでジンに会えるなんてね……嬉しいわ!」

 

 声とともに繋がれた手。

 隣を見るとそこには、すぐ傍でにこやかに微笑むマリアの姿が。

 

「俺も会えて嬉しいよ、マリア」

 

 ジンもまた嬉しそうに表情が緩む。

 

「けど、本当に驚きだ。まさか現実で会えるなんて思わなかったしそれに、兄さんはどうしたんだ?」

 

「お兄ちゃんねぇ。お兄ちゃんなら私より先にGBNにログインしたわ。

 多分大会前のウォーミングアップってことで、ミッションなりバトルなりやっているんじゃないかしら?」

 

 そう言うとマリアは、ジンにぴったりとくっつく。

 

「だから少しの間、私たちは一緒にいられるって訳なの

 そうだ! ジンだって今からGBNに行くんでしょ?」

 

「まぁな。フウタだって今頃はログインしているだろうし、待たせたら悪いだろ」

 

「ふーん、フウタ君もいるってことは、ミユちゃんも一緒かしらね。

 ……そうだ!」

 

 まるで良いことを思いついたとばかりに、マリアは両手を合わせて笑う。

 

 

「フウタ君たちもいるって事は、良い事を考えたわ!

 ――とにかく、まずは私たちもログインして合流しましょう、ジン!」

 

「ああ!」

 

 ジンもまた、それに笑顔で頷いて答えた。

 

 

 

 ――――

 

 GBNへとログインしたフウタとジン。

 

「……あっ、ジン」

 

「よう! フウタ」

 

 ログインした瞬間、二人はロビーですぐに鉢合わせた。

 

「てっきり僕が先かと思ったけれど、まさか先にいたなんて。

 僕とミユはついさっきログインした所だけど、ジンさんは?」

 

「俺もついさっきさ。本当に偶然って奴だな、ハハハ!」

 

 ジンはおかしそうに笑い声をあげる。

 それにフウタの隣にはやはりミユの姿もある。

 

「こんにちは、ジンさん。今日は二人とも頑張り所ですね。……それに」

 

 ミユは目の前にいるジンの、その隣にいる相手に目を向ける。

 

「ハロー! フウタくんにミユちゃん!」

 

 明るい表情で手を振るのは赤い髪の美人さん、マリアであった。

 

「マリアさんも一緒なんですね。

 ……でも、マリアさんは」

 

 途端に複雑な顔を見せるミユ。 

 何しろマリアは、今回の大会では二人の最大の敵になる。それと一緒にいるなんて。

 

「アハハハ! それはそれ、これはこれよ!

 そりゃ大会では全力で戦うけれど、今はまだ始まるまで時間があるでしょ?」

 

「マリアの言う通りまだ時間は、あるよね。

 ……どう時間を潰そうか」

 

「確かにな。とりあえず大会の開催地があるディメンションに向かっても、良いとは思うんだけど。

 場所は砂漠のど真ん中にある大きな街だっけ」

 

 ジンの言葉にマリアは頷く。

 

「ええ、そうよ! 今から一緒にそこに向かおうかと思うんだけど、実は――もう一つ」

 

 すると、彼女はある事を提案した。

 ……それは。

 

 

 

 ――――

 

 GBN、大砂漠地帯のディメンション内に位置する都市。ここがタッグバトル大会の開催地、中央にはその舞台となる巨大なスタジアムだってある。

 あの場所でこれから激しい戦いを繰り広げることになる。……が。

 

 

 

 そんな街の一画にある小綺麗でオシャレなカフェにて。

 

「甘々だね、このケーキ! フウタも美味しい?」

 

「ここのデザートは僕も好きだよ! ケーキだってそれにココアも甘くて美味しいね、ミユ」

 

「ねー! ……ありがとうね、マリアさん。良お店を教えてくれて」 

 

 カフェのテーブルでフウタとミユはテーブルで向かい合わせで座り、ケーキとココアを舌鼓をうっていた。

 

「あはは。こうして喜んでくれて、良かったわ」

 

 そしてその横のテーブルにはマリアとジンがいた。

 同じくデザートを口にして、ちなみに二人が飲んでいるのはココアじゃなくてコーヒーとなる。

 

「ここのお店も、とても評判の良い所だって聞いたからね。

 きっと気に入ってくれるって思ったわ。

 ねっ、ジン!」

 

 マリアは目の前のジンに声をかける。

 

「ああ! こうしてみんなと一緒に食事って言うのも、良いものさ」

 

 彼もマリアといられて上機嫌な、そんな感じだった。

 

「……我ながら素晴らしい提案ね。

 私とジン、それにフウタくんとミユちゃんのそれぞれ二人で。言うなればちょっとしたダブルデートって奴ね」

 

 そう言って彼女は、フウタとミユにウィンクを投げかける。

 

「ダブルデート……か。こう言うのも新鮮だね。

 ミユと二人っきりのも良いけど、四人なのもさ」

 

 嬉しそうな顔のフウタ。しかしまた一方で。

 

「でも、大会の前にこうして良いのかな?

 だってハクノだって今、ウォーミングアップしているんだろ。多分他の参加者だって……なのに」

 

 これからもうすぐ大会が始まる。なのにこんな事をしていいか、やっぱり心配らしい。

 けど、マリアはふふっと可笑しそうにする。

 

「平気よ。大体兄さんも含めてだけど、直前になってまでこんな事をしたって仕方ないわよ。

 今までずっと特訓してたんでしょ? それに今更少しだけウォーミングアップなんかするよりは、こうして気分転換した方がいいわ!」

 

 そう言いながら彼女はケーキをスプーンを一すくいして、ジンに向ける。

 

「……と言うことで、ジン、あーんして!」

 

「なっ!」

 

 こんな時にいきなりそんな事をされて、どぎまぎする彼。

 

「せっかくジンとも一緒にいられたんだもん。ふふっ、食べさせ合いっことか恋人らしいじゃない」

 

「でも……ここで、こんな事をするなんてよ。恥ずかしいぜ」

 

 ジンは顔を赤くして恥ずかしがる。

 しかしマリアはさらにおかしそうに。

 

「ふふっ、そう言っちゃう? ならあの二人は?」

 

 

 

 彼女が指さす先には、既にフウタとミユが食べさせ合っている姿があった。

 

「フウタ、あーん!」

 

 ミユはスプーンでケーキをすくって、フウタに近づける。

 そしてそれを心底幸せそうに口に入れるフウタ。

 

「うん! とっても美味しいさ!

 前に現実世界でも似た事をやったし、こうして大好きなミユとなら。

 じゃあ、今度は一緒にしよう。……ほら」

 

「ふふふ、もちろん私もだよ。嬉しいな、フウタとこうして……」

 

 今度は互いにスプーンを握って、同時にそれぞれの口元に。

 

「――やっぱり美味しいよね」

 

「――だね。ミユからの一口、とりわけ格別だよ。やっぱり僕の世界一の幼馴染み、恋人だよ」

 

「……フウタってば」

 

 

 

 横でラブラブな二人に、ジンは苦笑い。

 

「あはは、二人はとっくに気分転換って訳か」

 

「そう言う事。だから、私たちだってね」

 

 こうなったら覚悟を決めるジン。

 マリアもケーキをスプーンで一すくいして、彼のもとに。

 相変わらず、いやさっきよりも顔を赤くして恥ずかしがり、ジンはドキドキしている。

 それでも視線は真っすぐにマリアへと合わせ、口を開ける。――そして。

 

「くすっ、どうかしら」

 

「……」

 

 マリアからの一口、ジンは黙ったまま味わって食べていた。

 けれど、照れたまま彼は、その表情を緩めた。

 

「もちろん美味しいよ。何よりもさ」

 

 この答えに、マリアはにこっと笑った。

 

「良かった! ジンがそう言ってくれると、私だってとても嬉しいんだから」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 そう、彼女が言った時だった。

 

「あれっ?」

 

 マリアはふと、別のテーブルに視線を向けた。そこにいたのは……。

 

 

 

「あそこにいるのって――もしかして」 

 

 

 




 いよいよ今回で最終章……。
 ちなみに、次回からコラボと言うことで……他作者さんのキャラが初登場する予定です。


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[コラボ回]ある遭遇と、始まる戦い(Side フウタ&ジン)

 ――――

 

 マリアの視線の先にいたのは、向かい合わせで座る二人の少年の姿。

 

 

「このGBNと言うゲーム、俺も気に入った」

 

 黒い髪で赤みがかった瞳の少年、彼がそう話しているのが聞こえた。

 

「ラギが気に入ってくれて良かったよ。

 始めてまだ半月もしていないのに、その実力は上級ダイバーと同じくらいだなんて……かなり凄いよ」

 

 そして向かい側に座り黒髪の少年に返事を返すのは、灰色かかった銀髪のポニーテールの少年。 顔は中性的で、二人ともフウタと同年代くらいの男子高校生らしい。

 

「VRMMOの類は得意なんだ。他の似たようなゲームをやり込んだ経験もあるし、それに開発に携わった経験も少しある」

 

「……へぇ! それは凄いや!」

 

「でも空野……いや、クラルテも凄いぜ。

 カッコいいオリジナルガンプラに、バトルだって目茶苦茶強い。

 さすが、『戦場の死神』と呼ばれるだけある!」

 

「ふふふ、そう言ってくれると嬉しいね。

 ――今日の大会、僕達にふさわしい相手がいたら良いな」

 

 

 

 

 そんな会話を横から聞いていたフウタ、ジン達。

 

「あの二人も大会に出るみたいだね。……僕と同じくらいの年、か」

 

 呟くフウタは少し複雑な表情。

 

「でもどっちとも、僕なんかより雰囲気が凄いって言うか。恰好良い感じだよ」

 

「もう! フウタってばまた卑屈になって。

 私はそんなの全然関係なくてフウタが一番なんだから。だからそんな態度は止めてよね」

 

 これにミユはむうっと、不機嫌そうに頬を膨らませる。

 

「あはは、ごめんミユ」

 

「でもこうして彼女の尻に敷かれているフウタとは、確かに大違いさ。

 ふふふっ、あっち二人の方が大人びた感じもあるし、同年代でもこうも違うか……って」

 

 ――ベチャッ!

 

「ジンさんも、私のフウタをいじめないでください!」

 

 ジンが笑った事にもむっとしたミユは、テーブルの濡れナプキンを彼の顔に投げつけた。

 ナプキンは顔にべったりと張り付き、少しした後に剥がれて落ちた。

 現れた唖然としたジンの表情。彼は、一言。

 

「……すまん」

 

 

 

 けれど、同時にある事にも気づいた。

 それはあまりに今更すぎるような事。――それは。

 

「あれ? いつの間にマリアの姿が、いない?」

 

 さっきまでジンの目の前にいたマリア。彼女の姿がいつの間にかいなくなっていた。

 

「そう言えば、確かにどっかに行っているね」

 

「マリアさんは一体、どうしたのかな……あれ?」

 

 するとミユはまた気づいた事があったようだ。彼女の、視線の先には――。

 

 

 ――――

 

「あら? これはお久しぶりね、君。

 まさか貴方まで、この大会に出場するだなんて」

 

 さっきまで三人といたはずのマリア。

 だったが、彼女はいつの間にかあの少年二人の元にいた。

 銀髪の少年――クラルテは彼女に、ふっと微笑む。

 

「へぇ? マリアさんもいたんだ。

 ……でも」

 

 彼は余裕そうな表情を浮かべる。

 

「悪いけれどマリアさんも、そのお兄さんのハクノも僕の敵じゃないね。

 だって僕と僕のガンプラ、ガンダムグリムリーパーは強いもん。前に二人と戦った時だって、勝てなかったじゃないか」

 

 

 

 ――――

 

 そんな話もまた、横でフウタ達が聞いていた。

 

「あの人、マリアさんよりも強いのか」

 

 フウタの呟きにジンは答える。

 

「みたいだな。そんな奴もこの大会に出るなんて……大丈夫か」

 

 そんな話を、二人がしていた時だった。

 

 

 

「お前たちも、マリアさんの仲間なのかい?」

 

 声のした方へと見ると、そこにはさっきの黒髪で赤目の少年がいた。

 

「……君は」

 

 フウタは少し驚いた顔で呟いた。

 

「ここは俺から自己紹介をした方が良さそうか。

 俺は如月春揮、ここGBNではラギと名乗っている。……まぁ、このゲームは初めて間もないけれど、かなり強くなったと自負しているさ」

 

 こうして自己紹介をしたのなら、自分たちも返さなきゃいけない。

 

「ならこっちも。

 僕はフウタ、そして彼女のミユさ」

 

「初めましてですね。えっと、ラギさんでいいのかな」 

 

「俺はジンだ。……ちなみに今回、フウタと一緒に大会へと出場する予定なんだぜ」

 

 フウタ、ミユ、それにジンも言葉を返す。

 これに如月春揮――ラギは興味深そうな視線を向ける。

 

「へぇ、君たちも大会に出るのか。

 ……ここで友人になったクラルテに誘われて俺も参加しているんだけどさ、大会に出るのは始めてなんだ」

 

「――そう言うことだよ。せっかくのイベントだから、楽しまなきゃ損だからね」

 

 すると話していたクラルテも、そしてマリアもいつの間にか傍に来ていた。

 

「ふむ、これがマリアさんの友人かな」

 

「ええ! 全然アマチュアだけど、まぁ実力悪くはないわよ」

 

 マリアの言葉に、彼は頷く。

 

「成程ね。たしかフウタとジン、と言ったっけ。

 僕の名前はクラルテ。……リアルでは空野 秤、と言うのさ」

 

「クラルテ、そろそろ会場に行った方がいいんじゃないか?」

 

「あっ、そうか」

 

 ラギに言われて、クラルテははっとしたようになる。

 

「――だったな。

 と言うことで僕達は先に行くことにするよ。君たちも急いだ方がいい。……せっかくの対戦相手、遅刻でリタイヤだなんてつまらないからね」

 

「じゃあな。もし戦うことになったら、その時は良い勝負をしようぜ」

 

 

 

 去って行くクラルテとラギ。

 フウタ、ジン、それに……マリアとミユの四人も。

 

「確かに、時間もそろそろ不味いわね。彼の言う通り私たちも行かないと」

 

 言われて気づいたが、時間はもう迫っていた。

 

「これ以上こうしてられないって訳か。

 フウタ、それにミユちゃんも行こうか。遅刻したら不味いだろ」

 

「……そうだね。じゃあ僕達も!」

 

 一時の羽休めはここまで。

 今から――ようやくの戦いなのだ。

  




今回は、如月桜花さんの「Re:ソードアート・オンライン~紅き双剣士と蒼の少女~」
https://syosetu.org/novel/191959/
の主人公、如月春揮さんと、蹴翠 雛兎さんのオリキャラをお借りしました! 有り難うございます!
ちなみに初回登場で、活躍はまた後程。


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トーナメントの開始と、早速の第一回戦目……対ロッキー戦(Side フウタ&ミユ)

 ――――

 

 

 街の中央に位置する、巨大なスタジアムにて。

 

「凄いな。もうこんなに人がいるんだ」

 

 スタジアム内の会場には既に多数のダイバーが集結していた。

 集まる人だかり、その中には……。

 

「あそこにいるのは、カインの奴じゃないのか?」

 

 ジンの示す先、人だかりにいた見覚えがある金髪の青年。それは、この前に戦ったカインであった。

 そして彼以外にも。

 

「ロッキーに、それに……レーミさんもいるよ。まさかみんなここに来ているなんて驚きだね。――あっと!」

 

「マリア! そこにいたのかよ!」

 

 四人の前に現れたのは、マリアの兄であるハクノであった。

 

「うげっ!」

 

「あっ……どうしよ」

 

 同時にジンもマリアも、しまったと言うような表情を浮かべた。

 何故ならば――

 

「俺がいない間に、ジンなんかと一緒にいるだなんて! どう言うつもりさ」

 

「ごめんごめん。偶然出会ったからつい……ね」

 

「ジン! よくもこんな時に一緒にいられるもんだな。人の妹に手を出そうだなんて」

 

 ハクノはジンと顔を合わせた途端、凄い剣幕で言った。

 

「勝手に悪かったよ。……けどやっぱり、ハクノもここに来ていたんだな」

 

 けれどジンは引くこともなく、正面からハクノを見据えていた。以前とは違ってその表情には自信に溢れていた。

 

「今日は宜しく、ハクノさん。約束通り――今回の大会で俺たちは勝つよ。

 そしたら、マリアとの仲だって認めて欲しい」

 

「むぅ、まさかこう出られるとは、調子が狂うな」

 

 さっきまでの怒りの表情は消え、ハクノは少しどうすればいいか考える様子を見せる。けれどすぐに、今度は面白そうにフッと笑う。

 

「けれど、そう来なくてはな。せいぜい途中でやられたりなんてしないでくれよ。……何しろ」

 

 彼はくいと、会場の奥を示す。

 

「あれは、まさか」

 

 そこにあった物にフウタは驚く。それは……大きなトーナメント表だ。

 

「全部で三十二組のタッグチームによる、五回戦に渡るトーナメント。

 まだ名前は伏せられているけれど、二人もあの中のどれかに入り、戦う事になる。……まぁこの大会はそこまで大きいイベントではない。

 集まるダイバーの実力もそこそこな奴が多いが、中には俺たちと同じや、下手するとそれ以上の奴だって多くいるんだぜ」

 

 改めて見るトーナメント表、フウタとジンはともに眺める。

 

「全五回戦か。一体、どんな奴と戦うんだろうね」

 

「分からないさ。けれどどの道ここまで来たんだ、後はやれるだけ全力で行くしかあるまいさ、フウタ」

 

「……だね、ジン」

 

「じゃあ私は二人の観戦かな。ちゃんと、応援しているからね」

 

 そしてミユは二人に優しく微笑んだ。

 対して、マリアとハクノは。

 

「二人ともその気なら、私たちも途中で敗退しないように頑張らないとね。

 ……戦えるの、楽しみにしているわ。ちなみにジン、貴方には勝ってほしい気持ちはあるけどバトルは別よ。

 一切手加減なんてしないから、覚悟してよね」

 

「くくく、さて……二人の実力でどこまで行けるかな。けれど万が一戦うことになったら、その時は完膚なきまでに叩きのめしてやるぜ!」

 

 

 そして、ようやく大会の開会式が始まるらしい。

 ここからトーナメントでの対戦相手の発表と、ガンプラバトルがついに幕を開ける。

 フウタ、そしてジン。二人の命運は……果たして。

 

 

 

 ――――

 

 スタジアムの観客席には、数多くの観客の姿。

 

 ――と言うことで、私だけ一人ここにいるわけなんだよね――

 

 ミユはその中の観客席で一人、第一回戦の開始も待っていた。

 開会式が終わった後彼女はフウタ達と別れてここに。

 

 ――まさか、一回戦の最初からフウタとジンさんが戦うなんて。それに対戦相手は――

 

 早速フウタ達の戦いはこれから始まる所。観客席でもその発表があり、他の観客も間もなくの戦いを待ち遠しくしていた。そして……ついに。

 

 ――ようやく始まりそうだね――

 

 第一回初戦、フウタ達の戦いがようやく始まる。

 ステージに上がるフウタとジン、そしてその対戦相手に二名の対戦相手の姿。ミユは二人を、とりわけフウタを見つめる。

 

 ――頑張って来てね、ジンさんに……フウタ――

 

 彼はミユのために、その想いを示すために戦っている。

 その気持ちも、彼女は強く応援していた。

 

 

 

 ―――― 

 

 ステージを駆け、戦いを繰り広げる四機。

 

〈やっぱり、簡単に倒せはしないか!〉

 

 ジンのガンダムF91はビームライフルを構えて射撃を繰り出す。……けれど、なかなかに当たりはしない。

 対して向こうは二発のミサイルを放つ。

 放たれ、F91へと飛来するミサイル。

 

「させはしないよ!」

 

 その間に入って、ミサイルをガントレットで防ぐのはレギンレイズ。続けて二発目はパイルで明後日の砲口に吹き飛ばす。

 ミサイルは観客席に飛んで行ってしまう。が、観客席へと向かう前に透明なシールドに防がれて爆発する。もちろん観客にはケガ一つない。

 

「第一回戦、ここで負ける行かないわけいかないだろ、ジン」

 

〈まぁな。ここはちゃっちゃと片付けようぜ〉

 

「……と言うことさ。悪いけど僕達は前よりずっと強くなったんだ。

 倒させて貰うよ、ロッキー」

 

 フウタの乗るレギンレイズはパイルを相手に振るった。この攻撃を右手のクロ―で防ぐのは。

 

〈そうは行くかな? フウタ、それにジン〉

 

 その正体はハイゴック。機体に乗るのは、なんやかんやで知り合った元悪質ダイバーのロッキーだ。

 彼のハイゴック、そしてレギンレイズ、二機はパイルとクロ―で打ち合う。

 一方でジンはもう一機のハイゴックと射撃戦を繰り広げる。互いにビームライフルを撃ちあい、その流れ弾はフウタの方にも。

 

「……っ! 危ないじゃないか、気をつけてよね」

 

〈悪いフウタ、こう場所が限られるとどうしても……な〉

 

 そんな中、今度はジンの戦っていたハイゴックが全推力でF91に突進する。水陸両用MSと言えどもかなりのスピードそして重装甲。

 体当たりを食らった機体は壁とハイゴックのサンドウィッチに。これにロッキーは勝ち誇ったように笑う。

 

〈残念だがジンの奴はディックが倒したみたいだぜ。フウタ、お前も俺が――〉

 

〈残念なのは、そっちの方だぜ〉

 

 通信で言ったのはジン。

 よく見ると、体当たりを仕掛けたハイゴック、その背中からビームサーベルの刃が貫いて伸びるのが見えた。

 ビームサーベルで貫かれたハイゴックはそのまま倒れ、ぴくりとも動かない

 

〈まさか!〉

 

〈下手に体当たりをしたのが迂闊だったな〉

 

 ガンダムF91はビームライフルをロッキーのハイゴックへと、ビームを放つ。

 これに怯むロッキー……だったが。

 

〈水辺があったのならともかく、場所が悪かったね!〉

 

 怯んだ隙をついて、フウタのレギンレイズはパイルの一撃を放つそれはハイゴックの右腕、その関節ごと引きちぎる。

 ハイゴックは下がろうとするが、フウタはライフルで狙いを定める。

 

「第一回戦、これで僕とジンの勝ちさ!」

 

 止めの一撃、彼のレギンレイズはその引き金を引いた。

 



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二回戦、少女との再戦(Side ジン)★

 

 ――――

 

 第二回戦。

 他のダイバーが対戦を繰り広げ、そして二人の番がやって来た。

 

 

「さて……ようやく俺たちの第二回戦だな」

 

 フウタと並び、ジンは向かい合う相手に言った。

 その相手こそレーミ。そして彼女のペアとなる、茶髪でポニーテールの女の子だ。

 

「やっほー! 君たちがレーミちゃんが話した二人ね」

 

 女の子は快活な感じで、フウタとジンに話しかける。レーミとは違って明るい感じの彼女、もちろん初めて会う相手だ。

 

「初めましてだよね。私はマノモ、本名はミノザワ・マノモ……レーミの友達なの」

 

「むぅ、喋り過ぎだよ、マノモ」

 

「いーじゃん! レーミちゃんはともかく私は始めて会うんだもん。もっとお喋りさせてよ」

 

 そんな二人の会話。これはこれで良いコンビと言ったような感じだった。

 ……レーミとマノモは示し合わせるように、キラリとした瞳をジン達へと向ける。

 

「けど――お喋りは後でも出来るよね♪

 まずは第二回戦の勝負、貴方達を完膚なきまでに叩きのめした、その後でっ!」

 

「………そう言う事だよ。

 じゃあ……始めようか、ジン。今度こそあの時の決着をつけてあげる」

 

 レーミが見ていたのはジンの方。

 彼もまたレーミに視線を向けて、応える。

 

「俺も同意見だ!

 せいぜい後悔のない勝負をしようじゃないか!」

 

「ちぇっ、僕は無視かよ。つまらないな」

 

「確かフウタくんと言ったっけ、なら君は私が相手をしてあげる。

 正直ちょびっとだけど気に入っちゃったから」

 

「そりゃ光栄だけど、生憎僕には心に決めた人がいるんだ。

 とにかく……僕達も僕達で勝負と行こうか!」

 

 

 

 そして互いにガンプラを出現させて乗り込む。

 フウタ、ジンのレギンレイズとガンダムF91。

 対してレーミは以前戦った銀と濃紺のカラーリングは施されたストライクガンダム。そしてマノモのガンプラはと言うと。

 

〈ふはははっ! これが私のガンプラ、リーオー・ブラスター! この大出力でぶっ潰してあげるわ!〉

 

 マノモの機体は機動新世紀ガンダムWの量産機、リーオー。……らしいけれど、その外観はオリジナルとはかなりかけ離れていた。

 頭と胴体は元に近いものの、両腕には太い大型のビームキャノン砲となり、胴体もリーオーの物から異形の胴体の続きと下半身、そして四本足が生えている。

 

〈うげぇつ! これはまたえげつがない見た目だな。モビルスーツからかけ離れてない!?〉

 

 通信画面に映るフウタのギョッとする表情に、ジンは笑ってしまう。

 

「あんな奴と戦うとは災難だな! 

 さて、俺はと言うと」

 

 ジンのガンダムF91のアイカメラは、レーミが乗るストライクガンダムに向けられる。

 

「レーミとの戦いに集中しないとな」

 

〈私と……ジン、それにマノモとフウタ。実質二体二の戦い……だね。

 ……面白そう。だからその挑戦、受けてあげる〉

 

 

 

 スタジアムで四機は戦闘態勢に入り、それぞれ構える。

 

〈さぁ! 素敵なバトルを始めましょう、フウタくん!〉

 

〈僕は負けないさ!〉

 

 マノモとフウタは言葉を交わす。もちろん、レーミも。

 

〈……マノモの言う通り、行くよ〉

 

 これにジンは……頷く。

 

 

「もちろんだぜ。あの続き、ここで果たそうか!」

 

 

 





 以前にも登場したレーミのストライクガンダムはこんな感じ。
 
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 ちなみに新キャラ、マノモのリーオー・ブラスターは以下の通りに。
  
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ガールズ・バトル(Side ジン)

 ―――― 

 

〈それじゃ……ドーン!!〉

 

 マノモのリーオー・ブラスターは両腕のキャノン砲からエネルギーの砲弾を放つ。

 弾はその先のレギンレイズ・フライヤー、フウタのガンプラへ。

 

〈うわっと!〉

 

 レギンレイズは避けようとするも、エネルギーの弾は間もなく着弾して辺りを吹き飛ばす。

 これに機体は巻き込まれるけれど。

 

〈いてて。これは凄い威力だな、少し当たっちゃったよ。――けど〉

 

〈ナノラミネートアーマーの防御力。そりゃビームでは厳しいかしら!〉

 

 鉄血作品の機体には、ビーム攻撃を軽減するナノラミネートアーマーが標準装備である。

 つまり、リーオー・ブラスターのビーム砲撃に対して、鉄血機であるレギンレイズは耐性があった。……けれど。

 

〈最も、ダメージとしてはちゃんと与えられている、みたいだけどね〉

 

〈……くっ!〉

 

 ビーム砲撃を受けたと思われるレギンレイズの左肩装甲。それは一部剥がれ、破損までしていた。

 

〈そりゃ私のブラスターの威力、自慢だからね! さぁて、どこまで持ちこたえられるかしら〉

 

 両腕のキャノン砲から次々と砲撃を繰り出す機体。フウタのレギンレイズは攻撃を回避しつつ、ライフルで反撃を返す。

 けれど、どちらも戦局は互角。……いや、早速マノモのリーオー・ブラスターが押していた。 

 やはり高威力の武器を装備し、それで攻勢に出ていればかなり厳しいのだろうか。

 

 

 

 圧倒的パワーで圧し潰そうとするマノモと、抵抗するフウタ。

 

「フウタ! 平気か!?」

 

 ジンのガンプラ、ガンダムF91もビームライフルでストライクガンダムと空中射撃戦を繰り広げる。

 そんな中でジンはフウタに通信で声をかける。

 

〈ははっ、どうにか。でもヤバいなこれは!〉

 

 フウタもまた必死な様子。

 彼の機体はリーオー・ブラスターにより押され気味。周囲ではキャノン砲の爆風が次々と巻き起こる。

 

〈けれどまだ僕は持つともさ。ジンはジンの戦いに集中しなよ〉

 

「そりゃそうか。こっちだって――」

  

〈……うん、そうだよ〉

 

 レーミの言葉と同時に、彼女が乗るストライクガンダムが迫りビームサーベルを振るう

 とっさにF91はビームシールドで防ぎ、続けて頭部のヘッドバルカンを放つ。ストライクガンダムは僅かに怯み離れる。

 

「もちろん俺だってよ、分かるぜっ!」

 

 瞬間ビームライフルの銃口を、相手の胸部、コックピットに突きつける。

 引き金が引かれビームが放出される。が、レーミは寸前で避ける。けれど背部のストライクパックの左翼部に命中して一部もげた。

 ストライクガンダムは後方に下がり態勢を整える。翼が一部欠けてもまた、墜落には至らない。

 

〈ううっ……〉

 

〈あーらら! してやられたわね、レーミちゃん〉

 

 悔しがるレーミと、からかうようなマノモの言葉。

 

〈……うるさいよ。まだ負けてないから、マノモ〉 

 今度はレーミ、瞬時にビームライフルに持ち替えた。

 けれど持ち替えたと思った次の瞬間、すぐさま三発のビームを撃ち放つ。それはあまりに素早い動作でであった。

 

 ――!!――

 

 ジンはとっさに反応しようとするも、三発中二発、右足先と左部のヴェスバーにヒットする。 

 

「こっちもかよっ、忌々しい!」

 

 右足はそこまでではないものの、ヴェスバーへのダメージは気になる。

 撃てなくはないけれど下手すると暴発しかねない。

 

〈ここからは……本気の、本気。……ジンは私が、すぐに片づけてあげる〉

 

 

 そして彼女のストライクガンダムは続けざまにライフルを向ける。これにはジンも離れて警戒する。

 

 

 ジンとレーミ、再びの射撃戦に入る二人。ちなみに……。

 

 

 

〈私のガンプラがただの、砲撃をかますだけの移動砲台と思っては困るわ!〉

 

 四脚足のリーオー・ブラスター、その二本の後ろ脚は大型のバーニアでもある。

 この大推力で加速、太い両腕でマノモのガンプラはレギンレイズに殴りかかる。

 

〈近接戦も出来るのかよ! よくも!〉

 

 キャノン砲でもある両腕、それは格闘も可能らしい。激しいパンチの威力に、フウタのレギンレイズは回避する一方だ。

 

〈やっぱ、ビーム攻撃ではなかなか決定打は与えられないものね。……最も!〉

 

〈……むうっ〉

 

〈直接の打撃なら、話は別でしょ?〉

 

 さっきまでの砲撃で、既にレギンレイズの装甲はかなり損傷を受けていた。

 対してリーオー・ブラスターは所々軽傷は見られるものの、レギンレイズにくらべれば無傷に等しいものだった。

 再び、リーオー・ブラスターの拳が襲う。

 それは砲撃でダメージを受けていた左肩装甲を粉々に打ち砕き、破壊してしまう。

 

〈よくも、やるね〉

 

 パンチの衝撃でレギンレイズは弾かれる。けれどまた連撃が繰り出されそうになるのを、パイルの先で防ぎいなす。

 今度はパイルの先端をクルリと向きを変え、フウタはリーオー・ブラスターの本体に突撃を仕掛ける。

 

〈ふふっ!〉

 

 しかしパイルの突撃は太い腕によって防がれる。

 腕は厚い装甲、レギンレイズの近接武器は通じない。

 

〈せっかくの攻撃、悪いけれど通じないわね。

 腕は装甲が分厚くて盾にもなるの!〉

 

 得意げに言うマノモ。

 右手に握るパイルの先はこれ以上貫けない。彼女の自信は、まさに正しいようだ。しかし一方で、フウタの心はまだ折れてなどいない。

 

〈それは凄い! 確かにその腕は固いだろうさ。けど、こっちの武器はパイルもだけど……〉

 

 次の瞬間、パイルを握っていないレギンレイズの左腕、それを思いっきりリーオー・ブラスターの本体に叩きつける。

 

〈しまったっ!〉

 

 マノモにとっては不意だった。そう、相手の左腕には盾であり、そしてもう一つの近接武器であるガントレットがあった。

 彼女はパイルに気が行き、そっちには注意が足りていなかったのだ。

 ガントレットを装備した左腕の一撃はリーオー・ブラスターの腹部へと命中する。

 

〈やっと一撃っ〉

 

〈ちいっ、よくも!〉

 

 通常のガンプラよりも長く異形の腹部、そこからスパークを撒き散らしながら数歩下がる。

 

〈このまま続けてっ!〉

 

 レギンレイズはつかさずビームライフルに持ち替え連射を繰り出す。

 反撃の暇もなくリーオー・ブラスターは両腕をクロスさせて防ぐ。

 

 

 

〈まさか……マノモが〉

 

「俺の相棒を甘く見るなって事だぜ!」

 

 放たれたビームライフルのビーム、レーミのストライクガンダムは回避する。

 

「そして、この俺もさ。動きはある程度なら覚えたからさ」

 

 回避する方向を予測したジンは、ビームライフルに続いて無事な右側のヴェスバーを展開して撃つ。

 

 

 ビームライフルよりも高収束、高威力のビームはストライクガンダムの左腕を吹き飛ばす。

 

〈やって……くれるね〉

 

「ああ! あれから強くなったんだぜ、俺は――」

 

 瞬間、ジンの乗るコックピットに激しいスパークが撒き散らされる。激しい揺れの中、警報音が鳴るのを聞いた。

 

 ――何だって、これは!? いきなりこんなダメージをどこで――

 

 見るとガンダムF91の腹部にはいつの間にかビームサーベルが突き刺さっていた。

 さっきのビームで左腕を吹き飛ばされる直前、レーミはビームサーベルを投擲して突き刺したのだ。

 

 

 

 両者ともに既に満身創痍。戦い続けて、あちこちがボロボロになっていた。

 

〈確かに……やるかも、ジン〉

 

 レーミも認めるかのように小さく呟く。

 

〈以前戦った時よりも、ずいぶん強くなった。悔しいけど……認めてあげる。そして〉

 

 互いの機体はにらみ合い、ライフルを構える。

 

〈この一撃で…………勝負をつける〉

  

 もうどちらもボロボロ、恐らく次の一撃で勝負が決まるだろう。

 ジンもレーミと同じ考えだ。彼は頷いてその視線で画面上の彼女を睨む。  

 

「分かった。これで俺たちの決着を、つけようじゃないか!」

 

 

 そして、ストライクガンダムとガンダムF91は同時にライフルを向けて……一撃を放つ。

 宙で交差するビームの軌跡、一方のビームはガンダムF91の胴体を貫く。

 

「ぐはあっ!」

 

 急所に当たり機体は墜落、そのまま地上へと落下する。

 

「うっ……くうっ」

 

 それでもまだ何とかジンは無事だ。機体はもう、動きはしないが。

 

〈これで、相打ち……〉

 

 レーミのストライクガンダムはいまだ宙を飛行したまま。しかし、本体からは煙が一筋立ち昇っている。

 

〈と、言いたいけど。……私の負け…………だね〉

 

 この言葉を最後に、ストライクガンダムは宙で一気に火を噴き、爆発四散して散った。

 

 

 

 どうにかレーミを倒したジン。けれど、もう彼も戦えはしない。

 

 ――俺もこんな調子じゃあな。フウタは今、どうしている――

 

 F91の頭部を動かし、ジンはフウタ達の戦いを見ようとする。

 するとそこには……。

 

 

 

〈ええい! しぶといわねっ!〉

 

〈キャノン砲は撃たせはしないよ!〉

 

 近接戦闘を繰り広げている最中の、レギンレイズとリーオー・ブラスター。

 互いに互角の戦いをしている……わけだが。

 

〈残念っ! もらったわ!〉

 

 瞬間リーオー・ブラスターの拳はレギンレイズのパイルを弾き落とす。

 勢いの強いパンチは相手に態勢まで崩して、続けて連撃を繰り出そうとする。

 レギンレイズも満身創痍、次の一撃を食らえば無事で済まないだろう。

 

〈よく頑張ったって思うけど、これでおしまい! …………って、あれっ?〉

 

 けれどその瞬間、突然糸が切れたようにガクッと力を失う。

 地面に膝をつき、そのままピクリとも動かなくなる。

 

〈嘘! 嘘! 何でいきなり動かなくなったの!? 

 まさか、さっきの胴体へのダメージで……〉

 

 

 先ほどリーオー・ブラスターは。レギンレイズからガントレットの一撃を腹部に食らっていた。

 その一撃が致命的だった。ダメージは動力部にまで届き、それが今になって現れた結果……動かなくなってしまった。

 

〈これじゃもう戦えない。レーミちゃんはやられちゃったし、となると…………もう〉

 

〈そう言うことさ、ふふん!〉

 

 フウタは得意げな表情。

 そして彼のレギンレイズは地面に転がるF91に視線を向けた。

 

〈さて、大丈夫かい? ジン〉

 

 動けはしないが、それでも返事を返すことは出来る。ジンは余裕そうな笑顔を浮かべてこう返した。

 

「ああ! 第二回戦、かなりの苦戦だが……こっちもクリア、かな」

 

 

 

 ――――

 

 その決着は会場の方でもはっきり見えていた。

 

「おお……っと、さすがフウタとジン、二回戦も突破しやがったぜ」

 

 一回戦で敗退したロッキーは観客席で観戦していた。そして……。

 

「やっぱりジンの奴と、それに君のフウタは強くなっているな、ミユ」

 

「これくらい二人なら……当然ですから」

 

 ロッキーが座っていたのはミユの隣。知り合いと言うことで一緒に観戦していたのだ。

 

「だってずっと頑張っていたから。だからこうして、勝てたんだって」

 

「レーミとマノモは割と強いダイバーなのに、その二人に勝てるほど強く……か。あの感じだともしかするとマリア達にも、勝てるかもしれないな」

 

「うん! きっと――ね」

 

 

 

 二回戦を勝利して次は三回戦、次勝利すればトーナメントは折り返しに入る。

 けれど、勝ち進むたびに戦う相手は確実に強くなる。

 次に戦う――相手は。

 



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[コラボ回]兄妹の戦い、そして、三回戦へと(Side マリア&フウタ)

 ―――― 

 

 次は三回戦に入るフウタとジン。

 けれど、その前に……。

 

 

 第二回戦の最終バトル。

 戦うのはジン達の倒す目標となる、マリアとハクノの兄妹。

 対する相手は。

 

〈さて、この場でリベンジさせてもらうよ、二人とも〉

 

 マリアのガンダムバエル・クリムゾンと、ハクノのアヘッドブロッケンの前に立ち塞がるのは、一機のウィンダムとそして――カインのガンプラ、V2シュヴァルツドライだ。

 

〈ハハッ! 性懲りもなく立ち塞がるか、カイン!〉

 

 アヘッドブロッケンに乗るハクノは、心底面白そうにして笑う。

 そんな兄の様子をマリアは。

 

 ――兄さんってば楽しそうね。バトルになると生き生きするって言うか――

  

 実際そんな兄の様子はこれまで見て来たのか、若干慣れているような感じで、微笑ましく眺めている。

 最も……そんな暇は、次の瞬間に消し飛ぶことになるのだが。

 

 

 

〈それでは早速、行かせて貰おうか!〉

 

 バトルは始まっている。ハクノのシュヴァルツドライは大型バックパックのバーニアを全開にして加速する。

 シュヴァルツドライの狙いは、因縁の相手であるハクノのアヘッド。けれど一方でマリアに対しても。

 

「くうっ、これはまた手厳しいわねっ!」

 

 スタジアムの上空を旋回し、ビームライフルで彼女のバエルを狙い撃つウィンダム。

 

 ――ダイバーの腕前もいいわね。さすがフォース『ブラックホース』のナンバー2――

 

 カイン率いるフォース『ブラックホース』、マリアが戦っているのはそのリーダーであるカインに次ぐ、フォースの実力者である。

 ビームライフルによる射撃とともに、ミサイルを放つウィンダム。マリアは地上で攻撃を回避していた。

 

 ――先手を打たれたのが不味かったわね。私が飛ぶ暇は与えないって訳――

 

 地の利を得たウィンダム、対等に戦えば恐らくマリアの方強い。だからこそ、この有利な状況を維持したまま倒すつもりだろう。

 

 ――私はこんな感じだけど、兄さんはどうかしらね――

 

 

 

 マリアはちらとハクノの様子も確認する。

 

〈はんっ! 成程悪くない!〉

 

 アヘッドブロッケンに次々と繰り出される、シュヴァルツドライの双剣による斬撃。

 次から次へと迫る攻撃にハクノは精一杯。ではあるものの、楽しそうな笑みを浮かべている。 

 

〈どうかな、今度こそ君に勝ってみせるとも〉

 

 気合いの入ったカイン。

 これまでに二人は何度も戦いもした、言うなればライバルとも呼べる関係だ。

 激烈な剣戟を繰り出す二機。しかし、戦局において有利なのはカインのシュヴァルツドライだ。

 

〈……それにしても、この状態でも楽しそうにするのだな、相変わらずハクノは〉

 

 呆れているのか、関心しているのか分からないようなカインの様子。けれど一目置いている事だけは確かだ。

 

〈当たり前だぜ。ガンプラバトルは楽しんだもの勝ちさ。そして追い込まれた時には……猶更にな!〉

  

〈くっ!〉  

 

 瞬間、会話中で出来たほんの僅かな隙を、ハクノは見逃さなかった。

 その時腕に装備された蛇腹剣をぶんと振るい、二機の間に斬撃の軌跡を生み出した。

 これにはカインも離れるしかなかった。彼のシュヴァルツドライは地を足で蹴り飛び退く。

 

〈私としたことが、しまったな〉

 

〈これであいこ、と言ったところかな。……どうだ!〉

  

 再び状況は互角となった。アヘッドブロッケンとシュヴァルツドライは互いににらみ合い、そして――

 

〈今度は俺の方から仕掛けさせてもらうぜ!〉

 

 今度はハクノが攻勢へと出る。そしてそれを迎え撃つカイン。

 

 

 二人の戦いを横目で見ていたマリア。

 そんな彼女では……あったが、今は。

 

 ――残念だけど、ここからはたっぷりお返しさせてもらうわっ!――

 

 上空から射撃を繰り出し続けるウィンダム。これには彼女も追い込まれ気味ではあった。………しかしいつまでもそのまま、なんてわけがなかった。

 彼女はすでにそのピンチから脱し、今度は上空でウィンダムを追い詰めていた。

 大型のライフルを構え、そして強力なビームをお見舞いするのだ。

 避けるウィンダム。そのまま急旋回したかと思うと両翼のミサイルを一斉に放って攻撃する。

 

 ――やるじゃあないの、これは――

 

 ミサイルは計四発。まずはライフルで二発撃墜する、けれど残り二発はいまだ迫る。

 仕方ない。マリアは腕のシールドで受け止めた。

 

 二発分の威力はかなりのもの。衝撃で墜落しかけ、さらには煙で視線がふさがれる。

 そして視界が開けたその瞬間、見えたのはビームサーベルを手に迫る、ウィンダム本体の姿があった。

 まさかの奇襲。けれどマリアの表情にはその時、してやった言う笑みが見えた。

 

〈この時を、待っていたのよっ!〉

 

 瞬間、バエルクリムゾンは瞬時に一本のバエルソードを抜いた。ウィンダムはビームサーベルで斬りかかろうとしても、実際は攻撃が繰り出される寸前。

 しかもビームサーベルを振り上げる姿勢、胴体はがら空きだ。

 

 ――気を抜いてしまったわね、残念でしたっ!――

 

 たった一閃、それだけで十分だった。

 バエルソードの一撃は閃光のように早くウィンダムの胸部を切り裂いた。

 そしてバエルクリムゾンがウィンダムから離れた途端だった。機体は炎上し、次の瞬間には大爆発を巻き起こした。

 

 

 

 ウィンダムに勝利したマリア。

 

 ――ふふっ、これくらい楽勝よ! ……ちょっと苦戦したけど――

 

 マリアは確かに勝利した。けれど、ハクノとカインの決着はまだついていなかった。

 向こうでは白熱する剣戟が続く。

 

 ――あれじゃ割って入るのは難しいわね。兄さんに当たるかもしれないし――

 

 

 そう、彼女はもどかしささえ感じていた。けれど――勝負は間もなくつく事になった。

 剣戟を繰り出し、不意に距離を取り、互いに剣を構える。

 ……次の攻撃で決めるつもりだ。

 瞬時、急接近して剣の軌跡が交差する。

 互いに一撃、それを繰り出したアヘッドブロッケンとシュヴァルツドライは微動だにしなかった。

 

〈……ふっ、また私の……負けか〉

 

 カインがそう呟いた瞬間、彼のシュヴァルツドライは前のめりに倒れ、そして爆発した。

 

 

 

〈よしっ! 俺たちも二回戦突破だぜ!〉

 

 画面越しのハクノはぐっとガッツポーズを決める。

 兄のそんな様子につい笑ってしまうマリア。

 

「そうだね。今回はちょっと、手ごわかったけど」

 

〈全くだ。カインの奴、俺とほぼ互角なんだからな。その内いつ追い抜かれると考えると、ヒヤヒヤするぜ〉

 

 そう話すハクノだけれど、今度は改めてこんな事を続ける。

 

〈まぁ、勝てたからいい……か。あくまで俺の目的はジンの奴さ。

 今回できっちり、ねじ伏せてやる!〉

 

 相変わらずの兄。マリアは仕方ないと、そう思いつつも……。

 

 ――最も、二人との勝負は私も楽しみなんだけどね――

 

 

 

 ――――

 

 そして、ようやく第三回戦。

 

「……三回戦目、あっという間」

 

「だね、レーミちゃん! やっぱり二回戦目で負けたのは悔しいけど、こうして観戦するのも、やっぱり悪くないんじゃない?」

  

「かも……だね、マノモ。……はむはむ」

 

「あっ! レーミちゃんだけずるい! いつの間にポップコーンを買ってるなんて」 

 

「……ちょっとだけ。良かったら、マノモも食べる?」

 

「――ふふっ、これはまた可愛いお嬢さん達と一緒とは、嬉しいものだ。

 やはりここに来て正解だった。……なぁ、ミユちゃん」

 

 

 

「あ……はい。マノモさんに、レーミさん、それにカインさんまでここに来るなんて、私も驚きです」

 

 観客席でガンプラバトルの観戦をしていたミユ。さっきまではロッキーと一緒ではあったが、今はそれに加えて、マノモ、レーミ、さらにはカインまでこの場に来ていた。

 

「ははは、これはまた賑やかになったな!」

 

 これにロッキーも大笑い。

 カインもまたふふっと微笑む。

 

「私はミユちゃんを見かけたから、ついね。フウタがいない今なら、もしかしたら……なんて淡い期待もあったのも、理由ではあるが」

 

 ミユはちょっとだけ、むっとしたな表情。

 

「駄目ですよ、カインさん。私はフウタ一筋なんですから」

 

「……ちなみに私とマノモは、たまたま席が空いていたから来ただけ。

 ミユ……だっけ。貴方がフウタの――」

 

「彼女さんって訳ね! 道理で私になびかない訳だわ!」

 

 レーミ、マノモも、そんな風にミユに話す。

 

 ――本当にこんな事に、なっちゃうなんて――

 

 いきなり人気になって、ミユはしどろもどろ。

 

「あはは……ありがとうございますね」

 

「どういたしまして!

 ――さて、と。でもそろそろ三回戦も始まりそうよ」

 

 マノモの言葉通り、ようやく三回戦が始まると、そう言うことらしい。

 見ると確かに、スタジアムでは三回戦目の幕が切って落とされようとしていた。

 

 

 

 ――三回戦目、と言うことはまず最初は、フウタ達が戦うんだよね――

 

 トーナメントと言うこともあり、その一番手で戦うのは誰かミユは知っていた。

 そしてその戦いは、もう間もなく。

 

 ――ここまで来ると、相手だって強いはずだもん。……戦いはどうなるのかな――

 

 ほんの少しの心配もしながら、彼女は三回戦目もまた……見守ることになるのだった。

 

 

 

 ―――― 

 

「……と言うことで三回戦目か」

 

 スタジアムに立ち、フウタはジンに対して感慨げに呟く。

 

「まーな、フウタ」

 

「三回戦の相手さ……まさか、この二人だなんてね。これもまた偶然とでも言えばいいのかな」

 

 二人の前には、三回戦で戦う二人組の姿が、

 その――二人は。

  

「へぇ……まさか君たちが僕たちの相手をするんだ」

 

 一人は中性的な外見に銀髪ポニーテールの少年。

 

「タッグバトル、か。何かの縁と言うこともある、良い勝負を期待しているぜ」

  

 もう一人は、黒髪、赤目の少年。二人ともフウタとジンは見覚えがあった。

 

「これは、さっきのカフェ振りとも言うべきか。

 確か名前はクラルテと、それにラギだったな」

 

 改めて確認するようにそう言うジン。

 この言葉に黒髪の少年――ラギは頷く。

 

「ああ。このタッグバトル大会、クラルテに誘われて参加したんだ。

 ――けれど」

 

 途端に、はぁ……、とつまらなそうにため息をつく。

 

「ここまでの二回戦、正直大した奴なんていなくてさ、退屈していたんだ」

 

 すると銀髪の青年、クラルテもつい苦笑いを浮かべる。

 

「まぁまぁ。ラギはGBNを始めて日が浅いから。だからものの試しでこの大会に出場したけど……それでもここまで強いだなんて思わなかった僕が悪い。

 君にとって、この大会でも役不足……だったのかな」

 

 と、今度はクラルテ、フウタとジンにも視線を向ける。

 

「……君たちは、見た所アマチュアと言った感じだろ。

 改めて宜しく頼むよ。……僕も、あまり本気は出さないようにするからさ」

 

 

 

 ――むうっ、これはあまり面白くないな――

 

 あくまで彼の言葉は本心からの親切さがあった。……けれど、フウタは不機嫌になった。

 

 ――まるで自分が最強、みたいな言い方でさ。けれど確かに強い感じは、あるけど――

 

 言い方からしてクラルテの実力はかなりのものだって、分かる。

 それに多分ラギも。GBNは始めたばかりなのは分かるけど、恐らくそれでもかなりの実力者。

 

「……多分、滅茶苦茶強いぜ。マリア達と戦う前にここで負けるなんてなったら、洒落になんてなりはしない」

 

 小声でジンはそんな事をフウタに呟く。

 これにすぐ答えられず、沈黙するフウタ。……けれどしばらくしてから。

 

「そりゃそうだよね。

 でも当たった以上はどうしようもないし、勝つしかないよ」

 

「――まぁ、やっぱりそれしかないか」

 

 こうなった以上、覚悟するしかない。

 

 

 これより第三回戦、フウタとジン対クラルテとラギ……。そのガンプラバトルが開幕する。

 



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[コラボ回]第三回戦、遭遇する強敵(Side フウタ&ジン)

 ――――

 

 ラギのガンプラはフリーダムガンダム。

 ガンダムSEEDの主人公機であり白いヒロイックな本体に、翼型のバックパックを備えた機体だ。

 

〈さて……と、俺の相手はお前だな、ジン〉

 

 宙で高速戦闘を繰り広げる、フリーダムとF91。

 

〈前のゲームのおかげで、俺は近接戦がかなり得意なんだぜ〉

 

 ラギが乗るフリーダムガンダムは、片手に刃先を長く伸ばし、出力を増したビームサーベルが握られている。

 

 ――近接戦闘か。……フリーダムは高火力の機体であるけど、出力も高い。

 高速機動による斬撃。それに――

 

 その斬撃そのものも、かなりの練度がある。

 ジンはビームサーベルを二本手にして戦うが、それでもラギの技を受け止めるので精いっぱいだった。

 

「やはりこの剣技……ただ者じゃないな」

 

 苦い表情を浮かべるジン。これに対してラギは得意そうに笑うとともに、ビームサーベルを一閃。

 

「ちいっ!」

 

 瞬間に避けるけれど、それでも今の一撃、避けきれずに胴体へと食らう。

 

 ――もう少し深ければ、俺ごと抉れてたぞ――

 

 幸い致命傷は避けたけれど、それでもジンは肝の冷える思いをした。

 

〈言っただろ、俺は元々別のゲームをしてたって。

 そこでもこうして片手剣を使って戦うのが得意だったのさ!〉

 

 今度は一気に数撃、まるで目にも止まらない速さで剣戟をかました。

 

 ――火器を殆ど使わないだけましか。いや、その分剣技がすごい――

 

 それでも画面に映るラギは涼しい顔をしている。多分これでさえ、本気ではないのだろう。

 

〈最も……これは俺の愛剣カラドボルグではないし、ロボットを操って戦うのもあまり慣れてはない。

 けれどここまでで大分慣れたんだ。このビームサーベルだけで俺は、一回戦、二回戦の対戦相手を撃破したんだしな〉

 

 その言葉にジンはさらに表情を苦くする。

 

 ――ビームサーベルだけでって、マジかよ! ……いや、カインの事だってある。近接戦に特化した戦闘スタイルを持つ奴がいたって不思議じゃないか――

 

 ……けど。同時にこうも考えるジン。

 

 ――けどこっちだってそれに合わせる必要なんてないぜ。俺は遠慮なく飛び道具を使わせてもらうぜっ!――

 

 決めたは早いが、彼のF91はバーニアを逆噴射させて、離れる。

 更に同時に両側のヴェスバーを展開。狙って放つ……が。

 

〈全然遅いなっ!〉

 

 瞬間翼をはためかせるかのようにバックパックを稼働させたと思うと、放たれた二本のエネルギーをすり抜けるように避けて飛ぶ。そしてそのまま一気にF91へと最接近。

 

 ――近寄られたら不味い。ここは離れた距離を維持して――

 

 接近して来られるのを、ジンのF91は更に距離を離そうと試み、同時に今度はビームライフルを構えて数発連射する。

 命中しなくてもせめて牽制、足止めが出来ればと。そう思っての事だったけれど。

 

〈甘い!〉

 

「……くうっ」

 

 それをフリーダムガンダムはものともしない。速度を維持したまま攻撃を軽々と避けて、なおも迫る。

 ……加えて射撃を繰り出した隙でスピードが遅れた。それを相手が見逃すわけがなかった。

 

〈悪いが、もらった!〉

 

 まるで侍のような居合切りが、ビームサーベルにより放たれる。

 双剣使いのカインとは異なり、剣が一本なら一本で、それに込められる剣の威力は集中され早く、鋭く……そして強くもなる。

 ガンダムF91はビームシールドで受け止めるも、その威力は相当なもので、強い衝撃が襲う。

 

 ――とにかく、やばいな。本当に初心者なのかよ――

 

 これは勝てるかどうか、かなり怪しくもある。

 この剣士を相手にジンはどこまで戦えるか……それは、定かではなかった。

 

 

 

 ――――

 

「……」

 

〈へぇ……フウタと、言ったっけ、君〉

 

 今フウタが乗るレギンレイズが向かい合うべき相手は、何故かどこにもいない。

 けれど、レギンレイズは地上で身構えたまま、身動きが出来ないでいた。

 離れた位置ではラギとジンが戦い、フウタの周囲には相手の姿もない。けれど、下手に動くわけにはいかなかった。

 

〈機体は、レギンレイズか。せっかくだからガンダムに乗ればいいのに〉

 

 画面越しに涼しい顔をしている、銀髪ポニーテールの少年――クラルテ。

 どうやら今、彼と戦っているらしいが……。

 

 ――そこか!――

 

 瞬間スタジアムの石畳に土煙が、僅かに立った。同時にフウタのガンプラはライフルを構えて、その場所周囲に銃弾を撃ち込む。

 けれど……銃弾は空を切る。

 

 ――簡単に当たるわけがないか。やっぱ厄介だ――

 

 しかしそう考える間もなく、正面の何もないように見える空間から斬撃が放たれる。

 

「!!」

 

 いきなりの攻撃で、ギリギリのタイミングで避ける。

 続けてビームが何発も撃ち放たれる。これもまた、どうにか寸前で避ける事が出来た。

 

 ――攻撃する相手が分からないのが、こんなに面倒だなんてね――

 

〈おやおや、これでも半分の実力も出してはいないのに、それなのに苦戦かい?〉

 

 余裕そうに言うクラルテ。そして、再びの斬撃。今度は左側面からだ。

 

 ――くうっ!――

 

 今度はそれをガントレットで防ごうとするフウタ。ではあったが、その斬撃は強く鋭く、勢いで吹き飛ばされかける。

 けれどどうにか踏ん張り、彼のレギンレイズは立て直す。しかしガントレットを見ると、その一撃だけで深々と抉られている。

 

 ――たった一撃でこれだなんてね。……ははっ――

 

 これにはただ苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

〈ガンプラの作りがそのまま性能に直結するのは分かるだろう? もちろん武器だって。

 僕のビームサイズ、結構丹精込めて作ったからね。本気を出せばそのガントレット諸共腕を切断することだって出来るよ〉

 

 それをしないのは、余程手加減をしているからか。そう考えたフウタは悔しさで唇を噛む。

 だから思わず……。

 

「姿を見せずに一方的に攻撃って訳! それは随分と卑怯じゃないかよっ」 

 

 苦し紛れにフウタはそう叫んだ。

 すると通信でクラルテはククッと含み笑いをする。

 

「それはまた、随分な言い草だね。……まぁいいか。特別に君の要望に合わせてあげよう」 

 

 その言葉とともに、レギンレイズの正面にシルエットが現れ、姿を露わにする

 

〈せっかくだから、僕のこのガンダムグリムリーパーなんて……どう思う? せっかくだから感想でも聞きたい所さ〉

 

 その姿は黒と金を基調とした色彩をした、大鎌を握る死神のようなガンプラだ。

 

 ――オリジナルガンプラ、多分元になっているのはガンダムデスサイズとガンダムアストレイゴールドフレーム天ミナだろうか。

 でも他のパーツも使っているみたいだけど、凄い改造だね――

 

「さすがプロでやっているだけある。ガンプラだって、確かに凄い。少なくとも僕には……作れはしないさ」

 

 でも――。フウタはそう言って、パイルを構える。

 

「実力やガンプラの出来で負けていたとしても。……その分気合いで勝ってやるさ!」

 

 フウタのその答えに、クラルテは可笑しそうだ。

 

〈ふふっ、フウタは面白いね〉

 

 そして彼のガンダムグリムリーパーは大鎌――ビームサイズを構える。

 

〈それじゃあ、ここから第二ラウンドと言う事だね。……始めようか〉

 

 クラルテがそう言った、まさにその瞬間だった。

 

〈その瞬間を、待っていたぜっ!〉

 

 突如ガンダムグリムリーパーの元へと高速で迫る機体。機体はビームライフルでビームを数発放つ。

 

〈不意打ちとはね。でも、大したことないね〉

 

 ガンダムグリムリーパーは右腕からビームシールドを展開して攻撃を防ぐ。

 

〈君は……ジン〉

 

 けれどいきなりの事でクラルテも少し意外だったようだ。彼のグリムリーパーはいきなり襲来した機体、ジンのガンダムF91に視線を向ける。

 

〈そうだ、クラルテと言ったっけな。確か〉

 

 いきなり現れたジン。彼はやや苦笑いを浮かべながら、こんな事を続ける。

 

〈何せ、お前の相棒も手ごわくてな。だから……〉

 

〈むっ、これは……ちょっと面倒かもだ〉

 

 そしてガンダムF91に続いて、ラギのフリーダムガンダムが後に続いて現れた。

 

〈近接戦が得意なら、こうした乱戦ならどうだ?

 さぁラギ、俺とフウタの二人を相手に、近接技だけで太刀打ち出来るかな?〉

 

 

 

〈……〉

 

〈……〉

 

「……あのさジン」

 

 ラギもクラルテも、この言葉にぽかんとする。

 そしてフウタは、呆れ果てた様子で……続けた。

 

「そりゃあラギ一人なら、かもしれないけどさ。……僕も僕で、ヤバい相手と戦っているのさ」

 

〈うげっ! しまった……うっかりしてたぜ〉

 

 これにはジンもしまったと言う表情をしていた。

 

〈くっ……ハハハハハッ! やっぱりアマチュアだね、少し考えが足りないよ。

 でもタッグバトルだもんね。ここは僕とそして……〉

 

〈俺のコンビネーション、見せてやるぜ!〉

 

 

 

 苦い表情のフウタ。

 

「ったく、おかげで余計に面倒な事になったよ」

 

〈……すまん〉

 

 これにはジンも謝るしかなかった。けれどフウタはふっと、軽く微笑むと。

 

「けど……二人のチームワークで戦うのもタッグバトルの醍醐味だよね。

 ここは、そうして見るのも悪くない!」

 

 ジンは彼の言葉に頷いて、ビームサーベルを抜いて構える。

 第三回戦もようやくクライマックス。……その結果は。

 

 



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[コラボ回]立ちはだかる実力差、そして決着(Side ジン)

 ――――

 

〈クラルテ! まずは俺に先攻させてくれ!〉

 

 ガンダムグリムリーパーの前にでた、ラギのストライクガンダム。

 先ほどのように片手にビームサーベルを握り迫る。

 

「フウタ! ラギは近接戦が手ごわい、だから俺が相手している間援護射撃を頼む!」

 

〈了解! けどあまり期待しないでくれよ、僕も僕で相手がいるしさ〉

 

〈ふっ、心配しなくてもアマチュア相手に本気を出すような大人げない真似、僕はしないとも。

 せいぜい軽く楽しむことにするよ〉

 

〈クラルテの奴っ、どこまで甘く見るってのさ!〉

 

 フウタはむっとしながらも、ライフルの銃口をフリーダムガンダムに向けて放つ。

 飛んで行く実弾、フリーダムはシールドでそれを防ぐ。けれど……その中で。

 

「サンキュー! フウタ!」

 

 ジンはその反対側に回り込み、ビームライフルで撃つ。

 これなら今度こそ、と思ったが。

 

〈……残念、俺にそんな真似は利かないぜ〉

 

 シールドで防ぐ一方で、ビームに対してビームサーベルで弾いて防ぐ。

 

 ――やっぱ、そうは行かないか。ここは――

 

 と、ジンはビームサーベルを二本構えてフリーダムガンダムに肉薄する。

 

〈ふっ〉

 

 近接戦、ジンの挑戦を受けて立つ、ラギ。

 ビームサーベルの刃が交差し、火花が散る。

 互いに剣をぶつけ合い、互いに互角に近い様子で戦う。

 

〈確かに、考えたものだ。なかなかに……面倒だ〉

 

 ジンと戦う最中でも、フウタによる援護射撃は続く。それも同時に防ぎながらの先頭、ラギはやや苦戦していた。

 

〈これがロボットを操縦するゲームじゃなければ、これくらい簡単なんだけれど……な〉

 

「このまま、押し切らせてもらうぜ!」

 

 勢いがこれなら行けるはずだ。と、そうジンも、フウタも考えていた。

 ……しかしその瞬間に。

 

 

〈そろそろ……僕にも楽しませてよ〉

 

 瞬間、ジンの側面から影が迫る。

 それはクラルテのガンプラ、ガンダムグリムリーパーの姿。手には実体槍、マガノシラホコを彼独自に改造した武器を携えていた。鋭い刃……バルバトスルプスレクスのテイルブレードを改造されたものが取り付けられ、鋭さと貫通性はかなり高いものになっている。

 クラルテはその武器でジンのガンダムF91に迫り、突撃を仕掛ける。

 

 ――そうだった! もう一人いたんだっけな!――

 

 今更ながらにはっとし、攻撃を避けるジン。

 

〈けど、逃がしはしないよ〉

 

 避けた彼のガンダムF91に対し、ガンダムグリムリーパーはマガノシラホコの先端を向けて、放った。

 

「なっ!」

 

 これに驚くジン。……攻撃はそのままF91頭部を、吹き飛ばした

 

〈ジン! ……ええぃ、このっ!〉

 

 ガンダムグリムリーパーに対して、フウタのレギンレイズはパイルを構えて接近しようとする。……が。

 

〈させはしないぜ!〉

 

 今度はラギのフリーダムガンダムが、レギンレイズに立ち塞がる。

 振るわれるビームサーベル、フウタはそれをパイルで防ぐ。

 

〈本当に……これは手ごわい、相手って訳だね〉

 

 フウタとラギは、鍔迫り合いのさ中にあった。

 

〈……でも、ビームサーベルだって。なら僕の方が有利だね、何せ――〉

 

 瞬間、フリーダムガンダムのビームサーベルが離れたと思うと、鋭い突きが繰り出される。

 一撃はレギンレイズの右脚部に、装甲を縫うようにして内部のフレームを貫いた。

 

〈――くっ〉

 

 思わぬダメージを受け、レギンレイズは膝をつく。

 

〈ナノラミネートって言うんだっけ、ビーム攻撃に高い耐性がある装甲、だったかな〉

 

 ラギはそう言って、こんな事も続ける。

 

〈けど……その内部のフレームは、どうかな。鎧通しくらい、俺にとってはお手のものだ〉

 

 これにフウタは苦い表情を浮かべる。……けれど。

 

〈ジンっ! そっちは平気かい!?〉

 

 ジンのF91は頭が吹き飛ばされた。自分の事よりもそっちが心配だった。

 

「……ああ、どうにかな。たかがメインカメラがやられただけさってね」

 

 再度、F91はライフルを構えて戦闘態勢に入る。

 ……するとこれを見ていたクラルテ、ふふっと笑う。

 

〈ふむふむ、意外にガッツがあるね、君達。

 ……気に入ったよ。せっかくだから特別な技を、お見せしようか〉

 

 彼は笑顔のまま。そして、彼のガンプラ、ガンダムグリムリーパーから複数機の細長いビットが射出された。

 

〈これは……っ!〉

 

「冗談だろ!?」

 

 フウタ、ジンのガンプラ、レギンレイズとガンダムF91の周囲を取り囲むビット。

 これには二人とも不味いとも言える表情をする。

 

〈グリムリーパーの特殊兵装、リアライザビット。

 どうかな? 手加減はしてあげるけど……果たしてどこまで持つかな?〉

 

 ガンダムグリムリーパーはその武器先を二機に向ける。それを合図に、リアライズビットは一斉に襲い掛かる。

 ビームを放ち、更には突撃による斬撃。どちらも逃げる事で精一杯だ。

 

「こなくそっ!」

 

 ジンはビームライフルでビットを撃ち落とそうとする。けれどビットはシールドまで展開して攻撃を防いだ。

 

「シールドまで使うなんてなっ! 何て奴だ!」

 

〈おっと、俺を忘れて貰っては困るぜ!〉

 

 そう通信で言ったラギ。彼のフリーダムガンダムはF91より幾らか離れた位置にいた。

 

 ――はんっ! あの位置なら剣先だって届かない――

 

 ジンは高を括っていた。けれど、ラギもまた得意げな様子でこんな事を。

 

〈クラルテがあんな凄いのを見せたんだ。だから、俺もとっておきを見せてやる!〉

 

 ラギのフリーダムガンダムは、握っていたビームサーベルを妙な形で構える。

 まるで投擲をするかのような、そんな構えで。

 

〈これは前のゲームでの必殺技だ。ロボットでも再現可能なこの技こそ…………ゲイ・ボルグっ!〉

 

 フリーダムガンダムはビームサーベルを直線に、それも超高速で投擲した。

 

「!!」

 

 無論ジンは避けようとした。けれどその一撃は想像以上に高速で、それに――威力もまた凄まじかった。

 

 ズドン!

 

 放たれたビームサーベルの投擲は、F91の左上半身を穿ち吹き飛ばした。

 左側のヴェスバーと胴体の一部、それに左腕は丸ごと削り取られてしまった。

 

「馬鹿……な」

 

 こんな攻撃なんてあり得ない、信じられなかった。

 

「ビームサーベルをこんな形で、使うなんて」

 

〈GBNの場合、投げた武器の回収は難しい。

 だからビームサーベルの本数分、いや一本は残さなきゃだから一回が限度だ〉

 

 墜落していくF91、そしてラギは後少し続ける。

 

〈けど……これは俺の自慢の必殺技だ。

 せっかく一生懸命戦ってくれたんだ。だから見せてあげたくて……な〉

 

 

 ボロボロになり地に落ちた、ガンダムF91。

 どうにか膝をつきはするが蓄積されたダメージは既に多く、もはや戦う事も厳しい。

 

 ――これじゃもう、殆ど動けはしないか。フウタも――

 

 上空ではフウタのレギンレイズ・フライヤーが戦っていた。

 けれど、ビットの攻撃で足や腕、バックパックが次々と破壊されてゆく。

 

〈く……っ〉

 

 続いてレギンレイズまで、そのまま地面に墜落する。

 

〈僕も、ご覧のあり様……か〉

 

 レギンレイズのダメージも大きく、もうまともに戦えるような状況ではなかった。

 つまり、フウタにジン、二人ともアウトと言うわけだ。

 

 

 

〈ふふっ〉

 

〈大丈夫か、二人とも〉

 

 そこに降り立つラギのフリーダムガンダムと、それにクラルテのガンダムグリムリーパー。

 

 ――これで、終わりなのか――

 

 もう自分たちには戦う余力もない。

 仮にあったとしても、あの実力差だ。確実にマリアとハクノよりも数段上だ。

 

 ――こんな所で――

 

 唇を噛み、悔しさで一杯のジン。三回戦までここまでか……と、彼は無念を感じていた。

 ――すると。

 

 

 

〈もう……俺はいいかな〉

 

 ラギは軽く、そう呟いた。

 

〈大会をこのまま続けるのも、正直飽きて来た。だから、俺はもういい。この勝負は降りたいと思う。

 ……クラルテ、どうだ?〉

 

 彼の言葉に仕方ないと言うかのようなクラルテ。でも、何か悟ったような感じでもあった。

 

〈あはは、ラギがそう言うのなら。

 僕も少し飽きも来たし、潮時かもね〉

 

 そしてクラルテはフウタとジンにも視線を向け、ほんの軽く微笑む。

 

〈……そう言うことだから、うん、僕達はこれで失礼するよ。

 まだまだ上がいる事が分かったんだから、もっと精進する事を願うよ。

 せめて今回のバトルは譲ってあげるんだからね〉

 

 ラギもまた二人に対して、励ますように言葉を伝える。

 

〈初心者に近い俺が言うのも変だが、二人とも良い線いってたんだぜ。

 それに……君達はこの大会に思い入れもあるみたいだしな。ここからは改めて、頑張ってくれよ〉

 

 

 

 ――首の皮、一枚繋がったか―― 

 

 第三回戦、クラルテとラギのリタイヤと言うことでジン、フウタの勝利と言うことになった。

 勝負では勝ちと言う事、だけれど戦いには負け、勝ちを譲ってもらったわけだ。

 

「一応は……勝ちって事で、いいよね」

 

 待合室に戻り、そう呟くフウタ。

 ジンは頷く。

 

「ああ。どんな形でも勝ちは勝ちだ、それで良いじゃないか」

 

「そう……かな」

 

 まだフウタは複雑そう。けれどどうにか次に進めて安心もしていた。

 

「ま、いいか。とにかく勝ちは勝ちだし。――けど」

 

 フウタはほんの少し、良い表情をちらと見せた。

 

「出来れば僕たちも……あれぐらい強くなれれば、な」

 

 



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第四回戦 『コアガンダムって、何だろう?』(Side フウタ&ミユ)★

 ――――

 

 どうにか第三回戦も突破したフウタ達。

 続いて、四回戦は。

 

〈僕達の息の合った連携プレイに!〉

 

〈ついて来れるかな!?〉

 

 立ち塞がる相手は十四、五才くらいの少年二人。金髪ポニーテールで、女の子と見間違える程に可憐な中性的な姿。双子なのか二人とも同じ外見で――唯一違うのが前髪につけた星のヘアピンが左右逆である事くらいだ。

 

〈今度はそっちに行ったぞ、フウタ!〉

 

 ジンの通信に、フウタのレギンレイズ・フライヤーはライフルを構えて対戦相手の機体に放つ。

 

「分かってるって! ……うわっ!」

 

〈〈貰ったよ!〉〉

 

 

【挿絵表示】

 

 

 空中で射撃を繰り出すレギンレイズに、金色の二機のガンプラがビームサーベルで斬りかかる。

 

「――っ! このやろっ!」

 

 二機のコンビネーションによる攻撃、彼は回避を試みるものの間に合いはしなかった。

 一撃は回避出来ても、続いて繰り出される別機体の二撃目。それを本体に受けて墜落しそうになる。

 

 ――不味いな……っ、これは――

 

 けれどどうにか態勢を戻し、今度はライフルで反撃を行う。……しかし二機は散開して避けた。

 

〈ふふっ!〉

 

〈残念!〉

 

 双子の乗るガンプラ、それは一対の黒鉄色のウィングバインダーを備えた、通常より一回りも小柄な機体だった。

 その大きさはF91と比べても小さく、レギンレイズの二分の一ほどしかない。頭部はガンダムヘッドではなく……ガンダムXに登場するGビットに近い、箱型のモニターを備えた物だった。

 ガンプラも二機とも、全く同じ機体。それが息の合ったコンビネーションでフウタとジンを翻弄する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「全く! あんなちっこいガンプラ知らないよ! 小さくて素早くて、攻撃も当たりにくいしさ」

 

〈俺も同じく。けどあの動き、フウタの言う通り遠距離じゃ難しいかもな。

 ここは直接攻撃……仇を討ってやるぜ!〉

 

 今度はジンのF91が攻勢に出る。

 狙いは双子が乗る片方の機体。まずは一機ずつ、と言う事だろう。 

 ビームサーベルを両手に握り相手へ迫るF91。けれど、瞬間相手は振り向き様に、装備するビームライフルの銃口をF91に向けた。

 その動作は素早い。このままでは先に攻撃を放たれる、そう判断したジンはビームシールドを展開して防ぐ……けれど。

 

〈――っ!〉

 

 瞬間、真逆の背後から衝撃とダメージを受ける。

 

〈背後にも、気をつけないとだね〉

 

 そう、同時にもう一方の機体も、背後からビームライフルで狙い撃ったようだ。

 一方が狙われても、もう一方が最適な手段でサポート、反撃に出る。

 やはり四回戦目……この双子もまた、かなりの相手らしい。

 

 

 

 ――――

 

 苦戦しているフウタ達を、またまた心配になって観戦しているミユ。

 もう四回戦目になるけれど、何度も何度も苦戦する二人。……そのドキドキ、ハラハラ感はなかなかに慣れるものじゃない。

 

 ――大丈夫かな。でも、この戦いに勝っちゃえば、ようやくマリアさんとの決勝だもん――

 

 フウタとジンにとっての一番の相手、マリアと

ハクノの兄妹ダイバー。二人もまた四回戦まで勝ち進んでいる。このまま行けば、恐らく決勝戦で戦うだろう。

 

 ――ここまで来たんだもん。努力だって、ちゃんと報われて欲しいから。

 ……けど――

 

 フウタ達の応援も、勿論。けれど一方でミユには一つ、気になっていた事があった。

 

「あんなガンプラ……始めて見たかも」

 

 彼らの対戦相手、金髪の双子少年が乗る二機の小型ガンプラ。ミユにはそれが見覚えなかった。

 

「大体ガンプラって事は、他ガンダム作品に登場するモビルスーツを元にしている訳だしな。

 けど、あんなに小さいモビルスーツ、俺は知らないぜ」

 

「あまりガンダム作品は詳しくないけれど、私も元が何のガンプラなのか分からないんだ。

 レーミさん、マノモさんは何か知ってませんか?」

 

 ロッキーもあのガンプラを知らないらしい。ミユはレーミとマノモに尋ねてみるものの。

 

「私……あんまりそうしたの……興味ないから」

 

「ごめんねミユちゃん! 私も知らないんだけど……でも、どっかで見た記憶があるんだよね。

 あまり思い出せないけど……うーん、何かモヤモヤしちゃうよ」

 

 レーミも知らない。一方マノモは少し心当たりがあるものの、肝心の内容が思い出せないらしい。

 腕を組んで、彼女はもっと考え込む。

 

「うーん……うーん、何だっけな。喉元まで出かかっているんだけど……あー、駄目だ思い出せない」

 

「ふふふっ、これは全員お手上げ、と言う事かな」

 

 けれど唯一、カインだけは得意げな表情を見せていた。

 

「何だカイン、お前はあのガンプラを知っているのか?」

 

 ジンはカインへと質問する。

 すると彼はもったいぶるように頷くと、質問に答える。

 

「あの双子兄弟、フィオとティオのガンプラの名はそれぞれコアアトリと、コアスカイラークと言う。小柄な機体の敏捷性と二人の操縦テクニックはなかなかのものだぞ。……まぁ、実力は私に少し負けるが」

 

「戦いは見れば分かるわ。でも、知りたいのはあのガンプラの元ネタみたいなものなの。

 まさか二人が作った、全くのオリジナル――なのかしら」

 

「ハハハハハ! さすがマノモ、良い線を行く。確かにオリジナルのガンプラだろう。

 ――ただし、フィオとティオのオリジナルではないが」

 

「……? それはどう言う事ですか、カインさん?」

 

 気になる答え、カインはそう尋ねたミユに優しく微笑みかける。

 

「ミユちゃんにも頼られるとは、私も冥利に尽きるものだよ。

 もちろんみんなにも教えてあげよう。二人のコアアトリと、コアスカイラーク、それはあるオリジナルガンプラを……元にしているのさ。

 

 それは――『コアガンダム』。

 とあるダイバーが作った、オリジナルガンプラだよ」

 

「「「「コアガンダム……?」」」」

 

 そんな初めて聞く名前に、四人とも反応してしまう。

 ロッキーも、レーミさん、マノモさん……もちろんミユも。しかし心の中で、彼女にはまたこんな疑問が……。

 

 ――コアガンダムって、何だろう?――

 

 

 



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四回戦後半 コアガンダムを模造せし機体との、決着(Side フウタ&ミユ)

 ――――

 

 カインの言った、コアガンダムと言うフレーズ。

それはミユにとっては全く聞き覚えのないものだった。

 

「あの、コアガンダムと言うのは何なのかな。私も、多分フウタだって聞いたこともないもん」

 

 自分だって、それにフウタからもそんな名前だって聞いた覚えがなかった。

 不思議そうにするミユ。カインは頷いて言葉を開く。

 

「ふむふむ、ミユちゃんも知らないか。それにみんなも。

 なら教えてあげよう。……最も私も、詳しく知っている訳ではないのだけれど」

 

 少し控えめな前置き、それから彼は続けた。

 

「コアガンダムと言うのは――元アヴァロンに所属していた若いダイバーが使っていたガンプラさ。

 ……二年前、ほら二度の有志連合が結成される程の大事件が起こったあの時だよ」

 

「確か、違法プログラムだとか、電子生命体だとかの大騒ぎとか……だったかな。……その頃はまだ私たちはGBNをプレイしていなかったからよく分からないけど」

 

「私とレーミちゃんも同じかな。当時からのプレイヤーって訳じゃないしね。ミユちゃんと同じだよ」

 

 マノモもそう言い、レーミも頷いている。カインは成程と言うように……。

 

「ふむ、あまり知らないかもしれないけれど、当時GBNではかなりの大騒ぎだったのだよ。

 ……まぁそれはさておき、コアガンダムもその時期に現れたガンプラさ。サイズもあの二機と同じくらい、最も頭部はちゃんとガンダムであるのだが。

 ああも小型のガンプラはないけれど、強いて言うなら原型は、初代機動戦士ガンダムの『RX-78 ガンダム』だろうかな。

 まぁ、小型な所以外は似ているからね――コアガンダム形態でなら」

 

「……? それって一体?」

 

 思わせぶりなカインに、気になる感じのミユ。

 

「ふふっ、あの二機は違うらしいけれど、オリジナルのコアガンダムには特別な機構が搭載されているんだよ。

 確か名前は――『プラネッツシステム』と言ったか。戦局に応じて様々に姿を変えるのさ。

 汎用性の高いものや、ミサイルや重火器を全身に装備したもの、それに巨大な実体剣を装備した近接戦用の姿もあったか。

 アヴァロンにコアガンダムに乗るダイバーが所属していた当時、私はまだGBNで駆け出しだったけれど、その活躍は……凄かったとも」

 

 そうカインが憧れを見せる様子、きっと相当に凄いんだろうとミユは思った。

 

「へぇ……カインさんが言うんだから、本当に凄いんだろうな」

 

「ああ! まさにそうだとも!

 最も、今はアヴァロンを抜けて一人であちこちのエリアを彷徨っているとの噂だが、どうだろうか。

 まぁ過去の活躍を知りたいなら、後でGTubeで動画を探せば出て来るはずだとも」

 

 ――気になっちゃうね。大会が終わったらフウタと一緒にその動画、見てみようかな――

 

 少しだけ気が早いかもしれないけれど、ついそんな予定を作ったミユ。

 そしてそんなコアガンダムを元にして作られたガンプラを相手にするフウタ達。こっちもどうなるかと気になる、彼女であった。

 

 

 

 ――――

 

 先ほどから小さい身体で高速で飛び回るコアアトリと、コアスカイラーク。

 最も、パイロットが違うだけで外見上は違いがなく分かりはしないけれど……それでも息の合った連帯で回避、攻撃を仕掛ける。

 

「ていっ!」

 

 フウタのレギンレイズはフィオの乗るコアアトリに迫り、パイルを振るうが。

 

〈残念、外れだよ!〉

 

 フィオは悪戯めいた笑みでフウタに言う。

 さっきからこんな調子が続き、イライラしていたフウタ。悔し紛れにこんなぼやきをする。

 

「全く、ハエ叩きじゃあるまいしさ」

 

〈それは僕達に失礼じゃないかな、フウタさん!〉

 

 間髪入れずにティオのコアスカイラークがライフルによるビーム射撃を放つ。

 

〈――かはっ!〉

 

 ここまでの戦闘によりレギンレイズのナノラミネートアーマーはそれなりに剥がれていた。

 射撃の一撃で機体の右太ももの装甲が粉砕され、フレームにもダメージが入る。

 

 ――よくも、やるね――

 

 フウタの援護に現れたジンのガンダムF91は二門のヴェスバーを展開、そしてライフルも構えてコアスカイラークに撃ち放つ。

 けれどスカイラーク、それに続いてアトリは射撃をかいくぐってF91に高速で接近。

 

〈〈これでどう!〉〉

 

 二機はF91の手前寸前で左右に分断、それぞれの方向から同時にビームサーベルを薙ぐ。

 

〈……させるか!〉

 

 タイミングを合わせ、ガンダムF91はビームサーベルを二本両手で振り上げて防ぐ。

 

〈どうにか動きには……ついて行けるようになったぜ。そのよく分からない、チビッこいガンプラの素早さにな〉

 

〈チビッこいガンプラだって? もしかして――〉

 

〈――コアガンダムを知らないんだ〉

 

「コアガンダム、だって?」

 

 初めて聞くフレーズ、フウタは何の事か気になった。

 けれどそんな事よりも、コアアトリ、コアスカイラークは今度は二手に分かれ、それぞれジンとフウタの相手へと回る。

 

 

 フウタはコアスカイラークに乗るティオに対して言う。

 

「何だよ、コアガンダムってさ!」

 

 同時にライフルで、今度はしっかり狙い撃ってみるも……外れる。 

 

〈なーんだ、お兄さん達は知らないんだね〉

 

「知らなくて悪いかよ!」

 

 再び狙い撃つも、今度は惜しい所で外れた。

 

〈ヒロトと言う上級ダイバーが使っているって話の、コアガンダム。機体は小さいけれど『プラネッツシステム』って色んなアーマーに換装して戦うシステムを持つ、凄い機体なんだよね!〉

 

 今度はコアスカイラーク、レギンレイズの周囲を飛翔し回りながらビームライフルを放ち、追い込む。

 

〈だから、それを元にして自分のコアガンダムを……言うなれば『マイコアガンダム』を作るのが周りではブームなんだよね!〉

 

「はは、そう言う……事」

 

 人のオリジナルガンプラを参考にした機体。道理でフウタも見覚えがなかったはずだ。

 

 ――最もそんなのがブームなんて、知らなかったけどさ。プチブームって奴かな――

 

 けれどそう悠長に考えてもいられない。

 コアスカイラークはビームを放ちながら回る輪を徐々に縮め、追い込んで行く。

 

「……っ」

 

 攻撃は避けるけれど、それでも半分近くは被弾し傷だらけになる。

 

〈僕達のコアアトリとコアスカイラークは、プラネッツシステムは未搭載だけど、あの小柄な所が気に入ったんだ!

 だって身体が小さい分素早いし、それに被弾する的だって少ないしね。だからこそ、フウタさん達は苦戦しているんでしょ!〉

 

 確かにこのままでは……フウタは危ない。

 

〈随分ボロボロだね。そろそろ、決めさせてもらうよ!〉

 

 もう自分の勝ちだと、そう言うような態度のティオ。

 そして周囲を旋回する中から、コアスカイラークはビームサーベルを抜いて、トドメを刺そうと迫った。

 フウタは――。

 

「残念! 見切ったよ!」

 

〈はっ!?〉

 

 ビームサーベルを振ろうとした瞬間、フウタのレギンレイズはぐっと左手を伸ばし、相手が武器を握る右腕を掴んだ。

 

〈そんな、しまった!〉

 

「僕はコアガンダムは知らないし、確かに小さい事には利点があるよね。……けどさ!」

 

 フウタはそう言い放つと、自身のガンプラがもう片手に握るパイルの先を、真っすぐとコアスカイラークの胴体に振り上げる。

 

「その分、一撃のダメージは大きいだろ!」

 

 

 

 パイルはコアスカイラークの胸部を深々と貫いた。

 

〈やられる時は……結構、あっさりしたもの……だね〉

 

 ティオのその言葉を最後に、機体は胴体から火を噴き爆発四散する。

 

 ――と言っても……なかなか強い相手だったけどね――

 

 そうフウタが思った、瞬間。

 

「――!」

 

 瞬間、右後方から高速で迫る気配を察知した。

 ジンのガンダムF91とは違う……これは。

 

〈よくも、やってくれたねっ!〉

 

 迫ったのは残り一機になった相手、フィオのコアアトリだった。

 間近に迫った機体は刹那、握るビームサーベルを真横に薙ぐ。

 防ぐ間もなく、サーベルの刃はレギンレイズ・フライヤーの右ウィングを切断する。

 

 ――これは不味い!――

 

 機体はバランスを失い、すぐ下の地面に落下する。

 そして……横を見るとそこには、ジンのガンダムF91が、胸部に大穴を開けて倒れていた。

 

「……っ、ジン!」

 

 相棒の無残な姿に、フウタは目を見開いて叫んだ。仮想世界だからこうなっても無事である事は分かっていても、こうして相棒が倒されたのはやはりショックもある。

 

〈くくっ、ジンさんなら僕が倒してやったさ。割と倒すのに骨は折ったけど、これで一対一、おあいこさ〉

 

 対してコアアトリ、フィオの乗る機体は上空から見下ろしてビームライフルの銃口を向ける。

 

〈ティオの仇、討たせてもらうよ!〉

 

 そう言うやいなや、地上にいるレギンレイズに対し、上から射撃を放っていく。

 上空から雨のように放たれるビームの雨、翼を切り落とされて逃げるしかない。ただ、逃げながらライフルで反撃してはみる。けれどなかなかに当たりはしない。

 

〈ハハハ! そんなもの当たりはしないって! このまま――〉

 

「せいっ!!」

 

 とっさに、フウタはライフルを撃つのではなく――思いっきりぶん投げた!

 よく考えたわけではなかった。けれどこのままでは埒が明かないと考えた彼の、反射的な行動だった。

 

〈そんな――馬鹿な!〉

 

 けれどその行動は……正しかった。

 フウタのあまりにもとっさ過ぎる反撃。まさかライフルを投げて来るだなんて――フィオには考えられず、避ける事さえ遅れてしまった。

 それは……まさに致命的だった。

 ぶん投げられたライフルはコアアトリに迫り、コックピットを潰した。そして機体は墜落して倒れ、動かなくなる。

 

 

「はは……僕の勝ちだね」

 

 四回戦目は割と自分は頑張ったと、フウタは思った。何しろジンの分まで二機倒しもしたからだ。

 

 ――でもこれで、いよいよ次で決着かな。……それと――

 

 ふと、彼はもう一つ、こんな事も思った。

 

 ――コアガンダム、か。後でどんな物かくらいは調べようか――

 

 



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最終決戦――ようやくの決着へ(Side フウタ&ジン)

 ――――

 

 四回戦の次の試合、ハクノとマリアの二人もまた勝利した。

 

「これで、いよいよ次は第五回戦……決勝って訳か」

 

 戦いを観戦し、見終わったロッキーはそんな感想を漏らす。

 

「ああ。フウタ、ジン対、ハクノとマリア、四人での決勝戦と言うわけか」

 

 カインもまた感慨深げに頷く。彼に対してロッキーもにっと笑う。

 

「そう言うことだな。あの二人、俺を倒して行ったんだぜ。だったら最後まで勝ち進んでくれなきゃ困るぜ!」

 

「私も同じくさ。たまたま運で私に二度も勝ったと言え、勝ちは勝ちさ。だからこそ……行ける所までは、な」

 

 ロッキーもカインも、それに――。

 

「むぅ……私たちも。…………悔しいけど、負けて欲しくない」

 

「うんうん! レーミちゃんや私だってね!

 こうなったら最後まで見届けてあげましょう」

 

 レーミとマノモもまた、似た感じの事を話していた。……そしてマノモはミユに対しても。

 

「ねっ! ミユちゃんもそうだよねっ! ――あれっ?」

  

 

 

 ミユのいる席に目を向けた。……けれど、そこに彼女の姿は、なかった。

 

「いつの間に、いなくなってる」

 

「ん……本当だね、マノモ」

 

 レーミも今になってミユがいなくなったことに気づいたみたいだ。マノモは、首をかしげる。

 

「うっうーん、さっきまでいたはずなのに、おかしいなー。

 ねぇ、ロッキーさんは知らない?」 

 

 彼女はそうロッキーに尋ねてみる。すると、彼は。

 

 

「ああ、ミユちゃんならさっき、決勝前と言うことで――フウタに会いに待合室へと言ったぜ」

 

 

 

 ――――

 

 時間は少し前に遡る。

 

 

「すまないフウタ! 四回戦ではあんな事になってしまって!」

 

 待合室ではジンがフウタに対して謝っていた。

 

「うわわわ……っと、どうしたんだジン! 突然さ」

 

 いきなりそんな事を言われて、慌てるフウタ。ジンの表情には申し訳がないような、そんな感じの感情が浮かんでいる。

 

「そのな、四回戦の時は俺、あっさり負けてしまっただろ。結局フウタに二人とも倒して貰った、だから申し訳なくてな」

 

「僕は全然気にしてないよ! ジンがもう片方の相手をしていたから、その間に僕が一人倒せたわけだしさ。

 二人同時だなんてさすがに無理だからね。だから、ちゃんとジンのお陰ってわけ!」

 

「ふふっ……そっか、ありがとうな」

 

 ジンは照れ臭そうにしながらも、その言葉を受け止める。

 またその一方で、彼はある事に気づく。

 

「でも――この待合室も、とうとう俺たち二人だけになってしまったな」

 

 彼はそう言いながら周囲を見回す。

 

 

 

 大会の広い待合室、そこにいるのは今、フウタとジンの二人だけ。

 最初は何十人もいたこの空間に二人、一回戦、二回戦と、進むごとに人数が減り……今では。

 

「残るは僕達と、それにマリアさんとハクノさんだね。……今はいないけど、戻って来たらいよいよ」

 

 いよいよ――五回戦目、決勝戦だ。

 

「ああ。思えば俺たち、よくここまで来れたものだな」

 

「……まぁね」 

 

 二人とも感慨深げになる。

 

「ここまで――特訓や戦いに、頑張ったしな。色々……あったなぁ」

 

 そう呟きながら、思い出に浸るジン。

 

「元々はただのアマチュアだったのにさ、フウタと出会ってから変わったんだぜ。

 戦いを重ねるたびに強くなる事が出来て、それに色々な相手とも出会えたしな」

 

 彼の言う通り、ジンはマリアとハクノと戦う為にフウタと組んで、それから強くなる為に頑張った。

 

「ロッキーさんだとか、レーミちゃん、カインさんだとか、みんなとの戦いも大変だったけど……楽しかったな。ジンさんとの対立したりもあったり、そして何より――ミユとも改めて想いが通じたり。

 ふふっ! それだけでも大満足……てっ!」

 

 途端、ジンはフウタに軽く拳骨をくらわせた。

 

「フウタは良いかもしれないが、俺はこれからマリアの恋路がかかっている。勝手に満足されたら困るぜ」

 

「いたたっ……まぁでも、そうだよね。

 でもどっちとも、元を辿れば好きな相手のためにこうしてなんだよね。

 僕はミユに想いを示すために、ジンはマリアさんと付き合うためにさ」

 

「くくくっ、言われてみればそうだな。

 本当に俺たちはある意味単純で、似た者同士――って訳か」

 

 

 

 二人がつい、笑い合っていた時……向こうから誰かが来る足音が聞こえる。

 

「――フウタ!」 

 

 やって来たのは猫耳を生やした白い髪の少女。そう、フウタの恋人であるミユの姿だ。

 

「ミユ! 来てくれてとても、嬉しいよ!」

 

「うん! 待ちきれなくて!」

 

 ミユはフウタに駆け寄ると、そのまま勢い良く大好きな相手に抱き着く。

 

「うわわわ……っと!」

 

 彼女は自分よりも背が高い、その勢いでフウタは後ろに倒れそうになる。

 

「おっと」

 

 つかさずジンは倒れそうなフウタ達を支える。

 

「ありがとジン。……もう、びっくりだよ。いきなり抱きついて来るなんてさ」

 

「あははっ、ついつい! 会えて私も嬉しかったもん」

 

 ミユは後ろに手を組んで、フウタの顔を覗き込む。

 

「ジンさんもだけど、一回戦から四回戦、お疲れ様! フウタ!

 凄いよ! みんな強い人たちばかりなのに勝ち進んで、きっと大変だったと思うけど、おめでとう!」

 

 褒められたフウタ、これにはでれっとしてしまう。

 

「えへへーっ。やっぱミユに褒められるのが最高に嬉しいよ」

 

「フウタ……お前、凄い顔をしているぞ」

 

「……うるさいやい。

 それにミユ。褒めてくれるのは嬉しいけれど、本番はこれからさ。

 マリアさんとハクノさんとの戦いはこれから、ずっと二人を目標に強くなって――ようやくね」

 

 フウタの言葉にジンも同意する。

 

「これで俺たちの頑張りも一区切りって所だぜ。最後まで気が抜けないし、やるからには勝利! だな」

 

「もちろんさ! だから、もし二人に勝つ事が出来たら……その時にはまた、褒めてくれると嬉しいな」

 

 そんな二人に、ミユは優しい表情を向ける。

 

「やれるよ、ジンさんとフウタなら。

 大会が終わったらまた、たっぷり褒めてあげる! 

 ――そうだ! もし勝ったら四人でまた食べに行かない? 現実世界でどこか……あっ、豪華に焼き肉のお店でパーティーなんてどう?」

 

「それいいね、ミユ! 今からでも楽しみだよ!

 あっ、そうそう。ジンも、勝てたら約束通りPGのゼロカスタムも……宜しくね。終わったらミユと一緒に作るんだ、僕」

 

 フウタとジンはそんな約束もしていた。

 もし勝負に勝てたら、ジンが持っているPGのウィングガンダムゼロカスタムを譲ってくれると、そんな約束を。

 

「もちろん俺も、分かっているとも。

 ――よしっ! とにかく後もう少しだ、ラストスパートだぜ。

 それに――」

 

 足音が聞こえた。

 待合室に向かう二人分、戦い終えたマリアとハクノの足音。

 

「――どうやら二人も、勝負が終わって戻って来たみたいだぜ。となれば」

 

「もうすぐ決勝戦……そう言うことだね」

 

 互いにそう話す、ジンとフウタ。

 ミユもまた、ちょっと緊張している感じで。

 

「何だかね、私もドキドキだよ」

 

 彼女のふとした言葉、ジンはゆっくり頷く。

 

「もちろん俺も、フウタもだぜ。

 ――さて、戻って来るなら少し、挨拶しないとだな」

 

 彼はふっと、軽く微笑んで言った。

 

 

 

 ――――

 

 第五回戦――決勝戦。

 

「……頑張ったね、ジン。それにフウタくんも」

 

 スタジアムの中央で向かい合う二人と二人。

 フウタとジンに対して……マリアとハクノ。とうとうこの勝負にまで辿り着いたと、二人は実感した。

 マリアは優しくそう言い、一方でハクノも。

 

「お前たちがここまで来たのには、俺も褒めてやるぜ。

 だが! それもここまでだぜ」

 

 ハクノはピシッと、ジンを指さす。

 

「特にジン! お前に負けるわけにはいかねぇ! 大切な妹、取られてたまるかよ!」 

 

 彼の態度、ジンも負けじと、真っすぐと言葉を返す。

 

「俺だって、ハクノの妹を……マリアを大切に想っているんだぜ。

 負けられないのは俺も同じって訳だぜ」

 

 

 

 一方でマリアはフウタに対して。

 

「となると……私は君が相手かしらね、フウタくん」

 

「そうなるね、マリアさん。勿論全力で倒させて貰うから」

 

「ふふっ! それは楽しみ。

 ……ジン! 私のために、勝ってみせてね」

 

 ジンに対しても、マリアは言葉をかける。

 これに彼は自身満々に一言。

 

「――おうとも」

 

 

 

 

 四人はそれぞれガンダムを形成し、乗り込む。

 フウタとジンが乗るレギンレイズ・フライヤーとガンダムF91……そしてマリアとハクノのガンダムバエル・クリムゾンとアヘッド・ブロッケン。

 互いに構え戦闘態勢に。――そして最後の決着が、ようやく。

 

 



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互いに、負けはしないぜ!(Side ジン)★

 ――――

 

 先手を切ったのは、ジンのガンダムF91だ。

 

「今日と言う今日こそ、勝つ!」

 

 F91はビームサーベルを展開してアヘッド・ブロッケンへと迫る。

 斬撃――それをハクノのアヘッドは、右腕部の剣で受け止める。

 

〈ほう? 確かに前よりは様になったじゃないか〉

 

 通信で話すハクノには依然、余裕が感じられた。

 

〈けれど、俺にばっかり気を取られるんじゃないぜ。――何せ〉

 

〈ごめんなさいね、ジン!〉

 

 瞬間に、F91に大出力のビームが迫る。

 

 ――はぁ……っ!?――

 

 何とかビームを避けたジン。

 ……けれど、ビームを放った、マリアのガンダムバエル・クリムゾン。これにはジンも動揺してしまう。

 

「どうしてマリアが……!? 俺の相手はハクノのはずだろっ!」

 

 今度はアヘッド・ブロッケン。GNライフルを構えて放つ。放たれたエネルギー、とっさにジンのF91はビームライフルで同時に一撃を放つ。

 エネルギーとエネルギーは中でぶつかり相殺される。

 

〈ハハッ! そりゃメインは俺が、お前を倒してやるとも。

 しかしだな、これはタッグバトルだぜ? 相方と連携するのは当たり前…………おっと!〉

 

〈僕を置いて行くなってのさ〉

 

 アヘッドの背後からライフルの弾が襲う。

 今度は、ジンの相棒であるフウタ、そのガンプラであるレギンレイズ・フライヤーによる射撃だ。

 

〈なーるほど、フウタもか。――けどな!〉

 

 不意討ちに近かった攻撃だった。けれど、ハクノのアヘッド・ブロッケンは余裕で銃弾を避ける。その頭部は横目にレギンレイズへと視線を向ける。

 

〈それくらいじゃあ、俺たちに勝てないぜ!〉

 

〈くっ! よくもやるね!〉

 

 途端にフウタのガンプラはライフルからパイルに持ち替えてアヘッドに迫る。

 

〈たったそれだけじゃあな!〉

 

「俺だって――チームワークでっ!」

 

 反対側からも、ビームサーベルを抜いてジンのガンダムF91が襲う。

 アヘッド・ブロッケンの前後から挟み撃ちにしようとする、フウタとジンのガンプラ。二機が間近に迫ろうとする。……けれど。

 

「全然甘いって言ってるんだよ!」

 

 

 ハクノのアヘッドは、突如強力に自身をコマのように回転させる。

 腕に装備した蛇腹剣。それも本体とともにうねり回り、刃の嵐を巻き起こす。

 

〈うわわわっと!〉

 

「くうっ!」

 

 近接戦を仕掛けようとしたフウタと、それにジン。強烈に回転する刃に弾かれて飛ばされる。

 

〈こんなのってないよね。思ったより、ずっと強いじゃないかよ〉

 

 ついフウタはぼやく。けれど、次の瞬間に真横から別の機体が高速で迫り襲う。

 

〈ちゃんと相手してあげるわよっ、フウタくん!〉

 

 レギンレイズを襲ったマリアのガンダムバエル、機体はその実体剣――深紅の刃のバエルソードを振り下ろす。

 

〈さぁ、どれだけの実力に成長したか、見せて貰おうじゃない〉

 

〈もちろん! 言われなくてもさ!〉

 

 

 

 フウタとマリアは二人で戦闘を始めていた。

 そしてジンはようやく……。

 

「ようやくこれで、ハクノを倒す事に集中出来るぜ」

 

 ジンのガンダムF91はハクノのガンプラ、アヘッド・ブロッケンを睨む。

 

〈ははっ! ……まぁフウタは今マリアが相手しているわけだ。

 まぁいいとも! ただし、俺に勝てるだなんて――決して思うなよ〉

 

「そんな余裕なんて、消し飛ばしてやるぜっ!」

 

 ジンはそう言い機体両側のヴェスバーを二門、展開して最大出力で撃ち放った。

 アヘッドに放たれる二筋の強力なビーム。けれど、それを平然を飛び退ける。と、同時に左方に旋回、GNライフルによる連射攻撃を仕掛ける。

 

 ――続けて攻撃とは、素早いっ!――

 

 ハクノによる激烈な反撃、どうにかジンのF91は逃げるけれど瞬く間に追い詰められて行く。

 

〈オラオラオラァ! 逃げてばっかじゃ勝てはしねぇぞ! ジン!〉

 

 一撃、逃げきれずに脚部に当たる。途端にぐらりと制御を崩す。

 

 ――このままでは飛びきれない。なら!――

 

 

 

ジンは即座の判断で地上に着地すると、今度はライフルで数撃、反撃を返す。

 

〈!!〉

 

 ――我ながら良い動きだ!――

 

 今の連続行動はジン自身にとっても最高の出来だった。そう、最初のアマチュアだった頃とは比べ物にならない程に。

 流石のハクノも、あまりにも不意で驚く。彼のアヘッドはとっさに回避運動を取るも、二撃命中した。

 一撃はアヘッド・ブロッケンの頭部に、もう一撃は左腕部に。攻撃はそれぞれ頭部の右目を潰して……それに、左腕への攻撃のせいで手元が緩み、握るGNライフルを落としそうになる。

 

「やったか!?」

 

 ようやく攻撃が入った喜び、それになかなかのダメージ。ついジンは声をあげる。……けれど。

 

〈まだだぜっ!〉

 

 落とそうとしたGNライフルを、傷ついた左腕に再度力を込めて、手で握るハクノのアヘッド。そして残った左目でジンのF91を睨む。

 

〈これで勝った気に、なってんじゃねぇぞ……おい!〉

 

 モニターのハクノは、燃えるような本気の目つきだ。

 彼に呼応するように、ライフルの銃身やパーツは解除して外れ、GNマシンガンへと換える。また右腕の蛇腹剣も威嚇するように伸ばし、うねうねと波打たせる。

 

 

 

 そして――跳躍。

 一瞬どこに行ったか分からなかったジンだけれど、すぐに上を見上げた。

 

〈すぐに何倍もお返ししてやるぜ!〉

 

 途端跳躍したアヘッド・ブロッケンが放つマシンガン攻撃。

 上空から放たれるビームの弾丸の雨、ジンはビームシールドで防ぐが。

 

「くっ!」

 

〈遅いってんだよ!〉

 

 すぐさまアヘッドは左横にまわり、得意の蛇腹剣をうねらせて斬撃を繰り出す。

 

 ――この斬撃は!?――

 

 やはりこの蛇のように自在に動く剣筋、防ぐのは困難だ。

 鋭い一撃が、F91は胴体脇腹に突き刺さった。

 

「……ぐうっ」  

 

 傷からは火花が散り、よろめく。

 

 ――致命傷はギリ防いだ。だけど、これはきつい――

 

 蛇腹剣を引き抜くアヘッド。

 

〈ハハハッ! ここまでやってくれたお礼に、今からマジでぶっ潰してやるぜ! 〉

 

「……俺も負けないと言った。どうにか、やってやる」

 

 対してF91も、両手にビームサーベルを握って構える。

 互いに傷を受けながら……ジンとハクノの戦いはこれからだ。

 

 

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いよいよ……最後の(Side フウタ)★

 ――――

 

 

【挿絵表示】

 

 

 また、フウタの方もマリアを相手に全力をぶつけていた。

 

〈確かに動きはまずまず、悪くない成長だわ、フウタくん〉

 

 特製の大型ライフルを構え、マリアのガンダムバエル・クリムゾンは高出力のビームで薙ぎ払う。

 放たれる強大なエネルギーの光筋、それをフウタのレギンレイズはステップを踏み下がる。

 ――けれど薙ぎ払いによる衝撃は凄まじく、機体を吹き飛ばす。

 

「くぅ……っ」

 

 吹き飛ばされ態勢を戻そうとする。しかし、そんなレギンレイズの真横には、高速で迫っていたガンダムバエルが迫っていた。

 

「何て、スピードだよ!!」

 

〈体術だってねぇ!こちとら出来るのよねぇ!〉

 

 マリアはそう言って回し蹴りを繰り出す。

 無論、フウタは機体腕のガントレットで防ぐ。

 勢いは強く、飛ばされそうになるのを耐えながら、至近距離でライフルの銃口を向ける。

 

〈させないわ!〉

 

 ガンダムバエル・クリムゾンの左腕にも、シールドが備わっていた。マリアはそのシールドを使って、思いっきりレギンレイズの頭部を殴りつける。

 

 ――うわっ!――

 

 衝撃によってモニターがフラッシュ、眩しさで思わずフウタは一瞬目を閉じる。

 

 ――こんな真似まで、やるものだね――

 

 視界はすぐに回復する。……けれどその時目にしたのは、マリアのバエルが握る、大型ライフルの銃口だった。

 

〈これで……終わりにさせてもらおうかしら!〉

 

「!!」

 

 間もなく放たれようとする止め。絶対絶命の

状況の中で、フウタは。

 

 ――でも、僕だって負けたくないんだってば!

……ミユっ!――

 

 その強い想いによるものか、フウタは一瞬考えるよりも早く身体が動いた。

 とっさに彼は操縦し、右腕に持つライフルをバエルクリムゾンの左腕、シールドと腕の接続部分を狙った。

 

〈えっ!?〉

 

 意外な行動にマリアは驚愕する。

 反撃が来るとするならライフルを持つ右腕か、もしくは急所である胴体を狙うと思っていた。けれど、左腕を狙うなんて想定外だった。

 

 

 虚をつかれたマリア。フウタは彼女よりも早くライフルの引き金を引いた。

 

「!!」 

 

 左腕に来る衝撃。至近距離による射撃のショックでガンダムバエル・クリムゾンの態勢が崩れる。

 

 ――今だ!――

 

 その隙にフウタのレギンレイズは距離を離して逃れる。

 

 ――自分でも反射的にとった行動だけど、上手く行ったな。……これも特訓の成果かな――

 

 今までの特訓で覚えた戦法、それが無意識に発揮したんだろうか。

 けど、どっちにしろピンチを脱出出来た。――それに。

 

〈やって……くれるじゃないの〉

 

 さっきの一撃は大きかった。バエルクリムゾンの左腕の装甲は砕けで剥がれ、それに接続部を粉砕されて装備していたシールドも失っていた。

 

「上手くやった気がするよ! このまま畳み掛けさせてもらう」

 

〈ふっ、これはこれは。……けれどねっ!〉

 

 シールドを失った左腕。その代わりにマリアは左手に紅い刃のバエルソードを握る。

 

〈これ即ち、片腕も空いて使えるってわけなのよ〉

 

 右手に大型ライフル、左手にバエルソードを持つマリアのガンダムバエル。

 両手に武器を持つ相手に、フウタは苦い表情をする。

 

「何だろ、逆に不味いような……っ!」

 

〈遅いわねっ!〉

 

 瞬間、バエルクリムゾンの高速接近とすれ違いざまの斬撃を繰り出す。

 

「うっ!」

 

 斬撃でレギンレイズの右肩装甲が切断される。

 

〈続いてもう一丁!〉

 

 続けてバエルソードの刃の向きを変えて、刃先をレギンレイズの左足関節に突き刺す。そして、更に。

 

〈これで――潰させてもらうわ!〉

 

 最後にライフルを再度狙いを定めて、一撃を放つ。

 

「!!」

 

 最大で放たれる膨大なエネルギー、ナノラミネート装甲だろうと、直撃すれば一たまりもない。

 

 ――直撃だけはする訳に、いかないっ!――  

 ビームが放たれたと同時に、フウタは自機に回避行動を取らせる。

 直撃は避けた。……けれど、放出された強大なエネルギーの奔流は付近も巻き込み、彼のレギンレイズはそれに煽られて地に落ちる。

 

「くっ! ……うっ」

 

 着地はした。しかし、左足が思いっきりガクッとバランスを崩す。

 足関節に違和感、さっきバエルクリムゾンに突き刺された傷のせいだ。

 

 ――はは、こんなのばっかりだな。相変わらず苦戦してばっかでさ――

 

〈ボーっとしているんじゃあないわよ!〉

 

 上空から迫る、マリアのバエルからの追撃。

 振り下ろされるバエルソード。それもまた左に避けるけれど、途端再び左脚部に異常が起こる。

 

 ――やっぱ、調子が悪い――

 

 足を挫き、隙が出来てしまうレギンレイズに、バエルクリムゾンは剣の刃先を向ける。

 

〈これで、終わらせて貰おうかしら〉

 

「……まずいっ」

 

 かなりピンチな状況に、冷や汗を浮かべるフウタ。……その時。

 

 

 

〈――なっ!?〉

 

 突如バエルクリムゾンの真横に、強大なエネルギーが直撃する。

  

〈何これっ!? 私がこんな攻撃を受けるだなんて!〉

 

 マリアにとっても不意だった攻撃。それバエルソードを持つ左腕ごと、マリアのガンプラから吹き飛ばす。

 

 ――この一撃、まさか!――

 

〈援護に来たぜ、フウタ!〉

 

「……ジン!」

 

 攻撃をしたのはジンが乗るガンダムF91、そのヴェスバーだった。

 視界を向けた先に見える、ヴェスバーを展開したF91の姿と……その後を追うハクノのアヘッド・ブロッケンの姿。彼の機体も左腕と右目にダメージを受けて、傷があった。

 

〈すまねぇマリア、ドジっちまった。

 ――この野郎っ! よくも俺の妹を!〉

 

 アヘッドはGNマシンガンでF91を狙って連射する。その攻撃をジンはどうにか回避する。

 

〈さっき右目が潰れたのが大きいな。おかげで命中精度は下がっているぜ!

 アマチュアの俺にだって避けられるくらいにな!〉

 

〈くそがっ! 言いやがるじゃないかよ! ――だったら!〉

 

 瞬間、アヘッド・ブロッケンは左手に持っていたGNマシンガンを投げ捨てた。

 ガンダムF91に向かって。いきなりの行動にジンは怯み、続けて――最大出力で迫った。

 

〈これだったら! そうは行かないだろうがよ!〉 

 

 迫るアヘッドは右手の蛇腹剣をうねらせて攻撃態勢へと。

 

〈もう飛び道具はいらないぜ! 俺にはこれだけ十分!〉

 

〈――こんにゃろうめ!〉

 

 近接戦に集中された分、余計に厄介になったハクノ。けれど、ジンもまた一人ではない。

 

「僕だって……いるんだからね!」

 

 迫って来たアヘッド・ブロッケン。その真横から、フウタのレギンレイズ・フライヤーが体当たりを仕掛けた。

 

〈ぐう……っ〉

 

〈兄さんまでっ!〉

 

 体当たりを喰らってアヘッドは飛ばされる。

 そしてジンはフウタに、ふっと笑みを見せた。信頼する相手へと向ける……そんな笑みだ。

 

〈流石だなフウタ。やっぱりお前は、俺にとって一番の相棒――バディーだ〉

 

 この言葉にフウタも、同じく信頼の笑みを返して応える。

 

「何を今更。ジンは僕にとって、同じく最高のバディさ」

 

 二人のガンプラは隣り合わせで並び、共に構える。

 そして――

 

 

「相手はもうボロボロさ。このまま決めるよ!」

 

〈ああ! 俺たちで……ここで決着をつけようじゃないか!〉

 



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二人の大勝利!(Side フウタ&ジン)

 ――――

 

 

 

 いよいよ最後の――決着。

 フウタとジンは勿論、対するマリアとハクノもまだ負ける気はない。

 

〈あはは、これは随分とやられてしまったわね〉

 

〈全くだぜ。まさかここまで追い詰められるなんてな!〉

 

 けれど、そう言いながらハクノのアヘッドは右腕の蛇腹剣、剣の刃先を向ける。

 

〈けどまだ負けてないぜ! 最後に勝つのは……俺たちだぜ!〉

 

 マリアのバエルクリムゾンもまた、片手に握る大型ライフルを構えた。

 

〈そりゃあ負けるのもシャクだしね。バトルをするからには、勝ちに行かないと!〉

 

 

 

 そんなハクノとマリアを前に――

 

「いや、俺たちが勝つ!!」

 

 ジンはビームサーベルを抜くと、先陣を切って突撃しようと。

 

「フウタ、また援護を――」 

 

〈いや……それよりもさ、ジンに援護を任せるよ!〉

 

 フウタが言うやいなや、彼のレギンレイズが先に前に出てガンダムバエル・クリムゾンとアヘッド・ブロッケンに迫る。

 

〈だってジンのF91の方が火力はあるだろ! 狙いは勿論――〉

 

「――ああ! 分かっているぜ」

 

 フウタの言おうとしている事はジンにも察しがついた。

 瞬時にF91はヴェスバーとそしてビームライフルを構える。

 

 ――うっ――

 

 先ほど胸部に斬撃を受けた傷から、いくらかのスパークが飛ぶ。それにエネルギーも溜まりにくい。

 

 ――やっぱりダメージが辛いな。……けど! ここが正念場だぜ!

 それにフウタにも任されたんだ。俺は年上として、ちゃんと恰好良い所を見せないといけないだろ!――

 

 今出来る最大の攻撃で。

 ジンのガンダムF91はヴェスバーとビームライフルにエネルギーを充填し、そして一斉に放った!

 

 

 

 

 ――――

 

 F91の一斉射撃、それはハクノのアヘッド・ブロッケンへと放たれた。

 

〈小賢しい真似をしやがるぜ!〉

 

 アヘッドは跳躍して避ける。……けれどヴェスバーの一撃が右脚部を抉り傷を付ける。

 

〈……反応が遅れちまった。思ったより機体にダメージが重なって、ボロボロなせいか〉

 

「おっと! 僕だって忘れないでよね」

 

 

 

 そして――フウタも。

 彼のガンプラ、レギンレイズ・フライヤーは近接武器であるパイルを握りアヘッドに迫る。

 

〈やるじゃないかよ! けれど、俺の剣の一振りで……〉

 

「距離が近すぎると使いにくいだろ、それ!」

 

 最初、ジンの攻撃に気をとられたせいで流石のハクノでも反応が遅れた。

 

〈不味いっ!〉

 

「少しはハクノさんの実力に、近づいたんだよ!」

 

 フウタのレギンレイズはパイルの一撃を真っすぐに繰り出した。

 一撃はアヘッドの胸部に、突き刺さった!

 

「やった!」

 

 これは倒したんじゃないか。そう、フウタは思ったが。

 

〈残念……だな〉

 

 胸に突き刺さったパイルを、アヘッドはボロボロの左腕で掴む。

 

「まだ動けるのかよ!」

 

〈生憎胸部装甲はとりわけ頑丈でな。それに――右を見てみろ!〉

 

「……? 右だって?」

 

〈こっちよ、フウタくん!〉

 

 右を確認するとそこには、ライフルを構えたマリアのバエルクリムゾンの姿が。

 銃口ははっきりとレギンレイズに向けられ、エネルギーの充填は既に終わっていた。

 

 ――しまった! これは避けられるようなものじゃ――

 

 間に合わない。そうフウタが思ったと同時にライフルの引き金が……

 

 

 

〈んな事、させはしないぜ!〉

 

 その時、バエルクリムゾンの銃身に別方向からビームが着弾する。

 

〈――くっ!〉

 

 その衝撃でライフルの向きはそれ、放たれたエネルギーは何と……ハクノのアヘッド・ブロッケンへと。

 

〈おい嘘だろ? ……ぐはっ!〉

 

 相当に、今のは運が良かった。

 完全に直撃とは行かないまでも、その誤射はアヘッドの右肩を大きくえぐり取った。

 

〈ううっ……そんな〉

 

〈ごめんなさい、兄さん。まさかこんな事になるなんて〉

 

 いくら実力のあるハクノとマリアとは言え、これには動揺を隠せないでいた。

 

「ジンのくれた好機、たたみ掛けさせてもらうよ!」

 

 ジンが乗るガンダムF91は、アヘッドブロッケンへと迫る。

 

〈ああ! 手負いのハクノは、今度は俺に任せてくれ。

 彼とは俺自身が決着をつけたいしそれに、マリアのバエルと相性的にはフウタのレギンレイズの方がいい〉

 

「オーケー! ならジンはハクノさんを、僕は――」

 

 

 

 少し離れた位置にいるガンダムバエル・クリムゾンへと、レギンレイズは大出力で迫る。

 パイルを構え、そして一気に突撃をかける。

 

〈うっ、やるじゃあないの〉

 

「そりゃあね、当たり前だよ!」

 

 フウタが駆るレギンレイズによる次々と繰り出される連撃に、ライフルを握る片腕しかないバエルクリムゾンは追い詰められて行く。

 これまでの経験でフウタの戦闘技術も十分に上がって、上級ダイバーであるマリアを追い詰めるまでに至った。

 

「片腕がないんじゃ僕に有利さ。そろそろ勝負、決めてみせるよ!」

 

〈フウタくんも強くなったのね、頑張って偉いわ。

 ……だけどね〉

 

「えっ!?」

 

 瞬間、マリアのバエルクリムゾンは強く左足を蹴り上げ、攻撃を繰り出す。

 

「――ぐはっ!」

 

 蹴りはレギンレイズの胸部に命中し、コックピットも激しく揺れる。

 

〈片腕がなくても足があるのよね! ほらほら行くわよ!〉

 

 続けて回し蹴り、飛び蹴り、蹴り落とし――、息つく間さえない足技の連続に今度はフウタが圧倒的に追い詰められる。

 瞬く間に装甲は傷だらけに、そして最後の強烈な右回し蹴りによってレギンレイズは倒れ、ダウンする。

 

「うう……っ」

 

 ――まさかここまで、強いだなんて――

 

「確かに二人とも強くなったわ。でも、まだまだね」

 

 そう言ってマリアは片手に握る大型ライフルを向ける。最後はこれで止めを……と言うことだろう。

 

「ずいぶん苦戦しちゃったけど、これで終わりだわ」

 

 今度こそ吹き飛ばそうと、ガンダムバエル・クリムゾンはライフルの引き金を再度引いた。

 ……瞬間、今度は。

 

 

 

 大爆発――。引き金を引いた途端、バエルクリムゾンの大型ライフルの銃身が膨らんだかと思うと、手元で思いっきり爆発を起こした。

 

〈そんな! ……まさか!〉

 

 自身のライフルの暴発。この原因は……恐らく。

 

 ――さっきのジンの攻撃が、銃身にダメージを――

 

 ジンのガンダムF91が放ったビームの一撃、それが彼女のライフルにダメージを与え、発射しようとした瞬間にダメージが元になって暴発したわけだ。

 

 ――ジンのお陰でまた助かったし、それにチャンスまで。

 相手も既に深手を負っている。この一撃で――

 

 自身のライフルの暴発を喰らったバエルクリムゾン、その胸に狙いを定め、レギンレイズはパイルを槍投げの如く投擲した。

 

〈――!〉

 

 投げられたパイルの先端はガンダムバエル・クリムゾンの胸に深々と突き刺さる。

 

〈私の運が悪かったと言え、お見事ね〉 

 

 マリアの言葉はこれで最後、それとともに彼女のガンプラであるバエルクリムゾンは倒れ、機能を停止する。

 

 ――本当にチームワーク……だね。僕一人だけじゃ勝てなかった。

 幸運と何より、ジンがいたからこそ――

 

 一人で戦っているわけじゃない。フウタとジン、二人がバディとして組んだから、勝てた。

 

 ――僕達の勝利だね。だからこそ、今度は――

 

 ジンはまだハクノと戦っている。

 残りは彼だけ、けれどその強さは相当でもある。

 

 ――僕が、今度はジンさんの助けにならないとね――

 

 

 

 

 ――――

 

 フウタがマリアを倒すほんの少し前。

 

 

 ジンのガンプラF91は、ハクノが乗る傷と損傷により満身創痍のアヘッド・ブロッケンと激戦を繰り広げていた。

 

「嘘だろっ! あんなにボロボロなのに……うっ」

 

 かなり損傷が酷いはずなのに、それでもものともせずに今唯一の武器である蛇腹剣を振り圧倒する。

 

〈もう一切の手加減は無しだ! ここからは圧倒してぶっ倒してやるぜ!〉

 

 アヘッドの蛇腹剣は一振りごとに、確実にジンを追い込む。

 

 ――やはりやるな――

 

 しかしジンも、ハクノの本気の攻撃をどうにか避け致命傷を避けている。

 

 ――でもやっぱりダメージのせいで、動きは鈍くなっている。でなきゃ今頃は――

 

 何だかんだハクノは慢心して、最初の頃は甘く見て手加減をしていた。だからこそ今、本気で襲って来ているわけだ。

 距離も蛇腹剣の攻撃を最大限に生かせる中距離を維持。離れて射撃する暇も、至近距離に迫って斬撃する事さえも難しい。

 

 ――どうにかしないと。あと少しなんだ、無茶をしてでも――

 

 ジンは覚悟を決め、ビームサーベルを抜いて一気に迫ろうとする。

 

〈無茶はいけないぜ!〉

 

 が、その斬撃をすぐさま退いて避ける。

 

「まだだぜっ!」

 

 瞬間ジンは切り札であるヴェスバーを展開して至近距離で放とうと。

 

〈ヴェスバーに頼るのも甘い!〉

 

 途端にハクノのアヘッドは蛇腹剣を薙ぐ。展開したヴェスバーの銃身を二門とも切断する。

 

 ――俺のヴェスバーが!?――

 

〈だからお前が俺に勝つなんて、百万光年早いってんだよ! ジン!〉

 

「光年は時間じゃなくて……距離の単位だろ」

 

〈おうおう! 細かい事はいいんだぜ。

 とにかくお前の負けは決まりだ、せいぜい覚悟するんだな〉

 

「それは……」

 

 悔しく、認めたくないけれど、この場において優勢なのはハクノの方だ。

 

 ――ああもボロボロでも、太刀打ち出来ない。俺一人じゃ――

 

 

 

〈助太刀に来たよ、ジン!〉

 

 その声とともに、別方向から銃弾が飛来してアヘッドを襲う。

 

「まさかフウタ、来てくれるとはな!」

 

〈勿論だとも。だって僕は、ジンのバディだしね〉

 

 援護に来たのは勿論、フウタのレギンレイズ。

 ジンは喜び、そしてハクノは驚く。

 

〈……嘘だろおい。マリアは一体どうしたって言うんだ〉

 

〈悪いねハクノさん。マリアさんはさっき僕が倒して来た所だよ、ギリギリの戦いだったけれどね〉

 

〈くぅ……っ! あり得ないぜ〉

 

「マジかよフウタ! 凄いな!」

 

 二人の驚きに、フウタは照れた表情をする。

 

〈ふふっ、倒せたのはジンのおかげでもあるんだ。

 ……だから今度は僕たち二人一緒に、最後の決着をつけようか〉

 

 これで二対一。

 次はジンが追い詰められる側に回った。

 

〈これは……まずいな。

 ――だが! 俺にだって意地があるんだよ!〉

 

 

 

 ハクノ、残る全力を振り絞り、一気に間近のガンダムF91を始末しようとする。

 蛇のようにうねり、F91に迫る剣先。

 

〈させないよ!〉

 

 けれどその刃はレギンレイズからの銃撃によって弾かれ、軌跡が逸れる。

 

〈フウタの方も、厄介だな〉

 

「――今なら! 俺も忘れないでくれよな」

 

 続けてジンのF91も、再度ビームサーベルを構え、突撃する。

 先ほど蛇腹剣を弾かれた隙を突かれた攻撃。とっさに回避しようとするも、ビームサーベルの突きをその腹部に、アヘッド・ブロッケンは受けてしまう。

 

〈ぐうっ! だが俺は負けないって言うんだよ!〉

 

 ハクノはF91、レギンレイズの中間に機体を跳躍させる。

 

〈この距離なら二機共々!〉

 

 そう言うやいなや、自身の身体ごと蛇腹剣を大回転。

 恐らくハクノの得意技でもある刃の嵐を巻き起こそうとする。

 

「これはヤバい技だ。けれど……フウタ、分かるな」

 

〈オーケー!〉

 

 二人は示し合わせたように頷く。

 次の瞬間、一気に巻き起こる蛇腹剣の大回転。それに……ジンとフウタのガンプラは瞬時に後方に跳躍、攻撃範囲から離れた。

 

 ――大規模な攻撃だけれど、勝負をつけようと焦ったハクノ、そっちが甘い!――

 

 跳躍した二機は宙から、ライフルを同時に構えて放つ。

 

〈かはぁぁっ!〉

 

 ライフルの射撃は回転中央のアヘッド・ブロッケンへと直撃する。

 

「この技は上からだと、攻撃を当てやすいんだぜ。

 そして、やっと――」

 

 回転が止み、膝をつくアヘッド。

 ジンはビームサーベルを、そしてフウタはガントレットを構えて、そのまま。

 

「――これで決着だ! 俺たちの今までの頑張りの結果、見せてやろうぜ!」

 

 通信モニターで、フウタは頷いて応える。

 

〈もちろん! 最後の勝負、これで終わらせよう!〉

 

 ガンダムF91とレギンレイズ・フライヤーはアヘッドに急接近して……そして。

 

 

 

〈……〉

 

 F91のビームサーベル、レギンレイズのガントレットに突き刺さる、ハクノのアヘッド・ブロッケン。

 最後の最後で抵抗しようとしたのか、蛇腹剣を振ろうとした態勢のまま固まるアヘッド。

 

「……今度こそ」

 

「どうだろ……多分」

 

 アヘッドは微動だにせず、ハクノは……モニターで。

 

〈これで、負けるのか。……悔しいものだぜ〉

 

 そう言い残し、アヘッドの頭部はがくっと下がる。辛うじて光っていた頭部の片目の輝きも消え――停止した。

 

 

 

 

「勝った……のか、俺たちは」

 

 ジンは唖然としたまま呟いた。

 ……と、次の瞬間、観客席から沸き起る大歓声。

 優勝したのはジン、フウタの二人だと。観客はみんなそれを祝福し、祝っている。

 

〈こんなの初めてだよ。凄いし、でも恥ずかしいな〉

 

 でも何だかんだフウタも嬉しそうに顔をほころばせる。

 もちろんジンだって同じ気持ちだ。

 

〈ミユも喜んでくれるかな……ふふっ、何だかいい気分。

 これもジンといたからかな。改めて――有難う〉

 

 フウタのレギンレイズは、そっと拳をジンのF91に差し出す。

 その意味は……もちろん。

 

「こちらこそな。フウタ、お疲れ様だ」

 

 F91もまた拳をレギンレイズへと。

 

 

 そして二人のガンプラは、互いに健闘を祝い合うように…………ゴツンと拳を突き合わせた。

 




 これにて決着。
 ……次回はいよいよエピローグですね。


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エピローグ  大体普通な――日常だけれど(Side フウタ&ジン)☆

 

 ――――

 

 あの戦いから……もうしばらく経った。

 

 

 

「えっと、ここをこう組み立てればいいのかな」

 

「そうそう。後もう少し頑張れば、右腕の完成さ」

 

 フウタは自分の部屋で、ミユと一緒にあるガンプラを組み立てている。

 傍らにある上箱には既に完成済みのパーツが入っていて、今はそれぞれ右腕と左腕をフウタとミユは向かい合わせに、床に座って一緒に作っていた。

 

「……よしっ! 僕の方は左腕の完成だね。ミユはどう?」

 

「私はちょっとまだかな。やっぱりプラモデルを作るのはフウタが上手いね。

 だって私には、うーん……少し難しくて」

 

「そりゃあPGのガンプラだもん、難しいのは当然じゃない。

 けど僕とミユはここまで完成させたんだ。――このPGウィングガンダムゼロカスタムをさ、凄いよ」

 

 フウタの言葉に、ついミユは嬉しくなる

 

「フウタがいてくれたおかげだよ! それに二人で一緒にガンプラを作るの……幸せだもん」

 

「……勿論僕もだよ」

 

 彼はそう言い、にこっと笑みを返す。

 

 

 

 ……そう、フウタとミユが組み立てていたガンプラは、PGウィングガンダムゼロカスタム――二人にとって思い入れのある特別なガンプラだ。

 

 ――僕は元々、このガンプラを貰うことを交換条件にジンと一緒に戦ったんだ。

 色々あったけど結果的には最後のバトルに勝てて、約束通りジンから貰ったわけ――

 

「うん! ウィングガンダムゼロカスタム……私が小さい頃どうしても欲しかったガンプラ。

 フウタは私のためにずっと頑張って来たんだよね。これはただのガンプラじゃなくて、フウタの想いの結晶だよね。

 ……ずっと、大切にするよ」

 

 ミユは自分の胸に手を当てて、感激した様子を浮かべる。フウタも、彼女の様子に自分の事のように喜んでいた。

 ようやく、ミユにゼロカスタムをプレゼントして……一緒に作る事も出来た。もうゼロカスタムの胴体と足、それに頭と翼も完成している。

 フウタがさっき左腕を完成させた。武器を別にすればミユの作っている右腕を作り終われば、ウィングガンダムゼロカスタム本体が完成する。

 

「あのさ、ミユ」

 

「うん?」

 

「残る右腕は……僕も手伝っていいかな。

 最後は一緒に完成させたいから」

 

 フウタの言葉、それにミユはいいよ、とそう言ってこたえる。

 

「ありがと! それじゃ、少し移動するよ」

 

 そう言ってフウタはミユのすぐ隣に移動する

 肩と肩が触れ合いそうなくらい近くに。ミユは少し意識してしまう。

 

「……んっ、ちょっと近すぎるかも」

 

「いいじゃん。だって、僕とミユとの仲だしさ。これくらい全然!

 それよりも後少し。一緒に組み立てて、完成させよう」

 

 

 

 こうして残る右腕も、フウタとミユは共に組み立てて行く。

 

「――よしっ! これで!」 

 

 パチッと、最後のパーツを組み合わせる音とともに、ゼロカスタムの右腕がついに出来上がった。

 

「やったねフウタ!」

 

「だね! 後は出来上がった手足と身体を組み合わせて行けば……」

 

「ガンプラの完成だね! もう後ちょっと、何だかドキドキしちゃうよ」

 

「その気持ちは僕も分かるな。じゃあ、いよいよ!」

 

 フウタ達二人は作り終えた手足を、一緒に組み合わせてゆく。

 足や腕、頭を取り付けて、そして大きな翼を最後に付けると――。

 

 

 

「ツインバスターライフルはまだだけど、これで完成。僕達二人で作った――ウィングガンダムゼロカスタム」

 

 僕達の前に立っているのは、白い巨大な翼を広げている白と青のガンダム、ウィングガンダムゼロカスタムの姿。

 PGと言うだけに全身は大きく迫力もあって、それにHGよりも細かい作り。フウタとミユも、自分達の作ったこのガンプラに、しばらく見惚れてしまっていた。

 

「ようやく完成したね。私たちのガンプラ」

 

 ミユのそんな呟きにはにかむフウタ。それに何やら照れ恥ずかしがっているみたいに。

 

「このガンプラ、ゼロカスタムは君の物だよ。

 僕はずっとそう望んでいたんだから。あの時のミユの願い、叶えたくて。…………それに、さ」

 

「ふふっ、小さい時だったけれど私も覚えているよ。

 もし私の願いを叶えられたら、その時は結婚して欲しいって、言ってくれたよね」

 

「やっぱ、その事まで覚えていたんだ」

 

 つい頭を掻くフウタに心底得意そうに、またミユは真っすぐに言う。

 

「勿論だよ! ――だけど、その約束はもう少ししてからかな。

 あと少し、私たちが大人になってから……きっと。だからね――」

 

 彼女はにっと満面の笑みを浮かべて、こう返す。

 

「フウタとの約束を後回しにしちゃうんだもん。代わりにこのゼロカスタムも私とフウタ、二人一緒の物でいいよね。…………そうしたいんだ」

 

「――叶わないな、ミユには」

 

 二人はそんな、互いに甘い一時を過ごしていた。

 

 

 

 そんな中でフウタはおもむろに、ぐっと背伸びをする。

 

「うーん、ガンプラを作るためにずっと部屋で座りっぱなしだから、ちょっと疲れたよ。

 だからさ、良かったら今から外に出ない? 気分転換に散歩したいんだ」

 

 この提案にミユは頷く。

 

「散歩かー、いいね! ……そうだ、散歩に行くんだったらジョウさんの店にも寄って行かない? ちょっとだけGBNも遊んでみたいし」

 

「決まりだね。ならまずは模型店の方から行こうか、そっちの方がGBNとか遊ぶ時間だって取れるからさ」

 

 ガンプラを作った後はGBN、それも悪くないと思うフウタ。

 

 ――大切なミユと一緒の日常……やっぱ、何もかもが宝物だな――

 

 

 

 ――――

 

 それから準備を済ませて、外へと出かけたフウタ達。

 行く先は二人にとって馴染みの店であるヒグレ模型店。早速辿り着いて店にと、店主であるジョウがにこやかに手を振って出迎る。

 

「よう! フウタにミユちゃん! 来てくれて嬉しいぜ」 

 

「こんにちは、ジョウさん」

 

「散歩がてらに立ち寄ったよ。今日も相変わらずな感じだね」

 

「ハハハ! おかげさまでな。

 それにだ、実は店にはある先客も来ているんだ」

 

「先客だって?」

 

「そうさ。フウタにとっても覚えがある筈だぜ。……ほら、噂をすれば」

 

 そんな三人の会話が聞こえたのか、店の奥から二人の人影が現れた。

 さっきジョウが言っていた先客、それは。

 

 

 

「まさかフウタ達も来るとは、驚いたな」

 

「ハロー! お二人さん、相変わらずのラブラブだわね!」

 

 やって来たのはジンと、それに――マリア。

 二人も仲睦まじいく腕を組んで一緒に。……最も、少し慣れない感じであり、言うなれば成りたての初々しい恋人といった雰囲気である。

 

「ジン! ここに来るだなんて思わなかったよ」

 

「ふふっ、言うなればデートって奴さ。……マリアが模型店巡りがしたいって事で、こうしてな」

 

「そっか……あれから本当に、付き合い出したんだね」

 

 少し自分の事みたいに嬉しく思いながら、呟くフウタ。

 

 

 

 そう、フウタとジン、二人の頑張りによってGBNにおいて上級ダイバーであるハクノとマリアに勝てた。

 ジンとマリアが交際を反対する彼女の兄、ハクノを納得させる為に。……そうした約束だったから。

 フウタとジンによる約束通りの勝利。あれからハクノも約束を守り、ジンは晴れて正式な交際に踏み切る事が出来たわけだ。

 

「今でも信じられないぜ。マリアとこうして普通に、気兼ねなく一緒に居られるだなんて」

 

 ジンがそう言う一方で、マリアもふふっと微笑むと。

 

「渋々だったけれど、兄さんも約束を守ってくれたから。

 私もジンとラブラブって訳。フウタくんにミユちゃん、貴方達二人にも負けないわよー」

 

「それは私だって譲れないです! 私とフウタの方がラブラブなんですからね」

 

「あらあら! ムキになっているミユちゃんも可愛いわね。えーい、ぷにぷにっ!」

 

 マリアはミユのふくれっ面のほっぺを、ぷにぷにと指でつついている。

 

「おいおい、大人げないぞマリア。

 ……でも改めてフウタには、礼を言わないとだな。お前と出会って一緒に戦えたからこそ、マリアと一緒にもなれた。

 本当に――ありがとうな」

 

 ジンの感謝、フウタはこれに対して。

 

「礼には及ばないよ。僕は僕で、ミユへの想いを伝えるためにゼロカスタムが欲しかったし頑張りたかったからだし。

 ようは利害の一致、お互い様だよ。……でも」

 

 ふと、フウタの顔には微笑みが、つい浮かんだ。

 

「本当に良かったよ。僕とジンの頑張りが、実を結んで。

 大変だったけど……それでも色々な出会いだとか面白い事もあったりで、いい思い出だったしさ。

 振り返れば一緒に頑張って来たよね、僕達は!」

 

「ああ! あそこまで頑張れたのも、俺にとっては初めてだったからな。

 手にした結果はもちろん、フウタと一緒にいた時間そのものも、悪くなかったぜ」

 

「僕もだよ。ミユとの思い出の次くらいには……大切な時間と思い出さ!」

 

 

 

 二人がそう話していると、マリアがある提案をする。

 

「ねぇねぇ! せっかく四人揃ったんだし、一緒にGBNで遊びましょう。

 この店ではGBNも遊べちゃうみたいだし、それなら……ね!」

 

 それを聞いてフウタとミユははっとする。

 

「あっと、私たちもGBNを遊びに来たんだよね」

 

「そうだったね、ミユ! ……じゃあさっそくGBNにログインしようかな。ジンさんもそれでいいよね」

 

 フウタの問いかけにジンも同意する。

 

「三人ともそう言うなら。模型店巡りも良いけれど、GBNもまた楽しいからな」

 

 四人が話すのを聞いて、店主のジョウは頬杖をつきながら。

 

 

「じゃあ決まりだな。端末は丁度四人分ある。――楽しんで来てくれよな」

 

 

 

 ――――

 

 そしてフウタとミユ、ジンとマリアはGBNへとログイン。

 

「さて、と。今日は何をしたものかな」

 

 マントを被り旅人姿のダイバールックのジン。彼の言葉にパイロットスーツ姿の、青髪で猫耳と尻尾を生やした姿のフウタは応える。

 

「僕としては面白そうなミッションに参加しようかなって思ったけど、うーん……ミユはどうしたい?」

 

「私は普通に、ただゆっくりエリアを散策してみたいかな。

 フウタもジンさんももう前みたいに頑張る必要だってないもの」

 

 ついついどうするか悩んでしまう三人に、マリアも考えるのを手伝う。

 

「ふむふむ、考えちゃうわね。でも、この四人……と言う事だから、前みたいにダブルデートなんてどう? 

 きっと良い感じに――」 

 

 

 

「させはしないぜっ!」

 

 すると、そこにもう一人……声と共に四人の前に現れた。

 

「げっ!」

 

「……兄さんまでっ」

 

 そこに現れたのはマリアの兄である、ハクノだった。

 

「悪いが、俺も一緒に混ぜて貰ってもいいかい。

 確かにジンとの交際は認めるとも。……けれど! マリアに変な事をしないか見守らせてもらうぜ」

 

「……大変だね、ジン」

 

 シスコンが相変わらずなハクノ。これにはフウタもジンに同情してしまう。

 

「ははは、でも交際は許してくれているんだ。……これからゆっくりと、俺の事を認めさせるさ」

 

 けれどジンは前向きだ。そして改めて――。 

 

「なら今日はハクノも含めて五人でGBNを楽しもうぜ! マリアの言葉を借りるなら、やっぱり賑やかな方が――何をするにしても楽しいしな!」

 

 

 フウタとジン、二人の日常は相変わらず続く。

 大体普通なそんな日常。……だけれど。

 

 

 ちょっとしたゲームの頑張りで、その日常に彩りが増えた。――これはそんな物語だ。 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




 これにて「バディーライズ! ――ガンダムビルドダイバーズ外伝」は完結です。お付き合い頂き……有難うございました!
 今後は、不定期ではありますが番外編なども幾らか……用意する予定です。


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番外編
――幼なじみのいない一日 (Side フウタ)


 最初の番外編は主人公の一人、カザマ・フウタが主役のストーリーに。
 本編では視点切り替えの多さで三人称でしたが、番外編は一人称視点の物語になります。――それでは!



 

 …………ニャー

 ……ニャー、ニャー

 

 

 朝からリビングで一人、僕はテーブルでもたれ掛っていた。

 

 ――いや、正確に言えば一人と……二匹なんだけどさ――

 

 そう、リビングの床では二匹、白猫と三毛猫がじゃれあっている。

 

 ――ミユのシャルルと、それに僕ん家のミケ子。二匹とも家にいるのは――

 

 同時にため息もこぼれる、だって……。

 

 ――今日もミユがいないんだよな。昨日家族ぐるみで県外の離れた父親の実家に行っちゃって、帰って来るのが明日か――

 

 ミユのいない一日、そう考えただけでも気分が落ち込む。

 

「うー」

 

 思わず僕はテーブルに顔をうつ伏せになって呻く。幸い僕の親も仕事でいない、こんな事をしても別に平気だ。

 一家全員家を留守にしているからペットの面倒……と言っても餌だとかそれくらいだけど、僕が見ている感じだ。

 

 

 

 テーブルで呟きながら、棒の先にひも付きの人形がついた遊び道具で、猫二匹と遊んでみる。

 

 ――そりゃ猫は大好きさ、可愛いし癒されるもん。けど――

 

 やっぱりミユがいない。それだけで胸にぽっかり大穴が空いたみたいな感じがする。

 電話でもしようかな……と、勿論考えはしたけれど、向こうで過ごしている彼女の邪魔するみたいで悪いと思って出来ないでいた。

 

 ――んでもって、こうしている間に昼だよ。ダラダラ家で猫と過ごすだけでさ――

 

 せっかくの休みなのに、うーん。

 残りの時間どう過ごそうか。ミユがいない分、せめて何か……。

 

 ――そうだ。こんな時は……あれでもしに行ってみようかな――

 

 ふと頭に浮かんだ思い付き。

 時間だってあるし、だから……丁度いいかなって。

 ――そうと決まったら。僕は席を立つと、空になりかけていた猫のエサ入れにたくさんエサを入れておく。これでしばらく出てても大丈夫なはず。

 そして自分の部屋に戻ると出かける準備、身支度をちゃんとして、持っていく物だってささっとね。あっと言う間に準備を済ませて、出かけようと――

 

「……おっと」

 

 大事な物を忘れていた。

 僕はすぐに引き返して、机に飾ってある物を手に取った。

 僕のガンプラ、レギンレイズ・フライヤー。青く塗装したレギンレイズの腰背部にAEUイナクトのバーニアとウィングを取り付けたくらいの、簡単な改造と塗装で作ったガンプラだ。

 

 ――これがないと始まらないよね――

 

 作ったのは一年くらいも前、でも、使い慣れている僕の愛機なんだ。

 もちろん今日も。僕はレギンレイズを入れ物に入れてそのまま、ヒグレ模型へと行くんだ。

 もちろん――GBNをプレイするためにね。

 

 

 ―――――

 

「こんにちはジョウさん! 今日はGBNを遊びに来たよ」

 

 途中コンビニで買ったおにぎりで昼ご飯、食べ終わってそのままジョウさんのヒグレ模型店にやって来たんだ。

 ちなみにここ、ヒグレ模型店は土曜日の昼12時から14時の間は昼休憩で店を閉めている。本当ならいけないけど、昔からの馴染みと言う事で大目に見てもらっているんだ。

 

「おう、フウタ! それくらいなら構わないぜ。……けど、今日はミユちゃんがいないのか。少し珍しいな」

 

 ミユがいない事に、ジョウさんも気づいたみたいだった。これにフウタは苦笑いで。

 

「親の実家に帰るって事で今日までいないんだ。

 はぁ、正直とても寂しいって言うか」

 

「彼女いない歴イコール年齢の俺からすれば、あんなに良い子がいるだけでも十分、幸せだと思うけどな。それがたった数日いないくらいで」

 

「幸せだからこそ、いなくなると辛いものさ。

 ――そう言う事だから頼むよ」

 

 せめて少しでも時間つぶしと言うか、気を紛らわしたいんだ。

 ジョウさんは分かった、分かったと言うと。

 

「だから構わないとも、ゆっくり楽しんで来いよ」

 

「ありがとジンさん。んじゃ、早速――」

 

 僕はGBNをプレイしに、別室に向かおうとした。……すると彼は。

 

 

「おっと――待った。

 ならせっかくだから俺も、一緒にやるかな。また店を開く時間には余裕があるし……丁度いい!」 

 

 

 

 ――――

 

 GBNにログインした僕は……さっそく、あるミッションに挑んでいた。

 

〈さて、と! どれだけ腕が上がったか、見せて貰おうじゃないか!〉

 

 通信モニターには、トレンチコートを纏った、まるで探偵か何かみたいなダイバールックのジョウさんが映る。

 対して僕は猫耳と尻尾、パイロットスーツ姿のダイバールックでコックピットに座って自分のガンプラ、レギンレイズフライヤーを動かすんだ。

 

「モチのロンさ。けど、ジョウさんも協力してよね。何せ――」

 

 画面に映るのは広い市街地のエリア。そして、迫る二機のガンプラ――ガンダムSEEDのダガーLと機動戦士ガンダム 逆襲のシャアのジェガン……両方ともジムっぽいガンプラだ。

 

〈分かっていると思うが、油断するなよ。このミッションに参加しているダイバーは結構ランクもいるんだ。

 だから、きばって行けよな!〉

 

 ジョウさんのガンプラは、Gガンダムの敵量産機のデスアーミー。彼はそう言うと早速、迫って来たジェガンに棍棒を片手に突撃する。

 

〈勿論援護もだ、なんせこれはタッグでの……勝ち抜きだからな。行けるところまで行こうぜ!〉 

 

 

 

 僕とジョウさんが受けたミッション、それはタッグで挑む勝ち抜きバトルだ。

 同じミッションに参加する多数のダイバーと一組ずつ対戦、勝ち抜いていくことでそれに見合ったポイントと商品が貰えたりするんだ。

 

「……オーケー!」 

 

 ジョウさんに続いて僕も、ジェガンに迫る。

 

 ――同時じゃなくて一機が先頭を切ってか。場合によっては有りかもだけど、この状態なら!――

 

 先手を打ったのはジェガンの方。すぐ近くに迫っていたジョウさんのデスアーミーに、ビームサーベルを抜いて横に薙ぐ。

 

〈させねえよっ!〉

 

 けれどデスアーミーは唯一の武器である棍棒で、攻撃を受け止めた。続けてそのまま下半身ごと回転させて太い脚部で蹴りを放った。

 

 ――これはチャンスだね!――

 

 蹴られたジェガンは、そのまま僕の方にまで。

 態勢を戻す暇も与えない。僕のレギンレイズはパイルでジェガンの胴体を貫いて撃破した。

 

〈良い手際だ、やるじゃないか!〉

 

「あはは、まあね。……でも」

 

 ガンプラバトル、そりゃ面白いさ。けれどやっぱり頭の中にあるのはミユの事。それが離れないでいるんだ。

 

〈……って、おい!〉

 

「えっ!?」

 

 僕は完全にボーっとしてた。そう、横からダガーLのライフルで狙われているのさえ気づかずに。

 

〈全くもう!〉

 

 けれどジョウさんのデスアーミーが棍棒をライフルのように持ち替えてビームで応戦してくれた。

 おかげで相手の攻撃は中断された……けど。

 

〈ったく、何をボーっとしてるんだよ、困ったな〉

 

「……ごめん、ちょっと考え事って言うかさ。

 次はしっかりするから」

 

 そうは言ってもミユがいないと、やっぱ調子が出ないと言うか……。

 でも――せっかくバトルするからには、出来るだけやりたいから!

 

 

 ――――

 

 そんな感じで、僕とジョウさんは二人で次々と相手を倒して行った。

 幸い僕達でもどうにかなる相手ばかりで、もう四度くらいタッグを倒したくらいだろうか。

 

「――これで!」

 

 僕は最後の一機――金色に塗装されたZガンダムをライフルで撃ち抜いた。

 

 ――あの出来事で、僕も割と腕を上げたしね。一般的なダイバーよりも実力があるはずだよ――

 

〈順調に進んでいるな、フウタ。これは報酬も期待出来そうだ〉

 

「だね。ジョウさんとこうしてタッグを組むのも、割と行けるね。

 これまではジンとのタッグが多かったけどさ」

 

〈ははは、俺だってガンプラバトルには自信があるしさ。さて……次の相手も〉

 

 今回も相手を撃退した僕とジョウさんは、次の相手とマッチングするのを待つ。

 今度の――相手は。市街地に出現する二機のガンプラ、それは。

 

 

 

〈――ん? まさか、フウタじゃないか〉

 

〈あらあら! 面白い偶然じゃないの、ねぇジン?〉

 

 現れたのは黒く塗装されたガンダムF91と、それに少し改造が施され、大型ライフルを装備した赤いガンダムバエル。

 この機体は――。

 

「ジン! それにマリアさんも!」

 

 このミッションで二人に会うなんて、驚きだ。ジョウさんも面白いと言うかのような表情で。

 

〈へぇ、お二人さんともご一緒とはお熱いねぇ。もしかしてデートかい〉

 

 彼の言葉に二人とも顔を赤らめる。

 

〈あはは、そんな感じだなジョウさん。マリアとの一時をエンジョイしてるってわけさ〉

 

 ジンの言う通り。今やジンとマリアさんは恋人同士、ようはラブラブって訳。……二人がこんな関係になるのに、僕とジンがどんなに頑張ったか。

 

〈……そう言えば、フウタ〉

 

「どうしたのさ」

 

 不意にジンに言葉をかけられ、僕は反応する。

 

〈お前がジョウさんとタッグを組むなんて珍しい。そもそも、ミユはどうしたんだ? 一緒じゃないなんてらしくないぜ〉

 

「……」 

 

 空気を読まないな、ジンは。僕はしぶしぶと答える。

 

「ミユは今日、親の実家に行って一緒じゃないんだよ。

 だからこうしてさGBNで気を紛らわしているんじゃないか」

 

 ――ああっ、何だろ。自分で話しているだけでも。

 僕はレギンレイズを操作して早速、ライフルを構えて戦闘態勢に入る。

 

〈おいおい、やる気かいフウタ〉

 

「自分でもミユがいないの、凄くむしゃくしゃするんだよ。

 だから気分晴らしに付き合ってもらうよ、ジン!」

 

〈あらら、フウタくんは随分張り切っているわね。 

 だそうよ、ジン〉

 

〈そうだなマリア。ならここは――俺たち二人の力、見せてやろうじゃないか!〉

 

 

 

 こうしてジンとマリア対、僕とジョウさんのタッグバトルが始まった。

 

〈私はあっちのデスアーミーを相手にするから、フウタくんをよろしくねジン〉

 

〈了解! ……って、うわっと!〉

 

 僕のレギンレイズ・フライヤーは空中を飛ぶジンのF91にライフルの弾を連射して放つ。

 

「一気に撃ち落としてやるさっ!」

 

 向こうが反撃する暇だって与えない。

 ジョウさんがマリアさんを相手しているんだ。僕はジョウさんを……って言うか!

 

「大体僕がミユと離れ離れなのに、ジンはマリアとイチャついているのが気に入らないんだ!」

 

〈はぁ!? んだよそれ! ――くっ〉

 

 レギンレイズの放つ射撃が一撃、本体に直撃して怯んだ。

 それを逃さない。僕は機体のバーニアを噴かして跳躍、パイルを構えて直接仕掛ける。

 

〈全く、ミユがいないからって滅茶苦茶だなおい。……けど近接で仕掛けるなら!〉

 

 ガンダムF91もビームサーベルを抜いて、迫る僕を待ち構える……つもりみたいだけどさ!

 

「そうワンパターンじゃないさ!」 

 

 パイルを振ると見せかけて、僕はその底部に備えたアンカーを射出する。

 長いワイヤー付きのアンカー、それはジンのF91を絡めて身動きを封じた。

 

〈ぐぅっ、ワイヤーで身動きが……取れない〉

 

「このままぶっ潰す!」

 

〈ミユがいないからって……気が立ち過ぎ何だっての!〉

 

 パイルを振りかぶる。けれど寸前でワイヤーを振りほどいてヴェスバーを展開した。

 

「!!」

 

 銃口はこっちに向いている。あと少しだったのに――。攻撃を中断して離れたと同時に、F91の二門のヴェスバーが同時に火を噴いた。

 

 ――うわ……っ――

 

 一撃、レギンレイズの右肩関節に直撃して、パイルを握っていた右腕は吹き飛ばされてしまった。

 

 ――パイルごと落とされたのは、かなり痛い!――

 

〈フウタには悪いが、やってくれたお返しはちゃんとしないとだしな!〉

 

 続けてF91はビームライフルを僕に連射する。

 

 ――くっ、ジンってこんなに強かったっけ。

 最初戦った時なんか全然下手で、そんな戦い方だったのにさ。……最も――

 

「それは僕も同じか!」

 

 僕はそう言うと、こっちも左手にライフルを握って応戦するんだ。僕とジン、どっちとも射撃での戦闘……実力は互いに拮抗と言った所かな。

 射撃戦の中で、僕達はこんな会話をする。

 

〈やるなフウタ。……そう言えば〉

 

「どうしたのさ、ジン」

 

〈俺たちはさ、最初なんか全くのアマチュアで、バトルの実力なんか大した事なかったよな〉

 

「……まあね」

 

 ジンの言う通り、元々僕達はGBNは軽く遊んでいるくらいのエンジョイ勢に過ぎなかったんだ。

 それこそあの世界に熱中したり、世界ランキングとか目指して全力でバトルとガンプラを作り込むわけじゃない。多分、大多数と同じように軽く遊んでいたに過ぎなかったんだ。……だけど。

 

「ジンと出会って組んでから、僕達はちょっとは頑張ったよね。

 腕は全然だけど、一緒に頑張ったおかげで――少しはマシになっただろ!」

 

 ミユのいない事で気が立っていたけど、今は結構楽しんでいるんだ。

 ガンプラバトル……やっぱり割と楽しいし。

 僕の言葉とともに、レギンレイズが放ったライフルの一撃が、ガンダムF91の握るビームライフルを弾き飛ばした。

 

 ――やったね! これで――

 

「今回のバトルは僕の勝ちだね、ジン!」

 

 これで勝ったと。僕はライフルをF91本体に向けて、引き金を引こうと――

 

 

 

 

 ――――

 

「うーん、残念! フウタくんはジンを追い詰めていたんだけどね……」 

 

 ミッションを終えた僕達四人は、ロビーで集まって談笑していた。

 

「まさか……ジンを倒そうとする前に、マリアに撃ち落とされるなんて」

 

「まぁまぁ、真っ先に倒された俺も悪い。フウタは本当に良い線行ってたんだぜ」

 

 ジョウさんに励まされるけど、でもやっぱり少しショックなんだな。

 あの時――ジンに勝てる所だったけれど、その直前に真横から放たれたマリアのガンダムバエル・クリムゾンの大型ライフルの一撃で撃ち落とされてしまった。

 

「はぁ、後少しで勝てたのに」

 

「残念だったなフウタ。……まぁ俺たちもあの後すぐに別のタッグにやられたんだけどな。

 俺たちもまだまだって事だぜ」

 

 ジンはそう話して、はははと苦笑いをしていた。

 ……僕は一人、ため息をついて少し落ち込む。

 

「何だろ、やっぱ調子が出ないよな。

 ……僕にはミユがいてくれないと」

 

 

 

「――あっ! ようやく見つけた!」

 

 突然聞こえた声。僕にとって、ずっと馴染みのある声が聞こえたんだ。

 僕はその聞こえた方向へと振り向いた。そこには――。

 

「……ミユ!」

 

 そこにいたのは白い髪と猫耳の女の子。そう、僕の幼なじみで――恋人の、ミユの姿だった。 

 思わず僕はミユの元に駆け寄る。

 

「やっぱりGBNに来て良かった、だってミユに会えたしさ。

 でも、一体どうして」

 

「それがね、少し出かけた所にガンダムベースがあったんだ。

 だからフウタに会えるかなって……そしたら」

 

 僕も嬉しいけど、ミユも僕と会えて嬉しそうな表情で僕に近づいて、にこっと満面の笑顔を見せてくれた。

 

「嬉しいよ、フウタに会えて! 

 ……ちょっとしか遊べないけど、良かったら一緒に過ごしたいな。確かぺリシアエリアだっけ、あそこのガンプラ展示も見に行きたいな……なんて」

 

 もちろん、僕の答えは決まっている。

 

「僕も嬉しいよ! ミユと一緒に――過ごせるなんて」

 

 

 

 そう言って僕はジン達三人に振り返ると。

 

「と言う事だから、いいかな。

 みんなでのバトルは楽しかったけど、やっぱり今はミユといたいから」

 

 ジンは仕方ないなと言う感じで、僕に。

 

「そう言う所、フウタは相変わらずだな。

 ――もちろんさ。しっかり楽しんで来てくれよな」

 

 マリアさんとジョウさんも大丈夫だと、そんな風に。

 

「ミユちゃんに会えてよかったな、フウタ」

 

「可愛い彼女さんですもの、しっかり大切にして来なさいな」

 

「――ありがとう、みんな。…………それじゃあ」

 

 僕は隣に寄り添うミユと手を繋いで、にこっと微笑みかけた。

 

「じゃあ行こう、ミユ」

 

「――うん!」

 

 

 やっぱり僕には、ミユが一番だから。 

 だから彼女と一緒の時間が……何よりかけがえのないんだ!

 



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泡沫の恋(Side ミユ)

今回はフウタの幼なじみであるミユの短編。
 本編前、二人に一体何があったのか……。本編58話の出来事を当時のミユ視点で、ですね。


 夕暮れ時。

 オレンジ色の空に、それに木の葉だって同じ色に。

 まるで秋一色のこの景色。とても、綺麗だった。

 

 

 小さい公園のブランコで私は一人座っている。

 何だか外は少しだけ肌寒くて、思わず両手に息を吐いて温める。

 冬も近づいているからかな。だんだん寒くような……気がするんだ。

 

 ――これだと冬に入るのも、あっと言う間かな。

 空は綺麗だけれど――

 

 空を見上げて、私は感じた。

 自分がずっと抱いていた夢がくずれて、その欠片が指の隙間から零れ落ちるような、そんな感覚を。

 

 ――フウタのこと、私は分かっていたつもりだったんだけどな――

 

 つ空に向かってつい、一人照れ笑いを向ける私。

 なんだろう。……やっぱり気持ちの整理が難しい。

 

――でも、私がずっと自分の気持ちにはっきりとしなかったのも原因だもん。仕方ないよね――

 

 

 

 ――――

 

 ずっと好きだった私の幼なじみ、フウタ。

 小さい頃から一緒で仲良しで、そして……思いを寄せていた一番大好きな人。

 いつか……幼なじみよりも、ずっと深い関係になりたいって。それをずっと夢見ていたし、願っていた。

 きっと彼も同じ気持ちだって思っていた。だから。

 

 

 私達は今年、一緒の高校に入学した。

 それからお互いに友達も出来て、高校にだって慣れて、半年くらい経って落ち着いた頃。

 

 ――せっかく高校にも入って少し大人になったもの。だから、ずっと想っていた気持ちを――

 

 幼なじみの関係から一歩踏み出す勇気。

 学校の終わった放課後、私は自分の気持ちを告白するために校門前でフウタが出て来るのを待っていた。

 

 

 ……だけどしばらく待っても、姿は見えなかった。

 これ以上待っていることは出来なくて、私はフウタを学校へ探しに行ったんだ。

 校舎の中をあちこち探して、そして校庭も見に行ったとき……校庭の隅にようやくその姿を見つけたの。

 

 

 ――今なら告白できるかも――

 

 私は彼の元に駆け寄ろうとした。……けど。

 

 

 フウタの傍に、別の方向から女の子がやって来た。

 それは彼が高校で出来た友達の一人で、学校で可愛いと評判のクラスメートだった。

 彼女に手を振るフウタ。

 私はその様子を少し離れた所から隠れて見ていた。

 二人は互いに緊張しながら向き合って、そして。

 

 

 その時言った彼の大きな言葉。

 唯一それだけは、こう聞こえたんだ。

 

『好きです! 僕と、付き合ってください!』

 

 

 

 ――――

 

『――』

 

 心の中が絶対零度に冷え切ったかのような感覚を覚えた。そして……私はもうその場にはいられなかった。

 すぐに学校から出て行って、気が付くとここにいたんだ。

 

 ――この公園、小さい頃にフウタと一緒によく遊んだ所だな。

 大きくなってからは行かなくなって……覚えているかな?――

 

 つい私はフウタの事を、えてしまった。

 だけど……

 

 ――やっぱり、少しだけ辛いよ。私、ずっと……フウタの事を思っていたのに――

 

 ぎゅっと拳を握って、目から涙も零れそうになるけど。

 すぐにそんな涙目になっているのをすぐに手で拭いとった。そして一人、笑ってみようとする。

 

 

 ――ううん。好きな人が出来たんだから、幼なじみとして喜ばないと。

 フウタが幸せなら、私は。

 会ったらちゃんと祝福するんだから――

 

 

 

 私がどうにか気持ちを落ち着けたその時、誰かがこの公園に走って来る音がした。

 音は次第にこっちに近づいて、そして――

 

「はぁ、はぁ……。ここにいたんだ、ミユ」 

 

 息を切らしながら走って来たのは同い年の、少し小柄な男の子だった。

 彼が私の……幼なじみ。

 

「……フウタ」

 

「どこにもいなくて心配してたんだ。帰りが遅くなったから、もしかして家に帰っているんじゃないかって思ったけど、いなくて。

 それでもしかするとって思ってここに来たら……やっぱり。

 だってここは、僕たちが小さい頃によく遊んだ場所だから」

 

 と、そう言うと彼は、私の傍へと近づいた。

 

「隣、座っていいかな?」

 

「……うん」

 

 それを聞くと隣のブランコへとフウタは座った。

 

 

 

 好きな人が出来た、彼。――なら私は祝ってあげないと。

 

「ねぇ、フウタ」

 

「ん? どうしたんだ?

 

「……あっ」

 

 でもそこから先がどうしても言えなかった。言葉が喉から、出てこないんだ。

 

 

 ――駄目だよ。やっぱり、胸がとても苦しくて、言えないよ――

 

 私はそれが辛く感じた。

 

 ――私って幼なじみ失格だ。

 フウタの幸せ、ちゃんと祝福しないといけないのに――

 

 それでも……ダメなんだ。どこかで辛いのかな、私は……

 

 

 

 するとフウタはブランコに座りながら、横から私の顔を覗き込んで来たの。

 

「何だか浮かない顔だね。もしかして悲しい事があった? 

 相談だったら聞くよ。だって僕は、ミユの幼なじみだから」

 

「あっ……」

 

 この言葉に思わず私は……。だけど。

 

「ううん。なんでも、ないよ」

 

 とっさに笑ってみせて、私は彼を安心させようとした。

 

 

 

 幼なじみ……そうだよね。

 私と彼はあくまでその関係だもん。これまでだって、それで良かったんだから。

 そう自分に言い聞かせた。

 

「ミユがそう言うなら、分かったよ。けどあまり無理はしないでね」

 

 私はそれに頷いてこたえる。

 

 

「……ところで、さ。

 実は今日、ミユにどうしても伝えたいことがあるんだ。

 もし良ければ聞いてくれないかな」

 

 

 話したいことって、なんだろう?

 でも、彼のお願いだから、もちろん。

 

「うん、いいよ」

 

「ありがとう! なら……」

 

 いつになく真面目な目で、彼は私を見つめる。

 そして――

 

 

「ミユのこと、ずっと前から好きだったんだ! だからこれからは恋人として――付き合って欲しい!」

 

 

 

 ――――

 

「えっ? どう言うこと、フウタ?」

 

 訳が分からなくて、頭の中が一瞬真っ白になった。

 

 ――恋人って、そんな事を私に言うなんて。だってあの時フウタは校庭で別の女の子と――

 

「あは、は。やっぱり緊張するな。

 ミユへの告白……少しでも上手く言えるように、何度も何度も練習だってしたのにさ。

 ……今日の放課後も少し、友達を練習相手にリハーサルもしたんだけど、本番となると難しいよ」

 

 

 

 練習? もしかして校庭でのあの出来事って――。

 

「じゃあ、校庭での告白って……ただの練習だったの?

 私、てっきり……」

 

 フウタはそれにドキッとしたみたい。

 

「もしかして、見ていたの?」

 

 私は頷く。……だけど。

 

「うん。だから、フウタに好きな人が出来たんじゃないかって……うっ……ひっく」

 

 

 とうとう感情が抑えられなくなった。

 声が上ずって声を上げながら私は、ポロポロと涙を流して泣き出してしまう。

 フウタはそんな私を見て慌てていた。

 

「ああっと、ごめん! 泣かせるつもりはなかったんだ!

 僕の一番大好きな人は、昔からずっとミユなんだから!

 だって、いつも一緒にいてくれて……僕を大切にしてくれているのも分かっているから」

 

「ぐすっ……ほ、本当……なの。本当に、私が大好きだって」

 

 私はもう一度確かめるようにそう言うと、彼は、もちろんと笑いかけてくれた。

 

「当然だよ! 優しくて可愛くて、時々お茶目で、僕の事を想ってくれる大切な幼なじみ。

 だから僕だって負けないくらいミユの事を大好きで想ってるって、もっと大切にしたいって。

 ……でも、思わず泣かせてしまうなんて、ごめん」

 

 そしてフウタはこんな事も、そっと私に言ったんだ。

 

 

「幼なじみの関係もそれは素敵だよ。だけど、さ、その関係で終わりたくはなかったんだ。

 いつかミユともっとずっと仲が深められたらって。――夢だったんだ、僕の。

 きっと……ミユだって同じ気持ちだって、思ってもいたから!」

 

 

 

 嬉しかった。とても……嬉しかった!

 やっぱり、私とフウタは――

 

「フウタっ!」

 

「――うわっ!」 

 

 頭で考えるよりずっと早く、私は彼に抱きついていた。

 

「私も夢だったんだよ! ずっとフウタとこうなれたらって!

 フウタと私、やっぱり想いは一緒なんだね、とっても――幸せだよ」

 

 座っているブランコから落ちそうになりながらも、彼はドキッとしている感じだった。

 

「やっぱりミユもそう思っていたんだ!

 ……なら、僕の告白の返事は」

 

 もちろん! 私は、力強く頷いた。

 

「うん、当たり前だよ! これからは幼なじみとしてもだけど、恋人としてもよろしくね、フウタ!」

 

 

 

 

 私の夢……。

 一度はほんの儚い、泡沫のものだって思ってた。

 けどそれは、全く違った。

 私と、幼なじみと一緒に見ていた夢。

 それは決して、泡沫などではなく――

 




 


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新作ガンプラへの挑戦(Side ジン)★

 今回はジン視点の一人称作品に。
 時系列は本編終了後ですね。タイトル通り、彼はどうやら……



 ――さて、どうしたものかな――

 

 今日は休日。俺は部屋の床で寝っ転がって、積んであるガンプラの箱を眺めている。

 前までは一人身のせいか、それなりに散らかって汚い部屋だけれど、今は割と綺麗にしているんだ。

 

 ――何せ、今の俺には……マリアがいるしな。たまに彼女が遊びにも来るから、汚いわけにはいかないだろ。

 まぁそれよりも、だ――

 

 再び俺はある考え事に集中する。

 

 ――GBNで使うガンプラ、そろそら新しいのを用意したいしな――

 

 

 

 そう思って俺はおもむろに、自分がこれまでGBNで使っていたガンダムF91を手に取って眺める。

 今まで、俺はこのガンプラを使ってガンプラバトルをして来た。全然のアマチュアだった頃から、そしてフウタと組んであのマリアとジンを倒したのも、このガンプラだ。

 けれど――そろそろ新しいガンプラだって使ってみたい。

 

 ――でも、何にするか悩むよなぁ――

 

 改めてガンプラの箱を眺めて、考える。……するとふと。

 

 ――あっ、これとかいいのかも……しれないな――

 

 その中に丁度目についたガンプラが、一つあった。俺はそれを――。

 

 ――作る時間は十分にある。早速これを作って、GBNで実際に使ってみるかな――

 

 そうと決まれば。俺は早速箱に手を伸ばして、ガンプラを作ってみる事にした。

 

 

 

 ――――

 

 それから俺は、ガンプラを完成させて早速GBNにログインした。……訳ではあるけれど。

 

 ――今日は俺一人だけなんだよな――

 

 ロビーでは俺一人。辺りには見知った顔なんてどこにもなかった。

 

 ――フウタは誘ったけどリアルでデート中だって話だし、マリアは……仕事が入ったみたいだし――

 

 ついため息をついて、俺は少し考えてみる。

 

 ――さてと、これからどうしたものか――

  

 今日は俺一人……だけれど。せっかくガンプラだって新しく作りもした。

 

 ――それを使ってみるのが今回のメインだしな。だから、何かミッションでも――

 

 そう考えて俺はロビーの端末で適当なミッションを選ぼうとする。

 端末を動かそうと、俺は指を伸ばそうとすると――。

 

 

 

「……悪い、うっかりしてた」

 

 俺と同時にもう一人、別の誰かが端末に触れようとする誰かの指が見えた。

 

「こっちこそ悪い。同じく使うだなんて、思わなかったからさ」

 

 謝って相手の顔を見ようとすると、その相手は――。

 

「手前は、ジンかよっ」

 

「ハクノ……兄さん」

 

 そこにいたのはハクノ、現実通りポニーテールの白髪の、言っちゃ悪いが不良っぽい青年だ。

 多分俺と同年代か、もしくは一、二歳程若いのか。けれど……俺に関して相変わらず敵意を向けているのは今も変わらない。

 

「はっ! お前に兄さんに呼ばれる筋合いなんかない!

 大体交際こそ認めたが、今でも妹との関係を許してなんていないんだぜ!」

 

 顔を合わせて俺だと分かった途端にハクノは攻撃的になる。

 いくら何でも、そこまで言うことはないのに。

 

「……悪い」

 

「ったく、何謝ってるんだよ。イライラするな」

 

 勢いに負けてつい謝った俺に対しても、ハクノの敵意は相変わらずだ。更に彼は、俺に対してこんな事も。

 

「けれどジン、ここで会えたのは……丁度良かったぜ。

 前々からあの時のお返しがしたくて、ウズウズとしていたんだからな」

 

 俺に向けられた視線は鋭く、敵意に満ちている。

 

 ――ハクノが妹想いだって言うのは分かる。俺は結果的に妹から奪ったわけだし、敵意を向けるのも分かる。けれど――

 

「なら、俺に一体どうしろって言うんだ」

 

 ここで引き下がっては男が廃るとも言う。俺はハクノに視線と言葉を返す。

 ハクノはにいっと、口角を上げて攻撃的な笑みを浮かべる。

 

「ジンも今からミッションを受けるんだろ? だったら、丁度いい。

 良ければ今から対戦型のミッションで、一対一で戦おうじゃないか」

 

「決闘、ってわけか。……分かった」

 

 新しく作ったガンプラの初陣が、こんな事になるだなんて思っていなかった。

 けれど当然引き下がるつもりもない。俺はハクノの挑戦を、受けて立つ。

 

 

「一対一だな。その勝負、また俺が勝たせてもらう!」

 

「はっ! あの借りはたっぷりと、利子をつけて返してやるぜ!」

 

 

 

 ――――

 

 舞台は月面上のフィールド。

 宇宙空間のように無重力ではないものの、重力が弱い大地の上、ハクノのアヘッド・ブロッケンは立ち構える。

 

〈ほう? ジン……そのガンプラ、M1アストレイか〉

 

 どうやらハクノは俺が新しく作ったガンプラ、M1アストレイに気が付いたみたいだ。

 機動戦士ガンダムSEEDに登場する国家オーブ連合、その量産機がこのアストレイ、ガンダムに近い見た目と、スタイルだって良い。

 シールドも装備、武器はビームサーベルとビームライフル、それに両腰に備えた対艦刀が武装……後は頭のバルカンもか。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「そうだ! これが、俺の――新しいガンプラだ!」

 

 本来なら白と赤のツートンカラーだけれど、俺のは赤い部分を黒く塗装したオリジナルカラーなんだぜ。

 

 ――前のF91も黒色だったからな。それを引き継いで……なんだけどさ――

 

 今更ながら思った。

 目の前のアヘッド・ブロッケンとも、俺のガンプラは色が被っていると。

 その事はハクノだって、気付いているらしかった。

 

〈また色が、俺のアヘッドと被っているじゃないかよ。何だ? 当てつけのつもりかよ〉

 

「いや、そんなつもりは……たまたま、なんだ」

 

〈ふん! まあいい! どの道ジン、手前は――〉

 

 

 

 ハクノの言葉とともに、アヘッドはバーニアを全開にして俺へと迫る。

 

〈ここで俺の、剣の錆びにしてやることには変わりねぇんだからよ!〉

 

 最初から全力でぶつかる気満々のハクノ。

 

 ――けれど近接戦か! 俺にだって今は、丁度いい武器がある!――

 

 俺のM1アストレイは両腰の対艦刀を引き抜き、両手で構える。

 

「得物ならこっちにもある! 叩き斬ってやるとも!」

 

 迫るアヘッド、アストレイは対艦刀で受け止める。

 相手の右腕の剣を、二本の大振りの実体剣で防ぐ。

 

〈ほう? 確かにこの機体は近接戦は得意そうだな〉

 

「おうとも! それに、だ。ガンプラの出来だって若干こっちが良い。だから性能はこのアストレイの方が、上だぜ!」

 

 このGBNで使えるガンプラ、その性能は作中のスペック……ではなくて、ガンプラそのものの出来によって左右される。

 合わせ目消しに、墨入れ塗装、などなど……ガンプラの完成度がそのまま、GBNでの性能に結び付く。

 

〈悔しいがジンの言う通り、この剣は割と重いな。パワーは……確かに上昇しているみたいだな〉

 

 モニターでは若干、苦い表情を浮かべるハクノ。

 俺が動かすアストレイは一気に力を込めてアヘッドを押し返すと、低い重力に任せて高く跳躍する。

 

「ははっ! こりゃいい、絶好調だな!」

 

 上空からビームライフルで狙いをつける。そして下のアヘッド・ブロッケン目掛けてビームを連射する。

 

〈っつ! 小癪だな!〉

 

 上から降り注ぐビームに、ハクノは機体を巧みに操作して次々と避ける。

 

「そして、続けてっ!」

 

 一旦ビームに集中させた後、俺は今度はビームサーベルで、引き抜くと同時に迫り斬りかかる。

 

 ――やはりパワーも出力も、前より良い。これなら!――

 

 今攻勢に、有利にあるのは俺の方だと。このまま迫るアヘッドのビームサーベルの斬撃を放とうとした時。

 

〈そりゃあ前より、性能は上がっているとは思うぜ。――けどな!〉

 

「!!」

 

 激烈に、蛇腹剣を振り回して、自在な剣筋がアストレイに襲い来る。

 宙でビームサーベルを振り下ろそうとした瞬間を狙われた。俺のアストレイは成すすべなく曲がりくねる剣の刃にズタズタにされる。

 

 

 

 あっと言う間に傷だらけになったM1は、月面に落下して倒れる。

 

〈全っ然! ジンはそのガンプラを使いこなせていないじゃないか! 少しだけは付き合ってやったけれどよ、さっきから攻撃に無駄と隙が多い!

 これなら前のF91で戦った時の方が、まだ手強かったぜ〉

 

 一方で俺の前に、勝ち誇るように仁王立ちするアヘッド・ブロッケン。

 

「うっ……く」

 

 どうにか立ち上がろうとするけれど、今の攻撃で大分やられた。

 満身創痍の身体を起こし、再度向き合おうとするけれど――その瞬間に迫ったアヘッド・ブロッケンが更に連撃を繰り出して来る。

 

〈おらっ! 借りは返すと言っただろうがよ!〉

 

 繰り出される連撃を俺は受け止める。けれど容赦のないアヘッドの蛇腹剣の攻撃を受け止めるので精いっぱい、対艦刀とシールドを駆使して防ぐけれどそれでも、防御をかいくぐって攻撃が次々にダメージとしてガンプラに入る。

 

 ――しまった、F91に比べて機体が大きい分、当たり判定が大きいのか――

 

「これじゃ、上手く避ける事さえ……っ」

 

〈だから言っただろ、使いこなせてないって! どうだ? こうして一方的にやられる、無様な様はよっ!〉

 

「ちっ、ちくしょうめ」

 

 ハクノは余程俺を目の敵にしている。

 妹を取られたせいなのは分かるけれど……いくら何でもあんまりじゃないか。

 

 ――でも大ピンチなのには変わりしない。せっかくの俺のM1アストレイのデビュー戦が、惨敗だなんて洒落にもならない――

 

〈良い様だぜジン! そして――このまま、止めを刺してやるぜ!〉

 

 ボロボロで、立っているのもやっとの俺のガンプラ。ふらふらな状態で後退するアストレイに、確実に止めを刺そうとするよう狙いを定めて、そして一気に突撃した!

 

 

 

 真っすぐ向ける刃の刃先。

 

 ――まずい、やられる! どうにか逃げないと――

 

 そう思い、俺は機体バックパックのバーニアを噴かせて、跳躍して上に逃げようとした。

 

 

 ……その時だった。

 

 

「――はうっ!?」

 

 突然ブースターの出力が異常をきたして不安定になる。

 

 ――さっきのダメージのせいか!? バックパックまでも――

 

 不調をきたしたらしい。アストレイは一気にぶんっと、空中で後ろにすっころぶ。

 手にした対艦刀は上に投げ飛ばした上に後ろへ勢いよく倒れ、その時足が――

 

〈んだとっ!?〉

 

 転倒した瞬間、上がった足が思いっきりアヘッド・ブロッケンに激突する。

 ハクノにとってもあまりにも意外だった事で避ける暇すらなく、まともに蹴りを受けてそのまま転倒した。

 

〈ぐっ……往生際の悪い。だが、すぐに起き上がって――〉

 

 あくまで蹴り倒されただけ。すぐに起き上がろうとするアヘッド。

 けれど、その時アヘッドの上から真っすぐ落ちて来るものがあった。……それは。

 

「俺のアストレイの――対艦刀か」

 

〈――うそだろ〉

 

 唖然とする俺たち。

 

 

 ……次の瞬間、さっきアストレイが投げ飛ばした対艦刀が、ものの見事にアヘッドを刺し貫いた。 

 

 

 

 

 ――――

 

「ああああっ! クソっ!

 まさか! あんなアホみたいな事でこの俺が、ジンなんかにっ!」

 

 バトルが終わった後、ハクノは荒れに荒れていた。

 そりゃ偶然足にぶつかって転んで、倒れた後にぶん投げられた刀が突き刺さってやられたなんて負け方をしたらああなるか。更には、大嫌いな俺にやられたんだ。ハクノのイライラは想像に難くない。

 

「……何だか、その……悪かった」

 

「うるせぇ! 謝るんじゃない、余計惨めになるだろうが! ……ああ、もう」

 

 少しは落ち着いたのか、ハクノは大きく息を吐くと、顔をそらす。

 

「――とにかくだ、俺はもうお前なんかの顔を見たくない。

 本当なら今すぐリベンジマッチをしたいが、これで失礼するぜ」

 

「そっか、ハクノ」

 

 確かにそれが、互いにとって一番かもしれない。

 

「俺もハクノとのリベンジマッチ、楽しみにしている。その時にはちゃんと戦おう。

 その時には、俺もアストレイを使いこなせるようになるからさ」

 

「……ふん」

 

 ハクノは俺をこれ以上見ずに、俺から離れて行こうとする。

 ……けれど、最後に彼は。

 

「そう言うなら、一応楽しみにはしておくぜ。

 ――せいぜい頑張ってみるんだな」

 

 

 

 俺はこうしてハクノと別れた。

 

 ――はぁ、確かにガンプラの扱いは、まだまだだったな――

 

 さっきのハクノの戦いでの通り、せっかく作った新しいガンプラ、M1アストレイの扱いはまだまだだった。

 けれど、それはこれから……慣れていけばいい。

 

 ――はは、ガンプラバトルって言うのも、本当に奥が深いものだな――

 



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女の子同士の、私の大切な――トモダチ! (Side レーミ)

 今回はレーミ回。少し百合的な雰囲気と……shisukoさんの作品「ガンダムビルドライザーズ」のキャラをお借りしました!


 私には、あんまり友達はいないんだ

 昔から人と話すのは、苦手だし……内気だし。それに少し口が悪く出てしまったりで、だから学校ではほとんど一人なんだ。

 ……でも。

 

「おはよう、レーミちゃん! 今日も一緒にGBNをしに行こうよ」

 

 でもそんな私にも一人、大切な友達がいるの。

 

「うん……マノモ!」

 

 私と違って明るくて、人付き合いも良くてクラスの人気者な私の友達、マノモ。

 

「でも……私ばかり、いいの? だって他に友達だっているのに……その」 

 

「いいのいいの! だってレーミちゃんは、私の一番の――親友なんだから!」

 

 

 そう言う彼女の、私に向けてとびきりの笑顔を見せてくれる。

 マノモがいてくれたから、自分に自信が持てているんだ。GBNだって……一緒だから。

 

 

 

 ――――

 

 GBNに入った、私とマノモ。

 

「……今日、どうしようか」

 

「うーんと! バトル……もいいけど、今日はちょっとエリアをドライブしたい気分だな」

 

「ドライブって?」

 

 気になる私にマノモはうんうんと頷くと、自慢気にこんな事を話すの。

 

「ふふん、実はね私、丁度いいガンプラを作って来たのよ。

 二人でそれに乗って、空の散歩でもって――ね!」

 

 そう言って彼女は、軽くウィンクをしてみせた。でも……一体どんな感じなんだろうな。

 

 

 

 ――――

 

「じゃん――これが私が作った、スカイグラスパーよ!」

 

 格納庫にあったのは、一機の緑色に塗装した戦闘機のガンプラ……ガンダムSEEDのスカイグラスパーだったの。それに完成度だって凄く高いの。

 

「これ、マノモが作ったの?」

 

「まーね! キットは1/144のRGだから、かなり精密な作りなんだよ」 

 

 RGは、HGと同じ1/144のスケールガンプラだけど、作りは1/100スケールのMG以上に作りが細かいの。……けど、完成度はずっと高いけど、動かしたりすると細かいパーツが干渉して動かしにくいのと、接着していないと取れやすいのが難点かも。

 後は、改造がしにくい所……とかもかな。

 

「こうした戦闘機とかなら、RGの方が丁度いいわよね! どう? 気に入ってくれたかな」

 

 そんなマノモの言葉に、私は頷く。

 

「……うん、とっても」

 

 彼女は満足そうににこっと笑う。

 

 

「良かった! それじゃ、早速二人で乗ろうか。ねっ、レーミちゃん!」

 

 

 

 ――――

 

 私たちはマノモのスカイグラスパーに乗って、GBNの空を飛ぶんだ。

 

 ――こうして見ると、何だか……いいな――

 

 下から見下ろせるのは、セントラル・ディメンションの高層建築物の街並み。あそこに私とマノモと同じように、GBNでプレイするダイバーがいるんだよね。

 

「どう? こうして二人一緒、空の旅の気分はいかがかしら?」

 

「素敵……だよ。何だか、楽しくて」

 

「その言葉、聞けて良かったわ。レーミちゃんと一緒に乗れればって思ってたから」

 

「そうなの?」

 

「もちろんよ! 今日は目一杯、ゆったりGBNの空の旅を満喫しましょう。もっとも……」

 

 マノモはふと苦笑いも浮かべて、続ける。

 

「スカイグラスパーはあくまで航空機だから、宇宙空間とかは無理だけどね。

 でも地上の景色だって、綺麗なんだから!」

 

 私たちの乗るスカイグラスパーは、他のディメンションにつなぐゲートに近づいていた。

 

「用意はいい? それじゃ――ここから私たちの旅を、始めましょう!」

 

 マノモと一緒なら、きっと楽しいと思うから。そう、どこでだって。

 

 

 ――――

 

 スカイグラスパーに乗って、私たちは色々なディメンションと、そこにある場所を飛んで旅して、回ったの。

 山や海、草原に湖だとか……それに町だって。

 

「一つ一つ、降りてゆっくりしたいんだけど……GBNは広いからね。

 だから殆ど空の旅ばかり、せめてどこかで降りられれば良いかもだけど」

 

 マノモは上機嫌で、そんな風に話す。きっと彼女も楽しいのかな。私と、同じように。

 

「でも……こうしているの、私も楽しいから」

 

 私は前に座って操縦している彼女に、視線を向けると。

 

「改めて、ありがとう。私のために……ここまで」

 

 私の言葉に、マノモは朗らかに笑ってこたえてくれる。

 

「はははっ! 私とレーミちゃんの仲、友達じゃない。

 これくらい全然大丈夫よ。私だって楽しいもん!」

 

 そう言ってくれて、私は暖かい気持ちになる。そしてそんな私に……ふと彼女が何気なく続ける。

 

「友達――か」

 

「うん?」

 

「そう言えば、私たちが知り合ったのも、ここ……GBNだったよね。ねぇ、覚えてる?」

 

 ふとしたマノモからの問いかけ。もちろん、私だって忘れるわけなんて、ない。

 

「もちろん、覚えているよ。私にとっても大切な思い出だから」

 

 そして私は続けるの。

 

「……学校でも一人だった私が、たまたまGBNをプレイしにガンダムベースに行った時に、マノモと出会ったんだよね。同じ学校の制服で、同級生だってわかったけれど……これまで接点がなかったから」

 

「ふふっ、私も。だってそんなきっかけなんてなかったから。――でも」

 

「お互いにガンプラが好きで、それにGBNも好きだから。性格は真逆でも……その想いは同じだから」

 

「だからこそ、そのまま一緒にGBNをプレイして打ち解けて、友達になれたんだよね!」

 

 楽しいようにマノモは笑っている。でも、ふと真面目な雰囲気でこんな事を話すの。

 

「友達……今まで、こうして打ち解けた相手、いなかったもん。

 だって、ガンプラだとかゲームの趣味は女の子の趣味じゃないから。変に思われないように、ずっと隠していたんだから」

 

 マノモの言う通り、今はGBNでガンプラやゲームだってかなり人気にはなっているみたいだけど、私たちの暮らしている町では、やっぱりそう言うのが好きなのはごく少数だもの。

 それに女の子だと特に。だから、好きな事でも隠し続けていた。……だけど。

 

「けど、マノモとはちゃんと……好きな事を分かり合えるから。

 マノモと出会えて私は、とても嬉しかった。……本当に、何より」

 

 これが私の本音なんだ。マノモと会えたから、私はこうして一人じゃなくなったから。

 マノモも私に微笑んでくれると、こう言って頷いてくれた。

 

「もちろん――私だって」

 

 

 

 すると彼女は、ちらっと外の景色を眺めると。

 

「……この辺りでいいかな。

 レーミちゃん、そろそろ地上に降りようか。下はとっても綺麗な所だから」

 

 そう言うレーミちゃん。……でも、一体どんな場所なんだろうな。

 

 

 

 ――――

 

 地上にふわりと着陸した、マノモのスカイグラスパー。

 機体から降りた私たちの目の前に広がっていたのは……一面の桜景色だった。

 

「わぁ、桜が……こんなに、たくさん」

 

「ここはジャパン・エリアの一角ね。ジャパン――日本と言えば桜! 

 うーん、やっぱり私たち日本人の心って言うか、心が安らぐわね。こんなにたくさん、辺り一面に咲く桜なんて現実世界では見られないから」

 

「……うん。一緒に見よう、マノモ」

 

 

 私たちは一緒に並んで、桜が咲く下を歩くの。 たくさんの桜の木。花びらで回りも彩られて、上も桜の花で桃色で綺麗なんだ。私も、マノモもこの景色に見とれていた。

 

「本当に、良い所だね」

 

「うんうん! GBNはしばらく遊んでいるけれど、ここには私も初めて来たんだ。こうして今でも、新しい発見があったり――たのしいよね」

 

「だね。私たち以外にも、ここには……」

 

 そう、この桜景色を見に来たのは他のダイバー達も、だったんだ。

 みんな桜を見ている。すると……。

 

「あら? 二人も桜を見にきたんですー?」

 

 私たちの所に、小学生くらいの女の子が声をかけて来たの。

 小学生くらいの、桜と同じピンク色のフリルとスカート、それに胸元のリボンをつけて、金髪でツインテールの女の子。それに同じ色のとんがり帽子と箒まで、まるで魔法使いみたいなダイバールックの。

 

「……うん、貴方は一体」

 

「私はトピア。GBNがねー大好きなんです。

 お二人は何て名前ですの?」

 

 そう名前を尋ねられて、私たちは答える。

 

「私はレーミ、そして彼女は私の友達の……」

 

「マノモだよ! 宜しくね、トピアちゃん!」

 

 トピアと言う名前の女の子、彼女はにこっと満面の笑顔を見せてくれると。

 

「はい! これで、トピアのお友達がまた増えて……嬉しいです!」

 

 GBNではこうして、友達だって出来るから。だから――。

 

「……私も。宜しく……トピア」

 

 

 だからこの世界は、私にとっても――大切な場所だから。

 




https://syosetu.org/novel/249849/ 今回コラボしたトピアさんが登場するガンダムビルドライザーズはこちらに。
もし興味があればぜひ!


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三人の挑戦 その1(Side ジン)

「やぁ、ジン!」

 

 俺がGBNのロビーに、早速出迎えるフウタ。それに彼の隣にはミユちゃんも一緒だ。

 

「こんにちは、ジンさん。会えて嬉しいです!」

 

「ははは、俺も二人に会えて嬉しいぜ」

 

 俺も俺で二人に対して挨拶を交わす。何しろ――今日こうして呼んだのは俺の方だから。

 

「ところでどうしてまた僕を呼んだのさ。タッグバトルで組みたいとか?」

 

「あはは……分かっているじゃないか。マリアは用事が取れなくて、丁度いい相手がフウタしかいないしさ」

 

「つまり、マリアの代わりってわけ。何だか複雑だな」

 

 若干むくれた感じなフウタ。まぁ、言われてしまえば不機嫌になる気持ちは分かるかもだ。

 

「あまりそう言うなよ。これからフウタを誘おうとするミッション――かなり面白そうなんだからさ!」

 

 

 

 実は俺、ちょっとした面白いイベントと言うか、ミッションを見つけたんだ。

 ただ参加条件は二人一組……だから誰かと一緒に、受けたかったと言うわけだ。

 

「面白い……ミッションだって?」

 

「ああ、そうだ! 今までにない結構楽しそうなミッションって言うか。

 暇だから、試しにやってみたいってな」

 

 俺からの提案。フウタは考えこむようにしながら。

 

「ジンがそこまで言うのなら、ちょっとやってみたい、かな」

 

「うんうん。そう言うの、良いと思うな」

 

 少しだけ乗り気っぽいフウタと、そんな風に言うミユちゃん。

 けれど、彼女も考え込むようにしてこんな話を。

 

「でも、私はどうしようかな。フウタがジンさんと一緒なら……せめて誰かと組めたらいいんだけど」

 

 フウタは彼女の言葉にどきっとした感じで。

 

「それなら僕がミユと組むよ! 正直ジンよりもミユと組みたいしさ、僕」

 

「おいおい! ここに来てそれはないだろ! 俺が困ってしまうぜ」

 

「でもな、ミユを残して参加するつもりは……正直あまり」

 

 いくら何でもそれでは俺が困る。慌ててフウタを止める。

 ……とは言っても、確かに三人、この状況でミユちゃんが余るのは痛いな。フウタの事だ、彼女を一人にして俺について来るとは思えないからだ。

 

 ――困ったな。一体どうすれば――

 

「あら。ずいぶん面白い話をしているのね、貴方達」

 

 そんな中だった、俺達三人の近くに一人のダイバーがやって来た。

 

「ちょっとロビーで過ごしていたら、話が聞こえて来ちゃって。だから、ね」

 

「それは分かったけれど……君は一体」

 

「ワタシ? そうね――クロ、とでも言っておこうかしら」 

 

 

 

 クロと名乗ったダイバー。

 それは名前通り黒色のガンダムSEEDの軍組織、ザフトのパイロットスーツを身に纏った女性ダイバーだ。

 身体つきや背丈から若い女性、女の子だとは思う。けれどヘルメットまで被りバイザーまで降ろして顔は見えないし、声も女の子っぽいけれど変声機を使っているかのように微妙に人工的だ。

 

「クロさん、初めまして! 私はミユ、本当に私と一緒に組んでくれるの、嬉しいです」

 

 ミユちゃんは彼女ににこやかに微笑む。対して顔は分からないけれど、クロはふふっと、笑い声を漏らしたようだった。

 

「ミユ――良い子ね。いえね、楽しそうだからワタシも興味があったのよ。

 新しい生き方と言えばいいかしら……そうしたのを見つけるのにも、丁度良さそうじゃない」

 

 妙に掴み所がないと言うか、言動も怪しい彼女。ミユちゃんはああだけれど俺はどうも胡散臭い。フウタも俺と同じ感情なようだ。

 

「えっと……クロ、だっけ。ミユはこう言っているけど僕は、悪いけど信用出来ないんだ」

 

「もう! 失礼だよフウタ!」

 

「……分かっているけどさ、でも僕としてはあんなに胡散臭い相手に大切なミユを預けられるわけないじゃないか」

 

 当然と言えば当然の反応。彼女想いのフウタが認めるとは、俺も思えなかった。

 けれどクロはフウタに興味を持ったかのように、あいつの顔をぐいっと覗き込む。

 

「うわわっと!」

 

「ふむ……貴方は、フウタ、と言うのね。随分素直な子じゃない」

 

「あ……えっと…………その」

 

 彼女の対応にどきっと慌てるフウタ。ヘルメット頭でいきなり迫れたらそりゃビビるよな、俺だってビビる。

 そんな彼にクロはこんな事を。

 

「いきなりで悪いけれどフウタ、そこのミユちゃんと随分仲が良さそうね。

 ねぇ、二人は一体どんな関係なの? 良かったら教えてくれないかしら?」

 

 いきなりの問い。フウタは戸惑いながらも、でも迷いなんてなくて当然のように答える。

 

「ミユは僕が小さい頃から一緒にいる幼馴染みさ。だから――今までずっと誰よりも大切な相手で、恋人としても付き合っているんだ。

 互いに、両想いでもあるしね!」

 

「幼馴染みで……ずっと大切に、想っているのね。初めて会って得体の知れないワタシに迷わず答えられるくらい、強く」

 

「当然じゃないか! 僕はミユにラブラブなんだから」 

 

「ラブラブ……ね。フウタ、貴方って人は」

 

 顔は相変わらず見えない。けれど、その声にはどこかある感情が含まれているかのように。

 そしてまた――かすかに笑い声をあげると、こんな事を言った。

 

「ふふふふっ、面白いわね。……悪くないわ」

 

 クロと言う少女。態度こそ妙だけれど、それでも俺達に敵対的だったり、少なくとも妙な真似をするつもりはないらしい。

 彼女は優しい口調で、伝える。

 

「そんなに彼女想いなら心配になる気持ちも分かるわ。

 でも、安心して欲しいの。ワタシはただGBNのミッションとやらを楽しんでみたいだけなのだから。貴方の大切な人は代わりにワタシが守ってあげる。――心配はいらない、約束するわ」 

 

「……むぅ、そこまで言われると」

 

 見た目と態度こそアレかもだが、クロは悪人ではないのは分かる。俺でも彼女の言葉が本気だと……それだって。

 

「ここはクロに任せても良いんじゃないか? 怪しい所はあるかもだけど、少なくとも悪い相手なんかじゃなさそうだしさ」

 

 ミユも俺の意見に同意みたいだった。

 

「うんうん! GBNは色んな人がいるんだもん。顔は分からないけど、クロさんは良い人だって分かるから。

 クロさんとならイベントだって楽しいと思うし、だから――」

 

 彼女はクロの傍に近づくと、一緒に手を繋いだ。

 

「今日は宜しくね、クロさん!」

 

 

 

 好意的な様子のミユに、フウタも表情を緩める。

 

「ま、ミユがそこまで言うなら、分かったよ。

 クロさん、僕の代わりに約束通り、ちゃんとミユの事を守ってよね」

 

「もちろんよ! ……ワタシの命に代えても」

 

「あはは。クロさんってば、大袈裟だよ」

 

 いきなり現れた黒いパイロットスーツとヘルメットをかぶったダイバーの少女、クロ。

 色々と気になるものの、多分大丈夫そうだ。

 

 ――とにかく結果オーライか、おかげで俺もミッションを楽しめる、良かったぜ――

 

 俺もまた、ワクワクな気持ちだぜ。

 

 

 

 ―――― 

 

 俺達はロビーでミッションを受ける。そして、転送されたミッションのエリアは、やたら広大な平原の真っ只中だ。

 

「エリアは……成程、こうなっているのか」

 

〈だだっ広い平原だな、ほんと。それに周りにはガンプラだらけだし〉

 

 平原には俺のガンプラF91やフウタのレギンレイズ・フライヤーが立ち、周囲には他の多数のガンプラだってある。

 ……ちなみに俺は別にGBN用にM1アストレイも作ったけれど、やっぱりこっちのF91の方が少し使いやすくもある。

 

「そう言う事だな。

 後、それとだ。フウタ、このミッションの説明は聞いていただろ?」

 

 俺の言葉に頷くフウタ。

 

〈もちろんだよ。要はカンタン、今から僕たちは――あの目の前のゴールに向かえばいいんだろ!〉

 

 広大な草原の中央、俺達の見ている前には……超巨大な建造物がそびえ立っていた。

 雷が鳴り響く暗雲の下で、おどろおどろしい巨大要塞、ア・バオア・クーやメサイア、リーブラにアンバット、エンジェル・ハイロゥだとか、ガンダムシリーズの要塞をごちゃまぜにしたような、凄まじい外観の化け物要塞だ。

 

〈にしても、あんな凄い場所に今からか。

 要塞の奥深くがゴールみたいだけど、これって大丈夫なわけ〉

 

「んなわけあるかよ。あの要塞の内部には複雑な迷路みたいになって、さらに凶悪な罠だって多くあるんだぜ。 

 更に、これだけのダイバーのタッグとの競争だ。途中奴らとのバトルだって避けられない。つまり――周りにいる奴らだって全員敵さ」

 

〈敵……か、これだけの数が全部〉

 

 辺りには他のダイバーのガンプラだって数多い。

 そして、間もなくミッションが開始しようとしている。――どうなるのか期待と不安で一杯だ。

 

 

 

 ――――

 

 ――ついにミッションは始まった。

 ミッション開始の合図とともに、周囲のダイバーも各々のガンプラを駆り一斉に要塞へと向かって行く。

 

「やっぱ、スタートダッシュはあいつらが有利か」

 

 俺が上を見ると、他のガンプラを追い抜くように戦闘機のような機体が飛んで行く。

 Zガンダムにメッサーラ、Wガンダムにセイバーガンダムだとか、多くが高加速が可能な可変機が多い。

 

〈やっぱりスタートダッシュは、加速の高い機体が強いよね。……って! ジン!〉

 

「いきなり何だよ!?」

 

〈後ろ後ろ! ったく、開始早々あんな真似を!〉

 

「あんな真似だって!? 一体――」

 

 フウタのレギンレイズは後方を振り返っていた。他の多くが要塞へと急ぐ中、真後ろにいた一機のガンプラが動かず構えていた。

 その機体は、ハイモック。ガンダム作品の機体ではないけれど、ずんぐりとした太い手足と身体、半球体で一つ目のついた量産機風のオリジナルガンプラだ。ハイモックの肩と背面にはミサイルポッドやライフルと言った武装が装備されているアームが伸び、加えて一部アームにはバインダーガンまで――その武装が全て俺達の方へと向けられていた。

 それがどう言う事か、考えるまでもなかった。

 

「――すぐに射線上から離れろ!」

 

〈見れば分かるってば、ジンこそ!〉

 

 俺達は同時に左右に飛び退いた……次の瞬間。

 

 

 

 周囲に一斉にビームと弾丸、ミサイルが一斉に降り注ぐ。

 多くのガンプラは瞬く間に攻撃を受けて次々に撃破される。上空を飛ぶイナクトが二機、撃墜されるのだって見えた。

 

〈大丈夫? どっちかがやられると失格なんだから……分かるだろ〉 

 

 フウタの言う通り。これは二人一組のタッグで挑むミッションだ。

 

「当然だろ! ……けれど今ので、辺りも騒がしくなったみたいだな。

 こんな中を切り抜けるのか、厄介だな」

 

 

 さっきの一斉放火、辺りは大被害を受けたものの、俺達はギリギリで回避が出来た。……だけど。

 今の攻撃が火ぶたに、周囲のダイバー同士の戦いが白熱した。

 飛び交う攻撃と、剣戟があちこちで、……そんな中で俺とフウタは切り抜けなければいけない。

 

「――って、油断出来ないな!」

 

 次の瞬間、俺のF91にスタークジェガンが、両肩に装備した大型ミサイルを撃ち放って来た。

 正確には俺と周囲にいるダイバーのガンプラを狙って、とっさに俺はビームシールドで攻撃を受けたものの、周りの数機が今のでやられた。

 

 ――こなくそっ――

 

 俺はあのスタークジェガンに反撃を繰り出そうとした。けれど、スタークジェガンは今度はいきなり現れたソードインパルスによって一刀両断される。

 

 ――はは、ああして助けてくれる奴もいるんだな。フウタは――

 

 見ると、フウタのレギンレイズは戦闘をかいくぐり、俺より先を走っていた。

 途中ザクⅢがビームサーベルを繰り出すも、それを受け止め、弾きかえす。

 

〈ジンも早くしてよね! こんな所で足止めをしている暇なんてないし、二人でゴールだってしないとだしさ!〉

 

 フウタの言う通りだ。ミッションはあの要塞の奥のゴールに二人で辿りつく事だ。片方でもやられたら失格、上手く協力をして……と言うことだろう。

 

「もちろん、俺だってすぐに追いつくとも!」

 

 俺もフウタに負けないように機体を駆り、先へと急ぐ。

 ミッション成功の条件はゴールにたどり着く事だけれど、クリア報酬は先にゴールした方がより良い報酬になる。――だから、他より早くゴールした方が良いと言うわけだ。

 

〈このまま一気に、要塞へと向かおうか! ……それにしても、GBNでは面白いイベントをやるよね〉

 

「――? いきなりそんな話をしてどうしたんだ」

 

〈いやさ、数か月も前だっけ……ビルドダイバーズのコアガンダムってガンプラが活躍した大イベントがあっただろ。

 あの時はGBNにログインしていなかったから後で知ったんだけど、コアガンダムに似た新ガンプラが敵として出て来て、アヴァロンや百鬼だとかGBNの有名フォースやダイバーが活躍した……あれさ〉

 

 フウタの話、俺はそれを聞いて思い出す。

 もうずいぶんと前の話だけれど、そんな事がGBN内ではあった。

 

「ああ、あれか。

 何だかそんな大イベントがあったって、俺も聞いたぜ。

 それに最近……と言っても二週間以上前だけど、また大きなイベントがあったよな。確か――」

 

 ……おっと! でも今はそんな話をしている暇なんてないか。

 

「……いや、それより今はこのミッションに集中しないとな! 気を取り直して行こうぜ、フウタ!」

 

〈だね! 僕もミユの事が心配だから、早く合流しないとだし〉

 

 とりあえずは平原ももうすぐ突破できそうだ。

 ここからが本番――俺たちはいよいよ要塞へと突入する

 




 今回は少しコラボ、ガリアムスさんの「ガンダム・ビルドライジング」https://syosetu.org/novel/253898/のハイモック・ガンオージャを少し登場させてみました。次回もコラボはしていく予定ですので……宜しくです。
 ちなみに、今回の内容は別の自作「Re:Connect 揺れ動く、彼女の想い」とも関係してもいます、良ければ!
 


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三人の挑戦 その2(Side ミユ)★

 ジンさんが誘った楽しそうなミッションに、私もフウタと参加したんだ。

 ただ、二人一組のタッグで挑むミッションで、フウタはジンさんとペアを組んだんだ。……私がフウタと組みたいって気持ちはあったから、やっぱり残念な気持ちはあるの。

 ――だけど。

 

 

 

〈ふふっ、ミユには指一本――触れさせはしないわ!〉

 

 スタート地点の平原から、ゴールがある巨大要塞に向かう私。途中で他のダイバーのガンプラが襲って来たけれど、全然平気だったんだ。

 

「ありがとう、クロさん。……とっても強いんですね」

 

〈いえいえ。でも――ワタシが力になれて、良かったわ〉

 

 さっき私たちが出会った、パイロットスーツ姿でヘルメットで顔を隠した不思議な女の子……クロさん。私が今組んでいる、ダイバーの子なんだ。

 

〈このガンプラ、リーオーと言うのかしら。随分と使い勝手がいいじゃない。

 並大抵の相手なら、一切問題ないわよ〉

 

 隣り合って並ぶ私のレギンレイズ・ホワイトと、それにクロさんの乗る黒と紫の、リーオー。

 バックパックにはクロスボーンガンダムだったかな、あれに近い感じのX型のバックパックを装備しているリーオーで、手にはバインダーガンを組み替えた片手剣を装備しているの。

 

 

 

 要塞への入り口は目の前。周りには入り口がいくつもあるみたいで、私たちが目指しているのはその一つ。 

 

「あのハッチが入り口かな。でも、閉じられているみたいだけど」

 

〈大した事ないわよ、それくらい。ワタシに任せなさいな〉

 

 けれど私たちの前には二機のガンプラが立ち塞がった。

 背部に搭載した十基の円盤状のジェネレーターで形成する電磁フィールド、プラネイトディフェンサーを装備したメルクリウスに、大型ジェネレーター内蔵のバックパックと接続したビームキャノンが専用装備のヴァイエイト――二機とも新機動戦記ガンダムWの機体なんだ。

 

「メルクリウスに、ヴァイエイトか……私の好きな機体だから、敵になるのは残念だな。

 高い防御力と攻撃力をそれぞれ持って、互いにカバーし合う、強力なペアなんだ。

 二機とも金色って事は、あの二機もタッグなのかな」

 

〈へぇ、ミユはああした機体が好きなのね。良いじゃない、ちょっと可愛い見た目かもだし。

 でも――〉

 

 クロさんのリーオーは、バインダーガンの片手剣を構えるとそのまま、一人で突き進んだの。

 

〈今は敵なのだから――悪いけど倒させてもらうわよ!〉

 

 たった一人で、金色のメルクリウスとヴァイエイトと戦おうとするクロさん。

 

「一人だけで大丈夫? 私も……」

 

〈心配ないわ。あのレベルなら、ワタシ一人でも!〉

 

 リーオーは片手剣の先端をヴァイエイトに向けて、バインダーガンとしてビーム射撃を放つんだ。……だけどビームは金色のコーティング剤で軽減されてダメージにならないんだ。

 

〈ビームはあまり効かないみたいね。――そして〉

 

 ヴァイエイトはバックパックのジェネレーターを稼働させてエネルギーを貯めていた。ジェネレーターのエネルギーは手元のビームキャノンに……そして、クロさんのリーオーを狙って一撃を撃ち放った。

 

〈――!〉

  

 放たれた強力なビームは草原のエリアを直線に貫いて、ガンプラを何機も巻き込んだ一撃。リーオーの姿も見えなくなって、もしかして……と思ったその時だった。

 ヴァイエイトの身体が目の前で一刀両断されて、爆発した。見るとクロさんは私から見て相手の後ろ横に回り込んで、機体の片手剣で相手を切り払ったんだ。

 

〈一撃は強力かもしれないけれど隙が多いわ。それに近接攻撃なら……全然〉

 

 一機撃破したクロさん。彼女はふふっと笑って。

 

〈確かタッグの片方でもやられたのなら失格、だったわね。なのに――〉

 

 仲間がやられちゃった事が許せなかったみたい。残ったメルクリウスはシールドの正面からビームの刃を放って突撃して来たんだ。

 突撃にクロさんは左に跳んで避ける。続けてバインダーガンの剣を振った。……だけど、攻撃は宙に浮かぶ円盤のジェネレーターが発生させた電磁フィールドで防がれてしまう。

 

「クロさん! プラネイトディフェンサーは物理攻撃にも防御力があるの。

 だから――」

 

〈ノープロブレム! 確かに防御力はあるかもしれないけど、物理的な障壁程じゃないわ〉

 

 続けてメルクリウスはビームサーベルを振って斬撃を繰り出した。クロさんのリーオーも片手剣で受け止めて、更に刃先を突きつけて。

 

〈無理矢理にでも押し込ませて貰うわ! 正面からね!〉

 

 X型のバックパックのバーニアを全開にして、リーオーは剣でプラネイトディフェンサーを展開したままのメルクリウスを押し飛ばす。押し飛ばして、要塞のハッチに強引に叩きつけて、ぐっと刃を押し込む。

 プラネイトディフェンサーの電磁フィールドでも耐えきれずに、剣はフィールドを破ってメルクリウスの胴体を突き刺したんだ。

 通信画面に映るクロさんの顔。バイザーに隠れて殆ど見えないけれど、辛うじて見えた口元はにやりと笑っていて。

 

〈丁度いい、中身から吹き飛んで――扉にも風穴を開けなさいな!〉

 

 ガンプラに突き刺したまま、リーオーはバインダーガンの刃先からビームを機体内部に放つ。

 数発も、体内に打ち込まれたビーム。途端にリーオーは飛び退いて、同時にメルクリウスは身体が光って膨らんだかと思うと、全身から火を噴いて大爆発を起こした。

 

 

 

 ――――

 

〈ふふっ、おかげで扉を開けるのも楽だったわね〉

 

 メルクリウスの爆発で開いたハッチを通って、私とクロさんは要塞内部へと進んだんだ。

 

「……入って間もないけど、この辺りはあまり人がいないね」

 

 中まで基地そのまんまな広い通路。私たち以外にもゴールを目指すダイバーさんのガンプラだって見える。今は襲って来たりとかはしないから、あまり心配はないんだ。でも……。

 

〈ミユ、次はどこを進んでみる?〉

 

「えーっと、右の道を行ってみようかな。

 他のみんなは左に行っているみたいだけど、こう言う時は別の道がいいかなって」

 

 私たちの前には分かれ道があった。今私たちが通っているのと同じくらい大きな右の道と、それよりずっと小さい横穴みたいな、左の道。

 

「ああした道の方が近道だって思うし、クロさんはどう思うかな?」

 

〈成程、ね。確かにそうかもしれないわね。……ワタシはそれに賛成よ〉

 

 他のみんなは右の道に行っていたけれど、私たちはその左の道へと入ったんだ。

 道は狭くて、真っすぐと続いている感じ。……抜けるまでは長くかかりそうな道。危険もなさそうだし、せっかくだからクロさんと話したいなって。

 

「ねぇ、クロさん」

 

〈どうしたのかしら?〉

 

「良かったらで良いんだけど、お互いの事を話し合いっこだなんてどうかな?

 クロさんとはさっき知り合ったばかりだから、もっと分かり合いたいな……なんて」

 

〈互いの事を……ねぇ〉

 

 クロさんは少し考えるように沈黙する。けれど、しばらくしてこう答えてくれた。

 

〈ミユがそう言うなら大丈夫よ。幸いしばらくは道を進むだけで暇そうだから。

 ……でもワタシの事についてはあまり期待しないで頂戴ね〉

 

「――良かった! もしかするとクロさんはそうした話は苦手だって心配だったから」

 

 嫌がってない感じで安心した私。

 

〈いえいえ、大丈夫よ。……ミユの事、ワタシも気になっていたから。確かフウタとは幼馴染みで……今は恋人同士みたいじゃない〉

 

 クロさんからの言葉、私はにこっと笑いかけて応えるんだ。

 

「うん! フウタとは現実の世界で家が隣同士で、ずっと一緒に過ごしているの。

 私もフウタも地方の町に暮らしている普通の子で、小さい頃に遊んだり、学校も同じで二人で通ったりで、私はフウタの事が好きになっていたんだ。

 他の誰よりもずっと」

 

〈ふむ、成程ね〉

 

「プラモと写真が好きな男の子で、作った飛行機のプラモデルやガンプラも……昔から見せて貰ったっけ。それに明るくて、優しくて、よく私にキラキラした笑顔を見せてくれるのが、何より好きなの。

 そして高校に入ってから、フウタの方から私に告白してくれたんだ。誰よりも大好きだって――私がフウタに向ける想いと同じくらい、フウタも私の事を想っていてくれたのが、とても嬉しくて」

 

 そこまで言うと、私ははっとした。

 

「あっ……ごめんね。自分の紹介をしなきゃなのにフウタの話が多かったかな」

 

 ついフウタの事ばかり話し過ぎてしまって、あまり自分については話せなかった。クロさんは。気にしないと言うように。

 

〈ワタシは大丈夫よ。……むしろ貴方が、ミユがどんな子なのかよく分かったから。

 ミユもフウタの事、好きに想っているのね〉

 

 クロさんが話す言葉、そんな風に言われると……照れちゃうな。

 

「うん。だって一緒にいた大切な人だから。もちろん、これからだってその想いは変らないよ。

 ……じゃあ次は、クロさんの事を聞いていいかな?」

 

〈ワタシの、ことね。何が聞きたいのかしら? 答えられるものなら答えるわよ〉

 

 じゃあお言葉に甘えようかな。聞く事と言ったら、やっぱり。

 

「クロさんは一体、どんな人なんですか? 例えば現実世界ではどう過ごしているのかとか……たぶん想像だけど、私と同じ学生なのかな」

〈何かと思えばそんな質問と言うわけ。……面白いわね〉

 

 クロさんはふふっと笑って、そして答えてくれたの。

 

〈現実の世界、ね。悪いけれどワタシはその世界には存在しないの。

 貴方にとっては可笑しな話かもしれないけれど、ワタシはこの仮想世界――GBNにしか存在しないモノよ〉

  

「それって……えっと」

 

 思いもよらなかったクロさんの言葉。でも、私は少しだけ心当たりがあったの。

 

「そう言えば、私も少しだけ聞いた事があるの。GBNにはこの世界から生まれて来た情報生命体がいるって。……私はまだ本物は見た事はないしあまり知らないけれど、名前は……確か、そうそう! 『ELダイバー』だったね。

 もしかしてクロさんは――ELダイバー、なのですか?」

 

 ほんの興味本位で、聞いてみただけだった。だけどクロさんは、態度が急に変わったかのように。

 

〈……違うわ。悪いけれどワタシは、そんな存在ではないの。

 一緒にしないで欲しいわ〉

 

 雰囲気は数段沈んだ暗い感じで、それに負の感情が漂っているのが伝わるのが分かる。

 

 ――今のクロさんは何だか、怖いよ――

 

 するとクロさんは自分ではっとしたようにして、態度を元に戻したの。

 

〈あっと……ごめんなさいね。つい変な空気にしてしまって〉

 

「ううん、私の方こそ。気を悪くさせちゃったかな。ごめんね」

 

〈気にしないでもいいの。

 だけど、そうね。ワタシは……ううん、何でもないわ〉

 

 そしてクロさんは幾らか寂しい態度で、続ける。

 

〈他にワタシの事と言ったら、そうね。

 申し訳がないけれど、ワタシには何もないの。自分は結局は何なのかも……どうすれば、どう生きればいいのかも。

 本当に、ごめんなさいね。〉

 

「ううん、私の方こそごめんなさい。

 だけどクロさんがそう言うなら――」

 

 謎は多いけれど、でもクロさんは多分……寂しい人だって私は思った。

 

「どうすれば分からないと言うのでしたら、今は私と一緒にこのミッションを楽しもう!」

 

〈……ミユ〉

 

 クロさんは驚いたような風に、呟く。

 

「難しい事は考えないで、楽しめたらそれで良いって私は思うの。自分が楽しいって思える事をすれば、きっとそのうち、クロさんの答えだって見つかると思うから」

 

 つい私はこんな事を言ってしまった。だけど、言い過ぎてしまったかも。

 

「……なんて、ごめんね。

 本当にクロさんの事は分からないのに、勝手な事を言ってしまって」

 

 言い過ぎてしまったと、謝る私。それにクロさんは首を横に振ると。

 

「ううん。私の事を想ってくれるだけでも、ワタシは嬉しいわ。

 ミユの言う通りね。ワタシ、難しく考えすぎていたのかも。……今はただ、このイベントを楽しもうかしらね」

 

 安心した。クロさんは本当に喜んでくれていると、分かったから。

 

「うん! とにかく楽しんだもの勝ちだからね。今精一杯――楽しもう」

 

 きっと今は、それが一番いいんだって。……クロさんにとっても。

 

 

 

 ――――

 

「……うわっ、この状況は……凄いね」

 

 道を抜けた私たちに待ち構えていたのは、広い場所でのガンプラ同士の大乱闘だったんだ。

 大きな貨物みたいな物があちこちに積まれていて、まるで倉庫の中みたいな場所で見える激しい戦い。

 

〈どうしてこうも激しい戦いになっているか分からないけど、多数のガンプラが入り乱れて乱闘しているここは、危険だわね〉

 

 貨物のいくつかの物陰に隠れた私たちは、戦いの様子を伺っている。

 

〈幸いワタシ達がいる事は誰にも気づかれていないけれど、でもその内気づかれてしまいそうだわ。

 あんな熱量でやり合っているのですもの。そうなったらあの戦いに、こっちまで巻き込まれてしまうわ。ここは……こっそりこの場所を抜ける事ね〉

 

 クロさんの言葉に私は頷く。

 

「そうだね。あの向こうにある大きな出口、多分ゴールに続いている感じだから。

 でも――」

 

 そう簡単には行かないみたい。

 みんなが戦っている大乱闘、一番激しいのはその出口近くなんだから。

 

「あの戦いの中を、どうしようかな。巻き込まれたらただじゃ済まないよね」

 

〈ええ。ワタシもこの状況は、難しいわ。……って、ミユ! 下がって!〉

 

「えっ!?」

 

 いきなり言われたけど、私はそれに従って下がった。

 同時だった。クロさんのリーオーは片手剣の先、バインダーガンの銃口を私のレギンレイズがたった今いた場所の真上に向けた。放たれるビーム、その一撃は上にいたガンプラ、薙刀を振り下ろそうとしていた青色のゲルググを撃ち貫いて、撃破したんだ。

 

〈と、行っている間にも早速と言うわけ、本当に油断も隙も――〉

 

 瞬間に今度は右横に、リーオーは剣を薙いだ。

 

〈――ないわねっ!〉

 

 鋭い一閃、その先にいたのはガンダムООのガンプラであるスサノオ……だったかな。

 そのガンプラは二刀流の刀で迫ろうとした所を、クロさんが乗るリーオーは一刀両断にしたんだ。

 

「クロさん……流石です」

 

 さっきのメルクリウスとヴァイエイトとの戦いもだけど、ガンプラはともかく彼女の、クロさんのガンプラを操縦する腕はとても……凄かったんだ。

 

「本当に強いんですね。まるで上級ダイバーみたいに、クロさんは戦って」

 

〈ふふっ、そう言ってくれると光栄……と言いたい所だけど〉

 

 するとクロさんはまた、俯いて寂しいような悲しいような雰囲気で。

 

〈この実力は元々、ワタシの力なんかでもないもの。これは――〉

 

 何だか分からないけど、クロさんは本当に……複雑なんだって。……だけど。

 

「――危ないっ!」

 

 クロさんのリーオーの後ろ離れた場所に、にきらりと光るものが見えた。見るとそれは、ライフルを構えていたジムコマンダーのバイザーだった。

 遠くからクロさんを狙うつもりだって、だから私は、その間に割って入った。

 瞬間に放たれたビームの一撃。私は自分の乗るレギンレイズの装備するガントレットを前に出して、防いだ。  

 

「くうっ! ……けどっ!」

 

 衝撃でよろめきそうになるけれど、私は続いてライフルをジムコマンダーへと向ける。

 

 ――ちょっと遠いかもだけど、私だっていい所を見せたいから――

 

 狙いを定めて、そして引き金を――引いた。

 今度は私からの反撃。攻撃は相手に、ジムコマンダーの胴体真ん中を貫いて撃破したんだ。

 

〈……ミユも、やるわね。おかげで助かったわ〉

 

「へへっ! 私だって、やれば出来るんだから」  

 

〈それは分かったわ。けれど、おかげで――〉

 

 クロさんが言いたいこと、私にもすぐに分った。

 私たちの周りには他にも何機ものガンプラの姿がある。多分、さっきの戦いで私たちの存在が目に入ったせいなんだろうか。

 

〈これは、不味いわね。……でも貴方の事は全力で守ってみせるわ〉

 

 クロさんが乗るリーオーは、剣を構えて戦闘態勢をとっている。もちろん私も。

 

「うん。一緒にここを切り抜けないと、ね」

 

 周りにはたくさんの相手。厳しいかもしれないけど、でもやらなくちゃ。

 私たちと、周りのガンプラ。戦いが始まろうとした……その時。

 

 

 

 いきなり眩いくらいの閃光、光筋がいくつも辺りを飛び交うのが見えたんだ。

 閃光を放っているのは、同じく飛び交う幾つもの遠隔攻撃ユニット――ファンネル。

 全方位からの攻撃は、私たちの周りにいるガンプラを次々に撃破していく。でも、攻撃は私たち二人に来る様子はない。これって……。

 

 ――私たちを、助けてくれたのかな――

 

〈やぁ、確か君はミユちゃんだったかな。久しぶりだね〉

 

 そんな時、私たちの目の前に一機の黒いガンプラが現れたんだ。

 大鎌を構えて翼状のバックパックを広げたガンダム、私には見覚えがあったんだ。

 

「前にフウタと戦った……ガンダムグリムリーパーだよね。そして貴方は、クラルテさん」

 

 通信のモニターに映っているのは銀髪で中性的な外見をした男の人……クラルテさんの姿だった。

 

「こんな所で会うだなんて、びっくりです。それに助けてくれて……嬉しいです」

 

〈いや、さ。前に戦ったフウタの恋人とここで会えるなんて思わなかったよ。

 けど、前にそれなりに楽しませて貰ったから。……そのお礼代わりとして、ね〉

 

 今の攻撃でガンプラがたくさん撃破されたけれど、それでもまだまだ他にガンプラが現れて来た。

 クラルテさんのガンダムグリムリーパーは大鎌――ビームサイズを構えてそれに立ち塞がるんだ。

 

〈だから、ここは僕に任せてよ。心配しなくてもたった一人で十分だからさ〉

 

 何だか知らないけれど、本当に助けてくれるみたい。

 

〈ここはお言葉に甘えて行きましょう、ミユ。せっかくのチャンスですもの〉

 

 クロさんもそう促す。ここは……。

 

「……クラルテさん、ありがとうございます」

 

〈礼はいいってば。――フウタによろしくと、言っておいてよ〉

 

 ここはクラルテさんに任せてもらって、私とクロさんは大乱戦の中にある広場を突破したんだ。

 

 

 

 ――――

 

〈はぁ……一時はどうなるかと、思ったわ〉 

 

「そうだね。でも助けてくれて良かった。おかげで先にも進められたから」

 

 あの広場を抜けて、私たちはまた要塞の中を進んでいたんだ。

 

「本当に良かったよ。だって私は早く……フウタと会いたいから」

 

 きっとフウタ達だって同じように先を進んでいるはず。だから、その内会えるって思うから。

 

〈ふふっ、やっぱりミユはそれだけフウタの事が好きなのね〉

 

 クロさんの言葉に私はもちろんと頷いたんだ。

 

「勿論だよ。大切な――幼馴染みだから。

 そう言えば……」

 

 私はある事を、つい思い出した。

 

「幼馴染みと言えばね、ずっと前だけどあるダイバーさんに出会ったんだ。私と同じ年くらいの女の子で、幼馴染みだっているんだ。

 ……それにあの子の幼馴染みはとても有名なんだよ。何しろ有名なもう一つの『ビルドダイバーズ』の一員で、コアガンダムって言うガンプラの持ち主なんだよ」

 

 ……もう幾らか前になるかもだけど、私はGBNで自分に似た感じの女の子に会った事があるんだ。

 素敵な幼馴染みがいて、彼の事を一番大切に想っている部分だって。

 

〈……〉

 

「あの子、今頃どうしてるかな。

 確か名前は……えっと」

 

 前の事だけあって、その子の名前が思い出せないでいた。するとクロさんは突然、口を開いた。。

 

「ムカイ・ヒナタ。そして幼なじみは――クガ・ヒロト」

 

 クロさんの言った言葉に私は驚いてしまう。

 

「えっ!? クロさんも知っていたの?

 でもどうして、それに――」

 

 今、クロさんは名前だけじゃなくて、フルネームで二人の事を呼んだ。

 

 ――どうしてクロさんはそこまで知っているのかな。一体どういう関係なんだろう――

 

 

 

 ――――

 

 そんな私たちだったけれど……ふと目の前に二機のガンプラの姿が現れて、見えて来た。

 

 ――あれは私たちより前を進んでいたグループかな。えっと、あのガンプラは――

 

 どっちも後ろ姿だけだけど一機目は左右二門の大型エネルギー砲を備えて、×の字型のバインダーも生えている。……姿だって見覚えがある、あれはガンダムⅩの主人公機体の一つ、ガンダムDXだったんだ。

 

 ――ツインサテライトキャノンの構造が少し変わってたり、武装が原作より追加されているみたいだけど、恰好いいな。

 でももう一機は――

 

 そのガンダムDXの改造ガンプラの隣を仲睦まじそうに歩いている、二機目のガンプラ。

 普通のガンプラよりもずっと人型、小さい女の子っぽい姿。とんがり帽子にツインテール、箒のような……メイスのような武器を持つガンプラ。ツインテールにはGNドライブがあるからガンダムOOの機体をモデルにしているのかな。でも……ガンプラと言うよりは、お人形さんに近いくらいに人に近くて、可愛いんだ。

 

 ――初めて見るガンプラだな、何だろう?――

 

「……ねぇ、クロさんはあれがどんなガンプラか知っているかな。初めて見る機体だから――」

 

 私はクロさんに聞いてみようと、した時。

 

 

 

〈……〉

 

「――えっ!?」

 

 クロさんのリーオーは片手剣を構え、先端にある銃口を相手に、あの魔女っ娘っぽいガンプラに向けていた。

 あまりに唐突すぎる行動に、私は。

 

「クロ、さん? どうしてそんな」

 

〈ミユは関係ないから離れていて。

 ワタシには分かる。あれはELダイバー……だから!〉

 

 瞬間、躊躇なくクロさんのリーオーはビームを数発――相手へと打ち込んだ。

 けれど、ビームはあの魔女っ娘ガンプラが展開するGNフィールドに防がれてしまう。今の攻撃で相手も気づいたみたいで。

 

〈なっ、何ですの! あなた達は!?〉

 

〈ハァっ!? いきなり攻撃して来るだなんてどー言うつもりだってんだ! トピアが一体何をした! ふざけんなよっ!〉

 

 通信画面に映る姿。

 一人はガンダムのパイロットであるシャツとツナギを来た小学生くらいの男の子、そして自分が乗るガンプラそっくりの、魔女っ娘の恰好をした女の子。

 こんな事になってしまって、私はどうにか弁解しようとする。

 

「あっ、あのっ! 今のはただの誤解でっ……私たちは」

 

 だけどクロさんは私に構わずに、前に進み出て二人のガンプラと正面から対峙する。

 

〈この子は関係ないわ。ワタシ一人が貴方に……そこのELダイバーに用があるのよ〉

 

〈ELダイバー……だとっ!? テメェ、トピアの事を言ってんのかよ!〉

 

〈みゃんみゃんタイガーくん、私もよく分からないのですの〉

 

 男の子はみゃんみゃんタイガーくんって言うんだ、私はそう思ったけれど……。

 

〈アイアンタイガーだっ!! 俺は!〉

 

 男の子はそう怒鳴って訂正したんだ。本名は分からないけど、ダイバーネームは正しくはアイアンタイガーさんと言うみたい。それに女の子はトピアさん、さっきアイアンタイガーさんがそう呼んでいるのを聞いたから。

 けれどそんな事をクロさんは意に介さないで、トピアさんに続ける。

 

〈トピア……と言うのね、貴方〉

 

〈ええ、そうですの。でも私たちは戦うつもりなんてないですの。

 そもそも戦う理由なんて〉

 

 トピアさんも今の状況に戸惑っているみたい。だけれど、クロさんが乗るリーオーは構わずに剣を構えている。

 

〈悪いけれど、貴方がELダイバーである事。

 それがワタシにとって何より――戦う理由だわ!!〉

 

 

 そう叫ぶと同時に、クロさんのリーオーは片手剣を手にトピアさんのガンプラに迫った。

 

「止めて! クロさん!」

 

〈悪いけどそれは聞けないわ! 心配しなくても、すぐに片を付けるわよ!〉

 

 私の聞く耳を持たないクロさん。そして剣を振り下ろそうとした瞬間、傍にいたアイアンタイガーさんのガンダムDXがビームサーベルを展開して受け止める。

 

〈いー加減にしやがれこのヤローめっ! いきなり襲って来るなんてザケた真似しやがってっ! トピアに手ェ出そうってんなら、俺も全力で相手してやんぜッ!!〉

 

〈貴方の方は関係ないけれど、ワタシの邪魔をするのなら、いいわ。

 まとめて片づけてあげるわ!〉

 

 

 みゃんみゃんタイガーさん……違った、アイアンタイガーさんとトピアさんの二人と、クロさんの戦い。

 

 ――どうしてこんな事に。クロさんも何か怒っている感じで普通じゃないみたいだし、私はどうしたら――




今回もガンダムビルドライザーズから https://syosetu.org/novel/249849/
今度はトピアさんに加えてコテツくんも……そして、本編で登場させていただいたクラルテさんも含めて。
三人のガンプラも登場出来て、良かったかな

ちなみにRe:Connectとも関係があるクロのリーオーは、こちらに
【挿絵表示】


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三人の挑戦 その3(Side フウタ)

 要塞の中を進んで行く僕とジン。けれど……そう簡単には行かない。

 

「うわわっと! これはまた面倒だな!」

 

〈気をつけろよフウタ、まずはトラップを無効化しないと〉

 

 たった今突き進んでいる道は、要塞の道を邪魔する自動防衛機構に苦戦していた。

 落とし穴に、小型のドローンの邪魔に……ビームや実弾、ミサイルを放つ自動攻撃装置。ジンのガンダムF91と僕のレギンレイズは今、通路の壁や天井、床からせり出す攻撃装置を相手にしている所だ。

 攻撃装置――砲台が放つ射撃に苦戦する僕達、それぞれで砲台を撃破しながら数を減らそうとするけれど、全然きりがない。

 

「とにかく数が多すぎる。先に進めないじゃないか、これじゃ。……およ?」

 

〈何やっているんだ! ここは俺たちが手をかしてやるよ、なぁハヅキ!〉

 

〈うん、そうだねっ!〉

 

 けど苦戦していた丁度その時、僕達の後ろから二機のガンプラ、それぞれフリーダムガンダムとストライクルージュが現れて、砲台の攻撃をかいくぐって瞬く間に撃破して行く。

 あのガンプラに乗る……二人は。

 

「ありがとう。ラギさんに、それにハヅキさん!」

 

〈どういたしまして。以前、私のラギが世話になったみたいでしたから〉

 

〈まーな! 一度バトルした相手と言うことでさ、何かの縁ってわけさ〉

 

 フリーダムガンダムに乗っていたのは、以前フウタとジンが戦った相手でもあるラギ。そしてもう一人は黒い髪の青目の、女の子の姿だった。

 俺とジンは要塞を進むうちに二人に出会って、少しの間行動を共にしていた。途中襲って来る相手もいたけれど……でもどっちとも強くて

、逆に僕とジンの出る幕がないくらいさ。

 一緒にいる時に紹介されたけど、彼女はハヅキ……ラギの恋人、と言う事らしい。どちらも片手剣を扱う戦いが得意らしく、それぞれビームサーベル一本で砲台を瞬く間に撃破して行く。

 

〈俺たちにかかれば、大した障害じゃない! ――それと!〉

 

 瞬間、ビームサーベルの一本を、フリーダムガンダムは右横に投擲する。

 その先にいたのは、罠に紛れて騙し討ちをしようとしていたガンダムシュピーゲル。ガンプラは胸を貫かれ、そのまま倒れた。

 

〈本当に油断も隙もないな! ま、だからこそ面白いんだけどな。

 ――さぁ、行こうぜ! フウタだって早くミユに会いたいだろ?〉

 

 ――そう、僕だって離れ離れになった彼女と、ミユに早く再会したいし――

 

〈俺たちも早く行こうぜ。グズグズしないでさ〉

 

 見るとラギとハヅキさんの二人は先を歩いている。ここはついて行った方が。僕とジンも二人の後を追おうとした時。

 

 ――カチッ。

 

「えっ」

 

 今僕のレギンレイズが床の何か、スイッチのようなものを踏んだ感覚がした。……次の瞬間。

 

「――!」

 

〈これはっ!〉

 

 レギンレイズとジンのF91の足元の床がぱかっと開いて、大きな落とし穴が広がる。

 

 ――まずい! こんな事になるなんて――

 

 けれどろくに考える暇なんてなかった。

 僕とジンは乗っているガンプラごと、下に落下したんだ。

 

 

 

 ――――

 

 落とし穴にかかって、落下した僕たち。

 

「……だっ」

 

 下に落下した衝撃が伝わり、僕はうめく。

 

〈大丈夫か……フウタ〉

 

「まぁ、何とかね。――でも」

 

 さっき落下した落とし穴、落ちた先は見上げるとその穴は閉ざされて戻れそうにない。

 

「これじゃもう戻れそうにないね。ラギたちともこれでお別れか、残念だよ」

 

〈仕方ないさ。ここからは俺たちで行くしか、ないって事だ〉

 

「そうみたいだね。……って、えっ?」

 

 僕とジンは二人で下に落下した。……けれどそこには僕達だけじゃなくて。

 

〈……一体どうした? いきなり上から落ちて来て、ビックリしたぜ〉

 

 僕達のガンプラ以外にも、それとは別に一機のガンプラの姿。トリコロールカラーに彩られたオリジナルのガンダム、そしてそのパイロット、ダイバーは、少し筋肉質な身体をしたラフな格好の、赤桃色の尖った髪型――ガンダムキャラの『フリット・アスノ』のそれに近い感じの二十歳くらいの男性だ。

 

 

 相手は二十才くらいの年齢で、ジンよりも年下みたいだけれど、彼より大人びて見える。

 そして彼のガンプラは、シャープな形状のガンダムヘッドに稼働域を広げた胸部、肩はレオパルドの少し無骨な感じだけれど両腕はジム辺りのすらりとしたスタイルにマニピュレータは格闘が得意そうな形状をしている。ハイメガキャノンパーツをスラスターとして扱ったバックパックに脚部はガンダムAGE‐2 マグナムの物みたいなランチャー砲を装備して脚そのものは――僕も少し動画で見た覚えがある、確か『ガンダムテルティウム』と言うガンプラの物に近い。

 本当に様々なガンプラの要素を集めたオリジナルの機体だけれど全体的なイメージとしてはシンプルで、性能も汎用性が高い感じがする

 

 

「貴方は一体? それにそのガンプラ……は?」

 

〈おっと、そう言えば名乗っていなかったな、すまない〉

 

 相手は少しはにかんだようにして、こう紹介した。

 

〈俺のダイバーネームは、ケイ。そしてこのガンプラは俺の愛機――ビヨンドガンダム アッセンブルスタイルさ〉

 

 相手の名前はケイさん、ガンプラはビヨンドガンダムと、そう言うみたいだ。

 

〈さて、俺は自己紹介をしたんだ。次は君達の番だ〉

 

 おっと。ケイの言う通り僕達も自己紹介しないとね。

 

「僕はフウタ、見ての通りこの青いレギンレイズが使っているガンプラさ」

 

〈俺はジンと言う。ガンダムF91がガンプラな訳だけど……凄いな、ケイのガンプラは。ただ色を変えただけの俺のとは大違いさ〉

 

〈あはは、そんな事はない。黒いF91か……色的にも似合っている。フウタのレギンレイズも恰好いいとも〉

 

「有難う、ケイさん」

 

 褒められるのって、やっぱ悪い気はしない。……良い物だよね。ケイさんは改めてこう話す。

 

〈さて、と。見た所二人は罠にはまってここまで落ちて来たみたいだね。それは運がなかった〉

 

「かも……ね、少しだけ」

 

 落とし穴に引っかかって落っこちた。まぁなかなかに恥ずかしい話である。

 

〈この場所だと普通は、元のルートに戻るとなるとなかなか厳しい。出口はほら、向こうに一つある。……けれどその先の道は結構複雑で迷路みたいになっている。下手すれば迷って出られないかもだし、仮に出れたとしてもかなりの遠回りになる事はまず間違いない〉

 

〈そりゃ、厄介だな。けど仕方ないか〉

 

〈けれど――俺がこの場にいたのは運がいいぜ、二人とも〉

 

 そんな妙な事を言うケイさん。

 

「? どう言う事」

 

 気になって尋ねた僕に、ケイさんは恥ずかしそうにこう話す。

 

〈実はな、このミッションは前に一度参加した事がある。んでもってもう一回と思ったけど、途中で飽きてしまってな。

 だからここでゆっくりしていたんだが、そんな中、君達二人が落ちて来たわけだ。終わるまでのんびりしているつもりだったけれど、ここは〉

 

 するとケイさんのガンプラ、ビヨンドガンダムは僕達の前に出て、ついて来るように促す。

 

〈やっぱり、ただ何もせずにするのも退屈だからな。良ければ案内してやるよ、俺はここも前通った事がある。……良い近道を知っている、すぐにゴール近くまで行けるはずだ〉

 

 ――僕達を助けてくれるのか?――

 

〈だそうだ、どうするフウタ?〉

 

 ジンからどうするか聞かれる。けどこの場合、そうだな。

 

「ここは丁度いいから、ついて行こうか。もし本当なら――ショートカットが出来そうかもだし」

 

 

 

 ――――

 

 ケイさんに案内され、僕とジンは通路を歩く。壊れかけた壁と、入り組んだチューブが走る、薄暗く入り組んだ……本当に迷路のような道を進む。まるで廃墟のような寂れた場所をずっと上ったり下ったり、左右斜めに曲がったりと、もうどこをどう通ったのかすら覚えてない。

 

「結構、長い道のりだな」

 

〈ははは、そう言うな。これでも道は結構進んでいる。迷路みたいな通りだったけれど、もう間もなく終わりだ。……安心しろ〉

 

 ビヨンドガンダムから通信で、ケイさんは答える。

 

〈それは何よりだ。ところで、本当に俺達は進んでいる間……静かだったな。誰も、〉

 

 ジンの言う通りここまでの道は、本当に静かで何もなかった。他のダイバーの姿も、罠であったりとかもまるでない。今この場で動いているものは、僕達三人のガンプラだけだ。

 

「ほんと……こうも静かすぎると、逆に不気味だよな」

 

〈フウタもジンもそう思うか。まぁ、それも当たらずとも遠からず、か〉

 

 思わせぶりな言葉を話す、ケイさん。それに、目の前には迷路の終わりと思われる場所――幅の広い道の先に上層へと続く昇降機、エレベーターがあった。

 

〈ほら、あのエレベーターを使えばゴールまですぐ傍、いわゆる裏ルートと言うやつだ〉

 

〈何だよ! やっぱ楽勝じゃないか、どこにも問題だなんてないように見えるが〉

 

〈確かにここは裏ルート。近道と言うわけだけど、そう簡単にはいかないさ。

 ゴールまで短い距離で済む代わりに――〉

 

 瞬間、上から何か巨大な物体が落下して来た。それは漆黒のグランドマスターガンダム……機動武闘伝Gガンダムに登場する、マスターガンダム、グランドガンダム、ガンダムヘヴンズソード、ウォルターガンダムの四機が合体した、四本足の巨体から尾と翼が生え、上部にマスターガンダムの上半身が生えた異様な機体だ。

 

〈――見ての通り、手ごわい門番のお出ましだ〉

 

 通路全体を塞ぐ程の大きさの、原作と異なり全身灰色のカラーリングのグランドマスターガンダム。普通のガンプラよりも何倍も大きな姿から威圧感がひしひしと伝わって来る。

 

〈あれと……戦うのかよ〉

 

「しかもこんなに狭い場所で、なかなか厳しくない?」

 

 多分、かなり手ごわい相手だと感じる。ジンと僕がそう話しているとケイさんは――。

 

〈本当ならここまでの案内までのつもりだったけれど、後少しおまけだ。それに戦いぶりも見てほしくてな。だから、俺に任せてくれないか〉

 

 ケイさんのビヨンドガンダムはグランドマスターガンダムと物怖じせず、正面から向き合って戦闘態勢に入る。

 

〈二人は下がっていて欲しい。……ビヨンドガンダムの実力、存分に味あわせてやるさ!〉

 

 

 

 僕とジンは後ろに下がり、ケイさんの戦いを見る事にする。

 彼が相手にする巨大な影――グランドマスターガンダムは、機体各部に生える大口径ビーム砲を放った。

 

「わわっと!」

 

 強力なエネルギーの連射、衝撃は離れた僕達にも伝わる程に。

 

〈普通のグランドマスターよりも威力が強化されてないか? これは、俺たちがまともに戦わなくて良かったかもしれないな。

 仮に戦っていたら果たして、無事で済むかどうか〉 

 

「多分済みそうにはない気がするよ。でもケイさんは、違うみたいだけど」

 

 後ろにいる僕達と違って、ケイさんのビヨンドガンダムは直接大口径のビームの連撃で狙われているにも関わらず、巧みな操縦でことごとくかいくぐって迫る。

 

〈一撃一撃の威力が高くても、当たらなければどうって事ない。そして!〉

 

 ビヨンドガンダムは高速移動しながら、両脚部のランチャー砲を展開して撃ち放つ。グランドマスターガンダムの攻撃が当たらないのに対して、ケイさんは確実にダメージを与えている。

 

〈図体が大きい分、当てるには楽勝だ!〉

 

 そしてビームサーベルを抜いて接近戦に打って出る。対するグランドマスターガンダムも、グランドガンダムの武装である大角、グランドホーンを展開して迫る。ホーンからは電撃を放ち一撃で粉砕しようと。……けれどビヨンドガンダムはそれを右横に避けて離れ、ビームサーベルの刀身を長く伸ばして電撃の範囲外から一閃。グランドマスターガンダムの右角を切断する。

 

 ――すごいな、やっぱ――

 

 手際の良く正確な戦いに思わず感心してしまうフウタ。更にグランドマスターはヘヴンズソードガンダムの両翼から羽のような実弾を放つ攻撃、ヘヴンズダートを繰り出すけれど、それもヘッドバルカンで悉く撃ち落として行く。ヘヴンズダートが通用しないと判断したのか、続けざまに自身の尾をビヨンドガンダムへと振った。

 尾の先には球体型の中央に牙が生えたガンダムの頭部がある、ウォルターガンダムの姿。その牙で敵を切り裂こうする。

 

〈でも――遅い!〉

 

 即座にケイさんのビヨンドガンダムはビームライフルに持ち替えて、迫るウォルターガンダムの額を撃ち抜く。頭から火を噴くウォルターガンダム。……であったが、その背後からグランドマスターの下部、グランドガンダムの両肩のグランドキャノンがアームへと変形して掴みかかろうと試みる。

 対してビヨンドガンダムは構わず、ハイメガキャノンパーツのスラスターを高出力で噴かせて上半身の、恐らく本体っぽいマスターガンダムに狙いを定めた。

 

〈そろそろ決めさせてもらう! 覚悟して貰おうか!〉

 

 今度は二本のビームサーベルを両手で持ち、止めを刺そうと接近して行く。グランドマスターガンダムの上部に生えるマスターガンダムは両拳からエネルギーのような弾丸――ダークネスショットを次々と放つ。それでも、放たれるダークネスショットを避け、ビームサーベルで斬り飛ばしながらすぐ傍にまで。

 目の前のビヨンドガンダム。マスターガンダムの手は紫色に輝き、必殺技の一撃、ダークネスフィンガーを放とうとしていた。……だけど既に手遅れみたいだった。

 

 

 ――ズバッ!

 

 振り下ろされたビームサーベルはマスターガンダムを切り裂いた。――そしてそのままグランドマスターガンダムの巨体そのものを真っ二つに。

 致命的な一撃。それを受けてもなお動こうとしていたけれど、次の瞬間にはよろめき前のめりに倒れて、爆発四散して散った。

 

 

 

〈ざっと、こんな物かな〉

 

 あの巨大なグランドマスターガンダムを倒して一機佇むビヨンドガンダム。ケイさんはふっと笑顔を僕達に向ける。

 

〈本当に一人で、倒してしまうなんて〉

 

 ジンは驚いて、凄いと言うような表情をしている。僕だって同じ気持ちだ。

 

「……やっぱり本気でGBNをしている人は、流石だね。ありがとう、ケイさん!」

 

〈お褒めの言葉、光栄だな。まぁ俺も好きした事だ。礼には及ばないとも〉

 

 ケイさんはふっと微笑むと、道を僕達に開けてくれた。

 

〈さてと、今度こそ俺はここまでだ。先の事は二人に任せるとするよ〉

 

 ここまで道案内をしてくれるのが約束だった。彼はそれを守って送り届けてくれた、感謝しかない。

 

〈助かったぜ、ケイ。おかげで先に進めそうだ〉

 

「僕の方からも、改めて礼を言うよ。後は僕達で頑張るからさ」

 

 ケイさんはこれに頷いて答えた。

 

「それは何よりだ。二人の頑張りは俺も、応援しているとも」

 

 一時はどうなるかと思ったピンチも、彼が助けてくれて無事に切り抜けられた。

 僕達はケイさんに見送られて、再びゴールへと向かうんだ。

 

 




 今回は如月さんの『Re:ソードアートオンライン』https://syosetu.org/novel/191959/のキャラと、ガリアムスさんの『ガンダム・ビルドライジング』https://syosetu.org/novel/253898/のキャラとのコラボ回になります!
 もし興味があれば!


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三人の挑戦 その4(Side フウタ)

 ――――

 

 エレベーターに乗り、再度要塞の上層へと戻った僕達。ケイさんのおかげで近道を通る事が出来たし、ここからは改めて二人で先を進んでいたんだ

 

「本当、良かった! 話では多分ゴールまで近いわけだし、今の所相手になる敵もいなくて、あれから順調だしさ」

 

〈だな。それに道もとりあえずは、ただ真っ直ぐ行けばいいみたいだな〉

 

 僕達が今歩いているのは要塞内部、高い壁の上に続く階段だった。ガンプラ……モビルスーツでも歩けるくらいに巨大な階段を僕のレギンレイズとガンダムF91は歩いて進む。

 

〈近道を教えてもらって少し反則なきもするがまぁ、そうした運も実力だろ? とにかく話によればこの階段を抜ければゴールはすぐそこだって事だろ〉

 

 ジンに言われて僕は頷く。こうして階段を上って、僕達はもうすぐその先に辿り着く所だった。

 そして、階段の先にあった巨大なハッチ。ここさえ抜ければ――

 

「まーね。案外楽勝かな」

 

〈ハハハっ! 違いない! このまま楽チンに――〉

 

 その……瞬間だった。

 

 

 ――ズドン!!

 

「!!」

 

 突然、すぐ目の前のハッチが大爆発で破壊された。

 

「いきなり何だよ!!」

 

 左右に離れて距離を置く二機。そして破壊されたハッチは一機のガンプラ、紫色でエックス型のバックパックを装備したリーオーの姿が。

 

〈何だよ、アレは!〉

 

「僕に言うなよな!」

 

 いきなり過ぎて戸惑う僕達をよそに、リーオーは専用装備と思われるバインダーガンの片手剣を握り、破壊されたハッチの向こうへと戻る。

 

 ――マジで何あれ?――

 

 気になって破壊されたハッチの脇からこっそり向こう側の様子を見た。そこにはさっきのリーオーとそして、二機のガンプラが戦っているのが。見た感じガンダムDXと、何か魔法少女みたいな姿の人型ガンプラの姿。あれって一体何だろう? とにかく、紫色のリーオーとその二機のガンプラが激闘しているのを見ていた。……すると。

 

〈あっ、フウタ!〉

 

 通信から聞こえた相手――それは僕の彼女、ミユだった。よく見ると三機が戦っている中、端にある別の入り口の物陰に隠れている彼女のガンプラ、白いレギンレイズの姿も見えた。

 

「ミユ! 良かった会えて! 大丈夫だった?」

 

 やっと彼女と再会出来て嬉しかった。ミユも、僕に笑顔で応えてくれる。

 

〈私もだよ、フウタと会えて。……でも大変だったんだから〉

 

〈大変って、まさかこの状況って事? 一体どういう訳なんだいミユちゃん?〉

 

 ジンも気になって状況を尋ねる。ミユは少ししどろもどろな感じで。

 

〈それがね、よく分からないけど――〉

 

 

 

 ミユは簡単にここまでの状況を話す。

 まず、あの紫色のリーオーはミッションでミユのパートナーになったクロ――僕がミッション前に出会った、黒いザフトのパイロットスーツにヘルメットで顔を隠した少女が乗っているガンプラであると言う事。そしてここまで二人でイベントを攻略、僕達よりも先にゴール手前にまでたどり着いたみたいだったけれど、いきなりクロがあの二人、見知らぬダイバー達とガンプラに戦いを挑んだと言う事らしい。

 

〈よく分からないけど、クロさんはあの二人に……ううん、あの魔女っ娘みたいなダイバーに怒っているみたいだったの。だからいきなり襲い掛かって、私はただ……見ているくらいしか出来なくて〉

 

 ミユもどうすればいいか分からない感じで、戸惑っているのが分かる。

 

「大丈夫さミユ。どうしてなのか分からないけど、僕達に任せてよ」

 

〈と言うか、あの戦いを鎮めないと先に進めそうにないからな。よりによって出口前で戦う事は無いだろうに〉

 

 僕達はこっそりと壊れたハッチの向こう側、巨大な広間へと入った。

 広いフィールド一杯で激しい戦闘を繰り広げる三機。あまりに激しいせいでその中をかいくぐり、向こうにある出口に進む事が出来ない感じだ。あの二機はともかく……問題はあのリーオー、クロの方だ。もはやミッション関係なく、ただ相手をぶちのめす事しか考えてないくらいに猛攻を繰り広げている。あの二機はそれから身を守るために戦っているに過ぎない。

 

 ――止めるなら、あっちのクロを止めるべきだろうな。ミユの相方みたいだし話せば――

 

「おい! 聞いているか?」

 

 僕は通信でリーオーに、乗っているクロへと話しかける。通信は一応繋がったみたいだけれど。

 

〈……〉

 

「どうして戦っているか知らないけどさ、無駄な争いは止めてよね。君が一方的に二人を襲っているみたいじゃないか。どんな理由にしても、あまりに乱暴じゃないか?」

 

〈……うるさいわね〉

 

 通信画面で、クロは興味無さげな声でこたえる。

 

〈誰にも関係なんて、ないわ。ワタシは許せないのよ――ELダイバーなんて〉

 

「ELダイバー? 確かそれって……」

 

 話では確か、GBNで生まれた情報生命体だと聞いた事がある。クロはそれが嫌いなのか?

 

「でも、いくら嫌っていてもこんな事、あんまりじゃないか。頼むから落ち着いてくれよ」

 

〈ワタシは至って冷静よ。ただ――〉

 

 クロのリーオーは剣を握り、魔女っ娘型のガンプラに斬りかかる。

 

〈ただ憎くて堪らないだけよ! ELダイバーなんてっ!!〉

 

 魔女っ娘ガンプラは箒のような、メイスのような武器で受け止め防ぐ。

 更に瞬間、リーオーの真横から数発のミサイルを撃ち込まれ、吹き飛ばす。ミサイルを放ったのはあのガンダムDX、改造によって各部にミサイルが増設され、パートナーの魔女っ娘ガンプラを守るように退けたみたいだった。

 吹き飛ばされたリーオー、しかし着地して踏ん張り、片手剣を横をシールド代わりにして衝撃を軽減していた。そしてまた二機に戦いを挑む。

 

 ――あの二機もかなり強い、けどクロも……なかなかだ。ガンプラは二機に劣る急造品みたいだけれど、ダイバーとしての器量は相当だ。

 僕でも立ち回り、戦い方を見れば分かる、多分上級ダイバーくらいの――

 

 でも、とにかくあんな状況。話では止まりそうにない。そう思っていると……ミサイルがこっちにも、僕の方にも飛来した。

 

「うわわわっと!!」

 

 僕は自分のガンプラ、レギンレイズを操作して避けた。

 

〈フウタ! こっちこっち!〉

 

 ミユのレギンレイズは、入口前の物陰からそう言う。見るとジンも一足先にそこに隠れていた。

 とにかく僕も……一旦そこに隠れると。

 

〈ったく! どこの誰だかしらねーけどよ、関係ないなら隠れてなっ!〉 

 

 あの二機の内、ガンダムDXの改造ガンプラから通信が入る。それに魔女っ娘ガンプラの方からも。

 

〈貴方たちは誰なのです? 悪いですけれど今は、私たちは手が離せないの〉

 

 ガンダムDXのパイロットらしい、逆立った茶髪でツナギを着た小学生くらいの男の子と、魔女っ娘ガンプラに乗っているピンク色のフリルとスカートに、胸元にリボンをつけた金髪ツインテールの女の子の姿も画面に映る。

 二人とも僕よりも年下なのに、しっかりしている感じだよな。

 

〈はぁ、いきなりこんな事に巻き込まれるなんてな〉

 

 ジンはこんな状況に困った様子だった。

 

〈うん。私も……突然激しいバトルになっちゃって、これじゃ先に進むどころじゃないよ〉

 

「あの二人と、それにクロだっけ。ミユはクロと二人でミッションを攻略いていたんだよね。

 

〈そうだよ、フウタ。私はクロさんと一緒にここまで来たんだけど、突然クロさんが……二人に攻撃を仕掛けたの。……止めようとしたんだけど、聞く耳を持たなくて〉

 

 この戦い、どうやらクロが一方的に仕掛けた物みたいだ。

 

 ――クロ、だっけ。凄くELダイバーを憎んでいる感じで。さっき僕が話した様子でも、あれは説得なんて出来る感じじゃないし――

 

 彼女一人で暴走した結果がこれだ。言葉だけでは止められそうにない。ジンも僕に対してこう尋ねる。

 

〈だそうだ。……どうする、フウタ〉 

 

「うーん。でも放っておけないし……えっと」

 

 こんな状況は無視できないし、それに、でないと先に進めそうにない。ここは――。

 

「危ないからミユはここで待ってて。ジン、少しだけ手を貸してくれないかな」

 

〈手を貸すだって? ……成程〉

 

 ジンはふっと笑って、応えた。

 

〈分かった、フウタ。じゃあどっちを止める? 二人組の方か、それとも――〉

 

「リーオーの方、クロを止めるよ! あっちを止めないとどうしようもなさそうだから。

 どうにか割って、彼女の機体を行動不能に……撃破したらミユまでリタイヤになっちゃうから」

 

〈あんな戦いに飛び込むなんて、マジかよ。……でもフウタが言うなら。俺も強力するぜ〉

 

 そう言ってくれて、有難い。どうにかしてクロを――止めよう。

 

 

 

 ―――――

 

 ガンダムDXの改造機と、それに魔女っ娘ガンプラ。二機は左右からクロのリーオーに、ビームサーベルとメイスを手に迫る。

 けれどリーオーは先にDXのビームサーベルを弾いて移動、魔女っ娘ガンプラの方に回り込むと片手剣の刃を向けようと。

 

 

「いい加減に、しろよなっ!」

 

 そこに僕のレギンレイズは、リーオーの真横に体当たりを仕掛ける。相手もいきなりで回避出来なかったみたいで、数歩よろめいてひるんでいた。リーオーの前に僕と、それにジンのガンダムF91も立ち塞がる。

 

〈……フウタ、どう言うつもりよ。ジンも〉

 

 通信でクロは、邪魔された事に苛立つような口調で僕達に言った。

 

「何って、クロを止めるためだよ」

 

〈そうだ。こんな無茶苦茶な事、放っておけないだろ!〉

 

 僕とジンはそう言うけれど、クロは機嫌悪そうな含み笑いを返す。

 

〈くくくっ、何も知らないくせに。――邪魔しないで! 関係ないならどいてなさいっ!〉

 

 クロのリーオーは一閃、僕達に向かって横薙ぎを放った。鋭い一撃、僕とジンは距離を離すけれどその隙にクロは僕達を置いて、再びガンダムDXと魔女っ娘ガンプラの方に迫る。

 いや……むしろ魔女っ娘ガンプラの方を執拗に狙っている。さっきも、今も。

 

〈逃がさないわっ、ELダイバー!!〉 

 

 執拗に繰り出す斬撃と、剣先から放つビームで猛攻を仕掛ける。相手はメイスとGNフィールドを駆使して攻撃を防ぐ。それに、すぐさまガンダムDXが魔女っ娘ガンプラを守るように援護。これじゃ完全に泥沼だよ。

 

「あのさ……そこの二人とも」

 

 そんな中で今度はクロと戦っていた二人に通信で話す。

 

〈また一体、何だよっ!?〉

 

〈どうしたいのですー? 貴方たちも〉

 

「見て分からない? 僕達もこんな戦いを……クロさんを止めたいんだよ、彼女のリーオーと二人との……えっと」

 

 そう言えば二人とそのガンプラの名前、何て言うんだろ。僕が言葉に詰まっていると。

 

〈俺はアイアンタイガーってんだ。ガンプラの名はガンダムDXフルバスターって言って、んでもってこっちが俺のダチのトピア、ELダイバーだ。……だから乗っているのも自分の、『モビルドール』ってわけだ〉

 

「ELダイバー、やっぱり」

 

 感じ的にあの魔女っ娘ガンプラ、ううん、モビルドールって言ったっけ。それに乗っているトピアと言う子がELダイバーだと察していた。クロさんもそう言っていた事だし。

 

「じゃあさ、そのトピアちゃんがクロを……何か怒らせるような事したって訳? でなきゃあんな事にならないだろ?」

 

 今こうしている間にもクロの猛攻が続いている。相当頭に来ているのか、かなり執拗に。

 けれど僕がそう聞くと、今度はコテツが顔を真っ赤にして反論する。

 

〈ンな訳ねーだろがっ!! 俺達は何もしてねぇのにアイツがいきなり襲って来たんだ。それも、ずっとトピアばっか狙いやがって。

 ……分かったんならもう良いだろ! 俺はアイツからトピアを守んなきゃなんねーンだ〉

 

〈私は大丈夫ですー。みょんみよんタイガーくん。……でもどうして私に、ELダイバーにああして憎しみを持っているのか、分からないです〉

 

〈だーかーら―! アイアンタイガーだってのっ!〉

 

〈何をゴチャゴチャとっ! とっととやられなさいよ!〉

 

〈〈!!〉〉

 

 クロのリーオーは最大出力を乗せて剣を大きく振り下ろす。アイアンタイガーのDXフルバスター、トピアのモビルドール・トピアはビームサーベルとそしてメイスで、共に受け止める。

 二人は彼女の攻撃を弾いて引き離す。ここで距離が離れた。……今なら、

 

「これ以上は僕達だって!」

 

〈クロ……もうそろそろ、いい加減にするべきだぜ!〉

 

 僕とジンも、クロに向かってライフルでの援護射撃を放つ。

 

〈ぐ……っ〉

 

 僕達程度の腕でも、弾かれて態勢が崩れたばかりの彼女にとっては脅威になる。リーオーは更に後方に退く事に。

 

〈よくやったぜ! 今ならアイツだって〉

 

 今度はアイアンタイガーのDXフルバスターが機体に装備されたミサイルを放つ。けれど、ミサイルは一発もリーオーに命中しない。

 

〈クククっ、残念だったわねぇ〉

 

〈余程周りを見る余裕をなくしたらしいなっ! 俺が狙ったのはっ――〉

 

〈!〉

 

 ミサイルの命中先。それは、リーオーの真上にある天井だ。彼女が反応したと同時に上で爆発、瓦礫がリーオーに降り注ぎ巻き込まれる。

 残った瓦礫の山。クロが乗るリーオーもその中に埋もれたのか。

 

「……やったか」

 

 もしこれでやられていたらミユが困る。でも、せめてしばらく動けないくらいにはと。思ったけれど……。

 

〈っ! こんな物などっ!〉

 

 瓦礫を吹き飛ばし、なおも健在なリーオーが姿を現す。幾らか傷がついて、X型バックパックの一本がへし折れているけれど本体には大きいダメージはない。思っていたより頑丈だったらしい。

 

 

〈なァ、もういいだろ。テメェは強いダイバーだ、認めてやるからよ〉

 

〈そんな物どうだっていいわ。ワタシは――ELダイバーがっ!〉

 

 憎悪に入り混じった言葉。けれどアイアンタイガーは、こんな話を。

 

〈テメェは強い、俺の知っているダイバーにそっくりな戦い方と強さだ。GTubeで見た事あるぜ。まるで、ビルドダイバーズの……ヒロトみてぇだ〉

 

〈!!〉

 

 瞬間、有無を言わさずクロのリーオーは剣の先端からからビームを放った。アイアンタイガーのDXフルバスターに、今の攻撃は明らかに彼に対して敵意を向けた物だった。その射撃を、寸前で回避するDXフルバスター。

 

〈っテメェ! 何すんだよいきなり!!〉

 

〈ヒロト……クガ・ヒロト、よくもワタシにそんな名前を。許せない、憎くて堪らない……あの男の名をっ!〉

 

 ――何だよ、さっきよりも雰囲気が怖くなってるじゃないか。プレッシャーがこっちにもひしひし伝わるくらいに。どんな事があったら、あんなに――

 

 クロが抱く憎悪、アイアンタイガーの言葉の為に更に増したのを感じる。ELダイバーに……それにヒロト。一体クロはどうして、何があったんだ?

 

〈クガ・ヒロトの名を出したのが悪かったわねぇ、そこのELダイバーも……貴方も! 二人ともここで叩き潰してあげるわ!〉

 

 

 

 クロの乗るリーオーは再び攻勢に出る。

 

〈クロ! 何をそんなに――〉

 

〈邪魔だって言っているでしょ!〉

 

 止めようと立ち塞がるジンのF91を、リーオーは剣で吹き飛ばす。そしてアイアンタイガーとトピア両方に敵意を露わにして猛攻を繰り出す……けれど。

 

〈もう止めるです! 戦いなんて!〉

 

 トピアの機体――モビルドールは、左腕に装着したポシェットのようなガントレットを向ける。そして先端のチャック状の開口部を開き、砲身から実弾を放つ。

 

〈ぐうっ〉

 

 一撃が左胴部に命中して、よろめく。

 二対……いや、僕達も含めて四対一の戦い、それにクロ自身の実力は相当でも、肝心の機体がそれに追いつかずに無理が来ていた。

 彼女のリーオーは地を蹴りトピアに迫ろうとする、けれど右脚部の関節も損傷したのかガクッと一瞬ぎこちなくなる。けれど――

 

〈おのれぇ、人形があっ!!〉

 

 それさえ構わずクロは突撃し、猛攻を止めない。さっきよりも数段激しく、攻撃的になっている――半分我も忘れているんじゃないかって思うくらい。けれどその勢いが本来の操縦技術さえかみ合わず、相殺してしまっている。

 

〈貴方も潰してあげるわ、ギャンギャンタイガー!!〉

 

〈アイアンタイガーっつてんだろうが! お前まで間違うのかよ!〉

 

 クロはアイアンタイガーにまで牙を向く。剣をブーメランのように投擲するリーオー、けれど彼のガンダムDXフルバスターはそれを避けると同時に左腕のマシンガンを連射する。

 

〈でも、その怒りのせいで動きも読みやすいんだぜっ! ……俺の言葉が届いているか、分かんねーけどよ〉

 

 マシンガンの攻撃は、クロのリーオーの頭部を半分吹き飛ばす。

 ……度重なる戦いで機体も満身創痍になりつつあり、追いつめられていたクロ。けれど、それでも諦めずにトピアに、そしてアイアンタイガーにまで攻撃を続けるのを止めない。

 

〈……ったく、しぶといぜ、これじゃ埒が明かねぇ! こうなったら仕方ない。

 トピア、それにそっちの二人も下ってろ! ここはアレを使うしかねぇ!〉

 

 いきなりのアイアンタイガーの言葉、一体どう言う事かいまいち分からない。けれど、ここは彼の言う通り後方に離れる。

 

〈みんみんタイガーくん、分かったです!〉

  

 トピアはまたアイアンタイガーの名前を間違っているけれど、僕達も、彼もそれを指摘する余裕はなかった。

 

〈ここまで来て……逃がさないわ!〉

 

 クロが駆るリーオーはバーニアを噴かせてトピアに迫ろうと。だけどアイアンタイガーのDXフルバスターが遮る。

 

〈さすがの俺も我慢の限界だ、これで――吹き飛ばしてやるっ!〉

 

 威勢のいい言葉とともに、彼のDXフルバスターはバックパックに備えた最大の武器、ツインサテライトキャノンを展開して構える。

 原作のガンダムDXがキャノンを両肩上に構えたのに対して、DXフルバスターはガンダムF91のヴェスバーのように両脇からキャノンを展開させる。

 

「マイクロウェーブでチャージしなくても、既に貯めているエネルギーでっ!

 ……悪く思うなよっ! 襲って来たテメェが悪いんだぜ!!」

 

 次の瞬間、DXフルバスターのツインサテライトキャノンが放たれた。強力な二本のエネルギーの軌跡。それは進路上の障害物を粉砕し、消し飛ばし、要塞そのものに大穴を開ける。

 

〈がぁ――っ〉

 

 すぐ至近距離からの、アイアンタイガーによる会心の一撃。それに怒りで吞まれかけていたクロ。ギリギリまでトピアを狙おうとしたせいで反応に遅れてクロが乗るリーオーは右腕と右脚、胴とバックパックが消し飛ばされた。それに、ツインサテライトキャノンの衝撃はフィールドそのものにまでダメージを与えて、足場まで崩落して行く。

 

「……っ、クロ!」

 

 半身が吹き飛んでボロボロなリーオーは、崩落した足場、空いた穴の底へと落ちて行く。

 

 ――もう飛ぶ事も出来ないのか。これじゃ――

 

 落ちて行く彼女の機体、それを僕のレギンレイズは、寸でで機体の左手を掴んだ。

 

〈はぁ、ようやく……倒せたぜ。でもこんな奴、助けたのかよ〉

 

 DXフルバスターに乗るアイアンタイガーはそんな風に言う。けれど、僕は。

 

「もうクロに戦う力なんてないよ。それに……ここでやられちゃったら一緒に組んでいるミユまで失格になるだろ」

 

〈ううっ、ワタシは……まだっ〉

 

 武装もなく、もう戦えもしないのにクロはそれでも動こうとする。

 

「いい加減にしてよね。動くと本当に落ちるよ。

 ……アイアンタイガーに、トピアだっけ。僕の知り合いが迷惑かけたね」

 

 僕が謝ると、トピアは静かに首を横に振る。

 

〈ううん、私は全然気にしてないですの。よく分かりませんけど、やっぱり……みんな無事が一番ですから〉

 

 自分がしつこく狙われても、それでも狙って来た相手の事を気に掛けるトピア。それにアイアンタイガーも頭を掻きながら。

 

〈大変で、俺も意味は分かんなかったけどよ。別に気にしてないぜ。でもこれで一安心はしたけどな。

 じゃあ、俺達は先に行くけどいいか? ゴールはもうすぐそこなんだからさ〉

 

 先を越されるのは少し複雑だけど、僕は頷く。

 

〈りょーかいだ。んじゃ……バイバイ!〉

 

〈皆さん、さよならですー!〉

 

 

 

 アイアンタイガーとトピアは先にゴールへと向かった。

 一方で、僕達は……。

 

〈全く、とんだ事に巻き込まれたぜ〉

 

〈大丈夫ですか、クロさん〉

 

 僕はボロボロになったクロのガンプラを引き上げる。そしてジンもミユも、その傍に。機体はもうほとんど動けない。戦闘能力は皆無だ。

 

「クロ……どうして」

 

 引き上げられた彼女は黙ったまま。けれど、唐突に。

 

〈ワタシが言いたいわよ。どうして、ワタシの邪魔をしたのよ〉

 

〈あんな事していたんじゃ当たり前だろ。……ミユちゃんとのコンビなのに一人で突っ込んで、彼女に迷惑かけたら世話ないだろ。

 確か彼女を守ると約束したんだよな。なのにこれは、あまりにも無いんじゃないか〉

 

〈……〉

 

 ジンの言葉にクロは頭を俯ける。ヘルメットで顔は見えないけれど、申し訳ない感じにしているのは分かった。そう言う所は、妙に素直なんだな。

 

〈……ごめんなさい、ミユ。それに貴方達も。ワタシが約束したのに、自分の感情に任せて勝手な事をしてしまって〉

 

 そんな風に謝るクロ。ミユは――。

 

〈大変だなって思ったけど、私は全然大丈夫だよ。きっとクロさんには大変な事があったからだと思うし……それより無事で良かったよ〉

 

〈もう過ぎた事だ。事情を聞くなんて野暮な真似もしないさ。

 とにかくさ。もう残り少しだし俺達四人でゴールに向かおうぜ。動けないなら、ほら、肩を貸すからよ〉

 

〈――あっ〉

 

 ジンのF91は自力で立てないリーオーを肩に乗せて、持ち上げようとする。

 

〈うーん、やっぱ小柄なF91じゃ少し辛いか。フウタ、手を貸してくれ〉

 

「りょーかい」

 

 ジンに促されて僕のレギンレイズも手を貸して

起こす。クロはこれに驚いたように、一言。

 

〈貴方達……どうして、ワタシを〉

 

「当たり前じゃないか。ともあれミユの事をここまで守ってくれたんだしさ、そのお礼だよ。知り合えもしたし……友達みたいなものだろ、僕達」

 

 ちゃんと答えになっているか分からないけど、僕はこう答えた。……ジンも。

 

〈フウタがそう言うなら、俺も同じくだぜ。ここまで来たんだ。みんなでゴールを迎えた方が、やっぱ良いぜ〉

 

〈そうだよ、クロさん。辛かったかもしれないけど……最後は楽しく行こう〉

 

 ジンに、ミユもそう言ってくれる。僕達の言葉にクロは少し沈黙していたけれど。

 

「――ふふ……っ」

 

 けど少しだけ、笑い声が聞こえたような気がしたんだ。

 

 

 

 ――――

 

 それから間もなく僕とジン、ミユとそして……クロの四人で、無事ゴールに辿り着いてミッションをクリアした。

 ゴールにたどり着いた他のダイバーに比べて、僕達の順位は中の上くらい。報酬も、まぁまぁかな。

 

 

 

「何はともあれ、終わりよければ全て良しってね。だろミユ?」

 

「うん! フウタと離れ離れは寂しかったけど、私も楽しめたよ!」

 

 ミッションを終えて、僕は早速ミユと一緒になる。

 

「それは良かった。でも……寂しかったのは僕もだったんだから。やっぱりミユの傍が落ち着くな、ほんと」

 

「おいおい、ミッションが終わったと思ったら相変わらずこれじかよ。……ははは」

 

「……あっと。もちろんジンも忘れてないよ。僕と一緒に頑張ってくれてご苦労様。おかげで随分助かったしさ」

 

「そりゃどうも。ま、手に入れた報酬も悪くないし、フウタの言う通り良かったよな」

 

「……」

 

 僕達三人がそう話している少し離れた場所で、クロは一人佇んでいた。ミユはそんな彼女にそっと声をかける。

 

「クロさん……その、今日はありがとうね。

 一緒にミッションが受けられて良かった、楽しかったよ」

 

「ワタシ、は」

 

 複雑そうな彼女の様子。一人いくらか考えているようにしているみたいだけれど、ほんの少し雰囲気を柔らかくすると。

 

「ええ。色々あったけれど、楽しめも……したから」

 

 それから僕とジンに対しても話す。

 

「貴方たちも。ワタシは迷惑をかけたかもしれないけれど、一緒にいれて悪くなかったわ。

 だから、その……ありがとう」

 

「どういたしまして、だよ。何か色々訳ありだし、僕たちは大丈夫だよ。だからさ、良ければまた一緒に遊ぼう」

 

「ふっ、もし運が良ければ、ね」

 

 クロはそう言うと、僕達から離れ別れようとする。

 

「あっ! 良ければフレンド登録とか……」

 

「じゃあね、フウタにジン……ミユも。少し複雑な所もあったけれど、でも本当に悪くなかったわ。

 やはりヒトと言うのは、良いものね」

 

 けれど僕が言い終わる前に、クロはそんな優しい言葉とともに人混みの中に消えた。

 

 

 

「言っちゃっ……た。結局何だったんだろうな」

 

 結局よく分からなかった、クロと言うダイバー。

 

「私もだけど。でもクロさんも満足出来たみたいだったよ。……途中は大変かもだったけど、それでも良かったって。

 きっと喜んでくれたって、そう感じるから」

 

 傍のミユの言葉に、頷いて答える。

 クロは何だか色々抱えているみたいだった。けれどミユの言う通り、少しでもそうだったら――いいなって。

 

 

 

 




今回は長かったこのミッションの番外編が完結、ガンダムビルドライザーズから https://syosetu.org/novel/249849/ のトピアさん、コテツくんも再登場。
コラボが多かった回でしたが、改めてありがとうございました!


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俺/私達兄妹の、絆 その1(Side ハクノ)

 

 

「ここは任せたぜ、マリア!」

 

〈了解。任せて頂戴な〉

 

 俺の大事な妹で、相棒のマリア。彼女のガンプラである鉄血のオルフェンズの機体、ガンダムバエルを改造したガンダムバエルクリムゾンが俺とは反対側の敵機を相手にする。

 俺達は今、ダイバー同士の大乱闘系のミッションを受けていた。ノンプレイヤーダイバー、NPDとは違ってやっぱ人間だから……割と手こずるぜ。

 近未来な感じの大都市を模したフィールドで、目につくだけで数十機のガンプラが激戦を繰り広げている。マリアのバエルクリムゾンは自慢の大型ライフルで次々撃破している。やっぱりさすが俺の妹だな。

 

 

 俺も俺で、自分のガンプラ――ООガンダムの太陽炉搭載型の量産機、アヘッドを改造したアヘッド・ブロッケンで戦う。右腕に装備した専用の……レギンレイズジュリアのジュリアンソードもとい蛇腹剣を振り対戦相手をぶっ倒す。

 今さっき襲い掛かって来たジェガンとウィンダムをなます切りにして返り討ちだぜ。……だけど。

 

 ――!!――

 

 ビルの上から飛び、大型の剣を俺に振り下ろす一機のガンプラ。その奇襲を俺のアヘッドブロッケンは受け止める

 

〈兄さん、大丈夫?〉 

 

「これぐらい問題ないぜ! ――相手は、ソードストライクガンダムか。面白い!」

 

 俺に襲い掛かって来たのは近接武装のソードストライカーを装備したストライク、ソードストライクガンダムだ。

 振り下ろす大型の対艦刀「シュベルトゲベール」、かなり重い。

 

「……っ!」

 

 けれどどうにか攻撃を弾き、相手と距離を取る。このソードストライクガンダム、白と赤……色合いはソードインパルスガンダムにそっくりなストライク。今の一撃、相手は俺と同じくらいの実力だろうか。

 続けざまにシュベルトゲベールを大薙ぎして迫るソードストライク。俺はステップを踏み、距離を一定間隔に保ちつつGNマシンガンで応戦する。

 

 ――こりゃ手こずるよな、おっと!――

 

 もちろん相手は一機だけじゃない。戦っている最中の俺に遠くから鋭いビーム射撃が襲う。瞬時に察して俺は避ける。さっきまで俺がいた場所には穴が空き、放ったのは遠距離の位置にいたジムスナイパーカスタムだった。

 

「ちいっ、余計な邪魔を――」

 

 けれどその隙をついて、ソードストライクは大剣で突撃を繰り出す。その攻撃は俺のアヘッドブロッケンの左肩を抉り傷つける。

 

 ――くっ、厳しいな――

 

 俺は蛇腹剣をぶんと振り反撃する。相手のガンプラはそれを回避、同時に肩に装備したビームブーメラン、「マイダスメッサ―」を放った。当然右に飛び退きかわすけれど、今度は腕に装備したアンカー「パンツァーアイゼン」でアヘッドを捕縛する。

 左腕を掴まれ動きが一部制限される。その中で止めを刺そうと一気に迫るソードストライク。

 

 ――俺が、やられるだと!――

 

 絶対絶命なまさにその時、ソードストライクの胸を別の、剣が貫いて撃破する。それはガンダムバエルの……バエルソード。

 

〈間一髪だったわね、兄さん〉

 

「マリア、助かったぜ」

 

 マリアのガンダムバエル・クリムゾンが、俺の危機を助けてくれた。

 

「ははは……危機一髪だな。ありがとうだぜ」

 

〈ふふっ、どういたしまして。

 ――さてと、でもまだまだ戦いは終わってないわよ。引き続き頑張ろう〉

 

 元気づけられるマリアの言葉。

 

「ああ!」

 

 俺は頷いてこたえて、そして再び……戦闘に戻る。

 

 

 

 ――――

 

「ふぁーあ! さすが俺達だ。見事なコンビネーションで良い結果が出せたぜ。

 ランキングもかなりの上位だったしな!」

 

 GBNの中世風な町中で、俺とマリアは並んで歩く。

 

「私たち兄妹は最強、だもんね! 大体の相手なら負けないわよ。……ま、クジョウ・キョウヤみたいなチャンピオンとかの相手とかじゃなければね」

 

「それは確かに。けど、これからどうするか?」

 

 町を歩きながら俺は傍に歩くマリアに尋ねる。すると彼女は笑顔でこたえる。

 

「うーん、二人でまたミッションを受けるのもいいわね。それともエリアだとかあちこち巡るのも面白そうだわ」

 

「だな! 俺はどっちでも良いぜ。マリアと一緒なら何だって全然な!」

 

「なるほどね、そっか。じゃあ私は――」

 

 俺がそう言おうとした矢先だった。マリアの所から着信音が聞こえた。

 

「あっ、もしかして。……ごめんね兄さん、ちょっとまってて」

 

 そう言うとマリアは画面を開いて、誰かと通信を繋ぐ。

 

「もしもし。……うん、そーなの……ふむふむ、いいね! んじゃそう言う事で」

 

「――」

 

 俺はマリアが通信しているのを、黙って聞いていた。そしてマリアが通信を終えると、俺に言った。

 

「あの……ね、兄さん。実は――」

 

「分かっている。アイツ、ジンからなんだろ、さっきの通話。少し聞こえたぜ」

 

「……うん」

 

 俺の妹、マリアには今は付き合っている恋人がいる。

 ジン、ガンプラバトルに勝てれば付き合いを許すだなんて俺がバカげた約束をしたせいで、結局奴が勝って妹との交際を許してしまった。

 

「だから、その。兄さんには悪いとは思うけど、今からジンの所に行っていいかな、なんて」

 

 やっぱそうか。分かっていたと言え、辛いな。だけど俺は――。

 

「ははっ、もちろんいいに決まっているだろ。大切な妹の頼みだ。ジンと、楽しんでくるといい」

「ありがとう兄さん! じゃあ私、行ってくるわね!」

 

 そう言うとマリアは俺の元から離れて、ジンのもとへと行ってしまう。

 

 ――……――

 

 手を振ってマリアを見送りながら、俺は複雑な心境を胸に抱える。

 

 ――ったく、何だろうな―― 

 

 一人道に立ち尽くしてため息を。本当に色々、複雑だぜ。

 今までずっと一緒にいた妹を他の奴にとられて。そりゃマリアが幸せなら一番だと思うけど、でも俺はモヤモヤしているんだぜ、ずっと。

 

 ――マリア……俺は、どうしたものか――

 

 ああ、全く。考えれば考えるほどドツボにはまりそうだ。こんな時はきちっと気分転換でもしたいぜ。

 

 ――そうだ! GBNにこだわらずにここは、あそこに行ってみるか!

 しばらくご無沙汰だったから丁度いいぜ――

 

 俺がふと思いついた気分転換。それは――。

 

 

 

 

 ――――

 

 ガチャ、ガチャ

 

 俺はGBNから現実世界に。地元の街にある、とある場所に来ていた。

 

 

 

「よう兄ちゃん! なかなかの腕じゃないか」

 

 立ったまま筐体のレバーとボタンを動かしている俺に、通りかかった男が声をかける。

 

「ああ。こう言うのは俺、得意なんだぜ」

 

「にしても……若いのに珍しい、この筐体はゲームセンターで一番古い、インベーダーゲームをここまでやるなんて。

 もう何十年の昔のゲームなのにな」

 

 今、俺が来ているこの場所は――街のゲームセンターだ。

 馴染みの店。昔はよく通っていたけれど、最近だとGBNの方に集中しがちなせいであまり来る事はすくなくなった。けれど、それでもたまにはこうしてゲームをするために来たりしている。

 

 ――最新で、流行りのVRMMOもいいかもだけどよ、こう言うアナログなのも結構いいものだぜ――

 

 ちなみにインベーダーゲームは戦闘機のような自機を画面上で動かして射撃で敵を撃破する、シューティングゲームの元祖だ。

 八ビットくらいの二次元画面で、ドット絵で単純に描かれたインベーダーを撃ち落としてポイントを稼ぎ、より難易度の互いステージに進んで行く。グラフィックもシステムも全然単純なんだが、だけどゲームとしての完成度はきっちりして、面白い。

 俺は結構インベーダーゲームを進めてステージの難易度も、かなり厳しいものになっていたけれど、十分楽しんでいた。……けれど。

 

「くっ」

 

 飛び交うインベーダーとその弾の嵐、内一発が自機に当たって撃破された。

 

 ――ははっ、ここまでか。でも良い線行っていたんじゃないか――

 

 久々のインベーダーゲーム、俺は満足した。でもまだまだここには沢山のゲームがある。

 やっぱ、十分に気分転換って事だ。

 

 

 

 俺はそうして他のゲームをプレイして回った。

 クレーンゲームに、コインを使うようなミニゲーム、後はFPS、レーシングゲームの類もか。そしてやっぱり一番は――。

 

「でりゃっ! これでどうだ!」

 

 今やっているのは俺が一番得意な、格闘ゲームだ。一対一で格闘技、気だとか飛ばしたり色々な技で戦うそんなゲームだぜ。

 

「私の、負けか。……自信はあったのだが」

 

「悪いな。けどそれだけ俺は、強いって事だ! これでもこの地元では敵なしだって自負しているんだぜ。……けどそっちも悪くなかったぜ、戦えて光栄だ」

 

 俺のプレイしている格闘ゲームはNPCとの戦いも出来るが、同じくゲームセンターにいる人間との対人戦も出来る。

 

 ――だからこそGBNでのガンプラバトルにも馴染んだんだろうな。こう言うのはワクワクするしさ――

 

 GBNとは違ってリアルで筐体を操作して、キャラを動かしてプレイする。やっぱこうでなくっちゃな。久々のこの感覚に感動すらも覚える程だぜ。

 

「さて、と。あともう一戦くらいしたいものだぜ! ……誰か相手してくれねぇか」

 

 俺はゲームセンターにいる他の人間に声をかける。けど、今さっき戦った相手が多分、この中では一番強い感じそうだったからな……それ以上の戦いが出来るかどうか気になりはしたが。

 

「――あの。良ければ私で、大丈夫かな」

 

 返って来た返事は、女の子の声だった。

 

「ほう、これはまた可愛い相手だそうじゃないか。いいぜ、でも一体どんな――」

 

 どんな相手の子か、俺は声がした方に視線を向けた。するとそこにいたのは、俺が見知った人物だった。

 

「こんな所で会うなんて、ハクノさん。……ふふっ、驚きだけど嬉しいです」

 

 

 

 ――――

 

 俺と同じくゲームセンターに来て、対戦を申し出て来たのはミユだった。

 

「ハクノさんもゲーム好きなんですね。私もゲームが大好きで、今日は少し街までゲームセンターにって思ったから。

 私の町にも小さいゲームセンターはあるんだけどね、ここの方が筐体が多いから」

 

 彼女はそう俺に微笑みながら答える。

 

「へぇ、ミユも俺と同じ感じかい? ちなみに君の彼氏、フウタはどうしたんだい。いつも一緒にいるイメージだからよ」

 

「あははー、確かにそんなイメージだよね。でも今日は一緒じゃないんだ」

 

 恥ずかし気にそう言うミユ、そしてこう続けた。

 

「フウタの方は学校の補習。ちょうど中間テストを控えているから。……それでね」

 

「なーるほど、そりゃご愁傷さまだ」

 

 フウタの奴、学生らしい苦労をしているんだな。

 

「んで、ミユが俺の相手をしてくれるって訳だな。でも俺はかなり強い。相手が女の子でも手加減しねぇぜ。それでも戦うのかい?」

 

 俺が聞くと、ミユはほんの少し得意そうに微笑むと。

 

「心配しなくても、私だって――強いから!

 じゃあ早速始めましょう。GBNだと勝てないかもだけど、このゲームはGBN以上に得意だもんね」

 

 

 

 ――――

 

 俺とミユはそれぞれの筐体の前に座って、画面に向き合う。

 

「準備はいい、ハクノさん」

 

「おう! 俺はいつだって大丈夫だぜ。そして俺も年上としてのプライドがある。先手は譲ってやるぜ」

 

 画面には二次元のフィールドで、ファインテックポーズをして向き合う二体のキャラ。

 一方は長髪を後ろに束ねたくノ一、クナイを使った格闘技に投擲を得意とする……ミユが使うキャラだ。対して俺は筋骨隆々でサングラス、タンクトップ姿の、さながら軍曹のようなキャラクターを操る。このキャラはマーシャルアーツの使い手、俺がこのゲームで一番得意とするキャラだ。

 

「じゃあお言葉に甘えて……行きますね!」

 

 ミユの操るくノ一は、クナイを連続で投擲する。俺が操作する軍曹は前に跳躍して距離をつめ、クナイを回避すると同時に跳び蹴りを繰り出す。

 あのクナイ投擲技はくノ一の技で一番強力でな、一撃を受けるとキャラはひるんで、その上このゲームでダメージを受けた時に発生する一時無敵状態にもならな。だから連撃をかませればそのままひるませたまま一方的にダメージを与える事が出来、相手をはめて完封してしまうって言う高性能の技だ。

 最も、こんなのは避けちまえばどうって事はないけどな。あの技は直線上しか飛ばせない、だから上に跳んでそのまま追撃をかますのが効率的だぜ。

 

「全キャラクターの動きと技は把握してんだぜっ!」

 

「生憎……私だって」

 

 その瞬間にミユのくノ一は寸前で一歩後方に下がって蹴りを避けた。と、同時にクナイを構えて斬撃を放った。

 

「くっ! まさか俺に一撃当てるなんてよ」

 

 開始早々に攻撃を避けられてその上反撃まで喰らった。ミユの奴、こんなに強いのかよ。

 さっきの攻撃で俺の使っているキャラの体力ゲージが減った。

 

「やるじゃないか、ミユ。最初のアレはわざとだな」

 

「はい。このゲームをやりつくしているハクノさんなら避けて攻撃まで返してくると思いましたから。

 でもハクノさんもさすがです。多分、私がこのゲームで相手して来た人のなかで一番かも」

 

「ははっ、そう言って貰えて光栄だぜ」

 

 でも俺だってやられっぱなしじゃないぜ。ミユが近接戦に持ち込んだが、近接なら軍曹が有利だ。

 すぐさま手慣れた操作でコマンドを打ち込み、近接技で最大威力の技である突進を放つ。

 

「うそっ!?」

 

 一撃で俺以上にゲージを削られ、くノ一は吹き飛ばされて倒れる。

 

「さっきは少し油断したが、ここからは本気だぜ。

 このゲームは本当にやり込んでいてな。コマンド入力だって早く入力出来るように特訓したんだぜ! だから……反応しきれなかったろ?」

 

 俺の早打ちによる技の発動、対応出来る奴なんてそういないぜ。そうしている間にもミユが使うくノ一は起き上がり、無敵時間も終わりそうだ。……このままさらにもう一撃! 今度はキックを繰り出そうとする。

 再度コマンド入力、そしてキック。軍曹はくノ一に向かって放った。

 

「残念ですけれど、今度は!」 

 

 すると彼女はタイミングを合わせて防御、更にカウンター技――火遁の術を放つ。

 放たれる炎、それにつつまれてダメージに加え、今後しばらくは延焼効果で体力が減少する。こんな真似までやるのかよ。今のは本気で攻めたってのに。

 

「実力は俺と互角って事か」

 

「みたいですね! ふふっ、私も久しぶりのこのゲーム、楽しめそうです」

 

 俺とミユ、格闘ゲームの続きを……再会する。

 

 

 

 彼女との対戦格闘は白熱し、互いに技の応酬を繰り広げた。

 

「ううっ、やっぱろ手ごわいです」

 

「ミユもなかなかやるが、俺は負けねぇぜ」

 

 再びパンチの一撃を、ミユが使うキャラに食らわせる。互いに体力も残り僅か。次の一撃で勝負が決まる。

 

「これでっ、決めるぜ!」

 

「私だって!」

 

 俺とミユ、互いにほぼどうじに回し蹴りとクナイの突きを繰り出す。本当にほぼ同時、けれど、ほんの少し俺の方が早かった。蹴りはミユのくノ一に命中して――ノックアウトだ。

 

「私の……負け、だね」

 

 ミユは座席にもたれかかって、残念そうな顔を見せる。

 

「ずいぶん骨を折ったが、俺の勝ちだぜ。でもとても楽しい勝負だった。礼を言うぜ」

 

「負けたのは悔しいけど、私も楽しい勝負だったな。やっぱり来て良かった、ふふっ」

 

 けれどミユも満足したような顔を見せる。これには俺も安心だ、やっぱり勝負は互いに満足出来るのが一番だからさ。

 

 

 

 ――――

 

 勝負を終えた俺達は、ゲームセンターの休憩室で一息つく事に。

 

 ……ガコン。

 

 休憩室の自販機で、俺はコーラを二缶購入する。

 

「ほらよミユ、せっかくだから君の分もな。良い勝負のお礼でもあるしよ」

 

「ありがとうございます、ハクノさん」

 

 俺とミユは並んでベンチに座って、早速買って来たコーラを開けて口にする。

 

「くーっ、やっぱ美味いな」

 

 ミユもまた美味しそうな感じで頷いてこたえる。

 

「……けれどこうしてミユと二人か。特に何かあるわけじゃないんだが、今の状況をフウタが見たら怒るだろうな」

 

「うーん、説明したら分かってくれると思うけど、でもいい顔はしないよね」

 

 そう言って苦笑いをするミユ。本当に、この場にフウタがいないのは幸いだった。俺はこう思いながらまた一口コーラを飲む。

 

「……はぁ」

 

 俺はふと、ため息を漏らしてしまう。ちょっと頭によぎった事があったからな。

 

「どうかしましたか、ハクノさん?」

 

 それに気づいたのか、ミユは俺を気にかけるように尋ねた。俺はどうしたものかと考えたけれど、考えた末に……ちょっとだけ話すことにした。

 

「実はな、最近妹のマリアとの仲で少し、モヤモヤしているんだ。

 ジンの奴と付き合ってからどうも、距離が出来たって言うか、難しいんだよな」

 

 考えると余計に気が重くなり、頭ががくっと下がって項垂れてしまう。

 

「ほんと、どうすりゃいいんだろうな。ミユにこんな事を話しても仕方ないのは分かるけどよ……困ってんだ」

 

 柄になく深刻な俺。すると、ミユは優しい顔を見せると……こう言ってくれた。

 

「心配しなくても、きっと大丈夫です。マリアさんにとってハクノさんは大切なお兄さんなのは変らないはずですから」

 

 真っすぐな思いをのせたミユの言葉。思わず俺ははっとする。

 

「そう――なのか。だって」

 

「確かにマリアさんには新しくジンさんって言う大切な人が出来たけれど、それでもハクノさんの事も……想いは変らないはずだって。

 だってこれまでだってずっと、素敵なお兄さんとしてマリアさんの傍にいたんだから。だから、きっと」

 

「……」

 

 俺は彼女の励ましに、俺は心に留める。

 

 ――言われてみれば確かにそうだな。ジンがいたからって、それはきっと変わらねぇはずだ――

 

 そう考えると何だか自信が沸いてきた気がする。気分もおかげで、良くなったと言うかな。

 

「……ふっ」

 

 俺は少しだけ微笑んだ。そして俺の気持ちを救ってくれたミユに、感謝を伝えるんだぜ。

 

「ありがとな、ミユ。おかげで俺も――本当に、救われたとも」

 

 

 



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俺/私達兄妹の、絆 その2(Side マリア)

 さっきまで兄さんと一緒に、GBNをプレイしていた私。……だったけれど。

 

 ――ジンってば、こんな時に呼ぶことはないのに。困ったわ、きっとハクノ兄さんは気を悪くしただろうな――

 

 私は今、GBNのジャパンエリアに来ていたの。さっき通話で彼氏のジンに呼び出されてここに来たわけ。何だか、急用みたいな事で放っておけなくて。だから急いでここに来たわけだけど、兄さんには悪い事をしたなって。

 ジャパンエリアの和風の町並み……そんな中にある団子屋の傍に座って、団子を食べていた。

 

「お団子、ありがとうジン」

 

「あはは。せっかくだから何か出来ないとってな、ここの団子は割と美味しいんだぜ」

 

 隣で朗らかないい笑顔を向けて彼、ジンはそう言ってくれる。彼の言う通りお団子は美味しくて、私もつい同じく笑顔になるわね。

 

「でも、私を呼んでどうしたのかしら? 急用だって言うから、用事を置いて来たのよ」

 

「そりゃ悪かった。んでさ、用って言うのは――」

 

 ジンは改まった顔で、こんな話をする。

 

「こんな事、本人に聞くのもあれかもしれないけどさ。マリアはもうすぐ誕生日、だろ。

 だから……どんなプレゼントが、いいかなって」

 

「――ふぅん」

 

「あは、は。俺でも色々考えて、フウタの奴にも話を聞いてみたんだけどさ、なかなか思いつかなくてよ。

 それで本人にと思った。……ちょっと、あれかと思うけどな」

 

 成程ね。そう言えば私、そろそろ誕生日だったわね。……ちょっと忘れかけてたわ。

 

 ――だから私を呼んだわけなのね。そう言う事、ふむふむ――

 

 ジンの考えは理解したけど、でも、急ぐ事かしら。……でも仕方ないかな。

 

「誕生日プレゼントね。うーん……困ったわね、私自身考えてなかったから」

 

 誕生日プレゼント、何がいいかしらね。自分の事ながら難しいわね。

 

「えっと、少し待っていてもらえないかしら。私の方でも考えておくから、ね」

 

「……了解だ。こんな事でいきなり呼び出して、俺も悪い。助かるぜ、マリア」

 

「いえいえ。――さて、と。要件も済んだことだから私は兄さんの所に戻ろうかしら。

 さっきまでハクノ兄さんと過ごしてたんだけど、ジンに呼ばれて別れちゃったから気を悪くしているかもだしね」

 

 ジンはこれを聞いてはっとした顔を。

 

「っと! それは、悪かった。ハクノには悪い事しちまったな」

 

「ジンが謝ることはないわ。こうしてここに来たのは私の選択ですもの。とにかく、ハクノに今から戻るって連絡して……」

 

 そう伝えて私は通話機能でハクノ兄さんに連絡を取ろうと……けど。

 

「あれ? おっかしいわね、繋がらないなんて。もしかしてログアウトしているのかしら」

 

 兄さんと繋がらないなんて、困ったわね。多分もうGBNをプレイしていないとなると。

 

 ――私も一旦、ログアウトして兄さんに連絡をとり直してみようかな。でも――

 

 私自身、なんとなく気まずくもあった。

 兄さんが妹である私の事をどれだけ思ってくれてくれているかも分かる。けれど、私がこうしてジンと付き合い出してから、色々複雑みたいなのも。

 

 ――兄さんの事も変わらず大事に思っているけれど、それでもこう言う状況は苦手なのよね――

 

「あの……ね、ジン」

 

「どうした?」

 

 私はある事を、彼に頼む。

 

「せっかくだから少し、私に付き合ってくれないかしら。……ガンプラバトル、気分転換にね」

 

 気分転換、それもあるけど。私もジンに相談事があるのよね。同じくちょっと、ね。

 

 

 

 ――――

 

 ジャパンエリアの平原で、私のガンダムバエル・クリムゾンとジンのM1アストレイは向き合う。

 

「あら、またM1アストレイを使うのね。……どう? 少しは慣れた?」

 

〈ははは、実はあれからあまり使っていないんだよな、せっかく作ったのはいいけど、久々に使った感じと言うかさ〉

 

 ジンが乗るM1アストレイは両腰に備えた対艦刀を抜いて、両手で握って構える。

 

〈でも、マリアとのガンプラバトルだ! こう言うのもまた悪くないだろ〉

 

「それはまぁね、楽しそう! んじゃ――」

 

 こう言う時は――。私のバエルクリムゾンは地を蹴って、跳躍する。

 

「先手必勝! じゃあ早速行かせてもらうわね!」

 

 私はそう言うと自分の専用装備である大型ライフルを捨てた。そして腰にさしてあるバエルソードを一本右手に持って構えると、ジンのM1アストレイに斬りかかる。

 

「せっかくですもの、今回は飛び道具抜きで剣で戦ってみない?」

 

 私の斬撃、これに彼は横に飛び退いて避けた。……やるじゃない。

 

〈いいぜ! だって面白そうじゃないか、ならこっちも〉

 

 ジンはガンプラが両手に握る二本の対艦刀を振って応戦する。刃渡りの大きい刃による斬撃、少々厄介だけどまぁ避けられなくもない。ジンの攻撃を避ける私のバエルクリムゾン、そして次の横薙ぎを左腕のシールドで防御すると、今度は私が剣の突撃を繰り出して反撃をしてみせる。

 

〈!!〉

 

 これにはジンも反応しきれなかったみたいね。私の一撃は彼のM1アストレイの胸部に傷を付けた。本当は一発で仕留めようと思ったけれど、少し外してしまったわね。

 

〈さすがマリア、やるぜ!〉

 

 傷を受けてよろめくジンのガンプラ。いくら彼氏だとしてもガンプラバトルである以上、手加減は出来ないもの。私は続けてバエルソードを振り下ろすけれど、対してジンは二本の対艦刀をクロスさせて防ぐ。

 

〈……くっ〉

 

「確かにあの出来事でアマチュアのジンも大分強くなったけど、やっぱりまだまだだわね」

 

 それにまだまだ私のガンプラも、性能も出力も上だわ。その力でジンをこのまま押す。

 

「まさかもう終わりじゃないわよね?」

 

〈んな訳ないさ! どうにでもっ!〉

 

 瞬間、ジンのM1アストレイは姿勢を落としたと思うと、刀を構え直して薙ぐ。

 

 ――しまったわ!――

 

 私は跳んで回避しようとした。けれど通常よりも刃渡りの長い武器、それが私のガンダムバエルクリムゾンの両脚に直撃した。

 

「ううっ」

 

 着地した私のガンプラ。だけれどさっきの攻撃で微妙にがたつ。そんな中今度はM1アストレイが続けざまに対艦刀を振り回し強力な連撃猛攻を繰り出してゆく。

 

「うわっ! にゃっ! おっ、ととと!」

 

 そんな攻撃から私は逃げ回って、こっちが防戦一方に。

 

〈ハハハハッ! これは俺の勝ちって事かい〉

 

 ジンは得意そうに言って私を追い詰め、そしてまた刀を構えて私のガンプラに向けると――。

 

〈これで止めだっ! 動けなくすれば!〉

 

 彼のM1アストレイは私のバエルクリムゾンに、その刀を振り上げようとした。

 だけど……。

 

 ――やっぱり、まだ私の方が……強いわね!――

 

 瞬間に私だって――鋭い一閃を放った。

 

 

 

 ――――

 

「あーあ、俺の負けか。やっぱりマリアは強いよな」

 

 GBNのロビーで、バトルが終わった私達は合流して会話していた

わけ。

 

「てっきり追い詰めていたのは俺かと思ったけど、たった一撃で勝負を決められるなんて、な」

 

「ジンもなかなかだったわよ。でも、やっぱりあまり慢心するのは良くないかしら」

 

 私の言葉に、少し気恥ずかしそうにするジン。だけどね、貴方のお陰で私は……。

 

「でもおかげで――スッキリしたわ。ジンには少し、相談する事があったのだけれど、これなら大丈夫かしら」

 

「……うん?」

 

 ジンは今度は気になる感じな態度を見せると、こう聞いて来た。

 

「相談事だって? 何か、マリアは悩んでいたのか?」

 

「あはは……ちょっとね。えっと――」

 

 少し躊躇いもしたけれど、せっかくだから話してみようかなと。私はジンに話してみることにする。

 

「実はね。最近兄さん、ハクノとの距離感で少し困っていてね。ジンと付き合うようになって、どうも複雑みたいで……ちょっと私もどうしたらいいか困っている感じで」

 

「それは、困ったな。うーん」

 

 ジンは考えるように腕を組んで、そしてこんな風に答えてくれた。

 

「俺のせいでもあるから偉そうには言えないけどさ、とにかく……その事をしっかり話すのが一番だって、俺は思うぜ。そう言う事はマリアは得意だろ?」

 

「それは――ね」

 

 これにもちろんと答えるように、彼に微笑みかける。

 

「やっぱ、そうした方がいいわよね! 私だって分かっているんだから」

 

「それでこそマリアだな。――っと」

 

「?」

 

 するとジンは何だか別の方向に視線を向けていた感じで。それから私に言ったの。

 

「噂をすれば、か。マリア、ほら……」

 

 ジンがそう言って指差す先、沢山の人の中に、見覚えのある人影がいた。

 

「ハクノ兄さん、来てたんだ」

 

「そう言う事だ。――さてと、まだあっちが俺に気づいていない内に、失礼しようか」

 

 向こうにいる兄さんはまだ私達に気づいていない。ジンは今の内に離れるつもりだった。……でも、多分そっちの方がいいよね。

 

「オーケー、ジン。今日はありがとうね。本当に、助かったんだから」

 

「マリアの助けになれて俺も良かったぜ。んじゃ、またな」

 

 そう言いながらジンは、私に手を振りながら去って行った。同時に――。

 

「おっと、そこにいたのかマリア!」

 

 ハクノ兄さんは私の事に気づいて、駆け寄って来た。

 

「兄さん」

 

「俺はマリアの事、探してたんだぜ。……ジンと一緒じゃなかったのか」

 

「丁度さっき別れた所だったの。ジンはもういないよ」

 

「そっか。……マリア、楽しかったか」

 

 いつもと違う大人しい兄さん。私は頷いてこうこたえた。

 

「うん。もちろんだわ、兄さん」

 

「それは――良かった」

 

 それから少しの沈黙。けれど、私は兄さんにこう、伝えた。

 

「兄さん、私は兄さんの事……大好きなのよ。ジンの事はもちろんだけど、私は――」

 

 けれど、なかなかうまく言葉に出来ないでいた。

 

「あ、はは。何て言えばいいかな、えっと、こんな時に限ってこうだなんておかしいわね。だけど……」

 

「俺だって、同じくだぜ」

 

「えっ?」

 

 隣にいたハクノ兄さん。彼はそっと手を繋いで笑いかけると。

 

「マリアの思いは俺も分かっているさ。もちろん俺だって、大切な妹だって。――それに、やっぱ幸せなのが何よりだしさ。マリアが幸せでいてくれたら、それで」

 

 そんな兄さんの、言葉。

 

 ――本当に、良かった。兄さんは私にとって大切で、一番自慢の――

 

 何だか嬉しくなって。だから私も――大事な兄さんに思いっきり笑顔でこたえたの。




 次回で番外編も含めて完全完結、宜しくお願いします!


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番外編完結 ――僕達は、これからも(side フウタ)

「――んでさ、ミユ。新しく出来たカフェ、来て良かっただろ?」

 

「私はチョコレートパフェが美味しかったな。時間があったら、また行きたいよね」

 

 休日と言うことで、僕とミユは街に出てデートに。二人きりでこうして時間を過ごすのが僕にとって、一番なんだ。

 

「うんうん。ならまた時間を作って、行ってみようか。今度は別のメニューとかも頼みたいしさ」

 

「だね! やっぱりフウタと過ごす時間が、一番私にとって……楽しくて素敵だよ」

 

「もちろん僕もさ。――さてと」

 

 僕は気を改めて、こんな提案をミユにしてみる。

 

「良かったら今からジンに会いに行かない? 丁度今、街のガンダムベースにいるみたいだし。

 まぁ僕も、そろそろガンプラを買いたいって思ってたから、それもあるけどさ」

 

「ふふっ、フウタらしいって言えばらしいよね。いいよ! ならガンダムベースに……行こう!」

 

 こうして僕達はガンダムベースに一緒に行くことに。ジンの奴、いるかな。

 

 

 

 ――――

 

「よう! フウタにミユ、来てくれたんだな」

 

 ガンダムベースに入った僕達を出迎えたのは、丁度ガンプラの棚を眺めていたところにジンがいた。

 

「やぁジン、もしかしてジンもガンプラを買おうとしてた訳?」

 

「意外に最近はガンダムベースとかは行けてなかったからな。それに家に置いている分は大体作ったし、新しいのとか欲しいしさ」

 

「その気持ちも分かるな。……ミユはどう?」

 

「私も何かガンプラ買って作るのも、良いかも。私たちもちょっとガンプラを見てみよう、フウタ」

 

 ミユもこう言っている。もちろん、僕が断る理由もない。

 

「オーケー! なら三人でガンプラを見てみようか。時間だって全然余裕あるしさ」

 

 

 

 やっぱりガンダムベースに来たんだから。僕達三人はガンプラを見てまわった。

 

「へぇ……AGE-FXも入荷しているんだ。これとか作ったこともないし、買おうかな」

 

「ガンダムAGEの主人公機だな。確かに恰好良いし強いもんな」

 

「だろ? ジン」

 

「うんうん。でも私は、AGE-Ⅱも良いと思うよ。細身の機体の方が好きだったりするんだ」

 

 僕とジンがガンダムAGE-FXを見ている一方で、ミユはAGE-Ⅱに興味深々だった。

 

「あー! ミユの言う通り、言われて見るとそっちの方が確かにいいよね。変形もするし恰好だっていいから。

 うん、ずっとそっちがいい!」

 

「おいおいフウタ、そうコロコロ興味を変えるなんて優柔不断じゃないか?」

 

「そんな事言うなよな。……ジンは意地悪だな、もう」

 

 僕にとって一番なのはミユなんだから、だから当たり前じゃないか。でも、やっぱりガンダムベースにはガンプラが豊富と言うか、何を買おうか迷うな。やっぱり決められない。

 

「AGE系も良いけど、OOのティエレンやジンクス、SEEDだとダガーLも買いたい所だし」

 

「あはは……私も難しいよ。でもこれにしようかな」

 

 ミユはそう言って、一つのガンプラの箱を僕に見せてくれた。それはガンダムⅩに登場するガンダムエアマスター……なかなか珍しいキットだった。

 

「これはまた珍しいガンプラだね。成程、旧キットってなると少し組み立てや塗装で手間取るかも。もし良ければ手伝おうか」

 

「ありがとフウタ! なら組み立てる時にはお願いね。ジンさんも決まった?」

 

「ああ。俺はこの、MGのデルタプラスにしようと思っている。たまには百分の一スケールのキットも作りたくなってさ。……まぁスペースの確保には手間取りそうだけど」

 

「うーん」

 

 ミユもジンも、もう自分で作るのを決めてしまっている。まだ僕だけが決まってないのはちょっとまずいかも。それで少し悩んでいると、横からミユが顔を出して。

 

「やっぱり悩むよね。フウタはそうした所で悩むの、昔からだから」

 

 彼女は恋人だけれど、同時に幼馴染みとして僕の事をよく知っている。……これには僕も苦笑いするしかない。

 

「……仕方ないさ。どうしても決まらないと言うかさ」

 

「うーん、それは困るよね。なら――GBNをしながら考えるのはどう?」

 

 そんな中でミユは僕にそんな提案をしてくれた。

 

「ほら、せっかくここに来たんだしさ。やっぱりGBNの方もプレイしていきたいじゃんって。……どうかな」

 

 確かにそうかもしれない。なかなか決まらない時は一度、何か別の事をした方がいいかもって。

 

「ミユの言う通りかもだね。GBNかー確かに気分転換には良さそうだし。なら今からちょっと遊んで行く? ジンは?」

 

 一応ジンにもそう聞いてみる。これに彼はと言うと。

 

「ま、いいんじゃないか。ちょうど俺もそれが良いかもと思っていたところだ」

 

「なら決まりだね! 僕達三人で今からGBNって事でさ」 

 

 そう言う事で僕達はGBNへと、今から向かう事にした。

 

 

 

 ――――

 

 GBNにログインした僕ら。いつものロビーで合流してどうするか話す。

 

「んでさ、今日はどうする? ガンプラバトルとかミッションをして行く? それともエリアを適当にまわるかい?」

 

「私はどっちでもいいけど、どうしようかな」

 

 ミユはまだどうするか決めていない一方、ジンはこんな提案をする。

 

「それなら、とりあえずエリアを適当に回りながら考えるって言うのはどうだい?

 どっか行くなり、バトルでもするなりそうしながら考えるのも悪くないだろ」

 

「ジンさんの案、良さそうだね。……だってフウタ。それでいいんじゃない?」

 

 二人ともそう言っている。でも確かにその案はいいかも、気楽で済むし。

 僕は頷いて、それに同意を示した。

 

 

 

 ―――

 

「……成程! これはいい。 新しく出来た場所かなここは?」

 

〈それはどうかな。……にしても火星とは、鉄血の舞台とかだよな〉

 

「うーん、後宇宙世紀の何かの作品でも、火星を舞台にしたのがあった気がするな。でもここはテラフォーミングされてるっぽいし、ジンの言う通り鉄血の方の火星だろうな」

 

〈でもでも、こういう所なんて現実世界じゃあり得ないでしょ。……GBNならではって言うか、良いよね〉

 

 僕達三人はガンプラに乗って適当にGBNのエリアを巡っていた。

 あちこち回って、今は火星を模したエリアへと来ていた。

 

 ――見渡す限りの赤い荒野か。確かに普通じゃこんな所に来るのすらあり得ないもんな――

 

 こうしてただエリアを見て回るだけでも、やっぱり楽しいものだよね。

 

〈ねぇフウタ?〉

 

「ん? ミユ、どうかした?」

 

〈良かったら、次はどこか街に行って降りない。買い物だったり、羽休めをしたいな……なんて〉

 

 たしかにミユの言う通り、一息つくのも悪くない。

 

「だね! どこか適当な場所でも行って、ゆっくりしようか」

 

 さてと、んじゃどこに行こうかな。……考えないと。

 

 

 

 ――――

 

 三人で少し話し合った末、僕達はスペースコロニーの中にある街中へと。何せ火星からだと距離的に丁度近かったからさ。

 

「うーん! ここのケーキは美味しいね」

 

 街の店でグッズとか少し買い物したり、そして今は一画にあるカフェで休憩をとっていたりしていた。

 

「ここの喫茶店、結構いいな。偶然立ち寄っただけだけれど正解だ」

 

「だよねジンさん! ふふっ、来て良かったよね」

 

 ジンとミユはそう話している。……確かに美味しい。この僕が食べているパンケーキだって……けどやっぱり、どこか少し複雑。

 

「……ずっと前も言ったかもしれないけど、こうして味まで再現するの、ゲームとしてはやり過ぎじゃない?」

 

 確かに美味しいけど、そこまでやるなんてやり過ぎだとつい思ってしまう。やっぱり、人の感覚にこうも関与するVRMMOと言うのは苦手と言うかさ、そういう意識は今でもぬぐえないんだよな。いくらジンと一緒にああして頑張った事があっても苦手なのは苦手だし。

 

「あはは、フウタはやっぱり相変わらずだね。難しく考えないで軽く楽しめばいいのに」

 

「でもさ、どうしても考えちゃうんだよね。いくらジンと一緒に、少しは本気でGBNをプレイした事はあっても、やっぱりさ」

 

「……だったな。フウタがいなかったら今頃、こうしてマリアと付き合えることもなかったし。だから感謝しているんだぜ」

 

 ジンは僕にそんな事を。

 改めて言われると……照れるな。僕は少し頭を掻いて照れ笑いを少し浮かべる。

 

「そりゃどうも。……そう言えばジン、今日はマリアはどうしているんだっけ」

 

 話を聞いているとついマリアの事が気になって僕は尋ねてみた。

 

「ああ。マリアなら、今日はハクノと出かけると言うことで一緒じゃないんだ。やっぱり兄との時間も大切にしなきゃだもんな」

 

「そう言う事。なるほどね」

 

 これを聞いて納得。それと、今少し思いついた事があった。

 

「それとさ……ジン」

 

「どうかしたか?」

 

「今思いついた思い付きだけどさ、良かったらこれから二人で一対一のガンプラバトル、してみない?」

 

 

 

 ――――

 

「――はぁっ!」

 

 レギンレイズの近接装備であるパイルを振るい、僕はジンのガンダムF91めがけて振るった。

 

〈やるじゃないかフウタ。ならこっちも〉

 

 ジンはとっさに攻撃を避けると、すぐにビームライフルを構えて連射する。けれどナノラミネート装甲持ちのレギンレイズには効かないさ。

 

「避けるまでもないよ!」

 

 ビームを無視して僕は突進する。機体のナノラミネート装甲に当たるビームは次々四散して弾かれる。

 

 ――でも結構光が強いな。ちょっと視界が眩しくてなかなか――

 

 その瞬間だった。F91の姿がいきなり目の前に迫って来て、長槍を手に突撃を放つ。

 

「おっ、とと」

 

 何とかギリギリで腕のガントレットでいなして防ぐ。

 

「その武器、懐かしいね。初めて戦った時以来か」

 

「こちとらビーム装備ばかりなんだから、そうでないと不利だろ? それに……」

 

 僕達がいる、森中にある開けた原っぱと湖があるこの場所。

 

〈綺麗で、とっても良い場所だよね。確かフウタとジンさんが初めて戦った場所だって、聞いたけど〉

 

 バトルに巻き込まれないように、少し離れた場所にはミユのレギンレイズが戦いを見ていた。

 彼女の言う通り、この森の中の湖畔地帯も……ずっと前にジンと始めて戦った、あの場所なんだ。

 

「ミユの言う通りさ。……ジン、懐かしいと思わないか」

 

 そんな中で僕達は一対一のガンプラバトルを繰り広げていた。

 

「確かあの時もこうして二人でバトルして、さ!」

 

 今度はライフルに持ち替えて、F91を狙い撃つ。……けれど上手く命中しない。ちゃんと狙ってはいるけれど、ジンの操縦技術が結構上なのもある。

 

「けど……あの時とは違って、腕は全然違うよね。どっちもアマチュアで実力はあまりなかったのに、かなりマシになったって言うかさ」

 

 と、次はジンが乗るF91がヴェスバーで反撃を放つ。瞬間の攻撃だけれど、それもどうにか避ける事が出来た。

 

〈うーん、今の一撃は自信があったんだけどな。そう言うフウタだって腕を上げてるぜ〉

 

 彼はそんな風に言う。確かに僕自身も、それなりにはかな。

 

「本当、そう言う所は進歩したのかな。――今度は僕の番さ!」

 

 瞬間に隙を見て、パイルに付属するアンカーを飛ばしてF91の足に絡み取らせる。

 

〈しまった……つい〉

 

「今度こそ貰ったよ!」

 

 動きを制限したF91に、続けてライフルを構えて銃撃する。

 

〈くっ!〉

 

 どうにか拘束から逃れたガンダムF91、けれど一撃は機体の右脚部に命中させる事が出来た。

 

「本当なら一撃で仕留めるつもりだけど、やるね。でもようやく一撃――あれっ?」

 

 瞬間、僕のレギンレイズの右肩に衝撃が伝わる。状態を確認するといつの間にかダメージを受けていたらしい。

 見るとF91の手元には構えられたライフルが。

 

〈俺の方も、な。これで互角……腕は互いに上がってもそこは相変わらずだな〉

 

「全くだよ。けどここからが、本番さ!」

 

〈……二人とも、頑張るのはいいけど、あんまり無理はしないでね〉

 

「分かってるってばミユ! 君のためにも、勝たなきゃね!」

 

 

 

 僕とジンのバトルはさらに白熱する。ライフルの撃ち合いに近接戦とか……機体も次第に傷が増えて満身創痍になりながら、そして……。

 

「はぁ、ずいぶん手こずらせたけど。いい加減決めようか」

 

 湖傍らの平原に立つ、戦いでボロボロになったレギンレイズはパイルを構えて狙いを見据える。

 相手はジンのガンダムF91。あっちも同じくらいボロボロで、多分次で勝負が決まる。

 

〈そうだな。んじゃ、そろそろ決着をつけるとするか!〉

 

 そう言って、彼のF91もビームサーベルを握って……こっちに迫る。

 

「勝つのは僕さ! 悪いけど、これで!」

 

 対して僕もパイルを迫るF91に振るう。そして――。

 

 

 

 ――――

 

「お疲れ様フウタ! ……ジンさんも」

 

「ありがと、ミユ。今回は邪魔が入らなくてちゃんと決着がついて良かったよ。前の時にはミサイルでどっちとも吹き飛ばされたしね」

 

 機体から降りた僕とミユと、それにジン。勝負が終わった僕達は森の木の傍で腰を下ろして一息ついていた。

 

「だな。今回は勝負がちゃんとついて良かったぜ。最も――」

 

 ジンは苦笑いしながら横を見る。

 そこには僕のレギンレイズとジンのガンダムF91がそれぞれ動力部を刺し貫かれて動かなくなっている。

 

「相打ちと言うことか。でも、良い勝負が出来たからよかったぜ」

 

「まぁね、ジン。それに――さ」

 

 僕は木にもたれて一息ついて、こんな感想を呟く。

 

「確かにVRMMOは苦手ではあるけど、でもやっぱり……それなりには楽しいよね」

 

 改めて思った。GBNだからこそ楽しめる事や経験出来た事、それに出会えた人もいた。僕にとっても決して悪くない事ばかりだった。

 僕の言葉を聞いてジンも、ふっと軽く微笑む。

 

「全くだ。俺もフウタと同じ気持ちって言うか、だよな」

 

 それにミユも僕のすぐ傍で笑いかけてくれた。

 

「うんうん。フウタってば、最初はGBNをプレイするのに乗り気じゃなかったけど。――やっぱり来て良かったよね、ここに」

 

 僕は……二人に、向けて同じく大きな笑顔でこたえる。

 ――だよね。ここでの事は僕にとって、僕達にとって、大事な思い出の一つだから。

 




 今回で番外編も含めて完全完結になります。改めて、ここまで読んでくれた方、ありがとうございました!


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