破壊神キッテル(キッテル回想記『空の王冠』三次創作) (ダス・ライヒ)
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復活のキッテル
復活のキッテル


最初にc.m.様とファンの皆様へ…。

お許しください!

どうぞ、何なりと指摘ください。

※6月14日、大幅に改変しました。


 ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテル。

 この名を聞いて何者かと思い浮かべれば、我々と似た世界で、自分の国である帝国を完全勝利に導いた英雄である。

 正確に彼以外の卓越した才能を持つ者達の存在による影響が大きいが、彼の存在が無ければ、あの世界で帝国は勝利することは無く、我々が知るドイツ帝国*1と同じ末路を辿っていただろう。

 

 彼は創設されたばかりだった空軍*2に最初から属したパイロットであり、大戦においては帝国に対する愛国心と自身の貴族としての誇りを胸に空を駆け抜け、数々の大勝利を齎し、時には撃墜されながらも生き残り、最終的には戦争を生き延びて最終勝利すら齎した伝説のパイロットである。

 その証拠に大戦後に撮影した写真には、キッテルが身に着けている空軍の制服の胸には、数々の勲章が付いている。帝国には悪魔の如く恐れられ、懸賞金すら賭けられるほどの技量を持つ最強のパイロットであった。

 空のみならず、彼は陸にも猛威を振るい、一説には破壊神とも呼ばれた。

 

 三年にも渡る大戦から数十年後、彼は自身の回想録をキッテル回想記『空の王冠』を出版する。

 売れ行きは触れないでおくが、その数十年後に、空では無くベッドの上で他界。言葉に出来ない程これ以上ない幸せな最期*3であった。

 

 そんなニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルことニコの魂は、案の定、戦乙女たちに死した戦士たちの館、ヴァルハラ*4に招かれ、同じく招かれた英雄級のパイロット達と共に果てしない空戦を楽しんでいる。

 現役時代や大戦後も含め、自分の為に制定されたと言って良い最高級の勲章を授与してからは、飛ぶことを制限されていた彼に取っては快適な日々であった。

 煩い上司も居ないし、止める憲兵も居ない。身体も全盛期の健康体のまま。飯も酒も美味い上、住み心地も最高で、ずっとヴァルハラに居たいとすら思えるほどだ。

 

 ヴァルハラにも全盛期の自分を打ち負かすパイロットも居り、空戦にも飽きることは無い。

 だが、ある日を境にそのパイロット達は殆ど消える。やがてはヴァルハラに居るパイロットは、自分一人となった。

 何が起こったか?

 その疑問をぶつけるべく、キッテルは自分にとっては鬱陶しい喋りをする従者の男に問う。

 

 

 

「カマト、みんな何所へ行ったのだ? 誰も居ないぞ」

 

 金髪碧眼と言うアーリア系の容姿を持つニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルことニコは、カマトと呼ばれる従者に、自分と同じパイロット達は何所へ行ったのかを問うた。

 ここ戦闘機パイロットの間は、様々な世界や時代からやって来たエースパイロット達が集まり、日々切磋琢磨する場だ。女性やサイボーグを含めて様々なパイロットや戦闘機が集まり、キッテルにとってはとても飽きる事も無い刺激的な日常だ。明日になればまた新しいパイロットと機体がやって来るので、楽しみは尽きない。

 だが、そんな日々も今日を持って終わる。自分が一勝しか出来なかったパイロットも含め、皆が何処かへ消えてしまったのだ。

 

「あっ、キッさんすか? 誰も居ない? あぁみんな、戦女神さまのご指名入って、現世にリボーンしてバトル中っすよ」

 

「なに、現世に呼び出されて戦っている…!? 最終戦争(ラグナロク)まで無いと思うが…」

 

 ラグナロクまで遥か先だと思っているニコに対し、カマトは変な口調で現世の現状を告げる。

 

「いや~それが現世もラグナロクなんすわー。超ヤベー物量を持つアーミーが、異界に大侵攻しまくって、こっちにも来たつぅーか。更にそんなヤベーのが二つも同時に攻めて、ワルキューレ激ヤバな感じなんすわ~。JK語で言えば、やばたにえんな感じなんすよ」

 

「お前の喋り方は余り理解できぬが、とにかく現世が危なくて、我らヴァルハラの住人の助けが必要なことは分かったぞ。でっ、私に指名は?」

 

 自分には余りに理解できない喋り方に、キッテルはある程度の事を理解すれば、自分の使命が無いのかと問う。

 

「それがキッさんまだご指名無いんですわ、ちょっと、確認しますねー」

 

 現世が最終戦争状態と聞き、キッテルは自分に指名が無いのかと問えば、カマトは懐からスマートフォン*5を取り出し、画面をタップしてキッテルの指名と言うか、召喚しようとする召喚士を調べる。

 二分後、誰もキッテルの事を指名していないことをカマトは報告する。

 

「あぁ、今のとこ、誰も居ないっすね。待ってりゃ来るんじゃないすか?」

 

「待っているさ。来たら直ぐ報告してくれ」

 

「あの、キッさん? 指名されたら直ぐ現世にリボーンされるんですけど、聞いてます?」

 

 話を聞かずに、キッテルはいつもの使っている席に腰を下ろし、日課と化している牛乳*6を飲み始める。

 数分後、現世の戦況は切羽詰まっているのか、一人間に残されたキッテルにもお呼びが掛かった。直ぐにカマトは、牛乳を飲みながら読書をしているキッテルに知らせる。

 

「キッさん! ご指名っすよ!」

 

「遂に来たか…! なんだか、生き返るなんて言う体験…初めてだな…」

 

「まぁ、最初はそんなもんすっよ。そんじゃ、リボーンして存分にバトっちゃってくださいよ!」

 

「あぁ、分かった。数百年ぶりの実戦か。ここでは相当鍛えたから、大丈夫なはずだ」

 

 遂に召喚されたことに、キッテルは嬉しそうに立ち上がり、生き返ると言う生前では考えられない経験をすることに緊張感を覚える。

 そんな彼の緊張を解そうと、カマトは並大抵の人間には分からないことを言う。キッテルの緊張感は消えたが、それは苛立ちによってである。

 身体が光りに包まれたキッテルは、そのままヴァルハラより姿を消し、現世へと召喚された。

 

 

 

 現世へと召喚されたニコラウス・キッテルことニコは、事前に用意されていた大戦時のドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の佐官用制服に着せられ、移動用の車で前線の空軍基地まで移動させられた。

 召喚された現世の場所は、生前の自分と同じ世界のようであるが、今の走行中の車に揺られるキッテルは、再び生きて空を飛べることに喜びを感じていた。

 自分が死んで数百年、あるいは数千年か。知らぬ間に驚異的な進化を遂げた兵器を前に不安な気持ちでいっぱいであるが、どんな敵と空戦を交えることになるだろうかの気持ちが勝っている。

 基地に到着すると、早速出迎えの将校達が敬礼を行う。

 言い忘れていたが、ワルキューレ*7はとても女性が多い軍事勢力だ。男は前の世界の軍隊と逆に全く見掛けない。男は最初に会った自分を召喚した召喚士と神官くらいである。

 そんなことを気にせず、キッテルは前世と同じように将校らしく振る舞い、車から降りて敬礼を返した。長身の白人で金髪碧眼の美青年の鋭い眼差しに、何名かの女性将校は顔を赤らめた。

 

「出迎えご苦労。私はニコラウス・フォン・キッテル元帥大将…と、言っても諸君らの空軍には元帥大将なる階級は存在しないか。それもこの制服の階級章は大佐だな。つまり私は大佐扱いと言うことか」

 

 敬礼した後にフルネームを一部省いて挨拶したニコは、身に着けている制服の階級章を見て、自分の扱いは大佐だと判断する。出迎えた初老の女性将校、基地司令官の少将はそうであると頷き、キッテルを基地内へと案内し始める。

 

「えぇ、そうです。司令部より貴方を大佐扱いにするように命じられています。では、基地内を案内します」

 

 基地司令官の案内に従い、キッテルは彼女の後に続いた。基地内は生前の空軍基地より数百年は進歩しており、天才過ぎる発明者である自分の弟*8でも、一生掛けてもここまで発展させることは出来ないだろう。

 当のキッテルは基地の設備よりも、格納庫にどんな航空機があるのか気になった。滑走路の方を見れば、ヴァルハラで幾度か交戦したバルキリーと呼ばれる複数の可変戦闘機が離着陸を繰り返している。他は爆装したジェット攻撃機があるが、キッテルの興味を引くほどのデザインでは無い。

 遂に格納庫へ行くと、キッテルの興味を引くほどの機体が駐機されていた。

 

「おぉ、これは…!」

 

 駐機されている機体を見たキッテルはやや興奮してか、基地司令官よりも前に出る。

 

「まるで子供みたいね…」

 

 興奮しながらどの機体に乗れるかどうか楽しみにするキッテルを見た基地司令官は、まるで子供のようだと表す。事実、そのニコは燥いでいる子供のようであり、興奮しながら機体に触れて試運転して良いかどうかを聞いてくる。

 

「基地司令官殿、この機体の試し乗りをして良いか?」

 

「ちょっと可愛いですね」

 

「はぁ、ここは最前線基地なので、シミュレーターの方へどうぞ」

 

 聞いてくるキッテルに副官がイメージとは違う彼の燥ぎ回る少年のような行動に愛らしさを感じる中、基地司令官はシミュレーターの方で勘弁してくれと告げる。

 それからいくつかのシミュレータールームに向かい、そこで幾つかの機体を試した後、キッテルは乗る機体を決断する。

 

「では、私はこのVF-31ジークフリート、隊長機用のS型を所望しよう」

 

 ニコが乗る戦闘機は、可変戦闘機のVF-31Sジークフリートを現世の愛機に決めた。

 違う型ではあるが、ヴァルハラに居た時は同系の機体に乗って戦ったことはある。J型やF型に乗るヘルメットをしない少年のパイロット相手に*9、慣れ無い機体で何度か打ちのめされたことはあったが、百戦中三十敗の内、七十勝ほどは勝ち取った。

 その前にバルキリーの三段変形の内、人型であるバトロイド形態には未だに慣れないが、鳥人間状態のガウォーク形態、航空機状態のファイター形態は完全に物にしている。

 ヴァルハラで慣れ親しんだ機体を選んだキッテルは、いつ出撃を許されることや、何所の航空隊の所属されるか、あるいは編隊長にされるかを問う。

 

「私の出撃はいつになる? それと何所の所属になるか、あるいは私を長機にした部隊を編成されるのだ?」

 

「待ってください。今、持ってこさせます」

 

 生き返って早々に早く飛びたかったキッテルは、今すぐにでもジークフリートに乗り込み、飛び立とうとする素振りを見せていた。

 誰から見ても、飛びたいと言う衝動を隠さないキッテルに対し、基地司令官は止めて副官に空軍司令部より出された命令書を持ってこさせる。

 数分後、命令書を持って来た副官から受け取った基地司令官は、命令書に書かれていた内容を見て眉を顰める。書かれていた内容は、とても自分には理解し難い物であった。

 興奮するのを止め、不気味な速さで冷静さを取り戻したキッテルは、どんな内容なのかを問う。

 

「その様子だと、貴方には不快な内容だと分かるな。小官に見せて貰えまいか?」

 

 言い辛そうな表情を浮かべる基地司令官に、キッテルは命令書を見せるように言えば、彼女は命令書を渡した。

 命令書を受け取って内容を確認したキッテルは、書かれている内容を見てやや驚いたが、高笑いを始める。

 

「ハッハッハッ! 分かっているではないか! どうやら上層部は、この私にたった一人の軍隊(ワンマンアーミー)になれと言うのだな!。エルマー以上に私に期待していると見える! 基地司令官、この命令は貴方にとっては不服だろうが、従って貰おうか」

 

 書かれていた内容とは、ニコラウス・キッテルを単独兼独断行動を許されたワンマンアーミー*10とし、各基地の補給を許可なしに自由に受けられる権限を与えると言う物であった。

 生前では絶対に出来ないと言うか、認められない権利を与えられたキッテルは大いに喜び、出撃準備を始めた。

 

「フッ、英雄と祭り上げられ、英霊として復活するのも悪くないな。これ程までに、自由に飛べる権限を与えられようとは! これはヴァルハラよりも凄い日々になりそうだ!」

 

 出撃の準備を済ませ、コクピットに座り込んだキッテルは、これから起こるヴァルハラ以上の日々に胸を躍らせつつ、計器類に異常がない事を確認してから機体を起動させてキャノピーを閉めた。

 それから操縦桿を握って機体を滑走路まで移動させ、パイロットスーツ専用のヘルメットを被って機能に障害が無いか確認する。

 

「機能は正常、無線機異常無し。管制官、聞こえるか? あぁ、こちらクロウ〇一*11。離陸したい。どの滑走路が空いている?」

 

 無線機を起動させ、管制官にどの滑走路を使って良いかを問う。

 この時、コールサインを決めていなかったので、キッテルは生前に使っていたコールサインで管制官に連絡した。

 

『こちらデルタコントロール、そのコールサインは当基地には存在しない。何者だ?』

 

「なんだ、腹いせか? あぁ、こちらは新しく配属されたと言うか、この機体を正規の手続きで受理したニコラウス・フォン・キッテルだ。そちらに私への報告は行っていないか?」

 

『暫し待て。確認する』

 

 管制官はキッテルの事を知らないらしく、彼が正規の手続きを得て乗っているVF-31Sを受理したことを伝えれば、確認のために無線を切った。暫く待っていると、管制官からの無線連絡が入る。

 

『こちらデルタコントロール、空軍においてコールサイン、クロウ〇一の登録を正式に認められた。ようこそ、クロウ〇一。貴官のライセンスの最優先権に従い、離陸を許可する。六番滑走路が使用せよ』

 

「こちらクロウ〇一、感謝する。では、ライセンス持ちの名に恥じない働きをして見せる」

 

 許可が下りれば、キッテルは指定された滑走路まで機体を移動させ、離陸体勢に移る。

 

「さぁ、久しぶりの空だ。ようやく飛べるな」

 

 生き返って初めての空に、キッテルはやや緊張しながらもスロットルを全開にして離陸しようとする。ランディングギアが滑走路を離れれば、自動的に収納され、キッテルが駆るVF-31Sジークフリートは空を飛ぶ。

 キャノピー越しから伝わる何百年か何千年ぶりの空の風、それも生きて感じることが出来たキッテルは、初めて空を飛んだ時の事を思い出した。

 その次に初陣に敬愛する上司、腕を競い合った同僚、好敵手たちとの戦いなど、空を飛ぶだけで次々と思い出す。やがて十分な高度まで取れれば、キャノピー越しから見える空を見て、思わずキッテルは叫ぶ。

 

「フォォォォォ! 最高だ! 私を召喚してくれた者に感謝せねばな!」

 

 生き返って再び空を飛べたことに、興奮しているキッテルは自分を召喚した人物に感謝したいと述べる。

 生前では自分が勲章授与者と国内では英雄であったこともあり、死の危険が去った大戦後にも、事故があると言う理由で飛べる機会は余りなかった。

 だが、今では自由に飛べる。それに自分がヴァルハラに招かれた戦士と言う事もあって、ワルキューレの空軍上層部は自由に飛べ、更には単独と独断行動も許されるワンマンアーミーのライセンスまでくれた。

 ここまで優遇されて、期待している成果も挙げられなかったら、自分にそのライセンスをくれた上層部に申し訳ないどころか、会わせる顔すら無い。

 

「せっかくフェン・エップ元帥殿*12が絶対にくれることが無い好き勝手に出来るライセンスをくれたのだ。例えエルマーでも出さないだろう。その分の成果を出さなければ、上層部や空軍司令官殿に面目ない。さて、来世の敵軍パイロットの実力、どれほどの物か試させて頂こうか!」

 

 必ず期待に応える事を、ワルキューレ空軍の上層部や総司令官に誓えば、キッテルはあるボタンを押して自機のVF-31Sをレッドバロンの愛機であるフォッカーDr.Ⅰのように赤く染め上げた後、攻撃機の編隊を追って前線へと向かった。

*1
プロセイン王であったヴァルヘルムが皇帝となって出来た統一国家

*2
帝国(ライヒ)には空軍が無かった

*3
詳しくは本編で

*4
北欧神話に登場する用語の一つ

*5
何故スマホかは、彼がホストのような服装で外見だからだろうか?

*6
キッテルの元ネタがハンス・ウルリッヒ・ルーデルであるため

*7
本物の戦乙女(ワルキューレ)が創設した

*8
事実上、キッテルの弟が戦争を勝利に導いたとされる

*9
ハヤテ・インメルマンと言う

*10
軍隊では存在しないライセンス

*11
生前のキッテルのコールサイン

*12
生前のキッテルの上官




次回からは、その名の如く破壊の限りを尽くします。


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撃墜王キッテル

なに、敵が弱い? それはキッテルが強過ぎるからさ。


 ニコラウス・フォン・キッテルことニコが前線へと攻撃機部隊と共に向かう中、前線の様子を探るために無線機の周波数を弄っていると、敵軍の大攻勢によって押され気味のワルキューレ陸軍の将兵達の悲鳴が聞こえて来る。

 

『なんなのこの数!? こんなの倒しきれないって!』

 

『持ち堪えなさい! 直ぐにでも航空支援が!』

 

『無理よ、こんな数! 航空支援じゃなくて援軍はどうなってんの!?』

 

『もう持ちません! 後退します!』

 

『えっ!? 後退しないで!』

 

「本当に女ばかりだな。この悲鳴からして、敵軍はルーシー連邦軍以上のスチームローラー*1だな」

 

 改めて自分を現世に召喚したワルキューレが、女性ばかりの軍事組織であると知れば、キッテルは前世の社会主義国家の軍隊の事を思い出し、敵軍の圧倒的な物量が前線に押し寄せるのがキャノピー越しから見る。上空も敵軍の航空機に埋め尽くされており、数えるのが馬鹿らしいくらいだ。思わずキッテルは生前に戦った共産軍より多い事にため息をついてしまう。

 敵軍がどんな組織なのかを問うため、キッテルは増援として向かうVF-31Sの前進翼とは違うデルタ翼のVF-31Aイカロスに乗るパイロットに無線連絡をする。

 

「空もか…! まるでイナゴの大群だ。こちらクロウ〇一、加勢は必要か? それと敵軍はなんだ?」

 

『こちらフレイア1、是非とも加勢を! 敵軍は統合連邦軍です!』

 

「連邦軍…ルーシーと同じか。まさか社会主義か?」

 

『えーと、民主か軍事的?』

 

「あぁ、察するに両方だな」

 

 敵が統合連邦軍と言う統一国家であると分かれば、思想は前世で戦ったルーシー社会主義連邦、即ち共産国家なのかを問えば、士官は民主か軍国主義と適当に答える。

 この曖昧な答えに、キッテルは両方と判断し、ワルキューレの士官は政治思想教育は受けていないと思って聞いてみる。

 

「それより君たちは政治思想などの座学は?」

 

『えっ? そんなの受けてません』

 

「そうか。なら、空いた時間にその手の本を読んでおいた方が良い。士官であるならば、政治思想は一応理解しておいた方が良い。将来、政治家になりたいと思えば、是非とも学んだ方が良い」

 

『あぁ、はい。分かりました』

 

「今の将校は政治などに興味を示さんか。敵の戦略を理解するのに必要なのだがな」

 

 聞いてみれば分かっていないような反応を見せたので、キッテルは現世の将校は政治に興味*2が無いと思い始める。

 彼女らに政治の必要性を説くのは戦闘後にしておくことにして、今は押し寄せる敵部隊の迎撃に集中した。

 

「突破されるのは時間の問題だな」

 

 キャノピーの目前からは、空を埋め尽くさんばかりの敵航空機や機動兵器が展開しているのが見える。それを迎え撃とうとワルキューレ空軍が決死の防衛戦を展開しているが、連邦軍の圧倒的な物量を前に押し潰されつつある。これ以上は持たないと判断してか、キッテルは増援部隊のVF-31Aの編隊より前に出て、防衛ラインを抜けて来た複数のスピアヘッドVTOL機*3を、機体に搭載されているマイクロミサイルを照準してから直ぐに撃ち込む。

 放たれた無数のミサイルを前に、スピアヘッドは回避しきれず、数機が撃墜されれば、残りの生き残った機は味方の陣営へと退いて行く。

 続けて防衛線を突破したB-2爆撃機に似たロングソード級戦闘機*4の編隊を捉え、上方を取ってから精密射撃ができる形態であるバトロイド形態に変形させ、ガンポッドを撃ち込んで全機撃墜する。

 キッテルはこの初陣で、スピアヘッド八機とロングソード四機、合計で十二機を撃墜したのだ。

 通常兵器である二種の航空機十二機を撃墜した赤いバルキリーに、小型MSのジェムズガン*5やバリエント*6、ジェットストライカーパックを付けたダガーL*7、量産型ヒュッケバインMkⅡ*8などの機動兵器に乗る連邦軍のパイロット達は驚愕する。

 

『な、なんだ!?』

 

『どうなってやがる! 奴は何者だ!?』

 

 そんな同様の声が無線機より聞こえる中、キッテルは敵の連携を崩す為、機体をファイター形態へ戻し、敵部隊の前に出て自分の存在を全周波数で知らしめる。

 

『私の名はニコラウス・アウグスト・フォン・キッテル! ヴァルハラより来た男だ! ヴァルハラを聞けば、知っている者は居るはずだ! 諸君の中に、私を知っている者は居るか!?』

 

 全周波数なので、この戦場に展開している連邦軍のパイロット達には聞こえている。地上を埋め尽くすばかりの部隊にも聞こえており、堂々と名乗りを上げる赤いバルキリーに乗ったパイロットが気になって、連邦軍は一時的に戦闘を中止する。自身の回想録も書いているので、自分を知る者が居ると思って聞いてみたが、連邦軍の将兵達*9の誰もがキッテルのことを知らないようだ。直ぐに罵声に近い下品な回答が返って来る。

 

『知るか! レッドバロンのパクリ野郎なんざ!*10

 

『機体を真っ赤にするとは、的になりてぇようだな!』

 

『キャノピーを機体と同じく真っ赤に染めてやるよ!』

 

『機体から引きずり出して、テメェの面に小便を掛けてやる!』

 

 無線機より聞こえて来る敵軍のパイロット達の下品な罵声に、キッテルはやや怒りを感じつつも、操縦桿を握る手を強める。

 

「なんと下品な…! まぁ、良い。私は既に勝ったつもりでいるような諸君らを教育しに来たのだからな! この一戦で生き延びた者は、上官に撃墜王キッテル現ると伝えておけ! 奴は常人では敵わぬと!」

 

 だが、自分は戦いに来たのだ。敵軍が手袋を投げて来たのなら、貴族である自分はそれに答えるまでだ。品の無い連邦軍に、貴族である自分が教育を施す。

 そう声に出さずとも心の中で思っているキッテルは、怒りよりも再び空戦が出来る喜びが勝って来る。今の彼は、空戦がしたいと言う気持ちでいっぱいなのだ!

 この戦いで生き延びた者に、上官に自分の名を報告させ、エースを差し向けて来るように告げてから、無謀にも挑んで来る敵機と交戦との交戦を開始した。

 

『キャノピーを真っ赤に染めてやるぜ!』

 

「フン、見え見えだな」

 

 ビームを撃ちながら接近して来るダガーLの動きは、キッテルからすれば見え見えであった。ビームの弾幕を避けつつ、当たる直前には、両足だけを展開させてギリギリで躱し、背面のマルチコンテナを展開させ、ビームガンポッドで撃ち返す。

 敵機は一射目を避けたが、キッテルは二射目は敵機が向かう方向を予想して撃てば、敵機はそこへ吸い込まれるように向かい、勝手に被弾して地面へと落下していく。

 味方機、それもモビルスーツが数秒足らずで撃墜されたことに、連邦軍のパイロット達は一斉にキッテルへ襲い掛かる。*11

 

『野郎、やりやがったな!』

 

『囲んでリンチしろ!』

 

「これで負担は下がるな」

 

 大多数で向かって来る連邦軍機に、キッテルはワルキューレの迎撃部隊を押し潰さんとしていた連邦軍機も来たことで、注意は完全に自分に向けさせることに成功した。

 

「さて、感覚も大分戻って来たな。しかし、殆どが向かって来るとは。指揮官機は何をしている? まさか私の撃墜に参加してるんじゃないだろうな」

 

 注意が完全に自分の方へ向いたが、余分な戦力まで集まって来た。どうやら連邦軍の練度は低いらしい。そう思っているキッテルは指揮官機まで参加しているのではと疑問に思う。

 事実、キッテル討伐に向かう機動兵器部隊の中に、指揮官機が混じっている。乗っているVF-31Sで何かの御曹司とでも思い、撃墜すれば昇進できるかと思っているようだ。部下たちと共に、一斉にキッテルのVF-31Sに襲い掛かる。

 雨あられの弾幕を躱しつつ、キッテルは敵機を照準に捉え次第にミニガンポッドやビームガンポッドを撃って次々と撃破する。

 

「ちっ、数が多いな。指揮官機の撃破を優先して指揮系統を乱すか。兵法の書では、敵の数が多い場合は隊長から叩けと言うしな」

 

 流石のキッテルでも、有象無象の機動兵器の大群の対処は難しく、昇進に目が眩んで馬鹿の一つ覚えに突っ込んで来る指揮官機の撃破を優先した。

 指揮官機は直ぐに分かった。指揮官機は通信機能を拡大させるためのブレードアンテナを装備しており、僚機との違いは直ぐに分かる。おそらく大隊長機で、傘下の中隊を盾のように展開させ、最後は自分でとどめを刺すつもりだ。

 邪魔な敵機を撃破しつつ、大隊長機を正確にビームガンポッドで撃ち抜き、副大隊長機を続けて撃破して敵軍の指揮系統を乱す。

 生前に中国に当たる国の兵法の書を読んだキッテルが、指揮官機を優先して撃破する戦法を取れば、敵部隊は混乱し、ただでさえお粗末な連携が更にお粗末となって、誤射まで発生し始める。

 

『撃つな! 味方だぞ!』

 

『くそっ、誰が指揮系統を継いでいるんだ!? 誰か、指示をくれ!』

 

「予想以上に混乱しているな。やはりあの兵法書は、士官学校において必読だな」

 

 敵軍の混乱ぶりを見て、キッテルは孫子の兵法は士官学校において必読する書物と改めて思い、撃墜スコアを稼ぎ続ける。

 一機、また一機とキッテルがトリガーを引く度に面白いように落ちて行き、もはや的撃ちのゲームのように思えて来る。これはキッテルが異常であり、他のVF-31Aや可変MSのムラサメ*12は余り撃墜できていない。そちらは指揮官機が居て、排除に手間取っているのだが。

 ほぼ大隊長機と副隊長機を仕留め、後は中隊長機を仕留めて行くキッテルであるが、機動兵器の大隊を統轄する各連隊長が対空ミサイル(SAM)の発射を命じたのか、無数のSAMが彼のバルキリーに向けて一斉に放たれる。キッテルの周辺にはまだ敵機が居たが、どうやら味方諸とも仕留めるつもりだ。

 

「ちっ、まだ味方がいるんだぞ!」

 

 直ぐにミサイルを交わす為のフレアをばら撒くが、全てのフレアをばら撒いてもまだ追尾ミサイルは残っている。ここは自力で躱しきるしかない。

 後方を確認するためのサイドミラーやモニターの後方カメラを確認しつつ、キッテルは操縦桿を必死に動かして追尾して来るミサイルを躱す。その際に凄まじい加速度()が身体に掛かるが、身に着けている強化外骨格を兼ね備えた対Gスーツのおかげか、視界が真っ赤になるレッドアウトや気を失うブラックアウトは起きていない。

 フレアでも躱しきれないミサイルを躱し続けたニコは、迎撃できるミサイルはマルチコンテナで何発か撃ち落としてから、一時的に機体をガウォーク形態に切り替え、足を前にしてすらスターで急ブレーキを掛けて最後のミサイルを躱した。目標に当たらずに失速したミサイルは、互いに命中して爆発を起こす。

 

「ブエッ…! ヴァルハラでは平気だったが、現世じゃ何度も出来んぞ、こんな荒業」

 

 ミサイルを全て躱したキッテルはバイザーを開いて嘔吐した後、追尾して来る無数のミサイルを回避する方法、ミサイルサーカス*13は現世の自分、それと重力下で何度も試せば命に関わると口にする。死んでいる時だったヴァルハラでは大丈夫であったが、実際、この回避方法は並大抵の人間が行えば、ブラックアウトしかねない物だ。専用の装備か、あるいは身体を強化しなくてはならない。重力下なら特に。

 無数のミサイルを躱したニコに、連邦軍は間髪入れずに仕掛けて来る。キッテルのバルキリーの背後からセイバーフィッシュ戦闘機*14が迫る。

 

『ケツにSAMをぶち込んでやるぜ!』

 

 下品な言葉を吐きながらセイバーフィッシュのパイロットは、戦闘機用の対空ミサイルを放とうとした。

 これにいち早く警告音より早く気付いたキッテルは、空中機動戦闘の一つであるインメルマンターン*15と言う縦Uターンを行い、背後へ回ろうとするセイバーフィッシュを撃ち落としながら、自機の背後を取った敵機の背後へ瞬く間に着いた。

 このインメルマンターンは、第一世界大戦のマックス・インメルマンが世界で最初に行ったことからそう名付けられた。キッテルは生前にこれを何度も行っており、自然に出来るようになるまでに至っていた。敵にもインメルマンターンを行う者も居たが、それを知り尽くしているキッテルは打ち破ることに成功している。

 

『な、何っ!?』

 

「残念だが、生前でもヴァルハラでも何度も食らってるのでな!」

 

 急に後ろを取られて動揺する敵機に対し、キッテルは経験済みであると告げてからガンポッドを撃ち込んで撃墜した。

 

『て、撤退だ! 撤退しろ!!』

 

『退け! これ以上は散り損だ!!』

 

 たかが一機の赤いバルキリーに二個大隊の航空機と三個連隊もの機動兵器を撃破された連邦軍の空戦部隊は、指揮系統をズタズタにされたことや、防衛ラインを守るワルキューレ空軍に大損害を与えられた為に撤退を開始する。航空支援や防空戦力が撤退した所為か、地上の大群も撤退を始めた。

 

「地上は良い判断だな。空から襲われ続ければ、流石に対空装備をもってしても対処しきれんだろう」

 

 敵軍の地上部隊の判断を褒めてから、次の戦いでは、連邦軍は自分にエースを差し向けてくると判断し、キッテルはようやく現世のエースと戦えることを楽しみにしてから基地へと帰投した。

 この戦いでキッテルは、初陣にして八十機の機動兵器と二十機の戦闘機を撃墜し、連邦軍に撃墜王と恐れさせた。もっとも、キッテルが生前のエースパイロットであって、連邦軍の練度が低いだけなのだが、傍から見れば異常な戦果だ。

 そんな彼は、現世のエースを戦えることを楽しみにしつつ、基地への帰路に着いた。

*1
ルーシー連邦の元は大戦中のソビエト連邦。赤軍は人海戦術が主流だった

*2
ワルキューレに政治思考は無い

*3
大西洋連邦の多目的航空機

*4
UNSCの多目的航空機

*5
地球連邦軍の小型MS

*6
別の地球連邦軍のMS

*7
大西洋連邦軍のMS

*8
地球統合軍のパーソナルトルパー、ヒュッケバインMkⅡの量産機

*9
連邦軍は巨大な軍隊で消耗が激しいため、訓練が幾つか短縮されている

*10
キッテルの元ネタがレッドバロン

*11
連邦軍は基本、複数で敵機を攻撃する。

*12
オーブ首長国の可変MS

*13
別名、板野サーカス

*14
地球連邦軍の戦闘機

*15
キッテルの十八番であるが、敵のパイロットもやって来た。



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戦闘爆撃手キッテル

今回は航空支援です。


 ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルことニコは初陣で多大な戦果を挙げ、統合連邦軍の攻勢を打ち破り、撤退へと追い込んだ。

 大規模な戦力を投じて攻勢に出て撤退を余儀なくされた連邦軍は、早急に対策に出る。

 その対策会議は、連邦軍の本土にある総参謀本部*1で行われた。

 

「諸君、対ワルキューレ(ワイルドキャット)*2の一つ、マルコッツ戦線で地上軍第十軍集団の攻勢が打ち破られた。その攻勢を打ち破ったのは、一機の赤いバルキリーだ。この一機が指揮系統を乱し、我が軍は撤退を選んだ」

 

 現場からの報告を受けた総参謀長は、会議に集まった参謀らにキッテルが駆るVF-31Sジークフリードが自軍の攻勢を打ち破った事を知らせる。

 まだ詳細を知らされていない参謀らは、そのバルキリーが反応弾を過剰に使用したのかと問う。

 

「奴らが使う反応弾*3を使用したのでありますか?」

 

「ダインスレイブ*4と言う徹甲弾を使ったのでは?」

 

「あるいは強力なビーム兵器か」

 

 一人の参謀が口を開けば、続々と連邦軍の全戦線の戦略を練る参謀らは次々と自分の考えを口にし始める。そんな参謀らに対し、総参謀長は一切使ってないと言って黙らせる。

 

「いや、現場からはそれらの兵器を使用したと言う報告は無い。映像でも使用していないと言う証拠もある。現場の各部隊長らが、この赤いバルキリーに乗る男、ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルなる男の挑発を受け、連携を無視して寄って集って攻撃したのだ」

 

「そして返り討ちにされたと? 現場の独断じゃありませんか。自業自得ですよ」

 

 原因はキッテルの挑発と、それに乗った現場の各部隊長に原因だと言えば、一人の若い参謀は自業自得と告げる。

 だが、一人の参謀はこれに異論を唱える。これだけの数で攻めて、指揮系統も関係なしに倒せる確率が高いのに、何故やられたのかと。

 

「失礼ながらこれはありえません。いくら相手が高性能機とは言え、これほどの数を相手に返り討ちにするなんて。指揮系統を乱されても、倒せる確率が高いです。何かの能力者である可能性が…」

 

「我々はそれを考えるために集まっているのだ。さて、諸君。何かアイデアは無いかな?」

 

 その参謀の考えに対し、総参謀長は今はそれを考えているのだと答え、全員にアイデアを問う。

 参謀たちは数秒間ほど考えたが、いいアイデアは思い浮かばない。何か思い出すために、キッテルが連邦軍に対して告げた宣言の録音を聞く。

 

「奴のお望み通り、エースを差し向けて見れば? あのレッドバロン擬き*5はエースとの対決がお望みです。あの戦線にはエースは居ませんでした。我が軍のエースなら、奴を撃墜できるはずです」

 

 それを三十秒間ほど聞いた参謀たちの一人が、キッテルのご所望通りにエースをぶつければ良いと提言する。

 この参謀の提案を総参謀長は指を鳴らし、どのエースをぶつけるかを問う。

 

「なるほど、レッドバロン擬きにはご所望通りにエースをぶつけるか。良い判断だ、消耗品レベルのパイロットでは、ただやられるだけだ。でっ、人選はどうする?」

 

「人選ですか。もしもに備え、こちらにリストを纏めておきました。一戦で五機程度の撃墜した者から、百機以上の者までを」

 

 エースをぶつけると言う提案した参謀が、人選を問い掛けて来る総参謀長にそのリストをまとめたタブレットを手渡した。

 これを受け取った総参謀長はタブレットに記載されているエースのリストを見て、まだ実力の分からないキッテルに、十分な相手となるエースを選出する。それが終わればタブレットを渡して来た参謀に返し、選んだエースをキッテルにぶつけるように指示を出す。

 

「ブラックグリフィンの異名を持つジェンソン・パーキンス、一度の戦闘で撃墜数六機で、総撃墜スコアは二十数機。彼なら十分だろう」

 

「はっ!」

 

 この指示に参謀らは席を立って敬礼を行い、会議室を退室した。

 

 

 

 一方で空軍基地へと帰投したニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルことニコは、自分の機体であるVF-31Sジークフリートに、戦闘爆撃機用のパックを整備兵等に換装させていた。

 元々この戦闘爆撃機用のパックはワルキューレで開発された物であり、前機体であるVF-25メサイアのも作られている。既存のオプションパックを単に爆弾などの対地用の装備を付けて改造しただけである。このパックを装備したVF-25やVF-31は、航空支援において多大な戦果を挙げている。

 そんなパックを特権を使って整備兵等に装備させているキッテルは、前回の戦闘に参加していたパイロット達に、政治に関する講義を行う。

 

「連邦軍、その軍隊を有する統合連邦政府は民主主義を唱えながら、実際は軍国主義であり…」

 

 キッテルが居る天幕に講義のために集まった男女を含める若いパイロット達であったが、その大半はつまらな過ぎたのか、寝ている者が居り、真剣に聞いているのは極少数であった。

 寝息を聞いたキッテルは、直ぐに居眠りしているパイロットに向け、政治の抗議の必要性を説く。

 

「お前たちはただ命令通りに飛んでいればいいと思っているようだが、敵国の主義主張を理解せねば、その戦略性は掴めんぞ。それに文化の理解も必要だ、こちらでは好意的な行動でも、向こうからすれば無礼になる可能性もある。そこを良くしなければ、こちらに思わぬ被害をもたらす事がある。良く聞いておくんだ」

 

 そう論するキッテルであるが、一人の女性パイロットが立ち上がり、この講義は自分たちには必要ないと告げる。

 

「あの、熱心にやられてるとこ、感激しますけど。私たち、そう言うの必要ないんで。てか、飛べて戦えるなら何だって良いでしょ。貴方もそう思いませんか?」

 

 政治の抗議にうんざりしていた彼女の言葉に、講義に参加したパイロット達は無言で頷いた。

 同じ空を飛ぶ者としてのキッテルも、彼女の言葉に納得せずにいられない。生前も空を飛びたくなって、何度も上官*6に叱られたことか。だが、それは自分の事を案じての事であり、その気持ちは分かる。

 自分の身を案ずる者達の気持ちの事を、否定した女性パイロットに向けて告げる。

 

「確かに、私もかつてはそうだった。だが、後年になって恋人と婚約を結んだ際、彼らやフォン・エップ元帥殿が飛ぶことを止めるのは、英雄の戦死で友軍の士気が下がるのを恐れての事では無く、自分の身を案じてのことであった。お嬢さん(フロイライン)、君にも恋人が居れば、その恋人はおそらく君が飛ぶことを止めるだろう」

 

 そのキッテルの発言で、政治に関する講義を全否定した女性パイロットは何も言い返せず、図星であったのか、顔を赤らめ、慌てて席に座った。それと同時に、出撃待機命令を知らせるアナウンスが基地内に響き渡る。

 

『全パイロットに告げる。作戦一時間前、作戦に参加するパイロットは、出撃待機せよ。繰り返す、作戦に参加するパイロットは出撃待機せよ』

 

「では、講義を終了する。もう一度、やる事は無いが、それに関する本は朗読しておくように。それと、感化されるなよ? この手の本には、常に客観的な意識を持って読むように。それでは、解散」

 

 アナウンスの後、ニコは政治に関連の本は客観的な意識を持って読み、感化されないように注意してから講義を終了させた。

 それから少しの運動を行い、自機のコクピットに乗り込み、そこで戦闘爆撃機仕様のマニュアルを読みながら出撃まで待機する。

 既に機体の換装は終わっており、出撃して安全装置を解除し、地上の敵へ撃つだけだ。

 両翼に搭載されているのは、九連装ポッド型対地ロケット弾六基である。一度でもトリガーを引けば、凄まじい連射力*7で飛んで行く。火力は連邦軍で一番装甲の厚いMSやパーソナルトルーパーを撃破できる。

 VF-31系統は胴体には500ポンド級無誘導爆弾が搭載されている。威力は原子力空母一隻を撃沈寸前まで追い込めるほどであるが、その所為か機体はファイター形態に固定され、変形するには二つとも投下するか、途中で棄てなければならない。

 空いている背部には、地上掃射用のミニガン二基が搭載されている。ガウォーク形態は変形可能だが、バトロイド形態に変形するには、解除する他ないのだ。

 これらの爆撃仕様の所為で機動力は大幅に低下しており、空戦力も低下してしまっている。多数の敵機に襲われてでもしたら、一溜りも無いだろうが、パックを全て解除(パージ)してしまえば、問題は無く空戦は可能だ。

 尚、このパックを装備しているバルキリーはキッテルのVF-31Sと、反撃の為に呼び出された航空支援を専門とする第1地上襲撃航空団所属*8の第129地上駆逐戦隊*9、通称「缶切り隊」が装備しているVF-25メサイアファミリーしか無い。

 缶切り隊は、この航空戦隊が攻撃した敵軍の戦車を初めとした戦闘車両の砲塔が吹き飛んだことに由来する。前は戦闘爆撃機や攻撃機を使っていたが、戦闘機に襲われるなどして被害が拡大した為、迎撃機能を持たせるために装備を全てバルキリーのVF-25にした所、戦果を前の比にならない程に上げ、それ以降、部隊は爆装パックを装備したVF-25になっている。

 

「ほぅ、あれが缶切り隊か。中々の装備だな」

 

 出撃開始三分前となり、滑走路に機体を進める中、爆装パックのVF-25が編隊を組んで上空を飛来したのを見たキッテルは呟いた後、キャノピーを閉めて出撃を開始する。

 管制官から出撃の許可を得れば、直ぐに出撃して二度目となる空を飛んだ。缶切り隊の実力を図るために後方に着き、護衛の戦闘機隊共々そのまま前線へと向かった。

 

 

 

 前線に辿り着けば、既に陸軍の砲撃が連邦軍の防衛拠点に向けて開始され、更に穴が多くなっている。連邦軍は塹壕を掘っていない所為か、防衛設備だけ設置している守備隊は被害を拡大させていた。

 大きな機動兵器は諸に被害を受けており、まだ矢が飛び道具だった時代の兵士たちのように、手にしている盾で砲撃を必死防いでいた。その光景は、遠目の方に居るキッテルにも見えている。

 

「まるで中世の戦いの様だな。さて、缶切り隊の実力、どれほどの物か」

 

 それを中世の兵士たちと表した後、前方のVF-25編隊の缶切り隊の実力を見定める。

 連邦軍は防空部隊を展開していたのか、まだキッテルが見ていないジェットストライカーを付けたウィンダムが*10、同じストライカーを付けたダガーL、バリエント、ジェムズガンと共にワルキューレ空軍の空戦部隊に接近して来る。

 直ぐにバルキリーのVF-2JAイカロス*11で編成された護衛戦闘機部隊が迎撃行動に入り、交戦状態となる。

 バルキリーの性能とパイロットの技量も相まってか、連邦軍機は次々と墜落していく。地上からの対空砲火を躱す為か、第二防衛ラインを務めるVF-2JAやVF-31Aカイロスはデコイのミサイルを前方に向けて発射した。

 ミサイルは敵機に当たることなく、連邦軍の防空圏内に入ると自動的に爆発し、地上の対空部隊が発射した地対空ミサイルは全てそこに向かって飛んで行く。フレアの役割を果たしているようだ。

 地上の脅威がなくなった所で、缶切り隊は砲撃を生き延びた地上の敵部隊に襲い掛かる。

 

「なるほど、名前の通りか」

 

 地上攻撃を始めた缶切り隊を見ていたキッテルは、その名の通りの活躍をしたことに感心の声を上げる。

 缶切り隊が攻撃した敵装甲車両は次々と爆発して行き、撃破された爆発した戦車の砲塔は宙を舞う。名前の通り、ロケット弾と言う缶切りで砲塔と言う蓋を開けて見せた。

 人型の機動兵器も同様に潰されていき、連邦軍の陣地はスクラップ場と惨たらしい焼死体置き場と化す。

 一瞬にして防衛陣地をズタズタにした缶切り隊は全ての兵装を撃ち尽くしたのか、司令部に向けて補給のために帰投すると無線連絡を行う。

 

『こちらヘンシェルリーダーからコントロール、全機全ての兵装を撃ち尽くした。補給のために一時帰投する。オーバー』

 

『こちらコントロール、了解した。獲物はまだ残っている。アウト』

 

「獲物は残ってないと思うがな」

 

 缶切り隊が残らず基地へ帰投する中、キッテルは撃ち漏らした敵を平らげるべく襲い掛かる。

 最初は次の防衛ラインへ撤退しようとする敵に向け、ミニガンによる地上掃射を行う。

 一度トリガーを引けば、何百発ものライフル弾が一斉に標的に向けて発射され、その弾丸の雨を浴びた敵兵は一瞬にして肉塊と化す。装甲の無い車両は爆散する。

 

「相変わらず凄いな…! パイロットになって良かったと思う」

 

 キャノピー越しから一瞬だけ見えた敵兵の無残の死体を見たキッテルは、航空機のパイロットになって良かったと安堵する。

 それもそのはず、上空からミニガンを掃射され、身体を弾丸で引き裂かれるなんて目には遭いたくない。痛みも感じることなく死ねるだろうが、遺族に見分けがつかない程の死体になるのは、いくら覚悟が出来ているキッテルでもなりたくないのだ。

 一度の地上掃射をするだけで、ミニガンの弾丸は切れてしまった。あの連射力からして、既に二基合わせて八千発もの大口径機関砲弾*12を撃ち尽してしまったのだ。

 直ぐにキッテルはミニガンを解除するボタンを押し、ミニガンを機体から外した。そこからは敵の攻撃が届かない上空で滞空し、両翼に搭載されているロケット弾の獲物を探す。

 この間に地上部隊は敵防衛隊と会敵して、地上戦が開始された。敵は圧倒的な物量を誇る連邦軍であり、まだ十分に獲物が沢山残っている。補給を終えた缶切り隊も戻って来て、再び虐殺染みた攻撃が再開された。

 

「ん?」

 

 上空から良い獲物を探す中、キッテルのバルキリーに何者かが無線連絡を掛けて来た。おそらく地上の部隊だろうと思い、キッテルはその要請に応じる。

 

「こちらクロウ〇一、何者だ?」

 

『こちらレベッカ2-1指揮官、近接航空支援要請! 今からマーカーに記した標的に爆撃を! オーバー!』

 

「了解した。直ちに標的を示せ。こちらはウズウズしている」

 

 予想通り、地上部隊からの要請であった。直ぐにキッテルは応じて、標的をマーカーで示すように告げる。

 

『マーカーセット!』

 

「あのビルか。まるで要塞だな。了解した、ヘルメットをしっかりと被っておけ!*13 瓦礫が飛んでくるぞ!」

 

 マーカーで示された標的は、要塞と化した高層ビルであった。窓から何十発ものロケット弾やミサイルが発射され、瓦礫と化した街へ進軍するワルキューレ陸軍を妨害している。

 そんな要塞を爆撃すべく、キッテルはマーカーで示された標的の上方へと向けて飛んで行く。

 攻撃ヘリの類がキッテルを撃墜しようと試みるが、彼は容易にそれらの攻撃を躱し、ビルの上方を取れば、直ぐに腹に抱えている500ポンド級の爆弾二つを投下した。

 投下された爆弾はビルへと落ちて行き、中央に尖端が落ちれば爆発する。

 威力はマニュアルで見た通り、原子力空母を撃沈寸前にまでするほどであり、そんな爆弾を落とされたビルは倒壊し始める。爆風はビルから50mは飛んでいるニコのバルキリーにも届いて思わず失速しそうになるが、何とか持ち直した。

 

「二発なら確実に原子力空母は沈められるな…!」

 

 その威力を身で知ったキッテルは、倒壊していく高層ビルを見て呟く。

 

『こちらレベッカ2-1指揮官、敵要塞沈黙を確認! 要請に感謝する!』

 

「こちらクロウ〇一、標的をありがとう。引き続き、敵地上戦力の掃討を続ける」

 

 標的をくれたレベッカ2-1指揮官に感謝した後、キッテルは得物探しを続けた。

 たまに来る軽戦闘機や戦闘ヘリを落とす中、地上の側面を担当する部隊から、念願の航空支援要請がキッテルに来る。

 

『こちらタイガー、十時方向から連邦軍の増援部隊を確認! かなりの数だ! 航空支援を要請する! 缶切り隊か戦闘爆撃機は残ってないか!?』

 

「こちらクロウ〇一、自分が残っている! 不十分か?」

 

『クロウ〇一?*14 まぁ、とにかく要請する。既にマークしている。缶切り隊が来るまで出来るだけ掃討してくれ。オーバー』

 

「了解した、直ちに航空支援を行う。アウト。ロケット弾は一発も使ってないから残っているな。まぁ、十分に出来るな」

 

 自分が居ると答えれば、側面の部隊は不十分だと判断された。

 この指揮官を驚かせようと思い、全く撃つ機会が無かったロケット弾を使用する機会だと思い、キッテルは直ぐに現場へと急行する。

 

「本当に凄い数だな。それに防空部隊や制空部隊も居ない。レストランのバイキングみたいだ」

 

 現場へと急行したニコは、敵機甲部隊の数は異常ではあるが、防空部隊や制空権を守る航空機や機動兵器が見えなかったので、これをレストランのバイキングに例える。

 つまり取りたい放題で食べ放題と言うことだ。だが、ロケット弾を全弾使っても、地上の機甲部隊を殲滅するには足りなさ過ぎる。見るだけでも一個機甲師団規模はあるのだ。残りは缶切り隊に譲るしかない。

 

「悔しいが、私の腹では平らげられないな、あの数は。だが、出来るだけ食べてやる」

 

 流石に全て平らげることは出来ないと呟くキッテルは、出来る限り敵を攻撃すべく、地上の敵機甲部隊に襲い掛かった。

 彼らのレーダーに入るなり、凄まじいビームによる対空射撃が行われるが、キッテルは見えている様にその雨を躱し、両翼の九連装ロケットポッドを一気に地上へ向けて掃射する。

 ポッド後方から排出ガスが噴き出す中、発射された五十四発のロケット弾は地上に居る敵機甲部隊を吹き飛ばした。余りの爆風の凄さに、敵機甲師団は半数の戦力を失う。前衛の機動兵器部隊は、バラバラの惨殺死体のような状態だ。

 中々の威力であり、生前の世界で、天才発明家の弟に作って貰えれば良かったとキッテルは呟く。

 

「ハハハ! 凄いぞ! 前の戦争の時に、エルマーに頼めば良かったな!」

 

 単機で三個旅団近くの機甲戦力を粉砕したキッテルは、爽快感に駆られて思わず興奮してしまう。

 興奮する彼のバルキリーの左右より、缶切り隊とは別の攻撃機部隊が現れ、残っている敵機甲師団の掃討を始める。

 

「さて、もう残っている兵装は、元々ある物だけだな」

 

 爆装を全て使い果たしたキッテルは、それらを一気に解除するボタンを押して機体を身軽にすれば、基地へと帰投しようとする。もうこちらが勝ったも同然であるが、既に連邦軍は刺客を差し向けており、その知らせはニコのVF-31Sにも届く。

 

『こちらコントロール! 戦闘に参加している全機に通達! 敵の新手だ! 一個軍団が降下してきた模様! エース部隊と思われる! 各機警戒せよ! 繰り返す!』

 

「…エースだと!? 要望に応じてくれたか!」

 

 この作戦本部からの無線連絡に、キッテルは連邦軍が早々と要請に応じてくれたことを感謝した。

 何所から来るかとレーダーとキャノピーを見ながら確認すれば、バルキリーに似た敵機がキッテルの機体に向かって来る。

 その機体には、黒いグリフィンのノーズアートが施されており、キッテルのVF-31Sジークフリートを見るなり、胴体に搭載されているガンポッドを撃って来た。

*1
正式名称は統合作戦本部

*2
連邦軍のワルキューレに対する蔑称

*3
バルキリーが誕生した世界における核に変わる大量破壊兵器

*4
エイハブリアクターで動くMSが誕生した世界の大量破壊兵器

*5
新しい敬称が出るまでのキッテルの蔑称

*6
フォン・エップの気苦労は絶えなかった

*7
水冷式機関銃並とされる。

*8
ドイツ空軍の第2地上襲撃航空団が元ネタ

*9
Hs129が元ネタ

*10
大西洋連邦のMS。高性能機であるはずだが。

*11
VF-31より高性能な筈だが。

*12
三〇ミリで、軽装甲車両程度なら倒せる

*13
軍隊のヘルメットは防弾では無く、破片から頭を守る物である。

*14
陸軍ではキッテルの名は余り知られていない。噂程度である。




オリジナル設定。

爆装パック。
可変戦闘機、通称バルキリー専用の作者オリジナルパック。
名前の通りバルキリーに爆装を施すパックで、空間戦闘用のスーパーパックと似たような物。
爆弾やら対地ロケット弾、あるいはミサイルを搭載したパックを付けるので、このパックを装備したバルキリーは重量の所為で機動力が低下する。
更に搭載量を増やすと、ファイター形態に固定される。バトロイド形態しか装備できないアーマードパックと同じになる。今までのパックと同じく任意で解除することが可能。
VF-25メサイアと、VF-31Aイカロスとジークフリート用がある。
無論、ファイター形態に固定されたり、バトロイド形態になれなかったりする。

第129地上駆逐戦隊 通称缶切り隊
ワルキューレ空軍の第1地上襲撃航空団に属する航空部隊。
主な装備はVF-25メサイアであり、その全てが爆装パックが施されている。
名前は大戦中のドイツ軍に存在した地上攻撃機Hs129から取った。

ワイルドキャット
連邦軍がワルキューレに対する蔑称。
ワルキューレの構成員の殆どが女性であることや、連邦軍に多大な損害を与えるために、性悪女(ワイルドキャット)と呼んだ。
復讐異世界旅行記でも、連邦軍がワルキューレに対してそう呼んでいる。

ジェンソン・パーキンス
ブラックグリフィンの異名を持つ連邦軍のエースパイロット。
機体に、黒いグリフィンのノーズアートを施しているからそう呼ばれている。撃墜スコアは二十八機。

VH-7
連邦軍が鹵獲したバルキリーを真似て作った連邦製可変戦闘機。
オリジナルとは違って、ロボット形態と戦闘機形態しかなれない。機体は大きく、ロボット形態は18mと大型機。
VHとは、バルキリー・ハウンドの略称であるが、逆に本家に狩られまくっている。
7は最新鋭機であり、それまでは面白いように撃ち落とされていたが、ようやく7番目でVF-27ルシファー以上の戦闘力を有した。
ジェイソン・パーキンスが乗っているのがこのVH-7。

次回はエース対決です。


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ブラックグリフィンVSキッテル

今回は対エース線です。


「っ!?」

 

 突如となくやって来た連邦軍の見慣れぬ戦闘機からの攻撃に、ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルは直ぐに操縦桿を動かして回避行動を取って機銃掃射を躱した。直ぐに機体を立て直せば、自機を攻撃して来た敵機からの無線連絡が入る。

 

『よう、お前がニコチン・キッチンか?*1 俺は上層部からお前をぶっ殺せと命じられて殺しに来たジェンソン・パーキンス中尉だ。以降はブラックグリフィンと呼んでくれ』

 

 自分を怒らせるためか、わざと名前を間違えて挑発して来るジェンソンに対し、キッテルは安い挑発に乗らず、自分の名前を訂正して伝える。

 

「初めまして、ブラックグリフィン。それと私はニコチンでもキッチンでも無い。ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルだ。まぁ、私との勝負を受けたことには感謝するが」

 

 そんな無礼なジェンソンに正しい名前を伝えた後、キッテルは勝負を承諾してくれたことに感謝する。だが、相手は詫びることもなく挑発的な言葉を続ける。

 

『はっ! テメェの名前なんざどうでもいいんだよ! 何故ならこの俺が撃墜してやるからな! 何の英霊か知らねぇが、テメェを撃墜して大尉に昇進して、さらに名を挙げてやるぜ!』

 

「その意気込みは良し。だが、そう簡単にやられてやるわけにはいかんな!」

 

 更に挑発を続けたジェンソンは、自身が駆るMig-29戦闘機に似たVH-7*2は攻撃を再開した。

 凄まじい連射力を誇るガンポッドの掃射を躱しつつ、機体背部のウェポンコンテナのビームガンポッドで反撃するが、敵はエースであり、その攻撃を躱して倍返しをしてくる。

 無論、キッテルはそれを避け、機体をガウォーク形態に変形させ、躱しながらの両腕の内臓ミニガンで反撃に移る。

 

『どうした、ミサイルは弾切れか? 乱れ撃てなくて残念だな!』

 

 攻撃を避けながらも、ジェンソンは挑発を続ける。

 今のVF-31Sジークフリートは完全な状態では無い。現状の最大が火力がウェポンコンテナのビームガンポッドのみと言うノーマル状態なのだ。

 敵機の両翼を見れば、ミサイルを搭載している。狙われれば厄介な事この上ないので、直ぐに機体をファイター形態へ変形させ、ドックファイトに持ち込もうとする。

 VF-31Sジークフリートは、VF-25メサイアと同じく純正のフォールドクォーツを使用している。それもキッテルが乗るためにワルキューレがオリジナルと同じ物を用意したので、あっと言う間にジェンソンのVH-7の背後に取った。

 

「後ろを取ったぞ! 機体性能の限界を…!」

 

『馬鹿が! こっちも可変戦闘機なんだよ!!』

 

「何っ!?」

 

 背後を取ったと思ったが、VH-7が可変戦闘機であり、ロボットことバトロイド形態に変形する。その大きさは通常の機動兵器と同じく18mであり、両手にガンポッドを持てば、直ぐに掃射して来る。

 毎分二千発もの機関砲弾を、キッテルは持ち前と言うか、ヴァルハラから帰って来た影響で強化された反射神経で避け、機体を苦手なバトロイド形態へ変形させてビームガンポッドを手に持って撃つ。流石にこの人間離れした避け方に、ジェンソンは驚愕の声を上げる。

 

『なっ!? ニュータイプかお前!*3

 

「ニュータイプ? 私は新人類では無い!」

 

 驚きの声を上げながらも、回避行動を取るジェンソンをキッテルは動じることなく追撃を加え、敵機がファイター形態に変形して逃げれば、追撃の為に自機もファイター形態に変形させる。

 凄まじい速度のドックファイトだ。逃げているのはジェンソンであり、ニコが追撃側である。内蔵ミニガンを撃つが、VH-7は大型機にも関わらず、以外にも機動力が高かった。パイロットの技量の事もあるが、並の連邦のパイロットなら、ここまでキッテルを手こずらせてはいない。

 

「しぶといな。流石は大口を叩くだけの事はある!」

 

 ジェンソンのしぶとさに、流石のキッテルでも、口が汚くて無礼な彼をエースであると認めざる負えなかった。

 そんなジェンソンの助け舟と言うか、邪魔物が入って来る。同型機のVH-7一個中隊が、*4キッテルのVF-31Sに向かって来る。

 

『なっ!? 邪魔をするな!』

 

『お前にだけ手柄を取らせるか! 奴は我が中隊の獲物だ!』

 

 邪魔に入った中隊とジェンソンの口論が無線機から聞こえる中、キッテルのバルキリーにミサイルが複数の飛んでくる。

 

「クッ、エースだけじゃないのか!?」

 

 最低限のフレアを使いつつ、キッテルはミサイルを躱し、照準に入った敵機を逃すことなく撃ち落とす。

 VF-31Sが放ったビームガンポッドを受けたVH-7がバラバラになりながら墜落していく中、ジェンソンに背後を回られてミサイルが発射される。

 

『邪魔が入ったが、ケツにミサイルをぶち込んでやるぜ!』

 

「下品な!」

 

 ありとあらゆる方向からミサイルが飛んでくる中、背後からジェンソンのミサイルが飛んできたので、そこにフレアを撒いて躱したが、敵のエースはそれを読んでおり、躱した方向へ向けてミサイルを撃ち込んで来る。

 

「クッ!」

 

 自機に向かって来るミサイルに、キッテルは機体をガウォーク形態にして急ブレーキを掛け、急激なGに耐えながら真下から仕掛けて来る敵機を撃破する。

 手柄を横取りするために邪魔をしてきた中隊だが、ニコの技量の前に損害を拡大させる。既に五機以上がキッテル一人に落とされており、中隊のパイロットは退いた方が良いと中隊長に告げる。

 

『ちゅ、中隊長! 我が中隊の損耗率が!』

 

『ちっ! やもえん! 撤退する!!』

 

『お呼びじゃねぇんだよ! まぁ、感謝するがな!』

 

 これに中隊長が撤退を選べば、VH-7の中隊は撤退した。

 邪魔が居なくなったところで、ジェンソンは撤退する味方に感謝しつつ、再びキッテルを攻撃する。また執拗に追い回してくるジェンソンにキッテルは操縦桿を巧みに動かして躱し、反撃の隙が生じれば、逃さずに行う。

 金魚のフンの如くしつこく背後を追って来るジェンソンに、キッテルはインメルマンターンを行おうとしたが、対策をしていたのか、操縦桿を上方に向けた瞬間にガンポッドの掃射が来る。

 

「ちっ!」

 

『インメルマンターンってか? やらせるかっての!』

 

 自身の必殺技とも言えるインメルマンターンを封じられたキッテルが舌打ちする中、煽るように背後から追撃して来るジェンソンの煽りが無線機から聞こえて来る。

 このまま決着が着か膠着状態が十五分も続けば、逃げ回っては予期できぬ反撃してくるキッテルに対し、ジェイソンは疲弊しきっていた。

 

『クソッ! あいつももう限界な筈だろ…!?』*5

 

 ジェンソンは額に汗を浸らせ、疲労で呼吸を乱しているが、相手はそれを物とも動き回っている。この時のジェンソンは、疲労で判断が鈍っており、一時間以上はキッテルとドックファイトを繰り広げていると思っている。当のキッテルは十五分以上もジェンソンとドックファイトを繰り広げていると分かっていて、残弾とエネルギーの残量で早急に決着をつけねばならぬと判断する。

 

「そろそろ限界だな。だが、先に動けば負ける。ここは我慢比べだ!」

 

 生前に戦闘爆撃に乗っていた時に撃ち落とされ、共に乗っていた機関銃手を担いで味方陣地に戻った経験のあるキッテルは決着をつける必要があると言ったが、先に動けば負けると思い、ジェンソンとの我慢比べを行う。

 

『そっちがその気なら、ぶっ殺してやるぜ!!』

 

 相手も残弾が心持たないのか、先に動いたのは、連邦製バルキリーであるVH-7に乗るジェンソンであった。

 残っているミサイルを全てキッテルのVF-31Sに撃ち込み、躱そうと残りのフレアを撒き始める敵機の動きを予想し、そこへガンポッドを撃ち込んだ。

 

「うぉ!? なら、肉を切らせて骨を断つ!」

 

 流石のキッテルも被弾したが、肉を切らせて骨を断つ戦法を取る。

 それはその名の如く、敵に撃たれながら敵に打撃を与える危険な技だ。キッテルは躊躇せずに実行し、機体をバトロイド形態に変形させ、敵機のガンポッドをピンポイントバリアで防ぎながらジェンソンのVH-7に近付く。

 

『正気か!?』

 

「うぉぉぉ!!」

 

 これに驚いたジェンソンは機体をロボット形態に変形させ、コクピット部分がある胴体に照準を向けたが、キッテルはスラスターを吹かせて一気に近付き、両腕に内蔵されたアサルトナイフを取り出し、両手に持って敵機に突き刺そうとする。

 

『うわぁ!?』

 

 相手の予想外の動きにジェンソンの対処は間に合わず、胴体にナイフを突き刺されて機体は機能を停止する。

 

『畜生! 貴族があんな攻撃をするのか!? 冗談じゃねぇぜ!』

 

 貴族とは思えぬ攻撃に出たキッテルに、ジェンソンは悪態を付きつつ脱出装置を作動させるレバーを引いて壊れ行くVH-8から脱出した。

 当の自分らしからぬ攻撃に出た彼は敵機に突き刺したナイフを引き抜き、それを両腕の収納スペースに戻せば、機体をガウォーク形態にして脱出するジェンソンを見る。

 照準を向けていたが、キッテルは全ての兵装に残弾がない事に気付き、キャノピー越しからジェンソンに向けて、再戦を期待すると敬礼しながら告げる。

 

「ありがとう。楽しませてもらったよ。貴官との再戦を期待する」

 

 だが、相手は聞こえていなかったのか、味方に回収された際にジェンソンが行った返答は侮辱的な物であった。

 味方のウィンダムに回収された彼は、キッテルのVF-31Sに向けて中指を立てたのだ。*6かなり苛立っているとは言え、これは侮辱である。だが、キッテルは激昂せず、この返答を再戦への物として捉える。

 

「ふっ、その意気だ。では、基地に帰投するか。戦況はこちらが有利だしな」

 

 ジェンソンことブラックグリフィンとの再戦を期待しつつ、キッテルは戦況を見て、こちら側が有利と判断して基地へと帰投した。

 彼の見た通り増援として現れた連邦軍の軍団はワルキューレ空軍を前にして損害を拡大しつつあり、撤退する始末である。

 やがてキッテルが戦場を離れた頃にはこの地区での戦闘は完全に終了し、ワルキューレの勝利に終わった。

 

 

 

 戦闘終了後、統合連邦の首都にある統合参謀本部にて、戦果結果を聞いた参謀らは、自分等が予想していた敗北となったことで、新しい刺客の選別の為の会議をしていた。

 

「私がはじき出した勝率五十パーセントがパアになりました。正直、勝てると思いましたが…」

 

「パーキンス中尉はまだエースになって日が浅い。最初から熟練のパイロットを差し向ければ良かったのだ」

 

「でっ、次は誰にする? 三十機か四十機の撃墜数の奴以外で。五十機からが望ましい」

 

「ゴゾン大尉ならどうだ? 彼の撃墜数は五十九機、あのレッドバロン擬きにはこれしかない」

 

 ジェンソンが倒された報告を聞き、会議室で参謀らがキッテルに差し向ける刺客を誰にするか白熱する中、総参謀長は連邦軍の頭脳らに新しい選択肢を与える。

 

「諸君、何も我が軍のエースで奴の撃墜に拘る必要はないだろう。そこで外人部隊、即ち傭兵パイロットを差し向けてはどうかな?」

 

 この提案に何名かの参謀は難色を示し、何名かが反対の意見を述べる。

 

「総参謀長、それは駄目です。惑星同盟に何を言われるか…!」

 

「自分も同意見です。我が軍のパイロットが撃墜したことにしても、同盟軍はこのプロパガンダを見抜き、連邦は嘘吐きの弱虫集団と宣伝するでしょう」

 

「正規軍としての威厳を示すべきです」

 

 総参謀長らの提案に大多数の参謀らが反対する中、彼は傭兵のパイロット達のリストを参謀らの端末に送る。

 

「君たちの意見は良く分かる。私も出来れば正規軍のパイロットでやりたい。だが、戦線が拡大し、前線の司令官は引き抜きに難色を示す。パーキンス中尉を引っ張り出すだけでも、相当な苦労をした。これを見て、何か考えが変われば良いが」

 

 次々と出る否定的な意見に総参謀長は納得しつつも、各戦線の司令官たちがエースパイロットの引き抜きに難色を示すので、直ぐに呼び出せる傭兵こそが手軽であると告げる。

 送られて来た傭兵パイロットのリストを見た参謀らは、誰がキッテルに敵うかどうかのパイロットを選び始める。

 

「総参謀長がそこまで言うなら、私も頭を捻りましょう。これが、私の出したキッテル対策の人選です」

 

 一人の参謀が総参謀長の考えを理解すれば、彼は自分で選んだ人選のデータを、会議室に居る全員が見れる位置にある画面に送る。

 そこに映し出されていたのは、問題児やら卑劣漢、虐殺に略奪などをした傭兵パイロットの名簿であり、このデータを見た参謀らは驚きの声を上げる。

 

「うーむ、皆、中々の卑劣漢だ。特に民間機を盾にして撃墜した奴も居るとは…! 人喰い虎のチョムまで居るぞ」

 

「冷酷で残忍な奴ばかりだな。貴族である彼に失礼ではないか?」

 

 総参謀長がこのような残忍な傭兵らを差し向けるのは、貴族であるニコに失礼ではないかと、人選を図った参謀に問う。

 

「ですが、これくらいやらなければ、奴を撃墜できないでしょう」

 

 総参謀長からの問いに対し、これくらいの者では無いとキッテルは倒せないと返答する。

 これに総参謀長は同意したのか、直ぐに彼が選んだ傭兵を集めるように指示を出す。

 

「良かろう、次なる刺客は傭兵だ。さっそく彼らを呼び出してくれたまえ。ギャラの交渉は忘れるなよ? ふんだくられては困るからな」

 

 キッテルに対する次なる刺客は傭兵と総参謀長が決めれば、会議は解散した。

*1
長い名前であるため、無礼なパイロット達はキッテルをそう呼ぶ。

*2
VHは連邦製のバルキリー、7は七番目の正式採用機。

*3
新人類と言うが、連邦ではエスパー染みたパイロットの事を言う。

*4
十二機編成

*5
ジェンソンは一撃離脱戦法を得意としている。キッテルほど長時間も飛んだ経験は無い。

*6
欧州においてこのジェスチャーは侮辱的な行為。男性器を彷彿とさせ、俺のを舐めろと言う意味らしい?




次回は惑星同盟軍と戦わせたい所ですが、傭兵やら民間機盾にする奴とかと戦わせたいな…。


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キッテル、宇宙へ

タイトル通りっす。

それと機体を乗り換えます。


「畜生! クソッタレが! ボンボンが無茶苦茶な攻撃をしやがって!!」

 

 統合連邦宇宙軍所属の航空母艦の艦内にて、自分のロッカーへ向けて八つ当たりを行うジェンソン・パーキンスの姿があった。

 

「おいおい、そう怒るなよ。奴は百機撃墜クラスのモンスターパイロットレベルだ。三十機も行ってねぇお前が敵う相手じゃねぇって。あれは必然だったんだよ」

 

「うるせぇ! 十機も行ってねぇ雑魚は黙ってろ!」

 

 他のパイロット達はなだめに入ろうとするが、彼の振るわれる拳で吹き飛ばされる。

 殴られたパイロットは十機も撃墜に至ってないことをジェンソンに言われたのか、殴り返そうとする。

 

「野郎! 腕が良いからって調子に乗りやがって!」*1

 

 慰めてやってるのに八つ当たりで殴りつけたジェンソンに、パイロット達は気に入らなかったのか、殴り返し始める。

 多勢に無勢だ。腕が良いからって自分等を見下すジェンソンに、パイロット達は堪っていた怒りを彼にぶつけた。彼らは懲らしめるつもりでやっているが、傍から見ればリンチである。

 数分も経てば、ボコボコにされたジェイソンが、ロッカーの前に横たわっていた。

 最初に殴られたパイロットは、床に唾を吐き捨ててから仲間たちと共に更衣室を後にする。

 

「ぺっ! 慰めてやってんのによ。まっ、良い気味だぜ」

 

「…畜生! 畜生…!」

 

 味方のパイロット達の恨みを買い、リンチにされたジェンソンは、無残にも涙ながらニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルに負けたことを悔しがる。

 自分は十分にエースのはずだ。それもこの雑魚とも言える他のパイロット達のナンバーワンだと思っていた。奴は自分等とは違う次元のパイロットなのか?

 床に這いつくばりながら、ジェンソンは引き千切られてそこらに捨てられたパイロットの証であるワッペンを強く握り締め、キッテルとの再戦を強く望んだ。

 

 

 

 連邦軍の若き期待のエースが恥辱に塗れる中、生き返った英雄であるニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルことニコは、宇宙に上がるための肉体訓練を受けていた。

 いきなり無重力の世界である宇宙に上がれば、流石のキッテルでも身体がおかしくなってしまう。身体を宇宙に適応させるため、こうして訓練をしているのだ。*2

 

「生涯、宇宙に上がることなく終えてしまったが、まさか生き返って行けるとは」

 

 生涯は宇宙に行くことなく生涯を終えてしまったキッテルであるが、*3英霊として現世に召喚され、こうして宇宙に行くための訓練をしている。彼にとっては実に奇妙な体験だ。

 数時間にも渡る訓練を終えたキッテルは、次に水中に入って宇宙の疑似体験を行う。水中と宇宙は同じように見えるが、水中は重力があるので、無重力の宇宙とは違ってくるだろう。だが、呼吸ができない点は同じである。

 宇宙服を着て水中に潜り、酸素の量を常に把握することを教官から耳に胼胝ができるくらい注意された。

 その訓練も終われば、キッテルは機体を載せた宇宙用大型輸送艦に乗り込み、指定された座席に座って宇宙へと上がる。

 

「あんた、宇宙(そら)は初めてかい?」*4

 

「あぁ、初めてだ。宇宙はどんな場所なんだ?」

 

「暗闇と無重力が支配する世界さ。まぁ、人間そこに一週間くらい居れば慣れる」

 

 自分の隣の席に座る佐官が喋り掛けて来たので、宇宙がどんな場所かを問えば、彼は自分が経験した感覚を思い出しながら答え、暫く宇宙に居れば慣れるとも答えた。

 これにキッテルは慣れるつもりでいれば、輸送艦が大気圏を突破し、重力から解放されて無重力の世界へと入る。艦内の固定が甘いありとあらゆる物が重力の支配を失い、浮かび始める。

 人の話で聞いた事や、映画でしか見たことが無い光景を生身の目で見たキッテルは、驚きの表情を浮かべる。

 

「おぉ! 本当に浮いたぞ!? 無重力は何度か体験したことがあったが、こんなに長いのは初めてだ!」*5

 

「餓鬼のように燥ぎなさんな、大佐殿。兵が見てる」

 

「済まない」

 

 隣の男に言われ、キッテルは少し黙った。

 それからは窓から人工物やデブリが所々見える宇宙を眺め、作戦地域に着くまで無重力の世界を楽しむ。輸送艦には重力区画があるが、キッテルは無重力を楽しみたいので敢えて行かなかった。

 人生初の宇宙にキッテルは購入した菓子や飲料水を浮かべ、貴族らしくない行儀悪く手を使わずに食べる。この様子は、生前の彼が貴族であると聞かされていた宇宙軍の将校等は驚かせた。

 

「あれ、本当に貴族?」

 

 一人の女将校が無重力の反動を利用して菓子を食べたり、飲料水を飲むキッテルに、隣の同僚に本当に貴族なのかと問えば、その同僚は両手を挙げて分からないと無言で答えた。

 数時間後、輸送艦は作戦地域へと到着し、宇宙空母赤城とドッキングする。キッテルも直ぐに宇宙空母へ連絡路を使って移動し、これから戦う敵のことについて調べるべく、資料室に向かう。

 地上でいつも着ていたドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の佐官用制服では無く、いつでも出撃してパイロットスーツを着れるように対Gスーツ*6を着ている。階級章を付けていないため、知らぬ人間が見ればただのパイロットにしか見えない。

 通路を無重力の反動を利用して進み、資料室に辿り着けば、そこからこれから戦う惑星同盟軍に対しての資料を取り出し、敵に対する研究を始める。

 

 惑星同盟。

 正式名称は自由惑星解放同盟であり、敵方である統合連邦と同じく巨大な同盟勢力である。主に連邦の植民地政策に対する反抗や独立を果たすべく、各勢力が合流して同盟を結んだ。当初は連邦に対する独立同盟であったが、次第に目標は連邦との覇権争いに代わり、終いには連邦と殆ど変わらぬ巨大勢力と化した。

 連邦軍と同じく圧倒的な物量を誇るが、違う思想の巨大な連合体であるため、連携はお粗末で連邦軍とそう変わりない。

 

「ふむ。違いは異星人との連合体で、連邦と大して変わりないか」

 

 資料を呼んで惑星同盟軍が連邦軍とそう変わりないと分かれば、その資料を元の棚に戻した。

 艦内で同盟宇宙軍の艦隊の迎撃に対するブリーフィングを知らせるアナウンスが聞こえたので、キッテルは胸元にライセンス持ちであることを証明するバッチを付け、ブリーフィングルームへ向かう。この辺りは重力区画なのか、浮遊できなかった。*7

 

「おや、ライセンス持ちも参加されるので?」

 

「あぁ、自由だからな」

 

 一人のパイロットがバッチを見て言えば、キッテルは答えてから壁にもたれ掛かり、ブリーフィングを聞く。

 内容は同盟軍の宇宙艦隊の迎撃であるらしく、この機動艦隊のみで迎撃作戦を行うようだ。既に偵察が行われ、敵艦隊の数は把握されている。艦載機の方は不明のままだが。

 対艦装備を施した攻撃機で待ち伏せをするべく、このブリーフィングルームに集まっているパイロット達は、敵艦隊の注意を攻撃機隊から注意を逸らすための戦闘機隊のようだ。

 前世で対艦戦闘を行ったことがあるキッテルは、初の宇宙戦での艦隊戦はどうなのか知りたいと思い、この戦闘に参加した。

 ブリーフィングを重要な部分だけ聞いて、ある程度を聞き流していく中、伝える事を全て言い終えたのか、作戦参謀はブリーフィングの終了を宣言する。

 

「では、ブリーフィングを終える。各員、出撃まで待機せよ」

 

 ブリーフィングが終われば、敵艦隊の攻撃を引き付ける囮役のパイロット達は次々と出て行く。

 キッテルもその隊列に加わり、出撃の準備を済ませるために自分のパイロットスーツを収めてあるアタッシュケースを取りに行き、それを受け取れば更衣室へと向かう。

 更衣室へと着けば、パイロットスーツを身に着け、格納庫へと向かって機体を確認する。

 

「ライセンス持ち殿、機体は地上で乗っていた物ですか? それとも、宙戦用の機体で?」

 

「手際が良いな。宇宙戦用のはなんだ?」

 

「VF-25メサイアです。宙域戦ではVF-31よりは分があります。隊長機向けのS型のチューン機を用意しました」

 

 整備長にどんな機体に乗るかどうかを問われれば、ニコはどれが宇宙用のバルキリーはどんな物かを問う。

 これに整備長は、宇宙においてはVF-25メサイアを手をかざしながら勧める。

 VF-25メサイアはVF-31ジークフリードより前のバルキリーであり、旧式の類に入るも、希少素材を使った事もあってか、水準はジークフリードよりも劣らない。火力面においては、VF-31のクロースカップルドデルタ翼のカイロスより劣るが。

 ここワルキューレにおいては、別の素材を使って生産性の低さを解消したが、操作性は落ちてしまい、並のパイロットでは扱えぬ機体となった。*8

 だが戦闘力は高いので、乗り易くなったVF-31AやC、VF-2を初めとする後継機が出ても、乗り慣れたパイロット達からの要望もあって現役である。

 乗りこなせるパイロットが余り多くない事から、余分な機体は連邦軍や同盟軍に対するゲリラ活動を行う有効な抵抗組織に提供されている。

 大気圏内においては地上攻撃機パックで高い空戦性能を殺されていたVF-25を見たことがあるキッテルだが、真価を発揮でき、なおかつ乗れることもあってか、迷わずVF-25Sに乗りたいと整備長に告げる。

 

「ほぅ。では、真価を肌で感じよう」

 

「了解しました。直ちに、ジークフリードのデータをあっちに移しますので。暫し待ってください」

 

 VF-25Sに乗ると言えば、整備長はVF-31Sのパイロットデータを入れる為、直ちに整備に取り掛かった。整備は数分で終わり、後は慣れる様にVF-25の慣熟飛行を行うだけだ。

 

「では、試し乗りをする」

 

「はい、作戦開始までには帰ってきてください」

 

「時間通りには戻って来るさ」

 

慣熟飛行訓練の許可が管制官から降りれば、直ぐにニコはVF-25Sに乗り込んで赤城から発艦しようとした。その前に整備長から作戦開始前には戻ってくるように釘を刺されれば、必ず戻ると答えてキャノピーを閉め、真空の宇宙に出て慣熟飛行訓練を行う。

 操作性はVF-31Sと違うが、英霊であり大戦期で祖国を勝利に導いたパイロットであるキッテルは、一時間ほどの慣熟飛行で無重力も含めてVF-25Sを物にしてしまった。

 

「おや、早いご帰還ですね。何か不備でも?」

 

「無いさ。これで初の宇宙戦闘も生き残れるな」

 

「満足いただけで光栄です。では、さっそく整備と補給に入ります!」

 

 作戦開始よりも五十分も早く空母赤城に戻れば、整備長に乗り心地を問われれば、これなら宇宙における戦闘も十分にやれると満足げに答えた。答えを聞いた整備長は喜び、機体の整備と補給に勤しんだ。

 

『作戦開始! パイロットは直ちに機体に搭乗し、発艦せよ!』

 

 それから五十分後、作戦開始時刻となればアナウンスが鳴り響き、パイロット達は一斉に自分の機体へと乗り込む。計器を操作して機体を起動させる。キッテルも機体に飛び乗り、計器を作動させてキャノピーを閉めれば、ヘルメットを被って機体が飛行甲板まで出るのを待つ。

 飛行甲板まで上がると、甲板作業員が機体のランディングギアをカタパルトに固定しているのが見える。同型機やVF-31A、VF-2SSバルキリーⅡも同様だ。

 他の甲板に上がった機体も同様にランディングギアをカタパルトに固定されており、ちゃんと固定が確認されれば、作業員は管制官に合図を送る。

 

『第一戦闘機隊、順次発艦』

 

 合図を確認した管制官は、第一波の戦闘機隊に発艦の許可を出す。

 これに合わせ、カタパルトに固定されていた各バルキリー隊は続々とエンジンを吹かせ、打ち出されたカタパルトの勢いで飛行甲板から宇宙へと飛んで行く。

 次々とバルキリーが発艦していく中、戻って来たカタパルトには後続のバルキリーのランディングギアが固定される。キッテルの出番はまだのようだ。

 待っている間に計器の確認を済ませ、出撃前に装着されたアーマードパックの兵装も問題ない事が確認されれば、遂に彼のVF-25Sの出番が来た。

 

「そう言えば、空母から飛ぶのは初めてだな」

 

 生涯、航空母艦から一度も飛ぶことが無かったニコは、初の飛行甲板からの発艦に少々興奮した。

 一時間ほど前にこの空母から出たことがあるが、飛行甲板は使わせて貰えず、アームで宇宙に出された。戻って来た時は機体をバトロイド形態に変形させ、元のハンガーへ戻ったのだ。

 こうして正式に飛行甲板からカタパルトで打ち出されるのは、キッテルに取って初の経験である。

 

「凄まじいGが掛かりそうだな」

 

 カタパルトで打ち出されるバルキリーを見て、ニコは凄い勢いが身体を襲うと思った。出番が来れば、無線機より管制官からの発艦許可が出る。

 

『クロウ〇一、進路クリア。発艦せよ!』

 

「了解! エンジンスタート! うぅっ!?」

 

 発艦許可が出れば、一気にエンジンを吹かせて機体を前進させる。それと同時にカタパルトも勢いよく前進し、キッテルの身体を衝撃が襲う。

 凄まじい衝撃が数秒ほど身体に掛かる中、機体のランディングギアはカタパルトから解放され、機体の制御が自由になる。直ぐにキッテルは操縦桿を操作して姿勢を安定させ、先に編隊を組んでいるスーパーアームドパックを装備したVF-2SSの大隊を見付け、後を追った。

 機器を操作して自動操縦に切り替え、ヘルメットのバイザーを開いて大きく息を吐いた後、初の空母からの発艦に驚きの声を上げる。

 

「…凄い衝撃だな。海軍の艦上機のパイロットは、発艦する度に受けているのか」

 

 艦上航空機のパイロット達が発艦する度に受ける負担に、海軍に転属しなくて良かったと思いながらシリアルバーを取り出して頬張る。

 それからは迎撃ポイントに着くまで、キャノピー越しから見えるデブリか星しか見えない宇宙空間を楽しんだ。

*1
ジェンソンは自尊心が強く、良く周りのパイロット達を見下していた。

*2
リアルな話、宇宙に行くにはそれなりの訓練が必要である。気軽に旅行に行ける物では無い。

*3
弟の天才科学者であるエルマーは宇宙ステーションを完成させたが、兄のキッテルは高齢のため、行くことは出来なかった。

*4
特定の世界では、宇宙の事をそらと言うらしい。

*5
一定の降下を急降下を始めると、無重力空間が数秒ほど発生する。

*6
空軍のスクランブルパイロットは待機中でも、いつでも出撃できるように着ている。

*7
将兵の感覚を狂わせないため。現実ではまだ実施されていない。

*8
オリジナルと分ける為、WK-25と呼ばれている。




メインとなる艦隊戦と言うか、キッテルによる同盟軍艦隊殲滅は、次回となります。


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デブリクラフターキッテル

予告通りの内容です。


 宇宙空母「アカギ」から発艦して十分後、ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルことニコが乗るバルキリー、VF-25Sメサイアアーマードパックは、味方の囮の戦闘機隊と共に敵艦隊の索敵範囲に入ろうとしていた。

 

『デルタリーダーより各機へ。敵艦隊より防空部隊の展開を確認、三十秒後に射程圏内に入る。作戦通り、迎撃フォーメーションセブンティーンを取り、迎撃行動に移れ』

 

 無線機から編隊長の指示が来る中、キッテルは指示を無視して編隊より離れ、惑星同盟軍の別働艦隊と思われる光を発見した。

 光を確認するためにバイザーを上げ、操縦桿を左手で握り、右手で双眼鏡を持ってそれを確認すれば、本隊と合流しようとする敵艦隊であると分かる。

 ブリーフィングには無かった別艦隊の存在に、キッテルは一応ながら艦隊旗艦の戦闘指揮所に報告する。*1

 

「こちらクロウ〇一よりガンサイトワン。敵別働艦隊を発見、位置は…」

 

『こちらガンサイトワン。それも艦隊を奇襲する攻撃機隊にやらせる。クロウ〇一は戦闘機隊と共に敵防空部隊を引き付けよ』

 

 無線機を使って別働艦隊の事を報告すれば、戦闘指揮所からは攻撃せずに戦闘機隊と共に敵防空部隊を引き付けろと命じられる。

 だが、キッテルには単独と独断行動が許されるライセンスがある。彼は指示を無視して別働艦隊への攻撃に向かった。

 

断る(ナイン)。ライセンス権を行使する。返り討ちに遭ったら見捨てても構わん」*2

 

『えっ!? ちょっと! 勝手な行動は!』

 

 いきなりライセンス権を行使するニコに、戦闘指揮所の女性士官は混乱する。

 そんな彼女を他所に、キッテルは宇宙でも単独行動を行い、こちらに気付かずに本隊と合流しようとする別働艦隊に襲い掛かった。

 

安全装置(セーフティー)解除! 武器自由使用(オールウェポンズフリー)! 対空気化弾、ファイヤー!」

 

 指示を無視して敵の別働艦隊に向け、ニコは機体両翼に搭載されている対空気化弾のミサイルを全弾発射した。

 操作機器のレーダーを見れば、発射された四発の対空気化弾が敵の別働艦隊へと向かっていくのが見える。後方を確認するミラーを見ると、既に三十秒が経っていたのか、フォーメーションを組んで飛んでいる戦闘機隊の各バルキリーが、キッテルの機体に搭載されている対空気化弾のミサイルを発射していた。

 キッテルが数秒早く発射していたので、着弾は早く、本隊が近いから警戒もせずに合流しようとしていた別働艦隊は突然のミサイル攻撃により、大損害を被った。

 飛んでいる随伴機は全て仕留められたが、フリゲートや駆逐艦を初めとした小型戦闘艦艇以外の巡洋艦などは生き残っていた。

 

『こっちにも敵襲だ! 救援を請う!!』

 

『なにっ!? そちらにもだと!? こちらに回す戦力は無い! 現状の戦力で対処せよ!!』

 

 無線機には盗聴機能が付いていたのか、敵同盟軍艦隊の声が翻訳されて聞こえて来る。そんなことを気にせず、キッテルは自分を迎撃するために出て来る搭載機の対処に入る。

 

「ん、六機か。よし!」

 

 六機の敵機、アーマードモジュールのリオンがキッテルのVF-25Sに襲い掛かる。

 

 このリオンと言うのは、手足の生えた戦闘機のような形をしており、小型のテスラ・ドライブ*3を搭載していて空戦能力に優れる。

 別の世界の連邦軍で開発された機体であるはずなのだが、何故か敵方の異星人勢力である惑星同盟軍の主力兵器として運用されている。どうやら余りの使い勝手の良さに、正式採用されてしまったようだ。

 宇宙型であるので、コスモリオンと言う宇宙戦闘仕様のモデルである。

 異星人の勢力で運用されている所為か、同盟軍傘下勢力の独自の兵器が搭載されている。武装は勢力によって違うのだ。

 そんな奇数な運命を辿ったリオンに襲われたニコは、雨あられと放たれるレーザーを躱し、搭載されているマイクロミサイルを六機に照準を合わせた後、トリガーを押して発射する。

 放たれたミサイルは三十発以上であり、自機に向かって飛んでくるミサイルをリオンは何発か撃ち落としたが、迎撃しきれずに三機が撃墜される。*4

 

「三機撃墜、残り三機。やるな! だが、逃さん!」

 

 生き残った敵機に対し、キッテルは敬意を表すれば、直ぐに逃げ回る三機のリオンをガンポッドを掃射して撃墜する。

 敵のパイロットはミサイルから逃げ回るのに必死で疲れていたようだが、キッテルは容赦しない。戦場では油断大敵なのだ。生前にそれを嫌と言うほど思い知らされ、多くの戦友や先輩、後輩たちを失って来た。

 続けざまに来る迎撃機に対しても容赦なしにミサイルかガンポッドの掃射をお見舞いし、初の無重力の宇宙戦闘にも関わらず、数十秒で十機以上を撃墜する。

 最後に連携を組んで攻撃して来る三機のギラ・ドーガ*5を数十発のマイクロミサイルで撃破すれば、こちらに対空砲を撃ち込んで来る巡洋艦に狙いを定めた。

 

「対艦ビーム砲の試し撃ちをさせて貰おう」

 

 座席の後部にある照準器を取り出し、アーマードパックの兵装の一つである旋回式対艦ビーム砲を起動させた。

 照準に逃げながら対空砲火を続ける敵同盟軍標準型巡洋艦の中央に定めれば、トリガーを引いて機体背部に搭載されている旋回式対艦ビーム砲を発射する。

 放たれたビームは真っ直ぐ標的に向けて飛んで行き、敵巡洋艦の中央に命中して更に貫通した。直撃であったのか、敵巡洋艦は凄まじい爆発を起こして轟沈した。

 旋回式対艦ビーム砲の威力を知ったキッテルは、後から来る攻撃機隊よりも先に、敵艦隊の何隻かを撃沈してしまおうと企む。

 

「ほぅ、中々の威力だ。これならアルビオン海軍の艦隊も物の数では無い。どれ、攻撃機隊の獲物を味見させて貰おう」

 

 そう思ったキッテルは早速行動に移し、ミサイルを乱射しながら敵艦隊に襲い掛かった。流石に攻撃機隊よりも先に敵艦隊を攻撃することに、戦闘指揮所から注意を受ける。

 

『クロウ〇一、艦隊は攻撃隊の標的よ! これ以上、勝手な行動は控えよ!』

 

「前にも言ったがこちらにはライセンスがある。早い者勝ちだ!」

 

 この注意に対し、キッテルは再びライセンス権を行使して艦隊への攻撃を続ける。

 空母より発艦した敵戦闘機と敵空戦ポッドは、凄まじい勢いで乱射されるマイクロミサイルを回避しきれずに次々と被弾して撃墜されていく。

 花火のように次々と爆発していく中、キッテルは高速機動にも関わらず、フリゲートや駆逐艦、巡洋艦の心臓部に対艦ビーム砲を直撃させ、続々と沈める。彼一人で敵艦隊を全滅させる勢いだ。 

 

『な、何よこれ!? 私たちの出番が無いじゃない!』

 

 攻撃機隊のパイロットの一人の苦言が、キッテルのVF-25Sの無線機から聞こえて来る。

 だが、彼は配慮することなく目に見える敵機にガンポッドとミサイルを、敵艦には対艦ビーム砲を浴びせて戦果を挙げて行く。

 

「っ!? 私を捕捉するか!」

 

 敵機や敵艦を次々と宇宙の藻屑にして行く中、上方から敵MS、各ウィザードパックを装備したザク・ウォーリア*6の中隊が襲って来る。

 自分を捉えた敵のパイロットを褒めつつ、キッテルは機体をガウォーク形態に変形させ、ビームやビームマシンガン、ミサイル攻撃を躱し、右手に持ったガンポッドで迎撃する。

 流石に的同然の動きはせず、直ぐに散開して特異な接近戦を挑もうと向かって来た。

 

「格闘戦をする気か! 本当に面白いな、宇宙での戦闘は!」

 

 大振りのビームトマホークを持って、両肩のビームマシンガンを撃ちながら近付いてくるスラッシュザク・ウォーリアに対し、キッテルはその斬撃をバトロイド形態に変形させて躱す。

 それから蹴りを胴体に食らわせ、頭部の四門レーザー砲を胴体に撃ち込む。コクピットや動力部に当たったのか、ザク・ウォーリアは機能を停止して宇宙を漂うデブリと化す。良い盾が出来たのか、それを機体の左手で掴み、包囲してくる他のザク・ウォーリアからの攻撃の盾にする。

 長距離ビーム砲を装備したガナー装備のザク・ウォーリアを駆け付けていたのか、盾にしていたザクの残骸は一瞬で蒸発し、使い物にならなくなる。

 

「ちっ、流石に甘くないか」

 

 四方八方から来る攻撃を躱しつつ、キッテルは機体をガウォーク形態からファイター形態に変形させて攻撃を逃れようとする。

 敵は艦隊に逃してくれるはずが無く、進路上から戦艦が現れ、対空砲火やミサイルをキッテルのVF-25Sに浴びせて来た。並のパイロットならやられている所だが、ニコは並どころか常識外れの類に入るパイロットだ。容易く躱して旋回対艦ビーム砲を撃ち込む。

 

「なんてしぶとい!」

 

 ビーム砲を撃ち込んで命中させるも、巡洋艦とは違って巨大な宇宙戦艦はしぶとく、何発撃ち込んでも撃沈できない。

 ぶつかりそうになった時に別の方へと操縦桿を動かそうとしたが、目の前の戦艦が轟沈し始めた。どうやら、攻撃機隊が自分に構わず攻撃を始めたようだ。

 

「オイタが過ぎたか!?」

 

 自分諸とも敵艦隊を攻撃して来る攻撃機隊に対し、ニコは命令無視を二度もした事を後悔しつつ、攻撃機隊のミサイルや対艦ビーム砲を操縦桿を巧みに動かして躱し続ける。キッテルを追い回していたザク・ウォーリアの中隊だが、攻撃機隊の攻撃で全滅したようだ。

 この攻撃で敵艦隊は続々と轟沈していき、周辺宙域に新たなデブリ帯が誕生する。搭載機や艦艇はまだ残っているようだが、防空部隊を片付けた戦闘機隊も到着し、掃討戦が開始される。

 あの弾幕にも関わらず、少々の被弾程度で済んだキッテルは、手近な敵機を撃墜してその掃討戦に参加する。

 

「今のは許そう。だが、スコアは譲らない」

 

 味方に殺され掛けたキッテルであるが、あれは命令無視の戒めとし、敵戦闘機やコスモリオン、コルベット艦を破壊し続ける。

 敵旗艦はまだ生きているようで、敵艦隊の統制は未だ健在であったが、旗艦は僚艦を置いて自分だけ逃げようとしていた。提督が乗る艦隊旗艦が、僚艦を置いて先に逃げようとする光景を、敵機を撃墜してから見たキッテルは怒り、旗艦を撃墜しようと思って接近する。

 

「提督が自分の艦隊を置いて逃げようとするのか!? 許せん!」

 

 士官学校で彼は部下を置いたり、部下に足止めをさせて先に逃げるなと教官から教え込まれており、自分が生きた時代より遥か未来の指揮官、それも将官クラスがそれと真逆の行動を取ったことに、怒りを覚えたようだ。

 旗艦を守ろうと展開している邪魔な敵機や敵艦を片付けつつ、自分だけ逃げようとする旗艦を追撃する。

 

「自分だけ逃げようとする提督を庇うとは、愚かな奴等だ! 哀れでならん!」

 

 撃墜されて火を噴きながら飛んで行く敵機や、攻撃を受けて爆発しながら沈んでいく敵艦を見て、キッテルは同盟軍将兵を哀れに思った。

 自分の身を犠牲にしてまで、そこまで守る価値のある提督なのか?

 そう思いながらキッテルは、旗艦を守るために自分に襲い掛かる敵機を撃墜していく。中には火を噴いている機体から脱出しようとするパイロットが居たが、間に合わずに爆発に呑まれて宇宙の塵となる。

 時折り宇宙を漂う敵兵の死体がキャノピーに当たるが、機体には何の損傷も飛行も乱れることはない。最後に盾になろうとする戦艦の艦橋を破壊して無力化すれば、敵旗艦の対空弾幕を躱して艦橋まで来れば、機体をバトロイド形態に変形させてガンポッドを向ける。

 旗艦は艦橋まで接近されてしまった所為か、対空砲火を止めてニコに対して白旗を挙げて投降した。

 

『う、うわぁぁぁ! や、止めろ! 貴官に降伏する! だから撃たないでくれ! 僚艦や艦載機にも抵抗を止めさせる!』

 

 自分だけ逃げようとした提督は、これ以上は逃げられないと思い、戦闘の意思がない事を示すため、自分を逃がすために抵抗していた僚艦や搭載機に投降するように指示を出して戦闘を止めさせた。

 戦闘の中止すれば、ワルキューレ宇宙軍のバルキリーや攻撃機は攻撃を止め、投降した敵機や敵艦の武装解除に当たる。

 

『さぁ、これで分かっただろう。もうそんな物騒な物は向けるな。私は同盟宇宙軍艦隊の提督だぞ? 将官待遇を願いたい』

 

 投降して捕虜の身になったにも関わらず、敵の提督の態度は大きくなった。そんな提督にガンポッドを向けるなとキッテルは言われているが、聞かずに向け続ける。

 

『おい、貴官らの軍隊はどうなっている? 早く奴にライフルを向けるなと告げろ! 聞こえんのか!?』

 

『こちらガンサイトワンからクロウ〇一、敵旗艦は戦意を損失し、投降している。ガンポッドに安全装置(セーフティー)を掛けろ』

 

 提督は戦闘指揮所に抗議したのか、その指揮所からガンポッドを向けるなとの指示が出たが、あの提督を生かしてはおけないニコは、ここに来てまたライセンス権を行使する。

 

断る(ナイン)、ライセンス権を行使する。旗艦、私の声が聞こえているか? 私はワルキューレ空軍所属のニコラウス・アウグスト・フォン・キッテル。乗員に告げる、その提督を銃殺刑に処せ。三十秒以内に銃殺刑に処さぬ場合、貴官を撃沈する」*7

 

『なっ! 何を言っている!? 気でも狂っているのか!? 止めろ! 条約違反だ!!』

 

 提督はこのキッテルのライセンス権を行使して行われる行為に止めさせるように抗議するが、艦橋に居るレーダー士官は彼が自分等の艦を照準している為、本気であると分かり、直ぐに腰のホルスターにある拳銃を引き抜き、提督に向ける。

 

『おっ、お前たち!? 何をやっているのか分かっているのか!? こんな機の狂った男の言うことなど…』

 

 周りに拳銃を向けられる提督であるが、誰も躊躇することなく発砲し、キッテルの怒りを買った同盟宇宙軍の提督は息絶えた。直ぐに指揮権を継いだ将官から、改めて投降を知らせる勧告がなされる。

 

『こちら惑星同盟宇宙軍第三十一艦隊、提督代行ゴメン・ロスポルスバカン中将。前代の提督であるムチャ・クチャン宇宙軍大将は、自分だけ逃れるまで僚艦や搭載機に抵抗を強要。私はこれに艦隊将兵の生命と同盟軍の伝統を優先し、ムチャ・クチャン前提督を射殺した。ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテル、改めて貴官に降伏する』*8

 

『ちょっと、何を言って…』

 

「了解した。こちらクロウ〇一からガンサイトワンへ、敵旗艦の投降を確認した、後続は武装解除を頼む。こちらは母艦に帰投する」

 

 提督代行より投降勧告を聞けば、キッテルは投降を受け入れて困惑する指揮所に武装解除を頼み、自分は帰投すると告げた。

 勝手な行動ばかり取るキッテルに、宇宙軍の指揮官らはカンカンに怒っていたが、当の本人はそれを気にすることなく機体をファイター形態へ変形させ、母艦であるアカギへと帰投した。

 

 

 

 戦闘終了後、母艦であるアカギへ帰投したキッテルは自機であるVF-25Sメサイアより降りた後、戦闘指揮所で戦闘機隊の指揮を執っていた女性士官に、ヘルメットを脱いで姿を晒した。その隙を狙われたのか、駆け付けて来た彼女に頬に平手打ちを食らわされる。

 

「…ライセンス(ワンマン・アーミー)の代償はこれか」*9

 

「幾らライセンス持ちでも、度が過ぎます」

 

 キッテルに平手打ちを食らわせた女性士官は、詫びの敬礼をしてから立ち去る。なぜ詫びの敬礼をしたかは、キッテルが大佐扱いだからである。

 自分が殴られる理由を十分に理解しているキッテルは、これが軍隊における自由の代償であると呟く。

 

 軍事結社ワルキューレでたった一人の軍隊(ワンマン・アーミー)のライセンスを持つ者は、作戦行動や戦線でその権利を行使して軍規に縛られること無く、自由に行動できるが、それ故に勝手な行動で場を乱すことから現場の将兵からは嫌われやすい。

 前世では軍規で拘束され、行動を制限されていたキッテルはヴァルハラより呼び出され、ワルキューレの上層部よりライセンスを受領された彼は子供のように喜んだが、殴られて自由を得る代償の意味を理解する。

 

「大丈夫ですか? 何か冷やす物でお持ちしましょうか?」

 

「いや、殴られているのには慣れている。幼少期にいたずらや間違ったことをすれば父や母に殴られ、学校でも先生から殴られた。軍隊に入って士官学校、卒業しても殴られている。妻にだってさっきの平手打ちを何度か受けたことがある。冷やす程の物じゃないさ」*10

 

「はぁ」

 

 飲料水を持って来た半ばキッテルの小姓と化している整備班長より、叩かれた頬を冷やすかと聞かれたが、彼は殴られるのには慣れていると答えて断る。

 

「初の宇宙における戦闘は?」

 

「重力が無くて少し混乱したが、その分自由に動き易かった。鳥になった気分だ」

 

「お気に召して光栄です。次もまた宇宙で?」

 

 次に整備班長は宇宙での戦闘はどうかと聞いて来たので、キッテルは重力から解放されて自由な鳥のような気分になって爽快だったと答えた。大変満足した整備班長は次も宇宙で戦うのかと問えば、周りの搭載機のパイロット達の目を気にして、キッテルはまた地上へ戻ると告げる。

 

「いや、地上へ戻る。これ以上ここに居たら、背中を撃たれそうだ」*11

 

「まぁ、そうですな。自分も地上へ戻る事をお勧めします」

 

 次は背中を撃たれるから地上へ戻ると言うキッテルに、整備班長も周りを見て納得して地上へ戻る事を勧めた。

 こうして、彼は地上へ戻る決心をして身支度を済ませるためにハンガーを離れた。

 それと同時に、VF-25Sの近くに置いてある大型の電子機器から一つの古めかしいカセットテープが飛び出し、冷たい無重力の宇宙に出られる方向へと進んでいく。そんなカセットテープに誰も気にすることなく素通りし、そのカッセットテープが艦内を出て宇宙へと飛び出せば、鳥のような形に変形する。

 鳥の形となった摩訶不思議なカセットテープは機械にも関わらず、まるで意志を持っているかのように泣き声を上げて何処かへと飛び去って行った。

 この鳥に変形するカセットテープが、後に強敵たちと会い見えることになる予兆になるとは、地上へ戻る身支度をしているキッテルはまだ知らない…。

*1
CICと呼ばれ、ここから作戦に参加するパイロット達を指揮する。

*2
この時、キッテルは増長しており、自分勝手さに更に磨きが掛かっていた。

*3
アーマードモジュールのエンジンの一つ

*4
パイロットの練度は連邦軍といい勝負である。

*5
ネオ・ジオン軍のMS

*6
ザフト軍のMS、ジオンにも同じMSがある。

*7
敵の提督に対する怒りの余り、後の事も考えて殺害しようとしていた。

*8
高圧的で、自分たちを殺そうとする上官を許さなかったキッテルに対する敬意のようだ。

*9
ワルキューレのライセンス持ちは、自分勝手な者が多い。

*10
当時は鉄拳制裁が普通である。

*11
将校の戦死の大半は、背後からの銃弾である。




最後に出て来たのは、カセットテープと聞いて分かる方にはお馴染み、初代トランスフォーマー(通称TF:G1)のデストロンの最強であるカセットロンの空中攻撃兵コンドルです。

察しの言い方はその通り、キッテルはTFのデストロン軍団と戦う運命にあります。
活動報告に書いた予告でもスタースクリームと戦わせてますからね。

では、並み居る強敵たちと戦う新章をお楽しみに。


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エースラッシュ
サンダーボルト・キッテルⅠ


残念ながら、今回もデストロンの行が長いので、戦闘シーンは次回で。

ネタバレになりますが、キッテルがA-10神に乗り込みます。


 ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルの復活と名は、連邦や同盟のみならず、姿形を変え、自由自在な大きさにもなれるロボット生命体、トランスフォーマー*1の二つある勢力の一つ、悪の破壊軍団デストロンにも知れ渡ってしまった。

 彼の存在を記憶した鳥型に変形するカセットロンの空中攻撃兵、コンドルは一刻もその情報を知らせようと、親元の元へ帰還する。*2

 

「コンドルガ、戻ッテ来タ」*3

 

 その親元であるラジオセに変形するトランスフォーマー、情報参謀のサウドウェーブは右腕を出し、そこにコンドルを止めさせる。コンドルの主は、サウンドウェーブなのだ。

 彼が忠誠を誓うデストロン軍団のリーダーで破壊大帝であるトランスフォーマー、メガトロンに報告する。*4

 

「ご苦労、一体どんな情報を持ち帰って来たのか楽しみだわい。サウンドウェーブ、トランスフォームして報告しろ」

 

「了解。トランスフォーム!」

 

 コンドルはメガトロンがサウンドウェーブに次いで信頼しているデストロン兵士である。

 そのメガトロンが変形するのは、ワルサーP38と言う自動拳銃である。余りに弱く見えるが、侮ることなかれ、彼が右腕に装備しているのは強力なカノン砲である。その破壊力は、連邦軍や同盟軍の戦艦を一撃で撃沈できる物である。

 実力もデストロン軍団のトップに相応しく、忠誠を誓う者も多く、メガトロンが居なければ、デストロン軍団は烏合の衆と化すのだ。*5

 そんな大帝に相応しいトランスフォーマーからの指示を受けたサウンドウェーブはラジカセに変形し、近くにある大型コンピューターに接続して、コンドルが入手した情報をそのコンピューターに送り出す。

 トランスフォーマーサイズのコンピューターの画像には、コンドルがワルキューレの宇宙空母「アカギ」より入手したエネルギー資源に対する情報の詳細が映し出される。

 

 なぜデストロンがエネルギー資源をこれ程までに狙うかは、正義の戦士の一団であるサイバトロンを粉砕する為である。

 彼らの母星、機械の惑星セイバートロン星において先に完全なる平和、即ち破壊大帝メガトロンが掲げる圧政による平和を行うため、デストロンはセイバートロン星の掌握に乗り出したが、トランスフォーマー内での秘宝、マトリクスを胸に秘めるコンボイをリーダーとする自由を愛する正義の集団サイバトロンは、圧政による平和を拒否してこれに抵抗。数百万年にも及ぶ正義と悪の戦争が巻き起こり、長きに渡る戦いでセイバートロン星は瓦礫の山と化した。

 母星に殆どエネルギー資源が枯渇すると、両勢力は宇宙にまで進出するが、それは戦争の拡大であった。かくして、今もサイバトロンとデストロンの飽くなき戦いは続いている。

 

 尚、彼らデストロンは英霊と対となる存在、咎人として現代に蘇った。

 咎人とは、生前に善なる行動を行い、人々に英雄として記憶された英霊とは違い、生前に数々の罪となる悪行を行って人々より恐怖の対象とされて記憶された存在だ。

 故にデストロンは各星々のエネルギー資源を奪うために数々の破壊活動を行ったため、人々はデストロンに恐怖して嫌った。その為にデストロンは悪の存在として記憶され、咎人として現世に蘇ったのだ。

 

「ほぅ、奴らもまだまだ良いエネルギー資源を持っておるな。さっそく強奪作戦の準備をせねば」

 

「メガトロン様、オ待チヲ。コンドルガトッテオキノ情報ヲ持ッテ来テイル」

 

「なんと素晴らしい事か! よし、ではその情報とやらを見てみよう」

 

 全てのワルキューレが保有するエネルギー資源に関する情報を見たメガトロンは、早速エネルギー強奪の作戦を練ろうとしたが、優秀な空中攻撃兵コンドルはとっておきの情報を持っているとサウンドウェーブは報告する。

 これに余りのコンドルの優秀さに舌を巻いたメガトロンは、エネルギー強奪よりも有益な情報を見る。

 その有益な情報とは、読者の皆様も知っての通りニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルが単機で同盟軍艦隊を相手に暴れ回った戦果だ。

 

「なんですかい、こりゃあ? いつもの俺たちの猿まね戦闘マシンが、エイリアン共の船をスクラップにしてる映像じゃないですかい」

 

 コンドルが送ったキッテルのVF-25Sメサイアのガンカメラに映し出される惑星同盟軍の艦載機や艦艇を撃破していく映像を見たデストロンのナンバーツー、F-15戦闘機に変形する航空参謀スタースクリームは呆れる。*6

 彼が表した猿まね戦闘マシンとは、バルキリーのことである。

 キッテルの戦闘センスは高いが、このスタースクリームはそれを見抜けなかったようだ。彼の戦闘センスを一度見ただけで見抜いたメガトロンは、御存じの方々なら知っての通り叱責を行う。

 

「この愚か者め!*7 良く見ろ、一撃でエイリアン共の軍艦の心臓部を撃ち抜いておるわ! しかもその正確性、あれ程の機動飛行にも関わらず見事な物よ。是非とも余の右腕にしたい物だわい」

 

 メガトロンは偉くキッテルの事を気に入ったようだが、ナンバーツーの地位を、いきなり出て来た男に脅かされるスタースクリームは反論する。

 

「何を言ってるです! あんなエイリアン共のオンボロ船の艦隊なんぞ、このスタースクリームならあの肉ケラ*8よりも三〇ナノリック*9ほど早くスクラップに出来ますぜ!」

 

「黙れ! 見て分からぬか? あのキッテルと言う肉ケラには成長の余地がある! もう貴様は限界なのだ。分かるか?」

 

 自分はキッテルより早く同盟軍の宇宙艦隊を粉砕できると豪語するスタースクリームであるが、メガトロンは何度も裏切って来るナンバーツーを早く自分の軍団から放り出したいのか、気に入った英霊に成長があると言って彼を推薦する。*10

 限界だと言われたスタースクリームは腹を立てたが、ここでメガトロンを襲っても返り討ちにされるので、手を出さずにいつもの皮肉で返す。

 

「ちっ、本当にこの肉ケラに期待するほど価値があるんですかね? 同じく空を飛ぶ俺には、無いと思いますがね。」

 

「貴様の言うことなど信用できんが、納得だ。サウンドウェーブ、キッテルに対する調査を行うのだ。奴の詳細なデータを知りたい」

 

「了解、サウンドウェーブ。キッテルノ調査ヲ開始スル」

 

 このスタースクリームの皮肉に、メガトロンも不本意ながら同意して、ロボット形態に戻っていたサウンドウェーブに、キッテルの調査を命じた。

 忠誠心の厚い情報参謀であるサウンドウェーブは、直ちに任務を開始するために、敵基地へ潜入任務を開始した。

 

 

 

 一方でデストロン軍団に狙われているとは気付かず、大地の地上へ戻っていたキッテルは、空軍基地にて新しい機体を見ていた。

 新しくやって来たパイロットに、基地に駐屯する航空隊のパイロット達は、一目見ようと格納庫に殺到する。

 

「あいつがライセンス持ちか?」

 

「動きが士官パイロットだ。それにあの歩き方、ありゃ貴族だぜ」

 

「服装を見りゃ分かるよ。軍服が仕立て屋だぜ」

 

 この基地はワルキューレの筈だが、パイロット達は男ばかりだ。

 彼らが口々に貴族や士官、軍服が仕立て屋だと言うのは、キッテルが地上で着ていたドイツ空軍の佐官用制服だからである。*11

 

「基地司令、ここの敵はなんだ?」

 

「まぁ、現地や下級兵の反乱兵共です。それに雇われたノンダス人も含まれております」

 

「反乱兵か、ファメルーンの反乱を思い出す」

 

 基地司令官より、敵は現地軍や下級兵士、それに雇われた戦闘種族のノンダス人であると分かると、キッテルは反乱と聞いて自身が経験した祖国に対する反乱であるファメルーンの反乱を思い出す。*12

 あの時、初めてキッテルは航空機による地上攻撃を行った。高射砲や対空砲による対空弾幕に晒されたが、何とか生還して反乱を見事に収め、その功績として勲章を授与された。

 

「誰が反乱の首謀者だ? そいつを叩かねば、何度でも反乱が起きるぞ」

 

「もう分かっております、首謀者は現地軍の将軍マファルーフ。連中の背後に居るのは、連邦軍であります」

 

「実に似ているな、首謀者が歩兵少佐意外な」

 

「敵は空軍も抑え、指揮下に加えて前線に投入しており、戦況は膠着状態となっております。連邦軍の攻勢に合わせか、反乱軍も同時にこちらへ攻撃を…」

 

 首謀者を問えば、基地司令官は現地の将軍であると答え、背後に連邦軍が居て、連邦軍がワルキューレの領内に攻勢を仕掛ければ、反乱軍も同時に攻勢に出て来ると明かす。

 これを聞いて、キッテルは反乱軍が完全に連邦軍に飼い慣らされていると捕らえる。

 

「奴らに飼い慣らされたか。他に装備は?」

 

「戦闘車両は59式戦車、T-62戦車、80式対空戦車です。航空機はMi-24戦闘ヘリ、MiG-23戦闘機です」

 

「東側ばかりだな。もっと他には?」

 

「連邦製の兵器と見られる物が多数。機動兵器を投入して来る可能性があります」

 

 次に装備を問えば、東側ばかりだった。もっと他に問えば、連邦軍の機動兵器が密かに反乱軍に授与されていると思われ、目撃情報が寄せられていると言う。

 

「厳しくなることは確実だな。では、出撃するか」

 

「えっ、出撃なさるので? まだ着いたばかりなのに」

 

「数日前は宇宙に居たのだからな。空も飛んでみたいし、何よりA-10サンダーボルトに乗ってみたい」

 

「おい、整備班長。直ちにA-10を飛ばせるようにしておけ。ライセンス持ちの飛行が見れるぞ」

 

 早速出撃したいとキッテルが言うと、基地司令官は休まないかと問えば、彼は駐機されているA-10サンダーボルトⅡを見ながら乗りたいと告げた。

 この要望に基地司令官は答え、整備班長らにA-10をいつでも飛ばせるように整備しておけと伝える。

 

 

 

 キッテルが出撃したいと言う要望に、基地司令官が従って指名したA-10サンダーボルトⅡ攻撃機の整備が行われる中、メガトロンの命を受けてワルキューレに潜入したサウンドウェーブはキッテルを見付け出し、この基地まで辿り着いた。

 サウンドウェーブは潜入に優れており、ワルキューレの基地のセキュリティーは彼をどうすることは出来ない。

 

「妨害電波、送信開始」

 

 監視カメラやセンサーに向け、サウンドウェーブが胸のスイッチを押して頭部から電波を発すれば、基地のセキュリティーは一時的に機能不全に陥る。しかも、警備室に居る警備兵にすら、機能不全が分からない程だ。

 この妨害電波技術は、連邦や同盟、ワルキューレですら持ってい無い物であり、トランスフォーマーのみの技術である。

 基地のセキュリティーを一時的に無力化したサウンドウェーブは直ぐに基地へ潜入。巨体では見付かる可能性があるので、ラジカセに変形して基地に勤務する兵士たちの荷物に紛れる。

 

「おっ? 懐かしいな、ラジカセなんて。まだ動くかな?」

 

 ラジカセはこの世界でも絶滅危惧種らしい。懐かしい物を見付けた兵士、それも整備兵はそれを手に取り、覚えている限りの操作をすれば、音楽が鳴り始める。

 

「動いたぞ。誰の落とし物だろうな? まぁ、後で返しておくか」

 

 誰の落とし物でも無く、それが基地に潜入したサウンドウェーブとも知らず、彼は自分の持ち場である格納庫へと向かった。

 格納庫へ辿り着いた彼は、適当な場所にラジカセのサウンドウェーブを置き、流れて来る音楽を聴きながら自分の仕事をこなす。

 数時間後、全ての仕事を終えれば、彼はラジカセを返すことなくこの場において他の整備兵等と共に格納庫を後にする。

 

「まぁ、ここに置いとけば落とし主が取るだろう」

 

 そう言って彼は、サウンドウェーブを置いて宿舎へと帰って行った。

 警備兵が格納庫を閉じ、誰も居なくなった格納庫内にて、サウンドウェーブは周りの監視カメラを特殊な電波でハッキングしてから元のロボット形態に変形(トランスフォーム)する。

 それから基地内のデータを残らず収集すべく、胸に収めてある部下たちのカセットロンを射出した。

 

「コンドル、ジャガー、フレンジー、ランブル、パズソー、ラットバット、オーバーキル、スラッグフェスト、ハウルバック、ガーボイル、射出(イジェークト)

 

 最初のコンドルを含め、十体以上もの動物や人型のカセットロンを射出したサウンドウェーブは、彼らにデータ収集を命じる。

 

「任務内容、データ収集。特ニキッテルノ情報ハ不可欠ダ。優先的ニ、キッテルノ情報ヲ収集セヨ」

 

 この命令に応じ、カセットロン達は基地内のデータ収集にあたる。主にキッテルの関連である。全てのカセットロンを放ち、情報収集に当たらせたサウンドウェーブはラジカセに姿を変え、元の位置に戻る。

 

 

 

 翌日、ラジカセがデストロンの情報参謀、サウンドウェーブとも知らずに戻って来た整備兵はキッテルの元へ向かう。既にA-10はいつでも飛べる状態であり、機動性を重視してか、爆弾では無く対戦車ロケット弾を満載していた。対地攻撃特化である。

 その機体に乗るため、キッテルは対Gスーツに身を纏い、ヘルメットを片手にそのA-10に向かっている。

 そんな彼の相棒としてか、ラジカセ状態のサウンドウェーブを持っている整備兵はそれをキッテルに渡しに向かう。

 

「これ、空のお供にどうですか?」

 

「ん、これは…ラジカセか? ほぅ、懐かしいな。ダンケ(ありがとう)

 

 整備兵よりラジカセ状態のサウンドウェーブを受け取ったキッテルは、生前に良くカセットテープに録音したクラシック音楽を聴いていた事を思い出し、ありがたく受け取る。

 コクピットに座り、ラジカセを置ける場所に置き、整備兵が気を利かしてガムテープで動かないように固定すれば、キッテルはクラシックが無いか聞く。

 

「クラシックはあるか?」

 

「クラシックですか? あぁ、そう言えば」

 

「すまんな。君たちとは違って、激しめの音楽は少しな」

 

「分かりました。取って来ます!」

 

 クラシックは無いそうで、直ぐに整備兵はクラシック音楽を録音しているカセットテープを取って来る。

 その間にキッテルは機器の点検を行い、異常がない事を確認する。それが終われば、整備兵がクラシックのカセットテープを取って来たので、キッテルに渡してからコクピットを離れた。

 整備兵が離れ、兵装に異常がない事が合図で知らされれば、キャノピーを閉じ、機体のエンジンに火を入れる。エンジンも正常に稼働したのを確認してから、ラジカセにクラシックを録音したカセットテープを入れ込み、機器を操作して起動させる。

 音はほとんど聞こえないが、ラジカセよりクラシック音楽が流れ、そのおかげか、出撃前の緊張は和らぐ。

 

 このA-10はフィアチャイルド・リパブリック社が開発した軍用機であり、地上攻撃を専門とした攻撃機だ。

 サンダーボルトⅡの由来は、第二次世界大戦中に対地攻撃で活躍したP-47レシプロ単発戦闘機の渾名であるサンダーボルトである。

 その対地攻撃性能は、時代の流れの兵器の恐竜的進化により先代サンダーボルトを遥かに上回り、最強の攻撃機として運用開始の1977年から今もアメリカ空軍の第一戦を飛んでいる。

 中でも注目すべきは、最初からA-10に搭載されているGAU-8アヴェンジャーガトリング砲である。

 このガトリング砲は強力な30ミリ対戦車徹甲弾を最大の連射速度を誇るMG42よりも一七〇〇発も早く撃ち出せ、一瞬にして標的にした戦車を粉砕できるのだ。現時点で最強である第三世代戦車ですら、GAU-8の前ではベニヤ板同然である。

 実戦でも数々の活躍を誇り、更には伝説まで残している。しかも設計には、あのギネス級の地上兵器破壊数を誇るドイツ空軍のエース、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルが携わっている。*13

 

 そんな伝説級の攻撃機を一目で気に入ったキッテルはコクピットシートの座り心地とクラシックに心を癒しつつ、操縦桿を握って機体を滑走路まで移動させた。

 そこからは管制官の指示に従い、滑走路要員の合図に注意を配り、離陸許可と合図が来れば、直ぐに機体を滑走路へ走らせる。

 バルキリーとは違ったGを感じつつも機体は空へ高く上がり、物の数秒で飛行速度に達する。安定した高度に達すれば、操縦桿を動かして機体を安定した状態にする。

 

「さて、破壊王が携わった攻撃機。どんな物か見せて貰おうか」

 

 安定した状態にした後、キッテルはあのルーデルが開発に関わった攻撃機がどんな性能か、地上を見ながら試したくなった。

*1
平均十メートル。最長は百メートルで、最少は五〇センチ。

*2
コンドルは忠誠心が高いのだ。

*3
サウンドウェーブは機械音である。デストロン軍団もややノイズが混じっているが、彼のは凄い。

*4
理想の上司である。

*5
メガトロンが居なくなったデストロン軍団は、統制の執れない敗残兵と化していた。

*6
これでもスタースクリームは元科学者である。

*7
メガトロンの決め台詞かもしれない。

*8
トランスフォーマー、主にデストロンが生命体に対する蔑称。要は虫けらと同じ。

*9
ナノリックはセイバートロン星の時間の単位であり、秒のクラスである。

*10
このメガトロンの所為で、いつもスタースクリームが反乱を起こしている。

*11
大戦中と言うか、ナチス政権時代のドイツの軍隊の将校は、自分の軍服を仕立て屋に頼むがの普通だった。被服手当も出ている。

*12
詳しくは、キッテル回想記をファメルーンの反乱編を読むべし。

*13
彼の著作は設計者達の必読書であった。




えぇ、次回はキッテルの弟、エルマーを登場させる予定です。


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サンダーボルト・キッテルⅡ

今回は短めです。

キッテルにA-10攻撃機を乗せたら、最強じゃね?

それとc.m.様よりエルマーをトランスフォーマーにして良いと言う許可を得たので、立派なサイバトロンの科学者に転生したエルマーを登場させます。


 A-10サンダーボルトⅡ攻撃機の試し乗りの為、砂漠の空を飛んだキッテルは、護衛のF-16戦闘機四機と共に攻撃のために敵戦車部隊を発見した。

 

『上空より敵機! 回避せよ! 回避せよ!!』

 

 キッテルの編隊に発見された59式戦車やT-62戦車で編成された戦車連隊は、回避行動を取るために散開し始める。*1

 連隊の中には80式対空戦車を装備した対空戦車中隊が居り、直ちに対空掃射が開始されるが、対空砲火に慣れ切っているキッテルはその弾幕を用意に避ける。*2

 

『クロウ〇一、あんただけで大丈夫か?』

 

 同じく対空砲火を避けるF-16のパイロットから、単独で戦車連隊を殲滅できるかどうかを問われれば、キッテルは頷く。

 

「私を誰だと思っている。諸君らは対空砲火を引き付けてくれれば良い」

 

『戦車連隊だぜ! あんたはルーデルじゃねぇんだ! 一個中隊を待った方が良いぜ!』

 

『弾は足りるのかよ!?』

 

「俺の獲物だ」

 

 戦車連隊を殲滅するなら援軍が必要だと味方は言うが、キッテルは自分の獲物であると返して単独で空襲を仕掛ける。

 戦闘機のパイロットらは呆気にとられるも、キッテルに言われた通りに、対空戦車に機関砲を撃ち込んで引き付けて攻撃機を狙わせないようにする。

 

「助かるな。では、まずは鬱陶しいのからやろう」

 

 F-16が対空戦車を引き付けている間、キッテルは確実に仕留めるべく、四発の対地ロケット弾を密集している対空戦車に向けて発射し、三両同時に仕留める。

 

『なんだこりゃあ! 三両一編に!?』

 

『冗談だろ!?』

 

 キッテルが三両同時に対空戦車を仕留めたことで、F-16のパイロットらは驚く。

 続けざまにGAU-8アヴェンジャーガトリング砲を一回と二回ほどトリガーを押して撃ち込み、二両を撃破した。

 残る対空戦車は自分等が標的にされていると分かれば、散開しながら対空射撃を続けるも、キッテルは逃げ回る戦車を機関砲で破壊しつつ、一両たりとも逃さずにロケット弾を発射して撃破し続ける。

 

『対空戦車中隊全滅! 各個に対空射撃! 戦闘機隊が来るまで回避を続行せよ!』

 

 空に対する対抗手段が砲塔に搭載している重機関銃のみとなった戦車隊は回避行動を続けるが、対空手段を失った戦車隊は敵攻撃機の良い的だ。

 上空に重機関銃を撃ち、必死で対空弾幕を張る戦車隊であるが、キッテルの前では無に等しい。

 更にキッテルの戦闘爆撃機手としての才能や、A-10攻撃機の凶悪な組み合わせにより、続々と砲塔が吹き飛んだり、撃破されて黒煙を上げる戦車の数は増えるばかりだ。

 

『全部やる気か…?』

 

 キッテルが地上に向けて機銃掃射やロケット弾を撃つ度に、爆発していく敵戦車を見て、F-16のパイロットらは全て撃破するつもりなのかと困惑する。

 事実、戦車隊の戦意はキッテルが立て続けに戦車を破壊した所為で崩れており、統制を失ってバラバラに逃げ回り、互いに衝突する戦車が続出している。混乱状態である。

 

「三ダース、いや、六ダースはやったな」*3

 

 キャノピーから見える黒煙を上げる戦車の数を見て、撃破した数をダース単位で数えれば、再び旋回して戦車に機銃掃射やロケット弾を浴びせ続ける。

 キッテルの乗ったA-10が旋回して機銃掃射やロケットを撃つ度に動いている戦車の数が減り、黒煙を上げる戦車の数が増えていく。炎上する戦車からは、脱出が間に合わずに全身火達磨となった戦車兵が飛び出し、獣のような叫び声を上げながら砂漠の上でのた打ち回る。

 脱出が間に合った戦車兵は、キッテルのA-10が飛び去るのを戦車の残骸に隠れて待っている。

 

「あら? クソッ、弾切れか!」

 

 逃げようとする残り一個戦車中隊を仕留めようと、空襲を掛けようとしたキッテルは機関砲を撃ち込もうとしたが、ここに来て弾切れを起こした。ロケット弾も弾切れであり、キッテルは一個戦車連隊を殲滅することは出来なかった。

 彼は悔しがっていたが、単機でこれ程仕留めるのは、熟練の攻撃機乗りでも不可能に近い。*4

 敵戦車連隊を殲滅できなかったが、敗走にまで追い込んだキッテルは喜ぶこと無く、全て仕留めきれなかったことを悔しく思い、基地へと帰投する。

 

「こちらクロウ〇一、弾切れにより敵戦車連隊殲滅できず。基地に帰投する」

 

 逃げて行く戦車中隊を見ながら、キッテルは無線機を使って基地へ帰投すると報告する。

 幸い、敵戦闘機隊が駆け付ける前に逃げ切る事に成功した。先に基地の方へ旋回し、帰路へと着くキッテルのA-10の後ろをF-16の小隊が続く。

 パイロットらはキッテルがやってのけた戦果を見て茫然とする。それもそのはず、なんせ百両以上もの戦車が撃破されて黒煙を上げているのだから。

 

『おい、百両は潰してるぜ…!』

 

『A-10一個中隊でも、こんなにはならねぇぜ!』

 

『ルーデルかよ、あいつ…!』

 

『これなら、一個師団も目じゃねぇ…!』

 

 余りのキッテルとA-10サンダーボルトⅡの組み合わせて出来た戦果に、パイロット達は一個機甲師団でも撃破できるのではないかとざわつき始める。

 キッテルのA-10や護衛のF-16小隊が飛び去った後、広い砂漠に残されたのは、百両以上もの黒煙を上げる戦車と、無残に焼けた戦車兵達の焼死体だけであった。

 このキッテルが単独で叩き出した戦果に、反乱軍は生き残りの戦車中隊から一個大隊分のA-10にでも襲われたのかと思っており、一機だと言う報告を信じなかったようだ。

 かくして、連邦に裏から唆されて反乱を起こした反乱軍は、恐ろしい敵と対峙する羽目になってしまった。

 

 

 

 その夜、キッテルが基地に帰投して、一度の戦闘で百両以上を撃破と言うルーデルでも出来なさそうな戦果を叩き出したことを祝っての祝杯が基地の食堂で行われる中、基地に潜入し、彼に関するデータを収集していたデストロン軍団の情報参謀サウンドウェーブは、人気の居なくなったところを見計らってラジカセ状態から元のロボット形態へと変形(トランスフォーム)して戻り、基地内に潜入させていたカセットロンに集合を掛ける。

 

「カセットロン、集合セヨ」

 

 特殊な電波を使ってカセットロンらを格納庫内に集合させる。

 集合時間は物の数秒であり、サウンドウェーブが基地内に潜入させた全カセットロンが格納庫内へ集合する。

 

「情報収集完了。全員、戻レ」

 

 そして元のカセットテープにトランスフォームして、サウンドウェーブの胸にあるデッキに戻って行く。カセットロンに命じて集めさせたデータを収集した。これでサウンドウェーブは、キッテルの詳細なデータを手に入れたことになる。

 

「キッテルニ関スル情報ヲ、戦闘記録モ含メテ収集完了。コレヨリ、基地ヘ帰投スル!」

 

 必要な情報とデータを全て収集したサウンドウェーブは、直ちに基地から脱出する。

 妨害電波を放ち、基地内のセキュリティーをダウンさせ、堂々と基地の上空を飛んでサウンドウェーブはデストロン軍団の本拠地へと戻って行く。

 基地を警備する警備兵や管制官らは、余りのキッテルの戦果を祝うために食堂へ集合しており、サウンドウェーブの妨害電波を防げないAIや自動システムに任せきりである。

 こうして、基地内の将兵らとキッテルは、反乱軍よりも恐ろしい潜入者の存在に一切気付くことなく、祝杯に興じた。

 

 

 

 デストロンと対を成す存在、正義のトランスフォーマーの集団であるサイバトロンの研究施設にて、とある青年がマシンの調整を行っていた。

 その青年の名は、エルマー・フォン・キッテル。キッテル回想記をご存じの読者なら知っての通り、ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルの弟にして、数々の発明で自国の帝国(ライヒ)を勝利に導いた発明の権威である。

 そんな彼は死後にスペースシャトルに変形するトランスフォーマー、それも人の姿にもなれるプリテンダー族に転生し、人の姿とトランスフォーマーの姿を使い分け、サイバトロンの科学者としてデストロンと戦いと発明品を開発する日々を送っている。

 

「エルマー、エルマー! 大変じゃ! 兄貴がデストロンに狙われとんで!」

 

 発明品の調整に人間状態で取り掛かるエルマーに、スポーツカー*5に変形するサイバトロンのエンジニアであるホイルジャックが、デストロンが兄であるニコラウスを狙っていることを知らせに来る。*6

 ホイルジャックの言うことに、エルマーは調整を止めて驚いて声を上げる。

 

「デストロンが、兄さんを狙っているだって!?」

 

「そうだとも! ブロードキャストが得た情報じゃぜ! 吾輩の計算に寄れば、もうおたくの兄貴の情報は盗まれてる頃やようて」

 

 サイバトロンの情報員ブロードキャスト*7が入手した情報と聞けば、エルマーは信憑性が高いと思って警戒する。

 

「それじゃあ、今から警告しに行っても無駄じゃないか! でも、兄さんならデストロンを打ち破ってくれるはずだ」

 

「んん、それならいいんだがのう。しかし、デストロンが強力な洗脳装置を発明しているかもしれんぞ。まさか、悪党について行く程のお人好しじゃあるまいな?」

 

「そんなわけが無い。僕の兄さんはそうホイホイとついてくるはずが無い、三歳児じゃないんだ。でも、僕も兄さんも貴族だ。デストロンがその手の手段に出れば、受けてしまう可能性がある。一応ながら警戒しないと」

 

 エルマーは身内なだけであってニコラウスの事を良く知っており、自国を勝利に導いた要因である兄ならデストロンも退けられると信じている。だが、科学者としてはキッテルがデストロンに捕らえられ、洗脳される可能性も高い。最悪の可能性も考え、エルマーは兄を助ける発明を考える。

 

「洗脳を解除するマシンを発明しなくては。もしもの場合に備えてね」

 

「吾輩も手伝うで! おたくの兄貴は、メガトロンが目を付ける程の暴れん坊じゃ! デストロンにでも洗脳されたら、ルーデルの二の舞ぜよ!」*8

 

 それが洗脳を解除するマシンの発明をエルマーが思い付けば、ホイルジャックも手伝うと告げ、二人の科学者はそのマシンの開発に取り掛かる。

 この様子を、同じくキッテルがデストロンに狙われているとの情報を得ている大型トレーラー*9に変形するサイバトロンのリーダー、コンボイもまた、対策を練らなければと思う。*10

 

「エルマーの兄を狙われる可能性が高いか。彼が属している組織、ワルキューレが非情な手段に出なければいいが…」

 

「彼女らは非情な軍隊ですよ。エルマーの兄貴を手に掛けるようであれば、我々が連中を懲らしめてやりましょうよ!」

 

「いや、それは駄目だ。我々は出来る限り、人間を傷付ける行為は避けねばならない」

 

 コンボイはキッテルがデストロンに洗脳された場合、ワルキューレが抹殺しようとする非情な手段に出るのではないかと心配すれば、バネットと言う車に変形するサイバトロンの警備員、アイアンハイドは気性の粗さからか、抹殺を行おうものなら実力で止める事を提案した。

 しかし、彼らサイバトロンはデストロンとは違い、か弱い生命体を無暗に傷つけたりしない正義の心を持った集団だ。アイアンハイドの提案にコンボイはワルキューレまで敵に回す可能性があると言って却下する。

 

「しかしそれでは図に乗るだけですよ! 連邦や同盟のように、少し痛い目に遭わせないと!」*11

 

 却下されて熱くなるアイアンハイドに対し、サイバトロンの副官であるスポーツカー*12に変形するマイスターは、割って入って彼を落ち着かせる。

 

「まぁ、落ち着けよアイアンハイド。友達のお兄さんが危険な目に遭わされる理由が分かるが、そうやって熱くなって突っ込むのは、お前さんの悪い癖だぞ」

 

「分かってるさマイスター。でも、仲間を助けず、助からないと決め付けて平然と撃つ奴を許せるのか? 俺の記憶回路では、いかなる理由があろうと、許せんと言ってますがね!」

 

「君の気持ちは分かるよ、アイアンハイド。だが熱くなるのは良くない。とにかく、スモークスクリーン*13たちを呼んで、対策を練らなくては。マイスター、直ちに彼らを集合させてくれ」

 

「分かりました、司令官。彼らを集合させます」

 

 それでも熱くなるアイアンハイドを宥めながら、コンボイはサイバトロンの戦略家や戦術家たちを集め、デストロンによるキッテル洗脳対策を練ろうと思い、マイスターに彼らを集合させるように指示を出した。

 

 果たしてキッテルは、デストロンの魔の手を打ち砕くことが出来るか?

 

 次回をお楽しみに!

*1
一個大隊を四五両とすると、三個大隊編成の連隊なら一三五両となる。

*2
反乱軍の戦車連隊は、三個戦車大隊とその他三個中隊で編成されているようだ。整備大隊は見られない。

*3
一ダースは十二個。

*4
ルーデルにA-10を乗せて戦車連隊に空襲を掛けさせても、全て仕留めるのは不可能だろう。

*5
ランチアストラトス・レーシングタイプ・グループ5である。

*6
喋る時は両耳が光る。

*7
ラジカセに変形する。

*8
ルーデルも英霊として蘇っており、デストロンに洗脳された際は、正義の戦士たちにとって最悪な状況であったようだ。

*9
フレイトランナーCOEがモチーフ。

*10
戦闘力、人事面、決断力は高く、サイバトロンでは最も信頼されているリーダーである。

*11
こう見えてもアイアンハイドは警備員である。若者相手には穏和な態度を取ることもある。

*12
ポルシェ935に変形。

*13
フェアレディZに変形。




キッテルの戦車襲撃シーンは、エリア88のOVA一巻の最初のシーンを参考にしました。

いざ書いてみると、思った以上に短かったので、サウンドウェーブの脱出やサイバトロンの科学者に転生したエルマー、サイバトロン達の登場を書きました。

次回は人喰い虎か、民間機ごと人を撃つような奴と戦わせる予定です。スタースクリームも出るかもよ?


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狙われたキッテル

新PCに慣れてないので、投稿に遅れました。


 ワルキューレの基地に潜入し、ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルの詳細な情報を入手したサウンドウェーブは、メガトロンが待つデストロン基地へと帰投した。

 

「サウンドウェーブ、帰投シマシタ」

 

「ご苦労、サウンドウェーブ。では、早速手に入れた奴の情報を見せてくれ」

 

「了解、メガトロン様。トランスフォーム!」

 

 基地へ帰投したサウンドウェーブは報告した後、メガトロンの指示でラジカセにトランスフォームし、コンピューターに装着する。

 コンピューターに装着したサウンドウェーブは、画面に手に入れたキッテルの情報を次々と送り込み、主人であるメガトロンに情報を見せる。あの砂漠で百両以上の戦車連隊を単独で撃退した記憶映像もである。

 この映像で、メガトロンは直ぐに自分の目に狂いは無かったと豪語する。

 

「フハハハ、やはり余の見た通りよ! 見よ、この模範すべきデストロン兵士らしい破壊の正確性を! キッテルには、是非とも余の右腕として働いて貰いたい物だ! 見る目が無いのはお前の方だったようだな、スタースクリーム」

 

「なにぃ! こんな映像が何だってんです!? 俺ならもっと早くに終わらせられるぜ! 肉ケラ如きに、このスタースクリーム様の代わりが務まるもんか!」

 

「この愚か者めが! 俺なら早く終わらせられるだ? お前なんぞがキッテルの足元にも及ばん事を、この映像を見てまだ分からんようだな!」

 

 映像を見て次の右腕をキッテルと決めたメガトロンに対し、未だに彼の実力を認めないスタースクリームは、人間であるキッテルには自分の代わりが務まらないと言う。

 だが、キッテルの実力を二度見て分かったメガトロンは彼の戦闘記録映像に指差しつつ、スタースクリームを罵倒する。

 これに腹を立てたスタースクリームは、自分の後釜となるキッテルを抹殺すべく、デストロン基地を抜け出す。*1

 

「あんたはいつもそうだ! だったらキッテルの野郎を殺しに行くまでよ!」

 

 飛び出していくスタースクリームを、メガトロンは敢えて止めなかった。

 どうやら自分等トランスフォーマーに、キッテルが勝てるかどうかスタースクリームで試すようだ。

 

「メガトロン様、スタースクリームを止めなくてよろしいので?」

 

「敢えて行かせたのだ。スタースクリームを倒せねば、余の右腕は務まらん。奴にやられるようなら、そこまでの男よ」

 

 スタースクリームを倒せるほどの実力なら、メガトロンは右腕にするつもりだが、自称ナンバーツーにやられるようならキッテルを自分の配下にはしないつもりであった。

 

 

 

 スタースクリームの魔の手が迫っていることに気付かず。今日も出撃して着々と反乱軍に損害を与えているキッテルは、次なる出撃をしようとA-10サンダーボルトⅡ攻撃機に乗り込もうハンガーを訪れた。

 だが、度重なる出撃でA-10はオーバーホール*2が必要なほどの状態であった。

 

「参りましたね、出撃できる機体が。別のA-10も代わりが無いですし」

 

「そうか。なら、あの機体に乗ろう」

 

「レシプロ機ですか…!? 対空砲でやられますぜ!」

 

 A-10が乗れないと分かれば、予備として一応ながら爆弾を搭載している単発型のレシプロ機を指差すキッテルに整備班長は驚きの声を上げ、乗らない方が良いと告げる。

 この世界の戦場は対空ミサイルが飛んでくるので、足の遅いレシプロ機など対空ミサイルなど使わなくとも、対空機関砲で撃墜されてしまう。

 ジェット戦闘機が飛び交う空戦に、レシプロ機で出撃しようとするライセンス持ちのキッテルの身を案じ、整備班長は止めようとする。

 

「えっ、フォッケのG型ですか!?*3 一応、飛べるように整備してますが、制空権が完全に取れるまで出撃を控えた方が…」

 

 キッテルが指差したのは、フォッケウルフFw190G-8型だ。レシプロ単発機であるFw190の長距離戦闘爆撃機型の最終生産モデルである。

 Fw190は元が戦闘機であり、爆装を使い果たせば空戦は可能だ。だが、敵にレシプロ機は存在しない。返り討ちにされる可能性がある。

 

「私を誰だと思っている? レシプロ機は生前に散々乗った。特徴は理解しているつもりだ。ジェット戦闘機とレシプロ機の空戦か…面白いな。よし、エンジンを回せ。出撃だ」

 

 止めろと言われても、それを覆そうとする性質をキッテルは持っている。

 決めれば、必ずやり遂げようとする事もあり、キッテルは代わりの機体が用意するのを待つことなく、Fw190G型に乗ると決め、生前のような飛行服に身を包み、その機体に乗り込んだ。

 直ぐにキッテルの自殺行為に近い決定は、基地の待機中のパイロット達に知らされる。

 

「おい、大変だ! ライセンス持ちがレシプロ機で出るってよ!」

 

「あのコイン機で!? おいおい、今度は自殺か!?」

 

「無茶苦茶だぜ! そんなに勲章が欲しいのか!?」

 

 このキッテルの行動に一同は驚きの声を上げ、無茶だと言い出す。

 単独と独断行動が許されるライセンス持ちであるが、引き換えに勲章を受賞できない規定となっている。勲章物の働きをして同然と見られているのだ。

 レシプロ機に乗って多大な戦果を挙げようとするキッテルに、基地のパイロット等はそんなに勲章が欲しいのかとざわつく。

 そんなキッテルはFw190に脚立を付け、キャノピーを開けて乗り込み、脚立を片付けるように指示を出す。その間に整備兵等はレシプロエンジンを起動させるために、必死にクランクを回している。

 回している内にエンジンが唸り出せば、キッテルは起動レバーを引いてエンジンを稼働させる。それと同時にプロペラが回り始めた。直ぐにキッテルは整備兵等に、クランクを外して退避を命じる。

 

「エンジンに火が入った! クランクを外して退避しろ!」

 

 彼が命じれば、直ぐに整備兵等はエンジンからクランクを外して退避する。それから機体を外に出し、滑走路まで進む。

 滑走路に着く前に無線機を操作し、チャンネルを管制塔に合わせれば、出撃して良いかを問う。

 

「こちらクロウ〇一、管制官聞こえるか? 出撃したい! どうぞ」

 

『なに!? クロウ〇一! お前、なんて物に乗っている!? 出撃は許可できない! そんな機体では、棺桶も同然だぞ!』

 

「棺桶? 私にとってはゆりかごなのだがな。なに、戦闘機や対空砲の類は友軍機に任せるさ。良いから滑走路を空けろ、無理にでも出撃するぞ!」

 

『なんて無茶苦茶な奴だ! 通りでライセンス持ちなわけだな! 分かったクロウ〇一、近くの滑走路を使え! 撃墜されても知らんからな!』

 

「こちらクロウ〇一、感謝する! 終わり!」

 

 出撃の許可を貰おうと連絡したが、管制官はキッテルが乗っている機体を見て却下を出した。当然であるが、キッテルは無理にでも出撃すると言えば、管制官は気迫に押されて出撃を許可した。

 許可が下りれば、直ぐに滑走路を使って大空に向けて飛んだ。

 キッテルの駆るFw190G型の搭載弾薬数は、三十年後余りに搭乗するA-10攻撃機よりも遥かに劣る。これにキッテルは不満に思い、整備兵等に限界までロケットを搭載させるべきだったと後悔する。

 

「もっとロケット弾を積ませるべきだったか? だが、重くて飛べなくなるな」

 

 十分な高度に到達して機体を安定させた後、操縦桿を動かして機体の重量を覚える。熟練パイロットとしての経験で、大戦中のレシプロ単発戦闘機ではA-10以上の搭載は出来ないと判断して、過剰搭載は我慢する。兵器の過剰搭載は墜落の恐れがあるので、むしろ控えた方が良いと言うか、原則で禁止である。

 既定の高度で友軍の交戦地域に向かう中、自分から見て十時方向に、ジェット戦闘機隊に追い抜かされる自分と同じレシプロ単発機の戦闘爆撃機の編隊を見付けた。

 機種はフォッケウルフでは無く、P-47サンダーボルト単発戦闘機であるが、搭載量の方はキッテルのFw190の方が多い。編隊の数は一個大隊相当であり、こちらの制空権が取れれば、敵は地獄を見ることになるだろう。

 

「マークが違うな。何所の隊だ?」

 

 良く見れば、自分が出撃した基地の所属マークでは無いので、無線機で何所の部隊かを問う。直ぐにキッテルのFw190を追い抜いたF-16戦闘機乗るパイロットからの返答が来る。

 

『第七二戦略爆撃機大隊だ。乗ってるのは女だろうな。後方にはB-25やモスキートもあるぜ』

 

「本当だ。合わせて二個大隊になるな」

 

 無線機からさらにもう一編隊あると言う返答に、キッテルは敵に憐れみを抱く。パイロットの言う通り、B-25爆撃機とモスキートで編成された爆撃機一個大隊分があるからだ。

 乗っているのが女性だというので、試しに接近してキャノピーを確認してみれば、本当に女性が操縦席に座って操縦しているのが見える。接近してきたこちらに驚いているのか、どこかへ行けとジェスチャーをキッテルのFw190に送っている。

 直ぐににキッテルは編隊から離れ、爆撃編隊より更に前に出る。

 

「さて、戦闘地域も近いな。機銃掃射やミサイルに気を付けねば」

 

 前に出たキッテルは、キャノピー越しから見える前方の交戦地域を見て、周囲に気を配って警戒した。これからこのロートル戦闘爆撃機で、ジェット戦闘機が飛び交う空域に突っ込むのだ。

 

 

 

 戦闘空域に突入したキッテルを待ち受けていたのは、敵の反乱軍の情報にない機種の存在を知らせる無線連絡であった。

 

MiG(ミグ)-25だ! MiG-25が居るぞ!』*4

 

『地上にはT-72が居る!』

 

『レシプロ機は下がるんだ! やられるぞ!』

 

『そこのフォッケウルフ! 退け! 邪魔だ!!』

 

「なんと恐ろしいことか!」

 

 ジェット戦闘機はMiGー23まで思っていたキッテルであったが、ここに来てMiGー25が出てきたのだ。しかも地上にはT-72戦車まで出て来ている。Fw190では厳しすぎる相手だ。他にはMS(モビルスーツ)のアンフや、AS(アームスレイブ)のサページまでいる。

 直ぐに露払いのF-15戦闘機の戦隊が、マッハ3級戦闘機の対処に当たる。*5

 

「こいつでは手厳し過ぎるな。だが、覚悟の上だ!」

 

 後方の爆撃機編隊並みの旧式機に乗るキッテルであるが、それでも破壊してやろうと思い、地上軍に攻撃を加えているアンフに飛び掛かった。

 アンフはガソリンエンジンで動くMSだ。*6前進してくるワルキューレの戦車隊に気を取られており、真上から爆弾を落としに来るFw190の接近に気付かない。他の反乱軍機も同様で、対空砲は飛び交うF-15やF-16に気を取られている。

 そんなアンフにキッテルは急降下爆撃を仕掛け、真上より500キログラムを一つ見舞った。

 生前で行った急降下爆撃を行ったため、落とされた爆弾はアンフの真上に命中し、頭の無い小人のような外見の人型兵器を吹き飛ばした。

 爆風が安定飛行を取るキッテルのFw190まで届き、衝撃がコクピット内まで来たが、何とか操縦桿を動かして安定を保つ。

 

「あの小人(ツヴェルク)、ガソリンで動いていたのか!」

 

 可変戦闘機(バルキリー)のことは知っているキッテルであるが、MSのことは分からず、吹き飛ばしたアンフがガソリンで動いていたことを知って声を上げる。

 それから二つ目の目標、T-72主力戦車*7に急降下爆撃を仕掛ける。アンフに爆弾を見舞った所為か、手持ちのライフルを持っていたサページは、東部の機銃を撃ってくる。

 何発か当たるが、ライフル弾であるために機内を貫通してくるだけで済み、キッテルは機銃掃射に負けずに爆弾をT-72に向けて投下。妨害により車体前部の方へ爆弾が落ちてしまったが、それでもT-72を撃破することに成功した。

 

「爆弾は全て使い果たしたか。ロケットは八発。Aー10は爆弾を外せばバカスカ撃てたが、考えて撃たねばな」

 

 上空へ一旦逃げてからキッテルは現在の武装を確認し、引き続き敵部隊に対する空襲を続ける。

 一機のMSと一両の戦車を仕留めたFw190は敵の注目を集めたのか、歩兵の機関銃や車両の搭載機銃による対空射撃が行われる。対空機関砲はレシプロ機には勿体ないと言う判断だろう。

 凄まじい弾幕を避けつつ、キッテルは舐められたことに少し腹を立てたが、気にせず大物を狙う。

 

「レシプロにはライフル弾程度で良いということか。舐められたものだ、驚かせてやる」

 

 敵に自分の存在を見せつけるため、キッテルは新手に出てきたザメルと呼ばれる大型MSの撃破に向かう。

 ザメルはジオン軍の長距離砲撃型のMSである。見た目とは裏腹にホバー移動による高速移動が可能であり、更には重装甲を備えている。とてもレシプロの戦闘爆撃機では敵わぬ相手だ。

 

「まるで巡洋艦だな。放っておけば、味方が蹂躙される。さて、弱点はどこだ?」

 

 ザメルを見たキッテルは驚きの声を上げ、何処が弱点なのか周りを飛んで探す。当のザメルはキッテルのFw190に目もくれず、上空を飛び交っている敵ジェット戦闘機部隊に夢中になり、対空射撃用のバルカン砲を撃ってるだけだ。

 歩兵からの対空射撃を受けつつ弱点を探して旋回する中、弱点らしき場所を見付けた。

 

「あそこにロケット弾を撃ち込めば、爆発しそうだな」

 

 弱点らしき場所は、ザメルの背面のパイプだ。そこにロケット弾を撃ち込めば、このMSから見れば化石も同然のレシプロ戦闘爆撃機でも、撃破できる可能性はある。

 キッテル迷わずそこに狙いを定め、旋回してロケット弾の照準器に長砲身のカノン砲を展開して味方の陸戦部隊に砲撃しようとするザメルに向けて撃とうとする。だが、砲身を展開したザメルのもう一つの弱点が現れた。それは発射した際の熱を逃が放蕩後部の排出口だ。

 

「いや、あれだ!」

 

 直ぐに照準を変え、そこにロケット弾を撃ち込んだ。

 全弾放たれたロケット弾は、メルの砲身後部の排出口に命中した。当たったザメルの砲身は爆発し、爆風は搭載弾頭を誘爆させ、機体本体まで達してザメルに内部爆発を起こさせる。迫る爆風にキッテルは操縦桿を切って爆風を躱す。破片が幾つか機体に刺さるが、飛行に支障はない。

 このレシプロ機で大型重MSを仕留めることなど、出来る人間は限りなくいない。キッテルはそれを今やってのけた。レシプロ機でザメルを仕留めたキッテルに対し、それを目撃したパイロットたちは驚きの声を上げる。

 

『おい、あいつ…』

 

『は、八発のロケットでザメルをやりやがった…!』

 

『ルーデルできねぇよ! こんなこと!』

 

『伝説だぜ…! こいつはよ!』

 

 ザメルをレシプロ機で撃破するという伝説を生み出したキッテルにパイロットたちが喚起する中、遂に敵軍の目を引いたのか、MiGー25の編隊がFw190に襲い掛かる。

 

『クロウ〇一! 敵機だ! 敵機が来ている!!』

 

「前に出過ぎたか!」

 

 虎の子のザメルを破壊したことで反乱軍は怒り心頭なのか、三機のMiGー25にキッテルの撃墜を命じたようだ。友軍機の知らせでその存在に気付いたキッテルは回避行動を取り、機銃掃射を避ける。*8

 

「レシプロ機で、第三世代機と空戦を演ずるのは無理だと思うが、悪足掻きはさせてもらう!」

 

 三機の機銃掃射を避けたキッテルは、友軍機の到着までジェット第三世代機相手にレシプロ機で抗って見せることにした。

 敵のパイロットはミサイルを使うまでもないと判断したのか、機銃のみでFw190を撃墜しようと何度も旋回して仕掛けてくる。これにキッテルは照準器に敵機が重なるよりも前に苦汁を撃ち、MiGー25と空戦を演じる。

 だが、キッテルの機銃は全く当たらない。敵が速過ぎるのだ。それも敵とで状況は違うが条件は同じ。マッハ3の速度が仇となり、遅いレシプロ機に当てるのが困難である。しかも当てられないように小刻みに動いているので、苛立たさせている。

 

「こちらが遅過ぎて当てるのが困難だろうな!」

 

 自分の機体が遅過ぎて当てるのに苦労している敵のパイロットに向けて聞こえぬであろう言葉を掛け、照準器に敵機が重なる前に機銃を撃ち込む。外れると思っていたが、偶然にも一発が命中したようだ。それも飛行に支障が出る部分に命中したのか、命中させたMiGー25から煙が出ている。その機は直ぐに離脱する。レシプロ機でマッハ3級の戦闘機一機を離脱に追い込んだキッテルは嬉しくなって歓喜した。

 

「やったぞ! レシプロ機を舐め腐るからだ!」

 

 逃げていく敵機に、レシプロ機を舐めるなと告げるキッテルであったが、たかがレシプロ機に友軍機を離脱させられたことに、業を煮やした敵のパイロットは、R-40対空ミサイルを発射した。

 

「しまった! ミサイルだ!!」

 

 向かってくるミサイルに、キッテルのFw190に避ける術は無い。なんせジェット戦闘機の標準装備であるフレアが搭載されていないのだ。何とか向かってくるミサイルにキッテルは機体を動かして何とか避けようとしたが、避けられるはずがなく、パラシュートが開く高度まで上昇してからキャノピーを開け、機体から飛び降りた。

 パイロットが居なくなったFw190は、追尾してくるミサイルによって撃墜され、木端微塵に吹き飛ぶ。破片が空中に飛び出したキッテルまで飛んでくるが、奇跡的にパラシュートにも当たらずに済む。直ぐにパラシュートを開き、砂漠の上まで安全に落ちるのを待つ。

 これに敵が大人しく降ろすのを待っているはずがなく、MiG-23戦闘機が機銃を当てようと旋回してくる。

 

「ここまでか…!」

 

 旋回して自分を挽肉にしようとするMiGー23を見てキッテルは二度目の死を覚悟したが、その敵機は放たれたミサイルによって撃破された。友軍のF-15戦闘機の攻撃である。

 他にも自分と空戦を演じたMiGー25も味方のF-15かF-16に撃墜されていき、やがて制空権はワルキューレに確保される。それからは空から一方的な攻撃が行われる。敵のジェット戦闘機部隊が居なくなれば、後方に控えていたレシプロ爆撃機の大群が敵地上部隊に襲い掛かり、蹂躙が始まった。

 反乱軍にはMSのデザートザクやザクタンク、アンフ、ティエレンやASのサページ、T-72主力戦車を始めとした強力な陸戦戦力があったが、空からの防御手段を持たないために、空から来るロケットや爆弾で蹂躙されるばかりだ。*9

 戦闘がやや落ち着いた所で、キッテルは信号弾を撃っていないにも関わらず、一機のVF-1Dバルキリーが迎えに来る。*10

 

「ん、早いな。信号弾は撃ってないぞ」

 

「いえ、直ぐに来て欲しいと守備軍司令官に言われたので。お乗りください」

 

「どんな要件だ?」

 

 機体をガウォーク形態に変形させ、着陸させてから降りて来た女性パイロットに、キッテルはこの星の守備軍司令官にどんな要件で自分を迎えに来たのかと問う。これにパイロットは信じてくれるかどうか不安な表情を浮かべつつ、キッテルを呼び出した要件を告げる。

 

「えーと、惑星軌道上にF-15戦闘機が現れて、軌道防衛艦隊を襲っているようです。軌道艦隊はVF-25やVF-31A、VF-2を装備していますが、その一機にかなわないようで…」

 

「宇宙にF-15に、単機で数十機の最新鋭機を圧倒しているだと? よし、ジークフリートに火を入れろ。基地に帰投次第、直ぐに出撃だ! 乗れ!」

 

「えっ!? ちょっと、私のバルキリーなんだけど!」

 

 宇宙に現れた圧倒的な強さを誇るF-15戦闘機に対し、キッテルは戦ってみたいという欲求が来たのか、あれほどの戦闘後にも関わらず、直ぐに出撃すると言ってVF-1Dの操縦席に座る。これにパイロットは取り残されると思い、慌てて二番席に飛び乗り、シートベルトを締める。

 VF-1は練習飛行で何度も乗った経験があるのか、キッテルは難なく動かし、二番席にパイロットが乗ったのを確認してからキャノピーを締めてから機体を上昇させ、一定の高度まで達すれば、ファイター形態に変形して急いで基地に帰投した。

 その自分を狙いにやってきた圧倒的強さを持つF-15戦闘機と戦うために。

*1
こういう場合、スタースクリームが反乱を起こす時だが、これは反乱では無い。

*2
部品単位まで分解し、清掃して再度組み立てを行って新品に近い状態に戻す整備。

*3
フォッケウルフFw190G型

*4
MiGー25はロシアのマッハ3級実用戦闘機である。

*5
F-15戦闘機はMiGー25対策の為に開発された。

*6
モビルスーツには様々なエンジンがある。核エンジンに電力、エイハブ・リアクター。

*7
型は輸出型のM

*8
MiGー25には機銃は搭載されていない。ガンポッドを機首下面左側に装備している。

*9
ロボットは強く描かれるが、制空権を取られれば的である。

*10
VF-1Dは練習機で複座型。




まぁ、MiGー23相手だとキッテルが死んでしまうので、マッハ3級のMiGー25と空戦をさせることにしました。

えっ、ご都合主義だって? だって、ザメルをフォッケウルフで撃破するんだもん。しょうがないじゃないかぁ(某えなり風に


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キッテルVSスタースクリーム

遂にエース対決です。

イメージ戦闘BGMはこちら↓
https://www.youtube.com/watch?v=wTup5mT4O-Q


「はっはっはっ! ウォーミングアップにもならねぇな!!」*1

 

 一方、ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテルの命を狙うために襲来したデストロン軍団のナンバーツーであるスタースクリームは、自分を迎え撃つために展開してきたVF-2SSバルキリーⅡやVF-25Aメサイア、VF-31Aイカロスを初めとした高性能バルキリー群をいとも容易く撃墜し、防衛艦隊の蹂躙を始める。

 ワルキューレ宇宙軍の防衛艦隊は、単独で迫るF-15戦闘機形態のスタースクリームに決死の迎撃を行うが、圧倒的な力を持つスタースクリームの前には敵わなかった。

 

「肉ケラ共が! 俺たちトランスフォーマーの真似なんぞしやがって! 俺たちに敵うはずがねぇだろうが!!」

 

 艦隊や艦載機を蹂躙する中、スタースクリームはロボット形態に変形(トランスフォーム)し、胸部のミサイルを発射して更に防衛艦隊の損害を拡大させる。

 これにより防衛艦隊は壊滅的被害を負い、生き残った艦艇と艦載機は撤退を余儀なくされる。

 数機のVF-2SSと、VF-25A、VF-31Aが何としてもスタースクリームを止めようと、編隊を組んで攻撃したが、圧倒的な強さを持つデストロン軍団のナンバーツーには敵うことはなかった。

 VF-2SSは三機編隊となって見事な連携でスタースクリームを攻撃するも、彼の必殺技であるナルビーム光線を受けて二機が行動不能となり、とどめのレーザー攻撃を受けて撃墜される。一機はこれを避け、バトロイド形態となって頭上を取ったが、攻撃を避けられてレーザー攻撃を受けて撃破された。

 

「次に死にたい奴はどいつだ!?」

 

 三機のVF-2SSを葬り、挑発してくるスタースクリームに対し、VF-25AとVF-31A、それぞれ三機編隊は左右より襲い掛かる。

 ガンポッドやビーム、ミサイルを撃ち込むが、スタースクリームはこれらをF-15に変形して軽やかに避け、六機とドックファイトに始める。

 一機対六機、勝つのは後者であるはずだが、前者はあのスタースクリームである。後ろを取ったはずのVF-25Aは、ロボット形態にトランスフォームしたスタースクリームに撃墜され、残る二機は一機を囮にしてもう一機が撃墜をしようとする二機編隊の戦法を取るも、敵うはずがなかった。

 VF-31Aの編隊も同様に撃墜され、後ろを取られたVF-31Aは特徴的な武装であるコンテナパックのビームガンポッドで迎撃するも、あっさりと避けられ、連発したレーザー攻撃でハチの巣にされてバラバラとなる。

 

「へっ、この俺様にそんな物で敵うと思ってんのか?」

 

 ロボット形態に戻ったスタースクリームは、デブリだらけとなった衛星軌道上にて、キッテルが居る真下の惑星に視線を移す。次は自分のナンバーツーの座を脅かすキッテルである。

 

「さて、次はお前さんの番だぜ、キッテルよ。細かくミンチにして、ハンバーグにしてやるぜ!」

 

 そうこの場に居もしないキッテルに勝利宣言した後、スタースクリームは惑星に降下した。キッテルの命を狙うべく。

 

 

 

 スタースクリームこと派手な色のF-15戦闘機襲来の報を聞き、急いで基地へ戻り、三機の僚機を伴ってVF-31Sジークフリートに乗って現場へ急行するキッテルであったが、僚機の一機が撃墜された。

 

「っ!? ラング三!」

 

 レーザー攻撃を受けて火を噴きながら墜落していくVF-31Aを見たキッテルは、直ぐに前方を視線に戻し、レーザー攻撃を続ける派手な色のF-15戦闘機に集中する。照準器に捉えれば、直ぐに僚機と共にミニガンポッドを発射するが、容易によけられてしまう。そればかりか、去り際に僚機がまた撃墜されてしまう。

 

「なんだこいつは!? 強いぞ!」

 

「当り前よ! お前を殺しに来たんだからな!!」

 

「戦闘機が喋った!?」

 

 編隊の後方へ通り過ぎた以上に強いF-15にキッテルは戦慄を覚える中、更には喋ったことに驚きの声を上げる。それも当然である。この派手な色のF-15戦闘機はスタースクリームなのだ。そのスタースクリームは再び攻撃を仕掛けようと旋回してくる。

 また僚機がやられてしまうかもしれないので、キッテルはスタースクリームが旋回してくる前に、僚機に離脱を命じる。

 

「離脱しろ! こいつはお前ではやれん!」

 

『りょ、了解!』

 

「冥途の土産に教えてやるぜ! 俺様の名はスタースクリーム! 貴様をぶち殺しに来たのよ!」

 

 この旋回で確実に仕留めようとしているのか、スタースクリームは名乗り上げる。

 無論。ただでやられてやるキッテルではない。機体をバトロイド形態に変形させ、レーザー攻撃を両腕のピンポイントバリアで防御する。スタースクリームが横を通過すれば、直ぐに機体背部のコンテナパックのビームガンポッドを撃ち込む。

 スタースクリームも同様にこれを躱し、ロボット形態にトランスフォームしてホバリングした後、改めて宣言する。

 

「中々やるな! それでこそ殺し甲斐があるぜ! 改めて言うぞ! ニコラウス・アウグスト・フォン・キッテル! 貴様は我がデストロン軍団の脅威となったのだ! このデストロンのナンバーツー、航空参謀のスタースクリーム様が直々に貴様を地獄へ送り返してやるぜ!!」

 

「ロボットになった!? 口が動いている!?」

 

 お前を殺すと宣言するスタースクリームであるが、それよりもキッテルは戦闘機がロボットになり、人間のように喋って意思を持っていることに驚いている。

 キッテルは初めてトランスフォーマーを見たのだ。自分をの命を狙いに来たスタースクリームよりも、喋るロボットの方が驚きのであるのだ。

 

「何を呆けてやがる? そうか、トランスフォーマーを見るのが初めてなんだな? まぁいい。このままぶっ殺してやるぜ! ナル光線を食らいな!」

 

 始めてみる機械生命体に驚いているキッテルに対し、スタースクリームは容赦なく自分の必殺技である機械の機能を一時的に麻痺させるナルビームを発射する。この初弾をキッテルは躱し、機体をガウォーク形態に変形させ、ミサイルによる反撃を行う。

 

「はっ! その程度のミサイルで、俺様をやれると思ってるのか!? 甘いぜ!!」

 

 発射されたマイクロミサイルに、スタースクリームは余裕で避ける。体を回転させて避け、時には両肩のレーザー砲でミサイルを迎撃し、発射されたミサイル全てを破壊した。

 圧倒的なスタースクリームの強さに、キッテルは戦慄を覚える。今までの敵とは訳が違う、違い過ぎる。最新鋭機に乗るブラックグリフィンことジェンソンなど、あのスタースクリームは前では赤子も同然だ。初めて戦う戦闘機に変形する機械生命体に対し、キッテルは蘇って初めてか、それか人生初の勝てるかどうかの不安に駆られる。

 

「この敵、今までの奴とは違い過ぎる…!」

 

「肉ケラ同士の戦いじゃこんなのは味わったことがねぇってか? はっ! お前ら下等な肉ケラ共がトランスフォーマー、いや、この俺様に敵うわきゃねぇんだよ! 死ね!!」

 

「うわっ!?」

 

 人間は我らトランスフォーマーには敵わない。

 そう宣言したスタースクリームは、防衛艦隊を蹂躙した胸部のミサイルポットを発射した。突然、発射されたミサイルに、キッテルは驚きつつも、機体をファイター形態に変形させて向かってくるミサイルを回避しようと試みる。トランスフォーマーのミサイルは、人類が作るミサイルとは違い、デコイのフレアにも反応せず、破壊されるか、目標に当たるまで追尾し続ける。*2

 

「この俺様のミサイル攻撃から逃れようと言うのか? 馬鹿め、逃げられんわ! なんたって金魚の糞みてぇにしつこいからな! はっはっはっ!」

 

 自分の放ったミサイルから必死に逃れようとするキッテルを、スタースクリームは嘲笑う。

 どうせ逃げられないと思っているのだろう。だが、いくつもの苦難をキッテルは乗り越えてきた。彼は諦めず、自分の腕を信じて必死にミサイルを躱すか、迎撃している。数十発のミサイルに、キッテルは弱気を見せることなく、冷静を保って逃げながらミサイルを迎撃している。

 数分以上もミサイルに追尾されていたキッテルは、機体の迎撃兵装を巧みに駆使してスタースクリームが放った全てのミサイルを迎撃した。これには、スタースクリームも驚きを隠せない。

 

「なっ、なんだってんだ一体!? 俺様のミサイルを全部撃ち落としやがっただと!? 何かの間違いに違いね! 肉ケラ風情が、この俺様に敵うわきゃねぇんだ!」

 

 ミサイルを全て撃破されたことに、スタースクリームも殺そうとしているキッテルと同じ動揺を覚えるが、それを振り払って戦闘機にトランスフォームし、VF-31Sに襲い掛かる。

 

「はぁ、はぁ…! 来るか!!」

 

 仕掛けてくるスタースクリームのレーザー攻撃に、ミサイルを避けるために全神経を注ぎ、息を切らしていたキッテルは再び集中して操縦桿を動かして回避する。回避するのに全力を注いでいるため、必然的に背後へ回られ、追撃を受ける。一方的に、スタースクリームに撃たれているのだ。

 時に背後を狙える四門のレーザー砲やウェポンコンテナのビームガンポッドでスタースクリームを追い払おうとするが、何処から来るか分かっている背後の派手な色のF-15戦闘機は笑いながら躱し、レーザー攻撃の手を緩めない。

 

「はっはっはっ! 馬鹿が! そんなちゃちな迎撃兵装でこのスタースクリーム様を斃せるものか! 死ね!!」

 

 迎撃してくるキッテルに対し、スタースクリームは敵の動きを止めるナルビーム光線を発射する。背後からのナルビーム光線を撃たれれば一溜りもないが、キッテルは急降下して躱し、インメルマンターンを決めてスタースクリームに反撃を行う。

 

「なに!? この俺様に当てやがっただと!? ふざけやがって! 死にやがれ!!」

 

 反撃で使った兵装はミニガンポッドだ。この掃射を胴体に受けたスタースクリームは、自分より劣るはずの肉ケラたるキッテルに当てられたことに腹を立て、ロボット形態にトランスフォーマーして両腕のレーザーを乱射する。

 この乱れ撃ちをキッテルは操縦桿を巧みに動かして躱し、近付いたところで機体をバトロイド形態に変形させ、両腕の実体剣であるコンバットナイフを展開してスタースクリームを斬った。

 

「ぐわぁぁぁ! 俺のボディに傷をつけやがって! クソが!!」

 

 胸を斬られたスタースクリームは痛みの余り声を上げるが、怒り任せに反撃の蹴りをキッテルのVF-31Sに食らわせて吹き飛ばした。トランスフォーマーの蹴りは凄まじい物だ。蹴り飛ばされたキッテルは何とかスラスターを吹かせ、追撃のレーザー攻撃を躱して機体をガウォーク形態に変形させ、避けながら反撃を行う。

 

「っ!? 対空砲火! これは味方の物ではないな! 知らぬ間に反乱軍の制空圏内に入ったか!」

 

「うわっ!? 邪魔をしやがって! 肉ケラ共が!」

 

 スタースクリームの激闘を繰り広げている最中、いつの間にか反乱軍の勢力圏内に入ってしまったようだ。

 空中戦を繰り広げている両者を見付けた反乱軍は、直ぐに対空砲火を行って迎撃を試みるが、全く当たることはない。対空砲火が止めば、スクランブル機がキッテルとスタースクリームに襲い掛かる。連邦軍より供給されたバルキリー・ハウンドだ!*3

 両者を発見したVH-3の十五機編隊は警告することなく、主翼に搭載しているミサイルを照準次第、躊躇うことなく発射した。

 

『くたばれ! アバズレが!!』*4

 

 反乱軍のパイロットは罵声を言いながら、キッテルのVF-31Sにミサイル攻撃を行うが、あっさりと避けられて逆に三機が撃墜されてしまう。

 スタースクリームの方を当たった編隊は、全機がロボット形態に変形し、包囲して集中砲火を浴びせているが、相手はデストロン軍団ナンバーツーの航空参謀だ。返り討ちに遭い、瞬く間に全機が撃墜された。

 

「お前らが作ったガラクタなんぞが、このスタースクリーム様に挑もうなんざ、一千万年早いんだよ!」

 

 そう言って連邦製可変戦闘機を一蹴したスタースクリームは、再びキッテルを狙おうとするが、彼はその隙に反乱軍の基地内に逃げ込んでいた。直ぐに有象無象に湧いてくるVH-3を撃ち落としながら、スタースクリームはキッテルの後を追う。

 逃げているキッテルにも有象無象の敵機が襲来し、攻撃してくるが、これよりも強い敵と交戦している彼には全く敵わず、撃墜されるばかりだ。

 二人の戦いに巻き込まれた反乱軍は戦力をズタズタにされた挙句、基地内を荒らされるばかりだ。早く追い払おうと味方を巻き込む勢いの対空弾幕を行うが。両者とも戦いながらこれを避けている。並大抵の物ではない。

 

「しつこい野郎どもだ! 死に晒せ!!」

 

 余りにもしつこい攻撃してくる反乱軍に対し、スタースクリームは周りにレーザーを乱射し始める。壁にバトロイド形態で身を隠していたキッテルは、操縦桿を動かして飛んでくるレーザーを避ける。反乱軍は周囲に乱射されたレーザーで一掃され、動いているのはキッテルのVF-31Sとスタースクリームのみだ。

 この反乱軍を一掃した際にエネルギーを消耗したのか、スタースクリームは両手をかざして空のキューブを三つほど作り始める。*5

 

「何をしている?」

 

 自身もシステムで機体の応急処置をしているキッテルはカメラでスタースクリームが空のキューブを作り、そこに機体の残骸から出ているガソリンを注いでいる。ガソリンが注がれた空のキューブはピンク色に輝き始める。これはエネルゴンキューブと呼ばれるトランスフォーマーに必要なエネルギー、人間でいえば、生きるのに必要な栄養分だ。それを残り二つに注ぎ、一つ目を持って飲み始める。

 

「無駄にエネルギーを消耗しちまったぜ。この肉ケラ共の所為で、途中でへばっちまったら元も子もねぇや。今のうちに、エネルギーを補給しねぇと」

 

「今だ!」

 

 そう言ってスタースクリームがエネルゴンキューブを飲んで補給する中、キッテルは攻撃を仕掛けるチャンスだと判断して、機体の応急処置が終われば、直ぐに行動に出た。

 一番強力なビームガンポッドを手に持たせ、遮蔽物としていた壁から飛び出し、エネルギー補給中のスタースクリームに照準を合わせ、今までやってきた通りにトリガーを押し込んだ。

 

「なにっ!? うわぁぁぁ!!」

 

 補給中のところを狙われたスタースクリームは、発射された三発ものビームを胴体に受けた。そればかりではなく、流れ弾が置かれていたエネルゴンキューブにも命中し、その爆発に巻き込まれてスタースクリームは吹き飛ぶ。

 

「ぬわっ!?」

 

 三つ目のエネルゴンキューブにも誘爆したところで、キッテルにも爆風が襲い掛かり、彼が乗るVF-31Sも吹き飛ばされる。

 近くでエネルゴンキューブの爆発に巻き込まれたスタースクリームは基地の外の砂漠まで吹き飛ばされ、砂塵の上に叩き付けられた。爆発のダメージはキッテルのVF-31Sよりも凄まじく、関節も機能にも異常が出ていた。とても戦闘ができる状態では無く、早く修理をしなくてはならないのだ。

 

「畜生、間近で爆発した所為で、関節も照準機能も色んなのが滅茶苦茶だ! とても戦闘ができる状態じゃねぇ! ここは退くしかねぇか…!」

 

 なんとか立ち上がったスタースクリームは撤退する他ないと判断し、戦闘機にトランスフォームしてこの惑星から撤退する。

 

「次こそは覚えてやがれ! 必ずぶっ殺してやるからなーッ!!」

 

 捨て台詞を残し、スタースクリームは撤退した。

 いま追えば確実にスタースクリームを斃せるが、今のキッテルのVF-31Sも同様に戦闘不能状態に近く、追撃ができる状態では無かった。

 

「追撃したいところだが…今の私の機体も戦闘ができる状態では無いか…。しかし、今までの敵とは違い過ぎる。あのスタースクリームという喋るロボットは、どのパイロットや私の妻よりも圧倒的だ。あんなのがゴロゴロとしているとなると、ゾッとするな」*6

 

 追撃を諦めたキッテルはヘルメットを脱ぎ捨て、飲料水を口にして気分を整えた後、スタースクリームのような敵とあまり戦いたくないと口にする。

 キッテルにそれを言わせるほど、スタースクリームは強過ぎたのだ。彼がエネルギー補給をしているからこそ勝てたのだが、反乱軍の基地に逃げ込まず、普通にスタースクリームと戦っていれば、結果は最悪な方に転がっていただろう。最悪な結果、つまりキッテルの敗北だ。

 

「さて、またあんなのが来るかもしれない。早く帰投して補給をしなくては。機体の修復もな」

 

 何とかスタースクリームを撃退したキッテルは、出撃した飛行場へと帰投した。

 

 

 

 キッテルとスタースクリームの死闘。その戦いを、宇宙より眺めている一団があった。メガトロンが率いるデストロン軍団である!

 

「スタースクリーム、撤退ヲ確認。攻撃シマスカ?」

 

「いや、良い。これでキッテルの実力は分かった。奴は余の右腕として相応しいと存在と言うことがな」

 

 スタースクリームが自軍の基地へと逃げていくのを確認したサウンドウェーブはワルキューレの惑星を攻撃するかをメガトロンに聞くが、彼はキッテルが自分の右腕に担うかどうか確認しに来ただけなので、攻撃はしないと答える。

 殺しに来たスタースクリームを、辛うじてではあるが撃退に成功したキッテルを是非とも右腕として出迎えたいメガトロンはさっそく基地へ戻り、その準備をしたいと告げて帰投を命じる。

 

「では、奴を出迎える準備をしないとな。デストロン軍団、基地へ帰投するぞ!」

 

 メガトロンがそれを命じれば、破壊のトランスフォーマーの集団であるデストロン軍団は基地へと帰投した。キッテルをデストロン軍団に出迎えるために。

*1
トランスフォーマーの戦闘力は、単体でも一個機甲師団程はある。スタースクリームはその五倍である。

*2
セイバートロン星の科学力は、未だ解明できないでいる。エルマーの活躍に期待だ。

*3
機種はVH-3。MiG-23に似ている。

*4
VF-31Sに乗ってるのはキッテル。男である。

*5
トランスフォーマーに必要なエネルギー、エネルゴンキューブを作成している。

*6
キッテルと交戦したフィリベール・クローベルは、二度と戦いたくないと言っている。




政宗一成「メガトロンに気に入られ、いつも裏切るスタースクリームの後釜に任命されたキッテル。
 果たして、キッテルはメガトロンの勧誘を断れるか?
 今ここに、キッテル対デストロン軍団との戦いが始まる!」

BGM聞きながら執筆すると、結構進むな。

皆さんもどうです?


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