少女と青年と精霊と(仮題) (反転アイール)
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用語集

補足です。
その内後付け設定が増えたりするかもしれません。


魔導学

 

魔法を理論的に体系化した学問。

基礎は文字通りの基礎。

魔素の循環方法とか、効率的な魔力の扱い方などいろいろ

 

 

魔素

 

大気中に遍在している物質。

魔法を起動するためのエネルギー源の一つ。

いっぱいある。

 

 

魔力

 

生物が体内に貯め込んでいる魔素のこと。

これも魔法を起動するためのエネルギー源の一つ。

貯蔵量は各生物によって大きく異なる。

 

 

魔法

 

魔力あるいは魔素を用いて起こす奇跡のこと。

火をつけたり、風を吹かしたり、雷雨を起こしたりと様々。

すごい。

 

 

魔素適性

 

魔素に対する親和性のこと。これが低いと魔法行使の際に酔ったり血反吐を吐いたりする。こわい。

なお,低すぎると自身の魔力に対しても反応してしまったり。

 

 

魔法実技

 

文字通り魔法を扱った実技のこと。ここで見られるのは戦闘中に使用する魔法の質。

ちゃんと魔法使わないと残念な評価になる。

 

 

魔導士

魔法を使う人間のこと。

 

 

魔具師

魔具の製作を主目的とする魔導士のこと。

 

 

宮廷魔導士

 

色んな国の王城で勤務する魔導士のこと。性質上荒事が多かったり贅沢できたり。

様々な国から優秀な魔導士が求められているため、倍率がえぐい

 

 

魔具

 

「魔法を込められた」「魔素を込めると発動する」「魔素が込められた」道具のこと。

これを発動体とすると魔素適性をある程度無視できたり、魔法の威力が上がったりする。

 

 

魔素注入器

 

物体に魔素を注入する装置。

魔具を作るためだったり、魔具のエネルギーを補充するために用いられることが多い。

一応生物にも注入自体はできるが、自身の魔力と魔素が反発し、拒否反応が起こるので推奨されていない。

自身の魔力を注入するのと、周囲の魔素を注入する2通りがある。

 

 

魔力注入

 

物体に魔力を注入すること。

魔素適性が一定以上ある魔導士は大体行える。

ただ、魔素注入器より精密性には劣り、魔素注入器と異なり自分の魔力以外は注入できない。

 

 

発動体

 

魔法の効果を発動するための術式が込められる物体のこと

基本的には自身が発動体となる。ただ、魔具などにこの発動体を代用させることも可能。

 

 

術式 

 

魔法の効果の指向性を決定するプログラムのようなもの

魔法発動の際には自身の魔力で術式を作成⇒そこに魔素を込めて魔法を発動というプロセスが基本的に行われる。

術式は魔素でも描けるが,魔力で描く方が圧倒的にやりやすいため,魔素は基本的にエネルギー源にしかならない。

 

 

術印

魔力で術式を描く際の軌跡。これは維持できるため、言葉の形の術式を作成し、メッセージを視覚化して伝えることができる。

 

 

魔獣

 

魔法を扱う人間以外の獣のこと。

発達した牙や角など、無意識的に指向性を持たせた魔法によって独自の進化を遂げている。

基本的には人に害をなす存在だが、例外も存在する。

 

 

三英傑

 

1000年前に起きたとされる『禍』。それを終結に導いた三人の人物のこと。

二つ名がついてたりする。

 

 

 

1000年前に起きた、魔獣と人類との戦争のこと。発生から100年後くらいに三英傑が終息へと導いた。

 

 

ラムシア地方

メルトの実家がある所。田舎。ここで生まれた人は皆昼間に寝てしまうため、風習としてお昼寝タイムがある。

 

 

 

 



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1:幼き日の記憶/ノアとの談笑

文って書くの難しいですね…
文章内の用語に関しては用語集やら後々の話で補足します。


幼い頃の私は、星を眺めるのが好きだった気がする。

 

 

いつからかは覚えていないけど、親も寝静まった真夜中にこっそり起きて、テラスから見える星をじっと眺めるのが習慣となっていた。

 

 

(きょうはお星さまがよくみえる!きれいだな…)

 

 

今思えば、星の輝きの尊さを、無意識の内に感じていたのかもしれない。

憧れ、といってもいい気がする。

あのきらきら星みたいにきれいな人になりたいとか、そっちの星に行ってみたいとか、そんな感じの。

 

 

(そとでみようっと)

 

 

その日は、雲一つない満天の夜空だった。

 

 

一際綺麗なその風景に、つい舞い上がってしまい、外へ出てみようなんて考えてしまった。

十にも満たない年で、随分と大胆なことをしたものだと思う。

 

 

ただ、その行動が忘れられない衝撃を生んだこともまた事実で。

 

 

私の『夢』はここから始まったんだな、とも思う。

 

 

この日。

 

 

 

『……あ』

『…ぅん?』

 

 

 

私は、彼と出会った。

 

 

________________________________________________

 

 

「――ルトちゃん?メルトちゃん、起きてってば!」

「――んえっ?」

 

 

私の眼前で、栗色の髪がたなびく。

その髪の持ち主である少女は、寝ぼけている私を見て、呆れながら続けた。

 

 

「もう放課後だよ、もう…。」

 

 

どうやら眠っていたらしい。大きく伸びをしながら辺りを見ると、教室には私と彼女以外誰も居ないようだ。

うわ、と思いながら私は彼女に尋ねる。

 

 

「…いつから寝てました……?」

「昼休み終わってからずっと。午後の講義まるごとスルーしてたよ?」

「起こしてくださいよぉ!!!!!!」

「起こそうとしたよ…けど、いくら揺すっても起きないし、幸せそうな顔で寝てるから…。それにいつものことだし、別にいいかって」

 

 

投げやりな言葉に私は嘆きの声をあげるしかない。

 

 

「よくないですよ!バカ!ぅう…今日の午後講義の先生、誰でしたっけ……?」

「魔導学基礎だから、スターク先生だね。『呼び出しはもう面倒だからしないが、代わりに反省文な』って。メルトにこれ渡しておいてくれって言ってたよ。」

 

 

その手には分厚く重ねられた原稿用紙。

思わず白目を剥いた。

 

 

「いやいやいやいや…これ原稿用紙何枚ですか。紙の無駄遣いは良くないですよ!」

「しょうがないでしょ、いつも昼ご飯食べたら寝ちゃうメルトがいけないんだから…」

「それにしたってコレはないでしょう!前回の3割増しくらいあるじゃないですか!やりませんよ私はコレ!」

「ちなみに提出しなきゃ単位なしだって」

「その手ズルくないですか????」

 

 

うぅ……と机に突っ伏して項垂れる。

大体にして午後の陽気がよくないのだ。ご飯を食べて満足した身体にあの暖気。

寝ない方がおかしいだろう。

 

そんな理論武装をしつつ、私は友人である彼女―――――ノアに話しかける。

 

 

「下校する時刻まで待っててくれたんですから、これ書き終わるまで待っててくれませんか……?」

「えぇ…?また?」

「いや本当にお願いですって!!一生のお願い!」

「もう50回くらい聞いたよそれ…今日は委員の仕事で偶然残ってただけだし、家の手伝いもあるから早く帰りたいんだけど…」

 

 

消極的なその意見に、私は泣きつく。

 

 

「そこをなんとか!ね!ねね!」

「うわっ、急にひっつかないでって…危なっ、とっ、ちょ」

「お願いですってぇ!」

「わかった、わかったからぁ!一旦離れてってぇ!!」

 

 

取っ組み合いの結果は私に軍配が上がったようだ。

私は彼女のひっつき虫をやめる。

うぅ…制服ぐちゃぐちゃ…と悲しそうな声が聞こえるが、必要な犠牲だったのだろう…

大本の原因には目を逸らしているが。

 

制服をある程度整え終えたのか、ノアがため息を吐きながら話しかけてくる。

 

 

「言っておくけど、居れるのは18時までだからね?それ以降は酒場が忙しくなっちゃうだろうし」

「そこまで居てくれれば十分です!ちゃちゃっと書いちゃいますよ!もう二桁は書いてますし」

「それに毎回突き合わされる私の身にもなって…というか、その集中力をなんで午後寝ないために使わないのか疑問だよ…」

 

 

そんなことを言われても、眠いものは眠いのだ。しょうがない。

うむうむと内心で納得しながら、原稿用紙の空欄を埋めるために高速で手を動かす。

ノアはその様を呆れたように見ている。

 

 

「私は本気出せば優秀ですからね、魔法実技はカスですけど」

「じ、自分で言うんだソレ…まぁ、周囲からの評価もそんな感じだもんね。先生も『午後のアレがなければ主席は取れてる』なんて言うくらいだし…」

「先生そんなこと言ってたんですか??いや照れるなぁエヘヘ」

「『魔法実技の結果を除けばだが、あれは控えめに言ってカスだ』っても言ってたね」

「そこまで言います?????」

 

 

自分で認めてはいるけども。

世の中の不条理さに涙が出そうである。

 

 

「でも本当に残念だよね…メルトは魔素適性さえあれば、宮廷魔導士だって夢じゃないスペックしてるのに…」

「おっ、褒めてもなにも出ませんよ?私が気持ちよくなるだけです」

「もう…すぐ茶化すんだから…」

「たらればの話してもしょうがないですからね、適性に関しては魔具とかである程度なんとかなりますし」

 

 

事実、それで魔法実技はなんとかしてきたし。

魔具の持ち込みがOKで助かったとあれ程思った日はない気がする。

浮かない表情のノアに対し、私は続ける。

 

 

「それに私は宮廷仕えなんて高尚なレベルの職業に就こうなんて考えてませんからね。というか、誰かに仕えるとか私苦手ですし」

 

 

そんな職業についたらついたで、日々のストレスで禿げそうだなとか、そういうイメージしか浮かばない。他人にマウントを取れる点では良いのかもしれないが。

私の言葉を聞いたノアは苦笑した。

 

 

「あはは…そういうところ本当に変わらないよね。心配して損したって毎回思っちゃう」

「私の心配するくらいなら自分の心配した方が良いですよ。自作魔具の提出、確か近かったでしょう?仕上げ急がないと」

「う……そうだった。一応用具一式は持ってきてるから、いっそのことここで作っちゃおうかなぁ。メルトはもうできてるの?」

「家からくすねた魔具あるのでそれでいきます」

「バカなの??」

「オセロー先生なら許してくれるかなって…」

 

 

ノアは頭が痛そうにしている。何度も見た光景だ。

冗談ですと告げると、ぽこりと頭をはたかれる。痛い。

反省文の処理で精神力を削られているのだから、そのくらいのお茶目を許してくれても良い気がする。

 

 

「まったく…それで本当の所は?」

「適当なテールランプを作成しましたね。9割5分完成してはいますけど、最後の魔力注入が鬼門すぎるので放置してます」

「あぁ…魔素適性必要だもんね、その作業。注入用の魔具は高いし…」

「学校の備品を借りようと思ったんですけどね。先輩方の実験で中々機会がないので。反省文出すついでに先生に頼んでみましょうかねぇ」

「それが良いかもね」

 

 

はぁ、とため息をつきながらペンを動かす。

こういう時には自分の適性のなさが恨めしくなる。

かゆい所に手が届かないという感じで、絶妙な感じで問題が発生するのだ。

ちらりと横を見ると、ノアが魔具作成用の器具を準備している。

彼女は準備を終えた後、うーんと唸りながら、両腕を組んでいた。

 

 

「結局何作るか決めたんですか?」

「それが中々…シンプルさで行くならメルトみたいな家具でも良い気がするし、今後学院で使っていくなら、動作補助系の魔具とかも挑戦してみても良いかなって…」

「なるほど、確かにノアは気弱な見た目と違って実技成績クソ高いですもんね。詐欺ですよ詐欺」

 

 

初めて魔法実技で対面した時のことは忘れられない。

人を見た目で決めつけてはいけないと強く思い知った日だった。

まぁ、その日のおかげでこうして話す仲となったのだが。

 

 

「気弱な見た目って…まぁ確かに酔っぱらったお客さんを相手するために、ね…最低限の護身術は必要だったから、その影響かなぁ?」

「その最低限のレベルが問題なんですよ。いざ戦うとなるとスイッチ入ったみたいに好戦的になりますし。魔具叩き割られたこと、まだ忘れてないですからね」

「うっ…それはその…大変申し訳ありませんでした…」

「よろしい」

 

 

こういう素直なところは彼女の美点だろう。

当人はむむむ…とまだ納得しきっていないような声を上げているが。

 

 

「そ、そんなこと言ったらメルトもそうでしょ!魔法補助ほぼなしにあんな軌道で動くなんて…」

「山育ちですからね」

「むー…これ系の話題全部それではぐらかされるし…」

「しょうがないでしょう、実際それだけですし」

 

 

都会育ちを卑下するわけではないが、魔獣が行き交うほどの田舎で培った経験は伊達ではないのだ。

それに魔法実技では魔法の腕が試されるわけで、試験の目的からみれば私の運動能力などさほど意味がないというか。

まぁそういう訳である。

うー、と唸り声を上げるだけの機械となったノアを尻目に、私は席を立った。

 

 

「あれ、もう書きあがったの?反省文」

「優秀ですからね、このくらい当然です。褒めても良いんですようふふ」

「それが反省文じゃなきゃ素直に褒めてたよ…前回より早いんじゃない?」

「これが適応力というものですよノア、しっかり見習うことですね」

 

 

むふー、と強い達成感を感じている私を、ノアがなんとも言えない表情で見ている。

時計を見るとまだ17時程度。彼女が約束していた時刻よりも大分早くに終わったようだ。

彼女の方を見る。魔具作成の進捗はよろしくないようで、部品を手で遊ばせながらぼーっとしている。

未だに明確なイメージが出来ていないのだろう。ふむ、と私は顎に手をやる。

 

 

「ノアが良ければ、18時まで魔具作成手伝いますけど」

「えっ、良いの?」

「今日残って貰ったお礼をしていませんでしたからね。構想へのアドバイス程度なら私にもできるでしょうし。それに、スターク先生のことですし、18時ぐらいまでなら余裕で残ってるでしょう、たぶん」

 

 

そう続けるとノアは花が咲いたような笑顔になった。

 

 

「ありがとーメルト!!」

「うわ、ちょ、急に抱き着かないでくだ、ちょ、あぶ、ぐえぇ」

 

 

はしゃぐノアにひっつかれながら、先ほどとは真逆の立場になってしまったな、なんてことをメルトは考えた。

 

 

 

 



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2:イェムスタ魔導学院/スターク先生との対談

文字数は3000~5000文字くらいで最初は頑張っていきたいです。


イェムスタ魔導学院。

それが私、メルト・アーメンテラスが通う学院だ。

 

1000年前に起きたとされる魔獣との大戦争。それを終結へと導いた『三英傑』の一人、イェムスタ・ディネイヴが建設に携わったとされており、その敷地面積は3億㎡を誇る。

敷地内には学院だけでなく様々な店舗も設置されており,学院というよりは一個の小都市ともいえるだろう。

 

学院としての質もかなりのものであり,つい最近開発・発見されたばかりの魔具や発動体も完備されている。教師に関しても同様で,高い実績を持つ教師が、様々な分野に分かれて指導を行っているらしい。一部そうは見えない教師も居るが。

 

ここでは生徒に対し5年間にわたる教育が施される。出る頃には生徒全てが一流の魔導士となっているらしく、初めて聞いたときは「すごいなー」と月並みの感想が出た。モットーの『将来的に有望な人材の育成』に恥じない教育に対し、感服である。

 

まぁ、そんなハイスペックな学院なら、魔導士を志す者誰もが「行きたい!」となるだろうが、残念ながら敷居は低いわけではない。というのも、入学の最低条件として、下記の3点を満たしていなければならないためである。

 

1. かしこいこと(筆記試験で8割程度の点数を獲得する)

2. つよいこと(実技試験で試験官3名全員からA評価以上を獲得する)

3. かね(純粋に受験の費用が高い。ついでや記念受験を防ぐためだろうか?)

 

中々に厳しい。特定の項目を満たしていても、これらすべてを達成することは中々に困難だろう。実際私も工面のため、母上様に泣きついた記憶がある。田舎民が払うには少々額が多かったし、結果として折れてくれた母上様には頭が上がらない。

 

なお、実技試験に関してだが、これは筆記試験の際に行われるアンケートを基にした試験となる。戦闘魔導士志望なら戦闘魔導士専門の試験、魔具師志望なら魔具師専用の試験という感じだ。試験時にコースが決定する、ということである。

試験官は当然その専攻でのエキスパートが選ばれるため、頑張って勉強しても実技で落ちました、なんてことはザラにあったりする。

 

 

長々と話したが、端的に言えば「イェムスタ魔導学院はすごい」という一言で終わる。

ついでに言うとそこに受かった私はすごい、ということである。優秀。

 

優秀、なのである。はず。

 

「なのになんでこんなことに…」

「自業自得だろうが、馬鹿モン」

 

そんな心無い言葉を私に返すのは、反省文を書く原因となった人物―――スターク・フィレンド先生である。

彼ははぁ、とため息をついてから、私をぎろりと見た。怖い。

 

「これでもう何回目だか分かるか?」

「二桁超えた頃には数えるのやめました」

「53回目だ。入学以来、お前が午後授業で起きているのは数回しか見たことがない」

 

20回程度かなー?と軽く見積もっていたが、予想の2倍以上あったようだ。驚天動地といった感じである。

スターク先生は私が今提出した反省文をぱらぱらと眺めながら、再びため息をついた。

 

「お前は午前の態度だけみれば優秀なんだがなぁ…この反省文も無駄にクオリティが高いし、というか日を追うごとに執筆速度と完成度が高まっているようにも思える」

「へへ…ありがとうございます!」

「褒めてはいない」

「ぉぐえっ」

 

ごちん、と拳骨を頭に食らう。理不尽だ。

ぷすぷすと頭から煙を出しながら床に突っ伏す。パワハラかな??

根本的な原因は私にあるので訴えたところで無意味だろうけども。現実は非情である。

 

ノアの魔具作成のアドバイザーに就任した私(最初の10分程度はノアとわちゃわちゃしていただけだが)は、時刻が18時を示したことでその仕事を解任された。

 

結局彼女は動作補助型の魔具を作成することに決めたようだ。注意点などは今日の会話である程度理解していたようなので、後は彼女に任せて大丈夫だろう。たぶん。

 

「今日はありがとう!わからないとこあったら聞くね」と私に告げ、足早に去った彼女を見送った後、私はスターク先生の研究室へと重い足取りで向かった。

行くの面倒だなーとか思いながら現状を再確認し、現実逃避した結果が先の会話、ということである。

 

私は頭をさすりながら起き上がった。

スターク先生は相変わらずのしかめっ面をしていた。

 

「無駄に優秀なお前だが、出席しないことには評価は付けられんぞ。俺の科目は午前中の講義もあるからまだしも、魔法実技に関しては午後しかないだろう」

「無駄にってなんですか、無駄にって…まぁ、そうですね。実力を隠してるとかの強キャラムーブしてるわけでも、したいわけでもないんですけど…」

「眠いと」

「わかってらっしゃぃだアッ!?」

 

拳骨の2発目が私の頭に下ろされる。涙が出てきた。

私の15年培ってきた知識が吹き飛びそうだ。いたい。

 

「大体、眠いという割に、朝はしっかり起きているだろう。その調子でいけないのか?」

「そりゃあ朝は薪割りやら何やらで忙しかったですからね、実家居た時は。その分お昼寝タイムみたいなのもありまして…その頃の条件反射かなと」

「…アーメンテラスの実家は確かラムシア地方にあったか。確かにそれなら分からないでもないが…この学院に来た以上、規則には従って貰わなければ困るぞ」

「あー…まぁ、ハイ。申し訳ないとは思ってます…」

 

実際申し訳ないとは思っているのだ。ただ呪われているかの如く真っ昼間に入眠し、行動できなくなる。困った話だ。

というか、先生も納得するあたり、ラムシア地方の特異性は広まっているのだな、と改めて実感する。

私もこの学院に来て、ひどいカルチャーショックを受けたものだ。

 

スターク先生が再びため息をつき、トントン、と私の反省文をまとめている。3回目だし、3倍速で幸せが逃げそう。

 

「まぁいい。今回の居眠りの分はこれで許してやる」

「マジですか。ありがとうございます!」

「今回は、な。次は然るべき処置をとる」

「というと?」

「レブトア先生の研究室に放り込む」

「やめてください本当にいやほんとすいませんでしたもうしませんからゆるして」

 

あの先生だけはダメだ。

『ラムシアの実験サンプルが欲しい』と言われ、何回も追いかけ回されたことは、今思い返してもぞわぞわする。

幸いにも昼寝中には他の先生方が守っているから助かっているらしいが。

自分からあの研究室に赴くなど、自殺以外の何物でもないと思う。

スターク先生はふ、と笑いながら、私の反応に対し「なら次回以降はしっかり起きているんだな」と改めて釘を刺してきた。くそう。

 

「もうじき学院も閉まる。分かったのなら荷物をまとめて寮に戻れ」

「はーい…」

 

「伸ばすな」と訂正されたのを最後に、私はスターク先生の研究室を後にした。

レブトア先生の実験から逃れるためには、今後5年間、平日昼間に寝ることを許されないらしい。由々しき事態である。

はぁ、とため息を吐きながら荷物を取りに教室に戻る。

私以外誰も居ない教室で、かちゃり、とバッグを取る音だけが響いた。

 

(分かってはいるん…ですけどね)

 

このままじゃいけないことは。

放っておけば永遠にこのままだろうし、この体質の影響で退学にでもなってしまえば親に顔見せ出来ない。あの人とも。

と、知らず知らずのうちにネガティブ思考になっていたようだ。らしくもない思考を首を振ってかき消す。

 

(レブトア先生の力を借りるのは出来るだけ最終の最後の最後の手段としておきたいし…うーん、ノアにでも頼んで起こしてもらいましょうか。あとは…ちょっとした魔具を作っておきましょうかね)

 

多分そこまですれば何とか起きれるだろう。

うんうんと頷きながら、寮への帰り道を歩く。

ラムシアはイェムスタ魔導学院とはかなり距離が離れているので、私は学院管轄の寮にて生活をしている。

寮、といっても性質は集団アパートのようなもので、基本は自分で生活管理を行う。まぁ、人数確認のための朝点呼はあるが。

 

(今日の晩御飯は何にしましょうかねー?ハンバーグでも良いし、チキンソテーでも良いなぁ。あっ、ビーフシチューという手もありましたね)

 

ふんふーん♪と鼻歌を歌いながら今日の献立を考える。帰宅してからの晩御飯は楽しみの一つなのだ。

自分で食べたいものを自分で作れるのが自炊の最大のメリットだと思う。私は消化器官も優秀なので太らないし。

 

 

多方に喧嘩を売りながら、いつの間にかスキップに変わった足取りで、私は寮へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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3:寝不足ノア/イド先輩

タイトル詐欺が著しいなと。
青年と精霊いつ出るの???????(遅筆)


スターク先生に釘を刺された翌日。

いつも通りに登校していると、おーい、と後ろから呼びかけられた。

振り向くとノアが居た。登校のタイミングが被ったようだ。

ノアはニコニコしながら、私に話しかける。

 

「メルトおはよう!」

「はい、おはようございます。今日は随分と機嫌が良いですね」

「えへへ…昨日、魔具作りの調子が良くてね。これなら今日の魔法実技で試運転できそうだなってくらいまで完成したの!」

「いや早くないですか??相変わらず器用ですね…」

 

ノアは手先が器用だ。もうとんでもないくらいに。

彼女が使用している手提げバッグも自身で作ったのだとか。

「お母さんの手伝いをしているうちに上手くなったんだよね~」と照れながら言っていたことを思い出す。裁縫は彼女の誇れる技術の一つなのだろう。

ただ、その分構想を練るなどの作業は苦手としているようだ。昨日まで作成に悩んでいたのもこの辺が影響しているのかもしれない。

しかし魔具もささっと作り上げてしまうほどだとは…驚きである。

 

私の言葉を聞くと、ノアはきょとんとした顔になった。

 

「メルトだってこのくらいで作ってるでしょ?」

「いや確かに作ってますけども…私は内部構造が簡単なものしか作ってませんよ。動作補助の魔具なんて中々に複雑でしょう。私ならもっとかかります」

「うーん、メルトならこれぐらいできると思うんだけどなぁ…」

 

ノアは随分と私を高く見積もっているようだ。まぁ確かに私は優秀ではあるが。

定期的にイキり散らかすような輩への評価ではない気がする。中々にむず痒い。

この話題を続けるのも不毛なので、適当に話題転換をする。

 

「まぁそれは良いとして。そんな急ピッチで仕上げてきて大丈夫なんですか?隈、出来てますよ」

「あっ…ば、バレてた?」

「貴方の集中力の高さは知っていますからね、恐らく夜なべして仕上げたんでしょう?午後まで持つんですか?」

 

私の言葉にノアは苦笑いを返した。

彼女曰く、家の手伝いが終わってからずっと魔具作成をしていたのだとか。簡単な動作確認が行えるまでに仕上げ、一息つくころには朝だったらしい。びっくりである。

先程のテンションには徹夜明けの影響もあったんじゃないか?となんとなく思った。

とはいえ、その状態はあまりよろしいものではないだろう。

私ははぁ…とため息をついて、ばつが悪そうにしているノアに話しかけた。

 

「試すのは結構ですけど、寝不足で授業がおざなりになってしまえば元も子もないですよ。自分の身体はもっと大切にすることです」

「う…善処します…」

「お役所みたいな濁し方しますね貴方。まぁ、講義を寝過ごさないといいですね」

 

そう告げると、ノアはむむぅっと顔を顰めた。

相変わらず威圧感の欠片もない表情であるが。

彼女はしかめっ面のまま、私に反論する。

 

「め、メルトだけには言われたくないもんね!今日もどうせ午後はぐっすりでしょ!居眠り常習犯だし!」

「私の地元で昼寝は当たり前だったので良いんでーす。セーフセーフ。徹夜よりはよほど健康的ですしぃ」

「むむむぅー!」

 

ぷんすことノアが怒っている。頬を膨らませる様はフグのようだ。

指で彼女の頬をぷすりと突くと、ぽひゅぅと気の抜けた音がした。面白い。

笑いを噛み殺している私を見て、彼女は顔を赤くし「もう知らない!」とそっぽを向いてしまった。

どうやらふざけすぎてしまったらしい。

 

残りの通学時間は、ノアのご機嫌をとる時間になるのだった。

 

______________________________________

 

 

学院に到着してからは、いつも通りの講義が行われた。

今は3限目。歴史学の時間である。

今日は魔獣大戦争に関しての講義が行われている。

 

――――『禍』。1000年前に発生したとされる魔獣の大量発生だ。

原因は未だ不明であり、歴史的観点から見ても、この魔獣の発生はあまりに唐突で、ありえない事象であったらしい。

 

魔獣。私たち魔導士を除いた生物の中で、魔法を扱う生物の総称である。

彼らは無意識的に魔法を行使することで、様々な進化を遂げている。

 

例えばアンスレープ。四足の肉食獣であるコイツは、獲物を捕える際に肉体に強化魔法をかける。肉体には加速魔法、牙には硬化魔法といった感じでだ。結果として肉体の構造はその魔法を活かせる形状となり、牙は鋭く、肉体は空気抵抗を極力まで減らした形態となっている。

 

例に挙げたように、基本的には自分の長所を活かした形態として進化を遂げるのだ。

また、魔獣はあくまで自然現象として、環境のバランスを崩すことは行わない。それが結果的に食糧難などの災いとなり、自分の身を滅ぼすことを無意識的に理解しているからだろう。

 

しかし、『禍』においては魔獣の性質が双方ともに矛盾しているのだとか。

以前発掘されたアンスレープの祖先と呼べる魔獣の化石からそれは読み取れる。この生物は現在のアンスレープと異なり、飛翔に適さない翼が取って付けたかのように存在しており、また肉体の中心には広域殲滅を可能とする魔法発動体が存在していたのだ。

 

アンスレープは自身を強化する魔法には長けているが、形態的に飛翔に適しておらず、拡散性のある魔法は得意としていない。

これは明らかな矛盾である。

 

加えて、この時の魔獣は他の生物を見もせず、ただひたすらに人間だけを襲撃していたという文献が残っている。

まるで『何者かが意図的にそう仕向けたように』だ。

 

三英傑によって解決には導かれたこの事件ではあるが、上記のような不審点が存在するため、今現在でも議論は絶えない。当時の研究者の暴走だとか、魔獣の上位固体の発生だとか、様々である。

 

まぁ正直なところは私には分からないし、知ったところで「へー」で終わる話だろう。

そこら辺の議論は専門家に任せるのが一番である。

 

板書を写すのにも疲れてきたので、ちらりと横をみる。

ノアがうつらうつらとしている様が目に入った。徹夜テンションは2限目までが限界だったのであろう。この調子で午後の試運転まで持つのか疑問だ。

 

(午後、ですか。ふむ…)

 

板書写しに戻りながら、私は考える。

昨日のスターク先生の警告があった以上、流石に起きていないとまずいだろう。

ノアはこの調子であるので、昨日仕上げた魔具がどれだけ活きるかとなる。

 

かちゃり、と机から件の魔具を取り出す。あまり使いたくはないが、背に腹は代えられないだろう。これから常にこれで覚醒しなければならないと考えると、悲しくて涙が出そうだ。

 

ほろり、と涙が流れるのと同時に、4限目終了のチャイムが鳴った。

 

______________________________________

 

 

昼休みである。

 

爆睡していたノアを放置し、食堂へと向かった。そのうち来るだろう。おそらく。

ここの食堂では、王国内でも店を開けるような一流の料理人が腕を奮っているらしい。

初めて来た時には高貴そうな味に驚いたものである。まぁ正直に言えば、田舎民の馬鹿舌にはどの料理も等しく美味く感じるのだが。

 

また、運営費は学院が出しているため、一生徒でも気軽に赴ける。これは最大の利点だろう。私的にはとてもとってもすごいうれしい。夜にも営業しているとなお嬉しかった。

まぁその分自炊できるので良いのだが。

すごいイェムスタ魔導学院は、食堂もすごいのだ。

 

トレーに料理を乗せ、適当な席に着く。今日は麺の気分なので、ペペロンチーノを注文してみた。ピリッと効いたトウガラシとコクのあるニンニクが絶妙にマッチしている。結論として美味だ。

ニンニクの香りに関しても、私の体から発せられるフローラルの香りと打ち消されるのでプラマイゼロだろう。もしかしたらプラスかもしれない。優秀な人は体臭管理もバッチリなのである。たぶん。

 

「隣、良いかな?」

 

もしゃりもしゃりとパスタを頬張っていると、帽子を被った藍髪の少女が、トレーを持ちながら話しかけてきた。

イド・クウェング。イェムスタ魔導学院4年の魔具師である。

私が今年入ってきた1年生のため、彼女は3個上の学年の生徒ということになる。

 

特に断る理由もないので、むぐむぐと咀嚼しながらOKサインを出した。

彼女は「行儀が悪いな」と苦笑しながら私の隣の席に座った。どうやら彼女はビーフシチューを頼んだようである。昨日の私の晩御飯候補だ。ちなみに昨日はハンバーグを作った。

 

「どうだい?この学院には慣れてきた?」

 

昨日のハンバーグに思いを馳せながらパスタを啜っていると、イド先輩が話しかけてきた。

口に含んでいたパスタをごくん、と飲み込み、返答する。

 

「まぁ、まぁまぁ、うーんといった位かなと。学院生活自体には慣れてきたんですけど…どうもこの体質で、午後授業が出にくいんですよねぇ」

「やっぱりか、中々難しい問題みたいだね」

「改善できるのであれば早く直したいんですけどね…頼みの先生がアレですから」

「あはは…レブトア先生は研究に熱を入れすぎて暴走することが多いからね…」

「熱烈歓迎は結構なんですけどね…両手にメスやら怪しい薬やら持ってなければ」

 

彼女は、レブトア先生の研究室にて、先生の研究補助をしている一生徒である。

そして、私がレブトア先生に追いかけ回された際、無力化に協力してくれた生徒でもある。ここが非常に重要。

 

イェムスタ魔導学院では、上級生になると『自身の目標に沿った能力の研鑽』ということで、自身が「この人に学びたい!」と志望した先生の元に配属される。

そして、そこで得た知識を用い、卒業時に自分なりの研究成果を発表するのだとか。俗に言う卒業研究である。

先輩はレブトア先生が専門としている『魔導薬の開発』に興味を持ち、日夜調合や素材調達に励んでいるのだとか。

 

私が追いかけ回され、先輩や先生達が無力化する。この作業毎に顔を合わせているため、いつしか世間話をする程度の仲になったのだ。感謝感激である。

 

彼女はもぐもぐとビーフシチューを食べながら、私に話しかける。ちゃんと飲み込んでから話す辺り、お上品さを感じる。

 

「まぁ今度起きた時もボクが何とかするから、そこは安心してほしい」

「そういう所、最高に男前ですよね。惚れますわ」

「あはは、喜んでくれるなら嬉しいよ。ちょっと複雑ではあるけどね」

 

先輩はちょっと照れているようだ。

クソ良い人だなーと思いながら、残りわずかとなったパスタを頬張る。

もむもむ、と頬を膨らませて食べる私を見て、先輩は「気持ちの良い食べっぷりだね」と微笑む。

褒めても何も出ませんようふふ。

 

水を飲んで一息つくと、昨日、スターク先生に魔素注入器の使用許可を貰っていないことを思い出した。

提出用のテールランプもそうだが、昨日作成した魔具にもまだ魔素を注入されていないため、効力を発揮できない。

丁度いいので、先輩に注入を頼むことにした。

 

私の話を聞くと、先輩は二つ返事で了承してくれた。有難い。

提出用のテールランプに関しては、私本人の魔力を用いなければならないと規定にあったため、後日先輩が魔素注入器を借りてきてくれることとなった。

昨日作成した魔具も、ちゃちゃっと魔力を注入してくれた。「午後の講義時間くらいなら持つと思う」とお墨付きを貰ったので、準備は万端である。

先輩への借りがどんどん肥大化してはいるが。

 

今度お礼になんか奢りますと伝えると、先輩は「このくらい気にしなくて良いよ。また困ったことあったら、いつでも連絡してね」と返されてしまった。

 

世の中にはああいう善人も存在するんだなぁ、と思いながら、私はイド先輩と別れ、食堂を後にした。

今度差し入れでも渡そう。

 



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4:遅刻/秘策の魔具

真面目そうな顔ではっちゃける女子が好きです。



昼食も終わり、いよいよ午後授業が始まろうとしている頃。

私、ノア・クリングは焦った様子で廊下を駆けているのだった。

 

(うぅー…まさか昼休み丸々寝ちゃうなんて…)

 

どうやら昨日の夜更かしが祟ったようだ。三限目辺りからの記憶が朧げであるため、居眠りをしてしまったのだろう。

目が覚めた頃には昼休み終了5分前であり、顔からさあっと血の気が引いたのが記憶に新しい。

 

これが魔導学基礎等の座学であれば、まだマシだったのだが。

生憎、午後の講義である魔法実技は屋外の演習場で行われる。従って、屋外用の運動着に着替え、かつ演習場に向かわねばならない。

絶望的な事実に「ひぃーん…」と口から情けない声が出てしまう。

 

(いままで遅刻したことなかったのにぃ…!メルト、起こしてくれてもいいじゃん!ばかあ!!!……うぅ、お腹減った…)

 

朝の警告通りになってしまった情けなさを感じながら、バタバタと着替える。

昼休みを丸ごと寝過ごしたので、昼食もまともに取れていない。泣き面に蜂である。

きゅるる、と鳴るお腹を押さえながら、心の中で『あほ!おたんこなす!』と八つ当たり気味にメルトの罵倒を続ける。

本人が聞けば、その語彙力の低さに涙しそうであるが。

 

ある程度罵倒している間に着替えが終わったため、急いで演習場へと向かう。

その途中で『あれ?』と違和感に気づいた。

 

(メルト、この時間ならいつも教室で寝てるはずだけど…)

 

私が起きた時、既に彼女は居なかった。どこへ行ったのだろう。

…もしかしたら、今日は授業に参加しているとか。

 

「…流石に無いか!」

 

7、8限目ならまだしも、この時間帯での出席は流石に有り得ないだろう。メルトだし。

きっと食堂とかで寝てるんだ。そう考え、その場を後にした。

______________________________________

 

結局の所、私は間に合わなかった。

 

「ノアちゃん、遅刻よ?」

「す、すみませぇん……」

 

流石に5分で支度+移動を済ますには時間が足りず、演習場への距離が残り半分といったところでチャイムが鳴ってしまった。

結果として、遅刻扱いとなった私は、魔法実技の担当―――グリム・キャッシュイート先生に注意を受けることとなった。

しゅんとしている私を見て、反省していると判断したのか、先生は「しょうがない子ね」と苦笑した。

 

「まぁ、ノアちゃんは普段の授業態度も良いし、今まで遅刻してなかったから。今日はオマケしといてあげる」

「ほ、本当ですか!ありがとうございます…」

「ただし、次はないからね。あんまり夜更かしとかしちゃダメよ?」

「う…はい…」

 

幸いなことに、今回の遅刻はカウントしないことにするそうだ。ほっと一息をつく。

 

魔法実技。各々が得意とする魔法を行使し、自衛手段を磨く場である。

ここでは戦闘魔導士志望の生徒をメインとしたグループと、魔具師志望の生徒をメインとしたグループの2種に分かれる。

前者は「抗防班」、後者は「創助班」と呼ばれ、それぞれ異なる内容の指導が行われている。

 

まず抗防班。これは私やメルトが所属している班だ。

こちらでは魔法を利用した戦闘技術の研鑽が主目的となっており、生徒同士での1対1での模擬戦や、戦闘人形を用いた多人数との戦闘など、様々なパターンでの試合が頻繁に行われている。腕っぷしが問われる班ということだ。

 

そして創助班。これは魔法戦闘を得意としていない生徒が所属する班だ。

こちらでは脅威を対面した際の防衛・回避手段の研鑽が主目的となっており、効率のよい障壁の張り方や、転移術式の簡略化など、『非戦闘魔導士が生き残る術』が磨かれている。

また、創助班には抗防班のサポートという名目で、抗防班へ自作魔具の提供が許可されている。これは創助班の構成要素の大半が魔具師志望であることに起因する。

 

魔具師志望の生徒は、自身の魔具作成技術の成長を求め、日々研鑽を続けている。従って、作成した魔具の効果確認・欠点の検証などは当然のように行われるだろう。

しかし、基本的に非戦闘魔導士である彼らは「実戦に耐え得る魔具」というものを自身の身で検証することが困難である。

 

そのため、抗防班へと魔具を提供することで利点・欠点等のデータを収集しているのだ。

抗防班としても戦闘の選択肢が広まり、より効果的な行動を模索することができる。

Win-Winの関係というやつだ。

 

このことから、抗防班の大半は魔具関連を創助班に任せている生徒が多い。

当然、例外も存在するが。

 

(魔具師に転向する可能性もあるんだし、できることは増やしておかないとね…)

 

そんなことを考えながら、昨日作成した魔具を手に抗防班の方へと向かう。

その際、背後からグリム先生が「今日は面白いものが見れるわよ~」と言う声が聴こえた。

 

面白いもの?私が疑問を抱いた瞬間、

 

 

爆音が響き渡った。

 

 

「ぴえっ!!」

 

思わずおかしな声が出てしまった。は、恥ずかしい…

じゃ、じゃなくて!今の何!?何なの!?

 

音のした方は抗防班の方だった。急いで現場へと向かう。創助班の方へも音が届いていたようで、彼らも「なんだなんだ!?」と驚き、一部の生徒は確認に向かってきているようだ。

グリム先生だけが面白そうに事を見守っている。というか、笑いを堪えてる?

 

距離はそこまで遠くなかったため、すぐに到着する。

そこには。

 

 

白目を剥きながら泡を吹くメルトと、気絶する男子生徒の姿があった。

 

 

なんで????????

______________________________________

 

時は少し前に遡る。

私ことメルト・アーメンテラスは激しい睡魔との熾烈な争いをしている最中であった。

 

(しんじゃう)

 

現時刻は午後13時。通常の私であれば確実に寝落ちしている時間帯である。

私の体質の眠気は根性で何とかできるとか、そういうレベルじゃないのである。

しかし悲しいかなこの体質、根性で克服はできないがゴリ押しならなんとかなるのだ。

正確には『一時的に行動できるようになる』といった方が正しいか。

 

私の耳には今現在カナル型の魔具が装着されている。これが秘策だ。愚策とも言える。くそ。

この魔具にはある術式が刻まれており、内部の魔素を消費することでその効力を発揮するようになっている。どんな魔法かといえば。

 

音響魔法である。

 

音響魔法とは、その名の通り音を生み出す魔法である。

本来であれば披露宴等で扱われるこの魔法は、コツさえ掴んでしまえば簡単に発動できる。単音なら10分でマスターできるほどだ。

今回はクソ高い音を一つ選び、この術式内に組み込んだ。音量に関しては私の意識をキーとし、入眠状態一歩手前で最大音量が流れるように調整している。

 

要するに、「耳元で爆音を聴かせ続ける魔具」なのだコレは。

意識の覚醒を強制されるこの魔具は、正直言うと非常にきっつい。あたまがぐわんぐわんする。ゲロ吐きそう。あっちょっと涙出た。

 

コレはラムシアに居た時代に「皆が昼寝してる間に一人だけ起きてたらカッケーんじゃない?」とトチ狂った私が片手間で作った術式をベースにしている。

因みに魔素酔いして失神するという結果となった。馬鹿である。

 

(あちょっときつ、あ、やめてごめんなさいゆるしていやまってまってまってウ゛ッ゜)

 

幾度となく失神と覚醒を繰り返しながら、這う這うの体ながらも何とか演習場に辿り着く。

グリム先生には昼休みに話を通してある。散々笑われた後に「やっぱ最高ね貴方!」とサムズアップを貰った。どう反応したら良かったのだろうか?つらい。

 

がらりとドアを開けると、演習場に集まっていた生徒達の視線が私に集中する。

悉くが「え、マジ??」みたいな目で見ている。ただただアウェーである。

件の教師は必死に笑いを噛み殺しているようだ。あっ術印でなんか書いてる。何々…

 

『マ・ジ・デ・キ・タ・w』

 

あんなのが先生やってて良いのかと心の底から思った。

 



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5:模擬戦闘/イーヴァンの追憶

その場のノリで書いてるので、前回のラストにどう繋げよう…とかいつも困るんですよね…(ライブ感)
ちょっとずつ自分の執筆能力を高めていけたらいいな、と思ってます。


グリム先生への叛意を高めつつ、彼女を指示を聞く。というか見る。今の私の表情は般若の如くであろう。周囲の生徒がじりじりと私から遠ざかっているのを感じるし。

 

毎日この爆音覚醒だと、正直『耳逝かないかなー?』とは思うが。

優秀なイェムスタ魔導学院は治療師も豊富である。

何でも、グリム先生が保健室へと連絡を入れてくれるらしく、私はこれから平日オールでチェックを受けることになるとか。有難い話ではあるが、貴重な放課後が削られて涙でもある。

レブトア先生へ訪ねるよりはマシだが。私の中における彼女の信頼はミジンコ並である。

 

因みに魔法実技に関しては補講の一回しか出ていないため、普通の授業としてはこれが初である。何気に。

 

グリム先生が描く術印を目で追う。

抗防班は今回、生徒同士1対1の模擬戦闘をするようだ。

『ペアは自分たちで決めてね~♪』とのことだ。あのファッキンクソ教師はさっきの状況を見ていたのだろうか。定期的に白目を剥いて痙攣する生徒なんて、私だったら絶対に関わらない。たぶん。

 

まぁ余った生徒と組むか…なんて考えていると、私の所へ金髪の少年が近づいてきた。非常に偉そうな面持ちをしている。

彼は何かぺちゃくちゃと私に話しかけているようだが、正直言って何も聞こえない。

何のためにグリム先生が術印を使ったと思っているのだろうか。正直睡魔で先程の指示を聞くのも精一杯ではあったのだが。

 

はぁ、へぇ、ほえ~、すげぇ~と適当に相槌を打っていると、何故か上機嫌になった彼は、私を連れて演習場の一角へ移動した。どうやら私との模擬戦を求めているらしい。

珍しい子もいるのねぇ…と思いながら、構える彼に対し私も準備をする。

 

ジジ…と手首の腕輪型魔具を起動させる。それと同時に、朱色の光が私の周囲に漂い始めた。

彼も術式を発動させたようだ。周囲に紫電が迸っている様子が見て取れる。

 

お互い静かに構える。聴こえる音は相変わらず喧しいが。

私の午後授業初となる魔法戦が、雷鳴と共に幕を開けるのだった。

 

 

容赦なく襲い掛かる雷撃を紙一重で回避する。

どうやら彼は雷魔法を得意としているようだ。魔法の構成速度が非常に速い。

 

雷魔法は完成してからの着弾速度・威力が非常に強力な魔法だ。

雷の速度は平均して200km/sを誇る。加えて、落雷時の電流は低いものでも1000アンペア程度。0.1ミリアンペアでも死に至る人間にとっては、非常に大きな脅威だ。

とはいえ、この話はあくまで自然現象での落雷の話である。これを魔素で再現するとなると、緻密な術式とそれを描くための大量の魔力が必要になる。そのため、基本的にはある程度ダウングレードした術式を用いて発動するのが一般的となっている。そもそも授業で人死にが出たら大きな問題であるし。

 

故に、彼が初撃で放った雷撃は殺傷能力を極力まで削ったものだと判断できる。当たっても痺れて失神する程度だろう。行動不能にできるという点では、それも十分に脅威ではあるが。

ただ、その分着弾速度を速くしているようだ。危うく開幕でノックアウトされる所だった。あぶない。

 

回避されるとは思っていなかったのだろう。彼は一瞬呆気に取られつつ、すぐに気を引き締めて次弾の雷撃を発射した。

その数は3。それぞれが異なる起動を描き、私へ接近する。

 

左右にステップし回避しながら距離を詰めようとすると、今度は5つの雷撃を私に放ってきた。どんどん難易度が上がっていくようだ。つらい話である。

同じように回避すると、彼は興奮したような表情を向けてきた。楽しそうで何よりである。

 

雷撃の数が10に増えた。体を捩じりながら避ける。瞬間、危険を感じたのでその場を飛び退く。ちらりとその方向を見ると、私が先程居た地面が槍のように盛り上がっている。

地創魔法も使えるようだ。頭が痛くなる。

 

地創魔法は地面を変形・隆起させる魔法だ。

極めると大地震を引き起こしたり、地中の物質から強力な武器を創造したりできるとか。

すごい話である。

 

しかし、雷魔法と地創魔法をこの年齢でここまで扱うとは…

彼は全く疲れたような気配を見せていない。内包魔力も相当のようだ。

敬意を持って天地くんとでも呼ぶことにしよう。

 

どうでも良いことを考えながら、雷撃と地面からの攻撃を回避する。

魔法の密度はどんどん高まっているため、全く近づくことができない。

そろそろ魔具の制限時間も近いし、一旦距離を取ることにしよう。

 

私は一瞬の隙を突き、大きく飛び退く。その瞬間、淡い光を放っていた腕輪から光が失われ、

私の周囲に漂っていた朱色の光も消失する。

 

私の愛用しているこの腕輪。これは刻んだ術式の効果を、魔石を動力源として起動する魔具である。因みに、術式の内容は身体強化魔法となっている。

 

私は魔素適性が絶望的に低いため、自身の魔力で術式を描き、魔素を注入するプロセスを行うことができない。そのため、基本的に発動体を魔具で代用している。しかし、魔素注入型の魔具であると、一回内部の魔素が枯渇した際、外部から魔力を再注入しなければならない。

 

そのための魔石である。コレは、文字通り魔素が注入された石であり、動力源として様々な場所で扱われている。所謂電池のようなものだ。

基本的に質を問わなければ安価であるし、魔具に付け替えるだけでいい。何なら他人に頼んで使用後の魔石に魔力を注入して貰えば再利用もできるなど、ナイスな代物なのである。

余談だが、私はノアに頼んで魔素を再注入してもらっている。最近愚痴が多くなってきたが。

 

腕輪の使用済み魔石を取り出し、新しいものと付け替える。ヴン、という音と同時に腕輪が光り輝き、再度身体強化魔法が展開される。

瞬間、雷鳴が鳴り響き、さらに密度の高まった雷撃弾幕が襲い掛かった。

その数は50を超える。未だ底は尽きていないらしい。すごい笑顔してるし。

 

屈み、捩じり、跳び、その悉くを回避する。

 

私が避ける毎に天地くんのテンションは上がっているようだ。それは良いのだが、その毎に魔法が強力になるのは非常にいただけない。普通にしんどい。

 

と、ここで急に攻撃が単調になった。先程までは非常にいやらしい位置に飛んできていたのだが。

天地くんを見ると、どうやら別の術式を構成しているようだ。それも、かなり大規模な術式である。

ここで決めようとしているのだろうか?

 

何にせよ打たせるわけにはいかない。ヤバそうだし。

雷撃の弾幕が薄くなった瞬間を見計らい、接近のために大きく片足を踏み込む。

 

刹那。

ずぶり、と足が地面に埋まった。

 

「…ッ!」

 

やられた。

下を見る。そこには泥に埋まる私の右足があった。

魔石交換の刹那で構成していたのであろう。随分な戦闘センスである。

もう片方の足を地面に叩き付け、強引に抜け出した。

しかし隙を見せてしまったのはかなり大きかったようで。術式は完成してしまった。

 

彼の背後に発生した巨大な砲塔。

 

(うっそ)

 

そこから放たれた大規模な雷撃が、私に直撃した。

 

______________________________________

 

メルトが天地くんと呼んでいた少年―――イーヴァン・テッラはメルトのことを非常に高く評価していた。

彼は王国有数の貴族、テッラ家の長男として生を受けた存在である。

生まれに恥じない才能を持った彼は、自身の更なる研鑽のため、ここイェムスタ魔導学院へと入学した。

学んだ知識をスポンジのように吸収し、自身の鍛錬も欠かすことはない。

まさに『努力する天才』と言えるだろう。

 

ただ、そんな彼にも悩みはあった。

 

同級生の中で、誰一人彼に匹敵する者が存在しなかったのだ。

 

当然、入学当初は魔具作成能力など、他人より劣っている点はあった。

しかし、彼の不断の努力と先天的才能は、驚異的な速度でその差を縮めてしまう。

結果として、入学して2ヶ月足らずで大半の生徒の能力を追い抜いてしまった。

 

未だに自身の能力より高いものは確かに存在する。だが、そのような存在は皆、自分を恐れていた。理解できない存在を見たように。

そして、自分に技術を抜かれた者は諦観の表情で自分を見ていた。

『彼は優秀だから、私とは違うから、しょうがないだろう』

そんな目で。

 

先達には未だ及ばない身であることはわかっている。だからこそ。

だからこそ、お互いに高め合えるような、そんな存在が欲しかった。

 

そんな時、メルト・アーメンテラスと出会ったのだ。

 

彼女を初めて見た時、随分と不思議な生徒だなと感じた。

真面目でいるようで不真面目。自尊心の塊のようで謙虚な一面もある。

掴みどころのない存在だなと思った。

 

しかし、日を追うごとに彼女の能力の高さを思い知らされた。

午前中に存在する科目の評価で、並ぶことはあれど、勝つことは1度として無かった。

追いつけないのだ。この自分が。

自分と同じ年で、更なる高みを持つ者が存在したのだ。

 

それが、途方もなく嬉しかった。

 

今回、彼女を誘ったのも「彼女なら、あるいは」という期待があったからだ。

魔法を用いた戦闘は自分が最も得意としている分野。

だが、もしかしたら、と。

 

彼女は全く物怖じしていない様子(実際には睡魔と爆音で会話どころではなかっただけだが)だった。

逸る気持ちを抑えられず、彼女を連れ、開けた地点へと移動した。

ここならば十全に魔法を使えるだろう。

 

そこからは、驚きの連続だった。

自分の放つ雷撃を障壁で防ぐのではなく、悉く回避している。

それも発動しているのはあの腕輪による身体強化魔法のみ。

自分の予想を遥かに上回っている。

 

「は、はは……ははははははははははははははッ!!!!」

 

思わず笑ってしまう。

魔法戦闘における実力の読めない彼女に対し、どこか手加減する心もあったようだが。

今、そんなものは杞憂だったと理解した。

全力でいこう。

 

この一撃で終わらせる――――ッ!!

 

「術式充填」

 

時限式で起動させた泥土。それに足を取られている彼女へ、今の自分が用いることのできる最大・最強の魔法を放った。

 

ジジ…バチッ…と電気が弾ける音のみが聴こえる。

 

(…当たった、はず)

 

肩で息をしながら、彼女が居た一点を見続ける。

 

連鎖増幅・破雷砲。

魔法で生み出した雷をぶつけ合い増幅。それを圧縮し、指向性を持たせて発射する術式だ。

その威力は先程の電撃の比ではない。

直撃すればひとたまりもないだろう。

 

前方には砂埃が未だ舞っている。だが、酷く静かだ。

 

(…勝てた、のか)

 

思わず肩の力を抜く。

随分とあっさりした終わり方だな、などと拍子抜けする気分だった。

それと同時に冷静な思考も戻ってくる。

少し熱くなりすぎてしまったようだ。彼女は無事だろうか。

あの術式は流石に過剰な攻撃だったように思える。

「治療師を呼ばないと不味いか…」などと、思考が逸れた。

 

 

『そこ』だった。

彼の敗因は、最後に気を抜いてしまったことだろう。

 

気づいた時にはイーヴァンは地に伏していた。

 

(…な……に…?)

 

彼が最後に見たのは、メルトが自身を見下ろしている姿だった。

それに何処か安堵する気持ちと同時に、イーヴァンは意識を失った。

 

______________________________________

 

 

イーヴァンを見下ろすメルトは、無表情ながらも内心で悶え苦しんでいた。

 

(いたい)

 

最後のビームは確かに私に直撃していた。正直言ってあの威力は反則だ。並の魔導士なら死んでいたかもしれない。私も優秀じゃなきゃ死んでいた。びりびりする。

あの魔法が直撃する瞬間、私は特に何をしたわけでもない。

 

ただ耐えただけである。

 

えぇ…?となるかもしれないが、正しく事実なのである。

私の地元であるラムシアの民は、昼寝をするだけの存在ではないのだ。

というか、そうだったら都会へ出稼ぎに行くラムシア民とか、ただ毎日昼寝するだけの無能カスゴミ集団になるだろう。クビ不可避である。

 

ラムシア民は、非常に肉体が強靭なのだ。何故か皆そう生まれてくる。

そのため、魔法がさほど使えずとも前線で活躍する人も少なくない。戦闘民族なのか??

これは昼時の睡魔と同様に研究が進められているが、未だに原因が判明していない。

因みにこのせいで風邪は引かないが薬も効かない。

睡眠改善薬などが存在していないのもこの影響である。ゆるせぬ。

 

(まぁ、今回は助けられましたけど…)

 

このおかげで鼓膜もまだ生きているし、何かと便利ではあるのだ、一応。

流行り病に罹らなかったり、体育でマウント取れたりと。

 

まぁそんな訳なので、さっきの状況は一言で片付く話だ。

 

ビームを耐えて油断したところをぶん殴った。

 

以上である。正直被弾レベルでアウトになる形式の試合だったら負け確だった。

まぁ勝ちは勝ちなので、ノア辺りにイキるとしよう。

 

それにしても、ぷすぷすと焦げたこの運動着はどうすれば良いのだろうか。

所々から肌が露出しているし。

サービスショットを提供する分には別に構わないが、今後ずっとこのボロ着となると流石に困る。無料で替えを購入できたら良いのだが。

 

ふらふらとしながら終わったことを告げようと、グリム先生を探す。

彼女は入口の方でノアと話していた。居ないと思ったら、遅刻していたようだ。

忠告の通りになるとは…彼女はエンターテイナーの素質でもあるのだろうか。

 

びゅう、と風が吹く音が聴こえる。この格好なので、まぁまぁ寒い。

ちゃっちゃと着替えたい。そう考えたタイミングで、違和感に気づいた。

 

風の『音』が聴こえている。私の耳には爆音魔具くんが付いていたはずなのに。

 

嫌な予感がして下を見ると、天地くんの横に、半ば破壊された魔具が転がっている。

未だに魔力が含まれた状態かつ、中途半端に術式が削れた状態で、だ。

 

「あっ」

 

瞬間、暴走した術式によって爆音が響いた。

どうやら今の私にそれを近くで聴く体力は残っていなかったようで。

 

締まらないな…と思いながら、私は泡を吹いて気絶した。

 



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