zeroにアルケイデスを投入してみた (エター中で復活したい作者)
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zeroにアルケイデスを投入してみた

色々と設定を無視したりしてますが、許してください。完全単発です。

ただ冬木市でギルガメッシュと彼の全力での争いを見たくて書きなぐって見ました。


 許せない。許せない。

 

 桜ちゃんを地獄に突き落とした遠坂時臣が許せない。

 

 そしてそれと同じぐらい、マキリが憎い。魔術師が憎い。憎くてたまらない。

 

 根源という下らない理由のために、普通の幸せを奪う嘲笑う、あいつらが憎い。

 

 人の命をどうでも良いと思っている、奴らが憎い。殺せるのなら、この手で殺してやりたい。憎しみで人を殺せたらと何度願ったか……。

 

 だが、雁夜には無理だ。聖杯戦争のためだけに急増の魔術師になった雁夜。余命は一月もない。残念ながら思いだけで人を殺すことは出来ない。

 

 

 葛藤はあった。この家と関わりたくは無かった。だから逃げた。

 

 だが、そのせいで初恋の人の娘が地獄に堕ちた。堕としてしまった。これは雁夜での責任だ。雁夜が地獄から逃げださず、宿命を受け入れ責任を全うし、魔術師という下らない者になっていれでば、この家に捨てられることも無かったはずだ。だから雁夜は桜ちゃんを救いたい。救わなければならない。そう、思っている。間違いだったとしても。

 

 桜ちゃんを救いたい気持ちに嘘はない。……葵さんの娘を助けたいという気持ちは偽りではない。だが、それ以上にあいつらが憎い。

 

 憎くてたまらない。わざとらしく杖で音を出して近づいてくる化物が。目の前で笑っている化物が。魔術師が。殺したい。殺してやりたい。

 

「準備は出来ているな、雁夜よ?」

 

「……当然だ」

 

「よし、よし。この父が最大の援助をしてくれよう。そう、この触媒を元に召喚すれば、確実に最強のサーヴァントを召喚できる。やりようによっては、優勝もできるであろう……儂を殺すこともできるぞ?」

 

 ああ。本当にそれができるのなら、どれだけ嬉しいか。人を嘲笑っているあいつが苦痛に歪んで死ぬ姿。見てみたい物である。だが……。

 

「……冗談を言うな。確かに、お前を殺すだけならできるかもしれない。しかし、臓硯。お前が対策をしていなければな」

 

 化物の言ったこと。それは到底無理な話である。ただ、希望を見せかけて、より深く絶望に落とそうとしている、化物の罠だ。引っかかってたまるか。

 

 答えを聞き、化物は狂ったように笑ったあと、真顔で告げた。

 

「……カカカ! 分かっておるではないか? もし万一、貴様がこの父を裏切ろうものなら、お前が救いたいと考えている、桜の命はないぞ?」

 

 そう、だからこそ臓硯は雁夜に最強の英霊の召喚を許可したのである。化物退治のスペシャリストを。

 

 ほとんどのサーヴァントは、この600年を生きる化物より優れている存在と言える。一騎打ちなどの勝負であれば負けは無い。それこそ一方的に倒してくれるはずだ。だがこの化物を、完全に殺し尽くすのは並みの英雄では不可能だとの確信もある。魔術師の英霊ならあるいは、臓硯を支配して桜ちゃんを救うことも可能だろうが、残念ながら今から召喚するサーヴァントにキャスターの適性はない。ただの戦士の英霊では救えないだろう。

 

 それでも、今から召喚する存在は別格である。あらゆる神話の中で頂点の一角と言っても過言ではない存在。化物退治を、臓硯が子どもに見えるような怪物を何体も倒し、あらゆる試練を乗り越えた存在だ。

 

 英霊ではなくサーヴァントとして弱体化していたとしても、彼に狙われれば600年を生きる本当の化物であるはずの臓硯は為すすべ一つなく、赤子の手をひねる用に塵一つ残さず殺されるのは間違いない。だが、彼の英雄は化物退治に慣れていても、桜を魔術から救うことは出来ない。いや、あるいは伝承を元にすれば、宝具の力によって救う物はあるかもしれないが、最低でも彼の英雄が桜と接触して宝具を使用する……使用してもらう必要がある。

 

 それを避けるため、今桜ちゃんは冬木から離されている。臓硯の準備は万端なのだ。

 

 雁夜は魔術師が嫌いだ。自分のエゴのためにどんな真似でもする奴らが。

 

 そしてそんな魔術師と同類に成り下がってしまった。自分自身が。

 

「魔力に関しては心配せんでもよい。未熟なお前では支えきれないからのう、しっかりと生贄を用意してあるからのう」

 

「……ああ」

 

 聖杯戦争に勝ちにいくために、臓硯は大量の生贄を用意した。最初はそこまで積極的ではなく雁夜を苦しめるのに注力していたはずだ。だが、偶然にも臓硯は最強の英雄を召喚できる触媒を手に入れた。手に入れてしまった。

 

 冬木が地獄になる事が確定してしまった瞬間である。

 

 それをなぜ俺に使わせるのか。大量の生贄を用意して、足が付きそうな真似をして。実際に冬木市のニュースでは異常な数の失踪者が出ているのは判明している。いや冬木だけでなく日本中で失踪者が相次いでいる。最低でも万を超えている数の失踪者が。

 協会に目を付けられてもおかしくはない。いや、目を付けられているはずだ。だが、しっかりと魔術の秘守をしているためか、音沙汰は無い。ふざけてる。

 

 ……話がそれた。

 何故化物は、大量の人間を殺して魔力を集めているのか。雁夜では彼の英霊の全力を支えることは不可能だからだろうか。いや、魔術師として優秀である臓硯でも、魔力タンクとして扱われている桜でも彼の全力を支えるのは無理なはずだ。

 

 そう優秀な魔術師の素質がある桜でも彼の全力を支え続けることは不可能と臓硯は判断しているはずだ。自分と同じように当然である。そもそも召喚しようとしている英霊は、英霊としての側面も持っているが、神霊としての側面を持っている程の大英雄なのだから。……あの英霊の全力を単独で支えられる魔術師はいない。もし仮に単独で支えられる存在が入れば、それは特殊な存在だけだ。生まれる前から特殊な調整を受けたような魔術師でしかない。

 

 そして……恐らく、そう言うことなのだろう。今回の聖杯戦争で、雁夜が別のサーヴァントを召喚して挑む……勝てればそれでいいが、敗北した後が問題だ。敗北した後の未来において、桜が彼を召喚する。聖杯戦争を勝ち抜ける勝率はそちらの方が高いはずだ。だが、臓硯の生存は保証されていない。次の聖杯戦争で彼の英雄を召喚した場合、召喚者たるマスターを痛めつけている臓硯の生存率は低い。例え理性を奪ったとしても……。令呪を使えば、若しかしたらがあるかもしれない大英雄。

 

 下手をした場合、桜を人質にしたとしても意味がない可能性、臓硯を殺して救うこともそばにいれば可能なはずだからだ。

 

 危険性が高いため臓硯が召喚させない手もあるだろうが、それは余りにも勿体ないと判断したのだろう。実際、自分も同じように求めてしまう可能性がある。

 

 だからこそ、雁夜に召喚させる。桜を人質にして。

 

 真実はどうか分からないが、雁夜は桜に召喚させることが危険だと判断して雁夜に召喚させると臓硯が考えたと判断している。

 

 

 

 サーヴァント召喚術式には触媒を用いた召喚と相性での召喚がある。しかし、触媒を元にした召喚でもその触媒が複数の英霊の触媒になりうるのなら、その中から自身に一番似た性質の物が呼び出される。しかしそれは、問題ではない。この柱なら、よほどのことがない限り、望みの英霊が召喚されるはずだ。

 

 また、今回雁夜が呼び出そうとしている英霊は、複数のクラスに該当する。セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、アサシン、バーサーカーである。多くのクラスに該当するため、例え幾つかのクラスが埋まったとしても召喚できる公算は高い。

 

 バーサーカーは魔力消費の事を考えれば、通常なら論外である。しかし大量の生贄を使用している以上、支えることも不可能ではないので強化する事もできる。だが、この英雄の理性を奪うのは勿体無い。というより、雁夜には制御できない可能性が高く自滅する可能性が高い。それに、どのクラスで召喚されても、十分彼は優勝候補であるため下手に扱いにくくする必要はない。

 ……彼の伝承を見れば、狂気に満ちた面もあり、恐ろしくもある。同時にそれ以上に高潔な面も存在する。大量の生贄を使用する。下手をすれば、その場で雁夜は殺される可能性もある。だとしても雁夜はかけるしかない。彼の英霊が話を聞いてくれることを。そのため、運を天に任せて通常の召喚を行った。

 

(俺は、俺は、どうなってもいい。だから、どうか応えてくれ……応えてください。俺はこの場で殺されてもいい、だから、桜ちゃんだけは救ってください。あんたなら救えるだろう、英雄……ッ)

 

 ――彼の思いに嘘はない。だかそれは表層だけ、裏では魔術師に復讐を、自身をこんな身に落とした魔術師に対する怒りが、遠坂時臣に対する嫉妬や怒りが渦巻いていた。

 そして、その英雄には6つの基本クラスだけでなく、もう一つの側面があった。エクストラクラス、アヴェンジャーの。

 

 

 そして……彼は召喚に応じた。

 

「――貴様が、私を呼び出したマスターか?」

 

 雁夜は深層では魔術師に、愛する人を奪った魔術師に……そんな世界に復讐をしたいと考えている。そして、彼の英雄の一側面も神々に対して復讐を誓っており、そのためなら何でもすると誓っている。

 

 ここに、契約はなった。

 

 ここに、復讐者の主従が誕生した。

 

★ ★ ★

 

 セイバーは目の前にいるランサーとの戦いを楽しんでいた。

 自分はブリデンを救う。そのために戦っているので多少不謹慎というのも分かっている。

 それでもマスターとの会話ができないというのはストレスになっていた。

 

 駆け引きに負け一本取られたが、まだまだ勝負はこれからだと考えていたが、征服王を名乗るバカによって戦場は混沌としてしまい、決着を付けるどころではなくなってしまった。

 

 いまこの戦場には、4体のサーヴァントが揃っている。セイバー、ランサー、ライダー、アーチャーである。四つ巴の可能性も考えていた。その場合、アイリスフィールが後ろにいる、セイバーが不利になる可能性が高いのも理解していた。だが容易に引けない。下手に退却すれば追撃を喰らうと、そう考えていた。

 

 そして……セイバーは、いやこの場にいる多くの物が凍り付くことになった。新たなサーヴァントが戦場に出現したのだ。身長は2メートルを超える、しかし体格はガリガリに痩せた男。右手には大型の弓を、左手には動く物体を。

 服装はセイバーから見ても異様であった。身体に縦に覆いかぶさっている長布。顔だけではない。体の全面や背面すら覆いかぶさっている。当人の視界すら奪っている様であった。

 布の下に靴等は付けているようだが……。

 

(近いのは蛮族どもか……?)

 

 自分で思いながら否定する。あれは蛮族などという生易しい物ではない。蛮族は常にブリデンを苦しめて来ていた。セイバー自身がその強大さは良く知っている。だが、あの男は何かが違う。直感がささやいている。ここは死地であると。だがそれを乗り越えてこその騎士王。幾たびも乗り越えているのだ。

 

しかしセイバーでさえ死地と感じてしまう重圧感、その存在を見たライダーのマスターは情けなく、悲鳴を上げた。いや、セイバーもランサーもライダーでさえ強張っているのだ、ただの魔術師でしかないライダーのマスターが悲鳴を上げるのは当然と言える。同じようにアイリスフィールも表情を強張り心なしか青白くなっている。マスターでなくともその存在の恐ろしさは感じられるのだ。

 

 あれは、強者だ。ライダーのマスターの悲鳴の内容によれば、ほとんどのステータスがAを超えているらしい。セイバーは内心の焦りを隠しながら冷静に相手を観察し考える。既にアーチャーは存在するのに、弓を手に持っていることでクラスが分からない点だろうか。

 

 だがどちらにせよ、セイバーには関係はない。相手がどれほど強大であっても、勝つだけ。祖国を救うために。そう思っていた。

 

 すると、彼は手に握っていた何かを投げた。うごめいていた物は人のように見える。しかしそれは……。

 

「アサシンだと!?」

 

「嘘!? アーチャーと戦って消滅したんじゃなかったの!?」

 

 そこにいたのは、腕と足を切り落とされダルマにされて、苦しそうに呻くアサシンであった。

 

 恐怖した。セイバーでもアサシンを殺すことは容易だ。しかし、腕と足の全てを切り落として無力化するのは不可能に近い。仮に追い詰められたとしても本物の暗殺者なら自害するだろう。若しくはマスターが令呪で救うはずなのだから。故にアサシンのマスターが対応できない速さでアサシンを襤褸雑巾のようにしたのだ。

 

 彼は一歩だけ踏み出し、地面で呻いているアサシンの頭を踏み潰した。トマトのように潰れ、血液が舞い散り、アサシンは消滅する。その存在が最初からなかったかのように。

 

 そして厳かに彼は話し出した。

 

「……貴様の策はやぶれたぞ、アーチャー? こんな策を弄する程度とはな、神の眷属にしては、期待外れにも程がある、まさか神々に対する復讐の始まりが貴様如きとは」

 

 嘲笑いながらアーチャーとの策と指摘する……真実ならばアーチャーとアサシンは同盟関係にある。いやあったのだろう。それなら、アサシンが生存していてもおかしくはない。我々は誘導されたのだ!

 

「……ふん。それは時臣が勝手にやったこと。我は知らぬわ。それより、図が高いぞ下郎。王を見上げるとは、いや、王を量ろうとするとは万死に値する!」

 

 新たなサーヴァントは先程からアーチャーだけを見ている。最初からの目的だったかのように。そしてアーチャーの理不尽な怒りに呼応するかのように、何かが出現し、射出された。

 

 それを、弓を使わず素手で叩き落し、いや、叩き落しただけでない、2つのうち一つは素手で手づかみし、握力を以て壊した。

 

 恐ろしい筋力である。低ランクとはいえ宝具を素手で破壊するなら、掴まれたら終わりと認識する必要がある。

 

「――下郎、王の財を壊すとは、そこまで死に急ぐか!?」

 

 そして、数十の武器が同じように射出された。それを……大弓で全て払いきる。最後にクイ、クイと手招きするように挑発をして。セイバーからすればありがたい事だ。危険な存在の力を量れるのだから。だが先程から直感が

囁いている。今すぐにこの場所を離脱しろと……だが現状で背中を見せることは適作ではない。直感を理性で塗りつぶす。

 

「なかなかの技の冴えだが、これならどうだ? ああ、時臣邪魔をするなよ? 邪魔をすれば家臣といえ殺す……これは王として裁定である」

 

 その言葉を最後にして、後ろにあった物を広く展開する。背後ではなく、新たなサーヴァントを取り囲むように、そう上下左右360度に方位が展開される。

 

 セイバーの直感が発動する。しかし直感は必要はない程の焦りを抱えて、即座にアイリスフィールを抱え、背後に飛ぶ。いや、見ればランサーもマスターと思わしきものを連れて、ライダーも戦車を使い即座に距離を取っていた。

 

 そしてありえないものを見た。

 

 その様は竜巻であった。視認するだけで数千の宝具が、新たなサーヴァントに飛び交う。余波で港は破壊される。いや、セイバーたちにも余波は及ぶ。余波だけではあるが直撃すれば、間違いなくセイバーの命を刈り取る。セイバーは生き延びれたとしてもアイリスフィールが生き延びることは困難だ。だが、セイバーは腐っても英雄。自らを狙っていない、ただの余波で倒れることはない。守護対象がいたとしても守って見せよう。同じようにランサーも、マスターを庇いながら生存している。ライダーはチャリオットを活かし、空中を飛び回ってい生きている。だが、今我々が生きているのは敵の狙いが一つに集中しているからだ。

 

 確信する。もしもアーチャーに少しでもこちらを打倒しようとする意志があれば、ここにいる3人のサーヴァントは敗北している。そういう意味では、もう一人の英霊のおかげで力を図ることができた。力量を把握すれば、何らかの対策を練れる。

 

 しかし、あれは無理だ。セイバー独力ではアーチャーを殺し勝利することは出来ない。全方位からの攻撃、単純に手数が足りない。護衛対象を守りながら戦うことはさらに不可能だ。

 

「なに、あれ」

 

 アイリスフィールが呆然と呟く。セイバーとて同じ気持ちだ。本来サーヴァントに宝具は一つ。多くても2つか3つのはずだ。ならば目の前で数千の宝具を使用しているあのサーヴァントはなんだ? しかも射出されている宝具は武具だけではない。概念までが含まれている。その余波のせいか、恐らく街にまで被害が出ている。

 

 マスターと思われる人物を庇ったランサーが見える。そしてランサーと目が合った。恐らく、考えていることは同じだ。あれは独力で対峙してはいけない。この場にいるすべてのサーヴァントで同盟を結んで戦うべきだ。征服王がどう出るかは分からないが、ランサーとだけでも、仮初でも同盟を結ぶべきだ。ランサーであれば背中を預けるに不足はない。

 

 セイバーは本当のマスターに対して念話を送る。

 

『聞こえていますか、無事ですか、切嗣!? 今までのように無視して頂いても構いませんが、進言します。今すぐにすべてのサーヴァントと同盟を結んでアーチャーと対峙すべきでです!? あれは、あってはいけません』

 

 何かを考えこむような態度。しかし重い口を遂に開いた。

 

『……アサシンが襲われているのを見た瞬間に引いたから僕たちは無事だ。アーチャーにはまだ、手を出すな。確かに恐ろしいが、単独行動を持つアーチャーとはいえ魔力消費は……いや、だからこその大量の失踪者、か……。セイバー、今すぐにランサーとライダーに声をかけてアーチャーを袋叩きにしろ。その間に、僕は遠坂時臣を暗殺する……恐らく、そこにいるランサーのマスターも同じように動くだろう。場合によってはランサーのマスターとの共闘も考慮に入れる。だから倒せないならアーチャーを離脱させないで時間を稼ぐだけでいい。敵マスターが令呪を使用した場合、隙が出るはずだ。その時は確実に殺せ。必要があれば令呪も行使する。だが無理はするな。ここで君に死なれると困るからね。可愛い騎士王さん』

 

『……了解しました』

 

 切嗣と初めて会話をできた。恐らく、現状を認識したから妥協したのだ。同じようにセイバーも妥協した。尋常なる果し合いをしている場合ではない、マスターに不信を抱くべきではないと。

 

 そしてランサーと目だけで会話をして、セイバーとランサーは同時にアーチャーに向かって動こうとした。だがその時、原形を留めている訳がない中央で何かが切り裂かれ……その中から無傷の……サーヴァントが出現した。それを目にした瞬間動き出そうとしていた足が止まり、顔が驚愕に染まったのを自覚する。

 

「……馬鹿な」

 

 数千の宝具を喰らえば、鞘がないセイバーではまず生きていない。そして円卓で尤も清廉な騎士である、ギャラハッドをして全方位からの攻撃を防ぎきること困難だ。

 

 それを無傷で防ぐ……。ありえない。同じようにマスターたちも他のサーヴァントも絶句している。

 

 だが一人だけ殺意がありながら、興味深そうに見ている。そう、攻撃を行ったアーチャーが。そして彼はありえない言葉を発した。

 

「――弱いな」

 

(あの宝具の掃射を生き延びたうえに、アーチャーを弱い、だと)

 

 絶句してしまう。そしてそれを聞いていたアーチャーによってこの戦場はさらに冷たくなる。すでに視線だけで人を殺せるレベルだったのがさらに上がる。しかしその空気を無視するものが一人。

 

 

「貴様がしているのはただ闇雲に武具を投げつけるだけ……砂でもかけた方がよほどマシというものだ……担い手がいない斯様な児戯で仕留められるのは、余程の弱者か……理性を持たぬ獣のみよ」

 

 

 弱者、だと。それは……あの攻撃は円卓の騎士では一人も生き延びれない可能性が高い。セイバーとて鞘がなければ確実に死ぬ。だが、鞘があったからと言って容易な敵ではない。

 

 あの宝具の雨を生き延びる存在。成程間違いなく強者だろう。だが、我々は弱者ではない。セイバーもランサーもライダーもそれぞれが英霊の座に召し上げられる、歴史を創っている。あの掃射を生き延びられないかもしれないが、強者である英雄である。そんな英雄を弱者と切り捨てられる存在……。成程、一つの神話における最大の存在、大英雄と言っても過言ではないだろう。

 

 セイバーは気づいていた。聖杯戦争が尋常な果し合いであった場合、勝者になるのは、アーチャーか大弓を持ったどちらかだろうと。しかしこれは聖杯戦争。お互いを潰しあわせ、生き延びた方を他のサーヴァントと同盟を結んで打倒すればいい。慢心は捨てる。騎士同士の尋常な果し合いという考えも改めよう。勝たなければならない。祖国を救うために。

 

 だから、今すべきことはこの狂った戦場から生きて退却することだ。容易ならざることだが、必ず生き延びる。聖杯を手に入れるために……。

 

「……物置の最奥にしまっている剣を抜くがいい。それで我らは対等だ」

 

 ……まだ奥の手があるのか……しかし成程アーチャーの宝具は宝物殿であったのか。だがそれでもあの数の宝具は不思議である。

 

「エアは我の分身も同然よ。貴様のような弱者に使う剣ではない……証明して見せよ。エアに拝謁する資格があるかを」

 

 そして、一つの宝具を取り出す。それも素晴らしい宝具である。かなりの歴史があるのだろう。しかしセイバーはあの宝具の名前を知らない……そして先程まで使われていた武器を思い出す……似ている物はある。だがどこかが違う。違和感がある宝具でありながら宝具でないような。

 

「成程、プライドだけは頂点のようだな。全ての原典を手にした王の看板に偽りなし、か」

 

 ……いま、あの大男は何と言った。原典……大量の宝具、王という立場にあった。思わず呟いてしまった。

 

「まさか……英雄王ギルガメッシュ、だと」

 

 セイバーだけではない。彼のつぶやきを聞いていたもの全てが思わず呻き声をあげていた。……神秘という物は古い程強くなる。納得してしまった。間違いなく、あの男は強者だ。そして、あの男の蔵の奥にしまってある宝具……真っ向からの打ち合いになれば……セイバーの剣とて星が鍛えた物。負けるはずがない……と断言できないほどの恐ろしき宝具だろう。現状は片手を奪われている以上、使用不可能だろうが。

 

 ギルガメッシュは目を細め……何かを考えている。いや見抜こうとしているのだろうか……。一度目を閉じて、力強く開け放つ。先程まであった、侮りが消えたように見えた。

 

「――まさか、初見で我の真名を見破る者がいるとはな……貴様の力に免じて、王を図ろうとした不敬を一時的に免じてやる」

 

 そう言いながら、ギルガメッシュは手に掴んでいた宝具が消えて。そして、一瞬だけギルガメッシュが光り輝く。その瞬間にギルガメッシュの上半身から鎧が消えていた。体には何らかの紋様が。左手には鎖のような物を……右手にはセイバーですら畏怖を覚える剣のような物を……。恐らくあれが、最奥の物なのだろう。

 

「光栄に思え、アヴェンジャー、貴様にエアに拝謁する機会をくれてやる。……初戦で使う気になるとはな───だが、よい開幕だ。死に物狂いで謳え。それと、貴様の復讐心は正当だ。我が神と人間を切り離した。だが、神々とは懲りない物よな」

 

「――我が真名に気付くが……見事な慧眼だ。先程私は貴様を対等といった……ならば名乗ろう」

 

 まさかもう一人も名乗るとは……ここにいるサーヴァントたちは眼中にないのだろう。お互いにお互いしか意識していない。だが隙は無い。切りかかれば一瞬でやられる姿を幻視してしまう。そして、容易ならざる殺気が、この場所に満ちる。それがただしいと言わんばかりに。

 

「……寒い」

 

 アイリスフィールが倒れそうになるのを急ぎ支える。彼女は恐慌状態に陥ることもできずに、ただ茫然としている。他のマスターたちも何とか他のサーヴァントに支えられている状態だ。

 

「ああ、そうだ。我が骨肉、我が魂こそは、神になり下がった愚者の影法師よ! 我が名は、アルケイデス……アムピトリュオンとアルクメネの子にして、ミュケナイ王家の血を引く者なり!」

 

 その名乗りに……サーヴァントの多くが硬直した……その名前はギリシャ神話最大の英雄のもう一つの名前である……。征服王にとっては遠い先祖に当たる存在だ。硬直もひとしおだろう。

 

 セイバーは思わず呟いてしまった。それが何を意味するか知らずに。

 

「貴殿が、あの高名な大英雄へラクレ――」

 

「――その名前を口にするな」

 

 今までよりも強烈な殺気を受ける。思わずアイリスフィールを支えるのを止め、身構えてしまう。後ろではアイリスフィールが倒れているのを感じるが振り向いたり助ける余裕はない。

 

「アレは誓いを破り、暴君に迎合し、神になり下がった愚物だ。ただの復讐対象にすぎない。二度と同一視するな……貴様から殺したくなる、騎士王」

 

「……私はそれでも構わない、貴様に打ち勝ち、英雄王を打倒し、ランサーやライダーも打ち破り、必ず祖国の滅びの運命を変える」

 

 かの有名な大英雄に名前を呼ばれる。甘美なるものがある。立ち会える。一人の騎士として望まずにはいられない。たとえ敗れるとしても。だが、絶対に負ける訳にはいかない。王として祖国を救うためにいる以上。

 

 このままアルケイデスと戦いになると思った。だが、その前に嘲笑が英雄王から飛んできた。

 

「くくく、貴様聖杯にそんなことを願うのか」

 

 さらにライダーから怒りが。訳が分からない。

 

「――そこにいる大男にも言いたい事があるが、セイバー今貴様は祖国を救うと言ったか?」

 

「そうだ! 例えどれほど強大な敵がいようとも必ず聖杯を手にする!」

 

「お前は、台無しにするのか? 付き従った騎士たちと積み上げてきたものを」

 

 虚をつかれた。……確かにライダーの言う通りかもしれない。だが、では何もつもない民たちを見殺しにするしかないのか。そこにランサーから嘆願にもにた声がかかる。

 

「セイバー、俺が意見するの間違っているだろう。だが、それでも一人の騎士として、どうかお前に付き従った者たちの忠誠を無かったことにしないでくれ……絆を切らないでくれ」

 

 どうすればいいのだろう。考える必要はない。無視すればいい。だが、頭に2人の言葉が木魂して消えない。だが、それを振り払うかのような言葉がかかる。

 

「――私は神々によって運命を捻じ曲げられた。妻と子どもを殺した。愛していた。それは私の罪だ。狂気に耐えらてなかった自分を恥じる。怒りも感じる」

 

 アルケイデスの心からの言葉なのだろう。自身とて同じだ。国を民草を守れなかったことを恥じる。だからこそ、ここにいるのだ。覆すために。

 

 先程まであった、自身の対する嘲笑や怒り、悲しみは全て消え、ただ一人の男の独白に全てのサーヴァントが耳を傾けていた。

 彼は実際に恥じているのだろう……ヘラからの狂気に耐えられなかったことを。まるで何かを思い出すかのように目を閉じている。しかし次の瞬間、目を見開き怒りをあらわにする。

 

「だが、私に愛する家族を殺させた神々に必ず復讐する! 誓いを裏切り、神に契合した影法師の逸話全てを消し去る。子孫も全て。貴様の事だ、雄牛に征服王。英雄王を殺した後は貴様らだ」

 

 今までの殺気とは比べ物にならない殺気が、ライダーたちに降りかかる。そのせいだろう、ライダーのマスターは泡を吹いて気絶し……そうになったのを後ろからライダーに叩かれて、無理やり意識を保たされている。

 

「我のマスターならしゃきんとせい! サーヴァントから宣戦布告されているのだ、目を逸らす出ない!」

 

「勝てるわけないじゃないか! 相手はギリシャ神話のへ……大英雄なんだぞ! お前じゃ勝てるわけない」

 

「……その通りだ。もしそこの者がヘラクレスとして召喚されていれば、勝てなかっただろう」

 

「――ライダー、このバカー!?!? 何で呼ぶんだよ!?」

 

「余はヘラクレスの子孫である。それを覆すことはできん。なら、そこの男を否定するしかない」

 

 一瞬アルケイデスは振り向いていた。だが、弓はいらずもう一度振り返り、助言をする。

 

「騎士王、お前は強い。神性を持たず、ただの人間として業を高めた。その聖剣を担うに相応しいだろう。お前の願いの善悪は知らん。だが、真に国を救うというなら迷うな、惑わされるな。ただその目的のためにあがけ。でなければ愚物のように誓いを裏切る結果になる」

 

「……アルケイデス」

 

「私は神々の復讐のために、すべてを擲って戦う。貴様がいかに聖剣を担う騎士王だとしても、私の足元にも及ばない。貴様の願いは私が踏みにじる。踏みにじり私が願いを叶える。だが、本気で国を救いたいなら、お前の国を滅ぼそうとする全ての者、お前の願いを否定する者、お前に立ちふさがる者、宿命までも打倒しろ。その覚悟が無ければ、戦いにすらならん。いや違うな、これから行われる戦いの余波だけで死ぬだろう」

 

 ただ黙ってアルケイデスの言葉を傾聴していた。

 

「私は神々への復讐のために、どんな悪行でも為そう。積極的にマスター殺しを為そう。英雄の誇りを踏みにじろう。例え、幼き童であっても残虐に殺してみせよう……。本当に願いを叶えたいなら、自身の誇りすら泥に塗れさせろ、出なければ願いには届かん」

 

「…………何故、助言を? それにマスター殺しを積極的にするのならば、ギルガメッシュのマスターを暗殺したほうが良かったのでは?」

 

 助言がなぜあるのか不思議である、気づけば口から出ていた。同時に疑問を口にする。何故、ギルガメッシュのマスターの暗殺に専念しないのか……。この場で狙えば確実に殺せたはずだ。

 

「……私は神の血を引いている者を復讐対象に捉えている。そういう意味では英雄王も復讐対象だ。だが、英雄王が成した事には敬意を払おう。神々に契合せず、神と人を切り離した。そこには敬意を払おう」

 

 最初のは単純に挑発だったのだろう。復讐もあるだろうが。

 

「私は、神々の逸話全てを地に墜とす。並大抵のことではない。だからこそ、英雄王は私の手で倒す。マスター殺しではなく、私の手で」

 

「待たせたな。」

 

「クックック……なに構わん。良い見世物であった……では始めるか」

 

ここに戦いの火蓋は切られた。




冬木市の被害が少なくなりますように。

あと、誰かギルガメッシュとアルケイデスの全力での戦闘シーンを続き書いてくれますように。


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