孫悟飯が強くなることに意欲的ならば (naonakki)
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第一話 プロローグ

 これは一体どういうことだろう……

 

 辺りを見渡すと人気のない鬱蒼とした森であり、わずかな木漏れ日だけが僕を照らしている。

 見慣れた場所だから分かる、ここは‘実家’の近くの森だろう。

 

 なぜこんな場所にいるのか、それも疑問の一つではあるが、それよりもさらに大きな問題がある。

 僕自身だ。

 自分の小さな手、そして‘孫’と書かれた衣服に包まれた胴体と、自分の体を順々にじっくりと見つめ、一つの推測が頭に浮かぶ。

 

 ……子供になっている?

 

 理由なんて分からない、けれど、状況から判断するにそうとしか考えられない。

 頭にかぶっていたドラゴンボールがちょこんと乗っている父さんが‘昔’にくれた帽子を手に取り見つめながらそう確信する。

 

 ……。

 

 分からないことが多くあるけれど、とりあえず誰かと合流しよう。

 そう思い、意識を集中させ辺りの気を探る。

 

 するとすぐによく見知った気を感じることができた。

 

 これは父さんの気、家にいるのかな?

 それにしても、このお父さんの気……

 

 あまりにも小さくないだろうか?

 

 普段は気を押さえているから気が小さいのは当然なのだが……。

 仮に気を押さえていても潜在的にどれくらいの気を隠し持っているかは、ざっくり分かるものだ。

 それを踏まえても父さんの気はあまりに小さく感じる。

 別人だと疑いたいくらいだが、この優しく穏やかな気は間違いなく父さんの気だ。

 

 疑問は残るが、父さんの元へ向かうべく空に向かって飛び立つ。

 

 「わっ!? お、遅い!?」

 

 ノロノロという効果音でも出ているのはないかというくらいの速度しか出せなかった。

 そうか、子供になっているせいで気が全然ないんだ。

 これはちょっと時間がかかっちゃうな……。

 

 

 数十秒後、ようやく僕は父さんの元へたどり着くことができた。

 すぐそばには、食事の用意をしている母さんもいた……けど。

 

 「え……か、母さん…だよね??」

 

 僕は驚きを隠しきれずに、ワナワナと震えながらそう尋ねざるを得ない。

 だって、目の前にいる母さんはあまりも若かったから。

 父さんは見た目は変わりなかったけど、やっぱり気の量が絶対的に少なくなっている。

 

 「ご、悟飯、おめえ、いつの間に空を飛べるようになったんだ??」

 「悟飯ちゃん! 誰が母さんだべ! お母さんだ!!」

 

 驚いたように、しかし、どこか嬉しそうにそう聞いてくる父さん。

 鬼のような形相と化した母さんに、どこに行っていたのかとこってり怒られた後、僕達3人は食事を摂った。

 久しぶりに3人で食べるご飯は、すごく懐かしい味がした。

 

 

 

 食事の最中に、母さんと父さんにさりげなく聞いた情報をもとに整理すると、

 どうも僕は、過去にタイムリープをしてしまったようだ。

 気や肉体は当時のままで、記憶だけが過去に来てしまった状態。

 だから父さんの気が小さく、僕が子供になってしまい、母さんが若い、ということらしい。

 驚いていない、と言えば嘘になるけど、トランクス君がタイムマシーンで未来から過去に来た位だし、取り乱すほどの衝撃はなかった。

 ちなみにだけど、このことは父さんと母さんには話していない。

 信じてもらえるか分からなかったからね、特に母さんには……。

 

 

 

 僕は食事後、一人考えていた。

 

 どうしてこんなことになったんだろう……。

 僕がこうなってしまう直前の記憶を探ってもその原因を突き止めることは叶わない。

 僕以外にも同じようにタイムリープした人もいるのだろうか?

 

 しかし、それら以外にも考えるべきことがある。

 

 これからどう生きていくか、だ。

 

 僕が経験してきたことがそのまま起きるのであれば、これから先、地球には何度も危機が迫ることになる。

 

 そこまで考え、僕は自分が送ってきた人生を改めて振り返ってみる。

 

 僕は幾度となく押し寄せる地球のピンチの度に父さんたちとともに戦ってきた。

 しかし父さんと違い、戦いが好きではない僕はいつもどこかで戦いにおいて消極的な部分があった。

 

 最終的には、毎回ドラゴンボールで犠牲のほとんどは解消されたとはいえ、その中には 僕が強ければ死なずに救えた命だってあった。

 

 それにいつだって地球を救ってきたのは父さんだ。

 僕は何もしていない。

 それどころか僕の愚かな行動のせいで父さんを死に追いやったことすらある。

 

 もし、父さんがいなくなればどうする?

 僕は地球を守ることができるだろうか?

 この先の未来、これまで僕が出会ってきた敵より強い敵が現れない保証はあるだろうか?

 その時も父さんとドラゴンボールによって、すべてが丸く収まる保証はあるだろうか?

 

 いや、そんな保証はどこにもない。

 現に未来から来たトランクス君が言っていたではないか。

 ドラゴンボールがなくなり、父さんが心臓の病気で死んでしまった未来の世界では、人造人間によって地獄のような世界になったと。

 その時、僕は人造人間の前になすすべなく殺されてしまった、と。

 

 再び僕が同じようにこれからを生きてくと、将来学者として愛する家族を養うことになる。

 しかし、それは正しいのだろうか?

 本当に戦いの場から引退しても良かったのだろうか?

 

 どこかで父さんとドラゴンボールがあれば大丈夫と、甘えていなかったか?

 

 真になるべくは、誰をも守ることのできる絶対的な強者ではないか??

 

 それに父さんもよく言ってくれていた。

 僕には、誰にも負けないとんでもない才能が眠っていると。

 

 であれば……

 

 

 

 「お~い、悟飯~、おっ、いたいた! そろそろ亀仙人のじっちゃんのとこn」

 「父さん!」

 「えっ……どうしたんだ?」

 

 僕を呼びに来た父さんに対して、自分でもびっくりするくらい大きな声で父さんの名前を呼ぶ。

 父さんも驚いてるようで、目をパチクリさせ、こちらを見ている。

 

 「僕……、強くなりますっ!! 大切な人たちを守れるような強い人に!!」

 

 この僕が放ったセリフに対し、最初父さんはポカンとした表情を浮かべていた。しかしすぐに4歳児には似合わない真剣な表情を浮かべる僕を確認すると、何かを納得したように、ニッと嬉しそうな笑みを浮かべ

 

 「そっか、よく言った!」

 

 と言い、そのたくましく大きな手で優しく僕の頭をポンポンと撫でててくれるのだった。

 

 つづく

 




第一話読んで頂きありがとうございます!

ドラゴンボールが大好きですが、以前より悟飯について、凄く強いのに修行をしていない時期があったり、学者になってしまったりと、勿体ないな~と思っていたのが今回の作品を書くきっかけになっています。

次話も良ければ読んでみてください!



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第2話 サイヤ人ラディッツ襲来

早速感想を書いていただいた方、お気に入り登録していただいた方ありがとうございます!


 さて、これから強くなることを決意したのはいいけど、どうも今から亀ハウスまで行って、亀仙人さんやブルマさん、クリリンさんに初めての挨拶をする予定だったみたいだ。

 僕はもう何回も会ってるから変な感じだけど……。

 

 そういうわけで、母さんに身なりを半ば強制的に整えさせられた僕は、父さんと一緒に筋斗雲に乗って亀ハウスまで来たわけだけど

 

 (ブ、ブルマさんが若い……っ!?)

 

 分かっていたことだけど、やっぱり衝撃的であることに変わりはない。

 皺も贅肉もついていないブルマさんは正直言って違和感しかない。

 こんなこと言ったら、きっと凄い怒られるに違いないけど……。

 クリリンさんも亀仙人さんもいたけれど正直この二人は年をとってもあまり変わらない為、そこまでの違和感はない。

 

 「ま、まさか、孫君が子供を連れてくるなんて……」

 「本当だぜ……まさかあの悟空がな。」

 

 向こうは向こうで、かなり驚いているようだ。

 あまり記憶になかったけど、僕たちはこんな風に出会ってたんだ……。

 忘れてしまった大切な人たちとの出会いの場面に立ちあうことが出来て、しみじみとした感動に浸っていると

 

 突然それはやってきた

 

 っ!? 何者かがこちらに向かってくる!?

 

 ……邪悪な気だ、こちらに向かって飛んできているようだけど、

 一体何者だ!?

 

 「んっ、なんだ……??」

 

 父さんたちも謎の気の正体に気付いたようで、険しい表情を浮かべ辺りの様子を伺っている。

 ……待てよ、そう言えば僕が4歳の時に、父さんの兄であるサイヤ人が地球に来たんじゃなかったっけ?

 僕はほとんど覚えていないが、確か父さんがそう言っていた。

 そしてその戦いで父さんは……。

 

 そこまで考えて、一気に警戒モードに入る。

 絶対、僕の目の前で誰も死なせない!

 敵はまだ遠くにいる為、正確な力量は分からない。

 しかし、父さんたちの話では敵は物凄く強く、一対一ではとても叶わず、当時敵同士だったピッコロさんと父さんがタッグを組んでようやく倒せたと言っていたほどの実力者だ。

 まだ修行も何もしていないこの身でどこまできるかは分からないが、今の僕にだってできることが必ずあるはずだ!

 

 緊張が張り詰める中、その敵はやってきた。

 

 「……カカロット、ようやく見つけたぞ。」

 

 腰まで届く黒色の長髪と、そして何よりゆらゆらと揺れる尻尾が特徴的なその男は間違いなく、話に聞いていた父さんの兄であるサイヤ人だろう。

 ナメック星で嫌というほど見たスカウターとかいう機械越しに僕たちを舐めるように見つめるその男からは、本当に父さんの兄なのかと疑うくらい邪悪な気を放っている。

 

 「おめぇ……何者だっ!! そのかか何とかなんて、オラ知らねえぞ!!」

 

 そうか……この時の父さんはまだ自分の正体がサイヤ人と知らないのか。

 よく考えればこの地球で育つだけでは、自分が宇宙人なんて思いもしないだろうし、無理もないのかもしれない。

 

 それにしても、こいつが父さんを……??

 

 僕がある疑問を浮かべる中、ラディッツと名乗る男が自分たちサイヤ人の生い立ち、そしてこれから星を攻める際、人手が足りない為、この地球に来て父さんを仲間に加えに来たことを説明した。

 

 「ふざけるなっ! オラは地球人の孫悟空だ!」

 「そうだぜっ!! 悟空は世界を救ったほどなんだ! お前らみたいなやつらと一緒にするな!」

 「そうよそうよっ!!」

 

 宇宙中の星の住民を殺しているサイヤ人の行いを父さんたちが容認するわけもなく、ラディッツに立ち去れと言い放つ。

 しかし、そんなみんなの主張はどうでもよいと言いたげに、にラディッツは涼しい顔を崩さない。

 

 「まったく、我儘な弟だ。だったら無理やり言う事を聞かせる状況を作り出してやる。」

 

そしてそのニヤニヤした顔で、僕に視線を向けてきたぞ!?

 

 「さっきから気になっていたが、そこの子供はカカロットの息子じゃないのか??」

 「っ!? ち、違うっ!!」

 「ふっ、嘘をつくな。その尻尾が何よりの証拠だ。」

 

 必死に否定をする父さんに対してそう言うと、ラディッツは僕の方へ歩いてくる。

 自分の言うことを聞かない父さんに対して、子供の僕を人質にでも取るつもりだろうか。

 

 しかし、そうはさせまいと、父さんが僕の目の前に立ち、ラディッツに対し構えをとった。

 その父さんの全身は震えている、気も乱れているし、まるでとんでもない強者を目の前にしているように。

 クリリンさんたちを見ても、圧倒的存在を前に身動きがとれないと言った感じだが…

 

 

 

 どうして皆そんなにおびえているのだろう?

 

 そんなに……

 

 そんなにこいつは強いのだろうか??

 

 確かに今の僕たちにとっては、弱い敵ではないと思う、油断はできない。

 しかし、しっかり力を出し切れば苦戦することもなく倒せる相手ではないのだろうか?

 目の前にいる敵がどれほどの力を隠しているか正確には分からないが、どうしてもそこまでの強敵だとは思えないのが正直な感想だ。

 

 

 

 いや

 

 何を考えているんだ僕は??

 

 今、僕は相手が大したことがない相手だと勝手に判断した……??

 

 まただ……

 

 こうやって、いつも失敗してきたんだ!!!

 

 いい加減学習するんだ!!

 また大切な人を殺すつもりか!!

 

 あまりの自分の愚かしさに堪えようのない怒りが込みあがってくる。

 

 ピピピッ

 

 「ん? な、なんだこれは!? 戦闘力が1000を越えているだと!?」

 「え……ご、悟飯……なのか??」

 

 僕の戦闘力が表示されているスカウターを見て驚愕の表情を浮かべるラディッツと、同じく驚いたように僕を見つめる父さん。

 

 理由も分からぬ状態で過去に来て、いきなり何の準備もないまま、今敵を目の前にしている状況。

 しかし、恐れは一切なかった。

 出し切れるだけの力を出し切って目の前の敵を排除する。

 

 それだけだ!

 

 怒りによって膨れた気に加え、さらに体の中に眠る気をコントロールし、全身に巡らせていく。

 気のコントロールだけは、記憶として今の僕に引き継がれているため容易だ。

 これも全て父さんとピッコロさんが教えてくれたんだ…‥。

 

 ゴゴゴと、辺りの空気が震えるのを感じながらゆっくりと改めて目の前の敵を見据える。

 

 「ば、馬鹿な、戦闘力が1300を超えた、だと?? こんなガキの頃からあり得ない……。スカウターの故障か!?」

 

 驚き慌てふためくラディッツに対し、キッと睨みをきかせ、

 

 「はぁっ!!」

 

 気合の掛け声とともに、一気に敵への距離を詰め、全身の体重を込めた拳を思い切りラディッツの腹部へ叩き込む。

 

 戦闘態勢をとれていなかったラディッツにモロに一撃をくらわすことができた、『ドズンッッ!!』という大気を震わす鈍い音と共に、相手が身に付けているプロテクターを割り、相手の肉体へダメージを負わせた感触がしっかりと伝わってくる。

 

 「ガ、ガハッ!!??」

 

 血を吐き、ヨロヨロと、ダメージを負った個所を手で押さえながら後ずさり、信じられないようなものを見る目でこちらを見ている。

 

 まだだ、相手に考える暇を与えるなっ!!

 

 追撃を与えるべく、再び距離を詰め、体のひねりを利用した右足の上段蹴りを繰り出す、が、慌てたように戦闘態勢をとった敵にその攻撃をかろうじてではあるが躱されてしまう。

 くそっ……手足が短すぎて感覚がかなり狂ってしまう。

 今の蹴りも大人での体でなら当てられただろうけど……と、愚痴を言っても仕方がない。

 攻撃は外れたが相手の体は大きくバランスを崩している。

 すかさず、態勢を戻し相手への顔面へ思い切りパンチを叩き込む。

 ラディッツはこの攻撃をまともに受け、その勢いのまま水平方向に飛んでいく。

 

 「まだだーっっっ!!!」

 

 ダメージは負わせているが致命傷ではない。

 僕とラディッツの間には大きな戦闘力差はない、このまま肉弾戦を続けても埒があかない。

 一撃で決めるような技が必要だ……。

 

 「くっ、この俺が一方的に攻撃されている……だと!?」

 

 二度の攻撃をまともにくらってしまい、流石に相手も焦りが出てきたようで、先ほどまでの余裕はない。

 だが、生き物とは追い込まれるほど真価を発揮するもの。

 

 

 

 ズドドドドッッ!!!!

 

 

 

 僕を完全な敵とみなしたラディッツに、さきほどまでの油断しきった様子はない。

 意識を集中し、完全な戦闘モードだ。

 蹴り、殴打、頭突き、あらゆる攻撃が目にも止まらぬ速さで繰り返される中、相手の実力もだんだん推し量れてきた。

 戦う前は、僕の方が戦闘力で上回ると思っていた。

 しかし蓋を開けてみればどうだ、最初に完全な二撃を決めたにも関わらずまったくの互角だった。

 いや、正確に言うと気の量では予想通り僕の方に軍配が上がっている。

 しかし、この4歳児の体では、リーチ差という体格の問題がハンデとして重くのしかかり、その結果互角の戦いになってしまっているんだ。

 

 

 

バチィッ!!!

 

 

 

 お互いの一撃により、距離が離れ、先ほどまでの激しい戦闘によりまき散らされていた爆音が止む。

 二人の間には、僕たちの戦いの余波によって荒れ狂った波の音だけが鳴り響く。

 

 「ハァハァ……、まさかカカロットの息子がそんなガキのくせにここまでの実力を持っているとは思わなかったぜ。」

 

 そう言うラディッツは、素直に僕の実力を称賛しているようだ。

 しかし、その顔には再び余裕の表情に戻っている。

 ……向こうも気付いているのだろう、‘僕の動きがだんだん悪くなっていることに’。

 このまま戦えば僕は負けるだろう。

 確かに、体格の差があるとはいえ、互角の戦いはできていた。

 しかし

 

『スタミナ』

  

 これが今の僕には圧倒的に足りていなかった。

 フルパワーの状態で戦えたのはほんのわずかな間だけ。

 今は、凄い速さでパワーが落ちてくのを嫌でも感じてしまう。

 この体は、今までごくごく平凡な生活を送ってきたのだ、むしろここまで善戦できたことが奇跡的ともいえる。

 

 

 

 だが、それがどうした?

 

 そんな言い訳をしたら敵が僕たちを見逃してくれるのか??

 

 一撃だ……

 

 一撃で決めるんだ……

 

 残ったすべてをこの一撃に込めるんだ!!

 

 「か……め……」

 

 構えをとり、全力のかめはめ波を放ち、敵を葬らんとする。

 

 ピピピピピ!!

 

 「な、なに!!?? せ、戦闘力がどんどん上がっていく???」

 「せ、1400……1600……だと……? ま、まだ増えている!? き、貴様、戦闘力を自在に操ることができるのか!?」

 

 驚きを越し、絶望の表情すら見えるラディッツだったが、僕は内心焦っていた。全力のかめはめ波を放つには、気をためるのに時間がかかる。

 その間敵は待ってくれるだろうか??

 

 「くっ……、このまま大人しくやられてたまるかぁ!!」

 

 しかし、天は僕に味方しなかったようだ。

 決死の覚悟で、ラディッツは僕に抵抗せんと飛び掛かってくる。

 

 だめだ、かめはめ波はまだ打てない!? 

 

 やられる……

 

 しかし

 

 「おりゃーーっ!!!」

 「な、なにぃっ!?」

 

 ドガッ!!

 

 視界の端から現れた父さんが、ラディッツの横から不意打ちの強力な蹴りをお見舞いし、ラディッツはその勢いを殺し切れず海の中へ大量の水しぶきを上げて打ち付けられる。

 

 「悟飯っ!!! 今だ!!!」

 

 父さんの掛け声とともに、僕は掌に集まっていたエネルギーをラディッツの方へ向かって勢いよく突き出し

 

 「波ぁあああああっっ!!!」

 

 青白く輝く、全力のかめはめ波が凄まじい速度でラディッツへ向かっていく。

 ラディッツは急ぎ、立ち上がり回避しようとするが今からでは間に合わない。

 

 「くそおおおおお!!!」

 

 ラディッツの怒りなのか、あるいは恐怖による心からの叫び声を最後に、僕のこちらの世界での初戦が幕を閉じた。

 

 つづく

 




第二話読んで頂いてありがとうございます!

というわけで、ラディッツ戦でした!

ちなみにラディッツは公式では、戦闘力1500らしいですけど本当なんですかね?笑
今回の作品では、私の勝手な見解でラディッツは万全の状態で戦闘力1200~1300程度くらいの感覚で書きました。
違和感を覚えられた方がいましたらすみませんでした。

引き続きどんどん更新していきますので、次話も読んで頂ければ嬉しいです!!


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第3話 サイヤ人達

 ザザザーンッ!!

 

 全力のかめはめ波の余波によって、さながら嵐のように荒れる海とは対照的に、透き通るような青色の空から差し込む陽の光が僕たちを照らす中

 

 「……っはぁっはぁっ!?」

 

 緊張の糸が切れたように、疲労と脱力感が一気に僕を襲ってくる。

 思わずその場に膝をつき、荒い息を繰り返す。

 

 あ、危なかった……

 ラディッツ、予想以上に強敵だった。

 最後に父さんが助けてくれなかったら僕は負けていただろう。

 最初は苦戦もせず勝てるだろうと見込んでいただけに実に情けない。

 それにこの戦いでたくさんの課題が見つかりもした。

 

 でも、でもっ……

 

 父さんは生きている!

 

 そう、今回の戦いで誰の犠牲も出さんかったのは事実だ。

 しかも今回、僕は何の修行も鍛錬もせずに今回の敵に勝てたのだ。

 この先、きちんと鍛錬を積んでいけば、誰の犠牲を出すことなく勝ち進めるのではないかという希望にも繋がった。

 

 「悟飯、大丈夫かっ!?」

 

 僕の様子に父さんがそう心配そうに声をかけ、駆け寄ってくる。

 

 「は、はい……なんとか大丈夫です。」

 「そっか、よかった……」

 

 僕が何とかそう己の無事を伝える。父さんも安心したのか、ほっとしている。

 しかしだめだな、本当にスタミナがない、しゃべるのもキツイ、まずは体力作りから始めないとな……。

 そんなことを疲労で上手く回らない頭でぼんやりと考えていると、父さんがキラキラした表情で僕の方を見ていることに気付いた。

 

 「悟飯、おめえとんでもない力を持っていたんだなっ! こりゃ、オラも負けてられないな!!」

 

 まるで、とんでもない宝物を目の当たりにした子供の様にただただ無邪気にそう言ってくる。

 はは……父さんは今も昔も変わらないんだな。

 この強くなろうとする、ひたすらに純粋な欲求こそが僕に最も欠けている部分であり、そして父さんの偉大な力の源なのだろう。

 昔からそうだ、皆が絶望してしまうような強大な敵の存在を前にしても、ただ一人、そんな強敵と戦えることに喜びを感じていたのだから。

 

 「いやいや、悟空の子供とはいえ、凄すぎないか?? 俺なんてあのサイヤ人との戦いを目で追うこともできなかったぞ? しかもかめはめ波まで打ってたし。」

 「確かにのう……、まだ4歳じゃったか? その年でこの場にいる誰よりも強い力を持っているとはにわかには信じがたい。」

 

 クリリンさんと亀仙人さんもやってきて僕のことを信じられないようなものを見る目で見つめてくる。

 まあ、確かに僕も悟天が4歳の時にこんな戦いを目の前でしていたら同じ反応をしただろう。ちなみにかめはめ波を打てたのは、父さんの真似を無我夢中でした、で無理やり突き通した。

 

 「というより、クリリンっ! あんた、4歳の子が戦ってるのに何突っ立てたのよ! あんたも一緒に戦ってあげるべきでしょうが!」

 

 さきほどまで腰を抜かして地面にへたり込んでいるように見えたが、復活を果たしたブルマさんがクリリンさんに辛辣な言葉を投げかけていた。

 

 「いやいや、無茶を言わないでくださいよ! 俺が行っても一瞬で死んじゃいますよ。」

 「なによ、どうせ死んでもドラゴンボールで蘇らせてあげるじゃない!」

 「いや、それは無理だ。一度ドラゴンボールで蘇った人はもう二度と蘇ることはできねえんだ。」

 「えっ、そうなの?」

 「ああ、本当だ。」

 「へ~、なんでも願いを叶えてくれるっていうドラゴンボールでもできないこともあるのね~。」

 

 みんなの平和的(?)なやり取りを聞いていたら、本当にこの戦いが誰も犠牲になることなく終えたのだと実感できてきた。

 

 

 

 しかし

 

 

 

 油断は禁物だ。

 なにより、今回の結果によって重くのしかかってくる問題もある。

 

 父さんと界王様の出会いがなくなってしまったことだ。

 

 本来なら、父さんはこの戦いで死んでしまい、その後、神様の計らいで界王様のもとで修業を行い、界王拳と元気玉を習得したのだ。いずれもこれから先、立ちはだかる強大な敵と渡り合うために重要な技であることは疑いようもない。

 勿論、父さんが死ぬべきだったなんて思ってもいないが、父さんが強くなる機会を僕が奪ってしまったのは事実だ。

 その穴を埋めるために僕は死に物狂いで強くなる必要がある。

 それがいかに大変なことかは、その技によって何度も救われたことがある僕は理解しているつもりだ。

 そのためにもこれから先どうやって修行していくかを真剣に考える必要があるな。

 

 「おい、クリリン! サイヤ人だったか?を埋葬してやれぃ。 明日になって浜辺に死体が打ち上げられでもしていたら最悪じゃからの。」

 

 僕が、この先どう強くなっていくかを考えていると亀仙人さんがそんなことをクリリンさんに言っていた。

 クリリンさんも「確かにそれは嫌だな…」とラディッツが立っていた辺りを探し始めた、が

 

 「……あれ?? 死体がありませんよ? あのとんでもないかめはめ波で消滅しちゃったんじゃないですか? それか沖に流されちゃったか。」

 「なに? まあ、それならいいが…。」

 

 この時は、この二人のやり取りがどういう意味を持っているのかなんて、考えもしなかった。

 

  

 

 ~遠く離れた宇宙の果て~

 

 「ラディッツめ、死におった。」

 

 スカウターを覗き込みながら、スキンヘッドが特徴的な大男、ナッパは嘲笑気味にそう呟いた。

 

 「ふん、ガキを相手に情けない。」

 

 同じくスカウターをつけた、小柄だが圧倒的存在感を放つ男、ベジータがそれに応えるようにそう言い放つ。

 昆虫のような生き物―この星の住人だ―をただシンプルに焼いただけのものを口に運び、がぶりとかぶりつく

 ……ちっ、まずいな。

 

 「でも、カカロットのガキはあまりにも戦闘力が高くなかったですか? 最後の攻撃の一瞬、戦闘力が2000を超えていましたが……。」

 「確かに他の同じ年のサイヤ人に比べても高いようだが、ふん、そんなことはどうでもいい! カカロットとラディッツがいなくなったところで大して問題はない! この星を攻め落としたら、予定通り次の星へ攻めに行くぞ!」

 

 地球にいるカカロットとラディッツのことなど最初から眼中になかったかのようにそう言った時だった。

 スカウターからぼそぼそとした、弱々しい声が聞こえてきた。

通信が入ったようだが、これは、

 

 「ラディッツ、だと?」

 「ん? おっ、本当ですな、ラディッツからの通信のようですね。」

 

 完全に死んだと思っていた仲間からの通信に多少なりとも驚きを示す二人。

 相手からの応答を待っていると、再び通信が入った。

 

 「すみません、失敗しました……カカロットのガキを子供だと思って油断した。」

 「ほう、完全に死んだと思ったがどうやって生き延びたんだ?」

 

 ベジータは仲間が生きていたことについても、カカロットを連れてくることに失敗したことについても特に興味はなかったようだが、単純にあの状況でどう生き延びたのかが気になるようだった。

 

 「……あの時、俺たちの戦いによって海がかなり荒れていて、たまたま俺に攻撃があたる直前に大波が俺の体をさらって、ぎりぎり直撃を免れたんです。 といっても、かなりの重症に違いはないですが、こうやって喋っているのも辛いくらいです……。」

 「はっはっはっ、運のいい奴め! ならお前はそこで体を回復させろ、回復次第、俺たちに合流するんだ、死にかけるような戦いだったんだ、お前もだいぶ戦闘力が上がったはずだ。これ以上地球なんてどうでもいい星に時間をとられるのも癪だ。」

 

 そう言うベジータは、最初からカカロットという戦力にも大して期待していなかったことが分かる。いたらラッキーくらいの考えだったのだろう。

 

 しかし、次にラディッツが放った言葉はそんなベジータの考えを改めさせるのに十分すぎた。

 

 「それなんですが、地球人のやつらが気になることを言っていたんです。なんでも願いを叶えてくれる‘ドラゴンボール’というものがあると。」

 

 つづく

 




第3話読んで頂いてありがとうございます!

というわけで、ラディッツは生きていました、という展開です!
次話以降どうなるか温かく見守っていただければ嬉しいです!!

最後に、感想頂いた方お気に入り登録していただいた方ありがとうございます!
皆さん、今後どうなるのかと気にしていただいてる方が多くいてとても書き甲斐があります!
でも、どう見ても自分よりドラゴンボールについて詳しそうだなという人が多くてプレッシャーを感じたりもしています笑
(私も相当読み込んでるつもりなんですがね笑)

では、また次話でお会いしましょう!


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第4話 ピッコロさん

沢山のお気に入り登録ありがとうございます!
(滅茶苦茶増えててびっくりしました笑)

誤字脱字報告して頂いたかたありがとうございます!

また、感想頂いた方もありがとうございます!
後、その感想なんですが、返信が追いついなくてすみません……。
頂いている感想はしっかり読まさせていただいています!
(大変励みになっています!)




 ラディッツを打ち破った後

 

 僕は、亀ハウス内のベッドの上で休息をとっていた。

 ラディッツ戦で予想以上に体力を消耗し、苦しそうにしているのを皆が見かねてベッドに運んでくれたのだ。

 目を閉じればすぐにでも夢の世界へ行けたが、とある事情からとても寝られる状態ではなかった。

 

 まさか……

 

 ラディッツの仲間であるベジータさんとナッパが来ることを誰も認識していないなんて……。

 

 それどころか皆はサイヤ人ラディッツを倒したことによって地球の危機が救われたとお祝いモードなのだ。親子そろって地球の救世主だなんて言ってたけど、本当に地球がまずいのはこれからだというのに。

 父さんだけは、あのサイヤ人と悟飯に負けないように修行しなくちゃなと言っていたが、それでもどこか楽観的なことに変わりはない。

 

 だが、これは僕のミスだ。

 

 というのも元の世界では、ラディッツが死ぬ直前に、自分が死んでも強力な敵が一年後に来ると皆に伝えたからこそ、僕たちは死に物狂いで修行をしてサイヤ人達の襲来に備えていたと、しっかり認識をしていたからだ。

 にも関わらず、今回僕はその情報をラディッツから聞き出す前に倒してしまったのだ。

 

 どうすれば……

 

 僕が皆に他のサイヤ人が攻めてくるから修行しましょうと言っても、どうしてそんなことを知っているのかと不審がられるだけだろうし……。

 

 勿論、僕は強くなるために修行をするつもりだが、それでも一人でベジータさんとナッパの二人を相手にできるかと言われれば難しいだろう。特にベジータさんの底知れぬ執念を感じさせる強さは今でも脳裏に恐怖として染みついているほどだ。

 何としても仲間の助けが必要だが、今のままでは皆はサイヤ人達に瞬殺されてしまうだろう。

 

 何とかできないかと、うんうんと悩んでいる時だった。

 

 

 

 え……!?

 

 

 

 この気は!?

 

 

 

 このとても懐かしく、荒々しいがどこか穏やかさを感じさせるこの気は

 

 

 

 全身が疲労で悲鳴を上げていたが、そんなことはどうでもよかった。

 ベッドから跳ね上がるように立ち上がり、ドタドタと4歳児に相応しい慌ただしさで、寝室を駆け抜けていく。

 

 そうじゃないか……過去に来たのだからいるに決まっているじゃないか!

 なぜ気付かなかったんだ。

 

 高鳴る鼓動と共に、僕は亀ハウスの一番大きな部屋―たぶんリビングだ―への扉をバンッと勢いよく開ける。

 

 そして、亀ハウスの入り口の側に目的の人物はいた。

 

 

 

 ピッコロさんだ

 

 

 

 「あ……あぁ……」

 

 ピッコロさんの姿を確認した瞬間、胸が熱くなり、自然に目尻に涙が浮かび上がってくる。

 どうしてこの場にピッコロさんがいるのかなんて疑問すら出てこなかった。

 まさか……まさか、またピッコロさんに会えるなんて。

 

 元の世界でも、当然ピッコロさんは健在だったが、事はセルとの戦いの時だ。

 当時、無敵の強さを誇る人造人間17号と18号に対抗するために神様とピッコロさんが合体をし、一人になったのだ。

 とはいっても本質的にはピッコロさんのままではあったし、特に大きな変化はなかったのだが、では元のピッコロさんとまったく同じか? と問われれば素直に顔を縦に振れない、というのが本音だった。

 神様と合体したことにより、わずかではあるが、性格がより穏やかになったりと、どこかしらに神様の要素を感じてしまい、どうしても元のピッコロさん本人という風にとらえきれていなかった部分があったのだ。

 勿論、合体した後のピッコロさんのことも父さんや母さんに負けないくらい大好きではあるけれど、やはり今、目の前にいるピッコロさんこそが、当時、おぼっちゃま状態だった僕を厳しく鍛えてくれたのだ。

 そして何より、この先やってくるサイヤ人との戦いで僕を庇って……

 

 これを感動の再会というのだろうか? 

 向こうは僕のことを初めて見るんだろうけど……。

 

 ちなみに、部屋にいた父さんたちは慌てて来た僕の方を見て、ポカンとした表情を浮かべている。

 

 しかし、ピッコロさんだけは僕の姿を確認するとすぐにキッと鋭い表情を僕へ向けてきて

 

 「ふん、お前だな……あの化け物みたいなサイヤ人とかいう宇宙人を倒したのは。孫悟空の息子か?」

 

 ピッコロさんは吐き捨てるようにそう言ってくる。

 

 「……そうだ、オラの息子だ。悟飯っ、おめえは部屋に戻ってるんだ。」

 

 父さんは警戒しながらピッコロさんへそう返事をした後、少し慌てたよう僕にそう言い放つが、何をそんなに焦っているのだろうか?

 

 「大丈夫だよ父さん、ピッコロさんはとても優しいんだから!」

 そう言って僕は、ピッコロさんに近づいてく。

 これにはその場にいた全員がギョッとしたような表情を浮かべ、

 

 「ちょ、ちょっと悟飯君! 頭でも打ったのかもしれないけれどピッコロは人類の敵なのよ!?」

 「そうだぜ悟飯!? いきなりここに来たのもきっと何か企みがあるに違いない!」

 

 と、僕を止めるような注意を叫ぶように言ってくるが、構わずピッコロさんに近づいていく。

 

 そして

 

 「こんにちは、ピッコロさん!」

 

 嬉しさをかみしめながら、そう挨拶をする。

それこそ子供のようにはにかんだような笑顔を浮かべているのが自分でもわかった。

 だけど久しぶりの再会だ、仕方ないよね? 

 

 「な、なんなんだお前は……、本当にお前があのサイヤ人を倒したのか??」

 

 しかし、ピッコロさんはそんな僕を見て困惑したように、そう言ってくる。

 予想外の展開に混乱しているように見える。

 流石にピッコロさんに再会できた嬉しさをもう少し隠す努力をするべきだっただろうか?

 

 「お、おい! 悟飯っ! ピッコロに何を吹き込まれたのか知らないけど、早く離れろ! 食べられるぞ!」

 「食べるかっ!」

 

 クリリンさんの謎の警告にピッコロさんがすぐさまツッコミを入れる中、父さんだけは真剣な表情を浮かべたままピッコロさんへ向かって

 

 「ピッコロ……その様子だと、おめえも悟飯とあのサイヤ人との戦いを見てたんだろ? そしてそのサイヤ人を倒した悟飯を見に来たってところか?」

 「この俺の敵になる奴を見定めに来ただけだ、どんな奴かとな……」

 

 こんなやつとは思わんかったがな、と一言付け加えて、相変わらず奇妙なものを見る目で僕を見つめている。

 

 「で、どうだ?? ピッコロから見て悟飯はどう見えた?」

 

 父さんは興味あり気に、続けてピッコロさんにそう問うが、そう声をかけられたピッコロさんはじろりと父さんに視線を向け

 

 「この俺に気安く話しかけるな! ちっ、どんな奴かと思えば拍子抜けもいいところだ! いずれ全員まとめて片付けてやるから覚悟をしておくんだな!」

 

 ピッコロさんはそう言い捨てるとくるりと出口に方向を変え、そのまま慌てたように帰ろうとしてしまう。

 どうしてそんなに急いで帰ろうとしているのだろうか? 予想外のことが起こり、急ぎ退散する、そんな風に見えたが真相は分からない。

 

 「あっ、待ってよピッコロさん!」

 

 僕が何とか呼び止めようとするが、ピッコロさんはそのまま構わず空へと飛んで行ってしまう。

 僕は迷う余地なく、後を追うように空へと飛び立つ。

 

 まだ、しゃべりたいことが沢山あるんだ!

 

 皆が必死に止める声が遠ざかっていくなか、必死にピッコロさんを追いかける。

 

 くっ…、もう体力がほとんど残っていないから追いつけない!

 

 だから

 

 「ピッコロさぁあああん!!」

 

 と、喉がちぎれんばかりに大声を出すのだった。

 

 

 

 ……くそっ、なんなんだあのガキは?

 

 空を全速力で飛びながら、未だに混乱している頭で先ほどの孫悟空の息子、孫悟飯のことを思い出す。

 俺には俺を生み出したピッコロ大魔王の記憶も引き継がれている、その記憶にあるのは、無数の悪の心を持った人間たちだ。

 人間とは、自分のことしか考えない自己中心的な生き物であり、同種族同士で争いを起こしたり、環境破壊を繰り返し、他の生物を一方的に絶滅させる醜い生き物だ。

 人間とはそういう生き物だ。

 

 だが、先ほどのまだほんの子供である、孫悟飯はどうだ? 

 あれだけの力を持っていながら、悪の心を欠片たりとも感じることが出来なかった。

 確かに、孫悟空のように悪の心を持たない一部の人間に出会ったことはあった。

 しかし、その善の心をこの俺に隠すことなくぶつけてきた人間と出会うのははじめてだった。

 

 ……こんなことは初めてだ、何なんだこの感覚は?

 

 かつてない経験に未だ脳がぐるぐると思考を繰り返す中、人間とは比較にならない聴力を誇る耳に声が、いや、叫び声が聞こえてきた。

 

 後ろを振り返ると、遥か後方に孫悟飯の姿があった。

 そのまま、無視して飛んで行ったら良かっただろうが、何の気まぐれか俺はその場で待つ選択肢をとる。

 

 

 

 必死にピッコロさんを追いかけていると、空中で立ち止まり待ってくれているピッコロさんが目に入った。

 そのまま、ピッコロさんの目の前まで飛んでいき

 

 「ピッコロさん! 待っててくれたんですね!」

 「ふざけるな、そのままついて来られると鬱陶しいから警告するために待ってやったんだ。」

 「警告??」

 「そうだ、このままついてくるならここで貴様を殺してやると言っているんだ!」

 「ど、どうしてそんな酷いことを言うんですか?」

 「っ、黙れ! 大体貴様は俺のことを知っているかのような口ぶりだが、どういうつもりだ!」

 

 ……え、どうしてかと言われれば未来から来たからピッコロさんのことを知っている、が答えになる。

 けど、そんなことを言っても信じてもらえ……いや、ある!

 

 ひとつだけ、ピッコロさんに未来から来たと証明できる方法が一つだけあるじゃないか!!

 未来から来たことは誰にも言わないつもりだった。

 信じてもらえるかわからなかったし、言ったところで皆を混乱させるだけだと思ったからだ。

 でも、常に冷静な判断ができ、僕の味方でいてくれたピッコロさんなら……!

 そう考えた僕は、ピッコロさんに改めて向き直り、ゆっくりと口を開く。

 

 「……それは、僕が未来から来たからです。」

 「何っ? 未来だと? 何を言っているんだ、この俺をおちょくっているのか?」

 

 当然、ピッコロさんは信じるはずもなく、むしろ適当なことを言われたと、怒りを示している。

 

 「この技を見てください。」

 

 そういうや否や、僕は既に満身創痍の体で気を集中させていく。

 そして、二本の指をピンと伸ばし、その先に気を圧縮させるようにコントロールしていく。

 

 そう

 

 魔貫光殺砲だ

 

 つづく

 

 




第4話を読んで頂き有り難うございます!

というわけで、ピッコロと悟飯とのやり取りの回でした。

次話でも続けてピッコロとのやり取りを続けていきますので、次話も、読んで頂けると嬉しいです!


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第5話 魔貫光殺砲

 全身の気を指先に集中し、一気に放つ技『魔貫光殺砲』

 本来ラディッツを倒すはずだった技、そして、この世界ではまだ誰も知らないはずの技だ。

 

 ―この技を編み出したピッコロさん以外は―

 

 本来は、当時敵同士だった父さんを倒すためにピッコロさんが編み出したこの技であるが、僕がピッコロさんに修行を見てもらっていた時に気のコントロールの練習も兼ねて教えられたのだ。

 この技は本当に気のコントロールが難しく、この技を使えるようになるまで当時はかなり苦労したものだ。

 しかし習得してから知ったのだが、この技は、ラディッツを押さえるため、仕方がなかったとはいえ、ラディッツもろとも父さんを死へと誘ったものであったのだ。

 そのせいでなんとなく気が引けて、折角習得したものの一度も使用したことがない技でもあった。

 まあ、父さんは死んだおかげで界王様に会えたから良かったと、笑いながらこの話を聞かせてくれたけれど……。

 

 まさかこの技を使う日が来るなんて

 

 しかし、この技を見せることによってピッコロさんに僕が未来から来たと証明できるはずだ。

 現にピッコロさんは、信じられないものを見るような驚愕の表情を浮かべている。

 僕が、魔貫光殺砲を使おうとしていることが分かったのだろう。

 

 だが

 

 ……気が足りないっ、

 

 全身の気を使用するこの大技はかなりの気を消費する。

 体力を消耗している今の僕には厳しい技だ。

 しかしピッコロさんに話を聞いてもらうには、この技を何としても打たなくては!

 

 それにもし、僕が未来から来たと、ピッコロさんに信じてもらうことができれば、一年後に来るベジータさん達に対抗するために力を貸してくれるだろう。

 ベジータさん達を向かい討つためには1年では時間が全然足りないんだ。

 そういう意味でもなんとしても今すぐに、未来から来たと信じてもらわなくちゃいけない。

 

 「……はあああっっ!!!」

 

 全身の隅から隅まで余すことなく気をかき集めるかのように、意識を最大限集中していく。

 集中のあまり、血管が額に浮かび上がり、鼻血も出てきた。

 無限にさえ感じる極限の集中状態を経て、ようやく指先に気を集中させることに成功する。

 この時点で、意識は朦朧としており空に浮き続けることさえ苦難であったが、クワッと真っすぐ視線を上げ、指先を一気に前に突き出し

 

 「魔貫光殺砲っ!!」

 

 叫びにも近い大声と共に指先から眩ゆく輝く光線が一直線に真っすぐに突き進んでいき、蒼く澄み渡る空へと消えていく。

 

 ……やった、威力こそ弱いが確かに魔貫光殺砲だ。

 しかし、ここで元々薄れていた意識がさらに遠のいていく感覚に陥り、そのまま目の前が真っ暗になっていく……。

 

 

 

 ……ん、ここは? 

 ザザーンと、ゆったりとした波の音によって目が覚める。

 目を開くと、そこには相変わらず雲一つない青空が広がっていた。

 どうやら僕は、地面に仰向けに寝転がっているらしい。

 激しい脱力感に襲われながらも何とか上体をゆっくりと起き上がらせる。

 辺りを見渡すと辺り一面は地平線まで見える海に囲まれていた、どうやら亀ハウスがある島と同じくらいの大きさの小さな無人島であることが分かる。 

 

 「……ようやく目が覚めたか。」

 

 後ろから、少し苛立ちが含まれた声がかけられる。

 振り返ると、そこには腕を組み僕を見下ろすピッコロさんがいた。

 魔貫光殺砲を放った後、気絶してそのまま海に落ちたと思ったけどピッコロさんがここまで運んでくれたのだろうか?

 僕が何を言うよりも前にピッコロさんは続けて

 

 「説明しろ、なぜお前があの技を知っていた? あれはお前の父親を倒すために編み出した『俺』の技だ。俺以外にあの技を知っている者はいないはずだ。」

 「僕が未来から来たからです。」

 

 先ほどと同じ言葉を繰り返す、今度はピッコロさんはそれに対して食いついてくることはなく、もう少し具体的に説明しろと促してくる。

 

 僕は語った。

 本来の世界でのラディッツとの死闘のこと、そこから一年後別のさらに強力なサイヤ人が来ること、今のままではとても勝ち目がないこと。

 僕がピッコロさんのもとで修業を行い、強くしてもらったことを。

 そして僕が記憶を持ったままこの時代にやってきたことを。

 ただし、ピッコロさんが僕を庇って死んでしまったことだけは伏せた。

 

 ピッコロさんは、僕がしゃべっている間、口をはさむことなくじっと耳を傾けてくれた。

 そして、僕が話し終えたタイミングで

 

 「……信じられん、というのが素直な感想だが、あの技を技名も込みで見せられたら信じんわけにもいかんな。」

 

 渋々といった感じではあるが未来から来たということは信じてもらえたようだ、良かった……。

 

 「それで? お前はどうするつもりなんだ?」

 「修行をします、一年後の戦いに備えて。」

 

 ピッコロさんの質問に僕は即答でそう返す。

 

 「……そうか、ならこの俺が修行を見てやる。」

 「え!? いいんですか??」

 

 これには、僕の方が驚いてしまう。

 まさか、ピッコロさんのほうからそう申し出てくれるなんて。

 ちなみにだが、ピッコロさんに修行を見てもらうこと自体は大歓迎である。

 というのも、僕はこれまで自分自身だけの力で修業をしたことがほとんどなく、ピッコロさんや父さんが修行を見てくれていた。

 そのせいで、自分一人で効率よく修行を行える自信がなかったのだ。

 別に父さんに修行を見てもらうように頼んでも良かったのだが、元の世界でも僕が4歳の時には、ピッコロさんに修行を見てもらった経緯がある。

 この世界では、僕は誰も犠牲を出さないように行動していくつもりだが、できるだけ元の世界と歴史の流れを変えたくもないという考えもあるため、できればピッコロさんに修行を見てもらいたかったのだ。

 

 「お前が言うことが本当なら地球がピンチなのだろう? だとしたらつまらん内輪の揉め事をするよりも強い戦士を一人でも多く揃える必要があるだろう。お前は気の量はこの地球上で誰よりも多く、場数を踏んでいるのは先ほどの戦いを見ても分かったが、体づくりがまるでできていない。それをこの俺が鍛えてやる。俺が孫悟空を倒すのは全てが終わった後だ。」

 

 最後にニヤリと妖しく笑みを浮かべそう言ってくるピッコロさん。

 正直、ピッコロさんが父さんに戦いを挑む姿なんて想像もできなかったが、ここでは何も触れないようにしておく。

 それにしても先ほどの戦闘で僕に何が足りないかを見抜いているピッコロさんは流石という言うべきだろう。

 やはりピッコロさんに見てもらえるというのはかなり心強い。

 

 「一年後にとんでもない敵が来ることは、孫悟空たちは知っているのか?」

 「いえ、父さんたちはこのことを知らないです……。」

 「なぜ教えていないんだ? それとも今から話すつもりだったのか?」

 「い、いえ……、どう伝えていいのか分からなくて。どうしてそんなことを知っているのかと疑われるだけでしょうし。」

 「……全く、そんなものは適当にそれっぽい嘘で誤魔化しながら伝えればいいだろう。」

 

 まあ、お前は嘘をつくのが苦手そうだがな、と付け加えたピッコロさんは、続けて口を開き

 

 「なら、それは俺が伝えてやろう、特に孫悟空の力は必須だろう。」

 「あ、ありがとうございます!」

 「勘違いしているようだが、俺はお前に協力しているのではなく、地球を訳の分からんサイヤ人とかいう宇宙人の手に渡らないようにするために、行動しているだけということを肝に銘じておけ!」

 「はい! それでもありがとうございます!」

 「……ちっ、どうも調子が狂う、そうと決まれば早く孫悟空たちがいる場所まで戻るぞ。」

 

 バツの悪そうな表情を浮かべたピッコロさんはそそくさと空に飛び立とうとする。

 

 「あぁ、ピッコロさん待って! 僕もう、空を飛べません!」

 「……何だと?」

 

 先ほどの魔貫光殺砲を放ったせいで、僕の中にはほとんど気が残っていない、というよりこうやって喋っているだけでもかなりきつかったりする。

 そんな僕をピッコロさんは、厄介者でも見るように見下ろしたのち、しばらく考えてから、意を決したように、僕の方をキッと睨んできたかと思うと

 

 

 

 「ありがとうございます、後、すみません……。」

 「うるさい、黙れ。」

 

 僕はピッコロさんに片腕で抱きかかえられる形で亀ハウスまで運ばれていた。

 声をかけると、この通り黙れの一点張りでまともに対応してもらえない。

 ……少しくらい喋ってくれてもいいのにね。

 しばらくすると、僕たちは無事に亀ハウスに辿り着いた。

 するとピッコロさんは僕を雑に地面に放り投げてきた、酷い。

 

 

 

 ~少し前~

 

 「お、おい! 悟空! 悟飯を追いかけなくてもいいのかよ!?」

 

 悟飯が、ピッコロの後を勢いよく追いかけた後、亀ハウス内は騒然をしていた。

 原因はいわずもがなだろう。

 

 「まあまあ、クリリン落ち着けよ、悟飯なら多分大丈夫だと思うぞ?」

 

 「な、なんじゃそりゃ、どうしてそんなことが言えるんだよ? 相手はあのピッコロだぞ?」

 「そうなんだけどさ……まあオラのことを信じてくれよ?」

 

 別に適当に言っているわけではなかった、悟飯のピッコロに対するあの態度、とても初めて出会った時のそれではなかった、それに先ほどの悟飯の戦い。

 そして、ここに来る前に悟飯に聞いた強くなりたいという確固たる意志を持った言葉。

 正直今日の悟飯は違和感があった、まるで生まれ変わったような―うまい表現ができないが―そんな違和感だ。

 まだ頭のなかがぼんやりとしており、詳しいことはよく分からないが、悟飯は特別な何かを持っておりそれが今の悟飯の行動に結びついている、そんな気がする。

 だから、しっかりとした根拠はないが、悟飯が一人でピッコロを追いかけた時も不思議と危機感はなかった。

 

 そして、数十分後

 

 「あ、ピッコロの気が近づいてきた、悟飯も一緒だ! でもかなり気が小さいぞ!」

 「ちょっと、早く外に行くわよっ!」

 

 慌てたように外へ飛び出す皆の後に自分も後に続く。

 ゆっくりとした歩調で外へと踏み出した。

 

 

 

 「お前たちに一つ言い忘れていたことがあったから、戻ってきてやった。先ほどのサイヤ人だが、実はお前たちのところに来るよりも先に俺のところに来ていたんだ。どうも顔についていた機械で強い気を持った奴の居場所を探れるらしい。やつは、孫悟空のことを探していたようだから、似たような気の量を持つ俺のところに来たんだろう。」

 

 ピッコロさんはここでいったん、言葉を途切らし、真剣な表情を浮かべ、続けた

 

 「そこで、奴が話していたんだ―」

 

 ピッコロさんは僕がピッコロさんに語ったすべてを代わりに皆に語ってくれた。

 

 一年後により力を持った強敵がやってくること。

 

 このままでは地球が滅びる可能性があることを。

 

 つづく

 




第5話読んで頂いてありがとうございます!

ちょっと物語の進行スピードがゆっくりですね……個人的にはとっとと、修行をしてベジータ戦にいってほしいんですがね笑
色々順序を追って物語を書くと、進行がゆっくりになるものですね…

引き続きどんどん更新していきますので、次話でもお会いできるのを楽しみにしております!


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第6話 修行開始

お気に入り登録していただいた方ありがとうございます!

感想もたくさんいただいて非常に嬉しく、モチベーションに繋がっています!
(返信が遅いのはご容赦を……)

それから誤字脱字報告して頂いたかた、非常に助かります!ありがとうございます!!




 ラディッツが地球にやってきてから、3カ月が経とうとしていた。

 

 僕はピッコロさんの指導の下、体づくりに没頭していた。

 

 場所は元の世界と同じで、人工物が一切ない大自然とそこに住まう獰猛な獣たちだけの世界だ。

 それにしてもこの場所も懐かしいな……、あの時は食料も禄に調達できずに苦しんだんだよね、なぜか崖の上に登ってしまったこともあったっけ……そういえば、あの時はどうやって崖から降りたんだっけ?

 

 周りをゆっくりと見渡しながら、そんな風に思い出に浸っているとピッコロさんが空から降りてきて

 

 「よし、そろそろ休憩にするか。」

 「はい!」

 

 ここに来て3カ月、ピッコロさんの適切なトレーニングメニューのおかげでかなりの力が身について来た、気もかなり増えてきている実感がある。

 今だったらフルパワーを出してもすぐにへばるようなこともないだろう。

 そして何よりピッコロさんとも徐々に打ち解けてきた。

ちょっとした会話位なら応じるようになってきたのだ、やはりどこの世界でもピッコロさんはピッコロさんなのだと実感できた。

 

 そして、3カ月ということは、そろそろブルマさんに依頼していたものも完成している頃だろう。

 そのブルマさんに依頼しているものこそ、ベジータさん達を迎え撃つための秘策なのだ。

 確かに僕はこの3カ月かなりの力を身に付けた、だがそれでもベジータさんには遠く及ばないだろう。

 このまま修行を続ければ、もしかしたらベジータさんと互角程度の力は身に付けることはできるかもしれない。

 しかし確実ではない。それに全員が生きるという目標がある以上、互角ではだめなのだ。ベジータさんを圧倒的に上回る力が求められる。

 

 

 

 ……今頃皆はどうしているだろうか?

 

 3カ月前に、ピッコロさんからベジータさん達が来ることが知らされてから皆は、元の世界と同様に修行に取り組んでいる。クリリンさん、天津飯さん、餃子さん、ヤムチャさん、ヤジロベーさんは神様の元で修行を行っている。

 そして、父さんはというと、意外だったというか、嬉しい誤算であったのだが、

 何と、界王様の元で修業を行う為に天界へいっているのだ。

 てっきり僕は、死んでいないと界王様には修行を見てもらえないと思い込んでいたのだが、事情を知った神様が父さんに界王様の元へ行かないかと提案してくれたのだ。

 どうも、界王様のところへ行くのに生死の是非は問われないようだ。必要な資格は、善の心、これまでの実績(世界を救ったとか、そんな感じの実績が問われるみたい)、そしてある程度の実力だとか、当時その基準をクリアしているのは父さんだけだったようだ。

 当然、父さんがこの話に食いつかないわけもなく、二つ返事で承諾。

 父さんが、界王様の元へ行くというのは、ベジータさん達と戦う際にかなり大きな戦力になってくれるということを意味している。

 これで僕も力を身に付ければ……

 

 ―1人の犠牲を出すことなく、ベジータさん達を追い返すことができる―

 

 油断は禁物だと分かっているがどうしてもそう思わずにはいられなかった。

 父さんにも帰る時にかかる時間も考慮するようにしつこく伝えたから元の世界の様に、ベジータさん達の到着に遅れることもないだろう。

 

 すべては、順調だと思った。

 一番苦労したのは、修行をしたいと母さんを説得することだったかな……。

 母さんに父さんみたいに強くなりたいという意思を伝えたのだが速攻で却下された。

 しかし僕は、諦めずに勉強も頑張るからと再度交渉。

 結局、毎月テストを行い、そこで満点を出せたら修行を続けてもいいという条件付きで何とか母さんが折れてくれた。

 ちなみに、一年後に強力な敵が来るから、それに対抗するためにピッコロさんに修行を見てもらっているということは秘密だ、これを言えば絶対反対されるだろうから。

 ちなみに父さんが修行をすることについては特に何も言っていなかった、諦めているのだろう。

 

 まあ、何はともあれ明日ブルマさんのところへ行ってみよう。

 修行はそこからが本番だ!

 

 

   

~3カ月前~

 

 「くっ……これで、二人も地球にやってきてくれる。」

 

 スカウターの通信が切れたことを確認したラディッツは、苦しそうにそう呟いた。

 最初、自分を地球からこちらに合流するように命令したベジータだったが、ドラゴンボールのことを報告すると、考えが改まったようで逆にベジータ達がこちらにくることになった。

 

 亀ハウスから最も近い陸地まで、海に潜る形で死に物狂いで逃げ延びたラディッツは、地面にその体を寝かせ、体に少しでも負担をかけまいと休息をとっていた。

 先の戦いでボロボロになった己の体を見て、未だに信じられないという考えが頭から抜けきれない。

 

……まさかカカロットのガキにあそこまでの戦闘力があったとは。

最後のあいつの攻撃の瞬間、戦闘力が2000を超えていた、直撃していたら間違いなく死んでいただろう。

 

……くそっ!!

 

 自分が情けなかった、ナッパとベジータにも弱虫ラディッツなんて言われて馬鹿にされて育ってきたが、どこかで二人は自分よりも才能がある上級戦士だからと、言い訳できていたのだ。

 しかし、カカロットのガキはどうだ?

 同じ下級戦士の血筋であり、さらに4歳だか5歳程度のくせに戦闘力を完全に上回られ、殺されかけた……。

 

 しかし羞恥と自分への怒りが自分を襲うと同時に一つの可能性が思い浮かぶ。

 

 カカロットのガキであんな戦闘力を持つことが出来ているのならば自分だって今の自分の力を大幅に超えるような力を手に入れることができるのではないか? と。

 

 ……俺と奴とでは、何が違った?

 

 先ほどのカカロットのガキとの戦闘を思い出してみる。

 正直、体術においては、戦闘力の割には物足りなさを感じていた。

 というより、どこかぎこちなかったというのが表現としては合っているかもしれない。

 そのぎこちなさの正体は分からないが、では、なぜ体術では後れを取っていなかった自分が負けたのか?

 

 ―戦闘力のコントロールができるかできないか―

 

 その答えにたどり着くまでにそう時間はかからなった。

 そう、自分とカカロットのガキで圧倒的に異なっていたのは、そこだろう。

 ポテンシャルとしての戦闘力が同じレベルでも、それを自在に操ることができるのとできないのとでは、攻撃力に比較にならないほどの差ができる。

 

 カカロットのガキにできて俺にできないわけがない

 

 そこからラディッツは、動けない代わりに一日中己の中にある戦闘力をコントロールすることに集中した。

 

 

 

~3カ月後~

 

 苦労したのち、ようやく戦闘力のコントロールを習得したラディッツは、自分の生存がばれないように戦闘力をほぼ0にした状態で地球中の様子を伺っていたが、その表情は驚愕によって包まれていた。

 

 ……な、なんだこれは。

 地球中でどんどん力をつけていくやつが一人や二人じゃないぞ!?

 特にこの莫大な戦闘力の持ち主は、間違いなくカカロットのガキだろう。

 

 スカウター越しでは感じることのなかった圧倒的なパワーに鼓動が早なり、冷や汗が体中から噴き出てくるのを感じる。

 

 ……この戦闘力、間違いなく既にナッパを超えている。

 まだ、あれからたったの3カ月だぞ??

 戦闘力を読んでいると分かる、恐らくカカロットのガキは修行を行っているのだろう。

 しかし、ただの修行だけでここまで強くなっていくのだろうか?

 自分だって、戦闘力のコントロールができるようになったし、3カ月前の戦いから体の傷も癒え、以前より強くなった自覚はあったが、それでも今のカカロットのガキには一瞬で殺されてしまうだろう。

 また俺はカカロットのガキに負けるのだろうか?

 

 ……。

 

 しばし、考えた後彼は決断した。

 

 ―自分も修行を行うと―

 

 ラディッツは、なるべく自分の気配が察知されないように戦闘力を抑え、自分の宇宙船ポッドがあった場所まで行き、静かに地球を去った―別の星で修業を行う為―。

 

 見ていろ、カカロットのガキ……。

 必ず強くなり、復讐してやる。

 

 結局、再びベジータ達と共にやってくるその日までラディッツの生存に気付いたものは誰一人もいなかった。

 

 

 

 「ブルマさーん!!」

 

 僕はピッコロさんと共に西の都にあるカプセルコーポレーションまで来ていた。

 ちなみにピッコロさんは正体がばれて騒ぎにならないように、深めのフードを被る形で変装をしてもらっている。

 久しぶりの自然以外の人工物に懐かしさを感じていると、ブルマさんがすぐに玄関まで迎えに来てくれた。

 

 「悟飯君っ! ……それとピッコロ、もね。」

 「ふん、なんだ? 言いたいことがあるならはっきり言ったらどうだ?」

 「まあまあ二人とも落ち着いてください。それよりブルマさん例のものは完成していますか?」

 

 会った瞬間、不穏な雰囲気を漂わせる二人の仲裁に入り、そう会話の流れを誘導する。

 

 「ん? ああ、あれね! ちょうど昨日完成したわよ! 苦労したんですから!」

 

 ブルマさんは、案内するわね、と、僕たちをそこへ案内してくれた。

 

 「あら悟飯君? 尻尾は切っちゃったの?」

 「ええ、ない方が慣れていたので。」

 「……え? でも今まではずっと尻尾があったんじゃないの?」

 「あぁぁ、えっと、あの、なんというかその……」

 「ふ~ん、まあいいけれど。」

 「あはは……」

 

 危ない……こういうところも気を付けないとな。

 

 そんなことを思っていると、ブルマさんが歩みを止めてこちらを振り返り、

 

 「はい、これよ!」

 

 案内された先は、カプセルコーポレーションの庭であり、そこに頑丈であることが分かる材料で構成された卵形状の建物であるそれは、

 

 「3カ月前に悟飯君に依頼されていた、重力室よ!!」

 

 つづく

 

 

 

 ~おまけ~

 

 「ひええ、一体この道はどこまで続くんだ!?」

 

 悟飯や、ラディッツが行動を起こしている中、悟空は蛇の道をひたすら走っていた。

 しかもお腹が減って死ぬのを防ぐために、大量の食糧が入った自分の何倍も大きい巨大なリュックを背負いながら。

 




第6話読んで頂いてありがとうございます!

というわけで修業が始まりました!
ここから先を書くのがたのしみです!

というわけで、今後の悟飯の活躍を見守って頂ければ、と!

また、おかしいなとか、指摘ポイントあれば言って頂けると嬉しいです!

では、また次話でお会いできることを楽しみにしています!


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第7話 修行

お気に入り登録していただいた方ありがとうございます!

それから、たくさんの感想有難うございます!
色々指摘、ご意見、頂き楽しく読ませていただいています!
(毎度のことで申しわけありませんが、返信が遅いのはご容赦を……)

それから誤字脱字報告して頂いたかたありがとうございます!

※後、前話で重力室のことを重力コントロール室と言っていますが、訂正しました。




 「これが、重力室……。」

 

 ゴクリと唾を飲み込み、改めてそれを見上げる。

 父さんやベジータさんが元の世界ではこれで修業を行い、飛躍的に強くなった。

 特に印象的なのは、重力室で修行を行った父さんが当時僕たちを苦しめたギニュー特戦隊をまるで赤子の手をひねるように圧倒していたことだろう。

 今回その記憶をヒントに自分も重力室での修行を行うことを思いついたのだ。

 とはいっても、僕自身は重力室で修業を行ったことはないし、具体的にどれほどの効果が見込めるのかは分からない。

 しかし、通常の修行よりも大きい成果が得られることは間違いないだろう。

 ピッコロさんもこの修行方法には賛成してくれており、良い修行方法だとお墨付きをもらっている。

 なんでも、肉体に負荷をかけての修行はとても効果的だとか、そういえばピッコロさんはいつも重い服を着ていたことを思い出す。

 

 その後、ブルマさんから重力室の使い方についての説明を一通り聞いてから早速修行を行うことにした。

 

 「じゃあピッコロさん、最初は10倍の重力に設定しますね?」

 「ああ、頼む。」

 

 一応、100倍の重力まで設定することができるらしいが、いきなりそんな重力で修業を行っても、まともにできないだろうから、ひとまずは10倍の重力で修業を行おうという考えだ。ピッコロさんにもそれでいいか確認するが特に反論はないようだ。

そのまま10倍の重力に設定を行い、起動させる。

 

 直後

 

 ズンッ!!

 

 10倍の重力が一気に自分の体に襲い掛かってくる。

 

 ……お、重いっ!?

 

 動けないことはない、が、ほとんどまともに動くことができない。

 横に視線を向けると、ピッコロさんもかなり苦しそうだ。

 な、なるほど、確かにこれは良いトレーニングかもしれない……。

 全身がギシギシと軋むような感覚を覚え、そう考える。

 ここでどれくらい自分を追い込めるかがカギなんだ。

 

 ……ひとまずは歩くことから始めよう。

 

ザッ……ザッ……

 

 ゆっくりとだが確実に歩を進めていく、歩くことがこんなにもキツイなんて……。

 一方のピッコロさんはというと苦しそうに歯を食いしばりながら、ギギギと壊れかけのようなロボットのような動きで歩を進めていた。

 いつも感情を表に出さずクールなピッコロさんがそんな風な表情を浮かべているのが、どうにもおかしくて、つい、ははっ、と笑ってしまった。

 その瞬間

 

 ビターンッ!!

 

 と、力が抜け、バランスを崩して、思い切り顔面から床に激突してしまう、転ぶスピードも通常の10倍なのだから当然痛い。

 しかもそんな僕に追い打ちをかけるように

 

 「……おい悟飯、今俺の動きを見て笑ったか?」

 「い、いえ! そ、そんなことは……。」

 「……ちっ。」

 

 必死に否定したのが逆にダメだったようで、機嫌を悪くしたピッコロさんはその日は会話に応じてくれなかった。

 やはりこの頃のピッコロさんは少し気難しいようだ。

 でも修行については、変わらず的確なメニューとアドバイスをくれるのだからピッコロさんはやはり良い人なのだ、父さんたちも早く仲良くなればいいのに……。

 

 

 

 その後もピッコロさんと共に修行を行っていき数カ月が経った頃

 

 僕は、10倍の重力のもと、ひたすら戦闘のシミュレーションを繰り返していた。

 というのも少し前には10倍の重力には既に適応できていたが、ピッコロさんがまだ苦戦しているようだったので、この子供の体に慣れるために訓練していた、ということだ。  

 その甲斐あってか随分この体にも馴染んできた。

 リーチという差だけは今でも埋めようがないが、これで以前のラディッツ戦のように攻撃を空振ってしまうということはないだろう。

 一方のピッコロさんも10倍の重力に慣れてきたようなので、そろそろ20倍の重力に上げてもいいのかもしれない。

 

 そう思っていたのだが……

 

 「一緒に修行をするのはここまでだ。」

 

 修行に備えて準備体操をしている僕に突然そんなことを言ってくるピッコロさん。

その顔は極めて真剣であり、冗談でないことを示している。

 なんの前置きもなく放たれた言葉の意味を即座に理解することが出来ず、僕は一種の放心状態に陥ってしまう。

 しかし、ピッコロさんはそんな僕のことはお構いなしでどんどん話を進めていく。

 

 「お前の体もこの数カ月の修行でかなり鍛えられた。これ以上俺が教えることはない。」

 

 ―だからもう俺が悟飯と一緒に修行をする意味もない―

 

 そう言ったピッコロさんは僕から顔を背け、少し間をあけてから再びゆっくりと口を開き、

 

 「後は自分のペースで修業を行うんだ。……次会うのは、サイヤ人が来た時だ」

 

 一方的にそう言い放つと、僕の返事を待たずして飛び立ってしまう。

 

 ―待って―

 

 ようやく意識を取り戻した僕は何とか声を絞り出すがピッコロさんはそのまま飛んで行ってしまう。

 以前と違い、今の僕なら簡単に追いつくだろうスピードだ、しかしできなかった。

 ……なぜか追いかけてはいけない気がした。

 

 結局僕は、小さくなっていくピッコロさんの後ろを見えなくなるまで見つめることしかできなかった。

 

 

 

 『全速力』で飛ぶなか、チラリと後ろを振り返る。

 悟飯が悲しい表情を浮かべこちらを見つめている光景が目に飛び込んでくる。

 胸の中でモヤモヤとした感情が波打つが、すぐに前に向き直りその感情を押し殺す。

 

 「……ちっ」

 

 何かにイラつくように小さく舌打ちすると、そのまま飛び続けるのだった。

 

 

 

 ピッコロさんが西の都から去ってから僕は、吹っ切れたようにこれまで以上の集中力をもって修行に打ち込んでいた。

 

 僕は当初の予定通り、すぐに20倍の重力での修行に取り掛かった。

 10倍の時とは比べようのない負荷が全身を襲ったが、10倍の時と同じようにトレーニングを行い、体に鞭打ち、鍛えていった。

すると10倍の重力に慣れるよりも早い時間で20倍の重力に適応することができた。

 

 その後も、重力の倍数を上げるごとに、より早い時間でその重力に適応していく。

 

 30倍……50倍……80倍……

 

 そしてとうとう僕は

 

 100倍の重力に適応していた。

 

 ちょうどベジータさん達がやってくるまで僅か1週間ほどを残してのことだった。

 

 手ごたえは十分だ。

 正直ここまで力を付けられるとは思っていなかった。

 仮にベジータさんが大猿化したとしても間違いなく勝てるだけの力を手に入れたつもりだ。

 さらにベジータさんがやってくる3日前には、僕が忠告しておいた甲斐もあり、父さんも無事界王星から帰ってきた。

 父さんの気の量は僕の記憶にあるベジータさんと戦った時とほぼ同じであったように感じる。

 父さんから聞いた話だと、修行はバッチリだったが、界王星に向かう途中で食料が尽きてしまい、空腹により、ほぼ死にかけの状態で界王星にたどり着いたという事件があったらしい。

 ……よかった、死ななくて。

 これで父さんが死んでしまったら元も子もなかった。

 

 ちなみに父さんは僕があまりにも強くなったことにかなり驚いているようだった。

 どうやって修行をしたのかについて話すと、オラもその重力室で修業をやってみたいと次の日早速西の都に行こうとしていたが、必死で止めた。

 

 そんなちょっとした予想外のことはあったものの、正直何もかもが上手くいきすぎだと思っていた。

 やれることはすべてした、後は誰の犠牲も出さないようにベジータさん達を迎え撃つだけだ。

 

 

 

 ベジータさん達がやってくる前日、どうしても気持ちが落ち着かなかったので家の外に出て夜風に当たっていた。

 

 明日は元の世界では、ヤムチャさん、餃子さん、天津飯さん、そしてピッコロさんが死んでしまった日になる。

 落ち着かないのは、当然なのかもしれない。

 

 「……ん?」

 

 夜であるのに辺りがやたらと明るいことに違和感を覚え、空を見上げる。

 そこには、ほぼ真円を描く月が夜空を明るく照らしていた。

 

 ……明日は満月、か。

 

 心の中でそう呟き、僕はしばらく月を見上げていた。

 

 つづく 

 




第7話読んで頂いてありがとうございます!

というわけで、次回いよいよベジータ達との戦いが始まります!!
今から書くのが非常に楽しみです!

ちなみ今回の作品を書くにあたってドラゴンボールの原作を読み返してるんですが、やはり面白いですね……。

また、感想・ご意見・ご指摘あればどんどんくれれば嬉しいです!

では、また次話でお会いしましょう!


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第8話 サイヤ人達の襲来

沢山のお気に入り登録、感想有難うございます!

特に感想については、非常に奥が深く、なるほどな、と思いながら読ませていただいています。
ただ、その分返信に時間がかかってしまうのでご了承を…(なんかこれ毎回言ってますね……)

あと、誤字脱字報告をしていただきありがとうございます!
(早く、誤字脱字報告されなくてもいいように頑張ります……)


 エイジ762 11月3日 

 

 元の世界では、その日にベジータさんとナッパが地球にやってきた日である。

 正午前の昼飯時にふらりと姿を現した宇宙人サイヤ人によって、東の都が壊滅し、当時圧倒的な戦力を誇っていた軍隊が一瞬で全滅したという、地球人にとっても歴史の中では最悪の日だと、未来永劫語り継がれていく日でもあった。

 

 そして、今この世界

 

 僕は、東の都の上空にて静かにベジータさんとナッパを待ち受けていた。

 隣には父さんが今か今かとベジータさん達の到着に胸を期待に膨らませていた。

 

 「いや~、早く来ねえかな~」

 「……父さん、一応言っておきますけど、サイヤ人達は地球を滅ぼすために来るんですよ?」

 「ははは、分かってるて~、でもどんな奴が来るのかワクワクが止まらなくてよ~。」

 

 僕がジト目を向けながら父さんにそう言うが、父さんは危機感よりも強敵と戦えることにしか興味がないようだ。

 そんな父さんを見て「気を抜かないでくださいよ?」と注意する。

 ……とは言っても正直父さんたちの出番が回ってくるかは、あやしい。

 ベジータさんとナッパが元の世界通りの強さなら、1分とかからず僕だけで圧倒できるだろう。

 

 だから、筋書きとしてはこうだ。

 まず僕が二人に反撃をする間も与えず、戦闘不能状態まで追い込む。

 そしてその後、地球から去るように説得する。

 

 ……大丈夫、きっとうまくいく。

 

 僕は今回のこの世界では、敵でもむやみに殺すことはしないつもりだ。

 ラディッツ戦では実力が拮抗しており、そんなことを言っている余裕はなかったが、これから先の戦いでは、むやみな殺生は行わない、ベジータさんならなおさらだ。

 

 しばらく待っていると、ピッコロさん、クリリンさんも合流した。

 

 ちなみに、サイヤ人達が昼前のこの日に東の都にやってくることは、ピッコロさん経由でみんなに伝えてもらっておいた、もうすぐ天津飯さん達もやってくるだろう。

 

 ピッコロさんは僕の方をちらりと見ると

 

 「……ふん、修行は上手くいったようだな。」

 

 と、ぶっきらぼうに言ってくれた。

 「ピッコロさんのおかげです、ありがとうございます。」と伝えるも、ピッコロさんはそっぽ向いてしまった。

 

 「い、いや……というより、悟空も悟飯も強くなりすぎじゃないか? 特に悟飯、規格外すぎてどれくらい強いのかもわからねえよ。どんな修行をしたんだ?」

 

 クリリンさんは、僕と父さんを見て、ワナワナと震えながらそう尋ねてくる。

 ちなみにクリリンさんの強さは元の世界とほぼ同じだ。

 ピッコロさんだけは、一時期10倍の重力空間で修業をしていたためか、元の世界より強くなっている、大体だけどナッパと同じくらいじゃないかな?

 

 その後も、天津飯さん、餃子さん、ヤムチャさんが合流した。

 ジェットフライヤーに乗ったヤジロベーさんも来たけど、カリンさんにもらったのだろう二粒の仙豆を傍にいたクリリンさんに渡したかと思うと「ま、頑張れや」と言い残し、そのまま飛び去ってしまった。

 

 何はともあれ、これで舞台は整った。

 

 後は、サイヤ人を待つだけ。

 

 のはずだったが……。

 

 

 

 「……こ、来ない?」

 

 僕は、不測の事態に内心焦っていた。

 時刻はすでに12時を過ぎている。

 とっくに、ベジータさん達が来ている時間のはずだ。

 だが、現在地球は実に平和な雰囲気に包まれている。

 念のため、集中し地球中の気を探るが、ベジータさん達の気は感じられない。

 

「なあピッコロ、本当にサイヤ人は、今日のこの時間に来ると言っていたのか?」

 

 しびれを切らしたクリリンさんは、ピッコロさんにそう問いかける。

 みんなもピッコロさんに視線を向ける。

 

 「……そのはずだが」

 

 ピッコロさんは、きまずそうにそう答えながら僕の方をちらりと見てくる。

 当然だが、この日のこの時間に東の都にやってくるとピッコロさんに伝えたのは、僕であり、ピッコロさんはまったく悪くない。

 

 ……な、なぜだ、僕がラディッツを倒したことによって歴史が変わってしまったのか?

 

 僕が、こんな状況になってしまった理由を考えていると

 

 『悟空よ、ついにやってきたな。サイヤ人と戦う日が。』

 「え、界王様?」

 

 突然、頭の中に元の世界ではお馴染みの界王様の声が聞こえてきた。

 父さん以外の人たちは、「うわっ、急に声が」と慌てている。

 

 『そうじゃ、折角わしが鍛えてやったんだ。どうせなら見届けようと思ってな』

 「へ~、界王様こんな風に会話することもできるんだな~」

 『当然じゃ、わしは界王じゃからの! ……ところでお前さんたちは、かなり早い時間に待ち構えているんだな? 早いのはいいが、サイヤ人達の宇宙船の速度から計算するとそっちにつくまで後3時間以上かかりそうじゃぞ?』

 「え!? 3時間以上??」

 

 ……っ!? 3時間以上も後だって??

 どうしてそんなにも時間がずれるんだ? やっぱり僕が歴史をかえてしまったのだろうか?

 

 界王様によって、ベジータさん達が来るのがもう少し後だと知り、各々再度3時間後に東の都の上空に集合ということになった。

 

 3時間のずれなんて大したことはない。

 そう思うのは簡単だった、しかし、このずれがどうしようもない不安を僕に抱かせた。

 

 そして3時間後、その不安が明確な脅威へと変わったのだった。

 

 

 

 ……きたっ!!

 

 3時間後、もう少しで夕方に差し掛かる頃、再び東の都の上空へ集合した僕たちは、しばらくその場で待っていると上空から禍々しい気を持った存在が接近してくるのを察知した。

 

 この気は間違いなくベジータさんとナッパ……

 

 

 

 え?

 

 

 

 途端、思考がフリーズする。

 それもそのはず、ベジータさん達の気の中にこの世には存在しないはずの気も紛れていたから。

 

 これは……ラディッツの気!? 

 どういうことだ??

 確かにあの時僕はラディッツをたおしたはずだ、確かな手ごたえもあった。

 父さんたちも、その正体に気付いており「これ、あの時のサイヤ人の気じゃ……」と驚いている。

 なぜラディッツが生きているのか、混乱している頭を働かせ推測するが、そんなことを考えているうちに三つの宇宙船ポッドが東の都へと吸い込まれていった。

 

「あそこに落ちたぞ!」

 

 父さんの大きな掛け声とともに、皆は一斉にベジータさん達が着陸した地へと飛び立つ。

 

 僕も思考はまとまっていなかったが、とりあえずみんなに続く。

 

 そして、三つの宇宙船ポッドが小さなクレータを作り着陸した地点へとたどり着く。

 ベジータさん達もちょうど外へ出てきたところらしく、僕たちの姿を確認すると

 

 「これはこれは、勢ぞろいで出迎えご苦労様なことだ、わざわざ真っ先に殺されに来るとはな。……お前たちがラディッツを倒した奴らで間違いないようだな。」

 

 スカウターと戦闘服を身に付け、善の心を持つ前のベジータさんを前に思わず全身が緊張してしまうのが分かる、これは過去の記憶が一種のトラウマとなっているためだろう。

 しかし、今はベジータさんよりもイレギュラーな存在であるラディッツの方へ視線がむいてしまう。

 当然のようにそこに立つラディッツは確かに生きており、落ち着いた様子で、しかし真っすぐに僕を見つめている。

 そのギラついた目が示すのは復讐心なのか定かではないが友好的でないのは間違いない。

 

 ……ってちょっと待て

 ラディッツの気が爆発的に上がっている!?

 

 目の前に立つラディッツは、今は気を隠しているようだけど分かる。

 内にとんでもない力を隠していると。

 正確な気の量は把握できないが……

 

 

 

 恐らく今の僕に近い実力を持っている……。

 

 

 

 その事実を認識した瞬間、ぶわっと全身から汗がふきでるのを感じる。

 今回の戦いは一瞬で片をつけるつもりだったが……そうもいかないようだ。

 

 周りのみんなもラディッツの隠し持つ気をなんとなく感じているのか、その表情は恐怖に包まれ、中には全身を震えさせているものもいる。

 父さんですら信じられないものを見る目でラディッツを見つめている。

 

 ベジータさんは、そんな僕たちをニヤニヤした表情で見渡し、

 

 「それで? ラディッツを倒したカカロットのガキはどいつだ? ……いや、お前だな。ふん、そんなガキのくせによくもラディッツを倒したもんだ。」

 

 ベジータさんは僕を見た瞬間、すぐに僕が父さんの子供と判断したのか、ラディッツの方を馬鹿にしたように一瞥しながらそう言ってくる。

 

 「お、おいっ! どうしてお前が生きているんだ!」

 

 僕は、思わずそう叫びラディッツへと問いかける。

 ラディッツは、僕の問いかけに対し静かに口を開き、

 

 「……簡単な話だ、お前が最後の攻撃の時に俺を仕留めそこなっただけだ。」

 

 ……なんだって? 確かにあの時は僕の全力のかめはめ波が直撃したはずだ。

 あれに耐えたとでもいうのか?

 

 「そういうことだ、だがこいつが生きていようが死んでいようがお前たちが今から死ぬ未来は変わらないんだ、どうでもいいだろう?」

 「はは、お前ら、弱虫ラディッツを倒したくらいでいい気になるなよ? 俺たちはこんな雑魚野郎よりももっと強いぜ?」

 

 しかし、この二人の発言に真っ先に反応したのは僕達ではなくラディッツだった。

 

 「……ふん、俺が弱虫ラディッツかどうかはこれを見てからにしてもらおうか?」

 

 そう言うと、ラディッツは一歩前に踏み出し、集中するように息を軽く吸うと

 

 「はぁっ!!!」

 

 辺り一面に響くような大きな声と共に、全身の気を開放する。

 

 

 

 信じられなかった。

 

 これまで下級戦士だと、弱虫ラディッツと馬鹿にしてきた。

 彼が装着する、最新製の高戦闘力でも測定可能なスカウターが示すラディッツの戦闘力は

 

 

 

 “50000”

 

 

 

 つづく

 




第8話読んで頂いてありがとうございます!

すみません、前話でベジータ達との戦いが始まるとか書いておきながら、全然始まりませんでした……。

皆さん、思うところはあると思います。
いや、ラディッツ強くしすぎやろ……と。

これについては、後々物語上で説明していくつもりです。
勿論、ご意見、指摘あればどんどん頂きたいです!

では、また次話でお会いできるのを楽しみにしております!


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第9話 戦闘開始

お気に入り登録・感想有難うございます!

ただ、感想については相変わらず返信ができていないと……。
(すべてもれなく読ませていただいています。)

その感想ですが、ありがたいことにたくさんいただくようになってきました。
そこで、今回は感想(特に指摘・意見)についての返信については、活動報告で行おうかなと……
感想の内容をまとめて、QAの形で回答しようかなと思います。
あとがきにURLを貼りますので、よければ見てください!
様子をみて、今後もその形をとるか考えてみます。

最後に誤字脱字を報告して頂いてありがとうございます!
(どうやったら誤字脱字しないように書けるのだろうか……)



 ラディッツから放たれる暴力的ともいえる膨大な気が、辺り一面に迸る。

 大地は揺れ、あまりのエネルギー量にラディッツの周囲では放電現象さえ起きている。

 

 ……予想できていたとは言え、これほどとは

 

 相手の気迫に飲み込まれないよう、しっかり踏ん張り、まっすぐにラディッツを見据える。

 一体ラディッツにこの一年間で何があったんだ?

 以前とは比べ物にならないないぞ、まるで別人だ。

 僕は100倍の重力空間での修行を行い、力を身に付けた。

 では、ラディッツは……?

 

 「ひ、ひいいぃぃ、な、なんだよこのでたらめな力はよぉ!!」

 「ぐっ……」

 「……す、すげぇ。」

 

 皆は、ラディッツから放たれる経験もしたことがない力にただただ圧倒されている。

 しかし、それは何も味方に限った話ではない。

 視線を前に向けると、ベジータさんとナッパは驚愕の表情を浮かべ、味方であるはずの ラディッツを立ち尽くしながら見つめていた。

 

 「ば……馬鹿な……ご、5万の戦闘力……だと? あ、ありえない、スカウターの故障か?? し、しかし、この押しつぶすような圧力はギニュー特戦隊のやつらと同じ……」

 「い、いやいや、あり得ないぜ! あのラディッツが5万の戦闘力だなんて!」

 

 ラディッツは、そんな慌てふためく味方の二人にジロリと視線を向けると

 

 ビッ!

 

 ラディッツは唐突に姿を消した、否、超速でベジータさんとナッパの後ろに回り込んだ。

 しかし、二人がラディッツの動きについて行けるはずもない。

 

 「ど、どこへ行った!?」

 「き、消えた!?」

 

 「……後ろだ。」

 

 底冷えするような、短いその言葉に

 

 バッ!とベジータさんとナッパは後ろを振り返った

 

 「い、いつの間に……」

 「……っ」

 

 今のラディッツの動きで、スカウターが故障ではなかったことを感じ取ったのか、ナッパは、ぼそりとそう呟き、ベジータさんは、ギリリと歯ぎしりしながらラディッツを睨んでいる。

 その様子からは、とても三人が味方同士とは思えない。

 先ほどのベジータさん達のラディッツに対する発言から予想するに、二人はラディッツのことを弱いからと、馬鹿にし続けてきたのかもしれない。

 しかし、今、その立場は逆転してしまった、それも圧倒的な差をもって。

 そう考えると、三人の関係が穏やかでないのはうなずける。

 

 「俺がカカロットのガキと戦う。残りの奴らはお前達が相手をしてやるんだな。」

 

 反論は受け付けないとばかりに、二人の返事を待つことなく、こちらにゆっくりと歩を進めてくる。

 事実、ベジータさんとナッパは、そんなラディッツを黙ってみることしかできない。

 

 「そういうわけだ、俺と戦え。」

  

 ラディッツは、僕を真っすぐに見据え、そう言い放ってくる。

 ニヤリと挑発的な笑みを浮かべるその表情は、ようやくこの時が来たと言いたげだ。

 

 「……わかった。でもここは町中だ、場所は変えさせてもらうぞ?」

 「ふん、勝手にしろ。」

 

 ラディッツはどこで戦おうが構わなかったのか、特に反論もなくそう承諾した。

 だが、次の瞬間

 

 「ふ、ふざけるなあああっ!! ラディッツがこのナッパ様より強くなるなんてあってたまるかぁ!!」

 

 ラディッツに強さで上に行かれてしまったことをようやく頭で理解できたのか、突如としてナッパが怒りに身を任せ、叫びだした。

 それに伴い、ナッパから怒りを体現するかのように荒々しい気がまき散らされるが、ラディッツが気を開放した後に感じるその気は、あまりに小さい。

 

 ナッパは額に血管を浮かばせながら、そのまま続けて

 

 「ああ、もうわけが分からねえ!! ……へへ、こういう時は派手に暴れるに限るぜ、ちょうど良いサンドバッグ共もいるみたいだしな~。後、カカロットのガキ、町中だから戦えないって言ってたか? いいぜぇ、このナッパ様がすぐに戦いやすい舞台を用意してやるぜぇ。」

 

 どこか吹っ切れたようなナッパはそういうや否や、全身の気を指先に集めていく。

 

 っ!

 ナッパの気の動きから何をしようとしているのかを察知した瞬間、動き出す。

 

 「くらえっ、地球人共!! これはほんの挨拶代わりだ!!」

 

 ナッパが叫ぶと同時に二本の指を上向きに伸ばす形で腕を振りあげ、集中させた気を一気に解き放とうとした刹那

 

 「……やめろ、このクズ野郎」

 「なっ!?」

 

 一瞬でナッパの元へ迫った僕は、そのままナッパが振り上げた腕をネジ切れんばかりの力で捻りあげ、無理やり繰り出そうとしていた技を中断させる。

 「ぐあああぁあ!?」と、掴まれた腕の痛みから苦悩の声をあげるが構わない。

 ナッパは何とか、僕を引きはがそうとするが、この程度のパワーで僕をどうにかできるものか。

 この東の都には大勢の人たちが暮らしている、すぐ近くには先ほどのラディッツの気の解放のせいで気絶している人たちもいる。

 そして、今ナッパが使おうとしていた技は恐らく広範囲に対して破壊を振りまくものだ。

 つまり、罪のない人たちが今のナッパの技で殺されかけるところだったのだ、後、一瞬でも遅かったら、辺りは何もない荒野と化していただろう、そう、元の世界のように……。

 

 僕は全身から湧き上がる怒りを感じつつ、ナッパの腕をつかんでいる手を自分の体に引き付ける。

 それに伴い、ナッパは抵抗虚しくバランスを崩したように僕のもとへ引っ張られる、そしてそのナッパの腹に向かって、拳を、突き付ける。

 

 ドゴオオッン!!

 

 殺さない程度に、しかし気絶するには十分な威力で。

 

 「が……ぁっ!」

 

 胃液と血を吐き出しながら、あまりの衝撃のためか、ほとんど声にならない叫び声を出すナッパに対し、僕は続けて

 

 「はあっ!!」

 

 ブウンッと、掴んでいた腕を振り回し、東の都の外まで投げる。

 既に気を失っていたナッパはなすすべもなく、与えられた運動エネルギーに従って、東の都の外まで飛んでいく。

 この間、ラディッツは特に僕に干渉することなく、冷静にじっと僕の様子を観察していた。

 僕はそんなラディッツをちらりと一瞥すると、すぐにナッパを追いかけるように、飛び立つ。

 すぐにラディッツも僕の後を追いかけるように後を追ってくる。

 

 「父さんたちも行きましょう、ここで戦っては東の都に被害が出てしまいます。」

 

 僕がそう声をかけると、これまで放心状態だった父さんたちは、ようやく我に返ったのか、慌てたように遅れて後を追いかけてきた。

 

 そして東の都から少し離れた場所―生き物の気配がしない無機質な巨大な岩山のみで形成されている―に辿り着いた。

 

 僕は、目に入った岩山の一つの頂上に着地する。

 父さんたちもすぐ近くに着地していく。

 ベジータさんとラディッツは、少し離れた、岩山に降り立つ。

 少し離れた岩山には、先ほど投げつけたナッパが、倒れているのが見えた。

 しかし次の瞬間、想定外のことが。

 なんと、ナッパがモソモソと起き上がりだしたのだ。

 

 「……ぐ、くそ、何が起きてやがるんだ。」

 

 しかも多少のダメージは入っているようだが、まだまだ問題なく動けそうだ。

 確実に気絶させるように十分な威力で殴ったつもりだったが、手加減しすぎたのだろうか? それとも投げつけたショックで意識を取り戻したのだろうか?

 どちらにしろ、ナッパは見た目に相応しい異常なタフさを持っているようだ。

そのナッパもベジータさん達がいる辺りまで飛んでいき、僕たちと対面する形をとる。

 

 「お、おい、どういうことだよ? カカロットのガキ、とんでもない力を持ってやがるぞ? 本当にあれは、カカロットのガキなのか?」

 「知るかっ、糞ったれめ……。」

 「カカロットのガキと戦うのはこの俺だ、お前たちは他の奴らと戦う事だけを考えていればいい。」

 

 ラディッツを除くベジータさんとナッパが混乱している中、こちらも同様に戸惑いの声が上がっていた。

 

 「お、おい……向こうのラディッツってやつ、やばすぎるんじゃないか? いくら悟飯や悟空が強いっていったってあれは無理だぜ? やっぱり逃げるのがいいんじゃないか?」

 「馬鹿め、逃げたところで奴らは地球人を皆殺しにするつもりだと言っただろう、逃げ場なんて最初からないんだ。戦うしか道はない。」

 

 そこでピッコロさんは言葉を切り、僕の方に真剣な眼差しを向けて

 

 「……やれるな悟飯?」

 

 と、ただ一言

 

 それに対し

 

 「はい!」

 

 僕の返事に満足したのか、ピッコロさんはニッと笑った。

 

 「そういうわけだ、俺たちは残りの二人を相手にするんだ。」

 

 ピッコロさんは、すぐにそう切り替えると、みんなにそう指示を出し、まとめる。

 しかし

 

 「いやいや!? あんな化け物をこんな子供一人で相手をさせるのか?? 正気じゃないぜ! ここはみんなで力を合わせて……」

 

 ピッコロさんの言っていることは無茶苦茶だと、ヤムチャさんが猛反発する、が、途中でピッコロさんがそれを遮り、

 

 「……貴様は相手との力量差もわからないのか? 俺たちが一緒に戦っても足手まといになるだけだ……。」

 「……あぁ、情けねぇけどオラたちじゃ一瞬で殺されるな。」

 「そ、それは……っ」

 

 父さんもピッコロさんに同意したことに加えて、ヤムチャさんも相手との力の差については分かり切っていたのか、それ以上反論することはなかった。

 

 何より―悟飯からは見えなかったが―ピッコロ本人が悟飯と一緒に戦えないことを心の底から悔やんでいるような表情を浮かべていたことがヤムチャに何か感じさせるものがあったのかもしれない。

 

 ヤムチャさんの想いは凄くありがたいが、この場合はピッコロさんの言う通りだ。

 元々、ラディッツが生き残っているのは僕が仕留めそこなったせいなのだ、僕が戦うのが筋というものだろう。

 

 「じゃあさ、オラに一人であのちっこい奴を相手にさせてくんねえかな?」

 

 ここで、父さんがベジータさんと一騎打ちをしたいとの希望を切り出してくる。

 この場でベジータさんとまともに戦えるのは、界王拳を取得している父さんだけだろう。

 父さんもそれを理解しての、発言だろう。

 それに、父さんとベジータさんは元の世界では、永遠のライバル関係だ。

 この世界でも二人が闘うのは必然であると感じてしまった。

 

 残るはナッパだが、ピッコロさんはナッパと同等の力を持っているし、クリリンさんに、天津飯さん、餃子さん、ヤムチャさんがいる。

 ナッパが驚異的なタフさをもっているとはいえ、数で圧倒できるだろう。

 

 方針が決まったところで、僕は敵に向き直る。

 

 「ラディッツ……、どうやったかは知らないけれど、お前がこの一年の間にとんでもない力を身に付けたのは分かった。」

 

 ―だけど―

 

 僕はそこで一度、言葉を切る。

 ラディッツは静かに僕の言葉に耳を傾けている。

 僕は再び、口を開き

 

 「……僕は、負けるわけにはいかないんだぁああ!!!」

 

 全身の気を―100倍の重力に打ち勝ち得た気を―瞬間的に開放させる。 

 

 ブワアアッ!!

 

 僕を中心に、嵐のような突風が吹き荒れる中、僕はラディッツを見据える。

 ラディッツは一瞬驚いた表情を浮かべるが、一年前の様に冷静さを欠くことはなく、すぐに集中し、そのまま静かに構えをとる。

 

 行くぞ!!

 

 足元の岩山を踏み砕くほどの勢いでラディッツの方へ一直線に爆速の勢いで突き進む。

 ラディッツも応じるように同等の速度をもってこちらに向かってくる。

 

 そのまま、示し合わしたように互いが拳を突き出し、そのまま拳と拳が衝突する。

 その衝撃はすさまじく、辺りにその激突の余波がビリビリと伝わる。

 

 こうして戦いの幕はきって落とされた

 

 つづく

 




第9話読んで頂いてありがとうございます!

やべぇ、今回の話で戦闘シーンかけると思ってたのに、全然そんなことなかった。

また、前書きでも言いましたが、今回は感想の返信については、活動報告でしようとおもいますが、よければ見てください!

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=237419&uid=223978

※すみません、URL押したら飛べるようにしたかったんですが、やり方がわからなかったです……

では、また次話でお会いしましょう!





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第10話 ナッパ&ベジータ

沢山の感想有難うございます!

また、前回感想に対し、活動報告にて回答させて頂きましたが、どうでしたでしょうか?
個人的には、やっぱり普通に返信でいいかなと思って今回は普通に返信させて頂きました笑
ご要望があれば別ですが次回以降も普通に返信させて頂こうかなと……
お手数おかけしました。

最後に、毎度ですが誤字脱字報告していただいた方ありがとうございます!



 くっ、凄い衝撃だな……。

 

 悟飯とラディッツが衝突したことにより、戦いは始まった。

 悟飯のことも気がかりだが、それよりも目の前の敵に集中だ。

 

 大柄でクリリン同様の輝くスキンヘッドが特徴であるサイヤ人、ナッパを見据える。

 向こうは、内輪での揉め事が原因なのか、かなりいらいらしているらしく、荒い息を吐き、こちらを睨んでいる。

 向こうの3人の中では、一番弱い気の持ち主とはいえ、それでも俺が全力を出して何とか互角と言ったところか……。

 ナッパから感じ取れる気の量を分析し、そう結論付ける。

 

 これなら、こちらには俺以外の4人もいることから数で圧倒し、勝てるだろう。

 それに、こちらは悟飯から相手の情報を事前に聞いてある。

 気を付けるべきことは、短い溜めで口から大出力の気砲を打ち出してくる攻撃だろう。

 次に、万が一にも大猿化されないように、尻尾を切ることを優先することだろうか。

 悟飯に聞いた話によると、サイヤ人は月を見ると尻尾が反応し、大猿化するらしい、それもかなりのパワーアップをするとのこと。

 それでは月を破壊すればいいのでは、と提案するも、どうも敵のチビのサイヤ人―悟飯はベジータと言っていた―は、人工的に月を作れるらしく、月を破壊しても無駄とのことだ。

 まあ、月を見られる前に倒してしまえばいいだけの話だ。

 後は栽培マンとかいう、緑色の化け物も大した強さはないが追い込まれると自爆をしてくるから注意が必要と言っていたが、今のところそのような奴はいない、後で出てくるのだろうか?

 まあ、冷静に対応していけば大丈夫だろう。

 

 「俺がメインで奴と戦う! 貴様らは俺をサポートしろ!」

 

 この四人では、ナッパとまともに戦うことはできないだろう。

 そう判断し、指示を飛ばす。

 四人も特に異論はないのか、了承の意を示してくる。

 

 「……貴様ら雑魚どもなんて、このナッパ様が一瞬で片付けてやる。」

 「ふんっ、やれるものならやってみろ。あまり地球を舐めるなよ?」

 

 「いきがるなああ!!」俺の発言に対し、そう叫んだナッパは一気に戦闘モードに移行していく。

 ラディッツや悟飯には遠く及ばないが、それでも今の俺たちには、手ごわい敵に変わりはない。

 ナッパから放たれる気に圧されないよう、歯を食いしばり前を見据える。

 それと同時にこちらも気を開放していく。

 

 「はああぁぁぁ!」

 

 敵と同レベルの気を開放していく、それを見た他の四人も同様に気を開放していく。

 ナッパはこちらを見て、「な、この俺と同レベルの戦闘力だと……」と、驚きの表情を浮かべている。

 敵が動揺しているならチャンスだとばかりに俺は解放した気の勢いをそのままに敵に真っすぐに突き進む。

 それを見たナッパも混乱したままではあるらしいが、構えをとり、迎え撃つ態勢をとる。

 

 

 

 ナッパと戦いを開始してから、どれくらい経っただろうか?

 一瞬も気を緩める暇がなく、戦い続けているため時間の感覚はなかった。

 しかし戦い自体は、順調であった。

 

 実際にナッパと戦ってみると、やはり俺とナッパに強さの差はほとんどなく、互角の勝負を繰り広げた。

 そうなってくると、当人同士以外の要素で戦局が大きく傾くのは必然。

 その点についていえば、クリリンをはじめ、天津飯、餃子、ヤムチャの存在は大きかった。

 あいつらの適切なサポートのおかげで、見る見るこちらが有利になっていく。

 俺が作り出した敵の隙を見極め、攻撃を打ち込み、逆にこちらに隙ができた時は、その隙を埋めるような動きをとってくれていた。

 こちら側にはほとんどダメージはないが、敵には着実にダメージが入っていく。

 一度、口からかなりの破壊力を持つ、光線の如き輝く気泡の大技を打ち出されたが、事前にその技を知っていたため、なんとかぎりぎり躱すことができた―正直、事前に知らなかったら危なかった―。

 ナッパはかなりタフのようだが、奴の体力はもう限界に近いようだ。

 

 「くそがああああああ!!」

 

 そんな状況に対し、最後の抵抗なのか、あるいは地球人ごときに劣勢であることに対する怒りなのか、そう叫んだナッパは、こちらに真っすぐに突っ込んでくる。

 

 馬鹿め……、理性をとばしやがって、動きが単調すぎるぜ。

 敵が繰り出してきた拳をぎりぎりのタイミングで、しゃがむ形で躱し、カウンターの要領でナッパのガラ空きの胴体に全力の拳を叩き込む。

 確かな攻撃の感触と同時に何本かの骨が折れる感触も伝わってくる。

 ナッパも「おっ……っご!」と、苦痛の声を漏らし、そのまま気を失ったのかその場にズシャッと音をたてて、地に落ちて、動かなくなった。

 

 ……本来ならここで殺してしまうほうがいいのだろうが悟飯は非殺を目指していると聞いた。

 別にそんなこと無視して殺してしまえばよかったのだろうが、殺そうとすると、どうしても悟飯の顔が頭をよぎってしまう。

 

 「ちっ…」

 

 俺は足元に転ぶナッパの尻尾を掴み、そのまま「ブチッ」と引きちぎった。

 ナッパは一瞬ビクンと反応したものの、起き上がる様子はない。

 

 ……これで仮にナッパが気付いても、大猿化もしないし、この気の量では、なぜか辺りをウロチョロしているヤジロベーだったか?すら殺せまい。

 そう考えた俺は、ナッパを殺さずそのままにすることに決める。

 念のため、この世で一番丈夫なロープを作り出し、敵を拘束しておいた。

 

 そうこうしていると、他の奴らが集まってきて

 

 「やったな! ピッコロ!」

 

 真っ先にこちらにやってきたクリリンが笑顔を浮かべながら、そう言ってきた。

 クリリンだけではない、他のメンツもどこか安堵の表情を浮かべこちらに集まってくる。

 ……こいつらは、俺が敵だということを忘れているのだろうか?

 

 「勘違いしているようだが、俺は仕方なしに手を組んでいるだけだということを忘れるな!」

 「え……あ、あぁ、いや、そりゃそうかもしれないけど」

 

 そう答えるクリリンは、何ともいえない残念そうな、少し物寂しい表情を浮かべている。

 鬱陶しい表情だ…っ。

 

 「それより、他の二人の元へ行くぞ! まだ戦いは終わっていないんだ!」

 

 そう言って俺は、まず近くにいた孫悟空のもとへいくことにした。

 気を探る限り、恐らく界王拳とかいうもので飛躍的パワーアップを果たした孫悟空がベジータとやらを圧倒しているようだが、その技のデメリットの影響で孫悟空の気の減りが早い、早く行ったほうがいいだろう。

 

 「あ、おい、待てよ!」

 

 そう言って、他の奴らも俺の後を着いてくる。

 

 

 

 気を失っているナッパの胸元から『コロン』と5つの粒が入った瓶が転がり落ちるが、それに気づくものはいなかった。

 

 

 

 ~悟空vsベジータ~

 

 ベジータは、ラディッツに圧倒的差をつけられて、多大なショックと怒りを感じていた。

 

 くそ……っ、この俺がラディッツなんかに……!!

 

 奴に何があったかは知らないが、サイヤ人の王子である俺が戦闘力でラディッツに上回られるなどあってはならないことだ。

 そのラディッツは、俺のことなど最早眼中にないようにカカロットのガキと戦うことにしか興味がないようだ。

 そのカカロットのガキも、ラディッツと同等に、戦闘力5万を超えている。

 悪夢だと思いたかったが、これはまぎれもない現実だ。

 

 この時点でもベジータのプライドはズダボロであったが、さらに屈辱的な展開が待っていた。

 

 「よう、お前の相手はこのオラだ。」

 

 俺の前に立ったのは、カカロットだった。

 カカロットのガキほどのパワーアップはしていないようだが、それでも8千ほどの戦闘力を持っていた。

 

 普段なら、笑いながら遊び気分で相手をしてやるところだが、ラディッツとカカロットのガキの件もあり、とてもそんな気分にはなれなかった。

 

 まさか、こいつもあいつらのような戦闘力を……?

 

 こいつらは、戦闘力を自在に操るため、スカウターの数値をまともに当てにしないように、その辺に投げ捨てた。

 しかし、いざ戦ってみるとそれが杞憂であることが分かった。

 カカロットの戦闘力は8千そのもので、動きも全て自分にとっては、取るに足らないものだった。

 その結論に至ると胸の内にたまった怒りをぶつけるようにカカロットを圧倒していたが、途中から展開がガラリと変わる。

 

 このままでは、勝てないと踏んだカカロットは、集中するかのように深く息を吐き、目をカッと見開き、

 

 「界王拳……2倍だああぁ!!」

 

 そう叫んだ、瞬間カカロットの前身は赤いオーラに包まれた。

 ビリビリと、戦闘力を読み取ることはできないはずの俺でも、カカロットが何かしらの手段によってパワーアップしたことを感じ取る。

 そして予想通り、これまでの動きからは考えられない、スピード、力を持って俺に立ちはだかってきた。

 

 かなり戦闘力差を詰められたような感覚だが、それでも俺には通用しない。

 すぐにカカロットの動きを見極めると、またカカロットを圧倒していく。

 

 だが、ここまでだった。

 

 「体持ってくれよ……3倍界王拳だああぁ!!」

 

 なぜか意を決したようにそう叫ぶカカロットから感じる戦闘力はこれまでとは比較にならなかった。

 

 そこからの展開は一方的だった。

 

 こちらの攻撃は、すべて躱され、防がれる。

 逆に向こうの攻撃は、かなりの威力をもって俺に刺さっていく。

 もはや、カカロットの動きを目で追う事すら困難であり、反撃の目がない。

 

 「が。がはっ……こ、こんなことが。」

 

 あまりのダメージにヨタヨタと後ずさりながら、驚愕の表情を浮かべながらカカロットを見つめる。

 なぜか、カカロットのやつもかなりの疲労を感じているようだが、どうでもよかった。

 

 馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!??

 

 ラディッツとカカロットのガキに加えて、カカロットまでが俺の戦闘力を超えている!?

 こんな下級戦士の一族にこの俺が負けるはずがないんだ……。

 

 ここまでくれば、地球にあるドラゴンボールとやらの存在もどうでもよくなった。

 地球を巻き添えにするように、上空から俺の中の一番の大技、『ギャリック砲』を打った。

 

 しかし

 

 その攻撃も、俺のギャリック砲によく似た、しかし俺のギャリック砲を上回る技で押し返された。

 

 もはや、何が起きているのか分からなかった。  

 何をしても、上をいかれる。

 下にいるカカロットを見て、あまりの出来事に全身がワナワナと震える。

 

 ……。 

 

 ……仕方がない。

 まさか、大猿化をこんなところで使うことになるとは思わなかったが、カカロットを片付けるのが何より優先だ。

 本来は、地球人のやつらを手っ取り早く殺すために、満月の日を選んできたわけだが、まさかカカロットとの戦いで大猿化するとは……。

 

 空を見上げると、まだ夕方であるらしく、月は出ていないようだ。

 だが問題ない、すでに夜になっている東に移動すれば月が見えるだろう。

 

 辺りを見渡し、そう考えた時だった。

 

 ドンッ!!

 

 上から、突然圧力を感じ、そのまま地上に叩きつけられるように、吹っ飛ばされてしまう。

 不意打ちであり、まともにくらい、驚いたもののダメージ自体はない。

 そのまま、地上にスタッと着地する。

 

 そして突然の事態に辺りを警戒しながら、攻撃した奴が誰かと上を向いた瞬間、突如後ろから殺気を感じた。

 

 ……っ!

 

 慌ててジャンプし、下に視線を向けると、黄色く輝く、円盤状のモノが自分の元居た場所―もっと詳しく言うと、尻尾があった場所―にかなりの速度をもって、通り過ぎ去っていくのが見えた。

 エネルギーを刃状にしているのか……あれに当たれば、間違いなく尻尾が切られていた。

 

 キッと視線を、今攻撃が打たれた方へ向ける、そこには、攻撃を打ったと思われるチビのハゲ野郎が、攻撃を放った態勢のまま固まっていた。

 その表情はまるで、まさか躱されるとはと言いたげだ。

 

 そして上空からゆっくりと降りてきたのは、恐らく俺を攻撃したであろう緑色の皮膚をした地球人……ん? あれはナメック星人じゃないか? なぜ地球に……。というよりナッパはやられたのか?

 

 そんな疑問が頭に浮かぶが中、そのナメック星人は口を開き、こう言ってきた。

 

 「はっ、全力で攻撃したのに、ダメージはなしか……。だが、今みたいに足止めくらいはできるらしいな?」

 

 そして、ナメック星人は、ニヤッと笑いながら、こう続けた。

 

 「月を見れる余裕なんてあると思うなよ?」

 

 つづく

 




第10話読んで頂いてありがとうございます!

というわけで、今回は悟飯が登場しない、ナッパ戦とベジータ戦でした!
次回はベジータ戦が本格化していきます!

あと、悟飯の戦闘力を推察するうえで、重要なキーとなってくる100倍の重力トレーニング直後の悟空の戦闘力ですが、色々調べたんですが6万派と9万派の意見があるようです。
正直どちらに合わせてもよかったのですが、作者が勝手に6万と思っていたこともあり、100倍の重力室でのトレーニングを行った悟空の戦闘力は6万という前提で話を進めようと思います。
(すみません、もし公式で9万という数値なら指摘いただけると嬉しいです)

では、また次話でお会いできるのを楽しみにしております!





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第11話 悟飯とラディッツ

 ~悟飯VSラディッツ~

 

 「はあぁっ!!」

 「……ちっ!」

 

 ラディッツが繰り出す超速の突きをすんでのところで躱し、反撃とばかりに蹴りを繰り出すが、ラディッツは上体を逸らしこれを避ける。

 そしてまたラディッツが攻撃を仕掛け、僕がそれを躱す、あるいは防ぎ、また攻撃に転じる。

 僕とラディッツは、そんな目にも止まらぬ攻防を戦いを開始からずっと続けていた。

 

 やはり実力はかなり拮抗しているっ……

 

 戦う前には、ラディッツと僕に強さに差があまりないと予想していたが、結果はドンピシャもドンピシャだった。

 一瞬たりとも油断できない……。

 

 正直に言うと僕はかなり驚いていた。

 それはそうだ、僕はこの約半年以上の歳月を重力室でトレーニングを積み、最終的には100倍の重力空間にさえ適応したのだ。

 その僕と肩を並べるとは、いったいラディッツはどのような過程を経て強くなったのだろうか?

 それに戦闘力のコントロールも完璧だ、一年前は戦闘力のコントロールはできていなかったはずだけど……。

 そんな疑問が僕に頭をよぎるが、すぐにそれを振り払う。

 今は戦いに集中するんだ。

 

 僕は、そんな一瞬の気の緩みさえ許さぬ攻防が続く中、冷静にラディッツの動きを見極めることに全神経を集中していた。

 一番怖いのはラディッツがまだ実力を隠しており、全力を出していないというパターンだ。

 その場合、僕の“作戦”がうまくいかない可能性が大きくなってしまう。

 しかし、しばらく戦って僕は、十中八九ラディッツは既に全力もしくは全力に近い状態だろうと確信していた。

 こうなってくると一番警戒すべきは、ラディッツの大猿化だろう。

 元の世界では、ベジータさんが大猿化することによって僕たちはかなりの苦戦を強いられた。

 今のラディッツが大猿化すれば、どれほど強くなるのか見当もつかない。

 できれば尻尾を切りたいが、こうまで実力が近いとそれも難しい。

 空は既に夕方になっているが、月がでるまでに後、1時間はかかるだろう。

 そうなると警戒すべきはベジータさんが作った人工の月を見られることだ。

 しかし、これについてはピッコロさんに戦いの直前にテレパシーを通じてナッパを倒した後は父さんたちに合流し、ベジータさんが月を見ようとすること、そして月を作ろうとすることを徹底的に邪魔するように伝えてある。

 父さんは界王拳を駆使するはずなので体への負担が大きいとは思うが、仙豆が2粒あるはずだから、大猿化をしないベジータさんになら、父さんとピッコロさん達が協力をすれば十分に勝機があるはずだ。

 問題はピッコロさん達がナッパに手こずることだけど……よし、無事ナッパは倒したみたいだね。

 ラディッツと戦いの最中、わずかな隙を見て気を探ると、どうやらピッコロさん達は無事ナッパを倒し、父さんに合流したみたいだ。

 その事実に僕が心の中でガッツポーズを決めていると、ラディッツもナッパが倒されたことに気付いたのか動きを止め、

 

 「ふん……ナッパが倒されたか。ベジータも苦戦しているようだな。」

 「……仲間がやられたのに随分、あっさりしているんだな?」

 

 仲間がやられたのに淡々としているラディッツに対し、思わずそう口を開く。

 そして、それは何もラディッツに限った話ではない。

 元の世界ではナッパをベジータさん自ら殺したりと、サイヤ人が何を考えているのか分からなかったのだ。

 

 「ふっ、当然だろう? 強い奴が勝ち、弱い奴が負ける。そんな当たり前のことが起きているだけだ。なぜそれに一喜一憂しなくてはいけないのだ? それに俺はあいつらのことを仲間だなんて思ったことはない……。」

 

 苦虫を噛み潰したような表情でそう語るラディッツは、むしろナッパやベジータさんを敵視しているようにさえ見える。

 サイヤ人は、弱肉強食の世界とは聞いていたけど、そんな風な考えをもっているなんて……。地球で育ってきた僕には理解しがたい。

 僕がそんなことを思いながらラディッツを何とも言えない表情で見つめていると

 

 「……お前名前は何というんだ?」

 

 すると、突然ラディッツはこんなことを聞いてきた。

 

 「……孫悟飯だ。」

 

 なぜこのタイミングでそんなことを聞いてきたのか分からなかったが断る理由もなかったので、そう答える。

 ラディッツは、「孫悟飯……」と小さな声でそう繰り返し、続けて口を開いて続けて質問を投げかけてくる。

 

 「では悟飯、お前に聞くが、生まれた瞬間から己の才能を否定され、馬鹿にされ、強い奴らにいいように、それこそ体のいい道具のように扱われたような経験をしたことがあるか?」

 

 質問の意図がよく分からなかった。

 それはサイヤ人としての人生を歩んできたラディッツ自身のことを言っているのだろうか? 

だとしたら酷い話だと思う。勿論だが、父さんと母さんに大切に育てられてきた僕にそのような経験はない。

 しかし、僕がそう答えるよりも早くラディッツがそのまま口を開き、

 

 「ないだろうな? お前達地球人の様子を見ていれば分かる。そんな環境にいた俺は、俺自身も気付かないうちに己を否定し、勝手に自分の限界を決めていた。」

 

 しかし、とラディッツは僕のことを改めてまっすぐに見つめ、言葉を続ける。

 僕もそんなラディッツの言葉に耳を傾け、静かに聞く。

 

 「そんな時、お前と出会ったんだ。俺と同じ下級戦士の血を引き、本来なら才能がないと、否定されるべき存在であるばすのお前とな……。だが、おまえはガキのくせに既にこの俺を上回る力を持っていた。……衝撃的だった。だが、そのおかげで俺は目が覚めた。そういう意味ではお前には感謝している。」

 「……感謝するくらいなら、すぐに地球から去ってほしいんだけどね。」

 「そうはいかん、俺はこのまま強くなり、やがては『ある奴』を倒すんだ。そのためには俺には多くのギリギリの戦いが必要だ。そういう意味ではおまえはうってつけの相手だ。ここまで強くなっているとは思わなかったがな。」

 

 それにだ、と続けたラディッツは憎々しげに僕を見つめ、

 

 「流石にカカロットの息子にやられっぱなしというのは、癪だ。」

 

 そう言ったラディッツは、また気を開放し、戦闘モードに移行する。

 

 「……大人気ないんだな?」

 「……その生意気な口をすぐにきけなくしてやる。」

 

 それにしても、『ある奴』とはフリーザのことだろうか? 

 確かに父さんの兄であるラディッツならフリーザに立ちはだかるだけの実力を身に付けれる可能性は十分ある、現にこうして飛躍的なパワーアップを果たしているわけだ。

 倒すと決意したに至る過程は違えど、フリーザを倒す目的は僕と同じだ。

 だとしたら、うまくいけばラディッツも……。

 

 そこまで思考を巡らせたところで僕はこの勝負を決着させるために大勝負に出ることを決意する。

 今回、この技を使う予定はなかった、というよりまだ修行不足のため、未完成であり、まともに扱えないため、自分の体への負担が大きすぎるのだ。

 だが、ラディッツを追い込むことはできるはずだ。

 

 ……本当、大変だったけど、父さんが3日も早く地球に戻ってきてくれてよかったって今実感しているよ。

 

 

 

 ~3日前~

 

 界王星で修業を終えた父さんと僕は二人で家で話していた。

 父さんの気は、修行前と比較しても大幅に増えており、無事修行を終えたことを物語っていた。

 

 「悟飯おめえ、滅茶苦茶強くなってねえか? どんな修行をしたんだ??」

 

 父さんは驚いたように僕を見つめていた。

 確かに父さんも強くなったが、重力室での修行を終えた僕は、そんな父さんの数倍以上の強さを手に入れている、父さんが驚くのも無理もない。

 

 「ブルマさんに重力を100倍までコントロールできる重力室を作ってもらって、そこで修業をしていたんです。」

 「ひゃ~、なるほどな! 界王星も地球に比べて重力が強かったけど、それでも10倍だったからな~、それを100倍ってすげえな!」

 「はい、重力室での修行は非常にためになりました。」

 

 そう言うと、「へ~」と目をキラキラさせた父さんはおもむろに立ち上がった。

 どうしたんだろう、と思っていると

 

 「オラもブルマんとこに行って、重力室で修業してくる!」

 

 そう言って、本当に行く気なのか家の玄関にバタバタと慌ただしく向かっていく。

 

 「ちょ、ちょっと父さんっ! 今から行っても三日後にサイヤ人が来るんですから体を休ませないと! ただでさえ、界王星から戻ってきたばかりなんですから!」

 

 正直、僕一人でもベジータさんを倒せると思ったが、何が起きるか分からない。

そのため、父さんを必死になだめ、家にいるよう説得する。

 途中で母さんも父さんを引き止めることに尽力してくれたため、何とか父さんは家にいることを了承してくれた。

 

 「う~ん、でも家にいても暇だなぁ」

 

 と、自宅謹慎を言い渡された父さんは、退屈そうにそう言っている。

 このままでは、こっそり西の都に行ってしまう恐れもあったので、こう提案しみてる。

 

 「そ、そうだ! 界王星で習得したと言っていた界王拳というのを僕にも教えてくれませんか? どんな技か興味があるので!」

 「へっ? 界王拳を?」

 

 

 

 ~フリーザ船~

 

 「ほほほ、この星の制圧も順調ですね。」

 

 宇宙船内から、部下たちが星の住民を殲滅していく様子を見て、満足そうにそう言うフリーザ。

 

 そんな時、部屋の扉が開き、部下の一人がこちらにやってきた。

 その者は自分のもとまで来ると「報告したいことが」と一言告げてきた。

 

 「なんでしょうか?」

 

 そう答え、部下に続きを促す。

 

 「はい、現在ベジータ達が地球という星にいるのですが、気になることが――」

 

 つづく

 




というわけで11話読んで頂いてありがとうございます!

というわけで、次話本格的に戦局が大きく変化していきます!(多分)

まずは、皆さまたくさんの感想・意見有難うございます!
そして色々意見を頂きましたが、

……悟空のナメック星到着後の戦闘力は9万が公式だったのかorz
いや、本当に勉強不足で申しわけありません。

これについては、どうしようかまとめていますので、また活動報告でも使って結論を出そうかなと思っています!

では、引き続き更新していきますので感想等頂ければ嬉しいです!!


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第12話 界王拳

沢山の感想有難うございます!
返信できておらず申しわけありませんm(__)m
土日あたりに返信するようにします!

評価・お気に入り登録していただいた方ありがとうございます!

誤字脱字報告して頂いた方ありがとうございます!



『界王拳』

 

 この技を使って、ラディッツを追い詰める。

 

 界王拳は体中の全ての気をコントロールし、瞬間的に増幅させ、力、スピード、防御力を何倍にもできる技。

 ただし、そのメリットに釣り合うだけのデメリット――使用者の体に絶大な負担をかけてしまうという諸刃の剣でもある技だ。

 

 この戦いまでの三日で父さんに界王拳を教えてもらった……が、

 結論だけ言うと、僕はこの技を完全にマスターしたというわけではない。

 

 理由はいくつかあるが、一つ目は、この技は気のコントロールがとにかく難しいのだ。

 超サイヤ人であれば一度変身してしまえばその後は特に気のコントロールに意識を向ける必要はなかった。実際、気のコントールが完璧でなかった悟天でさえ、超サイヤ人を使いこなしていたくらいだ。

 しかし、この界王拳は発動している間、ずっと全身の気をコントロールし続けなければいけない。じっとしているなら長時間のコントロールも可能だろうが、動きながらとなるとその難易度は一気に跳ね上がるのだ。

 気が通常時より増幅される感覚については超サイヤ人と同じなのだが、この動いている間もずっと気をコントロールする感覚がどうしても掴めきれなかった。

 といっても気のコントロール自体は元の世界でも散々修行したことであり、技の習得自体は難しいものではないというのが、僕が界王拳に対して抱いた感想だ。

 ではなぜ習得できなかったのか、それが二つ目の理由もなる。

 圧倒的時間不足だ。加えて今日の戦いに備えて体に負担をかけない為、この三日間は自分の体に負担がかからない程度にしか界王拳の練習をしてこなかったのだ。

 

 以上の理由より、僕がこの3日間で習得した界王拳の習得レベルはというと

 

 倍増させられる戦闘力は、2倍まで。

 倍数が上がれば、それだけ気のコントロールが難しくなり、3倍以上だと気のコントロールを失い、己の肉体を崩壊させる恐れがあるからだ。

 しかもその2倍の界王拳でも、もって3分だ。というのも、まだ増幅させた気を完全にコントロールすることはできないため、余計な体力を大量に使ってしまい、スタミナの消費量が激しいのだ。

 

 ……2分……いや……1分だ。

 

 1分でラディッツを再起不能まで追い込む。

 不測の事態に備えて、3分を使い切るなんて馬鹿な真似はしない、大丈夫、付け焼き刃ではあるが落ち着いていけば1分あればラディッツを圧倒できるはずだ……。

 

 気を開放し、まさに僕に襲い掛からんとするラディッツをしっかりと、捉えたまま体内の気をコントロールしていく。

 

 

 

 ……よし

 

 

 

 深く息を吸い

 

 

 

 「界王拳っ!!!」

 

 

 

 ブァアアアアッ!!!!

 

 界王拳の発動と同時に、これまでとは比較にならない倍増された気が爆発的に辺りに拡散されていく。

 それと同時に僕の前身を赤いオーラが包む、まるで己の血が蒸発しているかのようだ。

 

 「な、なんだと!? こ、この気の量は!!??」

 

 流石に僕のパワーアップは予想外だったのか、今回の戦いで初めて焦りの表情を浮かべるラディッツ。

 しかしすぐに何かに気付いたのか、考える様子を見せ、こちらを伺ってくる。

 

 ……?

 なんだ? ラディッツの様子が変だ……いや、構うな!! 

 

 「行くぞっ!!」

 

 倍増されたスピードでラディッツに迫る。

 ラディッツは構えをとり、迎え撃とうとする……が、

 

 ……遅いっ

 

 先ほどまでの倍の強さを誇る僕にとって、今のラディッツの動きはまるで止まって見える。

 相手の防御をかいくぐり、ラディッツのボディーに強烈な一撃を叩きこむ。

 ラディッツはあまりの威力に、声にならない苦痛の声を上げ、殴られた勢いをそのままに飛んでいく。

 僕も後を追い、すぐさまラディッツに追いつくと、左手でラディッツの胸倉をつかみ、強制的にその場にとどめさせる。

 そのまま右手で何度か相手を殴りつける。殴るたびにズンッ、ズンッと、大気を震わすほどの威力だ。そのたびにラディッツは苦悶の表情を浮かべるが、すぐに防御に徹しダメージを抑えようとする。

 それを確認し、右手をラディッツの顔にかざし、力を込め、気功波を放つ。

 一瞬で光輝く気の荒波に飲み込まれたラディッツは、そのまますっ飛ばされ、巨大な岩山に圧し潰されるように叩きつけられる。

 

 スドオオオオンン!!!

 

 岩山は一瞬で破壊され、辺りに砂煙と破片をまき散らす。

 かなりのダメージを与えたはずだが、ラディッツの気はまだ健全だ。

 

 1分まであと30秒。

 

 すぐさま追い打ちをかけるべく、まだ舞いあがっている砂煙の中に突き進んでいく。

 すると、ラディッツが反撃で放ったのであろう複数の気功弾が迫ってくる。気のコントロールをマスターしたラディッツの気功弾は砂煙のなかでも正確に僕の元へと向かってくるが、それを僕はさながら鬱陶しい虫を振り払うように次々と弾いていく。

 

 ここで、ラディッツは逃げるような動きで僕から遠ざかる動きをとる。

 当然逃がすわけもなく、回り込むようにラディッツの前に立ちはだかる。

 そして相手に考える隙を与えまいと、蹴りつける。

 勿論、この攻撃を受け止められるはずもなくラディッツは、そのまま蹴られた方向に飛んでいく。

 

 そのまま、追撃を重ねていく。

 

 次々に僕の攻撃はラディッツに確実に決まっていく。

 

 

 

 しかし

 

 

 

 ラディッツは倒れない。

 

 理由は明確だ。

 ラディッツは、逃げ、あるいは防御のみに徹しているのだ。己の気を全身にまとうという、気の消費が激しい方法をとり、少しでも防御力を上げようとする徹底ぶりだ。

 

 僕はその事実に気付き次第に焦っていく。

 

 当然だが、戦いにおいて逃げ、防御のみに専念しても勝つことはできない。

 しかし、今の僕の様に時間限定のパワーアップをしている相手の場合は別だ。

 パワーアップの時間切れになるまで、耐えれば一気に形勢逆転するのだから。

 

 おそらく、気のコントロールをマスターしたラディッツは僕のパワーアップが時間限定だと考えたのだろう。だからこその行動。

 

 そしてそれは事実であり、僕にとってかなりの脅威として立ちはだかってきている。

 

 くそっ……、とっくに1分は過ぎた……! 

 

 ラディッツへのダメージは着実に溜まっているはずだが、まだ決定的ではない。

 焦りと緊張、不安といった感情が一気に僕を襲ってくる。

 全身にかかる負担が僕の肉体を確実にむしばんでいるのもその感情をさらに増幅させる。

 

 ……だめだっ、焦るな!

 僕の攻撃は相手にとって脅威であることに変わりはないんだ。

 

 ……これは我慢比べだ、先に折れたほうが負けるんだ!

 絶対に負けるものか!

 

 それに先ほどちらりと父さんたちの様子を探ったが、父さんたちはベジータさんを上手く追い詰めているのが分かった。

 ピッコロさんも上手くアシストしているためか、大猿化するような気配もない。

 この状況なら2分まで界王拳を使っても問題ない。

 2分間を使い切って、確実にラディッツを倒すんだ!

 

 そのまま防戦一方のラディッツの元へ突っ込んでいく。

 

 

 

 そして

 

 

 

 ……いけるっ!

 

 

 

 倍増の攻撃を重ねた僕は、界王拳発動からもう少しで2分というところで、ラディッツを追い詰めることができた。ラディッツは一目見ただけでも意識朦朧としており、限界はもう近いだろう。

 

 体への負担がかなりきつくなってきているが、まだ余力はある。

 

 さあ……これで最後の攻撃だ!

 

 

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 孫悟飯……敵ながら凄い奴だ。

 どうやったのかまでは分からないが、飛躍的パワーアップを果たした悟飯によって、もう一撃くらえば沈んでしまうというところまで、追い詰められた。

 

 

 

 だが……

 

 

 

 計画通りだ

 

 

 

 確かに、最初悟飯がパワーアップをしたときは焦った。 

 しかし、あいつの気の状態を見て、すぐに無理をしたパワーアップだということに気付いた。そして恐らく、あまり長い間はそのパワーを保つことができないことも。

 

 そして、俺はある計画を思いついた。

 

 しかし、その計画を成功させるためには、悟飯の警戒が最も薄まる時に行う必要があった。

 油断の少ない悟飯がそうなる時は、俺が限界まで追い詰められたときだろう。

 それまでは、防御と逃げに徹し、なるべく相手のパワー消費を狙う。 

 そうしてやれば、相手は焦り、思考を回す余裕がなくなる。

 

 それこそが、俺の望んだ状況。

 

 そう

 

 まさに今だ

 

 最後の一撃を与えんと、果敢に突っ込んでくる悟飯。

 

 そんな悟飯に対し、俺は片腕をバッと上げ、ある技を放つ。

 

 それは、俺がこの一年の間にベジータ同様に人工的に月を作れないかと試行錯誤している際にたまたま編み出した技だ。

 己の気を光に変換し、閃光のごとく――ラディッツは知る由もないが、太陽拳と同等の技――放った。

 

 そしてその技を、あと一撃で終わると、警戒が薄れていた悟飯にまともにくらわすことに成功した。

 

 よし、後は――

 

 

 強烈な光が僕の目を焼いた。

 その事実に、一瞬理解が追いつかなかった。

 

 くそっ! 油断してしまった……。

 まさかラディッツがあんな技を覚えていたなんて。

 

 視界を奪われた僕は、辺りを伺うが、ラディッツは気を隠したのか、簡単に居場所を探ることができない。

 僕の視界を奪って、不意打ちするつもりだろうか。

 そう考え、辺りを警戒する。

 だがすぐに妙だと気づく、一向に攻撃される気配がないのだ。

 

 

 

 いや……違う

 

 

 

 ラディッツの目的は、僕の視界を奪って僕に攻撃することじゃない……。

その考えに至った瞬間。

 

 父さんたちがいるところに、ラディッツの気が現れたのが分かった。

 

 

 

 瞬間

 

 

 

 僕は、倍速でラディッツの元へいく。

 ラディッツの思惑は全て理解した。

 

 たのむ……、間に合ってくれ!

 

 

 

 だが、その願いは無情にも潰えた。

 

 

 

 ベジータさんの気が一気に少なくなった、それを認識した数瞬直後

 

 

 

 

 

 

 巨大な

 

 

 

 

 

 界王拳を使った僕の気を遥かに超える

 

 

 

 

 

 二体の化け物が誕生した

 

 

 

 

 

 

 つづく

 




第12話読んで頂いてありがとうございます!

というわけで戦いも激しくなってきました、次話よりさらに激しさを増していきます。

あと、戦闘力等色々指摘いただいた胸について考えをまとめたものをまたこの休日くらいに活動報告で書こうかなと思っています。

では、次話でもお会いできるのを楽しみにしております!


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第13話 大猿を倒すために

お気に入り登録・感想有難うございます!
(相変わらず感想の返信が遅いのはご容赦を)

また誤字脱字報告していただいた方ありがとうございます!


「はぁっ……はぁっ……」

 

 ベジータ……か、すげぇ奴だ……。

 

 4倍界王拳によるかめはめ波をまともにくらいながらも、まだまだ倒れる様子を見せないベジータを見て、素直に感心してしまう。

 

 こっちは4倍界王拳の反動で既に体はボロボロだ。

 ……キツイけど、ここで頑張らなきゃ死んじまうからな。

 界王拳、これ以上持つかな、ハハハ……

 

 しかし、そんな絶望的な状況も良い方向に裏切られることになる。

 ピッコロ達が助っ人にやってきてくれたのだ。

 あまりに必死で周りを気にかける余裕がなかったが、どうもあのナッパとかいうサイヤ人を倒したようだ。

 ピッコロはベジータに月がどうのこうと言っていたが、何のことかは分からなかった。

だが、これで一気に戦局はこちらに有利になった。

 

 さらに

 

 「悟空! 大丈夫か?? ボロボロじゃないか!」 

 

オラのすぐそばまで、飛んできて心配そうにそう声をかけてくれたのはクリリンだ。

 

 「あ、ああ、界王拳って言うすげえパワーアップする技を覚えんたんだけど、その反動でな……。」

 「そ、そうなのか、確かにすげえ気だったもんな……だけど心配はないぞ、ほらっ、仙豆だ!」

 「おっ! それは助かる!」

 「ついでにもう一個の仙豆も悟空に預けとくよ。そのなんとか拳ってやつはかなりの負担がかかるようだしな。だが、それで最後の仙豆だからな? 注意してくれ。」

 

 そうして体力が完全回復したオラは、改めてベジータに向き直る。

 ピッコロやクリリン達もオラのアシストをしてくれるようだ。

 

 「く、くそったれ……、ナッパの奴め。あっさりと倒されやがって……使えんやつだ。」

 

 一方のベジータも流石にこの展開がまずいと感じているのか、かなり焦っているのが分かる。

 

 ……回復したり、寄ってたかったりして悪いとは思うけど、全力で行かさせてもらうぜ!

 

 「はぁぁぁっ! 3倍界王拳っ!!」

 

 再び、3倍の界王拳を発動させる。

 だが、ここで妙なことに気付く。

 

 ……ん? 体に負担がほとんどかからねえぞ??

 

 先ほど3倍の界王拳を発動させている間は、自身の肉体に膨大な負荷がかかり、内側から引き裂かれるような感覚が常にあったが、今はなぜかその感覚が嘘のようにない。

 

 どうなってるんだ?? 

 

 改めて自身の体に意識を向けると先ほどよりも気が大幅に増え、充実していることが分かる。信じられないような話だが、この一瞬で飛躍的なパワーアップをしたとしか考えられない。

 なぜこんなことになったかと不思議に思うが、悟空の強くなることへの天才的な嗅覚・感覚がすぐさまその疑問の答えにたどり着かせる。

 

 ……さっきの仙豆による回復か?

 

 もしかしたら、人には追い込まれた状態で回復すると強くなるとかそんな性質があるのかもしれない。

 根拠など特にないただの勘だが、悟空は自身のこの考えが合っていると確信する。

 

 これなら……悟飯のしていた重力室での修行と仙豆を組み合わせたら、凄い強くなれるんじゃねえか?

 ……と、今はそんなこと考えている場合じゃねえな。

 

 とにかく、これならベジータを倒せるぞ!

 多少の負担はかかるだろうけど、4倍界王拳だって問題なく使えそうだ!

 

 そう考えた時だった。

 

 ブァアアアアッ!!!!

 

 感じたことのない膨大な気が少し離れたところから放たれ、嫌でもそちらに意識が持っていかれる。

 

 ……これは悟飯の気??

 す、すげぇ、なんて気だ……

 

 元々、別次元なまでの強さを手に入れていた悟飯だが、さらにそれを大きく上回るほどの気が今悟飯から放たれている。

 しかし、その気はどう考えてもまともに制御できていない、気が荒々しすぎる。

 

 ……まさか、界王拳を使ったのか??

 

 そうとしか考えられない。

 というのも悟飯は、どういうわけか最初から気のコントロールは抜群にうまかった。

 その悟飯が、ここまで気のコントロールを乱すのは界王拳を使ったとしか考えれない。

 3日間という短い期間で、界王拳を未完成とはいえ習得するという神がかり的な所業を果たした悟飯だったが、現状の習得状況では界王拳を使うのは体に負担がかかりすぎるため、まだ界王拳は使うなと忠告はしている。悟飯もそれはよく分かっているだろう。

 

 つまりは

 

 ……それほどラディッツは強いのか。

 

 悟飯が未完成な界王拳を使用せざるを得ない敵。

 改めて敵に対する警戒心を認識しなおし、目の前のベジータを見据える。

 オラがさっさとベジータを倒せば、全員でラディッツを相手にできる。

 今のオラならラディッツ相手でも、食らいつくことができるはずだ。

 

 そう考え、構えをとり

 

 「行くぞおおっ!! ベジータあぁ!!」

 「……っ!」

 

 

 

 その後、悟空はベジータに対し、危なげなく安定した戦いを見せていた。

 

 基礎的な戦闘力も上がったため、さらに威力を増した3倍の界王拳でベジータに一方的に攻撃を加えていく、先ほどのかめはめ波に似た技を打たれても3倍界王拳で十分対応できるだろう。しかも体への負担もほとんどない。

 ベジータは、もはやオラの動きが全く見えないようで攻撃はおろか防御すらかなわず、なすすべなく攻撃を受けていく。

 そのベジータは、こちらのわずかな隙を見ては、掌に気を集中して何かしらの技を発動させようとしているようだが、それはピッコロ達によって阻止されている。

 

 「ぐっ!……はっ……あ、あぁ……ち、ちく、しょう……」

 

 そして攻撃を受け続けたベジータが苦痛の声を漏らしながら、思わずと言った感じでその場に崩れ落ちる。

 ベジータの残っている気の量から判断するに、まだ戦えそうではあるものの蓄積したダメージはかなりのものらしく、苦しそうだ。

 

 よし、このままベジータのやつを気絶させて悟飯のところへ行k……っ!?

 

 そう考えた時、異常事態が起きていることに初めて気づく。

 

 

 

 ラディッツの気が消えている!?

 

 

 

 悟飯が倒した??

 

 いや悟飯はまだ界王拳を発動させているらしく、戦闘モードだ。

 その悟飯はどういうわけか、その場にとどまっている。

 

 何が起きているんだ??

 

 その時だった。

 ここにいるはずのないラディッツの大声が上空から聞こえたのは。

 

 「貴様らぁっ、こっちを見ろおお!!」

 

 これには倒れているベジータ以外の全員が何事かと上空に視線を向ける。

 

 その瞬間だった。

 

 強烈な光が全員の目を焼いた。

 

 完全な不意打ちであり、避けることは不可能だった。

 何が起きているのかと、混乱しているとこんな声が聞こえてきた。

 

 「はあ……はあ……おいっ、ベジータ!! いつまで寝ているつもりだ!! すぐに月を作れ!! このままでは地球の月が出るまでに負けるぞ! 悟飯の奴もすぐそこまで追いかけてきている、早くしろっ!」

 

 ……月? 月を作る……?

 どういうことだ??

 

 混乱する中、気を通じて分かってしまった。

 どうやったかは分からないが、とんでもなく最悪な事態になってしまったことを。

 

 ラディッツとベジータの気が何倍以上にも膨れ上がったのだ。

 

 

 

 「あ……あぁ」

 

 恐れていたことが起きてしまった。

 注意していたつもりだった。

 しかし最後の最後で気が緩み、相手に逆転の一手を打たれてしまった。

 太陽拳という不意打ちはあったものの、これは完全に僕の失着だ。

 視力の戻ってきた目で二体の大猿を確認し、思わずうなだれてしまう。

 

 く……どうして僕はいつも最後の最後で……

 結局僕は何も学習していないじゃないか……

 

 

 

 ……。

 

 

 

 だめだっ!

 諦めるな! 僕に諦める資格なんてないんだ!

 反省なら後で死ぬほどすればいい。

 今は、どうやって目の前の絶望的状況をひっくり返すかを考えるんだ。

 

 折れそうになった自分自身に甘えるなと、目を背けたくなる光景を真っすぐに見据えて考える。

 

 大猿化は、パワーが一気に増す分、スピードはかなり落ちるのが特徴だったと記憶している。

 だからこそ、ベジータさんだけなら仮に大猿化してパワーで上回られても、速さで圧倒し、勝てると踏んでいた。

 しかし、今のラディッツは……。

 スピードでならこちらに軍配は上がるだろうが、あまりにもパワーに差がありすぎる。これではスピードで勝ってもまともにダメージを入らないだろう。

 

 それを踏まえて、今ぱっと思いついた攻略法は二つだ。

 

 一つ目は、相手の尻尾を切ることを優先することだ。尻尾さえ切れば、相手の戦力は一気に落ちるため、こちらにも勝機が出てくる。

 二つ目は、僕とピッコロさん達で協力してラディッツとベジータさんを相手に時間を稼ぎ、父さんに高出力の元気玉を撃ってもらうことだ。

 

 ……。

 

 しばしの思考の末、結論を出す。

 やはり、尻尾を切る作戦だろう。

 

 二つ目の作戦を却下した理由は、今のラディッツを倒すほどの元気玉となると、元気を集めるのにかなりの時間がかかってしまうからだ。僕の界王拳を発動させられる残り時間的にもそれは避けたい。それに、父さんを除くメンバーであの二体を抑えることはかなり困難だろう。

 そして、一つ目の作戦を採用した何よりの決定材料になったのが、父さんの気が飛躍的に上がっていることだ。父さんの元気な様子を見るに、おそらく仙豆を食べたことで、サイヤ人特有の死にかけの状態から復活することで飛躍的に戦闘力が上がるという特性が発動したのだろう。

 今の父さんなら、ベジータさんの尻尾を単独で切ることも可能だろう。

 それならば、ベジータさんvs父さん、ラディッツvs僕の構図が成り立ち、一対一での対応が可能になるのだ。そこにピッコロさん達の助けが加われば、十分に尻尾を切ることも可能だろう。

 懸念点は、界王拳が使用できる時間は残り1分間のみだということと、仮に尻尾を切れても、界王拳が切れた後では、僕の体力が著しく減ってしまうことだろう。

 だが、こればっかりは気合・根性なりで乗り切るしかない、相手だってかなり体力を消費しているはずなんだ。

 

 そういえば、仙豆は確か2粒あったはずだけどあと1粒はどうなったのだろう?

 まだあるのであれば欲しいところだ。

 最初は、ナッパ戦に苦戦するかもしれないとクリリンさんに仙豆を持ってもらっていたが、ナッパ戦では余裕の勝利をしていたことから仙豆がまだ残っている可能性が高い。

 もし仙豆があれば、こちらの勝利が一気に硬くなる。

 ……まあ仙豆の有無にかかわらず、僕のやることは変わらない。

 

 『ピッコロさん。』

 

 考えがまとまったところで、心の中でピッコロさんに呼びかける。

 するとすぐさま返事が返ってくる。

 

 『……悟飯か。』

 

 ピッコロさんは隠してはいるようだけど、返事の声には心なしか不安や緊張を含んでいた。

 僕はそんな不安をかき消すかのように努めて明るく、言葉を口にしていく。

 

 『はい! 単刀直入に伝えます。今から相手の尻尾を切ることを最優先として戦っていきます。』

 『まあ、それしかあるまい。……それでどうする?』

 

 ピッコロさんもこちらの思いが通じたのか、声に覇気を取り戻し、そう質問を投げかけてくる。

 

 『はい! ここからの作戦ですが――』

 

 つづく

 




第13話読んで頂いてありがとうございます!

というわけで次話より本格的に本格的に第2ラウンドの始まりです!

後、今回少し悟飯が仙豆のことに触れていますが、ようやく仙豆をこの話でどう扱っていくかの方針が固まりましたので、この先どこかの話でそれについては触れていこうと思います。

感想・ご意見お待ちしております!
では、また次話でお会いしまいしょう!


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第14話 vsベジータ

感想・お気に入り登録していただいた方ありがとうございます!

また、誤字脱字報告して頂いたかもありがとうございます!




 視力の戻ってきた目に飛び込んできたのは、夢ではないかと疑うような光景だった。

 

 山を彷彿させるような巨体から放たれる圧倒的存在感を前に全身が金縛りにあったように硬直してしまう。

 全身を覆う剛毛、長い尻尾、そして血のように赤い瞳を浮かべるその顔の形状は、体のサイズを除けば猿を連想させた。

 しかしその大猿が身にまとっているものがサイヤ人が来ていた服と一致していること、そしてなにより大きさは違えどその気は間違いなく先ほどまで戦っていたベジータとラディッツのものだ。

 

 ……どうなってんだ?

 

 何が起きたかはわからなかった。

 しかし、どう考えても事態は良くない方へいっているのは確かだ。

 

 「おいっ、孫悟空! 手短に説明する、よく聞け!」

 

 突如、大声でそう言ってきたピッコロは返事も待たずにそのまま言葉を続けてきた。

 

 「あの化け物は、サイヤ人のやつが変身をした姿だ。だが、尻尾を切れば元の姿に戻る! だから今からはあいつらの尻尾を切ることに集中するんだ! 俺たちはベジータを倒すぞ!」

  

 声を荒げてそう語るピッコロの表情には緊張と焦りの感情が浮かんでいる。

 なぜそんなことを知っているのか、そんな疑問もなかったわけではないが、今はそんなことを考えている場合でないのは火を見るよりも明らかだ。

 

 「……よくわかんねーけど、尻尾だな? 信じていいんだな、ピッコロ?」

 

 敵対関係でもあるピッコロにそんな風に確認を付け加える。

 だが、この戦いでピッコロは周りを陥れるような真似はせず、純粋に地球を守るための戦士としてここにいることは、これまでの様子を見ていれば分かる。そして何より悟飯が懐いていることからも、ピッコロに対する信頼度はかなり上がっている。

 だからさっきの言葉も、協力して頑張ろうぜという意味を込めてのニュアンスで言ったに過ぎない。ピッコロもなんとなくその言葉に含まれた想いをくみ取ったのか

 

 「はっ、この状況で嘘などつくわけないだろう。分かっているとは思うが、戦力差的にきついのは悟飯の方だ。とっとと片付けて加勢するぞ。」

 

 と、緊張の表情を保ちつつも、ニヤリと笑みを浮かべながらそう言い、気を高めていくピッコロ。

 

 「へへへ、そうだな。とっとと倒しちまうか!」

 

 同じく、笑みを浮かべながら界王拳を発動させる。

 

 「……あの、一応俺もいるからな?」

 

 今までオラとピッコロの会話を聞いていたが、たまらずと言った感じにそう声をかけてくるクリリンは疎外感があったのか、忘れないでくれよと不安そうだ。

 勿論忘れているわけもないが、申し訳ないことをしたらしい。

 ちなみに天津飯、餃子、ヤムチャは悟飯のもとへ加勢しにいった。

 その際、ヤムチャに残りの仙豆の一粒を悟飯に渡すように言っておいた。

 今の悟飯はまだ気は残っているようだけど、相当体力を消費しているようだからと判断したためだ。

 

 「じゃあ行くぞっ!」

 「「おう!!」」

 

 気合を入れるためにも大声で叫び、二人もそれに答え、ベジータに向き合おうとしたその瞬間だった。

 

 

 

 うおおおおあああああっっっ!!!!

 

 

 

 「「「っ!?」」」

 

 ラディッツから放たれた大地を揺るがすような雄たけびに、思わず両耳をふさぐ。

 なんだと思い、ラディッツの方に視線を向けるとラディッツはその巨大な口を開き、でたらめな方向に向けて気功弾を吐きまくっている。

 しかしその気功弾の一発一発がとてつもない破壊力を持っており、大地に被弾するたびに大爆発が起こる。

 

 ……な、なんだ?? 理性を失っているのか??

 それにしても、あの威力……。

 あんなもんが人のいるところに当たったらとんでもねえことになるぞ……。

 

 ラディッツはひとしきり気功弾を打ち終えると、次は周りにあった岩山を殴りだしてしまった。

 だが、ラディッツに気を取られていると、もう一方の大猿ベジータがこちらに突き進んできていた。

 

 「貴様らあああ!! このベジータ様にたてついたことを後悔させてやる!!」

 

 ラディッツと違い理性を保っている様子のベジータは勢いをそのままに自分たちがいた場所を殴りつけてくる。

 全員何とか避けることはできたが、その威力に思わず背筋に冷たいものが走る。

 ラディッツよりも気の量は少ないが、それでも界王拳を使った自分と比較してもそれを余裕で上回るだけの気を持っていることは確かだ、直撃だけは避けなければならない。

 

 ベジータは、オラに狙いをつけているようで赤い目をこちらに向けて、続けて殴り掛かってくる。

 それを避けるが、同時に視界の外からやってきていた尻尾に反応が遅れた。

 遠心力をうけ勢いよく迫る尻尾が容赦なくオラの体を打ち付ける。

 尻尾による一撃とは思えないほどの威力だが何とか態勢を保ちなおし、相手に向き直ろうとした時

 

 「悟空っ!! よけろおお!!」

 

 クリリンの絶叫にも近い警告に状況を確認する前にその場から緊急離脱する。

 次の瞬間、大威力をもった光弾が元いた場所に凄まじい速さで駆け抜けていくのが確認できた。

 

 「……あ、あぶねぇ。さんきゅークリリン。」

 

 さっきのに当たっていれば、ただでは済まなかっただろう。

 そして今の攻防だけでも分かる。3倍界王拳のままでは厳しいだろう。

 

 ……4倍界王拳いってみるか。

 

 「ちっ、鬱陶しいハエめ、貴様から殺されたいのか?」

 「う、うわわわ、こ、こっち来た!?」

 

 邪魔されなければ攻撃が決まっていたこともあり、いらいらした様子でクリリンに標的を移すベジータ。お前の相手は……オラだ!!

 

 「4倍界王拳だああああ!!」

 

 全身に一気に負荷がかかると同時に、爆発的な力がこみ上げてくる。

 

 よし……ちょっと体に負担はかかるけど動ける! これなら、いけるぞ!

 

 ベジータもオラのパワーアップに反応を示し、再度こちらに警戒の目を向けてくる。

 

 ……ベジータの奴は確かにパワーはすげえけど、その分速さが殺されてる。

 4倍界王拳のスピードなら、十分ベジータについて行けるはずだ。

 

 後はベジータの気を引き、隙を作るなりしてクリリンとピッコロに尻尾を切ってもらえればいい。

 

 

 

 

 

 「はぁっ……はあっ……!」

 

 その後も、ベジータを相手に戦いを繰り広げていたが、戦いは膠着状態に陥っていた。

 

 まさか、4倍界王拳でも押し切れないなんて……

 

 スピードではベジータを上回っていることもあり、尻尾を切るだけなら難しくはないと考えていたが、その目論見は外れてしまう。

 その最たる原因は、ベジータが大猿としての戦いに慣れていることだった。

 ベジータは、巨体であることをデメリットとして捉えるのではなく、メリットとした戦術でこちらに迫ってくるのだ。

 対するこちらは、基本的に同じサイズの相手と戦うことを前提とした修行を行ってきたので、どうしても戦い方にぎこちなさが出てしまうのだ、その差が膠着状態を生み出している。

 とは言え、こちらも何とかベジータから隙を作り、その度にピッコロとクリリンに攻撃してもらい尻尾を切ろうと試みているのだが、ベジータは周りへの警戒を常に持ち、すんでのところで避けられてしまうのだ。

 ラディッツと悟飯が強すぎて気付かなかったベジータの戦闘センスに敵ながら尊敬の念を抱いてしまう。

  

 「はぁ……はぁ……しつこいゴミどもだ……っ!」

 

 そのベジータは変身前に大きくダメージを受けていたこともあり、かなり体力を消費している様子だ。

 これなら体力の差でわずかに有利かと考えるが、こちらも4倍界王拳による負担が徐々に体力を蝕んでいることから余裕はない。

 

 しかしその若干の有利性が悟空にわずかな思考を許してしまう。

  

 でも、ベジータとラディッツの奴はなんでいきなり大猿なんかに変身しちまったんだ??

 これもサイヤ人の能力なん……っ!?

 

 その瞬間、気付いてしまった。

 

 

 

 “自分も過去に大猿になったことを。そして最愛の祖父を殺してしまったのが誰であるのかも”

 

 

 

 わずかな動揺

 

 時間にしてほんのコンマ何秒

 

 しかし

 

 それを戦闘において天才的な才能をもつベジータが見逃すわけがなかった。

 

 「死ねえええ!!!」

 

 気付いたときには、正拳突きの要領で全身の力が込められたベジータの巨大な拳が目の前に迫っていた。

 避けることは不可能。とっさに腕をクロスさせ胴体への直撃を防ぐための姿勢をとる。

 

 直後

 

 ドゴオオオッッ!!

 

 「がっ……!?」

 

 ボキバキッ!!

 

 直撃をうけた右腕が折れるのを感じながら、あまりの威力とダメージに意識が吹っ飛びそうになる。

 受けた威力を殺すこともできず、吹っ飛ばされているとベジータが追撃を加えんとこちらにさらに迫って来ているのが確認できた。

 

 こ、このままやられるのか?

 

 その時だった。

 横から今まで気配を殺していたのか、クリリンが突然現れた。

 オラとベジータが予想外のクリリンの登場に驚いているとクリリンはそのまま両手を額に添えて、

 

 「くらええ!! 太陽拳っ!!」

 

 カッ!!

 

 暗くなり始めた辺りに圧倒的光量がまき散らされる。

 

 「ぐ、ぐわああああ、目、目があああ!!??」

 

 その光はオラとベジータから視力を奪い、ベジータは突然のことで理解が追いつかないのか、慌てふためいている。

 

 そして次の瞬間

 

 「ぐあああ……がっ!!??」

 

 何やら、ベジータが苦悶の叫びをあげたと思った次の瞬間。

 ベジータの気がみるみるうちに小さくなっていくのが分かった。

 

 一体に何が起きたのか分からなからず、とりあえず地面に着地し、立ち尽くしていると、傍にクリリンとピッコロが近づいて来るのが分かった。

 

 「悟空! 腕は大丈夫か??」

 「あ、ああ、なんとかな。むしろ右腕だけで済んでよかったくらいだ。」

 「そ、そうかそれならよかった。ベジータの奴の尻尾も切れたし、何とかなりそうだな。」

 「……けっ、孫悟空を倒すために編み出した技をあんな化け物の尻尾を切ることに使うとは思わなかったぜ。」

 

 どうも、二人の会話から察するに太陽拳で視界を奪った隙にベジータの尻尾を切ることに成功したらしい。

 だが、尻尾が切れたがベジータはまだ戦闘を続けることは可能だろう。

 ベジータも相当消費しているとはいえ、こっちも右腕が折れている。

 クリリンとピッコロがいるとはいえ状況的には、五分五分といったところだろう。

 

そして、だんだん目の前の光景が見えるようになってくると

 

 「きさまらあああ!! 俺様の尻尾を切りやがってええええ!! そんなに俺を怒らせて殺されたいかあああ!!」

 

 殺気をふりまくベジータが再度、こちらに迫ってきていた。

 

 つづく

 




第14話読んで頂いてありがとうございます!

太陽拳マジで便利……。

というわけで、ベジータ戦でした!
次話では、ラディッツ戦に行こうと思います!

あと、すみません。12話のあとがきで戦闘力についてまとめたものを活動報告で報告すると言っておきながらまだできてません。
意外と時間がかかっており……。もう少々お待ちくださいm(__)m


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第15話 大猿ラディッツ

すみません、いろいろあって更新が遅れました……m(__)m


 な、なんだ??

 ラディッツも大猿化したとき、理性を保てないのか??

 

 目の前で、周りの岩山を殴りまわっているラディッツを見て、わずかに動揺してしまう。

 確かに僕も大猿化をしたときは理性が保てなかったが、過去にベジータさんが大猿化をしたとき、理性を保てていたことから、訓練次第で理性を保てるようになるのだと勝手に判断していたがどうも違うらしい、体質的な問題なのだろうか。

 

 「ヤムチャさん、天津飯さん、チャオズさん! では、打ち合わせ通り、僕がラディッツの気を引きますので隙を見て尻尾を切って下さい!」

 

 あのまま暴れられて人の住んでいる場所に気功弾を撃たれる前にラディッツを止めることが何より優先だ。

 そのため少し慌てたように3人にそう声をかける。

 

 「よし、まかせとけ! 俺だって役に立てるっていうところを見せてやるぜ!」

 

 ヤムチャさんは口ではそう言ってはいるものの、その顔は緊張に包まれていた。

 だが無理もない、今のラディッツとヤムチャさんでは正直強さの次元が違うのだから。

 もし今のラディッツから一撃でももらえばヤムチャさんたちの命はないだろう。

 天津飯さんとチャオズさんもラディッツとの力差はわかっているのだろう、

 

 「……ああ、悟飯にここまで戦ってもらっているんだ、俺たちだって全力でやるまでだ。」

 「う、うん……! 頑張る!」

 

 と、不安を隠し闘う姿勢を見せてくれている。

 

 ……絶対にこの3人にラディッツの攻撃を当てさせない。

 

 僕はそんな3人を見て改めてそう心に刻み、ラディッツに向き直った。

 しかし一つ嬉しいことがあったとすれば、ヤムチャさんから渡された仙豆の存在だろう。

 これで、仮に界王拳を使い切っても回復ができる。しかもパワーアップの特典付きだ。

 

 ……よし、この仙豆の存在は大きい。焦らず冷静に対応するんだ。

 

 改めてラディッツに向き直り、そのまま界王拳を発動させ、ラディッツの元へ迫っていく。

 近づいていくと向こうもこちらに気付いたのか、ギロリとこちらを睨みつけてきた。

 ラディッツはその大きな口を開き、こちらめがけて気功弾を打ち付けてきた。

 威力は言わずもがな、しかしそれを難なく避けながらラディッツに迫っていく。

 初撃を避けられたことで、ラディッツは気功弾を連射してくるが、そのすべてを避け、逆にこちらから気功弾を数発打ち付ける。それらはすべてラディッツに命中するがダメージはほとんどないようだ、やはり半端な攻撃は通用しないらしい。

 構わずそのまま接近していくと、相手は気功弾から肉弾での攻撃に切り替えてきた。

 ラディッツは己の腕を力いっぱいに振り回したような攻撃を繰り出してくるが、動作にムラがあるため避けるのは容易い。

 そのまま攻撃をかいくぐっていき、右腕に力を込め、相手の額に渾身の右ストレートを放つ。

 『ドンッ!』と、攻撃は見事に決まった。ラディッツは少し苦しそうに唸り、僕を払いのけてくる。

 

 やはり大したダメージにはなっていない……か。

 

 その証拠にラディッツは、すぐさま体勢を整え、こちらに攻撃を仕掛けてきた。

 いったんラディッツから距離をとり、こちらも体勢を立て直す。

 分かっていたことだが、改めて自分とラディッツの戦闘力差には思わず愕然としてしまう。だが、こちらの力を込めた攻撃ならば多少なりともラディッツに通用することは分かった。

 後は、このまま攻撃を続け、ラディッツの注意をこちらに引き付けるだけだ。

 

 そう、それでいいはずだ……。

 

 状況を見れば、こちらが有利としか思えない。

 しかし胸の内は、そんな状況とは対照的にもやもやとしていた。

 というのも、まず大前提として大猿化したラディッツが予想に反して、あまり強いとは思えないのだ。

 確かにパワーが圧倒的であることは疑いようもない。

 しかし理性を失っていることもあるためか、そのパワーを活かし切れていないのだ。動きは荒い、気功弾も口から吐いてくるため、口を開いた瞬間をしっかり見極めれば躱すことは難しくない。

 ベジータさんは大猿化した際、そのパワーと巨体を完全にコントロールし、それを活かす戦いをしていたという記憶があったのでラディッツにも警戒していたが……。

 これでは倒すのは難しいが尻尾を切るだけならば、僕一人でもなんとかなったのではないかというレベルだ。

 いや……、これまでのラディッツの戦いぶりを見ていれば、これだけで終わるとは思えない。

 可能性をいえば、今は理性を失っているフリをしているだけというのも考えられるのだ。こちらが油断するときを伺っているのかもしれない。

 不気味ではあるものの、油断をせず対応していこう。

 

 そして僕は冷静に、そして警戒を解かずに着実にラディッツに攻撃を加えていった。

 ラディッツは、わずかずつではあるもののダメージを受けていき、しかも自分の攻撃が全て躱され、イライラして僕を倒そうとムキになっているのが分かった。

 もはやラディッツの注意は完全にこちらに向いており、今なら尻尾を切るのも容易だろう。それは3人も理解してくれており、それぞれが気を集中させ、尻尾を切るために技を繰り出さんとしているのが確認できた。

 界王拳の残り時間はあと十数秒が限界であり、体が悲鳴を上げ始めていたが、なんとか間に合うだろう。

 それに仮に時間切れになっても、まだこちらには仙豆がある。

 さらに、念には念を入れて仙豆を口に含んでおき、万が一のときにすぐに仙豆を飲み込めるようにしておいた。

 

 

 

 

 

 だが、この悟飯のラディッツに対する警戒は完全な深読みだった。

 

 ラディッツにとって大猿化は最終手段であり、できれば取りたくない手段であったのだ。 

 理由は当然、理性を失ってしまうからである。

 確かに大猿化はパワーはあるが、それをコントロールしてこそ初めて真価を発揮するのだ。

 それをラディッツはしっかり理解していた。

 ちなみにラディッツはベジータのように大猿化した際に理性を保つため、人工月の生成とともに、その方法を模索していたが、この一年では習得ができなかったのだ。

 今回、その最終手段をとったのは、悟飯の界王拳に対抗できないと判断したからだ。無理なパワーアップをしていることは分かったが、それでも戦いつづければ自分が負けると判断したのだ。

 負けることが決まっているのならば、大猿化して勝つという僅かな可能性にかけたというわけだ。もしかしたら悟飯のパワーアップの制限時間がくるまでの時間稼ぎができるかもしれないと考えたのだ。

 

 つまり、この時点で仙豆を持っている悟飯たちの勝利はほぼ決定しており、ラディッツの勝利は絶望的だった。

 

 だからこそ、

 

 これから起こることは完全な偶然であった

 

 

 

 

 

 僕への攻撃がまったく当たらないことに遂に何かが吹っ切れたのか、ラディッツが腕や足を滅茶苦茶に振り回し、暴れだした。

 当然、そんな攻撃が僕に当たるわけもなく、苦も無く躱し、距離をあけていると、ラディッツが暴れだしたのを確認した3人が一斉にそれぞれが攻撃を放ったのが見えた。

 

 そしてラディッツがヤケクソなのか、顔を振り回しながら気功弾を何発も打ちまくったのはそれとまさに同時の出来事だった。

 

 打ち出された気功弾のほとんどがあらぬ方向へ飛んでいく。

 

 しかし、そのうちの一発は僕のところへ

 

 そしてもう一発は東の都の方向へ向かっていることがわかった。

 

 すぐさま自分も、掌を東の都に向かっている気功弾に向け、自らも気功弾を打ち出す。

 それは、正確にラディッツが打ち出した気功弾の下側に直撃し、軌道を上側に逸らすことができた。

 

 しかし

 

 自分の元へと迫っている気功弾はまっすぐに自分の目前までに迫っていた。

 もはや避けられる距離ではない、かといって、それをまともに受け止められる力もない。

 

 それを理解し、僕は迷わず口に含んでいた仙豆をかみ砕いた。

 

 

 

(ヤジロベーサイド)

 

 「ひ、ひえええ……あいつら、もはや人間じゃにゃー……。」

 

 ヤジロベーは悟飯たちとの戦闘を見て自分との戦闘力差を感じ取り、自分が役に立てないことを確信していた。だからこの場から逃げることは必然であり、当然のことだと自分に言い聞かしていた。

 しかし、ともに修行をした身としてこのまま逃げるのも罪悪感に包まれ、戦いの場から少し離れたところをうろうろしてるという状況だった。

 

 「お、おれが逃げるのは、しかたねえことだよなぁ……。」

 

 そう呟きながら岩山をトボトボと歩いている時だった、視界に岩山以外の何かが映ったのは。

 ササっと岩陰に隠れ、様子を伺うと、そこにいたのはなぜかロープで縛られて倒れている人だった。おそらくサイヤ人の一人だ。

 そのサイヤ人は、唯一動かすことができる口を器用に使いながら何やら瓶のようなものから粒のような何かを取り出しているところだった。

 

 「なにをしとるんだ、あいつは……?」

 

 つづく

 




第15話読んで頂いてありがとうございます!

ヤジロベーのしゃべり方がよくわからないですね……。

さて、以前から活動報告するといってできていなかった活動報告をようやくしましたのでよければ見てください!

内容は下記2点です。
・ナメック星到着時の悟空の戦闘力を勘違いしていた件について
・悟飯の戦闘力を5万にしたことについて
↓URL
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=240921&uid=223978



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第16話 限界を超えろ

感想ありがとうございます!

また、最近更新ペースが遅れ、申し訳ありません。

誤字脱字報告いただいた方、毎度ありがとうございます!


 2倍界王拳によって酷使されていた肉体が回復したのを感じると同時に、元々持っていた気を上回る莫大な量の気が体の奥底から湧き上がってくる。

 

 しかし

 

 これは……2倍界王拳でもキツイか!?

 

 確かに飛躍的なパワーアップはした……が、それでも大猿化したラディッツのパワーには届かない。2倍界王拳を使用しても、だ。

 そこまで理解したときには、絶望的な破壊力をもった気功弾はすぐ目と鼻の先にまでに迫っていた。そのあまりの威力に周りの空間が歪んでいるようだ。

 このままでは僕は気功弾の餌食となり、確実にやられるだろう。

  

しかし、この状況を打破するための技が一つだけある。

 それはこの3日間の短い修行の間ですら一度も試してこなかった技である。

 

 ―『3倍界王拳』の使用である―

 

 2倍界王拳ですら、あの負担だった……。

 言うまでもなく危険である。

 最悪、体が耐え切れず爆散する可能性だってある。

 でも……やるしかない!

 

 刹那の逡巡の後、叫んだ。

 

 「3倍界王拳っ!!!」

 

 3倍界王拳を発動させた瞬間、大猿化したラディッツにも匹敵する巨大な気が全身から一気に湧き上がってくる。

 今までとは比較にならない全身から荒れ狂うように吹き出す大量の赤いオーラは、その巨大なパワーと、そのパワーをコントロールできていないことを示していた。

 

 全身が悲鳴を上げるほどのパワーを確認し、すぐさま右の拳を握りしめると同時に左後方に全身を大きく捻る。

 そしてその捻った体を一気にもとに戻す。

 全身の捻りを利用した勢いの裏拳を思い切り気功弾に叩きつけるために!

 

 「うわあああああっっ!!!」

 

 

 

 ズガアアアアアッッンン!!

 

 

 

 気合と共に放った裏拳をくらった気功弾は、凄まじい衝撃音をまき散らしながら、まっすぐに射出元、つまりラディッツのもとへ突き進んでいく。

 

 よ、よし! これで……っっっ!?!?

 

 気功弾を弾いた右の拳がビリビリと痺れるのを感じつつも、ラディッツの攻撃を跳ね返したことに安堵しかけた、その瞬間

 

 ミシミシミシブチブチブチ!!

 

 全身から何かが千切れるような不快な音が聞こえたと同時に想像を絶するほどの痛みが襲ってきた。

 そのあまりの痛みに、思わずその場に四つん這いになってしまう。

 

 「あ、あああああっ!!!???」

 

 まるで肉体を内側から爆破でもされたような痛みだった。

 ポタポタと地面には、僕の顔から滴った血がどんどん染み込んでいく。どうやら大量の鼻血が出ているらしい。

 このタイミングで、僕が弾いた気功弾がラディッツに当たったのか、凄まじい爆音と衝撃波を感じるが、そちらに気を向ける余裕はなかった。

 

 3倍界王拳を発動させた時間は、ほんの数秒ほどだ。

 それでこの有様である。

 いや、体が四散しなかっただけでもまだマシだったと思うべきか……。

 パワーアップした体でなければ間違いなく、体がバラバラになっていただろう。

 

 父さんはこんな危険な技を使用して、ベジータさんやフリーザと渡り合っていたのか……。

 まさに諸刃の剣、改めて界王拳の危険性を知り、父さんの偉大さを理解する。

 

 壮絶な痛みはまったく収まる気配を見せなかったが、それでも何とか気合で、気を集中させ、ラディッツがどうなったかの確認を行う。

 

 ら、ラディッツはどう、なったんだ……?

 

 すると先ほどまで感じていた大猿ラディッツの巨大な気は消失しており、顔を上げ、目を凝らすと尻尾を切られたラディッツがうつぶせの体勢で岩山の上で倒れているのが確認できた。

 

 よ、よし! ヤムチャさんたちが上手く尻尾を切ってくれたんだ!

 

 倒れているのは、僕が弾いた気功弾が直撃したからだろうか?

 死んではいないようだが、ラディッツから感じられる気はほとんどない。

 ラディッツは元々大猿化するまでに界王拳でダメージを受け続けていた。

 そこへ先ほどの弾き返した気功弾でとどめをさした結果になったらしい。

 

 しかし、その考えはすぐさま裏切られる。

 

 グググと、ゆっくりとおぼつかない動きではあるもののラディッツが起き上がり始めたのだ。

 

 く、くそ!! まだもう一押し必要か!

 

 動き出そうとしたが、その瞬間また激痛に襲われ、移動することすらできない。

 どうしようもないこの状況で、どうするべきか頭を回していると、ヤムチャさん、天津飯さん、チャオズさんの3人がラディッツに飛び掛かっていくのが見えた。

 

 き、危険だ!?

 

 いくらラディッツの体力が削れたと言ってもまだまだヤムチャさんたちの気を上回っていることに変わりはない。

 流石に今のラディッツに一撃で殺されるなんてことはないだろうが、それでも危険であることに変わりはない。

 しかし、その状況を理解しても、今の僕にはどうすることもできない。

 ギリリ、と歯ぎしりをするが、それでどうにかなるわけもなく、結局戦いの行方を見守るしかない。

 

 ヤムチャさんたちは、一緒に修行をしていたということもあり、連携のとれた攻撃を繰り出していく。

 ヤムチャさんと天津飯さんが前衛でラディッツと肉弾戦を繰り広げ、後衛でチャオズさんがそれをサポートするフォーメーションだ。

 ラディッツが攻撃をしてきても、ヤムチャさんと天津飯のうちどちらか一方がそれを全力で食い止め、もう一方がカウンターの攻撃を繰り出す。二人の連携がくずれそうになっても、チャオズさんがうまくそれをフォローし、隙の無い攻守のバランスのとれた戦いでラディッツに迫る。

 

 最初は、その連携のとれた攻撃にラディッツも苦戦しているように見えたが、すぐにヤムチャさんたちの攻撃を見極めていくと、徐々にヤムチャさんたちを押し始めた。

 3人の僅かな隙をつくような攻撃を受け、連携が崩れていく。

 

 ……やめろ

 

 ラディッツの繰り出した蹴りをまともにヤムチャさんが食らい、吹っ飛ばされる。

 すぐさま天津飯さんが割って入るが、その動きも全て読めていたのか、振り向きざまに気功弾を打ち、天津飯さんもヤムチャさん同様に吹っ飛ばされ、岩山に突っ込んでいく。

 二人とも生きてはいるが気が大きく減少し、もう一撃くらえばまずい状況だ。

 

 ……やめてくれ

 

 一人になったチャオズさんは、どうしてよいのかわからないのかオロオロしており、そこにラディッツはためらいなく、気功弾で空に浮いていたチャオズさんを撃ち落とし、そのままチャオズさんは地に落ちてしまった。

 

 ……やめろって言ってるじゃないか

 

 ラディッツも3人から攻撃をくらい、かなりフラフラな様子だが倒れることはない。

 決着はついてしまった。

 ラディッツは、3人に止めをくらわすために、まず一番近くにいたチャオズさんに歩みを進める。

 チャオズさんのもとまで辿り着いたラディッツは、チャオズさんを殺すのに十分な量の気を掌に集めて、それをチャオズさんに向ける。

 

 

 

 ―チャオズさんが殺される―

 

 

 

 そう認識した瞬間、僕の中で何かが弾けた

 

 

 

 「やめろおおおおおおおっっ!!!」

 

 

 

 全身を襲っていた痛みなどどうでもよかった。

 体を動かすたびに肉体から鈍い音が鳴り、体の組織が崩壊していくことがわかったが、それと引き換えかのように全身に力がみなぎってくる。

 

 無理やり起き上がらせた体に力を込め、一気にラディッツの元へ迫っていく。

 ラディッツもこちらに気付き、チャオズさんに向けていた掌をこちらに向けなおし、気功弾を撃ってきた。

 僕はそれをあえて避けずに(というか今のこの体ではあの攻撃を躱すことなんて不可能だ)、突っ込む。

 ラディッツが放った気功弾は僕に直撃し、一瞬、意識を持っていかれそうになるが、ぐっとこらえ、勢いを殺さずにそのまま突き進んでいく。

 

 ラディッツもまさか僕がそんな捨て身の攻撃に出てくるとは思わなかったのだろう、明らかに動揺しているのが分かる。これなら攻撃をあてることができるだろう。

 しかし、こちらは無理やり舞空術で体を動かしているが、このボロボロの体では、拳も蹴りも繰り出せない。気功弾を撃つような気の操作をしている暇もない。

 そうなると、僕に残された攻撃手段は一つだった。

 

 『頭突き』だ。

 

 「くらえええええ!!!」

 

 「ドズンッ!!」と、頭突きは見事にラディッツの腹に突き刺さった。

 僕の頭にも頭蓋骨が軋むような衝撃があるが相手にはそれ以上のダメージを与えられたはずだ。

 実際、ラディッツは「ガハッ!?」と、吐血しながら、ヨロヨロと後ずさりし、その場に膝を折り、攻撃をくらった腹部を手で押さえている。

 

 が、そこまでだった。

 

 確かにダメージを与えられたし、相手の気の量も風前の灯火だ。

 だがそれ以上にこちらのダメージが大きすぎた。

 相手はまだ体を動かせるだけの体力が残ってそうだが、こちらはもはや、今の攻撃ですべてを使い切り指の一本すら動かせる気がしない。

 ラディッツもそれを察知しているのか

 

 「……くっ、まさか頭突きをしてくるとはな。……だが、ここまでのようだな? ベジータの方もこちらと同じような状況みたいだが、ここで俺がお前たちを殺し、ベジータに合流すれば、こちらの勝ちは確実だ。」

 

 と、勝利を確信したのか口元に笑みを浮かべ、そう言い放ってくるラディッツ。

 

 ……ここまでなのか。

 

 悔しいけど、ラディッツの言ったことは正しい。

 もはや、僕たちに勝ち目はほとんどないだろう。

 

 そう絶望しかけたときだった。

 

 予想もしてなかった存在がやってきた。

 

 「グエ……」

 

 突然現れた存在にラディッツはばっと振り向き、僕も目だけを動かし、その存在を確認する。

 

 そこにいたのは、小柄で短い手足、全身を緑で包まれ、赤いギョロリとした目が特徴的な生物だった。

 

 

 

 忘れるはずもない、元の世界でヤムチャさんを殺した『栽培マン』だった。

 

 つづく

 




といういわけで16話でした!

いや~、サイヤ人編も終わりが見えてきました!

引き続き、読んで頂けるとありがたいです!!

(面白いと思った方がいましたら高評価頂けると凄く嬉しいです……)



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17話 決着

相変わらず更新が遅くなり、申し訳ありませんm(__)m

感想、お気に入り登録、高評価していただいた方ありがとうございます。

また、誤字脱字報告していただいたかた、ありがとうございます!


 「な、なぜ栽培マンがここに?」

 

 栽培マンの登場に驚いたのはこちらだけではなかったらしい。

 ラディッツも状況が飲み込めていないようで、その顔は動揺に包まれている。

 

 たしか栽培マンは、ナッパが元となる種?のようなものを持っていたはずだけど、ナッパが栽培マンをこちらによこしたのだろうか? 

 

 「……いや、そうか。ナッパのやつが意識を取り戻して栽培マンだけをこちらに向かわせたのか。くくく、余計なお世話だと言いたいところだが、今回に限っては助かった。悟飯はともかく、カカロットの野郎はまだ動けそうだからな。戦力は多いほうがいい。」

 

 ラディッツもこちらと同じようなことを考えたのか、勝ち誇ったようにそう言ってくる。

 確かにこのままではだめだ、元々敗北濃厚だった戦局がより絶望的になってしまう。

 僕一人が死ぬならまだいい、だがこのままでは地球が滅んでしまう。

 さらにこの状況に畳みかけるように、栽培マンが「ギャー」と耳障りな雄たけびをあげ、こちらに飛び掛かかるべく、構えをとってきた。

 

 ラディッツはそれをニヤニヤとしながら見つめているだけだ。

 それに対し、僕は何もできない。

 

 ……ここで終わるのか?

 

 僕がそう思うと同時に栽培マンが飛び掛かった。

 

 

 

 

 

 僕ではなく、ラディッツに

 

 

 

 

 

 「なっ!? こ、こっちではない!! 敵はあっちだ!」

 

 栽培マンは鋭い爪でいきなりラディッツの喉元を掻き切らんとしたのだ。

 当然、ラディッツにとっても予想外だったようだが、ぎりぎりでそれを躱し、敵はあっちだと必死に栽培マンに訴えかけている。

 

 

 

 ……何が起きているんだ??

 

 目の前で起きたことが信じられなかった。僕が混乱している間も栽培マンはラディッツに追撃の手を緩めようとしない。

 

 前の世界では、栽培マンは僕たちの敵として立ちはだかったのだ。

 間違っても味方などではなかったはずだ。

 しかし、現に栽培マンは本来の敵であるはずのこちらを見向きもしていない。

 

 懸命に説得を続けるラディッツだが、その言葉は届いていないようで、ラディッツにひたすら攻撃を加え続ける栽培マン。

 

 「ど、どういうことだ……ナッパ以外の誰かが種を植え、栽培マンに命令したのか??」

 

 栽培マンの攻撃をかわし続けるラディッツは、そんなことをぶつぶつ言いながら、何かを考えているようだ。

 

 

 

 「……はぁ、はぁっ、くそっ、今の体力だとこいつを倒すのもしんどいというのに。」

 

 しばらく粘ったラディッツだったが、ついに栽培マンを説得するのを諦め、倒すプランに切り替えたようだ。

 栽培マンから距離をとり、臨戦態勢をとるラディッツ。

 先ほどのラディッツの言葉から考えると、栽培マンは種を植えた人の命令を聞くのだろうか? でも誰が……。

 しかしだ、もしこの状況を誰かがこちらが有利になってくれるようにしてくれたことだとしても、あの栽培マン1体では、ラディッツの相手が務まるとは思えない。

 ラディッツの体力を削ることはできるだろうが、たちまちのうちに栽培マンはやられてしまい、また状況は振り出しに戻るだろう。

 

 しかし、その時だった。

 

 「「ギャギャーー!!」」

 

 再び耳障りな叫びが別方向から聞こえてきた。

 急ぎ、声のしたほうに視線を向けると、そこにはさらに別の栽培マンが2体いた。

 新たに登場した二体の栽培マンも最初の栽培マン同様こちらを見もせず、ラディッツの方を睨み付けている、今にも飛び掛かりそうな雰囲気だ。

 

 「くっ!? まだいたのか!?」

 

 ラディッツは新たに登場した栽培マンが己に敵意を向けていることを確認し、本気で焦り始めた。

 その顔には大量の冷や汗が伝わっている。

 

 確かに今のラディッツの気を見ても栽培マン3体を相手にするのはしんどそうだ。

 ……これは、もしかして希望が出てきたのか?

 

 そして間もなく、栽培マンが示し合わしたように一斉にラディッツに飛び掛かった。

 

 突然三方向から攻撃を受けたラディッツは、2体の攻撃を躱わし、いなすことには成功するが、1体が繰り出した、蹴りをモロにくらった。

 

 「ぐっ……!? はぁっ、はあっ……さ、流石にまずい……はぁ。」

 

 その後もスタミナをほとんど使い果たし、防戦一方のラディッツに対し、体力万全な栽培マンは疲れる様子をみせることもなく、徐々にラディッツを追い詰めていく。

 誰の目から見てもラディッツが劣勢であることは疑いようもなかった。

 

 僕はそんな戦いを、状況が理解できないまま呆然と見つめていた。

 

 その時だった

 

 「……おい」

 「うわっ!?」

 

 突然、真後ろから声をかけられて思わず、ビクッと反応し、大声をあげてしまう。

 ラディッツたちの戦いに夢中になりすぎて、接近者に気が付かなかったらしい。

 

 「しっ、大声をだすんじゃにゃー。」

 

 顔を動かすことはできなかったが、声で分かった。ヤジロベーさんだ。

 そして気で分かったが、ヤジロベーさんのすぐそばに栽培マンがいるぞ……??

 

 「あ、あの……ヤジロベーさん。な、なぜ栽培マンを連れているんですか?」

 「ん? ああ、これか?? 俺の部下だ。」 

 

 ……ん? 部下? ……もしかして栽培マンの種を植えて、ラディッツを攻撃するように命令したのってヤジロベーさんだったのか?

 

「ちょいと、ハゲのサイヤ人に口を割らせてな。……ていうかおみゃー、なんでこいつらの名前を知っとるんだ??」

 

 ここで、ヤジロベーさんから痛いところを突かれた。そういえばこの世界では、僕は栽培マンをまだ知らないんだった。

 

 「まあいい、詳しい説明は後だ。こいつらのおかげで悟空の方はもう決着がついた、後はあいつだけだ。といっても、もう時間の問題だけどな。」

 

 そう言われて気付いたが、ベジータさんの気がほとんど消えかかっていた。

 完全に消えてはいないことから、おそらく気絶しているのだろう。

 まさか、こんな形で決着を迎えることになるなんて……。

 ちなみに父さんたちは、ベジータさんとかなり激しい戦いを繰り広げたようで、今は休息に努めているようだ。

 

 

 

 そしてその後も、ラディッツに反撃の機会が訪れることもなく、戦いは終着へと確実に向かっていった。

 

 「はぁっ、くそ……まさか栽培マン如きにぃっ……!」

 

 ラディッツの気はもはやほとんど残っておらず、その肉体は傷だらけで、フラフラの状態だ。対する栽培マンにはまだまだ余裕がある。

 

 「終わったな……。」

 

 ヤジロベーさんがつぶやいた言葉通りだ、誰の目から見ても勝敗は明らかだった。

 しかし、ラディッツはここで、突然キッと鋭い目つきで僕の方を睨んできたかと思うと、

 

 「孫悟飯っ!! これで終わりだと思うなよっ!!」

 

 どこにそんな大声を出せる元気があったのか、大地が震えるような怒りの咆哮に辺りにいた栽培マン、ヤジロベーさんが一瞬怯んだ隙にラディッツは自身の右手を高く掲げた。

 

 ……っ!?

 

 ラディッツが何をしようとしているかを瞬時に理解し、とっさの判断で目を閉じた。

 その次の瞬間、目を閉じていても分かるほどの光があたりにまき散らされるのが分かった、太陽拳だ。栽培マンとヤジロベーさんが、突然の閃光に悲鳴をあげる中、光が収まるとすぐに目を開き、状況の把握に移った。

 すると、そこにはどこからか取り出した小さなリモコンを操作しているラディッツの姿があった。

 ……確かあれは、宇宙船のリモコンだったか?

 ほどなくして一人用の宇宙船が現れた、栽培マンたちはまだ目が眩んでいるようだ。

 ラディッツはそのままこちらを振り返ることなく宇宙船に乗り込み、あっという間に宇宙の彼方に飛びだってしまった。

 

 

 

 こうしてサイヤ人達との戦いの最後は何とも意外な形をもって決着を迎えた。

 

 

 

 その後のことは記憶にない、どうも気を失ったらしい。

 目が覚めた後、説明を聞くと、ピッコロさん達は軽傷であり、父さんは全治2カ月、そして僕は全治3カ月の診断を受けた。(母さんに物凄く心配され、怒られたのは言うまでもない……まあ、主に父さんがだが。)

 ちなみに地球に取り残される形になったベジータさんと、ナッパも、治療を受けてもらっている。

 この二人には、今後仲間になるよう説得していくつもりだ。

 

 とにかく今回の戦いで己の反省点がたくさん見つかった。いかに自分の考えが甘かったのかもだ。

 今回、たまたま犠牲無く勝つことができたが、勝敗はどちらに転んでおかしくなかった。

 もうすぐで新たな仙豆ができるそうなので、傷が治り次第、修行を始める。

 父さんたちも含め、徹底的に実力を底上げするつもりだ。

 

 

 

 ~フリーザ船~

 

 「なんですって!? 戦闘力が数十万レベルの反応があったですって!?」

 「……は、はい。地球という星からの確かな反応とのことです。」

 

 現在、制圧している星の様子を見て上機嫌だった時から一転、激昂したフリーザを前に報告に来た部下もすっかり委縮してしまっている。

 

 「……それで? その戦闘力の正体は誰なのですか?」

 「は、それが、巨大な反応は二つ観測できており、一つはサイヤ人であるラディッツのものです。どうも大猿化していたようです。」

 「……ラディッツ、ですって? 確かベジータの周りでちょろちょろしていた者ですね。 大猿化していたとはいえ、カスみたいな戦闘力しかなかったはずですが……本当に間違いないのですね?」

 「はっ! 何度も検証しましたが間違いはありません。」

 「……ふむ、何があったか知りませんが相変わらず目に障る存在ですね、サイヤ人というのは……。で、もう一つの反応というのは?」

 

 フリーザは何かを考える様子を見せ、さらに確認を重ねてくる。

 

 「ベジータ達の会話から推察するに、どうも地球人とサイヤ人のハーフである、孫悟飯という者のようです。この者は一瞬ではありますが、戦闘力が60万近くまであがったことが確認されています、それも大猿化もせずにです……。」

 「またサイヤ人……ですか。しかも大猿化もせずに。孫悟飯……。」

 

 フリーザはそう言うと、顔を伏せ、そのままの状態で固まってしまった。

 突然の主の様子に対応に困る部下だったが、報告を続けることに決めた。

 

 「あの……、もう一つ報告することがあり、地球という星にドラゴンボールというなんでも願いを叶えてくれるものがあるようなのです。ベジータは、これで不死身の存在になろうとしたようです。」

 「何ですって!? ……くくく、決めました。やはりサイヤ人は滅ぼしてしまいましょう。今までは、コマとして良く働いていたので遊ばせていましたが、ここまで勝手に動かれたり、力をつけてしまっては、鬱陶しいことこの上ないですからねえ。」

 

 ここでフリーザは一息つき、言葉をつづけた。

 

 「なんでも願いを叶えてくれるドラゴンボール……素晴らしい。」

 

 つづく

 




というわけで、17話にしてようやくサイヤ人編終了です!

次回からフリーザ様との戦いです!





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第18話 ベジータvsフリーザ

たくさん感想ありがとうございます!




 ~ベジータたちが地球に襲来してから1カ月後~

 

 「くくく、ようやく到着しましたか……。この時を待っていましたよ!」

 

 宇宙船の窓から見える青く輝く地球を確認し、喜びを隠せないフリーザ。

 ドラゴンボールによって、もう少しで永遠の命が手に入るのだから当然の反応だろう。

 しかし、そんなフリーザとは対照的に険しい表情を浮かべるのは、美しい緑色の長い髪が特徴的であり、戦闘服とスカウターを身にまとうフリーザの側近、ザーボンである。

 

 「……フリーザ様。報告にあった孫悟飯という者には警戒をしたほうがよいかと。大猿化していない状態で戦闘力が60万近くということは、大猿化した際は、戦闘力は600万近くまで上昇するということになりますので。」

 「まったく、ザーボンさんは心配性ですねぇ。仮に戦闘力が600万だろうが私の敵ではありませんよ。……まあ、久しぶりに変身する必要はありますがね。」

 「フリーザ様の変身かぁ……前に一回見たことがあるけど、あの時のフリーザ様は半端なかったもんなぁ。」

 

 動じる様子のない主に、そう返事したのはザーボンと同じくフリーザの側近であるドドリアだ。

 

 「……まあ、そうだが。」

 

 バツが悪そうに返事をするザーボンも内心では自らの王であるフリーザが負けるとは微塵も思っていなかった。

 ザーボンが心配しているのは、孫悟飯とフリーザが戦う際に流れ弾が来て自分が危険な目に遭わないかを心配しているだけであった。

 

 

 

 そんなことを話していると、あっという間に宇宙船は地球に接近し、大気圏を抜け、間もなく地表に降り立った。

 

 「……ここが地球ですか。ふふふ、ここに何でも願いを叶えてくれるドラゴンボールがあるのですね。」

 

 宇宙船から降り、あたりを見渡すとそこは荒れ地に近く、殺風景な景色が広がっていたが、今のフリーザにはそれでさえも辺りが宝の地に見えた。

 

 「フリーザ様。どういたしますか? 戦闘力が高いものを順番に当たっていき、ドラゴンボールの情報を集めていきましょうか?」

 

 そう提案してくるザーボン、そしてドドリア、さらにその後ろに控える部下達がフリーザの指示を待ち、整列している姿を確認し、フリーザは手を顎に当て、少し考えてから

 

 「……ふむ、そうですね。まずは情報集めから「その必要はないっ!!」」

 

 !?

 

 突然の大声に全員がその声のしたほうに振り向く。

 

 「ベ、ベジータ!?」

 

 そこにいたのは、以前まで装着していたスカウターはなく、真新しい戦闘服に身を包み、敵意をむき出しにしているベジータだった。

 以前までフリーザに表面上だけは、敬意を示していたベジータの姿からは信じられない姿だった。

 突然のベジータの登場に驚く一同だったが、いち早く冷静さを取り戻したフリーザはゆっくりと口を開き、小ばかにしたように言葉を並べていく。

 

 「おやおやベジータさん。久しぶりですね。どこにいったのかと思っていましたが、地球にいたのですね。それにしても、しばらく見ないうちに随分と態度が大きくなったようですね?」

 「……ふんっ、貴様は未だにその気持ち悪い猫の皮を被っているんだな? フリーザ。」

 「……。」

 

 ベジータのかつての主従関係を無視した振る舞いにフリーザの額に青筋が浮かび、口元もピクピクと痙攣している。

 

 「ベジータ、貴様! フリーザ様になんて口のきき方だ! 敬意の示し方も忘れたのか、この猿め!」

 

 このままフリーザが怒っては、こっちにまでとばっちりが来る可能性があるため、慌てたように止めに入るザーボン。

 

 「けけけ、死んだなあいつ……。」

 

 ドドリアは、そんなベジータとフリーザの様子を面白そうに見物をしている。

 

 ベジータは自分に噛みついてきたザーボンにゆっくりと視線を移すと

 

 「……ザーボン、いいことを教えてやろうか? 俺はとある理由から、ここのところずっとムカついていてな、ストレスが溜まっているんだ。だからお前たちは今からこの俺様のストレス解消道具にしてやる。光栄に思うがいい。」

 

 突然、そんなことを口に出したベジータの言葉にシンと一瞬辺りが静寂に包まれる。

 そして

 

 「……くくく、はははっ! ベジータ貴様、地球人に負けてしまって本格的におかしくなったのか?? 相手の力量も測れんようになっているではないか。いや、スカウターがないから当然か、どうした? 一か月前の戦いで大事なスカウターが壊れてしまったのか?? くくく。」

 

 ベジータのあまりにも狂ったような言葉にザーボンをはじめ、周りのフリーザの部下達もつられて笑い出し、下品な笑い声があたりに響き渡る。

 先ほどまで怒りに包まれていたフリーザさえも、馬鹿にしたように笑い声を漏らしている。

 

 あたりが緊張感のない緩み切った空気が支配する中

 

 「はははhっ! ……」

 

 ボンッ!

 

 突如の破裂音

 同時にザーボンの高らかな笑い声が消失した。

 

 周りにいた者が何事かと視線を向けると、皆が一斉に目を見開き、言葉を失う。

 先ほどまでザーボンが立っていたすぐ近くに、いつの間にか移動したのかベジータが立っていた。

 しかし問題はそこではなくその隣

 そこには首から上を失ったザーボンのものと思われる胴体があったのだ。やがて支えを失ったザーボンの胴体がドサッと地に倒れた。

 ベジータは、そんなザーボンの亡骸をごみでも見るかのように一瞥し、そしてその視線を次は、ドドリアに向ける。

 何が起きたか分からないドドリアだったが、本能的に恐怖を感じ、先ほどまでの態度とは一変、怯えたようにたじろぎ

 

 「ひっ! ちょ、ちょっとm! ……」

 

 ボンッ!

 

 再びの破裂音の後、ザーボンと同様、首を失ったドドリアの亡骸が地に倒れる。

そしてそこには、またもやいつの間にか移動したベジータの姿があった。

 

 ここまで来ると、周りの者も何が起きたかをだんだん理解してくる。

 どうやったかは分からないが、ベジータの手によって自分達よりも遥かに高い戦闘力を誇るザーボンとドドリアが一瞬のうちに殺されたのだ、と。

 そこからは恐怖に叫ぶ者、逃げようとする者、様々な反応を示し、一気にあたりは騒がしくなる。

 

 ちなみにベジータがザーボンとドドリアをどうやって倒したのかだが、近づき顔を殴りつけただけという実にシンプルなことしか行っていない。

 ただあまりの速さに、常人ではベジータの姿をとらえることが出来なかったというのが真相だ。

 

 そんなザーボンとドドリアに積年の恨みを晴らしたベジータのはずだったが、その顔は怒りに包まれていた。

 

 「……俺はこんな雑魚どもの元で今までのうのうと生きてきたのか。……ちっ、逆にストレスが溜まってきやがった。」

 

 そう言うとベジータは今度はフリーザの部下たちに焦点を合わし、同時に右腕を前に突き出し、掌を正面に向けた。

 

 「……はっ!」

 

 気合の声と共に手のひらから気功波が放たれ、フリーザの部下達を一人も余す来なく飲み込んでいく。

 悲鳴もろともかき消した気功波の後には、残りカス一つない荒れ地が広がっているのみだった。

 

 「これで残りはお前だけだ……フリーザ。」

 

 突き出した腕を静かに下ろしながらそういうベジータに対しフリーザはと言うと、部下が殺されているのにも関わらず顔色一つ変えずにじっとベジータの様子を見ていた。

 しかしここに来てようやく口を開き

 

 「……ふん、見ない間に何があったのか知らないけれど随分力をつけたようだね? でもねぇ、ベジータ。僕からも一ついいことを教えてあげよう。半端な力を身に付けてしまった者は、かえって早く死ぬんだよ。」

 「はっ、その言葉、そっくりそのまま返してやる。」

 「口の減らない猿め……、前々から目障りだったんだ。なぶり殺しにしてくれる!」

 

 とうとうベジータの態度に怒りの緒が切れ、口調を荒々しく、怒りをあらわにし、じりじりとベジータに迫るフリーザ。

 

 「ようやく本性を現しやがったな。フリーザ、貴様はあっさり死んでくれるなよ?」

 「ほざけえええ!!!」

 

 怒りの咆哮と共に、地面が爆散するほどの勢いで蹴りつけ、目にも止まらぬ速度でベジータに迫り、顔面目掛けて拳を振るう。

 しかし、それをベジータは首をひねり難なく避けると、カウンターの要領でフリーザの腹部に思い切り己の拳をねじ込んだ。

 

 ドンッ!!!!

 

 「がっ!!??」

 

 一撃。 

 ベジータの放った、たったの一撃でフリーザは口から血を吐き、ヨロヨロと立ち続けることすら困難なほどのダメージを負ってしまう。

 フリーザ本人としても何が起きたか分からず、信じられないものを見る目でベジータに目を向ける。

 ちなみにスカウターに表示されている戦闘力は最初から1万ほどであり、一切変化していない。信じがたいことだが、おそらく攻撃するその瞬間のみ戦闘力を上げているのだろう。

 

「ま、まさか、孫悟飯以外にこの私にダメージを与えられる人間がいるとは……。」

 

 事前の情報で、孫悟飯だけは変身しなければ厳しい戦いになると考えていたが、まさかベジータ相手にダメージを負わされるとは思っていなかった。

そのため思わず漏らしたといった感じのセリフであったが、ベジータはこれにピクリと反応し、

 

 「孫……悟飯だと? ちっ、どいつもこいつも孫悟飯、孫悟飯と……。」

 

 今日一番の怒りに身を包むベジータは、八つ当たりだとばかりに気功波を打ち、フリーザに命中させる。

 この攻撃も見事に決まり、フリーザはさらにダメージを負い、身に付けていたスカウターも破壊されてしまう。

 

 「くっ、こ、このままではまずい第二形態……いや……。」

 

 ベジータのあまりの戦闘力に変身することを決意するフリーザだったが、果たして第二形態で対抗できるだろうかとの疑惑がある。

 それほど今のベジータの実力は底が見えず、驚異的な力を隠し持っていることが何となく感じ取れた。

 ……やはりここは、第3形態に。

 

 いや……。

 

 「ふん、どうした? それで終わりか? 知っているぞ、お前は変身することができる、と。まあ、変身をしたところで、何が変わるというわけでもないがな。」

 

 小馬鹿にしたようにそう言ってくるベジータに対し、フリーザはギロリと圧を感じさせる視線を向け、決意する。

 

 「変身のことを知っていたか! いいだろう、大サービスだ! 俺の最強の姿でお前を宇宙の塵にしてくれるっ!! はああっ!!」

 

 そう叫ぶや否や、フリーザは怪しく輝く光に包まれ、どんどんと気が膨れ上がっていく。

 その戦闘力の上昇具合に思わずベジータも、ほう、と感心したようにフリーザを見つめる。

 

 そして光が徐々に収まっていき、やがてすべての光が消え、後には姿を変えたフリーザがいた。

 見た目の大きさこそ先ほどまでの姿と大差なかったが、内に秘める気の絶対量が桁違いのものになっていた。

 

 「……中々やるじゃないか? 正直ここまで戦闘力を上げてくるとは思わなかったぞ?」

 

 しかし、戦闘力を何十倍以上にも上げたフリーザを見てもベジータの余裕の態度が崩れることはない。

 

 「はっ、強がりも大概にしろよ? この姿の僕に敵う者なんてこの世に存在するはずがないんだからね。」

 

 対するフリーザも絶対的な自信からか、余裕の態度を崩さない。

 そんなフリーザを見て、ベジータはにやりと口元を歪めると、

 

 「……フリーザ、お前も変身したんだ。今度はこっちが変身する番だ。」

 「何? まさか大猿化のことを言っているのか? それで勝てると思っているのならとんだ大間抜けだね。」

 「……違うな、くくく、ようやく面白くなってきた。楽しみだぜ、お前がどんな反応を見せるのかがな。」

 「???」

 

 ベジータの言っている意味が分からず、不思議そうな表情を浮かべるフリーザを前に、ベジータは、全身の気を集中させ、解放させる

 

 「はああああ!!!」

 

 「な、なにっ!!!???」

 

 驚愕の表情を浮かべるフリーザの目に映るのは、金色の髪、緑色の瞳、そして光り輝く金色のオーラを全身に纏ったベジータの姿だった。

 

 つづく

 



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第19話 ベジータvsフリーザ2

高評価頂いた方ありがとうございます!

前話でも沢山感想頂きました、ありがとうございます!


 超サイヤ人と化したベジータから放たれる膨大な気が、大地を、大気をビリビリと震わせ、フリーザを飲み込んでいく。

 ベジータの戦闘力が爆発的に上昇したことは誰の目から見ても明らかだった。

 

 「な、なんなんだ、その姿は……?」

 

 目の前で起きたことが信じられなかった。

 サイヤ人は、大猿にしか変身しないはずだ。

 しかし、目の前のベジータの姿はまるで……

 

 「……はっ、とっくにご存じなんだろう? 貴様がずっと恐れていた伝説の超サイヤ人ってやつだ。」

 

 ベジータの言葉によって、確信に変わる。

 超サイヤ人……、金色に変身するサイヤ人、伝説は本当だったのか……。 

 

 「……なるほど、その姿を見せられては信じざるを得ないようだな。しかしこの一か月の間に何があった?」

 「一か月か。そういえばこっちではまだ一か月しか経っていないんだったな。」

 「何? どういうことだ?」

 「さあな? 貴様で勝手に想像でもしてるんだな。」

 「ちっ……。」

 

 ベジータの挑発するような言葉に怒りがこみ上げてくる。

 ……何という屈辱、何という失態だ!?

 超サイヤ人という存在は知っていた、警戒しなくてはいけないということも。

 こんなことならば惑星ベジータを破壊したときに、ベジータも殺しておけば……。

 

 「くくく、動揺しているようだな? それもそうか、恐れていた超サイヤ人を目の前にしてはな……。」

 「……あまり調子に乗るなよ? それに俺は超サイヤ人など恐れなどいないし、お前が超サイヤ人になったことが俺に勝てる理由にはなりえないぞ!」

 「ほう? そうか? ならかかってこい、あまり俺を失望させるなよ、フリーザ様?」

 

 「舐めるなああああ!!!」

 

 フリーザの怒号とともに、再び戦闘が始まる。

 

 

 

 「ひゃあああ!!!」

 

 フリーザの小柄な肉体から繰り出されているとは思えないほどの力強く素早い攻撃がベジータの肉体にヒットするたびに、衝撃音があたりに響き渡る。

 ベジータは反撃する間もなく、されるがままにフリーザの攻撃をその身に受け続けていく。

 

 「はああっ!!」

 

 フリーザの大きめに振りかぶった腕から繰り出された強烈な一撃をモロにくらったベジータは、そのまま1キロ以上離れた岩山まで直線上に突っ込んでいく。

 

 「これをくらって、この星もろとも消し飛べえええ!!!」

 

 フリーザはそう叫び、両腕を上方に伸ばし、手のひらを天にかざす。

 力を集中させると恒星と見間違うほどの眩い光球が出現し、力を込め続けると、その大きさは数倍、数十倍、そしてあっという間に数百倍以上の大きさにまで膨張する。 圧倒的存在感を示すそれはまさにもう一つの太陽のようだ。

 フリーザはその出来上がった莫大なエネルギー玉を何の躊躇いもなく、ベジータに投げつける。

 エネルギー玉がベジータのいる瓦解した岩山に真っすぐ突き進み、間もなく直撃するという瞬間だった。

 

 

 

 ズドオオオオオオン!!!

 

 

 

突然の地を揺るがすような衝撃音、それと同時にエネルギー玉の軌道が真上に変わり、そのまま上空に突き進んでいく。

 

 「な、なにっ!!??」

 

 あらぬ方向に飛んでいった自身が作り出したエネルギー玉を驚愕の表情を浮かべなが見つめる。

 ……な、何がおきた!?

 そして視線を下に向けると

 

  「なっ、ベジータ、き、貴様!!」

 

 そこには、まるで何かを蹴りあげたかのように片足を真っすぐに上げた姿勢のベジータがいたのだ。

 

 ま、まさかあれを蹴り上げたとでも言うのか!!??

 

 先ほどの攻撃は、巨大な星をも一瞬で壊滅させるほどの強力なエネルギーが込められていた。それを、ベジータは……。

 信じられないようなことに一瞬目の前が真っ白になってしまうような感覚を覚える。

 だが問題がそこではないことにすぐに気付いてしまう。

 

 ば、馬鹿な……、べ、ベジータの奴、ほとんど無傷……だと。

 

 何度も攻撃を加えてきたはずのベジータの肉体には傷一つ入っていないのだ。

 現状、フリーザはフルパワーの50%の状態で戦っているが、それでもこの世に自分に敵う者などいるはずがない、そういった認識を持っていたのだ。

 いや、実際にこれまでも自らの一族と一部の特殊な存在を除けば、自分に敵う者などいなかった。

 だが、目の前の光景はそんなフリーザにとっての常識を否定している。まさか先ほどのこちらの攻撃もわざと受けていただけとでもいうのか?

 

 ……くっ、こ、こんなはずでは。

 そう思った瞬間だった。

 突如、離れた位置にいたベジータが消えた。

 

 「ど、どこにいったっ!?」

 

 周りをキョロキョロと見渡し、ベジータの姿を捕えようとするが見つからない。

 すると背後から、

 

 「こっちだ馬鹿。」

 「っ!?」

 

 バッと後ろを振り返ると、そこには腕を組んで余裕の表情を浮かべるベジータの姿があった。

 い、いつの間に。まったく見えなかった……。

 

 だんだんとベジータの、超サイヤ人の実力が本物だと理解してきて、冷や汗が吹きだしてくる。

 そしてそんなフリーザに追い打ちをかけるかのように

 

 「くく、はっはっはっ! これが宇宙の帝王フリーザ様の実力か! 拍子抜けもいいところだ!」

 「な、なに……!」

 「遠慮しなくもいいんだぞ? そんな優しい攻撃ではこのベジータ様には傷一つつけられないぞ?」

 「こ、この俺の攻撃が優しい……だと?」

 「生ぬるいと言い換えてやってもいいぞ?」

 「こ、この、調子にのるn、がっ、はっ!!??」

  

 フリーザがしゃべり切る前に、ベジータはフリーザの胴体に向かって強烈な蹴りをお見舞いする。あまりのダメージに身動きがとれないでいるところに再び繰り出された蹴りによって、たまらず吹っ飛ばされてしまう。

 しかしベジータの追撃は止まらない。フリーザを吹っ飛ばす度に先回りし、次々に攻撃を決めていく。あまりの速さにフリーザも対応することができず一方的にダメージを負っていく。

 ベジータはとどめとばかりに、力を込めた気功波を放ち、直撃を受けたフリーザは地に衝突し、小さなクレータ―を形成する。

 

 「ぐ、くぅ……こ、この!!」

 

 ヨロヨロと立ち上がり、ベジータがいる上空をキッと睨みつける。

 ベジータは、まだこちらに敵意があることに満足したのか、ニヤッと笑みを見せると追撃せんとこちらに向かって突き進んでくる。

 フリーザは目を閉じ、一瞬の間に精神を極限までに集中させ、目をカッと見開き、最大出力の金縛りの術をかけにいく。

 

 「む? これは金縛りか?」

 

 術は見事に成功し、ベジータの動きを止めることに成功する。

 術を継続させることに意識を集中させながらも、フリーザは笑みを浮かべ、ベジータに近づいていく。

 

 「ふっふっふっ、油断したねえ。俺の金縛りは強力だろう?」

 「そういえばお前は妙な超能力も使えるんだったな。だが、それがどうした?」

 「なに?」

 「……ふんっ!」

 「……なっ!?」

 

 ベジータが、力を込めるとフリーザがかけた全力の金縛りがいとも簡単に解けてしまう。

 これにはフリーザも驚きを隠せない。こうなってくると本格的にまずい。

 

 まさか今の俺とベジータにここまでの実力差があるとは。

 これはフルパワーで叩き潰す必要があるか、しかしフルパワーになるには時間がかかってしまう……。

 

 「どうした? もう打つ手はなしか? もっと俺を楽しませたらどうだ?」

 「く……、言っておくが俺はまだフルパワーの半分ほどの力しか出していないぞ? フルパワーを出しさえすればお前など敵ではない。」

 「なに? くく、そうか。てっきり全力だと思っていたがな。だとしたら早く全力できたらどうだ?この優しいベジータ様はお前が全力を出すまで待ってやるぞ?」

 

 ここで、ベジータから癪ではあるもののこちらが全力を出すまで待ってくれるとの提案がきた。

 

 前々から、このベジータの相手を馬鹿にし、油断することは欠点だと思っていたが、今は精々利用させてもらうぞ。

 

 「ふふふ、後悔するなよ? はあああ!!!」

 

 フリーザが力を込めると、体内の気がどんどん膨れ上がっていく。

 さらに、気の上昇に合わせて全身が大きく膨れ上がっていき、より攻撃的な体格に変わっていく。

 

 「ふふ、いいぞ。どうやら全力でなかったというのは嘘ではなかったようだな。」

 

 ベジータはそんなフリーザを満足そうに見つめ、静かにフリーザが全力を出し切るまで待っている。

 

 

 

 「待たせたな!! これがお望みのフルパワーだああ!!!」

 

 とうとう、偽りなくフルパワーを出したフリーザ。

 宇宙の帝王を名乗るに相応しい充実した気で満ち溢れるその姿は、通常の者なら近づくことすらできないだろう。

 しかし、そんなフリーザを前に超サイヤ人となったベジータはむしろ少し期待感に満ちた表情を浮かべている。

 

 「いくぞおお!!!」

 

 フリーザはベジータに迫り、おおきく振りかぶった強烈な拳による一撃をベジータの顔面に食らわせる。確かなダメージの感触があった。

 ただのパンチにより、ベジータの背後にあった地形が衝撃波によってめくれ上がる中、その直撃をくらったベジータはというと

 

 「……確かに、かなりのパワーだ。だが、しょせんはこの程度か。」

 

 しかし、ベジータには大したダメージは入っていなかった。

 ベジータは、すぐさまなんでもなかったように、こちらに向き直り、口の中でも切ったのか口から出る血を親指で拭いながら冷たい笑みを浮かべ、こちらを見つめてきた。

 

 フリーザはとうとう理解した。

 

 

 

 こいつには敵わないと

 

 

 

 戦い方を変えれば勝てる、作戦を練れば勝てる、そんな次元の話でないことに気付いてしまう。

 やはり伝説にあったように超サイヤ人には、もっと警戒し、芽を摘んでおくべきだったのだと。

 

 

 

 ……だが、勝敗は別だぞ?

 

 

 

 「……なるほど、どうやら俺はどうやってもお前には勝てないらしいな。」

 「ほう? ようやく気付いたか。中々潔いじゃないか。だが、優しいこのベジータ様は苦しまないようにお前を一瞬で殺してやる。感謝するんだな。」

 「ふざけるなよ……。お前に殺されるくらいなら俺は自らの死を選ぶ。」

 「くくく、そうか。好きにすればいいさ。この俺が見届けてやろう。」

 

 ベジータの馬鹿にしたような言葉に、気にもかけずフリーザは、目の前に意識を集中させ、そこに先ほど放ったエネルギー玉よりもさらに高出力のエネルギーを作り出していく。

 やがてそれは、黒く輝くバスケットボール程度の大きさのエネルギー玉に出来上がった。

 フリーザは自らが作り出したそれをじっと見つめた後、ベジータに視線を移し、口を開いた。

 

 「……最後に聞かせろ。お前はどうやってこの1カ月の間に力を手に入れた?」

 「なんだ? 最後のお願いというやつか? ……まあいいだろう。この世には時間の流れが異なる空間があり、俺はそこで1年間修業したんだ。」

 「……なに? 修行だと? そんなものでこれだけの力を手に入れたというのか??」

 「まあ、お前は修行などしたことがないから分からんだろうがな。さあ、もうこれ以上お前の話に付き合うつもりはない。とっとと死にやがれ!」

 「……ふん、分かったよ。これで終わりだ。」

 

 そう言ってフリーザは観念したかのようにゆっくりと腕を上に振りかぶり、エネルギー玉を上に掲げ、後は自分に振り下ろすだけという態勢になった。

 

 「はっはっはっ!! 馬鹿め!! 死ぬのは貴様だ!! 宇宙空間で生きることのできないお前はここで死ぬんだ!!」

 

 そう勝ち誇ったように叫んだフリーザは、そのまま腕を自分にではなく、地球に振り下ろした。

 

 「死ねえええ!!! ……ん?」

 

 しかし、地球に振り下ろしたはずのエネルギー玉はいつまでたっても現れない。

 

 ……なんだ? なぜだ? 何が起きた??

 

 「……フリーザ、お前の考えることなんてとっくにお見通しなんだよ。」

 

 そう言ったベジータに慌てて視線を戻すと、ベジータの片腕が何やらエネルギーに包まれているのが分かった。その形状はまるで刃のようだ。

 

 ……刃? まさか????

 

 視線をおそるおそるゆっくりとベジータから自分の腕に、いや、腕があるはずの場所に移す。だが、そこには何もなかった。腕は肩付近で、綺麗な切断面ができており、切られていた。

 自身が作り出したエネルギー玉はゆくあてを失い、空中に浮いていた。

 

 「お、俺の腕があああああ!!!???」

 

 事実に気付いた瞬間、激痛が襲い掛かってきた。

 その痛みのあまり叫ぶ中でベジータの凍てつくような声が真っすぐにこちらに聞こえてきた。

 

 「みっともないお前の姿を見れて満足だったぜ。さあこれで終わりだ!」

 

 そう言うと、今度はベジータが片腕を前に突き出し、掌をこちらに向け、力を込めエネルギーを集中させてくる。

 

 「ま、待ってくれ!! お、俺が悪かった!! なんでもするから、ゆるしてくr」

 

 フリーザがそう泣き叫び懇願をするも、それをベジータの無慈悲な叫びがかき消した。

 

 「ビッグバン・アタック!!!」

 

 ベジータの掌から繰り出された強烈な一撃が、長い時間宇宙の帝王の座に君臨していたフリーザを消滅させた。

 

 つづく

 




というわけで、フリーザ編終わっていまいました(はやい)

次話からは、サイヤ人編が終わってから何が起きたのかについて色々明かしていこうと思います。

高評価、感想お待ちしております!


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