ありふれたプロローグ集 (┠゛ら猫)
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南雲さんちのMどらごん


タグ:南雲ハジメ、ティオ・クラルス、


 ごくり、と。

 

 夜の公園で、そんな音が鳴った。

 

 疑問に思うはずもない。

 この音は、自分が唾を飲み込んだ音だからだ。

 それほどまでに緊張しているのか、と。こんな状況にあっても、一人内心苦笑する。

 

 

 だって、こんなのありえないだろう?

 

 

 夜の公園に一人、そう思う。

 今日は遅くなってしまったことに、少しだけ後悔する。

 もう、夜8時を回っていた。中学2年生の初期だからといえど、委員会やら何やらでやることが多かったのだ。

 いつもそうだったか、もう陽は落ちて、電灯に照らされた仄かな灯りが残るだけだった。一人走る帰り道、近道だからと公園を通り抜けようとしたのが悪かったのだろうか。

 

 

 だったら、()()はどうすればいい?

 

 

 春の夜、とある少年はとある幻想(ゆめ)に出会った。

 それは、偶然か、必然か。それはわからないけれど。

 それは、後に少年は奇跡だったと、そう思った。

 

 少年────南雲ハジメの、人生の転機。

 夜の公園で出会った、そんなちっぽけな、ありえたかもしれない、そんなお話。

 

 

 それが、一人の少年と、■■の姫の、最初の出会いだった。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

「これでHRは終わりだ。さっさと帰れよー」

 

 そんな先生の挨拶とともに、チャイムが鳴る。これで、今日の学校は終わった。

 

 ふう、と息を吐いて、南雲ハジメは、さっさと帰りの支度を始める。

 中学三年生になって、早一週間、もう中学生としての生活にも慣れ、ちょっとだけならと校則を破ることに躊躇いがなくなる生徒がちらほら。

 帰りにゲームセンターによるだの、人気のカフェに行くだの、そんな会話が聞こえてくる。

 受験を控えている身ではあるものの、そんな実感は未だない、というのが正直なところ。南雲ハジメも校則は破るためにあるッ!! とまではいかないが、ちょっとだけ本屋とかに寄ったりはするのだ。

 TSU○AYAとか、とら○あなとか、まあ、そういうものだ。

 

 さっさと内ばきから外履きへ履き替えて、帰り道を急ぐ。

 そう急いで歩くのは、ちょっとした理由があった。

 

「早くいかないと売り切れる……」

 

 そう、今日は欲しかった本の発売日。それも、超人気イラストレーターの画集。この近辺にある本屋では、画集は売りはするものの、入荷数が微妙なのだ。だからこそ、少しだけ急がねばならない。

 ハジメは、これだけは逃すわけにはいかないと、朝から気合いを入れてきたのだ。

 

 まあ、急ぐのには他の理由がないわけではないのだが。

 

「そういえば……今日は父さんと母さんは帰ってこれないんだっけ?」

 

 早足で歩く最中、そんなことを思い出した。

 母は漫画家で、父はゲーム会社社長。二人とも締め切りや開発でかなり忙しい身。たまにハジメも手伝ったりはするのだが、やはり、帰ってこれない日は当然あるのだ。

 

「じゃあ……今日は()()か……」

 

 そう、独り言をつぶやく。

 その目には、少しだけ期待が芽生えているのにハジメは気づかず、その歩を進める。

 

「……できるだけ早めに帰るか」

 

 そうまたつぶやいて、本屋の道へと駆け足でかけて行った。

 

 

 

 

 

「よし、これで全部かな」

 

 そして一刻ほど。

 その手には、両手にぶら下げられたビニール袋を持ったハジメの姿があった。最初は画集だけだったはずが、今や両手にぱんぱんにぶら下げられたビニール袋だけでお察しである。

 オタクの悲しいサガなのか、面白そうなものが目につくと、ついつい手を伸ばして買ってしまう。そのせいで財布が少しだけ寂しくなったけれど、後悔はしない。むしろ、幸福感が優っている。

 

 言葉にできぬ満足感を胸に抱いて、意気揚々と帰り道を歩く。

 

 

 そして、二十分ほどで家に着き、その扉を開け──ようとして、鍵がかかっていることに気づいた。

 

「ん? 出かけてるのかな?」

 

 いつもなら、鍵は開けっぱなしにしてあったはずなのに、と。ハジメは訝しむ。

 

 いつもなら()()()()()人物がいるから、だいたい鍵は開けっぱなしにしてあるのだ。不用心と思うかもしれないが、むしろ、やってきた下手人の方が可哀想に思う。

 

 

 だって、彼女は文字通り()()()なのだから。

 

 

 鍵をひねり、中へ入る。

 そこには当然、誰もいない。だが、ハジメは違和感に気づく。

 

「あれ、靴がある……?」

 

 彼女の靴があることに気づき、首をかしげる。ならば、なぜ?

 

 そういう思いとともに、自分の部屋へと直行する。

 

 まあ、なんかあるんだろうと、楽観的に考えて、自室へ急ぐ。

 もう、待っていられない。今から漫画も画集も読み尽くして、徹夜する気満々だった。()()()何か言うかもしれないが、それはそれとして、ハジメは己の意思に素直に、忠実に、自室の扉を開け────……

 

 

『お、おぉ……こ、こんな体勢があるのかの? こ、これは……』

「…………」

 

 

 ようとしたところで、その手を止める。自分の口から何か白いものが出て行く感覚を覚えた。明日にしようと、眩む頭を抑えながら、リビングに向か──

 

『なっ!? ハジメはこんな、こんなものをこんなに……!? 破廉恥な……』

「ってそれ僕のじゃないから!? それは父さんのだろ!?……っていうかなんでそこにいるんだよ!」

「あふんっ!」

 

 さすがに自分かど変態にされることには堪えるのか、ハジメは漫画が詰まった袋を中の人物に投げつけた。

 その中にいた彼女は、「頭がぁ、頭がぁ〜痛いのじゃ〜」と、頭を押さえて、のたうちまわる。

 

()()()! 人の部屋に入り込んで何勝手に漁ってるんだよ! というか何してんのさ!」

「……ぐぅ、すまん。掃除中だったんじゃが、ニホンゴを早く覚えようかと思うての。資料を色々と調べてみたんじゃが……このイロマンゴはなかなか……」

「イロマンゴってなんだ! なんでそこだけ変なふうに覚えるんだよティオ! っていうか勉強し始めて数ヶ月で日本語ほぼマスターしたくせにこれ以上何を調べようっていうんだよ! 実はそれ探したかっただけだろ!? 鍵までかけて!」

「…………いや、その、な? ほら……こういう破廉恥なものこそ文化を覚えるに最適じゃと思うての……」

 

 苦しい言い訳を述べ、視線を必死に明後日の方向へ飛ばすティオに、ハジメは額を抑える。

 つまりは、鍵をかけて足止めしてバレないうちに、ということだった。ハジメが鍵を持っているのに、である。ハジメは呆れ混じりに思う。

 

 こんなのが()()()()()()()()()()()()とか、世も末だな、と。

 

「は、ハジメよ。風呂の準備はできておる。先に入っておいてくれんかの?」

 

 露骨に話を逸らそうとするティオにまた息を吐いて、まあいっかと苦笑する。

 

「わかったよ、ティオ。だけどそれ……」

「わ、わかっておる」

 

 ティオは許される空気に安堵した様子で、緊張を緩める。そんなティオにいつものように笑って、ハジメは早速風呂場に向かう。

 当然、スマホは持っていく。

 だって、この前置きっ放しにしておいたらロック解除に何回も失敗してしまったせいで面倒くさいことになってたという苦い経験があったからだ。その下手人は当然説教した。未だ恨んでいるのは忘れていない。その下手人はとあるドラゴンだとは言っておこう。

 

「ああ、忘れておった」

「ん?」

 

 そう言い、ティオは笑って。

 

 

「おかえりなさい、じゃ。ハジメ」

「……ただいま、ティオ」

 

 

 

 

 

 

 

 これが、いつもの家主の息子と居候の……

 ────否、一人の少年(ハジメ)と、竜人の姫(ティオ)の日常だった。

 

 しかし、それが運命なのか、神とやらのイタズラなのか。この二人の関係に、変化がもたらされることになる。

 

 

 その運命の日まで────あと、2年。

 



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“■■■■た■■”で世界■■

タグ:オリ主、ボーイズラブ、神様転生、性転換、タイムリープ


 ああ、クソッタレ。

 

 

 倒れ伏したまま、つばを吐いた。

 

 それと同時、煙のにおいに咳き込んだ。喉に痛みが走って、水っぽい音がした。

 薄らと目を開ければ、小さな赤い水たまりができていた。どうやら、喀血したらしい。そう今にも眠ってしまいそうな目で捉えて、ゆっくり、ゆっくりと身体を起こした。

 

「ああ」

 

 自分の声を久しく聞いていない気がして、戯れに声を出してみる。──その声はもう、掠れ果てて、嗄れていた。

 気だるいままに視線を巡らせれば、見渡せる景色はもう、灰色ばかりで。かつてそこにあった、荘厳な雰囲気を纏う神殿なんてものはもう見る影もなかった。

 

 頭が痛む。身体がダルい。腕も折れた。もう、寝てしまおう。

 そんな自分が現われ出でては、折れた腕を握り込んで抑え込んだ。

 

 生きている、人は……?

 

 ふらりと痛む身体を酷使して歩き出した。

 

 一歩踏み出す。

 針を刺されるような痛みが走る。

 二歩踏み出す。

 痛みに涙がこぼれた。

 三歩踏み出す。

 膝が崩れ落ちかけた。

 四歩踏み出す。

 とうとう、膝から崩れ落ちた。

 

 ぐしゃり。そんな音を立てて崩れた体は、もはや痛くはなかった。どうやらもう、“痛み”なんていう上等な感覚はなくなったらしい。

 

「は、はは」

 

 気づけば、笑い声が漏れていた。

 

 どうして、こんなことになったのだろう。

 

 “繧上◆縺”はただ、()と生きたかっただけなのに。

 

 絶望にくれ、腕を伸ばしたその先。

 

 目を、疑った。

 

「────ぁ」

 

 ()が、いた。

 

 よく、自分の作ったものを楽しげに話していた、彼が。

 

 信じたくなかった。

 

 

 ────彼がもう、死んでいるなんて。

 

 

「あ、あああああうあぉああッ!!」

 

 どうやら、喉は完全に壊れてしまったらしい。血の味がする。

 

 それでも、口から漏れ出れるのは叫びばかりで。このどうしようもない慟哭だけだった。

 

 その瞬間、世界が割れた。

 光が差して、崩れた私を照らし出した。

 だけどそれは、希望の光なんかじゃない。それは、神をも射殺すような眼光だった。

 

 崩れた神殿を吹き飛ばし、降り立つ竜の群れを睨む。だがそれは、なんの牽制にもなりはしない。

 

 

「ああ──」

 

 

 ──また、失敗した。

 

 

 膨大な熱が竜の口に集まったのを視認して、光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

コ■ニューし

 

はい”   “縺ッ縺

 

 

 

 

 ────、

 

 

 

 

 →はい

 

 

 

 ──────、

 

 

 ──、

 

 

 ……今度こそ、助けるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「────か、輪花」

 

 そんな声とともに、私の意識は浮上する。どうやらもうほとんどの人が登校してしまったらしく、教室の喧騒がうるさい。

 いやだ、まだ起きたくない。寝るんだ。寝させてください。だから雫、起こさないでくれ。後生だ。「頼むから……」

 

「漏れてるわよ、輪花。というかあなた随分余裕ね。いい度胸してるわ、まったく」

 

 ぺしんと頭を叩かれて、完全に意識が覚醒した。くそう、もっと寝ていたいのに。そんなことも許してくれないのか。雫めぇ……

 渋々と、身体を起こした。せっかくいい気分で寝れると思ってたのに、なんてことをしてくれるんだ。

 そんな思いを込めて雫をジトッとした目で睨んでみる。ああ、やめて。ぺしぺしするのはやめて。

 

「そんな目で見るから悪いのよ。というかなんで誰よりも早く学校に来て寝てるのよ。わざわざ学校に来て寝る意味はあるの?」

「わかってないな雫。朝のヒンヤリとした空気がいいんだ。誰もいない静謐な空間でそんな空気に包まれてみろ。雫も一瞬で夢の世界に飛び立てるぞ。さあ、雫も──」

「こら、変な勧誘しない。あなたのこだわりはわかったから」

 

 呆れたように、雫は笑う。というか実際呆れられた。つまりは苦笑である。やはりダメか、この優等生め。シスターズに雫の写真ばらまくぞ──

 

「痛い痛い痛いっ! ギブッ、ギブですお姉様っ! アイアンクローはやめて、やめてぇっ!」

「誰がお姉様よ。それよりも変なこと考えたわよね? どうせあなたのことだからあの子たちに私の写真ばらまくつもりでしょう」

「ギックゥ!?」

「図星ね」

「すいませんすいません! 謝る、謝るから! だからそろそろ放してください顔がスーパー痛いです!」

 

 そういうと、雫はぱっと顔を放してくれた。顔変形してないよな。ペタペタと思わず顔を触ってみる。よかった、何もない。女の顔に何をするか雫め。

 

「握力で顔が変形するわけないでしょ」

「さらっと心読まないでください。バスターゴ……なんでもないです」

「そう、ならいいわ。バレバレだけど」

 

 再び変なことを言おうとしたら手を限界まで開きだした雫に全力で謝罪した。私は一般人なのだ。雫に敵うわけがなかった。

 

「それで、なんで私を起こしたんだ? ホームルーム前に私を起こす必要があったか?」

「ああ、そうね。とりあえずホームルームを寝て過ごそうとするあなたに問いただしたいことはあるけれど、置いておくわ。それよりも輪花に手伝ってほしいことがあって」

「おっと失言した。それで、手伝ってほしいことって……あ」

 

 雫の手にそうように視線をやればそこには、雫と同レベルの美少女──香織がいて、香織が話しかけている人を見て、胸が高鳴った。

 

「……ああ、またか。ハジメめ」

 

 そう言いながら、髪型を整えた。さっきまで寝ていたせいか、髪が変なふうになっている。くそ、ハジメに変に思われたらどうすんだ。

 

「……本当に、輪花も彼が好きよね」

「べ、別にぃ? そんなこと思ってないけどぉ?」

「貴女もう少し感情をコントロールしなさい。バレッバレよ」

 

 ぐぅ。やはり雫には敵わない。だがそれはそれ。これはこれだ。仕方がない、どうせ香織がいるならあいつらも来るだろう。私が手助けしなければ。私が、な。

 

「行くぞ、雫。ホームルームまであと五分。被害を最小限に抑えるぞ」

「承知よ」

 

 微笑ましそうに見る雫を見ないふりをして、私は席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『“ファクター01”の達成が確認されました。それに伴い、これより世界線“トータス”とのリンクを開始します』

 

『対象“■■■■”の制限を解除します』

 

『“ファイル”が実装されました。“ファイル1”作成及び更新を開始します』

 

『“ファイル1”作成終了まであと十秒──完了しました』

 

『世界線“トータス”へのリンク完了まで、あと三秒──完了しました』

 

『これより、対象“■■■■”による“ファクター02”達成と同時に、対象他、23名の“トータス”への転送を予定通り開始します』

 

『それに伴い、対象“■■■■”の記録を解放します。ご留意ください』

 

 

『────、』

 

 

『──……、』

 

 

『──始めよう、My fair lady?』

 




・偉杜輪花
ts転生者。苗字でてこなかったなぁ…

一人称だと主人公のフルネームを出しにくいですね。

名前の由来は『転生の花弁』より。名前は伏せます。私はニ○ートンが好きです。


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トータスに『白鯨』をいれてみる

タグ:オリ主、r-15、クロスオーバー、文豪ストレイドッグス、Re:ゼロから始まる異世界生活、白鯨


 

 奇妙な光景があった。

 何百人もの獣の耳や長い耳を持った人々──亜人が、揃って自分の頬をつねったり、張り手をしたり、そこから見える空の彼方へ遠い目を向けたりしている、そんな光景。

 それは当然のことだろう。

 現実逃避気味の彼らの耳には轟々と唸る風が吹き、その地平線には雲海が、そしてその狭間に見える地上が見え隠れしていたのだから。

 

 ──飛行艇 フェルニル

 

 その空を翔ける飛行艇のゴンドラに、彼らは乗っていた。

 飛行艇は見上げるほどに大きく、空を支配する鳥よりも悠然と空を突き進んでいた。

 

 そも、亜人たちが驚くのも仕方がないことだ。この世界に、空を飛ぶ鉄塊などなかったのだから。

 

 何を隠そう、飛行艇フェルニルは、異世界からやってきた一人の少年が創り出したものだったからである。

 この世界には持ち得ない技術を用いこの飛行艇(空飛ぶ鉄塊)を作り出したその少年は、紆余曲折あり、同郷の者より最強と言われるようになったのだが……それはまた、語られることであろう。

 そんな同郷の知識を持ってしてでもなし得ることは難しいものを成し遂げたその少年────南雲ハジメは、今────

 

 

 「あ〜〜〜」

 

 

 ────ものすごく、ダラけていた。

 

 それも、両手には金糸のような髪を持ち、紅玉のような美少女──ユエと、うさぎの耳を持ち青みがかった白髪に、豊満な体を持ち、頭のうさ耳が存在感を示す少女──シア。そしてその後ろには、銀髪碧眼に儚げな顔を持った美少女──香織を侍らせて。床に転がる色気を放つ女性──ティオを無視して。

 まるで休日の年を食ったおじさんのように、ソファーに腰掛け全体重を預け、見るからに「おれ、ダラけてます」というように、ダラけていた。

 その実、この飛行艇フェルニルは少年一人で動かしている。それ故に集中力が必要なのである。飛行艇はそれなりの運搬能力を持つものの、それに比例して魔力消費量や操縦難度が跳ね上がるので、仕方ないのだが。

 

 「おいおい、皇帝を前に随分な態度だな。南雲ハジメ」

 

 艦橋からやってきた筋骨隆々な男が、そうハジメに呆れと怒り半々の瞳を向けた。

 この男──ガハルド・D・ヘルシャーは亜人を奴隷にしていた国の皇帝だったのだが、今は皇帝にあるはずの威厳はそんなになかった。

 その国は奴隷解放騒動により、一夜にして帝城を落とされ、現在亜人を住処──フェアベルゲンに返すとともに、皇帝が奴隷解放をしたということをフェアベルゲンの長老衆に伝える、という一連の仕事を行うために同乗しているのだが────やはり、皇帝として、無礼な態度をとるハジメに思うところがあるのか、少しだけ口を尖らせていた。

 

 それから察せられるように、ハジメの努力も見た目には現れず、周りの人々にはハジメの努力が一切届いてはいなかった。否、ハジメの女以外は、だが。

 そんなダラけたハジメを中心に、ガハルドが飛行艇を作ってもらえるか頼み込むために、女を差し出そうとして一悶着あったり……とある王国の王女──リリアーナが若干の影の薄さを発現させたりと少しずつ、少しずつその飛行艇は進んでいく。

 

 ガハルドはいまだに諦めきれないのか、ハジメに頼み倒していた。

 

 「今のところ、俺が欲しいものなんてなにもないから諦めろよ。その内、もしかしたら、交渉材料が見つかるかもしれないが……その時まで気長に待つことだな」

 「ぬぅうう、本当に欲しいものはないのか? 人間、いつだって何かを欲しているものだ。何もいらないなんて奴は、人間を──そういえばお前、悪魔だったか」

 「喧嘩売ってんのか」

 

 ハジメはそう返すと、両サイドの二人を抱き寄せた。

 

 「だが、まぁ……俺が本当に欲しいものは、この通り既に腕の中にあるんだ。これ以上何を──」

 「──ッ!? ハジメさんッ! 今すぐ高度を下げてください!!」

 

 そう言い放とうとした瞬間、シアがそう叫んだ。

 

 その刹那、霧が立ち込めた。

 

 ハジメはそう言い切らせるよりも早く、飛行艇を軌道からそらすために意識を向ける。突然の急な方向転換のために、全身が軋み、倦怠感がハジメを襲う。だが、辛うじて下げることに成功する。

 一連の動作を全て終えたハジメは、憔悴したようにどかっとソファーに腰を打ち付けた。

 

 「────ハぁッ!! はぁっ、はぁっ」

 

 やっと呼吸を再開できたのも全てが終わった数秒後だった。やっと機体が安定し、荒々しい息を吐いた。

 

 「ハジメさん、大丈夫ですか?」

 「ゲホッ……大丈夫だ。だが、一体何が見えた?」

 

 シアは未来視という能力によって少し先の仮定未来を見ることができる。そんなシアが警告をしたということは──自分たちが殺されうる何かが起こる、ということだった。

 少女たちがハジメを心配する中、少しばかり青ざめた顔で口を開いた。

 

 「──何も(・・)、見えませんでした」

 

 その一言で、ハジメは察した。

 あの時判断を誤れば、自分たちは跡形もなく消えていた(・・・・・)ほどの何かが起こったのだと。

 

 「あいつは……」

 

 いつの間にやら艦橋に出ていたガハルドが、信じられない、というように声をあげた。

 それを追ってハジメたちは艦橋に出て空を見上げる。

 

 そこには、白が浮かんでいた。

 自分たちがいた場所に、浮かんでいた白。それは、()の姿をしていた。

 下から見える体表は白く、白い体毛が埋め尽くしていることが確認できた。側から見える角は折れ、目は車のタイヤよりも大きく、泳ぐ速さはハジメの飛行艇にも引けを取らないだろう。

 その周囲には濃霧が発生し、その中を泳ぐ姿はまさに魔獣といえるだろう。

 

 そんな大きな鯨を見て、表情を強張らせたユエは信じられないようにポツリと呟いた。

 

 「……『白鯨(モビーディック)』」

 「ユエ? 知ってるのか?」

 「そこの嬢ちゃんだけじゃねぇぜ。ここの奴らは大抵知ってんじゃねぇか?」

 「……何?」

 

 そう言って見渡せば、シアが、ティオが、リリアーナが、この世界出身全員が青い顔をして、その顔を恐怖に歪めていた。

 

 「『白鯨(モビーディック)』。あれは、魔法がほとんど効かない、化物」

 「……はい。王国の商人も、どれだけ犠牲になったか。数え切れません」

 「ユエとリリアーナの言う通りじゃ。昔、とある兵隊があやつを狩ろうとしとったが──無残にも、全滅しとったよ。妾も相対したことがあるが……逃げておらんかったら、妾は今ここにおらんじゃろうな」

 

 その言葉に、異世界から来た全員が、顔を驚愕を浮かべ、血の気を引かせた。

 あの伝説の竜人族であるティオを以ってさえそんな顔をさせ、さらに逃げさせるほどの化物。そんなものが今目の前にいるのだから、青ざめるのも無理はない。

 

 「おい、南雲ハジメ。お前さんの性格は大体把握してるつもりだ。だから言っとくぜ。────あれは災害だ。帝国も何度被害にあったかわからねぇ。だからこそ、あいつを見たときはやり過ごすことだな。まあ、あいつにゃ合わねぇのが一番なんだがな」

 

 そう親切心でハジメに教えたガハルド。しかし、当のハジメはそんなガハルドに一笑し、

 

 「知るか」

 

 そう言って、宝物庫から武器を取り出し、躊躇いなく打ち上げた。

 それは真っ直ぐに『白鯨(モビーディック)』の腹に吸い込まれるように、直撃した。

 

 「敵対するなら殺す。それだけだ。誰に向かって攻撃してんだ? 鯨」

 「な、南雲ハジメ! お前……」

 

 その瞬間、光が瞬いた。

 

 その光に反応するより早く、白鯨(モビーディック)の腹から銃口が顔を出した。そして────

 

 

 ──光の花が咲いた。

 

 

 それは、空を光に染め上げるように。大地を包み込むように。そして────……

 

 

 

──────……

 

────……

 

──……

 

……

 

 

 「あら? 何事かしら?」

 

 『白鯨(モビーディック)』、体内(・・)。一人の女性が本から顔を上げ、紅茶を片手に儚げな笑みを浮かべていた。

 その部屋は『白鯨(モビーディック)』の体内であるにもかかわらず、豪奢な装飾で施され、もはや生物の面影など残してはいない。

 

 その部屋に違和感を感じることもなく、女性は自分の金髪を耳にかけ、目を閉じた。

 

 「あら、白鯨(この子)を怒らせちゃったのかしら。運がないわね」

 

 そう笑う彼女は、失われたかもしれない命に興味がないように──実際に興味がないのだろう。本を閉じ、クッキーつまもうと手を伸ばすが──止まった。

 

 「あら、生きてるのね。二度目よ(・・・・)。この子に攻撃されて生きているのは」

 

 白鯨を通じて見えたそれに、楽しそうに顔を綻ばせて、クッキーを手に取った。

 

 「ふふふ、楽しみね」

 

 そう呟いて、彼女は口にクッキーを放り込んだ。

 

 

 

 

 




・ゲルトラウト
本作オリ主
解放者の裏切り者か、エヒトの同郷かどっちかです。


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解放者“達”はリスタートするようです(仮)



タグ:転生、憑依、解放者、ごめんねナイズさん…


 意識が、暗転する。

 

 それは、偶然だったかもしれない。それとも、何者かの慈悲だったのかもしれない。

 神を信じていないどころか、嫌悪する部類にある()にとっては、それは「ふざけんな、ぺっ!」と唾を吐きかけたくなるくらい嫌なことではあったが。

 

 どこにでもいて、どこにでもいないような感覚。彼は、手繰るような、手をとられるような感触とともに思いだす。

 

 

 ──かつて()()に、聞いたことがあった。

 

 

 “何故そこまでするのか”。

 

 彼女と旅をしている時に、一度だけ、そう聞いたことがあった。

 ()()()叛逆(はむ)()()。口で言えば簡単な。まるで物語に出てくる勇者のような、まるで子どもの頃の夢のような、そんな言葉を。平然と、そして堂々と言ってみせた彼女に、そう聞いたことがあったのだ。

 その時、彼女はまだ彼とほとんど同い年だったのにも関わらず、彼女の願いの元に集まった仲間たちを率いていた。だからこそ、思ったのだ。

 何故そこまでするのか(辛くはないのか)、と。

 それは、彼なりの気遣いだったのかもしれない。けれども、そんな彼の思いをよそに、彼女は──

 

 

 

『ぷぷ〜! どしたのどしたのオーくん? なになに、この空前絶後の超絶スーパー天才美少女魔法使いちゃんに憧れちゃった!? も〜、しょ〜がないな〜! この私のハイパーカリスマ──』

 

 

 

 …………彼は無言で、メガネをピカらせた。

 

 

 思い起こせば、こんなこともあったなと、口元に笑みがこぼれた。

 もはや、何十年も前の遠い記憶。だけれどそれは彼にとっては、否、()()()とっては、昨日のことのように思い出せた。

 

 そう、彼女はこう答えていた。

 それは、少しの間魔法のやり合いをしたり、雷であばばしたり、彼特製の魔道具で縛り上げたあとだったが。

 

『……そうだね。楽では、ないよ。──でも、()()()()()()()()()()()()

 

 “人々が、自由な意思の元に”。

 

 そんな(こころざし)を掲げて、彼女は笑ってみせた。

 敵は世界、そして神。守るべき人々も敵の一言で敵に変わる、そんな覚悟すら済ませて、簀巻きの状態で語る彼女は、美しく見えた。

 当然、アホみたいな格好も合わさって、本人には伝えていないが。

 

 

 そんな、()()()()()、一ページ。

 

 

 彼は、何もない空間で、拳を握りしめた。

 拳であるかはわからない。彼にはもう、()()()()()()()()()。だけど、たしかに拳は握っていたと、そう感じていた。

 

 

 ──ああ。

 

 

 こぽりと、そんな音がした。身体などないはずなのに、何かが漏れていく感覚とともに、彼は願った。

 

 ──叶う、ならば。

 

 それは、誓ったはずの彼が思うには、賤しくて、浅ましくて。

 

 

 

 ──()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 彼は──()()()()()()()()()は、そう願う。

 

 

 

 意識が、明転する。

 

 

 ──産まれ堕ちた、音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 早朝。とある街中を少年がゆったりと、のんびりと一人歩いていた。

 その少年は、平凡な日本人らしい顔をしながらも、まだ幼さを残し、また静謐さを持ち合わせていた。雰囲気イケメン、とでもいうのだろうか。見た目に合わない老獪さを感じさせ、街中を歩けば目を引くような、不思議な魅力を持っていた。

 

 そんな少年──南雲ハジメは、学校へ向かう途中だった。

 近いから、という理由で自宅近くの高校を選び、あっさりと合格。なかなかレベルの高い高校であったのも合わさり、同級生からは恨みがましい目を向けられたとかいないとか。

 そんなことは忘れたとばかりにぼーっと道を歩く少年は、自分の横を楽しそうに駆けていく小学生たちを優しい目で見守っていた。

 そんな時、鈴のなる音とともに、何かが倒れた音がした。ハジメは、音につられるように、反射的にそちらへ向いた。

 

「う、ぐ……」

 

 そこには、ランドセルを背負った小学生が倒れていた。どうやら、転んだらしい。

 

「大丈夫かい?」

 

 ハジメは見過ごせず、転んだらしい子どもに駆け寄って、起こしてあげた。

 

「いだ、あ……」

 

 少年は怪我をしていた。膝を擦りむき、傷跡からは血が滲み出していた。子どもらしい大きな瞳からは、今にも涙がこぼれてしまいそうだった。

 それを見たハジメは、そこから離れた。見捨てようとしたのか、と思えば、手のひら大の石を持ち、握りしめていた。

 

「ほら、これを見て」

 

 涙を溜めながらも不思議そうな顔をした子どもにハジメは笑って、ハンカチを取り出した。それを岩にかぶせ、手品師のようにパチンと指を鳴らす。

 

「──“錬成”」

 

 仕上げとばかりに、態とらしく手を大きく動かし、ハンカチをとった。

 

「……ティラノサウルス!」

 

 ──ハジメの手には、ティラノサウルスが乗っていた。

 

 体表の凹凸や、その指先までしっかりと再現され、陳腐な言葉ではあるが、今にも動き出しそうなほど精巧にできていた。

 当然、子どもの目はキラキラと光り、涙なんて消し飛んでいた。どうやら恐竜が好きらしく、精巧にできた恐竜のフィギュアに「すごい、すごい!」と喜んでいた。

 ハジメはティラノサウルスを子どもに握らせ、それに見とれている隙に子どもの膝に絆創膏を貼った。それに気づかない子どもに、ちょっとだけ不安に思いながら……

 

 

 

 

「ありがとう! お兄ちゃん!」

「どうしたしまして。気をつけて行きなよ」

 

 あれから数分、子どもは傷のことなんて忘れてしまったらしく、元気そうに笑っていた。ティラノサウルスは先生に怒られるかもしれないという理由で置いていかせたあたり、ハジメは面倒見がいいらしい。

 

「お兄ちゃん」

「どうしたんだい? 恐竜は……」

「ううん、違うよ」

「? まだ何か……」

「お兄ちゃんの名前、教えてほしいな! みんなに自慢したいから!」

 

 その言葉に、ハジメは唸った。

 教えてあげるくらいは別に構わなかった。だけど、それでも。これから作ってくれと押し寄せられるのも少し面倒くさい。

 そこで、ハジメの脳にピピッと名案が浮かぶ。そう、これなら名前から探されることはないだろう、と。

 そこまで考えて、ハジメは優しげに笑った。

 

 

「僕は()()()()()()()()()。ただの錬成師さ」

 

 

 子どもはポカンとした顔をして、次の瞬間にはにこりと笑って「そっか! オスカーお兄ちゃん!」と返す──

 

 

「お兄ちゃん、流石にその嘘はどうかと思う」

 

 

 ──はずもなく、ジトッとした目とともにそう返した。

 

 

 結局、ジトッとした目とともに小学生にここでまた会うことを約束させられ、最終的に“ヘタクソお兄ちゃん”とあだ名をつけられた。ハジメの心のダメージは大きかった。何がヘタクソかは聞かない。聞かないったら聞かないのだ。

 ちなみに、作ったティラノサウルスは子どもたちの間で噂になるのだが──それはまた、別のお話。

 

 子どもを見送って、ハジメは一人、懐かしそうに、寂しそうに笑う。

 

 

「……()()()()()()、子どもは元気だな」

 

 

 

 

 

 

 

 ──これは、ありふれた少年が成り上がるお話ではない。

 

 

 誓いを立ててでも、それでもと。

 

 諦められなかった、少年()()のお話。

 




・オスカー・オルクス/南雲ハジメ
現代知識ブーストあり。
嬉々としてメイドロボ作り出しそうで困る。

ちなみにミレディを除いて全員誰かに憑依してます。割と関係ありそうな人らに。設定上は…




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天職:旅人

タグ:オリ主、女主人公、幼馴染キャラ


 「くぁ〜〜」

 

 なんて、気の抜けたあくびが出た。

 もう学校についてしまった。けれど、まだ眠い。昨日はバイトがなかったからって次の旅行の計画してたら夜遅くなっちゃったし、それにまた夢を見てしまった。

 

 私──綾川未來(みらい)は、そうまだ重たいまぶたが落ちないようにしながら、自分の教室に向かう。

 私は花の高校生。なのにあんまり元気がないのは仕方がない、だって眠たいんだから。それよりも、アイツ(・・・)はまた面倒なことに巻き込まれてないといいけど。

 

 そんなことを考えながら、教室の扉に手をかけ……

 

 「────かと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

 

 ────、

 

 案の定だった。あの天之河(正義バカ)

 

 ちょっと行きたくない気分を抑えて、扉を開けて、なぜか修羅場みたいになっている幼馴染(アイツ)のところに歩いていく。

 

 「おはよ、ハジメ(・・・)

 

 その瞬間、ハジメは私に救いを求めるような眼差しを向けた。それもものすごい速さで。

 

 おいバカやめろ、私は挨拶しただけだ。そんな救いを求められても何もできやしないぞハジメ。

 しかししょうがない。いつものことながら幼馴染のよしみでホームルームまでの時間稼ぎをしよう、と指でそうをおくっておく。するとハジメはありがとうのハンドサインを返してくれた。よし、なら今度ラノベ奢ってもらおう、そう決めた。

 

 「おはよう、未來」

 「おはよう、未來ちゃん」

 

 雫と白崎さんはふつうに返事を……いや、白崎さんは少し敵意を向けている。いやハジメに向けてる感情は知ってるから気持ちはわかるけど。

 

 そんな中、少し不機嫌な顔をした天之河が口を開いた。

 

 「おはよう、綾川。また遅刻ギリギリか? いつも……」

 「おはよう天之河私は旅行に行くための準備をしてるだけだから大丈夫だよー心配してくれてありがとう参考にするね」

 

 有無を言わさず先手必勝。相手は黙る。

 予想した通り、天之河は少し黙る。

 

 「未來、また旅行? 次はどこに行くつもりなの?」

 「ああ、雫。今度は宇都宮行ってみようかと思って」

 「そうなの? 私、餃子くらいしか知らないんだけど……」

 

 うん、雫。ありがとう。

 貴方も大変ねみたいな顔はしないでいただけると。でも作戦に気づいて付き合ってくれるあたり天之河のアレには雫もかなり困ってそうだ。

 

 そうこうしている間に始業のチャイムがなった。教師はこの空気のおかしさには慣れたのか普通に連絡を始める。

 ハジメの方を見ればもうすでに夢の中へ旅立っていた。羨ましいことこの上ない。私は夢の中に旅立つことだけは苦手だし。

 

 ……まあ、特にやることもないんだけどね。

 

 そう思いながらも授業は進んでいく。

 

 こうして、ハジメが寝たまま昼休み。

 ハジメはいつも通り○ィダーを瞬殺。十秒でエネルギーをチャージしたハジメはまたもや夢の世界へと旅立つ────かと思われたが。

 

 「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどうかな?」

 

 その瞬間届くハジメからのSOS。

 再び不穏な空気が場を満たしていく中、そんな声にならない叫びはまっすぐに私に届いて必死にSOSと叫んでいる!

 だけどごめん。流石にここからフォローは無理、とジェスチャー。

 そんな殺生な! というハジメの意見は無視する。なんとかがんばれ。そのうち(ほごしゃ)が行くと思うからなんとか耐えて。

 

 ……それでもやっぱり心配。

 もきゅもきゅ、と昼ごはんのサンドイッチを頬張りながらハジメたちを観察してみる。

 

 やっぱりあの三人組が集まっていった。

 観察しているとなぜか白崎さんがハジメにご飯を食べさせる展開に。ハジメめ、失敗したな。

 明らかにもう勘弁してください! 気づいて! 周りの空気に気づいて! という顔をしたハジメにも気づかず、白崎さんはグイグイいっている。

 そしてそれを止める天之河に吹き出した雫…………

 

 

 …………本当に、なんかかわいそうになってきた。

 

 

 これ以上見てられない。そう思って立ち上がった、その瞬間────……

 

 「なっ……!?」

 

 ハジメたちの足元に、白銀に光り輝く円環と、幾何学模様……魔法陣が現れた。

 

 異変に気づいた周りの生徒たちはさまざまな悲鳴をあげながら驚いていた。その魔法陣は徐々に輝きが増して、教室中を覆うほどの大きさになった。

 教室から出て、という先生の声と、魔法陣が輝いたのもほぼ同時。光が輝いて────……

 

 「ハ、ジメっ……」

 

 それを最後に、私の意識は光に塗りつぶされた。

 

 




・綾川未來
オリ主。ハジメの幼馴染。
ヒロインルート、非ヒロインルート有
ちなみに非ヒロインルートがメインルートなんですよ…


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とある宿屋の看板娘になっていた話(仮) 零

タグ:憑依、キアラ、零時空


 大きな翼が羽ばたく音が聞こえた。

 

 希薄にたゆたう私の目に飛び込んできたのは、美しい女性。その女性は、意識が戻ってきたばかりだからか気だるげに見えた。

 そんな起きたばかりの彼女の目の前に広がるのは、見渡す限りの澄み切った青空。

 青空の下には色とりどりの鳥たちが飛び回り、蝶の群れが虹のような軌跡を描いて空を描いていく。

 青いキャンバスを適度に彩る雲は太陽の光を遮り、ほどよく彼女を照らす。

 ほおを撫でるぬるい風は彼女の綺麗な御髪をふわりとなびかせ、空に泳がせた。

 

 女神──そう呼んでもいいほどに美しい彼女の容姿も加わって、そんな光景は著名な画家が描いた一枚の絵画のようだ。

 

 そんな、楽園と見紛うほどに美しいその場所で、彼女は笑みを浮かべていた。

 その空が素敵だと、その小鳥たちが可愛らしいと、風が気持ちいいと、ここにいられることが幸福である、そういうように。

 

 だけど、何故だろう。

 

 私の目には(・・・・・)、なぜかどこかその笑みが、作られているような気がして。何かよくない感情(もの)を、必死に圧し殺しているような感じがして。

 

 涙を、抑えているように見えて──……

 

 そう考えたその時、私に彼女の視線が向けられた。

 

 

「────……」

 

 

 そう、何か言われても、その声は風になって私の耳を揺らすだけで、私の鼓膜に届きはしない。

 

 

「────……」

 

 

 また、口を開いた。

 それでも、まだ、私にその声は届かない。

 

 ────何を、言っているんだろう。

 

 何年も昔から同じことを繰り返しているくせに、また同じことを考えた。そんな疑問すら置き去りに、私の身体はその世界から消えていく。

 

「────!」

 

 私の身体が消えていく焦燥からか、彼女はまた、必死に声を荒げる……ように見える。

 

 身体が消えるとともに、私の意識が消える────その時。

 

 

──未だ出会わぬ運命の稚児。運命に出会うのは、もうすぐそこに──

 

 

 最後に、そんな声が聞こえた。

 

 その声は、今まさに泣いてしまいそうで。

 

 今まさに、消えてしまいそうなほどに弱々しかった。

 

 何年も出会っていて始めて聞いたその声は、私の耳に妙にこびりついて────……

 

 

 

 

 

 

 

キアラ(・・・)! 起きなさい! もう朝飯を作る時間だよ!」

 

 そんなうるさい母さんの声が聞こえた。

 まどろみの中に感じる硬いベッドの感触に、自然と頭が冴えていく。

 

 寝ぼけ眼を擦りながら体を起こせば、少しの明かりで。

 それはつまり、今目を覚ましたということに他ならなくて。

 

 …………ああ、やっぱり。

 

「…………また夢、かぁ」

 

 起床して一番、こんなこと言うのもどうかと思うけど、しょうがない。昔っから、この夢を見ているんだから。

 あくびを一つ。それからテキパキと手伝う準備を進める。

 前だと朝は弱かったけど、この世界に生まれてから(・・・・・・・・・・・)朝早い生活に慣れてしまった。

 

 この世界……っていうのはまあ日本のことで。いわゆる私は転生(?)者というやつである。

 なぜハテナなのかは死んだことを覚えていないからである。私が(キアラ)として生まれる前後についてはまったく覚えていないし、興味もない。

 前世(?)にはこれといって未練もないし、この生活に馴染んでいるのだけど……だけど、なぜ、キアラとして生まれたのかはよくわからない。

 

 キアラ……つまり、私だが最後にアニメ化が決定したラノベ、『ありふれた職業で世界最強』────の外伝のキャラである。

 まあ、とある前日譚をえがいたもののその主人公一行の友達キャラ。活発で、ちょっと妄想癖で、都会慣れしていない兎の女の子。それがキアラである。

 なぜ私がキアラとして生まれたかはわからない。ただ懸念しているのは……まあ、それは置いておくとして。

 

「キアラ!」

「はーい! 今いくよ!」

 

 とりあえず、母さんの手伝いをしてから考えることにしよう。

 

 そう決めて、私は厨房に向かった。

 

 

──────…………

 

────……

 

──……

 

……

 

 

「キアラ! これとこれ!」

「あいよ!」

 

 時は流れてもう夜。夜になれば客が多くなるのは必然。もはや厨房は回りっぱなし。ここで足を止めるわけにはいかない。

 

 まあ、ほとんど伝票とかは取らなくていいから楽なのだ。だって注文は勝手に言う&大声だし、それを聞いた母さんと父さんが作りはじめるから。私は言わないお客さんに確認しに行くだけでいい。まああとは接待とか簡単な業務だ。前世からの経験でそこらへんは問題ないのだ。

 

「キアラぁ、おっちゃんと寝ぶっ」

「寝言は寝てからいいなよおっちゃん。追加の酒置いとくよー」

 

 そんな戯言はお盆とともに封殺する。誰が寝るか誰が。そして騒ぐ阿呆ども。

 いい加減にしてほしいものだけれど、こんなのがウチ──ワンダの宿の日常風景だ。いつも通りと慣れてる私がたまーに嫌になる。

 ……まあ、この生活が嫌いなわけではないのだけど。

 

 そんないつも通りの光景とともに、私は仕事をこなしていく。騒がしい客に料理を運んで、テーブルとかを拭いたりして、次々と──……

 

「──くん! 好奇心で瞳をキラキラさせてないでお店に入るよ! ミレディさん、もうマジで限界だから、良い匂いがしてきてお腹がどうにかなりそうだから」

 

 騒がしい喧騒の最中、そんな少女の声が妙にすんなりと、私の長い耳に入ってきた。

 

 チリンチリンという鈴の音とともに、店の扉が開けられた。

 

 そこには、金髪の少女が立っていた。

 まだ幼げな金髪の少女。しっかりと着飾れば、どこかのお嬢様と見紛うだろうとばかりの美少女。

 さらに後ろから二人の男が現れる。

 メガネをかけた長髪を結んだ少年に、その少年とは真逆のような雰囲気を感じる少年。

 

「──っ、いらっしゃい! 好きな席にかけて!」

 

 ああ、なんだ。

 

 優しげに笑う少女と、物珍しそうに店内を見渡す少年たちに、私は驚きながらも普段通りに接待する。

 

 ああ、なんだ。そうだったんだ。

 

 空腹に身を任せ料理をかきこむ少女────ミレディ・ライセンを見ながら、私は複雑な感情で愛想笑いを浮かべて。

 

 

 ──すでに、物語は始まってたのか。

 

 

 そんな思いを胸に、私はまだ宿を決めていないであろうミレディたちに駆け寄った。

 

 

 




・キアラ
キアラに憑依した人。
原作は知ってる人。


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うさぎ耳の解放者 零

タグ:オリ主、ハウリア、


 

 「ふ〜ん♪ふふん♪ふふん♪ふふ♪」

 

 とある場所のとある一室。かちゃかちゃと陶器がすれる音が響く中、いかにも楽しげな鼻歌を歌う人影が一つ。

 

 「〜♪」

 

 鼻歌を歌っているのは、青っぽい白髪が特徴的な、露出度の高い服を着た女性だった。女性の見た目は10代後半から20代前半。さらに露出度の高い服を着ており、胸は溢れそうなほど大きく、見た目に似合わぬ色気を振りまいていた。その楽しげな様子を見ればなおさらのこと。

 だが、その女性の頭上には女性の心を表すように長い耳が揺れていた。

 

 「さて、お湯は沸きましたかねぇ?」

 

 と、女性は耳をしゅぱっと勢いよくあげ、ティーセットを動かす手を止め、傍にあった簡易キッチンに向かって歩こうとした、が。

 足を向けた途端、運悪く足元には紙が落ちており、それを踏んづけてすっ転んだ。

 

 「ふぎゃっ!」

 

 情けない悲鳴をあげてすっ転び、床に思いっきりヘッドバットをくらわせる。

 その衝撃で簡易コンロが揺れ、その上にあった湯気を立てる小さな鍋が女性めがけて落下し、重力とともに蓋と熱湯がぶちまけられた。

 そのまま熱湯が女性にかかるかと思われたが、

 

 「わわっ!? 『停止』っ!」

 

 その瞬間、鍋が浮いた。

 鍋は空中で傾いたまま、逆さの状態で。逆さになったことにより溢れた熱湯も、飛んだ飛沫も、その状態のまま浮き……否、止まっていた(・・・・・・)

 

 「はぁ、危ないところでしたぁ。危うくお湯をこぼすところでしたよ……」

 

 女性は熱湯がかからなかったことよりもお湯が溢れなかったことに安堵した様子で、ふぅ、と息を吐いた。

 女性は何事もなかったように立ち上がり、鍋を手にとってぱちん

と指を鳴らす。そのまま飛沫すらも残さず熱湯を鍋で虫取りでもするように回収し、またぱちんと指を鳴らしてコンロに戻した。

 その後、タンスの引き出しを開け茶葉を取り出し、ティーポットに入れる。あとは湯を入れて少し待てば、お茶の完成である。

 

 

 お茶が出来上がった頃。お茶の香りに頰をほころばせ、耳もふにゃりと折れる。

 

 「ふふ……」

 

 どうやら、お気に召したようである。

 さて、茶を楽しもうとティーカップを持ち────……

 

 「あら、レディちゃんどうかしたんですかね?」

 

 そういうと女性は胸元に手を入れ、手のひらに収まる程度の鉱石を取り出した。

 

 『やっほ〜! ウィラママ、元気〜?』

 「はい、元気ですよ〜。レディちゃん」

 

 電話に出たのは、妙にテンションが高い女の子。変わらないなぁ。と、女性────ウィラはいつも通りの彼女に和む。

 

 「それで、どうしたの? また暇になっちゃいました?」

 『もう、ウィラママは。私が連絡する時いつも暇だって思ってる〜? それがね〜、逆にちょ〜忙しい! 迷宮ちょっと壊されちゃってさ〜』

 「えっ!? それって大丈夫なんですか!?」

 『まぁ、しょうがないかなぁ〜ってとこ! でもミレディちゃん、怒ってるんだから……次にあったら絶対に、ボコってやる……』

 

 …………まあ、何があったかはわからないが、とにかく大変だったらしい。

 いつもマイペースな彼女が怒るなんて珍しいと思うものの、何があったのだろう。

 それよりも、いや、まて。壊された、と言いましたか? と、それと同時にウィラはある可能性に至る。

 

 「レディちゃん、まさか」

 『…………察しがいいね。そう、現れたよ(・・・・)。私達の試練を乗り越えた者が』

 

 ガタンっと、椅子が倒れるのも気にせず立ち上がった。その顔にはありえないという驚愕と、少しの歓喜が浮かんでいた。

 

 まさか、本当に?

 

 そう思わずにはいられなかった。長い間待ち続けた希望が現れたと、その可能性がついに、ついに現れたのだと知ったのだから。

 

 『ウィラママ、何千年もまったよ。信じられる? その子たち、最初にオーくんの迷宮を攻略したんだよ? それも錬成師なんだよ? すごい偶然だよね』

 

 鉱石ごしに聞こえるその声は、感情を抑えられないように震えていた。

 

 『とうとう、動きだしたんだ。私達の止まっていた時間が。夢でも、幻でもなくて…………ちゃんと、未来に繋がっていたんだ』

 

 途端、ウィラはへたり込んだ。身体は小刻みに震え、手でゆっくりと目を覆う。

 

 ────ぽたり、と。

 

 水滴が落ち、床にシミを作っていった。

 

 「ほん、と、うに……」

 『本当に、現れたんだよ。ウィラママ。彼らならきっと、私達の意思を継いでくれる』

 

 ウィラは顔をくしゃくしゃにしながらも、会話を続ける。その顔には、抑えきれないほどの歓喜に満ち溢れていた。

 

 『……まあ、今はちょーっと怪しいんだけどね』

 「ふふっ、大丈夫ですよ。レディちゃんがそう思うんなら、絶対に。その人たちはきっと、私たちの望む──いや、それ以上のことを成してくれますよ」

 『…………にゃはは、ウィラママはほんとーに、ここぞって時に頼りになるよ』

 「だって、お母さんですから」

 

 そんな他愛のない会話をしながら、何千年もの前のことを思いだしていく。

 何百、何千年経とうとも、絶対に色褪せない、ウィラたちの戦いの記憶。

 人間も亜人も関係なく、本当の自由を求めて戦い続けた日々を。

 

 傍らに落ちていた写真を見て、小さく笑みをこぼす。そこには、自由に笑う八人の姿が写っていて────……

 これを知ったら、あの子たちはどう思うんでしょう? きっと、喜んでくれると、そう想って。

 

 『ああ、その子たちが来たら、驚くかもね〜」

 「え? それってどういう意味ですか?」

 『えへへ〜内緒!』

 「え〜気になりますよ〜……あ、そういえば、レディちゃん」

 『ん、なぁに? ウィラママ?』

 「その人たちのリーダーって子、なんて名前なのかなって」

 

 レディちゃん────ミレディは「あ、そうだったそうだった」と、楽しそうな声を響かせて、こう言った。

 

 『その子の名前はねぇ〜…………

 

 

 

 

 

 ────南雲ハジメ、だよ。

 

 

 

 

 

 これは、“ハジメ”に至るゼロの系譜。

 その中心となった、ミレディ・ライセンたち、八人の解放者。

 その最中で生きた、ウィラ・()()()()の物語である────……

 

 




・ウィラ・ハウリア
安心してください、やばい人ですよ。
属性は今のところ
○○○+○○○+○○○+○○


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臆病剣士は馨香に酔う


タグ:ガールズラブ、r-15、八重樫雫、白崎香織


「■ちゃん。好きな人って、いる?」

 

 

 その言葉に、思考が止まった。

 その時はまだ、私がどうして頭が真っ白になってしまったのかはわからなかった。でもそれは、自分にとって()()()()()()気分だった、というのは、よく覚えている。

 

「──さあ、そういうのは……()()、ないわね」

 

 そう、真っ白になった頭から言葉をかき集めて、無難な言葉をひねり出した。

 

 ──今は、ない。そう、()()あったのかもしれない。だけど、そんな想いはだいぶ前に乾いて枯れたはずだったと、ここにはいない、もう一人の幼馴染の顔を思い出し苦笑する。

 

 そんな私に、彼女は「そっかぁ」と、気の抜けたような反応をした。

 そもそも、その頃は恋心なんてものはどんなものかなんて、はっきりとはわからなかった。だけど、彼女はわかっていたのだと思う。彼女はそのころまさに、()()()()()()()()()()

 

「そうだなぁ……**くんなんて──」

「それはないわね」

「ばっさりだね!?」

 

 もう一人の幼馴染の名前が出た瞬間に、自分でもおもわず、そう返していた。

 彼女はそんな私に驚いたような顔をしていたけれど、それは彼女だってわかっていたことだったろうにと、私は口を尖らせた。

 

「もう、□□。**はただの幼馴染よ。それ以上でも、それ以下でもないわ」

 

 『手のかかる弟』なんて言葉は飲み込んで、そう返した。()()()()そんなことを想っていたかもしれないけれど、今になってはそんなことは思えない。それが私の本音だった。

 そんな私に彼女はまたもや「そっかぁ」という反応をして、歩を進めていく。

 

「でもさ、■ちゃんの恋人になるって……なんだか、すごくレベルが高そう」

「?……なんで?」

「だって、■ちゃんの恋人だよ? とても……う〜ん、なんていうのかな」

 

 彼女は少し考えるような仕草をした。

 “釣り合わない”。なんていうんだろうか? 私ほど、色恋に似合わない女もいないだろうに、そんなことを?

 自惚れがすぎるな。そう思って冗談にそう聞けば、彼女は「違うんだよ」と答えた。

 

「……一体、あなたは私をなんだと思っているのかしら」

「え、あの違うよ? う〜ん……なんていうのかな。そういうつもりじゃないんだけど。うまく言えないんだけど……こう、()()()()()()()()()っていうのかな」

「わかってあげられる?」

「うん、■ちゃんって……なんていうか、面倒見がいいでしょ? ほら、この前だって“お姉──ごめんごめん。そんな感じで、“頼れる”ってイメージが強いでしょ? だから……■ちゃんのことを()()()()()()()()()()()人じゃないとなーって」

 

 その言葉に、私はなんと返せばいいのかわからなかった。

 たしかに、その頃から私は人から勘違いされることが多かった。だが、それを悪いことではないと思っていたし、またそういうことだと()()()()()()()()

 だからこそ、なんと言えばいいのかわからなかったのかもしれないが。その頃と自分に言っても、何も意味をなさないだろうけど。

 

 なぜか心に募った焦燥から、話題を強引に変えようと、口を開く。

 

「それはそうと□□。()()()、見つかったの ?わざわざそんな話題出したってことは、それなりに進展したんじゃないの?」

「うっ……いや、その……まだ、です」

 

 彼女はそう、照れくさそうに笑う。彼女が一目で恋というものに落ちたらしい彼は、まだ見つかっていないのだろうと察せられた。

 

 だが、なぜだろう。その頃は。その彼が()()()()()()()()()()そんな思いが芽生えた。

 

「──それはそうと、早く行かなくていいのかしら? 今日は日直じゃなかったかしら──()()

「あっ、大変! 早く行こ、()()()()!」

 

 そう言えば、彼女──香織は、私の手を引いて走り出した。

 少し躊躇したものの、私は手を引かれたままに走り出した。このままいけば、もう一人の幼馴染──光輝も、学校で鉢合わせてしまうだろうと、そう考える。……この()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ──これは、私がまだ、()()()だったころの、そんな日々の1ページ。

 

 私は今、()()()()()()()()()()()

 

 私が、この時自分の気持ちを、ちゃんと理解できていたのなら。

 もしも、()()()()()()()()()()()()()()()()──?

 

 

 

 その正解(こたえ)は、()()()になった今ではもう、わからない──……

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「南雲くん、おはよう! 今日も遅刻ギリギリだね!」

 

 

 ──今日もまた、そんな一言から学校が始まった。

 

 どうやらまた香織は()()()を落とそうと必死らしい。

 そんな必死な香織を可愛らしいとは思うものの、もう少しだけ気を使ってあげてほしいかなと思う。

 

 私たちが進学した高校で、偶然にも思い続けた彼──南雲くんに出会えたのは嬉しいかもしれないが、恋は盲目というのか、そういうのが見えていないらしい我が幼馴染に、少しだけ呆れたように笑った。

 

 

 ──()()()()()()()

 

 

 そんな叫びを抑えるように、南雲くんに助け舟を出そうと席を立つ。

 

「南雲君、おはよう。毎日大変ね」

「また彼の世話を焼いているのか、香織」

「全くだぜ」

 

 私がそう声をかけると同時、同じように南雲くんの周囲に近づく男が二人。言わずもがな、光輝とその親友、龍太郎だった。

 結局、香織の微妙な天然さと、光輝の自分の都合のいい解釈と、南雲くんの疲れたような、現実逃避をするような笑いだけが響いていた。

 南雲くんには「ごめんなさいね」と二人の自由すぎる幼馴染に変わって謝罪しておく。二人は結構自由なきらいがあるが、悪い人ではない……から。

 そうしているうちに、始業のチャイムが鳴った。

 

 

 

 

 

 そして、昼。

 またもや南雲くんにアタックする香織と、その二人の会話にイヤに関わろうとする光輝の掛け合いが始まる。これではまた、南雲くんの扱いが悪くなるだろうに、それを二人は気づくこともない。

 まあ、光輝が関わろうとする理由もわかるのだけれど──

 

 

 その時、床が光り輝いた。

 それは、光輝を中心に、教室全体を覆うように、光に包み込まれていく。

 床に描かれる幾何学模様は、香織を、光輝を、南雲くんを、クラスメイトを置き去りにして、全てに広がって──

 

 

 

 ────そして。

 

 

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ────」

 

 

 そんな、老人の声が響いた。

 

 

 

 ──こうして、私たちの日常は突如として終わりを告げることになる。

 

 

 それは、幸か不幸か、わからないけれど。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()、たった一つだけ言える。

 

 

 

 ──()()()()()()()()()

 

 

 

 さあ、前置きはここまで。

 

 ここからは、私が正解(こたえ)を見つけるまでのお話を、語ることにしよう────……




・八重樫雫
剣道少女
・白崎香織
ちょいちょいと変更されてます


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憑依ノイントが(色々と)頑張る話


タグ:オリ主?、r-15、憑依、ノイント、零→一、女主人公


 彼女は考えた。

 

 この世を、もっと面白くするにはどうするべきか、と。

 

 人には深遠なるお考えと呼ばれようとも、そこにあるのは命を軽んじてでも満たされることを望む愉悦の感情のみ。

 

 であるからこそ、考えた。

 

 この世界に存在するならば彼女にとって知らないものはなく、また()()()()()()()()()()、自分が現在(いま)存在する世界より面白そうな世界などない。であれば、どうするべきか、と。

 

 

 ──彼女は、神だった。

 

 

 この世の人間に知恵を与え、育み、何千年も前よりそれを見定めてきた。

 

 だからこそ、()()()()()()()

 

 彼女は欠伸を噛み殺し、どことも知れぬ、自分の閨──神域で、次の策を案じる。

 

 一つ思い出す。

 獣の力を持つ種族を生み出した。朽ち果てて久しい生身の身体を探したが──結局見つからず、徒労に終わった。結局は、新たな駒が手に入ったから、徒労ではなかったかもしれないが。

 二つ思い出す。

 人間と創り出した種、魔人族を和解させる遊びはもうやった。結局平和が訪れて、干からびてしまうかと思った。

 三つ思い出す。

 人間に魔人族を裏切らせる遊びはもうやった。あれはあれで楽しかったが、美しさに欠けた。時が経てば、またやるのもいいかもしれない。

 四つ思い出す。

 魔人族と人間を戦争をさせる遊びはまだ続けている。だが、魔人族も人間も、一向に決着をつけないせいで飽きてきた。どちらかに強い者が現れたのなら、別の世界から駒を持ってくるのも一興かもしれない。

 

 そこで、思いついた。

 

 

 ──駒を持ってくる、か。

 

 

 そこまで考えて、唇が弧を描く。

 

 つまらない世界に、スパイスを与えてやるのはどうだろう。そう、他でもない()()()()()()()

 

 そう笑う彼女は、手を手繰る。

 

 かつて、獣の身体を持つ種族──亜人を生み出した、その時のように。犠牲など考える必要などない。この世界では、全てが彼女の思い通りであり──彼女の行動全てが、正義なのだから。

 

 彼女──エヒトルジュエは、愉悦の感情のままにその手を動かした。

 

 

 

 

 

「────神、エヒトルジュエが使徒、エーアスト。我が意思は我が主のために」

 

 

 

 こうして一つ、駒が生まれた。

 

 エヒトルジュエは喜んだ。()()()()()()()()()ことに、歓喜するように。そこに生まれた()()()()()()()()()に、気がつくこともなく。

 エーアストを教会の『巫女』に着任することで、人間たちの行動が、さらなる飛躍を見せた。

 エーアストがもたらしてくれた功績は、エヒトルジュエを満足するに足りることばかり。その圧倒的な力を以って蹂躙し、未だ神に刃向かう者を粛清(せんのう)することに、多大な貢献をしてくれた。

 

 だがしかし、それは五百年でまた飽いた。

 

 マンネリ化、とでも言うのだろうか。

 百年経てば人間は死に、世代は変わる。そう、何度も。その度にエーアストが、新たに創り出した使徒が動き、彼女の愉悦を満たそうと努力する。

 それが何年も続けば、それはもうただの茶番だった。真新しさがないせいで、もはやつまらない群像劇でも観ているかのようだった。

 

 

 ──やはり面倒なものだな、神とは。

 

 

 自らの生に辟易しながらもそれを止めることはできない。そんな矛盾を抱えたまま生き続けた。

 

 

 だがそんな時、彼女にこんな報せが訪れた。

 

 

 どうやら、神に刃向かう人間が現れた、というものだった。

 それも、エヒトルジュエが、同胞が見せた神代の如き魔法を使う者が現れたという。

 さらに、自らの創り出した使徒を退けることすら手こずっていた、というらしい。

 

 その報せを聞いたエヒトルジュエは、久しぶりに胸の高揚と興奮を覚えた。

 

 

 ──ああ、これで暫くは退屈せずに済みそうだ。

 

 

 そんな感情を抱くとともに、思う。

 

 ──であれば、もっと面白くするというのが、観客としての責務だろう。

 

 自らの退屈を満足させるために。そんな自分勝手な想いとともに、新たな命を生み出そうと、手を伸ばした────……

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

「──まあ、こんなものか」

 

 そう、エヒトルジュエ──エヒトは、がらんどうな空間で一人つぶやいた。

 なんてことはない、新たなる神の使徒を創り出した(うみだした)。ただそれだけである。

 第一の使徒(エーアスト)を創り出した時は亜人とは違い、それなりに苦労はしたものの、今ではもう慣れてしまった。

 姿形は今までの使徒と変わらない。()()()()()()()()()とはいえ、いちいち造形を変えるというのも面白いかもしれないが、そうする意味がさほどない、というのが本音だった。

 創り出された使徒はただ呆然と立ち尽くし、動こうともしない。何を考えているかわからないが──それはそれとして、出来栄えに満足して、笑う。

 

 さあ、これからどうなるのだろうか──そう思っていた時、ふと違和感を感じた。

 

()()()()()()()。お前は」

 

 銀髪に双大剣を携えた自らの使徒に、そう問いかけた。

 ()()()()使()()()()()。そのことに、わずかながらに好奇心を覚えた。その好奇心を満たすように、続ける。

 

「名乗ってみせよ。お前の名は何だ?」

 

 創り出されてすぐ。空虚な瞳で自らを睥睨する使徒に、口角が上がるのを止められなかった。

 そして当の使徒は感情がないはずなのに、どこか逡巡するような行動を見せ、口を開いた。

 

「──な、まえ?」

 

 やはり、どこまでも違う。名を名乗るどころか()()()()()()()()()()()

 エヒトはそう思った。そんな愉悦の感情を隠そうともせず、エヒトは新たに生まれた使徒に笑った。

 

「──お前は“九番目の徒(ノイント)”。これからその身が果てるまで、我──エヒトルジュエに尽くせ」

 

 創造主がそう言ったにも関わらず、未だ呆然と立ち尽くす“九番目の徒(ノイント)”に、エヒトは言い知れぬ感情を抑えられないように再び笑う。

 

 

 ──こいつは、嵐を呼び込むだろう。

 

 

 エヒトはそんな確信を持った。我が使徒(■■■)ながら、楽しませてくれそうだ。そんな、予感とともに──……

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 …………なんで? なんで目が覚めたら綺麗な人が大笑いしてるの? ていうかここどこ。

 

 そんな疑問を込めて辺りを見渡すも、そこにあるのはただ閑散とした祭壇みたいなところで、まったく情報が入ってこない。どうすればいいんだこれ。

 

 情報を整理。夜に寝て、朝だと思ったら祭壇で。目の前で美女が笑ってる。しかもめちゃくちゃファンタジーっぽい。ふむ、訳がわからん。

 

 しかも、私のことをノイントって呼んだよね? どういうこと?

 

 せめて情報を得ようとすれば、真横に視線をやれば汚れた鏡。そこに写った姿はノースリーブドレスを着た、銀髪の美少女。

 ふむ、なかなかの美人さんだ。腰につけてある双剣もなかなかファンタジーっぽくていい。

 そんな思いとともに場所を動かそうとすれば、ともに動く銀髪美少女。……ん?

 嫌な予感とともに、試しに片方の剣を掴み、持ち上げる。意外と軽い。

 そうすれば、同じように片方の剣を持ち上げる美少女。……ふん?

 次は両方。同じように両方ともの剣を抜く。……ああ。

 

 

 ──もしかして、銀髪美少女って私ですか……?

 

 

 先にやっておけばよかった! と思いながら美女の方を向いても時すでに遅し。美女は目の前から消えていた。

 

 いーやいや、ちょっと待って……

 

 頭を抱えるという見た目にそぐわないような動きを見せるも、それはしょうがないと諦める。

 

 

 ──銀髪美少女、少し大きめの双剣、ノースリーブドレス、ノイント…………エヒトルジュエ?

 

 

 そこで、理解した。

 

 

 ────ここ、トータス(ありふれ世界)じゃない!?

 

 

 いやいや待て待て。なんでノイントに憑依したっぽくてさらになんで敵ルート? せめて百歩譲ってハウリアとかでしょ? ノイントなんてハジメに始末された挙句有効利用されるだけじゃないの……?

 そんな絶望が私の頭を埋め尽くす。あーもうどーすればいいんだこれ。確(実に)殺(される)エンドじゃないか。

 

 

「ノイント、どうされたのです」

 

 その言葉に、あるかわからない心臓が跳ね上がった、気がした。

 ビクッと身体が反応しなかったのは(きっとこの体の仕様)よかったが、心臓に悪い。やめてほしい。

 

 そこに現れた人物──今の私と同じ見た目をした少女? は無感情な瞳で私を見つめている。ここは──

 

「なんでしょうか。──あなたは?」

「──なるほど、主が()()()()と言っていた理由が理解できました。我が名は第四の使徒(フィーアト)。貴女を案内するように、と命ぜられました」

 

 

 情報、早すぎじゃねーですか……?

 

 (神なのに)愉悦の化身に変なことをすればおもしろそうからなんかされそうだったし感情がないっぽいフリをしたけど……大丈夫、だよね?

 

 そんな一抹の不安とともにフィーアトに追従する。これからきっと、信徒を増やすとかそんな仕事をさせられるのだろう。────なんか、憂鬱だ。

 

 そもそも、ノイント、か。はっきりと覚えてるのは、ハジメにころころされて、ヒロインの一人──かおりんの義体みたいなのにされたんだっけ。なんだろ、自分の未来がすっごく不安になってきた。

 

 

 せめて、なんか変なことやらされませんよーに。

 




・ノイント
気がつけば憑依してた人。
ノイちゃん、ノインちゃんとでも読んであげてください


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動画投稿・配信者【月《ルナ》】さん


タグ:アフター、配信者、ユエ


 学校帰りの電車内。帰宅時間が重なったサラリーマンや学生がいるせいでそれなりに混み合ってはいるものの、友だちとは帰らない自分には、割と暇な時間帯。俺はいつものようにスマホをいじっていた。

 ネットの掲示板に目を通した後、自分の耳にイヤホンを装着。これで準備はほぼ整ったというもの。

 いつも通りに某動画サイトを開いて、ログイン。そして何か面白そうな動画はないかと下へ下へとスクロールしていく。

 Vtuberの切り抜きや、動物の動画、電車内でもぱぱっと見られる短いものを見て、気まぐれにランキングを見てみた。そこの一番上には、こんな動画があった。

 

 

 『ア○雪、再現してみた』

 

 

 『○ナ雪』、どうせまたよくあるシーンを面白おかしく再現しただけなんだろう。そう思った。なんでこんな動画が一番上に飾られているんだろう。そう疑問に思うのは、仕方がない思う。そして別の動画を見ようと、画面をスクロールする指が、急に止まる。

 なぜなら、その下の投稿者の名前が、自分もよく知っていた人だったからである。

 俺ですら指を思わず止めてしまう動画、その投稿者の欄には、こう書かれていた。

 

 

 ──【 月 《ルナ》】

 

 

 その名前を見た瞬間、俺は無意識に動画を再生していた。

 

 

 それと同時に、動画が始まった。

 それは、数年前に大ヒットした映画のワンシーン。自分が○曜ロードショーや動画サイトで何度も見たシーンだった。

 そのシーンではかかせない、聞き慣れたピアノの伴奏とともに、コンピュータではありえないほどのリアリティを持った雪山が映されることから始まった。それはまるで本当にそこまで取りに行ったような雰囲気を醸し出していた。その雪山をグルリと写したのち、視点は変わる。そして──

 

 

『────♪』

 

 

 まるで映画からそのまま飛び出してきたような髪の色、服装をした少女が現れた。

 その顔は幼いながらも今まで見てきた女性がくらむほどの美しさを誇っていて、彼女はここまで変わるのかと驚いた。

 だいたい()()()()()()()()()と彼女は言うが、こんな動画を投稿しているからか、どこからが本当なのかは判断できない。だが、それこそが彼女の魅力だった。

 

 

 肝心のその動画は、素晴らしいの一言に尽きる。

 どれだけ力を入れているのか、もはや本物ではと思わせる氷の質感、映画のシーンを切り取って貼り付けたではありえない、彼女の小柄な背丈に合わせた精巧に再現されたドレス。季節に合わない、本当の雪を踏みしめたような足跡。そしてなによりも、鼓膜を震わせるその歌声。

 少し焦り気味に、イヤホンが外れていないか確認する。こんな歌を電車内で流したならば、乗客の視線が全て俺に集まってしまうだろうから。

 そして最後に、作り上げた城の上で一節を歌い上げ、その動画は終わる。

 たった4分とは思えないほどの満足感だった。ただの暇つぶしだったとはいえ、とても感動した。

 

 それは、誰も彼もが同じらしかった。

 

 

・初めて見たんだけど、クオリティどうなってんだ。これ企業か?

・個人らしいぞ。この前配信で言ってた。

・氷本物? CGにしてはすごすぎるだろ。魔法とか言われた方が納得できる。

・帰還者じゃねーの? あいつら……おっと誰か来たようだ。

・おっと帰還者に触れるのはNGだ。政府の役人が飛んでくるぞ。

・なにそれこわい。

 

 

 その動画のコメント欄には、彼女の技術に愕然とする人々の声ばかり。たしかに、魔法と言われた方が信じられるグラフィックやCG技術。これが一個人やそこらでやられたと言われる方が信じられないだろう。

 そして、俺の指は自ずとそのチャンネルの動画一覧へとすすんでいく。言うまでもない。このチャンネル主の動画を見るためだった。だが、そこでまたしても指が止まる。

 

 そこには、配信の待機場所が作られていた。それも、あと数分で始まると来た。

 うかつだった。ツ○ッターを確認していなかった。楽しみにしていた彼女の生配信を見逃すのは、個人的に許せなかった俺は、すぐさまサムネイルを開いた。

 そこにはすでに、数千人の人が待機し、おもいおもいにコメントを書いていた。

 

 

『あと数分!』『待て、しかして希望せよ』『エド○ンおつ』『それはそうとアナ○見た?』『当然』『もちろん』『なぜ個人であのクオリティが出せるのか』『主は魔法使いだから……』

 

 

 そんな会話を眺めていると、画面が変わる。そして、突然映し出された彼女に、息を飲んだ。

 まるで、月の光を写したような金糸の髪。その隙間から見える血のような紅い瞳。年の頃は一三歳くらいだろう。まるでビスクドールのような少女に、画面越しに視線を奪われた。

 こんな少女が街を歩いていたならば、たちまち虜になっていただろう。いや、画面越しでもなっている。

 そんな彼女は、かちゃかちゃと何かをチェックした後、「んっ!」と短く気合の入った声をあげた。

 

 

「ん、こんにちは。(ルナ)です。元気にしてた?」

『うおおおおお!』『お姉様!』『待ってたぞ〜!』『ルナちゃん!待ってた!』『ルナさんと呼べ新入り』『申し訳ないがちゃん付けはNG』

 

 

 チャンネル主──(ルナ)が登場すると同時、チャット欄は加速した。そんなリスナーたちのコメント群から、彼女の人気がうかがえた。

 そんなリスナーのコメントを眺めながら、ルナ“さん”は、満足そうにふんす! と頷いた。そして、特徴的な八重歯を見せ、にやりと笑う。

 

 

「ふっ、今日も私の暇つぶしに使われるがよろし!」

『あいあいさー!』『了解ですお姉様!』『草』『暇つぶしは草』『い つ も ど お り』『暇つぶしに配信してくれるお姉様やさしい』

 

 

 ルナさんは本当に暇つぶしのように、眠たげな目をしたまま動画を淡々と進めていく。そんな中、俺は今日の配信の話題に耳を傾けて────

 

 

 ──プシューッ

 

 

 そんな、音が鳴った。

 

 気がつけば、電車の扉が閉まっていた。

 

 そして、閉じた扉の先には自分が降りるはずだった、いつもの駅の名前の看板が立っていた。

 「は?」と思う暇もない。そのまま、電車は自分が状況を把握しきる前にその駅から次の駅へと、自分の意思を置き去りに加速し始めた。

 そして、数分かけて自分の状況を理解し始めたころ。俺は引きつった顔を隠すように、額に手を置いた。

 

 

 ──や、やっちまった……!

 

 

 そう思うには遅すぎたのは……言うまでもなかった。




・ユエ
暇つぶしに配信始めたという設定です。

原作キャラが配信するやつってあまりみないのでお試しです。


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我輩は神の使徒である

タグ:憑依?、転生?、神の使徒、敵サイド?


 グリューエン大火山。巨大な渦巻く積乱雲に包まれたその火山の最奥に、少し特異な少年少女たちと、一人の男がにらみ合っていた。

 

 白髪に眼帯をした少年、金髪に紅い髪を持った少女。露出の高い服を来たうさぎの耳をもった少女。そして黒い龍鱗を持つ龍がいた。

 その少年少女たちの体には、おびただしいほどの傷に覆われ、満身創痍の状態だった。

 

 対して白い竜に誇った男────神の使徒である魔人族、フリード・バグアーは、左手や胸部分に傷を負いながらも、その顔には少しの余裕があった。

 

 「────大迷宮もろとも果てるがいい」

 

 そう言い残し、フリードは首元のペンダントを掲げた。すると、天井に穴が空き、その穴から踵を返し、白龍と共に消えた。

 フリードが消えても、その男が従えていた竜たちは飛び回り、さらに少年たちの周りのマグマは勢力圏にはいった海のように荒れ狂い、マグマ柱はその数を増やしていき、少年たちの足場もマグマに埋もれていく。

 

 その原因は、フリードであった。

 

 グリューエン大火山は活火山であり、フリード・バグアーが抑えていたものを壊してしまったが故の地震。

 その中で、竜たちの攻撃を必死にいなす少女たちの中の一人────竜人族のティオに向かって、白髪の少年は頰に手を這わせ自分の方に顔を向けさせる。

 

 「ティオ、よく聞け。これを持って、お前は一人あの天井から地上へ脱出しろ」

 

 そう言われた黒龍(ティオ)は、悲しみと怒りを混ぜた声を響かせる。

 

 『ご主人様よ。妾は、妾だけは、最後を共に過ごすに値しないというのか? 妾に切り捨てろと、そういうのか? 妾は──』

 

 さまざまな感情が込められたその言葉は、言い切る前に止められた。

 

 「ティオ、そうじゃない。時間がないから一度しか言わないぞ。俺は、何も諦めていない。神代魔法は手に入れるし、あの野郎(フリード)はぶっ殺すし、そして“静因石”を届けるという約束も守る。一人じゃ無理なんだ。だから、お前の力を貸して欲しい。お前でなければ、アンカジに戻ることは不可能なんだ……頼む」

 

 ハジメは、今までに一番真剣な眼差しで、ティオの瞳を見つめた。全ての望みを叶えるには、お前の力が必要なのだと。

 そこに諦めも、自己犠牲も、ティオだけを除け者にする考えなどなかった。

 

 ティオの心は悲しみや怒りから歓喜に変わる。今や本気で伴侶を考える相手から“託された”のだ。これに応えなければ、女ではない、と。

 

 『任せよ!』

 

 ティオの鱗の内側に、アンカジの者たちを救う、静因石が入った宝物庫を渡されたことを確認したティオは、ハジメに頭をこすりつける。そして金髪の少女──ユエと兎の獣人──シアに視線をやる。二人ともハジメと同じように、諦めなどなかった。

 

 「“あとで会おう”、頼んだぞ」

 『委細承知じゃよ』

 

 そう言葉を交わすなり、ティオは飛び出した。殺到する光線なんぞ物ともせず、空を駆ける。痛みすら力に変え、光線の嵐を突破してフリードの開けた扉に入り込んだ。

 残りの魔力を姿を維持できるギリギリまで残し、風を操り、速度を上げていく。

 一つ二つと扉をくぐり抜け、フリードの妨害(しょうがい)すらも愛する男の力と共に強引に吹き飛ばし、グリューエン大火山の上空へと飛んだ。

 

 ティオはしばらくフリードたちが消えた方向を見やり、変化がないことを確かめ、眼下のグリューエン大火山を見やる。

 

 『信じておるぞ、ご主人様、ユエ、シア』

 

 そう小さくも強さを持った呟きを残し、踵を返した。目指す先はアンカジ。さあ、愛する男のために────……

 

 そう決めて、グリューエン大火山を後にした。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 吹き飛ばされたフリードは、砂嵐に包まれながら、苛立ちに舌打ちを打った。

 

 「くそっ、あの黒龍め。油断した……ッ!」

 

 そう、追撃を仕掛けようとしたその時。

 

 砂嵐の中に、一筋の黒い光が見えた。その光は、黒龍の元へと奔り────、

 

 「ハッ──ハハハハハハハッ!!」

 

 その光を見た瞬間、フリードは笑った。まるで、楽しくて、可笑しくて仕方がないというように。

 

 「あの御方(・・・・)が来られたのか!! これで、貴様らは終わりだ!」

 

 そう、笑った。まるで、ティオの未来を想像し、その未来を嘲笑うかのように……

 

 

 ──────……

 

 ────……

 

 ──……

 

 ……

 

 

 砂嵐が吹き荒ぶグリューエン大砂漠上空をフラフラと飛ぶ影があった。言わずもがな、ティオである。

 すでに体はボロボロであり、もはやほとんど魔力は残っていなかった。

 

 『致し方ない。ご主人様よ、許してたもれ』

 

 そう言って、勝手に使うことを謝罪して、貴重な秘薬を取り出し────

 

 

 

 「────好機」

 

 

 

 そんな、抑揚のない声が響いた。

 

 『何事────!?』

 

 そう、呟く間すらありはしなかった。

 ティオの視界には、細く黒い光が視界を埋め尽くし雨のように降り注ぐ。

 

 竜人族の本能が告げる。

 

 アレは、筋一本すら当たってはいけないものだと。

 

 『しまっ───』

 

 そう察知するには遅すぎた。

 黒い雨はティオの鱗に、脚に、尾に、その身体を黒く染め上げるようにに当たっていく。

 

 『なん────』

 

 その瞬間、ティオの体に激痛が走った。まるで、全身の肉が一斉に剥ぎ取られたような、生皮をすべて生きたまま削がれたような、そんな痛みが襲った。

 

 『が、ぁアアアアアアアッ!!!』

 

 痛みに耐えきれず、絶叫を漏らす。

 

 一体なんだ、何が起こった。痛む身体に鞭を打ち、自分の身を確認すれば────なかった。

 身を包んでいるであろう鱗が、まるで無理やり剥がされたような惨たらしい傷跡を作り、肉をむき出しにして消えていた。

 

 「油断、大敵」

 

 驚愕に意識をやる最中、再び声が聞こえた。

 ティオはいきなり耳元で聞こえたその声に、とっさに残された魔力をかき集め、ブレスを放とうとするが────、

 

 「鈍重(どんじゅう)

 

 そんな抑揚のない声が聞こえたその瞬間、ティオは顔の側面に骨が砕けるような衝撃を受け、吹き飛んだ。

 吹き飛ぶその最中、魔力が尽き、身体が人型へと戻っていく。

 

 一体なんじゃ? 妾は一体何をされた?

 

 身を裂くような激痛の中、必死に思考するも、終ぞ何が起こったか理解はできなかった。そして────……

 

 「王手」

 

 その言葉とともに自分の体が胸元から裂けた。噴き出す鮮血に、意識は霞んでいく。

 

 ────ユエ、シア、ご主人、さ……

 

 眩む視界には、黒と銀が混ざり合い────ティオの意識は、消えていった。

 

 

 ────、

 

 ──、

 

 

 アンカジまで吹き飛ばされたティオを睥睨する、黒い影が一つ。

 その姿は銀髪に一筋の黒髪が混ざった翠眼の女だった。

 女は、片手には刃にも柄のある漆黒の大剣を持ち、ノースリーブの膝下まであるワンピースの、髪色とは正反対の真っ黒な黒曜石のような鎧ドレスを身につけた、北欧神話のワルキューレのような出で立ちをしていた。異なるとすれば、背には一つ一つが刃のような漆黒の翼が生えていることだろうか。

 

 「退屈」

 

 “飽きた”。ようはそう呟いて、踵を返し飛び去っていく。

 

 

 

 (あ〜やっちゃたなぁもう。いくら仕事とはいえティオ切っちゃったよ。どうしよ、死んでないよな? 一応ちゃんとアンカジに飛ばしたし。あそこにはかおりんがいるはずだから、ちゃんと治るはずだ。ちゃんと手加減したし……よし、大丈夫だ。つい勢いで(これ)使っちゃったけど大丈夫、うん。あ…………でも魔王(ハジメ)の女にやっちまった! 殺される! やばい、やばい! 死にたくない! 折角の美少女なのに死にたくない! あ〜こうなるんだったら最初っからエヒト様裏切って逃げとけばよかった!! このエヒト様め! 死んだら恨むからなぁっ!!)

 

 

 ────誰も、そんなことを考えているとは知らずに…………

 

 

 




・ヌォル
気がつけば神の使徒だった人。
多分敵対する。

ティオの傷はあれです。
マギ20巻くらいの魔装引き剥がされた紅覇を想像してください。アレです。


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転生オリ主「思うてたんと違う」

タグ:転生、オリ主、r-15、ギャグ補正という名の御都合主義


 とある少年、倉川直登(なおと)は内心、頭を抱えていた。

 

 別に、今の状況がすっげぇ嫌だというわけではない。むしろ大歓迎だった。

 今この状態が若い頃の延長線上であっても、それは叶わないこととは知っていても、望んだことではあったし、むしろ、叶ってしまったと気づいた当初はめちゃくちゃに喜んだものである。

 

 だがそれはそれ。これはこれである。

 

 「いやなにいってんだよお前」というツッコミはない。その意味はしかるべき時に語ることであるものの、今は割愛する。

 

 

 さて、ここまで話したところで直登の現在の状況に戻ろう。

 

 彼は今、絶賛戦闘中であった。

 「キュルルル〜!」そんな叫びをあげながらやってくる恐竜(なぜか頭に花が咲いてはいるが)に、直登は腕に抱えていたボウガンに弾を装填した。

 ラプトルのような姿をした恐竜──魔物の群れは直登から視線を外さず、姿勢を低くし牙をむき出しに、警戒の態勢をとる。

 

 先に動いたのは、直登だった。

 直登の腕が振るわれる。その瞬間、ラプトルの一匹の眉間に穴が空いた。

 あっという間に絶命したことに気づかないラプトルが反応するよりも早く、次弾を放つ。通常ではありえない、矢でも放ったような速度で放たれたその弾は、次はラプトルに命中することなく地面に当たった。

 その間を逃すラプトルたちではなかった。仲間を殺された怒りからか怒りをたぎらせたような鳴き声をあげ、直登に四方八方から襲いかかった。

 前後左右、そして上から襲いかかるラプトルの群れに直登は諦めたか、腕を下ろした。そんな直登に勝ち誇ったようにラプトルたちは目元を歪める。

 だが、間も無くその牙が直登に届こうとした瞬間、突然直登の腕からガシャンッ! と機械的な音が流れた。

 

「じゃあな」

 

 それと同時、大量の弾が放射状に放たれた。ボウガンではありえないほどの大量の弾は直線の軌跡を描き、跳躍していたラプトルの眉間に、口に、胸に狂うことなく命中する。

 だが、地を走っていたラプトルはそれを避け、直登を食い千切らんと牙をむき出しにした──その喉に、()()()()()()()()()()()

 「えっ?」そんな顔を浮かべて絶命するラプトルに続くように、ありえない場所から現れた弾に、次々と葬られていき──最後には、静寂が訪れた。

 

「──跳弾を狙うと、やっぱり精度が落ちるな」

 

 今の戦闘に評価をするように一人呟いた。どうやら、これほどのことを成したにも関わらず、彼はお気に召さなかったらしい。

 

()()()()()()()()()()()()

 

 そんな衝撃的な一言とともに、ラプトルもどきを持って帰ろうと準備しようとした時、どこかで鳴き声が聞こえた。いや、どこかなんて遠回しな言い方をしなくてもいいほど近く──真後ろから聞こえたのだが。

 

 

 そう、「キュルルル〜」という鳴き声が。

 

 

 見れば、ラプトルの一匹が先ほど直登が殺したラプトルを踏みつけていた。

 顔は恨みがましく、まるで「てめぇっ、今までよくやってくれたなっ」とでも言うように。

 げしっげしっと何回も踏みつけてから満足したのか、またもや「キュルルル〜」と鳴いて、ふんすっと鼻息をだした。

 

「……何やってんだ、お前」

 

 そう話しかけると、ラプトルはビクッとする。直登の目がバカを見るような目に変わる。そんな目にさらされながらも硬直から立ち直ったラプトルは、姿勢を低く──する前に、その眉間に今度は矢が刺さっていた。

 ピュ〜と漫画のように血を吹いて、パタリと倒れた。そんな光景をなんとも言えないような目で直登は見つめる。

 

「なんだったんだ? 一体……」

 

 その答えは、誰にもわからない。

 直登は「まあいいか」と拠点に帰る準備を進める。矢を回収し、懐から細い糸と針を出して二、三匹ラプトルを数珠のようにつないで担ぎ、拠点へと急ぐ。

 

 

 

 

 

 拠点に着いた直登は、その光景に絶句する。無理もない。拠点の外見が、出る前とは明らかに異なっていたのだから。

 

 拓けた岩に囲まれた場所。

 ここは【オルクス大迷宮】。七大迷宮と呼ばれるほどの巨大な迷宮の中なのだから、そこまで驚く必要はない。だが、直登は思った。

 

「なんで家が建ってんだよ……!」

 

 思わず口に出してしまうほど、直登は動揺していた。眼前には、あり得るはずがない()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、今それをするわけにはいかない。

 

 たまらず、引っ張ってきたラプトルをそこらにぽいっと。鍵がかかっていたが気にせずベキッと壊して中へ入った。家の内装もしっかりしていることに気が遠くなるも、ここで折れるわけにはいかない。玄関で靴を脱ぎ、廊下を突き進む。そのまま、廊下から続く扉を思い切り開け──

 

 

「「「「「おかえり〜」」」」」

「おうただいま、だがそれはそれとしてどうしてこうなったのか説明しろよ!」

 

 直登は激怒した。

 目の前の白髪混じりの髪を持った少女五人組は、「どうしたのかしらん?」と不思議そうな顔をしているのが余計に腹が立った。

 

「落ち着いて倉川くん、私たちがやったんじゃないわよ?」

「あと、鈴たちに説明頼まれてもできないからね?」

「そうそう、やったの南雲くんだし」

「その本人は探索に行ったけどね〜」

「ああ、そう……中村さん、とりあえず詳しいことは……」

「聞いてないよ?」

「あ、はい」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()は順番に答えた。助けを求めるように()()()()に聞いても、結局答えは分からずじまい。直登のメンタルはボロボロだ。

 

「倉川、南雲なら数分後には帰るって言ってたぞ」

「ああ、だからもうすぐ──」

「…………いたのか、地味ーズ」

「「誰が地味ーズだっ!」」

 

 ()()()()()()()()()はそう叫んだ。その後、四つん這いになった清水が「遠藤と同じ、か……」という呟きに遠藤がショックを受けて四つん這いになる、というのが恒例である。それが仲間と呼ばれることに拍車をかけているのは、まだ知らない。

 

「……それで、どうしてこうなったんだ? 俺いなかったの三時間くらいだろ……?」

「……ああ、なんかやっぱり落ち着いて寝れる場所が欲しいってんで南雲とか今日は留守番の奴らが頑張った結果だ」

「どうしてそうなった」

 

 本当に、どうしてこうなったのだろう。そう思うしかなかった。直登の心はボドボドである。天之川とか坂上が帰ってきたらどうなるのかな? と半ば現実逃避したかった。

 そんな時、ガチャリと音がなった。

 

「なんっで鍵が壊れて──ただいま〜」

「南雲ォッ!」

「なんだ!? どうした倉川! いってぇ!?」

 

 現れたのは南雲ハジメだった。すかさず直登は飛びかかり、関節を決める。

 

「おのれ南雲! なにがどうしてこうなった! 吐けっ! 吐くんだよ南雲っ! どうやったら木材がない場所で立派な一軒家が建つのか言ってみろコラァッ!」

「いででででッ! 放せ倉川! 俺は悪くないッ! 悪くないぞッ! 寝場所がほしくてだなっ!」

「どうせ深層に進めばおじゃんだろうがァッ!」

 

 そんなやりとりを、七人は「いつものことか」と気にしてはいない。むしろ、気になるのは()()()()()()()()()()

 まるで人形のような美しさを持つ少女は、どうしたらいいのかという感じでオロオロとしいた。

 

「あの……」

「俺の精神に謝れ! 別に悪いとは言わんが状況をだな!」

「──いい加減放せ、倉川ァ!」

「あばばばば!」

 

 そんな少女の言葉も虚しく、バリリッという音ともにかき消された。

 

「……大丈夫、ハジメ?」

「ああ、大丈夫だ」

「あの〜南雲くん、その子は誰? なんで迷宮に人が?」

 

 ハジメは痺れて動けない直登を押しのけ胡座をかいた。そして「あ〜そうだな」とほおを掻いた。

 

「探索してたらいたんだよ。放置すんのも可哀想でな」

「説明になってないのだけれど……」

 

 雫のそんな言葉に、少女は悩むそぶりを見せて、口を開いた。

 

「──私は、ユエ。封印されてた、先祖返りの吸血鬼」

 

 少しばかり騒然となる部屋の中で、意識だけははっきりとしている直登は叫びたかった。

 

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()。そう、言うなれば──

 

 

 思うてたんと違う、と────

 




・倉川直登
転生者。あばば。

なんで数人しか落とさないんだという思考から生まれました。うーむ…


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ハジメヒロイン正妻化計画(予告編集)

 ハジメのヒロインズを正妻化させる自分しかやらない計画です。設定だけ考えて放り投げました。レミア編、ティオ編、香織編はありません。ネタ編もあります。どうぞー


☆シアルート

 

 

 ──彼女は、泣いていた。

 

 雨の中、自慢の白髪が泥に塗れても、それに気づくことはない。ただ、この痛みだけが思考を支配した。

 

「かあ、さま……」

 

 母を失ったのは何年も前なのに、その痛みは消えはしない。

 

「私、たちは──私たちは! あとどれだけ()()()()()()()()()()()!!」

 

 少女──シアは、()()()()()()()()()を想い、ただ涙を流す。連れ去られた家族が、二度と帰ってこないということはわかっているのに。

 

「────言っても、どうすることも、できませんよね」

 

 そう、いつものように気持ちを整理して(あきらめて)、帰ろうとしたその時、ガサリと何かが音を立てた。

 

「──っ!……だれか、いるんですかぁ?」

 

 怖かった。気配を消すことは彼女の種族の特性として苦手ではない。だがそれは、気の弱い彼女たちにとって何の意味もなさなかった。

 

 恐る恐る、その茂みの中に近づくと──

 

 

「…………人間の、こども?」

 

 

 こうして、雨の中濡れて気を失っているこどもを連れて帰ったシア。

 人間であるにも関わらず、追い出された彼女の家族──ハウリアの一族は、こどもを置いてあげることを快く受け入れてくれた。

 

 こどもが目を覚まし、混乱するこどもを得意の料理と持ち味の優しさで落ち着かせ、名前を聞くことに。

 

 

「ぼくの名前は……南雲ハジメ、です」

 

 

 こうして始まるハジメとの日々。

 

 

「…………シア、お姉ちゃん?」

「はうっ……!」

 

 

 森に行けば。

 

 

「シアお姉ちゃん、これなに?」

「これ毒ですよ!? ペイってしてください!ペイって!」

 

 

「へ? この蔓って……きゃあ!?」

「シアお姉ちゃん!?」

 

 

 たまに危なかっしい状況に追い込まれたり、まだ子どもなのにと心配し奔走するシアの姿が日常となったころ。

 だが平和は、いつまでも続かないものである。

 

 

「────シアお姉ちゃんを、いじめるな──っ!」

 

 

 

シアルート

『森のうさぎさんは子どもを拾いました』

 

 

 

 

 そして──

 

 

「……ん? ハジメ……?」

 

「あ? シア…………っ!?」

 

「…………?」

 

 

 再会して色々と小さい頃のあれこれを思い出したハジメは、誤魔化せるのか……!

 

 

 

 

 

☆愛ちゃんルート

 

 

「────遠い、親戚?」

「そうなのよー! 今度親戚通し顔を合わせようって話になったから、準備しておいてね」

 

 こうして、とあることを切っ掛けに遠い親戚らしい一家と顔合わせをすることになった大学生、畑山愛子。

 

「初めまして、南雲愁です。こちらが妻の──」

 

 そうして彼女は、南雲家と出会う。

 一般的な会話をする母と南雲家の主人の会話を暇に思った愛子は、一緒に連れられていた子ども──ハジメをだしに街を歩くことに。

 

「ハジメくん、お姉さんに何か──」

「お姉、さん……?」

 

 そんな小学生、ハジメの純粋な瞳で遠回しに“ちっこい”と言われた彼女は撃沈。それでもと気を取り直して街を歩きまわった。

 

「う〜ん、愛子ねぇ?」

「なに〜、ハジメくん」

 

 それから家族ぐるみであうようになり、“愛子ねぇ”、“ハジメくん”と呼びあうようになって数ヶ月、彼女は先生になることに。

 

 それから数年後。

 

「愛子ねぇ!?」

「ハジメくん!?」

 

 そんな絶叫とともに、ハジメが高校に進学すると同時に、愛子はハジメのいる高校に勤めることになったことに気づいた二人。

 

 以下、一幕。

 

「ハジメく──南雲くん!」

「なに──ですか、愛子ね──先生」

 

 そんな関係は、二人がクラスメイトとともに異世界に召喚されると同時に変化していく──

 

 

「ハジメくん、私は──」

 

 

愛子ルート

『愛のはじめとその後で』

 

 

 

 

 

☆リリアーナルート

 

 

 ──胸が、痛かった。

 

 リリアーナ・S・B・ハイリヒは眠れぬ夜を過ごしていた。

 

 ずっと、締め付けられていた思い──罪悪感が、彼女を寝させはしなかったのだ。

 

 召喚された自分と同じくらいの子どもたちを戦争へ向かわせ、私たちは安全圏から見守って。それで使えないからといって邪険にする。

 そんな扱いが許せなかった彼女は、その“落ちこぼれ”と呼ばれる彼に話しかけたのが、はじまりだった。

 

「──南雲ハジメさん、ですよね?」

「────どちらさま?」

 

 『K.O!!』そんなテロップが出そうなくらいリリアーナは落ち込んだ。「わたし、王女なのに……」と若干の存在感の薄さを発揮するリリアーナに、ハジメは謝り倒した。

 

 それから始まる二人の関係。

 

「竜人族って、竜に変身できるのか……リリアーナさん、この理由って……」

「そうですね……この原因は未だに判明していません。ハジメさんにはお教えしますが──その高潔な魂に関係するーっという説がありまして」

 

 誰にもバレないように、二人きりであうような時間が増え始めた。リリアーナはこの世界のことを教え、そしてハジメの生きた世界から利用できる情報があるかもしれないと情報交換をするような間柄に。

 

 そして、運命の日。

 

 大迷宮の探索に行くというハジメに、リリアーナは一つ、お願い(おまじない)をした。

 

 

 

「──ハジメさん、お願いがあります」

 

 

 

リリアーナルート

『お姫様のおねがい』

 

 

 

 

 

☆雫ルート?

 

 

 八重樫雫は暴走した。

 

 必ず、かの邪智暴虐の魔王を()()()()()()()()と決意した。

 

 雫には男心はわからぬ。

 

 八重樫雫は剣道少女である。剣を振り、剣とともに自分を高めてきた。

 

 けれども邪悪(恋心)には、人一倍に敏感だった──!

 

「ハジメくん!」

「うおっ!? どうした雫」

 

 こうして始まる雫のアピール(暴走)

 キャラが死んでるとか「雫ちゃんどこ……? ここ……?」と言われようと恋心を自覚した彼女の前にはそれは無意味。全力で好き好きアピールをする彼女の前には無力だった。

 

 

 その一:お風呂場

 

 

「ハジメくん、パンツを忘れて──」

「おうありがとう。だが──風呂まで持ってくんのは違うよな!?」

 

 

 その二:キッチンにて

 

 

「ハジメくん、森の珍味で料理を作ってみたんだけど……」

「おうありがとう。だが一つ聞かせてくれ。どうやったら現実世界で表示がバグる料理が作れるんだ!?」

 

 

 その三:ベッドにて

 

 

「もう、迷わない──」

「迷え! 思いっきり迷え! 寝させてくれよ頼むから!」

「……どうして、こうなった?」

 

 

「八重樫の女は強いのよ?」

「雫ちゃん落ち着いて! 怒られるからやめよう!?」

 

 

 

雫ルート

『オチれハジメ』近日公開!

 

 

 嘘です。

 

 

☆雫ルート(真)

 

 

 ──疲れた。

 

 八重樫雫は、自室のベッドの上でごろんごろんとだらけていた。

 実家の道場ではそれなりに剣道を学んできたし、それは疲れるだろう。だが、幼馴染という存在もあり、まだ十歳にもなっていないのに疲労困憊だった。

 

「はぁ……」

 

 そんなため息とともに、お気に入りのぬいぐるみを抱きしめてふて寝に入る。もう道場の方は始まっているはずだが、今日はやる気が起きない。だからと休むことに決めてもう一度──とした時だった。

 

 

「間に合っ…………た?」

 

 

 その時、突然知らない男の子が入ってきた。空気が凍る。とりあえず、混乱した雫は抱きしめていたぬいぐるみを投げていた。

 

「き、今日から入門しました。南雲ハジメです……ごめんなさい」

 

 どうやら男の子の名前はハジメというらしく、両親の悪ノリでここに入れられたらしい。「いや、ここは牢獄か」と突っ込みそうになったのは悪くない。

 そこからなんだかんだ、二人はよく話すようになった。幼馴染たちとは違う性格で、自分の趣味にも意外そうな反応をしないハジメに、雫はすぐに絆された。

 なぜかめきめきと強くなっていくハジメに「うちの道場、何教えてるの……!?」とはなったものの、その関係を楽しんでいた。

 

 だが、高校生になった頃、驚愕の真実を知る。

 

 

「────あの人、が?」

 

 

 幼馴染、香織の想い人がハジメと知り、なぜかモヤモヤとした気持ちを抱く雫。こんな思いを抱きながらも、自分の心に苦しむが──唐突に、彼らは異世界への召喚される。

 

 そして、彼女は──

 

 

「愛した男がいるのなら、世界を超えて愛すと言うのが女の責務よ。ナメないで」

 

 

雫ルート

『八重樫の女』

 

 

「どう? 八重樫の女は強いのよ」

 

 

 

 

☆園部ルート

 

 

 園部優花には、密かな楽しみがあった。

 

 実家の洋食レストラン。現在時刻は十五時ほど。この時間帯はいつも人が空いているお陰で、かなり気が楽だった。そう、コーヒーでも飲みながら休める程度には。

 そして、実家のお手伝いをしながら、その時を今か今かと待っていた。

 

 ──からんからん。

 

 その音ともに、優花は急いで玄関へ急ぐ。今日は来ると聞いていたし、それもこの時間帯を選んで来るのは、()()()()()()と知っていたから。

 

 現れた人物に、ニコッと笑って。決まり文句を述べた。

 

「いらっしゃいませ、ハジメ。今日もいつものでいい?」

「うん、今日もお願い。優花ちゃん」

 

 お得意様──ハジメは、優花に笑いかけていつもの定位置に着いた。

 

 優花はハジメに母に入れてもらったブレンドを()()()()()ハジメの席へ。片方をハジメへ渡した。

 そんな優花に、ハジメは笑う。

 

「いつも思うんだけど、仕事はいいの?」

「いいのよ。お母さんもいるから。──じゃ、少し話につきあってね」

「あはは、もちろん」

 

 お得意様のハジメと話す時間が、優花は大好きだった。

 

 

 

優花ルート

『その一杯は誰のため』

 

 

 

☆ミュウルート

 

 

 ──少女は、どうしても叶えたかった願いがあった。

 

 少女は月明かり差し込む家の中で、まるでカミサマに祈るように、指を絡めた。

 

 少女には、カミサマという存在には悪い思い出がたくさんあった。だけれど、大好きなパパが読んでくれた絵本には、こう書いてあった。

 

 ──満月の夜にカミサマに祈れば、その願いは叶う。

 

 そんな一節を子どもらしい素直さでそのまま受け取って、月明かりの下で祈る。

 

 

 “()()()()()()()()()()()()”。

 

 

 少女──ミュウは、純粋な気持ちでそう願った。そう、憧れのおねえさんたちのようになりたいと──

 

 

 『その願い、叶えてやろう』

 

 

 そんな不思議な声がして、ミュウの視界がぐにゃりと歪んだ。

 

 

 

「──みゅ? ここ、どこ?」

 

 

 

 そうして始まるミュウのお婿さん(パパ)探し。

 なぜか自分の身体が十五歳くらいまで成長していて、さらには自分がいた世界の過去にいると悟ったミュウは、それはそれははっちゃけた。

 

 

「ロリコンしすべしっ! なのっ!」

「ぶべらっ!」

 

 

 ある時は子どもを狙う人攫い集団を一人で片付け。

 

 

「シアお姉ちゃんは私が守るのっ!」

「なんだこの海人族!? ぎゃあっ!?」

 

 

 ある時は影ながらとあるウサギたちを守ったり。

 

 

「ウザレディお姉さんぶっころすっ! なのっ!」

『ウザレディ!? ちょ、まっ! ああっ!?』

 

 

 ある時はとある迷宮のめちゃくちゃうざいボスをぶっ飛ばした。

 

 

 ──そして。

 

 

「……君、は?」

「────はじめまして、なの」

 

 

 

ミュウルート

『水底のおつきさま』

 

 

 

☆エクストラルート

 

 

「──誰だ、貴様」

「……なんでやねん」

 

 南雲ハジメは困惑した。

 自分はなぜ今、わけのわからない空間にいるのだろうか、と。

 なぜ今! 神様が住んでそうな極彩色の空間にいるのかと──ッ!

 

 混乱やら驚愕するハジメに、雛壇の最上にある玉座に座った女性は笑う。

 

「よし、貴様。我に仕えよ」

「────なんでやねん」

 

 

 

エクストラルート

『機械みたいなかみさま』

 




・シア編
大分時空が歪み始めている…
シアを正妻にするにはどうするか、そう思った結果こうなりました。ユエさんに勝つには先に出会ってハジメにベタ惚れさせるしかないよね。
落ち着けシア、それだとただのショタコンだ。ちなみに時間軸が歪んでるので、ハジメはシアと5.6年くらいあってないことになってます。

・愛ちゃん編
遠い親戚というコンセプトで。たしか歳は7歳くらい離れてるからこれでいい、はず。ショタコン2号

・リリアーナ編
優しそうで不憫だったらこれくらいいい、よね?

・雫ネタ編
いろいろとごめんなさい。

・雫編
最後のセリフを言わせたいがために書きました。異論は認める。これ書くとSAN値が削れる気がする。

・園部編
レストランに入り浸るハジメと優花の話です。実質恋人扱いされるところまで見えました。

・ミュウ編
レミア編の代わりに追加。…精神崩壊ルートとかGルートとかじゃない、よね?そんなにおいがするよ。デデデッデ...

・エクストラ編
相手は…誰だと思います?


いろいろとごめんなさい。
雫さんのキャラ崩壊すごいですね。真面目な方書いたので許してください。書いてて投稿するかどうか迷うくらいには悩みました。
あと、三人を書かなかった理由はティオ編はもう書いてるし、香織ヒロインはメジャー。レミア編は…その、ねと…みたいになるので。
構想を短くまとめるのって意外と難しいですね。誰か、書いてほしいなぁ…


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あい・あむ・あれーてぃあ



タグ:r-15、憑依、転生?、ユエ、あれーてぃあ、オリジナルキャラ追加、設定・文めちゃくちゃ、


 

 

 ああ、なんて気持ちがいいんだろう。

 

 早朝のまどろみの中、私は暖かいベッドの上でごろりごろりと転がった。その度に、柔軟剤か天日干しの匂いかわからないが、いい匂いが私を思いっきり包み込んでくれる。

 そのまま暖かい布団の上で、すぅっと息を吸い込めば、もう至福。これに勝る幸せというものはなかなかないだろう。

 

 ああ、なんて気持ちがいい。何をしようとも、この心地よさには変えられない。

 

 この幸せに包まれて、まどろみに身を任せてもう一度眠りにつこうとした時、耳元で思いっきり愛称を叫ばれて、急速に意識が浮上していく。

 

 

「──殿下! ティア殿下! 早く起きてください! ほら! 早く!」

 

 

 掛け布団をひっぺがされて、あまりの温度の変化(幸福度の変化とも言うかも)に「くしっ」という情けないくしゃみをした。

 

 やだ、まだ寝たい。

 

 そんな欲求のままに、猫のように丸まって手足をすり合わせた。ああ、寒い……

 

「殿下! でーんーか! 起きてくださいまし!」

 

 寝させてくれ、クルル。いやだ。何故起きなければならないのか。まだ小鳥も鳴いていないしニワトリも元気に叫んでないじゃないか。私的に小鳥も鳴いていないうちに起きるというのは抵抗感があるんだ……

 

「国の代表である貴女がなにをやっておられるのですか! ほら! 淑女然とした態度を取られなければ示しがつかないではないですか!」

 

 ──私はティア。惰眠をむさぼる女……

 

「ええい、一国の王女が何を! っていい加減マジで起きろやがれゴルァッ!」

 

 ボンボンボンボンバンバンバンバンバフバフバフバフガスガスバキベキボキドッカンウィーンガシャン!

 

「何……今の音……」

 

「アヴァタール王家メイド奥義百八式の一つです。このアヴァタール王国のメイドたるもの、なかなか起きない主人の起こし方程度、あってしかるものです」

 

「いや、私が聞きたかったのはあの謎の音なんだが……そもそもメイド奥義百八式なんて聞いたこともないぞ──」

 

 

 ──おっと、危ない。思わずクルルの策に乗せられるところだった。どうせそんな音を出せば私が興味につられて起きるとでも思ったのだろう策士め、そんなことで私が起きるとでも……

 

 その瞬間、どこかでプッツンと音がした。

 

 

「いい加減に──せいやァッ!」

 

 

 刹那、私の体は宙に舞った。

 どうやら、私はシーツごとぶんどられたらしいと、ふわりと浮いた頭より上にあった自身の足を見て理解した。

 

 それを理解できたのも少しだけ。ぽすん、と落ちた後にふぁさあっとシーツが頭に被さった。

 

「まったく……どうしていつも……」

 

 そんなクルルの愚痴とともに、シーツが取り上げられた。それと同時に、金糸のような髪が舞う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()殿()()! いい加減、もう起きられましたね!」

 

「……まあ。これだけされれば、な。あとフルネームを叫ぶのはやめてくれ……」

 

 ぽりぽりと、もうすっかりと覚めてしまった目とともにほおをかいた。ああ、もう髪がボサボサだ。

 

「というか、あなたは服をどうされたのですか!? (わたくし)は渡しましたよね!」

 

「なんでだろう、知らない。寝ているうちにひとりでに」

 

「服が意思を持っているように言わないで下さいまし!」

 

 まあ、流石に()()はいただけなかったみたいだ。だけどすまないクルル、本当に憶えがないのだ。朝になったら消し飛んでいるんだ。信じてほしい。

 そう言っても納得できないのか、それとも気に食わなかったのか、クルルは説教を始めた。私はその間全裸の状態で放置である。クルルの言っていた“淑女然とした”とは一体なんだったのか。

 

「いいですか! 王女というもの……」

「くぁ……」

 

 思わずあくびをすれば、ブチリと何かが切れた音がした。

 ぶわんっ! という音ともに、私の肌に何かが触れた感覚がした。違和感とともに視線をおろすと何故か、私は服に袖を通していた。それも、ドレスのような服に。

 

 思わず、引きつった顔でクルルを見やった。

 

「クルル、今の、なに」

 

「メイド奥義百八式の一つです。メイドたるもの、総てを完璧にこなせなければなりまさんから。この程度、朝飯前です」

 

「いや、これ奥義とかで片付けられるレベルじゃないから。これ、魔法ですよね? 魔法陣も詠唱もなしに……」

 

「メイドですから」

 

 謎の威圧感に、それ以上何も言えなくなってしまった。……本当に、メイド奥義とは一体なんなのだろうか。今度書斎に行って調べてみようか。

 

「──そも、小国とは言え王女! それも“鬼神”と呼ばれ畏れられる貴女様がこんなことでどうするのですか!」

 

「クルルは私のママか」

 

「貴女がそんなだからでしょうがァッ!」

 

 クルルは説教を再開したが、結局そう絶叫して疲れてしまったようだ。さすがにそろそろしっかりしなければ叔父上や父上にチクられて朝食を抜かれそうなので起きておこう。

 未だ気だるい気分のまま、ベッドから降りてドレッサーへ向かう。

 

「陛下はもう朝餐の席についておられます。早く御支度を」

 

「──味噌汁は?」

 

「ありません」

 

 どうやら、味噌汁はないらしい。残念だ。

 

 

 少しだけテンションが下がったまま、ドレッサーの前へ。素晴らしいスピードで整えられ、クルルに連れられへ食堂へ急ぐ。

 

 食堂に続く渡り廊下を通るその時、鋼が打ち合うような音が聞こえた。

 

 思わず立ち止まれば、眼下には兵舎が。どうやら、そのすぐ隣に設けられている訓練場からだったらしい。

 金属の音と悲鳴を聞く限り、騎士団長──ウバルドがかなりキツめにシゴいているらしい。私が寝ている間も、ご苦労なことだ。まあ、だからこそ私も安心できるわけだが。

 そして、引き寄せられるように空を見上げた。そこには、いつもと変わらない青空があって、澄んだ空気ににこりと笑う。

 

「殿下!」

 

「──ああ、すまない」

 

 クルルに急かされ、私はまた走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ──私は、アレーティア。アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール。

 “鬼神”と呼ばれる、アヴァタール王国の王女である。

 

 

 また、()()()()である。

 

 

 なぜ私がこうなったのかは、未だにわからない。だけどそれでも──

 

 

 

 ──今はそれなりに、幸せに暮らしている。




・ティア
元日本人。本名長い人。
スペックはそのま…ま?
・クルル
オリジナルキャラ。
太陽のあの会話をやらせたかった。
アヴァタールに青空あったかは知らないけれど。

そもそもデフォでデイウォーカーだったかわからないトータス産吸血鬼。


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京都弁練習+百合ハ狙いTS転生者(仮)

タグ:r-15、オリ主、性転換、転生、ガールズラブ、ボーイズラブ、狐、エセ京都弁

設定および文はお察し




 フェアベルゲン、会議の間には重苦しい空気が流れていた。そんな中、この場の主──アルフレリックは、口を開いた。

 

「……なるほど、試練に神代魔法。それに神の盤上か……」

 

 来訪者の言葉に、そう相槌を打った。

 来訪者であるハジメ、ユエはただ、その言葉を聞き流し返答を待つ。

 

 内容は、この世界の真実に関わること、そして、自分の目的とそれを叶えるためにフェアベルゲンに入る必要がある、ということだった。

 アルフレリックにとっては、この話は衝撃だったろうにも関わらず、顔色ひとつ変えない姿とその理由に、ハジメたちが驚いたころ、階下が騒がしくなったことに気づいた三人は、急ぎ立ち上がった。

 

 階下では、さまざまな獣の耳が生えた者たちが騒いでいた。

 その中には、ハジメとともにやってきたウサギの耳が生えたハウリアの一族が、他の者たちに睨まれていた。

 その中の一人、熊の亜人が口を開いた。

 

「アルフレリック……貴様、なぜ人間を招き入れた。こいつら(ハウリア)もだ。()()をこの地に踏ませるなど……」

 

 そして、ハウリア族である忌子──シアを睨みつける。必死に激情を抑えているのか、その拳が震えていた。

 しかし、アルフレリックはどこ吹く風、と言ったところで、男の言葉を交わす。どうやら、男はアルフレリックと同じ階級らしい。

 だがしかし、男はハジメたちが()()にあるものたちだとは信じられないらしく、その声を荒げハジメをさらに恨みがましく睨みつけた。

 その目に籠るのは、それだけではないのだろう。今までに人間に与えられた屈辱を、痛みが。ただ一つの感情──“許せない”という、もっともな感情を露わにし、その拳をさらに強く握りしめた。

 

「……ならば今、この場で試してやろう!」

 

 ついに耐えきれなくなったのであろう。男はハジメに向かって突進した。

 熊人族である男は、熊人族特有の筋肉を滾らせ、一瞬で間合いを詰め筋肉の塊のような豪腕をハジメに向かって振り下ろす──

 

 

 ──だが、野太い大樹をもへし折るその腕は、ハジメの左腕にいとも容易く受け止められていた。

 

 

「温いな。それで、覚悟はできてんだろ?」

 

 ハジメはそう呟いた。

 それも一瞬。メキッという音が響いた。

 ハジメの金属でできた腕で受け止められたその拳が、次々ひしゃげるような音を立てて変形していく。

 男はその痛みと驚愕に、思わず硬直した。その隙を、ハジメが逃さないわけがない。

 

「ぶっ飛べ」

 

 拳を話し、義手の突きを放つ。それと同時、肘の部分が薬莢を飛び散らせる。“豪腕”が発動されたその腕は加速され、吸い込まれるように男の腹に突き刺さる──

 

 

 

 

「──そこまでや」

 

 

 

 

 その瞬間、ハジメの左腕はものすごい力で地面に向けられた。衝撃は床へ流れ、地面を大きく抉らせ地震を引き起こした。

 ハジメは、自分の左腕に触れる人物から腕を振り払い、思い切り後ろに飛ぶ。もちろん、何かに備えて武器を手に取るのも忘れない。

 そして、その人物──少女に、最大限の警戒と殺気を滲ませて睨んだ。

 

「てめぇっ……」

 

 睨まれた狐耳の少女は、ただころころと笑う。

 

「あらぁ、こわいわぁ」

 

 殺気など微塵も感じず、そう自然に返す少女に得体の知れない恐怖を抱いた。

 

 沈黙が訪れた。そんな中、狐の亜人が震える声で口を開いた。

 

「──ミコ。なんでお前がここに……」

 

 ミコ。そう呼ばれた少女は、困ったように額にしわを寄せた。

 

「えっとなぁ、なぁんか嫌な予感がして来てみたんや。そしたら……あながち、間違うてはおらんかったようやけど」

 

 そう、ちらりと男へ視線を送る。すると、男はびくりと肩を跳ねさせた。不思議なことに、今この場では年下であろう彼女に立場が負けているように見えた。

 

「──ジンはん、大丈夫かいな」

 

 そう言って、腰が抜けたのだろう、その場にへたり込んだ男──ジンの手を取った。

 

「ほんま、()()()()やなぁ。こないになってもうて……」

 

 少女は、砕けたジンの腕を包み込む。その刺激に、ジンは眉をゆがめた。思わずキッと睨め付けるが、固まる。

 

「ほんで、その力試しも言うのも十分やろ? これ以上あんさんの身体を痛めつけるゆうのもあきまへん。せやから今日はかえりや」

 

 ただただ無感情な言葉で告げられたその言葉に、ジンは返す元気すらも折られたのか、ただ尻餅をついたまま動かない。

 

 そんなジンを見て、ミコはため息を一つ。「しゃあない」と言葉を一つ、パンパンと手を叩く。奥から走って来た亜人にジンをお願いし連れて行ってもらう様から、ハジメはどうやらミコはそれなりの地位の人らしいと察する。

 

 ジンの身体が運ばれた後、ミコははっとして頭を下げた。

 

「すんまへん。つい時間をとってしまったわぁ。かんにんしてなぁ」

 

 ペコペコと頭を下げながら貼り付けたような笑みを浮かべるミコに、ハジメの顔に冷や汗が伝う。

 

「──いや、構わないよ。ジンがすまない」

「あらぁ、アルフレリックはん、謝らんでええんよ。あてが勝手にやったことやさかいに……」

「おい、何勝手に話してんだ」

 

 そう言って、ハジメはミコに銃を向けていた。先ほどジンの左腕を砕き、殺しかけた男が標的を定めたことに、狐の亜人の男は焦った。

 

「ま、待ってくれ。この子は──」

「おとうはん、あきまへんよ。こんこぉの邪魔をしたのはあてや。ほんとにやったら三つ指ついて迎えるところが筋や」

 

 どうやら、男はミコの父親らしい。父親にそう言ったミコはハジメの方へ向いて、朗らかな笑みを崩さずに口を開いた。

 

「話の邪魔をしてもうてすんまへんなぁ。ほんで、あてに何の用や? 邪魔したゆうのが気に食わんいうなら、しょうがおへんけど……」

「あいつはもういい。わざわざ追って殺すのも面倒だからな。それよりも……お前、今何をした?」

 

 そう、ハジメにはそれが理解できなかった。

 

 数々の改造を施し、改造に改造を加え、魔物すらも一撃で屠れるようになった己の腕を、ミコはたった一本の腕で抑えてみせた。魔法もある世界ならば、強化された身体能力でどうにかなるかもしれない。だが、それはありえない。

 この世界の彼ら──亜人には、基本魔力は存在しない。シアのような例外はいる。だが、それならば()()()()()()()()()フェアベルゲンから追い出されたシアが追い出されてミコが追い出されていない理由がわからなかった。

 

 ミコは、その言葉にきょとんとした顔を浮かべて、次にはころころと笑う。

 

「それはかんにんやで。乙女には秘密があるぅいうやろ? そないにあての力なんて、ジンはんみたいな元気な人を抑える程度しかあらへんし」

 

 はっきりしないその言葉に業を煮やしたのか、ハジメはピキッと額に青筋を立たせて手の武器を──

 

「あきまへんよ」

 

 ──構えた手に、手を添えられた。

 

 ひんやりとした冷たさに、どこか本能的な恐怖を抱いて、思わずハジメは飛び退いた。

 

 

「お前は──何だ」

 

 

 ハジメの問いに、ただミコは変わらず笑う。

 

 

 

「狐人族長老の娘、ミコいいます。よろしゅうなぁ、ハジメはん」

 

 

 

 

 




・ミコ
TS転生者、魔力あり百合ハ狙い。
この後いろいろと画策してなんやかんやしてハジメの(タマ)を取りにかかると思います(嘘)。

京都弁と関西弁とかいろいろ混ざってます。やっぱり京都弁って難しい。のじゃ口調すら恐ろしく難しいというに…
というわけで、昔から読みたかった設定にエセ京都弁を突っ込みました。ジョ○レス進化させたかったよ。


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シア(様)の言うとおり


タグ:オリ主、シア・ハウリア、個性的な友達


 

 

 

 私はアナタに救われた。

 

 コトバもイバショもない私を救ってくれた。

 

 だからせめて、アナタと共にいたいんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然だが、僕には幼馴染がいる。

 その幼馴染は、一緒に暮らしている。

 昔は両親がいたものの、仕事で海外に飛ぶことが多くなったからか、かなか家に帰らなくなった。そのせいで、ほぼ同棲とやらに近いかもしれない。

 そんな幼馴染は少しだけ特殊な美少女である。昔から住んでいるからとか、彼女のあられもない姿を見ているからとか、そんなフィルター越しじゃない、正当な評価として。

 料理もうまく、炊事や洗濯、家事はなんでもござれな彼女には、当分頭があがらない。だからこそ、少しの覚悟と数多の期待を込めて、リビングへの扉を開いた。

 

 

 

 

「──おはようございます、桜歌(おうか)さん!」

 

 

 

 

 ──件の幼馴染が、笑顔で立っていた。

 

 ただ、元気そうな声と笑顔と対照的に、目は笑っていないし、食卓の前に仁王立ちをしていた。

 彼女の背後には栄養バランスがしっかり考えられたであろう食事が並んでいて、離れた場所からでも美味しそうな匂いが漂ってくる。だが、それにありつくのも、この場面を切り抜けねばならない。

 

「お、おはよう。シア(・・)

 

 とりあえず、無難に挨拶をしておく。あとは、相手の出方を見て対処せねばならない。

 

「あのー……そのー……」

「なんですか? 桜歌さん。言いたいことがあるならさっさと言った方がいいと思いますよ、桜歌さん」

 

 怒ってる。間違いなく怒っている。これ、もう素直に謝った方が良さそうだ。そう判断して、手を合わせ頭を下げる。

 

「……ゴミ捨て忘れてぐっすり寝てごめんさない」

 

 そう、平伏する勢いで謝った。まあ、素直に謝らなければご飯抜き、なんてこともありえる。それに、朝っぱらからギスギスするのも嫌だった。

 

 

「ええ、本当にですよ。せっかくの登校初日なのに、朝早くからむっとするとは思いませんでした」

「本当にごめん。帰りになんか奢るからさ」

「うー……、まあ、今日だから許しますけど、次は忘れないでくださいね? 私だってお弁当とか作りたいんですから」

「……猛省します」

 

 

 しっかり謝れば、シアは許してくれたようだ。食卓に促すようにサインをするシアに、ありがとうと言って、席に着いた。

 

 

「それじゃ、いただきます」

「はーい、いただきまーす!」

 

 

 先ほどまでとは打って変わって、満面の笑みを浮かべたシアと共に、同時に朝食に手をつけた。

 とりあえず、今日もご飯が美味しかった、と言っておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く行きましょうよ、桜歌さん」

「ごめんごめん、ちょっと筆箱どこに置いたか忘れててさ」

「筆箱の場所忘れるってどういうことですか!?」

 

 今日は高校に入学して初めての授業日だった。だから真新しい服とか教科書とかで筆箱をどこに置いたか完全に頭からすっぽ抜けていた。シアのツッコミが冴え渡っている。

 シアの言葉にばつが悪く、視線をそらす──が、そこでふととあることに気づく。

 

「シア、耳。()()()()()()

「──あっ!!」

 

 そう、シアの頭上で揺れる()()()()()に、そう言って指差した。シアは「しまった!」というようにウサミミをパタパタさせて、靴を蹴り飛ばすように脱ぎ捨て自分の部屋にダッシュ。その後、少し息荒く帰ってきた。

 

「人のこと言えないじゃん」

「うぐぅっ……」

 

 シアは痛いところを突かれたように渋面を作った。高校生になってもまだこの少し抜けているところが治らないのは……まあ、シアのキャラなんだと思う。そこをなおしてほしいとは思わないけど。

 

「もうっ、これじゃあ桜歌さんのこと言えなくなるじゃないですかぁ……」

「僕としては大歓迎なんだけど」

「ほら、そんな事言うからっ……」

 

 そう言って、シアは手につかんでいたペンダントを首にかけた。すると、ウサミミは消え去って、人間らしい耳が顔の横に現れた──あれ?

 

「シア、髪色変わってないけど……」

 

 そう、シアの髪の色は青みがかった白。白磁のような肌と蒼い瞳と相まって外国人のような容姿をしていた。だからこそ、いらないトラブルを防ぐために父さんが日本人と変わらないように髪色と瞳の色を黒色に変え、ウサミミを見えなくする首飾りを渡してくれていたはずだった。

 だが、その首飾りをかけても、今日はウサミミが消えただけ。いつのまに調整したんだろうか。

 

「ああ、高校デビューということで元の色で登校しようかと思いまして。ほら、うちの高校こういうことには寛容じゃないですか」

「うん、それはいいんだけど……どうやって調整したの?」

「昨日義父(とう)様と通りすがって、お願いしてみたら調整してくれました」

「何やってんの父さん(あの人)

 

 日本に帰ってきてたなら言ってよ父さん……! というか南極に居るんじゃなかったっけ。それに南極からそんなほいほい帰ってこれるもんだったっけ……? うちの父さんの謎が深まるばかりだ。

 

「さて、忘れ物はない?」

「大丈夫で……あ、桜花さん」

「ん? どうしたの?」

「今日は電柱にぶつからない方がいいですよ?」

「──ん、りょーかい。それじゃ──」

 

 

 ──行ってきます。

 

 

 それだけ言って、家から出る。

 

 シアと横並びで、学校の道をゆっくりと歩いていく。高校の場所は割と近く、開始三十分前にでても間に合うくらいだ。今日はかなり早く出たから、少しゆっくりできるはずだ。

 

「いやぁ〜、楽しみですねぇ。高校の授業ってどんなものなんでしょう?」

「うーん。うちは普通科だから、中学の授業の延長なんじゃないかな?」

「あー、わくわく感がないですねぇ。それでも十五歳の夢見る少年ですか。ちょっと前まで指ぬきグローブとか大好きでしたよね?」

「その話やめてくれます? それと指ぬきグローブが恥ずかしいみたいなことを言うのはやめて。やめてください」

 

 そんな会話を楽しみながら学校への道を歩く。これも幼馴染だからだろうか。一緒に暮らしているのに、話題は尽きない。

 

「そういえば、入学式の時は大変だったな。大丈夫だったか?」

「はい、一応は。部活動にすっごく勧誘されたんですよね。……でも、私も注目はされてはいたんでけすけど……それ以上に、目立つ方々がいらっしゃったので」

「あー……、新入生代表の」

「そうですそうです。あんなキャラが立っている人たち、初めて見ました」

 

 思い出されるのは、入学式の記憶。

 イケメンオーラが漂う、まさに勇者とか王子様とか、そんな雰囲気が漂うイケメンに、それを取り囲むように話していた美少女二人と筋肉。あれだけ集まれば、それは目を引くだろうなぁ、と一人納得する。

 

「──けど、シアも今日それ(その髪)で行くんだったら、かなり人を寄せ集めそうだけどね」

「あっ……やっぱり、隠しておいた方が良かったですかねぇ?」

「大丈夫大丈夫。その方が綺麗だと思うし、もしもがあったら守る(フォローする)からさ。花の女子高生を楽しめばいいと思うよ」

 

 そう言うと、シアは固まった。その後、少しだけ頰を染めてへにゃりと笑う。その仕草に、少しだけ見ほれてしまう。

 

「……あはは、ありがとうございます」

「いや、別に」

 

 ──なんか、気まずくなったな。こうなることは避けてたのに。どうしよう……

 

 

「えっ、詩愛(しあ)ちゃん!?」

 

 

 その時、ふと声をかけられた。話しかけてきた少女に見覚えはなかったけれど、シアが「レンちゃん!」と呼んでいた。どうやら、友だちらしい。

 

「レンちゃん、お久しぶりです! 二週間ぶりくらいですかねぇ。お元気でした?」

「もうちょー元気だよー! っていうかどうしたのその髪、イメチェン? もしかしなくても今から学校だよね、私もなんだー。授業始まった?」

「あ、やっぱりバレます? ちょっと心機一転で。授業は今日からなんですよー。だからちょっと二重の意味でドキドキしてて」

「わかるよ、高校生活楽しみだよねー! だけど二駅も乗らないといけないのが辛くて……」

「大変ですねぇ。私と同じ高校に来ればよかったのに……」

「おーい、学年上位組と一緒にしないでほしいよ詩愛ちゃん。鬼畜だよ」

 

 二人の会話に、耳をすませる。友だち同士の話に部外者が口を挟む必要はないだろう。どうせすぐ着くんだし、先に行っておこうかな。そう思って、シアに一言言っておく。

 

「シア、俺は先に行ってるし、友だちとゆっくり──」

 

 そう言って、先に行こうとしたその時、『レンちゃん』の瞳がきゅぴーんっと輝いた。

 

「止めちゃってたか。ごめんねー詩愛ちゃんとオウカさん」

「いえいえ! 大丈夫ですよ!」

「うん、別に──あれ?」

 

 ……なんで、僕の名前知ってるの?

 

 そう思って、聞き出そうと話しかける。

 

「あの──」

「あっと、私はそろそろ電車なので! 詩愛ちゃん、それじゃあまた、今度話聞かせてねー!」

 

 そう言い残して、レンちゃんは去っていった。まるで嵐のように。結局、なんで名前を知ってたのか聞けなかった。

 

「シアの友だち、元気だなぁ」

「えへへ。いいお友だちですよ。レンちゃんは特に元気ですかねぇ。まあ、私の友だちって意外と特殊な子が多かったりするんですけどね」

「特殊って言っちゃうのか」

「ええ。“特殊”以外言い表す言葉がありませんでした」

「なにそれこわい」

 

 まあ、シアもウサミミ(自前)だし……類は友を呼ぶってことかもしれない。

 

「むむっ? 今なんか変なこと考えました?」

「え、あ、いや? ぜんぜん」

 

 勘が鋭い。下手なこと考えるとすぐにこれだ。自分の心を読まれないように、早足で歩きだしたその時、自分の目の前に電柱が迫っていた。

 

「あだっ!」

「あちゃー……」

 

 僕の悲鳴と、シアの「やっちゃったー」というような声が響き渡った。慌てて周りを見渡す。そこには、誰も人はいなかった。ほっと胸をなでおろす。聞かれてなくてよかった。

 

「大丈夫ですぅ?」.

「ああ、ちょっと痛いけど」

 

 シアの心配そうな言葉にそう返して、肩をさする。

 

 ……だが、それにしても痛い。変に逃げようとするんじゃなかったなー。

 

 そうして、何気なく肩をさすっていた手を見た──

 

「いっ!?」

 

 そこには、小さな虫がびっしりとついていた。

 思わず、小さく悲鳴をあげて、虫を振り払おうと手を振った。そして、制服の上着を脱いでバッサバッサと振り払う。ああ、なんでこんなことに──

 

 ふと、そこで思い出す。

 

『今日は、電柱にぶつからない方がいいですよ?』

 

「────あ」

 

 そういう、ことだったかー……

 

 そんな僕に、シアは笑っていた。

 ひときしり笑ったあと、シアは見惚れるような笑顔で、こう言った。

 

「だから言ったじゃないですか。ぶつからない方がいいですよって」

 

 ──ああ。

 

「もっと、わかりやすく言ってほしかったなー……」

 

 なんというか、今日“()”。

 

 シア様の言うとおり、ということで。

 

 

 

 




葉羽野(はばの)桜歌(おうか)
 主人公。シアと一緒に暮らしてる。両親は海外にいるらしい。運動能力はそこそこ。

・葉羽野詩愛(しあ)
 幼馴染兼居候。うさぎの耳が生えた女の子。うさぎ耳は普段特殊なペンダントで隠してる。ペンダントはパパ作成。

・パパ
 普段家にいない人。特殊なペンダント作ったりできたりする桜歌でも何者かわかってない。ママさんと南極にいるらしい。

・レンちゃん
 元気な人。友達。の中では普通。





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リュージン・リンカーネイション(仮)

タグ:r-15、ボーイズラブ、オリ主、性転換、転生?、楽観的主人公?、原作500年くらい前、色々想像、勘違いになるかもしれない


 

 

 世界が燃えていた。

 都を焼き尽くした業火は、天も地も見境なく舐め尽くし、世界で最も美しいとすら言われたその国はもはや、見る影もない。天空に浮かぶ魔法陣に、血を揺るがすような怒号を添える様はまさに、世界の終わりのようだった。

 

「このような、このようなことが……」

「姉様……」

 

 未だ幼い、二人の少女の声が響く。

 似通った煤がついて尚美しく輝く黒髪に黄金の瞳を持った、齢十歳ほどの少女たちだ。輝く瞳に悲嘆と呆然、憤怒の色をそれぞれ乗せて、終わりゆく故郷を眺めていた。

 姉様と呼ばれた少女は、感情のままに欄干を握りつぶし、激情を堪えるように歯を噛み締めていた。

 憤怒を表す少女とは対称的に、もう一人の少女、彼女の妹であろう少女はただ、呆然と立ち尽くし、この現状に理解が追いついていないのか、手を震わせ嗚咽を抑えることしかできなかった。

 

「ティオ様、テュカ様……ここは危険です。避難を……」

「ヴェンリ」

 

 現実に追いつかない姉妹を急かすように話しかける従者──ヴェンリに、姉──ティオは一言で制し、小さく首を振った。

 

「我らはクラルスの娘ぞ。同胞が今この時も戦っているというのに、どこへ逃げろと言うのじゃ? 行くならば……」

 

 そう言って、戦場を睥睨するティオ。その言動にティオの狙いを察したのか、ヴェンリはティオの側によった。

 

「なりません、姫……」

「分かっておるっ。妾が、妾達が行っても、足手まといにしかならん。しかし──」

 

 ──ここに居れるはずがあろうものか。

 

 国も、同胞すらも焼いたこの時に、何もできない己が恨めしい。父にこの場にいろと言われた無力さが憎らしい。ヴェンリや妹──テュカがいなければ、今すぐに駆け出していたであろうほどに。

 ティオは激情を必死に抑えながら、己と血を分けた妹、テュカを見やった。その姿はもう、煤に塗れて自分と同じと喜んでいた着物はもう、汚れてしまっていて。それと同調するように、震える手を必死に抑えているのが見て取れた。

 テュカは昔から“泣き虫”だった。ティオの影に隠れて、意思疎通すらままならない。同世代の友にもそうなのだ。筋金入りだ。だからこそ、ティオが守ってきた。竜人とはなんなのか。己がなすべきことを教え、導いてきたのだ。だからこそ、ティオは人一倍冷静にテュカを守らなければという想いが強かった。

 

「ティオ、テュカ!」

「父上っ……!?」

「父様っ!!」

 

 やりきれなさに歯噛みするティオに、竜の翼をもった父──ハルガが、側に降り立った。安堵に息を吐くが──その息は、すぐさま止まる。

 ハルガは、満身創痍だった。

 最高の防御力を誇り、“移動城塞”とまで呼ばれ畏れられていたはずのハルガの体は所々血に染まり、体から鮮血を垂らし片膝をついた。

 そんな尊敬する父親の姿に、テュカだけでなく、冷静を保っていたティオは声を荒げ駆け寄った。

 

「父上っ!」

「──ティオ、テュカ。どうやら我等は、これまでのようだ」

「そ、そのような、そのようなことっ!」

「今や竜人族(われら)は“神敵”だ。現実から目を背けるなと教えただろう」

「っ……!」

 

 竜人族が世界の守護者と謳われたのもはや昔の話。あらゆる種族と手を取り合い、平和を齎した。しかしそんな功績と敬意は“神”とやらの一言で、全てが無に帰された。

 今はもう、種族と手を取り合う夢想など欠片もない。かつて竜人族を称えた口はもう、彼らを罵倒する言葉しか繰り出さなくなった。そして今や、世界規模の連合軍が竜人族という種を滅ぼさんと侵略を開始するほどに、その憎悪は高まっていた。

 

「ティオっ! しっかりしなさい! お前は次代を担うクラルスの娘だろう!」

「っ……!」

「テュカ! お前もだ! クラルスの娘ならば、前を見て現実を見据えろ!」

「──ぁ」

 

 現実を受け入れられないティオに、そして怯えて言葉も出ないテュカに一喝し、ハルガは二人を抱きしめた。その抱擁は、もう二度と感じることはできない大切なものを、名残惜しむように。

 「ふぐぅ」と声を漏らすティオに、少しだけ顔を顰めたテュカを見て、どうやら力を入れすぎたらしいとハルガは苦笑して、その表情を変える。

 その顔に、ティオは察する。察してしまった。

 

「父上……」

「……まったく」

 

 問いただそうとするティオの言葉は、轟音と衝撃と共に掻き消えた。静寂が戻り、厳しい表情で視線を寄越したそこには──

 

 ──更地に磔にされた、地を覆うほどの同胞達の姿だった。

 

 その磔の中には──

 

「母上!」

 

 ティオが悲鳴のような声を上げる。心から敬愛する母──オルナが見るも無残な姿で磔にされるさまを見て、ティオは瞳に黒い炎を灯す──

 

「ティオッ!」

 

 だが、ハルガの一言とともに強く抱きしめられる。テュカとくっつけられるように抱きしめられたからか、ほおにひんやりとした温かみを感じ、少しばかり心が平静を取り戻していく。

 そんなティオに、ハルガは我儘な子どもを窘めるような顔をして、透き通るような声音で語りかける。

 

「我等、己の存ずる意味を知らず」

 

 その言葉に反応したのは意外、テュカだった。

 

「この、身はっ。獣か、あるいは人、か!」

 

 涙を堪えるように、恐怖を押し殺すように物心をついた時より教わり、そして昔からテュカに言い続けてきた言葉を絞り出した妹に、ティオは呼吸を落ち着け、続ける。

 

「世界の全てに意味あるものとするならば、その答えは何処に……」

 

 

 答えなく幾星霜。なればこそ、人が獣か、我等は決意もて魂を掲げる。

 

 竜の眼は一路の真実を見抜き、欺瞞と猜疑を打ち破る。

 

 竜の爪は鉄の城塞を切り裂き、巣食う悪意を打ち砕く。

 

 竜の牙は己の弱さを嚙み砕き、憎悪と悪意を押し流す。

 

 仁、失いし時、我等はただの獣なり。されど、理性の剣を振るい続ける限り──

 

 

 「「──我等は竜人である!」」

 

 最後の言葉は姉妹で。強く、優しく、高潔であれと育てられた彼女らは、涙をこぼしそうな“弱さ”を押し殺して、竜人の在り方を曲げぬと決めた言葉を吐き出した。

 

「ティオ」

「……はい、父上」

「テュカ」

「はいっ……父様っ!」

「よく、聞くんだよ」

 

 ティオは毅然と。テュカは焦燥を浮かべて。返事の言葉すら対称的な愛しの娘達に、ハルガは笑う。そして、伝えなければならないことを告げる。

 

 曰く、真の敵は侵略者ではなく“神”である。

 その存在を討滅できず、戦を終わらせるため竜人族は滅びる。真の敵を葬るために、今ここでは、我等は滅びなければならない、と。

 

「いつの時代も、邪悪が蔓延ることはない。故に、いつか、いつの日か、討つことのできる者が、必ず現れる。だから──」

 

 

 ──生き延びよ。

 

 

 その言葉に、姉妹は息を呑んだ。だがしかし、ハルガは予想していたように、言い聞かせるように語る。

 

「竜人族は今日、確かに滅びる。しかしそれは、歴史的にだ。我等は手を拱いているほど甘くはない。もちろん、隠れ里を用意してある。そこからの事は、父上に聞くといい」

「なっ、爺様が!? ……いや、違う。父上は行けないのじゃな」

「──うむ。戦とは王の首を取って終わるもの。この首なくして戦は終わらん。それに……オルナを残してはいけん」

 

 冗談めかして言う父に、ティオとテュカは微笑んだ。ハルガは、愛しい娘達の頭をゆっくりと撫でる。

 

「ヴェンリ」

「…………はい、ハルガ様」

 

 ヴェンリに二人をつきとばす。最期まで迷惑をかけた従者に、心で精一杯に謝罪する。

 荒っぽくしたのは、覚悟を決めるため。心残りを絶つように、自分に叱責するように。驚いて手を伸ばす娘に、惜しむように最期の言葉を贈る。

 

「ティオ、テュカ。我等の血を受け継ぎしクラルスの誇りよ。お前達の中に生まれた黒き炎と、クラルスの猛き炎を胸に、よく生きよ」

 

 それを最後に、ハルガは空へと飛び立った。向かうは戦場。この戦を終わらせるために。

 ビキビキとひび割れるように、鱗が張る音が鳴る。最期の力を振り絞り、戦場へ。磔にされた同胞達の元へと向かう。十中八九、罠であろう。だがそれは予測済みだ。むしろ都合がいい。どうせ死ぬこの命。最後の最期まですり減らし、クラルス此処に在りと吼えてやろう。そう決めて、翼をはためかせる。

 

 だが──やはり、思う。

 

 心残りがいっぱいだ。

 最期の言葉があんなに義務的だった事もある。だがそれ以上に、将来嫁に行くであろう愛しの娘達に、不安を感じないでもない。

 さて、二人はどうなるのだろう。本当なら、そんじょそこらの奴らじゃあ認めてやる気にもならない。眉目秀麗なら考えてやらんでもない。せめて、一発は殴らせてもらいたいが。

 だがしかし、どんな相手だろうと──オルナの娘達だ。とても、いい人を見つけるだろう。ああ、本当に──

 

 

 ──死にたく、ないなぁ。

 

 

 今際の際にそう、夢想して。咆哮する。

 どうせやるなら、遥か高みで嘲笑う(あのやろう)に。こう言ってやるのだ。

 

 

 竜人族の誇り、穢せるものなら穢してみよ。

 

 

 そう口角を上げて、笑ってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 時は同じく、隠れ里に続く洞穴。

 散りゆくも雄大な、誇りを胸に立つ父の姿を見て、その娘──テュカ・クラルスは思う。

 

 

 ──ありふれだ、これ。

 

 

 困惑と驚愕が残る頭で、内心、そうこぼした。

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 いや、びっくりした。まさかありふれに転生しているとは。転生なんてあり得るんだなぁ。

 前世の記憶? を思い出した時は本当に驚いた。まさか見知らぬ男の人に抱きしめられてるんだからさ。まあ、一瞬だったけど。

 

 俺の今世の名前はテュカ・クラルス。あの駄竜もとい変態ドラゴン、ティオ・クラルスの妹だ。転生するにしても、性別も変わって、まさかティオの妹に生まれ変わるとは思ってなかったけど。

 今はヴェンリ──ヴェンリ母さんに手を引かれ、洞穴の中を走り抜けている途中だ。体が小さいせいか、ものすごいスピードで走ってる気がする。

 それにしても、まさかの竜人族。そして竜人族滅びの瞬間て。思い出すにしてもタイミングがいいのか悪いのかわからない。興奮して、あの言葉叫んじゃったし。生のあれはやっぱりかっこいいね。

 

 「ティオ様、テュカ様。こちらです!」

 

 おっと、ぼーっとしているわけにも行かなくなってきた。考え事してるせいで死ぬなんて嫌だ。

 パシャパシャと音を立てながら、洞穴を駆け抜ける。ヴェンリ母さんが道を照らしてくれているおかげで、それほど足元には困らない。それにしてもスペック高いな、この体。1メートルくらいの岩なら飛び越えられたぞ……? 子どもでもすごいんだな。

 そんなことを考えながら、岩から飛び降り着地する。体が頑丈なおかげか、衝撃を殺す必要もなく楽に着地する。

 その時、水が跳ねた。どうやら、足元に水溜りがあったらしい。そして、水溜りに俺の顔が映り込んだ。

 

 ……え?

 

 そこには、美少女が映っていた。

 短く整えられたふわふわの黒髪に、黄金の瞳。おとなしそうな顔からは、知性を感じさせる。着物もとても合っていて、和服美人を体現していると言ってもいい。

 

 …………どうやら、今世の俺は美少女らしい。

 

 性別変わってるのはわかってたけど、まさかこんな美少女とは。人生が(らく)そうだ。ティオが姉な時点で期待してはいたけど、期待以上だ。

 

「テュカ!」

「あっ……すいません、姉様」

 

 おっと、いけないいけない。

 姉様に急かされ、足を再び動かし始める。

 

 俺──一応変えよう。私は美少女だ。やっふー。この状況じゃなければ小躍りしたいところだ。

 思わず笑いが溢れた。ちょっとだけ、この人生が楽しくなりそうだ……あ。

 

「……ふふっ」

 

 ここは“ありふれた職業で世界最強”の世界だ。おそらく。だとしたら、今から五百年くらいで“主人公”が来るだろう。しかもここには、魔法も迷宮もケモミミも教会も神もいる、ファンタジーのごった煮世界。

 内心で、勢いのまま今世の目標を決める。

 

 

 ──“実はキーパーソン”ムーブを、俺はやる……!

 

 

 昔から、序盤に出てくるやつがめちゃくちゃ強く、さらに物語の鍵を握ってるっていうキャラクターが大好きだった。知ってるのに黙って物語を眺めてるのって、かっこいいよね。それも、前世では使えなかったあれやこれやが盛り沢山。しかも地球にゃファンタジー真っ青な奇々怪界が盛りだくさん。くふふ、これはまさに実はキーパーソン的なムーブをやる絶好の機会では……?

 

「あっ……」

 

 その時、姉様が石につまづいていた。水溜りに倒れそうな体を片手で支える。道が割と明るいのに、やっぱり暗いとわかりづらいよね。しょうがないか。

 

「大丈夫ですか、姉様」

「あ、ああ……すまん、テュカ」

 

 そう言って、未来の変態(姉様)は私を支えに体制を整える。……そういえば、姉様ってのじゃ属性だったな。なんでのじゃ口調なんだろう。まあ、今考える時でもないか。

 

「姉様、気をつけて。もしもの時は私が背負う。ヴェンリ母さんもいるから、あまり無理はしないように」

「……テュカ?」

 

 そう言うと、姉様は驚いたような顔を浮かべて呆然と私の顔を見つめてきた。む、なぜ姉様がそんな顔を? まあいっか。それよりも先へ急がなければ。

 姉様の手を引いて、暗闇の道を走る。目指すは竜人族の隠れ里。その間にいろいろ考えないといけないけど……とりあえず、隠れ里に着いてから。ということで。




◎テュカ・クラルス
主人公。性転換オリ主的なもの。
ハジメくんに色々知ってて序盤にアドバイスするキャラをやりたいなーという願望を持つ。なお、どうすれば役に立てるのかわかっていない模様。

◎ティオ
テュカの姉。後のアレ。

◎ハルガ
父親。色々と想像をくっつけた。

◎ヴェンリ
なんか親子の話し合いをずっと見守ってた人。
原作だと何も残していなかったから、最後に気を使うような描写をくっつけた。


久々に書きました。好きなものをとりあえず突っ込んだので雑さが…




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我輩は多頭竜である(日記) 零

タグ:オリ主、転生?、憑依、日記形式、人外、多頭竜、意思疎通の取れない頭達


 

 

☆月♪日

 

 我輩は多頭竜である。名前は忘れた。

 気がつけば首の多いドラゴンになっていた。理由は知らん。

 目が覚めたら人外化してるとか漫画か。首下げたらドラゴンの首のたくさんあった時の俺の気持ちを察してほしい。思わず叫んでしまった。誰にも観られてなくてよかった。

 とりあえず、現状を振り返るために壁に日記をほっておく。ちなみに筆は爪である。書きにくいったらありゃしない。

 

 

◎月〒日

 

 我輩は多頭竜である。名前は知らない。

 典型というか魔が挿して余計な情報を入れた。まあ、爪の練習になったしいいか。

 今日はずっと寝ぐらでボケーっとしていた。特に何もなかった。少しは動いた方がいいのだろうか?

 それにしても、これからどうしようか。少し歩けば外から出られるだろうけど、なんだか面倒で外に出る気になれない。

 あれ?そういえばなんで暗闇で文字が書けるんだろう?まあいいか。

 

 

◆月+日

 

 我輩は八またのおろちである。漢字は知らない。

 かっこつけてやまたのおろちと書こうと思ったものの、漢字がわからないことを八を書いた後で気づいた。消せない。恥ずかしい。

 それはそうと、今日は周辺を探検してみることにした。暗闇から出ればそこは意外と光が通っていた。それにしても、今日は少し出て戻ってきたが、全然生物がいなかった。

 何故?このままだ俺は餓死してしまう。何かいないだろうか。せめて元気な鹿でもいたらよかったのに。俺の別の頭がヨダレを垂らし始めた。やばい気がする。

 

 

◇月|日

 

 我輩は。あー、何も思いつかない。飽きた。ともかくドラゴンである。

 なぜか昨日から全くお腹が減らなくなった。これで当面は大丈夫だろう。多分。

 そういえば、昨日あれだけヨダレを垂らしていた頭がヨダレを止めてた。もしかして俺、呼吸するだけで栄養が取れるようになったとか?どんなファンタジー。いや頭増えてる時点でファンタジーだった。

 ともかく、楽でいいけど。なんかダメ人間になりそうだ。あ、俺ドラゴンだった。

 

 

<月*日

 

 

 スプラッタパーティだわーい。

 

 

☆月#日

 

 ああ、危ない。SAN値ピンチってあんな感じなのか。めちゃくちゃびびった。ファンタジーとはいえあんなことになんのか。

 今日はこれじゃダメだと思って思い切って別の方向にかなり進んでみた。だけどやっぱりそこには誰もいなかった。まあ、洞穴ならこんなもんだろと思ってたら右隣の頭が口開けたかと思ったら爆発した。何言ってるかわかんねーと思うが■■■■■

 あの時のこと思い出してぐちゃぐちゃになった。ともかく、爆発した。なんでやねん。

 そしたらどこからかイナイ■ゴーツーの恐竜みたいなの出てきた。

 隠れてたのかと思った瞬間また別の頭がぐいんって伸びて恐竜噛み砕いてた。

 そっからもうなんというか。入れ食い状態だった。首が伸びて恐竜咥えて、こう、啄む的な。■ヴァのアスカ的な。うん、やめとこう。なんというか、あれみても一日思考停止してただけでなんかどうでもよくなってるところになんか人外みを感じる。まだ多分一週間くらいしか経ってないのに。

 というか腹減ってなかったのあれが原因か。なるほど、首が伸びるとかわかるか。いや待て、体が動かされてる可能性も……今度、何ができるか確認しておくべきだろうか?

 

 

 

○月\日

 

 あれからまあダラダラ過ごしてたが、今日はスペック確認をしてみた。いやだってなんか面倒くさかったし。

 試したのは他の五つの頭との意思疎通。だけである。いやほら、意思疎通できなきゃ意味ないじゃん。なんかするにしても勝手になんかしだすとか嫌だからね。

 

 こんなことを書いてみたはいいものの、結果、意味なし。

 まったく反応しない。話しかけてみた。ただし鳴き声。人語喋れないのは察してたし別にいいとして、意思疎通はできなかった。テレパシー的なものもねぇ。なぜだ。なぜなんだ。生徒会と部活、役目は違っても■■■■■……

 

 ともかく、結果はこんな感じだった。これはまあいいとして俺の一番右のお前。話しかけた時鼻で笑いやがったの忘れねぇからな。顔覚えたぞ。多分、同じ顔だけど。

 

 

 

★月ゞ日

 

 あいきゃんふらーい。やったぜ空飛べた。

 空飛べたけど、なんだかこの場所にびみょーに愛着湧いてここに戻ってきた。そして今に至る。

 パタパタやってみたら飛べたから洞穴の中飛び上がってみた。というか、ここ洞穴っていうよりなんかダンジョンみたいだった。なんか渓谷の竜の卵置いてある場所みたいな。

 空をある程度飛んで戻ってきたが、意外とこの場所は広くないようで、少し進んだところに日の光が差し込んでた場所があった。

 

 外はどうなっているのだろう。

 俺は今、なんなのだろう。

 そもそも、ここはどこなのだろうか。

 何も、わからないな。知るべき、なのだろうか。

 

 まだ、先でいいかな。

 

 

→月%日

 

 考えすぎたら頭が痛くなってきたから、気を紛らわすためにスペック調査をした。

 別の頭がブレス的な物出してたからなんか俺も出るかなとやってみたけど。

 

 おれは くちを おおきく あけた !

 しかし なにも おこらなかった !

 

 悲しい。隣の一番右の頭に笑われた。てめぇ。お前の名前は今日からカトちゃんだ■■■。そう思ったら頭突きされた。なんでこういうのだけ通じるんですかね。

 

 ちなみに、首だけ伸ばせた。あとはわからん。

 あれ、もしかして俺、6頭の中で最弱ですか?やだ、小生やだ。そんなすぐにやられる■■■■……

 

 

 

*月☆日

 

 人が来た。というか現れた。

 めちゃくちゃうるせぇ金髪の女の子がなんかふわふわ浮きながら現れた。いきなりのファンタジー展開にぽけーっとしてたらいきなり岩ぶっ飛ばしてきた。

 それは一番左の頭がカキーンってやってたけど、それを金髪がカキーンって返してた。それを数回繰り返して、結局金髪が変な悲鳴あげて吹っ飛んでった。

 言葉にするなら「にょわーっ!?」だ。元気で何より。

 というか一番左、お前すごいな。石頭か。そう思って左を見たらドヤ顔された。なんかビビッときたから名前はイチローに決めた。頭突きをもらった。なぜだ。かっこいいだろイチロー。野球、知らないけど。

 

 あ、女の子から話聞きそびれた。

 

 

 

○月○日

 

 なぜか、また女の子が来てた。っていうか言葉が全くわからなかった。

 女の子は指をビシッと俺に指してほんにゃらかんにゃら言ってた。ごめん。俺言葉わかんねーわ。これで情報得る作戦がパァ。

 

 それはそうと、今日は岩石パーリナイした。今回は俺の左隣の頭が、大声で鳴いたら飛んできた岩をはじきかえしてた。それを数回繰り返してたら、女の子が諦めて去っていった。なんか捨て台詞を吐いてた。何言ってるかわかんねーけど、仕草から煽ってた。うぜぇ。

 二日で理解した。あいつめんどくせぇ。もう来ないで欲しい。

 

 

 

○月○日

 

 ま た 来 よ っ た。

 

 めんどくせぇ。今回は岩じゃなくて塩だった。今回は俺がキレた。

 食材無駄にするやつマジ許さね。ということで空飛び上がってスタンプしてやった。風圧で転がってく女の子を見てちょっと胸が空いた。

 塩、お前の犠牲は無駄にしない。定期的に舐めとってやる。他の頭■■……

 頭突きくらった。だからなんでこういう時だけ思考が読まれるんだ。とりあえず、やり返したけど避けられた。ちくせう。

 

 

 

 

○月○日

 

 

 今日も女の子が来た。

 煙幕投げつけてきた。ゴホゴホしたけど翼はためかせたら消えた。そしたら女の子いなかった。

 遠くから女の子の笑い声が遠ざかってったぽいから多分あれだけやりにきたな。ゆるさん。次は先手必勝してやる。

 

 

 

○月○日

 

 顔見せた瞬間翼めっちゃパタパタした。転がってく姿を見て笑ってやった。

 捨て台詞吐いて逃げてった。ざまぁ。

 

 

○月○日

 

 寝てたら上から岩が降ってきた。

 とりあえず、イチローが頭突きした。またもや吹っ飛んでいく女の子が哀れだった。怒る気にもなれなかった。面白かったからいいや。

 

 

$月◎日○月○日

 

 今日は初めて肉を食べた。

 お腹は空いてなかったが、イチロー達が食べてたらなんか興味が出て食べてみた。けど、なんか味がしない。たしかに生臭いとかそういうのは感じるけど、そこまで嫌ではないと言うか、食べられないわけではない感じ。失敗したホワイトソースみたいな、そんな雰囲気。

 なんていうか、生肉食べても平気なあたり、俺は一体今、どうな■■……

 

 ■■■ ■■

 

 

 ■■■■■■■■■

 

 やべぇ、女の子が来てた。

 日記書いてると奇襲されるとは思わなかった。まあ、何事もなく終わった。水ぶっかけられたけど。

 なんか氷ぶつけられたからちべたって振り向いたら、悲鳴と同時に水ぶっかけられた。

 なんで水かけられたかわからなかったけど、食べてからそういや顔洗ってなかった。そりゃ悲鳴あげるわ。暗闇でよく見えたな。すまんね、女の子。悲鳴の女子力、死んでたけど。

 

 

 

○月○日

 

 今日の女の子。どこからか持ってきたバールのようなものでホームラン宣言してきた。何を飛ばす気だったのだろう。

 イチローがそれを見ると、乗ってあげるつもりなのか、そこらにあったデカめの岩を咥えて投げていた。

 咥えて投げたとは思えない豪速球の球(岩)を、女の子はなんとバールで打ち返してきた。もちろん、イチローは打ち返してたけど。

 だけどなんと今日は、イチローが負けた。

 すげぇな女の子。ただし煽るのいくない。女の子笑ってたけど、ブチギレたイチローとついでにキンブリー(俺の右隣)に追いかけ回されて出て行った。

 イチローとキンブリーはやり切った顔してた。負けたくせに偉そう。

 それはそうとお前ら。俺に危険及んだらゆるさねぇからな。女の子めんどくせぇんだから。うぜぇんだから。

 

 

○月○日

 

 今日は開幕煽られたから同時リンチしてた。俺は何もしてないけど。そしたら女の子がなんちゃかんちゃぺーっ!って叫んで帰っていった。走り去る時に「覚えてろよーっ」って言ってた。多分。元気だなぁ、あいつ。

 

 

=月〆日

 

 女の子が来なかった。

 毎日のように来ていた女の子が来なくなった。一体どうしたのだろう。まさか、イチローとキンブリーに恐れをなしたのだろうか。それはないか。女の子だし。

 

 

 

>月*日。

 

 今日も来ない。

 まあ、元々洞穴だし、来ること自体が珍しいことだった。俺が出ない限り何かが起こることは多分、無いと思う。

 

 

+月☆日

 

 今日もこない。

 

 

%月=日

 

 今日もこない。

 

 

|月\日

 

 今日も来ない。

 なぜだろう。数日間来なかっただけでなんだかすごく静かになった気がする。

 暇すぎたのでとりあえず、なんか来た時のために他の頭に名前をつけた。

 とりあえず、左隣の頭はジェローム。右から二つ目はヤマザキ■■■

 また頭突きされた。だが変えん。忘れそうだから書き留めとこう。

 

 イチロー

 ジェローム

 俺

 キンブリー

 ヤマザキ

 カトちゃん

 

 よし、これで■■■■■■……

 

 

*月⇒日

 

 てめぇらぜってーゆるさねぇ。頭が痛い。

 あ、女の子は来なかった。

 

 

 

>月←日

 

 女の子が来なくなってから数日経った。

 最近イチローが元気がなさげに見える。女の子に構ってもらえてないからだろうか。これだけ影響与えるってあの子どんだけ濃いんだ。と、頭突きをなんとか避けた後で描いてみる。セーフ。

 あと、俺は違うから。別に寂しいんじゃないから。違うから。ただ心配なだけだから。常連さんがいきなり来なくなったぐらいのアレだから。うん。

 

 

○月☆日

 

 久しぶりに、あの子が来た。

 なんだか今日は、疲れ切ってるみたいだったせいで、なんだかやる気が削がれた。そんな女の子を察してたのか、イチローたちも何しなかった。

 流石にあんな疲れ切ってる女の子にどうこうする気もおきないので、大人しく座っておいた。

 そしたら女の子は、おそるおそる俺の隣に座って、何か愚痴っぽいことを言ってた。何を言っているのかわからなかったけど、かなり思い詰めてるようだった。

 なんか気持ち悪かった。調子が狂うにも程がありすぎたから、とりあえず顔を擦り付けといた。気持ち悪いかもしれないが、それしかできないからしょうがない。

 女の子は驚いてたけど、ちょっとだけ笑って、元気よく帰って行った。

 

 なんだか、調子が狂う。

 まあ、その、なんだ。元気になったならよかった。

 

 また、来てくれるだろうか。

 

 

(ここから紙に変わっている)

 

○月○日

 

 俺は今、マスク的なものをつけられて女の子とロン毛メガネを背に空を飛んでいる。

 どうやら、女の子の反応からするにペットにさせられたらしい。なぜだ。

 

 

 




◎多頭竜
主人公。実は憑依ものを目指して書いてた。
ちなみに、私も名前は考えていない。
☆他の頭のやつ
イチロー:カキーンするやつ。
ジェローム:がおーってやつ。このネタわかるのかな?と思いながら命名。
キンブリー:爆発するやつ。わかるのかな? 元ネタのキャラは割と好き。
ヤマザキ:地味だったやつ。
カトちゃん:特に意味はない。問題があるなら名前が変わる。

日記はメガネの人からもらったようだが…?どうやら、思ったことを書いてくれるようだ。

◎金髪の女の子。
ふわふわって来た女の子。

◎ロン毛メガネ
メガネ。物作りが得意だそうな。


ありふれ人外もの、零ものがなかったから書いた。短編にしたら零の虹が増えないかなーと思ったけど気が重くてやめた。
ちなみに日付にちょっとわかりづらいネタ?みたいなものがあったりする。
なぜ零虹がないのだろう。増えて。増えて……



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海人族と錬成師な吸血鬼

タグ:ガールズラブ、ボーイスラブ、性転換、入れ替わり、南雲ハジメ、ミュウ、レミア、日常?




 

 

 今から、千年以上前のこと。

 

 人々の喧騒すらも届かない、暗闇の果て。深淵すらも生温い奈落の底。陽の光など差し込むことがない暗澹の中、とある少年が忙しなく動き回っていた。

 

 少年は、天才だった。

 

 いかなる物をも作り上げ、凡人が数百年かかっても作り得ぬ物をおよそ一ヶ月も足らぬ間に作り上げる、神代をこの世に顕現させることすら容易い、物作りの名手であった。

 そんな少年が地の底に引きこもって早数年、やるべきこともほぼやり終えた。そんな(いとま)に、そのやる気の矛先は今やメイドロボに向いていた。

 

 ──少年は、変態だった。

 

 メイドというものに執心し、メイド服を懐から取り出しては仲間に引かれ、仲間の幼馴染にメイド服を着せようとして粛清されたにも関わらず、メイドへの憧れを捨てられない。

 さらにやることがなくなった今では、理想のメイドロボにその情熱(ついでに才能)を注ぎ込み、日夜究極のメイドロボを創り上げようとしていた。

 

 “くそっ……! なぜできないっ……!”

 

 そう一人ごちて、彼は行き詰まったメイドロボを優しくおいて、身体を地面に投げ出した。未完成品でも投げ捨てないあたり、ホンモノである。

 

 その時たまたま。本当にたまたま、灰色の脳細胞に電流が流れた。

 

 “僕が、メイドロボになればいいのでは……?”

 

 正気か。

 

 少年は、変態を拗らせていた。

 

 そんな彼がたどり着いた、メイドロボの深淵。闇の中で廃れ、灰色どころかセピア色の脳細胞に入ってしまった電流。その正体は、拗らせた少年をさらに螺旋の坩堝に引き摺り込むものだった。

 

 “僕自身が、メイドロボになることだ──!”

 

 こうなった彼は止められない。止める人間もいない。ものすごい勢いで起き上がるや否や、ペンと紙を取り出してガリガリとペンを走らせる。

 

 なぜこんなことを語ったか? 特に意味はない。いや、意味を持つというのなら──

 

 

 ──彼は、やらかした。

 

 

 ただ、それだけの話だ。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 泡沫に続く町、【エリセン】。

 海上の上に建てられた町のその一軒家。大地と変わらぬ陽光が差し込む部屋で、レミアは目を覚ました。

 

 「く、ふぁ」

 

 未亡人である身の上にも関わらず、そんな生い立ちを感じさせない若々しい身じろぎを一つ。しかしやはり朝には強いのか、すぐさま身を起こした。と、そこでふと違和感を覚えた。

 

「あら……?」

 

 娘がいない。

 

 昨日の夜、レミアの横で可愛らしく寝息を立てていた娘が、忽然と姿を消していた。

 “ベッドから落ちた?”そう思いベッドの側を見たが、そこにはおらず、見渡したところでどこにもいない。

 あったはずの温もりがないことに不安に思うも、それも一瞬のこと。不安に下げた目尻をすぐさま上げて、「仕方がないわね」と笑う。どうやら、心当たりがあるらしい。

 背を伸ばしながら寝床を立ち、寝巻きのまま廊下を進む。本来ならば、すぐさま着替えていろいろと、というのがレミアの日課だったが、あれからだいぶ変わってしまった。だが、この生活も悪くはないと思えるのも、いいことなのだろう。

 ()()が来てからというもの、娘──ミュウはとても楽しそうに笑うようになった。彼女と暮らす日常に、旦那を失って久しいレミアも、だいぶ心が安らいだものだ。

 

 そんなことを思い出しながら、地下室へと向かう。軽い身体でわざと音が鳴るように階段を降り、地下室にあるたった一つの扉を遠慮なく開いた。

 その瞬間、レミアの嗅覚を突いたのは、鉄と油の臭いだった。昔は顔を顰めたこともあったが、もう慣れたものだ。機械油の臭いと鉄を鍛えた熱が残る部屋を、びっしりと文字が書かれた紙、おそらく設計図であろうそれを踏まないように歩く。

 部屋の中心まで来たところで辺りを見渡す。だが、そこにはあったはずの人影はない。どこかへ出かけたか。そんな思いが芽生えたがそれは、すぐに払拭される。

 レミアは“それ”に気づくと、ぴょんと跳ねながらそこにたどり着いた。そしてそれ──機械の山に向かって、言った。

 

「おはようございます、朝ですよ」

 

 返事はない。だがそれは想定済み。

 何かしらの機械の山から片っ端から取り去っていく。一つ一つはかなり重く、女性が持つには苦労するだろうそれは、もう毎日やってきたレミアにとっては、朝飯前のことだった。そしてついに、機械の山に埋もれた彼女は、その姿を現した。

 

「ふ、ぅん……」

 

 ──そこには、金髪の少女が眠っていた。

 

 ビスクドールのような白磁の肌。手入れが行き届いていたであろう金糸の髪に、荒事など無関係だったであろう肢体。そんな美しい少女は、寒がるように身体を擦り合わせた。

 そんな人形のような美少女が機械に囲まれ眠る姿は、まさに一枚の絵画のようだ。……その少女から、美貌を帳消しにするような(くま)と、油と錆の臭いがしなければ。

 

「おはようございます。……起きてます?」

 

 ほおをぺちぺちしてみる。起きない。

 ほおをぷにぷにしてみる。起きない。

 顎の下をくすぐってみる。起きない。あっ、ちょっと動いた。

 

 レミアはにっこりと笑みを浮かべた。擬音は“あらあらうふふ”。海上の未亡人に舞い降りた嗜虐心は、彼女に牙を剥いた。

 レミアは、その白い指先を伸ばして、彼女の鼻を摘んだ。ついでに、口はしっかりと逆の手で塞いでおく。

 

「…………、………………? …………!?」

 

 効果はすぐ現れる。彼女はものの数秒で目を覚まし、目をパチクリさせる。そして現状を理解して、バタバタし始めた。だがそこでやめないのはレミアクオリティ。「あらあらうふふ」と現れたドSの化身は、彼女の呼吸を許さない。

 だが流石に、これ以上は危ない。身の危険を感じた彼女の腕がレミアの腕をタップする。「まじでっ! まじで勘弁してくださいっ」と全力で語る彼女に、レミアは腕を離した。少し名残惜しそうだったのは置いておこう。

 呼吸を防がれていた彼女は、「ぷはっ」と可愛い声をあげて酸素を取り込んだ。そんな姿をレミアは心配そうに眺め、他人事のように「大丈夫ですか」と問いかけた。

 

「おはようございます、ハジメさん。大丈夫ですか?」

「やった本人が言いますかそれ!?」

 

 寝起きなのに元気だ。レミアはそんなことを思った。レミアのほおがほんのり染まっているのは気のせいだ。多分。

 ハジメと呼ばれた少女は、機械に囲まれた地面であぐらをかいて、眠たそうに頭をかいた。

 

「はぁ……おはようございます、レミアさん。わざわざすいません。起こしてもらっちゃって」

「いいんですよ。……それで、ハジメさん。ミュウはどこですか?」

「ああ、ミュウならここに……」

 

 そう言って、ハジメは機械の山に埋もれていた白い箱に指を刺した。不思議に思ったレミアだったが次の瞬間、驚愕に変わった。

 ぴっ。そんな電子音が箱から鳴った。それと同時、箱の側面が持ち上がる。その中には、レミアとよく似た顔をした娘──ミュウが、すやすやと眠りこけていた。

 

「また、こんなものを……」

「あはは、僕がここにいるとミュウちゃんもここに来ちゃうので。流石に、地べたで寝させると悪いし……あ」

 

 ハジメがそう離していると、ミュウが起きたのか、「ふわぁ……」という欠伸をこぼし、目をしょぼしょぼさせて、箱の中から這い出していた。

 

「おはよう、ミュウ」

「みゅ……ママ……? ハジメお姉ちゃん……?」

「おはよう、ミュウちゃん。朝だよ」

「おはようございます……なの……」

 

 まだ眠たいのか、半分開けた目をしぱしぱさせながら挨拶を返すミュウ。ふらふらと立ち上がって歩き出すも、当然寝ぼけたミュウには重労働。足がもつれて、ハジメの胸に倒れ込んだ。

 

「おっと。大丈夫? ミュウちゃん、気をつけて」

「ごめんなさいなの……ふぁ」

「あらあら、寝坊助さんなのね」

 

 くすくすと笑うレミアに、ごめんなさいとはにかむミュウ。そんな二人をみて、「仕方ないなぁ」とミュウの頭を撫でながら微笑むハジメ。

 女三人世代は違えど、そこには確かに、平和なひとときが流れていた。

 

「さて、そろそろ朝ごはんにしませんか? もうこんな時間ですから」

「うーん、僕はまだ……」

「ハジメお姉ちゃんも食べるのー……」

「ほら、ミュウもそう言ってますよ。“まだやる”とは……言いませんよね?」

「うっ……わかりました。わかりましたよ」

 

 本当はまだ続けたかったんだけど……という本音は飲み込んだ。ミュウに言われたら流石に勝てない。別に、レミアの威圧感に屈したわけではないのだ。ないったらない。

 

「では、私は準備してきますね。ハジメさん、ミュウとお風呂に入ってきていただけますか? 二人とも、汚れてしまってますから」

「あー、わかりました。ほら、ミュウちゃん、行くよー」

「はぁい、なの……」

 

 ぽやぽやとしたミュウをハジメに任せて、レミアは一足先に地下室を出た。女一人子一人の風呂だ。少しは時間がかかるだろう。まあ、心配なのはハジメだが……それは後にして。その間に朝ごはんを作り終えるのがレミアの仕事だ。

 キッチンについて、レミアは今日の献立を考える。仕事があるし、それにハジメも肉体労働が多いだろう。だから、力が出るようにしておけばならない。

 そこまで考えて、作り置きしておいたスクランブルエッグを取り出した。軽く温めて、一口食べてみる。

 

「ふふ、美味しい」

 

 ふわりと笑って、冷蔵庫を開けた。

 あとは何を作ろう。そんなことを考えながら、野菜を手に取った。

 




◎ハジメ
金髪な女の子。エリセンにて、便利道具や家具を作る仕事をしている。ただし徹夜することが多く、レミアによく叱られてる模様。紆余曲折ありちょっと前くらいにミュウに海辺で拾われた。
エリセンで美人母娘のところに現れた謎の金髪美少女としてかなり人気らしい。見た目としては海人族の民族衣装しかなかったためそれ着用してます。(ミュウに強請られて)

◎ミュウ
海人族の女の子。ハジメを拾ってきた。
ハジメによく懐いて、しばしばハジメの仕事を見に行って結局一緒に寝落ちするのが日課。

◎レミア
ミュウの母。色々な意味で強い人。ハジメのおかげでだいぶ生活が楽になり、ミュウに笑顔が増えたからほくほく。
ただ、許可はしてるけど改造されてく家に戦々恐々してるそうな。

◎なぞの変態。
いったいだれなんだろうなー。
ヒント:メイド服好きなメガネ。
ちなみに、メイドロボ(ゴーレム)は公式。

また変わり種?こういうのもいいかなって。
ハジメとは一体何者なのか…?そしてなぜエリセンにいるのか…すべてはメガネに通じてる(はず)。



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エヒトになった一般人が絶望する話(仮)

タグ:r-15、エヒトルジュエ、楽観的主人公、いらんことしぃ主人公、地球組ハードモード、やらかす系主人公、勘違い?

念のため:憑依、オリ主




 

 

 「…………ん?」

 

 気がつけば、変な空間にいた。

 見渡す限りの、ケバい色。真っ白ではない。しいて言うなら虹色だ。なんだこれ。見ているだけで目が痛くなってくる。

 周りを見渡して、ふと考える。

 

 ……ふむ、ここは一体どこだろう。

 

 いきなりわけのわからない空間に飛ばされる。そんなありえない状況のはずなのに、俺の頭は嫌に冷静だった。そう、例えば昨日何があったか考える余裕があるくらいには。

 

 さて、昨日は何があっただろうか。

 そう思って、思い出そうと口元に手を当てる。昨日はそう、確か普通に学校に通っていたはずだ。帰るときに買い食いして、そのまま家に帰って寝て……うん、ここから思い出せない。一体どうしたものか……

 

 考えてみても、ここからどうすればいいのかわからなかった。仕方がない。そう思って足を一歩踏み出した──

 

 ──その瞬間、視界が変わった。

 

「──つぉうっ!?」

 

 自分で言ってもあれだが、変な悲鳴を上げて俺は前につんのめった。しかもその先には、まるで無限に続くかのような階段が続いていて……ちょっ!

 

「おっと、と、と、とっ……と!」

 

 あ、危なかった……

 

 なんとか階段の途中で体制を立て直し、なんとか立ち止まれた。明らかに長そうな階段から転げ落ちるなんて、痛そうだなんてすまないだろう。そういった点では止まれてよかった。

 ほっ、と一息ついてもう一度状況を確認する。いやー、本当に止まれてよかっ……

 

 ……待て待て。流石にわけわからんぞ。

 

 もう一度周囲を見渡す。

 目の前には、無限に続くような下り階段。階段の先は霧になっていて全貌はわからない。横を見れば、柱のような建造物。そして後ろには、神殿のようなものが聳え立っていた。

 ありえない現象に、ここにきて初めて思考が停止する。わけがわからないにもいい加減にしろよ……

 しかし、ここに突っ立っていても事態は進展しない。階段を下がってもいいのだが、行くにしては先が見えないのが不安すぎるならば……行くしか、ないのだろう。

 

 覚悟を決めて、神殿を見やる。せめてあそこに行けば、何かわかるかもしれない。

 恐る恐る一歩踏み出した。よし、わけわからんことばかりで、いきなり足元抜けないか心配だったけど、全然大丈夫そうだ。安全を確認して、神殿に向かう。

 入ってみると中はいかにも神聖な、というか静謐な雰囲気が漂っていて、本当に神とかそういうのがいそうだった。ふむ、こんなところに入ってよかったのか不安になってきた。

 

 しかし立ち止まるわけにもいかず、神殿の中を進んでいく。すると、荘厳な扉の前にたどり着いた。入り組んだ道にも関わらず、まるで導かれるようにたどり着いた其処に、どこか恐怖のような感情が芽生える。

 

 深呼吸を一つ。二つ、三つ。…………よし。

 

 意を決して、持ち手に手をかけた。そして、ゆっくりと押し開いた──

 

 

「──ぁ」

 

 

 ──そこには、玉座があった。

 

 絢爛豪華、とでも言うのだろうか。白く神聖な雰囲気を持つ神殿の内装とは対極に位置するような、金を基調とした目に明るすぎる玉座が、ただポツンと置かれていた。

 白い壁に囲まれる金の玉座。そんなただ豪華なだけの玉座から、気がつけば目が離せなくなっていた。

 なぜか、喉が渇く。手が震える。心臓が早鐘を打ち、嗚咽する。混乱する自分の身体が制御できなくなっていく。指先から温度が消え、足元がふらついた。わからない。なぜ? こんなに──

 

 これは、やばい。

 

 本能が警鐘を鳴らす。だめだ。ここにいてはダメだ。ここにいたら、何かがダメになる。早く、逃げなければならない。

 俺は、本能のままに震える足に力を入れ──

 

 

 ──()()()()()()()()()()

 

 

「──ぇ」

 

 どうして。

 そんな言葉が、掠れた音と共に風となって喉から逃げた。理解できない現象に、俺は玉座から立とうと肘置きに手を添える。だが、その腕に力が入らない。どころか、腕がまるで当然のように肘置きに張り付いた。足に力を入れてもびくともしない。まるで、縫い付けられたように動かない身体に焦燥が募る。

 

 動け。動け、動け。動け動け動け動け動け動け動け動けッ!

 

 もがいてももがいても、身体がまったく言うことを聞かない。どころか、腰はさらに深く腰掛けて、くつろぐ体制を作り出した。なんでこんなことをしているのかわからなかった。なぜ、なぜ、なぜ──!

 

 

「動、けよッ…………!」

 

 

 

 

 ──あれから、どれくらい経っただろうか。

 

 あれやこれやと体を動かそうとしても、全く動かなかった。身体は全く疲れていないものの、精神が根を上げた。逃げる事はできないものの、くつろぐことは許されたらしい。玉座に背を預け、脱力する。力が抜けたせいか、幾分か冷静になった頭で思う。

 

 どうなってんだよ、これ……

 

 入るべきじゃなかったと、今更後悔した。ファンタジーっぽい場所でテンションが上がっていたんだろうか。軽薄なあの時の自分を蹴り飛ばしたい思いだ。

 

 だが、それにしても……ここはどこだ?

 

 玉座の周りには何もない部屋。先の見えない階段。クッ○にしたってもっとわかりやす条件設定にしてたぞ──

 

 

「っ!?」

 

 

 ──その時唐突に、世界が歪んだ。

 

 

 陽炎のように歪んだ世界は、その歪みを少しずつ大きくしていく。波紋のように広がっていく歪みは、一際大きく歪んだと思うと、それは人の形を成していく。そして──

 

 

「──第四の使徒、フィーアト。我が神の寄る方に従い参上しました。何の御用でしょうか、()()()()()()()()

 

 

 フィーアト。そう名乗り虚空から現れた白銀の天使は、そう言うなり俺に傅く。白銀のバトルドレスに身を包んだ彼女は、まるで神話に出てくるワルキューレのようで。造られたようなその美貌に、思わず息を呑ん──ちょっと待て。今、何と言った?

 

「フィーアト……」

「はい。何の御用で御座いましょう」

 

 フィーアトは、俺に傅いたまま顔をあげようとした。まずさっきのはなんだ、とか聞きたいことはあるが、それは二の次だ。それよりも、まず──

 

 ──()()()()()()()()()()()

 

 「──!?」

 

 口が開かない。“今なんて言った?”そんなたった十文字に満たない言葉を、俺の口が言うことを拒んだように動かない。なぜ、なぜ──いや、落ち着け。

 フィーアトに気づかれないように、息を吐いた。このまま何も言わないのもまずいかもしれない。だから、何かを聞かなければならない。だが、何を聞けば? だがなぜ、口が開かない? さっきはフィーアトと呼べたはずだ。

 

「フィーアト」

「はい」

 

 名は呼べた。ならまだ他に、条件があるのだろうか? 他に条件は……聞き方か?

 

 そのまでまとめて、言葉を紡ぐ。

 

「──フィーアト、(おれ)は誰だ?」

 

 先ほどまでとは打って変わって、するりと出たその言葉に、フィーアトは疑問に思うこともないように、口を開いた。

 

「常世の創造主にして、昏き世界に黎明を齎す創世の神。総ての命を玩弄する権利を持つ偉大なる君、エヒトルジュエ様に御座います」

 

 そう語る彼女に、感情は感じられなかった。それはただ、真実を告げる機械のようにしか見えなくて。その顔と、俺を呼ぶその名で、俺は思い出した。

 

 ──それ、ラスボスやんけ。

 

 かつて呼んだラノベと合致するその名前に、俺はめまいを錯覚した。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 エヒトルジュエ。

 ライトノベル、“ありふれた職業で世界最強”のラスボスである。傲岸不遜極悪非道。天上天下唯我独尊という最低最悪のクソ野郎である。その行いは正に外道。作内で起こっただいたいの悲劇はエヒトが原因というクソ仕様である。

 命すらも弄び、世界を愉悦に染め上げる悪虐非道を繰り返す神──だったんだけど。

 

「まさか俺がエヒトルジュエとか……」

 

 なんかの冗談だろ……?

 本当に、どうしてこうなったのだろう。フィーアトを帰らせ、ガランと静かになった玉座の間で、俺は頭を抱えた。なぜかフィーアトが去ってから身体が動くようになったおかげで情けない姿をとることができるようになった。

 なぜ俺がエヒトに? そもそも姿が変わってることに気づけよ俺…….しかし本当に、なぜだ。目が覚めたらエヒトて。冗談キッツイぞおい。

 自分があのエヒトルジュエかは杞憂だって? いやまあ、確定だろう。フィーアト来たし、それにあの顔とか服とか見たことあるしっ!

 

 色々とツッコミたい事はあるがそれはそれとして、今はいつだ。

 エヒトルジュエの行った非道は数知れず。洗脳虐殺雨あられ。やったことのないことの方が多いのではないだろうか。それは置いておくとして、今はいつかは大事だ。

 なぜなら、俺がエヒトルジュエになっているなら、原作の過去に起こる事件を止められるかもしれないからだ。五百年前なら竜人の。千年前なら解放者。さらに前ならいろいろとを止められる。それならば、俺の死亡フラグを叩き折れる。

 

 ──そう、死亡フラグだ。

 

 だって、エヒトルジュエだ。ラスボスだ。最後は断末魔をあげながらぱぁって消えてったやつだ。なら……死ぬじゃん。死にたくないもん、俺。

 ラスボスは倒される、そして死ぬのが鉄則だ。せめて五百年前だと嬉しい。すれば、少なくとも竜人からそれ以上ヘイトは買わなくて済む……!

 

 だが問題は、どうすれば下界? を観れるのかわからない。エヒトルジュエはたびたび下界に干渉していた。ならば、ここから下を見る方法は必ずある。だがそのやり方は皆目検討もつかない。せめてやり方がわかれば、下の様子とか確認できたんだけど。

 

 ここは、神殿から出て階段を降りてみるか……?

 

 そんな考えと共に、せめてもと下を見たいと思ってみる。こんなことで見れたら楽なんだけどなー……

 

 その時、ヴォンッ! という音と共に映像が流れ始めた。

 そこには、どこかわからないが、祭事に使われるような置物や魔法陣が描かれた部屋が映っていた。

 いきなり現れた映像に、身体が跳ね上がる。が、ここは冷静に。消えろと念じてみる。消えた。次に出ろと念じる。現れた。

 

 ……なるほど。とりあえず出し方はわかった。

 

 そこからの操作は簡単だった。

 真ん中をタップすると進み、右にスワイプすれば視界が右に回る。上にスワイプで上に。指を開くように動かせば拡大された。なんだか扱いづらいが仕方がない。

 視界に映る先はおそらく、教会総本部だ。アニメで見た。ならば、このまま動かせば、周囲の状態が把握できるはず──!

 

 

 そう、思っていた。

 今思い返せば、楽観的に過ぎたのだろう。まさか、俺が世界の運命を変えられるなんて、思いあがっていたのだろう。それが胡蝶の夢であるとも知らずに。

 思えば、それは理想だった。全ての悲劇を止めて、自分が死なない世界を作る、なんて。理想とは、結局届かないからこそ想うのだ。そんな浅はかな期待を抱いて、俺は映像を見ていたのだ。

 

 

『──うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!』

 

 

 そう、鳴り響く声を聞くまでは。

 

 

『へっ、お前ならそう言うと思ったぜ……俺もやるぜ?』

『龍太郎……』

『今のところ、それしかないわよね……気に食わないけど、私もやるわ』

『雫……』

『え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!』

『香織……』

 

 そう一致団結する、勇者たち。その言葉と共に、皆に勇気が伝播していく。ただ、一人を除いて。

 

 そんな、まさに勇気が奮い立つ様を見て、俺は思った。

 

 

 ──原作、始まってたんかいッ……!!

 

 

 声無き悲鳴をあげて、密かに泣いた。

 

 




◎主人公
名前は未定。エヒトになってた。しかもハジメ時代で絶望する。放っておくと殺されるのでなんとかするしかない。なおタグ。


エヒトになった主人公がやらかす話です。傍観者だけどっ…みたいなやつが読みたかった。
だがおかしい。私はガーランド=フェアベルゲン連邦の話を書いていたはずっ…!なぜプロットどころか設定が全て変わっている…?


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メルド=ロギンスは考える

タグ:r-15、!、オリ主(女)、メルド=ロギンス、亜人妻


 

 

 騎士団団長、メルド=ロギンスは考える。

 

 ティーカップを傾け、紅茶を啜る。少しでも気分が紛れればと思うが、熱い紅茶では知恵熱を覚ます望みは薄そうだと、ため息を吐いた。

 

「団長、どうしたんですか? 物憂げな顔をして」

 

 そんなメルドを見かねたのか、部下であるアランが心配そうに声をかけた。

 アランはメルドの直属の部下でもあり、メルドにとっても付き合いが長いのだが……流石に、いい歳をした、いわゆる“おじさん”と呼ばれるメルドがため息ばかり吐いているのは不審に思ったらしい。

 そんなアランにメルドは「いや」と短く返し、また紅茶を口に含んだ。

 

「いや……少し、頭が痛い案件があってな」

「えぇー、勘弁してくださいよ。明後日は遠征なんですから、団長がそんなだと士気に関わるじゃないですか」

「わかっているが……」

 

 「やめてくださいよー」と顔に浮かべながら言うアランに、メルドは眉間を揉んだ。

 

 (そうじゃあないんだよな……)

 

 メルドは、内心そう思う。

 まさかアランは思うまい、メルドが悩んでいる原因は、“遠征”事態にあることに。その原因をどうすればいいか、三日前から悩んでいる事を。

 そう簡単に答えを出せればこうも悩んでいない。そんな言葉を呑み込むように、紅茶を一気に飲み干して、カチャッと乱暴に音を立ててソーサーに戻し、書類を覗く。

 

 そんなメルドに、アランは不満そうな顔を浮かべて息を吐いた。

 

「もー、団長、悩みすぎじゃないですか? 何を悩んでるのか知らないですけど」

「それもわかってるんだが……」

「もしかして、“女”だったりします?」

「……っ!! げほっ、げほっ!!」

 

 途端、メルドは紅茶を吹き出した。

 まさかのメルドの反応に、アランは驚いた。

 

「え、マジですか?」

「げほっ! ぐ、ふ……」

 

 未だ咽せるメルドに、さしものアランも驚く他なかった。何せ、()()メルド団長だ。

 若き頃より騎士を志し、騎士になってからも鍛えに鍛え騎士団長に上り詰めたメルド。女の影もなく、まるで仕事が恋人とでも言わんばかりの姿に、団員たちは「もしや男色なのでは……?」と尻を押さえたものだ。

 

「いやー、まさか団長の心を射抜く女性がいるとは思いませんでした」

「そ、そう……というかそうじゃないというかだな……」

「まー、気持ちはわかりますよ。長い遠征で自分の女を置いてくってのは不安ですよね。わかりますわかります。俺だって、お気に入りのマリンちゃん置いてくのは不安ですもん」

 

 いやそれお前のお気に入りの子だろ。

 

 一緒にするな、と言う言葉は出さない。空気を読む、と言うのは神殿の騎士として大事な事なのだ。だから「他の男に愛を囁いてるってなるとー」とか言うな生々しい。

 

「それで、何で不安なんです? 今まで何回も遠征とかあったでしょう」

「はぁ……まあ、今回は毛色が違うとでもいうかな」

 

 もう騙しきれないと思ったのか、正直に話し始めるメルド。

 

「何というか……どう切り出そうかと思っているんだ」

「えっ!? 話してなかったんですか!?」

「そう驚くな。今回の遠征は、急遽決まっただろう」

「ああー……たしかに」

「決まったのは一週間前だったが、その時は少し出かける約束をしていたんだ。だから切り出すにも切り出しにくく……」

「ドツボじゃないですか」

「言うな」

 

 まさかの女。さらにドツボ。こりゃいい肴になりそうだ。アランは内心ほくそ笑んだ。本人は笑えないのだが。

 

「そんなの、謝ればいいじゃないですか」

「変な謝り方をすれば、拳が飛ぶ」

「尻に敷かれてますね」

「言うな」

 

 さらには尻に敷かれてるときた。ここまで来ると、俄然メルドを射止めた女性が気になる。が、本気で悩んでいるメルドに、アランは(店通いの経験を活かして)自分なりの答えを出すことにした。

 

「プレゼントすればどうですか? 少しは許してくれるかもしれませんし」

「……やっぱりそうなるか?」

「ええ、一番効くと思いますよ」

 

 メルドはアランの言葉に、またもや眉間を揉んで、息を吐く。どうやら、心は決まったらしい。

 

「何か買っていくか……」

「おっ、じゃ団長、お礼楽しみにしておきますね」

「お前には買わん。風俗通いの意見を渋々受けただけだ」

「なんでですか!?」

 

 愕然とするアランを他所に、メルドはプランを考える。そう、他でもない。()()()に、どう切り出そうか、と。

 

 

 

◆◇

 

 

 

「よし」

 

 それから半日経って、夜の街をメルドは歩いていた。

 片手には酒と思しき包みが握られ、その背には緊張が漂っていた。

 

「これで機嫌が良くなってくれればいいんだが……」

 

 願うは、拳が飛ばないこと。彼女の拳はまずい。下手すれば胃に穴が開く。物理的に。

 

 そう考え事をしながら歩いていれば、いつの間にやら家についていたらしい。

 見上げるは、自慢の我が家。騎士団長という職についてから給料も増え、それなりに大きな家を建てることができた。寮暮らしだった事もあり、持てた時はそれはそれは喜んだものだ。と、昔の記憶に想いを馳せる。そこ、現実逃避とは言わない。

 

「さて……」

 

 いざ、と一拍置いて、扉を押し開く。

 その瞬間、煙たい臭いが鼻をついた。どうやら彼女はお楽しみ中らしい、と後ろ手に扉を閉めた。

 階段を駆け上がり、彼女の部屋を開けた──

 

 

 

「──おかえり」

 

 

 

 そこには、女がいた。

 月光に輝く長い白髪をぞんざいに垂らし、色の異なる双眸は、無関心そうに、だけどどこか歓喜の色を込めてメルドを見つめていた。

 特徴的なのはそれだけではない。彼女の頭には、猫のような耳が生え、また髪と同じ白い毛並みの尻尾を風に揺らしている。

 手には煙管が握られ、燻んだ紫煙を吐き出しながら、彼女は気怠そうに外を眺めていた。

 そんな紫煙を燻らす彼女に、メルドは緊張を落ち着けるように口を開いた。

 

「ただいま」

「ああ、おかえり。随分と遅かったじゃないか」

「ま、まあ、そうだな。ドロシー」

 

 ドロシー。そう呼ばれた彼女は、耳をピコピコ、尻尾でふわりと空を撫で、眉を顰めた。どうやら、メルドの態度が気になったらしい。

 

「どうかしたのか?」

「あ、ああ、すまない。これだ」

 

 そうして、メルドは買ってきたものを彼女の眼前に持ち上げた。それを見たドロシーは、無関心そうな目を輝かせた。

 

「それ……!」

「ああ。お前の好きな酒だ」

「これしかも、マタタビまで入ってるじゃないか!」

 

 尻尾の先を振るわせ、珍しく瞳を輝かせ喜ぶドロシーに、メルドは自然と頬がほころんだ。彼女の嬉しそうな顔を見れただけでも、買ってきた甲斐があるというものだ。

 そんな微笑ましい視線を向けるメルドに、流石に恥ずかしく感じたのか、ドロシーは視線を逸らした。そして、咳払いを一つ。

 

「それで、何があったんだ?」

「ん!?」

「何年の付き合いだと思ってるんだ、メルド」

 

 そうして彼女は、月明りに左手を翳した。彼女の薬指には、光り輝くシルバーのリングが輝いていた。

 

「もう十五年だ。私は君のことをわかっているつもりだったんだがな」

「……敵わないな」

 

 堪忍したように手をあげて、メルドは全てを離した。そんなメルドに、ドロシーは呆れたように笑う。

 

「すまない……」

「いや、いいさ。私は元より亜人だ。それが先に伸びた程度で怒りはしないさ。今まで通り、変わらないだけだからな」

「それは……」

 

 違う、という言葉は続かない。

 彼女の種族──猫人族は、この世界では迫害の対象だからだ。こうして暮らしているメルドこそが異端であり、もし知られれば免職ではすまない。

 

「それよりも、きちんと働いてお金を落としてくれよ? 私は家から出られないんだから」

「もう少し言い方があると思うんだが……」

「可愛い“妻”の皮肉さ、流してくれ」

 

 そう言い合って、笑う。

 亜人と人間であるにも関わらず、この場には和やかな空気が流れていた。

 

「さて、メルド。飯を食べよう。今日は肉を焼いておいた。食べるだろう? ちょうど、美味しい酒もあることだ」

「ああ……!?」

 

 その瞬間、メルドは唇を奪われた。

 整髪料の匂いだろうか? 花のような甘い香りと紫煙の匂いが混ざり合い、メルドは一瞬、意識が霞む。

 そんなメルドを愛おしそうに撫で、ドロシーは唇を舐めた。その顔はどこか、悪戯に成功したような顔をしていて──

 

「じゃあ、下で待っているぞ。早めに来るといい」

 

 そう言って、ドロシーは部屋を後にする。

 

 メルドはしばし呆然として、ははっ、と一笑して、いつもは隠している指輪を手に取った。

 

「…………本当に、敵わないな」

 

 せめてもの反抗に指輪に語りかけて、彼女の後を追った。

 

 

 

◆◇

 

 

 

 夜ご飯を終えたメルドは、風呂から上がり、窓に腰をかけ涼んでいた。

 手には明後日に控えた遠征の資料。向かう場所と兵の投入数が事細かに書かれていた。メルドは団長だ。団員の命を預かり、結果を残さねばならない。こうして情報を頭に入れておくのも、メルドにとって欠かせない仕事だった。

 ペラペラと大雑把に情報を頭に入れていき、途端に手が止まる。

 

「しかし──」

「何が“しかし”なんだ? メルド」

「うおっ!?」

 

 突如としてかけられた声に、思考は中断され、思わず体が跳ね上がった。

 後ろにドロシーが歩み寄っているのを気づけなかったことに戦慄する。猫人族とはいえ、騎士団長を務める自分に気づかれず背後をとるとは、やはり侮れない。と、そこまで考えて。

 

「……って、なんて格好をしているんだドロシー!?」

 

 そんな、情けない声をあげた。

 

 無理もない。ドロシーはネグリジェを着ていたからである。

 真っ白なレースがあしらわれたフワフワとしたネグリジェは、彼女の種族もあって本当に猫のようで。猫人族特有のしなやかな体つきから醸し出される危険な色気に、メルドの顔に熱が集まる。

 

「何って……寝巻きだが」

「寝巻き……!? だいたいそんなものをどこで」

「まあ、どうでもいいだろう?」

 

 彼女は獲物を狙うように、メルドを誘うように頬に手を添えた。その顔は上気していて……というか、酔っ払っている?

 

「ドロシー! お前、マタタビ食べたな!?」

「ふふっ、正解」

 

 どうりで。

 酒には強いくせに、ドロシーは異様にマタタビに弱かったことを思い出し、メルドの背に冷や汗が伝う。喜ぶだろうと思って買ってきたのが、早くも仇になるとは。

 

「してほしかったんじゃないのか? メルド」

「………………いや、そう、ではないが」

「まあ、据え膳だ。味わうといい」

 

 

 ──(ドロシー)の夫、メルド=ロギンスは考える。

 

 

 舌なめずりをしながら獲物(メルド)を狙う(ドロシー)に、酔わされながら。

 

 明日、起きられるかな……?

 

 情けなくも、そう思った。

 

 




・メルド=ロギンス
騎士団長。団員にも知らせてないけど妻帯者(亜人)。
この人だったら亜人差別とかしなさそーだなーと。

・ドロシー
猫の亜人。
タバコ、白髪、獣人(猫)、酒好き、マタタビに弱いが合わさって最強に見える。
シガーキスするかな…?キセルだけど。


メルドさんが主人公?です。
メルドさんがっつり強くなります。予定では。
こんなのですが割と大人の付き合いしてるようです。



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ネタ集【α】(予告編風)

 実力的にプロローグにも出来なかったネタです。過去に考えてたやつとかごちゃごちゃにしてます。
 前回の反省で一話ごとのタグをつけておきます。

1『突撃娘は正ヒロイン』
 中学時代、白崎香織、南雲ハジメ

2『白猫は魔物料理人(食う者おらず)』
 オリ主、性転換、転生、サバイバル、亜人、魔物食い

3『俺は今日、南雲ハジメを殺した』
 r-15、オリ主、転生、英雄になれ

4『エヒトがやりすぎちゃった話』
 クロスオーバー、ノーゲーム・ノーライフ、ほぼ無理ゲー

5『in転生者』
 オリ主、転生、転生者複数、憑依?、原作崩壊?、性格改変、







 

 

☆突撃娘は正ヒロイン

 

 

 

「どうしよう……」

 

 とある中学生、白崎香織は迷っていた。

 香織の手には携帯電話が握られ、これからどうするべきかと思考を巡らせていた。

 

「あのなぁ、ばぁさん。これ、ヴィンテージだよ? レアもんなのよ。わかるだろ、なぁ?」

「本当に、すいません。クリーニング代はお出ししますので……」

 

 香織の目の前に広がっていたのは、おばあちゃんが不良に囲まれ、カツアゲをされそうになっているところだった。

 不良のジーンズにはソースがついていて、無惨なたこ焼が地面に貼り付いていた。なるほど、たこ焼きがズボンについてああなっているのか、と遅ばせながらに察する。

 

「どうしよう……」

 

 二度そう呟いて、おばあちゃんを助けようと考えていたその時。

 

「あの〜、流石に、お財布ごとっていうのは、勘弁してくれませんか?」

 

 唐突に現れた少年に、香織は瞳を奪われた。

 明らかに凡庸。オドオドしていて、いかにも頼りなさそう。不良にかかれば、あの少年はすぐにのされてしまうだろう。

 

 そして、そんな少年は──

 

 

「まっことにぃ! 申し訳ぇ! ございませんでしたぁーーーーッ!!!」

 

 

 華麗に、土下座を決めた。

 

 

 不良すらも唖然とする土下座押しに、香織も呆然とする他なかった。

 

 だけど同時に、少年に奇妙な気持ちを抱いた。ダサくとも恐れず、誰かを守るために身体を張る少年に、香織は──

 

 

「あの……」

 

 気づけば一歩、踏み出していた。

 

「あぁ!? 次は何だよ!」

「その、いい加減にしませんか? それ以上騒ぐと、その、警察呼びますよ?」

 

 そう言って、液晶に110と並ぶ数字を見せつけた。

 

 流石に警察を呼ばれるとまずいと思ったのか、たじろいで逃げていく不良たち。

 おばあちゃんが礼をいう中、香織は立ち上がり逃げていく少年の腕を捕まえた。

 

「あの! 大丈夫ですか!」

 

 「は、はい大丈夫です」と僅かに震えながら返す少年に、香織は無理矢理ハンカチを押しつけた。

 

「汚れているので、使ってください」

「え……」

 

 呆けた顔をする少年に、不思議な胸の温かさを抱くように続ける。

 

 

「どうぞ、使ってください。あと、えっと……名前を、教えてくれませんか?」

 

 

 香織は決して離さぬように、と。少年の手ごとハンカチを握った。

 

 

 

☆白猫は魔物料理人(食う者おらず)

 

 

 「長老! 何をするのですか!」

 

 木々が生い茂る亜人の国、フェアベルゲン。そんな森の片隅で、悲痛な声が響き渡った。

 

「うるさい! 今までは多めに見てきたが、もう我慢ならん!」

「やめてください! その子はまだ……」

「黙れと言うのがわからんか、愚息が!」

 

 必死に懇願する男を蹴散らすように、老人は肩を怒らせて進んでいく。その手には、未だ幼い、真っ白な少女の腕が掴まれていた。

 

「こんな忌子を五年もここに居させてやっただけありがたいと思え!」

 

 そう言って、老人は少女の腕をさらに強く握りしめ、霧に霞む暗路に向かう。そして──

 

「出ていけ!」

 

 力任せに投げ出した。ただでさえ真っ白な少女は霞に囚われ姿が消える。

 すっかり見えなくなった少女に、安堵するように老人は息を吐き出した。

 

「まったく、魔力を持つ娘が儂の血から生まれるとは思わんかった。手こずらせおって……」

 

 そう吐き出して、慟哭する男を置き去りに、その場を後にした──

 

 

 

 

 

「……多分、捨てられたみたいですね」

 

 捨てられた少女は、霧を抜けた先で呑気にそう呟いた。

 

 捨てられた少女は、転生者だった。ついでに前世は男だった。そのため、齢五歳であってもそれなりに生きていく力はあったのだが……

 言葉はわからない。身元もない。食料もない。名前もなくて、ついでに(おさな)い。ないない尽くしに途方に暮れた。

 

「とりあえず、寝床探そ」

 

 が、そんな状況でも能天気に寝床を探し始め、適当な場所で寝始めた。メンタルが強靭すぎる。

 

 

 最初の数日は木の実とかで凌いでいたものの、流石に肉が恋しくなってきて、たまたま食べ残されていた動物(推定)を発見。

 あまりの空腹にそれを食してみると……

 

 

「……うまい! (テーレテッテレー)」

 

 

 そんなこんなで肉を完食。見た目は悪いがイケる味に、食欲が刺激され始まる原人生活。試行錯誤し、狩猟、食事、寝るを繰り返す。時に料理しつつ、自堕落な生活を送っていた。

 

 だが少女は知らない。それは動物ではないことを。それは魔物であり、常人が食べれば毒になることを。

 

 

「うん、骨の近くはクセが強いですが美味しいですね!」

 

 

 少女は知る由もない。

 そう遠くない未来、妖怪魔物喰らい(幼女)と呼ばれることを……

 

 

 

俺は今日、南雲ハジメを殺した(グランギニョル)

 

 

「…………はは」

 

 薄暗闇の中、渇ききった笑い声が響く。

 

 指し示す物は小さな火種。穏やかな灯りとは対照的な少年の笑い声は、ただただ暗澹に溶けていった。

 

「ははは……はははっ」

 

 少年は、笑いながら髪をかき上げた。その瞳は黒く濁り、そこにある()()を凝視する。

 

 ──そこには、【赤】があった。

 

 少年の目の前に放射状に広がった【(それ)】は、小さな炎に照らされてさらに赤く輝いていた。そして、その中心にあるモノを見て、少年の笑い声は歓喜に濡れていく。

 

「はは、ははは、はははははーーッ!!」

 

 堪えきれない、まさにそんなように笑う少年は、目の前に広がる()()に、喉など枯れても構わないと笑い尽くす。

 

「…………やった」

 

 少年の眼前に広がる【(それ)】は、死体だった。

 いや、死体というにはあまりにも惨い。凄まじい力で叩き潰されたのだろう。胴体は潰れ、頭蓋は割れ、四肢が飛び散ったひどい有様で、内臓が潰れたせいか糞尿の臭いが漂っていた。

 そんな死体を前に、呵呵大笑する──まさに“狂気”を浮かべる少年は、ひときしり笑った後、血に濡れた手でガッツポーズを作った。

 

「南雲が、死んだ」

 

 ひどく歪んだ笑みで少年は、確認するように呟いた。

 

「これで、俺のものだ。全部、全部! 俺のものだ!」

 

 少年はまさに、たまらないというように嗤い続ける。自分の“約束された”未来を夢想して。

 

 

 ──少年は、前世の記憶を持っていた。

 

 “ありふれた職業で世界最強”という、物語の記憶。南雲ハジメを主人公とした、世界を救う物語。

 その主人公が死んだ今、全てが手に入る。そう判断した少年は、自分が至るであろう未来に笑わずにはいられなかった。

 

「俺は、俺が! 主人公になったんだ!」

 

 そんな少年の笑い声だけが、闇に反響し消えていく。

 

 

 ──これは“英雄”の物語。

 

 どこにでもいるような少年が、菴■b螟峨o繧峨↑縺世界を救う。そんな、“ありふれた”物語。

 

 

 

 さあ、謨代o繧■↑縺

 

 さあ、“英雄譚(グランギニョル)”を始めよう。

 

 

 

 

 

☆エヒトがやりすぎちゃった話

 

 

 

 今からおよそ6000年前。

 当時、エヒトルジュエという神を信仰していた宗教──その教皇は、神の声を聞く力を持っていた。

 

 教皇は祈っていた。

 

 他でもない、“人ならざる者達の登場”に困惑して、国が立ち行かなくなったからだ。

 今より数年前から現れた獣の耳を持ち、人語を介す種族。それを皮切りとして、さらには海に()み人を搾り取る種族。数え上げればキリがない。

 そんな者達の登場によって存続が危ぶまれた国の教皇は、神に縋る他なかった。

 

 

 “助けてください。我らは何もかも奪われていきます。どうか、どうか。その御力をお貸しください”

 

 

 そんな切迫詰まったその言葉にただ神は、一つの言葉を以て応えたという。

 

 

 

 

 

【やりすぎちゃった! (・ω<)☆(てへぺろ)

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなではや現代。

 人間族やべぇまま到達してしまった現在に、ハイリヒとついでにガーランドはそれはそれは追い詰められていた。

 ガーランドはアルヴが守っている上に、最近フリードというイレギュラーが生まれた為なんとか保っていた。だがハイリヒは違う。

 

 四桁年前にとある稀代の錬成師(おバカ)が作った心を持つ機械の生命体はまだいい。

 だがしかし、エヒトが戯れに作ってしまった新型“神の使徒”、『FLUEGEL(フリューゲル)』のせいで、今や人間族の存亡は風前の灯。

 “愉悦の合間に神生”を座右の銘にするエヒトも、さすがに可哀想になってハイリヒに勇者を召喚。これでなんとか守ってちょと言うエヒトに信者達はそれはそれは泣いたらしい。ちなみに諸悪の根源はエヒト(そいつ)である。誰か弁護士を呼べ。

 

 てんやわんやで原作とは違う経緯で呼ばれた勇者御一行。これで安心……かと言えばそうはいかない。

 

 踏み込みで地面が弾け飛ぶ獣人族(ワービースト)

 隙あらば搾り取ろうとしてくる海人族(セーレーン)

 とりあえず魔法使ってくる森人族(エルフ)

 瓦割りで船を作り出す土人族(ドワーフ)

 問答無用で血を吸おうとする吸血鬼族(ダンピール)

 

 そんな人外勢(デタラメ)を目の当たりにして、さしもの天之河も「あ、やっぱりちょっと考えさせてください」と言って数日間寝込んだ。

 そもそも関係ない奴らを巻き込んで戦争させて無駄死にさせようとするあたり、なかなかである。やはりエヒト(あいつ)に弁護士はいらない。処刑台にかけろ。

 

 あれやこれやでも運命はそのまま進むようで、訓練と称した迷宮探索から、なんやかんやで迷宮の地下に降り立った少年、南雲ハジメの物語が始まる。

 

 隠蔽に長けた吸血鬼、ユエに。物理ぶっ壊すラビット(?)、シア。さらに言葉だけで万物を朽ちさせる竜人族、ティオを加えて、元の世界に戻る方法を見つける旅に出る。

 

 だって、怖いんだもん。

 

 

 

☆in転生者して形がほぼ残ってない話

 

 

 

 転生者、神宮寺銀牙(転生後命名)は興奮していた。何せ、かつて憧れた世界に自分は立っていたのだから。

 

 “ありふれた職業で世界最強”。

 

 かつて自分がどっぷりと浸かり、夢想し妄想した大好きだったライトノベル。落ちこぼれが苦難を乗り越え最強の座に至る。そんな物語の舞台──トータスに、主人公である南雲ハジメと来れたのだから。

 

 神宮寺は妄想する。

 自分が最強を辿るその道を。自分が女を侍らせるその道を。自分が英雄になる、その道を──!

 クラスメイトと共に通された大広間で、イシュタルと名乗る(神宮寺の主観で)胡散臭い老人の話に、耳を傾けた──

 

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させていただきますでな、話を最後までお聞きくだされ──結論から申しましょう。我等を、邪神エヒトルジュエを崇める亜人連合から救っていただきたい」

「────はい?」

 

 

 え、あ、あれー!?

 

 そんな内心の絶叫と始まるあまりにも原作と乖離したこの世界の現状。

 

 トータスと呼ばれてはいる。だが種族は大きく分けて六つ。神族、人間族、魔人族、亜人族、竜人族、そして吸血鬼族。ここだけでもうおかしい。

 さらに、自分たちを召喚したのがアルヴヘイトと知り、転生者はさらに混乱した。

 

 戦争をしてはいるけど人族・神族 vs それ以外ってなんだ。なんで勢力的に『2:4』なの!?

 そのせいで元々あった“数”とかそういうアドバンテージがもう意味をなさなくなってるんだけど!? そもそもスペック違いすぎでしょ!? それに信仰してる神が“アルヴヘイト”とかどゆこと!? 何、亜人連合て。何、神族て。何であんたらアルヴ信仰してんの!?

 

 そんな転生者の絶叫なんて聞こえない。

 イシュタルは話すだけ話した後、自分たちに助力を求めてきた。当然、神宮寺は受け入れるつもりだったが……

 

「すいません、イシュタルさん。それ、保留でもいいですか?」

 

 ──何言ってんだ天之河ーー!?

 

 と、まさか()()()()()()()()天之河が保留にしたことで今日はスルーされた。まあ、結局保留だし。と思っていたところで訓練だけはするという結果になった。

 

 そして、そこでまた神宮寺の知らない事態が起こる。

 

 

「よし、みんな武器は持ったな。では……」

 

 そう言って渡されたのは一丁の拳銃。

 さらに日本刀にサーベル、スタンガンなどなど、この世界にはないはずのあれやこれやが山ほどでてくるでてくる。神宮寺の意識は飛びかけた。さらに、これだけでは終わらない。

 

 

「やっはー☆ 異世界人くん達元気ー? 天才美少女魔法使いミレディちゃん☆ がやって来たぞォ〜〜!」

 

 

 そんなうぜぇ口上と共に現れたミレディを名乗る銀髪碧眼美少女という濃いキャラに、神宮寺はとうとう意識を飛ばした。

 

 

 ──神宮寺は知らない。

 

 この世界がもう、自分の知るトータスではないことに。

 

 ──神宮寺は気づかない。

 

 自分のクラスメイトの性格が、自分の知っているものとは異なることに。

 

 ──神宮寺(転生者)は思いもしない。

 

 この世界がもう、自分ではない転生者によって、原作など影も形もないほどに崩壊させられていることに。

 

 

「ええいっ! どうなってんだこれはぁっ!」

 

 そんな絶叫をあげて、涙目になりながら大迷宮を駆け回る。

 目指すはリアルチーレム。

 自分の煩悩に従うまま、転生者は今日も行く。すべては、自分の欲望のためにーー!

 

 

 

 

 

 

「──気づきませんでした。こんなところに人間族がいるなんて」

 

 少年は、不意に視線を奪われた。

 

「どうされましたか? 私はあなたに質問をしているのですが……」

 

 金糸の髪、血のような瞳。人形のような美しさを持つその少女から、目が離せない。

 

「ふむ……困りましたね。私はあなたから、話を聞かないといけないんですけど」

 

 一挙手一投足すら目を離せない。それはまるで甘露のように。蠱惑的に少年を惑わす色香に、少年は目を奪われた。

 

 暗がりに映える姿は、まさに『月』の化身のようで。

 

 

「君、は…………?」

 

 

 半ば尋問されているにも関わらず、空気に合わないことを口にする少年。少女は驚いたように目を見開いて、次には不敵に笑ってみせた。

 

「そういうのは、聞く方から名乗るのではないですか?」

 

 まるで獲物を捕食する強者の笑みで、少年を挑発する少女。そんな少女に、少年は迷わず答えていた。

 

 

「──僕は南雲、ハジメです。君の名前を、聞かせてください」

 

 

 そう答えた少年──ハジメに、少女は(わら)う。それはまるで、“よくできました”とでも言ってやるように。

 己に酔いしれる少年に、少女は。ご褒美を与えるように、その名を口にする。

 

 

「私はアレーティア。ガーランド魔国連邦、アヴァタールの首長を務めております。……あなたの話を、聞かせていただけますか?」

 

 

 

 

 

 




☆突撃娘
できちゃった。
イメージはバタフライエフェクト。
中学時代に謎の関わりができてちゃ○みたいなことになりそう。ヒールはいる。成長もする(ヒールも)。
原作も影響がっつり受けるよ(予定)。

☆白猫料理人
某猫娘漫画が完結して暴走しちゃったやつ。
記憶はあるけど、日本語しか喋れないしヒアリングも無理。多分原作始まるまで誰ともコミュニケーションとれないと思う。
ちなみに、持ってる能力のおかげで超健康体。何があっても病気とか重症は負いません。
ただし、某サウスクラウドみたいに能力は得られないしステータスも上がらない。ただし経験値はもらえるよ!
テーレテッテレーはねるねる。ねればねるほど色が変わって…

☆グランギニョル
短編で全部書いたけれど、設定の粗とか突っ込まれるとあれなので落とせなかったもの。
“かみさま”がいなくなればこうなるよね。という話。
幸せは認められませんでした。

☆エヒトォッ!!
エヒトは便利と思ってできたやつ。
ノゲノラ入れたら世界ぶっ壊れるに決まってんでしょ何言ってんの?
しかも天翼種を突っ込む鬼畜ぶり。誰か塩漬けにして。
エヒトは■にできなかった。やったら消される。物理的に。

☆in転生者
転生者によってぶっ壊れた世界。
転生者がやらかしてーってやつをありふれでやってみた。
一体何が起こったんでしょう。
亜人と竜人と吸血鬼は分けてます。わざと。


昔から考えてたのと最近できたのでごっちゃに。ネタ抱えすぎでは…?


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