FAIRLY TAIL〜妖精軍師に愛されし者〜 (しぐ)
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プロローグ
出会い


メイビスがヒロインの二次ぱっと見少ないよね。


 彼女と出会ったのはいつだろう。

 枯れた世界で、彼女は泣いていた。

 

「ッ!? 来ないで!」

 

 周りの命が枯れていく。

 ああ、彼女は優しいのだろう。必死になって、俺が死なないように気遣っている。 

 一歩、歩を進める。三歩、後退る。

 嫌だ嫌だと首を振りながら、大粒の涙を流し拒絶の言葉を叫ぶ。

 

(無差別に命を刈り取る力……嫌だな)

 

 敵を殺すのならまだいい。愛した人も、友達も、全てを平等に殺す力は、危険極まりない。

 その危険性がこの少女もわかっている。だからこそ無関係な俺を遠ざけようとする。

 ああ、気に食わない。

 

「やあこんにちは。君の名前を聞かせて欲しいな」

 

「な、何で……」

 

 枯れゆく世界で、俺と彼女は出会った。

 死にゆく世界で死なない俺と、小さな死の世界で一人涙を流す少女との邂逅だ。

 

「何で? そりゃあ、俺が最強だからだよ」

 

 不遜に、傲慢に、その答えは彼女の笑いを誘ったらしい。

 泣き顔で、頬を緩める彼女はとても可愛いと思った。

 

「……ふふっ、そうですか」

 

「安心したところで、君の名前を聞かせて欲しい」

 

「そうでした。私はメイビス・ヴァーミリオン。メイビスとお呼びください」

 

「俺はラクナ。ラクナと、そう呼んでくれ」

 

 

 

 

 色々話した。

 メイビスがギルドの長である事や、無差別な死をばら撒くようになった原因、命を奪ってしまった事。

 

「私は……もう、ギルドには帰れません」

 

「ギルドか……俺は所属した事ないからわからないけど、楽しい?」

 

「はい! それはもう──」

 

 話し出したメイビスは止まらない。ギルドで何をしたとか、こんな事があったとか、楽しい事、悲しい事、どんな事があってもギルドなら……家族なら超えていけると楽しげに話した。

 ひとしきり話して、満足げに笑うメイビスの目には、涙が浮かんでいた。

 

「あれっ、違っ。違うんです。これは、涙なんかじゃなくて……」

 

「いいんだ。泣きたきゃ泣いていい。なんなら俺の胸を貸そう。ほら、おい──」

 

 ぽすん、と飛び込んできたメイビスはしばらく泣いて、泣き疲れたのかそのまま眠っていた。

 

「……あーあ、服がびちゃびちゃだ」

 

 だが、この小さな少女の悲しみを受け止められたのなら安い代償だろうか。こんな小さな身体に合わないほどの大きな悲しみを背負って、一人で抱え込んできたんだ。

 

「安らかな寝顔だ」

 

 服の裾を掴んで安心したように眠るメイビス。すり減った心が、少しでも満たされてくれればいい。この子の生きる糧になれば。

 

 

 

 

 

「ギルドを作ろう」

 

 朝、メイビスが起きて顔を真っ赤にしながら言い訳を重ねているのをぶった切って、そう言った。

 

「ギルド……?」

 

「ああ、この場所で、俺たちだけのギルドを作ろう。そうすれば、家族だ。なっ?」

 

「届け出をしないと、闇ギルドなんですよ?」

 

「えっ、あー、それは……どうしよう」

 

「なら、ラクナも、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入りませんか?」

 

「俺が?」

 

「そうです。私は一応初代ギルドマスターだったんですから。そのくらいの権限はあります」

 

 そうだ、と手を叩く。

 

「ここを妖精の尻尾(フェアリーテイル)支部としましょう! 支部長は私、メンバーはラクナです!」

 

 一も二もなく頷いて、それから、この枯れた世界でメンバー2名のギルドは設立された。

 ガリガリと木の板に妖精の尻尾(フェアリーテイル)支部と書き、固定したら完成だ。

 

「何も無いですね……」

 

「それはこれから作ったらいい。時間はたっぷりあるのだから」

 

 そうだ。時間はいくらでもある。

 

「じゃあ配置を考えましょう!」

 

 最適な配置を──とブツブツ呟くメイビスとの時間はこれからもたくさんある。まあ、のんびり行こうじゃないか。

 

「まずはギルドからじゃないか?」

 

「あっ、忘れてました!」

 

 ちょっと抜けてるんだよなと笑いながら、

 

「俺にも考えさせてくれよ!」

 

 一人で考えるよりも、二人の方が楽しい。誰だって孤独は辛いものだ。形はどうであれ人と接するのは心を保つ上では重要だ。メイビスのすり減った心が、どうか元に戻りますように。




フェアリーテイル熱が高まったので書きました。
メイビス可愛いよメイビス。


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育み

最初の部分は書き上げていますので連続投稿します。


「完成だな」

 

「……ですね」

 

 明らかに下手くそな小屋が出来上がった。

 俺もメイビスも大工の経験なんてないし、木を削り出してどうにかこうにか形に出来た。

 

「この板を貼り付けて、完成っと」

 

 メイビスが書いた妖精の尻尾(フェアリーテイル)支部の看板を貼り付けて完成だ。扉を開けて入ると二人分の寝るスペースに、机一個分の広さしかない小さい小屋だ。うーん狭い。

 

「狭いですね」

 

「そうだな」

 

「……でも、ここが今日から私たちの家、なんですね」

 

「ああ、そうだな」

 

「ラクナと私だけの……私、妖精の尻尾(フェアリーテイル)が出来た時ぐらい嬉しいです」

 

「……ああ、それはよかった」

 

 空っぽの部屋でここまで感動してくれるとは作った甲斐があるってもんだ。後ろで足をぱたぱたさせているだけのメイビスに少しは手伝わせれば良かった気がする。いや、気にするまい。

 

「次は、家具を作らないとな」

 

 ベッドに、机に……うーん、素人には難しい気がするのだが。

 

「そうですね、頑張りましょう!」

 

 胸の前でガッツポーズを決めるメイビスを見てれば頑張ろうかって気分になる。その小ささと相まって愛玩動物的な立ち位置で癒しを与えてくれるのだろうか。無差別に死を撒き散らしている点を除けば。

 

「むっ、今よくないことを考えましたね」

 

「よくわかったな。背が小さいなって思ってたんだ」

 

 わしゃわしゃと撫でると、子供扱いしないでください!と吠えた。目一杯跳ねても俺の胸にも届かないメイビスなのだ。充分子供である。

 

「やっぱり! 私にはお見通しなんですから!」

 

「ははは、悪いな。事実なもんで」

 

 何はともあれ、家を整えねば。

 

 

 

 

「……まずいぞ、メイビス」

 

「緊急事態ですね」

 

 何を隠そう、俺たちお金が無いのである。俺はともかくメイビスは何も持たずに飛び出してきてしまった模様。お金を持って出てくる暇も無かったのだろう。それは仕方ないが、ふかふかのベッドで寝たい俺たちの夢を阻むのは金である。

 

 今度はメイビスにも手伝ってもらってこれまた不恰好なベッドと机を完成させたが、さすがに布団などの作り方は知らない。例えお金があったとしてももう日が沈んでいるから買えないだろうが。

 

「私は、このままでも大丈夫ですよ」

 

「……なら、いいんだけど」

 

「こうすればいいんです」

 

 木のベッドに寝転がったメイビスに手招きされて寝転がる。ぎゅっと抱きしめられて、微笑まれた。

 

「ねっ、暖かいでしょう?」

 

「……いや、敢えて何も言うまい」

 

 暖かい。背が小さいだのなんだのと言っておいてアレだが、女性特有のちょっと高めの体温と身体の柔らかさ。そして極めつけはさらに柔らかい慎ましやかな胸……ぬかった。最高である。

 

「腕を貸そう」

 

「わーい」

 

 布団を提供してくれたのなら俺は枕を提供しよう。ギブアンドテイクは基本だ。柔らかい布団に対してゴツい腕は少し釣り合っていない感じはするがこの際気にしない。

 

「ラクナの腕も、暖かいです。……暖かい」

 

「そりゃよかった」

 

 今日はもう寝よう。明日の事は明日考える。行き当たりばったりな生活だが、メイビスと一緒なら、楽しくやれそうな気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらく経って。

 

「今日のご飯は何ですか?」

 

「なんかこう……色々煮込んだやつ」

 

「美味しそうです!」

 

 そうだろうか。しばらく食べていれば慣れるが最初はまあ酷いもんだった。二人一緒に吹き出した時は笑ったな。

 

「むっ、ラクナ。腕上げましたね!」

 

「しばらくやっていれば、多少はね」

 

 無ければ無いなりに工夫は出来るようになる。ちなみにメイビスは今俺の背に乗っかってバタバタしている。肩口から顔を出して調理の現場を覗き込んでいるんだが、割と邪魔だ。楽しそうならよしとしようか。

 

「……せめて殺してしまった命、有効活用しないとですね」

 

「メイビスのおかげで狩りが楽になるな……いや待て、冗談だ。睨むな睨むな」

 

 俺は場を和ませようと……抓るな。叩くな。蹴るな!痛くは無いがかなり鬱陶しい。

 

 基本的に狩りに出るのは俺だが、この近辺に迷い込んだ動物やたまに運動する時に運悪く遭遇してしまった動物など、メイビスに近付いてしまった動物たちはなるべく食べるようにしている。それがせめてもの有効活用で、一番メイビスの心に負担をかけないだろう。死を、正当化出来るのだから。

 

「……本当に」

 

「…………」

 

 だが、人は別だ。頻度は低いがこの辺りにも人は現れる。盗賊などの悪い奴らならまだどうとでも言い訳は効くが、狩りにやってきた善良な市民、依頼を受ける為にこの近くを通った魔導士などを殺してしまった時のメイビスの消耗具合は見てて心が痛くなる。

 抱きしめて、ひたすら宥めるしかない。俺がいる。俺は生きていると、そう何度も伝えてようやく正気を取り戻してくれる。

 

「ここは落ち着きます」

 

「俺の背にリラクゼーション効果は無かった気がするけど」

 

「……そう言う事じゃありません」

 

 ぷいとそっぽをむかれた。そろそろ出来上がりますよ、お嬢様。

 

「あれ、調味料使いました?」

 

「ああ、うん。ちょっとね」

 

 魔導士の死体を漁ったら色々ゲットしたから適当に使ってみたんだけど、いい感じの味付けになったようだ。ただ、死体漁りをしたってのは確実にメイビスに負担をかける。

 俺自身は何の抵抗も無いのでルンルンで漁る。メイビスは優しいから、殺したくないものまで殺して、耐えられるとは思えない。向こうから金がやってくるのだ、お得だろう。口に出す事はできないけれど。

 

「美味しいです」

 

「……お、本当だ。さすが調味料」

 

 適当でもなにかと美味しくしてくれるのが調味料である。これぞ人類の叡智。スープの味が一気に濃くなった。調味料って凄い。

 

「支部も、充実してきましたね」

 

「おう、生活方面にな」

 

 机は食事をする時にしか使ってないし、物が増えてきたから雑多な感じが出てきた。生活感が出てきたと言えばいいのか。申し訳程度に壁に設置されたリクエストボードに依頼書が貼られた事は無い。ボードの上に書いてある文字は、メイビスの手書きである。自信作です!と胸を張っていた。

 

「いずれ大量の依頼書で埋まりますよ!」

 

「……その依頼消化するの俺以外いるの?」

 

「…………支部長命令です。その時は全部片付けてください」

 

「めんどくせえ!」

 

「そんな事言わないでくださいよ!?」

 

「うおっ、飛び掛かってくるな!鬱陶しい」

 

 未来の事を話せるなら大丈夫だろう。日を跨ぐ度に、メイビスの心は回復し、消耗している。メイビスがそこにいる限り死はばら撒かれる。無差別に、限りなく。

 いつまで保つのかわからないけれど、俺はいつまでも付き合おう。ああ、そんなの抜きにしても、メイビスといるのはとても楽しい。こんな事を考えるのはメイビスに失礼かもしれないけれど、とても、心が満たされるんだ。



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別れ

ここまでがプロローグです。


「ヴァーミリオンを名乗る?」

 

「はい、私たちは……その、そういう仲ですし、ラクナはファーストネームがないですし、だからですね、ええと……」

 

「ああ、それいいな」

 

「本当ですか!」

 

「ああ、ラクナ・ヴァーミリオン。いいじゃん、完璧だ」

 

「えへへ」

 

 出会ってから、どのくらい経っただろうか。冬は何回か超えた気がする。それくらいの時間が経てば、俺たちの関係にも変化が出てきた。簡単に言えば恋仲になったのだ。

 

「……なあ、メイヴィ」

 

「なんですか?」

 

「今、幸せか?」

 

「ええ、とても」

 

 にこりと笑うメイビスの表情は、どこか辛そうだった。

 

 年月が経つ毎に楽しい事も増えていくが、積み重なる死は無くなることはない。頻度は少ないとはいえ、着実に積み重なっていく死はメイビスを蝕んでいる。ああ、これは良くない。

 

「メイヴィ、散歩に行かないか」

 

「いやです。外には、出たくありません」

 

 最近は、外に出ようとすらしなくなった。死を極端に恐れるようになったメイビスは、家に閉じこもるようになった。動物が、人が死ぬところを見たくないメイビスが、心を保つ為の自衛だろう。

 多分、ギリギリのところで踏みとどまっているはず。これ以上死を見たら壊れるのではないか。そんな気がする。確証はないけど。

 

「そうだな、それじゃあ少し横になろうか」

 

「いいですね! 来てください!」

 

 横になる。なんやかんやの収入もあって、今は寝具などは揃っている。それでもメイビスは、俺の腕枕が好きなようだ。

 

「……落ち着くんです。ラクナの側にいると、とても」

 

「そうか」

 

「私の撒き散らす理不尽な死が効かない。無条件に私を愛してくれるラクナといると、私はとても満たされます。でも、常に私が殺してきた命が、そんな幸せは許さないと囁くんです」

 

「……そうか」

 

「これのおかげで、ラクナに出会えました。感謝しています。でも、怖い。今日まで大丈夫でも、次の瞬間にラクナが死んでしまったら? 私は耐えられません」

 

「俺は死なないよ」

 

「分かっています。だってこれまでの間何の影響も無かったんですから。でも、怖い。ラクナと触れ合っている今でさえ怖い。私は、もう誰かが私のせいで死ぬのを見たくない……」

 

「ああ」

 

「私は魔導士です。曲がりなりにもギルドのトップで、荒事だって経験してしてきました。でも、周りの大切な命が、リタが死んだ時の、命が消える音が頭から離れない。マカロフまで死んでしまっていたらと思うと……私は、どうにかなってしまいそうです」

 

「……」

 

「助けてください、ラクナ。私を、殺してください。私を、この恐怖から解放してください」

 

「……俺に、メイヴィを殺せと。メイヴィがリタを殺した咎を、俺にも味えと」

 

「ちがっ、私はそんなつもりじゃ──」

 

「分かってる。ちょっと意地悪を言ったな。メイヴィに会った時からずっと考えていた。殺してと言われたら、そうしようって」

 

 その時が来ただけだ。メイビスも限界で、俺にはメイビスを殺すだけの力がある。予想外なのは、恋仲になった事で殺すのが躊躇われるってところだろうか。

 

「……思えばラクナは初めて会った時からずっと優しかったです。一人ぼっちだった私を、助けてくれて。どうして私に、こんな理不尽な死を招くだけの存在の私に、良くしてくれたのですか?」

 

 なんでって、そりゃあ──

 

「──よくわからない場所に来ちまって、出会った女の子が泣いていたんだ。そりゃあ助けるしかないだろう」

 

「こんな、枯れた世界でですか?」

 

「この程度。メイヴィが撒き散らす程度の呪いじゃ、俺は死なないから。特に予定も無い身の上だ。少しばかり捧げてやるのも悪く無いってな」

 

「だからって──優しすぎます」

 

 大した事じゃない、とは思うのだが。それでメイビスが救われたのならいいだろう。

 

「明日。明日……お別れだ」

 

「はい。大好きです。ラクナ」

 

 寂しいが、仕方ない。また、会えるさ。

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあいいか」

 

「はい」

 

「じゃあな、メイヴィ。また会おう」

 

「待ってください。最後に一つだけ」

 

 目一杯背伸びしたメイビスにキスされて、離れる。

 

「ッ……! おいおい、メイヴィ。泣いてるぞ」

 

「ラクナこそ……号泣じゃないですか」

 

 ああ、悲しいよ。でもやるしかない。それが、メイビスの望んだ事だから。

 

 メイビスに手をかざす。

 魔法の行使は一瞬だ。痛みもなければ、傷もつかない。ただ命だけを刈り取る。

 

「さようなら、ラクナ」

 

「また会おう、メイヴィ」

 

 ふっ、とメイビスの身体の力が抜ける。

 

「……死後の身体は妖精の尻尾(フェアリーテイル)に、か」

 

 今のメイビスは死を撒き散らしてはいない。うん、これなら大丈夫だろう。

 支部長を、本部にお届けしようか。

 

 

 

 

 

 

 

「メイビス・ヴァーミリオンを預けに来た」

 

 扉を開けると、ギルドは閑散としていた。一人しかいないじゃないか。これなら支部の方が人多いぞ。

 

「……どういう、事だ」

 

「何かを話すつもりはない。妖精の尻尾(フェアリーテイル)支部、支部長メイビス・ヴァーミリオンの最後の命令により、シャクだが受け渡そう」

 

「初代を、こちらに」

 

「ああ、優しくな」

 

「死んで……」

 

「話すつもりはない。メイビス・ヴァーミリオンをどうするのかは任せる」

 

 背を向けて、歩きだす。しばらく一人になりたい気分だ。

 とりあえず、支部に帰って眠ろう。

 少し、疲れた。




原作に沿って作ろうとしている都合上、どうしてもここで一旦退場してもらいます。
ヒロインが全く出てこないのはどうかと思うので、ちょくちょく出しつつ書いていきたいなと。

メイビスヒロインの少ないから、増えてくれると嬉しい。


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別れから始まる物語
晴れて本部の一員に


気付けば一年以上経過してるの、本当に時の流れが早いなと思う日々です。




〜天狼島にて〜

 

「見守るぅ?」

 

『はい。ラクナは強いですから、何でもかんでも助けてはメンバーの成長を阻害しかねません』

 

「いや、日々の仕事で成長だってするだろうに」

 

『特大の困難に打ち勝ってこそ得られる成長があるんですよ?』

 

はーやれやれと頭を振るメイビスに少し腹が立つが一理ある。

 

『というわけでラクナには初代権限でS級にはなれません!』

 

腕でバツ印をつくってるメイビス……調子乗ってんな。

 

『あれ、痛い!?私霊体なんですけど!ラクナ、お願いします。どうか私の頭をがっちり掴んでいる手を離してくれませんか……?』

 

霊体だから触れないと思ったら大間違いだ、メイヴィ。

 

「S級になれないのはいいんだけど」

 

『ラクナは、私を守ってください』

 

「……言われなくとも。誰にも渡さんよ」

 

『家族も、守ってください』

 

「欲張りだな。気が向いたらな」

 

『そう言って色々助けてくれるのを知ってますよ』

 

 

「あんまり手出しするなってどういう事だよ……」

 

『ラクナが介入すると全部平坦になるのでダメです』

 

 ──強すぎるのも、考えものだな。

 

「何すりゃいいのかねえ……」

 

 

 

 

 

 

 支部長が居なくなってしまい、天狼島から出られないので、支部はあえなく解体の運びとなった。建物自体は残してある。

 

 見守ってくれとは何もしないのもモヤモヤするし、とりあえず、マカロフに話を通し所属の運びとなった。

 

「お前さん、建物は直せるんじゃろう? なら、建物の修復を請け負ってくれんか。みんな壊しよるんじゃ……」

 

「それ、いいな。ところで俺に対するその口調、突っ込んだ方がいい?」

 

「やめい! 格好つかんじゃろうが!!」

 

「それもそうだ。いくら産まれた瞬間から知っていようとギルドマスターだし、確かにそうだ。俺が間違っていたよ、マスター」

 

「……なんか恥ずかしいのう」

 

「年寄りぶってるからじゃないか」

 

「見てみぃ! この髭! 立派な年寄りじゃ!」

 

 あれから結構な年月が経って、俺は今再びここにいる。メイビスに言われてしまえば行かざるを得ないし、今の妖精の尻尾がどうなっているのか知りたくもあった。

 マカロフとはたまーに会う関係だ。普段は天狼島にいたり、支部でぼーっとしている事が多い俺だが、今回こうして正式に本部に所属する運びとなった。

 そもそも支部の存在を知っている人はマカロフぐらいしかいないし、本部という呼称は使わないに限る。

 

「人、増えたんだな……」

 

「ああ、初代が作ったギルドはここまで大きくなった」

 

「俺の知ってるギルドは2人で完結してたから、大量の人、大きなギルド、大量の依頼書、夢のような光景だ」

 

 メイビスにも見せてあげたい光景だ。『私たちの支部も負けてないですよ!』って対抗意識を燃やしそうだ。

 

「帰ったぞー!!!」

 

「あいー!」

 

「あれは?」

 

「問題児じゃ」

 

「へえ」

 

 空飛ぶ猫に、マフラーを巻いた少年がほくほく顔で帰ってきた。

 

「待ってよ〜置いてかないで、ナツ〜」

 

「あれは?」

 

「いい乳じゃろ?」

 

「否定はしない」

 

 メイビスの胸は控えめだから、あれだけ大きいのも中々珍しい。

 

「じっちゃーん、依頼終わらせてきたぜ……ん? 誰だお前」

 

「初めまして、妖精の尻尾に入ったラクナだ。よろしく」

 

「新人か! 俺はナツ、よろしくな!」

 

「オイラはハッピーだよ」

 

「アタシはルーシィ! ……入ってすぐだけど、もう先輩になっちゃった……! 分からない事があったら何でも聞いてね!」

 

「いい雰囲気じゃが、ナツゥ! また街を壊しおったな!?」

 

「暴れたらいっつも壊れてんだよ。仕方ねえじゃん」

 

「あい、仕方ないです」

 

「見よ、この大量の請求書! お前は……お前と言うヤツは……!」

 

 バシン、とカウンターに叩きつけ、マカロフは叫ぶ。

 

「次の依頼からラクナを連れて行けぃ! これはマスター命令じゃ!」

 

「何で?」

 

「壊した建物はラクナが直す。そう言う魔法をラクナは使えるんじゃ」

 

「へぇ、じゃあ壊し放題って事か!」

 

「違うわい! 常日頃から気を付けるんじゃ!!」

 

 そう言うことにされてしまった。でも、それしか出来ないと思われた方が都合が良いのか。メイビスの言った事も守れそうだし、結果的に良かったか。

 

「そう言う事なら、よろしくな!」

 

「ああ、改めてよろしく」

 

 そんな訳でナツ、ハッピー、そしてルーシィと一緒に行動することになった。

 

(なあ、メイヴィ。これから面白いことが起きそうだ)

 

 メイビスに話すネタを、たくさん仕入れなきゃな。

 

「色々あって戦闘はあまり出来ないけど、足手纏いにはならない。俺の魔法は……そうだな、修復(リペア)だ」

 

「オレは滅龍魔法を使う魔導士だ! んで、ハッピーは飛ぶ」

 

「あい、飛びます」

 

「アタシは精霊魔導士で、鍵使って精霊を召喚するんだー」

 

「ププーン」

 

「へえ、これが精霊か」

 

「ププーン」

 

「そっかそっか。よろしくな」

 

「プププーン」

 

 何言ってるかわかんねえや。

 

 

 

 

「じゃあまた明日なー!」

 

「おう、依頼行く時は声掛けてくれ」

 

「ラクナ、またね!」

 

 まだ騒がしいギルドなのに、騒がしいヤツがいなくなっただけで、静かになったように感じる。

 

「いい場所じゃろ?」

 

「ああ、支部とは大違いだ。あそこはあそこで楽しかったけどな」

 

「ラクナさん、何か飲みますか?」

 

「んー、1番強い酒を」

 

「はーい」

 

 酒場の子はミラと呼んでくれと言われた。いつもニコニコしてる。大きい。

 

(メイヴィも成長すればあれぐらい……いや、無さそう)

 

「はい、お持ちしました」

 

「ありがとう、ミラちゃん」

 

「いえいえ、私は何も見てないし聞いてもいないです。最近入ってきたはずのラクナさんが、マスターと仲良さげに会話したりとか、支部とか私は聞いてないですから」

 

「そう言うことにしてくれると助かるかな」

 

「でも、どんな秘密があってもいいですけど、妖精の尻尾に何かあったら助けてくれるんですよね?」

 

「……愚問だな。俺は、その為にここに来たんだから」

 

 メイビスとの約束もあるし、この場所は壊させない。約束しよう。




気分屋なので、続きが投稿されるかどうかは色々次第です。
今回は、久々に開いたら感想が飛んできてたので久しぶりに書きました。勢いとノリです。

1〜3話まで書いていた時期はまだフェアリーテイル全巻読んでなくてですね。最終巻?の作者コメントで好きなように物語を展開してほしいみたいなコメントを見て書き直すか悩んで結局そのまま今に至ります。

最初に死の呪いを解いて始まる物語。こっちが詰まったらもしかしたら始まるかもしれないヤツ。
ところで、メイビスヒロインの二次創作増えてますかね。
では、未来の自分が書く気になる事を祈っております。
感想などありましたら、批判は受け付けてないので悪しからず。


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エルザ帰還

ララバーイ編から。
本編を読了の上、頭を空っぽにしてお楽しみください。


 マグノリアからほど近い森の中、ここに妖精の尻尾(フェアリーテイル)支部は存在している。

 メイビスがいなくなった今、ただの家と化しているので、ギルド風ボロ家屋でしかない。建物自体は風化してしまわないように保護しているが、元がボロだし大工でもない2人の合作なので中々に不恰好だ。

 そんな所も思い出なので、しっかりと保存する。しかし、寝心地を求めてベッドだけは良いものに変えさせて貰った。

 

 

 

 所変わって妖精の尻尾ギルド内。

 今までは貼られることの無い依頼ボードを眺めるだけだったが、今は沢山の依頼から選べる立場にある。受けないけど。

 この紋章をつけて長い時間が経ったけれど、きちんと活動している時間としては新人だ。あまり働く気は無い。俺は、のんびりするのが好きなのだ。

 

「依頼は受けないんですか? 依頼を眺めては、私とお話しして帰る日々が続いてますけど」

 

「のんびりしてる方が好きなんだ。依頼がある、という事実が新鮮でつい眺めてしまってね。まだしばらく生活に困る予定はないから、暇人の与太話にでも付き合ってほしい」

 

「私でよければいくらでもお聞きしますよ」

 

 昼間っから酒は飲まない。依頼に誘われるかもしれないし、マカロフから何かあるかも……って。

 

「あれ、マカロフいないんだ」

 

「マスターなら、定例会で留守ですよ? あと、ラクナさんは新人なので、軽々しく呼び捨てにすると怪しまれます」

 

「あー……そりゃそうか。マカロフがマスター、くはは」

 

「?」

 

「いや、なんでもない。ところで、なんで敬語なの?」

 

「だって年上じゃないですか? それとも、年下に接する感じで話した方がいい?」

 

 前屈みになるのはやめた方がいいと思う。本当に、何故だかメイビスに怒られる気がするので良くないと思う。

 

「……任せる」

 

「はーい♪」

 

 ミラはニコニコとしている。俺と喋っている時も、マスターと喋っている時も、給仕をしている時も。まるで笑うことによって何かを隠そうとしている人のソレだ。従来の性格なのかも知れないが、メイビスみたく表情がコロコロ変わった方が人間味がある。

 

「あっ、エルザが帰ってきたわ」

 

「エルザ?」

 

 ザワつくギルド内、振り返ってみると、赤毛で巨大な装飾されたツノを引きずり、堂々とした足取りで1人の女騎士が入ってきた。

 

(関わらないでおこう)

 

 ああいうタイプの人間には関わらないに限る。何をされるかわからないし、今もギルド内の人達に注意して回ってるから隅の方で大人しく……

 

「エルザー! おかえりー♪ 疲れたでしょ? お水でもいかが?」

 

「そうだな、丁度喉が渇いていたところだ。ありがたくいただこう」

 

 このアマ、呼びやがった!

 移動しようと思った矢先にこの仕打ちだ。ここ数日あんなにうるさかったギルドが1人によって沈静化されている異常な状況で、それを起こした張本人をあろう事か俺の近くまで呼びやがった。

 今動けば確実に目立つ。どうにか目立たないように立ち回るしかない。

 

「む? 君は見ない顔だな、新入りか?」

 

「あ、ああ……ラクナだ。よろしく」

 

「私はエルザだ。よろしく頼む」

 

「聞いてよーエルザ。ラクナさん、ここ数日ずーっとこの席で飲んでばっかで」

 

「……なに?」

 

「依頼は受けないのかって聞いても、はぐらかされるばかりで……」

 

「ほう……」

 

「私、心配で……」

 

「……事実か?」

 

「まあ、違うと言えば嘘になるけど……」

 

 コイツ、エルザの顔がこっちを向いた瞬間舌を出しやがった……!

 確信犯じゃないか。俺は何も悪い事してないのに!

 

「そうか。……ふむ。丁度いい、ラクナと言ったか。貴様も来い」

 

「ちなみに拒否する事は?」

 

「させると思うか?」

 

「ですよねー」

 

 だってもう首根っこ掴まれて逃す気ないし。何ですかこの人我が強すぎませんかね。

 

「ナツ、グレイ。出発は明日だ。準備をしておけ。詳細は移動中に話す」

 

 ずるずると引き摺られ、ギルドを後にする。俺を売った張本人であるミラと俺に何かと『先輩』である事を強調してくるルーシィが楽しそうに話しをしているのが少しシャクに触った。

 

(というか明日まで俺どうすればいいんだ……?)

 

 

 

 

 

「えっと、ここは……?」

 

「私の家だ」

 

「は……?」

 

 引き摺られてきた先は家の中。初対面の男を家にあげるか普通?

 よし、こうしちゃいられない。

 

「明日はばっくれないから、今日は帰らせてもらうな。じゃ、そう言う事で──ぐえっ」

 

 いきなり首根っこを掴むとぐえってなるから危ないって教わらなかったのか!

 

「宿だと思えばいい。別に、そう悪いやつにも見えんし、ギルドの一員という事は家族だろう? 遠慮する事はないさ」

 

「……まあ、そこら辺で寝るよ」

 

「一緒に寝なくていいのか?」

 

「寝るかっ!」

 

「……ふふ、冗談だ」

 

「……めんどくせえ」

 

 椅子に座ったエルザは、テーブルを挟んで向かいの椅子を指さす。座れという事らしい。

 

「……何か?」

 

「せっかく同じギルドの一員になった事だし、親睦でも深めないかと思ってな。何かの巡り合わせでこうして家に招いたわけだしな」

 

 巡り合わせも何も物凄く強引な何かが働いた所為だと思うのだが、これを口にすると良くないという事はしっかり学んである。

 

「……ちなみにだが、明日はついて行くとはいえ戦力としては数えないでくれよ。俺の魔法は戦闘向きじゃない」

 

「どういう魔法か聞いてもいいか?」

 

「構わないよ。 ……そうだな、例えばこのスプーンを、こうバキッと折るだろ?」

 

 二つに折れたスプーンをくっ付ける。

 

修復(リペア)

 

 片手を離して、プラプラと揺すって完全にくっついている事を見せる。

 

「物を修復するだけの魔法だ。あまり期待はしないでくれ」

 

 期待されても見守れと言われているからあまり手助けは出来ないんだけど。厄介な事を言われたと我ながら思うが、メイビスの言う事はなるべく守っていきたい。今も天狼島で今のメンバーの話をずっと待っているのだろうから。

 

「見せてもらって、私の魔法を見せないのは失礼だな。換装!」

 

「……へえ、凄いな」

 

「多種多様の鎧を着替えて戦うのが私の戦闘スタイルだ」 

 

「そうか。強いんだな」

 

「何を。ラクナは私より強いだろう?」

 

「……はっ、何を」

 

 殺気。

 

「ほら、容易く止めるじゃないか」

 

 コイツ、本気で首狙って来やがった……!

 さて、どう言い訳しよう。

 

「あー、たまたまだな」

 

「そうは見えなかったが」

 

「俺は普段ロクに働かない妖精の尻尾(フェアリーテイル)の新入りだよ。それ以上でも以下でもない。そう身構えないでくれ。取って食いやしないさ」

 

 先に仕掛けて来たのはそっちなのに、何故か見事に警戒されているという事実。どうしてこうなったと言わざるを得ない。エルザが実力差をしっかり見極められるだけの目を持っていたという事に他ならないのだが。

 

「……とある人に妖精の尻尾の子供達の成長を見守ってほしいと言われた。たしかに俺は強いが、何でもかんでも守っては君たちが成長しない。だからあまり手を出さないようにしろと言われた。君たちの物語を楽しみにしている人がいる、それを妨害しない為に、俺は修復使いの妖精の尻尾所属、ラクナでいる」

 

「……そうだったのか」

 

「意図を汲んでくれると助かる。まあ、どうしようもならないピンチとかなら喜んで手助けするだろうけど、ギリギリまで手助けしたくないというのが本音だ。成長してほしいからな」

 

「わかった。そのように取り計らおう」

 

「それは良かった。最悪記憶をいじらないといけなくなるかと」

 

「そんなことも出来るのかっ?」

 

「……ん? これ失言か? ……とにかく俺が言いたい事はただ一つ。俺が強いという事は黙っててくれ、それだけだ」

 

「ちなみにだが、私と本気で戦ったら、私はラクナ相手にどのくらい保つ?」

 

「換装する前に首を刎ねておしまいだな」

 

「はは、そうか。私もまだまだだな」

 

「そうだな、まだまだ強くなってくれ。俺は強くなってくれると嬉しい」

 

 登ってこい、高みへ──なんて、言うつもりはないが、成長が俺とメイビスの何よりの願いだ。

 誰よりも強くあってほしい。妖精の尻尾の軍師様は、強いコマをお望みだ。     

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、ちゃんと夜は床で寝た。




よし、明日投稿しようと思って書いていても気持ちが乗らず、気づけば2日3日過ぎているのはザラです。
描くの久しぶりなので、本編を読み返しながら、とはいえあまり本編に囚われないように書いていきたい所存。

メイビスヒロインの小説、増えないかなぁ……


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バレンタイン的な間話

アイゼンヴァルト編どうやって書こうかなと考えていたらメイビス不足に陥ったので早くも間話です。

世間はバレンタイン(遅い


「バレンタインデー?」

 

「ああ、気になる異性にチョコを贈る日が別の世界にあってな」

 

「ふーん……あっ、ラクナは私からチョコが欲しいんですね?」

 

「でもなーメイヴィは料理が出来ないからな」

 

「で、出来ますよ! この暮らしで少しは作れるようになったんですから!」

 

 バレンタインデー、或いは本命のあの人に想いを伝える日。それは、既に親密な仲にある人達にも無関係ではなく、愛情表現としてチョコを贈る女性も多い。

 

 俺が欲しいかどうかは全く関係ないが、メイビスはやる気になってくれたようである。この調子でチョコ作りも成功させて欲しいところ。

 

「ラクナ……あの、買い出しをお願い出来ませんか?」

 

「任せろ。いくら失敗してもいいようにたくさん買ってくるな!」

 

「一言余計です!」

 

 スタコラ。

 

 

 

 まさかメイビスに買い出しに行かせるわけにはいかないので俺が僭越ながら買い出し係を務める事になった。

 頼まれた材料で何を作りたいのかぼんやりとわかってしまうが、ここは見て見ぬふりをするのが男というもの。悪ふざけにもラインがある事を弁えなければならない。親しき仲にも礼儀ありとはよく言ったものだ。

 

「これと、これと……あと、これをお願い」

 

「あいよー! なんだい兄ちゃんが作んのか?」

 

「いや、俺は買い出し係だ。ちょっと外に出られない身体でな、苦渋の決断というわけだ」

 

「そうかい、そいつは悪い事を聞いた! 詫びと言っちゃあなんだが、コイツを値引いてやろう」

 

「ん……? めちゃくちゃ高いけど、こんなとこじゃ売れないから程よく売ろうとしてるだけだろ?」

 

「まあまあ、そんなこと言わずに! どうだい、兄ちゃん!」

 

「……んー、もらおう」

 

「あいよ! 彼女さんは幸せモンだねぇ!」

 

「ははっ、その通りである事を願うよ」

 

 呪いに蝕まれているメイビスが、心から幸せを感じる事があれば、どんなに嬉しい事か。

 

 

 

 

 

「あっ、おかえりなさい。ラクナ」

 

「頼まれた物だ。 ……んで、その指は?」

 

「早速作るので出ていってくださいという意思表示です」

 

「早いね。怪我だけはしないように気をつけてな」

 

「ラクナは私を子供か何かと勘違いしているのですか……?」

 

「まさか。じゃ、俺は外で待ってるよ!」

 

「あっ、逃げ……て、いいんでした。そういえば」

 

 

 

 

 

 

「ラクナ! 出来ました!」

 

 バン! と勢いよく扉を開けて、メイビスが出てくる。途中「あーーー!!」とか「何故ーー!?」とか聴こえてきたけど、無事完成したのだろうか。

 作り始めてからかなりの時間が経っているので、試行錯誤の末の代物であろう事は明白……?

 

「これは?」

 

「生チョコです!」

 

 そう言われて出されたチョコは何やら不恰好で、最早生チョコのテイを成していないように感じる。

 

「生チョコか」

 

「そう……です。わかってます、不恰好で美味しくなさそうだなって思ったんですよね。私もそう思いました。でも、せっかく一生懸命作ったのだからラクナに食べてほしくて……」

 

「待て待て、食べないなんて言ってない。じゃあいただくとするかな」

 

 ひょいぱく。

 甘くなくて、固くて、なんか舌触りがざらざらしているチョコを噛み砕き、飲み込む。

 

「……うん、美味しい」

 

「本当ですか? 無理しなくていいんですよ?」

 

「無理なんてしてないさ。もう一つもらおうかな」

 

「あっ……たくさん、食べてくださいね」

 

「ああ」

 

 俺以外のヤツが食べたところで、このチョコなんて美味しくないと言うだろう。でも、料理があまり得意ではないメイビスが、何度も試行錯誤して、ようやく完成させた俺の為のチョコが不味いわけがない。

 

「ありがとう、メイヴィ。美味しかった」

 

「……えへへ」

 

 頭を撫でれば、嬉しそうにはにかむ。

 まだ、チョコをくれたお返しをしてなかったな。

 

「じゃあ、俺からも。チョコじゃないけど」

 

 するっと先程の店のおっちゃんから買ったネックレスを掛けてあげる。

 

「メイヴィの髪の色に合うと思ってな」

 

「わあ……!」

 

 白の宝石が象られたネックレスが場違いな値段で売っていた。

 

「ありがとうございます! 大切にしますね!」

 

「うん、そうしてくれると嬉しい」

 

 一頻り宝石を笑顔で眺めたあと、俺に向き直って、メイビスはこう言った。

 

 

 

「ラクナ、私……幸せです!」

 

 

 

 

「……大げさだよ」

 

「そんな事ないです! ……呪いの事なんて無かったんじゃないかって思えるくらい。今日くらいは、忘れられる気がします」

 

「それは良かった」

 

 その笑顔が見れただけで、俺は満足だよ。メイビス。

 

 




天狼島編まで遠くない?


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