蛇妖怪古代を生きる (輝里奈)
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爬虫類系少女
人が出るか、蛇が出るか


一応プロローグです。




 ……目の前は真っ暗闇だ。いつの間に寝ていたのだろう。休日とはいえ、明日は平日だ。さっさと起きなければ、そろそろ面倒になる時間だろう。

 

 

 起きようとした。けれども動けない。理由は分からない。まるで金縛りにあったかのように、かといって痺れている、という様な状態でもない。まるで最初からなかったと云うように、そこに在るという感覚すら無い。

 確かに在ると分かる目や口ですら、脳の命令を拒んで、頑なに動こうとしない。まだ開く時では無い、という様に。

 

 

 

 

 おかしな状況になってから数日。私は未だに、一寸たりとも動けていない。意識だけある、植物人間にでもなったかのような。しかし、私にそんな記憶は無い。確かに、自分の部屋で寝たという記憶が存在している。

 だが、相変わらず私の瞼も、唇も、喉も何もかも動いていないのだから、何らかの異常が、私の体に今起きているのだろう。確証は持てない。この状況が夢である可能性も否定はできない。

 

 

 ……しかし、『その時』とは、唐突に来るもので、私の動かなかった身体は、心臓の強い鼓動と共に、少しの自由を取り戻した。

 

 

 ゆっくりと瞼を開いてゆく。三分の二程度開いた所でようやく目が光に慣れ、景色が映り込んでくる。

 

 映った景色は白っぽい無機質な壁ではなく、とても高く見える細い緑色の何か。緑色の棒の様なものは辺り一面に広がっている。

 少し上のほうには木が見えた。青々と葉を茂らせ、天高く聳える数多もの木が、日本中を探しても中々見つからないような大木がずらりと。

 

 ……私は、自分の知らぬ間に、一体なぜこんな大自然のど真ん中にいるのだろうか。少なくとも私の家の周り、それどころか日本にだってこんな場所は無いはずなのだが。どうして大自然の風景なんかが見えるのか。夢か、流行りのブイアールとやらか。それにしては妙に現実味がある。土のしっかりとした固い感触はするし、心地よいそよ風の流れも感じ取れる。

 

 しかし、異常はそれだけでは無い。先程まで味わっていた、身体への違和感。動けるようになってから、その違和感はさらに膨れ上がっていた。

 視界。人間の見ているソレとは違い、前だけでなく、横。もしくは後ろ。首を動かしていないにも関わらず、私の視野はとても広かった。

 

 そして、手と足。そんなものは無かった。感覚の問題ではなく、本当に無いのだ。だから、私は這うようにして動かなければならない。

 

 そうして動こうと思った時、またもや不思議な感覚。私の胴は、異常に長くなっていた。頭身にすれば三十頭身か。まず人間ではありえない比率。

 更に、這うように動こうとすると、芋虫の様な動きではなく、蛇の様に、くねくねと左右に胴を揺らして動く。意識している訳では無く、これが当然だと言うように。曲がろうと思えば曲がれるし、止まろうと思えば止まれる。

 

 しかし、ここまでくると最早自分は人間ではないと、私のちっぽけな脳みそでも理解はできる。が、受け入れられない。当然だ。自分がいきなり別の生物になって、それをすんなりと受け入れられる者はいない。鏡か水面で自分の姿を見れば、受け入れられるだろうが。

 

 ここは、何処からどう見ても大自然のど真ん中であるから、自分の姿を確認するなら、水面を探したほうが早そうだ。そう思うと、体が勝手に向きを変えた。奇妙な感覚が頭に流れ込んでくる。向かっている方向は他の方向よりも冷たいような。そんな感じがする。

 なぜそう思うのかはよく分からなかったが、取り敢えずはその感覚に任せて進むことにした。

 

 

 

 進む速さがあまり早くないからか、かなり長い間進んでいた様な気がする。移動中に気が付いたことだが、どうやら今の自分は温度を感じ取れるようだ。

 陽の当たる地面と、日陰となっている冷たい地面。その二つを遠くの場所から見分ける事が出来た。それが何度もあったし、まさか偶然ではないだろう。

 

 そういえば、蛇は生き物の体温を感じる取る事が出来ると、図鑑か何かで読んだ気がする。四肢の感覚がない、そして温度を感じ取ることが出来るという二つの特徴。いかにも蛇の特徴である。しかし、蛇は赤外線を感じ取る動物であるから、気温の違いまでは区別出来ないはず。その一点が腑に落ちない。

 

 しかし、なぜだろうか。 唐突に自分が蛇になるという事はあり得ない。蛇になる、という事自体。漫画やアニメの世界だって、そんな唐突な事は恐らく起きない。現実的に考えても、人間が完全に他の生物になる、だなんてことはあり得ない。

 

 しかし、この世には輪廻転生、という概念が存在する。科学的に考えればそんな事があるとは言えないけど、まず今自分に起こっていること全てが不可解な時点で、輪廻転生や地獄、天国も何一つ否定できない。

 

 転生。生まれ変わる、という事。人が生まれ変わり、虫なんかになるという事もあるらしい。それが今、自分に起こったのではないか。だが、自分が死んだという覚えはないし、転生したら前世の記憶はなくなる物ではないのだろうか。全く、訳が分からない。理解できない。この夢の様な何かからいつも通りの生活に戻りたい。

 

──そんなことを考えている間に目的地に着いたようだ。目の前には静かに流れる川がある。

 恐る恐る水面を覗き込むと、そこには…………

 

 やはりというべきか、蛇の顔が映っていた。顎のあたりから腹の方までずっと白っぽい肌が、鼻の辺りからずっと青緑の鱗が続いていた。目は琥珀のような色に黒い縦線のような黒目が走っていた。正真正銘、蛇である。

 

 近くで魚が跳ね、水しぶきが顔に当たった。それは冷たく、私にとって、実に残酷な水であった。これは夢ではないと教える水。最早自分は人ではないと分からせられる。

 薄々感じていた事を最悪なタイミングで伝えるその水は、悪魔のようにも思えた。

 

 

 

 

 

 

────こうして、人ならざる者となった人間の第二の人生、もとい蛇生が幕を開けたのだった。



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蛇は寸にして妖を呑む

蛇は寸にして人を呑む──すぐれた人物は、幼い頃から他人とは違う所がある、というたとえ。

追記:過去に行くための~の部分とそのくだりを若干変更しました。
ご指摘、有難うございました。

追記2:この話、深夜テンションで書いたので見直ししてなかったんですよね。誤字脱字や分かりづらい所がいっぱい。
直しておきましたが、他にもあったら言ってくださると助かります。


 

 唐突に蛇となってから何週間経ったのだろうか。困惑しつつも蛇としてのの生活に慣れてきてしまっていた。今は小動物を絞め殺して食べることさえも慣れてしまい、自分の心までもが人で無くなるような気がしている。

 ……人にはない、温度を感じ取ることのできる機能。既に自在に扱えるようになっていた。蛇の感じ取れるモノは、本来赤外線のみであり、動物の体温以外を見分けるなんて事は恐らく出来ないのだが、自分は違っていた。多少のブレはあれど、植物と地面のほんの少しの温度の差異を感じ取る事が出来ていた。人が蛇になった所からおかしいのだし、その程度は別に気にならない。

 

 ……だが、一つ気になることがある。森を歩いていると度々人の死体を見かける。その死体が着ている服装が全く見たことのない服だった。

 

 白を基調として上半身から下半身まで繋がっている毛皮に、帯のような物を巻いた服。例えるなら縄文人か弥生人の服のよう。それを幾つもの死体が着ていたのだ。信じられないが、ここは過去の日本なのだろう。蛇になったかと思えば、今度はタイムスリップである。何が何だか全く分からない。

 

 ……考えていても仕方がない。今は蛇として生きる。これだけだ。

 

 

 朝日が昇ってきた。一日が始まる。今日も、蛇として生きるのだ。

 

 

 

 住みかとしていた薄暗い洞窟から出て、獲物を探しに行く。蛙や鳥の卵などが主な獲物だ。稀に小動物……兎なんかを仕留められる。自分の体はそこそこ長いので、その程度なら全身に巻き付いて絞め殺す事が出来る。

 

 いつも通り? の筈だったのだが…。

 

 

 森を進み、獲物を探していると、そこには見慣れないモノがあった。赤い血のようなものが辺り一面に散り、中央には人の様な人外の様な、得体の知れない生き物が居た。

 

 顔面はほとんど潰れていて、頭の形すらほとんどわからなかった。服もつけておらず、全体的に火傷のような傷が複数あり、性別すら分からない有様だった。人間だと間違いなく即死する傷を負っていたにも関わらず、それはまだ動いていた。

 

 ……こちらに気づいたようだった。顔にはすでに口しか残っていないのに。一本しかない腕の、一本しかない指、それも第一関節までしか残っていない指をこちらに指して。

 何かを言いたそうに、口をパクパクとしていたが、やがて口を動かす気力も無くなったのか、そのナニカはピタリと止まって、それから動く事は無かった。

 

 こんな、人の様で、違う様な、得体のしれないナニカ、しかし、蛋白源として非常に優秀であろう、ナニカ。食べる気は全く起きない。当たり前だ。食べろと言われて食べるような人間はいないだろう。

 

 ……まぁ、人ではないのだが。

 

 今日は獲物を探しに来た。何の為? 食べる為。ならば好都合ではないか。こんな貴重な蛋白源はこれから確実に見つかる事はないし、見つけたとしても仕留めることは出来ない。

 

 食べるか、食べないか。葛藤。人としての常識を選ぶか、生物としての常識を選ぶか。

 

 

 ……おなかが、すいた。

 その感情は、死体の元へと進ませる事には十分すぎた。生物としての本能。人間の忘れた、生物としての常識。

 

 しゃく、しゃく、しゃく。

 始めは余り食が進まなかった。その内、肉が高級ステーキの様に見えてきて、食べる度に、匂いを嗅ぐ度に、食欲は増していく。

 

 

 

 

 どれだけの時間、私は肉を食べ続けたのだろうか。腹が一杯になるまで食べては、数日をかけて消化する。消化しきったら、食べる。それを何度も何度も、何度も繰り返していく内に、肉はおろか、骨すらキレイサッパリと食べ尽くしていた。

 

 無我夢中だった。他のことには一切気を配らず、食べ続けていた。

余りにも悍ましいその食事を思い出すたびに吐きそうになるが、既にすべて消化しきっている。

 

 不思議なことに、あれを食べていく内に、体は太く、長く、あり得ない速さで成長していた。

長さは十五mはあるだろうか。太さは赤ん坊の頭ほどある。

 

──よく分かっていない「力」が体中に漲っているような、そんな感覚があった。

 人間であった頃の記憶や感情がどんどんと薄れていく。だが、人間としての心は無くならないと、不思議と思う事ができ、あまり動揺はしなかった。

 

 ……ここまでになると、最早大蛇ですらなく、妖のようだな、そんなことを思った。妖怪。そうか、あれはきっと、妖怪と呼ばれるものだろう。妖怪を食べた生き物は、妖怪になるのだと聞いたことがある。

 

 人間から蛇になったと思ったら。今度は妖怪になってしまったのだろうか。意味の分からない、分かりたくないようなことが起きたようだった。必然であったのか、偶然だったのか。訳の分からない出来事が次々と私を襲う。

 

 

 人間として生きた最後の日。あの日、何が起きたのか。今となっては知る由はない。しかし、無性に気になる。何故こんなことが起きたのか。何故蛇になった? なぜ過去へ? 過去に飛ばさ

れ、人間ですらないとは。転生したのならば、何故? 事故に遭った記憶はないし、寿命のはずもない。まだ若かったはず。

 妖怪は長寿である。寿命は計り知れない。その寿命を使って、自分がいた時代まで生き残り、何が起きたのかを見る事はできるかもしれない。

 生き残ろう。辛い事がや苦しい事が起きたとしても。耐え抜き、真相を知る。

私は知的好奇心が強い。こんな謎な現象、気にせずに生きる事は難しい。この世界で生き残り、何があったのか、それを知る為に生きよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖怪を食べた日から数年。妖怪となってからも同じ生活をつづけた。

変わったこと、といえば。

 

 一つ、食べれる獲物が増えたこと。

大型の哺乳類や鳥類を仕留めらるようになったことだ。

 

 大型の哺乳類。それは狼だとか、人間も入る。

皮が分厚く、堅くなったため、牙や銅矛程度ならば傷はつかない。

 

 ……二つ目は、人を食べるようになったこと。

 元々、自分は人間だった。あれを食べた日からは、自分が人間であった事を気にしなくなっていった。

 

 今までに何人食べたのだろうか。森の入り口辺りの洞窟に住みかを移してからは、頻繁に人間を食べるようになった。

 

 三つ目。

 妖怪となったときに、温度を感じ取るだけでなく、自分と接している物の温度を変える事が出来るようになったようなのだ。

変えられるといっても、水が沸騰する程度か水が凍る程度。ひんやりしたり、暖かかったったり、その程度である。

 

 しかし、中々便利で、獲物を熱くして殺し、凍らせて保存する、といったことができる。

 

 四つ目。

 何人もの人をたべたから、妖怪としての力があるからか、今一解っていないのだが、短時間であれば人の姿に変身することができる。

性別はなぜだか選べず、女にしかなれなかった。

髪の毛は金髪で、目は蛇の時と同じ色、服は……着ていなかった。

 水面を通して見たその時の姿はつい最近何処かで見たような、見ていない様な。私の記憶を刺激する見た目だった。

 

 女を多く食べていたのだろう。確かに、最近は女ばかりが森に入り込む。

様子を伺っていても、食べられる事を覚悟したかのように動かなかったので、近くの人間の集落が人間を食べる怪物...私を恐れて贄として女をここに連れて来ているのだろう。

 

 まぁ、楽して食べれる、程度にしか思っていない。

しかし何故金髪なのだろうか?記憶に残る私は日本人なのだが。

 

 誰にも聞こえる事のない脳内での回想を終えた私は、何故女ばかりが来るのか気になっていた。

 その理由を探すべく、擬態して集落に潜入する。といっても、陰で話を聴く程度なので、潜入は言いすぎか。

 

 

 現在地、集落付近の大木の陰。ここから話を聴くのにちょうどよさそうな場所を探す。

集落には壁や物見櫓等は無く、農作業もしていない様子だった。

どうやら時代で表すと縄文時代辺りのようだ。まだ争いの無い、平和な時代。

狩猟、採集。土器を用いた調理。自然と共に生きつつも、人間としての文明の基礎を作っていった時代。

 

 ……お、丁度いい木がある。集落にかなり近いどころか集落に食い込んでいる巨大な木がある。

あそこなら人の話も聞こえそうだ。近くに人が何人もいる事も好都合。

 

 蛇のままこっそりと移動し、木に着いたと同時に変身。

怪しまれないように、髪の毛は黒に変化させ、服も事前に用意した。

目は変化させられなかった。力不足なのか。

そんな事を思っている間に、話が始まったようだ。

 

「……森の怪物への生贄は次は誰にするんだ?」

「……私の妻だよ……」

 

 なんと。妻ですか。

大して気にならないけど。これで、私は本当に怪物と思われている、という事が分かった。いい気分はしないが、悪い気分もしない。

 

 ま、どうでもいい。

 

 おっと、まだ話しているみたいだ。

 

「……なんで女ばっか生贄に……」

「……そりゃお前、怪物だろうが何だろうが女のほうが嬉しいだろ。そういうことじゃないか?」

 

 適当だなぁ……そんな理由で生贄選ぶの?

 ──興味無くした。帰ろう。

 

 ……蛇になって森へと帰る。聞きたいことは聞けたし、用は無い。

 

────少しだけ、人間であった頃を思い出し、切ないような、さっきの奴らが妬ましいような。よく解らない感情が渦巻いていた。




下書きをメモ帳で書いてからコピペして投稿してるので、ルビ付けてほしいところあったら言ってくださいね。
接続詞の添削すんごい疲れました……怠ったのは自分ですが。というか、分かりやすい伏線しか仕込めない過去の私をバットで屠ってやりたいです。


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土器中の蛇影

杯中の蛇影──疑えば、なんでもないことまで気になり、神経を使って苦しむ、というたとえ。


 蛇になってから20年程度経っただろうか。何十人もの人を食べたお陰か、今じゃ体もかなり大きく成長し、体長は二十mほどになった。

 今は人間の集落もかなり大きくなり、人口は三十人程度だったのが百人ほどにまで増えていた。

 

 生贄は今も変わらず送られている。お陰で今はほとんど狩りをせずとも生きていけるようになった。 

 

 ……森での生活にはそろそろ飽きていた。明日辺りにでも森を出て旅をしてみる予定だ。

 幸いにも、一週間程度であれば人の形を維持できるので、旅には困らなそう。

人間の状態で出来ることを探してみたのだが、どうやら本気で殴れば太さ三十cm程度の木に風穴が空く程のようで、ジャンプは身長の三倍程度、後先考えずに全力で走れば大体百mを六秒弱と超人のような身体能力だった。人じゃないけど。

 

 人になれるようになってからは服飾なんかを練習していた。お陰で着物モドキを作れるようになった。人間の時に手芸部に六年も入っていたお陰かも知れない。

 可愛らしいピンク色の服である。花の咲く直前の桜の皮をあれこれして取り出す、実に綺麗なピンクである。

 

 旅に行く準備を始める。取り敢えずは昨日来た人間を細かく切って凍らしたもの。断面がグロテスクである。気にはならない。草の繊維を編んで作った肩掛けカバンに入れておく。

 ……それだけである。

 

──10年以上もお世話になった小さな洞窟に一礼をする。

いつか帰ってきたときのために、奥の壁に深い傷跡を付ける。何千年経とうが消えない傷跡。

 

 さぁ、準備は整った。明日の朝日が昇ると同時に、この森からもオサラバである。人間の集落とも、最初に目覚めた方向とも違う、全く見たことのない場所へ、新天地へと。実に、実に楽しみである。

 

 

 

 

 

 

 朝日が昇ってきた。

その朝日は、一日の始まり、そして旅の始まりを告げた。

人間の姿に擬態、目的地、どこか。

いざ行かん。

 

 

 

 

 森を抜けた先に在ったのは終わりの見えない草原だった。前を見ても、左右を見ても草以外何もない。

何もないイコールつまらない。走ろう。マラソンをする位のペースで走る。その速度は自転車を軽く超えていた。

 妖怪の力ってすげー。とか思いつつ、草原を駆け抜ける。

 

 しばらく走っていると、小さめの山が見えてきた。

一旦止まり眺めてみる。人が生活している気配は無さそうだった。とりあえず登ってみよう。果物かなんかがあったりして。蛇が食べていいのかは兎も角として。

 

 山の麓から少し進んだ所に、見慣れない生き物を見つけた。

狼のような、狼にしては大きすぎるような、独特なオーラを放っている生物。

 これは勘だが、あの狼は妖怪だろう。幸い此方に気づいてないので、さっさと逃げる。不要な戦いは避ける。わざわざ喧嘩を売る必要はないだろう。

 それに、戦って勝てるかも分からないようなら尚更である。逃げない理由は思いつかない。

 

 山の中腹位まで登った。

そこには山葡萄があった。山葡萄といえばワインだろうか。確か、実を潰し、砂糖を入れて発酵させる。発酵してきたら一日一回ほど撹拌してやれば2、3週間で作れるのだったか。

 

 何故そんなことを覚えているのかは置いといて、酒を飲めるのは良い。実を貰っていこう。砂糖はないが、はちみつなんかを少し入れれば事足りるだろう。

幸いにも近くにハチの巣があるので貰っていくことにする。

 

 

 

 ……迂闊だった。ハチの巣を取ろうとして刺されない訳がない。

体中ボコボコだ。普通なら死ぬが、まるでギャグマンガの如く、痒い程度で済んでいる。いやぁおそろしい。

 

 山頂に着いた。山頂には目立ったものは無かったが、玉虫を十匹ほど見つけた。

現代だとあまり見られない虫が何匹も目の前を通り過ぎていく。……お、十一匹目。

 

 

 下山。葡萄にハチミツ。これでワインが作れる。まぁ、入れ物が無いのだが。

どうやら、山に登っている間に夕方になっていたようだ。

街明かりが一切ない為、夜になると一気に暗くなるが、赤外線は普通に見えるし、妖怪の目は暗闇でも良く見える。

 

 まぁ、見えるのは恐らく妖怪だけだろう。人間の目にこの暗闇の先を見通すことは出来ない。

 そう考えているうちに日が沈み、夜の世界が始まった。

 この時間になると妖怪は活発になるらしく、森でも何匹か見かけた。

といっても、全部狼型とか、形容しがたい形だったりと、あの時のような人型の妖怪は見かけなかった。

 

 恐らく人型である方が強いのだろう。現に弱い妖怪なんかは人間に倒されることもあった。

さすがに今の自分は人間程度に負けはしないが。まぁ、気を付けることに越したことはない。

 

 

 暗くなってきたし、寝床を探そう。元が人間なので、夜に寝て、朝に起きる生活を続けている。

 木の上が良いかな。蛇になれば木登り程度ちょちょいのちょいである。

蛇に戻り、三十mほどの木の上まで登る。ちょうどいい太さの枝を見つけたら、そこに巻き付く。

こんな眠り方は蛇以外にはほとんどできないだろう。大百足とかぐらいじゃないと長さが足りない。

 

 明日は起きたらすぐに出発するので、もう寝よう。

自分の体温を少しさげれば簡単に眠りにつく事ができ──

 

 

 

 

 起床。まだ陽は登っていないが、すぐに出発。

人間に擬態し、服も着る。擬態を解く度に服が外れるのは実に不便である。

赤外線センサーで朝と等しく物を見る事が出来るので問題ない。

 

「さぁ、旅二日目、始まり始まり~」

 

 ……一人でこんなことを言っても空しいだけである。

 

 

 

 しばらく走っていると、かなり大きな人間の集落を見つけた。

大きさからして五百人ほど住んでいるだろうか、住居もかなりの数である。

村の広場辺りが賑わっている様子なので、潜入してみる。

人間のまま、髪の毛を黒にし、服も着替える。

まぁ、陰から見るだけだが。

 

 お、近くで見るとかなり賑わっているな。どうやら物々交換をしている様子。中には土器もあった。

土器か。欲しいな。あいにく土器の作り方は存じ上げない。ハチミツなら交換できるだろうか。

 ……行ってみよう。

 

「あの……すみません」

 

「はい? 何ですか?」

 

「このハチミツと土器を交換したいな~と思いまして……」

 

「ハチミツ? 何ですかそれ?」

 

「あ、少し舐めてみてください。甘いですよ」

 

「ん……甘い!!」

 

「でしょう? これと土器を交換したいのですが……」

 

「こんなに!? いいですよ! 好きなのを持って行ってください!!」

 

「ありがとうございます!」

 

 ……成功である。バレなくて安心した。

そこそこ大きい土器を貰えたので、これでワインが作れる。

大きいといっても片手で持てる程度であるが。

まずは集落の外まで急いで戻る。怪しまれない内に。

 

 土器に葡萄を入れ、潰し、ハチミツを混ぜてしばらく置いて発酵させれば出来る。

作るには蓋が必要だ。まぁ、木から切り出せば……

どうやって?

 

 ……木から切り出す、温度操作の力をうまく使えばいけるか。

大きな石を砕いて細長い石を作る。作ったら、太さが土器の口と同じサイズの木を探す。石を一瞬だけ加熱し、全力で木を薙ぐ。木の一部分が真っ二つに溶け、断面から上が倒れていく。

 

 ……うまく切れたぞ。したら、いい感じの幅にしてもう一度切る。

 

 できた。サイズもぴったり。これでワインが作れるだろう。

石を加熱して刀のように扱う。これは武器として使えそうだ。一回限りなら木の棒でも出来そうだし、便利そうだ。

 

 

 

 取り敢えず今できる工程は全部終わった。あとは発酵を待つだけである。割れ物を持ちながら走るのは少々危ないので、ここからは歩きで進む。

 2~3週間後にはワインが出来上がるが、こんな適当な作り方で果たして上手くいくのだろうか?

 今更後戻りは出来ない。ま、今は旅を続けるだけだ。

 

 

 

 もう日が沈んできた。寝る時間になった。

今日は近くにいい感じの場所がないので、地面で雑魚寝をする。

余り寝心地はよくないが、わざわざ歩きたくもないので仕方ない。

寝ようとした、その時。辺り一面が急に真っ暗になった。

確かに元々暗闇なのだが、見えないという事はなかった。しかし、今は目だけで見ることは出来ない。

 

 こんな時のための赤外線センサーである。暗くて見えないような時は非常に便利である。

どうやら背後に人型の妖怪がいるようだった。あくまでも温度しか分からないが、妖怪特有のオーラ?を発しているのでわかる。

相手はゆっくりとこちらに近づいてくる。何が狙いなのであろうか。

 

──人と勘違いしているのかもしれない。となると、食べられる?

食べられるわけにはいかないが、此方が妖怪であると説明すれば大丈夫だろう。喧嘩になるかもしれないが。

そんなことを考えていると、

 

「──ねぇ、あなたは食べてもいい人類?」

 

話しかけられた。食べてもいい人類とは……? 妖怪なら手あたり次第食うものだろうに。

 

「……私は妖怪だよ。人じゃないから食べられません」

 

「そーなのかー...じゃなくて、なんで妖怪が地べたで寝ているのよ。妖怪なら今から活動する時間でしょう?それに、貴女からは人間の匂いがするわ」

 

「変わり者の妖怪もいるさ。人間の匂いは私の持ってる食料からだよ。……一つ食べるかい?」

 

「いいの? じゃあ、有難く頂戴するわ。……へぇ、凍らして運んでるのね。貴女は雪女か何かかしら?」

 

「蛇だよ。凍らすだけじゃなくて、温めることもできる。それに、雪女は今起きてたら溶けちゃうよ?」

 

「そうねぇ、溶けるわねぇ。モグモグ しかし、蛇かぁ、私、蛇はモグモグ苦手なのよね。まぁ貴女は人の姿になれるみたいだけど。……ん、意外と美味しいわね、これ」

 

「食べながら話さないの。……そうだ! 名前を聞いてもいいかな?」

 

「ルーミアよ。で、名前を聞く時は先に名乗りなさい」

 

「それが、まだ無いんだよね……よければ付けてくれないかな?」

 

「仕方ないわね……蛇なら、〝口那和(くちなわ)”とかどうかしら? そのままだけれども」

 

「くちなわねぇ……蛇の異称だったっけ。いいね、それ。自分で名前が思いつくまで名乗らせてもらうよ」

 

「そうしなさい。……しかし、初対面なのによく喋るわね、貴女」

 

「生まれてからほとんど誰か喋ったことがなくて……嬉しくてね。全く誰とも喋らずに生活するのは寂しかった」

 

「そう...じゃあ、これからは私と一緒に行動しない?そのほうが色々と楽しいんじゃないかしら」

 

「そうだね...うん、お願いするよ。よろしくね、ルーミア。……ところで、まだお互いの顔を見ていないのだけれど。この闇はルーミアの仕業でしょ?」

 

「そうよ。まぁ今は夜だし、解いても問題ないわね」

 

そう言うと、辺りの闇が晴れ、ルーミアの姿が見えた。こちらより少し身長が高くて、髪の毛はロング。赤い目をした、お姉さんのような雰囲気の女性だった。

 

「改めまして、よろしくね。口那和」

 

「こちらこそ、ルーミア」

 

──旅の仲間が一人増え、にぎやかになった私の旅。まだまだ旅は続く予感。

さぁ、未知なる世界へ。明日から新しい旅が始まるのだと考えると、胸が躍りだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、私はまだ寝たくないのだけれど。……って、もう寝てるし。」



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藪に蛇なかれ村に事なかれ

藪に蛇なかれ村に事なかれ──自分の周囲が平和で無事であることを望むたとえ。
とかく村には事なかれ、とも言う。


 ルーミアと出会ったあの日の夜、直ぐに私は寝てしまった。ルーミアはずっと起きていたらしい。

起きたら軽く叱られてしまった。まぁ、二人の習慣の違い、という事で和解した。

 さぁ、二人に増えた旅が始まる。旅、三日目。

 

 

 

 

 

 

 現在。何もない平原を歩き続けている。隣には黒い塊がふよふよしている。

──ルーミアには「闇を操る程度の能力」があるらしい。程度ってなんだろう? そんなに弱そうな能力じゃない気がする。

 

ルーミアはとても眠そうにしていて、さっきから話しかけても相槌を打つだけである。

 ……ちょっと休憩させてあげたほうが良かったのかな? 夜行性の妖怪だと言ってたし昼間の活動には慣れていないだけだろうが。

 しかし本当に何もない。木の一本すら見当たらない。視界の端から端まで背の低い草以外なにも映らない。

走ればすぐにでも何か見つけられそうだったが、ルーミアが追いつけなかったのでやめにする。

 

 ルーミアは空を飛べるらしい。どうやって飛ぶの?とか聞いてもわかんないとしか言われない。

 

 空を生身で飛ぶなんて人間からしたらまずありえない話。空を飛ぶ、という事は古代から数多くの人間が夢見て、夢を捨てきれなかった者達が悩み、考え、機械の力に頼るという形で近代になってようやく実現した。

 

 だがそれは生身で飛んでいるわけじゃない。人類は自由に空を飛ぶことはできなかったのだ。

しかし、妖怪は身一つで空を飛ぶ事ができるという。正直、かなり羨ましかったが、感覚的なものらしいので今は断念する。

 

 

 

 しばらく進んでいた内に、大きな人間の集落を見つけた。海や小規模の林に川と隣接しているからか、今まで見た中じゃ一番大きな集落だった。

海の方には帆の張られた筏のような物が幾つか浮かんでいたので、おそらくは離島や大陸と交流があるのだろう。自分の持っている土器は縄文型であったから、縄文時代だろう。海の向こうと交流がある様なので此処は九州辺りだろうか?

 

 ……集落には稲が生えていた。米があるという事は、大陸と貿易をしているとみて間違いないだろう。青銅器等の便利な道具もあるかもしれない。いや、あるだろう。

 

 しかし此方には対価になるような物は無い。着物擬きを渡したくはない。

 

 ……ルーミアはどうやら人肉を好む妖怪であるらしいので、食料調達と交易品の入手を兼ねて襲ってみるか?私の身体能力だけでも十分なのにルーミアまでいるので、十二分な戦力だろう。

 夜になればルーミアもきっと活発になるし、好物が増えるから賛成してくれるだろう。とりあえず夜になるまで観察して、ある程度の地理も把握しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 太陽の出番が終わり、月の仕事が始まる。月の光は妖怪を起こし、人を眠りに誘う。ルーミアもすっかり元気なようで。先ほどの考えを話すとあっさりと賛成してくれた。

 

 米等が保管されている倉庫には見張りは居なかった。まだ平和な時代であることがよく解る。

 ルーミア曰く子供の肉が一番美味であるらしいが、さすがに私は元人間として、今は妖怪として生きているが、子供を襲う事には抵抗感があったので、ルーミアと私で分かれて行動することにした。遠慮した時には少々怪しまれたが、好みの違いという事にしておいた。

 

 倉庫の前に立つ。鼠返しを配置する為に入口が高くなっているが、階段が入り口に設置されている為問題なく入る事が出来る。

入口に扉は無く、すんなりと入る事が出来た。中には米が入った土器がかなりの数保管されていた。元日本人の私の食欲をそそる白いそれは、まるで小さな宝石のようにも思えた。一つ持って帰る事にする。次は米以外のものを探そう。

 

 ……ひゅっ、という小さな音とともに血の匂いが辺りに漂う。どうやら近くで彼女が獲物を捕ったようだ。少しの嫌悪感と、同時に空腹を覚えながら、倉庫の奥へと進んで行った。

 

 奥には青銅でできた小さな壺や液体を注ぐ用途と思われる容器、銅鐸や青銅の剣等の青銅器が保管されていた。

剣は祭りに用いる物であるからなのか、刃は研がれておらず、指でなぞっても傷は付かなかった。

 

 武器にならないのなら要らない。使えそうな壺を一つ貰おう。正直、中ぐらいの大きさの壺を二つ、液体の入った小さな土器一つを持つのはなかなか大変であるが、そんなときの為に昼間に木の皮で作った背中に背負う大きな籠を作っておいた。

分厚い皮を幾重にも織り重ねた籠は中々頑丈なようで、壺二つをいれても底が抜ける事は無かった。

 

 探索を続けるていると、木でできた箱を見つけた。どうやら中に何か入っているらしい。開けてみるか。ドキドキ、ワクワク。期待の感情を胸いっぱいに孕み、箱を開ける。

 

 

 ……そこに入っていたのは、紛うことなき鉄剣だった。いや、鉄にしては輝きが強い。

何で出来ているのかは分からないが、この時代に製鉄の技術はあったのだろうか?

 

 鉄器が伝わるのは弥生時代から古墳時代あたり。確かに大陸の方は既に製鉄技術が確立していてもおかしくはないが、そんな新しい技術をすぐに持ち出すだろうか?実に不思議だ。

 切れ味も良いみたい。指を軽く刃にあて、少し動かすだけで指の皮が切れ、少し遅れて赤い血がじわじわと流れ始めた。

 よし。貰おう。盗むといえば悪く聞こえるが、永遠ともいえる寿命が尽きるまで使うのだし、私が持った方が刀も役に立つだろう。

丁度良く箱の中には鞘と、帯に巻くために使えそうな紐が入っているのでありがたく頂戴する。

 

 

──これで倉庫は一通り探し終わっただろう、そろそろルーミアの所に行くか。

相変わらず血の匂いがキツイが、どうにかできるわけでもない。匂いから逃げるにはここを出るしかない。

倉庫を出ると、丁度隣の家からルーミアが出てきた。口周りが大分赤い。鱈腹食べてきたのだろう。

 

「保存用の肉もちゃんととっておいた?」

 

「もちろん」

 

「よかった。じゃ、そろそろここから離れよう」

 

「そう...個人的にはもっと食べたかったけど。ま、十分食べたしね」

 

 

 ひぃ。まだ食べ足りないらしい。手に持ってる肉の量からして軽く五人は食べているだろうに。ま、少食な人もいれば、鱈腹食べれるような人もいるし。そこまで気にすることでもないか。

 

 取り敢えず、今まで来た道をある程度引き返して、そうしたら行った事のない方角へ進む事にする。

 この量の食料があればひと月は持つだろう。米は水さえ確保すれば楽に炊けるから非常にありがたい。正直米は至高の食べ物だと私は思う。

 

 離れる前に、肉を冷凍する。しかし、この温度を操作できる力は随分と便利だ。

ルーミアは「闇を操る程度の能力」って自称してたし、それじゃあ私の能力は「温度を操る程度の能力」?

 でも温度....赤外線を視る事も出来るし、「操る」じゃないのかも?

じゃあ何だろう。あんまり長ったらしいのは何となく嫌だし。短く簡潔に纏めるとしたらどう表せばいいのだろう?

 

「う~ん……」

 

「……どうしたの? 肉をまじまじと見ながら唸って。食べたいのかしら?」

 

 妙に鋭い眼つきで睨まれつつ声を掛けられ、少しビクッとしつつ我に返る。

 

「あぁ、違う違う。いやさ、ルーミアが闇を操る程度の能力なら、私のは何だろうなぁって思って」

 

「温度を操る程度の能力、とかじゃ駄目なのかしら? ……駄目なんでしょうね」

 

「うん。操る、だけじゃなくて温度を視る事も出来るからね。一概に操るとは言わないのかなぁと。何かいい案はない?」

 

「……うぅむ。申し訳ないけど、一言で言い表すのは考えつかないわね。ま、温度を操れるなら、視る事が出来ても不思議じゃないと思うけどね」

 

「そうか……うん、そうだね。確かにおかしくはないかな。まぁ、誰かに名乗ることはほぼ無いだろうし。別に今決めなくてもいいか」

 

 ……取り敢えず、この話はこれで決着がついた。いつか考えればいい。そう思うと、少しスッキリした気分になった。

 

「あ、そうそう」

 

「何?」

 

「今日からは私の生活に合わせてもらうわよ。貴女も妖怪なんだし、夜だろうと平気でしょう? 私も少しぐらい寝たいしね」

 

「あーー、うん。分かった。そうしよう。……と、いう事は。日が昇ったら眠るのか。私にはちょっと違和感があるなぁ」

 

「ま、そのうち慣れるでしょう。そろそろ朝も近くなってきたし、良い感じのところを探さなくちゃあね」

 

「私は木の上でも地面でもどこでもいいから。ルーミアに任せるね」

 

「あらそう……それじゃ、陽の入らない深い森を探しましょう。勿論、貴女のほうが移動は速いのだし、貴女に抱えてもらって、貴女に探してもらうけどね」

 

「うぅ……確かに速いと思うけど……背中にこんなに物を背負っているのにぃ……まぁ、致し方ない。早く探さなきゃね」

 

「じゃ、よろしくね~」

 

 そう言うと、彼女は背中を私の胸に近づけて、さっさとしなさい、と言った。……私はバスじゃない。いや、状況からしてトラックのほうが近いかな?

 ひょいっ、とルーミアを抱えて、私は走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──全速力で走って、何とか深めの森を見つけたのは、正に陽が出る寸前。その間にルーミアは眠ってしまっていた。

 

 

 ……結構、寝顔が可愛いなぁ。




村に事あるじゃねぇか!



ネタバレにならない範囲でならどんな質問にも答えますよ!(最低限物語についてのこと)気軽に送ってくださいね!待ってます。

追記:最初の方の記述一部を削除。内容が終盤と被っていました。
追記2:ここまでの話の中で台詞の最後にある句点を全て削除しました。
抜けがあったら教えてくださると助かります。


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鷹に睨まれた蛇

蛇に睨まれた蛙──恐ろしいもの等の前で身が竦み、動けなくなる状態のたとえ。


今回そこそこのグロ注意です。あと、この話でいったん区切りが付きます。
追記:ごめんなさい。話が被ってました。(え
何でこうなったのか今一良くわかりませんが、取り敢えず直しておいた事を報告します。
被ってて読めてなかった方には申し訳ないです……



 旅の四日目。結局、昨日はほとんど眠れなかった。朝焼け頃に寝て、起きたのは陽が最も高く昇っている頃だった。

ルーミアは木の下で爆睡している。私はその隣で寝ていた。

 途中で何度か雑魚妖怪に襲われそうになって起きたが、流石に私はそんな奴等に負ける程弱くはない。ちゃちゃちゃっと片付けた。そのおかげで眠れなかったのだが。もう一度眠ろうにも頭が覚醒しきっていて、到底眠れるような状態ではない。

 

 ルーミアを起こすのは気が引けるし、仕方がないので少し散歩でもしようか。

この森は中心にあるかなり高い山の周りに広がっている。中心にある山は富士山より数百メートル低い程度の高山であり、森も樹海の如く広大で、半径5kmは余裕で越しているだろう。森には川も通っている為、多種多様な生物が棲んでおり、此処だけで一つの生態系を成している。

 木には見たことのない果実が幾種も生っていて、毒々しい物もあれば、りんごのような見た目の美味しそうな果実もある。

 散歩にしては広すぎるが、山の麓まで行く程度なら夜までには帰れるだろう。

 

 

 

 

 道中には様々なものがあった。

まずは妖怪植物。蔓をとてもいやらしく動かしていた。日本の男性には強い人気がありそうだ。

 次に、人型の妖怪。自分を含めて三体目である。ただ、遠くから見えただけなのでどんな妖怪かは分からなかったが、ケモ耳が生えていた。

かわいかった。さわりたかった。でも一度触ったらもう理性が戻りそうになかっったので、近くに居なくて正解だったのかもしれない。その妖怪は私が見ていることに気が付いたのか、急にどこかへと行ってしまったので、そもそも触らせてくれなかった可能性もあるが。

 三つ目は、死体。それも大量に。

死体の種類は多種多様で、ただ普通の生き物の死体は無く、色々な妖怪の死体がとにかく大量だった。死に方も様々で、体中に風穴が空いていたり、首から先が無い、真っ二つに切られている等、本当に様々。中には判別がつかない程にぐちゃぐちゃにされている物もあった。

 どれも敵意に満ちた目をしていて、何かと戦闘していたのだろう。もしも、犯人と出会ったら、戦うことになるのだろうか。一つの死体に切り傷、痣、風穴等様々な傷がついている事から、犯人は集団で

ある事も考えられる。

 しかし、最も重要なことがある。

妖怪の死体は残りづらく、少し時間がたつとすぐに無くなってしまう。にも拘らず、死体があるという事は、犯人は近くにいるという事である。

 散歩を切り上げるべきか?とも考えたが、好奇心は何事にも勝ってしまう。内心ではさっさと帰りたかったが、好奇心に操られるように、山へと再び向かい始めた。

 

 

 

 山の麓に近づいていくほど、妖怪や生き物が少なくなっていく。RPGのようだった。山の入り口に居た妖怪はパンチ数発でダウンしたが、この辺りにいる妖怪はそう簡単には死ななかった。能力で熱を籠めた拳で脳天を殴り、脳をドロドロに溶かすことによって簡単に殺す事が出来るが、そう簡単には頭は狙えない。

 力も強大で、光る高速の弾をどこからともなく出してきた敵もいた。どうやら妖怪特有のエネルギーを具現化させることによって弾を出せるらしい。出した分だけエネルギーを消費するようだった。幸い一発の消費量はそれほどでもないので、複数発撃つ事ができる。

 さらに、自分の場合は温度を変化させることによってさらに強力な弾にすることも出来、それを広範囲にばら撒けば、エネルギーの消費量が多い代わりに雑魚相手なら一撃必殺の弾をほぼ確実に当てる事が出来るようになった。結構便利である。

 しかし此処に出る妖怪はその程度では死んでくれないので、あくまで弾幕は囮なのである。弾幕に気を取られた隙に接近し、脳天へ一撃。

 この戦法では中々に体力を消費するが、確実に殺らないと危ない。実際最初は危うく首に一撃を食らう所だった。

 

 

 麓に近づく程、戦う事は少なくなって行き、進むスピードが上がった。気づけば陽は傾き始め、数字で表すなら大体午後5時頃だろう。暗くなる前に戻らなきゃな、と子供のような考え事をしていると、坂道に差し掛かった。

 それは山のふもとに到着した、という事だった。目の前には天高く聳える山がある。その入り口に私は立っていた。

 山からは大量の視線を感じる。恐らく、私のことを警戒する何かだろう。妖怪か、野生の動物か、はたまた人間か。人間がこんな危険地帯に居る事は無いだろう。野生の動物だとしても、ここまで集団であることは無いと思う。

 ならば妖怪か? しかし妖怪は大規模な群れを成す様な種族は少なくとも私は知らない。

どれかも分からない、危険な集団に単騎で突っ込む程私は馬鹿じゃあない。ここは一先ず退くか。

 

 ガサ。近くの茂みから音がする。私は退こうとする足をぴたりと止め、音のした方向を見つめる。

そこには確かに何かが居る。それも人型のナニカが。体温を感じ取れる私には物陰に隠れる事はほとんど意味を成さない。頭に獣の耳が付いている。恐らく先ほど見かけた妖怪だろう。

 そして、更に重要なことが分かった。

 

 

 

 

 ────それは、四方八方に在る物陰のほぼ全てに、同じ様な妖怪が居る、という事。その妖怪たちは剣の様な武器と、盾のような防具を持っている。知能もかなり高い妖怪だろう。こうも周りをぐるっと囲まれてしまってはどれだけ速く走ろうが逃げる事は不可能だろう。空を飛べない自分にとっては脱出は困難である。

ここまでの集団であれば恐らく一人一人の戦闘能力は大したことは無いだろう。実力者はそう簡単に出てくるものではない。

 

 さて、どうするか……戦って無事でいられる事はまず有り得ないだろう。私のような生まれたての妖怪は、いくら能力を持っていても大して強くはないのだ。妖怪としての「格」が違う。

 考え事をする間にも、妖怪は近づいてくる。一番近い者とは3m程しか離れていない。もし弾を撃つ事が出来るならば既に射程範囲内。こちらも既に能力を行使できる範囲内である。直接触れなければ大幅な温度変化はできないが、それでもダメージを負わせる位はできる。

 正に緊張状態。一触即発の状況で、私は妖怪と成ってから初めて、冷や汗をかいた。生まれて初めて体験する生命の危機。

 

 ごくん。と、喉を鳴らす。覚悟の合図である。私は今、この集団と一対多数の、圧倒的に不利な戦闘をする「覚悟」を決めた。あちら側も戦闘をすぐにでも始められるようだった。じり、じりと近づいてくる。相手の姿は見えない。だが、居場所は判る。

さて、恐らくは無事に帰る事は出来ない。ルーミアの寝ている木には荷物がすべて置かれている。お陰で体は軽い。

 唯一持つ物は、腰に差した刀と、この覚悟のみである。気兼ね無く戦う事が出来るのは好都合だった。それにこの刀は未だ試し切り出来ていない。

息を整え、気持ちを作る。「勝ちたい」ではない。「勝たなくちゃいけない」だ。絶対に勝たなくては、目的は達成する事が出来ない。

せっかくの第二の人生も楽しめずに終わる。そんな事はあってはいけない。

 

 

 

 さぁ、戦いが始まる。

 

 

 

 まず初めに来たのは、案の定一番近くに居た妖怪だった。その頭には狼のような耳を拵え、手には丸い盾と、雑な作りの、しかし殺傷能力は大いにあるであろう剣を携えていた。

 目には目を、刀には刀。こちらも刀を引き抜き、それから、刃に出来るだけ熱を持たせる。そして、刀と刀がぶつかり、鍔迫り合いになろうとした瞬間、刃をほんの一瞬だけ非常に高温にする。相手の刀は当たった所から、チョコのように鉄が溶けだし、容易く刀を切断した。そのまま相手に驚く隙も与えずに首を刎ねる。熱によって断面は瞬く間に焦げて行き、血の一滴も出さずに相手は絶命した。

 

 次に、正面と後ろから、二人同時に襲い掛かってきた。正面の相手の首目掛けて一直線に、素早く刀を振る。その勢いで後ろに振り向く。相手の顔が青醒め、僅かに刀を持つ手の力が緩んだ。その隙を見逃さずに斬りかかる。相手は直ぐに立て直し、避けようとする。

 そんな行動は既に予想済み。避ける方向に高速の弾を飛ばす。能力を上乗せした、正に火の玉を。当たった所からみるみるうちに焦げていく。火を上げる時間も無く、相手は真っ黒になり、ボロボロと崩れ落ちた。

 

 それを見た相手が今度は左右から来る。それを対処すれば、今度は違う方向だったり、上からだったり、遠くから弾を飛ばして来たりした。

 全てをひたすら斬る、燃やす、凍らし、砕く。何十回も繰り返した。次々と湧いてきた妖怪だったが、百を超えた辺りで来なくなった。

 

 退いたか、出尽くしたのか。

勿論、私も無事では無く、左腕の肘の辺りが焦げ、右肩は骨の近くまでバッサリ斬られていた。他にも、体中に切傷や痣が出来ていた。息切れもしてきた。少しして、疲れからその場にへなへなと座り込む。

 刀は大量の血が幾重にも重なり、ほぼ黒色となっていた。当然、私も体中が返り血に塗れている。

 

 

 

 少しの間座り込んでいると、既に陽が落ちる寸前である事に気が付いた。

 

「……さっさと帰らなくちゃなぁ…」

 

 そんな独り言を呟くと、反応が返ってきた。それも全く知らない声で。

 

「帰らせる訳にはいかないな。こんなに白狼天狗達を殺しておいて何もされないとでも?」

 

 女の声だった。どうやら、まだ帰れないようだ。それと、先ほどの妖怪は「白狼天狗」らしい。どうでもいいが。

 女は続けて、

 

「さ、大人しく私に殺されなさい。言っておくけど、白狼天狗なんかよりも全然私のほうが強いわよ?もちろん、貴女よりも」

 

「要するに、あんたを殺せば帰れるんだろう?私は喧嘩売りに此処へ来た訳じゃないの。さっさと私に殺されなさい」

 

「無理よ。貴女は帰れないわ」

 

 短い会話だった。女がそう答えた瞬間、私は斬りかかる。全力で踏み込み、体重を乗せた一撃を喰らわせようとする。しかし、そう簡単にはいかないようだった。軽くかわし、直ぐに攻撃を仕掛けてきた。

 但し、それは近距離からの攻撃ではなく、遠距離からの攻撃だった。悍ましい程の密度の弾幕を放ち、また天狗の持つうちわのようなもので突風を起こし、その弾幕を加速させた。到底避けれるような密度ではなく、私は受けることを余儀なくされた。

 

 だが、全部喰らうほどの雑魚ではない。咄嗟に足元の石を拾い、限界まで冷却し、目の前の弾幕に投げ付ける。当たった所から弾が凍っていく。それでも全てを凍らせられる訳でも無く、幾つかに被弾してしまう。一つ一つにかなり重く力が込められており、利き腕ではない左腕で庇ったが、どんどんと肉を奪われていき、骨が消し飛んで少しの筋肉と皮だけで繋がっている状態になった所でようやく攻撃が収まった。

 

「おやおや。耐え切りましたか。しかし無残な腕ですねぇ」

 

 煽り気味に女は言う。だが、ただただ耐えていた訳ではない。「風」を目に見えない程に細く凍らし、相手の体に触れさせた。

そして、能力を使う。女を凍らせる。

 

「グッ!?い……いきなり凍るとはッ……だがッ!」

 

 相手は下半身から凍っていったのだが、相手はあろうことか自分の下半身を切断した。それで相手に能力を効かせられなくなる。妖怪にしか出来ない逃れ方だ。下半身は既に凍ったまま地面に倒れ、動く気配はない。相手は背中から黒い翼を出し、その翼で宙に浮いている。

 

「やるじゃない……貴女の力を見る為に多少手加減していたけど……貴女の能力は十分危険。今ここで即座に排除させて貰うわ。悪く思わないで頂戴ね」

 

そういうと、相手はより高く宙に浮き、片手を前に構えてから、

 

「死ね」

 

 一言だけ呟き、手の内に溜まっていたエネルギーを一気に放出する。それは逃げ場のない巨大なレーザーと化し、私の眼前に迫る。

 咄嗟に凍らせようとするが、時既に遅し。レーザーに飲み込まれる。体が消し飛んでいくが、咄嗟に自身の体を絶対零度に限りなく近い極低温の凍ったエネルギーで包み、体を守る。何時もならば作れないような温度だったが、火事場の馬鹿力だろうか。レーザーを受ける凍った私は、そのまま地面へとめり込んでいき、完全に見えなくなった所でレーザーが途切れる。

 それと同時に私の意識も落ちていく。果たして目覚めることはあるのだろうか。奇跡レベルの偶然を祈り、私は意識を手放す…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで死んだかしら……まぁ、逃げる姿も見えなかったし、あの程度の力では消滅したと思うけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 常闇の妖怪は、遠くに見える閃光に目を覚まし、隣に居る筈の友人が居ないことに首を傾げるのだった。これから永い間、その友人と会えない事になるとは露知らずに……




句点や記号周りのミスなど、誤字報告でもいいので報告していただけると助かります。
ルビを振ってほしい所などあれば気軽にどうぞ。

この天狗は文じゃないです。


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神社とお姫様
土の底から蛇が出る


灰吹きから蛇が出る──意外な場所から、意外なものが出るというたとえ。なんでもないことから、とんでもないことが起きるたとえでもある。

初めて7000文字も書いちゃいました。総文字数7681文字ですって奥さん!
……それぐらい楽しかったってことです。ちなみに、私は九州に行ったことがありません。あと言語に関するご都合主義的なアレに本文で触れてます。
言い訳してます。そんなことしていいわけ



 …………意識が呼び起こされる。体の感覚が少しづつ戻って行き、全身に血液が巡り始める。

 いつぶりの感覚だろうか。長いこと眠っていた。その間に何があったのだろう。完全に土に埋まっており、今が朝か夜かも分からない。分かる事は、自分の周りを覆っていた氷が解け始めていた事だった。手足にはまだ残っているが、顔の部分は胸あたりの氷は既に解けて無くなっていた。

 意識が戻っているし、自分で解かす事も出来るだろうが、私は敢えて自然に解けるまで待って、その間に眠る前に起きた事について整理する。

 

 私は……深い森を見つけ、木の上で眠った。起きてから森の中を探索して、白狼天狗とやらに襲われて、そいつらのボスと戦って、負けた。負けるとき、私はレーザーを喰らっていた。死ぬと確信した私は、力を振り絞って自身を分厚い氷で覆い、地面にめり込みんで、レーザーが途切れてからも勢いのままに地中に入っていき、その途中で私は意識を落とした。

 

 意識を取り戻したのは奇跡だろう。コールドスリープだとしても、一瞬の間に作ったので生きていられるかどうかは分からなかった。

 だが、私は生きている。地中に埋まって、体の前で腕をクロスさせたまま固まっている、なんとも不細工な恰好で。

 

 そろそろ氷も全て解ける。外に出たら先ずはルーミアの居た場所に行こう。どれだけ経ったのかは分からないけど、居るかもしれない。居なくても、荷物がまだ残っているかもしれない。十中八九残っていないだろうけど。体感では軽く数百年は眠っていた感じがする。それどころじゃないかもしれない。氷は相当分厚く作ったはずだ。それも極低温の。恐らく解けないとも思える程の見事の氷塊に私はなっていた。マンモスにでもなったかのような気分だ。まぁ、凍っていた時は意識はなかったしそんな気分は味わっていないが。

 

 ……足の先に残っていた最後の氷が無くなった。自分に重く圧し掛かる土は、相当年月を隔てたのか堅くなっており、全く手足は動かない。呼吸も苦しくなってきた。なんで今まで苦しくなかったんだろう……?

 そんな疑問は置いといて。今はここを抜け出すことが先決。早くしなければ今度こそ死んでしまう。誰も助けてくれやしない。

 

 まずは軽く手の周りに熱を持たせる事が出来るかか試す。

 ……成功。ほんのり温かくなった。成功を確認した私は、自分の周りを超高温にして、土を溶かしていく。大丈夫。自分の体の周りは超低温にしておけば上手いこと熱が伝わらないようになる。

 

 ……成功した。周りの土はどんどん溶けていく。溶けた土はマグマのような物体になって危険だが、能力を解除すればすぐに冷えて固まるので問題ない。

 上に上がる為に必要な足場は溶けないように注意する。上に掘りあがりつつ、足場を作ってよじ登っていけば地面まで到達するだろう。

 

 草の根が見えてきた。根から茎に繋がる部分も見えるので、もうすぐ地上だ。

少し緊張するなぁ、と思った。緊張する要素は無いような気もするが。どちらかというとドキドキだろうか。

 地上に上がることに出来る程度の高さに足場を作った。これで、あとは上に掘り進めば久しぶりの空を仰ぐ事が出来る。足場に登り、拳に力を籠める。それから、思い切り土をぶん殴る。いつかぶりの空を見る為に。

 

 

 

 ──久しぶりに見た空は清々しい程の快晴だった。雲の一切ない晴れ程気持ちのいい天気はない。

 

 この場所で戦闘していたと思わせる様な痕跡は全く見つからない。薙ぎ倒された木や抉れた地面はどこにもない。あるのは足元の大穴だけ。

 細い木が一本生えていただけの場所には立派な大木があった。屋久島の縄文杉程の大きさ。最早神木である。

 

 そんなことは置いといて。ルーミアがいたであろう場所に向かう。幸い、此処には一直線で来ていたので、方角さえわかれば何れは着くだろう。情景も全く変わってしまっているが、森の入り口部分を探せばその場所は見つかるだろう。問題は、目印が場合によっては皆無であること。

 

 もしも置いてきた荷物が無く、又ルーミアもいないとその場所を見つける事は出来ないような気がする。あくまで気がするだけだが。見つけようと思えば僅かな記憶から探し出す事も不可能ではないと思うが、ルーミアや荷物があることにはそこまで期待していない。恐らく人間が何度も寿命を迎える程の時間が過ぎていただろうから。

 

 可能性は「無いかもしれない」であって全くない訳では無いし、探す意味は十分あるとは思うが。

 

 

 

 暫く走るとすぐに森の入口に着いた。進行方向で言えば出口に当たる。その場所を起点としてぐるりと一周する。当然、すぐに一周出来る様な距離ではない。だが、別に時間が迫っている訳でもない。この程度の時間であれば全く気にならない。

 

 ……そう思っていたのだが。これが予想以上に大変で、景色がほとんど変わってしまったが故に慎重に見なければそこが目的の場所なのかの見分けはつかない。

 そうなると、走って移動するよりも時間は何倍、十倍近くにまで膨れ上がる。更に、ほとんど変わり映えのしない景色を延々と見分け続ける事は流石に飽きが来る。最初は目を輝かせた幻想的な森もいつしか日常になった。現代では到底見ること出来なかった景色も、この古代では大したものではないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 ……最終的にその場所を見つけたのは探し始めてから太陽が3回ほど昇った頃だった。

 

 一周しても見つからず、結局その場所とは起点とした場所のすぐ近くであった。まさに灯台下暗し、だ。

 見つからなかった理由としては、私達の休んだ木がほとんど成長せずに残っており、周囲と同化していたことが大きい。その木の根元には、私の持っていた土器が、根に絡まっていた。どうやらひとつだけのようだった。その一つとは、ワインを作る事に使った土器である。

 

 当然、その中には今もワインが詰まっているだろう。それも大木が成るほどの時間が掛かった年代物である。

 現代だとどれ程の値が付くのだろうか? 味はあまり良くないだろうが、人間では管理が続けられない程時間の掛かったもの、というだけでかなり値が張るだろう。

 

 その土器を守り続けた木は既に枯死していた。状態からして枯死してからそこまでの時間は経っていないだろう。

 

 しかし、既に枝や根は脆くなっており、少し力を込めれば簡単に崩れ落ちる。そんな儚い木に私は一言、「これを守っていてくれてありがとう」と言ってから、丁寧に、崩れないようにそっと守られていたものを取り出す。その蓋を開けると、予想通り、紫の液体がしっかりと詰まっていた。葡萄の良い匂いにアルコールの匂いが混ざる。

どこか厳かな、嗅いだことのない匂いも混ざっている。嗅いだことのある者は全くいないと思える様な。

 一口舐めてみたい気持ちもあったが、まだ我慢することに決めた。もう少し酒の味を楽しめるような状況でなくちゃ、全てを味わうことは不可能だろう。

 

 結局、ワインはそれ程量が無かった事もあり、そこらへんの木から切り出したボトル型の容器に移し替えておいた。常識的に考えて木では腐ってしまうが、能力で内部の壁に厚めの氷を張っておいたので恐らくは大丈夫だろう。念のため、木の内部を凍らせてあるが。

 

 ボトルには必須であろう肩紐は拵えてある。その為、土器は結局のところお役御免なのだ。申し訳ないとは思うが、既に亀裂が複数入っており、このまま持ち運べば間違いなく割れてしまうので仕方がない。取り敢えずこの木の下に埋め直しておく。いつか現代人が見つける日も来るかもしれないなぁと思いつつ。

 

 

 土器を埋めてから暫くして、旅を再開させた。今までと同じことをしたいと思っている事が理由だが、今の時代がどの辺りなのかを調べる、という目的もあった。

取り敢えず、私は日本列島の本州に行く事にした。私の知っている範囲で古代の文化の中心となると、京都か奈良しか知らないのだ。

 此処がどのあたりなのかはよく判らないが、この山に来た方向から反対に向かえば見えてくるかもしれない。時間はたっぷりある。

 そう考えて、既に走り出していた。時間があっても、知らないことを知ろうとするのは自然と優先してしまう。知識欲はそこそこある方だ。

 

 3時間程度走っていると海に着いた。その一粁程(1km)先には陸地があった。多分本州だろう。現実には橋や海底トンネルが走っているが、この時代、そんなものがある筈はない。泳ぐか、空を飛ぶしかない。しかし、私は空を飛べない。いや、飛んだことが無い。出来るかどうか分からないという方が正しい。 

 

 ……今までにやった事の無い事に挑戦する時は、先ず「自分は出来る」と心の奥底から確信して、自分に対して兎に角自信を持つ事が大事なのだ。

 勿論どうやって行うのかも考えなければいけない。まぁ、足に氣──良く分かっていないが、身体に在る見えない力──を籠めれば出来るだろう。弾を撃つのと同じだ。

 物は試し、早速やってみよう。先ずは自信を持つ。ナルシストも顔負けの自尊心。その心持ちこそが大事なのだ。謙遜は要らない。

 

 ……そうしたら、足に氣を籠める。力が一点に集中する──その瞬間、目の前の景色が変わった。……力を入れすぎたのだ。遥か上空一粁へと体が投げ出される。

 余りに突然な出来事。予期せぬ位出来事に何とか対処しようとする...が。慌ててコントロールしようとした故に力を足から遮断してしまった。身体が落ちて行く。

「ひゃぁぁぁあああ!?」と、間抜な声を上げる私は急転直下……誤用ではあるが、字の感じからしてはピッタリである。

 

 悠長に一人で実況している暇はない。地面まで凡そ残り六百米(600m)。あと数秒の内に地面という名の死神との濃厚なキスをしてしまう。要するに死ぬ。

 何とか立て直す為に再度足に氣を籠める。今度は同じ事の起きない様、軽く、ふんわりと浮くイメージで。

──ぴたり、と落下が止まる。地面に激突する寸前の、距離にして僅か50米程。ほんの少し遅ければ命は危うかった。良くても内蔵や骨は諦めなければいけなかっただろう。時間が経てば再生されるのだが。

 

 ……一先ず、程よい高度で浮く事は出来た。そのまま前に進もうとする。ぎこちない動きではあるが、緩と前に動き出した。速く進もうとすれば、速く進む。

だが、これでは納得いかない。幽霊の様に進んでいるのはあまり格好良くも可愛くもないだろう。もっと恰好良く飛べないのだろうか?

 

 イメージするのは、少し前斜めに傾いた体。それ位のほうが何となく「飛んでいる」というのではないだろうか。言い換えれば前傾姿勢。だが、上半身の傾きに合わせて下半身も傾く。近いのはマイケル・ジャクソンの45度だろうか。

 そんな姿勢で私は前に飛ぶ。ある程度の──車よりも速い位のスピードを出しながらの、生身の空の旅はこれまでにない感覚でとても心地よかった。

 

 現代の高い科学力ですら為し得ない、生身で空を飛ぶという行為は、元人間の私としての喜びと、妖怪としての私の、人間を見下す悦の混ざった感覚は、何とも両方の私を満たす気持ちの良い行為だった。

 

 暫くして、とても高く大きな神社を見つけた。その高さは私の飛ぶ高さよりも少し低い程度であった。

 

 ──これだけ高い神社、となると一つしかない。古代には百米に及ぶ高さのあったという「出雲大社」である。建造されたのは遥か昔、神話時代にまで遡る。

 現代では見れない昔の神社の姿に惹かれたが、此処は神社、それも位の高い神様の神社。私の様なちっぽけな妖怪なんて入った瞬間に消し飛ぶだろう。観光は断念するしかない。これだけ見せつけられて、観光する事は許されないとは少々癪に障るが、私が激怒した所で何も変わりはしない。

 

 しかし収穫はある。これが出雲大社という事は此処は現代の島根。あと少し進めば京都や奈良に着くだろう。

 だが、今から直ぐに出発、という訳にもいかない。何故かって?

 ……変身が解けそうなのだ。あと一時間程度で完全に蛇に戻ってしまうだろう。都の中で蛇になってしまっては危険だ。速攻退治されてしまう。

仕方がないので人の居ない様な場所にある木を見つけてさっさと寝るしかない。急がなくては、蛇になった時も飛べるかどうかは分からない。

 

 

 好都合な木を見つけるまでに時間は掛からなかった。神社から離れると直ぐに見つかった。余り広くなく、林とも呼べない程度の木の密集地帯。

 その中心辺りにある木の十分な太さの枝に腰を掛ける。ワインの入ったボトルを上にある枝に掛ける。蛇に戻って寝ようとすると、少し離れた場所に何かを探している様子の女の子が居た。私は人を喰らう妖怪ではあるが、もともとは平和ボケした日本人なのだ。今いち人間だった時の性格は思い出せないけれど、今の私は目の前で困っている子供を見捨てるほど冷たくはない。

 

 ……前々から気になっていた事がある。それは古代の人間の誰に対しても言葉が通じていた事。現代の言葉は大体江戸時代頃の物だ。外来語の存在を除けば殆ど変わらない。だが、さすがに古代の人間に話が通じるのは変である。

 

 この世界は私の知る世界では無いのかもしれない。もしかしたら、自分には普通に聞こえていても、相手からしたら自分達と同じ言葉を使っている様に聞こえるのかも知れない。そんな話があってたまるか、と思うが、実際言葉が通じている理由を説明できない時点で否定することは出来ない。

 

「……どうしたの?何か困っている事でもあるのかな?」

 

 喋りかける。突然背後から声を掛けられたことに肩を弾ませながら、幼子は答える。

 

「……おかあさんが妖怪におそわれたの。それで...おかあさんがたおれて……おかあさんをなおすための薬のざいりょうを探してるの……」

 

 妖怪に襲われたって?……おいおい、私も妖怪だしなぁ……ちょっと申し訳ななぁ。でも、助けない理由にはならないよね。

……死んではいないよね?怪我だろうか?薬で治るものではないと思うけど。

 

「そうなの……分かった。私も一緒に探してあげる。……探している物はどんなもの?」

 

「ちいさなしろいおはなをいくつもつけた草。はっぱは大きな笹のはっぱみたいだって……」

 

 それ、鈴蘭やないですか...毒だよね...?

考えつくのは、他の毒で心臓が弱った。解毒はしたけど、心臓は弱いまま。そこで強心作用を持つ鈴蘭を使う、という事か。……もっと良いものは無いのだろうか。

 

「それって……鈴蘭でしょ?毒じゃなかった?」

 

「しってる。でも、医師(くすし)さまが、『心臓を動かすのに必要なのです』っていうの」

 

 その医師とやらは相当博識の様だった。今の時代がどのあたりか分からないが、古代にそこまでの知識を持つ人間は居ない筈。人外なら或いは、とも思うがそこまで協力的になるだろうか。

 

 まぁ強心作用が必要なら仕方ない。ジギタリスとか、他の材料は無いのかもしれない。

 

「分かった。鈴蘭ね。……でも、貴女は武器も何もないのだし、私の傍で一緒に探そう?」

 

「わかった。おねがいします」

 

 ぺこり、と聞こえてきそうな可愛らしいお辞儀。何かに目覚めてしまいそうな心を押さえつける。誓って私はロリコンではない。

 

 

 

 ──そして探す事数十分。そろそろ変身を維持するのも限界に近い。そんな中、漸く目的の花が見つかった。

 もうすぐ陽が沈む。こんな幼子を一人で返してしまったら妖怪の格好の餌。仕方なく、怪しまれない程度に急ぎ足で進む。距離はそれ程でもないから直ぐに着くだろう。

 

 肝心の女の子は私の背中に居る。おんぶしながら走るのはそこそこに難しい。女の子が何故こんなに速いのか、と聞いてきたので、適当に「鍛えているの」とでも言っておく。

 

 十分ほど走った所で、町が見えてくる。夜が近づいているからか活気は無い。

 

 「家はどの辺にあるの?」と聞いてみる。どうやら神社住まいの様だ。そこまで大きくない、かといって寂れた訳でも無い、ごく普通の神社。

神域には出来るだけ近づきたくないので、神社が見える程度の街中の開けた場所で女の子を降ろす。あの神社で間違いないようだ。

 

「此処からでも気を付けて帰りなよ?妖怪は何処に居るか分からないんだから...あ、最後に、君の名前を教えてくれる?」

 

 初対面ではあるが、名前を聞いておく。何時か再開する様な気がするから。

 

「うん……私の名前は、霊紀。苗字は……まだ継いでないの」

 

 ふむ。どうやら苗字は襲名していく家のようだ。でも、苗字を継ぐって、余り聞かないなぁ。ま、私が知らないだけか。

そして、私は非常に厚かましいお願いをする。いや、してしまう。この子に聞きたい、そんな思いが芽生える。知り合ったばかりなのに。

 

「霊紀ちゃんね……私ね、まだ仮の名前しかないんだ。それで……いきなりだとは判っているけど、私に名前、付けてくれるかな?」

 

 あまりに無責任な私の願いに、昔の友の付けてくれた名を結局誰にも名乗らずに捨ててしまうことに罪悪感を覚えつつも。女の子は、待っていましたと言わんばかりの速度で、こう言った。

 

「……咬摘(カムツミ)。苗字じゃなくて名前。ももいろの服をきているから、意富加牟豆美命(オオカムヅミノミコト)からよみかたを、おねえさんの八重歯がすごくきれいだから、咬の字を。摘は当て字。思いつかなか

ったから」

 

 絶句。この一瞬でそこまで考えるか。字も私にピッタリだ。蛇は実際のところあまり咬まないが、歯は鋭く、何も知らないものが見たら相手の肉を噛み切る為の歯と思うだろう。

 ……オオカムヅミノミコト。さすがは神社住みである。私は知らない。どんな神様なのかは知らないが、まさか神から名を借りるとは。思いもしなかった。

 何はともあれ、この子が考えてくれた名前。自分で考えろと言われるかも知れないが、私にネーミングセンスなぞありゃしない。

 

「……ふふ、私によく似合う名前だね。有難う。私なんかの為に考えてくれて」

 

「……」

 

 何も返されなかった。気にすることではないが。さて、そろそろお暇させていただこう。リミットはあと十五分程度。

 

「それじゃあ、気を付けて」

 

「……またね」

 

 またね、と私は返して、立ち去る。彼女が神社の方に向いた隙に全力疾走する。障害物さえなければ走ったほうが飛ぶよりも圧倒的に速い。

 

 ……またね、かぁ。それは、縁があったなら会いましょう、という事だろうか。それとも、必ず会う、という事かも知れない。どちらにせよ、私は会いたい。名付けて貰った相手に一度しか会わないのは変だから。

 

 

 ──そんな一瞬の間に、私は確かに先ほどの林の様な場所に着いていた。それなのに、何処からか、いつか必ず会う、と聞こえたような気がした。




ん?なんか、名前に半分ぐらい既視感が?それに神社……
おっと、ここから先は駄目ですね。


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打草驚蛇

難産の末に出来上がった中盤はいとわろしな展開。
サブタイ付けなおし。合う諺が無かったので四字熟語を。意味は載せないどきます。あんまり合ってないからね。話の内容ではなくこの話を書いていた時の私に対する言葉です。
あ、軽い下ネタ(超軽微)が含まれますが、ほとんど気にならないと思います。


 ──意識が呼び起こされる。眠気はもうない。目を開けると満天の星空と満月。どうやら丸一日眠っていたようだ。いつもなら伸びをするが、生憎と今の姿は蛇。伸びをする腕は無い。欠伸も出ない。

 蛇から人型にジョブチェンジする。変身を解除する時に服だけ一緒に消える為、着替えの必要はない。

 枝に掛けてあった筒を肩に掛けて、木から降りる。裸足で降りた為にぺちっと音が鳴った。

 行先は京都。京都に都があったとしたら八世紀後半辺りだろう。出雲大社が本来の姿を保っているし、少なくとも鎌倉時代には至っていないと思う。明確な区切りがある訳では無いが。京都に都が無く、奈良に在ったならそれは平城京だろう。奈良時代という事である。もしかしたら飛鳥京かも知れないが。

 まぁ、行けば分かる事なので、考えていても意味はない。

 早速、私は空へと駆け出す。地上に何があるか分からない以上、走るよりも空を飛ぶ方が安全だろう。

 

 

 飛び続ける事凡そ一時間弱。目線の先には都。形は長方形で、街は碁盤の目の様に綺麗に区切られており、一際目立つ大きな屋敷を基準として左右対称に作られている。大きさ、特徴のどちらをとっても、間違いなく平安京。日本で最も長く政治の中心に在った千年の都があった。日本史が好きな私としては中々の感動ものだ。

 一際目立つ屋敷とは、政治の中心である大内裏だろう。この高さではさすがに朱雀大路を目視する事は難しいが、確りと見れば中心に他の通りよりも太い道が真直ぐと引かれている。

 夜が明ける前に先ずは探検といこう。人が少ない夜は私の様な不審者が彷徨いていても発見されない為好都合。昼の様子を見に行くのは暫く後になるが。

 地面にすたっ、と綺麗に着地を決めてから、見張りが居る門を避けて寂れた右京から入る。

 右京、というと某刑事ドラマを思い起こすかも知れない。右京とは、朱雀門から見て西側に位置する部分。「右」というと「東」と思ってしまうかもしれないが。

 ……今適当に考えた理由は、大内裏から見て右にあるから右京なんじゃないか、という根拠も何もない理由。

 

 右京のイメージとしては有名な文学である「羅生門」の舞台が近いだろうか。京の華やかさとは裏腹に、スラムの様な薄汚く、暗い場所も侵入者にとっては警備が行き届いていない有難い区域。

 そんな場所を早々に立ち去り、朱雀大路へと向かう。

 

 ──何故平安京に侵入し、地理を把握するのか。一つは千年の都の最盛期を見たいと思った事。もう一つは日本最古の物語、謎の多き「竹取物語」。

 平安時代の一つの物語の真偽に興味が有る。それが大きな理由だった。

 現代人は鼻で笑うだろう。陰謀論を信じる方がマシだと。しかし、空想と思われた妖怪に私、元現代人が成ったのだ。どちらも同じ空想なので信じる価値は十二分にある。だが、問題が一つある。物語自体の初出は平安時代頃、舞台は奈良時代と考えられている。

 

 ……これは私の稚拙な考えだが、竹取物語には藤原氏等、体制等に対する批判が随所にある。その批判が現体制に向けたものであると相手にバレてしまえば良くて追放だろう。刑罰等を恐れて前時代への批判とする事で疑いの目を逸らそうとしたのではない

か。馬鹿馬鹿しいが、確率は零では無い。間違っていたり、既に終了した事なら仕方ない事。観光が出来ただけでも万々歳。

 

 ──その考えの正否が判明するのは思っていたよりも直ぐだった。

 朱雀大路に着いてから、暫くの間家主の寝ている家を物色……見学して回っていたが、一つだけ異様な雰囲気を醸し出している屋敷を発見した。外装や立地、大きさの問題ではない。

 

 

 ───何人もの男が屋敷に群がっているのだ。荒い息を立て、顔を紅潮させて。

余り言いたくはないが、股間に膨らみを持つ者も居た。後ろに居る男達は前の者を引き剥がそうとする。前の者は必死に柱や床板にしがみ付く。男達は冷静とはかけ離れた雄の目をしている。

 

 ……うわぁ、気持ち悪ぅ。こいつらのお陰でこの家が何なのか判ったのは良いけど…男ってこんなに気持ち悪いものだったっけ?

 

 ……夜に群がる屋敷なんて一つしかない。そう、「かぐや姫」の住む屋敷。絶世の美女を一目見ようとする者や、姫に惚れて毎晩訪れる者。この光景は物語中で夜這いの語源になったと書かれる程。実際には違うらしいが。

 警察の居る世なら即座に通報する案件だが、生憎警察なんて居ないし、居たとして貴族を捕まえるだろうか?……以前に警官も姫に惚れてしまうだろう。

 

 かぐや姫が実在する事が判った以上、此処にこれ以上居る必要は無くなった。屋敷の場所をしっかりと記憶する為に空へと飛び立つ。碁盤の目で整理されている為記憶する事が容易だ。

 

 現在、京の外れに在る森で食べ物探し中。別に食べなくても死なないが微妙に人間臭い私は何か食べないと気が済まない。米や肉が食べたいとは思うが、別に何でもいい。普通の蛇は小動物を食べる。私は大型の動物や昆虫も食べていた。誰よりも雑食である自身がある。流石に木の葉は食べないが。

 適当に鳥を撃ち落として焼いて食べる。特に下処理もせず、羽毛の付いたまま食べる。私に上品という言葉は似合わない様だ。慣れれば内臓も羽も基本どんなものも食べれる。ソースは私。

 

 さて、このまま寝たい気分であるが、その訳にもいかない。何故かって?このまま寝れば確実に明日の夜まで起きないから。かぐや姫を見てみたいし。急ぐ必要はないが。今は四月から五月頃。かぐや姫が返るまで最低でも四カ月はある。では何故急ぐのか。

 

 ……美女と仲良くなってみたいじゃん。全く下らない理由だな、と自嘲気味になる私。

私の微妙に楽天的な思考もここ迄来ると笑えてくる。抑々会えるのか。五人の男の求婚が許されているのは単に身分の高い者からだろうに。

 

 そんな訳で、ダメ元でも会えないものかと画策する私。ふと一つの案が思い浮かぶ。

かぐや姫の出した五つの難題。その中に「火鼠の皮衣」がある。燃えない布という代物である。それを自作すれば或いは?と考えたのだ。私の能力で温度を固定してしまえば普通の布でも燃えず凍らずの布が出来上がるだろう。出来るかどうかはさておき。

 此の案を考え付いた直後、もう一つ案が浮かんだ。それは私自身が求婚しにいく、という事。……決して私はレズビアンでは無い。歴とした異性愛者である。といっても私の前世に青春のせの字すらも無かったが。恋する事も恋される事も無かった。恋されていないのかなんて分からないが。

 女が求婚出来る訳無い……とも言い切れない。私は変身出来る。昔は女にしか変身出来なかったが、今はどうか分からない。男になれるかもしれない。……と思って男に変身しようとしたものの、無理だった。やっぱり性別は変えられない。そら、ゲームですら性別の変更は殆ど不可能だし。現実で完璧に変えられる事は無い…と思う。

 

 色々と考え事をしつつ、片手間に布を織る。ずっと昔に此の着物を織る為に練習していた程度だけど、スピードなら機織り機よりも少し遅い程度で織れる。……え?布を織る為の糸は何処から出ているかって?そこら辺の草を溶かして一本の糸になる様に冷やせば出来る。質は低いが布切れ一つならこの程度で十分。……勿論、着物に使う糸は別の作り方。

 

 十分程度で布自体は完成した。後は温度を固定する事が出来るか。此方は簡単だった。

火をつけた枝に曝しても燃える事は無かった。取り出して直ぐに触っても全く熱く無い。

 ……作った所で、会えなければ意味が無いではないか。会う方法も考えついていないのにどうやってこの布を見せるのか。無理矢理入る訳にも行かないし。私がそれを持って行っても怪しまれるのではないか。

 ……作ったはいいが、渡す機会が無いのでは?……それじゃこの布を作った意味はないな。

 

 全く意味の無い案だけがポツポツと浮かぶ中、結局私は妙案を思いつく事が出来ずにいた。かぐや姫を見たいだけなら屋敷をこっそり覗いてしまえばいいが、それでは仲良くなる事は出来ないと思う。

 まぁ、仲良くなれなくとも、姿は一目見ておきたい。バレない様、慎重に侵入すれば大丈夫だろう。その為には、陰陽師やらに悟られない様に妖力を隠して気配を殺す必要がある。暫くの間その練習をしておこう。大体あと三カ月はあるからそれまでには終わるだろう。

 

 

 

 

 

 一カ月程練習した頃には、そこら辺の陰陽師のすぐ後ろから刀を突き付けても全くバレる事は無い程度になった。しかし、まだ未熟な為実力者には一瞬で見つかる。その為まだ練習は続いているが、同じ事をやり続けるのは直ぐに飽きてしまうから、練習に飽きてきたときは暇つぶしをする。

 今やっている暇つぶしは、能力を用いた実験。自分や他の生物、物質等に影響する能力の範囲など。辺りには焦げた木や血液だけを氷結させられた兎、自分に対する実験の結果である、どこぞの海賊漫画の敵大将の様に高温で溶けつつも固体として形を保つ左腕。3米程前方に生み出された自分の分身……とはいっても、蜃気楼による実体を持たないものだが。

 重水素なんかがあれば熱核反応も起こせたかも知れないが、流石にそんな技術は無い。私は温度を操れるだけ。物質を生み出す事は出来ない。服も最初は自分で織ったものだし。

 

 色々と実験している内に日は明けていた。流石に明けてすぐに行く事はしないが、日が明けてから少ししたら人は起きるだろう。その少しの間に飯でも食べるか。

 

 そこらの枝を集めて焚火を起こし、先ほど凍らしていた兎を拾って焼く。毛を抜かずに丸焼きにする。凍っていた兎の肉が一気に解け、毛が焦げてパラパラと落ちていく。焼き切れた皮の間から脂が滴り落ち、火が一層燃え上がる。五分も焼けば私が食べるには問題ない程度に焼き上がる。妖怪は肉体的な病気には罹らないというが、少し焼かれた肉の方が個人的には美味しいと思う。

 

 焼き兎を平らげた時には、既に陽が高く昇っていた。京まで飛んでいくと、様々な人が京から出たり入ったりしている。朱雀大路には教科書でしか見たことのない牛車(ぎっしゃ)が通っている。

 相変わらず、かぐや姫の屋敷には覗きが居る。流石に仕事があるのか、通りかかりにちらっと見ているだけの様だが。

 

 屋敷とその周辺を観察している間、特に目新しい事は起きずに夜になった。案の定、屋敷には五人の男達が集まってきた。笛を吹く者や、和歌を詠む者など、少し前の様な覗きではないので見た目の気持ち悪さはないが、歌の内容とか男の顔とかが凄く気持ち悪い。

 心の中で罵倒しながら五人を見つめていると、屋敷から翁が出てきて、男達を中に招き入れた。──恐らく、かぐや姫に難題を出されるのだろう。竹取物語の中盤あたりの出来事。絵本なんかだと帝との話が短いのでほぼピッタリ中盤。原作だと少し前半よりのシーンだ。これは必見。私はすぐさま覗きに向かう。覗きとはいっても、横からではなく上から。ただし、寝殿造のこの屋敷には屋根裏は存在しないので、屋根に少しだけ穴を開けて覗く。音は少々聞えづらいが、全く普通に聞える為特に気にはならない。

 運悪く、かぐや姫の顔を見る事が出来ない位置だったが、移動して再度穴を開けた時に気づかれてしまう可能性が有るので、少なくとも五人が出ていくまで移動はしないでおく。

 

 次々と貴公子に難題が出されていく。示された物は全てが幻の一品。男達もこれには動揺したのか一瞬戸惑っていたが、必ずや持ってきて見せる、と意気込んでいた。難題を出す姫の声はどこか退屈そうで、「どうせ持ってこれない」という思考が伝わってくる。結婚する気なんて全く無さそうだ。本当に持ってこれたとしても別の難題を出して追い払いそう。

 

 難題が出された者は今すぐにでも持ってこようと、話が終わった瞬間に、一目散に屋敷から飛び出していく。私は部屋に誰も居なくなった事を確認すると、今覗いていた穴を更に広げ、頭を突っ込んで姫の顔を拝もうとする。頭の通るギリギリのサイズなので落ちる心配は無い。

 ──姫の顔を見た。それはそれは言葉で表せない程美しかった。だが、問題が一つある。

 

「──覗いていないで、こっちに来なさい、(.)(.)さん」

 

 そう、覗きがバレたのだ。妖怪である事まで。



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蛇の眼は野の全景をおさめたり?

あんまり関係ないサブタイ第二弾。


「──覗いていないで、こっちに来なさい、妖怪さん」

 

 覗きがバレてしまった。それはさほど重要ではない。問題なのは種族まで見抜かれている、という事だ。妖力を出来る限り抑え込んでいるにも関わらず気づかれるという事は、そこらの陰陽師よりも力量が断然上であると考えていいだろう。その気になれば私程度の妖怪なぞ赤子の手を捻るより簡単に殺せるだろう。

 ここで逃げようとしたとしても、少しでも逃げようとする素振りを見せたなら即座に殺せるかもしれない。相手の力がどれ程か分からない以上、最善手は大人しく言う通りにする事だろう。

 

 私は大人しく従い、屋根の穴を広げ、床に落ちる。勿論、綺麗に着地する。

  

「──何故、覗きなんてしていたのかしら?襲いたいのなら堂々と入ってくれば良かったじゃない」

 

 聞かれたからには嘘は吐けない。というか、嘘を吐いたり隠し事をするのは苦手。聞かれなくとも嘘は吐けないだろう。……でも、これ言っていいのかなぁ。

 

「……姫の姿を見てみたかったからです。可能なら友達になろうと思ってました」

 

 嘘は吐いていない。正直に話した。少し恥ずかしい。

 別に、友達になれるとは微塵も思っていなかった。──けど。

 

「いいわよ。友達になってあげる。……但し、私を退屈させない事。それと、敬語も必要ないわ。もっと気楽になさい」

 

 あっさりと承諾された。条件も付いているが、それも大したものではないだろう。

 

「わかりま……わかった。じゃあ、これからよろしく…と、その前に、自己紹介からだね。私の名前は咬摘。今は人型だけど、種族としては蛇の妖怪」

 

「私は、蓬莱山 輝夜。一応、人間よ」

 

 ……知ってる。月の人間だから、一応、が付くのだろう。まぁ、それを口に出すことはしない。

怪しまれるだけだし。転生した、なんて事は言える訳もない。

 

「改めて、よろしく、輝夜」

 

「こちらこそ、咬摘」

 

 

 ──こうして、また一人友が増えた。ただ、これが切っ掛けとなって、とんでもない厄介事に巻き込まれる事など、当然この時の私は知る由もなかった。

 

 

 ……友達になってから数日。本当は毎日でも輝夜に会いに行きたかったが、頻繁に来られると気づかれるので、三日に一度だけ行く事になった。丁度昨日行ったので、二日間、暇が続く。

 輝夜と話している間は楽しいのだが、その分一人になると物凄く暇になる。一日中ぼーっとしているときも屡々あった。最初の頃は何を話すか考えるのに時間を費やしていたが、私の話す知識は悉く「知ってる」で返されてしまう。流石に現代の事を話す訳にはいかないので、私が妖怪の時に経験した事しか話せないのだ。かといってそれでは飽きられてしまうだろうから、現代の知識を活かして遊びを考えている。それも結局すぐに飽きられてしまうが。

 前世でも経験した事が無い程の暇な生活。何せ、基本的には食事をとる必要が無いから、それ以外の用事が無ければ殆ど動く事は無い。腹が空くのは一月に一回程度。

 

 そんな暇な生活をしている時、ふと妙案が思い浮かぶ。

 ──そうだ、神社のあの子に会いに行ってみよう。あまりに喋る相手がいないと、一度しか会った事の無い人とも喋りたくなってきてしまう。

 

 と、言う訳で、現在飛行中。後から気が付いた事なのだが、妖力を隠している状態でも飛ぶ事は可能なようだ。ただ、余り速度は出ない為、基本的には使う事は無い。

 その実験中に更に判明した事が、妖力を出来る限り隠していれば、殆どの神社の神域に立ち入っても大丈夫だという事。但し、出雲大社の様な高位の神が祀られている場所には立ち入れない。

 勿論、霊紀の居た神社に入れるのかは既に試している。容易く入る事は出来たが、力を上手く出す事が出来なかった。まぁ、当たり前。

 

 

 ……到着。この神社は名を『博麗神社』という。参拝者は少なく見えるが、周りに人が余り住んで居ない事も一因。町よりも集落といった方が良いか。

 そんな場所に建つ神社。当然ながら権力は強い……と、思いきや、そこまでの権勢は無い。その原因としては、当主となるのは女で、女よりも男の方が力を持つこの時代では見下されてしまう。

 ただ、その当主は巫女。更に、この博麗神社の巫女は妖怪退治をするらしい。妖怪が現れた時だけは皆が言う事を聞く。

 

「おーい、霊紀ちゃん、居る~?」

 

 その神社には、今、一つの問題が発生している。どうやら、神社には霊紀しかいないという。母親の現当主は確かに霊紀の持って行った鈴蘭で回復したらしいが、その後、自分を襲った妖怪を祓うとだけ言い残し、行方不明に。神主はかなり昔に死亡した。残されたのは子供一人のみ。何とか周囲の者に助けられて生活できているが、それも時間の問題。この状況で妖怪に襲われれば為す術もなく全滅するだろう。現に、私という妖怪が民の頼りの神社に侵入出来てしまっている。襲うつもりは無いけど。

 

「……誰もいないのかなぁ」

 

 呼びかけにも空しく、返事は帰ってこない。どこかに出かけているのだろうか。仕方がないので帰ってくるまで待つ事にする。外で待つのも退屈なので、家の中に入らせてもらう。許可は無い。

この家、本殿と繋がっているようで、本殿の入り口からでないと入れない。窓の様なものも小さすぎて蛇になっても入れそうにはない。

 

「お邪魔しまぁ~す」

 

 勿論、返事は無い。

 

 本殿の入り口は実質的な玄関となっており、ここだけ見ると神社とは全く分からない。他の部屋も同様で、現代の和室とさほど変わらない。

 さて、何をして待とうかな。料理しながら待ってるとデキる女子に見えるかも。まぁ、道具も食材も何も無いけど。

 ……この家、特に目立つ物が無い。有るのは必要最低限の家財といかにも神社らしい巫女装束だとか、神事に使う道具だとか。想像以上に何も無い。食べ物すら無い。そのくせ使ってない部屋は無駄にあるから、元々はそれなりに裕福だったのかもしれない。

 

 ……物色をしている間に、家主は帰ってきたようだ。まだ家に入っていないけど、私の温度センサーちゃんが反応したから間違いない。さーて、どうやって迎えてやろうか。怖がらせない様にしないと、きっと嫌われてしまう。妖怪なんて嫌われてナンボだけど。

 

 ……そうこう考えている間に、霊紀は目の前に居た。とても分かりやすい驚愕の表情をして固まっていた。ちょっと申し訳ない。ちょっと。

 

「やっほ。こんちわ」

 

 怖がらせないように、かる~く挨拶をする。ほーら私は怖くないよー。優しいお姉さんだよー。

 

「………………。」

 

 やっぱり固まっている。すごいジト目で見てくる。もしかして、忘れられてる……!?

 

「えーと……お、覚えてない?ほら、咬摘だよ、咬摘。名付けてくれたじゃん!」

 

「忘れてるわけない。……それより、何でここに居るの?」

 

 そりゃそうだ。いくら知ってる人でも、勝手に家の中に入られるのは嫌だろう。不法侵入ってやつ。

 

「あぁ、えぇ~っと……返事が無いから、寝てるのかなぁって…………」

 

「……もし私が寝ていたら、どうするつもりだったの?」

 

「んっと、その~……起きるまで待つつもりでした」

 

 実際、待つと思う。襲う事はしないと思う。多分。

 

「まぁいいや。……で、何しに来たの?」

 

 うーん。まぁ、考えてはいたけど。ちょっと恥ずかしいな。……というか、自分がやりきれるか心配。

 

「──生活、困ってるんでしょ?私が何か手助けしてあげられないかなぁ……って。ほら、名付けて貰った恩もあるし。恩返しがしたいの」

 

「ありがたいけど……食事に困ってるわけじゃ…………」

 

「ふむ……妖怪退治の仕事、あるでしょ。私もあまり詳しくないけど、身体を鍛えさせる位は出来る。……つまり、修行に付き合ってあげる、ってこと」

 

 自分を鍛えるのは独学じゃかなり厳しいだろう。それに、人にも宿る妖力の様な力、霊力を扱えるようになるには、教えてもらわなければ無理だろう。私は他の妖怪が行使する所を見たからこそ扱えているが、霊紀の周りに霊力を操れる人間は恐らく居ない。

 

 「…………わかった。お願いします」

 

 霊紀はあの時の様な御辞儀をして、それから顔を上げた。その表情には多少の喜びが含まれていたが、口角が上がったりはしなかった。

 

 

 

 ……結局、輝夜の所に行かない日は神社で過ごす事になった。修行はするにはするが、霊紀の呑み込みが早く、一日の内二時間弱しか修行は無い。それ以外の時間は談笑したり、食事したり。普通に暮らしていた。

 対して、輝夜は最近は愚痴ばかり。帝がしつこいだの、貴公子の対応が面倒くさいだの。そんな事を聴いてあげながらトランプ擬きで遊ぶ、というような事を繰り返している。最初は緊張しながら話していたが、今ではお互い家族の様に接している。

 そんな輝夜は時折、空の月を眺めては溜息を吐いている。十中八九月からの迎えの事だろうが、話を聞こうとしても直ぐに話を逸らされてしまう。

 しかし、私は輝夜が月に帰ってほしくはない。誰だって、友人が遠くへ行ってしまうのは出来る事なら拒否するだろう。

 月からの迎えが来るまで残り僅かひと月ほど。それまでに何か考えておかなければ……

 

 

 ◇

 

 

 

 

「……ちょっと、頼みたい事があるのだけど。いいかしら?」

 

 ……もしかして。

 

「何?……って、随分と真剣な顔してるけど、そんな大事なの?」

 

「まぁ、大事ね。…………実は、私は月から来たの。それで、八月の十五夜に月からの迎えが来る。……頼みたい事は、その迎えから私を隠す事」

 

「うん……まぁ、普通の人間じゃないだろうなぁとは常々思っていたけど。戦えばいいの?」

 

「普通じゃないって、どういう意味かしら?……こほん。戦う訳じゃないわ。月の戦力じゃ地上の存在なんて足掻けもしないわ。まぁ、迎えの中の一人に私の味方が居るから、協力してもらえば大丈夫。貴女に頼みたいのは、隠れ家の用意。迎えを欺くのはこっちでやるから、貴女は隠れる先を見つけてくれればいいわ。出来る限り、人も辿り着けない様な場所をお願い」

 

「随分と難しい注文だね……。まぁ、頑張ってみるよ」

 

「じゃあ、お願いね。この事は家族にも言うわ。ま、確実に兵士にこの家を警備させるだろうから、当日以外は無理に来なくても大丈夫よ」

 

「分かった。でも、頑張って来てみるよ」

 

「ふふ。無理しなくていいのよ。……家族には今日の内に言うつもりだから、そろそろお開きね」

 

 ……なんとも難しいお願いをされてしまった。誰からも見つからない家なぞ見当もつかない。本当に一カ月で見つけられるのだろうか。霊紀の修行もあるし、実質二週間程しか猶予は無い。

 まぁ、お願いされたからには全力でやるしかない。助け合いを忘れてはいけないし。それこそが良い意味での人間らしさなのだから。

 

 

 ◇

 

 

 

 

 家探し。結論から言うと、最適な場所があった。……しかし、余りにも最適すぎて、私自身帰れなくなってしまった。かれこれ五日は経っただろう。家探しの序盤に見つかったのは良かったが。下手すればひと月後までに間に合わない可能性もある。それに、霊紀の所にも行ってないから心配。何も無ければいいけれど。

 

 ……家は比較的綺麗で、立派だった。周りには広い竹林があり、空から見ても家は見る事が出来ない。竹林は迷路の様で、迷い込んでしまったのか、人の亡骸が幾つも転がっていた。

 私は空を飛べるのだから竹のない上空から帰ればいいのでは。そんな事はとっくに試している。

勿論失敗した。上に向かって飛んでいると思っていたら、数秒後には地面に激突していた。ここに居ると平衡感覚が狂ってしまう様だ。

 今は視覚をシャットアウトして竹林の外の温度を頼りに歩いている。温度を形として受け取れば温度が変わっても位置は分かるままなので、非常に頼りになる。このままいけば一日もかからずに脱出できるだろう。ただ、障害物を避けると場所が分からなくなる可能性があるので、何かにぶつかったら、それを壊しつつ進まなければいけない。その時に出る音の所為で幾度となく木端妖怪に襲われた。

 

 ……お、脱出できた。全力でダッシュし続けた甲斐があったなぁ。

 

 目を開ける。そこには、竹は一本も生えていなかった。私は思わず歓喜の声を上げる。

 

「ぃよっしゃー!」

 

 そしたら、また妖怪が出てきた。うそぉ……パト〇ッシュ、私はもう疲れたよ。

 

 

 いや、まぁ、疲れてても負ける事は無いけど。無事に京の近くまで帰ってこれた。今はもう夜なので霊紀に会うのは明日。心配させてしまっているかもしれないが、夜に会いに行くのは迷惑。仕方がないので野宿。そういえば、最近は霊紀の所に寝泊まりさせてもらっているから、久しぶりに外で寝る事になる。

 

 ……木の上ってこんなに寝心地悪かったっけ?



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蛇別離苦

ギリギリセーフ。


 ──朝。陽が昇ると同時に起きる。気持ちのいい目覚めだ。

 さて、今日は霊紀の所に行くつもり。合計で六日間も音沙汰が無かったのだから、心配してくれているだろう。そうじゃなかったら悲しい。

 

 

 

 到着。相変わらず静かな神社。来る度に誰も居ないのか錯覚するけど、霊紀が居なかった事は最初の一度しかない。

 

「やっほ~!居る~~?」

 

 本殿の中からでも聞こえる様に思いっきり叫ぶ。こうすれば、霊紀は出てくる。面倒くさそうな顔をしながら。

 

「……遅い!」

 

 ほら。怒鳴りながら出てくる。でも顔は怒ってない。その代わり、修行用の木刀を持っている。そのせいか、僅かな殺気を放っている様に思える。いや、絶対そう。顔は怒ってないけど、動きの一動作に力が込められている。このままだと本当に木刀で頭をかち割られそう。

 

 

 

「……すいませんでしたーっ!!」

 

 

 

 私は今、正座をしている。勿論、教え子からの説教を聞いているのだ。かれこれ一時間以上は。

立場的に私がやる様な事を齢六歳ほどの教え子にされるとは。何とも複雑。

 さっきからずっと「貴女が居なかったら」「私が居ないと貴女は」という様な事を言われ続けている。

 

「貴女はですね、微妙に考えが甘いんですよ。自分の行動で何が起きるか考えていない……」

 

 もう今回の件とは関係なくない?なんで六歳児、今でいう小学一年生にそんな事言われなきゃいけないの……

 

「今、目を逸らしましたね?『何でこんな子供に言われなきゃいけないの』って考えていたしょう」

 

 もうやだ怖いこの子。心まで読んでくる。

 

 

 

 

 

 ──結局、説教は三時間以上にわたり、この一件の所為で私の立場が一気に落ち切った所で一日が終わった。……流石に酷い。しかも、霊紀は言いたいことだけ言って、疲れたのかそのまま眠ってしまった。逃げられてしまったのだ。

 

 

 

 ──翌朝。私は説教された疲れで爆睡してしまったらしく、起きた時には既に太陽が真上に昇っていた。お昼時である。しかも、霊紀が居ない。机の上には『出掛けます』と書置きが。どこに行ったんだろう……。近くに行く時はこんな書置きはしないから、遠くに出たのだろうか。でも、そんな用事は聞いてないのだけれど。ちょっと心配。

 

 

 ……と、いう訳で、霊紀を捜索中。近くの民家や林から、出雲大社の近くまで探しにいったが、姿は何処にも無し。一度神社に帰ってみても居ない。

 ……平安京だろうか。霊紀が行った覚えは無いが、行かない事も無いだろう。まぁ、行ってみるか。

 

 

 平安京。相変わらず賑やかだ。……この中から小さい子供を探すのはかなり難しい。砂漠でビーズを、とまではいかないが、渋谷の某交差点で探し物をするようなものだ。探し物をしようにも人や民家が多すぎて見当がつかない。

 

 霊紀が行く場所って、どこだろう。貴族の家には行かないだろうし。この辺りで京にしか無いもの、となると甘味処?事前に内容を伝えないとなると、そこまで大事でもなさそうだし。

 まぁ、見つかるだろう。居なかったら帰って待ってみればいい。

 

 

 ◇

 

 

 霊紀を見つけたのは、陽が少し傾いた頃で、十五時くらい。案外早く見つかったものだ。

 霊紀は甘味処に居た。それは予想の範疇。対して、予想のできなかったこと。それは、霊紀の隣に居た幼子。貴族の子だろうか、かなり綺麗な服を着ていた。二人とも団子を食べている。

 

「霊紀、この子は?」

 

「言ってなかったっけ。ちょっと前に出来た友達の、妹紅だよ」

 

「……初めまして」

 

 何だか、元気のない挨拶。

 

「初めまして。私は咬摘。よろしく」

 

 適当な返事をしておく。自己紹介は苦手なのだ。

 しかしこの子、雰囲気といい、見た目といい、霊紀とそっくりである。雰囲気に関しては出会ったばかりの頃の霊紀のほうが近いか。

 私も一つ団子を注文して、霊紀の隣に座る。

 二人は、余り喋らずに、団子をモグモグとひたすらに食べていた。妹紅の皿には四本、霊紀の皿には三本の串が、二人の手にはそれぞれ一本の団子が。

 今しがた届いた団子を一本、手に取る。その間にも、二人は団子を注文していた。財布のひもが随分と緩んでいるようだ。

 ……しかし、この妹紅という子、どう見ても貴族の娘なのだが、周りに護衛が居る様な気配はしない。流石に無警戒すぎないだろうか。

 そんな心を読んだのか、霊紀が私に説明してくれた。

 

「妹紅はね、見れば判ると思うけど、貴族の娘なの。でも、父親はかぐや姫とやらに夢中で、母親は父親に追い出されてね、妹紅には全く興味が無いみたい。それで、家を抜け出していたところを私が見つけたの」

 

 言い終わると、私から目線を外して、団子を食べるのを再開した。

 成程、あの貴公子の娘か。苗字を聞いてないから分からないけど、貴公子達は皆四六時中輝夜の事を考えていただろう。家族を捨てる程とは思えないけど。

 

「……本当は連れ戻して修行させるつもりだったんだけど、まぁ、今日は良いか。ただ、心配だから私はそばに居るよ」

 

 二人はこくりと頷くと、また団子を注文した。食べ過ぎです。

 

 

 夕方。街灯のないこの時代は、夕方には家に帰らなければ危険。妹紅と別れ、軽く走って神社へと戻る。今では霊紀も私についてこれる位に、足が速くなっている。霊力を操って瞬発力を付けているのだとか。因みに、あのボルトよりも速い。

 

 

 ◇

 

 

 天高く昇る満月。それをまじまじと見つめる、私と輝夜。屋敷の周りには数多の兵士。少し遠くには野次馬が。貴公子の姿もあったし、妹紅の姿もあった。兵士が邪魔で、こっちには気づいていなかったけど。その隣には霊紀がいる。彼女もまた、こちらに気づいていない。私は出掛けるとは言っておいたけど、別に京に行くとは言っていないし、霊紀もまさか私が居るとは思ってないだろう。

 

「……それで、本当に見つからない場所なんでしょうね?」

 

「勿論。それこそ出ようとして何日もかかる程には」

 

 月からの迎えには、輝夜の味方が一人。その味方と共に、輝夜をあの屋敷に連れて行くのが

私の使命である。

 輝夜に似た「式神」という人形のようなものを囮にして、バレる前に竹林の屋敷に逃げ、追いつかれる前に、その味方が結界を張って、外から見えなくするらしい。そして、追いつかれないように、見つかりづらい場所を選んだのだ。

 

 

「──来たわ」

 

 すぐさま上を向く。満月の光を打ち消す程の強い光を放ち、月からの迎えが天からやって来る。

兵士たちは弓を構えるが、戦う気がしなくなったのか、矢を放つ者はほとんど居なかった。一人が矢を放つが、明後日の方向へ飛んで行った。迎えの幾人かが屋敷に降り立ち、偽輝夜は迎え達の気を逸らす為に、歌を詠んだりしている。

 少し離れた所から、なんだか凄く奇抜な服装をした人がこっちに向かってきた。

 私はとっさに身構えるが、輝夜から味方であると聞き、態度を改めた。

 輝夜は味方に私の事と作戦を説明している。会話から、味方は輝夜の従者であるらしい事が分かった。

 

 輝夜の話が終わり、私は輝夜と味方──名は八意 永琳──を屋敷へと導く。かなりの全力疾走だが、二人は疲れる様子もなく空を飛んでついてくる。

 竹林はすぐそこである。幸いにも妖怪に襲われることも無く、迎えに追いつかれることも無く。無事に着いたようだ。

 そのままの勢いで竹林に入り、屋敷へと直行する。探し当てた時のように、すぐに到着した。中に誰も居ないことを能力で確認し、輝夜たち二人を中に案内する。

 

「まぁまぁね。広すぎる気もするけど、狭いよりはマシね」

 

 どうやらこの屋敷で問題ないらしい。

 

「……貴女は一緒に住まないのかしら?永琳は私の従者だから、このままだと友人は居なくて退屈だわ」

 

「……悪いけど、私はまだやることがあるから。一緒に住むのは出来かねるかな」

 

 輝夜がこの屋敷にかける術によって、この屋敷は外界から隔絶される。そうなると、もし私がここに住むことになると、霊紀に会えなくなってしまう。何も言わずに霊紀を捨てることは出来ないし。

 

「そう……じゃあ、また逢いましょう。それまで、死ぬことは許可しないわ」

 

「……分かった。じゃあ……またね」

 

 

 私は二人に見送られながら、屋敷を後にした。ふと振り向くと、そこに屋敷は無かった。

 分かっていたこととはいえ、友との別れは、やはり寂しいものだ。




危うく、投稿間隔は一カ月まで、という自分の中でのルールを破るところでした……。
それ故推敲は大してしていないので、後日手を加えます。


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昏蒙の蛇

シリアスです。
ところで、「シリアス」って、真ん中で分けて出来た二つの単語の意味が同じになりますよね。

ちなみに、主人公ちゃんって、割と性格悪いです。いい意味でも、悪い意味でも、転生後に順応できてるのですね。


 ──十年。長いようで、しかしあっという間に過ぎた。

 都や地方には武士が台頭し始めている。具体的に言えば、平将門とか、奥州藤原氏とか。まだ頼朝は居ないらしい。

 

 霊紀は巫女として、妖怪退治をする者として、女性として。立派に育っていった。未だ結婚相手は居ないが、すっかり美人になった霊紀のことだ。その内ちゃっかり連れてくるだろう。

 

 私はというと、既に神社からは離れて、都の近くの林を拠点にしている。霊紀には自分が妖怪だと明かしていないから、老いない私が人外であると気づかれると困るから。霊紀は自分の親の仇、妖怪という存在全てを恨んでいる。彼女の為にも、霊紀とは久しく会っていない。

 十年程度では大して老いないと、現代人ならそう考えるだろうが、生憎とここは古代。一般人の平均寿命は、現代から見れば非常に低い。

 

 十年前に友達になった妹紅。彼女は今、行方不明。私は輝夜と別れてから見ていない。無事だといいが。

 

 ……こうして昔を回想しているのは、何もやる事が無いから。霊紀が妖怪を退治するのを遠くから見守る位。だから、短い間でも忘れる事のない様に、何日かに一回昔の事を思い出している。

 

 

 まぁ、『暇』というものは、いつの時代も、何かが起きる前触れなのだが。

 

 

 ◇

 

 

 私が都をほっつき歩いていた時の事。通りすがった陰陽師達の会話を聞いて、思わず叫びそうになった。

 

 その内容というのが、大蛇の征伐。大蛇には心当たりしかない。

 そう、私の事。私は相変わらず、定期的に蛇の姿に戻っている。その周期は少しマシになって、今は三週間に一度くらい。……なのだが、戻る度に体長が伸びている。今は、貴族の屋敷の周りを一周半する位。かなり持て余してしまう。因みに、首は一つだけ。

 そのため、場所を選ばないととにかく大変な事になる。うっかり都の近くで戻ってしまえば、九割九分九厘、ほぼ必ず誰かに目撃される。その目撃者が陰陽師だと、見られた瞬間に攻撃してく

る。まぁ、そのほとんどが雑魚陰陽師。私の体に大したダメージは入らない。

 

 ……でも、私の存在が高位の陰陽師に知られたとなると、話は変わる。

 もしも、安倍晴明みたいな、文字通り最強の陰陽師なんて連れてこられたら私は一巻の終わりだろう。…………陰陽師食べなきゃよかった。陰陽師だけではないけれど、目撃者は極力消す(食べる)ようにしてたから、それが原因かもしれない。

 

 ……そういえば、霊紀は都でも一目置かれている。強力な妖怪が出たら、陰陽師と一緒に退治しに行くこともしばしばあった。

 そして、陰陽師の会話を聞いた限りでは、集められるだけ、強力な人物を集めるらしい。

 

 ……ヤバイ。何がって、それはもう色々と。

 

 

 

 夜。作戦を練ることにした。奴らが来るのは明後日。霊紀も来る。見に行ったから間違いない。

 

 まず、霊紀は殺さず、後に残る傷も残さない。これは当たり前。

 でも、それ以外のを皆殺しにすると、(かえ)って不自然。数人の陰陽師だか何だかは目撃者として残さなければいけない。

 次に、私は人型になってはいけない。霊紀にバレるし、相手は『大蛇』を倒しに来ているのだし、相手の知らない情報を渡す必要は無い。

 戦わないで逃げればいいと思うが、蛇の状態で戦い慣れしておくのも大事だし、折角だから戦っておこう。

 

 ……しかし、これが中々難しい。

 別に、私は殺されてしまってもいいっちゃいいのだけれど、私の命の価値観が軽いのは転生だなんて事が起きたからで、もう一度死ねば、次は無い。私は死なずに、霊紀も出来るだけ傷つけず、他にも数人残さなければいけない。しかし、相手も相当の手練れ揃いだろう。

 

 これは中々、骨が折れそうだ。因みに、人間よりも蛇のほうが骨は多い。

 

 

 

 

 

 襲撃の当日。都は騒がしかった。それもそのはず、名高い陰陽師などがぞろぞろと道を歩いているのだ。静かな訳が無い。

 私は、その中に霊紀が居た事を確認した後、陰陽師どもの目的地である、私がいつもいる林に戻り、蛇に戻って、前日のうちに掘っておいた穴に入る。中の広さは、一軒家が二つ分くらい。

 

 ……本当に生きていられるかなぁ……ざっと数えても十数は居た。酒呑童子ですら一桁なのに、なんで私は二桁なのさ…………

 

 

 陰陽師の行列が見えた。大体二十人くらい。

 勿論、馬鹿正直に全員を相手にする訳はない。流石に数で押し切られるだろう。妖力を貯めて、レーザーで戦力を削ぐ。手も足も無いので、レーザーは口から出る。別に不快感は無い。

 

 

 ……流石は高位の陰陽師といった所か、今ので殺せたのは数人だ。こんなものを撃って、霊紀は大丈夫かと考えてしまうが、彼女の動きの方がレーザーよりも断然早いし、動体視力もぶっちゃけ私よりも良い。私が目で追える程度の攻撃を避ける事なんて、彼女には造作も無いことだ。

 まぁ、レーザーで終わりじゃないし。態勢を立て直される前に、地中から尾を出して、力いっぱいに薙ぐ。ほとんどは反応できずに吹き飛ばされ、林の外に消えていった。

 

 残りは十人程度。何だか懐かしい感覚である。まぁ、後は消化試合だ。ちょっと熱いくらいの石をぶつけてやれば……ほら。うまい具合に、死なない程度のダメージで恐怖を与えられる。

 

 それを繰り返して、気が付けば残るは霊紀だけだった。他の何人かは皆逃げ出した。そんな中、彼女だけは私と戦い続けている。逃げてくれた方が色々と楽なのに。

 傷つけたくはないけれど、私から攻撃しないのも不自然だし、まぁ、多少は我慢してもらおう。

 

 

 

 ……いやにしつこい。もしや、私を親の仇だと思っているのだろうか。何をしても攻撃してくる。尾を出そうが、顔を出して妖力弾を出そうが、瞬きする間に、霊力や札が飛んでくる。その一つ一つが、妖力の塊である我が身をじわじわと削っていく。

 先ほどから、自分の体を起点にして、周りの空気を死の谷(デスバレー)並にしているのだが、彼女に見られた変化は汗ぐらい。他の人間ならとっくに倒れているだろうに。

 

 このままでは埒が明かないだろうから、眠ってもらう事にする。簡単なことだ。頭に触れさえすればいい。脳の温度を下げるだけ。勿論、最大の急所だから、防御は怠らないだろうが、ほんの一瞬、掠りさえすればいい。

 

 身体全体を地中から出す。突然の行動に、彼女に少し動揺が見られるが、そんなことはお構いなしに、私は尾を勢いよく薙ぐ。彼女は飛んで避けるが、予想の範疇内だ。薙いだ時に発生した風を伝い、彼女の足から胴へ、胴から首へ、そして脳へ私の能力を伝播させ、彼女は空中で静かに眠った。

 落ちてくる霊紀に尾を優しく巻き付けて落下を止める。それからゆっくりと地面に降ろす。そうしたら、周りに誰も居ないことを確認し、人型になる。

 倒れた彼女を抱えるために、手を伸ばした瞬間、

 

 

 

 ────勢いよく手が弾かれる。

 

 何に? ……霊紀の腕に、ではない。彼女の体を見れば、うっすらと、結界が張ってあった。妖力を反発させるものだ。私の腕は黒く焼け爛れている。

 

 腕を確認する為に、目線を下に向けた時。横たわっていた筈の、彼女の体が無かった。

 

 立ち上がっていた。その表情は複雑怪奇で、私には全く分からない。唯一つ分かったのは、少なくとも、その表情に、再会の喜びなど、微塵も含まれていない事。

 

「…………なんで」

 

「……さぁ、ね。私にも分からないや」

 

 私にも分らない。判らない。解るのは、このまま、ハイさようならとはいかない事だけ。確実

に、戦う事になるだろうなぁという、諦めにも似た考え。私が恐れていたことが、いとも簡単に起きてしまった。

 

「あぁ……なんで、何で失敗したのかな」

 

「…………」

 

 彼女は沈黙し、ゆっくりと、いつか私が千回位打って、その中で一番上出来だった刀を構えた。彼女に武器として与えたものだ。その刃が、今私に向いている。

 

「出来れば、戦いたくないな」

 

「……無理よ。貴女が妖怪だったなら、私情なんて関係ない。……滅するまで」

 

 私は内心ため息を吐いて、ゆっくりと腰の刀を抜いた。数百の命を刈った、妖刀ともいえる、禍々しく光る刀身は、ただ在るだけで威圧と恐怖を与える。

 その圧に彼女は怯まず、刀を持つ手の力を強くした。

 

 ついさっきまで家族同然だったのに、今はこうして互いに刃を向けている。そして、どこか遠くで鳴いた鳥の声を合図に、その均衡は崩れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──今になってようやく、命を奪う、という行為の重さを知った気がする。それは、自分から見て相手の命が重かったから。

 では、今までに奪った命は軽かったのだろうか。決してそんな事は無い。全て、必死に生きてきた命。そこに軽重は無い。そう思ってきたから、私は割り切って命を潰してきた。仕方が無いのだと。

 

 しかし、私は未だ、一人の少女を殺せずにいた。私の向けた刃は、とうに彼女の首元に突き立てられていて、彼女の刀は、お祓い棒は、札は、針は。全て弾き飛ばされていて。両腕両足、その他の関節は全て氷に閉じ込められていて。

 それなのに、彼女は絶望していない。悲観的な表情もしていない。きっと、私が、彼女を殺さない、殺せない事を分っているのだろう。しかし僅かながら怒気を感じる。

 

「……ねぇ。殺さなくても、いいよね?」

 

「……分かっていたわ。貴女のその甘ったるい考え。どんな奴だって、敵になって、自分や仲間に危害を加えるなら、容赦はしない。……それが、当たり前ってものじゃなのかしら?貴女は甘いのよ。吐きそうなくらいにね。……殺しなさい、敗者が逃げ延びて、何事も無かったように生活する。……そんなの、私はしたくはないわ」

 

 私は、どうしようもないくらいに、現代日本人なのだ。平和ボケしていて、『話せばわかる』『なにか深い理由があるのだろう』……そうやって、甘ったるく生きていくから、生命の決断を迫られた時に、何も決められない。迷って迷って、最善とは言い難い選択をする。

 

「殺しなさいよ。……早く。動けない私を見て愉しんでいるとでもいうのかしら?」

 

「……違う。私はただ、」

 

「それよ。言い訳して、何とか策を練って、自分にとって都合のいい様にしようとする。私は貴女の玩具じゃない。貴女の思う通りに動かそうだなんて考えないで」

 

「霊紀は……死にたいの?」

 

「死にたくない……と言いたいところだけどね。生憎と、私はどうやら死にたいみたいよ」

 

「そっか…………恨まないでね?私は、それでも自分のやりたいようにやる。……私は妖怪だもの。傲慢で、自分勝手で、愚かで、天邪鬼な、妖怪なの。だから残念、霊紀の願いは叶えられそうにないな。それどころか、ちょっぴり悪戯したくなっちゃったな。だから、もう一度言うね。……恨まないでね?」

 

 ──私は、斬った。他の誰でもない、自分自身の腕を。

 痛い。痛い。けれども、私は、この古代に産み落とされてから初めて、愉悦を感じた。

 

 ……私は、どこかズレていたのかもしれない。自分の血を分け与える行為が、どれ程残酷な意味を持つか知りながら、それを実行して、あまつさえ愉しいなど。

 

 きっと霊紀は許してくれないだろうな。死ぬまで恨むだろうな。霊紀の将来も不安だけど、見た目に変化は無いし、身体能力以外に変化はない。寿命だって、人よりほんの少しだけ長い程度だろう。そうなるように加減した。他ならぬ自分の血なのだから、それ位はお茶の子さいさい。

 

 霊紀は呆然とした表情で固まっている。いや、まぁ関節が固まってるし、動けないのは当たり前だけど。

 

「お誕生日おめでとう、霊紀」

 

 その祝福は、果たしてどんな意味を持つのか。それを言った私にもよく判らなかった。




主人公ちゃんは転生というプロセスを踏んでいて、なおかつ現代日本人なので、生と死、どちらも彼女の中では非常に軽いのです。
簡単に延命させたり、何も思わず殺したり。軽いですね。
本当に、性格の悪い娘です。最初はここまでじゃなかったのですが、書いていく内にいつの間にかこうなってました。
刀についてですが、大した意味はありません。忘れてもらって結構です。


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猿の顔、虎の手足、尾は蛇

※原作キャラの口調はなるべくゲームでの口調に合わせます。なので、キャラのイメージが違う、ということが起きるかもしれません。


 

 

 ──ヒョォォォ。甲高い音が何処からか響いている。金属の出す様な得体の知れない音は人々を少し前から人々の心胆を寒からしめていた。私は知識として知っているし、古代とはいえ野山に住む者なら正体は分っているかもしれない。

 

 それは、トラツグミ──『鵺』と呼ばれた鳥の鳴き声である。およそ生物の出す音とは思えないその鳴き声は、神妖の消えた平成の世でさえ人々を恐怖させた。時にはUFO、未確認飛行物体の出す音とさえ言われていた事からも、いかにこの鳴き声が肌骨(きこつ)を驚かせるものであったかが判る。鳴き声の一つで人々の恐怖を煽る小鳥。そこらの妖怪より断然恐れられている存在と言えるだろう。

 

 平安の鵺と言えば、頭、胴、尾と、どの部位も、異なる生物の特徴を持つというキメラである。

 しかし、昔から云われる『鵺』とは、トラツグミの事である。しかし、どちらもまた正体不明であった事に変わり無く、いつしか同一視されるようになった。

 

 二つの存在によって、現在平安京は恐怖のズン……どん底にある訳だが、蛇の特徴を持つという理由一つで、何故だか私への恐れも増えている。それはそれで私の強さも上がるし、あまり気にしていないのだが、『鵺』という妖怪、それに私は非常に興味を持っている。

 

 別に大層な理由は無い。現代日本に伝わる妖怪の中でも、トップクラスの知名度を誇るかの妖怪を一目見たいという、いつぞやの姫様の時と同じ理由。

 そういえば、現代日本で一番有名な妖怪って何だろう。酒呑童子か、鵺か。はたまた、のっぺらぼうか。もしかしたら鬼〇郎かも知れない。あれは完全に空想の産物だけれど、妖怪自体人間の心から産まれた訳だし、大差はないか。

 

 さて、都には弓やら刀やらを持った者が沢山いる訳だが、未だ鵺は仕留められていない。妖怪退治で有名な頼政はまだ活躍していないという訳だ。

 しかし、晴明と頼光は、あれはもう人間ではないと思う。多分私じゃ勝てない。恐怖に打ち勝った人間程怖いモノは無い。私は戦闘狂ではないし、戦うなんてまっぴらごめんだ。

 霊紀は人間でなくなったけど、まだまだ頼光程の実力は無い。当然、あれから会っていないし見ても居ないから分らないが、都で評判を聞くことはすっかり無くなっていた。

 

 ──ヒョォォォ。今度は大分近くで鳴き声がした。見やれば、確かにトラツグミが幾匹か歩いていた。

 

 さらに、近くから人の愉快な悲鳴が聞こえてくる。鵺だと叫ぶ者も居れば、鬼が出たと言う者もいる。大蛇に天狗、怨霊。同一の存在を前にして、人間に見えているモノはどれも違っていた。

 これぞ正しく鵺の特徴。正体不明なのだ。目で見ても、耳で聞いても。ソレは見る者によって全く違う形態をとる。

 私の求めていた鵺の出現に、私はいつの間にか駆け出していた。

 

 

 

 案外にも人の被害は少ない。人々は肉体的にではなく、精神的に痛めつけられているのだ。もっとも、全く被害が無い訳ではないが。

 鵺は、見る者の恐怖の対象の姿を取る。私の目には、いつ対峙したかも忘れた、烏天狗に見えていた。意外と、自覚していなくとも恐怖は植えつけられているモノなのだ。

 しかし、私のもう一つの目には真実が映る。最早蛇の赤外線センサーどころでなく、熱に加えて妖力などの力も見分ける事が出来るようになっていた。そのお陰で、妖術で姿を変えようとも、私には真実の姿が見える。案外便利な力だ。

 

 ……しかし、私は今、非常に困惑している。何故なら、

 

「……女子(おなご)?」

 

「……誰が女子だって!? ……私は正体不明の妖怪、鵺よ!」

 

 その鵺と名乗るモノの正体は、十代前半にしか見えない幼い女子だったからだ。

 

「……まぁ信じてあげる。まずは自己紹介よ。私は咬摘。都で恐れられる大蛇の妖怪よ」

 

「蛇か……私は封獣(ほうじゅう) ぬえ、よ。貴女が思っている程子供じゃないわ。もう二百は生きてるのよ」

 

 そういえば、私の年齢って……

 

「二百、ねぇ……まだまだ子供。私は少なくとも貴女の二十倍は経験豊富よ~。まぁ、十七ですけど」

 

「十七? ……怪しいな。二十倍……四千か。…………って、とんでもない妖怪じゃないの!」

 

「あはは……まぁ、何千年か寝てたけど。だから年を取らない永遠の十七なの。……で、あの鵺がこーんな可愛らしい女子とはねぇ……よし決定。貴女今から私の友達ね。拒否権無し」

 

「はぁ!?…………仕方ないわ。友達とやらになってあげる。その代わり……」

 

「その代わり?」

 

 私はごくりと喉を鳴らして、それっぽく演出する。

 

私と平安京を荒らすわよ!

 

 ……とんでもないヤツ。こんなんだから弓で射られるのでは?

 

「……分かった。私もちょっとイラついてたし、派手にやっちゃいましょ」

 

 

 ──ここに、最悪のコンビが誕生した。

 人でなしの大蛇、正体不明の鵺。後に、平安京を恐怖のどんドコ……底に陥れることになる。多分。

 

 

 

 

 

「ヒィィィィ!助けてくれェーー!」

 

「私の屋敷が!」

 

「死にたくないィィ!……ィギャッ」

 

 平安京は、正に阿鼻叫喚、地獄絵図。たった二人、されど災厄の如し妖怪によって、平安京は荒れ尽くしていた。約四百年後に同じ光景が繰り返されると思うと、ちょっぴり可哀そう。

 まぁ、その二人の妖怪のうち一人が私だし、なんとも言えないけど。というか、自分で災厄の如しって、恥ずかしいな。つい実況者気分で考えちゃった。

 

 ぬえは人々を蹂躙し、私は貴族の屋敷をこれでもかと燃やし尽くす。私の良心によって、内裏は燃えずに済んでいるが。いくら何でも、日本史や記紀神話好きの私にとって、天皇は殺しちゃマズイ存在である。一応彼女にも、内裏には手を出すなと言ってある。納得いかない様子だったけど。

 

 ドサリ。今日で幾百回目の音が、私の後方で鳴った。人が焼けて倒れる音だ。その音を聞く度、私は残虐な気持ちになっていく。理性というタガは今にも外れかかっている。元人間とはいえ妖怪が、人の死んでいく様子を見て興奮しない道理は無い。あぁ、半妖は別として。

 

「さてさてさて……流石にこれ以上やるとマズいかな。人間を狩っても絶やすのはいけないし。そろそろ消火してあげるかな~」

 

 私は軽い冗談のように独り言を呟いて、それから遠くに居るぬえの破壊行動を止め、能力で火災を全部消した。ぬえは相変わらず嫌そうな顔をしているが、流石に自分の糧となる人間が絶えてはいけないというのは彼女も理解しているようだった。

 だが、人間からすれば、ここまで都を荒らし尽くした妖怪を無傷で返す訳にはいかない様で、お札、矢など、遠距離から攻撃を仕掛けてきている。意外にもかなりの人数が生き残っている様で、その中に頼政もいるかも知れないと、私は心の中で一人楽しんでいた。

 

「この程度の攻撃で私を倒そうなんて、随分と自分の力を過信してるのねぇ」

 

 それはあんたもでしょうが。その力を過信しているってのは。

 

「まぁ、油断しないようにね。あんまり甘く見てると、やられちゃうよ?」

 

 私自身は、人間にそこまで恨みつらみは無いし、私に飛んできた矢を投げ返す程度しかしていないが、ぬえは、積極的に攻撃してきた人間に反撃している。ただ、その顔に恨みのようなマイナスの感情は見えず、純粋に人を殺す事を楽しんでいる様だった。人間からすればたまったものでは無いが、妖怪は生憎と他者を労わるという概念は、少なくとも人間相手には持ち合わせていない。妖怪から見れば、人間はいわば家畜なのだから。いや、家畜ですらない。放っておけば生えてくる雑草程度のモノだ。あるいは道端の石ころか。そんなモノに情けをかける人間なぞ居やしない。それと同じ事だ。

 

 そんな石ころ共(人間)が、私の返した矢、或いはぬえの攻撃によって、倒れていく。それでも人間はめげない。必死に私達を討とうとするが、攻撃は一つも通らない。掠りもしないのだ。

 

「そろそろ苛めすぎたし、撤収しない?」

 

「……それもそうね。もっと殺ってもよかったけど」

 

 という訳で、私達は一目散に飛び去る。人の目では追えない速さで。

 

 

 

 ある日の夜。

「妖怪寺?」

 

「そう。何といったかは忘れたけど、何でも妖怪を匿ってたらしいわ。人間の尼が」

 

「へぇ……珍しい奴もいるもんだ。で、それがどうしたの?」

 

「妖怪を匿ってたのがバレて、どっかに封印されたらしいわ。間抜けねぇ。匿われてた妖怪も、皆弱っちかったらしくて、ほとんど屠られたみたいよ」

 

「ふぅーん。別に興味ないからいいや。人間に負ける様な雑魚妖怪なんて気にしてる暇は無いし」

 

「あんた、毎日暇そうじゃないの……」

 

 妖怪寺。弱い妖を人間の尼が匿い、救っていた寺だ。別に共感はできるが、人に実力で負けてしまう様な妖怪は、所詮はその程度だ。まぁ、群れる事で強くする、という目的だったとしても、それでは人間と何も変わらない。

 

 ……私も、考えが妖怪らしく染まってきた。昔は人間の様な思考だったけど。()()から二十年といった所か。すっかり身も心も妖怪になった気がする。

 正に妖怪といえるぬえとはすっかり仲が良くなって、今は行動を共にしている。彼女の正体不明の能力は結構便利で、隠密行動にもうってつけだし、ただ判らなくするだけでも無いらしい。それに関しては見た事が無いので判らないが、とっても凄いモノ、とのこと。是非見てみたいものだ。

 

「前々から気になっていたのだけど、その腰からぶら下げている筒は何?」

 

「あぁ、これはワイン。葡萄を使った酒。ま、もう何千年も中を見てないけど」

 

「酒……呑まないのかしら?」

 

「いや、ね。酒、飲んだことない*1から、ちょっと怖くて」

 

「別に、大したもんじゃないわよ。気分が上がるか下がるか……それは人によりけりだけど、別に飲んでも悪いことなんてないわね。多分」

 

 まぁ、ワインは多分、結構苦いだろうし、あんまり飲む気はしない。いつかは飲もうと思ってるけど。

 

「……酒の話してたら、呑みたくなっちゃった。ねぇ、人間を襲いに行かない?」

 

「また?もう五十回目くらいだけど、襲うの」

 

「飽きないからいいの。さっさと行くわよ」

 

 酒に悪いイメージは無いし、いい機会だから飲んでみようかな。そう決心したはいいものの、まさか酒を飲んだぬえが私に勝負を挑んでくるなんて、この時は全く想像出来なかった。

*1
作者がワインを飲んだことが無い




おめでとうございます!主人公ちゃんはワルな妖怪になりました!





主人公ちゃんの年齢は四千かそこらです。史実より稲作が伝わる時期が大分古くなってますけど、そこは見逃していただけると有難いです。


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