駄作 (匿名希望ただの人)
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今日から俺は……

 最終警告
この作品は作者の自己満足によるものです。
設定や内容、表現、文章、その他全てが滅茶苦茶で薄すぎます。
苦手な方や気にくわない方などは今すぐ立ち去ってください。
読んで気分を害されたり、私生活に悪影響が出る等が起きても作者は一切責任を負いません。自業自得です!
それでも見てしまう物好きの方に一言
「駄作だから期待すんなよ!」
それではどうぞ




ごく普通の部屋で寝ている少年、カズキ。

窓から差し込む光を確認すると、被っていた布切れをどけた。

「ん~……」

寝具から起き上がるとぐーっと、伸びる。

(今日で、この下宿ともお別れか)

というのも、今日からアルセウス学園と言う所へ通い、そこの寮で暮らすことになっている。

朝食を済ませ、食器を片付ける。

時間はまだ六時になったばかり、部屋の掃除にとりかかる。

それは今まで使ったのだから、最後は感謝を込めて綺麗にしてやるというカズキなりの礼儀なのだ。

掃除を終えると、白に黒のラインをあしらったアルセウス学園の制服に袖を通す。

「よし、いくか」

世話になった部屋に一礼をし、昨日荷造りをすませた包みを持ち、愛刀を腰にかける。

扉を開ける、いざアルセウス学園へ。

……その前に大家にお別れの挨拶を済ませる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルセウス学園

全大陸中から神威使いを集め一人前に育て上げあげる養成校。

山の麓に位置し、そこからは街や海が一望できる。

城壁の内は美しい庭園があり、尖塔の校舎が立ち並ぶ、さながら貴族が住む宮殿のようである。

校舎の前では同じく入学してきた生徒達が集まっている。

そこではAからFまでクラス分けされた生徒の名前が書いてあった。

カズキは人混みをかき分け前に行くと自分の名前を探す。

(俺は、Fクラスか)

一番最後のクラスだが、一番前に名前が乗っていたのでパッと見ただけでわかった。

「おいおいマジかよ、Eクラスかよ」「おいFクラスなんてあったか?」「知らね、Eよりもやばいやついるのかよ」「Aクラスはやっぱり人数少ないな」「Fもな」「お前とクラス違うのかよ」

などと生徒の会話が聞こえる。

そう、このクラス分けはただのクラス分けではない。

個人のレベルに分けられたクラスなのである。

そんなことは、当然カズキは知らない、何も知らないで教室へ向かう

 

 

案内通り廊下を歩き、ついた部屋の中へ入る。

古代の劇場のような造りの教室、机や椅子は木製で出来ており二人で一つを使うみたいだ。

「そこ、立ってないで座れ」

教室を見渡していると、教壇に立つ制服と同じデザインの服を着た女性がカズキに人差し指を差す。

「貴様、名前は?」

「イオリ・カズキ」

「じゃあそこの席に座れ」

名簿を見てから一番前の右端の席を差す。

言われた通り座って待っていると、生徒達が次々と入ってくる……次々と、次々…………と?

何名か入ってきただけで、それから誰も入ってこない。

(あれだけ人数いたのに、こんなに少ないんだな)

不思議に思っているカズキ、その隣に座る少女。

ここの女子用の制服を身につけ、カズキと同じ『刀』を背負っている。

さっそく挨拶をしようと声をかけてみる。

「おはよう。俺はイオリ・カズキだ、同じクラス同士仲良くやろう」

軽い挨拶をした。カズキはそう思っているが、少女はじーっとこちらを見てくるだけだ。

神々しく輝く白銀の長い髪、見るものを引き込む美貌に思わず見とれてしまった。

「あなた、面白い眼してるわね」

彼女はそう呟いた

「いや、そっちの方が面白いぞ」

なにせ、彼女の眼は両方とも違う色をしているからである。

右眼は真紅に輝き、左眼は蒼く深みを帯びている。

オッドアイという珍しい瞳はカズキは少女に会うまで見たことがなかった。

「黒い瞳に赤が散っている……珍しい」

カズキの言葉を無視して少女は続けて喋る。

「そ、そうかい」

「あ、私はサクラギ・リューク」

「リューク?」

「うん、本当はリュウク。だけど皆言いにくいからリューク。よろしくね」

そう言うとリュウクは手をカズキに向かって差しだす。

「おう、よろしくなリュークさん」

カズキは、手を握り笑顔で答える。

「よし、全員揃ったな。私がFクラスの担任、レイカだ」

伸ばした黒髪を後ろで結んだ20代前半くらいの女性。さっきカズキに席に座るように指示した人だ。

「まずは、自己紹介だ。一番右側の列から順に前へでろ」

一番右側の列、当然カズキがトップバッター。

教壇の前に立ち、生徒達の方を向く。

生徒の人数は5人。広い教室が更に広く見える。

「イオリ・カズキ、よろしくな」

そう一言告げ、一礼をすると元の席へ戻っていく。

「……はぁ、まぁいい。次いけ次」

レイカは呆れたように言う。

本来なら一言、二言、言うのだがカズキは名前と軽い会釈で済ませた本当に軽い自己紹介になった。

周りの印象は礼儀を知らない、変わった人と思われたのだが。

当然カズキはそんな事は思っておらず、皆の自己紹介を真剣に聞く。

「男3人女人3在籍6名、最低1年間一緒のクラスになるんだ。仲良くするんだぞ」

レイカが言うが、なぜかクラスの雰囲気は悪い。

「お前達は入学テストで最底辺だったやつらの集まりだ。神威が使えない、成績が悪い、問題だらけの落ちこぼれだ」

なるほど、落ちこぼれが集まっているからこんな人数が少ないのか。

落ちこぼれ……落ちこぼれ……落ちこぼれ!?

(俺も落ちこぼれなのか!?)

ここでようやく自分がどの立場なのかを理解したカズキ。そして、自然と笑みをこぼしていた。

まだまだ強くなれる。喜びの笑みだ。

「悔しかったらこの1年で成り上がってみせろ」

よく使われる言葉だが、それは彼の意欲を引き立たせた。

(今日から俺は、ここで強くなる!)

ここは、最高の場所で最高の環境だ。

「お前らを一人前にする為に私も協力する。まずは交流を含めて実力テストを行う。全員外へでろ」

レイカは、窓を指差す。

 

 

 

 

 

 

 

生徒達はグランドと呼ばれる広場に出る。

「先生、実力テストって何をするのですか?」

「なに、簡単だ……今からを模擬試合をしてもらう」

「えぇ?ここでやるんですか?」

「当たり前だ、試合場は上級生が使っている」

「……アストラルエーテは使わないのか?」

「互いの実力を解り合うのに、そんなものはいらないだろ」

「で、でも、もし怪我したら」

「大丈夫だ、神威は私達を傷つけない。それとも痛いのが怖いのか?」

生徒達の質問に答えるレイカ先生。

(神威か……)

カズキは神威について思い出す。

神威とは、古代より神が全ての種族に与えた神聖な力。

量には個人差があるか、誰しも宿すものであり一種のエネルギーのようなもの。

効果は、大まかに言えば強化である。

例えば刀に流せば切れ味が良くなり硬度もあがる。

また、神威を練り具現化させる事で自身がイメージする武器、神威装武装(ミスフォルツァ)を造る事ができる。

(……確かこんな感じだったな)

アストラルエーテとかよくわからない言葉が出たが、皆は理解しているようだ。

これくらいカズキの知識は乏しい。

何せ、カズキは神威というものはアルガト王国に行くまでは知らなかった。

最低限の知識と基本の扱い方はわかったのだが、武器を造りあげるほどの技術はなく、神威の量も少ない。

それは、カズキがFランクにいる理由でもある。

恐らく大体が神威の扱いが最低ラインなのだろう。

「ぐちぐち言うな、できないなら退学にしてやってもいいんだぞ」

その言葉に生徒達は静かになる。

「ルールは簡単だ。一対一で戦い、一度でも地面に倒れたら負け。相手は自分達で選べ、必ず神威を使う事だ」

そう言うと煙草を取り出し吸い始める。

はやくしろ。その意図をくみ取ったのか、生徒達は慌てて決めだす。

さっそくカズキも相手を探す。

出来るだけ強そうな奴がいいな。

「おい、田舎者。俺とやろうぜ」

カズキの肩を掴み、無理やり振り向かせる。

目の前には怖い顔をした男がいた

制服の上に黒のコートを羽織った、顔は深く被った軍帽のせいでよく見えないが、そこから覗く赤い瞳が炯々と輝く様は不気味である。

自己紹介の時に見たことがある、確か。

「ジュエルマンだっけ?」

「ジェルマンだ、ジェルマン・オルガノート」

カズキの名前間違いにキレたのか、大声をあげる。

「あら、あのジェルマンとやる気ですの?」「ほう、あの狂人と」「はわわわ」

数少ない生徒がザワザワし始める。

それほど、この男は有名なのだろうか。

「前戯は終わりにしようや、さぁやろうぜ」

「おう、受けてたとう」

カズキとジェルマンは生徒達から少し離れ互いに向き合う

「こいよ」

「なら、遠慮なく」

カズキは一礼をし、刀を鞘から抜き構える。

刀から微かに白い光を放っているのは、神威をまとっている証拠だ。

「はぁ」

キィンと甲高い音が響く。

「なかなかの速さだな」

棒の先に鉄球がついたトンファーで受け止める。

「殴り殺してやる」

そのトンファーを両手に持ち、鉄球がついた方を相手の方へ向ける。

「ふん」

鉄球を縦横無尽に振り回す、カズキはかわし後ろに距離を取り隙を見計らって刀を上から下ろす

その一撃は速く避けれない、すかさずトンファーで受け止める。

「ぐぬぬぬっ」

片手で受け止めきれないと悟ったジェルマンは、もう片方のトンファーを使い押しきる。

「死ねぇ」

体勢を崩したカズキに渾身の力を込め横に振るう。

ブゥン

カズキはしゃがんでかわすと、そのままジェルマンの胴を掴み押し倒す。

「……俺の勝ちだな」

首元には刀が向けられており、完全に勝負は決まっていた。

刀を鞘に納め、倒れているジェルマンに一礼をする。

「ふざけるな。こっからだろうが。」

「よせ、ジェルマン。試合に負けて勝負でも負ける気か」

カズキを殴りに行こうとするジェルマン。だがレイカ先生に止められ、舌打ちをながら観戦している生徒の所へ戻る

「さぁ、次は誰だ。はやくしろ」

(なるほど、そういうことか)

レイカ先生の意図を読み取ったカズキ、なぜ顔合わせの時に模擬試合などしたのか。

それは、ほとんどの人がクラスメイトを見下しているからだ。

さっきのジェルマンもそんな目をしていた。あの場合は態度にも表れていたが。

Fクラスという最下層に自分がいるのを認められず、自分が一番と思っている。その気持ちを変える為に行ったのだと。

「ただでさえ、劣等生なのだから協力し高め合わなければいけない」

隣に座ったリュークがボソッと言う。

「………俺の心でも読んだか」

「顔に出てた」

いや、顔に出てたからってここまで的確にわかるものなのか。と不意に思ってしまう

「あの子凄いね」

戦っている生徒に目を向けると神威で弓を造り上げる、豪奢なプラチナブロンドの美少女。

あんな高度な技術と神威を持っているなら、なぜFクラスにいるのだろうか。

「あいつが気になるか、カズキ」

レイカ先生が不思議そうに見ているカズキに声をかける

「そうですね、あれほど神威を扱えているんですから。基準はわからないが、弓の腕前を見ても少なくともCクラスにはいてもいい気がしますよ。」

「はっはっはっ。Cとは辛口だな、カズキ」

何が面白いのかさっぱりわからないが、レイカは続けて言った

「あいつの名前はノア・アルバートン、予備校でいろいろとやらかした問題児でな。技量はいいんだがそれにひっかかってFクラスってことだ。」

なるほど、問題児。だからFクラスという訳か。

「ちなみに、技術だけみるならAクラスだ。実力も上級生にも劣らないだろう」

そう言い残してノアに射ぬかれた負傷者の所へ行く。

つまり、あの戦いでは手加減したのだろう。

「面白い……」

Fクラスでこの実力。残りのクラスはもっと強い、更に熟練者の先輩もいる。まだこれ以上の強い者がいると思うとワクワクしてくる。

当初の目的とは別に新たな目的ができたカズキであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく



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1年Fクラスの愉快な寮生活

 

 

模擬試合が終わり、後は校内を案内したり、今後の学校生活について話を聞いた。

お昼の時間を少し過ぎたくらいで今日の授業は終わり、明日から本格的な授業が始まる。『死ぬギリギリまで追い詰めてやるから覚悟しろ!』と最後に脅し文句のようなものを言ってたが、今はあまり気にしないでおこう。

解散した後各自行動をするが、カズキは荷物とか置きたいのでまず最初に寮へ向かった。

寮は学園内にあり、一学年、二学年、三学年と別れて寮がある。

その中で、各クラスごとに建物が分けられている。

ちなみに、Aクラスに近いほどいい部屋になる。差別だ。

「ここか、俺達が住む寮は」

二階建ての四角い一軒家に見える、いや一軒家だ。

なんで一軒家なのか疑問に思うのだが、彼は心の中で「やったー!」と叫んでいた。

なんせ、ここに来るまでにAクラスの豪邸を見てB、C、D、Eと徐々に寮のランクが下がっているのを見てひょっとしてFクラスは馬小屋になるのではと不安になっていた。

ひとまずまともな寮だっので一安心する。

中へ入ると思ったより広い、玄関にはすでに靴があり何人かあがっている。

カズキもあがろうとした時、近くにある部屋から大きな声が聞こえる。

「あぁ!?そんなの認められる訳ないだろ!」

「わたくしが貴殿方と一緒に暮らさないといけないのですか」

入って見ると、帽子を被った男とプラチナブロンドの美少女が激しく言い争っていた。

「てめぇが落ちこぼれだからだよ、お嬢ちゃん」

男の方の名前はジェルマン・オルガノート。

「なっ。あなたも落ちこぼれじゃないですか」

女の方の名前はノア・アルバートン。

「なんだと、やんのかコラァ」

「上等ですわ、返り討ちにして差し上げますわ」

ふっ、とプラチナブロンドの髪をかきあげ微笑むと神威で造りあげた弓が手の中にあらわれた。

「やってみろや」

ジェルマンもトンファーを持ち構える。

まさしく一触即発の状態。

「ちょ、おい、やめろよ」

すかさず間に入り喧嘩をとめる。

「テメェ、邪魔すんじゃねぇよ」

「カズキさん、邪魔をしないでください。わたくしがこの淫獣を退治できません」

「……誰か、この喧嘩の原因を教えてくれ」

そう聞くが誰も答えてくれない、なんせ部屋にはこの2人しかいない。

なんとか暴走する2人を落ち着かせ話を聞く。

ざっくり言えば、男子と同棲するのは嫌だから出てけ。とのことだ。

「…………」

それにはさすがのカズキも何も言えなかった。

確かにお年頃の女の子が、知りもしない男と一つ屋根の下で暮らしたくない。

だが、出てけはさすがに酷い。

一番酷いのはこんな寮にした学園なのだが、それを言うとあの二人が学園に乗り込みそうなのでやめておこう。

「なるほど。難しいな」

「難しくねぇだろバカ野郎」

「そうですわ」

「…部屋は男女別で、風呂もトイレも別なんだろ?一緒にいるのはここの部屋ぐらいなんだから」

「きっとわたくし達を襲うにきまってますわ」

「誰がテメェみてぇなブスを襲うか」

「レディに向かってブスですって、万死に値しますわ」

「落ち着けって、ったくよ」

喧嘩になる前に素早くとめる。はやくとめたからすぐにおさまった。

「なぁ、ノアさん。どうしてもダメなのか?」

ジェルマンが静かになっているその間にノアと話をつける。

「ダメですわ。貴族のわたくしがここに住むこと自体がありえませんの」

「そうか、やっぱダメか。って貴族」

「わたくしはアルバートン家の長女ですわ」

アルバートンと言えば、アルバートン領土主……とんでもない貴族のお嬢様だった。

確かに貴族ならこの状況は嫌がるかもしれない。

「んな、領土だけの田舎貴族の事なんか誰もしらねぇよ」

ジェルマンが突っかかり再び口喧嘩が始まった。

「ふ、ふふふ。アルバートンが田舎ですって?」

氷河のように美しかったアイスブルーの瞳から光彩が消え、口からこぼれる笑い声がなんとも不気味だ。

「そうだろ、なあんにもない超スーパード田舎!ドルツェルブでもそんな所はないぜ」

「あんな汚れた場所と一緒にしないでほしいですわ」

「汚れた場所ってなんだ汚れた場所って」

「そのまんまの意味ですわ、そんなことも解らないのですか単細胞」

「んだと言い訳ババァが」

「なんですって、気狂いバカ」

「急に誉めんなよ」

「誉めてないですわ、弱小軍人」

「なんだとコラァ」

「だああっ、これから三年間過ごす仲間だってのに、こんなギクシャクしてどうするんだ!」

思わずテーブルを叩き怒鳴り声をあげる。

こんな状況じゃいつまで経っても話は進まない。 

「ノアさんは横暴すぎる、何も手を出す前提に話を進めるな」

「ジェルマンも、絶対に手を出すなよな。出したら俺が斬る」

「ほぉ、やってみよろ」

「おい、こいつやるつもりだぞ。ちょっとここの上の者と話してくる」

「ちょ、まて。意味が違うだろ」

流石に分が悪いと思ったのか、言葉を訂正する。

「カズキさんが、もし、その…わたくし達を襲ったらどうするのですか」

ノアが先程見せた態度とは一転、もじもじとしながら聞いてくる。

他の男の抑止力になるかもしれないが、カズキも何か抑止力となるものが必死なのは当然だ。

「その時は腹を切って詫びよう」

「お腹を、切る?」

聞きなれない言葉にキョトンとするノア。

「いや切腹は名誉ある自決だ、処罰はそちらが決めてくれ。どんなものでも俺は甘んじて受けよう。」

「うっ、わ、わかりましたわ」

カズキの気迫に押されたのかノアはすんなり受け入れてくれた。

これで問題はなくなった、ならば。

「よし、なら飯にしよう。誰か料理出来る者はいるか」

と聞くが、誰も反応しない。

食堂はあるが、元々貴族のようなエリートが学ぶ学園なので値段が半端なく高い。

だから、カズキみたいな市民だと自炊か街まで降りて食べにいくしかないのだ。

「……仕方ない、俺が作ろう。」

誰も自炊が出来ないのであれば、カズキが毎日作る形に自然となる。なんかため息がでそうだ。

「おいおい、お前が料理なんか出来るのか?」

「なめるな、昔から家事はやらされてたんだ」

「あ、あの…わたくしは多少料理の心得がありますわ」

後々にノアが手を上げて言ってくる。

「助かる、さぁ何を作ろうかな」

茶の間の近くにある台所へ行き大きな食料庫を開ける。

………なにもない。

「よーし、買い出しだ」

仕方ないので街へ出て買い出しをしなければいけなくなった。

茶の間にいるやつらに知らせようと戻ると、大男……否、獣人が新たに加わっていた。

2メートルを越える身長と筋肉質な体型、そして顔にある傷から異様な威圧感がある。

「……材料が無かったから狩に行ってきた」

男は手に持つ三羽の鳥を見せる。

「うおぉぉ、流石だ。えっと名前は」

カズキはたまらず男の手を取る。

「レオン・ビースタルク」

そういえば自己紹介の時にいたな、体格と角に目がいって名前は覚えていなかった。

「おいおい、獣人が鳥なんかくっていいのか?共食いにならないか?」

ジェルマンが皮肉混じりにに聞く。

「俺達獣人は毛のある動物の肉は食べない、代わりに鳥類や爬虫類、竜、魚、虫を食べる。」

獣人の他に鳥人、リザードマン、魚人と分けられられており、それらの動物は同族という意識はないようだ。

「じゃあカニバリズムに気をつけないとな。」

「動物達でも同じ種を食いはするんだ、大丈夫だろう」

「それって守られているのか?」

「気にするな」

「よし、さっそく下準備だな」

「ああ」

カズキとレオンは外へ出て寮の裏側へ行き下ごしらえをする。

下ごしらえと言っても羽をむしって、さばく程度だ。

「手慣れているな」

カズキの手慣れた動きを見て言ってくる。

「昔じいちゃんに教わってな、多少は自給自足はできる」

「人間にしては珍しいな」

「結構、難しいですわ」

隣で貴族のお嬢様が平然と羽をむしっている。

「無理するなよ、こういうの慣れてないだろ」

「ふっ、こう見えて、わたくしはは狩猟の達人ですの、狩った後の解体もやったことありますのよ」

と、自慢気に言ってくる。本当に貴族なのかなと一瞬疑ってしまう。

「鹿とかならやったことありますけど、鳥はやったことがありません」

「やつらの毛皮を剥ぐのは難しい、綺麗にやらないと売り物にならない」

「あれ、毛のある動物は食べないんじゃないの?」

「……気にするな」

「この鳥はなんの料理にするのですか?量が足りないように思いますわ」

ノアが聞く、確かに三羽だが、鳥自体が小さい。

この人数だと足りないと思うのは必然だろう。

「焼いて食ったら足りないよな」

「そうだな。俺は鍋にしようと思ったのだが」

山菜やキノコが入った籠を見せる。

「こ、このキノコは食べてもよろしいのですか」

中には禍々しいキノコも入っており、不安そうに聞いてくる。

「それはベニウマダケ、毒を持ってそうな色をしてるが持っていない。そしてうまい」

「なるほど、見せ掛けか」

「……本当に大丈夫ですの?」

「不安なら取り除いて構わない、後で焼いて食べる」

「いいですわ、同じクラスメイトとして信用しますわ」

羽をむしり終えるとレオンは短刀を取り出し手慣れた手つきでさばき、下処理を終える。

「じゃあ台所へ行くか」

「ダイドコロ?キッチンではないのですか?」

再び出てきた聞き慣れない言葉に、ノアは不思議そうに聞き返す。

「……キッチンだな」

「料理はわたくしにお任せくださいな」

「いいのか?」

「えぇ、さっきの汚名を返上させていただきますわ」

そう言うと、食材を持ってキッチンへ向かう。

食料は無かったが、幸いにも調理器具や、食器類、調味料も使いかけだが一通りあった。

さすがにそこまで差別はしてこないようだ。

昼御飯はノアに任せてカズキとレオンは茶の間で時間を潰すことにした。

「飯はまだか」

ソファと呼ばれる柔らかい四角い椅子に横になってるジェルマン。

「今ノアさんが作ってる」

「なに!?あいつが飯作っているのか?」

ジェルマンは飛び上がるようにソファから降りて玄関へ向かう

「どこ行くんだ」

「あ?外で飯食ってくるんだよ、あいつの飯なんか食えるか」

ジェルマンの反応を見て2人は顔を見合わせる。

やってしまったのか?

考えていることは同じなようだ。初対面だが意志疎通ができている。

「……なにか、あるのか?」

カズキが恐る恐る聞く。

そこまで嫌うなら何か理由があるのだろう。

「あ?あいつが作ったもんなんか食べたくねぇだけだ」

……ただの毛嫌いだった。

心配して損した。

「お前、ガキじゃないんだから」

カズキがほっとすると、やれやれと首をふりながらいう。

「大人になれ」

レオンもジェルマンの肩を叩き、そのままテーブルの前に座らす。

「おい、離せよ」

「飯を食べたら話す」

腕を振り払い立ち上がろうとするが、びくともしない。

(ぐっ、なんて力だ)

獣人は種によって異なるが、人間より身体能力は高い。

レオンは見た目通りのパワー型、ジェルマンは片手で動きを止められてしまう。

「まったく、静かに待つこともできませんの」

可愛らしいエプロンを付けたノアが、鍋を持ってやってくる。

すかさずレオンが鍋敷きをテーブルに置き、カズキはキッチンからお碗と箸を持ってくる。

「あら、気が利きますね。ありがとうございます」

テーブルの真ん中に置いて座る

「…それにしても。椅子は無いのですか?」

ここの国では椅子に座って食事や読書、書き物をする。

しかしこの部屋にはソファとテーブルしか家具はない。

「これが普通じゃないのか?」

「アニマニアはこうだぞ」

アニマニアとは、六大陸の一つ。獣人が住む国のことで、人間とは文化や風習が異なる事が多い。

「んなのどうでもいい」

だが、この3人は気にならないらしい。

それを見たノアは観念したかのように静かに座る。

「冷める前に頂くぞ」

「腕によりをかけて作りましたわ。どうぞ御賞味あれ」

蓋を開けると食欲を奮い立たす芳香が立ち上がる。

さっそくお玉でお碗によそい食べる。

「いただきます」

肉を噛むと肉汁が溢れ出しなんとも言えない幸福感が広がる。様々な薬味を組み合わせた薬膳スープが胃に染みる。

「具が少ないので、鍋よりスープに近いものになってしまいましたが、お口に合いましたでしょうか」

カズキはその美味しさに絶句していたので、コクコクと頷くしか意思表示が出来なかった。

「いや、アニマニアの鍋の作りはこんなものだ」

「では鍋スープですね」

鍋だろうがスープだろうが、うまければどっちでもいい。

「てかお前も食べるのか」

カズキの隣でジェルマンは大口を開いて一気に掻き込み、わしゃわしゃと食べている。

「あ?うまけりゃ誰だって食うだろうが」

そう言うと再び食べ始める。

あれほど毛嫌っていた人が言うセリフには思えないが、ノアの料理の腕は認めた事なのだろう。

「まぁノアが作ったてのが気に入らないがな」

「味だけでも誉めてくれてありがとうございます」

「けっ、テメェの感謝なんざぁ気味悪ぃぜ」

「本当は嬉しいんでしょう?」

銀髪の少女、サクラギ・リュークがジェルマンの頬をつつく。

「なっ、テメェどっから出てきた」

「最初からよ」

手には箸を持っており、お碗も中身が入っている。

確かに人数分のお碗と箸を持ってきたカズキ、だがそれは3人分だ。

「嘘つけ!」

「美味しいわ」

リュークはジェルマンを無視して食べ始める。

「薬味の調合が素晴らしい、コゴの実がいいアクセントになってるわ」

「まぁ、そんなことまでわかりますの?」

「食べればわかるわ」

とは言うが、コゴの実は栄養豊富なのだが独特の風味と苦みなどから死ぬほど不味いで有名で、薬剤として使われることが多い。

食べてきたがそんな感じは一切なかった

「あの不味いやつか、んなもん入れたのかよ」

「こんな使い方があるんだな」

ノアの料理技術と知識に感心していると、ガサっと玄関の方から音が聞こえたので反射的に箸を投げてしまう。

「何者だ」

玄関の方へ向かう、投げた箸は壁に突き刺さっている。

「あわわわ」

そこには黒い瞳を潤した少女が腰を抜かしていた。

「……え、えーっと」

「何事ですの。ってルリーさん、どこに行っていたのですか?」

心配したノアが、部屋から出てくるなり少女の手を取り起こす。

「ルリー?」

「同じクラスじゃないですか」

艶やかな黒髪に純黒の瞳が印象的な少女。

ルリー・マキフィルム・クライシス、その少女の名前だ。

そういえば居たな。

真剣に自己紹介を聞いてた割には全く覚えていないカズキであった。

「随分と幼い面してんな、本当に同い年かよ」

ルリーの顔に近づきまじまじと見るジェルマン。

確かに疑ってしまうほどの幼い顔だが、わざわざ口に出して言うことだろうか。

「ひっ、ごっ、ごごめんなさい」

「あぁ!?なにかってに謝ってんだゴェ」

威圧をかけていたジェルマンの後頭部に激しい痛みが走った。

「いってぇな!なにしやがる!」

すかさずノアの方を向くが、目の前にいる。

「怖がっているだろう」

後ろを振り向くと拳を握ったレオンがジェルマンを睨んでいる。

「怖がらせた訳じゃねぇよ、こいつが勝手にびびってんだろうが」

ゴツン。と、ジェルマンに再び拳を落とす。

「強き者は弱き者に合わせる。優しく接してやれ」

「弱き者は強き者に蹂躙されんだよ。ってぇ、やんのかコラ」

三度目の拳でカチンときたジェルマンはレオンの胸ぐらを掴み荒声をあげる。

「やるなら外でやれよ、壊れるから」

「お腹すいたでしょ、ルリーさんも食べて」

「あ、ありがとう」

誰も止める気もないのだろうか、2人を放っておき食事に戻る。

「元気がいいねぇ諸君」

そこへ、レイカ先生が煙草を吸いながらやってくる。

「旨そうなもんあるじゃんか、私にもくれよ」

席に座り誰かのお碗と箸で食べ始める。

「んでここに居んだよ。あとそれ俺のお碗と俺の箸と俺の場所」

まるで自分の家のような態度をとるレイカに、ジェルマンはキレながら言う。その姿に先生に対する尊敬など微塵も感じない。

「ここは私の寮でもあるんだ。よろしくな」

そんな態度を気にすることなくレイカ先生は重要な事をさらっと言った。

「はあぁぁ!?」

「元々寮を管理する先生の部屋なんだぞ」

「知るか、出てけ!」

激しく怒るジェルマン。学校だけでなく私生活にまで先生がいると、常に監視されていることになる。

ただでさえ女子と同じ家に住むのにこれ以上規制をかけられたらたまったもんじゃない。

「そう言うな、男と女が一緒の家で宿泊するんだ。ましてや問題児だ。監視がいるのは当然だろ」

「このアマァ……」

後者はともかく、前者にいたってはその通りである。

正論に関してはさすがのジェルマンもこれ以上強く言えなかった。

「なあに、プライベートまで縛ることはしないさ。気楽にやろうぜ」

すでにダランとしているレイカ先生。校舎にいるときは制限があり、ピシッとカッコいい印象があるのだが、プライベートではかなり気が軽いらしい。

「ギャップが激しいですわね」

「そうだな」

生徒がいるにも関わらずオンとオフの切り替えが激しく切り替える。自分を隠さないというか隠しているというか、なんと言うか、もうわからない。

「一応言っておくが、私は料理も掃除も洗濯もできない!全てお前らに任せる!」

「はぁ!?」

「なあに、心配すんな。洗濯機も干す場所も男女分けてあるから安心しろ!」

「ちげぇよ、お前は何もしないのかよ」

退いたはすのジェルマンが再び前に出て怒鳴り散らす。

「そうだな、じゃあ毎日訓練させてやろうか?」

「ふざけんな、プライベートがねぇじゃねえか」

「それとも不味い飯を食って汚い部屋に住んで、泡だらけの服をきたいか?」

衣食住全てを滅茶苦茶にするぞと脅しをかける。

「絶対わざとやるだろ、おい。あと若干自慢気に話すなよ腹が立つ!」

「洗濯したら泡だらけになるのか?」

「普通はなりませんね」

レオンの素朴な疑問にノアが呆れたように返す。

「ルリーさんは家事出来るのか?」

「ある程度ならできます」

「そうか、なら安心だ」

荒れ狂うジェルマンを落ち着かせ、この件は一段落つける。

「あの、椅子とかないのですか?」

「ソファならあるぞ」

ポンポンとジェルマンが横になっているソファを叩く

「この方が楽でいいだろ?私は多文化主義だからいいと思ったのを取り入れている」

「…どこの文化ですの」

「アニマニアだな」

キッとレオンの方を睨むノア。

「そんなに嫌か?」

「足が痛くて、長く座れないのです」

「正座しているからだろ、足を崩したらどうだ?」

さっきから丁寧に足を折り立たんで座っている、カーペットが引いてあるとはいえ、フローリングで正座は痛いものである。

「わ、私にそんな格好をしろと言うのですか。カズキさんのえっち」

「は?」

顔を赤らめて言ってくるノアだが、カズキは言ってることがわからなかった。

えっちな要素はどこにあったんだ。と全力で頭を回転させるがわからなかった。

「スカートなんかはいてるからだ。……というか、いつまで制服のままなんだ?自分の家なんだから楽な格好しないとな」

寮内や外出での服装に関しては学園側からはほとんど言われていない。

それは他の大陸から神威の扱いに優れた様々な種族が通っているから、文化と個人の尊重を含めて最低限までの校則しかない。その為、自由な服を着ることが出来るが。

「いいんだよ、一応ここは学園内なんだからこの格好でよ」

ジェルマンがめんどくさそうに言う。

まぁ俺も何枚か支給された制服で過ごすつもりだったから下着やシャツ、寝間着以外はもってきていない。

「俺は下着以外持ってきていない」

ほら同じ考えを持っていたレオンが言う。

「奇遇だな、俺もだ」

お洒落に気を使っていそうなジェルマンでさえ同じ考えだった。

案外この三人は気が合わなそうで合ってしまうのだろう。

もっともこの制服の性能が良かったからこんな考えになってしまったのであろう。

「まったく、男子はダメですね」

「ノアさんも持ってきたのですか?」

「もちろんですわ。わたくしはアルバートン家の長女ですのよ。身なりには気をつけていますわ」

「良かった、私だけかと思いました」

さすがはお年頃の女の子、ノアとルリーはしっかり服を持ってきてるようだ。

まぁ確かにずっとスカートというのは動きずらいだろうし、持ってくるのは当然か。と勝手な解釈をした男共。

「リュークさんも持ってきてますよね?」

「ううん、これだけ」

リュークは首を横に振りながら答える。

……どうやら例外はすぐそばにいたようだ。

「よし、夕食は街で食べるぞ。入学祝いとして奢ってやる」

財布の中身を確認したレイカ先生はそう伝えると寮から出て校舎の方へ向かった。

どうやら教師として仕事に戻るようだ。

「やったぜ!」

「外食ですか、悪くないですわ」

「多国の飯か、楽しみだ」

夕食まで楽しみに待つのであった。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

つづく



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初授業、ダァるッ

 

 

 

春を感じさせる暖かな光。青空には霞のような雲が流れている。柔らかい風が芽生え始めた草花をゆさる。

そんな大自然の中で

「オラもっと腕をあげる!」

「ッシャラァ」

「あげろって言ってんだろうが!」

「うおおぉぉ」

罵声と叫び声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

学園の裏山にある広場。

昨日使ったグランドとは違って整理された場所ではない、むしろ誰も手を加えてない自然そのもの。

レイカ先生は制服とは別に支給された運動用の服に着替えさせたFクラスの生徒達を連れていき激しいトレーニングをしていた。

「も、もうダメですわ」

「足を止めるな速度を落とすな!ペナルティをつけるぞ!」

「はぁ、はぁ、あーくそ。体力ないな俺」

「さすがレオン、過酷な自然で、生きているだけ、は、あるな」

「俺でも辛いのに、ついてこれるお前達の方が驚きだ」

ついさっき山越え三往復を時間内に終わらせた男3人は大の字で倒れる。無謀な時間制限の中で死ぬ気で走ったので体中から汗が吹きだし、湯気が立ち上る。

時々吹くそよ風が心地よい。そのまま眠ってしまいたいくらいだ。

女子は男子が帰ってくるまで広場を走り続けるという、ある意味では山越えよりも辛いトレーニングをしていた。

「だ、男子……帰ってくるの、遅すぎです、わ」

なんとか走りきったノアとリュークがこちらに向かってくる。

彼女達も力が抜けたかのようにパタッと横になる。

「走るのって、気持ちいいね」

「全然気持ちよくないですわ」

苦しそうにしているノアに対してまだ笑えてるリュークの方は余裕がありそうだ。

「ルリーは、どうした?」

「ルリーさんなら、倒れましたわ」

木陰で倒れているルリーを指差す、まるで死んでいるかのようにピクリとも動いてない。

やはり脱落者が出たか、いや、出て当然な気がする。

誰もが初日からこんな飛ばすとは思えなかった。

確かに『死ぬギリギリまで追い詰めてやるから覚悟しろ!』と初日に言われたが、まさか本当に死ぬギリギリまで追い詰められるとは。あの時誰もこうなるとは思っていなかった。

「誰が休んでいいと言った。さっさと立て、追い込みの筋力トレーニングだ」

レイカ先生は手に持った鞭を振るう。

パチィンと空を裂く音と共に地面から火柱が立ち上がり草花が一気に燃やされ荒野へと変わる。

その光景(脅し)に生徒達は顔を引きつった。

 

 

 

なんとかトレーニングをやり遂げた。

「ほら水分補給(ご褒美)だ、食え!」

レイカ先生が籠から橙色の果実を取り出し生徒達に渡す

「果物か、かたじけない」

果汁が乾いた喉を潤し、甘味とほどよい酸味が疲れた体を癒す。

「美味しいですわ」

それは全員が同じようで、感極まっている。

握り拳ほどの大きさだが、充分に満たされた。あのトレーニングを頑張ったご褒美としては申し分ない。

「皮ごと食うのかよ」

皆が皮を向いて食べる中、レオンはそのままかぶりついていた。

「栄養があるからな。多少苦味がくるがいいアクセントだ」

「確かに、柑橘類の皮を使ったお菓子はありますけど、さすがに生のままだと苦すぎます」

皮を使ったお菓子はあるが、しっかりと下処理をして苦味を取り除いたものだ。さすがにそのまま食べる風習はないそう。

「獣人も剥いて食べるが、俺は昔からこう食べていた」

「意外だな、全員そう食べているんかと思ったぞ」

「人も獣人も味覚は同じなんだな」

「そうだよ、元はみんな一緒、みんな同じ、でもみんな違ってみんないい」

「良いこと言うではないか、お前らも個々の実力を認めろよな」

(実力を認める、か)

今は仲良くやっている風には見えるが、お互いにまだ完全に認めてもらった訳ではない。

昨日おこなった模擬試合は遊びに近いルールだった。

そんなもので相手の実力を見極めるのは難しい。

……ただ一人を除いて。

「先生、決闘はやらないんか」

「なんだ、他のクラスやつと戦いたいのか?」

「ちげぇよ、こいつだ」

ジェルマンの獰猛な視線の先にはカズキがいた。

「負けたのが悔しいのか?」

「あぁそうだよ、こんなよくわからん雑魚に俺が負ける訳がない」

「カズキはどうだ」

決闘という名の元、互いの承諾を聞かなければならない。

「構わない」

数秒沈黙した後にそう答えた。

「わかった、明日にでも決闘の場を用意してやる」

生徒個人の決闘や神威武装(ミスフォルツァ)の使用を禁止している。例外として、教師の公認と立ち会いの元で行われる決闘は認められている。

「先生、決闘ではなく試合じゃないんですか?」

「試合は成績に関わる。戦うなら何も気にせず戦いたいだろ?」

成績に関わる試合という形式ではなく、決闘という互いの面子だけが関与する形でおこなう。それはレイカ先生なりの優しさなのだろう。

「覚悟しろよ、カズキ」

「あぁ」

「そろそろ午前の授業が終わる、午後から神威の技術を鍛えるから覚悟しろ」

そう言うとレイカ先生は学園へ戻る。

ん?もう午前の授業が終わる、つまり昼飯の時間、たしか1時間だったはず。

急いで寮に戻って自炊しなければいけない、だが今山にいる。

そう考えると学園からチャイムの音が聞こえる。

「間に合わなくないか?」

ジェルマンがそう呟いた。

「そう、ですわね」

「あぁ」

「……走るぞ」

各自限界まで追い詰めた体力と筋肉を振り絞り、レオンは倒れたルリーを抱えながら、各自全力で走るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後

午前に使った広場ではなく、今度はグランドでやる

神威を具現化させ武器にする訓練用だ。

「神威を集めて練る、ほら集中してやる。集中集中」

「うっせぇんだよ、こちとら集中してんだから静かにしろ」

「教師に向かってその口はなんだ」

「いってぇな、蹴るな体罰女ぁ」

反抗的なジェルマンはレイカ先生と言い争っている。

そんな光景を片目に、カズキは神威を片手に集中させる。

光の原子が、カズキがイメージする武器、『刀』を創造するら。

握った手に具現化した神威が形成する。

パァン

途中で神威が弾け飛ぶ。

「ってぇ」

手から焼けるのような痛みする。昔に炮烙玉を受けた痛みに似ていた。

「大丈夫ですか、カズキさん」

手を振り痛がっているカズキを見て心配したノアがかけよってくる。

「ああ、大丈夫だ。難しいな、神威武装(ミスフォルツァ)ってやつ」

「慣れてしまえば、わたくしのように簡単に出せれますわ」

神威を練りパッと弓を手元に顕現させる。

今まともに神威武装(ミスフォルツァ)が出来ているのはノアとルリーだけである。

特にノアに限っては、レイカ先生が言うにはAランクの技術と先輩にも引けを取らない実力があるという。

それだけの実力がありながら、なぜここにいるのかが謎である。

「なんかコツとかないのか?」

「コツですか……そうですわね。カズキさんの場合はあと少しですので、自力ですわね」

武器のイメージや神威の練り方なら教える事はできなくはないが、自身に合った武器のイメージや神威を練り方は出来ているがどうしても具現化ができないかなり特殊なケースのカズキには的確なアドバイスが出来ない。

「自力か……。」

「まぁ、神威さえ流せるなら神威武装(ミスフォルツァ)なんていらなくないか?」

「何を言ってるのですか、流せるだけでどうやって戦う気ですの!」

「俺には、これがある」

腰にかけた刀を手に取る。

「ただの剣ではありませんか」

「剣ではない、こいつはめ」

「なんでもいいですわ。いいですか、カズキさん、確かに神威を流した武装は強力ですわ。でも神威武装(ミスフォルツァ)には敵いませんの」

「だからなんで」

「神威は神の力。純度100%の神威の剣が、武器よりも格下に思えますか?」

確かにあの力の全てが武器になるなら強力だ、人間が造った武器なら簡単に折られてしまう。

「それにもうひとつ、勝てない理由がありますわ」

神威武装(ミスフォルツァ)の弓を構え弦を引く。

「凍える刃(フリーレン)」

放った一つの矢が青く輝くの刃へと変わり、突き刺さった的が凍りつく。

「ほぉ」

本来ならありえない現象を目の当たりにしたカズキは目を丸くした。

「神威武装(ミスフォルツァ)の真の力、属性能力(アトリファクタス)」

「……なんだそれは?」

「自分の個が神威によって特殊な属性や能力を引き出せる。これが神威の力ですわ」

この異様な力が、発達した科学を用いた武器でも神威武装(ミスフォルツァ)には勝てない大きな理由。

「そして、神威使いは自身の身体能力を上げることもできますの」

どんな技量差があろうとも、策を練ろうとも崩す事ができない。

「目には目を、神威には神威を。そんなことわざがあるくらい絶対なものなのです」

「こんな力、全員が使える訳じゃないだろ?」

「上級生なら誰しもが、同学年のBクラス以上は全員が使えていますわ」

ノアが放った絶望的な言葉。まだ神威を流すのがやっとな生徒が多いFクラスとでは、レベルが圧倒的に違う。

「なるほど。色々教えてくれてありがとうな」

「いいのですよ。同じクラスメイトですから助け合いましょう」

助け合うか、なんか一方的に助けられてる感じてがするが気にしないでおこう。また何か助けられる時に助けよう、どんな理由でも。

「それに、明日はジェルマンと戦うのでしょう。ある程度は神威について知らないと勝負になりませんわ」

「あいつは神威武装(ミスフォルツァ)は使えないんじゃないのか?」

今まさに神威武装(ミスフォルツァ)を具現化させようとレイカ先生と喧嘩しながら練習をしている。

ならばカズキと同等レベルと思うのは必然だ。

「はい、ですが彼は特殊で、神威武装(ミスフォルツァ)は使えませんが、属性能力(アトリファクタス)は使えますの」

「は?」

「ですので、あまりいいたくは無いですが、勝ち目はほぼ無いと思います」

ノアからまさかの負けを予想される。これはジェルマンが属性能力(アトリファクタス)を使える以上に驚いた。

「いや、まてよ。それ」

「それだけじゃありませんわ。あれでもドルツェルブ軍国の有名な軍家の長男ですわ。神威なしの強さだけでも現役の軍人を上回る実力がありますわ」

ドルツェルブ軍国、六大国の一つ。最先端の科学力を持ち、多くの兵器を所持する軍事政権の国。

当然カズキも知っている。

「それは楽しみだ」

「そんな呑気なこと言ってる場合ではありません。今からでも間に合いますわ、」

「男と男の果たし合いだ、それはできない」

「そんな意地をはらずに」

「男は意地で出来ている生き物だ。それにジェルマンは戦争に出た事はないんだろ?」

「え?そうですけど、なにか」 

「戦争を知らないガキに負ける程落ちぶれちゃいない」

「い、一度勝ってるからって思い上がらないでください。本当に死んでしまいますよ」

「俺の事を心配してくれるのは嬉しい。だが、もう匙は投げられたんだ。やるしかない」

「バカですわ。もう知りません」

カズキの聞き分けの悪さに怒ったノアは、どっか行ってしまった。

(俺に気を使ってくれるなんて、優しいな)

彼女の気持ちを汲んでやめるという選択は多少なりともあったかもしれない。だが

(Fクラスごときに負けてる暇は俺にはない)

カズキには負けられない訳があり、ここで立ち止まっている暇がない。

「ほらカズキ、休んでないでとっととやる」

ジェルマンをしごきおえたレイカ先生は突っ立っているカズキの背中を叩く。痛くない、優しい!

「お前も神威武装(ミスフォルツァ)を使えればもっと強くなれるぞ」

「は、はい」

神威武装(ミスフォルツァ)を使えるように再び神威を練るカズキ。

正直、集中したり、考えたりするから、トレーニングよりもつらいと感じてしまう。

「ほらもっとイメージしてイメージ、それを練って練って造るんだ」

無茶苦茶な説明。もっと詳しく教えてもらいたいが、感覚の世界、結局は自力なのだ。

「お前はあと少しなんだけどな、何が足りないんだ。神威か?技術か?」

カズキが出来ない原因に頭を悩ましているレイカ先生。

この際なんでもいい。神威武装(ミスフォルツァ)が例え使えようとも、この刀以外を握るつもりはない。

などと思っているから使えないのかもしれないと思ったカズキであった。

 

 

 

 

 

つづく



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決闘という名の

 

 

 

 

 

 

アルセウス学園にある試合会場の一つ。天井が開放された造りの闘技場を決闘の場としてレイカ先生は用意してくれた。

そして観客席には生徒達が集まり賑わいを見せている

理由はジェルマンの闘いとFクラスの実力を視察するめだろうが、大半の人は前者だろう。

なんせ、有名な軍家の長男、そして神威無しでも並外れた強さを誇り、大陸全土にその名を轟かせている。

……って、ノアやルリー、レオンが言ってた。

アルガド王国ならまだしも、世間に疎いアニマニアですら伝わっている。

円形のリングでジェルマンが堂々とした態度でカズキを待っていた。

「死ぬ覚悟は出来ているんだろうなぁ?」

「無論、どちらかが命尽きるまで猛り狂うぞ」

互いに睨み合う中、不意をつくように合図であるブザーの音が鳴る。

瞬間、トンファーを取り出すと同時にカズキに向かって走りだす。

このトンファーは普通とは違い、一回り大きく、そして長い部位には鉄球、反対側には刃物がついているバトル・トンファーなのだ。

「死ねぇ」

振り下ろされたトンファーは容易くリングを砕く。

破壊力は抜群。あんなのをくらえば骨なんて簡単に砕けてしまう。

めり込んだトンファーの鉄球を踏みつけ、斬りにかかるも片方のトンファーで防がれる。

踏みつけられたままンファーを持ち上げ、体勢が崩れたカズキに横に凪ぎ払う。

体勢を整えたカズキはすかさず距離を縮め踏み込んだ一撃に対してトンファーを半回転させ、腕から肘を覆う構えを取り、両腕で受け止める。

反応の速度、武器の扱い方、さすがに戦いなれている。

力は五分と五分、蹴りをいれるジェルマンだが読まれていたかのよう当たる寸前で後ろへ下さる。

互いに距離をあけた状態になった。

「やるじゃねぇか、遊び試合とは言え俺を倒した事を評して全力で潰す」

トンファーの鉄球を互いにガシンガシンとぶつけ合う。

「俺は神威武装(ミスフォルツァ)は使えないが、属性能力(アトリファクタス)は使える稀な神威使いだ」

打ち合う鉄球が爆発し互いに弾けると、猛スピードで回転している。

「怒り狂う爆破(バーストレイジ)に勝てるかな?」

その勢いのまま振り下ろす。ボゴオォと激しい爆発が起こり、リングは蜘蛛のような亀裂が入る。

「爆破衝撃(バーストショック)」

爆発から生じる衝撃波に飛ばされたカズキ、立ち上がる煙の中からジェルマンが飛び出しトンファーを腹部に打ち付ける。

メキメキと骨が折れる音。

ドオォン

爆破により焼けるような激しい痛みが全身をかけめぐる。

常人なら意識が飛ぶどころか、死んでいるレベルの威力。

しかし、カズキは立ち上がった。脇からダボダボ血が流れ、切れた額から流れる血はカズキの顔を真っ赤に染める。

(腹部が少し吹き飛んだか。後は肋骨六本、背骨にひび、内臓もいくつかやられている。……大丈夫だ、まだ動ける)

動ける箇所とそうでない箇所を確かめながら歩く。

「き、貴様……なぜ動ける」

「…………」

「はぁーっ」

ジェルマンはトンファーを回転させながら走る。

スバァァン

「なっ!?」

両手に持つトンファーが斬られ、鉄球がついた棒が地面に転がっている。

速かった、斬る動作も何も全く見えなかった。

神速の剣技に一瞬呆気に取られたが、すぐさまトンファーを持ち代え握り部分と刃をカズキに向けるように構える。

が、既に目の前には刀が振り下ろされていた。しかし最後まで振り切らずギリギリの所で止めていた。

「っ、はぁ!」

刀を弾き渾身の力を込めて殴る。頭を首を腕を足を腹を、渾身の力を込めて殴る。

されども歩みを止めずただ前へ歩く。

「くそったれがぁ」

やけくそになったジェルマンは、心臓に刃を向け突き刺そうとする。

刃はカズキの掌を貫き受け止める。そして強く握った。

「死ねえ!」

顔を狙い刺そうとするも、顔をずらし口から頬へ刃が刺さる。刃を強く噛み、取れないようにする。

腹部を蹴られ、トンファーから手を放してしまう。

刺さった二本のトンファーを抜き、ジェルマンの肩と腿に突き刺す。

「ぐあぁぁっ」

肩を押さえリングに倒れる。刃物を突き刺され感じる異常なまでの痛みに悲鳴をあげのたうちまわる。

(な、なんなんだ、こいつは……)

ジェルマンはカズキ(あの得体の知れない化物)に対して恐怖を感じていた。何度殴っても倒れない、何度突き刺しても死なない、何度爆破を叩き込もうとも決して後ろへ退かない。全てが初めての経験だった。

「………」

カズキは蹴りも殴りも攻撃もなにもせずジェルマンをただ見下ろしているだけだ。その瞳には捨て犬を見るような哀れみだけがあった。

その光景は、ジェルマンの過去一度だけ負かされた相手を連想させる。

その時味わった屈辱、そして恐怖心が甦る。

あの時、あいつは俺を見下した。こいつも俺を見下すのか。

(嘘だ、俺が、この俺が恐怖するなんて、負けるなんて、ありえない、絶対にありえない)

「うおおおぉぉぉ」

立ち上がりカズキめがけ走り、肩を掴む。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねえええええええっ!!」

そして、狂ったかのように情け容赦のない爆発を浴びせる。まるで自身に刻まれた恐怖をかきけすように。

「っ!?」

いつの間にか首もとには刀が突き付けられていた。

目の前の恐怖を消そうと必死になって周りが見えていなかった。もしかしたら、あえて突き刺さず寸止めのままにしたのかもしれない。

「斬るに値しない……」

突き付けた刀を鞘に納める。そしてジェルマンの後ろに投げ捨てた。

「な、なに!?」

その行為にジェルマンは驚く、しとめれるチャンスを不意にし、挙げ句の果てに武器を絶対に取れない場所へ自ら捨てた。

自殺行為か、試合放棄か、カズキは

「素手で相手してやる。こいよ、小僧」

相手と同じ位置に立ち、戦うと言ったのだ。

「ふ、ふざけるなぁ」

これ以上のない屈辱行為に、ジェルマンはキレた。

帽子を取り、上着を脱ぎ捨てる。

戦う為だけに鍛えられた無駄のない体、背中には屍を踏みつけた悪魔のタトゥーが刻まれていた。

鋼のように硬い黒髪、それなりに整った顔立ちなのだが、猛獣のような獰猛な表情は不気味としか言えない。

「なめやがってぇ、ぶっ殺してやる」

憤怒に燃えているような表情を浮かべるジェルマはファイティングポーズを取る。

「やる気になったな」

「決めなかった事を後悔させてやる」

牽制を目的とした素早さパンチを打ち、続けて顔に直線的な動きを伴ったパンチを叩き込む。

ドルツェルブが作った格闘術の基本中の基本のコンビネーション、だがあくまで対人用だ。

怯みもしないカズキには全く意味を成さず、腹部に強烈な一撃を打ち込まれた。

「ごはっ」

あまりに重たい一撃に腹部を両手で押さえ、両膝を折った。

「これが戦(いくさ)だ、坊や」

腰を深く落とし、脇の下まで引いた拳を真っ直ぐに放つ。

ただのパンチ、そう見えた。だが、それは違った。

拳には身の毛もよだつような、恐ろしいナニかが宿っていた。

拳が近づくにつれ、解ってくる。それは殺意。それもただの殺意ではない。

入り混ざってなお純粋な殺意。

潰す。倒す。壊す。崩す。勝つ。断つ。戦う。斬る。殴る。死ね。様々な意思と感情が入り乱れ、ぐちゃぐちゃに混ざった歪なモノは純黒な色へ替わり純粋なもに成し得た異様なモノだと。

「……っ!?」

決着がついても相手を殴り続け、完封なきまでに叩き潰す姿から狂人と言われたが、本当は違う。

ただ、あえて狂った自分を演出して恐怖を消していただけにしかなかった。

弱い自分を隠すように強いふりをしていた。誰にも気づかれないように、徹底して。そしていつしか、止まらなくなった。

俺みたいな半端者が勝てる訳がない。そう悟った時には既に遅かった。

拳が顔面にめり込み、ジェルマンは後方へ飛び何度もリングを跳ね、壁に激突しやっと止まった。

刀を拾い腰にかけるとそのままリングから降りる。

狂人と言われたジェルマンが負けた。ありえないほどの大番狂わせに生徒達は絶句した。

これがアルセウス学園がカズキを知った瞬間であった。

「おい、傷は大丈夫なのか」

レイカ先生がカズキの元へ駆け寄る。

「勝者を心配するな、敗者の心配をしろ」

だが、不要と言わんばかりにあしらう。

「お前も重症じゃないか、すぐに医務室へいくんだ」

「こんなもんかすり傷だ、それよりもジェルマンを頼む」

「あいつは医療班が行ったから大丈夫だ」

「そうじゃねぇ、あいつの心の事を言ってんだ」

「心だと?」

「あそこまで屈辱な試合をやったんだ。心が折れてるかもしれない」

ジェルマンの本気に対して、カズキは勝敗を決める一撃をあえて寸止めにしたり、自ら武器を捨てるなど本気で戦わなかった。

「もし恐怖を乗り越え這い上がってくるなら、ジェルマンは強くなる。あいつは天性の戦いバカだ」

どこで道を踏み外したかは知らないが、強くなる素質は充分ある。

「それまで、しっかり支えてやるのがあんたの仕事なんだろ」

(まぁ、あいつなら心配はいらないと思うが)

などと思っていると

「おい、誰が心折られたって?」

ジェルマンが生徒を振り払いおぼつかない足取りでカズキの元へ行き、胸ぐらを掴む。

「次は、テメェに勝つからな、覚悟しろ!」

乱暴な口調だったがなにか吹っ切れたような清々しい顔をしていた、多少は変われたんだろう。

一人歩くジェルマンに肩をかすレイカ先生。

「触んな、一人で歩ける」

「無理するな」

「……っせぇ、バカ」

 

 

 

 

 

つづく



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半端ねぇ回復力

試合が終わりカズキを探すノア達。

大怪我を負ったのに医療室には行っておらず、どこかへ行ってしまったとのことだ。

「まったく、どこに行ってしまわれましたのですか」

「あの怪我じゃそう遠くに行ってはいない」

「あ、あの、あれってもしかして」

ルリーが指差す所に、間隔を開けて血痕が道になっていた。

「そっちは山じゃないか」

「一体どうして」

その血痕を頼りに進むと山の入り口付近でカズキがうろうろとさ迷うように歩いていた。

「カズキさん」

「その声はノアか、どうした」

「どうしたじゃありませんよ。大丈夫ですの、その傷」

「この程度、日常茶飯事だ。気にするな」

「気にするなって、そんなことできませんわ」

「は、はやく回復しないと」

「大丈夫大丈夫、なんともないから。気持ちだけ受け取っておくよ」

「大丈夫じゃありません。死んでしまいますよ」

「……じゃあ腹減ったから、飯作ってくんね?血が流しすぎて貧血でよ」

「わかりましたわ」

「あ、レオンは残ってくれ、頼みがあんだ」

「なんだ?」

「あー、みんな行ったら話すわ。お前にしか頼めない事だから」

「わかった」

「……行ったか?」

ノアとルリーが寮へ向かったのをレオンに確認を取る。

「あぁ」

「んじゃあよ、コオレンを取ってきてくれないか」

コオレンとは、冬を除き年中咲く花だ。それには止血や消毒薬の効果かあり、昔から張り薬や漢方として使われているもの。

アニマニアでは主流の手当てだが、大怪我がそんなもので治るとは思えない。

「本当は俺が取りに行きたいんだけどよ。情けないことに視界が暗くてほとんど見えないんだ」

「お前、失明してるのか」

「血の流しすぎでな、飯でも食えばすぐに治る」

「……わかった、すぐに取ってくる」

「ありがとう。俺は少し寝るからその間に頼む」

「お前達はカズキを連れて、寮に戻れ」

「わかりましたわ」

「おい、なんでいるんだよ」

「すまん、まだ行ってなかったみたいだ」

「さわんな、目も見えている一人でいける」

「……そっちは寮と真逆ですよ」

「やかましい」

「拉致があきませんわ。ルリーさん、押さえてください」

カズキの手を掴み引っ張るノアと、後ろから押すルリー。だが重傷者とは思えないパワーでその場からビクともしない。

「はなせ、これくらいなんともなぐぬあぁぁっ」

突然倒れ踞るカズキ

「あ、あぁ」

ルリーの手には大量の血が付着し、カズキの腹部から血が流れ出す。

「バカ、野郎ぉ、傷口抉るなぁ」

服をめくると、傷口から腸がはみ出ているおぞましい光景があった。

「腸が出ているな、よく生きていられるな」

「ちょ、腸ぉ」

初めて生きた人間の腸を見たルリーはショックのあまりその場に倒れる。

「女の情けはうけねぇ、こんな屈辱を俺にしてただですむと思うなよ」

「バ、バカですわ。こんな状態なのによくそんな口をきけますね」

「うるせぇ、俺に構うな」

情けをかけるなとバカ騒ぎするカズキにリュークが容赦なく腹部を殴る。

「がはっ」

さすがのカズキも意識を失い倒れるところをリュークが担ぐ。

「静かになった、行こう」

リュークは得意気に親指をビシッと立てて言う。

「あ、あなた、容赦ないのですね」

「騒ぐほど元気があるなら、これくらいで死なないよ」

「俺もすぐに行く」

「いっそのことこのまま医務室に連れていけばよろしいのでは?」

「いや、こんなプライドが高いやつにそんなことしたら殺されるか自害するぞ」

「そ、それはいけませんね」

「ノアはルリーをよろしくね」

「わかりましたわ」

リュークは寮へ向かい、ノアは気絶したルリーを揺さぶって起こす。

 

 

 

 

 

んで

 

「はああなああせええこおおのおおやああろおおお」

「ほら、暴れない暴れない」

「そんなに動くと食べれませんよ」

「熱っ、テメェわざとだろうが。誰だ、ノアかルリーかそれともリュークか、あぁ!?」

暴れるカズキをレオンが羽交い締めで押さえ、リュークが無理矢理口を開けさせ、ノアが料理を食べさせる。なんともシュールな絵である。

「一人で食える、こんな介護はいらん」

とは言っているが、目が見えないせいで食べようにもどこになにがあるかわからず、料理をこぼしたり、食器を割ったりして大惨事になっていた。

「ほら、食べないと死ぬよ」

「死んで結構」

吐き捨てようとするので口を押さえ、顎を手で動かし咀嚼させ、飲み込むように鼻をつまみ飲み込むまで放さない。拷問である。

「殺す気かお前」

「死んで結構なんでしょ?」

「ぐぬぬぬぬ」

「カズキさんってこんな性格でしたっけ?」

「ジェルマンにでも取りつかれたか?」

「お前ら、静かにしろよな………何してんだ」

やってきたレイカ先生もその光景を見て呆れる。

「先生も手伝ってください」

「いいスキンシップじゃないか、午後の授業が始まるまでに終わらせろよな」

そう言われて気づく、今は昼休みなのだと。そして授業開始10分前だと。

「カズキさん、私達はそろそろ行きますわ」

「ちゃんと食べるんだよ」

「お、お大事にです。カズキさん」

カズキの拘束を止めて急いで教室に向かう。

「最初っからそうしろよな、ったく」

寮にはカズキが一人たけ、あれだけ騒がしかったのが嘘のように静かだ。

傷口にはコオレンの花を張り包帯が巻かれている。気絶している間に手当てをしたのだろう。

とは言うがほんの十数分程度だろう、飯の匂いで起きた時にはあいつらに取り押さえられていたしな。

「あいつらに、酷い事言っちまったな」

特に女性陣に。俺の事を心配してくれたのに、素直に受け入れる事ができなかった。決して恥ずかしいからとかではない。

「……なかなか抜けないもんだな」

ふとそんな事を呟く。

食事はまともに取れないで諦め、その場で横になり寝る事にした。

 

 

 

 

 

 

「んっ」

目を覚ますと、男子部屋のベットの上にいた。

男子部屋といってもベットとテーブル、小さなタンスがある狭い部屋だ。ここで三人が寝ているのだ、まだ三日目だがなかなか良い住み心地で気に入っている。

部屋は暗いので、学園から帰ってきたやつらがここまで運んだんだろう。

リビングから声が聞こえる、みんなで夕食を食べているのだろうか。

そんなことを考えると腹が減ってきた。そういえば、ご飯を食べずに寝ていた。

一緒に食事を取ろうと一階のリビングへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

リビングでは、テーブルを囲み会話をしながら夕食を取っていた。内容はもちろん、決闘についてだ。

「カズキさん、強かったですね」

「そうだな、あれほど強いとは思わなかったな」

「まさかジェルマンがあんな負け方をするなんて、信じられませんわ」

狂人ことジェルマンを相手に戦いをバカにするような戦い方で勝利したカズキ、それは印象強く残った。

「余裕がありそうでしたね」

「そうだな、戦う時は覚悟しないといけないな」

「あら、レオンさんは戦うおつもりで?」

「あぁ、あんな凄い奴を見たら戦士として血が騒ぐ」

「お前ら、食事の時くらい物騒な話はやめて明るい話をしろよな」

一人酒を飲んでいるレイカ先生。ちなみに法律では十六歳なら飲酒は認められ、学園も生徒が飲む事を禁止しているわけではない。

「カズキも考えがあって、あんな戦いをしたんだろ?」

試合前にも礼儀をする律儀なやつが、あんな相手を侮辱する戦い方はしないと考える。

「でも、それが本心かもしれませんわ」

「だったらその内にボロが出るだろ。その時は失望でもなんでもするがいいさ」

笑いながらグラスに入った酒を一気に飲み干す。

「お?何か美味しそうな物を食べているな」

リビングへカズキが入ってきた。

「カズキ、目は大丈夫か?」

「あぁ、しっかり見えるぜ」

「傷はどうだ?」

「まだ塞がりきってないけど、明日には治るだろ?」

「そうか」

「お前らが、手当てしてくれたからだ。さっきはあんな事を言ったけど、正直嬉しかった。ありがとう」

両膝を折り、額が床につくまで下げる。

「変なの、嫌がっていたのに嬉しかったとか」

「今更いいですよ」

「いや、礼はしっかり言わないといけないからな」

「料理が冷める前向きに食べましょう」

頭をさげるカズキを空いている席へ移動し座らせる。ルリーさんがお皿を持ってきてくれる、なんて気が利くんだ。

ありがとう、とお礼を言い受けとる

「ジェルマンはどうした?」

「あいつなら医務室で寝ている、頭蓋骨にひびがはいってたそうだぞ」

怪我が酷く、完治するまで数日は医務室で過ごすそうだ。

「そりゃまぁ一応殺す気で打ったからな、それでも加減はしたんだよ加減は」

「加減して頭蓋骨にひびか、滅茶苦茶だな」

「そうか?俺の正拳突きはドラグニアの恐竜も倒すんだぞ」

「冗談はよしてくださいよ。そんなことできませんわ」

「ひど!?」

「んなのは、どうでもいいだろ。ほら、勝利を祝して食べろ食べろ」

酒が注がれたグラスを渡すレイカ

「先生、酒は飲みませんよ」

「つれないな、晩酌くらい付き合ってもバチは当たらないぞ」

どうやら一人で飲んでいるのが、悲しいようだ。だからって生徒を誘わなくてもな。

「怪我人に飲ませないでくれ、血が流れちまう」

「それもそうだな」

「頬と額の傷は治ったんだな」

「あの程度ならすぐに治る」

カズキは気づいてないが、切れていた額や刺された頬の傷はすでに治っている。

「すごい回復力だね」

「無駄に鍛えているからな、ちょっとの事じゃ俺は殺せない」

「ふーん」

「じゃあ明日から授業は出れそうか?」

トレーニングはきついが、全部の時間がそうなわけではない。多分大丈夫だろう。

「出ますよ」

「いい返事だ、みっちり鍛えてやるからな」

バンバンとカズキの背中を叩きながら楽しそうに言ってくる。

「カズキさんのせいで明日はハードになりましまわ」

「まだついていけてないのに」

「連帯責任だな」

「怪我人に対する手加減はないのか?」

「あるわけないだろそんなもの」

どうやら明日からハードになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

「うおおおおらーーーっ」

「もっと速く、深く、的確に」

「はい」

凄まじい勢いで腕立て伏せをするカズキ。宣言通り激しいトレーニングを課すレイカ先生、だがそれに食らい付くようにこなす。

「凄いな、本当に治しやがったぞあいつ」

脇に出来た傷も火傷も跡形もなく完治し、折れていた足やひびが入った背骨や肋も治っている。本来なら歩くどころかベッドの上で絶対安静の所を本当に一日で治したのだから、医者も驚いていた。

もっとも、傷を負ってから普通に動いていたので結果は明らかではあった。

「奇跡ですね」

「そもそも爆破衝撃(バーストショック)を受けてあの程度ですんだのが奇跡なんですけどね」

爆破衝撃(バーストショック)は爆発を利用しリングを粉砕できるほどの威力を持つ大技。本来なら城壁を破壊する為に仕様する技で、あんなのを受けたら肉体は跡形もなく吹き飛ぶだろう。

「俺達も、負けてられないな」

「ですわね」

「ふぇぇ、まだやるんですか~」

「がんばろー」

休憩を終えた四人は立ち上がり、ワンツーマンで指導を受けているカズキの元へ向かう。

今日も元気に死ぬギリギリまで追い込まれるのであった。

 

 

 

 

 

つづく



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Fクラス

 

トレーニングを終え午前最後の授業である歴史を受けている。

神威使いの育成を目的地とした学校ではあるが、他の学校と同じようにように勉強もする。

「おい、わかるか」

「すまん、わからん」

その為、カズキとレオンは頭を悩ましていた。

「こんなものもわからないですの?」

「すまない、ずっと森にいたから勉学は苦手だ」

「俺もよくわからん」

一方で、女子の方は優秀で、問題をすらすらと解くだけでなく、男子に教えている。

「お前達、私の授業を聞かないか。勉強会じゃないんだぞ」

しかし今は授業中で、レイカ先生が教えている時に突発的に勉強会が始まったのだ。そりゃ怒るわな。

ちなみに、学力が低いカズキとレオンが一番前の席に座っており前から先生が、後ろから優秀な仲間から教えてもらっている。

まさしく逃げ場がない。

やっとの事で授業を終える。昼休みがありがたく感じる。

「あいつから多少は教わったが、難しい」

「森の外ではこんな事が起こっていたんだな」

「まったく、基本中の基本ですわ」

世間から疎い二人にはその基本中の基本もわからない。

いつまで考えても仕方ないので、午後に備えて昼ご飯を食べる。

今回はノアが全員(レイカ先生)分の弁当を作ってくれたので、わざわざ寮に戻らなくてもいい。

「せっかくですので、外で食べてはいかがです?」

天気が良く学園内の庭園には綺麗な花が咲いているので、外で食べるには向いている。

ついでに、次の授業はまた裏山で実戦練習をするそうなので、移動を含めればちょうどいい。

「そうだな」

「賛成」

「よし行こう」

「あぁ、すぐに行こう」

弁当を持ったレオンとカズキは教室を飛び出し裏山へと向かう。

「あ、ちょっと」

「行っちゃいましたね」

「私達も行こう」

その後を追うが、既に居ない。場所は裏山にある野原なので集合はできるのでゆっくりと学園内を歩いていく。

「凄い人が多いですね」

「いろんな種族がいる」

学園では、姿形が違う生徒達をみかける。

アルガド王国は他の大陸とは違い全ての大陸中から集めているのが特徴なため、人以外にもレオンのような獣人やリザードマン、数は少ないがエルフやドワーフなどいる。

「アルガド王国は多民族国家ですのよ、それほど珍しい光景ではありませんよ」

「私、アルガド王国は初めて来ましたので。勉強はしてきましたけど、その、まだよくわからなくて」

「なるほど、他の大陸から来たのですか。そちらの方珍しいですわね」

「ジェルマンやレオンはどうなの?」

「……それもそうですね」

ジェルマンやレオンは元々アルガド王国に住んでおらず、各大陸から遥々入学した珍しいケースなである。

「ところで、みなさんはどちらからいらっしゃったのですか?」

「私は」

「おやおや、ノアさんじゃないですか」

「こんな所で会うとは、奇跡ですね」

ルリーが言いかけた所で二人の生徒が声をかけてきた。

「これはこれは、えーっと、誰でしたっけ?」

向こうの男達は知っているようだが、対するノアは知らないようだ。

「アンガロ・ブライタス」

「リゼ・ヴォンザーバー、名前を忘れるな」

肥満気味の男と痩せ気味の男が怒鳴り口調で自己紹介をする。

「失礼、覚えるに値しない名前でしたので忘れていましわ」

「なんだとコラ」

「それで、わたくしになんの御用ですか?」

「あのアルバートン領土のノア様が、落ちこぼれ(ヴァンセン)にまで格下がった無様な姿に挨拶をしようと思ってな」

「笑いに来ただけさ」

「そうですか、それと用がなければ失礼させていただきますわ」

「おい待てよ」

「あなた方を御相手している程暇ではございません。さぁ行きましょう」

2人を退かし速足で歩く。

「なんだよ、落ちこぼれの集まりを率いて王女様気取りか?お山の大将さんよ」

「なんと言いましたか?」

ピタッと動きを止めたノアは、振り返る。

「あん?」

「お山の大将だって言ってんだよ」

「違いますわ、Fクラスがなんですって」

「落ちこぼれって言ったんだよ」

「落ちこぼれのクラスですって?そんなことはありませんわ」

「全生徒が知ってる事実だろ」

「本当の事を言って何が悪いんだ」

「あの方達を悪く言うのは、わたくしは許しませんわ」

激しい口喧嘩が注目され、生徒達が集まりだす。

「はっ、善人ぶりやがって」

「心では見下してるんだろ?え?超優等生さん」

「ノアさん、もういいよ。いこう」

涙目になってノアの腕を引っ張るルリー。

「よくありません」

2人を鋭く睨む。今にも殺しにかかるような勢いだ。

「おいコラ、何してんだこの野郎」

松葉杖を振り回しながらジェルマンがやってくる。いつにまして荒々しい態度をとり、そして口調が更に悪くなっている。

「おいコラノアテメェコラ飯はどこだバカ野郎腹減ってんだオラァ」

「怪我人なんだから医務室で寝てなさい」

「だああれが怪我人じゃボケコラ殺すぞ!」

「あぁもう、こんな時にめんどくさいですわ」

「あ?」

辺りを見回すジェルマン。野次馬となっている生徒達が徐々に増えていってる。

「なんだテメェらあぁ!?見せもんじゃねぇんだぞオラァァ!こちとらイラだってんだぶっ殺すぞゴラァ!!」

松葉杖で床をバシバシ叩き脅す。集まった生徒達は散るようにどこかへ行く。

「…そういやテメェら、落ちこぼれだのどーだの言ってたなボケコラァ」

ノア達に挑発してきた二人に目線を向ける。

「戦(や)りもしねぇで、決めつけてんじゃねぇぞゴミ共が」

「ほ、本当の事を言っただけだろ」

「そうだ、事実お前らは落ちこぼれのFクラスなんだぞ」

「うっせぇ!こちとら実践主義なんだよ、半端な実力主義と一緒にすんなや」

「なんだと」

「自信があるようだな?え?なんならここで一戦始めてもいいんだぞオラァ」

トンファーを取り出し手首のスナップを利かせ回し始める。

「こら校内での決闘は許さない」

「待ちなさい」

騒ぎを聞き付けた風紀委員がやってくる。

「ちっ、めんどくせぇ……いくぞ」

「ちょ、そっちじゃありませんよ」

「どこだよ」

「裏山ですわ」

「逆じゃねぇかバカ野郎」

 

 

 

 

 

 

 

なんとか風紀委員を巻き裏山へ逃げ込んだ4人。野原ではカズキもレオンが食べる準備を終え座って待っていた。

「遅かったじゃないか」

「何かあったのか?」

事情を知らない2人だが、明らかに様子が変だ。

ノアは顔色が悪いし、ルリーも泣きそうな顔だ。リュークは野原で蝶蝶を追っかけているから大丈夫だろ、あとなんかジェルマンがいるくらいだ。

「ちょっといろいろありまして」

「大丈夫か、おい」

「大丈夫です」

「あーあー、腹減った、飯食おうぜ飯飯」

暗い雰囲気になってきた時、ジェルマンが声をあげながら弁当に手を出す

「……そうだな」

「おい、お前の分ないぞ」

「はあ!?ふざけんなよ」

「卵焼きうっまっ!」

弁当に群がる男子達にリュークが混ざる。

「おいしいよ、食べないとなくなっちゃうよ」

「残しとけよな」

「知るか早いもん勝ちだ」

「凄いな、こんな料理があるのか」

「それ牛肉だよ」

「……知らん」

「うわー、カニカニリズムだ」

「カリバニズムだバカ」

馬鹿馬鹿しい会話をしながら食べる4人に思わず笑ってしまう。

「ふっ、ルリーさんも食べましょう」

「う、うん」

「お前達、私を差し置いていいもん食ってるな」

そんな中、レイカ先生が茂みの中からやってくる。

「お前らつまみあってるのに、私だけ弁当ってひどくない?」

「先生は先生と食べてるんじゃないのですか?」

「なわけあるか、教師も大変なんだよ。ってか一緒に食べてくれる人なんかいないよ」

「うっわー、先生ボッチだ~。いい年こいて人見知りか?」

「ジェルマン、この後の授業で覚悟するように」

「あいててて、カズキにやられた所が。まだ治ってねぇから医務室送りか、くっそー」

「そういえば、お前ら騒ぎを起こしたらしいな?」

「あ?あぁ、しらんな」

「とぼけるな、騒ぎは起こすのは構わんがほどほどにしろよな」

「騒ぎ?」

「どうせどっかのクラスから因縁つけられたんだろ?」

「………どういうことだ」

レイカ先生の言葉にカズキとレオンは、遅れてきた4人を見る。

「いじめられたのか?」

「ちょ、ちょっといざこざがありましたわ」

「なわけあるか、バリバリに挑発してきてたろ」

心配をかけないように言葉を濁すノアだが、ジェルマンがキッパリ言ってしまう。

「なっ、見ていましたの?」

「途中からな」

「ジェルマンならわかるが、他はいじめられる要素はなくないか?」

喧嘩っぱやいジェルマンなら誰かに恨みやら逆恨みやらあってもおかしくないが、他は違う。

「最底辺だから虐めの対象になる、Fクラスの運命だな」

寮に先生がいるのも守る為で、過去にFクラスの寮へ侵入し集団暴行があったそうだ、そしてほとんどが学園から去っていった。

「お前がそんなもんに屈するとは思わない、ただやるなら校則に則れ、じゃなきゃあいつらと一緒だ」

「……そんなことは、わかってる」

「…………」

「その時の為に今はきっちり実力をつけろ。さぁ授業をやるぞ」

「うげぇまだ全然食べてない」

「五分待って、全部食べる」

「カズキ、それ俺の焼き魚」

大急ぎで食べる男子達。

実戦訓練で暴走した、怪我人(仮)のカズキとジェルマンは罰としてトレーニングを叫びながらしていたのはきっと気のせいだ。

「貴様ら、隠密スキルの授業なのに堂々と戦闘をするな」

レイカ先生にみっちりしごかれているジェルマンとカズキ。頭には大きなたんこぶができている

「んなもんしてられるか」

「見つかったら徹底交戦、それしかない」

「脳筋バカが、設定は敵地に浸入してるんだぞ。暴れるバカがいるか、逃げろ」

「んなことできるかよ」

「火を放ちながら暴れればあっという間だぞ」

「現実を見ろバカ共」

次は互いに怪我している所に蹴りを入れられる。

「ぐぉ!?」

「おっ?痛いのか?ジェルマンくん」

「あ?全然痛くないわドアホ」

「無理しちゃってま~、涙目だぞ」

「ぶっ殺す」

「いい加減にしないかぁ!」

取っ組み合う2人に愛の鞭が襲う。パァンと空気が破裂する音とぐわあぁと悲鳴が聞こえたのは事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

厳しい授業を終え、寮へと戻るFクラス男子一行、女子はレイカ先生になぜか呼び出しを食らっている。

「待ってたぜ、Fクラスさんよ」

「さっきは邪魔があってゆっくり話せなかったから、来てやったぜ」

寮の前で見知らぬ男2人が声をかけてかたが

「お前信じてないな」

「当たり前だ。山よりもでかい生物なんかいてたまるか」

「いくらアニマニアが辺境だからって、それはないだろ」

「まぁ伝説の生物だからな」

「伝説なんかい!」

会話に夢中になりそのまま寮内へ上がる。

「ちょと待てやコラ」

声を張り上げ呼び止める2人。それでやっと気づいたのか、振り返る。

「あぁ!?んだテメェら」

獰猛な視線が2人の威勢を殺し、手に持つトンファーを向ける。

「やめろよジェルマン、怖がっているだろ」

「すまない、礼儀知らずなんだ」

今にも殴りかかるそんなジェルマンを宥めるカズキと2人の男子生徒に謝るレオン。

「おいコラ何謝ってんだ、こいつら俺達に喧嘩を売ったやつだぞ」

「……なんだと?」

ジェルマンの言葉に、レオンの目付きが一気に変わる。

「あのジェルマンやノアに喧嘩売ったのか、度胸あるな」

カズキはその度胸と行動力に感心している。

「ノアが居ないのは誤算だが、まぁいいだろう」

「あんなやつに振り回されて、お前ら落ちこぼれも大変だろう」

「知ってるのか、ノアが落ちこぼれた理由をよ」

「言ってやるな、こいつらが可哀想だろ」

「だあああっ。さっきからノアの事ばっかでうるせぇんだよストーカーが。テメェらキメェんだよ!」

罵声とともにトンファーを地面に叩きつける。

「大体よぉ、喧嘩吹っ掛けるなら回りくどい挑発しねぇで堂々と攻めてこいや腰抜け共」

ジェルマンの目が血走っている。相当怒っている。

「むきになるな、別に喧嘩売ってる訳じゃねぇよ」

「そうだ、第一お前らを倒しても意味ねぇんだよ」

「なんだとゴラァ」

「そもそも、Fクラスが俺達Bクラスに勝てる訳ないだろ?」

「戦いたいなら、それ以下のクラスを倒してみろよ」

「そうそう、今度の剣舞祭は団体戦らしいしな」

「なに……」

「お前らも一応エントリーはするんだろ?」

「まぁお前らを選んでくれるやつらはいないだろうがな」

「最底辺なりに仲良くチームでも組むんだな」

「知ったことかよ」

「あ?」

「今、テメェらを殺すのにチームも剣舞祭も関係ねぇだろぉが」

「わからねぇやつだ」

「落ちこぼれらしく最底辺でさ迷ってろ」

「貴様ああああっ」

「よせジェルマン」

襲いかかろうとするジェルマンをレオンが必死に止める。

「はなせレオン、テメェは悔しくねぇのか」

「悔しいさ、だがここで手を出したら同類だ」

レオンも握る拳から血を流すほど怒っている、それでも堪えている。

「今は……落ち着け」

その姿にジェルマンは腕を降ろし静かに後ろへ

「命拾いしたなジェルマン」

「止めてくれた仲間に感謝するんだな」

「運がいいなお前らだ、レオンがジェルマンを止めてなかったら死んでいたぞ」

「あ?何いってんだお前」

「お前ら、誰に喧嘩売ったかわかってんだろな?しっかり覚悟しておけよな。必ず殺す」

腰にかけたある刀を握るカズキ、その異常な殺気はその場にいる全員を黙らせた。

「お前達、何をしている」

「おい風紀委員だ」

風紀委員をみるなり2人は一目散に逃げていく。

「何をしていた」

走ってきた青髪の女子生徒はその場にいるカズキ達を睨む

「誰だこの人」

「風紀委員だ、関わると面倒だぞ」

「フウキさんは」

「名前じゃねぇよ、役職名だ」

「なに、紛らわしいな」

「バカかお前、普通はわかるだろ」

「はいはい、それでえっと」

「ルイス・エミリミルス、私の名前だ」

目を張るような青い髪、青の瞳、凛とした顔つきの少女。ここの敷地にいるから同い年なのだろう。

どこか見覚えのある容姿と名前な気がするがまぁきのせいだろう

「ルイスさんね、どうしてここへ」

「君達がさっき逃げた2人と争っている風に見えたからな。取り押さえにきた」

ちょうど終わりそうな時に来るとは実にタイミングが悪い。

「大丈夫大丈夫、そんな対した事じゃないから」

「そうだ、ここで騒ぎを起こそうなんて全然思ってないぞ」

「ただの啖呵の切り合いだ」

「喧嘩の一歩手前じゃないか」

なにもなかったと説明するが効果はなく、なぜか怒っている。

「Fクラスは問題児だからな、今後は念入りに監視するよう心がけよう」

「問題児ってどういうことだ」

「じゃじゃ馬が2人もいるんだ。お前達も苦労をかけているだろう」

カズキとレオンはすぐさまジェルマンの方を見る。

「なんで俺を見るんだよ」

「いや、お前しかいないだろ」

「あと一人は誰だ?」

あともう一人が誰か分からず額に指を当てるカズキ。

「あ?優秀な問題児がいんだろうが」

優秀な問題児……優秀、優秀、優秀……?

ノアの存在が脳裏に浮かんだ瞬間、カズキは面を食らったような顔をしていた。

「……まさか、ノアさんの事か?」

恐る恐るジェルマンに聞くと

「そうだ」

一言きっぱりと答えた。

そう言えばレイカ先生もノアの事は問題児と言っていた。

「あんな素直な子がじゃじゃ馬!?ありえないだろ」

「奇遇だな、俺もそう思った」

「今はだいぶ落ち着いたが、1年前までは荒れていたからな」

「あぁ、あれは酷かったな」

ルイスの言葉にジェルマンも数回頷く。

とても気になるが、聞いてもいいことなのだろうか。

「ともかく、今後騒ぎを起こさないように。それとこれから監視がいると思え」

「はぁ!?監視だぁ?」

「Fクラスはいじめの対象になるからな、それも含めての監視だ」

「おいおい、俺達がいじめられると思うか?」

神威の扱いはダメだが、決して弱くはない。そんな相手をいじられるとは思えない。

「だからだ、大勢を巻き込んで乱闘なんてされたらたまったものじゃない」

「それに、お前達は大丈夫でも女子は心配だろ」

そう言うが

「女子か……」

「ルリーが心配だな」

「そうだな」

男子が心配したのはルリーだけで、他の女子は全く心配する気はなかった。

ノアやリュークは実力がありそんじゃそこらの奴らには負ける事はないと認識している。

「そういうことだ、さぁはやく寮へ戻れ。これ以上騒ぎを起こすな」

そう言うと再び見回りに戻る。

「真面目なやつだな」

「昔からだ」

「知ってるのか?」

「Aクラス。一学年最強と謳われるやつだ、覚えとけ」

「一学年最強か、あんまり気取ってないな」

最強ならもっと堂々としているものだと思ったのだが、礼儀正しく態度もどちらかというと謙虚な方だ。

「本人は否定してるからな、だが実力は本物だ。できるなら試合相手として戦いたくない」

あの戦闘狂のジェルマンにそこまで言わせるほどの実力者、ルイスという人物に興味がわく。

「戦ってみたいものだな」

「勝ち進めばいずれ公式戦で当たるだろ」

「団体戦なんだろ?サシでやんないと」

「それもそうだな」

他者の介入など一切ない、あくまで一対一の真剣勝負を望む気持ちはジェルマンも同感する。

「団体戦か……」

レオンが浮かない表情をしている。

「どうした、レオン」

「いや、なんでもない」

「詳しくはレイカ先生にでも聞いてみようぜ」

「そうだな」

 

 

 

 

つづく



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結成!チームFクラス(仮)

 

 

 

「ほう、剣舞祭について聞きたい?」

晩酌しているレイカ先生が、真剣な顔をしてくる。

「今年は団体戦なんだろ?」

「団体戦というより、チーム戦だな」

「何人必要なんだ」

「一つのチームに六人、それ以上も以下もダメだ」

「六人か」

「ちょうどいいだろ?」

ちょうどいいとは、Fクラスの人数とチームの人数が同じこと

「こいつらと一緒に戦えと?」

「私はそのつもりでお前達をFクラスに招いたんだが?」

「すまないが、俺は抜ける」

意外にもレオンが拒否する。

「おいレオン、そんなつれないこと言うな、Fクラスだけど」

「実力はあるかもしれないが、俺は絶対に優勝しなければならないんだ」

そういうと寮から出て行ってしまう。

「レオンはダメか」

「ジェルマンはどうなんだ」

「俺は構わないぜ」

こっちはこっちで意外にも躊躇う事もなくすぱっと言う。

「俺と組むに値する実力はあるからな、一応お前らの事は認めてるんだぜ」

ノアとは知り合いで実力は知っており、カズキとは戦ってくなかで認めた。Fクラスの実力が高い事を一番知っている。

「レオン以外はチームを組む。でいいんだな」

「そうだな、あの様子じゃFクラスをチームに入れるやつはいなそうだしな」

「落ちこぼれは落ちこぼれ同士ってことですかね」

「面白いですわ、やってやろうじゃありませんか」

皆は意気投合し、やる気満々だ。

「まぁやる気で何よりだ。それで、お前達の願いはなんだ?」

レイカ先生が聞く

この剣舞祭で優勝した者には神から国の繁栄の約束と共に個の願いを叶えてくれるのだ。

その為、出場者には国の威信や家の名誉以外に個人の願いの為に必死に戦う、真の猛者が集う大会。

そんな大会に神威がまともに使えない者達のチームが国代表は愚か、学園代表になれる可能性が少ない。Fランクチームを拒否するレオンの態度は優勝したい者として正しい判断と言える。

「願いですか」

「そうだな」

「まぁ、ありますわね」

願いはそれぞれ胸の中にある、カズキもその一人だ。

(俺は、願いを叶える為にここへ来たんだ)

「神の力なんて、大したことないのに。あんまり期待しちゃダメだよ」

願い事を考えていた皆に対しリュークが突き放すように言ってくる。

「リュークさん、神様の暴言はいけませんわ」 

「でも本当の事。願いは努力で叶えて意味がある」

「努力で叶わないんじゃ神頼みしかないだろ」

ジェルマンが呆れた口調で言う。

「ちなみに俺の願いは無い。欲しいのは最強の称号と最高の勲章、そして誰にも負けない強さだ」

欲しいものは他者から与えられるものではなく、実力で掴み認めさせるもの。ジェルマンらしい欲求だ。

「その為には剣舞祭で優勝。それも初出場で圧倒的力を見せつけてだ」

「確かにそれが一番手っ取り早い方法だ。だが、簡単に勝ち進めるほど剣舞祭は甘くはない」

「はっ、あのレイカ先生に言うんじゃ説得力が違うな」

「……有名なのか?」

「カズキさんは御存知ないのですか?」

「知らん」

「まさか、ここまで世間知らずだなんて」

ノアは驚きを越え呆れた顔に手を当ててる。

「十七の時に剣舞祭を優勝。宮殿テロの阻止。世界ランキング第三位、炎魔のレイカ。神威使いなら知ってて当然ですわ」

「世界で三番目に強いのか」

「神威使いとして登録してある集団だからな、よくわからんよ」

そうは言うが、ほとんどの国が登録してあるのであながち間違いではない。

「そんな人に稽古つけてもらっているのか」

そう思うと、こうして共同生活をしているのが凄い事かわかる。

……まぁ、家事とかほとんどやってないけどね。

「凄いもんだよな」

「私なんか全然さ、世の中には神様に直接鍛えてもらった人もいるんだ。そう思うと全然格が違う」

「それでも、こうして鍛えて頂けるのは光栄な事です」

「嬉しいね、じゃあ早く強くなって良い結果を出してくれ」

「でもよ、だったらなんでFクラスなんか指導してるんだ?」

ジェルマンが聞く。それほど高い功績があるなら優秀な生徒を指導するのが王道だと思うが、Fクラスの指導、それも付きっきりでだ。

誰しも疑問に思った事だ。

「そんなの、お前達が落ちこぼれだからだ」

キッパリというレイカ。それには少しながらイラッとくる。

「だから私が鍛えて一人前にする。前も言ったよな」

確かに入学した初日にそのような事は言っていた。

「どうなるかはお前達次第だ。あと少しで学園公式戦が始まる、今年で出たければ死ぬ気なんて言葉じゃ足りないほど努力する必要がある」

「上等だよ。上級生だろうが、最強だろうがぶっ潰してやんよ」

「当然ですわ。わたくし達が代表になり、剣舞祭で優勝してみせますわ」

ジェルマンとノアはやる気満々である。

「その前に人数を集めろ、でなきゃそれ以前の問題だ」

確かに規定人数のちょうど六人だったのだが、レオンが抜けて五人となった。この穴を埋めなけばならないが、Fクラスとなると誘っても誰も入ろうとはしない。

「……レオンを説得させる、それしかないだろ」

「で、でもどうやって」

ルリーが聞く。絶対優勝を狙っているレオンをチームに引き戻すのはそう簡単にはいかないはず。

「俺達が、実力者と認めてもらえればいいんだろ?」

「なら、簡単だな」

だが、カズキとジェルマンは笑いながら言う。

「俺達が、他のチームよりも優れていることを証明する」

「まずは学年最強になる。そこからだ」

「ど、どうやって?」

「出場資格として六人は必須だが、学園公式戦は人数関係ないんだろ?」

「確かに、規定は無い」

「ま、まさか」

「俺達(五人)であいつが納得出来るレベルまで進む。簡単だろ?」

「む、無茶ですよ。神威をまともに使えるのはノアさんだけで、他は纏うが限界なのに」

ただでさえ神威をまともに扱えないのに、人数まで一人減るとなるとかなりのハンデで、覆すのは難しい。

「考えが甘いってか?」

「はい」

「弱者が強者に勝つ方法。それは、策だ」

「作戦さえあれば勝てる……ってことですね」

一対一で戦う個人戦なら難しいかもしれないが、今回は団体戦、時と場合、作戦によってどんな強者でも倒せるチャンスは出てくる。

「ですが、策も技量も覆す力と言われる力に対応できますの?」

「まぁ一筋縄じゃいかないが、そこは知恵だよな」

「チームのフォーメーションも考えなくてはいけませんね」

「だから、互いの力を知らなければいけない」

「そうだな」

「俺とカズキは知っての通り接近戦しかできない。前戦にでる」

「わたくしは弓での遠距離」

「ルリーさんは、なにかありますの?」

「わ、私は………その、えっと」

「そいつは魔法が使えるぞ」

「え!?」

「私はもう寝るから、後はじっくりやってろ。あまり夜更かしはするなよ」

そう言って欠伸をしながら自室へと戻る。

「魔法……ってことはルーンブラッド出身!?」

ルーンブラッド 神威以外に魔力をというエネルギーを持ち、魔法というものを使える。使用者は主に女性でそれらを魔女と呼ばれる。

「じゃ、じゃあ魔女?」

「い、いえ、そんな……魔女だなんて」

「魔法使えるのか?」

「す、少しくらいなら」

「どんなのを使えるんだ、火か?氷か?」

「えと、あの」

迫って聞いてくるノアとジェルマンに困惑している。そこにカズキが中に入って止める

「見ろ、ルリーさんが困ってるだろ」

「うぅ」

怯えた目をしたルリー。体を震わせており、あと少しで泣きそうだ。

「ごめんなさいルリーさん」

「いいんです。私が泣き虫だからいけないんです」

「お前も、あんな風に聞くなんて意外だぞ」

「ドルツェルブの軍を退けたんだ。そりゃ気になる」

過去にルーンブラッドに侵略したドルツェルブだが、3日と持たず撃退されたとのこと。その記録には火の球や氷の刃といった魔法でやられ、神威とは違う異様な力の前でやられたとの事だ。

「で、何が出来るんだ?まさか、何も出来ない訳じゃないだろ?」

「えっと、火の球(ファイヤーボール)とか氷の刄(アイスエッジ)とかな基礎でよかったなら」

「それは凄いですわ」

「あぁ、作戦の幅が広がる」

ルリーの力に期待が高まる二人。神威の力が無いこのチームにとっては大事な戦力となる。

「補助は無いのか?」

「え?」

「確か、回復とかバリアとかそんなのなかったか?」

「一応学んではみましたが、使えるかはどうか」

「そうか」

「遠距離はルリーとノア、接近はカズキとジェルマン」

「じゃあ私は中距離やるよ」

「リュークさんは何ができるのですか?」

「なんでもできるよ」

なぜかえっへんと胸を張るリューク。

「剣使いだから俺達と接近戦でいくか?」

「いや、俺達全員が前へ出たらを二人の護衛がいない」

いくら神威や弓、魔法の技量があっても接近戦となれば、その弓も魔法も不利になる。となれば周りを守る役割も必要になる。

「二人が逃した敵を斬る、それでいいでしょ?」

「そうだな、その方が助かる」

「基礎となるフォーメーションは出来たな」

「後は作戦とかだな」

「相手が決まらんと考えれねぇよ」

「そう、ですわね」

「ならトレーニングだ!」

 

 

 

 

 

 

 

てことで、学園から出て街を降り海岸へ向かう。

「あっつ、死ぬぞこれ」

「あ、ご、ごめんなさい」

「気にすんな、ガンガン攻めてこいやぁ!」

ルリーが放つ火の球(ファイヤーボール)を掻い潜るジェルマンだが、近づくにつれその速度や威力が高まり避けるのが困難になる。

「ぐわぁぁ」

「はい消火」

ファイヤーボールが直撃し全身が燃え上がるジェルマンにバケツに入った水をかけるリューク。

「はぁ、はぁ……ああああ」

「ごめんなさいごめんなさい、や、やっぱり」

「この程度で悲鳴をあげるなんて情けねぇ。もっかいだ。テメェもしっかり俺を当てろよな!」

「で、でも」

「大丈夫。私がしっかり消火するから」

リュークが持っているバケツを見せる。なぜか親指をぐっと立て自信あり気に言う。

「こいオラァ!」

「い、いきますよ。えい」

「熱っ。くそ、まだまだ」

「がんばれー」

ジェルマンは攻撃を避ける訓練を、ルリーは当てる訓練をする。そんな中、カズキはノアが放つ矢を斬っていた。

「す、すごい」

全ての矢を残すことなく斬ってみせたカズキに目を見開くノア。

「弓は軌道が分かれば簡単に避けれるし、切り伏せることもできる」

「ですが、私の属性能力(アトリファクタス)は氷。触れたものを瞬時に凍らせる事が出来ますわ」

以前見せて貰った時は射抜いた的を凍らせていた。援護にもってこいの能力だ。もし発動してれば刀が、もしかしたらカズキ自身も凍っていたかもしれない。

「能力を過信するな」

だが、カズキは叱るように言う。

「わたくしの力が信じられませんの?」

「じゃあルリーさんのファイヤーボールを凍らせれるか?」

「それは……」

触れたものを瞬時に凍らせられるが、火を凍らすほどの威力はさすがに無い。

「そういう事だ、能力にも相性がある」

「そうですわね。慢心が過ぎましたわ」

「頼るなとは言わないが、自信が崩れたら動揺から強さが脆くなる。それだけはやるな」

「……はい」

「俺も指摘してくれ」

「そうですね、わたくしから見た感じではありませんわ」

「いや、なんかあるだろ」

課題を求めるカズキ、ノアは顎に人差し指を当て考える。

「あ、ジェルマンと戦った時は攻撃を受けすぎかな?とは思いましたわ」

確かにあの時は、攻撃を多く受けすぎていた。打撃にしろ斬撃にしろ爆発にしろ、避けれるものもくらっていた。確かに指摘される部分でもある。

「なるほど、参考になる」

「あれはわざと受けていたのですか?」

「その辺はノーコメントで」

「なんですの、ノーコメントって」

「覚えていない」

「なるほど、そうでしたの」

「俺も防御とかしっかりしないといけないんだな」

「ちなみにカズキさん、その剣はなんでも斬れるんですか?」

「あぁ斬れる」

「それも過信なのでは?」

キッパリ言うカズキに、呆れた顔をするノア。

「過信じゃない、でも一応言わないといけないかな?って思ってね」

「なんですの、その言い訳」

「いろいろあるのさ」

「もう門限の時間だから、はやく帰るよ」

リュークが懐中時計を見せながら走ってくる。

「もう時間か」

「ちっ、門限とかめんどくせーな」

時間内に学園内の寮の敷地内にいなければならない。特にFクラスの寮は先生も一緒に住んでいるから守らなければならない。

「寮前でトレーニングでもするか?」

「上等だ」

「明日の授業に支障が出ないようお願いしますわ」

「その、ペナルティはちょっとキツイです」

「連帯責任はつらいね」

「まかせろ、ほどよく鍛えるから」

「いつもやってるから差し支えねーよ」

入学してから今まで自主でトレーニングを続けてきた男子達。いまさら心配する必要はないのかもしれない。

「急いで帰らないと遅れちゃうよ」

「門限までどれくらいだ」

「うーん……10分?」

ここから学園まで走って約15分、寮となると時間が足りない

「全力ダッシュか?」

「だな」

「……走れ!」

疲れた体に鞭を打つように全力で走って帰るのであった。

 

 

 

 

 

 

つづく



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一学年公式トーナメント

 

 

「お前ら、いよいよ公式戦が始まる。ランク上位三チームに入れば学園代表として出れる」

「じゃあ、とっとと三年のAクラスを倒すか」

「それは無理だ」

「なんでだよ」

「その前に一学年だけでトーナメントをやる、上位四チームだけが公式戦に出れる」

「んだよそれ」

「仕方ないだろ、入りたての下級生と上級生では実力者の差は歴然だ。完膚無きまでにやられた不様な姿を全校生徒に見られたくないだろ?」

「………」

「そういうことだ、まずはEクラス辺りに当てられるだろうな」

「順序を踏んで実力を見せないといけないんだな」

「ものわかりがよくて助かるよ」

「レオン、チームは見つかりそうか?」

「いや、まだだ」

何チームか声をかけてみたらしいが、やはりFクラスを招き入れるチームはいないそうだ。

「どうやら、実力を見せないと入れてくれないみたいだ」

「なんだ、じゃあダメじゃねぇか」

「いや、エキシビションマッチに出るつもりだ」

「なんだそれ」

「前座試合だ前座、確か危険種と戦うんだろ?」

危険種とは、人間などに害をなす凶暴な生物の事を言う。

「だ、大丈夫なのですか」

「俺は危険種とは何度も戦った事がある、何よりあいつらの肉は旨い!」

「まさか食べるつもりか?」

「食用だったらな、中には毒を持ってるやつやまずいやつもいるからな」

「そういうね」

「それで、俺の実力を見せる。神威なんて使わなくても強い事を」

「なるほど、アピールには持ってこいだな」

「まぁ頑張れよ。敵となったら容赦しないぜ」

「こちらもだ。手加減など一切しない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズキとジェルマンが戦った試合会場とは違う、天井があるドーム状の試合会場。そこに一学年全員が集められる。

「これより、一学年公式トーナメントを開始することを宣言します」

試合会場の中央でレイカ先生が開幕を宣言を上げている。

「ただいまより、エキシビションを行います」

アナウンスが流れると、リングにレオンが入ってくる。

「レオン・ビースタルク対ファングボア」

運ばれてくる柵の中には茶色い剛毛と巨大な角を持った巨大な動物が寝ている。

「Fクラスのレオン選手、ファングボアに勝てるのでしょうか!」

「実況は一学年の多弁記者ことミチノ・エポウスがお送りします」

ブザーと同時にファングボアに刺激を与え起こすと、柵を

壊しレオンに向かって突進してくる。

「ふん」

逃げる事なく正面で受け止める。後ろへ押されるも、徐々に速度は落ちて完全に止める。

「うおおおお」

角を掴みファングボアの巨体を上へ持ち上げる。そして、地面に渾身の力で叩きつける。

自慢の角が折れ、白目を向いている。悲鳴をあげる時間もなく絶命した。

「な、なんとレオン選手、一分もかからずファングボアを仕留めた!」

「なんという力、これが本当にFランクの実力なのか!?」

「すげぇ、なんだあの力」

「真正面から潰したぞ、おい」

その強さに生徒達は動揺の声、何よりレオンを褒め称える声が一番大きかった。

「俺は剣舞祭で優勝する中で役に立てるはずだ。強いチームのスカウトを待っている」

そう宣伝し、沸き上がる試合場から去る。

「こりゃいいアピールだな」

「そうですわね」

レオンの実力は確かに凄いものだ、神威無しで三級の危険種を倒してみせたのだ。カズキ達のチームも同じく欲しい逸材でもある。

「ですが、神威が使えないってハンデがありますわ」

「よくてもCクラス辺りでしょうか」

「まぁAクラスはないだろうな」

どんなに強くても生身で神威使いに勝つ可能性は極めて低い。神威武装(ミスフォルツァ)と属性能力(アトリファクタス)はそれだけ強力なものなのだ。

その事を考えるとやはり誘うチームが居たとしてもレオンが望む強いチームとは考えられない。

「好きにさせてやればいいだろ、あいつの事なんだしな」

「俺もだ、まぁ戻ってくる時は心広く受け入れてやろうぜ」

「はぁ!?何言ってんだお前、裏切りだろ」

「裏切りって、あいつには事情があるんだろ?じゃなきゃこんな事はしない」

「んなの知るか、俺達じゃ力不足だから見限ったんだろ。弱い役立たずと見下してるから平気でおりれるんだ」

「レオンは、俺達がバカにされた時に本気で怒ってただろ」

あの時のレオンは演技として見るには無理があるくらい凄まじいものだった。

「そんな奴が、そんな事を思うか?」

「…………」 

「とにかく、俺達はこのあとの試合に勝つ。負けたら終わりなんだぞ」

負けた瞬間剣舞祭の出場権が無くなるトーナメント戦、全てにおいて負ける訳にはいかない。

「わかってる」

「か、勝てるかな」

「大丈夫大丈夫、気楽にいこうよ」

「リュークさんは少し緊張を持った方がいいですわ」

初戦を前にしてソワソワするFクラス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次々と試合が進み、いよいよカズキ達の出番になった。

「今回は具体的な作戦は無しで互いに臨機応変に対応する、だよな?」

控え室で改めて作戦を確認をとるカズキ。

初戦は相手の情報がないので作戦は立てられなかった。その為、今回は戦況に応じて動く超基礎以前の作戦であるが故に個々の実戦力が計れる。

「そんな無茶な」

「だが、今これが出来なかったら、これから仲間を疑いながら戦う事になる」

「信頼を築こうってわけですわね」

「信じるは強さ、頑張ろう」

「ノアさんとルリーさんの援護を期待してるよ」

相手はEランクの生徒で作られたチーム、全員が神威武装(ミスフォルツァ)を使える。だがここで作戦なしで負けていれば勝ち進めない。

「よーし、やってやろうぜ」

意気揚々と試合場へ上がる、レオンが戦っていた場所には木材やバリケードなど障害物がおいてある。

各チームが入った所で試合開始のブザーが鳴り響く。

「いくぞカズキ」

ジェルマンはバトルトンファーを両手に持ち走り出す。

「バカ、正面から攻めるな」

「前線なら特攻あるのみ!攻めて攻めて攻めて攻めてぶっ潰し蹂躙する。それがオルガノート家だ!」

「脳筋が、だが乗った」

カズキも刀を抜き後に続く。

「あっ、ちょっと」

「男子は自分勝手でダメですわね」

「それを支えるのが私達の役目」

「そうですわね」

女子が呆れる中、男子は嬉々として敵陣へ乗り込む。

「はっはー、どうしたどうしたそんなもんか」

剣を模した神威武装(ミスフォルツァ)を持った三人を相手にするジェルマン。

「Fクラスが調子に乗るな」 

振るう剣を受け止め力で弾き返す。すかさず鉄球を横に振るい生徒を倒す。

地面に倒れたまま動かない生徒は虚空の原子となり消える。

「たわいもねぇな」

「Fクラスとて狂人だ。気を抜くな」

「同時にいくぞ」

一人が剣を振り回し牽制しジェルマンの行動を制限、その隙にもう一人が攻撃する。単純だが厄介な戦法。

「っと、かすっただけでこの威力かよ。神威ってのは恐ろしいな」

ほんの少し剣先がジェルマンの右腕に掠める、それだけで切り傷が出来る。まともに受ければ骨なんて簡単に斬れる。

「このままいくぞ」

「おう」

手応えを感じた二人は一気に攻めようと同時に攻撃をしかける。

「ぐはっ」

矢が一人の胸を射抜き、傷口から徐々に凍り始める。

「氷の矢だと!?」

放たれた方を見ると高台に弓を持ったノアがプラチナブロンドの髪をかきあげている。

「わたくしもいますのよ」

「ちっ、うおおぉぉ」

「ふん」

振るう剣を弾きトンファーを縦に振り下ろす。

ゴンと鈍い音と共に男子生徒は倒れ光の粒となる。

「っし、片付いた」

「ふっ、わたくしの援護のおかげですわね」

「あ?んなの余…おい危ねぇぞ」

「え?」

ノアは振り替えると短剣を持った男子生徒が襲いかかっていた。

「きゃっ」

腕を捕まれ逃げる事も弓を射ることも出来ない。

「死ねい」

胸部に突き刺す瞬間、生徒の動きがピタッと止まった。

「かっ、あがっ」

「ざーんねん、惜しかったね」

背後からリュークが短剣を握る腕を取り、喉元に指を突き立てている。

「ノアさん、もっと周りを見ないとダメだよ」

「あ、あの」

「なに?」

「はやく。とどめをさしてあげたらよろしいかと」

「え?」

声を出すことも出来ず必死に抵抗する生徒、だがリュークを振り払う事はおろか喉元を突き刺す腕すらも動かすことが出来ない。

やがて握っていた短剣を落とし、ばたばたともがいていたのだが動かなくなってしまった。

「あ、落ちゃった?おかしいな、脈は止めてないけどな~」

「気道を潰し続ければ窒息死しますわよ」

「あれ?潰していたの?力加減間違えちゃった、長く苦しめてごめんね」

生徒をその場に横にさせ周りを見渡すリュークは

「あそこにカズキが二人と戦っているよ」

見つけだし試合場の端を指差す。

「すぐに援護に行きましょう」

「あっ、終わった」

その場に炎の球が放たれ一面が燃え上がる。それと同時に試合終了のブザーが鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「カズキ、お前なにしてるんだよ」

「なにって、なにが?」

「お前ほどの実力者があの程度にてこずってるんじゃねぇよ」

「いやだって、殺さない程度に攻撃するって難しいじゃん?」

「はぁ!?お前何をいってんだよ」

「え?」

「アストラルエーテが使われていますのよ」

「あすとらるえぇて?」

何にもしらないカズキにノアが分かりやすく教える。

アストラルエーテとは、神威で作った別世界の事で、致命傷を負うとその場で強制的に排除される。そこで受け傷は出ると消えるが、ダメージは多少ながら残る。

その為に絶対に安心なわけではなく、ダメージが強いとしばらく体が動かせなくなったり、昏睡状態、最悪は二度と目を覚まさない可能もある。

「簡単にいえば、別世界で殺し合いをしているのですわ」

「余計にわからない」

「ようは、死ぬ寸前で勝手に止めてくれるんだ」

「なるほど、だから全員あんなに殺気を放っていたのか」

殺すような攻撃をしてきたから不思議に思っていたが、その心配がないから本気で振るっていたのか。

「命を軽んじる危険なやつだな」

「これを仕様しないと余計に命を軽んじる事になりますわ」

確かに、アストラルエーテを使わないで神威武装(ミスフォルツァ)を使って戦えば多くの死者を出すだろう。

「そうだな」

「次から躊躇わずぶっ殺せ」

「はいはい」

「それにしても、よく神威使いの動きに追い付けましたわね」

神威使いとして半端なFクラスは別として、それ以外のクラス、神威武装(ミスフォルツァ)を使える者は身体能力を倍増するのとができる。

それなのに常人であるこの二人は動きについてこれている。

「俺は軍人だぞ?この程度なら余裕だ」

「俺も、これくらいなら普通に対応できる」

二人は鍛えに鍛え、常人の範囲を越えていたのであった。

それならば、多少は上げられても常識の範囲内なのだ。

「俺達も倍増できればいいんだけどな」

「ん、じゃあノアさんも倍増しているの?」

「当然ですわ、身体能力だけでなく集中力も上がりますので確実に狙射てますわ」

「ですが、これから高いランクと戦うのですからかなり実力に差が出てしまいますよ」

「確かに、次の相手はCクラスですわ」

観客席から試合を見ると、Cクラスのチームの一人がEクラスのチーム全メンバーを圧倒している。

六人の接近攻撃の中、ダメージを受けることなく試合を終わらせた。

「ほー、強いなあの男」

確かにいい動きだが、神威で身体能力を倍増してもらっていると考えると素だと弱いんだなって思ってしまう。

「セルト・クラハス、Cクラスきっての実力者ですね」

「知ってるのか?」

「えぇ、神威の扱いだけじゃなくて剣術の腕前も噂になるくらいありますわ」

「こいつが敵将か、だがどんな力を持っているのかわからないと作戦が立てられない」

恐らく他のチームの力を隠す為に一人だけで戦い制圧したのだろう。今の試合だけじゃなくてその後の事も結構考えているな。

「斬撃波(シュナイデン)、斬撃を放つちとやっかいな属性能力(アトリファクタス)だ」

しかめっ面をしたジェルマンが言う。

「なるほど、じゃあ迂闊に動けないな」

チームのフォーメーションを見る限り遠距離攻撃が四人、遊撃が一人、接近攻撃が一人。そしてシュナイデンの能力を考えると巧妙なチームだ。罠や狙撃をどう掻い潜るかが勝利に繋がる。

「寮に戻ったら作戦会議ですね」

「そうだな」

試合を全て見なくてもいいのだが、視察を含む娯楽としてほとんどの生徒は最後まで見ている。

カズキ達もすぐに寮へ戻ってもいいのだが、一学年のほとんどの実力を見れるいい機会なので、最後まで残ってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

つづく



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レオンの願い

 

 

 

寮へ戻るとすぐにリビングに集まる。明日には試合なのですぐに作戦をたてなければならないのだ。多少ながら相手チームの実力も見れたので、それをもとに考えなければならないが

「うーん」

なかなか出ないでいた。そもそも僅かな情報だけてすぐに作戦なんか思い付くわけがない。

「なんかねぇか?」

「そうですわね、先に狙撃から叩くのはどうでしょうか?」

「セルトの斬撃をかわしながらか?それじゃジリ貧だ」

「四人は多いですわね」

「まぁ今時接近武器なんて古いからな、今は銃とか遠距離武器が頂点に立つ時代だ」

だいたいの生徒は神威武装(ミスフォルツァ)は剣や槍など接近武器に具現化させているが、それは神威使いの大会では個人戦が多いからで、チーム戦や戦争となると遠距離武器の方が戦術の幅が増えリスクを負わず相手を倒すことができる。

「いかに、楽に多くの敵を殺せるかが基準だからな。一応戦いの理にはかなってんだよな」

軍人として育てられていたジェルマンから見れば当然のような戦術らしい。

「四人の狙撃者を掻い潜る作戦」

「難しいですわね」

「そうか?」

なにかいい案はないかとみんな頭を悩ませている中、カズキが言う。

「カズキさんはあるのですか?」

「そいつが攻めと同時に囮の役目をしているんだろ?だったら俺らも同じ事をすればいい」

「といいますと?」

「俺が囮になる、その隙に狙撃者四人を倒す」

「……それじゃすぐに撃たれてしまいますわ」

「そうだな、だが、弾道を見れば場所はわかるだろ?」

敵の居場所を見つけるための本当の囮に自らなると言うカズキ。

「カズキさんの援護は?」

「囮に援護はいらないよ、狙撃者の始末が優先」

「お前だけで掻い潜れるのかよ」

「できなかったらジェルマンが出ろよ、お前の属性能力(アトリファクタス)なら狙撃の目は掻い潜れるだろう」

怒り狂う爆発(バーストレイジ)で視界を悪くして狙撃から欺くことはできる、だが

「じゃあ俺がその役を最初からやる」

「敵の場所がわからなきゃ意味がない、それこそジリ貧だ」

弾道無しで敵を早く探すのは難しい、セルトの能力を考えると長期戦は不利になる。

「勿論、お前らがすぐに仕留めれることを信じての作戦だ」

「けっ、期待し過ぎな信頼だな」

「カズキさんは全員の攻撃を避ける算段とかあるんですか?」

カズキに聞くルリー。いくら囮とはいえすぐにやられてしまうような事はしないはず、それに口調からセルトを足止めできる自信があるようにも聞こえる。

「ない」

あまりにも無責任な一言だった。

「え、そ、それって、本当に死ににいくようなものでは」

「まさか無策とはな」

「なんとかなるだろ?あ、破茶滅茶な動きでもしてたら当たらないかもしれないしな」

「神威使い相手にそれはあり得ませんわ」

優秀な神威使いとしてだけでなく射撃の名手として有名なノアが言うから説得力がある。

だが、あるだけでカズキの考えは揺らぐことはなかった。

「あくまでもしもの話だ、それで……他に案がないならこれでいくけどいいかな?」

「俺は構わない、苦労すんのはお前だからな」

「私もカズキさんがそれでいいのでしたら」

「……わたくしは反対ですわ、カズキさんの作戦は無責任すぎますわ」

「無責任か、確かにそうかもしれない……」

「絶対に負けられない戦いですのよ、それなのにそんな大雑把な作戦だなんて」

「シンプルでいいと思うんだけどな」

「第一にカズキさんの身の安全が」

「そうか、心配してくれるのか……嬉しいな。でもな、誰かがやらなくちゃいけないんだ」

「そんなことないですわ、何かあるはずですわ」

「……一応言っておくけど、戦争(チーム戦)で勝ちたいなら全員が五体満足で勝つなんて甘い考えを捨てる事ですよ」

「な!?」

「全員が生き残る戦法は否定する訳じゃない、だが勝ちたいなら何かを捨てる覚悟がないとダメってことだよ」

「ですが」

「別に死ぬ訳じゃないんだろ?そんな悲劇しなくてもいいだろうが」

「そうですけど、仲間にそんな事できますか?」

「はぁ、ノアさんは俺の事を信用してないんですか?」

「そんなことはないです」

「向こうの敵も同じ事してるんですよ」

「それはセルトは神威武装(ミスフォルツァ)も属性能力(アトリファクタス)も使えますから」

「俺にはこの刀と鍛えた力と技がある、そんなものに負けはしない」

「そんなものって、カズキさんは本当に神威の凄さを知らないのですわ」

「別にいいだろ、作戦は多数決で決まったんだからよ」

ソファーでだれ始めたジェルマンが言ってくる。

多数決制度は取ってなかったのだが、言い合ってなかなか決まらないので嫌気が差したのだろう。

「腹減ったから飯作ってくれよ」

「……それもそうですわ、今から作りますので待っていてください」

ノアはキッチンへと向かう。

「俺も神威武装(ミスフォルツァ)は使えないから考えはお前と一緒だ。だけど、あんまり軽視するなよ」

「わかってる」

「ならいい。明日は頑張れよ」

「他人事な、お前の力も信じてるぜ」

「任せとけ」

「それにしてもレオンの奴、帰りが遅いな」

そろそろ夕御飯の時間になる。いつもは隣に居るのに、今は居ない。

「帰ってくるのが辛いか、チーム見つけて交流してるか、どっちかだろ?」

「私、探してきます」

「やめとけって、どっちにしたってあいつが苦しくなるだけだ」

「それでも大切な友達ですから」

玄関の方から軽いノックと共に凜とした声が聞こえる。

「客だぞ、出ろよ」

ジェルマンはソファーでだれ始め、ルリーはカズキの方を見ている。二人とも出る気がないようだ。

「わかったよ」

ため息をこぼしながら立つとすぐ近くの玄関へ向かう。

「どちら様だ」

ドアを開けると見覚えのある青髪の少女が立っていた。

「えっと、エミリアス・ルイスル?」

「ルイスだ。ルイス・エミリミルス……って今はそんなことを言ってる場合ではない」

背負っていた傷だらけのレオンを見せる。

「レオン、どうしたんだ」

「AクラスとBクラスのチームと決闘をしたらしい」

一対数十人。AクラスとBクラス、それも上級生相手にだ。神威使いとしての実力差が激しく決闘とは程遠い、集団暴行のようなものだったらしい。

騒ぎを駆けつけたルイスが止めに入らなければ、大惨事になっていたそうだ。

「とにかく上がれ」

レオンの片側を支え寮の中へ入れリビングに寝かす。

「おいこら、どういうことだ?ルイス」

寝ているレオンを指さす。ある程度の怪我はルリーの回復魔法で治したので安静にすれば起きたら動けるらしい。

「Aクラスと決闘したんだとよ」

「恐らくだが、実力をみせるため」

「理由はわかった。だが、なぜここに連れてきた?」

学園内には設備が整った医務室がある。それなのにわざわざ寮へ送り届ける用な事をしたのだろうか。

「彼を思っての事だ、許せ」

決闘なんてしたことがバレたら、ただでさえ神威使いとして落ちこぼれ扱いされているFクラスだ、退学もありえる。

その事を考え、あえて寮に連れてきたらしい。

「ほぉ、堅物にしては気がきくな」

「勘違いをするな、私は彼の気持ちを無下にしたくなかっただけだ」

圧倒的不利の中、恐れず果敢に戦い続けた覚悟と不屈の精神にせめての償いと敬意らしい。

「だが次はない、そう伝えておけ。勿論、君達もだ」

「うっせぇな、わかってるよ」

「私はもう行くから、後はよろしく頼む」

「レオンをここへ運んでくれてありがとう。助かったよ」

立ち上がり帰ろうとするルイスに頭を下げ礼を言う。

「うるさい、感謝するなら今後騒ぎを起こさないでくれ」

そう言うとそそくさと寮から出て行ってしまう。お邪魔しましたと律儀に挨拶をしていくあたり真面目なんだなとつくづく思わされる。

「おい、行ったぞ」

キッチンに隠れていたルリーが顔を出す。

「なにも隠れなくても良かったんじゃないのか?」

「あの人ちょっと怖そうで、苦手です」

声を震わせながら言う。確かに規則に厳しく、物事をハッキリと言う強気な性格をしているルイスは怖いと思われても仕方がないとは思う。

ちなみにノアもルイスとは仲が悪いのか嫌な顔をしつつ数回言葉を交えるとキッチンへと戻って行った。

「こいつはどうなんだ?」

ジェルマンを指差すカズキ。好戦的な態度で寮で会った時なんかは最悪だったはず。

「慣れました」

この十数日で慣れるとは思えないが、本人が言うのだから本当なのだろう。

だが、ジェルマンは外見と口調は怖いが話せばそうでもなく、楽しいやつだったりする。

「夕御飯が出来ましたわ。運ぶのを手伝ってくださいまし」

両手に料理を持ってキッチンから出てくるノア、今日はほうれん草とベーコンのパスタ、旬の野菜をつかったサラダ。卵のスープ、白身魚のソテーにデザートの苺のムースもついた豪勢な夕食だ。

「今日もうまそうだな」

「そうですね」

「冷めないうちに召し上がりましょう」

レイカ先生は残業があるらしく帰りが遅くなると怒りの表情で言っていたので先に食べる。

「カズキさん、丁寧に食べてください」

「ふぉおくは難しいんだ」

すすっているカズキに嫌そうな顔をするノア。

「ふん、田舎者が」

それに対しフォークとスプーンを使い器用に食べるジェルマン。食べれればいいとか言っておきながら食事のマナーを守り優雅に食べる姿は紳士のようだ。

「ふん、さすがはオルガノート家、多少のマナーはわきまえているのですね」

「あ?これくらい当然だろ」

ジェルマンと同じようにパスタを巻いて食べているルリーとリュークに視線を当てる。

「こいつが出来ないだけた」

「おかしいですわね、基本なのですが」

「俺の国にはパスタもフォークも無いからな」

「ド田舎だな、おい」

「本当の事だから否定はしないでおこう」

たわいもない会話をしながら食事をしていると

「うっ、ここは………いてて」

ソファーで寝ていたレオンが目を覚まし身を起こす。

「おーレオン、はやい目覚めだな」

「夕飯が出来てますわ」

「はやく食えよ、無くなるぞ」

特に話す事なく皆は食事を続けていた。

「………」

「おかわり」

パスタを食べ終えた皿を突き出すジェルマン

「自分でよそえよ」

「ノアが近いだろ」

「はいはい、よそってあげますから喧嘩はしないでください」

「私もいいですか」

「勿論、どんどん食べてください」

「……レオン、本当に無くなるよ」

なにげない食事風景をただ見つめるレオンにそっと言うリューク。

「なにも、聞かないのか?」

「別に。テメェの事情を聞く必要はねぇだろ?」

「話したければ聞く。決めるのはお前だ」

「……わかった。どのみち知る事だ」

そう言うとレオンはソファーから降り空いている席に据わる。

「俺には、妹がいるんだ」

レオンが辛そうな表情で話してくれた。

ラピス・ビースタルク。昔から体が弱く、ベッドの中にいることが多いが、それでも明るく元気で笑顔を絶やさない子だ。

ある時、原因不明の病にかかってしまった。ただの病ならよかった、まだ治療方法も見つかっていない不治の病。各世界の名医に見せても治せず、告げられた余命も今年で終わる。

そんな絶望的状況の中、唯一救う方法が剣舞祭で優勝し神の力で治してもらう事、もうそれしかなかった。

「俺には今年しかないんだ。俺は……俺は妹を助けたい。どんな手を使ってでもだ」

「なるほど、そりゃ必死になるわけだ」

「剣舞祭に間に合うかどうかもわからない。でも、これに賭けるしかないんだ」

剣舞祭で優勝。その為に医療費として必死で集めた金を入学金に使って、死ぬ気で身に付けた神威でFランクという必要最低限の資格でなんとかアルセウス学園に入学した。

「それなのに、こんなとこで止まってる場合じゃないんだ」

「いいお兄さんですね」

「感動した。俺にもその願い、一枚噛ませろよ」

「協力してくれるのはありがたい。でも、絶対に優勝できるのか?」

「出来る」

根拠のない言葉、だがカズキの声には自信に満ちていた。

「仮に優勝出来なくても、色々と手を尽くす」

「手を尽くす?治療法は無いのにか?」

「俺は世界を旅してたんだ。お前らが知らない名医も治療法も知ってるし、切り札もある」

「例えばなんだよ」

「それは今は言えない、だが手はあることは覚えておけ」

「どれも期待できないな」

「なら優勝だな」

「簡単にいうな。世界から集まる猛者相手だぞ」

「はぁ?俺達はそいつらぶっ飛ばして優勝すんだぞ。強気なのか弱気なのかどっちかにしろよな」

「どのみち宛てがないのでしたら、わたくし達のチームに入りませんか」

「ふっ、お前らも必死だな。まぁ俺がいないと剣舞祭に出れないもんな」

「痛いとこを言うな」

「なぜ俺を誘う。強いやつにも声をかければいいんじゃないのか?」

カズキ達も優勝を狙っている。それならばFランクのレオンではなく他のクラスから誘えばいいのである。

「友達だからとか、他にいないとか言うんじゃないだろうな。そんな安い理由だったら入らない」

「俺の考えなんだが。レオンの実力はまだ隠してあると見ている、それに精霊を使役しているなら半端な実力の神威使いよりもいい戦力になる。精霊無しを考えても、サシ勝負ならBランク程度なら余裕で勝てるだろう」

「それは大袈裟に誉めているだけか?」

「バカ言え、訓練中の動きと獣人の身体能力を考えての考察だ。それに、絶対に勝つって信念がちゃんとある」

「しかし、Bランクは言い過ぎかと」

「俺が見てるのは神威使いとしての実力じゃない。戦士としての実力を見ている」

「戦士として?」

「あくまで予想だ、まぁ俺の目が節穴じゃないことを祈るよ」

「…………」

「決めるのはお前だ、俺は未来に備えて修行するから」

ごちそうさまでしたと挨拶を済ませ立ち上がり空いた皿を片付けるカズキ。

「カズキさん、食べてすぐの運動は体に悪いですわ」

「大丈夫大丈夫、死にはしないさ」

「もう、そういう問題ではありませんのに」

「……本当に優勝できる実力があるんだろうな」

「当然」

「なら、試させてもらおうか」

「いいぜ、御相手つかまつろう」

「おいおい明日試合だぜ、いいのか?」

「ふ、二人とも落ち着いてください」

「そうですわ、また怪我でもしたらどうするのですか」

「なに甘い事を言ってる。戦う者に休息など無い、敵や挑戦者がいればいつ如何なる時でも相手になる。それが戦う者としての責務だ」

止めに入る三人に、見下すような目で睨むカズキ。先程の優しい顔付きから一瞬、眼光鋭い迫力のある顔へと変える。

「というか、心配するならレオンだろ?怪我ひどいしよ」

「当然レオンさんの事も思って言ってますわ!」

怒鳴るように言うノア。

先程まで傷付き寝ていたのだ、満身創痍の状態で更に戦えば体はボロボロになり最悪死んでしまうかもしれない。

「戦う者の責務、お前がいま言ったばかりだろ?なら俺もその通りにしよう」

「その意気や良し。アルセウス学園の学生としてではなく、アニマニアの戦士とみなそう。俺も本気でやろう、全力でかかってくるがいい」

「やるなら外でやってね、まだご飯食べてるから」

一触即発の中、パスタを食べているリュークが外を指差す。『食事の邪魔はするな、勝手にやってろ』と言わんばかりの対応に他は苦笑している。

「あとレオン、はやくケリつけないと無くなるわよ。カズキも、ほどほどにね」

そう言うとパスタを皿に盛り再び食べ始める。

「しょうがねぇ。俺が見届け人になってやんよ」

「ちょっとジェルマン、あなたまでそんなことを」

「いいだろ、喧嘩の一つや二つくらい。仲間なんだしよ」

「仲間の喧嘩なんて見たくありませんわ」

「じゃあ手当ての準備でもして待ってろ」

「いくぞ」

「あぁ」

ドアを開けると、そこには鬼の、いや、閻魔の形相をしたレイカ先生が立っていた。

「話は聞いたぞ貴様ら、まーた喧嘩しようってのか?あぁ!?」

「うげぇ、レイカなぜこぐはぁ」

「レイカ先生だろうが、あぁん?」

問答無用でジェルマンを殴り飛ばす。いつになく暴力的で口も悪くなっている。そう言えば理不尽な残業があってイライしていたな。

「貴様らも、また場所を用意してやるから待ってろ!」

「しかし、いで」

「口答え厳禁!」

カズキの頭にチョップを入れる。

「レオン、お前も騒ぎを起こして。はやく怪我治せ」

「………」

「はい説教終了、さぁご飯だ今日は何かな~、あ?」

「あ、先生。御馳走様」

残った全ての料理が空になった皿へと変わっていた。

「私の夕御飯がーーー!」

「だあぁぁうっせぇセン公だどはぁ」

起き上がった瞬間顔面に前蹴りを入れられるジェルマン。

「なにがセン公だ、口が悪いぞエテ公が!」

「て、テメェもだろ、が」

「なんだと」

「せ、先生、ちゃんとご飯ありますから落ち着いてください」

「なぁ、なんか酒臭くないか?」

「確かにお酒の匂いがしますね」

よく見ると玄関に空になった酒の缶が数本袋から出て転がっている。

「学園内で飲酒かよ」

「教師が何してんだよ」

「うるさい。黙れ。飲まないとやってられないんだよおおおお」

その日、カズキとレオンの衝突は避けられたがレイカ先生との衝突は避けられなかったのだっだ。めでたしめでたし

 

 

 

 

 

 

つづく

 



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策に傲る

 

 

「じゃあ作戦通りやろうか」

「……本当によろしいのですか?」

「当然」

心配するノアに対し自信満々で答えるカズキ。

「本人がいいって言ってんだ。俺達は俺達の役割をこなす。心配ならすぐにすませればいい話だろうが」

「簡単に言いますわね」

「だ、大丈夫かな、不安です」

「体張るやつの前で情けない事言わない、ビシッとする」

不安がるルリーの背中を軽く叩くリューク。

皆が覚悟を決め、控え室を出て試合場へと向かう。

 

 

 

 

 

試合会場

客席は一学年生で埋め尽くされている。その割にはなんか冷めきった雰囲気である。さっきまではなんか盛り上がっていたのだが、気のせいだろうか。

「なんか冷めてるな」

「Fクラス(俺達)が勝ち上がって面白くないんだろ?」

「自身を否定するような妬みほど醜いものはありませんわ」

「まあどっちが優秀で落ちこぼれかわかったんじゃないのか?」

「みなさん辛辣過ぎます」

生徒達の妬む視線を笑うジェルマンとノア。その発言が聞こえていたのか、観客から野次が飛ぶ。

「うっせぇんだよカス共。文句あんなら降りて言えや」

罵声と共にバトルトンファーを試合場に振り落とし爆発を起こす。野次が一瞬にして止む

「なら、僕達が代表して言おうかな?」

カズキ達の前に現れる金髪の男、緑色の瞳や整った顔、身なりから上品で爽やかな少年という印象だ。

セルト・クラハス、Cクラスきっての実力を持ち、そのチームはCクラスでありながら優勝候補とも言われている。

「ジェルマンとカズキだっけ?」

「そういうお前はナルトだっけ?」

「セルトですわ、カズキさん」

「おっと失礼、名前を覚えるのは苦手なんだ」

ノアに言われすぐに謝るカズキ。

「あははは、気にしないでくれ」

「キザッたらしいな、試合始まる前になんだ」

頭を下げているカズキを退かし前へ出るジェルマンは、微笑むセルトを睨む。

「すまないすまない、戦う前にどんな人か見たくてね」

「はっ、予備校の時に知ってるくせによ」

「ジェルマンじゃなくて、カズキとルリーさん、リュークさんを見たかったのですよ。もちろんノアさんもね」

微笑むセルトと目が合ったルリーは不思議そうにしているリュークの後ろにサッと隠れる。

「そんなに警戒しなくてもいいのに」

「どうでもいいからとっとと試合始めんぞ。戯れしに来たんじゃねぇんだぞ」

「失礼、それじゃあ始めましょうか」

「僕達はもう配置についているから、いつでもいいよ」

「ふざけんな、スタート地点に戻れよ」

「はいはい、精々みんなを楽しませてね。それじゃあね」

そう言うとセルトはスタート地点へ戻る。

「殺す、役割代われカズキ」

「俺がやられたらな」

「そうか、ならはやく死ね」

「酷くないか、さすがに」

「頭に血が上りすぎですわ、まるで獣ですわね」

「トマトみたーい」

「やかましい、とっとと終わらせるぞ」

ジェルマンの怒声からしばらくして試合開始のブザーが鳴る。

「行くか」

試合場を真っ直ぐに駆ける。

目の前で歩くセルトめがけ飛び上がり刀を振るう。それに気づいたセルトは手に持つ曲刀で受け止める。

「よっ、さっきぶり」

「何か作戦があるとふんだけど、まさか突っ込んでくるとはね」

「もしかして一人?」

「当然、昨日はジェルマンが突っ込んだから今度は俺の番さ」

「なるほど、君もかなりの無鉄砲なようだね」

「いいから早くしろよ、ジェルマンが来るだろ」

「そうだね、二人同時は辛いからはやく仕留めるとしようか」

そう言うと曲刀を大きく振るう。カズキはその場から離れると後ろにある木材が斬られる。

「これがあいつらが言ってた斬撃波か」

「初見でシュナイデンをかわすなんてなんて凄いや」

「事前情報はあったんでな」

「それでもたいしたものだよ、でもいつまで避け続けられるかな?」

続けて曲刀を連続で振るい斬撃波を放つ。

「そんなもん間合いに入れば意味無いだろ」

不規則に飛ぶ斬撃波を掻い潜り間合いに入り斬り合う。

「いい腕してるじゃないか、少しは楽しめそうだ」

「そりゃどうも」

振るう曲刀を弾き、大きく怯むセルト。胴ががら空きになる。

「なっ!?」

しかし、カズキはセルトに攻撃せず後ろに飛ぶと同時に、自身の真横に刀を振るい弾丸を斬る。

「避けた!?」

「そこかぁ!」

弾道を辿り場所を特定したジェルマンは、軽い身のこなしで高台へと移動し、狙撃者の顔面に渾身の一撃が入り爆発する。

「嘘だろ、弾を斬っただと!?」

「そこですわ!」

もう一人はノアが放つ氷の矢が眉間を射ぬく。

あっという間に二人の狙撃者はやられ虚空の光となる。

「まさか、やられたのか」

後方から聞こえる爆発音に、セルトはハッとモニターを見ると狙撃者二人に赤色のバツ印がついている。

「お前は狙撃者を誘き出す囮だったというのか」

「そうだな、お前と同じ立ち位置ってわけだ」

「くそ、まさかこんな奴らに破られるとは」

「確かに実戦的な戦法だ。だがミスが二つあった。一つは試合場という限られた空間で行った事、二つは作戦を見破られてながら対策しなかったお前のミスだ」

「なんだと」

「お前は言ったよな、何か作戦があると思ったって。ならその時点で変えるべきだったな」

チーム形成から絞られる戦術、ジェルマンの不審な発言や行動からしてなにかあると考えるのが普通である。だが、セルトは何もしなかった、それが最大のミスとも分からず。

「自身の強さと格下相手と相まって傲り過ぎたようだな」

「まだ狙撃者は二人いる、次はそううまくはいかない」

「試してみるか?」

動揺するセルトに対して余裕の笑みを浮かべるカズキ。

撃てば場所がバレるので、狙撃者もそう簡単には撃ってこれない。更にジェルマン達に探されているので同じ場所には長く留まっていられない為、カズキを狙う機会がほとんど無くなり実質一対一の戦いになる。

「はあああっ」

間合いから出れば斬撃波で遠距離攻撃をしてくる。下手に間合いを取って牽制されるなら思いっきり接近した方が戦いやすいと踏んだカズキは、間合いを常に詰め攻め続ける。

「くっ、この僕が押されるだと」

カズキの激しい攻めに防戦一方を強いられるセルト、たまにくる援護射撃も斬り落とされる。

「さっきの威勢はどうした。まさか威勢だけか?」

「この、落ちこぼれ風情がぁ!」

「愚者(バカ)が」

飛びかかるセルトの腕を取り、横へ投げる。

「ガバッ」

カズキを狙った射撃だが、投げられたセルトが壁となり腹部に弾が撃ち込まれる。

「自分の作戦にやられる気分はどうだ……って死んだのか。もろいな」

血を流し倒れていたセルトは虚空の光となり試合場から姿を消す。

「さて、どうすっかな」

この後の事を考えているカズキの頭を狙った弾を取り、飛んできた方へ投げ返す。

すると、モニターに映る敵チームの一人がバツ印の表示がつく。

「さて、残り二人だな」

残るは狙撃者と遊撃者、それに対してこっちは四人全員いる。

集団で行動すると一気に仕留められる可能性もある、ここは単独行動で追い込み確実に仕留める。

「さぁて追い込み漁といくか」

カズキがセルトを仕留め終えた時、ジェルマンとノアは警戒しながから?狙撃者を探していた。

「ぶっ殺してやるから出てきやがれカス共」

「それで出てくる訳ないじゃないですか」

「うるせぇな、集団で行動するな狙われるだろうが」

「騒ぐ方が狙われますわ」

「うるせぇ、ぶっ殺あぶねぇ」

ノアを突飛ばすジェルマン、背後から襲ってきた男子生徒に剣で腹部を刺される。

「ぐぬあぁ」

「ジェルマン」

「ちっ、仕留め損ねたか」

「あなた、よくも」

すぐに弓を構え狙うが、左右に素早く動かれなかなか定まらず距離を縮められ押し倒される。

「きゃっ、レディに暴力なんで許せませんわ」

「うるせぇ。ぶっ殺してやる、死ねぇ!」

横から火の球が飛び出し男子生徒に直撃、一気に全身が燃え上がる。

「ギャアアアッ」

ファイヤーボールを放った方を見ると物陰から木製の杖を持ったルリーの姿が現れる。

「大丈夫ですか、みなさん」

「来ちゃダメ」

「え?」

駆けよってくるルリーの背面から胸部を撃ち抜かれる。

「ルリーさん」

「バカ野郎!」

ルリーの方へ行くノアを突飛ばし弾道から死角になる障害物に隠れられたが、ジェルマンは頭部を撃たれ振り返ると既に二人とも試合場から消えていた。

「ジェルマンまで、そんな」

「あと三人」

高台からルリーとジェルマンを仕留めた狙撃者はすぐに場所を移動する。

「あーあ、やられちゃった」

そんな中、リュークが呑気に真横から話しかけてくる。

「いつの間に!?」

すぐに銃口を向けるが、手首を蹴られ銃を手放す。

「いくら試合でも仲間の仇だから、ちょっと痛くするよ」

頭を掴み持ち上げると、高台から飛び降り地面に叩きつける。

「う、うわああああ」

地面まで数秒もないが死の恐怖を感じるには充分あり、叩きつけた瞬間狙撃者は姿は無くなる。

「あれ、一瞬すぎて痛くなかったかな?」

首を傾げて考えている中、試合終了のブザーが鳴る。

 

 

 

 

 

医務室

「今回はギリギリだったな」

「二人やられちゃったもんねー」

「そんな落ち込むなよなー、試合なんだからよ」

黙って座っているノアに声をかけるが暗い雰囲気はかわらない。

「それでも、私を助けて二人はやられてしまいましたわ」

アストラルエーテ内とは言え受けたダメージは致命傷なので今は医務室のベッドで寝ている。明日には目覚めると思うが試合に参加するのは難しいそうだ。

「次も強敵なのに、学園公式戦の出場権を前に負けたら二人に顔を見せられまれんわ」

「そうか?」

「普通だよね」

「普通って、相手はBクラスですわ」

勝ち進むにつれ戦うチームは当然強くなる。今残っているのはAクラスとBクラスがほとんどで、神威使いとして実力がかけ離れた中でたった三人で戦い勝利するのは難しく、普通なら無理な話である。

そもそもFクラスがここまで勝ち上がったのが奇跡のようなもの。

「見た感じそんな強いイメージはなかったな」

「そうだよね、よゆーよゆーだね」

だが、この二人にとっては勝つのは当たり前のようで、BクラスだけでなくAクラスも大したことがないと言っている。

「そう言えば弾を斬っていたけどすごいね」

「まぐれだまぐれ」

「ほんとに?」

「……攻撃には殺意がある、感じとれば大したことがない。それに、あそこで狙撃できる場所は大体決まる。そこに目を配ってれば見切る事も簡単だろ?」

「へー、凄い鍛えてるんだね」

「そんなことないさ。お前こそ動きが異常だぞ」

「そんなことないよ。あなたも動きが異常だよ」

「俺と似た台詞使うとなよな」

「気のせいよ」

「バカな会話は止してください。はぁどうしましょう」

「……えらい悩んでるな、最初は自信満々だったのに」

「状況が状況なんです。わたくしも足手まといにしかなってなくて」

「……足手まとい?」

「きっちり倒してるからそんなことないんじゃないの?」

「ですが、毎回誰かに助けられていて」

「大丈夫大丈夫、初戦で大いに助けられた奴もいるんだし」

「それって俺のことかよ」

思いだすは初戦、二人相手に殺さずどう戦おうか悩んでいた時にルリーに助けられた事。

確かに、あれは試合のルールも何も知らなかったカズキにとっては助けられた出来事である。

「当然でしょ?」

「あっさりいいやがったよこいつ」

「わたくしもリュークさんに助けられたし」

「あれは不意打ちだから仕方ない。でもカズキは正面から戦ってやられてた」

「追い討ちかけるなって、泣いちゃうぞ」

「やめてよ、みっともない」

カズキの発言に本気で引いているらしいリュークの顔に、本当に泣きそうになるカズキ。

「冗談だから哀れむような目をするなよ」

「ならよかった」

「はぁ、こんな状況でよく冗談が言えますわね」

「そんなため息つくなよ、幸せが逃げるぞ」

「そうそう」

「それに、人材補給なら任せろ」

「人材補給?」

「全ての試合が終わったらレオンと決闘がある。しっかり勝ってチームに入れてやるから」

今朝レイカ先生がやると告げられた。いくらなんでも場所を用意するのが早すぎるとは思ったが、早いに越したことはなかったので二人とも承認しそれ以外は知られる事なくやることになったのだ。

「……負けたら本当に絶対絶命ですわ」

ただ、戦うとなれば互いに傷つき勝っても明日の試合に影響は出る、負ければルリーやジェルマンのように明日の試合にでれなくなる可能性もある。

「今もそんな状況ならやる価値はある」

「……」

「まっ、決まってる事だから止めても無駄だけどな」

「そっかー、じゃあ頑張ってね」

「おう」

「お二人共、本当に気楽ですね」

「余裕があるってことだよ」

「ねー」

互いに顔を合わせ笑う二人。

「見てろって、まずはレオンに勝って人数揃えてやるから」

そう言うとカズキは控え室に向かう。

「じゃあ私達は見届けないとね、行こう」

「……はい」

まだ試合が残っているので客席へと向かう。

 

 

 

 

 

 

つづく



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大地の戦士

今日やる全ての試合が終わり、静かな試合会場。

ノアやリューク、レイカ先生のほかに客席には興味本位でまだいる生徒がちらほら居る。

障害も何もない試合場に二人が真ん中に立っていた。

「……なんの真似だ?」

「あ?」

「武器は取らないのか?」

カズキの腰にはいつもぶら下がっている刀がない。

「お前にはそんなもんはいらないだろ?それに俺は素手の方が強いぜ」

「ならよかった」

二人は静かに構え睨み合う。

ダンッ

しんっと冷たい静寂を破ったのはレオン、カズキ目掛け走りだす。

「はぁ!」

拳は頬を取られゴッと鈍い音が響く。

しかし、カズキは眉ひとつ変えず受け止める。そればかりか、その状態から首だけで押し返すと同時に殴り飛ばす。

「ぐぅ」

一直線に飛ばされる中、足を地につけ踏みとどまるレオン。体勢を整えすぐさまカズキの方に視線を戻すが既に居らず

「こっちだ」

一瞬で懐に潜り込んでいたカズキの殴打に捌く事で手一杯になる。

(なんと素早く重い攻撃、こいつの身体能力は獣を簡単に越えている)

共に授業を受けトレーニングしているから、カズキの身体能力と戦闘センスはずば抜けている事は前々から気づいていたレオン。だが予想を越える強さに焦り、攻撃が単調になる。

そんな攻撃がカズキに通用する訳がなく軽くあしらわれてしまう。

「せいや!」

レオンの腹部に掌底を打ち怯んだ所を軽く飛び回転して側頭部を蹴る。

「全力を出せよ。まだ隠してるんだろ?」

「……ッ」

倒れるレオンに対して興味を無くしたような冷たい目で見下ろす。

「ふっ、お前相手に全力を出さずに勝とうなんて考えが甘かった。戦士として俺が無礼だったな、謝ろう」

「そんなものは良かぁ、はやく見せろよ。アニマニアの戦士さんよ」

「余裕だな。だがそれもこれまでだ」

カッと目を見開き体全身に力を込める。

「うおおおおおっ」

レオンから迸る闘気に空間が歪んで見える。

「ビースターズ!!」

「身体強化か」

「おおおおっ」

レオンのパンチをガードするカズキだが、勢いは止まらずそのまま前進し壁にぶつける。

「んのやろぉ」

続けて殴ってくるが、その前に両肩を強く押し距離を空け回避する。

「荒爪」

すかさす距離を詰めるレオン、振り下ろした鋭い爪がカズキを切り裂く。

「野性味ある荒々しく自由な動き、素晴らしい実に素晴らしい。本気を出すに相応しい戦闘力だ」

「まだ無駄口を叩けるのか」

「当然、まだまだこっからだぜ」

足を高々に振り上げ力強く落とし低い姿勢を取る。

「はっけよーーい、のこった!」

カズキの掛け声と共に互いに距離を詰めぶつかり合い組み合う。

(ビースターズで底上げした俺と力で互角、いやそれ以上!?)

全力で押すがカズキはピクリとも動かない、それどころか押されている。

「オラアアア」

「ぐっ、おおおおおお」

押される力を利用して後方へ投げる。

倒れたカズキの上に乗り容赦無く殴り続ける。

「死ね、死ね死ね、さっさと死ね」

「やがましい、死ぬのはテメェだ」

だがカズキは防御を取る所か殴ってくる。

その防御など考えない攻めのみの戦いにレオンは次第に恐怖を感じ始める。

「なんなんだ、なんなんだよテメェは」

振り落とされるパンチの中、レオンの首を掴み強引に横に倒し今度はカズキが上に乗る。

「ヒノモトのサムライじゃボケコラ」

「ぐはっ、ぬうぅうおおお」

殴ってくる両手を掴むと、勢いよく上体を起こしカズキの鼻っ面に頭突きを入れ立ち上がる。

「ぶっ殺してやる」

「やってみぃ」

カズキは走り勢い任せて放つパンチ、それを大きく踏み込みかわす

「獣烈脚」

踏み上げる力と振り上げる力を利用した強烈な蹴りに横へ吹き飛ぶ。

「だあぁ」

立ち上がるカズキに間髪いれず腹部に渾身の一撃を叩き込む。

「なっ!?」

しっかり腹部に拳が入った、タイミングも狙いも完璧だったはず。だが、弾かれた。人ではない、なにか巨大な壁を殴ったような感覚だ。

「軽い、軽いの~お前の攻撃は。威力も思いも軽すぎて話にならん」

「そんなもんなのか?お前は?そんなもんで妹が救えるか!」

「どうやら、俺の今使える全てを使わないといけないようだな」

「グラン・ギア」

地面が揺れ始めカズキめがけ岩盤が飛び出す。

「大地の精霊か」

間一髪避けたカズキだが、不規則に動く地面からの連続攻撃にレオンの元へ近づけず防戦一方を強いられる。

(これだけは使いたくなかったが、やむを得ない)

手口を晒すことは対策を練られる、その事を考え極力使いたくなかった。だが、ここで全力で戦い負けるようなら剣舞祭で優勝など不可能。出し惜しみなど一切ない、正真正銘の全力勝負。

「埋もれろ」

カズキの背後に手の形をした岩盤が現れると、カズキを掴みそのまま地面に引きずり込まれる。

「やったか」

地中深くまで沈め勝利を確信したレオン。だが地面からボゴォと手が出て這い上がるカズキ。

「生き埋められるほど、甘くはねぇぜ」

「拘束しろグラン・ギア」

カズキを囲うように岩壁が飛び出す。

「くだらん」

殴り壊しすぐに突破するカズキ。しかし真下から突き上がる岩はカズキを上へ飛ばす。

「お前でも空じゃ素早くはないはずだ、押し潰されろ」

四方から飛び出した岩の円柱から更に岩盤がカズキめがけ飛び出す。

体を回転させ回避するも次から次へと飛び出す。だがカズキは岩壁を蹴り飛翔すると、飛び出す岩盤を砕く。続けて壁を蹴り方向転換し岩の柱を壊していく。

壁を蹴り空間を自在に移動するという獣人でもありえない、人外れた高度な動きにレオンは目を見開く。

「足がつきゃ、なんもかわらねぇんだぜ」

全ての岩を破壊終えたカズキは崩れた岩を蹴りレオンに向かって蹴りを放つ。

「うおおおおお」

両手で防ぎ、追撃をしてくるカズキと正面から殴り合う。

カズキは効いてないのか、避ける事すらぜず平気で殴り合う。

「荒爪」

隙をついて爪を振り下ろしたが体には傷ひとつ付かなかった。

「なっ!?」

「その程度じゃ本気の俺に傷はつかない」

そう言うと手刀でレオンの右肩から斜めに切り裂く。

「がはっ」

(つ、強い)

今まで戦ってきた中で一番の強さだ、アニマニアでもこれほどの強敵と出会った事がなかった。

「とどめだ」

「グラン・ギアよ、俺の拳に纏え」

両手に紫のオーラが纏いう。

「アダマンフィスト」

先程までの殴打とは違い、威力や速さが段違いに上がっている。

防御をしなかったカズキもその威力に気付き、捌き始めるも数発受けてしまう。

「ぐっ」

(……効いてる!?)

勝機を感じたレオンは怯んだカズキとの距離を詰め

「獣王掌」

引き締めた両方の掌底を一気に叩き込む。

「がはっ」

「おおおおおおっ」

片膝を付き血を吐くカズキの顔を蹴り、大きく後ろに飛び倒れる。

「本気の状態で俺にダメージを与えるとは。予想以上の強さだぜレオン」

立ち上がるカズキ。

「お前、まだ動けるのか」

「当たり前だろ、俺も負けらんないんでな」

「最高の一撃を叩き込んだはずなのにな。本当に化物だな、お前は」

「いい一撃だったぜ、だが俺を倒すには届かない」

「なら、また叩き込んでやるまでだ」

再び放つ掌底を弾き、腰を深く落とし拳を真っ直ぐに放つ。

「白王」

「ッ!?」

凄まじい威力はレオンを貫き後ろの客席に亀裂が入る。

白目を向き静かに倒れる。

「俺にこれを使わせるとはな。見事だぜ、レオン」

「くっ、がはっ、はぁはぁ」

「なに!?」

「俺の白王を受けて立つとはな。お前化物か?」

「なら、お互い様だな」

「へへ、面白いやつだな」

「これで終わりにしよう。イオリ・カズキ」

レオンの足元から地面が浮き上がる。

「次こそ圧殺してくれる」

「させるかよ」

重力無視に垂直にそびえ立つ岩の柱を駆け上がるカズキ、だがもうそんなものでは驚かない。

「叩き落としてやる、グラン・ギア」

目の前に岩壁が飛び出し、左右から岩盤が飛んでくる。

そんな事はさっきの戦いでやってくることは想定内、岩の猛攻を掻い潜りレオンの所までまどりつく。

「猛虎烈波」

飛び出した所を狙い済ました衝撃波。カズキと言えど足場が無ければ回避不可能、直撃を受けてしまう。

「烈火・鬼落とし!」

衝撃に耐え抜いたカズキは、一回転し炎を纏った足を落とす。

「グラン・ギア!」

岩はレオンを覆い盾となり守るが容易く砕かれる。

「くっ」

とっさにグラン・ギアを纏った両手で防御する。

「うおおおおおお」

あまりの威力に浮き上がった地面を砕きそのまま降下する。

ドゴオォォッ

崩れる地面の中で大の字に倒れるレオンとカズキの姿があった。

「うっ……くぅ………」

「まだ生きてるのか、しぶといな」

「だが、もう動けない」

「だろうな。で、どうだ、俺は弱いか?」

「……強い、強いよ。だがお前が強いだけだ」

「何言う。他の奴らも強いさ、お前の実力を見抜いた目に狂いがなければな」

「面白いやつだな、お前は」

「それはお互い様だ。さて、俺はお前をチームに入ってほしい。だが決めるのはお前だ、どうする」

倒れるレオンに手を差しのべる。

少数の生徒だけだが、これだけ激しい試合を見たからにはレオンやカズキの印象も大きく変わってしまう。

神威がなくても充分に戦える強さに、恐らく他のチームから声がかかるかもしれない。

「……俺は、絶対に優勝しなければならない。お前達にはその実力はあるのか」

「ある。そしてお前もある」

「そうか……なら、返事は一つだな」

微笑むとカズキの手を力強く握り立ち上がる。

「こんな俺なんかで良ければ、お前達のチームに入れてくれ」

「勿論。修羅の道へようこそ、兄弟(ブラザー)」

「ブラザー、か。懐かしい響きだ」

「テメェら残念だったな、この素晴らしい戦士は俺達が頂く。恨むなら神威だけを見ていたテメェを恨みな」

カズキは歩けないレオンを抱え笑いながら試合場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 



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汚名返上?

激闘を終えたカズキはレオンを医務室に連れ寮へと戻っていた。

「いやー、これで人数は揃ったね」

「でも、明日の試合には出れそうにありませんね」

「意識はあっても重症だもんねー、すごいすごい」

「食べて寝れば動けるとか言ってたから大丈夫だろ?」

「そんな簡単に治ったら苦労しませんわ」

「そういえばカズキは平気なの?」

レオンは満身創痍なのに対してカズキはなにもしてないようにケロッとしている。

「平気平気、鍛えが違うのさ」

「わーすごーい」

「てかさ、こんな重傷者がでるんだったら普通は試合の間隔開けない?」

全チームが万全の状態で戦うならわかるが、試合過程によって負傷し欠場する生徒も同然出る。それなのに翌日には試合とか鬼畜過ぎる。

「確かに、普通ならそうしますわね」

「互いに万全の状態で戦うもんだもんね」

「馬鹿者、その時の状況に応じて戦う事も必要なんだ」

「まぁそうだけどね」

「過酷なトーナメントに勝ち抜けば上級生ともまともに戦えるだろうと私は見越してこうしたんだ」

「ほんとかよー、本当は合間合間に授業するのがめんどくさいからまとめてやろうとしてるんじゃないの?」

「あー、そうかもね」

「これは先生の陰謀なのですわ」

「それに弱いチームには更に不利だよね」

「確かにそうだな」

「ねー」

「……あれ、なんか会話人数多くない?」

「確かに一人多い気がしますわ」

「一人二役?」

「んな高度な」

「……貴様ら、言いたい放題だな?えぇ?」

カズキの隣に座っていたレイカが静かに怒りを震わせている。

「おっとレイカ先生、いつの間に?」

「さっきからいただろ」

「まぁまぁそう怒らずに」

「わたくし夕御飯の準備をしないと」

「私も手伝うよー」

逃げるようにキッチンへ向かうノアとリューク。

ノアはともかく、リュークは手伝いなんて……結構しているからなんとも言えない。くそ。

「あ、お前らズルいぞ」

だが、ここで一対一になるのは不味い気がする。いつもはジェルマンがいるからそっちに攻撃がいくのだが今はいない。

「そう構えるな。悪いと思うなら晩酌くらい付き合え」

「いいんすか?俺結構酒豪ですよ」

「ガキが、いきがるなよ」

十数分後

「みなさん、夕御飯できましたよ」

「今日は唐揚げだよー」

キッチンから夕御飯を持って出るとリビングではテーブルには空になった酒缶やおつまみが散乱しており、ビンを持って直で飲んでいる二人の姿がいる。

「カズキ、お前なかなかいける口だな」

「はっははは、当然ですよ。そういう先生こそ、神や鬼みたいな飲みっぷりですね」

「そうだろ、伊達に何年も飲んではいないからな」

「飲み過ぎないほうがいいですよ」

「ガキが何言う、お前こそ飲み過ぎるなよ」

「完全に出来上がってますね」

「そだねー」

「おぉ、リア。三年ぶりだな」

気づいたカズキはノアの手を取り隣に座らせる。

「見ないうちに立派になってよ、少しでかくなったんじゃねぇのか?」

「えっ、あっ、カズキさん?」

「はっはっはっ、先生紹介しますわ俺の妹のミアですよ」

「妹って。そいつはノアだろ?」

「ノア?ノア……ノアノア……あーノアだ、わりーわりー。いやー似すぎて間違えちまったよあははは」

ノアの顔をまじまじと見つめ人違いと気づくと笑いながら背中を叩き謝る。

「もう、やめてください」

「金髪とか緑の瞳とか似てたからさ、つい」

「珍しい組み合わせじゃありませんわ」

「セクハラおやじー」

「ぐうの音もでない」

「おっ、唐揚げか。いいつまみだな」

「んー、しっかりした味付けで酒が進む」

「ジューシーだな。これ作ったノアさん料理の腕凄いな」

「おいしいねー」

「夕御飯をお酒のつまみにしないでほしいですわ」

「堅いこというなよな、おいしいぞ」

「リゾットもおいしいよ」

「なにー、米はやっぱ白米だろ!そんな粥はよくないぞ!」

「でもおいしいでしょ?」

「うんおいしい」

「はぁ、もうどうでもいいですわ」

人数は少ないがとても騒がしい食事に頭を悩ますノアであった。

 

 

 

 

 

翌朝

「Bクラス相手ですわ、どう戦うのか」

リビングで朝食を取りながら言うノア。

昨日は誰かが酔って作戦会議なんてする暇はなかったので今こうして考えている。

この試合に勝てば学園公式戦の出場権は手にはいる。だが相手はB五人のBクラスの神威使いに対してこちらは三人でそのうち二人は神威使いとして半端、圧倒的不利の状況だ。

「……しょうがない。あの戦法を使うか」

「あの戦法?」

「そういやノアさんと俺は足手まといだったんだよな」

「ノア(自称)とカズキ(通称)だから微妙」

パンを食べながら言うリューク。カズキに対して辛口過ぎる評価をしているのはきっと気のせい。

「ひどくない!?そんな足手まといだった?」

「全部カズキのせい」

「ひでぇ。鬼!魔王!」

「残念だけどどっちもだよ」

「くっそーー、全ての元凶はここにいたか」

「くだらない会話はよして、本題に戻ってください」

話が脱線してきたのをノアが戻す。

「それで、どんな作戦なんですの?」

「そんな難しくはないさ」

カズキがなに食わぬ顔で淡々と言う作戦にノアは絶句しリュークは笑っている。

「カズキらしいね」

「だろー!俺とノアさんがちと体を張るから汚名返上もできて一石二鳥よ!」

「……体を張るのはあなたでしょう」

「だが出来るのはノアさんだけだ、互いにできることを全力でしようぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合場

「よし、行ってくるからよろしく」

ブザーが鳴るとカズキは相手陣中へ真っ直ぐ走る。

(本当に大丈夫なのかしら、この作戦)

試合中にカズキが出した作戦に不安になるノア。

「ノアの実力を見越しての作戦だよ。気合いいれなさい」

そんなノアの胸部を軽く叩き、活をいれるリューク。

「リュークさん……わたくしが心配してるのはカズキさんですよ」

「あー、カズキの事?あれなら大丈夫だよ」

「どこらからそんな根拠があるのです」

「んー、私と同じ匂いがするから、かな?」

「リュークさんと同じ匂い?」

「あんまり気にしないで」

リュークの言葉に疑問を抱くノア。

一方で

「おい、来たぞ」

「バカめ、俺達はセルトとは違って全員が接近戦闘者だ」

「全員で向かえうて、ノアの弓にも気を付けろ」

たった一人で走ってきたカズキに対して五人全員が一斉にかかる。

「はぁ!」

それでもカズキは退かず真正面から挑むも分が悪いのか徐々に後ろに押される。

「どうしたFクラス、そんなものか!」

「我ら相手に手も足も出ないか」

剣先から放たれる火の球や、氷の刃など当たればほぼ即死の攻撃、だがそれを前にしてもカズキは

(属性能力(アトリファクタス)は火が二人、風一人、氷二人か……ありきたりだな)

焦る事もなく冷静に分析をしながら戦っていた。

一人の剣先がカズキの腕を掠める。

「いけるぞ」

「このまま一気にしとめてやる」

五人の猛攻に胴、足と体中刻まれてていく。

「とどめだ」

仕留めにかかろうとしたとき、一矢が前方から飛んでくる。

矢は無数の氷の破片となり降り注ぐ。その密集した氷の刃は敵だけでなくカズキごと貫く。

「なっ、味方ごと撃ち抜くとは」

「く、狂ってやがる」

氷の刃が体に突き刺さり二名はは辛うじて生きているも、他は急所を貫き即死している。

「この程度、俺の火で溶かしてやる」

凍りつく箇所に剣を当て火で溶かし始める。

「はっ!?」

カズキが刀を振るい動けなくなった生徒を斬る。

「ばか、な」

それには戸惑いをかくせないまま光の粒子となり消える。

「終わったな」

「……よく生きてますね」

カズキの体には斬り傷だけでなく、ノアが放った氷の矢が大量に刺さっている。

「わざと攻撃を受けカズキだけに集中させノアの所へ誘導。うまいじゃない」

「当然だろ」

「結局、わたくしはあまり役に立ってないのでは」

「そうか?四人倒しただろ?」

「うんうんカズキより多いよ!」

「ですが、わたくしはカズキさんごと射っただけで」

「いやいや。みろよ俺の受けた傷、全部致命傷を避けている、いやーさすが」

「それは偶然で」

「その証拠に、俺の近くにいたやつは致命傷を負ってなかっただろ?」

「ですが」

「そもそも俺ごと倒すのがこの作戦のコンセプトなんだから気にするな」

「そーそー、迷わずぶっ殺せばよかったのに」

「お前それは酷いな、ちょっとくらいノアさんの思いやり見習え」

「コンセプトはどこにいったの?」

「うっ。さぁ終わったから出るぞ。反省会は寮でするぞ」

分が悪くなったので無理やり会話を変え逃げるように試合場を後にする。

「あっ、逃げた」

最後のリュークの言葉がだめ押しの一撃となり心をえぐるのであった。

ともかく公式戦の出場権は得られた。これでやられた仲間に顔向けができるというもの。

だが、まだ終わった訳ではない。剣舞祭を優勝するまで気を引き締めなければならない。

 

 

 

 

 

 

Fクラス 教室

「なーんで授業があるんだよ」

ジェルマンが机をバンバン叩きながら文句をたれている。

「仕方ないでしょ、試合数がなくなるんだから時間ができるんですから」

その子供じみた態度に呆れるノア。

最初は多かった試合も気付けは一日に数試合と数は減ったので授業を再開したのである。

「なにも病人を引っ張り出さなくてもよぉ」

さっきまで医療室で試合を観戦してたジェルマンやレオンまでも授業を受けている。ルリーはまだ体調が優れておらずまだ退院はできないそうで、カズキは元気だが、昨日と今日で重症を負ってるので体に支障はないか見てもらっているので二人は授業に参加していない。

「治癒力が高いのも考えものだね」

「そうだな」

「安心しろ、まだ試合があるお前らの事を考えて勉学にしてやったぞ」

「ありがた迷惑なんだよ!」

「そう悲観するな、今日は少し変わった事を勉強するぞ」

「変わった事?」

「そうだ、お前ら今日はなんの日か知ってるか?」

「知らねぇよ」

「今月って祝日ないよな」

「まさか、先生の誕生日!?」

「なんで私の誕生日になるんだよ」

「なーんだ、違うのか」

「今日はロウラクシア連国の建国記念だ」

「ロウラクシアって、元レオルド帝国の?」

ロウラクシア連国。それは四年前に起きた革命によりレオルド帝国が滅び新たに出来た新国。

それは全世界に知れ渡った出来事であり、アニマニヤやルーンブラッドでも知られている。

「まぁあんな政治をしてたからな、起きて当然だろ」

王が若くして死に、後をついだ息子による悪政に国が腐敗したのが原因となり起こった革命、周りの国もこうなる事は見えていた。

「ありゃ凄いよな、あのレオルド帝国が負けるとはな」

兵士の練度の高さと人数、有力な神威使いと兵器による高い軍事力とドルツェルブに次ぐ先進国、そして広大な土地を持つ強国として知られているレオルド帝国。

「よくドルツェルブとドンパチやってたけどこっちが劣勢だったからな」

「えぇ、とても革命軍だけで勝てるとは思えませんわ」

「その通りだ。革命の成功の大半はヒノモトによるものだ」

「ヒノモト、あの七人か」

ヒノモト 海を越え遥か東に位置する秘島のことだ、独自の文化を持ち大国とは関係をもっておらず詳細はほとんど不明、その為に幻の島とも言われている。

「話は有名ですわね、たった七人が加担しただけで革命を成功させてしまうのですから」

突如現れた七人の異民族。その一人が革命軍の知り合いで利害の一致のもとに手を組み帝国を滅ぼしたと言われている。

教科書にはその記録は曖昧だが記してある。

「んにしても画家ってのは変な風に書くよな」

その中に国を斬る少年の絵がある。なんともあり得ない絵に革命と七人の強さを模したものと言われている。

その大袈裟過ぎる絵を見ながら不思議そうに言うジェルマン。

「ヒノモトか……」

「どうしたのですか」

何やら難しい顔をしているレオンにノアが声をかける。

「なんでもない」

だが、そう言ったきり再び黙る。

「本当に革命の半分もの功績したのかよ」

「いや、帝国を滅ぼす実力はあると思った方がいい」

ジェルマンの疑問をレイカ先生が即答する。

「たった七人でか?」

「あぁ」

「随分と肩を持つじゃねぇか。らしくないな」

「……いるんだよ。私の知り合いがその中に」

ふと呟くように言うレイカ先生、その表情はどこか寂しげがあった。

「知り合い?」

「お前達には関係ない話だ。さて、なぜ今日この話をしたかわかるか」

「わからん!」

「ロウラクシア連国は混乱期で剣舞祭にはまだ出場してなかったが今年で多分出ると思われる。その対策勉強だ」

「おいおいまだ出場が決まった訳じゃねぇのに気がはやすぎんだろ」

「そうですわ」

「何をいう、お前らは絶対に出場して優勝するんだろ?なら早めに対策しておいて損はない」

「あぁその通りだ」

剣舞祭の優勝に対して人一倍執着しているレオンが力強く頷く。

「だがまぁ、剣舞祭出場どころか学園代表にもなれなかったら覚悟しろよな」

生徒を睨むレイカ先生。覚悟するのは恐らく死だろうと察する。

「それでどのような人が出るの?」

「そうだな、主だったやつらは戦死しているしな」

「だからこそ。新手の神威使いが出てくる」

新国なら神の加護を受けたいもの、その為にあえて出場せず力を溜めていたと考えたレイカ先生による授業。

「どんなやつがくるか用心に越した事はない。だが、情報がほとんどないからまずはレオルド帝国の武術を教えてやる」

「知ってるのかよ」

「当たり前だ、私はレオルド帝国の軍と何度か交流している」

「世界レベルになると交流のレベルも違うのですわね」

「こちらが有利になる。いいことだ」

「まずは剣術からいく。軍人はザックス流を基礎に叩きこまれて……」

レイカ先生の長い長い授業にうたた寝しながらもなんとかやり遂げるのであった。

そして寮へと戻るとリビングではルリーとカズキがボードゲームで遊んでサボっていた。

もはや叱る言葉も出ない。

本人達は授業がないと思ってここで暇を潰していたので悪気はなかったのだがレイカ先生にきっちり説教を受けたのであった。

 

 

 

 

 

 

つづく



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大挑発





 

 

 

「うるああ」

寮前でトレーニングをしているジェルマンとレオン。

「おい、あんま無理すんなよな怪我人」

隣で素振りをしているカズキが言う。

「あぁ!?誰が怪我人じゃボケコラ」

「怪我人にしたのはお前だろう」

丸一日は寝て過ごしたジェルマンは鈍った体に鞭を入れるようにせっせと取り組んでいる。

レオンも同じく明日に全力で動ける用に体を動かしコンディションを整えている。

これで怪我が悪化したら元も子もないのだが、カズキもそうやってトレーニングしていたのであまり強くは言えない

「よぉFクラス落ちこぼれさん方」

二人の男子生徒に声をかけられたのでトレーニングを一旦止めてそちらを向く。

「あー………誰?」

「知り合いか?」

「しらねぇよこんなブサイク共」

が、皆知らないと言う。そして再びトレーニングへと戻る。

「クオラ、知らないとはなんだ落ちこぼれ共」

「あとブサイクってなんだ、底辺共!」

その態度に当然怒り怒鳴り始める。

「うっさいな、トレーニングの邪魔だ」

「シッシッ、あっち行ってろ負け犬ワンちゃん」

「ふん、そうやって調子に乗ってられるのも今のうちだ」

「明日の試合でケチョンケチョンにしてやるからな」

「明日の試合だぁ?」

「ほう。試合前の挨拶か、面白い」

試合相手と分かったとたん、皆の目付きががらっとかわる。

「みなさん、トレーニングならもう少し静かにやってください。周りに迷惑ですわ」

そこへ可愛らしいエプロン姿のノアが窓からひょいっと顔を出す。

「あら、あなた達、またわたくし達にちょっかいを出しに来たのですか」

「知り合いか?」

「ほら、前に来たじゃありませんか」

以前、Fクラスをバカにしにきた奴らとノアが軽く説明するが

「すまない、眼中になかったわ」

「覚えてるほど暇じゃなかった」

「どーでもいい、覚える価値ないだろ」

「あなた達も酷い人ですね」

「なに、じゃあ名前言ってみろ」

「え、えっと」

「ふん、お前も同じじゃねぇか」

「なっ、なにを言ってるのですか。わたくしはやる事が多くていつも忙しいのですよ」

「あー?な~にがいそが」

「あぁ!?ノアさん、フライパンから火柱が」

「おー、ファイヤーだね!ファイヤーーーッ!!」

ノアとジェルマンが言い争っていると寮からルリーの悲鳴に近い声と、リュークの楽しんでいる声が聞こえる。

ノアの姿からして恐らく料理を手伝っていたのだろう。

「ルリーさん火を止めてください」

「キャー火事だ火事ー!家がキャンプファイヤーになるー」

「バカな事を言ってないで手伝ってください」

ノアは慌てて寮へ戻り、消火活動をおこなっている。

「……俺達もなにか手伝わないとな」

「……だな」

家事全般をこなしているノアに、感謝の気持ちと謝罪の気持ちで心が一杯になる男子達。

「で、何しに来たんだ。アンガロとリゼだっけ?」

話がずれたのでめんどくさそうだが元に戻すジェルマン。

「覚えてるんじゃないか!」

「あ?そのバカみてーな喋り方で思い出したんだよ」

「よく名前覚えていたな」

「うむ、本気で忘れていた」

「名乗ってたろ。で、優秀なBクラスさんがなんのようだ」

「試合前の挨拶って言ってただろ」

「話は聞いた方がいいぞ」

「名前忘れたやつにいわれたかないわ」

「お前も忘れていただろ」

「うっさいだまれ!」

「はぁ、神威だけじゃなくても頭脳まで落ちこぼれなのか」

「救いようがないな」

「……あんな、んな古典的な挑発はいいだろ。明日の試合できっちりぶっ殺してやるから今日は大人しく震えて寝てろ」

「ははは、なかなかいい啖呵じゃないか」

「八百長で勝ち上がってきたくせによく口が回るな」

「なんだと?」

「知らんのか?お前達の勝利は全部八百長って噂が流れてるんだぜ?」

「……誰がんな噂流した」

「さぁな」

「案外、事実かもな」

「て、てめぇ」

ジェルマンは震える拳を振りかぶる。

「やめなさいジェルマン」

その手をノアが掴み止める。

「おーノア、料理はどうした」

「ルリーさんとリュークさんには一旦手を止めてもらいました」

息を切らしていることから相当急いで消火して駆けつけてくれたのだろう。

「おっ?黒い噂の元凶が来たぞ」

「黒い噂?」

アンガロの言葉にキョトンとするノア。

「八百長の話だよ」

「何でたぶらかした。金か?色か?」

「いやー、上級貴族はやることが違うなぁ」

「…………」

ケタケタ笑う二人。ノアも黙り肩を震わしている。

「所詮は領土だけの貴族様はやることなすこと田舎なんだよな」

「それにすがるこいつらもこいつらだけどな」

「これ以上……これ以上アルバートン家と仲間を愚弄するのでしたら、容赦しませんわ」

瞬時に神威武装(ミスフォルツァ)を展開させ、矢を向ける。

「おー怖い怖い」

それでも二人は煽る事をやめなかった。

「あー、お前らもう帰れ。相手にするだけ疲れる」

それをみかねたカズキは呆れた口調で帰るように促す。

「なんだよ、俺達は真相を暴きにきたんだよ」

「そうそう、まっ、優勝を本気で狙っているから意味ないけどな」

「アホか、八百長だったらあんな必死に戦わない。お前ら、これ以上仲間と戦ったやつらを愚弄する気なら許さないぞ」

「へぇ、負けた雑魚共の肩をもつんだ」

「昨日の敵は今日の友ってか?時代遅れだね~」

「……話しにならん、戻ろう」

「おい、逃げるのか」

「弱虫ちゃんよ」

寮に戻ろうとするカズキを呼び止める。

「逆に言うぞ、逃げないのか?」

だが、カズキは不気味に微笑みながら問いかける。

「なんだと!?」

「誰が逃げるか」

「お前ら、私の寮の前で何を騒いでいるんだ!」

閻魔の形相をしたレイカ先生が足早にやってくる。声に苛立ちがあるから何か嫌な事があったのだろう。よく見ると手元には資料があるから寮に戻って仕事するんだなと察する。

「れ、レイカ先生」

「お前ら、私の生徒にちょっかいだしてるんじゃない。殺されるぞ」

「なんでもありません」

「失礼しましたー」

レイカ先生の圧力にびびり一目散にどこかへ去ってしまう。

「悲しいな、所詮小物は小物なんだな」

「うむ、噛み付くジェルマンはたいしたものだ」

なにかとレイカ先生に噛みつき反抗するジェルマンが異常で、あの二人の反応が正しいのだなと思った二人。

「あぁ!?なんだとこら!?」

「今日の夕飯はなんだ、ノア。出来れば夜食も作ってくれるとありがたい」

ノアの方を見ると顔が真っ青で体調が悪いように見える。

「………ノア、どうした」

「なんでもありません」

笑顔で応えるが、その笑顔が無理やり過ぎて誤魔化そうとしてるのが一目で分かる。

「夜食だってよ、太ってデブるドハァ!?」

「次体重の事言ったら殺す」

「そ、その前に体罰で、退職する、ぞ」

最後まで皮肉を言うと絶命するジェルマン。

「大丈夫か、本当に」

何度もやられてるのに懲りずに繰り返すので学習能力がないのか、本当にバカなのかちょっと本気で考えてしまうレオン。

「デリカシーがないなー、ジェルマン。太るのはいいことなんベバラ!?」

「殺す」

「俺は宣告なしなんだね、がく」

問答無用で殴られ絶命したカズキ。こいつも目の前で殺されたのになぜそんな事を言うのか不思議に思うレオンであった。

「いて」

そんな事を思っていたら、なぜかレイカ先生が頭に拳を落とす。

「なんで俺まで」

「不公平だからな」

「理不尽な……」

何もしてないのに殴られる。この不条理に理解できないレオンであった。

「不条理なんか理解できないから不条理なんだよ」

「お前頭いいな……って心読むなよな」

「顔に書いてた」

クスクスと笑いながら寮へと戻るリューク、いつの間にこっちに来たんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

色々ありながらも夕飯を食べ終え、レイカ先生が「仕事をするから騒ぐなよ!」と釘を刺してきたので、仕方がないのでリビングに集まり静にカードで遊んでいる。

「よっしゃ、これであがり」

「まだジェルマンの一抜けですの」

「はっ、俺はこの手のゲームはほどほどに強いんだよ」

だが、七回やって四回一番で抜けている。確かにほどほどに強い。

「それに引き換えレオンは弱いな」

七回やって七回とも最後まで残っている。はっきり言うのもなんだが弱い。

「この遊びは初めてだからな、なかなか面白い」

基本的にスポーツや格闘技など体を動かしている事を娯楽としているアニマニアではカードゲームというものがないらしい。

そんなレオンにとっては新しく、勝敗など気にせず楽しんでいるようだ。

「そういや、明日の試合どうするんだ」

カズキが話を振る。

「あぁ、そういえば作戦立ててないな」

忘れていたのか、他人事のように言うジェルマン。

「そうですね、相手はあのBクラスの人達ですもんね」

あんな性格だが、Bクラスなだけあって相当な実力者。話によるとBクラスで一、二を争う程らしい。

「アンガの属性能力(アトリファクタス)は火でリゼは風ですわ」

「他も実力者ぞろい、一筋縄ではいかないか」

アンガとリゼを含む四人のアタッカーと二人のスナイパー、チーム構成はこちらとほとんど一緒のマイナーなもの。だが、全員が神威武装(ミスフォルツァ)とアトリファクタスを使用できる。

「やはり、分が悪いですわ」

「まだそんな事言ってるのかお前はよ」

「本当の事なのですわ」

「俺達は格上の神威使い勝ってきたんじゃないか、自信もてやボケ!」

素の強さはともかく、神威使いとしては明らかに格上の生徒達と戦い勝ってきた。

「でもジェルマンは一回負けてるよ、まだ傲るのは早いんじゃないかな~」

第二試合の時にやられて一日休み試合に出れないということがあった。リュークの言う通り、まだ自身の力を過信し軽率な考えをするのは早い。

「んだとテメェ!あれは」

「庇ったからとか、遠距離攻撃だからとか甘い事は言わないでね。行動結果はちゃんと責任持ってよね」

「ちっ、なんも言えねぇじゃねぇか」

正論なのでジェルマンは殴りかかりもせず黙って座る。

「自覚があっていいね」

「だが、自信を持つのは大切だ」

「慎重になるのはいいが臆病になるな。戦いの基本だぞ」

「わたくしがいいたいのはもっと真面目に考えて」

「作戦は大雑把の方が臨機応変ができる。精密に練っても崩れたら意味がない、それこそ賭けだ」

範囲が限られては考えられる作戦もたかがしれてる、何より相手のチーム構成からみて、切り崩すのは難しい。こういうタイプは下手に小細工するより真っ正直からのぶつかった方が戦いやすかったりする。

なによりこの先は猛者共と正面から戦う事も多くなる。こんなとこで躓いてたら先が思いやられる。

「もう学園トーナメントの出場は決まってるんだ。なら今ここで俺達の実力がどのくらいなのか知り改善できる機会になる」

先の事を踏まえて、あえて真っ正直から戦う戦法を提案するカズキ。

「確かに試すとしたら今しかないな。それならいいかもしれない」

「ですが、あんなやつらにわたくしは負けたくありません」

「ノアさんの気持ちは分かる、俺も絶対に負けたくない。だからこそ正々堂々戦いたい」

「もし負けてしまったらどうするんですの」

「負けたならその弱さを受け入れ次へ生かせばいい。だけどそれで勝ったら嬉しいだろ?」

「真っ正直からぶっ潰すのか。そりゃ最高の優越感だろし、あいつらにとって最大の屈辱だな。俺は乗ったぜその案」

ジェルマンとレオンは賛同してくれたが、どうもノアは乗る気ではない。

「リュークさんやルリーさんは、どうなんですか?」

「いいんじゃない?私は構わないわ」

「私も、いいと思います。あそこまで言われたら言い逃れが出来ないような敗北を味合わせたいです」

「……どうしたのですか、ルリーさん」

「大丈夫?熱でもあるの?」

「まさか、ジェルマンの悪影響か?」

「ジェルマン病だ!誰か薬を処方して」

「ぶっ殺すぞテメェら!」

ルリーらしからぬ言動に騒ぎ出す。

「私、こう見えて負けず嫌いなんですよ!」

「なるほどね」

「神威は使えませんが、魔法なら負けません!」

えっへんと小さな胸を張るルリー。その自信に満ちた姿に拍手と共に褒め称える一同。

「その意気だよルリーさん」

「お前も見習え腐れチキン優等生」

「なっ!?わたくしはただ勝ちたいから」

「勝ちに執着してビビったら負けるぞ」

「負けたくない気持ちはみんな一緒だ。だから俺達を信じろよ、それとも俺達じゃ実力不足か?」

「そんなことありませんわ」

「ならいいだろ。それとも自信がないのか?お嬢様」

「上等ですわ、やってやろうじゃありませんか!」

「話は纏まったな」

「うむ、なら続きをやろう」

持っていたカードを隣に座っていらるルリーに向けるレオン。

「またビリになるぞ」

「次は大丈夫だ、コツをつかんだ」

「てかさ、運ゲーなのになんでそんなに弱いんだ?」

「策がないからだろ」

「今その単語言いますか」

カズキに冷ややかな視線が集中する。

それといった対策も作戦もたてずに戦おうと決めたばかりなのに策無しでは負けると言ったのだから、無神経だったな。

「てへ」

「気持ち悪いのでやめてください」

「ひど!?」

ノアの言葉が心を抉る。せっかく可愛らしく舌も出してウインクもしたのにそんな風に言わなくてもいいのに。

「んなくだらないことはいいからさっさとカード引け」

明日の事についての話は終え、再び楽しくカードゲームをするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

つづく



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雪辱戦

 

「これが俺達そろっての初陣だ。絶対に勝つぞ」

「あったりまえだ。ぶっ殺してやる」

「あぁ、屈辱の借りは返さないとな」

「アルバートン家と仲間を愚弄した者には報いを。ですわ」

「私も、がんばります」

「じゃあ行こうか」

 

 

 

 

試合場

ビーーッと大歓声を消すように試合開始のブザーが鳴る。

「相手はFクラスだ。楽しもうぜ」

「あぁ、そうだな」

余裕ぶっているアンガロ達にカズキとジェルマン、レオンが向かってくる。

「正面から攻めてきたか。生意気な」

「揺さぶったかいがあったな」

「配置につけ、じっくり捻り潰して格の違いをわからせてやる」

リゼの指示のもと、神威武装(ミスフォルツァ)を展開し行動に移す。

「総力戦でBクラスに勝てる訳ないのに、何か策があるのか?」

「さぁな、あったとしてもこの実力差の前じゃ無駄だろうけどな」

「ノアとルリーの後方攻撃に気を付けろ」

「あの三人を倒せば勝ったも同然だ」

「おいアンガロ、俺はあの生意気野郎をぶっ殺す。お前はあの獣人をやれ」

「オーケー、お前らはカズキをやれ」

「任せろ」

「死ねオラァ!」

ジェルマンがバトルトンファーを振り落とす。地面に触れると爆発が起こり周りは黒煙に包まれる。

「ちっ、目眩ましか」

リゼは双剣を振り回し風を放ち煙を消すと、瞬時にジェルマンの姿を捉え双剣を振るう。

「お前の目眩ましなど、俺の属性能力(アトリファクタス)の風には効かない」

「大口を叩くだけはあるな、Bクラスさんよ」

バトルトンファーで受け止めると、すかさず片方に持つバトルトンファーを振るう。

「っと、あぶねえな」

かわしたと同時に短剣を振るい腕に傷をつける。     

「切り落としたと思ったがいい動きするな。だが、神威使いは自身の能力をあげる。約四倍に上げた俺の動きについてこれるかな」

「上等だ。常人の四倍ごとき、恐れるに足りんぞオラァ」

「吠えるだけ吠えてろ負け犬ゥ」

手に持つ武器は二つ、リーチはジェルマンの方が有利だが、大きい分大振りになってしまう。それに対してリゼはリーチが短いが一撃が速く隙がない。とにかく間合いを取り攻撃し続ける、もし相手に間合いを取られたら一気に攻められる。

「どうしたどうした。動きが遅いぜ」

「ちっ、落ちこぼれ風情が……風の刃(ヴァンス)」

距離を空けると、風を纏った双剣を振り回し風の刃を放つ。

咄嗟に後ろへ飛び、バトルトンファーの持ち方を変え顔を守るように両手でガードするも全身に切り傷を受ける。

「ぐぁ、いってぇぇ」

「致命傷にはならなかったか。まぁいい、次でしとめる」

不適に笑うと、再び双剣を振るい風の刃を放つ。

「ほらほらほらほらどうしたどうしたぁーーっ。狂人の実力はこんなものか?」

高速で飛んでくる風の刃は正面からかわすのが難しいので、横へ走り円を描くように徐々に間合いを積めるジェルマン。

「うるせぇんだよ、人面もやしが」

距離を詰め攻撃するも簡単にかわされ、再び遠距離から攻撃される。

ただ突っ込むだけじゃ、あいつは倒せない。

本当は鉄球を顔面に叩き込んでやりたいが、その気持ちをも一旦抑える。まずは相手を無力化することだ。

「爆破衝撃(バーストショック)」

鉄球を地面に叩き付け爆発を起こす。爆発から生み出された爆風は凄まじく、リゼだけでなく周囲にある障害物も簡単に吹き飛ばした。

 

 

 

ジェルマンが周りを一掃している頃、レオンはアンガロと既に戦っていた。

アンガロの獲物は柄の長い炎を纏った金槌。繰り出される一撃は重たく見た目通りのパワーファイターぶりだ。

「逃げてないで戦ったらどうだ、獣人」

アンガロとかいう男も無茶を言う。炎がある以上受け止める選択肢は消えたから避けるしかないというのに。

「ちっ、ちょこまかと」

攻撃が当たらない事による苛立ちから集中力が切れ攻撃が大振りになる。そのできた隙をついて、攻撃をかわした瞬間背後につき、胴に両手を回す。

「なっ」

「自分の体から炎はだせないんだな」

振りほどくなら体から炎を出せばいのだが、それをしない。どうやらミスフォルツァからしか出せないようだ。

「くそ、放せ」

「断る」

そのまま後ろに反り投げる。

「……消えないな、もう一発いくか」

地面が陥没する威力だったが、白目を向いて気絶しているだけだ。どうやら身体能力は打たれ強さもあがっているらしい。じゃなきゃ即死……なはず。

考察をしてる暇はないと、体勢を変えトドメの一撃をくらわそうとする時一本の矢がレオンに向かって飛んいた。

その存在に気づきその場を離れようとするが、腿に刺さる。もし気づかずに攻撃を加えていれば心臓を射ぬかれていただろう。

「ぐっ、つうぅぅ」

急いで矢を抜くが、傷口周辺には焼けるような痛みが残る。それでも戦うに支障はでない範囲だ。

立ち上がり放たれた軌道を見るが誰もいない、場所を移動したようだ。ノアには劣るが命中率はたいしたものだ、できれば始末しておきたいが、仕方ない。

「まずは、この男を」

アンガロの方を見るが、姿を消していた。

さっきまで気絶していたのに、まさか逃げられるとは思ってなかった。だが、どうやって逃げたか、自力か他者か。手負いからして動くのは無理だから恐らく後者だろう、だとすれば他と合流される前に叩いておかないと。

辺りを見回し探索しようとするが、進行方向に無数の矢が刺さる。

「そう簡単にはいかない、か」

どうやら、さっきの弓使いはここでレオンを仕留めるつもりだ。

「おもしろい」

再び矢が飛んでくる。今度は一定方向出はなく、頭上から降り注ぐように飛んでくる。まるで雨のようだ。

近くにあった障害物を頭上に持ち上げ盾にし回避する。

反撃に転じたいが、真上から攻撃されたら軌道が読めない。相手の位置がわからなければ防戦どころか戦いにすらならない。

とにかく移動して見つけないと、あとの事を考えて出来ればここで倒しておきたい。

走りながら周囲を見る。高台には人影がない、だとすればどうやって場所を特定している。

レオンは常に動き場所を変えているから、高い所から見渡さないと的確に狙えないはず。

だが、今まさに上から矢が降っている、確実に狙っている。

なにか、手がかりがあれば……。

「レオンさん、しゃがんでください」

横からノアの声がする、素直に従いしゃがむ。

頭すれすれに氷の矢が通る、そして。

「ぎゃぁぁ」

放った方から別の女の悲鳴が聞こえる。見てみると氷付けになった生徒がいる。

「なるほど、俺を追跡しながら攻撃しいたのか」

見つからないように障害物を利用して隠れて、常に追跡しながら攻撃していた。それなら高い場所に留まる必要もない。なにより、特に遠方に気を配っていたレオンには見つけにくかった。

「どうやら隠密行動に長けてたようですが、一人に気を取られすぎで第三者からバレバレでしたわ」

「こんな近くにいたとはな、驚きだ」

本来、あの距離なら隠密動作でも消えない微かな音で気づくはずなのだが誰かがうるさいので、自慢の聴力を生かしきれなかった。というより、居ないと判断してしまった自分が情けない。

「どうしたのです?しかめっ面なんかしまして」

「なんでもない」

個の反省などしている暇などない。すぐさま加勢しに向かう。

 

 

「火の球(ファイヤーボール)」

「ぐわぁぁっ」

カズキと競り合っていた相手にファイヤーボールが当たり燃え上がる。

「ルリーさんナイス!」

後方にいるルリーの方を向いて親指を立てる。 

「まだ来ますよ」

「おっと、危ない」

背後から縦に振ってくる剣を刀で受け止めると、蹴りを入れ怯ませるとファイヤーボールでトドメをさす。

「よおし、ナイス連携攻撃」

「次行きましょう次!」

加勢に向かうも、カズキとルリーが既に二人倒している。このまま誰も負けなければ完全勝利になる。

「死ねオラァ!」

「バカな、Fクラスになぜこんな力が」

「考えるのは後でいい。アンガロ、一気に押しきるぞ」

「かかってこいオラァッ!!テメェらなんぞ俺一人で充分じゃボケゴラァッ!!」

アンガロとリゼを相手にジェルマン一人で押している。

「ありえませんわ。Bクラス相手にあそこまで戦えるなんて」

Aクラスも侮れないほどの実力を持つリゼとアンガロが相手だから驚きは隠せなかった。

「カズキだって五人同時に相手してたんだ、不思議じゃないだろ?」

「できて当然なりけり」

「質が違いますわ」

「うわ、なんかへこんだわ」

「加勢しましょう」

横から不意打ちをするように参戦する。

「くそ、他は全員やられたのかよ」

「こんなクズ相手に負けるとか、使えねぇゴミ共だ」

Fクラスが全員生き残っているのを見て苛立ちを隠せない二人

「お前らもそのゴミ共の仲間にしてやるから安心して死ねや」

「なめるな、たかがFクラスごときに負ける俺達ではない」

「一撃で気絶したやつがよく言う」

「うっ、あれは演技だ」

「ここで集団リンチしても後味が悪い、同じ人数で相手してやんよ」

「だったら俺に任せてくれ」

「わたくしが御相手いたしますわ」

レオンとノアが前へ出る。

「あ?テメェら、俺の相手がいなくなんだろうが」

そんな二人を獲物を横取りされた猛獣のような目で睨む。ジェルマン自身が出る前提での提案だったのだろう。

「今まで何もしてないんだ、ここで実力を見せてやる」

「わたくしが一番怒っていますの。この手で決着をつけさせてもらいますわ」

「……ふっ、俺がでるのは野暮だな。任せたぜお二人さん」

覚悟を見てか意外にもあっさり引いた。

「なめるな、全員でかかってこい」

「お前ら落ちこぼれごとき、何人集まっても余裕なんだよ」

だが、向こうの二人は納得していない様子だ。

「死ねぇ」

アンガロが金槌を振りかぶりながらカズキに飛びかかる。

しかし、片手で頭を捕まれ持ち上げられる。

「ぐあぁぁあ」

みしゃりみしゃりと頭蓋骨が軋む。激痛から逃げようとカズキの頭に金槌を振り落とすも掴む手は離れなかった。

「悪い事はいわねぇ、素直に戦いな」

グググッと、更に握る力を強める。額が切れ出血する。

「それともここでじっくりと頭潰されたいか?」

「ぐぬああぁぁぁ、戦う、戦う戦う、戦うから手を放せ」

「よろしい。存分に死に合いな」

リゼを無造に投げ捨てレオンとノアの背中を軽く叩く。

「カズキ、頭は大丈夫か?」

炎を纏った一撃をくらってもケロっとしているカズキだが、いくらタフでもさすがに無傷ではないはずだ。

「力入ってなかったから大したことはないさ」

だがカズキは笑いながら言う。

「そうか」

本人がそう言うなら大丈夫なのだとあまり気に止めはしないレオンは目の前の敵に集中する。

「カズキ、何意味を勘違いしてるんだ。バカすぎて頭大丈夫かの間違いだろ」

「なにー、レオンお前ひどいやつだな」

日常的な会話をするジェルマンとカズキ。いくら戦わないとはいえ、目の前に敵がいるのに冗談を言い合う。もはや試合の雰囲気ではない。

「これ以上会話するとこちらも調子が狂いますわ」

「そうだな。はやく始めよう」

その雰囲気に呑まれ戦いに支障を来しそうなのですぐに構え試合モードに切り替え二人に近づく。

「やろぉ、なんて力だ」

「アンガロ、まずはあの二人をやるぞ。その後であいつをやればいい」

「わかってる。いくぞ」

近づくノアとレオンに向かって一斉に攻撃する。

「俺が二人を押さえる、援護を頼む」

「わかりました」

「俺達を一人で押さえるだと?寝言は寝て言え」

「ヴァンス」

「火炎攻撃(ファイヤーアタック)」

金槌を地に打ち付け一直線に放たれる炎に加え双剣から繰り出される風の刃。

レオンの前に岩壁が飛び出しそれらを防ぐ。

「なに!?」

思いもよらない事が起こり驚く二人。

「お前は神威を纏うだけが限界のFランクだろ」

「なぜ、アトリファクタスが使える」

「これは神威の力じゃない、精霊の力だ」

「せ、精霊だと!?」

「そんな話は聞いてないぞ」

「俺は一度手の内を見せたはずだが……知らないバカはいるものだな」

Fランクと傲り、相手を調べる事をせずにいた。だからレオンが精霊を使えた事も知らなかった。

「グラン・ギア、やつらを囲え!」

二人の周囲を岩壁が飛び出し完全に包囲する。

「くそ、こんな岩、砕いてやる」

「はぁぁ」

双剣や金槌を振るが、キーンと甲高い音がするだけで壊すどころこかひびすら入らない。

「くそ、なんて硬さだ」

「おい、くるぞ」

別に出した岩壁に乗ったノアが弓を構えていた。高台から矢を放ち一網打尽にする気だ。

「死を招く吹雪(ヒュラノモース)」

連続で放った無数の矢は空中で砕けると、衝撃で風を起こし氷の刃が激しく乱れ飛びながら降る。

察しの通り容赦のない氷の刃が二人を襲う。

「こんなもの、俺の炎で消してくれるわ」

「手を貸すぜアンガロ」

炎の金槌を振り回しリゼの風で舞い上がらせる。

「炎の竜巻(ファイヤートルネード)」

巻き起こる炎の風は吹雪を消していく。

「甘いですわ。その程度ではわたくしの吹雪は止められません」

「なにをバカなことを、あ、あれ?」

金槌を振り回すアンガロの動きが鈍くなる。

「まさか!?」

アンガロは足元を見ると氷の刃が既に地を凍らせていた。

炎が近くにあるせいで周囲が冷却され始めている事に気づく事が出来なかったのだ。

急激な体温低下にアンガロの動きが鈍くなり、やがて動きを止める。これで火種は完全に消えた。

「さぁ、恐怖で凍えるがいいですわ」

「ばか、な……Fクラス、ごときに、ぃぃ」

「うわああぁぁぁ」

氷の大地から侵食するように足から凍りつく。上からも振ってくる氷の刃をかわす事が出来る訳がなく無残に突き刺さりやがて完全に凍りつく。

「ふん!!」

岩壁を壊し走ってくるレオン。その勢いのまま両手を振るい二人を同時に砕く。

「トドメはこの手でやらないとな」

「ナイスですわ、レオンさん」

岩壁から降りたノアとハイタッチを決め皆の所へ戻る。

「……あれ、そういやリュークはどうした?」

「さぁ?見かけてませんわ」

「あのやろう、サボったな」

「そういえば終了のブザーが鳴りませんね」

リゼとアンガロを倒した全てが終わったと思っていた一同は、自分が倒したやつの人数を数えてみる。

……一人足りない。

「……まさか、まだいるのか!?」

「気を抜くな、どっからしかけ」

ビーーーッ

試合終了のブザーが鳴り響く。

それには、全員が拍子を抜ける。

「あれ、終わった?」

「なんかグダグダだな」

「格好良く決めたのに、しまらない」

「ですわね」

なんか司会の誰だかが騒いでいるが、そんなことを気に止めず試合場を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

つづく



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突撃インタビュー!!

 

 

 

準決勝を勝ち、残すは決勝。これで勝てば一学年最強のチームになる。

絶対に勝つ!そう意気込んで

「ぐで~」

「だるだる~」

「どろ~ん」

るはずだった。

ソファーにだれているジェルマンとテーブルに伏せているカズキ、床に横になってるレオン。それぞれ同じく無気力な目をしている。

なぜ学校に行っていないのか、それはリゼとアンガロチームの試合の次の日は休日なため、決勝は休み明けだからである。

ではなぜ、こんなダランとしているのか。それは昨日、休日なのでいつも通りトレーニングしていたら「休め」とノアにめちゃめちゃ怒れたので今日はこうして大人しくしているのだ。

だが、戦う事以外にこれといった趣味は無く、朝からこうしてただ時間が過ぎるのをまっている。

「暇だー、なんか面白い話をしろよ」

「無茶言うなよ」

「お前がしろ」

「みなさん、暇なら掃除を手伝ってくださいまし」

ダランとしている男共に、清掃作業員のような格好をしたノアが手を腰に当てぷんすか怒っている。

「掃除なら昨日散々やっただろ」

「ピカピカにしてやったぞ」

昨日はあまりの暇さに、寮の掃除だけでなく学園内の掃除や中庭の手入れも済ませてしまった。

「部屋は一日で汚れますの。ほら、今日もやってください」

「はーい」

それといってやることがないので、素直に掃除を手伝う。ちなみに、リュークとルリーは街へ買い物に行っている。

「街……か」

窓を拭きながらボソッと言うカズキ。

「どうしたカズキ、街の掃除までやるのか?」

それが聞こえたのか、床を雑巾がけをしているジェルマンが手を止め話かけてくる。

「違うわ、そういや俺達って街をあんまり見てないなって思ってさ」

「あー、そういやそうだな」

「せっかくだから観光しないと損だぞ」

「遊びに来た訳じゃない。そんな時間があれば修行する」

外で掃き掃除をしていたレオンも参加してくる。

「稽古の虫だな」

「俺達が言えた事じゃないだろ」

「まぁ、そうだな」

現に街を見てないのも休日の全てを修行に費やしているからなので、人の事を言えない。

「掃除終えたら、修行だな」

「……そうだな」

「山ならばれないだろ」

「あなた達、なにをしているのかしら?」

三人の会話に突然入ってくるノア。

「うわっ、いつの間に」

「修行しようなんて考えてないよ全然」

「そうそう、山でやればバレないなんて思ってない」

「決勝を控えてるから修行しないなんて当たり前だよな」

「……はぁ、後少しでお昼出来ますからそれまでに終わらせてくださいね」

バレバレなごまかしだが、ノアは怒ることなくため息をついてキッチンへ戻っていく。

「うまく誤魔化せたな」

「あぁ、我ながらナイス演技だ」

「これで修行できるぞ」

「たっだいま~」

「買い出しから戻ってきました」

リュークとルリーが買い物袋を持ってやってくる。

「おろろろ、男子はお掃除ですか」

「暇だから仕方ないだろ」

「やること無いよりはましだからな」

「ふーん、まぁやること終えた私達はのんびり待ってるよ」

「手伝えや」

「えーー、めーんどくさーいー」

「手伝えや!」

「キャハハハ、ジェルマンが怒った~」

そう言うと荷物を置きにキッチンへ逃げていくリューク。

「完全になめられてるな」

「あの野郎、ぶっ殺す」

「つかみ所のないやつだからな、まぁお前もあんな感じだから仕方と思え」

「んだとコラ」

「ほら、はやく終わらせろよな。あっ俺は終わったから」

そう言うと箒をしまい、リビングに腰を下ろすレオン。

どうりで外掃除してるのに会話に混ざれたわけだ。

指定された時間があと少しも気付きカズキとジェルマンは急いで終わらせるのであった。

 

 

 

 

嵐のような食事を終え、リビングでくつろいでいる。

ちなみに、じゃんけんで負けたジェルマンは一人寂しく食器を洗っている。

「んー、食べた負けた」

「ノアの料理はうまいな。掃除の疲れが飛ぶ」

「わたくしが作るのですから当然ですわ」

「いつもありがとうございます」

「これくらい、別にいいのですわ」

「いつも大変だろ?」

「ちゃんと手伝ってもらってますので、わたくしはそれほど大変ではありませんわ」

「ほんとかよー、毎日朝早く起きて朝食と弁当作って、学校終わったらすぐ夕御飯作って……疲れてるんじゃない?」

「そう思うのでしたら変わってくれてもいいのですよ」

「これからも毎日頑張ってください」

「こんなに家事が出来て、本当にお嬢様なのか?」

家事全般なんでもこなすノアはお嬢様というより、その者に使える従者じゃないかと時々勘違いをしてしまう。

「正真正銘アルバートン家の長女、ノア・アルバートンですわ」

ノアが胸を張って言う。そうとうアルバートン家という家系を誇りに思っているので、あまり言わない方がよさそうだ。

「すいーませーん、誰かいますかー!」

外から元気のいい女性の声が聞こえる。

全員一斉にカズキの方を見る。出ろってことか。

なんか知らないが、こういう場面はみんな出たがらないよな。俺もだけど。

「はいはーい、どちら様でございますかー」

渋々ドアを開けると、一人の少女が笑顔で立っていた。

黒色のショートヘアーに、鳶色の瞳。学園の制服を着てるから生徒なのは確かだが……

「誰だ、お前?」

俺はこんなやつは知らない。というか学園の知人が恐ろしい程に居ない。

「申し遅れました。私、ミチノ・エポウスと申します」

「おーーい、リーザル・ウェポンさんって人が来たけど知り合いかー?」

「ちょ、ちょっと聞いてすぐに名前を間違えないでくださいよ。私は最終兵器なんかじゃありませんよ」

「あれ、違った?……もっかい教えて?」

「ミチノ・エポウスです。ミチノ」

「ミチノさんね。ミチノ・エコーズさんが」

「ああぁぁ、ミチノでいいです」

「そうか?じゃあ、ミチノって人が来たけど知り合いか?」

リビングに向かって何度も声を出すが、誰も反応しない。

おかしいな。もう昼寝でもしたのかな?

「ちょっと待ってろ、呼んでくる」

ミチノという人物にその場で少し待ってもらいリビングへ向かう。

「………」

開けるとなぜか全員黙ってこちらを睨む。ノアが声を出さす口を動かして何か訴えてくる。

ここは読唇術で、えっとなになに、「か」「え」「ら」「ら」「せ」「て」か、なるほど。

どうやらさっきの人はノアさんの知り合い、だが招かれざる客というわけか。

ならば、来て申し訳ないが帰ってもらおう。

「あー、わりぃ今みんな寝てるから、また今度出直してくれ」

ミチノの所へ戻り伝える。しかし残念そうな顔とかせず逆ににっこりと微笑んでいる。

「いえいえ、私は取材に来ただけですのでカズキさんだけでも充分です」

「取材?誰の?」

「Fクラスのです。まさか、学年公式戦出場に加え決勝まで勝ち進むものですからぜひ取材させてもらいたくて」

なるほど、取材か。その事を分かって帰ってほしかったのか。だが意外だな、ノアさんはこういうの好きそうだから食いつくのかと思った。俺はどうでもいいけとね。

だが、他者に余計な情報を与えるのもあれなので、断っておこう。

「あー、そういうのはアポイントを取ってからお願いしないと困りますので」

「そうですか、ではいつ空いていますか?」

こういう手のやつはなかなか食い下がらない。めんどくさいことになったな。

「え。そーだな、学園公式戦もあるし、勝ち進んで剣舞祭にも優勝するから……ほとんどの時間は修行するから空いてる日はないね」

とにかく、無理ということをアピールして諦めてもらう。

じゃ、と言いドアを閉めようとするが、両手で阻止してくる。

「そんなー、ひどいですよ!」

「えぇい、鬱陶しいぜ」

「そこをなんとかー」

「制服を引っ張るな、破ける」

「おねがいしますよー」

このようなやり取りを十数分続けて、ついに

「わかった。取材を受けてやるよ」

カズキが折れた。

こいつ粘り強さは凄まじい、罵声罵倒浴びせても引き下がらない。もしかしたら暴力を振るっても前へ進む覚悟があるだろう。その覚悟に負けたよ俺は……。

「本当ですか!」

その言葉を聞いて目を輝かせるミチノ。

「あぁ、お前のその覚悟に免じて受けてやる。ただし、事実だけを書けよ。嘘を書いたり話を盛ったりしたら命は無いと思え」

「はい、約束します約束します」

「中はみんな寝てるから入れないけど、ここでいいか?」

寮前に手頃な台を椅子とテーブル代わりにして話す。

超簡要だが、中には入れられない以上これで許してほしい。

「まずはお名前は、イオリ・カズキさんでいいですか?」

「おう。ってかよく知ってるな」

「もちろんですよ。Bクラス六人相手に勇敢に戦ったり、ドルツェルブの狂人ジェルマン・オルガノート、アニマニアの戦士レオン・ビースタルクを倒した猛者じゃないですか」

「そうか?」

「そうですよ。特にレオンさんとの試合は凄かったじゃないですか、あの試合を見てから神威最強に疑問が入りましたよ」

確かに、レオンの実力は凄いものだった。獣人のパワーとスピード、五感の鋭さ、それに加え格闘技術と精霊の力。ここへ来て俺を一番追い詰めた人物だ。

「それは嬉しいな」

「カズキさんは、どこの出身なんですか?」

「出身?」

「はい、生まれと育ちが気になります」

「あー、それは内緒で」

「内緒ですか?まさか身元不明ですか!?」

「似てるような似てないような」

「あっ、資料ではドルツェルブになってますね」

資料、おそらく入学手続きの紙だろう。そういやそんなもんあったな……って、どっから入手したんだこいつは。個人情報流出してるじゃないか、ここのセキュリティはどうなっているのだ!?

「あ、この資料は担任のレイカ先生に聞いた情報ですので安心してください」

なんてやつだ、前もって情報集めとはさすが記者と誉めてやりたいところだ。

その熱い記者魂に思わず感心してしまう。 

「しかしカズキさんもジェルマンさんと同じドルツェルブ出身だったとは、幼い頃から厳しいトレーニングをしてたのですか?」

「そうだな。過酷で何度か死しんだような厳しい修行はしたね」

「具体的にどのような」

「基礎的なものさ、素振りとか筋力トレーニング」

「なるほど、基礎トレーニングをみっちりとやってのですね」

「後は化物と戦ったり火だるまになったり……まぁいろいろだな」

思い出すだけで辛くなってくる。よく生きているな俺と自分自身を誉めてやりたくなる。

「なんですかその言葉は、とても気になります」

どうやら要らん事を言ってしまったようだ。

「気にしなくていい、次だ次」

「そんな事言わないで、教えてくださいよ」

「そうだな、公式戦を勝ち進めばわかるかもよ」

「なるほど、次の取材の付箋ですね。しっかりメモさせてもらいますよ」

その後、決勝に出場する動機、明日の決勝の意気込み。好きな食べ物とか趣味、後半必要のない事を聞いてきたが、記事にされるので嘘は言えないので正直に答える。

「好きな女性のタイプはなんですか?」

「さぁ?考えた事ないな」

「そうですか、じゃあ彼女はいますか?」

「彼女?婚約者ならいるな」

「およよ、婚約者ですか!?意外な返答ですね」

「昔の話だ、相手の気持ち次第だな」

「お熱いですね、ちなみに相手は」

「相手の個人情報だからな、秘密だ」

「あらら、それじゃ信憑性はないですね」 

「んなもんいらん、ってかこんなこと記事にしたら怒るからな」

「しませんよ、記事にするのは前半で、後半は私が気になった事を聞いてみただけですから」

「変な事を聞くな、おい」

「あ、でも読者がこの事を気になったら公表するかもしれませんので」

「その時はちゃんと許可を取ってくれよな」

「もちろんです」

「で、取材は終わりか?」

「まだですよ」

まだ続くのか。だったらペースを変えてやるか。

「じゃあ俺からも聞いていいか?」

「なんでしょう」

「この稼業を始めたきっかけってなんだ?」

「そうですね、みなさんに正しい情報をはやく提供したいからというのは建前で、私が好きだからやってるんですよ」

なるほど、これは白と考えておこう。

「いい心がけだな。関心するよ」

「ありがとうございます」

「他のチームの事も同じ事してるの?」

「はい、昨日Aクラスの所に行って聞いてきました」

だから、俺達は次の日の休みなのか。休日を潰してまでやるとは余程この稼業が好きなんだな。

「何か気になる人とかいるんですか」

「そうだな、なんだっけ、あのルイスだっけ?」

「はい、ルイスさんですか?気になるのですか?」

「まぁちょっとな」

確か一学年で一番強いと言われるほどの実力者と聞いたから、少しだけ興味があったりする。

「こういうのはフェアじゃないから深くは話さなくていいから、そうだな強いのか?」

「はい強いですよ」

聞く話しによるとエリーク予備校の時にアルセウス学園の二年生数人を一人で打ち負かす程の実力者で、トップ成績で卒業した超エリート。それら全てを踏まえて一学年最強と呼ばれているらしい。

ちなみにエリーク予備校というアルセウス学園の神威使いの基礎を学ぶ学校である。アルセウス学園に通うほとんどの学生はエリーク予備校の卒業生で神威武装(ミスフォルツァ)の展開は誰でも出来るようになっている。

そこにノアやジェルマンも通っていて、二人はその時からの仲らしい。とついでに教えてくれた。

「気を付けた方がいいですよ。いままでの相手とは明らかに格が違いますから」

「それは楽しみだな」

「ここだけの話、ルイスさんは」

「君達、そこで何をしている」

聞き覚えのある凜とした声と共に青髪の少女がやってくる。

ルイス・エミリミルス。同学年にして学園の治安を守る風紀委員の一人、そして次の対戦チームのリーダー格だ。

「おっと、これはルイスさん。休日なのに風紀委員のお仕事とはご苦労様です」

「ミチノも同じだろ、お疲れ様」

顔見知りなようで、互いに軽く挨拶をするとカズキの方をキッと睨む。なにかやったっけ?

「何をしている」

「インタビューだよ、インタビュー」

「そうか、なら良かった。情報売買かと思って少々ヒヤッとしたぞ」

「……あっ、カズキさんがルイスさんの事を知りたがっていますのでどうですか?」

「私のことを……まさかストーカーか!?」

「なわけあるか」

「なら良かった。それで、何が知りたいのだ?」

意外にも快く質問を受けてくれるようだ。普通なら明日戦う敵に情報など提供しないはずなのだが。なにか裏があるのかもしれない。

「どうした、私は忙しいのだからはやくしてくれ」

と思ったが、彼女は特に何も思ってないような気がする。あれーもしかしてすっげぇいい人?そういやレオンを寮まで運んでくれたもんな。

「そうだな、じゃあ自己紹介して」

武器とか能力を聞くとつまらないから、取り敢えず本人が他人に話せる内容、自己紹介を聞く。

「自己紹介か、わかった」

質問としてはちょっとおかしかったかもしれないが、素直に話し始める

「名前はルイス・エミリミルス。生まれはレオルド帝国。好きな食べ物はケーキ。趣味は読書。特技は槍術と料理……と言えるように修行中です。……以上かな?」

多少照れるルイス、なんか可愛いな。

必要最小限の情報を聞いたカズキ、一つだけ気になった事があった。

「レオルド、帝国?」

レオルド帝国といえば数年前に革命によって滅ぼされた国だ。

「やはりその顔をするのだな」

「カズキさん、ひどいですよ」

驚くカズキに、悲しい顔でいうルイス。ミチノも怒る。

確かに悪政を働き滅びた国の出身だから誰もが驚くだろう。

「……おい、もう一度名前言ってくれ」

だが、カズキが驚いたのはそんなことではなかった。

「ルイスだ」

「その下だ」

「姓の方か、エミリミルスだ」

「レオルド帝国、エミリミルス……そうか、あの時の小娘か」

初めて会った時、見覚えのある顔と聞き覚えのある名前だと思ったが、まさか覚えがあるとは思わなかった。

「な、なんだ……」

「でかくなったな。こんな可愛い顔になって……見違えた」

ルイスに近づき、顎を掴み顔を寄せてまじまじと見る。

「な、なんだお前は、私はお前など知らないぞ」

「知らない……か、そうだな。なら、俺も一つ簡単な自己紹介をしよう」

「自己紹介?何を言ってるんだ君は」

「名前はイオリ・カズキ。うまれは、『ヒノモト』だ」

「……なんだと!?」

ヒノモト、その単語を聞いた瞬間ルイスの目の色が変わる。

「察しがいいね、覚えてるか?あの時の小僧だよ」

腰に巻いてある刀を見せつけなが言う。

「まさか、国を斬った……あのサムライ」

「その通りさ」

「貴様、よくのこのこと私に顔を出せたな」

「さっき知ったからね」

ルイスは腰につけた剣を抜き、カズキに突きつける。

「お?ここで仇討ちやるか?風紀委員が風紀を乱したらせわねぇぜ?」

「くっ」

「ミチノさん。俺がヒノモト出身なの内緒にしてね、仲間にも打ち明けてないトップシークレットだから価値は高いよ」

「イオリ・カズキ、私と戦え」

「そう焦るなよ、明日になれば嫌でも戦うんだ。安心しろ、いい舞台を作ってやるからよ」

「……仲間を犠牲にはできない」

「死なないからセーフだろ?それとも守れる自信がないのか?あの時と同じ、いや違ってか?」

「……ッ」

「感謝するぜミチノ。あなたと取材してなかったらこいつの正体がわからなかったからな」

事実、ルイスの正体に全く気づけなかった。

「明日が楽しみだな。はーっはっはっはっあでっ」

気分よく笑っているところに頭を叩かれる。

いつもの事だが一応振り向いてみるといつもの先生がいた。

「私の寮の前で何をやってるんだ」

いつも通り迫力のあるレイカ先生。今日は休日なのにお仕事だそうだ、教師って大変なんだね。

「お前ら、明日試合なんだから大人しくしてろ」

呆れるように言う、ノアと反応がまるっきり同じなのが

「ルイス、お前もなにやってる。兄に言いつけるぞ」

「兄上には、関係ないです」

「兄上だって、なにそれかっけぇ俺も使お」

「ふざけてないで寮へ戻れ」

「はーい」

今ここで争う気はないので素直に寮へと戻ることにする。

「お前らも帰れ、ミチノも私の教え子にちょっかいだすなよ、あと変な事書くなよ」

「失敬な、私は取材して真実を書くまでです」

「その真実が核心に近いから困るんだ」

「すみません」

「じゃあな、私は忙しいからもう行くぞ」

そう言うとレイカ先生も寮へと戻っていく。

「………」

「あ、あの、大丈夫。ルイスさん」

「大丈夫だ、すまないがこの事は内緒にしておいてくれないか?」

ミチノに伝えるとルイスは静かに去っていく。

「これは大事件です、スクープです!明日の試合にはメモ用紙だけじゃなくて個人用のビデオカメラも用意しないと」

ミチノも明日の為に準備を始めるのであった。

「あっ、公表する時は本人の了承を取るので安心してくださいね!」

 

 

 

 

 

 

つづく!



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静かな決勝戦

 

 

 

「さぁいよいよ始まりました決勝戦!Aクラスに恥じない最強の力を振るって勝ち進んできた天才達、そしてFクラスでありながらここまで勝ち進んだ異端児達。頂点と底辺という相まみれる事のない存在、誰がこの組み合わせを予想したか!!」

「Aクラスの意地みせろ!」

「落ちこぼれなんぞに絶対負けるなよ!」

「頑張れ!」

明らかにAクラスを応援する生徒達がほとんどだ。それも無理は無い、今まで落ちこぼれと蔑んでいた奴らが勝ち残り決勝という自分達が辿り着けなかったステージに行ったのだ。面白くないと思うのは仕方がない。

「くたばれFクラス」

「今日がお前らの墓場だ!」

「二度と学園で歩けないように惨敗しろ!」

ほらね、入場しただけで酷いブーイングの嵐だ。なんか試合を重ねる事に内容が酷くなっている気がする。

「差別が激しいな」

「いままで通りですわ」

「馴れてくると心地良いぜ。このブーイングを今から見せる力で消せると思うと、スカッとするぜ」

「さすが狂人、悪役だね」

みんな特に気にしている様子はないようだ。

「相手はAクラスの精鋭チームですわ。決してなめてかからないでくださいよ」

「わかってる。テメェこそ足引っ張るなよ」

「援護、頼むぞ」

「はい」

ルイスのチームは集団戦闘を得意とし、全員が適度な間隔を保ちながら攻めるというもの。まともにやりやっては勝ち目は無いとふみ、今回の作戦は背後に周りこみ挟み撃ちにするというもの。

ジェルマンとレオン、ノア、ルリーが正面から戦い隠密行動に長けているリュークとカズキが後ろに回り込み奇襲を仕掛ける。

「今回は頑張ってよね、カズキ」

いつも通り冗談を交えながら、パートナーとなるカズキに言うリューク。

「……カズキ?」

いつに無く真剣な顔つきのカズキ。そういえば今回一言も喋っていない。いつもと違う雰囲気に首をかしげる。

ビーーッ

なんかボヤけた感じだったが、ここで一学年トーナメント最後の試合開始のブザーが鳴る。

カズキが静かに歩みだす。

「おいカズキ、今回の作戦は単体特攻無しだろ。抜け駆けはズルいぞ」

「………」

ジェルマンの声に反応したのか、ピタッと止まる。そして腰を深く落とし刀の柄を握る。

そして刀を抜いた。

瞬間、次々と試合場に設置された障害物が切り倒れる。

「な、なんだこれは」

「何をしたんだお前」

目の前で起きたあり得ない光景に動揺する。

「カズキ、貴様あああっ!!」

ルイスが一人だけで走りカズキめがけて槍を振るう。

「さすがに、一度知ってるやつには通じないか」

不適にに笑いながら刀で受け止め弾く。

「よくも、仲間を……」

「熱くなるな。これも再開の一興だろ?」

制服を破き脱ぎ捨てると、着丈の短い赤い上着に同色の鏝と手甲、脛当の簡単な武具。黒の胴着の腰には赤い布切れを巻いた、どこの文化にも属さない異国の戦闘服を身につけていた。

「折角の決勝。突然で悪いが、この試合は俺が乗っ取る」

「何を言ってるんだ」

「そのダサい服装はなんですの?」

「制服着ろよバカ」

作戦から外れた突然の行動や服装、発言など一度に多くの情報が入り混乱している。

「どうせ忘れるんだ、答える必要はない」

だが、カズキはそう言うだけで答えてくれない。

「どう言うことだ?」

「ちゃんと説明しろよな!」

「さて、アルセウス学園のあまっちょろいイオリ・カズキは終わりだ。御所望通りヒノモトのイオリ・カズキでいくぜ」

瞬間カズキの雰囲気が変わった。睨むだけで簡単に殺せそうな鋭い目付き、全てを寄せ付けない圧倒的迫力、無尽蔵に放たれる異様な殺気に観客は皆黙り混む、否、一瞬にして放たれた得体のしれない恐怖に耐えきれず全員意識が飛んでいる。

(こっ、この殺気は……!?)

ジェルマンには覚えがあった。カズキと戦った時に見せた異様なまでの殺気、だがあの時よりも遥かに強大で規模が桁違いだ。

一度受けたから辛うじて意識は残っているが、立つことも声をあげるどころか呼吸すら困難になる。

「まだ意識があるか」

ノアやルリー、レオンは意識を失ったようだが、ジェルマンはまだ意識が残っているようだ。だが、それも時間の問題だろう。

「さすがだ。さっきの一撃を受け止めたといい、この闘気に呑まれることもない。成長はしているようだな」

「当たり前だ、この程度……恐れるに足りん!!」

ルイスは構えたままカズキを怒りに満ちた表情で睨んでいる。

「これで静かになった」

「静かになった?笑わせるな、一人残ってるだろ」

視線をカズキの後ろにやり鼻で笑う。

「ヤッホーー、素の状態で凄い闘気だね。君は本当に人間かな?」

平然としているリューク。緊迫の状況でもいつも通りの呑気でいる。

「その言葉そのまま返すぜ。お前は本当に人間か?」

リュークは会った時から得体の知れない存在だったから驚きはしないが、この状況を本当に人間かどうか疑うレベルである。

「素の状態……だと!?」

「そうだよ、放ちも抑えもない素の状態。それでここまでの力があるのは異常だね」

たった一人で国の武力を滅ぼした奴だ。これほどの力を持っていても不思議ではない

「それに耐えてるお前も異常だ。いずれ正体暴いてやるが、まずはこれが先だ……ちょうどいい、見届け人になれ」

「いいよー!」

笑顔で答えるとジャンプして観客に行き、空いてる椅子に座る。

「じゃあ、やろうか」

カズキも構え、ジリジリと歩みよりルイスの間合いに入る。

ルイスの身長よりも大きな槍。あれが神威武装(ミスフォルツァ)か。

刀と槍とではリーチの差がある。だが槍の間合いを抜け刀の間合いに入れば有利になる。

「はぁ!」

息をつかせない槍さばきは、どれも的確で無駄のないもの。そう簡単には近づかせてくれないようだ。

ここは一端距離を取っておこう、飛び道具もあるかもしれないからもしかしたら撃ってくるかもしれない。できるだけ誘うように隙を与えながら後ろへ飛ぶ。

「逃がさない。サンダーブレイド」

槍を振るうと鋭い刃の形をした雷が飛びだす。

案の定飛び道具を出してきた。

「なるほど、属性能力(アトリファクタス)は雷か」

雷なだけあって凄まじい速さだ。常人では見切る事は無理だろう。だが俺には通じない

雷の刃を避けると、地を強く蹴り一気にルイスとの距離を詰める。

「雷速の攻撃と打ち合う気か」

繰り出す突きは雷速と自負するだけあって雷ように速く激しいものだ。

カズキが突きかわし間合いに入ると後ろへ下がって距離を取り常にルイスの間合いを取る。

「はぁ!」

突きがカズキの腹側にかすり体制が崩れた所に槍を横を振るう。バンと踏み込み上へ大きく飛び上がりそれを回避する。

だが、見切っていたのか、すぐに槍をカズキの方へ向け突く。

カズキはかわせず槍頭が胴を貫く。

(やった)

勝利を確信した。だがそれも一瞬で消える。

攻撃が決まった時、肉を貫くような手応えは無かったからだ。それが残像だとすぐに理解できた。ならカズキは今どこにいる。

視線を足元にやると、下から振り上げる刀に気付き、咄嗟に柄で受け止める。

「なっ!?くっ」

続けて攻撃してくる、刀の間合いは槍には不利なので思うように動けない。

距離を取ろうにもカズキは休むことなく距離を詰め攻撃を続ける。ルイスのペースが一気に乱れ戦況は逆転する。

「シンティラ」

体から雷を放電し周囲に攻撃する。カズキも距離をあけ回避を試みるが、空中や地面にも雷が流れており逃げ場が無い。

「ぐっ」

覚悟を決め放電してる地面に足をつける。一瞬で焼けるような痛みが体全身に駆け巡る。

「アクトライザー」

槍頭から青白い雷光をカズキめがけ放つ。

当たる直前で刀で受け止めると、ルイスに向かって前進する。

「更なる雷撃で押し返す!」

槍に神威を込め雷の威力をあげる。それでもカズキの勢いは止まらなかった。

「噴ッ!!」

ついには雷を斬り、ルイスめがけ刀を大きく振るう。

柄で受け止めるが斬られてしまう。

「神威武装(ミスフォルツァ)を斬るだと!?」

本来、ただの武器が神威武装(ミスフォルツァ)を斬るなど、神威を纏ったとしてもあり得ない話だ。

それなのにカズキは容易くやって見せた。

「気現の太刀に斬れないものなど無かぁ!」

後ろに倒れるルイスの肩に刀を突き刺す。

「ぐあぁ、あっ……ぁぁ」

激痛に悲鳴をあげるも、傷口を押さえゆっくり立ち上がる。

「やめろ、これ以上の能力使用は自分を苦しめるだけだ」

「……なんだと!?」

「さっきの放電で自身も傷ついた。じゃなきゃさっきの攻撃は避けたはずだ」

カズキがそれに気づいたのは、さっきルイスに攻撃をして感じた弱々しさ、まだ一撃も与えていないのにダメージを負っている満身創痍の状態だった。

攻撃を受け止めたらまたカズキのペースになると分かっているのに避けなかった説明がつく。

「それがどうした……。私は、お前を倒すまで死んでも戦う」

「いい覚悟だ、どれ本物か試してみよう」

微笑むと手に持つ刀を無作為に振るう。

スパーーン

「なにをしている。ふざけているのか!?」

振った刀はルイスを斬らす、ただ空振っただけである。

ここまできてふざけた態度を取るカズキに、激しく憤る。

「何言ってる、おふざけはここで終わりだろ?」

「何を言って………こ、これは!?」

さっき受けた肩の傷が消え、全身を刺すような痛みが無くなる。

この現象はアストラルエーテから外に出たということになる。だが、まだ決着はついていない。

「まさか」

さっきの空振りはただのふざけたじゃなくて、この空間を、アストラルエーテを斬ったとうのか。

じゃなければこの状況の説明がつかない。だが、そんな事は不可能だ。 

「さっきの試合は読んで字の如く試し合い、すなわち練習だ。さぁ本番の死合、死に合いを始めよう」

「こんなことが出来るなんて……」

「お前の覚悟を評して邪魔なものは取り除いたんだ。帝国の仇を殺れるんだ、嬉しいだろ?」

「言われなくても、殺してやる」

手に神威を集め槍を具現化させる。

「はぁ!」

再び無用心にもルイスの間合いに入ったカズキめがけ突くが、かわされ柄を捕まれる。

「なっ!?」

「遅い」

胴を蹴られ地面に倒れるルイス。

その威力は臓器にもダメージを与えて一瞬呼吸が止まる。

体に力が入らない。たった一撃で立つことも出来なくなるとは

「……所詮、こんなものか」

期待はずれだったと言わんばかりの表情で槍をルイスの方へ向ける。

「死合だ、命を貰うぞ」

倒れるルイスの喉元に突き刺そうとする。

キエェェッ

奇声と共にルイスから黄金の鷹が飛び出す。

「油断させての攻撃か、惜しかったな」

体を反らし簡単にかわす。改めて槍を振りかぶる。

刃がルイスに当たる直前、背後から襲う鷹に気付きその場から離れる。

大きく旋回すると、再びカズキめがけ急降下してくる。

真っ直ぐ飛んでくるから簡単に斬れると思い振るうが、かわしカズキの頬に傷をつける。

「自動追尾か、いや違う。こいつは……意思がある」

攻撃をかわしたといい、自由に飛び回る動きは明らかに意思がありそして生がある。

「まさか、精霊か!?」

人間が精霊を使役する例は極めて稀である。理由としては触れる機会が少ない事もあるが、ほとんどの精霊が人間というものを好んでいないからである。その理由は分からないが、多くの人が精霊を使役しようとして怪我をしている。

「雷鳴の鷹(レイ・ホーク)……」

「その名前、やはり精霊か」

「勝手に出てくるな、これは私の勝負だ」

叱るルイスの方を向いてキュエェェッと奇声をあげている。

「そうか、一緒に戦いたいのか」

一気に降下しカズキが持つ槍を奪いルイスの元へ止まる。

「神威使いの精霊使いか、アニマニアと戦う時に楽しみにしていたが……これはこれで面白い!」

「レイ・ホーク、私の神威に纏え!」

レイ・ホークは雷となり長槍に纏う。柄には紋章が刻まれ、刃が翼の形へと変わる。

ルイスは槍を片手でくるりと回し、カズキを睨み据える。

「いくぞイオリ・カズキ」

槍頭から雷を放つ、先程とは比べ物にならない程の威力。

「噴ッ!!」

雷をかわし近づいてくるカズキは横に刀を振るう。

ガキィィ

柄で渾身の一撃を受け止める。今度は斬られる事は無かったが、横へ飛び体制を大きく崩す。

間髪いれず追撃するカズキ。だが、ルイスから雷が放たれる。

「このパワーは」

規模も威力も桁違いはねあがっている。だがこの技は自身にもダメージを受ける捨て身技、これほどの威力ならば間違いなく破滅する。

逃げ場の無い攻撃にカズキは為す術もなく雷の嵐に飲まれる。

「いててて、久々に電撃が効いたぜ」

地面に大穴を開ける程の威力だったが大したダメージを受けた様子はない。

「バカな、あれを受けて平気なのか!?」

「おいおい、ワシらぁ死合しちょるんだぞ。相手ぇ気遣うバカがおるか」

「そんな意味で言ったんじゃない」

「いいから死ねや、学園の中央で晒し首にしてやる」

刀を振るうカズキ。ルイスは先程の威力からして受け止めるよりかわした方が良いと思ったのか防ごうとしない。

「悪魔め」

カウンターを狙うも、そんな隙が全くない。

「聞き飽きた台詞だ」

高火力で倒したいのだが、さっきの雷を喰らってあのダメージじゃ倒せるかわかったものじゃない。電撃に対する耐性力が異様にある、何か打開策か突破口を探さないと負ける。

「はぁ!」

突然、ルイスの真上から天井を壊し雷が落ちる。

「いい反応だ。大抵の奴等は今の雷撃で沈んでいたぞ」

背後から攻撃するも防がれてしまう。

当たる直前、雷速で回避したが。レイ・ホークが居なければ気づくことも避ける事も出来なかった。

「この雷、この雷轟まさか……」

穴が空いた天井から外を見ると晴れていた青空が黒雲に包まれていた。

「気候を操れるのか」

「さぁ?あんなの知らんよ。偶々落ちたのかもよ?」

そうは言ってるが、さっきの知ったような言動と異様な天候、絶対に繋がりがある。これが何か打開策になるのではないかと考え始める。

「ボーッとしてると首が飛ぶか雷に撃たれるぜ」

考える時間は与えないと攻撃を仕掛けてくる。今度は軌道が読めない攻めに避けるだけじゃ間に合わず、槍を使って防ぐ。

「ぐぅぅ」

受ける度に飛ばされ、振動で手が痺れ槍を握るのも精一杯になる。

異常なまでの威力、直撃は避けれても衝撃は避けれない。

「どうした、その程度じゃつまらないな」

そんなこと知ったことないと容赦なく攻め続けるカズキ。

「くそ、アクトラ、!?」

距離をあけ雷で牽制しようとするが、足下から雷が飛び出す。

「今度は下だと」

「余所見はいかんな、余所見は!」

横へ飛び回避したルイス、その異常現象が起きた場に視線がいってしまう。その隙をつかれカズキの接近を許してしまう。

「しまっ!?」

「破ッ!!」

力強く握った拳を叩き込む。槍でガードするが一直線に飛び壁に激突する。

「がはっ」

上手くガードはしたが頭を強く打ち意識が朦朧とし、壁に背もたれながら倒れる。

勢い良く飛んできた刀が壁に突き刺さる。もし倒れて無かったら顔に刺さっていただろう。 

安心したのもつかの間、一瞬でカズキが目の前に現れると刀を掴みそのまま振り下ろす。

横へ回転して逃げるが、足を捕まれ勢い良く地面に叩きつける。

「ぐぁ」

受身もまともに取れず、全身を強く打ち付けられ意識が飛びそうになる。

「がっ、かはっ」

「……飽きた」

興味を無くしたカズキは冷たい目線で倒れるルイスを見下す。

「神威と精霊を使った時は驚いたが、威力はワシを追い込む程でもない。使い手も同じような戦術しかやらない、つまらん」

「まだ、だ。まだ戦える」

その言葉にルイスは怒りと悲しみを覚えた。今まで積み上げてきたものが通用しなかった事、帝国で死んでいった者の無念を晴らせなかった事、それは自分とカズキに対するものだ。その事を思うと痛みが消え、無意識に立ち上がった。   

「まだはない、ここで死ぬんだ。戦いたいなら宣言通り死んでも挑みにこい、存在そのものを消滅させてやる」

「死ぬ訳にはいかない。私には、使命がある」

「はぁ、仕方ねぇ。チャンスをやるよ」

そういうと両手を広げる。

「ほら、俺は何もしねぇから好きなだけ攻撃しろよ。この俺を殺せる千載一遇の大チャンスだぜ?」

「な、なめるなああああっ」

怒りに身を任せ雷を纏った槍を投げる。槍は巨大な鷹となりカズキ目掛け雷速の速さで飛ぶ。

バリイィン

カズキに触れた瞬間、粉々に砕ける。

「………」

儚く砕け散った槍を見て、言葉を無くす。

「これが、今お前の限界だ」

レイ・ホークが後ろから攻撃してくるが、ガシッと掴まれる。

「精霊を消すのはちと心苦しいが、その覚悟を汚さない為にも一緒に殺してやる」

電流を流し抵抗するが、カズキには効いておらず悲鳴すらあげてない。

「もういい、やめろ。やめてくれレイ・ホーク」

奇声を上げながら抗うレイ・ホーク。徐々に電流が弱まっていく。

「レイ・ホークだけは、見逃してくれ。頼む」

「………お前、半端だな」

「なに」

「本当に俺を殺したいなら、精霊に攻撃させ続けろよ」

「そ、そんなこと、出来る訳ないだろ!!」

レイ・ホークはルイスにとって大切な家族だ。そんな酷い事はさせられるわけがなかった。

「私はもう大切なモノを失いたくないんだ……私の復讐の為に誰かが犠牲になってほしくない」

「やれやれ、お前が理想とする誇り高い騎士にも祖国の仇を取るために全てを捨てた復讐鬼にもなれない半端者が。その程度の覚悟で、俺を殺せると思うなッッ!!!」

こいつには覚悟が無かった。この戦いで命を落とす覚悟はあったかも知れない。だが、今日まで強くなる為に鍛え続けてきたのは俺を殺す為なんかじゃない、守る為だった。仮にカズキが負けても命を取るまではしなかっただろう。

大切なものを守る覚悟は、復讐の時には役に立たない。

もし強大な仇(カズキ)を殺すという覚悟があったのなら、ここで再開するような事は無かっただろうがな。

「殺しはしねぇから安心しろ。お前もこの精霊も」

「私にも情けをかけるのか」

「お前はまだ若い。まずはここで学び、いつか世界を見て、自分を知り強くなれ。んでいつか俺を殺してみろ」

俺が見込んだ奴だ。こんな所で潰れるんじゃねぇぞ。

「俺は死にたがりで、周りから恨み買ってるから急いだ方がいいぜ。命は一つ早い者勝ちだ」

こうなった責任は俺ある。立派な騎士になった時、その時は今度こそ殺してやる。まだ恨みがあるならばの話だけどな。

レイ・ホークをルイスに渡すと背を向け試合場を後にする。

「お疲れ様」

観客席から飛び降りてカズキの前に立つリューク。

「おー、お疲れじゃ」

「よく殺さなかったね」

「誰かが刀で俺を狙ってたからな、怖くて殺せなかった」

「じゃあ、その誰かのおかげだね」

「けっ」

「それにしても、見え見えの戦いだったね」

「まぁな、思考も言動も読みまくりだった」

「素直で真っ直ぐだからね、性格は戦いに表れるは本当だね」

「その愚直さがあいつのいい所じゃねぇか」

「そうだよねー。で、この状況はどうするの」

敵味方観客席その他諸々全員を気絶させ、天井に穴を空け、アストラルエーテ無しで戦い傷ついたルイス。正直に話せばもしかしたら退学、運か悪ければルイスも同罪になるかもしれない。どう説明しようか

「……どうすっかな」

試合会場についてあるカメラは壊したし、気絶した奴等は数分前の記憶は飛んでいるはずだ、なんとか誤魔化してみるか。

「えーっと、まずは制服に着替えてーっと」

学園指定の制服を着て、ルイスの所に行く。

「な、なんだ」

「おい、槍だせ槍。はやく」

「何をする気だ、もしかしてやはり私を」

「いいからはやくせぇ!」

何がしたいかわからないが、神威を集め槍をカズキに渡す。

受けとると血迷ったのかグサッと腹部に突き刺す。

「なっ!?まさか、死にたがりだからを自殺」

「なわけあるか、あーいてぇ」

槍を抜いてルイスに返すと、落雷で空いた穴の近くで倒れる。

「なにをしてるんだ」

「白熱の決勝戦、互いに譲らない一進一退の攻防戦。そんな中、カズキとルイスの真上から落雷が落ちて会場にいる全員が放電により気絶、運悪くアトラス・ザ・エールが解除された時、俺の腹部にルイスの槍が刺さった。という設定」

「……なんか、無理がある設定だな」

「という事で、リュークが校舎から先生を連れてこい。ルイスは、俺を医療室に運んでくれ」

「第一発見者は疑われるのは推理小説のテンプレだよ。ここはみんな大人しく倒れてた方がいいよ」

倒れているAクラスとFクラスを動かし、あたかも戦っているような配置にしているリューク。そして静かに横になる。

「だってよ。ほらルイスもここで倒れろ」

「ここは素直に言った方が」

「言って退学になったら、シバの兄さんが泣くぞ」

「兄上が」

「俺もやることあるから退学は避けたい。わかったら何も知らないという設定でやろうな」

「さっきの細かい設定はなんだったんだ」

「現状の設定だよ、俺達はみんなと同じようにしないと不自然だろ」

「そ、そうだな」

納得して横になると、激しい戦闘で疲弊したルイスはすぐに寝てしまった。

再び試合会場は静寂に包まれるのだった。

そして十数分後、誰かがやって来て全員無事救出されたのだった。

 

 

 

 

つづく



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んで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、試合は無効となり後日場所を変えてやることになった。

予想通り全員の記憶は無くなっており、全ては強力な落雷のせいとなった。あの時に起きた事は俺とルイス、不本意ながらリュークの三人だけである。

んで

「………」

今、医療室のベッドに横になってる。雷を直接受けた事(という設定)と(わざと)腹部に(槍を刺して出来た)ある傷のせいで安静にしろと無理矢理安静状態にさせられている。

実に暇である。

おもむろに隣のベッドに視線をやるとルイスがすやすやと寝ている。

無理もない、多分今のところ人生の中で一番の激闘だったのだから、俺とは違って本当に傷付き、疲れている。

話し相手がいないのは寂しいが、起きたら起きたでなんか気まずい状況だから好都合である。

なんせ、俺はこいつの故郷、レオルド帝国を滅ぼした一人だからだ。拐われた姫様の救出と言えば響きはいいかもしれないが、内容は一方的な殺戮だった。たった七人、対するは数十万の軍勢。結果は誰もが帝国の勝利を予想した、だがそれは大きく外れ巨大な力を持つ七人の前に成す術無く惨敗したのだ。

それでも、反乱軍の者と兄御達の間では必要最小限の被害に抑えようという話があり、決戦前には市民に避難するようにビラを配ったり説明して回った、勝てないと悟り逃げる兵士達も攻撃はしなかった、優しい侵略者だなと今でも思う。

少し思い出に浸っているとガラガラと医療室のドアが開く。

「おー、元気にしてるかカズキ」

ジェルマンが顔を出す。電流(殺気)で気絶した者は体に支障は無く大半が普段通り学園生活を送っている。

こいつもそうなのだが、今は授業の時間なのだがサボりだろう。

「おう元気過ぎて困っちゃうよ、はやくここから出たい」

「その気持ちは分かるぜ」

笑いながら面会用の椅子に座り手に持っていたバケットを机に置く。

「ほれ、見舞の弁当だ」

「昼飯を見舞品にすんなっつーの」

さっそくご飯を食べようとバケットを開ける。中は様々な種類のサンドイッチが入っていた、レタスとハム、たまご、ポテトサラダ、果物を挟んだものまである。

両手を合わせ合掌し、食べ始める。うんうまいな

「……お前、何者なんだ?」

パクパクと食べ続けるカズキを横にジェルマンが真剣な表情で聞く。

「何者?何者って、人間?」

「そうじゃねぇ!!……だけど、何者なんだ」

「あやふやだな。そんなんじゃ答えられないぞ」

「うるせぇ!お前何か隠してるだろ」

「そりゃ人間ですもの、人に知られたくない秘密は沢山あるさ」

「俺は覚えているぞ。お前がルイス以外を倒したのも、変な姿になったのも、あの殺意で全員気絶させたのもだ」

「何言ってんだお前。雷くらって夢でも見たんじゃないのか?」

「夢じゃねぇ、ハッキリ覚えている」

「そうか、もしそうだと仮定してもよ。それがどうしたんだ?」

「なんだと?」

「俺にそんな力があったところで何かあるのか?」

「気になっただけだ。それだけだ」

「安心しろ、お前が気になることはない。それより授業はどうした?」

「ばーか、今は休憩だ。そろそろ行くから怪我人は黙って横になってろ」

「なに!?俺も授業に参加する」

「お?脱走か?いいねぇ俺と同じだな」

「それは嫌だな。やっぱやめようかな」

「んだとテメェ」

「はよ行け、遅れたら連帯責任だろ?」

「そうだな。放課後来てやるぜ」

そう言うと医療室から出ていく。あんな態度をとっているが、仲間思いのいいやつだ。

それにしても、記憶が残ってるとは驚きだ。一度知ってるとはいえ、そこまで耐性があるとは限らない、むしろその逆とも言える。

「ジェルマンか」

鍛え方しだいでは、もっと強くなるな。

ジェルマンをはじめFクラス全員いい素質を持っている。その中でリュークだけがずば抜けている。俺を凌駕する底知れぬ何かを秘めている。

そんなやつらを集めたレイカ先生の見る目は流石と言いたい。

そういや俺も入学試験でいろいろとあったな。

神威がどーのこーの言われて、「神威って何?」って聞いたらため息つかれるわ、帰れ言われたから実力を見せつけようとした所でレイカ先生が来て採用してくれたんだっけな。あの時来てくれなかったらどうなってたんだろうな。

今いる仲間達と会えたことに感謝感謝だな。

「暇だな」

過去を思い返し暇を潰しているがそれも限界だった。

同じ景色、ずっと横になっているだけ。体が鈍りそう、いや鈍る。

医療の先生は知らないだろうが、傷口はもう塞がっている。この異常な回復力を見たら驚倒しそうだ。

そんなどうでもいいことは置いておいて、早速脱走しようとベッドから起きて窓を開ける。

「どこへ行くつもりだ」

窓から身を乗り出した所で声をかけられる。

振り向くとルイスが眠い目を擦りながら身を起こしていた。

「あ、あぁ。風通しをよくする為に窓を開けただけだ」

「……私には飛び降りるようにしか見えないが」

「あまりにもいい天気だからな、外に吸い込まれた」

「吸い込まれた?変な言い方だな」

「うるさい、外が俺を呼んでいるんだ」

「怪我しても授業に出るのか、関心する」

「怪我は治ったわ」

患者衣を脱ぎ、包帯を外し傷口がある腹部を見せる。

「お、お前、何をしている」

真っ赤になった顔を両手で隠し背を向くルイス。

「何って、治った傷を見せてる」

「わかったから服を着ろ、ハレンチめ」

「はれんち?まぁええわ」

「女の前で不用意に裸になるな」

「なんだ、恥ずかしいのか?かーわいー」

「黙れ、この変態」

ちゃかしている隙に掛けてあった制服に着替え、先程横になっていたベッドに腰を掛ける

「ほれ、もういいぞ」

「まったく、君はもっとデリカシーを持った方がいいぞ」

「他者の事を考えるだけくだらんよ、全ては俺の為。そう考えた方が楽さ」

「自分勝手な考えだな」

「俺にはそれがちょうどいいんだよ」

「そうか」

会話が途切れ、気まずい空気が流れる

「なぁ、お前明日の決勝戦に出るんか?」

「出たいが、この体じゃみんなに止められそうだ」

「そうか、なら俺も出ないでおこう」

「?どうしてだ」

「だって出たら俺達が勝つからつまんないじゃん?」

「お前、私のチームメイトをバカにしているのか」

「指揮が居ないチームは脆い、個の強さに長ける俺達でも普通に勝てるし最悪俺一人で全員倒す。勝ちは明白だ」

ルイスのチームは、神威使いとして優秀だが、ルイスの強さを拠り所とし、ルイスの指揮で連携を取っている。どんなに優秀でも大将となる者がいなければその力も発揮出来なくなる。その点、俺達は指揮者はいない、ある程度決めた作戦、個人による臨機応変な行動で戦っている、それに加えそれぞれの分野で優秀な実力を持つ。神威は使えなくともルイスのいないAクラスには勝ち目はない。

「まだチームワークはひでぇが、誰が何人抜けようともブレない強さを発揮できる」

「なるほど、お前が本気を出さないわけだ」

カズキほどの圧倒的強さがあれば必然とチームの中心となってしまう。その為にわざと弱いふりをしているとルイスは思った。

「バカいえ、俺は周りに合わせてるだけだ。簡単に勝負がついたらつまんねーだろ?」

「そんな理由で手加減しているのか!?」

「俺は、俺より強い奴と戦い勝つ事が生き甲斐とする、弱者をいたぶる趣味はない」

「全力で戦うのが相手への最大の敬意だろ、失礼だと思わないのか!?」

「俺も最初はそう考えていた。敵も仲間も全てに対し全力で戦ってた。だがな、俺と戦った仲間は俺を恐れ、上を目指す事を諦める者、戦いをやめる者、俺から離れる者が多くなった。俺の力が他の奴らの才能を潰してる、そう思うといくら身勝手な俺でも力も隠したくなるもんだ」

今まで才能がある奴らを多く見てきた、カズキもそいつらの目標や糧になろうと上の存在を見せた、その結果ほとんどが開花させる事ができなかった。

知る切っ掛けは偶々聞いた愚痴だった。

「どんなに頑張ってもカズキのように強くなれない」

「天才だからあんなに強いんだ」

「俺達が辛い修行なんてやるだけ無駄だな」

その言葉を聞いた時に、相手の才能を潰さないように実力差を見せ付けないと決めたのだ。

「みんな、俺やお前みてーに強い気持ちを持ってるとは限らん」

どんな才能があっても気持ちが折れたら開花できない、ルイスのような強くなりたいという強い気持ちを持つ者は滅多にいない。

だから、手加減をしている。

「……一応聞くが、全力で相手したのは本当か?」

「バカやろう、全力でやったら殺しちまうだろ!!ちゃんと加減はしたさ。それでもそんな事言われちゃ終いだろ」

「………チームの人はそれを知ってるのか?」

「さぁ?リュークは知ってるだろうが、他はわからん」

リュークは俺の見立てではバケモノだから大丈夫だろうし、あいつらなら知った所で己の限界を勝手に悟るようなバカ共じゃないだろうがな。

「最も、お前に見せたのはまだ序の口だ。当然まだ上もある、俺の実力を知ったとしてもお前は潰れるなよ」

「ははは。あれで序の口か、俄然燃えてきたよ」

再びベッドから降り窓から外を眺める。

「明日は出ないんだ。まずはゆっくり休めや」

「まて、どこへ行くんだ」

「体動かすんだ、俺に数時間の睡眠は長い」

「動かすって、まだお昼時間が過ぎたばかりだぞ。せめて授業にでろ」

「やなこった、俺ぁ修行するから縁があったら会おうや!」

そう言うと窓から飛び降りる。

「こら、風紀を乱すなー!」

ここは三階だが、カズキなら死ぬことはないと悟っているルイスはその点を気にすることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海産物が並ぶ食卓で、カズキに詰め寄るレイカ先生。

「で、授業サボって海辺でトレーニングと」

「はい、怪我人だったので授業の足手まといになると思いましたので」

「海で魚とる元気があるなら出れるだろ!」

海を泳ぐ体力があるなら授業にも出れる。トレーニングならまだしも、そもそも勉学だったので何も言い返せない。

「うめーな、これカズキが作ったのか」

「まぁな、うまいか?」

「うまいぞ」

「おいしいです」

「ならよかった」

「話を逸らすな馬鹿者」

説教されてる中、平気で夕食を取るジェルマンらと会話をするカズキに拳骨を落とす。

「いって~、自信作だってのに怒ってたら飯も不味くなりますよ」

「お前な、単位落としていいのか!卒業出来ないぞ!留年だぞ!それでもいいのか!」

「嫌だ!!」

「じゃあ真面目にやらんか」

「ぐおおぉぉっ」

カズキの頭に腕を回し思い切り締め上げる。シンプルながらとても痛い、頭が潰れそうだ。

「先生、無くなるよ」

並べられた料理はみるみる減っていく、それを見たレイカ先生は溜め息をつくとカズキを放し席につき食べ始める。どうやら説教は終わったみたいだ。

ホッとしながらカズキも夕食を取る。

「知らない料理ばかりですわ、これは何と言う料理なのですか?」

「米に刺身乗せたやつ旨いな、こんな食いかたがあるとは知らなかった」

「そうだぞお前ら、パンやらパスタやら粉類しか食べないでよ。米を食えお米様をよ!」

「お米はリゾットでしか使いませんわ」

そもそもこの国ではパンやパスタが主食で、米というのは調理するのに手間がかかる?のでマイナーなものである。その為、作っている者も少なく取引する値段も高かったりする。

カズキはそれを知って驚きのあまりその場で十数分立ち尽くした事を思い出す。あの時の衝撃は忘れない気がするよ。

「このしょっぱい黒い液体はなんだ?」

「このスープに使っているやつも知らないな」

「あぁ、醤油と味噌か。口に合うか?」

「あぁ、風味があって旨いぜ」

「せやろ、貴重なんだからありがた~く食せよな」

「あの時と同じ味だ、美味しいよ」

「先生も絶賛ですか、ありがとうございます。あとは山葵があれば完璧だったんだけど、それはまた今度で」

「あいつもそんな事言ってたな。懐かしいな」

「焼き魚しか食べたことないから新しい味だった。また作ってくれ」

「今度はわたくしにレシピを教えてください」

「いいさー、また気が向いたらね」

料理を誉められ?天狗になるカズキ。

さっきまで怒られていたのが嘘のように気分は実に最高だ。

「でよ、明日どうするんだ?」

ジェルマンが話題を変える。こいついつも変えるよな。

「明日の試合か、一日くらい休ませてくれてもいいと思うけどな」

「予定か詰まってるそうですわ」

「余裕がないですね」

「お前ら、先生の前で学園の愚痴を言うとはな」

明日に試合がある事にそれぞれ不満を言う。目の前に先生がいるのに気にせず言えるのはこの環境に慣れたからなのか、それとも無神経なのか、どちらにせよ流石と言うべきだ。なんせ

「いい度胸だ、そんなに嫌なら明日の試合に出れなくしてやってもいいんだぞ」

生徒が生徒なら先生も先生だったりするからである。

寿司を掴んでいた箸がペキッと折れる。顔にも青筋が浮き上がり鬼も逃げ出すような凄まじい形相。折角の美人が台無しだ。

「嫌ではないですけど」

「連戦はキツイですわ」

「私の鍛えが甘かったようだな、よーし試合が終わったらトレーニングのレベルをあげる」

どうやら墓穴を掘ってしまったようだ。

「それと、明日の試合は別の場所でやるからな」

「別の場所?なんで

「屋根が壊れたからな、明日から工事だ」

「じゃあどこでやるんですか」

「前にジェルマンとカズキが決闘した場所だ」

「え、あれって一対一じゃ」

「そうだな、だから五人制の勝ち抜きにしようと思う」

「うっわ、今回の剣舞祭のルール関係無ッ!」

「しかも五人て、一人出れないじゃないですか」

「横暴だぁ!」

「向こうはルイスが出れないそうだ、だから一応怪我人のカズキは抜ける、それでいいだろ」

「んだそれ。カズキ、テメェはいいのかそれで」

「俺は構わんよ」

その方が俺としても都合がいい。本当は適当な理由を当て付けて欠場しようと考えていたから手間が省けた。

「なんだよ、あっさり納得しやがって」

「なんだ?俺が居ないと心細いのか?」

「なわけあるか、あんな奴等俺一人で五人抜きしてやる」

「それは頼もしいですね」

「じゃあ先方はジェルマンで決まりだな」

「大将は誰にします?」

「最後の砦ですから、強い人がいいですね」

「はいはい私やる」

「凄い自信ですねリュークさん」

「もちろん!」

「じゃあ俺は中堅でも」

試合形式が変わるというのに、それといった不満の声はなく、すぐに順番を決め出す。無駄に順応力があるなと思いながら出ないカズキは見守る。

「あっ、カズキは出ないから食器洗いよろしくね」

「俺達は決めるので忙しいから」

「ひでぇ」

いつもは公平にとじゃんけんで決めているが、いいように押し付けてきやがった。

だが、正論を言われた気がしたのでしぶしぶ食器を片付ける。

「おっ、まさか本当にやるとは」

「えらいえらい」

「誉めるな、俺は子供か!」

「子供」

「子供」

「子供だな」

「子供ですわ」

「子供」

「生意気なガキ」

打ち合わせしていたかのように順番に言ってくる、しかもレイカ先生まで。

「お前らひでぇよ、先生もすっげぇひでぇ。俺もう心傷ついた、立ち直れねー」

「ノアは副将でいいんじゃないか?」

「当然ですわね、わたくしが全員倒してさしあげますから気軽にやってくださいまし」

「はぁ?俺が五人抜くんだ、保険は黙ってろボケコラ」

カズキを無視して再び話し合う、その姿を見て本当に心が傷ついたのであった。

「もおいいよ、もー、もーいい。いじけた!いじけたよ僕は、もーダメだいじいじするよ」

不気味な独り言を言いながらリビングから姿を消すのだった。

 

 

つづく



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大会後のとある一日

 

 

 

決勝は、ジェルマンが怒涛の五人抜きを果たし見事一学年トーナメントを優勝したのであった。最後のわりには呆気ないというか、あまり盛り上がった雰囲気ではなかった。

AクラスがまさかのFクラスに完敗。その見出しの新聞が校内に張り出されると、一気にFクラスの知名度が上がった

当然、優勝に貢献したジェルマンに注目が集まる。

だか

「俺が勝てたのは、ルイスが居なかったからだ」

ミチノのインタビューでジェルマンはそう語っていた。

ジェルマンはルイスに勝てない。否、ルイスがいたらジェルマンはAクラス相手に五人抜きはできなかった。が正しい意味だ。

Aクラスが四連敗した時、あまりにもチームの士気が下がっていたのを見て思わず病室を抜け応援に駆けつけたのだ。

その時の相手が一番強く、倒すのに手強ずったのだ。もし最初からルイスがその場でいたならば結果は逆転していたかもしれない。

やはりチームの要が居ると居ないとでは強さも全く変わる、そう改めて気づかされた。

もっともFクラスにそんな者はまだ居ないのだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽照らすグランドではバトルトンファーを振り回すジェルマンとそれをかわすカズキがいた。

授業の組手とは思えないほど、殺伐とした雰囲気。真剣勝負とは違う、殺し合いという表現が近いであろう。

「はぁ!」

そんな戦いは三者から見ればジェルマンが圧倒しているように見えるが、変則的に動くカズキの攻撃に翻弄され防いでいるのだ。

防いだと思った刀は軌道を変え別方向で攻撃してくる、動きに対応仕切れず、いつの間にか喉元に刃先を突きつけられていた。

「一本、俺の勝ちだ」

そう言うと刀を鞘に納める。

「まだだ、もう一回」

「これで十五回目ですわ」

「Aクラスは倒せたのにカズキには勝てないんだな」

既に十五試合連続でカズキと戦っているジェルマン、その全て負けている。

その負けても立ち向かう揺るぎない闘争心は呆れを通り越し過ぎて呆れてしまう。

「うるせえ!すぐにぶっ殺してやるから黙って見てろ!」

「次は俺の番だ、休んでいろ」

構えるジェルマンの肩を掴むレオン。

「はぁ?こいつは俺の獲物だ、すっこんでいろ」

「俺もこいつにやられてるんだ、相手する理由は同じだろ?」

「俺の方が先だ」

「じゃあ後に譲れ」

「ふざけんな」

「ふー、あちーあちー。元気だなあの二人はよ」

言い争っている二人を無視して次の組手相手を探す。

「あ、あの、カズキさん。相手お願いします」

ルリーが声をかけてくる。

「ルリーさん、体調は大丈夫ですか」

なぜ心配をしたのか、それは授業の初めレオンと戦い気絶してしまい休んでいたのだ。その事を考えれば最初に心配の声をかけるのは当然である。

「大丈夫です。私だって強くならなくちゃいけません、だからいつまでも寝ている訳にはいきません」

「じゃあ相手お願いします」

「はい」

神威を練り木製の杖を顕現させる。

「炎の球(フレイム)」

火の球(ファイヤーボール)よりも大きな炎の球を杖先に作り出す。

「おいおい、いきなり中級魔法かよ」

いつもファイヤーボールしか使わないから初級魔法しか使えないと思っていたから驚きだ、そもそもこの歳で中級魔法を使うだけでもたいしたものだというのに。

「強いんですから私も不必要な手加減はしませんよ」

カズキに向けてフレイムを放つ。

「こりゃ俺も頑張らないとな」

魔法使いは魔法を発動させるには魔力を集めたり、詠唱や魔法陣をつくるなどで時間がかかる。その為、隙を作らず攻めるのが一般的である。

カズキもそれに乗っ取りガン攻めに入る。

刀の横降りを後ろへ大きく飛び回避するルリー。

攻められてるのに余裕の表情をしている。

不審に思い、ふと足下を見ると魔方陣が描かれていた。

だが、気づいた時にはもう魔法陣から巨大な氷の刃が突き出る。

「おいおい、レオンの時みたいに優しくしてくれよな」

気づいたので間一髪で氷の刃を真っ二つに切り伏せたのでダメージにはならなかった。

「うそ、これでもひっかからないなんて」

完全な奇襲攻撃だったはずなのに見事に対応したカズキに驚き、行動が遅れる。

その隙に一気に詰め寄り刀を向ける。

「余裕を見せたのが失敗だったな」

「むー、せっかく手の内を明かしたのに負けるなんて」

「なんだ、まだあるのか?」

「さ、さぁ?わ、私、しりません」

視線をずらし口笛をふくルリー。すっごいわかりやすいな。

だが、ノーモーションで魔法陣を展開できる事以外にも何か秘策がある事がわかった。詠唱無しで唱えられるのか、他の種類の魔法か、最高火力の魔法か、あげれば予想は結構出てくる。

次戦う時はそれを考えていかないと足元をすくわれる。もしかしたら俺の想像を越える事をしてくるかもしれない。

普段はおどおどして気の弱い感じだが、魔法の腕は確かなもので、動きもいい。手の内はわからないが、味方と思うと心強い。

「カズキさんも強いですね」

「俺なんかまだまだですよ」

「その割には魔法にも対応できてますし」

「まあなんだ、俺の知り合いに魔法使いがいたんだよ。その時に色々と教わったんだ」

「なるほど。さすがは他民族国家、私以外の魔女も住んでいるのですね」

知り合いはアルガド王国に暮らしてはいないが、他民族国家だから魔女も暮らしている可能性は高いので後者は否定できないな。

下手に話してもややこしくなりそうだし、俺の事を深く聞かれる訳にはいかないのでここまでにしておこう。

「何を話している、どんどん戦え!」

会話をしていると横からレイカ先生がビシビシと鞭を振るっている。あいかわらず脅しが強い。

だが、次の学園公式戦まで一ヶ月も無い。それまでに二、三年にも勝てるように、徹底的に鍛えなければならない。

ただでさえ、神威という大きな差があるのだ。俺達も授業に対する態度が違う。

「うるあ!」

「ふん!」

すぐ隣ではジェルマンとレオンが激しい攻防戦を繰り広げている。互いに怪我をしないように配慮した組手だったのだが、属性能力(アトリファクタス)と精霊を使った手加減無しの真剣勝負へと発展した。当然周りの被害も大きく、平地だったグランドは爆発と地面操作で原型を留めていない。

「貴様ら、殺し合いじゃないんだ配慮せんか!」

「死ねオラァ!」

「おおおおお!」

レイカ先生の声など耳に届くわけもなく、激闘を続ける二人。

「いい加減にせんか!!」

鞭を振るうと、パァンと空を裂くような破裂音と共に二人は倒れる。

「がは」

「ぐお」

「全く、熱が入るのは構わんが周りを考えろ!」

「いってぇなボケコラ」

「先生が授業妨害してどうする」

「続けても構わんが、次の授業までに直しておけよな」

そう言うとしばらくして授業終了の鐘が鳴る。次の授業は山でやるらしい。

てことで

「うおおぉぉっ!!コートローラーだぁぁ!!」

「俺はトンボよぉぉ!!」

それぞれ整地にする器具を持って変わり果てたグランドに戻る。

「グラン・ギア、平地にしろ」

しかしその間にレオンが大地の精霊であるグラン・ギアを使い綺麗に整地していた。

「…………」

元通りになったグランドを見たカズキとジェルマンは静かに器具を置いてあった場所に戻すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから死ぬような授業を終え寮へと帰還したカズキ達。

「鎧水泳は辛かったな」

「それな、俺はもう疲れた」

最後の授業で、激流の川で水泳をしたのだ。それも全身に鎧を身に付けてだ。

ノアが泳げず川に流されるわ、ルリーは鎧の重さで沈むわ、カズキはバタフライで滝を登るわ、レオンは魚を取るわ、リュークはプカプカ浮いてるわ、特に何もなかったジェルマンが真面目に見えるわ、レイカ先生は男子に女子の分の鎧をつけさせるわ。

とにかく、大変だった。

「よし。組手やろうぜ」

「そうだな」

それでも自主練する男子三人。そうと決まればすぐに立ち上がり外へ出る。

「ルールはいつものでいいな」

「まあ妥当だな」

いつものとは、一試合三分でダウンした数で勝敗を決めるというもの、同然だがダウン数が少ない方が勝利である。ダウン数が同じなど決着がつかない場合は審判による判定になる。勝者は残り次の相手と戦う、それを終わりまでやり最後に勝者だった人が勝ちというもの。修行でもあるが一種の遊びでもある。本気の。

「前回もカズキが優勝者だったな」

前回はというかこのルールを始めていらいずっとカズキが優勝者だったりする。(内容では負けている時もあるので無敗という訳ではない)

「まずは俺からだな」

カズキの前に立つレオン。

「拳に纏えグラン・ギア」

地面から紫色のオーラが吹き出すように現れ両手両足にゆっくりと纏う。

手と足だけに纏うのは守りには一切使わず攻撃を受けきるという覚悟と修練の表れである。

「ふん」

ただでさえレオンのパンチは重いのに更にグラン・ギアで硬めるので滅茶苦茶な威力がある。人間の防御力を例え十倍に上げても骨なんか簡単に砕けてしまうだろう。

だが、カズキはあえて受け止める。自身を打たれ強くする為だ。強力な攻撃を受け続け屈強な肉体を手に入れた、その結果、ルイスの神威武装(ミスフォルツァ)を受け止め砕く事ができた。超古典的で原点ともいえる鍛練方法だが効果は述べた通りだ。

「こいカズキ」

レオンも両手を広げる。どうやら避ける気もガードする気もないらしい。

「いくぞ」

胸元に刀手打ちをする。

「うぐおっ」

その威力はレオンの巨体を軽々浮かす。

「相変わらずすげえ威力だ」

ジェルマンも初めて受けた時は踏みとどまる事が出来ず後ろに倒れてしまった。

今では踏みとどまれるが、そのダメージに未だに慣れない。それはレオンも同じである。

(重い一撃だ。これでまだ本気じゃないんだろ)

あの時に戦ったカズキにはまだまだ余力を残していた気がする。そうなればこの程度の攻撃は遊び、ほんのじゃれあいにしか過ぎないものなのだろう。

「打ってこいレオン」

「おおおおお」

激闘を繰り広げる二人の周りに、いつしか人が集まっていた。

「負けんなレオン、いけオラ」

「獣人の意地を見せろ」

野次馬が一方的にレオンを応援する。倒れそうになる度に声援の量が大きくなっていく。

すでに三分は過ぎているが、互いに打ち合い倒れるまで続けるという過激なルールに変わってきていたりするこの頃。

「うおおおおお」

レオンの強靭な脚力によるハイキック、それをまともにを受け止める、足が地面にめり込む程の威力。それでも倒れない。

「どうした、その程度か」

カズキの体は打たれ過ぎて赤を通り越し紫色に変色している、それでもなお倒れる素振りすらしない。それどころかもっと打ってこいと手招きをする。

明らかに受けているダメージ量も、手数も多いのに平然とした顔をしている。その姿に恐怖と共に憧れの念を抱く。

倒れない、それだけでだ。

「ぐっ」

レオンが攻撃しようとするも、足に力が入らずバランスを崩し前のめりに倒れる。

「ッシャアァァッ、まずは一人抜き」

「次は俺の番だな」

上着を脱ぎ捨て、片手に持つバトル・トンファーを回転させながらカズキの前に立つ。

「ふん!!」

そして鉄球を自身にぶつけ、ボゴォンと爆発する。

「なんの真似だ?」

「はっ、ボロボロのテメェに勝っても嬉しくねぇんだよ」

バトル・トンファーを投げ捨て、打撃と爆発で負傷した上半身を見せつけるように胸を張る。

「カッコいいじゃねぇかよ」

「これで俺が勝っても、二番手だからとは言わせねぇ」

自ら己を痛めつけ、口から血を流しながら不気味に笑う姿は正しく狂人。

「手加減はしねぇぜ」

「当たり前だ!」

「ふん」

カズキの刀手打ちを受けるとすぐさま顔面に蹴りを入れる。

「こいオラァ!」

「上等だ、俺についてこれるか」

間髪いれず互いに攻撃し続ける。

「うおおお」

流血をしようとも

「オラァ!」

晴れ上がろうとも

やられたらやり返す、その文字通り打つ手を止める事なく、殴り、蹴り、叩き合う。

「いいぞジェルマン」

「勝てるぞ、いや勝て!」

「五人抜きした実力を見せろ」

「カズキ、テメェも負けんなよ」

「ここまできたんだ、絶対に倒れるな」

どちらも退かないこの勝負、まさしく意地と意地のぶつかり合い。

どちらかの心が折れた時、この勝負の決着がつく。

「何の騒ぎだお前達」

青の髪を揺らしながらやってくるルイス。その凜とした声に野次馬達は一斉にルイスの方へ振り向き、道をあける。

「またお前達か!!」

殴り合う二人を見て頭を抱えながら足早に寄る。

「決闘をするなとあれほど言ったのに」

「決闘じゃないぞルイス。俺達は修行をしているんだ。騒ぎにしてるのはこいつらだ」

ルイスの手を取り止めるレオン。

「お前、その怪我はなんだ」

「痛いから強く引っ張るな」

「手を取っているのは君の方だろ」

「……」

「決闘だろうが修行だろうが騒ぎを起こすなと」

「だから、騒ぎにしてるのはこいつらで」

「騒ぎになっているんだ、その時点で問題行為だ」

ごもっともな意見にレオンは何も言えないが、手は掴んだままだ。

「手を放せ」

ルイスが居るなど知るよしもなく、どんどん内容が過激になる。

そんな中、少女が戦いに終止符を打つかのよつに互いの髪を掴み殴り合う二人に飛び蹴りで吹き飛ばす。

「がはっ」

「ぐはっ」

「夕御飯が出来ましたわ、はやく手洗いうがいをして来てくださいまし」

正体はノアだ。フリルがついた可愛いエプロンを身につけているから調理を終えたばかりなのだろう。

騒ぎを起こしたからか、腰に手を当てて怒っている態度を取っている。

「いってぇなボケコラノアテメェアァン!?」

「なんという速く重たい一撃だ、耐えきれなかったぞ」

うずくまっていた二人が立ち上がり、ノアに詰め寄る。

「夕御飯、抜きにしますわよ」

「よし飯だぞカズキ」

「そうだな、寮へ戻るぞレオン」

その言葉を聞くとすぐに素直になり寮へと急いで戻る。

周りの人々を惹き付ける程の熱く激しい戦いは呆気ない終わり方で幕を閉じたのであった。

 

 

 

つづく



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クエストをやってみたりする

 

ある日の休日。

学園の敷地内にある小屋の前に設置された掲示板の前で難しい顔をしているカズキがいた。

掲示板には、依頼(クエスト)が難易度順に張り付けられている。

クエストとは個人のものから国まで様々な所からくる頼み事を解決して報酬を得る、というシンプルなお仕事。

一日でも出来るものから長期間のもの、簡単なものから難しいものまであり、当然内容は難題なものほど報酬は高いのである。そして、クエストを成功すると成績にも響いたりする。そのため、お小遣いと成績を同時に稼ぎができるので人気だったりする。

ではなぜそのようなものを見ているのか。それは昨日、ノアと街へ買い物に行った時

「そのお金はどっから出てるの?」

と聞いてみたら

「わたくしが全て出しているのですわ」

と当然でしょ?みたいな顔で即答してきたのだ。

それにはカズキもキョトンとしてしまった。

てっきり入学前に払ったお金で賄ってるのかと思っていたが全く違ったのだ。

ノア本人はお嬢様だからなのか、全く気にしていないようだが、そんな舐め腐った事は許せないカズキはすぐにでもお金を返したいのだが手持ちが半端なく少ないというより無いに等しい、いや無いだ。

てことでお金を稼ぐ方法を考えていたところ、レイカ先生にクエストをやればどうだと助言をもらい現在に至る。

「コナミウス討伐か、報酬が少ないな」

コナミウスとは、小型の飛べない鳥型の生物であり、性格は狂暴のくせにビビりで集団で行動している。肉食なので弱い生き物、人も襲ったりするのでにクエストとして張り出されているのだろう。

「んー、ピンとこないな」

それにしても、簡単で報酬が少ないものしかない。

確かに学生がやるのだからこの程度の難易度がちょうどいいのかもしれない。

だがな……ペット探しとか薬草取りなら分かるが、荷物持ちなんてただの雑用だろ。

「魔物討伐とか無いのか」

魔物とは魔界に住んでいる生物で、一般ではモンスターと呼ばれている。当然危険度は高いので学生ではなく、それ討伐を稼業とする専門者か国の兵力が出る事となる。数年前までは日常的に騒ぎになっていたが、今はそのようなことは少なくなり平穏な日々が続いている。

だから、あるわけがない。 

「お?」

一番上に、ギガドラの討伐のクエストがある。報酬は金貨五十枚。……半端なく高いぞこれ。

「いいのあるじゃねぇかおい」

明らかに学生がやるものじゃないが、ここはアルセウス学園、アルガド王国を始め大陸中から集められた神威使いが集まる場所、こんなクエストもあるにはあるのだがやろうとする生徒はなかなか居ないだろう。

まぁ俺にかかればこんなやつの十匹や百匹は簡単に三枚おろしにできる。肉を土産にしたらレオン辺りが喜びそうだ。

とウキウキしながら貼り紙を剥がすが、よーーく見ると契約済みというマークが貼ってある。

「って、契約済みじゃねぇかボケコラ!」

怒りにまかせ紙を丸めて地面に叩きつける。

「おや?こんな所で何をしているんですか、カズキさん」

聞き覚えがあるようなないような気がする少女の声が聞こえる。

胸ポケットにはペンとメモ帳を入れて、カメラを首にかけている、いかにも記者の姿をした少女。

「ミチノさんだっけ?」

確か、取材をしに来た人だったな。一回しか会ってないが結構印象に残ってたりする。

「そうですよ、覚えてくれてありがとうございます」

ミチノが笑顔で返してくる。

「ところで、なにかクエストを受けるのですか?」

「お?なぜわかった」

「だって、ここはクエストの受付場ですから」

「……まぁ、わかるよな。」

「何を受けるのですか?」

目を輝かせながら聞いてくるミチノ。これは下手な言動を起こすと取材させてくれと言われるかもしれない。無駄な時間をさくかもしれない、ここは慎重に。

「んー、まだ決まってないかな?」

「ほうほう、ギガドラの討伐ですか」

丸まっていたクエストの貼り紙を広げまじまじと見る。

「あ、こら」

「ミカルド先輩に先に越されちゃいましたね」

「みかるど?」」

「三年生で学園最強の先輩ですよ、知らないんですか?」

「知らん」

「あ、そうですか……詳しく聞きたいですか?」

「結構です」

「それは残念です」

「じゃあ俺はクエストを探すので忙しいので」

無理矢理話を切り再びクエストをじっくり見る。

「……今見ているのカズキさんじゃ受けられないの知っていますか?」

「なに!?」

「受けるにはそれなりの実力が必要なんですよ」

「はぁ!?」

「Eランクの人達でもこのコナミウスの討伐が限界なのに、Fクラスの人が受けれるクエストは基本的には無いんですよね」

「ちょっと待て、FクラスはEランクにも入ってないのか!?」

「Fクラスの人達は、神威武装(ミスフォルツァ)を使えませんのでランク外なんですよ」

「なんだと!」

そんな事は初めて知ったカズキ、まさかランクにも入っていないなんて……。せめてFランクとか作ってくれよ。

「まぁノアさんとジェルマンさんのような人は例外ですけど」

神威使いとして優秀なノアや属性能力(アトリファクタス)だけ使えるジェルマンは、本来ならFクラスという場所ではないもっと高いクラスにいるはずなのだが、学園の総合評価のせいでFクラスにいる。

しかし、学園でも実力はきっちり評価されているのでクエストを受ける際にはそれなりの難易度を受けられたりする。

「俺だって一学年トーナメントで優勝したメンバーだぞ」

「一学年で強いだけじゃないですか、それも団体戦」

「それでも俺の強さは知ってるだろ」

「知ってますけど全部非公式じゃないですか」

ジェルマンやレオンと戦った時は決闘なので非公式扱い、それに一学年トーナメントでは目立った功績も無いし決勝には出なかったり、強力な神威武装(ミスフォルツァ)や属性能力(アトリファクタス)や精霊や魔法のせいでカズキの印象が薄かったりする。

「くそ、なんてこった」

「現状だと雑用とかしか出来ませんよ」

「なんだと!?コナミウスの討伐すらできないのかーー」

「そう落ち込まないでください。荷物持ちは銀貨三枚も貰えるんですよ」

「やかましわ、くそまずは名前売りかよ」

今ここで大きな騒ぎを起こしてもいいが、退学とかになったら嫌だしな。試合で目立ってからにしようかな。

「すごい悩んでますね」

「何か、何かないのか」

俺でも出来ていい感じのクエストがないのか。クエストを再びよーーく見る。この時、ある一文が目にはいる。『人数は何人でも可』

このとき、カズキに電流走る。

「お前、ランクはいくつだ」

「私ですか?、こう見えてDランクなんですよ!」

ふふんと胸を張るミチノ。下から二番目のたかがDランクで威張られてもとは思うが、神威使いを目指す新米の一学年では高い方らしい。というかランクにすら入ってないバカがそんな事を思っちゃいけない。

「Dか……よし、お前の名前でこれらのクエストを受けてこい、メンバーに俺も加えて」

貼り紙数枚をミチノにおしつける、それらは全てDランクが受けれる討伐の最上位のクエストだ。

「え、え、えぇぇ!?」

「名前はお前で狩るのは俺で報酬は半分だ、どうだ?」

「あー、私はこれから先輩達に取材しに行かないといけませんので」

逃げようとするミチノの肩を素早く掴む。

「暇してるんだろ、いいじゃねぇか俺と危険種狩りツアーにいこうぜ」

「あっ、ルイスさんはBランクだからそっちの方が」

「あいつに頼めるかよ」

「私ならいいんですか」

「いいだろ、また取材受けてやるから」

「さよーーならーー」

手を振り払い全力で走り去るミチノ。よほど嫌だったんだな。

「くそ、逃げやがった」

仕方ない、地道に薬草集めとかをやるか。

小屋の中にいる受付の人に今出来るやつを一通り受けてやってみる。本来は一つしか受けられないのだが、レベルがあまりにも低く簡単で、ほとんどの人がやらないので複数受けられる。あとペット探してとかもついで感覚で受けてみたりする。

 

 

 

 

 

 

てことで

カハラ平原で薬草を探している。

街から出たら基本的には人の法が効かない野生の世界だ、いつどこから危険が襲ってくるかわからないので、たかが薬草集めでも気を引き締めてやらなければならない。

「薬草薬草~っと」

どれだけ持っていくのか忘れたから取り敢えず背負っている籠一杯に入れる事を目標にして集める。

それにしても薬草がありすぎる気がする、誰も取りにきてないような感じだ。

そういや薬草集めの他にポンガポンガの実やウマウマキノコなど採取クエストが沢山あったし、何か理由でもあるのかな?

あっ、ポンガポンガの実は森にあるピンクの果物で食用、ウマウマキノコも名前の通り食用のキノコで美味しいんだ。それらは人間の手で栽培されているけど、自然界でとれたものはなぜか味が良く価値があるのだ。

多く取ってお土産にしよっと。

だが、森には危険種が平原よりも多くいるから気をつけなければならない。

ほぉら俺のすぐ横にコナミウスが数匹いる。

そうかと思えばいきなり集団で襲ってくる。

ここは慌てる事なく先陣をきったコナミウスの頭を腕と脇に挟みそのまま真横へ回し首を折る。

続いてもう一匹が横から噛みつきにきたので、大きく体を捻り挟んでいるコナミウスを武器にし叩き飛ばす。

背後から一斉に襲ってきたので、それぞれの頭を丁寧に拳で潰す。

駆除完了!

「命の駆け引きでは弱者は淘汰され滅する。これが自然摂理だ……強者(俺)を狙ったのが運のつきだな。南無阿弥陀仏と」

殺すなら殺される覚悟があったという事だ。仕方のない事だ。

まぁ、こんな運命になった事はぜひとも自分を恨んでもらいたい。自分には勝てないと悟り逃げる事も自然界で生き延びるためには大切な事である。

「さて、薬草集めと」

制服が血塗れになったがまぁ気にする事は一切ないだろう。気を取り直してクエストを進めよう。

森の奥へと進み、お目当ての物を採取するカズキ。途中、廃鉱山があったので冒険してみたら盗賊のアジトだったらしくて、見逃してくれと頼んだら殺しにきたので一人残らず皆殺しにして拉致られた人々を助けたけど、語ればさっきのコナミウスと同じになるので割愛。

「おほほほ。品物が沢山取れましてよ」

予想以上の収穫に入れるので上機嫌なカズキ、籠一杯に取った採取品、両手には衰弱しきった少女、頭の上には金品が入った箱、後ろには拉致された人々が歩いている。まだ日が暮れていないが大所帯になったので早めに帰ろう。

森を抜ける道中にネーベアスネークとかキラーウルフなどが出たけど難なく対処したので割愛。

「お前らもう少しだから頑張れよ」

時々はぐれてないか確認をかねて後ろを振り替えって声をかけてみたりする。

返事はないが、全員はいる。みんなボロボロの服で痩せ干せている。何日監禁されてたんだろうな。他人事に聞こえるけど可愛そうに。

それにしても、偶々入った廃鉱山で人が監禁されていて、偶々薬草とか食べ物を持ってたからその命を助けたられただけで、まぁ運が良かったなとしか言い様がない。

森を抜け平原を歩いていやっと街の入り口につく。

助けた人々はやはり行方不明者だったらしく、門番の人が慌てて馬車を手配してくれて全員医療院へ連れてってくれた。

手配してる間に一人に治療代として奪った金品が入った箱を渡してトンズラする。

だって、これ以上関わるとめんどくさいことになりそうだもん。

学園に戻ると血で真っ赤に染まった制服を洗い、予備の制服に着替えてからクエストの受付の人に依頼品を渡す。

やはり取ってくる量が多かったらしく、特に余った薬草はなぜか買い取って貰ってくれた。やったぜ。

気になる報酬は合わせて銀貨五枚だが、労働者の日給より遥かに高いので稼いだ方だろう。

これで生活費のたしになればいいんだけど、精々数日分かな?無いよりはましだ、さっそくノアさんに借金を返済しに行こう。

寮へ戻るとノアがリビングで読書をしている。

「あ、カズキさん。どこに行ってましたの」

こちらに気づいたのか、声をかけると読んでいた本に栞を挟み読書を中断する。

他の奴らはどうしたのかと聞くと、ジェルマンとレオンは山で修行をして、ルリーは女子部屋で魔法の研究、リュークはベッドで寝ているそうだ。

みんな休日を有意義に使っているな、いいこといいこと。

「おー、ノアさん。はい」

カズキが手の平に乗った銀貨五枚を突きつける。

「銀貨五枚?どうしたのですか?」

訳もなく渡されたので困惑した顔をしている。

「生活費です。なんなりとお納めください」

「生活費?」

まだ分かってないので、簡単に説明するとノアは急に笑い始める。

「あれは冗談ですわ」

「は!?」

ノアが言うには最初に払った入学金に含まれており、月の始めに一定額の生活費をノアに渡しているそうだ。

後でレイカ先生にノアに全部渡してるのか問い詰めてみたところ、お嬢様だから金に目が眩む事はなく、更に金銭感覚が狂っていないに加え基本の家事をやっているから生活費を管理しやすいという考えだそうだ。

まぁ、一番は信頼出来る人だから、というのが決め手らしいのだが……。

「ですので、このお金は受けとれませんわ」

受け取った銀貨をカズキに返す。

「はは……騙された」

まさか嘘だったとは、嘘をついているような顔ではなかったし平然としていたからわからなかった。なかなかやるな。

「ごめんなさい、そんなに落ち込むだなんて」

部屋の隅で膝を抱えるように座るカズキに慌てて謝る。

「じゃあ、これで美味しい夕食作って」

先程とは裏腹、笑顔で様々な食材が入った籠をノアに渡す。

ポンガポンガの実やウマウマキノコ以外にも食べられる野菜や果物や茸をちゃっかり採取していた男。抜け目無いバカだ。

「わ、わかりましたわ」

情緒がすぐに変えるカズキに若干引いているように見えるが、余り深く聞くと両者痛み分けになりそうなので見なかった事にする。

「それで、この大金はどうやって集めたのですか?それとこの食材も」

「あぁ、クエストをやってな」

「クエスト……ちなみにどんな内容ですの?」

「薬草集めとか一番簡単なクエストだよ」

「もしかして街から出たのですか?」

「もちろん」

「大丈夫でしたか、危険種とかに襲われたりしませんでしたか?」

「どうしたの急に」

「今は危険種が繁殖してるそうですの、街に怪我をしてる冒険者が来るのが後を絶たないそうですわ」

そういえば異常なほど襲われたのはそれが理由だったのか。

そのせいで助けた人々を守るのも大変だったなと思い出す。

「危険ですから今度からは一人でクエストなんか受けないでください」

「おいおい、危険種程度で俺を倒せると思っているんですか?冗談キツイですよ」

「冗談じゃありません。最近ギガドラも目撃されているそうですから、気をつけてくださいよ」

ギガドラ、確か学園の誰かが討伐しに出かけてるんだっけな。あの中では最高位クエストだったから相当の実力者なんだろうな、興味無いけど。

「わかったよ、気が向いたら誘うわ」

「全然分かってないじゃないですか!」

「そんな怒るなって、一緒に行こうな」

「最初からそう言えばいいのですよ」

ぷんぷん怒りながらカズキから籠を受け取りキッチンへと向かう。そういえばもう夕飯の時間になるな。

いつもはノアに調理を任せて修行でもするのだが、御機嫌取りを含め手伝うのであった。

 

 

 

 

つづく



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常時限界突破

みんなが寝静まった時、暗い部屋で静かにベッドから起きるカズキ。

たまたま目が覚めた訳ではない。むしろ寝始めてからまだ二十分も経っていない。そもそも寝てすらない。つーかレオンやジェルマンが寝るのを待っていた。

修行着に着替え、男子部屋から出て真っ直ぐにある玄関に直行し靴を履き始める。

そう、日課のトレーニングを始める為に。

玄関から出ると、外は外灯と月明かりで学園内はわりと明るい。

時間的にはまだ早く、風紀委員の奴等が見回りをしている時もあるので見つかる前に学園外へ出る。

物音を立てず走り、城壁の前にいくとジャンプして難なく飛び越え街へ出る。

明らかな校則違反でもあり寮則違反なので見つかったら大変な事だが、知った事ない。今まで見つかった事は無いし、大丈夫だろう。

修行の場所として使っている無人島に向かう為、海岸へ向けて街を人とは思えない超スピードで通っていると 

ザンと目の前に何かが突き刺さる。

一旦止まって何が突き刺さっているのを確認すると大きな槍が道に綺麗に刺さっている。

この速さで動く敵の前を捕らえるとは、かなりの手慣れと予想できる。

しかしこの槍、どこかで見覚えが 

「そこのお前、何をしている」

槍に触れようとするが光の粒となりスッと虚空に消える。そして、横から聞き覚えのある声がする。

「あ」

振り替えってみるとルイスがいた。それも制服ではなく私服姿の。それもかなりラフなものだ。

一瞬誰か分からなかったが、凜とした声と目を張るような青髪でわかってしまった。

「むっ、お前は……」

分かってしまっては仕方ないので全力で逃げる。俺もいつもと服装が違うからパッと見は誰かわからない。現に警戒しながら近づいて確認をしてきている。

「カズキか」

逃げようとした瞬間に名前を呼ばれてしまう。やはりバレていたか。

「ここで何をしている。門限は既に過ぎているぞ」

「お、お前こそ門限が過ぎているぞ」

苦し紛れの言い訳と、なんでルイスがここにいるのか素の疑問を合わせたセリフを言ってみる。

「私は寮生活ではないからな、問題ないのだ」

意外な返答と、自分が不利な状況だと悟った。

「こんな夜に女の子が街を歩いちゃいけないんだ!悪い人に襲われちゃうぞ!」

なんとかこの状況を打開しようと言ってみるが

「一般人に私が負けるとでも思うか」

すぐに論破されてしまう。なんてこった。

「だが、悪い人には出会えたな」

そういうと神威武装(ミスフォルツァ)を展開し、槍を突きつける。

「ほう?この俺に勝てると思うのか?」

俺はルイスに勝てる、口封じなんていくらでもできる結局は力だ!だ、だからあ焦るひひ必要ななんてどどどどどここにもないいんだよ。

「…………」

ルイスは下を向いて黙り込む。

「黙るなよな」

今の反応で、実力差ははっきりと分かっているようだ。ふぅ

「それで、なんで街におりてきた」

おりてきたって俺は獣かよ。まぁいいや、ここは素直に答えておこう。

「修行だよ修行」

「修行?」

「そうさ、強くなる為にな」

「……なるほど人知れず修行か」

「そゆこと、じゃ!」

「じゃではない、帰れ」

「えぇん、学園内じゃ修行出来ないから外に行くんだろ?」

「授業でもそれ以外でもやってるじゃないか、足りないのか?」

「足りない足りない、もっとやらなきゃ強くなれないね」

「あのレイカ先生の授業でも足りないのか」

「普通に強くなる分なら先生の授業で充分だよ、でも俺は上を目指しているからな」

レイカ先生の授業は理にかなっている。どこにいっても強いやつは同じような事をしているなと実感した。それを三年間やれば普通に強くなれるだろう。

だが、俺はあくまで上を目指している。その普通にとどまるなんて真っ平ごめんだ。

「あ、なんなら一緒にやるか?お前にとってはかなりハードだと思うけど」

いつもなら即答で断るルイスだが、あの強さを知ってしまった以上、その修行内容はとても気になる。

正義を取るか、強さを取るかて非常に悩んでいるルイス。

「……わかった。少しだけ付き合おう」

呆れながら言うルイスの顔からは、何か覚悟を決めたようなものを感じた。

「ただし、お前が門限を破っている事実は変わらない。報告書にはキッリチ記入する」

やはりそこだけは譲れなかったようだ。どっちか片方ではなく両方取るとは欲張りなやつだ。だが、それがいい。本当はよくないけど。

「それは思っていた事とは違うよ」

「お前が勝手に思っていただけだろ」

うっ、正論だ。

正論には勝てないカズキは、これ以上その話をすることはなかった。

なんだかんだ走って砂浜までつく。

「ここでやるのか?」

「なわけ、ここじゃ近所迷惑だ」

「……何を言ってるのか理解出来ないのだが?」

「あそこに小さな島があるんだ、人が誰も住んでいない島がよ」

海を指差すも、何も見えない。別に暗いから見えないわけじゃなくて何もないのだ。

ここに住んでいるルイスならそんなことは知っている。だから先程から不思議そうな顔でカズキを見ている。

「海を渡るから、いくぞ」

「いくって、船でか」

「なわけあるか、走りに決まってるだろ」

「は!?」

「泳いでもかまわないけど、服が濡れるからな」

「ちょっとまて、走るって海をか!?」

「そうだけど……何驚いてるん?」

「何出来て当たり前みたいな顔をしているんだ、無理だそんなこと」

若干引いているカズキにルイスがつっこむ。

「仕方ない、今回は俺が連れて行ってやるよ」

「え、ちょ」

ルイスを抱えると海めがけ走りだす。

「まて、本当に走れると」

目を疑った。カズキは水飛沫を後に引きながら海の上を走っているのだ。

どれくらいの速さで走っているのだろうか、すくなくとも実体を捉えられないほどの速さで足を動かしているから人技ではないことは確かだ。

「ほーら、あそこの島だ」

しばらく走っていると目の前に島が見える。そこがカズキが修行場所として使っている島だ。

上陸すると抱えているルイスを優しく降ろす。

「まさか本当に走るなんて」

「沈む前に踏み出す。簡単だろ?」

理論的には正しいのだが、それを実現させる事はほぼ不可能だろう。

「さて、やるぞ」

「やるっえ、ここはデンリス島だぞ」

「なんだそれ?」

「ここの島の名前だ、確か高レベルの危険種が多く住んでいるから誰も近づかないんだ」

「へー」

ルイスが説明をしている間に準備運動をし始めるカズキ。

「真面目に話を聞け」

「聞いてるよ、高いレベルの危険種がいるんだろ?なら相手にいいじゃねぇか」

「まさか、君は毎日危険種相手に戦って」

「そんなわけないだろ、普通に修行だ」

周りを警戒しているルイスを横目に腕立て伏せを始める。

「いつ襲われるかわからないんだぞ」

「あ?弱者(危険種)が、強者(俺)を襲う訳ないだろ?」

いくら高レベルの危険種でもカズキの敵ではないことはルイスも分かっている。

「それでも危険な場所な事にはかわりないだろ」

だが、修行で疲弊していれば殺されることもある。何がおこるか全くわからない危険な場所だ、こんな所で修行だなんて無謀過ぎる。

「修行に集中しながら周囲を気配る鍛練にもなる。安全な場所で修行とかなに甘えた事を言ってるだ?」

「なに!?」

「俺に勝てないのはそういう意識と考えの差だね。逆境こそ強くなる近道、修羅の道すら平然と進めなきゃお話になりません」

腕立て伏せの状態から逆立ちになり片手で体を上下に動かす。

「なにボサッとしてるんだ、準備運動をしろ」

「……」

ここで投げ出してもいいのだが、そんな事ではカズキには一生勝てない。そう悟ったのか黙って従う。

「よし、こんなもんか。組手やるぞ」

「……お前、もしかして組手の相手が欲しかったのか?」

「ばれちった?」

「はぁ、全くお前というや」

誘った理由を知り呆れながら立ち上がるルイスの真横に、刀が一直線に通る。

「え?」

グギャアァと人外の断末魔が聞こえる。恐る恐る後ろを振り向くと木の形をした一つ目の危険種が倒れている。

「警戒を解くな、ここの危険種は擬態に特化している」

倒れた危険種に近づくと目に刺さった刀を抜く。目から緑色の液体をブシュッと飛ばしながらピクピク動いている。

「お前はここで戦闘における観察眼を養え、気を抜くと殺されるぞ」

「危険種じゃなくてお前と組手をするのか」

「言ったろ、観察眼を養うってよ。周りを気配る力は今回の大会では必要であり、実戦で活躍する力だ。覚えて損はない」

そういうと背後に忍び寄る巨大な蔦を斬り倒れている危険種を持ち上げると、蔦を出している本体に投げつける。

「襲われてる最中も俺もお前も攻撃するルールだ。が、やばかったら今みたいに俺が助ける」

「君がやばかったらどうするんだ」

「自惚れるな、お前に助けを借りるほど俺は雑魚じゃない」

「……後悔するなよ」

光の粒が集まり槍を顕現させると、カズキに刃を突きつけるように構える。

「それは後の自分に言い聞かせな」

こうして過酷な組手が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、うぐ」

片膝をつき息を切らすルイス。

「オラまだだ、はやく立て」

余裕の表情で手招きをするカズキ。

対多数戦も経験しているルイスだが、それら相手は人間で格下が多かった。だが今回はカズキという強者に加え、いつ危険種に襲われるかわからない状況での組手は予想を越える辛さだった。

急に危険種が横から襲ってきたから対応したらその隙に攻撃をしてくる。それに反応出来ずに毎回倒されてしまう。

対するカズキは急襲してくる危険種を的確に対処しながら対等以上に戦っている。それも手を抜いてだ。

「ほら、集中しろ」

立ち上がってもすぐに倒されてしまう。

満身創痍の中、カズキとの差を嫌というほど思い知らされる。

そんな状況で、次第にルイスの心が折れ始めていた。

「うぅ」

体に力が入らない。視界がぼやける。意識が朦朧とする。脳が立つなと命令する。心がやめたいと叫んでいる。

目の前に転がっている槍を拾おうともせず、ただ座り込んでいる。

「どうした。もう限界か」

カズキの問に微かに首を縦に動かす。

「ならば立てッ!!立って限界を越えろッ!!」

「…………」

「強くなりてぇんだろ。そんなんじゃ誰も守れねぇぞ」

カズキの言葉に鼓舞されたかのようにゆっくりと立ち上がる。

足が震え、重心が定まらない中一歩また一歩と前へ歩み出す。

「そうだ、それでいいんだ」

前のめりに倒れるルイスを抱えると集められた枯れ葉の上にそっと寝かす。

「第一関門突破だな……こりゃ俺も負けてられないな」

上着をルイスに被せ、刀を近くに置く。

ここからカズキの修行が始まるのだ。

やっている事はレイカ先生とは変わらない基礎トレーニング。だが、内容はそれを越えるようなものばかりだ。

「うっぐおおぉぉっ!!」

魔法による高重力空間を作り、立つのがやっとの状態でのトレーニング。一回一回が半端無いほど辛い。

「おおおおおおっ!!」

体が重い、動かない。

筋肉の繊維が切れそうだ。骨が軋み折れるんじゃないかと思う。なら切れて結構折れて結構、そこから回復して強靭な体が出来るというもの。

「まだ意識がある。まだいける。負けんなオラァ!」

強くなる。その強い意思がどんな辛い修行をも乗り越える支えだ。

「はぁ、はぁ、あああっ、はあ」

「まだだ、まだいけるぞ。動きを止めるな、どんどん動かせ」

自分で自分を鼓舞させひたすらトレーニングに打ち込む。

トレーニングを終えた後は素振りを始める。基本の打撃から下段、中段、上段と突きと蹴りをやる。ただやるのではなく、一回一回意識した丁寧で質の高いものだ。

こういった基礎をちきんとやる事が強くなる秘訣だ。基礎を怠っては強くはなれない、俺の師匠や先生は常に言ってきたからしっかりと教えを守っている。その結果、更に強くなれている気がする。

強いやつはみんな同じ事をするし同じ事を言う。そこから差がでるのはこの後にやる技の練習だ、どのように動かせば威力や速度が上がるのか、日々研究し無駄を無くしていく。

技を繰り出し試行錯誤しながら完成度を高めていく。

などとしていると太陽が昇り始める。

「んっ……うん?」

眩しい日差し起こされ、眠い目をこすりながら上半身を起こすルイス。

「いた」

身体中が痛い。

その痛みで昨日はカズキと組手をしていた事を思い出す。

……そこからの記憶が全くない。 

記憶がない事に気付き慌てて立ち上がり周りを見渡すと外だ。どうやら島で寝てしまったらしい。

カズキはどこに行ったのか、まさか置いてかれたのかと一瞬思ったがすぐ近くで腕立て伏せをしていた。

カズキから発する熱気は体の周りから陽炎のように揺らめきが立ち上っている。当然汗も凄く、地面には水溜が出来ている。

「……」

圧倒的だった。

森だった場所が小さな広場になっている。見ただけで分かった、他とは比べ者にならないほどの圧倒的修行の量。ただやるだけではこうはならない、質も何もかもが圧倒的なのだと瞬時に悟った。

「お、おいカズキ」

淡々とこなしているカズキに声をかけてみるが

「あと十三回待て、切りが悪い」

そう告げながらトレーニングを続け十三回やり終えると立ち上がり

「よールイス、おはよう」

満面の笑顔で挨拶をしてくる。

「お、おはよう」

「やーーっと起きたなお寝坊さんめ、じゃあ修行始める?やらない?それとも帰る?」

「……まだやるのか?」

ニコニコしながら聞いてくるカズキに呆れながら聞いてみると

「とーぜん、鍛えてなんぼの世界ですから」

「……」

「お前の昨日の組手はなかなか良かったぞ」

背中をバンバン叩きなから誉めるカズキ。

「あれのどこが良かったのだ?」

確か昨日の組手は、一方的にやられていた記憶しかなかった。それの一体何が良かったのだろうか。

「最後まで立ち上がっただろ?それだけで充分よ」

「立ち上がった?」

ルイスの記憶には組手でさんざんやられていた事しか覚えていない。そもそもどこで何があって倒れたのかも覚えていない。

そのため、カズキが何を言ってるのかがわからないのだ。

「なかなか出来ないんだよな、極限状態の時に立つのってよ。お前は立てたから俺の修行についていけるだろう」

「!?」

その言葉にルイスは、はっとする。

「お前、私を鍛えようとしていたのか!?」

「まぁな、途中でわからなかった?」

「お前は私の仇なのだぞ。それなのに、私に、敵に塩を送るのか!?」

ルイスにとってカズキは故郷を滅ぼした倒さなくてはならない存在。そのカズキに教わるなどあってはならないことだ。

「送ってやるよ。塩だけじゃ足りないから飯もおかずもドーーンと送ってやるよ」

カズキは笑いながら言う。

「それに、俺の事はもうそんな風に思ってないだろ?」

カズキを仇とは思っていない。そうでなければこうやって話す事も一緒に組手もしないだろう。それを見抜きルイスを修行に誘ったのだ。

「……随分と気前がいいのだな」

「当たり前だ。お前はもっと修行して俺を殺してもらわないといけないからな」

「自分を殺してもらうために強くする。か、変わっているな」

「強く願うのは当然の事だ。もっと鍛えて俺を殺してみせろ。……だがな、俺もそれ以上に修行して強くなる。そしてお前の壁になり続けてやる」

「ふふ、面白い事を言うな」

「これは俺の常套句だぜ?俺の修行を受けたやつ全員に言ってる」

「弟子がいるのか!?」

「弟子じゃねぇ、友達と敵だ」

「なんだそれは」

「俺はあくまで基礎を教えるだけだ。技は自分で磨け」

「基礎?さっきは飯もおかずも気前よく送るとか言ってたくせにか?」

やれやれと呆れてるような仕草を取ると、カズキは後ろを向くと拳を無造作に振るう。

パァンと大気を張り裂くような轟音が島全体に響く。

「基礎をバカにするなよ。鍛えればただのパンチでも必殺技になる」

続けて腰を深く落とし拳を突きだす。風圧で木々や岩が倒れ島に一直線の道が出来る。

「当然、基礎が強ければ技も強くなる。当たり前だよな」

「……」

「まぁ今回はここまでだ、ちと早いが帰るぞ」

「帰るって、また海を走るのか」

「当たり前だ。俺と修行をしてけば嫌でも出来るようになるさ」

ルイスを抱えると再び海を走り街に戻る。

「そういやお前の家はどこだ」

「私一人で帰れる」

「バカヤロー。一応女の子なんだから家まで送ってやるのが筋ってもんやろがい!」

「あ、あぁ、わかった」

カズキの迫力に押し負け仕方なく案内する。

しばらく歩くと小さなレストランの前でルイスが止まる。

「ここが我が家だ」

「レストラン……お前まさか、学生をしながら自営業を営んでいるのか!?」

「違う。レストランは兄上が経営をして、私はその手伝いをしているのだ」

「へー、お兄さんのお手伝い?ええ娘やこの娘ええ娘!」

「二階が私達の居住にしている場所だ。狭いが二人ならなんの問題はない」

「さすがシバの兄さんだ……ん?」

うんうんと関心しているとある事に気づく。

「あれ?もしかしてシバの兄さん、ここで暮らしてるん?」

「そうだぞ」

「てめぇ、なぜそれを速く言わないんだバカたれこの!」

ルイスの胸ぐらを掴み揺さぶる。

俺にはこいつの兄、シバという人にある用があるのだ。

それも本来なら二年前済ませなければいけない事だったのだが、新国に居なかったから後回しにしていたからこんな事になってしまった。

「知ってるのだと思ったんだ」

「知ってるわけねーだろうが」

「まだ朝早いから今回は出直すけど、シバの兄さんによろしく言っておいてくれ」

「言われなくてもそうする。じゃないと今日の件の説明が出来ない」

「よーし、じゃあな学校に遅れるなよ」

そういうとカズキは屋根の上に飛び上がり、屋根から屋根へと飛び移りながら学園へと戻る。

その後はシャワーを浴びてすぐベッドに潜り寝る?。

そして何事もなかったかのように起き、みんなと学園生活に勤しむのであった。

 

 

 

 

つづく



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学園公式戦が始まったんだ

月日は流れ、気がついたら学園公式戦の当日になっていた件。まさに急・展・開!

そんでもって、Fクラス御一行は次に試合を控えている。これぞ超・展・開!

修行や授業や開会式とかその他色々な過程をすっ飛ばしてここまでやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熱気渦巻く試合場。客席は全学年が座わっているので満席。当然ながら一学年トーナメントよりも更なる盛り上がりを見せている。

学園公式戦、それも剣舞祭の出場がかかっているのだから気合いの入りが違う。

それは俺達も同じ事

「人が凄いねー」

「そうだな」

「この舞台で先輩共を潰せるのか。楽しみだな」

「き、緊張します」

と言いたいが、みんないつも通りの反応をしている。

変わった事は、Fクラスを批判していた一学年共が声援を送るようになっている。実力で勝ち上がったのだから代表とは認めてくれたのかもしれない。

「がんばれよFクラス」

「まっ、期待はしてないけどな」

「精々いい試合にするんだな」

「あはははは」

……それでも冷やかしがほとんどだが、以前より大分ましである。

「うっせぇ予選落ち雑魚共は黙ってろ!」

ジェルマンの安定の煽り返し。それに過剰に反応する一学年の生徒達。 

まだ優しかった歓声が一気にブーイングの嵐と化す。

「はっはっはっ、負け犬共が喚き散らしてるぜ。実に気分がいい」

試合前で緊張感している中、こいつはこの状況を楽しんでいる。

「相変わらず悪役ですわ」

「こっちは見ていて気持ちいいがな」

「敵なら腹が立ちますけど味方ならスッとしますね」

ジェルマンの行為はチームを盛り上げたり、相手への挑発もあったりして何気に役に立ってたりする。軍人だからもしかしたら分かってやってるのか、それとも素なのかはわからないが、おかげでみんな落ち着いているように見える。

さて、初戦の相手は二学年のDクラスが集まったチームだ。とうとう上級生と戦う事になった。果たして俺達の実力が通用するのか!?…公式戦が始まるまでレイカ先生にバッチリ鍛えられたのでまぁ大丈夫だろ。

ちなみに、学園公式戦もトーナメント式で試合ペースは三日に一試合とぬるい。

そんな個人の感想を含めた捕捉はそこまでにしてもう試合が始まってるので切り替えます。

「うおおぉぉ」

ブザーが鳴った瞬間すぐに戦いが始まった。

ジェルマンの十八番を奪うかの如く先手を打ってきたので、ノアとルリーを囲い守る形で対峙する。

「くっ、んの野郎」

二人の攻撃を受け止めるジェルマン、一旦距離を取り体勢を整えようにも後ろに逃げ道はない、一歩も退くことも出来ない。文字通り真正面から倒すしかない。

「オラアアア」

バトル・トンファーを握る手に力を込め、強引に弾き飛ばす。

「今ですわ」

大きく体勢が崩れた二人の急所に氷の矢が突き刺さる。

「まずは二人ですわ」

「ふん」

振り回す槍をかわし側頭部を殴るレオン。たった一撃で光の粒となり消える。

「サンダーボルト」

呪文を唱えると遠くから弓を射っている少女二人の頭上に雷を落とす。

それぞれ上級生相手に難なく倒している。

「うわっとと、あぶね」

そんな中、カズキは一人相手に苦戦していた。

「なにやってんだテメェ!」

競り合っていると横からバトル・トンファーを振ってくる。

相手は避ける事が出来ずに頭を潰されすぐに光の粒となり消える。

こうして第一試合があっけなく終わる。

「テメェ、なにふざけた試合をしてるんだ」

終わった後カズキの胸ぐらを掴むジェルマン。表情は完全に怒っている。

「俺なりに頑張ったんだけどな」

「嘘つくんじゃねぇよ!」

「ちょっと、やめなさいジェルマン」

ノアが止めに入るもジェルマンの怒りは止まらない。

「うるせぇ。カズキならあんなやつら簡単に倒せる、テメェらもそう思ってんだろ」

授業ではチーム全員を圧倒しているカズキだ、ジェルマンが倒せる程度の相手にてこずるなんて事はありえない。全員がそう思っている。

「おいおい、俺を買い被るなよ」

呆れた顔で首を横に振るうカズキ。だが周りの疑心の視線は晴れることはない。

「俺に勝ってるくせに何言ってんだ」

「それは最初の時だろ。今は俺よりも強いかもしれないだろ」

互いの事は何にも知らない初日に戦ったあの日。あの時は実力差はあったが、今は互いに自身を鍛え続けきたのだ。

あの時とは実力は違う、なら逆転しているかもしれない。というシンプルな発想。

「組手の時は俺はお前に勝ててない」

ジェルマンの言う通り授業の組手ではカズキが全勝している。さっきのはあくまで発想止まりなのが悲しい。

「組手だろ?試合とはまた違うんだからわからないだろ」

「わかるわ!テメェはあんな強いんだから実力なんか隠す必要無いだろ」

ただでさえなめられているFクラス、それなのに無様な戦いを見せるわけにはいかない。

「……ジェルマン、俺はあえて実力を出さないんだよ」

「なんだと」

「実力を見せると対策されるからな。まぁあれだよ、能ある鷹は爪隠すってやつだな」

「じゃあその爪を見せろよ」

「あんな格下相手に見せれるかよ」

「言ったな、今格下って言ったな」

「おー言ったわ。あんなやつ睨むだけで倒せるわ」

「ならやれやボケ」

「やったらつまんないだろうが、あと俺やお前達の為にならん」

「ためにならないだと?」

「その内分かるさ。まぁ分からないのが一番いいんだけどな!」

そう笑いながら言って控え室のドアを開ける。

「おいコラ、どこへ行くんだ話はまだ終わってねぇぞ」

「俺の問い詰めより試合観戦だ。相手の視察視察、あと次のチームの邪魔になるぞ」

「なんだよあいつはよ、テメェらはなんとも思わないのかよ」

「いいんじゃないか、あいつなりに何か考えがあるんだろ?」

「私も、レオンさんと同じです。カズキさんにも何か事情があるんですよ」

「全然興味なーい」

「手加減してるのは不快ですが、わたくし達が勝てばいいだけの話ですから」

どんな理由があるか知らないが、気にするまでもないと。ジェルマンのように怒鳴るほどの事ではないと他は認識している。

「それに、らしくないですわね。他人の力を借りるような言い方をするなんて」

ジェルマンに対してノアは意外そうに言ってくる。

常に強さを求め、他人と馴れ合う事を嫌い、他人の力をあてにすることなどなかったジェルマン。その性格を知っているからこそ他とは違い意外そうな顔をしているのだ。

「……俺は実力を隠す事が気にくわねぇだけだ。あんな奴の力なんざあてにしてねーよ」 

「あら、そうでしたか。対カズキ戦績全敗者さんの言うことは違いますわね」

「なっ!?」

「ふふっ、言われてるなジェルマン」

「うっせぇ、レオンテメェだって全敗だろうが」

「俺は勝つからいいんだ」

「俺もだわ!」

「あ、みなさん次のチームが来ましたから出ますよ」

「ほーらはーやくーみんな待ってるよ」

使用チームが来てしまったので急いで控え室から出る。

そして、観客席へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園公式戦一回戦全ての試合が終わり、夕日が暮れた所でお開きとなった。

「おーおー、賑わっているな」

試合会場から出ると、外には多くの出店が並んでいる。

この大会は学園公式戦であり剣舞祭の予選でもあるので、学園は祭行事と認めこのように出店が出ているのだ。そのため多くの生徒達は夜まで賑わってたりする。

「明日試合があるのに騒いでいいのかよ」

「学校が許してるんだからいいんだろ?」

「じゃあ楽しんだ者勝ちですね」

「っしゃあ、景品ゲット」

「あら、わたくしの方が多く取ってますわよ」

コルク銃を使って景品を撃ち落とす出店で競いあっているカズキとノア。

「あれは楽しみ過ぎだけどな」

「だが、楽しめるのはいいことだ」

鳥の串焼きが十数本入った袋を片手にバクバクと食べているレオン。

「お前も楽しんでいるだろ。あと俺にもよこせ」

「楽しんで何が悪い」

レオンは鳥の串焼きを一本渡す。

「あっ、旨いなこれ」

「今日のご飯はここで済ますんですか?そうですよね!」

ルリーが目を輝かせながら聞いてくる。

漂う美味しそうな匂いに我慢が出来ないのだろう。

「まっ、いいんじゃねぇの?レオンも俺も食ってるし」

チラッとレオンの方を見ると、いつの間にか鶏肉を全て食べ終えており、違う出店で食べ物を買っている。

「みてみて、あれ美味しそうだよ」

「行きましょうリュークさん」

そうと決まった瞬間リュークとルリーが買いに人混みにきえる。

「待ち合わせ場所とか決めなくて良かったのか」

「大丈夫だろ。寮もあるし、迷子なんてならねーよ」

「このソーセージ旨いな!」

「そりゃドルツェルブの名物だ、旨くて当然」

さまざまな料理や遊びが並ぶ出店、それはアルガド王国が多文化主義国家で多くの種族や他国の文化を取り入れているからである。

「見ろよ、ルーンブラッドの食べ物だってよ」

魔女の格好をした女性が魚のパイを売っている。

「魔女はこれを食べているのか、もっとゲテモノを食べてるイメージだったな」

「アニマニアのお前に言われたら終わりだろ」

「そうか?」

「なにこれ、まっず」

「そう?美味しいわよ」

その出店の前では賛否両論の声が上がっている。

美味しいものだけを食べたい気分なので寄る事はなかった。

「ふぃ~、食った食った」

大量に買った料理をベンチで座りながら食べ、そして終える。

ジェルマンは満足そうだが、レオンはまだ物足りなさそうである。

「およよ、何やってんだお前ら」

沢山の景品が詰まった袋を持ったカズキがやってくる。

「夕飯を済ませたんだよ、テメェもどうした」

「ノアさんなら他の女子と混ざったから俺もお前らと合流しようとさ迷ってたのさ」

説明するとベンチが空いてないので地べたに座る。

「んで、これからどうするん?」

「どうするって、何が?」

「このまま遊ぶのか、いつものように修行するのか、それとも帰って寝るのか」

「けっ、修行一択だろ」

「無難だな」

「よーし、じゃあ寮に戻るか」

根っからの戦闘バカ三人は修行するため寮へと戻るのであった。

 

 

 

 

つづくんだわ



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ノアの憂鬱

あの後、寮前でトレーニングをしていたが、次の試合の事を考え早めに切り上げ寝る事にした。

が、カズキは違った。

みんながレオンとジェルマンが寝たのを確認し、いつも通り修行をしに例の島へと向かう。

ちなみにルイスは、大会が始まる一週間前から修行を中断している。

なんせ、俺達と同じで学園公式戦にでるのだから。しかも互いに勝ち進めば三回戦で当たる事になる。

あまり期待はしていないが、俺が知らない一週間のうちにルイスがどれだけ変われるのか見物である。

まぁ、ルイスのチームが勝ち進められたらの話だけどな!

他人の事ばかりを考えても仕方ないので、すぐに自分の事である修行に励む。

部屋のドアを開け玄関の方を見ると、リビングに灯りがついている。

あれ、おかしいな。みんな寝ているはずなんだけどな。

気配を消して何も音を立てずに出ることは可能だが、万が一バレてしまってはまずいので誰がいるか確認する。もしレイカ先生だったらぶっ殺されてしまう。

恐る恐る開けて見ると、ノアがソファーにすわりこみ俯いている。

「何してるん」

「ひゃん」

声に驚いたのか可愛らしい声をあげる。

そして振り向きざまに神威で弓を具現化させ構える。

「おいおい殺す気か」

放たれる前に矢を掴み止める。と言ってもノアの手から矢は放しているから前ではなかったりする。

「か、カズキさんでしたか。脅かさないでほしいですわ」

カズキの顔を見て安心したのか、弓が光の粒となり消える。

振り返りながら声を頼りに敵の位置を判断し攻撃する。なかなかいいセンスをお持ちのようだ。

「こっちは脅されたけどな」

「そ、それは急に声をかけたからで」

「それはすまんすまん。だけど、何やってるんだ」

いつもならもう寝ている時間だとは思うんだけど、なぜか起きている。

「そ、それは……」

口をつぐませカズキから目をそらす。

ノアの顔は憂鬱の表情を浮かべている。何かあったのだろうか。

「……なにか悩みがあるのか」

そんな顔をするのだから聞いてしまう。仲間が悩んでいるんだから助けてやりたいと思うのが仲間だろ?

「……いえ、なんでもありませんわ」

「なんでもないはないだろ、愚痴くらい聞けるよ」

「大丈夫ですわ」

しつこく言ってみるが、こうも頑なに拒否するとはな。

「……はっ、まさか俺の愚痴!?」

考えられるのはそれしかない。そりゃ本人の前で愚痴を言えるわけがない、もし言えば愚痴ではなく説教か文句になるだろう。

「違いますわ」

間髪いれず否定したので変な不安はすぐに消える。

よく考えれば、ものごとをズバッとハッキリいう性格をしている気がするノアさんがそんな陰気臭い事をするわけがないはずだと思う。

「じゃあどうしてそんな顔してるんだ」

「……」

「ほら、悩み事は溜め込むより出した方がいいよ」

優しく問いただすも黙り込んでいる。

あまり触れない方がいいのかな。とは思うが、ほっとけないという気持ちが強く出てしまう。

「……しゃーない、じゃあ一つ俺の身の上話に近い愚痴をしよう」

「結構ですわ」

「あらそう、じゃあ勝手に話すわ」

ノアの隣にすわり口を開く。

「俺ってよ親が居ないんだよな」

笑いながら話す話題としては結構重たい内容が出てきた。

「え?」

「母さんは俺を産んですぐに死んで。父さんは戦死したらしい」

あくまで聞いた話だからよくわからないが、この世にいないことは確かだ。

「そ、そうなんですか」

それを聞いたノアは驚きを隠しながらも心配した顔になる。

「俺は産まれたばかりだから分からないけどな」

「……悲しくないのですか?会ってみたいとか、思わなかったのですか?」

「そりゃまあ思った事はあるけど、死んじまったもんは仕方ないはしな。あと忙しすぎてそんな余裕なかった」

幼少期から忙しかったからな、本当に親の事なんて考えもしていなかった。

まぁ俺が狂っているからかもしれないがな。

「でもな、たまに思うんだよ。命を落としてまで父さんは世界を守る必要があったのか。もし俺が産まれてこなければ母さんは死なずにすんだんじゃないかってよ」

「よくわかりませんけどお父さんとお母さんのおかげで今カズキさんは生きているのですから、そんな事言ってはいけませんわ」

「分かってるよ、だから俺も今初めて口にした。おかげで少し気が楽になったよ、ありがとう」

「いいのですわ。これくらい」

「んじゃ、俺は行くから遅くならないうちに寝なよ」

そういうとカズキは立ち上がりリビングから出ようとする。

ここにいても修行できないしな。

「待ってください。自分だけ愚痴を言うのはズルいですわ」

「そりゃ勝手に話したからな」

勝手に話して、さぁあなたも話してはおかしいからな。ここで切り上げるのは変なことではない。

まぁ、話すような雰囲気に仕組んだのは間違いないのだが。

「話したいのなら聞くよ」

だから、素直に聞く。

ノアは一呼吸おくと悲しい表情になりながら話しだす。

「わたくしには妹がいますの」

なるほど、姉妹の件についてか。喧嘩でもしたのかな?

「実は八年前から行方不明で」

「行方不明!?」

カズキは思わず声を上げてしまう。

八年前に行方不明となると生存しいる可能性が絶望的だ。

「何があったんだ。遭難とか」

「違いますわ。私達が、私がいけないのですわ」

その妹、ミュア・アルバートンは心が読めるという能力を持つ故に周りから忌み嫌われ、家を出たというのだ。それも冬と言う過酷な時期に。

「まだ生きているかわかりまん。ですが、私は剣舞祭に優勝してミュアに会いたいのです」

「レオンもノアさんも家族思いのいいやつらばかりだな、感動した」

瞳をうるうるさせながらノアの肩を叩く。

「そうでもありませんわ。もしかしたらあの時、私達家族もミュアに対して悪い気持ちを持っていたかもしれません」

ミュアが行方不明になってから、常にそう考えてしまうようになった。

あの時も、あの時もと思い出す度に罪の意識が自分を締め付ける。

「もしそうだったら、わたくし……」

「今も妹の事を大切に思っているんだ。そんなことは絶対にない」

「カズキさん」

「絶対に優勝しような」

「当たり前ですわ」

泣き崩れそうな表情からいつもの表情へと変えるノア。

みんなそれぞれの願いがあるんだな。と改めて思ったカズキ。

その後、元気を取り戻したノアは律儀にもお礼の言葉を言ってから寝室へと向かった。

カズキは当然、修行へと向かう。今日はいつになく気合いをいれてだ。

 

 

 

つづく



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圧倒の二回戦

試合会場 

ビーッと合図が鳴り、いつも通り試合が始まる。

そう、いつも通り

しかしその日はいつもと少し違った。

ズシィン、ズシィンと重たい足音が、ガシャンガシャンと金属と金属が擦れる音が静まる試合場にこだます。

カズキ達の目に映ったのは両肩に付けられた巨砲をはじめとする武装と城壁のような装甲に包まれた巨人、いやロボットとでも言うべきか。なにより恐るべきはその大きさだ。十五メートルか、それ以上か。

『気を付ける相手は三年Aクラス、ハート・バリフォード。属性能力は要塞兵器(デュールウェポン)、まぁ歩く要塞ですわ』

試合前にノアがそんな事を言ってた事を思い出す。

「要塞……ねぇ」

最初は何を言っていたかサッパリわからなかったが、見てすぐに理解した。確かに要塞だと。

そして、今大会の優勝候補と言われる理由も。

「これを相手にするのか」

見上げるほどの巨体、体のいたるところに砲台が設置されている。

たった六人だけで手に負えるような相手ではない。

「勝てるのか、これに」

さすがのジェルマンやレオンもその姿に息を飲む。

「こんなの、聞いてませんよ」

一回戦では使用しておらず、いきなりこの巨体を見せつけられるのだ、臆するのは無理はない。

だがなぜか二回戦で、ましてや一年相手に使用してきたのはひっかかるが、向こうも全力で相手してくれているのにかわりない。

「勝てる勝てないではありません。やるしかないのですわ」

「まっ、そうだよな。いいこと言うなノアさん」

弓を構えるノアの隣に立ち、ハートを睨む。

「あれれ?もしかしてビビってるの?かーわいー」

その横でリュークが他を煽っている。

「べ、別にビビってねぇよ!」

「あぁ、デカさに驚いただけだ」

「あわわわ」

「行くぞオラァ」

「ゴナゴナにしてやる」

そのおかげか、男二人はやる気にはなった。が、ルリーはまだ恐れている。

「おい、来るぞ!」

巨大な指先から砲弾が雨のように降ってくる。

「グラン・ギア」

レオンはとっさに地面が盛り上がらせそれらを防ぐ。

岩が崩れ落ち、砂煙と砲煙で視界が悪くなる。その隙に各自散らばる。

「オラァ!」

足にバーストショックを叩き込むも傷ひとつつかない。

ハートはおもむろに足元を蹴る。

地面は抉れ、爆風でリングに立つ者達は吹き飛ぶ。

アストラルエーテのおかげで観客に被害がないのが幸いといったところか。

「滅茶苦茶ですわ」

「ですが、いい的です」

ルリーはファイヤーボールを唱え、連続で放つ。

その巨体ゆえに当てやすく全弾命中する。

しかし、効いてるようには全く見えない。

「生半可な攻撃では倒せないようですね」

「あの装甲をなんとかしないとダメですわね」

砲弾をかわしながら攻撃しているレオンとジェルマンだが、効いてるようには見えない。

「ちっ、鬱陶しい」

「なんか作戦は無いのか」

単体の攻撃では倒せないと判断し、ノアとルリーがいる場所まで一度退くレオンとジェルマン。

「無難に一点集中同時攻撃だろ」

「それじゃ、相手がすぐに対処してきますわ」

「じゃあどうするんだ」

「ノアの弓攻撃で凍った箇所を攻撃するのはどう?」

リュークが提案する。

それは凍ったものほど脆くなる。という法則を使ったよくある戦法だ。

「ひとまずそれだな」

「いけるか、ノア」

「当然ですわ」

「私達がノアを援護するから構わず射ってね」

「よし、とりあえずやるだ」

作戦が決まりすぐに行動に移す。

その頃ハートはカズキに対して終着な攻撃をしている。

「けっ、俺達には眼中に無いみたいだな」

「あの爆風の中で平然としていたからな、気にくわないんだろ?」

理由はわからないが、意識はカズキに集中しているからやりやすい。

「氷刃の雨(フリーレイン)」

その隙にノアは氷の矢弾を放つ。

被矢した箇所が凍り付く。すかさずジェルマンとレオンが攻撃にはいる。

「バーストショック」

「アダマンフィスト」

氷が砕け多少だが亀裂が入る。作戦通りだが、果たして効いてるのかがわからない。

「効いてるのかよ」

「とにかくやるしかないだろ」

効いてるか分からないが、ひたすら攻撃する二人。

ノアは体の至るところに設置された砲台にも矢を放っており、見事に凍りつき撃てなくなっていた。

砲撃が少なくなりノアを援護する必要も無くなったルリーはアイスエッジで攻撃してくる。

「オラオラァとっとと壊れろや」

相手が巨体で圧倒するなら、こっちは数(チーム)で圧倒する。

一方的に攻撃を受けているハートは、カズキからジェルマン達に標的を変える。

「やっとこっちに目を向けたな」

「きっと効いてる証拠ですわ」

「なら続けるまでだ」

勢いに乗り攻撃をしかける。だが、突然ハートの姿が消える。

「なっ!?」

突然の事で一瞬何が起きたかわからなかった。

だが、上から何かの破片が落ちてきたので見上げると、天井に巨大な穴が空いていた。そしてその先にハートが飛び上がっていた。

「あの巨体でこの俊敏な動きだと」

「ま、まさか!?」

「グラン・ギア」

咄嗟に地面を浮き上がらせ落ちてくるハートを受け止めるも、時間稼ぎにもならないくらい脆く崩れていく。

そして、試合場に着地する。

ドオオォォン

轟たる地鳴り、繰り出される風圧は会場を一掃した。

だがここはアストラルエーテの中、異なる世界。どんな事が起きても、元の世界に影響はでない。

静まる観客、変わり果てた試合場にはハートだけがいる。

「おい、リューク。お前今の」

「あら、見えちゃった?」

わけではなく、カズキとリュークが立っていた。それだけではない、リュークの足元にジェルマンやレオン、ノア、ルリーが倒れている。

「うう、一体、なにが起きたの」

「……助かったのか」

「なんでまだ試合が続いてますの」 

気絶した訳ではないが、体にダメージがあるようでヨロヨロと立ち上がる。

「あら、速いお目覚めね」

「ててて……おいこらリューク、お前何した」

「守っただけだよ。まぁ多少はダメージを残したけどね」

「あ?守った?ダメージ残した?どっちなんだテメェ」

「あちゃー、お前ら満身創痍か。これじゃ戦えないな」

ボロボロのジェルマンを見て笑いながら言うカズキ。

「まだ戦えるわボケェ」

「本来なら消しとんでたのによく言うわ」

「お前も守るならしっかりやれよな」

「やーよ、みんなのためにならないじゃない」

「はっ、テメェにゃ敵わん」

「お喋りする暇があったら、アレをどうするのか考えてくださいよ」

試合場中央に聳え立つハートを指さす。

動くことなくこちらをただみつめている。

その姿には戦意か見られず、準備が整うまで待ってくれているようにも見える。

「俺達は試合場にいる。まだチャンスはある」

それぞれ立ち上がり、ハートを前にして構える。

「そうはいってもメイン選手(お前ら)がこれじゃ仕方ない。ちと気が進まないが目立つとするが」

「おっ?出すの本気出すの」

「ちょっとだけ見せてちゃおうかなー」

「まさか、一人でやるつもりですか」

「おい、いくらお前でも無理だ」

一人歩くカズキの肩を掴むジェルマン。

「しょうがないだろ、お前らより格上が出てきたんだからよ。それに、昨日お前ら俺に言ってたろ?本気でやれってさ」

笑いなが手を払い、ハートの前に立つ。

ハートはカズキを睨むと、大きく上げた腕を振り落とす。

迫り来る巨拳。だがそれはカズキの目の前で止まった。

否、片腕でなんなく受け止めた。

あり得ない事態にざわつく会場。

力を込め巨拳を押し返すと、ハートは地面に二本の線をつくりながら客席に激突する。

「さぁ全力でかかってきな、ダメにしてやんよ」 

カズキの手招きに応じるようにゆっくりと立ち上がりファイティングポーズをとる。

武装もほとんど凍り付き、接近戦しか出来ないハートに対してカズキも正面から挑む気だ。

先に動いたのはハートだ。地面を抉りながらカズキめがけ蹴る。

破片が飛び散る中、カズキがハートよりも高く飛び上がる。

それに対して先程とは違い動作が速いパンチを繰り出してきた。

当たるギリギリでかわすと同時に腕に足をつけ走り出る。

「どおいしょお!」

そして顔面に飛び蹴りを叩き込む。しかし、今度は踏みとどまりカズキを叩き落とす。

体を回転させ両足で着地するも、真上から巨大な足が降ってくる。

ドォン

直撃。さらに追い討ちをかけるように更に踏みつける。

地面が揺れるようなストンピングの雨、誰もが勝負はついたと思っていたが、ハートはやめずに攻撃を続けている。

足を振り上げた時、カズキは凄まじい速さでハートの腹部めがけ飛び上がり拳を叩き込む。

片足の状態だったせいでバランスが取れず後ろへ揺らぐ。

傾いた隙にハートの巨体を走り、額までいくと拳を打ち付ける。

それが決定打となり、ハートはバランスを崩し後ろへ倒れる。

「うおおおお」

すぐさまハートの指先を掴むとカズキは自身の体を回転させながら振り回す。

「オラァァ!」

客席目掛け豪快に投げる。当然平行感覚を失い受け身を取る暇もなく全身を打ち付けた。

「ここじゃ狭いよな。もっと広い所へ案内してやるよ」

客席に崩れたハートに対して連続で攻撃を与える。

打たれる度に装甲に亀裂が入り、全身に凄まじい衝撃が走る。

そしてとうとう背にしている壁を壊し、試合会場を貫き外へと出る。

「どうだ?ここならもっと巨大になれるぜ」

体を動かし仰向けになり両手を使いなんとか立ち上がる。

額には亀裂が入り、腹部には巨大な凹凸ができている。

もはや戦える姿ではない。だが、ハートは大きく息を吸い込み両手を広げ力を込め始める。

するとあら不思議、みるみる体が巨大化するではないか。しかも仕様不可能だった武装やボロボロだった装甲がみるみる治る。

「あんれま、本当に大きくなるとはな。しかも修復まで」

さっきの倍ほどになったハートを見上げる。

今日の天気は曇りだから顔まで見易いぜ。

ハートは後ろへジャンプしカズキとの距離を取る。

全ての砲台、機関銃その他兵器をカズキに向けると問答無用にと一斉射撃してくる。

砲弾に弾丸と大小様々な弾が飛んでくるが、カズキは刀を抜くと、それら全てを残す事なく斬り落とす。

斬り落とすカズキも凄いが、全弾カズキを狙っているその精度にも驚きだ。

などと感心していると、両肩に設置された巨砲から発射される。

カズキは飛び上がり、巨大砲弾を斬る。

それと同時にハートが一気に距離を詰めてきた。

家ひとつ簡単に潰せそうな拳を前にカズキは軌道を変える事なく突っ込む。

「オラァ」

ドゴォッ

拳と拳が重なり合う。

カズキの拳はハートの拳に亀裂を入れ、原型をとどめる事なく崩れ落ちる。

亀裂は腕へ肩へと猛スピードで走る。

カズキは落ちる破片を足場にかけ登り、刀を振るい亀裂が胴体に達する前に腕を斬り捨てる。

続けて斬りにかかろうとするが、ハートは体勢を崩しながらも片腕を振るいカズキを叩き落とす。

勢いのまま試合会場に激突する。

地面に触れる瞬間、両手で自身を横へ流し両足を地面に付け減速する。

あのまま地面に激突しても良かったのだが、仲間がいるから最小限の被害で着地したのだ。

「ちぃっ、首ぃ斬りそこねた」

首を斬る事に執着して攻撃を受けてしまったが、これも良しとしよう。

「上等だ、圧倒的威力で跡形もなく消し飛ばしてやる」

予定変更、宣言通りダメにしてやる。

カズキは試合場の外に出ると、ハートはこちらに向かって走って来ている。

このまま会場ごと蹴散らそうとする勢いだ。

そうはさせない。

カズキの力強い踏み込みが大地を揺らす。

「ウオオオォォォッ」

ハートは雄叫びをあげながら、その速さを殺す事なく低空の飛び蹴りへと形を変える。

「破ッ!!」

極限まで引き絞った拳を一気に放つ。

瞬間、大気が張り裂けるような轟音が辺りを襲った。

「ちと力み過ぎたかなぁ」

突きだした拳を下ろし、変わり果てた地形を見て不気味に微笑む。

たった一発だ、たった一発から放たれた衝撃波は大気を揺るがし、ハートの巨体を、山を、雲を消し去った。

 

 

 

 

 

 

 

つづく



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仲間からの不信感

空一面を覆っていた雲が全て吹き飛び気候が晴天となり

授業や修行の場として使っていた裏山は跡形もなく消え、大地が抉れている。

実に清々しい天気だ、こんな日は昼寝がしたいね。

「終わった終わった」

試合会場は誰もいないかのようにシンと静かだった。

それでも視線はカズキの方へ向けられており、不気味な感じだ。

だが、ほとんどの生徒が顔色が青くなっているのを見てすぐに理解した。

カズキに対して恐怖している事を。

そしてカズキは悟った。やり過ぎたと。

まぁ過ぎた事はしゃーないと気持ちを切り替え試合場で待っている仲間の元へ向かう。

「およ?生き残りがいるのか」

その中で、知らない五人の生徒が体の震えを抑えながらこちらを見ている事に気づく。

そういえばあのでかいのを一人倒したけど他の五人がいるなと気づく。

巨大化する時にこっそり体から出いった奴らと同じだから、すぐさま敵と断定する。

「さくっと終わらしてる」

指を鳴らしながら近づくが、相手は神威武装を展開するどころか動こうともしない。

完全に戦意喪失している。とは分かっているが倒さなければ俺達の勝ちにはならない。

戦意が無い者に攻撃するのは気が進まないが、降伏した訳ではない。戦う者としてきっちりとどめをさしてやる。

「おい待て」

「あ?」

後ろを振り向くと剣が目の前まで来ていたので咄嗟に掴む。

「不意打ちたぁらしくないじゃないですか、レイカ先生」

剣を振り下ろしたレイカ先生に言う。

「状況が状況だからな」

普段の表情をしているが、声から焦りのようなものを感じる。

「……そんなに悪いのか?」

その声が珍しかったので思わず聞いてしまう。

「当たり前だ。お前が何をしたかわかっているのか」

「何をしたって、ねぇ」

そんな大それた事はしてない気がするが、やったといえば

「山を壊したぐらい……かな?」

「それが原因だろ!」

「しょうがないじゃないですか、こんなん使ったの四、五年ぶりなんだから力加減間違えたの」

「力加減を間違えただぁ?」

「だいたいこの程度でギャーギャー騒ぐなよな。恥ずかしい」

剣を掴んでいた手を離す。

こちらが戦う意志がないと判断したのか、レイカ先生が剣を振ってくる事はなかった。

「それで、用件はなんすか?」

試合中にも関わらず割り込んできたんだ。何か凄い事が起きたのだろう。

「アストラルエーテが消えた。続行は不可能とし試合は中止だ」

「はぁ!?中止!?」

本来アストラルエーテは試合場だけにしか発動させてなかったが、カズキが会場を壊したことにより緊急用として学園全体にアストラルエーテを発動させたがあの衝撃によって消えてしまったのだ。

その事をカズキに伝えると

「あれ、じゃあ山とかあの穴とか直らないのか?」

「アストラルエーテが消えたのはついさっきだ」

なるほど、そういや天井や壁にできた穴が無くなっているのはそのせいなのか。

「私はお前が死人を出さないよう止めただけだ」

確かに気づかなかったらあの五人を躊躇う事なく殺した。

それなら止めてくれた事に感謝しないといけない。

「それなら良か。止めてくれてありがとうな」

「礼ならいい。あと試合の勝敗なんだが」

「再戦か?望むところよ」

「いや」

「また今日みたいに、アストラエーテごと消し飛ばしてやるよ」

「相手の意見を聞いて決めるから今日の試合はこれで終わりだ」

「了解した」

「あと、アストラルエーテがしばらく使えなくなったから試合会場が変わる」

「どうでもいい」

「わけないだろ、壊しやがって。反省しろ!」

怒鳴りながらカズキの側頭部を両側から拳の先端を挟み込み固定し、そのままネジ込む。

これが滅茶苦茶痛い。

「いででで、簡単に壊れるもん使う方が悪いだろ」

「まだ言うか」

更に力を強める。この頭が圧迫されるような穴を開けられるような激痛に悲鳴を上げる。

「わーたわーった、全然全くと言っていいほど腑に落ちないけど仕方ないから反省してやる」

「それが反省している態度か」

「いーでででで、やめろ暴力教師」

「暴力ではない、教育だ」

その場でしばらく説教を受けたカズキ、他の生徒達はというと他の教師達の指示に従い別の試合会場へと移動しているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそが、なんで俺が怒られないといけないんだ」

説教から解放され学園をさ迷い歩いているカズキ。

別の試合会場に行けと言われてもどこか知らないし、寮にでも戻ろうかな。

「あら御立腹だねーカズキ」

カズキが怒っているのになんか煽るように言ってくるリューク。

「やかましい」

こいつのせいで更に腹が立つ。というか、いつの間に隣にきやがった。と聞きたいがいつもの事なので触れないでおこう。

「そうそう、他のみんなは医務室にいるよ」

「なんだ、怪我したのか?」

「誰かがやらかしたからね、選手は異常がないか検査してるの」

「ほへー、お前は検査したのか」

「するわけないじゃん、あの程度で」

「さすがと誉めてやろう」

「上から目線だからいらない」

「さすがリューク様、すばらしいです」

「下から目線は嫌い」

「さすがリューク、やるー!」

「同じ目線、いい気分じゃない」

「さすがリュークさん、すごいですね」

「なんか気に入らない」

「なら何がいいんだよ!」

「いらない」

つまり、誉めるなということか。

「なるほどね、最初からそういえ」

「察してよ」

「察せれるか」

「で、どこ行くの」

「仕方ないから見舞いに行ってやんのさ」

「検査なのに見舞い?頭おかしいんじゃないの」

「うっせ」

行く場もないので医務室?医療室?に向かう。

「やっほー、みんな元気してる」

てことで、医療室に着くと中に入る。

中ではノアとルリーがベッドで横になっており、楽しく会話している。

「あ。か、カズキさん」

カズキに気づくと、会話を止め何か暗い雰囲気になる。

「どうした?暗い雰囲気なんか出して」

「いえ、別になんでもありませんわ」

「そうか、ならいいが」

いつもとは明らかに対応が違う。表情や口調が硬くなっている、あきらかに恐怖しているのかよくわかる。

「ジェルマンとレオンはどこにいった?」

「二人ならカズキさんを探しにさっき出ていきましたよ」

「こっちから出向いたのに余計なことを」

「あ、あの。カズキさん」

ルリーが恐る恐る口を開く。

「どうした?」

「カズキさんはどうして強いのに力を隠していたのですか」

「昨日言わなかったか?俺とお前達の為だって」

「私達の為?」

「俺が全力で戦えばこの大会を勝ち上がるのも剣舞祭優勝も容易い。だがお前らはそれでいいのか?」

「どういうことですの」

「俺一人の力に頼り優勝してお前らが得るものは個人の願いだけだ」

特に、最強の称号を欲してるジェルマンにとっては最大の屈辱になるだろう。

「この大会で力をつけ、皆で剣舞祭を優勝しなければ俺もお前達も意味がない」

「じゃあ、なんで力を出したのですか」

「レオンの妹の件があるから負けられなかった」

レオンは妹を助ける為に優勝を目指している。その気持ちは誰よりも強かった。

チームに入る時も優勝すると約束したから負ける(約束を破る)訳にはいかない。

もちろん、ノアさんの事もあるが、二人だけの約束なのでここでは言わない。

「じゃあレオンさんの事がなかったら」

「わざと負けてたかもしれない」

「そんな失礼な事って」

「失礼は承知だ。だが、相手の気持ちに構ってやるほど俺はお人好しじゃない」

ルリーの言いたいことはわかる。だが、こっちにも事情ってもんがある。

「約束を守る時点でお人好しだよ」

隣でリュークが言ってくる。

「約束を守るのは常識だっての」

「ほへー、カズキに常識なんてあったのか」

この野郎、それが言いたかったから聞いてきたのか。ってぐらいバカにした言い方をしてくる。

つーか、ほへーってなんだよ腹立たしい!

「テメェぶっ飛ばっそ」

「ぶっ飛ばっそだって、かんでやんの」

「だまらっしゃい」

「向こうでハートさんが寝てますの、静かにしてください」

「そーだそーだ」

思わず大声を上げてしまいノアに怒られる。ついでにリュークが煽る煽る。

「す、すまない」

「それで、カズキさんは何しにここへ」

「あぁ、見舞いだな」

「検査なのにお見舞いはおかしくありませんか」

「ベッドで横になってるからいいの」

「これは、その」

「少し疲れちゃいましたので、休んでいるのです」

なるほど、神威や魔力は使うと疲れるらしいから休むのは当たり前か。

ちなみに休む事で神威や魔力は回復する。個人や消費量によって変わるが、だいたい一晩眠れば元通りになるそうだ。

「そうか、じゃあしっかり休んで明日に備えるんだぞ」

「わかってますわ」

休養の邪魔をしてはいけないのですぐに退室する。

「元気そうだね」

「そうだな」

最初は暗かった雰囲気だが、徐々にいつも通りに接してくれた。

まぁ、リュークがいつも通りにしてくれたんだけどな。

「……なんか、ありがとうな」

「気にしない気にしない」

「本音は」

「気にしろバーカ」

「うっわっ、すんごい手のひら返し」

「隠すならちゃんと隠さないとダメだよ」

「……どっちにしろ今回は隠す訳にはいかなかったんだ」

「訳は聞かないよ」

「お厳しい事で」

今回の件を反省しながらカズキとリュークは別の試合会場へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

んでもってなんだかんだ今日の試合が全て終わる。

ちなみに、代わりの試合会場はカズキとジェルマンが戦った石造りの闘技場、コロシアムだ。

あそこにもアストラルエーテが使えるならあの時も使って欲しかったし、なぜ使わなかった。

そんな過ぎた事でわりとどうでもいい事は捨てておいて、今夜もやってる屋台を見に回る。

「賑わってるな」

リュークと歩いていると、周りの生徒がこっちを見てきたり、避けたりしてくる。

「なんか見られてんな」

「気のせいじゃない」

「見つけたぞカズキ」

後ろから聞き覚えのある声で名前を呼ばれる。

この罵声のような感じはジェルマンだな。

振り向くとジェルマンが血相を変えて走ってくる。

「探したぞカズキ、どこにいってた」

カズキの胸ぐらを掴みながら聞いてくる。

「どこって、試合を見てた?」

「居なかっただろうが」

「そんなことないだろ、よく探せ」

とは言うが、俺達の試合が最後の方だったりするので見に行った時はほとんど終わっていたので居た時間は少ない。

「まぁいい、テメェ俺と戦え」

「剣舞祭が終わって俺が居たらな」

「今すぐだ」

「焦るなって、明日も試合があるんだろ?」

「俺一人居なくても、テメェがいりゃ勝てるだろ」

「なんだ、負ける前提で話してるのか?」

「なわけあるか、俺が負ける訳ないだろ」

「ならいいが、試合があるからダメだ」

「んなのどうでもいい」

「どうでもいいって、最強の称号を得る為の試合なんだろ?」

ジェルマンにとっては全てが負けられない大事な試合だ。

それなのになんてことを言うんだ。

「手加減されて負かされた相手と一緒に戦えるか」

「誤解すんな。俺はいつも本気だ、手加減をするが手を抜かない。ただ全力じゃないだけだ」

「それが気にくわないってんだろ!」

「……お前、焦ってるな」

「なに!?」

「自分じゃ到底敵わない力をみて、焦ってるだろ。世界がこんなに広い訳がないと、遠い訳がないとよ」

「なんだと。そんな事思うわけないだろ」

「別にやってもかまわんが、今日の一撃受け止められるのか?」

「………」

山を吹き飛ばす威力、そんなもの受けて無事でいられる訳がない。 

その問に答えられず黙り込んでしまう。

「勝てない強者に立ち向かう前に己を鍛えろ、まずは自分を知る事からだ」

沈黙するジェルマンの肩を叩きながら諭すように言う

「とか偉そうな事を言っちゃって、カズキもまだまだなくせに」

「そうだよな、俺もまだまだ弱いから人に物言う前にもっと鍛えないとな……って半人前をバラすような事言わせるな」

この野郎、結構良いこと言ってる時にふざけやがって。

「ふざけるなよな!俺は本気なんだぞ」

リュークのふざけた態度に更に激昂するジェルマン。

そうだもっと言ってやれジェルマン。

「ふざけてないよ。私から見ればカズキはまだ半人前だよ」

「あらやだ厳しい評価、もっと頑張らないとな」

その辺は本当の事なので怒ることはない。むしろ反省点だ。

「お前もこいつと同じで手加減しているのか?」

「ノーコメント、でも強者が手加減しない組手はただの蹂躙だよ」

「て、テメェ……上等だ!ぶっ殺してやる」

バトル・トンファーを取り出し、二人に向ける。

「やめろジェルマン」

後ろから止めにはいるレオン。

「レオン止めるな!」

振り向くと両手には沢山の食べ物を抱え、屋台を堪能しているレオンの姿がいた。

「テメェこんな時に何楽しんでるんだ」

「そんな怒る事じゃないから別にいいだろ」

その様子だと、カズキが手加減していることは知っているようだが、ジェルマンと違って冷静に振る舞っている。

「それに、今の俺達では勝てないのは事実だ。受け入れろ」

「勝ち負けじゃねぇんだよ!手加減されてたのが腹立ってんだよ」

「手加減されてなかったら俺もお前も今ここに居ない」

実際、アストラルエーテなしで二人は戦っていたのでカズキが全力でやっていたら間違いなく死んでいた。だから、殺さない為に手加減をしたのだ。

「ッッッアアアア」

ジェルマンは怒りに身を任せるようにカズキにむかってバトル・トンファーを振るう。

「カーズーキー」

それと同時に、ジェルマンの横を通ってカズキめがけ飛び蹴りを放つ少女。今回戦った相手、ハートだ。

ハートはそのままカズキの顔面に蹴りを入れ、標的を失ったジェルマンは振るう手を止めた。

「ハート、医療室で寝てなくていのか?」

だが、カズキは微動だにせず普通に会話してくる。

「あの程度で寝込むほど柔な鍛え方してくれなかったじゃないですか隊長」

「隊長はやめぇ、俺は引退した身だ」

「またまた、現役じゃないですか」

「一般人なの、それ以上言わない」

「はい」

「で、何しにきた。俺に殺されに来たのか」

「そう言ってからさっそく一般人とは思えない発言する」

「そうか?ジェルマンは殺す殺す言ってるぞ」

「ドルツェルブはイカれてるからいいの」

「それは……異論無しだ」

「ほら、やっぱり今も昔もなーんにも変わってないじゃないですか」

「それは訳あり」

「カズキ、知り合いなのか?」

レオンが聞いてくる。これだけ親しく話してればわかると思うが一応聞いてきたのだろう。

「色々あって知り合いだったりする」

ルリーと同じくらい小柄な少女ハート・バリフォード、この先輩とは知り合いだったが、気づいたのは試合の途中からだったりする。

「色々なんてないじゃないですか」

「やかまし、黙ってろ」

「でも、意外です。カズキさんが剣舞祭に出場するなんて」

「ちと用事があってな、お前こそ俗物は嫌ってたじゃねえか」

「もちろん、カズキさんが出るから出場しただけですよ」

「回りくどいな、正々堂々挑めよ」

「驚かせたかったんですけど、そうするべきでしたね」

ハートはジェルマンとレオンの方を向くと優しく微笑む。

「みなさんも強かったですよ。さすがカズキさんの元にいるだけでありますよ」

「俺は関係ないだろ」

「特にあの弓使いの人、えっと、ノアさんには驚きましたよ。まさか砲台だけじゃなくて弾まで打ち落とすなんて思ってませんでしたよ」

「俺がいなくても負けてたか?」

「それはないですね」

「ほんとかよ、こんなバケモノがいるのにか?」

隣にいるリュークを指差す。こいつはバケモノとは呼んではいけないがバケモノだ

「バケモノ?まぁ確かに爆風を消したのは凄いですけど」

「わかってねぇなー、超大物だぜ」

「それ以上言ったら殺すわよ」

「おー怖、怖いから俺黙る」

結構洒落にならないからすぐに黙る。

「それで、ハートさんは何しに来たのですか?」

黙ったカズキに納得したのかすぐに話をもどすリューク。

「え?あぁ、久々にカズキさんに会ったから挨拶しようかなと思いまして。二度と会えるとは思ってませんでしたから、まさか学園で会えるとは予想外ですよ」

「人生そんなもんだ」

なにがあるかわからないから面白い、それが人生の醍醐味よ。

その後、軽く会話をした後ハートと分かれる。

「さて。で、やるのか?ジェルマン」

「けっ、興醒めだ。今回は勘弁してやる」

ハートと仲良く会話していたカズキを見て、高ぶっていた感情が冷めたジェルマンはレオンの隣で焼きそばを食べている。

「そうか、なら良か」

「ノアとルリーはどこにいるの?」

リュークが聞く。確か医療室で休んでいたけど今はどこにいるんだろう。

「あいつらなら寮だ寮、疲れたから寝てるんだろ?」

「俺達も試合があるから帰るぞ」

「はっ、くそつまんねぇ試合がな」

「そうふてくされるな」

「嫌なら俺はでないぞ」

「その方がいいかもな」

「おい、仲間割れするな」

「冗談だってばレオン、俺達仲良しだよなジェルマン」

仲悪くなっているジェルマンの肩を組んで笑うカズキ。

「いや、無理はするな」

「だってよジェルマン」

「……やっぱ今殺す!!」

肩を組むカズキの手を掴み投げ飛ばすとバトン・トンファーを取り出し振り回す。

「おっ?やんのか?降参するぞ!」

そういうと速攻で逃げ出すカズキ。

「あっ、テメェ待てこら!」

「やーだよー!」

「元気ね」

「頼むから明日の支障にきたさないでくれよ」

レオンの不安を他所においかけっこをしているカズキとジェルマンであった。

 

 

 

つづく



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脱線の三回戦

二回戦目に戦ったハート達は負けを認め、無事?三回戦へと進んだカズキ達Fクラス。

続いて戦うのは通算三度目の勝負となるルイス率いるAクラスだ。

「またAクラスか」

なんでもルイスが今までよりも遥かに強くなっており、三年生でも相手にならないほどに急成長し、他のメンバーもその勢いに乗り勝ち進んでいるようだ。

「俺はまだ一回も戦ってないから構わん」

一回目はあやふやで二回目はジェルマンが全て戦ったので他の人は実質初対決となる。

「俺にルイスとやらさせろ。いいだろカズキ」

「俺は構わない」

自ら進んで猛者と戦いにいく血気盛んなジェルマン、カズキはルイスに対して興味はほとんどないのであっさりと譲る。

「一対一ではないのですわ。いつも通りのフォーメーションでいきますわ」

今回の試合場は石造りのコロシアムだ。身を隠す所がない真っ向勝負を強いられる。

だからこそ、チームの連携が大切となる。悔しいが連携とならばルイス達の方が上である。

「うるせぇ、横やりするな」

ほらな、さっそく言い合っている。

「カズキ、今度はどうするの?」

ニヤニヤしながらカズキに聞くリューク。こいつは今までの勝負を全てを知っている厄介なやつだ。

「しらん、ジェルマンがやるって言ってるんだ。よっぽとがなけりゃ俺は関わらん」

「なーんだ、つまんないの」

「お前こそどうするんだ?」

「いつも通りよ」

いつも通り。参戦しているのかしてないのか曖昧なやつだな。

「昨日のカズキを見て相手はやる気あるのでしょうか?」

ここでルリーが聞いてくる。

昨日、山を消し飛ばしたカズキ。その強さを見てしまったから少なからず相手にプレッシャーを与えてはいるはずだ。

「あの面々はそんな柔な人達じゃありませんわ」

「あぁ、特にルイスはな」

だが、すぐに否定するノアとジェルマン。それはAクラスの人達と関わりが深いから言える事であり、なんだかんだ認めはいる証拠だ。

「そ、そうですか」

「そろそろ時間になる、会話をやめていくぞ」

時計を見て立ち上がるカズキ。

興味なさそうだが、結局興味があったりするカズキ。

はやく戦いたくてしょうがない。

カズキの言葉を聞いて皆は立ち上がり試合場へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

カズキが入ってきたとたん、皆の視線がかわる。

今回は何をするのかと期待と恐怖が混ざったものだ。

「けっ、カズキに注目か」

「くだらん事考えてないで試合に集中しな」

「うるせぇよ」

すでにリングにはルイス達が待っている。

「正々堂々勝負しよう」

互いに正面に立つとルイスがカズキに向けて握手の手を差し出す。

「やだね。俺はほどよくやるよ」

皆が握る中、カズキだけが両手を真上に上げ拒否する。

「珍しいな、お前が欠礼するなんて」

「今回だけ特別にね」

だが、見ていた生徒達からブーイングの嵐が響く。

「反感買ったな」

「興味ない」

ルイス達と離れると試合開始のブザーがなる。

瞬間、巨大な雷の刃が飛んでくる。

「いきなりか!?」

ルイスらしくない先手に一瞬戸惑ってしまう。

だが、皆はそれぞれ左右によけかわす。

「なるほど、これで分裂ってわけか」

避けることなく平然と受け止めたカズキは戦況を冷静に分析する。左にレオンとルリー。右にノアとジェルマン。リュークはしらん。左に二人、右にルイス、俺には三人とか。うまく分裂されられたな。

「か、カズキ、お前をここで倒す」

「……手が震えてるぞ」

剣を握る手は震え、逃げ腰の体勢をとっている。

怖いんだろうな、それでも戦うその意気は素晴らしい。是非とも全力を持って潰してさしあげたい。

が、そういう訳にはいかないので結局いつも通り戦ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ、このスピードは!?」

その頃ルイスと戦っているジェルマンとノアは、その急激な強さに驚いている。

雷の如く激しい攻撃にジェルマンは防戦一方を強いられ、ノアは援護射撃しようにも稲妻の如く速いスピードに狙いが定まらない。

「この、くそがああああ」

バトン・トンファーを地面に叩きつけ爆発させ煙幕をつくる。

しかし、ルイスは丸見えといわんばかりに的確に狙ってくる。

ジェルマンの肩に槍を刺し電流を流す。

「ぐぬあああ」

倒れると痺れてるからかその場からピクリとも動かない。

「ジェルマン、あっ!?」

気がつくとノアの目の前にルイスがいる。

(速い、速すぎますわ)

「悪いが、終わるまで横になってろ」

弓を構えるまえに電流を流されジェルマン同様倒れる。

「あと二人」

すぐにルリーとレオンの所へと向かう。

「ぬっ!?」

ルイスの突きをレオンはギリギリでかわす。

「さすがの反応だ、一筋縄ではいかないか」

(なんだ今の速さは!?異常過ぎる)

獣の勘が告げる。こいつはヤバいと

「ここは私がやる。みんかはカズキの所へ」

「わかりました」

そういうと二人はカズキの所へ向かう。

「すまないが、すぐに終わらさせてもらう」

「そう上手くいくかな?」

両手にグラン・ギアを纏い構えるレオン。

「ぐっ」

速い突きを腕で受け止める。グラン・ギアをまとっていたから刺さることはなかったがそれでも痛みは通ってきた。

「はぁ」

反撃しようと拳を振るうが、すでにそこにはルイスがいない。

背後から感じる殺気に気付き、凪ぎ払いをなんとかかわす。

「背後攻撃とは随分立派な騎士道精神を持っているな」

言葉で精神を揺さぶってみる。礼儀を重んじ、堅物な性格をしているルイスにはこの手には弱いはずだ。

「今日だけは全てを捨てて勝利だけのために戦っている。今の私は皆がしっているルイスではない」

違った。今日のルイスは全てにおいていつもと違っていた。

「グラン・ギア!」

足元が一気に下がり、小さな穴の中に二人だけの状態になる。

「これなら速さの意味はない」

かなり深く、そう簡単には上にあがれない。

動きも制限され、逃げるという選択肢はなくなる。

「はぁ!」

ルイスの突きをかわし、槍先が岩壁に突き刺さる。

「荒爪」

振るう爪を横へよけかわすと、指が岩壁にめり込み亀裂が入る。

「なんという力だ」

こんなもを食らったならただではすまない。

掴まれば終わりと思った方がいい、倒すなら一撃ではないと勝ち目はない。

「おおお」

レオンの攻撃は大振りだが、避けれる範囲が限られてくる。

「ふん!」

避けた所に蹴りを入れてくる。

槍をつかって上手く防いだが、それでも受けたダメージは大きい。

かわした後も間髪いれず攻撃をしてくる、なんとかしてこちらのペースに変えなければならない。

槍を地面に突き刺し雷を流すも、岩壁を交互に蹴り上がり上へ逃げる。

そのまま踏みつけるように落下する。

「アクトライザー」

かわすと槍先をレオン向け雷を当てる。

「ぐわあ」

さすがのレオンも全身が焼けるような激痛に片膝をつく。

「とどめだ」

レオンに槍を向け刺そうとするが、両手両足にフック状の岩がひっかかる。

「なに!?」

そのまま岩壁に引き寄せられ、拘束される。

「姑息な手段を使ってすまないな、今度やる時は正々堂々とやろう」

ゆっくりと立ち上がり、ルイスに向けて拳を振り上げる。

もうダメかと思ったその時、キュエエェェェッと奇声を上げながら黄金の鳥がレオンに襲いかかる。

「なっ、なんだこいつは」

突然現れた生物に戸惑うレオン。

「レイ・ホーク」

レイ・ホークはルイスを拘束している岩を嘴で砕き救助する。

「精霊か、いや、違う、こいつは一体」

「いくぞ、レイ・ホーク」

「なっ!?」

ルイスの全身から雷を放つ。穴の中、逃げ場が一切ない。

「ぐわあああああ」

なんも出来ることなく直撃し、そのままダウンする

「よし、次はカズキだけだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい連携だ、だがまだ動きに錬成がない」

五人相手に難なく戦う、余裕がありすぎて反撃すらしていない。

「なめやがって」

「ちゃんと戦え!」

「どうしようかな、ちゃんと戦っていいレベルなのかな」

軽いステップを踏みながら、顎に手を当てて考える素振りをする。

「っこのおぉぉ!」

「じゃあ反撃するか」

振るう剣を掴むとニッコリ微笑む、そして

パアァン

破裂音と共に頭が吹き飛ぶ。瞬時に光の粒となり消えたが、恐怖を植え付けるには充分過ぎた。

「遊ばないでちゃんと戦うか、久方ぶりに」

瞬間、四人の生徒はその場に倒れうずくまる。

何が起きたか全くわからなかった。一瞬のうちにカズキは何かをしたのだ。

「どうした、手加減パンチだぞ。ダウンにはまだはやいぞ」

「カズキ、貴様ぁ」

そこへルイスが血相をかえてやってくる。

「お?ここに来たってことはジェルマンを倒したのか、さっすがー」

「ジェルマンとのノア、レオンはダウンさせた。あとはお前とルリーとリュークだけだ」

「ダウンて、ちゃんとトドメさしたのか?」

「刺していない、だがもう戦えないはずだ」

「あまちゃんだな、まぁいいや軽く潰してやるよ」

「カズキ、しっかり戦え!」

口笛でも吹きながら特に構えることなく立っているカズキに対して客席からヤジが飛ぶ。

「そう慌てなさるな、徐々にレベルを上げるから待ってろって」

「そんな舐めた戦い方をして、恥ずかしくないのか!」

「しょうがないだろ、同じ土俵じゃないんだから」

「そんなんだからダテを越えられないんだ!」

「うっ、厳しい所を……ってあれ、なぜダテ兄のことを」

声がする客席の方を向く。

知りもしないはずの情報を言ったのだ、どんなやつか気になる。

レイカ先生の隣で立っている青年が声を上げていた、多分そいつだ。

ん?なんか見覚えがある。

「あれ!?もしかしてシバの兄さん」

「兄上!?」

シバ・エミリミルス。ルイスの実の兄にして最後の家族だ。

「久しぶりだな、カズキ」

「お久しぶりですシバの兄さん、どうしてここに?もしかして留年っすか!?」

「バカ言え、ルイスとお前が戦うって言うからレイカに頼んで観戦に来たんだ」

「それは有難いことです」

「俺が見てるんだ、不甲斐ない試合をするな全力でやら」

「……それは、俺にここから出ていけと言ってるんですね」

「それはお前しだいだ」

「まぁ仕方ない、シバの兄さんの頼みだ。全力でやらせてもらおう」

そういうと、カズキの目付きや雰囲気が一瞬にしてかわる。

何度も見たルイスだが、未だになれないあの鋭さはまるで別人だ。

晴天だった空もいつのまにか黒雲へとかわる。

冷たい風が吹き、雷鳴がなる。

今までとは明らかに違う雰囲気に全員が戦慄し背筋が凍る。

刀を抜くと一瞬でアストラルエーテを斬り、ほとんどの者に気づかれることなく現実世界へと戻す。

「ヒノモトサムライに喧嘩売って、ただで済むと思うなよ!!」

雨が激しく降り、暴風が吹き荒れる。

「はやく俺を倒さないと滅ぶぜ、この国がよ」

雷が試合場に落ち、砕ける。それも一発ではない、何度も何度も連続に集中的に落ち続ける。

「雨で植物が朽ち、風で建物が壊れ、雷で国が滅びる。そして生命が死ぬ。お前は俺を倒して英雄になれるかな?」

刀を持ち構えると不適に微笑む。

その姿は災いを運び、絶望を与える魔王そのもの。

「ちょうどいい、お前ら全員まとめて相手にしてやる。かかってこい」

アストラルエーテが解除されたことで、全快しているジェルマンとレオン、ノア。だが、状況がまったく把握できていないので、ルリーから大まかに聞いている。

「なるほど。ついにカズキが全力を出すのか」

「おもしれぇ、全力のあいつを潰せるなら願ったり叶ったりだ」

「仲間どうしで戦うなんてどうかしてますわ」 

「いいじゃねぇか、トーナメントなんてくだらねぇものは終いにしてよぉ。全てを賭けた殺し合いをしようぜ」

片手を振るうと突風が起こる。それが観客にいる生徒達を襲い、埃のように吹き飛ぶ。

「うわあああ」

「きゃあああ」

生徒達は悲鳴を上げ逃げ惑う。

「テメェらも座ってねぇでかかってこいよ。一方的に死ぬだけだぞ」

それを見て笑いながら手招きをするが、パニックになっており我が先と避難する。

「ちっ、シケたヤロー共だ。こんなやつらだから国を守れないんだよ」

この状況にがっかりしながら、再びルイスの方を見る。

「帝国滅亡の再来だな、ルイス。また滅ぼしてやるよ、無関係な王国を、今度はお前のせいでな」

「カズキ、貴様……」

「シバの兄さんも止めたければ来てください。全力で殺しますので」

その問いにシバは何も言わずただ見下ろしている。

「さぁ始めようか。死を賭して」

 

 

 

 

つづく



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静かな戦い

 

 

 

「はあああ」

ルイスは猛烈な速さでカズキに近づくと、渾身の力で槍を振り下ろす。

しかし、ガキンと弾かれる音が試合場に空しく響く。

「軽い」

カズキは弾いた槍を掴むとすぐに引き寄せる。

ルイスは槍を手放すと、カズキの背後に周りこみ頭を掴むと強烈な電撃を流す。

「今まで鍛え強くなったようだが、一週間ではなにもかわらんようだな」

ルイスの電撃を笑いながら受けている。そして、カズキは片手を上げると爆風が放たれルイスや辺りを吹き飛ばす。

「うるああああ」

爆風を突っ切りカズキの顔面にバトル・トンファーを叩き込むジェルマン。

「ジェルマン、攻撃がワンパターン過ぎるぞ」

爆煙から渋い顔をしたカズキがジェルマンの頭を掴むとリングに叩きつける。

「がっ」

リングがクモの巣状に砕け、陥没する。あまりの衝撃に意識が一瞬飛ぶ。

「んなろおおお」

ジェルマンはバトル・トンファーをカズキの足に叩くも効果なし。

「お?意識を保ったか、やるな」

「アダマンフィスト」

カズキの頭上から両手を振り下ろすレオン。しかしなんなく受け止められる。それも片手でだ。

「レオン、お前はもっと力をつけろ。体格をいかせ」

腕を掴むと力任せに振り回し投げ捨てる。

「くっ」

レオンはうまく体を回転さて着地するとすぐに距離を詰める。

カズキには大地の強度は通じない。拘束も生き埋めも何も通じなかった、倒せるとしたら己の肉体と技、グラン・ギアの力を合わせるしかない。

「ビースターズ」

自身の身体能力を倍増させるビースタルク家がつかえる奥義。

「獣王掌」

そこまま掌を勢いよくカズキの腹部に叩き込む。

あの時から鍛えに鍛えたこの力が倍増したのだ。それにカズキにダメージを与えた技、効くはずだ。

「あー、何度も同じ技がきくと思うなよ?」

予想とは裏腹、平然とするカズキに絶句する。

「白王」

正拳突きがレオンの腹部を捕らえそのまま一直線に壁に激闘する。

試合会場外で白目を向いて倒れるレオン。

「まっ、威力が違うなら別だと思うけど」

「爆発破壊(バーストクラッシュ)」

カズキが油断してる隙にジェルマンは立ち上がりバトル・トンファーを当てる。

先ほどとは違い爆発の威力が上がっている。

「威力を上げてきたな」

「ぶっ殺してやる」

青筋が浮き上がり目が血走っている。相当頭に来ているのだろう、悪魔でも逃げ出しそうな形相をしている。

「動きが大振りすぎる。武器ゆえ仕方ないが、こんなんじゃ当たらん」

バトル・トンファーを振り回すジェルマンに諭すように言う。

武器がデカイから大振りになるのは仕方ない。だが、今回は怒りで我を忘れて全ての攻撃が単調かつ大雑把、当たるわけがない。こういう時こそ冷静にならなければならないというのに。

「爆速爆撃(バーストスピード)」

途中で鉄球を爆破され、爆風の勢いで殴る。さっきまでの攻撃とは比べものにならない速さだ。だが、連発できる代物ではなさそうだ。

「ほう、爆発でスピードを上げたか」

「はあああ」

そこへルイスが攻撃に入る。ジェルマンと連携を取りカズキを攻める。

ジェルマンの大振りで重たい一撃とルイスの正確で速い攻撃が絶妙に合い、いい連携攻撃となっている。

「邪魔すんなルイス」

「そんな事を言ってる場合か」

もっと仲良くやってくれたらもっといいのだがな。

刀で競り合うルイスを弾き飛ばし、ジェルマンの足を払い転ばせる。

「はいトドメ」

ジェルマンに刀を刺そうと構えた所に、カズキの腕に氷の矢が刺さる。

「ぬっ?」

「いくらカズキさんでも、仲間を傷つけるなら許しませんわ」

飛んできた方ををみると涙目でカズキを睨んでいるノア。このような暴挙を見て失望したのだろう。

「うるああ」

その隙に立ち上がりカズキに攻撃すると共に距離を取る。

「大丈夫ですかジェルマン」

「当た前だ」

「戦いとは傷つけ合いだ、自分からこの道を進んでおいて甘いことを言うな」

「甘い事ではありませんわ。これはカズキさんを倒す立派な理由です」

「ならばよし。全力でこい」

「フリーレイン」

無数の氷の矢がカズキを襲う。

刀を振るい的確に斬っていく。

「この風の中で的確に当てる技術はさすがだ。なら、これならどうかな」

カズキは不適に笑うと雷鳴が轟き、雨風の激しさが更に強くなる。

「なんですの、カズキさんは気候を操れますの?炎ではなくて?」

「なんだそりゃ、そんな事があっていいのか」

この異変に驚くノアとジェルマン、気候なんてたかが一人の人間に操れるわけがない。

「恐らくな。雷が上から降ってくるから気をつけたほうがいい」

駆けつけたルイスが隣から言ってくる。

「雷まで……信じられませんわ」

「私とジェルマンが接近して攻める、ノアは援護を頼む」

「はいですわ」

「俺に指図するな!」

「お前達と共闘だなんてあの時以来だな」

「こんな時に思い出させるな、イライラする」

「来ますわ」

喋っている三人に向け刀を振るい斬撃を放つ。

「はい、入った」

ジェルマンの頭上から雷が落ちる。

「ぐわああああ」

「ほ、本当に落ちてきましたわ」

「ん?落ちる所を予想してそこに誘導しただけさ」

「予想?操ってるのではないののか」

「あー、こういうのを想像してたのかな?」

そう言うと雷が雨のように降ってくる。

異常現象にルイスとノアはなすすべなく落雷の餌食になる。

「自分から落としてもいいんだけど、自然を利用しなきゃつまんないだろ。こうなる結果は見えてたし」

倒れる三人に説明するように言う。

「威力は落としたからまだ動けるはずだ、立て」

カズキの言う通り大したダメージはなく、まだ動ける。

全力で戦うと言っておいて完全に手加減をしている。

「皆さん、どいてください」

杖をカズキの方へ向けたルリーが言う。

「ルリーさん、一体なにを」

「言われた通り離れるんだ」

ノアとジェルマンを担いだルイスがカズキから離れたのを確認すると詠唱を唱える。

「地獄の業火球(フレイムインフェルノ)」

魔力を込めた杖先が強い光を放ち、赤く爆ぜる。

巨大な炎の玉がカズキめがけ飛んでくる。

「上級魔法か、さすがルリーさん」

それに対し逃げることをせずそのまま直撃する。

巨大な火柱を上げながら周囲に爆発が起こる。

「どうです、直撃しました」

「なかなかの威力だ、ここへ来て一番のダメージかもしれない」

炎の中を歩くカズキにルリーは膝をつく。

「む、無傷……そんな」

「どいつもこいつも素晴らしい人材だ、故に惜しいな……殺すのがなあ!」

「きゃあ」

片手でルリーを突き飛ばす。

「はぁ!」

ルイスが攻撃に入るが、全てさばかれる。

「雷速についてこれるのか!?」

ついには背後を捉え肩を叩かれる始末。

「確かに雷の速度だが、所詮はまがいもの」

「なんだと、私のアトリファクタスをバカにするな」

「ふっ、威堕天」

ルイスからかなりの距離を取ったカズキは、全身に雷を纏ったかと思うと気づいたら蹴り飛ばされていた。

「かっ、がばっ」

反応出来なかった。まるで時間を止められたかのような超スピード。

速度は重さ、その言葉に間違いはなく受けた瞬間に気を失い倒れた衝撃で起きた。

「面白いものを見せてやるよ、自称雷使いさん」

笑いながらカズキは天に手を広げる。

「蒼龍雷現」

黒雲から稲妻を迸りながら青い雷の龍が降りてくる。その規模、迫力は凄まじく学園だけでなく国にも影響を与え、民は怯え街は混乱に陥っていた。

「雷神憤怒。俺は雷。簡単に言えば雷の操作だ」

この力は強すぎるが故に気候にも強く影響を及ぼす。ゆえに黒雲が集まり環境がカズキが有利なものへ自然と変わるのだ。

「な、なんてやつだ」

「巨大な力の前にどう抗う。どう立ち向かう。お前達の戦い(答え)を見せてみろ」

実力でも上、環境も不利、そんな絶体絶命のなかどう出るのか楽しみで仕方ないカズキ。

対するルイスは打開策を考えていた。

どうすればこの怪物に勝てる。

何をすればいい。

どうしたらいい。

ワカラナイ。

必死に考えるが何一つ思い浮かばなければ、勝てるイメージすら湧かない。

そんな状況下でルイスは

「はあああ」

ただ立ち向かうことしか出来なかった。

「なんだ、無策か」

早くも楽しみが潰えたカズキは落胆の表情を浮かべると、ルイスの攻撃を全て受けきる中でゆっくりと手の甲で叩きムシケラのようにあしらう。

「ぐぁ、まだまだぁ」

「いけませんルイスさん。こういう時こそ冷静になるのですわ」

一人で突っ走ろうとするルイスを止めるノア。

「ノア、お前に何か策があるのか。あいつを倒せる策が」

「そ、それは……」

「あいつは遊んでいる……なら、その余裕に付け入るしかない」

制服が破け上半身裸のレオンが腹部を押さながらやってくる。

「俺がカズキの動きを止める、お前らは力を込めて最高の一撃でやつを攻撃しろ」

「そんなことは君には頼めない、やるなら私が」

カズキの元へ向かうレオンの肩を掴み止めるルイス。

それはレオンがすでに立つことで精一杯だということが分かっているからで、重傷者に危険な役目を任せることが、いや、そんな危険な役目を仲間にやらせることがルイスの性格上出来ない。

「やつの攻撃は生半可じゃない、皆の力が溜まる前にやられるだろう」

「しかし」

「安心しろ、我慢比べなら得意だ」 

レオンは微笑みながら言う。自信や根拠はないが、やってみせる。そんな気持ちが伝わり、ルイスも黙って頷き承諾してしまう。

「でも、もし気づかれたら」

「やつは遊んでいる。分かった上で何もしてこないだろうが、あくまで可能性だ、囮は必要だ」

カズキが本気ではないのはみんな知っている。本気なら既に倒されているだろう。

だが、いつ本気でやってくるかがわからない。

「おいおい、そんなんで本当に倒せるのか」

力を合わせたところで通用するとは到底思えない

「わからない。だが、可能性はある」

恐らくだが、本気でやっていない時はダメージはかならず通る。以前戦った時、ジェルマンの爆発で重傷を負ったり、レオンの攻撃も効いていた。つまり、カズキの想定外の威力なら倒せるという訳だ。

「頼んだぞジェルマン。威力ならお前が一番あるんだ」

「けっ、言われなくてもぶっ殺してやるよ」

「どうした、なにをくっちゃべってる。はやくしないとみんな死ぬぞ」

コソコソと会話しているのを見て不思議そうに見ている。

雨は降り風が吹くと相変わらずの悪天候。このままいけば川が洪水し、街に被害が出る。

勝てるかどうかわからないというのに、さらに制限時間というオマケまであるとは、絶望の極みだ。

「どうやら時間もないようだし、後は頼んだぞ!」

そういうと果敢にカズキに向かって挑むレオン。

「ちっ、こうなったら渾身の一撃を見舞ってやるぜ」

「わたくしも出来る限りの力を放ちますわ」

レオンに言われた通りそれぞれの武器、ミスフォルツァに神威、魔力を込める。

「うおおおお」

その時間稼ぎとなるため、全力でカズキと戦う。

相手の反撃を許さない程の猛攻。周りから見れば優勢に思えるが、レオンの必死の攻撃をカズキはただ余裕でかわしているだけである。

「がむしゃらだね、時間稼ぎするには効率良くないんじゃないか?」

「やはり気づいていたか」

「そりゃまぁ、バレバレだよ」

相手の注意をレオンに向けようと全力で向かうのはいいんだが、あからさま過ぎる作戦と行動なんだよな。

チラッとジェルマン達の方を見る。

全員明らかに力を込めているのが一目で分かる。

「その邪魔をさせないのが俺の役目だ」

「時間稼ぎはツラいぞ。大抵は格上相手だからな、そいつの根性が試されるんだ」

レオンの鳩尾を抉るように殴る。

凄まじい激痛と呼吸困難に立っていられず、その場に倒れる。

「てことで、根性見せてみろや」

追い討ちにレオンの背中を踏みつける。

「這いつくばっててええんか!お前が立たんとワシに勝てんとちゃうんか!」

「うっ、おおおおお!!」

カズキの罵声で鼓舞されたかのように立ち上がるレオン。口から血を流し、腹部には大きな青痣が出来ている。

「俺は、負けない。お前を倒す」

「その意気じゃ」

「うおおおお」

「獣の本能だけに頼るな、考えろ」

レオンの攻撃を捌きながら指導するように戦うカズキ。

「全てにおいて自身を越える相手だ。本能でどうにか出来るものではない!冷静に相手を分析し必勝を探せ」

殴ってくる手を捌くと、足払いでレオンを倒す。

「足がお留守だ、気を引き締めろ」

立ち上がろうとするレオンの顔を蹴りあげる。空中に留まっている所に前蹴りで飛ばす。

「こっちも攻撃させてもらう」

カズキの攻撃にレオンも応戦する。

互いに攻撃しては捌き、避けるを繰り返すといった互角の戦い。いやカズキがレオンに合わせていると言った方がいい。

レオンの隙をついては攻撃を当ておいつめる。

「くっ」

「はい集中しろ集中」

ワンツーパンチからの左アッパーでレオンは後ろへ大きく飛ぶ。

「がはっ」

なんとか着地し体勢を整える。

(こいつ)

そして、この時カズキの隙を発見する。

カズキの隙。それは一瞬だが、攻撃のフィニッシュ時に力を込めてから攻撃している。

先程のアッパーといい、前蹴りといい放つまでに時間がある。

攻撃してくるタイミングにあわせ、カウンターを叩き込めばもしかしたら通用するかもしれない。

「どうしたその程度か」

悟られないよう、さっきと同じように戦う。

相変わらずペースはカズキのままだ。

たった一つのミスから連続攻撃が始まる。胴、足、腕、頭と打撃を浴びせる。

何度も倒れては立ち上がりその機会をみつける。

「チェストー」

怯んだレオンに対して拳を引き締め殴る。

(今だ)

タイミングを見計らい、カズキのパンチをギリギリでかわし顔面を殴る。

「ふん!!」

タイミングも手応えもバッチリだ。どうだ。

「いいぞ、よく隙を発見した」

しかしカズキは平然としていた。

効かないのは想定内だから驚くことはない。

それよりも

(こいつ、俺を試す為にわざとこんな隙を作っていたのか)

カズキのなめ腐った余裕の態度が気にくわなかった。

「だが、カウンターなのは読めていた」

「ならなぜよけなかった」

「カウンターの原理を教えてやりたかったのさ」

「原理だと?」

「いいか、カウンターとは相手の攻撃しようとする勢いが、そのままこちらの攻撃に上乗せされるから威力が増加すると言われるが、実際は攻撃に意識がまわり防御反応が鈍っている所に攻撃する事で威力が増すものだ。だから不意打ちは効果がある。だが、ワシのように反応が速いものや常時攻撃と防御を同時に出来る者には対した威力は発揮出来ない。よく覚えておくんだな。ちなみにワシならカウンターではなく投げてから寝技で決めたな」

戦いなどそっちのけで人差し指を立てながら教え始めるカズキ。

「長々と説明すまんかったな、それじゃバイバイ」

話が終わると、レオンを強く後ろへ押し、目にも止まらない速さで背後に周ると背中に肘打ちを決める。

「がっ!?」

そのまま前に倒れる。

正面からくると身構えていたが、まさかあの距離から背後を取られるとは思っておらず、まともに受けてしまった。

痛み体に力が入らず動けない。意識を保っていただけで上出来なくらいだ。

「カウンターの原理を身を持って学習したな」

レオンからジェルマン達の方へ目線を変えると

「待っててやるから全力で撃ってこいよ。人生最後の一撃だから悔いなくな」

両手を広げ笑顔で語りかける。

「なめやがってぇ」

「ダメですジェルマン。やるなら同時にですわ」

「うるせぇ!こっちは力が溜まってんだ。はやくしろ!」

「私はいつでもいけるぞ」

「わたくしもですわ」

「私も充分に集めました」

「じゃあ、いくぞカズキイィィィッ!!」

ジェルマンは両手に持つバトル・トンファーを回転させながらカズキめがけ走り出す。それに続いてルイスも走る。

「魔氷の死矢(ヘイルグレイシヤ)」

二人の間を通ってノアが放った青く不気味に輝く氷の矢がカズキの左胸に刺さる。

「爆殺戮撃(バーストクラスター)」

「聖雷(セイントブリッツ)」

バトル・トンファーがカズキに触れた瞬間、巨大な爆発が起こる。今まで一撃大きく風圧だけで客席に亀裂を入れる。 

ルイスの雷を纏った長槍がカズキを貫く。カズキに放電し激しく稲妻を放っている。

「どいてください!炎風爆魔波(バーニングブラスト)」

杖から炎と風が入り交じった極太のエネルギー波を放つ。

それを見てジェルマンとルイスは武器を捨てその場から離れる。

カズキに当たると、エネルギー波が塞き止められる形となる。

「くっ、押しきれない……」

「雷爆(バラック)」

「物化爆弾(チェンジズボム)」

ルリーが更に魔力を高め放っている中で、ジェルマンとルイスの合図と共にそれぞれの武器が大爆発を起こす。

「今だ!いっけえええぇ!」

再び最大の魔力を込め一気に押し込む。

カズキは後ろに押され、ついに試合会場の壁にを貫きそのまま山に当たり大爆発を起こした。

「はぁ、はぁ、どうですか」

舞い上がる砂埃、肩で息をしているルリー。杖には亀裂が入り次は魔法を唱える事が出来ないほど魔力を使い果たした。

「やりましたわ」

「……いや、まだだ」

「ぐぬぅ、さすがに効いたな。無抵抗で受けた甲斐があった」

ゆっくりと歩き戻ってくるカズキ、上半身裸でズボンは破けほとんど原型を止めていない。だが、体に傷一つついていない。

う、うそ。ここまでやっても倒れないなんて」

無傷のカズキを見て膝から崩れるように倒れるルリー。

「ば、バケモノ……ですわ」

「確かに手応えはあったのに、傷がないだと」

その絶望的状況に皆は心がやられそうになる。

「今、楽にしてやる」

カズキはふわっと飛び上がると、試合会場よりも高い辺りの空中で留まる。

そう、浮いてるのだ。

この期に及んで不可能に等しい事をさらっとやるカズキ。

「と、飛んでいる」

「本当になんでもありだな」

「バイバイ、アルセウス学園」

悲しそうに呟くと、片手を下に向け赤黒いフェクトを纏った球を放った。

「なんだあれ」

「マズイぞ」

ゆっくりと落ちてくる球、それをみたルイスは顔を青くする。

「何がマズイのです」

「あれを受けたら……落としたらダメなんだ。みんな逃げるぞ」

必死に訴えかけるルイス。その異常なほどの慌てようにその重大さが伝わる。

「あれは、私の故郷レオルド帝国の要塞軍都を滅ぼした技だ」

「なんですって」

「あいつが、帝国を滅ぼしたヒノモトの一人なのか」

「いいからはやく、みんな殺されるぞ」

そうは言うがもう既に球は観客席の辺りまで近づいている。とうぜん逃げる時間もない。

「あんなもん受け止めればいいだろ」

「触れたら爆発するのだ、できるわけがない」

「やってみなきゃわからないだろ!」

「喧嘩しないでくださいまし」

言い合いになるルイスとジェルマン、それを仲裁するノア。

「慌てないの。私が助けてあげるから大丈夫よ」

そこへ、どこかにいっていたリュークがひょっこり現れる。

「リューク、てめぇどこにいってたんだ」

「どこって、観客席?見てたよ、面白かった」

「こんな時に呑気に観戦しやがって」

「それより、本当になんとかできるのか?」

「簡単だよ、ほら」

そう言うと、飛んできた球を片手で斜め後ろ上に受け流す。本当に簡単にやってしまった。

「う、うそ」

「てめぇ触れたら爆発するなんて嘘つきやがって」

「ほ、本当なんだ」

「爆発どころかボールみ」

ルイスの胸ぐらを掴み問い詰めるジェルマン。

しかし、その途中で背後からドゴオオオッと激しい爆発音と立っていられない程の地震がくる。

振り替えってみると、空の黒曇に赤い光が映っている。

「ま、まさか!?」

試合会場の上へと上がり飛んでいった球の方を見ると赤黒いエネルギーがドーム状に広がるように爆発していった。

ここからそれなりに距離はある。それでも大きく見てしまうほどに大きい爆発。

「なんて威力だ」

「あれがここに落ちたと思うとゾッとするわ」

あんなものが落ちていたら学園どころか、街ごと吹き飛んでいただろう。

「リューク、割って入ってくるなよ」

リュークの目の前に着地すると、不満そうな顔をして言ってくる。

「私だけ仲間外れは酷いんじゃない?」

「お前から外れたんじゃねぇか」

「だって私が出たら意味ないでしょ?」

「それは、まぁ、うん、そーうだ~なぁ」

「どうせ落とす気もなかったんだから、別にいいじゃん」

「けっ、憎たらしいヤローだ。いつか挑むから覚悟しろよな」

「うん、楽しみにしているよ!」

笑顔で答えるリューク。さすが、真の猛者は余裕が違う。

「がふっ。あーくそ、過度な力は今の体にこたえるぜ」

吐血しながら地上へ降り立つカズキ。

「さて、と。いい成長ぶりだったぞ」

ジェルマン達の方に拍手をしながら向かう。

「まだまだ力不足だが、これから更に強くなれるから日々の鍛練を頑張れ!」

「てめえ何様だ」

「頑張った者だよ。努力し続けてこの強さを手入れたんだ、俺にできてお前らに出来ないことはない!がんばれ!」

「カズキさんが、あのレオルド帝国を滅ぼした人なんですか」

「ん?まぁね」

「あの七人の一人がカズキさんだなんて」

「そんな驚くことはないだろ。たかが国の一つや二つごとき、簡単に滅ぼせるだろ?」

「簡単に……カズキさんは人を殺すことに躊躇いはないのですか」

「ないだろ」 

ノアの質問に即答するカズキ。それも、なに言ってんだこいつみたいな不思議そうな顔をしてだ。

「逆に聞かせてほしいけどよ。お前らが使ってる神威武は人を殺せるものじゃないのか?」

「そ、それは」

「殺す覚悟がないやつが武器を握る資格はない、いますぐ戦いをやめちまえ!」

殺すという覚悟がないからみんな弱いんだ。

そんなやつらが騎士だの戦士だの軍人だのなれるわけがない。自分達を敵から守れるはずがない。

「それは違うぞカズキ」

シバが客席から飛び降りカズキ達の方へ歩きながら言う。

「絶対に守るという覚悟があるから強くなれるんだ」

「守る強さか、守るものがないワシには無縁なものですわ」

「そんなことはないだろ。お前にも守りたい家族や仲間がいるはずだ」

「申し訳ないですけど、ワシに守られるほど家族や仲間は弱くないんです」

「それは知らない。すくなくともお前が一番だろ?」

「……そうはいかないんですよ。俺より強いやつは当然いるんですよ。お前らもっと強くならないとな!」

「おいレイカ、段々カズキの口調が悪くなってるぞ!生徒の教育がなってないぞ!」

「いくら先生でも個人の性格を変えてはいけないんだ!」

「こっちだって本気なんですよ!仲間が半端な状態で戦場に行って死んだら悲しいんですから」

「だそうだ」

力強く訴えるカズキを指してシバの方を見る。

「それを言われたら俺は何も言えない」

ちゃんと理由があるので本当に何も言えない。

「だいたい、神威だの精霊だの魔法だのくだらねーんだよ。覚悟こそ強さだ、覚悟無き者が強くなれるか!」

「覚悟か、お前らしいな」

知識や身体的にどうしようもらない時、それを突破できるものは精神力。その精神を強めるには覚悟が必要、すなわち強い奴に勝つには覚悟を持つ事が大前提。そう熱く語るカズキ。

「俺は戻って修行するので、後はお願いします」

「ちょっと待て、貴様この状況で帰れると思うのか」

この場から逃げるように颯爽と立ち去るカズキの襟を掴み阻止する。

「え?な、なにか悪い事しましたか僕」

「白々しい、周りをみろ!」

激昂するレイカ先生、仕方がないので周りを見てやる。

壁や客席が砕け崩壊寸前の試合会場、雨風による災害、負傷した生徒や先生。

それを見たカズキは

「……え?何か悪い事やりました?」

真顔でレイカ先生に聞き返す。

「貴様、本気で言っているのか?」

それには思わず質問を質問で答えてしまう。

「え?」

「え?」

どうやら本気で理解出来ていないようだ。

「……はぁ」

「だから言ったじゃないですか、力を使えばここにはいられなくなるって」

「使い過ぎだ、学園どころか国にまで影響を出して、ただですむと思うなよ」

「なんだいなんだい。ちょーーーっと力を軽ーーーく使っただけでガタガタ言われるなんて全てにおいて狭い国なこと」

少しばかし力を使っただけでこのザマとはね。不自由なもだな力がありすぎるのも。

「まっ、俺達が守ったこの国を滅ぼすのも面白いかもな」

もしこの国と交戦するなら俺は容赦なく滅ぼすけどな。

そうならないことを祈ろう。

「ごちゃごちゃ言ってないで、私についてこい」

カズキの耳を摘まむとそのまま引っ張り歩き出す。

「いででで、引っ張るな千切れちゃうでしょ!」

「なら抵抗せずついてこい」

「あたたたた、シバの兄さんまた後で話ましょう」

「あちゃー、あの様子じゃ学園長行きだな」

「学園長?やっぱ退学か、素晴らしいね!」

「決めるのは学園長だ、お前はそうならないように反省しろ」

更に耳を引っ張る力を加えるレイカ先生。

「いででで、取れる取れる」

更なる痛みに悶えるカズキ。

神威や魔法も通用しなかったのに、こんな子供の躾みたいな技でで痛がるとは誰しもが思わないだろう。

「いいから行くぞ」

レイカに引っ張られるがまま、カズキは無理矢理連れ去られるのであった。

 

 

 

 

 

 

つづく



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処罰

 

 

 

 

 

 

  

あれから重々しい扉の前まで連れてこられたカズキ。

「てててて、無理矢理耳引っ張りやがって!エルフになるところだったぞ」

「お前が素直に来ないからだ」

「素直についてきただろ」

「ならその痛みはなんだ」

「レイカ先生が、好意的に引っ張った証拠です」

「学園長がいるから入るぞ」

「ちょ、俺の意見を聞いてくれよ」

自ら聞いておいてカズキをガン無視して扉を開け入りだす。

「失礼します学園長」

「さっきの試合の件か?レイカ」

高級そうなオフィスソファに座っている女性が口を開く。

とたんに重々しい雰囲気が更に重くなる。

「さすが学園長、なんでもお見通しですか」

「それで、私になんの用だ」

「さっきの原因である生徒を連れてきました。ほら、謝る」

小声でカズキに言うと背中を叩き前へ出させる。まるで保護者だ。

「クソババアが、まだ生きていたか」

「貴様、学園長に向かってなんて口の聞き方だ!」

カズキの第一声があまりにも失礼極まりないので頭を掴み強制的に下げさせる。

「いいんだレイカ」

学園長の一言でレイカはすぐにやめる。やっぱ権力者には抗えないのか。

「それにしてもずいぶん口が悪くなかったクソガキ」

「あんたに対してならいくらでも悪くなれる」

「ふん、昔の泣き虫だった頃の方が可愛いかったぞ坊や」

「過去を掘り出すのは勘弁してくれー、テラさん」

「クニヨシのバカは元気にしているか?」

「三年前から会ってないけど、元気だろ?それ以外ありえないだろ」

「それもそうだな、あいつが病気になるわけないか」

「言っておくが、ばあちゃんとテラさんもだぞ」

「か弱い私がか?」

「なにがか弱いだ化物」

「はぁ、私は忙しいのだ。処罰は後で言い渡すから今は帰れ」

「わかりました」

「ちょ、処罰って、勘弁してくださいぃでででで」

反論するカズキの耳を引っ張りながら退室するレイカ先生。

そのまま寮まで連行されるとリビングに入れられ、窓を全て閉じカーテンをしめる。

「カズキ貴様殺されたいのか!」

そして罵声を浴びせる。

「なんすか、ババアにババアと言って何が悪いんだ」

「お前テラ・ヴァレンタインを知らないのか」 

「知ってるさ、めちゃくちゃ強いババアだ」

「お前の認識の甘さにビックリだ」

「そう誉めないでくださいよ」

「誉めてない!!」

テラ・ヴァレンタイン。

かつて世界を巻き込んだ大戦争、ベリューバル戦争で活躍した英雄。

その強さは全神威使いの目標でもあり、現役引退した為ランクには入っていないが間違いなく一位の実力者である。

最近不調気味なアルセウス学園を支えているのはテラ・ヴァレンタインという名前のおかげでもある。 

そんな偉人相手にあんな失礼な態度を取るなんてことはあってはならないことだ。

カズキに軽く説明するが上の空、おもいっきり顔面パンチされる。

「いってー、そんな怒らなくてもいいじゃないですか」

「一発で済ませただけ感謝しろ」

「一応俺も凄い人だってのは知ってるつもりですよ」

「つもりだからあんなふざけた態度が取れるんだろ」

「知ってたから取れただけで、初対面じゃやらないっすよ」

「言い訳無用!とにかく学園長の処罰がくるまで寮で大人しく待機」

そういうと寮から出ていくレイカ先生。あの試合のせいでやることが増えて苛立ってるんだそうに違いない絶対そうだ。

それにしても処罰か、生徒が頑張って戦ったのに教師はそれを罰するのかよ。理不尽な……。

この世の不条理に首をかしげながらとりあえず横になる。

そして数秒も経たないうちに座る。

んで今日の反省点を探す。

やり過ぎたかとか、周りに迷惑をかけたなとかそんなかんじの反省ではない。

まっさきに思い浮かんだのが、挑発をやり過ぎた事だ。

戦ってるのに会話会話話し合いで、申し訳なさがでてしまう。こんどやるときは無言でやろう。

あいつらは今頃医務室で寝てるんだろうな。けっこう傷つけたけど大丈夫だろう、死にはしないさ。 

「まさか、テラさんが学園長だったとはな。世界は驚く程に狭いな」

さっきも言ったが、学園長とは面識がありそれなりの関係だったりもする。できれは会いたくなかった。

が、会ってしまっては仕方ない。それと今回の件も終わったことだ、それに俺がやったことだから処罰も甘んじて受け入れよう。

で、このまま大人しく待つのは嫌なので寮前でトレーニングをひたすらやる。

するとあら不思議、数時間後にはレイカ先生ではなく、同じ同居人が帰ってきた。

「お?やーーっと帰ってきたか」

腹筋をやめて話かけるが、なにやら全員気まずそうな表情をしている。

「ん?どうした?」

「……か、カズキさん、その、えっと」

ノアの態度で、全てを悟った。俺はもう元には戻れないと。

「あー、もしかして怯えてらっしゃる?このわたくしに」

「お、怯えてなんか、いませんわ」

「強がらなくていいよ、本当に殺そうとしてたから怯えて当然」

「……信じたくはありませんが、カズキさんは殺人鬼か何かですか」

「サツジンキ?そう言われたのは初めてだな」

殺人鬼って、殺す事が好きでなんとも思ってないやつらの事だ。

まさか、俺がそんな事言われるなんて思いもしなかった。

「だ、だって戸惑いもなく殺しに来たじゃないですか」

「当然だろ、殺し合いなんだから」

殺るか殺られるかの世界に戸惑いがあったら殺されるというのに何を言ってるんだ、こいつは。

「自分の事を棚にあげて言ってるけど、みんなも俺を殺そうとしただろ?」

「そ、それは」

言葉を詰まらすノア。

ジェルマンの爆発も、ルイスの雷、ノアの氷は人なんか簡単に殺せる威力であり、ルリーの上級魔法なんかは完全に殺しにきている威力のものだ。

それを放ったのに、殺す気はない。なんて都合が良すぎる。

「納得したなら、お互い様だな」

「けっ、憎たらしい野郎だ」

唾を吐きながら言ってくるジェルマン。

「酷い悪態だなジェルマン、お前も軍人なんだからわかるだろ」

「んなのはわかってんだよ。俺が気に入らないのは、まだテメェが本気でやってねぇからだよ」

「なら、ださせてみろよ。俺に本気をよ」

「いちいち勘に触るなテメェはよぉ!はっきり言えよ お前じゃ弱いから本気出せないってよ」

額に血管を浮かばせながら、カズキの胸ぐらを掴み言う。

「自覚あるなら騒いでないで修行でもしたらどうだ」

それに対し、嘲笑うかのように冷たく言う。

「っ、テメェ……」

「やめとけレオン。腹は立つがカズキが正論だ」

手を出そうとするジェルマンを止めるレオン。

「うるせぇ負け犬がよぉ」

「なんとでも言え、俺は強さ云々に今は興味ない。今は妹が救えればなんだっていい」

「だってよ、レオン見習って大人になれよジェルマン」

「……だが、この借りはいつか返す」

「上等だ。時間がないからはやくした方がいいぞ」

「そうか」

「まぁ家に上がんな、課業が終わったらクソババアが来るから身なり整えとけよな」

そういうとカズキは、上着を手に取り寮へと戻る。

「クソババア?」

「さぁ、誰の事でしょうか」

最後に言った事がよくわからないが、とりあえず寮へと入る。

 

 

 

 

皆が着替え等を済ましている間にカズキが夕食を作っていた、

「さぁ飯だ、食えや」

テーブルに並べられる豪勢な料理。一流シェフのコース料理と思うくらいの完成度だ。

「す、すごい。これ全部カズキさんが作ったのですか」

「あぁ。今日は悪いが、ちと豪勢にさせてもらった」

「なんだ、なんかあるんか」

「いろいろとあんだよ。さぁ食え食え、俺がいて気まずと思うが食え」

「そんなことありませんよ」

「お前らを殺そうとした奴がいるのにか?」

「そうかもしれませんけど、実際殺してませんし」

「そんなんしるか、殺そうとした事実はかわらん」

「それなら私達だって」

「俺は慣れてるからなんとも思ってないよ」

「それならわたくしも」

「それってどんな人生送ってたんだよ」

「いや、それはこっちの台詞だろ」

今日の事で色々と言い合う。

「おやおや、随分と険悪な雰囲気ではないか」

そんな中、レイカ先生と共に学園長、テラが静かにやってくる。

「が、学園長!?」

学園長の襲来に、カズキ以外の全員が驚く。

「来ると思ったぜクソババア」

「期待は裏切らない主義なんでね」

「まあ座れよ、飯作ったから食ってきな」

「そうゆっくりは出来ないんでね」

「なんだよ、折角作ったのによ」

「食事はまた次の機会でいいだろう。それより、本題にはいるぞ」

「わかってるよ、ほら」

テラの前に一つの封筒を捨てるように投げる。

「……なんだ、これは」

封筒には、退学届け、そう書いてあった。

「見ての通りさ」

「カズキさん、やめちゃうんですか」

「まぁな、素性も強さも見せ過ぎたからな。ここには居られない」

「俺との約束はどうするんだ」

レオンが言ってくる。カズキに、剣舞祭優勝して妹を助けるという約束を

「言っただろ、俺にあてがあるって」

「……詳しく聞かせろ」

「ヒノモトには、神ノ湯という温泉があってな。そこに浸かればどんな病も治る」

「なんだと」

「実際、余命宣告された者がまだ生きている」

「そんなものがあるわけないだろう」

にわかに信じがたい話だ。そんな都合のいいものがあるわけがない。

「そこのクソババアが知ってるよ」

疑っているレオンに対して、カズキはテラを指さし言う。

「そうだな、あそこは私も世話になった事があったからな」

「そこで完治するかはわからんが、時間稼ぎならできるはずだ。その間にクイナにいる名医者に治してもらう」

「金は足りるのか」

「知り合いだ、なんとかする」

「………」

「絶対に治る方法もあるが、あくまで最終手段だ。お前の妹は絶対に助けると俺が保証する」

「……本当なんだな」

「あぁ、約束は守る」

「……お前達、なにかってにやめる話にしてるんだ?」

ここでレイカ先生が話の間に割り込む。

「は?」

「カズキ、お前の処罰は三日の停学、その間に試合会場の修理だ」

「ダル、いっそ退学にしてくれよ」

「誰が便利な駒をみすみす捨てるか」

不適に微笑みながら言ってくるテラ。

使える奴は用が無くなるまで使う、それまでは補助する。そういやそんなやつだった。

「退学にしてくれええぇぇ!」

「あの、カズキさん。学園長と仲良く話してますけど、知り合いなのですか?」

悶えるカズキに聞くノア。

「あー、簡単に言うと身内だ」

「身内?」

「私の姉の孫だ、どうしようもないバカだがよろしく頼むよ」

ここで衝撃の事実をさらっと告げる。

「えええ!?学園長の姉って、あのキラさんですか!?」

「血筋だけみるなら、みんな教科書に乗ってる奴だらけさ」

「どうりで強いわけだ」

「優秀な生まれだったんですね」

カズキの生い立ちに少しふれ、その強さの理由に納得する。

「勘違いするなよ、あの強さはカズキの努力によるものだ。それを分からなければお前達に伸び代はないぞ」

「と、とうぜんですわ。わたくしはアルバートン家の長女ですわ。カズキさんよりも良い血族ですわ!」

「オルガノートも負けてないぜ」

「……俺は特にないかな」

「……」

みんなそれぞれ言い出す。

「ん~、私はどうかな」

「すまん、俺はそんなこと気にしない質だが、お前には誰も勝てない」

悩んでいるリュークに対してそっと言うカズキ。

「そうかな?」

「そうだよバーカ。……あぁ、なんて失礼なことを言ってしまってるんだ俺は、バカだなははは」

「どうしたカズキ」

「なんでもねぇよ」

「それではレイカ、後は任せた」

「わかりました」

「それと、ダテの事もカズキに聞いて見るといい」

「なっ」

その言葉に顔を赤くするレイカ先生。

「私から一つアドバイスを送ろう。神威は己の精神力で変わる、常に省みることだ」

不適に笑いながら言ってくる。

「毎日死に物狂いで精進するんだぞ小僧共」

そう言い残すと寮から出ていってしまう。

「やーっといったな。せっかく作ったのに食べもしないでよ」

出ていったのを確認すると、おもいっきり背中を伸ばすカズキ。

あんな態度を取っていたが、緊張はしていたみたいだ。

「さぁて、退学は免れたけどめんどくさい事頼まれたな」

三日以内にあの試合会場を直せときた。やればすぐおわるが、めんどくさい、正直やりたくない。

「カズキ、期限までにしっかり終わらせろよな。さもないと」

「退学か!やったね!」

「学園長が秘書を兼任すると言ってた」

「俄然やる気がでてきた!」

聞いた瞬間やる気が沸いてきて、すぐに立ち上がる。

あの野郎の秘書なんかやったら命と時間がいくらあっても足りん。

「さっそく修理にでかける」

そういうと寮を飛び出す。

「あの野郎、飯も食わないで行ったぞ」

「よっぽど嫌なんでしょうね」

カズキの激しい手のひら返しに苦笑するノア。

「うまいぞこれ」

そんなことどうでもいいと食事をするレオン。

「ヒノモトについてお話を聞きたかったのにな」

「後で聞けばいいだろ、まずは飯をだな」

そういうジェルマンだが、目の前の皿をレオンが取り食べていた。

「テメェレオン、それは俺のだろう」

「すまないな、量が少ないからつい、な」

「ぶっ殺す!」

「喧嘩してるとなくなりますわよ」

声を荒上げている間に少ない量の夕御飯を食べるその他の者達。

「あぁ!?テメェ俺の分がぁ!?」

「あら、とても美味しいですわ」

「やるなカズキ」

「俺の分がーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

結局昨日はカズキは寮に帰っておらず、登校がてら試合会場を見てみる。

すると、昨日まで倒壊寸前だったものが全く別の建物が出来ている。

「おいおい、マジかよ」

「見たところ、一から作り上げているな」

歴史溢れる試合会場は、黒色の新しいものへとかわっていた。

「それに以前より大きいですわ」

「どーよお前達、完璧だべ」

ジェルマン達に気づいたカズキが声をかけてくる。

「もうつくったのか」

「当たり前だ、俺にかかればこんなもん夕飯前よ!」

「みたことない石だな」

興味深々に壁を触るレオン。

大地の精霊と契約しているので、鉱石等の知識はあるのだがそれでも知らないものとなると相当レアなものなのだろう。

「ふっふっふっ。ちと特殊な素材使ってるからな。前回程度の威力なんかじゃびくともしない」

「そんなにか」

「そこはお楽しみということで」

この強度を知ったらみんな驚くぞ、きっと。

「それよりお前達は学校ですか、いやー大変だね」

処罰の一つはもう終わらせたから後は自由だ。やったね!

「こっちは三日自由だからね、しばらく帰らないよ。ってなわけでアデュー!」

そう告げるとは人とは思えない物凄い勢いで走り去る。

「あの野郎、反省してないな」

「停学は意味ないですね」

「わたくし達は行きますわよ」

「そうだな」

どこかへ行ってしまったカズキを置いて素直に校舎へと向かう。

それもそのはず、皆は今以上に強くならなければならない。なら、遊んでいる場合なんてないのだ。

「……ってかさ、あいつ居ないから試合五人だけで出場なんじゃね?」

「あっ」

「なんとかなるだろ」

「あいつが居なくても余裕だろ!」

ここでちょっと重要な事に気づくが、なんとかするだろう。

 

 

 

つづくんじゃね?



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実力の四試合

 

 

 

 

カズキが三日間の停学を受け、四試合目は五人だけとなった。

「今回はカズキが居ないぞ」

「お前らもここで終わりだ」

「ボコボコにやられちまえ」

カズキが居ないという不利な状況に、生徒達は野次と皮肉の言葉を投げつける。

「雑魚がギャーギャーうるせぇんだよ。黙ってみてろ負け犬共!」

バトル・トンファーをガンガンぶつけながらいつも通り罵声を罵声で返すジェルマン。

「相変わらずだな、ジェルマン」

そこへ、爽やかな茶髪の少年が挨拶にやってくる。

ストラル・ジョンソン。

この地方を治めている領土主の倅で、しかもその領土主がただ者ではなく、かの戦争で名を轟かせた英雄だそうだ。今じゃアルガド王国の一、二を争う武門の名家らしい。

「けっ、お久しぶりですね。ストラル先輩」

その顔をみて、ふてぶてしく挨拶するジェルマン。

「ノアさんも、久しぶりですね」

「え、えぇ、お久しぶりです先輩」

ノアも嫌な顔をしつつ、返答する。

どうやら二人は、ストラルという人物が嫌いなようだ。

「カズキと戦えないのは残念だが、ここで負けてもらう」

「随分と節穴な目をしておられるんですね、先輩」

「カズキカズキうるせぇんだよ、てめえらなんざ眼中に無いんだよ」

「ははは、何か勘違いをしているようだね。別に僕はカズキだけの力で君達が勝ち上がっているとは思ってないよ。特にジェルマンとノアさんはね」

予備校の時から先輩として二人を見ていたストラル、決してなめてかかろうとはしない。

「いい試合にしよう。じゃあね」

そういい自分の陣地へ戻る。

「けっ、キザったらしい野郎だぜ」

「お、悪寒が……」

「大丈夫かお前ら」

毛嫌いしているジェルマンとノアを見てなんか不安になるレオン。

「大丈夫だ、きっちりぶっ殺してやる」

「えぇ、きっちり落とし前をつけさせてもらいますわ」

「……ならいいが」

やはり不安が残るが試合開始のブザーが問答無用に鳴り響く。

「さぁぶっ殺してやるぞ!」

一目散に駆け出すジェルマン。

「うお!?」

その真横からストラルが現れヒュンと剣を振り下ろしてくる。

気づいたのでかわし、距離をとる。

「先制たぁらしくないですね、先輩」

「試合なんだ、らしさもないと思うけどな」

「うるせえ死ねぇ!」

力任せにバトル・トンファーを振るう。

ストラルが片手を突き出すと、そこから突風が吹き出しジェルマンは後ろへ吹き飛ぶ。

「ぐお!?」

「僕の属性能力(アトリファクタス)を忘れた訳じゃないだろ?ジェルマンくん」

「ちっ、くそ風野郎がぁ」

ストラルのアトリファクタスは非情なる暴風(ラファーガル)、他の神威使いとは比べ物にならない威力をほこりこれまたやっかいなものだ。 

「真空烈波(ゾクウォード)」

両手から放たれる激しい風による鋭さと風圧による衝撃がジェルマンを襲う。

「グラン・ギア」

その風を防ぐようにジェルマンの目の前に地面を浮かび上がらせるレオン。その隙に横へ逃げるが、浮かびあがった大地が砕け散る。

「凄まじいパワーだ」

ゴナゴナになった大地を見て驚くレオン。盾にするのは極力避けようと思た。

「おおっと、余所見なんかしちゃっていいのかなぁ?」

レオンの足を何者かが掴みナイフを刺してくる。急いで足元に視線を向けると地面から手と顔だけを出しているゴーグルをした女が不気味に笑っている。

「なっ!?」

「私のアトリファクタスは自由水泳(オルトスイマー)、どんなところでも入り込め泳げるのさ」

そういい手を放すとチャプンと地面に潜り込む。

さっきみたいに奇襲されるとやっかいだ、はやめに処理しておきたい。

「足元ばかりみたらやられるわよ」

制服にしては露出が激しい緑髪の少女が鞭を振り回してくる。

「くっ、いたい」

鞭がレオンの体を叩く。切れるような鋭い痛みが襲う。

「うふふふ、しつけてあげる」

「悪いが、そう簡単にしつけられるほど大人しくはないんだ」

「それは、楽しみね!」

不適に笑いながら鞭を振るう。

後ろに下がり、射程外に移動する。

しかし、地面から女が現れナイフを刺してくる。

「愚かだな、俺のテリトリー内にいるなんて」

「え?」

「拘束しろ、グラン・ギア」

手の形をした地面が浮かび上がり、女をしっかりと握り締めている。

「きゃああああ」

地面が泳げる、それは厄介な力だ。しかし、地面を操れるレオンの前で使うのは愚かだった。

「う、うそ、出れない」

必死にもがくが、ピクリとも動かない。

それどころか、強い力で体を締め付けてくる。

「く、苦しい……助けて」

「泳ぎ手らしい最後だ、そのまま沈め」

大地の手はそのままゆっくりと沈んでいく。

「い、いやだ。溺れるのは、苦しいのわ嫌あああ」

「キャナル、いますぐやめなさい」

急いで鞭をレオンに振るい攻撃するも、その起動があまりにも単純なためあっさりの見切られ捕まれる。

「ふん」

そして、グイッと引っ張ると軽々と女を引き寄せる。

「ちょ、待っ」

レオンの剛腕に吸い込まれるように飛んでいき、顔面にラリアットをぶちこまれ一瞬で光となり消える。

もう一人も、完全に地面に沈みこみリタイアになるのも時間の問題だろう。

カズキのように這い上がってこない限りは……。

「これも闘いだ。悪く思うな」

たとえ女だろうと容赦はしないレオン。それは戦士としての礼儀、己の願いの為である。

「うおおおお、捻り潰してさしあげますよお嬢ちゃん」

斧を持った覆面の巨漢の男が雄叫びを上げながらルリーに近づく。

「ち、近づかないでください変態」

「へ、変態!?」

その言葉にショックを受けたのか、その場に膝をつき倒れる。

「あ、その、嘘です」

すっごいへこんでいるので、雑だが思わず励ましてしまう。

「本当に!?なら良かった」

そんな雑な慰めですぐに立ち直る男。すっごいメンタルが強いのか弱いのかさっぱりなやつだ。

「隙ありです、ファイヤーボール」

「ふん!」

ルリーが放つファイヤーボールを手に持つ斧で弾き飛ばす。

「うそ!?弾くなんて!?」

「はっはっはっうそなものか!現実だ!」

そういい手に持つ斧を振り下ろす。

「きゃあ」

よけるも、その衝撃で転んでしまう。

「もらったー」

ルリーに近づきながら斧をふりあげる。

「いきなり突然加勢するよー」

真正面からリュークが飛び出し顔めがけ蹴ってくる。

「いいぜ歓迎歓迎大歓迎よ、勝負しよやお嬢ちゃん!」

斧で防ぎバランスを崩すもすぐに立て直す。

「うおおお」

巨大な斧を軽々振り回す。しかし、リュークには当たらない。

「そんな大振りじゃ当たらないよ」

「ふっ、それはどうかな」

「どうかなって、わぁ!?」

頑丈そうな装甲に身を包んだ者が走ってきてリュークめがけタックルしてくる。

「おっとと、危ないなぁ」

それをかわしながら、斧を避ける。

「これでもかわすのか」

「かわしちゃうの。でも、貴方はかわせるの?」

「何をいって、うお!?」

リュークを通り抜けて無数のファイヤーボールがとんでくる。

「こしゃくな……うおおおお」

斧を振るいファイヤーボールを打ち落としていくが、全てに対処できず食らってしまう。

「あら、かわせなかったみたいだね」

「お…おのれ、よくも」

煙の中から、激しい火傷を負った男が手に持つ斧を投げてくる。

「よっと」

飛んでくる斧を片手で掴み、横から勢い任せにタックルしてくる鎧男を空いてる手で受け止める。

「なっ!?」

「んだと!?」

「それじゃ、終わりにしよう」

鎧男を一直線に投げつけ男に当てると、続けて斧を返すように投げる。

「ぐわああ」

二人まとめて斧に斬られそのまま光となり消える。

「こんなもんよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うるああ」

対峙した者をあっさり倒したレオン、ルリーとリュークとは違い、まだストラルと対峙しているジェルマン。渾身の力でバトル・トンファーを振るい爆発を乱発している。

「そこですわ」

爆発を回避したストラルを狙い矢を放つも、放たれる風により跳ね返されたり、軌道がかわりあらぬ方向へ突き刺さる。

「てめえどこ狙ってんだよ」

「風が強すぎて跳ね返されてしまいますの!わかってくださいまし!」

「相変わらず連携がとれてないんだね。仲はいいくせに」

「仲なんて良くねぇだろうがクソボケが!」

「仲良くなんてありませんわ!」

「ほら仲いい。羨ましい」

「黙れバースト・ショック」

地面を叩き爆煙と衝撃で牽制をとるも、風で消され無駄となるもストラルとの一気に距離をつめ攻撃する。

「うおおおお!!」

速く重たい攻撃、だがなんなく受け止められてしまう。

「真っ直ぐだけじゃ僕には勝てない!」

それどころか、カウンターを受けてしまい右肩を斬られる。

「ぐっ」

強い、堪にさわるヤローだが実力はしっかりある。そこが更に気にくわねぇ。

このままじゃやられる、何か策はないか考えはじめる。ただ戦うだけじゃダメだ、このままだとまたいつもの俺のままだ。

「フリーレン」

策を考えながら戦っていると、後ろから氷の矢が飛んでくる。

「おっと、往生際が悪いね」

ストラルの風により氷の矢は脆く砕ける。

(ちっ、そういうことか)

「真剣勝負に往生際が悪いも良いもありませんわ」

何度も何度も矢を放つが、悉く砕かれる。

「はああああ」

ジェルマンもノアの牽制に続くように攻撃をしだす。

「死ねやボケコラ!」

「疾風破斬(ウィンドブレーカー)」

剣に力を込め大きく振るい巨大な風の刃を放つ。

「うお!?」

とっさにバトル・トンファーで防ぐが、簡単に切断され当たるギリギリの所でしゃがみ避ける。

「あ、あぶねぇ」

もし受けていたら真っ二つだった。そう思うとゾッとするが、今はおいておこう。

「御自慢の武器が壊れたね。さぁどうする?」

「壊れた?まだ使えるだろうがよ!」

トンファーを持ちかえ、刃をストラルに向けるように構える。

「そんなナイフみたいな刃で、勝てると思ってるのかい?」

「ちっぽけな刃でも棒でも殺せたら勝ちなんだよ」

握り部分を剣にひっかけ動きを封じ、片方のバトル・トンファーに神威を流し込め全力で殴る。

「死ねやゴラァ」

剣を手放し、後ろに下がり回避する。

すかさず攻撃に移るジェルマンだが、距離を充分に取ったストラルは、すぐに神威を集めミスフォルツァを展開し、ジェルマンの大振りの一撃を受け止める。

「うおりゃあああ」

力任せに押し込み、ストラルを吹き飛ばす。

「くっ、バカ力め……」

「トドメだぁ!」

そのまま一気に勝負を決めにかかる。

「だが」

大きく振りかぶったジェルマンの渾身の一撃を剣で受け止めると、爆発が起こる。

「甘いな、ジェルマン」

ストラルは風を利用し、ジェルマンの爆発を跳ね返すだけでなく風の剣で腹部を貫いた。

「がはっ」

「もう少し踏み込みがあったら押し勝てたかもしれないもの」

「う、うるせよ」

「僕以外やられたようだし、他を相手しなきゃいけないんだ。だから、終わりにしよう」

ジェルマンやノアだけに、これ以上時間をかけていられないと悟ったストラルは一気に勝負を決めにきた。

「へっ、終わるのはお前の方だ」

だが、ジェルマンは不気味に笑う。

まるで、勝利を確信したかのように。嘲笑うかのように。

「なに!?」

「お前、どこに足つけてやがる」

「どこって……こ、これは!?」

足下を見ると、地面が凍っている。それだけではない、足が凍って動かない。

「まさか、僕が砕いた矢が」

ノアの氷の矢の破片がまだ残り、地面を凍らせていたのだ。

なにより、ジェルマンの大振りの攻撃と、爆発により気をとらえ気づけなかった。

「さすがだよ、打ち合わせ無しでここまで息のあった連携が出来るなんて……やっぱ仲がいいじゃないか」

矢が砕かれていたあの時、ジェルマンはノアの作戦を察しそれに乗ったのだ。誘導のための動き、気を引くための攻撃、作戦のため身を犠牲にした。

「誰が仲良しだ」

そんな連携をしても、未だに仲良しではないと言い張るジェルマン。

「僕の完敗だ」

すでに下半身が凍りつき身動きが一切取れない。

「なら、きっちりトドメをさしてやる」

血を流しながら立ち上がると、大きく拳を振り上げる。

ストラルに氷の矢が突き刺さり、完全に凍り付けになる。

「爆裂拳(バーストブロー)」

トドメの爆発で、ストラルは完全に砕け散り虚空に消える。

「キザヤローが、ようやく倒したぜ」

 

 

 

 

      四回戦、Fクラスの勝利。

 

 

 

つづく



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謎の学園最強

 

無事四回戦を勝ち、寮へと戻るとカズキがお菓子を食べながらくつろいでいた。

「よー、勝ったみたいだな」

そして、この気の抜けた声である。

「はっ、当たり前だ」

「わたくしにかかれば当然ですわ」

「ジェルマンさんとノアさんの連携凄かったですよ。まるで夫婦です」

胸を張っていうジェルマンとノア、その隣でルリーが目を輝かせながら言ってくる。

「てめぇ誰が夫婦だボケオラ」

「ルリーさん、冗談でも言っていいことと悪い事がありますわ」

「ご、ごめんなさい」

全力でルリーに怒る二人。

だが、一連を見ていた者からすると言葉無しで理解でき、動けるのは信頼と親睦がなければできないものだ。

「確かに、凄かったな。それを俺の時にも見せて欲しかったよ」

試合を見ていたカズキも頷きながら納得する。

あの時、あんな連携をみせられたらもっと楽しめたのに。と残念がるカズキ。

「はっ、てめぇら全員見る目が無いんだよ」

「そ、そうですわ。誰がこんな野蛮族なんかと」

「誰が野蛮だボケ」

「その口調と行動をなんとかしてから言ってくださいまし!」

「なんだとド田舎領土主の倅が」

「な、なんですって!?取り消しなさい今の言葉」

「やなこったな。消してほしけりゃ、まずは俺の」

「絶っ対に嫌ですわ」

「なんだと」

さきほど試合を終えたばかりなのに喧嘩する二人。

それを見て止めるわけでもなく、いつも通り『仲良しだな』と思いながら無視するのであった。

「そういえば、後何試合すれば終わりなんですかね」

「たしかに、そういやどれくらいなんだろうな」

優勝まで残り何試合すれば良いかわからないルリーとレオン。

「あと二試合ですわ」

喧嘩をしながら話を聞いていたノアが言ってくる。 

「あと二試合……あと少しなんだな」

「そうですね」

「そんな物思いにふけている場合じゃねぇぞ。次の相手はミカルドだ」

「みかるど?」

はて、どこかで聞いた事のある名前だ。なかなか出てこないぞ。

頭を悩ますカズキ、その隣で何も知らないレオンがそいつについて聞いている。

「ミカルド・バルティグン。学園最強と名高い人ですわ」

学園最強、その言葉を聞いた瞬間思いだす。

確かクエストをやろうとしたときにミチノがなんか言っていた奴の名前だ。

「……そんなに強いのか」

「あぁ、出来れば決勝で当たりたかったな」

いつものように、余裕だせ!とか関係無いぶっ殺してやるぜ!みたいなノリはなく、険しい顔をしている。

それをみたレオンも、ただ者ではないなと察する。

「神威使いとしてAランクの強さ、次が一番の正念場だ」

「そんなに強いんだな」

「だ、大丈夫ですよ。私達も強くなってますし、カズキさんも居るんですから」

カズキという強い奴も停学から解放され、試合に参加できる。いくら強いと言われるミカルドでも、なんとかなるだろう。

「主役はお前らだからな、俺の強さを当てにするなよな」

とは言うが、カズキもそのミカルドという人物に興味がわいてきた。

「は、はい」

「それで、どんな神威武装(ミスフォルツァ)と属性能力(アトリファクタス)を持っているんだ」

「え?」

「それだけ強いんだ、どんな武器や力を持っているか知りたい」

レオンの質問に二人は固まる。

「そ、それはその」

「えーっとだな」

「……どうした?」

いつもスパッという二人だが、何か困ったような顔をして視線を下に向けている。

「……知らねぇんだ」

ジェルマンがボソッと言う。

「はい?」

「知りませんの。正確には見たことがないと言いますか、謎が多い人なのです」

聞く所によると、常に鎧を身につけており素顔も見たことがないらしく、交友関係もわからず、性別ですら不明らしい。

ミカルドの存在は学園七不思議の一つでもある。

「なるほどね」

そんな謎目いているなら仕方ない事だ。

「たが言える事は、とんでもなく強い事だ。会った事はあるから分かるがお前と近いものを感じる」

カズキを指しながら言うジェルマン。

「俺と近いもの?なんだそれ」

「……なんとなくだ」

「なんとなくか……」

根拠の無い発言だが、案外あってたりするものだ。

「じゃあ次が事実上の決勝戦なんだね」

リュークがいう。そこまで強いならもはや決勝戦のようなものだ。

「まあそうなるな」

「……わたくし達、勝てますでしょうか」

「何を弱気な事言ってるんだ。勝てるに決まってるだろ」

「……カズキさんは何を根拠にそんな自信満々に言えるのですか」

「そりゃ、俺達だからだよ」

「……」

「お前らにはまだ時間はある。結果は急ぐと逃げるぜ」

「……俺には時間がないんだが?」

「妹の件は俺がなんとかするって言っただろ。レオンも気楽に全力で楽しく必死に死ぬ気で戦いな」

「最後の方、なんか物騒じゃなかったか?」

「そうか?」

「……でも、変だよね。ミカルドって人は大会に出てないよね?見たことないよ」

そんなに強いなら、大会で目立つはずだ。それなのにそんな話は聞いたことがない。

「帰ってくるのですわ、学園に」

「帰ってくる?」

そういやクエストとかなんとかで遠征に出ていたな。だから、試合に出れなかったのか

「噂じゃ、神の組織とかに入っているとかなんとかあるらしいぜ」

「六人チームなのによく人集められたね、交友関係不明なのに」

「その辺りも謎ですね」

「おいおい、謎だらけじゃないか」

「……神の組織か」

ジェルマンが言った『神の組織』その言葉がひっかかるカズキ。

「なんだ、あくまで噂だぞ。あれに入れるなんて一握りだからな」

「……そうだな」

「今考えても仕方ないよ。はやくご飯食べようよ」

「そうですわね、すぐに作りますこで待っててください」

リュークの提案にノアは立ち上がると台所へと向かう。

「俺も何か手伝おーっと!」

カズキもその後に続く。

「俺達は待っているか」

「そうだね」

「今日のご飯はなんですかね」

そこからはいつも通りの食卓になり、なにごともなく今日一日が終わるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。

試合は三日おきなので今日はフツーの授業だ!

いつもなら試合があったり観戦とかで授業はないのだが、残り試合が僅かなので授業が入っているのだ。

「くっそだりぃ」

当然試合のあるカズキ達は、訓練などできるわけなく教室で雑学の勉強中である。

だからカズキは今とろけている。

「集中せんか!」

レイカ先生のチョークがカズキの脳天に命中する。

すごく痛い。

「いってー」

「目が覚めただろ、ほら教科書の六十九ページを読んでみろ」

「はいはい」

と、まぁこんな感じの授業を続ける。

あぁ、自由だった停学が懐かしいぜ。

時は流れ昼休みとなり、学園内にある美しい庭園で弁当を食べることになった。

「相変わらず綺麗だなこの庭はよ」

「あぁ、よく手入れされているな」

一面に敷き詰められた芝生に、整地された花壇には多種多様な花が美しく咲き誇り生え、中央には池があり巨大な噴水が設置されている。

実にシンプルな設計だが、余分なものがなく美しい。

そんな庭園には、すでに何グループかの生徒達が楽しく昼食を取っている。主に男女二人同士で

「ヒノモトとは趣向は違うが、こっちも好きだな」

「あら、ヒノモトにも庭園がありますの?」

ノアが興味あり気に聞いてくる。

「あるけど、こんな華やかではないな」

「はっ、幻の島だか知らないが所詮は田舎国だな」

「すぐに見下すのはやめないジェルマン」

「田舎に田舎と言って何がわるい」

「ドルツェルブは機械ばっかりだから食糧難になるんだろ?少しは田舎を見習え発展貧困国」

レオンが言ってくる。

実際、アニマニアとドルツェルブは食糧問題と領土問題で戦争をし、今でも争い合う仲である

そういう面では、互いに敵同士で仲良くするのは難しいはずだが、そもそも気にしていない。

「黙れ野生児。それと食糧難は昔の話だ、今はエルフと貿易してるから平気だ」

「はやくレジスタンスがいなくなればいいのにな」

「まだ内戦があるんですか?」

「物騒だね。あーやだやだ」

「そんなもん知るか、政府と非政府の意向やら争いに興味はない。ただ俺は皇帝陛下の言葉で動くだけだ」

「みかけによらず立派な忠誠心ですわね」

「だと、いいんだけどな」

ノアの言葉に一瞬顔を暗くするジェルマン。

「んな話はどうでもいいんだよ。飯だ飯腹へった」

「それもそうですわね」

「今日の昼食はなんですか」

「レオンさんの希望で、アニマニアの料理を作ってみましたわ」

お弁当箱を開けると、芋料理や肉料理が敷き詰められている。

「おぉ、懐かしいな」

その光景に、レオンは少し驚いた表情をする。

ノアには、大雑把に説明はしたがそれ以上の品を作ってきた。

そもそも、アニマニアの料理自体が大雑把なので貴族でこだわりの強いノアが作ってくれるとは思えなかった。

「わたくしなりにアレンジしましたので、アニマニア風というのが正解ですわ」

ほら、アニマニア料理なのにアニマニア風にまで落としている。

美味しいから別になんだっていい。byレオン

「アニマニアは芋が主食だからな」

そこらへんに埋めれば勝手に生えてるし、調理も簡単だ。

肉も斬って焼いて味付けする程度。

獣人にはこれくらい大雑把の方がちょうどいいんだろう。 

ちなみにだが、手の込んだ料理もあるにはある。

「おおうまいぞこれ」

「しんぷる いず あ べすと ってやつだな」

「カタコトだしおかしいぞそれ」

「なに!?」

いつも通り会話を交えた楽しい食事。

そんな時、この楽しい庭園に似つかわしくない者が静かに訪れた。

足から頭まで禍々しい漆黒の鎧に包まれた者は、不気味なオーラを発しながら庭園を歩んでいた。

賑わっていた生徒達も只ならない雰囲気に一瞬で静まり返り、誰一人食事はおろか言葉も発さない。

その者が庭園を通り過ぎた後もその静寂は残されていた。

「……あいつか、例の学園最強」

その静寂をカズキが破る。あのただ者ではなさそうな雰囲気、確かに強そうだ。

それに、あの雰囲気は多くの生命を殺めている者にしか出せないものだ。ジェルマンが俺に似ていると感じるのも無理はない。

「そう、ですわ」

「こ、怖そうな人ですね。何か負のオーラを感じました」

「見かけ倒しなんじゃないの?」

「いや、ただならない気配を感じた。そこらの危険種なんかよりも危険だ」

冷や汗を書きながら言うレオン。

今でも毛が逆立っている。こいつは危険だと獣の本能が知らせる。それと同時に戦士としての本能が叫んでいる。『戦いたい』と。こんな感情はカズキ以来だ。

「なんだあの鎧。いい趣味してるじゃねぇか」

皆がミカルドについて言ってるなか、カズキだけが着眼点が全く違った。

「どこがだ。あんな禍々しいだけのダサい鎧、どっかの魔王じゃないんだからよ」

「確かに、ダサいですね」

「そんなバカな、最高じゃねぇかよ」

「カズキさんのセンスにはついていけませんわ」

「ぐはっ、もうダメだ。また騒ぎを起こして停学くらってくる」

「バカが何か言ってるぜ」

「無視してお弁当食べよー」

「おいこら、慰めろ」

さっきの静けさはどこへやら、すぐさま賑やかに戻る。

「おやおやみなさんおそろいで庭園で昼食ですか。素晴らしい仲ですね」

そこへミチノがいつも通り手にメモ帳を手にやってくる。

「おー、ミチノさんまた仕事ですか?」

「はいそうです」

「俺達は取材NGだから帰れ、飯の邪魔すんな」

ミチノをみて、嫌な顔をしながら手を払う。

「そんな邪険しないでくださいよジェルマンさん」

「うるせぇとっとと消えろ」

「……ミチノだったか」

嫌がるジェルマンを差し置いてレオンが声をかける。

「お名前を覚えていただきありがとうございますレオンさん」

「記者で情報通なんだろ」

「はい、一通りのことはこのメモ帳と頭に入っています」

メモ帳を堂々と見せつけながら、自身の頭を指して自慢気に言う。

「ミカルドについて、教えてくれないか?」

情報に長けているミチノなら、ミカルドの情報を持ってるんじゃないかと考えたレオン。

「ミカルド先輩についてですか?」

ミチノは顎に指をあて難しい顔をしながら考える。

「んー、困りましたね。噂話とかちょっと危険な話ししかないのでお話するわけにはいきません」

「嘘は言わないか、いい仕事してるな」

「ありがとうございます」

「だが、なんでもいい話をしてくれ」

「信憑性がないのと、今後の生活に支障がでるかもしれませんよ」

「構わない」

「……そうですね。しかし、ただという訳にはいきません」

「金か?」

「お金なんていりませんよ。ただそれに見合った情報が欲しいだけです」

情報を情報で交換とは、お金よりも難しい対価である。

それよりもミカルドという謎めいた者と同等の情報なんて果たしてあるのか疑問である。もしかしたら遠回しで教えたくないという意味なのかもしれない。

「そうですね。たとえばカズキさん、無血の革命の真実とかカズキさんの秘密とかヒノモトについて教えてくれませんか?」

その対価としてカズキがもつ情報を求めるミチノ。なかなか欲張りなやつだ。

「ちと情報が高過ぎるぜ」

「こっちは命の危険がありますよ」

「それは同じだ、俺の情報は王族共も欲しているからな」

「それは情報通として負けられませんね」

なぜか、謎の競い合いをする二人。

「情報合戦なんてしょうもない。ようは戦って勝てばいいんだ。戦いはいつでも未知数、何を恐れていやがるんだ!」

なぜか開き直りの逆ギレするカズキ。

だが、言ってることは案外正しかったりもする。

「今回ばかりはカズキさんでも楽には勝てないと思いますよ」

「楽に勝てる程戦いは簡単じゃない。端からそんな気持ちは持っていないから安心しろ」

「さすがカズキさん。ストイックですね」

「いや、ただのバカだろ」

「ほら、はやくお弁当食べないと無くなってしまいますわ」

「ついでに時間もなくなりますよ」

時間を見ると昼休みの時間が半分以上過ぎている。

このままでは、午後の授業に支障がでる。

ここは大人しく昼飯を食べる。うんおいしい。

「ミチノさんもどうぞ」

さすがに食べさせないのも変なので、とりあえず聞いてみる。

「え?いいんですか?」

予想以上にくいついてきた。

「どうぞどうぞ」

「やったー、ノアさんの手料理は美味しいですからね。また記事を書きましょうか?」

と、いいながら頬張る。

いつも食べているからそう思わなくなってしまったが、それほど美味しいんだなと改めて思った。

「やめてください。あの時は大変だったのですわ」

あの目立ちたがりやのノアでさえ拒否するほどの記事、ぜひ読んでみたいものだ。

「そんなー、大好評だったじゃないですか」

「いい迷惑ですわ!」

声をあげるノア。そんなに嫌だったのか。

そういえば、ミチノが家に訪ねた時も嫌な顔をしていたな。

もっとも、他の連中も同じだったがな。

「カズキさんもどうですか?何か宣伝したいこととかあれば協力しますよ」

「学園の人に伝える事はないよ」

「それは残念です」

「あと二日後に試合だからな、しっかり休まないとな」

「恐らく一番キツイ試合になりますよ」

「そうだな。俺もまた本気になりそうだ」

カズキの言葉で一瞬周りが凍りつく。

「か、カズキさんの本気ですか」

それもそのはず、カズキの本気は国にも影響を及ぼすほど強力だ。いくら仲間とて、被害を受けてしまう可能性がある。

「これはまたスクープの予感!」

「許可してないからやるなよ」

「そんなー」

記事を書けない事になげくミチノ。

前回のカズキの件と言い、許可無く記事を書いていないミチノ。案外約束を守っている、というより記者としての信用を守るべく守っているようにもみえる。

「そろそろ昼休みも終わりだ。散れ」

時計を見て勝手にお開きにするカズキ。まぁお弁当も全て食べたし、授業に遅れたらレイカ先生の指導で試合どころではなくなる。

「はぁい。わかりました」

しぶしぶ退場するミチノ。『次はしっかり取材させていただきますよ』と言葉を残して。

どこまでも記者なやつだ。

「さて、戻るか」

「ですわね」

「結局情報無しか」

「別にいいだろ」

「戦るしかない!ってやつですね」

「そうですわね」

「んじゃ。教室戻るか」

「嫌だーー」

「それには同意だ」

カズキ達もしぶしぶ教室に戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

つづく



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苛烈の準決勝戦

その後何も起こることなく準決勝を迎えたカズキ達Fクラス。

朝から控室を出るまで静かだ。緊張感があると言うのか、負けるかもしれない不安があるというのか、妙な雰囲気が流れている。

今回は相手が相手なだけあって、あえていつも通りの戦い方をする。

フォーメンションや作戦など練ったが、どれも覆される可能性があるため、下手に立てた作戦が崩れ一気に流れがかわるよりかは勝率が上がると思った為だ。

戦って勝つ。それしかなかった。

試合場に入ると、Fクラスに対するブーイングが飛ぶ。

「……」

いつもなら煽り返すジェルマンも何も聞こえないかのように反応せず静かに歩く。

ジェルマンだけじゃない。ノアもルリーも、レオンでさえもお喋りなど一切していない。

その雰囲気にカズキは察したかのように、特に突っ込む事はなかった。リュークはのほほーんとしてるけどね!

そのまま試合開始のブザーが鳴る。

「っしゃあああぁぁぁっ!!」

瞬間、雄叫びをあげ突撃するジェルマン。

いつもと違うと思っていたがいつも通り、否、ジェルマンは格上相手に最善の方法を取ったに過ぎなかった。

「はぁ、相変わらずですわね」

「俺達もいくぞ」

続いてノア、レオンが走り出す。

ジェルマンの行動により、チームの雰囲気がやわらいだ。いつも通りになったとでも言うべきだろう。

「み、みなさん待ってくださいよー」

「私達は援護だから前に出なくてもいいんじゃない?」

「そ、それもそうですね」

「カズキはさっさと前へ行け、ダッシュ!」

「俺だけ扱い違くねー!?」

 

 

 

 

 

 

「うおおおおお」

敵陣に飛び込み、バトル・トンファーを振り回す。

全て手加減無しの渾身の一撃。目の前にいる上級生を一撃で倒す。

その中で、禍々しい鎧をみにつけたミカルド。明らかに周りとはかけ離れた存在なのですぐに見つける。

「死ねやオラァ!」

ミカルドめがけ、両手に持つバトル・トンファーを振り落とす。

しかし、当たる前に長いピンク色の長髪の女子生徒に剣で受け止める。

「あらあら、元気がいいですね」

「ちっ、はああ」

腕を広げ左右からバトル・トンファーを挟むように叩きつける。

それをしゃがんで回避すると、すかさずそのままバトル・トンファーを下に落とすも、後転してかわし距離をとられる。

「ちょこまかと……死ねゴラァ」

バトル・トンファーを力強く地面に叩きつけ衝撃を放つ。

「これが噂のバーストレイジの威力ですか」

「くたばれえええ」

すかさず距離を詰め殴りかかる。

しかし、間にミカルドが入りジェルマンを殴り飛ばす。

「ぐっ……やろぉ」

ミカルドは、片手に神威を込めると自身の何倍もの巨大な剣を作り出す。

「ウオオオオオ」

鼓膜が破れてしまいそうな声量の雄叫びを上げ、手に持つ大剣を振り回す。

「うるあああ」

負けじとジェルマンも雄叫びを上げ攻撃に出る。

あの大剣だ。一撃でもくらえば即死、受け止めるのは良くない。ならばかわすだけ。

ミカルドの攻撃をかわし隙を狙って攻撃をする。

だが、ミカルドもバカではない。しっかりジェルマンの動きを見て攻撃している。隙なんてそうそうない。

「っはああ」

隙がないなら隙をつくればいい。

大剣にバトル・トンファーを当て爆発させる。ダメージにはならないが怯ませるくらいにはなる。

爆煙で視界が悪い中、ジェルマンはミカルドの真横から殴りにかかる。

「バーストクラスター」

バトル・トンファーに神威を最大まで込め一気に振り下ろす。

ドオオオオオッと激しい爆発と爆風が起こる。

爆煙が晴れ視界がハッキリとする。

「なっ、なに!?」

焼け焦げた地面の上に、無傷のミカルドが立っていた。それもバトル・トンファーを片手で掴んで防いでいた。

「ばかな!?」

掴んでいだバトル・トンファーの鉄球部を握り潰すと、大剣を大きく振るう。

その風圧で試合場の壁まで一気に飛ばされる。

「がはっ」

(なんて硬さだ。石でも鉄でもゴナゴナに吹き飛ばせる威力だってのに傷一つついてねぇ。あれはただの鎧じゃねぇ)

吐血しながらも立ち上がりミカルドの元へ向かう。

「うおおおお」

そこではレオンとノア、ルリーがミカルド相手に戦っていた。

レオンの巨体に似合わない素早い動きに翻弄されている。

ジェルマンと同じくレオンも分かっているのだ、一撃くらえば終わりだと。

攻撃量的に言えばレオンが押している。だが、ダメージが全く入っていない。

(硬い、なんて硬さだ。アダマンフィストの硬度を上回るとは信じがたい)

攻撃している自分の手足が痛くなるとは一体どういう事なんだと疑問に感じるが、レオンはすでにその疑問に出会っているので許容範囲。

(カズキに比べればこのくらい、常識だ)

「獣烈蹴」

ミカルドの一閃をしゃかんでわかし、立ち上がる勢いのまま蹴り上げる。

これもダメージはないが、二、三歩後ろへ怯ませることができた。

「フレイム」

その瞬間、ルリーがフレイムを放つ。

「フリーレイン」

氷の矢を放ち燃えているミカルドを一気に凍らせる。

「今ですわ、レオンさん」

「甲竜割」

振り上げた両手を一気に振り落とす。

凍りついたミカルドの肩に当たると、ガシャーンと崩れ落ちる。

「なに!?」

しかし、崩れ落ちたのは氷だけでミカルドは何もなかったかのように立っている。

激しく熱した後急激に凍らし強烈な衝撃を与えたのだ。無傷なわけがない。それなのに何一つ傷がついていない。

大剣を振るうミカルド。背後からジェルマンが飛び付き兜を両手で掴むと連続で爆発を浴びせる。

「うるああ」

一発がダメなら連続だ。ゴナゴナに吹き飛ぶまで続けてやる。

だが、ミカルドはジェルマンの手を掴むと強引に引き離し投げ捨てる。

「ジェルマン、大丈夫か」

レオンが受け止め地面に叩きつけられることは免れた。

「う、うるせぇ。俺に構うな……さっさとやつを倒すぞ」

「あぁ、そうだな」

「だが、攻撃が全く効いてねぇな」

「どうする。あいつを倒せる方法はあるか」

「知るかそんなもん」

「だよな。期待はしてなかった」

「オオオオオ」

雄叫びを上げ、手に持つ大剣を振りかざし突進してくるミカルド。

「来るぞ」

凪ぎ払いに対してジェルマンは横へ、レオンはしゃがんで回避し、前に突っ込みタックルする。

倒れはしなかったが、動きを封じる事はできた。

「くだばれや。バーストブロー」

拳に神威を込め背中を殴打する。

「うおりゃりゃりゃりゃ」

「ふん」

ジェルマンが殴り終えると、レオンはそのまま反り投げ地面に叩きつける。

「トドメだぁ」

だめ押しと言わんばかりに飛び上がり両足で頭部踏みつけ爆発を起こす。

「ど、どうだ」

「これでやられるとは思えないが、効いてほしいな」

レオンの願いは空しく、何事もなかったかのように立ち上がるミカルド。

まるでわざと攻撃を受け、その程度ではダメージならないと教えているようにも見える。

ジェルマン達の方を見ると再び構える。

瞬間、ジェルマンの目の前に現れる。

(は、速い!?)

一瞬にして間合いまでの距離を詰められた。

振るう大剣も速く、避けることができず片腕を犠牲にして回避する。

「ぐわあああ」

さっきまでの動きとは、比べものにならないくらいの速さと威力だ。

「大丈夫ですかジェルマン」

「騒ぐな。腕が斬られたからなんだ。あいつをぶっ殺すだけだろ!」

駆け寄るノアを止め、細長く破った制服で脇を縛り応急手当てを施すジェルマン。

「はっはっはっ。いいねぇ、この臨場感。たまんねぇぜ」

「さすが狂人ですわ」

片腕を斬られてるにも関わらず笑っている。今この瞬間戦いを楽しんでいる。

それを見て引き気味になるノア。だが、その狂気っぷりがどこか頼もしくも感じた。

「ぐわあ」

右片から斜めに斬られ倒れるレオン。

「サンダーボルト」

ミカルドの頭上から雷を落とすが、かわすと同時にルリーの元へ走りだす。

「アイスエッジ」

地面に描かれた魔方陣がミカルドの真下にきた瞬間、氷の刃が次々と突き出る。

しかし、それを踏み砕きながら前進する。

「疾風爆発(ウインドボム)」

風の玉を地面に叩きつけ、爆風を起こす。

そんなものに動きを制限させることなく攻撃に移るミカルドだが、ルリーはその風圧に後ろへ大きく下がる。

「くうぅ」

攻撃手段ではなく避ける方法として唱えた呪文。しかし、ダメージは大きい。

「今ですわ。ヒュラノモース」

無数の氷の矢は地面に当たると、氷の刃が飛び交う凍える竜巻を作りあげる。

「まだまだですわ」

更に矢を放ち、竜巻の威力を上げていく。

だが、ミカルドは大剣を力いっぱい振るうと、その風圧で竜巻はあっさりと消えてしまう。

「ひと振りでわたくしのヒュラノモースをかき消しましたの!?」

「オオオオオ」

そして振り下ろされる大剣がノアを切り裂く。

悲鳴をあげる間もなく光の粒となり試合場から消える。

「はぁ、はぁ……この化物が」

ノアを葬り去ったミカルドに片腕になりながらも激しい猛攻を繰り広げるジェルマン。

攻撃を受けている中で大剣を振り上げ、もう片方の腕を切り落とす。

「ぐっ、うおおおおおお」

両腕を失い痛みに屈する事なく目の前の化物に立ち向かう。

だが大剣のブレイドであしらうように殴られ飛ばされる。

(ちくしょう。ちくしょう………勝てねぇ、このままじゃ負ける)

無様に地に這いつくばりそれでも相手を睨む。

目の前ではレオンが懸命に戦っている。

殴る拳は血が流れ指が変形している。それでも攻撃の手を緩めない。

ルリーも呪文を唱えるも、効いてるようには見えない。

それでも鬱陶しいと思ったのか狙いをレオンからルリーに変え大剣を投げる。

「がはっ」

大剣は凄まじい速さでルリーの胴体を貫き、光となり虚空に消える。

「おおおおおお」

怒りの形相のレオン。ミカルドの首を掴み持ち上げる。

メキメキと軋む音がする。握力にまかせこのまま鎧ごと首をへし折る勢いだ。

「がふ」

しかし、顕現した大剣に胴体を真っ二つにされ崩れ落ち光となる。

(ルリー、レオン……)

目の前で仲間が倒されていく。

己の力の無さに恨み、目の前の絶望に抗う。

こんな事今まで何度も経験した。その度に強くなると誓い修行を積んできた。

また繰り返すのか。

また守れないのか。

また、負けるのか。

何度も何度も同じ過ちを俺は……。

脳裏に過る敗北の数々、悲惨な過去。

それらを振り捨てるように叫び立ち上がる。

「くそったれがああああ」

どうせ今の俺は戦力にならん。なら一矢報いてやる。

「ゴナゴナに吹き飛ばしてやる……覚悟しろ」

身体中にありったけの神威を流す。体が焼けるように痛い、炎の中にいるように熱い。

ジェルマンの全身から赤く輝くオーラと火花が迸る。それは華麗で美しくも暴力のように禍々しい。

「死の爆破(デスエクスプロージョン)」

不敵に微笑むと、ジェルマンの体から大爆発が起こる。

今までの爆発とは比べ物にならない圧倒的火力、逃げ場のない爆炎と衝撃波が全てを一掃するほどの威力がミカルドを襲う。

「後は、頼むぜ……カズキ」

全ての力を使い果たしたジェルマンは立ったまま息絶え光となりその場から姿を消した。

対するミカルドは埋もれた地面から飛び上がり立ち上がる。

全身鎧に包まれているからダメージを受けているのかわからない。だが、言えるのはジェルマンが命を落として放った大技ですらミカルドの命には届かなかった。

「みんなよくやった……格上相手によくやったよ。安心しろ、俺が仇を取ってやる。優勝に導いてやる」

各自の戦いぶりを見てみんなやられてしまったが、その決意その覚悟に感化された。

そういうカズキも先程までピンク色の髪をした女子生徒セラフと戦い共にジェルマンの爆発に巻き込まれ、そして生きている。

「後は隊長だけですよ」

「そうだな……ならじっくり見せてもらおうか。現神伐隊の実力を」

 

 

 

 

 

 

つづく



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神装化

 

ドオオオンッ!!

静かな試合場で巨大な何かがぶつかる音だけが響く。

それはミカルドとカズキ、両者の力と力の激しいぶつかりあいだ。

「オオオオオ」

雄叫びを上げ振るう大剣、それを刀で受け止める。

ミカルドの腹部を蹴り距離を空け刀を横へ振るう。

大剣で防ぐも力で押し、大きく後ろへ飛ばされ二本の線をつくる。

「はああ」

続いてセラフも攻撃する。翼を模したガードに両刃の細い剣を振るう。速く細かい攻撃だが、カズキには通用しなかった。

見切られ手首を捕まれると、壁めがけぶん投げられる。

「どうした。神の命を受けし者の実力はその程度なのか?」

「やはり強い。勝つには出し惜しみはいけませんね」

今のままでは、カズキに勝つのは不可能。そう、今のままではだ。

セラフは両手を広げると、ピンク色の炎が身を包み込む。

炎は次第に三対六の白の翼へと変わり、大空へ飛び上がる。

「オオオオオオオオオオ」

闘気や殺気と共にどす黒い紫色のオーラがミカルドから放たれる。外観に変化は無いが、力が増幅しているのは明らかだ。

「神装化か。やっと全力を出したな」

二人の変身を見て笑うカズキ。

これがあいつらの奥の手という訳だな。

「オオオオオ」

先に仕掛けたのはミカルドだ、獲物(カズキ)めがけ駆け出す。

力任せに振り下ろされた大剣を受けとめる。

ガキイィッと鈍い金属音が響く。凄まじい力に押し付けられ片膝をつく。

やはり先程よりも力や速さが上がっている。それも想像以上にだ。

大剣を横へ受け流し、体勢を崩したミカルドの腹部を殴る。

硬い。

カズキは思わず顔を歪める。

「ちっ、誰だよこんな頑丈な鎧造ったバカはよ。死んじまえ」

誰に向けて言ったか分からない愚痴をこぼしながらカズキはミカルドの手を取り引き寄せると、後ろさばきで回転し担ぎ投げる。

「はぁ!」

喉に刀を突き刺そうと構えるも、真横からセラフが低空飛行のまま蹴ってくる。

「ぐっ」

踏みとどまるも、ミカルドとの距離は出来てしまいその隙に立ち上がり構える。

空中から攻撃し尚且つミカルドの動きをカバーするセラフ。一番最初に始末しなければならない。

だが、地上にはミカルドがいる。その力と硬度で単純ながら無茶苦茶なスタイルで攻めてくる。

二人ともそう簡単には崩れてくれるとは思え無い、ここは一旦バカになって開き直ってる………よし、まとめて倒す!

「ウィングフェルド」

上空からセラフは六枚の翼を大きく広げると、無数の炎の羽が降ってくる。

そうは意気込んだが、さてどう倒すか。

降ってくる羽を切り捨て、ミカルドの方へ前進する。

カズキは前のめりにミカルドの懐に飛び込み右斜めに斬り上げる。

大剣を上に振り上げたままそれをかわすことなく受け止める。

「!?」

ミカルドは焦った。無敵の鎧に切り傷ができ、そこから亀裂が入ったのだ。

「その鎧がどれだけ硬くても、このクニキリに斬れないものなど無か」

この傷は鎧の防御力を過信し過ぎ。慢心によるものだ。

「ウゥ…オオオオオッ!!」

カズキか、それとも自身に怒っているのか。怒号を上げる。

体が浮き上がりそうなまでの声量、常人なら耳を塞ぎその場にしゃがみ苦悶の顔をするだろう。

ミカルドは大剣を握りしめ駆け出す。

「オオオオオ」

怒りに身を任せた一撃。

防ぐもその力に圧倒され横へ飛ばされる。

「ウィングフェルド」

すかさずセラフが燃え上がる鋭利な羽を放ってくる。

それらを打ち落とそうと刀を振るう。

一つ斬るたび灼熱の炎を吹き上げなら消える。その為一度に全てを斬ったので辺りは激しい炎に包まれる。

「くっ、そういやこんな技だったな」

炎の海から飛び出しセラフめがけ斬りにかかる。

「いくら飛べるからって、空は私のテリトリーです!」

翼を羽ばたかせる大きく旋回しカズキの背後を取る。

「そこだ!」

気を読み背後に刀を振るうがそこにはセラフはいない。

「こっちです」

カズキが振り向く瞬間急回転しカズキの背後に回り込んだのだ。

セラフは手に持つ剣を背中に差し込む。

腹まで貫通し、刃にはべっとりと血が付いている。

「ルクセント・シュート」

剣を抜くとその場で縦に一回転し、青白く光る脚で真上から蹴り落とす。

「がはっ、うお!?」

勢いよく地面に叩きつけられる。臓器がやられ口から血を吐き、蹴られた箇所が青く燃え焼けどを負っている。それでもミカルドは容赦なく大剣を振ってくる。

すぐさま立ち上がり、それをかわす。

「オオオオオ」

合間なく攻撃してくるミカルド、その一撃一撃が受ける度に重く感じる。

ガキィン。

大剣を振り上げ、カズキの刀を空へ上げる。

ミカルドの威力に耐えきれず思わず刀を放してしまった。不覚なり。

「オオオオオ!」

丸腰になったカズキに対して両手で持った大剣を振り落とす。

この距離、避けるのは不可。大剣の長さ的に後ろは無理、前も無理。たとえ左右に避けれたとしてもセラフがその瞬間を見逃す訳がない。ならば。

迫りくる大剣を両手で挟み止める。そう、真剣白刃取りだ。

「ぐっ」

取ったはいいが、勢いを止めるには不充分で肩に刃が入ってしまう。

「オオオオオ」

そのまま斬ろうと大剣に力を込めるミカルド。

肩に刃が食い込む度に血がブシュッと吹き出す。片膝をついたカズキは苦悶の表情を浮かべながらそれに抗う。

それに対しセラフは上空からウィングフェルドを放ちカズキの背中に突き刺さり燃え上がる。

少しでも力を緩めば肩が斬り落とされる。このまま耐えても炎で焼け死ぬ。まさに絶対絶命のピンチ。

「っああああああ」

そんな中、カズキは大剣を押しかえそうと両手に力を込めながら立ち上がる。

立ち上がるほどに肩に刃が入り更なる激痛が起こる。

それがどうした。

セラフが更にウィングフェルドを放ち、体の炎が激しく燃え上がる。

だからなんだ。

血の流しすぎで意識が失いそうだ。

知ったことか。

抵抗する程体が傷つき痛む。

関係ない!!

どんなに傷つこうとも、痛い目に合おうとも勝てないと悟っても、死ぬと分かっても、目の前の敵を倒す。それがカズキを突き動かす原動力。それだけが全てだ。

いままでそうしてきた、いまもそうだ。これこらもずっとだ。

だから。

この程度。……この程度ォ……。

怒りと破壊衝動による興奮で血流が速くなり体が熱い。怒りにより冷静さを失い理性が飛び本能がとびだしそうだ。

落ち着け俺。静まれ衝動。こいつらに対して冷静さを欠いたらダメだ。

落ち着け…落ち着けぇ。そうだ深呼吸でもし

必死に押し返しながら心で自身を抑えつけている中、肩にグチュと大剣が食い込む。

プチン

その痛みで、カズキの何かがキレた。

「調子に乗ってんじゃねぇぞオラアアア!!」

大剣を押し返しミカルドの顔面を殴り飛ばす。

真上から急降下し、剣を振り下ろしてくるセラフの顔を掴むとそのままミカルドめがけ投げ飛ばす。

「手加減無しだ。ひねり潰してやる!」

顔に紅の隈が浮かび上がる。髪が逆立ち、体から迸る稲妻。赤く荒々しい炎のようなオーラ。

黒雲が光を遮る。雷轟が鳴り響く。風が吹き荒れる。

それらは今のカズキの怒りと破壊衝動を具現化しているように。

 

 

 

 

 

つづく



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部下達

 

         

  

 

 

 

 

 

 

 

試合場でカズキから放たれる殺意と闘志による重圧感、鬼気迫る表情に押されるミカルド。

足がすくんで一歩も動けない。体が言うことをきかない。

こんなこと初めてだ。今まで多くの猛者と戦い勝利してきた、どんなに傷つこうとも死にかけになろうとも『勝てる訳がない』こんな事を思った事はなかった。

怖い?これが恐怖?そう思ったらやつが恐ろしくてたまらない。

足が震える。それがどうした。私は戦うだけだ。私にはそれしかできない。

「どうした。かかってこいよ」

不敵に嗤うカズキ。

分かっているのだ、ミカルドが今怯えていることに。だから嗤っているのだ。

「オオオオオ」

身に纏う恐怖を振り払うように雄叫びを上げ駆け出す。

手に握る大剣にありったけの神威を込め渾身の力でもってカズキに向けて振るう。

迫りくる巨大な刃にカズキは避けようともせずただ嗤う。

直撃。カズキの首に吸い込まれるように綺麗に入った。

手応えはあった。

だが。

「フッ」

ミカルドの一撃は微塵も効いておらず、嘲笑いながら頭を鷲掴みにし地面に叩きつける。

そのまま走りだし顔を地面に擦り付け、勢いよく壁に叩きつける。

「はあ」

低空飛行してくるセラフ、勢いよく剣を振るうも顔を捕まれミカルドに叩きつける。

「くぅ、いったぁ~」

「まとめて死ね」

振るう拳を二人左右別れてかわし、ミカルドはカズキにむけ大剣を振り落とす。

「オオオ」

横すれすれでかわすと、前のめりになるとミカルドの懐にもぐりこみ雷を纏った拳を鎧の傷部に叩き込む。

「オラオラオラオラ、オラー!」

何度も何度も殴る。殴る。殴る。

抵抗などさせない。反撃など許さない。息をつかせぬほどの猛攻。

剛腕を振るう度に鎧に拳の跡がつき、次第に亀裂がはいり砕ける。

そして最後に渾身の一撃を叩き込むと、体を貫く。

ミカルドの体は電流により焼け焦げ、砕け散った鎧を身につけていた。

「オーガスブラストッ!!」

後ろへ下がり片膝をついたミカルドは拳から放たれた鬼の形をした雷の波動に呑まれ、光の粒となり虚空に消える。

「まずは一人だ。あとは一人だ」

六枚の翼を羽ばたかせ浮遊しているセラフを睨む。

対するセラフは剣を空高く高々に突き上げながら、こちらを見下している。

剣に神威を込める。光輝く青の炎が纏い、巨大な刃とはなる。

「ヘブン・レディアント!」

そう名付けられた巨剣を振り下ろす。

試合会場をまるごと斬ってしまいそうな程の大きさ、近づくたびその迫力は増していく。

カズキはニヤッと笑うと血迷ったのか足に力を込め高く跳躍し自ら近づいたのだ。

迫りくる炎の刃、近づくほどその熱気が上がり触れたら斬られる前に消し炭になってしまいそうだ。

だが、カズキそんなこと知ったことかと言わんばかりにそのまま突っ込み拳を振り上げる。

炎の刃を貫き、セラフの前に現れる。

「くうたあばあれえ~セェラァフゥッ!」

(通じないのは読んでましたよ。これが本命)

無傷のまま現れた殺意増し増しのカズキを見て動じる事なく剣を振るう。

「さぁ勝負です!」

「うおおおおおお」

「ブライトル・ペイン」

カズキの右ストレートを頬をかすりながらもかわすと、光を纏った高速の突きが心臓に突き刺さる。

「やった!?」

勝利を確信し、剣を抜く。

瞬間。

「おしかったな」

フフッと微笑むカズキ。両手を振り落とし、セラフを叩き落とす。

「雷槍脚」

空に魔方陣を作り、それを台にし落ちたセラフめがけ全身雷を纏い放つ飛び蹴り。

それは落雷のように一瞬の出来事。気づいた時には試合場全体に放電し砕ける。

「フフフフ……ハーッハッハッハッ」

底の見えない巨大な穴をみながら何がそんなにおかしいのか高らかにそして愉快に楽しく笑うカズキ。

「ごはっ……面白くない」

吐血しながらボソッとそう独り言を言うと静かに試合会場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事試合を終え、寮へと戻るカズキ。

ジェルマン、レオン、ノア、ルリーは激しいダメージのため今医務室にて治療中である。そのため、部屋にはカズキとリュークがいる。

「あ~あーあーああーーーあーーーー」

「うるさいわねバカズキ」

ソファーにだれて声を上げているカズキにリモコンを投げつけるリューク。

「いて!」

見事カズキの顔面にヒット、ソファーから転げ落ち悶える。

「いってーなこのやろ!あとバカズキ言うなし」

「うっさいのよ。全く」

「全くはこっちのセリフだ。試合放棄しやがって」

「試合を放棄してないわよ、見ていただけじゃない」

「みんなやられていったのに、なんてやつだ」

俺の記憶では、セリフと戦ってる時には『やれやれーやっちめー』と声を上げながら応援していたな。すっごいふざけた態度で。

「カズキの力で勝ち上がってきた所もあるじゃない。いい刺激になると思ってね」

「それは、まぁ、ね」

確かにハート戦や今回のミカルド、セリフ戦は明らかにカズキによる勝利だった。カズキの絶対的な力を知り頼りはじめてきたのも少しはあった。

だが、見殺しなんて出来るか普通?

「あんたの力だけで勝ち上がる事をあんたは望んでないでしょ?」

その通りだ。この大会は自身の力で勝ち上がる事が一番大事だ。神々が見るこの大会に他力本願なんてあってはならない。

「その通りだな」

「でも、みんなの負傷具合を見るからに決勝は出れないようだし。派手にやっちゃう?」

「やっちゃう?」

派手に……とは言うが、何度も派手にやっているので今更って感じはするがまあいいか。

「それで、どうするのこの人」

テーブルに置いてあるお茶をすすりながら、二人のやりとりを見ているミチノ。

「なにしに来たんだ?」

律儀にもお茶を出してしまったが、一体何しに来たんだろうか。

「もちろん取材に参っただけですよ」

愚問だったな。なんだろうなと思った俺がバカだった。

「取材は受けないって前から言っただろ。帰りな」

「そんなー、いいじゃないですか」

「情報を流して俺達に何か得する事があるのか」

「それは…その。ない…のかな?」

「……帰りな」

「そんなー、冷たい事言わなくてもいいじゃないですか」

「ええい鬱陶しい。騒ぐなら迷惑行為として風紀委員(ルイス)呼ぶぞ!」

「それは、その、困ります」

「ならば帰れ。おいリューク晩飯何がいい」

「カレーがいいな」

「なに!?香辛料とかあるかな。その前に米あるかなこの国食べる習慣無いし」

「ほとんどの国はパンだもんね。そもそもバウナの料理だしあるわけないでしょ」

「なんでそれをリクエストしたんだよ」

「聞いてきたのはカズキでしょ」

「なんだと!?その通りだけど」

「じゃあつべこべ言わず作ってよね」

「けっ。とんだじゃじゃ馬娘だ、いやじゃじゃ馬女神か」

「なによ」

「なーんでもありませーん」

そう言うとそそくさとキッチンへと向かう。

さて。案の定、米は無い。たがしかし!香辛料はなぜか沢山ある、なぜだろう。まぁいいやそんな事考えても仕方ない。ただ言えるのは、さすがお料理大好きお嬢様と誉めたいところだ。

てことで、さっそく調理にとりかかる。作り方なんざ簡単よ。

とりあえず香辛料を調合してそれっぽく味を整える。

果物や野菜を細かく切ってフライパンで焼いて飴色になったら調合物を入れて焼いて混ぜて水入れて、好きな具材入れてまたそれっぽく味を整えて終わりだよ。

と、雑に説明をするが、この男カズキはやる時はやる男、しっかりと本格的に作っている。

「お待たせカズキ特性スペシャルカオスカレーだよ」

カレーが入った器と大量のパンが入った籠を持ってリビングへ戻るカズキ。

「遅いよ~」

「おぉ、これがかれーという料理ですね」

「待ちくたびれちゃいましたよ隊長」

「はやくはやく、もうお腹ペコペコだよ」

リビングには、リュークだけでなく、ミチノ、セラフ、ハート……と、誰か知らない緑髪の女が仲良く?トランプをやっている。

「それが作ってくれた者に対する態度かよ。あとテメェらは何しに来たんだ」

「何しに来たって、遊びに来たんですよ」

「遊びにってお前な。試合後なんだから来るなよ。ってか試合があってもなくても来るな」

「ひどーい。隊長がそんな悪党千万極悪非道馬鹿阿保のパッパラパーみたいなことを言うなんて酷いです」

必死に訴えるように言うハート。

「酷いのはお前だ!最後の方は俺をバカにしてるだろ」

悪く言う流れなのに馬鹿阿保のパッパラパーは明らかにバカにしてるだろ。

「まあまあ、そんな怒らないで。せっかくの料理が冷めてしまいますよ」

「言っておくが、俺とリュークとミチノさんの分しか無いからな」

「あ、私の分はあるんですね」

「一人だけ食べさせない訳にはいかないからな」

そう言うとカレーをリュークとミチノの前に、パンをテーブルの中心に置く。

最初は常識人だなと思っていたが試合が進むにつれ発想と価値観が狂人だなと思っていたが、最終的には優しい人なんだなと思ったミチノ。

「じゃあ私達の分は?」

「押し掛けてきたんだあるわけないだろ」

「その点は大丈夫ですよ。屋台で沢山買ってきましたから」

袋から包装された食べ物をとりだすセラフ。

そういえばこの大会は祭という扱いだからまだ外では屋台がある。けっこう日にちは経ったがまだまだ賑わってる。

「……で、この方は誰だ」

なんとなく雰囲気が落ち着いたので、今一番の疑問であるこの少女について聞く。

長い緑髪、紫色の瞳に頬に大きめの傷跡があるこの少女。

ここの制服を来ているから生徒なのだろうが、こんなやつは知らんぞ。

「酷いですよ隊長。さっきまで会ってたじゃないですか」

「いや知らんぞ」

「ミカルドですよ。さっきまで戦っていたミカルド」

「ミカルド?はて、俺の記憶では鎧に身を纏っていた奴だったような」

「その鎧を身に纏っていた奴ですよ」

「……へー」

「えええ!?あ、あなたがミカルド先輩なんですか!?」

ここで大声を上げて驚くのはミチノ、すっごい目をかがやかせている。

「しゃ、写真を一枚取ってもいいですか」

「だ、ダメです」

それに対して顔を赤くしモジモジしながら言うミカルド。

試合中では『オオオオ』とドスの効いた声しか叫んでいなかったから、こんな可憐な美声の持ち主とは到底思えない。そもそもこんな美少女とすら想像つかない。

「いいじゃんミカちゃん、これを機会に鎧脱いだら?」

「嫌です。は、恥ずかしいです」

「ミカルドさんは恥ずかしがりやで、いつも鎧を身につけていると。いい記事を書けそうです」

すぐさま手帳を取り出しメモをとっているミチノ。仕事がはやいな。

「ミチノさん。可哀想だから書いてやるなよ」

「えー。それはカズキさんが決める事じゃないですよ」

うわっ、人の知られたくない情報を流すとかそんな奴だったのか。

「安心してください。ちゃんと許可を取ってから書きますから」

「なら良かった。それで、ミカルド先輩はなぜここに?バカ二人に無理矢理連れてこられましたか?」

「バカ二人ってなによバカって!」

「バカだろお前ら」

「バカにバカって言われたくないよーだ」

「カズキさん、先輩に対して失礼ですよ」

「大丈夫だよミチノさん。こいつらにはこれくらいがちょうどいいんだよ」

「あ。その、初めてましてミカルド・バルティングです。よろしくおねがいします先輩」

ハートと言い合ってるとミカルドが突然立ち上がり、カズキに自己紹介をしたと思うと頭が地面につくほどのお辞儀をみせる。

だが、なぜ自己紹介を?それもこんな下手から。それよりも気になることがあった。

「ん?先輩?」

なぜか俺の事を先輩と呼ぶ。ミカルドさんの方が三年で先輩のはずなのに、これは一体……?

「神伐隊第七番隊傘下九十九番小隊隊長をやらせてもらってます」

「……ミチノ。席を外してくれないか?」

神伐隊。その単語を聞いた瞬間全てを理解した。……まぁそんな所だろうとは思っていたがまさかね。

これは公にしていい話ではない。すぐに記者(ミチノ)を除外しておきたい。

「ふえ?なんでですか!」

「ちと危ない話をするんだ。すまないが帰ってくれ」

神伐隊。神に代わって罪を伐する部隊、と言えば格好が付くだろうがようは神のパリシだ。おつかいやら依頼やらをやっていくが、主に悪魔や魔族、裏世界と呼ばれる所に住む罪深き者共を倒す事を本業とし、九十九ある小隊を、一から七までの隊に分け、その部隊をまとめる元老院がトップとする部隊。

先程も述べたように、神に使え危険な戦いを本業としてるので高い戦闘力と知力を要求される超エリート?集団なのだ!

「嫌ですよ。神伐隊の話なんてそうそう聞けませんからね」

「……あれ?神伐隊ってそんな公になってるのか?」

神伐隊の事を知ってるかのように言ってくるミチノ。

ばかな、機密部隊みたいなもんなのになぜ一般人が知ってる

「有名ですよ。ほとんどの隊員達は志願者ですから」

セラフから衝撃的事実を告げられるカズキ。初めて知ったぞ。

「それは初めて知ったな」

「それに、ミチノは私達の事を嗅ぎ回ってましたしね」

「あははは、やっぱりバレてましたか」

「当たり前ですよ。私達じゃなかったら拷問にかけられてましたよ」

「拷問ですか、それは怖いですね」

「次から気を付けてね」

どうやら、ミチノはもともとこの三人の事を追っていたらしい。だから命の危険がある情報か、納得だ。

まあ話を聞く程度ならとカズキを説得しその場にとどまることに成功したミチノ。

「それで、現役の神伐隊様が一般人の俺になんの用だ?」

「は、はい。私、カズキ隊長に憧れてこの世界に入って来たんです」

「……一般人って言ってるんだ、隊長なんてワケわからない事を言うのをやめてくださいよミカルド先輩」

「うっ、うぅ……そうですよね。あの時代に居なかった私なんかが、カズキさんを隊長と言うのはダメですよね。ごめんなさい、二度と言いません」

大粒の涙をこぼしながら許しをこうミカルド。こいつこんなキャラだったのか。

「わかった。わかったから泣くなそれでも天下の九十九番隊隊長か女々しい!」

「隊長。女々しいも何もミカちゃんは女の子だよ」

「…おっと」

「ひっく、ぐすん」

このまま泣かしておくわけにもいかないしな。周りの奴らの視線が死ぬほど痛い、なんとかして慰めなければならない、どうしようか。

「泣くな泣くな。別に嫌ってる訳じゃないから、そう呼んでも構わないから」

「本当ですか、ひっく」

「本当だから、泣くのはやめてくれ」

「ぐすん。わかりました」

なんとか泣き止み?はしたが、これがあの神伐隊の小隊長とは思えないな。

「ったく、これで隊長とは聞いて呆れるぜ。隊長……ん、隊長?……隊長!?」

こいつが隊長。それも九十九番小隊の隊長……ってことは。

セラフとハートの方をチラッと見ると、二人そろってゆっくりと頷いてくる。

「……俺の、後釜?」

恐る恐る聞くと再び頷く。なるほど…そうきたか。

どうりで、俺が造った鎧を身につけていた訳だ。納得。

「カズキさん、後釜ってどういうことですか」

メモ帳を持ったミチノが迫りよってくる。くそ、ちゃんと話を聞いてやがるなこいつ。リュークなんか呑気にカレー食ってるんだぞ、ちゃっかり俺の分まで。

「後釜は後釜だろ」

「なるほど、さっきから隊長って呼ばれてるのはそういう理由だったんですね……って、えええええ!?」

後釜、つまりカズキは神伐隊に所属していたという事。

それは声を上げ驚かずにはいられなかった。

「カズキさんが神伐隊に!?それも、セラフ先輩とハート先輩の上司!?」

「まあ、そうだな」

「こ、こ、これは大スクープです。大・大・大スクープです!!」

「それもあの伝説とまで言われた九十九小番隊の隊長。それがまさかまさかカズキさんだなんて、これは凄い事ですよ凄い事ですよ」

驚愕の事実と秘密に興奮を抑えきれず、大声を上げ跳び跳ねたりとはしゃぐミチノ。

「うるさいぞ貴様ら、静かにせんか!!」

ここで仕事から帰ってきたレイカ先生の登場だ!

いつものように片手に仕事で使う資料を持ってご立腹の様子。プライベートでも仕事をさせるとは学園長もブラックな方だ。さすがテラさんだ。

「むっ、お前はセラフとハート……ミカルドだったかな。なぜここにいる」

三年三人を見て首をかしげるレイカ。

そりゃ一年のFクラスの寮に来ているのだから疑問に思うのも無理はない。

というか、学園七不思議とされてるミカルドの姿を知ってるとは、さすが先生。しっかりと生徒の顔を覚えていらっしゃる。

「カズキさんに会いに来たんですよ」

「カズキにか?あぁ、負かされた相手だもんな」

来た理由が分かって納得する。

だが今日負けた相手の所に今日来るかな普通。

「まさかお前達が負けるとは思わなかったぞ」

学園が誇る最強の一角、それも二人同時に倒してしまったのだ。いくらカズキが異常に強いとはいえ、負けるとは思えなかった。

「負ける気は無かったんですけど、やっぱり強かっただけですね」

「うんうん、一撃で倒されると心が折れそうになるよ」

「わ、私も噂以上の強さでした」

「まだまだ全力出してないんだ、大したことないだろ」

「まあ、それはそうですけど」

「まだまだ弱いなー私」

「知ってるか知らないか知らんが、こいつらは四年前の悪魔襲撃の時に活躍した奴らでな。あの時は助けられたよ」

「そんな事あったっけ?」

「ほら、ダテさんがドーラを倒した」

「あぁ。はいはいありましたねそんなこと」

確か四年前くらいだったかな。アルガト王国に悪魔共が攻めに来たのは。

あの時は抗争が激しかったからな、しょっちゅうそんな事があったから詳しくは覚えてないが、ドーラの件は別だった。

神伐隊内では要注意人物として危険視されていた奴だったのもあったが、ダテ兄がいたってのが一番大きいがな。

「この話はやめだやめやめ、昔話をしに来たわけじゃねぇんだとっとと帰れバカ共」

「バカはお前だ。国を守ってくれた先輩に失礼だろ」

「いたたたっ。ギブッすレイカ先生」

締め上げてくるレイカ先生の腕を叩き降参の意を伝えるカズキ。だが力を緩めてくれる気配は全く無い。

ひどい。

「お前らもこいつに用があるかもしれないが、まだ試合が残っているんだ。終わってから来てやれ」

「ちぇ、つまんないの」

「ふてくされるな。私も、終わってからこいつに聞きたい事が山ほどあるからな」

むっ。やなよかん。

「まっ、隊長が負けるとは思えませんけどね」

「私達は失礼します」

「またお話を聞かせてください」

「おう」

三人は立ち上がると礼をしてから寮から出ていく。

「へー、礼儀正しいね。ちゃんと教育がなってるじゃない」

「当たり前だ」

「……ミチノ、夜も遅いお前も帰れ。記事集めは試合が終わってからにしろ」

「そんなー」

レイカ先生の手により、ミチノも寮からトボトボと立ち去る。

「ったく、訪問者が多すぎる。ここは溜まり場じゃないのに」

最近Fクラス寮に人が集まってくる事がおおいので、少しご立腹のようす。そりゃそうだ、夜遅くまで仕事をしてるのに騒がれたらイライラする。

こんど仕事を減らせないかテラさんに頼んでみよう。

「で、だ。私の夕食はあるんだよな」

「……ん?」

そういえばわたくしとリュークとミチノさんの分しか作ってない。で、リュークは自分の分と俺の分も食べた、ミチノさんもちゃっかり完食してる。当然レイカ先生の分はない。

これは怒られる。なにか打開策がないか、とりあえずリュークの方を見ると女子部屋に戻ろうとしている姿が。

「おい、あ、テメェこらリューク、逃げんなよ」

「お前だけ食べて私の分を作ってないとはどういうことだ!」

「え、あ、いや、その、残業で遅くなって食べないと思い作ってませんでした」

「そんなわけあるかー!!」

「じょ、冗談です。出来立ての御飯を食べていただきたく今から作るのです。ささっ、仕事の疲れをお風呂で流してください」

「即興の言い訳だな。まあいい、私が上がるまで作っておけ」

「了解しました!」

そう告げると浴場へと向かう。急いで夕食の支度をする。

死のタイムリミットは近い!!

逃げやがったリュークを怨みながら作るのであった。

 

 

 

 

 

つづく



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打ち上げ

 

 

「さて、さくっと決勝戦終わらしますか」

「やっとだね」

「お前戦えよな」

「やーよ、めんどくさい」

「お前何しに大会に出てるんだよ」

「この世界の進化を観察してるの」

「はいはいご苦労様です」

ついに来た決勝戦。結局残ったのはカズキとリュークのみ。本来なら全員で挑む予定だったが、準決勝での相手が悪すぎた。

ここで負ける訳にもいかない。きっちり優勝し剣舞祭への出場権を頂く。

試合場に入ると歓声も罵声も何もない。前まではあれほどうるさかったものが今では無人のように静かだ。

対戦相手はAクラスの上級生。勝てないと思ってもせめて一太刀と覚悟を決めてある顔をしている。そして恐怖よりも怒りの感情が前に出ていた。

「あの覚悟……手強いな」

「骨のある生徒がいて良かったね」

「あぁ、申し訳ない気持ちで一杯だ」

本当なら学園の猛者達と高め合い勝ち、もしかしたら剣舞祭に出れたかもしれない。すまねぇな大会を自分勝手に滅茶苦茶にしてよ、俺なんかが出てきちまってよ。 

だが俺にも勝たないと、剣舞祭優勝しないといけない理由があるんだ。

試合開始のブザーが鳴る。カズキはゆっくりと刀を鞘から抜き構える。

「さあかかってこい。俺と戦ったという剣舞祭優勝などという名誉以上をくれてやる」

「うおおおお」

「せめて一太刀でも」

「やってやる」

手に神威で顕現した武器、ミスフォルツァを握り一斉にカズキにめがけ攻撃してくる。

「気現の太刀で仕留めてやる」

向かってくる生徒をミスフォルツァごと切り捨てる。

「なっ!?」

「うっ、うわあああ」

臆しながらカズキに向かうも、全て一撃で斬られてしまう。

「気現流に二撃もいらん。全て一撃で仕留めるその覚悟に威力がうまれる。覚悟こそ強さだ、よく覚えとけ」

僅か数十秒足らずで試合終了のブザーが静かに鳴らされる。

長期にわたる大会、その決勝戦があっけなく終わった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大会も終わったし打ち上げでもやるか?」

「みんな退院してないのに?」

「……お預けだな」

なんて会話しながら寮へと戻るカズキとリューク、ちなみに表彰式があるのにもかかわらずだ。

「で、これからどうするの?」

「そうだな、剣舞祭まで日数あるしな。また授業と修行の日々だな」

「そうじゃなくて、カズキがどうするの」

その問にカズキはしばらく黙ったあと

「……別に、いままで通りさ」

そう答えた。

「……ふーん」

リュークも興味無さそうな反応で返してくる。

「明日から普通の授業だ。やってらんないぞー」

「そうだね」

「まずはベットで寝ている仲間に優勝報告だ」

と、寮へ戻る道を回れ右して医務室へと向かう。

「よお元気かい諸君!優勝手土産にお見舞いに来たぜー!」

いつも通り医務室内で無礼な入り方をするカズキ。

当然医師に怒られる。すみません。

「相変わらずバカまるだしだなカズキ」

その姿を見て笑いながらやってくるジェルマン。

「その悪態元気そうだなジェルマン」

「こちとらいつも元気だよ。ただここの医師が出させてくれねーだけだ」

「他は?」

「ノアとルリーは大人しく寝てる。レオンは飯食ってる」

「で、お前は?」

「暇だから病内徘徊してる」

「本当に暇してるな」

「今日の夜には退院だ」

「やっとだな」

「……俺は、俺達はもっと強くならなきゃいけねぇ。準決勝戦の時に自分の力の無さを嫌と言う程思い知らされた」

あの試合は蹂躙に近かった、手も足も出ずにただただ圧倒されただけだった。

「気にするな。と言いたいが、最強を目指すお前には避けて通れない通過点だぞ」

「分かってる。俺達が束になっても届かなかった強さ。だがお前はそれを越えちまった」

「それは俺があいつらより強かっただけの話だ」

「けっ、憎たらしい。俺が言いたいのは、お前は何者なのかそれが知りたい」

「知ってるだろ?俺はヒノモトのサムライだ、お前らがギャーギャー騒いでるレオルド帝国を滅ぼした一人ってなだけの普通の人間だ」

「ヒノモト……不死身のクニヨシ、千人斬りのダテ。ヒノモトの人間は必ず世界の話題になる、お前もそれに肩を並べてるのか」

「さあな、偉大な二人ほど俺は有名じゃない」

自身の知名度なんて考えた事もなかったが、ジェルマン達がカズキの事を知らなかったのでそんな有名ではないと簡単に推測できる。

「ヒノモトの話なんてどうでもいい。お前はこれからどうするんだ」

「俺は、修行してもっと強くなる。いずれテメェをぶっ殺してやるからな」

「殺意なら対戦相手にぶつけろよな」

「うるせぇ。俺は俺より強いやつに勝つ。たとえ仲間でもだ」

「素晴らしい精神だ。楽しみにしておこう」

「で、お前は何しにきたんだよ」

「あぁ、お見舞いだよ。ついでに優勝報告」

「優勝したのは知ってる」

「なーんだ。つまらん」

「まずお前が負ける訳ないだろ」

「まあ知ってるならいいや。退院祝いと優勝祝いを兼ねて打ち上げでもやろうぜ」

「おっ。お前にしては気がきくじゃねぇか」

「うるせぇほっとけばーろい」

「みんな連れて寮へ戻るから待ってろ」

「へーへー」

てことで、寮でしばらく待っているとジェルマンら全員が帰ってきた。やっと全員が揃ったぞ!

「やあやあ。退院おめでとう諸君!」

「なにがおめでとうだバカ」

「表彰式にでないで。あとでレイカ先生に怒られてもしりませんわ」

「後が怖いですよ」

と、なんかめっちゃ怒られてるんだけど。別にいいと思うんだけどな。

「で、どこにご飯食べに行くんだ?」

そんな奴らとは別に食事の事で頭一杯のレオン。医務室の飯は美味しくもなく量もすくなかったそうだ。

「街にいいレストランがあるんだ。そこ行きましょ」

外食しようと提案するカズキ。まあたまにはね。

「ん?外食か?」

「いいな」

「いいですけど。お金は大丈夫ですの?」

「足りなければわたくしが出しますわ

「それは悪い。しっかり割り勘だ」

「レイカ先生の夕食はどうするんだ?」

「置き手紙を書く。店の名前も書く。これなら文句ない」

メモ用紙にサラサラッと書いてテーブルに置く。これでバッチリだ。

「なら大丈夫だか」

なぜか納得するジェルマン。

「決まったなら早く行こう。腹が減った」

「そう急かすなよ」

てなわけで、Fクラス移動中……。

 

 

 

 

 

 

街頭で明るく夜になるとまた違った賑やかな街並みに変わる。

いつも、といってもたまにしか来ない街の変わった雰囲気を感じながらもカズキの案内でその店へと向かう。

「ここだ」

石造りで少し古びた感じがする外装のお洒落なレストラン。看板には『天上天下』と大文字で場違いな漢字が書かれている。

「……ここって」

「天上天下。ヒノモトの言葉で天の世界と地の世界、つまりこの世の全てって意味だ」

「ヒノモトの言葉…?」

「俺の知り合いがやってるんだ。まあお前らも知ってるやつなんだけどな」

とりあえずドアを上げ中に入る。内装は木製で外装と違って綺麗で清潔感溢れている。

カウンターとテーブル席がある少し狭い空間、そこには一人の少女がテーブルを拭いていた。

「いらっしゃいませ、何名さ……まですか」

青髪のポニーテールも揺らせ満面の笑顔で接客をしていたルイス。カズキ達を見るなりその笑顔が崩れ固まる。

「宣言通り来たぜルイス」

「か、カズキ。なぜここに。しかもみんな連れて」

「優勝祝いだよ。外食するならやっぱりここだろ」

「ノア、ジェルマン。なぜ止めなかった」

「まさかルイスさんのお店に行くとは思ってもいませんでしたわ」

「ああ、なぜここにしたんだよ」

二人を見て言うが、知らなかったと答えるだけだった。

どうやらノアとジェルマンはここがルイスの家がやってる店とは知っているようだ。

「ここだと色々と都合がいいんだよ」

「まあいい。好きな席にお座りください」

「お?切り替えがはやいね」

「いくら友人でも大切なお客様だ。しっかりとおもてなしはする」

「けっ、どっかで聞いたことあるセリフだな」

「ですわね」

カズキ達は全員が座れるテーブル席に移動する。

「へー、素敵なお店ですね」

「そうだな。ルイスも家の手伝いもして学園では風紀委員として頑張って、偉いな」

店内をキョロキョロみて感想を述べるルリーとルイスを見て感服するレオン。

「メニューがお決まりになりましたらお声をかけてください」

水が入ったコップを人数分テーブルに置くとメニュー表を渡す。

「いろんな種類があるんだな」

「ルーンブラッドの料理もありますね」

メニューの種類の多さに驚き何を頼もうか悩んでしまう。

「俺はもう決まってるぜ」

「わたくしもですわ」

ジェルマンとノアを除いてだ。

「はやいな」

「何度も来たからな」

「そうですわね」

「……常連なのか?ルイスの事苦手そうだったのに」

「学園のルイスさんは苦手ですけど、プライベートのルイスさんはとても良い人なのですわ」

「そうだな」

ノアの言葉に頷きながら賛同するジェルマン。

プライベートで会ったけどあんまりかわらなかった気がするんだけどな。

しばらく雑談を交えメニューを決める。

全員が決まり終えると、ルイスを呼ぶ。すぐにメモ帳を持って出てくるのがさすがだ!

「俺はこの危険種のステーキ盛り合わせを頼もう」

「おいこら共食い」

「知らんな」

「私はグラタンをお願いします」

「俺はまかない丼だ」

「わたくしはシーフードパスタの貝抜きですわ」

「ヒノモトの料理を頼もうか」

「んー、この店のオススメがいいな!」

「申し訳ございませんお客様、メニュー表に無いものはご注文できません」

「だってよ、はやくかえろよな」

そんな失礼なことすんのかよ。信じらんねー!

「……カズキ、メニューにないものを頼むな」

「あ、俺ね」

なんだ、俺の事かよ。

「ヒノモトの食文化なんて私が知るわけ」

「いいぞ、作ってやる」

呆れるルイスの後ろからエプロン姿の青年が言ってくる。

「あ、兄上」

「お客様のニーズに合わせて料理を作るのは料理人の仕事だぞルイス」

笑いながら言うこの青年。ルイスの兄、シバ。兄妹そろって青い髪と凛々しい顔つきが似ている。

「でも、ないものをつくれだなんて」

「大丈夫。近々ヒノモト料理もメニューに加えようと思っていたんだ。採点頼むよカズキ」

「任せてください」

「みんなもルイスの友達かい?妹が世話になってるね。不器用で硬いやつだけど仲良くしてくれ」

「兄上、そんなことはいいから料理を頼むよ。ほら注文表」

メモ帳をシバの胸に押し付けながら厨房へ戻すルイス。

恥ずかしいのか、顔が赤い。

「相変わらずの兄貴だな」

「うるさい黙れ」

「仲良くていいですわね。微笑ましいですわ」

「黙れ黙れ黙れ、頼むから言わないてくれ」

顔を真っ赤にして厨房へ逃げるように立ち去るルイス。

「人間味があるねかーわいー」

「学園の堅物が見違えるな」

「そうですね」

ルイスの意外な一面も見えた所でカズキがある話題をあげる。

「みんなは、剣舞祭までの間に何かするのか?」

「何かする……ですか」

「あぁ、何か準備とかなんでもいい」

「んなもんトレーニングしかないだろ」

「ジェルマンの言う通りだ。俺達はお前ほど強くないからな、遊んでる暇はない」

「レオンさんの言い方はトゲがありますけど、私も同じ考えです」

みんな、自分の弱さを知り修行に明け暮れるようだ。偉い、偉いぞ!さすがだ!

「……そうか、みんな大変なんだな」

「カズキさんは何かするんですの?」

「俺か?俺は一度ヒノモトに帰ろうと思う」

「ヒノモトにか!?」

「いつ帰るんだよ」

「近々ある長期休暇の時だ」

「長期休暇ぁ?そんなもの合宿とかになって潰れるのがオチだろ」

顔を歪ませながら言うジェルマン。

「だが、故郷には帰っておきたいな」

「そうですわね。家族に剣舞祭出場の報告をしておきたいですわ」

「ただの帰省じゃない。レオンの妹の件や、ルイスとシバの兄さんの件について話さないといけない」

「ルイスとシバさんについてもか?」

「ダテ兄から機会があればヒノモトに案内しろと言われましてね。できれば例の恋人も連れていきたいなーと思ってるんですよ」

「恋人か、案外近場にいるものだぞ」

「近場ばぁ?」

「へー、千人斬りのダテか」

「ダテって、あの数年前に悪魔の軍勢を食い止めた英雄!?」

「魔軍ドーラとの戦いだろ?有名だぞ」

レオンもその会話に参加してくる。めっちゃ有名なんだな。

「ダテ兄があんなカス相手に負けるわねーだろ」

「死の太陽が降ってきたりしたのにな」

「あぁ魔炎星か、そんなんあったな」

「伝説の戦いですね」

「伝説ね。そんなに凄い戦いではなかったと思うぞ」

ここで料理を持ってきたシバが言ってくる。

「そうなんですかシバさん」

「俺もその戦いに携わっていたからな。あとレイカも」

「レイカ先生もですか」

「悪魔達は強かったよ。一人一人が強い、それが軍勢として襲ってくるんだ、さすがの俺もダメかと思ったよ。でもダテが来てから一気に逆転してな。神伐隊も来たし、そこからはすぐに終わったさ」

悪魔によってほとんど壊滅状態だったが、ダテ達が来てから一方的に叩き潰したあの光景は今でも忘れられない。

「俺達にとっては伝説かもしれないが、あいつらにとっては当たり前なんだろう。なぁカズキ」

「そおっすね」

「……神伐隊か」

「神の為世界の為戦う組織。最強を名乗るなら越えなければならない壁」

みんなの反応を見て、やはり知られている組織なんだなと実感したカズキ。

「まあそんな堅い話はともかく、腕によりをかけて作った料理だ。おいしく食べてくれ!」

「はい」

「いただきます」

「うまい。濃くもしつこくない味付け、噛めば噛む程肉汁が溢れるぞ」

肉の盛合せを食べ進めるレオン。

「俺特性のタレで味付けしたからな。肉も今朝狩った危険種で新鮮だろ」

「このグラタン、チーズがたっぷりでのびのびです」

「ここのパスタはどれもおいしいですわ。レシピも教えほしいくらいですわ」

「おー、これがおすすめ!おいしそう!」

「はっ、てめえらわかってねぇな。ここのまかない飯がいっちゃんうめぇんだよ」

「ジェルマンは時々食べにきてくれるよね。あと稽古にも顔を出すしね」

「あんたを倒すまでは通ってやんぜ」

「天ぷらと寿司か、無難だな」

カズキの前に出された料理は海老や野菜を揚げたものと様々な魚の寿司。彩りもよくどれもおいしそうだ。

「うまいな。だがなー、醤油が無いってのは痛いな」

「ショウユ?たしかあのしょっぱいやつですわね。ヒノモトの調味料なのですか」

「まーね。あの時振る舞ったのもヒノモトの飯だしね」

「そうなですの。こんどレシピを教えてほしいですわ」

「おっ。いいぞ」

「そういえばお前達はトーナメント優勝したから剣舞祭に出場するんだろ?」

「そうですね」

「いやーまさか下級生に出場権を取られるとは、アルセウス学園も落ちたか」

「というよりも、カズキさんがいたからだと思います」

「悔しいが、そうなんだよな」

「ミカルド先輩とセラフ先輩にも勝ちましたもんね」

「ほー、現役の神伐隊の面々がいたのに勝つとはな。さすがはカズキ、最強無敵は違うな」

「バカ言わないでくださいよ。最強でも無敵でも無いっすよ。まだ勝てないやつもライバルもいるんですから」

「お前が勝てないやつか、気になるな」

「いるんかそんなやつ」

「当たり前だろ。案外近くにもいるかもよ」

「えー、気になるなー」

「うっせ、だまれ」

「お前ら酒は飲めるか?」

「葡萄酒くらいなら少しだけ」

「そんな手持ちないぞ」

「金なんて気にするな。再開と優勝祝いで今日は俺の驕りだ」

ワインとグラスを持ってやってくる。

「親睦を深めるために話そう…」

「兄上、みんな門限があるんだ。ほどほどにしてやってほしい」

「わかってるよ。酔い潰すのはまた今度さ」 

「あ、わたくしはルリーさんの生い立ちとか気になりますわ」

「わ、私ですか」

「魔女ってどんな暮らしをしているのかとっても気になりますの」

「ルーンブラッドか、俺も行ったことないから気になるな」

「え、えっとですね」

突然の事で焦っているルリー。

だが、神威とは違った力である魔力を持ちそれを活用した魔法はルーンブラッドだけで、文化も異なる所が多くそれも広まっていない。最大面積と秘境をもつアニマニアとは違った意味で謎が多い。

皆が興味を示すのも納得だ。

「その、私の事はそんな話す事はありませんがルーンブラッドという国の説明ならできます」

「おお、よろしくたのむよ」

などとルーンブラッドの話で盛り上がりながら食事とお酒を楽しんでいたが、門限がどーのこーのとルイスがうるさく言うので少ししたから寮へ戻るのだった。

ちなみにこの後レイカ先生に色々と言われたのは別のお話ってやつだ。

 

 

 

 

 

 

つづく



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アルガド国王の依頼

 

 

 

 

学園トーナメントが終わり、また平穏な日々を送っているFクラスの面々。そう、平穏な日々を……。

「死ねやオラ」

「おおおおお」

グラウンドではジェルマンとレオンが全力の試合を行い。

「フリーレイン」

「マシンガンボム」

ノアとルリーも遠距離から弓と魔法の激しい打ち合いをしている。

そして

「まだまだ動きが雑なんじゃない?」

「抜かせ。互いに遊んでるんだからこんなもんだろ」

リュークとカズキがやりあっていた。

激しく楽しく明るく戦うなんて平穏な日々だな!!

なーんて日常を過ごしている。いつも通りヘトヘトになりながら今日も授業が終わる。はずだった。

「おいこらノア。今日の夕飯はなんだ」

「今日はハンバーグですわ」

「おぉ、手の込んだ料理!さすがノアさん」

「ノアさんは料理が上手だからご飯が美味しいです」

「おかげで毎日のご飯が楽しみだ」

「でも無理はしないでね」 

などと、たわいもない会話をしながら帰宅しようと教室を出ようとすると。

「そうだお前ら、明日アルガド宮殿に行くから身なりを整えとけよ」

ふとレイカ先生が言ってくる。

「は?」

当然意味わかんない顔になる一同。

「剣舞祭に出場するんだ。ライク王にその挨拶をするのが恒例なんだ」

「はぁ!?やだよめんどくさい」

とてつもなく嫌な顔をするカズキ。

「私もやったんだ。めんどくさい気持ちは分かるが、従え」

「あら?国王様に会えるんですわよ。とても光栄な事ですわ」

貴族のノアや軍家のジェルマンは共に名家出身なため、こういった行事には馴れており名誉あることをだとも思っている。

そのため、他の四人より堅苦しくめんどくさいなという気持ちは持っていない。

「絶対に嫌だ」

「そんな嫌な面しなくてもいいじゃないか」

「そうですよ。挨拶だけならいいじゃないですか」

「……挨拶だけならいいが、やっかい事はごめんだぞ」

しぶしぶ承諾するカズキ。一体何が嫌なのかわからない。

 

 

 

 

 

 

て、なことがあったわけで!

今王宮に居る。

アルガド王国の中央にあるに大理石の王宮。

その華々しく偉大な建物はこの国の名誉と発展の象徴でもある。

きめ細かな彫刻や華やかな装飾が施された一室。その中央に敷かれた赤いカーペットの先にある上に設置された黄金の玉座に座っている少女。

……少女?

王というには幼い気がする。いや幼い、俺よりも年下なのではないか。

従者とレイカ先生に連れられ来たが、いったいどうなるんだろうか。

「おいカズキ、頭を下げろ」

「いで」

王に見入っているカズキの頭を掴み無理矢理下げさせるレイカ先生。そんな強くやらなくてもいいのに。

「ラウラ王女殿下ご無礼をお許しください」

「……別に構わないわ。頭を上げてちょうだい」

呆れた顔をしながら頭を上げる許可をだす。

これで王女の姿がしっかり見える。

小さな金のティアラを頭に乗せ、赤と白の高貴な服装に身を包んだ可愛らしい少女。やはり子供にみえる。

「よく来たわね、アルセウス学園最強のチーム。……アルガド王国の人が一人しかいないのは残念だけど、アルガド王国の繁栄と個人の名誉の為に頑張ってね」

「……レイカ先生、あの方が王なのか?どうみても少女だが」

レオンが小声で聞いてくる。こんな時に聞かなくてもいいのに、失礼なやつだ。

「王ではない、彼女は」

「申し遅れましたレオンさん。私の名はラウラ・レイ・アルガド。急遽予定が入り不在になってしまっお父様の代わりに娘である私がご挨拶を受けることになったのよ」

レイカ先生が小声で説明しようとするのを割って入るかのように自己紹介をするラウラ。聞こえていたのだろう。

「俺達より幼いのに、偉いな」

「当然ですわ。いずれアルガド王国を背負って立つお方なのですから」

「あら、あなたはアルバートン家の長女だね。お久しぶり」

「お久しぶりでございますラウラ王女」

どうやらラウラとノアは顔見知りなようだ。そういや、ノアはどっかの領土主の娘で偉い貴族だったな。だから何度か会う機会があるから面識があるのだろう。

「あなたの活躍は聞いているわ、優勝を期待しているよ」

「ありがとうございます。必ずや優勝してませます」

「他の者達も話は聞いているわ。特にカズキさんについては大々的に聞いているわ」

「俺か?」

「試合中に台風を起こしたり神伐隊のミカルドとセラフにも勝って、盗賊の始末に囚われた国民を助けてくれた事もあったわね」

「あー…ありましたねそんなこと」

くそ、ここまで話が回っているとは。こうなる事は分かっていたが、ここまで目立つと絶対やっかい事に巻き込まれる。

「まずは我が大切な国民を救ってくれたことを感謝するわ。ありがとう」

「たまたま助けただけなんで、別にそういうのはいらない」

国を代表して感謝する心がけは素晴らしいが。本当にいらない、はやく帰らせて。

「そんな優秀なあなた方に頼みが、いえ、依頼をしたいの」

話を変え一枚目の紙をレイカ先生に渡す。

ほらきた、やっかい事が来たよー!

「……グラトニーの討伐ですか」

「ええ、サーマリア地方に最近現れてね。危険種も人も手当たり次第食いあさってるの」

「討伐でしたらアルガド王国の兵士でも派遣したらいいかと」

「したんだけど返り討ち。巨大過ぎて手に追えないみたいよ」

「なら近衛兵をだしたら」

「ほとんどが悪魔退治に向かって派遣できる人がいないの。だから優秀なあなた方に頼んでいるのよ」

なるほどね。怪物退治だけでなく悪魔退治ときたか、国民を守るため王様も大変なんだな。

「これから剣舞祭にむけ修行をしなければなりません、なにより生徒達が危険です」

「だからいいのよ。いい修行相手になるでしょ?」

「……お言葉ですが王女殿下、悪魔討伐なら神伐隊が、怪物討伐なら我々ではなくセラフやハートでもいいかと。それに怪我をしたら元も子もありません」

「そうはいかないわ、それにこの程度に勝てなかったら剣舞祭でも勝てないわ」

「つまり、我々の実力を計るということですか?」

「今回は神伐隊の面々が出場する、つまり猛者中の猛者が集まるわ。まさしく最強を決める戦いになる」

「……何が言いたいのですか」

「私は信じられないの。あの神伐隊の最強と呼ばれた九十九番小隊のメンバーに勝ったということが」

なんか悲しそうというのか悔しそうというのか、なんともいえない表情をしながら言うラウラ。

そこまで有名だったけ?と考えてみるが、そんなことないとすぐに結論を出す。

「もちろん報酬も出すわ。どうかしら?」

「……受けましょうレイカ先生」

「だがな、試合があるのに」

「たかがグラトニー如きに手をやいてるようじゃ剣舞祭に勝てませんよ。それに本当に神伐隊が出るならもっと強くなる必要があります」

「お前グラトニーがどんな奴なのか知ってるのか?」

「知っているさ。あいつの肉は旨い!」

「なに!?本当かカズキ」

カズキの言葉に過剰に反応するレオン。

「レイカ先生、俺達も構わんぜ。修行相手ならもってこいだ」

「ラウラ王女殿下のお頼みならば喜んで受けますわ」

ジェルマン、ノアもやる気満々だ。

「……はぁ、わかった」

レイカ先生も生徒達が良いならと渋々だが承諾してくれた。

「決まりね。馬車の手配はしてあるからすぐに行ってもらうわ」

「え!?今ですか?」

「そうよ、急を要する事態だからよろしくね」

よもや今とは。なんてやつだ。

だが、ここで文句たれても仕方ないのでくずに向かうのであった。

 

 

 

 

つづく




 


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洗いざらい

てことがあり、今は馬車に揺られながらサーマリア地方へ向かっている。

ちなみにグラトニーとはピンク色の長い胴体に六本の足、二つの腕に四つの小さな目と巨大な口を持つ。名前の通り大食いで自分より大きくてもどんなモノでも丸呑みにし捕食する魔物だ。

サーマリア地方にある森の奥深くに巣があるのが確認されており、これ以上被害が出る前にしとめるそうだ。

「グラトニーだって、珍しい事もあるんだね」

「ここは裏世界に繋がる唯一の場所だからな、いても不思議じゃない」

「裏世界?」

「こっちの話です。気にしないでいいよ」

「気になるじゃねぇか。なんだ裏世界って」

「悪魔や魔物がいる世界、お前らで言う魔界だな」

「え?じゃあグラトニーって」

「魔物だな」

「危険種じゃ勝てない訳だ」

レイカ先生はその事を知ってたから依頼を受けるのに渋っていたんだろう。相変わらず素晴らしい先生だ。

そんな先生は学園に戻っている。なぜかと言うと、俺達生徒の依頼だからだ。

「……なぜその事をお前が知ってるんだ?」

魔界からの敵は主に神伐隊が戦っているので一般人には情報がほとんど流れてこない。だが、カズキは詳しく話しているので不自然に思えてるのは当然だろう。

神伐隊は知られてるから魔界の事も知られているはずだと思っていたカズキ。誤算ッッ!!

「そりゃ、ヒノモトだからだよ」

「そうなのか?」

「そーさそーさ」

と、首をポリポリかきながら適当な事を言って誤魔化そうとする。

「なんだ?ヒノモトには悪魔がくるってか?」

「悪魔は来ないが、それよりも恐ろしいお方がくる」

「なんだそれ」

「ヒノモトも大変なんですね」

なんとか誤魔化せたようだな。別に嘘を言った訳ではないしいいよね。

少しほっとしていたら急に馬車が荒れだす。外では馬が鳴き声を出しバキバキと木々が倒れる音がする。

「何事ですの」

急いで馬車から降りるFクラス一同。

目の前にはグラトニーの巨体が道の真ん中で倒れている。

ただ倒れるのではない。体には切り傷があり、手足が斬られ緑色のドロンドロンの血が流れている。

明らかに戦った後で、絶命している。

「あれがグラトニーか」

「死んでるな」

「……カズキ、本当にうまいのか?あれ」

「見た目はああだけどな、ゲテモノ料理ってやつさ」

「ゲテモノねぇ……」

「お前こんな時でも飯のこと考えてるのかよ」

「いいだろ別に」

「警戒を緩めないでくださいまし。これを倒したモノが近くにいるかもしれません」

ミスフォルツァを展開し周囲を警戒しているノア。

「おっと、それもそうだな」

それに続くようにそれぞれ四方を警戒する。

「こいつを倒したってことはスゲェ奴なんだろうな」

「人か危険種か、それとも悪魔か」

とにかくグラトニー以上の化物が出てくるはずだ。

一体どんなやつが出てくるのだろうか周囲に気を配っていると、倒れてたグラトニーがグオオオオと大声を上げて大口を広げ此方に倒れるよう捕食しにかかる。

「こいつ、まだ生きて」

死んでいるんだと思い完全に不意をつかれた。すぐに戦闘体勢になる。

だが、胴体を横に真っ二つに斬られ横へ倒れる。

「正義粛清!です」

グラトニーの屍を踏みつけながらニッコリ笑顔で呟く緑の長髪に紫の瞳の少女。

こ、こいつは……。

「あ、あなたは……」

「誰だ?」

「大丈夫ですか旅のお方……おや?アルセウス学園の制服。私の後輩か、良かった良かった」

駆け寄って近づくなり、制服姿を見て更に安心する少女。

よく見るとこの少女も汚い血が付着しているが、アルセウス学園の制服を着ている。

「あ、あの、あなたは」

「あああああタイチョー!お疲れ様です!!」

ルリーが問いかける途中。その少女はカズキを見るなり近づくと頭を深々と下げる。

「み、ミカルド先輩」

この少女は準決勝で戦ったあの鎧の奴だ。試合後寮に押し掛け正体を明かした健気で純粋な少女だ。そして、俺の後釜という……。

「はい。なんでしょうか」

「隊長はやめて」

「……うぅ。ご、ごめんなさい。やっぱり私なんかがひっく、ぐすん」

すぐに泣き出す。

「うーわーカズキが泣かせたーサイテー」

「女の子を泣かせるなんて酷いです」

「レディにそんな事するなんて最低ですわ」

「お前がそんか奴だったとはな。見損なった」

「けっ、ゴミグズが」

するとリューク筆頭に罵声罵倒罵詈雑言の嵐。

他は知らないから仕方ないが、リュークテメェは知ってるだろうが!

「泣くな泣くな」

「わ、私は仲間外れ」

むしろやめた身である俺が仲間外れな気がするが、今そんなこと言ってる暇はない。

「んなこない。入った奴全員が仲間だファミリーだ」

「ほ、本当ですか」

「本当本当。だから泣くな、守る側なんだ常に笑顔だ!分かったな」

「はい」

「よーし、いい返事だ」

ふう、なんとか切り抜けたな。

「で、この人とはどんな関係なんだ?」

「親しく話してる所を見ると、お知り合いなんですの?」

おっと。肝心な所が切り抜けていなかったな。

「えぇ?あ、えーっと」

ここで返答を間違えれば変な方へ話が進む。だが素直に話せば神伐隊がどーのこーのとなる。最悪だ。

「ミカルド・バルティグンです。よろしくお願いたします」

「ミカルド……」

「バルティグン?」

「……って、あの学園最強の鎧野郎か!?」

その名前を聞いて思い出す。あの時戦った化物の事を。

「こんな可愛らしい人だったなんて」

「そもそも女性だったんです!?」

「え、あ、はい。私、女の子なんです」

「この人に俺達が勝てなかったのか、信じられないな」

「嘘だろ………」

「…で、なんでここにいるんですか?」

「街で噂になっていたので、ちょうどクエストであったので人々の不安を無くすためにグラトニーを討伐しに来ました」

ようは人助けらしい。そういえばギガドラの依頼も受けていたし、根っから善人のようだ。

「あらら、俺達の獲物が」

「まあ仕方ないな」

「そんな事いいから食べようぜ」

「食欲ばっかだなお前はよ」

「え?何かあったのですか?」

「いや、俺達も依頼で来たんだけど先輩に先越された」

国王から依頼受けたんだよー的な事をミカルドに説明する。

「この程度、隊長のお手を煩わす程でもありませんよ!」

説明を受けて納得したかと思えばそんな事を言う。

頼むからみんなの前で隊長とだけは言わないでくれ

「なんでしたら、私から説明しますよ」

「いや、大丈夫だ。話が拗れる」

「拗れる?」

「いや、なんでもない」

ここで俺が拗らせる訳にはいかない。とりあえず今は一度宮殿に戻ってあの王女に事情説明をしよう。

と、思ったが空から黒い何かが勢いよく降下してきて、グラトニーの遺体を掴み飛びさっていった。

あまりにも一瞬の事で、皆は呆気にとられていた。

カズキとミカルド以外は、だ。

「ここで会ったが初めてだなぁ。ガンジ」

炎の鎖がその何かを捕らえており、力任せに引き寄せ地面に叩きつける。

「三ヶ月前に悪魔共をアルガド王国に差し向けて来たのはテメェだよなぁ?覚えてんぞ!あぁ!?ぶっ殺す!」

その正体は黒い剛毛を身に纏い羊のような捻り曲がった角にコウモリのような羽をもった筋骨隆々の化物。それは誰しもが連想する悪魔の姿だ。

「へー、もうここまで侵略してきてるんだ」

「ガンジってジンカンの部下」

「そんなの知らん」

「ミゼバーサーカー。それにカズキまでいる……新旧小隊長が揃いも揃って出くわすとはな。俺の命もここまでか」

「遺体の回収。今回の件……テメェらの仕業か?」

「答える必要はない」

「ならば死ねい」

「ぐわああぁぁぁ」

足に繋がれた炎の鎖が燃え上がり身を焼かれるガンジ。

おぞましい断末魔を上げながら死に絶えてゆく。

「ジンカンめ、小賢しい真似しやがって……ぶっ潰してやる」

「私の正体を知っているとは……なかなか侮れない悪魔ですね。で、どうしますか」

「……まずは王女に連絡。その後はお前らに任せる」

「おいカズキ。どうゆう事だ」

「とうした?」

「どうしたじゃねぇよ。さっきのはなんだ」

「あぁ、魔界の悪魔だ」

「あ、悪魔!?」

「あれが悪魔なのか、初めて見た」

初めて見た悪魔に驚きながらもその存在は伝説ではないことを認識する。

「アルガド王国に目を付けてるな、近々大群で来そうだな」

「魔界に唯一繋がっている大陸ですもんね。恐れていたことが起こりそうですね」

「……そうだな」

詳しい話や質問は後にし、乗ってきた馬車に乗車しアルガド宮殿へと戻る。

その最中で、魔界の事や悪魔についてなど軽い説明を皆にする。

魔界とは、まだ発展されていない大陸で、世界の裏側にあるとされている。強力な精霊や妖精、魔物、悪魔などが暮らし魔王が支配している未開の地である。

悪魔とはみんなが思っている通りの奴らなので説明はなし!!

ただ一つ伝えた事としては、魔界の住人にも良い奴はいる。特にミカルドには言い聞かせた。

などとしているとアルガド宮殿へと戻り、再びラウラ王女と対面する事になった。

「なるほどね。グラトニーはミカルドが倒したと」

一通り説明すると溜め息をつき不服そうな顔をするラウラ王女。

「まあいいわ。どっちしろ仕留めてくれたのだし、無駄足だったけどありがとうね」

「ちっ、イライラする言い文だな。ドルツェルブの皇帝陛下の方が礼儀正しいぞ」

ラウラ王女の上から発言に額に青筋が浮き上がるほど憤りを感じるジェルマン。

「ミカルドも忙しい中でありがとう」

「当然の事をしたまでです」

「……でも、悪魔が現れてカズキが倒したってのは信じられないわ」

悪魔が現れて、更にカズキが倒す。カズキの実力を知らない者にとっては信じられない事だ。

「隊長をバカにするのは私が許しません」

「落ち着けミカルド、この程度で怒ってたらダメだ」

「しかし」

「……隊長?」

隊長という言葉に首を傾げるラウラ王女。

「用件は以上です。それでは失礼します」

不味いとすぐ察知したカズキは間髪入れず話を切り上げ帰る。

「あ、ちょっと待ちなさい」

当然待つわけもなく、そそくさといなくなろうとするが、扉の横に立つ近衛兵に止められる。

「ラウラ王女殿下がお呼びです」

「お戻りになられるようお願いします」

手に持つ槍をカズキの首元に向け、殺意むき出しのくせして優しい口調で警告をする。

ここで強引に突破しても構わないが、そしたら大問題になってしまう。

かといってこのままここに入れば色々と面倒な事になってしまう。

どうする。

「ちっ、わかったよ」

とりあえず素直に従う。その方が良い方へいく可能性が大きい。

「……それで、隊長とはどういう事なの?」

「どういう事なんだジェルマン」

取り敢えずジェルマンにふってみる。

「俺が聞きてぇよ!」

ちっ、ダメだったか。知ってたけどね。

「だってよレオン」

「俺も、セラフ先輩やハート先輩がカズキの事を隊長って言っていたのが気になる。どういうことだ」

くそ、レオンでもダメか。なんか墓穴掘った気がする。

「セラフとハートも言っているのか」

それを聞いて驚くラウラ。やはり墓穴を掘った!

「どういう事か説明してちょうだい。あなたは神伐隊なの?」

「……個人の事情に首を突っ込むのはいくら王女殿下でも無礼かと思われますが」

「国民の事情を把握するものも王の務めよ」

「安心してください。今ここに在籍してるだけで、すぐに去ります」

「在籍してる間でも私達の管理下、危険種から安心して眠れるのは誰のお陰かしら?」

「御言葉ですが、自身の身を守れる力量は持ち合わせております。そちらこそ、私の力を借りる事のないようにお願いします」

「相当な自信ね。剣舞祭優勝を楽しみにしているわ」

「楽しみにしていてください」

「……王女の前で口の減らない人ね」

「俺の国の王女じゃないからな」

「………もう我慢ならないわ。この不届き者を捕らえなさい!」

カズキの悪態にとうとうキレたラウラ王女は近衛兵を呼び集める。

「……俺に刃向けるってことは、覚悟できてるんだよな?」

カズキを囲い首元に刃を向ける近衛兵達。

そんな状況の中、一切動じないカズキ。

「そっちこそ覚悟はできてるんでしょうね。戦争よ」

「おやめくださいラウラ王女殿下」

「俺もやめた方がいいと思うぞ」

ラウラ王女の宣戦布告を聞いて必死になって止めるノア。その隣からレオンも忠告するように言ってくる。

知っているのだ、カズキを敵に回すということがどういうことなのか。その強さ実績を知ってるからこそ止めているのだ。

アルガド王国の為に。

その事を理解しているジェルマンは笑い、ルリーはあたふたしている。そしてリュークは、寝ている。

「何を恐れているのノア?こっちにはミカルドやセラフ、他の神討隊もいるのよ?」

「え?私は戦いませんよ?死にたくないですし」

ラウラ王女の発言を聞いてミカルドは戦う意志がないことを言う。

「え?」

それにはキョトンとしてしまう。

「それに今ここで手を出したら滅びますよ?この国」

加えて衝撃的な発言をする。

「俺は構わんぞ?ここはばあちゃんとテラさんと父さんだと思われる人の故郷だが、知った事ではない。俺の邪魔するなら老若男女はもちろん。仲間だろうが家族だろうが、許嫁だろうが……殺す!」

「許してください隊長。ここは私の大切な場所なんです。ですから」

「安心しろミカルド。お前も国も仲良く滅ぼして歴史から消してやる」

「そ、そんな」

「で、戦争でいいんだよなあ?王女さん?」

「ええいいわ!」

「じゃあ。合戦の始まりだな」

その言葉を合図に、突き付けられた槍の刃を切り捨てると跳躍しラウラ王女に斬りかかる。

ラウラ王女が横に振るう剣を台にし頭上を回転して背後に回り込むと首元に刀を向ける。

「いい反応だ。だが、これまでだ」

「くっ」

「貴様、ラウラ王女殿下から離れろ」

「安心しろ。今こいつを殺して殺さなくてもこの国を滅ぼす、あの世で死者集めて国でも作ってろ」

「やめてください隊長。殴るなら私を、殺すなら私だけで許してください」

「俺の敵は国だ。一人個人殺しても意味がない」

「はやまってはダメですわカズキさん」

「そうですよ考えて直してください」

「犯罪に染めるとレイカ先生がうるさいぞ」

「とばちりはごめんだぜ」

「あ、もうお昼だ。パスタがいいな今日」

王女を殺そうとするカズキを止めようも説得する。中には保身や全く関係ないことが聞こえたが気のせいだろう。

「うっ、確かにレイカ先生に怒られるのは嫌だな。あと今日の昼はピザがいい」

「……そんなんで揺らぐのですね」

「でも怒ると怖いですよね」

「えー、ピザ~…いいね!」

「ふざけるな!いいから離れろ」

こんな緊迫した状況なのにまったく緊張感のない会話に、近衛兵は声をあらあげる。まあ当然だな。

「なんだなんだ。騒がしいなと思ってきたが、何事だ」

そこへドアを開けやってくる胸元が露出された白いスーツを着こなした少女。

白の長い髪き凜とした黒い瞳、整った顔立ちは女でも魅了されそうなほど格好いい。

「……なんだカズキか。騒ぐならほどほどにしろよな、こっちは悪魔退治後で疲れてるんだ」

緊急事態なこの場面を見て溜め息を一つこぼすと呆れた顔をして立ち去ろうとする。

「へーへー」

「ぼ、ボス!隊長が暴れてるんです。なんとかしてください」

ミカルドが彼女を背中を掴み助けを願う。

「ん?いつものことだ。暴れたりないんだろ?妹にもいい刺激になるから別にいいだろ」

「で、でもそしたら国が」

「あいつは優しいから大丈夫だ。そんなことするやつならもう世界は滅んでいるさ」

「なんだと!?史上最凶最悪の悪魔と呼ばれたこの俺に」

「そんな事誰一人も言ってないから無視して構わないぞ」

「おいこら」

「で、なんでお前がここにいるんだ。こうゆう所は大嫌いだろ?」

「訳有り」

「なるほど」

「ボスこそなんでここに?新たな就職先?」

「ここは私の家だぞ?」

「へー」

「お前こそアルセウス学園の制服着て、受かったのか?」

「お陰様で」

「お前が勉強教えてと泣きついてきたときは何事かと思ったが」

「泣きついてねーよ!!バーーカ!」

「はいはいそうですねっと、あと戦争する気はないなら妹を放してやってくれ。かわいそうだ」

「それもそうだな」

刀を納め、ラウラを解放するとメーテルの方へ歩く。

「妹よ、勝手に国ぐるみの喧嘩を売るな。せめて一対一の勝負にしろ」

「だっ、だって」

「あれ?ボスって妹いたん?」

「あぁいるぞ」

「ボスと違ってかーわいー、にてねー」

「養子だからな、私が」

「へー、養子ねー、お前がかーい」

「おいカズキ、誰だこの女は?」

「知らんのか?神伐隊七番隊隊長を!」

神伐隊知ってるくせに、隊長共の事は知らないんだなと思ったカズキ。また墓穴掘ったか?

「覇軍のメーテル、軍神天開は有名ですわ」

「なに!?あの覇軍なのか!?」

「ハグン?」

「なんですかそれ?」

ノアとジェルマンは知ってるようだが、レオンとルリーは分からないようす。

てことで詳しく説明することに!

「メーテル・レイ・アルガド。カズキさんが言っていた通り神伐隊七番隊隊、彼女に兵を率いて戦わせたら右に出る者はいない程の策士戦略家。勿論個人の強さも抜群ですわ」

「神伐隊の隊長は授業で習うほど有名だぞ」

「へー、そーなんだー」

「そういえばルーンブラッドにもいますね」

「アニマニアにもいたな」

「百聞は一見に如かずだ、今度挑んでみるといい」

「そうだ、ちょうどいいカズキ」

「いやだ!ぜーったいいやだ」

「何を言う、お前と私の仲だろ?一つ頼まれてくれないか?」

「やかましい。おめぇの頼みは大事なんだよ」

「そんなことはないさ、ガンジの討伐なんてお前なら簡単だろ?」

「ガンジ?ふふっ」

「どうした?」

「そいつなら既に俺が燃やし尽くした、頼みなんて聞かなくてよくなったな」

「さすが、仕事がはやいな」

「でもなんでガンジを殺してほしかったんだ?」

「あいつがここに悪魔引き連れてくるからな、大変なんだよ」

今回討伐した悪魔の軍団はガンジが差し向けたものだったらしく、それだけでなく何度も送り込んでいたようで元凶をはやく叩きたかったらしい。

「あんなカスも倒せないとは神伐隊も落ちたものだな」

「落ちたんじゃなくてお前が強すぎただけだ」

「まっ、俺には関係ない話だけどな」

「で、お前はなんでここにいるんだ?」

「訳有り」

「なんでここにいるんだ?」

「剣舞祭に出るから、その挨拶」

「剣舞祭!?お前が出たら絶対に優勝じゃないか」

「決めつけは早い、神伐隊の奴らもでるらしいしな」

「確かに機能はほとんど停止してるが暇ではないぞ」

「知るかそんなん」

「ちょっと待て、なんの会話をしてるんだ、ついていけねぇ」

しまった、つい戦友と話混んでしまった。

絶対不審がられているわこれやだー。

「なんだカズキ、正体隠していたのか」

「一応隠してはいたんだが、ボロがボロボロと出てしまった」

「嘘下手だしつけないもんな」

「うるせ」

だが、事実は事実。ここで強引に誤魔化しても構わないが今後やっかいなことになるし、どっちにしろ知られる事だから今ここで伝えておくのも一つの手だな、あともう疲れたし。

「突然だが、今からお前らに隠していた事を発表する」

「なんだよ」

「お前ら、神伐隊って知ってるよな」

「知ってる」

「第七番隊の傘下にある九十九番小隊ってわかる?」

「あぁ、あの天下の九十九番隊だろ?」

「そこの隊長ってわかる?」

「神伐隊最強、いうなられば世界最強だろ?」

「そいつって誰かわかる?」

「知らん」

「それ俺」

「へー……へ?」

「えええ!?」 

まあ、こうなるわな。

「神伐隊関係の人かとは思っていたが、まさか九十九番小隊の隊長だなんて」

「こいつが、最強!?」

「最強って勝手に言ってるだけで最強ではないぞ。めっちゃ負けまくってるし、勝てないやつもライバルもいる」

負けまくってるのに最強呼ばわりとか風評被害にも程がある。

「ふざけるな!俺の、俺の目標はこんな間近にいたのか!」

あれだけ最強になると言いふらしていたのにも関わらず黙っていられたらそら怒る。

「いや、別に最強って訳じゃないし」

「俺と戦え、ぶっ殺してやる!!」

「ミカルドにも勝てない奴が何を言ってるんだか。果敢に挑むのは構わないが、挑戦と無謀は違うぞ?」

「うるせえ無謀じゃねえ」

「剣舞祭終わって、俺達が最強と証明できたらね」

「俺も強くならないとカズキに任せっきりになるな」

「そんなのわたくしは絶対に嫌ですわ」

「私、達の手で勝利を掴みたいですね」

神伐隊で最強と呼ばれ、今この世で最も強いと名高いカズキがいるなら心強いと思う反面、剣舞祭では任せっきりになるのではという焦りも生まれる。

「神伐隊が出てきたら俺一人じゃ勝てねぇよ。頼りにしてるぜ、みんな」

「カズキさん」

「っしゃあ帰って飯にしようぜ、隠し事無くなったからすっとした」

大きく背伸びをしながら扉の方へ歩く。

「じゃあまたなボス。ラウラ王女、お先に失礼します」

扉を開け体半分を外へやると、顔をラウラ王女らの方へ向けると手を振る。

「今度は酒でも奢れよな」

「うわっ、元部下で友人にたかるとかサイテー」

「元上司で友人に勉強を教わって、寝床も紹介して、仕事を提供して、飯も奢ってもらったバカは誰だっけ?」

「すみません、また今度謹んでお礼をさせていただきます。さようなら!逃げるぞお前ら」

ご丁寧に挨拶をすると、扉を開き慌てて逃げ出す。

「ははは、相変わらずだなあいつは」

「いいんですかボス、神伐隊に引き戻さなくても」

「引き戻したくてもできないし、私らにはミカルドがいるだろ?」

「でも、私なんかじゃ隊長の代わりなんて」

「ミカルド、あいつの背中は追うなとは言わない。だが、しっかり目に焼き付けておけ、最高の存在を」

「……はい」

「ラウラ、お前もいずれこの国の王になるんだ。世界は広い、不可能を可能に変える存在もいる事を覚えておくんだ」

「はい」

「君らも、あのバカの事を頼むよ」

「けっ、何を頼まれてるかわかんねぇよ」

「大丈夫、一人にはさせないから」

ジェルマンとは反対に真面目そうな顔で答えるリューク。

「ははは、頼もしいな君は」

「俺達も帰るぞ」

「おう。帰って修行だな」

「失礼しますわラウラ王女」

こうして王室での一件を終えたカズキ達。

カズキの正体、魔界と呼ばれる裏世界、悪魔、魔物の存在を成り行きで知ってしまったFクラス一行。

これが後に影響を及ぼすとは誰も思いもしな、いや、もしかしたら覚悟を決めた瞬間かもしれない。

 

 

 

 

 

 

つづく



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組手相手

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズキが神伐隊の一員で最強と呼ばれてた存在となんか知った一同。かといってそれがどうした!と言わんばかりにいままでとはなんもかわらずいつも通りの普通普通な生活を送っている。

「止まるな!戦闘中は動き続けろ」

剣舞祭が近くなってきたのでレイカ先生自ら練習相手になってくれている。

「くっ、はああ」

レイカ先生の鞭と剣による攻撃に思うように戦えず一方的にやられるジェルマン。

「遠距離戦と接近戦を見分けろ、相手は両方やってくるかもしれないんだぞ」

「はあ、はあ、こっちは接近戦しかできねーっつーの」

「止まるなと言っただろ」

「ぐわああ」

「よし次。ルリー来い」

手荒だが、今俺に足りてないものは実戦だ。より猛者と戦い戦闘における技術、勘を鍛えものにする。個人では分からないことや気づけないとこもある故に、生徒同士戦わせ指導するという方針だったが、未熟同士が戦っても伸びるものも伸びない、よって時間はかかるがレイカ先生自ら胸を借しマンツーマンで指導している。

それにしても世界ランク三位炎魔のレイカ、流石の強さだ。

カズキも目を見張るものがあった。

こんなトレーニングではなく、ぜひ一戦交えてみたいものだ。

せっせと素振りをこなすカズキ。レイカ先生いわく、カズキに教えるものは無いそうで、神威を教えるにもカズキ自身が神威を否定してる故使えないことに気づいたのか路線変更で徹底的に技と体を鍛えろと、重り付きで今頑張っている。

また、今回で優勝を狙ってるなら、レオンやルリーなど神威が使えない者に無理に神威を教える事なく今までの戦い方を鍛える方針をとった。

学園の方針故に神威を教えていたが、そんなのがなければこの方法を真っ先に取っただろう。

「ほらカズキ、見てないでやるやるー」

そんなカズキを見て指摘するリュークはと言うと、木陰で横になっている。

「指導してないでお前もやれよ」

「嫌よ、疲れるもん」

「お前な、みんなやってんだからやれよな」

「きゃーカズキが怒ったー」

この野郎。こっちは本気なのに不真面目な奴だ………俺が言えた事じゃないか。

「なら、私の相手してよ」

「いいのか?こっちはもうアップ済みでいつでもいけるぜ?」

両手両足につけた重りを外し構えるカズキ。

「……そっか、もう戦っちゃうのか」

ゆっくり立ち上がりぐいっと背伸びをすると、名残惜しそうな表情でカズキを見つめてくる。

「戦いとはふとした瞬間から起こるもんだぞ」

その顔を見てすぐにわかった。こいつは俺を殺すんだな。と

「そうだよね、ふとした瞬間で死んじゃうもんね」

リュークが微笑んだ瞬間。拳がカズキの目の前に来ていた。

カズキは後ろへ下がりかわしたが、鼻先が擦れ血が滲んでる。

「っ、容赦ねぇな」

「つまんなかったらすぐ殺す。悪いけど容赦なんてしないよ」

やろう。俺が瞬きした瞬間攻撃してきやがって……最高だ!

「それはこっちも同じだ。せいぜい楽しませてくれよな」

すぐにリュークの顔面に前蹴りを放つも、両手で防がれる。

それでも後ろへ大きくとばし、ルリーとレイカ先生が戦ってる真ん中に止まる。

両手から無数の雷の球を作り上げると、リュークめがけ全球投げつける。

「飛び道具を出すには早いんじゃない?」

「スポーツをやってる訳じゃないんでな」

かわし弾き一気にカズキとの距離を縮めたリュークは、カズキの繰り出す正拳突きを掴むと両足を首元に絡め、体を回転させると同時に腕を捻りあげる。

「このままへし折る」

う、動けない。

(こんな華奢な腕にこれほどの力が)

凄まじい力に抵抗できず、倒れれば二度と立てない。更には首を足で締め上げ血流を止めてきやがる。

仕方ない、強引だが。

「うるああ」

体から炎と雷を放ち、無理矢理離れさせる。

「おっと、あぶないあぶない」

放つ瞬間離れた為リュークにダメージは無い。

恐らくカズキに触れていたから、炎や雷を出す時に動かす筋肉の動きや血流、呼吸などで察知したのだろう。

「おい、これは修行で、殺し合いじゃないぞ」

何か不穏な空気を察知したレイカがすぐに間に入る。

「止めるな!こいつは死に合いなんぞ生ぬるい真剣な勝負、俺自身の挑戦だ」

だがカズキは止まりはしなかった。なんせ、目の前には自身が追い求めた強さがあるからだ。

今の俺がどれほどなのか、それを知りたい確かめたい。そして勝ちたい。

「挑ませてもらうぜ、異端児さんよ」

「……やめた」

「なに!?やめだと?」

「うん、だって、このままやると世界壊れちゃうよ?」

「知ったことか」

「いいの?守るべき世界を、守ってきた世界を自身で壊しても」

「構わん。強い奴と戦い勝っていくなかで、結果として守ってきただけだ。それだけに過ぎない」

「へー、かわってるね」

「俺の人生は俺だけの為にある。誰かの為なだとありえん。さあ俺と戦え、最高の最後にしようぜ」

「ダーメ、今は気分じゃないの、また今度」

「……そっか、やる気がない奴と戦っても意味ないもんな。じゃあまた今度、絶対だぞ」

「ふー流石はかの有名な絶対のカズキ、絶対が好きだね」

「うるせえ。あーくそ、力を半端に出し過ぎてイライラする」

「戦闘欲くらい制御しなさい」

「戦い抗う故に我ありだ。そんなことしたら俺の存在意義がなくなる」

「怖い人ね、破滅の男だわ」

「どっちが怖い人だ。次は全力でお願いしますよ、リューク様」

「あら、様付けたなんて大層ね。崇め称えてもいいのよ」

「珍しいじゃねぇか、お前がむきになるなんてよ」

「……お前ら、リュークってどんな奴か知ってるか?」

「どんなやつって………どんな奴だろう」

確かに今までの戦いぶりをみるにただ者ではないことはわかっている。初めて会った時からもリュークだけは周りとは違う何かがあるとは感じてはいたが。

「カズキが目立ってたから考えもしなかったな」

どっかのバカが目立っていたので特に気にはしていなかった。

「あいつは、俺が目指す場所にいる。何が言いたいかわかるか?」

「お前より強いってのか?」

「そうだな」

「は?」 

「何を驚く、俺は最強でも無敵でもない。勝てない奴はちゃんといるって前言ってたろ」

「たがお前、リュークとまともにやりあったことないだろ」

「なくてもわかるんだよ。あいつは、とんでもねぇ存在ってことくらいよ」

初めて会った時から薄々気づいていたが、最近確信を持てるようになった。リュークという凄まじい存在が。

「見とけ、俺が奴に勝った瞬間歴史が変わる」

カズキは外した重りを付け再び素振りを始める。

「修行再開!お前らもレイカ先生に負けるなよ」

「うぐ、見とけボケ次は勝ってくるからな。レイカ勝負だオラ」

「次は俺だから早めに負けろよな」

「うっせえてめえの出番なんざねえよ。あと、誰が負けるかボケ!」

意気揚々怒りに身を任せつつも再びレイカ先生に挑戦するジェルマン。

「魔法使いなんだから、一対一で正攻法じゃ勝てないからトラップ系を使って相手を翻弄すればいいんじゃないかな?」

「トラップ系ですか、あまり得意ではないですけど参考にしてみます」

「私は相手をからかうのに結構使うよ」

「え?使うんですか?」

「そだよー、今の私は少しなら使えるよ」

「そうなんですか、万能なんですね」

「そだね、えっへん」

対するリュークは戦い終えたルリーにアドバイスをしている。

野郎、俺と戦ってる時にルリーとレイカ先生の戦いを見ている余裕があたったとは、流石だ。

それにしても、教わる事がないと言うのはつまらないものだ。

周りを見ながらせっせっと素振りをしていると

「あ、いたいたタイチョ~」

なんか聞き覚えのある昔の隊員共の声が聞こえる。

……無視。

「ターイーチョ~」

気づかないふりして素振りしているとハートのフライングクロスチョップが側面にぶち当たる。痛い。

「いてて、いてーなハート」

カズキの上に被さるように倒れたハートを持ち上げながら立ち上がる。

「きゃー、隊員のえっち」

「捻り潰すぞ?」

「いたたた、うそでーす、悪いのは私です、だから許してごめんなさーい」

持ってる箇所をギュッと締め上げる。

「ったく、相変わらず過ぎてミカルド先輩も苦労するな」

「私達もタイチョーに振り回されて何度も死にかけてたけどね」

「懐かしいですね、特攻だ突撃突撃ぶっ殺せー!でしたもんね」

ハートとセラフは苦笑いしながら言ってくる。

そんな脳筋だったか、俺。

「で、何しにきたんだ?サボりなら授業でろよ」

「嫌だなー、隊長達の修行相手に来たんですよ」

「修行相手?」

「剣舞祭に出るんですから絶対優勝してもらわないといけませからね」

「他の神伐隊が出るんですから、相手として不足はないですよね」

「俺は不足だ」

「他ですよ、他」

「他ぁ?」

他と言うとジェルマンとかノアとかとかだ。

「幹部や隊長も出てくるんですから私達で慣れておかないと」

「神装化にも慣れておかないと神格化に対抗できませんから」

「まあ、そうだな」

確かに神装化に太刀打ちできなければ神格化に勝てる訳がない。

「やるのは助かるが、ほどほどにしろよな」

「わかってますって」

「ノアさん私とやろー」

「え?え?わたくしですか?」

「そうだよ。その弓の腕と神威の扱い凄かったよ。もう一回見せてよ」

ノアに挑むハート。前回もノアの事を誉めていたから気になってしょうがないんだろう。

「なんだカズキ、先輩方が相手してくれるのか?」

ここでさっきまで休憩していたレオンが混ざってくる。

「らしいな。実力は本物だから全力でぶっ飛ばしてこい」

「それは有難いな。ぜひ胸を貸して頂きたい」

「いいわよ坊や、お姉さんがお相手してあ・げ・る」

ニコニコしながら近づき不意をつくようにレオンを蹴り飛ばす。

それをガードするも後ろへ押される。

「へぇ、いい反応じゃない」

「……グラン・ギア」

セラフの足を岩でガッチリ拘束し逃げられないようにすると、レオンは飛び蹴りで報復する。

足の拘束は砕け、大木にぶつかるとバキバキと中部から折り倒す。

「はあ」

「アダマンフィスト」

後方へ回転し、体勢を整えたセラフは神威を集め顕現した剣をふるうもグラン・ギアで纏った腕で受け止める。

「ふん」

折れた大木を持ち力任せに横に振るう。

しゃがんで回避すると、剣を持ち変え上へ斬り上げる。

顔をずらし避けると手を掴み振り回す。

「へし折る」

地面に叩きつけると、首元を膝で押さえ腕を両腕で極める。脱出不可能な関節技

「このっ……」

セラフから巻き上がる炎、舞い散る羽毛。その威風に吹き飛ばされるレオン。

「ヘブンリーセイバー」

「おい、殺すな」

神々しく光輝く剣を振るおうとするセラフの手を止めるカズキ。直ぐ様体勢を整え攻撃してきたレオンも止める。

「た、隊長」

「カズキ、止めるな」

「すまないなレオン。こいつスイッチ入ると手加減が出来なくなるんだ、少し待ってくれ」

まさか神装化を使うとは思っていなかったので、カズキ自身も少し焦っているのかとても早口た。

「……わかった」

「お前が神装化を使うとはな、強いか」

「思ったより強いですね、真正面からやりあうなら素の私より実力は上でしょう」

「お前地上戦苦手だもんな」

「素の力で戦うなら神伐隊でまともにやりあえるのは隊長達とミカルドかルミスぐらいかと」

確かにレオンは強い、以前戦ったが吐血までやられたしな。ミカルドやセラフ、ハートを抜かして戦ってきた中では一番強かった。

神威無しのフィジカルでここまでの強さだ。良い師匠、良い環境にいたならば神伐隊にいてもおかしくはない程にだ。

「神威のせいで素の力が認められないとは悲しいな」

「そうですね。隊長みたいになれたかもしれませんし」

「ない。それはない」

「あ、はい」

「ちなみにミカルドさんはどこにいるん?」

「ミカルドならボスを連れにいってますよ」

「は?」

「隊長達が出ると思われるんですから、予行練習ですよ予行練習」

「予行練習て」

「私の頭は冷えました、はやくやりましょうレオン」

「あ、おいこら」

「ヘブンリーセイバー!!」

「うお!?不意打ち?」

「見せてあげる。私の神装化、天翔神翼を」

空高く飛翔し、剣を振り上げる。

「ヘブン・レディアント」

「おいこら、殺すなって言ったばかりだろ!」

「どうしたジェルマン、息があがってるぞ」

「ほらほらノアさん、こっからだよ」

「まだまだレオンさん、いくよいくよ」

嵐の如く猛威を振るう三人。ここからは地獄絵図となった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー、はぁー、はぁー」

「げほっ、げほげほ」

「……………」

木陰で倒れるレオンとジェルマンとルリーとノア。

「まだまだだなお前ら」

「全く修行が足りませんね」

「全然修羅場を潜り抜けてませんね」

こんな化物相手に組手を続けてやっていたのだ。よくやったと誉めるべきだろう。

「神装化を使ってそれは無いだろセラフ」

「レオンは強かったの!」

「やったなレオン、セラフに認められるって大した事だぞ」

「はー、はー、そ、そうなのか?」

「信頼寄せてるからな」

「その信頼のせいで私は大変でしたけど」

「いいだろ。もう二度と頼む事はないんだからよ」

「そ、そんなー」

「あれ?もう終わってます?」

「なんだ、折角出向いたのに残念だな」

休憩している最中にやってきたミカルドとメーテル。急な登場にその場が慌てる。

「め、メーテル様」

「ボス、本当に来たのか」

「当然だ、剣舞祭の優勝がかかってるんだ。一国の王族の一員として手を貸すのは当たり前だろ?」

「養子のくせに何が王族の一員だよ。笑っちまうぜくぷぷー」

「はっはっはっ、それな!わかってるなカズキ」

「だぁアデデデ、痛い、痛い痛いボス痛いボス痛いボスボスボス痛タタ夕タタタ」

カズキの頭を脇に抱え腕で締め上げる。

「はははは、相変わらず愉快な奴だ。退屈しない」

「つー、いてーいてーこれでテストの点悪かったらボスのせいだからね。いいねレイカ先生!」

「たわけ!何ふざけた事言ってるんだ」

「いいででで凄痛ッめちゃ痛ッイタタタ」

レイカ先生にも締め上げられるカズキ。

「お前がこんな楽しい奴とは未だ驚きだぞ」

やられているカズキを見て笑っているメーテル。とても国の王女とは思えないほど柔らかな表情を見せてくる。

「ですね」

「メーテル様が戦ってくれるんですか?」

「あぁ、そうだぞ!神伐隊七番隊隊長メーテルが相手だ」

「じょ、上等だ!隊長がどれ程かお手並み拝見だ」

「神格化は使うなよ、神装化にも勝てないんだから」

「勝てないのは当然だ。だが、隊長共と戦うなら経験しておいて損は無いはずだ」

「そうだとしてもだ」

「物は試しだ。相手をするぞ」

そう言うと皆んなから少し離れると、メーテルは大きく深呼吸をしゆっくり吐く。

「はっ!!」

風がゆらゆらと静かに吹き荒れる、特に変化を起こす事も容姿に表す事も無くごく自然体のまま変身を遂げたメーテル。

カズキと違い膨大な力を発する訳でもなく、天変地異を起こす訳でもない、静かで優しくそして激しい。

「天覇武芸の軍を引き、制する武力を持って戦を天開し勝利へと導く。さぁ刮目せよ、軍神の力を!」

「か、勝てる気がしないぜ」

「本当に参る、世界がこんなに広いなんてよ」

「これが、軍神天開。神々の力ですの」

それでも伝わる。不気味なまでの静かさと冷静さから秘められる激しい闘争心と貪欲なまでの勝利への渇望、戦いとは何か理に適う姿を見せつけてくる。そう、まるで神を相手にしているのではないかと思う程に。

「神格化なんて俺も戦禍乱を使って本気出さないと勝てないぞ」

「戦禍乱って?」

「俺がミカルドさんとセラフのバカヤローを倒した時に使ったやつ」

「私だけ言い方酷くないですか」

「日頃の行いね、はい。で、神格化って言うのはな」

神格化。それは神威の力以外に神が与えた別の力により膨大な力を得る読んで字の如く神と同格する進化。

神装化の違いは更なる身体能力の増加、特殊能力以外に神が与えた力が加わったもの、その与えた力が問題なのだ。

ノア達に出来るだけわかりやすいよう努力し教えるカズキ。正直俺もわかってない。

「あいつは軍神から力を与えられ軍神になれる。戦場全てを見通し常に戦況を見て読んで一手を出す、覇軍と呼ばれる由縁だ」

「個人よりも指揮に長けてるのはそういうことなのか」

「もっとも、あいつの特殊能力……アトリファクタスは普通に強いがな」

「どうした?やらないのか?」

「上等だ。お相手願うぜ覇軍様よ」

当然のように満身創痍のジェルマンが名乗りをあげる。

「手加減はしないぞ、起きたら明日になってる覚悟はしておけ」

「それはごめんだ、まだ夕飯どころか昼飯も食べてねぇんだ」

バトル・トンファーを持ちかまえる。

「うるああ」

ジェルマンの殴打それら全てを紙一重でかわす。

(なんだこいつ、人を手玉に取るように動きやがって)

「どうした、動きがまるわかりだぞ」

「こいつ」

「こいつぶっ殺してやる。と言いバーストショックを放つ」

「ぶっ殺してやる」

ありったけの神威を込めバトル・トンファーを振り落ろすジェルマン。

その瞬間背後に回り込んだメーテルはジェルマンの首に手刀を落とす。

「ッ」

爆発が起こる前に崩れるように倒れるジェルマン。

「まずは一人だな。さぁ次こい」

「神髄、あれくらうと意識飛ぶんだよな」

昔にあれをくらって一瞬意識が飛んだことを思い出す。神経を攻撃し遮断させ意識を飛ばすなんて狡い神技だよな。

「……私がいきますわ」

「無理はするなよルリー」

「大丈夫です。私、試したい技があるんです」

「そうか」

「早くしろ、この姿は長くもたいんだぞ?」

「傍若なる剛力よ。紅き守護の炎となりて我が身に纏え……イグニストクラフト」

詠唱を唱えるとルリーの真下に赤の魔方陣が広がり炎と共に光を発する。

「剛力と炎の力を身につける身体強化魔法。うん、まあまあいいんじゃない?」

「爆嵐風波(ブラストハリケーン)」

両手に魔力を込めつき出すと同時に凄まじい暴風を放つ。

渇ききった熱風、草花は触れるだけで燃え、大地は干からびる。

その暴風の前にさすがのメーテルも驚いた表情をする。

「瞬間移動(ディメンション)」

その隙に魔方陣を用いてメーテルの背後に瞬間移動する。

「爆魔獄炎封」

両手に集中させた魔力は炎となり、メーテルを囲う。

「ほぉ、獄炎封を使うとは…あれ魔法だっけ?」

「炎の加護があるから自然と炎の火力が上がる、炎の魔法なら威力は数倍にはねあがる。考えたねルリー」

「でも、」

「通じていなければ意味がありません。か、その通りだ」

「通じていなければ意味がありません。…て、あれ?」

「神威のバリアを創ってなかったら危なかったぞ。威力ならソウルにも引けを取らないな」

炎を神威で吹き飛ばすメーテル。

包まれる瞬間神威を纒うことでダメージを受ける事なく難なく吹き飛ばすことができたのだ。

「ほら、褒美だ」

「がっ」

メーテルが放った神威による真空波はルリーの内部からダメージを与え気絶させる。

「ハート、セラフ。ジェルマンとルリーさんを医務室へ連れてってくれ」

「はいはーい」

「ボス、お手柔らかにね」

ジェルマンとルリーを抱えて医務室へと向かう二人、なんか嬉しそうな表情をしているのか気のせいかな。

「わかってる、さてどんどん来な。他の隊長共はこんな優しくはないぞ?」

「……俺がいこう」

続いてレオンが構える。

「ビースターズ」

カズキや他の猛者と戦う時に見せた自身の身体能力をあげる技だ。

「これは危険な技だ」

「うおおおおお」

「夜叉刈り」

「神道楽」

素早いジャブからのレオンの丸太のような片腕を横方向に突きだし振るう。

それをしゃがんでかわすとレオンの喉に指を突き刺す。

「か、くハァ」

倒れると喉を押さえながら踞る。

「ボス、喉にやるな窒息するだろうが」

「こうでもしないと倒れないだろ?」

「大丈夫かレオン、今楽にしてやるぞおりゃ!」

踞るレオンの両肩を掴み後ろに引いてやる。

「かっ、はーはーげほげほ」

「大丈夫か」

「あ、あぁ」

「まだやるか?」

「………いや、もういい」

「らしくないな、どうした」

「やっても無駄だ、動きが違いすぎる」

「どういう事ですの?」

「見てから反応するカズキとは違う。先を読んでいるなんてもんじゃない。フェイントは全て動じず攻撃だけ反応した、まるで未来でも見てるかのようにだ」

「未来を、見ている?」

「わからないが、それくらい凄い反応だ。やればわかる」

「わかりましたわ!わたくしが皆さんの仇をとってさしあげます!」

「死んでないけどな」

「アルバートン家の令嬢か、いつも妹が、国が御世話になっている!」

「どういたしましてですわ、フリーレイン」

軽い挨拶から始まった戦い。先手必勝ばりに弓を展開させ放つ。

(どうやらレオンさんの予測は本当のようですわ)

無数に放たれた氷の矢。しかし、メーテルは一つの挙動で全ての矢をわかした。

そこはノアがわざと避けれる場所を自然的に作った場所。

それを見て予測は確信へとかわった。

(まさか、メーテル様にこんな凄い属性能力を持っていたなんて驚きですわ)

「詮索は止してもらおうか」

「え?」

一瞬だった、本当に一瞬だ。気づいたら意識が飛んでいた。

「おいおい、やり過ぎじゃないのか?」

「そんな事はない、神威の扱い方を教えただけじゃないか」

メーテルが放った膨大な神威の量により意識を保つ事が出来ず倒れたノア。

「良い経験として捉えるよ。ミカルドさん、ノアさんを医務室へ」

「わかりました」

「で、あとは君だけだが?やるかい?」

「私はいいよ」

そっけない返事をするリュークは興味無さそうに蝶々を目で追いかけている。

「そうか?滅多にない機会だぞ?」

「カズキより弱いんじゃ結果は見えてるからね」

「ははは、手厳しいな」

「事実だからね」

「カズキ、リュークは強いのか?」

「そうだな、さっきも、一本取られたし」

「それは本当か。じゃあ次は私から挑ませてもらおうかな」

「私は気分屋だからね、機会なんて滅多に無いよ」

「流石、気分屋だな」

「カズキに言われたくない、カス」

「ひどい」

「お前達は仲が良いな、心配して損した」

「心配?」

「カズキは人付き合いが悪いからな、友達が出来るか心配だったんだ」

「てめえは俺の親か」

「お前のボスをやっていたんだ、心配にはなる」

「嘘つけ、気にも止めてなかったくせによ」

「人付き合いが悪かったのか?」

「昔はな」

「くだらねぇ昔話をしに来た訳じゃねぇんだろ。要件を言え」

こいつがそんな理由でわざわざここへ来るわけがない。なにかある、きっとある、絶対ある。

「流石だな、実は明日魔族が襲ってくる情報があってな」

「そんなもんセラフとハートに任せればいいだろ、くだらねぇ

「そうもいかないんだ、率いてくるのが地獄姉妹だ」

「……ペカドとぺリアか、とうとう侵略に動き出したか」

「そうだ」

「その情報はどこで」

「偵察にきた悪魔からだ」

「そうか、あのザコも動きだしたか」

おかしい、あいつらからそんな情報はきてない。まさか、な。

「明日とは急だ、神討隊は何をしている?」

「前も言っただろ?機能はほとんど停止してるって」

「あの時から戻ってないのか、カスが。神の使いとして聞いて呆れる、やめて正解だ」

「どうだ、お前にとって良い情報だと思うが」

「確かに良い情報だ。だが、今の俺には関係ない」

昔だったら飛び付くような話だった。だが、それは昔の話で今は関係ない、関係ないはずだ。

「俺はもう、違うんだ」

「……そうか、なら今のお前に関係するように言ってやろう」

「なに?」

「暴れて剣舞祭が中止になったらどうする?」

確かに剣舞祭がある今に暴れてもらって中止となれば皆の願いも俺の計画も消えてしまう。

「何を叶えてもらうかは知らないが、充分なデメリットだろ」

「ちっ、わかった。きっちり滅ぼしてやる」

「話が通じて助かる、さっそく兵士との」

「ただし、俺一人でやる。お前らは待機してろ」

「なんだと!?」

「勝手に英雄扱いされたら堪ったもんじゃない。俺は俺の為だけに戦う」

そう言うとカズキはレイカ先生の方へ向くと頭を下げる。

「レイカ先生、明日休ませてもらいます」

「おいカズキ、王女が来てくれてるんだ勝手は許さんぞ」

「いや、賢明な判断だ。ぺリアは病原やら呪いやら使ってくるからな、感染者一人で国が滅ぶ」

「……まさか」

「あぁそうだ。奴の疫病で神伐隊で滅んだ小隊もあるんだ。感染者は消されてな……助かる手段はあったはずなのに、なのに」

「言うな!!」

「カズキ」

「次言ったら、俺は元老院(クソカス)共をぶっ殺しに行っちまう」

カズキには過去に二度、戦いで心を痛めている。そのうちの一つが、今再来しようとしている。

(アルス達の為にも二度と悲劇はおこさねぇ、大罪も絶望もまとめて破壊してやる)

「上空からセラフに監視をつける。街の守りはミカルドとハートでなんとかする。最悪兵士にも戦わせる」

「心配するな、俺がきっちり滅殺してやる。跡形も無くな」

「北西方から攻めてくるとみていいが、何するかわからん。すまないが一晩見張るような形になる」

「いつもの事だろ。それより次に神伐隊の召集がかかったら伝えとけ、二度はないってな」

「わかった。私も胸に刻んでおこう」

「レオン、レイカ先生はこのことは他言無用でお願いします」

「いいのか、俺達も手伝わなくて」

「ボスが言っただろ、感染者が出たら終わりだ」

「お前が感染したらどうする」

「自害」

「っお前」

「相変わらず優しすぎる奴だ、昔から何も変わらないな。全てにおいて」

「やかましい。今から監視に行くから、じゃあな」

そういうとカズキはふわっと浮かび上がると猛スピードで北西側へ飛んでいくのであった

 

 

 

 

とある場所。二人組が上空から街を眺めていた。

「ククク、あとは待つだけだ」

「随分念入りなのね」

二人は黒のフードを深く被り姿はよくわからない。

「当たり前だ。確実にするには計画が必要なんだよ。さぁこれでまとめて血祭りに上げられる」

「ほんと、残忍な人」

「それは互さまだろ」

「でも、それくらい徹底しないと勝てないなんて嫌よね」

「今に見ていろ世界、絶望の淵に沈めてやる」

獰猛な笑みと不気味な笑い声が闇夜に消えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

つづく



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休暇前

 

 

 

 

 

アルガド王国を囲う巨大な壁。これらは敵国や危険種から国と民を守る為に先祖が立てた有り難き代物。

その北西側の壁の上でカズキは一人座っていた。

服装はアルセウス学園の制服ではなく、一回目のルイス戦の時に見せたヒノモトの服装でだ。

朝焼けが眩しい頃、ついに動きが起こる。

「来たか」

 

 

 

 

 

 

 

アルガド王国より北西より六キロ程先の平野にて八十、百、いや百五十はいるであろう魔族の軍隊が森を抜け押し寄せていた。

その後方で巨大なカバのような魔物の上に二人の姉妹が装飾か施された椅子に座っている。

「姉さん、もうすぐで着くわ」

「落ち着いてぺリア、もうすぐで今ではないわ」

真っ青な長い髪に黄色の瞳を持つ不気味な女、ペカド・グラッジッド。服は着ておらずかわりに体につるが巻き葉っぱやこけのようなもので肌をかくしているが露出がとても高い格好である。

対する妹のぺリア・グラッジッドは、姿容姿は似ているもの、露出の激しい黒のボンテージを身につけている。

大罪のペカド、絶望のぺリア、地獄姉妹の異名で魔界に名を轟かせている凶悪な魔物だ。

「ジドゥ様はなぜ今になってアルガド王国を攻めるのかしら」

「理由なんてどうでもいいのよ。全てはジドゥ様の赴くままによ、ぺリア」

「だとしてもよ、遅すぎるんじゃないかしら?この遅れが取り返しのつかないことになるかも」

「心配性ね、なんとかなるわよ」

「姉さんは怠惰で傲慢過ぎるわ」

「仕方ないでしょ、それが罪(私)なのだから」

「ペカド様、ぺリア様。前方より何者かがこちらに向かって走ってきてます、それもすごい勢いで」

蝙蝠の姿をした人形の悪魔が後方より知らせる。

「あら、もう気づいたのかしら?」

「人間は警戒心だけは強いからね」

「お散歩はこれまでよ、さぁ蹂躙するのよ」

「蒼天破火」

シュゴオオォォォッ

目映く輝く巨大な火柱と共に焼けつく熱風が辺りを吹き飛ばす。

「ぐぎゃああ」

「げげげげ」

その炎や熱風で焼かれた魔物達は見るに無惨な姿となり朽ち果てる。

今の一撃で魔物の軍団が壊滅状態となる。

「この力は!?」

「よおカス共、罪も病もまとめて消し炭にしにきたぜ」

その地獄のような光景から戦禍乱状態のカズキが鬼の形相で不適に笑いながらゆっくりと歩みよってくる。

「イオリ」

「カズキ」

その姿を見た二人は思わず顔をひきつる。

「前は殺し損ねたが、今回は無い。死ね」

「嬉しいわ、私のものになりに来たのかしら?」

「あ?そんな気は毛頭無い」

「ちょっと姉さん、カズキは私のものよ」

「ゴチャゴチャと貴様ら、何訳わからねぇこと言ってるんだ」

「あらてんぱっちゃって、可愛いわよ」

「あれだけ私に優しくしてくれたのに、私の事好きじゃないの?」

「敵なら誰であろうと殺す。最も、俺の仲間達を殺した奴は好きにはなれねぇよ」

「そう、ならジドゥ様の為に死んでちょうだい」

「誰があんなカスの為に死ねるか」

「カスとは無礼な、更なる力を付け今や神をも越えた存在」

「寝言は寝て言え、お前らごときが神を越えられるか」

「越えられるわ、格上なんて越える為のものでしょ?」

「お喋りはここまでよ。ユウガオ」

ペカドは体に巻き付いてる蔓がカズキめがけ伸びる。

それを飛び上がりかわすと、ぺリアはカズキに向け飛び上がり接近戦を挑む。

「はっ」

しかしその攻撃は大振りなため簡単に避けれてしまう。

「やっかいだな、そのバイ菌をばら撒きながらの攻撃はよ」

カズキの周りで何かが焼け焦げる音が聞こえる。

「私のブラック・デス・ザーシィを焼き殺すなんて」

大振りの攻撃は相手を油断させるためであって、狙いは病原菌をばら撒き感染させることだった。

だがカズキは周りに高熱のバリアを張ったので触れるまえに熱で殺しているのだ。

「ここからアルガドまで四キロ以上はある、お前の強力な病原菌でも届くまえに死滅する」

「なめないで、菌なんてどこにでもいる身近な危険よ。いくら距離があっても必ず感染する」

「生きとし生けるものは全て炎に焼かれて死ぬ、どんなものでもだ」

「ちっ、ぺリアここは私に任せてアルガドへ行きなさい」

「させるか、はぁ!」

立ちふさがるペカドの腹部を拳で貫きそのまま横へ切り裂く。

「がはっ」

「姉さん!?」

「行かせねぇ、てめぇらはここて終わりだ」

「くっ」

アルガドに向け飛び立つぺリアを先回りして蹴り落とす。

「あがっ、がああ」

倒れるぺリアの首を掴むと締め上げながら持ち上げる。

「はな、せ」

両手でカズキを殴るも微動だにせず、手刀で肩から両腕を斬り落とされる。

「ギャアアァァ」

両肩の付け根から激痛が走る、紫色の血がダバダバと流れ落ちる。

そんな状態でもカズキは情け容赦なく顔、腹部へと殴り続ける。

ドコッ バキッ ボコッ ゴキッ

静寂の中殴られる鈍い音が響く。

抵抗する術も無く殴られ続けたぺリアの整った顔は酷く変形し、体もアザだらけだ。

それでも殴る手を止めない。

それもそうさ、ぺリアに多くの仲間を殺されたのだ。その恨み悲しみの分だけ殴らなければ気がすまない。

ひたすらに殴り続けるカズキ。そこへ横槍を入れるかのよに横から槍が投げられる。

それをぺリアを盾にして防ぎ、貫通する刃を素手で止める。

「フッフッフッ、復讐鬼となっても周りはしっかり見ているとは流石だな」

「誰だ」

「地獄姉妹でさえ赤子のように扱うか、カズキ」

黒のマントにタキシードを着こなした、ねじり曲がった角に黒の羽も持った男。

「……ジンカン、ゴミクズがなんのようだ」

「まだこいつらに死なれては困るんだ。返していただけると嬉しいが」

「断る、お前もついでに殺す」

「やはりそう来るか、なら貴様の相手は悪魔達にやっていただこう」

ぺリアに突き刺さった槍が腕となり力付くで奪い取る。

「雑魚共がああ」

不意打ちではあったが、友の仇を奪われた事に激昂する。カズキの手に残ったぺリアの肉片が炎で消し炭になる。

「行け、悪魔達よ。カズキを殺せ」

黒のマントを広げると、悪魔達がぞろぞろと出てくる。

「アルガドを、世界を落とすのは次の機会にしてやろう。いずれくる大戦の時までさらばだ」

悪魔を残してジンカンはペカドとぺリアとその両腕を持つとシュンと消え去る。

「うおおおお」

次々と悪魔を殺していくカズキ。刀を振るい、炎を放ち、雷を流し、風を起こす。神々ですら恐れ慄く大虐殺により体中に返り血で真っ黒だ。

「くっそおおおおおおお」

悪魔達の屍の上でカズキは悲痛の叫びを上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝起きた事をメーテルに伝えると、カズキは海で血を流しシャワーで汚れを落とすと制服に着替え学園へ登校する。

「あら、カズキさん。昨日はどちらにいらしたのかしら?」

教室に入るといつものメンバーがいた。

こちらに気づいたノアが声をかけてくる。

「ボスとちょっと話こんで、外泊させてもらったんだ」

左手で頬をポリポリかきながら言う。

「メーテル様ですか」

「強かったな、手も足も何もできなかった」

「あんなのと剣舞祭で戦うんですか」

「まだまだ修行しないとな」

「カズキ、どうだったんだ」

みんなが話てる中でレオンが小声で聞いてくる。

「殺し損ねた、追い払った程度だ」

「そうか」

そう告げると、それ以上深く聞いてはこなかった。

「何をしている貴様ら、さっさと席につけ。授業をするぞ」

しばらく話しているとレイカ先生が教室へ入ってきた。

皆は怒られる前にそそくさと各々の席へ向かう。

「今日は、明日から始まる大型連休について話がある」

「先生、俺用事ガェッ」

手を上げ話し出すカズキの額にチョークを当てる。

「話は最後まで聞け」

「は、はい」

「剣舞祭に向けて合宿をしようと思ったが、剣舞祭について家族と話をしたい奴もいるだろう。だから休みたいか、合宿したいか、自身で決めろ」

それはレイカ先生の最後の気遣いである。

大会まで強さを完成させる為の時間が無い。だが、長い間家族と離れて寮で暮らしている生徒達が実家に戻れる数少ない機会だ。

だから自身で決めさせる。それはレイカ先生なりの優しさだ。

「わ、私はルーンブラッドに帰る気はありません」

「俺もだ、どのみち敵だから帰ったら帰ってこれなくなる」

「帰る所なし」

「わたくしも帰る時は剣舞祭優勝の報告、その時だけですわ」

「……俺は帰らせてもらう」

レオン一人が帰りたいと言う。理由はすぐに予想はついた。

「妹の病態が心配だ、一目安心かどうか見ておきたい」

妹思いのレオンだ、そうだろうと全員が分かってた。だからこそ誰も何も言わない。

「安心しろ、私達が行く合宿先はアニマニアだ」

そんなレオンを安心させるかのように言う。

「なぜアニマニアに?」

「あそこは気前がいいからな、場所を借りたいと言ったら貸してくれた」

「場所が変わるだけでも良い気分転換になるし、アニマニアの環境は人にとっては過酷だから修行にもなるからな」

「俺達はどんな秘境に連れていかれるんだ」

今の話を聞くだけでとんでもない場所に行かされるんじゃないかと不安になってくる。

「で、でも私達の事を観察されるんじゃ」

「安心しろ、私達が行くのはアニマニア精霊学校」

「そこは精霊使いが通う名門にして剣舞祭にほとんどが出場してる」

「そうだ、偵察はお互い様という訳だ」

「大胆な計画だな」

「お前達に足りないのは実戦だ。戦いまくれ」

「おおう」

「てなわけだ、授業に戻るぞ」

「えぇー」

「ぶっ斬られたいか!」

「さー授業だ、ばっちこーい」

とまあ本日もいつも通り授業を進めるのであった。

 

 

 

 

つづく



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いざ、アニマニアへ

 

 

 

 

 

 

 

八時四十二分

「おおい、ロウラクシア連国行きの客船が沈んでいるぞ」

「なんであんな頑丈な船が沈むんだ」

「良く見ろ、何かが船を襲っているぞ」

巨大な船から黒煙が立ち上がり海や空から何者かに襲撃を受けている。

「早く助けに行かないと」

「兵士に連絡を」

それを見て街中パニックになっている。

しかし、次の瞬間には船から凄まじい音が響く。

煙も消え、海や空から襲われる事もなく静かな時間が流れる。

そんな中、船の方から一人の青年がなんとバシャバシャ音を立て海上を走ってきた。

「っと、失礼」

街に上がると船の方へ向きおもむろに片手を前へだす。

「こんなもんかな…っと、ふん!」

ぎゅっと何かを掴んだ仕草をすると、こんどは思いっきり引っ張る動作をする。

すると、沈んでいた船が浮き上がるとこっちに向かって飛んでくる。

そして

ザッパアァンと波音を立て街に引き寄せられた。

「あ、あんた。何者なんだ?」

「俺か?俺はヒノモトのサムライだ」

青年は笑顔でそう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七時三十分

「しまった、制服以外服が一着しかない」

「それは俺達全員だ」

「着替え持って来ればよかったな」

アニマニアでの合宿に向け荷造りをする。

「アニマニアか、行った事ないから楽しみだな」

「俺も久々だな」

「俺は半年ぶりだな」

「は?」

「言わなかったか?俺は二年間世界を旅してたんだよ」

アニマニア大国、ドルツェルブ軍国、ロウラクシア連国、ルーンブラッド、ドラグニア竜国、聖レイクロウ神国、主な大国の他にエルフやドワーフなどの民族とも交流を深めてきた。

「そんな話は初めて聞くぞ」

「まあどっちだっていいだろ」

「国籍をドルツェルブに出来た訳がわかった」

「あれは宛がいたからね」

「ふーん、宛ねぇ」

偽造は簡単だが、あのレイカ先生や学園長に通じるかどうか。

ましてや、あの他者排除的なドルツェルブが国籍を造ってくれるかどうかも妖しい。

「アニマニアにもいるのか?」

「神伐隊繋がりが多いな」

「あなた達、朝御飯ができましたわ」

ドアからノックと共にノアの声が聞こえる。朝荷支度する俺らは昨日の夜修行に明け暮れてたのでそれどころではなかったのだ。

とはいうが荷物がカバン一つだけと恐ろしい程に少ない、恐ろしい…。

「今いくよ」

「飯だぞ、急げジェルマン」

「急がなくても飯は逃げねぇよ」

「ジェルマンの分もいただき」

「あ、テメェカズキコラ」

競うようにリビングに行くと恐らく合宿に持ってくであろう荷物が沢山置いてあった。

「うお、さすが女子。荷物多い」

「なんか、俺達の荷物が不安になってきたな」

「後で見直すか」

「何を言ってますの、これはわたくし達とルイスさんとシバさんの分ですわ」

「なに!?ルイスだけでなくシバの兄さんまで来るのか、なんで」

「わたくし達の相手をしてくださるようですわ。シバさんなんかはわたくしの代わりに御飯も作ってくれるそうですし」

「気合い入ってるな」

「ああ、そうだな」

「出発は授業が終わってすぐだそうです」

「準備するなら今か昼休みだけだよー」

朝食を取っているルリーとリュークが言ってくる。女性陣は昨日のうちに支度を済ませたので余裕の態度を取っている。ただ単に男共はバカなだけである。

「まあなんとかなるだろ」

「だな」

「飯だ飯飯」

腹が減ってはなんとかなので取り敢えず朝食を取ってから考えよう。

と、するも食べていたら登校時間ギリギリになったので結局そのまま登校するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

九時十五分

「こんな男を探しているが、知らないか?」

街人に写真を見せては手当たり次第探している男。

「んー、知らないねぇ」

「あれ?アルセウス学園にこんな生徒居なかったか?」

「ああ、剣舞祭に出るってなんかポスター張ってあったな」

「腰に剣を刺している奴は少ないからな、多分こんな顔だったし」

「そうか、ありがとう」

情報を得ると一言礼を言ってそそくさと立ち去るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

九時三十分

「はああくたばれ、バースト・クラッシュ」

「甘いんだ、よ」

「ぐは」

「威力が足りん、技がワンパターン、動きが単純、いつもいつも毎日毎日同じような戦い方、一日を永遠に繰り返してるかと思うレベルだ」

「なめやがって、うるあ」

ジェルマンがレイカ先生と激闘を繰り広げている中

「カズキ、動きが雑だよ」

「いててて、この野郎」

リュークと組み手をやってるカズキは、その動きに翻弄されていた。

攻撃しても全て受け流されてしまう。それどころか、こちらの力を利用して攻撃してくる。

「ちっ、究極の柔に対抗する技がねぇ」

このカウンターをなんとかしなければ、俺に勝ち目は無いだろう。

「剛だけ鍛えてるからよ、バランス良く鍛えてなさい」

「傍若無人のような無理難題を押し付けるな。だが、それがいい」

「覚えるまで相手してあげるわ。優しいでしょ私」

「あぁ、サクラギ家に教われるなんて感激過ぎて地獄に送られた気分だ」

「とんでもない。地獄以上を見せるわ」

「ぐっ、もっとこいや!」

リュークの強烈なハイキック、あまりの威力に後ろに倒れるのではなく浮き上がってしまう。

これが柔と剛を極めた者の戦い、凄まじい。

第三者からでは決して解る事のない、戦ってる者にしか伝わらない絶望的力量差。

カズキの時だけにしか出さない、だが周りからはカズキと対等もしくはそれ以上の印象を与えない。

「ドーーン」

腹部に拳を真っ直ぐ突き刺し後ろへ倒れる。

それに加えカズキの日頃の行いもあるため、何度倒れようともふざけてるんだなと、手を抜いているんだろうとしか思われていない。つらい。

必死にやってるのに伝わらないなんて、あんまりだ。

「剛で耐えない。力を抜く」

「無力!」

脱力してからの平手打ち。

「力使ってる」

しかしリュークに平然と受け止められるやいなや速攻で同じ技でやり返してくる。

「いつぅ、肉抉れるわ」

「脱力脱筋柔軟」

その場でべちゃーっと流動体のように横になるリューク。まるでゼリー、いや水だこりゃ。

「隙あり」

「ノー隙あり」

踵落としで粉砕してやろうと振り落とすが、蛇のようにカズキに絡み付き締め上げる。

「ぐおあおお」

「柔で相手に絡み付き剛で締め上げる、その逆もまた然り」

「ぐおお……ぬあああああ」

力で強引に引き剥がすとリュークの手を取り叩きつけると足で胴体を押さえ締め上げる。

きーんこーんかーんこーん

ここで授業終了のチャイムが鳴ってしまう。

「ちっ、いい所だったのに」

「残念だったね」

技をかけられていたのに余裕の表情をしてるリューク。あの状態でも技を返せたとでもいわんばかりの態度だ。

「ちっ、あーあーしんどいしんどいしんどいな」

すげぇきついが、やっとリュークがやる気を出してくれたのだ、この機を逃さない。毎日戦ってレベルアップ、合宿中に技術をものにしてやる。

「いつになく手こずっているな」

木陰で休もうとフラフラ歩くカズキにレオンが言ってくる。

「当たり前だろ、相手は格上なんだからよ」

「格上、か。俺とやってる時はそんな風には見えないけとな」

「そんなもんさ。あーいてて、次の授業は雑学か。組み手よりしんどい」

こんな激しい組み手の後に雑学とか寝てくださいと言っているようなものだ。

嘆きながらも教室へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

十時五十分

アルセウス学園

校門前

「久々のアルセウス学園か、懐かしいな」

「お?校門の前で不審者発見、何奴!?」

たまたま校門前付近を歩いていたミカルドがその男を発見すると、近づいてくる。

「ちょうど良かった。イオリ・カズキってやつがここに通ってると聞いたけど会わせてくれないか?」

「ぬ?隊、カズキさんに会わせてほしいですって。まさか」

「あ、俺は」

「御友人が何かで」

「……そうだ、あいつに言伝てがあってな。あと説教」

「いいですよー、許可取ってきますので待っててくださーい」

特に疑う事もせず身の上を聞く事もせずスタコラサッサと先生に許可を取りに行く。

「純朴な人だな」

疑う事を知らない彼女の行動に思わず感激してしまう。

「私の監視付きで許可がおりました」

手には来客と書かれた札を持ち笑顔で戻ってくる。

「ありがとう」

「あ、そう言えば御名前を聞いてもいいですか?呼び方が無いので」

「そうだな、俺はダテ・ゼンリキ。よろしくな」

ピッタリ過ぎて筋肉が浮き出て見える黒のシャツに真っ白のボトムス、装飾が施された黒のコートを羽織った男。ダテが笑顔で答える。

「はい、私はミカルド・バルティグンです。よろしくお願いしますダテさん」 

「ミカルドさんは何年生なんだ?」

「三年生ですよ」

「そうか。思い残す事なくちゃんと、卒業するんだぞ」

「はい。みんなが入れてくれたのですから絶対に卒業します」

「ははは、その意気だぞ」

話をしながら歩いていると、前からジェルマンとノアが言い合いをしながら歩いてくる。

「テメェのせいでプリント配りするはめになったじゃねぇか」

「あなたがコーヒーを投げなければ良かった話ではないですか」

「テメェが避けるからだろうが」

「避けるに決まってますわ」

「あ、ジェルマンさんとノアさんですよ。ちょうど良かったです、カズキさんの場所を聞きましょう」

そう言うと走って行ってしまう。

「あら、ミカルド先輩どうしたのですか?」

「カズキ隊長の居場所を教えてください」

「カズキ?あのバカならグランドで組手をしているぞ」

「グランドですね、ありがとうございます」

ぺこっと頭をさげるとダテの所まで走って戻ってくる。

「グランドにいるそうです、行きましょう」

そういうとグランドまで案内してくれる。

見ず知らずの人にここまでやってくれるのかと少し感動を覚えるダテであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

十時五十二分

グランドにて

「こ、こうか?」

「違う違う、こうやって気を体に纏うような感じで、こう」

全身の体に力を入れるレオンに対して、すいーっと浮かび上がるカズキ。

レイカ先生はジェルマンとノアを連れて事務作業をしているので、カズキとリューク、レオン、ルリーで自主練習をしている。その中で空飛ぶ方法を知りたいと方向がそれて今にいたる。

「浮遊魔法なら出来るんですけど、そんな速く動けません」

ルリーも詠唱を唱えるとカズキと同じ高さまでプカプカと浮かぶ。

「箒に魔法をかけて飛ぶという手もあるんですけど、魔力と集中力の消費が激しいんですよ」

「俺も最初は気の消耗が激しかったな」

「神威も自身を押し上げるイメージで纏えばいけると思うよ」

手本を見せるように浮かび上がるリューク。

「ほら出来た」

「いや、初めてやったんかい」

「その神威が無いんだが」

「どのみち難しい事なんですね」

「そもそも気ってなんだ?」

「こういうのだよ」

片手にボワンと赤く光る球が浮かび上がる。

それは以前カズキが投げつけたもので、凄まじい破壊力を宿した球だ。

「ヒノモトは神威の変わりに気を使ってるからな。まあ空飛べる奴は少ないけど」

そこは神威と同じでセンスとか努力とかが関わってくる。ほとんどが飛べなくてもいいやと思ってるのが原因だろう。

「ヒノモトに行った者は皆強くなって帰ってくるって噂はそういうことなんだな」

「武器とか顕現できないけど、使い勝手がいいぞ」

「神威と気を両方使えれば強いじゃないですか」

「そうだな、理想の戦士だな」

神威と気、その両方を使えるのならば理想だ。

だが、それは非常に困難な事でもある。

「でも神威と気の使い分けが難しいからね、凄い消費が激しいわ」

「出来る人はいるが、ありゃ修行の虫だからな。凡才には出来ん」

その人物は血反吐を吐く努力でそれを成し遂げた猛者だ。決して見よう見まねで、パッとできるものではないとカズキとリュークは知っていた。

「話がずれたな。最初は気の扱いからで、まずは集中します。両手に気を集めます。おわり」

「それが分からん」

「という訳で、体に負荷がかかるけど俺の気を流すから感覚掴んでみ?」

「バカ、危険だからやめろ!」

レオンに気を分け与えようとするカズキの顔面を殴り飛ばす。

「人には気が収まる要領があるの、それを越えると体が壊れるわ。弱ってるならまだしも、バカじゃないの」

「す、すみませんでした」

珍しくふざけるの無しで怒るリューク。それほど危険なことだと一瞬で理解できた。

「どうせほとんど飛べない奴ばかりだから覚えたって意味ないわ、大会が終わってからゆっくり学びなさい」

「ちっ、わかったよ」

「あ、神伐隊で何人かに気の扱い教えたから使ってくるかもよ?」

「なんでそんなもの教えたんだよ」

「知らん知らん、こんな事なるなんて知らんよ普通」

まさか小隊を強くする為命を守る為に教えたのが巡り巡って自身の障壁となるとは思わなかった。

「あ、でも多くは死んじまったから関係ねーか」

「……なんか、ごめんなさい」

「殺し殺される仕事だから仕方なし。まあ自ら進んで入ったんだ、自業自得」

「カズキがバカなのは勉強してないから、自業自得」

「くぅー。なんか俺ずーっとバカにされてる気がするぞ」

「そ、そんな事ないですよ」

「くー、優しいのはルリーさんだけだぜ」

ルリーの優しい言葉により立ち直るカズキ。

「よし、修行再開。さぁこい秘技必殺の奥義奥の手三歩三撃だ」

「なんだそのダサい技名は」

「ひどい、ぐすん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十時五十九分

「あれはなんだ」

「あれはコロシアムですね」

コロシアムには『第百三十六回アルガド剣闘大会』大々的に書かれていた。

「そう言えば今日はコロシアム一般貸し出しで、大会に使われているんですよね」

それほど大きな大会ではないが、市民の娯楽として親しまれている大会のため意外と歴史があったりもする。賞品もなかなか良いので、アルガド王国の兵士とかも出てるそうだ。

「腕試しか、俺も出来るかな?」

「もうトーナメントは始まっているから無理ですね」

「それは残念」

「あ、でも見て行きますか?」

「いいの?俺急いでるけど見たいんだ」

「そうですよね、ダテさんから闘気が感じられました」

「お?分かるかい?」

「はい」

てなわけでコロシアムに入る。

なぜかまだ出場枠が残っていたらしく、一回戦の途中らしいのでエントリーができてしまった。そんなバカな。都合良すぎぃ。

「やりましたね」

「そうだな、まさかエントリー出来るとは思わなかった」 

「私はここで見てますので優勝目指して頑張ってください」

「おう、優勝をプレゼントしてやるぜ」

そう言うと直ぐ様試合が始まるのでリングへと向かう。

「前大会、前々大会、さらに前々々大会これ以上言うとキリがない。出場回数なんと十二回全て三位、アルガド王国切り込み隊長サンシマ・テンデイ。それに対するはトーナメント募集ギリギリで駆け込んだ正体不明の戦士、ダテ・ゼンリキだああ」

「今回こそ勝つ」

「悪いが、そうはいかない」

「破壊し両断する戦刃よ我が元へ、戦斧(バトルアックス)」

三面の刃がついた大斧を顕現させる軽装な鎧を身につけた大柄の男。

「こい、天突き」

空から降ってくる槍を持つとくるくると華麗に回し構える。

「いくぜぇ、爆裂斬り」

「いい威力だ、常人なら一発だな」

大きく振り下ろした大斧を爆発にも動じることなく受け止めるダテ。

「うおおおあ、負けるかあああ」

身の丈以上の大斧を軽々しく振り回す。しかし身軽にかわすダテには当たらない。

「大爆裂斬り」

「ふん」

狙いをすました一閃突きは大斧を砕き、サンシマを貫いた。

「ごはっ、ばかな」

サンシマは後ろへ倒れると光の粒となり消える。

「な、ななななんとサンシマ選手まさかの一回戦敗退。勝ったのはダテ選手だあ」

まさかの展開に観客が沸きに沸く。

それを他所にダテは控え室へと戻る

「すごいですねダテさん」

「言っただろ、優勝をプレゼントするって。このまま優勝するぞ」

「はい」

この後もダテは順調に勝ちに勝ち続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十二時三十分

「んー、やっと飯だぁ」

長い長い授業を終え昼休みへと入るカズキ達。

今回は教室ではなく外で食べようと良い場所はないかとうろうろしている。

「なんか賑やかだな」

「そういえば、今日は一般人向けの大会をやっているらしいですわ」

「くだらねえ」

「…俺見ていくわ」

カズキは弁当を持ってコロシアムへと走り出す。

「もう、勝手なんですから」

「だが試合を見ておくのも勉強になるんじゃないのか?」

「はっ、見たところで勉強にはなるかよ」

「おい、ミカルド先輩が戦うってマジかよ」

「相手は全力で戦ったハート先輩を倒したらしいよ」

「あのデュールウエポンに勝ったのかよ、信じられない」

「今すげぇ激闘繰り広げてるんだってよ」

「やべぇ急げ」

何かの噂を聞き付けた生徒達がぞろぞろとコロシアムへと向かっている。

あのハートを倒した、それもそんな騒ぎを起こすこともなくだ。そんな人物がハートよりも強いとされるミカルドと戦うのだ、それだけで見る価値はある。

「………」

「見に、行くか」

「ですね」

ジェルマン達も急いで見に行く事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

十二時二十分

コロシアム

「ただいまより、スペシャルエキシビションマッチをおこないます」

「誰もその素顔は見たことがない。張り裂く咆哮は怪物の如し、戦う姿は狂戦士、その強さはまさに悪魔。アルセウス学園最強の象徴!ミカルド・バルティグン!」

「おい、なんだあの女は」

「ミカルド先輩じゃないのか!?」

「いやでもミカルド先輩の姿誰も見た事ないし」

「あれがミカルド先輩!?」

「滅茶苦茶可愛いじゃんか」

リングに上がるミカルドを見て観客は騒ぎ出す。

学園七不思議とまでされてしまったミカルドの素顔だ、驚かれるのも無理はない。

「対するは、並みいる強豪に飛び入り参加でまさかまさかの優勝を納めたこの男、絶対無比の槍裁きで最強を貫くか!?ダテ・ゼンリキ!」

「ダテ・ゼンリキだって?」

「知らないな」

「名前からしてアルガド王国の生まれじゃなさそうだけど」

「もしかしてスパイ?」

「こんな大胆なスパイがいるかよ」

「なんか聞いたことあるような、ないような」

「随分と盛り上がっているな」

観客席の盛り上がりを見て言うダテ。

先程とは違い観客席には多くの生徒達が入ってきている。これだけの人数を集めるということはそれほど注目されている試合なんだとわかる。

「そうですね」

「それよりも、ミカルドさんが学園最強だなんてな。案外身近にいるもんだな」

「はい、ビックリです」

「でもいいのか?なんか正体ばらしてまで俺なんかと戦って」

生徒達から聞こえるのは驚きの声ばかりだった、理由は分からないが正体を隠していたように聞こえる。

「いいんですよ。だって一目会った時から思っていましたの。この人と殺りたいって」

「そうか、根っからの戦闘狂って訳なんだな。大好きだぜそういうの」

「全力でいきます」

「その意気を評していいものを見せてやろう」

光輝く神威の原子がダテの体を包む。

「閻羅鬼王(ラージャリオ)」

火柱が立ち上がり白く輝く光がダテを包み白の鎧を形成する。

「これが俺の神威武装だ、久々過ぎて使えるかわからなかったぜ」

「か、格好いい」

龍をあしらったデザインの兜にマントがついたシンプルながらも王道をいく鎧に思わず見いってしまう。

「お?こいつの良さが分かるか」

「はい。じゃあ私も悪役っぽいですけど……我が身を喰らえ禍威狂甲」

背後に人型の黒竜が現れるとミカルドを侵食するかのように一体化し鎧を形成していく。

「こいつは神威武装じゃねぇな。神具にも匹敵するなにか、凄まじい悪寒がするぜ」

その禍々しい姿にダテは不適に笑う。

「禍゛宿゛ノ゛剣゛(マガヤドノツルギ)」

自身の何倍もある巨大な大剣を顕現させるとダテめがけ振り落とす。

「いいねぇ、燃えてきた!」

受け止め弾くと天突きを横一閃に振るう。

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛」

それを弾くとダテの腹部に蹴りをいれる。

「力任せのバカではないようだが、力任せの攻撃しかないのか」

ミカルドの冷静で理性的にして暴力的攻撃に思わず苦笑いしてしまう。

こいつ、誰かに剣術を教わった事がない。全て独学と身体能力、自身の直感のみでこれほどの実力をつけたのか。

「ちっ」

受ける度に一撃一撃が重く鋭くなっている。加えてダテの攻撃に見てから反応している。常人に比べて反射速度が速いのだろう、俺やカズキですら持っていない才能の一種。

何者にも当てはまらない我流は戦い難い、それがミカルドの持ち味かもしれないが大雑把過ぎる。故に勿体ない。

「恵まれ過ぎたそれら才能だけで勝てると思うなよ!」

「オオオオオオ」

「迅雷烈風」

咆哮を上げ大剣を振り下ろす。その瞬間、雷の如き速さで風のように鋭い目にも見えない一閃突きを放つ。

それは禍威狂甲の装甲を意図も容易く貫いた。

「オオオ、オォォ」

ミカルドは片膝を突き光の原子となり静かに消えた。

「努力に勝るものなし、お前には良い師匠が必要だな」

「決まりましたあ!勝者はダテ選手だあ!」

解説者の勝利宣言により、全ての試合が終わったのであった。

その後、閉会式が始まりダテは優勝賞品、長期アニマニアペア旅行券と賞金を受け取り

「最後に一言お願いします」

マイクを渡される。

何をいおうか、ここは無難に選手達をたたえるような、いやここは

「アルガド王国の強者達よ、この程度じゃまた魔物共に蹂躙されるぞ。もっと強くなれ」

その場にいる全員に挑発をする。

アルセウス学園の生徒達も個人で鍛えている住人も冒険者もアルガドの兵士達も全員にだ。

「文句があるやつは三年前の事を思い出してから言え。以上だ」

反論しようとした、文句を言おうともした、だがその言葉を聞いて誰を言い返せなかった。

三年アルガド王国は魔物に襲われほとんどの者が太刀打ち出来ず多くの命が奪われた。

だが、あの時とレベルが全く変わっていない。

このまま行けば滅ぶのは確実、少しキツイ言い方だがこれくらいがちょうどいいだろう。

「あ、もしかして千人斬りのダテかお前」

「ヒノモトに帰ったと聞いたが」

「なぜここに」

ここで改めてダテ・ゼンリキについて詳しく説明しておこう。

元アルセウス学園総番にして英雄と呼ばれた男。一番有名なのが千人斬りのダテだろう。

荒れていたアルセウス学園をまとめ上げたことから総番。

各国を旅していた時、国を揺るがす大事件を治めたり魔軍ドーラを倒した事から英雄。

そしてレオルド帝国を滅ぼした時に千人斬ったことから千人斬り。

どれも敬意と畏怖でつけられた異名だ。

その人物だと観客席にいる人々は今ようやくわかり始めた。

「ダテ兄、なんでこんな所にいるんですか」

観客席からリングへ飛び降りたカズキ、顔は驚きと嬉しさで混ざっていた。

「おおカズキ、やっと会えた」

「会えたって、試合なんかやってたら会えっこないですよ」

「まあ騒ぎを起こせば手っ取り早いと思ってな」

「ダテ兄らしくないな、急用ですか?」

「そういう訳ではない。お前に言伝てと説教をしに来ただけだ」 

「せ、説教!?」

「お前ふったそうじゃないか?しかも伝言で」

「な!?」

「わざわざヒノモトまで真相を確かめに来たぜ」

「それは、あの場にいなかったから仕方なく」

「伝言か口伝えかなんかの問題じゃねぇ、なぜ会いもせずふった」

「だ、ダテ兄には関係ない」

カズキを殴りとばす。それはコロシアムを貫き山まで吹き飛んだ。

「馬鹿野郎!!てめぇそれでも男か!八年もお前を思い続けた女の気持ちを踏みにじるんじゃねえ!」

空いた穴から一直線に飛ぶと、倒れるカズキの襟を掴み揺さぶる。

「らしくねえんだよ。お前にとってあいつの存在は全てだったはず、何があった言え!」

「俺には、時間が無いんだよ。ダテ兄」

「時間だと?学園生活を送っておいて何が無いだ」

「学園は剣舞祭が終わったらすぐやめる。俺には通すべき筋があるんだよ、父さんと同じで」

「お前それでも」

「俺の道にキューちゃんとの婚約が障壁になった。だから、破棄した。俺の道を邪魔をするものは全て排除する、どんな事でもどんな手を使ってもだ!」

「その道をあいつと一緒に歩めばいいだろ」

「それが障壁になるんだよ!」

「ダテ兄が、愛してた彼女をおいて世界守るため戦ったあなたならわかるはずだ」

「けっ、その話を出されたら大口出せねぇ。だがなカズキ、兄貴として失敗談として後悔した男としてお前に忠告しただけだ」 

「ダテ兄」

「俺はしばらくここにいるつもりだ、気が向いたら話てくれよカズキ」

「気、向かせてみてください」

「ぬかせ、ガキが」

「今言うのもおかしいかもしれませんが、久々に戦ってくれませんか?」

「いいだろう。二年世界を見てどう成長したか見せてくれ」

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

十三時五分

「遅い。カズキは何をしているのだ!」

グラウンドで怒りに満ちたレイカ先生が鞭をバシンバシンと地面に叩きつけている。

「試合会場に行ったきり戻ってきませんわ」

「ミカルド先輩と鎧野郎の試合見損ねたしよ」

「はっ、あのバカの事だ挑んでるんじゃねぇのか?」

「まさか、さすがにあり得ま」

「うわーーーっ」

噂をすれば傷だらけのカズキが飛んでくる。

方向からしてコロシアムの方から一直線に飛んできたようだ。

「したわね」

「……そうですね」

視界から通りすぎると地面に激突し転がる。

「オオオアアア!死緑ッ」

雄叫びを上げながら立ち上がると不気味に発光する緑色の手を突き出す。

「白王!」

猛スピードで飛んできながらそれをかわし蹴りを放つダテ。

「がっ」

後ろへ吹き飛び倒れるとダテがその上に胡座をかくように乗ってくる。

「勝負ありだ。強くなったなカズキ」

「こちとら制されてんのに、嫌味だぜダテ兄ィ」

「正直ここまでラージャリオが砕けるとは思わなかった。戦禍乱は恐ろしいぜ」

「白王を蹴りで放つ、愛沢流を思うがまま自在に使えるそっちが恐ろしい」

「そんなのは努力でなんとかなる」

「そう上手くいかねぇがな」

「お前なら出来るさ」

「あーあ、課題ばっか増えて嫌になるわ」

「課題があるってことはまだまだ強くなれる証拠だ、やったな」

「裏を言えばまだ弱い未熟ってことだろ、くそ」

「後ろ向きな、もっと前見ろポジティブポジティブ」 

「前向きねぇ」

「俺は完成に近い強さ、だが裏を言えばここまでの男。だが俺はこのままでは終わらん、俺は常に全力全開無限突破よ!」

「うおおおダテ兄ィ、なんて前向きで熱い漢なんだああ」

「当たり前だろ、もっと誉めてもいいんだぞおおーー!」

「最高だぜダテ兄ィーーッ!」

うおおおおおっと燃え上がっている二人を見て苦笑する一同。

その異様ともいえる空間に入ることができずただ遠くから見ているだけだ。

「な、なんかとても暑苦しいですわ」

「ここだけ炎の中にいるみたいに熱い」

「暑苦しいんだよ」

「うお!?もう授業の時間か?いっけねー、後でねダテ兄」

ジェルマン達を見るなりすぐに駆け寄る。

幸いな事にレイカ先生が、いるよなーやっぱり。

「カズキ、貴様授業に遅刻しておいて騒ぎまで起こしやがって」

「いってー、体罰だあー!」

鞭がカズキの顔面にめり込む。凄まじい痛みに踞ってしまう。

それを見たダテはふと微笑み安心したような顔つきで立ち去ろうとする。

「いつものトレーニングを始めるぞ、手始めに山越えしてこい!時間内に帰ってこれなければ寝れないと思え!」

レイカ先生の罵声と共に皆は急いで走るのだった。

生徒達が居なくなるのを確認したレイカは血相を変えダテが歩いていった方向へ急いで走り出す。

「はあ、はあ、はあ」

一目見てわかった。あの時から何も変わっていない愛おしいあの人。

「ま、待って、ダテ。ダテ・ゼンリキなのか?」

呼吸が定まらず掠れるような声で呼び止める。

「……おいおい、教師が授業をサボっていいのか」

「指示は出した、問題ない」

「抜かりは無いってか、ったく。会うつもりは無かったのに気づきやがって」

「なんで………なんで、突然居なくなったんだ」

「野暮な質問は無しだ、簡潔にしよう」

「……まだ、私の事は好きか」

「あぁ、好きさ。大好きだ、愛してるよ」

「なら」

「……親が結婚しろとうるさくてよ、見合いの話も結構きてな」

そろそろ二十代後半になりそうなのだ、親にこれ以上無駄な心配をかけたくはない。ダテが出来る数少ない親孝行だと思っている。

「勿論全て断った、だがこのまま断り続ける訳にはいかなくてな」

「なら」

「だから本当はお前をヒノモトへ連れていこうと思った、強引で自分勝手だがやろうと思った。だがな、お前が教師をやってる姿を見て考えが改まったよ」

「………」

「お前の居場所はアルガド王国で、俺の居場所はヒノモトだ。互いにやることがある。なら自然消滅するのが当たり前、だから今ここではっきりと別れ」

「勝手に決めるなよ!!私がとんな気持ちでお前を待っていたか知らないくせに。お前の考えだけで、私達の仲を壊さないでくれ」

「レイカ、すまない」

「謝らないで。私はお前に何度救われた、お前が居なかったらここにはいない。私にとってお前が全てだった」

あの時、私に手を差しのべてくれたから今の私がいるんだ。私が尊敬し愛した男の為なら私は

「だから、一緒に居よう?場所なんてどこでもいいからさ」

「良い女に巡り会えた。俺は、なんて幸せな男なんだ」

カズキ(弟分)に言った手前だ。

この気持ちに応えなきゃ男じゃない。

「愛してるよ、レイカ」

「私もだよ、ダテ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後にレイカ先生の前で息を切らした生徒達が集まっていた。

「はあ、はあ、あーーくそがしんどい」

「速かったな、以前より大分体力がついたんじゃないのか?」

最初の方だと走り終えたら倒れていたが、今では息を切らしているだけだ。

そう聞くと確かに成長したとわかってくる。

「確かに、前ほど苦しくはないが」

「それ、でも、はあ、苦し、いですよ」

その点で言えばルリーが一番成長したと言える。なんせ最初は完走すらできていなかったのに今では皆と同じく走れている。

「一呼吸終えたら組手いくぞ」

「よーーし、俺が相手になってやるぜ生徒共」

レイカが組手をやると言ったとたんダテがひょっこり現れる。

「あれ?ダテ兄、帰ったんじゃ?」

「言っただろ、しばらくここにいるってよ」

「誰だカズキ」

「紹介するよダテ・ゼンリキ、俺の兄貴だ。んで右からジェルマン・オルガノート、ノア・アルバートン、レオン・ビースタルク、ルリー・マキフィルム・クライシスだよ」

「ほう、オルガノートの令息とアルバートンの令嬢か。大きくなったな、久しぶりと言っても覚えてはいないだろ」

「あれ?知り合いだった?」

「一目見た程度だ。ゴルマン領主もハウル領主も流石って感じだったな」

「ヒノモトのダテ、まさか千人斬りのダテ・ゼンリキか」

「無抵抗な兵士を千人も斬っちゃいないさ。カズキが外壁を斬った時点で向こうは戦意喪失だったからな、ただ」

「ただ?」

「国を守る兵が武器を捨て逃げるのは、ちょっとな」

「それで千人斬ったと?」

「まさか、斬るに値しないよ。命は大切だもんな」

笑いながら答えるダテ。

だが、それがジェルマン達を怖がらせた。

その余裕そうな口振りをみるに、ダテにとって万の軍勢は簡単に捻り潰せるムシケラ程度にしか、いや無いに等しかったのだろう。

「じゃあ千人斬りって」

「話に尾びれがついて勝手につけられた感じかな?」

「ちっ、ただの噂話かよ」

「そんなもんさ。あ、しばらくここに通っていいかなレイカ」

「いいが、明日からアニマニアで合宿するぞ」

「アニマニアで合宿か。………アニマニア?はて、何か忘れているような」

「ダテさーん、優勝賞品忘れてますよー」

大きな封筒をもってこちらにやってくるミカルド。

「うお!?しっかり殺したはずなのになぜ動ける」

体内で風と雷が暴れグチャグチャにしたはずなのに、あそこから出ても後遺症は残るはずなのになぜ動ける。

「??アストラルエーテ内ですから、出たら元通りですよ」

「迅雷疾風を受けて後遺症無しか、とんでもない回復力と精神力だな」

「そんなことより、はい優勝賞品のアニマニアペア旅行券です」

「アニマニアのペア旅行券!?」

「タイミングが良いよな、お前ら。まるで運命の導きのようだ」

腕を組み頷きながら言うダテは嬉しさに笑みを溢す。

「………つまりだ」

「俺達も協力するぜ、合宿によ」

「俺、達?」

「ミカルドを連れていく、こいつの才能を放置するのは心が痛む」

「え?えええ!?」

それにはミカルドが一番驚く。

「剣舞祭に出るんだろ?カズキがいれば優勝は簡単だろうが、必要以上に鍛えても損はない」

「わ、私も一緒にいいんですか?」

「当たり前だ。お前には暴力的な有り余る才能がある、俺やカズキを超えてみろ」

「私が、隊長やダテさんを越える才能がある」

「そうだ、お前にはある。だから全力で最強を狙ってみろ」

「は、はい!私頑張ります」

「移動はどうする」

「そんなもん走るに決まってるだろ」

「場所はアニマニア精霊学園ですけど、旅行券ではツアーって書いてありますよ?」

「もちろん、観光もするさ。アニマニアはいい所だぞ」

「ダメだ、ダテ兄がああなったら止められないぞ。きつくなるな合宿」

「だが、確実に強くなるには絶好の機会だ」

「その通りだ。神伐隊共を蹴散らすくらい強くなってやる」

「よーし決まりだな。ミカルド支度の準備だ、出来次第出発」

「は、はい」

「俺達は先に言ってるから、またなレイカ」

「私に別れの挨拶をするな、二度と」

「ははは、すまないな。後で会おう」

そう言うとミカルドと共に行ってしまう。

「ダテ兄も協力してくれるとなると優勝が更に近づくな」

「アルセウス学園三大世代と呼ばれた三人が教えてくれるんだ、嬉しい限りだな」

「そうですわ」

「私達もしっかり準備をしないと」

「まずは授業だ、しっかり追い込んでやるからな」

「ゲゲゲ、了解だ。よーし、組手やろうぜルリーさん」

「わ、私ですか」

「魔法使いと戦うのは楽しいからね、次は何してくるかワクワクだよ」

「そ、そうですか。じゃあがんばります」

 

 

 

 

 

 

つづく



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アニマニア大国

 

 

 

 

 

 

 

 

月が闇を照らす時刻、上空で巨大な船が雲をかき分けながら飛んでいる。

「んー、遠いなアニマニア」

リビングにある小さめの窓を見ながら言う。

「雷速なら半日もかかんないのに、人力で半日ってとこか」

「馬車でしたら二日以上はかかるのに、飛行艇を貸してくださったメーテル様に感謝ですわ」

アニマニアに行くと言った所、メーテルが移動手段として快く貸してくたのだ。剣舞祭絶対優勝と今度ヒノモトに連れて行くという条件の元無理矢理。

「いいや飛行艇を造ったドルツェルブの科学力に感謝しろ」

「凄いな、船が空を飛ぶなんて」

「それだけで驚くなよ。ドルツェルブには高速で動く列車や車、バイクもあるんだ」

「なんですの、どれも聞いた事ありませんわ」

「当たり前だ、ドルツェルブだけのものだからな」

鎖国的なドルツェルブは自国の情報を他国にあまり提供はしない。

ましてやベリューバル戦争で敵国だったアルガド王国には必要最小限の情報も与えたくはないだろう。その証拠に上級身分のノアでさえ知らない。

「確かにそれらは凄いパワーだが俺より遅いしでかいしうるさい。戦場じゃなんか不便だ」

「馬なんぞよりも強くて速い、なにより人間ごときなら余裕で殺せる」

「怖」

「明日の朝にはつきますわ。寝ましょう」

「そうだな」

明日から始まる地獄の合宿に向け男女それぞれの自室に戻り睡眠を取る事に。

だが、皆が寝静まった後カズキは甲板に立ち夜風を浴びながら月を眺めていた。

夜風とはいうが、本来風は神威による透明な防御壁で風は一切通さないのだが、夜は外に出てはならないという規則がある。そのため解除され凄まじい猛風を浴びているのだがものともしない。普通なら吹き飛ばされておしまいだというのに。

「………」

いつもなら修行しているのだが、場所が場所なため我慢している。

寝るにも寝付けずカズキは物思いにふけていた。

(いずれくる大戦か。ラシンめ、とうとう動き出すか)

ジンカンが言っていた大戦。地獄姉妹の神をも越える存在となった発言。

前者はいずれくる事だから分かっていたが、問題は後者だ。

神を越える力、そんなものどうやって手に入れたのだろうか。

魔界だから何かしらの方法があるのかもしれないから可能が無いわけではない。今まで本格的に攻めて来なかったのは力をつけるためと考えられる。そうなると、本当に神を越える力を……なんて出来る訳ないよな、あの存在は偉大すぎる。

思い出す幼少期、自分で言うのもなんだがあれは相当過酷だったと思う。

…よく生きてこれたな、俺。

嫌な事を思い出した、修行でもしよう。

 

 

 

 

 

 

「カズキ、何をしている」

「……朝練?」

朝一番で起きたレオンが甲板に行くと上半身裸で倒立指立て伏せをしているカズキ、頭上には汗の池が出来ている。

「ほっと」

そのまま腕の力だけで飛び上がり空中で二回転して二足で立つ。

「腕だけじゃなくて脚や体幹も鍛えられるから便利だぞ」

倒立しているから腕に全ての体重がいく、脚は常に力を込めているから使っているも同然、バランスをとるため体幹が鍛えられる。こじつけかもしれないが、結構キツイから効果ありだろう。

「参考にしよう。だが、朝練なんてやってる姿は見たことないぞ」

「そりゃ、たまたまだよ」

おっと、レオン達は俺が夜から朝まで修行している事は知らなかったな。んで全く睡眠を取っていないことも。

「俺もやろう、今度は誘ってくれ」

「自分で起きろ、睡眠は大切だぞ」

睡眠を疎かにしてるカスがなんか言ってる。

特大ブーメランと自覚しながらも言わざるを得ない。

「今日は早起きとは珍しいな」

「空の上だからかな、落ち着いて寝れないんだ」

確かに普段はあり得ない空の上での生活だ、落ち着かないのも無理はない。レオンの場合は大地の精霊と契約しているからかもしれないがな。

「まあ、空の上だしな。なんかふわふわしてるよな」

「それに、久々の帰りだからな。妹も無事か心配だ」

大半はこっちの方だろう、大切な妹を助けるため(置いて)家を飛びだしたのだ。帰りたいけど帰りにくいのかもしれない。

「会ってみなきゃわからんだろ。今は妹さんの強さを信じてやれ」

「そうだな」   

「ここにいたのかお前ら、もうすぐ着くから準備しろ」

ここでレイカ先生がやってきて一言言うとすぐ船内へ戻る。

「よし、準備だ準備」

「だな」

カズキとレオンも船内に戻り降りる準備をするのであった。

 

 

 

 

 

 

飛行艇から降り久々の大地を踏み締めながら辺りを見回す。

「ここがアニマニア大国最大都市エレメンタリアだ」

巨大な一本木を中心とした都市。周りには大小様々な建造物が建てられている。

レストランや洋服屋、観光地として作ったであろう塔までもある

「意外と発展してますのね」

「建物も大きいです」

「伝統文化だけじゃなくて近代化を進め人間達も住めるよう努力してるそうだ」

「私が学生だった頃はギリ住めたぐらいだったな」

「そうか?」

シバが笑いながら答える。

「お前らはテキトー過ぎるんだ」

「アニマニアの名物クロコダイヤの丸焼きは旨いぞ」

レストランのテラスで食べられている巨大なワニの丸焼きを指指しながら言うカズキ。

「フィーバードの姿焼きもなかなかだぞ」

中くらいの鳥の丸焼きを売りさばいている出店を指差すレオン。

「どれも肉ばかりで旨そうだな共食い共」

それらを見て腹を空かせるジェルマン。

「なんで丸焼きばっかですの」

「アニマニアの思考は焼けば旨く食えるだからな」

「なんて脳筋なんですの」

「ここは発展してるからまともだから安心しろ」

これから先が不安になってきたノアとルリーに対して優しく諭すように言ってくるレイカ先生。

「飯とか洗濯家事全般はシバとルイスがやってくるが、お前らも極力手伝うように」

「は~い」

「折角だから何回かは外食挟もうかな、みんなもアニマニアの名産食べたいもんな」

「先生、妹にはいつ会える」

「明日そっちに向かう、早る気持ちは分かるがすまない」

「わかった」

「わあ、光ってるのがふわふわ浮いてます」

「あれは精霊だな」

「案外身近にいるんですね」

「精霊の森から大分離れてるけど不鮮明な姿ならああやって街中にでも現れるぞ」

カズキが鼻を高くしてルリーに教える。

「物珍しいのはわかるが、まずはアニマニア精霊学園に行くぞ。挨拶をすませたらすぐにトレーニングだ」

その後の行動を説明しながからアニマニア精霊学園へと向かう。

合宿にあたっては学園の施設を貸してくれるようで、寝泊まりやトレーニング施設を貸してもらっている。また、模擬試合は大歓迎だそうだ。

 

 

 

 

 

アニマニア精霊学園

そこは森の近くに設立された精霊使いもとい神威使いを目指す者達が集まるアニマニア一の学園。

その外見は四角かったりまるかったりとアルセウス学園とは違いシンプルな造りである。

「木ばっかたな」

「まるで森だ」

「精霊が姿を保ちやすくするためにできるだけ自然に近い環境にしているんだ」

「なるほど、だから建物もシンプルな造りなんですのね」

学園内に入り受付をすると白と黒の毛並みをしたしっぽの長い獣人の女子生徒が道を案内してくれる。

「私がアニマニア精霊学園の生徒会長を勤めているアディラ・ピュアルマニだ。アルセウス学園、もといアルガド王国代表の諸君らに学園の案内を務めるよう言われてな、快適な合宿にできるよう一生懸命努めよう」

「つとめるを三回言うな、訳わからなくなるだろ」

「コラ、ジェルマン初対面の方に口が悪いですわよ」

「すみませんすみません、ジェルマンさんが粗相を起こしてしまって」

「はは、こちらこそすまない。他国の生徒が来るのは初めてだから緊張してしまったようだ」

本人は普通に接しているつもりなのだろうが、アディラから放たれる威厳威圧は隠しきれておらずジェルマンは殺気立てルリーは怯えている。

「和ませるのが下手で相変わらずルナってるな」

「!?これはこれは隊長、お久しぶりです」

一歩前へ出て挨拶をするカズキ。アディラは驚いた表情を一瞬浮かべたがすぐに平常に戻り謙虚な挨拶をする。

「隊長、ってことは神伐隊か」

「違う挨拶がよかったかな?神伐隊九十九番小隊員、と言っても機能してないから引退のようなものだがな」

「お前も剣舞祭に出場するのか?」

「あぁ。アニク様に出場してほしいと頼まれてな」

「へー、じゃあ今回俺らを呼んだのって」

「交流と偵察と確認だ」

「確認?」

「カズキ君が出る噂が本当かどうか、それによって私も出るか考えていたのだよ」

「なんだそりゃ」

「こうしないと君は戦ってくれないからな」

「そんなハートといいセラフといいお前らそんな謙虚だったか?」

「いつも相手にしてくれなかっただろう」

「あの時は忙しかったからな、相手する暇無かったんだよ」

「そうやって言い訳ばかりする」

「すまなかった、昔話は後で埋め合わせと一緒にするから案内頼みます」

「そうだったな、私情よりも責務を果たさなければ。すまない、今から案内をする」

アディラは深々と頭を下げ詫びると校内の案内を始める。

トイレや浴場、広場など使用していい場所やここでの規則を一通り説明すると最後に下宿先を教えるとアディラは仕事があるらしいので一礼をすると生徒会室へと戻っていった。

それにしてもトレーニング室は凄かった。あれは人間が扱えるような重量ではない、獣人だからこそ使える規格外なものばかりだ。

下宿先は二階建ての小さなログハウス。

本来は夜遅くまでトレーニングする生徒の寝泊まりする為に作られたのだが、学園内に寮が出来てからはそれほど使われる事はないそうだ。

だが、中は綺麗で生活感がある。各自の部屋に荷物を置き外へ出る。

その下宿所から出れば広大な広場はもはや大自然。さすがは領土世界一の大国、その土地を余すことなく使っている。

カズキ以外の全員がすでに出ていて各々アップを始めていた。

「おい、あの生徒会長の情報とか無いのか」

こちらに気づいたジェルマンがすぐさま話しかけてくる。

こちらだけ情報を得られていないのが気に入らないのか、なんか凄い怖い顔をしている。

「そうだな、熊の獣人で刀使いの風使いだ」

「熊?あんな毛色はいないし、なによりしっぽは短いだろ」

「稀に見る古代種で毛並みは遺伝子らしいが、強いて言うならクイナにいるパンダが近いだろう」

「パンダってあの温厚な熊ですよね?可愛いくまさん」

「見たことありますわ、あの愛くるしい感じは熊とは思えませんわ」

まるまるであどけない行動をするパンダはとても凶暴な熊とは思えないイメージを持っているルリーとノア。

だが、アディラは先程の威厳といいとてもその系統の獣人には見えなかった。

「そうだな。性格は似てるが、体つきは各熊の良い所取りだ」

「ならレオンと良い勝負するんじゃないか」

獣の良い所取りなら混血種のレオンも負けてはいない。見えている限りでは角やら顎やら牙やら筋力やらで色々と凄い。

「ルナは強いぞ、レオンもちゃんと神威武装が使えたら勝てるかもな」

「なぜ神威?」

「神威は自身の力を倍増してくれるんだろ?その差だ」

「神威か、それを言われたら俺は何も言えない」

「それを覆す為に鍛えるんだろ。私に任せろ」

レイカ先生。いつになく目が本気だ。それだけこの合宿が大事がわかる。

「まずはルイス、シバ、組手相手になってくれ」

「任せてください」

「よーし徹底的に鍛えてやるぜ」

「カズキ、お前はリュークと徹底的に闘え」

「うぇ!?なんでですか」

「お前、リュークとやる時だけ本気だろ?」

「うっ」

「リュークもお前の時だけ真面目にやってるからな、休憩は私の指示かどちらかが倒れるまでだ」

「あははは、私達だけハードだね」

「とほほ、更に強くなっちまうぜ俺」

「強くなって損は無いでしょ?」

「確かに!」

「時間が惜しい、強くなりたくば死ぬ気で取りかかれ」

「はい」

こうして地獄の合宿が始まったのであった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく



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修行課題

六年前。アニマニア最大最強の大会、闘獣精技大会にある少年が出場した。最強の名声でも、待遇でもない、景品の金目当てだった。

父や母、姉に妹、家族に日頃の感謝を込めて贈り物がしたかったからだ。

獣人にしても恵まれた体格、だがその年は僅か十歳。出場条件は精霊と契約しているかだけで、年齢など無かった。無かったが故に出場をし、優勝してしまったのだ。各地の村のボスも力自慢の戦士も王族お抱えの近衛兵士も全て倒して優勝を勝ち取ったのだ。

みんなに期待され王に認められ、村に資金と家族に安定をその代わり国の為に働いてほしいとせがめられた。

その将来は過酷なものだが、決して悪い話ではなかった。育った村や家族は安泰、望むものは全て手に入るそんな環境は誰もが羨むものだ。

だがその少年は全てを断った、彼はそんなもの望んではいなかったからだ。

誰にも気づかれず忘れ去られたその史上最年少にして最強の称号を手に入れた時の王者は今は……。

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおお」

「ちっ、黒帝」

拳を最大限まで引き付け襲い来るレオンに向け一気に放つ。

「がはっ」

その衝撃波はレオンを遠くまで吹き飛ばす。

「あぶねぇ、殺られる所だった」

「くそ、あと少しだったのに」

「お前、戦う度に強くなってないか?感覚を取り戻しつつあるみたいな感じか」

「わからないが、多分そうだろう」

精霊や神威無しでカズキとやり合うまでに成長したレオン。それはあまりにも急激すぎるものだ。

人間であれ獣人であれそう簡単には強くはなれない、ましてやカズキクラスとなれば尚更だ。

レオンの人生を考えるにしばらく修行はやってなかったらしい、なら感覚を取り戻してきているのではないかと考えられる。 

しかし、それは戻っただけで強くなった訳ではない。そうなるとレオンは他よりも努力をしなけらばならない。

ちなみにカズキはシバがリュークと戦いたいといったので手余りになり、レオンと戦っているのである。

「昔のように体も動くし精霊も使いこなせてきた。だがそれだけで強くはなった気がしない」

その事にはレオンも気付き焦っていた。

「焦る気持ちは分かる、だが焦っても仕方がないだろ」

「そうだぞレオン。私はお前達を神威使いにしたくて合宿に来たんじゃない、一端の戦士に仕立てに来たんだ。今は信じてくれ」

「レイカ先生、ありがとうございます」

わざわざ合宿先をアニマニアにしたり気を遣ってくれているレイカ先生に感謝を述べるレオン。

「ぐおあ。ば、化物め、俺が虫ケラ扱いとは」

その頃リュークに蹴り飛ばされ大木にぶつかり崩れるように座り込むシバ。

「ふふふ、ただの人間にしては強い方だよ」

「ただの人間か、これでもいい所育ちの貴族なんだけどな」

「あ、兄上」

尊敬するシバが意図も容易くやられてしまう姿を見て悲しみと驚きにとらわれるルイス。

「いいんだルイス、勝てない上での勝負だ。やっぱ世界は広いな!」

笑いながら服についた汚れを叩きながら立ち上がる。

「少なくともカズキごとき倒せないと私は倒せないよ」

「ははは、カズキをごときか。レベルが違うや」

「……リュークさん、私と戦ってほしい。本気で」

「ダーメ、私達の修行だからまた今度。今は先客がいるの」

「やるぞリュークさん、けちょんけちょんにしてくれるわ」

体を叩き闘争心を爆発させているカズキを指差す。

「ほらね、私が先生じゃないのにやけになって」

「ここで柔を極めてやる、邪魔するなルイス!」

「邪魔って」

「うるあああ」

「力み過ぎよ」

再びカズキとリュークの熾烈を極めた組手が再び始まる。

 

 

 

 

 

 

午後

シバとルイスの作った昼飯を腹一杯堪能し小休憩を取った後すぐにトレーニングが始まった。

「午後からしばらくは各々に課題をこなしてもらう。ルリーは魔力強化、レオンは精霊の扱い、ノアとジェルマンは神威の扱い、カズキとリュークはひたすら闘え」

「俺は精霊の扱いはなれている。そんなことより」

「お前は精霊本来の力を使えてない。本来ギア系統はこんなもんじゃないはずだ」

「どういうことだ」

「お前の精霊について調べた。最上位の精霊じゃないか、だが他とは違って誰にも扱えずその実態が不明……なかなかに面白いじゃないか、引き出してみせろ」

「……どうすればいい」

「精霊と対話でもしたらどうだ?別に今やれとはいわないが合宿が終わるまでに完遂させろ」

「レイカ先生、たった数日で魔力強化なんて簡単にはできませんよ」

「魔力強化には集醒法をひたすらこなせ、あと詠唱無しで唱えれるようになれ」

「簡単に言わないでください」

「だから、長けた奴が来る。じきに」

「いやー、ついたついた。やっぱ遠いなアニマニアは」

ダテとセラフが物凄いスピードで走ってくる。

アルガドから出発する前すでに走り出していった二人は休む事なく半日でついてしまったのだ

「ほらな」

「いい速さと体力だ、これが天性なら神様は実に差別的だ。羨ましい」

「はい、ありがとうございます」

「ダテ、お前魔法使えたよな」

「ん?まあな」

「ルリーに教えてやれ」

「あちゃー、魔法使いに教えられるほど得意じゃないぞ?」

「集醒法は得意だろ?」

「まあな、それで使えるようになったからな」

「だってよ、ルリー」

「……わかりました」

あまり乗り気ではないルリーだが、渋々やることに。

「ノア、ジェルマンは私とシバで教える、目指すは神威魔装(ライクルヴァッフェ)」

「おいおいそれは神威武装の進化系だろ?俺は属性能力しか使えねぇぞ」

神威魔装とはジェルマンが言った通り神威武装の進化系で、強度や威力だけでなく扱い者に神威の加護を与えられ上がる身体能力や属性能力が桁違いにもなる。そのため扱える者はAランクに分類される

「何度も言わすな、目指すは神威魔装だ。無謀でも不可能でも徹底的にやる、完成させろ」

「ちっ、上等だ。やってやんよ」

「ならばそれぞれかかれ」

「はい」

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

「拳に纏えグラン・ギア」

両拳にグラン・ギアを纏わせミカルドの顔を思いっきりぶん殴る。

「そんな柔な攻撃じゃ効きませんよ」

しかし渾身の一撃は効くどころか怯ますことも出来ず前進され捕まれる。

「くそ」

迫り来る手を掴み、組み合う。

「力比べですか、いいですよ」

「うおおおお」

全力で潰しにかかるがぴくりとも動かない。

そんな爪楊枝のような細い腕に、レオンの半分にも満たない小さな体になぜこんな馬鹿げた力が秘められているのか不思議でならない。

「素晴らしい力ですが負けません」

体を反らし腕だけでレオンを持ち上げると、力任せに何度も何度も地面に叩きつける。

これが生まれもった天性の強さ、攻撃は全て当たる直前で交わされ、当たったとしても効いている様子はない、それに対し攻撃は全て即死級の威力、パワーもスピードも全てにおいて圧倒的過ぎる。

「足止めをしろグラン・ギア」

ミカルドの背後から手の形をした岩が飛び出し覆い被さる。

そんなものはあっさりと砕かれるが、脱出するには充分な隙だった。

「うおおお」

再び拳に力を込め今度は腹部を殴る。

ドンっと固く反発性能をもった壁を殴った感触がする。

あの時カズキを殴った時と同じ感触だ。

「……なにか、制御していませんか?」

案の定ミカルドには効いておらず、不満そうな声を出す。

「制御だと?」

「あと一歩の所で出し惜しみをしているのが感じられるんです」

「………」

「思いっきりやればいいのに、力の解放が下手なんですか?」

なんて言われる始末、無自覚とてなかなかきつい言葉だ。

「そんなレオンとミカルドにちょっとした技術を教えようではないか」

難しい話をしている二人にダテが声をかけてくる。

「ダテさん、ルリーは見なくても」

「やり方は教えたから後は一人がいいって」

指差す方を見ると木陰で魔方陣の真ん中に座り黙想をしている。

「さすがはマキフィルムの末裔だ、想像を絶する魔力と素質を持っている」

「マキフィルム?」

「なんだ、有名な魔女の子孫とでも思ってくれ」

「そんな血統だったのか」

「魔法少女、憧れます~」

「そんなことより、教えるぞ」

「はい、お願いします」

「まずは力みと脱力を使い別けろ、俺らから見れば力任せに暴れているだけだ」

腰を落とし拳を引き絞り一気に放つ。

バアァン

空気が張り裂けるようは轟音が響く。

「このようなに、脱力による速度向上、当たる瞬間硬直することにより威力増加。ヒノモトの技術だ」

それは以前カズキがルイスに見せたものと同じものだ。

「イメージとしては鞭のようにしなやかで、槍のように鋭く、槌のように重くだ」

「なるほど、連節棍ですね」

「いや、そういう訳じゃ、なんでもいいや。実施!」

「はあ」

「ミカルド、それじゃただの力任せだぞ。力むな」

「ふん」

「レオン、ただ脱力すれば良い訳じゃないぞ。最初は大振りでもいいがなるべく鋭く打て。牽制なんかいらん、一撃でしとめろ」

ダテのいう技術がなくともそもそもの威力が充分あるため風が木々を揺らし砂が巻き上がる。

ここから腕が上がらなくなるまでひたすら素振りをするのであった。そしてグラウンドに生えてる草花が根こそぎ吹き飛び木々が反り返っていた。

「ふぅふぅ、はっ!」

素早く繰り出される拳は、バシンと空気を張るような音をだす。

「よし、いいぞレオンだいぶよくなってきた」

「だが、ダテさんのようにはいかない」

「当たり前だ、俺が何年もかけて身につけたんだ。逆に短時間でここまでいけたのが驚きだ」

「ダテさん、私のも見てください。はああ!」

全力で振るわれる拳は、風圧で大地をえぐり木々をへし折る。

「ミカルドは、違う意味でよくなってきたぞ」

「ありがとうございます」

「だが、今回の本質とは離れているからな」

「はい、シュン」

「技術の一つとして覚えてくれ、明日は違う事を教える」

「あとは自主練でか」

「そうだ、詰め込み式だがついてきてくれ」

技術を一つ一つ教えるには時間が少なすぎる。個人のセンスと努力によるものとなってしまうが、この面子なら大丈夫だろう。

 

 

 

 

「頭の中でイメージして、神威を練ってつくればいいんだ」

「わかってんだけどできねぇんだよ」

「神威の量は充分なんだけどな。課題を課してから今までなにやってたんだ、って話になるな」

「うるせぇ、俺にはこいつがあるんだ」

背中からバトル・トンファーを振り回してみせる。

「バトル・トンファーも長いこと使ってるが、良い加減神威武装にしたらどうだ?」

「これが俺の愛用なんだよ」

「イメージする武器が実際にあるんだ、創りやすいと思うけどな」

愛用している武器があるなら、イメージはしやすいはずなのだがそれでも創れないとなると理由は他にある。だが、それがわからないのだ。

「一度できれば簡単なんだけどな」

「こんな風にいつでも展開できますわ」

見せつけるように一瞬で槍と弓を創り出すルイスとノア。

「うるせえてめぇらは黙ってろ」

「カズキさんみたいに武器に固執してるんでしょうか」

「壊れても直して使ってるからな、愛着があるんだろ?」

「俺はこれでいいんだ、さっさと組手始めさせろ」

神威武装を創るよりも実戦を積みたいジェルマン。

ジッとした鍛練は性に合わなくかなりイライラしている。

「ダメだ、半日は神威武装の錬成だ。ノア、ルイスお前達もだぞ」

「はいですわ」

「私もやるのですか」

ルイスが聞いてくる。

本来の目的は、合宿の手伝い雑用なのでまさか一緒に鍛えてもらうなんて思ってはいなかった。

「ついてきたんだ、カズキに勝てるようみっちり鍛えてやる」

「テメェもだノア、俺に構ってねぇでやれ」

「フフフのフ。見せてあげますわ、わたくしの秘密武器を」

ジェルマンに煽り返されたが、なにやら自信ありげな顔をするノア。フフフのフなんて使わんだろ。

「あ?」

両手を合わせ神威を集中させるノア。莫大な神威の量に激しい光を放つ。

光が大きなると徐々に形を形成して、そして

「天使の大弓(セフィリカアロー)」

ノアの手には翼を模様した神々しい巨大な弓があった。

「おお、これは神威魔装じゃないか」

それにはレイカ先生は驚いた声をあげてしまう。

「半年前から形は出来てはいたのですが、実戦用として御披露目するタイミングが無かっただけですわ」

実戦用、それは展開する時間と、威力の加減ができていないのだろう。

「いけるんじゃないか?神威一体」 

「お先に次のステージへ行っていますわジェルマン」

満面の笑顔でジェルマンに微笑むノア。

「この野郎、とっくに出来ていやがったのか」

「あら負け惜しみですの?みっともありませんわ」

「なんだと、これくらい余裕だバカヤロー」

「ノア、あまり煽ってやるな」

「ジェルマンにはこれくらいの火種が丁度いいのですわ」

「くそが、はあああいでぇ」

両手に神威の溜めすぎで爆発する。

「雑にやるな落ち着け」

「うるせえ」

「燃え上がり過ぎでは!?」

「いつも通りですわ」

このように各々自身の課題を取り組んでいる。

するとそこへアディラがやってくる。

「やっているな」

「テメェ何しにきやがった」

アニマニア代表の一員であるアディラを見てあからさまなに態度を変えるジェルマン。

「言っただろ?偵察も兼ねてるって」

「堂々と偵察すんじゃねぇ」

「そう言うな、交流も兼ねてだ」

「交流だぁ?」

「神威武装がうまく創れないのだろ?私なりのコツがあるんだが」

「言うな!敵の施しはうけねぇ!」

「わたくしは知りたいですわ」

「おいコラ!恥をしれ」 

「だって神伐隊の一員なら扱いはわたくし達より上なはずですわ」

「神様にでも鍛えてもらったってのか?」

「まさか、鍛えたもらったのは各隊長クラスだけさ」

「選ばれたのはたった七人だけかよ」

「神威の強度は量でもなんでもない、思いの強さだ」

「思いの強さ?」

「勝ちたい、守りたい、強くなりたい、いろんな思いや覚悟が神威を強する」

「そんなもので強くなれるか」

「百聞は一見に如かずだ、見てくれ」

アディラは自然的に神威を練り静かに神威武装を創りだす。

「これが私の神威武装、月蓮刀(ゲツレントウ)」

光の原子から静かで冷たい鉄色の刀身が美しい刀を顕現させる。

「カズキさんと同じ剣ですわ」

リュークも持っているが、この形の剣は珍しい。カズキに聞いた所、ヒノモト独自の製造法で世界的に普及されてはいないそうだ。そして、切れ味は剣よりも上と自負していた。

「それほど強烈な神威の力は感じねぇぞ」

「これだけで充分。誰か私と戦ってくれないか、出来れば近接武器がいいな」

「なら私が相手をしよう」

既に神威武装の槍を創りだしたルイスが前へ出る。

ルイス自身も興味があるのだ。仇敵であるカズキと共に戦い生き抜いた神伐隊の実力を経験したい。

「あなたに傷をつけないで一撃で決める、そう宣言しよう」

「っ、はああ」

大きく槍を横に振るう。

それをアディラは受け止めるようにして斬る。

スパンと包丁で野菜を斬るように綺麗に簡単に槍を斬ったのだ。

「これが、思いの強さだ」

「なっ!?」

腕力でも神威でもなんでもない、単純に切れ味が強度が違い過ぎた。

ルイスには覚えのある感覚だった。あの時カズキが神威武装を容易く斬ったあの時と、常識が崩れたあの日と同じ事が今度は神威武装同士でだ。

「神威の量が少なかろうが、思い次第でなんとかなる。ただ、半端な思いじゃダメだがな」

「これが、思いの強さ」

「カズキ君も言っていなかったか?覚悟こそ強さって」

「ただの精神論じゃねぇのかそれ」

「百戦錬磨のカズキ隊長の考えだからね、重みが違うよ。ジェルマンさんは」

「呼び捨てで構わん」

「ジェルマンは強くなりたい思いが人一倍強いから、すぐに使えると思うよ」

誰よりも何よりも強さに対する執着拘りがあるジェルマン、その思いを神威が答えてくれれば強力な武器になる。

「けっ、根拠がねぇよ」

「根拠は私だ、隊長に出会うまでは神威なんて使えなかったからな」

「強くなりたいのは皆同じだ、思いがどうのこうのじゃ勝てねぇよ」

「あははは、確かにそうだな。私の話は参考にならなかったか」

「……一応覚えておく。思いの強さってのよ」

アディラのアドバイスは役に立つことがなかったが、それなりにフォローをするジェルマン。

「優しいのだな、君は」

「うっせえ!」

照れ隠しに声を荒上げるジェルマン。

その近くに吹き飛ばされたカズキが転がってくる。

「ぬあああ!手加減無しだ、ぶっ殺してやる!!」

衣服はボロボロでそこから切り傷や真っ赤に膨れ上がったあざがみえる。

「手加減なんて余裕じゃない?それともそんなに強かったかしら?」

それに対してリュークは、服装が乱れているだけで損傷の跡がみえない。

「抜かせ、すぐに絶望へと叩き落としてやる」

両手に炎を纏わせ掴みにかかる。

「マズイ」

その脅力を察知し蹴りあげ上へ弾き、腹部に数発拳を叩き込む。

「ぐっ、はじきやがって」

そのまま両手をリュークの首元めがけ下ろすも、その寸前の所で手首を捕まれる。

「この大陸燃やす気!?」

「そうでもやらねぇとお前を殺せないんでな」

力任せに押し込みリュークの首元を掴む。

「捕った、死ねぇい!」

腕力だけでリュークを持ち上げると、御自慢の万力で首を締め上げる。

「殲滅劫火(じんめつごうか)」

体から赤黒い不気味な火柱を発たせる。

その火力は一瞬にしてグラウンドの草木を消し炭にし大地を焦がし校舎を焼き尽くす。

「くっ、こっのおお」

苦悶の表情を見せながらもリュークは足を曲げカズキの顎めがけ一気に伸ばす。

さすがのカズキも顎を蹴られ脳が激しく揺れたのでグラッと体勢を崩す。

「黄金の風」

その隣から黄金に輝く激しくも優しい風が吹き荒れカズキを吹き飛ばす。

「バカヤロー大陸燃やす気か!?」

その上からダテが取り押さえる。

「ダテ兄、こうでもしないと勝てないんですよ」

「気持ちは分かる、だがここが壊れたらダメなんだ」

「んなのわかってるってのによ」

「水をさしてすみませんリューク様」

「いいの、ダテちゃんが助けてくれなかったらここが焦土になってたよ」

服が燃え下着姿のリュークが笑いながら言ってくる。

「りゅ、リューク様、これを」

「ん?あぁ、気を遣ってありがとう」

ダテから黒のコートを貰うとゆっくりと羽織る。

「火ノ神、恐ろしい力だね」

「全くです」

「くそが、邪魔がなければ消し炭にできたのに」

パッと立ち上がりリュークのもとへ戻る。

「その程度でリューク様を倒せると思わない方がいいぞ」

「経験者は語るですか、羨ましい」

「リューク様は俺の目標でもあるからな、いずれまた挑ませてもらいます」

「キャー、私ったらモテモテ~困っちゃう」

「バカ言うな、確かにお前は誰もが認める超絶美人だが」

「べた褒めの時点で私に興味持ったでしょ?」

「むぐ」

「でもね、婚約者共に興味はないわ。末長くお幸せとでも言ってあげよう」

「ありがたき御言葉です」

「………興醒めだ、修行でもする」

不機嫌な顔をしながら呟くカズキはリュークとダテから少し離れた所で素振りを始め出す。

「あらら、拗ねちゃって」

「あまり茶化さないであげてください。あれでもフツーの男の子なんですから」

「そうだね」 

悩める少年カズキを見ながらリュークとダテは再び修行をすることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく



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怪物

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になり、夕食を済ませ皿洗いや風呂を終えた頃の事だった。

「街でアニク主催の学生大会がやってる!?」

「なんでも、剣舞祭出場メンバーの残り枠を決める為に開くみたいだ」

「見に行くか?」

「いいや、参加して戦意削いでやる」

「ちなみに出場条件は精霊使いで神威使いの獣人限定だそうだ」

「いけやレオン、全員ぶっ殺してこい!」

「お前ならいけるぞ」

「いいんじゃないか、面白そうだし偵察も兼ねて行ってこいよ」

「あのですね、もう始まってますわ」

「…なーんだ、じゃあ観戦程度か」

「観光も兼ねて見に行ってこいよ」

てことで夜のアニマニア最大の都市エレメンタリアへ繰り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

エレメンタリア

夜になると街灯だけでなく空を舞う精霊達で明るくなりより栄えてみえる。

至るところにある飲食店から笑い声や怒鳴り声が聞こえる。

血気盛んな獣人達だ、盛り上がり方がまたアルガドとは違った風景である。

「やかましい所だな」

「ドルツェルブも大概だろ」

「あぁん!?」

「軍人も獣人も大差ないってことですわ」

「静かよりはマシだがな」

「このお肉美味しいです」

「フィーバードだ、旨いだろ」

レオンに買ってもらった、丸々とした鳥の丸焼きをかぶりつくルリーはその味に絶賛する。

「なにお前らだけ食ってるんだ」

「俺らも買わせろ!」

レオンが指差す屋台から丸焼きを買いに走り出すカズキとジェルマン。

「やれやれ、子供なんですから」

「骨も柔らかくて食えるからな、全部残さず食べれる」

「さすがに、骨はちょっと」

「んまー、やっぱ旨いは」

「歯ごたえがあって旨いな」

骨ごどバリバリ食べる二人。

「骨…食べれる?」

それを見て本当に食べれるのではないかと錯覚してしまうルリーは骨を噛むが、その咀嚼力では砕く事ができない。

「~~ッ」

「無理しないでくださいルリーさん、あれは野人ですの」

「そ、そうですよね。あは、あははは」

ノアの言葉でようやく正気に戻る。

「ルイスも堅物だよな、ミカルド先輩とダテさんと一緒に修行だなんてよ」

「どちらかと言えば、俺らがそうなるべきだろ」

本来なら剣舞祭に出場するメンバーが日夜惜しまず修行するはずなのだが、今は偵察とはいえ遊んでいる。

うっ、罪悪感が……。

「明日からだな」

「今日の所は、な」

「久々のアニマニアだし遊びてぇな~」

「わたくし達は遊びに来た訳ではありませんわ」

「わかってるよ」

「休息あっての修行だよ、今は楽しまないとダメ」

巨大なワニの下半身をもぐもぐさせなが言ってくるリューク。

「おま、クロコダイアの丸焼きを食べ歩くのは猛者だわ」

「そんなもん半分食べて体型変わらんとか、どうなってんだお前」

すでに半分は食べ終えているリューク、だがその体型はいつも通りスラッとした美しいプロポーションのままだ。

「美味しいわよ?」

微笑みながら食べ歩くその姿、食べてるものが可愛らしいものなら絵になるんだが。

巨大なワニ片手ではな。

「そろそろ着きますわ、飲み物とか買うなら今のうちですわ」

「肉、あの肉食べたい」

「あの店も気になるな」

「もう、始まってしまいますわ」

夕食後にも関わらず店を巡りながら試合会場へと目指す。

 

 

 

 

 

 

 

「盛り上がってるな」

「剣舞祭出場を決める大会だもんな」

「俺らもこんな感じで個人の実力だけで見てくたら楽だったのにな」

「今回の剣舞祭は個人の力だけじゃなくてチームワークが必要なのですわ、それを見越してチームを生徒だけで作らせて連携や戦術を考える力をつけてさせてるはずですわ」

「俺らは元から決まってたけどな」

「結局は個の力だ」

「俺達は仲良いからな」

「そう思ってるのはお前だけだカス」

「本当にそう思っているのか?」

「そう思っていたら一緒に試合なんか見ねぇよ」

「えはははは」

「仲が良いの悪いのかわかりませんわ」

「おい、始まるぞ」

神威だけでなく精霊もつかった獣人と獣人の激しいバトル。

(つまらない試合ばかりだ)

何試合か見ているが、どれも眠くなるばかりだ。偵察だとか言っていたが所詮は予選大会だ。

強いには強いかもしれないが剣舞祭に出場するレベル、いやカズキのお目にかかるレベルではない。

そう思ってきたらなんか喉が乾きてきた。みんなに飲み物を買っていくと言ったら全員からパシリにされた。くそが。

まあ仕方ないかと買いに行く。

その道中で屋台の誘惑につられ食べていたのは内緒だよん。

なんなかんやで戻ってくると試合は盛り下がっていた。

「強い、強過ぎるぞヒメギ選手!その強さはまさしく怪物(モンスター)だ!」

実況の甲高い声だけが響いている。

「どったの?」

取り敢えず席に戻ってジェルマンに聞いてみる。

みんなもなんか唖然とした顔をしているからより気になる。

「カズキか、今戻ってきたのか」

「お前らがパシるからな」

「頬についた食べカスをとってから言え」

「……で、このしらけはなんだ?」

「さっきの試合なんだけどよ、相手に触れただけで吐血させてよ」

「普通だろ?」

「普通じゃないから静まってるんだろ」

どうやら、殴った蹴った刺したではなく、触れただけで弾け飛ぶように倒れたそうだ。

「そら凄い技だな」

「あんなのとやりあえるなんてたまらねぇぜ」

ニヤニヤ笑うジェルマン、狂人の異名は伊達じゃないな。

「お前も見ればわかるさ」

「んじゃあ、楽しみにしてる」

その言葉に期待を抱きながら観戦する。

見ていてもったいない、人よりも頑丈なつくりなのに我が身可愛さに普通の試合になっている。

俺だったら勝利の為だけにああは出来るなと思いながら見ていく。

「あいつが例の獣人だ」

青みがかかった灰色の長い髪を靡かせながら歩く、クールな表情をした美少女を指差す。やっとお目当ての選手が戦うのか。

「あいつか」

「よく見ておけ、あいつは強いぞ」

試合会場のブザーが鳴った瞬間、相手を足払いで転ばすと軽くジャンプをし一回転するとそのまま顔面に踵をめり込ませる。

あまりにも速く柔らかく力強い一瞬の出来事で大会の優勝を飾った。

「……あっけない終わり方ですわね」

「まだ力を隠している感じがする」

「てめえみたいだな」

「ほっとけ」

まだまだ余力を感じさせる戦い方、なんか誰かに似ている気がする。

「優勝者したヒメギ・ハムスロット選手には賞金と剣舞祭出場権を」

「待った」

二階にある個室からバリンとガラスを割って飛び出してくる大柄の獣人。

宝石が散りばめられた民族衣装に黒のマントを身につけた真っ赤な鬣のような髪が印象的だ。

「お前に資格あるか確めたくなった」

「こ、これはアニク様みずから」

アニクと呼ばれる獣人の登場には観客席からザワザワと騒ぎ始める。

「なんだ、あの獣人は」

「アニク・キーリン、アニマニアの王子だ」

レオンがそう呟く。

「そんなんよりも神伐隊四番隊隊長の方が知りたい情報だろ?」

それを補足するようにカズキが言う。

「なに!?あいつが神伐隊の隊長だと!?」

「メーテル様と同格ですのね」

「はわわわ」

その威圧の前でヒメギは

「資格なんていらない」

表情を崩すことなくそっけない返事をする。

「なに!?」

「そんな資格いらないから賞金をくれ」

それどころか手を出しヒラヒラさせる。

「剣舞祭で優勝すればどんな願いも叶えてくれる。こんなちっぽけな賞金なんかよりも」

「賞金は友達の為に、願いは私の手で叶える」

「世界から猛者が集まる大会だ、勝ち抜き掴み取れば良いだろう」

「興味無い」

「むう、わかった。好きにしろ」

「それじゃ」

賞金が入った封筒を受け取ると耳をピコピコさせて嬉しそうに去ろうとする。

「待つんだヒメギ」

急いでやってきたアディラが息をきらしながら呼び止める。

「アニク様、ヒメギは剣舞祭優勝に必要な人材です」

「お前がそこまで言うのなら、そうとうな実力者なのだな」

「私よりも強いとみています」

「聞いた事がある名前だ。たしか神伐隊の隊長を務めていた獣神のアニクと同じな気がする」

「ほう、その情報を知っているとはな」

「その前にこの国の王子様なんだけど」

「王子でも隊長でも関係無い、でもこの人が獣人最強……面白い」

封筒をアディラに渡すとアニクの方を向いて微笑む。

「気が変わった。闘おう」

「おい、アニク様に失礼だろ」

「良い。気が変わってくれて感謝するヒメギ」

「それじゃあ……こいよ」

ヒメギが手招きをした瞬間、アニクは目にも止まらない速さで距離を詰めると大木のような豪腕を振るう。

続けて前蹴りをぶちかまし後ろへ吹き飛ばそうとする。

「神伐隊の隊長だから期待したが……」

しかし、軽く浮いただけで終わり特にダメージが入っていないヒメギは露骨にガッカリした表情をだす。

「なに!?」

「神格化をつかえ、私は強いよ?」

「なめられたものだ、神威武装も使ってないのに神格化を御希望とはな」

そのなめられた態度に苦笑する。

「王者の一撃(キング・クロー)」

強く踏み込んだ大きく振り下ろされる鋭い爪を伴った拳。

助走の勢いを殺す事なく放たれる体制を低くしてからの上へ凪払うかのような回転蹴り。

その威力は凄まじく、パァンと高い音が響く。

「!?」

「もう一度言う、私は強いぞ」

クールな表情なんてものじゃない、完全に殺す顔をしている。

腕は弾かれ、黒く焼けた痕と煙が立ち上がっている。それにはアニクは狂喜の笑みを浮かべた。

「王家に伝わる相伝の技を弾くか……。撤回しようヒメギ、いやその強さを表意して怪物(モンスター)と呼ばせてもらおう」

「モンスターは余り好きじゃない。でも嬉しい、久々に本気で闘える」

「百獣槍(ベスティアロード)」

真ん中に巨大な刃を中心とした五叉、真ん中に獅子を連想させる模様が刻まれた真っ赤な大槍。

「これが我の神威武装だ、貴様の神威武装を見せてみろ」

「……神威武装?」

その言葉に首を傾げる。

「まさか、使えないのか?」

「武器は出せない、でもこんなのは出来る」

そっと地面に手を置くと巨大な地震が起こる。

その振動は凄まじくコロシアムに亀裂が入り地面が断裂しかける。

「おっと、やりすぎちゃったかな」

手を放すと大災害とも言える揺れが一瞬で止まる。

「属性能力か!?」

「それは違う、って言われた」

ヒメギ本人は無自覚で使っているが、原理としては神威を流し伝わせることにより振動を起こす技。

武器も能力も使えない余した圧倒的な神威の量を持つヒメギだからノーリスクで出来るものであり、当然威力は凄まじい。

「原理はわからないが、これが私の力。あなたは受け止められる?」

足に力込め手を突きだしながら一気に駆け出す。

「大破壊(ミルクラッシュ)」

間一髪かわくアニク、その拳が壁に触れた瞬間だ。落ち葉の山が風に吹き飛ばされるように儚く脆く容易く一瞬にして崩れた。

観客席にも被害が行き、逃げ惑う獣人達。

「粉砕王!」

避けたアニクに向け手を広げ掴みにかかる。咄嗟に岩を投げ掴ませると砂と化す。それだけでその威力が恐ろしいかがわかる。

「どれだけ威力があろうとも当たらなければ意味はない」

「!?」

「スピードには自信があるんだ」

足の裏から爆発し猛スピードでヒメギめがけ飛んでくる。

「トライデント」

風を切る速さで一直線に槍を突き刺してくる。

体を曲げかわす。直ぐ様アニクの方へ体を向けるが、目の前に五叉の刃が迫っていた。

キイィン

大口を開けて刃を歯で噛み止め、その止まった隙にアニクの手に触れる。

指先からくる振動、咄嗟に槍を捨て後ろへ下がる。

「ぺっ、まじゅい」

「触れただけでこの威力か」

「内部ぐちゃぐちゃにしたと思ったのに」

「揺れ程度で崩れるほど柔な鍛えはしていない」

とは言うが、触れられた腕は力が入らない。骨は砕け内出血を起こしている。

もし後ろへ下がらなければ一瞬で振動により爆死していた。

触られたら即死という状況で接近戦闘は明らかに不利、だが飛び道具も効いてくれそうにもない。

「……飛べるの?」

アニクの体から速度を持った流体が放たれ浮き上がっている。

「属性能力、極大噴出(ジェットブースト)だ。なかなか便利なものだぞ」

ジェットブーストを使った圧倒的速さによる攻撃と回避。

どんな威力も当たらなければどうてことはない。

噴流を利用した激しい猛攻。当然一撃一撃が速く重たい。

だが、能力を数倍にも引き上げられたアニクに対応出来るヒメギ。

それに疑問と焦りを感じ始める。

王族の血統を引き、その実力素質を神に認められ鍛えられ神伐隊の隊長の席に座り悪魔や魔物と戦ってきた。それなのにこんな得体の知れない小娘に。

「グラス・ギア。大地を凍てつかせろ」

アニクの命令に従い試合場の床全体が凍り、ヒメギの足をも凍らす。

「氷の精霊か」

振動を起こし氷を砕くも、アニクにとっては充分過ぎる隙だった。

「我が拳に纏え、バーニング・ギア」

炎の拳を数発腹部にもらい後ろに崩れるヒメギ。

「ブルードスライス」

続けて槍を横一閃に振るい、胸元を斬った後すぐ蹴り飛ばす。

「トライデント」

さらなる追撃をかけた刺突は腹部に刺さった。

柄を両手で掴み貫く事は阻止できたが、重症だ。

「っあああああ!」

アニクを蹴り怯ませた時に力で押し返し、強引に引っこ抜く。

「本能のままに捻り潰してやる」

声を荒上げ怒りを露にしたヒメギ、ビリビリと体から稲妻が迸る。ゴゴゴッと大地が揺れる。

「余裕が消えたか」

ヒメギの鬼気迫る表情。それは鬼も裸足で逃げ出す程のような凄まじいものだ。

「余裕が消えた?まさか、素の戦いをしても良い相手と認めただけだ」

「そうか、ならやってみるがいい素の戦いを」

「後悔するなよ、あと被害請求代は任せた」

そういうと再び地面に手をつける。

「また地震か、何度も同じ技を」

「崩壊連鎖」

さっきの地震なんて生易しいものではなかった。

亀裂や断裂なんてものじゃない。言い現表すなら崩壊だ。

地面が津波のように粉微塵に砕けていく。コロシアムは瞬く間に崩れ、地面に接しているもの対象全て関係なく崩壊していく。

幸いな事にコロシアム周辺には誰も居なく、死者は出ていない。

ジェットブーストで飛んでくるアニクは穴底が見えないその威力に固唾を飲む。

ヒメギが立っている場所だけが崩れず綺麗な円柱が出来ている。

「さっきまではお遊び程度の威力だったのか」

「大威震」

両手から神威を放ち大気を揺らす。その振動に当てられたアニクは血を吐き出しながら落下する。

「空間までも。空を揺るがせ、ブラスト・ギア」

地面に墜落する直前に風の精霊が爆風を起こし直撃を免れる。

「殲滅せよ、ライジング・ギア」

指先から迸る雷、それをまともに受けるヒメギだが。

「私に雷は通じない!!」

即死級の電圧を受けても平然と立ち向かってくる。

「ならばこれならどうだ!風雷(トルネール)」

風と雷を合わせたエネルギー弾を放つが、弾き飛ばされる。

「雷神激昂」

空一面に黒雲立ち込め、激しい稲妻が降り注ぐ。

「なに!?」

「威堕天」

体に纏った雷は、自身を雷と化し雷速で近づき蹴り飛ばす。

「こ、この速さは。うぐ」

雷の如く激しい殴打。そんなものに対応出来ずなすがままにやられるアニク。

(あの時と同じだ、また負けるのか)

数年前、神伐隊の隊同士の試合で受けたあの屈辱。たった一人に全ての小隊がやられたあの屈辱試合。全てを圧倒した試合内容、それも任務をこなしながらだ。

(こんなカズキ紛いに負けるのか!)

あの時、ほんの数秒で倒されたあの時と同じだ。

二度とあんな屈辱は許さん、負けはもう許せん!

「うおおおおお」

ヒメギの顔を掴み地面に叩き付ける。

「礼を言うぞヒメギ、剣舞祭前に目が覚めた……」

「?」

「その礼として、みせてやる。神格化を!」

両手を肩に添え力み始める。

「我は大自然に猛り狂う野獣の狩人。その至大至剛の身をもって陸海空その全て制する全獣を司る神よ、我が血肉に宿れ。獣神転生ッ!」

真っ赤な髪は腰まで伸び、背丈筋肉が急成長する。八重歯や爪が鋭くなり、体には赤い剛毛が生え黒の縞模様が浮かび上がる。

その姿はまさしく獣達の神に相応しい堂々としたものだ。

「これが、神格化」

「いくぞ、小さき獣人」

「雷電」

激しい雷を纏った掌をアニクの心臓めがけ放つ。

「ぐおおお……効かないな」

「なに!」?

「獣神百烈拳」

ヒメギの手を振り払うと残像を残す速さで拳を叩き込む。

それに対処出来ず後ろへ下がろうとする。

「獣神激烈掌」

「がはっ」

すかさず距離を詰め両手を合わせ突き出し衝撃波を内部へ流す。

「雷槍脚」

「ぐっ、そんな生易しい攻撃なんぞ効かないぞ」

「粉砕王」

「王者の一撃(キングクロー)」

アニクに向けて伸ばす手は届かず上から叩かれグシャンと地面に潰れる。

「なかなかの強さだヒメギ。だが、そこまでだ」

地面は蜘蛛の巣状に亀裂が入り陥没してるヒメギを見て勝利を確信する。

「全生物の頂点に立つこの圧倒的力で、カズキに勝つ!」

「カズキに勝つ?笑わせるな、私に勝ててないくせに。勝ててないのに、今(私)を見ろよ…私をおおおおおおお」

咆哮を上げ立ち上がる。

「私を見ろ!二刀にひれ伏せ!天上天下全ては炎に焼かれ、希望絶望同じく雷(いかずち)に砕かれる。私と天地無双刀の下、三千大千世界等しく滅びる。さぁ、ぶっ壊してやる!!」

激しい光を放ちながら双方の手に現れた深紅の刀と漆黒の刀。

額からの出血も相まって、その姿はまさに鬼神。

「その刀は!?まさか!?」

「嘘、でしょ?」

その武器その姿を見てアニクとアディラは絶句する。

「天地無双刀。火陽鬼神刀、雷鳴龍神刀……なぜ、貴様が」

「私が、娘だからだ」

 

 

 

 

 

 

つづく



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獣人の力

 

 

 

 

 

 

「む、娘だと!?」

「バカな、そんなバカな」

激しく動揺するアディラとアニク。

そんな訳がない、あいつの性格的にも年齢的にもあり得る話ではない。

「戯れ言は良い、まとめてぶっ壊れろ。炎雷・大殺斬!」

刀を大きく振りかぶり力を溜め、一気に放つ。

放たれた一撃は斬撃となり地面を抉り斬りながら一直線に突き進む。

「サンダー・トライデント」

ジェットブーストで飛び上がりかわすと、雷を纏い低空飛行で突撃してくる。

「ふん」

それを双刃で受け止めると、下へ弾く。

「雷曇(らいどん)」

雷を集中させた拳を後頭部に打ち込む。まるで雷が空から降ってきたかのように雷の柱が出来る。

「うおおお」

その腕を取り力任せに振り回し地面に叩きつける。

「いいぞ。いいぞヒメギ、これほど愉快な戦闘は久しいぞ」

「あああああああ」

力任せに振るわれる重たい一撃一撃が炎や雷の斬撃となって飛んでいく。その圧倒的弾幕は華やかで美しくも、絶望させるものだ。

「エレメンタリアを崩壊させる気か」

建物は雷で破壊され、炎で燃える。あれほど賑わい活気溢れた街は崩れ地獄と化す。

今のヒメギは勝つ事しか頭になく、後先の事なんて何一つ考えてない。

だがら、請求は任せたなのか。

「これ以上の破壊は許さん、はああ」

嵐のように暴れるヒメギに槍の一閃を見舞う。

火陽鬼神刀で受け止め、雷鳴龍神刀でアニクを切りつける。

切口が雷にうたれたかのように焼けるように痛く痺れる。

「はっ、はっ、はぁ!」

二つの刀による猛攻。縦へ横へ振るい、突いたり、回転したり、持ち方を変えたり、柄を合わせて双刃刀にしたり、投げてきたり、キックやパンチも混ぜてきたり、同じ攻撃法をしない巧みでトリッキーな攻めはまさしく絶技。

こんな時だが、華麗で気高く舞のような剣技に見惚れてしまう。

「ちぃ、とことん父親に似てるんだな」

一方的に押されながらも嫌味を吐く。

「一緒にするなぁ!」

それに過剰に反応するヒメギ。

「貫き通す槍(ライックランチャ)」

その隙は大きく、アニクの刺突が肩を貫く。

「うぐっ」

「バーニング・ギアよ、槍に集え」

刃に炎が宿り、ヒメギの肩から燃え上がる。

「うぐっ。こ、こんな炎」

「ブラスト・ギアよ、我が拳に纏え」

振り上げる拳に激しい風のエネルギーが集まる。

「ノゲイルクロー」

渾身の力を込めた一撃でヒメギを殴り飛ばす。

「はああああ」

片腕のみ更なる神威を流し威力を底上げする。

「精霊達よ、俺に力を!!」

炎、風、氷、雷の力が拳に集まり共鳴する。

「スピットスラッシュ」

筋肉が膨張し更なる豪腕となり、エネルギーが集まった拳を大きく振り下ろす。

瞬間、ヒメギはその場には居なかった。

耐え難い威力に、その身を吹き飛ばされたのだ。

「はあ、はあ、とんでもない奴だ」

神格化を解くと地面に片膝を付き呼吸を整える。

「アニク様、大丈夫ですか」

心配したアディラが駆け付ける。

「アディラ、あいつをヒメギを探せ」

「しかし、生きてるかどうか」

「奴は生きてる。探して剣舞祭のメンバーに加えるんだ」

「わかりました」

「さあ復興だ、獣人の建設技術をみせつるぞ」

街は崩壊し大惨事な結果で終えた大会。

この後に建設物は精霊の力もあってすぐにもどせたが、巨大なクレーターや亀裂だけは完璧に直すことができずにいた。

この試合を最後まで見届けたカズキ達は改めてアニマニアの脅威を感じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

んで次の日

「くたばれやオラアァァッ!」

バトル・トンファーを振り回しているジェルマンはアニマニア精霊学園の学生を相手に連戦連勝を重ねていた。

「なんだこの人間、滅茶苦茶強いぞ」

「さすがは剣舞祭に出るだけはあるな」

「どうした獣人はこの程度か!?」

「なめるなど、次は俺が相手だど」

カバの獣人が手に持つモーニングスターを振り回しながらジェルマンの前に立つ。

「食らうんだど、風鳥(ビレントバード)の加護を加えた炎の鉄槌(フレイムクラブゾン)」

「おせぇんだよ、大口野郎が!」

飛び上がりかわすと、そのまま頭部にバトル・トンファーを振り落とす。

「ぐえーだどー、やられたどー」

ごぉんと鈍い音が響き、ふらふらと後退りをして倒れる。 

「次こいや!」

「張り切っているな」

「それは昨日あんな凄い戦いを見たのですかわ、燃え上がるのは当たり前ですわ」

いつも以上に燃え上がっているジェルマンを見て感心してるシバに言うノア。

ジェルマンだけではなく、ルリーやカズキもいつも以上に気を引き締めている。

「うおおお」

「はあああ」

そのカズキはというとミカルドと斬り合ってる。

相手の動きに合わせながら上手く振るっているカズキに対して、ミカルドは斬るというより叩き潰す感じで力任せに振り回している。

「力任せでも勝てると思うなよ」

つばぜり合いになった瞬間に押しきり、続けて蹴りを入れる。

「禍゛威゛狂゛甲゛ッ゛!゛」

ミカルドの背後から人形の黒竜が咆哮を上げながら現れる。

「喝ッッ!!」

カズキの気合いの入った一喝に黒竜はひっこむ。

「な、なんで変身できないの」

予想外な出来事にミカルドは戸惑いをみせる。

「また暴れてもらうと困るんでな、少し眠ってもらった」

「眠った?鎧が寝るんですか?」

「そいつは狂魔と呼ばれる悪魔竜(ディアボロス)を生きたまま鎧した代物だ」

「へー、詳しいんですね」

「当たり前だ、それは俺が創った鎧だ」

「え!?隊長が創った鎧なんですか!?」

「俺が神伐隊の最初の方に使ってた奴だ。危険だから閉まっておいたんだが」

あれは確かに宝物庫に置いておいたはずだったのだが、なぜかミカルドが着ていたのを見て驚いたなと思い出す。

「そうなんですか、急に目の前に現れたので気づいてたら着ちゃってました」

「なるほど、ミカルドさんに惹かれ動いたか」

ディアボロスは生きた鎧だ。血と闘争を求め動き出す事くらいは出来る。だが、問題はミカルドが鎧を生きてると知らなかった事だ。

馴染んではいるんだろうが、確実に使いこなせていない。

「そうだったんですか」

「もっと使いこなせる用に頑張れよな」

「はい」

もしそうだとするならば、使いこなせたときには大きく化けるだろう。

満面の笑みで答えるミカルドを見ながら新たな好敵手が現れるかもしれないと内心喜ぶカズキ。

「あれ、そういえばレオンはどうしたの?」

「あいつなら実家に帰らせた」

キョロキョロ見渡すリュークにレイカ先生が答える。

「へー、帰ったんだ」

「本来ならで明後日に行かせようと思ったのだが、どうも心配性過ぎてな」

修行に身がはいらないようで、その状態で続けても意味がないので帰らせたのだ。

「実の妹だからね、心配過ぎるくらいがちょうどいいと思うよ」

「ふっ、そうだな」

「故郷に帰って何か掴んでくるといいですね」

アニマニアに戻ってきてレオンの実力は上がってきた。

本人いわく感覚が戻ってきたとのことだ、ならば故郷へ帰ればまた変わって帰ってくるかもしれない。

「今年はいい人材が入ってくれた。リューク、お前に一番期待しているぞ。影の支えになってくれ」

「先生に期待されちゃ頑張る以外ないですよ」

「頼もしい限りだ」

「よーし、じゃあカズキと練習だぁ!」

そういうとミカルドとやりあってるカズキめがけ走るとフライングクロスチョップで吹き飛ばし、乱入するのだった。

 

 

 

 

 

交流戦を続けているジェルマンとノア。

「やっているな」

そこへ、学生服に身を包んだアニクがやってくる。

「あ、アニク様」

「アニク様だ」

「昨日の戦いは凄かったな」

「ヒメギもまさかあんなに強かったなんて知らなかったな」

昨日のヒメギとの激戦を制したアニク。その戦いはアニクの強さを誇示し、ヒメギの強さを世に広めた。

その為学園は今祭りのように騒いでいたりする。交流戦でみんな張り切っていたのは、それに触発されてだ。

「本人自ら視察たぁいい度胸じゃねぇか」

ふてぶてしい態度をとりながらもアニクを睨み付ける。

「剣舞祭に出場する何名か連れてきた、これで平等だろ?」

それに対して冷たい眼差しで見下ろす。

「はっ、何が平等だ。見学者がよ」

「見学?まさか、模擬試合のつもりだが?」

「面白え。雑魚ばかりで飽き飽きしていた所だ……ぶっ殺してやるよ」

「タスカ。相手をしてやれ」

アニクの後ろに立っている二本の巨大な牙、長い鼻を垂らした象の獣。三メートルはあるだろう巨体、大岩の如くごつごつとした腕、巨木を連想させるようなずっしりとした脚、鍛えぬかれた筋肉はまるでそこに山があるのではないかと思ってしまう程の存在感、とにかくでかい。

「なんだこのクソデカ象は!?」

「タスカ・パオパオム。元神伐隊で俺の側近だ」

「……アニク、このような羽虫を潰せと?」

「誰が羽虫だゴラァッ!」

「エレパレスラリアット」

大地を力強く踏みしめ豪腕を一閃振るうとジェルマンを振り落とすバトル・トンファーごと吹き飛ばす。

ボゴオオンとジェルマンの大爆発が起こるも、タスカの腕は平気のようだ。

「ぐはっ、なんて馬鹿力だ。力だけならカズキより上かこりゃ」

体を回転させ綺麗に着地をするも、ボコボコに曲がったバトル・トンファーを見て不適に笑う。

「あんな鬼神と一緒にするな」

大足で踏みつけてくる所を回転してかわすと、タスカめがけバトル・トンファーを投げつける。

それに気を取られてる内にジェルマンは背後をとり膝裏を両足で蹴り爆発を起こす。

体制を崩したタスカの後頭部に飛び蹴りをかます。

頭から倒れ、立ち上がろうとする所に横顔にトゥーキックをお見舞する。

「くたばれ、バーストナックル」

膝立ちになったタスカだが、象特有の鼻が伸びる。

とどめをさそうと顔面を殴りにかかるジェルマンの胴体に巻き付くとそのまま持ち上げる。

「うお!?放せ」

「なかなか良い攻撃だが、確実に相手を仕留める重さが足りん」

切れた瞼から流れる血を親指で拭き取りながら、ジェルマンを締め付ける。

「ふん、口程にもないな。いや、大口しか叩けないのか」

「なめやがって、爆破閃光(バーストフラッシュ)」

両手からタスカにめがけ爆発をぶち当てる。

「そんなものか」

なにごともなかったかのように笑うタスカは、締め付ける力を更に強める。  

「ぐぬああ、ならこれでどうだ。爆破光線(バーストビーム)」

爆破を起爆させる部位を一点集中させ、貫通力を増した爆破を放つ。

「ぐわああ」

バーストビームはタスカの肩を焼き貫き、その痛みに苦悶の声をあげる。

「へっ、ざまぁみやガフッ」

ジェルマンを乱雑に投げ捨てると、その巨躯を活かしたタックルで吹き飛ばす。

学園の壁を何枚も貫き、鉄柵にめり込む形で止まったジェルマン。

「ジェ、ジェルマン」

「まちな、お嬢ちゃん」

ジェルマンの元へ駆けつけるノアを呼び止めるタスク。

「なんですの、まだジェルマンに追い討ちをかけるならわたくしが」

声を荒上げ返事をするノア。目は涙ぐんでおり、今にも泣きそうだ。

「……あいつに伝えてくれ、羽虫なんて言ってすまなかった。充分に強い、剣舞祭を楽しみにしている」

そう言うと、ジェルマンではなくアニクの方へ歩いていく。

「次は誰を相手にすればいい」

「あの魔法少女はどうだ?」

木陰で魔方陣を描き、その中心で精神統一をおこなっているルリーを指差す。

「……悪いが、俺にはできそうにない」

それを見て片手で頭を押さ数秒沈黙した後力無く答える。

「はぁ、小さい奴は殴れないはお前の悪いくせだぞ」

「頭では分かっているのだ、だが幼子を虐めてるようでだな」

「お前から見ればほとんどが幼子だろ」

「だが、あれは小さ過ぎる、俺の腰位もないぞ」

「相手なら私がしてあげますよ、選手じゃないですけど」

「ミカルド、なぜここに」

「知り合いか?アニク」

「あぁ、九十九小隊の隊長だ」

「ヤツの跡目か」

「俺達隊長に引けを取らない強さはある。だが、越えられはしない」

神格化。これが選ばれし者(隊長)とそうでない者との差であり、越えられぬ壁となっている。

「そんなやつが選手じゃないのか」

「はい、私もハートさんもセラフさんも隊長にコテンパンにやられちゃいましたから」

「ならカズキは剣舞祭に出るのか」

「はい、ほらあそこで今懸命に戦っていますよ」

「懸…命?」

指差す方を見ると

「どうかしら、ギブアップ?」

後頭部を膝裏に被せるように固め、もう片方の足でカズキの片足を動けないように絡め、両腕を上げるようにして極める。

「うおおおお」

それを無理矢理返そうと体全身に力を入れ踠く。立ち上がろうにも頭が潰されてる。歩こうにも片足が極められてる。両腕なんか動きもしない。

「ふん」

暴れるカズキを潰すように更に力をいれる。両腕の付け根と胸が裂けそうだ。

「ぐおああぁぁいいやあああ」

動けないなんて言ってる場合じゃない。はやく逃げないと腕が引きちぎられる。必死にガムシャラに動いていると思わせ実は片腕だけに力を集中させており、ロックが緩んだ一瞬の隙に振りほどき、リュークの腕を掴み地面に叩きつける。

だがリュークは叩きつけられた衝撃を利用したのかわからないが、跳ね起きのように立ち上がると同時にカズキを引き寄せその勢いのまま眉間に頭突きをする。

「っがあ」

「ったいわね」

鼻血を吹き出すカズキと、額が赤く晴れ上がるリューク。痛み分けのようだ。

「くたばれやクソカス」

「死に晒せクソカズキ」

互いに全力で放つ拳と拳がぶつかり合う。

「うおおおお」

踏み込みリュークを押し退ける。すぐさま首元を掴むと勢い任せに地面に押さえつける。

「もらったああ、雷曇」

そのまま顔面に雷を纏った拳を振り落とす。

巨大なクレーターをつくる威力、カズキは大きく飛び上がり距離を取った。

「化物が、寸前で受け止めやがって」

あの瞬間、掌で受け止め弾き飛ばしたのだ。

常人なら掌ごと、いや掌なんて消し飛んでいる。なのにやつはやってのけたのだ。

「おいたがすぎたわね、カズキ」

受け止めた掌は真っ黒に焦げており肘から血流している。

あの威力を片手で受け止めたのだ、前腕がダメになってもおかしくはない。

「けっ、それは互い様じゃろがい」

「………それもそうだね、これ以上やっても殺し合いになるからやめだ、やめね、やーめやめ」

「なんだ、逃げるのか。俺の勝ちだぞ」

「それでいいよ、私からも誘う口実ができたし。それに本気でやるなら覚悟が決まった時に言ってちょうだい、心置き無く全力でぶっ殺してあげるから」

「けっ、勝った気になれねぇなこりゃ」

先程殴った腕を振るいながらその場所を後にする?

「あの女もなかなかの実力者だな」

カズキに対して互角の攻防をしているのを見て、かなりの実力者と判断する。

「そうなんですか?いつもすぐやられてますけど」

いつもなら吹き飛ばされたり、極められたり、止められたりしてカズキが負けている姿を思い出すミカルドが不思議そうに言う。

「だろうな」

最強の称号を冠している男があんな訳のわからない少女に負ける訳がない。と誤解をするアニク。

「おお!?アニクとタスカじゃないか、久しぶりだな」

その場を後にしようとしたカズキは二人に気づいてこっちに向かって走ってきた。

「お前らもでるんか?完膚なきまでに叩き潰してやるぞ」

「貴様、会ってそうそうの言葉かそれかよ」

「カズキらしいな」

「アニクはともかく、タスカが出るのは意外だな。お前争いは苦手だろ」

「アニクの頼みだ、出るしかない。それに、今の俺がどれだけ世界に通じるのか試してみたくてな」

「戦いが好きなのか嫌いなのかわからんやつだ」

「精々覚悟しておくんだなカズキ、昔の俺達と思わない事だ」

「侮ったりはしてない、ただ昨日の戦いをみて俺の相手になるか不安には思ったがな」

「なんだと」

「あそこまで騒いだのに、あの様は不甲斐無過ぎる。きっちりぶっ殺せ」

「あくまで試合だ。殺し合いじゃない」

「だから場外勝ちか。らしくないんじゃないか?」

昔のアニクなら間違いなくあの場で殺していた。脅威となる芽は潰す、慢心はせず常に冷静で確実を求める性格だったのだが。大人になったのか、退化したのかわからん。

「お前はやつに勝てるのか?」

「当たり前だ」

アニクの質問に即答する。

「その自信ある返答はお前らしいな」

「そういやアディラはどうした?あいつもメンバーなんだろ?」

「お前を倒したいと気合いが入ってるぞ」

「色々とセンス良いからな、お前から出し抜いて正解だった」

懐かしいな、ファロンの移籍の時は久々に激昂したな。上層部まで行って話し合ってきて、アディラと交換と言う事で落ち着くしかなかったな。

「だが、ファロンを出し抜いた罪はでかいぞ?」

「……そうだな」

一瞬微笑みながら言うアニク?

「ファロンも出るんだろ」

「おいカズキ、ファロンはもう」

「やめろ。いいんだタスカ」

「…………」

「どうした暗い顔してよ。かっかっかっ」

「お前らを倒すメンバーを揃えてやるから、覚悟しておけ」

「楽しみに待ってるぞ」

そう告げると二人は静かに校舎へと戻っていく。

行ってしまったので、再び修行へと戻る。シンプルに素振りをしよう。両腕両足に重りをつけてだ。

「肘打ち、裏拳、後ろ回し蹴り、からのローリングソバット!」

振るう度にパァンと空気が裂ける音が響き、汗が飛沫をあげる。まるで踊っているかのよな華麗で美しい素振りをする。

「また素振りか、大好きだな」

ルイスが若干呆れた口調で言ってくる。

「基礎だからな」

続けながら喋るカズキ。

「重そうだな」

つけているバンド型の重りを見て聞いてくる。

「少し重いかもな。お前もつけるか?」

「……いや、遠慮する」

軽々しく素振りをしているからそれほどの重量はないのだろうと思ってしまう。だがカズキのことだ、滅茶苦茶重たいのだろう。

「お前ら、昼飯が出来たぞ」

「午後は俺達がしごいてやるから覚悟しろ」

しばらくしてエプロン姿のシバとダテが昼飯の時間を知らせにくる。

「おお飯だ飯!」

腕につけたバンドを外し落とすと、ゴッと鈍い音と共に地面にどんどんめり込んでいく。

その光景を見てルイスは心のなかで呟いた。知っていた。

「自分で重さを変えられるから便利だぞ」

笑いながら重りを拾い上げルイスに渡す。確かに軽くなってる。

「さあ飯だ、今日のメニューはなんですか?」

「今日はアニマニア名物、ワイルドチキンの丸焼きだ」

「現地調達したからな、新鮮だぞ」

なるほど、だから朝早くに出ていったのか。

「新鮮もなにも、焼いたら変わんないだろ」

「アニマニアの名物って丸焼きしかないんですか?」

確かに今のところ名物と紹介されているのは丸焼きがほとんどだ。

焼けば食える、さすがアニマニア。

「いててて、肉だ肉をくわせろ」

ボロボロのジェルマンがノアと一緒にやってくる。

「酷いやられようだなジェルマン」

「うるせぇ、次は勝つ」

「隊長でもないのに、あの強さ。他国もどのような人が出るのか気になりますわ」

確かにアニマニアの脅威は理解した。となると、他の国もどのような人物が出るのか気になる。

「アニクも出るとなると各国にいる隊長共も出るのは確実か、オーウェンが出るならちとやっかいだ」

「聞いたことあるぞ。一対一(サシ)でやるならオーウェン、って言われてる奴だろ」

ジェルマンが口を挟む。

サシでやるなら、か。あながち間違ってはいない。

発言からして噂は知っているが、全容は知らないようだ。

「あいつは倒すのにちと苦労してな」

「そんなにか?」

「勝てない相手ではないがな」

俺は何度か戦っているが全て勝っている。だが、それはお互いに全力ではなかったからだ。

曲者揃いの神伐隊の中でも最強と名が上がるほどにだ。

「戦う時を楽しみにしな、驚愕するぞ」

それは俺に向けての言葉でもあった。

「何をぼさっとしてる。飯が冷めるだろ」

「はやくしないとリューク様に全部食べられるぞ」

「お肉おーいしー!」

物凄い勢いで肉を頬張っているリューク。それをみて急いで食卓へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

つづく



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倅(受け継ぐ者)

 

 

 

 

 

小鳥が囀ずる早朝。アニマニア学園の生徒が登校し始めバタバタしている中、ルリーはグラウンドの真ん中で目を閉じ静かに詠唱を唱える。

「遥か彼方の時、世界を破滅に導き、混沌の世に陥れし禁忌の法」

足元に魔方陣が描かれると、不気味な紫色の光が揺らめく。

晴天だった空が黒曇にかわり、風が木々を揺らす。

「長きに渡り封印されし愚かな力よ、今目覚めの時。禁断されし遊び(フォービドゥン・ゲーム)」

カッと力強く目を開き、両手を高々に突き上げる。

「……起こりませんね」

しかし、なにも起こる事無く魔方陣が消え、黒曇も風も無くなり穏やかな風景へと戻る。

「まだ魔法力が足りないのか、詠唱間違いなのか」

何がいけないのかすぐさま考え始めるルリー。

「んにしても凄い大々的な詠唱内容だな」

破滅だの混沌だの封印だの規模がでかい。

「古来の魔法らしいんですが、まだまだ研究が必要です」

上級魔法を唱える事も可能なルリーですら勉強をするのだ、その道はとても険しく深いのだろう。

「そんなことより出来る魔法を練習した方が良いんじゃねぇのか?」

「それだけじゃダメです。相手も知らないような魔法も使わないと魔女は倒せない」

「禁忌魔法は危険だからやめた方がいいよ」

「ソウルの天才もそんなん唱えていたな」

「兎に角、体力錬成よりも魔法の勉強します」

「つれないな~せっかくアニマニアにきたんだから籠ってちゃダメだよ」

「そうですわ、集中させるだけじゃなくて体を動かさないとですわ」

「うう」

「そういや、ここに魔法学について勉強してる知人がいるけどあたってみるか?」

「その人は魔女ですか?」

「いいや、獣人」

「結構です」

間髪入れず即答する。

獣人が叡知の結晶である魔法を使える訳がないと思っているのだろう。いや、事実か。

「俺でも興味深い話をしていてな。古代呪文の文章があるらしい」

「古代呪文ですか」

「参考くらいにはなると思うぞ」

「……文章を解読するくらいなら」

なんか腑に落ちない表情をしながら答える。

「俺もその方に用事があるからな。放課後あってみるわよん」

「わよんだって、ダッサ」

「シャラーップリューク」

「わよんわよんわよん」

「くー、下手な発言はできんな。言葉に責任を持ちましょう」

「仲がよろしいんでしょうか」

「類は友を呼ぶ系だろ」

朝からじゃれあってる二人を後にして朝食を取りに部屋へ戻る。

「今日は実戦に出ていってもらう」

朝食中にいきなり口にするレイカ。

「実戦?」

「最近危険種が増殖してるのは知ってるよな」

「知っていますわ」

「アルガドも狩りやってくるしな」

「ここアニマニアも同じでな。奉仕活動の一環としてやろうと思う」

「ですが」

「安心しろ、死にそうになったら助けてやる」

「危険種ごときにやられたら剣舞祭で勝てないぞ」

「で、どんな危険種なんだ?」

パンをモグモグしながら聞いてくるカズキ。

大自然に住む危険種はアルガドなんかよりも危険度が高いし、未知なる脅威が潜んでいる。

場合によっては、また悪魔共が絡んでいるのかもしれない。

グラトニーや地獄姉妹、ジンカンの件もあったから注意しなければならない。

「雑食大鼠(ミックス)だ」

「あのネズミか、確かに大量発生し続けたらまずいな」

「けっ、あんなネズ公ごときにか?」

ミックス。大型のネズミ、一見可愛らしい容姿とは裏腹で性格は残虐凶暴にして大食漢。常に集団行動し、生きてるモノ全てを餌と認知し生きたまま食ってくる。そして、繁殖率が凄まじい。

「懐かしいな、神伐隊の最初の任務がミックスの殲滅でな。集団戦闘知らないってのに侮ったバカ共が食われ死んだな」

果敢に戦うも食われ、痛みに泣きながらか食われ、恐怖し逃げるも食われ、幼い俺達には酷な初任務だったなと思い出す。まっ、その道を選んだのは自分達だから自業自得なんだけどね。

「食われ……」

「集団戦闘を学ぶ良い機会だと思わないか?」

「おいおいレイカ、危険すぎないか?」

心配の声をあげるダテ。

「私の教え子だぞ?侮るな。もし、万が一があっても私達で守れるだろ?」

「そうだな、カズキもリューク様もいるから心配はないが」

「俺達の初陣もミックスの駆逐だったな。あれは大変だった」

焼きたてのパンを持ってきたシバが口を挟む。

「あれから意識が変わったからな」

「懐かしいな」

「朝食をとり次第出発するぞ。しっかり腹ごしらえをするんだぞ」

「最後の飯になるかもしれないからな、味わってくれ」

「おかわりいるか?つくるぞ?」

笑いなが言ってきたり、真剣な眼差しで見てきたりするので茶化しているのか真面目なのか訳がわからない。

言いたいことは『気を抜くな』ってことなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

なんやかんや馬車で揺られ森深くまでやってきた一行。

「んー、大自然!!」

見渡す限りの木々、それも形は大小様々にして歪な形である。

人の手を一切加えてない自然は少し恐怖を与えるものでもあった。

「ちっ、整理されてねえな」

「自然だからね」

「ほら、そんなこと言ってたらお出ましだぞ」

木々をなぎ倒して現れた巨体な獣。血を撒き散らしながら暴れている。

「こいつが!?」

「ネズミじゃありませんわ」

「違う、食われてるんだ」

「数の暴力だな」

倒れた獣の内部から肉を食い破って大量のネズミが溢れてくる。

「人海戦術なんて最終奥義じゃない」

「うっ、気分が」

「さあ頑張らないと食べられるよ」

獣の死骸に群がるも餌にありつけないミックスは一行を見ると一斉に襲いかかってきた。

「生きたまま食べられるなんて嫌ですわ」

「バーストショック」

バトル・トンファーを地面に叩きつけ、爆風を起こし飛びかかるミックス達を吹き飛ばす。

「ファイヤーボール」

「フリーレイン」

次々と現れるミックスに応戦するも、数が減るようには見えない。

「けっ、死を恐れないたぁ果敢なネズ公だ」

「食欲の化身ですわ」

「食べないと死んじゃうからね、必死だよね」

「ちっ、きりがねぇ」

足元にも、前からも、後ろからと縦横無尽に襲ってくるのに対処しきれない。

「お前ら、しっかりしないと食われるぞ」

馬車から酒を片手に呑気に見学しているレイカがいってくる。

「うるせぇ、なんでお前らは狙われねぇんだよ」

大量のネズミも馬車を避けるように移動している。まるで障害物をよけてるかのようにだ。

「ん?コツがあるんだよコツが」

「なんだよコツって、いで」

レイカに噛みつくジェルマンだが、腿に飛び付いたミックスが鋭い歯を立てる。

「くそネズミがぁ」

手で払い落とすも、次々と飛び付かれ噛まれる。

「あーあー、崩れちゃった」

「クソボケがああ!!」

全身を発火さけ巨大な爆発を起こす。

見渡す限り地面を埋め尽くす大量のミックス。大きい相手なら何度もあったが小さくて速くてしかも多いのは初めての経験にどうすれば良いのかわからなくなる。

「ヒュラノモース」

氷の矢を放ち吹雪を生み出し凍らせるも範囲や持続時間も限度がある。

なんでレイカ先生の周りには集まってこないのか。なにかコツがあると言ってましたわ。恐らく神威を使った方法、応用……応用、ですわ!

「わかりましたわ。コツ、というのが」

ここでピンときたノア。

神威武装を解除すると、ジェルマンとルリーの肩に触れる。

「な、なんだこりゃ」

すると猛威を振るっていたミックスが何もないかのようにこの場から去っていった。

「神威を練って衣をつくり自然と同化しましたわ」

「衣?同化?どういうことだ」

「神威には聖なる力が宿っていますの。その力に危険種などは無意識に避けているのですわ」

その神威を今纏い、二人に流しているのだ。

「だからって、襲ってくるかもしれないだろ」

「それに加えて周囲と同化させる事でわたくし達の事を認知されないのですわ」

「だが、籠ってるだけじゃ勝てないぞ」

「そうですわ。ですから、皆さんもやってください」

「やるって、属性能力しか俺は使えないぞ」

「全身に神威を纏うだけでいいのですわ。カズキさんでもできます」

「おいこらバカにしたな」

「あら、いましたの?」

「いますよ、今懸命に駆除作業してます」

ミックスの集団に雷を落とすことにより、感電して一気に駆除している。

「いやー、青龍(雷)の力は便利だね」

「便利な力ね」

「神威無しでこれだもんな」

「こんなん咆哮(ほ)えるだけで駆除できるぞ。うるさいけど」

「リュークなんか遊んでるぞ」

「よーしよしよし」

凶暴なミックスを撫でて愛でてるリューク。それに群がるも襲る気配はない。完全に手懐けている。

「あれはもう別次元ですわ」

「グラン・ギア、やつらを飲み込め」

突如地面が歪み大量のミックスを地中に飲み込む。

この力は。

「まだ繁殖期じゃないのにこの数。なにか異変を感じる」

森の中から制服姿のレオンがカズキの前に飛び出てくる。

「お?レオンじゃないか、帰ってきたのか?」

「カズキ、お前らこんな所でなにやってるんだ?」

「修行がてらミックスの駆除」

「ミックスは一体一体は弱いが、数がいるからな。村も滅ぼされる事も少なくない」

「そら脅威だな。絶滅させるか?」

「それはダメだ、生態系が狂う」

「やっぱり?ところで帽子なんか被ってたか?色気づいちゃって」

「ああ、これはな」

「まだ来ますわ」

流暢に話していると、再びミックスが先頭に獣を走られてやってくる。

「ちっ、バースト」

「もう一度地面に」

殲滅しようと身構える二人。

その前にレオンの頭に被っていた帽子からなにかが飛び出すと、巨大な地震が起こり地面に亀裂が走る。

津波のようにやってきたミックスは止まることができず、やってきた全てが奈落の底へと落ちる。

「この方が速いよ、レオン」

長い灰色の髪をなびかせながらこちらを向いて微笑む少女。

あの時、大会で優勝しアニクと戦い圧倒的印象を与えたヒメギだ。

「て、テメェはあの時のやつ」

「確か、ヒメギさんでしたわね」

「あの人ですね」

その為か、みんな一目みて誰かわかった。

「?みんな私を知ってるの?私は知らないよ」

「そら初対面だからな。当たり前だ」

キョトンとしているヒメギに突っ込みを入れるジェルマン。あのジェルマンが。

「助かったよヒメギ」

「いいよ、レオンのためだもん」

「さすがの強さだ」

「えへへへ、撫でて撫でて」

礼を言うレオンに抱きつき顔を埋める。

「……どういう関係なんだ?レオン、ヒメギ!」

「ああ、道中で助けてな」

故郷へ向かう中で、お腹を空かせたヒメギを助けた所こんな感じになったと言う。

「知り合いなの?レオン」

「ああ、仲間だ。紹「介はいらないね」

レオンの言葉を遮っていってくるヒメギ。顔はとても嬉しそうだ。

「どういう事だ」

「???」

「あー、なんで紹介はいらないんだ?」

「私もカズキの事知ってる、レオンもカズキの事を知っている。なら、いらないよね?」

「……知り合いか?」

「うん」

「おい、レイカ先生が出来上がる前に帰るぞ」

馬車で飲んでいるレイカ先生。ダテといるから昔話に花が咲いたのだろうか、顔を真っ赤にしている。

「あーくそ、結局訓練にならなかった」

「あのままでしたら私達は胃袋の中でしたよ」

「ですが、神威の扱い方がなんとなく見えてきましたわ」

「神威を纏うか、覚える事がおおいな」

「その前に神威武装を展開できるようになってくださいまし」

「うるせえ俺にはこれがあるんだ」

「夫婦喧嘩はミックスも食わないぞ、ほらさっさと帰る」

「賛成だ」

「やっと学園に帰れるのか、長かった」

「ヒメギ、お前の方向音痴は治した方が良いぞ」

「方向音痴?私が?」

「その無自覚も治さないとだな」

「それで、ヒメギとどういう仲なんだ?」

ヒメギと親しく話す話すカズキに聞くレオン。

「こっちの台詞だ。可愛い可愛い大切な愛娘に何してくれてんだ」

「む、娘!?」

「そうだ。可愛いだろ?」

ヒメギの頭をわしゃわしゃと撫でながら上機嫌に笑うカズキ。

「いででで、噛むな噛むな食べるな」

癇に触ったのか、手を払いのけ噛み付く。

「危うく頬袋に取り込まれる所だったぜ」

「おい、一人馬車はいらねぇぞ」

大型の八人用馬車だったのだが、流石に九人は入らない。

「歩きなさいカズキ」

「歩いてくださいカズキさん」

「さっさと走れカズキ」

「なあんでだあ。俺だけ扱いひどくない!?」

最近俺に対しての対応がリュークから始まり皆が雑になってきている。不満だ不満だ!

「人数なら大丈夫」

シュルルルッと手の平サイズのハムスターへと姿を変えるヒメギ。

「なっ!?」

「純血だからな、なれるんだよ」

「な、なるほど」

「混血の俺はなれないぞ」

純血と混血の大きな違いを改めて知った一同。

そんなことはお構い無しとレオンの肩までよじ登る。

「おいこらヒメギ、なんでレオンの肩に乗ってるんだ。俺は?パパは?お父さんは?」

必死の訴えもプイッとそっぽ向かれ頭上にある帽子の中へと消えていく。

「ぬあああこれが反抗期なのか!?そうなのかヒメギ、答えるんだ!」

レオンの帽子を取ろうにもとどかん!

「くっそレオンテメエでかいんだ、かがめ!」

「お父さんですね」

「なにが反抗期だ、同い年だろ」

「ダメパパ」

「うるさい。子持ちじゃない奴らに俺の気持ちがわかるか」

レオンの胸ぐらを掴むと激しく揺さぶる。

「くそ。まずは帰って取り調べだ」

「はやく戻って噛まれた所を消毒しねぇと」

「アルコールならあるぞ?」

ジェルマンに酒を見せながら笑うレイカ。この人は普段こんなんじゃないのに。日頃のストレスから解放されたのがいけないのか。それともダテか?ダテがいけないのか!?

「度数が足らねぇよ」

呆れて怒鳴る事もせずに静かに馬車へ乗る。

「わたくし達ものりましょう」

「そうですね。帰ったら神威の纏い方教えてください」

「神威を纏う?詳しく教えてくれ」

会話を交えながら次々と馬車に乗り込む。

「カズキさん、本当に乗らないのですか?」

そんな中、カズキは馬車に乗らないで斜め上を向き一点を見つめていた。

「……来るぞ」

「何が来ますの?」

「ガルシャアアアア」

何かがカズキの真上から勢い良く落ちてくる。

「ほおら来た。あの時のミックス増殖もテメエだったからなハンアン。来ると思ってたぜ」

「カズキイィィ、喰って力手に入る。喰わせろおぉぉ!」

下半身が馬、上半身が人、そして鰐と豚を混ぜたような顔にねじり曲がった角をした悪魔が巨大な包丁でカズキに切りかかっていた。

「喰って力を手に入るなら苦労はしねぇよ」

「喰わせろ喰わせろ喰わせろおぉぉ」

「力が欲しけりゃ神の肉体でも喰ってこい」

足払いで転ばすと、腕を持ち遠くへ投げ飛ばす。

「悪魔か。手を貸そうか、カズキ」

馬車から降り槍・天突きを呼び出し構えるダテ。

「気を付けろダテ兄、こいつは何でも喰って力を得る」

「……なんでも、か。そいつは気を付けねぇとな」

「出来れば追い返すが今はベストだが」

「そうはいかないな」

「くーーわーーせーーろーーっ!」

素早く立ち上がりこちらを振り向くと長い吻、頬まで裂けた口を大きく広げる。

「うお!?」

「きゃーー」

「す、吸い込まれる」

咄嗟に地面を目の前に浮き出し防ぐ。

しかし徐々に亀裂が入り、崩壊するのは時間の問題だな。

「やっかいな事になったな」

「今戦うのは良くない。追い返すのが良いかな」

凄まじい吸引力だが、ダテとカズキはものともせず立って作戦会議をする。

「殴り飛ばしてもいいが、あまりダメージを与えたくない」

「じゃあ浮かすか」

天突きを地面に突き刺すと

「舞い吹け黄金の風」

ハンアンを中心に風が円形に地面から吹き出す。

「うおおおおおお!?」

強烈な風が地面を浮き上がらせる。

「な、なんだなんだ」

吸い込みをやめたハンアン。飛び降りようするも、風圧で動けずそのまま飛ばされる。

「ざっとこんなもんよ。次会うまでに対策練らないとな」

「流石ダテ兄。恐ろしいや」

黄金の風。ダテの属性能力らしいが、意のままに操るその技術練度は目を見張る。

「じゃあ帰って今得たものを活かして修行だぞ」

「レオンも帰ってきた事だ。また厳しく行くぞ」

レイカは手にもつ酒を一気に飲み干すと、木製のコップを砕きながら愉快に言う。

「うげぇ」

「戻りたくなーい」

「それでは戻ります」

無情にも馬車は走り出すのであった。

 

 

 

 

 

 

んで。

「くたばれやヒメギ」

学園に戻るとさっそくジェルマンもヒメギが一戦を繰り広げていた。

ジェルマンのバースト・クラッシュをかわすと、腹にそっと手を触れる。

「ミルクラッシュ」

ジェルマンの体に駆け巡る強烈な振動は想像を絶する痛みへとかわる。

「ぐはっ、がっ、がは」

口から大量の血を吐き腹部を押さえ込み踞るジェルマン。

「す、すまない。ちょっと力を入れすぎた」

心配し駆け寄ると手を差しのべる。

あの目だ、あいつもカズキもどいつもこいつも哀れの目で見下してきやがる。

「うるせぇ、俺はテメェとカズキら側の人間なんだ。同情なんかいらねぇんだよ」

差し出された手を強く払いのけると立ち上がり睨みつける。

「そうか、君も強くなり(修羅の道を進み)たいんだね」

「当たり前だ。強くなれるなら修羅だろうが地獄の道でも喜んで進んでやる」

血を吐き捨てながら立ち上がると、不気味な笑みを浮かべながらヒメギを睨む。

「いいね。その覚悟、大事にしてね」

「わかったならかかってこいや。こっちは元気有り余ってんだよ」

「分かった、しっかり倒してあげる」

姿勢を低くし走り出すヒメギ。対するジェルマンはトンファーの長い部分を手に沿わせるのように持ち構える。

「らぁ!」

足を上げ土煙を上げ視界を断つと、短い部分をヒメギの腹部に当てる。続けて頭部めがけ縦に落とす。

怯んだヒメギ、更に追い討ちをかけようと左右の拳を合わせるように殴るが、しゃがんで回避すると腹部への肘内、顎への垂直な蹴り上げで浮き上がる。

「粉砕王」

流れるような動きで必殺の粉砕王でトドメにかかる。

「一度見てるからひっかかんねぇよ。オラア」

倒れることなく踏みとどまると、トンファーを半回転させ長い部分を手の平めがけ振るう。直撃した瞬間手を放すと後ろへ下がる。

ボンッと音を残しトンファーは粉微塵になる。

「ちっ、余波でこの威力か」

振動が大気を揺らしくる衝撃波にしかめっ面をしつつも笑う。

「逃がさない」

再び走ってくるヒメギ。

片手に持ってるトンファーを投げつけると同時にジェルマンも走り出す。

「うおおお」

トンファーを避けジェルマンのパンチを受け止める。

「ふん」

すかさす頭部に回し蹴りを放つヒメギ。

それをしゃがんでかわすと、軸足となってる片方をすくいあげる。

「もらったあ」

倒れるヒメギ。そのまま拳を叩き落とそうとするが、足を折り畳み体を丸くし跳ね起きの要領でジェルマンの顔面に両足を叩き込み立ち上がる。

「ぬあああ」

負けじと踏みとどまり、そこから殴り合いが始まる。

攻撃をしては捌き、防御する。それの繰り返し、シンプルにして単純、基本にして基礎の攻防。

この場合技量の差、時の運、潜った場の数で勝敗が結する。

今回の勝者は。

「はああ」

ジェルマンに軍配が上がった。

ヒメギが一歩前へ出た瞬間、更に懐に潜り込みブーメランフックが顎にヒットする。

「武器を持つより強いんじゃないの?」

後ろへ倒れたヒメギはゆっくり立ち上がりながら口から切れた血を指で拭う。

「はっ、テメェに溺愛してるカズキ(パパ)と毎日やりあってるからな。負けるかよ」

「でも一発当てただけ、倒れただけ。まだ負けてない」

「試し合いに勝って意味はねぇってか。思考もそっくりじゃねぇか」

「私はカズキじゃない」

「当たり前だ」

「……ありがとう」

「けっ、何感謝してんだか。興醒めだ、終わった後でまた相手しろ」

「うん」

「どうしたレオン。前より強くなったが、そんなもんか」

「カズキ、修行に私怨を混ぜないの」

「やかましい!」

馬車の中で話は聞いた。妹は無事であるが、時間が剣舞祭が終わるギリギリくらいだということもだ。

そこからヒメギとの話になり、色々話を聞くと途中からヒメギが人に戻りレオンに抱きついてくるわで。仲良くなっているのは別に構わない、それは構わないのだ。だが恋仲となれば話は別である。

「しっかりお父さんやってますね」

「同い年のくせにね」

「なん……」

「粉砕王」

カズキの肩を叩き振り向いた瞬間に顔を捕まれ振動を起こすヒメギ。

「カズキ、ぶっ壊す」

「会ってそうそう父親に壊すとか末恐ろしいな。どこで教育を間違えたか」

手を振り払うと目、鼻、耳、口から血を流しながらも平然と喋ってくる。

「カズキに会った時点で終わり」

「リューク、シャラップ」

リュークの茶々を無視して、と。

「まあいいや。アニクとの腑抜けた試合を見て鍛練が足りないと思って」

「ミルクラッシュ」

顔面を殴り飛ばす。

「喋ってないで戦え、もう始まってる」

踏みとどまったカズキに対しゆっくり近づきながら言ってくる。

この容赦の無さは親子だなと思ってしまう。

「別にまだ始まるに値しねぇんだよ」

「粉砕王」

「さて、と。やるか」

再び掴みにかかるヒメギ。その手を蹴り上げると、腰を深く落とし拳を横一閃に振るう。

「白王」

腹部に当たり大きく後ろに吹き飛ばす。

「黒帝」

更に拳を強く引き絞り一気に放ち衝撃波を造り出す。

それにより更に吹き飛び学園に激突する。

「それで冷徹にでもなった気でいるのか?ちと頭冷やせ」

「あああああああ」

「頭冷やせと言ったのに血を上らせてどうするんだ」

「ぶっ叩っ斬る」

咆哮をあげながら天地無双刀を取り出し斬りにかかるも、両腕を捕らえ腹部に膝を数発打ち込むと手首の関節を外し首を掴み叩きつける。

「まったく、感情的になるのは良いが制御できなきゃ獣だ。人なら理性を保て、終わった時に全て失うぞ」

そのまま持ち上げるとレオンの方へ投げる。

「まだまだやんちゃで手を焼くと思うが、娘を頼むぞレオン」

「カズキ」

「あんなに怒っていたのに、なんかあっさりだね。しかも唐突」

「当たり前だ、共に戦い過ごし信頼出来る仲間に娘を任せられるなんて願ったり叶ったりだ」

短い間だが、レオンという人物を把握している。故にレオンだからこそ任せられるのだ。

「わかってるとは思うが、ヒメギは俺の実の娘じゃない」

俺より年上の娘なんかあり得ない話だからみんなわかってはいるはずだ。

「ヒメギは悪魔共に家族、故郷を滅ぼされてる。復讐を胸に俺を受け継ぐ程にまで力をつけたが、娘の手を悪魔共の為に汚させるわけにはいかない」

駆け付けるのが少し遅かったらヒメギも殺されていただろう。

なぜあんな秘境な村を襲撃したのか。その理由がわからない。だが、襲ったのはあのジンカンだ。何かあるに違いない。

「お前の手でその傷を癒してやってくれ。親(俺)には出来なかったが恋人(お前)なら出来るはずだ」

俺には戦いしか教えられなかった。傷を癒す所か復讐に更なる拍車を掛けただけだった。

自分自身の中身が強さ以外何もない空っぽだと激しく痛感し、悩み嘆いた。だが、それももう終わりになるだろう。

「……わかった」

力強く頷くレオン。

「まっ、その前に妹を救わないとな」

「当たり前だ」

「んじゃあ、続きやろうか」 

カズキとレオン、再び激突するのであった

 

 

 

 

 

 

 

つづく





カズキ「って最近戦い過ぎじゃね?」
リューク「修行期間なんだから仕方ないでしょ!」


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精神と願望

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眩しい朝日が差し込む広大な野原のような広場。

そこで各々レイカ先生に激烈指導を受けていた。

「なあ、ヒメギのあの力ってどうやるんだよ」

ふとカズキに聞くジェルマン。

「神威を流し込むだけだ。やってみな簡単にできるぞ」

それに対して素振りをしながらそっけなく返す。

「そんな訳ないだろ」

とは言ったものの、試めさずにあーだこーだ言うのも癪なので物は試しとやってみる。

両手を地面につけて、半端な力では動く訳なさそうなので折角なら全力で神威を流してみる。

すると、微量ではあるが少しだけ揺れた。

「……できた」

「な!ただ神威と体力の消耗が激しいから」

「どうりで疲れた訳だ」

確かに流すだけならカズキやレオン誰にでも出来る。しかし、一度に大量の神威を使用したので滅茶苦茶疲れる。寝て回復したい。

「神威の消費量が多く神威武装や属性能力を使わないヒメギだから出来る技だ」

あんな馬鹿みたいな地震を何度も起こすとなると凄まじい神威の量だ。

もし、カズキに教わらずに神威使いとして育てられてもエリートの道を進んだのだろう。どっちにしろ脅威なのは変わらない。

「そういやジェルマンの属性能力、あれって凄い勿体ない使い方してるよな」

「おいおい、急にディスってくんなよ。最適な使い方してるぞ」

ジェルマンの属性能力、怒り狂う爆発(バーストレイジ)。それは体から爆発を放ったり、物を爆弾にする。だが、真の力を発揮するのは打ち込む力が強ければ強いだけ爆発の威力が無限大に上がるということだ。

腕力だけでなく遠心力も使えるバトル・トンファーはまさしくジェルマンの為だけにつくられた武器だ。

「メインはいいんだよ、サブだ」

「サブ?」

「物を爆弾に変えるのは神威を流すのに時間がかかりすぎる、だが地面の一部、表面を爆弾にするのはどうだ?」

「考えた事はあるが乱戦だと敵味方問わず攻撃しちまう可能性もあるし、一対一(サシ)だとばれる。使い道がない」

「サシでも使えるだろ」

「作るにも時間がかかる。速くつくれても足止めくらいしか」

「何言ってる、お前の属性能力の性質を使えば余裕だろ」

「………そういう事かぁ~」

カズキの言葉を聞いて額に手を当てる。なにやら一本取られたって表情を浮かべている。

「お前らしい発想だが、俺にピッタリな発想だ」

「だろ?」

「使うかは置いておいて、参考にはする」

「なーんだ」

「何を話してるんだ、サボりか」

レイカ先生がやってくる。やっべっ。

「違いますよ、これですよこれ」

手の平から赤い球を作り出すと意のままに操ってみせるカズキ。

「気術の技術だけど、神威で応用できないかなって?」

「気弾か、ダテに言われて試してみたが出来なかった」

「本当ですか」

「本来神威が形となるのは神威武装や属性能力だけで纏うか流すしかできない」

「へー、知らなかった」

そもそも神威をまともに使えないカズキが知るわけがない。

そして案外実用性がないんだなと思った。

「お前も神威武装が使えたらもっと強くなれるんだろうけどな」

確かに神威武装による武器と身体強化は素晴らしいものだ。

「俺にはこいつがあるんで大丈夫です」

腰に差してある刀を見せつける。

「そう言えば聞いてなかったが、なぜその刀に執着する?名高い刀なのか?」

「これは国切。イオリ家に代々伝わる名刀にして、カセン様に鍛えて貰い神具となった百戦錬磨の有難い刀なのだ!」

鼻を高く胸を張り偉そうに自慢するカズキ。

「神具?ってことはカセン様は神なのか?」

「その通りだ。俺の師匠にして古の軍神、軍事戦争武闘極めし勝利の神よ」

「……いや、知らないな」

「なぬ!?カセン様を知らないだと!?」

「俺も聞いたことがねえ」

ジェルマンも続けて言ってくる。

「確かに信仰はもう無いと言っていたが」

活動はしていないから、信者なんていないとか言っていたな。どうやってその存在を維持してるのか疑問だ。

「だが、カズキが神様に鍛えられてたとはな」

「その強さと神伐隊にいたんだ、神に鍛えられても不思議ではないだろ」

今まで馬鹿げていた強さを誇ったカズキだが、隊長達と同じように神様に鍛えられたらその強さは納得だ。

「なら尚更神威を使えないのが理解出来ない」

神威は神が与えし力、その力の使い方を教えない訳がない。

「神の力に頼ってちゃ本当の強さとは言えない。万一神威を使えない時なにも出来ないじゃ笑えないだろ?手間がかかるが、カセン様は真の強者を育てるお方だ。全てに感謝している」

毎日が辛い修行の日々、思うように出来ない覚えれない、それでも諦めず最後まで教えてくれたのがカセン様だ。

今の俺がいるのも。俺が俺でいるのも。俺が理想の俺になれたのも、全て全てカセン様方々のおかげだ。

この強さもこの出会いもこの運命も全てカセン様のお導きなのだろう。

「最も性能が良いからな。見ろこの切れ味、天地全て斬れるぞ」

切先の部分を地面につけ手を放すと、ストーーンっと鍔まで突き刺さる。

「確かに素晴らしい切れ味だな」

神具なら当たり前とも言える切れ味だろう。

「……それだけか?」

「刀なんだから当たり前だろ」

「切れ味が良いのは武器として当たり前だ。それに加え何か特殊な能力とかないのか?」

「そんなものはない」

「なんか大した事ないな」 

「確かにダテ兄の天突きは繋ぎ絶つ力がある。それに比べると何もない国切は劣るかもしれない。だがこの刀はイオリ家の誇りにして、カセン様の威光、そして俺の生き様だ。それだけで充分よ」

共に戦場を生き、喜怒哀楽を過ごした信頼なる武器だ。愛着なんてもんじゃない、もはや俺の一部だ。

「相性が良いんだよ。お前がバトル・トンファーを使ってるのと同じだ」

「けっ、神具と比べるな」

「何を言う、武器も使い鍛えこめば神格と化すって言うぞ?」

「神具と神格を一緒にするな」

「変わんないと思うんだけどなあ」

「貴様ら、お喋りはその辺にして修行に戻れ」

会話に一段落がついた頃合いにレイカが止めて修行へと促す。

「バースト・ショック」

「ちっ、全然威力が変わらねえ」

「闇雲にやっても効率が悪い、属性能力を強化したいなら瞑想をやれ」

「瞑想ぉ?」

「安心しろ、私は今も毎日それをやってここまでの威力に仕上げてる」

「んなじれったいことできるかよ」

「体を鍛えれば自身が強くなれても神威は変わらない。最も中から、精神を鍛えないと変わらない」

「瞑想って、ルリーと同じ事やるのか」

木陰で瞑想しているルリーを指差す。

毎日毎日同じ事を同じ場所でやっている。あんなのを続けてたら気が狂う。

「あれはまた別のものだ、お前がやるのは自身との語らいだ」

「語らい?」 

「言っただろ、精神を鍛えろ……って言ってもわからないか」

「わからん!」

「仕方ない、最終日に連れて行こうと思ったが今日連れていくか」

「なに?」

 

 

 

 

 

再び馬車に揺られ、山を掘られて造られた古錆びた遺跡へとつく。

あ、ルイスとミカルドは残ってダテとシバの監督の元、アニマニア精霊学園の生徒達と組手をしている。

「なんだこの遺跡は」

「歴史を感じさせますわ」

「精神と願望の間。アニマニアではココロノ遺跡として観光地になってるが、自身を見つめ直す最適の場所だ」

「おいおい、そんな所勝手に使っていいのかよ」

「安心しろ、許可は取ってある。なんなら貸し切りだ」

観光地の割には静かすぎると思ったが、まさか貸し切りだとは。   

「ついてこい」

レイカ先生のあとに続いて遺跡の中へ入る。

中はひんやりとしていて、別の季節にいるのではないかと思えるほどとても涼しい。

しばらく歩き、地下へ繋がる階段を更に下っていくと、小さな部屋へたどり着く。

「なんだここ」

部屋には更に小さな個室が何個か設置されている。

「みんな中に一人づつ入れ、そしたら黙想を始めろ」

「黙想ねぇ」

「ただの黙想と思うな、自身の強さ弱さと戦うんだ。」

「戦う?」

「いいから、実施!!」

何がなんだかよくわからないが、言われるがまま部屋に入る。

「カズキ、お前は残っていろ」

「えーなんでだよ」

「それも条件の一つだ」

「くそ、アニクめ」

……カズキ以外は入るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ?どこだここ」

ふと気がつくと夜でネオンサインが光る近代的な高い建物が並ぶ。しかしどこか静かな街。人が居ないのも相まって廃墟のような感じだ。

おかしい、部屋に入ったまでは記憶にある。だがその後の記憶が全くない。

だが、ここは間違いなくジェルマンが産まれ育った国ドルツェルブだ。

「一体どうなってんだこりゃ」

そんな街中を一人で歩いていると、目の前に両手に剣を持った一人の少女が道のど真ん中に立っていた。

目を見張るような美貌。腰まで伸びた輝かしい金髪。アイスブルーの瞳は冷たく目があっただけで凍らされてしまいそうだ。

「て、てめぇは」

一目でわかった。あいつだと。俺を完膚なきまでに負かした、あの人物だと。

あの時の屈辱と恐怖が甦る。だが同時に喜んだ。

「そうか、あの時お前に負けてから産まれた恐怖怒りが俺の弱さなのか」

今の俺の足枷はこいつが原因なんだと、ならば話しは早い。

「なら、俺の弱さごとてめえをぶっ殺してやんよ」

バトル・トンファーを持ち構えるジェルマン。

ぶっ殺して取り戻す。バカでもわかる簡単なことだ。

レイカ先生が言っていた戦うって意味もわかった、まさか物理的だとはな。

「…………」

こちらが戦闘態勢に入ったにも関わらずただ立っているだけの少女。まるで眼中にない。

「なめやがって」

ギリギリギリ歯を食いしばる。ビキビキビキ青筋が浮かび上がる。ギリギリギリ拳を握りしめる。この震えは武者震い。

「バースト・クラッシュ」

怒りを力の礎とし一気に駆け込みバトル・トンファーを全力で振るう。

ボゴオオンと相変わらず凄まじい爆発を起こす。だが、片手で受け止められ、もう片方の剣を振るってくる。

こちらももう片方のバトル・トンファーで受け止めると、前蹴りで腹部を当て後ろへ飛ばす。

しかし、その力を利用し上へ飛び一回転して蹴ってくる。

それを防ぐも、二本の線をつくりながら大きく下がる。

「ちっ、五年経ってもまだ互角かそれ以下かよ」

やつは五年前の姿のまま、それなのにこの力、この速さ、この技術。あの時の俺が勝てる訳がなかった。

だが、ここは俺の精神の世界のはずだ。なら俺の想像なのでは!?

どっちでもいい、戦って勝つ。今はそれだけだ!!

悩んでも仕方ねぇ、考えてもわかるわけがない。なら、今目の前の事を集中するのみ。

苛烈な攻防、徐々に押され始めたジェルマン。

「はあーーーっ」

大きく踏み込みバトル・トンファーを大きく振り落とす。

両手の剣で受け止められるも、鍔迫り合う。

まだだ、まだこんなもんじゃあない!

ジェルマンは更に力を込める。握る手は指が食い込み血が流れる。血管は浮き上がり今にも破裂しそうだ。

それでも力をいれ続ける。痛かろうが痺れようが感覚が無くなろうが決して緩める事なくだ。

力は五分五分、だが少女の剣に亀裂が入る。

「これが今の俺だあああ!!」

勝機を見出だしたジェルマンは最後の力を振り絞り、剣を砕くとそのまま少女を鉄球で潰す。

「はあ、はあ……くそ、嬉しいのか嬉しくないのかわからねえ」

光の原子となり消える少女を見て唾を吐き捨てながら言う。

「だが、俺はまた強くなれた。まだまだ強くなれる」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは、どこですの?」

だが、どこか見覚えのある懐かしい町並み。看板にはフブキノ村と書かれている。

「フブキノ村……アルバートンの領土みたいですわ」

通りで見覚えがあると思ったらアルバートンの領土みたいだ。

だが、なぜこんな所にいるのだろうか。ここは精神世界、何かあるはず。

人っ子一人居ない静かな村を歩いていると、小さな店から二人の少女が出てくる。

容姿が似ている姉妹なのだろうか。笑顔で会話するその姿は微笑ましい光景だ。

「あれは、わたくし!?」

姉だろうか、背の高い少女はノアと瓜二つ。

自分でも驚くくらいそっくりだ。

「そして……ミュア?」

そして、もう一人は居なくなった妹のミュアにそっくりだ。

声をかけずにいられなかった。例え遺跡が見せる精神世界だとしても、無駄だとしても、あの時わたくしが何を間違えたのか。

「ミュア!!」

教えてほしい。

「ミュア、危ないですわ」

ノアが近づくと、精神世界のノアがミュアを庇うように前に立ち神威武装を展開する。

「下がってなさい。あなたから今度こそ守ってあげますわ」

あなた(わたくし)から今度こそ守ってあげますわ……ですか。

「さすが精神世界、わたくしの心を抉ってきますわ」

「動かないで、あなたを射ぬきましてよ」

「………」

構えられた相手に対して、こちらは無防備。今神威武装を展開してもその間に射ぬかれる。

展開の速さに自信はある。でも相手は自分自身、それを考慮するとうまくいく可能性が低い。

でも、やるしかありませんわ。ここで逃げたら一生逃げる事になる、自分に負けたままですわ。チャンスは一度きり。やるしかないですわ、いくしかないですわ。覚悟を決めるのですわ。

「はあ」

一気に神威を放出し練り上げ、弓矢を顕現させる。

「動きましたわね」

そんな隙を見逃すはずはなく、引き絞った矢を放つ。

「そん、な」

胸に突き刺さる冷たい氷の矢。

「や、やったですわ」

射ぬかれたのは精神世界のノアだった。

矢は軌道が分かれば簡単にかわせる。以前カズキに教わったアドバイスだ。

今回の場合既に相手の狙いが定まっている。更にタイミングはノアが動いた瞬間というのもあったので尚更容易かった。

「刹那の勝負ってとこですわ」

ふっと得意気に髪をかき上げるノア。

「……お、御姉様」

「ミュア」

凍りついた精神世界のノアの元に駆けつけるミュア。

それはそうだ。わたくしはここでは姉ではない、ミュアから見たら姉のノアを襲った悪い人。

「御姉様をいじめるなあ!」

手に持つ短刀でノアを斬りにかかる。

「違うのですミュア」

「わああああ」

必死にやめさせようと呼び掛けるが、止まらない。

「おね、御姉様の仇」

「やめて、お願いだからやめなさい」

矢で仕留めるのは簡単だ。相手も精神世界のミュア、別に倒してしまっても関係はない。

それでも、妹を傷つける事はなできない。

なんならこの世界のミュアを悲しませた自分自身が許せない。

「情けないですわね、自分の幻影は倒せても妹の幻影は傷つけられないなんて」

腹部を突き刺すミュアを優しく受け止める。

「ごめんなさい。ダメな姉でごめんね」

幻影でもなんでもいい。伝えたいのだ。

「あなたの居場所はここよ」

涙を流しながらギュッと抱き締める。

この痛みはあの時何もしてやれなかった自分への罰。ミュアの苦しみに比べれば苦しみに比べれば軽いものだ。

「……御姉…様」

ノアの優しさを受けたミュアは安らいだ顔をして胸の中で消えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、どうだった」

部屋に入ってから数十分後、やっと全員出てきた。

「ああ最高だったぜ」

清々しい顔をしたジェルマンが言ってくる。

「とても疲れましたわ」

「私もです」

精神世界の中とはいえ恐らく苛烈な戦いをしてきたのだ、みんなクタクタだ。

「それで何を見てきたんだ?」

レイカ先生が聞いてくる。

「わたくしは自分自身が出てきましたわ」

「私は御姉義様でした」

「俺は……言ってもわかんねえよ」

「俺もだな」

それぞれ答える。

「そこで見たのは、自身の理想と負い目だ」

「確かに」

「納得ですわ」

「俺があいつを理想としてるだと!?」

「原点がわかったろ、もう一度やり直せ」

各々納得していると、リュークが遅れて出てくる。

「……最悪だ、くそが」

目付きが恐ろしく怖い、結構機嫌が悪そうだ。

「珍しいですわねリュークさんが口が悪くなるなんて」

「ごめんね、ちょっとイライラしちゃてて」

「どうした、親でも見てきたか?」

そんな中でもここぞと言わんばかりに煽るカズキ。

「張っ倒すわよ!」

「……お疲れ様です」

何かを察したのか労いの言葉をかける。

「いいなー、俺もやりてぇな」

「お前がやると、精神が乱れるんだとよ」

「なに!?」

「心が弱いって事だな」

「ふん雑魚が」

「みんなしてヒデェ」

こいつら部屋でてからなんか口悪くなってねぇかおい。

まあいつもの事なんで仕方ないかと気にはしない。

用が済んだので学園へと再び戻るのであった。

 

 

 

 

つづく



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