GATE 量産機よ、異世界でも立ち上がれ (G大佐)
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異界からの軍勢

組み立ててみたいけれど、どれにしようか迷っています。まず不要な外出を避けるため買えないので、取りあえず妄想で書いてみました。


 『空間転移門(ゲート)』から、地球人に酷似した容姿の惑星バイロン人が現れ、そして始まった大戦争。後に『バイロン戦争』と呼ばれるようになる戦争は、空間転移門の消失によって、終結することになった。

 地球圏に取り残されたバイロン人の大部分が降伏したことにより、地球連合軍の勝利に終わったのである。

 その後世界は、バイロン人への差別問題、一部バイロン軍残党によるテロ、地球連合軍非加盟国による軍事行為に悩まされる。

 

 そして長い年月が経ち、戦後の問題が徐々に片付きつつあったその時に、また新たな脅威が現れたのである。

 

 

 

 

 

 N国、Gシティ。若者が集まる場所として栄えているこの街は、その日はとても暑い日だった。他国からの観光客、パッと見普通のカップルだが実は女性がバイロン人という二人組など、様々な人々が、いつも通りの日々を過ごしていた。

 

「……なぁ、何だあれ?」

 

 誰が呟いたのか、1人から2人、3人、4人と多くの人々が突如現れた物に目を向ける。半透明な建造物は、やがて灰色へと変わり、何人かは「あぁ、石で出来てるのかな?」と考えていた。

 だが、歴史に詳しい者、建造物に詳しい者が呟いた一言が、野次馬たちに危機感を持たせた。

 

「あれ……まさか、空間転移門じゃないか?」

 

 構造上は門である事、そして突如現れたという事が、結論付けた一言である。

 若者たちでも、かつて空間転移門によって大戦争が起きたことは知っている。

 

 つまり、目の前の建物から何かが来る。

 

 そこから、野次馬たちは避難を始めた。通報を受けた警察が避難誘導しつつ建造物には近づくなと警告し、施設内にいる人々も、書いている途中の書類を放り出し避難場所へ逃げ始める。

 

 異星人との戦争によって刻まれた教訓が、まさに生死を分けたのである。

 

 

 

 

 

 門が開かれ現れたのは、見た者に「コスプレ大会?」と思わせるような軍勢だった。中世の時代に見られたであろう鎧や弓、剣を持つ者、馬に乗る者で溢れていた。だが何よりも目を引くのは、オークやトロル、ワイバーンといった、架空でしか見られない生物も居たことだった。

 

『何だここは……』

 

 軍勢を率いる隊長の1人が、目の前に広がる数多くの摩天楼に驚く。

 

『人も居ない。逃げたのか?』

『だとすれば、我々に降伏したと見るべきでは?』

 

 異世界の蛮族の国を侵略するのも、これなら容易い。兵士の大半がそう思っていた時だった。

 

「止まれ!」

 

 異界の言葉で、現地人が叫んでいた。数多くの盾を構え行く手を阻んでいる。

 

「ただちに武装を解除せよ! 従わない場合、攻撃の意思があると見て、我々も相応の手段を取る!」

『何と言っているのでしょうか』

『分からんな。だが、向こうにも兵力がいるならば手段は1つ!』

 

 隊長が剣を空へ掲げる。

 

『突撃ぃぃぃ!』

 

 剣を構え、槍を構え、兵士たちは雄叫びをあげて、目の前の軍隊に突撃する。

 

 こうして、異世界とのファーストコンタクトは、武力の衝突という最悪な形で始まったのである。

 

 

 

 

 

「攻撃開始!」

 

 機動隊長の命令によって、銃声が鳴り響く。

 

「隊長、未確認生物は巨大です! エグザマクスの派遣を!」

「既にやっている!」

「まずい、数が多いぞ……!」

 

 相手のシールドが薄いのか、銃撃によって敵兵士は次々と倒れていく。だが、如何せん数が多い。向こうはライオットシールドを叩き斬ろうと、何度も剣を振るってくるため、シールドを持つ腕が痺れてくる。隙間から他の隊員が敵を撃ち殺してはいるが、波のように襲ってくるためキリが無かった。

 

「援護する! 代われ!」

「助かる!」

 

 他の地区の機動隊も駆けつけるが、そこへ新たな問題が出てくる。

 

「っ! 弓矢だ!」

「ぐああっ!」

「矢は抜くな! 誰かコイツを下がらせろ!」

 

 後方に居る敵部隊が矢を放ち、空から矢の雨が降り注ぐ。隊員の何名かが腕に刺さり、負傷する。さらにワイバーンが空から襲いかかり、隊員を食い殺す。

 

「ぎゃあああ!」

「アキモト! くそ、人食いトカゲが!」

 

 徐々に追い込まれつつある機動隊だったが、そこへ“希望の巨人”が現れる。

 

《こちらエグザマクス! すまない、遅れた!》

「謝罪は良い! 未確認飛翔体を頼む!」

《任された!》

 

 突如現れた単眼の巨人に、異世界の兵士は祖国の言葉で、『サイクロプスか!?』と驚愕する。

 

 eEXM-17 アルト。それが、巨人の名前である。

 

 

 

 

 

 ワイバーンに乗る兵士は巨人に驚くものの、すぐに剣を抜いて突撃する。

 

(あれほどの巨体ならば、空を飛べる俺が!)

 

 弱点と思われる目へ向かい、相棒の速度を上げる。だがそれも、叶わなかった。アルトの手が、ハエを払うようにワイバーンを兵士ごと建物の壁へ叩きつけたからである。

 アルトがマシンガンを撃つことで、ワイバーンは羽虫のようにボトボトと落ちていく。さらに落ちた場所が敵兵士の中だったため、相手の被害は更に増大した。もちろん、機動隊の方へ落ちると予測される方は建物の壁へ叩きつける等をして、被害を出さなかった。

 

『撤退だ! 撤退するぞ!』

『蛮族が巨人を従えるなど……!』

 

 だが、そうは問屋がおろさなかった。空から別の巨人が降りてきたのだ。こちらの方が、よりサイクロプスに見えたことだろう。

 

 バイロン軍が扱っていた機体、bEXM-15ポルタ・ノヴァである。

 

『ど、どれほどの巨人が居るのだ!?』

『隊長! “門”への退路が巨人によって塞がれています! 敵兵士も多数!』

『囲まれたというわけか……!』

 

 こうして、異世界の軍勢は撤退も許されず、生きていた兵士は全員が捕らえられた。

 

 この戦いは、後に『Gシティ侵攻』という名で、歴史の教科書に載ることになる。

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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異世界への一歩

続けて投稿です。いつ私の周りの都合で投稿できなくなるか分からないので、出来る限りやっていきます。


 地球連合軍。バイロン戦争が勃発したと同時に結成された軍事組織である。戦争が終わったあとも、再び未知の存在による攻撃を受けないために、その協力体制は現在まで維持されてきた。

 地球連合軍司令部、N国支部。その会議室には総司令とN国首相が、複数のモニターに映る人物たちと会談をしていた。

 

《まさか、再び時空転移門が現れるとは……》

《だが、出てきた相手はバイロン軍では無いのだろう?》

「はい。戦争に参加していたバイロン人将校らに確認させましたが、みな『この様な国旗や生き物は見たことが無い』と口を揃えて証言しております」

《またしても異世界からの侵略者と言うことか……》

「警察機動隊の中には、ワイバーンと呼称している未確認飛翔体に食い殺された者も居ます。写真をお送りしますのでご覧ください」

 

 首相がタブレットを操作すると、各国の首相や軍総司令官のタブレット端末に写真が送られる。会議室にどよめきが起こった。

 

《未だに信じられん……。合成だと言いたい所だが……》

《死亡した警察官の噛み痕とも一致するな……》

《みんな、忘れてはいけない。今回の異界の敵による襲撃は、連合軍に加盟しているN国が攻撃を受け、被害も出た! つまりこれは、同じ連合軍加盟国である我々も援助しなければならない!》

 

 会議室がさらに騒がしくなるが、議長も兼ねているA国首相が木槌を鳴らした。

 

《諸君。Gシティに現れた門は、かつてのバイロン戦争に出現した時空転移門とは異なっている。どうだろう、既に過去の門に『ゲート』と名付けているから、今回の門は、区別をつけるためにも『異界門』と名付けるのは》

「なお、異界門の先の世界を、特別地域、『特地』と呼称したらどうかと思っています」

《良いんじゃないか? 異界門に特地、分かりやすい》

 

 その他の首相たちも賛成だった。

 

「それで、特地と異界門についてですが、この世界への侵攻が失敗した特地の国は、また別の場所に異界門を開いて侵攻するのではと考えている者もいます」

《いつ、どこから現れて攻めてくるか分からないという訳か》

《異世界の軍勢による被害が広がってはいかんな……》

《うむ。相手は数が多い。いかに古い武器を使っていても、数に押される可能性は捨てきれん》

「そうなる前に、今回の侵攻の首謀者を早期に特定し、交渉の席に座らせ、これ以上の侵攻を止めさせようと思っています」

《と、なると……特地で戦闘もあり得るわけか》

「はい。私は、エグザマクスも含めた軍を派遣しようと思っていますが……如何でしょう」

 

 N国首相は、真剣な目で全員に意見する。

 

《ふむ、君の国が被害を受けた以上、私たちも協力しなければならない》

《……それぞれの国から少数部隊を集結させ、特地に派遣してみては?》

《私たちは、連合軍非加盟国の軍事行為も警戒しなければならない。確かに、少しの部隊を集めれば、本土防衛に人員を残す余裕もできる」

「皆さん……ありがとうございます!」

 

 首相は頭を下げる。

 

《どうだろう? 特地には、我々が知らない資源や技術などがあるかもしれない。軍を派遣する国同士で、特地の情報を共有するのは?》

《異議なし!》

《我々も異議なし!》

「我が国も異議ありません」

 

 こうして、地球連合軍は再び集結し、異世界へと赴く事になったのである。

 

 

 

 

 

 2XXX年。Gシティに鎮座し続ける異界門に、人種国籍を問わない兵士たちが集結していた。歩兵だけではなく、戦車、兵員輸送車、そしてアルトとポルタ・ノヴァを始めとしたエグザマクスも整列している。

 スピーカーから、声が響いた。

 

《諸君。これから我々は、未知の世界へと突入する。恐らく、諸君の中には不安や恐怖を抱いている者も居るだろう。構わない。未知への恐怖とは、誰もが持っているものだ。むしろ、その感情を抱いてなおこの場に立つ勇気を持っていることを称賛する。この先には、我らを脅かすであろう存在が待っている。我らの世界を、再び守るために!》

 

《進軍!》

 

 エンジン音が唸る。エグザマクスのカメラアイが光り、一歩踏み出す。

 

 世界から集結した軍隊が今、特地へ向けて歩きだした。

 




読んでいただき、ありがとうございました。

次回、アルヌス戦です。


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アルヌス防衛戦(前)

お気に入り登録してくだった方々、ありがとうございます!
今回は戦闘前のお話です。


 薄闇の広間と呼ばれる議事堂にて、一人の貴族が、皇帝モルトに対して糾弾していた。

 

「陛下! 此度の異界への侵攻において、進軍していった兵士たちが皆帰ってこなくなりました! この責任をどう取るおつもりですか!」

 

 貴族の一人、カーゼル侯爵が叫ぶ。他の貴族の視線もある中、皇帝モルトは余裕の態度を見せていた。

 

「確かに、我が帝国の勇敢なる兵士たちが、『門』へと攻め行り戻ってこないという悲しみは、私にも察する事が出来る。だが、カーゼル侯よ。今解決すべきは、アルヌスに陣取る異界の者たちではないかな? まさか、裁判ごっこをするつもりではあるまい?」

(ぐっ、責任をはぐらかすつもりか……!)

 

 すると議事堂が騒がしくなる。

 

「確かに、敵は『門』を通り、アルヌスの丘に留まっている。この世界へやって来たばかりか、アルヌスに巨大な壁まで建ておった!」

「だが、どうやって敵を倒す? 向こうには魔導師がいるかもしれんのだぞ」

 

 戦場に出た者は、相手がどのようにして自分達に攻撃してきたのかを思い出す。

 

「パパパという音が聞こえたと思ったら、味方がバタバタと倒れていくのだ! あんな魔術、聞いたことがない!」

「儂のところなんか、ヒューという音と共に人馬が吹き飛びおった! 投石器とは違うナニかを、あ奴らは持っている!」

 

 そこへポダワン伯爵を筆頭に、滅茶苦茶とも言える声をあげる。

 

「連中は、壕や壁に閉じこもってチマチマと攻めている! そんな臆病者に怯えては、我々こそが臆病者ではないか! 戦えば良い! 属国からも兵をかき集めて、連中の築いた壁を打ち崩し、そうした上で『門』の向こうへ攻めれば良いのだ!」

 

 当然、苦言を呈する者もいる。

 

「それが出来れば苦労などしない!」

「ゴダセンの二の舞になるぞ!」

「属国からも兵をかき集めると言うが、連中が素直に従うものか!」

「引っ込め戦馬鹿!」

 

 あわや乱闘寸前というところで、皇帝モルトが立ち上がる。再び厳粛な空間が戻る。

 

「私は、事態の悪化を見過ごすわけにはいかない。これ以上、聖なる地を土足で踏み荒らすようなことを許すわけにはいかぬ。ポダワン伯の意を採用し、我々は戦うこととする。

 そのためにも、属国・周辺諸国へ使節を派遣せよ。そして伝えよ。『異界の侵略者を迎え撃つために、連合諸王国軍を結成する』と」

「……陛下。アルヌスの丘は人馬の骸で埋まりましょうぞ」

 

 不敵な笑みを浮かべるモルトであったが、残されたカーゼルは嫌な予感がしていた。それが何に対しての予感なのか、知りもしなかったが。

 

 

 

 

 

 地球連合軍、アルヌス駐屯地。敵軍を退け補給を受けた彼らは、次の部隊と交代して、体力を回復させていた。

 

「しっかし、敵さんは数だけ多いな」

「だが、銃弾も防げないシールドだぜ? あれで構えて剣振り上げて突撃なんて、いつの時代の話だっつーの」

 

 先程の戦いは、連合軍の圧勝という形で終わった。あまりの圧倒的勝利に、一部兵士たちの気が緩みつつあった。しかし、一人の兵士が低い声で忠告した。

 

「……数が多いからこそ、恐ろしいのだ」

「っ! 隊長!」

 

 隊長と呼ばれた男は、過去のバイロン戦争においてバイロン兵として戦ってきた男だった。地球規模の大戦争を生き抜いた兵士たちは、たとえバイロン人だとしても、その腕を買われることが多いのである。

 

「過去の大戦において、私はジャングル地帯を進んでいた。そのエリアは偵察によりアルトが少ないと報告を受けたため、制圧は簡単と判断していた。

 だが、それが誤りだったのだ。私のいた部隊は、エグザマクスの少なさを補う以上の、大量のロイロイに囲まれたのだ」

 

 ロイロイとは、エグザマクスを支援するために開発された小型メカである。人工知能が搭載されている無人機タイプが多いが、人間の手で操縦する遠隔操作タイプ、人が乗り込む有人型も開発されている。

 

「自爆プログラムが組み込まれていたのか、ロイロイは仲間に張り付いたかと思うと爆発して道連れにした。接近を許すわけにはいかないとマシンガンを撃つが、それで無駄に弾を消費する。結局、増援が来るまで、弾切れの恐怖と戦う羽目になったよ」

「そ、それが、数が多いからこそ恐ろしいという意味ですか?」

 

 隊長の言葉の重さに気付いた兵士たちは、気を引き締めた。もし自分達が、敵の軍勢の波に呑まれたら……。想像したくないことを想像してしまったのだ。

 

「それだけじゃない。N国の機動隊の中には、曲射による矢の攻撃で負傷したものがいる。古い兵器だからと侮るな!」

『『『Yes,sir!』』』

 

 兵士たちが敬礼すると、駐屯地内に警報が鳴り響く。

 

《敵軍の進行を確認! 敵七分、地面三分! 敵7に地面3だ!》

「お前ら! いつでも増援に迎えるように待機しておけ!」

『『『了解!』』』

 

 兵士たちは、持ち場につくために走り出した。

 




読んでいただき、ありがとうございました。アンケートは15時に締め切ります。
次回、いよいよ戦闘です。


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アルヌス防衛戦(中)

早めの投稿です。それでは、どうぞ。


 アルヌスの丘にて、昼間から戦闘が繰り広げられていた。いや、もはや戦闘を通り越して蹂躙とも言えるだろう。

 

「ぐあぁぁぁ!」

「ば、馬鹿な、何故……何故……」

 

 諸王国軍兵士は、光の雨によって次々と肉体を蜂の巣に変えられた。トロルやオークなどの怪異の断末魔が、兵士たちに「ここは地獄だ」と強く思わせた。

 

「異界門へは決して近づけるな! 突破されたら終わりだぞ!」

「エグザマクス! ワイバーンが向かってる!」

《対空戦闘は任せろ! あんた達は歩兵を頼むぜ!》

 

 空から連合軍兵士を食い殺そうとワイバーンが降下しようとするが、そこをアルトやポルタが銃撃することで、被害は無かった。

 

《パンツァー……ファイア!》

 

 一部の機体は、大砲をそのまま転用したかのような武器で、敵後方部隊を吹き飛ばしている。

 大砲を転用したかのようなという言い方は、おおむね合っている。と言うのも、この機体が持つ武器は、廃棄予定であった戦車の砲塔を再利用したものなのだ。放たれた榴弾は、敵に何が起きたのかを悟らせない。

 そもそも、対エグザマクス戦用マシンガンの弾ですら、人に対して大きいサイズなのである。それの榴弾となると、諸王国軍への被害はとんでもないものだった。

 

「どこだ! どこから大岩が降ってくるのだ!」

 

 諸王国軍にとって、エグザマクスのマシンガンの弾は大岩である。だが、彼らはエグザマクスの姿を見ることは叶っていない。

 当然だ。連合軍にとって、エグザマクスとは主戦力である。これほどの敵の数ならば、どさくさに紛れて逃げる者もいるだろう。むやみにエグザマクスの姿を晒せば、逃げ延びた敵に戦力の情報を与えることになる。それだけは避けなければならない。

 よって、エグザマクスは巨体故の長射程を活かし、後方支援となっているのである。姿を捉えてるであろうワイバーンは積極的に落とされている。

 

《こちら、アルト01。敵勢力が後退を始めた。まだ攻撃するか?》

「こちらキング03。射程が許す限りの攻撃続行を許可する。あまり前には出るなよ? 射程が許す限りだ」

《アルト01、了解》

《ポルタ02、了解》

 

 撤退し始めた敵にも、容赦はしない。恐らく彼らは増援を従えて、再び攻撃してくるだろう。こちらも殺されるリスクがあるのだ。心を鬼にして、連合軍は攻撃を続ける。

 銃声、砲声が鳴り響くこと十数分。

 

「全兵士へ。攻撃を中止せよ。繰り返す、攻撃を中止せよ」

 

 運良く射程距離外へと到達したのを確認すると、アルヌスの丘には、万を越える死体が残った。

 

「これ程までの被害を出してもなお、連中は攻撃を続けるか……」

「恐らく、敵軍はまた来るでしょう。再編成やこちらへの進軍の時間も考えると……夜襲の可能性があるかもしれません」

 

 キング03のコードを持つ隊長は、副隊長の言葉に、ため息をつくのだった。

 




アンケート、ご協力ありがとうございました。新機体を出して欲しいと言う意見が多かったので、シエル・ノヴァやラビオットなども出していきます。


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アルヌス防衛戦(後)

お待たせしました、アルヌス戦ラストです。短編から連載へ変更しました。


 諸王国軍のテントは、重苦しい空気に包まれていた。

 

「既に一万以上の兵が死んだ……。異界の軍は神の兵器でも使っているのか?」

「ただの蛮族だという話では無いのか!?」

「帝国軍は見かけないし、一体どうなっているのだ!」

 

 彼らは、異界の侵略者を共に討とうと発破をかけられ集められた。しかし、昼間のアルヌス奪還戦において、共闘してくれる筈の帝国軍が一人も居なかったのである。

 

「あれほどの火の雨や大岩を降らせど、所詮相手は人間だ。夜襲なら、あるいは……」

 

 そう呟いたのは、エルベ藩王国の国王デュランである。

 

「今夜は新月。声を上げず、馬を駆けさせずに近寄れば、いかに強靭な人垣といえど突き崩す事は可能であろう」

 

 こうして、残された諸王国軍は夜襲を決定するのである。

 

 

 

 

 

 夜。アルヌス駐屯地は相手の夜襲に対する警戒体制を取っていた。

 

「こちらシエル04。異常なし」

《キング01了解。警戒を続行せよ》

 

 世闇に紛れて、新たな巨人が立っていた。太い脚部と長い前腕、そして背中に装着されたドーム状のバックパックが特徴的だ。

 

 bEXM-14T シエルノヴァ。現在警備に当たっているのは、その機体に広範囲索敵レーダーを装備している仕様である。

 

(偵察用ロイロイが、茂みなんかに隠れて偵察してるらしいが、こっちも気を引き締めないとな)

 

 シエル04というコードネームを持つ兵士は、ブラックコーヒーを飲み干すとコクピットの隅に置いておいたレジ袋に入れた。

 すると、モニターから「ポーン」という無機質な音が響く。

 

「む? これは、まさか……」

 

 緑色のモニターには、白い点がポツポツと駐屯地へ向けて進んでいる。シエル04はすぐに通信を繋げた。

 

「こちらシエル04! 2時の方向に移動物体を探知した!」

《シエル03、5時の方向にて移動物体を探知! シエル04と同じ方角だ!》

《こちらキング01。偵察用ロイロイが、敵集団を発見した。全機、後退せよ。これより、戦闘体制へ移行する》

 

 後退命令を受け、シエルノヴァたちは後退する。こうしてデュランの企みは、偵察用機体によって破られたのである。

 

 

 

 

 

 デュラン達は、既に自分達の動きがバレているとも知らず、物音を立てずに近付いてきていた。

 

(まだだ。まだ走る時ではない……)

 

 その時だった。地面から何か光るものが打ち上がったかと思うと……上空で大きく破裂、まばゆい光を放った。

 

「こ、この明るさは!? いかん! これでは丸見えだ!」

 

 放たれた光、照明弾の特性を瞬時に悟ったデュランは、すぐさま馬を走らせる。

 

「止まるな、走れぇ! 馬は駆けよ! 人は走れ! 狙われるぞ! 止まるなぁ!」

 

 ありったけの大声で命令し、兵を動かす。その後、昼間にも見えた火の雨が、自分達に向かって降り注ぐ。

 

「ぎゃあぁぁぁ!」

「ぐああぁぁ!」

「進め! 進めぇぇ!」

 

 もはや陣形も意味がない。倒れていく兵士を担ぎ上げたい気持ちを押さえつけ、他の兵士たちもデュランに続く。だが、そこへ追い討ちをかけるように、次なる一手が襲い掛かってきていることを、兵士たちは知らなかった。

 

 

 

 

 

 照明弾が放たれ、敵軍の姿が見えるようになると、一斉射撃が行われた。なお、この照明弾を撃ったのは、夜間用迷彩を施されたシエルノヴァである。

 

「敵の動きの切り替えが早い! すぐに動き出しやがった!」

「指揮官はかなりの切れ者と見た!」

 

 しかも、一ヶ所に固まらずバラバラに動くことで被害を減らしている。もっとも、それでも敵兵は突撃しながらその数を減らしているが。

 

《敵の進行速度が上がってる、まずい……!》

《キリがねえ!》

 

 シエルノヴァの小隊も援護しているが、それでも敵の突撃は止まらない。その時だった。キュラキュラという音ともにやって来るものが居た。

 

《こちら、タンク01。遅くなった》

「マジかよ!?」

「いきなり過ぎんだろ!?」

 

 それは、普通の戦車と比べてあまりにも巨大な戦車。エグザマクスが乗ることで移動砲台にもなるよう設計されているそれは……エグザビークル・タンクと呼ばれている物だった。

 門へと突入する時、まだ駐車する場所を決めていなかったため、特地への配備が遅れたのである。

 

《カウント10の後、曲射榴弾で砲撃する。付近の者は対ショック、防音姿勢を取れ。10、9……》

 

 その通信を聞いて、兵士たちは急いで耳を塞ぎ、口を開け、地面へと伏せる。シエルノヴァのパイロットも、耳を塞いだ。

 

《1……0、撃てぇ!》

 

 

 

 

 

 それは、一瞬の事だった。空からヒュルルルという音が聞こえたかと思った瞬間、背後から強い衝撃が襲い掛かってきた。デュランは落馬し、地面をゴロゴロと転げ回る。

 

「何があった! 皆のもの、生き……て…………」

 

 後ろへと目をやると、先程まで自分に付いてきていた兵士たちが見当たらない。あるのは燃え上がる炎と、地面に散らばる“生き物だった物”。

 

「なぜだ……。なぜ、この様な事になったのだ……」

 

 戦場だというのに、デュランの頭には「なぜ」という言葉が浮かんできた。

 敵のことを知らせず、そればかりか増援すら寄越さない帝国。この時、デュランは1つの答えに辿り着いた。

 

(そう言う事、か……! 我らを肉壁とすることで、帝国の優位を欲しいままにするという算段か……!)

 

 デュランは立ち上がる。その顔は、もはや狂ったような笑みだった。

 

「は、ははっ、はっはっはっはっはっ! はーっはっはっはっはっ! あひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

 

 デュランは、自身の体が宙へ舞うのを感じながら、目の前が真っ暗になった。

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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異世界調査の第一歩

お待たせしました、オリキャラ登場です。


 地球連合軍が特地と呼ぶ世界。その世界の空の下を、とある部隊が歩いていた。

 

「良い天気だね~。異世界調査の第一歩が雨なんて日にゃ、俺はやさぐれてコーラ飲むとこだった」

「そこはビールとかでは?」

「雨の日は雨の日で、書類仕事だろ? 昼酒なんてやったら上司がうるさい」

「ははっ、なるほど」

 

 ジープ型のトラックの中で、兵士たちが雑談をしている。助手席に座り「良い天気だ」と話すのは、バイス。この調査班のリーダーである。彼の言葉に苦笑いで返す運転席の男はアルバートだ。

 

「ジュースではなく、お茶でもいかがです? 紅茶なんかは特に最高で……」

「出たよエミリーの紅茶信仰」

「コーヒーの話題でキレないだけでも良いじゃないですか」

 

 衛生兵のエミリーは、飲み物と言えば紅茶と言うほどの紅茶ジャンキーである。実際、彼女の祖国のI国は紅茶の産地なのだ。

 

「レイス。付近に異常は無いか?」

《今のところは、異常無しだね》

 

 バイスの言葉に通信で答えたのは、レイスと呼ばれる女性。しかし彼女は車に乗っていない。

 

 その後ろを歩く、アルトの操縦者がレイスなのである。

 

 彼女のアルトは、少し改造が施されていた。ポルタ・ノヴァの肩部分の装甲が取り付けられている。これは、相手が何かしらの攻撃をして来た際に、少しでもダメージを軽減する物として取り付けられたのだ。オプションアーマーとして、肩はポルタ・ノヴァのを、それ以外はアルト用の物を装着し、左腕にはシールドが設けられている。

 

「まずは情報を得るために、各集落の人たちと友好関係を築くことが任務かぁ」

「エグザマクスを見て、かえって警戒しないですかね?」

「武装勢力の潜んでる村かもしれないと考えると、少しばかりの武装は必要なんだとさ」

 

 助手席から見渡すバイスだったが、どこも草原や森林が続いている。

 

「本当に何も無いな……」

 

 これは野宿になりそうだと、ため息をついた。

 

 

 

 

 

 夜。それは突然の事だった。

 

《隊長、前方に高熱反応だ。かなりの広範囲だぜ》

「サンキュー、レイス。こっちでも焦げ臭さを感じてる」

「火事……でしょうか?」

「かもしれない。これ以上の進行は無理だな」

《っ! やばっ!》

 

 突然、レイスの操るアルトが片膝をついて姿勢を低くした。その理由は、森から現れた存在によって明らかとなった。

 

「……俺、昔の特撮映画であんな感じのモンスター観たぞ」

「エミリー、ちょっと頬つねってくれる?」

「アルバートさん、もう自分でやりました。これは現実です」

 

 目の前に現れた、赤くて巨大な龍。それは間違いなく、ドラゴンと呼ばれる存在だった。

 

 

 

 

 

 一夜明け、一行は焼け焦げた森を捜索していた。昨夜のドラゴンは、おそらく生物を狩るために炎を吐いていたと考えたからである。

 コクピットの中に居たレイスも降り、生存者を探していた。

 

(ちょっと触れただけで崩れる……。とんでもない高温だな……)

 

 辺りにあるのは、“人の形をした炭”。中には瓦礫の隙間から生焼けの遺体も見つかっていた。

 

「ん? これは……エミリー! 来てくれ!」

「どうかしましたか?」

「こいつを見てくれ」

 

 レイスが見つけたのは、現地人の物であろう片腕。炭化した部分と生焼けの部分が混じったそれにエミリーは顔をしかめるが、レイスは気にしない。

 

「これ、ちょいとおかしいんだ。傷口、お前ならどう見る?」

「傷口、ですか? これは……」

 

 エミリーは観察する。

 

「……何かに噛みつかれた後、でしょうか。刃物で斬られた割には、切り口が……」

「だよなぁ。しかも噛まれたのは腕じゃなくて……」

「体、ですね」

「どうした?」

 

 そこへ、バイスとアルバートがやって来た。あの様子だと生存者は居ないようだ。レイスとエミリーが、先程の事について話す。

 

「隊長、まずくないですか? 要するに、あのドラゴンは人を食ったって事ですよね? 人の味を覚えたとしたら……」

「付近の集落を襲う可能性がある、か」

「それだけじゃねえ。あいつは翼を持ってた。飛翔能力があるってことは、駐屯地を襲う可能性もある」

「隊長、すぐに連絡を!」

「そうだな!」

 

 バイスが車へ戻ってる間、アルバートが井戸へ向かう。

 

「2人とも、喉乾いてません? 井戸ありますし、少し水分補給しましょう」

「その水、飲んで大丈夫でしょうか……」

「ここの住人が使ってたってことは、飲めるだろ」

 

 アルバートがバケツを下ろす。

 

「ん?」

「どうした?」

「何か、バケツの手応えがおかしくて……」

「中、照らしてみろよ」

 

 アルバートが懐中電灯で中を照らす。

 

 そこには、金髪のエルフが気を失っていた。

 

「っ! 生存者か!」

「アルバート、隊長に連絡! エミリーは応急処置の準備!」

「「はいっ!」」

 

 レイスが井戸へ入り、少女を抱き上げる。

 

「エミリー、毛布だ! 息はあるが体温が極端に低い! 低体温症の可能性ありだ!」

「わかりました!」

 

 2人は大急ぎで、救助にあたった。

 

 

 

 

 

 レイスとエミリーが救助にあたっている頃、バイスは他の部隊と連絡を取り合っていた。

 

「では、第2調査班はコダ村に居るんですね」

《そうだ。君たちが遭遇したドラゴンの座標と照らし合わせると、コダ村も近い。早速住民にもドラゴンのことを知らせよう》

「では、我々も合流します。手伝いますよ」

《助かる》

 

 通信を終えると、アルバートが走ってくる。後にバイスは、生存者が居たことに驚くのであった。




読んでいただき、ありがとうございました。次回もお待ちください。


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コダ村の騒ぎ

お待たせしました、今回は原作キャラと共に新たなキャラクター登場です。


 バイスたち第3調査班は、エルフの少女を救出すると、コダ村へと向かった。村の入り口に立っているポルタ・ノヴァが目印になっており、迷うことなく到着する。

 

《……隊長さんよぉ。あのポルタ、背中にデカイ得物持ってるな?》

「あぁ、持ってるな。ありゃあ……俗に言うサムライソードか?」

《サムライソードならどれだけ良かったか……》

 

 レイスがポルタ・ノヴァの背中に装備されている武器を見た瞬間、様子がおかしくなった。まるで会いたくない相手に会ってしまったかのような反応だ。

 

《あれは、対艦刀だ》

「……タイカントウ?」

《まだ水中戦仕様の機体が開発されて無かった頃に、どこかの国が“艦砲射撃を食らう前に接近して軍艦を潰す”ってコンセプトで作ったらしい。ま、開発に成功したけれど、その間にポルタ・ノヴァの水中戦仕様が生まれちまったから、日の目を見ることが無くなった武器だな》

「よく知ってるな?」

《あんな武器を対エグザマクスで使う変態なんか、あたしは一人しか知らねえよ》

 

《そいつは、“切り込み隊長ゴードン”だ》

 

 バイス達は衝撃を受ける。切り込み隊長ゴードンと言えば、エグザマクスを使った接近戦のプロだ。曰く弾丸を刀で弾いた、動きが速くて残像が見える、通常のポルタ・ノヴァの3倍のスピードを出してる等々、噂が絶えない男だ。

 

《よりによって、かぁ》

「苦手なのか?」

《あいつの動きが変態すぎて、掩護射撃なんか要らないくらいだ》

《変態とは随分と失礼だな、亡霊》

「っ! ゴードン……さん?」

 

 通信に入ってきた、低い男の声。バイスたちの背筋がピンっと伸びる。

 

《よう、ゴードン。相変わらずだな》

《お前の態度も相変わらずだな、レイス》

 

 どうやら、知り合いらしい。詳しく聞こうとしたが、事態がそれを許さなかった。

 

《ドラゴンの事を伝えたところ、お前達が遭遇したのは炎龍と呼ばれる個体らしい。人の味を覚えた炎龍は村を襲うとのことで、コダ村も避難体制に入った》

「我々は、その手伝いと護衛ですね?」

《あぁ。落ち着き次第、この世界の情勢などを話してくれると言ってくれた》

「分かりました。第3調査班も協力します」

 

 そして、バイスたちも村へと足を踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 コダ村の避難民の中に、大量の書物を積んだ馬車があった。

 

「しかしまぁ、変わった連中じゃのぉ……」

「…………」

 

 己の師であるカトーと共に馬車に乗っていた少女、レレイは頷く。巨大な剣を持った巨人と共に現れた、兵士と思われる集団。彼らは遥か遠い所から来たと言い、この地帯に詳しくないために教えてくれないかと頼んできた。発音が所々おかしなところがあったが、こちらを見下すことはなく丁寧な言葉で話してきた彼らに、村民は少しずつ緊張を解いていった。

 

 余談だが、地球連合軍の兵士たちは特地の言葉をある程度学習している。というのも、Gシティ侵攻の際に捕虜となった帝国兵士の中には、「どうせ帰国して処罰されるなら」と特地の言葉などを話しまくったからである。それらの文法の解析は今もなお続けられており、兵士たちの言語学習は絶えることがない。

 

 話を戻そう。緊張が解きつつあったコダ村の村民たちだったが、別の情報が再び緊張を引き起こした。巨人の兵士たちは胸についてある小さな箱で何かを話した後、龍のような生き物を見かけたと伝えてきたのだ。しかも炎を吐く赤い龍だということで、炎龍だと理解するのに時間はかからなかった。

 こうして村はたちまち騒ぎとなり、そして大移動が始まったのである。

 

「進まんのぉ。何かあったのかね?」

「あぁ、カトー先生! 今馬車の一台が泥濘にはまっちまって、動けないんですよ。巨人の兵士さん達が手伝ってくれてますけど」

「見てくる」

「これ、レレイ!」

 

 今なら、不思議な集団を近くで見れるかもしれない。そう思ったレレイは馬車から降りた。

 

「そぉーれっ!」

「歩兵の魂を見せてやれぇ!」

「気合い入れるぞー!」

 

 よく見ると、荷車を引き上げる彼らの見た目はあまり統一性が無い。彫りが深く鼻が高い者もいれば、褐色の肌を持つ者、黒い髪に黒い瞳という者もいた。しかも、男だけではなく女性まで力仕事に加わっている。彼らには男女の隔たりが無いのだろうか?

 

「危ないから下がってください」

 

 茶髪の女性が注意してくる。恐らく野次馬に見えたのだろう。彼らの仕事を邪魔するのもいけないだろうと、レレイは下がろうとする。

 

「エミリー、こっちに擦りむいた女の子がいる。診てやってくれ」

「分かりました」

 

 エミリーと呼ばれた女性が、荷車の持ち主であろう家族の娘に向かい、治療を施す。今度は、とても目立つ存在である巨人に目をやる。

 巨人たちはキョロキョロと辺りを見回し、まるで警戒しているかのような仕草をしている。

 

(警戒している。兵士として巨人を調教できるなんて、彼らは何者?)

 

 レレイの興味は、巨人の兵士に注がれていたのだった。

 




読んでいただき、ありがとうございました。次回はいよいよ、エグザマクスvs炎龍です。


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エグザマクスvs炎龍

お待たせしました。書きたいものを詰め込んだら、こうなりました。それでは、どうぞ。


 青空の下、ジープやトラックが爆走する。馬たちは走り、人は逃げ惑う。

 

「撃ちまくれ! 豆鉄砲だろうが相手は生物だ!」

《行くぞゴードン! あのトカゲはあたし達に注目してる!》

《承知した!》

 

 エグザマクスのパイロット2人が走ると、襲撃者である炎龍が振り向き、炎を吐いた。

 

 

 

 

 

 コダ村の避難民の護衛を始めた調査班たち。落伍者が出てくるなか、ロゥリィという少女と出会った。

 

「私もご一緒して良いかしらぁ?」

「神官ならば、どうかお願いします。避難民たちが不安がってますので、どうか安心させてください。ですが、むやみにそこら辺の物には触らないよう、お願いします」

 

 最初は巨大なハルバートを持っていたため警戒していたのだが、住民たちが彼女のことを神官様と呼んでいたため、少しでも安心してもらえるならと同行を許可した。ロゥリィはトラックの荷台で子供たちと話している。

 

「後ろにいる巨人さんは、何か喋るのかしらぁ?」

「喋るけど、兵隊さんとだけだよ」

「兵隊さんに小さな箱が付いてるでしょ? あれでお話ししてるみたい」

「へぇ~……」

 

 この時ロゥリィは、エグザマクスに違和感を抱いていた。視線も巨人に向けられている。

 

(巨人らしいけど、魂が普通の人間サイズなのはどうしてかしらぁ? もっと大きい魂だと思うんだけどぉ……)

 

 その頃、レイスとゴードンはレーダーを見ていた。

 

(何だこれは? こちらへ接近してくる……まさか!)

《隊長、迎撃体制だ! 炎龍がお出ましのようだぜ!》

 

 レイスの大声が避難民にも伝わり、辺りは騒然となる。レイスはマシンガンを構え、ゴードンは投擲武器に手をかける。

 

――ギュアァァァァァァ!

 

 そして、冒頭に至るのである。

 

 

 

 

 

 炎龍は、腹を満たすために獲物を探していた。最近食べた獲物は小さかった。目の前にいるのは同じだが、丁度いいことに沢山いる。だが、目の前に立つデカい奴等の方が食い応えがありそうだ。

 炎龍はそう思い、アルトとポルタ・ノヴァに目を向けたのである。炎を吐くが、2体は避ける。

 

《あたし達、デカイ獲物だと思ってんのかね!》

《それで避難民が逃げれるなら良いだろう!》

 

 レイスのアルトがマシンガンを撃つ。見たところ腹部が柔らかそうに見えたため撃っているが、効いている様子はない。

 

《リッパー!》

 

 ゴードンが投げたのは、刃のついた円盤状の投擲武器。スラッシュリッパーと呼ばれるその武器は、投げると共に収納されていた刃が展開し、回転しながら相手の装甲を切り裂く武器である。

 しかし、特殊合金製であるエグザマクスの装甲を切り裂く筈のソレは、龍の甲殻に傷をつけるだけだった。

 

《リッパーも効かぬか……何と言う強度!》

《言ってる場合か! とにかく攻撃しまくるんだよ!》

《ならば!》

《おいゴードン。てめぇ、まさか……!》

 

 

 

 

 

 その頃、自動車から機銃などで攻撃を続けているバイスたち歩兵だが、炎龍は未だに効いている様子を見せない。嫌がる素振りを見せるだけだ。

 

「くそ、どうすれば良いんだ……!」

「エミリー、パンツァーファウスト!」

「どこに!?」

「腹か頭に決まってんだろうが!」

 

 トラックに乗っている、キャラバンから落伍した避難民たちは揺れまくる車内に必死に掴まるが、その衝撃で、エルフの少女……テュカは目を覚ました。

 

(何が起きてるの……?)

 

 その時車窓に見えたのは、自分にとって忌々しい存在。馬もなしに動く荷車に乗っている兵士たちは、杖のような物から、小さな火の玉をパパパと飛ばしている。同じ服を着ている女性が、一際大きな杖を用意している。だが、相手はあの炎の龍だ。どうすれば良いのか……。

 その時だ。テュカの目にはある物が見えた。それは、左目に突き刺さっているもの。それは――

 

「目よ! 目を狙って!」

「えぇ!?」

「左目、パパの矢が刺さってる!」

 

 バイスは片手で双眼鏡を使い、龍の目を見る。そこには確かに矢が突き刺さっていた。

 

「全員目を狙え! エミリー、頭部の左側だ! しくじるなよ!」

「了解! 後方は……」

「安全だ! 早く撃てバカ!」

 

 エミリーは、あとでバイスを殴ると心に決めて引き金を引いた。砲弾が放たれ、炎龍めがけて飛んでいく。

 

 凄まじい爆発が起こってから煙が晴れると、炎龍の顔の肉は大きく抉れていた。だが、歩兵全員が寒気を感じていた。

 

「やべぇ……まだ生きてんのかよ!」

「キレやがった! ヤバい!」

 

 もう駄目か。そう思った時、“切り込み隊長”が走り出した。

 

 

 

 

 

《行くぞレイス! 相手にとって不足なし!》

《あぁもう! やってやるよ!》

 

 アルトがシールドを上に向けると、ゴードンの駆るポルタがジャンプする。そのシールドを踏み台にして飛び上がると、背中のブースターを全開にする。

 

《援護する! ぶった斬れぇぇぇ!!》

 

 マシンガンを放ち、続けてグレネードランチャーも放つ。先程のパンツァーファウストのダメージもあってか、炎龍は身じろぎしてレイスを睨む。

 

 だが、それが炎龍の最期だった。

 

 炎龍を越える高さまで飛び上がったゴードン。本来ならば軍艦を斬るはずの対艦刀を、一気に振り下ろす。

 

 

《チェェェェェストオォォォォォォ!!》

 

 

 そして、炎龍の首を、胴体から切り離した。

 

 沈黙。遅れて地に伏せる炎龍の胴体。

 

 巨体が倒れたことによって起きた風が、これは夢ではないと実感させ……大歓声が沸き起こった。

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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巨人の兵士たち

お待たせしました。今回は、原作で自衛隊の事を語ってくれた女給、メリザさんのお話です。


 炎龍が倒されたことで喜びに溢れる避難民たちだったが、これから先のことを考えなければならなかった。村へ戻ろうと考える者も多かったが、ある問題が明らかになったのだ。

 

「盗賊ですか」

「うむ。これほどの規模で移動していたのなら、盗賊共も気が付いておるじゃろう。残された家財を盗むか、もしくは村そのものを根倉にしているかもしれん。そこへわざわざ戻るのは危険すぎる……」

「では、我々が追い払うのは?」

「見たところ、炎龍との戦いで疲弊しておられる。それに、情報提供以上の対価を儂らは払えん……」

「そう、ですか……」

 

 村へと戻らず、別の村へと進む村長たち。だが、馬車を失ったり怪我をした者たちは、面倒を見きれないと置いていかれてしまった。

 過去の大戦で難民となった人たちも、このように見捨てないといけない時があったのだろうか。バイスたち連合軍兵士たちは、あらかじめ情報や地図をもらっていたから問題は無い。だが残された村民たちはどうなるのだろうか。

 

「この人たち、どうすっかなぁ」

「隊長。それもですが、炎龍の死体はどうするんですか? あんな巨体、エグザマクス2機だけでは運べませんよ。」

「だけど解析のためにも必要だよな……。駐屯地に連絡して、増援頼むかぁ。あとこの人たちを駐屯地で預けれないか、聞いてみるよ」

「大丈夫でしょうか……」

「やらないよりはマシだろ?」

 

 こうして、難民となった一部の村民たちは、後にアルヌス駐屯地へと預けられる事になったのである。

 

 

 

 

 

 とある居酒屋。コダ村から来たと言う勤め始めたばかりの女給は、客に酒や料理を与えると共に、客からの要望があればある話をする。

 それは、「巨人と共に現れた兵士が、炎龍を殺した」という内容だった。

 

「騎士ノーマ、どう思われますか?」

「いくら何でも嘘ではないか? 炎龍を倒すなど……」

「ですが、コダ村から来たと言う人たちが口を揃えて言ってるんですよ? 村人全員で口裏を合わせるなんて不可能です」

「だからと言って、炎龍など……」

 

 ノーマと呼ばれた男が、純粋な後輩のハミルトンに溜め息をつく。只でさえ安っぽい酒と料理だというのに、女給が話すのは嘘八百。それもあって、深いため息となった。

 

「本当だって。まぁ、巨人がバカみたいに大きな剣で炎龍の首を落としたんだけどさ」

「ふん、騙されんぞ」

「何だい、子供たちは目をキラキラさせて聞いてくれるってのに」

「まぁまぁ。もし良ければ詳しく教えてくれる? お代は弾むからさ」

 

 ノーマの態度に口を尖らせる女給……メリザだったが、数枚の銅貨を渡されると機嫌を良くする(なお、銅貨数枚はチップとしては破格である)。

 

 

「いつも通りの日だったんだけど、突然ズシンズシンって音が聞こえてきて、村中は大騒ぎになったんだ。あたしも見に行ったら、背中にデカイ剣を持った巨人と、鉄の荷車に乗った兵士がいたのさ。

 なんで兵士って分かったかって? そいつ等が話してくれたんだよ。遠い所から来たばかりで道が分からないから、ここら辺の事を教えてくれないかって。盗賊とか猛獣に襲われるかも知れないから武器を持ってるんだって言ってたよ。最初は怪しいと思ってたんだけど丁寧な言葉でさ、聞かれたことを教えるとキチンと礼を言ってくれるし、礼儀正しい連中だったよ。

 だけど、その兵士たちの仲間が炎龍を見かけたらしくてね。あたしたちの村はすぐに逃げることにしたのさ」

 

 メリザは、兵士は胸につけてる小さな箱で、遠くに居る仲間と話をしているのを見たと付け加えた。これは無線機の事である。

 

「途中から他の仲間も来て、巨人は2人ほどになったかねぇ。でも巨人はあたし達を襲うことはなくて、むしろキョロキョロと辺りを見回して盗賊が来ないか見張っててくれたんだよ」

 

「その巨人とは、どのような見た目なのだ?」

「目玉は1つしか無くて、全体的にちょっと角張ってて、鉄っぽかったかな。話に聞くトロルなんかとは違ったよ。本当に見上げるような大きささ」

「続けてくれる?」

 

「あいよ! で、逃げる途中なんかも飲み物くれたり、荷車に怪我人乗せたりと良い連中だったよ。

 だけど、その時さ。巨人の一人が大声で『炎龍だ!』って叫んだのさ。それだけ聞いたら疑わしいだろうけど、兵士たちが武器を構えるから、本当なんだって皆信じて馬を走らせたよ。途中で荷車を棄てる奴も居たね。

 それからしばらくして、真っ赤な龍が空からやって来たのさ」

 

 メリザの声も表情も真剣だったため、騎士団だけではなく他の客も聞き入っていた。

 

「あいつは、あたし達には目もくれずに巨人を狙った。村を焼き尽くすような炎を吐いたんだけど、巨人はヒラリと避ける。鉄の荷車に乗ってる兵士たちも、顔を出してパパパと音を出しながら、小さな火の玉をたくさん、しかも速く放っていたんだ。今思えば、あれは杖だったのかも知れないね。

 そしたら、女の兵士がデカイ鉄の杖……と言うよりは筒を構えたんだよ」

 

「おい、女の兵士も居たのかよ!」

「聞いてねえぞ!」

 

「あんたらは黙ってな! ……で、その筒から何かが飛び出たと思ったら、大きな音と爆発で炎龍の顔が見えなくなったのさ。あたし達は『やった!』って思ったんだけどねぇ……」

 

「まさか、生きていたのか?」

 

「その通りさ。顔の肉が大きく抉れて見るに耐えない姿だったけど、それでもハッキリと、怒ってることが伝わってきたよ。本当に終わりだ……と思ったときに、剣を持った巨人が炎龍に向かって走り出したのさ。

 ジャンプしたかと思うと、背中から青い炎がブワーッ!と吹き出て、一気に空を飛んだんだ。で、その大きな剣で一気に炎龍の首を切り落としたのさ。今でも忘れられないよ。『チェーストー!』って大声で叫んでたんだから」

 

 メリザが「これで話はおしまいね」と言うと、とっとと仕事に戻ってしまった。ノーマ達は顔を見合わせる。

 

「どう思います?」

「良くできた話……とは言い難いな。まさか本当に……」

「調べる必要があるな」

 

 凛とした声に、ノーマとハミルトンはリーダーに視線を向ける。

 彼女の名前は、ピニャ・コ・ラーダ。この騎士団を率いる者であり、皇帝の三女である。

 

「巨人の兵士たちは辺りを調査していると言う。もしそれが、アルヌスに陣取る者たちだとしたら……」

「殿下はあの女給の話を信じるのですか?」

「アルヌスにいる者たちは、異界からやって来たという。恐らく巨人を従わせる方法を独自に持っているのかもしれない。だとすれば、先の戦いでの惨敗も納得が行くだろう」

 

 そう言い濁った葡萄酒を飲むピニャだったが、内心は嫌な予感で満ちていた。

 

(すごく、嫌な予感がする……。アルヌスの敵が本当に巨人を従える集団だとしたら、帝国は……)

 

 飲んだ葡萄酒は、やけに酸っぱいような気がした。

 




読んでいただき、ありがとうございました。次回もお待ちください。


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ラビオット、イタリカへ

お待たせしました、イタリカ編突入です。


 アルヌス駐屯地。コダ村からの難民を受け入れた連合軍は、余裕のあるスペースに難民キャンプを設立した。受け入れられた住人らは、寝床や食事だけではなく、風呂に寝床も与えられ、「貴族になるような事をしただろうか?」と錯覚した。フカフカの白パン、塩だけではなく複雑な味付けがされているスープ、暖かい風呂に隙間風のない小屋。どれも貴族のイメージが強いものであった。

 しかし、自分達もただ施しを受けるだけの人間ではない。炎龍から助けてもらっただけではなく、行くあての無い自分達を受け入れてくれた巨人の兵士たちには恩がある。だからこそ、自分達に出来ることは無いだろうかと動き始めた。その中の1つが、資金稼ぎである。

 駐屯地の周りには、大量の翼竜の死骸があった。これ等の鱗は価値があり、どこかで売れないだろうかと考えていた。巨人の兵士たちが言うには、研究用としての鱗や骨などは十分に確保したらしく、それでも有り余っていたため処分に困っていたそうだ。そのため、住人たちは鱗を集める作業に入ったのだが……その近くにも巨人がいた。

 

 その巨人は、eEXM-21ラビオットである。戦闘用としても使用可能だが、今は作業用機体として運用している。

 

 ラビオットは、その剛腕で一度に沢山の翼竜の死体を回収してくれた。だがラビオットにとって翼竜は小さすぎるらしく、鱗を剥ぐ作業などを住人に任せる事にした。初めて仕事を任された住人たちは、張り切って作業に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 アルヌス駐屯地司令室。そこに一人の男が呼び出されていた。

 

「交易都市までの護衛、でありますか?」

 

 与えられた任務にポカンとした顔で尋ねる日焼けの男の名は、スカー。翼竜の死体回収に協力した、ラビオットのパイロットである。

 

「そうだ。売買に関する信頼が高く、アルヌスからも近い。まさにうってつけと言うわけだ」

 

 椅子に座りスカーの言葉に応えるのは、司令官の一人ヴィエラ。人種も国籍も異なる部隊をまとめるために複数の司令官が存在しているが、ヴィエラはその中でも数少ない女性司令官である。

 

「この依頼は、レレイ・ラ・レレーナ嬢からの依頼でもある」

「あの魔法使いの子ですか。でしたら、バイスさんとかレイスとかが適任では? 面識もあるようですし」

「いや、翼竜回収と解体の現場に居合わせたお前に立ち合ってほしいと言う。いわば、保証人だな」

「しかし、私はあくまで回収班であって……」

「くどいぞ。これは、命令だ」

 

 鋭い視線を向けられ、背筋が冷えるスカー。司令官ヴィエラは「氷の女」と呼ばれるが、それは彼女に睨まれた者は背筋が必ず冷えるからと言われている。

 

「お前は、『なぜ回収班である俺が』と思っているだろう? ()()()()()()()()()()()、適任なんだ」

「……俺たちは、死体をあさるハイエナですぜ?」

「ハイエナは夜のアフリカで最も恐れられる生物だ。……何度も言わせるな。行け」

 

 敬礼すると、スカーは退室した。ヴィエラは呟く。

 

「回収班『スカベンジャーチーム』のお前だからこそ、戦闘に関しても信頼できるのだぞ」

 

 飲みかけの紅茶は、まだ湯気を立てていた。

 




読んでいただき、ありがとうございました。次回もお待ちください。


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疲弊のイタリカ

お待たせしました。お気に入り登録してくださっている方々、本当にありがとうございます!


 テュカ、レレイ、ロゥリィを乗せた第3調査班は、交易都市イタリカに向かっていた。

 

「でもビックリだよね。巨人に普通の人間が入ってたなんて」

「正しくは、巨人に見せた巨大な鎧。だけど炎龍の時のように走ったり飛んだりするのは、とても技術が必要」

「私は納得したわ~。どうりで魂のサイズが小さいと思ったもの~」

「あの~、この事はあまり他人には……」

「分かってるわよぉ~。秘密にしておかないといけないのよねぇ?」

 

 アルヌス駐屯地で生活していた元コダ村の住人たちだったが、巨人に人が乗っている事が分かるのに時間は掛からなかった。演習や作業を終えたパイロットが降りているのを、見られたからである。

 初めはその事に酷く慌てた地球連合軍だったが、住人全員が他言無用でいてくれると快く約束してくれた。

 

「今日は、レイスさんの代わりにスカーさんが来てくれたんですよね?」

「あぁ。スカーは、スカベンジャーチームに所属している兵士だ。戦闘能力も期待していい」

「ま、マジっすか!?」

「スカベンジャーチーム?」

 

 アルバートが詳しく説明する。

 スカベンジャーチームとは、回収班と呼ばれるチームの1つである。回収班の役目は、戦闘が終了した地域で敵や味方の機体・兵器の残骸を回収するのが主である。

 だが、そのような場所には、技術漏えい防止のために爆弾や地雷が仕掛けられていたり、生き残っていた兵士が待ち伏せしている危険性もある。そのため、回収班は必然的に戦闘能力も求められるのだ。

 スカーが所属するスカベンジャーチームは、そんな回収班の中でも戦闘からの生還率が非常に高い、いわゆるエリート小隊なのだ。

 

「アルヌス防衛戦の時に、帝国兵士の死体とかを集めてたのも彼らだ。そのお陰で、この辺りで使われてる金がどんなものかを知ることが出来た」

「それ、倫理的に大丈夫なんですかね?」

《情報を得るために必要なことと考えるしかない。向こうが攻めてきて、俺たちは殺されないために相手を殺すしかなかった。金を奪うための殺しじゃない。強盗殺人とは違う》

 

 通信機からスカーの声がした。低い声が、倫理的な不安を抱いたエミリーとって、やけに重みのあるように聞こえた。

 

「スカー。何かあったのか?」

《イタリカの方角に、黒煙を確認。それも1つじゃなく複数です。戦闘の後かと》

「色んな戦場の跡を見てきた経験か?」

《はい》

(……これは、少し厄介な事になりそうだ)

 

 スカーからの報告を聞いたバイスは、起こるであろう厄介事に身構えることにした。

 

 

 

 

 

 交易都市イタリカ。しかし今は、盗賊による幾度もの攻撃でその活気は薄れていた。その様子にピニャは忌々しく下唇を噛む。

 

(あと3日で妾の騎士団が到着するが、士気が低すぎる……)

 

 ましてや、その盗賊というのが、先のアルヌスの戦いから敗走した元帝国兵だというのだから笑えない。落ちぶれたとはいえ、元は正規兵。多少弓が扱える程度の市民との実力の差は明らかだった。

 疲弊し士気も低下している今、3日どころか今晩保つかどうかすら怪しい。そんな時だった。団員の一人であるグレイがやって来た。

 

「姫様。市民が『巨人が来た』と言っております」

「巨人だと? まさか……」

「見慣れぬ格好をした者もいると。恐らく、噂の『巨人の兵士たち』かと」

「仮に巨人の兵士たちだとして、相手は何か言ってきたか?」

「『イタリカに用があって来たのだが入れてもらえないか?』と言っているようですが……いかがいたしますか?」

「……妾が行こう」

 

 身だしなみを軽く整え、防壁の上へと上がる。対応に当たっていたノーマとハミルトンの表情が明るくなる。

 

「姫様!」

「巨人だと?」

「はい、あちらに……」

 

 まず目を引いたのは、言わずもがな、巨人ことラビオットである。単眼の巨人は動くことなく立っているが、その大きさは、その気になればイタリカの防壁を拳で壊すことが出来るだろう。

 

(何と言う大きさ……。はっ、いかんいかん! 巨人は一体だけだ。だとすると兵士というのは……)

 

 巨人の足元へ目をやると、鉄で出来ているであろう荷車と、1人の兵士がいた。

 

「我々はイタリカへ用があって来た! この巨人は我々の護衛だ! どうか中へ入れてもらえないだろうか!」

「……姫様、どうしますか?」

「……恐らく、イタリカの現状を知らぬのだろう。あの巨人は、いつでも壁を壊せるのにも関わらず、大人しくしている。むやみに力を振るうことは無いだろう。それにこの状況だ。炎龍をも殺せるという彼らの力を、借りたいところだ」

 

 ノーマは巨人が本当に目の前にいることに驚き、野次馬として見に来た見張りの義勇兵は、不安に満ちた顔をしていた。

 

「他に人がいるなら、姿を現してほしい! 誰がいるのだ!」

 

 すると、兵士が鉄の荷車に手招きする。そこから降りてきたメンバーに、ピニャたちは驚く。

 

「リンドン派の正魔導師に精霊使いのエルフ、そして……ロゥリィ・マーキュリーか!」

「あの女の子が、ですか?」

「戦える女性とは少なくないのですな」

「どうしますか? 入れます?」

「……あの者たちの力を借りよう。下手に怒らせれば、かえってこちらが滅ぼされかねん」

 

 先ほど大声を出して呼び掛けていた男に、ピニャは答える。

 

「良いだろう! 今から門を開ける!」

 

 こうして、巨人の兵士たちことバイス達は、イタリカへと入るのであった。

 




読んでいただき、ありがとうございました。次回もお待ちください。


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戦いの前

お待たせしました。今回は、イタリカ戦の前です。それではどうぞ。


 夕方。バイス達はピニャから、イタリカが武装勢力によって攻撃されていることを知った。彼女から支援を受けたこと、そして本来の目的である翼竜の鱗の売却のために、彼らは協力することになったのだが……。

 

「ピニャ殿下。確か、南門が一度破られているとの事ですが」

「うむ。そのため、4つの門のうち最も脆弱な場所と言えるだろう。そこの防衛を頼みたい」

「……元正規兵だった連中です。殿下の作戦を読んでいる可能性があるかと」

「何?」

「外部の者である私が言うのは何ですが、戦いは教科書通りに起こるとは限りません。盗賊が逃走した経路は?」

「地図を。……大規模の移動をするならば、この道が使えるだろう」

「だとすれば、敵が襲う可能性があるのは……」

「逃走経路から近い東門か!」

 

 バイスとピニャが共に地図を見て作戦会議をしている。その光景に、義勇兵の代表や騎士団団員は訝しげに見ていた。その理由はもちろん、外からやって来た者の癖に色々と口出しをしているからである。

 だが、それを制したのは、ロゥリィだった。

 

「彼らはぁ、戦争が終わっても敵国の残党に悩まされたらしいわよぉ。あの人たちは若いけどぉ、戦いの質の高さは彼らが上かもしれないわぁ。経験者の意見は聞くべきじゃない~?」

 

 戦いの神エムロイの使徒であるロゥリィに言われると、何も言えなかった。

 

「殿下。私の方でも、増援を寄越せないか聞いてみます。許可されればすぐにでも駆けつける事が可能ですが、いかがいたしましょう?」

「ほう、それは頼もしい。ぜひ頼みたい」

 

 この時ピニャは、それはいくら何でも不可能だろうと思っていた。軽い気持ちで支援を許可したのである。

 それが、彼女に大きな影響を与えるとも知らずに。

 

 

 

 

 夜。もしも東門が突破された時の為にと、門の内側にはスカーのラビオットが配置されていた。少しでも隠すために、片膝を地面につく形で待機している。その後方には、ラビオットを通り抜けた盗賊を迎え撃つために市民たちによるバリケードが構築されていた。そこではレレイが魔法で追い風を起こし、テュカたちが矢を放つという算段になっている。

 少しでも体力を回復させるためにと、市民たちはバリケードの向こうに居た。だからこそ、スカーはコクピットハッチを開け、新鮮な息を吸っていた。

 

「お疲れ様ぁ」

「うおっ……ロゥリィさんか。ビックリさせないでくれ」

「うふふ、ごめんなさぁい」

 

 悪びれる様子もなく、ラビオットの片膝に立つロゥリィ。彼女はスカーに問いかけた。

 

「彼女、敵国の皇女よぉ? 何で協力するのかしらぁ?」

「うーむ。ここで彼女を捕らえたりしても、市民から何されるか分からん。盗賊が襲ってくることに変わりは無いからな。とっとと本来の目的も果たしたいし」

「……それだけぇ?」

「……やっぱりお見通しか」

「エムロイは盗みも殺しも否定しない。動機と覚悟を重視するのよぉ」

「なるほどな。実は、現状を知ったことで隊長さんはある事を思い付いたようだ。俺も思ってた事だけどな」

「それは何かしらぁ?」

「せっかく帝国と繋がりの深い人間がいるんだ。このエグザマクスの力を見せて、圧力を掛ける」

「……ふ、ふふっ。あははは! 素敵ねぇ。とっても素敵よぉ! うふふふふ……!」

 

 妖艶な笑みを浮かべるロゥリィ。

 

 その時だった。敵襲を告げる鐘が鳴ったのは。

 




読んでいただき、ありがとうございました。
さぁ、次回はいよいよ……蹂躙です。


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イタリカ防衛戦(前)

お待たせしました。イタリカ防衛戦の始まりです。


 イタリカ東門の壁上。そこでは、市民による義勇兵とバイスたちが攻撃を仕掛けていた。

 

「放てぇ!」

 

 号令とともに壁上から矢が放たれるが、盗賊たちが盾を構えることで防がれる。

 

「盾を上に構えてるやつを狙え!」

 

 バイス、アルバート、エミリーがマシンガンで盗賊たちを攻撃する。弓矢を防ぐのと同じ要領で盾を構えた盗賊たちだったが、その鉛玉は呆気なく盾を貫通した。

 

「ぐぎゃっ!」

「あがぁっ!」

「こ、これはまさか、アルヌスの時の……!」

「ここでも我々の戦いを侮辱するかぁ!」

 

 盗賊たちにとってアルヌスの戦いとは、到底満足のいくものではなかった。一方的に味方が倒れていき、敵のことも教えてくれない帝国を憎み、同じ境遇の者が集まった。

 彼らは謳う。これが戦争なのだ! 相手とぶつかり合い、剣を交え、力と恐怖を見せつけるのが戦争なのだ! これこそがエムロイに捧げるものなのだ!

 

「相手の罵声に乗るな。乗ったら相手の思うツボだ。ノーマ殿!」

「矢を放てぇ!」

 

 上からの矢を防ぐために構えていた盾は貫かれ、密集陣形を取っていた盗賊たちは市民たちの格好の的だった。ノーマの号令と共に矢が降り注ぎ、盗賊は次々と倒れていく。

 だが、それも束の間。市民たちの放った矢が、突如発生した風によって威力を失った。

 

「これは!?」

「精霊使いがいるのか!」

「風を操れるとなるとキツイぞ……」

 

 風を操る相手が居るという事は、自分達の銃の威力も最大まで発揮できないと言うことである。双眼鏡を見ると、一人の女の子が手をかざし、何やらブツブツと唱えているのが見える。

 

「ノーマ殿! 相手の呪文を止めさせれば良いんですよね!?」

「何か策があるのか!?」

「他の人たちに、一瞬だけ目を瞑っていて欲しいんです! 眩しくなります! そのあとにすぐ攻撃を再開してほしいんです!」

「信じてるぞ!」

 

 ノーマが弓や弩を構えている兵士に、少しだけ目をつむるように指示する。最初は疑っていたが、巨人の兵士からの言葉だと伝えると、素直に従った。きっと自分達では思いもつかない事をするだろうと信じていたからである。

 

「アルバート、フラッシュ!」

 

 バイスの命令と共に、アルバートが閃光手榴弾を空へ放り投げる。その瞬間眩い光が放たれ、盗賊たちはそこへ視線が釘付けになる。それはもちろん、風を起こしていた亜人の少女も例外ではない。

 

「今だぁ!」

 

 ノーマの号令と共に、一足早く市民たちが攻撃を再開する。こうして劣勢になりかけた所を立て直すことが出来たが、ノーマはある心配をしていた。

 

(矢が尽きれば……壁を越えられてしまう)

 

 最も恐ろしい、弾切れならぬ矢切れが、刻一刻と迫っていた。

 

 

 

 

 

 アルヌス駐屯地。そこに設けられた滑走路から、戦闘機が飛び立った。5機からなるチームが空を飛ぶ。

 

《各機へ。これより我々は、イタリカへの支援攻撃として先陣を切る! 後続がラクできるように真剣に取り組め!》

 

 この戦闘機は、対地攻撃を想定して組み立てられている。これのオリジナル機は、エグザマクスの支援用として開発された。

 その名も、エグザビークル・エアファイターである。

 

《隊長! どうせならテンション上げて行きましょうや! 俺たちに相応しい曲持ってきてますぜ!》

《ファイター03、許可する! 音楽を流せ!》

《よっしゃあ!》

 

 ファイター03と呼ばれた男が無線をオンにしたまま、音楽を流し始める。

 曲は……『Danger Zone』だ。

 

《突っ走るぜぇ!》

《ヒャッホォウ!》

《ロックンロール!》

《YEAH!》

(やれやれ、コイツらは……)

 

 テンションが上がり声をあげる隊員たちに、隊長はため息をつくのだった。かく言う彼自身もテンションは上がっていたが。

 




読んでいただき、ありがとうございました。次回もお待ちください。


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イタリカ防衛戦(中)

お待たせしました。それでは、どうぞ。


 エアファイター隊が出撃しイタリカに向かっている頃、バイスたちはスカーと連絡を取りつつ、銃撃を繰り返していた。

 

「そろそろ弾が無くなる! お前の方はどうだ!?」

《簡易型ロイロイの組み立て及び弾丸の装填完了! 俺もいつでも行けます!》

「後は向こうが門の方を通ってくれれば……!」

「バイス殿! そろそろ矢が無くなる! 壁を越えられるぞ!」

「なっ!? 壁を越えられるのだけはマズイ!」

 

 ノーマからの報告に、バイスは焦りが生まれる。相手の数は予想通りだが、味方の矢が無くなる早さは予想外だった。もし盗賊が梯子をかければ壁を越えられ、リスクの高い近接戦へと移行してしまう。今バイスたちの持つ近接武器と言えばダガーだけ。ダガーではリーチが短すぎるのだ。

 

「くそ、どうする!?」

《こちらファイター01。第3調査班、応答せよ》

 

 頼りになる声が無線機から聞こえると、バイスは物陰に身を隠しながら、無線機を取る。

 

「こちら第3調査班バイス! イタリカ東門の壁上!」

《3分後、門外の敵勢力に対し、スプリット弾を使用する》

「…………はぁ!? スプリット弾だと!? てめぇ俺たちも巻き添えにするつもりか!?」

《そうなる前に退避しろ!》

「あ、おい! クソッ! お前ら、門内へ退避だ!」

「聞こえてました! スプリット弾ですって!?」

「ノーマさん、みなさん! 私達の仲間が大規模な攻撃をします! 巻き込まれないように避難を!」

 

 様子の変わったバイスたちに、何があったのかと首を傾げそうになる義勇兵だったが、慌ててるような表情と巻き込まれるかも知れないという言葉に、義勇兵たちも大慌てで壁上から退避した。

 

「ハッハッハッ! 奴らめ、中へ逃げたぞ!」

「所詮は臆病者! 続けぇ!」

 

 己の猛攻に敵も逃げ帰ったと嘲笑する盗賊たち。

 だが、これが地獄の始まりであることを、彼らは知らなかった。

 

 

 

 

 

 所変わって、イタリカ付近の空。5機のエアファイターが東門外へと向かっていた。

 

《こちらファイター01。間もなく東門だ。スプリット弾、投下用意!》

「ファイター02了解。投下用意」

 

 機体に収納された小型爆弾が露出する。

 

《ファーストウェーブは俺と02で行く。03、04、05はセカンドウェーブとして対地機銃の用意! 02、投下体勢! カウント3で行くぞ!》

「了解、いつでも行けます!」

 

 東門が段々と近づき、黒煙を確認できた。ファイター02は祈るように呟く。

 

(退避しててくれよ……)

《カウント! 3……2……1……ドロップ!》

「スプリット弾、ドロップ!」

 

 スプリット弾投下のスイッチを押した。

 

 

 

 

 

 それは、さながら巨大な鷲の鳴き声と聞き間違える程だった。ピニャ・コ・ラーダの日記にはそのように記されている。

 キィィィンという音が聞こえたことに違和感を持ち、ふと空を見上げた。

 

 その時、鋼鉄の大鷲が東門の上空を通過した。

 

 何か黒い物を落としたかと思いきや、空中で破裂し何かをばら蒔いた。門の外から聞こえてくるのは、盗賊たちによる断末魔。

 続けて3羽の大鷲が飛んできた。こちらはタタタタという音と共に火の魔法を地面に向けて放つ。

 

「あの大鷲は……魔獣だというのか……?」

 

 義勇兵たちに迎撃の用意をするため指揮を執っていたピニャの動きが止まり、盗賊へ行われている蹂躙を目にする。

 門からノーマや巨人の兵士たちが逃げてきたときは、なぜ逃げるのかと責めたかった。だが今なら分かる。あの大鷲の攻撃は、味方をも巻き込んでしまうのだろう。

 

(帝国は、連合諸王国軍は、何を相手に戦っているのだ……!?)

 

 戦慄するピニャ。しかし、地球連合軍の攻撃はまだ終わっていなかった。

 

「殿下! 巨人が動きます!」

 

 ハミルトンが指をさす方へ目を向けると、バイス達がつれてきた剛腕の巨人が立ち上がった。




読んでくださり、ありがとうございました。次回もお待ちください。


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イタリカ防衛戦(後)

お待たせしました。それでは、どうぞ。


 盗賊たちの地獄は突然始まった。

 いきなり聞こえてきた、キィィィンという音。見上げると羽ばたかない大鷲”が現れ、何かを落としていった。耳をつんざくような轟音に、大半の者が耳を塞いでうずくまった。だからこそ気付かなかった。その大鷲が落とした物が何だったのかを。

 

 ヒュルルルルルルル……バンッ!パラパラパラ!

 

 文字に表すならば、このようになるだろうか。破裂音が気になり空を見上げた瞬間……大量の()()()が降り注いできたのだ。

 

「うわぁぁぁぁ!」

「ぎゃああああ!」

「何だ!? 何が起き……ぐぶぅ!」

「ひぃぃぃ!?」

 

 阿鼻叫喚、地獄絵図。そういった言葉が似合う光景がこれ以上あるだろうか。体を貫かれ、腕や足を千切られ、不運な者は空を見上げた途端に顔面を“鉄の矢”が貫通した。それを間近で見てしまった者は悲鳴をあげる。

 

 これが、エアファイター隊が落とした『スプリット弾』と呼ばれるもの。空中で爆発させ、大量の鉄の矢を降らせて広範囲を攻撃するという凶悪な爆弾である。本来はエグザマクスに乗らない歩兵を攻撃するために開発された、まさに“対人兵器”である。

 この爆弾の欠点は、味方を巻き込む危険性が非常に高いと言う事である。その為、スプリット弾を使用する際は、味方に退避を促すのが常識だ。

 

「ま、また来たぞぉ!」

 

 今度は3羽の大鷲が姿を現す。轟音と共に徐々にこちらへ近付いてきた。

 

「バカめ! 近付いてくるなら射止めてくれる!」

 

 勇敢な弓兵が矢を向けるが、大鷲が突然、タタタタタ!と鳴き声を上げた。弓兵の上半身が吹き飛ぶ。

 

「こ、この音は、アルヌスの火の魔法と同じ!」

「おのれ、おのれおのれおのれぇぇぇ!! 鳥までもが我々の戦いを!」

「頭! 門にいた連中は中に逃げた! 今なら入れる! 中さえ入っちまえばこっちのもんだ!」

「そ、そうか! お前ら、今だ! 突っ込めぇ!」

『『『『ワァァァァ!!』』』』

 

 防衛対象であるイタリカへと突撃する盗賊たち。普通ならば危機感を抱くだろう。しかし……

 

《狙い通りだ》

《よし。残りは後続と第3調査班に任せるぞ》

 

 こうして、エアファイター隊はアルヌスへ帰投した。

 

 

 

 

 門の中へと逃げた盗賊たちであったが、彼らを待ち受けたのは市民ではなく、“死神”だった。

 

「ウフフフフ! アッハハハハ!」

 

 振るわれるハルバート、断末魔を上げることもなく千切れ飛ぶ盗賊の首、ハルバートの持ち主を援護するかのように響く銃声。例えそれを潜り抜けたとしても、義勇兵らによる弓矢と、ピニャ率いる騎士団が、相手の攻撃を許さない。

 

《簡易型ロイロイ、攻撃開始!》

 

 簡易型ロイロイとは、エグザマクスが背負うコンテナに格納された、名前の通り組み立てが簡単なロイロイである。

 簡易型ではあるが、車を簡単に破壊する威力を誇るガトリング砲を搭載。さらに、弾切れになると鹵獲されることを防ぐために自爆するプログラムが入力されている。

 

 スカーが攻撃開始の信号を送ると、簡易型ロイロイは移動を開始。突然現れたクモのような存在に、義勇兵たちは道を開ける。盗賊たちも思わず動きを止めるが、システムだけで動く無人機に慈悲はない。

 

『攻撃開始』

 

 合図と共にロゥリィが高くジャンプ。その瞬間、盗賊たちが蜂の巣にされていった。

 

「うぎゃあぁぁ!」

「がっ、げふっ!」

 

「うっ……」

「オエェ……」

 

 兵士の中には、次々と肉塊に変えられていく光景に耐えきれず嘔吐する者もいた。ピニャたち騎士団は何とか耐えるが、ハミルトンは口を押さえて目を背けてしまう。

 

「はぁ、はぁ、み、認めん……こんな戦いがあってたまるか……」

 

 悪運が強いと言うべきか。盗賊の頭領が息絶え絶えに地面を這いつくばりながら、街の中心へ進もうとする。

 しかし……スカーの乗るラビオットのセンサーが、それを捉えていた。

 

「きょ、巨人……」

 

 単眼の巨人が、こちらを見下ろしている。ゆっくりと片足を上げ始めた。

 

「なぜだ……なぜだエムロイよ! こんなのは戦いではない! 我々は貴方に讃歌を捧げるために戦ってきたというのに! なぜだぁぁぁぁぁ!!」

 

 その瞬間、頭領は踏み潰された。踏み潰した存在を気にも留めないかのように、ライフルを構えて残りの盗賊たちに発砲した。

 

「巨人だぁぁ!」

「そ、外だ! 外へ逃げろ! もう大鷲は居ないはずだ!」

「死にたくねぇ! 死にたくねぇよぉ!」

 

 武器も捨てて、情けない声を上げながら外へと逃げようとする盗賊たち。だが、地球連合軍は彼らに更に絶望を与える。

 

「えっ……」

「そんな……巨人……」

「あ、あはは……あはははは……」

 

 空から降りてくる巨人たち。彼らもまた、第3調査班からの支援を受けた、エアファイター隊の後続である。使用機体は、背中にブースターを搭載したアルトとポルタ・ノヴァ。各2機ずつ現れた巨人に、盗賊たちはとうとう逃げることも諦めた。戦意が完全に喪失した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 更に現れた巨人たち。逃げ場を塞ぐように現れ、盗賊たちを降伏させた存在に、ピニャは戦慄していた。

 

「ば、化け物……」

 

 ハミルトンが呟く。

 

「鋼鉄の大鷲、鋼鉄の巨人、鋼鉄の大蜘蛛……これは神の軍勢なのか……?」

 

 お前たちの栄光など、一時のものに過ぎん。貴様らなど、この手で簡単に砕けるのだ! ピニャには、そのように聞こえた。

 

 




読んでいただき、ありがとうございました。次回もお待ちください。


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戦後処理

お待たせしました。今回は戦闘というよりは、タイトル通りの戦後処理です。それでは、どうぞ。


 土煙を上げながら、イタリカへの道を進む集団があった。

 

「ボーゼス、早すぎだって!」

「殿下からの救援なのよ! 急がないといけないのはパナシュも分かってるでしょう!?」

「だからって飛ばしすぎだ! 馬がもたない!」

 

 ボーゼスと呼ばれた金髪の女性を、短髪の女性が引き留める。

 彼女たちは、ピニャの率いる騎士団“薔薇騎士団”の団員である。盗賊がイタリカに攻撃をしているため増援が欲しいと連絡があり、一刻も早く助太刀すべく、馬を走らせていたのだ。

 

「もう少し冷静になれ。熱くなりすぎるのは、君の欠点だ」

「うっ……」

「もうすぐイタリカだ。焦りすぎて一人で突っ込もうとするな。見ろ、他の奴等をかなり引き離してるだろ」

「……ごめんなさい」

「姫様を思う気持ちは、私たちも一緒だからな」

「えぇ。ありがとう、パナシュ」

 

 その後何とか息を整えつつ、イタリカへと到着した。

 

「良かった……。街は無事みたいね」

「あぁ。早く姫様に会わないと」

 

 門番にピニャ・コ・ラーダの要請を受けた者だと伝え、街の中を通る。しかし彼女たちの目に映ったのは、驚くべき光景だった。

 

「なっ……!」

「巨人だと……!」

 

 単眼で剛腕の巨人が、怪力の大男が10人いても持ち上げるのが困難であろう巨大な木材を、両脇に何本も抱えて歩いているのだ。イタリカの住人たちは巨人に怯えて逃げ惑うどころか、運んで欲しい場所まで道案内をしている。

 なお、この巨人はスカーの操るラビオットである。

 

「何が、何がイタリカに起きてるの?」

 

 戦いによって壊れたであろう建物を直している巨人たち(後続のアルトやポルタ・ノヴァ)に怯えながら、ボーゼス一行はピニャの待つ伯爵邸へ足を運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 時間は、盗賊を降伏させてその後処理をしていた所まで遡る。

 今回の戦いは、完全に“巨人の兵士たち”のお陰であった。盗賊が攻めてくる場所の予測から迎撃まで、全てにおいて貢献したと言っても良いだろう。義勇兵の中から少数の死者が出てしまったものの、盗賊たちの死者と比べれば圧倒的に少ない。そのお陰もあって、イタリカの市民たちは感謝を“巨人の兵士たち”に捧げている。勝者の権利は彼らのものと言っても過言ではないだろう。

 ピニャは、今いる“巨人の兵士たち”の中で最も偉い立場にいる者と、今回の戦いについて交渉をしていた。その偉い者とは、後続のポルタ・ノヴァに搭乗していた、ミカエルである。機体から降りるところは見られていないため、ピニャからすれば「このような兵士はいたかな?」という程度の認識であった。

 

「イタリカ復興のために労働力が必要だという意見は、了解しました。こちら側の要求としては、情報収集のために数名を選出したい事と、捕虜は人道的に扱ってほしいという事です」

「ジンドウテキ、とは?」

 

 この時ミカエルは、この世界での捕虜の扱いは虐待なのだろうと察した。

 

「人道的とは、捕虜に対して虐待を行わないことです。市民と平等にとまでは言いませんが、明らかな過酷労働などが、虐待に当たると考えていただければ良いかと」

「ふむ……承知した」

 

 今まで「捕虜に対しては虐待が当たり前」という価値観であったピニャたちは、随分と変わった要求をするなと思った。

 

「あともう1つは、要求と言うよりはお願いと言いますか……」

「お願い?」

「今回の戦闘で破損した防壁や建物の修復を、お手伝いできないかなと」

「…………は?」

「捕虜という労働力は確保できたかもしれませんが、中には高所など危険の多い作業もあるかもしれません。そこだけでも良いのでお手伝いできないかと」

「そ、そうか……」

「それに、他の隊員からお聞きしましたが、殿下の率いる騎士団がまだ到着していないとか。帰路の途中で我々と団員が衝突して協定破りになっては、たまったものじゃありません」

「っ!」

 

 ピニャは失念していた。増援を要請したは良いものの、“巨人の兵士たち”によって戦いが終わったことをまだ伝えていなかったのだ。恐らくボーゼス達は既に出発し、馬を走らせているだろう。もし彼らを帰らせたら、事情を知らないボーゼス達と衝突しかねない。そうなれば、協定を破ったとして彼らが報復してくる可能性が大いにあるのだ。

 

「分かった。団員が到着したら、妾の方から説明しよう」

「感謝します」

 

 その後、関税の件なども話し合うのだが、ファルマートの常識では明らかに勝者の権利を捨ててるような内容であったため、ピニャ達を内心驚かせたのは余談である。




読んでいただき、ありがとうございました。ボーゼスとのトラブルを入れちゃうと原作そのままで面白くなさそうなので、この作品ではトラブル無しにします。
それでは、次回もお待ちください。


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歴史の第一歩

お待たせしました。どこかでタイミング見計らって、ジム(寒冷地仕様)とジム・スナイパーのプラモを組み立てないとなぁと、そう考えてる今日この頃です。


 フォルマル伯爵家の屋敷へと到着したボーゼス一行。彼女らを出迎えたのは、ピニャであった。

 

「殿下!」

「よく来たな、ボーゼス」

 

 ボーゼスの声は、ピニャが無事である喜びと、説明を求めるようなヒステリックな物であった。

 

「殿下! あの巨人は何ですか! それに街中を歩く者たちは……!」

「落ち着けボーゼス、聞いてくるだろうと思っていたさ。詳しくは茶でも飲みながら話すとしよう」

 

 伯爵家に仕える近くのメイドに目配せをすると、メイドは一礼をしてお茶を淹れに行った。

 そして応接室にて、ピニャは“巨人の兵士たち”について説明した。

 

「では、あの者たちが盗賊を?」

「そうだ。数が少ないにも関わらず勝利してみせた。イタリカの住人たちは彼らを信用している」

「ですが、未だに信じられません。巨人を従えるなど……」

「貴様は、私が嘘をついていると?」

「い、いえ! そんな事は!」

 

 ピニャはお茶を飲み干し、カップを置く。

 

「ボーゼス。あの者たちは、アルヌスからやって来たと言う」

「っ! ならば彼等は敵ではないですか!」

「そうだ。だが私は思うのだ。帝国は何を相手にしているのだろうか? 幾度の戦いに帝国は敗れ、諸王国連合も敗れた。

 ボーゼス。父は、皇帝は未だに“巨人の兵士たち”を、少し手強い程度の蛮族としか見ていない。だが私には、彼らが神の軍勢に見えるのだ。

 人間が神に勝てるか? このまま神の軍勢へ戦いを挑めば、人を無駄に死なせてしまう。それはやがて、帝国を衰退へと導くだろう」

(殿下……殿下は何を見たのですか? あそこまで恐れるなんて……)

 

 いつもは気高くあったピニャが、まるで幼子のように怯えているように見える。そこまで怯えさせてしまう“巨人の兵士たち”とは一体何者なのか? ボーゼスは気になった。

 2杯目のお茶を飲み、目を瞑って一息吐く。再び開けたその目は、決意を固めた目だった。

 

「……私は決めたぞ、ボーゼス。私は皇族だ。例え父のように巨大な権力は無くとも、出来る限り帝国の運命を救いたい」

「ま、まさか、殿下……」

 

 

「うむ。アルヌスへ向かう」

 

 

 これが、後に歴史書にその名を刻む、ピニャ・コ・ラーダの活動の始まりであった。

 

 

 

 

 

 薔薇騎士団が到着したとの報告を受けて、第3調査班たちは全員が撤退する事となった。レレイによると、本来の目的であった翼竜の鱗の売却も終えたという。これ以上留まる理由は無いため、アルヌス駐屯地へ帰投することになったのだが……。

 

「どうするんですか、まさか帝国の皇女がアルヌスへ向かいたいなんて……」

「こちら側の情報が向こうに流れたら、何をされるか分かりませんよ」

「司令には報告して、今は指示待ちだが……」

 

 ピニャ達の傍でエミリー、アルバート、バイスの3人が待機していた。と言うのも、帰投するかと隊員たちで話し合っていたタイミングで、ピニャが「あなた方の最高責任者と会談をしたい」と求められたのだ。もしかしたら帝国との戦争を止められるかもしれないと言う相談だった。バイスやミカエルは、あくまで隊員の1人でしかない。ましてや敵国の人間、それも皇族を駐屯地へ入れるなど、簡単に首を縦に振れない。故に司令官からの指示を待っていたのだ。

 

《こちらはアルヌス駐屯地司令、ヴィエラだ》

「第3調査班班長、バイスです」

《先ほど緊急会議を行った結果、大規模集団の立ち入りは許可しないが、少人数での立ち入りは許可する事が決まった》

「で、では……」

《お前たちは、アルヌス駐屯地まで来賓者を護衛せよ。以上だ》

「了解!」

 

 無線が切られる。アルバートとエミリーが不安そうに見つめていた。

 

「姫様たちを駐屯地へお送りしろってさ」

「良いんですか!?」

「上の人たちが話し合って決めたんだ。何か狙いがあるんだろうよ。俺たちは姫様たちの護衛をしろって命令だ。良いな?」

「「了解」」

 

 そして、同じ車内にいるテュカ、レレイ、ロゥリィに頼み込む。

 

「なぁ、エグザマクスに関しては……」

「秘密、だよね」

「大丈夫。秘密はしっかりと守る」

「レレイちゃん、本当に大丈夫ぅ? あれは何だって尋ねられてうっかり本当の事喋らない~?」

「……問題ない」

「おい、今の間は何だ。本当に頼むぞ」

 

 こうして、ピニャと護衛としてボーゼスが、第3調査班と共にアルヌスへ向かうのであった。




読んでいただき、ありがとうございました。次回もお待ちください。


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皇女、アルヌスへ

大変お待たせしました。家の手伝いやらレポートやらをやっていました。それでは、どうぞ。


「殿下、アルヌスです!」

「も、もう着いたというのか? 何という速さ……。それにあの要塞は……」

 

 第3調査班の車両に乗せてもらい、アルヌスへと向かったピニャとボーゼス。車の速度に目を回しつつも、目の前にそびえ立つ要塞に言葉を失う。あの巨大な壁の中に、圧倒的な強さを持つ巨人と兵士たちがいると思うと、自分は敵地にいるのだと改めて実感した。

 

 アルヌス駐屯地は、名前の通りアルヌスの丘に設営された、地球連合軍特地派遣隊の基地である。広大な敷地面積を誇るこの基地は、東西南北で大きく分けられている。

 南側は居住区。アスファルトによる舗装を受けず、コダ村からの難民たちは作物の栽培などを行い、軍からの援助を受けつつも、もとの生活を取り戻しつつあった。また、非番の兵士たちが寝泊まりしている場所でもある。

 北側には司令部がある。各国軍の代表や部隊の幹部等が集まり、支援要請の受諾の決定や作戦執行の指示をする。

 西側は機体整備区画及び格納庫。エグザマクスは「パーツの換装によって様々な環境に対応が可能」という利点を持っている。ここでは、そのパーツの換装が行われている他、全ての兵器の整備も行われている。なお、エアファイターの滑走路も敷設されている。

 そして、東側は演習場。歩兵、戦車、そしてエグザマクスによる戦闘訓練が行われている。また、地球側で開発された試作兵器の実験なども行われている。

 

 ピニャたちが入ってきたのは、東側付近の入口であった。警備員にあらかじめ連絡されていたのか、隊員証を見せるだけで敷地内に入れた。もっとも、車を降りれば、未知の病原菌対策として消毒・殺菌等の処置を施さないといけないのだが。

 

(ここが、巨人の兵士たちの陣地……。どの兵士たちも杖を所持しているのか)

 

 ピニャの目に入ったのは、兵士たちが杖と思われるものを突き出すように構えて、指先で合図すると同時に走ったり、散ったり、建物の陰に隠れるような動きをする。

 ピニャ達の戦い方は、隊列を維持しつつ、敵に向かって「わぁぁぁ」と喚声をあげながら吶喊することである。そのため彼女たちから見れば、「何をやってるのだろう?」と思わせるのだ。

 

「連合軍の兵士たちがみな魔導師だとしたら、あの強さは納得できるものだな」

「高度な教育を受けてると言っても良いでしょう。それならば、巨人たちを従えるのも可能かもしれません」

 

 だが、その考えをレレイは否定した。

 

「違う。彼らが持っているのは武器。ジュウと呼ばれるもの」

「あ、あれが武器!? 誰でも扱えるというのですか!?」

 

 ボーゼスが驚く。正確には、上手く扱えるには訓練が必要なのだが、レレイは敢えて言わなかった。

 なお、銃を使っている事に関しては話しても問題ないと判断し、バイスたちは引き止めなかった。銃に関してバレてはいけないのは、せいぜい構造くらいだ。

 

「鉛の玉を、炸裂の魔法を使って放っている。そして巨人たちも、巨大なジュウを持つことが標準となっている。ジュウは、人間や巨人に関係なく所持することが基準」

「確かに巨人が持つものは形状が似ているが、そう言うことだったのか……」

 

 だが、鉛の玉を筒に入れて飛ばすだけなら、職人たちに作らせればいけるだろうか? ピニャがそう考えたのを読んでか、レレイは言葉を続けた。

 

「彼らの兵器はジュウだけでは無い。イタリカに飛来した大鷲の他に、巨大な象もいる」

「なに?」

 

 レレイが指を指した所には、歩兵が使用する“人間用の戦車”が並んでいた。

 

「あの長い鼻から巨大な玉を放ち、敵を吹き飛ばす。センシャと呼ばれている」

「あ、あれが火を吹くというのですか……」

「そして、あのセンシャは人間が使役するもの。当然ながら……巨人が使役するセンシャもいる」

「っ!」

 

 ゴゴゴゴゴと低い唸り声が聞こえ、ピニャとボーゼスは直ぐに外へ顔を出す。

 

「何だ……あれは……」

 

 先ほどの戦車が子供の象ならば、今目の前にあるものはまさに親の象だろう。

 ちなみに彼女たちが見ているのは、エグザビークル・タンクのことである。

 

(鋼鉄の大鷲に巨象、そして数々の巨人……)

 

 ピニャの目には、演習を終えて整地をしているアルトやシエル・ノヴァ、大量の資材を運ぶラビオット、タンクに乗り込み次の訓練の準備をするポルタ・ノヴァが映っていた。

 なお、ここまでエグザマクスをポンポンと出しているのは、ピニャが訪問することを受けて、少しでも軍事力を見せるためである。

 

「何故だ……何故これほどまでに強力な軍隊が攻めてきたのだ……」

「帝国はグリフォンの、いや、龍の尾を踏んだ」

 

 レレイの声が、やけに大きく響いた。

 




読んでいただき、ありがとうございました。次回の更新は未定ですが、どうかお待ちください。


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会談

お待たせしました。投稿出来るうちに投稿しておきます。


 アルヌス駐屯地司令部の応接室。質素ながらも一目見て腕のいい職人に作られたであろうと分かる調度品に囲まれながら、ピニャとボーゼスはこの基地の司令官が来るのを待っていた。

 すると、ノックと共にドアが開かれた。この時2人は緊張しており、ノックの音が聞こえた途端に反射的に立ち上がった。入ってきたのは金髪碧眼の女性を先頭に、黒髪で鼻が少々低い男、褐色肌で眼鏡を掛けている男など複数の幹部である。

 

「失礼します。この基地の司令をしている、ヴィエラです」

 

 ヴィエラと名乗った女性を皮切りに、他の幹部も自己紹介をする。外で見た兵士とは違い制服であることから、戦闘用と典礼儀式用とで服を使い分けているのだろうとピニャは悟った。だが、彼女が何よりも驚いたのは、軍の最高の立場として女性がいる事である。

 この世界では、未だに女性の立場と言うのは低い。皇女であるピニャも例外ではなく、彼女が騎士団を立ち上げた時も、「子供のお遊び」と周りから嘲笑された事がある。

 

(つまりこの方は、周りから認められるほどの功績を挙げた女性と言うことなのか……)

 

 ヴィエラのことを羨ましく思いつつ、全員が椅子やソファに座り、会談が始まった。

 

 

 

 

 

「成る程。確かに、我々としてもこれ以上の戦闘の継続は、今後の活動に影響を及ぼすでしょう」

「それだけではありません。Gシティに侵攻した帝国軍の兵士を捕虜としてはいますが、今後の扱いが課題になっているとのことです。捕虜をいつまでも持ち続けては、余計な支出になります」

 

 異界の地へ進軍した兵士たちが帰ってこなかった事は、ピニャも聞いていた。そのため捕虜となっていることに少し安堵したが、すぐに「身代金はいくら払うことになるのだろう」と考えていた。ファルマートでは捕虜を返却してもらう際に身代金を払うのが常識なのである。

 

「そ、その、捕虜の中には、家の跡継ぎになる者も居るのです。その者たちだけでも返却してもらいたいのですが……」

「成る程。しかし、それは我々だけでは判断しかねます」

「と、申しますと?」

 

 次の一言が、ピニャとボーゼスを驚愕させた。

 

 

「我々より上の者と各国首脳の判断を頂かないといけません」

 

 

「…………え?」

「我々はあくまで、各国の軍隊を少数集めて、この世界へ派遣されたに過ぎません。各軍の最高司令官と、同じく各国首脳の判断が必要になります」

「待ってください! この軍隊は、様々な国から集まっていると言うことですか!?」

「む? あっ、そう言うことか。はい。地球連合軍とは、軍事同盟を結んだ国々によって成り立っている軍隊です。今回我々がこの世界へ派遣されたのは、貴国の軍隊が同盟国の街を襲撃したことから、派遣に協力するという規約によって、各国から集結して集めたのです」

「何と……」

 

 思わず立ち上がって質問したボーゼスはヘナヘナと座り込み、ピニャは顔を両手で覆って天井を仰ぐ。

 この軍隊は、まだ全ての戦力を集結させていないのだ。しかも異界の国々が集まって出来ているのだと言う。

 その理由は、同盟国が襲撃された事。よく考えれば当たり前だ。同盟相手が攻撃を受ければ、他国は報復することに協力するだろう。

 諸王国連合のように他国の軍を集めたとしても、驚異になるからと切り捨てるか否かで、ここまでの差が出ていたのだ。

 

 魔導師の少女は、先程「帝国は龍の尾を踏んだ」と言っていた。その通りだ。帝国は、一国を攻撃したことによって異界の国々全てを相手にしなくてはならなくなった。これでは、負けるのも必然となるだろう。

 

(何としても、何としてでもこの戦いを終わらせなくては! それも早急に!)

 

 ピニャは、より講和への思いを強くした。




読んでいただき、ありがとうございました。次回もお待ちください。


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講和へ向かうために

お待たせしました。今回は、地球連合軍加盟国どうしの会議の様子です。それではどうぞ。


 地球連合軍総司令部。そこの会議室において、加盟国の首相と連合軍支部の司令官が集まり、緊急会議を開いていた。

 

「さて、諸君。もう一度話を整理しよう。特地派遣隊の報告によると、我々が相手をしている帝国の皇女が、派遣隊と接触した。内容は、講和の動きを進めたいと言うものだ。皇女は帝国皇帝に、戦闘を止めるように呼び掛けると言っている。条件……と言うよりは彼女が頼み込んだ内容は、こちらの世界で捕虜とした帝国兵士の返還となっている」

「しかし、何でまた講和の姿勢を取り始めたのでしょうか?」

「ある小隊が、交易都市防衛の依頼を受けたらしい。その依頼主が件の皇女さまという訳だ」

「なるほど。エグザマクスの戦闘を見て、軍事力を察したと言うことか。少しでも国家を存続させようと早めに動く辺り、なかなか有能なんじゃないか?」

 

 一部がピニャの動きを称賛する一方、本題である『捕虜を返還するか否か』については、難しいと唸る者もいた。

 

「捕虜の返還については、私の方は賛成です。一部の国民に至っては、いつまで異世界の侵略者をここに居させる気だと、過激な思想を持つ者たちが集会を開く始末です」

「彼らへの食事や衣服の支出も無視できない。それに、あまり長い間捕虜にさせ続ければ、返還した際に『我々は侮辱された』と、あらぬ事を帝国に言いふらされるかも。早めに返還すべきです」

「だがなぁ……。皇帝がこれを受け入れずに、徹底抗戦の姿勢を取る可能性もある。早く返還したら、向こうの兵力を増やすことになるんじゃないか?」

「だからと言って『返還しない』なんて言葉を送ってみろ。それこそ、相手に抗戦の姿勢を取らせてしまうぞ!」

 

 解決が難しい問題に、全員が頭を抱える。

 そんな中、一人の首相が手を挙げた。

 

「発言よろしいでしょうか? 『返還するのは難しいが、皇帝が講和の姿勢を取ったと言質が取れれば、すぐに返還出来るように用意する』とお伝えするのはどうでしょう」

「ふむ……。確かにこの言い方なら、『返還しない』とは言っていないな」

「だが、言質を取るのはどうやって?」

「派遣隊員の護衛のもと、外交員を向かわせては如何でしょう。会話の様子を録音してもらい、それで判断するとなれば……」

 

 問題は、どの国の外交員を向かわせるかだ。どこか1国のみとなれば、その国に「帝国との講和を結びつけた」という功績がつくのだ。その功績を巡っての争いなど、あまりにも無意味すぎる。かといって、加盟国全ての外交員を向かわせるのも、護衛を大量に用意せねばならず、それが相手に「武装勢力による威圧を受けた」と受け取られかねない。

 

「俺としては、被害を最初に受けたN国が良いと思っている」

「私も同意見です」

「直接被害を受けた国からの訴えとあれば、向こうも知らぬ存ぜぬは出来ないでしょうな」

「わ、私の国ですか!?」

「N国首相。ここは一度、ガツンと相手に言ってやるべきです。ここで尻込みしたら、相手はますます調子に乗るかもしれませんよ」

 

 周りのがN国を推す中、N国首相と軍幹部は小声で話し合う。

 

「…………分かりました。我が国が責任を持って、優秀な外交員を派遣しましょう」

「よく言った!」

「我々も、護衛に相応しい隊員を派遣するように指示しよう」

「例の捕虜たちについては、収容施設にリストがある。そのコピーを渡してから、向こうの出方を様子見だ」

 

 こうして、帝国との交渉が纏まりつつあったが、別の問題を口にした瞬間、また表情が険しくなる。

 

「ところで、非加盟国のうちブラックリストに載っている国家の方はどうなっている?」

「それは私の方から説明します。調査によると、一部の国では軍需工場や造船所などが稼働状態にあるとの判断が出ています」

「中には、軍事力拡大を公表する国もある。『異世界からの侵略者から自国を守るため』だとさ」

「ですが、そう言う名目で我々に対抗するべく、兵器を蓄えている可能性も否定できません」

「N国では非加盟国からのスパイがないか、徹底して調査、警備を進めています」

 

 未だに残る課題に、全員がため息をつく。

 

「眼前の帝国、背後の非加盟国、敵に囲まれるのは精神的にキツイな」

 

 誰かの言葉に、全員頷いた。




読んでいただき、ありがとうございました。次回もお待ちください。


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キケロ卿との会談

お待たせしました。今回はタイトル通りのお話です。


 帝都にあるピニャの館にて、1人の男が、館の主より先に軽い朝食を取っていた。沐浴を終え身だしなみを整えたピニャがやってくると、外交員としての営業スマイルで挨拶をする。

 

「おはようございます、殿下」

「おはよう、ニイジマ殿。相変わらず早いな」

(貴女が遅すぎるんだ……とは言えないなぁ)

 

 ニイジマと呼ばれた男は、特地へ派遣されたN国の外交員である。地球連合軍加盟国の各首相及び軍幹部からの指名を受け、若干胃を痛くしながらの派遣であった。

 ピニャとの会談の後、捕虜の返還リストと連合軍総司令部の言葉を伝えた結果、「ならば、他の議員も講和へ方向性を変えてもらおう」という考えがあったのだ。

 

「今日はキケロ卿の所で午餐、デュシー家の晩餐と食事続きだ」

「なるほど。だから、粥や果物といった胃への負担が軽い食事なんですね」

「……ニイジマ殿、厚かましいお願いかもしれないが……」

「何でしょう?」

「そちら側に、胃痛に効く薬はあるか? 貴族の交流会というのは、胃との戦いでもあるんだ……」

「お気持ち、よく分かります。飲みやすくて効果のある物を用意しときますよ」

「助かる」

 

 この会話の様子を見ていたハミルトンは後に、「姫殿下もニイジマ殿も、遠い目をしていました」と語った。

 

 

 

 

 

 今回の会談相手であるキケロ・ラー・マルトゥスは、主戦派(武力をもって蛮族を撃退すべしと言う考えを持つ派閥)ではあるが、その中でも話の通じやすい男であった。貴族の末席ではあるが、優れた弁舌と政治力によって重鎮を担うという実力者でもある。

 沢山の種類と量のあるご馳走を少量ずつ食べながらも、ピニャとニイジマはキケロ卿へと近づく。

 

「キケロ卿、紹介したい方がいる。こちらは、とある異国にて外交を担当する、ニイジマ閣下だ」

 

 打ち合わせ通り、ニイジマを格上げするピニャ。互いに「はじめまして」と挨拶をする。

 

「とある異国、ですか。どのような国なのかお聞かせいただいても宜しいかな?」

「はい、喜んで。最も、私のいる所は複数の国家が集まっておりまして。私の故郷はその内の一国であります」

 

 キケロは内心、「小さな国が集まっただけの国か」と嗤った。

 

「と言うことは、様々な特色があるのでしょうなぁ」

「えぇ。森のある国、砂漠がありながらも栄えている国、独特な技術を持つ国など多様です」

 

 なるほど、思ったよりも集まった数は多いようだ。だがニイジマの挙げた物の多くは景色だ。それ以外の特色が見られない。まだキケロは彼を下に見ている。

 だがピニャは、「もうやられていますよ」と心の中で忠告する。

 

「失礼ながら、その国々の特産品などをご用意しました。どうぞ御覧ください」

 

 指をパチンと鳴らすと、護衛として来ていた隊員が、ピニャの従者の手を借りつつ箱を運搬する。

 

 キケロ夫妻の顔が、段々と驚愕に染まっていく。砂漠の国が保有する鉱山で採れた純度の高い宝石、独自の技術を持つ国の、見た者に溜め息をつかせるほどの美しさを持つ装飾刀、リアルに作られたアロワナの模型など、“この世界”での高級品を披露する。更に、精巧に作られた万年筆や、安くそして高品質な紙などの文具も実演した。

 

「いやいや、これはたまげた……。ニイジマ殿、侮ってすまなかった。ただの小国の集まりかと思っていたが、どの国も素晴らしい技術をお持ちだ」

 

 だが、キケロはまだ勘違いをしている。地球連合軍の加盟国には小国だけではなく大国も居るのだ。

 

「しかしながら、これ程の物を作り上げられる国なぞ、私は聞いたこともない。ニイジマ殿、あなたの国は本当にこの大陸にあるのかね?」

 

 ピニャとニイジマは顔を見合わせ、互いに頷いた。

 

「いいえ。私の国は、いえ我々は、『門』の向こうから来た者です」

 

 

 

 

 

 それからキケロは、相手の強大さを思い知ることになる。先程ニイジマが言った「複数の国家が集まった」というのは、いわゆる連合軍である事に体が震え、何故この世界にやって来たのかを告げられた時には更に顔が青ざめた。

 

(1つの国を攻められ、その報復で数多の国の軍が集結するとは……!)

 

 帝国の兵力は強大で、『門』の向こうの世界へ攻める前までは、我が国は無敵と言っても過言ではなかった。しかし異世界全てが相手となると、いかに帝国と言えども勝てるかどうか分からない。

 

「誤解をしないでいただきたいのは、我々は侵攻を指示した最高責任者に、謝罪と賠償をしてもらいたいと言う事です。侵略ではありません」

「……つまり、皇帝陛下に頭を下げてもらいたいと?」

「そう言うことになります。私の故郷にある都市は、帝国による攻撃を受けました。防衛戦にあたった兵士の中には死亡した者もおり、その遺族は生活に苦しんでいます。その事に対して謝罪と賠償をしてもらいたいのです」

 

 帝国は、自らが侵攻しておきながら、反撃してきた連合軍を「異世界からの侵略者」と偽って連合諸王国軍を結成した。そのように宣言したのは皇帝であり、キケロもその席にいた。もしここで「攻撃してきたのはそっちじゃないか」と言おうものなら、相手はこの席を離れ、強力な軍隊を送ってくるだろう。

 

(これが報いか……)

 

 キケロは胃がキリキリと痛みそうになるのを堪え、どのようにして帝国の不利益を減らし相手に納得してもらえるかを考えていた。ここでニイジマは、切り札を出してきた。

 

「なお、もし皇帝から講和に対する姿勢が見られた場合、こちらで捕虜となっている兵士を返還しようと考えております」

「そう、なのか?」

「はい。そして、その捕虜の名簿の中に、キケロ卿と関わりのありそうな方が居ることを確認しました」

 

 捕虜のリストを開き、そこに記されている名前を指さす。そこに視線を追った瞬間、キケロは声をあげた。

 

「何と! 甥が、甥が生きているのか!?」

「はい。我々の世界では、捕虜に対する拷問は禁止されています。こちらでの言葉を学習するためにいくつか質問すると言うことはしましたが、食事も与え、健康な状態で生活させています」

「あらまぁ! うぅん……」

 

 キケロの妻は嬉しさのあまり気を失ってしまった。キケロ本人も手が震える。そこへ更に追い打ちをかける。

 

「こちらでは、捕虜の返還に対して身代金を払うというのが常識だそうですが、こちらでは身代金の支払いは必要ありません」

「ほ、本当に払わなくて良いのか……?」

「はい。ピニャ殿下の御足労が代金となりましょうか」

 

 キケロはすぐに考えを巡らせる。確かに捕虜となった兵士たちを無償で返してくれるのは嬉しい。だが、それだと皇女1人では割に合わない。

 

(皇帝陛下が頭を下げ賠償金を払うことで、軍隊が去り捕虜まで帰ってくるなら……。それに他の主戦派議員の家族にも、捕虜となって帰ってきていない者がいたはず……)

 

 自分がどう動くべきか、キケロは決心した。




読んでいただき、ありがとうございました。次回をお待ちください。


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テュカの心境

お待たせしました。今回は、炎龍編でも重要であろうテュカについてです。この小説では炎龍は既に倒されてるので、別の方法で彼女を救おうと思います。


 アルヌス駐屯地。そこにある大きな食堂にて、第3調査班の隊員たちが話をしていた。

 

「え? テュカの元気が無い?」

「はい。食事や衣服、布団などを申請するときに2人分注文しそうになって慌てて訂正したり、時々通用門の方をボーッと眺めていたりしていて……」

 

 エミリーからの報告に、バイスは腕を組んで唸る。テュカは、炎龍によって焼き滅ぼされた村の、唯一の生存者である。彼女を救助したのもバイス達であったため、気にかけていたのだ。

 

「うーむ……。まだ炎龍によるトラウマが残ってるのかなぁ……」

「その可能性はあるかと。恐らく、家族を……」

「そう簡単に吹っ切れないよなぁ……」

 

 恐らくテュカは、家族の死をまだ受け入れられないのかもしれない。かといって下手な慰め方をすれば、かえって彼女を苦しめることになる。最悪の場合、心を壊してしまうかもしれない。

 

「……彼女に頼んでみるか」

「彼女?」

「ベルカだよ。心理カウンセラーの」

「あぁ、男性兵士の間で人気の、あの人ですか」

「入隊したての時に、合同演習で一緒になったことがあるんだ。彼女なら、きっと……」

 

 バイスには確信があった。似たような過去を持つベルカならば、テュカの苦しみを受け止められると。

 

 

 

 

 

「失礼しまーす……」

「いらっしゃい、テュカちゃん」

 

 白い布に赤十字のマークの旗がある建物へとやって来たテュカ。そこには、まさにボンッ・キュッ・ボンッ!な褐色の女性がいた。彼女が、カウンセラーのベルカである。

 

「バイス君から聞いたわ。悩みがあるみたいだって」

「は、はい……」

 

 昨夜、酒場でバイスに「悩みがあるなら、話を聞いてくれる人がいる」と紹介してくれた。心配されてるなとは思っていたが、まさか専門家を紹介されるとは思わなかった。

 

「ちょっと待っててね。他の人が入ってこないようにするから」

 

 ベルカがそう言うと、ドアノブに掛けられていた小さな看板を裏返した。それには日本語と特地の言葉で『入室禁止』と書かれている。

 

「ねぇ、テュカちゃん。今あなたが思ってることを、教えてくれない?」

「え?」

「私は、初めは相手の話を聞くことから始めているの。カウンセラーの仕事は悩みを聞くことだからね」

 

 好きなタイミングで話して良いわよと告げると、そこから部屋は静かになった。時計の針の音だけが大きく聞こえる。

 

 少しした後、テュカはポツリポツリと話し始めた。夢の中で、幼馴染や父が炎龍に食い殺されるのを思い出すこと。炎龍が殺されたとは分かっていても、まだ吹っ切れないこと。実は今見ているのは幻覚で、本当はみんな生きているのでは無いかと思うことがある。だけれども、1日が過ぎる度に現実だと知り、気分が落ち込むことがあるとも語った。

 思っていることを話していく内に、テュカの目からは大粒の涙がポロポロと溢れていた。支給されて履いているジーンズに染みを作っていく。

 

「私だけお父さんの事を引き摺ってて……! でも忘れられなくて……! みんな頑張ってるのに私だけ……!」

 

 ベルカは相槌を打ち、話を聞いていた。それでもテュカから目を離さなかった。

 テュカがとうとう大声を上げて泣き出すと、ベルカはそっと彼女を抱き締めた。そして、自分の過去を語った。

 

 

 

 

 

 

 

 テュカちゃん。私もね、本当の家族が居ないの。捨てられた訳じゃないのよ? お父さんの顔は覚えてる。お母さんは私を産んだ後に死んじゃって、お父さんが男手1つで育ててくれたの。

 

 だけどね、私のいた村の近くで戦争が始まると、戦火に巻き込まれない為に避難するって話になったの。ちょうど、コダ村の人たちみたいにね。

 

 お父さんは近所の人に頼んで、私を先に避難させたの。先に女の人や老人、子供を先に逃がすんだって。「必ずお父さんも来るからな」って言って、約束してくれたわ。

 

 ……だけど、お父さんは帰ってこなかった。難民を受け入れてくれる国までの道のりは遠くて、私も何ヵ月も掛けてようやく避難できた。お父さんもまだ遅れているんだって、そう自分に言い聞かせてた。

 

 それからしばらくして、お父さんの知り合いが私の元に来た。そして、言われたの。

 

 「君のお父さんは死んだ」って。

 

 避難している道中に虫が媒介する熱病に冒されて、それで死んだって。死体を持ち歩く訳にもいかないから、その場で火葬したって言われたわ。

 

 最初は凄く混乱したわ。嘘だ嘘だって泣き叫びながらその人を叩いて、食器とかを投げつけようとしたくらいだったもの。

 

 それからは、テュカちゃんと同じ。お父さんは生きてると思って通用門に立って帰りを待ち続けたり、いつでも帰ってこれるようにお父さんの布団を綺麗にしたり……。でも帰ってこなくて、現実を知らされたわ。

 

 

 

 

 

「テュカちゃん。貴方は悪くないわ。お父さんの事を思っていて良いの」

「良い、の……?」

「そうよ。家族の事を忘れない、素晴らしいエルフだと思うわ! 私が保証する!」

「ベルカさん……」

 

 その後、紅茶や菓子を口にして気分を落ち着かせた後、ベルカからリラックス効果のあるアロマを渡され、相談室を後にした。「もしまた悩みができたら、いつでもいらっしゃい」という言葉を聞きながら。

 その日の夜から、テュカは悪夢を見ることが無くなった。

 

 数日後。テュカは目を覚ますと、出来たばかりの“日課”をこなす。

 窓辺に置いた、小さな植木鉢。そこには小さな黄色い花が咲いていた。たまたま駐屯地の近くで咲いていたのを持ってきた花に水をやる。

 水やりを終え、朝食も終えると、動きやすい服に着替える。今日は共同で作った畑の草むしりの日だ。靴を履き、玄関のドアノブに手をかけると、振り返って大きな声で言う。

 

「行ってきます!」

 

 ドアを開け、外へと出ていった。小さな花が、それに応えるように揺れた。




読んでいただき、ありがとうございました。次回もお待ちください。


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パーティーという名の会談

大変長らくお待たせしました。どのような展開にさせるか悩みを引きずってました。


 アルヌス駐屯地司令室。派遣隊員を仕切る司令官たちが、今日も話し合っている。

 

「議員たちへの根回しはどうなっている?」

「今のところは順調です。妨害も起きていないそうです」

「ここまで交渉に関してアクシデント無し、か……。何か不気味だな」

「時間も考えると、もうそろそろでしょうか?」

「うむ。主戦派が何らかの妨害をしてくるだろう」

 

 キケロ卿をうまく丸め込んだ後、ニイジマは彼から忠告を受けた。

 

――徹底抗戦を唱える議員が多い。今はまだ大丈夫かもしれないが、どこかであなた方の動きを嗅ぎ付け、兵隊を引き連れて来る者が現れるかもしれない。

 

 ニイジマはすぐにこの事を司令部へ報告した。その結果、上層部は主戦派の動きをより一層警戒する方針を決めた。

 極端な話だが、元から講和派の議員や、主戦派から講和派へ鞍替えした議員を「帝国に反する者」として、粛清しようと動きかねない。会談の席で兵隊を差し向けられれば、例え優秀な訓練を積んだ連合軍兵士であっても、数の暴力に押し潰されるだろう。そうなれば外交員ニイジマの命も危ないのだ。

 

「何としても、それだけは避けないとな」

「もし向こうが攻撃してくれば、帝都に侵入している部隊が報復を行えます。主に迫撃砲で」

「逞しいな。さすが『ラーテル隊』だ」

 

 何かあったときの為に、帝都には既に小隊を派遣している。どうやら悪所を治めている組織の1つと戦いになったと報告があったが、今は撃退に成功し、悪所での娼婦たちから信頼を得たようだ。今は情報収集に務めていると聞いている。

 

「今回のパーティーは、我々の武器の威力を披露するんだったか?」

「はい。エグザマクスの披露をという意見もありましたが、それは彼らにとって劇薬になりかねません。まずは携行武器の紹介からです」

「なるほどな」

 

 会談が上手くいくことを祈りつつ、煙草を灰皿に押し付けた。

 

 

 

 

 

 

 その頃パーティー会場では、ピニャとニイジマに招待された貴族たちが料理に舌鼓をうっていたり、異世界での文化や遊び、テーブルゲームなどを楽しんでいた。子供たちは異世界の甘味に感激し、貴婦人は世界で作られるファッションを知りどうにか再現できないかと悩む。そして当主たちはというと……。

 

「こちらのリストです」

「お、おぉ……! 確かに儂の弟の名前だ! 生きてた! 生きていた……!」

「私の娘が、婚約者が戦死したと悲しみに暮れておったのだ……。生きていたと聞けば元気になるだろう!」

 

 捕虜のリストのコピーを見せ、各国の首脳の言葉を伝える。余談だが、なぜ原本ではなくコピーなのかというと、捕虜のリストを戦死者リストへと改竄されるのを防ぐためである。もし改竄されれば「異世界で戦死した兵士に報いるため」と言いがかりをつけられ、戦況が長期化する恐れがあるからだ。

 話を戻そう。主戦派の議員たちは、まさか相手をしているのが一国ではなく複数の国であった事に驚き、たちまち帝国に勝ち目はないと考え始めた。中には当然疑う者もいたが、捕虜のリストの作成とその持ち込みの許可をした印として、地球連合軍総司令部の印が押されているのを見ると、口を閉ざした。

 

「では、こちらへご案内します」

 

 兵士の一人が、メインである携行武器の紹介の舞台へと、議員を案内した。




読んでいただき、ありがとうございました。30mmの公式サイトのラインナップを見ると、エグザビークルに潜水艦みたいなものが追加されていたりと、カスタマイズの幅が広がりそうですね。
それでは、次回もお待ちください。


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乱入者と予兆

お待たせしました、いよいよ、作者も嫌いなアイツが登場です。


 パーティーに出席していた貴族たちを、会場から離れた空き地に招待した。彼らの目の前には金網があり、その向こうには地球連合軍の兵士が数人立っている。

 

「これより、我々の携行武器の射撃展示を行います。大きな音が鳴りますのでご了承下さい。まずは小銃からです」

 

「総員、構え!」

 

 何も武器名を正式に紹介する必要はない。彼らに売却するつもりはないのだから。金網の向こうにいる小隊長が号令をかけると、兵士全員が小銃を的に向けて構える。

 

「撃てぇっ!」

 

 銃声が響く。その音に驚いた貴族は、ビクッと肩が上がったり、目をつむったり、耳を塞ぐ者が殆んどだった。銃声が鳴り止んでから的を見ると、見事に中央が撃ち抜かれている。

 

「な、なんと……」

「かなりの距離があるぞ……」

 

「連射! 始め!」

 

 再び号令が掛けられると、連射モードになった小銃から、パパパパと音が響く。的は瞬く間にズタズタにされた。その光景を見た貴族たちは、自分の兵士たちが蜂の巣にされる光景を想像してしまう。

 

「次に……」

 

 すると、胸につけていた無線機から報告があった。パーティー会場付近には、主戦派が来た場合に備えて、スカベンジャー隊を警備につかせている。

 

『こちらスカベンジャー1。お呼びでない集団がおいでだ』

「了解。到達予定時間は?」

『馬で来ているな。あと10分』

「余裕だな。すぐに避難させる」

 

 通信を切ると、兵士たちにハンドサインで、内容を伝える。

 

「皆さん、申し訳ありません。予定外のお客がありましたので、この場を離れます。我々が誘導しますので、どうぞこちらへ」

「う、うむ。分かった」

「まさか主戦派が……」

「嗅ぎ付けてきおったか……」

 

 貴族たちは、用意された車に乗り込み、帝都まで急いで戻ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 その頃パーティー会場では、乱入者がいた。その筆頭の名は、ゾルザル・エル・カエサル。ピニャの腹違いの兄である。

 

「これは兄上。どうなさいましたか?」

「ピニャか。何だこれは?」

「女性同士の友好の茶会です。今回は子供たちも混ぜての会ですので、料理なども用意してあるのですよ」

「ふむ……」

 

 ゾルザルがここに来た理由は、自分の側近から、「議員の何名かがアルヌスの敵と講和をしようとしている」という話を聞き付けたからだ。彼からすれば、臆病風に吹かれた裏切り者として許せなかった。故に自らが裁こうと、自分の兵を連れてやって来たのである。

 だが目の前にある光景は、貴族の女性や子供たちが和気あいあいと談笑している光景。とても極秘の会談をするような雰囲気には思えない。

 ちなみに、会場にいた兵士やニイジマも、すぐに席を離れた。ピニャには乱入者の存在も伝えてあるため、彼女はさらっと嘘を言えている。

 

(マルクスめ、早とちりしたな)

 

 すっかり毒気を抜かれたゾルザルは心の中で舌打ちしつつ、ピニャからパーティーの様々な料理を紹介され、舌鼓を打った。

 なお、料理を気に入ったゾルザル一行が、アイスクリームや肉料理などを殆んど持っていき、子供たちから不評を買ったのは完全な余談である。

 

 

 

 

 

 

 夜、帝都の悪所。そこにある地球連合軍部隊「ラーテル隊」の拠点に、来訪者が現れた。

 

「どうしましたか?」

 

 部隊の紅一点であり衛生兵のリズがドアを開けると、背中に白い翼を持つ女性ミザリィが、他の娼婦仲間である亜人たちを連れていた。

 

「話があるんだ」

 

 彼女たちの顔は、不安に満ちたものだった。

 




あと数話投稿したら、メインであるエグザマクスも登場させようかと考えています。
読んでいただき、ありがとうございました。次回もお待ちください。


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地震発生

タイトル通りです。読者さまの中には、過去の様々な震災で、地震がトラウマになっている方もいると思います。そのような方は読むのを止めてください。
かく言う私も、2011年3月の東日本大震災が起きた時、揺れの強い地域にいました。あの時の衝撃は忘れられません。避難訓練で想定していた事が、実際に学校にいる時に起こるとは思いもしませんでした。

長話になりました。それでは、どうぞ。


 ミザリィが連れてきたのは、ハーピィ族のテュワル。彼女が言うには、先程から悪寒がするのだと言う。体の奥底から沸き上がる不安は、彼女が火山地帯で過ごしていた経験と合致していた。火山が噴火する前兆として、地揺れが起きていたのだ。火山と縁の無い帝国で地揺れなどあるはず無いと思いながらも、彼女の不安は消えない。

 

「かくいう私も、体がゾワゾワしてね……。みんなこの調子だから、商売もできやしない」

 

 テュワルだけでなく、ミザリィや他の亜人族の娼婦たちも、似たような不安を感じていた。そこで、何か知っているであろうラーテル隊の所へやって来たのである。

 

「なるほど……」

「どうした、リズ」

 

 奥から出てきたのは、ラーテル隊隊長のラーテル。勿論これは、コードネームである。リズがミザリィ達から受けた相談を伝えると、ラーテルはふと、嘗ての経験を思い出した。

 

(そう言えば……。合同演習で訪れた国は地震大国で、大きな地震が来たときには、基地内の鳥や野良猫が居なくなっていた。………まさか!)

 

 まだ彼が新人だった頃、合同演習として訪れた国があった。だがある時、基地で動物たちを一匹も見かけず不審に思った矢先、大地震に遭ったのである。彼の故郷は地震とは縁が無い国だからこそ、当時の彼が受けたインパクトは強く、故に地震に対して警戒心を持っているのだ。

 

「隊員に通達、ここから離れるぞ。大地震発生の恐れあり! 繰り返す、大地震発生の恐れありだ! 本部にも通達しろ! 急げ! 建物から離れるんだ!」

 

 拠点内は慌ただしくなり、ラーテル隊は急いで車に乗り込む。娼婦たちも乗せながら悪所を離れつつ、避難を呼び掛けていた。

 

『地揺れが発生する恐れがあります! ただちに建物から離れてください!』

 

 だが、帝国の住民たちは地震という存在を知らない。大地は動かないと言うのが常識なのである。そのため隊員たちの避難勧告に対して、むしろブーイングが来る始末だった。

 

「こんな夜にうるさいぞ!」

「地面が揺れるわけ無いだろう!」

「もっとマシな嘘をつきやがれ!」

 

 睡眠を妨害された苛つきからか、車に石を投げる輩もいた。

 

(おいおい、警告はしたぞ……!)

「なぁ、地震ってそんなにヤバイのか……?」

 

 故郷の関係で地震とは無縁の兵士が尋ねる。

 

「揺れの強さにもよるが、この国の建物は耐震性が無いから、倒壊の被害は酷くなるだろうな……」

 

 地震を経験したことのある兵士が、そう言った矢先だった―――

 

 

 

 

 

 

 ほんの少し時間は遡って、場所はピニャの館。ラーテル隊から通信を受けた第3調査班とニイジマは、すぐにピニャたちを連れて外へと出ていた。

 

「こんな夜中になんなのだ! 地面が揺れるわけ無かろう!」

 

 ピニャも、当然のことながら地震というものを知らない。夜中に起こされて若干不機嫌である。ハミルトン達ピニャの部下やメイドなども、戸惑いながらもニイジマ達に着いていく。

 

 ちょうど庭の広場に出た所で、地震の最初に起こる小さな揺れ……いわゆる初期微動が発生した。

 

「来たな……」

「皆さん壁から離れて! 頭を守るようにしゃがんで下さい!」

 

 だが、その初期微動が長い。

 

「これは……大きいのが来るぞ……」

 

 ニイジマがそう呟いた時だった―――

 

 

 

 

 ズンッ! ゴゴゴゴゴ……!

 

 

 

 

 地面が揺れた。突然のことに帝都では悲鳴が響く。

 

「キャアアアア!」

「地面が、地面が揺れてる!」

「終わりだ……! この世の終わりだぁ!」

「神よ、どうか、どうかお静まり下さい! 神よぉ!」

 

 悪所を抜けたラーテル隊も、現地の言葉で壁から離れて頭を守ることを、大声で呼び掛ける。

 

「おいおい、かなり強くないか!?」

「こんなに地震ってのは揺れるのかよ!?」

「いや、これはかなりデカイぞ!」

 

 地震の経験が少ないもしくは皆無の兵士が、大声で驚くのを堪えながら、抱き着いてくる娼婦たちを宥める。

 

 

 ピニャたちも同じであった。突然の異常現象に身を震わせ、早く揺れが収まってくれと神に祈る。

 

「おいおい、この揺れは……」

「震度4、もしくは5くらいでしょうか。たぶん帝都は酷いことになってますよ」

 

 だが、バイスとニイジマは平然としていた。頭を守りつつしゃがみながらも、悲鳴をあげることなく冷静に話している姿は、見るものに驚きと勇気を与えるものがあった。

 

「バイス殿! ニイジマ殿! よく平然としてられるな!?」

「私たちの世界には、どのようにして地面が揺れるのか、理由が解明されています」

「これよりは揺れが小さいが、地震が起こる国出身の奴等もいる。俺やニイジマは、そんな地震のある国で育ったんだ」

「もっとも、この大きさの揺れは中々無いですけどね!」

 

 揺れが収まると、連合軍兵士たちはすぐに立ち上がり、警護兵やメイドに怪我が無いか確認する。その立ち振舞いでさえ、見るものに勇気を与えた。

 

「しかし、これほどの大きさだと、余震も心配ですね……」

「ま、また揺れるのか!?」

「この世界ではどうか分からないが、用心しておくに越したことは無いだろうな」

 

 ピニャは青ざめる。またあのような揺れが来るのかと。

 

「こうしてはおれん! 父上が心配だ! 早く避難させねば!」

「あ、そうですか」

「それは賢明だろうな」

「……え? 着いて来てくれないのか?」

 

「「え?」」

「え?」

 

 地震の直後だというのに、間抜けな静寂が訪れた。




読んでいただき、ありがとうございました。
次回は、GATE二次創作ではお約束(と思われる)大暴れ回です。原作とは異なる展開を予定していますので、どうかお待ちください。


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謁見の間での乱闘

お待たせしました。お気に入り登録も一気に増えて、とても嬉しく思っています。本当にありがとうございます!
今回は書きたいものを詰め込んだ結果、いつもより少し長くなりました。それでは、どうぞ。


 帝都で地震が発生し、周りが慌ただしくなっている中、ピニャはバイスとニイジマに懇願していた。

 

「頼む! お願いだ!」

「でも、ねぇ……?」

「一応まだ戦争中だし、俺たち敵国の兵士だぜ? それなのに皇帝に会うってマズイだろ」

「そこを何とか! 頼む!」

 

 地震が発生した後、余震が起こるかもしれないと知ったピニャ。父でもある皇帝を避難させなければと意気込んだが、さすがに敵国のトップに会うわけにはいかないと、バイスとニイジマは拒否していた。

 

「頼む……。どうかこの通りだ。女である妾が言っても、耳を貸してくれないかもしれん。もし耳を貸してくれなければ、説得してほしいのだ。もし聞いてくれれば、その場に居るだけでいいんだ」

「うーむ……」

「どうします?」

「お前としてはどうなのよ? 外交官としては、会うべきか?」

「不安はありますが、一度会うべきかもしれませんね。それに、余震で何かしらの怪我をされては、今後の交渉に響くかも」

「決まりだな。俺たちはあんたの護衛だ。着いていくよ」

 

 こうして、意外な形で皇帝に会うことが決まったのである。

 

 

 

 

 

 

 謁見の間への道には、警護兵は異様に少なかった。その数少ない兵士も突然の地震の恐怖から抜けきっておらず、放心状態だった。そんな兵士たちの体たらくにピニャはため息を吐きつつ、そのまま謁見の間へと入った。

 

「父上! ご無事ですか!」

「ピニャか。ディアボかゾルザルが来るかと思っておったが……」

 

 皇帝モルトは玉座に腰掛け、堂々としている……ように見えた。実際は顔にうっすらと汗をかき、顔色も少し青く見える。

 

「陛下、こちらの方は私が知り合った異国の方です。この方々は、先程の地揺れに関して詳しいのです」

「ほう?」

「彼らが言うには、先程の大きな揺れの後、まだ暫く揺れるとの事です。父上、身支度をしてください。ここが崩れたら危険です」

「……うむ。ピニャよ、肩を貸してくれ。このような事は初めてでな……。情けないことに腰が抜けおった……」

 

 ピニャが慌てて駆け寄り、肩を貸そうと近寄った時だった。

 

「父上!」

 

 やって来たのは、金髪の男。ゾルザルである。彼の手には鎖が握られており、その先には首輪に繋がれた女性たちがいる。肌を隠す程度の薄い服は擦りきれており、所々に擦り傷や打撲などが見られた。その状態を見たエミリーやレイスは、顔をしかめる。

 

「ゾルザルか。お主も外へ出た方が良いぞ。この者達が言うにはまだ揺れるらしいからな」

 

 ゾルザルが視線を向けると、そこにはバイスたち第3調査班のメンバーが見えた。彼らの武器、服装、それらは臣下や兵士たちからの目撃情報と一致していた。

 

「杖のようなもの、まだらの服……父上! 彼らは敵国の人間です!」

「兄上!? いきなり何を!?」

「兵士たちから聞いた! 近頃、至るところでまだら模様の兵士たちが彷徨いていると! アルヌスにいる兵士たちが何故ここにいる!」

「ピニャ……?」

 

 モルトがピニャへ視線を向けると、ゾルザルもそれを見た。

 

「ピニャ! 貴様かぁ! 敵国の人間をここに連れて来るなど、何を考えている!!」

「兄上、父上、話を聞いてください! これは……」

「いいや、ならん! この場で殺してやる! 兵士ぃ!」

 

 ゾルザルの一声で、謁見の間に盾と鎧と剣で身を固めた兵士たちが集まってくる。ゾルザルの臣下も剣を抜いた。その剣先は、バイスたちに向けられている。

 

 一触即発。そんな空気の中、バイスはため息をついた。

 

「はぁ~~っ。ニイジマさんよぉ。これはもう、防衛しないといけないよなぁ?」

「頼みます。私とて、死にたくありませんから」

「OK。総員、ウエポンズフリー。ニイジマを守るぞ」

『『『『了解!!』』』』

 

 第3調査班隊員は、銃の安全装置を外した。

 

 

 

 

 

 

 

「らぁぁぁぁ!」

「甘いんだよぉ!」

 

 レイスへと襲いかかってきた兵士が投げ飛ばされ、追い討ちで弾丸を撃ち込まれる。

 

「死ねぇぇぇぇ!」

「遅い!」

 

 レイスが無理ならエミリーにと狙いを定めた兵士も居たが、足払いを掛けられ転倒されたところに、眉間へ弾丸を撃ち込まれた。

 

「アルバート!」

「はい!」

 

 バイスとアルバートが、小銃で遠くにいる兵士たちを撃ち抜いていく。

 

「うあぁぁぁぁ!」

「おっと、危ねえ!」

「ぐぴっ……!」

 

 2人の間を潜り抜けてニイジマをナイフで突き刺そうとしたのを、バイスが頭をつかみ、そのまま首の骨を折る。

 

「えぇい、たかが4人に何をしている! 隊列を組んで押し込め!」

 

 ゾルザルの命令で隊列を組む兵士たち。だがバイスたちも横に並んで、連射モードに切り替えた小銃を構えた。

 

「オープンファイア!!」

 

 けたたましい連射音に続いて、兵士の断末魔と、肉が抉れ血が飛び散る音が響いた。兵士達が次々と倒れていく中、大きな声が上がった。

 

 

「お願い! 私たちを助けて!」

 

 

 声を上げたのは、ゾルザルの鎖に繋がれていた奴隷の一人だった。

 

「私たち、もう帰る国がないの!」

「私たちの故郷は、この男に滅ぼされたわ!」

「もう此処にいる意味なんて無い! お願い! 助けて!」

 

 一人が大声を上げたのを切っ掛けに、次々と奴隷達が助けを懇願する。だがゾルザルは、顔を真っ赤にして女性を蹴りあげる。

 

「貴様ぁ! 誰のお陰で生きてられると思ってる!」

「あうっ!」

 

 奴隷が腹を蹴られるのを見て、レイスとエミリーは怒りに満ちる。そんな中、バイスは新たな命令を出した。

 

「現地人の救助要請を確認! レイス、エミリー!」

「「Yes,sir!」」

 

 最初にレイスが、次にエミリーが飛び出す。

 

「この数を前に、愚かな! やれ!」

 

 槍を構えた兵士がレイスを突き刺そうとするが……

 

 

「はっ、だから甘いって言ってんだろ?」

 

 

 何もできずにレイスを通過させた。それから少し遅れて……兵士たちの首から血が噴出する。レイスは手持ちの拳銃で敵を次々と撃ち抜いていった。

 

「っ!? こ、こいつ……」

「ひっ!? ()()()()、だと……!?」

 

 レイスは目を見開き、口角を吊り上げて()()()()()

 

「どうしたよ? かかって来いよ」

「女一人に何を手こずっている! 殺せ! 殺せぇ!」

 

 兵士たちは自棄になって剣を振るうが、レイスは笑ったままダガーを振るう。

 

 彼女が亡霊(レイス)と呼ばれる理由は、2つ存在する。

 1つは、彼女が乗るエグザマクスの戦闘スタイルが一定しないこと。普通の歩兵として戦う事もあれば、狙撃として後方支援を行い、時には近接特化型の機体として最前線で戦う。そうすることで、敵に正体を特定させない。

 もう1つは凄く単純で……彼女と敵対した者は、必ず死ぬからである。すなわち、亡霊にされるのだ。

 

 レイスが大暴れする中を、エミリーが奴隷たちの元へ駆け寄る。すぐにダガーで彼女達が繋がれている鎖を断ち切った。

 

「女ぁ! 貴様ぁぁ!」

「黙りなさい変態!!」

「うっ、ぐっ……!?」

 

 近くにいたゾルザルが彼女を殴ろうとするが、エミリーは罵倒すると同時に、ある場所を蹴った。“男の一番の急所”と言えば分かるだろう。

 普通の衝撃でさえ痛いアソコを、軍人として鍛えられた脚力で蹴られ、ゾルザルは地面を転げ回ることになった。それを見たニイジマとバイスとアルバートは、無意識に内股になった。

 

「私たちの基地で手当てするから、もう少し待ってて下さい」

「え、あ、はい……」

 

 ウサギ耳の女性に声をかける。声をかけられた本人は、怒濤の展開についていけず、放心に近い状態だった。

 

 

 

 

 

 

 一方的な蹂躙は終わり、謁見の間は死屍累々の光景となった。返り血で染まったレイスはつまらなさそうに呟く。

 

「温いな」

 

 あまりにも凄惨な光景に、ピニャも他の貴族も、口が出せなかった。

 そんな中、ニイジマは皇帝モルトへと向き直る。

 

「改めまして、初めまして皇帝陛下。我々は、あなた方と敵対している世界から参りました」

「いやはや、まさか此処まで堂々としているとはな。貴国らの戦い方から臆病者かと思っておったが」

「単刀直入に申し上げますと、我々と講和を結ばないかと思ったのですが……」

「断る」

「異界へ進軍した貴国の兵士らを捕虜としておりますが?」

「無事であると言う証拠はどこにある? ましてや、仮に無事だとしても、我が国が簡単に平伏するとでも?」

「……言い直しますと、話し合いに応じる姿勢を見せていただければ、私たちは捕虜を返還する準備がございます」

「ここまで謁見の間を血と屍で汚しておいて、話し合える立場にあると思っておるのかね?」

「…………分かりました。では、その言葉を、上の方々に知らせましょう」

 

 ピニャは絶望した。とうとう講和には至らなかった。完全に交渉は決裂してしまった。だが、せめて考え直してくれないかと父に言葉を掛けようとする。

 

「父上、どうか考え直してください! あれほどの練度を誇る兵士たちを相手に戦うなど……」

「ピニャよ。お前には失望した。アルヌスの敵を調査せよと命を受けておきながら、敵にほだされ、ましてや我に降伏せよと申すとはな」

「そんな! そのようなつもりは決して!」

「失せよ! お前はもはや皇族でも帝国人でもない! 貴様の騎士団は解散だ!」

「そん、な……」

 

 目から光が消え、座り込むピニャ。そんな彼女を、ニイジマは立ち上がらせた。

 

「では、我々はこの辺で。それと皇帝陛下。あなたの領土が更地になる覚悟だけは、しておいた方がよろしいかと」

 

 そう言うと、囚われていた奴隷たちと放心状態のピニャを連れて、ニイジマ達は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁぁぁぁ! これ絶対にクビだ! 外交官として絶対にクビだぁ!」

「いやー、これ、どう報告書に書けば良いんだよ……。ヴィエラ司令官に殺されちまう……!」

 

 ニイジマとバイスは、帰りの車の中で頭を抱えた。

 




読んでいただき、ありがとうございました。完全に交渉は決裂という形になりました。次回はどうなるのか、どうかお待ちください。


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報復

お待たせしました。沢山のお気に入り登録ありがとうございます!


 地震が発生した翌日。帝都はとても静かであった。それもそのはず、今まで大地が動くわけがないと言われていた大地が音を立てて揺れ、あらゆるものが崩れ去ったのだ。崩れた瓦礫や割れた食器の片付けに追われる中、彼らを再び恐怖が襲った。

 

「隊長、迫撃砲の用意完了しました」

「分かった。弾を込めろ」

「了解。弾込め用意」

 

 外交員に銃口を向けられたと連絡を受けたラーテル隊は、当初の命令通り、報復(と言うよりは脅迫に近いが)を行うことになった。

 迫撃砲に弾を込め、観測係は着弾点を予測する。その着弾点は、元老院の門前。

 

「人もいない。瓦礫の撤去に追われてるのだろうな」

「こちら、装填完了。いつでも撃てます」

「よし。……撃て!」

 

 迫撃砲から弾が放たれ着弾すると、少しだけ遅れて爆音を轟かせた。

 

「着弾確認」

「よし、撤退するぞ。第2、第3波の連中に通信しなきゃならん」

「撤収、急げ!」

 

 元老院が大騒ぎになる中、ラーテル隊はすぐにその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 帝都の住人たちが見たのは、巨大な鋼鉄の鷲だった。つんざくような音を轟かせながら空を飛び、そして、元老院の屋根にぶつかるギリギリの高さを通過していった。

 それはまるで、『お前たちの国など、簡単に入ることが出来るぞ』と言っているような気にさせるものだった。

 だが、一番の恐怖は……空を飛ぶ巨人であろう。背中に翼の生えた巨人が空を飛び、元老院の近くに降り立ったのだ。少しの間元老院を見下ろすと、巨人は翼から青白い炎を噴き出し、空を飛んで消えてしまった。

 

 この巨人は、空中戦仕様にカスタマイズされたアルトである。低反動ショルダーキャノンを固定武装とし、飛行用バックパックで一気に戦場を駆ける機体である。今回の出撃では施設の破壊は許可されていないため、威嚇としてただ警備兵たちを睨み付けたのだ。

 十数メートルの巨人だけでも恐ろしいのに、空から現れ、こちらを睨み付ける姿は兵士たちに恐怖を与えた。そしてその姿を見た貴族たちも、その姿に震えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 帝都、悪所のラーテル隊仮拠点。迫撃砲の攻撃と空戦部隊に連絡を終えた彼らは、情報収集に務めていた。

 夜。地震を相談しに来て以来ちょくちょく来るようになったミザリィがやって来た。

 

「隊長さん、いるかい?」

「ミザリィか。仕事はもう終わったのか?」

「地揺れの瓦礫なんかを片付けるのに忙しくて、仕事どころじゃないよ。帝都はみんな片付けに追われてるし、昼間は大鷲や巨人が来たもんだから、さらにビクビクしてる。男たちなんて来やしないよ」

「そうか。茶でも飲むか?」

「さっき軽く一杯やってきたから結構さ。それと、少し気になる事を聞いたよ」

「む?」

 

 それは、ラーテル隊を驚かせるものであり、帝国との戦いが本格的になるかもしれない内容であった。

 




読んでいただき、ありがとうございます。来週から本格的に忙しくなるため、更新はさらに遅くなるかもしれません。ですが、時間を見つけて書いて投稿出来るようにします。
それでは、次回をお待ちください。


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大規模作戦、発令!

書けるときに書いて、投稿します。それでは、どうぞ。


 アルヌス駐屯地ミーティングルーム。そこへ集められた幹部と各調査班班長たちは、非常呼集をかけられていた。

 

「緊急事態だ。帝都へ情報収集の任務に当たっていたラーテル隊から、通信が入った。情報班班長マルクス、詳細を」

「はい。ラーテル隊からの報告によりますと、ラーテル隊及び空戦部隊による、報復及び威嚇攻撃は成功に終わりました。しかしながら、先日の謁見の間による騒ぎで講和派の存在がバレました。

 現在、皇帝モルトは講和派の議員を次々と拘束し、財産を没収した上で、家族ごとバスーン監獄へ連行しているとのことです。また、ピニャ・コ・ラーダ嬢の率いる薔薇騎士団も、拘束するために部隊が動いているとのことです」

 

 バイスは頭を抱えた。ニイジマを守るために行動したとはいえ、自分達の行動で事態が悪化してしまったと考えていた。

 

「バイス、相手は攻撃の意思を示した。お前たちの班は外交員を守るために抵抗した。仕方ないことだ」

「我々も、範囲を広げて行動したために、敵に情報が渡ってしまった。誰か1人の責任ではない」

「今対処すべきは、講和派が拘束された事だ」

 

 バイスと親しい他の班長が慰めると、幹部たちが話を戻す。

 

「そして、我々はピニャ・コ・ラーダ嬢から要請を受けた。薔薇騎士団団員、及びバスーン監獄へ収容された講和派議員の救出である。

 本部にも通達した結果、満場一致で要請を承認。救出作戦として正式に命令された。これは、アルヌス防衛戦以降の大規模作戦となる」

 

 そして、作戦内容が説明される。

 

「今回の作戦のポイントは3つ。バスーン監獄を制圧し議員を救出すること、薔薇騎士団を救出すること、そしてこの基地の防衛だ」

「作戦中に基地が手薄になると、敵は読むだろう。襲撃を考慮して、こちらにも防衛戦力を残すことになる」

「まず、バスーン監獄制圧についてだ。こちらは、輸送機と高機動型エグザマクスが中心となる」

「薔薇騎士団救出に関しては、ピニャ・コ・ラーダ嬢と、皇子ゾルザルに囚われていた女性たちの情報提供のもと、帝都での戦闘となる。現地にいるラーテル隊と協力して、団員を救出する」

 

「各員、それぞれの任務を全うせよ!」

『『『『了解!!』』』』

 

 隊員たちは起立し、一斉に敬礼した。

 

 

 

 

 

 

 

 大規模作戦開始のサイレンが鳴ると、基地内は慌ただしくなった。医師たちは、元難民の住人たちに避難区域への避難を呼び掛け、整備場はエグザマクスのパーツ換装のために重機を動かす。滑走路では大型人員輸送機がプロペラを回し、防衛任務に当てられた歩兵は配置につく。

 そんな中、第3調査班は薔薇騎士団救出の任務に当てられた。バイスたちは武器を整え、装甲車に乗り込む。

 

「しかし、お前たちも来るなんてな」

 

 車に乗り込んだのは、バイス、アルバート、エミリー、レレイにテュカにロゥリィ、そしてウサギ耳の女性テューレだった。

 

「敵は弓矢を使ってくる兵士もいるはず。弓矢は鎧姿ではないバイスたちには危険。だけど私やテュカが風の魔法を使えば、その矢を風で落とせる」

「それに、私は眠りの魔法も使えるよ。静かにさせないといけない時なんかに役立つんじゃないかな?」

「うふふ、一度帝国にはお邪魔しないとねぇ。聞きたいこともあるしぃ」

 

 そして、テューレはナイフを握りしめる。

 

「私は……帝国が、ゾルザルが憎い。私は復讐としてゾルザルを討つ」

(クスクス……。エムロイは否定しないわぁ。復讐として戦うのも、ありよねぇ)

 

 復讐の心を隠さないテューレに、ロゥリィは微笑んでいた。

 

 こうして、大規模作戦が始まったのである。




読んでいただき、ありがとうございました。次回はバスーン監獄制圧作戦です。それでは、次回もお待ちください。


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バスーン監獄制圧作戦

お待たせしました。不定期更新となりますが、どうかよろしくお願いします。


 特地の上空、それも雲に近い高度を、エグザマクス専用キャリアが飛行していた。内部には片膝立ちの空戦用エグザマクスが数機格納されており、降下指示を待っている。

 

『降下一分前。各機、最終チェックせよ』

「バックパックスラスター、容量満タン。マシンガン装填オーケー。カメラアイ、動作不良なし」

『ハッチオープン。各機、降下準備』

 

 キャリアのハッチが左右同時に開かれ、風が流れ込む。

 

『全員準備は良いな! 第一波として空挺部隊がバスーン監獄に潜入、警備を弱めつつ救助対象を捜索しているはずだ! 俺たちは救助者輸送用ヘリを護衛しつつ、脱出を図る味方の援護を行う!!』

 

 隊長が大声で任務内容を告げると、降下のベルが鳴る。

 

『空挺エグザマクス隊、Go!』

「降下します!」

 

 鋼鉄の巨人たちは次々と降下していった。

 

 

 

 

 

 

 バスーン監獄の中を静かに、それでいて素早く進む集団がいた。地球連合軍の空挺部隊であり、空挺エグザマクス隊が第一波と呼んでいた集団である。彼らが目指すのは、監視塔だ。彼らは裏口の警備兵を気絶させた後に中へ侵入、警備兵の詰所を襲撃する計画である。

 

「……(クイクイッ)」

 

 先頭にいた兵士がハンドサインを送ると、後続が頷いて先頭と反対の位置へ回る。隊長がドアを少し開けると、兵士はスモークグレネードを投げ込んだ。

 

「ぶわっ! な、何だ!?」

「煙幕か、ゴホッゴホッ!」

「敵だ 誰か盾を!」

「Go!」

 

 すぐに連合軍兵士が入り込み、兵士を撃ち抜いていく。咄嗟に盾を構えることが出来た兵士も、その銃弾にあっさりと倒れた。

 

「報告!」

「クリア!」

「クリア!」

「よし! ベータとデルタ、オメガは警鐘塔を押さえろ。残りで今度は看守室を押さえる」

 

 どの牢屋に誰が収容されているかを知るために、そのリストがあると思われる看守の部屋へと向かう。

 

 その頃、外では運良く兵士たちに片付けられていなかった警備兵たちが騒いでいた。

 

「お、おい! 何だあれは!」

「巨人が……巨人が空から降ってくる!」

 

 降下してきた空戦用エグザマクスが次々と着地し、警備兵の注意を引き付けていた。

 

「おい、鐘を鳴らせ! あれが恐らく敵だ! 収容した貴族たちを奪還しに来たんだ!」

「警鐘員は何をしている!」

「くそ! 俺が行ってくる!」

 

 一人の兵士が鐘のある塔へ登ろうとする。しかし――

 

「おい、敵だぞ! 何をやって―――」

 

 その瞬間、胸を撃たれて落下した。既に回り込んでいた連合軍兵士3人が、警鐘塔を押さえていたのである。

 

「おい、早く鐘を外せ」

「分かってるよ。……うし、外れた!」

「こちらデルタ。警鐘塔の制圧完了。また空挺エグザマクス隊の到着を確認」

『了解。こちらはまもなく看守室へ到着する。……合流出来そうか?』

「警備兵は、巨人の対処に追われてる模様。どさくさに紛れ込みます」

『了解。看守室制圧後に、また連絡する』

 

 まだ巨人に釘付けであることを確認した兵士3人は、素早く合流を目指して、進み始めた。

 




読んでいただき、ありがとうございました。次回はいつになるか不明ですが、どうかお待ちください。


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バスーン監獄制圧作戦(後)

長らくお待たせしました。プラモ関係の話ですが、ビルドダイバーズRe:riseが最終回を迎えましたね。最初は色々と不安な所がありましたが、後半の盛り上りを信じて良かったです。
あと、ダンボール戦機も公式チャンネルで見ているので、そちらも楽しみです。
更に、機動戦隊アイアンサーガというゲームをプレイしてるのですが、今月末にグリッドマンとコラボするとか。アニメは見てないですが、音楽とかは聞いていたのでとても楽しみです。


「ここが看守室か」

「突入!」

 

 歩兵たちが看守室へと突入し、銃口を向ける。そこには、幼い少女に手を出そうとする男が居た。少女の服がはだけそうになっていると言うことは、“そういうこと”なのだろう。

 

「あの子は……救助対象の娘だ! 押さえろ!」

「何をす、いだだだだ!」

 

 他の隊員達が看守たちを拘束する中、隊長は娘……シェリーの服を直す。

 

「お怪我は?」

「危うく、純潔を捧げるところでした。ありがとうございます。あなた方は……その格好、覚えてますわ! レンゴウ軍と言う方々ですわね?」

「はい。我々は、地球連合軍です。他の貴族の方々も救出に来ました」

「お願いします! どうかお父様とお母様も助けて!」

「隊長、監獄内の地図を手に入れました! 囚人のリストもです!」

「よし! シェリーさん、申し訳ありませんが、手伝っていただけますか?」

「勿論ですわ!」

 

 地図とリスト、そしてシェリーという協力者を確保した歩兵たちは、看守たちを縄で縛ったあと、貴族たちが囚われている場所へと向かった。

 

 

 

 

 

「隊長!」

「ベータ、デルタ、オメガか! 無事で何より!」

 

 警鐘塔の制圧を行った3人と合流した。

 

「隊長、鐘は外しましたが、いつ増援を寄越されるか分かりません。速やかに救助、脱出しなければ!」

「分かってる! おい、そこの牢は救助対象だ!」

 

 看守室からさりげなく奪った鍵を使って、牢を開ける。

 

「あ、あなた方は……」

「地球連合軍です。助けに来ました!」

「少し走ることになります。さ、こちらへ」

 

 牢を次々と開け、貴族たちを解放する。

 

「俺も出してくれ~!」

「助けてくれー!」

「開けろ! 開けてくれ!」

 

 だが、はじめから収容されていた囚人たちも、その様子を見て騒ぎ始めた。出してくれと叫んでいる。それに気づいた数名の隊員が、開けるべきか迷っていた。

 

「隊長……」

「……我々の任務は、講和派議員を救出することだ」

「しかし!」

「ここに長居しては、助けられる者も助けられない!」

「…………くっ!」

 

 隊員たちは貴族たちを全員牢から出すと、非常口に向けて走り出す。近くで輸送ヘリが待っているからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、待機していた輸送ヘリはエグザマクス達によって護衛されていた。

 

『ヘリを守り抜け! 流れ弾にも注意しろよ! 救助者に当たったらシャレにならねぇ!』

 

 空から降下してきたアルトたちが、軽く手を振るう。すると壁の上から巨人を討ち取ろうと矢を構える兵士が、風圧で吹き飛んだ。

 だが、アルト(空中戦仕様)に乗っていたパイロットが、帝国兵の持ち込んできた兵器を見てギョッとする。

 

『まずい、投石機だ!』

『優先的に潰せ! カメラアイを破壊されるな!』

 

 いくら優秀な機体でも、目に当たる部分を壊されれば任務に支障が出る。投石機に関してはマシンガンなどで徹底的に破壊した。

 

『っ! 来たぞ! 守れ守れ!』

 

 歩兵隊が非常口から、貴族たちを大勢連れてやって来た。ヘリコプターはローターを回し始め、ハッチを開く。

 

「こちらに乗り込んでください! 早く!」

「お礼は後で良いですから!」

「最後まで我々がお守りします」

「こちらのヘリも乗れます! どうぞこちらに!」

 

 大声で呼び掛けながら、次々と兵士を乗り込ませる。その間もエグザマクス達は、帝国兵の足止めを続けていた。

 

『よし、救助者全員の搭乗を確認したそうだ! ヘリが安全空域まで脱出し次第、我々も撤退するぞ! 俺たちの目的は殲滅じゃないからな!』

 

 貴族たちを乗せたヘリが上昇を始めた。その異様な姿に、帝国兵たちはギョッとするが、すぐに矢を放とうとする。

 しかし、それも鋼鉄の巨人たちによって妨害される。その単眼に、失禁する者もいた。

 

『…………よし! 撤退する! ブースター点火!』

 

 巨人たちが跳ねるような仕草を見せ、帝国兵は慌てて逃げようとする。しかし、凄まじい爆音と風が発生したかと思うと、巨人たちは空を飛んで去っていった。

 その光景に、兵士たちはただ呆然とするばかりだった。




読んでいただき、ありがとうございました。次回はいつになるか分かりませんが、どうかお待ちください。


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第二次アルヌス防衛戦(前編)

お久しぶりです。時間を見つけて書くことが出来ました。
ここ最近は、YouTubeで楽しいことばかりです。ガンダム00一期に、ダンボール戦機、ウルトラマンゼロを観ていますが、最近は特撮版グリッドマンの限定公開も始まって最高です。
しかも、来年の夏にゲッターロボアークのアニメ化があるらしく、それに伴って先週から今週の月曜までOVA3作が公開されていました。もちろん、全部観ました。心が熱くなりましたよ。
来年の春はガルパン最終章3話、夏にはゲッターロボ。気が早いですが来年も楽しみです。


 バスーン監獄から講和派の貴族たちが救出されている中、アルヌス駐屯地は防衛戦へと移行していた。コダ村の難民たちも避難しており、敵が攻めてくるであろう場所にはエグザマクスやエグザビークル・タンク等が配置されている。

 背中にレーダードームを装着したシエル・ノヴァが、空から偵察しているエアファイターと連携して敵が向かってきているのを確認した。

 

「敵軍、確認! 正面!」

「攻撃開始!」

 

 アルトやポルタ・ノヴァ等といったエグザマクスの持つマシンガンが、一斉に火を噴いた。帝国兵たちは巨大な銃弾に次々と吹き飛ばされていくが、それでもなお勢いに衰えは見られない。

 

「俯角調整、完了!」

「弾込めよーし!」

()ぇー!」

 

 タンクの放つ砲弾が弧を描き、後方にいる兵士を纏めて吹き飛ばした。もし帝国側にいたのならば、兵士たちの手足が吹き飛ぶ様子を間近で見ることになっただろう。

 地上が駄目ならば空からと、帝国小隊長がワイバーン隊に指示を送る。

 

「空から来るぞ!」

『エアファイター隊に任せろぉ!』

 

 駐屯地の飛行場から離陸したエアファイター達が、ワイバーンに立ち向かう。機首に備えられた機銃がタタタタと心地よい音を響かせ、ワイバーンを騎手ごとミンチに変えていく。

 特地での戦いから地球連合軍は、ワイバーンなどを相手にする際は、小回りの利く飛行型エグザビークル『エアファイター』が対応するという方針を取った。現在確認されているワイバーンは人を乗せているタイプの物であり、騎手が上空から弓矢で敵を射抜くというスタイルであることを、ピニャから教えられた。

 

 次々と倒れていく兵士達を見て将校が思ったのは、「やはり」という確証だった。大きな犠牲を払ってようやく、只の兵士では巨人に勝てないと確信したのである。

 ならばどうするか? ()()()()()()()()に戦わせれば良いのである。将校は近くの兵士に命じた。

 

「おい! 『アレ』を投入しろ!」

 

 

 

 

 

 始めに違和感を覚えたのは、タンクに乗っている車長だった。

 

「何だ? 敵が退いていく……?」

 

 敵兵がゆっくりと後退し始めたのだ。猪突猛進という言葉が合うであろう勢いから一転した光景に、他のタンクからも戸惑いの通信が聞こえてくる。

 

「奴ら、何をするつもりだ?」

「警戒しろ、何が来るか……!?」

 

 車長はギョッとした。自分の双眼鏡の先には、異形が捉えられていた。それは明らかに自分たちへ向かって走ってきており――――

 

「こ、後た――――」

 

 その瞬間、振り下ろされた棍棒によってタンクは粉砕された。

 

 

 

 

 

 アルヌス駐屯地司令部にて。

 

「タンクがやられただと!?」

「報告によると、巨大二足歩行生物とのことです!」

「奴ら、エグザマクスに対抗する手段を隠し持っていたと言うことか……!」

 

 しかし、その情報を聞いてワナワナと震えたのは、ピニャであった。彼女は、もしも敵が基地内に侵入した場合に殺害されることを考慮して、監視の兵士をつけると言う条件の下で此処に居た。

 

「ま、まさか……!」

「どうなさいました、殿下」

「兄上と父上は、怪異を……ジャイアントオーガーを投入したと言うのか……!?」

 

 信じられないものを見るかのような表情と言動で、司令部内の人間は、敵の新兵器投入を確信したのだった。

 

 




読んでいただき、ありがとうございました。次回の投稿は未定ですが、完結目指して頑張ります。


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第二次アルヌス防衛戦(後編)

無事に投稿できました。今回はいつもより明確な残酷シーン、それはおかしいと思われるような武器が出てきます。ご了承ください。


「被害状況は!?」

「タンク1両……いえ、3両に増えました! おそらくジャイアントオーガーは複数いると思われます!」

「タンク部隊は後退、エアファイター隊に攻撃指示を!」

「それが、ジャイアントオーガーが投入されてからワイバーンが急増し、対応に追われていると……」

「一瞬の隙を突いたか……!」

 

 アルヌス駐屯地司令部は騒々しくなっていた。通信機越しに現状を伝える声と、それに混じってジャイアントオーガーにやられたであろう兵士の断末魔が聞こえてくる。突然の新手の登場に、司令官達も命令する声が自然と大きくなっていた。

 そのような喧騒の中、ピニャは少しでも彼らの力になれないかと、自分が持ってる情報の中から打開策を思考する。

 

「ジャイアントオーガーは、そこそこの知性を持っている。だが弓矢のような細かい芸は出来ない。持つならば剣か棍棒あたりか……」

「殿下。ジャイアントオーガーへの対抗策は……」

「妾も、戦場でジャイアントオーガーを投入するなど初耳だ。だが、さっきも言った通り、奴が手に出来る武器は剣か棍棒。それも人間のような素早い動きではなく、力任せの一撃。その武器を振り下ろす瞬間なら、おそらく……」

「ですが、そのタイミングで砲撃なんてリスクが大きすぎます! 仮に仕留めたとしても、落とした武器がタンクに当たりでもしたら……!」

『俺たちに行かせてくだせえ!!』

 

 突如、野太い声が響いた。

 

『俺たちビルド隊のエグザマクスなら余ってます!』

「だがお前たちの機体は土木建築用だ! 戦闘用の装甲も武器も……!」

『装甲は鉄骨の衝撃にも耐えられる特殊合金! 武器は大岩を簡単に砕ける削岩機! さらに長時間稼働用のエンジン搭載で、出力は戦闘用に劣りませんよ!』

「ヴィエラ司令! タンク隊の被害増大! 後退中の車輌が全滅するのも時間の問題です!」

「~~~~! ビルド隊は、ポイントN33へ急行! ジャイアントオーガーの迎撃に当たれ!」

『イエス、マム!』

 

 

 

 

 

 戦場を駆ける巨人たち。だが、カーキ色とは違い、黒と黄色の、明らかに作業用と分かる機体が走っている。彼らの操るラビオットのカメラアイが、暴れるジャイアントオーガーを捉えた。

 

「見ぃつけたぁ!」

怪物狩り(モンスターハンティング)といこうか!』

「グ? グゴォォォォォ!!」

 

 自分より大きな巨人にジャイアントオーガーは吠える。俺より大きいなんて生意気な。転ばせて頭を潰してやる。彼らはそう思っただろう。手に持つ棍棒を横に薙いで足を狙おうとした。

 だが、ラビオットの左腕がジャイアントオーガーの右腕を掴む。ジャイアントオーガーは振りほどこうと暴れるが、掴んでいる手が徐々に腕の肉に食い込んでいく。

 

「ギイイイイイ!?」

「痛いか? 痛いよなぁ! 鉄板を簡単にねじ曲げるマニピュレーターの握力をなめんじゃねぇぇ!」

 

 そのまま引き寄せ、右手でジャイアントオーガーの顔面を殴り付ける。専用の兜を被っていたとは言えその威力は絶大。脳が大きく揺さぶられる。

 

「もっと良いもんくれてやるよぉ!」

 

 オーガを掴んでいた手を乱暴に離すと、背負っていた物を手に取る。それは巨大なハンマー。何の仕掛けも無い、ただの質量の塊。それを一気に横へ振り払った。

 

「どおりゃああああ!」

「ブギッ……!」

 

 兜は壊れ、骨が砕け、その骨片が脳や頭の筋肉をズタズタにする。首の骨がゴキャリと変な音を立て、そのままジャイアントオーガーは後ろへ倒れた。

 

「よーし、いっちょあがりぃ!」

 

 

 

 

 

 別の機体は、凄まじい音を立てながらジャイアントオーガーの胴体を砕いていた。

 

「オラオラオラオラァ! 削岩機もパイルバンカーだっての!」

 

 この男の持論は、「パイルバンカーが鉄の杭を打つなら、鉄の杭を高速で打ち込んで岩を砕く削岩機はパイルバンカーだよね」という物である。それを聞いた兵器開発班は「いや、それはおかしい」と否定したが。

 とにかく彼は、ジャイアントオーガーに高速で突っ込み、蹴りで倒すと分厚い鉄の胴鎧に削岩機を押し当て、その激しい打ち込みでジャイアントオーガーを倒そうとしていた。

 

「グ、ボ、ガ、アァ!」

 

 ジャイアントオーガーからすれば、たまったものではない。分厚い鉄板と地面の間に挟まれ、巨人は鉄板に片足を乗せて押さえ込んでいるのである。押さえ込まれて苦しい体にさらに削岩機による激しい振動もあって、何も出来ずにいた。

 

「捉えたぁ!」

 

 ついに鉄杭は鎧を貫通し肉に到達、凄まじい振動は内蔵を揺さぶり、ジャイアントオーガーに更にダメージを与えていった。

 こうして、パイルバンカー好きの兵士に狙われたジャイアントオーガーは、絶命するまでその振動に苦しむのであった。

 

 

 

 

 

 土木建築を得意とするビルド隊がジャイアントオーガーを相手にしている頃、ある1輌のタンクが敵歩兵集団に照準を定めていた。

 

「計器異常無し」

「エネルギーカートリッジ、装填完了」

「冷却剤、準備オーケー」

「良し! 今こそ、この『エグザビークル・ビームタンク』の試験の時だ!」

 

 地球連合軍はビーム兵器の研究を進めていたが、その扱いの難しさ故に兵器として運用できずにいた。現時点では携行武器として扱うことはまだ難しく、『エグザビークル・タンクをビーム砲台として運用してはどうだろうか』と言う考えのもと設計されたのが、このビームタンクである。

 

「前方兵士にビーム発射の通達はしたか!?」

「既に通達済みです! 射線上からの退避を確認!」

「ビーム発射ボタン、車長に回します!」

 

 ビームタンク車長は、照準装置のカーソルを見て狙いを定める。が、あることに気付く。

 

「おっと。総員、対閃光ゴーグル着用!」

 

 開発班の説明によると、ビーム発射時に凄まじい光を発するらしく、タンク搭乗員は目を守るためにゴーグルを着けることを必須とされていた。

 全員がゴーグルを装着したのを確認すると、カウントを始める。

 

「エネルギー充填完了まで、カウント10! 9、8、7……」

 

 自然と冷や汗が流れる。今まで扱ったことの無い武器だから、当然だろう。

 

「3、2、1……照射ぁ!

 

 

 

 この時、帝国兵士達には光が見えた。一瞬キラリと何かが光ったかと思った瞬間、光に飲み込まれた。

 幸いにもビームの射線上から外れていた帝国兵士たちも、それは見えていた。

 

「な、何だこれはぁ!?」

「何と言う眩しさ……! まさか、雷か!?」

「そんな馬鹿なことがあるか! こんなに晴れていると言うのに……」

 

 そしてビームの照射が終わると、先程までそこに居たはずの兵士がいなくなっていた。更にその高温は、直撃はせずともビームの近くに居た者を苦しめていた。

 

「あづいぃぃ……! あづいよぉ……!」

「俺の右腕が無いんだ……何が、何がぁぁぁぁいだいぃぃぃぃ!!」

「おぉい……誰か水を……水をくれぇぇ……! 何で俺から離れるんだぁぁ……!」

 

 あまりにも凄惨な光景に、一部の兵士たちは嘔吐した。

 

 

 一方ビームタンク内では、トラブルが発生していた。

 

「おい! 砲塔の熱が下がってねえぞ! 冷却剤注入のスイッチは押したんだろうな!」

「押しましたよ! ですが冷却剤の効果を熱が上回ってます!」

「想定外の温度か……! 総員ただちに降車! このままだと蒸し焼きになっちまうぞ!」

 

 ビームタンクから搭乗員たちは降り、無線機でトラブルを報告。エグザマクスが持ってきたロイロイ(有人タイプ)に乗り込み、駐屯地へ帰投した。

 

 

 

 

 

 帝国軍のテントにて、隊長は青ざめていた。

 

「馬鹿な……何故こんなことが……。奴らはバスーン監獄と帝都へ兵を向かわせ、基地が手薄なのでは無かったのか……?」

 

 伝えられる報告はどれも被害報告ばかり。敵陣地までたどり着いたと言う報告は全く聞こえない。

 

「報告! ジャイアントオーガー隊が、敵の巨人軍によって全滅しました!」

「馬鹿な!? 凄まじい怪力を誇るジャイアントオーガーだぞ!? 一匹も残ってないと言うのか!」

「それが、鉄の巨像が後退したら、入れ替わるように巨人が現れたと……」

「おのれっ! ならば空だ! ワイバーンなら陣地に侵入できるはずだ!」

 

 その時、キィィィンと言う音が聞こえた。不審に思った隊長をはじめとするテント内の兵士達が外へ出る。

 

「なっ、巨人が空を―――」

 

 その瞬間、空中戦仕様のアルトのマシンガン攻撃で兵士たちはミンチへと変わった。何名か逃亡を図る兵士も居たが、森林に擬態していた陸戦仕様のアルトがこれを阻止した。

 

 こうして、地球連合軍にも被害は出たものの、アルヌス駐屯地の防衛に成功。侵攻してきた帝国軍は全滅したのである。




読んでいただき、ありがとうございました。
私の中のパイルバンカーは、鉄杭をかなりの威力で打ち込むイメージです。削岩機の仕組みは詳しくありませんが、空気を圧縮して高速で鉄杭を打ち込んでるイメージがあります。ならば、削岩機をパイルバンカー代わりにしても問題ない……ですよね?

さて、いよいよ帝都侵入です。終わりも近くなってきました。次回の投稿がいつになるかは未定ですが、どうかお待ちください。


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帝都侵入

お気に入り登録者が急増して、私ビックリしております……。本当にありがとうございます!
いよいよ、帝都へ侵入。最終決戦です!


 バスーン監獄から議員を救出し、アルヌス駐屯地が防衛戦を行なっている間、別動隊は帝都へ侵攻を開始していた。

 その前にアルヌス防衛とは別のエアファイターが偵察を行い、空からの様子を確認する。

 

「帝都はやけに静かだ。恐らく、我々の攻撃を予測してのことだろう」

『こちらファイター05。上空より武装勢力同士の衝突を確認した。薔薇騎士団と主戦派直属の騎士団と思われる』

「ファイター02、了解。場所を教えてくれ」

『あれは……翡翠宮だ。薔薇騎士団は翡翠宮で籠城するつもりらしい』

「了解。ファイター02から地上チームへ。薔薇騎士団を発見。翡翠宮にて籠城中。なお、既に主戦派による攻撃が始まってる模様」

 

 偵察を行なっているエアファイターからの報告に、地図を確認して翡翠宮に近い部隊が速やかに行動を開始した。乗り込むのは有人型ロイロイである。

 その頃、報告を行なったファイター02はワイバーンと交戦していた。

 

「こちらファイター02! 敵航空戦力と遭遇!」

『ファイター01了解。各機、ワイバーンを撃墜し敵地上空の驚異を排除せよ』

 

 竜舎と呼ばれる建物から、次々と空へ上がっていくワイバーン達。しかしその殆どが、エアファイターの機銃によって肉塊へと変えられていった。

 その後、搭載していた小形爆弾で竜舎を爆撃。帝国の航空戦力を一気にダウンさせたのである。

 

 

 

 

 

 その頃、帝都の各所にある門の中で最も元老院に近い門。その壁上にて、帝国兵士が敵を発見した。

 

「敵巨人出現!」

「えぇい、投石機用意! 門を閉じろ! 絶対に元老院に近付けさせるなぁ!」

 

 ゴゴゴゴと重苦しい音を立てて門を閉める。この門は帝都の中で最も堅く、破城槌を持ってしても破壊するのは容易ではない。

 だが、巨人は狼狽えない。元老院に近付けさせないように閉門することは、想定内だからだ。

 

『閉門を確認』

『各機、ランチャー用意。敵さんにゃ悪いが、吹き飛んでもらうとしよう』

 

 アルトやポルタ・ノヴァが一斉に構えたのは、ロケットランチャー。機体の指が引き金に添えられる

 

『撃てぇ!』

 

 一斉に放たれた砲弾は、門はおろか周囲の壁すらも吹き飛ばした。崩落に巻き込まれ悲鳴をあげる兵士達。

 土煙が晴れると、その中を数両の車が突っ込んで行った。

 

「だぁぁもう! 派手にやりすぎだっつの!」

「凄い音~……」

「……耳がキンキンする」

「テューレは大丈夫ぅ~?」

「な、な、な…………!」

 

 エグザマクスの攻撃で門が崩れるのを見たテューレは、開いた口が塞がらなかった。先程までそびえ立っていた門は城壁といっても過言ではなく、破ったものなど聞いたことがない。だがこの巨人達はどうだ。あっさりと門を破り、進入口を作ってしまった。

 そんな呆然とするテューレに、ロゥリィは軽く肩を叩いた。

 

「ちょっとちょっとぉ~。元老院の構造に詳しいのは貴女よ~? それにぃ、ゾルザルの首を取りたいのでしょう~?」

「ハッ! そうだった……」

「なら、貴女もちゃんとしなさいな~。恐らく対人戦になるだろうから、貴女の力も頼りよぉ」

「はい!」

 

 戦いの神エムロイの使徒からの言葉を受け、より一層やる気が上がるテューレ。

 

(ゾルザル……今までの報いを受ける時よ……!)

 

 その目に闘志の炎を燃やしていた。




読んでいただき、ありがとうございました。次回をお待ちください。


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薔薇騎士団、救出

あっという間にお気に入り登録者数が200人を越えて、とても嬉しいです。ありがとうございます!

今回は短めですが、タイトル通りボーゼス達の救出になります。
あらかじめ言っておきますと、本作品ではノーマは戦死しておりませんので、ご了承ください。


 翡翠宮にて、徹底抗戦を続けるボーゼス達。彼女達に突如告げられたのは、敵国と裏で繋がっていた密偵の容疑で、騎士団の解散と同時に拘束すると言うものだった。当然、そのような事を受け入れられる筈もなく、こうして翡翠宮に籠城しているのだが……。

 

「まだこれ程の数が居るなんて……」

「クソッタレ! 自分の国の将来を考えてねえのかよ!」

「いや、考えた結果、講和ではなく抗戦を選んだのだろう」

 

 ボーゼス、パナシュ、ノーマが敵を睨みながらも冷や汗を流す。向こうが複数の騎士団を集めているのに対して、こちらは小さな騎士団に過ぎない。圧倒的な数の差があった。

 

「先程の爆音は恐らくチキュウ連合軍による物だろうが、こちらへ駆けつけると思うか?」

「いや、距離がありすぎる。皇帝陛下を狙うならともかく、あたし達を構う余裕は無いだろ」

 

 苦笑いを浮かべるパナシュだったが、相手の騎士団の様子がおかしいことに気付いた。彼らの後ろで何かあったらしい。

 

「この音は……」

 

 ノーマは聞いたことがある。遠くから聞こえるパパパパと言う音を、すぐ近くで!

 

「勝機が見えた! 彼らだ! チキュウ連合軍が来てくれたんだ!」

「マジかよ!?」

「となれば、切り開くなら今! 全員構え! 挟撃する!」

 

 ボーゼスの叫びと共に、薔薇騎士団全員が飛び出して敵兵士たちを切りつけていった。突如後ろから聞こえてくる悲鳴に気を取られていた主戦派騎士団は、薔薇騎士団に背中を晒してしまったのである。

 

「しまった! 全員態勢を立て直せ! 反逆者を拘束するのが優先だ!」

「し、しかし団長! 鉄の大蜘蛛が……!」

 

 主戦派騎士団の背後に迫るのは、有人型ロイロイ。機銃を搭載した彼らは、容赦なく銃弾の雨を騎士団に浴びせていく。主戦派騎士団の数が多いことが幸いして、ロイロイの銃弾が薔薇騎士団に当たることは無かった。

 

『総員、攻撃中止! 後退しつつ奴らを引き付けろ!』

『宜しいのですか、隊長』

『敵兵の数が少なくなってきた。いつ流れ弾をするか分からん。残りは彼女達の獲物だ』

 

 ロイロイに散々蹂躙され、主戦派騎士団の怒りの矛先はロイロイ軍団に向けられていた。攻撃を中止し後退しようとするのを見て、好機と団長は見た。

 

「あの大蜘蛛に一矢報いてやれ! 薔薇騎士団ごと――」

「ギャアァァァ!」

「っ! な、ば、馬鹿な!」

 

 振り返ると、薔薇騎士団との距離は目と鼻の先で兵士達は斬り合うこともなく、的確に急所を貫かれて倒れていった。団長に迫るのは、返り血で肌や鎧を汚しながらも美しい金髪をたなびかせるボーゼス。

 

「覚悟ぉぉ!」

「ボーゼスぅぅぅ!!」

 

 横一線に振り払い、団長の首は深く斬り付けられた。噴き出す血が降りかかるのも気にせずに、ボーゼス達は地球連合軍との距離を詰めていった。

 

『こちら、地球連合軍。確認だが、薔薇騎士団の方々で合っているな?』

「薔薇騎士団団長代理、ボーゼス・コ・パレスティーです。ご協力感謝します」

『ピニャ・コ・ラーダ殿下より、薔薇騎士団団員の救助要請を受けてここに来た。負傷者は?』

「かすり傷程度の者なら数名おりますが、大きな傷の者はおりません」

『了解。あなた方をアルヌスへ搬送する。ヘリに乗ってくれ』

 

 ボーゼス達が見たのは、兵士輸送用のヘリコプター。最初は「まさかそれで飛ぶ気か」と思ったボーゼスだったが、地球連合軍には空を飛べる技術があることを思い出し、ロイロイ隊隊長の言葉に素直に頷いた。

 

「さぁ皆さん、殿下が待っています! 乗りましょう!」

「お、おいボーゼス? まさかあのグルグルしてる奴にマジで乗るのか?」

「あら、パナシュは馬で行くつもり?」

「そ、そうじゃねえけど! そうじゃねえけど……」

「ならさっさと乗る!」

「うわっ! は、離せって! はーなーせー!」

 

 こうして、薔薇騎士団の団員は全員を無事に救出完了。残ったロイロイ隊は、門を破壊したエグザマクス隊と合流し、襲ってくる敵勢力の掃討任務へと移行していった。




読んでいただき、ありがとうございます。次回をお待ちください。


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積もり積もった復讐

書きたい内容の1つを書くことが出来ました。それではどうぞ。


 エグザマクス隊が門を破壊した事で、元老院の兵士たちは厳戒態勢に入った。まさか帝都で最も堅い門を破られるとは思わなかったが、敵が侵入していることは事実。兵士たちは敵を迎撃すべく、すぐに動き出した。

 

「薔薇騎士団の拘束へ向かった兵士達からの連絡がありません!」

「くっ、まさかチキュウ連合軍とやらにやられたか! 敵巨人達の動きは!?」

「門を破壊後、帝都に侵入! 迎撃隊をことごとく返り討ちにしています!」

「何としても持ちこたえさせろ! 巨人共を元老院に近付けさせるな!」

「隊長! 敵歩兵が元老院に侵入したとの事です!」

「元老院にはまだ兵士達が居る。彼らに任せておけ!」

 

 彼らはエグザマクスを脅威と感じるがあまり、地球連合軍の歩兵達を甘く見ていた。門の破壊のどさくさに紛れて侵入するとなれば、その数は少ない。まだ自分たちには大量の兵士達がいるため、それで押し潰せる。そう考えていたのである。

 だからこそ、彼らは考えていなかったのだ。“死神ロゥリィ”をはじめとする、現地人の脅威がいることを。

 

 

 

 

 

「アッハハハハ!」

「ロゥリィを援護だ! レイスがエグザマクスに回ってくれて助かったぜ……」

 

 元老院の豪華な廊下が、血に染められていく。帝国兵の断末魔がコーラスとなり、ロゥリィの笑い声とバイスたち地球連合軍の銃声が伴奏となる。

 バイス達のなかで最も前に出ているのは、当然ながらハルバードを振るうロゥリィである。常人ならば持ち上げるだけで腰を痛めるそれを、時には片手で振るう。その凶悪な刃は、鎧は愚か肉まで切り裂き命を刈り取る。その光景を見ていたバイスは、今はエグザマクス隊の方に配置されているレイスが此処に居たら、ロゥリィと共に暴れていただろうなぁと思っていた。

 

「テュカ!」

「うん、お願い!」

 

 レレイがテュカの後ろに立ち、杖を光らせる。その間テュカは弓矢を構え、帝国兵の喉に狙いを定めていた。

 

「はぁぁっ!」

「今!」

 

 テュカが矢を放ったその瞬間、レレイは魔法で突風を起こす。それは追い風となり、矢を更に加速させた。

 

「がっ!」

「うぐっ!?」

「ぐへぇ!?」

「……提案しておいて何だけど、凄い貫通力ね」

「でも、敵は更に混乱した」

 

 加速した矢は一人では飽きたらず、3人の首を一気に貫いた。ワンショット、スリーキルと言えるだろう。

 ロゥリィの存在と銃撃による混乱に、さらに魔法で強化された矢の一撃を受けて、帝国兵たちの思考はグチャグチャになっていた。

 ロゥリィのハルバードが敵の群れに大きな穴を空け、突き進むバイス達を追おうとすれば、テュカの矢とレレイの魔法が彼らを襲う。これによってバイス達の進行スピードは予想よりも早かったのだった。

 

 

 

 

 

 対チキュウ連合軍の指揮権を皇帝から与えられたゾルザルは、苛立っていた。バスーン監獄と帝都に連合軍の兵力が向かっている以上、最初のアルヌス奪還戦よりも楽に敵を落とせると思っていた。だと言うのに未だにその吉報が入ってこないのである。只でさえワイバーン隊は竜舎を攻撃されて飛び立てない上に、門を壁ごと破壊すると言う蛮行すら彼らはやってのけているのだ。敵陣地を落とせば、捕虜となったレンゴウ軍の指揮官や、陣地内にいる住人たち(コダ村の難民たちのこと)を人質に取り、敵に降伏を与えることが出来るはず。

 それなのに、全く情報が入ってこないのだ。それもその筈。アルヌスへ出陣した帝国兵たちは全滅。かろうじて生き残った者も、シエル・ノヴァのレーダーによって徹底的に捜索された後に拘束。アルヌス攻撃隊は帝国への伝達手段を失っていたのだ。

 

「なぜ何も連絡が無い! ジャイアントオーガーも投入したのだぞ! だと言うのに何を手こずっているのだ!」

「殿下、どうか冷静に……」

「黙れ! チキュウ連合軍め……! 帝国の門はおろか城壁すらも破壊するとは……! どこまで帝国を馬鹿にすれば気が済むのだ! くそ!」

 

 八つ当たりとして水の入った陶器が床に叩きつけられ、破片と水が床にぶちまけられる。荒れ狂うゾルザルを、側近はオロオロと見るしか無かった。

 そんな時だった。部屋の外から兵士たちの断末魔が聞こえてくる。そしてその声はどんどん大きくなっていき、パンッ!という忌まわしい音とドカドカと走る音が、どんどんこちらに近付いてきた。

 そして、ゾルザルの部屋の扉が蹴破られ、バイス達が突入してきた。

 

「見つけたぞ!」

「ちぃっ! 連合軍共が! 兵士!」

 

 近衛兵が隊列を組んで、ゾルザルを守ろうとする。

 

「今日はあの血塗れの女(レイス)は居ないようだな」

「だがお前を討ちたい女はいる」

「ゾルザルぅぅぅぅ!!」

 

 バイス達の中から1つの影が飛び出してきた。その影は隊列を組んでいた近衛兵たちを飛び越し、一気にゾルザルへナイフを突き立てようとする。

 

「殿下!」

「邪魔だ!」

 

 側近が剣を抜いて迎え撃とうとするが、彼が剣を振るうよりも早く影……テューレがナイフを振るって側近の喉を切り裂いた。

 

「テューレ……! 貴様、俺に生かされた恩を忘れたか!」

「何が恩よ! お前は私の身体と引き換えに故郷を見逃すと言う契約を破り、一族を散り散りにした! そんな奴に感じる恩義なんて塵一つありはしないわ!」

「ふん、俺に抱かれている時は嬉しそうに鳴いていたと言うのにな! 兵士ぃ!」

「オープンファイア!」

 

 ゾルザルが後ろの列にいる兵士にテューレを殺すように命じようとするが、それを阻止するようにバイス達が発砲する。

 

「思いっきりやれ! 近衛兵は俺たちがやる!」

「感謝します! ゾルザル覚悟!」

「テューレぇぇぇ!!」

 

 ゾルザルは倒れている側近の剣を手に取ると、テューレの振るうナイフを防ぐ。そのまま剣を振るってナイフを砕き、足払いでテューレの姿勢を崩した。

 

「ぐうっ!」

「愛玩具しか役目の無い兎が! 貴様は楽に死なせん!」

 

 テューレが倒れた所を馬乗りになり、彼女の白い首に掛けてゆっくりと絞めていく。

 

「かっ! はっ、ぁ、がぁっ!」

「ハハハハハ! 苦しいか! 鳴け! もがけ! 俺に生意気な口をきいた罰だ!」

 

 その時、肉を切り裂く音が聞こえた。そして感じる左腕の痛み。見るとテューレの手には予備のナイフが握られており、それがゾルザルの左腕に傷をつけた。あまりの痛みに首を絞める手を離してしまう。

 

「ぐっ、うううっ!?」

「お前が……死ねぇぇぇ!!」

 

 起き上がり、ゾルザルを押し倒す。そのまま胸の真ん中にナイフを突き立てた。

 

「あぐうううあぁぁぁ!!」

「楽に死ねると思うな!」

 

 何度も何度もナイフを突き立てる。一ヶ所ではなく、右胸左胸と何度も刺し続けた。最初は抵抗しようとしていたゾルザルの手も、段々と力を失う。

 そして……とうとうその手は完全に落ちた。

 

「ルームクリア」

 

 テューレが落ち着いたと同時に、バイスの声が響いた。




ゾルザルは原作通り死亡、テューレは見事復讐を果たしました。
さて、次回でいよいよ完全決着です!


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終戦、異常、そして閉鎖

今回のお話は、かなり個人的な解釈が含まれてます。ご了承下さい。


 玉座に腰かける男、皇帝モルト。彼は外から聞こえる爆音や兵士たちの断末魔を聞き続けていた。

 そして先ほど、側近からゾルザルの死亡が伝えられた。モルトは目をつむりため息をつく。

 

「…………見立てが甘かったか」

 

 そして、とうとう連合軍兵士たちが謁見の間に雪崩れ込む。近衛兵たちがモルトを守るように立ちはだかるが、それをモルト自身が制した。

 

「……良い。我々の敗北だ。残っている兵士たちに伝えよ。この戦い、我ら帝国の敗北である。武器を納め、連合軍に投降せよ。これは皇帝命令である」

 

 近衛兵たちは最初こそ戸惑ったが、皇帝の命令と言われれば逆らえず、剣も盾も床に置き、投降した。

 

 

 

 

 

 アルヌス駐屯地司令部。そこも静まり返っていた。

 

「……先ほど、皇帝モルトが投降した」

 

 司令部内がざわめく。ピニャと、救出され彼女との再会を果たしたボーゼス達、そしてバスーン監獄から救出された講和派議員たちも、目を見開き驚いていた。

 

「本部に皇帝モルトの投降を伝えろ。駐屯地内の避難命令は解除し、エグザマクス隊は死体の片付けだ」

 

 命令を受けた幹部や兵士達が動き回るなか、ピニャは静かに思う。

 

(……これで、帝国の栄華は終わった。だが民は生きている。新しい時代の始まりだ)

 

 

 

 

 

 一方地球では、重大な問題が発生していた。

 

「何!? 世界が崩壊するだと!?」

 

 地球連合軍本部にて集まった各国の首相たちが驚く。彼らに意見を出したのは、特地と地球を繋いでいる『異界門』の影響を調べていた専門家たちである。彼らはバイロン戦争にて使われていた『空間転移門』の研究データを元に調べた結果、ある結論へ辿り着いたのである。

 

「はい。『異界門』は、文字通りこちらとは異なる世界を繋げている門。ですが、それが開き続けていると、非常に危険な影響が出ている事が判明しました。

 最初の異変は、特地にて発生した地震です。本来ならば地震が起きにくい帝都での地震が発生した時、僅かにながら『異界門』が設置されているN国でも、震度1~2程度の地震が発生していました。

 その後、こちらの世界では各地で、害虫の異常発生、干ばつ、急な高潮などが立て続けに発生しています。それこそが『異界門』の影響なのです」

 

 特地派遣隊が帝国との戦いにあった中、地球では異常気象などが発生し問題となっていた。専門家は水を一口飲むと、説明を続けた。

 

「私たち研究チームは疑問に思いました。バイロン戦争時にも、『空間転移門』が使われていました。なぜ『異界門』が出来てから異常が起こるようになったのか。

 そして我々は結論づけました。()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです!」

 

 首相たちは再びざわめく。異なる宇宙など、突拍子すぎて一瞬何を言っているのか分からなかったからだ。

 

「皆さんも、パラレルワールドや平行世界、マルチバースといった言葉を聞いたことがあるでしょう。

 『空間転移門』は、我々の宇宙の中にある『惑星バイロン』から地球へ繋げてワープしてきました。例えるならば、巨大な風船の中で右から左へ移動したようなものです。

 ですが『異界門』は違います。我々の宇宙と特地の宇宙は異なっている。同じように例えるならば、2つの風船を無理やり押し付けあってるようなものなのです」

「特地が異なる宇宙だという根拠はあるのかね?」

「あります。太陽の運行や、星座の見え方、季節の周期などを元に計算した結果、『水が液体として存在できる星でありながら、我々の地球と異なっている』と言うことが判明したのです」

 

 一同は沈黙する。だが、一人の首相が尋ねた。

 

「……先ほど君は、異なる宇宙と我々の宇宙は無理やり押し付けあっているようなものと言った。つまり、それはいつか破裂するかもしれない……そう言うことかね?」

「はい。もしそうなれば、どのような被害で出るのか……全く予想がつかないのです」

「嘘だとも本当だとも分からない……。だが現に、異常気象などは続いている」

「それだけではないぞ。医療専門家からは、『異界門』を解放し続けることで、特地だけの病原菌が入ってくるのではと危険視している。SNSでも、一般人たちが『異界門』の与える影響について考察し始めている」

「……『異界門』を閉じろ、と言うことか」

 

 首相たちは、慎重に協議を続けた。

 

 

 

 

 

 闇の中にある1つの魂。彼女は、事の顛末を常に見続けていた。そして、決めた。

 

『うーん、もう門は閉じちゃおうかしら。戦記物は好きじゃないのよね』

 

 冥府の神ハーディは、連合軍と帝国との戦争を見て、つまらなそうに呟いた。彼女にとっての暇潰し。異界の者が見せる英雄物語を期待していたのだが、彼女にとって今回の物語は『実につまらないもの』であった。最初は炎龍を倒したから期待したものの、後は淡々と戦争に発展していった。

 彼女の求める物は、英雄あり恋愛ありの物語である。期待させておいて最悪なオチを見せられた気分だ。

 人から見れば自分勝手なと思われるような行為であるが、ハーディは冥府の神。人間の価値観は通用しないのである。

 

『それじゃあ、とっとと異界の兵士さんたちにはご退場してもーらおっと』

 

 そして、自身の使徒を呼び、己の言葉を伝えるように命じるのだった。

 




読んでいただき、ありがとうございました。次回はいよいよ、最終回です。


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終わりの凱旋(最終話)

今回で、この小説は完結となります。お気に入り登録・感想・評価をしてくださった皆様、本当にありがとうございました。台詞なしの後日談のような形ですが、どうかご覧下さい。


 地球連合軍が帝国と戦後交渉を行おうとする寸前に、それは現れた。

 突如アルヌス駐屯地にやって来た女性、その名はジゼル。彼女は冥府神ハーディの使徒と名乗り、今回の『異界門』について話があると言ってきた。そして語られたのは、『異界門』を創ったのはハーディであること、異なる世界を無理やり繋げているためにお互いの世界で異常が発生すること、よって『異界門』を閉鎖することを奨めていると言う内容であった。

 あまりにも突然で、そして身勝手な振る舞いに連合軍は辟易としたが、その言葉を地球連合軍本部に伝えた。

 既に地球でも異常が発生しており、『異界門』を閉じるか否か迷っていた各国首相は、全員が閉鎖することを決定。そしてマスコミは、帝国と連合軍との戦争が終わったことと、それに伴って捕虜の返還と『異界門』の閉鎖を行うことを報じた。

 

 

 

 

 

 そして、アルヌス駐屯地にて終戦の調印が行われた。

 特地の言葉で書かれた紙には、先の襲撃と今回の戦いで亡くなった者たちの遺族への謝罪と、地球連合軍に賠償金2千万スワニ金貨の支払いが書かれていた。

 それに対して地球連合軍は、地球で捕虜となっている帝国兵の返還と、アルヌスだけでなく特地全土から全軍を撤収することで調印が結ばれた。

 駐屯地内の調印場にだけマスコミが入ることが許されており、各国のカメラがその様子を写している。もちろん生放送であるため、地球の一般人たちはテレビに食いついていた。

 そして、皇帝モルトが地球の遺族に対して謝罪と頭を下げたことで、戦争の終わりを確信させたのである。

 後に帝国でも終戦が宣言され、地球連合軍の撤収が知らされた国民は、侵略されることが無くなったことによる安堵のため息を漏らしたのであった。

 

 

 

 

 

 連合軍撤収後の、特地の主な人物たちについて、その後どうなったのか此処に記す。

 

 ピニャ・コ・ラーダは、終戦後にモルトが皇帝の引退を宣言。新しくディアボが皇帝となり、彼女はその補佐をすることになった。主戦派議員は殆ど議会での立場を失い、代わりとして講和派議員が中心となる。ピニャはそんな彼らを先導する役目を担った。

 彼女が実際に地球連合軍の基地にて目にした物は、書籍にて詳しく語られ、連合軍は国籍・人種を問わずに戦っていた事、テューレ等から聞いた亜人差別の現実を書き連ねた。

 後に彼女は、亜人差別撤廃の政策を提案。彼女が老いるまで完全な撤廃は成されなかったが、歴史書にて『帝国の運命を変えた皇女』『亜人を救おうと手を差し伸べた者』として語られることになる。

 そして、彼女の率いる薔薇騎士団は、女性が多く編成されたことから、女性の立場改善のきっかけとなった。ありもしない罪を擦り付けられ拘束されそうになっても抵抗したことは劇の台本となり、多くの者に勇気を与えるものとなった。今もなお彼女たちは尊敬される立場となっている。

 

 レレイ・ラ・レレーナは、自分が経験した地震を切っ掛けに、魔法と同時進行で地質学を学び始める。そして地震について研究し、それが与える影響や二次災害を民たちに分かりやすく説明した。彼女亡き後、至るところで耐震性のある建物が建てられるようになる。

 彼女の革新的な論文は、今までの考えを守り抜く保守派との争いのきっかけとなった。彼女を始めとする革新派と保守派の論争は、歴史書では書き足りず、一冊の偉人伝にて語られることとなる。

 

 テュカ・マルソーはコダ村の難民たちと共に、かつて地球連合軍の駐屯地があったアルヌスにて生活した。後述するテューレと共に、『多種族都市 アルヌス』を作り上げ、国を失い各地を彷徨う亜人たちに住む場所を与えた。当然、その存在を良く思わない者たちから集落が襲われることもあったが、彼女の弓はそれをことごとく撃退し、民から尊敬されるようになる。

 

 テューレは、行き場を失った者たちが生きていける場所を目指すとして、アルヌスに都市を作ることを宣言した。かつてゾルザルに奴隷として捕らえられていた者たちや、コダ村の難民などが賛同の声を上げた。

 彼女の事を裏切り者として見ていた生き残りたちは、最初は彼女を殺そうとして動いていた。しかし憎きゾルザルを殺したのはテューレであること、再び農耕が出来ること等からゆっくりと彼女を認めていった。

 

 ロゥリィ・マーキュリーは、今回のハーディの振る舞いに激怒した。戦う者に敬意を払うロゥリィにとって、同盟国の為に戦っていた地球連合軍や、復讐を果たすために勇敢に立ち向かったテューレなどに強く敬意を払っていた。それを要らないから帰れと言うように突き放したハーディに酷く失望し、明確な拒絶の意を示した。

 それでもなおハーディはしつこく食い下がったが、ロゥリィの仕える戦いの神エムロイからも手を引くように言われ、ハーディはガチ泣きしながら引き下がったと言う。

 ロゥリィはその後も各地を回り、勇敢と無謀の違い、戦いで生き残ることは恥ではない事などを教えて回った。

 放浪とする彼女であったが、アルヌスには時々足を運び、テュカやテューレ、ピニャやレレイ達とお茶会をすることがあったと言う。

 

 そして、地球連合軍は―――

 

 

 

 

 

 『異界門』を潜り抜け、特地から地球へと帰還した兵士たち。彼らの帰還を、民たちは讃えた。

 その巨大な鋼鉄の足をゆっくりと動かし、歩み始めるエグザマクス達。エグザビークル・タンクは履帯をキュラキュラと進ませる。

 一部、花で飾り付けられた輸送用トラックがある。トラックの上には部隊の小隊長が立ち、今回の戦いで戦死した者たちの遺影を持ち、市民たちに敬礼した。

 ある兵士は、歓声を上げる市民たちの中から己の家族を見つけた。それが帰還できたことを実感させ、涙を流しながら帽子を手に取り、家族に向けて大きく手を振った。

 

 だが、彼らにはまだ戦いがある。地球内に残るバイロン軍残党、地球連合軍に加盟せず独自で軍備拡張を進める国家など、彼らには敵がいるのだ。

 

 彼らは戦い続ける。エグザマクスと共に―――。

 

 

―完―




最後の連合軍の帰還シーンは、個人的には『レッドショルダーマーチ』をBGMとして勧めたいです。

さて、これにて『GATE 量産機よ、異世界でも立ち上がれ』は完結となります。30MINUTES MISSIONSとのクロスオーバーは初めてでしたが、何とか最終話を迎える事が出来ました。読んでいただき、本当にありがとうございました!


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