ハイスクールN×D Re:make (紺狐はボクっ娘信者)
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プロローグ

再始動


 ーー台無し。

 夕焼けで真っ赤に染まった屋上に響き渡る、少女の声。その声音は、どこか苛立ちを孕んでいる。

「台無し、だと言ってるのよ」

 再び紡がれる少女の声。無視するのも気が引けると思い声の方向を向くと、フェンスに寄りかかっている女性の姿があった。

 腰まで伸びた美しい黒髪。華奢な体つきなのに、出る所は出ている。しかも遠目で見ても可愛らしい顔をしている。まるで人形のような美しい女性。

「何が台無しなんだよ」

「この状況を見てわからないのかしら。私は今、自殺しようとしていた。それを、貴方に発見されたことによって失敗に終わったの」

 どうやら、この女性は電波系の類らしい。せっかく容姿端麗でスタイルもいいのに、もったいない。

「電波系とは随分な言い草ね。今すぐ貴方を捻り潰したいところだけれど、見逃してあげるわ」

 おっと、どうやら口に出ていたらしい。

「口には出ていないわよ。私はね、特殊な力を持っているの。それは、人の心の声を聞く力」

「電波系極まれり、ってやつか?いや、冗談だから。そんなに怖い顔をしないでくれ」

 少女の瞳から光が消えるのがわかった。出で立ちというか、雰囲気で何となくわかる。まずい。少し茶化しすぎた。

「……それで、貴方は何故ここに?」

 こほん、と咳既払いをし、会話を続ける少女。

「点検だよ。屋上にあるタンクの。貧乏くじをひかされたんだよ」

「あぁ……。そんなものもあったわね。早くやるといいわ」

 そう言われても、いきなり自殺発言や特殊能力を持ってる発言する人を放っておくのも気が引ける。

「大丈夫よ。自殺なんてしない。興が削がれたーーというやつよ」

 淡々と答える女性を背に点検を始める。鵜呑みにする、という訳では無いがこれ以上追求しても無駄だろう。油断して言うタイプにも見えない。

「……賢い選択ね」

 特に反応することなく、黙々と点検を続ける。正直なところ名前を書いて点検したことにしたいが、目撃者がいるからそうもできない。

「それじゃあ、ひとつだけ忠告。近いうちーー1週間以内に、自分の身の回りの環境が変わる出来事に襲われるわ」

「そうかよ。なら、その時はアンタの所に行くさ。対処法とかも知ってんだろ?」

「ふふっ、そうね。待ってるわーー兵藤一誠君」

 女性がそう言うと、びゅううううっと強い風が吹いた。咄嗟に目を閉じ、次に目を開けた時にはその女性はいなくなっていた。

「なんだったんだ、アイツは」

 そう呟いて、屋上を後にした。

 

 

「それはね、きっとお兄ちゃんの妄想だよ」

 かなり理不尽な言葉をなげかける妹こと兵藤憂姫。150センチにも満たない身長に貧乳。さらに普段からツインテール。ちなみに、贔屓ではないが兄から見ても可愛いとは思う。

「うるせ。なんで妄想の話をしなきゃいけないんだよ」

「ついに現実と二次元の判別がつかなくなったのかなって」

「俺はそこら辺はちゃんとしてるっつの」

 さっきまでの話を試しにしてみたらこの有様だ。ちゃんと返されるとは思ってなかったが、まさかここまで相手にされないとは。

「でも、人の考えてることがわかるって言うのは、意外と誰でもできることなんだよ」

「と、言うと?」

「人間は喋らなくても、表情やその動作からある程度までなら分かるもの。お兄ちゃんだって、私が思いっきり不機嫌そうな顔してたりしたら何となく察するよね」

「ん、まあそれなりにな」

 まあ、そう言われるとわからないことも無い。ただ、あの人は背を向けていても完璧に当ててきた。仕草だけでそんなにわかるものなのか。

「ただ、どこまで把握できるかはその人次第だからさ。ま、そんなに深く考えないことだよ。それで、その人はどんな人だったの?可愛かった?」

「まあな。黒髪の長髪でスタイルも良くて、なおかつ顔もいい。それこそそんな性格がなけりゃ男が放っておかないだろうな」

 そう言うと、なぜか憂姫は不機嫌そうな表情を見せる。むーっ、とわざとらしく頬をふくらませてだ。

「多分、それは生徒会長だよ。でも、あんな人がタイプだったんだね」

「……いや、そういうんじゃない。あの顔、どこかで見たことあるんだ」

「そりゃあ、全校集会の時に挨拶するからね」

「もっと昔にだ。それこそ、思い出せないくらいに」

 本当に、いつの出来事が思い出せないくらい昔のこと。だけど、その人に会ったということだけは覚えている。まるで、何かの呪いのように、身体に刻み込まれてるような。そんな感覚だ。

「テレビでよく見る有名人を身近な人間に思う、と言うやつかな」

「違う.........と、思いたい」

「それで?お兄ちゃんは恋をしちゃったってこと?」

「誰が、あんな電波女好きになるかよ」

 そう言いつつ、憂姫から顔を背けた。

「なーにー?何か面白い話でもしてるのー?」

 そう、楽しそうに言いながらリビングに入ってくる女性こと千代田こよみ。隣に住む幼なじみで、よく夜ご飯を作りに来てくれる。両親が海外で働いてるせいで料理できる人がいないというのが一番の原因だが。

「あ、こよみ。お兄ちゃんの恋のお話をしてたんだよ」

「一誠が……恋!?」

 何やら驚いた様子のこよみ。

「その反応だと俺が女に興味が無いように聞こえる気がする」

「気の所為だよ。それで、お相手は誰かな」

「生徒会長さんだよ。一目惚れだってさ」

「話を変な方向に持ってくな。そもそも恋なんてしてねぇ」

 そう言って、2人の頭にチョップを食らわす。もちろん、痛みを感じないように優しくだが。

「いったぁ!女に手を上げるなんて最低だよ!」

「ちゃんと加減してるし、いつも俺が受けてる扱きに比べたらマシな方だろ」

「それはそうだけどさっ」

 笑顔を見せるこよみ。

 因みにだが、俺の体には伝説の龍が宿っている。これだけ聞けば思春期の男子の他愛のない妄想かと思うが、事実である。

 まあ、実際にそんな力を宿すと大変で、その力を危険視する勢力に殺されかけたこともある。あとは、戦闘狂に付きまとわれたことも。

 そんな奴らに対抗するためにこよみから扱きこと修行をつけられている。その内容がハードで、今までどれだけ死にかけたか。そのお陰で強くはなれたが。

「それで、どうするの?自分から乗り込んで告白でもする?」

「まだ言うか。……ま、なにかない限りは行かねーよ」

 そういうことになってるし、下手に会いに行ってもはぐらかされるのがオチだろう。

「ふーん。じゃ、頑張ってね。私は夕飯でも作るよ」

 そう言うと、こよみは台所に行って料理を始めた。憂姫の方は考え事をするように顎に手を当てている。

 ……ま、そんな劇的な変化なんて起きない方がいいんだけどな。今の生活には十分満足してるし。

 

 

 余談だが、夕飯には何故か赤飯がでた。いつの間に用意したのだろうか。



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悪魔と聖女の輪舞曲
1話


「兵藤君!私と付き合ってください!」

 謎の電波女こと生徒会長に出会ってから一週間後。ちょうど、あの人と出会ったくらいの時間帯のことだ。見ず知らずの女子生徒.......他校の子か?から、告白を受けた。

 そのせいで、いつも下校に使う電車をひとつ遅らせて駅近くの公園にいる。

「えっと、君は誰?」

「私は天野夕麻ですっ。ずっと前から貴方のことが気になってて……」

「ふーん。そうなんだ」

 因みに、この子は堕天使と呼ばれる生物である。一時期対峙していた勢力だが、今では和解している。まあ、刺客を送ってくる理由は無いはずだが。しかもこの子下級だし。

 と、なると何故身分を隠す?何かあるなら普通に話せばいいんじゃないのか?

「素っ気ないんだね?」

「そりゃ、面識もないのにこんなに美人に告白されたらフリーズする」

「美人だなんて、そんな……」

 確かに美人ではあるが、恐らく生徒会長の方が美人だ。比較するのは失礼だと思うが。

「えっと、告白の返事は……?」

「悪いけどノーだよ。君は俺のことを知ってるようだけど、俺は君のことを知らない。友達からならいいけどさ」・

 そう言うと、彼女はショックを受けたように目を見開いた。

「……じゃあ、友達になる前に一つだけお願いを聞いてくれる?」

 そして直ぐに表情が戻ったかと思えば、直ぐに切り返すようにそう言った。

「俺が叶えられる範囲でな」

「簡単なことだよ。……死んでくれないかな」

 そう呟くと、彼女の背中からカラスのような黒い羽が出現した。

 右手には光り輝く彼女の身の丈ほどの槍が握られている。あれは天使と堕天使がよく使う武器。体内で生成された光を槍状に形成したもの。強度は使い手によって変わるが、下級だしそう大したことは無い。

「ざーんねん。殺す前にいい思い出を作ろうと思ったんだけどな」

「その姿、まるで堕天使みたいだな」

「みたい、じゃなくて堕天使なのよ。この槍も本物。光で構成されているから、人体にも有毒なのよ?」

 そう言い、くるくると器用に槍を回転させる彼女。

 やっぱりそうか。こいつは、俺を殺しに来た刺客。後でアザゼルに報告、か。

「まあ、いいか。じゃあ二択だ。今俺に消されるか。それともしっぽ巻いて帰るか。どっちか選んでくれ」

「.........は?何言ってるの、貴方。気でも狂って」

「何度も言わせんな。命狙いに来たやつに慈悲をかけるほどお人好しじゃねぇんだ」

「調子に乗らないでよ。貴方程度、私がその気になればいつでも殺せるのよ」

「まあ、そう答えるよな。じゃあ、さよならだ」

 ーー赤龍帝の篭手。

 そう、軽く呟くと左腕にガントレットが出現する。それは赤というにはとても鮮やかで、まるで宝石でも身にまとっているかのようだ。

(久しぶりだな、ドライグ)

『随分とご無沙汰じゃないか。前に犬っころ.........いや、赤い坊主と戦った時以来か』

(ちげぇよ。リリンをぶっ飛ばした時以来だ。まあ、いいか。目の前の堕天使を倒すぞ)

『ん?消滅させないでいいのか』

(そんなことして問題になったら面倒だ。それに、女を痛めつける趣味はねぇよ)

 そんな他愛もない会話をしながら、右手に魔力を溜める。

『相変わらずお前は甘い。足元をすくわれても知らんぞ』

(そんなヘマはしねぇ)

 ある程度の魔力をため終わると、おもむろに堕天使に近づく。

「舐めるなっ!.........っ!?」

 抵抗するように光の槍を放つ堕天使。ただ、それを無造作に手を凪いだだけで消滅させて見せれば、一気に顔色が変わる。

「これだけでも実力の違いがわかっただろう?じゃあ、大人しく組織に戻ってくれ」

 そう言い、堕天使の体に触れ、溜めた魔力を神器をかいして流し込んだ。

 ーー赤龍帝の揺り籠。

 蓄積させた魔力。もしくは赤龍帝自身の力を過度に譲渡することにより、体の自由を奪う拘束技。要するに、受け皿以上の力を与えて溢れさせてる状態。痛みはないが、指の一本すら動かせなくなる。

「きゃーーっ!?」

「おっと、あぶねぇ」

 倒れそうになる堕天使を抱き抱える形で受け止める。

「どうせ、上の命令ミスとかそんなんだろ。軽く威圧しても怯まない時点で、実力差が分からないレベル。そんなやつを暗殺に使うほど間抜けじゃねぇだろ。アザゼルは」

「な.........!?なんで、アザゼル様のことを!?」

「一時期グリゴリにいたんだよ。そっちの組織に極秘でな。なんなら幹部連中全員友人だっつの」

「はぁ!?」

 意外だな。極秘は建前だったのに、本当に守ってたなんて。あいつらなら部下に話してそうだが。

「上司の命令ミスで殺されるなんてあんまりにも不遇なんでな。そのまま強制送還だ。アザゼルに話は通しておくから、嫌な目に遭うことはないとは思う」

「なんで、自分を殺そうとした相手に慈悲をかけるの?」

「さっきも言った通り不遇すぎるからだ。それに、お前じゃ殺すどころか傷すらつけられない。正当防衛も成り立たねーの。もっと実力つけてから出直してこい」

 そう言って、軽くデコピンをかますと涙目になる堕天使。ただ、赤龍帝の揺り籠のせいで押されることすら出来ずにただ涙目で睨みつけるだけしか出来ないでいる。なにこれ。新しいプレイ?

「あと、手の甲に魔法陣刻んでおくから、何かあった時は呼べよ。ないとは思うが、パワハラとかいじめとかあったらすぐに助けるから」

「.........」

「後、次会うときはもう少しまともな格好してこいよ。それじゃあまるで痴女のそれだ」

「ち、痴女.........!?」

「そんなボンテージ姿の女王様キャラとか今どきアニメにもいねぇよ。せっかく可愛いんだから少しは気を使えよ。お嬢様」

「.........っ」

 そう言うと、顔を真っ赤にしてなけなしの力で顔を背けた堕天使。どうやら怒ってるらしい。

「それじゃあ、もう一度言うがサヨナラだ。後で詫び入れに来いよ?菓子のひとつでもご馳走してやるから」

 そう言って、堕天使を地面に優しくおろし、魔法陣を展開する。行先はグリゴリの応接間。勿論、緊急時に使う魔方陣を使用してだ。

 堕天使は最後になにか言いたそうにしていたが、その前に魔法陣が起動して転移が完了した。

「さて、電話と」

 そう呟くと徐にスマートフォンを取り出して通話画面を開く。もちろん相手は堕天使総督ことアザゼル。

 ーープルプルプルっ。

『もしもし.........ってイッセーか。どうした?急に』

 少しの間をあけて通話に出る男性ことアザゼル。

「お前のとこの部下が俺を殺しに来たんだが、戦争でもしたいのか?」

『はぁ!?そんなわけねぇだろ!第一、今のうちの戦力じゃ、お前一人に蹂躙されるだけだ!そんなのは火を見るより明らかだろ』

「そうだよなぁ。そもそも、そっちには喧嘩を売る理由がない。戦争したいなら別だが」

『堕天使全員コカビエルみたいな思考してるわけじゃねぇんだ。それに、お前はどこの勢力も欲しがる突起戦力だぞ。喧嘩を売ってもデメリットしかない』

「やっぱりそうだよな。お前もそこまで馬鹿じゃないか」

『俺をなんだと思ってんだよ』

「俺を拉致しようとした神器オタク」

『間違っちゃいないがもう少し別の解釈はなかったのか』

「黙れ、閃光と暗黒の龍絶剣総督。そろそろマッドサイエンティストは卒業してちゃんと総督としての仕事しろ」

「なっ、なぁ!?なんでお前がそれを知ってんだよ!」

「前にシェムハザから聞いた。あと、その堕天使は応接間のところに転移させといたから話を聞いといてくれ。あと、くれぐれも責めるなよ」

『分かってるよ』

「念の為に魔法陣ですぐに転移できるようにしてるからな。絶対にするなよ」

『どんだけ信用ねぇんだよ!』

 ーーぷつっ。ぷーっぷーっ

 とりあえず、これ以上の会話は不毛そうだったので躊躇せずに切った。

 そういえば、あいつーー屋上で会ったあの女子。確か、身の回りが変わるほどのことが起きる、とかなんとか言ってたよな。もしかして、あいつの差し金か?.........いや、そんなことをするメリットもないか。

「ったく、わかんねぇな」

 そう、面倒そうな声音でつぶやく。

 出現させていた神器を消し、放出させている魔力を通常生活レベルまで落とす。なんというか、どうやら俺は強くなりすぎたようで、普通に魔力を出していると人間に悪影響が出るらしい。憂姫曰く、有害物質のそれに限りなく近いそうだ。リアルバイオハザードの感染源になるのはごめんだ

「さて、帰るか.........っ!?」

 面倒そうに帰路に着こうとしたその時だった。胸に激痛が走り、全身から力が抜けるような感覚に襲われた。すぐに痛みの発生源を確認すると、そこには大穴が空いていた。ちょうど、心臓があるあたりだ。

「ぐあ.........っ」

 あまりの激痛に苦悶の声を漏らす。傷口から溢れ出す血で、足元には血溜まりができていた。それこそ、普通の人間なら即死レベルの量だ。

「やあ、赤龍帝。初めまして。と言ってもお別れだね。世界で五本の指に入ると言われる君でも、人間レベルにまで落とした状態では簡単に殺せるようだ」

 そう言い、目の前に男が現れる。俺と同じくらいの身長の優男。顔立ちは整ってるようだが、浮かべている表情は下卑た笑み。おそらく、俺を攻撃したのはこいつだ。

「てめ.........!」

「まだそんな目をできるんだね。でも、それも今だけだよ。君は血を失いすぎている。あと数分としないうちに死ぬだろう。それではさようなら。僕に男の死に際を拝む趣味なんてないからね」

 そう言うと、男は足元に転移魔法陣を描き、どこかへ転移した。

「くそ.........ため、すか.........」

 恐らく、このままではあいつの言った通り死ぬだろう。このレベルの傷だと、たとえフェニックスの涙があっても助からない。圧倒的なまでに血を失いすぎている。

 だから、一か八かだ。あの女子を呼び出す。あいつなら少しはなんとかしてくれるかもしれない.........と思う。

「こい.........よ.........」

 そう、なんとか呟き、空に向かって魔力を放出させた。それを1種のメッセージ代わりにする。

 .........くそ、ついてねぇ。結局、あの女の言った通りになったってわけかよ。

 



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2話

イッセーに「心火を燃やしてぶっ潰す」と言わせたい今日この頃


 ーーちゅん、ちゅんっ。

 耳に小鳥がさえずる声が入ってくる。いつもよりも日差しが辛い。上手く目も開けられない。

 これは……悪魔の弱点と同じか?たしか日光に弱いとかなんとか聞いた気がするし。となると、あいつに気づいてもらえた、と考えるのが妥当か。

「ふわ……ぁ……もう、朝か」

 寝惚け眼をこすりながらゆっくりと体を起こす。

 いつものパジャマではなく、何故かボロボロの制服に身を包んでいる。

「……ん、なんだ?」

 ふと、隣に知らない温もりを感じる。なんというか、とてもいい匂いがして.......とっても柔らかくて.......。.......柔らかい?

「……っ!?」

 嫌な予感を覚えながらゆっくりと布団を上げてみると、そこにはあの人と揶揄していた張本人である生徒会長がいた。制服は乱れ、何やら悲しげな表情を浮かべながら眠っている。

「ん……んん?」

 現在の状況を確認しよう。

 朝起きたら、同じ布団であの女が寝ている。昨夜の記憶は、俺が瀕死になったところまでしかない。制服も乱れてる。

 ……あれ、これやらかしてしまいましたか。

「ん……あ、いっせー.......くん。おはよう.......」

 最悪の結論にたどり着いたタイミングで目を覚ます生徒会長。やたら顔を合わせようとせすずに、窓の向こうを見ている。

 .......これはまずい。最悪のパターンの可能性が高い。ここは素直に謝るべきか。

「.......ごめんなさい」

 気づいた時には土下座をしていた。ジャパニーズドゲザ。誠意を示す最大の行為であり、これ以上の謝罪方法を思いつかなかった。

「.......え?なんで謝っているの?」

「何故か、こうしなければいけない気がした」

「.......?.......あ、盛大な勘違いをしているわ、一誠君」

 自分の格好を見て、何かを察したような生徒会長。

「私と一誠君に既成事実はないの。だから顔を上げて」

「え、じゃあなんで布団の中に?」

「それを含めて説明するわ。.......私の方が謝らなければならないの」

「.......へ?」

 

 

 

 あれから二十分程経過した現在。リビングには生徒会長と憂姫、そして俺というよくわからないメンツが顔を揃えている。なんなの、この状況。

「まずは、一誠君。.......本当にごめんなさい。貴方を悪魔へ転生させてしまったわ。それも、私のエゴで」

 申し訳なさそうに頭を下げる生徒会長。

「やっぱりそうなるよな。フェニックスの涙じゃ、あれは治せないだろうし」

「やっぱり、こっち側の人間だったのね」

「そうだよ。ってか、聞いてなかったか、魔王から。じゃあ、初めましてだ。一応、世界で三番目に強い赤龍帝だ。基本的に魔力を人間レベルにまで落とした状態で生活してるから簡単にやられるんだよ。まあ、もうあんなヘマは食わないけどな」

「つまり、油断してたからやられたと」

「そうじゃなきゃあんな奴にやられねぇよ」

 ポリポリ、と頬を掻きながらそう答えると千夜先輩はこほん、と咳払いする。

「.........とりあえず、話を戻しましょう。私は昨日付で貴方の主になった。ここまでは大丈夫かしら」

「ああ、大丈夫だ。それで、俺は何の駒なんだ」

兵士(ポーン)。私が持っている唯一の変異の駒を使用したの。貴方、それでも足りない可能性があったのよ」

「兵士か。ま、妥当なところか」

 兵士の駒の特性的に、俺の戦い方に一番合いそうではある。

「.........じゃあ、一誠君。これからよろしくお願いするわね」

「ああ。これからよろしくな、ご主人様」

 ぺこり、と礼儀正しいように礼をすれば、千夜先輩は屋上で会った時のような荘厳な雰囲気を漂わせ始めた。なんというか、凛としているというか。とにかく、この方が千夜先輩ぽくていい。

「それじゃあ、眷属の紹介をするわね。ここにいる憂姫と貴方の幼なじみの千代田こよみ。そして貴方と同じクラスの笛吹遥。その三人ね」

 全員顔見知りというか、かなり話したりしてる人だった。

「え、そのメンツなのか」

「ええ、そうよ。こよみは戦車(ルーク)。.......駒ごとの役割と強化されるものは知っているわよね」

「軽くは憂姫から聞いたから知ってる。まあ、こよみはイメージ通りだよ」

 当たり前のように軽自動車を片手で投げ飛ばしてくるやつが戦車じゃなかったら世紀末だ。

「ちなみに、私は僧侶(ビショップ)だよ」

「それが一番しっくりくるよ。前線で戦うってタイプじゃないだろ」

「えへへ……そうだね……」

 そう言って、憂姫は笑顔を見せた。そりゃあ前線で剣とか振り回すタイプではないだろ、確実に。

「それで、笛吹遥は騎士(ナイト)。これで眷属の紹介は終わりね」

「ん、わかった。それで、俺は何をすればいいんだ。直ぐに契約取りにでも行けばいいのか?」

「そんなわけないでしょう。学生の本分は勉強。そういったことも大切だけれど、それで勉学が疎かになっては本末転倒よ」

「生徒会長様はお固いな」

「あら、必要最低限のハードルは突破しろ、と言ってるのよ。それ以上ーープライベートにまで干渉するつもりは無いわ」

 要するに恥になるようなことはするな、と。

「ということで、学校に行きましょう、一誠君」

「……え、一緒にか」

「これは仕事よ。初仕事が主のエスコート。光栄じゃない?」

「どうせ駄々こねたって無駄なんだろ」

「飲み込みが早くて助かるわ」

 そう言うと、一瞬にして制服に着替える千夜先輩。早業とかそんなレベルじゃない。おそらくだが、魔力とかそんな力を使ったのだろう。

「それじゃあ行くわよ?」

「わかりましたよ、主様」

 

 そして強制的に登校させられるのであった。

 

「あれ、私だけ蚊帳の外」

 

 あとで憂姫には色々と埋め合わせをしようと心に決めて。



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3話

 校内に入るやいなや、ざわつきが全体に広がっていく。当然といえば当然だ。昨日まで陰キャ同然の行動をとっていたやつが生徒会長と登校してれば。

 ちなみにだが、この学校の女子のレベルは高い。元々女子高ということもあるが、それにしても上はモデルクラスの美人揃い。その中でも頂点付近に存在するのが生徒会長こと千夜先輩。三大お姉様の一人と呼ばれていたりする。

「そんじゃ、また後でな」

「ええ、また後で」

 教室の前で別れれば、すぐさまクラスメイトの質問攻めに会う。やれ「いつの間に手を出していたんだ」とか「馴れ初めは?」とか。まだスタートラインにすらたってねぇっての。

「……珍しいね。上級生と登校なんて」

「お前もか、遥」

 かなり表情引き攣らせながらこちらに顔を向けてくる女子こと笛吹遥。低身長貧乳ショートカットとかいう、ギャルゲーで言うところのロリ枠にあたる。ちなみに可愛い。

「そりゃ、あんな美人と登校してくれば目立つさ。それで、二人はどんな関係なの?」

「強いて言うなら主従関係。下僕は俺でな」

「あはは、それは笑えないね」

 面白そうに笑う彼女。実を言うと、遥は人間ではなく悪魔だ。登校中に遥も千夜先輩の眷属言うことも聞いていた。

 ちなみにだが、千夜先輩の眷属は俺を含めて4人。全員身内という謎の現象が起こっている。

「でも気をつけなよ。千夜先輩のファンって結構陰湿な人が多いからね。襲われたりしたら怪我するかも」

「大丈夫だろ。そんなに弱くないしな。でも、心配してくれてありがとな、遥」

 そう言って、頭を優しく撫でてやると気持ちよさそうに目を細めた。……うん、こういう所が可愛い。

「朝からお熱いわねぇ」

 からかうような声音を発しながら近づいてくる女子こと桐生藍華。三つ編みメガネという絵に書いたような文学少女みたいな見た目してるくせにかなりの変態。というかバカ。

「おはよう、桐生」

「おはよ。なになに?遥やこよみだけじゃ飽き足らず生徒会長にまで手を出したの?」

「人を色欲魔みたいに言うな。たまたま同じだったってだけだ」

「それなのに、結構親密そうにしてたのね」

 全く。変なことに首を突っ込みたがるな、こいつは。

「色々あるんだよ。それと、そろそろホームルーム始まるぞ」

「あ、やばっ。話の続きはお昼休みにね。逃げるんじゃないわよ」

「逃げるに決まってんだろ」

 今日は外で食べよう。人通りが少ない旧校舎辺りで。

 

 ーー旧校舎周辺の木陰

 

 駒王学園の裏手にある旧校舎。その周辺は日当たりが良く、昼食をとるには最適な場所となっている。気味悪がって近づくやつはそう多くないが。

「ふぅ、やっとゆっくりできる」

 ゆっくりと息を吐きながら弁当を広げる。こよみ特製の弁当で、なかなかに美味しい。今日はハンバーグにレタス卵焼きにポテトサラダ。俺の好物ばかりだ。

「いただきまーー」

「隣、いいかな?」

 ポテトサラダを頬ばろうとした時に、不意に声をかけられた。声の主は木場祐斗。学年一イケメンと噂されるほどの優男。嫌味なところがない分、色々な人に好かれているとのこと。話したことは無いが。

「別にいいけど、珍しいな。普段はこんな所に来ないだろ」

「気分転換にね。キミの方こそ、ここで食べるのはそうないんじゃないかな」

「俺の方も気分転換ってやつだよ。朝から騒がしかったから、静かなところにいたかったんだ」

「それじゃあ、僕はじゃまだったかな?」

「別に。一人増えたくらいで不快に思うようなタチじゃないからな。騒がしいのは嫌いだけど、明るいのは好きなんだ」

「へえ、そうなんだ」

 そう言うと、木場は微笑んでみせた。

 うん、こういうタイプがモテるんだろうな。

「そういえば、俺はお前のことなんて呼べばいいんだ?」

「好きなように呼んでいいよ。あまり酷いものは嫌だけどね」

「酷いのって……。それじゃ、木場って呼ぶことにする」

「じゃあ、僕は一誠君と呼ぶよ」

 ちなみにだが、俺を下の名前で呼ぶやつはそう多くない。恐らく、遥とこよみくらいだ。なんか、新鮮な気がする。

「そういや、木場はなんの部活に入ってんだ?」

「オカルト研究部だよ」

「あぁ、あの美人揃いと噂の。たしか部長がリアス・グレモリー先輩で、副部長が姫島朱乃先輩の」

「そうだね。まあ、美人揃い、というのはどこの部活も同じだと思うよ」

 素でそういうことを言えるのか。そういうことを言えるからモテる、ということもあるのだろう。俺も今度真似してみよう。

「そう言う一誠君はなんの部活だい?」

「無所属だよ。一応、それでも許されるだろ」

「履歴書に書けなくなるから、参加する人は多いけどね。なにか理由でもあるのかい?」

「人付き合いが苦手なんだよ。下手に他の奴と話すよりは、こよみや遥と一緒にいた方が楽しいしな」

 俺の発言を聞くと木場は苦笑した。なにかおかしなことでも言っただろうか。

「ま、その2人は女子バスケ部の方に入ってるから一緒に何かやる、ということも出来ない。ってことで、目標を持たない俺はぶらぶらしてるって訳だ」

「目標なんてもの、すぐに見つかるものではないと思うよ。それに、一誠君が楽しいなら、それをやるべきだろうし」

「楽しくはないさ。今の俺が楽しいと思えることは、こうやって話すことくらいだっての」

 ……いや、目標が無いわけじゃない。ただ、目指すものがこの学校にはないってだけだ。

「あんまりのんびりしてると、昼休みなくなるぞ?」

「うん、そうだね。……って、あと十分で授業だよ」

「え……あ、ほんとだ」

 やばい、と思い弁当を思い切りかきこんだ。木場の方は優雅にサンドウィッチを口にしていた。

「また、話せるかな?」

「ここに来れば話せるとは思う。しばらくはここで食べる予定だし」

 そう言って、一旦解散して教室へ向かった。不思議なやつではあるが、悪い奴ではないのだろう。

 教室に戻った時点で朝のことを桐生に聞かれたが、その大半を無視で押し通した。

 




失踪暦があるからまじで今回は完結させたい


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4話

どうも。つい数分前に話数を間違えていたことに気づいて慌ててタイトル変更した愚かな作者です
本当にすみません


 結局のところ、ゆっくりなんて出来ずに放課後になった。男子からは嫉妬の視線。女子からは玩具でも見つけた子供のような視線を向けられ続けている。……なんなの、この状況。

「お疲れ様。今日は部活休みだし、一緒に帰らない?」

 隣から優しい声音で話しかけてくる遥。本当に癒される。

「生憎、ご主人様からの呼び出しがかかっててな。一緒に帰ることは出来なそうだ」

「ご主人様って、生徒会長のこと?」

「ああ。無視したらあとが怖い」

「あはは、そうだね」

 まあ、呼び出し自体はそこまで嫌ではない。何をされるかわからない、という不安さえなければ。

「んー、それじゃあ私もついて行こうかな」

「遥がいいなら頼む」

「大船に乗ったつもりで任せなよ」

「大船にしては小さ……いひゃい、いひゃいよはるはひゃん(痛い、痛いよ遥さん)」

 冗談で身長いじりをすると思い切り頬を抓られる。しかも長時間痛みが残るような類のものを。

 まあ、いじると顔真っ赤にして頬を膨らませるからかなり可愛い。……評価は下がるけど。

「ごめんなさい、は?」

「ごめんなさい。もう二度と言いません」

 そして、数十秒後に解放され、涙目で謝罪した。

「じゃあ、帰りにドーナッツひとつね?」

「紅茶もつけますよ、お嬢様」

「んむ、よろしい」

 むふーっ、とドヤ顔の遥。やっぱりかわいい。

「しーぐれっ、私にも奢ってよ」

 そう、元気良さそうに話しかけてくるこよみ。

「便乗すんな。俺は遥に奢らなきゃならんのだ」

「えー、いいでしょ?ひとつ増えるだけだしさ」

「結構な被害なんだけどな。学生の財布の中身をどんだけ過大評価してんだ」

「奢ってあげなよ。私のお願いでも、聞けないの?」

「はいはい、わかったよ。お嬢様」

「なんで遥の言うことだけは聞くんだよぉ……」

 え、なんでって、その方が面白いし。

「一誠君、意地悪はダメだよ。最初から奢るつもりだったのに、面白がってからかってたでしょ」

 どうやら遥お嬢様には全てお見通しだったようだ。

「それに、こよみもわかってて乗らない」

「はーい」

 ツッコミ役がいると、割と直ぐにまとまってしまう。もう少し演技力をつけるべきか。

「そんじゃ、こよみも行くってことでいいんだよな」

「うん。私はそれでいいよ」

「それじゃ、行くか」

 ということで、三人組は千夜先輩の元へ向かうのであった。

 

 

 ーー生徒会室

 

 

「よう、千夜先輩。今朝ぶりだな」

 生徒会室に着くと、そこには凛として姿勢よく座っているい千夜先輩の姿があった。やっぱり、この人はなんだかんだいって美人だよなぁ。

「「お久しぶりです。千夜先輩」」

 続くように挨拶をするこよみと遥。

「ええ、久しぶり。私は一誠君を呼んだのだけれど、どうしたのかしら?」

「一誠君のお守りです」

「イッセーに餌付けされました」

「間違ってはないけど、その言い方はやめてくれ」

「まあ、いいわ。先輩がいた方が教えやすいかしら」

 よく良く考えれば、この二人が眷属としても悪魔としても先輩になるわけだ。聞けることは聞いておこう。

「それで、今日は悪魔の仕事について教えるわ」

「悪魔の仕事?契約を取りに行くとか言うあれの事か?」

「半分正解。同行者でもそういうことをする輩はいるけれど、私達は違うわ。悪魔の仕事は大きくわけてふたつ。ひとつは人間の元に赴き、要望を叶えて対価を貰うこと。もうひとつははぐれを始末すること。でも、私の眷属は主にはぐれ狩りを主に行っているわ」

「前者が魂を貰う系統ってわけか」

「厳密に言えばそうではないけれど、その認識でいいと思うわ。魂ではなくてもお金や絵画、お酒といった嗜好品でも対価として成立するもの」

 それは要するに何でも屋では。

「それで、はぐれってなんだ?」

「自身の欲望を満たすために主を手にかけた者、ね。ただ、これは一般の見解であり、ものによって違うわ」

「と、言うと?」

「ケースバイケース、と言うやつね。例えば、身内を人質に取られて転生させられた人間が、主を手にかけるとか」

「なんだそりゃ。それでお尋ね者になるなんて、ひどい話もあるもんだな」

「あくまでこれはこれはひとつの事例よ。大半は私利私欲のために主を殺しているから、手加減は無用ちなみに、はぐれは悪魔だけではないわ。堕天使やドラゴンもたまに来るわ」

「バイオレンスすぎんだろ、この町」

「ちなみに、私達ははぐれ狩り専門。そのうち討伐しに行くこともあるでしょう」

「その時までに覚悟を決めておく」

 まあ、いざとなれば容赦なく倒すんだろうけど。

「それと、執拗いけれど、赤龍帝が下級堕天使の槍で貫かれるものなのかしら。いくら人間レベルまで落としていたとしてもそう簡単に貫けるわけがないと思うのだけれど」

「心当たりが無いわけじゃないが、まだ確証を得れないんだ。.........こんな芸当を可能にするのはひとつくらいしかないと思う」

「心当たり?」

「確証を得てない情報を流したくないんだ。そこは分かってくれ」

「.........ええ、今はそうするわ。でも、危険なことになる前に必ず報告すること。いいわね?」

「分かってるよ。ご主人様」

「長話もあれでしょう。そろそろ帰りなさい」

 千夜先輩の言葉を聞き、ふと時計の方を見る。針は四時半を示していた。

「じゃあ、千夜先輩も一緒に行こうぜ」

「なんで、また」

「親睦を深めるという体裁で皆でカフェにでも行こう、というのが本音。嫌と言っても連れてくぞ」

「......全く、強引ね。貴方は」

 そう言って微笑む千夜先輩。その姿を見てズキリ、と頭が痛んだ。

 脳裏にとある光景が浮び上がる。一面、火に包まれた空間。そこらじゅうに死体が転がり、死の気配が漂う地獄。そこにいる、一人の女性の姿を。

「どうかしたのかしら?」

 不思議そうに覗き込んでくる千夜先輩。

 今まで忘れていた記憶が吹きでるように脳内を支配する。

 嗚咽を漏らしながら涙を零し始める。なんというか、心をおおっていた壁が崩れていくような感覚に襲われた。

「ちょっと、イッセー 。大丈夫っ!?」

 動揺するこよみの声も、だんだん遠のいていく。そのまま目の前が真っ暗になるのと同時に意識を手放した。




FGOしてるので多分投稿頻度悪くなります


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5話

ごめん。数日前に書き終わってたけど投稿するの忘れてた


 ーー夢を見た。地獄のような、飛行機事故の夢だ。

 辺り一面火に囲まれ、周囲には無数の死体が転がっている。血の匂いと助けを乞う声が支配する、まさに地獄絵図。

 その時の俺は赤龍帝の力なんて目覚めてない、ただの子供。それこそ、死を待つだけの非力な弱者だった。

 そんな俺を救ったのは、一人の女性。年齢は、多分高校生くらい。それこそ千夜先輩と同じ容姿をしている女性。ただひとつ、違う点があるとすれば、その人は哀しみを纏っているような雰囲気を漂わせているところ。それこそ、全てを諦めているかのような。

 ただ、その女性は俺を守ってくれた。自身の体を犠牲にして、

 だから、俺は今生きることが出来ている。あの人が俺を救ってくれたから、俺は俺として生きていることが出来る。

 今度は俺の番だ。あの人が守ってくれたように、俺も命を賭して守らなければならない。それが、俺に出来る唯一の償い。

 だから、もう俺の傍から居なくならないでくれ.........一夜。

 

 

「一誠君、泣いているの?」

 次に目を覚ました時に目の前にあったのは、保健室の天井だった。どうやら、俺は気を失ったらしい。

「.........嫌な夢を見ていたんだ。昔の事だよ」

 そう応えながら涙を拭う。

「千夜先輩。朝に俺が世界で三番目に強いって言ったよな」

「.........ええ、そうね」

「それはさ、俺だけの力じゃないんだ。俺の中には神器が二つ存在する」

「.........」

 千夜先輩は何も答えない。

「俺は、前に飛行機事故にあったんだ。今から10年も前の話だ。その時に、白龍皇から神器を譲り受けたんだ」

「.........」

「まあ、それのお陰で世界で三番目に強いとか言われてるって訳で」

「.........嘘ね」

 ぽつり、と呟く千夜先輩。

「嘘って、どういうことだ」

「それは貴方がいちばんよく分かっているでしょう。貴方は飛行機事故ではなく襲われた。最上級悪魔に」

「.........」

「それで貴方を救うために神器を譲渡したのよ、姉さんは」

「.........は?」

 一瞬、千夜先輩の言っていることが何かわからなかった。

「貴方に神器を譲渡したのは私の姉の鷹白榧夜。ちょうど貴方が飛行機事故にあったときに亡くなったの」

「え、は.........?」

「私の姉は白龍皇で、歴代最強と謳われていたの。でも、10年前に唐突に姿を消した。そして家に遺品として指輪が送られてきた」

「あの人が千夜先輩の姉で、もう死んでるのか.........?」

「貴方の記憶を鑑みるなら、その線が濃厚よ。遺品が送られてきた時は半信半疑で未だに信じられなかった。でも、証拠が出てきてしまった」

「.........俺の記憶か」

「眷属にした人間が姉の忘れ形見とはね。流石に思わなかったわ」

 そう言い、苦笑する千夜先輩。

「俺を、恨まないのか」

「何故?貴方に直接的な原因はないのよ」

「俺がいなければ、助かっていただろ。荷物が居なければ、あの人は助かっていた。歴代最強なんだろ、あんたの姉は」

 段々と声が荒がって行くのが自分でもわかった。

「俺がその飛行機に乗り合わせていなければ、あの人が死ぬことは無かった。あの人は俺を助けるために自らを犠牲にした。だから、俺さえ居なければ犠牲になる必要なんてなかった」

 自分でもおかしいことを言ってることが分かる。こんなのはただの八つ当たりだ。

「なのになんであんたは平然としてられる。俺が憎くないのか。実の姉が俺のせいで死んだんだぞ」

「じゃあ、何故私の姉さんは貴方を助けたのかしら。あの人が無駄に死を望むなんて、そんなことはありえない」

 俺の言葉を遮るように、千夜先輩は言葉を発した。

「黙って聞いていれば、自分が悪い自分が悪いと、何様のつもりなのかしら。確かに貴方を救うために命を落としたかもしれない。でも、それを望んだのは姉さんの意思よ。思い上がらないでちょうだい」

「でも、俺はーー」

「でも、じゃないの。今、貴方が生きているのならば姉さんの分まで幸せになりなさい。それが姉さんに対する唯一の償いであり、唯一の願いよ」

「.........っ」

 なんというか、胸につっかえていたものがなくなったような感覚。心が軽くなる、という感覚なのだろうか。千夜先輩の言葉が、ゆっくりと染み込んでくるようだ。

「確かに姉さんはもう居ない。でも、貴方がそれに縛られる必要は無いの」

「.........じゃあ、俺はどうすればいいんだ」

「それは自分で答えを出すものよ。私も答えを出すまで時間がかかった。苦労して出してこその人生、というもの」

 俺は、誰かに許されたかったのかもしれない。誰かに許されなければ、生きていては行けないと、そう思っていた。

 でも、そうではないようだ。そんなことも分からないほど、追い詰められていたのだろう。

「.........ありがとう、千夜先輩」

「礼を言われるようなことは言ってないわ。当たり前のことを言った迄よ」

 そういい、俺の頭を撫でる千夜先輩。

「一つだけ、わがままを言っていいか」

「どうしたのかしら、一誠君」

「もう少しだけ、このままで·····一緒に居させてくれ」

「ふふ、甘えん坊ね」

 そう言うと、千夜先輩は優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。

 なんというか、背負っていたものが全部無くなったような、そんな感覚があった。心って、こんなに軽いものなんだと、初めて知ることができた。

 

 

 ーー数十分後

 

 

「........」

「.........」

 数十分後に俺と千夜先輩は離れた。なんというか、我を思い出すような感じでばっと離れた。

 よくよく考えれば相当恥ずかしいことをしてた、というかお願いしてたんじゃないか、俺。

「えっと、その.........千夜先輩。ありがとな」

 そう、少し気まずそうに呟く。

「.........ええ、それは気にしなくてもいいわ。大した問題では無いもの」

「さいですか」

「それよりも、あの子たちに言い訳することでも考えるべきね」

「.........ん?」

「こよみと遥のこと、忘れていないかしら」

「.........あ」

 そういえばドーナッツ食べに行くと約束してたんだった。倒れて有耶無耶になってな感じだったけど。

「ちなみに、ドアの向こう側に居るわよ」

「エ.........?」

 背筋に冷たい感触が.........。

「随分、楽しそうだったねぇ、イッセー?」

 そう、笑顔を引きつらせながら保健室に入ってくるこよみ。釣られて遥も入ってくるが、何やら申し訳なさそうに手を合わせていた。

「あの、弁解の余地は」

「あると思う?」

「.........」

 まずい。どう足掻いでも死だ。

「全く、そう言うことは私にも相談して欲しかったよ」

 てっきり、鉄拳が飛んでくると思ったが、どうやら違うようだ。

「すまない。本当はすぐに言うべきだったんだと思う。でも、言ったら迷惑になるんじゃないかと思ってた」

「迷惑だと思ってるならこんなこと言わないよ。秘密にされてる方が、信用されてないみたいで私は嫌だよ」

「それは私も同感かな。このレベルのことを抱えてるのは得策じゃないし、そのうち抱えきれなくなって爆発するよ。.........もっとも、それが今だったみたいだけど」

「返す言葉もございません」

 こういう時の二人ほど怖いものは無い。心配してくれるのは嬉しいところではあるけど。

「それで、これからどうするのかしら。イッセー君たちを襲った悪魔に復讐でもするの?」

「やめとくよ。復讐はなにもうまないどころか、逆に次の火種になるからな。それに、今の生活が一番楽しい」

 そう言って微笑むと、皆も笑顔で返してくれた。

「まあ、それが一番いいのかもね。イッセーは」

「どういう意味だよ、それ」

「そういう意味だよ、きみぃ」

 何故か得意そうにするこよみ。

「それじゃ、もう帰ろうよ。下校時間、とっくに過ぎてるよ?」

「そうだな。ドーナッツ食べに行く約束もしてたし」

「イッセーの奢りでね」

「それは言わんでもいい」

 ぺし、とこよみに軽くチョップを食らわす。

「いったーい!女の子に手を上げるなんて何事!?」

「女の子なんてタマかよ。せいぜいゴリラが関のやーー」

「ソレイジョウイッタラ、コロス。ナンノチュウチョモナク、セイサンニ」

「すみませんでした」

 こよみがさっきを放つのと同時に土下座する。それはもう反射レベルで流れるように。

「ドーナッツ、追加ね」

「·····ま、いいか」

 とりあえず条件を飲むしか生き残る道は無さそうだ。ゲーム少し売らないといけなさそうだ。

「もちろん、千夜先輩もくるだろ?」

「·····え?何故、私も?」

「逆になんで誘わない選択肢がでる。ったく、眷属との交流も必要だぞ?主様よ」

 そういい、ぽんぽんと優しく頭を叩いた。

「·····ふふ。わかったようなことを言うのね、貴方は」

「この手の類は少なくともあんたよりは分かってるさ。さ、いくぞ?」

 そう言うと、立ち上がって千夜先輩に手を差し伸べる。

「全く、エスコートは貴方がするのよ」

 苦笑しながらも、満更では無い様子の千夜先輩。こんな笑い方もできるんだな、この人は。

「あれ、私達蚊帳の外じゃない?」

「蚊帳の外なんだよ、こよみ。お熱いふたりは置いて先に行こうか」

「お熱いって誰がだよ」

「君達ふたりだよ」

「まだそういう関係じゃねぇよ」

「ふーん?」

 何やら拗ねたような表情の遥。

「貴方、案外女心がわかってないのね」

「そんなことはねぇよ」

「自覚してないところがダメなのよ」

「·····解せない」

 まあ、結局4人で某有名チェーン店にドーナッツを食べに行ったんだが。以外にも千夜先輩が重度の甘党だということがわかった。

 今度学園の近くにあるカフェにでも連れてこうか。結構いいものが揃ってるとこがあるし。




そしてここからたらし伝説(?)が始まる


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6話

数ヶ月前に書き終わってるくせに投稿し忘れてた作者とかおる?()


「はぅ……どうしましょう……」

 学校から出て商店街を散策中、困った表情を浮かべた金髪の少女と遭遇した。出で立ちがシスターそのもので、悪魔としては少し近寄り難い。

 しかし、重そうなバッグを抱えて途方に暮れているようで、とてもスルーする訳にはいかない状態になっている。

「どうかしたのか?」

「ええと、道に迷ってしまいまして……」

 そう、申し訳なさそうな顔をうかべる少女。

「ん、どこに行くんだ?よければ案内するぞ」

「え……?よろしいのでしょうか」

「嫌なら最初からこんな提案しないって。それに、アンタ外国人だろ。下手にうろついて悪い奴らに連れていかれても後味が悪い」

 と、言いつつ、ただお節介をやきたいだけの十六歳。

「あ、ありがとうございますっ」

 ぺこり、と頭を下げる少女。

「そんで、どこに行くんだ?」

「この教会に行きたいのですが……」

 と、地図を見せられると、そこは見覚えのある教会の名前が記されてあった。

「ここ、うちの近所だ。電車、降りる場所間違えてるぞ」

「え……あ、あ……」

 これは相当のドジっ子だな。これで天然ならどっかのギャルゲーのヒロインを張れる。

「ちょうど帰り道だし、送ってくよ。電車賃はあるのか?」

「あ……ない、です……」

「……確認だけど、ここに着いたのは何時だ?」

「えっと、9時です……」

 ……今何時だと思ってんだ。もうすぐ5時だぞ。8時間くらいうろついてたのか、見知らぬ土地を。

「わかった。まずは腹ごしらえからだ。なにか食いたいものでもあるか」

「え、ええと……道案内だけでも申し訳ないのに、ご飯まで……」

「いいんだよ。迷惑なんて考えない。それに、こーゆー時は厚意に思いっきりあまえる。そのほうが喜ばれるもんなんだよ」

 そう言い、手を差し伸べながら笑顔を向けた。

「ほら、立てるか?」

「は、は……きゃあっ」

 手を取り、軽く引っぱった瞬間によろける少女。それを優しく抱きとめるも、それこそ何処ぞの恋愛ゲームのワンシーンのような状態に。

「す、すすっ、すみませんっ」

 ばっ、と勢いよく離れる少女。

「あー……いいよ。今のはわざとじゃないし」

「うぅ……」

「それよりも、今は腹ごしらえだろ?」

「そ、そんなこと……」

 少女が何か言いかけた瞬間、ぐぅううううっ、と大きなお腹の鳴る音が聞こえた。

「……行くか?」

「……はい」

 少女は顔を真っ赤にしてこくりと頷いた。

 

 

 それから数分後、近くのファミリーレストランに到着。重そうな荷物は勿論、俺が運んだ。少女は終始申し訳なさそうな顔をしていたが。

「こちらです、お嬢様」

「お嬢様だなんて、そんな……っ」

 ちょっと礼儀正しくエスコートしてみると、少女は顔を赤くした。流石に痛かったか。

「ええと、宗教とかで食べられないものとかあったりするのか?」

 と、少女を席に座らせた後に気を取り直して聞いてみる。

「えっと、特にはないですっ。……できれば、パンケーキを」

「パンケーキだな、了解した。じゃあ俺は……」

 メニューを見て、それとなく食べたいものを選んで店員を呼ぶ。

 頼んだのはパンケーキとチョコレートケーキ、そしてブラックコーヒーとカフェラテ。割と無難だと思う。

「そういや、名前を聞いてなかったよな。俺は兵藤一誠。君は?」

「あ、私はアーシア・アルジェントですっ」

「アーシア、か。俺は仲間内からよくイッセーって呼ばれてる」

「それでは、イッセーさんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「ああ。よろしくな、アーシア」

 よくよく考えてみれば、名前も知らない子にご飯を奢るのってあんまりないことじゃないのか。……うん、これからは自重しよう。

「そんで、アーシアはなんでこの街に?」

「先程お聞きした教会へ、赴任してきましたっ」

「そうなのか?見た感じ、俺と同い年くらいに見えるんだけど」

「日本の学生とすると、高校二年生ですねっ」

 わお、本当に同い年だった。……ん?普通、それくらいの年齢の少女を、こんな異郷の土地に派遣させるか、普通。

「んー……なんかわけアリってやつか」

「……話せば、長くなります」

「相当なやつなのか。なら、無理に話す必要は無いさ。話したい時に話せばいい」

「……いえ、これも何かの縁です。それに、ここまで親切にしてくださった方に話さないのも、おかしいと思います」

 と、覚悟を決めたような表情のアーシア。

「私は、孤児院に引き取られた孤児でした。物心ついた時には、既に孤児院で生活していました。その孤児院はキリスト教を信仰しているということもあり、私はクリスチャンとして生活を送っていました」

 クリスチャン、ねぇ。悪魔としては天敵に近いと言っても過言ではない。

「私は、特殊な力を生まれつき宿していました。手をかざした対象を治癒する、主に与えられたものです。孤児院の……私の育ての親であるシスターは、その力を人々のために使いなさいと私に教えました」

 要するに、聖女として祀り上げられたと推察するのが正しい……のか?

 確かに、そんな神のごとき力を手にした少女が人々のために力をふるえば、信仰者を増やすことにもつながる。……半分招き猫の役割も得ている、という訳か。

「……私は、多くの人々の怪我を治療しました。小さな子供からお年寄りまで。でも、嫌ではなかったです。誰かを救えているという実感は、とても心地のいいものでしたし。でも、事件が起きました」

「事件?」

「悪魔を、治したんです」

 ……そういう類の話か。

「その日、私は教会の近くを散歩していました。協会の近くには森林があって。とても日差しの気持ちのいい場所でした。そこに、傷だらけの悪魔が倒れていたんです」

「それで、治したと」

「……はい。悪魔と言えど、傷ついた人を見過ごすことなんてできませんでした。でも、結果として異端の烙印を押されて、こちらの教会に赴任してきました」

 随分と酷い話だ。勝手に聖女とまつりあげておいて、都合が悪くなったらお払い箱。しかも身寄りがないことをいいことにこんな異郷の土地に左遷とは、随分と酷いことをする。

「……これで、よかったんだと思います。所詮、私は穢れてーーいたっ!」

 言葉を遮るように、アーシアのおでこにデコピンをする。軽く赤くなる程度に抑えたけど、不意打ち気味のせいで酷く驚いている様子だ。

「アーシアは穢れてなんかないし、これでよくなんかもない。傷ついたやつを救うようにしむけたくせに、人間じゃないやつを治しただけで異端なんて、アホじゃねぇか」

「で、でも……」

「でも、じゃねーの。人間には等しく幸せになる権利ってもんがある。それなのに、今のところ不遇な目にしかあってない」

「それは、私が穢れて……」

「だから、穢れてなんかねーよ。怪我してるとはいえ、敵対する相手を治してしまうような優しい子が穢れてるなら、人間なんてみんな穢れてることになる」

 ……ったく、なんでこんな子が不遇な目に遭わなきゃなんないんだよ。

「今までが不遇だったなら、今からはそれ以上幸せにならないなら嘘だ。自分を見限ったヤツらを笑えるくらい幸せになる権利がある」

「……権利?」

「そうだよ。今の話を聞いてると、友達と遊びに行く、なんて経験をしたことも無いんだろ?」

「……確かに、ないです」

「なら、今度遊びに行こうぜ?遊園地に映画館、動物園に水族館。あとゲームセンターとか。行きたい場所はないのか?」

「……水族館に、行ってみたいです」

「なら、決まりだ。今度の日曜日に行こうぜ。ちょっと強引だけど、いいだろ?」

「でも、イッセーさんの迷惑では……?」

「迷惑じゃないさ。俺がアーシアと一緒に行きたいんだ。だって、もう俺とアーシアは友達だろ?」

 そう、首をかしげながらアーシアを見る。すると、アーシアはぽろぽろと涙を零し始めた。

「ど、どうしたんだ!?」

「あ……いえ……その、そんなことを言われたのは……初めてだったので……嬉しくて……」

 初めてって、それって今まで全部一人で背負ってきたってことか?その小さな肩に、聖女としての重圧と、異端の烙印による周囲からの圧力を、一人で?……それって、相当しんどいやつじゃないのか。それこそ、自殺を考えるような、途方もないほどの。

「お待たせ致しました。チョコレートケーキ、パンケーキ、ブラックコーヒー、カフェオレになります」

 と、タイミング良く?店員さんが料理を運んでくる。美味しそうなことには美味しそうだが、こんな状態で食べる気にはあまりなれない。

「これは、当店からのサービスです」

 そう言って、バニラのソフトクリームふたつと、俺に対してナプキンを渡された。

『彼女さんを泣かせた時は、素直に謝るのが一番です。隣に座って、誠心誠意謝れば許してもらえるはずです』

 そう、書かれてあった。

 って、彼女じゃねぇぇぇええええっ!!!!!!俺が泣かせたのは間違いないんだろけどさ!いきなりそんなことしろってのか!

 ……でも、下手に抵抗すると変な雰囲気にするだろうし。……仕方ない。嫌われること覚悟でやることにしよう。

「これからはさ、いろんな所に行って一緒に思い出を作ろうぜ?日本にはいろんな面白いところがあるんだ。全部行ってみなきゃ損ってやつだろ」

 そう言うと、指示された通りに隣に座って頭を撫でてみる。すると、アーシアは今まで溜め込んでいたものを全て吐き出すように号泣し始めた。

「いっせ……さんっ……わたし、つらく……て……こわくっ、て……でも、だれに……も……そうだ……できなく……てぇっ……」

「そうだよな。……って言っても、他人事のようにしか聞こえないかとしれないけどさ。悲しみの捌け口ぐらいに離れるから……全部、吐き出そうぜ?」

「は、い……ありが、とっ……ござ……ま……うわ……ぁ……こわかっ、た……よぉ……つらか……た……よっ……」

 そう、泣きじゃくるアーシアの頭を撫でながら、優しく抱きしめ続けた。

 店員さんは暖かい視線を送ってくれるが……後で変な噂が流れないことを願う。



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7話

「すみません、でした。見苦しい姿を……」

 それから十数分後、アーシアが泣き止んだ頃合いを見計らって店をでた。勿論、頼んだものは全部食べましたよ。好奇の目に晒されながらゆっくりと。

「見苦しくなんてないさ。言ったろ?俺はアーシアの友達だって。あれくらいのことで嫌になるようなら友達じゃねーし。それに、あんな経験をして溜め込まない方がおかしいしな」

 そう言って、微笑むとアーシアは顔を赤くしてばっと顔を背けた。……あれ、これ嫌われたやつですか。

「あ、そのっ!嫌いとか、そういう訳じゃないんですっ!その……うぅ……」

 ショックを受けているとアーシアは必死になって否定してきた。最終的には湯気が出そうなくらい顔を真っ赤にしたが。

「……ひとつ、聞いてもいいですか?」

「ん、なんだ?」

「どうして、私を助けたんですか?」

 随分とストレートに聞いてくるな。……ま、確かにおかしいよな。初対面の相手に手を差し伸べるなんて、いかに親切な人でも躊躇するところだ。

「アーシアが知り合いに似てたから、かな。あ、単純に助けたいって気持ちもあったんだけどさ」

「知り合い、ですか?」

「そう。見た目はあんまり似てないけど、雰囲気というか言動がな」

 ……まあ、知り合いといか俺の初恋の人なんだが。なんというか、性格や言動がかなり似ている。とても優しくて不器用なところが特に。そんなことを考えて助けるのは失礼だと思うけど。

「そう、なんですかっ」

 なんだか、残念そうなアーシア。

「でも、それだけじゃないって。さっきも言ったろ?助けたいって気持ちもあるって。それこそ、アーシアじゃなかったら助けてなかっただろうしな。巡り合わせってやつだ」

「巡り合わせ、ですか」

「もしかしたら、運命の赤い糸で繋がれてるのかもな、俺たち」

「え……?な、ななっ、赤い糸、ですかっ!?」

「動揺し過ぎだって。でも、これも何かの縁なのは確かだろうしさ」

 それはそうと、周囲からの目線が痛い。男からは嫉妬の目線。女性からは好奇の視線を向けられ続けてる。……しんどい。

「あ、ちょっと電話するから待っててもらっていいか?」

「大丈夫ですが……何方にですか?」

「幼馴染の聖職者。あの話を聞いてから電話するのは少しデリカシーに欠けるけど、ちょっと気になったことがあってな」

「あ……わかりましたっ」

 アーシアからの了承を得られた。早速電話をしよう。確か番号は……っと。

 ぷるぷるぷる、と何回か振動した後に幼馴染こと紫藤イリナが電話に出た。

『ハーイ!久しぶりねっ、イッセー君っ!』

「相変わらずのテンションだな、イリナ」

『そりゃ、性格やテンションはちょっとやそっとの事じゃかわらないからねー。それで、どうしたの?イッセー君から電話なんて、余程の事なんでしょ?』

「イリナの声が聞きたかった、なんて冗談を言ったら怒るんだろ?」

『冗談じゃなかったら嬉しかったんだけどね』

 と、他愛もない会話をしているうちにアーシアが頬をふくらませてきた。ご機嫌ななめなのだろう。

「それじゃあ本題に入る。イリナが前にうちの近くの教会にいた時あっただろ?俺達が小学生くらいの時にさ」

『うん。それがどうしたの?』

「その教会って確か今は使われてなかった気がしたんだが、実際のところどうなんだ?」

『えーっと……確か、使われてなかったと思うよ。私とお父さんが居なくなってからは建物だけが残ってるって感じだったし。でも、そんなことを聞いてどうするの?』

「今、その教会に赴任してきたシスターが目の前にいるんだよ」

『えっ!?情報が間違って伝わったのかな……』

「じゃ、なんかわかるまでこっちで預かってていいよな。訳アリなんだよ。……ここだけの話、異端の烙印を押されたって話だ。そっちに情報を渡して下手に回収されたらまずいことになりそうな気がする」

『……そんな不味そうなこと、一人で抱え込まないで誰かに相談しなよ?』

「へいへい。そうするよ」

 ……仕方ない。千夜先輩に相談してみるか。

『要件はそれだけ?』

「ああ、ありがとな。あとで埋め合わせはする」

『ほんとっ!?約束だからねっ!』

 と、嬉しそうにイリナは電話を切った。

 なんか嫌な予感がする。それこそ、なにかとてつもない陰謀に巻き込まれているような、そんなに感覚だ。

「イッセー、さん?」

「ああ、悪い。今の電話、聞こえてたか?」

「はいっ。……私、騙されたのでしょうか」

「分からん。ただ、情報が入るまではアーシアは自由の身ってことは確かだ。なんにも縛られない、一人の女の子だよ」

 ということで、そんな女の子を駒王学園に連れ込むとしよう。……決してやましい気持ちはない。

「ま、そんな女の子に野宿させる訳にもいかないからさ。とりあえず今日はうちに泊まるか?嫌なら色々探してみるけど」

「嫌じゃないですっ!是非、お願いしますっ!」

 なんか物凄く食いついてきたな。拒否されるよりは何倍もマシだけど。

「そんじゃ、行くか」

「はいっ!」

 ということで、俺達は自宅へと向かったのであった。

 

 

「って、そんなわけないでしょう」

 まあ、いつの間にか隣にいた主様にとめられたんだが。

「あー……やっぱりまずいか?」

「当たり前でしょう。悪魔が教会の人間と一緒にいたら大問題よ」

 と、爆弾発言をする主様。

「……イッセーさんは、悪魔だったんですか」

「ええ、そうよ。と、言っても最近転生したばかりだけれど」

「……え?」

「一誠君は一度死んでいるの。光の槍に貫かれて、ね。それを私が転生させて、擬似的に命を与えたの。.........最も、転生させたのは私のエゴでしかないのだけれど」

「騙すつもりはなかったんだけどさ。あ、もちろん下心もな。助けたかったってのは本心だ」

「……それは、信じてもいいんですか?」

「信じられないなら十字架でも聖水でも、なんでも出せばいい。信用出来ないなら、怪しい行動をとった俺が悪い」

 そういい、両手を上げてアーシアを見る。

「……そんなこと、言わないでください。私は少なからず、イッセーさんに救われました。例え、イッセーさんが悪魔だったとしても、その事実はかわりありません」

 アーシアはそう言うと、満面の笑みで抱きついてきた。

「……私、イッセーさんになら騙されてもいいです」

 胸に顔を埋めながら、とんでもない爆弾発言をするアーシアさん。

「あらあら、女の子にそこまで言わせるなんて、罪ねぇ」

「あんた、絶対楽しんでるだろ」

「さて、どうかしら」

 にやにやしてる時点で楽しんでるのは確実だと思う。

「それと、いいことを教えてあげる。一つはそこのシスター……アーシアさん、だったかしら。貴女を回収する予定だった神父は俗に言うはぐれと呼ばれる集団でね。しかもはぐれ堕天使も絡んでいるの」

「確実にいい知らせじゃないよな、それ」

「いい知らせよ。はぐれを狩るのが私たちの仕事。つまり、公的に始末することができるの」

「随分とまあ過激なことを言うな」

「意表を突く、という言葉があるでしょう?……いえ、この場合は先手必勝かしら」

「まあ、その方がわかりやすいか」

「良くも悪くも勝てば官軍なのよ。負けてしまえば貴方の守りたいものを全て奪われる」

「まあ、それは世の中の常だよな」

 嫌という程知ってるよ。そんなことは。

「まあ、それをするにも大義名分というものが必要なのよ。今回のような場合は特に、ね」

「千夜先輩の言いたいことは分かる。ただ、上の命令を待ってからじゃ遅いだろ。それに、今回はおかしな点も多い」

「でも、それを上の人間が素直に聞きいれてくれるとは限らないものよ。むしろもみ消す方が多い」

「じゃあ、このまま見殺し.........とまではいかないとしても、見捨てろというのか」

「そうなるケースも少なからずあるでしょうね。ただ、今回の場合は違うわ。彼女は異端扱いで、シスターという括りではないようなのよ。それに、どうせ止めても行くのでしょう?貴方は」

「それをわかっててさっきは止めたのか、千夜先輩」

「一誠君の性格を私が知らないわけないでしょう。あそこまで入れ込んでいる女の子を手放すなんて、する訳ないもの」

「言い方を考えてくれ。それだと相当危ないヤツに聞こえる」

 俺はそんなにたらしじゃない。アーシアも顔を真っ赤にして恥ずかしがってるじゃないか。

「まあそれを恋愛の方として考えてないあたり、一誠君らしいわね」

 なんとなくだけど、千夜先輩の掌の上で動かされている気がする。

「2つ目のいいこと。今夜、その教会に殴り込みに行くところだったの。はぐれ堕天使とはぐれ神父が手を組んで、アーシアさんの神器を奪おうとしてると小耳に挟んだから」

「奪う……?よし、殴り込みに行くか。そうしようか」

 神器を奪う、という表現をしたということは、無理やりアーシアのからだから引き剥がすと判断するべきだ。神器は所有者の魂の大半を構成している。そんなものを無理やり奪えば元々の所有者は死に至る。……俺が、そんなことを許すとでも。

「というか、どっちも悪い知らせじゃねぇか」

「いい知らせよ。その悪の芽を私達がつむのだから」

「……さいですか」

 今晩は徹夜ルート確定ですか。

「貴方の力を見せてもらうのにちょうどいいわ」

「力?中級堕天使くらいに瞬殺されるほどの戦闘力を見せてどうするんだよ」

「私が一誠君の力を知らないとでも?貴方が死なないようにトレーニングをつけさせたのは私なのよ」

「道理でこよみと憂姫が鬼のように厳しかったわけだよ」

 お陰様で死ぬかと思ったときが何回もありましたよ。

「あ、あのっ。私も連れていってもらうことは出来ませんか」

「危ないからだめ、と言ったら引き下がってくれるか?」

「無理でしょうね。覚悟の質は貴方より上よ」

「……分かったよ。でも、俺の傍から離れるなよ」

「はいっ」

 何故か無言になる千夜先輩。なんか面倒なので気にしないでおこう。

 



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8話

これにて教会編終了です。放置してて本当にすみません()


「千夜先輩。一つ、頼みがある」

 教会襲撃二時間前。生徒会室にて千夜先輩と話をしていた。折り入って頼みがある、ということで時間を貰っている。

「どうしたのかしら」

「アーシアがもし死んだら、躊躇なく悪魔に転生させて欲しい」

「それ、本気で言っているの?」

 怪訝そうな表情をうかべる千夜先輩。

「本気じゃなきゃこんなこと言わないだろ。.........千夜先輩も気づいてるんだろ?アーシアの状態を」

「.........ええ。神器に魔法陣が仕込まれているわね。完全に内容を把握できた訳では無いけれど、恐らく自爆するものね」

「あれは条件起動型の自爆魔法陣。構築からして、ある期間までにアーシアの体から神器が抜き取られなければ発動するものだ」

「そこまで分かるのかしら」

「これでも世界で三番目だぞ。これくらい出来なきゃ名乗れない」

 と言っても、俺じゃ破壊することはできても解除することは出来ない。そういった技術が皆無って所もあるけど。

「それだけ聞けば何となくわかるだろ。下手に破壊しようものなら神器が破壊されて、そのままアーシアが死んでしまう。かと言って解除方法はアーシアの体から神器を抜きとる以外にない。どう転んでも死ぬ運命なんだ」

「.........あの子の同意は得ているの?」

「.........」

「何も答えない、ということは貴方のエゴね。分かっているの?シスターが悪魔に転生するということは、本当に異端の存在になってしまうということよ。あの子の過去に起きたこととは次元が違うの」

「わかってるよっ、そんなことはっ!でも、俺はアーシアに生きていて欲しいんだ!」

 つい、声を荒らげてしまう。

「貴方、何処かであの子と姉さんを重ねていないかしら」

「.........っ」

 図星だった。出会った経緯も話した時間も全く違うアーシアと、一夜の姿を重ねてしまっていた。彼女の性格と救えないという現実。それらのせいで、またあの時と同じことが起きるんじゃないかと、怯えているだけだ。

「悪いことは言わない。あの子と姉さんのことを重ねるのはやめなさい。ただ、貴方が苦しむだけよ」

「じゃあ、アーシアが死ぬのを黙って見てろって言うのかよ」

「そうよ。それが出来れば一番いいの。本来、悪魔とシスターは相容れない存在なの」

「.........」

「でも、それで納得する貴方では無いでしょう?」

「.........じゃあ」

「でも、条件を課すわ。あの子が悪魔になることを拒絶した場合は転生させない。それだけは守ってちょうだい」

「.........わかった。約束する」

 そう言って、生徒会室を出た。

「全く、世話がやける眷属ね」

 出る間際に千夜先輩の呆れた声が聞こえたのは気にしないことにしよう。

 

 

 ーー2時間後・教会前

 

 

 襲撃数分前。教会前には俺とアーシア、そして千夜先輩の三人がこの場にいる。今日はアイツらはお休みのようだ。

「千夜先輩。一つだけわがままを聞いてくれないか」

「またかしら。何度も聞くほど寛容では無いのだけれど」

「単純な事だ。俺一人でやらせてくれ」

 .........たく、柄にもないことをしようとするもんじゃないな。

「ええ、いいわよ。貴方の力を見ておきたいし、なにより第三位と豪語するだけの実力を見せてもらいたいわ」

「了解。マイマスター」

 軽く会釈しながらそう答えると千夜先輩は苦笑した。本当に柄にないことをするものじゃない。恥をかくだけだ。

 そう思いながら、教会のドアを蹴飛ばす。そのままそれは近くにあった椅子を吹き飛ばしながら、教会内を一掃した。久しぶりの遊びだ。多少派手にやらなければ嘘ってもんだろう。

「イッセーさんは、力持ちなんですね」

 なんというか、アーシアの反応が可愛い。

「おやおやぁ。随分派手なご登場じゃ、あーりませんか。クソ悪魔共」

 そう言いながら、天井から現れるひとつの人影。軽やかに目の前に移動したかと思えば、光の剣を構える神父様。白髪で見た目の年齢は15歳程度と言ったところ。

「二度は言わない。そこを退け」

「なーに言っちゃってくれてるんですかぁ、この悪魔。そんなことするわけないざんしょう」

「ま、そうなるよな。.........アーシア、千夜先輩の後ろにでも隠れててくれ。千夜先輩は全力で防御してくれ。多分そうしないと吹っ飛ぶ」

「.........ええ、わかったわ」

 アーシアもこくり、と頷いて千夜先輩の後ろに隠れる。千夜先輩が魔法陣を展開したのを確認すると、とある言葉を発する。

 

 ーー赤白雷の龍槍(ドラゴニック・アゾリウスランス)

 

 静かに、右手から赤と白と魔力が放出される。それはゆっくりと収束し、槍の形を形成する。鋭利なデザインが特徴的な、赤と白が入り交じった槍。

「大層なこと言っておいてしょぼい槍ですなぁ!」

 謎にテンションの高い神父が俺目掛けて走り出す。両手には光の剣が握られている。見た目はまんまビームサーベルだ。

「はいちょんぱっ!.........ってあれ?」

 神父が切りかかるタイミングで思い切り地面を蹴り、背後に移動する。

 見失ってるタイミングて思い切り槍を神父の頬にかする程度で投擲した。

「·····うげっ」

 その槍は狙い通り神父の頬をかすめ、背後に見える山へと一直線に飛んでいった。ここまでは良かった。

 ただその槍が山を跡形もなく消し飛ばさなければ。

「まーじですかぁー」

 神父も思い切り青ざめている。

「だからこれを使うのは嫌だったんだよ加減してもあのくらいの威力は出ちまう」

「なら、ほかの技を使えばよかったじゃない」

「あれがいちばん威力が低いんだよ。なんならあれでもかなり抑えた」

「貴方、相当な化け物じゃない?」

「何を今更。アンタの兵士は最強だ。いい意味でも、悪い意味でもな」

 そう言い、自嘲気味に笑う。

「でもな。あんまり力をひけらかすのは嫌いなんだ。それこそ、異世界チート物の主人公と同じになっちまう。……おい、神父」

「ひぇっ·····。なんすかぁ。弱者をいたぶるのが趣味ですかい?」

「なわけないだろ。二択だ。今すぐここから消えるか、ここで死ぬか。どちらがいい。気が変わらないうちにさっさと決めろ」

 そう言いながら、再び先程と同じ槍を作成する。

「ひゃははっ。見逃してくれるなんて随分気前がいいザンスねぇ」

「アーシアにあんまり凄惨なものを見せたくないだけだ。さっさと消えた消えた」

「あひゃひゃひゃひゃっ。お優しい事でっ。それと、一つだけ·····前に会ったことねぇっすかねぇ?」

「·····気のせいだろ」

「んーぅ?なら気のせいかねぃ。ま、それじゃあこんな所からはおさらば。はい、ばいちゃ」

 そう言い、神父は懐に隠し持っていた閃光弾を床にたたきつけた。それは眩い光を放ち、周囲の人間の視界を奪う。スタングレネードの光だけのような感じだ。

 咄嗟にアーシアと千夜先輩を魔力で覆い、周囲の刺激を完全にシャットアウトする。間一髪間に合い、何とか守れたと言ったところだ。

「·····いねぇか。じゃあな、アル」

 そう呟けば神父がいた場所から目を背けた。

「·····随分と優しいのね、貴方」

 二人をおおっていた魔力を消滅させるのと同時に、そう千夜先輩から言われる。開口一番がそれか。

「うっせ。古い知り合いだっただけだ」

「あら、教会関係者に知り合いがいたのね」

「アイツはちげーよ。むしろ被害者側だ。·····この話はもう終わりだ」

 そう、面倒そうに呟けば千夜先輩に近づき「詮索しない方がいいこともある」と耳打ちした。

「·····それにしても、あの光は結構強かったわね。ダメージはないにしろ、少しは視界を奪われる程度かしら」

 コホン、と咳払いして話題を変える千夜先輩。

「スタングレネードの一種だよ。よく神父が持ってる改造品で、音とかは出ない代わりに強い光が放出される。それこそ、上級悪魔以上には効かないけどな」

「……私は、中級悪魔以下と貴方に判断されたのね?」

「ここには上級悪魔以上の実力者の他にいたいけな女の子もいるから一応守ったけど、千夜先輩なら多少は耐えられただろ?」

「随分な扱いの差ね。私一人だったら守らなかったとでも言いたいのかしら」

「そんな訳ないだろ。いくら上級悪魔って言ってもまだ俺よりひとつ上の女の子だろ?千夜先輩は。か弱いとは言わないが、女性を守るのは当然のこーーいたい、いたいですアーシアさん」

 不思議そうな表情を浮かべて答えていると、不意にアーシアに手を抓られる。何事だろうか。よく見ると頬を膨らませてるし。

「痴話喧嘩は犬も食わないわよ」

「いつからそんな話になったんだよ」

「強いて言うなら今ね」

 楽しそうにくすくすと微笑む千夜先輩。

「·····女の子、ね」

 千夜先輩はそう呟けば嬉しそうに微笑んでいた。

 さて、アーシアの方はどうしたものか。なんか拗ねてるからなぁ。

「アーシア、一つだけお願いを聞いてくれないか?」

「むぅ·····なんでしょうか」

 頬をふくらませながら答えるアーシア。

「数分でいいんだ。今から、俺だけを見ててくれないか?」

「·····ふぇ?それはどういう·····?」

「理由は言えないけどさ。お願い、聞いてくれるか?」

「·····はいっ!」

 さっきの態度とは打って変わって笑顔で了承してくれた。

 これからは少し凄惨なことになりそうだから、アーシアに見せたくたいだけなんだけどな、うん。数分で片付くだろ、どうせ。

「イッセー君、意外と朴念仁というか残酷というか」

 さすがにそんなことは無いと思いたい。

「じゃ、行くか」

 軽く腕をなぎ、目の前の祭壇を吹き飛ばす。その下には地下へと続く隠し通路があった。

 確か、前にイリナの父親と地下に言った記憶があったが、どうやら正しいようだ。

「じゃ、いくか」

 特に躊躇せずに階段を下りていく。最下層の礼拝堂までの距離はそう長くはないが、何故かとても嫌な予感がしていた。ただの勘だが、ゆっくりと思考を支配していく。

 冷静に考えて、神器に魔法陣を仕込むような奴が俺の存在を知らずにこの街で計画を起こすか?それに、なぜ魔法陣を発動させない?人質として使う予定なのか?

「いっせー……さん?」

 なにか脅えたような顔で俺を見るアーシア。

「貴方、相当怖い目付きしてるわよ」

 千夜先輩にも茶化すような感じではなく、心配するような声音で言われる。

「……すまない。ちと、考え事をな」

「一人で抱え込むのは得策じゃないわよ」

「確かにな。でも今は一人で考えさせてくれ」

 そう言い、千夜先輩に『ここでその話はまずい』という意思を向ける。たしか神器の能力で考えは筒抜けのはずだし。

「……でも、少しは相談して欲しいです」

 ぷく、と頬をふくらませるアーシア。

「心配してくれてありがとな。でも、こればっかりは相談は出来ないかな」

「なんでですか?」

「アーシアのことを大切に思ってるから、って返しじゃダメか?」

「……ふぇ?」

 ぽかん、とした表情をするアーシア。

「な、ななっ!?急に何を言うんですかっ!」

「あまり残酷な……というか、凄惨なのを見せたくないんだ。わかってくれ」

 そう言いながら頭を撫でると、アーシアはぷくーっと頬をふくらませた。

「もうっ!もうもうっ!」

 ぽかぽかとお腹を叩いてくるアーシア。

「ごめんって」

 そう言いながら頭を撫でる俺。

「私は一体何を見せられているのかしら」

 全くもってその通りです。

「……じゃ、やるか」

 階段を降り切り、到着したのは地下にある礼拝堂。以前に一度だけ来たことがあったが、あまりいい気分がする場所ではない。埃っぽくてジメジメとした場所。

 広さは人が50人は余裕で入れるくらい、というところ。そこに長椅子が十二台設置されていて、奥には聖女を模した彫刻が置かれている。

「おやおや、これは赤龍帝」

 楽しそうに声を発する一人の男。それは、以前に俺を殺した張本人の堕天使。黒のロングコートを羽織り、小さめのシルクハットを被った出で立ち。どことなく小物感を演出している。

 フロアには二十人程の神父の姿があった。全員光の剣や祓魔弾でも放ちそうな銃を持っている。ま、悪魔退治専門の神父ならみんなこんなもんだ。

「一つだけ聞く。お前に蛇を渡したのは誰だ?」

「……蛇?なんのことだ?何かの暗号か何かか?」

 顎に手を当て、首を傾げる堕天使。その姿から、こちらを騙すような気配は全く感じられなかった。

 こいつの反応を見ている限り、本当に知らないようだ。

「……蛇ってなんのこと?」

 怪訝そうな表情の千夜先輩。

「後で話す。……ま、今は危険なものって認識でいい」

 そう言いながら、指先に魔力を集中させる。

「まあ思い入れもないし、一応俺を殺した張本人な訳だし。さっさと消えてくれ」

 そう言いながら、おもむろに両腕で空を切り裂くように振るう。指先に集中させた魔力は、空間を切り裂きながら堕天使ごと神父全員を切り裂き、その体を消滅させた。

「ほら、終わり。せいぜい下級から中級程度ならこんなもんだろ」

 特に感慨もなく、感情を起伏させることも無く淡々と述べる。

「もう少し歯ごたえがあってもーー」

「貴方、もしかして心が壊れているの?」

 ふと、千夜先輩の方を向けば悲しそうな表情を浮かべていた。

 どうやら、俺の戦闘スタイルがよほどこたえたのか。それともそんなことしか出来ない俺を憐れんでいるかの二択だろう。

「壊れてねーよ。ただ、人を殺すこと自体は初めてじゃないってだけだ。言ってなかったか?俺、相当な人数殺してるぞ」

 ただ、感情の籠ってないような笑みを零す。

「敵対するなら消す。それは定石だろ。千夜先輩にだってわかるときはくる」

「それは、今じゃないのよ。貴方はまだ私より一つ年下の男の子なの。もっと希望に満ち溢れていなければ、もっと楽しくなければ嘘なのよ」

「嘘?一体何が。俺は守りたいやつを守れて嬉しいし、喜んでるぞ」

「……そこに、貴方自身の感情がないのよ。誰かを守らなければいけないという強迫観念にでも縛られているような。でも自分が本当に喜ぶ方法を知らない。壊れているのよ、大元の部分では」

 段々と、千夜先輩の声音に力が入っていく。

「はっきりと言うわ。貴方の存在は破綻している。そのままではいずれ自分自身で己を殺すことになる」

「……それで、誰かを守れるなら、本望さ」

「……ばか」

 ただ、千夜先輩はそう呟いて俺を抱きしめる。力なく、ただ俺を憐れむように抱きしめているように感じた。

「いっせえ、さん?」

 首をかしげながらこちらを見ているアーシア。ぽけーっとしているような。なんというか、微睡んでいるような表情だ。

「……千夜先輩。帰るぞ」

「……」

 ただ、千夜先輩は無言で抱きしめるだけで何も答えてくれない。

「どうしたんですか、いっせえさん?」

 気の所為だろうか。アーシアの発音も少し変わっている気がする。いつもよりも、カタコトに近いというか。

「いっせえ……さ……」

 ばたり、とその場に倒れ込むアーシア。

「な、あーし……」

 ばたり、と力なくその場に倒れ込む千夜先輩。

「お、おい。なんの冗談だよ。さては俺を騙そうとして……」

 2人の様子がおかしいのは誰が見ても明らかだった。血色が悪く、息も乱れている。肌にヒビのようなあとまで浮かび上がっている。

「くそっ。どうしたってんだよ」

 俺はすぐさま二人を抱き抱えて階段を駆け上がる。数秒と経たないうちに外に到着するも、二人の容態は悪くなるばかりだ。

「おいっ。どうしたんだよっ」

 ふと、アーシアの様子が一際おかしいことに気づく。発汗の量が尋常じゃない。

 すぐさま服を破き、お腹を確認する。そこには、魔法陣が濃く浮かび上がっている。

「……そういう事か」

 アーシアの神器に仕込まれていた魔法陣が起動して神器が暴走している状態。その効果は反転し、周囲にいる生物にも悪影響を及ぼしているという訳だ。ただ、魔力量のせいで俺はきいていないってだけの話だ。

「くそっ。どうしろってんだよ」

 即座に千夜先輩を魔力で覆い、影響を限りなくゼロにする。

 この方法はアーシアにはできない。それこそ、所有者にそんなことをしても、内側から崩壊するのがオチだ。それこそ、神器の効果を無力化する方法でもなければ抑えられない。

「アーシアっ。おい、聞こえるかっ」

 軽く頬を叩きながら呼びかける。何度も、何度も。まるで助けを乞うかのように。

「いっせ……さん……?」

「アーシアっ!」

「わたし……しんじゃうん……です、よね……?」

 悲しそうな表情を浮かべながら言葉を紡ぐアーシア。

「そんなわけないだろっ。俺は、アーシアを絶対に守るっ」

「わかるん、です……もう、しんじゃうんだって……。からだが、いたくて……もう、たえられそうに、な……」

 段々とアーシアの声がか細く、弱いものになっていく。ぷるぷると痙攣しながら、何とか痛みに耐えているのが、傍目からでも分かる。それほどまでに、アーシアの神器の出力が強いんだ。

「くやし……なぁ……やっと……しんじ、られ……る……ひと……に……あえ、た……の……に……」

「何言ってんだよっ。遊園地とかに遊びに行くって約束したろっ。もっと幸せにならなきゃ嘘ってもんだろっ。アーシアっ」

「ごめ……な、さ……やく、そ……まもれ……な……」

 もう、声を聞き取るのが困難な程に、弱々しくなっていく。

「も……と……いき、た……か、た……な……」

「なにいってんだよっ。もっと生きて、一緒に遊びに行こうっ。だから……生きてくれ……」

「そ……な……な……か、な……で……。も、し……らい、せ……で……あえ……た……ら……」

 ーーまた、友達になってくれますか?

 そう、伝える前に力なく息を引き取った。

「アーシアっ。おいっ。アーシアっ」

 どれだけよんでも、声は返ってこない。ただ、静寂が周囲を包むだけだった。

 世界とは、どうしてこんなに無情なのだろう。一度だけならず、二度も大切な人を奪い去る。なんで、こんな世界が存在しているんだ。こんないたいけな少女の命を奪うことが、世界のすることなのか。

「はははっ。随分と泣ける喜劇をありがとう」

 耳障りな笑い声が耳に届く。俺の知らない声だ。

「俺の名はディオドラ。ディオドラ・アスタロト。上級悪魔にして魔王の血族さ」

 ただ、誰かがご丁寧に話をしているようだが、今はどうでもいい。本当に、ここまで絶望するのは久しぶりだ。それこそ、あの人が殺された時以来か。

「そいつは俺も狙ってたんだぜ?だからご丁寧に傷ついた状態で目の前に現れて、回復させている状況を教会関係者にみせたんだからなぁ」

 何を、言ってるんだ。こいつは。

「念には念をと誰かに取られないように神器に細工をしていたのはよかったなぁ。今みたいに誰かに取られる前に壊せるからなぁ」

 ただ、静かに。どす黒い感情が溜まっていくのがわかった。深淵と呼ぶにふさわしいほどの、黒い業。

 本当に、久しぶりだ。この感情は。前にリリンと殺った時以来か?あの時は一夜の事だったが、今はその時よりも不快な気分だ。

「残念だったなぁ。赤龍帝のお古はいらない。だから壊れてもらった。仕方ないよな?そんな誰にでも腰を振るビッチに用なんてなーー」

「黙れよ」

 ただ、気づいた時には声が発せられていた。

「お前は、もういらない」

 ただ、淡々と言葉を述べる。声に生気を宿さず。まるで人ならざる者の呼び掛けのように。静かに、暗く、重く呟く。

「アーシア。少し待っていてくれ。直ぐに終わらせるから」

 ただ、静かに神器を出現させる。まるで嵐の前の静けさのように。

 肘まで覆うほどのガントレット。手の甲の部分には翡翠の宝玉が埋め込まれており、それはまるで神秘を体現したかのようなものだった。

 

「……バランス、ブレイク」

 

 そう、静かに呟いた瞬間、激しい音を立てて周囲が消し飛んだ。

 魔力の奔流が周囲を薙ぎ倒しながら全身から放出され、それは全身を覆い始める。千夜先輩とアーシアは魔力で守っているから無事だが、ディオドラとかいう悪魔は別だ。よく見ると、自身を守ろうとして魔法陣を展開するも守りきれずに左腕が消し飛んでいた。

 その放出された魔力は体を覆い、収束していく。それが終わる頃には、俺の体は真紅の外套に身を包んでいた。

 赤龍帝の片翼外套(ブーステッドギア オーバーコート)。ただ一人の少年が夢を抱き、蒼穹(そら)を目指すも、翼を奪われ地に這いつくばった哀れな姿。

「さあ、始めようか。終わりの始まりってやつを」

 ただ、腕を軽く薙ぐ。それだけで周囲が消し飛び、辺りを更地へと変える。

 その身に余るほどの幻想(ゆめ)を抱いた末路。醜く、災厄の化身の成り果てたその存在は、ただの畏怖の象徴でしかなくなっていた。

「ぐが、ぁ……っ!」

 苦悶を漏らすディオドラの足を魔力で四肢を貫く。

 手に入れたかったものは、ただの……本当の愛情だっただけだと言うのに。世界は、それすらも拒む。だから、信じることをやめた。神を。そして世界を。

「龍の逆鱗に触れた末路だ。死を以て贖え。そして、消えろ」

 ただ、おもむろに手をディオドラに向けて、魔力を放出させた。それは周囲の空間をえぐりながらディオドラの体を消し飛ばした。なんの感情も起きずに。気が晴れることも無く、ただただ虚しいだけだった。

「……アーシア」

 外套を消し、アーシアに歩みよる。

「……ごめん、アーシア。嘘、ついちまった。約束、守れなかった」

 亡骸を抱きしめながら、ただ泣くことしか出来なかった。たったひとり、大切に想った女性一人救えないほど、もろく弱い。それが、俺だった。

「……イッセー君。転生、させるのかしら」

 いつのまにか復活していた千夜先輩からそう問われる。ただ、答えなんて出せるわけがなかった。

「ただ、俺はアーシアに幸せになって欲しかっただけだったんだ。だから絶対に守る、なんてできもしない約束して。出来ないなら最初からするなって話だよな」

 ポロポロと、涙と共に感情が押寄せる。

「大切な女ひとり守れない弱い男の近くにいて、なにが赤龍帝だ。……こんな奴の近くにいたって幸せになれない」

「……」

「もしかしたら、いままでのしがらみから解放されたからこの方がしあわーー」

「それ以上言ったら、私が許さない」

 言葉を遮るように怒気を含めながら言葉を発する千夜先輩。

「この方が幸せなんて、貴方が一番言ってはいけない台詞よ。あの子は死ぬ間際になんて言っていたの」

「もっと生きたいと、死にたくないと言っていた」

「それなのに、彼女を否定するような言葉を言うのかしら。それに、あの子は少なからず、貴方と一緒にいる間は幸せを感じていた。それは貴方も分かることでしょう」

「……でも」

「でもじゃないっ。大切なら意地でも幸せにすると心に決めなさいっ。それすら出来ないなら最初から誰かを愛すなっ」

 ああ、ようやく分かった。ただ、俺はアーシアを救えなかったことから目を背けたかっただけだった。責任から逃げたかったから、その現実を突きつけたあの悪魔を憎悪した。ただ、それだけの。取るに足らない感情だったのだろう。

 ……ほんと、どうしようもないやつだな、俺は。そんな個人的な感情よりも、アーシアの方が大切だと言うのに。何を迷走している。

「……ごめん。目が覚めた」

 勢いよく涙を拭き、そう呟く。

「頼む。アーシアを生き返らせてくれ」

「……わかった。ただ、命令よ。転生させたら、面倒は貴方がみなさい。それと、絶対に幸せにしなさいよ」

「わかってるよ」

 おもむろに黒いチェスの駒を懐から出す千夜先輩。それをアーシアの体に押し当てると、それは体に吸い込まれていき、アーシアの体を修復する。そして傷が無くなった頃に、アーシアが静かに目を開いた。

「アーシアっ!」

「いっせー……さ……?」

 気づいた時には、アーシアの唇を奪っていた。優しく抱きしめながら、愛でるように。愛する人を愛おしく思うように。少しの時間、唇を交わし続けた。

「……アーシア、帰ろう?」

「……はい、イッセーさんっ」 

 頬を赤らめながら、こくりと頷くアーシア。

「……少し、妬けるわね」

 そっぽを向きながら呟く千夜先輩の姿がやけに印象的だった。

 

「イッセーさんっ、おはようございますっ」

 あれの事件から数日後。アーシアは俺の家で一緒に暮らすことになった。千夜先輩曰く、泊める場所がないとのこと。おそらくだが、気を利かせてくれたのだろう

「ん、おはよう。アーシア」

 朝の挨拶としてアーシアの頭を軽く撫でる。目を細めながら気持ち良さそうにしてるから満更でもないようだ。

「イッセーさん。千夜さんから聞きました。あの時のこと」

「……あの時?」

「私が死んだ日です」

 ……何故か、とても嫌な予感がした。

「私の為に怒ってくれたこと。私の為に悲しんでくれたこと、本当に嬉しかったです」

「ま、それくらいはするだろ。なんせ、友達なんだからな」

「……友達、ですか。じゃあ、質問を変えます。イッセーさんは、私のことが好きなんですか?」

 嫌な予感が的中しました。あの主、何を余計なことを言ってるのだろうか。

「さあ、な。よく分からん。アーシアの事は悪くは思ってない。むしろ好きだ」

「……それは、友人としてですか?それとも……」

「分からん。今はさ、色々ありすぎてなんとも言えないから。少し、考えさせてくれ」

「……わかりました。ずっと、待ってます」

 そう、微笑むアーシアの表情には、どことなく悲しさも孕んでいるような。そんな気がした。

「……帰ろ?アーシア」

「……はいっ。イッセーさんっ!」

「私は、おじゃま虫かしら」

 拗ねている千夜先輩は無視することにした。



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不死鳥を堕とす日
9話


「問題発生よ」

 教会騒動から数日後。生徒会室に顔を出すと、唐突にそんなことを言われる。至って真剣な表情な分、相当酷いことのようだ。

「問題?」

「シスターを眷属にしたのがバレたのよ」

「ま、さすがにバレるよな。で?その責任を負って打首獄門と洒落込むのか?」

「本当にシャレにならないことを言わないの。……ただ、魔王様からの召集がかかったの」

「魔王って、あ……」

 魔王、という単語を聞いてとても嫌な予感がした。というか、思い出したというのが適切か。

 赤髪の男の姿が頭をよぎる。……そういや、アイツ魔王だったな。嫌なイメージしか無かった。

「ちなみに、私と貴方の二人が対象ね」

 ま、そうなるだろうな。アーシアが、と言うよりは主の責任になるだろうし。アイツは俺に個人的な用がありそうだし。……行きたくねえ。

「じゃ、今から行くわよ」

「随分と唐突だな。まるで四コマ漫画みたいな話の進み方だぞ」

「わざわざ転移用魔法陣まで同封してきたのよ。魔王様」

 ……こりゃ、相当ご立腹だぞ。あのシスコン魔王。真面目に打首獄門が現実味を帯びてきた。

 さて、どうやって逃げようか。何を犠牲にすれば逃がしてもらえる?金か?人権か?どっちもごめんこうむりたい。

「……あまり気乗りしないけど、行くわよ」

「いや、俺は遠慮し……」

「ニゲラレルトオモウナヨ?」

「……はい」

 カタコトで脅迫するように睨みつける千夜先輩に、ただうなづくことしか出来なかった。

 

 

 転移した先はグレモリー領の大きな屋敷の前。

 現在の魔王は四人存在し、そのうちの一人がグレモリー家の出身。確か二千年前の戦争から生き残った御三家の一つで名家とか言われてたっけ。たしか、グレモリー家とシトリー家とフェニックス家だっけか。全部癖のある奴らしかいない一族だ。

「お待ちしておりました。どうぞ、こちらへ」

 転移先で待機していた銀髪のメイドが恭しく頭を下げる。黒を基調としたオーソドックスなメイド服に身を包んだ美人。

「久しぶりだな、グレイフィア」

「一誠様もお変わりないようで」

 苦笑しながらそう答える銀髪メイドことグレイフィア。ちなみに悪魔の中では上位の実力者で、ここにいる魔王の嫁だったりする。たしか、女性の悪魔の中なら一二を争っているレベル。……ま、トップはよく知ってるやつなんだが。

「一誠君。グレイフィアと知り合いなの?」

「前にちょっとやんちゃした時にな」

「やんちゃ、という言葉で片付けるにはいささか足りないかと」

「その節は本当に悪かったよ」

 まあ、色々あってこの人には頭が上がらないというのが本音だ。まあ、諸悪の根源はあのシスコン魔王だが。

「魔王様は応接室でお待ちです」

 数分ほど歩いたところで大きな扉の前でそう言うグレイフィア。扉の上には悪魔の言語で応接室と書かれてある。

 来る途中に高そうな絵画や像が飾られている。ひとつでも壊したら考えたくもないほどの賠償請求が来ることだろう。目の前の扉もえらく装飾されている。金持ちってのはみんなそうなのだろうか。

「ひとつ聞くが、サーゼクスは怒ってるか?」

「ええ。たいそうお怒りで。約束を忘れた貴方が十割程悪いかと」

 言葉の節々にトゲを感じるが、気にしないことにした。

「入るぞ。サーゼクス」

 そう言いながら、大きな扉を軽く押して中に入る。千夜先輩も遅れながらも着いてくるように部屋に入った。

「やあ、久しぶりだね。赤龍帝」

 笑顔で迎える赤髪の青年。かなり顔立ちが整っており、普通の女性なら一発で落ちかねない程の美貌と言うやつだ。

 ちなみに、その近くには黒髪の女性も座っている。ツインテールで見た目だけなら俺と変わらないほどの年齢に見える。みえるだけだが。

「うわ……やっぱりいたよ」

「その言い方は酷いでしょっ!?」

「言いたくもなるだろ。セラ」

 そう、親しげに話していると、横で千夜先輩がつんつんと脇腹を続いてくる。

「……貴方、魔王様と知り合いなの?」

「前にちょっとな。顔は広くて困ることは無いし」

 ま、こんな交友関係は望みたくはないが。厄介事押し付けてくるから本当に面倒だし。

「で、四大魔王のうちの二人が何故ここにいるんだ?」

 この二人、赤髪の方がサーゼクス・ルシファーで、黒髪の方がセラフォルー・レヴィアタン。どっちも魔王でアホほど強い。……というか、怒らせると怖い。

 因みにだが、セラはグレイフィアと魔王の座を争って今の地位を手に入れたとか。単純に実力が群を抜いていると言うのもあるのだろう。

「白々しく聞くね、君は。……先の一件でそこの上級悪魔……鷹白千夜と言ったね。君がシスターを悪魔に転生させたという話を聞いてね」

 やっぱり、その話か。相当面倒になるぞ、おい。

「その件に関しましては、それが最善だと判断ーー」

「そういうことを言わせたいわけじゃないんだ。その程度であれば、天界に連絡していくらでも融通が効く。ただ、それ以上に許せないことがあってね」

 段々と怒りのボルテージが上がるように、俺の方を見ながらサーゼクスはこう叫んだ。

「赤龍帝っ!リーアたんと結婚するという話はどうなったんだい!?」

 完全に呆気に取られる千夜先輩。近くにいたグレイフィアは頭に手を当ててやれやれと困ったようにしている。

「うっせえシスコン魔王。まだその話してんのかよ」

「ソーたんとの結婚も忘れてないわよねっ!?」

「お前もかよっ。冥界二大シスコン共」

 ちなみに、リーアたんというのは魔王サーゼクスの実の妹で、俺はリーアと呼んでる。ソーたんは魔王セラフォルーの実の妹のこと。要するに二人ともシスコンなのである。

「ってか、やっぱりその話かよ」

「逆にそれ以外に何があると言うんだい。君が全く迎えにこない挙句、女性をはべらせて。いるからね。リーアたんをなんだと思ってるんだ」

「人聞きの悪い言い方すんな。お前こそえリーアのことなんだと思ってんだよ。それに、こっちは一度死んでんだぞ。そっちの管轄の上級悪魔が暴走するわ何故か蛇を持ってる中級堕天使がいるわでな」

「……蛇?なぜそれが今出てくるんだい。何かの間違いでは?」

 ぴくり、と反応するサーゼクス。

「逆に聞くが、俺が間違えると思うか?それに、たかだか中級堕天使が俺を殺せると、本気で思ってるのかよ」

「君ほどの実力者がそう簡単にやられるとは思えないね 」

「その件については後で報告書でも書いて渡す。……あとな。いい加減妹離れしろよシスコン魔王。リーアも自分で相手見つけるだろ」

「シスコンではない。妹好きのお兄ちゃんと言いたまえ」

 キリッとカッコつけるサーゼクス。正直うざい。

「黙れ変態シスコン魔王」

「昔はお兄様のことが大好きと言っていたのに君がリーアたんを助けてからは君にゾッコンなんだよ。今ではお風呂も一緒に入ってくれない」

「それが普通だろうが変態魔王」

「ソーたんは!?ソーたんのこと忘れてないよね!?二人を手篭めにしてるんだから!」

「あんたら二人の印象が強すぎて忘れたくても忘れられねぇ。それに手篭めになんてしてねぇよ」

 もうやだ、この二人。シスコンこじらせすぎて話にならねえ。

「で、要件はなんだよ。まさかそんなこと言うために呼んだんじゃないよな」

「そうだと言ったらどうするんだい?」

「帰る」

 そう言いながら、千夜先輩の手を握って部屋から出ようとしたタイミングで部屋に結界を展開されて逃げられないようにされましたとさ。笑えねえ。

 手を握った瞬間、千夜先輩は何故か驚いた様子で頬を赤く染めていたが、嫌だったのだろうか。……気にしないことにしておこう。

「さっさと要件を話せよ。お前らの妹話に耳を貸すほど暇じゃないんだ」

「……すまない。本題に入ろうか。折り入って頼みがある。レーティングゲームに出てくれないか」

 レーティングゲームというのは悪魔が公に行っている眷属対抗の対戦ゲーム。上級悪魔とその眷属を1チームとして行われる対抗戦のようなもの。まあ。要するに練習試合に近い。たしか、今のレーティングゲームの一位は不動の王様とか言われてたな。

 大怪我しそうになったら転移して逃がしてくれるし。ある程度のダメージを受けても同義。まあ、事故もあるとは聞くが。

「なんでまた。そういうのに出られないんじゃないのか?魔王様は」

「妹のだよ。親が見合いとしてフェニックス家の三男を連れてきたんだ。あとは、察してくれると助かるけれど」

「フェニックス家の三男……あのライザーか?」

 確か、俺の記憶ではあまりいい印象はない。女を見ればハーレムに加えるだのなんだのと言うタチの悪い変態。というかただのバカというのが一般的な認識。長男と次男は普通だが。

「ご名答。あの阿呆は私のリーアたんをハーレムに加えると公言している。つまり」

「サーチアンドデストロイ?」

「そういうことわけさ」

 目が笑ってねぇよ、このシスコン。

「じゃあなんだ?アハトアハトでも持ってきてブッパなせばいいのか?」

「生温い。それこそ、何処ぞの吸血鬼でも連れてきて八つ裂きにしてもらいたいものだ」

「マジでキレてるよこの魔王」

 本当に妹が絡むと見境無くなるよこいつ。

「で、セラはなんでここに?」

「勿論、さっきのことで文句を言いに」

「今すぐ帰って仕事しろシスコン魔王二号」

「酷いっ!?……イッセー君に会いに来たじゃ、だめ?」

「ダメ。役職を考えろ。仮にも悪魔のトップだろうが」

「いーやーっ!まだ専業主婦のほうがいーいー。お仕事つらすぎるーっ。魔法少女になるーっ」

「いや、年齢的に少女ではな……」

「ソレイジョウイッタラ、コロス」

「……はい」

 確か、この魔王は普段は真面目な格好をしてるが、趣味に走ると魔法少女のコスプレをする。悪いとは言わない。かなり似合ってるし。

「それに、セラは家事全般できないだろ。たしか使用人に任せてる筈だろ、そういうの」

「花嫁修業したもんっ!もうできるもんっ!」

「まじか。強火を最大出力と勘違いして食材を消し炭にしたあのセラが」

「黒歴史思い出させないでっ!」

 本当にレベルアップしてくれてると嬉しい。下手したら米をクレンザーで洗うとか料理に薬品使い始めかねないレベルだったと記憶してるが。

「そういや、リーアにもソーナにも会ってないな。元気か?」

「ああ。リーアたんは健康そのものさ。風邪なんか引こうものなら全力で看病を」

「お前は精神科にいけ。シスコンが治るかは知らんが」

「ソーたんも元気だよ。……って、ソーたんについて聞くなんて、お嫁にはあげないよ」

「お前は結婚させたいのかさせたくないのかハッキリしろ。いやしないけど」

「そこは複雑な乙女心をわかってよ、バカ」

 正直めんどくさい。セラじゃなかったらキレるレベルだ。

「あと、仕事あるのに突撃してくるのはやめろよ?お前のとこの部下とかからクレームが来るから」

 ちなみにだが、セラが仕事を投げ出す度にメールで苦情がセラの部下から送られてくる。申し訳なくて仕方ない。

「えー、会いたいんだもん」

「ちゃんと休暇とれば拒まねぇよ。仕事投げ出して突撃してくるから拒んでるだけだろ」

「イッセー君がいじめるぅ。たすけてぇ、サーゼクスぅ」

「それは赤龍帝の言い分の方が正しい。外交面での仕事はあるだろう?」

「うわぁぁぁぁぁぁんっ!誰も味方してくれないぃっ」

 さすがにこればかりは擁護できない。

「じゃあ今度の日曜空けとくからその日に会おうぜ。だから仕事少しでも減らして休み貰えるようにな」

「なんかなだめられてる感が否めない……けど、分かった。じゃあ、日曜日ねっ」

 そう言うと簡単に結界を壊して自分の領地へと戻っていくセラなのであった。

「魔王って変人ばかりなのかしら」

「目の前の赤髪が弩級のシスコンで今帰ったのがシスコン魔法少女。あとはニートと開発バカ。悪いやつじゃないけどまともでは無い」

「聞こえているよ、赤龍帝」

 多少表情が引きつっているが、気にしない。

「で、何時だよ、やるのは」

「二週間後。場所はこちらで作りだした駒王学園を再現したフィールド。この期間は修行期間ということで相手から与えられたハンデだよ」

「随分と余裕だな、あいつ」

「単純に考えてもリーアたんはレーティングゲームの経験が皆無。眷属も戦闘自体はある程度こなせる程度で、集団戦には向いていない……と言うより慣れていないというのが正しいかな」

 つまり、俺が鍛えろってことかよ。

「で、条件は?」

「空間が崩壊しない程度に痛めつける。つまり禁じ手をつかうな、ということさ」

「おーけー。ならフェニックスの涙無尽蔵に持ってこられても勝てるか」

「……ライザーのこと舐めすぎじゃないかしら」

 呆れたような声音で話に入ってくる千夜先輩。魔王に呆れてるのか俺の言動に呆れてるのか、もはや分からない。

「舐めてるんじゃない。実力を弁えているだけさ。それにな、俺が誰かのために戦う時に負ける姿を想像できるか?」

「それはそうね。あれを見たあとに負けるというのは、たしかに考えられないわ」

 いや、あれは相当頭にきてたからな。一応周囲への被害を考えて雀の涙程度の力しか出してなかったが。

「で、報酬は?流石に眷属を借り受けるんだ。多少なりとはあるんだろう?」

「リーアたんを助けるため、という大義名分では流石に動いてくれないかい?赤龍帝」

「逆に聞くが、もし俺が一人の女性……しかも相当美人なやつの婚約破棄条件にレーティングゲームに参加すると聞いたら、どうなると思う?」

「恐らく、重症は免れられないだろう。妹さんや幼馴染に多少なりとは痛めつけられると予想できるね」

 目の光を失った憂姫とこよみの姿が目に浮かぶようだ。

「そういう事だ。流石に金とは言わないが、そうだな……。旅行券でも食材でもなんでもいい。とにかくそれに見合うほどのリターンがないと説明に困る」

 ほんと、女が絡むとあの二人は本当に恐ろしい。下手すれば骨を1本ずつ折っていく古典的な拷問をされかねない。古典的な拷問をしようとするからなぁ。あいつら。

「後で考えておく。じゃあ、明日。リーアたんには君に会いに行くように伝えるよ。眷属の修行を口実に、ね」

 そういうと、俺と千夜先輩の足元に赤色の魔法陣が展開され、強制的に元の生徒会室へと転移された。

 

 

「そういえば、アーシアの件は大丈夫だったのかしら。手酷い拷問を受けるのでしょう?」

 生徒会室に戻ったあと、不思議そうに首を傾げる千夜先輩。現時点でアーシアがうちに住むという話になってるが、その話は色々あって通してある。

「……ここだけの話。色々と埋め合わせをするということで手を打ってもらってる」

「……ふーん」

「まあなんとかなんだろ」

「……私も、埋め合わせしてもらおうかしら」

「千夜先輩まで言い出すのかよ」

「ふふ、冗談よ」

 楽しそうに苦笑する千夜先輩。

「でも、大丈夫なの?」

「ん、なにが?」

「魔王様とのデートの話。あの子達にバレたら問題じゃないの?」

「さすがにバレないだろ。魔王様の接待といえば」

「……そうだといいわね。あの人、相当美人だからかなり面倒なことになると思うわよ」

「……不吉な事を言わないでくれ」

 なんか、胃が痛くなってきた。

「そういや、さっき手を握ったの悪かったな」

「……急にどうしたのよ。別に、いやとは言ってないわよ」

 何やら、動揺してる様子の千夜先輩。

「いや、顔赤くしてたから嫌なのかと」

「……察しろ、朴念仁」

 なんか、すごく怒られた気がした。



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10話

 シスコン魔王共の招集から二日後、何故かアーシアの様子がおかしくなっていた。……いや、おかしいというのは語弊があるか。ソワソワしているというか、なんというか。楽しみなことでもあるのだろうか。

「ん、アーシア?なんかいい事でもあったのか?」

「ふぇ?……とっても、いいことがありました。でも、まだ内緒です」

「なんか気になるな。でも、楽しみにしておくよ」

「はいっ。きっとイッセーさんも喜ぶと思いますっ」

 正直、この時は軽く考えていた。せいぜい軽いドッキリくらいのものだと。

 

 翌日、朝からアーシアの姿がなかった。置き手紙に「今日はお出かけします」とだけ書かれていた。

 アーシアが出かけるなんて珍しいな、なんて思いながら制服に着替えてリビングに行く。いつものメンバーであるこよみと妹の憂姫がトーストを頬張りながらニュースを見ていた。

「なーに?イッセー。恋人さんに振られちゃった?」

 にやにやしながら話しかけてくるこよみ。

「茶化すなよ。ま、迷子にならなければいいけど」

「完全に保護者目線だよ、お兄ちゃん」

 あきれながらやれやれといった感じで見てくる。

 ちなみにだか、こよみと遥は同じクラスで、憂姫は一つ下の学年に在籍している。つまり、何を言いたいかと言うと何か問題を起こせばすぐに三人の耳に入るということだ。

「保護者は言い過ぎだろうな。ただ珍しいこともあるなって」

「たしか、お兄ちゃんの話だと最初にあった時は道に迷ってたよね。結構な方向音痴とかないかな」

「ない……とは言い難いな。スマートフォンでも渡すべきか」

「本当に親目線になってるよ、お兄ちゃん」

 ま、プライバシーの侵害とかになりそうだからしないが。

「そろそろ行くよ、イッセー」

「……そうするか」

 そう言うと、近くにあったトーストを軽く頬張り家を出た。

 

 いつもよりも早めに教室に到着すると、そこには遥の姿があった。いつもギリギリにくるせいで早めに来てる人が正直わからないが、案外早く来るのが癖になってるのだろうか。

「おはよう、遥」

「ん、おはよう。一誠君」

「遥って結構早起きだったりするのか?」

「どうしたの、藪から棒に」

「いや?興味本位ってだけだ。いつぐらいに来てるのかな、と」

「何、私の事を知りたいの?……なんて、冗談だよ。割と早起きするかな。睡眠時間はあまり多い方じゃないんだ」

 そう聞いてみると、何故か遥はふふん、と得意げにそう答えた。

「それって、寝不足とかそんなのは無いのか?」

「その辺はちゃんと対処してるよ。クマひとつないでしょ?」

「たしかにな。健康そのものって顔してるし」

 そう居ながら頬をつついてみると、擽ったそうにしている。ほんとにぷにぷにしてて、気持ちいい。太ってるって言いたい訳じゃないが、程よいっていうのが適切か。

「ちょ、くすぐったいよ」

「あ、悪い」

「イッセー、あんまりやるとセクハラで訴えられるよ」

 数分して教室に入ってくるこよみ。職員室に用があるということで昇降口で別れていたが、それがおわったようだ。

「……ごめんなさい」

「別に訴えたりなんてしないよ。……あんまり酷いと色々考えるかもしれないけど」

「肝に銘じておく」

 そんな他愛もない会話をしているうちに、朝のホームルームの時間になる。名簿を持った担任教師が教室に入ってきた時点で、何やらいつもと違う雰囲気ということを何となく察した。

「本日、急ではありますが転校生の紹介をします」

 何故か、とても嫌な予感がした。なんというか、こういう時の勘は嫌という程当たる。

「さあ、入って」

「あぅ……」

 その予感は見事的中。教室に入ってきたのは制服姿のアーシアさんでした。修道服や普段着とはまた別の可愛さが……ってそうじゃない。

「では、自己紹介を」

「……アーシア・アルジェントです。よろしく、おねがいします」

「「「「「「「うぉおおおおおおおおおっ!!!!」」」」」」」

 刹那、教室中の男子生徒から歓喜の声が発せられる。

 当然といえば当然だが、なんか釈然としない。なんかモヤモヤする、というのが正しい。

「とんでもない事になっちゃったね」

 笑いを堪えながらそう話しかけてくる遥。

「絶対楽しんでるだろ、遥」

「バレた?」

「うっせ。声にも表情にも現れすぎなんだよ」

 人の不幸はメープルテイストってか。

「でも、良かったでしょ?可愛い子が転校してきて、男子としては冥利に尽きるって感じかな」

「ただでさえ飽和状態だろ、うちの学校。それに、美人なら散々見飽きてるよ」

「ふぇ……?」

 そう言いながらジト目で遥のことを見ているとなにやら頬を赤く染めあげた。

 なんだかんだ言いながら、この学園の顔面偏差値は高い。元々女子高ということもあって、女子の比率も多く、それ目当てで入学するやつも多いと聞くが大体は木場みたいなイケメンにしか振り向かない。現実とは無情である。

「ちょ、それどういう……」

「ほら、あんまり話してると怒られるぞ。前向け」

「うぅ……はぐらかされたぁ……」

 などと、コソコソ話していると、何やらアーシアは頬をふくらませながらとんでもない爆弾を落とした。

「私は、そこの兵藤一誠さんの家に住んでいますので。よろしくお願いします」

「「「「「ノォオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」

 楽しそうでなによりだ。俺は全く楽しくないが。

 ……なんか、本当に不安なんだが。

「じゃあ、兵藤一誠君。君の左隣、空いてますよね。アーシアさんの席はそこでお願いします」

 お願いされたくないです。それこそ嫉妬の目線に刺殺されるようだ。胃がとても痛い。

「……えへへ、来ちゃいました」

 トコトコと可愛らしく俺の近くに来れば、そう呟いて微笑んだ後に遥に何やら敵意のようなものを向けていた。

 いや、敵意というか宣戦布告というか。火花が散っているように見えた。

 

「一誠君。今日、ご飯一緒にどうかな」

 午前の授業が終わったタイミングで、アーシアと遥から声をかけられる。

「別にいいけど、珍しいな。今日はこよみと食べないのか?」

「うん。ちょっとね」

「ん?……あ、アーシアも誘っていいか?流石に初日で一人は酷だし」

「別にいいよ。何かが減る訳でもないから」

「ありがとな、遥」

 そう言って軽く頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。小動物のようで可愛い。

「……」

 ただ、隣の席のアーシアはとても不機嫌そうだ。

「ん、どうした?アーシア」

「……なんでもありません」

「……?」

 いつも昼食を食べている場所に到着するまで、一言も口を聞いてくれなかった。

 

 数分後、三人できたのは旧校舎のとある木陰。日当たりが心地のいい穴場スポット。いつもは木場と二人で食べているが、今日は許して欲しい。

「……あの、アーシアさん」

 申し訳なさそうな声音でそう呟く俺。

「……」

「機嫌、なおして貰えませんか」

「なんで怒ってるかわかるまで許しません」

 手厳しい。……ま、正直理由はなんとなくはわかっている。おおかた、彼氏が他の女にかまけてるから妬いてると言ったところか。十中八九俺が悪い。……いや、俺が悪いのか?

「……」

 なお遥さんは俺の左手を握りながら謎のアピールをアーシアにしている。何この修羅場。

「アーシアさん。あまり意固地になっていると貰っちゃうよ?」

「だ、だめですっ!イッセーさんは私の……あっ」

「ん、それでいいの。でも、私も譲る気は無いけどね」

「うぅ……。絶対に、負けませんっ」

 とりあえず遥のおかげでおさまった……のか?とりあえず修羅場ではなくなってそうだ。いや、そうおもう事にしよう。

「じゃ、食べようぜ」

 そう言っていつもの場所に座れば風呂敷を広げ、弁当を食べやすいように置いていく。

「「……」」

 そして2人何故か俺の両隣りに座る。

「……えっと?」

「どこで食べてもいいよね。こんなに広いんだから」

「そうですよ。何も困惑する必要はありません 」

 そうなのか。……そうなのか?

「そういや、結構急だったけど転校ってすぐに決められたのか?手続きとかめんどそうだけど」

「そういった手続は全て千夜さんにして頂きました」

 卵焼きを頬張りながら問い詰めると、案外素直に答えてくれた。

「そういえば、遥は引越ししてきたとか言ってたよな。その時は千夜先輩経由だったのか?」

「違うよ。私の場合、単純に近くの高校がなかったからここに進学しただけ。元々田舎に住んでたからね」

「ふーん。色々あるんだな」

「本当に何も無いところだよ。自然豊かといえば聞こえはいいけど、実際のところは生活が不便だし」

「やっぱり、都会に行きたいって願望はあったのか?」

「ううん。ただ、少し友達が欲しいと思ったけどね。同年代の友達が作れるくらいいなかったから」

「ふーん。なら叶ってよかったな」

「……うんっ。そうだね」

 もぐもぐ、とハンバーグを咀嚼する。なんだかんだいいながらこよみの作った弁当は美味しい。濃すぎず薄すぎず。俺好みの味付けをしてくれる。完全に胃袋を掴まれている状態だ。

「そういえば、二人とも千夜先輩から何か聞いてるか?イベントかなにか」

「ふぇ?聞いてないですよっ」

「同じく。何も聞いてないよ」

 修行の件は聞いてないのか。

「そうなのか。ちょっと諸事情で一週間くらい学校休むことになってな。もしかしたら話いってるかとおもって」

「随分と急だね。どうしたの?」

「シスコ……魔王サーゼクスから命令。妹とその眷属の指導兼修行。一応期間的にそのくらいな」

「……妹?」

「リーアって女の子。赤髪で結構な美人だった記憶がある。ま、最後にあったのが5年前くらいだからよく覚えてないけど」

「イッセーさんはそのリーアさんに恋をしていたのですか?」

 思ったよりもぐいぐいくるアーシア。

「いや?さすがに一目惚れなんてことはしてない。魔物に襲われてる時に助けて、それで送り届けたんだよ。サーゼクスの所まで」

「ふむふむ、随分漫画みたいな展開だね。助けたのが魔王の妹さんなんて」

「ラノベとかならそれ題材にして話しかけそうだよな」

「らのべ……?」

「小説の一種のことだよ。あまり詳しくはないけどな、俺も」

 流石にライトノベルは知らないか。

「それで、その合宿?には私達は行くのかな」

「まあ、アーシアは魔力の使い方を教えるって名目で連れてくだろうな。遥はよく分からん。実力があるなら別にそこまで修行する必要は無いんじゃないか?」

「そういう事じゃなくてね。……はぁ、鈍感」

「鈍感?なんの事だ?」

「何も気づいてないから言ってるんだよ。バカ」

 理不尽に怒られた気がする。

「大丈夫よ。今回は私の眷属とリーアの眷属で合宿をすることにしたの」

 唐突に現れる千夜先輩。ここで昼食をとってるのを知ってたのか。

「なら全員で行ける、か。一種の旅行感覚……ってわけにはいかないか」

「実質そうよ。場所はシトリー家が所有する避暑地の別荘。食材等は準備してあるから各自で作ることが条件になるけれど」

 シトリー家は少し嫌な予感がしたが、まあ大丈夫だろ。サーゼクスもそこまで性格悪くないだろうし。……悪く、ないよな?

「……俺、せいぜい目玉焼きくらいが限界なんだが」

「大丈夫じゃないかしら。作ってくれる人は沢山居そうよ」

 まあ、食べられるものなら嬉しい。憂姫はダークマターを創造し始めるからなぁ。

「じゃあ、明日から合宿を行うから、明日は荷物をまとめておくように。一誠君の家から直接転移するわ」

 随分とトントン拍子に話が進むなぁ。上司が有能だとそうなるのか。

「……あれ?なんで千夜さんはイッセーさんのお家を知ってるんですか?」

 ……ん?なんか雲行きが怪しくなってきた。

「主様だから眷属の家の場所くらい認知してるんじゃないか?」

「……ふぇ?そうなんですか?」

「……そういえば、私は一誠君の家知らないよ」

「いや、聞かれたら教えるけど。なんでそんなに食いついてるんだ?」

「女の勘、かな」

 今日に限ってその勘が鋭い。

「何を慌てているの。転生させた時にその場に放置するわけにもいかないから、家に連れていっただけよ?」

 助け舟をありがとう。本当に。

「まあ、眠くなって一緒に朝まで眠ったというだけよ。一誠君を抱き枕にしながら」

 オーケー。地獄に落ちろマスター。

「「……」」

「何を驚くことがあるの?眷属とのスキンシップは普通でしょう」

「ふ、ふつうじゃないですっ!私もまだそんなことしてもらったことないのに……」

「私なんか、家すらも知らないのに……」

 完全に修羅場モードに入りましたか、これ。こんな確変は要らん。

「別に、今日してもらえばいいんじゃないかしら。遥の場合は帰りにでも教えて貰えれば」

 けろっとした表情でとんでもない煽りしてるよこの人。

「……そうしますっ。イッセーさん。逃げないでくださいね」

「今日は、私もお邪魔するよ。……逃がさないよ、一誠君」

 ……なんでこんな修羅場になるんですか。

「じゃあ、メニューでも考えないとな。実力見ないとなんとも言えないけど」

「メニュー、ですか?」

「合宿のだよ。流石にやること決めないと無意味になるから。散漫にやるのが一番非効率だし」

 そう言いながら、ふところからノートとシャープペンを出して軽く文字を書き始める。

「遥は……今回は指導する側に行ってもらえるか?」

「んー……貸一つ」

 まさかの貸一つときたか。

「内容による。俺ができる範囲ならだいたいは可能だけど」

「後で伝えるよ。楽しみにしててね」

 嫌な予感しかしない。

「アーシアは……魔力練習になるかな。俺か憂姫か千夜先輩辺りになりそうだけど」

「……ん、そうですか。一誠さん固定、という訳では無いんですね」

「流石にな。他のやつにも教えないといけないし」

「んー……つらいです」

 なんかとても悪いことをしている気になる。

「それに、一誠君だと甘やかしそうよね」

「否定はできない」

「否定しなよ。うわべだけでも」

 まあある程度は厳しくするけど。

「貴女達。そろそろお昼休みが終わるわよ」

「……あ」

 ふと、時計に視線をやると針はお昼休みの終了五分前を示していた。

「……一誠君。こっち向いて」

「ん、どうし……むぐっ」

 ふと、遥の方を向くと口の中に何かを突っ込まれる。もぐもぐ、と咀嚼するとほんのりとあまい卵焼きの味が口に広がる。

「……おいしい?」

「美味しいけど。なんならこういうのが一番好きだけど。どうしたんだ?」

「それなら良かったって話だよ。じゃ、早く行こ?一誠君」

 何やら嬉しそうな遥。

「お、おう」

「うぅ……私も負けませんっ」

 何やら対抗心を燃やすアーシア。

「罪な男ね。一誠君」

 前途多難なだけな気がする。



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11話

 その日の放課後。帰り支度をしていると、とある男性から話しかけられた。

「やあ、一誠君。放課後暇かな?」

 そう、学園一のイケメンの噂されるほどの美少年木場祐斗だ。割と旧校舎の近くで一緒になってよく昼食を食べている。いい友人だ。

「んぁ?珍しいな、ここに来るなんて」

「部長から一誠君を呼んでくるように指示を貰ってね」

「部長?」

「オカルト研究部の部長さ。明日からの合宿について話があるということでね」

「ん?リーアの眷属なのか、木場」

「リーア?……ああ、そういう。うん、そうだよ。まあ詳しい話はこの位で、旧校舎に行こうか」

「旧校舎?」

「オカルト研究部の部室があるんだよ。旧校舎だから人が寄り付かなくて好きにできるから、ということらしいよ」

「……まあ、いいけど。1つ条件をつけていいか?」

「僕にできることならなんでも?」

 木場の発言に周囲の女子から黄色い歓声が上がる。……あの、そういう意味じゃないんですが。

「アーシアと遥も一緒に行っていいか?」

「ん、大丈夫だよ。その予定できたから」

 周囲からは三角関係だの四角関係だのと聞きたくない単語が聞こえてくる。……憂鬱だ。

「じゃ、行こうか。アーシア。遥」

「はいっ。イッセーさんっ」

「ん、わかったよ」

 ……さて、どうしよう。会うのは久しぶりだが。というかサーゼクスの反応を見てる限り変なことは言えないしなぁ。

 

 ーー旧校舎

 

 旧校舎の中に入ると、思ったよりも清掃されていることに驚いた。というか、下手したら新校舎より綺麗だぞ。床と窓はピカピカで、それこそだれかが毎日清掃しているかのような。

「さすがに個人で使用するのに汚いのはいただけないということで使い魔に掃除をお願いしているんだ。定期的に清掃業者も入って確実に綺麗にしているよ」

「随分と綺麗だと思ったらそういうことか」

「間違ってもスカートを覗きみようとしないでね。下手をすれば見れるから」

「人を変態扱いすんな」

 何故かばっとスカートを隠す遥とアーシア。

「きょ、今日のは自信が無いですから……」

「まず見る前提で話を進めるのをやめようか」

「……見たら、切り刻むからね」

「だからなんで見るのが前提だ。俺はそういうのに魅力なんてあんまり感じな……へぶっ」

 不意に背中からふたりに蹴り飛ばされた。理不尽すぎる。

「コントのようだね」

「ダメージのあるな」

 面白がらないで助けてほしい。

「て、ここが部室だよ」

 到着したのは二階の端にある応接間のような場所。扉は豪勢なものに変えられている。……というか、金の使い方間違ってる気はするけど。

「木場祐斗です。兵藤一誠君をお連れしました」 

 こんこんっ、とノックをした後に恭しく喋る。

「入っていいわよ」

 少し高めの女性の声が聞こえる。聞き覚えのあるリーアの声よりは少し落ち着いているというか。大人びてる印象だ。

「はい。失礼します」

 そう言って木場が扉を開ける。すると中には骸骨やろうそくといったオカルトのイメージのまんまなアイテムが装飾として置かれていた。ただきちんと整理されており、汚いということは無かった。

 目の前には大きなテーブルと椅子が設置してあり、そこには確か1年生の塔城小猫ちゃんが座って美味しそうに羊羹を食べていた。白髪ショートカットの美少女でロリ体型。どこぞの大きなお友達が狂喜乱舞しそうではある。

「こっちよ、イッセー」

 右方向から声が聞こえる。声の方向をむくと、そこには豪勢な椅子に座ったリアス先輩がいた。たしか、学園三大お姉様の一人だ。燃えるような赤く美しい挑発が印象的な先輩で、スタイルもかなりいい。かなりの美人だ。

「……ん?リーアは?」

 困惑するような声を出しながら首を傾げる。

「……ん?リアス先輩?」

 ぴくり、とリアス先輩のこめかみに青筋が浮かんだ気がした。

「な、なんでその呼び方をしているのよっ!」

 完全にお怒りモードのリアス先輩。

「んんっ!?どうしたんですか、そんなに怒って」

「昔の呼び方をされたからに決まってるでしょうっ!?イッセー」

 なんというか、この怒り方に覚えがあった。たしか、リーアと初めて会った時もこんな感じで……。

「って、まさかリーアか!?」

「だからその呼び方をやめてって言ってるじゃないっ!?」

「そんな事言われてもそう呼べって言ったのはリーアだろ。それに本名を知らなかったんだよ。お前の兄貴がいつもリーアたんって呼んでるからてっきり」

「……普通、気づくでしょ……。もう、お兄様恨むわよ」

 完全に怒りの矛先がサーゼクスに向いたのがわかった。とりあえず助かったということにしておこう。

「あらあら、そんなに怒ってはダメよ?リーア?」

 煽るように言葉を紡ぐのは同じく三大お姉様と称される姫島朱乃先輩。黒髪のポニーテールが印象的な大和撫子といった印象。贔屓目なしに見ても美人にみえる。……というか、3人ともスタイルいいんだよな。三大お姉様。

「こうなることが目に見えていたから嫌だったのよ……」

「随分いたずら好きのように見えるな」

「こうなったのはイッセーのせいでしょう?」

「酷いとばっちりだと思う」

 まあ原因を作ったのは俺だが。

「ってか、さっき聞いた時なんか納得してたな。木場」

「てっきりそういう関係だと思ってね」

「五年ぶりくらいに再会したんだぞ。リーアと認識したのは今だけど」

 五年も放置するとか正気の沙汰では無いと思う。

「……んぁ。そういや、全員悪魔だったな。リーア……もといリアス先輩の眷属だとは思ってなかったけど」

「さすがに気づいていたかしら」

「魔力の気配ってもんがあるんだよ。それが悪魔特有の感じ方。ま、装置とかで抑えられればその限りじゃないけどな」

 そういうの、アザゼル作るの得意そうだし。

「……あの、イッセーさん。そちらの女性とはどんな関係ですか?」

 何やら不安そうにしているアーシア。

「五年前に魔界で魔物から助けた女の子と助けた男って関係。それで魔王の妹」

「ま、魔王様の妹さんですか?」

「ええ、そうよ。……あれを魔王と言うならね」

 この数年で一体何があった。

「悪魔としては尊敬できるけれど、家族としてはね。……一緒にお風呂に入ってこようとするのよ!?信じられるかしら!?」

「そういえば、先日会った時に断られたの俺のせいにされたな」

「普通に考えてこの年齢になってお兄様と一緒にお風呂に入るわけないでしょう」

「俺もそう言ったよ。聞く耳持ってなかったけどな」

 だからあいつの称号はシスコン変態魔王になっている。

「それに、リーアと結婚しろとか何とか言われたぞ。あと近くにいたセラにもソーたんと結婚しろとか何とか」

「な、なな、何を口走っているの、お兄様!?」

 何故か顔を真っ赤にして動揺するリーア。

「「けけ、結婚ですか(するの)!?」」

 近くにいたアーシアと遥まで動揺している。

「さすがにその場でするとは言えないし。それに相手くらい自分で見つけるだろって返したけど」

「イッセー?」

「ん?」

「土下座」

 ものすごい剣幕という訳ではなく、逆に笑顔でそうたんたんと言われる。目が笑っていない。

「何も覚えていないのなら、土下座しなさい」

「……?あ、そういえば口約束はしたっけな」

「……口約束?」

「書面に書いてないから口約束としか言えないだろ。……ま、そうなるにはまだ早いんじゃないか?」

「……早いって、熟女好きなのかしら」

「ちげぇって。とりあえず学生のうちはダメだろ。あと、もう少しいい女になったらな」

「……まったく。イッセーらしいはぐらかし方ね」

 と、他愛もない会話をしていると遥とアーシアからつんつんと脇腹をつつかれる。

「約束ってなんですか?」

「お互いに大きくなって魅力的になったら結婚って約束。正直小さい頃の話だから忘れてるかと思ってた」

「それって、今のリアス先輩ではまだ足りないということですか?」

「……ま、そうなるかな」

 とりあえずこう言っておけば逃げる時の言い訳になりそうではある。

「……一誠君、理想高すぎじゃない?」

「あくまで見た目じゃなくて内面な。見た目だけならモデルレベルだろ。リーア」

「「……頑張らないと」」

 何をですか。

「あれ、眷属は全員か?」

「ええ、そうよ。女王(クイーン)の朱乃に騎士(ナイト)の祐斗。そして戦車(ルーク)の小猫よ」

「……ルーク?小猫ちゃんが?」

「……なんですか」

 何故かジト目で睨まれた。

「いや、イメージ的には僧侶(ビショップ)だと思ったから」

「……見た目で判断しないでください」

「見た目じゃなくて能力的に。だって、普通の人間から転生したんじゃないだろ」

「……っ!?」

「これでも赤龍帝だから気配でなんとなくな。ま、話したくないならそれでいいんじゃないか?」

「……はい」

 こくり、と頷く小猫ちゃん。ただジト目で睨むのは続行するようで。

「じゃ、リーア。どの程度までなら対応出来る?上級悪魔程度か?」

「私は……そうね。上級悪魔の中では中の下。良くて中の中程度だと思うわ」

「随分強くなったな、おい。少し強いくらいの魔獣に絶望してた頃とは雲泥の差だな」

「何年前の話をしているの。せいぜい小学生程度の年齢よ」

 そう言いながらわしゃわしゃと頭を撫でると、満更でもなさそうな顔で言葉を紡ぐ。

「これでも褒めてる方だぞ。で、他の3人は?」

「朱乃は私の同程度かしら。単純な魔力量では私と同程度で、技術だけなら朱乃の方が上ね」

「……それって、滅びの魔力でゴリ押ししてお前はそのレベルって言うことか?」

「……悪いかしら」

「いんや。伸びしろはある。それを伸ばすかはお前次第だろ」

「……ん。話を戻すわ。佑斗と小猫は中級悪魔の中では上位レベルよ。戦闘経験を積めばおそらくは上級悪魔レベルね」

「ふーん……?結構粒ぞろいというわけか」

 と言っても、このままじゃライザーにはお世辞にも勝てるとは思えない。と言うより、ライザー一人に全滅させられる。……流石に、フェニックスは厄介だな。

「よーし、じゃあ俺が多少なりとも本気を出して教えるから死なないように頑張れ」

「……え?イッセーが教えるの?」

「なんだ、不服か?多少なりともお前らよりは強い自信があるが」

「……と言うよりは、一誠君はどれほどの実力があるのかな」

 不思議そうに首を傾げる木場。

「お前ら全員相手にしても傷一つつけられないよ。神器使わなくてもな」

「……口で説明しても納得しないわよ、きっと」

「ま、いいか。じゃあ普通に戦った方早いか」

 まあ、実力を確認するには戦うのが1番だろうし。

 

 

 

 数分後、旧校舎の裏側の開けた場所に集合した。……ま、要するに実力差の確認だな。

 戦闘をするにはちょうどいいくらい……三十メートル四方は開けている。ま、オーソドックスではある。

「……本当にいいのかい?」

 心配そうにしている木場。両手には二振りの西洋剣が握られている。魔力はそんなに感じられない、ただの剣だ。ただ、その姿がさまになっているあたり、ナイトとしてはある程度熟練されているのだろう。

「いいさ。あと、本当に死にたく……いや、怪我したくないなら殺す気で来いよ。手加減はしてやる」

「随分と自信過剰ですわね、一誠君」

 バチバチ、と両腕に帯電させている朱乃先輩。女王ということもあって全ての能力が強化されているが、それでもかなりの魔力量だ。というか、あの帯電してる電気だけで下級や中級悪魔程度なら簡単に屠れるぞ。

「……後悔、しないでください」

 猫のマークが描かれた薄めのグローブを装備した小猫ちゃん。さっきはああ言ったが、単純な戦闘力は普通に高いと思う。ただ、それ止まりってことだ。

「……あれ、リーアは参加しないのか?」

「目に見えているもの。私は遠くで見物しているわ」

「オーケー。じゃあ、遠くでな」

 ちなみに、アーシアと遥は二階から観戦している。……ま、下手なとこは見せられないって訳だ。

「じゃ、こいよ」

 おもむろに四肢を魔力で覆う。簡素だが戦闘能力をあげるには案外効率的な状態。

「じゃ、遠慮なくっ」

 そう、呟いたと同時に思い切り地面を蹴る木場。初動はそんなに早くないが、2歩目に入って瞬間、姿が消えた。

「……ふっ!」

 一瞬。一呼吸置く前に目の前に現れ、躊躇なしに首目掛け件を振り下ろされる。それは一直線に最短距離を走り、効率的に力が込められている剣士のお手本のような一撃。相当修練を積まなければ、こんな芸当は出来ないだろう。

「……ま、こんなもんか」

 刹那、刃先が首に到達すると同時に完全に粉々に砕け散り、霧散する。

 ただ首に魔力を集中させて剣を受け止める。ただそれだけだが、密度を濃くするとこんな芸当もできる。

「今、何をしたんだい?」

「首に魔力を集中させてガード。で、その硬度が魔剣を上回ったから粉々に粉砕って感じだな」

「受け止めるならまだしも、あんな方法で破壊するかい?普通」

「お前が相手をしてるのは普通じゃないってだけだろ」

 そんな自嘲気味な笑みを浮かべながら、今度は黒い西洋剣を作り出す。それは、先程の剣と比べるとかなり魔力の濃度が濃く、作りなれているような感覚を覚えた。まさか、手を抜かれるとは思っていなかったが。

「……いきますわよ」

 ふと、右方向から全力で魔力を放出される。その奔流は空間を削る勢いで一直線に俺目掛け放たれていた。木場はタイミングよく離れていたが、このままだと旧校舎ごと吹き飛ぶ。

「甘い」

 ただ、無造作に右腕を凪いで魔力の奔流を相殺する。不意打ちをするなら声を出さないでするのがセオリーだ。相手に攻撃の意志だけではなく居場所までも教える愚行になる。

「このレベルなら流石にライザーを1回なら倒せるだろうけど、連発できなきゃ回復されて終わりだな。もっと低威力で連射出来れば立ち回りにもバリエーションができる」

「……それは考えましたけれど、貴方相手にそれは効果がないと思いまして」

「攻撃の基本は面で翻弄して点で断つ、だ。全体攻撃をブラフにしながら一点集中攻撃を駆け引きを前提にしながら戦うのが普通だぞ?」

「そんなことをしてしまえば、たちまち魔力が無くなってしまいます」

「だからそこは訓練の蓄積と戦術構築の慣れに関わってくるんだよ。今回の場合だと木場や小猫ちゃんみたいな近距離特化みたいなやつがいるんだから、朱乃先輩は遠距離攻撃……つまり面での攻撃をするべき」

 真面目になって答えてみれば、朱乃先輩ははっとした顔をする。

「で、小猫ちゃんはどうするんだ?スピードならおそらく上の木場がスピード負けして、魔力なら朱乃先輩の方が上なのに簡単に打ち消された。となればすることは?」

「……パワーでごり押す」

 そう言って、思い切りかけ出す小猫ちゃん。流石に木場と比べるとスピードが数段落ちるが、その分パワーがあると思いたい。

「……倒れてください」

 小猫ちゃんから放たれる左ジャブに近い連続攻撃。華奢な腕から放たれているとは思えないほど重い風を切る音に驚くも、余裕を持って紙一重でかわし続ける。

 威力を考察するに、単純なパワーだけならそこらの上級悪魔と比べても遜色ないかもしれない。そこいらの肉弾戦する悪魔よりよっぽどえぐい音してるぞ。ま、それだけに勿体なくはある。

「……当たって、ください」

「洒落にならないって。このレベルは。この戦闘スタイルは独学か?」

「……そうっ、ですっ」

 ジャブでの連続攻撃に変えながらも的確に急所のみを抉ろうとしてくる拳に驚きながらも惜しいなとはと思う。

「撃ち方に無駄が多すぎる。それだと威力がどうしても半減以下になるのに、それでもこのレベルとか怖いな」

「……褒めてるんですか?」

「褒めてるよ。……小猫ちゃん、魔力を使って追加攻撃したりはしないのか?」

「……そんなこと、しなくても」

「勝てるとは言わないぞ。腕力だけで勝ち上がるような怪物は一人知ってるが、それは数十年も鍛錬し続けてやっと手に入れられる境地だ。一朝一夕で手に入れられるもんじゃない」

 ふと、脳裏に暑苦しい悪魔の姿がよぎる。そういや、リーアの親戚だったな。あいつ、今元気なのだろうか。

「……じゃあ、どうしろと」

「それを一緒に考えるための指導者だろうが」

 小猫ちゃんの攻撃に合わせて腕を掴み、そのまま投げ技の要領で空に投げる。俗に言う合気道に近い技法だ。まあ思ったより小猫ちゃんの力が強くて数メートルほど上空に飛んでいってしまったが。

「ナイスキャッチ、ってな」

 落ちてくる場所に先回りしてお姫様抱っこの容量で抱きとめることに成功する。小猫ちゃん本人は複雑そうな顔をしてるが。

「……もう少し優しくしてください」

「次は善処するさ」

 そう言いながら笑顔を見せると、何故か顔を背ける小猫ちゃん。あれ、もしかして嫌われたか。

「ま、怪我がなければ御の字だろ」

 そう言ってゆっくりと下ろすと、「そういう問題では無いです」とジト目で睨まれた。

「リアスは、こうなることを予想していたのね」

「……まあ、そうよ。言い忘れていたけれど前にお兄様とイッセーが戦ったことがあったのよ」

「魔王様と?」

「ええ。その時だったかしら。禁手化(バランスブレイカー)と呼ばれる強化形態が神器にあるのはわかるわよね」

「ええ。神器の至る境地、ということは分かるわ」

「その形態で本気のお兄様を完封していたのよ」

「「「……!?」」」

 随分と昔の話をするな。リーアと会った時だから5年前の話だ。まだやんちゃしてた頃の。それにそんな言い方されるとどこぞの力をひけらかす主人公共と同じようで嫌だ。

「あれはお前の兄貴が『リーアたんと結婚したいなら私を倒しなさい』とか意味のわからないことを言って襲ってきたから迎撃しただけだろ」

「それでも倒すような人間は普通はいないものよ」

「……それはそうかもな。あのシスコン本気で消しに来たからな。赤龍帝を不穏分子として排除するならまだ言い分としてはわかる。だけど、妹を取られたくないから本気で殺しにくるとか頭おかしいだろ」

「それがお兄様なのよ」

「……ジーザス」

 次に会ったら本気で殺されるかもしれない。

「まあこれである程度の実力差があるのは理解したと思うが、さすがにライザーはこれほど強くはないぞ」

「……そうですよね」

 あんなハーレムバカにこんな力持たせたら世紀末になる。

「だから一週間である程度……俺がある程度認めるくらいには強くなってもらうか」

「随分とアバウトね」

「その方が模索しやすいかと思ってな。木場はとりあえず実践経験を積むことが今できることだからな。とりあえず俺と遥の二人をひたすら相手して経験を積む方向になるな」

「……それ、死なないかな」

「死なない程度に加減しながら痛め付ける」

「……」

 何やら少し苦笑しているが、死んだら洒落にもならないから加減はする。

「小猫ちゃんは……知識と戦闘技術の方の訓練をしようか」

「……知識と戦闘技術、ですか」

「語弊があったな。基本的には知識と技術のために午前中は俺と講義。午後からは魔力操作と実戦いう形になるかな」

「……そうですか」

 流石に木場と同じメニューこなしてから夜に魔力操作なんてさせたら本当に倒れる。オーバーワークなんて百害あって一利なしってやつだし。

「朱乃先輩は魔力操作の練習をしながら範囲攻撃の練習。実験相手は俺がなる」

「それだと、一誠君の負担がすごくなるような」

「流石に一日交代だ。へたに移動するよりはそっちのが効率がいい」

「……はい、わかりました」

 よーし、メニューはある程度決まった。……あとは付け焼き刃レベルでどれほどやれるかだな。

「……イッセーさん」

 いつの間にか2階から降りてきたアーシア。

「どうしたんだ?アーシア」

「私は、どうすれば強くなれますか」

「……そもそもアーシアは戦闘向きじゃないからな。神器の操作について学んで、あとは基礎体力をつけるって感じになると思う。案外体力使うから」

「そう、ですか」

「なにも戦闘は全然だけでするものじゃない。アーシアみたいな後方支援特化の存在がなければ即座に壊滅も有り得る」

「重要、ですか」

「そう。真に必要とされるのはいつも回復役さ」

 そう言って頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めるアーシア。

「……あの、私は?」

 何か申し訳なさそうにしている遥。

「遥の場合現時点での木場の超上位互換みたいな感じだろ。それに遥の能力の都合上切込隊長から味方の支援でも何でもござれのハイスペックウーマンだ。いてもらわなきゃ困る」

「んー……そっか」

「それに、遥の場合安心してみてられるからな。だから自信持てよ。最強の騎士様」

「ん、ありがと……」

 ぽんぽんと頭を撫でれば軽く俯きながら涙声でそう呟いた。……何か、思い詰めてるとこもあるんだろう。

「私、絶対にお役に立てるように頑張りますっ」

「私も、一誠君が背中を預けられるような……。ううん。守れるような、騎士になる」

 うん、いい決心だと思う。……遥の場合俺は本気出さないと負ける可能性高い、というのは黙っておいた方がいいだろう。遥の強さは本当に凄い。

「……で、この状況どうするのかしら」

 そう、リーアに言われると真面目にどうしようか考える。

「……とりあえず、部室戻るか」

 

 ーー余談

 

「そういえば、セラとの約束、日曜日だけど修行で行けないよな、これ」

 部屋で一人絶望する男の姿。あの魔王、そういった話のバックレは本当に許さないタイプだ。それこそ骨数本ではゆるしてもらえないだろう。さて、どうするか。

 ーーこん、こんっ。

「お兄ちゃん、いる?」

 不意にノックの音が聞こえたかと思えば続けて憂姫の声が耳に入る。

「ん、いるぞ?」

「入るよ?」

 とことこと部屋に入ってくる憂姫に癒されながらも現状に絶望するばかりだ。

「どうしたの?」

 首をかしげながら質問する憂姫に言葉を詰まらせる。

 単純に女の子とデートについて考えている、なんていえば数日は話を聞いてもらえない。なんなら拷問もの。かと言って嘘をつけば好感度が下がる。というかしばかれる。さて、どうしたものか。

 ……というか、千夜先輩の予言が当たって真面目に笑えない。

「……魔王様の接待をしろと言われてたんだ。ただ日曜日は修行ってことで居ないだろ?だからどうしようかなって」

 よし、これで嘘はついていない。それで回避できーー

「そうなんだ。ちなみに、その方は男性?それとも女性?」

 ーーませんでした。

 さらに難問を押し付けられたよ、おい。……まあ、ここは素直に答えるしかない、か。憂姫も知ってる相手だから慎重に。

「女性というか、魔法少女。結構前からの知り合いで、アニメとかである魔法少女のコスプレが好きな魔王様」

「……それって、大丈夫な人?」

 とても反応に困る返しをしないで欲しい。

「俺の知る限りでは(俺に会うために)仕事を放り投げたり(完全に趣味で)魔法少女のコスプレしたりするけど実力だけなら女性悪魔最強。氷を使わせたら右に出るやつは俺は知らない。神様を含めてな」

「それって、夢見る少女に最強の力を与えたような感じだよね」

「正直それだ。で、そいつをもてなすって考えたら秋葉原しか思い浮かばない」

「けれど、修行でその場所に行けない、ってことだね。まあ仕方ないんじゃないかな」

 うん、わかってくれたなら嬉しい。

「じゃあ、その人に電話をかけて、どうするか聞いてみたら?譲歩してくれるかもよ」

 訂正。全然わかってない。

「……もう、腹くくるしかないか」

 そう言いながらポケットからスマートフォンを取り出して連絡先を開く。そこには魔王様やら堕天使提督。そして天使のお偉いさんなど色んな人の連絡先が記載されている。もちろん本人だ。

「……あった」

 そして見つけたのはセラと書かれた連絡先。それを見た瞬間、憂姫の表情が少しだけ強ばった気がした。

「随分、仲がいいんだね。あの人と」

「それこそ五年前から知り合ってるからな。単純な期間だけで言うなら三番目くらいに付き合いが長い。家族の憂姫やこよみには負けるけど」

「……そう」

 落ち込んでる憂姫の頭をとりあえず撫でる。

「……ふぇ?おにい、ちゃん?」

「いや、可愛いなって」

「……っ。それ、反則っ」

 涙目になりながらもどうやら機嫌を直してくれたようだ。

 さて、電話電話……っと。

「ちゃんとスピーカーでね?」

「……はい」

 もう、無言で頷くしか選択肢はないようです。

 ーーぷるぷるぷるっ。

 もうどうにでもなれとスピーカーにして通話を開始する。

『はい、もしもし……って一誠君!?きゅ、急にどうしたの、かなぁ?』

 三回もコールがならないうちに電話に出ましたよ、魔王様。しかも声が上ずってる。相当動揺しているようだ。

「いや?ちと声が聞きたくなったから電話した、とか言ったら怒るか?」

『お、怒らないけど、珍しいよね。そういうので電話かけてくるなんて』

「まあ嘘なんだけど」

『うそかいっ!……で、要件は何?』

「日曜日の件だよ。前にサーゼクスのとこで話しただろ?」

『あー、ふたりっきりでデートするって話ね』

 ぴくり、と憂姫が反応する。正直怖い。

「それさ、サーゼクスからの依頼の修行で日曜日は無理そうなんだよ。あの時話してたろ?」

『えー……一誠君とのデート、楽しみにしてたんだけどな』

 とても笑顔でこちらを見る憂姫。目が笑ってない。なんか闇のようなものが見える。

「で、え、と?」

 待って、俺死ぬかもしれない。

「と、とりあえず今度埋め合わせするけど、何がいいかなって話」

『んー……じゃあさ、その修行先に私いくよ。たぶんサーゼクスのとこの別荘のどれかでしょ?』

 ……何言い出してるんだ、この魔王。

「いや、仕事とかあるんじゃないのか?」

『仕事なら終わらせたもん。一誠君とのデート、無くなるのは嫌だったから』

 いや、前にあったの二日前だぞおい。四十八時間で全部終わらせたのかよ。それが出来るならいつもやれよ。

「場所自体は俺も知らないぞ。おそらく転移魔法陣ですぐにいくだろうし」

『サーゼクスに場所を聞くよ。それでもダメなら駒王学園に乗り込むよ』

 なんでそういう行動力はいつも凄いんですか。もう憂姫が闇落ちしそうなレベルで病んでるよ。黒いオーラ出てるよ。そのうちオルタにでもなりそうだよ。

「……なんでそこまでするんだ?お前ほどの美人ならいくらでも相手がいそうだけどな」

『分かってないなぁ。一誠君が好きだから。一緒にいたいから頑張ってるんでしょう?』

 あ、もうダメだ。俺の方が罪悪感でおしつぶされそうだ。

「す、き?」

 あ、俺死んだわ。

「……あー、好きにしろよ。その代わり、弁当もってこいよ?花嫁修行したとか言ってたなら、その成果見せてくれ」

『うんっ。腕によりをかけて作っていくね』

 ーーぷつっ。ぷー、ぷー、ぷー。

 そして電話が切れた。……さて、今からどうしようか。

「おにい、ちゃん?」

「……はい」

「魔王様と付き合ってるの?」

「絶対にない。天に誓って」

「じゃあ、魔王様との関係はなに?」

「ゆ、友人」

「向こうはそのつもりじゃないみたいだよ。それに、相当美人なんだろうね。楽しそうだったよ、お兄ちゃん」

 完全に怒ってるよ憂姫さん。

「……ま、確かに見た目だけならな。ただ、真面目な話そういうのはないって。それに、好きって憂姫も言ってくれるだろ」

「それは、魔王様も同じだよね」

 それを言われては元も子もない。

「現時点では恋人を作るつもりなんてないっての。憂姫もいることだし」

 そう言いながら優しく抱きしめると、困惑した様子で目を見開く憂姫。

「ふぇ……?」

「結局のところ、憂姫を抱きしめてるのが一番落ち着くし」

「……ん、ぬいぐるみじゃないよ」

「知ってる。でも俺のかけがえのない、一人だけの妹だろ。だから、少しくらいこうさせてくれ」

「……一緒に、寝る?」

「ちと恥ずかしいけど、そのつもりできたんだろ?」

「うん。……一緒に、寝よ?お兄ちゃん」

 まあそのまま一緒に寝ましたよ。間違い起きないように理性はたらかせながら。

 これ完全に俺クズ男になり始めてないかこれ。

 



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12話

今回はちょっと長いです


 合宿当日。着替えの入ったカバンを持って、朝の七時頃に駒王学園に集合している。校門は勿論開いている状態で、そこら辺はしっかりしてるんだなと関心する。

「イッセー。もしかして結構気合い入ってる?」

 そう、首を傾げるこよみ。

「入れなきゃ失礼だろ。こよみも本気出さないと抜かれるかもな」

「そんなにすぐには抜かれないよ。強そうな人でもいたの?」

「超有望格が一人な。というか全員超有望格と言っても遜色ない。俺が教えられるやつなら一人ってだけな」

「となると、近接戦闘系?」

「そうだな。見た感じ、少し鍛えれば単純な腕力だけならこよみとはる。しかも遠距離攻撃も味方の回復も特殊攻撃も出来そうときた」

「へー。じゃあ、私よりも強くなるかもね」

「その姿と比べたら、な」

「ん、そういうことにしておく」

 こよみには最終形態までに4回の変身を残している。……さすがに嘘だけど。

 とりあえず本気の姿と今の姿では単純な戦闘能力は天と地ほどの差がある。下手したら十本の指に入るレベルだ。つまり、サーゼクスとかと肩を並べる実力者。……ま。本気を出せばだけど。

「お兄ちゃんって割と自信過剰なとこあるよね」

 不意につぶやく憂姫。

「自信過剰か。ないよりはまだいいんじゃないか?」

「それで足元救われたら意味が無いよ。どんな敵が出てくるか分からないから」

「全員ぶっ飛ばせばそれで済む。それだけだろ」

「そういうとこだよ。お兄ちゃん」

 まあ、それで一回死んでるわけだから肝に銘じておこう。

「……んぁ、そういや遥は?」

 校門前にいるのは俺、アーシア、憂姫、こよみの4人だ。千夜先輩は先に行くという話を聞いているが、遠足前の子供みたいで可愛いとは思うが。

「んー、遅いね。どうしたんだろ」

 そう、話してると遠くから遥の声が聞こえる。

「おまたせーっ」

 割と大きめのキャリーバッグを持って来ている。三つほど。

「……どうしたんだ、その荷物」

「ちょっとね。色々つめてたらちょっと多くなっちゃった」

 ちょっとレベルではない気がする。

「ま、あとでのお楽しみだよ」

 嫌な予感しかしない。

「じゃ、行くか」

「「「うん(はいっ)」」」

 ま、俺は小猫ちゃんとアーシアを教えることになりそうだが。今回の場合は。

 

「来たわね」

 オカルト研究部の部室に集合した俺達を出迎えたのはリーアと千夜先輩の二人。奥には木場と小猫ちゃん、そして朱乃先輩の姿も見える。

「ん、おはよう。千夜先輩。リーア」

「……だからその呼び方をやめてと」

「あら、いいじゃない。リーア?」

「こうなるから嫌なのよっ」

 こういう反応を見てるのは正直楽しい。

「で、場所はどこなんだ。別荘なんて言ったらイメージとしては避暑地ってイメージがあるけど」

「今回は山よ。季節的にもいいとは思うけれど」

「……ん、山?」

 なんというか、一つ思い当たる場所があった。

「なあ、リーア。質問いいか?」

「何かしら」

「今回の合宿場所にサーゼクスは関係しているのか?」

「ええ。しているわね」

「もしかして、セラフォルーも関わってるのか?」

「ええ」

「じゃあもう一つ。その場所はシトリー領のどこかか?例えば、近くに川があるとか」

「その通りよ。よく分かったわね」

 その言葉を聞いた瞬間、俺は脱兎のごとく部室から逃げ出そうとした。無論こよみに押さえつけられて失敗に終わったが。

「離してくれっ。そこには本当に行きたくないっ」

「何か問題があるのかしら」

「大ありだろっ。てか、そこって俺とリーアとソーナが初めて会ったとこだろうが」

「よく分かったわね。山と言うだけでよくそこまでたどり着いたものね」

 逆にそこ以外思いつかない。サーゼクスとセラが絡む時点で行く場所がかなり固定されるからな。

「と言うより、なんでシトリー領に行ってるのさ」

「まず拘束を解いてから質問をしてくれ」

「逃げるからダメでしょ」

「……あの時だよ。フェンリルと大立ち回りした時の帰りにな」

「ああ、あの時ね」

 なんて普通に会話しているが、木場と小猫ちゃんと朱乃先輩は酷く驚いている様子だ。アーシアはよくわかっていない様子だが。

「一誠君、フェンリルと戦ったことがあるのかい?」

 困惑した様子で聞いてくる木場。

「やんちゃしてた時にな。北欧神話の方に行ってロキに喧嘩売ってなぁ。で、その時に出てきたのがフェンリルって訳で」

「よく生きていられたね」

「まあ、それなりに怪我をして、さまよった挙句に着いたのがシトリー領のとある避暑地ってわけだ」

 助けられた恩があることにはあるが。

「そこで知り合ったんだ、イッセー」

「そこにリーアとソーナとセラが居たんだよ」

「セラ?」

「セラフォルー・レヴィアタン。自称魔法少女の魔王」

「随分仲がいいんだね」

「色々あってな」

「……ふーん?」

 何やら訝しんでるこよみ。

「もう逃げないから離してくれよ」

「……後でその話を聞かせてくれたらね」

「わかったよ」

 そう言うと、拘束を外してくれた。

「……気が重い」

 頭抱えてる状態の俺。だって、あそこに行くってことは確実にあいつらがいるって訳だからなぁ……はぁ……。

「そう、悲観的にならずに行くわよ」

 くそ、この主。いざとなったら道連れにしてやる。

 

 その後、全員で転移したのは想像通りシトリー領のとある避暑地。木々におおわれているものの景観の美しい場所。近くには川が流れており、レジャーとしても使える。

 転移場所の目の前にある別荘は白を基調とした汚れひとつ無い綺麗な建物。二階建てでプール付きときた。普通に購入するなら土地込みで億はくだらないだろう。

「……やっぱ、ここかよ」

 この場所には見覚えがあった。というか、俺が保護された場所と言う。やりやがったな、あのシスコン野郎。

「わぁ、綺麗な建物ですねっ」

 テンションの上がっているアーシア。かわいい。

「どうしたの、イッセー。顔色が悪いよ?」

「数秒後にわかるよ」

 そう言ってすぐの事。建物から現れる一人の女性の姿。ツインテールが印象的な女の子。いつもの魔法少女を模した派手な衣装ではなく、青を基調とした落ち着いた服装を身にまとっている。

「……誰でしょう、あの綺麗な方は」

 悪魔に転生した特典としてやたら視力が上がるってものがあったか。アーシアにはあいつの姿が見えてるようだ。

「イッセーくんっ!!!!」

 その女性ことセラフォルー・レヴィアタンは思い切り助走をつけて飛びつく形で抱きついてきた。少し体勢を崩すも、なんとか抱きとめることに成功する。玄関からここまで十数メートルはあると言うのに、一瞬で到着できるのはさすが魔王とでも言うべきか。……いや、これくらいは誰でも出来るか。

「会いたかったぁ。前に会った時はサーゼクスの手前抱きつけなかったからね」

「なんで抱きつくのが当たり前になってんだよ」

 この光景を見て周囲の女性陣は固まっている。……というか真面目に助けて欲しい。

「ようこそ、シトリー領へっ」

「離れてから言えっての」

 本当に前途多難すぎるんだが。

「……イッセーさん。誰ですか、その人は」

 約一名、黒いオーラを放ちながらこちらを見ている女性こと憂姫がかなり怒った様子で言葉を発する。

「……セラフォルー・レヴィアタン。四大魔王って呼ばれる悪魔のトップの一人」

「前に、電話で話していた人?」

「……はい」

「……良かったね。美人さんに抱きついてもらえて。では、私は他の方と特訓をするから」

 そう言って憂姫は完全にキレた様子で離れて行ったと。……本当に前途多難すぎる。

「今のはイッセーが悪いわよ」

「完全に被害者なのに!?」

 理不尽すぎる。

「イッセーくん。あの子は誰?」

「兵藤憂姫。俺の実の妹」

「ふーん。そうなんだ」

 なにやら考え事をしている様子のセラ。

「とりあえず離れてくれよ。このままじゃ本当に誤解される」

「やーだよ。久しぶりのイッセー君の成分を補充してるんだから」

 毎回この手のいいわけで1時間程度は離してもらえない。

「一誠君も、なにか抵抗しないの?」

 不思議そうにしている千夜先輩。

「無理。こいつを無力化しようにも神器を使ったものならため時間の数秒で意識を刈り取られる」

「力づくは?」

「……単純にセラ相手に乱暴できない」

 だって仮にも魔王様だし女性だし。変に傷つけるのは罪悪感がすごい上に嫌われたら割と凹む。

「そういう態度をしているから憂姫を怒らせるのよ」

「自覚しています」

 ……もう、こうなったらセラが満足するまでこうしてるしかない。それがいつもの対処方法。

「……えへへ」

 まあ、可愛いから許すことにしよう。あとが怖いけど。

 

 

 で、解放されたのは案の定1時間後。こいつの体の体内時計は正確なのか。

 その間にグレモリー眷属に動きやすい服装に着替えてもらった。まあ全員ジャージだが。

「……むぅ」

 やっぱりご機嫌ななめの憂姫。さすがにあれを見せられて直ぐには機嫌は直らないだろう。

「……憂姫」

「なに?お兄ちゃん」

「……ドーナツひとつ」

「……絶対私の事ちょろいやつだと思ってるよね」

 でも満更では無さそうだ。

「じゃあ、俺の一日独占権」

「仕方ないね。許してあげるよ」

 やっぱりちょろい。自分のこと追い詰めてる気がしてならないけど。

「とりあえずメニューとしては木場が俺か遥とひたすら戦闘。で、神器の使用出来る時間を極力長くするというのを目標にすること」

「……僕の神器を知っているのかい?」

「昨日戦った時に西洋剣を生み出していただろ。そうなると基本的には魔剣創造(ソードバース)聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)の二択になる。どちらも武器を作り出す神器だが、昨日作りだしたものを見ると聖剣には見えない。となると魔剣創造の方になるというわけだ」

「驚いた。随分な洞察力だね」

「これくらい出来なきゃ話にならない。で、今使用できる時間はどれくらいだ?」

「武器を作り出せる時間は一時間。精度を上げたり短時間で大量に生み出した場合はさらに短くなるかな」

 割と致命的だな、おい。

 基本的にレーティングゲームは長期戦になる可能性が高い。というか、そういう戦術を好んで使うやつもいると聞く。そんなヤツらを相手にするなら最低でも二時間は欲しいところだが、贅沢は言ってられないか。

「期間が短いからな。一時間半を目指して意識して使ってみろよ。少しは変わるはずだ」

「……い、一時間半?」

「あくまで目標だ。継続時間なんてもんはすぐに伸びるもんじゃねぇよ。俺だって結構時間かけて長くしたんだ」

「うん、それなら」

 こくり、と頷く木場。

「朱乃先輩は魔力の最大量の増幅と技を考えてみようか」

「技、ですか?」

「そう。全体攻撃や一点集中攻撃と言ってもそれだけではイメージに乏しい。だから、名前をつけたりしてどの技がどう、みたいな感じでやるのが割と効率的だ」

「……つまり、イメージを固めて名前をつけろ、と?」

「そういうこと。イメージが出来たらあとは反復練習して使い物になるまでやり続ける。それの繰り返しだ。それを本気でやってれば魔力量も瞬間出力も自然と上がる」

「はい、分かりました」

 さて、あとは小猫ちゃんとアーシアだが、そっちは最初から決まってる。

「小猫ちゃんとアーシアは、俺と一緒に魔力の勉強だ。小猫ちゃんは追加で俺と実戦を行うけど、まあ手加減はする」

「……随分、アバウトですね」

「仕方ないだろ?筋力を一週間であげるなんて無理に決まってるし、下手に実戦だけっつっても今のままだと無意味だ」

「……それは、どういう事ですか」

「それはおいおい説明する。とりあえず始めようか」

「「「「はいっ」」」」

 

 

 その後、俺と小猫ちゃんとアーシアの三人は別荘の書斎で講義を行っていた。

「基本的に魔力ってなんだと思う?アーシア」

「悪魔が使える魔法のような力、ですか?」

「半分正解半分ハズレかな。魔力っていうのは悪魔の体から作られるエネルギーの総称のことを言うんだ。基本的には心臓で生成されて血管を通って全身に送られるんだ」

「んー……分かりにくいです」

「血をイメージしたらわかりやすいかな。血は心臓を通って全身に送られるから、それをイメージするのがいい」

「ふーむ。むずかしいです」

 頭を抱える素振りを見せるアーシア。可愛い。

「まあ、魔力は悪魔の使用する力の総称だな。そういう意味ではアーシアのさっきの答えはあってる」

「そうなんですか?」

「ああ。ただ、魔法のような力というのが違う。魔力に命令をして、その形に変えるというのが魔力の基本でな。あまり融通の利くものじゃないんだ」

「命令、ですか?」

「そう、命令。例えば火になれって命令したら火になるし、水に慣れって命令たら水になる。そうして生みだしたものは自分の魔力なわけだからすきにつかうことができる」

 そういいながら試しに魔力で五百ミリリットル程度の水を生み出し、軽く空中を動かしてみせる。鳥の形に変えたり小型の龍に変えたりと遊びも入れてみた。

「わぁっ、すごいですっ」

「ただ、こうするにも明確なイメージがないと出来ないんだ。そういう意味では魔法とは少し違う」

「んー……そうですかぁ」

「まあ、極めればそれに近いことは出来ると思うぞ。セラなんかは一瞬で半径1キロ圏内の物質を凍らせることが出来る」

「……すごいんですね」

「仮にも魔王だからな。一応女性悪魔の中では1番強い」

 ぺらぺらとページをめくり、仙術のページを開く。小猫ちゃんが眉間にシワを寄せるが気にしない。

「じゃ、次は仙術についてだ」

「……」

 小猫ちゃんはなにもこたえない。

「仙術は基本的に猫又と呼ばれる妖怪が使える特殊な力で、魔力に近いものだな。違う点としては周囲から気と呼ばれる力を体に取り込んで使うというところだな」

「……それを聞かせて、どうするつもりなんですか」

 随分と不機嫌そうな小猫ちゃん。

「まあ、聞けって。仙術自体は悪いものじゃない。体の気の流れをコントロールして相手を外傷なく戦闘不能にしたり、味方の回復までできる超チート能力だ。極めれば最強と言っても過言じゃない」

「……」

「ただその性質が問題だ。あくまで周囲から気を取り込むという特性上、使用し過ぎれば体への負担が大きくなる。まあ、寿命を縮めるというとこだな」

「……は?」

 驚いた様子の小猫ちゃん。随分とこの情報が意外らしい。

「黒歌は仙術に飲まれた訳じゃない、つってんだよ」

 『黒歌』という名前を聞いた瞬間、小猫ちゃんの表情が一気に変わる。

「……なんで、その名前を?」

「興味本位で調べた、という事にしてくれ。黒歌は仙術の使用により世界の悪意を取り込みすぎて暴走して主を殺した、ってことになってるな」

「……はい」

「そんなの嘘に決まってんだろ?仙術自体にはそんな効果はない。俺の知り合いに仙術を極めてる猿もいるが、そいつ曰く『仙術は周囲の力を取り込んで我が血肉とする力』らしいからな」

「……じゃあ、なぜ姉はそんなことを?理由がなければそんなこと」

「当時、そいつは仙術を使える駒を欲していた。で、小猫ちゃんが指名された。まあそんなこと黒歌が許すはずもなく、黒歌自身が眷属になることで小猫ちゃんを守る道を選んだ」

「……もしかして」

「まあそれで満足するはずもなく、そいつは黒歌にこう命じた。妹を差し出せ、と。普通に考えればそうなるよな。仙術なんて希少な力を持ってれば普通は欲しがる。多ければ多いほどいいってな」

「……」

「まあ、それで妹を守るために暴走した振りをして主を殺害してはぐれになったわけだ」

「……うそ、うそっ、そんなのっ」

 ポロポロと泣き始める小猫ちゃん。

「嘘じゃねぇよ。姉のことをもう少しは信頼してやれ。それに、仙術なら俺も少しくらいなら使えるからある程度の仕組みは知ってる」

「……そんな、そんなの。じゃあ」

「なんで会いにこないかって?普通に考えて、妹のことを考えればはぐれになった自分とあったらお前まで指名手配されると思ってるんだろうな。危険因子と繋がりがあるってな」

「……」

「ま、そういう事だ。気持ちの整理はすぐにはつかないだろうけど、少しくらいは相談に乗るから」

「……はいっ」

 少しだけ、小猫ちゃんの目に光が戻ったような気がした。

「……イッセーさん?」

「ん?どうした?」

「なんで、興味本位で調べてるんですか?」

 完全にそう来るのは予想外だった。

「あー……ちょっとな。小猫ちゃんの様子がちょっとおかしかったから気になってな」

 もしここで本当のことを言ったらキレられる。

「それならいいですっ」

 何やらほっとしている様子のアーシア。

「じゃ、そろそろ次のステップに行こうか」

「「……はいっ!」」

「魔力自体の操作方法は簡単だ。体に全神経を集中させると、なんとなくだけど体を流れる何かを感じられるんだ。人間の頃になかった感覚だから、転生悪魔は割と感覚をつかみやすいかな」

 そう言って、両手を前に出し、手のひらを天井に向けて感覚を集中させる。掌の上に丸い球体を作るイメージを作って、体を流れる感覚を手のひらに集中させ、魔力を集約させる。

「ふゎ……きれいですね」

 出来上がったのは直径1センチ程度の大きさの球体。蒼く光り輝くそれをみて可愛い反応を見せるアーシアに内心癒されている。

「基本的にはこんな感じの球体をイメージするとやりやすいかな。あとはこれに命令して、自分の思い通りに動かすんだ」

「命令、ですか?」

「んー……例えば、『火になれ』」

 そう、つぶやくと青い球体は炎の形を形成して、ゆらゆらと揺れる綺麗な炎となった。

「基本的には口に出さないで想像すればできるんだけど、最初は口に出した方がいいかな。わかりやすいし」

「はい、わかりましたっ」

 そういいながらアーシアも真似て魔力の球体を作り出そうとするも中々上手くいかない。手がぷるぷる震えるくらい力が入ってるように見える。

「もう少し肩の力を抜いて?」

 そう言って、アーシアの背後に回れば両手を軽く抑えて力を抜こうとする。

「はぅっ!?」

 急にやったせいか顔を真っ赤にして動揺しているアーシア。

「……イッセー先輩、それはセクハラです」

 いつの間にか復活していた小猫ちゃんに突っ込まれる。

「……まじ?」

「……まじです。通報されても文句言えないです」

「……ごめんなさい」

「わわっ、気にしてませんから。落ち込まないでくださいっ」

 何やら慌てている様子のアーシア。そんなに嫌だったのだろうか。

「小猫ちゃんは、本当なら仙術の方がいいんだが、流石に整理が出来てないか?」

「……いえ。お願いします。今しないと、決心が鈍りそうです」

 何やらやる気の小猫ちゃん。黒歌の話が割と効いてるか。

「ま、俺もそんなに長けてる訳じゃないがな。あと、一つだけ約束だ。特訓をするのは俺がいるところだけでな。あまり気を取り込みすぎると本当に死んでしまう」

「……はい、わかりました」

 ま、それは方便だが、やりすぎると全身ズタボロになるというのが正解だ。下手に体を壊されても黒歌に顔向けできん。

「まあ、基本的な仕組みはさっき説明した通りだ。気を取り込んで自分の力にする。ただ、取り込む時のコツと比率がやたら難しい」

「先輩は使わないんですか」

「実戦レベルまで昇華できなかった。元々仙術は一部の妖怪が使う超裏技。妖怪でもなんでもない赤龍帝には精々戦闘で少し使う程度が限度だ」

「……先輩が使えるのが異常なだけでは」

 そうとも言う。

「ま、一番の理由としては気を取り込む時間の都合だな。極めたやつは自然に、しかも瞬時に取り込んで使うことが出来るとか」

「……さすがに、そこまでは」

「そんなレベルは一朝一夕では無理だ。……ま、出来たらそれに越したことはないがな」

 けらけらと笑う俺。

「とりあえず最初は体に気を取り込む感覚を覚えることから始める。まあ取り込みすぎると問題だから、右手で小猫ちゃんの体に流し込んで左手で吸収するという方法をとる」

「……要するに、手を繋げと」

「それが一番無難だと思う。極論言ってしまえば粘液接触の方が効率はいいけどな」

「粘液接触?」

「つまりキス」

「……っ」

 ばっ、と唇を隠す小猫ちゃん。

「いや、しないって。だから手を繋ぐ方法を提案したんだから」

「……それならいいです」

 誤解が解けたようで何よりだ。

「……」

 ちなみにアーシアが作っている球体の大きさはソフトボール程度まで大きくなっていた。色は翡翠と表現するのが正しいような、美しいものだ。満面の笑みでこっちを見てくるのは正直怖いが。

「じゃ、始めるか」

「……はい」

 そして始まる仙術講座。

 まずは深呼吸をして体の中にある気を落ち着かせる。ある程度落ち着いたら、周囲にある気を感じる作業を行う。そして気を感じることが出来たらそれを抵抗しないように、体内に取り込むイメージをうかべて吸収する。というのが取り込む時の一連の流れだ。

「よし、準備できたぞ」

 ある程度気を取り込むと、俺の体は軽く白く発光し、ぱちぱちと神々しい雰囲気を醸し出す。

 そんな状態で両手を小猫ちゃんの前に差し出す。

「……っ」

 なにやら覚悟を決めて俺の両手に小猫ちゃんの両手を接触させる。

「……ぁ、くっ……にゃにか、ながれ……っこん、でぇっ……」

 軽く気を流し込むと何やら身悶えする小猫ちゃん。そんなに変な感覚だろうか。

「……」

 アーシアの視線怖い。

「とりあえずこれが気を取り込む感覚ってやつだ。基本的にはこれを基準にして戦闘で使用する」

「……で、もぉっ……くすぐ、た……」

 あ、そういう事か。初めてだと全身の感覚が一気に研ぎ澄まされるような感覚になると聞くが、いまの小猫ちゃんはそれか。俺の時はそんなでもなかったからなぁ。

「とりあえずこれは最初だけだ。じきに慣れるよ」

「……じき、ってぇ……?」

「個人差はあるが、だいたい五分くらいだ。まだ一分も経ってないからな。頑張って耐えろよ」

「……そん、にゃ……ぁ……くっ……」

 赤面させながら涙目になってる小猫ちゃん。なんかとてもいけないことをしている気がしてきた。

「……」

 アーシアの表情が一周回って笑顔になってるよ。目の奥が完全に笑ってないよ。

 

 ーー十分後

 

 結局のところ慣れるまでには十分程度時間がかかった。それが終わる頃には汗びっしょりで思いっきり赤面しながら涙目になっている小猫ちゃんが出来上がっていた。

「……ごめん。少しくらい説明しとけばよかった」

「はぁ……はぁ……酷い、です……けがされ、ました……」

「人聞きの悪いこと言わないで!?……でも、何となく気の流れを掴むことは出来たか?」

「……ある程度は。周囲の気の流れ、というのも何となく」

 思ったよりも天才型なのかもしれない。俺の時は早いと言われても一週間程度はかかったものだが。十分で分かるのは正直異常だと思う。

「……ん?あ、感覚が敏感だからすぐに気づけたのか」

「……私が敏感?」

「……いえ、なんでもないです」

 これ以上刺激するのはやめておこう。

「まあ、時間もあるし、自分で取り込むのも練習してみようか」

「……はいっ」

 元気よく声を発する小猫ちゃん。

「イッセーさん。私はどうすればいいですか?」

 なにやら怒った様子のアーシア。

「魔力の感覚を覚えたならあとは命令するだけってとこなんだけど、使えるものがないからなぁ」

「今のイッセーさん相手なら本気で放てそうです」

 おそらく本気で言っている。目がまじだ。

「痛いことには痛いからやめてくれ。じゃあ、魔力を使って何をしてみたい?」

「目の前の男性に鉄槌を落としたいです」

 俺がなにか悪いことをしましたか。いや、実際のとこしてるんだろうけど。

「とりあえず、魔力を使うことはやめて遊ぶか?魔力を使うにも神器を使うにもメンタル管理が大切になるから」

「……そうします」

 そう言うと、俺を座らせてその膝の上に座るアーシア。

「……もう、俺は何も言わない」

「……先輩。どうすればいいですか」

 何やら不満そうな小猫ちゃん。

「まず、深呼吸して落ち着くとこから始めて。ある程度落ち着いたら感覚を鋭くするように心がけながら気の流れを掴むんだ」

 俺の発言を聞くと、すぐに深呼吸をして息を整え、眼を薄く開きながら感覚を集中させているようだ。

「……何となく、つかめました」

「じゃあ次はその気を体に取り込むイメージ。抵抗無く取り込むようにな。俺はスポンジとかを連想してる」

 ある程度コツを掴んできたのか、小猫ちゃんの体から軽く発光しはじめる。随分と早いペースだ。

「……ん、くっ」

 段々と発光が強まり、ある程度のレベルに達した時点で小猫ちゃんの様子がすこしおかしくなる。何やら悶えているというか。

「……もしかして、さっきの?」

「……言わないでくださいっ」

 何となく察したが反応しないことにした。

「とりあえずその状態を維持。体に気が入ってくる穴を塞ぐようなイメージで」

 そう言うと、小猫ちゃんの発光がある程度平均的なものになり、コントロールに成功したことを証明した姿となる。

「随分と早いな。俺がそこまで行くのにひと月はかかったもんだが」

「……そう、ですか?」

「というか普通は半年かかる。小猫ちゃんが異常なだけだ」

 というか苦手なヤツなら一年とかかかるものだが。

「……これ、どうすれば戻るんですか」

「体外に放出するか、俺みたいな仙術をかじってるやつに発散してもらうかの二択だな。さっきと同じように手を接触させて発散させる形だな」

「……発散、とは?」

「戦闘とか何かの気をコントロールすれば次第に消えていく。無難なとこが誰かと戦うとこだな」

「……つまり、先輩と戦えと」

「アホか。取り込んで直ぐに戦うなんぞ自殺行為だぞ。そういうのはもう少しあとだ」

 下手に取り込んだ状態での戦闘だとコントロールが乱れるイコール死を意味する。気の暴走だけならまだ俺が何とかできるが、一瞬の判断の遅れで命に関わるレベルになる。

「……じゃあ、どうすれば」

「とりあえずそのままの状態で十分継続させてみろ。それが出来たら合格点だな」

「……わかりました」

 そう言いながら、小猫ちゃんは気を安定させながら仙術を継続する。

「……く、ぁ……はっ……はっ……」

 三分ほど経過した頃、息を乱しながら発汗し始める小猫ちゃん。

「さすがに最初だときついか」

「……まだ、まだ」

「ほんとに無理すんなよ。ダメそうなら止める」

「……く、は……い……」

 さらに二分後。折り返しの時間辺りになるともはやたっているのもつらそうな状態に。

「……ぁ、く……」

「もう終わりだ。5分なら及第点ってとこだな」

 そう言いながら膝に座ってるアーシアを一旦避けて小猫ちゃんの身体に触れ、気を発散させる。

「は……ぁ……」

 気を完全に発散させて通常の状態に戻った途端、体から力が失われるようによろける小猫ちゃん。

「おっと、危ない。小猫ちゃん、相当無理してたろ」

 すんでのところで抱き止めれば軽く頭を撫でながらそう呟く。

「……これくらい、大丈夫です」

「もうダメだっての。仙術……いや、気のコントロール自体相当神経と体力を削るんだ。慣れれば負担なくできるが、初めてだとこういうことになる」

 ま、やり続けなければ慣れも何も無いからな。継続するしかない。

「……知ってて、やらせたんですか?」

「ん、何を?」

「……こんな、汗に濡れた私を見るために」

「そんだけ冗談が言えるなら上出来だ。ほら、シャワー浴びて着替えて。少し休憩したら座学にはいるから」

「……はい」

 とりあえず反応するのを辞めた。ほんとにアーシアが怖い。単純に実力つけたら尻に敷かれそうではある。

「……ほんとに汗だくの小猫ちゃん見るためにしたわけじゃないですよね?」

「俺を変態にしないでくれ……」

 俺のイメージがだんだん酷いものになって言ってる気がする。

 

 

 

「で、座学の続きだ」

 十数分後、着替えてきた小猫ちゃんと合流して座学を再開する。右手に分厚い本を持ちながら、さながら教授になったつもりで説明し始める。

「まずは魔力について。魔力も万能じゃないって話だけど、アーシアは魔力でどんなことまで出来ると思う?」

「んー……火をつけたり、水を出したり、ですか?」

「あとは電気にしたり風を起こしたり出来る魔力量によっては地殻変動レベルまで起こすことが出来る」

「はぇー、凄いんですね。魔力って」

 関心した様子のアーシア。

「じゃあ小猫ちゃん。できないことって何かわかるか?」

「……命に関わること、ですか?」

「正解。具体的に言うなら、生命の根本を覆すような事だな」

「どういう事ですか?」

 首を傾げているアーシア。かわいい。

「そうだな。例えば生命。魔力で生き返らせることは基本的に無理なんだ」

「……あれ、私はどうやって生き返ったんですか」

 至極もっともな意見だと思う。

悪魔の駒(イーヴィルピース)と呼ばれるものを使ったんだ。あれでも死んでから時間が経つと転生できなくなる」

「ふむふむ」

 とりあえず、そこから説明が必要のようだ。

「人間の体に魂が宿って、初めて生きているという概念なんだ。ただ、時間が経つとその魂が冥府に行ってしまう」

「そうなると、どうなんですか」

「さっきも言った通り、転生が出来なくなる。生命活動自体はできるけど、動かない人形のようになってしまうんだ」

「……怖いですね」

「ああ、怖い。あ、ちなみに悪魔が死ぬと無に還るから転生自体無理だからな」

「……うぅ、怖いです」

 少し脅しすぎたか。

「……先輩は、どうやって転生したんですか。実力差、かなりあると思って」

「同意があればその限りではないんだよ。その場合はある程度許容上限が上がる」

「……ん、そうなんですか」

 ま、千夜先輩も悪魔の中じゃ結構な実力者だとは思うが。

「……実力差?」

 不思議そうに首をかしげるアーシア。

「ああ。アーシアは知らなかったな。転生させる条件として、コマの所有者の実力より同等かそれ以下の存在しか転生させられないんだ」

「はぇ、そうなんですか」

「でも、あくまで同意がない場合な。同意を得て意識がある状態ならある程度その縛りも緩和される」

「私、転生出来て良かったです」

 まあ実力差と言っても下級悪魔が中級悪魔を転生した事例もあるからあんまりあてにはならないけど。

「悪魔によって駒の価値が違うってわけだ。魔王なんかは神話の生物を眷属にしてるからな」

「し、神話ですか?」

「麒麟とかスルトとかな。色々と例外もあるからそこらは後で教える」

「はい、わかりました」

「とりあえず、命とかに干渉できないと言ったが、魔力以外だと案外その限りじゃないんだ。そういうのを可能にする裏技が神器になる」

「……確かに、先輩の力を見てるとそう思えます」

「戦闘能力だけで言うなら神器の中でも上位出しな。あとは聖遺物(レリック)も神器になってるな」

「レリック、ですか」

「そう。聖杯とか聖槍だな。聖杯は生物を生き返らせる化け物性能で、聖槍に至ってはかのキリストを貫いたものだ。悪魔を屠るのに効果的かつ理論上は神すらも屠れる」

「……神、ですか」

「ああ。神は実在するからな。俺が会ったのだとゼウスみたいなギリシャ神話系統とかオーディンみたいな北欧神話系統。あとは日本神話とかもすこしな」

「はぇ、すごいお話ですね」

「……先輩、フェンリルと戦ったとか言ってましたよね。北欧には喧嘩売りに行ったんですか」

「いんや。この合宿にも来てるこよみってやつがいるだろ?そいつに放り込まれた」

「……え?」

 まあ修行の一環とか言ってたな、あいつ。

「流石にオーディンみたいな大物とはやってないがフェンリルとロキとはやったな。主人よりも強いんだぜ?フェンリル」

「……それでも一方的に倒してそうですけど」

「無理無理。その時の俺せいぜい13とかだぞ。今よりもかなり弱いし。割とダメージを負った」

「……じゃあ、負けたんですか」

「いや、何とか勝てたって感じだな。今なら流石に本気出せば勝てるが、あんなのを普通に相手にしてたら命がいくつあっても足りん」

「……そうですか」

 何故か少し嬉しそうな小猫ちゃん。

「どうしたんだ?」

「……いえ、先輩も無敵じゃないんだなって」

「それは侮辱として捉えればいいのか褒め言葉として捉えればいいのか」

「……侮辱かも知れませんけど、なんというか。少し近くの存在に思えて」

 ……ふーむ、そういうことか。

「まあ赤龍帝って言っても所詮は元人間だからな。神器がなきゃ今の小猫ちゃんより数段弱いだろうし」

 事実、神器無しで前に色んなやつにボコされたし。

「話を戻すぞ。魔力はあくまでエネルギーだ。世界を変えるほどの力を発揮出来なくはないが、そんなことできんのはせいぜい俺か龍神か赤龍神帝くらいだ」

「あの、イッセーさん。龍神と赤龍神帝ってなんですか」

「龍神が今んとこ世界一位の実力者。無限を体現する存在。赤龍神帝は夢幻……人の夢とかの集合体とされる赤い龍だ」

「赤い龍より龍神の方が強いんですね」

「いんや、逆。赤い龍の方が強い。赤龍神帝はランキングに干渉しないんだ。自由気ままに次元の狭間を泳いでる」

「ふーむ、そうなんですね」

「あと龍神の特徴としては見た目を自由に変えることができるんだ。悪魔も魔力である程度は出来るけどあいつは細胞とかそういうレベルで変えられる」

「それって、女の子ってことですか」

 なんかアーシアが少しオドオドしながら質問してくる。

「初めてあった時は白髪の男性の老人で、それ以降は会ってないから知らないな。ま、流石に女の子の姿になってるってことは無いだろうな」

 まずメリットがないし。誰かに惚れたら話が変わるんだろうけどあいつにそんな感情あるとは思えない。

「ま、無理矢理やるならそれ相応の実力……というか魔力量が欲しいってことだ。これで座学はひと通り終わり」

 ぱたん、と本を閉じて二人を見る。

「とりあえず午前中はこれで終わり。午後からは実践ってことで俺と小猫ちゃんが戦うってことで進める」

「……わかりました」

「案外、面白いことになるかもな」

「……?」

 不思議そうにしてる小猫ちゃんだが、まだ気づいてないのだろうか。ま、後でのお楽しみでいいか。

「じゃ、アイスとってくるからちょっと待っててくれ」

「「はーい」」

 そう言うと、とりあえず台所へと向かった。

 

 この別荘は二階建てで地下もあるとても広い。たしか地下は三階まであるんだっけか。さっきまでいた書斎は地下一階でその下にはプールとかトレーニングルームのようなレジャー施設。地上の一階には寝室やキッチンなどといった基本的な施設が揃っている。

 で、今は一階のキッチンに来てるわけなんだが。

「……イッセー、久しい」

 目の前に黒髪の幼女が腕を組みながら仁王立ちで立ち塞がってる。正直見覚えがないが、しゃべり方はどこかで聞いた覚えがある。というかさっき話題にも出たあいつだ。

「……なにしてんだよ、オーフィス」

 半分呆れたような表情を浮かべて少女を見る。

 目の前にいるのは先程も説明した龍神ことオーフィス。めっちゃ強い。黒髪の長髪に光の点っていない紺色の瞳。そして整った顔立ちはさながら約束のあの人に似ていて。

「我、オーフィス。イッセーに会いに来た」

 ……とんでもないタイミングで来るんじゃねぇよ。アーシアにさっき女性の姿は無いって言ったばっかりなんだが。見た目からして千夜先輩を幼くしたような感じだから完全になんか疑われるし。

「まず色々言いたいことはあるけど、二つ聞く。まず、その姿はなんだ」

「イッセーの好み。ぶい」

 そういいながらピースを見せてくるオーフィス。

「はぁ……。じゃ、なんでここにいる?お前がここに来るって普通ありえないだろ。悪魔の領地だし」

「この姿を見せに来た。ぴーす」

「もし、そんな理由できたなら割と本気でキレるけど。本当の理由はなんだ。またグレートレッドを倒すとか言い始めるのか」

 ちなみにグレートレッドが赤龍神帝のことで、オーフィスとは仲が悪い。というか、オーフィスが一方的に嫌ってる訳だが。元々居た寝床をグレートレッドに奪われたのが原因だが。

「……違う。理由は二つ。一つはさっきも言った通りイッセーに会いに来た」

「……もうひとつは?」

「タカシロカヤは蘇生中。それを伝えに来た」

 オーフィスの言葉を聞いた瞬間、周囲の音が全て消えたような感覚に襲われる。今までにないような、まるで全ての意識が記憶を読み解くことに必死になっているような。今が見えてない状態。

「蘇生したのは我。我の体とイッセーの遺伝子を培養してそれを器にした。二人目の龍神の完成。ぶい」

「……おい、それは本当か」

「くだらない嘘はつかない。この見た目はその時に合わせたもの」

 なんというか、信ぴょう性が出てきた気がした。

「じゃあ、あいつはどこにいるんだ」

「グリゴリ。アザゼルの所。まだ魂が体に定着していない」

 アザゼル。あとでしばく。

「……いや、ちと待っててくれ」

 そう言い、おもむろにスマートフォンを取り出して連絡先を開く。そして躊躇せず掛けた先はもちろん。

『おう、イッセー。何かあったかよ』

 堕天使総督ことアザゼルだ。

「二つほど聞く。カヤの蘇生に着手してるって話、本当か」

『……なんのことだ?』

「二つ。目の前にオーフィス本人がいるんだが、それはお前の差し金か?」

『……は?なんでオーフィスの名前が出てくる』

「会いに来たっつって目の前にいんだよ。もしお前の差し金なら何を思って来させたって話だろ」

『いや、二つ目の件については本当に知らねーよ。それに、オーフィスから聞いたんだろ?蘇生の話』

「まあな」

『なら隠す必要性もないだろ。答えはイエスだ。何故話さなかったかって言われたら、カヤからの命令だからだ』

 ……あいつからの命令?

『サプライズをするんだとよ。お前さんに不意打ち決めてな』

 背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。

『女関係しっかりしてろよ?オーフィスから聞いてんだろ。あいつの体を培養して作ってんだ。下手に暴れたら世界なんて簡単に壊れるぞ』

 真のラスボスはヒロインでしたってかよ。

「それを聞いて嬉しさ半分怖さ半分になったよ。あと俺の遺伝子を使ったとも聞いたが」

『魂をなじませるためにだよ。いくら龍神の体っていっても拒否反応が出たら一発でゲームオーバーだぞ』

「白龍皇の力を持ってるからってことか」

『ご名答。元々の体は木っ端微塵に吹き飛ばされてるから回収不能。ってなればお前の体を使うのが一番成功確率が高い』

「……成功、するんだよな」

『成功してんだよ。グリゴリの化学力なめんなよ?……最も、復活するまではあと一週間ほどかかりそうだけどな』

「魂の定着が遅いって訳か」

『いんや、魂自体は定着してる。安定もしてるんだよ。オーフィスが知らないだけだ。ただリハビリがな。今のままで外に出したら歩く災害になっちまう』

「なら、ちゃんとリハビリするように伝えてくれ。後、一つだけ伝言いいか」

『なんだ?』

「あの約束、会ったら必ず果たすってな。そういえば分かる」

『男女の蜜月ってやつか?大層なことを伝言させやがって』

「ほざくな。そんなんじゃねえよ」

 そう言って躊躇せずに通話を切った。

 約束、と言っても死ぬ前に話した他愛もない話だ。また会ったら、一緒に飯でも食いに行こうって、ささやかな願い。それだけだ。

「イッセー。話終わった?」

「ああ。ある程度はな。で、オーフィスはどうする。大人しく帰るのか」

「イッセー。我をもてなす」

 ……変な誤解が産まれる前に帰ってほしい。

「イッセーさん。お手伝いに……」

 最悪のタイミングでアーシアさん登場。今時四コマ漫画でもこんなに上手く話進まねぇよ。

「……誰ですか、その人」

「オーフィス。さっき説明した龍神。用事があってきたって話だ」

「……前に会った時は、白髪の老人って言ってましたよね。もしかして、イッセーさんと龍神さんはそういう関係……」

「なんでそうなる。あと、容姿については理由があるんだけどな。詳しくは千夜先輩が来ないと話せない」

「……んん?」

「千夜先輩の姉の話。まあ千夜先輩から許可貰えたら話すよ。千夜先輩の身内の話なんだ」

「……ん、わかりました」

 何とか納得して貰えたようだ。

「とりあえず、アイス食べようぜ。小猫ちゃんも待ってるだろうし」

「はいっ」

「イッセー。我もアイスを所望する」

「はいはい。わかってるよ」

 とりあえず冷凍庫からアイスを四つ出して図書室へと戻った。

 

 

 

 気配を消して図書室にもどって小猫ちゃんの背後をとる。特に意味の無い行動だが、棒付きのアイスをぴとっと優しく頬にくっつけてみた。

「ひゃあっ!?」

 可愛らしい声を出して椅子から立ち上がる小猫ちゃん。

「ほら、アイス」

「……先輩って、そういうイタズラするんですね」

「んにゃ、全然。ちょっとしてみただけだ。嫌だったら金輪際やめるけど」

「……別に、嫌とは言ってないです」

 なんか小難しい感じか。

「……その子、誰ですか」

 ふと、オーフィスに視線をやる小猫ちゃん。

「オーフィス。さっき言ってた龍神だけど、諸事情でこんな見た目になってる」

「……千夜先輩との子供ではないんですね」

「話飛躍しすぎてないか!?それに、向こうが俺のこと好きじゃなければ成立しないだろ、その過程」

「……もしかして、朴念仁とか唐変木と言われませんか」

「不本意だが言われる」

「……そういうことですよ」

 本当に不本意で仕方がない。

「ほぇ、千夜さんがどうかしたんですか」

 アーシアは何の話をしているか分かっていないようだった。

「……こういうことですよ」

 何やらアーシアに耳打ちをする小猫ちゃん。すると青ざめるというか、何やら焦ったような様子になるアーシア。

「……負けません」

 何にですか。

「とりあえずアイス食べたら外に行って実戦を行う。面白いものが見れるぞ」

「……さっきも言っていましたが、面白いものとは」

「行ってからのお楽しみだ。ま、今はアイスでも楽しもうぜ」

 そう言いながら封をあけ、棒付きの某有名なソーダ味のアイスを頬張る。久しぶりに食べたが、たまにはいいものだ。

「……先輩って、私の好みを知ってるんですか?」

 小猫ちゃんにチョコレートでコーティングしてある棒付きのバニラアイスを渡すと、不思議そうに首を傾げた。

「前に羊羹食べてただろ。その時に甘いもの好きなのかなって思ってな。あとは俺の好み」

「……そうですか」

 何やら嬉しそうな小猫ちゃん。

「……むぅ」

 なんかアーシアも拗ねてるし。

「我、アイスを所望する」

 オーフィスはまあいつも通りか。

「ほらよ、アイス」

 そう言って、二個入りの大福型のアイスをオーフィスに渡す。ぺりぺりと器用に蓋を開けて食べてる。

「ん、おいしい」

 満足したようだ。

「ほい、アーシア」

 アーシアには円形の容器に入ったバニラアイスを渡す。何気に一番のお気に入りで、チープな味だが定期的に食べたくなる味だ。

「……これ、どうやって食べるんですか?」

 首を傾げるアーシア。そう言えば、教会育ちでこういうのに疎いんだっけ。

「ん、こうやって食べるんだよ」

 容器の蓋とビニールの密閉用の蓋を取ってスプーンで1口分取り、アーシアの口元に差し出す。

「ふぇ……?あ、あーんっ」

 ぱくり、と差し出されたアイスを食べるアーシア。

「おいしい、です」

 頬を真っ赤に染めて食べているが、そんなに嫌だったのだろうか。

「……そういう所ですよ。先輩」

 何故かジト目で睨みつけてくる小猫ちゃん。

「イッセー、我も」

 なんかオーフィスも便乗してくるし。

「一人一つそれで終わり。あとは我慢だ」

「むぅ、イッセー、釣れない」

 不満そうなオーフィスを宥めるのには時間がかかりそうだ。

「……えへへ」

 まあ、嬉しそうなアーシアを見れたからまあよしとしよう。

 

 

 

 

 場所は変わって別荘の近くの開けた野原。足場もしっかりしていて、戦闘にはもってこいの場所となっている。近くで木場の声や朱乃さんの声がする気がするが、気にしないことにしよう。

「戦闘訓練……っていきたいとこだが、小猫ちゃん。いつもと違う感じはしないか?」

「……特には。不調という訳でもないですし」

「じゃあ、そこから俺に向かって本気でパンチをうってみてくれ」

 ちなみに、小猫ちゃんと俺の距離はざっくり十メートルほどある。普通に攻撃すれば絶対に攻撃は届かない。

「……ここから、ですか?」

「そう。思いっきりな。右ストレートでも正拳突きでもなんでもいい」

「……先輩が言うなら」

 そう言って、拳を構える小猫ちゃん。

「……ふっ。……え?」

 慣れた様子でこちらとの距離を図り、思い切り左足を踏み込む。その瞬間、腰をぐいっと捻りながら肩を内側にひねり込むように拳を突きだす。基本的な右ストレートの打ち方だ。

 その瞬間、衝撃波に近い突風が俺に向かって放たれ、周囲の草木を振動させる。えげつないほどの一撃。

「……な、なんですか。これは」

「仙術を使い始めた初期の効果だな。筋力が上がった訳じゃないが、周囲の気を少しだけ取り込んで放つ一撃。それが今の右ストレート」

「……これが、少し?」

「ああ。雀の涙程度だろうさ。小猫ちゃんの筋力は元々かなり高い。それをほんの少しだけ強化されたって感じだな。完全にコントロールさえしてしまえば今の数倍。いや、数十倍の力を出せる」

「……そうですか」

 何やら、嬉しそうな小猫ちゃん。

「だからこそ、使い手が選ばれるんだよ。こんな化け物じみた力、変な奴が持ったらそれこそ溺れて私欲のために使ってしまうからな」

「……わかっています」

「安心しろよ。俺が見込んだんだ。道を踏み外すようなことは多分ない」

「……たぶん、とは」

「確率論に百パーセントは無いからな。ま、そうならないように俺がいっしょにいるって話さ。それに道を踏み外したら命にかえても止める。だから、安心して使え。……って言っても、不安しかないか」

「……いえ、そんなことありません。ありがとう、ございます」

 そう言って、ゆっくりと近づいて抱きついてくる小猫ちゃん。

「ふぇ……?」

 困惑するアーシア。俺も困惑してる。

「我も、抱きつく?」

 修羅場にしたいのか。お前は。

「……どうした?」

「……本当は、怖かったんです。姉様が力に溺れたわけじゃないと聞いても、何処かでは私は溺れるんじゃないかって」

「……そう、か」

「……でも、先輩の言葉で、心のつっかえが取れたような気がしました。先輩の言葉は、とても安心します」

 そう言って甘えてくる小猫ちゃん。

「ま、そう言ってくれるなら嬉しいかな。でも、溺れないように心を強く持つのは小猫ちゃんの仕事だからな」

「……はい。先輩は、私の事をずっと見守ってください」

「そうするよ」

 ま、これで小猫ちゃんが成長してくれれば一時的とはいえ師匠としては嬉しいが。

「……小猫ちゃん、もしかして」

 なにやら考え事をしているアーシア。

「我も、抱きつく?」

 どうしてオーフィスはそう抱きつきたがる。

「とりあえず、訓練を始めよう?」

「……もう少しだけ、こうさせてください」

 結局のところ、そのまま十数分ほどこのままで過ごしましたよ。

 

「とりあえず、一応俺も軽い一撃くらいは見せるよ。ある程度の指標になればいいけど」

 小猫ちゃんが離れたあと、仙術の準備をしながらそう呟く。

「……流石に、先輩と比較するのは」

「神器も何も使わない状態でだよ。そうだな。使わないなら俺はせいぜい最上級くらいか」

「……十分過ぎないですか」

「あくまでだよ。一撃の破壊力だけで言うなら、恐らくだけど仙術極めた状態の小猫ちゃんと同等程度。もしくは小猫ちゃんの方が上だ」

 仙術の準備が終了し、ぱちぱちと周囲に電磁波を纏う状態になる。さっきとは違い、あまり光っていない力を収束させた形態。

「……そんなに、できますか」

「出来るよ。なんたって、俺が見込んだ大切な後輩だからな。じゃ、見てろよ。これが、ゲームで言うところの弱攻撃」

 そう言って、誰もいない方向に軽くジャブに近いパンチを放つ。威力はそんなに大きくないが、風圧だけで十数メートル先の木々が思い切り揺れ、あわや倒れると言った程度の一撃。

「……これで、弱攻撃ですか」

「そう。これが弱攻撃。連発を想定したものだな。そして、これが本気の強攻撃」

 さっき小猫ちゃんがしたように右ストレートを同じ方向に放つ。まあ、撃ち方として左腕を内側にしまい込むようにして背中の筋肉を引っ張るようにして放つ直線的なストレート。この撃ち方だと小猫ちゃんの右ストレートと比較して倍以上の差が出る。

 最も、そんなのは理由の一つでしかないが。

「……すごい」

 パンチを放った方向が消し飛び、地面が数百メートルにわたって地形が抉れている。これが現状、俺が神器を使わずに出せる最大出力。これを神器で強化しまくって、さらに特殊能力も使えて三番目なんだから世界は広いものだ。一番が近くにいるが。

「……これを、私が?」

「直ぐにとは言わないさ。筋トレとかで身体を作りながら、仙術を無理なく行使できるように訓練する。そうしてけば半年で俺くらいになるだろうさ」

「……たった、半年ですか?」

「飲み込みが異常なの、小猫ちゃんは。さっきやった気を感じて取り込むのだって普通なら一年はかかるのを数分でやってのけた。それを加味して考えた結果さ。ま、急かしはしないけど」

「……そうですか」

「ま、そうなるまでは毎日でも付き合うさ」

「……ありがとうございます」

 何やら嬉しそうな小猫ちゃん。

「それに、猫又の身体的な成長なんてまだまだ先の話だぞ。これからもっと大きくなるだろ。身長とか特に」

「……そうなんですか?」

「黒歌を例に挙げるとわかりやすいかもしれないが、今あいつ身長は俺の同じくらいだぞ。小猫ちゃんが覚えてるのがどれ位かは知らないけど」

「……肉体は?」

「……んん?」

「……胸とかは、大きくなってましたか」

 この子は一体何を言い出しているんだろうか。

「男に聞く内容じゃないとは思うけど、一応答えるならリーアよりはでかかった」

 すると、小猫ちゃんは複雑そうな表情をうかべる。

「……先輩は胸が大きい人が好きなんですか?」

 突然何を言い出すんだ、この子は。

「逆に聞くが、身体で女性を見てると思われてるのか?だとしたら、結構心外だけど」

「……そういう訳じゃないです。好みの問題です」

「俺の場合、身体を見て興奮するなんてことほぼないからなぁ。一目惚れも一度しかないし。良くも悪くも内面しか見てないんだろ」

「……一度?」

「例外だよ、それは。普通はねーし」

「……じゃあ、身体付きは関係ないと」

「いや、だって身体付きなんて筋肉以外だと個人でどうしようも無いだろ。そんなのを相手に求める時点で間違ってるとおもうけど」

「……そういう考え方もあるんですね」

 なにやら考え込んでいる小猫ちゃん。

「ま、小猫ちゃんも魅力的だろ。可愛いし。甘い物食べてる時の幸せそうな顔とか結構好きだけど」

「……な、何を言うんですか。急に」

 あ、流石に引かれたか。

「いや、本音だったけど嫌だったか?さすがに気持ち悪い発言だったかもしれないけど」

「……そうじゃ、ないですけど」

 女心は分からない。

「……イッセーさん。小猫ちゃんのこと」

 なんか盛大な勘違いが生まれてる気がする。

「イッセー。我と戦うの至福?」

「何言い出してんだ、オーフィス。まるで俺が戦闘狂みたいじゃねーか」

「イッセーは戦闘狂。間違っていない」

 ……ん?なんかよくわからない誤解が生まれている気がする。

「我、イッセーを殴りたい。前、我の喜びは自分の喜びと言った。なら、殴られるのは喜び」

「超理論すぎんだろっ。それに、こんなところで戦い始めたら周囲吹っ飛ぶぞ」

「問題無い。イッセーが殴られるだけ。抵抗しない」

 どうやら相当怒っている様子で。可愛らしく拳を突き出してるけど、当たったら確実に骨をもってかれるレベルでの威力は確実にある。さて、どうするか。

 ケースワン。大人しく殴られる。これは絶対になし。冗談抜きで殺される。全身痣だらけならまだしも、全身複雑骨折も有り得る。半死体になる未来が見えるようだ。却下。

 ケースツー。お菓子で釣る。さっきアイス食べたばかりだから百パー乗らない。むしろちょろいやつと思われてるとか何とか言われて酷いことになる。却下。

 ケーススリー。謝罪。何に怒ってるか分からない状態でしたら殴られるの肯定してると取られかねない。ケースワンと同じ未来になる。

 となると、とるべき手段が限られてくる訳だが。

「よし、逃げるか」

Welsh(ウェルシュ) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)

 当たり前のようにバランスブレイカー状態になるけど、ディオドラの時にみせたほど出力をあげずに静かに変化する。赤を基調としたロングコートを羽織りながら仙術を行使して帯電している状態。なんならディオドラと戦った時より強い。

「イッセー、逃がさない」

 こっちの変化に反応するように一気に距離を詰めるオーフィス。瞬きをする一瞬の間に目の前にいるほど本気で倒しに来ている様子。

「……逃げるぞ、白音」

「……っ。それ、どこで」

 困惑する様子の小猫ちゃんをお姫様抱っこの形で抱き抱え、オーフィスから一気に距離をとる。それこそ、一キロ程度か。あんまり遠く離れてもすぐに見つかりそうだし。

「逃がさない」

 無表情ながら迫ってくる少女の姿は正に鬼神。全てを薙ぎ倒しながら迫ってくる、制限時間無制限の地獄の鬼ごっこ。どんなデスゲームだよこれ。

「……く、ぅ」

 体感したことの無い速さに小猫ちゃんの体が悲鳴をあげてるようだ。苦しそうな声を出してる。流石にあまり付き合わせるのは酷か。

「つ、か、ま、え、た」

 一瞬目を離した隙にオーフィスに背後を取られる。本当に怖い。

「少しそこにいろ」

 徐に手を振りかざし、魔力で作りだした四本の太い柱をオーフィス目掛け放つ。それは四肢を拘束するように押し潰し、オーフィスの動きを封じた。

「イッセー、痛い」

「嘘つくな。それは魔力の勢いで動けなくしてるだけで痛みは無いように調整して作ってんだ。あと、少しだけ小猫ちゃんと二人にさせてくれ」

「……アイス二つ」

「分かったよ。それじゃ、あとは自力で壊して別荘に戻っててくれ」

 そういって特に躊躇せずにその場を離れた。

 その後、別荘の近くにある大きな川の河原に到着すると、小猫ちゃんのことを優しく降ろし、バランスブレイカーと仙術の状態を解除する。

「……ひどい目にあいました」

「巻き込んだのは悪かったって。あと、無闇矢鱈にスピードを上げたのも」

「……身体が痛いです。先輩は、あの速さで戦っているんですか」

「たまにな。本気でやるならあれより速い」

「……化け物ですか」

 師匠相手に化け物扱いは酷いと思う。

「まあ、そこまでする必要も無いんだよ。周囲巻き込みながら戦うレベルになるから、歩く災害みたいになるし」

「……そうですか」

 こほん、と咳払いして小猫ちゃんがこう続ける。

「……ひとつ、質問いいですか」

「ん、なんだ?」

「……なんで、白音という名前を知っているんですか。それに、姉様のことも何故知っているんですか。調べたにしては情報量が多すぎます」

 ま、そういう話になるよな。さっきのは失敗だったとは思うけど、いずれ話すことになる訳だから。それが速くなっただけだ。

「順を追って話すなら、まず白音という名前をなぜ知っているか、ってとこだな。白音って名前は俺がつけたから知ってる。なんなら、黒歌もな」

「……何を、言ってるんですか。その名前は、姉様がつけてくれた名前です」

「……小さい頃。それこそ、俺が小学生くらいの頃の話か。まだ赤龍帝の力も何も得てない頃に、二匹の猫を拾ったんだ。それが、お前と黒歌」

「……何を、言って」

 困惑する小猫ちゃんを無視して話を続ける。

「最初は黒歌に警戒されたっけ。でも、ご飯あげたり遊ぶうちに心を開いてくれて、人の姿で話してくれるようになった。子供の頃だったから詳しく話はわからなかったけどな」

「……そんな話、信じられるわけ」

「まあ、そんなご都合主義みたいな話言われても普通は信じないだろうな。これ、見たらわかるかな」

 そう言ってポケットからとある首輪を出す。

「……それはっ」

「昔、白音がつけてたものだ。つっても、これだけじゃ説得力に欠けるか」

「……いえ。何となくですが、覚えています」

 どうやら、少しは覚えててくれてたようだ。

「話を戻すが、俺が二人を見つけた時は随分傷だらけでな。何事かと思って保護したわけだ。後々知った事だが、俺が見つけたのは主を殺した直後くらいだった。ま、思いっきり警戒されたけど」

 そう言いながら、さっきと同じように仙術を行使し始める。

「この仙術だって、大元は黒歌に教わったもんだ。最も、気配を感じるみたいな初歩的なものだけど」

「……じゃあ、白音という名前は何故?」

「声が綺麗だったから。白く綺麗な猫で鳴き声も幼心にはとても綺麗に聞こえたんだろうな。だから、白音。黒歌も同じような理由だな」

「……先輩は、私が綺麗だと」

「その言い方だと語弊がある気もするが、多方はあってる。でも、最初はあの猫が小猫ちゃんとは思ってなかったよ。気づくのが遅れたってやつだ」

 そして、そのまま深く頭をさげる。

「……先輩?」

「本当にすまなかった。黒歌に話を聞いたが、リーアの眷属になっていなければ殺されていたって話も聞く程に不遇な扱いを受けていたって。俺が早く気づけてれば、そんな目に遭わせずに済んだのに」

「……先輩が謝る必要はありません。結局の所、そういう運命なんですよ」

「……ちげーよ。運命なんてだいそれたもんじゃなくて、汚い大人の陰謀のせいだ。……ほんとに、済まない」

「……それ以上謝るなら、本気で殴ります。そもそも、先輩のせいではないんです」

 そのまま、小猫ちゃんはこう続けた。

「……小さい頃がどうであれ、今は幸せです。皆さん優しくて。それに、先輩と出会えました。それだけで、今は十分なんです」

「……白音」

「……だから、先輩は笑顔でいてください。けして頭を下げず、私の目標として、私の飼い主としてあり続けてください」

「あ……え?かい、ぬし?」

 なんというか、もっと普通に終わるものだと思ってた。いや、そう考えるのは白音に失礼かもしれないけど、この雰囲気で急に自分の飼い主でいてと言われたら誰だって困惑する。

「……嫌、ですか?」

「嫌とかじゃなくてさ。前提として飼い主とペットって関係はおかしくないか」

「……元々私の飼い主でしょう。先輩は」

「そうだけど。そうだけれども。現状は先輩と後輩だろ。急にそんな発言は本当にダメなやつだろ。倫理的に」

 なんか、胃が痛くなってきた。ついでに頭も。

「……では、ご主人様と」

「何も解決してねぇ。むしろ悪化してる。なあ、もう少し健全な関係ってのがあるだろ。先輩後輩の関係から飛躍しすぎだろ」

「……兄様?」

「……まだ、それが一番マシか」

 こんな姿誰かに見られたら誤解どころの話じゃない気がする。

「……二人きりの時だけ、そう呼びます」

「なんか二人だけの秘密っぽいな。じゃ、二人きりの時だけな」

 もっとも、そんな呼び方で言い合ってたら憂姫辺りに問い詰められそうではあるが。

「じゃ、戻るか。お姫様」

「……なんですか、それ」

「女の子の呼び方で一番いいのがこれだと思った、ってだけ。それ以外に理由はあんまりないな」

「……ふふっ、兄様?」

「ん、なんだ?」

「……そういう所、好きですよ?」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 ぽんぽん、と頭を撫でると何故か白音は不機嫌な表情へと変わる。

「……この朴念仁」

「何か言ったか?」

「……いえ、なにも」

 結局のところ別荘に戻るまで機嫌を直しては貰えなかった。その後、夕食時に波乱が起きたが、それはまた別のお話。

 



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13話

とりあえずストック大半消化です


 夕食後、千夜先輩を外にあるエントランスに呼び出し、紅茶に口をつけていた。セラが準備したものだが、口の中に芳醇な香りが広がって美味しい。どこかの高級品なのだろうか。

「何かしら。話って」

 怪訝な表情をうかべる千夜先輩。

「驚かないで聞いて欲しい、って言うのは多分無理だ。……ま、いつかは知ることになる事だけど」

「随分と勿体ぶるわね。何なのかしら」

「千夜先輩の姉が生きている。……正確には生き返った、というのが正しいが」

 刹那、空気にヒビが入ったような緊張感が走る。

「……嘘、でしょう?」

「ほんとだ。情報の出処がオーフィスで、尚且つアザゼルも絡んでる。信ぴょう性があるもんだ」

「……じゃ、じゃあ、身体は?魂が定着するものを作るのには技術だけではどうにも」

「それこそ、髪の毛やら肉片やらでどうとでもできるだろ。ただ、オーフィスの身体をベースに作ってるとは聞いた。ある意味では最高の身体だろ」

 二人目の龍神が誕生、と言っても過言ではないわけだし。

「……じゃあ、今姉さんは何処にいるの。何をしているの」

「グリゴリでリハビリ中。現時点で力のコントロールが出来てないから、歩く災害状態と聞いた。あと連絡をよこさないのはサプライズをするためとも聞いた」

「……あんの、馬鹿姉」

 段々、千夜先輩の顔が喜びと困惑、そして怒りが入り交じったような表情になっていく。

「俺もまだ会ってない……と言うか、今日その話を聞いたばかりなんだ。アザゼルにも電話で確認済。嘘をついてたら組織ごと潰しに行くから安心しろ」

「それは安心できないわよ。下手をすれば戦争の引き金になるわ、ふふっ」

 なんというか、この人はやっぱり。

「やっぱり、アンタは笑ってる姿が一番可愛いよ」

 そう、思わず声に出してしまう。

「……え?」

 虚をつかれたような声をだす千夜先輩。

「いや、険しい顔とか最近見せてたような小難しい顔なんかより笑顔のがかわいいって言ってんだよ」

「……そ、そうよね。そういう意味よね」

「まあ、千夜先輩の素が見れたような気がして嬉しいってのもあるけどな」

 そう言って微笑んでみせると、何故か苦笑せる千夜先輩。

「ふふっ、ごめんなさい。……ちょっと、こっちに来てくれないかしら」

 ぽんぽん、と左隣の座席を叩く千夜先輩。

「ちなみに拒否権は」

「主に恥をかかせるの?」

「……ったく。今日だけだぞ」

 観念して隣に座ると、嬉しそうに微笑む千夜先輩。

「こうしてみると、恋人のようね」

「俺じゃ釣り合わないだろ。美人だし」

「そんな事ないわよ。……ねえ、一誠君。ちょっと、左を向いてもらえる?」

「ん、別にいいけど」

 そう言って左を向いて千夜先輩から視線を外すと、こつんと方に何かが当たるような感触があった。

「……少しだけ、肩を貸して」

「……ああ。分かった」

「……うわ、ぁ……よ、か……た……」

 千夜先輩が泣くのを初めて見た気がした。いつも凛々しく振舞っている姿が印象的だったが、どこか無理をしていたのだろう。

「……ごめん。やっぱりこうする」

 一旦千夜先輩を肩から離して、優しく抱きしめる。

「……ぁ」

「……上手く言えないけど、泣きたい時は思いっきり泣けばいいんだと思うよ。千夜先輩は主だけど、それ以前に年相応の女の子なんだから」

「んく……いっせ、くん……」

 優しく頭を撫でながら抱きしめ続ける。

「……ん、ありがと……」

 千夜先輩も体を委ねてくれてる。……とりあえず、このままでいよう。

 

 

 そして十数分後。千夜先輩がふと、顔を上げる。目元は赤く、相当泣いていたのが分かるような。そんな状態。

「……見苦しいところを見せたわね」

「見苦しい、なんて思ってんならこんなに付き合わねーよ。もう、いいのか」

「……ええ。ありがとう。一誠君」

「礼なんていい。そのためにやったわけでもないし」

「……体で払えと?」

「……冗談でもそんなこと言わないでくれ」

 そんなこと要求してるなんて知られたらまじで命の保証がない。いや要求しないけれども。誤解でも怖い。

「……一誠君。ひとつ聞いていいかしら」

「ん、なんだ?」

「もし、姉さんが目の前にいたとして、一誠君は私の眷属……いえ、家族で居てくれる?」

「家族とはまた大それた話だな。……真面目な話、千夜先輩の眷属を辞めるってことは無い。俺を選んだのは千夜先輩だと思ってるかもしれないけど、実際は逆だぞ」

「……え?」

「俺が一度死んだ時、真っ先に呼んだのが千夜先輩だった」

 ま、言う通りになったと軽くイラついたけど。

「思考で丸わかりなのだけれど」

「だって初対面は最悪だろ。自殺願望者の悪魔に屋上のタンクを点検しに来た赤龍帝」

「改めて聞くと、相当異質ね。宝くじに当選するよりも確率が低いんじゃない?」

「確かにな。その時は悪魔になるなんて微塵も思ってなかったけど、なってみると案外悪くないもんだな」

 美人の主様もいる事だしな、と笑いながらつけ加える。

「でも、後悔していない?元の体の方が弱点が少なく、なにより他勢力から疎まれることもない。悪魔に所属するということは、他の組織から目の敵にされるということ……というのはわかっているつもり」

「じゃあ、千夜先輩は俺を眷属にして後悔してるか?……って、質問の答えが、千夜先輩の質問の回答になる」

 ふと、目を丸くさせるもすぐに嬉しそうな表情になる千夜先輩。

「……貴方、私が望むことを言ってくれるのね」

「千夜先輩の考えてる事なんて、大体は予想できるしな。……それに、俺は本心しか言えないたちなもんで」

 そう言いながら、軽く頭を撫でると気持ちよさそうに目を細める。なんというか、可愛い。

「じゃあ、私の……肩の荷を下ろしてもいいのかしら」

「それはダメじゃないか?上級悪魔としての責任とかそんなのもあるだろ」

「……厳しいのね」

「その代わり、俺も半分背負うことにする。頼りないかもしれないけど、少しくらいは楽になればーー」

 そう、言葉を紡ぐ前に唇を奪われる。なんというか、柔らかい感触が唇を襲って、一瞬何をされたのかわからなくなった。

「……一緒に背負ってくれるのなら、前払いで逃げられないようにするわよ」

「ちょ、な、なにを……!?」

「私のファーストキス。貴方にあげたのよ」

 何とんでもないこと言ってんの主様。

「そうじゃなくてなんで……」

「俺なんかに、って続くのかしら。貴方にあげたいと思ったからあげたのよ」

「……あの、本当に言い難いんだが」

「ファーストキスは済ませた、というつもり?」

「いや、その逆。今のが俺のファーストキス」

 そう、申し訳なさそうに言うと、千夜先輩の顔がだんだん赤くなって。爆発しそうなほど赤くなっている。

「え、そうなの……?」

「……はい。とってたわけじゃないけど、する機会がなかったってやつだな。相手もいなかったわけだし」

 現に迫られたことがあるのはセラくらいなもので。その時ですら色々横槍が入ってしてない訳で。実際に意識があるうちにされたのは今が初めてというやつだ。

「……嫌、だった?」

「……それはこっちのセリフ。それこそ俺が初めてでよかったのかよ」

「嫌な相手にすると思う?」

「いや、思わないな。……いや、んん?」

 何を言ってるの、この人。嫌な人にしないとか、え?どういう事?

「貴方、相当鈍いわよね。ここまで言って気づくどころか動揺するなんて」

「普通に考えて動揺するだろ。……ったく、随分と面倒なやつを好きになったな、あんた」

「ええ。その面倒な奴に相当惚れ込んだのよ、私は」

「「……ぷっ、あははははっ」」

 ふと、何故か笑いが出た。なんというか、理由は分からないけど、実際のところ本当に嬉しいのだろう。さっきから顔の火照りも止まらないし。

「でも、返事はまだよ。今の貴方、相当失礼なことをしているの、わかっているかしら」

「……自覚しているつもりだけど、一応なんでかきくよ」

「貴方、私を見ているようで、私を見ていないのよ」

 確信を着くような千夜先輩の発言。特に動揺することは無いが、申し訳なさそうな表情になる。

「多分、知らず知らずのうちに千夜先輩をあの人と重ねていたところがある」

「知らず知らず、と言うよりはほぼよ。ことある事に心のどこかで姉さんのように接している。それがどれだけ残酷で、耐えようもない程に私を傷つけているかわかるかしら」

「……ごめん」

「……だから、姉さんに会ったあとに、返事が欲しいの。私の事が本当に好きなのか。それとも、姉さんの事が好きなのか」

「……そうすることにする」

 少しの静寂。数秒にも満たない時間が、俺にとってはかなりの。永遠にも似た時間に感じられた。

「ちなみに、初対面が屋上というのは語弊があるのよ」

 静寂を破るように千夜先輩が言葉を紡ぐ。

「……は?」

「私達、十年前に会ってるのよ」

 正直、本当に記憶になかった。

「一誠君が姉さんと会うずっと前。それこそ、神器も発現していないような幼い頃の話」

 そういって、懐かしむように千夜先輩が語り始める。

「姉さんを探すという名目で一誠君の家の近くに来たことがあってね。たしか、近くの公園。古びた遊具が置いてある、小さな公園」

「……」

「そこで、途方に暮れていた私を助けてくれたのが一誠君。貴方だったの。夏の、日差しが照りつける炎天下で、ここだと倒れるからうちに来てって言われて行ったのが一誠君の家だったの」

 なんというか、だんだんと思い出してきた。確か、幼稚園に入る前くらいの時に、黒髪の女の子をうちに連れてったことあったっけ。

「そこで一誠君と遊んだりお話したりして。とても楽しい時間で。そして目的だったはずの姉さんを探す事なんて忘れてしまって」

「……」

「本当は、そこで恋に落ちてしまったのかもしれないわね。それを忘れられずに、今まで生きてきて。自分を騙しながら生きてきたけれど、がまんできなくなってしまった」

「……もしかして、ちーちゃんか?」

「……っ。気づくのが遅いのよ、バカ」

 さっきよりも抱きしめる力が強くなる。

「普通に考えて、出会って一ヶ月程度で好きになるはずがないでしょう……。何年も前から、貴方の事が好きだったの」

「……好きになった経緯は一日程度な気がするが」

「細かいことは気にしないの。一目惚れで、しかも話しているうちにもっと好きになってしまったのだから、タチが悪いのよ」

 そういって、胸に顔を埋める千夜先輩。

「……私は、どうしようもなく臆病者なのよ。貴方が私を突き放して姉さんの元に行くのが本当に怖い。でも、姉さんを突き放す貴方の姿も見たくない。我儘で臆病な卑怯者」

「……千夜先輩は卑怯者でもないし。それにどっちも突き放さないし、どっちも手放すつもりはねーよ。かといって、不誠実なこともしたくないというのが本音」

「……バカね。相当大変な道を進むことになるわよ。それとも、ハーレムでも作るかしら」

「俺にそんな甲斐性はねーよ」

「そう思ってるのは貴方だけよ。それに、私は貴方の一番であれば、側室は許すわよ」

「抜かせよ。一番嫉妬深い主様のセリフじゃねーよ」

「……別に、そんなことないわよ」

 拗ねている様子の千夜先輩。頬を真っ赤に染めあげてて、とても可愛い。

「でも、そろそろ考えるべきよ。姉さんが戻ってくる、ということは否応なくその話は出るでしょうし」

「……ん、そうなるだろうな。千夜先輩と付き合うにしろ、誰かと付き合うにしろ、ハッキリさせとかないとな」

「と言うより、誰から好かれているか自覚しているのかしら」

「千夜先輩とアーシアとカヤだけじゃないのか?」

「……さて、どうしてくれようかしら。この唐変木」

 なんかすごく罵倒されてる気がした。

「でも、私が言うのは野暮かしら。自分で考えるべきね」

「でもハーレム作るとか公言するのライザーみたいで嫌なんだよな。本当に同類のように見える」

「ああ、フェニックス家の。……じゃあ、ひとつ聞くけれど、アーシアや私がライザーのハーレムに加わったらどう思うかしら」

「意地でもライザーのこと殺しに行くが」

「そういうところよ。貴方も相当嫉妬深いようね」

「嫉妬深いとはまた違うだろ。あんなやつの所に行くなら俺が奪う」

「随分と我儘ね」

「龍が我儘で何が悪い。千夜先輩もカヤもアーシアも。全員離れて欲しくない」

「それが私達の本意でないとしても?」

「そう言われたらその時考える。そう言われるってことは俺に問題があるときだろうし」

「言ってること、矛盾してるわよ」

 くすっ、と微笑む千夜先輩。

「離れて欲しくないってのは本音。でも本人の意思は尊重したくて。ただ、ろくでもないやつのとこに行くくらいなら絶対に止める」

 相当な言われようなライザーだが、あいつはこれくらいの評価が妥当だ。

「……一誠君は、私の……私だけの兵士(ポーン)。そう、思っていいのかしら」

「何を今更。俺は千夜先輩だけの兵士だ。それ以上でも、それ以下でもない」

 一旦千夜先輩から離れ、ひざまづく。

「千夜先輩が望むなら、俺は剣にでも盾にでもなろう。刀身を研ぎ澄まし、剣をかまえ、望むならその全てをなぎ払おう」

 千夜先輩の手を取り、甲に唇を落とす。

「あー……こういう硬っ苦しいのは苦手だけどな。要するに、俺はあんただけの兵士ってことだよ。誰のものでもない、千夜先輩だけのだ」

 ふと、千夜先輩を見ると、頬を一筋の水滴が伝っているのが見えた。

「……ごめん、なさい。嫌じゃ、ないの。嬉しくて、涙が……」

「気の利いた事は言えないけど、もう少しくらいはそばに居るよ」

 そう言って、さっきと同じように隣に座る。

「……一誠君。お願いがあるの」

「ん、なんだ?」

「二人きりの時……ううん。出来れば、千夜と呼んで欲しいの」

「随分と唐突だな。それは主としてか?」

「勿論、一人の女性としてよ。……ダメ、かしら」

「そう言われたら断れないだろ。ってか、返事は後でとか言ってたのに、こういうのはいいのかよ」

「姉さんに対する宣戦布告よ。」

 やっぱり嫉妬深いよこの人。独占欲も強いし。いや、そういうとこは嫌いではないし、好きだけれども。

「もう少しいると、そう言ったわよね」

「言ったけど、長時間は勘弁な。風邪ひくし」

「一誠君って、案外病弱なのかしら」

「いかに龍でも風邪は引く。なんなら龍がかかるのと悪魔がかかるものが併発するパターンもあるし」

「その時は看病できるわね」

 ポジティブシンキングすぎるだろこの人。

「それとも、寝室でお話でもしましょうか」

「一応聞くが、そんなことが見つかったら、俺は誰に攻撃されると思う?」

「軽率だったかしらね」

 俺の予想では憂姫とこよみとセラの三連コンボきめられる。ほんとにここら一帯吹き飛ぶ。

「それでは、今宵はここまでとしましょうか?ご主人様?」

「なに、そのキャラ。……ま、そうしましょうか。寝室に戻りましょう」

「自分のな」

「いけずね」

 自分の身というか、ここら一帯が吹き飛ぶのは嫌なんでな。

 まあ、その後寝室に何事もなく戻りましたよ。翌日セラの機嫌は悪かったけど。



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14話

今月号のぐらんぶる面白かった


 合宿開始から四日程経過した頃、小猫ちゃんに変化が生じた。

「……なんですか、これ」

 初日と同じように仙術の訓練をしている時に、小猫ちゃんの身体が変化したのだ。

 全身を覆っていた光が取り払われ、素の状態になっている。筋肉とかが異常に発達した、なんてちゃちな変化ではない。仙術が身体に完全に馴染んだことを示す状態である。

「えー……それ俺ができるようになるまで一月かかったんだけど」

「……愚痴ですか?」

「半分愚痴で半分呆れ。その状態ってのが仙術ってやつを完全にコントロールした状態」

「……え?」

 正確には自然エネルギーを完全に体に馴染ませた状態。普通なら何十年単位で体現するものだけど、目の前の天才さんはわずか四日で身につけてしまったと。規格外すぎませんかね。

「体に負担みたいなものが無くなっただろ?なんというか、体が軽くなったような」

「……そうですね。ストレス、みたいなものが無くなりました」

「それが仙術が体に馴染んでる状態。あとは基礎体力を上げて技術をみにつけるのに専念できるけど……」

「……けど?」

「早すぎて真面目に呆れてる」

 だってめっちゃ才能あるって言われてるやつでも一年以上はかかるのに四日とか怖すぎるもん。

「……頑張ったのに、それは酷すぎませんか」

「んー……悪い。難易度を知ってるやつなら普通は信じないレベルなんだよ」

 そう言いながら頭を撫でるけど、とても不服そうな顔をしている小猫ちゃん。

「……頑張りましたから」

 何をモチベーションにしたのかは正直分からないけど。

「……ご褒美、ください」

「え、どうしたの」

「……頑張ったので、ご褒美を貰ってもいいでしょう?」

「まあ、確かに」

 並大抵の努力ではできるものでもないし、ご褒美をあげてもいいとは思うけど。そういう風におねだりする子なんだなぁって。

「……では。二人きりの時じゃなくても白音と呼んでください」

 一瞬、思考が止まった。

「え、別にいいけど。というか、それでいいのか?」

「……それがいいんです。それとも、他になにかくれるんでしょうか」

「いや、これだけのものを見せられたら俺に出来ることならなんでもってレベル」

 普通ってかこんなレベルでの成長は相当な天才が血のにじむような努力をしても出来ないのに。それ見せられたらなんでも頷くしか。

「……」

 何やら、考え事をしている小猫ちゃんこと白音。

「……では、二つほど」

「おう。どんとこい」

「公の場でも兄様呼びをしていいですよね?」

 ……やっぱりそう来ますよね。

「……なんでもっていったからオーケーだ。うん」

 後で殺されないように立ち回ろう。

「そして、私も兄様の家に住んでもいいですよね」

 待って?それは予想外。

「それはいま住んでるところとかそういうのの都合で無理だろ」

「……今はリアス先輩の所有する家に住まわせてもらっているので。許可は頂いています」

 なんで許可出してるのあの人!?リーアさんそういうのゆるさない人じゃないの!?

「……ちなみに、リアス先輩も一緒に住むとか何とか」

 俺の意見は全部無視ですか。

「ちょっと、確認をとる」

 そういって、スマートフォンをポケットから取り出してリーア本人に電話をかける。

『……どうしたのかしら』

 数回なった後に出たけど、何故か疲れきった声音。

「確認したいことがあったけど、まずどうした。かなり疲れてるっぽいけど」

『……お兄様とライザーの相手に疲れたのよ。お兄様は本気でキレていて、ライザーは気づかずにバカ笑いしているし』

 それはご愁傷さまとしか言い様がない。

「……なんとなく予想出来たよ。俺だってそんなとこに居たくない。あと、小猫ちゃんから聞いたけどリーアと小猫ちゃんが俺の家に住むってなんの話だよ」

『……あぁ、それを聞いたのね。反応を察するに、お兄様から聞いていないのね』

「サーゼクスがどうしたんだよ」

『交友を深めるために私と小猫を住まわせるっていう話。ちなみに、改装するとも言っていたわね』

 何勝手に話を進めてるのあの人。

「確認だけど。その話はセラ……いや、セラフォルーレヴィアタン魔王様には聞かれてないよな」

『逆にききたいのだけれど、お兄様が話さないと思うかしら』

「……オーケーだ。後で魔王城……いや、グレモリー領に殴り込みに行くと伝えてくれ」

『本当に戦争になるからやめてちょうだい。それと、これは貴方がレーティングゲームに勝ったらという話よ』

「……え、なんで?」

『普通に考えて、既婚者が他の男の家に住むなんて前代未聞でしょう。しかも魔王の妹が』

 浮気するヤツなら割と有り得るという話はやめておこう。そういう奴じゃないし、リーアは。

「えっと、なんだ?つまり、俺はレーティングゲームに負けるとリーアが嫁に行くだけではなくセラとか小猫ちゃんに本気で責められるって訳か?」

『私も責めるわよ。ライザーのところには嫁ぎたくないもの』

 その気持ちは痛いほどわかるけど。

『とりあえず、レーティングゲーム後によろしくね』

「……ああ」

 そういうと、ぷつっと電話が切れた。

「……どう、でしたか」

「嫌な話を聞いたよ。後、確認はできたからその話はオーケーって事になるのかな」

「……分りました」

 どことなく嬉しそうな白音。

「……仕方ない。セラにも聞いてみるか」

 で、その後はとりあえず白音と実戦を行ったとさ。仙術をコントロールし始めた白音は上級悪魔でも上位ってか最上級に片足突っ込んでた。実践経験積んで技術身につければ相当強くなるな。これ。

 

 ーー数時間後

 

 白音との実戦が終わったあと、一人セラの元を訪れていた。

 セラは基本的には自室にいることが多い。結局のところ、ひとりが落ち着くとか。

「なあ、セラ」

「……なに、イッセー君」

 なにやら落ち込んでいる様子のセラ。

「いや、会いたくなってな」

「……それは、嘘?」

「本当だよ。セラが落ち込んでるってのが何となく分かったから、会いたくなった」

「……私が落ち込んでなければ会ってくれないの?」

「そんなことはねーよ。ただ、毎日会うってのもおかしいだろ?」

「……私は、毎日でも会いたいもん」

 落ち込んでる人に言うのもなんだけど、なんかとても可愛い。いつもと違う面を見てるから……なのか?

「でも、結局のところ会うだろ。セラは俺の家に来るわけだし」

「……え?何の話?」

 え、話聞いてなかったのか。

「リーア……いや、リアスから聞いてたと思ったけど。リアスと小猫ちゃんが俺の家に交友を深めるとかでサーゼクスの指示で住むんだと。だからセラも来るものだと」

「……行かない。そういう話なら」

 何やら、拗ねている様子のセラ。

「……虚しいだけだもん。独りよがりな想いなんて」

「どうしたんだよ。いつもの元気がないけど」

「……ねえ、イッセー君。イッセー君にとって私って何?元気でべたべたくっついてくる女の子と思ってるの?」

「別に、そんなことは無いけど」

「……じゃあ、あの子。千夜ちゃんは相当好きみたいだね。4日前くらいの夜のこと、じつは見つけちゃったんだ」

 ……あれが原因かよ。

「……ねえ、貴方にとっての私ってなんなの?都合のいいだけの女なの?ただのうざいおんーー」

 そう、言葉を言い終える前に唇を俺の唇で塞いでいた。それは、長く。しっかりと……。永遠に続くかのように長くして。

「……俺はセラのことも大事だよ。一生をかけて幸せにしたいとも思う。ウザイだなんて、一度も思ったことはない」

「……じゃあ、なんでいつもあんな態度をとるの?」

 照れたりとかしてる素振りを見せたら、それが死に直結するからです。

「俺のところに来るのが仕事を放り出してくるから。俺の所に来るとはいいけど、他の人に迷惑をかけちゃダメだろ?」

「……じゃあ、なんで嘘をついたりするの?」

「あれは照れ隠し。セラと話す時はいつもドキドキしてるんだぜ。これでも」

 前は目の前に憂姫が居てほんとに死の気配を感じたけど。まあ、セラと話すのは普通に楽しいし。

「イッセー君は、私の事好き?」

「いつ嫌いだって言ったよ。初めて会った時からセラのことは好きだし、美人だとも思ってるよ」

 俺がそう言うと、セラは間髪入れずに抱きついてきた。力は強いけど、とても弱々しく。触れてしまえば直ぐに崩れてしまいそうな程に脆く見えてしまった。

「……ほんとはね、ソーたん……ううん。ソーナと結婚なんてして欲しくなかったの。でも、ソーナと結婚すれば近くにいるし。諦めもつくかなぁって」

 ぽろぽろと、涙をこぼし始めるセラ。

「でも、ダメだなぁ。他の人とくっついてるイッセー君を想像すると、涙が止まらなくなって、自分を抑えきれなくなるんだ」

「……だから、結婚させようとするのを辞めたのか」

「そう。でも、こんなになるまで溜め込んじゃった。私って馬鹿だから、感情の伝え方を知らないんだ」

「そんなの、今から少しずつ覚えていけばいいさ」

「私って、結構嫉妬深いんだよ?」

「知ってる。てか今の話聞いててそう思わないやついないだろ」

「でも、イッセー君の周りにはいっぱい女の子がいるし」

「まあな。まだ、返事を待たせてる子もいるし。結局のところ、どっちつかずって態度がダメなんだろうな」

「……じゃあ、私はどうするの?待たせるの?それとも、振っちゃうの?」

「振りたくはないけど、現時点で一人を選べるようなやつだとも思ってないんだよ。今の関係を崩したくないし、何より全員が好きなんだろ。人間としても、そういう目で見ても、な」

 俺はとても臆病なんだろう。全員傷つけたくないし、自分も傷つきたくない。今が壊れてしまうのがとても怖くて。そんなことを繰り返していれば最終的には壊れてしまうというのに。

「……じゃあ、ひとつだけ約束。誰を選んでも、後悔だけはしないでね。……それで、私が選ばれなくても……ね」

 なんというか、悲しませてばっかりな気がする。いつも我慢ばかりさせて。自己中な考えをして。……全く、俺はどこまで馬鹿なんだろうか。

「分かったよ。そうする」

 今は、こういうことしか出来なかった。

「本当に失礼なことを言っていいか?」

「……今なら許すけど、何?」

「四日前に千夜先輩と一緒にいたの見たとか言ったろ?」

「……うん」

「結論としてさ、ハーレムつくるのも一つの手とか言われたけど、もしそうしようとしたらどうする?」

「……別に、悪魔で珍しいって訳じゃないよ。上級悪魔の中には人間を転生させて自分好みのハーレムを作る輩も多いし」

「それは知ってるけど、俺がするって言ったらだよ。打開案として考えるなら正直それしか」

「……今の状態でそれを聞くかなぁ。デリカシーないよ、イッセー君」

「……う、すまん」

「でも、答えるならオーケーかな。条件をつけるけどね」

「……条件?」

「私が正妻ならいいかな」

「善処する」

「そこはわかったって答えて欲しいなぁ……」

 だってここで変なこと言えないんだもん。後々響きそうなんだもん。

「でも、まあいっか。プロポーズもしてもらったから、ね」

「プロポー……あ」

 さっき、言ってたわ。一生かけて幸せにしたいとかなんとか。

「次は、本物のプロポーズを待ってるからね」

 ……こりゃ、骨が折れそうだ。

 

 

 ーー食堂

 

 結局のところ、一時間程度離して貰えずにいちゃいちゃしてましたよ。途中からセラが結界張ってて多分気づかれてはいないとは思うけど。……いや、露骨すぎてバレてるか。

「……どこに行ってたんですか」

 ジト目で白音に睨みつけられる。

「……秘密ってことで」

「……後で聞きます」

 どうやら逃げられないようだ。

「ほんとにお兄ちゃんどこに行ってたの?相談事があったんだけど」

「相談事?」

「えっと、味噌汁にすぱー……」

「絶対にやめようか」

「即答っ!?」

 味噌汁にスパークリングマシン使われてたまるか。

「劇物とかじゃないのにー」

「劇物と比較すんな。あとある意味劇物みたいになる」

「えぇ……」

 露骨に残念そうな顔してるけどさすがに容認できない。

「あ、今日はオムライスだよ、イッセー」

 そう言いながら楽しそうに厨房から出てくるこよみ。エプロン姿が似合っているというか、とてもしっくりくる。普段から見ているせいだろうか。

「お、やった。こよみのおいしいんだよな」

 こよみが作るオムライスは店に出てくるようなものではなくて家庭的なものと表現するのが正しい。味付けはシンプルだけどふわとろの卵が絶品。少しバター多めにしてるらしいけど試しにやってみたら相当味がキツくなったから相当分量調整が難しいのだろう。

「……オムライスが好きなんですか?」

「正確に言うとこよみのがな。店とかのだと逆に好きじゃないって感じ」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。イッセー」

「完全に胃袋掴まれてるかんじだな」

 本当にこよみ様には頭が上がらない。

「でも、普通に考えたら料理上手くて可愛かったら相当モテるよな」

「モテてないのは顔のせいとでも言いたいのかな、イッセーは」

「そうじゃないけどさ。顔良くて料理出来て気だてもいいだろ、こよみ。いい嫁さんだったり彼女になるんだろうなと」

「ふぇ……?」

 なんで鳩が豆鉄砲くらったような顔してるんだろうか。

「……普通にそういうこと言いますよね」

「あらあら、幼馴染さんを口説いているのでしょうか」

 唐突に入ってくる朱乃先輩。完全に面白がってるよこの人。

「そんなんじゃないですよ、ほんとに」

「そう畏まらなくてもいいですよ。リアスのようにタメ口でも」

「さすがに先輩ですし」

「それを言うなら、リアスもそうでしょう?」

 それを言われるとさすがに何も言い返せない。

「私もリアスのようにあーちゃん、と呼んでくださっても構いませんよ?」

「……百歩譲ってタメ口はいいとしても、その呼び方は却下で」

「つれないですわね?」

 だって周りの目線怖いんだもん。

「……からかうのはやめてください」

 そう言いながら白音が腕に抱きついてきて。周囲の視線がさらに怖くなりましたとさ。何この状況。

「あらあら、小猫ちゃんは一誠君にべったりですわね」

「……兄様は、私だけのものです」

 刹那的に空気にヒビが入ったような気がした。

「お兄ちゃん。兄様ってなに?」

「……黙秘します」

「私以外にも、妹が欲しかったの?」

「そ、そういう訳では……」

 否定しようとした瞬間、腕を抱きしめる力を強めてくる白音。

「……私は兄様だけのものですから」

「これ以上爆弾落とすのやめてください」

 もう今すぐ逃げたいんだけど。

「んー……何やってるの、もうイッセー君」

 呆れ半分で食堂に入ってくるセラ。

「あれ、意外ですね。魔王様ならすぐにでもお兄ちゃんに抱きつくのかと」

「そういうのは卒業かな。あんまりべたべたするのも魔王としてどうかなって」

 ようやく魔王としての自覚が出てきたようだ。流石に年下の男に抱きついてイチャつくなんて魔王としてのメンツに傷がつきそうだし。

「それに、いいものをいっぱい貰っちゃったから」

「散っ!」

 一瞬で部屋から出ようとするも、こよみに簡単に拘束されてしまいましたとさ。なんなら白音にもとめられてるし。

「……イッセー、ご飯でも食べてゆっくり話そ?」

「……そうしましょう?兄様」

「シテ……コロシテ……」

 ここに俺の味方はいないようだ。

「……魔王様。いいものとは何ですか?」

「キスとか……プロポーズとか……」

「そういうことをする悪い口はこれかなぁ……ってプロポーズ!?」

「いや、正確には違うけどそれっぽいことを言ったってだ……痛い痛い関節はそっちに曲がんないって」

 完全に拷問する気だよこよみさん。

「ナーバスになってるところに現れて、私は罵倒しちゃったけどなだめるように唇を奪われちゃって……そのまま……」

「俺の事を助けたいなら少し黙ってて貰えませんか、魔王様」

 完全に見捨てようとしてませんか、セラ。

「イッセー、本当?」

「……事実です」

「ファーストキスを魔王様にあげたんだ」

「……えっと、それは」

「私が貰ったわよ、ファーストキス」

 食堂に入ってきたかと思えば爆弾を落としてくる千夜先輩。

「本当?イッセー君」

 今度はセラが怒り始めました。

「四日前に見たって言ったろ。その時に奪われた」

「イッセー君からしたんじゃないのね。なら大丈夫」

 何が大丈夫なのか分からない。

「私のファーストキスもあげたわよ」

「私のもあげたよ」

「「……」」

 気の所為だろうか。二人の間に火花が散っているように見える。

「……イッセー?」

 こよみから怒っていると言うよりは優しい声が聞こえた気がした。普通にキレられるより何倍も怖い。

「こっち、向いて?」

「……はい」

 特に抵抗することなく、顔をこよみの方に向ける。なんか、頬を赤く染めてるが、どうしたのだろうか。

「……私も、参加するから」

 そう言ったのと同時にこよみに唇を奪われた。一瞬、頭が真っ白になる。なんか、柔らかい感触が唇を襲って。

「……私も、イッセーのこと好きだから」

 そう言って拘束を解いた後に厨房の方に行ってしまった。

「……ライバル多すぎです」

 とりあえず本当に修羅場はやめてください。

「お、お兄ちゃん。私も……?」

 そう言いながら、憂姫も続くように唇を奪ってくる。なんなら一番長く。

「……俺の唇は参加条件ではないんですが」

 というかなんでエントリー制になってるんですか。

「あはは、大変だね。一誠君」

「笑い事じゃねぇよ木場。ほんとに洒落になってない」

「でも僕にはどうすることも出来ないよ。抑えられる程の実力もないし」

「まあ、そうなんだけどな」

 そもそもこいつらを抑えられる程の実力持ってるやつなんて世界でみてもひと握りしかいない。

「はぅ……」

 アーシアもなんか悲しそうな顔してるし。いや、何となく予想はできるけど。

「あらあら、私も参戦しようかしら」

「これ以上修羅場にしようとするのはやめてください」

「一人くらい増えたところで変わらない気はするけどね」

 そう、ジト目で睨みつけてくる遥。

「……それを言われるとな。本当にこれからどうしよう」

「なるようになるんじゃない?」

「ならないと思う」

 こんな状況であいつにあったら本格的に地獄になりそうだし。なんならライザーのことも言えない状況だろコレ。

「でも、そういう状況を作る種を巻いてた一誠君が悪いと思うけど」

「真面目に自覚がなかったです」

 だってこんなことになると思ってなかったし。

「まあ、頑張ることだよ。一誠君」

 ぽん、と優しく頭に手を置いてくる遥。

「それに、私も参戦するから」

 そして唇を奪われました。割と不意打ち気味に。

「……え、遥も俺の事を?」

「……うん。周りには気づかれてたみたいだけど。一誠君には気づかれてなくて」

「えっと、ごめんなさい」

 え、いつから?それに気づかないで頭撫でたりとかしてたの俺。桐生が煽ってた理由がわかったよ。

「ほんとにどうしよ」

 というか相談相手がいなさすぎる。木場に視線送っても首振られるし。他の人には相談出来ないし。

「……兄様は、私のです」

 白音は腕に抱きついて独占アピールしてるし。

「……とりあえず。ご飯食べよう」

 俺は、考えることをやめた。

「……私の事は、思い出してくれないのね」

 何か朱乃先輩が言ってる気がしたが、悲しそうな顔をしてる朱乃先輩に話しかけることが出来なかった。

 

 ーー図書室

 

「さて、こんなもんか」

 合宿最終日にして白音が仙術を持続して一時間程度戦えるようになりました。成長スピードが恐ろしく早い。なんというか、階段を駆け足で登るどころかエスカレーターで一気に登ってる感じ。

「……ありがとうございます」

「本当にすごいな、白音。自慢の弟子って感じだ」

 ほんとに凄すぎるんだが。白音と比べたら大体のやつが相当才能のないやつって言っても過言じゃないレベル。

「……弟子、というよりはもっと違う方がいいのですが」

「違う方か……例えば?」

「……ペッ……あいが……なんでもありません」

「今絶対ペットとか愛玩動物って言おうとしたよな、おい」

 白音ってこんなキャラだっけ。学校だともうちょっと……ってか物静かってイメージがあるけど。

「そのノリで学校で話すなよ?変なやつって思われても知らないぞ」

「……大丈夫です。先輩以外には言いません」

「俺いる所なら躊躇しないで言うって言ってるようにしか聞こえないけど」

 なんか残念系になりかけてる気が。

「……白音って、レーティングゲームだとどういう立ち回りになると思う?」

「……どうしたんですか、急に」

「単純な疑問。どう考えてるのかなって思ってな」

「……ルークですし、前衛でタンクとしての役割をこなしつつ敵を倒す、ですか」

「半分正解。それが基本的なルークの立ち回り方。だけど、白音の場合はちょっと違う」

 そう言いながら、近くにある椅子に軽く腰かける。

「白音の場合、仙術って最強クラスのカードがある。戦闘能力の強化から相手の気を乱して行動不能やら様々なデバフを与えたり、な」

「……謎にゲームの用語が出てきますね」

「白音にはその方がわかりやすいかなって思って」

「……心外ですが、その通りです」

 複雑そうな顔をしてる白音。

「じゃあ、敵にとって仙術において何が一番厄介だと思う?」

「……攻撃力の増強ですか?」

「はずれ。正解は気の流れを読むってところだ」

「……一番最初に教わった事ですね」

「気の流れを敏感に感じ取ることが出来るメリットは大きくわけてふたつある。ひとつは相手の行動を他のやつより格段に速く察知することが出来るところ」

「……気の流れから相手の行動予測ですね。相手にもよりますが、大体はできます」

「そして二つ目は、気を使うものに対する判断の速さ」

「……と、言うと?」

「仙術ってのは気を感じる他に魔力みたいなものも感じやすくなるんだけど、それが実戦になったらどうなると思う?」

「……あ、魔力で作成した罠や魔力での攻撃を察知できるってことですか」

「正解。敵からしたら最強クラスの火力に桁違いの察知能力なんてお化け性能のやつが出てきたら泣きたくなるだろ」

「……兄様ほどでは無いと思いますが」

 それを言い出したらキリがない気がする。

「俺が本気出したら世界終わるよ。どんなやつでてきても勝てないようにしてるから」

「……先輩は、なんで強くなった……と言うより、なんで強くなりたかったんですか?」

「……好きなやつを見殺しにしてしまったから、かな。それに結局の所、正論なんて述べても力を持たなければ説得力が伴わないし。色んな理由があるものだよ」

「……なんですか、その喋り方。それに、好きな人を見殺しにって」

「昔の話さ。あ、復讐なんてもうとっくの昔に終わらせてるから」

「……終わらせてるって。どういう意味ですか」

「殺したやつを殺した。単純な考えだけど、実際にやったら気が晴れるどころか虚しくなったよ」

 そういうと、白音は少し反応に困ってる様子だった。

「復讐なんてくだらないものさ。助けられなかった虚しさを加害者にぶつけるだけの意味の無い行為。そいつが望んでるわけもないのにな」

「……その人は、今の兄様を見たらどう思うんでしょうか」

「分からん。罵倒するかもしれないし、怒るかもしれない。ま、喜ぶってことは無いだろうな」

「……じゃあ、兄様はなんのために戦うんですか。今も、これからも」

「大切なやつのため、だろうな。それは白音であり、リーアであり。はたまた千夜先輩であり……挙げだしたらキリがないな」

「……自分の為には振るわないんですか」

「自分の為に力を使うのはもう疲れたよ。どんなにすごい力を手に入れても振るう対象が虚無なら、大切なものは簡単に手からすりぬけるものさ」

 事実、復讐なんてものに力を使っちまったし。

「どんなに強くなっても、白音は白音のままでいてくれ。俺の大好きな白音のままで」

「……はい。そうします」

「話が逸れたな……って、なんで顔赤くしてるんだ」

「……天然タラシ」

「不名誉な称号をつけるな」

 全くもって心外である。

「まあ、サポートと行動をタンク兼アタッカーって幅広い立ち回りができるんだよ。仙術使えると」

「……そうなんですか。これからはそれを教わるんですか」

「いや?そうじゃない。一応、仙術で教えられるのはここまで。俺ができるのは気の完全なコントロールくらいだし。乱すことも出来なくはないけど相手のコントロールまでの精度は無理だし」

「……どうする、とは」

「白音が選べるのは実質三択。一つは俺の知り合いの仙術使いに弟子入りする。その場合は恐らく数ヶ月単位で会えなくなる」

「……数ヶ月、ですか」

「二つ目はこのまま俺と実戦経験を積んで完全物理アタッカーとして戦うか。ま、これは白音の才能ガン潰ししてるようなものだからしたくない」

「……兄様と、二人きり」

 なんか不穏なこと言ってませんかね。

「で、三つ目が俺と黒歌に教わるってとこ」

「……ね、姉様ですか?」

「そろそろ仲直りしろって気遣いとお節介。それにあいつなら姉妹だし色々融通きくだろ」

「……でも、どんな顔して会えばいいのか」

「笑顔でぶん殴ればいいんだよ。今まで放置して寂しかったってな」

 そう言うと、何故か顔を赤くして首を横に振る白音。

「……さ、寂しくなんて」

「嘘つけ。昔から白音のこと知ってるのに考えてること分からないわけないだろ。いっつも二人でいるか俺のとこに来るかの二択だったのに」

「……は、恥ずかしいこと言わないでください」

 ぽかぽかとたたかれるけどなんか痛くない。

「まあ、会うなら色々覚悟した方いいけど」

「……どういう意味ですか」

「ここに居る魔王と同じ感じ」

「……と、言うと?」

「要するに重度のシスコン拗らせてるくせに、俺に思いっきりアプローチしてくる感じ」

「……」

 白音に電流走る。ってナレーションつけたくなるくらいに目を見開いて驚いている。

「……嘘、ですよね?」

「嘘だったら良かったよな。魔王様が重度のシスコンとか」

「……そうじゃなくて、姉様が先輩に好意を寄せてるという所が」

「いくら唐変木とか言われてる俺でも気づくレベルでな。会えば抱きついてくるし唇どころか貞操奪われそうになるし」

 全力で逃げたのはいい思い出だ。主にこよみから。

「……負けません」

「え、何に」

「……全部に、です」

 なんの事だろう。

「……分からないから鈍感です」

 心の中を読まないで欲しい。

「で、どうする。その三択なら」

「……んー……むー……三、番目て」

 随分と悩んだけど和解してくれるようだ。

「……兄様も同伴です」

「流石にそれはな。一人はさすがにハードル高いだろ」

「……色々あるんです」

 色々あるんですか。

「まあ、合宿メニューはこれで最後だ。帰る支度とかもするし早めに終わるか」

「……はい」

 まあ、結局のところ入門みたいな所しか教えることが出来なかったわけだけど。半分独学で覚えてるやつに教えるのは無理があるか。

「……兄様。いえ、先輩」

「どうしたんだ、白音」

「……私の本当の師匠は先輩だけで、最高な師匠も先輩だけです。それだけは、忘れないでください」

 もしかして、不安がってるのバレたか。ちゃんと教えられるか、教えられてるかかなり不安だったし。

「ありがとな。白音」

 わしゃわしゃって少し乱暴に頭撫でると満更でもなさそうな顔で笑顔を見せる。

「……本音というか、真面目に言う時は先輩って言います」

「あ、やっぱり兄様呼びは独占欲の表れか」

「……悪いですか」

「いんや、可愛いと思うけど」

「……もっと、言ってください」

 何この可愛い生物。

「白音は可愛いよ。容姿もそうだけど、仕草とかも女の子っぽいというか。とても可愛い」

「……そ、そうですか」

 あれ、思ったよりちょろい?

「とりあえず戻って帰り支度しようぜ」

「……はい」

 今回の合宿はこれで終わり。白音の成長が異常なほど早かったが、現時点ではまだライザーには勝てないと思う。消耗戦だと絶対に負けるし。

 ……俺がライザーに鉄槌を下すしかないか。

 




とりあえず合宿編はこれで終わり
ぶっちゃけ朱乃先輩と木場のやつかこうと思ったけど書けなかったやつ(これ以上長くしたくなかった)


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15話

原作世界にこのイッセー送り込んだらアーシアとかの発言で卒倒しそう
なんなら原作の自分の言動とかで


 合宿終了後、俺達は日常……学校生活へと戻る。学校の方には一応旅行ということで話をしているが、一週間もいなかったわけだし不審がるやつもいるだろう。たとえば、桐生藍華みたいな謎に感の良い奴とか。

「なんか、久しぶりな気がする」

「ま、一週間ぶりだからね」

 教室で項垂れていると遥に苦笑しながら話しかけられる。合宿中に色々あったけど、今の関係自体はあまり変わっていない。ちょっと小っ恥ずかしい気はするけど。

「なになに?旅行中に何があった〜?」

 楽しそうに話しかけてくる桐生。

「別に、何も無い」

「……何も無いことは無いよ」

「ん、何があったの?」

 後生だから余計なことを言わないでくれ。

「ま、色々とね」

「気になるなぁ。もしかして初めてを奪われちゃった?」

 何を言い出すんだ、この脳内ピンク。

「ある意味ではそうかな」

 何を言い出すんだ、遥さん。

「え、本当に?」

「うん、本当に」

「そ、そっかぁ〜……」

 何やら顔真っ赤にしてる様子の桐生さん。実はこういう話苦手だったりするのか。セクハラ発言してくるのに。

「多分だけどファーストキスの話な」

「な、なんだ。そういうこと」

「結構軽くないかな。ファーストキスだよ、ファーストキス」

「だって、今更ファーストキスとかねぇ。小学生でももう少し、ね」

 やめろ、その言葉は俺にも効く。

「なんならキスしてきたのはそっちでは」

「……あ」

 言ってる事の恥ずかしさに気づいたのか、顔真っ赤にする遥。可愛い。

「なになに〜?少し見ない間に進展したとか?」

「そ、そんなんじゃないよ。ま、まあ、当の本人はプロポーズしてたみたいだけどね。年上のお姉さんに」

「その話詳しく」

「遥さぁん!?」

 おそらく、その話は今日中に学園中に広がるだろう。仕返しなのだろうか。

「全く、何騒いでるの」

 呆れた様子で教室に入ってくるこよみ。

「こよみも興味がある話だと思うよ?」

「廊下まで聞こえてきたけど、その話は知ってるから」

「ありゃ、そうなの?」

 驚いた様子の桐生。

「イッセーから貰うものは貰ったし。それに、私も負ける気は無いから」

 思いっきり宣戦布告みたいなことしてますよ。え、どうするの。血なんて見たくないんだが。

「……イッセー。旅行とか言ってたのに女を食い散らかしてたの?」

「人聞きの悪いこと言うな」

「襲われる側だったからね。一誠君は」

「もうこれ以上俺の立場を危うくしないでください」

 もう周りの目線怖いもん。殺気だけで殺されそうだもん。男の嫉妬怖すぎる。女子は女子で面白いものを見るような視線向けてくるし。

「多分、お昼になればわかるよ。藍華」

「え、何かあるの?」

「俺も初耳なんだが」

「多分すごいことになると思うけど」

「イッセー目当てに誰か来るとか?」

「ひとりならいいけどね」

「死体蹴りしないでください」

 どうやらこの学校に味方はいないらしい。

「そういえば、今日から新しい先生が来るんだって。というか担任が変わるとか」

 ふと、唐突に違う話題を振ってくる桐生。

「は?いやまだ五月とかだぞ。なんか理由でもあるのか」

「正確には担任が育休に入るから新しく担任が来るって感じだね」

「ふーん。そうなのな」

 頭にとある魔王の顔が出てきたが、気の所為だろう。

「そういえば、プロポーズした相手ってどんな人なの?」

「黙秘する」

「黒髪の美人さんだよ。お相手さんがよく抱きついて甘えてるのは見てたけど」

 周囲の男子が怨念めいた視線を向けてくる。

「前からそういうことされてたみたいだけど最終日近くに雰囲気変わったから何かあったのかなって」

 そしてカッターを構える。投擲するつもりなのか、おい。何処ぞのローブを羽織った異端審問会じゃねぇんだぞ。

「その言い方だと完全に事後だよな、おい」

「違うの?」

「違う。そんなことはしてない」

「キスで唇塞がれて抵抗できなくされた後に抱きしめながらプロポーズとか聞いたけど」

「言い方。言い方に悪意を感じる」

 あいつ完全に自分の好きなように言ってるなおい。

「イッセーって結構大胆?」

「変な誤解生まれてるし」

「事実でしょ?」

「……事実っていえば事実だけど。自分からキスしたのも事実だけど。もう少し言い方が」

 これでは完全に俺がヤバいやつでは。

「はい、朝礼を始めますよ」

 そう言って入ってくるのは学年主任。ショートカットの女性で年齢は確か二十代とか。学年主任になるにはかなり若いと思う。相当優秀なんだろう。

「前の担任の先生が育児休暇をとるということで、本日から新しい先生に来てもらうことになりました」

「本日からお世話になります、支取瀬良(しとりせら)です。よろしくお願いします」

 そう言って恭しく頭を下げる瀬良先生こと魔王セラフォルーレヴィアタン様。髪を下ろして落ち着いた色合いの服を着ている。さすがに魔法少女のコスプレではないようだ。

 って、そうじゃない。何やってるのあの人暇なの。

「わぁお、美人さんだね。……ってイッセーの知り合い?」

 不思議そうに桐生が聞いてくる。あまりにも顔に出すぎてたか。

 いや、確かに美人だけれども。顔だけで飯食ってけそうなくらいだと贔屓しないでも思うけど。そうじゃないの。

「……幼馴染みたいな人。古い付き合いなんだよ」

「何その漫画みたいな展開」

「ほんと、漫画みたいだよな。フィクションだったらどれだけいいか」

 もう笑うしかない。乾いた笑いしか出ない。

「何?トラウマ持ちとか、会いたくないとか。そういうやつ?」

「いや、そういう訳じゃないんだけど、色々事情が……」

「まあ、プロポーズした相手だからね。顔を合わせづらいんでしょ」

 と、爆弾を落とす遥さん。

 刹那的に教室に静寂が訪れる。そして、一気に俺に視線が集まる。なんでこいつばかりモテるんだと言う嫉妬と怨念が混ざったものが多い。正直面白半分で首突っ込もうとしてくる女子の視線の方怖いが。

「俺に何か恨みでもあるのか……」

「恨みはないけど、その他の積もるものがね」

「……結果的にそうなったのでノーカウントでお願いします本当に」

 完全に対応できないと判断して項垂れながら机に顔を突っ伏す。

『一生をかけて幸せにしたい』

 どこぞの聖職者様はどこからともなくボイスレコーダーをだしてあの時のセリフの一部を躊躇せずに流し始めました。

「俺になんか恨みでもあるのか……セラ……」

「ノーカウントっていうのはなしだからね。イッセーくん」

「……後で覚えとけよ、本当に」

 俺もう明日からどんな顔して学校に来ればいいんだよ。なんなら今すぐ教室から出ていきたいし。

 女子達はさっきのボイスレコーダーの音声でキャーキャー言ってるし。男子は男子で怖いし。何事。

「瀬良先生。あまり悪ふざけは……」

「はい。申し訳ありません」

 セラが謝るところとか初めて見た。

「まぁ、不慣れなこともあると思うので、皆さん仲良くしてください」

 セラは転校したての生徒か。

「もうやだ……」

 俺の頭痛は放課後まで続くことになるとはこの時は知る由もない。

 

 ーー教室・昼

 

 ホームルーム後から散々質問攻めされた上での昼食。休み時間に入る度にセラとの関係とかを聞かれまくる地獄みたいな状況が続きましたよ。お昼だから今はあんまり来ないだろうけど、俺の方は正直食欲なんてものはほぼない。

「イッセー。お昼どうする?」

「なんなら食べたくない。一人になりたい」

「そんな神経質だっけ」

 正直無視しようと思えばできるけどあんまり問題が発生するようなことは出来るだけ避けたい。

「そりゃ理不尽に嫉妬の視線と好奇の視線を常時向けられ続けてたら精神削れる。人間なんてそんなもんだろ」

「人間、ねぇ」

 ベースは人間だから許して欲しい。

「まあ、そんなことは許して貰えないとは思うよ」

「……?どゆこと?」

「そういう事だよ」

 教室の外ーー廊下側を見るように促すこよみ。そちらを向けばそこには見知った顔ーー白音の姿がそこにあった。

「……あ、先輩」

 こちらに気づけば、微かだけどし微笑みながら手を振ってくる白音。

 嫉妬の視線を向けられながらこちらも手を振ると、そのまま教室に入ってくる。

「……先輩。お昼、一緒に食べましょう」

「あ、あぁ。もうそんな時間か」

 なんか周りから「あの小猫ちゃんが男とご飯!?」とか「一誠覚えてろよ」とかそんな声が聞こえる。胃が痛い。

「一応確認だけど、来てるのは小猫ちゃんだけか?」

「……私だけなら良かったんですが」

 廊下の方を向けばそこにはセラと千夜先輩の姿が。

「……なんであの人たちも来てるの」

「……私と同じ理由だと思いますが」

 ちなみにだけど三人の手にはそれぞれ二人分の弁当が。おそらく手作りだと思うけど。

「……拒否権はないよなぁ」

「……したら数日は恨まれるかと」

 どっちにしろ地獄なら今地獄になった方がいいか。

「ちなみに、私と遥が作ってきたのもあるよ」

「俺はフードファイターじゃないんだけど」

「まあ、残した人に恨まれると思った方がいいと思うよ」

「そうなるよなぁ……はぁ……」

 観念して食べるしかないか。

 余談だが、この日を境に俺は男子からは怨敵として認識されるようになった。理不尽すぎる。

 

 ーー放課後・旧校舎

 

 頭を抱えながら放課後を迎える。今日はライザーが対戦前の挨拶に来るとのことで、俺も旧校舎のオカルト研究部部室にいる状態。

「……ねえ、小猫。なんでそんなにイッセーにくっついているのかしら」

 表情をひきつらせながらこっちを見るリーア。ちなみにだけど白音は俺の右隣で体を寄せながら座ってる。手も握られて逃げられない。いや、逃げたら大惨事なんだろうけど。

「……専用席だからです」

 そのせいでリーアと白音のバトルが始まってる。本当に胃が痛くなってきた。

「あの、喧嘩はいけないと……」

「「イッセー(……先輩)は黙ってて(ください)」」

「……はい」

 え、もう本格的にダメじゃん。俺の居場所あるように見えてないやつじゃん。

「ってか、ライザーはいつ来るんだよ。もう五時だぞ」

「気まぐれなのよ、ライザーは」

「人を待たせてるやつの態度ではないとは思うが」

「貴族なんて、そんなものよ。最も、悪びれないのは少ないけれど」

 いっそのことフェニックス家に乗り込んでやろうか。

「噂をすれば、来たみたいよ」

 リーアがそう言うと、開けた場所に魔法陣が展開される。不死鳥を象った模様が中心にあるフェニックス家特有のものだ。

「待たせたな。愛しのリーアス」

 魔法陣から現れたのは金髪の男性。ちょいワル系のホストみたいな容姿。軽そうな口ぶりも含めてウザイやつ。

 その後ろに眷属もいるけれど、全員が女性。付け加えるならギャルゲーに出てきそうな特徴的……と言うと失礼かもしれないが、容姿端麗でそれぞれの属性を持ち合わせている。妹属性とか幼馴染属性とか。眷属をなんだと思ってるのだろうか。

「……ライザー」

「おいおい、気分が優れないなぁ」

「……ったく、誰のせいだよ」

 呆れ半分で頭を搔く。

「なんだ、このガキは」

「お初にお目にかかる……って訳じゃないだろ。ライザー」

「この俺を呼び捨て、だと?誰だ、お前」

「二年前のことすら忘れたのか」

 そう、ドスの効いた声で言葉を発すると、怪訝そうな表情を浮かべるライザー。

「本当に誰だ、お前は」

「覚えてないのかよ。……まあいいや。話が進まない」

 そういや、あの時仮面とかつけてて正体偽ってたんだっけ。魔力とかで気づきそうなものだけど。

「白音。ちょっとごめんな」

「……わかりました」

 一旦白音の手を離して立ち上がると、しゅんと寂しそうにしている素振りを見せる。後で甘い物でもご馳走しよう。

「とりあえず、リアス・グレモリーとライザー・フェニックスのレーティングゲーム。助っ人として俺が入る。普通のレーティングゲームと同じく使用する武器、神器の使用は無制限。フェニックスの涙は不使用。リタイアは戦闘不能に近い状態になった時に限る……でいいだろ」

「ええ、異論はないわ」

「あぁ……。というか、なぜお前が仕切っている」

 ライザーが睨みつけてくるけど気にしないことにしよう。

「二人に任せてたら話が進まないからだよ。本来ならグレイフィアあたりが来るのが妥当なんだろうけど、急用が入ったとかでな」

「そうなのね」

 まあ嘘だけど。サーゼクスから有利になるように進めていいと言われてたし。

「ライザーが勝ったらリアスを娶る。リアスが勝ったら婚約破棄。そして、リアスが勝った場合は俺に報酬が入るって話だ。ま、報酬は決めてないけど」

「報酬?なんの事かしら」

「サーゼクスから聞いてないか?体裁を保つため……ってやつだよ。なんなら肩たたきとかそんなのでもいい」

「ん、そうなのね」

 まあ、ある程度はふんだくるつもりだけど。あのシスコンに働かされるわけだし。

「で、二人からは何かあるか?」

「ゲームが終わったら晴れて結婚式だ。結婚準備をしておけよ?リーアス」

 その言い方にハマってるのか、こいつ。

「そうならないわよ。勝つもの」

 強気の姿勢だけど、俺の予想だと普通に戦ったら負けるだろう。いくら一週間したとしてもその差は埋まらないだろう。白音はまあ例外と考えても、消耗戦になったら負けるだろうし。

「じゃあ、俺からも一言言っとく。……ライザー、お前にリアスは勿体無いよ」

 けらけらと笑う俺に対してライザーは気を悪くしたように表情を強ばらせる。

「さっきからなんだ、お前。喧嘩を売っているのか」

「お前程度になんで喧嘩を売る必要がある。お前が最初から売ってるんだろ」

 そう言いながらリーアに近づき、肩を抱き寄せて顔を近づける。

「ちょ、イッセー!?」

「お前にリアスは上等すぎる。それに、リアスは俺の女だ。手ぇ出そうとしてんじゃねぇ」

 ……って、調子に乗ってとんでもないことやっちゃったけどリーアは大丈夫か?無理やりだったし痛くなかっただろうか。

「……悪い。ちと調子に乗った」

「……いいわよ。嫌ではないから」

 とりあえずリーアから離れる。リーアは顔を真っ赤にしてるけど、満更ではなさそうだった。

「おい、調子に乗りすぎだ。やれ、ミラ」

 そう、ライザーが支持を出すと棍棒を持った女の子が俺目掛けて突進する。特に能力が強化されている……と言うより特筆してないってところを察するに、ポーンなのだろう。

「ったく、お前自身がこいよ」

「……っ!?」

 俺目掛けて突き出された棍棒は、俺の間合いーー一メートル圏内に入ったタイミングで完全に停止した。見えない壁にぶつかっているような、そんな感じだ。

「俺からは手を出さないから、武器をおさめろよ」

 ゆっくりと近づいて頭を撫でてみれば、ミラと呼ばれた少女は大人しく武器を収めた。少し顔を赤くしていたが何かあるのだろうか。

「ま、そういうことだ。とりあえずな乗り遅れたな。俺は兵藤一誠。現赤龍帝だ」

「赤龍帝……?まあいい。ゲームで会おう」

 そう言い、ライザーは眷属を引き連れて魔法陣に消えていった。

「……先輩、今のは?」

「ん、今のって?」

「……なんで、棍棒が止まったんですか」

 ああ、それか。

「ひ、み、つ」

 まだ話すには早いだろうし。ゲームでは使う予定だけど。

「……ねえ、イッセー」

 何やら、顔を赤くしているリーア。

「ん、なんだ?」

「俺の女って、どういう……」

「どう言うって、そういうことだろ。約束もある訳だし」

「……今は、約束のせいってことにしておくわ」

 何やら恥ずかしそうにしているリーア。

「でも、私にも言ってくれるんだよね?」

 と、唐突にドアを開けて入ってくる魔王様。

「えっと、いつから見てた?」

「最初からかな。ライザーが来る前くらいから」

 ……まじ?

「じゃあなんで入ってこなかったんだよ」

「私が入ったらそれこそ修羅場になったと思うよ」

「まあ、確かに」

 それこそグレイフィアあたりが来てくれてたらまだ話は変わってたと思うけど。それはそれで冥界の最強女性悪魔同士の戦いが勃発するか。

「あとはゲーム頑張るだけだな」

 ここにいる女性陣はリーアを除いて複雑そうな顔してるけど。

「日時は今日の夜十二時。ライザーを倒すわよ」

「三割程度で叩き潰すよ」

「三割なのね」

 首をかしげる千夜先輩。

「それ以上出力上げたら空間の方壊れる。ギリギリのとこで調整するよ」

「アーシアの一件の時はどの程度だったのかしら」

「ひ、み、つってな」

 まあ一割行かない程度だけど。怒りに任せて放出したから周囲が結構吹っ飛んだし。ブチ切れたときに暴走しないように神器で出力制限してるからあの程度だけど。

「雀の涙程度なのね」

「そういう時だけ心読むな。意図的に本気出したらそれこそ街が無くなる」

「まあ、そうよね」

 まあ次はどうせ魔王様が作った空間だろうし。どんだけ暴れても大丈夫だろう。

「さて、頑張りますかね」

 まあそれまで俺の女発言でかなり絞られたんたが。



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16話

あけましておめでとうございます
今年は投稿遅くならないように頑張りたいと思います


 午後十一時頃。旧校舎のオカルト研究部部室に集合していた。事前のミーティングを兼ねて色々話す、というのが目的だが。

 現状というのは思ったよりも深刻で、ライザー単騎だとしても俺抜きなら全滅もあり得ると言った状態。……ま、一週間程度で力関係が変わるわけはないが。

「で、結局どうする。このまま俺が干渉しないで戦ったら消耗戦で負けると思うが」

「……そうね。恐らくはそうなるでしょう」

「予想はできてたってとこか。性格とかはともかくあの再生力は普通に厄介だし」

 まあある程度は抵抗できるように成長したのはすごいと思うが。

「……私でも、無理ですか」

「無理。言ったろ、消耗戦で負けるって。白音が仙術で戦ったとしてもそれが解除されたらその時点で丸焦げ。なんならその前にも火傷多数でリタイアが目に見えてる」

「……そう、ですか」

「あいつの家系の能力がやばいってだけで白音は強いから安心しろよ」

 そう言いながら頭を撫でてみる。

「……でも、今活躍できなければ」

「意味はあるっての。失敗を経験して成長するもんだぞ」

 俺も失敗して死にかけたこといっぱいあるし。

「じゃあ、無策で戦うのかしら」

「いんや。ライザーは俺が倒すってことでいいんじゃないか、今のとこは。俺とライザー戦ってる時は近くに来るなってことくらいで」

 流れ弾でリタイアとかシャレにならんし。

「でもそれじゃあ成長に繋がらないから、基本的に眷属同士の戦いには手を出さないことにする。攻撃を向けられたら別だけど」

「一誠君はどうするんだい?」

「白音につく。大丈夫だと思うが、仙術のコントロールが乱れた時に対応できるようにな」

「となると、僕と朱乃さんは単独行動になるわけだね」

「そうなるな。あと、聞かれても能力名とか能力を教えるなよ。致命的な問題になる可能性が高い」

 まあ、有名になれば全員把握されそうだけど、今だけのアドバンテージを捨てるのは愚行だ。

「朱乃先輩は……どうするか。リーアと協力して戦況の把握と、やばそうになったらそこに向かうなり迎撃なりするってとこだろ」

「……そうなりますわよね」

「クイーンは基本的にキングの右腕だからな。当たり前のように戦場に出ていって搦手でやられるなんて一番やってはいけないことだ。最小限のリスクで最大限のリターンを考えるのが基本」

 まあ前線に出て行って殴り倒すキングなら知ってるけど。あれは例外中の例外だし。

「リーアはとりあえずここにいろ。ってか俺がやられるってことがない限り動くな」

「随分念入りに言うのね」

「当たり前だろ。リーアの性格なんて俺が一番把握してるっての。どうせライザーと一騎打ち……なんて考えてるんだろうけど、そんなことした時点で負けが確定するからな」

 せいぜい一回二回倒せても物量でやられるし。なんなら本気出せば瞬殺だろうし。

「キングってのは要だ。一番やられちゃ駄目な役割で、常に冷静にならなきゃダメだぞ。戦場には姿を見せずに眷属を最適に動かすのが仕事」

「……それは、勝ったと言えるのかしら。イッセーにおんぶにだっこ状態で」

「そんなこと言い出したら大体のキングは眷属を動かして勝ってるっての。役割が違うの。戦うのは眷属の役目で、動かすのはキング。それを履き違えた時点で戦況は崩壊する」

 プライドを持つことは大切だけど、優先させるタイミングを間違えると痛手を負うからな。

「眷属に任せてどーんと胸張って待ってりゃいいんだよ。あとはこっちの仕事だ」

 そう言って笑顔を見せると、リーアは複雑そうな表情を見せた。

「あ、そういや報酬どうしよ」

「いきなりがめつい話になったわね」

「サーゼクスに言ったのはいいけど何も思いつかないんだよ。金を要求なんてしたくないし、飯とかにも困ってる訳でもないし。かといって下手なこと言ったら怒られそうだし」

「下手なことって?」

「そうだなぁ……リーアとデートとか?」

 ふと、部室に戦慄が走ったような気がした。空気に亀裂が入ったような緊張感。

「なぜ、それで怒られると思ったのかしら?」

「サーゼクスにそんなこと言ってみろよ。滅びの魔力で町ごと吹っ飛ばされるぞ」

「まぁ……それは言えてるけれど」

 あのシスコン、リーアの事になったら何しでかすかわからん。

「……先輩は、部長とデートしたいんですか?」

「正確には遊びに行きたいって感じだな。合宿にも来れてなかったし。二人で遊びに行くのもいいかなって。ま、二人きりなわけだしデートって事になるだろ」

「そ、そうね。多少イチャついても文句を言われる筋合いはないわよね。イッセーの報酬なのだから」

「……口実ができたみたいです」

 まあそれを言われると痛いが。

「まあ無理だったら、少し恥ずかしいけど膝枕……とか?」

「あらあら、膝枕で喜ぶのですか?それでは、私がしてあげましょうか?」

 何言ってるの、朱乃先輩。

「嫌じゃないけど遠慮しておくよ。首を縦に振ったら殴られそうだし」

「あら、残念」

「ちょ、朱乃!何を言っているの」

「あら、リアス。ちょっとからかっただけよ」

 朱乃先輩はどこまで本気で言ってるか分からない。

「そろそろ着替えてくるか」

「あら、制服じゃないの?」

「本気でやるからな。前に作ったのを着てくる」

 そう言って部室から出る。特に着替えに困る訳でもないから数分程度で戻ってきたが。

「よう、待たせたな」

 白いワイシャツと黒いジーンズに身を包んで部室に入る。まあ、ちょっと特殊なものだけど。

「それは、イッセーの趣味かしら」

「半分な。この服は俺の魔力を糸にして作られてるからかなり頑丈だぞ。極論いえば超至近距離でサーゼクスが本気で魔力を放っても壊せない」

「漫画にでもでてきそうなものね」

「まあ、服の耐久度が高いだけで単純な打撃の振動とかまでは防げないけどな。攻撃を受けて服が破けるのが嫌だってだけ」

「そういう所を気にするのね」

「後、誰か服が破けた時にとりあえず着せるとかな。割とあるし」

 なんか一部で反応あった気がするけど気にしないことにした。

「とりあえずそろそろ時間だろ。集中しようぜ」

「「「「はい(ええ)(そうね)」」」」

 とりあえず、服の説明なんて今はこんもんでいいだろ。どうせゲーム中にバレるし。

 

 ーー午前零時・結界内にて

 

 午前零時に転移魔法陣にて特設の会場へと移動した。フィールドは駒王学園をまんまコピーしたもので、地の利はこっちにあると言える。

 それで、現在はオカルト研究部部室を模した部屋にいる訳だが。あっちは本校舎の方にでもいるのか?

「まあ、これはこっちに対しての優遇ってやつだろうな」

「もし、このフィールドじゃなかった場合、どうするつもりだったんだい?一誠君」

「ここ以外の地点を吹っ飛ばしてライザー以外をリタイアさせてライザー自身をリンチする」

「一誠君を的に回さなくて良かったと思うよ」

 苦笑する木場。

「まあ、そんなことはしねーよ。破壊した時点で評価さがる場合もあるし」

「そうだよね。さすがにそんなことはね」

「俺だって色々考えてるんだよ。じゃあ、どこから攻め落とそうか」

 旧校舎と本校者は正反対の場所に建っており、その中心には体育館が存在している。そして、その周辺には諸々の施設……校庭やらプールやらといった基本的なものらテニスコートとか、果てには乗馬する所もある。なんでもありではある。

「無難に考えるなら体育館を取った方がいいって考えるよな」

「そうよね。そこをとってしまえば戦略に幅が広がるし」

「だから、そこを捨て石にする可能性が高い。あいつは作戦を遂行させるためには躊躇しないで眷属を犠牲にさせるからな。兵士を三人か四人……それか他のを一人くらい置いて時間稼ぎして遠距離攻撃でぶっ飛ばす、ってとこだろ」

「随分とライザーの性格に詳しいのね」

「前にちょっとな。……ま、いいか。遊んでこようぜ。な、白音」

 そう言いながら、白音の手を引いて部室を出た。なにやらリーアは複雑そうな顔をしていたが気にしないことにした。

 

 ーー体育館

 

 数分後、体育館に到着する頃には、中に四人の女性の姿があった。たしか、ライザーの眷属で兵士の子三人と戦車の子一人だったっけか。

 ちっこい……もといロリ体型でブルマを着ている二人がいるが、たしか双子で兵士だっけ。チャイナ服を着ている子がたしか戦車。それで、ライザーと俺が軽く話してた時に差し向けられた子が兵士……であってたはずだ。

「……先輩に手篭めにされていた子が」

「言い方。手篭めじゃなくて無傷で止めたが正解」

「……まさか、私のことが」

「出会ってすぐに惚れるほどメルヘンチックではない」

 いや、初めて会った訳じゃないけど惚れる要因がほぼないし。ミーティングのときを含めれば三度目だし、会うの。

「ミラ、初めて会った時から赤龍帝の事色々言ってたからね。再会した時もーー」

「イル、お願いだから黙って」

 どうやら修羅場からは逃げられないようです。

「というか、覚えてたんだな。ライザーは俺の事覚えてなかったのに」

「私達は助けてもらったからねぇ。あんな事されて忘れる方がおかしいよ」

「あはは、それもそうか」

「……先輩、あんな事とは?」

「暴走した魔獣から助けたことがあったんだよ。その時はこいつら悪魔になりたてで戦闘能力皆無だったし」

「そうそう。でも、手篭めにされていた子は若干居たけどね」

「……先輩?」

 もしかして、今日が命日になりますか。

「ま、流石に赤龍帝なら女の一人でもできてるとは思ったけどね。ミラも諦めが悪いし」

「ちょ、ネル!!!」

「残念ながら今はフリーだよ。誰とも付き合ってない」

「え、本当に?」

「うん、本当」

「……主と魔王様にプロポーズしたとか色々問題になってましたけど」

 平然と爆弾落とすのやめて欲しい。

「プ、プロポーズ……!?」

「俺からの発言は控えとくよ」

 もうそろそろ面倒だ。早く終わらせて眠りたい。

「まあ、これと言って時間がかかる訳でもないけど」

 そう言い、イルとネルの肩に触れる。

Transfer(トランスファー)

 脳内で機械的な音声が響けば、二人はまるで力が抜けたように床にへたり込む。

「なに、これぇ……?」

「ちから、がぁ……」

 何やら色っぽいというか可愛らしい声を出してるが、特に反応しない事にしよう。あとが怖い。

「神器の応用だよ。相手のキャパオーバーになるくらい力を譲渡して動けなくしてる。外傷はないから安心しろよ」

「……ネタばらしするんですね。私も初めて見ましたが」

「見せたことないからな。それに、知ってても対処出来ないよ。一部の神器持ちか特殊な家系のやつくらいにしか」

 例えば今レーティングゲームランキング1位の奴とかな。

「このっ……!」

 直ぐに異変に気づいたのか、直線的に突っ込んでくるミラ。前とは違い、武器を持たずに直線的な打撃を繰り出そうとする。

「……ったく、学習しろよ」

 放たれた拳は俺の体に到着することは無かった。というのも、当たる三十センチ前くらいの場所で停止したのだ。

「なんですかっ、これっ」

 ただひたすらに連打を繰り出されるも、その全てが同じくらいの場所で停止して一撃も食らわせることが出来ない状態。

「アキレスと亀って知ってるか。ま、簡単に説明するなら俺に近づけば近づくほど遅くなるって事で、要するに俺には攻撃は当たらない」

「……っ!?」

「まあ、あくまで理論上はな。世界トップクラスなら貫通するよ。例えば魔王とか」

 サーゼクスとかその空間ごと削り取るからなぁ。オーフィスに至っては無視して攻撃できるし。

「逆に、俺からは好きに触ることが出来る」

 そう言いながら、ミラの右ストレートが止まったタイミングで優しく手を取り、軽く引っ張る。

「きゃっ……!」

 可愛らしい悲鳴とともに胸に飛び込んでくるミラ。まあ怪我のないように優しく抱きとめたが。

「えっ、ええっ!?な、なんでっ」

「なんでって、怪我するとダメだし」

「これはレーティングゲームっ。怪我をするのは当たり前じゃ」

「いや、年頃の女の子の体に傷をつけるのは気が引けるし」

Transfer(トランスファー)

 先程と同じように力を譲渡する。抱きしめてるせいで床に倒れ込むということは無かったけど、体を預けるような形になって。

「……先輩。女の子と抱き合いたいからそんな事をしてるんですか」

「いや、抱きつかれるのはセラだけで十分なんだが」

 そう言いながら、ミラを優しく床に寝かせた。

「そのまま襲われちゃう?」

 何を言ってるんだブルマ娘。

「そういうのは大人……というか、もっといい女になってからな。子供相手に発情しな……げふっ」

 何故か白音に仙術込の打撃を貰った。くっそ痛い。

「……私も、成長期なので」

 なにやら張り合われてる様子で。

「……っ!」

 奇襲をかけるように突っ込んでくるルークこと雪蘭(シュエラン)。かなり気まずそうにしてたから後で謝ろう。

「ふっ……!」

 的確に急所のみを狙う鋭い連続攻撃。それら全てが並の下級悪魔なら一撃で昏倒させられる程の威力を保有している。

「中級悪魔くらいの実力は余裕であるな。躊躇せず急所を狙いに行く思い切りも買いだ」

 その攻撃全てを紙一重で回避する。

「どうして……っ」

「急所だけを狙うから回避しやすいんだよ。それにワンパターン。強くなるいい素材を持ってるのに。勿体ない」

「……っ!」

 攻撃のスピードが更に上がるも、攻撃パターンが変わらないせいで簡単に避けられてしまう。

「スピードもかなり有るし。積むべきは実戦経験か」

「どうしてっ!人間の時は……!」

「そりゃ人間相手なら多少はスピードとパワーは拮抗するが、悪魔や人外との戦闘は全く別だぞ。熊相手に生身の人間が戦いを挑むか?普通」

 悪魔同士だとそれよりも酷い場合がある。龍王が転生してる場合もあるし。

「今回の場合、相手が人型なんだからフェイントを含めて翻弄しに行くのが正解。例えば……」

 ただ、雪蘭の右のパンチに合わせてカウンターを放つ。無論、寸止めしてダメージは与えないけど。

「……っ!?」

「単調だからカウンターを取りやすい。……ま、そういうのは戦闘経験を積んで身につけるものだからな。経験が少なくてこのレベルならかなり凄い」

 白音って化け物クラスの才能持ってるやつを知ってるから、比較するのは可哀想だと思う。

「取り敢えず今日はここまでな」

transfer(トランスファー)

 そう言って優しく肩に触れて例に漏れず無効化する。

「……なんで、その子には攻撃をさせたんですか?」

 不思議そうにつぶやく白音。

「ま、ちょっとな。実力を知りたかったとこもあるし。ミラの場合は前の時点で何となくわかったし。イルとネルは武器の時点で論外だったし」

 イルとネルはチェーンソーを使って攻撃するって聞いてたけどアニメじゃないんだし。使い勝手も悪いから武器のとこから矯正しなきゃならない。

「女の子を傷つけたくないって言うのは建前だったの?」

「好き好んで女を殴りたいと思ってる奴に見えるのかよ。……ま、いいや。ゲーム終わるまで話でもしててくれ」

 半分呆れながらも白音を連れて体育館を出た。

「……なあ、白音。俺DVするやつに見えるか」

「……真面目に気にしてる先輩、面白いです」

 面白がらないでくれ。

「……大丈夫ですよ。優しい自慢の先輩です」

 そう言われるとかなり恥ずかしいところはある。

「……あ。照れてますね、先輩」

「うっさい。こっち見るな」

 もうこの話題は気にしないことにした。



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17話

 体育館での戦闘後、校庭に入る直前で木場と合流した。手には黒い西洋剣が一振握られているも、傷は特に見当たらない。完勝してきたと言ったところか?

「一誠君。首尾はどうかな」

「大切なものを失ったよ」

「あはは……女難かな?」

 理解が早くて助かる。

「……先輩が一言余計なのが悪いです」

「何があったのかな」

「ちびっこ体型には欲情しないって言っただけなんだけどな」

「地雷原を走り抜けるのが趣味なのかな」

 言った後に気づいたんだよ。

「そんで、アイツらどうするよ」

 ふと、視線を校庭に向けると、そこには剣を携えた女騎士と手に薄い手袋を装着した黒衣の女の子が立っている。確か、騎士の子と戦車の子だったな。

「騎士の方は僕がやるよ。戦車の方は?」

「……私がやります。」

 オーケー。早く決まって何よりだ。

「じゃ、任せた。俺は……アイツの妹と話してくるよ」

「……妹?シスコンですか」

 どうしてそういう話になった。

「そういう話じゃなくてな。一応確認しに行くだけだっての」

「……手を出していいか?」

「何時から俺は色欲魔になった。……ま、いいだろ」

 そういって、白音の頭を優しく撫でた。

「じゃ、言ってくるわ」

 そう言って、その場を後にした。

 

 到着したのは本校者の近くにある木陰。天気がいい時は、木漏れ日か差し込んでとても気持ちのいい場所だ。今は夜の設定らしいから関係ないけど。

「よ、久しぶり」

 そこに居たのは、金髪のツインドリルヘアが印象的な女の子。どことなく気品溢れるというか、上品さを醸し出している。容姿も整っており、一言で表現するなら『高嶺の花』なのだろう。

「お久しぶりですわ。赤龍帝」

「前みたいにイッセー様とは呼んでくれないんだな」

「一応、兄の敵。この場くらいは険悪なムードを作りますわ」

「その発言で台無しだと思うけど」

 変な所で抜けてるんだよな、この子。普段はエリート顔負けなくらい頭が働くのに。

「……こほん。それで、何用ですか。まさか、思い出話をするために来た訳でもない……ですわよね?」

「それでもいいんだけどな。一つ、確認にな」

「確認?」

「あいつ、なんでリアスと結婚したがってるんだよ。それこそ、ハーレムなら作ってるだろ。こう言っちゃなんだけど、クイーンも相当美人だからさ」

 がっつりとお姉さん系だから趣味ではないけど。……いや、そんなこと言ったらあいつに殺されるか。

「ただの趣味……ですわね。親同士の場合、確実に魔王様が破棄するでしょうし。上手くいって立ち回ってるのでしょうね」

「……は?趣味?」

「そうですわ。考えても見てほしいですわ。兄の眷属を」

「あ……。あいつの眷属も趣味なのか」

「私もその被害者ですわ」

「被害者?」

「妹属性だのなんだのと言って眷属に」

 心中察する。

「まぁ……。リーアを趣味で妻にしようとしてるわけか。そうかそうか」

「心中察すところではありますわ。でも、ある程度加減はして欲しいものです。後腐れなく、です」

「じゃあ、俺が多少ボコってもいいんだよな。多少なら」

「どうぞ。心置き無く。多少痛い目を見なければ、性根は変わりませんわ。甘やかされすぎですもの」

「はは、容赦ないな」

「多少お灸を据えてくれるのならば、今度お茶会にでも招待しましょう」

「お、楽しみにしてる。レイヴェルの焼いたケーキ美味しいんだよな」

「ほ、褒めても何も……」

「あはは、照れるとか可愛いところあるのな」

「からかわないでほしいですわ……」

「あはは、悪い。……そろそろ行くか。じゃあな。近々挨拶に行くよ」

 そう言って、その場を後にした。

 

 本校舎の前で魔力を魔力を少しづつ解放する。特に考える必要なんてない。ただ、目の前の建物をぶっ飛ばすだけだ。結界内だから、周囲の被害を気にすることもない。

「じゃあ、お灸を据えるとするか」

 ただ、思い切り肺に空気を吸い込み、魔法陣を口の前に展開する。

 龍といえば、やっぱり咆哮だよな!

「……咆哮(ブレス)

 そう呟き、肺に溜め込んだ空気を全力の魔力と共に解き放った。目の前が赤と白の光に包まれ、空間ごと削る勢いで後者を包み込む。

 ーードガァアアアアアアアアアンッ!!!

 それが本校舎に触れると、ちょうど全体を包むように膨張し、空間ごと建物を丸ごと消し去った。

 ……やっべ。やりすぎた。

「な、なんだぁ!?」

 旧校舎のちょうど中央ーー生徒会室があった場所で再生されるライザー。

 全身を吹き飛ばしたけど、炎と共に再生するのか。ってか、空間ごと削っても生き残るのか。勉強になるな。

「お、生きてた。バランスブレイカーを使わないならさすがに生き残るのか」

「な、なにっ!?ふざけるのも大概に……!」

 ただ、一瞬で距離を詰めて右腕を引きちぎった。一々言葉を聞くつもりもないんでな。早く終わらせようか。

「……っ!?貴様っ!?」

「再生すると言っても腕は惜しいか。なぁ、上級?」

 段々と笑いが零れる。久しぶりにすぐに壊れない相手だ。少しは遊べそうだ。

「舐めるなっ!」

 即座に右腕を再生するけど、あの強度じゃそんなに意味は無い。

「再生速度は思ったよりも早いな。褒めてやろうか?だが、フェニックスにはそこまで難しい事じゃない」

「ほざけっ!」

 特に工夫することも無く炎を放つライザーに対し、こっちは校舎を吹き飛ばした時と同じように赤と白の混じった咆哮を放った。

「……っ!?」

 特に均衡することも無く、一瞬で炎ごとライザーの身体は消し飛んだ。

 しかし、再生能力だけは一級のようで、簡単に復活してしまう。さて、どうしたものか。

「貴様っ。フェニックス家の三男に対して……!」

「いや、ゲームに立場もくそもないだろ。それに、結構キレてるんだぞ。リアスを趣味の為だけに娶ろうとしてる不届き者だもんなぁ」

 ただ、魔力を解放させる。無造作に、感情に任せて。

「俺の女に手ぇ出すんじゃねぇよ。焼き鳥」

 後は、単なる一方的な暴行だった。

 顔をつぶし、四肢をへし折り。心臓を潰し、全身を裂く。それを再生と同時に続けた。トラウマを刻むように。二度と逆らえないように。

『ライザー様。戦意喪失により再起不能。リアス様の勝利です』

 アナウンスが流れたのは、その十数分後だった。



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18話

 ゲーム終了後、休憩室にてチョコを頬張っていた。

 特に感傷に浸ることも無く、ただ、面倒なことを引き受けたと。それだけを考えていた。

「大丈夫、かしら。イッセー」

 ふと、声をかけてきたのは今回の主役というか、ヒロインというか。報酬とされていたリアス本人だ。

「なんだ、リーアか」

「なんだ、とは何よ。これでも上級悪魔よ」

「キャラじゃないだろ。立場を利用して偉ぶるとか」

「そういう気分もあるのよ。……甘いもの、好きだったかしら」

「好きだよ。嗜好品だろ、チョコは」

「貴方こそ似合わないことを言うわね。それに、何となく小猫を連想させるわね」

「まあ、大切な妹様だからな」

 ぴくり、と反応を見せるリーア。

「い、妹?」

「あれ、聞いてなかったか。リーアの眷属になる前に、一時期俺の家にいたんだよ。あいつらは」

「あぁ、血が繋がってるわけじゃないのね」

「なら神器は宿らないだろ。義兄妹ってやつだ。多分、甘党なのは俺の影響だぞ」

「それは初耳ね」

「俺がアイツらの前でよく甘いものを食べてたからなぁ。もちろんあげてないぞ。猫には砂糖はダメって聞いたから」

「あぁ、そういうこと。猫はダメだけど、猫又は大丈夫よ」

「後で知ったよ。よく牛乳とかあげたからなぁ」

 いい思い出だ。白音が甘えてきた時とか可愛かったんだよな。

「それはそうとして、どうしたんだよ。忙しいんじゃないのか」

「大丈夫よ。仕事は終わらせてきたから。私こそ、甘えたいのよ」

 そう言って、唐突に抱きついてくるリーア。

「おいおい、キングとしての威厳はどうしたよ」

「意地悪な事を言うのね。私は貴方に甘えたいから来ているというのに」

 あ、これどうやっても逃がしてもらえないやつだ。

「さっきまで鬼神のごとく暴れ回ってたんだぞ、俺」

「それがおかしいのかしら。少なくとも、私は嬉しかったわよ。イッセーに本気で想われてると分かったから」

「わるいかよ。なんだかんだ言ってもお前は大切な女の子なんだよ。俺にとっては」

 かけがえのない、唯一のな。

「正直言うと、ライザーが本当に良い奴なら手を引くのが正解だと思ったよ」

 はぁ、とため息を吐く。

「俺と一緒にいたって傷つくだけだぞ。心も身体も。お前には似つかない」

「随分と舐めてくれるわね、イッセー。……いえ、赤龍帝?」

「なんだよ、急に」

「だってそうでしょう?想い人と添いとげる上で楽しいことだけでは済まないのは周知の事実でしょう。その程度で気が削がれるなら、最初から好きになっていないわよ」

「……ったく、いい女だよ。お前は」

「それに、公開告白もしてもらったわけだから」

「え、何の話だよ」

「気づいてないのかしら。俺の女に手を出すなって言っていたくせに」

 ……え?

「あれって、告白に入るのか?」

「……はぁ?当たり前でしょう。それとも、逃げるのかしら」

 実際、今この場からは逃げたい。

「前に行ったろ。いい女になったらって」

「今、いい女って言ったわよね」

 失言しちまった……。

「……とりあえず、一言だけいいか?」

「何よ」

「なんで、当たり前のように抱きついてるんだ?」

 スルーしてたけど、さっきから当たり前のように抱きついてるリアスさん。セラのせいで感覚がズレてたけど、普通はおかしいよな。

「普通、ここは優しい言葉をかけて抱いてくれるところでしょう」

「俺にはそんな甲斐性もないし、なんなら色欲魔でもないんだが」

「後半はともかく、前半は嘘。その気になれば手篭めに出来るでしょう」

「買い被りすぎだっての。……ってか、いつまでこうしてるつもりだよ」

「気が済むまで、よ」

 はぁ、とため息を吐くリーアさん。

「あの、リーア?」

「リアス、よ。こういう時くらい、本名を呼んでくれなきゃ嫌よ」

「……リアス。甘んぼになってないか」

「当然よ。数年ぶりのイッセーを感じたいもの。これでも我慢してたのよ?眷属の手前、思い切り甘えることも出来なかったから」

「どの口が言うんだよ……」

 まあ、少しくらいはいいか。俺のご褒美もまだ貰ってないことだし。

「あと、悪かったな。念を押すように何度も前に出てくるなって言って。何となく理由わかったろ」

「ええ。……巻き込まれたら確実に死ぬわよね、あれ」

「久しぶりで加減がな。……まあ、あれだよ。バランスブレイカーになってないんだよ、あれ」

「……あれで?」

「そう、あれで。あんまりはしゃぎすぎても空間壊れるから加減はしてたよ」

 まあ、あれだ。壊してみんなを危険に晒す訳にもいかないし。

「あ、そういえばひとついいことを教えてやるよ」

「何かしら」

「別にリアスを見て女性として見れないって訳でもないんだ。嫌いって訳でもないし」

「じゃあ、何故私を拒むの?」

「拒んでないっての。……普通に考えて結婚だなんだとお前の兄貴に言われたら普通断るだろ。人生なんて俺の一存で左右させられないし。その逆も然り、だろ」

「変なところで奥手なのね。俺がお前を幸せにする、くらい言えないのかしら」

「色々あるんだよ」

 主に女性関係で。

「だって、今回の解説席にあいついたろ。つまりだ。こんな状況を見られたら洒落にならない訳で」

「イッセー君、お疲れ様。まあ随分といじめ……た、ね?」

 と、口は災いの元と言ったとこで、当たり前のようにセラが入ってきましたとさ。ゲームオーバー。

「ね、ねえ。イッセー君……これ、どういうこと?」

「俺が聞きたい」

「あら、魔王様。私のイッセーに何か用かしら」

「わ、私の?」

「これ以上修羅場を広げないでください」

 もうやだこの状況。早く癒されたい。

「どうせ、癒されたいとか、解放されたいとか。そんなことを考えてるんでしょう」

「人の心を読むなよ……。俺は修羅場じゃなくてもっと穏便な方がいいんだよ」

「大丈夫。イッセー君は私と一緒に居るんだから」

「束縛発言は火に油を注ぐだけだぞ。……ま、とりあえず今は我慢しとけ。今日はリアスの番だ」

「……浮気?」

「違うから。話をややこしくしないでくれ。……久しぶりだから、少しは甘えさせてやってくれ」

「まあ、今日は許すよ。今日は、ね」

 これ、一夜が来たら完全に俺死ぬやつだ。

「はぁ……ま、いいか」

「イッセー……何が?」

「俺がどんな目にあってもいいや、って話だよ」

「何を諦めてるのよ。ただ少し修羅場になるだけよ」

「少しって……。今の現状でも相当だけど、もっと荒れるんだよ」

「何故?他の女が現れるわけでもあるまいし」

「あー……そうだな。そうだよな。リアスは知らないんだもんな。なんなら、セラもな」

「話が見えないけど、どういうこと?イッセー君」

「婚約者が来るんだよ、俺の」

 一瞬にして、その場の空気が凍りついた気がした。

「こ、婚約者?イッセー君にいたの……?」

「子供の頃の約束だよ。俺を救ってくれた命の恩人で、初恋の人」

 まるで雪のように白い柔肌と艶やかで引き込まれそうなほどの黒く長い髪が印象的な女の子。その紅い瞳は、まるで紅玉(ルビー)のように透き通ったもので。整った顔立ちと相まって、まるで物語に登場する幻想的な妖精のような子だ。

 ぶっちゃけて言うと、千夜先輩と瓜二つなんだが。……二人とも、美人なんだよな。

「今、どこにいるの?その女は」

「あー……やめとけ。セラじゃ勝てないから」

「なんで野蛮な事をする前提なのかな」

「なら周囲を凍らせながら怒りを露わにするな。確実に俺が防がないと全員死ぬ」

 マジでキレたら俺も多少は本気を出さないと止められないんだよ、セラは。仮にも魔王なんだから。

「今はグリゴリにいるって話だよ。アイツは一度肉体ごと消滅してるんだ。だから、俺の遺伝子とオーフィスの遺伝子をかけあわせて肉体を作って、そこに魂を入れたんだと」

「オー……フィス?」

「つまり、事実上最強の生物。俺と合わない理由も、サプライズの他に力の制御ができないって言ってたからな」

「それ、かなり不味くない?」

「立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は核兵器」

「超危険生物じゃん」

「大丈夫だって。いざとなったら俺が何とかするから」

「……って、グリゴリ?なんで?」

「そりゃ、復活させるなら今の技術だと聖杯を使うかグリゴリに行くかの二択だろ。何も難しい話じゃない」

「そうじゃなくて、誰がそれを始めたのって話。まさか、死んだその子が直接依頼したわけじゃないでしょ?」

「……え?」

 よくよく考えてみればそうだ。あいつは死んでいる状態で依頼なんて出来るわけがない。かと言って、誰かが陰謀で復活させるなんて有り得るのか?たとえ元白龍皇だとしても、それをすることに意味なんて……。

「おい、ちょっと待てよ」

 嫌な予感が……直感にも似た、何かが脳裏を掠めた。

 今年に入って、俺が堕天使に殺された件とディオドラの一件。それが全く別の一件ってことになるのか?それに、遺伝子情報はどこから手に入れた?……俺に堕天使をけしかけて、怒らせようとしたのもなにか意味があるのか?

 ーー堕天使全員コカビエルみたいな思考してんじゃねぇんだ。

「あ、あぁ、おい。そういうことか。いや、そういう事なのか?」

 点と点が線で繋がったように、ストンと腑に落ちてしまった。いや、これが本当なら、相当やばいことになるぞ。

「ど、どうしたの、イッセー君」

「セラ。堕天使陣営で不穏な動きって何かあったか?」

「特にそういう話は聞いてないけど、ちょっと待ってね」

 そう言って、スマートフォンを操作してメールを開いている。あれは悪魔専用のスマートフォンで、特殊な魔法陣が組み込まれていて盗聴等の対策が完璧になされている特別モデルだ。

「えっ……?ちょっとまって?何者かがエクスカリバーを盗んだって情報が」

「……やられた。そういう事かよ。何を喜んでたんだ、俺は」

「ちょっと、どういうこと?説明して?」

「全部コカビエルの掌の上で踊らされてただけって事だよ」

 そう言って、スマートフォンをポケットから取り出して、すぐに通話を開始させる。相手は勿論アザゼルだ。

『……なんだ、お前か』

 数秒もしないうちにアザゼルは出たが、どこか元気がなさそうな声に聞こえた。

「おい、アザゼル。コカビエルはいるのか。カヤは無事なのか」

『どこまで知ってんだ、お前』

「何も知らねぇよ。こっちは嫌な予感がして電話してんだ。お前、俺の遺伝子情報どっから持ってきた。なんならカヤの魂もだ。そしてエクスカリバーの一件はどうなんだよ」

『一度に言うな。恐らくは、お前の推察通りで遺伝子情報はコカビエルからの提供だよ。魂の方は元々アイツから復活させろと依頼があったから、こっちで確保してた。……そして、エクスカリバーはコカビエルのバカがやらかした』

「おい、ならカヤは無事なのかよ。何かあったら俺がお前をぶん殴る。絶対に許さないからな」

『それは大丈夫だ。あいつは一種の封印状態だから、そもそも悪用できない』

「封印……?」

『正確に言うと、閉鎖空間でひたすら力のコントロールをしてるんだよ。お前に会うためにってな。だから、先ず干渉できない。……したら一瞬で消し炭だろうな』

「……俺の推察だと、カヤを操って戦争でも起こそうとしてるって結論に至ったんだよ」

『それよりも酷いかもな、ある意味だと。アイツが向かってるのは駒王町。そこには誰がいると思う』

「おい、まさか……」

『そのまさかだよ。魔王の妹が二人も居るんだ。どちらか片方でも殺せば魔王は怒って戦争を仕掛けるってハラなんだろうさ』

 何となく、本当に感覚の話になるけど、どす黒い何かが流れ込んで来るような感覚に襲われる。本当に、真っ黒でマグマのように熱い何かが。

「一応確認するが、俺はコカビエルを殺してもいいのか?お前の所の幹部だろ。お前が私刑を下すのも問題だけどさ」

『その通りだよ。体裁を整えるなら、俺が消すのは些か問題になる。それで、お前に酒でも渡しながら頼もうとしてたところなんだよ』

「未成年者に何を勧めようとしてんだ。……決めたよ。俺はコカビエルを殺す」

『あのバカを頼んだ。……一応確認するが、報酬は要求するのか?』

「カヤの一件もあるから、今回はお前が顔を見せに来るだけで勘弁してやるよ」

『それは、俺を拷問するという死刑宣告じゃないのか』

「まさか。カヤの一件は感謝してるから、あくまで遊ぶ約束だっての」

『お前、俺をレースゲームでボコボコにしたの忘れてないからな』

 ーーぷつっ。ぷーっ。ぷーっ。ぷーっ。

 面倒な話になりそうだからとりあえず切った。

「ねえ、イッセー君。コカビエルがどうしたの?」

「今アザゼルに確認をとったけど、エクスカリバーを盗んだのはコカビエルだとよ。なんなら、戦争仕掛けるためにソーナとリアスを殺しにくると素敵な招待状を寄越したよ」

「ねえ、それ本当?」

「アザゼルから直々に聞いたよ。コカビエルの計画ってやつを。俺の遺伝子は俺が襲撃された時に奪ったものをぬけぬけと提供だなんて、よくやってくれたもんだ」

 ……あとは、することは決まってるか。

「なあ、リアス。一応確認するけどさ」

「……何よ、改まって」

「俺と同棲するってのは、ダメか」

「……え、ええっ!?」

 とりあえず、修羅場になるのは我慢しよう。リアスのためだ。



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月光校庭の鎮魂歌
19話


これからは真面目に書きます()


 とある日の休日。窓から差し込む日光で目を覚ます。ちゅんちゅん、と子鳥のさえずりが耳を擽る心地のいい朝だ。

 悪魔になったとしても寝起きというものは心地のいいもので、生を実感出来るというものだ。

 首から下には心地のいい柔らかい感触があり、甘いにおいが鼻腔をくすぐる。

 ……うん、気にしないことにしよう。そうしよう。赤よりも赤いストロベリーブロンドと紅髪が見えるけど、気にしないことにしよう。

「ん……ふわ……おはよう、いっせぇ……。ん……ごめん、なさい……あさ、よわいの……」

 待て、そうじゃない。なぜ布団の中にいるのかを聞きたいんだ。そしてなぜ全裸なんだ。露出癖でもあるのか。

「まじまじと見て……。私、寝る時は基本裸よ……?裸じゃないと、寝られないのよ……」

 それはご馳走様……じゃない。真面目にそんなことを話したいんじゃない。

「何で俺の布団にいるんだよ。別に準備……というより、ベッドに寝かせたろ」

 そう、本当なら俺が床に敷いてある布団で寝て、リアスがベッドに寝かせたはずなんだ。昨日はそうしたんだ。

「私がイッセーと寝たかったのよ。それ以上に理由が必要かしら」

 上目遣いで見つめるのは卑怯だと思う。

「嫁入り前の女の子が易々と男に肌を見せるのはダメだと思うけどな」

「イッセーが貰ってくれないの?破談にしたのは貴方なのよ。それにプロポーズも」

「……それを言われると辛いとこだけどな」

 ただ、この現状を誰かに見られたら大惨事だよな。体勢としては全裸のリアスに押し倒されてように見えなくもない。変な誤解を受けるのはこりごりだ。

「誰か来ても困るから、早く服を……」

「イッセー、いつまで寝てるの?早く起きな……よ……?」

 バッドエンド。野生のこよみが飛び出してきた。

「なぁ、こよみ」

「なに、イッセー」

「こんな時、どういう顔したらいいか分かんないんだ」

「笑えばいいと思うよ」

「……ごめんなさい」

 結局、俺は朝からどやされることとなったわけだ。

 

 

 俺がリアスとの同棲を始めた理由。それはコカビエルから守るということが一番だった。

 コカビエルは堕天使の幹部ということもあって、普通に強い。そう、普通にだ。光の出力はそこらの堕天使相手でも消滅させられるほどに高く、徒手空拳もかなりつよい。そう、一般的に見れば。そんなやつと、リアスが戦ったら先ず殺される。明らかに時期尚早だ。

 かと言って、サーゼクス本人が護衛につくわけにもいかない。いかにシスコンでも魔王だから勝手なことは出来ないだろうし。やりそうで怖くはあるが。

 それで、結果論として俺の近くにいることでそれを防ごうという寸法だ。

「……ねえ、お兄ちゃん」

 ジト目で睨みつけてくる憂姫。

「なんだよ、憂姫」

「一応。本当に一応確認なんだけどさ、下心があって同棲してるわけじゃないんだよね」

「当たり前だろ。……この町でコカビエルに勝てるやつなんて極小数だろ。なら、確実に勝てるやつの近くにいた方がいい」

「イッセー、あーん」

 そういって焼きたてのウィンナーを目の前に差し出すリアス。

「ん、あーん」

 それを快く頬張る。うん、おいしい。パリッとした食感に、噛んだ瞬間に溢れ出る肉汁。それに、朝に食べると数段美味しく感じる。朝の魔力というものか?

「現状を見て、そう思えないんだけど」

 明らかにイチャついてるようにしか見えないのは俺も思う。

「お似合いに見えるか、なんて冗談はやめとく。本当に命がいくつあっても足りない」

「それでいいんだよ、お兄ちゃん」

「朝からそんなに騒ぐことかしら」

「その騒ぎの元凶が何を言ってる。さっさと食べて出かけるぞ」

 その俺の発言で、二人の……こよみと憂姫の表情が変わった。

「ねえ、イッセー。出かけるってどこに」

「リアスとのデート……っていえば聞こえはいいか。ま、色々あるんだよ」

「で、デート?」

「だから聞こえはいいって言ってるだろ」

「イッセー、あまり意地悪するとみんなから嫌われるわよ」

「そんな冗談で嫌いになるようなやつじゃないってのは知ってる」

 そこら辺はちゃんと信頼してるところではある。

「第一、そんなことで嫌われたら遥とかアーシアとか、あとはセラとかと出かけてた時点で殺されるだろ」

「「「……でか、けた?」」」

 一瞬にして空気が凍りついた気がした。

「いや、結構な頻度で遊びに行ってたろ、俺。その相手がその三人の誰かって事が多いってだけで」

「いや、初耳だけど。遥からは一人で過ごす事が多いって聞いてたし。アーシアさんからは出かけるとしか……」

 あれ、これしくじったやつ?

「……てへ」

「それで誤魔化せるとでも?」

「ごめんなさい。いや、言い訳って訳じゃないけど、高校生になったら女の子と出かけることくらいするだろ」

「意中の女の子とするんだよ、普通は。友達だけで遊ぶってことはあんまりだよ」

「え、そうなのか?」

 割と友人感覚で遊びに行ってたけど。

「じゃあ逆に、どこに行ったのかな」

「アーシアとは喫茶店に行ったな。パンケーキとかを食べたし。セラとは前に遊園地に行ったし。遥とは前に猫カフェとか映画館に行ったっけ。カップル割が何とか」

「逆に、恋愛以外の何なのかしら……」

 ……まぁ、役得だったとは思うが。

「どうせ俺は無自覚天然タラシだよ」

「自分で言い出したらそれはただのクソ男だよ」

「だって……普通に話したり遊んだり……そういうのが楽しいんだよ……恋愛とかもいいけどさ……」

「遊び人、ってやつ?」

 随分と酷い言われようだ。

「てか、俺元々初恋の人はいるぞ」

「「「……え?」」」

「いや、俺も男なんだから恋くらいするだろ」

「……そういえば、そんなこと言ってたわね」

「ま、失恋したけどな」

「あー……聞いていいやつ?」

「まぁな。目の前で殺されたんだよ。俺の事を助けるためにな。……随分と昔の話だよ」

 深刻な……あまり話したがらないような表情を意図的に作ってみると、それ以上詮索されることは無かった。

 まぁ、話してて気持ちのいいものでもないからな。

「それで、デート先はどこに行く予定なの?」

「ん?教会。なんなら千夜先輩も一緒にだよ」

 結局の所、面倒事というものは続いていくものだ。……悪魔が教会とか、宣戦布告に行くようなものだが。

 



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20話

イリナ出したくて出したくて書いてたけど、今回は音声でしか出てこないです
幼なじみはいいですよ。現実にはいませんが


 千夜先輩とリアスと一緒に来た教会。

 以前、アーシアの一件で一悶着のあった廃屋だが、まぁ間違いはない。……まぁ、ここならまだな。本家の方に行ったら一発で戦争仕掛けに来たと疑われるレベルだし。

「休日に何故こんな場所に?」

 はぁ、とため息を吐く千夜先輩。

「少しな。元々ここは投棄された教会だろ?なら何か……面白そうなものでも眠ってそうでな」

「廃屋漁りなんで趣味が悪いわよ」

「普通ならな。ま、公的な理由があるんだよ」

「その公的な理由とやらを教えて欲しいわね。キングとして、あまり天界側を刺激するようなことはしたくないのよ」

「そこは大丈夫だ。俺、元々天界側の人間だし」

 数秒、二人はぽかんとした表情を浮かべる。

「……どういう、事かしら?」

「俺の幼馴染に紫藤イリナって奴がいたんだけど、そいつがキリスト教信徒で、子供の頃はそっちの方の奴らと話してたってだけ。ミカエルとかとは面識はあるが、まぁ許してくれるだろ」

「……スパイ、ってことは無いわよね」

「なんでスパイが本気でリアスを助けようとするんだよ。それに、スパイにならなくても魔王とかは協力関係にある程度には仲がいいし。むしろ喧嘩を売る方がデメリットだろ」

「……そう、よね」

「心配しなくても、俺は千夜先輩だけの兵士だっての」

 はぁ、とため息を吐くと千夜先輩は頬を赤らめていた。

「ほら、口説かずに早く行くわよ」

 呆れ顔のリアスさん。……俺、口説いてたか?

「ま、中に入れば俺の目的はわかるさ」

 そう言って二人を連れて教会の中へ。

 中は(俺のせいで)散乱しているけど、概ね無事か。

「ちょっと、どこに行くのよ」

「そんなに遠くじゃないさ。確か、この辺りに」

 そう言って、奥……隠し階段の近くの扉に手を当て、魔力を流し込む。

 すると、そこからとある剣が現れ、その柄を握る。特に変哲のないものだが、今回はこれに用があった。

「……それ、聖剣ね」

「ご明察。二人はこれに触れるなよ。怪我だけじゃすまなくなるから」

「イッセーはなぜ持っていて平気なの?」

 実を言うと聖剣には特殊なオーラが纏ってあり、悪魔が触れば肌が焦げる。普通なら、な。

「企業秘密ってことで。そんな事より、そろそろ帰るぞ」

「……その聖剣、もしかして」

「ま、その考えで合ってるよ。ほら、転移だ。早くしないと、な?」

「これ、私達がこき使われているだけな気がするわ」

「ご名答。要するにタクシーがわ……いたいいたい。ごめんなさい嘘です」

「よろしい」

 頬をつねるのは普通に痛いからやめてほしい。

「積もる話があるんだよ。リアスの眷属と千夜先輩に」

「「……?」」

 そのまま、俺達は有無を言わせずに旧校舎のオカ研部室に転移した。

 そこには予め集まってもらっていた木場、白音、朱乃先輩の三人が。

「……一誠君。休日に呼び出したと思えば、なんだい?それは」

「聖剣。エクスカリバーやデュランダルみたいな伝説クラスのものじゃないが、中々に高いものだぞ」

 そういうことを言っている訳じゃない、って顔してるな、木場。

「何故、悪魔である君が持って平気なんだい?いくら赤龍帝であろうと、悪魔がそのオーラに対して深刻なダメージを受ける摂理は変わらないはず」

「木場。聖剣を扱う際に必要な物を知ってるか?」

「適正。生まれながらに持つ資質が必要だよ」

「半分正解、半分不正解。ならその資質ってなんのことを言ってんだ?技術か?それとも体質か?」

「……それは」

「正解は因子だ。聖剣を扱う際に因子が一定量以上無いと人間であろうと容赦なく傷つける。ま、悪魔や堕天使はその比じゃないけどな」

「……そんな」

「そういや、一時期教会側の一部の信徒が暴走して人体実験を行ってたな。確か──」

「イッセー」

 ふと、言葉を遮られる。

「被験者なのよ、祐斗は」

 は?初耳だぞ、おい。

「それじゃあそんな話したのも、ここに呼んだのも相当性格悪いだろ、俺」

「……止める前に話をしたのはイッセーでしょう」

「ってか、おかしいな。被験者は俺の知る限り生きているぞ。なんで悪魔になってんだ、お前」

「生き、てる……?」

「てか、そもそもあの計画を潰したのは俺だぞ。偶然の産物だけどな。毒ガスで充満した部屋を吹っ飛ばして、憂姫に治療してもらってな。後遺症が残るやつも居たけど、それは天界側に治させたから、現状は被害者ゼロのはずだ」

「……何年前の話だい?」

「五年以上も前の話だ。それこそ修行してた頃のな。てか、その中でも神器を発現させてたやつもいたな。結界を生成する類のやつ。……ま、そいつも含めてな。もし、お前がその被験者なら連絡先教えてやるから、この一件が終わったら会いにいけよ」

「……うん」

 木場の頬には涙が伝っていた。それはずっと……今まで溜め込んでいたものを全て出すような。そんな感じの涙。

「ま、聖剣に関しては悪魔の天敵って覚えればいい。先代のデュランダル使いなんて化け物だぞ。サーゼクスみたいな逸脱者を除けば悪魔は全員屠られる」

「……すぐに話を続けるのは鬼ね」

 時間が無いんだよ、こっちは。

「で、この聖剣は記録媒体も兼用しててな。なにか情報があれば……って感じだな」

「って、聖剣を持って無事な理由の説明がないわよ」

「因子を神器で増幅してんだよ。元々の適正はあるんだけど、それでも念の為にな。天然物ってやつだよ」

「その言い方だと養殖物もいるような言いぶりね」

「木場の手前言いづらいんだが……その計画が、人工的に聖剣使用者を増やすって目的で実行されてたんだよ」

「知ってるよ。失敗作呼ばわりされていたからね」

「まずそこが間違いなんだよ。実験は成功してた」

「ならなぜ、僕達は処分を?」

「そもそも計画は聖剣使いを増やすためであって、お前らを聖剣使いにする計画じゃないんだよ」

「は……?」

「因子の結晶化。そしてそれを一般人が摂取することによって聖剣使いを増やすって計画だぞ。因子自体は誰でも持ってるから、それを抽出してって感じだな」

「まって、まって……」

「そもそも技術自体は確立されてるんだよ。安全な方法でな。だから一般人から援助という形で受け取っていたりはするんだけどな。ただ、人体に影響が出ない程度でな」

「じゃ、じゃあ……僕達は……」

「あまり明言はしたくないけどな。ま、全員生き残ってるから……なんてお気楽なことはいえねーよ。ミカエルもこの一件で計画に携わった全員を異端の烙印押して追放したし」

「だから、許せと?」

「んな訳あるか。お前は教会上層部全員を殴るくらいの権利はある。復讐するって言うなら止めはしないけどな」

「……」

「お前は、今の生活を壊したいのか?」

 結局の所、ここに行き着いてしまう。

 復讐というものは、追っているうちは甘美な毒でしかない。それを達成した途端に、その身を滅ぼす。劇薬のようなものだ。

「リアスの眷属としての生活は楽しくないのか?なんなら、お前が死んだと思ってたヤツらに生きたまま会うことも出来る。……復讐に走ったらそれを全て失うことになるぞ」

「……それでも、計画に携わった人間を許せない」

「なら俺も手伝うことにする。俺が居た方が大義名分にもなるだろ」

「……一誠」

「こういうのは気が晴れるまである程度した方がいい。一線は踏み越えないように監視はするけどな」

「……ありがとう」

「計算高いのね」

 はぁ、とため息を吐く千夜先輩。

「この場で話すなんて、大義名分を得るのと同時に納得させるくらいだろ。危ない橋を渡らないようにはするから安心しろよ」

「そういう問題かしら……」

 そういう問題だよ。

「兄様、ご都合主義を詰め合わせたような感じに見えますね」

 俺も考えてて思ったけど、確かにそうだとは思うけど。

「てか、冷静に考えて単独行動させてたらこいつ確実に死ぬぞ。はぐれ認定されて教会の連中……それこそ聖剣使いに狙われる。しかも教会でも屈指のな。そいつらを倒せたとしても、次は主の不手際ってことでリアス、もしくは俺が討伐に。どの道ってやつだ」

「……確かに、そうだね」

「ったく、お前は友達に自分を殺せって言うのか?おい」

「……ごめん」

「分かればいい」

 殺しなんてもうコリゴリだっての。

「とりあえずあれだ。辛気臭いのは嫌なんだよ。さっさとケジメつけて、飯にでも行こうぜ?」

「……うん、そうだね!」

 木場はまぁ……復讐なんて考えずに生きて欲しい。そう思うのは俺のエゴかもしれないけど、まぁ……いいか。

「ま、この聖剣は俺のでな。一時期情報を仕込めるように魔法陣を仕込んでたんだけど……ま、なにか新しい情報くらい入ってるだろ」

「つまり、誰かがその聖剣に情報を?」

「誰かが、って言うより天界側の奴が情報を追加するようになってんだよ。厄介事を押し付けるために、な」

「兄様は何でも屋……?」

「武力でどうにかなることはな。ま、これで因子を流し込めば映像、もしくは文面が現れる」

 そう言いながら、ゆっくりと聖剣に因子を流し込んで、情報を──。

『やっほー!イッセー君!任務で私、そっちに行くからよろしくねー!』

『イリナ。あまりはしゃぐのはどうかと思う。これはあくまで緊急の──』

『イッセー君と会えるのは事実だもん!いいんだもん!』

『あぁ、赤龍帝。イリナが暴走したので私から。コカビエルの一件、ミカエル様……もしくはアザゼルから聞いていると思う。それて教会側からはゼノヴィアとイリナが行くことになった。今日は……五月一日。その翌日には駒王の駅に着くと思うから、道案内をお願いしたい』

『あ、勝手に話を進めてー!あ、じゃ……またねー!イッセー君!』

 と、騒がしい女の子と冷静な女の子の声が響きわたり、音声は終了した。あのバカ、映像込みで記録しないでやがる。これじゃイリナもゼノヴィアもどんな姿かわかんないだろうが。

「え、えと……一誠君。今の声の主は知り合いかしら」

「紫藤イリナ。俺の幼馴染だよ。天界側の人間で聖剣使い。小学生に上がる前くらいに親の都合で海外に……って、そこまでしか容姿知らないんだ」

「向こうは知ってる様子だったけど」

「こっちが聞きたい……。電話はしてるけど、写真だけは頑なに送ってこないんだよな」

「嫌われてるからじゃない?」

「……普通にショックだからやめてくれ。あと、ゼノヴィアってやつは本当に知らないぞ。イリナとペアってことは聖剣使いなんだろうけどな」

「あらあら、イッセー君はメンタルが強くないのね」

「からかうのはやめてくれ、本当に。仲良かった記憶しかないのに、いきなり実は嫌われてましたー、なんてこと言われたら泣いちゃうだろ」

「先程の感じだとそれは無いと思いますけれど」

 本当かなぁ……。

「ん?って、今日何日だ?」

「今日がその五月二日ですわ」

「今の時刻は?」

「十二時、くらい。兄様、早く行かないと……?」

「……飯奢れば許してくれるかなぁ」

 はぁ、とため息を吐きつつ駅へ向かった。

 忙しい日、ってやつなのだろうか。……疲れる。



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21話

やっぱりイリナさんとゼノヴィアさんは可愛い
異論は認めない


 今日は五月というのに辛いほどの日差し。もしかしたら30℃くらいにまで気温が上がってるかも、と錯覚してしまうほどに暑い。

 悪魔になってからはそれも前以上にキツく感じてしまう。まぁ、誤差に近いが。

 向かったのは駒王町の中心部にある駅。乗り継ぎができる、という訳でもなくダイヤ数が多いという訳でもない、普通の駅。まぁ、東京の都心部の駅のように多い訳がある訳もなく、って感じだ。

「十二時三十分。……まぁ、許容範囲内か」

 今から飯を食いに行くとしても丁度よ……くはないか。怒られるの覚悟で行こ。

「……幼なじみさん、居ないわね」

 と、隣を歩く千夜先輩。

「別に部室で待ってても良かったんだぞ」

「主として幼なじみさんに挨拶するのは当然でしょう?それに、会ってみたいというのも本音ね」

「と、言うと?」

「幼い頃の一誠君を知る人間だもの。興味くらいあるわ」

 この主様、案外独占欲強いぞ。

「てか、顔もわかんないのに探しようもないだろ」

「聖剣独特のオーラを感じる、とかは?」

「コカビエル討伐に派遣されるやつか持ってる聖剣なんて伝説級だろ。そんなのこれみよがしに出してたらビビる、と言うよりただのアホだろ。別空間にしまってる、って考えるのが妥当だ」

「まぁ、そうよねぇ。そんなアホの子が来るわけないわよね」

 そうじゃなきゃ俺も困る。弱かったら足でまとい、どころか前線に立たせるわけにもいかないし。

「じゃあどう見つけるの?無策、って訳でもないのでしょう?」

「普通に電話をかける。それが無難だろ」

「連絡先を知ってるなら早く言いなさいよ」

「連絡待ちだったんだよ。それこそ着いたら連絡くらいよこすだろ」

「普通なら、よ。その様子だと事前の連絡は来なかったのでしょう?なら、サプライズをしたいと考えているのが普通でしょう」

 そんないたずらっ子だっけ、イリナって。……さすがにやんちゃなのは卒業してるとは思うけど。

「はぁ……仕方ない。探すか」

 まずは容姿。俺の記憶だとボーイッシュ、というよりショートカットだったはず。それで貧乳の女の子……つまり、こよみの貧乳バージョンを探せばいいと。髪の色も似てたはずだし。

「随分と失礼なことを考えているのね」

「神器で読み取ったのか?」

「顔を見ればわかるわよ」

「ひと月でそこまでわかるようになるのかよ、主様は」

「惚れた弱み、というのかしら。いい所も悪い所も見えてくるわよ」

「はは、嫌いになったか?」

「そういう所も好きになるのよ。恋は盲目、なんて言葉を知らないのかしら」

「千夜先輩に似合わない言葉だよな、それ。もう少し強気な人だと思ってたよ」

「幻滅したかしら」

「まさか。それならそういう目で見てるだろ」

「それもそうね」

 割とこういう他愛のない話をするのも楽しいものだ。イリナを探さないといけないけど、少しくらいは許してもらえるだろう。

「って、そろそろ真面目に探さないとな」

 周囲にいる人間はせいぜい数人。その中で茶髪ショート貧乳っ子を探せばいい訳だが。

「……いない」

 それっぽいやつはいるけど肉付きのいいツインテール娘。というか長髪だ。その隣には青髪ショートの巨乳娘。前髪に緑のメッシュが入ってる。どっちも美人だ。それだけは言える。

「うん。まだ来てないみたいだ。帰ろうか、千夜先輩」

「あの茶髪の子がそうじゃないのかしら」

「まさか。俺の知ってるイリナは男勝りな女の子だ。あんな美少女じゃな──」

「鉄拳制裁!」

 と、大きな声で思い切り飛び蹴りを食らわせてくる茶髪の女の子。本当に痛い。

「なんで幼なじみの顔を忘れてるの!?」

「いてて……。あの、どちら様で」

「紫藤イリナ、忘れたとは言わせないよ」

「嘘だ!茶髪ショート貧乳っ子じゃないのかよ!?」

「どんな性癖暴露してるの!?」

「誰が性癖だコラ!そもそも俺の知ってるイリナはそんな容姿だったはずだぞ」

「何年前の話をしてるの!?もうあの時から10年は経過してるんだよ!?」

「ま、まぁ容姿はともかく……そんな可愛かったか?」

「昔は可愛くなかった、っていいたいの?」

「昔は無邪気な女の子で、今は美少女様だろ。普通に考えて理想の女の子みたいな容姿になってるとは思わないだろ」

 だって茶髪ツインテールな上に巨乳で全体的に肉付きがいい。……うん、普通に考えて理想の女の子だろ。

「そ、それなら許さなくも……って、おそーい!9時から待ってたんだよ!?」

「いや、お前がスマホに連絡よこさないからだろ。聖剣の情報なんてさっき知ったばかりだし」

「だから言っただろう、イリナ。別の方法でも連絡すべきだと」

「だってー!イッセー君なら気づいてくれると思ったんだもん!」

 あぁ、蒼髪の子、もしかして……。

「もしかして、君がゼノヴィア……さんか。すまない。イリナが迷惑をかけて」

「……これは丁寧に。私はゼノヴィア・クァルタ。イリナの幼なじみと聞いて、もう少し破天荒な人物を想像していたけれど、杞憂だったようだね」

「こいつが無邪気すぎるだけだ。あぁ、なるほど。イリナの手綱をゼノヴィアさんが握ってるのか」

「ゼノヴィアで構わない。赤龍帝に気を使われるのは恐縮だ」

「俺どんなやつだと思われてるんだよ」

 相当ヤバいやつとして認識してないか、これ。

「貴方の知り合いはどうしてこう騒がしいのかしら」

 呆れた様子の千夜先輩。

「それでさ、なんでイッセー君は悪魔になってるの?」

 一瞬、空気が凍った気がした。イリナの目から光が消えたような、そんな感じだ。

「1回死んだからな。余裕こいてたらぶっさりと胸を刺されてな。その時に転生させてくれたのがこの千夜先輩ってわけだ」

「初めまして。鷹白千夜。一誠君の王よ」

「あぁ、そういう関係なんだ」

「奇妙な縁だな。一応種族が変わっただけで中立だしな」

 まぁ、その方が安心だろうし。

「……まぁ、今は千夜先輩の味方って事で覚えてろよ」

 あんまりからかうと怒られそうだからそろそろ辞めるけど。

「つまり、イッセー君と千夜さんは付き合ってる、ってこと?」

「ん?んー……どうする?」

「どうするって、私の初めての相手を雑に決めるつもりかしら」

「とりあえず付き合ってないのはわかった」

 ため息をついてるイリナの姿に、どこか哀愁を覚えた。

「とりあえず悪い人に騙されてる、というわけじゃないのは分かったよ」

「あぁ、そういうことか」

「試される、というのは少し心にくるわね」

「まぁこれで付き合ってる、なんて言われたら本気で喧嘩を売ったけどね」

「まぁ魔王様にプロポーズはしてたわよ、イッセー君」

「爆弾を落とすのはやめてください」

「……イッセー君?」

「色々とある、としか言えないんだよなぁ……」

「赤龍帝は女たらし、と」

「唐変木の間違いよ」

「……みんなで俺をいじめるんだ」

 こんな時に誰か慰めて欲しい。全部身から出た錆だけど。

「てか、そろそろ昼だろ。腹減ってないか?」

「すいたー!なにか奢ってよぅ!」

「お前教会から資金貰ってきてないのかよ」

「女の子に財布出させるんだぁ?ってじょーだんじょーだん。残ったら残ったで返還しないといけない上に結構使用用途とかで文句言われるからあんまり使いたくないんだよね」

「めんどくさ……。半分死地に行くようなもんなんだから少しは緩くしろよ……」

「そこら辺は人間社会だから厳しいからねぇ。それに死地って、イッセー君が居たらまずならないでしょ」

「随分な信頼なことで」

 はぁ、とため息を吐きつつ頭を面倒そうにかく。

「ゼノヴィアは好きな物とかあるか?肉とか魚とか。キリスト教って確か食に対する制限ってないだろ」

「食べ物、と言うよりはお酒に酔うことは禁止されていることくらいだね。あとカトリックには断食があるけれど、それも任務だから今は関係ないという扱いかな」

「中々に面倒だな……」

「それと好きな物、と言うのであれば強いて言うのなら、肉……かな」

「よし、ならステーキハウスにでも行くか」

「ちょっとちょっと!?幼馴染には聞かないのかな!?」

「お前はなんでも食う上に肉が大好物だろ。あと甘いもの。ならステーキハウスの後にスイパラなりカフェなりに行けば満足するだろ」

「全部把握されてる……!?」

「幼馴染の好みくらい把握してるわ。エスニック系統が苦手なら変えるけど、あんまり変わりないだろ」

「まぁそうだよね。あ、カロリー高いのはあんまりかな」

「あぁ、年頃ってやつか」

「んー、結構な金額になると思うから?」

「いや、別に。俺の資産って結構あるからな」

「んん?そうなの?」

「自慢ぽくなるからあんまり言いたくないんだけど、フェニックス家と同じくらいは」

「ふぇに……なに?」

「……???」

 と、何故か無言で青ざめる様子の千夜先輩。

「日本円換算で兆は余裕であるわよ。あの貴族の資産」

「北欧やら三大勢力やら、色んなところから強制的に渡されてるから色々とな。それに女の子の食費くらい払えなくて何が男か、ってな」

「ひゅー、ご主人様だ」

「はは、なんだよそれ。まぁ、全員に奢るわけじゃないっての。奢りたい相手にだけ、な」

「太っ腹!社長様!」

 いやだから赤龍帝だっての。

「暑いし、そろそろ行くぞ」

「はぁい」

「ん、ご相伴にあずかる」

「先が思いやられるわね……」

「多分この流れがずっと続くぞ」

 頭を抱える千夜先輩を連れてステーキハウスへと向かうのだった。

 

 

「美味しいな、これは」

 そう言いつつ、上品にステーキを頬張るゼノヴィア。

 立ち寄ったのは駅の近くにあるステーキハウス。結構有名なチェーン店だったはずだけど、よくはわからない。

「これが故郷の味よ!ゼノヴィア!」

 と、子供のようにはしゃぎながらステーキを頬張るイリナ。口の周りを汚してるところは昔と変わらないな、ほんと。

「口の周り汚れてるぞ」

 そう言いながら、イリナの口の周りをナプキンで拭く。……これじゃまるで兄弟だな。

「仲がいいのね」

「幼馴染同士でいがみあうのもおかしいだろ」

「ねーっ」

「まぁ、綺麗に食べるって作法は覚えて欲しいけど」

「上げて落とすのは酷いよっ」

 まぁ、ゼノヴィアがそこら辺をしっかりしているから、余計にそう見えるのかもしれないけど。

「ふふ、私の場合は孤児院で叩き込まれたからね」

「あ、聞いちゃまずい話だったか」

「構わないさ。その程度のこと、隠す程でもってやつかな」

「ん、そうか。イリナには苦労させられるだろ」

「まぁ、それなりにはね。前にあったことは、四字熟語を教えると言って焼肉定食と答えたことかな」

 こいつバカだ。前よりもバカになってる。

「弱肉強食と間違えただけでしょ!?」

「普通間違えないだろ……」

「脳に行く栄養が全て胸に言っているのだろうね」

「反応に困る発言をしないでください」

 確かに肉付きはかなりいいと思うけどさぁ……。

「あ、照れた」

 やかましい。

「色んな人に言い寄られるくせに、女性耐性はゼロなのよ、一誠君は」

「甲斐性なし?」

 余計なお世話だ。

「べ、べつに……婚約者いるからいいし……」

「こ、婚約者!?」

「いきなり大きな声出すなよ。ま、色々あるんだよ」

「こ、婚約者かぁ」

「悪魔だと割と一夫多妻制はポピュラーよ」

 余計な事を言わないで欲しい。

「随分と爛れているね。旧約聖書だと案外その限りではないけれど、新約の方では完全に一夫一妻制だよ、キリスト教は」

「なら悪魔になるか?宗教の方はあれだけど、文化的にはできるようにはなるぞ」

「それは私達以外には言わない方がいい。冗談だとしても切り殺される程度の暴言になり得る」

「軽率だったよ。悪かった」

「構わないさ。それに、何かしらの……信仰を揺るがすものがあれば分からないかもしれないけれどね」

「まぁ、今は一応下級悪魔だからな、俺。駒を持ってすら居ないからな」

「君程の人物が?確かタンニーンは最上級だっただろう?」

「だって責任諸々がな。どんなに強いって言ってもまだ高校生だぞ?真面目な話、そこまで責任を負えるような立場にはなれない」

「まぁ、普通はそう考えるかな。ふふ、良かったよ。俗にいう普通の感性を持っている人物で」

「どういうふうに伝わってんだよ……」

「イリナからは散々かっこいいところと称して惚れている部分を語られ──」

「ゼノヴィア?」

「……すまない」

 もしかしたら手綱を握られているのはゼノヴィアな気がしてきた。

「元教会側の最強戦力、とは聞いていたよ」

「そっちに居たのは一年程度だぞ。ってか、強さならデュランダル使いのあの爺さんも居るだろ。下手な魔王なら片手間に倒せそうな」

「あの人は引退したよ。今の所有者は私だ」

「ちょっと、ゼノヴィア!?」

「この男なら話してもいいだろう。それに、協力関係になるのだから、手の内は晒すべきだ」

「それはそうだけど……」

 イリナの言いたいことは分かる。こんな公衆の面前で自分の武装を語るのは不用意だって事だろ。

 ま、ここに協力者がいたら消すだけだけど。

「ああ、異空間に収めてるのか」

「ご名答。あまりにも暴れん坊なのでね。こんな場所で出せば無差別に切断してしまう」

「先代は空間すら切ってたもんな。あと拳に聖なるオーラを素で纏って数キロ単位で吹っ飛ばすパンチ使ってきたりとか」

「先代は俗に言う怪物だったからね。それに追いつけるように精進するつもりさ」

「ま、幹部は屠れるようにならないと……かな?」

 煽るつもりは無いけど、最高戦力ならそれくらいはないと三大勢力のひとつとしてはメンツがな。

「イリナは?どんな剣を使ってるんだ?」

「エクスカリバー。それを四本統合したもの、って言えばわかるかな」

「……は?」

 マジで言ってんの?

「まず統合する技術が生まれてたのか?それに、それを扱えるのか……?」

「ミカエル様が統合したって聞いたよ。それに、因子量的には問題ないし」

「ん?なら統合前の三本を盗まれたってことか?」

「ん、そうだね。一日一本が限界らしいし」

「ふーむ、そうなのか」

 まぁ、本物に近づくのは悪いことでは無いか。

「で、これからどうすんだ?宛もなく捜しまわる訳でもないんだろ」

「ふふ、まずは……君の実力を知りたい。本気で戦って欲しい、とだけ言っておこう」

「女の子をいじめるのは趣味じゃな……って冗談だって。睨むなって、怖いから」

「……その軽口はやめた方がいい。戦士に対しては侮辱になる」

「悪いって。……なら、駒王学園に行こうか。スイーツはその後だ」

 何となくだけど、ゼノヴィアが好戦的な視線を向けているような気がした。まるで楽しい喧嘩をする前のやんちゃ坊主みたいな。そんな……楽しそうな視線を。



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22話

アーマードコアとスプラ楽しすぎて筆が進まない


 駒王学園に移動後、旧校舎の前の開けた場所で立ち会っていた。

 この場には千夜先輩とイリナ、ゼノヴィアの三人のみ。まぁ、さっきのメンツそのままって感じだ。

 本気を出せ、と言われたのは何時ぶりだろうか。以前にサーゼクスと戦った時以来か?いやぁ、懐かしいな。

 それをこんな俺と同い年くらいの女の子に言われるなんて。いや……楽しいな。

 こんなに強気なやつがまだ居たんだな。あんな腐った組織に。

「人に本気を出せ、なんて言ったくせに自分は何を使う気だ?デュランダルを使う気なんだろ?」

「勿論。手加減をしたらこっちが大怪我をしてしまいそうだ」

 楽しそうに魔法陣を展開するゼノヴィア。

 魔法陣から現れた柄を持ち、引き抜く。

 纏うオーラは上質な上に荒々しい。その蒼い刀身はまるで蒼空のように澄んでいる。

 久々に見たが、やっばり美しい。The、聖剣って感じだ。

禁手化(バランス・ブレイク)

 俺もそれに応える様に外套を展開する。少しくらいは本気を出してもいいか。

「それが君の力かい?凄まじい力だ。以前遠目に見た最上級悪魔なんかより、ずっと力強い」

「そりゃどーも。どうしたら勝ちにする?」

「戦闘不能になるまで、に決まっている」

「ま、そうだよな」

「楽しみだ……!あの赤龍帝と戦えるのだから……!」

 楽しそうに微笑むゼノヴィアに苦笑するしかない。

「お前、相当な戦闘狂だろ」

「君も、相当だろうに」

「……本気で来いよ?全部受け止めてやるから」

「ああ、そうさせてもらう……ッ」

 その声と同時に、ゼノヴィアは思い切り地面を蹴った。

 地面はその踏み込みの強さで抉れ、一瞬で目の前に姿を現した。

「喰らえ……!」

 放たれるは無慈悲の咆哮。聖なるオーラがまるで奔流のようにその刀身から放たれた。

 悪魔にとっては掠っただけでも致命傷になるほどの威力だろう。そのレベルの密度。そのレベルの技術なのだ。

「ま、及第点をやるよ」

『Boost!!!』

 周囲に機械的な音声が鳴り響いたのと同時に、魔力が倍に増幅する。赤龍帝の篭手の能力の力の倍加だ。

 そのまま右手に魔力を込めて、聖なるオーラを振り払った。一回でギリギリ、傷つけないようにすることが出来るレベルの一撃。

 これ、並の悪魔……上級悪魔の大半はこの一撃で屠れるだろ。

「フッ……!流石だ、赤龍帝!」

「久しぶりに能力を使ったよ。強いな、お前」

「君に褒められるなんて光栄だね」

「威力だけならコカビエルを屠れるだろ、これ」

「……そ、そうかな」

「あとは技術を突きつめるべきだと思うが……嫌いなんだろ?小手先の勝負なんて」

「なぜ、そう思う?」

「力の押し合いに負けたくせにワクワクした顔しててよく言うな」

 と言うより、新しいおもちゃを買ってもらった子供みたいな笑顔を向けているな。

「ならもっと出力を上げろ。空間どころじゃない。万物を切れるほどの威力を突きつめろよ、ゼノヴィア」

「ふふ、これではまるで私の講師みたいだね」

「本気で戦うつもりなんて毛頭ないからな。俺に本気を出させたきゃ、現魔王クラスに強くなってから出直せよ」

「言ってくれるね。なら、もっと出力を……!」

「まぁ、今はそれ以上はもうストップだ」

 そう呟いたのと同時に、背後に移動して──。

『Transfer!!!』

 ゼノヴィアの背中に触れて力を譲渡した。ゼノヴィアが許容できる範囲の力を少しだけ超えて、な。

「にゃ、にゃにおぅ……!?」

 力なく前のめりに倒れこもうとするゼノヴィアの体を支えつつ、はぁと溜息を吐く。

「力の譲渡だよ。許容上限オーバーで譲渡すると、パンクして一気に力が抜けるんだ。こんなところでぶっ飛ばしたら、校舎諸々吹っ飛ぶだろ」

「全部、受け止めるって言った……!」

「状況に応じてな。ここだと被害がデカすぎる。個人的に頑強な結界を貼ってからな。民間人の被害を考えろよ、お嬢様」

「お、おじょ……!?」

「女の子だしお嬢様だろ。美人なんだし余計に」

「きゅう……」

 あ、なんかフリーズした。顔真っ赤で湯気出てる。大丈夫か……?加減誤ったか……?

「そういう所だよ、イッセー君」

 はぁ、と溜息を吐くイリナさん。

「いきなり好敵手に出逢えたと思ったら、いきなり口説かれてフリーズしたんだよ」

「……マジ?」

「マジ」

 口説いてるつもり全くなかったんだが……。

「次は私ね。強くなったところ、見せてあげるから」

「もうお開きだっての。このお嬢様が二発目をブッパなそうとしたから、割と色んなヤツらが怒りそうだから」

「色んなヤツら?」

「例えば、そこにいる俺の主様やリアス、あとソーナみたいなキング三人。あとほか陣営も見つけたら怒るからまた今度なら」

「えー……絶対強くなった私を見せようと思ったのにぃ」

「立ち姿や雰囲気でもわかるっての。ま、俺の隣に立って戦うにはまだまだだけどな」

「むぅ……!いつかギャフンと言わせるんだから!」

 ま、そのレベルになる前に寿命になりそうなものだけどな。第一、そんな危険な目に遭わせたりもしたくないし。

「本当に不器用ねぇ、一誠君は」

「なんの事だ?千夜先輩」

「素直に幼馴染さんが大切だから、危険な目に遭わせたくない。俺の近くで微笑んでいてくれ。って言えばいいのに」

 何言い出してるの、この人。

「……それじゃ嫌なんです。イッセー君を支えられるくらい強くなりたくて頑張ってきたんですから」

 明らかに雰囲気が変わったのがわかった。それはさっきまでの明るい雰囲気なんかじゃなくて、もっと……。覚悟を決めているような感じの。

「愛されてるわねぇ、一誠君」

「揶揄うのはやめてくれ、千夜先輩」

「ふふ、面白いものを見させてもらったわ」

 見世物扱いすんなよ、ほんと。

「ま、これで実力は分かったからいいだろ」

 そう言って外套を消滅させると、ゼノヴィアをお姫様抱っこして旧校舎へ向かった。

「……もう、自分で立てるのだけれど」

「少しぐらい甘えてもいいんだぞ、お嬢様」

「ま、まさかそれを私の愛称に……!?」

「まぁ、それは気分次第だよ、お嬢様」

「にゃあああああああああっ!!!!!」

 ゼノヴィアの絶叫は学校中に響き渡った。

 

 

「あまり騒ぎを起こさないで欲しいわね」

 はぁ、と溜息を吐くリアスに頭を下げることしか出来なかった。

「これで最後にするよ、こういうのは」

「貴方、世界屈指の実力を持っている自覚があるのかしら。力を解放すれば隠蔽諸々に相当な力を使うのはわかるでしょう」

「誠に申し訳ありません。ゼノヴィアの強さを知りたくてつい」

「つい、でバランスブレイカーを使った挙句に能力まで使用するのかしら」

「あれしなかったら俺消滅してたし」

「……は?」

「少し怪我するだけですごめんなさい。嘘をつきました」

 このリアスさん怖すぎます。

「するならそういう結界を作ってしなさい」

「憂姫辺りに菓子折り渡すとかしないと無理だろ、そんなの」

「するなって事よ。当代のデュランダル使いの本気と歴代最強、と言うよりオーフィスに次ぐ実力者の貴方の本気がぶつかれば、どうなるかくらい……」

「そこら辺で許してあげなさい、リアス」

 はぁ、とため息を吐く千夜先輩。

「貴女も監督不行届で処罰されても仕方が無いのよ。本当に」

「あぁ、そこは大丈夫だ。揉み消すから」

「いきなり黒い事を言わないで」

 綺麗事だけでは生き残れないからな、この世界。

「そろそろ本題に入るべきよ。コカビエルの件について」

「どうするかなぁ。一般人避難させた上でこの街を吹き飛ばすのが一番楽なんだよな」

「脳筋龍は黙っていなさい」

「いや、だってさ。デュランダルに可能な限り力を譲渡して全力で放てばそれだけで終わるぞ?今回の話」

「ふむ、それはいい。今日中に片付いて帰ることが出来る」

「良くないわよ、脳筋剣士さん」

「事後処理のことを考えなさい」

 そこまで言わなくてもいいと思う。

「相手は戦争したいだけのバカだぞ?先手を打たないと逆に光の槍を街全体に掃射とかやりかねないからな」

「……そういう性格なの?」

「アザゼルやシェムハザは穏健派だけどあのバカは完全に過激派のテロリスト予備軍だった。それが晴れて指名手配のテロリストになったってだけの話だ」

「随分と迷惑な……」

「ねぇ、イッセー君。おと……バラキエルはどうなのですか」

「穏健派……ってか、コカビエル以外の幹部全員穏健派だよ。娘のことを気にする親バカで、嫁さんのことが大好きな奴だよ。アイツは」

 でも雷光なんて光と雷を融合させた超高火力範囲攻撃してくるやつだからなぁ。敵に回したら恐ろしい。

「……そう、ですか」

「そういえば娘と母親が襲われてる時に助けたっけ。堕天使に襲われてる時に偶然通りがかって……」

「……イッセー君。そろそろ本題に戻っては?」

「あぁ、それもそうだな。まぁ、そういう話で先手必勝としか言いようがないからな」

「なら、捜索部隊を編成して街全体を捜索するしか無いわね」

「ならソーナの眷属とタイアップ、ってことになるかしら」

「そうなるだろうな。そういえばソーナにはまだ会ってなかったっけ」

「あら、そうなの?」

「だってみんな俺を避けるんだよ。昔馴染みであるほどな」

「兄様。学園でハーレムを形成していると話題」

「ひっで。こちとらハーレムどころか恋人もいないっての」

「ッ!?」

 約一名。某幼馴染が反応したけど気にしないことにしよう。

「まぁ、そんな感じで進めるか。」

「……赤龍帝。先程の私の攻撃は、かすり傷しか与えられなかったのだろうか」

「いや?あの状態で食らったら即消滅コースだよ。瞬時に最高レベルに強化した上でそれだって話。最上級悪魔クラスでも致命傷受けそうなレベルの一撃だぞ?さっきのお前の攻撃」

「世辞ではなく、かな?」

「お前に対してお世辞言ってどうするんだよ。しっかりとした本音だ。あと、赤龍帝じゃなくてイッセーな。その呼ばれ方はなんかむず痒い」

「……ふふ、わかった……イッセー。少しは自信が持てそうだよ」

 まぁ最悪俺がでばれば済む話だからな、今回。それに二人はこれから伸びそうだし。再起不能レベルにすることの方が損失だ。

「案外、合理主義者だったりするかしら」

「俺はいつでも合理的だっての」

 合理的だと判断したら被害度外視で暴れるだけで。

「ま、いいか。なら……合理的に行こうか。これ以上被害をだされても迷惑な上に不快なだけだからな」

 はぁ、とため息を吐きつつ、不敵に呟いた。

「さっさと終わらせて飯でも食いに行こうぜ」

 結局の所、自分が頑張ればどうとでもなると、そう思っていた。そう……そう、思っていたんだ。この時までは……。



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23話

かなり長くなりました
イッセーの立場諸々の説明回になってます


 ソーナの居場所というのが生徒会室に作られた別空間、という話位を聞いたんだが……。なんか、ズルくない?それ入り方が某映画みたいに柱に突っ込んだりとかしない?ロマンの塊だろそれ。

「貴方、たまに相当子供っぽいこと考えるわよね」

「高校生にそれを言うのかよ」

「それ以前に世界屈指の実力者でしょう。そういうギミックを見た事もないのかしら」

「普通に考えてそんな無駄なギミック作らないだろ。魔王城だってバカでかい城だし。リアスの自宅もそんなのだろ」

「案外、そういうことをしている所もあるわよ」

 まじか、初耳。ただその使い方はおそらく異世界転移ではなく人体実験のような見せられない類いだろう。

「いい加減、入るわよ」

 そう言いつつ、呆れた様子で魔法陣を展開した。あ、やっぱりそういう転移方法なのね。

 転移先は生徒会室と全く同じ空間。そこには生徒会メンバーが集まっていた。

「あぁ、千夜先輩以外全員ソーナの眷属なんだな」

「おい、副会長に向かって馴れ馴れしいぞ」

 そう言って近づいてくる茶髪の男。

「確か……匙、だったか?」

「ああ、そうだ。生徒会書記の匙元士郎だ。兵士の駒、四個だぜ?」

 なんで転生する際の駒数でマウントを取ろうとするのだろうか。変異の駒とか知らないのか。

「はぁ……やめなさい、匙。一誠君は変異の駒仕様。要するにどんな相手でも転生させられる駒を使用しているの。それでも転生させるにはギリギリのスペックを保有しているのよ、彼は」

「なっ……!?」

「どーも、一応世界屈指って言われてるよ。あとソーナとは幼馴染みたいなものだからこんな態度なんだよ。普通に他の先輩には敬語を使う」

「そんな……こんなハーレム野郎にそんな力が……」

 俺の評価そんな感じかよ、ちくしょう。

「……てか、ハーレムも何も恋人すらいねぇよ……言わせんなよ、おい……」

「……もしかして、童貞?」

「それ以上聞いたら下半身消し飛ばすぞ」

「……悪い」

 オイどうすんだこの空気。

「……こほん。その割には私の姉にプロポーズしたと聞いていますが。とても喜んでいましたよ」

「話の方向をそっちの方に持っていくのやめてください」

「……え、お前あのお姉様に……?」

「言いたいことは分かる。本当にわかるけどあいつは悪いやつじゃないから。あと相手によってその反応するのやめろ。本当に寿命縮めるから」

 そりゃいい歳して魔法少女コスしてるやつにプロポーズって聞いたらそんな反応にもなるか。

「……あぁ、それでここひと月程浮かない表情を」

「……余計なことは言わない」

 あ、素が出た。

「俺はまだ世帯を持つ気はないっての。ってか法律的にあと数年は無理だし」

「もしかしてお前、相当不備な目に……。てっきり取っかえ引っ変えかと……」

「そんなことしたら背中刺されるわ。ってかこの街がなくなる。そういう実力者しかいないんだよ、この街は」

「俺の知らない間に魔境に」

「ってか、ソーナ。再会そうそう悪いが、作戦会議優先だ。お前以外に上級悪魔以上の実力を持ってるやつは何人いる?」

「忙しないですね。まぁ、仕方ありませんか。私の眷属だと、椿姫が辛うじて……ですね」

 まぁ、上級悪魔になって数年のやつの眷属ならそのレベルだろうな。むしろ一人でもいる方がすごい方だ。

「なら結界を作る方向で頑張るしかないな。椿姫先輩とソーナの2人を起点とした結界、とかか?」

「まぁ、そうなるでしょうね」

「一応……お前──イッセーからみて、最低基準が上級悪魔なのか?」

「冷静に考えて上級悪魔でも何人も屠ってきたやつを相手にするのに、下級や中級を出して何するるって話だろ。死んでくださいって言ってるようなもんだぞ」

「……そう、だよな」

「まーそう落ち込むなよ」

「この中だと俺が明らかに弱いから、何かで役に立てればいいんだけどな……」

「主のことを思うなら今回は引けよ。自分の眷属が死ぬって相当なストレスだからな。それに、経験ならもっと段階を踏めって話だ」

「……ああ。わかってる」

 後で鍛える、なんてのは言わない方がいいだろう。多分、気に障るような発言に聞こえるはずだ。

「……こほん。ならば、次は居場所探しでしょうか。捜索隊の編成になりますね。索敵に長けた方は居ますか?」

「話が早くて助かる。索敵って考えるなら……仙術が使える白音になるんだろうけどなぁ……」

「白音、とは?」

「塔城小猫。まぁ深くは聞くなってやつだ。後で説明する」

「……なら、小猫さんを起点に?」

「できるならしたいんだけど、現時点だと無理だろうな。仙術を使い始めたばかりの白音じゃある程度近くによらないと気づかない可能性の方が高い。それであっちの索敵範囲に入ったらその時点でご破算、と言うより捜索隊が全員殺される」

「ならば貴方と二人がかりで索敵範囲を広げるのはどうでしょうか」

「そもそも俺は仙術が苦手だから無理だな。一時的な身体能力強化くらいしか無理だ。しかもそれも白音には劣るってレベル」

「なら、仙術を組み込んだ魔術を構築するべきかしら」

「それも無理。と言うよりそんなの悠長に組んでたらその前に先手を打たれて終わる。いかに強い奴がいても寝首をかかれたらその時点で終わりだからな。だから出来たら索敵特化の神器、もしくは魔術に精通したやつが居たら嬉しかったんだけどな」

「残念ながら……」

 まぁ、ないものねだりをしても仕方ないか。

「それで提案なんだが、いっその事魔力放出させておびき出すってのも視野にはあるんだが」

「と、言うと?」

「今回のターゲットはリアスとソーナだろ?魔王の妹を手にかけて戦争の火蓋を落とそうってんだから」

「えぇ、そうですね」

「なら、分かりやすくその魔力を放出すればおびき寄せられるって寸法だ」

「そんなに上手くいくとは思えませんが」

「だから、疑似敵を用意するんだよ。例えば俺と戦ったり、使い魔や何かと一時的に戦闘したりしたらあまり不自然でも無いだろ。はぐれ悪魔がベストなんだろうけど」

「なら、はぐれ悪魔の依頼がありますのでそれを利用するのはどうでしょう」

「願ったり叶ったりだな。ったく、めんどくさい。それこそアホ丸出しで突撃してきてくれたら楽なんだけどな。例えば今、ソーナが外に出たのと同時に……とかな」

「そこまで間抜けでもないでしょう。相手はあの堕天使の幹部ですよ」

「……いや?……いや???」

「なんですか、その反応」

「いや、あの組織そんなにまともなのいないから。神器オタクがトップでそれを支える不憫な補佐、その下に脳筋や嫁大好きなヤツとかそんな奴らしかいない」

「……と、いうと?」

「あそこの組織の魔術や魔法に対する対策が筋肉で殴る、って聞けば何となく分かるか?」

「……あぁ、そういう」

 まぁ、それでも戦闘自体は強いんだけどヤバいやつしかいないからなぁ、特に頭が。

「……ったく、随分な説明してくれるな。全く」

 明らかに呆れた様子で空間に侵入してくるひとつの影。明らかに悪魔とは違う雰囲気、と言うより気配。

 年甲斐もなく前髪が金髪に後ろが色が濃いめの茶髪。そしてちょいワル系の見た目。……あぁ、なんでこいつここに居るんだ?

「コカビエルに続いてお前も戦争したいのか?おい」

「人聞きがわりぃな。お茶目なお兄さんの散歩だろうが」

「おっさんの間違いだろ」

「な、なぁ……イッセー。この人は誰だ?」

「人じゃねぇよ、匙。こいつはアザゼル。堕天使の組織の総督だ」

「だ、だて……ッ!?って、アザゼルって俺でも知ってるレベルの堕天使だぞ……ッ!?」

「おいおい、そんなに鯱張るなよ。今は完全なプライベート……とは言えないが、戦争をしに来た訳じゃないぜ?」

「よく言うな。コカビエルを野放しにしていたくせに」

「ったく、耳がいてぇなおい。だからこうして助言や便利アイテムを渡しに来てやったんだろ?」

「そんなことするよりお前がコカビエルを倒せ。なんなら俺がお前を殺す」

「おー、こっわ。お前が言うとシャレにならねぇんだよ」

 冗談で言ってないからな。

「……随分と仲がいいのですね?」

「良くないっての。前にこいつに拉致されかけたんだ」

「……拉致?」

「仕方ねぇだろ?赤龍帝のサンプルなんて希少も希少なんだからよ」

「今からあの黒歴史ノートを音読しながら天界と冥界を行脚してやろうか」

「言っていいことと悪いことがあるだろ」

 なんならそのくらい頭に来ているところはある。

「お前のせいで教会側の人間まで派遣されてんだぞ?ほんとに大事も大事にした奴の上司なら責任取れよ」

「だからこうして来てやってんだろ。悪魔……しかも最高戦力クラスのところに単身で乗り込むなんて正気の沙汰じゃねぇだろ」

「……ったく。有用な情報持ってきたんだろうな」

「人工神器を持ってきた。コカビエルに取り付けている人工神器に反応して転移させるものだ。あと、コカビエルの戦力とかな」

「そんなんあるなら転移させて拘束しろよ。それで一件落着だろうが」

「こんだけ大事になってんのにか?それこそマッチポンプ疑われるわ。そのまま聖剣を返したとしても解析しただのなんだのと難癖つけられるのが関の山だろうが。ならお前みたいな中立のやつに狩らせるのが一番穏便に済む」

「人を便利屋扱いすんなよ」

「事実そうだろ?それに、お前だってそこの魔王の妹が死んだら嫌だろ」

「そりゃそうだけど……その前にお前がちゃんとコカビエルのこと見張ってれば起きなかっただろって頭の方が強いんだよ。アイツ過激派だったろ」

「全員の行動なんて把握出来るわけねぇだろ?なんだ?便所の時まで監視しろってか。それこそ反乱されるわ」

 こいつ完全に開き直ってやがる。

「そろそろ本題に。……ならば、今夜辺り学園に召喚しましょう。そのタイミングで防壁を展開し、閉じ込めるべきでしょう」

「あぁ、それには同意だな。アイツの戦力はエクスカリバー三本に神父が一人、それに聖剣使いが一人。あとケルベロスが複数、だな」

「は?なんでケルベロスなんているんだよ。それに神父?」

「ケルベロスはクローンを作っていたらしい。何匹いるかわかったもんじゃないが、まぁ多く見積っても数十匹だろ」

 ほんとに管理しとけよバカ総督。

「あと神父は追放された奴だ。以前に聖剣計画で異端の烙印を押されてな」

 ……そこでその名前が出てくるのかよ。

「エクスカリバーの統合に必要なんだとよ。その技術を持っているらしい」

「オーケーオーケー。そしてそれを扱う聖剣使いな。鏖殺でいいんだろ?」

「コカビエルは残して欲しいがな。こうなってしまっては仕方がねーよ。どうせ捕獲したとしてもコキュートス行きだ」

 ま、そうなるだろうな。

「イッセー。コキュートスってなんだ?」

「要するに冥府の牢獄。全身氷漬けの永久冷凍にされる場所って覚えてればいい。強くなった後に罪を犯すとそこにぶち込まれるから気をつけろよ」

「いやそんなことしねーよ……」

 まぁ、立場的に俺が殺しに行く事になるから生存確率はゼロだけどな。

「ま、そんな所だ。あとは自由にやってくれ」

「あ、報酬忘れるなよ」

「あいつの肉体作るだけでいいだろ?そこは。それで貸し借りはなしだ」

「もうひとつだ。上級悪魔になるために根回ししてくれ。それかフェニックスの涙を二つくらいか」

「随分なレート吹っ掛けてくるじゃねぇか。なんだ?誰か転生でもさせるのか?」

「ま、色々とな。それに今回は嫌な予感がする。もし……誰か死ぬことでもあったら、お前含めた三大勢力を相手に戦争しかけるからな」

「おーこわ。怒りの矛先が俺らに向くのか」

「いや?コカビエルの件が終わったら北欧にでも行くかな」

「うっわ。最悪な脅し文句するじゃねぇか。なんだ?フェンリルでも捕獲して二人で襲うのか?」

 そうでも言わなきゃお前約束守らないだろ。

「ま、うちの主が怪我でもしたらその時は覚悟しとけよ、って話だ」

「そこまで惚れさせるほどの何かがあるのかよ、お前の主様には」

「最高の主様だよ。唯一無二のな。だから傷物にしたら殺すぞ」

「ならお前が死ぬ気で守れよ」

「言われなくてもそのつもりだっての」

 いざとなったらあれを使ってでも守るから……な。

「……あまり、そういう事を衆人監視の中で言うのはやめて欲しいわね」

 あ、顔真っ赤だ。うちの主様。

「おーおー、お熱いねぇ。なんだ?あいつより主様が本命か?」

「あんまり茶化すなよ?暴れたら俺でもとめられる気がしない」

「……はぁ、全く」

 まぁ、容姿云々は置いておいても、この人は最高の主様だとは思うけどな。ほんと、いい女だよ。

「……」

 これ以上はやめておこう。

「……妬けますね」

 こっちでも嫉妬してる人もいることだし。

「英雄色を好む、ってか?いやー、羨ましいこった」

「ブレイザーシャイニングオアダークネスブレード」

「おい、お前。ほん、おい」

 こいつをいじるのも悪くない。

「じゃ、シバくか。コカビエルをしっかりとな」

「その前にお前をしばきたくなってるんだけどな、おい」

 半ギレの総督様は無視することにしよう。

「あ、そういや最後にひとつだけ。教会の人間には気をつけろよ?」

「神父か聖剣使いの話か?」

「いや?あの教会から派遣された奴らの話だ」

「幼馴染がいるんだけどな。なんだ?裏切る、とでも言うつもりか?」

「違う違う。アイツら、何か仕込まれてるぞ。神器を使用しないと分からない程度に偽装されてるけどな」

「……本当か?」

「おいおい、嘘ついてどうすんだよ。お前に喧嘩売るだけ損だろ?」

 ……まぁ、それもそうか。

「その術式の詳細までは分からないが、まぁろくでもないだろうな。それを知ってて駒とか言ってたんじゃないのか?」

「索敵系統に長けたやつがいないのにどう知るんだよ」

「ま、それもそうか。お前レベルでも偽装できるなんて相当だな。ま、最悪死んでも悪魔陣営には被害は無い、って言ってしまえばそうだろ」

「それは建前、ってやつか?」

「いや?本音だ。それこそ教会側の最高戦力が二人消えるなら願ったり叶ったりだろ。今はまだ和平を組んでる訳でもない。それこそ利害が一致しない限り協力もしない程度の関係だ。ま、それを是とするお前じゃないだろうけどな」

「当たり前だろ。何が悲しくて幼馴染が傷つくところを見たいんだよ」

「なら、いっその事そっち側に引き込むのもありかもな。お前の主が協会の人間転生させたって前例があるんだからまぁグレーゾーンだろ」

「ちょ、勝手に話を進めないで欲しいわ。それに私の件はイレギュラーが重なった結果許されたってだけよ」

「あ?お前、一誠のことを知らないのか?」

「なんの事かしら」

「おい、一誠。お前自分の主に説明もしてねぇのか?」

「巻き込みたくないんだよ。その手の話には」

 てか、聞いてもあんまりいい話じゃないし。

「主に隠し事とはいい度胸ね、一誠君」

「隠し事ってほどでもないんだけどな。まぁ過去に色々と」

「あれを大したことない、みたいに言うなよ。なんなら最悪、その主様が死にかねないって話なんだよ」

「そのレベルでもないだろ」

「千夜が……?……あぁ、その一件ですか」

 あれ、ソーナは知ってるのか。

「私だけ仲間はずれかしら」

「ま、三大勢力の幹部クラスとその妹くらいしか知らない情報だしな。無理もない」

「……ねぇ、そんなに重要な話なの?」

「当たり前だろ。各勢力のパワーバランスの話だ。じゃあコイツの強さってどの程度だと思ってる?」

「最上級悪魔数人程度の実力、かしら?」

「……おい。そこら辺ちゃんと説明しておけよな。こいつは本気を出せば一勢力なんて簡単に潰せるほどの実力を持ってんだよ。悪魔なら魔王全員含めた全員を屠れる程にな。それこそ全盛期の二天龍なんて比にならない程の実力者だ」

「……なら、なぜ私が転生させられたのかしら」

「あぁ、実力差の話か?こいつ普段は日常生活を送るために魔力と身体能力の大半を魔術で抑え込んでるんだよ。そのせいで任意で力を解放しない限り誰でも転生させることが出来る。死にかけてたんなら尚更な」

「……なら、教会の時のバランスブレイカー……いえ、もっと言うならライザーの時の実力は何なのかしら」

「あんなの遊びに決まってんだろ?見てて手加減しすぎて笑えてくるレベルだったわ。ま、そうでもしないと力解放しただけで全員殺して終わりだったろうな。教会の件はキレてたとしても街が破壊されない程度に無意識下で抑えたんだろ。もっとも防御用魔法陣を貼れば話は変わるが」

「俺をなんだと思ってんだよ。自制はする」

「でもまぁ、誰かのために力を振るうのはこいつらしいと思ったぜ?情報自体はこっちにも来たからな」

「……ま、悪い癖だろうけどな。自制が効かなくなるんだよ。大切な子が傷つけられたら、その相手を殴りたくなるんだよ」

「おー、こわ。こいつに殴られるとか大体のやつが身体貫通するかリアルアンパンマンだぞ」

「マジすか……」

「大マジだ。それこそ最上級悪魔でもな。じゃあそいつがどっかの勢力に固執したらどうなる?その時点でその勢力一強になる。ほかの神話でも同等にな」

「だから飼い殺しにすると?それである程度ゆるされる環境が作られている、と?」

「当たり前だろ。その方が普通だ」

「……何故?」

「わっかんねぇやつだな。あくまでこいつが中立だから大体のことが許されるってだけの話だぞ?前例ができたのがそのいい例だ。よく言えば便利屋。悪く言えば飼い殺し。ただその報酬として、こいつはわがままを言うことを許される側の存在になってるってだけだ」

「ま、生活に不自由しない程度にはな。そこまで悪い待遇でもない。って、随分な言い草だな、おい」

「さっきの組織説明のお返しだ、バカ。そんな理由でこいつはワガママが通用する立場なんだよ。それこそゴネて暴れられる方が問題だろ?」

「……それは」

「それに中立ならその眷属も中立扱いされる。安全を確保される、って言えば聞こえはいいが……要するにそいつらも三大勢力を含めた全勢力の便利屋になるってことだ。それこそ、今回みたいな事件の後始末とかな。何事もメリットとデメリットがあるって訳だ」

「私の眷属の扱いにしては、随分な所業ね」

「高々一介の上級悪魔の眷属ってだけで手出しするなって言えるほど矮小な存在じゃねぇんだよ。そこの龍は。お前ら悪魔だってはぐれ悪魔の討伐をして立場を確立し、報酬を受け取るところもあるんだろ?ただそれが大規模になったってだけの話だ」

 ま、ほかの上級下位程度の悪魔なら俺より自由に動けるところもあるけど。

「ただなんかの間違いで戦争が起きたとしても介入禁止ってなるから、ある意味では安全は確保されるわな。それが各勢力にとっても都合がいいことになるんだよ」

「……だから、なんでも許されるってこと?そんな掃除屋のような仕事をするから?」

「無論、相当な無理難題は無理だろ。たとえば魔王にしろ、とかな。まぁ最上級悪魔、もしくはうちの組織の幹部、はたまた天使側の重役くらいの立場を与える、ってなるならその立場で縛れるから逆に願ったり叶ったりだろうな」

 まぁ、言い方は悪いけどそうだな。

「だから、多少は許されるってだけの話だ。ってか、お前の眷属に甘んじてるのがイレギュラーなんだよ。相当惚れ込んでないとありえないぞ?」

「……そうなの?一誠君」

「人を兵器みたいに扱いやがって……。俺は千夜先輩以外の下につくつもりはないからな。ま、どうとでも捉えてくれ」

「あまり言うと惚気にしかならないから言いたくはないんだけどな。そいつ、下手したらお前絡みで戦争仕掛けるぞ。精々元気でいることだな」

「……わかってるわよ」

「ま、要するに誰を眷属にしてもお咎めなしって訳だ。だから好きに転生させていいぜ?なんなら抱いて娶るか?」

「そういう下品なのはやめとけよ。女の子多いんだぞ、ここ」

「男は多少下品な方がウケるもんだぞ?それこそお前の周りにも……。いや、これ以上は野暮か?ってか最悪あの魔王少女が殴り込んで来そうだからやめておく」

 ソーナに変なこと教えるな、って怒鳴り込んできそうだもんな、あいつ。

「とりあえず上級悪魔の一件は伝えておくわ。喜ぶだろうな、あの魔王」

「アイツを喜ばせるのは癪なんだけどな」

「ま、せいぜい気をつけておけよ。じゃあな」

 そう言って、あのバカは空間から姿を消した。

「で、どうするかしら。深夜零時辺りに結界を貼った状態で呼び出すとかかしら」

「ま、そうなるよな。人目が少ない時間帯がいい」

「……ねぇ、一誠君」

「どうしたんだ?千夜せんぱ──」

 ふと、思い切り抱きしめられた。思いっきりみんなに見られてるけど、いいのだろうか。……役得ではあるけど。

「私の傍から、居なくならないで」

「分かってる。ずっとそばにいるよ」

 ま、命が続く限り傍にいますよ。大切で大好きな主様。

「そういうこと言ってるからあんな修羅場になるんじゃないか?」

「雰囲気を考えなさい。匙」

 まぁ、後で匙を修行って名目でしばこ。確実に。

 




何度でもう言う
白音とイリナはマジで可愛い


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24話

 集合時間は零時ジャスト。場所は駒王学園ってことになり、現在集合している状態だ。

 戦闘に参加するメンバーとしては俺、教会組、リアス眷属、そして千夜先輩の眷属というメンツ。

 まぁ、これが妥当だろう。俗に言う最高戦力ってやつだ。なんなら俺一人でどうとでも出来るから、ある程度の力量を持ってる奴を教育する方がいいって判断のところが大きい。

 学園には大規模な結界。それこそ下手なミサイル程度なら防げる程度の。まぁ、ないよりはマシ程度なんだが。

「で、どうするつもりなの?」

 はぁ、とため息を吐く遥。

「人工神器で呼び出す。そして俺が消す。以上」

「随分と簡単なチャートだこと」

「呆れるなよ。その方が確実なのはわかるだろ?」

「まぁ、そうなんだけどね。お兄ちゃん一人で戦わせておけばどうとでもなるし」

「だーから、露払いよろしくねって話だろ?憂姫や遥ならどうとでもなるだろ」

「ちょっと。私は?」

「こよみ?パンチで周り吹き飛ばすからダメ」

「ぶー、けち」

 そんなこと言っても治す手間を考えるなら壊さない方がいい。

「ま、最初は様子見だって。ってか、俺よりも戦いたいヤツがいるし」

 と、ある方向に視線を誘導すると、そこには殺意に塗れた木場の姿があった。

「ありがとう、一誠君。僕にこんな機会を与えてくれて」

「お前の為だけじゃねぇよ。ただ……決着つけろよ?」

「……うん。そうさせてもらうよ」

 ま、これで木場の方は大丈夫か。

 あとは、何事もなく終わらせるだけ。そう、それだけなんだ。

「じゃ、呼び出すか」

 そう言うと、アザゼルから渡された人工神器に魔力を流して起動させた。

 現れたのは長髪の男性。背に八枚もの翼を生やす堕天使。ただ……あんなに汚かったか?堕天使の翼って。アザゼルの方がまだ綺麗だった気はするが。

「なるほど。アザゼルが俺に何かをしていたな。無駄に転移させる方法を用意していたとは」

 ふてぶてしい態度に、少し困惑を覚えてしまう。なんだ、この余裕。

「随分と余裕だな。この戦力差でおかしくなったか?」

「間抜け。この状況を想定せずにこんな行動を起こすわけないだろう。まぁ、まずは小手調べだ」

 校庭全域に巨大な魔法陣が展開される。この形式は、確か堕天使が多用する転移用魔法陣。

 そこから現れたのは無数のケルベロス。ざっと見ただけで二十匹はいるが、まぁ倒したら追加されると見たほうがいいか。

 それに神父二人。ひとりが白髪頭で小太りな爺さん。もう一人が以前教会で戦った白髪の少年神父。まぁ面倒なメンツか。

「資料にあった通りか。バルパー・ガリレイ。そこの爺さんが聖剣計画の首謀者だ。それにまたあったな、少年神父」

「ひゃははははっ!合縁奇縁とは正にって奴ですかい!?」

 相変わらずうるさいヤツだ。

「知り合いか、フリード」

「知り合いも何も、こいつが山を吹き飛ばした張本人ざんすよ。貧乏くじにしちゃできがわるい」

「安心しろよ。俺はお前らには手を出さねーよ。お前らには」

 はぁ、とため息を吐く。もう全部が面倒くさくなってきた。

「そこの爺さんに用があるのは俺じゃないんだ。こっちの俺の親友の方でな」

 と、視線をやるとわなわなと震えている木場の姿があった。

「お前が……首謀者……」

「ん?どこかで見覚えがあると思っていたが、あの時の被験者の一人か。成程。あの時被験者が一人脱走していたと聞いていたが、まさか悪魔に堕ちていたとは」

「……御託はいい。何故あんなことをした。何故、僕たちを利用した」

「理由も知らずに復讐でも考えていたのか?バカバカしい。まぁ、今は気分がいい。特別に教えてやろう」

 そう言うと、バルパーは懐からひとつの塊を出した。蒼く透き通った美しい結晶。

「これは聖剣を扱う際に必要な因子だ。それを人工的に人間の体から抽出したもの。あの時作った出来損ないだ」

「……まさか、その為に人体実験を」

「まぁ、最後のひとつになってしまったがね。これを取り込むだけで聖剣……折れたもの程度なら扱えるようになる代物だ。教会の連中も技術だけは応用して摂取しているようだがね」

「本当かい?教会側の二人」

「製造方法までは知らないが、聖剣使いが祝福を受ける際に同様のものを身体に取り入れる。しかし、殺人等とだいそれた話は聞いたことがない」

「当たり前だ。奴らは祈りを捧げに来た人間から死なないように摂取し、結晶化させているに過ぎない。私の確立した技術を使ってね」

「なら、何故……僕たちを殺そうとした」

「モルモットは廃棄するものだ。それこそ異端に触れたのならばね」

「お前は……人の命をなんだと……」

「身寄りのない人間に人権など保証されると思うか?」

 まぁ、これがその計画の全てなのだろう。人権のないの判断した子供を利用した人体実験。その犠牲者が木場。それ以上でもそれ以下でもない。

「……酷い」

「よくある話だろう。そこの魔女。いかに偽善者ぶったとしても、人体実験の歴史は変わらない。それすら見ないふりをして生きているのがお前たちだろう」

「ま、よくある話だよな。天界側だけじゃなく悪魔側でも、堕天使陣営でも。少なからずそう言うことをしてきたって歴史はあるんだろ」

 あえて、空気を読まずに言葉を発する。周りのヤツらがどんな表情をしようとも関係ない。

「ただまぁ……今の人間社会の人権意識のせいで異端扱いされてるだけで、合法だった時代もあるんだろうさ」

「……」

「ま、それを差し引いた上であえて言うが……こんな言葉があるだろ。因果応報って。過去に他人にしてきだんだろ?なら、お前にとってのそれが今ってだけの話だ」

「そこの悪魔は擁護するのでは無いのか?」

「なわけないだろ。あくまでそういう歴史があったってだけで、俺の親友に酷い事をしたって事実は変わらない。それだけで万死に値するよ」

 はぁ……と頭を乱雑にかく。

「一々面倒なんだよ。誰が生み出した技術がとか、それを誰が利用しただとか。結局は最初に人を生み出したお前が諸悪の根源でしかないんだ。それなのに他のやつに同じく利用されたら御免こうむる?通んないだろ。いくらなんでもそんな話」

「イッセー君……」

「だから、お前は死ぬんだよ。お前が利用してきた連中に、惨たらしく……気持ちの捌け口として利用されてな」

 と、それだけ言ってバルパーの持っていた因子を奪い、木場に渡した。

「……僕達は主の為と祈りを捧げながら、どんな非道な実験にも耐えてきた。それを実験動物の廃棄?……僕はは今まで生きていいのか。仲間を犠牲にして生き延びたことを後悔して生きてきたのに」

「それはお前が勝手に考えたことだろう。因子があったところでどうとでもできまい。フリード。そこの悪魔ふたりを殺せ」

「だーからボクちゃんじゃどうにも……!?」

 ただ、濃密なまでの殺気を放った。魔力に乗せて、明確にお前を殺す光景をイメージさせるように。

「今の話聞いて俺だって相当頭にきてんだよ。少しでも動いてみろ。身体の半分が消し飛ぶと思え」

「ら、らじゃー……」

「……フリード!?何をしている。そんな戯言に耳を貸すな!」

「まだ状況がわかってないみたいだな。木場以外動くな。それを破った誰であろうと容赦せずに殺す」

 まぁ、これだけ脅しとけばバカでも動かないだろ。

「……僕と共に生きよう。全てから解放されて、ただ自由に」

 そう、木場が呟いたのと同時に因子が砕け散った。それは神器と溶け合い、融合し、一つの形となった。

「……至りましたね」

「至ったって、まさか……?」

禁手化(バランスブレイカー)。その名前の通り世界が許容した禁じ手です。お兄ちゃんが偶に纏っているロングコートもそれの一種です」

「えと、それは一体……?」

「神器の進化形態、とも呼べる状態だよ。所有者の意識が世界の流れに逆らうほど劇的な変化を起こした時に至ることが出来る能力。大体はものすごく強いよ」

 まぁ、例外もいるけどな。

「……双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)

 木場の手に握られていたのは異質な剣。黒い刀身に聖剣のオーラと魔剣のオーラが内包されたもの。今までの剣とは比べ物にならないほどに強そうだ。

「聖魔剣とでも名付けようか」

「うわ、初めて見たわ。そんなイレギュラー」

 絶対に出来ないと思ってたんだけど、まぁ成功例が目の前にいるから否定しようも無いか。

「じゃ、お疲れさん。来世じゃもっとまともに生きろよ?来世があるかどうかは知らないけど」

 木場は思うままにバルパーに剣を振り下ろした。ただ、明らかに……復讐じゃなく、目の前の巨悪を消滅させるって意志を感じた。ま、及第点ってところか。

「ま、これで終わりか」

 因縁に決着はついたっぽいし。一件落着ってやつか。

「あまり殺気を放たないで欲しいな、イッセー」

「そうだよー。こわかったよー」

「教会コンビは雰囲気壊すの大好きかっての。本気でやるわけないだろ。大切な幼馴染様にお嬢様なんだから」

「だからその呼び方はやめろと……っ」

「三文芝居にしてはまだ見られたな。最も、金を払うほどの価値もないが」

 うっわ、コカビエル。強キャラ感出してるけど最低な事口走ってるよ。まぁこの光景を作り出した俺も悪役か。悪魔だから上等ってところもあるけど。

「じゃ、憂姫。遥。露払い宜しく」

「えー……脅されて動けないよぅ」

「同じくだよ、お兄ちゃん」

「悪かったって。後でだいたいの言うこと聞いてやるから」

「「言質とったからね」」

 こんな時に息を合わせるのはやめて欲しい。何されるかわかったもんじゃない。

魔女の嘲笑(ライ・イズ・ペイン)

 憂姫の神器── 魔女の嘲笑(ライ・イズ・ペイン)。任意の対象に負荷を与えるという至ってシンプルな効果だ。ただ、憂姫の場合、負荷の概念を拡大解釈して、重力操作の段階まで昇華したものになっている。

 要するに、見たものをぺしゃんこにする能力。

「私もやろっか」

 対する遥は魔剣グラムを握っている。

 魔剣グラムは、要するに最強の魔剣。しかもドラゴンスレイヤーの効果付きの。まぁ、要するに超ドラゴン特攻の最強武器。

 見てるだけで悪寒がするレベルのオーラを放っている。絶対に敵に回したくない。

 その大きさは精々一メートル程度。黒い刀身の西洋剣。特に装飾は無いが、それ故に異質。もう見たくないもんあれ。

「「じゃ、消えてね」」

 二人の攻撃はほぼ同時だった。遥が剣を振り下ろしたのと同時にケルベロス全体を飲み込むほどのオーラの奔流が放出される。まぁその前に憂姫が視界に入れてぐしゃっと潰れたわけだけど。それをオーラで消し飛ばした感じだ。

 ……ってか、よく結界もったな。アイツら思ったより凄い。

「……」

 コカビエルもドン引きしてて面白い。

 まぁ、矢継ぎ早に次のケルベロス軍団も召喚される訳だが。これ以上は本当に結界が壊れるからもうあれか。別のやつに頼むか。

「……イッセーの周りはイレギュラーが多いのだね」

「アイツらが特別なだけ……とも言いきれないか。ゼノヴィア。イリナ。次頼んでいいか?」

「いーよっ。私もそろそろ本気見せたかったし」

「了解だ。私も体がなまりそうだったからね」

 と、ゼノヴィアはデュランダルを出現させた。イリナの方は……金色の剣。聖魔剣と同じサイズだけど、どこか異質な気がする。

「ふふん、エクスカリバー四本分を統合したさいきょー武器!」

「それ実質半分カリバーだろ。」

「三分の二カリバーだもん!」

「張り合うところはそこじゃないだろう」

 やっぱりイリナの手綱握ってるのこの子だよ。扱いになれてるもん。

「……こんな化け物相手にしてられねーっつの。ここはたいさ──」

「お前エクスカリバー持ってんだろ。置いてけよ」

 と、フリードに命令する。

「ははーっ!命だけはー!」

 謎の芝居口調で三本の聖剣を渡してきた。

「お前、実は結構余裕だろ」

「バレちった?だって勇者様が無益な殺生はしねーでしょ?」

 その呼び方はやめてほしい。

「イリナ。ちゃんとエクスカリバーにしてやるから待ってろよ」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

『Transfer!』

 と、できるだけ力を上昇させて、それを神器で生み出した宝玉に譲渡する。

 それを基点としてイリナの持ってる聖剣に三本のエクスカリバーを合わせてーっと。

「よし、できた」

 出来上がったのは淡い緑の宝玉が装飾されたエクスカリバー。ちゃんと七本を完璧に統合済だ。

「イッセー。勝手にそんなことしていいのかい?」

「全盛期より強くチューニングしてるんだから大丈夫だろ。なんなら追加能力で所有者の身体強化くらいは使えるようにしたぞ。実質赤龍帝の聖剣(エクスカリバー・オーバーロード)ってとこか?」

「厨二病っぽい」

 アザゼルのが少しうつったんだよ、たぶん。

「使い勝手はいつもとおなじでいいから使ってみろよ」

 こくり、と頷いたのと同時に思い切り駆け出した。

 エクスカリバーの特性のひとつの、所有者の速度を上げる効果と、赤龍帝の身体能力強化を同時に使っているのか、相当早い。というかアレ人間のままで最上級悪魔クラスのスピードしてるぞ。

「くらえっ!」

 無造作に振り払った一撃。等身をムチのようにしならせながら、破壊力をあげる効果と身体能力強化を掛け合わせて一気に剣を凪ぐ。

 ただ一瞬。コンマ数秒にも満たない時間で全部消滅させちまった。

 ……あれ聖剣効果もあるけど本人のスペックと技術が高すぎてあのレベルになってるやつだ。人間社会レベルなら最強名乗ってもいいレベルだぞあれ。

「私も負けていられないな」

「いやもう敵居ないから。ってか、あの時見せた威力を放ったらダメ押しで結界壊れるぞ」

「むぅ……仕方ない」

 なんか犬みたいで可愛いな、ゼノヴィア。

「……」

 さっきより余計にドン引きしてるよあの人。もう下手したら帰りたくなってるレベルだよあれ。

「……聖魔剣か。随分と異質なものを生み出したな。それに全盛期クラスのエクスカリバー……ふふ、面白い」

 あ、キャラ取り繕ってる。もう手遅れだと思うけど。

「しかし面白いこともあるものだ。システムが機能していると言うのに、こんなものが出来上がるとはな」

「何が言いたい」

「神が死んでいるからイレギュラーが発生した、と言っている」

 急に何を口走ってるんだ、こいつは。神が死んでいる?いつ?そんな禁忌に近い話題をなぜ出した?

「聖書に記された神は既に死んでいる。世界を司るシステムも熾天使が運用しているから成り立っている。だからこそ、そんなイレギュラーが生まれると言っているんだ」

「……神が、死んでいる?」

「……まぁ、ありえなくはな……ッ!?」

 ぐしゃり、と耳障りな音が聞こえた。

 イリナとゼノヴィアの胸から剣が突き刺すような形で生えていた。明らかに異質な光景だった。短刀程度の刀身が胸から生えているのだから。

「……おい、なんだよこれ。アーシア!」

「……は、はいっ」

 少し気遅れしたのか、俺が叫んだの同時に二人に駆け寄って神器を行使し始めた。

 ただ、明らかに出力が弱い。さっきの話を聞いたからか?神器は心の状態に左右されるけど……しのごの言ってられないか。

「けほっ……無駄だ……これは教会の人間が禁忌を知った際に発動する術式……禁忌を隠すために……うぐっ……殺すための……」

「喋んな。少しでも体力を温存しろ」

 剣は数秒ほどで胸から抜け落ちたが、出血量が酷い。心臓を潰されてるのか?なんにせよ、このままじゃ死ぬ。

「……しってたよ、こうなるって……でも、最後に……いっせーくんを見られたから……しあわせ、かな……?」

「縁起でもないこと言うな。まだまだ楽しい事してないだろ。再会したばっかで遊びにも行けてないんだぞ。おい」

 冷静に喋ってるようで相当取り乱してる。何とかこいつらを助ける方法は……。ただ、それだけを。

「神が居なくなって俺の為に生きてくれよ。死なないでくれ。……頼むから」

「……はは、それは無理な……」

「……えへへ、そーゆーところ……だい、すき……」

 それだけを言い残して、二人は意識を手放した。

 絶対に死なせはしない。二人が助かる方法ってなると、フェニックスの涙か転生させるしかない。転生させた際の欠損の修復機能による蘇生くらいしか、助ける方法は無い。

 あぁ、くそ。嫌な予感が的中しちまった。てか、遠慮なしにコカビエルを殺してればこんなことにはならなかった。全部俺の失態だ。

「……一誠君?」

「頼む、千夜先輩。二人の体を持って結界の外に出てくれ。そしてできるだけ結界を強化してくれ」

「……何をするつもり?」

「コカビエルを殺すつもりだよ」

 血の気の引くようなほど感情の篭ってない声。それで、本気だとわかってくれたのか、二人の体を抱えて結界の外に逃げてくれた。他のみんなも同様にだ。

 良かった。これですきにやれる。

「こうなることを予想してたのか?」

「勿論。その術式の話も聞いていたからな」

 あぁ、そういう事か。

 これで全部全部、こいつの掌の上ってことね。

 これじゃまるで俺がピエロみたいだな、全く。

「……ま、それが最後の言葉でいいんだな。今際の際だぞ。このド外道」

 

 ただ、冷たく言い放った。

 

「お前だけは、絶対に許さない」

 

 ただ、明確な殺意を乗せて言葉を紡ぐ。

 

「我、目覚めるは双極の理をその身に宿し天龍なり」

《始まってしまうね》《ああ、始まってしまうの》

「夢幻を嗤い、無限を憂う」

《世界が否定するのは》《世界が肯定するのは》

「我、天を統べし覇者と成りて」

《いつだって愛だった》《いつだって力だった》

《何度でもお前達は滅びを選択するのだな》

「汝を紅蓮の煉獄と、白銀の極地へと誘おう」

 

『Juggernaut Over Drive!!!』

 

 四肢が黒く変色し、機械的な翼が生える。

 その四肢には強靭な鎧。その双眼には呪いを。

 その存在が肯定されてはならない。否定されてはならない。

 それが、この力の根源であり、起源。

 禁忌をその身に宿した者に対する、罰。

 

「なんだ、その姿は」

 

 明らかに動揺しているコカビエルを他所に、おもむろに手を虚空にかざした。

 

『Half Dimension!』

 

 その力は空間そのものを半減させる禁忌。

 空間操作なんてものは生物に許された範疇を超えているからな。

 この能力を応用して、空間のスピードを限りなくゼロにちかづけて攻撃を防ぐことも出来る。

 今回の場合は、コカビエルの周囲の空間を極限までスローにして動きを止めるだけだが。

 

「時間が無いんだ。さっさと終わらせるぞ」

 

 カシャカシャと背中の翼が変形し、その一部が砲台のように変化した。まぁ、これで末路はわかったろ。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

『Over Dragonic Impact!!!』

 

 その砲身から放たれるは無慈悲の咆哮。圧倒的なまでの魔力の奔流はコカビエルを飲み込み、結界すら余裕で貫いた後に空中で弾けた。

 まぁ、許してもらえる範疇だろ。などと思いつつ力を霧散させた。

 

「やりすぎよ、全く」

 どうやら許して貰えないようで。結界ないに再び入ってきた千夜先輩に小突かれた。

「お兄ちゃん、やりすぎ。私の結界を壊すとか本気で撃ったでしょ」

「本気でキレて、ちょっとな」

「全く……」

 後でアイスで機嫌とろ。

「それで、この二人はどうするのよ」

「あぁ、そうだな。今からが大変なんだよ……」

 と、懐からスマートフォンを取りだしてとある相手に電話をかけた。それこそみんなご存知サーゼクスさんだ。

『……どうしたんだい?こんな時間に』

「率直に言う。駒をよこせ。なんならさっさと最上級位にまで上げろ」

『随分と無茶を……』

「切羽詰まってんだよ。時間もあまりない」

『君にコマを与えるとろくでもないことにつかわれそうで嫌なんだけどね』

「御託はいいからさっさと寄越せ。極論地位はどうでもいいけどな」

『はいはい。いまからアジュカに連絡しておくよ。君がそんなに慌てるなんて珍しいこともあるものだね。今はそれで勘弁することにするよ』

 ぷつ、と電話が切れたのと同時に目の前に赤い駒が転移された。チェスをモチーフにした駒で、俗に言うイーヴィルピース。転生アイテムだ。

「……絶対に死なせるかよ」

 おもむろに二人の体に駒を近づけ、転生させた。イリナは騎士。ゼノヴィアは戦車に。

 一分程度で意識が戻り、何とか……本当になんとか、生き返らせることが出来た。

 これ後もう少し遅れてたら魂が離れて転生すらさせられない状況になってたからなぁ。良かった良かった。

「……ここは?」

「意識があるなら地獄だろうな。第二の人生おめでとう、とでも言うか?」

「君はよく軽口を叩く。概ね分かったよ。私……いや、私達は悪魔になったんだね」

「まぁ、俺のエゴでな。嫌だったか?」

「ふふ、嫌なら今すぐに自決しているさ。この手にはデュランダルがある事だしね。……先程の聖剣計画の話を聞いて教会のやり方に心底嫌気がさしたからね。それに今の仕打ち。到底看過できないさ」

「そうか。ま、結果オーライってやつか」

 絶対に死なせるか、とか色々小っ恥ずかしいセリフはいたから覚えてなさそうでよかった。

「んー……」

 どうやら、イリナも起きたようだ。

「おはよ、私の神様」

 どうやら覚えているようだ。

「イリナ。そういうのはここぞと言う時に囁いて逃げ道を無くすために使うんだ」

「余計な入れ知恵するんじゃねぇ……」

 二人とも無事に覚えていましたとさ。地獄かよ、ほんと。

「で?イリナは悪魔になってどうだよ。俺が転生させといて言うのもなんだけど」

「夜だし、前よりは身体能力は高い感じがするかな」

「いや、そうじゃなくて。恨み節とかないのか?勝手に転生させてー、とか」

「悪魔になったって聞いた時点で眷属になる気まんまんだったから」

 この子逞しすぎる。

「ま、これでなんとか……一件落着、かな」

「んなわけねぇだろ。このバカ」

 と、呆れ顔で転移してくる総督様。

「俺は捕獲しろって言ったよな?」

「イレギュラーくらいあるだろ」

「イレギュラーであんなもんぶっぱなされてたまるか。あれ神レベルでも直撃したら屠れるだろうが。……事後報告諸々してもらうからな。あと、やっぱりお前も巻き込ませてもらうわ」

「何の話だ?」

「三大勢力で同盟を組む。その柱になってもらう。だから眷属集めしとけよ?おい」

「は?何を急に」

「今回の一件は同盟を組むための言わば体裁ってやつだ。今後こんなヤバいやつが現れた時の対抗策をどうするかってな」

「それを飼育してたのはお前だろうが」

「飼育っていうな。あくまで俺の元同僚だぞ」

「で?コカビエルを例に出してってわけか。そんで?そんなことしたら堕天使サイドが不利になるだけだろ」

「あ?奥の手としてお前を懐柔すんだよ。それかオーフィスとか」

 こいつド外道すぎる。全部掌の上じゃねぇか。

「ま、その必要もなくなったがな。お前を中心として発足したら誰も逆らわないだろ」

「待て。俺はそんなこと了承してな──」

「最上級悪魔に無理やり昇進」

「……うっ」

「教会陣営の最強格二人の引き抜き。それにコカビエルの捕獲失敗。更に言うならこの後の事後処理」

「……あー、分かったよ。眷属集めりゃいいんだろ。もう目処はだいたいついてるよ」

 まぁ、数人トレード予定であとはスカウトだけどな。

「お兄ちゃん。私をトレードするの?」

「いや、してもアーシアだけだろ。お前ら全員抜けたら千夜先輩一人になるし」

「ぶー、わかったよ」

 まぁ、納得して貰えたようで何より。

 ……ま、面倒だけど平和のために頑張るか。……って、らしくないか。

「あ、ちなみに私は入れてもらうよ」

 と、遥さんが空気をぶったぎるように爆弾を落とした。

「さっきの、言質とってるからね」

「いやだから、千夜先輩の方が弱体化しすぎるだろ。若手悪魔同士でレーティングゲームもあるだろうし」

「大丈夫。グラム持ってる時点で参加出来ないから」

 まぁ、それもそうか。他の武器を使えばいいって言うのも野暮なんだろう。

「なら、遥までか」

「えー、ずるーい」

「忖度だー!」

「こよみと憂姫うるさい。あとは千夜先輩にでも言え」

「怒りの矛先を私に向けるのはやめなさい」

 まぁ、頼んだ。主様!

「……八つ裂きしてやろうかしら」

 随分と怖いお話で。

「おーおー、ずいぶんとおっかない眷属になりそうだ。最低でもサーゼクスより強い眷属を集めてくれよ。そうじゃねぇと柱になれねぇからな」

「フェンリルでも眷属にするか?」

「勘弁だっての。1匹で組織壊滅するわ」

 サーゼクスに止められそうな気はするが。やっても使い魔程度にしておくか。

「ま、そんな話だ。事後処理はこっちでやっとくからさっさと帰って寝ろよ」

「そうする。……ま、明日から忙しくなるか」

 明日は明日の俺に任せようと。そう考えることにした。

 



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25話 眷属、集めます

 眷属探しの旅、一日目。とでも言おうか。

 コカビエルの一件の後、条件付きで眷属を集めろと命令されたとさ!クソが。

 そんな短時間でメンツなんて集まるわけないだろ!?もっとこう……メンツを吟味しようと思ったのにさ。一部決まってるところもあるけどさ!

 あのアザゼル。絶対に後で泣かす。

「脳内うるさいわよ」

 と、冷静に突っ込む主様。何故か自宅のリビングに一緒にいる。ちなみにイリナとゼノヴィアも一緒だ。眷属は一緒にいる、ときかないからだが。

「で、なんでいるんだよ」

「眷属候補を聞きに来たのよ。トレードの都合もあるでしょう」

「ま、そうだな」

「私達以外に誰を選ぶの?」

 明らかに興味津々な様子のイリナ。

「僧侶としてアーシア。騎士として遥をトレードするのは確定事項になってるよな」

「あの子たちも望んでいるから、そこは止めないわよ」

「でもあんまり減らすと若手悪魔同士のレーティングゲームで詰むだろ」

「あ、私参加しないわよ。貴族の出じゃないから強制でもないし」

「あ、そういう縛りがあるのか」

「まぁ、お家同士の力の誇示という名目よ」

 まぁ、そうでしょうねとしか言えないが。

「ならリアスは参加するのか」

「ソーナもよ。あの二人は次期当主だから尚更ね」

「ふむ。あの二人も大変だな」

「大変なのは貴方よ。誰を選ぶのかしら」

「女王は決まってるんだけど、その他がな。特に兵士が困る」

「人数が多いから余計に、ってことね」

「はーい、質問」

「どうした、イリナ」

「なんで悪魔って兵士が一人だったり、四人だったり変わるの?」

「転生する時に駒価値が存在するからだよ。例えばお前を転生させるために俺の場合は兵士の駒を1個使うとするだろ?」

「うんうん」

「ただ他のやつは5個とか使うかもしれないんだ。主に対しての駒の価値ってやつだな。だからそこで消費する駒の数が変わるって訳だ」

「補足するなら、相手の状態によっても変わるわよ。瀕死の状態だとしたらわその時に行使できる力も変わるでしょう?そのタイミングで転生させれば駒消費も少なくて済むのよ」

「ま、そんなパターンはほぼないけどな。意図的にしたら信頼関係はなくなるし。何より死んでから一定時間以内に転生させないと魂が離れて転生させられなくなるしな」

「ふーむ。理屈はわかったよ」

「あ、ちなみにキングによって駒の価値は変わるから。俺の場合はだいたいのやつは兵士の駒1個消費だな。最上級悪魔の余程上の方じゃない限りは」

「はぇー……」

 なんだその反応、と思いつつも可愛いからスルーすることにした。

「それで、眷属候補とやらは誰なのかしら」

「わがままを言っていいならすぐに決まるんだけどな」

「と、言うと?」

「戦車にサイラオーグ・バアル。僧侶にサーゼクスが欲しい。兵士にはセラとか」

「無理に決まってるでしょ。バカ」

 さすがに分かってて言ってる。

「魔王様はさすがに無理だと思うよ」

「実力だけならあいつが最強格だろーって話だ」

「そりゃそうだろうけど」

 まぁできたとしても人格的に一緒には居たくない。確実にリアス関連で面倒事を起こすし。

「と言うかセラって誰?」

「魔王のセラフォルー・レヴィアタン」

「重ねて無理でしょ。実力以外にも立場を考慮して」

 そこまで言わなくてもいいと思う。

「それで、サイラオーグ・バアルと言うのは誰だい?」

 と、不思議そうな様子のゼノヴィア。

「若手悪魔の中でのトップのキング。俺が知る限りで肉弾戦最強のやつだな。リアスのいとこでもある」

「あぁ、それは無理だ。わがままも大概にしろ、イッセー」

 みんな辛辣すぎる。さすがに無理って思ってるのに。

「まぁ、冗談はともかく真面目な候補だと少しは決まってるよ」

「それを早く言いなさい。そろそろ殴るわよ」

「肉体派かよ、ご主人様。とりあえず僧侶としてレイヴェルが欲しい。あとアーシア。トレードで何とかならないかな」

「……レイヴェル?女の子?後、アーシアさん?」

 イリナの一言で一気に空気が重くなった気がした。

「フェニックス家の末っ子。ストレートにあいつの要領の良さが欲しいんだよ。マネージャーって言ってしまえばそうだけど、僧侶としてのバックアップ能力としても今から慣れてもらったとしてあいつ以上の人材って考えるのも難しいくらいだ」

「ふーん?」

「アーシアの場合は神器での回復量が貴重すぎる上に魔力操作も才能がある。まさに僧侶の恩恵をフルに受けられる能力してるからな。俺が選ぶならほぼ確定だ」

「あ、ハーレム作る気じゃないんだね」

「それで眷属の命を危険に晒す可能性もあるだろ。それにそいつの人生をめちゃくちゃにする可能性もある。それなのにハーレム言うほどアホじゃないっての」

「不可能では無いでしょうけど、そこは交渉次第でしょう。たしか兄の眷属からトレードで母親の方の眷属になってたはずよ」

「あ、そうなのか」

「って、なんで兄の眷属になってたの?」

「兄に頼み込まれて眷属になったら、実はハーレムに妹属性が欲しかったって言われてブチギレてた」

「何その脳内お花畑な兄」

 正直俺もそう思う。

「戦車が未定なんだよな。良い奴が思いつかない」

「あら。貴方の事だから白音って言うと思ったわよ」

「正直悩んでる。将来性を考えるならありだけど、無理やりトレードする形になりそうだし」

「私は喜ぶと思うけれど」

「まぁ、多分レイヴェルと喧嘩するって言うのが問題なんだよな」

「結局そこじゃない。それこそ話をして解決すればいいでしょう」

 ま、それはそうなんだけどな。

「白音欲しいんだけどなぁ。……決定でいいか」

「そうした方がいいわよ。確実に鼻を曲げられると思うわよ?そんな選び方で落とされたってなると」

 それはそれであとが怖い。

「女王はまぁ、カヤだろうな。そうしないと殺される」

「姉さんねぇ。妥当だと思うわよ」

「……姉さん?主の姉を娶るつもりなのかい?」

「言い方。ホントにいるメンツによっては戦争始まるから」

「そもそも、一応体裁上は一誠君の婚約者よ。一度死んだからそれが有効かは知らないけれど」

「……婚約者?」

「子供の頃の口約束だよ。再会してどう言われるかにもよるだろうな。ま、知らん」

「そんな人任せな」

「ま、実力は折り紙付きだぞ。下手したら俺より強い」

「なら、条件には余裕で当てはまるのかな」

「じゃあ、兵士はどうするのよ。八人も選ぶの?」

「イングヴィルドをスカウトする。あいつなら駒価値八個はあるだろ」

「……イングヴィルド?」

「イングヴィルド・レヴィアタン。俺が知る限りで悪魔の中でも最強格のやつだよ。面識無かったか」

「私は知らないわよ、そんな悪魔」

「あんまり有名じゃないのか、あいつ。下手したら俺も負けるのに」

「そんな悪魔が存在するのかしら」

「人間と悪夢のハーフで神器持ちなんだよ。その能力でドラゴンはほぼ完封される」

「一誠君特攻、と」

「さらに言うなら魔力もやばい。規格外尽くしの奴だよ。……なんか面倒事に巻き込まれてる気がしてきた」

「それだけ強いのなら、ねぇ」

「前は女神ニュクスに洗脳されてたからなぁ」

「大惨事じゃない」

「一応助け出してセラに保護させてたけど……会いに行ってみるか」

「私も着いてくよ」

「私もだ。眷属なのだから当然だろう」

「なら、正規手段で行くしかないか。転移で行くと下手したらはぐれ扱いされる」

「はぐれ悪魔、ってこと?」

「一度正規の手段で行かないと駒が登録されないんだよ。前にアーシアが転生直後に行ったことがあるけど、その時も世紀手段で手続きはしたからな」

「じゃあ、どうやって行くの?」

「……それはな」

 と、言葉を紡いで魔法陣を展開した。

「行けばわかる」

「随分と強引だね」

 どうせ行くメンバーしか集めてないんだからどうでもいい気はしていた。

 転移先はとある電車の中。賃金は既に四人分支払い済だ。

「……電車?」

「あぁ、そうだよ。これで人間界から冥界に行くんだ」

 と、人間界から冥界に移動した際に駒が登録された。それと同時にセラフォルーの領地に転移と忙しないことをしている。

「これ、合法なの?」

「ギリギリな。あんまりいい顔はされない。今度ゆっくりお邪魔させてもらうことにするよ」

 とりあえず転移したのは以前合宿をした別荘地。多分今の時間帯はここに……。

「あ、やっぱりいた」

 そこに居たのはセラ本人。朝はここでくつろぐってルーティーンがあったのは何となく覚えていたけど、まさか本当にいるとは思ってなかった。

「あ、イッセー君に千夜ちゃん。……その二人は?」

「俺の眷属だよ。騎士と戦車。騎士の方が紫藤イリナで、戦車の方がゼノヴィア・クァルタ」

「「よろしくお願いします、魔王様」」

 と、元気よく挨拶をする二人。

「ハーレムでも作ってるの?」

「まさか。実力込みでの人選だよ。……ってな。この二人は一度死んで、俺のわがままで転生させたんだよ。そしたらアザゼルから和平を結ぶためにお前を柱にするから眷属を集めろーって言われてな」

「あぁ、そういう。大切な子達なんだ」

「ま、幼馴染だしな」

「その返しはマイナスだよ、イッセー君」

 冷静に突っ込まれてしまった。

「私も眷属になりたかったんだけどな」

「立場がなきゃ確実に誘ってたよ。候補筆頭クラスにはな」

「魔王、やめよっかな」

「絶対言うと思ったよ。でもダメだ。お前の力が役に立ってんだから、今はそこで頑張ろうな?大活躍って聞いてるぞ?お前の働き。それに会えないって訳でもないんだから、な?」

「……ん、わかった」

「なんか女の子の扱いが手馴れてる」

 手馴れてるって言うな。

「それで、眷属の顔を見せに来た、ってわけじゃないんでしょ?」

「流石、話が早くて助かる。イングヴィルドを眷属にしに来たんだ」

「そうだと思ったよ。一応ここにいるから会ってく?」

「え、ここに居るの?」

「基本的にはここにいるよ。前は訓練の都合もあったからさすがに本家の方に移動してたけどね」

「あぁ、そういう」

 と、そんな話をしていると、がちゃりと音を立ててドアが空いた。

 そこにいたのは俺より少し小さいくらいの女の子。髪は腰まで長く、薄い紫色で美しい。スタイルもかなり良く、出るとこも出ているモデル体型。ただ、こどもっぽい顔立ちのせいでとても可愛らしく見えてしまう。

「……王子様」

 そう、一言呟いでジャンプして飛びついてきた少女を抱きとめて、軽く頭を撫でてみると、目を細めて気持ちよさそうにしている。

「紹介するよ。この子がイングヴィルド・レヴィアタン。レヴィアタンの末裔で最強クラスの強さを持つ女の子だ」

「待って、その前に看過できない言葉が聞こえたから。王子様って何」

「……私を助けてくれた、王子様。私の、私だけの」

「あぁ、前に助けた時にそう言われるようになったって感じだな。別に嫌なことでもないしな」

 ジト目で睨みつけられてるけど一旦スルーしよう。

「な、ヴィル。俺の眷属にならないか?兵士として転生させたいんだけど」

「どうして?私と、一緒にいたいの?」

 一瞬、空気に亀裂が入った気がした。これ答えを間違えるとバッドエンドなやつだ。

「当たらずとも遠からず、ってやつだ。今強い眷属を集めててな。ヴィルが俺の知る中でフリーな上に最強クラスの実力を持ってるからな。それに、知ってるやつの方が良いだろ」

「……それじゃ、やだ。お前が欲しいって、言って欲しい」

 これ以上爆弾を落とさないでください。

「……はぁ、わかったよ。俺の兵士はお前しか考えられないんだよ。強さの前に、お前個人としてな。俺のものになってくれ。お姫様」

「ん、わかった。王子様っ」

 最終的に駒を八個使い俺の眷属に転生させましたとさ。めでたしめでたし。

「このイチャつきをあと何回か見ないといけないの?」

「どうせ家に帰ったら甘えるんだろ。少し我慢してくれ」

「……ぶぅ」

 あ、拗ねた。とても可愛いけど、あとが怖そうだ。

「ちなみに私との埋め合わせもお願いね」

「……はい」

 セラには本当に頭が上がらない。

「貴方の心の声を聞いているのがいちばん楽しいわ」

「人の不幸は蜜の味ってやつか」

「そんな所ね。苦悩してる様を見るのは楽しいわ」

「いい性格してるよ、ほんと」

 絶対後でなんか復讐してやる。

「じゃ、次はフェニックス家か。このペースだと一日で終わりそうだけどな」

「フェニックス家の令嬢をそんなに簡単に眷属にできるかな」

「ダメ元で行くしかないだろ」

 と、今度はヴィルも含めた五人でフェニックス領へと転移した。

 以前にフェニックス家の当主と話したことがあったから案外すぐに豪邸の前にたどり着くことが出来たけど、本当に人脈って大切なんだなってつくづく思う。下手したら不審者扱いだもん。アポ無し突撃とか。

「それにしてもすごい豪邸だね」

「フェニックス家って言ったら相当な金持ちだからな。フェニックスの涙って完全回復アイテムを独自で作れるから、それが1つ何億とかするおかげでな」

「もちろん、それ以外にもありますよ」

 他愛の無い話をしている間に現当主のフェニックス公とその奥方が現れた。

「わざわざ御足労感謝致します。フェニックス公」

「君がそんな敬語を使うとはね。よっぽどの案件だと思うけれど……まさか、レイヴェルを娶りにきたのかい?」

「ご冗談を。レイヴェル様はまだ人間界の年齢で換算するのであれば、まだ高校一年生程度でしょう。法が許しません」

「そうかい?であれば、どのような用事……いや、こんなかたっるしいしゃべり方はやめにしよう」

「ま、その方が早いか」

 と、一気に俺と現当主様の雰囲気が明るくなった。

「率直に言うと、レイヴェルを俺の僧侶として迎え入れたい。俺が最上級悪魔に昇格して駒を貰ったって話を聞いてるだろ」

「あぁ。その件については素直に感謝を言おうか」

「まぁ、その時に色々あって……ここだけの話だけど、悪魔と天使、堕天使で和平を結ぶんだよ。で、その仲介役というか柱役に俺を使うから眷属を集めろって言われたんだ」

「それで?何故そこでレイヴェルを選ぶ。レイヴェルは優秀だとは思う。ただ、経験が浅い。何より実力が伴っていないだろう。君の趣味と言われても文句の言えない状況になる」

「流石に容姿だけで眷属にして、そいつの人生狂わせる程あほじゃねーよ。率直に僧侶としてのポテンシャルは高いと俺が判断した。それ以上の理由が必要か?」

「と言っても、大義名分は必要だろう。理由は説明できるんだろう?」

「単純に作業の効率化に明らかに長けている。さらに言うなら魔力量も多く、才能だけで言うなら俺の見立てだと兄妹一だと思うレベルだ。経験なんてものは俺と一緒にいたら自然と蓄積されるだろ。実力も同じくだ」

「ふむ。概ね私と同じ意見だが……」

「一誠様。レイヴェルを女性としてどのように見ていますか」

 奥様。突然爆弾を落とさないでください。

「……本音を言わなきゃダメ?眷属の前だよ?修羅場になる可能性あるよ?」

「一誠様。甲斐性は身につけるものですよ」

 随分と手厳しいことで。

「分かったよ。本音を言うならかなり魅力的だと思う。作業の効率化に長けてるってことは要領いいって事だし。前に食べたレイヴェルのパンケーキもかなり美味しかった。単純に恋人や嫁として告白してもおかしくないほどに魅力的だと思うよ。それに……」

「それに?」

「かなり美人だと思う。率直に可愛らしい容姿だと思うけど、それ以上に笑った時の顔が可愛らしい。それだけで前半全てが無かったとしてもお釣りがくるくらいに愛おしいとは思うよ」

「……結婚なされては?」

「だから爆弾落とすのやめてください。率直に僧侶として迎え入れたいのは本音だから、あと本当に年齢的に俺捕まっちゃうから。トレードをおねがいします」

「だ、そうよ。レイヴェル」

 ……はい?

「い、いい、いっせーさまっ」

 奥様の背後にはいつの間にかレイヴェルの姿が。……もしかして、甲斐性云々の話の時に転移させてたのか?耳まで真っ赤だし。

「ふ、不束者ですが、よろしくおねがいしましゅ……」

「……うん。よろしくな!レイヴェル!」

「あ、吹っ切れた」

 もう慣れた様子で反応を評価しないでください、イリナさん。

「本当に一誠君の脳内を除くと面白くて仕方がないわよ。退屈せずに済むわ」

 ほんとに覚えてろよ、この主様。

「君の修羅場は完全に自業自得だと思うよ」

「んな事言われなくてもわかってるよ」

 はぁ、とため息を吐きつつ僧侶の駒を奥様に渡してトレード成立となりましたとさ。めでたしめでたし。

「孫の顔は早めにみせなさい」

「き、気が早すぎです、お母様!」

 もう胃が痛くなってきた。下手な戦闘より辛い、これ。

「ちなみにさっきのセリフは録音してあるから、証拠が欲しい時は言いなさい?音楽のように聞いてもいいのよ」

「……勘弁してくれ」

「もうここまで来ると完全にギャグだよね」

「ギャグじゃなかったらそのうち刺されるよ、ほんと」

「それで、次はどこに行くのかしら。駒はどの程度残っているの?」

「一応、後はリアスから白音……塔城小猫をトレードして、アーシアを千夜先輩からトレードして終わりだな。明確に空きがある所はないよ」

「……そうですか。ティアマトはどうかと思ったのですが。実力者を手元に置くことは悪いことでは無いとは思います」

「あいつか……。使い魔なら考えるって程度ってことにしてくれ。あいつはさすがに手を焼く」

「……ティアマト?あの龍王の?」

「五大……今は四大か。その一角のティアマト様だよ。まぁ、色々とな。……ってか、俺使い魔いないじゃん。眷属含めていないやつ大半だし」

「今更気づいたのかしら……」

「明日にでも眷属全員で行きましょう。イッセー様」

 あぁ、これだよ。このピュアな感じ。今まで無かった感覚だ。

「一誠君。あとでおしおきね」

 いやだってアンタの場合恋心的なのはあってもピュアとは違うじゃん。

「……」

 顔真っ赤だけど、とりあえずこのままにしておこう。

「あとはグリゴリに行って、アイツを回収してトレードを終わらせるだけか」

「……あいつとは、どなたのことでしょうか」

「え?俺の初恋の人」

 場の空気が一気に凍りついた気がしたけど、気にしないことにしようか。気にしたらこの場で死ぬかもしれないし。

 

 

 結局の所、あれからグリゴリに転移した。

 グリゴリは要するに堕天使の組織。総督のアザゼルを筆頭とした神話に載ってる堕天使軍団って言うのが正解だ。

 一応合法な実験を行いながら神器や魔法に対する対抗策などを研究しているらしい。

「ようやく来たかよ、イッセー」

 呆れた様子のアザゼル。

「お前が眷属集めしろって言ったんだろ?」

「そうだけどよ。一番最初に来てくれると思ってたってブチギレてるぞ」

「あ、まじ?」

「大マジだ。さっさとしずめろ、主様」

 まだ主じゃないんだけどなぁ。

「……って、アザゼルこんな所にいた。さっさとサンドバッグに……って、一誠君!?」

「久しぶりだな、カヤ。……いや一夜(まや)の方良かったか?」

 目の前に現れた女性。千夜先輩と瓜二つの容姿にスタイルのいい体。……うん、涙が出てくるけど今は我慢だ。

「なんで私を先に転生させに来なかったのか説明してください」

「いや、お前が転生組だとトリだよ。その方がまとまると思ったが、ダメだったか?」

「……ダメ、じゃないですけど」

「それにお前のことは女王にする予定だったんだぞ。俺の右腕に。それで、一夜は何を望むんだ?」

「……ないです。隣に居られたら嬉しいです」

 よし、鎮圧完了。

「じゃあ改めて。久しぶりだな、一夜。あの事件以来か?オーフィスから聞いだけど、サプライズで会いたいから黙ってろって。そっちの方酷いだろ」

「あの幼女喋ったんですか!?」

「必要情報だけな。ま、再会できて良かったよ、一夜。……なんか湿っぽくなるなら」

「……一誠君。ううん。私も、とてもうれし──」

「ほら、二人の世界に入らない。お姉ちゃんももう少し節度を持って欲しいわ」

「……千夜?」

「気づくのが遅いのよ、バカ」

「随分と大きくなって……」

「……お姉ちゃん」

「私に似て美人になりましたね!って痛い!頬を抓らないで!」

「本当、このバカ姉……」

 姉妹仲が良さそうで何より。

「ねぇ、イッセー君。話が掴めないんだけど、主様のお姉さんが初恋の人?」

「不本意だけどな。こんな状況を見せられたら」

「ひっどい!私だって一誠君のこと……!」

「俺の事?」

「食べたくなりますね」

 こいつ変態か馬鹿だ。

「まぁ冗談はともかく。私だって初恋の人に会えて嬉しいですよ、一誠君」

「ま、いいか」

 下手にことを荒立てないようにしよう。

「それで、何故一夜なのかしら。あだ名?」

「ま、色々とな。二人だけの秘密だ」

「ねーっ」

 まぁ、面倒事になりそうだったら言うけど。

「もしかすると、このままだとイッセーのハーレムになるんじゃないか?」

「ハーレムって。全員俺に対して好意があったらな」

「「「「「「……」」」」」」

「なんだよ。その『またこいつなんか言ってるよ』みたいな視線」

「逆に今までの態度で好意持たれてないわけないでしょ」

 ……なんか前にもあったな、こんなパターン。

「じゃ、一夜。俺の女王になってくれ」

「分かりましたよ。我が主様」

 なんて可愛らしく呟いて女王に転生しましたとさ。

「俺が集めろって言ったのもなんだが、メンツがえらく恐ろしいな。レヴィアタンの末裔のロンギヌス持ちに伝説の聖剣持ちが二人。フェニックス家の天才に無限を司る龍神を媒体にして作った龍神亜種。そして挙句の果てには天才猫又と超強力回復役にグラム使い。なんだ?戦争でも仕掛けるのか?」

「こいつ殴っていいか?本当にフェンリルけしかけるぞおい」

「冗談だっての。あと残ってるのは僧侶と騎士か?その猫又と回復役のやつの。兵士はおそらくレヴィアタンの末裔で全部使ったんだろ?」

「イングヴィルドな。名前で呼んでやれよ。ま、ポテンシャル高かったのもあるけど……ま、全部渡したくなったんだよ」

「おーおー、お熱いね。少し残して妹を入れてやっても良かっただろうに。って、完全にお前ハーレムじゃねぇか」

「思ったけど。思ったけども、そこは言うなよ」

「……ハーレム作るために、私を転生させたの?」

 ほら、やっぱりこうなるじゃん。

「あーもう。率直に言うよ。実力云々もそうなんだけど、俺が一緒にいたい奴らを原則にしてるところも大きいんだよ。それが八割、二割が実力くらいでな。いや、九割以上が一緒にいたい奴らなんだよ。……みんな大切じゃだめか」

「その本心が聞けただけで十分だと思うけれど?」

 ……あれ、これ墓穴ほった?

「ん、わかった。ならずっと隣にいる」

「私が隣にいるって!」

「……私が初恋枠なんですから!」

「行こう、レイヴェル。遅れるとまずいことになりそうだ」

「……え、えぇ!?」

 やっぱりこうなったよ。

「まぁ、普通は眷属と王ではなく、王同士で婚姻を結ぶものよ」

「これ以上爆弾落とさないでくれ。ほんとにグリゴリが跡形もなく消し飛ぶぞ。……いや、それはいいか」

「よくねぇ!」

 お前の自業自得だぜ。

「で?お前ら使い魔はどうすんだよ。最強軍団に使い魔がいません、じゃシャレにならないだろ」

「あぁ、明日使い魔の森にでも行くよ。それこそソーナのところの新規勢がまだ居ないだろうし。そいつら誘ってな」

「そんだけいいメンツ揃えてんだから、下手なのを使い魔にするなよ?あそこ服を溶かすスライムとか触手とか出てくるから」

「誰がそんなの使い魔にするんだよ」

「出てくるから気をつけろって話だろ?」

「フラグ立てるな」

「てか行くってなると使い魔の森ら辺だろ?あのはしゃいでるおっさんがいる所の」

「ま、そうなるだろうな」

「あそこ、最近ティアマトが居るから気をつけろよ。たしかお前目をつけられてただろ」

「……行くのやめよっかな」

「会議は明後日だからな。それまでに集めろよ」

「鬼かお前」

 結局の所その日は解散となった。いっきに眷属が増えたから俺の部屋で一緒に寝ることになったヤツらが多くなったのはまた別の話。

 

 

 



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26話 使い魔、契約します

 眷属探しの旅二日目。

 と言うより今日はトレードしたら直ぐに使い魔を探しに行くのがメインになってくる。さっさと契約を済ませていきたいところではあるが。

「……」

「……」

 何この状況。朝からなんで千夜先輩とリアスがリビングで睨み合ってるの?

「小猫が欲しいなら、それ相応の対価を要求するわ?」

「私だってアーシアと遥を渡すなら対価を貰うわよ」

「結局俺がダメージ食らうのかよ」

 今日も兵藤家は平和なようです。

「白音は貰うよ。ただ対価ってなんだよ。千夜先輩も落ち着けって」

「……そこまでは考えてなかったわね」

「……私もよ」

「おばかなのか。それなのにさっきまで険悪な雰囲気出してたのか」

「主に向かって生意気よ!」

「そんなキャラじゃないだろ。……ま、アーシアと白音、遥は貰うから」

 と、二人の前にコマを差し出す。

「了承は取れてるからそこはいいわよ。対価の話も冗談よ」

「冗談で喧嘩みたいな雰囲気出すなよ」

「その方が面白いから?」

 一度この二人をしばこうかなやむ。

「でも、遥はともかくアーシアでいいの?ポテンシャルは高いと思うけれど、まだ実力不足だと思うわよ」

「実力はおいおいつければいいんだよ。俺が欲しいんだからいいだろ」

「小猫も同じ理由かしら」

「まぁな。ま、実力の方も白音は成長幅が異常だから一年以内に上級、もしくは最上級レベルになると思うよ」

「随分と高い評価ね」

「事実だからな。気づいてるんだろ、リアスも」

「薄々はその才能に気づいてたわよ」

 ま、リアスの眷属だし当たり前か

「ま、本音を言うと実力もそうなんだけど、俺が一緒にいたいメンツを集めてるだけ……いたいです。頬を抓らないでください」

 いつの間にか現れたこよみと憂姫に頬を抓られた。痛い。

「私とは一緒にいたくないんだね、お兄ちゃん」

「いや、憂姫は家族なんだから眷属関係なくずっと一緒だろ」

「私は!?」

「逆にお前がどっかに行くのかよ。それこそずっと一緒だろ」

「「よかったぁ」」

 少しは考えてから行動して欲しい。

「私は眷属だから一歩リードかな?」

 なんて言いながら、階段をおりてきた遥さん。

「寝起き早々爆弾落とすなよ。それと、よろしくな。俺の騎士様」

「了解したよ、主様」

「私もそんな会話したかったああああああああぁぁぁ」

「近所迷惑になるぞ」

「私と近所、どっちが大切なの!?」

「近所」

「私は旅に出ます。探さないでください」

「旅ってどこにだよ」

「私は今イギリスにいます。ヨーロッパのグアムです」

「結局どこにいるんだよお前」

「私は貴方の心に寄り添って」

「やかましい」

「仲睦まじいわね。本当に」

 親友同士の悪ノリか、熟練夫婦のどっちかだろ。こんな会話するの。

「あれ、白音は?」

「寝ているのかしら、ねぇ」

「起こしてくる」

 と、言いつつリビングから逃げ出した。

 白音が寝ているのは二階の俺の部屋の向かい側の部屋。白音貸切にしている。

「入るぞ、白音」

 軽くノックをした後に部屋に入ると、白音は気持ちよさそうに寝ていた。

「……可愛いな、ほんと」

 ぼそり、と本音が出てしまった。聞かれなくてよかったと思う。

「ほら、白音。起きろ」

「可愛い猫さんは王子様のキスで起きます」

「お前起きてるだろ」

 なんかだんだん白音もこの家に染ってきた感がある。

「ま、大事な話があるから聞いてくれ」

 そう言いつつ、ベッドの近くに座ってみる。この方が近くで顔を見れそうだし。

「トレードが成立したから、今から白音は俺の眷属な。これからよろしく」

「……ふぇ?」

 随分とまの抜けた声がでたな。

「兄様の眷属?」

「あぁ。最上級悪魔に昇格した際に駒を貰ってな。眷属集めを昨日してたんだよ」

「……それで、何故私に?もっと強い人はいると思いますが」

「俺がお前と一緒にいたいって理由以外に必要か?」

「……いえ。それで十分です」

 他にもいろいろ理由はあるけど、まぁ……嬉しそうだしいいか。

「白音って使い魔いたっけ」

「猫ちゃんがいます」

 猫ちゃんって言い方可愛いな、ほんと。

「レイヴェルもたしか小鳥がいたからお留守番かな」

「話が掴めないのですか。それになぜあの焼き鳥娘の名前が?」

「あぁ、言ってなかったな。俺の眷属のメンバー。女王に千夜先輩の姉。騎士に遥とイリナ。戦車にゼノヴィアと白音。僧侶がアーシアとレイヴェル。兵士がイングヴィルドだな。イングヴィルドは旧魔王の方のレヴィアタンの末裔で人間のハーフの子な」

「……なぜ、焼き鳥娘を」

「ポテンシャルが素直に高い。才能だけで言うなら白音に匹敵するかもな。仲良くしろって言うつもりは無いけど、揉め事は起こすなよ?」

「善処します」

「あと焼き鳥娘もダメだからな。名前で呼ぶこと」

「……はい、わかりました」

「……後でデートするから。スイパラとかで」

「……喫茶店がいいです。学園の近くの」

 あ、これ見せつける気満々のやつだ。

「わかったよ。一週間後の放課後とかにな」

 そう言うと、こくりと頷いた。可愛いな、やっぱり。

「じゃ、そろそろリビングに行こうぜ」

「……はい」

 二人でリビングに降りる頃には俺の眷属全員揃っていた。うん。なんか安心感を覚える。

「……兄様」

 何故かわなわなと震えている白音。

「どうしたんだよ、白音」

「兄様、趣味で選びましたか」

「本当にどうしたんだよ、突然」

「ほぼ全員……!胸が大きい女性……!」

「え?俺胸の大きさで眷属選んだと思われてるの?」

「考えてみれば、そうだね」

 ヴィルさん!?

「イッセー君、だいたーん」

 イリナさんはからかってますよね?確実に?

「……ふむ。そういう目で見ていたのか」

 ゼノヴィアさん。案外ノリいいよね、ほんと。

「……」

 一夜さんはなんか喋ってください。笑顔で怖いです。

「……はぁ。そんなこと言うならこの中で一番付き合いが長いの遥だから、遥がいちばん話しやすいって話につながってくるぞ」

「つまり貧乳好きと」

「いい加減胸から離れろ」

「あはは……お世辞でも嬉しいかな」

「本心で言ってるわよ、一誠君は。神器で聞けば分かるもの」

「……っ」

 あ、顔真っ赤になった。かわい──。

「ね、一誠君。私が一番好きですよね」

 と、一夜さんが詰め寄ってきました。真面目に怖いです。迫力すごすぎです。

「それ以上は不毛な言い争いになるからやめとけって」

「むぅ……。今はそういうことにしておきます」

 まぁ、ふくれっ面も可愛いとは思うけど。

「じゃあ俺の眷属に聞きたいんだけど、使い魔が居ないやつって何人いる?」

 えーっと?手を挙げたのがアーシアと一夜、聖剣コンビにヴィルか。

「諸事情で今日中に使い魔契約しないといけなくなったから、これから行きたいんだけどいいか?」

「え、どうして?」

「文句ならアザゼルに言ってくれ」

「あぁ、納得」

「リアスの方の眷属は全員いるんだろ?」

「えぇ、もちろん」

「じゃあソーナのところの匙でも拉致していくか」

 そう言うと、懐からスマートフォンを出してソーナ宛に電話をかけた。あいつも道連れにしよう。いざとなったら生贄に。

『……朝早くからどうしました?』

 と、明らかに寝起きの声。

「今起きたのか?」

『えぇ。昨晩ははぐれ悪魔の討伐が……ふわ……ぁ……』

「そんな時に電話をかけて悪いな。ひとつ聞きたいことがあってな。匙って使い魔と契約してるのか?」

『……まだですね。まさか連れていくのですか?』

「諸事情で俺の方の眷属全員使い魔と契約しなきゃならなくなったから、ついでにな」

『分かりました。許可しますので、連れていってください』

「わかった。悪かったな、電話かけて」

『……貸ひとつ、です』

「分かったよ。今度な」

『えぇ、今度……ですね……おやすみなさい……』

 それだけ呟いて寝落ちしてしまったので通話を切った。

「よーし、匙確保」

「随分と強引ね」

「ま、ついでだからこんなもんでいいだろ」

 それで、使い魔探索隊が結成されたのだった。

 

 

「……俺も眠いんだけど」

 結局ソーナの助力ありきで使い魔の森に強制転移させました☆

 いやぁ、生贄枠……もとい友人枠がいるとテンションが上がるな。まぁ、冗談だけど。

「お前の主様からは許可もらってるんだよ」

「……副会長」

「ま、そう悪いことじゃないだろ。使い魔探しだぞ?」

「使い魔、ねぇ。なんかなぁ」

「どうしたんだよ」

「人魚って聞いてたやつが下半身人間で上半身魚ってやつとあったことがあるんだよ」

 あー、居たなそんな種族。

「大丈夫だ。リアスの使い魔とかコウモリで、女の子に変身出来る。そういう奴らもいるんだ。つまり実質さきゅば──げふっ」

「兄様、不潔です」

 後頭部を殴ることは無いと思う。

「イッセーさんはサキュバス好き……」

「アーシアさん。俺はサキュバス趣味じゃないです。なんならアーシアみたいに清純な子が好きです」

「……ふぇっ」

 どうやら誤解は解けた、か?

「お前って実は本当に残念なやつなんだな」

「変な理解すんな」

「とーーーう!!!!」

 そんな空気の中に一人テンションの高い中年男性が降りてきた。

「俺は使い魔マスターのザトゥージ!マダラタウン出身だぜ!お前たちが依頼人か?」

 格好が短パン小僧。そしてその名前って完全にアウトだろ。なんだよマダラタウンって。クレイジーなやつの巣窟か?この状況がクレイジーだけども。

「ま、そうだ。今から俺たち全員の使い魔を確保しないといけなくなってな。二十四時間以内に」

「お易い御用だぜ!ブラザー!」

「誰がブラザーだ。誰が」

 このテンションやだ。謎に疲れる。

「それじゃあ、早速行こうぜ!」

 そして案内されたのは開けた場所。そこには電気を発生させる魔獣が。

「アイツはビリチュウ!でんきねずみモンスターだ!」

「完全にアウトだ馬鹿野郎」

 いつの間にか無意識に飛び蹴りをかましていた。

「いってーな!何するんだブラザー!」

「それはこっちのセリフだコノヤロウ。もっとまともなのいないのか。コンプラに抵触しないやつ」

「コンプラってなんだよ!?あいつは強いぜ!避けろって言うとほぼ確定で回避する!」

「余計にアウトじゃボケ」

「なら希望は?」

「水を操るやつ。あとは強いのだな」

「随分と大雑把な依頼主だぜ!それこそ服を溶かすスライムとかならそこらじゅうにいるぜ?」

「もっと普通の。ドラゴンとか虎とか。犬とかでもいいから」

「強さだけで言うならティアマト。水ならセイレーンあたりか」

「お願いだからそこらを紹介してくれ」

 ため息を吐きつつもようやく普通のところに連れてって貰えそうだ。

「着いたぜ。ここがセイレーンの泉だ」

 連れてこられた場所はわかる。確かに泉だ。ゴリマッチョの半裸のおっさんがポーズ決めてるところを除けば。

「お前おちょくってるのか?なぁ、そうなんだろ?」

 まぁ、ヘッドロック位はするよね。俺は悪くない。

「ギブ、ギブ!普通に実力なら中級悪魔程度はある!かなり強い部類だろ!それにメスなら普通に可愛い!」

 視線を促されてみた方向には、たしかに可愛らしい女の子の姿はあった。ただ、明らかにぼっちだ。

「ヴィル。あの子はどうだ?」

「親近感を覚える。……うん、あの子にする」

 ものすごく反応に困ることを言わないで欲しくはある。

 ただ、どうやら契約は成立したようで魔法陣を展開していた。

「良し、これであとは俺と一夜と、アーシアと匙か」

「俺こんな流れで契約できる気がしない」

「俺も同じくだよ」

 でも、案外早く契約というものは決まるもので、一夜はどこからがピクシーを連れてきて契約してた。流石に絵になるとは思う。

 アーシアに至っては電気を操る小型のドラゴンがよってきて、自ら契約を望む形に。運がよすぎる。

「な、聖剣コンビはどんな使い魔が欲しい?」

「うーん……可愛い子、かなぁ」

「私は強いのがいいが」

 可愛いのならともかく、強いのなぁ。

「この二人だけ後で決めるか。ちょっと心当たりがある。強くて可愛いののな」

「え、どんなの?」

「ないしょ」

 某白銀の狼が頭に出てきているけど、今は黙っておこう。多分言ったら怒られる。

「って、集めなくていいの?全員分の眷属」

「いざとなったら暴れるからいいよ」

「うわ、実力行使」

 有意義な交渉と言って欲しい。

「それで、残るは俺と匙か」

「どうするんだよ、一誠」

「最終手段にするか。匙以外は帰っててくれ」

 そう言うと、匙の首根っこ掴んでとある場所に飛んで行った。もちろん魔力とか翼ではなく跳躍力的な意味だ。

「おま、俺を殺す気か!!!」

「悪魔だからそう簡単に死なねぇよ」

 悪態をつきながらも到着したのはとある洞窟。目当てのやつはもちろんこの中だ。

「ティア。居るんだろ?出てこいよ」

「……お前か、一誠」

 ゆっくりと洞窟から出てきたのは青い鱗のドラゴン。西洋のドラゴンのような見た目をしているけど、やっぱりお世辞抜きで美しいと思う。

「何しに来たのじゃ?」

「契約だよ、契約。悪魔になったから使い魔と契約しろって言われてな」

「何故、儂を選ぶ?」

「いや、冷静に考えてお前くらいしかいないだろ。俺と釣り合うようなやつ。それにこんな洞窟にいるのもいいけど、風呂に入りたくないのか?」

「……入りたい。体ベタベタするのじゃ。体が汚いから会いたくなかったのじゃ」

「うち来て風呂入れよ。あと契約はいいのか?」

「儂しかおらぬのであろう?ならば仕方がない」

 そう言うと、ティアマトことティアのからだから光が溢れて人型に纏まった。

 だいたい俺と同じくらいの身長の女性。普通に顔立ちもいいしスタイルもいいけど髪も服もボサボサで宝の持ち腐れって感じだ。自慢の蒼髪が泣いてるぞ。

「よし、これで契約終了」

 そう言いつつ魔法陣を展開してティアトの契約は終了した。

「え?俺は?」

「な、ティア。この洞窟って確かヒュドラいたよな。こいつと契約させてくれないか」

「あぁ、以前のしたな。そこら辺にいるから契約すると良い」

 結果的にすぐ見つかって無事全員契約終了しましたとさ。めでたしめでたし。

「いや、契約したけど俺どうやってコミュニケーションとか対価を支払えばいいんだ?」

「魔力でどうとでもなるから大丈夫だよ。確実に」

 まぁ、高レート吹っかけられたら俺も対応するからと付け加えておいた。

 これで二日間の俺の仕事は終了っと。いやぁ、これでおわ──。

 と、思考を遮るように唇を奪われた。完全に不意打ちだった。

「私に対する対価は衣食住の提供と戦闘後の口付けじゃ。覚えておくのじゃ」

 新たな爆弾を抱えましたけどね。本当に。

「本当。お前女性関係気をつけた方がいいぞ」

「お前にだけは言われたくない」

 あとでこいつにタンニーンをあてがって修行させよう。真面目に。

 ちなみにまた胸の大きなやつを俺陣営に引き込んだから余計に白音が鼻を曲げた。理不尽すぎる

 



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27話 和平、調停します

章ラストの話の予定です


 で、結局会議の日が来たんだけど、何を着ていけばいいんだろうか。だって制服ってなるとなんか雰囲気的に緩くなりそうだし。

 多少気合い入れたとしても思いっきり滑ったら痛いし。かなり悩む。

 いっその事アロハシャツで行くか?……やめとこ。さすがに怒られそうだ。

「何を悩んでいるの?」

 不思議そうに顔をのぞきこんでくるヴィル。

「いや、今日の会議って何を着ていこうかなって。制服で行くのもなんか貫禄的?になんかダメなのかなって」

「細かいことを気にする」

 余計なお世話だ。

「じゃあヴィルは何を着ていくんだ?」

「いつも着てる青いドレス」

「お前、あれかなり似合ってるから雰囲気的には百点満点だろ」

「なんで急に口説くの」

 口説いてるつもりはなかったんだが。素直な本心ってやつだ。

「そんなに悩むならスーツでいいと思う。礼装と言ったらアレだし。筋肉もあるから映えると思う」

「……そうするか」

 と、言われてそのままスーツを着て、会議の会場にいる状態だ。

 場所は駒王学園をモチーフとした空間で、校舎の中にある一室が来賓用の部屋のように作り替えられていた。

「……スーツ、ですか?」

 明らかに反応に困っている様子の一夜。と言うより頬がどこか赤い気がする。

 一夜は黒のドレスに身を包んでいて、とても似合っている。うん。役得ってやつか。

「ん?悪いか?」

「……悪くは無いですが」

「って、顔赤いぞ?大丈夫か?」

 少し首を傾げつつおでこをくっつけてみる。

 うん、熱はないっぽい。ただ顔は赤いけど。

「……きゅう」

 あ、フリーズした。体調悪いのか?ほんとに。

「……ナチュラルにそういうことするよね」

 何故か呆れた様子の遥。薄い緑のドレスに身を包んでいる。

 一応今回の衣装は全部俺もちってことで支払ってるからどんなのかはわかってるんだけど、ただ……実際に着てる姿を見ると流石に凄いな。見とれる。

「いつもの事です」

 もはや呆れた様子も見せてくれない白音さん。

 白いドレスに身を包んで……これじゃ結婚式じゃって思ったけど、どう転んでもろくな事にならなそうだから黙った。

「ま、主は唐変木だから仕方ない」

「誰が唐変木だよ。お嬢様」

「全く、何をしてるの。せっかくの会議なんだから、もう少し……ね?」

「そ、そうですよっ!もっと……楽しく、です!」

 ゼノヴィアは薄い青のドレス。イリナは明るいオレンジ色のドレスに身を包んで……。アーシアは白音と同じく白いドレスだ。うん。役得ってこういう時に使う言葉なんだろうなと思う。

「結局みんなのドレス姿見てデレデレしてる」

 と、ジト目で睨んでくるヴィルさん。濃い青……と言うより濃紺のドレス。俺が初めてあった時もこのドレス着てたっけ。

「うん。やっぱりそのドレス似合ってるよ、ヴィル。綺麗だ」

「お世辞よりも会議のことを考えて」

「お世辞じゃないんだけどな……」

 ま、今はそれでいいか。

「結局勝ち組はヴィルさん……」

「兄様が珍しくストレートに……」

「あーゆーのが好きなのかな」

「いや、どちらかと言うと思い出補正と言うやつだ」

「……ま、まけませんっ」

「むむ、数年のロスは大きいですね……」

 外野の声は無視することにしよう。

「なんだなんだ?ここは結婚式場じゃないんだぜ?それと舞踏会の会場でもな」

 あとでしばこう。この総督。

「茶化すなよ。女の子はオシャレをしたいもんだ」

「それは誰に対して見せたいのかね」

「独り占めするさ」

「うわ、こいつ独占欲高ぇわ」

 案外嫉妬深いんだよ。

「そろそろ、始めましょうか」

 そこに転移してきたのは金髪の美少年。優男風の男だ。

「ゼノヴィア、イリナ。紹介するよ。熾天使で有名なミカエルだ」

「なっ……。あのお方が、有名な」

「私、ファンだったの……」

「ま、聖職者にとっては神様の次に偉い存在か」

「お初にお目にかかります。私はミカエル。以前は本当に申し訳ないことを」

「いえいえっ!こうして生きてますので……!」

「イリナと同じく、私も生きているのでそれ以上は何も言うつもりは無いです」

「……ありがとう」

 ま、一件落着でいいか?あの件は。

「全く。こんなに女の子をはべらせて。リーアたんとの結婚は……」

「紹介したくないけど紹介するよ。そこの赤髪がサーゼクス。現四大魔王の一角だ」

「……シスコンさん?」

「あぁ。リアスの実の兄で重度のシスコン。ただ、実力は折り紙付きだ。俗に言う逸脱者に分類される奴だ。悪魔のカテゴリーの外にいるって意味でな。こいつを含めて3人いる」

「はぇ……強いけど残念な人なんだ」

「人間性のステータスの全てを戦闘力にふったやつだ」

「随分な紹介をしてくれるね。私はサーゼクス・ルシファー。よろしく、淑女さん」

「うん。取り繕えばただのイケメンだな」

「あとイッセー君。リアスと結婚するんだよね、ねぇ?」

「知らん。結婚相手くらい好きに決めさせろよ。俺も、リアスもな」

「……ふむ、そう来たか。なに、策は山ほど……」

「グレイフィア」

「はい、一誠様」

 俺の一言でサーゼクスは拘束されていった。

「ちなみにあの銀髪メイドがサーゼクスの嫁だから。眷属の女王で主従関係間での結婚とか聞いたな。没落した貴族の出で……とかなんとか」

「つまり、前例はあるんですね。眷属と王の結婚は」

 おっと、墓穴を掘ったようだ。

「面倒だから早く始めようぜ」

 と、仕切り始めるアザゼル。

 一応現場には今回の一件の被害者のリアス眷属とソーナ眷属、そして天界陣営と堕天使陣営、悪魔陣営というメンツ。さすがに護衛は二人は連れている状態。

 ただ悪魔陣営はグレイフィアがいる分戦力過多ってかんじだ。

「で、今回の議題は和平だ。そこの兵藤一誠を基軸とした和平を提案する。ただ、馴れ合うってわけじゃない。協力関係を提携しようって試みだ」

「それは先日のコカビエルの一件があったからかい?」

「その件は本当に申し訳なかった。だが、その前から構想があったのは確かだ。このままいがみ合ってても互いに新世代が育たずに滅びゆくだけだ。なら、協力した方がいいだろ」

「それでイッセー君を手元に置いて、と?」

「馬鹿言え。悪魔陣営だよ、こいつは。ってか、鷹白千夜ってこいつを転生させた主様ラブだから、そいつのために動くってのが基本軸だぞ、こいつ」

「半分正解半分不正解。俺は俺が大切だと思ってるヤツらのために力を振るう。それは眷属であり、周りの人間であり、千夜先輩ってだけだ」

「ほら、こんな感じだぜ?こんなやつを手篭めになんて出来るかよ。だからこそ信用出来る。公平な立場で陣営を見てくれるからな」

「それについては同意します。ただ、和平についてのメリットとデメリットを提示して頂きたい」

「俺らの研究している情報の提供と、これからの研究結果の提供。それによって完成したものの提供ならどうだ。最も、危険度の高いものは承認を必要とするが大半はそれを撤廃するようにする」

「随分と破格な条件を提示するね」

「それだけ本気だってことだよ。ただデメリットとしてお前達にも戦力の提供と情報の提供を提示する。当たり前だろ?そうでもしなきゃただ俺達は下働きだ」

「妥当ですね。むしろ資金提供と言うのかと思いました」

「そこまで高レートはふっかけねぇよ。あくまで俺は和平が目的だ。いい加減戦争には飽き飽きなのよ」

 うまいな。あくまで和平を盾に全部を押し通そうとしてる。交渉術としてはなかなかに悪くないと思う。

「それに、俺からはひとつの情報を提供する。『渦の団(カオス・ブリゲード)』についてな。今新興勢力として勢力を拡大してる組織だ。そいつらに対する対抗策も作りたい」

 カオス、ブリゲード?初めて聞く名前だ。

「……具体的には?勢力図は?」

「詳しくはわかってないが、旧魔王派や英雄派と言った派閥があるのは情報として入っている。なんならロンギヌス所有者も居るからな。聖槍持ちだな。なんならお前らのところの旧魔王の子孫も参加してるって話だ」

 なんだその危険集団。テロ組織まんまだろ。

「何故そこまで詳しい。裏で繋がっているのか?」

「なら和平じゃなくて宣戦布告するだろうが。前にうちのヴァーリがスカウトされたんだよ。無論蹴散らしたが。その時にベラベラ喋ってた」

「その情報を鵜呑みに?」

「なわけないだろ。ただ、ブラフだとしてもそれを考慮して動きたいのが本音だ。もし本当なら後手に回れば回るほど面倒だ。なら協力するしかないだろ」

「ってかその話は俺も初めて聞いたぞ」

「話してねぇからな。不確定要素はこういう場での共有のみに留めるのが吉だぞ。……ま、マッチポンプを疑われても仕方が無いと思う。そこは信用してくれとしか言えん」

「ま、その通りだな。それが嘘なら俺は降りる。なんなら俺の全勢力をもってお前らを潰す」

「あぁ、そうしてくれ。そうやって睨まれてる方が俺の潔白も保証される。俺はそれだけのリスクを背負ってる訳だが……。お前らはどうする?和平を結ぶか、それとも結ばずにカオス・ブリゲードに滅ぼされるか。聖槍持ちが本当にいるなら悪魔や俺ら堕天使はほぼ負けてるようなもんだ」

「たしかに。上澄みが残ったとしても大半は消されるだろう。それこそ、下手をしたら聖槍以外のロンギヌス持ちがいる可能性もある」

「だろ?それにあれだ。各勢力の発展にも繋がる。悪い話じゃないと思うぜ」

「私としては賛成です」

「私も賛成だ」

 これはアザゼルの作戦勝ちだな。思ったより利権を優先しないやつを連れてきて、こんな条件出されたらまずは呑むしかない。こいつ、相手を自分の好きに動かす事に長けてる。

「で?じゃあ俺に対する見返りは。そんな大役を任せるんだからそれ相応のものがあるだろ」

「やっぱり来たか。何を望む?」

「まぁ、最低限の地位の確立だな。下手にこっちを馬鹿にしたり手を出してくるやつも出てくる可能性があるからな。ある程度の権限が欲しい」

「まぁ、無難だな」

「あと資金源だな。別に大量に寄越せとは言わないけど眷属が生活できる程度は寄越せ。幾らになるかは分からんが、それなりにはな」

「それはこっちで考えてるから安心しろ」

「あと二つだな。私生活への干渉の禁止。あくまで最低限はな。プライベートの時間は寄越せ。だからある程度の連絡手段はそっちで確立してくれ。スマホとかでもいい」

「それも考えてる。通信限定の人工神器を渡す予定だ。あくまでメッセージを表示すタイプのな」

「じゃ、最後に。家のリフォームを頼む。この状況じゃ眷属全員は住めない」

「それこそ引越しすりゃいいんじゃないのか?手配するぞ」

「わざわざ目立ってどうすんだよ。あくまで住む場所が欲しいからだ。だからそこの保証をしろって話。だからある程度は無茶していいからリフォームしてくれ」

「そういうもんかね。リフォームの方が目立つと思うが。一応手配はしておく」

 よし、これで最低限は確保出来た。及第点ってことにしておくか。

「一誠君は善人ですね。もっと吹っ掛けてもいいんですよ。グリゴリの施設の私物化とか、人体実験や虐殺していい権利とか。あ、サンプルの提供も──」

「お前をキングにしなくて本当に良かったよ」

「正直俺もそう思う」

「なんでですか!?」

 心で思っても普通は口に出さないんだよ。そういう外道なことは。

「ま、これで終わりでいいか。最後に写真でも撮影するか?」

「別に。普通に和平結ぶだけでいいだろ」

 案外淡白な終わりなこって。

「冗談だって。ま、そろそろ解散でいいか?」

「まぁ、それで……」

 一瞬、空間の気配が変わる感覚に襲われた。

 敵襲か?ここは隔離された空間だぞ?誰かリークしやがったのか?それともどこからか漏れたか?

「なぁ、ヴァーリ。お前裏切ってないよな?」

 と、アザゼルが背後の男に向かって問いかける。銀髪のイケメン。久しぶりに見たけど相変わらず顔が良くてイラつく。

「それは無い。俺の行動原理は最強と戦うことだ。なら敵側に行くよりそこの男と戦う方がよっぽど楽しい」

「その言葉、信じるぞ」

「まぁ、大丈夫だろ。ここにいる全員俺がいれば屠れる。敵だって判断すれば消せばいい」

「だ、そうだ。それは事実だろう。現に素の状態でも俺より魔力量が多く見える。下手な動きを見せたらその時点で首が飛びそうだ」

 よく分かってるな、自分の立場ってやつが。

「じゃ、俺もここにいる全員に改めて実力を見せるか。そうでもしないと和平の前提が崩れるからな」

「私も手伝う?」

「いいよ。せっかくのドレスが汚れたら大変だ。お姫様はそこで帰りを待っててくれ」

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 颯爽と上着を脱いで外套を展開する。力の上昇は十分、か。

「おい、ヴァーリ。これが終わったら遊んでやるから大人しくしてろよ」

「了解」

 ヤレヤレといった様子で肩をすくめるヴァーリ。

「……じゃ、行くか」

 そのまま、駆け出して窓から飛び降りた。

 周囲は元々の結界の他に別に結界が貼られている。敵側全員に対するバフ目的か?それとも……。

 ま、一気に倒せば終わりか。一々考えるのも面倒だ。

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

「行こうか、雑魚共。祈る時間はもう十分だろう?」

 真紅の機械的な龍の翼をはためかせて高速で移動する。結界の中心に到着したタイミングで敵の数の確認。

 敵はざっと見積もっても百人。手練の魔法使いもいるか。下手したら最上級悪魔クラスの手練もいると想定するか。

「関係ねぇよ、数なんて」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

『Juggernaut Blaster!!!!』

 赤龍帝の力をフルに使った一撃。無論バランスブレイカー状態での話だが。

 赤龍帝の能力は主に四つ。倍加、譲渡、反射、透過だ。反射は言葉の通り、攻撃等を反射させる、というシンプルな能力。透過も防御貫通というシンプルながらに強力な能力ではある。

 それを俺の任意の範囲で空間内を埋め尽くすように展開し、魔力を放出させた。

 要するに防御不能回避不能の全体攻撃を食らわせたってことだ。しかも当たれば確実に死ぬってオマケ付きのな。

「よし、終わったか」

 はぁ、とため息を吐きつつ全員が消し飛んだのを確認した後に元の場所に戻った。もちろん外套は解除した状態で。

「規格外、という他ないな。あの中にはおそらく上級……いや、最上級悪魔と同等レベルの魔法使いもいただろう。それを一瞬で消滅とか、それこそ神でもできるか怪しいぞ」

 アザゼルが完全にドン引きしている。こいつに本気の1部を見せるのは初めてだったか?いつもは魔力ブッパくらいしかしないから当然と言えば当然だけど。

「ふふ、これが龍神に次ぐ力の持ち主……!」

 厄介なのに目をつけられた気がするけど気にしないことにしよう。

 ま、眷属のみんなは聖剣コンビ以外は当たり前って反応してるあたり俺の評価ってそんなもんなんだろうなって。

「ってか、間違ってないなら増援が来るぞ。下手したら今の奴らより強いのがな」

「だろうな。で?どうすんだ?」

「ヴァーリが何とかしろよ。俺はある程度強くないと相手したくないんだよ。さっきみたいに数が多いなら時間潰しにもなるけど、あれじゃあな。もちろん、お前の相手も同じくだ」

 こうでも言えば諦めるか?遠回しにお前は弱いから戦いたくないって嫌味っぽく言ってみたが。

「ふふ、ふふふ。わかったよ。今のあれを見せられて黙っているほど大人ではないさ。なぁ、兵藤一誠。上が見えないというのは楽しいものだな」

 うわ、心底楽しそうにしてるよ。戦闘狂だよ、こいつ。火に油注いじゃったよ。

「なぁ、アザゼル。あれを使うぞ」

「加減して使えよ、ヴァーリ」

 こくり、と頷くと俺と同じく窓から飛び降りた。

 その瞬間、ヴァーリの身体が黒い光に包まれた。明らかに異質な魔力。それは、前に感じた邪龍のそれと同じで。

「おい、あれはなんだ」

「人工神器だよ。クロウ・クルワッハに協力させたな」

「は?あいつ相当強かったよな」

「全盛期の二天龍程度には強い。それの力の全てが神器に封じられている」

「うわ、戦いたくねー」

「鼻曲げるから戦ってやれよ。あと、クロウ・クルワッハはヴァーリだから協力してるって感じだ」

「うわ、完全協力体制かよ。絶対強いやつだろ、それ」

「それ、一誠君が言う?」

 そんなに呆れなくてもいいじゃないですか、遥さん。

「使いこなせば俺レベルになりそうなんだよな。下手したら」

「ダウト。お前レベルは無い」

 俺そこまで人外じゃないと思う。

「お、あいつ鎧纏ったぞ。俗に言うバランスブレイカーと同じやつだ」

 見た目は明らかにごつい鎧姿。前に見た赤龍帝の篭手の正規バランスブレイカーの漆黒バージョンっていうのが正しいか。

「そんで敵が……ってあいつ、たしかレヴィアタンの末裔じゃなかったか?」

 ヴァーリの目の前にいる褐色の女性。確かあいつは旧魔王の血族ってことで見た記憶がある。

「……あ、ホントだ。前に見た事あったけど、もしかしてさっき言ってた旧魔王派ってやつか?」

「あんな奴が反社組織に着くなんて世も末だな」

「奇しくも、和平の正当性が立証されてしまった訳だな」

 サーゼクスが複雑そうな顔してる。まぁ仕方ないけど。

「迫害してきた人」

 ぼそり、とヴィルが呟く。

「……やっぱり、俺が」

「ううん。あの人の血で手を汚して欲しくない」

「……そっか」

 結局のところ、心の傷を完全に治す方法は無いのかもしれない。……少しくらいは手助けになればいいとは本気で思う。

 そう思いつつ、優しく抱きしめて頭を撫でると体を預けてくれた。うん、絶対に守ろう。

「おーおー。お熱いね。もうお前ら全員結婚したらどうだ?」

「地獄みたいな提案すんな。で?あいつどうするつもりなんだ?」

「小細工なんていらないだろ。正面から勝つさ」

 アザゼルの発言は的を得ていた。

 目の前に現れた悪魔をただの身体能力だけで蹴散らした。まさに鬼神、と表現するのが妥当な程に圧倒的だった。魔力操作をしているだけの一撃で腕は吹き飛び、腹はえぐれる。明らかに破壊力としては超逸品だ。

 しかもそれをほんの一秒程度の間でやって見せたんだ。流石にその強さには驚かされる。

「終わったぞ、アザゼル」

 その姿のまま俺達の方に戻ってくるヴァーリ。確かに威圧感も魔力の質も高い。下手したらサーゼクスと俺、一夜以外の全員は屠れるんじゃないかってレベルだ。

「さぁ、俺と戦ってもらおうか。兵藤一誠」

「その前に聞くが、その状態はあとどれくらい維持出来る?」

「せいぜい五分だろう。まだこれは安定していなくてね。アザゼルのチューニング待ちさ」

「完成したらロンギヌスレベルだぞ、それ。そんなレベルの代物を簡単に作れるわけねぇだろ」

 ま、それもそうか。

「分かったよ。それが解除されるまでな」

「はは、分かった。今の俺がどれほど通用するか試させてもらおう」

 と、再び校庭に戻る。

 流石に無策だと少しは怪我をしそうだな。作戦は……まぁ、あの徒手空拳の対応とかか。情報が少なすぎるな。俺も遊ぶか。

「一応説明しておこう。この神器の能力は侵食。要するに防御不可って訳だ」

「ご丁寧にどうも。ま、早速遊ぼうか」

 ただ、おもむろに地面を蹴った。コンマ数秒の間に距離を詰めて……。

「甘いな」

 まぁ、もちろんこの程度は対策される。それに合わせてカウンターじみた右ストレートを合わせてくる。

 威力は上々。狙いは及第点ってとこか。

 それに合わせて腕を蹴り飛ばし、一回転してアッパーじみた一撃を腹部に叩き込んだ。

 鎧はまるで薄氷のように砕け、数十メートルほど吹き飛ばされていた。

「がはっ!……ふふ、軽い一撃でこれか。楽しい、楽しいな兵藤一誠!血が湧くと言うとはこのことを言うのか!」

「うるせぇ戦闘狂。さすがに鎧は脆いか?出力が安定してない証拠だろ。もっと魔力操作でそこを補えよ」

「これでも大砲程度なら傷がつかないんだけどね?」

「その数百倍でも破壊できないようにしないと鎧の意味が無いぞ?おぼっちゃん」

 再び距離を詰めた。単純な肉弾戦を始めるために。

 まずはあいつの自信を砕く。単純な肉弾戦だとあいつに技術で分があると思われても癪だからな。

 数メートル圏内での打撃戦。アイツの攻撃を紙一重でかわしながら素手で鎧を砕く。しかもあえてカウンター気味にだ。

 動作から全てを読んで、全てを粉砕し尽くす。それが出来てしまうほどに実力差があるのが実情だろう。

「がはっ……はぁ……はぁ……」

 ただ蹴りあげ、叩きつけ、吹き飛ばしと格ゲーのはめ技のように一方的に攻撃を続けた。

 二分もする頃には全身の鎧は砕け落ちて、血だらけのヴァーリがたっている状態になっていた。

「出力は上々。威力もかなり有るが、まぁ……魔力から動きを読みやすすぎるんだよ。それじゃ威力だけ上げても宝の持ち腐れだぞ?」

「ふふ……。まだ、強くなれるのは……楽しいな……!」

「こんだけボコボコにされてまだ心折れてないのかよ。筋金入りの戦闘狂だな。ま、俺も今回は楽しかったよ。じゃ、そろそろ戻ろうか」

「……いや、その前に俺の仲間も見てもらおうか」

 と、意味深な発言をしたのと同時に空間内に見知らぬ人物が現れた。

 なにやら身の丈程の棒を持っているが……。この感じ、前にどこかで……。

「一応、俺の眷属候補の美猴。カオス・ブリゲードから足を洗わせた」

「よう、赤龍帝。はじめましてだな!」

 ん?この声……この魔力というか、気……そして如意棒……?

「あ、お前闘戦勝仏の息子がなんかか?前に修行つけてもらった時に同じような雰囲気を感じたぞ」

「げっ。ジジイと知り合いかよ。あの組織に入ってた事は内緒だからな。本当に殺される」

「面白そうだから話すか。どうせヴァーリみたいに戦闘狂なんだろ。その系列で」

「喋んなよ!?……ま、その手合いだな。ヴァーリに負けて俺っちは着いていくことを決めたってわけさ。ま、それを一方的にボコすアンタには引いたけどよ」

 それはこいつが弱いのが悪いと思う。

「なら気の操作を教えてやれよ。仙術に付随する技術は魔力に応用できるから」

「あいあい。で、今日はこれでお開きかい?」

「そうだろうな。これ以上やったらヴァーリは多分死ぬし」

「舐められたものだな……俺はまだ……」

 と、強がったのと同時に僅かに残っていた鎧が消滅した。限界が来たのだろう。

「……楽しい時間はすぐに過ぎるものだ」

「ま、次は一撃入れてみろよ。待ってるから」

「……!はははははっ!そう待たせないさ!ひと月以内に……げふっ」

「無理すんなよ。下手したら骨も結構イってるから。アーシアにみてもらえ」

「……すまない。それと、必ずリベンジさせてもらう」

 まぁ半年は勘弁願うが。

「一応言うけど、夏と冬はやめろよ。こちとら学生なんだ。修学旅行とか色々ある」

「わかった。善処する」

 これ聞いてないやつだろ。

 

「ま、これで実力が証明された訳だが……。お前手を抜いたろ」

 と、会議室に戻ったタイミングでアザゼルに真顔で言われた。

「その心は?」

「覇龍を使ってないからだよ。完全にそこを見せずにあれだぞ。最早恐怖すら覚える」

「いや、ここでそれ使ったら空間壊れるだろ」

 こいつはここにいるヤツら全員殺すつもりなのだろうか。

「……覇龍?」

 きょとん、とヴィルが首を傾げる。

「赤龍帝と白龍皇の神器だけにある進化形態だよ。……いや、暴走の方が正しいか」

「都合良く言い換えんなよ?こいつ以外は全員暴走して寿命削って死んでったよ。ただ、こいつはそれを克服して昇華させたんだよ」

「はぇ……。もうそうなってなかったらイッセー君はどうなってたの?」

「お前ら元教会組があぁなった時点で暴走して日本更地にして死んでたよ。下手したらアジアくらいは消し飛んだかもな。……いや、そこの……アーシアって言ったか?そいつが死んだ時点で暴走も有り得た。ってか、その時が一番確実だな」

「随分と人を危険人物扱いするな、おい」

「間違いじゃないだろ。てか、お前がさっき言ってた大切なやつの一人でも死んだらまた暴走形態に逆戻りも有り得る」

 まぁ、それは否定しないけど。

「安心しろよ。それだけお前らが愛されてるってこった。案外、押し倒せば既成事実くらい作れるかもな」

「お前、後でグリゴリ爆破するぞ」

「冗談だよ。ジョークも分かんねぇのか?」

 それを真に受ける奴らしかいないから困ってるんだろ。

 まぁ、もっと制限を設けてるのは黙ってた方がいいんだろうけど。奥の手扱いで。

「ま、これで調停で良いか?こいつが本気出したらサーゼクスでも死ぬ。つまりそれは見れないってことだ。ここでお開きってことだ」

「これで無理に見せろと言っていたら戦争ものだったよ、アザゼル」

「冗談にしちゃ笑えねぇな、サーゼクス。そこまでアホじゃねぇよ、俺は」

「ブレイザー総督がねぇ」

「お前後で覚えとけよ」

 後でしれっとこの呼び方を定着させよ。

「もう戦争なんて時代遅れなのさ。若い奴らの台頭を楽しんで余生を過ごす。それが最高だろ」

 その言葉を締めとして、和平が成立した。

 ……結局俺が貧乏くじな気がしてならないけど。

 




「ね、何でヴァーリって人を眷属にしなかったの?」
 と、キョトンとしている様子の遥。
「いや、戦闘狂の相手は嫌だから。真面目に疲れるし、あいつの場合回復したら襲ってくるからやだ」
「過去に経験がありそうな話だね」
「過去に少しな。そんなことより次回予告だな」
「今までそんなことしてこなかったでしょ」
 そう呆れないで欲しい。新しい試みなんだから。
「あー……こほん。千夜先輩との里帰り!眷属総出で冥界に行くけど、そこには若手悪魔最強の男が……!?実はヴァーリに負けないレベルの戦闘狂だった!?負けないで、兵藤一誠!今負けちゃったら、千夜先輩との約束はどうなっちゃうの!?次回!兵藤一誠、死す!デュエルスタンバイ!」
「完全に有名なやつのパクリだよねそれ。あと兵藤一誠は君でしょ」
「冷ややかな目で見ないで。あ、里帰りの部分は本当だからそれとなく楽しみに?」
「はぁ……。こんなぐだぐだな感じになると思うけど、出来れば見限らないで欲しいな。じゃあ、また次回で会おうね」



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冥界サマーバケーション
28話 里帰りします!


 自宅のリフォーム自体は翌日に行われた。なお、周囲の家も巻き込んで。

 朝起きたら家が広くなっているという謎状況に正直困惑した。どうやらアザゼル曰く、小さい家より豪邸に住めとの事。単純にそれだけでも下に見られるらしい。……そっちの社会の常識はよく分からない。

 それで、周囲の数件を金や高条件を提示して立ち退かせ、最終的に一晩で大豪邸の完成というわけだ。

 ……誰がそこまでしろと言った。

 あくまで眷属で住める環境を作りたいって話だったのに、地下五階に上は上で五階の大豪邸。敷地もドラマで見たような噴水やら何やらができている始末。俺、あまり目立つことをしたくないって言ったよな。悪目立ちしすぎだろ。

 しかもそれを寝ている間に全てやったんだぞ?悪魔の技術って凄い、まじで。

 ちなみに地下にはトレーニングルームやプール、映画館に戦闘用の広大な結界も完備だそうだ。しかも俺が覇龍を使ってもそうそう壊れないような超強固なレベル。

 あのさ、もう少し加減を考えよっか。庶民的な暮らしでよかったんだよ、俺。所持金をひけらかすような大人にはなりたくなかったんだよ。

 それで?現在は超豪邸の主と来たもんだ。

 いや、喜んでないわけじゃない。むしろ感謝しないといけないところなんだろう。ただ、それとこれとは別な心境があったりする。

「朝からうるさいわね」

 と、呆れた様子の千夜先輩。何故か俺と一緒にリビングにいる。

「むしろなんでそんなに落ち着いてるんだよ。こんな大豪邸、普通有り得ないだろ」

「所持している力や富を考えれば、むしろ小さい方よ。それに、これでやっと狭い状態から解放されるんだから儲けものでしょう?」

 やばい、感覚麻痺してきた。フェニックス家とかグレモリー家の基準になってしまう。それそこ貴族のレベルに。

「って、なんでナチュラルにいるんだよ、千夜先輩」

「主が眷属のそばに居て悪いのかしら」

「悪くは無いけど……。って、まさか」

「今日から私も住むわよ。それと、セラフォルー・レヴィアタン様も。貴女の眷属も住むでしょうね」

 なんか大所帯になってきたな、真面目に。周囲から好奇の目で見られそうだ。

「……まぁ、そのメンツならいいか」

「あら、案外素直に受け入れるのね」

「抵抗したって仕方がないだろ。それよか受け入れる方が先だ」

「まぁ、どれだけ大所帯になったとしても、寝室はひとつになるでしょうけど」

 俺、1ヶ月後に生きてるかな……。

「ふわ……おはよ……」

 と、欠伸半分に起きてきたヴィル。デフォルメされた可愛いドラゴンがイラストされたパジャマを着ている。可愛い。

「おはよう、ヴィル」

「……あれ、今日はどこかに行くの?」

「……?別に予定は無いけど」

「鷹白千夜がここに居る、ということは何処かに狩り出される合図」

 随分な偏見だな。

「違うよ。今日から住むことになったんだよ、この主様」

「ふーん……負けないけど」

 何を張り合っているんだろうか。住み始めたタイミングとかか?

「……女心をわかりなさい」

 あぁ、その発言で何となく察した。

「まぁ、今から何処かに行くというのもあながち間違いでは無いわよ」

「あれ、デートの約束してたっけ」

「……デート?」

「さすがに冗談だよ」

 この手の冗談を言うのはやめておこう。下手したら殴られる。

「それもいいけれど、今日から夏休みでしょう?」

「あぁ、プールとか?」

「里帰りよ。私の場合はグレモリー家にね」

「……里帰り?」

 それって俺も必要か?

「眷属が同行するのは当たり前でしょう。それに、顔合わせもね」

「顔合わせ?何かあったっけ」

「新人悪魔同士での会合と新人悪魔間でのレーティングゲーム大会の開会式よ」

「……あぁ、そういう」

 千夜先輩は参加しないはずだけど、まぁ……新人悪魔としては会合に参加せざるを得ないって感じか。あと眷属の人数的にもリアスも不参加扱いになりそうだし。本格的に会合のために里帰りって感じか。

「夏休みとしてはひと月以上あるでしょう?その間ずっとグレモリー家に滞在することになるから」

 まぁ、拒否権は無いやつですね。拒否するつもりもないけど。

「ま、久しぶりに千夜先輩の眷属として振る舞えるのは楽しくはあるな」

「何よ、嫌味のつもり?」

「いや?千夜先輩の隣を歩けて楽しいなって眷属の独り言だよ」

「……そういうことは他の子に言っちゃダメよ」

「了解、主様」

「むぅ……仲睦まじい」

 どっちかと言うとじゃれあいか恋人同士の惚気だと思う。俺たち付き合ってないけど。

「ん?じゃあ俺の眷属も連れていくのか」

「勿論よ。新人悪魔の会合というのは名ばかりで、ほぼデモンストレーションと舞踏会を掛け合わせたようなものよ」

 あぁ、そういう感じね。なら連れて行くのが普通か。

「それに護衛として眷属を連れて行くのは普通よ。まぁ、マネージャーとして連れて行くのもありだけど」

 それを言い出すとレイヴェルだけでよくなる問題が発生するから全員連れてくよ。

「それで、何時に行くんだ?」

「今からよ」

 この人、事前連絡とかしない人なのだろうか。

「別に、あっちに大体のものは揃っているからよ」

 ってなると、基本的にあっちで衣食住はサポートしてくれる感じか。

「じゃ、行くわよ」

「皆起きてからだよ、主様」

 で、結局出発は二時間後になりましたとさ。

 この人髪のセットとか朝のシャワーとかしないのだろうか。その時間で1時間はかかると思うけど。

 

 出発先は自宅の地下五階。なんかリフォームしたのと同タイミングで冥界行きの電車の車両を購入して、駅のフォームを作ったらしい。金持ちのスケールがやばい。

 まぁ、原理的には魔法陣を媒介として冥界に行く感じになるんだと思うけど、それでも金がかかってるとは思う。

「ほら、行くわよ」

 促されるままに電車の中に入ると、そこには高級リムジン顔負けの豪華絢爛な装飾が施されていた。しかも高そうなテーブルに冷蔵庫、テレビに冷暖房完備。なんか嫌な成金っぽくなってきてる気がする、俺。

「グレモリー領行きって事だよな、この電車」

「ま、そうなるわね。ほら、入って?」

 誘われるがままに車内に入り、そのまま近くにあったソファーに座る。流れ的に千夜先輩の隣に座ることになったけど、役得ってことにしよう。

「……ずるいです」

 ぼそり、と一夜が呟く。

「片方空いてるから来いよ、一夜」

「はーい」

 ぴょん、とはねながら右隣に一夜が座る。……両手に花とはこのことか。

「早い者勝ちの世界」

「小猫ちゃん、私達出遅れてしまいました……」

「……まだ、チャンスはあります。アーシアさん」

「ま、今は譲るべきだろうね。表情を見るに、ご満悦に見える」

「うわ、顔真っ赤。わかりやす……」

「……負けない」

 今日も眷属さんはマイペースに俺を追い詰めてきます。それにしても、そんなにだらしない顔してるかな、俺。

「相当だらしない顔をしているとも思います」

 レイヴェルが言うならそうなのだろう。まぁ、心を読むのはやめて欲しいが。

「「……」」

 ちなみにこよみと憂姫は複雑そうな顔をしていた。主の幸せと俺の幸せ、そして自分の幸せを天秤にかけて揺れているのだろう。

「……天然タラシ」

 遥さんはもう少し言葉のナイフをしまって欲しい。

「そろそろ出発するわよ」

 千夜先輩の声に合わせて電車が発進する。魔力を媒介として動いているから電車と表現するのは間違いな気もするが、まぁ今はいいか。

 揺れはほぼ無く、かなり快適に進んでいる。表示的にはあと二時間程度で着くのか。

「ふふ、初めてですね。こんな旅は」

「あれ、そうなのか?旅行とか結構行ってそうな気がしてたけど」

「前の体の時は睡眠時間を削り、研究ばかりしていたので旅行とは無縁でしたよ。もちろん、娯楽とも。移動も飛行機を使っての海外での学会参加くらいだったので」

「ふーん、そうか。なら旅って意味ならこれから色んな思い出を作っていけるな。初めての旅の相手が俺なのはなんかこそばゆいな」

「ふふ、私は何となく予感していましたよ。初めて会った時から、そうなるような気は」

 乙女の勘ってやつか?それにしては正確すぎる気はする。

「ま、その相手に選ばれて光栄だよ、一夜」

「えへへ、私もです。一誠君との初めての旅、楽しみです」

「私達の存在を忘れないで欲しいわね」

 あ、千夜先輩の機嫌悪そうだ。

「悪そう、じゃなくて悪いのよ。私の一件で行くのよ」

「千夜先輩ってさ、随分嫉妬するよな。独占欲が強いって言うか」

「……私はそういう女よ」

「そういう女を選んだ俺は運の尽きか、それとも幸運の先駆けか。どうなんだろうな」

「後者になるようにエスコートするのが眷属の……男の子の役目でしょう」

「へいへい。肝に銘じておきますよ、主様」

「随分と軽口を叩くのね、貴方」

「俺にとっては千夜先輩の眷族なだけで幸せだから、それ以上はあんまり望まないからな」

「……そう、ならいいわ」

 あ、顔真っ赤だ。思ったよりもわかりやすいのかもしれない。というか可愛い。

「なんで女の子を口説いているところを見せつけられないといけないのかな」

 あ、眷属の皆さんがお怒りのご様子で。

「口説いてないっての。割と素で本心言ってるだけだぞ」

「だからタチが悪いんだよ」

 遥さんがご機嫌ななめ、と。

「……それにしても、私はまだ先輩付けなのね」

「……だって、呼び捨てで言ったら多分顔真っ赤になるし。もう少し我慢してくれ」

 多分、今の俺は人に見せられないような顔をしていると思う。顔に熱がこもるのが実感としてあるし、下手したら耳まで。……うん、慣れないことはやめよう。

「……そ、そう。なら、待ってるわね」

 千夜先輩も多分、同じ状態になってると思う。恥ずかしくて、照れくさくて。顔すら見ることが出来ないけど。

「ったく、どんな状況だよ」

 呆れながら登場するアザゼルさん。……ってアザゼル?

「呼んでませんよ、アザゼルさん。今すぐグリゴリにお帰りくださいませ」

「気持ちわりぃ喋り方すんなよ、純愛龍。お前がそんな顔してるとこ初めて見たぞ」

「うっせ。……たまには、俺もそういう時がある」

「うわ、柄にもなく照れてやがる。色を知った男は脆いねぇ」

 覚えとけよ、このバカ。

「てか、なんでここにいんだよ。仕事しろよ」

「仕事の一環だっての。外交だよ、外交。今からセラフォルーとの会合だっての」

「セラと?ってか、それがなにか関係あるのか?」

「ま、色々とな。お前と少し話がしたくてな。ま、今は邪魔したな。楽しく修羅場しててくれや」

 本当に覚えとけよ。

「あ、一つだけ言っておくわ。会合で面白いデモンストレーションをやるからな」

「面白い?なんだ、誰か戦うのか?レーティングゲームのやつなら、試しに戦うのが……」

 ふと、嫌な予感がした。冷静に考えて、この場合若手悪魔最強とそれに見合うだけの部外者が戦うのが普通だ。二番手と戦わせて優劣をはっきりさせたらゲームをする意味がなくなるしな。

 それで?普通に考えてその部外者で、多少怪我しても構わないというか、怪我をする危険性がないやつってなるなら俺かサーゼクスみたいな魔王クラス以上。……それで、普通に考えて魔王が戦うとは考えにくい。

「まさか、俺が誰かと戦うのか?」

「正解。流石に頭の回転が早いな。お前がサイラオーグと戦う予定だ」

 このバカ、そんな情報があるなら先によこせよ。そもそもこっちの方に来るのもサプライズじみてたのに。

「考えていることが手に取るようにわかるな。さっさと情報よこせ、バカアザゼルってとこか?こんなのは黙ってた方が面白いに決まってるだろ」

 こいつ俺に喧嘩売るよな、ちょくちょく。

「ま、その情報を伝えるのも兼ねてな。最悪お前の眷属でもいいが、それを望むお前じゃないだろ」

「あぁ、当たり前だろ。それにアイツと戦わせたら冗談抜きで大怪我は免れないだろ」

「そこまでの相手なの?」

 キョトンとした様子のヴィル。

「あぁ。立場がなきゃ俺の戦車第一候補になるくらいはな。本名はサイラオーグ・バアル。バアル家って言ったら魔王の次に権力を持つ一族で、普通は滅びの魔力って物質を消滅させることに特化した魔力を保有して産まれてくるんだけど、サイラオーグはそれを持たずに生まれてきたんだ」

「なら、弱いの?」

「全然?その分体を極限まで鍛え抜いているから、単純に近接戦闘が化け物みたいに強い。それに仙術に似たオーラを纏って殴ってくるから防御不可。なんなら俺にもバランスブレイカー状態なら普通にダメージが通る」

「……つまり、化け物?」

「若手悪魔最強なのは確実だろうな。単体戦力だけなら普通に最上級に最も近いと言ってもいい。あぁ、スピードなら聖剣の力をフルに使ったイリナと同等だな。オーラを纏ってるなら下手な聖剣の一撃なら普通に弾くし」

「本当に悪魔なの?その人」

「悪魔じみて強いとしか言えないな。ま、殺しに来たりはしないから安心しろよ」

 まぁそうなったら、覇龍使ってねじ伏せるか消すけど。

「じゃ、お楽しみのところ悪かったな。せいぜい楽しんでろよ、純愛龍」

「うるせーよブレイザー総督」

「マジでそれはやめろ」

 それだけ言い残して転移して行った。絶対にやめてやらん。

「……嵐のような人でしたね」

「普段からあんなもんだよ、あいつは。ブレイザー総督は絶対に流行らせてやる」

「ブレイザー総督?」

「あいつの黒歴史ノートに乗ってた人工神器だよ。光と闇を内包した最強の剣だと」

「あまりいじると怒られるよ」

「立場的に怒れねぇよ。それに、あっちもいじってきてるんだからお互い様だ」

 まぁ、これ以上なんか言うなら俺も暴れるけど。

「あんまり本気にしないことよ。あの手の輩の言葉は」

「やだよ。なにが純愛龍だっての。……純愛が悪いと思うわけじゃないけど、それを茶化されるのは相手にも失礼だと思うからイラッとするんだよ」

「ふーん、お相手さんは相当愛されているのね。羨ましい限りだわ」

「火種を落とすのはやめとけよ。……ま、彼女が欲しいって思わなくもないけどな。隣を歩いてくれそうな子がいいけど」

 その発言に、ぴくりとほぼ全員が反応したのがわかった。

「強い子が好みなのね」

「ってか、立場上ある程度強くないと周囲が許してくれないだろ。実力じゃなくて、精神的な方の話な」

「心が強い子が好み……」

「まぁ、あとは俺の事を好きな子がいいってくらいだよ。一方通行な思いほど疲れるものもないし」

「そこまで言うなら目星がついているのかしら」

「いや?そもそも男側がそういう風に言うのも失礼だと思うけどな。女の子を物として扱ってるように見えるし」

「誰かを押し倒せばすぐにでも出来そうよ?貴方の場合」

「人を性犯罪者にする気かよ。あぁ、それともう一つだけあるか。一緒にいて楽しい子とか。……ってなるとここにいる全員ってことになりそうなんだけどな。みんなと話してるの楽しいし」

「全員を口説く気なのかしら。ハーレム王でも目指すつもり?」

「それ女たらしを意図的にしているヤバいやつって不名誉な名称だろ」

「違うのかしら」

「違う」

 ……ま、今の現状がいちばん楽しいと言ってしまえばそうなんだけど。他愛もない話で笑い合えるようなそんな関係が。

「ま、恋人作りなんてまだまだ先になりそうだけどな。和平の一件であんまりスキャンダルとか出せそうもないし。それに、相手も居ないからな」

 その発言に、この場にいる全員がさっきを強めたような気がした。

「……本気で言っているのかしら?」

「本気さ。別に俺だって誰も好きじゃないって訳じゃないし。かと言って惚れない訳でもない。……でも、相手を一人選ぶってなるとまた話は変わるだろ」

「純愛思考なら、まぁそうよね」

「随分と弄ってくるな。単純に初恋の人ってなると一夜にアプローチするべきなんだろうけど、それも今になって考えてみれば正しいのかって考えてしまう事もある。それこそ、自分の都合を押し通してる気がしてな」

「随分と消極的ね。つまり、両想いじゃなきゃ嫌、ってことかしら」

「そうなれたらどれほど幸せなんだろうな。多分、世界が今よりも綺麗に見える、って創作物なら表現するんだろ。でも、現実は案外そう上手くいくもんじゃない。今は好きでも、時間が経てば薄れるかもしれない」

「案外、そういうものよ。綺麗事を言うなら、二人で支え合っていくもの、って言うべきなのかしら」

「なら、それこそ慎重に選ぶべきだろ。お互いの為にもな。それこそ、悪魔の一生なんて数千年単位。今焦って決めるほどでもないと思うよ」

 ただ、とつけ加えて続けて言葉を紡ぐ。

「俺の事を本気で好きでいてくれるなら、俺はその想いに応えたくなるよ。多分、そう言う人の事を愛おしく思いたいんだと思う」

「随分とロマンチックね。ついていくのに疲れてしまいそう」

「無理にとは言わないよ。あくまで俺のエゴだしな。……ま、いずれ着いてきて欲しいって思える人が出来たら、無理やりにでも連れていくよ。何年先になるかは分からないけどな」

「全く、骨が折れるわね。貴方と付き合う相手は相当根気強くないと駄目なようね」

「だからこそ慎重に選んでるんだろ。俺の隣を歩いてくれる女の子を」

 ま、そんな奴が現れるかどうかは分からないけどな。今ここにいる奴に告白したら隣を歩いてくれるとは思うけど、それじゃ駄目なんだと思う。

 抽象的だけど、掴めそうで掴めない。そんな感覚。それを手に入れたいだけなのかもしれないけど……今は、まだ……このままがいいかな。

 




「まずさ、なんでこんなに投稿遅れたの?」
「書き終わったのに投稿し忘れてたって作者が」
「あのバカ。投稿したかどうかも分からなくなるほどの鳥頭なのかな」
「真面目に泣くからやめて。あの作者豆腐メンタルだから」
「で?ここでは何を話す?イッセー君との馴れ初めでも話そうか」
「そういうのは恋人とか夫婦での話な」
「それ減点だよ」
「理不尽すぎないか?」
「妥当だよ。ま、次の話で相当辱められる予定って聞いたからいいかな」
「え、誰が?」
「一誠君が」
「腹痛で帰っていいか」
「ダメだよ。覚悟決めて」

「はぁ……分かったよ。あ、次回。魔王とお城と夫婦喧嘩。って何このタイトル」
「見てからのお楽しみだよ。じゃ、また次話で会おうね」



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