銀河帝国革命 (悠久なる書記長)
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銀河労働者代表ソヴィエト結成

この話の主人公のモデルは、Haig氏主催のHOI2世論型AARの登場人物、「カール・ハンソン」です。詳しくは世論型AARで検索しよう!


ヴァルハラ星系惑星オーディン……その美しい惑星はかつて、ゴールデンバウム王朝銀河帝国の首都星として栄華を極めていたが、その面影はすでになく、今やオーディンは大勢の人々の血で埋め尽くされていた……

 

 

帝国暦481年/宇宙歴790年、それは銀河帝国成立以来、史上最悪の飢饉から始まった。昨年、帝国領土内に同時多発的に発生した大規模自然災害と新型ウイルス災害によって、農産物の記録的な不作となった。その結果、帝国領土全土において大規模な食糧不足に陥り、人民は明日の食料を求め彷徨った。しかし、数少ない食料は貴族と一部の富豪によって独占されており、人民たちは家畜の飼料をごちそうとして食べなくてはならないほど、日に日に追い詰められていった。

 

帝国暦482年/宇宙歴791年1月22日、食糧危機改善の兆しが全く見えない中、一人の若者がオーディンの中心広場で「パンを寄越せ!」と叫びながらデモを始めた。参加者はみるみるうちに膨れ上がり、あっという間に数千人が集まった。

デモ隊の代表者たちは銀河帝国皇帝に、人民の窮乏を訴えるための請願をその場で決議、デモ隊は皇帝の住まう宮殿、新無憂宮(ノイエ・サンスーシ)に向かって行進を開始した。デモ隊は中心街に近づくにつれて数を増やしていき、最終的には10万人近くが参加したと言われている。

 

この報を受けた帝国宰相代理クラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵は、軍隊の動員による鎮圧を決断、帝国皇帝フリードリヒ4世に提言し承諾されたことにより、軍の治安部隊を出動させた。

出動した治安部隊はデモ隊に対し、解散を指示するもデモ隊は拒否。これを受け治安部隊はデモ隊に対し発砲した。これが引き金となってデモ行進は暴動に発展し、最終的に数万の人民が犠牲となった。この虐殺劇は日曜日に起こった事から「血の日曜日事件」と呼ばれるようになり、銀河帝国皇帝への幻想は完全に打ち砕かれ、帝国全土に反帝国運動が広がるきっかけとなったのである……

 

 

血の日曜日事件の事件現場から数キロ離れたとあるビアホール。普段は人民の憩いの場として愛されているここでは現在、多数の労働者たちが集まっていた。

 

「このままでは俺達平民は皆餓死してしまう!」「このまま餓死するくらいなら武器を持って戦おう!」「バカを言うな!国家に逆らうのか!?」「勝てるわけないぞ!」「俺は死にたくない!」「だがこのままだと飢え死にだぞ!」

 

労働者たちが怒号を上げながら話し合っていると、山高帽を被った一人の男が壇上に上がった。

 

「同志達よ!静まれぇ!」

男が大声を張り上げると、労働者達の怒号はピタリと止んだ。

すると男は、話を続けた。

 

「同志達よ、聞いてほしい!現在、この帝国全土で大飢饉が広がり、我々人民は飢えに苦しんでいる。既に多くの人民が餓死し、辺境では疫病が広がっているという。

だが、神聖不可侵たる皇帝はこの国難に何も関心を示さず、国政を担っているリヒテンラーデ侯は困民救済に予算を回す余裕などないという。しかし!帝国の臣民たる我ら人民を救済しない政府に、いや皇帝に存在価値などあるだろうか!」

男は労働者たちに語り掛ける。

 

「そうだー!」「その通りだー!」「皇帝なんかいらねー!」「俺達に救済をー!」

 

「その通り!同志諸君、我々人民を救済しない皇帝に価値などありはしないのだ!人民は人民自らが動かなければ救済の道はない!何故なら帝国は、我等を都合の良い奴隷としか見てないことが、今回の大飢饉で判明したからだ!血の日曜日を思い出せ!パンを寄越せという我等の願いに対し、奴らは虐殺で応じたのだ!」

 

「俺の母ちゃんは彼奴らに殺されたんだ!」「奴等に報いを!」

 

男は続ける。

「我々は帝国の奴隷ではない!我々は帝国の臣民ではない!我々は皆、人民であり、人民の上に何者も存在しないのだ!故に、我々人民は、帝国の傲慢な貴族共と皇帝から権力を取り返さなくてはならない!」

 

「その通りだ!」「人民万歳!」

 

「同志諸君!そこで、私は今ここに、真の人民の代表者たちによる評議会、【ソヴィエト】の結成を提案する!」

 

「「「異議なし!!!」」」

 

帝国暦482年/宇宙歴791年1月29日、この会議によってオーディンの労働者代表者組織、【銀河労働者代表ソヴィエト】が結成された。そしてソヴィエトの代表である議長には、提案者である男が選出された。

その男の名はカール・ハンソンといった。そしてカール・ハンソン議長の指導の下、銀河労働者代表ソヴィエトは瞬く間に勢力を拡大していくことになる。

 

この出来事が後に銀河全土を揺るがすことになるとは誰も思わないだろう。たった一人を除いて……

 

 




この話は勢いで書いてるので完全不定期更新です。続くかどうかも分かりません。


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イゼルローン要塞陥落

何故、帝国公用語のモデルであるドイツ語のレーテにしなかったのかというと質問があったのでお答えします。
実は最初はレーテにしようと思ったのですが、友人に相談した結果。帝国公用語自体はドイツ語っぽいというだけで、ドイツ語の完全コピーではないという指摘を受けた事、そして何より分かりやすさを重視したからです。


銀河労働者代表ソヴィエトの議長に就任したカール・ハンソンは、卓越した指導力を発揮、労働者達の【血の日曜日事件】に対する反感も相まって、ソヴィエトの勢力の拡大に成功していた。

 

 

帝国暦483年/宇宙暦792年3月1日、銀河労働者代表ソヴィエトは総人数1000万人を超え、組織拡大の目標を達成し、今後の方針を決める為の中央執行委員会が開催された。

 

「同志諸君!遂にオーディン最大の労働組合であるオーディン鉄道労働組合が、ソヴィエトに加盟を決議した。これで加盟組織の総人数は1200万人に上ろうとしている。

我々銀河労働者代表ソヴィエトは帝国内最大の全国組織となったのだ。これも同志達の革命精神に基づいたたゆまぬ努力の結果である。私はソヴィエト議長として、同志諸君に改めて感謝を表明したい!」

 

結成以来、実質ソヴィエトの専用会議場となっていたビアホールで、ハンソンは駆けつけてくれた代表たちに感謝し、今後の方針を述べた。

 

「我々ソヴィエトは真の人民自治のため、より勢力を拡大しなければならない!故に、今後は労働者だけでなく、農民や兵士にも積極的に参加を求めていくべきである!何故なら【帝国の労働者は、いまは、帝国の住民のうちでは少数】であり、労働者が単独での権力奪取は不可能と言わざるを得ないからだ。そして、帝国で最も人口が多いのは農民であり、帝国の安全保障を担っているのは軍の兵士である。そこで、我々は彼等の農民・兵士と積極的に交わり、同盟を果たした後、労働者・農民・兵士による【革命的民主主義的独裁】の樹立こそが、真の帝国人民革命の近道であると、私は確信している!同志諸君!我が親愛なる労働者諸君!農民と兵士は敵にあらず、共に歩む同志なのだ!ソヴィエト万歳!」

 

「「「ソヴィエト万歳!」」」「「「革命万歳!」」」「「「同志ハンソン万歳!」」」

 

 

中央執行委員会によって定められた新たな方針に基づき、ソヴィエトは農民運動や軍人組合の組織化と勢力拡大に着手、更に別星系での組合との連携を図るべく、精力的に活動を行っていった。

ハンソン達はソヴィエトが大衆から認知されるために、直接行動を控え、大衆運動化を進めることに重点を置いていた。

だが、銀河帝国を渦巻く情勢の変化は、後に彼等をより直接的な行動を決断させることになる。

 

 

帝国暦483年/宇宙歴792年5月7日、銀河帝国の守護神と称えられていた難攻不落のイゼルローン要塞が陥落した。自由惑星同盟軍宇宙艦隊司令長官シドニー・シトレ大将発案の「並行追撃作戦」より、要塞主砲「雷神の鎚(トールハンマー)」が封じ込められ、更に「無人艦突入作戦」によって要塞に大打撃を与えられてしまう。

要塞陥落の危機に焦った要塞司令官クライスト大将は、敵味方が入り乱れてる中での「雷神の鎚(トールハンマー)」を決断、発射を命令するも、部下がこれ拒否し、司令官によってその場で射殺される。しかしこれに反発した兵士たちが決起し、反乱が勃発する。その結果、隙をつかれた帝国軍は同盟軍によって撃破され、イゼルローン要塞は攻略されたのであった……

 




話を分割したので、連続して投稿します。


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帝国第一革命の失敗とソヴィエトの解散

連続投稿の続きです。


イゼルローン要塞の陥落は帝国に計り知れない打撃となった。政府は緘口令を布告するも、噂は瞬く間に広まり、人民の帝国政府に対する不満は日々高まっていった。

これを受けソヴィエトは帝国暦483年/宇宙暦792年6月7日に中央執行委員会を緊急招集、今後の対応を協議を行った。そこで議長であるハンソンは委員たちに対し、ゼネラルストライキによる直接行動を提言した。

 

「イゼルローン要塞陥落によって帝国政府の脆弱性が明らかになった!これは我々が帝国を打倒し、人民革命の好機である!今こそ直接行動に移る時が来たのだ!」

 

「その通りだ!」「何を言っている無茶だ!」「軍に勝てるわけがない!」「今を逃したら二度と機会は来ないかもしれないんだぞ!今起ち上がるべきだ!」

 

「我々が親愛なる同志諸君!我々ソヴィエトは何のために起ちあがったのだ?腐った帝国政府を打倒し、真の人民主権に基づく革命を成さんとする為ではなかったのか?ここで我が身の可愛さに躊躇っていては、人民革命は未来永劫成し得ないだろう。今こそ我々人民の力を見せる時なのだ!」

 

長時間に及ぶ討議の結果、ハンソンが提言した直接行動が承認され、ソヴィエト全加盟組織によるゼネラル・ストライキの実施が決定されたのである。

 

決定後のハンソン達の動きは早く、6月18日に政府当局及びマスコミにゼネストの開始を通達後、翌6月19日に行動を開始、ただちにオーディン中の工場や鉄道などの大型施設が労働者達によって占拠され、操業が完全ストップしたのであった。

 

 

ソヴィエトによるゼネストの影響は凄まじく、ゼネストの報を聞いた帝国軍首脳部は軍の動員をリヒテンラーデ侯爵に提言、侯爵も承諾するも、軍の一部がゼネスト突入に応じて、反乱を決行したことにより、対応に忙殺されることになってしまう。その後もオーディン各所で暴動やストライキが勃発、遂にはオーディン周辺の他星系にまで影響が及び、各惑星で暴動や反乱が勃発した。

 

これを受けてリヒテンラーデ侯爵は、武力による鎮圧を諦め、方針を大幅に転換、事態を収拾するため、憲法の制定と国会の創設、普通選挙の実施を皇帝フリードリヒ4世に提言、これが了承されると、帝国暦483年/宇宙暦792年10月17日、後に【10月詔書】と呼ばれる帝国改革の詔勅が発布された。その結果、帝国宰相及び宰相代理の位は廃止となり、新たに首相職が新設され、その地位には元宰相代理のリヒテンラーデ侯爵が横滑りして就任した。リヒテンラーデ新首相は廃止された帝国議会を復活させ憲法を制定、その後新たな立法処置に基づいて普通選挙を実施すると明言した。

 

この結果を受けてソヴィエトでは対応を協議するも、10月詔書を評価する穏健派と政府の打倒を目指す過激派に分裂してしまう。穏健派側ゼネストの中止と職場復帰を呼び掛けるも、過激派がゼネストの継続を呼びかけたため、現場は混乱、その隙を突かれ軍の掌握に成功した帝国軍の鎮圧作戦に敗北してしまう。

議長であるハンソンは軍のシンパによって救出され、オーディン脱出に成功するも、幹部の殆どが逮捕されてしまう。

そしてソヴィエトは当局に協力し組織を掌握した穏健派によって[動乱を起こした責任を取る]として、帝国暦483年/宇宙暦792年12月18日に『解散』を宣言、ゼネストから始まった動乱はソヴィエトの敗北で終わった。

 

だが、10月詔書の約束は果たされることはなく、翌帝国暦484年/宇宙暦793年1月、帝国議会が正式に復活するも、選出方法は一部の納税者と貴族にしか参政権が与えられない制限選挙とされ、更に憲法も制定されたが、あくまで旧来の慣習法を明文化させるに留まり、帝国の支配を正当化させるだけに終わってしまったのであった。

 

この動乱は、後に「帝国第一革命」と呼ばれ、銀河帝国革命の原点とされているが、それはまたはるか未来の話である……

 

 




前作の銀酔伝の反省を踏まえ、1話1200字前後の短編という形で投稿しています。


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ロンドリーナ・コミューン革命

本編に出す機会がないのでこの場で述べますが、原作主人公であるラインハルトとキルヒアイスは第5次イゼルローン攻防戦で既に死亡しています。

何故なら原作でラインハルトがクルムバッハ少佐を返り討ちにできた理由が、「敵味方が入り乱れてるところに雷神のハンマーを発射した映像を目晦ましとして利用した」事が大きいからです。

この世界では雷神のハンマーの発射は失敗してるので、ラインハルトはクルムバッハ少佐に暗殺され、キルヒアイスも救助が来ないので助かりません。またレンネンカンプは、イゼルローン要塞が陥落してるので同盟軍の捕虜になっています。

なので複数の主要キャラが何も描写もなく、既にフェードアウトしていますので、ご注意ください。


帝国第一革命の失敗後、オーディンから脱出に成功したハンソンは、シリウス星系第6惑星ロンドリーナのラグラン・シティーに潜伏していた。

ラグラン・シティーは、まだ銀河連邦すら成立していなかった西暦の時代に起こった【シリウス戦役】の原因となった【ラグラン・シティー事件(ブラッディ・ナイト)】と呼ばれる虐殺事件の舞台となった地であり、現在は豊富な鉱物資源を有する鉱山都市として栄えており、鉱山から得られる莫大な利益は、帝国政府と貴族諸侯の懐を潤していた。しかし、現場の鉱山労働者は、その恩恵を与えられることはなく、過酷な労働を強いられていた。

 

 

ハンソンは帝国内務省の秘密警察機関「社会秩序維持局」の追手から逃れながら、この地の労働者たちの惨状を見て激怒、労働者たちを啓蒙し革命へと導くため、休む間もなく革命活動に勤しんでいた。

 

「ラグラン・シティーに住まう人民諸君!諸君ら勤労な人民の敵、王侯貴族や地主、資本家は、労働者と農民は愚鈍な民であり、自分達がいなければ生存できないと言っている。

彼らは我々にこう言う。『自分達以外に領地を発展させ、社会の秩序を維持し、愚民どもに仕事を与え、導けるような高貴な存在はいないだろう。私達がいなければ土地は荒れ果て、全ては崩壊し、国家は四散するだろう。一部の忘恩の徒が私達を追い払おうとしているが、混乱に怯えた愚民どもは、私達高貴な存在を必要とするだろう。』

しかし、労働者や農民は、傲慢な彼らの話に混乱したり、怯えたり、欺かれたりはしない!!

労働者や農民は、王侯貴族や地主に資本家がいなかろうとも、自分達自身で労働の適切な分配、献身的な規律の確立、共通の利益への労働が可能な事を証明しなければならない!!

仕事の熱意、自己犠牲の準備、農民と労働者の緊密な同盟、これらは諸君ら勤労な人民を王侯貴族や地主、そして資本家どもの圧政から永遠に救うものだ!!!」

 

「「「おお、おおおおおおお!!!!!!!!!!」」」

 

ハンソンはその手腕を存分に発揮し、このラグラン・シティーでも勢力を築くことに成功していたのであった。

 

 

帝国暦485年/宇宙暦794年1月6日、それはハンソンの演説から始まった。

 

「何百年もの間、貴族や資本家たちエゴイスト共は、自分達の私腹を肥やすため、諸君ら勤労な人民が生み出した利益を社会益の為と詐称し……この自分勝手なエゴを貫徹するために、我々人民が受け取るべき利益の一切を横取りしたッ!

諸君ら労働者が過酷な現場で、一日十何時間も働き続けて、生み出した利益が一切還元されず、僅かな賃金と用途が制限されたクーポンだけが支払われる……このような悪行を許してよいのだろうか?」

 

「許されるものかー!!」「私腹を肥やす豚共をつるせ―!!」「労働者に人間らしい生活をッ!!」

 

「その通りだ同志諸君!今こそ我ら人民の声を、あのエゴイスト共に突き付けようではないか!!!

さあ、武器を取れ!!人民よ!!バリケードを築け!!人民よ!!鉱山を封鎖するのだ!!!」

 

「「「おおおおおおおおお!!!!!!!!!!」」」

 

ハンソンによって扇動されたラグラン・シティーの鉱山労働者たちは、一斉に蜂起し市内の主要な鉱山を悉く占拠、バリケードを築いて封鎖を行った。

これに呼応するかのように、ラグラン・シティー以外でも大規模な暴動が発生、混乱はロンドリーナ全体に広がった。主要施設は襲撃され、ロンドリーナの支配者たちは暴徒に殺されるか、鎮圧を断念し命からがら脱出していった。

 

2月19日、支配層脱出の報を受けたハンソンは、遂にロンドリーナで人民革命が起こったと判断し、労働者たちによる新しい人民革命政府の創設を提案、この提案が了承され、帝国史上初の労働者自治に基づく自治体『ロンドリーナ・コミューン人民革命政府』の樹立が宣言された。

 

「人民の名において、コミューンが宣言された!コミューン万歳!」

 

「「「コミューン万歳!!!」」」

 

各地の街頭には革命の象徴である赤旗が掲げられ、旧時代の革命歌[インターナショナル]を歌いながら、人民は革命政府の誕生に狂喜した。

 

 




連続で投稿しようと思ったのですが、続きを間違えて消去してしまったので、とりあえず、出来た話だけ投稿しました。
モチベーションが下がらないうちに頑張って続きを書くつもりです。


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革命国家『ロンドリーナ・コミューン』

勢いだけで書いてたのですが、色々相談に乗ってもらった結果、ある程度の設定を作ることにしました。その影響でこれまでの話にも大量に細かい改変がされてるので、余裕のある方は最初から読み直していただけると幸いです。(全体の流れ自体に変わりはないありません)



新しく成立したロンドリーナ・コミューン人民革命政府の臨時議長には、帝国第一革命で名を馳せ、今回のコミューン革命にも主導的立場を担ったハンソンが就任することになった。

 

「人民は安定性に欠ける帝国による統治に、既に見切りを付けていたのだ。そして我々は今、革命の名において、野蛮な支配者どもの打倒を達成した。

支配者どもは、何百年もの間、無垢な人民の無知につけ込んで……本来我々人民が受容すべき利益を、不当に搾取していた!

だが今日、コミューンが成立し、自らの手で新しき秩序を確立するという名誉を得た我々は……そう言った【名誉ある人間】として、最早、馬鹿げた卑屈な態度をとる必要はない!。

我々はもう、帝国という古臭い権威に土下座をして……薄汚い奴等の靴にベーゼをするなどという、屈辱的な行為に我慢などすることはない!

人民の意志はコミューンと共にある!!人民の意志のない帝国など、張り子の虎に過ぎないのだ!!」

 

「「「おお、おおおおおおお!!!!!!!!!!」」」

 

2月21日、臨時議長であるハンソンは、コミューンの国家として正統性を人民に示す為、3月26日にコミューン評議会総選挙の実施を宣言した。

 

「いまやゴールデンバウム朝の権威の原理は、この星の秩序を再建し、労働者を職場に復活させるうえに無力である。そしてその無力はゴールデンバウム朝の権威それ自体の否認を意味する!

利害の非連帯性が全般的な破滅を生み出し、階級闘争をもたらしたのだ。自由、平等、連帯によって、新しい基礎の上に秩序を確立すること、その第一の条件である労働者自らによって再組織することを要求しなければならない!

労働者諸君、そしてロンドリーナに住まう全ての人民諸君!コミューン革命はこれらの原理を確認し、未来における葛藤のあらゆる原因を取り除くものである!

ロンドリーナの人民は、自らの新しき国家の主人としてとどまり、自らの革命政府の代表を確保するという至上の権利を、評議会の選挙投票において確認するであろう!!

3月26日の日曜日、ロンドリーナの人民は誇りをもってコミューンのために投票に赴くであろう!!」

 

「「「おおおおおおおおお!!!!!!!!!!」」」

 

「「「コミューン万歳!!!革命万歳!!!人民万歳!!!」」」

 

このコミューン評議会選挙では、20歳以上の全ての人民に性別関係なく参政権が与えられた。これは10月詔書によって数百年ぶりに復活した帝国議会が、爵位持ち又は一定の税金を納めた者のみに参政権を与える制限選挙であったこともあって大きな反響を呼び、後に【銀河帝国史上初の男女平等の普通選挙】と呼ばれるようになるのだが、それははるか未来の話である……

 

 

帝国暦485年/宇宙暦794年3月26日、評議会選挙は混乱の中にもかかわらず、大勢の有権者が投票に参加し、最終投票率は50%を超えた。

開票の結果、総勢840名の評議員が選出され、ここに銀河帝国史上初の人民革命国家『ロンドリーナ・コミューン』が誕生したのである。そしてコミューンの代表者たる評議会議長には、臨時議長であったハンソンが改めて選出された。

ハンソン率いる評議会は新しい秩序と労働者統治の確立の為、評議会を頂点として行政、財務、国防、司法、保安、外交、労働、農業、工業、教育の10の実務機関を組織し統制の回復を図り、行政の民主化や基本的人権の保障、公教育の整備、社会的弱者への社会保障、帝国暦の廃止と宇宙歴の復活など、社会改革にも精力的に取り組んだ。

また帝国軍の襲来や、国内の反革命活動に対処するために、革命に参加した義勇兵や元帝国軍兵士を中心に【人民革命軍】を組織、総司令官には元帝国軍将校で、ハンソンと共に帝国第一革命にも参加したヴィルヘルム・テールマンが選出された。人民革命軍はテールマンの指導の下、帝国軍が廃棄していった武器弾薬や宇宙艦艇の接収をしていき、軍としての体裁を整えていった。

 

ロンドリーナ・コミューンの船出は順調に進んでいるかのように人民は思っていた。しかし、それはただの幻想に過ぎないという事を、ハンソンは誰よりも理解していたのである……

 




新キャラであるヴィルヘルム・テールマンですが、これもカール・ハンソンと同じく世論型AARで登場したキャラクターがモデルです。


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コミューン内の対立

今回の話は長めの説明があるので退屈かもしれませんが、お付き合いのほどをよろしくお願いいたします。


ロンドリーナの中心街にある豪華な城館、元々ロンドリーナ代官府が置かれていたここは現在、ロンドリーナ・コミューンの政府庁舎として利用されていた。その議長執務室で、二人の男が話し合っていた。

 

「同志ハンソン、帝国軍の兵器接収は順調に進んではいるが……如何せん数が足りな過ぎます。量も質も何もかもが足りない。これでは帝国軍が本格的に侵攻してきても防ぎ切れないでしょう。」

 

「分かっている同志テールマン、元々今回の革命は事が順調に行き過ぎたのだ。まさかこの程度の暴動で代官共が逃げ出すとは私も思わなかった。帝国貴族にノブレス・オブリージュの精神は最早存在しないのだな……」

 

「それは第一革命の時点で我々が身をもって思い知らされたでしょう……それで、どうするのです?やはり公安委員会を設置して戦時独裁に移行するしかないのでは?」

 

「それは最終手段だよ同志テールマン、コミューンには様々な連中が参加している。帝国軍が目前に迫ってこない限り、評議会を説得させるのは難しいだろう。それで内ゲバになってしまっては、それこそ帝国軍の思う壺だよ。」

 

 

ハンソンの指摘通り、コミューン評議会は様々な派閥の連合体であり、お世辞にも統制が取れているとは言える状態ではなかったのである。現在の評議会は主に、ハンソン率いる社会主義派の他に、共和主義派、サンディカリスム派、アナキズム派の4つの有力な派閥が存在している。

 

社会主義派は、評議会議長のカール・ハンソンを筆頭とした第一革命の参加者が中心の派閥であり、旧時代の社会主義(特にマルクス・レーニン主義)を理想としていた。勢力として四大派閥の中で最小勢力であるが、ハンソンを頂点に鉄の団結力を誇っており、コミューン革命の発端となったラグラン蜂起を起こしている。また、人民革命軍の指導部の殆どが彼等の派閥の構成員であり、軍を実質的指揮下に置いている。

共和主義派は、主に旧銀河連邦への回帰を理想としており、民主共和主義体制の復活を主張しているが、それまでの過程やそれ以外の主張は構成員によってバラバラであり、統一した行動はとれていない。しかしコミューン評議会の最大勢力であり、コミューンの行政の多くを担っているので、人民の支持が最も厚い派閥でもある。

サンディカリスム派は別名組合主義派とも呼ばれ、評議会では共和主義派に次ぐ第二勢力である。指導者はいないが、帝国を打倒し、労働組合によって経済運営を成すべきであり、そのためには民主政治ではなく、ゼネラル・ストライキによって帝国を打倒すべきという主張は、工場労働者を中心に支持を受けており、ラグラン蜂起がコミューン革命へと発展したのは、彼等の働きによるところが大きく、革命の原動力と言われている。

アナキズム派は別名無政府主義派と呼ばれており、コミューン評議会では第三勢力を担っている。彼等は権威や統制を否定し、国家権力の縮小または廃止を求めており、その思想に反映して、サンディカリスム派と同じく指導者はおらず、急進共和主義派以上に統一した行動を取らない。しかし派閥の殆どが、知識人や技術者、商人と農民で構成されており、コミューンが曲がりなりにも国家としての機能を果たせているのは、彼等の献身的協力があるが故である。

 

これらの四大派閥を中心として、互いが対立と協調を繰り返しながら革命を推進しているのが、現在のコミューンの政治なのである。

 

 

「しかしですね。以前に我々が提出した【帝国軍に機先を制すための積極的攻勢に転ずる作戦案】と【高度国防体制への移行の提言】もあっけなく廃案に持っていきました!これでは我々は戦うことが出来ません!奴等はこのまま何もしなくても帝国が自然崩壊するとでも本気で信じてるんですかね?」

 

テールマンが発言した【帝国軍に機先を制すための積極的攻勢に転ずる作戦案】と【高度国防体制への移行の提言】とは、帝国軍のロンドリーナへの侵攻を遅らせるため、帝国軍に先んじて少数部隊による奇襲やゲリラ戦を行うというものであり、その作戦を支えるための総力戦体制の構築し中央政府の権限を強化するという提案であった。しかし無所属の評議員や共和主義派の半数が賛成する一方、軍を台頭を防ぎたいと考えた残り半数の共和主義派や、国家による経済の中央統制を嫌うアナキズム派とサンディカリスム派が団結して反対に回り、廃案に追い込まれたのであった。

その結果、人民革命軍の軍備増強は果たされず脆弱な装備のまま、帝国軍の侵攻に備えなければならなくなっていた。

 

「同志テールマン、君の主張は充分に理解しているし、勿論私も同じ考えを持っている。私の権限の出来る範囲で軍の後援するつもりだ。だがそれ以上は厳しいという事は分かってもらいたい。」

 

「……承知しました、同志ハンソン。出来得る限りの事はやってみましょう。」

 

そう言うとテールマンは敬礼をして部屋を去って行った。

 

「このままでは革命が危ない……だが連中を説得できるだけの力も、黙らせるだけでの力もない。何とかしなくては……」

 

ハンソンは一人執務室で呟いた。

 

 

人民の声を反映させるための改革や、社会政策が強力に推進されていく一方、帝国軍に対する対応や軍の整備に関しては、未だ解決には至っておらず、特にハンソン率いる社会主義派とサンディカリスム派、アナキズム派の対立は深刻化していた。

 

だが、そんな彼等に対して、遂に帝国軍が牙を剥いたのである。

 




今回は予定と違い、1200字どころか2000字を超えてしまったので、話を分割しようと思ったのですが、キリが悪くそのままの方が良いと判断したため、この状態で投稿しました。


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帝国軍の来襲

今回も話が長くなりましたので、分割して投稿します。


ロンドリーナ・コミューンが建国されてから約2か月後の帝国暦485年/宇宙暦794年6月1日、ようやく重い腰を上げた帝国によるコミューン討伐軍艦隊が、オーディンを出発した。艦隊総数は5000隻、司令官は『帝国随一の戦術家』の異名を持つシュターデン少将が任命されていた。これは3年前、第5次イゼルローン要塞攻防戦に敗北した責任で更迭された宇宙艦隊司令長官の、後継として就任したグレゴール・フォン・ミュッケンベルガー元帥が、絶対に失敗できない作戦と位置付けていた事、またリヒテンラーデ首相も、混乱続きの帝国領内の引き締めを図るための見せしめとして、利用しようとしていたからと言われている。

 

対してコミューン人民革命軍の戦力は、革命の際に接収した少数の戦闘艦の他は、急ごしらえの武装商船があるのみで、総数は僅か500隻にも満たしておらず、鎮圧は時間の問題と言われていた。

 

 

帝国軍出撃の報を受けたハンソンは直ちにテールマンに人民革命軍の出撃の準備を命令すると、コミューン評議会を緊急招集、今後の対応を協議した。

しかし、帝国軍に先手をとって小惑星帯での待ち伏せと奇襲を主張するハンソン達社会主義派と、あえて敵を上陸させてからの地上部隊によるゲリラ戦を主張する無政府主義派との間で、激しい対立が起こっていた。

 

「報告には敵の戦力は我々の10倍以上はあるという。しかも相手は貴族の私兵ではなく、帝国正規軍とことだ。質も数も我々が圧倒的に劣っている。このままではコミューンは敗退し、革命は水泡に帰すことになるだろう。この苦境を覆すには、全軍を以って出撃し、小惑星帯での待ち伏せと奇襲によって敵を攪乱させ、撃退するしかない!」

 

「いや、勝ち目のない戦いに戦力を割くのは間違っている!ここは敢えて敵を上陸させ、奥地へ誘い込んでからの遊撃戦を行うべきだ!」

 

「根拠地建設もままならないのに遊撃戦だと!?今の我々には長期戦を耐えうるだけの力はないんだぞ!そんな無謀なゲリラ戦に人民を巻き込むつもりでいるのか!!」

 

「短期決戦に持ち込んでむざむざ敗退するよりは勝ち目があるだろう!」

 

評議会は紛糾したが、本土を戦場にしたくないという共和主義派とサンディカリスム派が、ハンソン達社会主義派を支持したことにより、小惑星帯での待ち伏せと奇襲が採用された。

 

 

ロンドリーナ宇宙港、指令を受けた人民革命軍が出撃の準備を慌ただしくしている中、ハンソンとテールマンが話し合いをしていた。

 

「同志ハンソンは本気でこの戦いに勝てるとお思いですか?」

 

テールマンがそう聞くと、ハンソンは答えた。

 

「……勝ってほしいとは思ってる。実際、ここで君たちが何とか敵を撃退してくれれば、自由惑星同盟軍との共闘関係を結べる可能性が一気に跳ね上がるのだ。そうすれば同盟からの支援を受けられる。」

 

実はロンドリーナ・コミューン建国時にハンソンは、自由惑星同盟に対して国家承認と支援を要請するため、使者を派遣していたのだが、その時は色よい返事は貰えなかったのであった。

 

「同盟のジョアン・レベロ最高評議会議長は対帝国和平派だ。現状では我々の存在は黙殺されて終わるだろう。現にそういう扱いだったからな。だが同盟の力なしでこの苦境を乗り越えられるわけがない。そのためにもここで帝国軍を撃退したという実績が必要なのだ。そうすれば流石の同盟も動かざる負えないだろう。なんせ千載一遇のチャンスを我々が作ったことになるんだからな。」

 

「……なるほど、そういうことなら私は何も言いません。人民革命の為にも最善を尽くしましょう。」

 

「……君たちには本当に苦労を掛ける。特に君は第一革命のときに命を救われた。私は君に何も恩を返せていない。すまない……」

 

ハンソンがそう謝りながら頭を下げた。

 

「謝らないでください。我々は貴方に掛けてるんですよ。それにまだ負けたわけじゃないでしょ?」

 

「……そうだったな。頼んだぞ、同志テールマン!」

 

ハンソンはテールマンにそう言い、宇宙港を後にした。

 

その後テールマンは500隻の艦隊を率いて出撃、小惑星帯に身を隠し、帝国軍の来襲に備えた。

 




本編に出す予定が今のところないので、ここで説明しますが、自由惑星同盟はイゼルローン要塞攻略の余波で大規模な政界再編があり、政権交代が実現しています。


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シリウス星域会戦

2500字を超えてしまいましたが、1話でまとめた方がキリが良いので、そのまま投稿します。


帝国暦485年/宇宙暦794年6月21日、戦いの始まりは帝国軍がシリウス星域に入った直後、人民革命軍の奇襲攻撃から始まった。

 

「何事だ!」

 

「閣下、敵の奇襲です!小惑星帯から敵が出現しました!」

 

「おのれ叛徒どもめ、ロンドリーナへ向かうにはここを通るしかないことを利用して待ち伏せしておったな!」

 

シュターデンは歯軋りをしながら反撃を指示した。

 

「敵が小惑星帯へ後退していきます!」

 

「小惑星帯まで後退されると厄介だな……直ちに追撃するぞ!」

 

帝国軍は追撃を図るも、テールマンは巧みに追撃を振り切り、小惑星帯まで後退を完了した。

 

「所詮民兵の集まりと侮っていたが、叛徒どもにも中々優秀な指揮官がいるようだな。」

 

「どうされます?いっそ抑えを置いて艦隊をロンドリーナへ向かわせるべきでは?」

 

参謀長のウォルフガング・ミッターマイヤー大佐がシュターデンにそう問いかけた。

 

「確かに戦力では我らが圧倒しているし、理論的にもそれが最善だ……しかし、この小惑星帯を割けてロンドリーナへ向かうには時間がかかりすぎる。総司令部からも叛徒どもが『自由惑星同盟を称する叛徒ども』と接触を図ったという情報が入っている。一刻を争う事態なのだ。ここは多少強引でも突破するぞ。全艦、全速前進!」

 

シュターデンの号令で、帝国軍は小惑星帯へ突入を開始した。

 

 

「来やがったな……よしッ!手筈通りだ同志達よ!小惑星の陰から一気に撃ちまくれ!蜂の巣にしろ!」

 

テールマンが行った戦術は、予め想定した突入ポイントに向けて戦力を集中的に配置し防御陣地を形成、突入ポイントに敵が侵入したら一気に十字砲火を浴びせ敵を撃退するという所謂『最終防護射撃』のデッドコピーというべきものであった。

突入を図った帝国軍は、人民革命軍の十字砲火によって、少なくない損害を被ったのである。

 

人民革命軍の攻撃が予想以上だったことに驚いたシュターデンは一時退却を命じた。

 

 

「叛徒どもめ中々手強いな……まさか、戦力が500隻にも満たないというのは奴等の欺瞞工作だったのか!?」

 

「落ち着いてください閣下。敵の戦力が500隻未満なのは事実でしょう。ロンドリーナで帝国軍の艦艇を接収したとしても、何千隻もの艦艇を揃えられるわけがありません。」

 

「確かにそうであったな……しかしこれでは短期での突破は無理であろう。本国に援軍を要請すべきか……」

 

シュターデンが思案していると、ミッターマイヤーが提案をした。

 

「閣下、ここは艦隊を二手に分け、一隊をロンドリーナ方面へ向かわせるべきです。」

 

「しかし、それでは相当な時間を要することになるぞ?」

 

「いや、実際に向かうわけではありません。向かうように見せかけて敵を小惑星帯から引き摺り出すのです。敵には予備戦力など存在しないでしょう。そこで、我々が艦隊の一部をロンドリーナに向かわせようとすれば、敵も小惑星帯から出ざるを得ない。そこを一気に挟み撃ちにするのです。」

 

「なるほど……理論的にも正しい戦術だ、ミッターマイヤー参謀長。」

 

「ありがとうございます。」

 

「よし、すぐに行動に移るぞ!急げ!」

 

シュターデンがそう叱咤すると帝国軍将兵は、慌ただしく動き出した。

 

 

「同志司令官!帝国軍の一部が動き始めました!」

 

「何だと!?」

 

「クソっ!やはり本土がもぬけの殻だってことに気付いたか!全艦に通達、出るぞ!」

 

「しかしっ!それでは我々は地の利を失うことになりますぞ!」

 

「お前、俺達がここで引きこもってる間に本土が占領されたらどうなると思う?」

 

「それは……」

 

「だろう?俺達に採れる選択肢なんて最初から限られてるんだよッ!全艦に通信回線を開くように通達しろ!」

 

テールマンはそう命令すると、将兵たちに語り掛けた。

 

「革命軍の兵士諸君!自由の戦士達よ!我等の理想は危機にある!

しかし私はこの上なく誇りを持っている!自由な人民の代表として、革命が救われると宣言出来ることに!圧政者の軍勢は革命の心臓に迫っている!

だが……革命の英雄達は戦いに燃えている……皆が銃を持ち、艦を乗り、戦っている。私は諸君ら英雄たちと共に戦えることを誇りに思う!人民革命軍は、自由と革命を救うために同志達に進撃を命じる!

コミューンと人民を圧政者から守れるのは諸君ら同志達だけである!

さあ、声を上げるのだ!!我らの声は、圧政者共への攻勢の合図となる!

今こそ、勇気が、常に勇気が!!さらに勇気が必要なのだ!!!

今!!この日から!!歴史の新しい時代が始まるだろう!!」

 

「「「おお、おおおおおおお!!!!!!!!!!」」」

 

「革命の戦士たちよ!人民の守護者よ!進もう!!かの穢れた血が、我らの星を侵すまで!!!!」

 

テールマンは将兵たちを鼓舞すると帝国軍への追撃を命令した。

 

 

「敵軍が小惑星帯より出てきました!」

 

「こちらの狙い通りですな。」

 

「そのようだな……よしっ!全艦反転!一気に挟み撃ちにするぞ!」

 

人民革命軍は小惑星帯から出てくると同時に帝国軍は反転、シュターデンの号令の下、帝国軍は一気に攻勢に転じた。

人民革命軍艦艇は次々と撃沈されていき、残すはテールマンの座乗する旗艦以下、10隻程にまでなっていた。

 

 

「どうやら私の悪運もここまでか……」

 

「同志司令官!帝国軍より降伏の勧告がきています!如何いたしましょう?」

 

「『バカめ』と返信してやれ」

 

「は?」

 

「『バカめ』だ!」

 

テールマンがそう言い放つと艦橋は笑いに包まれた。

 

「はっはっはっ!さすがは同志司令官!」

 

「俺達にできない事を平然とやってのけるッ」

 

「そこにシビれる!あこがれるゥ!」

 

「さあ、同志達よ!私達の死に様、帝国軍の豚共に見せつけてやろうじゃないか!」

 

「「「おお、おおおおおおお!!!!!!!!!!」」」

 

テールマンの号令の下、人民革命軍は突撃を敢行した。

 

 

「敵軍、突っ込んできます!」

 

「クソっ叛徒どもめ!撃て撃て!奴等を叩き潰してやれ!」

 

突撃してくる人民革命軍に対し、帝国軍は集中砲火を浴びせた。人民革命軍はその攻撃に耐えきれず、次々と撃沈されていった。

 

「同志ハンソン、申し訳ございません。あとは頼みます……社会主義革命万歳!!!!」

 

テールマンの叫びと共に旗艦は爆散した。ここにロンドリーナ・コミューン唯一の機動戦力が消滅したのである。

 




いよいよコミューンの最期が迫ってきました。
モチベーションが下がらないうちに続きを投稿したいです。


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コミューン崩壊と革命の失敗

今回はなんと3000字を超えてしまいましたが、これでコミューン編の最終話という事で分割せずに投稿します。もっとうまく文章を纏めたかったな……


帝国暦485年/宇宙暦794年6月24日、シリウス星域会戦でテールマン率いる人民革命軍艦隊を撃破した帝国軍は、コミューンの本拠地である惑星ロンドリーナへの侵攻を開始した。ロンドリーナの対空防衛網は革命の際、一部設備に被害が出ており、その復旧が成されておらず、帝国軍の大気圏突入を阻止するに至らなかった。

大気圏突入に成功した帝国軍地上部隊はロンドリーナ宇宙港に降下、僅かな抵抗を排除し宇宙港を確保、橋頭堡の構築に成功する。

 

この報を受けたコミューン評議会は対応策を協議するが、即時反撃に出るか、ラグラン鉱山での籠城をするかで評議会は分裂し紛糾する。その結果、強硬に反撃を主張するサンディカリスム派の一部議員が民兵を扇動し無断で出撃、帝国軍に夜襲を敢行した。しかし、仮にも正規の軍隊である帝国軍に対し、少数の民兵が勝てるわけもなく早々に撃退され、数少ない物資を無駄に浪費しただけの徒労に終わったのであった。

 

深刻な状況を受けてコミューン評議会議長のハンソンは、『コミューンの危機』から脱するための臨時的な独裁機構として『公安委員会』の設立を提言、無政府主義派などの一部の反対を押し切って提案は可決、これにより公安委員会が正式に設立され、評議会及び全ての執行機関が委員会の傘下に置かれることになった。

その後評議会の選出を受けて公安委員会委員長には、提案者であるハンソンが就任した。ハンソンは公安委員会による『革命的民主主義的独裁』を宣言し戒厳令を布告、更には無断出撃を扇動した挙句逃げ帰ってきた議員達や、混乱に乗じて略奪や暴動を起こした人民、破壊工作を図ったスパイを片っ端から粛清し、崩壊寸前のコミューンの統制を回復させた。

 

 

「シュターデン司令、潜入した工作員より報告が届いております。どうやら叛徒どもの内部でクーデターが起こったようです。」

 

「それは確かな情報なのか?」

 

「はい。報告によりますと、叛徒どもの首魁であるハンソンなる者が公安委員会なる組織を設立し権力を掌握、これに反発した叛徒どもや大勢の市民が粛清され、また潜入した工作員も多くが犠牲になったとのことです。」

 

「そうか……奴等も追い込まれている証拠だな。」

 

「司令、これは我々にとって好機では?」

 

「卿の言う通りだなミッターマイヤー参謀長。装甲擲弾兵部隊を率いて直ちに出撃してくれ。『拙速は巧遅に勝る』と古代のある戦術家が言ったそうだが、正にこの状況にピッタリな言葉と言えるだろうな。」

 

「承知しました。直ちに出撃します。」

 

コミューンの混乱を好機を見た帝国軍は、装甲擲弾兵部隊を中心とした2万の軍勢を以って出撃、ミッターマイヤー大佐指揮の下、コミューンの本拠地であるロンドリーナ中心地の旧代官府へ進撃を開始した。

 

 

「遂に帝国軍が動き出したか……」

 

「どうするのです?」

 

「言うまでもない。当初の予定通り、ラグラン市へ撤退するぞ。首尾はどうだ?」

 

「既に完了しております。残りは我々だけです。」

 

「皮肉なことだが、我々が少数であることが好材料となったな……よし、我らは引き上げるぞ。」

 

ハンソンは事前に帝国軍の来襲を予想し、苛烈ともいえる粛清を行い帝国軍工作員の目を欺いた裏で、残存戦力をラグラン市の鉱山地帯へ撤退させていたのであった。

 

 

6月30日、もぬけの殻の旧代官府を無血占領した帝国軍は、コミューン軍が立て籠もっているラグラン鉱山へ進撃を再開した。同日、ラグラン市に到着した先遣部隊がラグラン鉱山に攻撃を開始、一気に撃破を目論むも、ハンソン指導の下コミューン軍は奮戦、被害を被るも地形を巧みに利用し、帝国軍先遣部隊の撃退に成功する。

 

報告を受けたミッターマイヤー大佐は、部隊をラグラン市へ急行させ先遣部隊と合流、統制を回復させラグラン鉱山を包囲した。その後シュターデン少将も1万の軍勢と共に合流し、総勢3万人の帝国軍に対し、コミューン軍は僅か5000人未満となっていた。その後両軍は睨み合いを2週間ほど続けた。

 

 

「厄介なことになったな。」

 

「はい。我々の勝ちはゆるぎないですが、このまま攻め込んでは敵は窮鼠となって必死に抵抗するでしょう。そうなれば我らにも多数の損害がでます。」

 

「慎重過ぎて時間を掛けるのもあまり良くはないが……下手に総攻撃をかけて損害が出るのも良くはない。はてさて、ここはどうすべきか……」

 

「司令、ここは降伏勧告を行ってはどうでしょう?」

 

「叛徒どもの首魁であるハンソンなる者は、あの『帝国騒乱事件』(帝国第一革命の別名)の首謀者であったと聞く。降伏勧告を行っても無駄ではないか?」

 

「奴とその一派だけならその通りでしょうが、現在ラグラン鉱山には大勢のラグラン市民も立て籠もっているとの報告を受けています。」

 

「なるほど……叛徒どもが降伏勧告を拒否すれば、少なくとも市民の反感を買うことになり、連中の結束を乱せるということか。」

 

「それに叛徒どものの大義が『人民主義』である以上、市民の支持を失うことを連中は何よりも恐れるでしょう。市民の生命を保障してやれば叛徒どももNOとは言えないはずです。」

 

「ふむ……分かった。叛徒どもに降伏勧告を送るとしよう。」

 

この決定により、帝国軍からコミューンに対し降伏勧告が送られることとなった。

 

「敵将に告ぐ、卿らは我が軍の完全な包囲下にある。退路は既に失われた。これ以上の抗戦は無意味である。速やかに降伏されたし。皇帝陛下は卿らの勇戦に対し、寛大なる処遇を以って報われるであろう。重ねて申し込む。降伏されたし。」

 

 

「降伏だと?ふざけるな!」

 

「我々はまだ戦える!」

 

「この際華々しく散って帝国主義者どもに我らの意地を見せてやろうではないか!」

 

「その通りだ!」

 

帝国軍の降伏勧告に対し、公安委員会は対応を協議したが、断固拒否の意見が多数であった。しかしいつもなら会議を主導するハンソンが、今回は口をつぐんでいた。

 

「同志委員長はどのような意見で?」

 

いつもと様子の違うハンソンが気になった委員の一人が、ハンソンに意見を聞いた。ハンソンは神妙な顔をしながら立ち上がり、口を開いた。

 

「同志諸君、我らがコミューンを守る戦いを始めて間もなく1か月になる。帝国の大軍相手によくぞここまで戦い抜いてくれた。しかし残念ながら、我らの力もここまでだ。既に勝敗は決した。これ以上の犠牲は無駄死にである。よって、このカール・ハンソンは、断腸の思いで次の事を決定した。」

 

ハンソンはそう言うと、深呼吸をして話を続けた。

 

「我らは明日、降伏する。」

 

委員たちはざわついた。

 

「同志!?」

 

「本当に降伏するのですか!?」

 

委員の一人が泣きながらハンソンに縋り付いて言った。

 

「我々はまだまだ戦えます!なんで・・・帝国の狗どもに降伏しなきゃならないんですか!?」

 

「同志ハンソン!最後まで戦いましょう!」

 

委員たちは立ち上がりハンソンに迫った。

 

「同志達……お前らなぁんか勘違いしとりゃせんか? あ?」

 

ハンソンが怒気を発しながら話を始めると委員たちは黙った。

 

「ワシらの死に場所を作るの為にコミューンはあるんじゃねぇ。人民の真の幸福の為にコミューンはあるんだ。ワシらの勝ち目は最早なくなった。なら後は如何にして人民を救えるかを考えるべきだろうが。」

 

ハンソンは怒気を潜め、笑いながら続けた。

 

「それにな同志諸君、死のうと思えばいつでも死ねる。だから今は降伏と洒落込もうではないか!がっはっはっは!!!」

 

7月17日、結局ハンソンの宣言通り公安委員会は降伏勧告の受諾を決定、帝国軍に降伏の旨を通達し翌18日、ハンソン自ら帝国軍の前に出頭しラグラン鉱山は開城。鉱山内にいたコミューン軍民兵約5000名が降伏し、その日のうちに武装解除も完了した。

 

ここに帝国暦485年/宇宙暦794年1月6日より始まったロンドリーナ・コミューン革命は、失敗に終わった。




途中から人民革命軍からコミューン軍となっていますが、これは前回のシリウス星域会戦で人民革命軍が壊滅し、組織として体裁を保てなくなっているからです。

ようやくコミューン革命編が終了しました。本当はもっと短いはずだったんですけどね、これでとりあえず一区切りは着きました。



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収容所惑星ラーゲリ

大変長らくお待たせいたしました。
今回は話を分割しています。


「判決!被告、カール・ハンソンを流罪とする!」

 

被告人席にいたハンソンは、裁判長が判決文を読み上げている姿を、まるで他人事のように見ていた……

 

 

帝国暦485年/宇宙暦794年8月10日、ヴァルハラへ移送されたハンソン達は、オーディン特別法廷に出廷、裁判を受けた。しかしそれは裁判とは名ばかりのものであり、ただの形式的な儀式に過ぎなかった。

 

8月14日、裁判を経てハンソン以下元コミューン政府関係者250名の帝国市民権の剥奪と、惑星ラーゲリへの流罪が決定し収監された。

惑星ラーゲリは、銀河帝国最辺境のシベリア星系に存在する極寒の惑星である。惑星全土は永久凍土とタイガで覆われているが、銀河帝国最大の金鉱山【コルィマ鉱山】が存在しており、そこから採掘された金は、疲弊した帝国経済を支えていた。

鉱山開発には囚人が動員されており、彼等は過酷な環境の中、満足な防寒具・道具・食料を与えられずに、人間に耐えられる限界を超えて酷使され、死んでいった。いつしかラーゲリは史上最悪の収容所惑星と呼ばれるようになり、人々から恐れられた。

 

 

「おらっ!こんなとこで力尽きてんじゃねえぞ! てめえら囚人どもは、ただ働いてりゃいいんだよ!!」

 

ムチを持った看守はそう吠え立てると、躊躇うことなく地面に蹲るハンソンの背を打ち据えた。押し殺した苦悶の声と、人の皮が裂ける生々しい音があたりに響き渡る。ハンソンは痛みに耐えながら看守をにらみつけた。

反抗的な態度に腹を立てた看守は、その背を踏みつけると、更なる懲罰を繰り返した。

繰り広げられる凄惨な仕打ち。だが、周囲にいる囚人の中に、それを止めようとする者はいなかった。それをすれば次に懲罰を与えられるのが己であることを、皆知っていたからである。

彼らはただ地面を見詰め、暴虐の嵐が通り過ぎるのを待つしかなかった……

 

 

「だっ大丈夫か、お若いの。」

 

監督役の看守が嗜虐心を満足させて立ち去った後、背中の痛みに耐えながら立ち上がったハンソンに、1人の老人が声をかけてきた。

 

「大丈夫だ、問題ない。これくらいの事なら慣れている。」

 

ハンソンは背中をさすりながら余裕の表情で受け答えた。

 

「すまんの、見ず知らずのわしを庇ってくれたあんたを、惨い目にあわせてしもうて……」

 

「気にしなくていい。どうせあの男から目の敵にされているからな。どうってことないさ。」

 

ハンソンは何気ない風に返答するが、老人の顔から自責の念が消えることはなく、周囲からも心配そうな、申し訳なさそうな視線が注がれていた。

 

それを見てハンソンは改めて知った。

ここにいる皆が、決して人間らしい感情を失ったわけではないことを。

奴隷の如き扱いを受けても、他者を思いやる心を持ち続けていることを。

ハンソンは決意した。

 

「何としてもここから脱獄し、囚人たちを解放しなくてはな……」

 

ハンソンは帝国への怒りと脱獄への決意を胸に秘めながら時を待った。

そしてその時はやって来たのである。

 




続きは連続して投稿します。


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脱獄

連続投稿の続きです。
また新たにオリキャラが登場します。


帝国暦485年/宇宙暦794年12月1日、メルカッツ大将率いる帝国軍は同盟軍に奪取されたイゼルローン要塞を奪還すべく回廊へ侵攻、第6次イゼルローン攻防戦勃発する。帝国軍は要塞主砲「雷神の鎚(トールハンマー)」射程外に同盟軍を引きつけている間に、ロイエンタール准将率いる別動隊からの要塞への奇襲攻撃を実行、多少の損害を与えたが、帝国軍の策を看破していた同盟軍参謀のヤン・ウェンリー大佐によって別動隊を撃破される。

作戦の失敗を受けメルカッツ大将は撤退を決断、帝国軍は全面撤退しイゼルローン要塞奪還に失敗した。

 

イゼルローン要塞奪還が失敗に終わった帝国政府は、敗北を覆い隠し国民の不満を和らげる目的で、かねてより予定されていた憲法の発布を宣言。

帝国暦486年/宇宙暦795年1月1日、銀河帝国初の欽定憲法『銀河帝国国家基本法』が発布された。基本法では帝国市民の権利は制限され、帝国議会は任命制の上院と制限選挙制の下院に分割され権限は縮小、更には皇帝に広範な権力が認められており、10月詔書で約束されていた帝国市民の権利拡大や普通選挙の実施など、事実上反故されることとなった。

 

銀河帝国首相リヒテンラーデ侯爵は、銀河帝国国家基本法に基づき帝国議会を解散、下院総選挙を実施するが、反発が相次いだことにより、議席選定は遅れ、情勢は混乱していたのであった。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

その日、ハンソンはかねてより計画していた脱獄に成功した。彼を脱獄させるために多くの囚人が協力し、その犠牲になった。特にロンドリーナ・コミューン革命参加者達はハンソンを脱獄させるために、陽動の為の囚人反乱に参加した。彼等は自らの志をハンソンに託したのだ。

 

「同志達よ、君達の思い、決して無駄にはしない……!」

 

ハンソンは、囚人反乱の混乱を利用して、何とか囚人や物資を受け入れるための宇宙港に辿り着いた。

 

「同志ハンソン!こちらです!」

 

ハンソンの到着に気付いた看守がハンソンに声をかけた。彼は看守でありながら、ハンソンの協力者なのである。

 

「同志ジュガシヴィリ、世話をかけるな。」

 

「何を言ってるのです同志ハンソン、貴方は私を導いてくれた。この世界にはあなたが必要なんです。私はその助けをしているにすぎません。」

 

「君が看守だったことは私にとって間違いなく幸運だった。ありがとう。」

 

ハンソンはそう言い、ジュガシヴィリと握手した。

 

「さあ同志ハンソン、早くこれに乗ってください。この荷物に紛れていけばここを脱出できます!」

 

「わかった。それではさらばだ!同志ジュガシヴィリ!」

 

ハンソンが荷物に紛れるとジュガシヴィリは出港予定の宇宙船に運んだ。やがて宇宙船は出港し、宇宙へと旅立っていった。

 

「同志ハンソン、ご武運を!」

 

ジュガシヴィリはそう呟くと看守の業務に戻っていった。

 

 

「ふう……何とか脱獄に成功したか……あとは脱出ポッドを奪うことが出来れば……」

 

ハンソンが考え込んでいると、大きな爆発音がなった。

 

「なんだ!?なにが起こったんだ!?」

 

ハンソンが慌てて窓を見ると、帝国軍の軍艦がこの船を攻撃していた。その船体には海賊旗が塗装されていた。

 

「宇宙海賊!?まさかこんな辺境にもいるのか!?しかしこれは……つくづく私は幸運に恵まれてるようだな。」

 

そう呟きながら、ハンソンは脱出ポッドへと向かった。

途中、兵士に見つかりながらもなんとかポッドに辿り着いたハンソンは迷わずスイッチを押した。ポッドは勢いよく射出され、直後に宇宙船は宇宙海賊の攻撃によって轟沈した。

 

「間一髪だったな!しかしこれからどうすればいいのか……」

 

ハンソンは彷徨うポッドの中で、一人悩んだのであった。

 




今回はあまり慣れない話だったので、かなり悩みました。
次はサクサク進められたらなと思っています。


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忘れられた惑星ドイナカン

前回ではオリキャラが登場しましたが、今回も別のオリキャラが登場します。


収容所惑星ラーゲリからの脱獄に成功したハンソンは、同じシベリア星系にある惑星ドイナカンに潜伏していた。この星は元々農業が主要産業の辺境惑星であったが、領主であるムノー男爵家の長年にわたる苛烈な搾取と、帝国暦481年/宇宙歴790年から始まる大飢饉の影響で人口が激減、今や人口が1万人にも満たない過疎惑星となっており、別名「忘れられた惑星」と呼ばれていた。

ハンソンは惑星ドイナカンで最も過疎地域であるマサラ村の若い教師、マオ・ツォートンの庇護を受けてながら、雌伏の時を過ごしていた。

 

 

村はずれのあばら家近くの畑で、ハンソンは今日も農作業に勤しんでいた。

 

「ハンソン先生ー!」

 

「ん?おぉマオ君か、今日はもう仕事は終わったのかい?」

 

「はい!先生もお疲れ様です。私も手伝いますね!」

 

「いや、今日はもう日が暮れるし終わりにしよう。」

 

「それでは夕食にしましょう。今日はなんとこれを手に入れましたよ!」

 

マオはそう言うと、透明な液体の入った瓶を取り出した。

 

「これは……おぉ!ウォッカじゃないか!よく手に入れたな!」

 

「たまたま贔屓にしてる商店で売ってましてね……かなり高かったんですが、奮発して買っちゃいましたよ!」

 

「それじゃあ早速飲むとしようか!」

 

ハンソンとマオは軽やかな足取りであばら家に入っていった。

 

 

「いや~久しぶりのウォッカはやっぱ良い物だな。ここに来てからは醸造アルコールがごちそうだったからな……」

 

ハンソンはそう言いながら黒パンを噛み千切り、キャベツのシチーを飲み干した。

 

「ドイナカンの食糧事情は私が見てきた中でもかなり酷いものがある。人民が口に出来るのは、このカチカチに固まった黒パンと、塩の味すらしないキャベツのシチーだけだ。」

 

「領主は配給があるだけこの土地の領民は幸福だと言ってますけどね。」

 

「これのいったいどこが幸福だというのだ?農民たちは自分達の作る農作物を年貢として収奪されていき、町の労働者たちは真面な仕事に在りつけず僅かばかりの配給で糊口を凌いでいる……だいたい支払われる給料が帝国マルクではなく、男爵家公認の商品券とはいったい何様のつもりだ!」

 

「帝国マルクではなく商品券にすることによって男爵家と繋がりの有る商店でしか物を買わせないようにしてるんですよ。連中のやりそうなことです。」

 

「分かってはいたが、改めて聞くとほんと酷い搾取の構造だな……だが一番驚いたことはこの惑星の人民が、それに対して抵抗どころか意志すら示していないことだ。」

 

「それは……」

 

「分かってるよマオ君。私はこの惑星の人民の無知を悪であり罪だとは思っていない。本当に邪悪なのは人民の無知に付け込んで搾取に利用する男爵家の連中だよ。」

 

「ハンソン先生……ありがとうございます。」

 

「そういう意味では私がこの惑星にたどり着いたことも、何より君と出会えたことも運命だったかもしれんな……」

 

ハンソンはそう言いながらウォッカの入ったショットグラスを飲み干し、この惑星にたどり着いた日の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 




シチーは日本ではあまり馴染みのない食べ物かもしれませんが、ロシアでは日本の味噌汁と同じくらいポピュラーな食べ物です。


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邂逅

今話は前話から少し前の話になります。しばらく銀英伝要素がなくなるのでご注意ください。
サブタイトルを変えました。


惑星ドイナカンのとある山奥に不時着したハンソンは、脱出ポッドを廃棄し、辺りを見まわした。

 

「ふう、何とか脱獄に成功したぞ……しかしここはいったい何処なんだ?さすがに無人惑星という事はないと思うのだが……取りあえず人のいる場所へ向かおう。」

 

ハンソンはそう呟くと、あてもなく山の中を歩きだした。

 

 

出発してから既に数時間が経過していたが、人里は一向に見つからず、山の中を延々と彷徨っている現状に、ハンソンは焦っていた。

 

「くそっ!歩いても歩いても人里が見つからない……このままでは本当に不味いぞ……せめて日が暮れる前に野宿できそうな場所を見つけなくては……」

 

そう呟きながらハンソンは必死に山の中を彷徨い続けた。

するとハンソンの願いが通じたのか、開けた場所に辿り着くと、少し遠くに家が数軒建ち並んでいるのが確認できた。

 

「おぉっ!ようやく人里を見つけたぞ!怪しまれるだろうがここは行くしかあるまい!」

 

ハンソンは疲れ切った身体を奮起させ、集落へ向かった。

 

 

もうすぐ日が暮れようとする中、ようやく集落へと辿り着いたハンソンは、農作業を終え家に戻ろうとしている老人に声をかけた。

 

「そこの御老人!」

 

「うん?なんだぁおめぇ、見かけねぇ顔だな。もしかして町からきたのか?」

 

「御老人、突然で申し訳ないが今晩泊まらせてもらえないだろうか。少しだが金も出す。」

 

ハンソンはそう言いながら、ジュガシヴィリから渡された財布から30マルク程を取り出し、老人に手渡した。

 

「なんだこれ?オラの持ってる金とはちげぇじゃねえか。」

 

「そんなはずはない!これはちゃんとした帝国マルクのはずだぞ!」

 

「帝国マルク?そんなもん聞いたことねぇべや。領主様の判子も押されてないし、こんなもん金じゃねえ。」

 

「帝国マルクを知らない?いったいあなたは何を言ってるんだ?」

 

「だからそんなもん知らないって言ってるべ。しかしおめぇ怪しいやつだな、身なりも変だし変なもん持ってるし……もしかして魔女か!?」

 

「魔女?何を言ってる?」

 

「怪しい魔女め!オラが退治してやる!」

 

そう言うと老人は持っていた鍬でハンソンに殴りかかった。

ハンソンは攻撃を避けながら叫んだ。

 

「何をする!?」

 

「この攻撃を避けるとはますます怪しいやつだな!おーい!怪しい魔女が出たぞー!捕まえて領主様に突き出すぞー!」

 

老人の叫び声と共に集落から人々が出てきた。

 

「なんだ?」「魔女ってどういうことだ?」「なんか変なやつがいるぞ。」

 

ハンソンは誤解を解くべく必死に叫んだ。

 

「違う!私は魔女ではない!」

 

「騙されるんじゃねえ!こいつは怪しい紙っぺらを金を称してオラに渡してきたんだ!」

 

「怪しい紙だって?」「変な恰好もしてるし……」「とっ捕まえて吐かせればいい」

 

住民達は各々武器を持ち出しハンソンに迫った。

 

「くそっとにかく逃げるしかない!」

 

「逃げたぞ!」「追え!」

 

ハンソンは慌てて逃げ出し、住民達は捕まえるべく追いかけた。

 

 

ハンソンは山の中へ逃げ住民達を撒くことに成功した。

 

「ふう……何とか撒いたか……しかしいったいあの村は何なんだ!?帝国マルクを知らない?余所者を魔女だと?旧時代の歴史の世界にタイムスリップでもしたのか!?」

 

そう独り言ちていると、茂みから青年が飛び出てきた。

 

「くそっもう追い付かれたのか!?」

 

ハンソンが慌てて逃げようとすると、青年は呼び掛けた。

 

「待ってください!私は貴方を捕まえる気はありません。信じてください。」

 

青年の呼びかけに、ハンソンは立ち止った。

 

「君はあの集落の者ではないのか?」

 

「いえ、あの村の者です。私の名はマオ・ツォートン、あそこにあるマサラ村の学校で教師を務めています。失礼ですが、カール・ハンソン先生で間違いないでしょうか?」

 

「確かに私はカール・ハンソンだが……何故私を知っているのだ?」

 

「町で貴方の手配書を見たことがあるからです。それにロンドリーナ・コミューンでの超高速通信ラジオで貴方の声明を聴いたことがあります。」

 

「そういう事か……それで?稀代の大犯罪者を前にして君はどうするつもりだ?若者よ。」

 

ハンソンが警戒しながらそう言うと、マオを頭を下げてこう言った。

 

「この村を……いや、この惑星を救っていただきたいのです。」

 

「……どういうことだ……?」

 

「詳しくは家で話します。どうぞこちらへ。」

 

ハンソンは戸惑いながら、マオについて行ったのであった。

 

 




次こそは早めに投稿したいなぁ……


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暴れん坊革命家

遅くなって申し訳ありません。慣れない展開のせいでなかなか話が書けずにここまで延びてしまいました。

※多くの方から感想や誤字修正をいただき感謝しています。


マサラ村の教師マオ・ツォートンのおかげで村民たちから逃げ切ることに成功したハンソンは、彼の自宅でこの惑星についての説明を受けていた。

 

「なるほど、『忘れられた惑星』か……噂では聞いたことはあったが、ここまで酷い物だったとは……」

 

「御理解していただけたようで何よりです。」

 

「それで?君は私に何をやってほしいんだね?」

 

ハンソンがそう聞くと、マオは俯きながら話した。

 

「実は……今度この村で雨乞いの儀式があるのですが、それで水神に捧げる生贄に弟が選ばれてしまったのです。」

 

「ちょっちょっと待ってくれ!雨乞いの儀式に水神に生贄?本気でそんなこと言ってるのか!?」

 

マオからの衝撃的な話にハンソンは動揺したが、彼は説明を続けた。この村では古くから迷信が未だに信じられており、自分が止めようとしても誰にも聞いてもらえず、領主に懇願しても話すら聞いてもらえず、途方に暮れていたところにハンソンのロンドリーナ・コミューン革命の話を聞いたというのだ。

 

「ここで会えたのは私にとっては奇跡なんです!どうかお願いします!この村の迷信を打ち払い、弟を救ってください!!!」

 

マオは必死に頭を下げてハンソンに懇願した。

 

「……わかった。私で良ければ協力しよう。そんな人民をなめ腐るような話、見過ごすわけにはいかんからな。」

 

「ハンソン先生……ありがとうございます!」

 

「それで、その儀式は何時行われるのだ?」

 

「3日後の昼に村外れの池で行われる予定です。」

 

「ならまだ時間はあるな。明日早速その場所へ連れて行ってほしい。」

 

「わかりました。ハンソン先生、これからよろしくお願いします。」

 

ハンソン達は固く握手を交わし、明日に備えるべく眠りについた。

 

 

翌日、マオの案内で村外れに来たハンソンは、池を調べていた。

 

「池にしては大分浅いような気がするが……」

 

「何か月も雨が全く降ってないのです。それで水位も低くなっているのでしょう。」

 

「なるほど、だから水神に生贄を捧げて雨を降らせてもらおうというわけか。いったい誰がこんなバカげた事を言いだしたんだ?」

 

「村長のコノー・オーヴァカーモンです。」

 

「何者なんだそいつは?」

 

「この村で40年に渡って村長を務めているマサラ村の支配者ですよ。オーヴァカーモン家は代々この村の村長を務めている村の富農なんです。」

 

「事実上の領主という事か……ん?マオ君、あそこに見える洞窟はなんだね?」

 

「あの洞窟はオーヴァカーモン家が代々守ってきた聖地ですね。なんでも水神を鎮めるための祭壇があるとか。あそこに入れるのは村長と生贄役だけなんですよ。」

 

「ふーん……怪しいな。」

 

ハンソンはそう呟くとおもむろに立ち上がった。

 

「ハンソン先生、まさかあの洞窟に行くのですか?」

 

「儀式が行われるのはあの洞窟の中なのだろう?なら中がどうなっているのか、確かめる必要があるだろう。」

 

「それはそうですが……」

 

「虎穴に入らずんば虎子を得ず。弟さんを本気で助けたいと思うなら、くだらない慣習などに囚われない事だよ。」

 

ハンソンはマオにそう言うと洞窟へと向かって行った。

 

 

洞窟へと辿り着いたハンソンは、さっそく中へと入っていった。洞窟の中は暗闇が広がっており、数メートル先も見通せない状況だった。

 

「マオ君、何か灯りになるものはないかい?」

 

「ライターならありますよ。」

 

マオは胸ポケットからライターを出し火をつけた。辺りはぼんやりと照らされ、ハンソン達はその灯りを頼りに奥へと進んだ。

 

しばらく歩いていると開けた場所へ到着した。そこには祭壇らしきものが置かれていた。

 

「どうやらここが祭壇のようだな。」

 

「そのようですね。」

 

「何か見つかるかもしれん。さっそく調べてみるとしよう。」

 

ハンソン達は放置されていた燭台に火をつけ辺りを調べた。

 

「生贄を捧げるなんていう物騒な儀式が行われているわりには血痕が少ないな……マオ君、本当に儀式はここで行われているのか?」

 

「そのように聞かされておりますが……ん?なんだ?」

 

「何か見つけたのか?」

 

「ここの壁の隙間なんですが、奥に空間のようなものが見えるんですよ。」

 

「どれどれ……確かに何か見えるな。これはもしかして……」

 

ハンソンは何を思ったのか、おもむろに壁を殴りつけた。すると壁は崩壊し鉄の扉が現れた。

 

「なるほど隠し部屋か……ふん!……うーん流石に頑丈に出来てるな。びくともしないぞ。」

 

「いやいやいや先生凄すぎますよ。岩でできた壁を破壊するとか普通不可能ですよ……」

 

「そこにいるのは誰だ!?」

 

ハンソン達が声の聞こえた方に顔を向けると、松明を持った数名の男たちが驚いた顔をして立っていた。

 

「ほう……どうやらこの胡散臭い儀式の関係者がやって来てくれたようだな。詳しいことは彼等から聞くとしよう。」

 

ハンソンはそう言いながら拳を鳴らした。

 

 

儀式当日、村中の人が池に集まっている事を確認した村長は儀式の開始を宣言した。

 

「これより雨乞いの儀式を執り行う!マオ・ツェーミンをここへ!」

 

村長がそう言うと、正装をした青年が連れてこられた。

 

「これから私とツェーミンで祭壇へ向かう!他の者たちは空に祈りを捧げるように!」

 

村長は村人たちに命令するとツェーミン青年と洞窟へ向かおうとした。

 

「待てい!!」

 

突然、大きな声が辺りを響かせ、ハンソンは現れた。ハンソンは縄でぐるぐる巻きにされた男を村長達の前に投げつけた。

 

「!?」

 

「お前の仲間だろ?返してやるよ。」

 

「貴様ぁ……何者だ!?」

 

「カール・ハンソン、名前ぐらいは聞いたことあるだろ?」

 

「カール・ハンソン?……まっまさか!帝国騒乱事件の大悪党!?」

 

「人身売買の元締めに悪党呼ばわりされるとは不愉快極まりないな。コノー・オーヴァカーモン村長?」

 

ハンソンがそう言い放つと、村長は慌て始めた。

 

「人身売買だと?何を言ってる!?」

 

「儀式を隠れ蓑にして大勢の人を生贄として連れ去り、山師に扮した自分の子分に売買させる……吐き気を催す邪悪とは貴様の事だな。」

 

「わっ私は何も知らない!その者も私には関係ない!」

 

「この期に及んで自分の罪を認めないとは本当に御しがたいな……仕方がない。マオ君、彼等を連れて来てくれ。」

 

ハンソンがそう言うと、マオは数名の若者たちを連れてきた。

 

「おっお前!?生きていたのか!?」

 

「貴方!?本当に貴方なの!?」

 

そう、彼等は皆、儀式の生贄として選ばれた者たちだったのである。

 

「祭壇の奥の隠し部屋に監禁されているところを救助した。これでもまだ白を切るというなら……人民をなめ腐ってる者には相応の報いを与えなくてはならんなぁ?」

 

ハンソンはそう言いながら拳を思いっきり振り上げた。

 

 

こうしてマサラ村に巣食っていた人身売買組織は壊滅、ボコボコにされた村長達は町の警察に突き出された。ハンソンは村人たちから受け入れられ、新たな拠点を得ることとなったのである。

 

 

 

 

 




主人公が人外じみた力を発揮していますが、あくまでフィーリングなので気にしないでください。因みに前話で怪力を発揮しなかった理由は、ハンソンは無垢な人民には絶対に手を上げないと決めているからです。


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銀河帝国共産党創設

ようやく本筋に戻れました……


帝国暦486年/宇宙暦795年5月14日、ラザール・ロボス元帥率いる同盟軍が帝国領内へ侵攻、それを阻止せんとするグレゴール・フォン・ミュッケンベルガー元帥率いる帝国軍とアムリッツァ星域で激突する。戦いは双方ともに譲らず激戦となったものの、多大な損害を出し、消耗戦を嫌った同盟軍はやがて撤退を開始、帝国軍も追撃を行わなかった為、戦闘は終了した。

結果を見れば同盟軍を撃退した帝国軍の勝利と言えるが、艦艇約2万隻以上の損害と200万人以上の死者行方不明者等、同盟軍以上の損害を被っており、手放しで喜べるものではなかった。

しかし、第5次イゼルローン攻防戦、第6次イゼルローン攻防戦と敗北を続けていた帝国軍にとって、久しぶりの大規模会戦での勝利であり、会戦を指揮したミュッケンベルガー元帥の国内での名声は高まり、その権勢は三長官トップである軍務尚書のエーレンベルク元帥や、帝国首相であるリヒテンラーデ侯爵に迫るほどであった。

このミュッケンベルガー元帥率いる宇宙艦隊司令部の増長が、やがてゴールデンバウム朝銀河帝国の歪みに、決定的な亀裂をいれることになるのである。

 

 

コノー・オーヴァカーモン村長による邪悪な犯罪を阻止し、マサラ村を解放したカール・ハンソンは、村の住民達から敬意を集めることに成功した。

ハンソンは村に潜伏し住民達に教育を施す傍ら、マオ兄弟を中心に同志となった若者達をドイナカン各地へ派遣、ムノー男爵家の不満を扇動するのと同時に、反男爵家運動の地下ネットワークの形成を実施、元々男爵家の苛烈な搾取に怯えながらも不満を持っていた住民は一定数いたため、ネットワーク形成は着実に進んでいった。

銀河帝国で最も遅れた惑星であり「忘れられた惑星」と呼ばれた惑星ドイナカンは、ハンソンによってこれまでにない急激な変化が訪れようとしていたのである。

 

 

帝国暦487年/宇宙暦796年1月15日、マサラ村の集会所では、ハンソンやマオ兄弟以下、13名の革命家達が集まっていた。

 

「先ずは銀河帝国史上初の社会主義革命政党、銀河帝国共産党の結党に当たり、高い志と勇気をもって集まってくれた同志諸君に、心から敬意を表したい。

 

今日は歴史的な日だと言えよう。この国の将来と人民の未来が、我々の手にかかっている。その覚悟を持って銀河帝国共産党をスタートさせようではないか!

 

現在、帝国は時代の大きな分岐点にある。ここで、絶対に道を誤ってはならない。その危機感を、我々は共有しなければならない。政府のもと、人民はあらゆる権利を蔑ろにされている。格差は拡大し、明日の生活の展望すら描けないでいる状態だ。

 

我々銀河帝国共産党は、ゴールデンバウム朝銀河帝国を打倒しなければならない。困難を乗り越え、全ての人民が安心して生活できる共産主義社会、それを強い決意を持って実現しなくてはならない!

 

私が革命活動に取り組んでから、それ以前と大きく認識を変えたことが一つある。それは様々な星で生活する人民の素晴らしさだ。私は多くの人民と出会い、対話してきた。帝国産業の担い手として第一線で働く労働者たち、人民の生活に欠かせない第一次産業に従事する農民たち、国家の守護者として戦い続ける兵士たち、これらの素晴らしい人民があるかぎり、来るべき共産主義社会の未来は明るいと私は確信している。

 

人民が持つこういう素晴らしさを引き出し、責任を持って牽引する。それこそが人民の前衛党である我々銀河帝国共産党の役割である。人民の先頭に立ち、人民と共に戦う。これが銀河帝国共産党である。

 

ゴールデンバウム朝銀河帝国という強大な敵に対し、社会主義革命に情熱を燃やす多くの同志と共に戦い抜き、人民の期待に応えよう。私が党を代表してすべての責任を負い、必ず結果を出す!帝国政府や貴族共が我々を叩き潰そうとするなら、受けて立とうではないか!

 

帝国の未来を人民の手に取り戻すために、全党一丸となって戦い抜こう。必ずや社会主義革命を成就させよう。今日をスタートに、人民と共に素晴らしい社会主義国家を作っていこうではないか!

 

社会主義革命万歳!!共産主義社会万歳!!人民に栄光あれ!!」

 

「「「社会主義革命万歳!!共産主義社会万歳!!人民に栄光あれ!!」」」

 

こうして帝国史上初の共産主義政党『銀河帝国共産党』が創設された。

『共産主義社会の実現』を党の最終目標として掲げられ、党の基本任務・民主集中制等の組織原則と規律等を規定した銀河帝国共産党綱領が定められた。また、役員選挙により、以下のようになった。

 

党委員長:カール・ハンソン

副委員長:マオ・ツォートン

組織部長:マオ・ツェーミン

広報部長:チョウ・エンライ

 

また、帝国第一革命やロンドリーナ・コミューン革命の失敗の反省から、徹底した秘密主義が採られ、反ムノー男爵家運動の地下ネットワークを駆使し、惑星ドイナカン屈指の大勢力を、瞬く間に築いていったのである。

 

 

惑星ドイナカンでの革命の準備は着実に進んでいた。しかし、歴史はまたもやハンソンの予測を大きく裏切ることになるのであった。

 

 

 




毎回誤字修正の報告をしてくれた方には感謝しかありません。ありがとうございます。
続きもなんとか早めに投稿したいと思っています。


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帝国崩壊の序曲

波に乗れたので早めに投稿できました!今話から帝国ハードモードになります。


帝国暦487年/宇宙暦796年、帝国軍科学技術総監アントン・ヒルマー・フォン・シャフト技術大将が巨大施設の移動可能なワープ装置の開発に成功。帝国軍宇宙艦隊司令長官グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー元帥は、これをガイエスブルク要塞に搭載しイゼルローン要塞との戦いに投入、要塞と艦隊戦力をもってイゼルローン要塞を攻略するプランを発案する。

しかし帝国内では度重なる混乱からまだ立ち直っておらず、大規模な出兵に反対する声も多かった。特に帝国首相のリヒテンラーデ侯爵と軍務尚書エーレンベルク元帥の両名は強く反対するも、ミュッケンベルガー元帥は統帥本部総長のシュタインホフ元帥と幕僚総監クラーゼン元帥の賛成を取り付け皇帝フリードリヒ4世の裁可を得ることに成功し作戦を強行する。ガイエスブルク要塞と収容艦艇16000隻に加え、回廊出入口より、ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ上級大将率いる別働隊36000隻が侵攻する手筈となっていた。艦隊総数52000隻、動員兵力約1700万人にも上る、帝国史上稀にみる大作戦が始まろうとしていた。

 

 

銀河帝国首都惑星オーディンの新無憂宮(ノイエ・サンスーシ)の執務室。帝国行政の中心ともいえるこの場所で、銀河帝国首相クラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵は、信じられない報告を受けていた。

 

「全滅!?5万隻の艦隊とガイエスブルク要塞が全滅しただと!?それは本当なのか!!」

 

「はっ、ミュッケンベルガー元帥以下、艦隊司令部の尽くが戦死、生き残ったのは数千隻にも満たないとのことです。現在、メルカッツ上級大将が艦隊を率いて回廊出入口に急行しています。」

 

「……なんということだ……」

 

リヒテンラーデ侯爵は報告を受けると、力なく椅子に座り込んだ。その姿は、帝国随一の切れ者とは思えない有様であった。

 

 

帝国暦487年/宇宙暦796年4月10日、ミュッケンベルガー元帥肝いりの作戦によって始まった第7次イゼルローン攻防戦は、帝国軍の散々たる惨敗で終わった。

同盟軍は第5次イゼルローン攻防戦以来、統合作戦本部長シドニー・シトレ元帥と宇宙艦隊司令長官ラザール・ロボス元帥指導の下、大規模な軍制改革に着手、ジョアン・レベロ政権の後援もあり、軍の最新化と精鋭化に成功していた。更には新たな戦略に基づき情報戦を強化。シャフト技術大将の機密情報漏洩で得たフェザーンからの情報提供も相まって、帝国軍の作戦内容を完璧に把握していた。

帝国軍の作戦に基づき同盟軍は反撃策を立案、同盟軍全宇宙艦隊の3分の2にあたる8個艦隊、約10万隻を動員し帝国軍を万全の態勢で待ち構えていたのであった。

 

開戦当初はガイエスブルク要塞のワープによる奇襲攻撃が功を奏し、要塞主砲同士の壮絶な撃ち合いによりイゼルローン要塞に多大な損害を与えることに成功。更に別動隊が合流に成功した事により優勢となる。

しかし、背後に潜伏していた同盟軍が帝国側の回廊出入口の封鎖に成功すると戦局は一変。帝国軍は同盟軍の包囲攻撃を受け、大損害を被る。

戦力の9割を失ったことにより、撤退の決断を下したミュッケンベルガー元帥は、艦隊脱出の突破口を開くため要塞による特攻を敢行し回廊出入口を封鎖していた同盟軍第4艦隊と第6艦隊を巻き添えにして自爆。残存艦隊はメルカッツ上級大将に率いられ撤退した。

また同盟軍も二個艦隊が壊滅しイゼルローン要塞が半壊するなど追撃不可能な被害を被っていたため追撃は行わず、ここに第7次イゼルローン攻防戦は終結した。

 

この戦いにより帝国軍はミュッケンベルガー元帥以下、総参謀長グライフス大将、シュトックハウゼン大将、ゼークト大将等の艦隊司令部全員が戦死。またウォルフガング・ミッターマイヤー中将、オスカー・フォン・ロイエンタール中将、カール・グスタフ・ケンプ少将、カール・ロベルト・シュタインメッツ少将、コルネリアス・ルッツ少将等、多くの将来有望な若手将官が次々と戦死したことにより、帝国正規軍全軍の3分の1の戦力を失った事と合わさって、帝国軍の損害は、あの第2次ティアマト会戦の『軍務省にとって涙すべき40分間』を上回ると言われた。

一方同盟軍は、パストーレ中将とムーア中将の両艦隊司令官が戦死、さらに二個艦隊2万隻以上を失い、イゼルローン要塞も半壊するなど、損害は大きかったが、その比率は帝国軍の半分以下であり、結果を見れば同盟軍の大勝利と言えるだろう。

 

戦後、帝国軍首脳部で作戦に反対したエーレンベルク元帥は留任、賛成したシュタインホフ元帥とクラーゼン元帥は辞任、後任には撤退戦の功で元帥に昇進したメルカッツが統帥本部総長に就任、宇宙艦隊司令長官には上級大将に昇進したシュターデンが就任、幕僚総監は廃止されることとなり、帝国軍は立て直しを迫られることとなった。

 

だが、帝国貴族の中で中央に不満を持つ者が奸賊打倒を公言し、帝国上院議長オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク公爵と副議長ウィルヘルム・フォン・リッテンハイム3世侯爵が不穏な動きを見せ、各地で革命を標榜した民衆の暴動が収まらない中、ゴールデンバウム朝銀河帝国という国家そのものが崩壊しようとしていたのであった。

 

 

 




何とかここまで書けて良かったです。さあ革命までもう少しだ!


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革命の前史

今話は実質説明回になりますので非常に短いです。


熾烈を極めた第7次イゼルローン攻防戦後、大敗北を喫した帝国軍はエーレンベルク軍務尚書、メルカッツ統帥本部総長、シュターデン宇宙艦隊司令長官の新体制の下、必死の軍制改革が行われていたが、大災害以降の混乱と軍事費の増大で国庫は逼迫しており、帝国の財政は破綻寸前の状態に追い込まれていたため、再建は遅々として進まなかった。また、度重なる遠征と敗戦によって、帝国軍兵士たちに厭戦気分が高まっており、集団脱走が頻発していた。

ゴールデンバウム朝銀河帝国は、一部高官の献身的で超人的な働きによって、辛うじて崩壊を免れているに過ぎなかった。

 

一方の自由惑星同盟においても、イゼルローン要塞の半壊によって軍事行動が大幅に制限された事、イゼルローン要塞奪取後、戦いが帝国領内に移った事により、同盟市民内で厭戦気分が高まりつつあった。

そして政権の連立与党である自由共和党内で、後にラッキード事件と呼ばれる同盟史上最大規模の贈収賄事件が発生、自由共和党総裁でコーネリア・ウィンザー情報交通委員長と、宇宙艦隊司令部作戦次席参謀のアンドリュー・フォーク少将が逮捕されるという大事件となった。

更に同じく連立与党である反戦市民連合の代表幹事であり「美しすぎる女性議員」で有名なジェシカ・エドワーズ人的資源委員長と、第7次イゼルローン攻防戦の功で昇進し、新設された幕僚総監に就任したヤン・ウェンリー中将の不倫スキャンダルが発覚。エドワーズ代表幹事の夫はヤン中将の親友で、イゼルローン要塞駐留艦隊分艦隊司令官のジャン・ロベール・ラップ准将。ヤン中将の妻はイゼルローン要塞司令官ドワイト・グリーンヒル大将の娘で、幕僚総監付の副官であり「美しすぎる女性軍人」で有名なフレデリカ・グリーンヒル大尉であった。しかも互いに家族ぐるみの付き合いがあり、人気の美男美女夫婦が起こしたという話題性も相まって、同盟全体を巻き込んだ一大騒動に発展してしまったのであった。

これらの出来事が立て続けに発生したことにより、挙国統一政権発足以来高支持率を維持してきたジョアン・レベロ政権の支持率は急落。同盟議会代議員総選挙では辛うじて過半数を維持するも、議席の半数近くを失う大敗を喫した。

これによりレベロ政権は退陣し挙国統一政権は崩壊、後任として新たに就任したヨブ・トリューニヒト進歩党総裁による単独政権が樹立された。

 

以上の出来事が重なり、帝国と同盟の大規模な戦闘が起こらなかった為、長年戦闘に晒され続けてきた国境と呼ばれる両国家の最前線では、一時的な平和が訪れていた。

だがそれは、銀河全土を巻き込む大混乱の予兆に過ぎなかったのである。

 

 

帝国暦487年/宇宙暦796年12月10日、リヒテンラーデ首相とゲルラッハ財務尚書が推進する貴族特権の一部廃止を盛り込んだ財政改革に反発したマクシミリアン・フォン・カストロプ公爵が武装蜂起、カストロプ公国を名乗り独立を宣言した。

これに対し帝国はシュムーデ中将率いる討伐軍を差し向けるもカストロプ公国軍の奇襲で出ばなを挫かれ敗北。艦隊を再編し再度攻撃を仕掛けるも、カストロプ公爵自ら指揮による公国軍の地の利を使った戦いの前に敗北、シュムーデ中将が戦死したことにより討伐は失敗に終わる。余剰戦力のない帝国軍は貴族の私兵軍を投入しようとするも、貴族達の反発と上院の抵抗により頓挫、それにより3か月が経った現在でも、反乱討伐の目途は立っておらず、帝国の弱体化を国内外に晒すことに繋がった。

これにより一時的に鎮静化していた暴動が各地で再発、事態収拾もままならない帝国は、まさに崩壊の危機に直面していたのである。

 

 

そして、年は明けて帝国暦488年/宇宙暦797年、帝国にとってこの年は、建国史上最悪の年であり、またゴールデンバウム朝銀河帝国が、過去の歴史上存在した国として、人々に記録される、運命の年となってしまったのである……

 

 

 




最近全く主人公が登場していませんが、もうしばらくかかるかもしれません。


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外伝「魔術師消滅」

今回は同盟内の話を外伝として掲載します。
※今話は本編とかなり毛色が違うのでご注意ください。
※過剰な原作・キャラ崩壊があります。
※作中の設定はあくまで今作品のみの設定になります。


それはハイネセンで人気のゴシップ専門週刊誌「チューズデー」の記事から始まった……

 

『同盟軍の英雄に初スキャンダル!正に衝撃の極み!

ミラクル・ヤン禁断の愛!

お相手は同盟一美しすぎる女性議員ジェシカ・エドワーズ!?

魔術師は現代に蘇ったドン・ファンだった?

ダウナー系キャラを気取った草食系肉食軍人の実態とは!』

 

この記事に対し、世間の多くは真面に取り合おうとせず、中には悪質なデマであると怒りの声を上げる人もいた。

 

「ミラクル・ヤンがそんなことするはずない!これはデマだ!」

 

「ヤン・ウェンリーの嫁はグリーンヒル大将の娘で美しすぎる女性軍人ってテレビで放送されてた人だろ?浮気なんてするかなぁ……」

 

「反戦のマドンナであるジェシカさんがそんなことするはずないでしょ!あの人は結婚してるのよ!」

 

「そもそもヤン中将とジェシカ議員の夫のラップ准将は親友で3人とも10年来の付き合いって話だぞ。マスコミならそれくらい知ってるだろうに。」

 

更にヤン中将の恩師である統合作戦本部長シドニー・シトレ元帥が「私はヤン・ウェンリー幕僚総監の事を士官学校時代から知っているが、彼にそのような甲斐性があるとは思えない。これは名誉毀損に当たるのではないか。」と発言、多くの関係者も口を揃えて同じことを言ったのであった。

 

これにより週刊誌の記事はただのデマとして処理されようとしていた。そもそも世間では同盟軍の現役将官と最高評議会の現職閣僚が逮捕された「ラッキード事件」の方がはるかに話題になっており、信憑性のないゴシップ記事など、すぐに忘れ去られたのであった。

 

 

1週間後、チューズデーの特集にて、同盟全土を揺るがす衝撃の記事が掲載された。

 

『激震スクープ!

(ジャン・ロベール・ラップ)が目にした衝撃の不倫現場!

「自宅の寝室に裸の親友が…」

【美しすぎる女性議員】ジェシカ・エドワーズに何が--』

 

それはジェシカ・エドワーズ議員の夫にしてヤン・ウェンリーの親友、ジャン・ロベール・ラップ准将の暴露インタビュー記事であった。記事にて自宅でヤン中将と不倫中に、夫であるラップ准将が帰宅して鉢合わせとなったことが書かれており、更に自宅前でヤン中将とジェシカ議員が抱き合ってキスしている写真が掲載されていたのである。

 

不倫スキャンダルが事実であったことに対し世間は激怒し、マスコミは報道に熱を上げた。

そしてヤン中将の被保護者であるユリアン・ミンツ氏からの提供で、ヤン中将とジェシカ議員のメールが、朝の人気情報番組『ズームイン!!ハイネセン!』にて放送、世間に晒されたのである。

 

「さあ、今日の特集はこれ!【同盟軍の英雄、ヤン・ウェンリー中将に不倫スキャンダル!】」

 

「いや~まさか魔術師ヤンが不倫ねえ……」

 

「当番組ではヤン中将とジェシカ議員のやり取りしたメールの内容を入手したのでご覧ください。」

 

 

[愛しいジェシカ!おはよー!チュッ♡(笑)

 

もう私とジェシカは既に運命共同体となっておりますので、どうか最後までお付き合いください(笑)

 

明日の晩は抱っこして、腕枕して寝てあげるからね

 

ジェシカ!私にもチュッ♡は?(笑)

 

まだお風呂かな?一緒に入ろう! 今度ね!って…もう私とジェシカは、何でもありでしょ?(笑)

 

また湯船に浸かって、ちょっと恥ずかしそうな顔のかわいいジェシカを見せてね! チュッ♡]

 

 

「いや~まさかあのヤン中将がこんなメールを送っていたとは……」

 

「人は見かけによらないですよねぇ……」

 

「それでは今回の不倫スキャンダルに関して街の人々にインタビューをしました。」

 

 

「ショックです。ほんとショック。」

 

「既婚者同士で不倫でしょ?やぁねぇ……信じられないわぁ……」

 

「ヤン~俺にもチュッ♡ってしてくれや~」

 

「不倫なんて最低です!」

 

「英雄色を好むってか?よっ!下半身【フリー】プラネッツ!」

 

 

「……このように街中でもヤン中将とジェシカ議員に対する非難の声が多いみたいですね。この騒動、どうなってしまうのでしょうか。それでは次のニュースです……」

 

この報道に対し、ヤン・ジェシカ両氏共に沈黙を保っていた。マスコミは何とかしてコメントを貰おうと、彼等に付きまとったが、なしのつぶてであった。

 

しかし数日後、ヤン中将の義父であるイゼルローン要塞司令官ドワイト・グリーンヒル大将が会見を開いたことで、状況が一気に動くことになる。彼は涙ぐみながらヤン中将を非難すると同時、軍の上司として義父として息子の不義理を止められなかった不甲斐なさを同盟市民に謝罪、世間から同情を称賛を浴びた。これをきっかけにして社会全体で風紀向上・綱紀粛正の機運が高まり、大規模な市民運動に発展、レベロ政権は対応に追われることになる。

その結果、ジェシカ議員は情報交通委員長を辞任し議員を辞職、ヤン中将は幕僚総監を更迭され少将に降格の上、予備役に編入された。更にヤン中将を庇う発言をしたシトレ統合作戦本部長は退役することになったのである。

一方グリーンヒル大将、ラップ准将、フレデリカ大尉は被害者として世間から同情されたのだが、それがきっかけで彼等の模範的な軍人としての仕事ぶりが世間から高い評価を受けた。特にフレデリカ大尉はヤンとの離婚を拒否「夫の不祥事は妻の責任」と主張して自ら予備役入りを志願、世間から「淑女の鑑」と評された。そしてグリーンヒル大将はその立ち振る舞いから『民主主義国家の模範的軍人』として高い評価を受け、シトレ統合作戦本部長の後任であるラザール・ロボス元帥やクブルスリー宇宙艦隊司令長官以上の名声を集めたのであった。

 

 

世間を騒がせた不倫スキャンダルから数ヶ月後、事態はとんでもない大事件に発展した。

きっかけはヤン・ウェンリー氏の元被保護者であるユリアン・ミンツ氏が、謹慎中のヤン氏の自宅アパートを訪ねたところ、ヤン夫妻はおらず、大量の血痕が発見されたのである。ミンツ氏はすぐさま警察に通報、捜索したところ妻のフレデリカが書いたと思われるメモが発見された。メモにはヤン氏の名前が只管書かれており、最後に「アイシテル」と書かれ途切れていた。これがチューズデーにスクープされたのである。

 

そして同時刻、ラップ少将(准将から昇進)から元妻のジェシカと連絡が取れないと警察に通報が入る。警察がジェシカ宅を訪ねたところ、「ワタシハカレトエイエンヲトモニシマス」と書かれたノートのみが残され、行方不明となっていたことが報道され、一連の行方不明事件に合わせて「ヤン・ファミリー神隠し事件」と命名され世間を騒がせた。

 

世間では心中や夜逃げに駆け落ち、果ては暗殺や異次元人に誘拐されたなんて噂が飛び交っていたが、どれも信憑性に欠けるものばかりであった。

そしてヤン達の行方は警察と関係者の必死の捜索にもかかわらず、手掛かりすら見つからない有様で、事件の迷宮入りが囁かれた。

 

こうして【エル・ファシルの奇跡】から始まり、数多くの戦いで同盟軍の勝利に貢献し、様々な異名を持つ稀代の英雄【ヤン・ウェンリー】は、数多くの謎を残しながら表舞台から退場したのであった。

 

 

 

 




箸休めとしてはそこそこできたと思っています。


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二月革命

今回は世論型AARの参加者の許可を得て、複数のAARで登場したキャラをオリキャラとして登場させています。
興味のある方はHaig氏主催の世論型AAR「バルト海は再びスウェーデンの海となるか」を是非ご覧ください。


ヴァルハラ星系惑星オーディン……かつて、ゴールデンバウム朝銀河帝国の首都星として繁栄を極めたこの星も、もはやその面影はなく、今や「辺境惑星や貴族領よりはマシ」と言われるレベルにまで衰退していた。そして帝国の中心である新無憂宮(ノイエ・サンスーシ)の帝国下院議事堂にて、食糧配給量削減法案の議論が行われていた。

 

「これ以上の削減なんか承諾できるか!現状でさえ辺境では餓死者で溢れかえっているんだぞ!」

 

「国家の大事だ仕方がないだろう。フェザーンへの債務返済は最優先事項だ。」

 

「既に各地で食料を求めて暴動が起こってるんだぞ!更なる混乱をもたらすのか!」

 

「多少の犠牲は覚悟の上だ。財政破綻は何としても避けなければならない。我々には外貨が必要なのだ。」

 

「他の星系と比較して恵まれているはずのここオーディンですら、一人当たり一日約1300㎉分の食糧しか配給されていないのですよ!これ以上の削減をすれば、このオーディンでも餓死者で溢れかえることになり、民心はいよいよもって帝国を見放すでしょう!貴方たちは帝国騒乱事件の悲劇を繰り返すというのですか!そんなことをすれば、いよいよ民衆は帝国を見限りますよ!」

 

「……議長!議論は充分に尽くされたと判断する。速やかに採決を。」

 

「それでは本法案に対する採決へ移行する!」

 

「待ってください!まだ審議の継続を!」

 

「ふざけるな!」「こんな法案認められるか!」「廃案だ廃案!」

 

 

「賛成多数と認める!よって本法案は可決とする!」

 

これにより食料配給削減法案を推進する与党「銀河帝政党」に対し、野党各派は必死に抵抗、特にベルティ・ビョークルンド代表幹事率いる「社会協同党」はフィリバスターや牛歩戦術など、警察が介入されないギリギリの議事妨害を実行するも、数には抗いきれず、最後は与党の賛成多数で可決となったのである。

 

 

帝国暦488年/宇宙暦797年2月23日、オーディンの中央広場にて、食料配給削減法案に対しての大規模な抗議集会が開催された。その数は25万人以上と言われ、オーディン史上最大の集会となった。

 

「政府はただでさえ少ない食糧配給を削減し、あろうことかそれを輸出に回すという!こんなことが許されて良いのだろうか!」

 

「政府の横暴を許すなー!」「このままでは俺達は死んでしまうぞー!」「俺達にパンをよこせー!」

 

「そうだ許されるはずがない!私達は明日をも知れぬ生活を送っているのに、政府は戦争の軍資金集めのために、私達の配給食糧を輸出しようとしているのだ!こんな理不尽はもうたくさんだ!」

 

「そうだー!」「俺達に平和をー!」「もう戦争はコリゴリだ―!」

 

「我々は充分に耐えた!しかし政府は私達からまだ搾り取ろうと画策している!故に!私達は起ちあがらなくてはならない!政府が私達から生活を奪おうというなら、その理不尽に対し、我々は反撃をしなくてはならないのだ!」

 

「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」

 

「さあ起とう!人民にパンと平和を!」

 

「「「人民にパンと平和を!!!」」」

 

こうして抗議集会は暴動へと発展、暴徒の数は百万人以上に膨れ上がり、警察では対処しきれず、暴動は惑星全土に広がっていったのである。

 

この事態に対し、リヒテンラーデ首相は軍の動員を決断、オーディンは戒厳令が発令され、暴徒鎮圧の命令を下した。

 

 

「閣下!ロマノフスキー閣下!既に政府では戒厳令が発令されました!我々第1師団にも出撃命令が出ています!」

 

「…………拒否する」

 

「は?」

 

「命令を拒否する。帝国軍の弾丸を、臣民に向けることなどできるか!」

 

「しかし閣下!?」

 

「我々帝国地上軍は帝国臣民を守るための軍隊であり、帝国臣民に発砲などできない!」

 

「……よろしいのですか?」

 

「あぁ、師団を緊急招集しろ。私自ら訓示する。」

 

「はっ!」

 

エミール・フォン・ロマノフスキー中将率いる帝国地上軍第1師団は軍上層部からの出動命令を拒否、中立を維持することを表明した。

だが中央通りでは、追い詰められた警官隊が遂に暴徒たちに発砲、多数の死傷者を出した。そしてこれがきっかけで軍の一部が反乱を開始、暴徒と合流を果たし、「暴動」は「反乱」へと姿を変えていった。

 

 

「同志諸君!もはや我々の行動は暴動ではない!これは革命なのだ!過日の第一革命は帝国の無慈悲な暴力によって粉砕された!だが今回は違う!我々は力を手に入れた!故に我々は暴徒から革命勢力として組織化をしなくてはならない!もはや我々は無力ではないのだ!それを新無憂宮(ノイエ・サンスーシ)に引きこもってるバカどもに知らしめてやろうではないか!」

 

「「「おお、おおおおおおお!!!!!!!!!!」」」

 

「我々はここに、労働者と兵士たちによる評議会、【ソヴィエト】の再建を宣言する!!」

 

2月26日、オーディン・ソヴィエトが結成された。議長にはかつての第一革命でソヴィエト穏健派を率い、現在は社会革命党所属の下院議員となっていたアレクサンドル・ケレンスキーが議長に選出され、政府と対峙する事を全会一致で決議した。

 

 

「もう限界でしょうな。もはやオーディンは無法の都と化したと言っても過言ではありますまい……」

 

「どうやらそのようですな。だが我々にはこの無秩序を止める権限も手立てもありません。貴族で上院仮議長の地位を得ながら、情けない限りです……」

 

「まだ手段は残っていますよ。」

 

「どのような?」

 

「リヒテンラーデ首相の更迭と皇帝陛下の退位を求めましょう。もはや民心はゴールデンバウム朝を見放したのです。このうえは我々で事態を収拾し、新たな政府を立てるほかないでしょう。」

 

「しかしそれは……」

 

「できなければあのソヴィエトが政権を握るだけですぞ。そうなれば皇族は根絶やしにされ、我々は断頭台で処刑されることになるでしょう。旧時代の革命がどのような結果になったか知らないわけではありますまい?」

 

「……しかし当てはあるのですかな?」

 

「第1師団のロマノフスキー将軍とは昵懇の仲です。それに民衆受けの良いビョークルンド代表幹事にも協力を要請しましょう。彼ならソヴィエトのケレンスキー議長を説得できます。」

 

「わかりました。それでいきましょう。しかし……我々自身の手でゴールデンバウム朝を終わらせることになるとは……」

 

一連の騒乱について、議論を重ねた上院仮議長フランツ・フォン・マリーンドルフ伯爵と上院議員エーリッヒ=ヴァルデマー・フォン・エプレボリ伯爵は帝国の打倒を決断。

2月28日、ロマノフスキー中将、ビョークルンド代表幹事と共に12名の委員からなる国家臨時委員会を設置し政権の掌握を宣言、ソヴィエトに対し秩序の回復を呼びかけた。

 

3月1日、ケレンスキー議長は提案に賛成、オーディン・ソヴィエトは国家臨時委員会と協力し、新政府樹立に参加することが決定された。もはやゴールデンバウム朝銀河帝国は逃げ道を失ったのである。

 

 

「陛下……」

 

「そう俯くな。黄金樹が倒れるという事はその程度の力だっただけのこと。」

 

「ですが!」

 

「もはや帝国の威光など何処にも存在しないのだ。敗北者は潔く舞台から降りるとしよう。」

 

「……かしこまりました。」

 

3月2日、国家臨時委員会とオーディン・ソヴィエトは帝政の廃止を宣言、リヒテンラーデ内閣の退陣と、皇帝フリードリヒ4世の退位を勧告した。勧告に応じた皇帝は退位を宣言、遂に大帝ルドルフ1世の即位以来488年続いたゴールデンバウム朝銀河帝国は、ここに崩壊したのである。

 

 

 




ようやくここまで来たぞ……!


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銀河戦国時代

今回は実質説明回となります。


ゴールデンバウム朝銀河帝国を解体した国家臨時委員会は、新政府樹立に動き出し、オーディン・ソヴィエトにも協力を要請、ソヴィエトでも承諾される。その後協議の結果、強大な権限を持つ首相府と財務省を分割し新たに複数の省の設置が決定。それに伴い上院から3名、下院から5名、ソヴィエトから3名が入閣することとなった。

そして帝国暦488年/宇宙暦797年3月3日、

 

首相:フランツ・フォン・マリーンドルフ伯爵(上院:帝政会)

内務相:クラインゲルト子爵(上院:帝政会)

外務相:エーリッヒ=ヴァルデマー・フォン・エプレボリ伯爵(上院:無所属)

財務相:ミハイル・テレシチェンコ(下院:無所属)

商工相:ニコライ・ネクラーソフ(下院:立憲民主党)

教育相:パーヴェル・ミリュコーフ(下院:立憲民主党)

農務相:ヴィクトル・チェルノフ(ソヴィエト:社会革命党)

司法相:アレクサンドル・ケレンスキー(ソヴィエト:社会革命党)

運輸相:イラクリー・ツェレテリ(ソヴィエト:社会民主労働党)

労働相:イェーオリ・パルメ(下院:社会共同党)

食糧担当相:ベルティ・ビョークルンド(下院:社会共同党)

 

を中心とした『共和国臨時政府』が樹立された。銀河連邦崩壊以降、約488年ぶりの民主共和主義政権の誕生であった。

 

それと同時進行で臨時政府は混乱収拾の為、ロマノフスキー将軍を通じて、帝国正規軍に対し臨時政府への忠誠と協力を求める。結果、軍務尚書エーレンベルク元帥はこれを拒否し退役を宣言、統帥本部総長メルカッツ元帥と宇宙艦隊司令長官シュターデン上級大将は、皇帝一家の生命と財産の保障を条件にこれを承諾、更に帝国軍色の払拭を狙った軍制改革に伴い、

 

国防相(軍務尚書から改称):ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ元帥(転任)

参謀総長(統帥本部総長から改称):シュターデン上級大将(転任)

宇宙艦隊司令長官:ラーヴル・フォン・コルニーロフ上級大将(予備役から復帰)

地上軍総司令官:エミール・フォン・ロマノフスキー大将(中将から昇進)

装甲擲弾兵総監:オフレッサー上級大将(留任)

憲兵総監:オッペンハイマー大将(留任)

 

を主要幹部とする、共和国軍へと組織再編が行われた。

 

3月4日、マリーンドルフ首相は、銀河全土にゴールデンバウム朝銀河帝国の崩壊と臨時政府の樹立を宣言。旧帝国領各地に臨時政府への帰順を求めたのであった。

 

 

「皆さん、ごきげんよう。この度、『フェザーン独立国』の初代大統領に就任したアドリアン・ルビンスキーであります。

銀河帝国は長年に渡り、このフェザーンを自分達の属州として扱ってきました。そして豊かな税収を掠め取られる形で、我々は今も搾取され続けており、尊厳は踏みにじられているのです!

それだけではありません!我々は生命の危険すら脅かされているのです……!先日、帝国を簒奪した『臨時政府』なる組織が、我々に服属するよう通告がありました。国が変わってもなお、奴等は我々から搾取を続けようというのです!

こんなこと許されて良いはずがない!今こそ我々は帝国の鎖を断ち切り、誇りと勇気をもって立ち上がらなくてはならない!

故に私は、初代大統領として、『フェザーン独立国』の建国を宣言する!」

 

3月5日、フェザーン自治領主アドリアン・ルビンスキーは、旧帝国から独立し、『フェザーン独立国』の建国を宣言した。

そして同日、自由惑星同盟のヨブ・トリューニヒト政権はフェザーン独立国を承認、正式に国交樹立となり、旧帝国からの離脱が決定的となった。

 

 

「我々は!ここに銀河帝国の正統なる後継国家、銀河帝国立憲政府の樹立を宣言する!

共和国臨時政府を僭称する賊徒どもを打倒し、新しきゴールデンバウム朝銀河帝国の創生を実現するのだ!大神オーディンのご加護のあらんことを!」

 

3月7日、オーディンを脱出していた上院議長オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク公爵は、自らの領地にて『銀河帝国立憲政府』の樹立を宣言、自身の娘であり先の皇帝フリードリヒ4世の皇孫であるエリザベート・フォン・ブラウンシュヴァイクを担ぎ上げ、臨時政府に対し対決姿勢を鮮明にした。

 

また3月9日、同じくオーディンを脱出していた上院副議長ウィルヘルム・フォン・リッテンハイム3世侯爵も、自身の娘で皇孫のサビーネ・フォン・リッテンハイムを担ぎ上げ『銀河帝国正統政府』を樹立、同じく臨時政府に敵対を宣言した。

 

更に独立戦争を続けていたカストロプ公国も臨時政府への帰順を拒否、隣接する臨時政府首相マリーンドルフ伯爵領への攻撃を開始した。

 

これらの反革命勢力の誕生に反応して、臨時政府に反感を持つ貴族や軍人たちが次々と反革命勢力への参加を表明、全ての貴族が臨時政府に敵対するかと思われたが、ウィルヘルム・フォン・クロプシュトック侯爵は臨時政府への私財の提供と帰順を表明、それに続いて反ブラウンシュヴァイク・反リッテンハイムの貴族たちが、臨時政府への帰順を申し出たことにより、これ以上の戦力低下を免れることが出来たのである。

 

一連の動きにより、かつての銀河帝国は『共和国臨時政府』・『銀河帝国立憲政府』・『銀河帝国正統政府』・『フェザーン独立国』・『カストロプ公国』に分裂となり、旧帝国領は戦国時代へと突入していくのであった。

 

そしてこの戦国時代突入により、遂にあの男が、再び世に出ることになるのである。

 

 

 

 




ルビンスキーのキャラに関して、疑問に思った方が多いと思いますが、彼も自治領主という職責を担っているので、ああいう演説も出来ると判断しました。


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4月14日革命

久しぶりの主人公登場です。今回はそこそこ長い話となっています。


二月革命によって共和国臨時政府が樹立されてから、約1ヶ月が経過した帝国暦488年/宇宙暦797年4月12日、惑星ドイナカンにあるマサラ村・ナニモナイネン村・サボリ―タイン町の3つの町村で、住民達による一揆が発生した。一揆衆の襲撃から逃れ、這う這うの体で逃げてきた警官からの報告を受けたドイナカン領主であるムノー男爵は、領民たちへの見せしめにすべく翌4月13日、男爵家直轄の私兵部隊『ドイナカン騎士団』500名に出撃を命じた。発生地域の人口から見て、一揆衆の戦力は大した数ではないだろうとの予測から、一揆は簡単に鎮圧できるものと、領主たちは考えていた。

 

 

ドイナカン騎士団が出撃した翌日の帝国暦488年/宇宙暦797年4月14日未明、ムノー男爵邸は赤い腕章を着けた兵士たちの襲撃を受けた。付近では銃声が鳴り響き、邸宅は瞬く間に占拠され、男爵は拘束されてしまった。

 

「きっ、貴様たちはいったい何者だ!このワシをバカーダ・フォン・ムノー男爵と知っての狼藉か!」

 

銃を突きつけられ拘束された男爵は、兵士たちを睨みつけながら声を張り上げた。すると、山高帽を被ったリーダーらしき人物が、男爵に声をかけた。

 

「お初にお目にかかりますになるかな?男爵、私は銀河帝国共産党委員長のカール・ハンソン。この星に……いやこの銀河に革命をもたらし、人民のための人民による国家を築かんとする者だ。」

 

「ゲーッ!?ハッ、ハンソンだと!?」

 

「ほう……私の事を知ってくれているようで何よりだ。ならば話は早い。バカーダ・フォン・ムノー男爵!我々共産党は貴殿の持つあらゆる権力と特権を没収し、人民を解放すること決定した!すみやかに党の指示にしたがっていただきたい!」

 

「なにィ!!由緒ある帝国貴族の権利を奪わんとするとはなんたる痴れ者だ!おい!おぬしら曲がりなりにも帝国軍人であろう!今ならワシに銃を突きつけた罪を不問にしてやる!だからさっさと奴を殺せ!殺してしまえ!みせしめに首を切って晒しものにするのだ!」

 

男爵は自分に銃を突きつけている兵士たちに命令したが、誰も従う者はいなかった。

 

「無能とはおもっていたが、まさか現実すら認識できんバカだとは……これならオーディンに居座ってる上院の貴族連中の方がマシ……いや、比べるのも烏滸がましいか。」

 

「なんだと!?ワシをあんな改革の名の下に帝国の古き良き伝統を汚さんとする売国奴と比べるとは何たる侮辱!だいたいワシは……」

 

「もう結構だ喋らなくていい。貴様はこれまで先祖代々が犯してきた罪の全てを背負って人民裁判によって裁かれることになるだろう。それまで弁論でも考えておくんだな……連れていけ!」

 

「なっ、なに!?裁判だと!?ふざけるな!!愚民どもがワシを裁くなどそんなこと許されてたまるか!!はっ、はなせ!?ワシ男爵、男爵なんだぞおおおおおおおおおお!!!!!」

 

兵士たちは暴れる男爵を拘束し連れ出して行った。

 

「……あそこまで行くともはや病人だな。」

 

「失礼いたします。同志ハンソン、放送局と発電所の制圧が完了しました。また市庁舎と警察署、宇宙港の制圧も順調とのことです。」

 

「市街地の様子は?」

 

「目立った混乱は見られません。それどころか我々にパンと塩を渡してくる人民もいるようです。党細胞の活動が上手くいった証拠ですよ。」

 

「うむ、素晴らしい成果だ。それでは我々は放送局へ向かうとしよう。」

 

「承知しました。」

 

ハンソンは副官を伴い放送局へ向かった。

 

 

ハンソンが向かった放送局では、チョウ・エンライ率いる部隊が占拠していた。チョウはこの日の為に工作員として放送局で働いていたのだ。

 

「チョ……チョウ君!?なぜ真面目な君がこのようなことを!?」

 

「局長、黙っていて申し訳ありませんでした。ですが、これでこの星は生まれ変われるのです。我々銀河帝国共産党によって!」

 

「銀河帝国共産党……?」

 

放送局長が考え込んでいると、男爵邸より移動してきたハンソンが到着した。

 

「初めまして放送局長。私が銀河帝国共産党委員長のカール・ハンソンだ。」

 

「カール・ハンソン……アーレ・ハイネセン以来の大犯罪者がまさかこんな辺境に潜伏していたとは……」

 

「このような乱暴なやり方で、あなた方の自由を奪ってしまい申し訳ない。だが我々としても絶対に失敗は許されなかったのでね。」

 

「また反乱を起こすというのですか。ただでさえ帝国は戦乱の渦中にあるというのに、こんな辺境の一惑星まで巻き込もうというのですか!」

 

「局長、それは違う。私が戦乱を呼び込むのではない。既にこの星も戦乱に巻き込まれているのだ。君はこの星だけ平和に過ごせるとでも思っているのか?」

 

ハンソンの問いに局長は何も答えなかった。

 

「それにな局長、男爵家が統治しているこの星の惨状を見て本気で平和だと断言できるのか?ここまでの道中で我々を遮らんとする者は一人もいなかったぞ。むしろパンと塩をもって歓迎してくれた。男爵家の搾取によって明日の食料もない人民がだ。既に男爵家に人心はなく、人民が革命を望んでいたという証拠ではないか。」

 

「そっ、それは……」

 

「どうやら君は男爵と違って多少は頭が回るようだな。だが、それだけだ。君に関する調査も既に終えている。随分と甘い汁を啜ってきたようだな。地位に胡坐をかき、人民からの搾取を黙認するどころか加担したその罪は重い。連れていけ!」

 

ハンソンがそう言い放つを放送局長は兵士たちに連れていかれた。

 

「他の局員たちには危害を加えるなよ!彼らは我らが革命が成った後の重要な協力者になるんだからな!」

 

「同志ハンソン。テレビ・ラジオ放送の準備が整いました。」

 

「よろしい。それでは案内してくれ。」

 

ハンソンはチョウ・エンライの案内で放送スタジオへ向かった。

 

 

「ドイナカン、並びにシベリア星系全ての人民に告ぐ。我々は銀河帝国共産党である!

隠忍自重してきた共産党は今朝未明を期し、一斉に行動を開始し惑星の行政、軍事、インフラ等の主要施設を完全に掌握し、引き続き軍事革命委員会を組織した。

我々共産党が決起したのは、腐敗した無能な男爵家とその一派に、これ以上惑星と人民の運命を任せておくことはできないと断定し、百尺竿頭で彷徨するこの星系の危機を克服するためである。

 

軍事革命委員会は

①共産党指導のもと労農同盟による階級独裁に基づく新社会の建設

②他星系の革命勢力との連帯強化と旧帝国勢力の打倒

③革命戦争を戦い抜く為の強力な労農赤軍の創設と防衛体制の構築

④農奴解放と土地革命による公正な分配の実施

⑤貨幣の統一と経済の現代化の推進

⑥絶望と飢餓に苦しむ人民の救済と社会保障制度の整備

⑦機会の平等に基づく教育制度の整備

⑧腐敗と不正の一掃し清新な社会の創造と治安の回復

以上の八大政策を強力に推進し、人民の人民による人民のための政治を実施していく所存である。

 

人民諸君!

諸君らは共産党及び軍事革命委員会を全幅的に信頼し、動揺せず各員の職場と生業を平常通り維持してほしい。我々軍事革命委員会は全人民の団結と忍耐と勇気と前進を必要としている!

さあ、共に進もう!

 

人民革命万歳!

労農同盟万歳!」

 

ハンソンの宣言は、シベリア星系及び周辺星域で放送された。これと同じくして、惑星中心部の主要施設全ての制圧が完了。市民による目立った反発も見られず、残りは地方反乱討伐へ出発したドイナカン騎士団のみとなっていた。だがハンソンは彼ら騎士団にも、既に布石を打っていたのである。

 

 

「ヂュ、ヂュー・ドゥー隊長!?これはいったいどういう事だ!?」

 

ドイナカン騎士団を率いていたアーホー団長は自らの現状を認識できず困惑していた。鎧袖一触で鎮圧できると侮っていた一揆衆との戦闘が予想より苦戦している中、突如後方の部隊が謀反、一揆衆と挟み撃ちになってしまったのである。

 

「どうもこうも見ての通りですな団長。前方には一揆衆、後方には反乱部隊……まさに前門の虎後門の狼という現状ですぞ。」

 

「クソッ!まさか騎士団内部に裏切り者がいたとは……ここはなんとかして撤退しなくては!」

 

「おっとそういうわけにはいかないんですよ将軍。」

 

ヂュー・ドゥーはブラスターを引き抜くと団長に突き付けた。

 

「なっ、ヂュー・ドゥー隊長!?何のつもりだ!?」

 

「我々は軍事革命委員会に降伏するという事ですよ団長。」

 

「軍事革命委員会?どういうことだ!」

 

「それは我々に捕まった後に分かります。」

 

「ええい!訳の分からんことを!誰か!誰かおらんか!ヂュー・ドゥーが乱心したぞ!こやつを討ち取れ!」

 

団長は必死に叫んだ。すると兵士たちが駆け込んできた。団長は安堵の表情を浮かべるが、すぐに驚愕した。兵士たちは皆、銃口をヂュー・ドゥーではなく自身に向けてきたのである。

 

「なっ!?」

 

「そう言う事ですよ団長。既に部隊の多くが我々と共にあります。前線の連中も無用な血を流すことを好まんでしょう。」

 

「そんな……まっ、待ってくれ!金でも女でも好きな物をくれてやる!だから助けてくれ!」

 

将軍は必死に命乞いをした。だが返ってきたのは無慈悲な勧告であった。

 

「貴方の処遇を決めるのは私ではない。人民ですよ。貴方はこれから人民裁判によって裁かれるのです。命乞いはその時にでもするのですな。おい!こいつを縛り上げて連行しろ!」

 

ヂュー・ドゥーがそう命令すると兵士たちはアーホーを連行していった。

 

その後、騎士団の指揮を引き継いだヂュー・ドゥーは全部隊に対し戦闘停止と武装解除を命令、状況が掴めていない前線の部隊からは抗議の声が上がったが、前方と後方の両方から銃を突きつけられている状態では何もできず、部隊は降伏した。これにより後に「4月14日革命」と呼ばれるハンソンの三度目の革命は、無血革命という形で遂に成功となったのである。

 




行き当たりばったりで書いてたので、まさかここまで続くとは思わなかったのですが、何とか完結までもっていければと思っています。


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赤い暴風

今回も新キャラの名前が多数出てきますが、どれも史実の歴史上の人物の本名を採用しています。


帝国暦488年/宇宙暦797年4月16日、惑星ドイナカンの掌握を完了したカール・ハンソン率いる軍事革命委員会は、バカーダ・フォン・ムノー男爵及びアーホー・フォン・ムノー騎士団長を筆頭としたドイナカンの支配者たち12名を裁くための人民裁判を開廷した。

裁判は銀河帝国共産党が人民の支持獲得のための政治ショーと化しており、被告人たちの反論は、聴衆の怒号で掻き消された。判決は満場一致の有罪であり、被告人12名全員の死刑が下された。刑は即日執行され、男爵たちは大勢の観衆が見ている中、銃殺された。

 

「人民の敵は打倒された!革命万歳!」

 

「「「革命万歳!革命万歳!革命万歳!」」」

 

 

公開処刑が終わった後、遺体は速やかに火葬され集団墓地に埋葬された。

 

「よろしかったのですか?党内には遺体を数日間晒すべきだとの声もありましたが……」

 

「奴等はその死を以て己が罪を償ったのだ。余計な屈辱を与えるといらぬ反感を生みかねん。我々は共産党は無秩序な暴徒の如き行動は戒めなくてはならんのだ。それよりも軍の再編はどうなっている?」

 

「既に同志ヂュー・ドゥーが帝国軍や旧騎士団出身者を中心とした部隊の編制に取り掛かっています。更に志願兵も募るとのことです。」

 

「何としても短期間の内にシベリア星系を解放して、辺境統一の足掛かりを築かなくてはならん。帝国が崩壊し、辺境が空白地帯となった今が好機なのだ。この機会を逃さず一気に行くぞ。」

 

「かしこまりました。」

 

ハンソンとマオ・ツォートンは会話を終えると自らの業務に戻っていった。

 

 

4月28日、軍事革命委員会はドイナカンに駐屯していた旧帝国軍と騎士団の解体を決定。それと同時に新たなる革命の為の軍隊『労働者・農民赤軍(労農赤軍)』の創設を布告した。労農赤軍は中核こそ旧帝国軍兵士と騎士団団員によって編成されていたが、大部分は労働者や農民からの志願民兵であった。

ハンソンはこれら寄せ集めの軍隊である赤軍を組織化すべく、旧時代のわかりやすい軍規を参考に行動規範を制定。

 

三大規律:

①指揮に従って行動せよ

②人民の物は麦1本でも盗るな

③獲得した物も金も公のものにする

 

八項注意:

①話し方は丁寧に

②売買はごまかしなく

③借りたものは返せ

④壊したものは弁償しろ

⑤人を罵るな

⑥人民の家屋や田畑を荒らすな

⑦婦女子をからかうな

⑧捕虜を虐待するな

 

以上の『三大規律八項注意』を赤軍の軍規として定め、これに違反した者は階級問わず死刑に処すとした。また民衆に対しても、これを行動規範として順守を求め、実際に違反した軍人に対して容赦なく銃殺刑に処したことで、民衆にも概ね受け入れられ治安の回復に繋がっていったのである。

 

 

6月3日、戦力化が完了した赤軍はハンソン自らの指揮の下、空白地帯となったシベリア星系統一を果たすべく行動を開始。鹵獲した少数の巡航艦と駆逐艦に、急ごしらえの武装商船を中心とした60隻の艦隊が出撃した。

翌6月4日、艦隊は収容所惑星ラーゲリを襲撃。僅かばかりの抵抗を排除した赤軍は瞬く間に惑星全土を占拠したのであった。ハンソンが最初にここを選んだ理由は、旧銀河帝国領最大の金鉱山『コルィマ鉱山』の奪取、そしてかつて自分と共に収監された同志達の救出であった。

 

 

「同志ブロンシュテイン!」

 

ハンソンは担架で運ばれていく男に声をかけた。男の名はレフ・ブロンシュテイン、帝国第一革命からの古株であり、テールマン死後ハンソンの右腕ともいうべき歴戦の革命家である。

 

「同志ハンソン……来てくれたのですね。」

 

「ブロンシュテイン、よくぞ生きていてくれた。収容所の散々たる惨状を見た時はもうダメかと思ったぞ。」

 

「同志ジュガシヴィリのおかげですよ。看守の地位を利用して、あの時の反乱に参加した私達を行方不明扱いにしてくれましたから……」

 

「そうだったのか……他に誰が生き残っている?」

 

 

「反乱に参加した同志で無事な者は私を含めて30名ほどです。ですが皆満足に動くことも出来ませんよ。」

 

「そうか……いや、それでも君たちが生きていてくれて本当によかった。あとは我々に任せて養生してくれ。」

 

ハンソンはそう言うと、ブロンシュテイン達傷病者をドイナカンへ移送するよう命じた。

 

こうしてハンソン率いる赤軍はラーゲリを解放。ブロンシュテインにローゼンフェルド、ラドムイスリスキーら第一革命・ロンドリーナ革命の生き残り30名を救出に成功する。また二月革命後の混乱の最中、囚人たちを率いていた看守ジュガシヴィリとの会談の結果、惑星ラーゲリは正式に軍事革命委員会に編入されることとなった。

 

その後も赤軍は破竹の勢いで進撃、宇宙海賊など在野の武装勢力も取り込んで勢力を拡大し、6月23日、シベリア星系の解放を果たした。そして9月3日にはイゼルローン回廊側の辺境星域を統一。更に9月13日、無法地帯となっていたシリウス星系に侵攻を開始。かつてハンソン達がコミューンを建国した革命の地、惑星ロンドリーナの解放に成功する。

 

「愛するロンドリーナの人民たちよ!この地に眠るあまたのコミューンの戦士たちよ!再び社会主義革命の理想を掲げるために、私は帰ってきた!!!」

 

こうして惑星ロンドリーナを中心としたシリウス星系を解放したハンソンは、帝国暦488年/宇宙暦797年9月14日、『銀河ソヴィエト革命政府』の樹立を宣言する。『共和国臨時政府』・『銀河帝国立憲政府』・『銀河帝国正統政府』・『フェザーン独立国』・『カストロプ公国』の五大勢力に次いだ、暴風の如き勢いの新興勢力が今誕生したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あまりダラダラやっても仕方ないなと思い、今回は大分話を巻きました。もっとうまく構成しないとなぁ……


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国共合作

大変長らくお待たせいたしました。今回は急いで書いたので短めとなっております。


破竹の勢いで勢力を拡大していくハンソン率いる銀河ソヴィエト革命政府に対し、共和国臨時政府はどう対応するかの方針を巡り内部対立が発生していた。

臨時政府内ではクラインゲルト内務相を中心とした上院の帝政会や、ミリューコフ教育相やネクラーソフを擁する下院の立憲民主党が討伐を主張するが、パルメ労働相を中心とした下院左派や、ケレンスキー司法相やチェルノフ農相、ツェレテリ運輸相を擁するオーディン・ソヴィエトが和平交渉を主張し対立、これをマリーンドルフ首相とテレシチェンコ財務相、エプレボリ外相やビョークルンド食料担当相が双方の仲裁に入り何とか分裂を阻止している状況であり、マリーンドルフ政権は身動きが取れなくなっていた。

また、共和国軍上層部でも強硬派のコルニーロフ宇宙艦隊司令長官と穏健派のシュターデン参謀総長が戦略方針を巡って対立、さらに兵士の待遇改善デモの対応を巡って弾圧を主張するオッペンハイマー憲兵総監と対話交渉を主張するロマノフスキー地上軍総司令官が対立するなど、臨時政府は機能不全に陥りつつあった。

 

しかし帝国暦488年/宇宙暦797年9月30日、アルテナ星域会戦においてフォーゲル中将率いる共和国軍艦隊が、ファーレンハイト中将率いる銀河帝国立憲政府軍艦隊に敗北を喫したことで事態は急変。革命政府に対し停戦ないし協力関係を築く方針に決まる。その報はハンソンの耳にも入っていたのであった。

 

 

銀河ソヴィエト革命政府の首都星ロンドリーナの共産党本部にて、今後の方針を決める中央委員会が開かれていた。

 

「臨時政府が我々と手を組もうと言ってきている案件についてですが……」

 

「そんなこと議論するまでもない!死に体のブルジョア共を我々が味方をする道理はなかろう!」

 

「だが彼らが負ければ反動貴族共の力が増すことになる。ここは手を組んだ方が良いのでは?」

 

「臨時政府が敗北した混乱を突いて勢力拡大を図ればよいではないか!一石二鳥というものだ!」

 

「手を差し伸べなかった我々を人民が受け入れると思うか?人民の支持に拠って起っている革命政府がそんなことをすれば反動貴族共と同じ穴の狢になるぞ!」

 

「同志ハンソン!同志ハンソンはどの様にお考えで?」

 

委員の一人がハンソンに尋ねた。ハンソンは目を瞑った状態で沈黙していたが、やがて口を開き沈黙を破った。

 

「同志諸君、我々が何故起ったのか今一度考えてもらいたい。名誉の為だろうか?富の為だろうか?権力の為だろうか?いや!人民の為だったはずだ!しかし、我々には銀河全ての人民を救う力はない。だが、臨時政府は確かにブルジョアジーに依る政府ではあるが、旧帝国の中では数少ない民主共和政を掲げており、また共和国軍は労農赤軍と違い戦力が充実している。であるならば、我々は臨時政府に協力し関与を強めていくことが肝要だと私は考えるが……諸君らの見解を伺いたい。」

 

「意義なし!」

 

「同志ハンソンがそのように考えているなら私は否定する要素がありません。」

 

「しかし同志ハンソン、連中に協力するのはわかったが、本当に影響力を拡大できるだろうか?」

 

「利用されるだけ利用して捨て駒にされる可能性もありますぞ。」

 

「その危険性も充分にあるが……虎穴に入らずんば虎子を得ず。行動無くして成果なしという事もある。正に今がその時だろう。それに現在の臨時政府に我らをどうこうできるだけの力量はない。」

 

ハンソンがそう答えると委員は納得して着席した。

 

「それではこれより決議に移る。臨時政府との合作に賛成の者は挙手をしてもらいたい。」

 

この日の委員会において革命政府は臨時政府との合作を決定した。後日、臨時政府のエプレボリ外相と革命政府のブロンシュテイン委員との交渉の結果、革命政府の臨時政府への帰順が決定され、共産党は臨時政府に従う事となった。この【共和国】と【共産党】との共同戦線の事を『国共合作』と呼ぶようになるだが、それは後の歴史の話である……

 

 

 

 

 

 




次はもう少し早く投稿したいです。


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内戦終結と銀河連邦共和国成立

大変長らくお待たせいたしました。そして突然で申し訳ありませんが、今回で銀河帝国革命は完結とさせていただきます。リアルが忙しくなり、纏まった時間が取れずにいるうちに、創作のモチベーションそのものが無くなってしまいました。
本当はこのまま未完結扱いにしようかと思いましたが、最後の気力を振り絞って何とか書けるだけ書きました。


国共合作によって戦力の増強と民衆の支持獲得に成功した共和国臨時政府は、停滞した戦況を打破し国家統一を成し遂げるべく一大攻勢に打って出た。

 

帝国暦488年/宇宙暦797年12月25日、フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト大将とミハイル・トゥハチェフスキー中将率いる共和国軍はカストロプ公国に対し攻撃を開始。カストロプ自慢の全自動防衛人工衛星群【アルテミスの首飾り】の迎撃によって多大な損害を被りながらも進撃を続行しこれの破壊に成功する。

さらに共和国軍は間髪を入れずにカストロプ公国首都に突入を実施。首飾り破壊の混乱から立ち直れていない公国軍は、装甲擲弾兵総監オフレッサー上級大将率いる装甲擲弾兵部隊の活躍によって撃破される。これを見て最早勝利は不可能と判断したカストロプ公王は脱出を図るも、圧政に耐えかねた民衆と臣下によって殺害、遺体は共和国軍に献上され、カストロプ公国は全面降伏となった。

 

帝国暦489年/宇宙暦798年1月10日、共和国軍のカストロプ公国侵攻を好機とみた銀河帝国正統政府執政ウィルヘルム・フォン・リッテンハイム3世侯爵は、共和国臨時政府の首都オーディンへの進撃を命令。アウグスト・ザムエル・ワーレン中将が戦力不足を理由にこれに反対するも、リッテンハイム侯爵はこれ聞き入れず作戦を強行する。結果、エルンスト・フォン・アイゼナッハ中将率いる正統政府軍がキフォイザー星系を出撃した。

正統政府軍の進撃を察知した臨時政府軍のナイトハルト・ミュラー少将は、総司令部に報告すると同時に貴下の艦隊を率いて出撃、会戦となった。前半は数に勝る正統政府軍が共和国軍を圧倒するも、ミュラー少将の卓越した指揮によって持ちこたえられていた。その後ヂュー・ドゥー中将率いる援軍の到着によって戦況は逆転、さらにリン・ビャオ少将率いる別動隊が背後を突かれたことにより正統政府軍の退路は断たれた。包囲されたアイゼナッハ中将はこれ以上の抵抗は無意味だと判断し降伏を宣言。これにより銀河帝国正統政府は致命的打撃を負ったのであった。

 

3月1日、銀河帝国立憲政府宰相オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク公爵は、増大する共和国臨時政府の圧力に対抗するため銀河帝国正統政府との合流を画策する。正統政府執政のリッテンハイム侯爵は難色を示すも、合流派貴族たちの影響を受けた皇孫サビーネの説得やフェザーン独立国から援助の確約を受けたことにより合流を決断。その結果、銀河帝国立憲政府と銀河帝国正統政府は合流を果たし、新たに【ゴールデンバウム朝神聖銀河立憲帝国】が設立された。ここに反共和国勢力の結集が成されたのである。しかし攻勢を主張する旧リッテンハイム派と、持久戦を主張する旧ブラウンシュヴァイク派の派閥対立によって、帝国は発足直後から身動きが取れなくなってしまい、結果的に共和国臨時政府に戦力再編の時間と猶予を与えることとなった。

 

4月11日、国共合作後さらに影響力を拡大していく共産党に危機感を抱いた共和国軍宇宙艦隊司令長官ラーヴル・フォン・コルニーロフ上級大将は、元銀河帝国首相クラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵と共謀して首都オーディンでクーデターを強行。一時は主要施設の多くの占領に成功するも、ロマノフスキー上級大将(大将から昇進)率いる地上軍の抵抗により宇宙港と地上軍司令部の占拠に失敗する。さらにマリーンドルフ首相やエプレボリ外相、ビョークルンド食料担当相を筆頭に臨時政府首脳の殆どが脱出に成功していた。そしてカール・ハンソンの扇動によって民衆の心は反クーデターへと傾いていき各地で抗議デモが頻発、クーデター軍は首都の掌握もままならない状態であった。

結局ビッテンフェルト大将率いる艦隊とオフレッサー上級大将率いる装甲擲弾兵部隊の帰還によってクーデターは瞬く間に鎮圧されたのであった。

 

4月18日、オーディンでのクーデター発生の報を聞いた立憲帝国はこれを逃せばオーディン攻略は難しくなると判断し一大攻勢を決断。全ての戦力を結集しオーディンへ向けて出撃した。これに対し共和国軍も戦力を結集させ、両軍はアルテナ星域にて会戦となった。戦況は背水の陣を敷いた帝国軍が若干優勢ながらもビッテンフェルト大将とミハイル・フルンゼ大将率いる共和国軍も善戦しており、一進一退の戦いが続いていた。だがそれは共和国軍の作戦であった。

 

4月21日、ブラウンシュヴァイク公領にセミョーン・ブジョーンヌイ中将率いる部隊が、リッテンハイム侯領にはゲオルギー・ジューコフ少将率いる部隊が奇襲攻撃を敢行。これは帝国軍の攻勢を見抜いていた国防相ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ元帥と参謀総長シュターデン上級大将が、遊撃戦に秀でていた旧労農赤軍兵士を中心とした奇襲部隊を編制、暗礁宙域を通り帝国軍を引き剥がしているうちに一気に帝国の中心であるブラウンシュヴァイク領とリッテンハイム領を攻略するというものであった。

作戦は大成功を収め、奇襲部隊は僅かばかり残った帝国軍を撃破、両領地の占領する。ブラウンシュヴァイク公とエリザベート・フォン・ブラウンシュヴァイク及びサビーネ・フォン・リッテンハイムの両女帝は服毒自殺を遂げ、リッテンハイム侯は戦死、それ以外の貴族も多くが逮捕か殺害されるという旧赤軍兵士たちによる苛烈な報復が行われ、これが後の禍根に繋がることになってしまうのだが、それはまた別の話……

 

4月23日、本拠地が占領され退路もなく袋のネズミと化した帝国軍は今後の対応を協議、総司令官フレーゲル大将は特攻を主張し強行しようとするも、メックリンガー参謀長がフレーゲル総司令を射殺しこれを阻止、その後協議の末メックリンガー、ワーレン、ファーレンハイトの三提督は降伏を決断する。これにより第三次アルテナ星域会戦は共和国軍の勝利、その結果帝国軍は壊滅し神聖銀河立憲帝国は崩壊したのである。

その後共和国軍は帝国軍残党の掃討をしながら各星系を制圧していき、5月20日、共和国臨時政府はフェザーン独立国を除く旧帝国領の統一を宣言。後に【統一戦争】と呼ばれる一連の内戦は、共和国臨時政府の勝利に終わったのである。

 

帝国暦489年/宇宙暦798年6月1日、予てより新国家建設の準備を進めていた臨時政府は【銀河連邦共和国】の建国を宣言。それに伴い元首たる大統領選挙と共和国議会選挙の実施を発表した。大統領候補に真っ先に挙げられていたマーリンドルフ首相が政界引退を宣言したことにより、候補の乱立が懸念されていたが、銀河共産党(銀河帝国共産党から改編)書記長カール・ハンソンが大統領選への出馬を表明したことにより、候補の一本化が模索されるようになる。エブリポリ外相やパルメ労働相、ロマノフスキー地上軍総司令官など、様々な名前があげられる中、社会協同党代表幹事でもあるベルティ・ビョークルンド食料担当相と、社会革命党書記長でオーディン・ソヴィエト議長を務めるアレクサンドル・ケレンスキー司法相が最有力候補として決まり協議の結果、ビョークルンド食料担当相が統一候補として大統領選に出馬することとなった。また立憲民主党・社会協同党・社会革命党・社会民主労働党・保守系無所属(旧帝政会)の臨時政府与党による統一会派【協調民主ブロック】が結成され安定政権樹立のための万全の態勢で選挙に臨んだのであった。

 

9月1日、3か月に及ぶ長い選挙戦の結果、

 

ベルティ・ビョークルンド      →51.6%

カール・ハンソン          →39.2%

ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ→9.1%

ド・ヴィリエ            →0.1%

 

とビョークルンド食料担当相が勝利し、議会選では

 

社会革命党     →1010議席

立憲民主党     →650議席

社会協同党     →640議席

社会民主労働党   →40議席

旧帝政会系無所属  →340議席

 

協調民主ブロック合計→2680議席

 

銀河共産党     →1310議席

保守党       →610議席

復古主義者同盟   →160議席

友愛地球党     →5議席

共和国から民を守る党→4議席

無所属       →231議席

 

野党合計      →2320議席

 

と与党協調民主ブロックが勝利を果たし、翌9月2日、臨時政府の解体と新政府が樹立された。

また新政府は共産党に対し閣僚ポストの提示と政権への協力を要請するもハンソンはこれを固辞、共産党は野党第一党として活動することになる。

 

そして9月5日、国共合作の契約に基づき旧銀河ソヴィエト革命政府の領域において【オリオン腕社会主義ソヴィエト自治共和国】が成立。代表である最高議長にはハンソンの最側近であるレフ・ブロンシュテインが就任し、内閣にあたる人民委員にはヨシフ・ジュガジビリやマオ・ツォートンなど若い世代の幹部が就任、社会主義国家建築の為邁進することとなる。

 

天変地異から始まった混乱は帝国を崩壊させ、新たな秩序が形成された。だが、新国家には数多くの内政問題だけでなく、テロリストと化した帝国の残党や残された最後の領土であるフェザーン、今や超大国となった自由惑星同盟など、数多くの外敵にも囲まれている。

だがそれでも我々は前に進まなければならない。それが革命の先駆者たちの責務であり、人民が生き残る唯一無二の方法なのだから……

 

 

                                                                          END

 

 

 




最後は駆け足で撮っ散らかった文章になってしまいましたが、これで銀河帝国革命は完結となります。長い間読んでくれた読者の方々には感謝しています。
リアルが本当に忙しくなってしまい、もう当分創作はしないだろうとは思いますが、もしまた機会があれば、読んでいただけると幸いです。
今まで本当にありがとうございました。


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