転生しても楽しむ心は忘れずに (オカケン)
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無印前
『山宮太郎』→『荒瀬慎司』


 どもども、お久しぶりです。光の英雄の執筆再開しつつ元々書いてみたかった無能力オリ主も投稿してみました。文才に自信はありませんがアドバイス等あればいっていただけたら嬉しいです。あ、悪口とかじゃなければ意見等もあったら嬉しいです。


 

 

「何してんの?こんなとこで1人で泣いて」

「ふぇ?」

 

 夕焼けが辺りに赤を染み込ませる時間帯に幼女が1人公園のブランコで泣いているのを見てつい声をかけてしまった。いや、普段ならそんな事しないんだけどこの幼女があまりにも悲しそうだったんでついつい。

 

「………だれ?」

「俺?俺は……たろ……慎司ってんだ」

「…シンジ?」

「そ、シンジ」

 

 俺こと荒瀬慎司はいわゆる転生者と言うやつである……と思う。といってもただ前世の記憶があると言うだけで転生者かどうかは分からない。妄想なのかもしれない。 

 ちょうど二十歳の時に俺の不注意で事故に遭い死んでしまった。完全なる自業自得、ボーッとして信号が赤に変わった事にも気付かず道路に飛び出した俺が完全に悪い。俺を轢いた運転手にも申し訳ない事をした。しかしなんの因果か俺は記憶を保持したまま新たな生を受けた。普通の家庭に生まれ現在5歳。前世と合わせれば25歳。

 体は子供、頭脳は平凡、精神年齢大人。勘弁してくれと言いたい。転生したこの世界も前いた地球と同じようで違う。元いた地球とは違うのだ。何故分かるのか?と問われたら返答に困るが感覚的な物で何となく理解していた。

 何となく違和感を感じるのだ。その違和感も5年も経てば消え失せたが前の世界とは決定的な齟齬を感じているのは変わらなかった。まぁ、今となってはどうにもならない事。前の世界での未練や後悔は沢山あるが今は前を向いて新しい人生を楽しもうと誓ったのが生後3ヶ月の時。喋れないフリしてバブバブ言ってるのは辛かったな。まぁ、何年かしてそのフリも耐えきれずやめてしまったが。

 ちなみに『荒瀬慎司』というのはこの世界における両親から授かった名前で前世では『山宮太郎』という名前だった。

 

 

 

 さて、自分語りが長くなってしまったが今は目の前の幼女をどうにかしないと。急に声をかけられてビックリしてるしな。見た目は5歳の俺は同じくらいの歳に見える幼女に話しかけた所で周りの目は気にならないが25歳である俺の精神は悪い事をした訳ではないのに妙に焦りを感じさせる。とりあえずはだ……。

 

「んで?君の名前はなんていうの?」

「……………なのは」

 

 短くそう答える幼女の瞳には涙が溜まったままだった。

 

「なのはちゃんか、可愛い名前だね」

 

 考えなしにとりあえず褒めておこう。悪い気はしないはずだ。少しでも警戒心を取ってくれると嬉しい。そしたら早速聞いてみよう。

 

「どうして1人で泣いてるの?」

 

 そう聞くとなのはちゃんは少し躊躇う素振りを見せてから

 

「ううん、なんでもないの……」

 

 と無理やり笑顔を作って見せた。同年代の子供達なら騙されそうな立派な作り笑いだったが生憎さま俺の25歳という実年齢の前にはすぐにそれが作り笑いと看破できた。

 隠すということは知られたくない事なのか、それならば部外者の俺は立ち入るべきじゃないだろう。けど、なんでだろう何となく今の俺は立ち入るべきだと直感が告げていた。知られたくないとかそう言う事じゃなさそうだ。多分この子は……所謂いい子という奴なんだろう。

 

「えぇ、隠さなくたっていいじゃんかー。教えろって、相談に乗るよ?」

 

 伊達に前世で20年生きてないぜ?この子の悩みを少しでも軽くする事は出来なくはないと自惚れても良いだろう。友達と喧嘩したか?それとも家族と?いじめか?とにかくなんでもカモンだ。

 

「ほ、ホントに大丈夫だからっ」

 

 おおっと逆効果だったかな?いきなりズカズカ無神経だったかも。反省しつつ次の行動に。

 

「ホントに平気なの?泣いてたから普通に心配なっちゃうんだよ」

「あ、ありがとう。でも、ホントに平気だから…」

 

 泣いてたのも目にゴミが入っちゃってと言い訳し始めるなのはちゃん。うーむ、こりゃ正攻法じゃダメだなぁ。仕方ない、素でいこう。

 なのはちゃんが下を向いて目を離した隙に素早く持参している目薬を両目に数滴垂らす。溢れないない内に始めよう。

 

「そ、そんな……おしっ……お……」

「……?」

 

 急に雰囲気が変わる俺を不思議そうに見つめるなのは。

 

「おじえでくれてもいいじゃんがああああああああああああああ!!!」

「え、ええ!?貴方が泣くの?」

 

 そうだ、焦れ焦れ。理不尽な理由だけど今君のせいで俺は泣いているのだ。嘘泣きだけど。とにかく罪悪感にかられて事情を説明してくれるまでやめんぞ俺は。

 

「おじえでよおおお!おじえでよおおおお!!なんで泣いてたんだよおおおお!!」

「私はいま貴方が泣いてまで聞いてくる事を教えてほしいよっ!」

 

 ジタバタジタバタ、ゴロゴロゴロゴロ。服が汚れるのも構わず暴れ回る。

 

「うわああああああん!!なのはちゃんがいじめるよぉ!いくら聞いても意地悪で教えてくれないよおおお!!」

「誤解を招く言い方しないでよぉ〜」

 

 分かった、言う!言うから!と降伏宣言をした所でピタッと嘘泣きをやめる。

 

「ほれ、さっさと言え幼女なのは」

「よ、よう?……あ!嘘泣きだったの!?」

「さぁねぇ?とりま、言うって言ったからにはちゃんと教えてくれよん?」

「うう、釈然としないぃ……」

 

 そう言いながらも何処か毒気が抜けたような顔をしたなのはちゃんはポツリポツリと話をしてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

「だから、寂しくてつい泣いちゃってたんだ」

 

 そう話し終えるとなのはちゃんは笑顔を見せた。先程と同じく作り笑顔だ。

 俺は困惑した。正直想像以上に重い話だった。ごめんなのはちゃん舐めてた。君の悩み舐めてた。ホントごめんと心中で平謝りである。ええっと要約すればなのはちゃんの家の大黒柱であるお父さんが事故に遭って入院中で相当重症で長期の入院になるとのこと。そして、大黒柱がいない高町家を守るため高町家が経営している喫茶店の『翠屋』で朝から夜遅くまで母親が働き詰め。なのはちゃんには姉と兄がいるらしいけどその2人も母親を支える為お店を手伝っているらしい。

 まだ幼いなのはちゃんはお店の手伝いは荷が重く、せめて迷惑は掛けまいと1人でいい子になるよう努力しているみたい。

 誰もいない。いってらっしゃいもおかえりも言ってくれる人が誰もいない家を出入して1人寂しくご飯を食べてずっと過ごしているらしい。

 

 5歳の女の子にそれは酷い事だ。なのはちゃん曰くご家族は何とか時間を作ってなのはちゃんと一緒に過ごそうとはしてくれているらしいのだが中々上手くいかないとの事。よほど切羽詰まってるのだろう。1人我慢して良い子になろうと努力しているなのはちゃんに甘えている形なのだ。何も知らない俺はそれを断じる資格はない、酷いように聞こえるがなのはちゃんのご家族もきっとこのままではいけないと思っているのだろう。

 せっかく俺に話してくれたけどこの問題は俺の力では根本的には解決できない。なのはちゃんのお父さんが元気に退院してようやく解決する問題だ。けど、今俺がすべき事は明白だった。

 俯くなのはちゃんの手を俺はとった。少し驚いた反応するなのはちゃんを見つめながら

 

「一緒に遊ぼうぜ、まずはブランコだオラァ!」

「え?ちょっ、まっ!キャア!?」

 

 なのはちゃんが座っていたブランコを後ろから思いっきり押す。帰ってきた所を更に勢いをつけて押し返しそれを繰り返す。時に助走をつけて押し返しさらにブランコを高く加速させる。

 

「ひゃあああ!!」

 

 なのはちゃんが面白い悲鳴をあげて止めてと懇願してくる。無論止めないが。

 

「まだだ!もっと速く、加速するんだ!目指せクロックアップの世界!!」

「何でもいいから止めてよぉ!怖い怖い怖い!!」

 

 数分ほどなのはちゃんの反応を楽しんだ後ブランコを止めてあげる。なのはちゃんは頬を膨らませてポカポカと俺の胸を叩いて抗議してくるがいかんせん非力過ぎて全く痛くない。

 ていうかそれで怒ってんのかよ、かわいすぎだろ。

 

「まだまだこれから!次はあれじゃあ!!」

「わっ!?引っ張らないでよぉ!」

 

 公園でしばしなのはちゃんを振り回す形で遊びまわる。シーソー、滑り台。ある遊具全て使ってスリリングな遊びを提供して終わる頃にはなのはちゃんくたびれた様子だった。

 だがこれでいいんだ、この子の寂しさを俺の力じゃ振り払う事は出来ない。今日知り合ったどこの誰かも分からぬ俺じゃ寂しさを忘れさせる事なんか出来ない。おこがましいことだが、少しでもいい。ほんのいっときだけでもその寂しさを紛らわせてあげるだけでもしてあげたかった。それが今俺が出来る精一杯。

 

「んじゃ、俺んち行くぞ」 

「え?」

 

 くたびれた様子のなのはちゃんを引っ張り上げてそう言いながら手を引っ張る。この公園から数分もかからない場所にある今世の我が家へ。

 

「で、でも……私もう帰らないと………」

「家に誰もいないんだろ?俺んちの電話使って連絡しとけば平気だって。一緒にご飯食おうぜ」

 

 でもでもと遠慮するなのはちゃんを無視して無理やり連れて行く。本当に嫌なら無理して連れて行く事はないけどなのはちゃんの顔を見れば何となく本気で嫌という訳ではなさそうだし。まぁ、いいだろう。強引だけど、この子にはそれくらいの方が丁度いいような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 家に帰れば共働きの両親は既に帰宅していた。この時間には毎回帰ってきている所を見ると割とホワイトな職場なようで子供ながら安心している。まず遠慮がちに玄関から動こうとしないなのはちゃんを家に招き入れ、驚く両親には軽く事情を説明してご飯の1人分追加を懇願。

 急な話だったから叱られると思ったが笑顔で快く了承。なのはちゃんから電話番号を聞き翠屋へ電話して高町家への報告と許可を貰ってくれた。これで心置きなくなのはちゃんもご飯が食べれるだろう。

 ホント両親に感謝である。久方ぶりの1人じゃない食事に最初は戸惑っていたなのはちゃんも途中から楽しそうにお話をしながら夕食を満喫していたから良かった。

 2人でご馳走様と手を合わせて洗い物の片付けを手伝った後母親から褒美でアイスを貰う。美味しいねと最初とは違う心開いてくれた笑顔を向けてくるなのはちゃんを可愛らしいなと思いつつ

 

「ホッペにアイスついてる」

「え、う、嘘っ……」

 

 赤面しながら頬を拭うなのはちゃん。

 

「俺のホッペに」

「か、からかわないでよ!」

 

 反応が面白くてついついいじりたくなる。あんまり怒らせない程度に気をつけないといけないなこれは。

 とまぁ、食休みをしつつあっちむいてホイやら両親交えてトランプやら遊んだらもう流石に返さないといけない時間に。事前に高町家には何時頃に家まで送ると伝えたそうで両親と俺でなのはちゃんを家まで送ることに。家から徒歩15分程の場所になのはちゃんの家に到着。てかやばいなのはちゃんの家すげぇ立派。立派な日本家屋、そして隣に立派な道場も隣接してる。武士?武士の家系?侍?なのはちゃん侍?

 ちなみに喫茶店の方は商店街の方にあるらしい。家にはエプロン姿の女性が1人。なのはちゃんに似てるな、お姉さんかな?すっげぇ美人。

 

「あっ、お、お母さん!」

 

 お母さん!?うそん母親?若っ!若すぎだろ。三児の母でしょ?なのはちゃん末っ子でしょ?嘘だろおい。つい自分の母親と見比べる。

 

「悪かったね美人で若くなくて」

 

 そんな事思ってないよママン。あれはあの人がおかしいだけだよ。だから後ろからアイアンクロー決めないで。ていうかママン早婚だから年齢まだ若いほうでしょうに。

 なのはちゃんのお母さん(名前は桃子さんと言うらしい)は俺の両親に深々と頭を下げてお礼を言ってくれた。どうやら店を抜け出して慌てて来たのだろう。律儀な人だ。

 

「慎司、ちょっと向こうで今日はこれでなのはちゃんとお別れなんだからすこしお話でもしてなさい」

 

 ほいほい、パパん。大人同士の積もるお話があるのね。俺も混ぜてと言いたいが空気を読んで素直に応じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「申し訳ありませんでした。息子がなのはちゃんを振り回してしまったみたいで」

 

 慎司となのはちゃんが離れた所にいるのを確認してから妻が桃子さんにそう言い頭を下げる。自分も続いて頭を下げると、桃子さん慌てた様子で

 

「そ、そんな……お礼を言うのはこちらの方です」

 

 そう言い桃子さんも頭を下げてくる。埒が明かないので自分から本題に入る事にした。

 

「事情はなのはちゃんと息子からある程度聞いています」

 

 桃子さんの旦那さんが病床についていること。不本意ながらもなのはちゃんを1人にしてしまっている状況についても。桃子さんは悲しそうな顔を浮かべて自分が不甲斐ないからと責め始める。それに待ったをかけたのは妻だった。状況が状況だ、人間そう万能に出来ていない。桃子さんは自分が出来る事をしっかりやっていると励ました。頼りになる妻だ。

 さてここからは提案だった。

 

「不躾な提案なんですが………今後うちの方でなのはちゃんの夕食の面倒を見てあげたいと思うのですがいかがでしょう?」

 

 自分の提案に桃子さんは驚きの声を上げた。

 

「そ、そんな……そこまでしてもらうわけにはっ……」

「いえいえ、なのはちゃんくらいの小さい女の子1人増えても手間も変わりませんし………」

 

 妻から助け船に後押しされつつ続ける。

 

「旦那さんが退院するまでの一時的とはいえずっと1人にしておくのも……勿論桃子さんが悪いと言っているのわけではないのですが」

 

 少し傷つける言い方だが、よくない状況には変わりないので正直に言わせてもらう。

 

「夫婦共働きだったのですがちょうど来週で妻は仕事を辞めて家に専念してくれることになっていたので」

 

 これは事実だ。前々から決まっていた事でタイミングも良かったのだ。

 

「それに、こう言っては何ですが100%の善意と言うわけではないんです」

「はぁ、それは一体?」

 

 口を開く。自分はこの人の今切羽詰まった状況を図らずも知ってしまった。それを知った上で自分はズカズカ踏み入るようになのはちゃんの面倒見させてくれと言う提案をした。だから、せめてこの本心は今日初めて会った人とはいえ伝えるべきだと思った。

 

「息子………慎司はしっかりしている子なんです」

 

 まるで自身の息子を自慢する親バカに見えるような発言だ。だが、この言葉にはそう言う意味は篭っていない。

 

「確か……2歳頃でしょうか……急にピタリと赤ん坊で起こす粗相を全く起こさなくなったんです」 

 

 ぐずることはおろか泣いている姿さえ見なくなった。病気とかそんな風には思わなかった。最初はむしろ誇らしささえ覚えた。こんな小さいのに偉い子だ。そう思った。5歳になった今でも泣いているところは見ていない。

 だが同時に笑っている所を見る事が少なくなった。おもちゃを買い与えてもありがとうとお礼はしてくれるがそこに子供らしい笑顔はなかった。一緒に会話している時も、5歳の子供と話していると言うよりはもっと大人に近い年齢の子と話している気分になる。まるで見た目とは別に中身は成熟した人格があるかのような。雰囲気や、言葉選びが話題が子供のそれとは違うんだ。

 何度も言うようだがだからといって自分も妻も慎司を不気味だとかそう言う風には全く思わなかった。うちの子はこう言う子供なんだ。しっかりしていて心が大人びているだけで自分の息子には変わりない。この子との一緒の生活は楽しいと本心で思っている。

 しかし心が大人のせいか慎司は親である自分達に気遣う事が多い。それはそれでうれしく思う気持ちがあるが、親としてはもっと甘えて欲しいという本音もあるのだ。

 

「今日、慎司がなのはちゃんと一緒にご飯を食べて遊んでいる所を見た時とても楽しそうに笑っていました」

 

 初めてできた友達だからか分からないが、心の底からなのはちゃんと一緒に何かをする事を楽しんでいた。親の目からはそう言う風に見えた。あれは無理になのはちゃんに付き合ってあげてるとかそう言う事ではなく、本人が楽しんで色々行動していた。そして極め付けはあの言葉。食後なのはちゃんが席を外した時に出た慎司の言葉。

 

『なのはちゃんの家が落ち着くまで、ダメ……かな?毎日ご飯誘ってあげちゃ』

 

 慎司から飛び出たなのはちゃんを気遣いつつもでた私達に対するお願い。悪くいえばわがまま。滅多どころか全く言ってこなかった慎司のそれを叶えてあげたい。その本心を桃子さんに伝える。

 桃子さんは何度も真剣に頷いて頭を下げてよろしくお願いしますと言ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

 

「今日はありがとう」

 

 両親と桃子さんが話し終わるのを待っている時なのはちゃんは急にそう言ってきた。

 

「別にお礼言われるようなことはしてないよ。俺が楽しんでただけだしね」

「そ、それでも……嬉しかったから」

「友達と遊んで一緒にメシ食っただけじゃんか。まぁ、そのお礼は受け取っておくよ」

 

 俺がそう言うとなのはちゃんは少しポカンとした後ニヤニヤしだした。

 

「ん?なんだよ?」

「あ、ううん!何でもない、何でもないの………。友達……友達かぁ……にゃはは」

 

 友達って言われた事が嬉しかったのね。まぁ、それくらいで喜んでくれたのなら何より。そういえば今世の俺と同い年って言ってたしそこらへんは5歳相応だよね。にしてもそんなにニヤニヤしちゃってかわいいやつめ。

 なのはちゃんの頬を指で挟んで引っ張る。

 

「にゃっ!にゃにふるのぉ」

 

 グニグニと痛くない程度に引っ張り回す。肌すべすべしてんなぁ、若いだけある。ほれグーリグーリ。びよーんとな。

 

「にゃー!にゃめてよ!」

 

 ポカポカと叩いて抗議してくるが構わず続ける。

 

「ぷっ、変な顔」

「しょうしゃせてるのはきみでしゅー!」

 

 痛!?このやろう俺の指に噛み付いてきやがった!

 

「貴様許さん」

「ちょっ、やめっ……くすぐらな…にゃははははははは!?」

「ほーれ、ここか?ここがええんか?」

 

 息も絶え絶えになるまでなのはちゃんをくすぐり撃沈させる。はぁ、スッキリした。楽しいなぁおい。年甲斐もなく5歳の女の子と全力で今日は遊んだ。なんだか気分も晴れやかだ。チラッと両親の方を盗み見する。

 どうやら話はついたようだ。遠目からみた雰囲気で何となく分かった。うまく話もまとまったみたいだし、桃子さんの許可も得たっぽい。あとは、なのはちゃん本人が何て言うかだな。ちゃんと聞いてなかった。両親と桃子さんがゆっくり近づいてくる。

 

「なのはといっぱい遊んでくれてありがとう慎司君」

 

 開口一番桃子さんにお礼を言われる。うわ、本当美人なひと。前世の俺だったらそのまま惚れちゃってたかも。まぁ5歳の体のせいか自然とそんな邪な気持ちは浮かばなかった。

 

「俺も楽しかったんで、お互い様っす」

「ありがとう、そう言ってくれて」

 

 すごくニコニコしてるな。よっぽど心配はしてたんだろうななのはちゃんの事。さてさて、俺の提案は受け入れてもらえたっぽいし後はなのはちゃんの返答を聞くだけだ。桃子さんはなのはちゃんの頭を撫でながら両親からの提案をなのはちゃんにまんま説明する。

 

「どう、なのは?慎司君達と一緒にしばらくお夕飯……どうかな?」

 

 少し期待に満ちた表情をしたのを俺は見逃さなかった。しかし、すぐに両手を合わせてもじもじし始める。これはまた変に遠慮しようとしてるな。ホント、5歳とは思えないよこの子は。しっかりした子だ。なら、後押ししてあげよう。

 

「いいじゃんなのは。今日楽しかったし明日からずっとウチに来なよ。俺は大歓迎だよ」

 

 その言葉になのはちゃんはつられるように桃子さんに頷いてから。

 

「私も……そうしたい」

 

 か細い声でそう言う。その言葉を聞いて俺も桃子さんも両親も笑顔を浮かべて頷き返した。その後正式に桃子さんからよろしくお願いしますとのお言葉をもらう。それに付け加えて

 

「このお礼は必ず致します」

 

 その言葉に両親は気にしないで下さいと笑って返していた。とりあえず今日はこれで解散だ。明日から本格的になのはちゃんと色々楽しい遊びをしよう。本当に、年甲斐もないが…同情で始めたお節介だったが自分も存外に楽しかった。俺も明日からの生活に少しワクワクしている。お別れの挨拶をして両親と帰路につく。

 

「し、慎司君っ!」

 

 少し離れた所でなのはちゃんの声が聞こえてきた。

 

「バイバイ!」

 

 少し恥ずかしそうにしながらも一生懸命手を振って伝えてきてくれた。何だろうか、本当に小動物みたいで可愛らしい子だなぁ。大人びた考えをしているけどやっぱり5歳の子供である。

 そんな俺も中身は大人でも見た目は5歳だ。ここはなのはちゃんに倣おう。

 

「おう!また明日なぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 テンション上がって全力で腹から声を出したら母親に近所迷惑だとどつかれた。まぁ、なのはと桃子さんのビックリした顔を見れたのでよしとしよう。あぁ、ホント明日から楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機嫌よさそうな足取りで帰路につく息子を眺めつつ、妻に息子には聞こえないよう話し掛ける。

 

「明日から頼むよ。ミッドチルダに引っ越すのも考えていたけど慎司の為にもこのまま地球で生活した方が良さそうだし」

 

 妻は専業主婦となるべく先日魔導師を引退した。自分はこのままミッドで魔導師を続ける事になるが。

 

「まぁ、通うのは大変だと思うけど頼むね。一家の大黒柱になるんだから」

 

 妻の激励に少し胃を痛くしつつも頑張ると誓う。慎司には魔導師の事は内緒だ。いずれ話すことも考えてはいるが今ではない。精神が大人びているとは言ってもちゃんと一般的に物事をしっかりと考えられる実年齢になってから話すと妻と決めたのだ。なのはちゃんの事もあるしとりあえずは地球で根を下ろすつもりで頑張ろう。

 

「………」

 

 鼻歌を刻みながら歩く息子を見つめる。何となく頭に手をポンと乗せて撫でる。慎司は動きを止めてどうしたの?と告げてくる。

 

「いや、よくやったな慎司。偉いぞ」

 

 なのはちゃんのことを気にかけてあげた心優しい一面を見せてくれた息子を褒める。慎司は少し驚きつつも、照れ臭そうな笑みを浮かべる。あぁ、やっぱり……例えどんなに普通の子と違っても、内面が大人びていても。俺達にとってかけがえなのない1人息子だとそう再認識した。

 

 

 




 更新は不定期ですので悪しからず。


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ありがとう

 なんか筆が乗ったので連続投稿。このペース維持できたらなぁ。


 

 

 

 

 

 

 

 翌日から早速新しい日々が始まった。と言っても変わり映えはしない。幼稚園が終わった後に公園まで行き同じく俺とは違う幼稚園が終わってからこちらに向かってくる予定のなのはちゃんを待つ。

 合流すれば時間までなのはちゃんと公園で遊びまわる。そのまま家へ連行してご飯を共にし時間まで一緒に過ごす。一つのケジメとしてなのはちゃんは家での寝泊まりはせず毎日毎日自分の家に帰っている。泊まればいいのにと一言言ったけどこれは遠慮とかそう言う類では無く、家族が誰もいない今、せめて家で会う事はできなくてもちゃんと帰りを待ちたいとのなのはちゃんからのお願いだった。そこまで言われては仕方ない。

 と言っても土日休日なんかはたまにお泊まりなんかもしたりしてそこは臨機応変に。なのはちゃんと過ごすいっときの時間は俺にとっても楽しい事だった。幼稚園ではどうしても実年齢とのギャップで心から園児達に接する事が出来なくていかんせん友達と呼べる子は出来なかった。話したりはするけど所詮その程度だ。しかし何故かは分からないがなのはちゃんとは少し波長が合うような感覚がある。なのはちゃんも実年齢より少し大人っぽい考えを持ってるからだろうか。といっても節々に見る言動はやはり5歳児のそれだが。そんな日々を送るとなのはちゃんも最初の頃に比べてだいぶ心を開いてくれて接してくれている。もう仲良しと言っても過言じゃないだろう。最近は前より少しいじっても笑って許してくれる。よしよし、この調子でどんどん許容範囲を増やしていくぞ。

 

「暇ですな」

「ひまですなー」

 

 俺の一言に棒読みでなのはちゃんが繰り返す。なのはちゃんが家に通うようになって10日ほど経った今日。遊ぶネタが尽きた。と言うのも公園の遊具では遊び尽くしたし、家で遊べる事も全て飽きるほどやり尽くしてしまった。こうならないよう色々子供じゃ考え付かないような遊びを提案してやってきたが早くも限界である。どうしようかな、子供の姿じゃなければどこか遠くに連れ回すんだけど。

 今日は仕事は休みで朝から家のソファでだらけてる父を見る。

 

「ん?どうした?」

「パパン麻雀買って」

「だめー」

「えー」

 

 後ろでなのはちゃんがまーじゃんって何っ?てしつこく絡んでくるのをホッペグニグニ応対しながらブーブーと抗議する。

 

「お前がやるのは良いけどなのはちゃんに悪影響がないとも限らんだろ?」

 

 ほぼ預かっているような状態とはいえ他所様のお子様には慎重なパパン。まぁ確かに。別に悪い遊びじゃないけど賭け事が絡んでくる事が多いからね麻雀。

 少し話は変わるがうちのパパンとママンは俺が5歳児とかけ離れた言動しても何も言ってこない。口調とかもう外見の年齢に合わせるのが辛くて半ばやけっぱちで素をだしてるがビックリするくらい何も言ってこない。

 それどころかそれと同じレベルで会話してくれて受け入れてくれてる。いやほんといい両親よ。前世の両親とは負けず劣らず。お陰で素を出す事が怖く無くなった、感謝してる。

 

「んじゃなんかないかな、遊び道具」

 

 俺の問いかけにうーんと唸りながら考える仕草をするパパン。同時にずっとなのはちゃんのホッペをぐにぐにしてたままだった事に気づいてすぐやめた。なのはちゃんは「もうっ!もうっ!やめてって言ってるのにー!」とか言いながら指の跡がついたホッペを膨らませて俺の背中をポカポカ。はっはっはっ、愛いやつめ。

 

「とりあえずこれで遊んでみたら?」

 

 と差し出して来たのはゲーム機本体。こりゃ64ですな。この世界にもあるのね。ついでにソフトも手渡される。スマブラか、いいね。ゲームは確かにずっとやってると飽きやすいがちょこちょこやりたくなるもんでもある。早速ソフトに息を吹きかけてから起動。コントローラーもちょうど2つあるのでなのはちゃんに手渡してやり方をレクチャーしながら練習も交える。では本格的に対戦といこう。こっちは髭面の赤い配管工のおっさんをなのはちゃんは可愛いからとまん丸ピンクの雑食悪魔を。対戦スタートだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ………全然勝てないぃ」

「HAHAHA、まだまだひよっこのぉ、なのすけ」

「なのすけじゃないもん……」

 

 拗ねんなよ。こちとら前世で多少ならしたんだぜ。わざと負けるのはプライドが許さんのよ。

 

「ほれほれ、かかって来んさい」

「もういいもん……慎司君意地悪だから」

 

 あぁ、ごめんって。コントローラー手放すなよ。ならこうしよう、俺も配管工のおっさん使わないから。使った事のないキャラ使うから。それにハンデもあげるから、それに勝ったら何でも言う事を聞いてあげよう。

 

「ほ、ホント?」

 

 ホントホント、嘘はつかない。この変態チックなマスクマンレーサーを使うから。なのはちゃんは好きなの使いなよ。

 

「よ、よーし。負けないもん」

 

 現になのはちゃん操作に慣れて来たのか最初より全然いい動きしてるから自信がついて来たのだろう。いいねいいね、なのはちゃんもやる気出したみたいだし。ゲームはこうでなくっちゃ。ではハンデもつけて対戦スタート。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だぁ、使った事無いなんて嘘だよぉ」

「あっひは、嘘じゃ無いよ。(今世では)初めて使うキャラだよ」

 

 全てファルコンパンチで決めてやったり。少し頬を膨らませて怒ってますよアピールしてくるなのはちゃん。本気で怒ってないくせに。ホッペを突ついて口から空気を漏らさせる。

 そうするとなのはちゃんまた頬を膨らませて突ついても空気が抜けないように力を込めた。今度ば両指で挟む形で突いて空気を吐かせる。はい、俺の勝ちーと言わんばかりの表情を見せつけると負けじとなのはちゃんパンパンに頬が膨らむまで空気を取り込んで顔を赤くしながら口周りに力を込める。

 

「ぷはっ、なのはちゃん変な顔〜」

「〜〜〜〜っ!〜〜〜っ!!」

 

 納得いかないとばかりに頬を膨らませたままポカポカポカポカ。もはやポカポカされるのさえ心地よく感じる。やっぱりなのはちゃんと遊ぶのは楽しいのぉ。

 

「慎司、あんまりなのはちゃんからかわないの」

 

 といつの間にか後ろにいたママンがやれやれとため息まじりに軽くどついてくる。からかってないよ、おもちゃにしてるだけよ。

 

「全く、もう夕飯にするからお料理運ぶの手伝ってくれる?」

「うぃーす」

「わ、私も手伝います」

「いつもありがとね、なのはちゃん」

 

 と2人でわちゃわちゃとお手伝い。

 

「ママン、ママン………パパンサボってるよ。優雅に新聞開いてるよ」

「パパはいいのー、たまにの休日くらい何もしないでゆっくり休ませてあげて」

「ママンは休まず家で頑張ってるのに?」

「…………おい夫、皿くらい運べ」

「慎司もママンも厳しいなぁ」

 

 そういう気遣いが夫婦仲を悪くさせない秘訣だと息子は思うのです。

 

「仲良いね慎司君も慎司君のお父さんとお母さんも」

「仲良すぎて困るよ、俺が寝た後どうせ2人でイチャコラしてんだろうし」

「おい息子、口を閉じろ。晩飯湯豆腐だけにするぞ」

 

 ママンごめんなさい。それは勘弁。なのはちゃんは可愛らしくイチャコラ?と首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 そんなような楽しい日々が続く。家にいる以外にも休日には家族で出かける時もなのはちゃんを一緒に連れて行ったりしていた。映画やショッピングセンターには何回も行ったし。温泉やその他もろもろ。とある日には誰もいない高町家まで赴き世話焼きのママンが遠慮する桃子さんから無理やり許可を得て忙しくて手付かずな掃除や整理などを引き受けていた。

 ホントママン出来る女で泣ける。無論、なのはちゃんと俺ちゃんもお手伝いでついていったり。時にはなのはちゃん連れて翠屋まで家族で行ったり。なのはちゃんになるべく定期的に家族に会わせるために。お客さんとして行くなら迷惑にはならないだろうとパパンの提案である。

 そん時初めてなのはちゃんのお姉さんとお兄さんに遭遇。ていうか結構年上だった。びっくりよ、姉の美由希さん12歳で7個上、長男の恭也さんは14歳。まぁ、お手伝い忙しそうで顔を見ただけでほとんど話せなかったけどね。落ち着いたら是非お話ししてみたい。

 

 

 それにしても翠屋ケーキ超うめぇ。桃子さんパティシエ?なのかね?すごいこれ、前世含めて今まで食べたケーキで一番うまいよ。満面の笑みで美味い美味いと食べる俺を見て桃子さんやお兄さんお姉さんは満足気に俺を眺めていた。

 何だよ、照れるじゃんかー。もう、そんな目で見ても追加注文なんかしてあげないぞ〜。

 

「すいません、ビールください」

 

 ママンにどつかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無論何も問題が起こらなかったという訳ではなく、一度ちょっとした事件があった。

 

「…………………」

「…………………」

 

 互いに無言で見つめ合う俺となのはちゃん。2人ともスッポンポン。全裸、裸。いや露出癖とかそういうんじゃない、ここは我が家の風呂場である。今日はなのはちゃんは幼稚園のイベント的な事があるらしく少し遅くなるとの事。ちなみに桃子さんがなんとかイベントに参加できるよう時間を取って一緒に楽しんでるみたい。と言っても終わったらすぐお店に戻らなきゃいけないそうで夕飯には来るらしい。ちなみに桃子さんの代わりに店にはうちのママンがまさかのヘルパーとして赴いてる。無論ケーキなど作れないが雑用なんかを無償で引き受けたそう。そのかわり後日ケーキを貰う約束したらしく俺的にはたのしみである。

 とにかく、そんな予定を聞かされていたので幼稚園から帰っても我が家には誰もいない筈だった。実は途中で通り雨にやられ全身びしょ濡れ。風邪を引かぬよう玄関の鍵が開いていたことに疑問も抱かず、なのはちゃんの靴があることも気付かず、速攻で服を脱ぎ捨て風呂へダッシュ。

 そしたらちょうどお風呂から出てきてタオルを手に取ろうとしてたなのはちゃんに遭遇。恐らくなのはちゃんも同じ理由でお風呂を頂いたのだろう。イベントも予定より早く終わったのだろうか。とにかく、そんな嬉しくもないスケベイベントが発生してしまった。

 

「早かったねなのはちゃん。イベント楽しかった?」

 

 と言っても幼女の裸に遭遇したところで何も感情は湧かなかった。それもそうだ、別にロリコンとかそういうんじゃないし。体も5歳のせいか性的な気持ちとか一切湧かないし。だからいつも通り声をかけた。

 

「…………」

 

 と言ってもなのはちゃんは硬直したまま返事してくれない。

 

「なのはちゃん?早く体拭かないと風邪引くよ?」

「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

 顔を真っ赤にしたと思ったらタオルを体に巻いてそそくさと着替えの服を持って風呂場から逃げるなのはちゃん。出て行く直前にこちらを向いて一言。

 

「し、慎司君のエッチ!すけべ!!」

 

 そんなことを声を大にして言い放ちつつも扉はゆっくり静かに閉じるというしつけの良さを見せつけてパタパタと逃げて行く。

 

「いやっ、理不尽ワロタ」

 

 なのはちゃんにあとでしっかり謝ろう。なのはちゃんも5歳とはいえ羞恥心はあるだろうし。でも風邪を引いちゃうから先にシャワー浴びてからだなぁ。

 

 ちなみにその後は平謝りで機嫌を治すのには少し苦労した。事故ってことを理解してもらいその日の夕飯のおかずを一品提供したらコロッと機嫌が良くなった。くそがっ、俺のエビフライを!

 後でスマブラでボコボコにしてやる。

 

「今日のスマブラは慎司君残機1の私残機5ね!それで完全に許してあげる」

「いやだから理不尽ワロス」

 

 まぁそれでも結局ボコボコにしたわけだが。そしたらまた拗ね始めて今日のお風呂の件をネチネチ文句言ってくる。いやだから理不尽でテラワロス。とりあえずホッペをいつもより強めに引っ張り回しておいた。何故か機嫌が良くなった。ドMか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな日々を満喫して早数ヶ月、あっという間にその日はやってきた。なのはちゃんのお父さん………高町士郎さんが無事退院の日を迎えたのだ。これからは士郎さんが翠屋の店長としてお店を支える事になるらしい。すぐにとは行かないだろうが、遠くない日に状況も落ち着いて高町家に元の日常が戻る事だろう。めでたい事だ。なのはちゃんもようやく本当の家族と過ごす時間を取り戻せるのだ。その報告をしにきてくれたなのはちゃんはとても嬉しそうに語る。うんうん、喜べ喜べ。俺も嬉しいぞ。

 

「それでね、それでね!お父さんが皆んなに………慎司君と慎司君のお父さんとお母さんに是非お会いしたいって!」

 

 えっ。まさか、裸を見てしまった事を報告したのかなのはちゃん。それで不届きものの俺を切り捨てごめんしようと!?それを両親に見せしめとして呼ぶと!?あれ、事故なんだけど!!つーかまだ死にたくねぇ。

 俺は震えながら土下座をしてポッケから飴ちゃんを取り出しなのはちゃんに手渡す。

 

「これで勘弁じでぐだざい」

「え、何が?何で泣いてるの?」

 

 ちゃんと聞いたらお礼をさせて欲しいとの事。何だよそんな事かい。飴返せ。

 

 

 

 

 何て一幕がありつつ3日ほどなのはちゃんがうちにご飯を食べにくる日常は変わらず。が、今日はなのはちゃん一家が総出で待っている高町家の実家へ。とりあえず夕飯お呼ばれをしている。翠屋は早めに切り上げて来たらしく、結構準備して待ってくれてるみたい。なのはちゃんも向こうで待ってる。

 仕事を終えたパパンと合流しうちも一家揃って高町家へ。割と頻繁にお掃除しにママンと通ってたので道はバッチリ覚えたのである。

 

「あ、お待ちしておりました」

 

 出迎えてくれたのは桃子さんと士郎さん。士郎さんとは初対面。いや、カッコよ!カッコいいなこの人!見た目もそうだけどなん雰囲気とか何もかも全てがカッコいい。つい自分の父親と見比べる。

 

「悪かったな、あんなイケメンじゃなくて」

 

 いやいや、パパンもイケメンとまでは行かないけど結構いい線いってると思うよ。本心だよ、だからママンと同じように後ろからアイアンクローしないで!

 

「どうぞ、上がって下さい」

 

 士郎さんに促され俺たちは案内された居間に通される。来客用に用意された席に荒瀬家の3人が座りそれに対面する形で高町家、なのはちゃんやその兄姉を含め5人全員席につく。

 なんだろ、この空気。シリアスを感じる。やっぱり処されるなんてことないよね?ね?

 

「荒瀬家の皆さん………」

 

 重々しく開く士郎さんの口。あれま声もイケボ、完璧ですわ。

 

「本当に、本当にありがとうございます」

 

 真っ直ぐに、ただ真っ直ぐにこちらを見つめて頭を下げる士郎さん。だけじゃないな、なのはちゃんも桃子さんも、美由希さんも恭也さんも同じように頭を下げていた。両親はどうしようかと困惑しつつも頭を上げて下さいとパパンが返す。

 

「桃子となのはから事の経緯は聞いております。皆さんには返しきれない御恩を頂きました。何度お礼をしても足りないくらいの」

 

 パパン困惑しないで、ママン照れないでイケメンがいるからって。この空気変えてよ。

 

「不甲斐ない父親である私の尻拭いをさせてしまった事、大変申し訳ありませんでした」

「高町さん、そんな真剣に考えなくても結構ですよ」

 

 パパンようやくまともに返事をする。よし、いけたたみかけろ!シリアス苦手なの俺!

 

「私と妻はただ息子のわがままを聞いてやっただけです。それに奥様にもお伝えしましたが100%の善意という訳でもないので、こちらもこちらの思惑があっての行動ですから……どうか気にせず。遅れてしまいましたがご退院おめでとうございます」

 

 士郎さんはそこで涙ぐんでしまった。大袈裟な人………いや違うな。律儀で誠実な人なんだろう。高町家の面々は全員所謂良い人達なんだ。素晴らしい家族なんだろう。

 

「私達はこの街に住みついて日が浅い……妻が息子を産んですぐの頃に引っ越したものですから。ですからこの街に親しい間柄の……ご近所付き合いというものが無くてですね。ちょっとした憧れが妻と私共々あるんです。高町さん、よろしければ私達と親しい友人になる……それを私たちへのお礼としてくれませんか?」

「…………友人…ですか。勿論です、私の方から是非お願いしたいくらいです」

「それなら、私とたかま……士郎さんはこれから仲良くなる友人です。ですから友人から机の下に隠しているその封筒は受け取れません」

 

 え、パパン気付いてたのか。かっこいいな、見直したよパパン。

 

「何から何まで………ありがとうございます」

「いえいえ、その分今日は付き合ってもらいますよ。私、結構いける口ですので覚悟しておいて下さい」

 

 そう言って持参して来た酒瓶を手に取るパパン。パパン、そんな酒強くないでしょ。気をつけてね。

 

「それなら、私と桃子さんはとっくにもう親しい友人ですねぇ」

「あはは、ありがとうございます」

 

 母親組もう前から絡みあったしね。

 

「……貰ってばかりで立つ瀬がないです」

「それは違うわよ桃子さん。確かに私達は今回貴方達の手助けをした形だけど今後私達が困ったら高町家には遠慮なく頼らせてもらう予定なんですから」

「そうですね、こういうのは持ちつ持たれつ……て奴ですよ」

 

 最後にパパンのその一言で堅苦しい話は終わりですと告げるママン。よし、シリアスは終わったね。ていうかうちのママンとパパン人間出来過ぎでしょ、ますます尊敬の度合いあがるよこれ。

 

「あぁ、すいませんあと一つだけ」

 

 士郎さーん、もうええやんかー。腹減ったで俺。

 

「慎司君……」

 

 俺かい!俺にかい!なのはの裸を見てしまったのは事故なんですって!

 

「君にも、ちゃんとお礼を言わせて欲しい。なのはと仲良くしてくれて、高町家を助けてくれて………本当にありがとう」

 

 あまりに真剣な声音に息を呑んだ。ふざけた思考は消えて、そのお礼を真摯に返す。

 

「俺は……何も。ただなのはちゃんと遊んでただけですよ」

「君はそれだけだと思ってる事でもなのはにとってそして高町家にとってもとても救われたんだよ。君の心優しい行動に、感謝を。しつこいようだけど本当にありがとう」

 

 それは俺を子供と見て軽々しくお礼を言ってきている訳では無かった。1人の人間として俺を見て、深々と謝辞の想いを告げてくれていた。

 

「私からも、ありがとう……慎司君」

「なのはの事、ありがとうね」

「本当に妹が世話になった。俺からも……ありがとう」

 

 桃子さん、美由希さん、恭也さんも同じように真剣に礼を告げてくれていた。そして

 

「なのはちゃん……」

 

 立ち上がって俺の前で止まる。手をもじもじと恥じらいを少し混じりつつもそれでもみんなと同じ真剣な目つきと天使のような微笑みを添えて。

 

「私からも………ありがとう。私と友達なってくれて、いっぱい遊んでくれて……」

 

 思い出すように目を閉じてからなのはちゃんはあの時とはもう全然違う、心の底からの満面の笑みで

 

「あの時、手を差し伸べてくれて、本当にありがとう。いっぱい感謝してます」

 

 まったく。どいつこいつも律儀だよ。だって俺はそこまで深く考えて声をかけた訳じゃ無かったから。ただ………前世のように色んなことに後悔をしながら人生を終えたくなかったから。今世では後悔しない人生を歩みたいって、そんな自分勝手な理由もあったから。そんな真剣なお礼を受け取る資格なんか無いと、そう思ってしまう。

 

「それでね、あのねっ」

 

 なのはちゃんは俺の手を取ってギュっと握って戸惑いながらも何か伝えようとしてくる。

 

「これからも、友達でいてくれますか?」

 

 ちょっと目が点になりそうな事を伝えてくるなのはちゃんだがなぜそんな事を言ってきたのかは察する事が出来た。

 士郎さんが退院して元の日常に戻った高町家。なのはちゃんもうちに通い詰める理由はなくなった。元通り家族との時間を過ごす、そうするべきだ。無論だからといって今生の別れとかそんな物はなく。たまにうちにご飯でもご馳走されにくればいい。遊ぶのだって毎日できる訳だし。会える時間が減るだけで会えない訳じゃないのだから。

 だけど、大袈裟な言い方をするならば今、なのはちゃんと荒瀬家の間の一つの契約が終了したのだ。これまでとはお互い違う過ごし方となる、それは友人関係の終了とも言えなくはない。俺が同情でなのはちゃんを気遣って無理にそう装っていたらの話の場合だ。確かに、もしそうなら根本な事も解決した今、俺はなのはちゃんと会う事はなくなる可能性もある。それを心配したのだろう。だが、あくまでそれは俺がそういう風に考えていた場合であって事実とは異なる。

 心配する必要なんか何一つない。ていうか信じろよ友達じゃないか。なんだかモヤモヤとしてなのはちゃんのホッペをいつもみたいにグニグニと引っ張る。このタイミングでこの行動に驚くなのはちゃんに間髪入れずに俺は言った。

 

「んなの当たり前だろ。覚悟しろよ、なのはちゃん……なのはちゃんが嫌がってもずっと付き纏って一緒に遊んでもらうから」

 

 そんな事を言った事を後悔させるほどにな。フハハハハ。

 

「う、うんっ……うん!」

 

 嬉しそうに、安堵するように何度も頷くなのはちゃん。もう、流石に限界だから。この空気、やめよ。もうワイワイしようぜ。

 

「あー、お腹空いたなぁ」

 

 子供っぽくそうぼやく。わざとらしかったかな?

 

「うふふ、ごめんね慎司君。すぐに用意するから」

 

 そう言って桃子さんはキッチンへ。ママンも手伝うべく桃子さんについていった。

 

「慎司君……」

 

 士郎さんに呼ばれる。ふにゃふにゃしてるなのはちゃんの鼻に軽いデコピンをかましてから士郎さんに向き直った。後ろでギャーギャーしてるなのはちゃんは無視する。

 

「なのはの事、これからもよろしくお願いするね」

「っす、勿論です」

「ありがとう」

 

 礼言うのはこっちだ。俺は今日こんなに感謝されて。こんな俺に真剣に向き合って言葉をくれて、そしてなのはちゃんと言う友達に出会わせてくれてありがとうと言いたい。

 そして何より、少しだけ。少しだけだが、俺は今日この人達に真剣に感謝されて……暖かい言葉もらって初めて………少しだけ転生して良かったと思えた。まだ前世に未練はある、冷たいようだが戻れるなら戻りたいと願っていると思う。だけど『荒瀬慎司(山宮太郎)』にそう思わせてくれて、本当にありがとう。

 

「うん、そしたら。今度は別の話があるんだがいいかな?」

「はい?」

「……………なのはの裸を見たそうだね」

 

 ゲッ。嘘だろ。やっぱりその事話してたのかよなのすけぇ!

 

「…………いや、そのぉ……」

 

 事故なんですぅ。そんなつもりなかったんですぅ。なのはちゃんもお父さんやめてと慌てている。

 

「ふふ、冗談だ。事故だっていうのはなのはから聞いてるよ。子供同士なんだ、気にしなくていい」

 

 そう言って爽やかに笑う士郎さん。そして恥ずかしそうにポカポカと抗議するなのはちゃん。

 

「ただ、今後は気をつけて。これでも大事な娘なんだ」

 

 流石に威圧は篭ってなかったが本当にそういう事は今後ないように気をつけんとね。本当、次は多分切られるわ俺。

 つーか、撤回だ撤回。やっぱ前世の方が良かったわー。つらいわー。

 

「慎司君ももう忘れて〜」

 

 今度は俺にポカポカしてくるなのはちゃん。それを見てやっぱりこう思うのだ。

 

 

 

 割とこの世界も悪くないと。

 

 

 

 

 




 シリアスメインで行くか日常メインで行くか。いや、普通に日常メインになるなこれ


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小学生へと


 お気に入りや評価してくれた方。そして閲覧してくれた全ての皆さんに感謝を。見てくれるだけで嬉しいです。励みになりますのでこれからもどうぞよろしく


 

 

 

 

 

 高町家に日常が戻り、俺となのはちゃんの関係は変わらないまま普通の日々を送る。いいねぇ、人生平穏が一番。これまで通りなのはちゃんとは毎日のように公園で遊び尽くして、時には高町家に……時には荒瀬家に招待したりなど順風満帆な日々だ。礼の快気祝いのパーティーで高町家と荒瀬家はすっかり家族揃って仲良しに。

 翠屋も軌道に乗ったらしく、忙しくも士郎さんがいることで家族の時間はちゃんと作れているらしい。流石一家の大黒柱だ。

 

「はい、今日のオススメケーキのシフォンケーキよ。慎司君、沢山食べてね」

 

 というわけで本日は高町家……というよりは翠屋にお呼ばれされた。ちなみに今日は金曜日ですので明日は土曜日だから幼稚園はお休み。このまま高町家にお泊まりする予定である。

 

「待ってました!いただきます」

 

 うめええええ!流石桃子さんのケーキだ!何でもうめぇ。フォーク止まんねえ。

 

「うふふ、いつも美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるわ」

 

 だってうまいだもん本当。別に甘いのが特別好物とかそんなんじゃ無かったけど、桃子さんのせいというべきかおかげと言うべきかすっかり甘い物好きになってしもうた。

 ちなみにちゃんとケーキのお代はママンから貰ってる。行くたび毎回タダにして貰うのも悪いからね。そこはしっかりさせてもらってる。

 

「う〜ん、お母さん今日もおいしいよ〜」

「ふふっ、なのはもありがとう」

 

 なのはちゃんも顔を蕩けさせながらケーキを口に運ぶ。

 

「なのはちゃんは毎日桃子さんのケーキ食べてるの?」

「えっ?毎日ってほどじゃ無いけど……でも大体食べてるかも」

 

 そら羨ましい。俺は翠屋に来た時かお互いの家で定期的に行われる事になってるホームパーティーの時しか食えんからなぁ。ていうか定期的にホームパーティーするとか高町家と荒瀬家仲良くなり過ぎだろ。息子てしては大賛成ですけども、ケーキ食えるし。

 

「ふーん、そっかそんなに食べてるんだ」

 

 ジロッーとなのはちゃんを一瞥する。

 

「な、何?」

「………………太るぞ」

 

 ピキッと音がした気がした。なのはちゃんは口に運ぼうとしたフォークの動きを止めてついでに体そのものも硬直した。

 

「ふ、ふ、太ってないもん!」

「今はな、けどずっとそんな風に食べ続けてると………」

「ちゃんと運動してるもん、慎司君と遊んで……」

「最近は外で遊ぶよりお家で遊ぶことの方が多くなったよね〜」

 

 意外や意外。なのはさん俺の影響か割と色んなゲームにハマっておいでなのだ。ちなみに今はポケモンルビーにハマってる。

 

「うぅ………」

「太ったなのはちゃんはどんな感じなんだろうねぇ」

「うぅぅ………太っちゃうのかなぁ……」

「まぁ、太ってるならとっくに太ってるだろうけどね」

 

 俺と会う前、士郎さんが事故に遭う前からそんな食生活だったんだろうし太るならとっくに太ってると思われる。なのはちゃん大食らいじゃないし体質もあるんだろうけどおそらく大丈夫と思われる。俺のその解説を聞いたなのはちゃんは

 

「またそうやってからからって!もうっ!もう!」

 

 いつもの両手でポカポカ。最近は俺も位置を調整して肩を叩かせている。あ、そこそこ。肩叩きにちょうどええ。

 

「なのはちゃんや、ケーキを一口くれんかね」

「意地悪な慎司君にはあげません!」

「そ、そんな……ひどいよなのはちゃん。そんないじわるずるなんでぇ」

「その手の目薬はなに!?もう引っかからないもんね!」

 

 ちっ、今日は引っ掛かんなかったか。まぁ時間開ければまた引っかかってくれるポンコツ具合もあるなのはちゃんだしな。後日リベンジしよう。

 

「あ、なのはちゃん…ほっぺにクリーム付いてるよ」

「ふふん、それも引っかからないもんねー。どうせ慎司君のほっぺとか言うんでしょ?」

「いや、今回はマジ」

「えっ、ほ、ホント?」

 

 ほっぺを恐る恐るさすって確認するなのはちゃん。

 

「うん……隣の席のおじさんのホッペに」

「騙したね!?」

 

 ツメが甘いのぉなのはちゃん。俺に勝とうなんぞ100年早いぜぃ。さてさて、やるべき事は先にやっておこう。

 

「ご協力ありがとうございます」

「おお若いの、気になさんな。見てて楽しかったからのぉ」

「まさかの仕込み!?」

 

 ネタに全力なんだよこちとら。

 

「どれだけ私をからかいたいの?」

「世界が終わるその日がきても、俺はなのはちゃんをからかい続けるんだ」

「聞かなきゃよかった……」

 

 ガックリ項垂れるなのはちゃんの表情は言葉とは裏腹にしょうがないなぁなんて思ってそうな表情をしてた。なんかムカついたので今日もほっぺを伸ばしたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 翠屋を後にしてなのはちゃんの実家へ。夕飯をご馳走になり、お風呂も頂いてからお楽しみのお遊びタイム。まずは家からわざわざ持参してきたゲームキューブをセッティング。流石に64は古かったのでパパンにねだって買ってもらった。ありがとうパパン。とりあえずスマブラをセットしてコントローラーを4つ準備。今回はなのはちゃんだけでなく先日のパーティーで仲良くなった恭也さんと美由希さんにも付き合ってもらう。

 

「ふははは、なのはちゃん動き見え見え〜」

「あ!また慎司君私ばっかり狙ってる〜!」

 

 まだまだ俺っちに勝つのは遠い話ですななのはちゃんよ。

 

「慎司君、今!今のうちに!」

 

 とか言って自らの兄を掴みで動きを封じて俺に攻撃させようとする美由希さん。

 

「そんな隙だらけの美由希さんに掴み投げからのぉ〜メテオナックルうううううう!!」

「あぁー!」

 

 ひどい〜っとガミガミ言ってくる美由希さん。はっはっは、勝負の世界は非情なり。

 

「残念だったな美由希。俺ばっかり構うからだ」

「そして油断してる恭也さんに横スマっああああ!!」

「しまった!?」

 

 というわけで僕たんの優勝である。アイムチャンピオン〜ウィー。と高町三兄妹を煽る。

 

「むぅ、今度こそ負けないもん」

 

 あ、こやつチーム戦にしやがった。しかも3対1かよ!

 

「ふっふっふ、私達を怒らせた事を後悔させてあげる」

「ゲームとはいえ負けてばかりなのも悔しいしな」

「これなら流石の慎司君も勝てないでしょ〜」

 

 三者三様にそんな事言ってくる。美由希さんと恭也さんは割と負けず嫌いなのかね。なのはちゃんにいたっては2人の後ろに隠れて俺に可愛い挑発をしてくる。

 

「ほほぉ……なんら俺っちも本気でいかせてもらうで」

 

 ファルコン……ランチ!で行くぜ!

 

 

 

 

 と言っても流石に3対1ではなす術なく惨敗。ていうかいつも俺に付き合ってくれてるせいか美由希さんも恭也さんもどんどん上手くなってるし。なのはちゃんにいたってはもう上級者レベルである。まぁ、皆んな笑って楽しんでるからよしとしよう。

 まぁ、悔しかったから今度は手加減なしでボコボコにしてやりましたけどねまる。

 

「あら、ゲームはもういいの?」

 

 ある程度対戦を重ねて飽きてきた頃に洗い物を終えた桃子さん登場。それを手伝ってた士郎さんも続くように居間に現れる。

 

「桃子さん、士郎さん………お家でのお仕事はおしまいですか?」

「あぁ、もう終わったよ」

 

 なればと持ってきたリュックサックを漁りトランプを取り出す。

 

「全員で……やります?」

「いいのかい?」

「餅つきの論でさぁ、お二人が良ければですけども」

 

 勿論一緒にやるわと桃子さんが腰掛ける。それに習って士郎さんも。俺が高町家に泊まるたびのトランプに限らず毎度士郎さんと桃子さんを巻き込んで何かしらのゲームをしている。前回は人生ゲームを持参してきましたよ。

 この人達面白いしね。両親一緒の方がなのはちゃん兄姉も楽しいだろうし。俺も人数多い方が楽しいしね。

 

「さてさて、まずは肩慣らしにババ抜きでさぁ」

 

 二枚の内一枚のジョーカーを抜いてトランプをシャッフルする。

 

「ショットガンシャッフルはカードを痛めるぜ」

「自分でやって自分で言うんだね」

 

 美由希さんにツッコマれながらも気にせずカードを配る。無論このトランプにはブラックマジシャンも入ってないし不正もしてないぽよ。

 

「んじゃ皆々様カードを取ってくださいな」

 

 俺の言葉を合図に全員カードを確認する。さてさてジョーカーは誰の手かなぁ?ちなみに俺ではなかった。

 

「ぶふっ」

 

 カードのペア切っていたら突然美由希さんが吹き出した。おっと、どうやらババを持っているいるのは美由希さんのようだ。

 

「どうした?美由希」

「う、ううん。何でもないから……気にしないで?」

 

 と恭也さんの心配はよそに俺の方をジロリと見てくる美由希さん。俺はどこ吹く風の如く口笛を吹きながらカードを切ってく。

 全員カードを切り終わった所でジャンケンで順番を。恭也さん→桃子さん→士郎さん→俺→なのはちゃん→美由希さんの順番に。まずは恭弥さんが美由希さんのカードを取る。

 

「ぶふっ」

 

 引いたカードを確認すると突然軽く吹き出す恭也さん。同時にニヤリとした表情を浮かべた美由希さんも俺は見逃さなかった。まさか初手で引いたか。恭也さんは平静を装って続ける。とりあえず一巡、二巡とあまり展開は動かず進む。そして4巡め全員いくつかカード切って順調に進んでいた所で桃子さんが恭也さんからカードを引いて……

 

「……っ」

 

 ピクッと動きを止めた。あ、ちょっと笑った。続けて士郎さんにカードを引かせる。と、思いきや持っている手札に一枚だけ飛び出させてる状態で士郎さんに見せる。おっと夫婦による心理戦か?

 

「桃子、それババだな?」

「うふふ〜、さぁ?」

 

 仲良いなこの夫婦。羨ましいよ。うちのパパンとママンにも負けてないよこの2人。

 

「貴方……」

 

 と士郎さんが引くカードを決めあぐねていると甘えたような声を出す桃子さん。

 

「お願い………」

「そんな風に甘えてもダメだぞ?」

「お願い……あ・な・た」

「………くっ!」

 

 あ!結局誘ってたカード引きやがった!心理戦じゃなくて誘惑だった!士郎さんの反応を見るにババ引いたっぽいし。そして士郎さんもそのカードを見て軽く吹き出してた。

 つーか士郎さんがババ持ってるって事は次に危険なの俺やないかい。

 

「……さ、慎司君の番だ」

 

 キリッとして言ってんじゃないやい。誘惑に負けたくせに。桃子さんよほど嬉しかったのかずっとニコニコしてるし。

 だが甘いです、引いた後はちゃんとシャッフルしなきゃ。どこにババがあるかバレバレだぜ。

 

「なぬ?」

 

 引いたのはババだった。士郎さんを見やる。フッと少し微笑みまだ慎司君には負けれないよと言わんばかりの顔。このやろう俺に分からないようにすり替えやがった、大人げねぇ〜。俺大人みたいなもんだけど!

 

「それじゃ次私ねー」

 

 と俺が悔しがってる隙にカードを引くなのはちゃん。嬉しそうに揃ったカードを切る。ふふふ、今は笑っているがいいさ。すぐにババを引かせてやるゼェ。

 と思惑しつつもそのまま俺の手札からババは動かずいつのまにか俺となのはちゃん以外はみんな上がって俺となのはちゃんのタイマンを見守っている。

 なのはちゃんのカードは残り一枚。俺は二枚。次なのはちゃんが引く番だ。 二枚のカードを見比べながらチラッと俺の様子を盗み見て観察してくる。表情に出すようなヘマはしませーん。

 

「うーん………」

 

 中々決まらないなのはちゃん。ええでぇ、いくらでも待ちまっせ。

 

「………し、慎司君……ババはどっちかなぁ?」

 

 おっとここで心理戦か?

 

「どっちかがババだよー」

「それは分かってるよぉ〜」

 

 ヒント!ヒント頂戴!と懇願してくるなのはちゃん。いや、ヒントもクソもないだろ。教えるか教えないかしかないよ。しかしそこまで言うなら仕方ない。

 

「よし分かった、納得のいく猫の物真似をしてくれたら教えよう」

「えっ」

 

 葛藤するなのはちゃん。しかし勝利に貪欲でもある高町家のなのはちゃん。最後まで葛藤しつつも猫の物真似を始めた。

 

「にゃ、にゃ〜お……」

 

 鳴き真似だけじゃなく仕草までちゃんと物真似する。

 

「ゴロゴロ〜」

 

 おお、俺の膝に擦り寄ってゴロンとしてくる。確かに猫っぽい。て言うかなんだこの可愛い生き物。確かに納得のいく物真似ではある。

 

「けど尻尾がないので失格で」

「きしゃー!」

 

 うわっひっかくな!いたい!

 

「ぐるるるっ………」

「猫ではなくて虎でしたか」

 

 怒ったようにずっと唸ってくるなのはちゃん。でも残念だが勝負の世界は非情、手札は明かしませんよ。

 

「………し、慎司君」

「………」

「お願い……慎司君」

「………………」

「…………お願い……し・ん・じ・く」

「さっさと引け5歳児」

「自分だって5歳じゃん!」

 

 何桃子さんの真似しようとしてんだよ。20年くらい経ってから出直せ。ほら見ろ、娘が真似し出したから桃子さん赤くなってるじゃんか。

 

「うぅ、なら嘘でもいいから答えてババはどっち?」

「右」

 

 それを聞いてなのはちゃんは勝ち誇ったような顔をした。

 

「ふふん、慎司君気付いてた?実は慎司君は嘘をつかない人だって」

「そうだね」

 

 からかったり冗談は言うけど明確な嘘や虚偽はしないのが俺である。前世の頃から正直者なので私。

 

「だから右はババだとなのはは思います!」

「そうかい」

「ふふん、謝るなら今のうちだよ?」

「騙されてるなのはちゃんが見れそうだから謝らない」

「そ、そんなこと言っても騙されないよっ!」

 

 まぁ、なのはちゃんがそう思うのも無理は無い。遊びでも何でもお茶濁したり誤魔化した言い方とかはするけど明確な虚偽とか一度もしてないしね。

 

「だから、左のカード引くからね!」

 

 とカードを手に取り引く。

 

「あ、言い忘れてたけど俺から見て右ね」

「にゃあああああ!!」

 

 俺のその言葉にがっくしするなのはちゃん。俺に心理戦で勝とうなんざ100年早いぜ。

 でもまだ負けてないもんっとすぐに立ち直って引いたカードを確認するなのはちゃん。すると目が点になった。

 

「な、なにこれぇ!?」

 

 慌てながら俺から引いたカードを見せてくるなのはちゃん。それはババであるジョーカー。ジョーカーなのだが絵柄に書かれた悪魔の顔の部分が俺の書いた落書きによってインクで潰れている。顔部分には俺が書いた下手な似顔絵が書かれておりそれだけじゃ誰か伝わらないのでカードの下の方に『デビルガールなのは』と書いてある。

 

「慎司君の仕業でしょ!このトランプ持ってきたの慎司君だし!」

「いや、メーカーの仕業だろ」

「そんなわけないでしょ!?」

 

 ギャーギャー騒ぐなのはを見て高町家も微笑ましそうに笑う。ゲーム終盤でようやく何でみんなが途中途中吹き出してたのかようやく気付いたなのはちゃんは恥ずかしそうに顔を赤くしている。

 

「ほれさっさとカードを引かせろデビルガール」

「デビルガールじゃないもん」

 

 この勝負絶対負けないと決意するなのはちゃんは。俺に見えないよう背中にカードを回してシャッフルして俺に突き出す。さて、運に身を任せるのも面白いけど負けたくないのでこっちもしかけよう。

 

「なのはちゃんも嘘でもいいから質問に答えてよ」

「い、いいよ……」

 

 ボロは出さないぞと言わんばかりに表情を引き締めるなのはちゃん。

 

「お父さんの事好き?」

「え?う、うん……」

「お母さんは?」

「も、勿論好きだよ」

「恭也さんと美由希さんも?」

「あ、当たり前だよっ」

 

 嘘のつけない質問なので全部正直に答えてくれるなのはちゃん。少し照れているのかもじもじし出した。高町家は満面の笑みでそれを聞いている。

 

「それじゃポケモンで一番気に入ってるのは?」

「ぴ、ピチューかな」

「スマブラで一番得意なのは?」

「カービィだよ?」

「ファルコン?」

「パンーチ!」

「はどっちの手でやってた?」

「えっと……右かな?」

「なのはちゃんの利き手は?」

「左だよ」

「俺のこっちの手は?なのはちゃんから見て」

「左!」

「なのはちゃんから見てババは?」

「右!」

「はい、ありがとう」

「にゃ!?」

 

 はい俺の勝ち。何で負けたか明日までに考えといて下さい。そしたら何かが見えてくるはずです。ほな、いただきます(勝利を)本田風。

 

「ず〜〜〜る〜〜〜い〜〜〜!」

「HAHAHA、勝った方が正義じゃけん」

 

 今日は一段と長くポカポカしてくるなのはちゃん。よっぽど悔しかったのだろう。やれやれとしながらカードを集めて次はどうするかと考える。

 ホント高町家と知り合ってから転生した人生に充実という言葉が当てはまってる。楽しいなぁ、こんな日が続けばええなぁ。なんてじじくさい事を考えていた。

 さてと、次は七並べにでもしようかね。もっかいババ抜きでもええねぇ。高町家にはトコトン付き合ってもらうかのぉ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

 そんな楽しい日々を過ごしていれば時が経つのもあっという間で。俺となのはちゃんは早いもんで幼稚園を卒園し4月から晴れて小学生となる。うわっ、ランドセルとか懐かしいなぁ。さてさて、気になる小学校だが実は私立小学校に通うことになった。ある日突然ママンにちょっとこれ解いてみてと言われ渡された幼稚園児向けの問題集。ちゃんと全力で取り組んだ所流石は元20歳の俺。勉強に関しては強くてニューゲームを発動して問題なく全て正当。

 ママンとパパンはやっぱりかと予想していたよう。流石に転生者だとは思われてないだろうけど俺が外見年齢不相応な所はもう完全に気にしてない様子。それならばとパパンが私立の学校に行ってみないかと言われた。

 金銭的な面で負担は掛けたくなかったし、今そこに通わずとも後からちゃんと勉強して受験して高校あたりから良い学校に進もうと考えていた俺っち。しかし、ママンとパパンは余計な事考えなくていいと一刀両断。それに、なのはちゃんもそこを受験するらしい。良い学校行って損はないだろうしせっかく仲良くなったから一緒の学校にすれば?と両親から背中を押される形で俺もその学校に受験したのである。

 俺もなのはちゃんも無事合格。晴れて入学式を迎えて小学生の仲間入りだ。

 

「けどせっかく同じ学校に入学したのにクラスは別々かぁ……」

 

 世の中そううまくいかないもんである。まぁ仕方ないねぇ。幼稚園では友達はできなかったしなのはちゃん以外にも仲良しの友達作れたら良いなぁと心の中でぼやく。

 まぁ、なのはちゃん少し大人っぽい所あったから実年齢と違う俺は波長が合ったけど幼稚園の時と同じで難儀しそうだ。やっぱり素を出せる子と仲良くしたいしね。 

 まぁ、なるようになる事願おう。

 

 

 

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 さてさて入学してから1ヶ月とちょっと経った。授業は退屈だが先生に目はつけられたく無いので真面目に受けてる振りをする毎日。結局クラスでは多少話す仲は出来たが放課後まで関わり合いになるような友達は出来なかった。まぁ、自分のせいだけどな。せっかく誘ってくれても避けてるの俺だし。ごめんね誘ってくれてるのにと内心謝りつつもそれに応じる事はない。

 なのはちゃんとも今まで通りの会って話して遊ぶの変わらなかった。とは言っても小学校に上がった事でその時間は以前より減ってしまったが。そんなこんなで休み時間なのはちゃんのクラスにでも行ってなのはちゃんからかいにいくかと赴いてみると。

 

「ありゃ?」

 

 なのはちゃんいねぇな。しゃーない、出直すか。合間の休み時間じゃ大して時間ないし。と大人しくクラスに戻った。

 その後一年生の女の子2人が大喧嘩したと言伝で聞いた。青春してるねぇ。そうやって色んなこと経験して大人になるだぜ少年少女よ。なんてテキトーな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

「いやなのはちゃんが当事者かよー」

 

 それから数日経ったくらいになのはちゃんが紹介したい友達がいると放課後になのはちゃんの教室に呼ばれたので行ってみるとなのはちゃんの他に2人の女の子がいた。

 アリサ・バニングスと月村すすがと2人は名乗った。実は先日の女子同士の喧嘩はなのはちゃんとアリサちゃんが起こしたものらしくそれを当事者でもあったすずかちゃんが止めたのだという。それをきっかけに仲良し3人組と化したとの事。

 それはとても良い話だけどまさか肉体言語から始まって仲良くなるとか……夕日バックにクロスカウンターでも決めたのだろうか。

 

「そかそか、なのはちゃんの友達かー。一緒だね、俺は荒瀬慎司。よかったら俺とも友達になってん」

 

 よろしくと素直に握手を返してくれるすずかちゃん。アリサちゃんの方は少し不躾ながらも応じてくれた。両者正反対な性格のようで。あ、あと喧嘩の内容には触れなかった。その話題になるとアリサちゃんが罰の悪そうな顔をするもんだからあんまり広げないようにしたのだ。そこらへんお兄さんちゃんと察するよ。

 

「よろしくねー、月村すずかちゃんに………アリサ・バーニング?」

 

 脛を蹴られた。

 

「バニングスよ!バニングス!」

「ごめんごめん、アリサちゃんだね……よろしく」

 

 たくもうっと言いたげな顔をするアリサちゃんに。蹴られた俺に大丈夫?とおろおろするすずかちゃん。ある意味バランスいいのかも。

 

「んでんで?なのはちゃんは俺と2人を会わせて何が目的なんだい?」

「え?いや、特に深い意味はないけど………」

 

 あ、こいつ俺に気を使ったな?クラスに仲良しな子が出来ないって一回ぼやいた事を思い出した。まぁ、好意には感謝しよう。実際この2人とは仲良く出来そうな気がする。気がするだけだけど。

 

「せっかく知り合ったんだしなんかして遊ぼうぜ」

「何をするのよ?」

「道ゆく人を順番にドロップキックして誰が一番怒られないかゲーム」

「それは……やりたくないなぁ」

 

 この調子で2人には俺がどういうキャラか分かってもらおう。うーんと考え込む。女の子3人だしあんまり激しい遊びは控えた方がええかなぁと思考してると強い風がなびく。つい目を瞑ってしまうような一瞬フワリと体が持ち上がるような強風が俺たちを襲った。

 特に怪我等はないが問題が一つ発生した。

 

「あっ」

「えっ」

 

 強風によってフワリと持ち上がるアリサちゃんのスカート。アリサちゃんスカートだけが何故か強風の被害を受けた。そして神はいないとばかりにアリサちゃんの対面にいた俺。顔を真っ赤にしてて慌ててスカートを抑えるアリサちゃん。

 何も言えない俺となのはちゃんとすずかちゃん。いらねぇよ、小学生相手にそんなスケベイベントいらねぇって。

 

「見た……?」

「白パン?」

「殺す」

「マジか」

 

 事故だろどう見たって!理不尽だテラワロス。走って逃げる俺に小学一年生とは思えない速度で追いかけてくるアリサちゃん。慌ててそれを追いかけるなのはちゃんとすずかちゃん。いやー、全くもって理不尽。

 

「待てええええええ!!」

「だが断る!」

 

 今は追いかけられていて捕まれば恐らく酷い目に遭うだろうが俺はこう思った。昨日よりこれから明日が楽しみになりそうだ。後々なのはちゃんと一緒で腐れ縁となる2人に親近感を沸かせながら俺は笑顔で全力で逃げた。

 

 

 

 

 





 無印前の話はあんまり長くしないようにしようと思ってるけど書き始めるとどうして蛇足ばかり書く。まっいいか。恐らくあと1話で無印前は終わるかも


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前世ではなく今世として


 第一話にて重大な誤字を発見。パパンセリフで

「旦那さんが退院するまでの一時的とはいえずっと1人にしておくのも……勿論桃子さんが悪いと言っているのですが」

 これじゃめちゃくちゃ桃子さん攻めてる感じに。正しくは

「旦那さんが退院するまでの一時的とはいえずっと1人にしておくのも……勿論桃子さんが悪いと言っているわけではないのですが」

 うん、全然違うね。印象全然違うよこれじゃ。以降気をつけます。メッセでで誤字指摘してくれた方ありがとうございます。第一話の方でも修正しておきます


 

 

 

 

 

 

 アリサちゃん、すずかちゃんと友達になってから半年ほど経ち、俺たちはすっかり仲良しになったと思う。なのはちゃんと遊ぶ日常にまんますずかちゃんとアリサちゃんが参加したような感じだった。

 そこからの日常は俺に再び彩を与えた。楽しい日々を送った。

 

「つーわけで!オレ、参上!!」

 

 休み時間になのはちゃん達がいる教室に茶化しにいくのは日常茶飯事となっていた。3人とも同じクラスなので俺的には全クラス回らなくて済むのでありがたい。

 

「うるさいわね、もっと静かにきなさいよ」

「オレ!!参上!!!」

「だああ!ボリュームあげるなー!」

 

 とかいうアリサちゃんの声のボリュームも大きくなる。これぞ孔明の罠なり。

 

「慎司君、おはよう」

「すずかちゃん、おはおは」

 

 ちなみにすずかちゃんは早くも俺のうざ絡みをスルーするという高等テクを身につけていい感じに捌いてる。それはそれでいいと思う俺ちゃんは気にしない。無視できない時に突っ込んでくれるしね。

 

「あんたねぇ、休み時間毎回毎回うちのクラスに来てるけど暇なの?クラスに友達いないの?」

「…………………」

「ちょっ、黙らないでよ」

「…………………………」

「…………ご、ごめん……でも!わ、私達がいるし……」

 

 ガラガラと教室の扉が開く音が響く。

 

「おーい慎司、次移動教室に変更だと」

「おう、わざわざありがとなー」

「気にすんなって友達だろ〜」

 

 そのまま自分の教室に戻る我がクラスメイトのみつるくん。

 

「…………で?何だっけ?ごめんよく聞いてなかったわ〜」

「殺す!」

 

 わあわあとするアリサちゃんを落ち着いてと止めるなのはちゃんとすずかちゃん。実は2人と友達になったのがきっかけで俺も変に斜に構える事を止める事が出来た。今まで実年齢という俺の秘密に申し訳なさがあって一歩引いてクラスメイトに接してきたがいつの間にかあまり気にしなくなっていた。

 我ながら調子のいい話だけどお陰でクラスの子も友達と呼べる子は増えた。普段絡んでる事が多いのはこの3人なのだがそれでも前より全然良好な関係だ。

 

「はっはっは、落ち着けよバーニング」

「バニングスだって言ってるでしょ!」

「慎司君!火に油を注がないで!」

「アリサちゃんも落ち着いてー!」

 

 朝からカオスですな。さてま、アリサちゃんはなのはほど許容範囲は広くないのでこの辺りで揶揄うのはやめておこう。本気で怒らせるのは本意じゃない。

 

「そそ、聞きたい事あったんだよ。今日の放課後アリサちゃんとすずかちゃん時間ある?」

「え?別に平気だけど」

「私も、今日は習い事もないから大丈夫」

 

 よしよし、なら好都合だ。

 

「慎司君、私には聞いてくれないの?」

「なのはちゃんはどうせ暇だろー」

「ひどい!?」

「だから強制な」

「うぅ、別に平気だけどさ……」

 

 これで全員大丈夫だな。なら、憂いはない。

 

「なれば、3人が良かったら今日うちに来ねえか?」

 

 本日は我が家にご招待であります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

 

 放課後、アリサちゃんとすずかちゃんは正式にお家の了承をもらって学校から直接我が家へ向かう。

 

「いやー、悪いね。うちの両親が2人の話したら会わせろ会わせろうるさくてなー」

 

 未だなのはちゃん以外に家の友達を招待はした事なかった現状。今日はパパンもお仕事休みで家にいるのでいい機会だからと誘ってみてはどうかと思ったで候。今日はうちで夕食一緒にする予定である。

 

「なのはちゃんは幼稚園の頃から慎司君と一緒だったんだっけ?」

「そうだよー、だから慎司君のご両親とも顔見知りなんだ」

「慎司の両親ってどんな人なんだろ……想像つかない……」

 

 そのアリサの言葉になのはちゃんがご両親はとっても良い人たちだよーとアリサの疑問に答えていた。失礼な、俺がまるで変みたいな言い草だ。

 

「あんたはどう考えても変人の類じゃない」

「変身!?カメンライド!ディケイド!」

「そいうとこよ」

 

 そういうとこか。なら仕方ない、俺は変人なのだろう。まぁ確かに割と素だしなこの性格。何て話してる内に我が家へ到着。

 

「ちーす!三河屋でーす」

「帰れ」

「学校から帰ってきた息子に言う一言それってひどくないママン」

 

 ていうか帰ってんだよもう。

 

「あら〜、なのはちゃん久しぶりね」

「ご無沙汰してます!」

 

 そういえばなのはちゃん連れてくるのも数ヶ月前の高町家とのホームパーティ以来か。ここの所、外でアリサちゃんとすずかちゃん巻き込んで遊んでばっかだったしな。俺も今度翠屋に顔出そう。

 

「で、貴方達がアリサちゃんとすずかちゃん?」

「は、はじめまして……すずかです」

「アリサです……ご招待いただきありがとうございます」

 

 お上品に挨拶しちゃって、そういえば2人ともお金持ちのお嬢様だったか。すっかり忘れてた。

 

「馬鹿息子からいつも話は聞いてるわよ、いつも遊んでくれてありがとうね」

 

 いえいえと恐縮する2人。ママン恥ずかしいからもうやめて。もう部屋に案内させろよ。

 

「それじゃ上がって頂戴。狭い家だけど遠慮しないで寛いでね」

 

 いやいや立派な一軒家よママン。パパンよく頑張ってくれてるよ。

 などとパパンに想いを馳せつつ3人のお邪魔しますを合図に部屋に案内する。途中パパンに遭遇して同じようなやり取りをしてようやく部屋に到着。

 

「夕飯まで時間あるしなんかしようぜ」

「………い、意外に部屋は綺麗なのね」

「そりゃ自分の部屋くらいちゃんと掃除するさね」

「慎司君って結構意外な一面多いよね」

 

 アリサちゃんとすずかちゃんが割と失礼なのはいいとして慣れ親んでるなのはちゃんはゴソゴソと俺のゲーム箱を漁りだす。エロ本はまだ買ってないからいくら漁られようが構わないが。

 

「じゃあこれ!久しぶりにこれやろう!」

 

 と言って取り出したのは人生ゲーム。スマブラと言い出すかと思いきやそこらへんはアリサちゃんやすずかちゃんに気を使ったらしい。

 

「人生……ゲーム?」

「初めて見た」

 

 2人して首を傾げる。まぁ人生ゲーム知らないっていうのも別におかしな話ではないだろう。

 

「一般的なボードゲームだよ。運の要素が強いゲームだから初心者でも対等に出来るしこれにするか」

 

 2人も興味あるらしく頷いてる。なれば準備して始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………。

 

 

 

 

 

「ルーレットを回して……5!えっと………うへぇ」

 

 マスを確認するとなのはちゃんはため息をついた。どれどれと確認すると。

 

「『しつこい借金取りを殴って怪我をさせてしまい借金取りを怒らせた。120万慰謝料として支払う』って何してんだよなのはちゃん……」

「わ、私がしたわけじゃないし……」

「でもアリサちゃんとのファーストコンタクトは肉体言語だったでしょ?」

「それとこれとは話が違う!」

 

 とやかく言いつつも手元のお金、勿論人生ゲーム用のお金120万を支払うなのはちゃん。ちなみに今のトップはアリサちゃん次にすずかちゃん。なのはちゃんは最下位で俺は3位だ。そろそろここで逆転したい所だ。

 

「んじゃ俺の番だ。………6マス進んで……よしっ、結婚マス!」

 

 人生ゲーム定番の結婚マス。ルーレット回してその数字に応じて参加プレイヤー全員から金を摂取できるマスだ。ただし、この人生ゲームは少し普通のと違うところがある。2〜9の数字を出せばその10000倍の金額を徴収できる。しかし、1を出した場合は少し特殊な徴収の仕方となるのだ。ちなみにアリサちゃんとすずかちゃんは既にこの結婚マスを通過して対応した数字の金額を徴収している。

 

「行くぜ!運命のダイスロール!」

「それルーレットだよ」

 

 すずかちゃんのツッコミが響きつつ固唾を飲んでルーレット見守る4人。徐々に動きを止め指し示した数字は………。

 

「げっ」

 

 俺の引きつった笑みと共に言葉が漏れる。ルーレットが示した数字は1。他の数値とは違う特殊な徴収方法。

 

「ふっふっふ、確か1は……『各プレイヤーが自由な金額を渡す』だったわよねぇ」

 

 ここぞとばかりにニヤリとほくそ笑むアリサちゃん。そう、アリサちゃんの言う通り1を出してしまうと現実の結婚式のご祝儀と同じでお気持ちの金額になってしまうのだ。これが本当の結婚なら感激してお祝いを多く包んでくれる何て人も中にはいるだろう。

 しかし、これは人生ゲームという勝つか負けるかの世界。わざわざ敵に塩を送るなんて事はしない。

 

「ほら、結婚おめでとう」

 

 と言いながらこのゲーム最低金額の千円を手渡してくるアリサちゃん。クソがっ、覚えておけよ。

 

「はい、私からはこれくらい」

 

 とすずかちゃんからは1万円。情けだろう、せめて本来のルーレットの数値分はとの事だ。嬉しいような情けないような気分になる。それでも楽しそうに微笑むんだから何も言えない。

 

「ふふん、慎司君!私からこれくらいね!」

 

 と言って千円を手渡そうとするなのはちゃん。すごい満面な笑顔である。日頃のお返しと言わんばかりだ。屈辱だ。最大級屈辱、いやただでは転ばん。

 

「まってなのはちゃん。取引しようぜ」

「取引?」

 

 ちょっとリスキーだがなのはちゃんを乗らせるのは得意だ。

 

「ここで……そうだな、10万!10万くれたら…」

「だ、ダメだよ!もうその手には乗らないもん!なのはからは千円だけです!」

「まぁ聞けって……もしここで10万くれたら……なのはちゃんが結婚マス通過した時にルーレットで1を出したら……その時の俺の所持金全部やる」

 

 ピクッとなのはちゃんが反応する。

 

「ほ、ホント?また騙そうとしてない?」

「ホントホント、ちゃんと結婚マスでルーレットの1を出したらそん時の俺の人生ゲームの所持金全部やるから。嘘つかないのは知ってるだろ?」

 

 うーんと唸るなのはちゃん。ここまでハッキリと言ったら俺自身も逃げ場はない。実はなのはちゃん、最下位は最下位でもダントツの最下位なのである。所持金も俺とアリサちゃんにすずかちゃんと比べたら雀の涙。優勝レース何て論外だしここから巻き返すのは割と厳しい。

 少しリスキーな取引だけどうまくハマれば一発で優勝レースに参加できるのだ。なのはちゃんは割と勝利に貪欲な性格。つまり

 

「分かった!約束だからね!」

 

 と笑顔で10万円を手渡してきた。計画通り!ニヤリと影で笑う俺。やれやれと首を振るアリサちゃんにすずかちゃん。確かに今回は俺もなのはちゃんが1を出せばちゃんと約束通り全額を出す腹づもりだ。しかし、1が出る確率は単純に9分の1。俺に有利な賭けだ。

 なのはちゃんが9を出したとしても俺は1万得と言う事になる。俺に分がある取引だが逆転の芽をチラつかせれば面白いくらいに乗ってくれた。甘い、甘いぜなのはちゃん!

 だがそういう時こそ確率の低い事が起こる物で

 

「やった!1だ!」

「うそーん」

 

 なのはちゃん結婚マスでピシャリと1を出す。これには3人もびっくり。アリサちゃんとすずかちゃんから千円ずつもらい、俺にニンマリとした笑顔で言う。

 

「はい慎司君、全額ちょーだい」

「クソがっ」

「口悪いよっ!?」

 

 あぁ、全部なのはちゃんに持ってかれてしまった。あんな取引しなきゃよかったと大後悔。見事にすっからかん。

 

「アリサちゃんやすずかちゃんや……お金恵んで下さい………」

「やなこった」

「それはルール違反だし……」

 

 でしょうねー。無論それから大逆転なんて展開はなく最下位………とはならずまさかの3位。なのはちゃんが見事に自爆していき借金を積み重ね俺を下回ると言う大暴落っぷりを見せた。

 

「ねぇねぇ?今どんな気持ち?全額奪った相手からも負けるってどんな気もちぃ?」

「ぐやじぃぃいいい!」

 

 今回は危なかったけど、いやぁ……ある意味流石なのはちゃんとも言えるだろう。ちなみに順当にアリサちゃんが1番に、すずかちゃんは2番となった。

 

「すずかちゃんとアリサちゃんほとんどマイナスイベント起きなかったよね。どんな運してんだよ。俺にも分けろよ」

「慎司君よりなのはちゃんに分けてあげた方がいいと思う」

「確かに、ほとんど借金イベントだったわね」

 

 すずかちゃんの言にアリサちゃんも同意する。ある意味それがなのはちゃんとも言えなくない。

 

「一体何人の借金取りを殴ったんだか………」

「だからそれは私じゃないってば〜」

 

 今回はいつもより凹んでるなのはちゃんであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 夕飯後の後片付けを手伝い終お家でまったりタイム。既になのはちゃん達はアリサちゃんのお迎えの車で帰宅した。一緒でのお夕飯は大変楽しゅうございました。

 

「ママンありがとう。今日は楽しかったのである」

「はいはい、またいつでも呼んであげなさいな」

「うむ、苦しゅうない」

「何であんたが上からなのよ」

 

 ちなみにママンもママンで楽しんでたのは口を閉ざしておこう。お片付けも終えたしやる事は……ねぇな。パパンとテレビでも見ようかね。

 

「パパン、お茶いる?」

「いるー」

「うぃーす」

 

 2人分のお茶を用意してリビングまで持っていく。パパンに手渡して2人でお茶をすすりながらテレビを見入る。

 

「まさか慎司になのはちゃん以外に友達が出来るとはなぁ」

「そんな変ですかい?」

「変ていうか………意外だったかな」

 

 お前あんまり他人に心を開かないしと1人でごちるパパン。流石私の父親、お見通しのようで。

 

「まぁ、でも最近は楽しそうに学校の事話してくれるし……充実してるみたいで良かったよ」

「そうですな…確かに充実はしてまっせ」

 

 アリサちゃんとすずかちゃんという親友が出来た。クラスにも親しい仲はたくさん出来た。だから毎日は楽しい、環境が変わればこうも学校という印象は変わるものだ。前世の学生時代はそんな事考えなかったけどそれなりに楽しい学校生活を送れてた俺は幸運だったんだろう。

 

「パパンの学生時代はどうだったん?」

「お前と同じさ、楽しい学生生活だったよ。ママとも出会ったのも学生の時でな」

「ああそこからはいいよ。2人の馴れ初めは耳にタコが出来るくらい聞いたから」

 

 イチャイチャ夫婦め。高町家にも負けてないよホント。こっちが恥ずかしくなるくらいだ。俺に気にせず子作りでもしてて下さい。

 何て雑談に更けていると一仕事終えたママンもお茶を持ってリビングに参戦。3人でまったりテレビを見る。何かのバラエティ番組なのか科学が重要視されてる現代において、魔法というモノを題材にしていた。

 

「魔法ねぇ………」

 

 ついついぼやく。テレビでは占いだの未来予知などを魔法だ何だと騒いで盛り上がっている。下らないと一蹴する気はないがそういうのは全く信じてないからか退屈に感じた。

 ぼやいた俺に対して両親がピクッと反応したがあまり気にしなかった。

 

「慎司は魔法の存在を信じてるか?」

 

 父の突然の問答に少し驚きつつも俺はすぐに答えた。

 

「んにゃ、信じてないよ。あったら面白そうだとは思うけど魔法なんてこの地球上には存在しないさ」

 

 流石に実年齢20を超えてる俺にはそんな妄想じみたことを信じるのは無理だ。

 

「そ、そうか………じゃあ仮に魔法が存在するとしたらいわゆる………魔法使いになりたいとか思うか?」

「おっ……お父さん!」

 

 パパンの妄想じみた質問にさらに面くらった俺を差し置いてママンが過剰にその質問に反応した。どうしたんだろう?ママンはチラッと俺見てから平静を装って咳払いを一つ。

 

「ごめん…なんでもないから」

「あっそう……」

 

 少し気になったがまぁ気にしないでおこう。あんまり困らせるそうな事はしたくないのでな。それではパパンの質問に答えるとしよう。

 

 

「うーん、どうだろうね……。多分、ならないんじゃないかな……」

「それはまたどうして?」

 

 意外そうな顔をするパパン。確かになれるものならなってみたいと思う人の方が多いと思う。けど俺の場合は違う。

 

「魔法とか仮に使えたとしても、俺は普通に人生を歩みたいんだ。魔法使いになってすごい事を成すより、等身大な幸せを掴みたい。いい学校目指して、自分のやりたい事を見つけて……それを目指して……出来る事なら将来は良い奥さんを見つけて……みたいなそんな幸せが欲しいんだ」

 

 だってこれは……今の俺の人生は荒瀬慎司の人生というより『山宮太郎』の新しい人生という感覚の方が強い。荒瀬慎司を産んでくれた2人にはとても言えないけど……本心ではそう思ってしまっている。

 前世で歩めなかった……それを目指してる最中で死んだ俺は……前の人生では出来なかったその等身大を掴みたいんだ。それでようやく、『山宮太郎』は浮かばれる気がするんだ。前世で遺して来てしまった俺の大切な人達に顔向け出来る気がするんだ。前世での俺の両親や……大切な友人達に……。

 

「まだそこまで人生設計決めるのは早いだろ。まだ小学1年生のクセにな〜」

 

 俺の答えを聞いて笑ってそういうパパン。まあ確かに小学生が考える事じゃないな。それっぽい事言うのも考えたけどこの両親の前では本当の自分を見せると決めている。それが前世という枷がある俺からのせめての誠意のつもりだ。

 

「それじゃ、何か今やりたい事とかないのか?勉強も大事だけど色々経験するのも大切な事だぞ?」

「うーん……そうですなぁ……」

 

 やりたい事ねぇ、パッとは浮かばなかった。何かないかと情報を求めテレビを見やる。いつの間にか魔法云々番組は終わっていて別の番組が映し出されていた。そこに写っていたものを見て俺は魂が揺さぶられるような感覚に陥った。

 

「…………………」

 

 前世で後悔したことを、今世でしたくない。山宮太郎から荒瀬慎司に向けて再三自分に言い聞かせた言葉だ。なら、これも俺はやるべきだろう。いや、やりたいんだ。

 

「……………父さん…」

 

 俺はテレビを指差して口を開く。

 

「これ、始めたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

「それで柔道始めたんだー」

「まあなー」

 

 我が家でポチポチとなのはちゃん2人でカービィのエアライドをプレイ中。今日はアリサちゃんもすずかちゃんも習い事があって来れなかった。

 

「おっ、ハイドラのパーツ揃った」

「あ、いいなー」

「俺使わないから乗っていいよ」

「やった!」

 

 ルンルンとハイドラに向かうなのはちゃん。俺が近くでプラズマ最大チャージで待ち伏せているのも気付いてなかった。あ、来た来た。

 

「はいどーん!」

「あー!!」

 

 ひどいひどいとコントローラーを離さず俺の肩に頭突きしてくるなのはちゃん。いや気付けよ、分割画面なんだから。とはいえってもハイドラは無事で結局それには乗るなのはちゃんである。しかも意外と使いこなす。本当にゲーム上手くなったなぁ。

 

「慎司君が柔道かぁ……何でか分からないけど似合ってる感じがするんだよねー」

「何でまた?」

「うーん、分かんない!何となく」

 

 なんじゃそりゃ。

 

「でもでも、柔道着姿の慎司君すごいカッコいいよ」

「そりゃどうも」

 

 実は今も柔道着姿だ。この後練習だから先に着替えている。時間まではなのはちゃんと遊ぶのは最近の新しい日課になりつつある。

 

「なんて言ってるとほら油断した」

「あっ!私のハイドラが!?」

 

 パーツ集めたのは俺だけどまぁいいか。隙だらけだったから地道に大砲やらコピー能力やらで的確に攻撃を当てて見事に破壊。その瞬間シティトライアルは終了。何も乗り物になってない状態でトライアルを終えた場合、次の本番で乗り物はどうなるか言わずもがなだろう。

 続くゲームも散々な終わり方したなのはちゃんは頬を膨らませてポカポカしてくる。

 

「今回は別に俺悪くなくね?」

「でもなのはばっかり狙って来たじゃん!」

「そういうゲームだろうに」

「それでも〜!」

 

 まさに理不尽である。ゲームにおいてタイマンで俺に勝つのはいったいどれくらいかかる事やら。

 

「慎司君、まだ時間平気?」

「おう、まだ平気よ」

「じゃあもう一回!今度こそ負けないもん!」

「次はパーツ揃えてもやらんからな〜」

 

 とか言いつつ時間ギリギリまでいつも通り、なのはちゃんとの時間を楽しんだのである。こういう日常を大切に感じるのはやっぱり俺が一度死んだ経験をしてるからなのだろう。それならばこの後の柔道の練習もしっかりやろう。軽い気持ちで始めたわけじゃない真剣な気持ちで俺は柔道を始めたのだから。

 一年半後に魔法少女となるなのはちゃんより一足先に俺は柔道家としての一歩を歩んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………。

 

 

 

 

「どういうつもりなのよ、全くヒヤヒヤしたわ」

 

 時は少し遡る。慎司が柔道を始めたいと言ったその日の深夜。慎司は既に睡眠中なのは確認した。

 

「悪かったよ、でもどうしても聴きたくなっちゃったんだ」

 

 というのも魔法云々の質問をした事だろう。ミッドチルダの魔導師だと言う事を隠している2人だが旦那の軽率な発言に妻は少し嘆息する。妙に鋭い所もある息子なのだから気をつけて欲しいと付け加えた。

 

「そりゃあ………私だって気にはなってたけど。いずれ話す事だから聞かなきゃいけない事だけどさ」

「だから安心したでしょ?慎司がああ言ってたんだから」

「考えが変わらない事を祈るわ」

 

 慎司は魔法使いにはならず普通の地球で言う人生を歩みたいと言った。小学1年生とは思えぬ発言だがうちの息子に至っては今更だろうと考える夫婦である。

 

「そうだね、慎司は………どうしても魔導師にはなれないからね」

「そうね……リンカーコアがないからどうしようもない」

 

 リンカーコアを持ち、管理局魔導師としてそれなりの地位を得ている2人から生まれた荒瀬慎司だったが何の因果かその才が慎司に遺伝する事は無かった。だからと言って2人が息子にがっかりしたとかそんな事は断じて無かったがそれでも息子がそれを聞いてショックを受けないか心配でもあった。しかし、今思えば慎司は気にしなさそうと言う気持ちもあるが話すのはまだ先の予定だ。

 

「まぁ、あんまり深刻に考える必要も無いみたいだから……この話はやめよう。万が一慎司に聞かれるのはまずい」

「………えぇ、分かったわ。私達ももう寝ましょう」

 

 そう言って寝室に入る2人。妻は寝床に着きながらも息子の事を考える。

 

「柔道を始めたいか………」

 

 すごい真剣な目付きで言ってきたのが印象的だった。しかしまぁ、息子がやりたいのだと言うのなら応援するのが親というものだ。

 

「頑張れ……慎司」

 

 最後にそう呟いて妻は目を閉じて意識を暗闇に投げ入れた。最愛の息子が柔道で活躍する姿を夢見ながら。寝顔は、何となく微笑んでるように見えた。

 

 

 

 

 

 

 





 これにて無印前……プロローグは終了であります。次回から時間が少し飛んで無印編に。柔道を始めた主人公ですがあくまで中心なのはリリカルなのはでありますので。柔道の描写は少なめになるかと。ちゃんと本編にも絡む日がくる(はず)のでそれまではおまけ程度と考えていただければ。

 感想、評価ありがとうございます。手に取ってくれた皆様もありがとうございます。暇つぶしにでもなれたら嬉しいです。次回もよろしくです。


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無印編
始まりの最中に




 あれ、思ったより筆が乗って柔道の描写がかなり増えたな。これリリカルなのは虹小説ですよ?あららおかしいぞー。まぁ、本当に次回からはしばらく柔道描写が皆無になるのでゆるしてくだせぇ


 

 

 

 

 

 

 あっという間に時は過ぎ去り俺は小学3年生。今世では9歳、実年齢29歳に。三十路の一歩手前、悲しきかな。経験している事が年齢相応な為20歳から全く成長してる気がしない今日この頃。いつものようになのはちゃんと待ち合わせをして送迎バスに乗り込んで学校に向かう……はずだったのだが。

 

「いやっほい!見事に寝坊だゼェ!!」

 

 よくある目覚まし時計の電池切れだ馬鹿やろう!帰ったら丁寧に新しいのに入れ替えるから覚悟しろコラァ!

 

「馬鹿な事言ってないでさっさと行きなさい」

 

 ママンに道中食べるようにと握り飯を渡されすぐに準備して出発。登校中に朝ご飯とかなにそれ少女漫画っぽい、普通は食パンとかな気がするけど。

 

「はしるー、はしるー!おれーたーちー!!」

 

 全力疾走……柔道を初めて基礎体力作りなどしているためか以前よりも断然に早く長く走れるようになったが流石に間に合いそうも無い。と、思いきやバス停にはまだバスが!そしてなのはちゃんが周りをキョロキョロとしながらゆっくりとバスに乗っている所だった。

 

「待てやコラァ!俺も乗りますので出発しないでええええええ!!!」

 

 届くと願って悲痛な叫びをあげる。と、なのはちゃんがびっくりした顔をしてこっちを見た。気づいてくれた模様。スタコラとバスに乗り込みどうやら運転手さんに少し待ってくれと懇願してくれてるっぽい。

 

「乗りまあああす!夢と希望を乗せて乗りマァァア!!」

 

 ダッシュで乗り込んで息を切らしながら運転手さんにお礼と謝罪を。運転手さん笑顔で次は遅れないようにねとやんわりと注意してくれた。息を整えてからなのはちゃんを探す。おっと発見、一番奥の席に鎮座していた。アリサちゃんとすずかちゃんも一緒だ。

 

「うぃーすおはようさん3人とも」

「うぃーすじゃないわよ、あんたなのはが運転手さんに待ってってお願いしてなかったら遅刻してた所よ」

 

 開幕アリサちゃんに責められる。まぁ、仕方ない。

 

「悪いなーなのはちゃん、ありがとよ」

「ううん、別にそれくらい」

 

 優しい子ですなぁ。俺だったら笑いながら置いてく。………いや性格悪すぎだなそれは。訂正訂正。

 

「でも珍しいね、慎司君が遅刻しかけるなんて」

「確かに、遅刻も欠席もした事ないわよね」

 

 すずかちゃんのいう通り確かに珍しい。俺こう見えても無遅刻無欠席である。根は真面目なのよ?割と。というのは建前で学校も年甲斐なく楽しく感じてるからね、毎日が楽しければ自然と足取りも軽くなるってもんよ。

 

「今日は目覚まし時計の反逆にあってな」

「どういう意味?なのはちゃん」

「電池切れって事だと思う」

 

 何故に俺じゃなくてなのはちゃんに聞くんだよ、すずかちゃん。

 

「だから朝からバタバタしたから既に疲れてるのであります」

「まだ1日が始まったばかりじゃない」

「アリサちゃんにとっては始まったばかりの1日でも俺にとっては幾星霜なんだ。クロックアップしてるから」

「意味分かんないわよ………なのは?」

「ごめん、私も分かんない」

 

 だから俺の翻訳をなのはちゃんにさせるなっての。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

「えー、今日3人とも塾か〜」

 

 放課後いつものように3人を遊びに誘ったが見事に今日は3人とも塾だ。というか今は3人とも同じ塾に通ってるから重なるのも当たり前か。ちなみに俺は塾通いはしていない。

 

「あんたも今日は柔道の練習があるんでしょ?」

「まあなぁ……まぁ仕方ないか」

 

 アリサちゃんに言われた通り柔道の練習もあるしな、今日は大人しく自主練でもして時間を潰そう。

 

「今週末大会があるんだよね?皆で応援に行くから頑張ってね」

「あんがとよすずかちゃん」

 

 と言ってもまぁ海鳴市内の小さな大会だけどな。その後に大きな大会を控えているから、大体の人にとってはその前の肩慣らしのような位置づけの大会だ。無論、軽い気持ちで参加するわけでもない。

 

「3人こそ勉強頑張ってな、特になのはちゃん」

「な、何で私?」

「授業中に先生に向かって消しゴムのカス投げないか心配でな」

「そんな事した事ないよ!」

「本当か〜?」

 

 ホッペぐにぐにと。今日もよく伸びるなー。俺が頻繁に引っ張ってるせいか以前より頬が伸びるようになった気がする。新記録目指そう、ギネス級の。なのはちゃんはいつも通り顔を真っ赤にしながらぽかぽか叩いてくる、相変わらず威力が皆無だから痛くも痒くもない。

 

「あんた達ねぇ……仲良いのは分かったからさっさと行くわよ」

「お?何だ羨ましいのか?」

「そんなわけないでしょ」

「アリサちゃんのほっぺもビヨンビヨンにしてやるゼェ!」

「ちょっ、こっちくんな馬鹿!」

 

 ギャーギャーと俺が満足するまで互いに騒いでジャレあった。今日遊べない分俺も調子に乗ってしまったと思う。アリサちゃんに何度も蹴られたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 

 

 帰宅したらすぐに柔道着に着替えて道場に向かう。家から自転車を使って30分ほど走らせれば俺が通っている柔道クラブに到着する。この自転車での移動も下半身のちょっとしたトレーニングにもなるので重宝しているのだ。

 到着したらすぐに道場の鍵を開けて一礼してから中に入る。練習の時間までまだ時間が数時間ほどあるから人はまだいない。クラブの監督……先生に事前に許可を貰い、好きな時に使っていいと鍵の保管場所も教えてもらってる。信頼してくれ俺の申し出に応えてくれた先生には頭が上がらない。

 

「よし、やるか」

 

 まずは柔軟で体を伸ばしてから準備体操をマメにやって少しずつ体を動かしていく。補強運動に基本の受身をこなしてから軽い筋トレ。小学生のうちは無理に筋肉をつける必要は無いので土台を作る程度に調整している。

 ちなみに前世で得た知識である。何を隠そう荒瀬慎司になる前………俺こと山宮太郎は20年という歳月まで生きていたがその半分を柔道に費やしていたと言っても過言ではない。7歳の頃に何となくやってみたいと思い、柔道を始めた。それから小学生の間はクラブの柔道の練習に自主練の日々だった。地元の中学に入学してすぐ柔道部に入部して毎日柔道の日々をこなした。

 中学でようやくある程度目を見張る成績を残す事が出来、名門とまでは行かないが強豪の私立高校から推薦が入りそこに入学して高校生の頃は更に濃密な柔道の毎日を過ごす。そこでも成績を残す事が出来、大学からの推薦も掛かった。しかし、色々事情があって俺は高校の引退を機に柔道を辞めた。それを後悔して今世で諦めきれずみっともなく始めてしまったのだ。

 

 最初は前世でかなりに慣らしたし自信もあったから好スタートで始めれると思ったが考えが甘かった。小学生の体、それも今世ではスポーツ経験もなかった俺の体は俺の思うように動いてくれなかった。知識はある、高校生としてではなく今の自分に合ったスタイルをちゃんと考えて実践しようとするがうまく行かない。

 それはそうだ、頭では玄人でも体は初心者だ、基本が出来てない体が身の丈にあってない事を出来るわけがない。これは一から出直しだな。考えをリセットして俺は余計な事は考えず再出発をする形で取り組んだ。と言ってもとっさの判断能力や知識はやはり役に立つし、練習で何が大事か………どうすればいいのか……と効率をしっかり考えて2年が経った今日この頃。

 クラブの先生も面倒をよく見てくれたお陰もあり、ちょこちょこ成績を残せるようになった。今度の大きい大会でも期待されている、応えれるように頑張ろう。

 

「ん?慎司か、精が出るな」

「こんにちわ、お先に使わせてもらってます」

「あぁ、受けはいるか?」

「お願いします」

 

 道場に顔を出したのはクラブの責任者兼指導者でもある相島先生だ。柔道の基本的な技の練習や研究には相手がいてこそだ。相島先生はこうやって俺が自主練をしてる事を察知して忙しい中受けをしてくれる。本当に感謝だ、頭が上がらない。

 

「この後練習も控えているからな、程々にするんだぞ?」

「はい!」

 

 かなりくたびれたが今日も内容が濃い自主練と練習が出来たと思う。あぁ、本当に疲れた……帰って休もう。疲れた体に鞭を打って自転車を走らせて帰宅する。パパンとママンにお疲れ様との労いの言葉を貰い遅めの夕食を取る。風呂で汗を流して今日はもう何もする気が起きず自分の部屋のベッドに直行した。このまま眠っても良かったが何となしになのはちゃんにメールでもしてみる。

 

『なのはちゃん、イナゴ食べたい』

 

 ただのかまちょメールである。おっと、もう返信来た。

 

『急にどうしたの!?』

 

 律儀に全力で答えてくれる所がまた可愛いのお。だからこそからかいたくなるのだがね、ごめんね。

 

『寧ろなのはちゃんがイナゴを食べるべき』

『どうしてそうなるかな………』

『好きでしょ?イナゴ』

『別に好きじゃないよ!』

『イナゴはなのはちゃんの事好きかもしれないじゃん!』

『だからって私がイナゴ食べる理由にはならないでしょ!?』

 

 あーだこーだとくだらないやりとりを数十分程してもう寝ようかという雰囲気に。俺もくたびれてるしいつまでもなのはちゃんに付き合って貰うのも悪いしね。早よ寝ましょう。おやすみと一言メールを送ろうとした所先になのはちゃんからの返信が。

 

「フェレット?」

 

 文面にはなのはちゃん達が塾に向かう道中に怪我をしたフェレットを拾って動物病院に連れて行ったという出来事があったらしい。文面には詳しくはまた明日話すねと一言添えて終わっていた。

 

「フェレットってあれか………ペットとかでも人気のあのフェレットか」

 

 フェレットってそこらへんにいるもんなのか?いやいないか、怪我してたらしいしどっかの家から逃げ出したのだろうか?まぁ、俺が考えたってしょうがないか。さっさと寝よう。ベッドで丸くなる、思ったより体はくたびれていたようで意識を手放すのにそう時間は掛からなかった。その後、俺とのメールのやり取りの後。なのはちゃんが人知れず大変な目にあってたなんて勿論俺は知る由もない事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

 

 翌日、今日は目覚まし時計の反逆に遭うこともなくいつも通り登校。道中なのはちゃんがくたびれた様子を見せてたんだがどうしたんだろうか。まぁ、あまり深く気にせずにアリサちゃんとすずかちゃんも含めた3人にフェレットの件を聞く。

 と言っても昨日聞いた通りで怪我したフェレットを保護して病院まで運んだという経緯までは聞いているから新しい情報は高町家でそのフェレットを預かることになった事らしい。まぁ、なのはちゃんもしっかりしてるしさらに高町家全面協力なら特に心配もないだろう。

 

「でもすごい偶然だよね」

 

 とすずかちゃんは笑顔で言う。何のことかと言うと実は昨日フェレットを預けた動物病院で車の事故か何かあったらしく壁に穴が空いていたらしい。俺もその話は朝にママンから聞いていた。

 んで、その事故に乗じてたまたま逃げ出したフェレットがたまたま道を歩いていたなのはちゃんに遭遇してそのまま保護したそう。すずかちゃんの言う通りすごい偶然だ。違和感を感じるくらいな。

 

「昨日メールしたよな?その後に出かけてたの?」

「え?あ、うん……そうなんだよ」

 

 うーん?何か歯切れが悪いような。いや、へんに気にしすぎるのもよくないか。

 

「でもなのはが預かるなら名前付けてあげなきゃ………もう決めてる?」

 

 すずかちゃんとアリサちゃんは当事者であるからかフェレットの話を聞きたいみたいだ。俺もへんに詮索はやめてフェレットの話を聞こう。俺もちょっと気になるし。

 

「うん、ユーノ君て言うの」

「ユーノ君?」

「そ、ユーノ君」

「「へぇ〜」」

 

 フェレットの話をしてるだけでアリサちゃんとすずかちゃんは楽しげだ。それにしても名前はユーノか………。

 

「ユーノ………ユーノ……You No?貴方は違う?お前………何て名前つけてんだ、可哀想だろ」

「そんな意図はないよっ」

 

 You No君か……どんまい。否定されても強く生きるんだぞ。手を合わせて哀れなフェレットを想う。

 

「何に対して合掌してるの!?ねぇってば!もお〜!」

 

 ポカポカポカポカ。いつもの攻撃力ゼロのなのはちゃんの反撃。これで1日が始まった感じがする俺はすでに末期なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

………………………。

 

 

 

 

 放課後が今日もやってくる。さてさて、授業中何となしになのはちゃんの様子を見てみたがちゃんと授業を聞いているようで上の空のような雰囲気も見て取れた。やっぱり昨日なんかあったのかね?でもわざわざ言わないってことは言えないか言いたくないかって事だしな。

 杞憂かもしれないしやっぱり変に詮索すんのはよそう。本日も3人とは予定合わず学校が終わったらすぐ解散。と言っても今回は俺の都合だったんだけどね。試合が近いからそろそろガッツリ調整する為に追い込み期間なのだ。試合前日は練習内容を調整して軽めにしたりするが今は追い込みなのでこれから2日はしばらくこんな感じだ。

 

「うし、やるぞ!」

 

 3人とお別れし走って家へ帰宅。すぐに着替えて自転車で道場まで。やるぞー!気合十分!わっはははははは!!

 

 

 

 

 何てテンションでいられたのも少しの間だけ。自主練の後の通常の練習で相島先生直々にしごきを受けてすぐに歯を食いしばって必死にやる結果に。前世の頃は小学生の間にこんな濃密な練習はしてこなかったが精神は大人のままの俺は練習の大切さを身をもって知っている。ゲームっぽく言えばレベル1に戻ってしまったけど効率的にレベルを上げる方法は分かっているのだ。

 まぁ、言葉にするのは簡単だが実際にこなすとなると大変キツい。

 

「はぁ…はぁ…はぁ……」

「よし、今日はここまでだ。全員ちゃんとストレッチをしてからあがるように」

 

 相島先生の言葉に全員はいと返事をしつつ。帰宅の準備をそこそこに始める。

 

「慎司、ちょっとこっちこい」

「はい」

 

 ストレッチをしっかりやりながら息を整え終わる頃に相島先生に別室に呼ばれる。もう一度しっかり深呼吸してから部屋に入った。

 

「調子は大丈夫か?」

 

 開口一番そんな事を聞かれた。

 

「はい、大丈夫です」

「最近少しオーバーワーク気味だ。追い込み期間のつもりなんだろうが程々にな」

「はい、気をつけます」

 

 確かに少し気合が空回りして張り切りすぎていた節はあったがまさか直接言われる程だとは。気をつけよう。

 

「ふん、本当にお前は小学3年には見えないな」

「………………」

「いや、それはいいんだ……しっかりしてる事は悪い事じゃない。ただ、病的なまでに何でそんなに練習に真剣なのか気になってな」

「真剣に練習をやるのは当然の事です」

「その通りだ。だが、お前は真剣何てものじゃない雰囲気で取り組んでいるみたいだがな」

「………………」

 

 確かに自主練を含めれば小学生がこなすメニュー量じゃない。他の子とは取り組む姿勢も何もかもが年齢相応じゃないことも自覚はある。

 

「それこそ悪い事じゃないんだがな。時々私も心配になるのさ。お前が何の為にそんな鬼気迫るように柔道に取り組むのかは知らないし興味もないが」

 

 相島先生は俺の肩にポンッとで俺を置いて言い放った。

 

「しっかり線引きはしろ。努力と無茶は違う物だぞ、慎司」

「…………」

「お前の事だ、それくらい理解しているだろう?」

「…………はい」

「ならいい」

 

  時間を取らして悪かったなとの一言で退室を促され俺は一礼して部屋を後にしようとする。

 

「慎司、最後にひとついいか?」

「っ?勿論です」

 

 ドアノブに手をかけた所でそう言われ振り返った。

 

「……勝つための努力もいい。強くなる為に真剣になるのもいい。ただ、柔道を楽しむ事だけは忘れるなよ」

「っ!………はい!失礼しました」

 

 その言葉に背中を押された気がして、そのまま部屋を出て道場を後にする。自転車で道中帰路につきながら相島先生から貰った言葉について考える。

 

「楽しんでなかったのかなぁ………」

 

 何てぼやく。先生には何で柔道を始めたか興味ないと言われたがあえて明言するならば、前世での無念からという気持ちが多い。

 前にも言ったが、俺にとっての今の人生は荒瀬慎司の人生というよりは山宮太郎の続きの人生という気持ちが大きい。だから前世で後悔したことを今度は後悔したくないと思って日々を生きてる。柔道は前に大学で推薦があったが色々事情があり、続ける選択肢を取らなかった。その時は良かったが後々俺は続ける事をしなかった事を後悔した。だから今、こうやって頑張っている。

 しかし、楽しんでいなかった訳ではないと思う。けど、薄れていたのかもしれない。前世の小学3年生の頃より今の俺の方が強いという自信は大いにある。だが、実は情けないながら現状結果らしい結果は出せてない。この一年半で大会は何度か出たが成績は下から数えた方が早い順位ばかりだ。いくら体や技術がリセットされたとは言え前世記憶がある俺には歯痒い結果だ。結果に拘るのは悪くないが根本的に楽しむ事も忘れないようにしないと。そうだよな、だって前世で10年も辛い練習を続けられたのは結局のところ振り返ってみると楽しかったて思えてたんだからって分かってたから。

 

 そこのところ直接ちゃんと言ってくれる相島先生には感謝しかない。よし、気を取り直して頑張ろう。楽しんでな。体はすごく疲れていたが、足取りはとても軽かった。

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………。

 

 

 

 

 それから追い込み練習を一日挟んで、またその次の日は調整練習。そして、とうとう大会当日となった。海鳴市内の規模は小さいがそれでもそれなりの道場から参加者が集まる大会だ。ここ数日も相変わらず疲れた様子のなのはちゃんが心配になったがまぁ、他人を心配している余裕はない。すでに開会式を終え試合は続々とはじまり俺も会場入りをしている。今日は俺の家族だけでなく、高町一家やアリサちゃんやすずかちゃんも応援しに来てくれている。気合も一層入るという物だ。

 

「頑張ってね慎司君!」

「いっぱい応援するからね!」

「ま、せいぜい頑張んなさいよ」

 

 なのはちゃん、すずかちゃん、アリサちゃんから三者三様の激励を貰う。

 

「おう………」

 

 そう一言だけ言って。俺は帯を締め直してからアップに入った。そんな様子を見て少し驚く様子を見せる3人。

 

「やっぱり柔道やってる時の慎司君は人が変わるね」

「普段がふざけすぎなだけじゃない?」

「それでも真剣な慎司君は新鮮だよね」

 

 全部聞こえてるよバカたれども。わざとかな?集中させなさいよ全く。あー、少し緊張してきた。手足を動かしたりジャンプしたりして落ち着かない気持ちを誤魔化す。すると、トントンと肩を叩かれた。

 

「なのはちゃん?」

 

 いつもとは違って遠慮した様子で俺を窺うなのはちゃん。どうしたの?正直もうすぐ試合だからあんまり構ってられないんだが。そう口に出す前になのはちゃんが俺の顔を両手で包んでジッと見つめてくる。

 

「頑張れ、慎司君!慎司君なら大丈夫だよ、練習いっぱい頑張ったもん。だから、絶対大丈夫!」

 

 そう言って慌てたようにばっと両手を離して、邪魔してごめんねと言い残してそそくさと観客席戻っていった。

 

「………なっさけねぇ」

 

 緊張してるのを見透かされて小学生に励まされる29歳とか情けなさすぎる。恥ずかしい、いやまって超恥ずかしい。情けなさすぎて恥ずかしいんだが!まぁでも……。

 

「ありがとう…………」

 

 そこまでしてくれたなのはちゃんに、見せてやりたくなった。俺がかっこよく優勝する瞬間を。会場スタッフに名前を呼ばれる。さて、もう俺の番か………。

 

「やるぞっ」

 

 気合い直しに両手で自身の頬をパチーンと叩く。ジンジンとする心地の良い痛みと共に俺は一礼をして畳の上に立った。開始線まで移動し相手と相対してまた一礼。両足を互いに順に踏み出す。あとは審判の開始の合図で試合が始まる。

 小学生の柔道の試合は基本的に学年で分けられる事が多い。団体戦なんかはその限りではないが基本的に個人戦である今大会でも学年ごとに分けられて試合をする。

 しかし、本来一般ルールの柔道で適用される体重別で分ける事は小学生の大会ではあまりない。この大会も体重でクラス分けをしない為どうしても体格差は出る。相対する相手は俺の倍はあるんじゃないかと錯覚するくらいの小学3年生にしては巨漢と言える相手だった。

 俺は恵まれてると言うべきか、平均的な身長と体重の体型だ。対する相手は巨漢、しかも今大会の3年生の部での優勝候補というか優勝を確実視されてる相手だった。一回戦目から当たるとは運がいいのか悪いのか。だが、相手なんて関係ない………俺は俺の柔道をぶつけるだけだ。

 

『始め!』

 

 間に立つ審判の合図に互いに気合いの声と共に動き出す。真っ直ぐ直線にこちらに突っ込んでくる相手、俺はそれをいないして自分の優位な組み手に持ち込んだ!

 

「よし!いいぞ慎司!」

 

 近くの監督席から相島先生の声が響いたが生憎集中している俺の耳には届かなかった。

 

「っ!?」

 

 優位になるのも束の間、俺の道着を中途半端に掴んできた相手。本来この状態では力を発揮できず断然俺の優勢は崩れない。そのはずだった。

 

「オラァ!」

「なっ!?」

 

 相手選手の吐き出した声と共に俺は振り回されて宙を舞った。そのまま畳にうつ伏せで叩きつけられる。

 

「がはっ!」

 

 肺から空気が漏れる。何だ、何だ今のは!?何つー力だ。小学3年かこいつ本当に?馬鹿力も大概にしとけよ………こんなん柔道じゃねぇ。通用するのは低学年の間だけだ、そんな柔道スタイルだった。しかし、今の俺にはだいぶ脅威だ。何故なら相手は無理な組み手でも俺を力でねじ伏せられるほどの馬鹿力を持ってる。そこまでの力となるともはや俺の今の技術を動員させてもその馬鹿力で捻じ伏せられる。それくらいの力を感じた。

 

「くそがっ」

 

 1人静かに呟く。ふざけた柔道しやがって、しかもこいつ俺を叩きつけた瞬間嫌な笑みを浮かべやがった。完全に下に見てるな俺のことを。言いだろう、ぶん投げてやるよ。挑発には乗るな、あくまで冷静にだ!審判の待てがかかり再び開始戦に戻る両者。そして再び開始を告げる声で動き出す。また直線に突っ込んでくる相手。俺はさらに組み手争いを厳しく展開、今度は何もさせねぇ!

 完全に相手の組み手を封じ。俺のやりやすい状況を作る、しかし。

 

「ふん!」

「くっ」

 

 力尽くで振り解かれる。さらにその余波でバランスを崩して隙が出来てしまった。相手はそれを突いてガッツリ組んでくる。そして力と体重に身を任せた払腰を俺に仕掛けてきた。

 

「まずい!」

 

 相島先生の声が会場に響く。いや、やらせねぇ!俺は体捌きで相手の技の威力を殺して何とか持ち堪える。しかし更に力尽くでまた体を引っ張られうつ伏せで叩きつけられてしまった。審判の待てがかかり再び開始線に、すぐ開始合図はなく散々相手に振り回させれ乱れた俺の道着を整えるよう指示が。呼吸を整えながら道着と帯を直しつつ考える。

 さてどうするか、あまりにも体格差とパワーの差があり過ぎる。何だこのクソゲー、やってられるかと言いたいところだがそれも柔道という物だ。そして、本当に強い奴はそういう相手にだって勝つもんだ。思考を止めるな、相手に応戦しつつ考えろ。

 

「慎司君!!」

 

 試合の途中だってのに応援席のなのはちゃんの声が妙に鮮明に届いた。チラッと様子を伺うと父さんが母さんが……士郎さんが桃子さんが…恭也さんが美由希さんが……アリサちゃんが、すずかちゃんが、そして……なのはちゃんが必死に大声で応援してくれていた。

 馬鹿野郎が、情けない姿しか見せてない俺をそんな必死に応援するなよ。もっと………勝ちたくなるじゃないか。

 

『始め!』

 

 服装を整え終わるのを確認した審判がすかさず開始の宣言。

 

「いけーーー!慎司君ーーーーー!!」

 

 あぁ、なのはちゃん。よく見てろよ、驚かしてやる。

 なのはちゃんに後押しされ今まで相手の様子を見て動いていた俺は相手よりも早く動き出した。無謀にも見える正面特攻。

 互いにガッツリと組み合い五分五分の組み手に。しかし、相手はこれはチャンスと力尽くで先ほどと同じ払腰。普段から力と体重で投げていたのだろう………練度を感じない払腰だった。俺はそれを見越して振り回されるよりも前に自分が振り回される方向に跳んだ。

 

「っ!?」

 

 力を空回りさせて何の警戒もしてなかった相手は自身の行動で勝手にバランスを崩す。俺を振り回そうとした力はぶつけどころを失い相手から見て前のめりの形でバランスを崩す。

 柔道には『柔よく剛を制す』という言葉がある。柔道の技というのは相手の力を利用する事で小さい人でも大きい人を豪快に投げ飛ばす事が出来るという今の状況にはうってつけの言葉だ。

 相手が勝手に力を空回りさせた今、その反動を利用する。重量級が自分より小さな相手と試合するとき足技を警戒するのが基本だ。自分よりもら大きい選手を大技で投げ飛ばすのは至難だからだ。小手先足技で相手を崩して投げる。それも基本にのっとった自分より大きい選手を相手にする時の基本でもある。が、あえて俺は大技を仕掛ける。襟を掴んでいた右手を相手の背中に回して自分の腰に相手を乗せて浮かせ、体を捻って相手から見て前に倒す大技、大腰だ。

 投げる方向にバランスを崩しているとはいえこの巨漢を大技で投げるのは至難だ。だが確実に一本を取るために大技で仕掛けた。そして確信があった。俺は、やれると。自信があったのだ。何故なら………いやというほど頑張ってきた辛い練習は…それを精一杯こなした事は自分が一番よく知っているから………それがその頑張ってきた分が、それで勝ち取った俺の技術や技は俺にとっての確固たる自信だからだ!

 

「おおおおおおおおおおお!!!」

 

 相手の体が持ち上がる、腕も腰も体全部を使って相手を背中から叩きつける!

 

 

 ドォン!

 

 

 その巨体が畳に叩きつけられ会場は一瞬静寂が訪れた。そしてすぐにどよめきに変わる。あの巨体を投げ飛ばした、しかも大腰で!そんな顔を柔道をよく知っている人達はしていた。そして

 

『一本!それまで』

 

 審判のその宣言を皮切りに会場から大歓声が響き渡った。まるで優勝したかのような大歓声。

 

「はぁ………はぁ……」

 

 あー、くそ。普段の何倍も疲れた気分だ。けど試合はまだ続く。切り替えて頑張ろう。しっかり礼法をしてから気持ちを一旦リセットして一度畳から降りる。応援席をチラッと見れば大きな拍手で俺を祝福してくれているなのはちゃん達。

 全力で取り組んでいることにこうやって全力応援されるのはとても嬉しい物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、一回戦以降の相手はその優勝候補の巨漢には遠く及ばず、俺はオール一本勝ちで念願の初優勝を飾った。

 






 柔道描写中かなり基本のルールやら説明を端折ったので経験者じゃければ分かんない所や何で?だ所があるかも。そもそも、俺の文才で伝わってるか不安であるがまぁそれはこれからも精進して頑張ろう。次回からちゃんとなのはちゃんが魔法少女すると思うのでよろしくです。

 話の途中のトレーニングや柔道についての言及は別に専門家の意見とかと同じかどうかも知らないので鵜呑みにしないでください。と言っても僕の経験則でもあるので嘘っぱちてわけでもないと思うのでそこら辺はご理解お願いいたします。

 感想、評価、閲覧ありがとうございます。描写等について質問あったら遠慮なくどうぞ。


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言葉は無くとも



 メッセで誰それをヒロインにしてほしいとの要望が過去にありましたがそう言ったストーリー展開の意見は自分が書きたい物を書くので申し訳ありませんが答えられませんのであしからず。
 


 

 

 

 

 

 

「「「かんぱーい!」」」

 

 ガチンと弱くない力でグラスをぶつけ合う音が響き渡る。ジョッキを持った大人達とジュースの入ったコップで優しく打ち合うのとの二つに分かれての乾杯だ。何の会かと言われれば俺の優勝祝いである。何とか今世で初めての小さい大会とはいえ初優勝を飾ることが出来た俺。あまりに表に出さないようにしていたがやはり前世との実力とのギャップでずっと思い悩んでいたのだ。今世で柔道始めて一年半、前世と合わせて十数年。ようやく結果らしい結果が出せて俺も安堵している。

 場所は高町家が翠屋を貸切にしてくれて今日応援に来てくていた俺の両親に、高町一家に加えてアリサちゃんとすずかちゃんが参加している。

 大会のあと所属する道場の先生である相島先生に挨拶に向かった。

 

「よくやったな。その調子で頑張れよ、楽しむ事を忘れずにな」

 

 あんまり褒める事をしない相島先生からのぶっきらぼうな祝辞に胸を熱くしつつ頭下げて礼をした。残念ながら、邪魔しちゃ悪いとこの会の参加は断っていたとパパンから聞いてる。

 

「あっははー!士郎さーん!うちの息子が……息子がついにやってやりましたよーー!」

 

 パパンもう酔ってる。士郎さんにめっちゃからみ酒。肩組んで振り回すな、こっちも恥ずかしいし士郎さんに迷惑でしょうに。と思いきや士郎さんも同じようにガッツリとうちのパパンと肩を組み。空いた手でジョッキグラスを掲げて

 

「はい!はいっ!おめでとうございます!!慎司君ならやってくれると私も信じていましたとも!おめでとおおお!慎司君ーーー!」

 

 あ、この人もめっちゃ酔ってる。すげぇ、乾杯してから10分くらいしか経ってないのにもう2人でビール瓶5本くらい開けてる。ていうかラッパ飲みしてるよ。飛び火が来る前に離れておこう。でもまぁ、あんなに自分を真っ直ぐにそして嬉しそうに祝福してくれていると思うと俺も嬉しいような照れ臭いような複雑な気分だった。

 

「あら、慎司君。改めて優勝おめでとう」

「ありがとうございます、桃子さん」

 

 すっかり仲良しママ友である俺のママンと2人でパーティを楽しんでる桃子さん。あ、2人ともお酒飲んでる。

 

「ママン普段あんまりお酒飲まないのに珍しいね」

「たまにはいいじゃないのよ………」

 

 いや、文句あるわけじゃ無いけどさ。パパンみたいに悪酔いしないか心配なのよ。

 

「うふふ、慎司君が柔道で大活躍したから嬉しいのよ」

「も、桃子さん……」

 

 と困ったように笑うママン。はぁ〜、ここでもまたこの照れ臭さを味わう羽目に。

 

「デザートに慎司君が楽しみにしてた新作ケーキの完成品があるから、期待しててね」

 

 マジで!?桃子さん新作ケーキとかめっちゃ食いたい。いつも新作出るたびに食わせてもらってたけど今回はだいぶ時間がかかっていたみたいで心配していたのだが。

 

「はい!めっちゃ楽しみにしてます!」

 

 俺の言葉に桃子さんは嬉しそうに微笑んでくれていた。さてさて、次はあの2人だ。

 

「美由希さん、恭也さん、今日は応援ありがとうございました」

「やぁ、慎司君。慎司君こそ優勝おめでとう」

「大活躍だったね〜、カッコ良かったよ」

 

 実は2人には頭が上がらない事情がある。柔道始めてすぐの頃。前世の柔道に対する知識量と現実の自分の体力のギャップで自分の思い描く練習メニューをこなせず思い悩んでいた時に2人に相談した事があった。

 詳しくは知らないが2人は父親の士郎さんの家系から続く剣術の訓練を日夜行なっているらしい。その知識をお借りして基礎体力作りに協力して貰ったりしてたのだ。

 

「優勝出来たのも2人のお陰です。マジで感謝感激雨あられです」

「何言ってるんだ、頑張ったのは慎司君だろ?」

「そうだよ〜、練習だけじゃなくて自主練だって凄く頑張ってたじゃん!慎司君の努力の成果だよ」

 

 ありがとうございますともう一度頭を下げる。でもやっぱり2人の協力はとても心強かった。本当に感謝しているのだ。

 

「たまには道場に顔を出してくれよ、慎司君用のトレーニングメニュー考えておくから」

「ははは、お手柔らかにお願いしますよ」

 

 近いうちに絶対行こう。

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 さてと、とりあえずは全部まわったかな。俺のお祝いで開いてくれているパーティなのだ。主役は全部の席に挨拶に伺うのが礼儀かなと思って各々話しかけに行っていたのだが。まぁ、パパンと士郎さんは危険を感じた故様子見で済ましたが。

 

「ふははははは料理がうめえええええ!!」

「静かに食べなさいよ」

 

 自分の席に戻って料理に舌鼓。子供組用に用意された席なのでアリサちゃんにすずかちゃん。そしてなのはちゃんも同席だ。アリサちゃんのツッコミ通り品が無いのはよろしく無いのですぐやめた。

 

「慎司君、改めて優勝おめでとう!すっごくカッコ良かったよ。ね?アリサちゃん」

「ふん、まぁ確かに……普段のあんたからじゃ想像できないくらいカッコよかったわね。まぁ、その………優勝おめでとう」

 

 すずかちゃんとアリサちゃんからの祝福に胸が熱くなるのを感じつつ、照れ隠しに

 

「お?ツンデレか?ツンデレアリサちゃんが爆誕か?」

「くっ、今日はあんたのお祝いだから殺すのは明日までに取っといてあげるわ」

 

 あれま、遠慮しなくていいのに。律儀なのねアリサちゃん。

 

「すずかちゃんも、俺の事カッコいいって?全くもう惚れ直しちゃったか?照れるなーもう」

「お料理おいしいね慎司君」

「わーお、相変わらずのスルースキル!」

 

 今日くらい乗ってくれよー、ブーブー!

 

「慎司君!優勝おめでとう!」

 

 とふざけたやり取りをしてたら後ろからなのはちゃんが興奮気味に抱きついてきた。おおお、どうした?そんな甘えたがりキャラだったか?

 

「本当にすごい!すごいよ慎司君!!」

「なのはちゃん試合終わってからずっとその調子じゃん」

 

 まだそんなテンション高かったのかよ。

 

「だってだって!あんな大きな人をカッコよくバーンって!バーンって投げちゃったんだよ!凄いよ!!」

 

 何かなのはちゃんらしからぬテンションの高さに少し困惑する。

 

「ずっと練習頑張ってたもんね!慎司君」

「うんまぁ、頑張るのは当たり前なんだけど」

 

 そんな褒めようとするな。照れ臭すぎて死ぬ。恥ずか死ぬ。

 

「とにかく、なのはも凄く嬉しいの!カッコ良かったよ慎司君」

「……………」

「柔道やってる慎司君はやっぱり普段と全然違うもんね、凄いよ〜」

「……………」

「凄かったよ一回戦の相手投げた時!大腰?だっけ?慎司君あのかっこいい技、惚れ惚れしちゃったもん!」

「………………クソがっ」

「なんで!?」

 

 いい加減落ち着けよと意味を込めてなのはちゃんのほっぺぐーにぐーにと過去史上1番に引っ張る。なのはちゃんは痛い痛いとポカポカしてくるが俺もだいぶ恥ずかしかったので今回は長めに引っ張り続ける。

 

「恥ずかしいのは分かるけど許してあげて慎司君、それくらいなのはちゃんも感動しちゃったんだよ」

 

 すずかちゃんそう言われパッと頬を離してあげる。なのはちゃんはいた〜いと言いながら俺をじろ〜と見ながら頬をさすっていた。

 

「まぁ……3人もありがとうな。わざわざ試合応援に来てくれてよ」

 

 前世の時はわざわざ俺の柔道の試合に学校の友達が遥々応援に来てくれた事なんて無かった。まぁそれが普通だ、俺もわざわざ学校の友達がやってる習い事の応援になんか行った事無かったし。だが、こいつらは純粋な気持ちで俺の試合に駆けつけて全力で応援してくれた。

 アリサちゃんが人目を気にせず大声を上げて応援してくれていた。すずかちゃんが大きな声を出す事は慣れていないのに必死に応援してくれていた。なのはちゃんが俺の緊張を緩めて、あまつさえ声援で俺の背中を押してくれた。綺麗事なんかじゃ無い、この3人の応援おかげで俺は優勝出来たんだなって本心で思える。

 

「何言ってんのよ、友達なんだから当然でしょ」

「そうだよ、応援したくて来ただけだから」

 

 アリサちゃんは肩を竦めて、すずかちゃんは笑顔でそう言ってくれた。

 

「うん!次の大会も絶対応援しにいくからね!」

 

 なのはちゃんの眩しいくらいの屈託ない笑顔に俺も頬が緩む。あぁ、全く……恵まれてるな俺は。大切にしたい。この関係を、この友情を……俺はずっと大切にしていきたい。

 

「あぁ、楽しみにしておいてくれよ」

 

 今度はもっとかっこいい所、見せてやるからさ。もっと練習頑張って、もっと強くなって皆んなが誇ってくれるような柔道家になるよ。今度こそな………。

 

 

 

 

 

 

 

 パーティもそろそろお開き、おかげさまでとても楽しい1日なった。桃子さんの新作ケーキは美味かったし、酔っぱらったパパ組に捕まってもみくちゃにされたりはしたがまぁそれはいい。もう流石に帰らないといけない時間になったアリサちゃんとすずかちゃんは車の迎えが来てお別れの流れだ。全員で外で見送ってる最中突然帰ろうとしていたアリサちゃんとすずかちゃん、そして俺の隣にいたなのはちゃん3人が俺に対面する形で両手を後ろに組んでもじもじとしはじめた。

 

「えっとね、これ!」

「私達から慎司君に優勝祝いだよ」

「ありがたく受けとりなさい」

 

 なのはちゃん、すずかちゃん、アリサちゃんの順に何かを手渡される。

 

「これ……メダルか」

 

 折り紙で作られたメダル。ちゃんと首にかけられるよう紐も付いていた。3人分のメダルだった。なのはちゃんは桃色の折り紙、すずかちゃんは紫色の折り紙、アリサちゃんは金色の折り紙でそれぞれメダル作ってくれたみたいだ。

 

「これ、いつの間に」

「えへへ、3人で準備したんだ………慎司君優勝するって信じてたから」

 

 なのはのその言葉に照れ臭そうにするすずかちゃんとアリサちゃん。不格好に折り跡が付いていて他人から見れば安っぽく見えるそれは俺にはとても輝いて見えた。

 

「慎司君はちゃんとした金メダル貰ったからこれじゃちょっと物足りないかも知れないけど」

「そんな事ねぇ………」

 

 なのはの言葉を遮る。

 

「このメダルは………3人がくれたこのメダルは大会で貰ったメダルよりずっとずっと嬉しい」

 

 胸が熱くなる、俺の優勝を信じてこんなものを用意してくれたなんて…嬉しいに決まってるじゃんか。

 

「ありがとう、アリサちゃん……すずかちゃん……なのはちゃん」

 

 俺の飾らない言葉に3人を含めたその場の全員が笑顔を浮かべてくれていた。大切にしよう、このメダルもこれをくれた3人も……皆んな……ずっと大切に。

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

 

 慎司君が優勝してからしばらく経って。私、高町なのははユーノ君のお手伝いとしてジュエルシード集めに精を出していました。これまでに集めたジュエルシードは5つ。順調なのかどうかは分からないけど私も魔法少女として様になって来た今日この頃、連日ジュエルシード集めで私は疲れ切っていた。

 ユーノ君からの提案もあり今日は英気を養うためお休みに。前からの約束で今日は近くのグラウンドで行われる私のお父さんが監督とオーナーを務めるサッカーチーム………翠屋JFCの試合をアリサちゃんとすずかちゃん3人で応援しに行こうという。もう少しで試合開始の時刻、私を含めた3人も応援ベンチに座って準備完了。

 

「本当に大丈夫かな?」

 

 ふとすずかちゃんがそう呟く。

 

「まぁ………大丈夫でしょ……多分」

 

 続けてアリサちゃんもそんな事をつぶやく。私も2人と同じような心境だ。ただのサッカーの試合の応援なんだけど………私達を不安にさせているとある元凶。

 

「よっしゃああああ!!しまって行くぞゴラァ!」

「「「おおおおおおおおお!!」」」

 

 コートの真ん中で叫んでいるあの友人が私達に無駄な心配をさせています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しまって行くぞゴラァ!」

「「「おおおおおおおおお!!」」」

 

 俺の雄叫びに呼応するチームメイト達。今日は士郎さんがコーチをやってるサッカーチームの試合の日。俺もなのはちゃん達と応援しに行く約束をしていたのだが。急きょ士郎さんのチームに流行病で何人か欠員が出てしまったそうな。1人、人数が足りなくなったらしく、士郎さんに良ければと助っ人を頼まれて今日参戦した次第である。

 あ、なのはちゃん達が不安そうにこっち見てる。そりゃそうだ俺初心者だし。前世でも学校の授業でしかサッカーやってなかったし。

 でも何故か皆んな俺を中心にしてくるし。さっきの雄叫びもチームメイトが気合を入れさせてくれなんて言うから叫んだんだが。

 

「慎司!今日は頼むぜ!」

「来てくれてありがとうな!」

 

 チーム内に何人か顔見知りもいる。幼稚園一緒だった奴とか学校で顔合わせた事ある奴とか。地元のチームだしおかしな事じゃないか。そんなわけでプレイには期待出来ないがチームワークくらいは維持させたい。おっとそろそろ試合開始だ。ポジションにつきホイッスルで試合が始まる。

 

「いくぞテメェらああああああああああああ!!!」

 

 さっきのように呼応するチームメイト達。いくぜ、初心者だけども!せっかく助っ人として参加したんだ、活躍したらぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

「なーんて上手くいくわけねぇよなぁ」

 

 試合が終わってお疲れ様として翠屋に移動して席につく。チームの皆んなと応援してくれた3人も一緒だ。試合自体は2ー0で俺が助っ人した士郎さんのチームの勝利で終わった。終わったのだが、俺はというと前半も後半もほとんどボールに触れる事すら出来ず。何も貢献できずに終わる始末である。

 

「不思議だよね、あんなにチーム盛り上げてたのに試合で殆ど何もできてなかったもんね」

「ぐはっ」

 

 すずかちゃんの悪意なき言葉が刺さる。俺の反応を見てごめん、そんなつもりじゃと慌ててるすずかちゃん。俺だって不思議だよ。初心者同士でやるならともかく、本格的にやってる奴らとプレイするとこうも手も足も出ないとは。

 

「ま、あんた男子からは何故か人気みたいだし。勢いだけはつけれたから助っ人した甲斐もあったんじゃない?」

 

 珍しくアリサちゃんが励ましてくれる。でも今は逆に辛かった。でも俺男子に人気なんだ。なんだろう、嬉しくねぇ。

 

「ちなみに女子達の俺への評価は?」

「「「うるさくて鬱陶しい奴」」」

「そこ3人でハモっちゃうんだ」

 

 まぁ、分かってるよ。あんまり関わりのない女子だと俺への評価なんてそんなもんだろう。君たち3人はそれだけじゃないだろうけど。そうだよね?ね?

 

「でもお父さん喜んでたよ?慎司君が助っ人に来てくれて」

「それでもあそこまでコテンパンだと少しは萎えるさ」

「慎司君運動神経は悪くないのにね」

「だとしても流石に本職連中と渡り合うのは無理な話だったみたいだなぁ」

 

 まぁそりゃそうだよな。柔道やってる俺としても逆の立場だったらぽっと出の助っ人が活躍しようだなんておこがましい話だしな。なんて俺が落ち込んでるいるのをよそに食事会は終わりチームメイトが変わる変わる俺に一言声をかけて解散して行く。

 

「じゃあな慎司!また来いよ」

「今度は練習にも来いよ」

「次はボール、触れるといいな」

 

 好き放題言いやがって。といっても本心で馬鹿にして言ってくる奴は1人もいなかった。皆んないい奴だな。次助っ人あるか知らんけど少しくらい勉強はしておこうかな。

 

「…………………」

 

 ふとなのはちゃんを見ると怪訝な顔をして一点を見つめていた。視線の先を見るとそこにいたのは今日の試合で俺が助っ人したチームのキーパーを務めていた子だった。確かに、今日の試合では大活躍だったなあの子。もしや………

 

「惚れちゃったか?」

「ひゃっ!」

 

 耳に吐息をかけるような言い方で伝えてみる。

 

「な、何が?」

「あのキーパーの子を見てたからさ、なのはちゃん今日の試合見て惚れちまったのかと」

 

 このちょろインめ。

 

「ち、違うよっ。そうじゃなくて………」

 

 でしょうね、そんな恋する乙女とかそんな表情じゃなかったしね。なのはちゃんは誰か好きな人とかいねーのかな?いるんならめっちゃからかってはずかしめてから応援するのに。

 いっぱい照れるなのはちゃんを見たい。

 

「気のせい………だよね」

 

 なのはちゃんのそんな呟きを俺は馬鹿な考え事で聞き逃していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………。

 

 

 

 

 その後士郎さんに挨拶をしてから解散。午後からはアリサちゃんとすずかちゃんはそれぞれ予定があり、俺も相島先生と自主練をする予定があり皆んな解散だ。なのはちゃんも家でゆっくりすると言う。まぁ、相変わらず疲れた様子を見せてるなのはちゃんだしいい加減心配だ。少しでも休んでくれれば嬉しい。

 まぁ、俺も他人の心配ばかりしてる場合じゃないけどな。少し先とは言え柔道の試合も控えている、今度は先日の大会よりも規模が大きい大会だ。この間の大会が市内の大会で今度は県大会と言ったところだ。そのために休日返上の自主練だ。

 

「慎司ー、相島先生から電話」

 

 家に帰ってすぐ道着に着替えようとしたところママンにそう声をかけられる。子機を渡され応答すると。

 

「あ、はい。大丈夫です、分かりました。またよろしくお願いします」

 

 電話を切ってママンに渡す。

 

「先生何だって?」

「用事が出来ちゃって練習付き合えないってさ」

 

 まぁ、仕方ないな。普段から暇を見て俺の練習に付き添いしてくれているしそう言う時もあろう。けど、相手がいないのに道場に行っても仕方ない。なら、今日はランニングでもしようか。着替えようとした道着をしまい今度は運動着に着替えて外に出る。

 

「車に気をつけなよー」

「うぃーす」

 

 ママン、それは前世での俺の死因だから。あんまり言わないで、トラウマなの。

 

 

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

 

 車に十分に注意して当てもなく走り続ける。ていうかここどこだろう。海鳴出ちゃったよ、隣町まで走ってしまったよ。まぁ、道は覚えてるから迷子という訳ではないけど。そろそろ戻ろう、何て呑気に海鳴に向かってまた走る。その道中だった、信じられないものを見た。

 

「なんじゃこりゃ……………」

 

 木。でっかい木がある。いや、普通に土から生えた木とかじゃなくて道路や街を破壊して生えてる大木というのも生易しい木が遠くから見えた。いや、さっきまで絶対なかったろ?どいう事だよ。野次馬根性で近づいてみるか?けど危険かも知れないしな…………。街も大騒ぎだろこれ。

 

「特殊な化学実験でもしたのか?」

 

 映画かよ。なんて言ってる場合じゃなく。そういえば街の方に誰か俺の知り合いとかいないだろうな。アリサちゃんやすずかちゃんがどこに出かけているか聞いてないし。急に不安になる。携帯は…………くそ、走るのに邪魔で家に置いてきちまった。

 

「てっ、うわ!」

 

 足下が揺れたかと思うと俺の目と鼻の先で急に木が生え始め、成長期なんか目じゃないと言わんばかりにドンドン成長して馬鹿みたいに大きくなる。おい、現在進行形で侵食中かよ。

 

「この!」

 

 ムカついたので蹴ってみた。特に反応もなく俺の足が痛くなっただけだった。どうしよう、そこらへんにチェーンソー落ちてないかな。

 

「まいったな………」

 

 皆んな大丈夫かな………巻き込まれてないと良いけど。とりあえず木からは離れて家に向かって動く。うわ、あんなとこからも生えてやがる。木を避けながらある程度進んだ頃。

 

「今度はなんだ?うわっ」

 

 急に辺りに強い光が差し込む。とっさに目を閉じて腕で隠す。その光はここだけでなく広範囲で街を包むように発せられた。何なんだ一体、今日はびっくりなことばっかだ。

 光がおさまったのを感じ目を開けると。

 

「………………何なんだ一体」

 

 さっきまであちこちに生えて街を破壊していた大木達が綺麗さっぱり無くなっていた。どういう事だ?幻か?いや、幻じゃねぇ。木によって破壊された建物や道路はそのままだった。

 

「………帰るか」

 

 途方にくれつつも、もう走る気も起きず歩いて家に向かった。

 

 

 

 

 

 

 すっかり陽は傾き夕日が海鳴をオレンジ色に染め上げる頃。破壊された瓦礫なんかをゆっくりとした足取りで避けながなら帰ってる道中だった。思わぬ人物を見かける。

 

「なのはちゃん?」

 

 俯いていて表情は窺えないがなのはちゃんがとぼとぼと歩きていた。方向的に帰ってる途中なのだろうか、家でゆっくりすると聞いていたが用事でも出来たのか?肩にはなのはちゃんがお世話しているフェレットのユーノの姿も。

 

「よっ!なのはちゃん」

 

 何はともあれ無事なようで何よりだ。それを嬉しく思って明るく声をかけたのだが

 

「あ、し……慎司君」

「………………」

 

 下を向いていたなのはちゃんがこちらを向く。その表情はとても暗かった。あの日、5歳の頃俺と出会った時の表情と重なって見えるくらいの暗い顔をしていた。

 

「ど、どうしたんだよ?怪我でもしたのか?」

 

 あの謎の大木の暴走に巻き込まれたのか?

まさか、家族が巻き込まれた?どれも違うと首を振るなのはちゃん。

 

「な、何でもないの。大丈夫だから」

 

 この感じは………ここ最近のなのはちゃんの様子は気になってはいたがそれに関する事だと思われた。時折思い悩むような素振りをしていた。いつも元気だったのによく疲れたような顔をしていた。ずっと心配で、つい目で追って気になっていた。

 なのはちゃんと知り合って4年ほどか、その間に確かな強い絆が出来たと俺は自負している。しかし、なのはちゃんは何も言わない。言えないのか、言わないのか……分からないけど。そんな短くない付き合いの俺にも言えない事。だから、俺はそれについて自分から聞こうだなんて思わなかったし、そっとしておくのも友達の役目だと思っていた。

 それは今も変わらない、だってそんな顔をして明らかな悲しんでいてどん底にいても、俺には何でもないと言ってくるなのはちゃんが少し遠くに感じたから。不用意に俺が関わっていけないような気がして、悩みがあるなら聞くなんて口が裂けても言えなかった。あの時とは状況が違うから。

 

「そっか………」

 

 だからそういう風に答えた。何でもないなんて嘘だけど、俺は待つと決めた。それは曲げないし……なのはちゃんが自分で解決したいと思っている事でもあるかもしれないから。余計な事は言わない。

 

「…………………」

「…………………」

 

 何の言葉も発せず2人並んで帰路につく。明らかな街の異常な状況に言及する事はいくらでもあるのだがお互いそれについてすら無言だった。

 なのはちゃんの悩みに今回の騒動は関係あるのだろうか?それは考えすぎか、まるで魔法のような珍事件だしな。

 

「っ」

 

 なのはちゃんの手を取った。なのはちゃんは少しピクッと反応していたけど何も言ってこなかった。確かに、俺は何も知らないし余計な事を言う気もする気もない。だけど、伝えたかった。言葉ではなく手を繋いで伝えたかった。

 俺は何も知らないし……きっと力になれない。そんな気がする。ただの9歳の少年で精神が少し大人だけのちっぽけなバカだ。出来る事なんてたかが知れてる。だけど、繋いだ手をギュッとして俺は心で想う。

 一緒にいる。分からないし、どうすればなのはちゃんが喜ぶか知らないけど………せめて一緒にいると。支えると、今も4年前も変わらず支えてあげたいと手を繋ぐ事で伝える。

 

「………………」

 

 なのはちゃんは何も言ってこない。けど、俺が必死に想いを伝ようとしている握った手をギュっと握り返してくれた。ただ歩く、夕陽に照らされ歩く。

 

「なのはちゃん………」

「………ん?」

「……………俺ん家でゲームでもやっか」

「…………うん」

 

 何も言わない、聞かない……でも支えてあげたい。元気のない時はいっぱい遊ぶのに限る。きっとそんな思いは伝わってると信じてる。心なしか、なのはちゃんの肩に乗ってるユーノも嬉しそうな顔をしていた。

 

「……………ありがとう」

 

 あぁ、気にすんな。

 

 

 

…………荒瀬慎司の預かり知らぬ所で高町なのはは何かしら大事な決意をした。自分の意思で、自分なりの精一杯ではなく本当の全力でと。いつも本当の全力で柔道に立ち向かっている荒瀬慎司の横顔を見ながらそう思っていた。

 

 

 

 

 

 






 感想や評価が良く届いて正直に言うとすごい嬉しいです。これもこの作品を読んでくれている読者がいてこそであります。前書きではあぁいましたがそう言ったものでなければ、文の書き方や展開の違和感など指摘や意見は大歓迎です。作者の励みとなりますのでこれからもよろしかお願いいたします


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知らない間に物語は進む



 相変わらず話の構成が下手だと自己嫌悪。もっと書いて考えて成長したいものですな。頑張るぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

「すっげぇ!!豪邸!?」

 

 初めてみたよこんな豪邸!?どこぞのお嬢様とは聞いていたけども!まさかここまでとは思わなんだ。初っ端からテンションが高い俺だが理由がある、今日はすずかちゃんからのお誘いで月村邸にお邪魔している。なのはちゃんと付き添いで一緒に来る事になっている恭也さんとバスで合流して一緒に向かった月村邸。

 それがまぁ軽く想像を超える豪邸だった。目ん玉飛び出るかと思ったぜ全く。いや、ほんとにヤバイぞ。慣れた感じで恭也さんが呼び鈴を鳴らす。すげぇよ、俺なら恐れ多くて押せないよ。しかも俺たちを出迎えたのは

 

「本物のメイドさんだ!!すげぇー!」

 

 メイド服に身を包んだメイドさん。恭也さんとなのはちゃんとは顔見知りらしい。すげぇ、テンション高まる。ある意味憧れでもあるよなメイドさんって。ちなみに目の前にいるこの人がメイド長でもあるらしい、名前はノエルさんとの事。メイド長と名乗るにしては若いなこの人。勝手なイメージだけど。

 

「なのはお嬢様、恭也様、慎司様……ようこそいらっしゃいました。どうぞ、中へ」

「なのはちゃん聞いた?慎司様だって、様付けだぞ……やばくね?」

「し、慎司君……恥ずかしいからあんまり騒がないでよ……」

「なのはお嬢様、タイが曲がっていてよ」

「つけてないよ。どういう話の流れなの?」

 

 俺もわからねぇ。年甲斐もなくテンション上っちゃってるから。そんなやり取りを見てノエルさんも微笑んでいた。そのままノエルさんに案内されすずかちゃんが待つ部屋へ向かう。

 

「ほー!すげー!ひろーい!でかーい!」

「慎司君、静かにしてよ…」

「なのはちゃんー!がでかいー!ひろーい!」

「どういう意味かな!?」

 

 ポカポカしてくるなのはちゃんを華麗に交わしてトコトコと前を歩くノエルさんの隣に。

 

「メイドさんメイドさん」

「はい?何でしょう慎司様」

「なのはちゃん用のメイド服ないですかね?無理やり着せて写真撮って海鳴中にばら撒きたいんですけど」

「慎司君!!」

 

 ごめん、年甲斐なくはしゃいじゃいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのままノエルさんに案内されて部屋に通される。席が用意され優雅にカップで飲み物を飲んでいるすずかちゃんとアリサちゃん。さらに初めて見る綺麗な女性の姿ととなりに佇むもう1人のメイドさんの姿も。綺麗な女性の方はすずかさんそっくりな所を見るとお姉さんの方かな?ははーん、恭也さんが何で付き添いに来たか分かったぞ。

 

「あ、恭也さん……なのはちゃん、慎司君」

 

 俺達にいち早く気付くすずかちゃん。それにおっすと手を上げ返答。

 

「なのはちゃんは何で疲れた顔をしてるの?」

「どうせ慎司に振り回されたんでしょ」

「ご名答」

「胸張って言うなっ!」

 

 そんなやり取りをしつつすずかちゃんのお姉さん……名は忍さんと言うらしい。忍さんと恭也さんは別室に。なぁに、邪魔はしませんよ。

 

「恭也さん、ファイトです」

 

 そんな俺の言葉に恭也さんは困ったように笑った。まぁ、頑張る必要ないくらい仲良しなんだろうけど。腕まで組んじゃって。すでに恋仲か、結婚式には呼んでね。

 

「お茶をご用意いたしましょう、なのはお嬢様、慎司様…何がよろしいですか?」

「私はおまかせで」

 

 手馴れた回答するなのはちゃん。俺は……

 

「マテ茶で」

「かしこまりました」

 

 あるんかい!まぁ、何でもいいけど。こう言う時は紅茶でしょとかそんなツッコミ待ってたのに。

 

ノエルさんともう1人、すずかちゃんの隣に佇んでいたメイドさんがお辞儀をしてから退室する。ちなみにそのメイドさんはファリンさんと言ってすずかちゃんの専属だとか。いいなぁ、専属メイドさん。俺もほしい。

 

「俺のメイドさんになってください。なのはちゃん」

「わたし!?羨ましそうにファリンさん見てるなと思ったら!」

「寧ろ俺がメイドになるしかねぇのかな。すずかちゃん」

「あ、ごめんね。今紅茶飲んでてよく聞き取れなかったから」

「都合のいい耳だな!」

「来て早々うるさいわね!冥土の土産に一発くらわすわよ!?」

「メイドと言ったか?」

「字が違うと思うよ慎司君」

 

 なのはちゃんのツッコミで終了。俺がいる事で場がカオスになる事にはもう手馴れた3人。ふふふ、その調子で俺に毒されるがいい。………なんかエロいな、この表現はやめておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんて言葉を交わしつつまったりとした雰囲気でお茶を待ちながらおしゃべり。そんな中アリサちゃんが

 

「今日は……元気そうね」

 

 となのはちゃんに向けて言い放つ。えっ、と少し動揺するような反応をするなのはちゃん。

 

「最近なのはちゃん………元気なかったから…」

 

 すずかちゃんが続けて口を開く。まぁ、あんなあからさまにため息ついたり疲れた顔されちゃこの2人も心配になるってもんだろ。

 

「もし何か心配事があるなら……話してくれないかなって……アリサちゃんと2人で話してたんだけど……」

 

 そんなすずかちゃんとアリサちゃんの優しい気遣いに感極まったような表情をするなのはちゃん。ホント、いい友達を持ったよ……なのはちゃんも俺も。

 

「なぁなぁ、その話に何で俺は入ってないんじゃ」

「あんたはあんたで勝手に色々すると思ったのよ」

「慎司君、そう言う所察しが良いから」

 

 信頼されてるんだかされてないんだか。色々するって語弊があるよ。そんな………先日の大木暴走事件の時の事が頭をよぎる。あれは……確かにちょっと臭かったな。何が支えてやるだよ、中二病かよ、柄にもねぇ。思い出して少し恥ずかしくなってくる。

 この後、お茶菓子を持ってきてくれたファリンさんが猫とユーノの追いかけっこで目を回して食器を落としかける等一悶着あった事を追記しておく。

 気分転換に場所を変えて再度お茶会、今度は庭…………庭?森?家の私有地?庭でいいか、庭の真ん中にあるテーブル席に移動してまたお喋り。にしても猫が多いなこの屋敷。里親が決まるまで預かっている猫達だとか。アリサちゃんが猫天国と表現するのも頷ける。猫と戯ながらお茶とお菓子をつまみ、世間話に花を咲かせる。

 本当にどこかのお金持ちのような気分だ。なんて感想を抱いていると突然なのはちゃんの膝の上に佇んでいたユーノが森の方へ駆け出していった。

 

「どうした?」

 

 俺の言葉になのはちゃんがハッとしつつも答える。

 

「ユーノ君が……何か見つけたみたい……ちょっと探してくるね」

「俺も一緒に行こうか?」

「ううん、大丈夫。すぐ戻るから」

 

 そう言ってユーノを追って駆け出すなのはちゃん。それを見送る俺達に3人。少々心配だが、まぁ平気か。なのはちゃんもまさか迷子とかにはならんだろ。

 

「………慎司」

「うん?」

 

 なのはちゃんが席を離れてすぐにアリサちゃんに呼ばれる。表情から察するに恐らくなのはちゃん関連の事だろう。

 

「実際の所………どうなのよ?」

「何のこと?」

「分かってるでしょ………なのはの事よ」

「……………………」

 

 言いたい事は分かる。すずかちゃんも言葉には出さないがじっと俺を見つめてくる所をみるとアリサちゃんと同じ事を思っているんだろう。

 

「………悪いけど、俺もなのはちゃんが何の事情を抱えてるか詳しくは知らない。詳しくどころか全く知らないし見当もついてないよ」

「慎司も知らないのね」

「ああ、お前達と同じだよ」

 

 俺に何か期待してたようだが、残念だが答えられない。知らないのだから。

 

「気にはならないの?なのはちゃんの事」

 

 すずかちゃんの言葉に俺は迷わずうなずいた。気になるに決まってるだろう。知りたいに決まってるだろうと。けど、俺はもう決めたのだ。

 

「俺は待つ事にした。なのはちゃんが自分で話してくれるか……話さないままだったらそれでいいって決めたんだ」

 

 勿論、それが正解だなんて思っちゃいない。寧ろ不正解なのかもしれない。だけど決めた事を曲げる事はしたくない。俺なりに沢山考えて出した結論なんだから。

 

「大人だね、慎司君」

「違うよ、臆病なだけさ」

 

 俺は2人みたいに……さっきの2人みたいに踏み込んで聞けなかったから。それを出来る2人の方がよっぽど大人だと思うぜ俺は。

 

「だから、俺はいつも通りでいるさ………いつも通りでいる事も大切だと思うからさ」

「あんたらしいわね」

「かもな」

 

 そんな風に共通の友人を心配してあげれる友人ができた事を心から感謝した。そうやって俺の胸の内を明かして2人は納得したように頷いてから元の世間話に戻る。

 

「そういえばあんた最近どうなの?」

「俺がメイドをどうすれば雇えるか画策してる事についてか?」

「働きなさい」

「すずかちゃん、雇って。皿全部壊すから」

「どうしてそれで雇ってもらえると思ったの?」

 

 アリサちゃんがそうじゃなくて!と話を遮る。

 

「柔道よ!柔道!今度また大会があるんでしょ?」

「あぁ、もう少し先だけどな。無論、試合に向けて努力してる所だよ」

「そ、また応援しに行ってあげるから絶対勝ちなさいよね」

「そのつもりだよ」

 

 ちゃんと色々考えて、効率よく……そして泥臭く根性で頑張ってるさ。成長や手応えを感じるくらいにやってるし、誰よりも努力してやるって気持ちでな。才能ない俺には練習しかねぇんだから。

 

「私も楽しみにしてるね、慎司君がカッコよく相手を投げるところ」

「おうとも、任せとけよ。ファイナルアタックライド!!で一発よ」

「今通訳がいないからあんまり意味わかんない事言わないでね」

 

 通訳ってなのはちゃんの事かよ。その通訳不完全だろ、俺のネタほとんど理解してねぇぞ。ていうか、なのはちゃんはまだかね。そろそろ帰ってきてもよかろうに。なんて密かに思っていると、キュルキュルと鳴き声をあげながら森の奥からユーノが走ってきた。

 

「な、なんだなんだ?」

 

 俺の足元でくるくると回って何かを伝えようとしてくる。何だ?ユーノを追いかけたなのかちゃんの姿が見えない。俺の周りを走ってたと思ったら今度また森の奥に向かって走る。

 

「…………ついて来いって事か?」

 

 アリサちゃんとすずかちゃんが状況が飲み込めず困惑している。何か嫌な予感がして俺は2人に声をかける事なくユーノを追いかける。あぁくそ、フェレットってあんな早いのか?見失っちまうぞ。と思ったら時折止まって俺がついてきてる確認するように振り返っている。お前、知能結構すげぇんじゃねえか?

 程なくしてユーノは足を止める。息を切らしながら追いついた先に、意識を失って寝転んでいるなのはちゃんの姿を見つけた。

 

「なのはちゃんっ!」

 

 慌てて駆け寄る。なんだ、なにがあった?呼吸は安定してる、目立った外傷も無さそうだ。とりあえず一安心しつつも急いでなのはちゃんを運ばないとと思い至り横抱きでなのはちゃんを持ち上げる。相変わらず軽いな、よくじゃれてきた時におんぶとかしてたから知ってたけども。

 戻る途中に慌てて俺を追いかけてきた2人とも合流して事情を説明してすずかちゃんにベッドのある部屋に案内させた。

 

 

 

 

 結局なのはちゃんが目覚めるのは夕方ごろになるまでかかった。少しボッーとしながらも何があったのか説明してくれたなのはちゃん。

 なんて事はない、ユーノを追いかけてる途中で転んで気絶してしまったらしい。体に問題はなさそうだったが明日念のため病院に検査しにいくそうだ。とりあえず、こんな事も起きてしまったので今日はもう解散だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰宅してベッドに横になる。なのはちゃんもドジだなぁ……転んで気絶なんて。あまり心配させないで欲しいものだ。けど、本当に転んだだけなのだろうか。気絶するくらいの勢いで転んだんなら擦り傷の一つくらいあってもいいと思うんだけどな。外傷なかったよな、いい事だけど。

 

「まぁ、んな事考えても仕方ないか」

 

 そう結論づけて今日はゆっくりと寝る事にした。相変わらず俺はなのはちゃんの事情なんか知る由もなく、また明日という今日はやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 月村邸での出来事から少し経ち、俺にとってはいつも通りの日常を過ごしていた。学校で授業を受け、少しだけなのはちゃん達と遊んだりなんやりして……鬼のように柔道に打ち込む毎日。ちゃんと休日もとったりして高町家に行ったり皆んなと遊んだり。いつも通りの日常を過ごす。試合もまだ先とはいえ1日ずつ着実に近づいてはいるので気合も一層入る俺。そんな中、世間的にとある連休の日。俺は高町一家の温泉旅行に連れて行ってもらう事になった。

 と言ってもこれが初めてではなく何度かそんなイベントもあったのだが、いつもなら俺の両親も招かれて一緒なのだが今回はパパンは仕事が忙しらしく、ママンはすでに退職しているがパパンの仕事の手伝いに行ってるらしい。ていうかママンが辞めるまでは2人とも同じ職場だったのね初めて知ったよ。

 そしていつもと違うのは他にも、今回はアリサちゃんとすずかちゃん……それにこの間の月村邸で知り合ったメイドさんとすずかちゃんの姉の忍さんもご一緒だ。かなりの大所帯での今回の温泉旅行、さてさて俺も一旦柔道から離れてしっかり体を休めよう。ちゃんと休息を取るのも強くなるための道だ。

 

「あっ!そこでだいばくはつはずるいよ慎司君!」

「いや、立派な戦略だろうに」

「すずかもちゃっかりまもる使ってるわね」

「あはは、慎司君そろそろ使うかなーって思って」

「俺的には味方のすずかちゃんも巻き込みたかったんだけどなぁ」

「何が目的なの……」

 

 行きの車の中で暇を潰すべく4人でポケモンのダブルバトルをしていたがまぁこれが楽しい楽しい。俺の影響かなのはちゃんだけでなくアリサちゃんやすずかちゃんもゲームを始めてくれたし。ここのところ4人でずっとポケモンばかりな気がする。

 そんなこんなで時間を潰していると目的の温泉旅館に到着。緑に囲まれた自然豊かな場所に風情良く立つ老舗の旅館らしい。早速温泉に浸かる事に。女性陣とは一旦別れて男湯へ、士郎さんと恭也さんは少し旅館内でゆっくりしてから入るとの事。俺は長湯も平気なので2人を待つ形で先に入らせてもらおう。どうせあがった後なのはちゃん達と旅館でうろうろするだろうし女の子のお風呂は長いからな、待たなきゃいけないだろうからそれくらいが丁度いいだろう。

 のぼせないよう少し肩まで浸かってから足だけを浸からせて2人を待つ。程なくして揃って士郎さんと恭也さんも温泉に浸かりに来た。

 

「うわ、2人ともムキムキですね」

 

 士郎さんも恭也さんも常人とはかけ離れた肉体をしていた。服の上からじゃ全然わからなかったけどかなり鍛え抜かれたような引き締まった体付きをしている。士郎さんの体が古傷だらけなのも気になったがそれはまぁ、口には出さないでおこう。

 

「ははは、慎司君だってなのはと同い年とは思えないくらい体が引き締まってるじゃないか」

 

 そんな士郎さんの指摘に自分の体を見やる。確かにかなりトレーニングに時間は費やしてはいるが体が小さいうちに大きな筋肉を付けたくはなかった。成長の阻害と動きの柔軟性を損なってしまうからだ。俺なりに程よくなるよう調整している。

 3人で並んで肩まで浸かる。芯から温まる快感に思わず3人ともじじくさい声を上げる。あぁ〜、温泉最高。

 

「慎司君、どうだ?柔道の方の調子は?」

 

 恭也さんからそんな言葉が。ていうか多いなそんな質問、皆んな気にかけてくれてるんだな。そんな気遣いに感謝しつつ

 

「試合に向けて鋭意努力中です。恭也さんが組んでくれた基礎体力メニューのおかげで最近はもっとハードなメニューもこなせるようになりました」

 

 ホント、助かります。どのスポーツもスタミナは重要だから。恭也さんはそれは良かったと満足げに呟いた。

 

「なのはもこの間の慎司君の試合を応援してからすっかり柔道に興味を持ったみたいだからなぁ………最近はよくテレビで柔道の試合中継を見てるよ」

「そうなんですか?」

 

 士郎さんからそんな情報が。それは初耳だった。

 

「うん、慎司君の試合によっぽど興奮したみたいでな。みんなで食事してる時なんかよく慎司君の話をしているよ」

 

 それは……なんだか照れくさいな。まぁ、流石に柔道始めたくなったとかそういう物じゃないんだろうけど。

 

「なのはも楽しみにしてくれているからとは言わないけど……頑張ってな慎司君」

「おっす」

 

 2人からのエールと温泉で身も心も熱くしつつ俺はもっと努力するぞと誓う。そうだ、みんなに優勝する姿を見せる事……それが応援してくれている皆んなに送ることができる最高の恩返しだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のぼせないうちに2人より一足先に温泉に出て脱衣所へ。旅館が用意している浴衣に着替えてから脱衣所の外へ。ちょうど女湯から着替えを済ましたいつもの3人が同じタイミングで出てくる。ちょうど良い、待つ手間が省けた。

 

「よっしゃ野郎ども!湯冷めしないうちに旅館の中探検しまくろうぜ」

「野郎じゃないよ……」

「あと、うるさいわよ」

 

 そんななのはちゃんとアリサちゃんの言葉を受けつつトボトボと4人でお喋りしながら旅館内を歩く。

 

「おみやげ見てこうよ」

「お、アリサちゃん気が合うな。木刀だな?」

「そんなもん買わないないわよ。ていうか売ってないでしょ」

「いいや、あるかもしれんぞ………木刀が必要なんだ」

「何に使うのよ」

「物干し竿と扉のつっかえ棒」

「それちゃんとしたやつ買った方がいいんじゃ?」

「いや、すずかちゃん他にもあるんだよ………なのはちゃんのお尻叩き用に」

「私のお尻!?なんでよ!」

 

 さっと自分のお尻を手で隠すなのはちゃん。

 

「寧ろそれがメインだ」

「何か恨みがあるのかな?私に」

「実は出会った時から叩きたかったんだ……なのはちゃんのお尻」

「衝撃の事実だよ!」

 

 きゃんきゃん騒ぐなのはちゃんと俺を見てやれやれとするアリサちゃんとすずかちゃん。さて、冗談はさておき旅館内をまぁまぁ歩き終わった頃だった。向かい側から旅館の浴衣を着た色っぽい年上のお姉さんがとことこ歩いて来たかと思うと。

 

「はぁい、おちびちゃん達」

 

 こちらに声を掛けてきた。なんだこの人。ていうか格好エロっ!そんな胸元開けんなよ目の毒だ。3人の反応を伺うが全員怪訝な表情を浮かべているのを察するに俺達の誰かの知り合いってことはなさそう。反応に困っているとその女性はなのはちゃんの前に立ち品定めするかのように観察し始めた。

 何かぶつぶつ言っているような気がするがこっちの耳には届かない。さてどうしよう、なのはちゃん困った様子を見せてるし助け船を出したい所なのだが……あんまり変な事してこの人を刺激するのも怖いしな。このご時世どんな変人がいるか分かったもんじゃないし。少し考え込んでいる間にアリサちゃんが女性となのはちゃんの間に立とうと動き出す。慌てて肩を掴んでアリサちゃんを止める。考えすぎだとは思うけど、危険かもしれないのでその役目は俺がやろう。

 

「まぁ、任せろって」

 

 何で止めるのと目で訴えてくるアリサちゃんにそう小声で伝えて俺は2人の間に割り込む。

 

「し、慎司君……」

「んー?」

 

 庇うように間に立つ俺を女性は不敵な笑みを浮かべながら楽しそうに観察してくる。本当に何が目的だろう。ただの酔っ払いとかならいいんだけど。こういう時は………

 スゥッと息を少し吸い込んで俺はあらん限りの大声で叫んだ。

 

「だれかーー!!助けてええええええ!!」

「はぁ!?」

 

 俺の絶叫に女性はあたふたしだした。よしよし、余裕そうなその表情を崩してやったぞ。

 

「痴女がぁ!!痴女がいまあああす!!胸元開けて知らない子供相手に見せつけてくる痴女がいますううううううううう!!!」

「ちょっ、痴女ってあたしのことかい!?」

「あんた以外に誰がいんだよ!?そんな胸ぱつぱつの浴衣着て!」

「これ以外にサイズがなかったんだよ!」

「嘘つけ!?それにいくらなんでもそんな胸元開ける必要ないだろ!露出魔め!自分の胸のサイズにそんな自信があるのか!?だから見せつけてるのか!」

「別に見せつけてるつもりはないよ!?」

「うるさい!見ろこの3人を!」

 

 そう言って後ろに控えてたなのはちゃん達3人を指差す。

 

「浴衣の上からでも分かるくらいまだまだ残念な胸のサイズだ。そりゃそうだとも、まだ小学生だからな。まだ成長の余地は十分にあるとも、だけどそんなまだまだ貧乳の3人に見せつけるように現れて!謝れ!ぺったんこなのはちゃんに謝れ!」

「だから何でいつも私だけ名指しなの!?」

「ほら、嫉妬に駆られてなのはちゃんも怒ってるじゃないか!」

「あんたに怒ってんだよ!」

 

 焦れたのか女性はあぁもうっとイライラした様子で頭を掻きながら

 

「悪かったよ、人違いだったみたいだ」

 

 と苦し紛れにそう言いながらそそくさと逃げていった。はっはっは、我の勝利なり。流石にあそこまで大騒ぎされちゃ堪らんだろ、まぁ悪い人には見えなかったけどだからといってへんに絡んでこられても困るしな。

 

「よっしゃ、んじゃ探検の続きしようぜ」

 

 と、振り返って3人に言葉を送る。が、3人ともそれはそれはさっきと雰囲気が一変していた。

 

「貧乳ってどういうことかなぁ?」

 

 すずかちゃんは笑顔を浮かべながらも額に青筋を浮かべて。

 

「わざわざ私達をだしにする必要あった?」

 

 アリサちゃんはそれはもう燃え滾るような赤いオーラを背負って。

 

「ぺったんこって!なのはの事ぺったんこって!」

 

 なのはちゃんは虎……じゃないな、怒った猫が後ろに見えるような怒りっぷりだ。3人ともまだ小学生何だから胸のサイズなんか気にすんなよ。いやまぁ、確かにだしにしたのは悪かったけどさ。

 

「あっははは、3人ともそんな怒んなよ。…………貧乳が目立つぞ?」

 

 なんてからかってみるとプツンと音が聞こえた気がした。その後の記憶は曖昧だ。気付いた時にはアリサちゃんに何度も腹パンをされていて、すずかちゃんはずっと同じ場所を中々の力で抓っていて、なのはちゃんはいつもどおり俺の胸をポカポカしてた。

 あー、ごめんね?流石にデリカシーなかったよ。そんな俺の謝罪でようやく矛を収めてくれた3人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は部屋に移動して皆んなで豪華なご飯を食べて子供組は子供らしく早めに就寝した。翌朝、ただでさえ最近ボーッとしたりため息をつきがちだったなのはちゃんの症状が酷くなった事以外は何もなく温泉旅行は終わりを告げた。

 

「………………」

 

 帰りの車でボーッとしているなのはちゃんに何て声をかけるべきか分からず、結局俺はいつも通りからかったりしてみたがなのはちゃんの反応はいつもより薄かった。

 昼間のあの絡んできた女の人が関係してるんだろうか………今となっては知る由もない。そして、それを気にしているのは俺だけでなくアリサちゃんとすずかちゃんも同じだ。そして、俺とは違って真っ直ぐになのはちゃんにぶつかって力になろうとしたアリサちゃんはさらに酷くなったなのはちゃんの様子にとうとう爆発してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしなさいよっ!」

 

 バシンと机を叩く音が教室中に広まる。温泉旅行から少し経ったある日。アリサちゃんの怒声にクラスメイトが一斉にこっちに注目するが本人はそんな事気にせず続ける。怒りを露わにしている相手はなのはちゃんだった。

 

「この間から私達が何話しても上の空でボーッとして!」

「ご、ごめんねアリサちゃ」

「ごめんじゃない!私達と話してるのがそんなに退屈なら1人でいくらでもボーッとしてなさいよ!」

 

 俺は慌てながら間に立つように割って入り

 

「まぁまぁ、アリサちゃん落ち着けって」

「うるさい!慎司だって同じ気持ちなくせに!」

「だから落ち着けって……な?少し冷静になってからその話をしようよ、怒ったって仕方ないだろ?」

「っ!……いくよすずか!」

「あ、アリサちゃん」

 

 そう言って教室を出て行くアリサちゃん。すずかちゃんはなのはちゃんにフォローをしてあげてからアリサちゃんと話してくると言って後を追った。出て行く間際に目で俺になのはちゃんをお願いと訴えていた。

 

「…………」

「…………」

 

 しばしの沈黙。それを打破したのはなのはちゃんだった。

 

「慎司君もごめんね、私のせいで……」

「別に誰も悪かねぇだろ」

 

 ただ、お互い不器用だからちょっとしたすれ違いが起きただけさ。

 

「慎司君も……アリサちゃんの所に行ってあげて」

「俺は平気だよ、そんな気にすんなって」

「お願い………」

「…………分かった」

 

 今は1人にして欲しいのだろう。ある意味の拒絶ともとれるか。それは悪く考えすぎか。何度かなのはちゃんの方に振り返って様子を伺いつつ俺もアリサちゃんの後を追った。

 なのはちゃんはずっと俯いたままだった。

 

 

 

 アリサちゃんとすずかちゃんは屋上にいた。ある程度話は終わっているようでアリサちゃんも既に落ち着いている様子だった。俺が屋上に顔を出すとアリサちゃんはバツの悪そうな顔をして

 

「怒鳴ってごめん」

 

 そう短く謝罪してきた。

 

「あぁ、別に気にしてないよ」

 

 なのはちゃんの事を真剣に考えて、本気で心配しているからこそ起こった感情の爆発だ。寧ろ誇っていい。それほどアリサちゃんが優しいって事なんだから。そんな俺の思いを伝えるとアリサちゃんは照れて顔を赤くしつつも

 

「……ありがと」

 

 そう伝えてくれる。普段からそれくらい素直なら分かりやすいんだげどな。まぁ、普段アリサちゃんの方が俺は好きだけど。俺とアリサちゃんを見てすずかちゃんは満足気に微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 放課後、アリサちゃんとすずかちゃんは音楽のお稽古、俺は柔道の練習で別れて解散する事に。別れ際、アリサちゃんはなのはちゃんと言葉を交わす事なく別れてしまったがまぁそれはそんなに深刻に考えなくて大丈夫だろう。

 アリサちゃんはアリサちゃんなりの、すずかちゃんはすずかちゃんなりのなのはちゃんの支え方を決めたようだから。練習に向かいながら考える、なのはちゃんの悩み事は一向に解決する様子も無さそうだ。相変わらず俺は全くなんの事だか分かっていない。なのはちゃんが潰れてしまわないか心配だ。まぁ、そうならないよう俺たちが何とか支えててあげないといけない。たとえ、その悩みに対して何も出来なくても。役に立たなくても。そんな事を考えているうちに道場に到着した。

 さて、一旦切り替えて柔道に集中しよう。柔道だけは他の要素など切り捨ててやらなければいけない。まだまだ強くなるために。

 帰りに翠屋に顔を出してみたがなのはちゃんの姿はなかった。やっぱり家かな?もう遅くなっちゃいそうだから家まで行くのはやめておこう。帰り際に桃子さんからケーキを貰った、お礼を言って俺は帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日早朝、何となく早くに目が覚めてランニングに繰り出す事にした。近くの公園……なのはちゃんと出会ったあの公園で準備運動をしてから走るのが俺のランニング時の日課だ。いつも通りそれをしようと公園に赴くと。

 

「ん?」

 

 公園のベンチでこの辺では見かけたことのない同い年くらいの女の子の姿が。金色の髪が朝日に照らされてキラキラとしているのかと錯覚を起こす。それとは対照的に女の子の表情や雰囲気はどこか儚げで………冷たい。いや、冷たいというか何だろう……うまく表現できない。何となくあの時のなのはちゃんように放って置けないようなそんな感覚に陥った。

 

「…………っ?」

 

 じろじろ見過ぎたか、目があった。瞳も綺麗な色をしているがそれも儚げに揺れ動いていた。

 

「……………………」

「……………………」

 

 目があったままお互い沈黙。どうしよう、なんか言わないと………変な人だとは思われたくない。

 

「えっと……」

「………………」

「君は………………」

「………………」

「………………テロリストですか?」

「…………違うよ?」

 

 あぁ神様、テンパった時にわけわかんないこと言う俺を許してください。そんなやり取りが後に皆んなと同じく長い腐れ縁となる……フェイトとの出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 割とタイトルが思い付かない。そしてこの小説ではフェイトたそ初登場であります


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やれることを



 csmダブルドライバー………かっけえなぁ。一番好きなのは断然ディケイドですけどもね。次点でアギトかな。


 

 

 

 

「んで?こんな朝早くにこんな所で1人で何してるの?」

「…………………」

「いい天気だなぁ、絶好のランニング日和だ」

「…………………」

「…………最近のサメ映画は無茶苦茶だよね」

「…………………」

 

 ダメだ、何言っても黙ったままだ。会話しようにも無視されちゃ何も出来ない。

 

「……やっぱりテロリスト?」

「違う」

 

 これだけはちゃんと反応する。よっぽどテロリストと言われるの嫌なのだろう。いや、誰でも嫌だわなそりゃ。さて、どうしたものか………でも悪い子には何となくだけど見えないしあの手が使えそう。金髪の女の子の隙をみて目薬を差す。

 

「無視しないでよ…」

「……………」

「な、なんでぇ……むじずるのぉ!」

「っ!?」

「びえええええええええええん!!金髪少女にずっと話しかけてるのに無視されたああああああ!」

「あ、え、あ、その………違くて……」

「ゔああああああああ!!そうやって無視して俺をいじめるんだー!!」

「ご、ごめ………えと、話を……」

「いじめるよぉ〜!パツキン女の子がいじめてくるよぉ〜!!」

「ち、違うのっ……泣かないで……同じくらいの年の男の子にそうやって話しかけられたの初めてだから何を言えばいいのか分からなくて」

「それで困って黙ってたままだったと」

 

 ピタっと嘘泣きをやめると女の子はえっ?えっ?と困惑していた。いいね、懐かしい反応だ。最近なのはちゃんはすっかり慣れちゃって騙されなくなっちゃったし。新鮮だ。

 

「初対面の奴に何言えば分からない時はとりあえず自己紹介だ。俺は荒瀬慎司、君の名前は?」

「フェ……フェイト……テスタロッサ」

 

 見た目からそうだと思ったけど外国生まれの子かな?まぁ、身近にアリサちゃんとかいるしカタカナの名前は珍しくないか。

 

「フェイト……フェイト………フェイソン?」

「フェイトだよっ」

「フェイトたそ」

「フェイトっ!」

「フェイトそん!」

「フェイトだってば」

 

 あぁ、そんな拗ねた顔しないでよ。ていうか冷たそうな雰囲気出してるくせに話してみれば中々感情表現豊かな子じゃないの。お兄さんそういう子の方が好きよ絡みやすくて。

 

「ごめんごめん、フェイトちゃんか………で、そのフェイトちゃんは朝早くに公園で何をそんな不安そうな顔をしてるんだい?」

 

 俺の質問にフェイトちゃんは口を開きかけるがすぐに閉じてしまう。そして、別に何もないと言ってまた殻に閉じこもってしまった。ほほう、予想以上に頑固な子だ。だが、そうされたらますます話を聞きたくなるというものだ。

 

「まぁまぁ、そう言わずにさ。俺に話してみない?解決できるって保証は出来んけど何か力になれるかもよ?」

「大丈夫……」

「大丈夫って顔してないよ。何がそんな不安なんだ?話せる範囲でいいから話してみろって、こう見えて頼りになる太郎君ですよ」

「慎司って名前じゃないの?」

「太郎は慎司であり、慎司は太郎なのさ」

「……ごめん、ちょっとどういう意味か分からないや」

「戯言だからそんな本気に考えないでくれ」

 

 そんな風に話せ話せとしつこく押すとフェイトちゃんは観念したかのように

 

「そこまで言うなら………分かった」

 

 と、ようやく話をし始めてくれた。と言っても話自体はそんな込み入った物ではなかった。簡潔にまとめるとフェイトちゃんはこれから母親に会いに行くらしい。こんな言い方をすると言う事は普段は一緒じゃないって事なのかな?まぁ、家庭事情にまで踏み込むのは今はやめておこう。その時に手土産としてケーキを持って行こうとしたのだが途中で手を滑らせて落としてしまったらしい。

 

「どれどれ」

 

 フェイトちゃんが持っている紙箱に入ったケーキを覗いてみる。あちゃー、食う分には平気だけどここまで形が崩れてるとなると贈り物としては駄目だな。フェイトちゃんの手は包帯で巻かれている。怪我でもしたのだろうか、それでつい落としてしまったのだろう。折角贈り物として用意したケーキがこの有様じゃフェイトちゃんの顔も浮かなくなるだろうに。

 買い直すお金はあるそうだがまだ早朝。店はやってないだろう、店が開く頃にはもう母親元に向かっている時間らしく間に合わない。それで途方に暮れているのだ。

 

「それ、捨てちまうのか?」

 

 形が崩れたケーキを指差してそう言う。

 

「母さんには渡せないし………私が自分で食べるよ」

 

 ため息をつきそうな表情でそう言うフェイトちゃん。うーん、何とかしてやりたいが………待てよ?

 

「なぁなぁ、そのケーキよかったら俺にくれないか?」

「え?別に良いけど」

「サンキュー」

 

 箱ごと受け取り中身のケーキを取り出して全部を一気に頬張る。口の周りが生クリームだらけになるがそれには意を返さずあっという間に全て食べきる。

 

「ふむ、中々うまいな」

「良かった」

 

 その言葉を聞いてますます母親に渡しておきたかったのだろう。元々暗くなってた表情が更に影を指す。

 

「こんなケーキ貰ったらお礼しねぇといけないな」

「えっ?」

 

 公園の水道で口の周りを洗ってから俺はフェイトを指差しながら言う。

 

「いいか!3分で戻ってくるから絶対にそこ動くなよ!」

「え?あ、うん」

「約束できる?」

「う、うん。約束する」

「本当だな?」

「本当に大丈夫」

「嘘ついたら針千本………飲むぞ」

「絶対に待ってるから飲まないでね……」

 

 念を押しつつダッシュで家に向かう。まぁ目と鼻の先なので急げば本当に3分で戻ってこれる。家の冷蔵庫から目当ての物を取り出して、形が崩れないよう急ぎつつ慎重に運ぶ。

 

「ほれ、ケーキのお礼だ……受け取ってくれ」

 

 公園に戻ってすぐフェイトちゃんに紙箱を突きつける。昨日の練習帰りに翠屋で桃子さんがくれたケーキだ。

 

「え?そんな、受け取れないよ」

「いーからいーから、ケーキくれた礼だから。ちゃんとした等価交換だろ?」

 

 あのケーキがどれくらいの値段かは知らないけど……まぁ量は似たようなもんだからいいだろう。

 

「言っとくがそのケーキは俺にとって海鳴一………いや、日本一美味いと思ってる喫茶店のケーキだ。味は保証するぜ?フェイトちゃんの母親もきっと喜ぶよ。それこそ、ほっぺたがとれちまうほどにな」

 

 胸張って言う俺にフェイトちゃんは先程までの暗い雰囲気から少しだけ笑みを溢した。

 

「ご、ごめんなさい……気を使わせちゃって」

「ちげーよ、そう言う時はありがとうって言うんだよフェイトちゃん」

 

 ほれ、早く言って言ってとジェスチャーする俺にフェイトちゃんは困惑しつつも

 

「……ありがとう、慎司」

「おう、どういたしまして。つってもケーキくれたお礼しただけだがな」

 

 満面の笑みとは程遠いが、それでも表情を明るくしてくれたフェイトちゃん。やっぱ女の子ってのは笑顔が一番似合う。

 

「これで、喜んでくれるかな……」

 

 ギュッとケーキの箱を掴んでそう呟くフェイトちゃん。

 

「喜んでくれるさ、フェイトちゃんの母親がどんな人か知らないけどさ………翠屋のケーキだぞ?食べさせたら絶対喜ぶって。俺が保証してやんよ」

「うん、そうだったらいいな」

 

 安心しろよ、そうやって真心込めたプレンゼント渡されちゃどんな母親だって喜んでくれるさ。俺が知ってる2人の母親はそうだったよ。ママンもお袋も………いつも喜んでくれたからな。

 

「フェイトちゃん、まだ時間あんのか?」

「え?うん……もう少しだけ」

「んじゃ、こうして出会ったのも何かの縁だ。おしゃべりでもしようぜ」

 

 隣を無遠慮にどかっと座る。ランニングできなくなるけどそんな事はどうでもいい。今は、少しでもこの子を明るい笑顔にしてから母親の元に行かせてあげたい。

 

「フェイトちゃんのお母さんの話でもしてよ。どんな人なのか、勿論俺の話も聞いてもらうけどな」

 

 そんな俺の言葉にパァとした表情を見せるフェイトちゃん。嬉々として母親の事を話し始めるフェイトちゃんを見て

 

「フェイトちゃんはお母さんの事が大好きなんだな」

「うんっ」

 

 それはそれは、朝日に照らされた金色の髪と同じくらいキラキラした表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢中で2人で話をしているとフェイトちゃんは慌ててもう行かなきゃと立ち上がった。

 

「本当にありがとう。このお礼はするから」

 

 そう言い残して公園を後にした。

 

「もう落とすなよ!また会おうなー!」

 

 去っていく背中にそう投げかけ見送る。手の包帯も気になるし本当は俺が持っていってやりたかったがいかんせん、そろそろ学校に行く準備をしないと。

 次会った時には、俺の仲のいい親友達を紹介しよう………きっとみんな仲良くなれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから翌日の早朝、週末である今日は学校もお休み。朝早くから道場へ向かう。相島先生にマンツーマンでみっちり指導を受ける予定だ。特別練習みたいなものか。これも結構頻繁にやっている。週末にまで俺の練習に付き合ってくれる相島先生には感謝している。普段のクラブの練習も俺に目を掛けてくれている。いずれ必ずこの御恩は返す腹づもりだ。

 自転車を走らせて道場に到着。一礼してから道場に入ると既に道着に着替えて準備運動をしている相島先生……と隅で正座をして真剣な目つきでいるなのはちゃんの姿があった。

 

「何でなのはちゃんが?」

「お前の練習を見学したいそうだ」

 

 俺の疑問に相島先生が答える。先に道場で準備をしてくれていた先生につい先程なのはちゃんが訪れてそう言ってきたらしい。

 試合の応援に来た時に既に顔は見知っていたしとても真剣そうだったなのはちゃんを断る理由もないからと許可をしたらしい。

 

「お前も気にせずいつも通りやれ」

「はいっ!」

 

 すぐに道着に着替えて準備運動をして早速練習開始。補強運動で体をいじめ、基礎練習で柔道の基本的な動きを反復し疲れてきた頃に技の打ち込み、投げ込み。先生とのマンツーマンでの乱取り(試合形式の練習)。それを何度も何度も何度も。さらには寝技で同じメニューをもう一度。朝から始めて練習が終わったのは正午より少し前。 

 その間、なのはちゃんは正座を崩す事もなくずっと真剣に俺の練習を見ていた。

 

「慎司、ここまでにしておけ。明日も通常の練習があるからな」

「はいっ!」

 

 絶え絶えな息を何とか正常に戻して返事をする。もう、くたびれたなんて表現が生易しいほど体の疲労を感じる。本格的に試合が近づいてきている現状、本気で優勝する為にずっとこの調子で練習してきたがいくらやっても不安は拭えない。それでも自分のできる努力を最大限やっていくしかない。

 

「高町さんと一緒に帰ってゆっくり休め。試合前に体を壊しちゃ元も子もない」

「ありがとうございました」

 

 着替えて一礼して道場を後にする。なのはちゃんも俺に続いて相島先生に頭を下げながら後にした。

 

「お疲れ様、慎司君」

「ああ」

 

 飲み物とタオルを手渡してくれるなのはちゃん。それを受け取って止まらない汗を拭いつつ水分補給。自転車を押しながら少し歩いた所でようやく体が落ち着いてきたので、俺は真っ先になのはちゃんに聞く。

 

「一体どうしたんだ?練習見学したいだなんて」

 

 なのはちゃんが練習場にまで来たのは今日が初めてだ。前に士郎さんが俺の影響で柔道に興味を持ち始めたと言っていたがそう言った類の理由じゃない事は顔を見れば分かった。

 

「うん、深い理由があるわけじゃないんだけど」

 

 言い淀んで深く考えながらもなのはちゃんは俺を真っ直ぐに見て言った。

 

「慎司君に……背中を押して欲しかったのかも」

「…………………」

 

 正直疑問が多すぎて訳が分かんなかったけど、少なくともふざけて言っているわけではない事は一目瞭然だ。最近ずっと悩んでいる事の件なのだろうけど俺の練習する姿を見る事が何か励ましにでもなるのだろうか?

 

「慎司君やっぱりすごいよ」

「何のこと?」

「それだけ頑張れる事だよ」

 

 柔道の事を言っているのだろうけど。確かに頑張ってはいる、謙遜はしない。勝つ為に、結果を出す為に人並みの何倍も練習をしてきたと胸を張って言える。

 

「頑張る事はそんなにすごい事じゃないよ」

「うん、でも慎司君みたい誰もがずっと全力で頑張り続けられる訳じゃないから……すごいってなのはは思うよ」

「そうかい」

 

 そんな事言ってなのはちゃんは何を求めてるんだろう。俺は何を言うべきなんだろう。俺を褒めてくれるなのはちゃんは別段暗い様子とかそんな感じじゃないんだが、色々と考え込んでるようなそう言う雰囲気だ。答えは出かけてる、何をすべきかどうしたいのか分かっているけどあと一歩を欲しがっている。以前と比べて迷いない表情なのに言葉がたどたどしいのはそう言う事なんだろう。

 その一歩をもしかしたらなのはちゃんは求めているのかもしれない。練習を見に来たのも感化されたかったのかも。

 

「慎司君は……どうして柔道を始めたの?」

「前から気になってたからだよ」

 

 嘘ではない。前世での始めた理由だがな。

 

「それだけじゃないよね?」

 

 何だかんだで何年もの付き合いになるなのはちゃんは誤魔化せなかったようだが。

 

「他にもあるよね?試合の時の慎司君はすごく………真剣だもん。まるで命を掛けて試合してるみたいに」

「大げさだよ」

「そんな事ないよ」

 

 確かに前世での色々な出来事で前世以上に柔道には真剣に取り組んでいるが命がけなんか勿論大げさだが、なのはちゃんはそれじゃ納得いかない様子。どうしようか、前世の事を話すわけにもいかないし……ふざけて答えてるなんて思われたくないからな。けど、真剣に聞いてくるなのはちゃんを無下にするのも嫌だし。

 

「…………真面目な話さ、俺も何で始めたかなんて事は正確には言えない。自分でも分かんない部分とか何となくって気持ちもゼロではないからさ」

 

 けど………それでもやっぱり一番頭に浮かんだ理由は

 

「後悔したからかな」

 

 後悔?と首を傾げるなのはちゃん。そう、後悔したんだ…柔道を続けなかった事を。死ぬ前のたかが2年。20歳で死んだから高校で辞めてからの2年間。たった2年間だったけど、心にぽっかりと穴が空いたようなそんな感覚をずっと抱いていた。けど、辞めたのにも理由があって………それでまた始める事が出来なくて。今も俺は後悔している。

 

「もう、後悔したくなくて……その絶望を味わったから。俺は柔道を始めて、そして頑張れるんだと思う」

 

 何を後悔したかとかそんな事はなのはちゃんには話せない。前世の事なのだから、なのはちゃんは理解できてないだろうし気にもなるだろうけど察して深くは聞いて来なかった。

 

「そっか、後悔したくないから……なんだね」

「だから、なのはちゃんも後悔しないでな」

「えっ?」

 

 なのはちゃんを真っ直ぐに見つめて、俺は言葉を送る。

 

「…………なのはちゃんがずっと何に対して悩んでて考えてるかは知らんけどさ、後悔だけはすんなよ。人生の先輩からのアドバイス」

「慎司君、私と同い年だよ」

 

 そう言いながらもなのはちゃんは笑った。

 

「ああ、そういえばそうだな」

 

 俺も笑みをこぼした。

 

「ありがとう………いつも励ましてくれて」

 

 何のことやらと肩をすくめてみる。なのはちゃんもふざけて真似をしてくる。腹がたったので自転車を置いてほっぺをぐにぐに。

 

「あれ?前より艶が無くなってないか?ちゃんと寝てんのか?」

「いいから早く離して〜」

「老けたのかな?」

「うにゃー!」

 

 ひっかくなよ、普通に痛いから。そんな風にじゃれあいながら帰った。なのはちゃんはやる事あるからと遊びに誘ったが断られた。すずかちゃんとアリサちゃんも予定あるらしいしな。この後は家で大人しく休もう。けど、まぁ久々になのはちゃんとじゃれあって楽しかったから。まっいいか。何か背中を押せたのなら……それでいい。俺には直接何か役に立つ事は出来ないんだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慎司、これ」

 

 帰ってベッドでボーッとしているとママンからいきなり何か手渡される。

 

「なにこれ?お守り?」

 

 また変な時期に。もう正月なんかとっくに過ぎてるぞ。しかもよりによって交通安全の御守りかよ、トラウマ抉るなって。

 

「それ、肌身離さずもっときなよ」

「なんでまた?」

「いいから、最近物騒だからちゃんと持っとくんだよ」

「へいへい、ありがとうママン」

 

 どういたしましてと言いながら俺の部屋から出て行くママン。おかしいな、ママンってそんな信心深かったかな?まぁいいか、せっかく用意してくれたんだ………出かける時は必ず持ち歩くようにしよう。

 

「それにしても暇だ」

 

 ゲームも一人でずっとやってるのも飽きたし。テレビも面白そうなのはやってないし。いつも会う3人は予定あるみたいだし。朝の特別練習を終えて見学してたなのはちゃんと一緒に帰ってすぐに昼寝して起きてからボーッとしてたらすでに夕方だ。休息といえば聞こえがいいがせっかくの休日………なんかしたいな。

 ベッドから降りて部屋着から普段着に着替えて玄関へ。

 

「ママン、ちょっと散歩してくるわ」

「はいはい、ご飯までには帰りなさいよ」

「うっすうっす」

 

 早速貰った御守りをポッケにしまって外に出る。とりあえず部屋で燻ってるよりは外の空気を吸って当てもなく歩くのもいいかなと思った。ゆっくり歩いて考える。

 最近、アリサちゃんはなのはちゃんとまともな会話はしてなさそうだ。アリサちゃんがなのはちゃんに怒ったあの一件から2人の間には溝というのは大げさだが前ほどの近さは無くなっている。喧嘩したとかそんな風に距離が離れたわけではないのは分かる。アリサちゃんはアリサちゃんなりの考えがあってなのはちゃんに対してあの態度なのだろう。なのはちゃんも全て理解してる訳ではないにしろ意地悪されてる訳ではない事は分かってるみたいだ。

 前のように4人ではしゃげるような……元に戻るのにはなのはちゃんの悩みが解決するのを待つしかない。どうする事も出来ないのは分かってはいるがやはり歯痒い。

 そんな悩んでも仕方ない事に考えを馳せているといつもの公園に差し掛かった。そういえば昨日の朝にあったあの子………フェイトちゃんのプレゼントはうまくいったのだろうか。連絡先も知らないしどこに住んでるかも知らないから知りようがない。一応俺も無理やりフェイトちゃんに事情を聞いた手前、どうなったか気になる所だ。

 

「まぁ、流石にまた公園にいるなんて事はないか」

 

 何て言いながらも公園を確認してみる。フェイトちゃんが座っていたベンチに視線を送ると。

 

「マジか」

 

 いたわ。普通にいたわ。びっくりだよ、でも話聞きたかったしちょうど良かった。近づいて声をかけようとする。が、俺は言葉に詰まってしまった。

 

「…………………」

 

 フェイトちゃんは俯いていた。暗い表情で俯いていた。昨日の朝、声をかけた時と同じように。いや、それ以上に暗い表情だった。別れた時はキラキラとした笑顔を見せてくれたのに、今はその面影もない。

 極めつけは両手で大事そうに抱えている紙箱。見覚えがある、俺がフェイトちゃんにあげた翠屋のケーキだ。間違いない。母親に渡すつもりだったケーキが今ここにあるという事は………。声をかけるか一瞬迷った、無視する事も出来ず俺は努めて明るく声をかけた。

 

「よっ!フェイトちゃん、昨日ぶりだな」

「あっ………慎司、よかった会えて」

 

 俺を確認するとフェイトちゃんはすぐに立ち上がって俺の前に立つ。すると

 

「ごめんなさい」

 

 そう言って頭を下げてきた。

 

「何だよ……何でいきなり謝ってんだよ」

 

 予想外の行動に度肝を抜かれつつ、なるべく冷静に応答する。

 

「ごめんなさい、慎司がせっかくくれたケーキ………食べて貰えなかった……」

 

 そう言うフェイトちゃんの表情は変わらず暗いままだった。とりあえず事情を聞くと母親に渡す事は出来たものの手をつけて貰えずずっとそのままになってしまいそうになり、俺から貰った品だから捨てる事も出来ずにとりあえず悪くならないうちに俺に返しにきたらしい。

 何だよ、娘からのプレゼントに見向きもしなかったって事か?何だよそれ……。

 

「フェイトちゃんは悪くないじゃないか」

「その……母さんはずっと大変みたいで。私も母さんの期待に添えなかったからっ」

「何だよ、だからって娘からのプレゼントを完全無視なんておかしいじゃないか。大体何だよ期待に添えなかったって」

 

 なんことかはさっぱりだが子供は親の人形じゃないだ。自分の思う通りにならないからってそれはあまりに酷い話だ。俺が怒りを露わにするとフェイトちゃんは

 

「母さんは悪くないの!……私がいけないだけだから」

 

 そう言って母親を庇う。何なんだよ、意味わかんないよ。

 

「期待に添えなかったってどういう事なんだよ、フェイトちゃん……」

 

 フェイトちゃんを見据えてそう聞く。

 

「そ、それは…………」

 

 しかしフェイトちゃんは目線を外して答えてはくれない。なんだよっ、フェイトちゃんもかよ。なのはちゃんと一緒なのかよ。

 昨日あったばかりの俺だからって、君まで教えてくれないかよ。役に立てないのかよ。

 

「それでその……ケーキ……返すね。ごめんね、せっかく用意してくれたのに」

 

 手渡される紙箱を受け取る。中身のケーキもそのままだ。結局の所、俺のお節介は無駄骨だったて事になる。歯痒い。ただ歯痒い。無力感に苛まされる。分かってるさ、俺はなんでもできる特別な人間じゃない。そもそも、人間は万能じゃない。何でもかんでも当事者じゃない俺が力になれる事なんかほとんど無いんだ。

 なのはちゃんも然り、フェイトちゃんも然り。そんな事は理解している、だけどそれでも胸に渦巻く悔しさは取れない。けど、それは今は飲み込むんだ。俺は当事者になれないなら………それでやれることをやろう。

 

「……フェイトちゃん、俺一人じゃ食いきれねぇからさ一緒に食おうぜ」

 

 フェイトちゃんは何か言おうとしていたが有無を言わさず一人分のケーキを手渡す。困った顔をするフェイトちゃんに添えられていたフォークを渡して食ってみろって訴える。

 フェイトちゃんは恐る恐るケーキを口にした。瞬間、驚くような表情を浮かべた。

 

「すごい……美味しいね。慎司があれだけ言うのも分かるよ」

「だろ?桃子さんのケーキは世界一よ」

 

 俺が作った訳ではないが胸張ってそう伝える。

 

「こんなにおいしい物……母さんにも食べて欲しかったな」

 

 そう言うフェイトちゃんに言葉には返答できなかった。なんで言えばいいのか分からん。かわりに自分の分のケーキをムシャムシャと豪快に口にする。お陰で全部食い終わると口の周りは白いクリームだらけになる。

 

「フェイトちゃんフェイトちゃん………サンタクロース」

 

 体張ったボケじゃ、笑え。

 

「さん……たくろーす?」

「えっ?まさか知らん?」

「うん………慎司、口の周り凄い事になってるよ?」

 

 こいつ手強いな……。

 

「いいか?サンタクロースってのは1年に一回…とある日に事あるごとの住居に不法侵入して子供にプレゼントを置いていくんだ」

「いい人なのか悪い人なのか分からないね」

「だがそれで終わらないんだ」

「えっ?」

「実はな、サンタクロースにプレゼントを渡された子供はな?次の日には………テロに目覚めるんだ」

「超展開だね」

 

 一気に冷めた表情をするフェイトちゃん。

 

「だからフェイトちゃんもサンタクロースに洗脳されたテロリストだと思ってたんだ……」

「テロ行為願望はないってば……」

「ちなみに今までの話は作り話じゃなくて本当の話だ」

「えっ!?そ、そうなの?」

 

 やばいこの子ピュアすぎ。面白いからネタバレしないでおこう。

 

「人間はなんで二本足で立てるか知ってるか?」

「え?知らないけど……」

「実はな……俺も知らない」

「何で知ってる風に話すの?」

「シーラカンスがどうしたって?」

「話に脈絡がなさすぎるよ」

 

 何てケーキを味わいながら話をする。悲しい事があったのなら誰かが励ましてあげればいい。俺はいつも通りに接するだけだけどな。

 それが大切だって事を俺は知ってる。伊達に前世の記憶持ちじゃないからな。

 気のせいかもしれない。俺の目が都合よく見せてるだけかもしれないけど……フェイトちゃんは最初に比べればまだマシな表情を浮かべるようになってくれていた。せめて今だけは俺のこのくだらないやり取りに付き合ってくれや。その間は、その悲しい出来事を思い出させないように頑張るからさ。

 

「フェイトちゃん、また公園に来いよ」

「えっ?」

「今度はもっといっぱい話して、いっぱい遊ぼう。きっと………楽しいから」

「……………うん」

 

 ほんの少しだけ、相変わらず暗い表情だったけど……ほんの少しだけ……笑ってくれた気がした。

 

 




 

 眠いながらも何とか投稿。おやすみなさい


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魔法



 仮面ライダーはディケイド。ウルトラマンはティガ。自分の1番のお気に入り。何でこんなにかっこいいんだか。


 

 

 

 

 

 

 

 

 朝、学校に登校してホームルームの時間となると担任先生からなのはちゃんがしばらく家庭の事情で学校をお休みする事になったと伝えられた。まぁ、驚きはしなかった。事前になのはちゃんから連絡があった、俺だけじゃなくアリサちゃんとすずかちゃんにも。今は高町家の家にもいないらしい。心配になって桃子さんに色々聞いてみたが要領を得なかった。桃子さんも全てを知っている訳じゃないみたい。だけど、学校も休んで家もあけてしまうそんな状況になのはちゃんを放り込む許可したのは中々どうして流石なのはちゃんのお母さんとも言えるだろう。

 とにかくしばらくなのはちゃんには会えないだろうな。寂しい気もするが俺は応援してあげよう、せめて心中で。休みの間のなのはちゃんのノートやプリントの用意はアリサちゃんが一早く立候補した。やっぱり友達想いの優しい子だ。きっとすずかちゃんも手伝ってあげるのだろう。俺もアリサちゃんに手伝わせて欲しいと伝えたが

 

「あんたは柔道に専念しなさいよ。試合、もう近いでしょ?」

「慎司君が柔道で活躍するのも……きっとなのはちゃんの励ましになるよ」

 

 そう2人に言われては俺も頷くしかなく言葉に甘える事にした。大会も確かに近い。なのはちゃん事も気になるがそろそろそんな余裕もこいてられなくなる。そんな一幕がありつつ、学校の授業は代わり映え無く行われ昼休み。屋上で3人で弁当をつつく。

 

「にしてもあんた最近練習ばっかじゃない?体は平気なの?」

 

 談笑の話題が俺の柔道について移行するとアリサちゃんからそんな声が。

 

「まぁ、大会前の追い込みみたいなもんだからさ。ちゃんと無理のないようにやってるよ」

「そ、ならいいわ」

「アリサちゃん、慎司君の事も心配してたもんね。体壊すんじゃないかって」

 

 すずかちゃんの一言に余計な事言わなくていいのと顔を赤くしながら言うアリサちゃん。なんか、この子もこの子で可愛らしいな。

 

「何だ何だ?俺がそんな心配になったのか?ほれほれ、素直に言ってみ?」

「死ね!」

 

 あっぶな!飯食ってる時に叩こうとすんなよ。

 

「そうだ、慎司君の大会が終わってなのはちゃんも元気に戻ってきたら皆んなでパーティでもしない?」

 

 パッと閃いたように言うすずかちゃん。

 

「「パーティ?」」

「うん、私達だけじゃこの間の翠屋のパーティみたいに豪勢には出来ないけど皆んなでご飯食べていっぱい遊ぶの」

「いいじゃない、まだ慎司にポケモンの借り返してなかったしね」

「お主じゃ我には勝てぬよ」

 

 とりあえず必ずメンバーにリザードン入れるの止めればもうちょい戦えるのになアリサちゃん。好きだから入れるってのは分かるけど。

 けどよりによってブラストバーンとオーバーヒートを覚えたリザードンとは流石バーニング。

 

「何か失礼な事考えなかった?」

「いや、世界平和について考えてた」

「壮大だね」

「ドラクエの」

「矮小だね」

「世界の半分をやろう」

「何言ってるのよ」

 

 ツッコミ要員不足を感じる。なのはちゃん……早く帰ってきて、ツッコミしてください。そうでなくても、寂しいから早く帰ってきてな。本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 下校中、練習まで時間が多少あるので公園に寄る。人っ子ひとりいない。ギリギリ練習に間に合う時間まで公園のベンチでボッーとしている。

 

「今日も来ないか………」

 

 あれからフェイトちゃんには会えていない。明確な約束をした訳じゃないからしょうがないんだけどな。毎日公園には顔を出してはいるからその内また会えるといいなと思う。

 まだ、みんなの事紹介できてないからな。

 

「そろそろ行くか……練習に間に合わなくなる」

 

 しばらく学校行って公園でずっと1人で待って柔道の練習をこなす。そんな毎日が続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、ただいま……」

「「おかえり」」

 

 つ、疲れた。今日も一段とハードだったぜ。本当に周りに気を使う余裕が無くなってくる。

 

「慎司、先に風呂入りな。ご飯用意しとくから」

「ういっすママン」

 

 まだ汗が止まらないぜ、サッパリしたいからお言葉に甘えて風呂はいろ。

 

「慎司、プロテインいるか?」

「パパン、それジュニアプロテインの方?」

「あぁ、バナナ味」

「いるー」

「分かった、用意しとくよ」

 

 プロテインは子供の体では栄養過多を心配されがちだがジュニア用のプロテインでなおかつしっかり運動などでエネルギーを消費しているのなら強い体づくりになる。うちも親に頼んで用意してもらっている。

 なのはちゃん達には隠してはいるが、実は俺結構なプロテイン好きである。親にもこういう形で沢山応援してもらってるんだからちゃんと結果を出して恩返ししたい。

 

「そういえば慎司、あんたちゃんと御守り持ち歩いてんの?」

「うん、ちゃんと持ち歩いてるよ」

 

 服のポッケから御守りを取り出して見せる。それを見せるとママンは安心したように息をついて

 

「ならいいわ。ちゃんと毎日持ち歩くのよ」

 

 そう言ってキッチンに戻っていった。うーん、前にも言ったけどあんな信心深かったけかな?変な宗教にでも引っかかってないだろうな……。まぁ、うちのママンに限ってそれはないか。

 変な心配してないでさっさと風呂はいろ。

  

 

 なのはちゃんにはしばらく会えなくなったが代わり映えしない日常が過ぎる。その間、フェイトちゃんとも結局会うことはなかった。が、ついに俺は対面する事になる。前世の地球と、今世のこの地球の決定的な違いを。なのはちゃんが抱えている大事な決意と覚悟を、フェイトちゃんが抱えている信念と愛情を。

 それを俺は受け止めなければならなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなってんだよ!!」

 

 空に向かって叫ぶ。暗雲とし嵐のように荒れている空に。何となくだった。何となく今日は沢山走りたくなった気分だった。試合ももう間近に迫っていて、試合前の調整期間に入って無理な練習はする事なく試合に向けた研究や技の磨きをかける期間に。疲れないわけじゃないが普段は普段で厳しすぎたのか逆にもっと体を動かさないと不安になった。

 だからいつもより遠出をしてランニングに繰り出した。ママンの言いつけの通りちゃんと御守りをポッケにしまって。当てもなく走り続けて気づけば普段絶対にたどり着かないどこかの海辺にまで来てしまった。人は誰もいない、海水浴シーズンじゃないしな。つい海の景色に見とれて走るのをやめて海に近づく。少し晴れ晴れとした気持ちになり、またランニングを再開しようとした時だった。

 俺は気づいたら海に流されていた。いや、ホント俺もなにが何だか分からなかった。直前、急に青空が暗雲としだして嵐のような雨と風に襲われた事。それに体を持ってかれたのか気づけば海に放り出されてそのまま流される。必死に溺れないようにもがいて泳ぐ。何度も顔に荒波を浴びつつ何とか呼吸を保っていると不幸中の幸いと言わんばかりに海のど真ん中に小さいながらも岩場を発見した。

 これがいわゆるご都合主義という奴だろうか。まぁどうでもいい、とにかく必死に岩場に辿り着き何とか海から抜け出す。しかし、嵐のような天候は相変わらずで風と荒波に体を持ってかれないように岩にしがみつく。そこでようやく周囲をキョロキョロと見渡す。うわっ、陸どっちだろ。結構流されたみたいだ、よく無事だったな俺。とにかく今はまた海に投げ出されないよう踏ん張る。数分ほど耐えていると今度は嵐に加えて竜巻が。6つの竜巻が猛威を奮っている。

 

「待て、竜巻じゃない」

 

 竜巻とは違う。似ているけど違う。あれは何だ?ずっと竜巻のようなエネルギー体が辺りに衝撃を与えていた。それが6つ。何だ、地球最後の日か?目を凝らしてそれを観察するとその周りを飛び回る黒い何かを発見した。鳥じゃない……あれは……人だ!人が飛んでる!しかもあんな謎のエネルギー体の近くで!危ねぇぞ。一体誰だ!?

 

「おい!あんた!……くそっ!」

 

 轟音で俺の声はかき消されて届かない。どうする事も出来ず見守っていると黒い人影とはまた別に飛んでいる存在を確認した。今度は人じゃない、赤い……犬?狼か?そんな体躯をした生物も黒い人影を守るように周りを飛んでいる。目が慣れてきたぞ、さっきよりハッキリ見えてきた。

 

「な………」

 

 顔が見えた、さっきからエネルギーの集中砲火を浴びながらそれをかわして飛び回っていた人の顔。女の子だった。髪の色は金。見覚えがある、知り合いだ。つい最近に出会った、公園で。何だよ……意味わかんねぇ。

 

「どういう事なんだよ!フェイトちゃん!!」

 

 その声もかき消されて届かない。危ない、何がしたいのか分からないけどあんな明らかにヤバそうな雷みたいな奴の近くにいるのは危ない。けど見守ることしか出来ねえ。くそがっ。

 

「おい!フェイトちゃん!おーい!」

 

 だめだやっぱり届かないか。フェイトちゃんをずっと見守っていると、ずっと周りを飛んでいるだけだったフェイトちゃんに変化が。何だ?杖?みたいなのを振り回し始めた。するとそこからよく分からない光の球体を生み出してそれを炸裂させたりその杖から金色の光の鎌みたいなものを現出させてそのエネルギー体に攻撃したりとやりたい放題やり始めた。

 あぁ、頭パニックになって色々慌てふためいているけどさっきから起こってる現象をまとめるならば。

 

「魔法って奴なのか?」

 

 あぁそうかい。そりゃたまげたよ、この世界には魔法が存在していてそれをフェイトちゃんが行使できるってだけの事か。口で言うのは簡単だけど本当にパニックだよ。今自分の命も危ない事を忘れそうになる。俺がそんな事を思いながらもフェイトちゃんは魔法のエネルギーのようなもので攻撃したりバリアーのようなもので防いだりといかにも魔法使いのような事をずっとしている。

 ここまで見せられちゃ、疑いようがない。が、俺のパニックはそれでは終わらなかった。フェイトちゃんの旗色が悪くなり苦戦している様子を見せてきた頃今度はまた別の2人組が空を飛びながら参戦した。その人物に今日一番の衝撃を味わった。

 

「……え?」

 

 1人は見知らぬ少年。見た目は俺の歳とそう変わらない、問題はもう1人。見覚えのある学校の制服をモチーフにしたような服を纏い、フェイトちゃんが持っていた物とはまた違ったデザインの杖のような物を持ち、フェイトちゃんと同じように魔法で攻撃したり防いだりしている1人の女の子。

 

「なの……はちゃん?」

 

 高町なのは。栗色の髪をなびかせながら果敢に竜巻に立ち向かっている女の子。俺が見たことのない凛々しい顔つきで、それこそ1人の戦士のような…そんな雰囲気を纏った見慣れたはずの女の子が空を飛んでいた。状況はよく分からない。さっきから無差別にエネルギーを喚き散らかしてる竜巻のようなエネルギー体は何なのか、何で6つもあるのか、色々分からない。けど、なのはちゃんがフェイトちゃんと同じ魔法を使える魔法使いだと言うのは一目瞭然だった。

 最近ずっと悩んでいたのはそこら辺が関係していたのだろうか?俺が能天気に日常を過ごしている中ずっとなのはちゃんはこんな危険なことばかりしてたのだろうか。もしそうなら俺は………何も支えになれてなかったのではないのか?

 呆然とする俺、そんなタイミングで今まで無差別に辺りを暴れ回っていたエネルギー体の攻撃はとうとう離れている場所にいた俺にまで届き始めた。

 

「っ!?」

 

 俺のいる場所からわずか数メートル先にエネルギーの衝撃が走る。それは一瞬海を裂きその危険さを俺に伝えてきた。まずい、ボーッとしている場合じゃないが俺はここから動けねぇ。あんなの食らったら即死だ。

 

「くそがっ!!」

 

 再び俺の近くに衝撃が。ああもう!まさか俺を狙ってるんじゃあるまいな!?

 チラッとなのはちゃん達の方へ視線を向ける。………あ。2人と目があった。2人だけじゃない、見知らぬ男の子とあと赤い犬のような大きな生物とも。フェイトちゃんとなのはちゃんはあからさまに驚いていた。驚いてるのは俺の方だけどな。

 

「危ない!」

 

 フェイトちゃんの声が不思議と届いた。視線を元に戻すと例のエネルギー体の攻撃はとうとう俺に向けて真っ直ぐ伸びていた。

 悲痛な声を上げてこっちに向かってくるなのはちゃん、口元を押さえて驚愕の表情で動く事の出来ないフェイトちゃん。あぁ、ごめん。こんな形で死ぬなんて……2人の前で心配させるのも、死ぬのも…嫌なんだけどなぁ。

 一度死んだ身だ、だから怖くはない。…………ンなわけねぇ。

 

「うわあああああ!!」

 

 情けなく叫ぶ。こんな形で死ぬのはもう………嫌なのに。

 

「やだ!慎司君!!」

 

 なのはちゃんの声が俺のこの世界で聞こえた最後の声になるのか。それなら……まだマシか。前世よりは。

 衝撃が走った。轟音が耳につんざき、俺の周りの海はその衝撃で荒波を作る。痛みは無い、しかも意識がある。

 

「あつっ!?」

 

 ズボンのポッケから熱いくらいの熱を感じた。慌てて弄ると出て来たのはママンから渡された御守り。それが強烈な光を放っていた。俺は無傷だった、俺が足場にしていた岩場にも先程と変わった様子はない。そこで気づいた。

 

「何だ……これ」

 

 俺から半径数メートルを囲うように魔法のバリアーのような物が張られていた。さっきからフェイトちゃんが使っていた魔法のような現象と酷似している。それが、俺を守ってくれたのか?次第に御守りの光は淡く消え始め、それと比例してバリアーも薄くなっていく。10秒もかからずバリアーも御守りの光も消える。

 またパニックだ、俺魔法使いだったの?いやンなわけねぇ。けど3人と1匹が俺に魔法を放ってくれた様子でもなさそう。なのはちゃんとフェイトちゃんは安心したようにホッと息をついていた。が、だからといってさっきから暴れまわっている雷達が、消えたわけじゃ無い。俺の近くに来ようとする2人を俺は大声で制した。

 

「おいコスプレ三人衆!!」

「「「違うっ!!」」」

 

 おお、初対面の男の子も2人に負けずいい反応だね。是非ツッコミ要員に入ってください。

 

「俺はいいから!早くあの変なのどうにかしてくれー!」

「で、でも!」

「でもじゃないお転婆なのは!」

「お転婆じゃないもん!」

「じゃあコスプレ魔法使いだな!」

「コスプレでもないってばー!」

「2人ともこんな状況でコントしないでよ!」

「うるせぇ少年C!沈めるぞコラァ!」

「少年C!?」

 

 いつもと同じようなやり取りをしてようやく落ち着く。落ち着け、実年齢もう三十路手前だろう。ここで俺が焦って迷惑をかけてる場合じゃない。御守りの事も気になるけど今はそれを考えている場合じゃない。とにかく、この状況を打破するために必要なのは俺ではなくこの不思議な力を持ったなのはちゃん達だ。俺に構ってる場合じゃないはずなんだ。

 

「とにかく!俺の事は気にすんな!あの変な竜巻みたいな奴………お前達なら何とか出来るんだろう?」

 

 俺の言葉にフェイトちゃんと赤い犬も含めた全員が頷く。だったら話は速い。

 

「んじゃなんとかしてこい!俺は何も出来ないからな!応援はしてやるからさっさと協力して解決してこいよ…………」

 

 協力と言う言葉でみんなそれぞれお互いを見合せる3人と1匹。なのはちゃんとフェイトちゃんの関係も気になるが雰囲気から察する何か色々と複雑なんだろう。だが、今は協力してほしい。俺は何も出来ないからな、できる奴らで協力するのが一番安全で安心だ。

 

「うん、待っててね。いこう!」

 

 そう言って一足先に竜巻に向かっていくなのはちゃん。俺の言葉に真剣に頷き、笑顔を見せてから果敢に跳んで言った。それに続くように少年Cもなのはちゃんに続いていく。赤い犬はフェイトちゃんの方を気にしながらも竜巻に向かって行った。残っているのはフェイトちゃんのみ。

 

「……………」

 

 フェイトちゃんは俯いて黙ったままだ。言葉を決めあぐねているのは一目瞭然だ。

 

「ごめん……」

「何がだよ?」

「多分……私が巻き込んだから」

 

 事実は知らん。俺はあの竜巻の嵐に巻き込まれてここにいる。その竜巻をフェイトちゃんが起こしたのならそうなるんだけどどっちでもいい。

 

「正直頭はまだパニックなんだよ。魔法みたいな不思議な力を見せられて……あまつさえ俺の知り合い2人がそれを使ってる」

「あの子とも顔見知りなんだね……」

「まぁな」

 

 だからパニック成分2倍である。もう考えるのやめて受け入れなきゃ正気を保っていられないほどパニクってる。だからまぁ、今はその事はどうでもいい。聞きたくないしきっと理解も出来ない。だから俺は見守って送り出す事しか出来ない。

 

「フェイトちゃんも行ってこいよ。その為にここでドンぱちしてたんだろ?………なのはちゃんを頼むよ」

 

 その言葉に複雑そうな表情を浮かべながらもわかったと返事をしてくれる。

 

「あぁそれと」

 

 飛び立とうとするフェイトちゃんを呼び止め俺は続けた。

 

「たまには公園にも顔出せよ。まだいっぱい話したい事と遊びたい事あるからさ」

 

 そんな俺の言葉に驚いた表情浮かべるフェイトちゃん。何で俺はフェイトちゃんにここまで構うのだろう。2度目に公園で会った後にふとそう思った。なのはちゃんの時はあのまま泣いているあの子をほっとけなくて、前世みたいにいろんな後悔を残し人生を終えるのが嫌だったから俺は声をかけた。けど、俺は別に悪人のつもりは無いけど仏様のような善人のつもりもない。誰それ構わず手を差し伸べたりはしない。だから、何でそこまでフェイトちゃんを気にしてしまうのだろう。その答えを俺は知らない。

 だからそれには一旦目を背け、心に浮かんだ言葉を送るしかない。君とはまだ話したりしたいし遊んだりもしたい、それは本心だから。

 

「うん、ありがとう……慎司」

 

 そう言い残してフェイトちゃんも飛び立っていく。俺は後は応援するだけだ。そうする事しか出来ない。見守る事しか出来ない。

 御守りを掌に乗せる。もううんともすんとも言わない。恐らくこいつが俺をあの竜巻から守ってくれたのだろう。魔法みたいな力が発動したこの御守り………しつこく持っていろと念を押していた母さん。…………つまりはそう言う事なんだろう。俺の周りにどれだけ摩訶不思議な力を持った人達がいるんだか。あぁ、ホント………パニックだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何が起こったのかは正直よく分からなかったがとりあえずはなのはちゃん達を例の竜巻もどきを治めることに成功したようだ。証拠に荒れ放題だった天候が嘘のように晴れ間が広がっている。何をしたのか全く分からなかったが全員協力して事に当たっていてくれた事は理解できた。

 それさえ分かればいい。さて、状況が落ち着いた所でなのはちゃんとフェイトちゃんは空を跳んだまま向かい合って何事か話をしていた。何を話しているのか気にはなったが生憎、流石にこうも離れてちゃ聞き取れない。それよりも気になるのが2人の周りに浮かんでいる6つの青い宝石のような物の方が気になった。あれは何だろうか、あれが竜巻の原因なのだろうか。

 2人の目的はあの宝石なのだろうか。色々考えては見るが答えはわからない。結局2人の関係も見えてこない、魔法を使うもの同士仲間だって言うような雰囲気でもなかったしな。

 恐らくだが、悪く言えば敵みたいなものなのだろうか。それならなのはちゃんがこれまでずっと浮かない顔をしていたのも納得がいく。普段からあんな寂しそう顔をしている子をなのはちゃんが放って置くはずないだろうし。とりあえず話が終わるまで俺は待つとしよう。

 そう思い、一息つこうと座ろうとした時だった。

 轟音、そして直感が告げた。何かヤバいものが来ると肌が感じる。瞬間、空が裂ける。そこから大きな雷が撃ち落とされる。俺の知ってる雷じゃない。恐らくあれもなのはちゃん達と同じ魔法のようなものだと瞬時に理解した。その雷はピンポイントにフェイトちゃんに直撃する。いや、フェイトちゃんを狙ったものだった。何なんだよ今度は!一体誰の仕業だ!!

 

「フェイトちゃん!!」

 

 俺の声は雷の轟音とフェイトちゃんの苦悶の叫びに掻き消される。雷の余波で近くにいたなのはちゃんも巻き込まれ衝撃で吹き飛ばされる。次第に雷は収まりフェイトちゃんは力なく海に落ちていく。まずいここからじゃ何も出来ねぇ!

 海に叩きつけられる直前、例の赤い犬が姿を変えてフェイトちゃんを直前で受け止める。あの姿は人だ。もう今更犬が人間に変化したって驚かない。今はそれどころじゃない。犬が変身したあの人には見覚えがある。以前温泉旅館でなのはちゃんに絡んで来た女の人だ。

 フェイトちゃんを受け止めた女性はフェイトちゃんを抱きかかえたまま今度は青い宝石に向かって手を伸ばす。あれを奪うつもりなのか?すると今度は黒い装束に身を包み、なのはちゃん達と同じく杖のような物を手にした少年がどこからか現れそれを阻む。

 ああもう!本当に何人増えたら気が済むんだ!あれも魔法使いだな!浮いてるし。

 女性と少年の幾ばくかの攻防の後宝石を半分ずつお互いが奪った所で女性は目眩しに魔法を放って姿を消す。一緒に抱き抱えていたフェイトちゃんの姿も勿論ない。

 

「何なんだよ……ホントに」

 

 取り残されたのは魔法使い3人と遠くで見る事しか出来なかった一般人が1人。静寂の中、海のさざなみの音だけが響き渡る。

 

「くそがっ!!!」

 

 意味もなくそう叫んだ。無力なおれがいくら叫ぼうがそれは負け犬の遠吠えですらない。戦ってすらいない俺はいくら喚いた所で虚しいだけ。それは俺が一番よく分かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心を落ち着けて、冷静になって頭が冷えてきた頃になのはちゃんと少年2人が俺の前まで飛んで来た。最後の現れた黒装束の少年。年は現世の俺より年上かな、身長が俺とそこまで変わらないからそう見えにくいが。少年はクロノ・ハラオウンと名乗った。

 

「君にいくつか聞きたい事がある。悪いが僕達について来てもらいたい」

 

 お堅い役所勤めのような口調で俺にそう言ってくる。俺は構わないと受け答えしつつこちらの知りたい事にも答えて欲しいと伝える。クロノはそれに了承してくれた。

 さてさて、俺はどこについて行けばいいのだろう。まずこんな海のど真ん中にある不安定な岩場から助けてくれるとありがたい。俺を抱えて跳べますかね?え?その必要はない?転移する?出来るの?へぇ、結局俺が見た色んな現象は魔法って呼称なのね。そのまんまかい。にしても、何でもありだな魔法。

 

 

 

 

 

 

 転移すげぇ。ホントに瞬間移動したよ。体の負担とかそんなもの全く感じなかった。クロノによると転移した場所は次元空間航行艦船アースラの内部という。何じゃそりゃ?次元空間?…………意味わからん。とりあえず魔法使いのすごい艦船って事で理解しとこう。

 それで、なのはちゃんが魔法に関わる事になったきっかけや理由を船内を歩く途中で説明してもらう。

 一番俺が反応を示したのはフェレットのユーノの正体が少年Cだったことだ。

 

「俺はどっちで呼べばいいんだ?ユーノか?少年Cか?」

「それが選択肢に入ってるのが驚きだよ」

「ユーノの方か?」

「少年Cだよ!」

 

 ユーノ、お前今日から俺のツッコミ要員に加われ。なのはと一緒にキレの良いツッコミを磨くんだぞ。

 

「無駄話は終わりにしてくれ。もう着いたぞ」

「クロノっちお堅いよ」

「何だその呼び方は」

「気に入らない?」

「クロノでいい」

「クロクロちゃん」

 

 クロノは頭を抱えた。

 

「ごめんねクロノ君、この人話通じない時はとことん通じないから」

「なのはちゃん、お通じ良くなったかい?」

「最初からお通じに悩みを抱えてないよ」

 

 クロノは少々ため息を吐きつつもう行くぞと俺に伝えて魔法らしい近未来的なデザインの扉を開ける。中はアニメとかで見た事ある制御に使う装置やら機械やら。管制室っていうやつなのだろう。職員らしい人達がモニターを見ながらキーパネルを操作して作業に没頭している。テレビの中に入ったような錯覚に興奮している俺をなのはちゃんがなだめる。

 

「……艦長」

 

 クロノのその言葉にこの船のリーダーが座るために用意されているであろう真ん中の指令席から1人の女性がこちらに気づいたようでこっちまで歩いてくる。

 

「クロノ、ご苦労様。そしてアースラへようこそ、荒瀬慎司君」

「どうして俺の名前を?」

「ふふふ、よくなのはさんからお話を聞いてるのよ。大切なお友達だって」

 

 艦長さんのその言葉になのはちゃんがわーっ!と顔を赤くしながら騒ぎ始めた。照れんなよなのはちゃん。

 

「私はリンディ・ハラオウン……このアースラの艦長です」

「ども、噂の荒瀬慎司です」

 

 とりあえず握手。クロノと同じファミリーネームという事は恐らく親子かな。第一印象はとても頼りになりそうな人という感じだ。子供の俺に対等に接してくれているのを見るときっと優しい人でもあるんだろう。

 

「早速慎司君に話を聞きたいんだけど………その前に、なのはさんとユーノ君は私から直々のお叱りタイムです」

 

 俺に一言謝ってからリンディさんは困った顔をした2人を連れて司令室から別室へと移動する。その間はクロノやアースラの人達と話でもしてよう。

 

「クロノ、俺年下だけどタメ口でいいかな?」

「別に気にはしない。変なあだ名で呼ばなければな」

 

 良かった良かった。何となくクロノとはタメ口で話した方が仲良くなれそうな気がしたのだ。

 

「ちなみに2人は何をしたんだ?」

「無断で出撃したんだ」

 

 ほー、なのはちゃんもユーノも結構大胆な事をするな。

 

「クロノも魔法使いなんだよな?」

「あぁ、僕達の世界では魔導師と呼んでいる」

「世界?」

「あぁ、艦長を待っている間にそこら辺の事を教えるよ」

 

 クロノからは色々興味深い事を聞けた。次元世界と呼ばれる様々な世界が存在する事。そしてそれらを管理し平和保つために存在する魔法都市ミッドチルダの管理局。もう大袈裟に驚く事は無いがそれでもぶっ飛んだ世界観に目が眩んでしまいそうに。

 そしてこのアースラの目的となのはちゃんとユーノの目的。これはさっきも聞いたがジュエルシードという危険物を集めているらしい。ふとこの間の大木侵略事件を思い出す。結局ニュースでは原因不明と言われていたがあれも恐らくジュエルシードの仕業で、あの日あんな被害を受けた街を見て関係者だったなのはちゃんが落ち込んでいたのも納得がいく。そして、そりゃこんな事話せないわけだ。あまりに世界観がおかしいしな。

 

「なぁ、一つ質問なんだが」

「何だ?」

「地球も数ある次元世界の一つだって言ったよな?地球以外にも文化や文明、技術が酷似した地球みたいな次元世界って存在するのか?」

「いや、そんな話は聞いた事ない。まだ管理局が把握していない次元世界も存在すると言われているからもしかしたらあるかも知れないがそんな他の世界と酷似している例は恐らくないな………何故そんな事を聞くんだ?」

「いや、ちょっと気になっただけさ」

 

 なら、俺の前世の記憶はやっぱり次元世界の壁それすらも超越した先の地球の記憶なのか。確証は無いはずなのにその仮定が変に府に落ちた。皆、元気にやってるだろうか。確認する術がないので願う事しか出来ない。

 

「ねぇ、君」

 

 色々と思案していると指令室にいた局員の中でも比較的若い女の人に呼び止められた。年はクロノと同い年か少し上くらいだろうか。

 

「何です?」

「あぁ、ごめんね急に。私はエイミィ、アースラの管制官を任せれてるの」

 

 管制官……まぁニュアンスでどういう役職なのかは想像できるが。

 

「どうしたんだエイミィ。慎司に何か用が?」

「うん、ちょっと気になってる事があってさ」

「何なりと聞いてくださいな」

 

 ありがとうと前置きにお礼を言いつつエイミィさんは語り始める。まず前提に先程の海上のあれこれはアースラからモニターしていて巻き込まれていた俺の事も後からだが観測していたそうな。すぐに観測出来なかったのは魔力反応が皆無だったかららしい。だからすぐに救助を出してあげれなかった事を謝罪される。それは別に気にはしてない。

 

「それで?気になる事というのは?」

「うん、魔法についての知識はクロノから聞いたのよね?」

「簡単にですけど」

「魔法を使うにはリンカーコアっていう器官が必要なの。それから魔力を抽出して魔法を行う。基本的な魔法の使い方がこれ。それで………貴方は」

 

 言いづらそうにしているエイミィさんに変わって俺は自分で口を開いた。

 

「リンガーハットってやつがないんですよね?俺には」

「リンカーコアだ」

 

 クロノからツッコマまれる。ちなみに俺は皿うどん派です。

 

 というか地球出身の殆どの人間はリンカーコアを保有してないのだろう。なのはちゃんはたまたまその才能に恵まれたのだとさっきクロノから教えてもらった。ミッドチルダ内でも優秀といえるほどの才能らしい。

 

「そう、だから慎司君は魔法を使えない。けど……貴方は魔法を発動して見せた」

 

 その事について聞きたいと言っている。俺はエイミィさん対して首を振ってこう答えた。

 

「俺が発動したんじゃないと思います」

 

 あの時、俺が魔力塊に襲われそうになった時に現出した魔力で構成されたバリアー。その時に明らかに変化したものがあった。それをポッケから取り出す。

 

「多分ですけど、これのおかげだと思います」

 

 そう言って例の御守りを見せた。見た目は特に何の変哲もない交通安全の御守り。

 

「そのバリアーが発動した時、この御守りがそれに呼応するように光っていたんです……だからこれが原因だと思います」

「見せてもらえるかな?」

 

 どうぞと言って受け渡す。エイミィさんはすぐに違和感に気付いたようだ。

 

「ごめんね、これ開けても?」

 

 罰当たりな事だが確認のためには仕方ないだろう。俺はいいですよと許可を出す。エイミィさんは律儀にごめんなさいと手を合わせてから丁寧に紐を解いて中身を取り出す。御守りの中には恐らく普通に御守りに入っているものと明らかに一つ違和感あるものが出てきた。

 

「チップ?」

 

 俺がそう溢す。中から出て来た御守りの中身には似つかわしくない少し大きめの何かのデータチップの様なもの。何だこれ?

 

「これをどこで?」

 

 一緒に事の次第を見守っていたクロノから聞かれる。一瞬躊躇ったが俺はもうこの御守りから魔法が発動したと考えた時点で一つ答えを得ていた。

 

「母親から渡されたんだ………」

 

 恐らく俺の母さん………あと多分父さんも魔法の関係者だ。俺が今日まで魔法の存在を知らなかった事は目の前にいる2人にも伝わっている。だから2人は難しい顔をしていた。言葉に詰まっているのだろう。多分だが、親が息子に隠して来た重要な事を暴いてしまったようなそんな事態だからな。何も言えないのも仕方ない。

 

「エイミィさん、クロノ………」

 

 重々しく口を開く俺を2人は真剣な眼差しで見ていた。俺は震える声を何とかちゃんと聞こえるようにハッキリと告げる。

 

「………………トイレどこですか?」

 

 ずっと我慢してたんだけどそろそろ限界なのです。

 

「「「「「今かよっ!」」」」」

 

 2人だけでなく周りで聞き耳を立てていた局員全員が綺麗にハモらせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 今回は中途半端でしたけどここまでで。次回も閲覧よろしくお願いします


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本当は



 今更ドラクエ11にハマってる作者。色々遅い作者。今度はウィッチャー3かディアボロ3買おう


 

 

 

 

 

 

 リンディさんのお叱りが終わったようで、俺はリンディさんに呼ばれクロノと一緒に指令室を後にし別室に。既にそこには叱られた後であろうなのはちゃんとユーノの姿も。

 御守りはエイミィさんに預けて解析をしてもらっている。とりあえず、今は俺の知りたい事とリンディさん達が俺に聞きたい事について話し合う事に。最初にまずクロノから今回の事件…………事件というのはなのはちゃん達アースラとフェイトちゃんによるこれまでのジュエルシードの奪い合いの事。ある程度の詳細は先ほど聞いているから話を進めてもらう。

 クロノは今回の事件の大元に心当たりがあるらしくそれについて語り始めた。部屋の中央に何もないところからモニター化された映像が映し出される。すげぇな魔法、本当に便利だ。映像には1人の女性の姿が。その女性を見てリンディさんが反応を示す、知っている人なのだろか。

 

「プレシア・テスタロッサ………僕達と同じミッドチルダ出身に魔導師だ」

「テスタロッサ?」

 

 フェイトちゃんと同じファミリーネームだ。

 

「まさか、フェイトちゃんの?」

「あぁ、恐らく親子だろう」

 

 俺の疑問にいち早く答えるクロノ。なのはちゃんも心当たりがあったらしく頷いている。そして、フェイトちゃんを襲ったあの魔力の稲妻……あれもプレシア・テスタロッサが放ったものだとクロノが言い出す。魔力反応?とかそういうものがデータと一致しているから間違いないらしい。

 

「バカなっ、自分の娘を攻撃したってのか?」

 

 公園で会ったフェイトちゃんを思い出す。最初に会った時母親について聞いた。とても楽しそうに話していた事を覚えてる。優しい母親だと、愛していると、愛されていたと。最近はうまくいってないような事も口走っていた事を思い出した。

 プレゼントのケーキにも見向きされず悲しんでいた事を。手に力が自然と入る。

 

「あ、あの…‥驚いてたっていうより、何だか怖がっているみたいでした」

 

 なのはちゃんのその発言に一同顔を難しくする。怖がってた………ね。という事は……日常的にそういう行為があったんじゃないかと疑わざるを得ない。だが、そんな仕打ちを受けているフェイトちゃんはどうしてあんなに真っ直ぐ母親の事を楽しそうに語れたのだろう。

 

「とにかく、エイミィに頼んでプレシア女史について追加の情報を調べてもらいましょ」

 

 通信を繋げてエイミィさんにその事を頼むリンディさん。その追加の情報を待っている間に話の矛先は俺に向く。

 

「それじゃあ、慎司君に私からいくつか質問があります。正直に答えてください」

 

 リンディさんの目つきが少し変わった。真剣な事のようだし茶化したりするのはよしておこう。俺ははいと返事をして質問を待つ。

 

「まず一つ目、慎司君はフェイト・テスタロッサの事を前からご存知だったの?」

 

 あの海上で俺の事はアースラでモニターしていたらしいからな……普通に話している姿を見て疑問に思ったのだろう。

 

「知ってはいました。前に2度ほど近所の公園で見かけて話をしたりしました」

 

 俺の答えになのはちゃんは少々驚いていた。あぁ、顔見知りな事伝えてなかった。

 

「魔法やジュエルシードについては今日まで知らなかったのよね?」

 

 頷く。そして不毛な質問が続かない内に先にリンディさんに伝えた。

 

「フェイトちゃんについて情報を持っているか気になっているのなら俺はリンディさんが知っている以上のことは知りません。申し訳ないですが、お役には立てないと思います」

「そうみたいね、貴方も今回は巻き込まれた立場でしょう。それじゃ、少し質問を変えるわ」

 

 今度は何だろうか。

 

「エイミィから御守りについての報告は通信で受けています。貴方のご両親のお名前を聞かせてもらえる?」

 

 なのはちゃんとユーノは何のことか知らないだろうから首を傾げていた。

 

「…………父親は、荒瀬信治郎………母親は、荒瀬ユリカ」

「…………やはりそうでしたか」

「知っているんですか?」

「えぇ、慎司君ももう気付いているでしょうから言いますが貴方の母親であるユリカさんはミッドチルダ出身で元管理局の技術者。父親の信治郎さんは地球出身の魔導師です」

 

 ほほう、それは興味深いね。なのはちゃんとユーノ君はその事実の大口開けて驚いていたがクロノも別の意味で驚いていた。

 

「名前はユリカで元管理局の技術者というのはまさか」

「えぇ、管理局特別技術開発局長だったユリカ・ユーリヤさんの事よ」

 

 ママンの旧姓か……一度聞いた事ある。ミッドチルダ出身のくせにリンディさん達と違って日本人顔だから全然想像してなかった。その旧姓も冗談で言われたのかと思ってたし。ていうかママンもしかして結構な地位の人だったんじゃねえか?局長だぞ?

 

「エイミィが解析してくれた御守りのなかのチップも彼女が開発していたチップ型魔力シールド発生装置………魔法を使えない慎司君が持っていても、所有者に攻撃性魔力を検知した時にチップに込められた魔力が自動的に所有者を守るようにプログラムされてる物みたい」

 

 簡単に言うけどこれすごい技術なのよねとため息混じりにリンディさんは呟いた。そうか、ママンは俺を守る為にこれを持たせたのか。

 

「私達は意図してない事とはいえご家族の隠し事を結果的に貴方に漏らしてしまう事になってしまいました。ですのでここから先の説明は本人同士でしてもらいましょう」

 

 リンディさんがそう言い終えると同時に部屋の扉が開く。二つの人影。2人ともよく知ってる顔だ。

 

「慎司君のお父さんとお母さん!?」

 

 なのはちゃんが驚きの声を上げる。リンディさんは俺の名前を聞いた時からピンと来ていたらしく両親に既に連絡済みだったと伝えられる。

 パパンは仕事を抜け出して来たのだろうか見たことのない制服に身を包んでいた。リンディさんが着ているものと近いデザインだから恐らく管理局の何かしらの制服なんだろう。ママンは対照的によく見る格好だ、家事の途中で慌てて来たのだろうかいつものエプロン姿だ。

 

「慎司………」

 

 母さんが重苦しい口調で俺を呼ぶ。既に俺に魔法関連のことがバレているのは伝わっているんだろう。何を言えばいいのか、考えているみたいだ。けど、俺としては深刻に考えて欲しくはなかった。別に隠されてた事は何とも思ってないしどうして隠していたのか大体予想がつく。

 

「あー、ごめん父さん、母さん………秘密知っちゃったぽい」

 

 俺もバツが悪そうに頭をかく。けど、言うべき事は言わないと。

 

「隠してたことに罪悪感を感じてるならそれはよしてほしい。親子といえど秘密の一つや二つあるもんだし、それに俺の為に隠してたんだろう?………俺にリンカーコアがないから」

 

 クロノからミッドチルダについて話を聞いて俺はその答えに辿り着いた。魔法都市ミッドチルダ。魔法都市を名乗っているのだ、魔法中心の世界だと言うのは容易に想像できる。そんな世界にリンカーコアを持たない俺が生まれた。別に魔法が使えなくてもミッドチルダとやらの世界では生きていけるのだろう。魔法の才能に恵まれた人がいればその逆もいるのだから、それでも両親は俺の為に、魔法の使えない俺の為に魔法の世界より生きやすい地球に引っ越したんじゃないのだろうか?そして、魔法の存在を俺が知ってしまうと淡い期待を持つであろう俺に要らぬ絶望を与えない為に隠して来たのだろう。

 

「俺の為にそうして来た事は理解してる。リンカーコアがないのは残念っちゃ残念だけど別にそこまで深刻には考えてないからさ。前にも言ったろ?俺は別に魔法使いになりたいわけじゃないって………あんま気にしないでよ。父さん、母さん」

「………あぁ、ありがとう慎司」

 

 その俺の言葉に2人は笑みを浮かべてくれた。それから2人からある程度の経緯を聞いた。と言っても聞かされたのは俺が予想したのとほぼ一緒だ。結婚し、俺を産み、リンカーコアがなかった事を知り……それで地球に住処を変えた。

 

「母さんは元局長だったんだろ?何でやめたんだ?」

 

 これも俺のせいだったりするのだろうか。確かなのはちゃんがしばらくウチで世話になる頃に仕事を辞めて家にいるようになっていた。

 

「んー、まぁ大人の事情ってやつなのよ………いい機会だったし……専業主婦ってのも夢だったからね」

 

 照れ臭そうに笑う母さん。俺に気を使って言ってるわけでもなさそう。なら、良かった。

 

「にしても2人が魔導師か……想像つかねぇ」

「2人とも管理局では有名な魔導師なんだぞ?」

 

 クロノのその言葉にそうなの?と首を傾げる。

 

「あぁ、荒瀬信治郎さんは本局内で第一線で活躍してた人だ。今は現場は退いているが後進育成に力を入れてくれている……僕も何度かお世話になった事がある」

 

 あ、顔見知りなんだね。それともパパンが有名だからか?パパン照れないで恥ずかしいから。

 

「そして、ユリカさんはさっきも言ったけど特別技術開発局の元局長………この人を筆頭に革新的な技術を開発して管理局をサポートしてくれていた人なのよ」

 

 リンディさんがママンに視線を送る。

 

「リンディさん、息子の前であんまり褒めないで……恥ずかしいから」

 

 こっちも恥ずかしいよバカやろ。ていうかこの2人も顔見知りなのね。だから簡単に連絡取れたのね。

 

「ちなみにこれ、慎司君が持ってたチップ型のシールド魔法発生装置……これも管理局にはまだ出回ってないすごい価値のある物なのよ?」

「ママン、ネットで売ろう?」

 

 頭を叩かれた。そういえばとふと疑問に思う。

 

「ママン、どうして急にそのチップを俺に持たせたの?」

 

 いきなりそんな魔法に対しての防御手段を俺に持たせるのは少し不自然に感じた。まぁ、今回助けられたけどさ。

 

「海鳴市で最近魔力を感じる事が良くあったからね、パパンと相談してアンタに持たせることにしたのよ……念のためにね」

 

 持たせておいて良かったわと肩をすくめてみせるママン。

 

「でも、まさかその魔力反応の一つがなのはちゃんだったとは驚いたよ」

 

 パパンがなのはちゃんに視線を送りながらそう口を開く。なのはちゃんは困ったようににゃははと苦笑い。

 

「私も、お二人が魔導師だったとは思いませんでした」

「ははは、バレてはいけなかったんだけどね」

 

 パパンもそこで苦笑い。が、ここまで色々分かってしまったからって俺となのはちゃんの態度が変わるわけでもないし。俺も周りに言いふらすつもりないしな。言いふらしたって信用されないだろうし。そこまで深刻に考える必要もないだろう。

 話が纏まったところでリンディさんがさてと前置きしつつ

 

「慎司君、ご協力ありがとう……もうお二人と一緒に帰っても大丈夫よ」

 

 色々あって疲れてるだろうから休みなさいとリンディさんからの気遣い。両親も帰ろうかと俺を引き連れようとしている。

 

「それじゃリンディ艦長、息子を助けてくれてありがとう」

「何か困ったことがあったら言ってください。力になりますので」

 

 リンディさんはいえいえと手を振っている。いや、俺はまだ帰るわけにいかない。

 

「待ってください。俺はまだフェイトちゃんの事についてまだ全部聞いてない。それを聞くまでは帰れません」

 

 エイミィさんからプレシアについての追加の情報を待っているのだ。それを聞くまでは帰れない。

 

「慎司………」

「ごめん、父さん。分かってる、俺がいたって何もできない事は分かってる。聞いたからって何かに役に立つことなんてない事は分かってる。けど、聞いておきたい。父さん達にはまだ言ってなかったけど………助けたい子がいる。俺じゃ助けれないけど……せめて見守ってあげたいんだ。その子のこともなのはちゃん事も」

「慎司君………」

 

 2人はきっと何であれ俺が魔法に関わる事は本意じゃないだろう。けど、もうここまで知ってしまった。そして、フェイトちゃんの涙を見てしまった。悲しい顔を、そして楽しそうに母親の事を話すあの子の事を知ってしまった。

 

「…………お前がいても、何もできないぞ慎司」

「信治郎さんっ!」

 

 父さんの言葉に非難を浴びせようとする母さん。けど、父さんはそれを遮って続ける。

 

「アースラの方々に迷惑かけるのか?」

「違う、知っている情報教えてもらうだけだ。そう約束もした、俺が知りたい事を教えてくれると」

「なのはちゃんとは違ってお前に魔力はないんだ、知ったところでどうする気だ?なのはちゃんみたいにアースラの手伝いでもするのか?」

「そんな事は出来ないし、する資格もない。ただ………」

 

 フェイトちゃん事を聞いてどうするのか?知ってどうするのか?

 

「俺はあの子の事を知りたいんだ。そして………出来る事なら力になってあげたい」

「お前に力になれる事があるのか?」

「ある。あるよ、魔法の事に関しては力になれねぇけど………約束したんだ」

「約束?」

 

 前に父さんに魔法に興味はないと言ったのは嘘ではなかった。例え魔法が存在しても、俺がそれを扱えても俺はその道にはいかないだろう。けど、魔法が使えて大切な人達の力になれるのなら別だ。

 その力でなのはちゃんを直接支えてあげたかった。フェイトちゃんを直接止めてあげたかった。けど無い。俺には無い。無力感なんか魔法知る前からずっと感じてる。けど、出来る事はすると……俺にしか出来ない事はあるはずだ。

 

「今度あったらいっぱい話していっぱい遊ぼうってな」

 

 それだけだ。その為に、俺はフェイトちゃんの事を知りたい。彼女の悩みも、苦悩も。それで、言葉を送りたい。それを知って、俺が伝えたいと思った言葉を。

 

「勿論、情報を聞いたらすぐに帰る。そして、俺は元の日常に戻るよ。弁えてるさ、自分の事くらい。俺が魔法に関わって入れ込む事がないか心配してるんだろ?父さん、けど安心してくれ………俺は俺の出来ることをするだけだ」

 

 分かってるよ父さん、俺にはなるべく魔法から離れてて欲しいって事も……俺も父さんの立場なら同じ事を思うよ。フェイトちゃんの事を知りたいと思うという事は魔法はどうしても関わる。だからあえて厳しい事を言っている。

 

「慎司、お前は優しい子だ。今回の事件の経緯も通信でリンディさんから聞いている。そのフェイトという子のこともな。お前がその子の事情を知って、もしかしたらとても悲しい目に合っていると分かって………無茶しないか心配なんだよ」

「父さん……俺は…」

「だから、今はもう極力魔法に関わるのはやめてくれ。きっとリンディさんやなのはちゃんが……」

「無茶してどうにか出来るならとっくにやってんだよ!!」

 

 全員が驚愕の目をする。俺も含めて。あぁ、もしかしたら今世で俺は初めて怒声をあげたのかもしれない。一度言ってしまえば、止まらなかった。

 

「出来なかったよ!今日……あの海で、皆んなが危険な目に遭いながら闘ってる時も!フェイトちゃんが攻撃されて悲鳴をあげてる時も!海に堕ちそうになった時も!俺はその場から動くことすら出来なかったんだよ!!」

 

 荒波に晒されてる海に飛び込むことすら命の危険があるんだ。跳べない俺には何も出来なかった。ああ、そうだよ!みっともなく悔しがってたよ!何も出来ないくせに一丁前に悔しがってたよ。無茶しないか心配だって?無茶したって非力でどうにもならない事は俺が一番よく分かってんだよ!魔法が使えないのは誰のせいでもない……けどやっぱり悔しいんだよ。

 

「だから……自分ができる事は……見守る事くらいは………声をかけてあげる事くらいは……したいんだよあの子にも」

 

 なのはちゃんにも。

 当事者でありたいんだ。一緒に行動できなくても、迷惑をかけない範囲で関わっていたいんだ。そんな俺の想いを伝える。

 

「父さん達の本意じゃない事はわかってる。けど、俺はせめてそうありたい」

 

 荒瀬慎司は、自分の出来ることを全力でやり遂げる男だって……この人生に刻みたい。難しい顔をする父さんと母さん。そして、事の次第を見守っていた他の4人。その1人のなのはちゃんが俺の隣に立って両親に言う。

 

「慎司君のお父さん、私からもお願いです。慎司君のお願いを聞いてあげてくれませんか?」

 

 そう言って頭を下げる。

 

「なのはちゃん……」

 

 何やってるんだよ。なのはちゃんがそこまでする必要はないだろう。

 

「私もフェイトちゃんを助けたい。フェイトちゃんの悲しい顔は私も悲しい。フェイトちゃんのあの悲しそうな顔を笑顔に……したいんです」

 

 なのはちゃんとフェイトちゃんの因縁。何度もぶつかってきたんだろう。話だけは聞いたけど、俺が計り知れないくらい悩んで考えたのだろう。

 

「慎司君なら、フェイトちゃんの心を救ってあげられる。そんな気がするんです。いや、慎司君なら出来ます」

「どうして……そう言えるんだい?なのはちゃん」

 

 父さんのその言葉になのはちゃんは言葉を詰まらせることなく満面の笑顔で返答した。

 

「だって、慎司君は私の心をいっぱい救ってくれたから」

「それは……何年も前の話だろなのはちゃん。俺はあの時だってただ友達と遊んでただけだし大した事なんて」

「それだけじゃない。最近もそう」

「え?」

 

 俺の事を真っ直ぐに見つめる。そして俺の両手を自分の両手に重ね合わせてなのはちゃんは照れ臭そうに言葉を続ける。

 

「いっぱい見守ってくれた」

「そ、それは……」

 

 それしか出来なかったから。

 

「いっぱい気を使ってくれたよね」

 

 友達には誰だって気を使う時は使うだろ…。

 

「何も聞かないでくれた」

 

 聞く勇気がなかっただけだ。

 

「泣きそうになった時そばにいてくれた」

 

 タイミングが良かっただけだよ。

 

「背中を押してくれた」

 

 結果的に正しいかどうかは分かんないじゃないか。

 

「………手を取ってくれた」

 

 握られた手は……離せなかった。

 

「私の不甲斐なさで失敗して落ち込んだ時黙って手を握ってくれた事も、支えてくれた事も、決意させてくれた事も私は全部感謝してるんだよ」

 

 何も、言い返す事ができなくなった。

 

「明るく振る舞って私を笑顔にしてくれた。落ち込みそうになってる時にほっぺを引っ張ったりいたずらして気を紛らわせてくれた。………慎司君が変わらないで私にいつも通りに接してくれてた事にいっぱい救われた」

 

 握られた手に力が込められる。それを同じくらいの力で握り返す。

 

「ここまで頑張ってこれたのも、これからも頑張れるのも……慎司君のおかげだよ。自分じゃ役に立てないって慎司君は言ってたけど私はそう思わない」

 

 いっぱい助けてもらったよっとその言葉を最後に口を閉ざして俺を真っ直ぐに見つめるなのはちゃん。役に立てないと思う。今もその気持ちは変わらない、無力だ、魔法も使えない。

 けど、そんな嘘偽りない言葉を浴びせられて………自然と涙腺が緩む。あぁ、そうか………そう思ってくれてたんだ。それなら……なによりだ。

 

「泣かないで、慎司君」

「泣いてねぇよ、いつもの目薬ドッキリだよ」

「嘘つきー」

「るせぇな」

「えへへ」

 

 あぁホントに、なのはちゃんにも助けてもらってばっかだよ俺も。バーカ………。

 

「ありがとう」

「うん」

 

 ホントにありがとう。

 

 

 

 

 手を握り合ってる俺となのはちゃんの元に父さんが近づいて俺達に目線を合わせる。なのはちゃんの頭に手を置いて

 

「ありがとうなのはちゃん、慎司の事そう言ってくれて」

 

 そしてその手をどかして俺を真っ直ぐに見つめる。俺も手を解いて正面からその視線を受け止める。

 

「お前は俺が思ってる以上に大人で、俺が思ってる以上に子供だったんだなぁ」

 

 しみじみとした様子でそう呟く父さん。親心ってのは子を持った事のない俺には計り知れないほど複雑な感情なのだと思う。そんな親心を俺は無視して自分の考えを伝えた。それは正しい事でありつつ間違っている事でもある。世の中に正解なんてない、だから意見が分かれて対立する。今の俺と父さんのように。

 

「女の子にここまで言わせたんだ……慎司、出来るな?」

 

 確証もない。出来るかどうかは正直分からない。何か考えがあるわけでもない、それでも俺は言わねばならない。

 

「出来る。救ってみせる」

 

 どうすればいいかなんて二の次だ。魔法でフェイトちゃんと直接ぶつかれるわけでもないから考えてもしょうがない。俺が出来る最大限でフェイトちゃんを救う。

 

「なら、父さんは止めない。魔法に関わるなら生半可な気持ちじゃ許さない、本気でやれ。勿論アースラの方々に迷惑をかけない範囲でな」

 

 母さんも隣に立って頷く。両親からのエールを受け取った。

 

「ありがとう、父さん、母さん……」

「何かあれば言いなさい……私達は慎司の親なんだから協力するわ」

 

 母さんのその言葉に安心感がます。

 

「勝手に話を進めてしまいましたが、リンディ艦長………息子を……」

「えぇ、問題ありませんよ荒瀬さん。今後慎司君にもフェイト・テスタロッサとプレシア・テスタロッサについての情報は随時お伝えします」

 

 無論、アースラに同伴する事は許可できないと言われる。俺もその気はないからそれはいい。

 

「すみません、俺のわがままで…」

「謝らなくていい」

 

 クロノから遮るように言われる。

 

「僕からも君にお願いしたい事があったからな。謝る必要はない」

「お願いってのは?」

「フェイト・テスタロッサの説得だ」

 

 今後それが必要な事態があるかも知れないとクロノは言う。もし、仮定だが母親から無理矢理従わされていると言う想定もしているようでクロノはその場合に俺に協力してほしいと言ってきた。説得してアースラで保護すれば無駄な闘いは無くなる。それは俺じゃなくなのはちゃんでもいいと思うのだが。

 

「なんで俺なんだ?」

「モニター越しだが、君と話している時のフェイト・テスタロッサは雰囲気も表情も緩んでいた。僕達には絶対に見せない顔だった」

 

 だから適任だと言う。

 

「まぁ、そんな役が回ってくるかどうかも分からない話だ。僕は君をそうやって利用できると考えている。だから君もそんな風に申し訳なく思う必要はない」

「クロノ……お前、素直じゃない奴だな」

 

 俺を庇うにしても言い方が回りくどすぎるだろ。不器用な良い奴め。

 

「なんだと?」

「あぁ、ごめんごめん!ありがとう、そう言ってくれるのは嬉しい」

 

 全くっと憎々しく呟くクロノ。お堅いようで、まぁ……いい奴なんだな、コイツ。とにかく!これで利害は一応一致という形になった。と言ってもかなり気を使われたがそれは甘えよう。その後は両親は先に帰り俺はすぐに届いたエイミィさんからのプレシアについての追加情報を聞く。

 分かった事は少ない、元はミッドチルダの中央技術開発局………ママンのとはまた違った開発機関なんだろう。その第三局長とやらだったらしい。その際自身が開発を推し進めていた技術の実験の際に違法な材料を使って決行。結果、実験は失敗し中規模次元震とやらを起こしてしまった。

 その後それが元で中央から地方に左遷。余談だがずいぶん揉めたそうだ。失敗は結果に過ぎず材料にも違法性はなかったと。異動後も数年で行方知らずに。プレシアの家族や行方不明前の足取りや行動の情報は綺麗さっぱり抹消されているらしく今は本局に問い合わせている所だそうだ。結局フェイトちゃんのことがわかる有益な情報は得られず。

 仕方ない。それまでまた待つしかないか。エイミィさんによると追加の情報まで1両日はかかると言う。それまであの大規模攻撃を行ったプレシアとフェイトちゃんは動けないであろうと推察するリンディさんは俺だけでなくなのはちゃんにも一時の帰宅を命じた。そろそろ家族にも学校に顔を出した方がいいと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー、疲れた」

 

 アースラから転送されてなのはちゃんとフェレット姿のユーノと帰路につく。日はまだ高く正午前といったところか。この後なのはちゃんは自分の実家でリンディさんと合流して事のあらましうまくごまかしながら説明するとの事。どんな風に誤魔化すのかちょっと気になるな。

 

「あはは、慎司君は今日いっぱいびっくりだったもんね。私もいっぱいびっくりだったけど」

 

 本当にだよ。まだ半日しか経ってないのにすごく疲れた気分だ。

 

「フェレット姿のユーノとは喋れねんだよな俺」

 

 この形態で言葉を交わすには念話なるものが出来ないといけないらしい。リンカーコアのない俺には無理だ。ユーノは色々と混乱を避ける為に地球で基本はこの姿らしい。

 

「でも、本当に驚いちゃった。慎司君にまさか見られちゃうなんて」

「あぁ、俺もまさかなのはちゃんが魔法使いだとは思わなかった」

 

 そんな想像するわけもないし。

 

「………危ない目とかにもあってるんだよな?」

「……うん」

 

 馬鹿野郎、不安がる事言うな。俺の馬鹿野郎。

 

「なぁなのはちゃん、俺今日なのはちゃんのもう一つの秘密も見ちゃったんだよね」

「え?もう一つ秘密?」

 

 何のことだろうと考え込むなのはちゃん。しかし、思い当たる節がないみたいで結局俺に何の事?と問いかけてくる。

 

「薄い桃色………」

「………?」

「無地……」

「………っ!?」

 

 顔を赤くして慌ててスカートを抑えるなのはちゃん。

 

「み、見たの!?」

「見たのつーか見えた、空飛んでる時に俺下にいたからがっつり見えた」

 

 んまぁ、別に何も気にしなかったんだけどさ。女子高生のパンツとかならまだ興奮するけど小学生相手じゃなぁ。でも俺実年齢29だから女子高生に興奮するのもヤバくないか?

 

「もうっ!もうー!バカっ!バカァ!」

 

 ポカポカポカポカ。顔をすごく真っ赤にして叩いてくる。

 

「おいおい、別に見たくて見たわけじゃないし。それに位置的に多分ユーノも見えてたぞ」

 

 フェレット姿でも分かるくらいユーノが慌てだす。恐らく念話で。

 

『見てない!!見てない僕は!?』

 

 なんて言ってそう。念話で会話を終えたのかユーノはほっと溜息をつくような動作で安心していた。そして俺の足をげしげしと蹴ってくる。抗議をアピールしてるらしい。標的を俺に戻したなのはちゃんはまたポカポカを再開する。

 ユーノが前旅館で一緒に女風呂に入ってた、まぁ多分無理やり連行されたんだろうけどその事は口にしないであげておこう。

 

「今度はもっと見応えのあるパンツ履けよ?」

「なっ!し、慎司君エッチ!バカァ〜!!」

 

 バチーンと気持ちの良い音が響く。おお、ビンタされた。下手くそであんまし痛くなかったけど。

 

「やったななのは〜」

 

 そう言いながら久しぶりにほっぺをビローンと伸ばす。それをされてなのはちゃんはムーっとしながらもどこか嬉しそう。やっぱりドMなのかな。

 

 

 

 もう、お礼は言ったから直接は言わない。けど、心の中で何度でも言うよ。ありがとう。ありがとうなのはちゃん。俺は今日、君に救われた。俺の今までの行動に意味を与えてくれた。だからありがとう。フェイトちゃんだけじゃない。なのはちゃん、君を支える為にも俺は俺の出来ることを頑張るよ。かけがえのない親友よ。ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 進みは遅いですがまぁ、そんな感じの時もあるって言う事で一つ。閲覧ありがとうございます


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負けない誓いと勝つ誓い


 
 ps5楽しみです。閲覧ありがとうございます


 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはちゃんと別れて俺は一旦自宅に。このまま柔道の練習に行くつもりだ。色々あってくたびれてはいるがそれとこれとは別だ。アースラで勤務するわけじゃない以上俺はいつも通りの生活は崩せない。それに、試合も明後日に控えている。何だかんだともう目前に迫った大会。前回大会とは比較にならないくらいの規模で大きい大会だ。

 規模で言うなら県大会と同じくらいだ。そして、それに優勝するために練習に取り組んできた。帰ってみればパパンもママンも既に帰宅していてさっきの一悶着はなかったかのようにいつも通り。俺も何も言わずにいつもと変わらない態度でいた。すぐに練習に向かう。今日も調整練習だ、しっかりと体を慣らして研究を中心に体を疲労させる。

 

「よし、ラスト一本!」

「はいっ!」

 

 気合の声と共に相手を思いっきり投げ込む。互いに礼をして整理体操をしたら調整も終了となった。相島先生は門下生全員に明後日の試合に向けて一言伝えた後解散を命じる。明日は練習は無い。休むもよし、少し体を動かして備えるもよし。練習終わりに俺は相島先生に呼ばれ個室で対面する事になった。

 

「慎司、明日も調整練習をするつもりか?」

「はい、そのつもりです」

「それなら、明日はやめておけ。柔軟体操とストレッチだけして体を休めるんだ。お前はそれくらいで丁度いい」

 

 俺的には明日も体を動かして備えたかったのだが。

 

「まぁ聞け、確かに備えるのも大事だがお前が柔道を始めて2年……ここまでほとんど休む事なく突っ走って来ただろう?大きな大会に出るのも今回が初めてだ、お前確かに自分の体の事を考えて効率よく休息を交えて練習に取り組んできた。それでもお前の年齢でこなす練習量じゃない、だから明日1日はしっかり体を休めろ。今まで突っ走って来たお前にはそれがベストコンディションで出る為の準備だ」

 

 騙されたと思ってそうしろと言う相島先生。ふむ、ぶっちゃけ明日調整しようがしまいが結果に大きく変わりは見られないだろうと言うのが本音だが落つかさなそうで体を動かそうと思っていた。だが相島先生は落ち着いてドーンッとして試合に構えてろと言う事なんだろう。ここは素直に相島先生の意見に従おう。体を休める事も間違ってないしな。俺は頷いて同意の意を示す。

 なら、明日はアリサちゃんやすずかちゃんと放課後に何か付き合ってもらおう。久しぶりになのはちゃんもくる事だしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな思惑をしながら翌日いつも通りの登校。昨日あんだけ凄い体験をしたが世の中ってのは何も変わらずいつも通りだ。まぁ、魔法を認知されないよう結界とやらが働いてるらしいが。教室についてもいつも通り。クラスメイトに軽く挨拶して授業を受ける。

 なのはちゃんが授業を受けているのも久し振りではあるが元々はいつも通りの光景だ。そんなこんなで休み時間、すずかちゃんはなのはちゃんとの再開に喜びを露わにしアリサちゃんもつーんとしながらも元気そうでよかったと素直に伝えた。この間まで少しこじれた事もあったがほっと一安心だ。

 

「そっか、また行かないといけないんだ……」

「大変だね……」

 

 とは言ってもなのはちゃんも今日だけ帰ってきただけでまたアースラに戻る事になる。また学校に来れなくなる事をなのはちゃんが伝えると2人は明らかにガッカリとしていた。まぁ、仕方ない。

 

「それじゃあ慎司君の応援にもいけないの?明日は試合だけど」

「うん………多分行けない」

「なのは、楽しみにしてたのにね」

 

 アリサちゃんの言葉に少し驚く。楽しみにされていたとは、なんだか照れくさいな。

 

「ごめんね、慎司君………」

「謝る必要ないだろ別に…」

 

 特に俺は事情を知ってしまったんだから。

 

「だからアリサちゃんとすずかちゃん……私の分もいっぱい応援してあげてね?」

「うんっ」

「まっかせなさい」

 

 何で俺より3人の方が気合入ってるんだろう。いや、俺も気合いは勿論入ってるんだけど何だかなぁ………いい友達だ。

 

「そうだ3人とも、放課後どうだ?久しぶりに4人で遊ばないか?なのはちゃんも少しくらいなら平気だろ?」

 

 そう言うとなのはちゃんも頷いてくれる。すずかちゃんとアリサちゃんも今日は習い事もないのは分かってたので二つ返事でOKだ。

 

「それじゃウチ来る?新しいゲームもあるし」

「お、アリサちゃんまさか………」

「そ、ドラクエ」

 

 流石、分かってる。この間最新作出たばっかだしな。今日は大いに盛り上がりそうだ。少しワクワクしてるとアリサちゃんがそういえばと口を開く。

 

「昨日、怪我をした犬を拾ったの」

「「犬?」」

 

 俺とすずかちゃんでつい反復する。昨日の車での帰り道で偶然見かけたらしい。その犬の特徴やら何やらを聞いてみると俺となのはちゃんの視線が重なった。

 その特徴が真実なら間違いない………昨日フェイトちゃんと一緒にいたあの犬みたいな奴だ。人間の女性にも姿を変えられるあの人の事で間違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、早速アリサちゃんの自宅へ。すずかちゃん宅同様アホみたいに大きい。もう、慣れたけど。感覚麻痺しそう。

 

「メイドさんいるぅ!!」

 

 車でお迎えに来ている執事の方は何度も見かけたけどアリサちゃんとこのメイドさんは見るのは初めて。ヤバイ、高まる。欲しい、メイドさん欲しい。雇いたい、雇ってコーヒー淹れて欲しい!

 

「なのはちゃん!やっぱり俺、メイドになる!!」

「どういうことっ!?」

「違った、メイドさん雇いたい!」

「働きなさいよ」

「すずかちゃん、俺……頑張るから!」

「私の家に雇われるの前提なの!?」

 

 以前に似たようなやり取りをした気がしたがまぁいいだろう。そんなことよりもメイドさんである。

 

「くそぉ、いいなぁ……ウチにも来ないかなメイドさん」

「あんた……なんでそんなメイド欲しがるのよ。如何わしい事でも考えてんじゃないでしょうね?」

「んわけねぇだろ!俺はただ………ただメイドさんに『ご主人様、コーヒーのおかわりはいかがですか?』って言われたいだけなんだ!」

 

 メイド服を着た綺麗で上品なお姉さんにそんな風に尋ねられたいんだ。分かるだろう男なら!俺しか男いないけど!

 

「けど、子供の俺がメイドさんを雇うなんて夢のまた夢だ。誰かフリでもいいからメイドさんの真似して言ってくんねぇかな?」

 

 チラッと3人を見る。チラッとなのはちゃんのほうを向いて顔を逸らすアリサちゃん。チラリと俺から顔を背けてなのはに視線を流すすずかちゃん。

 

「えっ!私!?無理だよ!」

「フリでいいんだ!フリで!頼むなのはちゃんこの通り!土下座するからっ!」

「安っぽい土下座ね」

 

 アリサちゃんうるさい。

 

「も、もう〜」

 

 しぶしぶと言った感じで深呼吸をして佇まい上品に、そして仕草を丁寧にと割と本格的な物真似をし始めるなのはメイドさん。おお、ホントにコーヒーポット持ってるみたい。

 

「ご、ご主人様?コーヒーのおかわりはいかがですか?」

「ちっ、なってねぇな。出直してこい」

「叩くよっ!?」

 

 とか言いながらポカポカとしてくるなのはちゃん。メイドさんを名乗るなど15年早いわ。やらせたの俺だけどな!

 

「ほら、2人で漫才してないで行くわよ」

 

 ポカポカしてくるなのはちゃんをのらりくらりと相手しながらアリサちゃんについていく。アリサちゃん宅に着いてすぐに俺たちは例の怪我した犬の様子を見に行かせてもらうことになっていたのだ。少し歩くとこれまた大きな庭のような森のような敷地に入ると大きな檻に入れられている見覚えのある獣の姿を確認した。包帯を体中に巻かれており、その姿が痛々しい。4人で檻に近づいて様子を伺う。

 やっぱり、フェイトちゃんにアルフと呼ばれていたあの犬に間違いない。なのはちゃんと目を合わせる。なのはちゃんは頷くと心配そうな顔をしながらジッとアルフを見つめ始める。恐らく今念話で語りかけているんだろう。俺が気になってる事もなのはちゃんが今聞いてくれている筈だ。しかし、アルフはすぐに檻の奥に引っ込んで背を向けてしまった。

 

「あらら、元気なくなっちゃった。おーい、大丈夫か?」

 

 アリサちゃんの声にも無反応だ。なのはちゃんが俺をみて首を振る。どうやら話には応じてくれなかったらしい。

 

「傷が痛むのかも……そっとしておいてあげようよ」

 

 すずかちゃんの言葉に誰も反対はしなかった。しかし、本当に何があったんだろうか。一緒にいるフェイトちゃんも勿論見かけないし。色々と思考してると一緒についてきていたフェレット姿のユーノが抱かれていたすずかちゃんから擦り抜けて檻の近くに。

 

「ユーノ、危ないぞー?」

「あはは、ユーノ君なら大丈夫だから」

 

 多分、ユーノが話を聞いておくという事なんだろう。お互い獣姿でも念話で会話は出来るだろうし。多分今頃、アースラでもモニターして見てるんだろうし。なのはちゃんもユーノ君と念話で話したのだろうか俺にこっそりとユーノ君がお話しするってと耳打ちしてきた。ここはユーノに任せて俺達は離れた方がいいだろう。

 

「早速お茶にしましょ」

 

 アリサちゃんの言葉で部屋に戻る流れに。

 

「あぁ、俺ちょっと気になるから先に行っててくれ」

「あんましちょっかいかけるんじゃないわよ?」

「かけねぇよ、すぐに行くから先に行ってくれ」

 

 分かったーと返事を聞いて見えなくなった所で俺も檻に再び近づく。ユーノがこちらをジッと見つめてくる。念話は使えないが何となく言いたい事は分かった。

 

「大丈夫だよ、一言二言伝えたい事あるだけだから」

 

 言葉でそう言ってアルフに向き合う。まだこちらに背を向けているけど顔だけは振り向いてこっちを覗いていた。言葉を交わすのは温泉宿以降初めてだ。と言っても俺はあっちが語りかけてくれたとしても伝わらないけどな。

 

 

「アルフでいいんだよな?知ってるかもしれんが俺は荒瀬慎司だ」

 

 一応、名乗った事は無かったので名乗っておく。返事は期待しない。しても聞こえないし。だから言うこと言って退散しよう。

 

「………胸はだけ痴女」

「〜〜〜〜っ!!」

 

 あ、覚えてたみたい、見るからに激怒してる反応だ。ユーノもなんで余計な事言うのと言いたげだ。ま、そこまで怒る元気あるならよかったよかった。

 

「冗談だ冗談。悪かったな、あん時は痴女呼ばわりして」

 

 そう言うとアルフは落ち着いたようで興奮気味だった表情に冷静さの色を取り戻す。ふむ、出来れば犬の姿だけじゃなくあのスタイル抜群の姿を見せて欲しいのだが多くは望むまい。

 

「色々何でそうなってんのか気になるがそれはこのフェレットもどきが話をすると思うから俺からは聞かねぇけどよ」

 

 ユーノが前足でペチペチと俺の足を叩いてた。ごめんて、でもフェレットもどきだろお前。

 

「アルフ、フェイトちゃんの相方のお前に言っておこうと思ってな………」

 

 伝えよう。俺はもう覚悟を決めたのだから。

 

「俺となのはちゃんを信じて欲しい。フェイトちゃんに何かあるのなら、何か事情があるなら話して欲しい。必要なら必ず救ってみせる」

 

 アルフはジッと俺を見つめてくる。言葉はないけど目を見れば分かる。アルフはこう言いたいのだろう『お前に何が出来る?』と。アルフも俺が魔法を使えないのは承知なんだろう。管理局所属でもない地球出身の一般人。巻き込まれただけの一般人だと言うことを。

 

「確かに俺に出来る事はほとんどない。一番頑張る事になるのはなのはちゃんやユーノ達だ。けどな、俺はフェイトちゃんを知っちまった。彼女と話をした、笑顔を知った、悲しい顔を知った。知らないフリなんかできない、魔法に関しては無力だけど………俺はあの子の心を救ってみせる。それだけ……あんたに伝えたかった」

 

 何となくだけど、このアルフという使い魔はプレシアではなくフェイトちゃんの味方なんだと思う。確証はない、勘だ。だけどプレシアの魔力にフェイトちゃんが襲われた時必死の形相でフェイトちゃんを抱き抱えたあの行動を見ればそんな想像も抱ける。

 

「そんだけだ、じゃあな」

 

 そう言って檻から離れて背中を向ける。アリサちゃん達待たせるのも嫌だしな、さっさと戻ろう。俺は分からなかったが背を向けて離れていく俺の背中をアルフは見えなくなるまでずっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来た!はぐれメタル!経験値いただくわよ!」

「『逃げる』!」

「何やってんのよ!?」

 

 ギャーギャーと噛み付いてくるアリサちゃん。アリサちゃんの言ってた新作ゲームをプレイ中である。痛いよ、なのはちゃんと違って君のは痛いんだからやめてくれ。

 

「あ、でもまわりこまれたよ」

「よし、今度こそ攻撃よ慎司!」

「『メガンテ』!」

「「自爆!?」」

 

 哀れなり、使用したキャラはダウン。メタルにメガンテは効かないからノーダメージ。

 

「な〜に〜してんのよ!」

 

 ハハハ。とかふざけてるうちにはぐれメタルに逃げられる。アリサちゃんは凄く悔しがってるがぶっちゃけ俺にコントローラーを持たした時点でそれくらいは覚悟してたろうに。キャッキャキャッキャとふざけ合いながらも今は席を外しているなのはちゃんの事を考える。

 トイレに行くと言っていたが恐らく念話でアースラからの報告を受けてるんだろう。ユーノを残してからある程度時間も経ってるし話が終わっててもおかしくはないからな。

 しばらくするとなのはちゃんは決意を固めた表情で戻ってきた。その表情は一瞬で消えてアリサちゃんとすずかちゃんに笑顔を向けていたけど俺は見逃さなかった。アルフから話がきけて色々アースラやなのはちゃんの方針も決まったんだろう。俺の方にも恐らくなのはちゃんから話を後で聞く事になると思う。けど今は、この時間を楽しもう。友達とこうやって過ごす時間も、人生においてとても大切な時間なのだから。

 

「遅いぞなのは、早くリアルドラクエごっこしようぜ」

「なにそれ?」

「あら?そんなにやりたいの?なら望み通り攻撃してやるわよ!!」

「いけ!すずかちゃん!ハイドロポンプ!!」

「作品違くないかなそれ!」

「えぇ、なのはどうすればいいの?」

「びっくりサタンの真似でもしてろ。悪魔みたいなもんだし」

「どういう意味かなぁ!?」

 

 と言いつつその物真似しながら襲い掛かってくるところ見ると案外ノリのいいなのはちゃんである。ていうかびっくりサタン知ってんのかよ、俺が今までなのはちゃんにゲームすすめたけど染まりすぎだろなのはちゃん。

 

「食らいなさい!」

「おっと危ねぇ………そんな蹴り俺には通用せんぞ!」

 

 何だかんだで楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

 

 

 

 日は傾いて夕刻。はしゃぎすぎてくたびれたところでお茶菓子を囲んで飲み物を飲みながらゆっくりとした時間を過ごしている。あ、俺マテ茶だ。すずかちゃん邸で言ったの冗談だったのに。

 

「やっぱりなのはちゃんがいた方が楽しいよ」

 

 すずかちゃんのその一言に俺もアリサちゃんも頷く。全員揃ってるのがやはり一番いいのだ。

 

「ありがとう……多分もうすぐ全部終わるから。そしたらもう大丈夫だから」

 

 やはり何か進展があったのだろうか。なのはちゃんがそこまで言うということなら。

 

「なのは、少し吹っ切れた?」

「え?………どうだろう?」

 

 アリサちゃんの言葉に首を傾げるなのはちゃん。

 

「心配してた……てか、あたしが怒ってたのはさ……」

 

 アリサちゃんが素直にその時の心情をポツリポツリと語る。なのはちゃんが隠し事してる事、考え事してた事に怒ってたわけじゃない。不安そうに、悩んだりしてた事。そのまま自分達の元に帰ってこないんじゃないか……そんな目をしていた事に怒っていた。怒らなくてはいけなかった。そう語るアリサちゃん。この子は優しい子だ。本心でも怒っているが、なのはちゃんのためにも怒っていたのだ。小学低学年の子どころか俺よりずっと大人だ。

 心配そうに見つめるすずかちゃんと涙ぐむなのはちゃん。なにも言えない俺。しんみりとした空気の中それを壊したのはなのはちゃんだった。

 

「行かないよ、どこにも。友達だもん、どこにも行かないよ」

 

 涙を拭い俺達を見つめてそう言うなのはちゃん。決意を固めた瞬間な気がした。彼女なりの決意を。5歳の頃、公園で一人で泣いていたなのはちゃんを思い出す。あぁ、強くなったなこの子は。すごい子だ……本当に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間も時間で解散となり帰路につく俺たち。アリサちゃんとすずかちゃんは明日の試合の応援するからと言ってくれた。

 俺となのはちゃんは帰りながらアルフから聞いた話、そしてアースラとなのはちゃんの方針を聞いた。アルフから伝えられた情報は予想していたものが多かった。やはり、主導でジュエルシード集めをしていたのはプレシアの方でフェイトちゃんはそれに従ってる形である事。

 プレシアはフェイトちゃんの戦果を気に入らないと鞭などで暴力を振るっていた事。それなら恐怖で従っているフェイトちゃんは被害者……と言いたい所だが俺はそうは思わなかった。恐怖も少しはあるだろう。だが、彼女のあの母親の事を語る姿を見ている俺からすればあれは役に立ちたいとか母が願うならとそう言う気持ちの方が強いと思う。

 アースラは目的をプレシアの捕縛に変えて明日から早速動く事になるようだ。フェイトちゃんを任せられたのはなのはちゃん。なのはちゃんがフェイトちゃんと恐らくぶつかる事になると思うとの事。フェイトちゃんとそういう取り決めがあったわけじゃないけどきっとそうなるとなのはちゃんは語る。

 

「慎司君は、明日大切な試合だから……そっちに専念してほしい」

「最初からそのつもりさ」

 

 俺がいても出来る事はない。俺の試合での活躍で応援する事がきっと今すべき事だ。

 

「それじゃ……またね慎司君。試合頑張って!」

「あぁ、ありがとう。またな」

 

 簡素な別れだった。俺だけじゃなくなのはちゃんにとっても明日は重大な日になるだろう。もっと何か言うべきだったか。けど、思いつかない。何か、俺に……出来る事は……なのはちゃんために出来る事はないんだろうか。そう考える思考は止められなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝、なのはちゃんの家の近くで佇む俺の姿があった。そろそろかなと思ったところでちょうどフェレット姿のユーノと使い魔姿のアルフを連れて走ってくるなのはちゃんの姿を確認する。なのはちゃんも俺の姿を確認すると走るのをやめて俺の前で止まる。

 

「慎司君?試合は……」

「大丈夫だ、転移を使えばまだ間に合う」

 

 そう言って遠くで俺を待ってる両親を指差す。面倒を掛けるがこうでもしないとなのはちゃんと会えなさそうだったから。

 

「昨日伝え忘れた事があったからどうしても会って伝えたかったんだ」

 

 俺はなのはちゃんの正面に立つ。真っ直ぐ見据えて昨日伝えたかった言葉を言い放つ。

 

「俺は今日の試合……優勝してくる。絶対だっ!」

 

 朝の住宅街に響く俺の大声。けど今は許してほしい。気持のこもった俺の誓いだ。

 

「絶対勝つ。なのはちゃんの応援がなくても絶対に勝つ!だからっ……」

 

 右手に拳を作ってそれをなのはちゃんに向ける。

 

「なのはちゃんも負けんな。フェイトちゃんのためにも自分の為にも負けるなよ」

 

 俺の出来る事はやっぱり言葉を送る事だけだ。エールを送る事だけだ。なら、それを全力でする。ちっぽけなことでもそれが俺の出来る事なのだから。

 

「……うん!私も負けないからっ。絶対に負けないから……だから慎司君も……優勝して」

 

 約束だ。と二人で言い合ってコツンと拳と拳をぶつける。あぁ任せろ。俺は優勝の報告しかするつもりはねぇ。だから頑張れなのはちゃん。

 

「あたしも少しいいかい?」

「うおっ」

 

 いつの間にかアルフが使い魔の姿から人間の形態に変化していた。俺と会話をするためだろうか。

 

「何だ、どうした?」

「あたしも昨日あんたに伝えられなかった事があるからね。それを言いたいだけさ」

 

 伝えられなかったこと?

 

「……………ありがとうね、慎司」

「………まだアルフに礼を言われるような事してないけど」

「フェイトの事、気にかけてくれてありがとう。実は何度かフェイトからあんたの話は聞いてたんだ。優しくしてくれた男の子に会ったって」

 

 そうだったのか。フェイトちゃんはそう言ってくれたのか。

 

「それと、フェイトを救ってくれるって言った言葉……あの時は何も言えなかったけど………あたしも信じるよ、なのはと慎司の事を」

 

 彼女がどれだけフェイトちゃんの事を大切に思っているかすぐに分かった。きっとフェイトちゃんが苦しい事に耐えながら頑張ってこれたのもアルフのおかげ何だろう。

 

「あぁ、任せておけ」

 

 見栄っ張りな返事しかできないけど、ハッキリとそう言う事は出来た。

 さて、あんまりゆっくり話してる時間もお互いないだろう。アルフが人間の形態から使い魔姿に戻ったところで俺はなのはちゃんの背中を叩いて言い放つ。

 

「よしっ、行ってこい!!」

「うん、行ってきます!」

 

 ユーノとアルフに二人を頼むぞと耳打ちしてから全員を見送る。その背中が見えなくなるまで俺は視線を外さなかった。早朝の住宅街には再び静寂が包む。俺も行こう。試合だ、切り替えろ。俺は勝つんだ。自分のためにも、応援してくれているみんなの為にも。なのはちゃんのためにも。

 

「っしゃあ!!」

 

 勝つぞ俺は。俺達は絶対に勝つ。

 

 

 

 

 

 

 






 びっくりサタンの物真似してるなのはちゃん……少し見たい


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無駄な事でも



 スマホ派の僕。パソコンのタイピング早くなりたいなと


 

 

 

 

 

 

 

 

 感覚は研ぎ澄まされている。前回の大会で襲われた緊張が嘘のように落ち着いてる。全く緊張していない訳じゃない。けど、それ以上に集中できている。相手を見据える。流石大きな大会だ、初戦から一筋縄じゃいかなそうな相手だ。目や雰囲気を見れば分かる。柔道家としての本能で分かる。あれは弱くないと。

 だがそれと同時にこちらも負けないと言う自信が湧いてくる。今までこなした練習を思い出す、努力を思い出す。応援してくれている家族と友人達を思い出す。………あの子との約束を思い出す。あぁ、負けねぇよ。

 審判の合図で礼を行い互いに一歩ずつ歩み寄る。

 

『始め!』

 

「っしゃこい!!」

 

 開始と同時に気合の声共に相手に詰め寄る。組み手の攻防、柔道において最初の重要な局面。これのいかんで優位となるか不利となるか決まる。相手の組み手を防ぎつつ自分の組み手に持ち込むために仕掛けに行く。防がれ防ぎを繰り返し一瞬の隙を突いて相手の袖を掴む。

 

「っ!」

 

 相手が動揺し振り解こうと逃げの一手を選択したところで俺はそれよりも早く今度はもう片方の手で襟を掴む。

 

「しまっ」

 

 しまったとは言わせる暇も与えない。相手はどこも掴めず俺は技をかける上で絶好の組み手。一瞬だ、たかだか一瞬で状況はここまで変化する。相手に防ぐ手立てを与える前に崩しを加えて『内股』を仕掛ける。相手の袖と襟を相手からみて斜め前の方向に崩し、自分は体を半回転させ左足を軸足にして右足の太腿の裏を相手の股間より少し外した所に向かって一気に振り抜く。

 

「おおおおおっ!!」

 

 相手が綺麗に回って背中を畳に叩きつける。同時に審判から

 

『一本!それまで』

 

 の宣言で俺の応援席からの歓声あがる。よし、まずは1回戦突破。続けていくぞ。慢心はしない、相手はどんどん強くなるだろう。だが負けない、俺は負けれない。少し間を開けたらすぐに二回戦になるだろう、体が冷えないように打ち込みとストレッチをして備えて待つ。まだ、大会は始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予感はあった。ここに来れば会えると。不思議に予感はあった。慎司君に見送られた後、海鳴臨海公園まで足を運んだ私達。フェイトちゃんは姿を見せてくれた。

 アルフさんがもうやめようとフェイトちゃんを説得する、しかしフェイトちゃんは

 

「私は母さんの娘だから……」

 

 その一言が拒否を示していた。そうなることは分かっていた。だから私も自分の意思を示す。キッカケはジュエルシード……。私が魔導師になったのもフェイトちゃんとぶつかり合ったのも全てはジュエルシードがキッカケだ。なら、

 

「賭けよう、お互いの全部のジュエルシードを」

 

 それを賭けて、私達はぶつかり合う。それからだ、全てはそれから。私がフェイトちゃんに問うた、友達になりたいって言葉の返事も。慎司君がフェイトちゃんとお話しする為にもそれからなんだ。

 

「だから始めよう?最初で最後の本気の勝負」

 

 レイジングハートを起動し、すっかり慣れ親しんだ魔導師としての私の姿に変わる。フェイトちゃんもそれに応えるようにデバイスの杖を鎌状に変えて構えをとる。

 

『頑張れ、なのはちゃん』

 

 この場にいないはずの慎司君の声が聞こえた気がした。約束した。負けないって、私も慎司君も負けないって。慎司君は絶対に負けないで優勝するだろう。だから、私も……負けない。私達は!

 

「絶対に負けないっ!」

 

 星と雷がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うらああああああ!」

 

 ドンっと巨体が畳に叩きつけられる音がこだまする。前回出場した大会で初戦であたり苦戦を強いられた相手だ。その相手は二回戦を勝ち進み、その次の三回戦で当たった。が、それからの期間で差は歴然と開いたようだ。俺の努力がその相手に勝ったと言う事だ。開始数十秒で決着はついた、俺の『大内刈』で一瞬の隙を突き相手は畳に沈んだのだ。

 

『一本、それまで』

 

 審判が俺の勝利の宣言を告げられると体の力が一気に抜けたような気分になった。2、3回戦も危なげなく勝ち進めて来れたがこれからが本番だ。次の相手は前回のこの大会の入賞者でその次の相手は準決勝、恐らく前回準優勝だった選手だ。

 そして、確実に決勝で当たるのは前回大会優勝者で優勝候補筆頭の選手。優勝する為にはこの3人全員に勝たなくてはならない。礼を済ませて会場から一度離れて深呼吸で精神統一をする。どの選手も強敵だ、ここからはどれだけ俺が自分の実力を発揮できるかにかかってる。呼吸を整えつつ体を冷やさないようにストレッチをする。

 すると、応援席から俺の様子を見に来たのかアリサちゃんとすずかちゃんが近づいてくる。遠くで応援に来てくれている高町家と俺の両親も目にうつった。

 

「すごいよ慎司君!」

「ええ、三試合ともすごいかっこよかったわよ!」

 

 2人の興奮気味な祝福に嬉しい気持ちが湧きつつもまだ試合は終わってないからと2人を制する。

 

「あ、ごめんね?邪魔だったよね」

「いや、大丈夫だよ。勝ってるのは2人の応援のおかげでもあるしな」

「なのはにちゃんと優勝報告出来るよう次も頑張んなさいよ」

「あぁ、勿論だ」

 

 短く言葉を交わしてから2人は応援席に戻っていった。集中してる俺に気を使ってか高町家の面々と両親は遠くで手を振ってからそのまま戻っていく。俺は一礼してそれを返す。

 さて………そろそろ戻るか。ここからは空き時間も少なくなってくるだろうから会場にはもう入っておこう。なのはちゃん………今頃……。

 

「っ!」

 

 頭を振って思考を止める。今は自分以外の心配をする余裕はない。俺は俺の試合に集中しよう。頬を両手でバチンと思いっきり叩く。ヒリヒリとした痛みが今は試合に向けて集中させてくれる。優勝まで、もう少しだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぶつかり合う魔力と魔力。勝負は互角に見えた。高町なのはとフェイト・テスタロッサ、2人の実力は魔導師として互角。そもそもフェイトの方が断然実力が上だったが高町なのはの魔法の才能と努力は常人のそれではなく、年季の差などあっという間に埋めていた。

 だから、互いに息もつく暇もなくぶつかり合う。魔力弾を放ち合い、接近戦に持ち込んで直接ぶつかり、障壁で攻撃を防ぎ合う。一進一退、そんな言葉が当てはまるほど鬩ぎ合った闘いだった。

 

「シュート!」

 

 なのはの無数の魔力弾がフェイトを襲う。しかし、フェイトはバルディッシュをサイズフォームに変えそれを切り落とす。なのはも手は緩めない、魔力弾を形成しつつ自身のレイジングハートをフェイトに向かって叩きつける為接近戦に。鍔迫り合い、魔力の影響で小爆破が起きる。

 互いに距離を取りつつもすぐに攻撃の手段を2人は取る。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 互いに息を上げてるが無傷だ。決定打はない。本当に、互角だった。勝負を決めるのは、恐らく一瞬の隙を突いた方だろう。気を抜けない闘いに身を投じる2人。闘いはまだまだ続きそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ……」

 

 準々決勝、準決勝の2試合を終えて残りは決勝となった。どれも接戦だった。試合を終えても中々呼吸の乱れが治らないのが証拠だ。

 準々決勝は相手のスピードの速い柔道に翻弄され中々技を掛けられず時間ギリギリで寝技に持ち込んで抑え込みで勝利をもぎ取り、準決勝は互角の勝負で技の掛け合い。組み手に勝って負けてを繰り返した末、試合終盤に相手のスタミナに俺が勝り、顎が上がって来たところを隙をついて一本をなんとか取れた。だが勝ちは勝ちだ。

 俺の努力の証明だ。だが、次の相手は今語った2人とはさらに別格だ。決勝の相手はこれまでの全試合オール一本勝ち。俺も全て一本勝ちだが相手は全ての試合危なげもなく息一つ乱すことなく勝利してしてきた。

 

「強いだろうな」

 

 きっとすごい強い相手だろう。才能もあって努力も惜しまない完璧なタイプだ。前世でもそんな相手に幾度となく試合をしてきた。負けた数の方が圧倒的に多かった。

 だが、俺は今…山宮太郎じゃない。荒瀬慎司だ。そう言う相手に勝つ為に前世以上に努力を惜しまない荒瀬慎司だ。負けねぇ、負けられねぇ。

 そろそろ、決勝が始まる。体が震える、緊張か恐怖か武者震いか。全部だろう。そんなあやふやな状態では勝てる試合も勝てない。

 

「っしゃあ!!」

 

 周りを気にせず気合の声を1人上げる。よし、やれる。俺は………闘える。

 会場に入り、決勝の畳を踏む。会場アナウンスに俺と相手選手の名前が呼ばれ会場は歓声の渦に。アリサちゃんやすずかちゃん達の必死の声の応援が聞こえる。

 

『頑張れ、慎司君』

 

 ここにいないはずのなのはちゃんの声も聞こえた気がした。あぁ、頑張るよ。向き合い、礼をする。相手と目が合う。あぁ、こいつは強え。きっとすげぇ強え。けどそんな相手だからこそ燃える。柔道家としての本能が俺を滾らせる。

 目の前にいる相手みたいなすごい強い柔道家に勝って、優勝する為に俺は死ぬ気で練習を、努力をしてきた。互いに一歩歩み寄る。そして

 

『はじめ!』

 

 開始宣言。

 

「っ!」

 

 組み手の激しい攻防。目にも止まらぬ速さで互いの腕を弾き合い掴み合う。

 

「っ!?」

 

 いつの間にか片方先に掴まれていた。その流れで相手はすぐに自分の組み手に持ち込んで勝負を決めに来る。

 

「しっ!!」

 

 瞬間、相手の組み手を解き相手の技を無効化。そのまま俺の組み手に。崩しもなってない、相手は万全の状態。しかし、無理矢理懐に入り込み支え釣り込み足で相手の足を抑えて引き出す。相手の背中を畳につける事はできなかったが相手は崩れてうつ伏せで畳に沈んだ。ポイントはない、しかし相手は驚いた表情を浮かべていた。

 決めたと思ったか?勝負はすぐつくと思ったのか?舐めるな。

 審判の待ての合図で互いに開始線まで戻り睨み合う。相手の目の色が変わった、あぁそうだそれでいい。俺は強敵だ。お前の連覇を阻む最大の壁だ、そう思え。最大限に警戒して全力で来やがれ。そんなお前を………ぶん投げて勝つ!

 

『はじめ!』

 

 言っとくが、今の俺はいつもより強いぞっ!

 

 

 

 

 大会の決着がつくのは、もうすぐだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レイジングハートとバルディッシュがぶつかり合い火花が散る。以前の私じゃ想像もつかないような状況だな、なんて勝負の最中なのにそんな考えがよぎった。

 

「くっ!」

 

 距離を取る。接近戦はフェイトちゃんの方が上手だ。私の得意な距離に持ち込む。

 勝負を始めてからどれくらい経っただろうか。息も上がって、体も疲れを感じてきて苦しくて辛い。でも、まだまだやれると思えた。

 

『頑張れ!頑張れなのはちゃん』

 

 幻聴が聞こえる。あぁもう、その場にいてもいなくても彼は私を振り回す。迷惑……とは思わないけど。寧ろ嬉しいのかも。なんて、そんな事考えている場合じゃなかった。勝負に集中しないと。

 魔力の応酬。一進一退の攻防は未だなお続く。後一手が欲しい。勝負を決める一手が、きっとフェイトちゃんもそう思っている事だろう。その一手を先に打ってきたのはフェイトちゃんだった。

 

「っ!」

 

 フェイトちゃんの足元に大きい金色の魔力陣が現出する。そこから無数の魔力弾。それもとても高密度で帯電している魔力弾が、あれは今までフェイトちゃんが放ってきた魔力弾なんか比にならない威力なのは一目瞭然だ。けど、させない。魔力を練っているうちに叩く!

 

「ライトニングバインド」

「えっ!?」

 

 左手、そして右手がフェイトちゃんによる金色のバインドで縛られ動けなくなる。魔力を練ってるフェイトちゃんよりも無防備な状態になってしまった。

 

『まずい、フェイトは本気だ!』

 

 アルフさんの念話の声音でわかる。確かにあれは食らったらまずい。

 

『なのは!今サポートを』

「ダメええええ!!」

 

 ユーノ君のその言葉に私は反射的にそう叫んでいた。ダメだ。それはダメなんだ。だってこれは、これは。

 

「アルフさんもユーノ君も手を出さないで」

 

 これは全力全開の真剣勝負だから。一騎討ちでジュエルシードをかけた私とフェイトちゃんの闘いだから。だから、手を出さないで欲しい。

 

『けど、フェイトのそれは本当にヤバいんだよ!』

「平気!」

 

 体は震えている。けどそう言わなければいけない。だって勝つ為には、私はこれに耐えなければいけないのだから。フェイトちゃんは魔力を練り呪文を唱える事に集中している。周りは見えてない、けど私も動けない。バインドを自力で解く事が出来ない、あの高密度で形成された無数の魔力弾……あれを私の魔力障壁で全部防げるのか。もし防げなかったら………いや、防ぐんだ。じゃなきゃ勝てない。約束を守れない。それは、嫌だ。

 それだけは嫌だ。

 

「なのはちゃん!」

 

 また幻聴だ。慎司君の声が聞こえる。こんなピンチの時にまで聞こえてくるなんて私は彼に寄り掛かってばかりなのかもしれない。

 

「なのはちゃん!おい!」

 

 今度の幻聴はしつこい。ずっと耳に響いている。もう、真剣に戦ってるところなんだからあんまり邪魔しないでよ。………ん?

 

「慎司君っ!?」

 

 幻聴じゃない。いた、いつの間にかアルフさんとユーノ君の近くで大声をあげている。しかも柔道着姿のままで。なんで?どうやって?結界張ってるのに。視界の端に慎司君の両親が見えた。2人は魔導師だ、結界を抜けてここに来るのは容易だろう。でも慎司君……大会は?終わったの?色々聞きたい事があるがそれを無視して慎司君は大声で何か伝えてくる。本当は悠長にしている場合じゃないけど慎司君が何かを伝えようとしているなら、聞きたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのはちゃん!」

 

 あ、ようやく気づいた。こっち向いたな、そして驚いてるな。よしよし、見たかった表情は見れたから満足満足。してる場合じゃない。せっかく大会終わってすぐにパパンとママンになのはちゃんの魔力を感じる所まで転移をしてもらった。ここに連れてきてもらう事……渋っていたが2人が同行する事を条件に協力してくれた。心配かけて、ごめん。でも、どうしても今、間に合うなら俺はやるべきだと思ったんだ。

 懐から用意してきた2つのものを取り出す。一つは賞状、もう一つはメダル。どちらもさっきまで試合をしていた大会で得たもの。

 賞状には『優勝』の文字が、メダルは金色に輝いている。その2つを掲げて俺は叫んだ。

 

「なのはちゃん!勝ったぞ、俺は勝った!」

 

 決勝は本当に死力を尽くしあった試合だった。途中で目眩を感じたほど互いに限界以上に体を使ったと思う。正直、試合の隅々までの記憶は朧げだ。覚えているのは、絶対に負けられないと心で叫び続けた事と……自然と前世の得意技で今世では封印していた『一本背負い』で一本勝ちした事だ。この技を使う気はなかった、が自然と勝手にこの技を使っていた。俺がなんでこれを封印してたかなんて事は今はどうでもいい。

 

「俺は優勝できた!約束は守った……だから!」

 

 素人目でもわかるなのはちゃんのピンチ。俺がいくらエールを送ったってなのはちゃんの助けにはならない。状況を変えるなんて事は出来ない。なのはちゃんに気力を与えてあげるなんて出来ない。おこがましい。

 けど、意味がないって分かっていても。必要ないって分かっていても。何度も言う、俺は自分のできる事は全てやりたいんだ!

 

「なのはちゃんも勝て!負けんな!!」

 

 

 

 頑張れっ!!!

 

 

 

 

 俺の今出せる腹からの大声。なのはちゃんがこのエールに何も感じなかったとして、伝わればいい。俺が応援してる事を伝わればいい。だって、応援されてるって思うと……前になのはちゃんや皆んなに応援されて俺は……力もらったから!綺麗事だ、けど事実だ。このエールに力を貰えなかったとしても俺は応援し続ける。それが俺の出来る事でやりたい事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁもう慎司君ってば……」

 

 それ逆にプレッシャーだよ。危ないのにわざわざここまで来て、大会終わってすぐ来たみたいだし……まさか表彰式バックれた?

 けど、なんでだろう。悪態つきたくなる言葉が頭に浮かんでるけど、こんなに嬉しい気持ちになるのは何でだろう。応援されたから?それもある。けど慎司君が来てくれたから、きっとこんなに嬉しいんだ。いつも私に手を差し伸べて支えてくれる男の子、彼にあんな応援されたら………負けられないよね。絶対に。

 自然と表情は綻んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 程なくしてフェイトちゃんが放った魔力弾がなのはちゃんに襲いかかる。まずいと思った。心配した、ついなのはちゃんの名前を叫んだ。けど、杞憂だった。彼女は俺が思っている以上に……そしてフェイトちゃんが思っている以上に強い子だ。

 全て魔力障壁で防ぎ切ったなのはちゃん。なのはちゃんを縛っていたバインド?ていうのかそれが解かれる。なるほど、あれを放ったら解ける仕組みなのかも。そして今度は自分の番と砲撃を放つなのはちゃん。

 えっ?なのはちゃんあんなの打てるの?視線を両親に送る。2人は外国人みたいに肩をすくめて首を振って見せた。なるほど、なのはちゃんが凄すぎると。しかし、そんな凄い砲撃もフェイトちゃんは耐えて見せた。凄いな、あれを放つなのはちゃんも防ぐフェイトちゃんも。魔導師って奴を俺は未だ理解できないでいる。

 ここで振り出しか?と思った時だった。フェイトちゃんがなのはちゃんのバインドで身動きを取れなくなる。そして………

 

「全力全開!」

 

 明らかにさっきの砲撃以上の威力がありそうな砲撃の準備をするなのはちゃん。まて、大丈夫なのかあれ?

 

「スターライト………」

 

 殺すなよ?殺すなよ?え、非殺傷設定?いやそれでもあれはあかんでしょ。

 

「ブレイカー!!」

 

 あっ

 

 

 

 

 魔力の奔流がフェイトちゃんを襲う。耐え切れる訳もなく力なく空を漂うフェイトちゃん。なのはちゃんの勝ちだ。遠目から見ても無事なのは分かった、よかった。いや本当に。動けないフェイトちゃんをなのはちゃんが抱き抱える。そして2人で何か話している。まぁ、積る話もあるだろうし少しくらい待とう。

 でもさ………確かに負けるなって、勝てって言ったけどさ。そこまでやれとは言ってない。

 

 

 

 フラフラとフェイトちゃんに肩を貸しながらこっちに向かってくるなのはちゃん。フェイトちゃんも途中で俺に気づいたようで驚いた表情を浮かべていた。 

 

 俺の応援がなくてもこの勝敗は変わらなかったろう。結果は変わらなかったろう。だけど、例えそうだとしても………俺はこう思うんだ。応援したかったんだからそれでいいんだって。 

 人にエールを送る事は、100%の自己満足と100%の応援したいっていう純粋な気持ちなんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 無印編の終わりも近づいてきました。次回も閲覧よろしくお願いします


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本物


 蚊が増えてきた!痒い!くらえ、かとりせんこぉ!!


 

 

 

 

 

 

「なのはちゃんが想像以上に鬼畜でびっくりだぜ」

「出迎え早々何事かな!?」

 

 だってお前、相手動けなくして特大砲撃で狙い撃ちなんて鬼畜の所行だろ。魔導師間の勝負じゃ当たり前なのか?そんな魔導師は嫌だなぁ。

 

「だ、だってだって!真剣勝負だから……」

「真剣勝負ったってお前……」

 

 傍から見ればいじめだぞただの。フェイトちゃん平気そうな様子でなのはちゃんに肩貸してもらってるけどさ、最悪トラウマものだって。まぁ、俺が口出す事じゃないけどさ。

 

「し、慎司……」

 

 フェイトちゃんが気まずそうに俺の方を見ながらも視線を外す。別にそんな顔しなくていいのに、俺に悪い事した訳じゃないんだから。

 

「まぁ、とにかく2人ともお疲れさん。頑張ったな」

 

 そう言って2人まとめて抱き抱える。右手はなのはちゃん、左手はフェイトちゃん。2人それぞれキャっなんて可愛い悲鳴を上げているが無視しておこう。とにかく今はお疲れ様、俺のこの抱擁は労いの抱擁だ。ありがたく受け取れ。

 

「し、慎司君………く、くるひぃ……」

「えっ?え?」

 

 ハハハ、照れるななのはちゃん。それくらい労いたいのさ俺は。フェイトちゃんはこんなスキンシップは初めてなのか戸惑ってるよう。

 

「慎司、なのは顔青くなってる!凄い顔色してるよ!」

 

 人間形態になったユーノが俺にそう言ってくるが生憎耳に入らなかった。

 

「な、なんで私だけ力込めてるの?」

「ん?そうか?変わらないよ。な?フェイトちゃん?」

「えっ?わ、私は別に苦しくないけど……」

「なのはちゃんだって苦しくないだろ?」

 

 ぎゅううう

 

「いや、だから……苦しいってば……」

 

 そろそろシャレじゃ収まらなそうだったので2人を解放する。なのはちゃんはグデーンとしていたがフェイトちゃんは戸惑いの表情のままだった。

 

「な、何で私だけ〜?」

「フェイトちゃん華奢だし」

「私だって華奢だよ〜」

「…………ふっ」

「鼻で笑ったね!?」

 

 真剣勝負の後だろうから疲れてるだろうに構わずポカポカしてくるなのはちゃん。はっは、苦しゅうない。俺となのはちゃんのやり取りを見てフェイトちゃんはポツンと置いてけぼり状態なのでこれくらいにしとこう。

 

「………フェイトちゃん」

「え?」

「お疲れ様、フェイトちゃんにとって結果は残念だったけど……それでも、お疲れ様」

 

 複雑そうな顔をするフェイトちゃん。嫌味っぽく聞こえてしまいそうだったけどこの言葉は伝えておきたかったのだ。

 

「………この間言ったよな?いっぱい話していっぱい遊ぼうって」

「………うん」

「この後君がどうなるか、これからどうなるか正直分からないけど、約束しよう。必ずそうしようってさ。俺は、君と沢山したい事があるんだ」

「したい事?」

「ああ、君にいっぱい教えてあげたいんだ。色んな楽しい事をさ。そしたら、もっと笑顔を浮かべてくれよ」

 

 俺は、その為に君に構うんだ。

 

「…………………」

「今は深く考えなくていい。ゆっくり休んで、色々終わってからいっぱい話そう。君にその気がなくても俺はしつこく話しかけるからな」

 

 今は闘いを終えたばかりだ。俺の事は二の次でいい。それに、この状況はきっとアースラの人達も見ている事だろう。そろそろ、クロノ辺りが迎えに来そうなモンだが…………。

 

「っ!慎司っ!」

 

 えっ?

 

 

 

 突如、あの魔力の雷が降り注いだ。母さんが俺を庇うように割って入り、父さんがなのはちゃんを引き込みフェイトちゃんにも手を伸ばしていた。しかしそれは間に合わず結果フェイトちゃんだけそれに巻き込まれる。いや、同じだ。フェイトちゃんを狙ったものだ。前回ほどの威力はないがフェイトちゃんは苦しそうに喘ぐ。すると、フェイトちゃんの持っていた杖が待機状態のデバイスに戻る。その中から、フェイトちゃんの集めていたジュエルシードが現れ雷鳴に導かれるように雲の隙間に吸い込まれていった。

 フェイトちゃんの母親の仕業なのはすぐに分かった。

 

「プレシアぁぁっ!」

 

 届く事ない俺の怒りの叫び、耐えきれず倒れるフェイトちゃん。

 

「フェイトちゃん!」

 

 なのはちゃんが慌ててフェイトちゃんを抱き起こすが気を失ってしまったようだ。しかし、息は安定している。早くアースラに運ばないと。俺を庇って間に入った母さんは無傷だった、よかった。しかし、ここにいるのは危険だ。

 

「父さんっ!」

「分かってる!」

 

 父さんが転移の魔法を発動させこの場にいる全員をアースラへと転移させた。

 

「クソがっ」

 

 結局俺はまた、目の前でフェイトちゃんが傷つくのを見ているだけだった。寧ろ、両親に護られてるお荷物だ。あぁ、悔しがるのは後だ……それでもその現実は俺をいつも突き刺してくる。仕方ないって思っても、俺はやっぱり無力だと痛感させられる。ホントにクソだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アースラに転移してからは事態は怒涛に動いた。プレシアによる2度目の攻撃で場所を探っていたエイミィさんはとうとう次元狭間にあるプレシアの潜伏先を突き止める。そこからすぐに魔導師による突入部隊が編成され早速転移で進軍していった。

 海鳴から転移してきた俺と俺の両親、なのはちゃんとユーノ、アルフ、そしてフェイトちゃんはモニターで事の状況を見守っていた。フェイトちゃんは手枷をつけられ自由が制限されている。仕方ないか、一応敵対してた訳だし……俺がどうこう言う資格もない。

 

「フェイトちゃん、良かったら私の部屋にでも」

 

 これから母親の逮捕の映像が流れるのだ、それを見せるのも酷だと判断したのかリンディさんがなのはちゃんに目配せをして察したなのはちゃんがそう提案する。しかし、フェイトちゃんは動かなかった。寧ろ食い入るように前に出てモニターを見つめている。後ろにいるアルフから心配そうな表情が窺えた。俺も心配だった、プレシアの攻撃を受けた事もそうだが何よりフェイトちゃんの表情は先程よりもさらに暗い。

 そりゃそうだ、母親から攻撃を受けて尚且つ自信が集めていたジュエルシードだけを回収されてフェイトちゃん本人はほったらかしたままだ。酷い言い方だが、見捨てられたのと同じだ。その事実から俺もなのはちゃんも何も言えなかった。

 

「慎司………」

「父さん、今更帰れなんて言うなよ」

「………分かってる」

「ごめん」

 

 アースラにいるのも危険だと思ったのだろう。一度攻撃を受けてるらしいしな。だが、俺は見届ける。この結末を見届けたいんだ。

 

 

 しばらくすると突入部隊はすぐプレシアのいる玉座の間に到着し、警告しつつも杖を構えてプレシアを包囲した。多勢に無勢、例え抵抗したとしても無駄な足掻きとなるだろう。

 そんな俺の予想は大きく外れる事になる。プレシアは不敵に笑うのみで抵抗も投降の意も見せない。局員達は警戒しつつもさらに玉座の間の奥の部屋も制圧すべく部隊を分けて進んでいく。すると今まで表情の変化が見れなかったプレシアの目が鋭くなった。

 

「私のアリシアに近づかないで!」

 

 アリシア?

 

 プレシアは転移で奥の部屋に移動、その先には行かせないと局員を阻むように立ち塞がる。モニターにその部屋が映し出されると俺は驚愕の表情を隠せなかった。

 

「……………なんだよあれ」

 

 ついそう呟く。その部屋一面にテレビでしか見た事のないいわゆる生態ポットなるものが立ち並んでいた。そしてプレシアが立ち塞がるその後ろ。部屋の中央部にある生態ポットの中に人が浮かんでいた。そこにいたのは、フェイトちゃんと瓜二つの少女だった。アリシアとはあの子の事なんだろうか。

 隣にいるフェイトちゃんを覗き見る。予想に反してフェイトちゃんは初めてその存在知ったかのように驚きの表情を浮かべていた。フェイトちゃんも知らなかった事実なのか?

 

「危ないっ!防いで!」

 

 慌てたリンディさんの声で思考が中断され現実に引き戻される。モニターを見るとプレシアが突入部隊を1人で全滅させる映像が流れていた。

 おいおいマジかよ、そんな凄い魔導師なのか?予想外の状況に俺のみならずアースラのスタッフ達も驚きを禁じ得ない。リンディさんは突入部隊の速やかな転移での帰還を指示、すぐさま実行された。そんな状況の中プレシアは例の生態ポットに身を預け、切ない表情で語り始める。

 アルハザード、9個のロストロギア………これはジュエルシードの事だろう。意味はサッパリわからないがプレシアが立てていた計画の事を言っているのは分かった。

 

「もういいわ、終わりにする」

 

 モニターからこちらを睨みつけるように視線向けてくるプレシア。

 

「この子を亡くしてからの暗鬱な時間も……この子の身代わりの人形を娘扱いするのも」

 

 自然とフェイトちゃんに視線がいってしまう。

 

「聞いていて?貴方の事よフェイト……せっかくアリシアの記憶をあげたのにそっくりなのは見た目だけ、役立たずで使えない私のお人形」

 

 亡くなったアリシアの記憶をあげた?人形?そのワードで俺は自分で仮説を建ててしまう。とても残酷な真実の仮説を。そんな仮説が正しいと言わんばかりにエイミィさんが顔を伏せながら語る。

 プレシアの来歴を語った時に話に出てきた実験の事故、その時にプレシアは実の娘であるアリシア・テスタロッサを亡くしている。生態ポットに大事に保管されているあの子だ。そして、プレシアが行っていた研究とは……魔導師の使い魔を超える人造生命の生成……前世でもたびたびニュースになっていたクローンって奴だ。それだけじゃない、もう一つの研究は死者蘇生の秘術……フェイトという名前はそのプロジェクト名であると。『プロジェクトF』、それがプロジェクトコード。

 

「よく調べたわね」

 

 そう言ってポットの中のアリシアに寄り添うプレシア。つまりはそう言う事なんだろう、フェイトちゃんはプレシアによって造られたアリシアのクローン。それが事実なんだ。それから始まったプレシアのよるフェイトちゃんへの心無い言葉の数々。

 お前はアリシアの代わりにはなれない。アリシアはもっと笑ってくれた、言う事を聞いてくれた。記憶をあげてもやはりお前はアリシアの偽物だと。

 

「やめて……やめてよ!」

 

 震える声で静止するなのはちゃん。しかし、プレシアの言葉は止まらない。

 

「アリシアが蘇るまでの間に慰みに使うお人形、それがフェイト、貴方よ。だから貴方はもういらないどこへなりと消えなさい!」

 

 苦しげな表情を浮かべるリンディさんとユーノ。聞いていられないと頭を振るエイミィさん、それを心配するクロノ。悔しそうにプレシアを睨むアルフに同じ親として怒りを露わにする俺の両親。やめてと叫び続けるなのはちゃんに次第に感情を失っていくような表情をするフェイトちゃん。

 おかしいと思っていた、公園で嬉しそうに母親の事を語るフェイトちゃん……優しかったと語っていたフェイトちゃんのプレシア像と酷い仕打ち沢山してきたと語っていたアルフのプレシア像の齟齬。優しかった記憶はアリシアのもので、冷たい記憶はフェイトちゃんだけの記憶だったのだ。狂ったように笑うプレシア、ニヤリと嫌な笑みを浮かべてプレシアは言葉を綴る。

 

「いい事を教えてあげるわフェイト、偽物の貴方を造り出してから私はずっとね………貴方のことが」

 

 止めろ、止めろ、止めろ、止めろ。それは言っちゃいけない。あんたがフェイトちゃんには絶対に言ってはいけない言葉だ!

 

「よせ!」

 

 俺の静止など聞くはずもなく無情にもプレシアは言い放つ。

 

「大嫌いだったのよっ」

「っ!!」

 

 フェイトちゃんは体の力が抜けたようにへたりと座り込む。駆け寄るなのはちゃんと渇いた音を立てて手元から落ちるフェイトちゃんのデバイス。そして、完全に茫然自失の表情で意識があるのかどうかさえハッキリしない状態にまで追い込まれた。

 怒りがふつふつと湧いてくる。何でだよ、何でそんな酷いことが言えるんだ?実の娘の為ならフェイトちゃんを傷つけてもいいってのかよ。

 

「所詮は……偽物なのよ」

「違うっ!!」

 

 叫んだ。ありったけの大声で、フェイトちゃん以外の全員が俺を注目する。プレシアでさえこっちを注目するよう仕向けるための大声だった。

 

「何が違うと言うの?」

 

 意外にも食いついてきたプレシア。しかし、好都合だ。

 

「何もかもが違うね、あんたは間違ってる」

「何も知らない子供には理解できないようね」

 

 見下す視線を俺に送るプレシアに俺は真っ向から睨みつけて言葉を紡ぐ。これは別に義憤に燃えて放つ言葉でもなければフェイトちゃんを庇うための言葉でもない。俺が、言うべきと思った事を言うだけのただの独りよがりだ。

 

「偽物なんかじゃない、フェイトちゃんは偽物なんかじゃない」

「どうしてそう言えるのかしら?」 

「確かにフェイトちゃんはあんたが言った通りあんたが造り出したアリシアのクローンなんだろうさ、その事実は覆せない」

 

 事実を変える事は出来ない。現実を受け入れて前に進むしかないんだ。そんなフェイトちゃんに送る言葉でもある。

 

「やはり偽物」

「けどな」

 

 プレシアの言葉に被せるように言う。だけど、俺は知ってる。公園での出来事が彼女が偽物じゃないって指し示している事を知っている。あの子の笑顔を思い出す、嬉しそうにする顔を思い出す。渡したかったケーキが台無しになって悲しんでいた、俺が代わりを用意すると感謝してくれた。上手く渡すことが出来なくて落ち込んで、ケーキを食べさせて励ますと美味しいと微笑んでいた。

 短い時間だったけどその中で俺は様々な感情をフェイトちゃんから感じ取った。

 

「この子はな、あんたの為に頑張ってたよ」

 

 闘いで傷つきながらもジュエルシードを集め続けた。

 

「あんたに何をされようがあんたの為に闘ってたよ」

 

 心の拠り所であるプレシアに鞭打たれようが恐怖を感じようが根っこの部分は全部母親の為と思っての行動だった。

 

「あんたに美味しいケーキを食べて欲しいって用意していた、あんたがそれを口にしてくれなくて悲しんで俺がそれに対して怒っても母さんは悪くないってあんたを庇ってた」

 

 病的なまでの献身とも言えてしまうかもしれない。けどそれ以上に俺は感じたんだ。

 

「………それがなんだと言うの?」

 

 そう吐き捨てるプレシア、あんたにとっては偽物の人形でも事実は違う。

 

「記憶はアリシアのものだったとしてもフェイトちゃんはあんたの酷い仕打ちに耐えて頑張ってた、優しかった母親の記憶が支えだったのかもしれない。けど、そうだとしてもっ!」

 

 フェイトちゃんを見る。座り込んで下を向き感情のない瞳になってしまったフェイトちゃんの耳にも届くように。たとえ聞こえてなくても言うべきだ。

 

「あんたに対してフェイトちゃんが抱いてた『愛情』は、本物の筈だろ!」

 

 母親に愛されていた記憶はアリシアのもの、でもプレシアにどんな仕打ちを受けても……それでも母親の為に頑張り続けた。たとえ愛されなくても、元はアリシアの記憶から生まれたものでも、それを無くすことなく抱き続けたフェイトちゃんの愛情はアリシアのものでもなければプレシアから与えられた物でもない本物の愛情なんだ。

 その事実だけで彼女はアリシアの偽物じゃない。フェイトって言う1人の女の子だって言えるだろ。

 

「偽物じゃない。フェイトちゃんはフェイトちゃんだ。フェイト・テスタロッサっていう1人女の子だ、お前がいくら偽物だ人形だと喚こうがその事実は変わらない!!」

 

 静寂。誰も何も言わない、俺の言葉はおかしかったか?そんな事はない。そんな事はない筈だ、だってそれが真実だ。プレシアから造られた事は覆せない事実だ、それと同じでフェイトちゃんはフェイトちゃんっていうのも覆せない事実なんだ。励ましでも庇い立てた訳でもない。事実を言ったまでだ。

 

「………くだらない」

 

 静寂を破ってプレシアが発したのはその一言。けど、さっきまでフェイトちゃんを罵倒した時程の勢いは無かった。だが、俺の言葉が響いた訳でもなくただの無感情だろう。そもそもフェイトちゃんなんてどうでもいいと思っているのだから俺が何を言った所で無駄なのだ。

 フェイトちゃんは変わらず呆然としている。俺の言葉は届かなかったのかもしれない。それでもいい、俺が言いたかっただけなんだ。たまたま巻き込まれて関わる事になった俺の言葉でフェイトちゃんを励ませる何て思うのはおこがましいだろうから。

 

 

 

 

 話は終わりだと告げるようにアースラの艦内に警報が響く。スタッフたちがざわざわと状況を報告しているが俺はいまいち理解できなかった。周りが忙しなく動く中、モニターからは視線を外す事なく状況を見つめる。プレシアはジュエルシードを使って何か危険な事をしでかそうとしている事は分かった。プレシアに根城にはさっきまでいなかった機械の兵士のような戦士たちが無数に現れ始め崩壊を招くかのように地響きが起こっている。

 急な状況の変化に俺は狼狽えながらもリンディさんやクロノは動き始めていた。リンディさんは的確にスタッフに指示を出しクロノは司令室から出て行った。モニターは未だプレシアを映し出し、高笑いをしている。

 

「私とアリシアはアルハザードで全ての過去を取り戻す!アッハハハハハハハ!!」

 

 自身の娘を失い、狂気に堕ちた哀れな1人の母親の高笑い。そうか、分かってた事だけどやはり全てはアリシアを取り戻す為の計画だった訳だ。狂気に歪んだプレシアの顔を見て改めてそう思う、だが魔法だって何でもかんでもできる訳じゃないっていうのは分かる。素人の俺でも分かる。死んだ人間は戻らない、過去を取り戻す事なんか出来ない。俺はよく知っている、失った命は戻らないって事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 司令室にいても俺に出来る事はない。父さんと母さんは司令室に残りスタッフ達の手伝いに奔走している。俺、なのはちゃん、ユーノとアルフはフェイトちゃんを医務室まで運ぶため艦内を走っていた。アルフに横抱きされてるフェイトちゃんの眼は変わらず心ここにあらずと言った感じで、呼び掛けても反応しない。

 途中、渡り廊下で司令室から出て行ったクロノと遭遇した。

 

「クロノ!お前、どこ行く気だ?」

「現地に向かう、元凶を叩かないといけない」

 

 出撃か、クロノが優秀な魔導師である事は俺でも分かるがやはり心配である。プレシアは突入部隊の局員達を一人で全滅させることが出来るほどの実力者なのだから。それだけじゃない、さっきとは違い今度はあの根城には無数の兵士達がいる。モニターでしか確認できなかったがかなりの数がいる事だろう。

 

「私も行く」

「僕も」

 

 クロノの言葉にいち早くそう返したのはなのはちゃんとユーノ。そうだ、2人はそもそもこの事件を終わらせる為にいるのだ。一緒に出撃するのは必定だ、その力があるんだから。

 

「アルフと慎司はフェイトの事をお願い」

 

 ユーノのその言葉に2人して頷く。アルフはともかく俺はそうするしかない。自然と手に拳を作ってしまう。分かってる事だがやっぱりこういう時は俺は何も出来ない。

 

「悔しがる必要はない」

 

 俺の顔を見てクロノがそう口を開く。表情に出てたか、これから出撃だって連中にそんな顔見せちゃいけないだろ俺。

 

「僕達は僕達の出来る事をする、荒瀬慎司……君は君の出来る事をするんだろ?」

 

 フェイトちゃんの方をチラッと視線を流しながらそういうクロノ。ああ、そうだな。その通りだ。

 

「勿論だ。ありがとうクロノ…………3人とも気をつけてな。無事に帰ってきてくれよ」

 

 俺のその言葉に3人は強く頷いて転移装置に向かって走り去っていた。俺とアルフはそれを見届けてから医務室に向かう。

 振り返る、すでに背中も見えなくなった3人の無事を祈る。クロノ言う通り、俺は俺の出来る事をしよう。

 そして、俺は一度………プレシアに会わなければいけない。あいつに伝えなきゃいけない事が出来たから。娘を失ったあの哀れな母親に、俺が……俺にしか伝えられない事がある。それを決意する。

 

 

 

 全ての決着の時は、近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「太郎、太郎ってば」

「何だよ?」

「どうして柔道辞めちゃったの?」

「………色々考えてさ、辞めることにしたんだよ」

「その理由を聞いてんじゃん」

 

 るせぇなと取り付きながらそれ以上聞くなと言う雰囲気を出してみる。付き合いの長い彼女はそれを察してしつこく聞く事はやめてくれた。

 

「お前、急ぎじゃなかったのか?時間平気なのかよ?」

「平気平気、太郎のお母さんとも久しぶりに会いたいしね〜」

「まぁ、母さんもお前に会えるのは嬉しいと思うからいいけどさ」

 

 でしょでしょなんて調子づく彼女の相手をしながら帰路につく。大学の帰り道にこの女に捕まったのが運の尽きだろうな、バイトある癖にわざわざ俺の家にいきたいなんて。

 

「ただいま」

「お邪魔しまーす」

 

 家で1人ご飯の夕飯の下ごしらえをしていた母親にそう声をかける。父さんはまだ仕事中か。

 

「あら〜、葉月ちゃんじゃない。久しぶり」

「おばさんお久しぶりですー」

 

 葉月とは中学からの付き合いだ。母さんも何度も一緒にご飯食べたりなんやりしてる時期があったからな。再会を互いに喜んでいる。もう1人、男友達で同じ時期から腐れ縁の優也がいればいつものメンツというのが揃うのだが生憎今日は用事があるそうだ。

 

「あがってあがって、太郎……葉月ちゃんに飲み物出してあげなさい」

「あ、大丈夫ですよ!私バイトあるからすぐに出ちゃうんで」

「ホントに何できたんだよ」

 

 そうかいと少し寂しい笑みを浮かべる母さんと少しだけ立ち話をしてから葉月はすぐにバイトに向かって行った。ホントに何の為に来たんだか。

 

「あんた、葉月ちゃんとはどうなんだい?」

「何度も言ってるだろ母さん、葉月とはそう言うんじゃないって」

 

 いつもあいつは突発的だ、今日うちに来たのもたまたま俺を見かけてそう言う気分になっただけだろうな。そんな感じで優也と俺はいつも葉月に振り回される。あいつを意識した時期は無かったと言えば嘘にはなるがお互い既にそう言う目では見てない。現に葉月の方はこの間彼氏を作ってその自慢を良くしてきたりする。

 まぁ、幸せそうならいいんだが俺と優也が変な勘違いされないかは心配だけどな。

 

「そうかい、つまんない男だねぇ」

「そう言うなって母さん」

 

 確かに母さんに彼女の紹介とかしたことないけどさ。出来たこともないけど。

 

「女も作らないで柔道に青春を捧げたと思ったら辞めちゃうんだから、愚痴の一つくらい言わせなさいよ」

「ごめんって、ちゃんと考えて出した結論なんだから」

「でもあんた、柔道やりたそうな顔してるじゃないか」

「それは………」

 

 確かにそうかもしれないけど。それでも沢山考えて決めた事なんだよ。

 

「まぁ、母さんもちょっと言い過ぎたね。ごめんよ」

「いや、俺こそ心配かけてごめん」

「けど、後悔だけはしないようにね。母さんは、太郎が決めた事を応援するから」

「うん、ありがとう母さん」

 

 いつもそうだ。母さんは俺の味方でいてくれる。優しくて厳しくて、愛情与えてくれる大事な母親だ。

 

「私は夕飯の準備してるから、あんたは勉強でもしてなさい」

 

 そう言ってエプロンを結び直している母さんの背中を見ていると思わず言葉が漏れる。

 

「母さん……」

「ん?」

「…………長生きしてな、沢山親孝行するからさ」

「急に何言ってんだい」

 

 俺はもう柔道辞めちまったけど。何か別のやりたい事を見つけて母さんと父さんに恩返しをする。それが俺のこれからの人生の歩み方だ。

 

「あんたこそ、長生きしなさいよ。私より早く死んだら許さないからね」

「ああ、お互い長生きしよう」

 

 そう言って、2人で笑い合った。こんな日常を大切しにしよう。長生きして、恩返ししよう。そう思った。

 

 

 

 

 

 

 これは在りし日の記憶。後の転生者となる男とその母親の日常の一コマ。遠い日の出来事である。

 

 

 

 

 

 




 
 あと数話で無印編本編………まとめられればいいなぁ

 沢山の誤字報告をしてくれてありがとうございます。迷惑をかけます。皆さんお陰でちゃんとした仕上がりになっています。
 この場を借りてお礼を申し上げます


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前に進め



 暑くなって来ましたね。皆さん熱中症等には気をつけてくださいな


 

 

 

 

 

 

 

 医務室でフェイトちゃんをベッドに寝かせる。フェイトちゃんの意識はまだ曖昧なままだ。起きてはいるのだが相変わらず瞳に色が無く呆然としているまま。俺とアルフはどうする事も出来ず今は見守るしかなかった。モニターからなのはちゃん達が必死に闘って進んでいく映像が見える。

 クロノに言われたように、俺は俺の出来る事をするんだ。とは言っても今のフェイトちゃんに俺の言葉が届くかどうか。

 

「フェイトちゃん」

 

 呼び掛けても反応はない。やはり、プレシアのあの一言はフェイトちゃんの心を引き裂くほどの言葉のナイフだったのだ。その心中は計り知れない。アルフも心配そうにフェイトちゃんを見つめるばかりである。

 

「慎司………」

 

 フェイトから視線外さないままアルフから名を呼ばれる。その眼は悲しみの色に染まりつつもどこか優しい瞳だった。

 

「さっきはありがとうね………フェイトも聞いてたらきっと感謝してるよ」

 

 プレシアとモニター越しの対面の時の話だろう。アルフはフェイトを頬を愛おしそうに撫でながらそう言う。

 

「あんた、最初はおかしな奴かと思ってたけど………大した奴じゃないか」

「そんな事ねぇさ」

 

 結局俺はフェイトちゃんを救えてない。2度も目の前でプレシアの攻撃をむざむざ見ているだけ、プレシアからの暴言中も何も言えず言い返せたのはフェイトちゃんが傷ついた後。

 俺は、フェイトちゃんに対して何も出来てない。

 

「結局口先だけのホラ吹きさ俺は。救ってやるって意気込んでもこのザマだ」

 

 結果が伴わなければいくら出来る事をしたって本当に意味のない存在に成り下がる。それが今の俺だ。

 

「あんたがそう思っても私は感謝してるよ。フェイトの事をそうやって支えようとしてくれる奴がいるだけで嬉しいんだ」

「アルフ……お前」

 

 優しい笑みを浮かべるアルフ。アルフはずっとプレシアじゃなくてフェイトちゃんの味方であり続けた。そんなアルフからの言葉に嬉しい気持ちが湧きつつ素直に喜べない自分がいる。

 

「あんたならフェイトの心を救える。私には出来ないけど、あんたならきっと」

 

 お前以上の適役なんていないだろ。それを口にだそうとしたがアルフはフェイトから離れて立ち上がり扉に向かって歩き出す。

 

「………行くのか?」

「ああ、あいつらが心配だからね。手伝ってくるよ」

 

 アルフも使い魔で闘うことの出来る存在だ。頼りになる援軍になるだろう。

 

「フェイトの事、頼んだよ」

「待ってくれ」

 

 アルフが行ってしまう前にどうしても聞きたい事があった。

 

「何で、俺に任せてくれるんだ?」

 

 アルフにとってフェイトちゃんはかけがえのない大切な存在だ。そんな大切なフェイトちゃんをアルフは俺を信頼して任せてくれると言う。俺なら救えると励ましてくれる。

 俺とアルフが出会ったのはあの温泉宿の出来事の時だが知り合ったと言えるのはほんの数日前。そんな何処の馬の骨とも分からない俺をどうして信頼してくれるんだろうか疑問に思った。

 

「………前にも言ったけど、フェイトからあんたの事は聞いてたんだよ。公園で優しく励ましてくれる男の子に出会ったって」

「だからって、フェイトちゃんと会ったのは短い時間のたった2回だ。そんな俺を……」

 

 時間じゃないよとアルフは俺に微笑みながらそう言う。どこか嬉しそうで、どこか悲しそうに。

 

「フェイトはね、心から笑う事はほとんどなかったんだ。私が何をしても無理に笑顔を作るか、プレシアの事で悩んで寂しそうにしているかそんなんばっかりだった」

 

 けど、と俺を真っ直ぐに見つめてアルフは言う。

 

「あんたの事を話してる時の笑顔はね、心の底から嬉しそうに話してたよ。優しい子に会えた、楽しく話せた、また会いたいって何度も言ってたよ」

 

 正直悔しかったとアルフは語る。ずっと一緒に自分ではなくたまたま出会った普通の少年がフェイトちゃんのその表情を引き出した事に。けど、同時にそんな子ならフェイトちゃんをこの呪縛から救ってくれるんじゃないかとも思った。

 

「だからアタシはあんたに任すのさ。慎司……フェイトを……アタシの主人を頼んだよ」

 

 そう言って医務室から飛び出してかけて行った。俺を信頼して、フェイトちゃんを任せて。…………クヨクヨしてる場合じゃないよな、信頼に応える。男ならそれくらいやってのけないといけないよな。ベッドに椅子を構えてそれに腰掛ける。フェイトちゃんの様子は変わらない。

 何を言えばいいか、俺の言葉が届くのか分からないけど。それでいいんだ、土壇場で思いついた言葉を、俺が言いたいと思った事を言えばいい。それがきっと俺の本心なのだから。本心を伝えよう、俺がフェイトちゃん言うべきだと思う心からの言葉を。思いつく限りに言おう。

 

「起きろよフェイトちゃん」

 

 意識がはっきりした様子はない。それでもいい、俺は声をかけ続ける。

 

「このままここで寝てたら、全部終わっちまうぞ」

 

 何もしないでこのまま事件が終わってもいいのか?本当にこのままでいいのか?

 

「フェイトちゃん、俺の独り言だけどさ。もし聞こえてるなら聞いててくれないか」

 

 返事はない。だが、構わず言葉を紡ぐ。

 

「俺な、色んな後悔を沢山してるんだ。どうしてあの時、ああ出来なかったんだろうとか……ああしてやれなかったんだろうとか……沢山してるんだ」

 

 前世の人生を足して29年。前世ではまだ若者と言われる年齢であったけど………沢山の経験をしてきた人生だった。思い出せるのは楽しい思い出よりも後悔した事ばかり。それもそうだ、あんな死に方しちゃ後悔しか残らない。

 

「だからさ、今は頑張ってるんだ。後悔しないように、自分の人生に胸を張れるように頑張ってるんだ。けどさ、いくら頑張っても後悔はするし間違えちゃう事も沢山あるんだ」

 

 人は万能じゃない。不完全な存在だ。そんな存在だからこそいくら願っても頑張っても全部が全部後悔しない訳じゃない。今世になってから特に最近は後悔する事も多々あった。それでも、まだ俺の人生は続いている。

 

「間違えて、後悔して、辛い経験を何度もして、そんな人生を出来るだけ正解を、後悔をしない為に頑張ってるんだ。悲しい事より嬉しい事を増やす為に頑張るのが人生だと思うんだ。………いつ突然終わってもおかしくない人生だからこそ、そうやって生きていきたいんだ」

 

 俺は、間違えた事も沢山あるけど……それでも正解を常に探している。そうやって来たからこそ……後悔しないで済んだ事もあるんだ。

 

「俺は、フェイトちゃんに後悔して欲しくはないんだ。このままここにいたらきっとフェイトちゃんは後悔する。断言できるぞ俺は」

 

 悲しかったろう、辛かったろう。現実から逃げて何もかも投げ出したいだろう。けど、それは後悔しか生まれない。

 

「フェイトちゃんはこれからも人生を歩んでいくんだ。自分の意思で、自分の足で前を向いて人生を生きていくんだ。………だからここで歯を食いしばらないといけないだろう?終われないだろ?このままじゃ、プレシアに……フェイトちゃんに母親に何も伝えられないまま終わっていいのかよ!」

 

 自然と声が大きくなってしまう。

 

「いい訳ないだろ!あんな風に言われて悲しかったんだろう?苦しかっただろう?けどさ、そんな苦しみを抱えてでも伝えなきゃいけない事があるんじゃないのか!?フェイトちゃんが持ってる本物の愛情で、伝えるべき事が残ってるんじゃないのか!……危険な場所だけどそれでも立ち向かわなくちゃいけない時じゃないのかよ!」

 

 感情に任せて、俺はフェイトちゃんの肩を掴む。細く、華奢な肩。こんな小さな体でがんばって来たんだろう?それが、こんな形で終わっていいわけないだろ!

 

「起きろよ!立てよ!立ち上がって前に進むしかないんだよ辛くても!それを何度も乗り越えてようやく辿り着けるんだよ、後悔しない人生に………」

 

 俺のエゴかもしれない。けど、フェイトちゃんには後悔して欲しくない……プレシアの事に関しては後悔なんかして欲しくないんだ。自分にとって大切な事で後悔するのはとても辛いって事を俺はよく知ってるから。

 

「…………ちゃんと聞いてるんだろ?フェイトちゃん……」

「…………ごめんね」

 

 そう言って体を起こすフェイトちゃん。意識は最初からあったのかは分からない。けど、何もかも自分の世界が壊れて殻に閉じこもっていたフェイトちゃんでも周りの声は聞こえてただろう。起きたくなかっただけなんだ、辛い現実に。

 

「………慎司の言葉全部聞こえたよ。今の話も……本物だって言ってくれた事も」

「それならどうする?どうしたいフェイトちゃんは?ここでこのまま事件が終わるのを待つのか?それとも………プレシアに会いに行くのか?」

 

 しばしの静寂の後にフェイトちゃんは震える声で言う。

 

「このままここで終わるのを待つのは嫌だ………けど、母さんに会いに行くも怖いの……また拒絶されたらって思うと……怖いんだ」

 

 辛いだろう。苦しいだろう。俺がわかってあげる事が出来ない辛さや悲しみを今フェイトちゃんは抱えている。それでも、君は立ち上がるべきだ。

 

「会いに行くんだよフェイトちゃん。会いに行かなくきゃフェイトちゃんは前に進めない」

「でもっ!……でも……」

「だって、あれだけ拒絶されてもフェイトちゃんはまだプレシアの事を『母さん』って呼んでるじゃないか………まだ、好きなんだろ?愛してるんだろ?母親の事を、その思いを伝えないで終わるのは後悔しか残らない」

「でも、私はアリシアのっ」

「俺はフェイトちゃんに言ってんだよ!」

「っ!」

 

 真っ直ぐに見つめて俺は言葉を続ける。

 

「君は前に進める!進む強さを持ってる!俺が知ってる、君は強い子だって事を。あれだけ冷たくされて、あれだけ辛い思いさせられても尚、他者を愛し続ける強さを持った強い子だって知ってる!」

 

 それは強さなんだ!フェイトちゃんが持ってる強さなんだ。

 

「そして、俺と違って魔法だって使える!あの危険なプレシアの根城に行く力だってもってるじゃないか!行かない理由はないだろ?」

 

 そう言ってフェイトちゃんの手を握る。か細いけど、小さいけど……気高い強さを持つ手を。

 

「もしそれでも前に進むのが怖いなら、俺が応援する、何度も頑張れって言ってやる、背中を押してやる。疲れた時は支えてやる、自分を信じて進めないならまずは俺を信じて前に進んで見ろよ」

「………信じていいの?」

「ああ、俺は魔法を使えないけど……俺の支えはちょっとすごいぞ?俺のおかげで救われたって言ってくれた子もいるからな」

「……迷惑かけちゃうかも」

「おう、かけろかけろ。その内俺が一杯迷惑かけるだろうからな」

「………例えば?」

「そうだな………無理矢理ケーキ食わせるかも」

「あの美味しいケーキ?」

「ああ、なんなら今回頑張ったらご褒美で好きなだけ奢ってやるよ。俺の両親が」

「ふふっ、そこは俺がって言わないと」

 

 何だよ、普段から可愛い顔してるけど笑ったらもっと可愛いじゃんか。……俺がその笑顔をこれからも作ってあげたいな。

 

「……私、行くよ」

「ああ」

「慎司がそこまで言ってくれるなら……頑張らないとね」

「あんまり気負わなくてもいいけどな」

「………ありがとう慎司。あの時の慎司が言ってくれた『本物』って言葉。嬉しかったよ」

 

 少しぎこちないけどそれでも微笑んで言ってくれる。

 

「もう、救われちゃったよ。慎司に一杯救われた………だから、行ってくるね。後悔しない為に」

「ああ、一杯応援してやるから気張ってこい」

「うんっ!」

 

 頷くフェイトちゃん。バルディッシュを掲げて魔導師としての姿に変わる。傷だらけでボロボロになったバルディッシュもフェイトちゃんに応えるように自身の傷を修復させ万全の状態に戻る。

 

「私……これで『本物』になるよ」

 

 逃げないで立ち向かう事でと決意固めた目でフェイトちゃんは言う。だが、俺はそんなフェイトちゃんに何言ってるんだと言うように言い放つ。

 

「バーカ」

 

 バシッと背中を叩いて前に押す。

 

「最初から本物だったろ。フェイトちゃんは」

 

 そう伝える。少し驚いた顔をしながらもフェイトちゃんは力強く頷いてから駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 医務室には俺1人取り残され静寂が包む。そんな静寂はすぐに破られ、フェイトちゃんに入れ替わるように父さんと母さんが医務室に顔を出して来た。

 

「皆行ったのか?」

 

 医務室に俺1人しかいない事を確認すると父さんはそう口を開く。俺はゆっくりと頷く。俺はここで待つ事しか出来ない。一緒に行く事なんか出来ない。行っても足手まといだから。

 

「お前も行くのか?」

 

 その父さんの言葉に驚いて俺はついえっと声を上げる。どうしてそんな事を聞くんだ。行って欲しくないだろうに。

 

「顔を見れば分かる」

「母さんもあんたの事くらいすぐに分かるわよ」

 

 はは、この2人に隠し事は出来ねぇなぁ。

 

「俺、まだやんなきゃいけないことが出来ちまった」

「お前は十分にやっただろう?なのはちゃんを支えた、フェイトちゃんを救った。十分だ、お前はお前にしか出来ない事をちゃんとやり遂げた。父さんは、お前を誇らしく思うよ」

 

 そう言ってくれる父さんの言葉に胸を打たれる。そうか、そう思ってくれるのか。そう言ってくれるのか。俺も、2人が両親で誇らしく思ってるよ。

 

「ごめん、わがままばっかでごめん。俺、それでも行かなきゃ」

「どうして、そこまでするの?慎司、貴方が危険な場所にまで行ってやらなきゃいけない事は……一体何なの?」

 

 母さんの言葉に俺は目を閉じて思案する。俺のやりたい事、やるべき事は多分ないだろう。これ以上関わる事は本当に俺の自己満足で身勝手な理由しかない。けど、どうしても行かなきゃいけない。

 

「俺は、あの人に……プレシア・テスタロッサに伝えなきゃいけないことがあるんだ。直接、言わなきゃいけない事があるんだ」

「それは……フェイトちゃんのため?」

「違う、誰の為でもない。けど言わなきゃいけない事があるんだ」

 

 あのモニターでの対面の時に俺は聞いた。あの哀れな人の魂の叫びを聞いた。絶望を聞いた、苦しみを聞いた。あの人を擁護する事はないけど、あの人の心の傷を聞いたのなら……娘を失った母親の絶望を聞いたのなら…俺は……俺だけしか伝えられない事があるから。

 

「俺にしか、伝えられない事があるんだ。伝えて何も変わらなくても、それを伝える理由が身勝手な自己満足でも……俺は行くよ」

 

 頭を下げる。両親を心配させるのは本意じゃないけど、それを加味しても俺は行かなくちゃいけない。行きたいんだ。

 

「………分かったわ」

 

 ため息をつくように言いながら母さんは懐から何かを取り出して俺に渡す。それは見た事のない拳大くらいのなにかの機械だった。

 

「これは?」

「私が作った特別な転送装置。これを使えばプレシアのいる庭園どころか直接プレシアの元まで転移できる」

 

 それってかなりすごいものなんじゃ?

 

「けど、それは欠陥品なの。場所の座標がなくても魔力空間図面を形成してそれから…」

「ああ、ごめん……意味分かんないから簡潔に頼むよ母さん」

「とりあえず、私が天才だから一度だけ魔力のない人を限界はあるけど好きな場所に転移させられるけど一方通行だから帰りはなのはちゃん達と合流して帰ってねって事」

「わーお、分かりやすいけどどうやってんだそれ」

 

 元々魔力のない物資を届ける為に作ってる試作段階の転送装置を改良した物だそうだ。だから、魔力のない俺しか転移できない。その代わり母さんが把握してその為の作業をすれば好きな場所に転移できる。今回プレシアの元まで直接行けるのもプレシアの根城が判明してる事が前提だそうだ。

 

「けど、さっきも言ったように転移出来るのは貴方だけ。1人でプレシアと対面することになる。魔法を使えない貴方だけが」

 

 この意味、分かるわよね?と母さんは伝えてくる。そうだ、なのはちゃん達はモニターを見る限りプレシアの元にはまだたどり着いてはいない。俺1人でプレシアと会うことになる。今回の事件の首謀者とだ。だが、俺はその事に関しては危険は感じてはないかった。

 

「ああ、危険なのは分かってる。けど、プレシアは俺の事を襲ったりはしないさ」

 

 プレシアは殺戮者とかそう言った類の犯罪者ではない。先遣隊の部隊も全員やられたとはいえ誰一人死んではいなかったらしいしな。だが、だからといって大丈夫という保証はないが。

 

「………覚悟が決まってるなら俺も母さんも止めないよ。今回の事でお前はすごく頑固だって事が分かったからな」

「父さん……」

「今までお前は手もかからないで育ってくれた。その分くらい俺達に迷惑かけろ。それが子供だからな」

「やれるとこまでやって来なさい、母さんも帰りを待ってるから」

「ありがとう……母さん」

 

 装置の使い方を聞き起動させる。これからする行動には今までの行動以上に意味がない物だ。伝えた所で恐らくプレシアが改心するわけでも、事態がいい方向に転がるわけでもない。寧ろ、俺が行く事で足を引っ張る事になる可能性が高い。それでも行かねばならない。

 これは、荒瀬慎司がプレシア・テスタロッサに山宮太郎として伝えなきゃいけない事なんだ。

 

「……行ってくる」

 

 二人に見送られて俺は体が軽くなるような感覚に包まれ医務室から消える。この事件を終わらせる為に、せめてあの哀れな母親に少しの救いを与えられる事を信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界がクリアになり最初に目についたのは辺りに散乱している瓦礫や崩れた岩。崩壊した庭園の最深部というところか。地面の下下は虚数空間が広がっていて背中をゾワゾワと震えさせる。なるほど、聞いた話によれば魔導師であっても落ちたら2度と戻ってこれないとか何とか。怖いな。辺りをキョロキョロ見回しプレシアを探す。庭園の奥の端、虚数空間に今にも落ちそうな崖側ギリギリの場所に生態ポットに寄り添っていた。

 瞳に光は宿ってなくアリシアという幻想をずっと追っている。

 

「プレシア・テスタロッサ!」

 

 俺はあらんかぎり声で呼ぶ。現実に引き戻し話をする為に。

 

「………貴方、何故ここに?」

「裏技使ってここまで一人できたのさ……安心しな、あんたをどうこうしようって訳じゃない。そんな事も出来ないしな」

「ふふ、成る程………モニター越しで散々私に物申した胆力のある子供かと思えば、魔力を持ってない無力な子でもあったわけね」

「否定はしないし出来ねぇよ」

 

 トゲがあるな。まぁ当然か。

 

「それで?貴方は一人で一体何のためにここに来たの?むざむざ私にやられに来たわけでもないのでしょう?」

「よく分かってるじゃないか。俺はただ、あんたと話をしたいだけさ」

「説得かしら?残念だけど……貴方の言葉に揺れ動く事なんかないわ。私はなによりもアリシアの為にアリシアを優先する。他の誰でもないアリシアの為に……」

 

 アリシア……アリシアか。そうだな、聞く耳持たないって言う状態で話すわけにも行かないし最初から核心に触れていこう。

 

「それは本当に……あんたの娘の為なのか?」

「………どういう意味かしら?」

「俺からすれば、あんたの今までの行動全部ただの独りよがりにしか見えねぇって言ってんだよ」

 

 瞬間、魔力の雷が俺を襲った。プレシアの放つ暗い漆黒の雷。規模も威力も恐らくかなり手加減しているのは分かる。本気なら死んでる。それでも

 

「ぐあああっ!」

 

 かなり痛い。なるほど、これが魔力で攻撃された時の痛みか、柔道やってて痛みとかには慣れてるけどそれとはまた違う痛みだ。ていうか、俺リンカーコア持ってねぇんだぞ?大人げねぇ。

 

「ぐっ、くぅぅ………容赦ねぇなおい」

「言葉に気を付けなさい」

 

 バカが、俺の言葉にそうやって怒りで反応するって事は少なからずその自覚があるって事だぞ。

 

「うぅ、はぁ!」

 

 ばちん!と両頬を全力で叩いて意識をしっかりさせる。いや、根性論とか嫌いじゃないけど今回に関しては勘弁して欲しいぞ。根性じゃ魔法には耐えれねぇって。

 

「へへ、図星か?」

「強がるのもいいけど、次はもっと苦しみ事になるわよ?」

 

 うへぇ、それは勘弁。でも、止めるわけにはいかないよな。

 

「あんたがアリシアを失って悲しんで今回の騒動を起こしたのならそれはアリシアの為じゃない。アリシアを失って心の拠り所を失ったあんた自身の為の行動だろうが、蘇らせれば……失った物を取り戻せばいいってか?犠牲や周りの迷惑も厭わずにか?」

「貴方には分からないでしょう、アリシアを失った私の悲しみが、苦しみが。アリシアも……きっと望んでるわ……アルハザード……失われた技術を使って生き返る事を」

「かもな、誰だって死んだら生き返りたいって思うだろうよ」

 

 けどな、けど……それは

 

「それは、何もリスクや他者の迷惑がない事が前提だよ。もしそうなら俺だって思うぜ、また生きたいって……元に戻りたいってな」

 

 本当に……そう思うよ。

 

「戯言を、貴方に何が分かるというの?アリシアの何が?私達家族の事を?」

「知るかよ、知るわけないだろ。ただ、恐らく死んだアリシアならきっと俺と同じ事を思うぜ?」

「何も知らないガキがアリシアを語らないで!」

 

 再び、落雷。さっきよりも威力がある魔力の落雷だった。

 

「がああああああああっ!!」

 

 熱い、熱い。溶ける、体が溶けちまう。熱い、痛い。熱い、痛い。ヤバイ、燃えてるみたいだ。体がか、全身が燃えてるみたいに熱く痛い。

 

「がはっ!フー…フー…」

 

 耐えきれず膝をつく。クソがっ、我慢比べしに来たんじゃねぇんだよ。こいつ思ったより容赦なさ過ぎだろ。だが、余裕がないとも言える。やっぱりまともな精神状態じゃない。

 膝を震わせながら何とか立ち上がり俺はプレシアを見る。気づく、口元から血が流れるのが見えた。咳と同時に血が少し溢れ出たのが見えた。

 

「あんた……体が……」

「…………………」

 

 そんな風になってまでアリシアと再会したかったのか。当然か、娘の為と思ってる母親の愛情か。だが、俺は……こう言ってやる。

 

「だから独りよがりだって言ってんだよ」

「………何を…」

「母親のあんたがそんなになってまで復活を望むか?アリシアがそんな事望むか?あんたが一番分かってんじゃないのか?………あんたは娘に再会する為に……娘の母親を心配する気持ちを無視して行動してる。だから独りよがり……一方通行なんだよ」

 

 その末にジュエルシードを奪い、フェイトちゃんを傷つけた。許される事ではない。同情はするがそれは許されざる事だ。

 

「黙りなさい!貴方に何が分かるというの!?」

 

 叫び。心からの叫びを聞く。

 

「アリシアがそう思っていてくれたとしてもそれを知る術がない!話をする事だって出来ない!アリシアは死んでしまったから!」

 

 体が辛いだろうに叫ぶプレシア。あんたも本質はいい母親の一人だったんだろうぜ。それが今じゃ、永遠の別れで狂った魔女だ。

 

「だから私はアリシアを生き返らせる、誰がなんと言おうと関係ないわ!私は、あの幸せを取り戻すのよ!」

「失った者は戻らない!あんたの言うアルハザードとやらも素人の俺でも分かる。そんなの幻だ!そんなものに縋るな!」

「うるさい!お前に、……魔法も使えない貴方に何が分かると言う!ただの子供の貴方に何が分かると言うの!」

「そうさ、俺は分かってやれねぇよ!あんたの悲しみも絶望もあんただけの物だ。分かってやる事なんか出来ねぇ………けど、あんただって分かってねぇよ!」

「一体何を!?」

 

 息を吸う。あらんかぎりの声で叫ぶ。伝える、伝えるんだ。それが……必要なんだ。

 

「親よりも早く死んで……親を悲しませちまった……親不孝者の子供の気持ちだよ」

「………何を……そんなの分かるわけがない」

「だろうな………だが俺には分かる。……その気持ちが……アリシアの気持ちが分かるよ」

「戯言を!貴方に分かるわけが」

「分かるよ、俺は……知ってるよ。その気持ちを」

「っ!」

 

 俺の目を見てプレシアは驚いたように顔色になる。何だろうか、きっと今の俺は子供とは思えないような穏やかで落ち着いた顔をしているのだろう。そうだな、そうかも知れない。何せ今の俺は……。

 

「プレシア………俺の正体を教えてやるよ」

「正体?」

「俺は………」

 

 俺は。

 

 

 

 

 

 

 

 「一度死んで、別の人間として転生した……転生者だ」

 

 初めて、この告白をした。プレシアは訳が分からないと顔を歪める。意味は理解できたが何を言っているんだと言いたげな顔だった。

 

「世迷言を……それを信じろと言うの?」

「信じる信じないはお前次第だ。だが、そんな嘘をつく為に命がけで今お前と話に来たと思うのか?」

 

 そう言うとプレシアは少し考える素振りを見せてから

 

「転生者かどうかはともかく……貴方が普通の子供じゃないって事は信用するわ」

 

 そう言った。それで十分だ。今までの俺の言動から見てもただの9歳の子供だと思う方が無理だと思うがな。

 

「俺はな、地球……あんたが知ってる地球とはまた違う地球。次元世界とかそんな物をもっと超越した別世界の地球で生きていた」

 

 幸せな人生だった。20年間の俺の人生は親にも友達にも恵まれた最高の人生だった。最後以外は。俺は死んだ、唐突に……何の前触れもなく死んだ。死因は何だと思う?……事故だよ事故。交通事故だ、しかも相手の車が悪いんじゃないんだぜ?ボッーとして信号無視して車道に飛び出した俺が悪い。自業自得、俺の完全な自業自得だ。そんな死に方して、ボッーとしたら死んでたなんて………笑えねぇよ。何やってんだよ俺は。そんな理由で俺は両親より早死にして、悲しませて……親孝行どころか不幸者になって。一生消えない傷を与えちまった。相手が原因ならまだ良かった、誰かを庇ったりしてかっこいい死に方ならまだ良かった。けど、自業自得なんだよ。俺が悪いんだよ。両親だけじゃない、きっと俺を轢いた運転手の人生も台無しにした。想ってくれた親友達の信頼に泥を塗った。

 最悪だ、人生として最悪の結末だ。今でもたまに夢に見る。迫りくる車に轢かれる夢を。皆んなが悲しんでいる姿を、俺は何もできずにそれを眺めてるだけで。ずっとずっと、一生後悔する事だろう。

 

「そんな親不孝者の俺でもな、死んだ身として無責任な言い分だけどさ………せめて俺を想ってくれた人たちは俺の分まで幸せになって欲しいって思うんだよ」

 

 俺は皆んなを不幸にしちまった。俺の死という事実で色んな人を悲しませて苦しませてる。自惚れてると思うか?そんな無責任な事は思わない、俺は誰かの人生に少なからず影響を与えて与えられている。だからこそ、自分の命は大切にしなきゃいけない。自分の命は自分だけの物じゃないんだ。

 

「もしも、俺の両親が……母さんがあんたと同じような事をしてるんだったら俺はこう思うぜ?……やめてくれって、大勢の人の迷惑の上に蘇っても嬉しくない。俺の為に苦しまないで欲しいと、忘れろとは言えないけど……せめて前を向いて生きていて欲しいってな」

 

 ごめん母さん。ごめん、長生きして親孝行する約束破っちまった。貴方より早く死んでしまった。ごめんなさい、けど……せめて俺の死を乗り越えていつか笑って俺の事を思い出して欲しい。貴方の息子の事を思い出して欲しい。無責任な言い分だけど、俺はそう想ってる。

 

「……貴方とアリシアは違う」

「そうだな、俺とアリシアは違う。けど……」

 

 真っ直ぐにプレシアを見る。ちゃんと見たら色々と言葉を失ってしまいそうになる。体が常人より痩せ細っていて顔色も悪く、唇も紫色に変色している。目の下にクマが出来ていて目は輝きを失っている。そんな状態の母親を見たらアリシアって子も浮かばれないだろう。

 だから、言わなければならない。

 

「けど、同じでもある。俺と同じで……優しい親の下で幸せに生きていた事は確かだ」

 

 アリシアの記憶だったフェイトちゃんのプレシアの話。その姿が本来のプレシア・テスタロッサという一人の母親の姿。狂ってしまう前の正常な姿。そんな優しく穏やかな母親の下で育ったアリシアならきっと俺と同じことを思うはず。優しい子だとプレシアが語っていたアリシアならきっと。

 

「そんな優しく微笑んでくれていた母親にアリシアなら俺と同じ事をあんたに言うと思うぜ?そしてそれは、俺に言われなくたってあんたなら簡単に想像できただろうに……悲しみに囚われすぎてそんな事も分からなくなったのか?」

 

 プレシアは何も言い返さなくなる。正直いつまたあの落雷を浴びせてくるか分からないから恐怖で足が竦んでいる。けど、それを無視して俺は続ける。

 

「プレシア、あんたも……乗り越えなくちゃいけないんだよ。前を向いてそれでも生きなきゃいけなかったんだ………いつまでも自分の死に囚われずに前を向いてほしいって……アリシア・テスタロッサもきっと、絶対にそう思ってるはずだ」

 

 落雷は来ない。言い返す言葉もない。ただプレシアは俺の言葉に沈黙した。だが、ここまで言ってもきっと……

 

「そうね、そうかもしれない。アリシアならそう想ってくれていると。優しいあの子なら……それでもね……私は諦めないわ」

「それを分かってもなお、その独りよがりを続けるのか?」

「ええ、だってこの私の中の空いた空白はアリシアと再び会う事でしか埋まらないもの」

 

 そんなプレシアの言葉に俺は嘆息する。分かっていた事だ。俺がいくら言葉を並べても俺にはそのプレシアの空白や苦しみは理解できてない。そんな俺の言葉じゃ響かないと。

 

「貴方、転生者といったわね?」

「ああ……」

 

 唐突にそう問うてくるプレシアに素直に頷く。

 

「なら、もしかしたら」

 

 プレシアの続きの言葉は衝撃音によってかき消され俺の耳には届かなかった。後ろを振り返ると魔法で壁をぶち破って来たクロノの姿が。戦闘の影響か頭から血を流してはいるが見た目ほど重症じゃなさそうで安心する。

 

「全く君は無茶をする」

 

 そう言って俺の隣に立ってプレシアに対峙するクロノ。どうやら両親から通信か何かで俺の事を聞いたのだろう。

 

「へへ、悪いな。心配かけた……なのはちゃん達は?」

「高町なのはとユーノは別行動中だ。あの二人なら心配いらないだろう」

「フェイトちゃんとアルフは?」

 

 ちゃんと合流出来ただろうか、心配だ。そんな俺の言葉にクロノはクイッと顎で自身の後方を示す。素直にその方向を見るとゆっくりとフェイトちゃんとアルフが現れる。よかった、ちゃんと無事だったか。

 

「慎司……」

「たく、心配かけんじゃないよ」

 

 嬉しいね、アルフがそんな事言ってくれるとは。

 

「そんな心配すんなって、現に無事だろ?」

「……本気で言ってるのか?」

 

 ごめんって冗談だよ。服まであちこちこげてるよ落雷のせいで。でも、殺すつもりでやった訳じゃないみたいだからそう言うなって。

 

「慎司、平気?」

「ああ、そんな顔すんな。そんな事より」

 

 フェイトちゃんの背中を押してプレシアの方に少し押す。バランスを崩しておっとと転びそうになる。ごめん、強く押しすぎた。

 

「行ってこい、後ろで見てる。がんばれ」

「……うん」

 

 そう言って決意を固めた眼でプレシアの元にゆっくり近づいていくフェイトちゃん。俺の言葉は届きはしなかった。けど、フェイトちゃん……君の伝えたい事は伝わる事を信じて……俺は後ろで見守る。

 

 

 フェイト・テスタロッサは前に進む為に

 プレシア・テスタロッサは取り戻す為に

 

 

 その2人の想いを聞いた俺は、どんな顔をしていただろうか。せめて、悲劇的な結末だけはない事を願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 ママン万能すぎぃ!ちょっとご都合っぽいけどまぁママンはそれほどすごい人ってことで一つ


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結末


 今回は難産でした。焼肉食べたい


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしに来たの?……消えなさい。もう貴方に用はないわ」

 

 開口一番のプレシアの言葉にフェイトちゃんは一瞬悲しみの表情を浮かべるがすぐにそれを消して決意の眼差しを向けて口を開く。

 

「貴方に……言いたいことがあって来ました」

 

 フェイトちゃんの想いを俺たちは静かに聞いた。自分はアリシアじゃない。プレシアに作られた人形なのかもしれないと。それでも、プレシアに育てられたフェイト・テスタロッサという自分はプレシアの娘だとハッキリと告げる。

 

「だから何?今更貴方を娘だと思えと言うの?」

「貴方がそう望むなら」

 

 鼻で笑うかのようなプレシアの言い方にフェイトちゃんは態度を変えず真っ直ぐにそう伝える。プレシアが望むなら、フェイトちゃんは娘として世界中のどんな人からどんな出来事からも貴方を守ると。

 

「私が貴方の娘だからじゃない……貴方が私の母さんだから」

 

 フェイトちゃんの想い。答えを聞いた。自分がどうであろうとプレシアが自分の母親で娘として支えたいと。フェイト・テスタロッサが1人の女の子として………娘として伝えたかった事を聞いた。よく頑張ったと心中に思う。

 ここまで来る道中になのはちゃんと話をしたのだろうか。俺と別れる前よりも逞しく感じた。プレシアは一瞬、一瞬だけ優しい笑みを浮かべてからフェイトちゃんの言葉をこう返した。

 

「………くだらないわ」

「っ!」

 

 拒絶。なのだろうか、分からないがプレシアはフェイトちゃんの想いをその一言で片付けた。彼女の目にはアリシア以外の者は写らないのだろうか。フェイトちゃんは覚悟していたとはいえ悲しそうにプレシアを見つめていた。既に一度拒絶されてからの再びの相容れない結果。

 俺も何かプレシアに叫びそうになったが堪えた。一番悲しいのはフェイトちゃんだ、俺じゃない。そんな真似は出来なかった。2人が相容れる事はない、分かっていた結果とも思える。少なくとも俺はそうなるような気がしていた。それでも、ちゃんと勇気を振り絞ったこの子を褒めてあげたい。

 

「よく頑張ったな、偉いぞフェイトちゃん」

 

 隣に立ち、頭をぽんっと優しく叩く。本当によく頑張ったと思う。

 

「言ったろ?その気持ちは本物だ。胸を張れ、せめて堂々してろ。俯く必要はないから、堂々と」

「……うん」

 

 何も卑屈になる必要もなければ申し訳なく思う必要もない、フェイトちゃん。君が母親だと思うあの人には堂々とした姿を見せてやるんだ。たとえプレシアが拒絶しても、認めなくても堂々と。

 

「プレシア、あんたは自分を不幸な人生だと呪ってるかもしれないが俺はそうは思わないぜ」

「………………」

「こんな誇らしく良い娘さんに2人も恵まれたんだ、その事実だけは幸福とも言えんじゃねぇの?」

 

 俺のその言葉にプレシアは少し間を開けてから高らかに笑い始めた。それは嘲笑か、皮肉ゆえか、愉快ゆえか分からない。だが、俺には笑っているというよりも泣いているようにも見えた。

 

「はは………ははは」

 

 ひとしきり笑ってからプレシアはフェイトちゃんではなく俺に視線を投げる。もう、彼女の心情は読めない。今、何を考えているのか分からなかった。プレシアの中で心境の変化が垣間見えた気もしたのだが彼女はフェイトちゃんを拒絶した。そんな彼女は、今更俺に何かあるのか?

 

「………貴方の名を聞かせてくれるかしら?」

 

 そのプレシアの言葉に面食らった。そんな事聞いてどうする気だろうか。しかし、言わない理由もなく俺はハッキリと伝える。

 

「………荒瀬慎司だ」

「その名前じゃないわ」

 

 ここにはクロノやフェイトちゃんもいる。2人はプレシアのその言葉に意味を見いだせず首を捻る。俺は何を言いたいのかすぐ分かったがフェイトちゃん達がいる前でこれを言うのは少し憚れる。が、真剣な瞳で問うてくるプレシアを見て、俺は迷いを捨てて答えた。

 

「山宮太郎だ」

 

 俺の言葉にプレシア以外は更に疑問を抱くような顔をした。意味は分からないだろうけど教えるつもりもないから出来れば流してほしいし気にしないで欲しい。

 

「そう………」

 

 俺の返答にプレシアは満足気に頷くと穏やかな表情浮かべた。そんな表情で一瞬フェイトちゃんを見つめるプレシア。しかし、それはほんの瞬きの間で瞬時に冷たい仮面をかぶったいつものプレシアの表情に戻る。そして、覚悟を決めたような真剣な眼差しにかわったかと思うと自身の杖で足元を強く叩く。瞬間、庭園の崩壊と共に全体に地響きが走った。

 

「うわっ!」

 

 突然の現象にバランスを崩して膝をつく。隣のフェイトちゃんも俺と同じようにバランスを崩していた。これは………恐らくプレシア仕業だろう。しかし、いったい何をするつもりだ……ここを崩壊させたら俺たちどころか自分だって……。 

 

「慎司っ!フェイトっ!」

 

 後方にいるクロノの声が耳に入るが俺はプレシアから視線を外す事なかった。

 

「私は向かう、アルハザードへ………そして全てを取り戻す。過去も未来も…たった一つの幸福も!」

「まだそんな事を!」

 

 過去は取り戻せない!なかった事にはできないんだよ!そして、幸福は一つじゃない。

 

「これから作っていける!俺みたいに……作っていける……だからっ!」

 

 その先の言葉は続かなかった。プレシアの足元が崩れて彼女は逃げる事なく、重力下に晒され落ちた。

 

「母さんっ!」

「フェイト!」

 

 フェイトが落ちるプレシアを助けようと身を投げ出しかねない勢いで走るがアルフがそれを止めた。が、俺はフェイトちゃんより早く走り始めていた。体が勝手に動いてプレシアに手を伸ばしていた。

 

「ぐおおおっ!」

 

 間一髪、プレシアの手を掴む。小学生の体だがプレシアの細身の体を支えて掴むくらいの腕力はあると信じたい。鍛えてるし、しかしいくら小学生の体とはいえこれは重すぎるぞ。おかしい明らかに。

 

「……離しなさい」

「お前こそ離せよ……」

 

 プレシアは俺に掴まれた手とは逆の手でアリシアの生体ポットを掴んでいた。おいふざけんな、それ人が持ち上げるものじゃないだろ。何こんな時に火事場の馬鹿力使ってんだよ!

 

「……囚われ続けるのか!過去に、アリシアに……前に進まないでずっと後ろを向いてる気かよ!」

「ええ、私はそれでいい。それでいいのよ……」

 

 クソがっ!このアマ……このままだと俺も落ちちまう。ヤベェ。

 

「慎司!」

「この馬鹿!」

 

 アルフとフェイトちゃんが慌てて俺を落ちないように支える。しかし、生体ポットが重すぎる。アルフとプレシアをよく分かんない液体も入ってるし…なんで持ってられるんだプレシア。そんな腕力あるなら自力で登って来やがれ。いや………

 

「お前、このままアリシアと一緒に落ちる気かよ!」

「そうよ、だから邪魔をしないで」

「そんな事みすみす見逃すと思うのかよ!」

 

 あんたは死んじゃダメだ!このまま死ぬ事は許されない。罪を償って前を向いて生きなきゃダメなんだよ!それがアリシアの望みでもあるはずなんだから!フェイトちゃんだって、こんな別れはダメだ!離さない、絶対に離さない!

 

「………世話が焼けるわね」

「っ!!」

 

 プレシアの手を掴んでいた手に衝撃と痛みが伴った。手に力が抜けてプレシアは次元の狭間にアリシアと共に落ちていく。魔力弾だ、プレシアが俺に放った魔力弾。

 

「クソがっ!!」

 

 再び体を乗り上げて手を伸ばすが届くはずもなく。落ちていくプレシアを見る事しか出来ない。フェイトちゃんも呆然とプレシアを見つめる。落ちていくプレシアの表情はどこか穏やかで悲し気で……儚い。初めてフェイトちゃんと出会ったときのように。………やっぱり親子だよあんたら。

 

「母さんっ!」

 

 チラッとフェイトちゃんを見つめてすぐ視線を俺に戻すプレシア。そして、小さく口を動かして呟いた。俺に聞こえるか聞こえないか、それくらい小さな呟き。恐らく……フェイトちゃんにも届いた。

 

「……フェイトをお願い」

 

 そう言ってすぐにアリシアの生体ポットを愛おしく手を添えて、俺たちにはもう用はないと言わんばかりにこちらを見る事なく落ちていった。何だよそれ……フェイトちゃんの事どうでもいいとか言っておいて……本当にどうでもいいと思ってるくせに……心配してないくせに!

 

「最後の最後で何でそんなこと言うんだよ!」

 

 ふざけんなよ!ちくしょう………ちくしょう。助けたかった……余計にそう思っちまうじゃないかよ!

 崩壊が始まり崩れる庭園。その最中の俺の叫びはプレシアには届かなかった。彼女は、前を向くことなく……ただ1人の最愛の娘の事を思って消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崩壊した庭園で命からがらクロノ達と俺は転移でアースラに帰還した。なのはちゃんとユーノともその際に合流を果たし全員軽傷で済んだ。帰還して俺はすぐに治療室に運ばれ魔法による治療を受けた。プレシアも手加減した攻撃だったが魔力を持たない俺にはやはり危険だったらしく念の為の治療だった。といっても、怪我自体はたいした事はないのでほんの数十分くらいで終わりとりあえずみんなの所に行こうと思った所で治療室にクロノとユーノが入室して来た。

 

「治療は終わったようだな」

「大丈夫かい?慎司」

 

 クロノは頭に、ユーノは腕にそれぞれ包帯を巻いていた。見た目ほど大きな怪我ではないようだがやっぱり魔法ってのは命が関わる危険なものなんだと再認識させられる。

 

「……他のみんなは?」

 

 クロノから軽く説明を受ける。なのはちゃんはまだ治療を受けていてリンディさんやエイミィさんは事後処理。俺の両親はその手伝い。

 

「フェイトちゃんとアルフは?」

 

 2人は特に心配だ。フェイトちゃんに関しては目の前で母親があんな事になってしまったのだ。心中は計り知れない。

 

「2人は………」

「適切な治療を施した後隔離中だ」

 

 言い淀むユーノに代わりクロノがハッキリとそう告げる。……仕方ないか、今回のゴタゴタの重要参考人だ。無罪放免なんて事は虫の良い話だろう。

 

「君も納得はいかないだろうが管理局として対応は慎重にしなければならない。悪く思わないでくれ」

「分かってる、仕方のないって事は理解してるよ」

 

 俺がそう言うとクロノはホッとした表情を見せる。俺が猛反対して騒ぎ出すとでも思っていたのだろうか。

 

「それにしても、慎司が一人でプレシアに会いに行ったって慎司の両親から通信が入った時は驚いたよ」

「全くだ」

「ははは、悪かった悪かった」

「笑い事じゃないぞ」

 

 いや、ホントごめんて。

 

「でも………どうしても伝えなきゃいけなかったんだ」

 

 アリシアが思ってるだろう事を、置いていった人間が置いていかれた人間に対して言わなきゃいけなかった。

 

「まぁ、結局……あんな結末で終わっちまった」

 

 情けねぇ。説得できるなんて思ってなかったけど、改心させるなんて思ってなかったけど……それでも悲しみが残る終わり方になってしまったのはやはり悔しい。

 

「慎司はよくやったと思うよ……」

 

 ユーノの言葉に俺は首を振る。よくやったじゃダメなんだよ。よくやっただけじゃ……ダメなんだ。何か結果がともわなければ、意味がないんだ。

 

「よくやっただけじゃない。ちゃんと結果を残してるよ慎司は」

「ユーノ?」

「なのはを励まして立ち上がらせた……フェイトの心を救って前へ進ませた。これは凄い功績だって僕は思うよ。皆を巻き込んだだけの僕とは大違いだよ」

 

 そうやって自虐的に笑うユーノ。ジュエルシードが散らばった原因となった事にユーノの一族が関わっている事は聞いてはいるがそんな風に俺は捉えてなかっただけにユーノのそう言い分を反射的に否定する。

 

「そんな風に思った事きっと誰もねえよ」

「そうだね、皆んなならそうだと思う。それと同じで慎司が何も残せなかったって思ってる人はいないよ」

 

 だから、そんな後ろ向きに考えないで僕と一緒に前を向いて行こうよ。そう言ってくれるユーノの言葉につい笑みを漏らす。前に進むか、俺がプレシアにそう言ったくせに俺が後ろ向きじゃダメだよな。

 

「そうだな、最近ずっとクヨクヨしてばっかで男らしくなかったな」

 

 今回の事も、プレシアの事もクヨクヨして下を向くのはやめよう。前を見て行かなきゃな。そう言ったんならよ。

 

「……ユーノ、お前良いやつだな」

「そ、そうかい?それはありがとう」

「ああ、フェレット姿に乗じて女湯に侵入した変態とは思えねぇよ」

「変態じゃないよっ!?」

「ユーノ……お前そうなのか?」

「クロノも引かないでよ!あれは……事故っ!事故なんだよ」

「けど見たんだろ?裸の女の子」

「頑張って目閉じてたよ!必死に!」

「嘘つけ変態フェレット擬き」

「ひどいっ!?」

 

 ちょっとした照れ隠しだ。ありがとよユーノ、感謝はしてる。そう言ってくれて。だから許せ、お前なのはちゃんに負けないくらい揶揄い甲斐のある奴だし。

 何て考えているとユーノの動きが急にピタっと止まる。何だ?

 

「おい、どうした?」

「念話でリンディさんに呼ばれたんだ。僕は一足先に戻ってるよ」

「そっか」

 

 そう言ってユーノは駆け足で医務室を出ていった。なんか手伝い事かもしくは事後処理に向けてユーノと話でもあるのか。まぁ、どっちでもいいか。

 

「俺たちもとりあえず司令室に行くか?クロノも元々迎えに来てくれたんだろ?」

「ああ、その通りだ。治療も終わってるなら僕達も戻ろうか」

 

 立ち上がって俺もクロノに続いて医務室を出る。ゆっくり歩いて向かう道すがら、クロノが口を開く。

 

「質問なんだが、いいか?」

「なんだ?構わんぞよ」

 

 わざわざそんな前置きしなくてもいいのに。

 

「………プレシアとの会話で言っていた『山宮太郎』というのはどう言う意味なんだ?」

 

 君の名前は荒瀬慎司だろうと付け加えてそう俺に問うてくる。まぁ、気になるよなぁ。クロノとあとフェイトちゃんとアルフの前でそう言っちゃったし。軽率な気もするが、プレシアにはちゃんと伝えるべきだと思ったんだ。俺念話使えないし言葉にするしか無かった。

 しかし正直に前世の名前ですなんて言ってもしょうがないしな。

 

「深い意味はねぇよ。言葉遊びみたいなもんだ………あんまり気にしないでくれ」

「………そうか、分かった」

 

 適当な事言って話を切ったがクロノはあまり掘り返して欲しくないと察してくれたのか潔く引いてくれた。悪いな、でも話す訳にいかねぇ。前世云々の事はやっぱり秘密にしよう、軽率な事をしないように気をつけないとな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロノと共に司令室に赴くと勢揃いだった。リンディさんに治療を終えたなのはちゃん、俺の両親にクロノとエイミィとユーノ。フェイトちゃん達とアルフは恐らく何処かの部屋で隔離されてるのだろう。

 とりあえず全員で今後の事を話し合う。事件は結末はどうあれ終息へと向かった、リンディさん達アースラの組員達はここで事件後処理やら何やらでしばらくは艦にとどまるらしい。父さんと母さんは今回の事件の報告の為一旦管理局本局の方に向かうと言う、父さん達も立派な当事者となってしまったしなにより

 

「俺もうまい事言ってフェイトちゃん達の処遇に便宜を図れるよう動かないといけないしな」

「慎司も、そうした方がいいでしょ?」

 

 母さんのその言葉に俺は笑顔で頷いた。ありがとう、本当に。今回はこの2人に世話になりっぱなしだった。頭が上がらないよ。

 

「ありがとう、2人とも」

「気にするな、息子なんだから。………お前にこう言うのも変だが……成長したな慎司」

 

 そう言って頭を撫でてくる父さん。正直俺としては精神年齢も考えるとかなり恥ずかしかったがまぁ、素直に撫でられておこう。2人は話を終えるとすぐにアースラから転移していった。

 俺となのはちゃんとユーノはあの突入の最中次元震?とやらが起こったらしくその余波が鎮まるまで大事を取って数日アースラで過ごす事に。待て、つー事は父さん達横着して転移してったのか?

 そう言うとリンディさんは困った顔をしながら

 

「報告も便宜を図るのも早い方がいいから」

 

 と諦めたように言っていた。いや、父さん、母さん……自重しようよ。息子のために体張りすぎだよ。先程無事に着いたと通信があったとの事なので一安心だ。

 

「昔からああなのよねあの2人」

 

 そう呟くリンディさん。古い付き合いなのかな?そういえば連絡先も知ってる見たいだったし知り合いではあったみたいだからなぁ。

 あの反応を見る限り色々両親にこれまで振り回された事が沢山あるのかも。なんかごめんなさい。

 

「とにかく、これからなのはちゃんとユーノ君だけでなく慎司君も数日アースラで過ごしてもらう事になるから……ゆっくり休んで頂戴」

 

 そうさせてもらおうかね、ここ数日は怒涛すぎて流石に疲れた。濃密な時間だったよ。

 

「とりあえず一旦解散とします。皆んなそれぞれ今日は部屋で休んで下さい。慎司君は、残っててもらえるかしら?」

「ん?はい、分かりました」

 

 そう言われ俺だけ残ることに。なのはちゃんが俺を気にするようにチラチラとこっちを見ていたがユーノに促されるように部屋を出て行く。そういえば、アースラに帰還してからまだまともに会話できてねえな。

 

「ごめんなさいね、疲れてるところ」

「いいえ、全然。それで。何か俺に話でも?」

「ええ、少し……お説教をね」

 

 ですよねー。父さん達が許してくれたとはいえ俺がした事はとても危険で下手をすればアースラの皆んなも危険に晒したかもしれない行動だ。

 

「慎司君、貴方は賢い子だから自分がどれだけ危険な事をしたのか理解はしていると思います」

「……はい」

「それを理解した上で貴方は危険を冒して一人でプレシア・テスタロッサの元に向かった。魔法も使えない貴方が……無謀にも」

 

 あえて厳しい事を言うリンディさんには申し訳なかった。厳しく叱責する事で俺の為に言っている事はすぐに分かる。

 

「その件に関しては……謝ります。軽率な行動でした……大変申し訳ございません」

 

 素直に頭を下げる。俺のわがままであった事に変わりはない。両親の代わりにとの思いもあるのだろう、両親はそれを許した都合上叱る事は出来ないだろうから。

 

「ですが、貴方も巻き込まれた立場でなのはちゃんやフェイトちゃんの為に尽力した功績は私達アースラにとっても非常に助かりました。それを考慮してお説教は短くしておきましょう。………本当にありがとう、荒瀬慎司君」

 

 そう言って頭を下げてくるリンディさん。ユーノも、リンディさんも俺は役に立ったと言ってくれる。それはとても嬉しいけど、何だかモヤモヤした気持ちも抱く。自分にとっては納得いってないからなのだろうか。

 

「それで、プレシア・テスタロッサは最後に何と?」

「…………彼女は、最後までフェイトちゃんを否定していました。俺の言葉も、フェイトちゃんの想いも……あの人には届かなかった」

 

 プレシアは本心でフェイトちゃんを拒絶した。それは間違いない、本心で否定してその考えは変わる事は無かった。けど、節々に見せた穏やかな表情と最後の言葉。

 

「最後、次元の狭間に落ちた時『フェイトをお願い』って言っていました」

「……そう、最後にそう言ったの」

「ええ、正直わかんないです。プレシアは最後の時もフェイトちゃんの事を娘だと思ってなかったと思います」

 

 その証拠に、彼女は最後までアリシアに寄り添っていた。最後の瞬間も俺達に視線をよこしただけでアリシアと共に落ちた。フェイトちゃんに向ける視線とアリシアに向ける視線もかなり違った物だった。だからこそ、拒絶して、どうでもいいと吐き捨てたフェイトちゃんの事を俺にお願いと託すように彼女は言葉を発した。

 俺には、どういう意図があったのか分からなかった。

 

「……難しく考える必要は無いと思うわよ慎司君」

「……というと?」

「彼女が最後に何を思ってそう言ったのかは彼女以外誰も分からないわ。けど、少なくてもそう言わせる何かしらの心境の変化があったのよ。たとえフェイトちゃんを自身の娘と認めなくても、そう言わせるだけの変化を。そしてその変化を起こしたのは……きっと慎司君…貴方よ」

「俺が?」

 

 そうとは限らない。フェイトちゃんの真摯な想いを告げた結果だと思う。少なくても赤の他人俺よりは可能性が高いだろう。

 

「まぁ、私の勘だから……あまり気にしないで頂戴」

 

 そう言ってからリンディさんは席を立って

 

「話はお終いよ。時間を取らせてごめんなさいね、ゆっくり休んでからちゃんと前を向いて頂戴」

 

 と述べる。俺は頷いてから礼を言って退席した。最後の言葉は………リンディさんなりの励ましだろうか。

 リンディさんから自身の部屋の場所を聞いてそこに向かう。とにかく疲れたな、本当に。まだ眠るに早すぎるが寝てしまおうか。

 

 

 

 

 

 割り当てられた部屋に辿り着いて入室する。殺風景な部屋だった。まぁ、普通か。ベッドがあるだけで十分だしな。ベッドにダイブして枕に顔を埋める。このまま寝れそうだけど俺は色々考えを巡らせる事にした。

 

「………正しかったんだろうか」

 

 俺の言葉は、行動は正しかったんだろうか。前を向けと言った、今思えばプレシアの絶望を真の意味では知らない俺のその言葉は酷く無責任な言葉だ。

 後悔はしてない、あの言葉も行動も。それでも正しい事をしたのか……正解だったのかは分からない。それを知る術もない。ため息が出る。ユーノに発破をかけられて前向かなきゃと思いはしたがやはりそう簡単に切り替える事は出来なかった。自分の手を見つめる、プレシアを掴んでいた俺の手………助けれたかもしれない俺の手。後悔してないなんて嘘だ、きっと俺は救えなかった事に後悔している。何でもできる完璧な人間なんていないのに、そう思うのは傲慢だと理解しているのに……その気持ちは消えない。

 自分で勝手に考えて憂鬱になっているとコンコンとノック音が。

 

「どうぞー」

 

 寝転がる体勢からベッドに腰掛ける形に体勢を変える。誰だろうか?

 

「し、失礼しまーす」

「何でそんな緊張気味に入ってくんだよ、なのはちゃん」

「にゃはは、いつもと違う部屋だから何となく緊張しちゃって」

 

 俺の家の俺の部屋に入る時はノックも何もしないで入る癖に。まぁ、気持ちはわからんでもないが。

 

「まぁいいや、そこに立ってないでどっか座りなよ」

「う、うん……」

 

 妙によそよそしいな。俺の隣に座ったなのはちゃんだったが何だかモジモジとしていて落ち着かない様子だ。

 

「んでどうしたんだよ?何か用があるんだろ?」

「う、うん……用っていうかお話って言うか…」

 

 煮え切らないな。本当にどうしたんだろうか。

 

「………怪我は平気か?」

 

 とりあえず一回雑談でもして落ち着かせよう。話が進まなそうだ。足に巻いてる包帯とか気になるし。

 

「あ、うん。見た目ほど大きな怪我じゃないから平気だよ。慎司君は平気?」

「ああ、たいした事ないよ」

 

 よかったと呟くなのはちゃんを盗み見る。一言二言言葉を交わしただけだけど、落ち着い様子だ。一応もう少し挟んでおこう。そう思って適当に何か喋ろうとした時だった。突然、体に重みを感じる。隣にいたなのはちゃんが急に俺の肩を掴みながら頭を俺の胸に当てて体を預けてきたのだ。

 

「……なのはちゃん?」

 

 突然の事に少し驚きつつもどうしたんだよと一言添える。引き離すのは忍びなく感じてそのまま俺はなのはちゃんの好きにさせる。

 

「本当に……よかったよ……無事でよかったよぉ……」

 

 肩を握る手に力が込められる。

 

「私……慎司君が1人で向かったって通信で聞いた時心配で……心配でぇ……」

「あーあー、泣くなよぉ……」

 

 胸に顔を埋めるなのはちゃんの頭を撫でる。顔を見えなかったけど声が完全に涙声だった。庭園でなのはちゃんと合流したのは脱出する時のほんのひと時だけ……言葉を交わしている余裕は無かったし、なのはちゃんは別の場所すべき事をしていた。けど、それまでずっと俺の心配をさせてしまっていたのか……結局迷惑かけっぱなしだったな。

 

「うぅ……泣いてないもん」

「何でそこで強がるんだよ」

「もぉー、心配だったんだから本当にー!」

「急に怒るなよ、悪かった……ごめんな心配かけて」

「………ううん、いいの。慎司君だって理由があってそうした事は分かってるし」

 

 さりげなく目元を拭いながらなのはちゃんはようやく俺から身を剥がす。

 

「にゃはは、ごめんね?やっとちゃんと無事を確認できて気が抜けちゃったみたい」

 

 そんなに心配させてしまってた事に少し罪悪感を抱く。ごめんな、まさかそこまで心配するとは思ってなかった。けど、なのはちゃんの言う通り譲れない理由があっての事だったから俺としても複雑な心境だ。

 

「……ありがとな、なのはちゃん。そんな心配してくれて」

「ううん、わたしこそありがとうだよ。慎司君のおかげで最後まで頑張れたから」

 

 それは自分の実力だよと言いたかったが無粋になりそうなんでやめておいた。そう言ってくれるなら俺も頑張った甲斐があるしな。

 

「………ねぇ慎司君?」

「ん?」

「………責任を感じてるの?」

「……っ」

 

 なのはちゃんの鋭い指摘にビクッとする。いや、俺があからさまになってたのかもしれない。

 

「………フェイトちゃんのお母さんの事は残念だったけど……慎司君のせいじゃないよ」

「あぁ……」

「そう言っても、慎司君はきっと責任感じたままだもんね。慎司君は実際に自分のせいじゃないって分かっててもそう思っちゃうんでしょ?」

「……ははっ、鋭いななのはちゃんは」

 

 心を見透かされてるのかと疑いたくなるくらいドンピシャだよ。

 

「俺の心の弱ささ……情けねえ」

「ううん、違うよ」

 

 俺の言葉をなのはちゃんは即座に首を振って否定した。そして、真っ直ぐ俺見つめて自信満々に言う。

 

「それは慎司君の優しさだよ」

「優しさ?」

 

 どう言う事だろうか?

 

「慎司君が本気で本心でプレシアさんを救いたかったから……そんな優しい気持ちで頑張ったからそう思っちゃうんだよ。慎司君が本気で頑張ったからそう感じちゃうんだよ」

 

 そう言うとなのはちゃんはベッドから離れて立ち上がる。軽快にクルッと回ってこっち見て言葉を続けた。

 

「ねえ慎司君……私ね、思うんだ」

「何が?」

「今回の騒動を解決できたMVPは……慎司君だって思うんだ」

「それは……流石に気を使いすぎだろ」

 

 明らかに違うじゃねぇか。なのはちゃんやアースラのみんなだろ。フェイトちゃんだって頑張った。

 

「ううん、この気持ちはね……私の本心だよ」

「嘘こけ」

「嘘じゃないもん、ホントだもん」

「………何でそう思うんだ?」

 

 俺がそう聞くとなのはちゃんはニヤニヤしながら嬉しそうに、聞いちゃう?それ聞いちゃう?と機嫌良さげに言う。ちょっとキャラ違くないかなのはちゃん?

 まぁ、一緒に遊んでる時楽しくて変なテンションになるのはややあるけども。

 

「なら、私がそう思う理由全部言ってくね」

 

 マジかよ。

 

「慎司君はなのはの事沢山励ましたり応援してくれたよ、そのおかげで私は今回の事件最後まで頑張れたよ?」

 

 そのまま考える仕草もしないで続けるなのはちゃん。

 

「フェイトちゃんの心を救ったよ、私が庭園でフェイトちゃんと合流した時ね……すごい清々しくて力強い顔つきをしてたんだ。いっぱい感謝してた……。それも、慎司君のおかげ」

 

 皆そう言ってくれていた。なのはちゃんを救った、フェイトちゃんを救った……だから俺は良くやったって。だけど、俺にとって重要なのは助ける事の出来なかったプレシアの事だ。

 だから、次になのはちゃんから飛び出た言葉には驚きを隠せなかった。

 

「………そして、プレシアさんの心も救った」

「っ!」

 

 つい立ち上がる。掴みかかりそうになるのを抑えて、必死に大きくなりそうな声も抑える。

 

「そんなの!………分からないじゃないか……それに救ったなんて言えないっ!あの人は……もういない。心を救うどころか、俺は掴んでた!助けられたかもしれなかったのにっ!」

 

 本心が飛び出る。罪悪感とか責任とか色んな感情がごちゃ混ぜになって言葉も整理できない。そんな俺の狼狽した態度にもなのはちゃんは怯まずに俺を真っ直ぐに見つめていた。

 

「ごめんね?リンディさんと慎司君がさっき2人で話してる時、扉越しで隠れて聞いちゃったんだ」

 

 なのはちゃんは言わないだろうがリンディさんが恐らく念話で手を回したのだろう。あの人も、俺に気を使いすぎだ。

 

「私ね、慎司君が言ってたプレシアさんの最後の言葉と態度を聞いてね……きっとプレシアさんは昔の自分を取り戻せてたんだと思うんだ」

「けど、あの人は自ら落ちた!もしそうなら、その行動はおかしいだろ!」

「そうだね……なのはもその理由は分からないけど……でも自信を持って言えるんだ……プレシアさんの心を慎司君はきっと救えたって」

「どうして!?」

「……慎司君だからだよ」

「えっ?」

「慎司君だから、救えたよ……絶対。慎司君が救おうって、慎司君が頑張ったなら絶対救えたよ。慎司君は………そんなすごい事をなし得ちゃう優しい人だってなのはは知ってるもん」

 

 そんな盲目的に俺を信用するな。俺はそんなすごい人間なんかじゃない。

 

「俺はそうは思わないよ」

「慎司君がどう思っても関係ないよ、だってなのはがそう思ってればいいんだもん」

「………無茶苦茶だな」

「うん!無茶苦茶だけどそれでいいんだよ」

 

 笑うなのはちゃんに釣られて俺も笑みが溢れる。本当に、太陽のような笑顔だ。そんな顔をもっとして欲しかったから……俺は頑張ってのかもしれない。

 

「だから、慎司君………慎司君の言葉を借りて私もこう言うね?」

 

 改めて俺を真っ直ぐに見つめて、さっきよりも可愛らしく輝くような笑顔でこの子は言う。

 

「下を向いてる慎司君より、前を向いて進んでる慎司君の方が私は大好きだよ!」

 

 そう言って手を取ってくる。暖かくて、小さくて、優しい手だ。強くなったな、なのはちゃん。本当に強くなった。

 すごいよ、君はやっぱり凄い子だ。

 

「………そうだな」

 

 色んな人に、こうやって励まされたら。何が何でも前を向かなきゃな。ユーノがそう言った、リンディさんがそう言った、なのはちゃんもそう言った。前を向けと。俺も、言った……前を向けと。そうあるべきだって思う。いい加減本当にウジウジするのはやめだ。前を向こう、俺もこれから色んな人にそう伝えれるように。

 

「前……向くよ。ありがとうなのはちゃん、スッゲー嬉しかったよ」

「えへへ、それから最後に一言言わせて……まだちゃんと言えてなかったから」

 

 何だろうか?もう既に話す事はないと思ったが。

 

「優勝……おめでとう!慎司君」

 

 その言葉に面食らった。……ははっ!たくっ、なのはちゃんは……。

 

「………ありがとう」

 

 もう、この感謝は伝えきれないよ。2人で笑い合って俺達はその日を過ごした。久しぶりに2人でこんな長く話した気がする。俺も、気づかないうちにいっぱい助けられたんだろうな……。お互い様だよな。これからも一緒にそうやって過ごせたらいいなって思えた。

 

 

 

 

 

 プレシアが最後、救われたのかどうかは永遠の謎で俺を時折悩ませるだろうけど……けど、俺を信頼してくれているなのはちゃんの言葉を信じてみてもいいなって思える。 

 真実は分からなくても、俺は救えたかもって……1人の女の子のおかげでそう考えれるようになった。前を向いてな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 浮遊感に身を任せて落ちていく。悲痛な表情で私を見つめて手を伸ばすボウヤと人形が見えた。彼には悪い事をした……どうか自分を責めないで欲しいと最後に残った良心で今更ながらそう思う。滑稽だ、そういう風に思う資格すら私にはないと言うのに。人形……フェイトを見る。あそこまで拒絶して否定してもまだ私にそんな表情をするのね。

 貴方がどんなに私を思っても……私は貴方を娘だと思う事はないというのに………全く。私にとって娘とはアリシアただ1人。フェイト、貴方に同じ感情を抱く事はない。

 

 

 

 そう思っている、本心でそう思っている。

 

 

『フェイトちゃんの愛情は、本物の筈だろ!』

 

 何故だかボウヤのあの言葉が頭の中で反響する。……彼の言葉にはつい耳を傾けてしまったけど、それでも気持ちが変わる事はない。ないのだが……。

 

「……フェイトをお願い」

 

 自分でもびっくりした事だった。勝手にそんな事を言っていた。誰であろう山宮太郎に。何故だろうか。何故そんな事を言ったのか。私は人形の事などどうでもいいと………。

 いや……どうでも良くはないのだ。今わかった……フェイトを初めて拒絶した時は本当にどうでもいいと思っていた。どうなろうと知った事ではないと。しかし、それからフェイトを否定する言葉を発するたびになんだかモヤモヤした感情を感じていた。

 気のせいだと思った、非情になりきれない甘い女なだけかとも思った。2つとも違う………娘だとは思っていない……思ってはいないのだが………せめて幸せに。そう……思ってしまった。

 そんな資格はないけども……私が生み出してそこで存在して生きているのなら……フェイト・テスタロッサとして生きるのなら、せめて不幸ではなく幸福に生きて欲しい。そのために何かするわけではないけど、せめてと。そんな風に情を抱いてしまった。

 この心境の変化は恐らく2人のせいだろう、フェイトと太郎……あの2人の言葉に絆されたからだろう。全く、私も甘く弱い人間だ。けど、そう思ってしまったのだから仕方ない。

 きっと、太郎なら貴方のこれからの人生に彩りを与えてくれるでしょう。だから、太郎………私とは赤の他人で血の繋がりも何もない…親子でもないけど……私の為に頑張ってくれた哀れな優しいこの娘の事を………どうか。

 

 

 

 

 やめよう、今更そんな事を思う資格は無いのだから。2人から視線を外してアリシアを見る。彼は自身を転生者と明かした。もし、それが真実なら………本当に存在する現象ならば……。

 

「一緒に行きましょう……今度は離れないように」

 

 もしかしたら、私達はまた……再会できるかもしれない。

 そんな夢物語を抱いて意識が消失していく感覚に襲われる。終わる時が来た。しかし、何故だろうか………私は許されない事をした。罪を犯した。しかし、何故だろうか………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、最後の瞬間………小さな希望を抱いて……暗い意識に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが真実である。荒瀬慎司が成し遂げた功績である。しかし、これは誰にも知られる事のない事だ。荒瀬慎司にも、誰にも知られる事のない事実。だが、少なくとも……プレシアは最後の瞬間…救いはあったのだと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 次回にて無印編本編完結。その後数話ほど蛇足書いてAs編になる予定です。閲覧ありがとうございました。


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誓い


 無印編本編最終回!


 

 

 

 

 

 

 アースラでの数日は暇を持て余す生活だった。ここには勿論俺のゲームや遊び道具なんかはなく出来る事と言えば体を鈍らせないようにトレーニングをするのみ。と言っても柔道そのものは出来ないのでさらにやれる事は限られる。

 しかも1日中ずっとやれるスタミナもあるはずもなくそれ以外の時間はボッーとしているか暇な人を見つけて雑談にふけるばかりだ。アースラの仕事を手伝えればそうしたかったのだが俺にできる事は皆無なのは分かっていたので開き直って過ごしていた。

 正直退屈すぎてずっとユーノとなのはちゃんとついでにクロノにちょっかいかけてばっかな気がした。そんな数日も過ごせばあっという間で、アースラ内の食堂でなのはちゃんとユーノと一緒にご飯を頂いているとリンディさんとクロノ、エイミィさんが同席してきた。そこでリンディさんから明日には地球に帰れるとの言葉を貰う。ちなみにユーノは自身の故郷に帰れるまでまだまだ時間がかかるそうでその間は今まで通りフェレットとして高町家の世話になるそうな。

 

「そうですか……クロノにちょっかいかけれるのも今日で最後か……」

「僕はようやく君から解放されてせいせいするよ」

 

 そんなクロノの言葉にエイミィさんが寂しいならそう言えばいいのに〜と揶揄うように口を開く。クロノは少し慌てて反応した。あれま、嬉しい反応。

 

「何だよ何だよ、嬉しいじゃないの。時間があればまたちょっかいかけにいくから寂しがんなよ〜」

「昨日もそうだが本当に鬱陶しいな君は」

「ちなみに昨日は何されたんだい?」

 

 そうユーノに聞かれたクロノはげんなりしながら

 

「…………書類作業をしてる僕の横でずっと筋トレしてんたんだこのバカは」

「だって暇なんだもの」

「だったら誰の邪魔にならないところでやらんか馬鹿者」

「親交を深めたくて」

「どうして親交を深めたいのに僕をイライラさせるんだ」

「…………ツンデレ?」

「どこにもそんな要素なかったよ慎司君」

 

 クロノの代わりに見かねたなのはちゃんがそう俺にツッコム。なぁに、ちゃんと本気で怒らせないうちに退散したよ。

 

「そっか……クロノも大変だったね」

 

 ユーノもクロノと同じようなげんなりとしてそう言う。

 

「何だユーノ?お前も慎司の被害に遭ったのか?」

 

 被害とは失礼な。ユーノもそんな顔するなよ、別に大した事してないだろうに。……してないよね?

 

「僕は……どっちかが100勝するまで終わらないエンドレスあっち向いてホイっ勝負してた」

「本当に君は何をやってるんだ」

 

 いやだから暇だったのと親交を深めたくて。いやね?最初はユーノもノリノリだったのよ?最初の10戦くらいは男同士はしゃいで楽しんでたさ。途中で遠い目をして闘ってたけど男として一度言い出した以上おわれないじゃん?

 

「全く慎司にも困ったものだ、まさかエイミィや艦長にまでちょっかいかけたんじゃあるまいな?」

「あら、心配してくれてるの?クロノ」

「揶揄わないで下さい」

 

 親子だけどちゃん公私混同しないクロノ。まぁ、ぶっちゃけ節々親子なんだなぁって思っちゃう会話何度かしてる時あるけども。

 

「えっと私はねぇ……徹夜で作業してる時に冷えピタと肩揉んでくれてたね」

「私もお茶入れてくれたりしてくれてたわよ?」

 

 リンディさんお茶に砂糖入れるからな………ようやくリンディさんが喜ぶ適量分かってきたところよ。

 

「女性には優しいんだな君は」

「待ってクロノ君、私そんな風に労ってもらってないよ」

 

 クロノの発言になのはちゃんが異を唱える。

 

「私慎司君に肩揉んでもらってないよ!」

「おい小学生」

 

 お前肩凝る歳じゃないだろ。

 

「いいじゃん!揉んでよ!」

「ほれっ」

「うにゃー!引っ張らないでよー!」

 

 しかもほっぺだしー!と言いギャーギャーするなのはちゃん。あ、今日もすべすべで触り心地最高だね。

 

「なんかあれだな……ほっぺ伸びてるなのはちゃん見てると思うんだけどさ……」

「え?何?」

「コイキングみたいだな」

「明らかにおかしいよね!?」

 

 コイキングじゃないもんっとポカポカして抗議してくるけどいかんせん。例の如く全く痛くない。

 

「不満か?ケンタロス」

「変わってるしせめて人型にしてくれないかなぁ!」

 

 そんな感じでふざけつつアースラで食べる最後の夕食を終える。今生の別れというわけではないが寂しさを感じる、数日ちょっかいかけたのも実はそんな気持ちを拭う為でもあった。いい歳こいた大人が恥ずかしいとも思ったが……気持ちには正直なっていた。

 

 

 

 

 

 一晩寝てすぐに俺となのはちゃんとユーノはすぐに地球へと帰還する事に。別れ際、アースラのスタッフの皆さんに見送られて別れの挨拶をしつつクロノがフェイトちゃんの裁判やら便宜に尽力を注いでくれると約束してくれた。俺の父さんと母さんも既に動いてくれているから心配はいらないと頼りになる事を言ってくれる。仕方のない事だがアースラにいる間、ひと目もフェイトちゃんを見る事は叶わなかったがフェイトちゃんなら大丈夫だろう。

 心配もなく俺は地球へと帰還出来そうだ。転移装置の前に立ち一歩進めば地球に帰るというところで

 

「なのはさん、ユーノ君……そして慎司君も」

 

 リンディさんの言葉が合図だったのかスタッフ全員がリンディさんがそう言い終えると綺麗に敬礼を始める。

 

「今回の事件への助力に感謝と敬意を称します。本当に……ありがとう」

 

 少々面食らったが俺達3人も拙いながら敬礼を返して地球へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球へと帰った俺達を待っていたのは平凡な日常であった。たかだか数日の出来事であったがこんなゆったりした時間を謳歌するのは何だか久しぶりに感じた。帰って早々俺がしたことといえば大会で応援に来てくれていた高町家の面々とアリサちゃんとすずかちゃんへの謝罪だった。大会を終えて、ひったくるように賞状とメダルを受け取ってからロクな説明も連絡もできずに俺はなのはちゃんの元へ飛び出してしまったため、要らぬ心配をかけてしまっていたのだ。しかし、そんな謝罪に帰ってきた返事は拍子抜けた物だった。

 

「あら、慎司君……家族との優勝記念旅行は楽しかったかしら?」

「んんっ?」

 

 桃子さんの言である。お土産ありがとうねなんて言いながら何かが入った紙袋を持ち上げる。んんっ?んんんっ?アリサちゃんとすずかちゃんも同じ反応であった。

 どうやら父さんと母さんの仕業で俺が地球にいない間は家族と遠くへ旅行に行ってたことになっていた。大会も終えてすぐに居なくなったのは父さんが飛行機の時間を間違えて早くチケットを取ってしまったからだと言うことになっていた。俺が連絡できなかったのは出先で携帯を壊してしまった事になってるという徹底ぶり。せっかく両親が用意してくれた言い訳が出来たのでそれに乗って話を合わせた。いや本当に両親には頭が上がらない。家には書き置きが置いてあってしばらく帰ってこれないようだが……帰ってきたらちゃんとお礼しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで数日ぶりに学校に顔出せばクラスメイトから優勝おめでとうとのお祝いの言葉を頂きつつ、アリサちゃんとすずかちゃんはなのはちゃんがようやく悩み事に決着がついた事を聞いて喜んでいた。ようやく、全て元どおりになったような気がして俺も笑みを零す。

 

「なのはちゃんの悩みが解決したなら……慎司君となのはちゃん、今日時間あるかな?」

 

 何だろうか、俺となのはちゃんはお互いを目を見合わせつつ別に平気だと答えた。

 

「よかった、私とアリサちゃんも今日お稽古もなくて時間あるんだ……良かったら私のお家に来ない?」

「2人ともNOとは言わせないわよ」

 

 そんなアリサちゃんの言葉に苦笑しつつ俺となのはちゃんは勿論OKと返事を返す。すずかちゃんの家かぁ……またメイドさん見れるな…。

 いいなぁ……メイドさん。

 

「慎司君、どうしたの?なんか凄く嬉しそうだけど」

「メイド服欲しいな」

「ちょっと黙っとこうか」

 

 なのはさんきっついよ。切り返しきっついよ。メイドの話になるといつも酷い目に合うからってそんなバッサリ切るなよ。

 

「あ、それと2人共大丈夫だったら夕飯もうちで食べてってよ」

「いいのか?」

「勿論だよ」

 

 今日は楽しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すずか邸に到着してすぐに俺もなのはちゃんはアリサちゃんとすずかちゃん背中を押されてこっちこっちと急かされ歩く。なんなんだか一体。ていうかこれから遊ぶんだろ?そっち確か食堂じゃなかったか?なんて疑問を抱きつつ食堂の扉まで到着するとアリサちゃんが俺となのはちゃんに2人で扉を開けろと指示してくる。

 何だ?何がしたいんだ本当に。2人で疑問を抱きつつ扉を開ける。飛び込んできた中の景色に心底驚いた。

 

「マジかぁ」

「わぁ……」

 

 俺となのはちゃん、2人で感嘆の声を上げる。食堂の中は少し豪勢な食事とメイドさん達が綺麗に並んで出迎えてくれていた。そして、奥の垂れ幕に

『なのはちゃん、お疲れ様&慎司君優勝おめでとうの会』

 

 と書かれていた。俺が驚いてその場に動けないでいるとアリサちゃんが隣に立ち

 

「すずかが言ってたでしょ?慎司の大会が終わって、なのはがちゃんと戻ってきたらパーティでもしようって」

 

 確かに聞いた覚えがあるがまさかこんなサプライズじみてやられるとは思わなかったので驚きを隠せない状態だ。

 

「なのはちゃんも元気に戻ってきて、慎司君も頑張って優勝出来て……本当に良かったよ!」

 

 輝くようなすずかちゃんの笑顔に俺は照れ臭くて頭を掻き、なのはちゃんは感激して少し涙ぐんでいた。

 

「驚かせちゃってごめんね?でも、びっくりさせたくて……」

「あんた達も喜んでくれるかなって思って2人で計画してたのよ……その、感謝しなさいよね」

「すっごく嬉しいよ、すずかちゃん……アリサちゃん…ありがとう!」

 

 なのはちゃんの言葉に2人は笑顔になり、そして今度は俺の方を向いてどうかな?という目で見てくる。バッカおめえ……

 

「超嬉しいに決まってんじゃねぇかよ!!」

 

 感極まって俺はアリサちゃんとすずかちゃん、近くにいたのでついでになのはちゃんも含めた3人を抱き抱える。3人とも驚いてジタバタしてるが俺はそんな事気にせず続ける。

 

「ありがとな!!本当にありがとう!」

 

 俺には、勿体ない友人達だ。そんな友人達と過ごすこの日常を……俺は大切にして行こう。前世以上に、大切に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件もなく、ゴタゴタもなく。ただただゆっくりとした平和な日常をしばらく謳歌していた。柔道の練習にも復帰して、次の目標に向けて努力を始めている。この間の大会で優勝しても俺の柔道人生はまだ終わるはずもない、今度はもっともっと大きな大会で結果を残す為前に進んでいる。

 そんな俺の元にとある連絡が来たのは早朝、アースラのクロノからだった。え、俺の携帯に連絡できるんだすげぇなミッドの技術。なんて感心しつつ電話に出るとクロノから聞かされた話は寝ぼけた俺を目覚めさせるには十分な内容だった。

 

「本当か?クロノ」

「ああ、フェイトは今日にでも本局に移動して後に裁判を受ける事になるがほぼ間違いなく無罪になるはずだ。君の両親の信治郎さんやユリカさんが頑張ってくれたおかげで僕もスムーズに話を進められたよ」

「そうか!よかった……ありがとなクロノ」

「いいんだ、当然の事をしただけだ」

 

 それでも、ありがとうと一度伝える。地球に戻ってからもフェイトちゃんの事を考えない日はなかった。両親が頑張って便宜を図れるよう動いてくれていたのは分かっていたがそれでも心配だったのだ。

 時空管理局とやらの組織をよく知らない俺からすれば当然の事だった。父さんと母さんも先日くたびれた様子で帰ってきて、やれる事は全部やったから安心しろとは言ってくれたがこうやってクロノから正式に報告を受けてようやく心配が晴れた。

 

「それでだ、慎司……今から出られるか?」

「あ?……まぁ平気だけど」

 

 休日だから学校もねぇしアリサちゃんとすずかちゃんは用事で遊ぶ約束も出来なかったし。トレーニングでもしてからなのはちゃんの家に遊びに行こうかななんて昨日考えてはいたけど。

 

「そうか、実はな……フェイトが本局に移動する前に君達に会いたいと言っているんだ」

「………会えるのか?」

「出発までの少しの時間だけだがな」

「分かった、準備してすぐ行く!場所は?」

 

 俺は大慌てで準備して、連絡がいっているであろうなのはちゃんにも電話をして先に行ってるように伝える。俺はクロノが指定した場所には遠回りになってしまうが一度翠屋に向かって走る。途中翠屋に電話してケーキ予約をするのも忘れない。息が絶え絶えになりつつ店に飛び込むと桃子さんが驚きつつ

 

「はい、用意できてるわよ……持ってて」

「ありがとうございます!」

 

 代金を渡してケーキのセットを受け取る。よし、目当てのものゲットできた。落とさないように気をつけないとな。そう思いつつも俺は全力疾走で指定の場所に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だはぁ!着いたぁ」

「遅いぞ慎司」

 

 待っていたクロノがそう言ってくるが先に切らした息を整える。普段トレーニングしてた事が功を奏したのか思ったよりもかなり早く到着できた。綺麗な海が見渡せる海鳴臨海公園……そこが指定場所だった。既になのはちゃんとフェレット姿のユーノは到着しており、今は少し離れた所でフェイトちゃんとなのはちゃんは2人で何か話をしている。今はとりあえず2人にしておこう。ユーノとクロノ、そしてアルフは3人でまた一緒にいる所を俺が合流した形だ。

 

「よっ、アルフ。元気だったか?」

「ああ、おかげさまでね」

 

 アルフの憑物が取れたような微笑みに安心する。よかった、とりあえずは何事もないようで。

 

「あんたには本当に世話になったねぇ」

「うん?まぁ……俺がしたくてやった事だからよ」

 

 気にすんなや。

 

「でも、あのゴタゴタの後ゆっくり話すこともできなかったからさ……言わせておくれよ」

 

 トレードマークの獣耳と尻尾をバタバタさせながらアルフは言う。

 

「ありがとう慎司、フェイトを助けてくれて」

 

 面と向かって言われるとどう返事をすればいいか分からず俺は頭をかく。

 

「まぁ、とにかく……色々良いように収まってよかったよ。裁判の方は平気なんだろ?クロノ」

「あぁ、心配しなくていい」

 

 頷くクロノの一言に再び安心する。それにしてもだ。

 

「アルフ、お前またそんなセクシーな格好してんのな?」

「え?おかしいかい?」

「おかしくないよ、むしろ似合ってるけどさ……」

 

 腹出し、肩出し、太ももから下も無防備。確かにスタイルいいから似合うけども。

 

「……やっぱり痴」

「噛みつかれたくなかったからそれ以上は言わない方が身のためだよ」

「……ごめんて」

 

 そんな怒んなよ。さっきまですごい優しい顔してたやん。唐突の変化にびっくりですよ私。ていうか痴女って言葉俺のせいだろうけど気にしてたのね。ごめんなさいね。

 

「でもよでもよ、周りの目も気にした方がいいぜ?ユーノみたいにずっと胸凝視するむっつりスケベだっているんだからよ」

「ふーん?」

 

 ジト目でフェレット姿のユーノを見るアルフ。フェレット姿でも分かるくらいの大慌てぶりだ、今頃念話で慌てて違うと言ってるだろう。弁明を終えたのだろうかユーノは俺への抗議として指に噛み付いてきた。

 

「誤解は解けたかムッツリ」

「〜〜〜〜っ!」

 

 ああ、怒るな怒るな。冗談だっての。そんな風にふざけてると遠くで俺に気づいたフェイトが手を振っていた。

 

「行ってやんな」

 

 アルフに背中を押され、頷いて俺はフェイトちゃんもとへ走った。なのはちゃんと手を繋いで手を振るフェイトちゃんの顔は以前見た時とは印象が全然違う顔をしていた。明るく、年相応の可愛い笑顔だ。

 

「……ちょっとぶりだな、フェイトちゃん」

「うん、会えてよかった……慎司」

 

 ああ、俺も会えてよかったよ。

 

「なのはちゃん、フェイトちゃんとの話は終わったか?」

「まだ、話し足りないけど⋯⋯話したい事は話せたよ」

「そっか」

 

 こうやって面と向かって改めて会うと何を話したらいいのか分からない。俺は、あの時伝えたい事は全て伝えたし……フェイトちゃんはちゃんと乗り越えてここにいる。今更、俺から言うことはあまりない。そうだ

 

「ほれこれ……約束のケーキだ」

「約束?」

「言ったろ?頑張ったご褒美に翠屋のケーキ奢るってよ」

「………両親の奢りで?」

「ありゃ冗談だよ」

 

 まぁ、両親から貰ってるお小遣いだからある意味両親の奢りかね。俺が稼いだ金じゃねぇし。まぁ、どうでもいいや。

 

「あ、チョコケーキ」

「俺のお気に入りだ」

「慎司君よく頼むもんね〜」

 

 3回に一回はお店にお邪魔した時に注文する。これがうまいんだまた。

 

「嬉しい、ありがとう」

「おう、道中でゆっくり食ってくれ」

 

 その言葉で暫し沈黙。本当にこういう時何話せばいいのか分からん。照れが少々入っててうまく口が回らない。

 

「………次に会えるまでは……長くなりそうなのか?」

 

 一番気になる事を聞いてみた。まぁ、予想はついているが。

 

「うん……数ヶ月とかそんな単位じゃ済まなそうなんだ」

「そっか……」

 

 仕方ない。日本でも裁判ってやつは長くなるものだし……フェイトちゃんも無罪みたいなものとはいえ事件自体は大きな物なんだろうし。

 

「まぁでも、2度と会えなくなるわけじゃないんだよな?」

「うん……」

 

 ならいい。また会えるなら……それでいい。

 

「フェイトちゃん、君に………伝える事がある」

 

 そうだ、あの事を伝えないといけない。プレシアが最後に放ったあの言葉について。

 

「なのはちゃん………」

「うん………2人でゆっくり話してて」

 

 なのはちゃんは察して離れて俺とフェイトちゃんの2人にしてくれた。すまないな、まだ話したい事あったろうけど。

 

「プレシアのあの最後の言葉……聞こえたか?」

「うん、慎司に私の事をよろしくお願いって言ってた事だよね?」

「ああ」

 

 母親の事を思い出させるの酷だが、仕方ない事だ。話すべきだと思うから。

 

「母さんのあの言葉は……正直よく分かってないんだ」

「分かってない?」

「うん、母さんは……最後まで私の事……フェイト・テスタロッサの事を娘だと思ってなかった。ただの他人だって思ってた」

 

 俺もそう思う。プレシアの気持ちは変わらなかった筈だ。

 

「だから……どうして最後に私を想ってくれるような言葉を残したんだろうってずっと思ってたんだ」

「…………」

 

 その答えは、今もそしてこれから俺もフェイトちゃんも知る事はない。知る事が出来ないし、答えを確認する術もない。けど、俺は俺なりの答えを持つ事にしたんだ。なのはちゃんや皆んなに励まされてそう思う事にしたんだ。それを、フェイトちゃん伝えたい。

 

「……その答えはきっとずっと分からないままだ」

「…………」

「けど、俺は前を向くって決めた。フェイトちゃんやプレシアにそう生きるべきだって言ったんだから……俺だって前を向いて生きていくって決めたんだ」

 

 そんな前を向いた俺なりの考えを伝えよう。都合のいい想像でしかないけど、それでも可能性はゼロじゃない答えを。

 

「そんな前を向いた俺の考えはよ、こう思うんだ……」

 

 確かに、プレシアの心は変わらなかったかもしれない。彼女は最後までフェイトちゃんを娘としては否定した。けど、最後のあの言葉……フェイトちゃんをお願いと言ったあの言葉にはきっと複雑な感情が混ざってた筈だ。

 フェイトちゃんは娘としては認めない。そもそも、どうでもいい人形と断じたプレシアから出る言葉ではない筈だ。だが、自身の娘はアリシアだけ……その考えは変わらなかった。けど、変わったものもあったんだと思う。

 フェイトちゃんは娘じゃない、けどどうでもいい人形では無くなったんだ。少なくとも、最後のあの瞬間これからのフェイトちゃんの未来を心配してああ言ってしまうほどの情が沸いたんだ。ただのアリシアの代わりの人形からフェイト・テスタロッサという1人の女の子のこれからの未来を思っての言葉だったんじゃないかって思う事にした。都合のいい、俺にとって都合の良い答えだけど。

 

「俺は、そう思う事にしたよ……フェイトちゃんにとっては複雑かもしれないけど」

「ううん、そんな事ない。母さんがそう思って贈ってくれた言葉なら……私も嬉しい」

 

 もしそうなら、きっとフェイトちゃんの愛情と決意が動かした結果だと思う。俺はきっかけを与えただけ、フェイトちゃんの頑張りの成果だ。

 

「だったら、私も慎司みたいにしないとね」

「俺みたいに?」

「……前を向いて、これからの私の人生を歩んでいくよ。慎司やなのはみたいに……前を向いて、胸を張って」

「そうか」

 

 フェイトちゃんの口からこの言葉が聞けただけでも、俺は報われたような気持ちになる。頑張ってよかった。痛みに耐えてプレシアに言葉を紡いてよかった。

 

「本当はね、慎司に会ったらいっぱい話そうって思って色々考えてたんだけど……うまく話せなくて」

「ははっ、俺も最初はそうだったな」

「テロリスト呼ばわりされたのは衝撃だったよ」

 

 そしてその後のクリスマス云々の嘘話を信じたことも衝撃だったよ俺には。フェイトちゃんに改めて聞かれるまでネタバレしないでおこう。絶対面白い。

 

「……慎司と知り合ってからちょっとしか経ってないけど一杯慎司に助けられちゃったね」

「そう思うなら、これからも元気でいてくれよ。それが俺にとって一番嬉しいお礼になるからさ」

「うん、勿論」

 

 潮風に髪をなびかせて真っ直ぐにこっちを見つめるフェイトちゃん。あぁ、何度も思ったけど本当に強い子に変わった。公園で見かけた自信なさげなあの顔をしてたフェイトちゃんとはもう違う。

 

「慎司、色々いっぱい言いたいことがあったけどうまく言えそうもないから……一つだけ言わせて欲しい」

 

 そう言うとフェイトちゃんは太陽に照らされた輝くような微笑みを添えて

 

「ありがとう……慎司。ありがとう……私を救ってくれて」

「……………ああ」

 

 怒涛の日々だった。魔法の存在を知って、なのはちゃんも関わっていて、巻き込まれたような形だったけど関わる事に決めて。短い期間とはいえとても大変で、辛くて、悲しい事も多かったけど。その笑顔とありがとうの言葉を聞くために……俺は頑張っていたのかもしれない。報酬は、十分に貰った。報われたよ、俺は……十分、報われた。

 

「それでね?慎司、お願いがあるんだ」

「お願い?」

「……これから裁判とかそういうのでずっと会えなくなると思う。寂しいけど、仕方ない。それでね?さっきなのはと友達になれたんだ」

 

 そっかそっか、それはいい事だ。

 

「慎司が良ければ………その、裁判とか色々な事が終わってまた慎司と会える日が来たら……友達になって欲しい」

 

 その言葉に少し面食らう。お前、マジか。

 

「ダメかな?」

 

 いや、その……。まず根本的な勘違いを正そう。

 

「………とっくに友達だろ。俺達」

「え?」

「最初に公園で会った時からずっと友達だろ?」

 

 何を言ってるんだ全く。友達なんてそんな感じで出来るもんだろ。まぁ、フェイトちゃんはこれまでプレシアとアルフとしか関わってこなかったからそこら辺仕方ないのかもだけどさ。

 

「友達……だったの?」

「少なくとも俺はそう思ってたよ」

 

 あまり表情に出さないようにしているが結構あたふたしているのが分かった。結構勇気を出して友達になって欲しいと言ったのだろうか。その勇気をいやいや、既に友達だろ?なんて返されたらそりゃびっくりだわな。

 

「ははっ……まぁ、これからその辺の事も学んでけばいいだろ?友達とか、そういうのをさ」

「うん、そうするよ」

 

 フェイトちゃんの本当の人生はまだ始まったばかりだ。これから沢山の事を知って、沢山の事を体験するだろう。悲しみや苦しみに襲われる日もあるだろう。けど、喜びや楽しさを感じられる日もある筈だ。そうやって、幸せに生きて欲しい。その幸せな人生を俺も一緒に支えてあげたい。そうやって、一緒に生きていきたい。

 

『……フェイトをお願い』

 

 ああ、任せてくれプレシア。あんたのその情に免じて、あんたのこれまでの行いには目をつむって、あんたの本当の優しい母親としての姿を信じて……貴方のそのささやかな望みを叶えるよ。

 いつまで一緒にいられるか、いつの日か別れの日がくるかもしれない。人生っていうのは何が起こるか分からない。けど、せめて一緒にいられる間はフェイトちゃんの事を支え続けるよ。だから、どうか……安らかに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時間だ」

 

 その後はなのはちゃんも交えて少しばかり談笑していたがクロノのその一言で現実に引き戻される。重い空気が流れるが仕方のない事だ。仕方のない事だけど、俺にはまだフェイトちゃんとの約束を果たしていない。

 

「なぁクロノ、少しでいいんだ………どうにか出来ないかな?」

「し、慎司……」

 

 フェイトちゃんが大丈夫だからと口を開きかけるのを制してクロノを真っ直ぐに見る。

 

「僕もそうしてあげたいがこの面会も特別な処置なんだ。これ以上は……」

「頼む、少しでいい。1時間くらい欲しい」

「結構大きい要求だぞそれは」

 

 分かってる。けど、1時間くらいないとちょっと短いんだ。

 

「俺が言うのもなんだけど今回の外部協力者としてに免じてダメかな?本当に1時間有ればいいんだ。責任なら取るから………俺のパパンが」

「そこは自分って言いなよ」

 

 うるさいぞなのはちゃん。俺にそんな責任能力はねぇんだよ。父さん頼みなんですよ。そうやって頭を下げるとクロノは、はぁ…とため息を交えつつ

 

「分かった……1時間だ。1時間だけ許可しよう」

 

 少々苦笑いしながらもクロノはそう言ってくれた。苦労をかけてすまないとお礼をする、クロノは気にするなと言ってくれたが。

 

「大丈夫なのかい?」

「平気だ、1時間くらいならいくらでも言い訳がきく」

 

 アルフの問いかけにクロノはどうとでもなると言っているが俺は少々申し訳ない気持ちになる。ごめん、わがまま言ってばっかだな俺。この恩はちゃんと返そう。絶対に。が、それは後日だ。今は、せっかくクロノが与えてくれた時間、有効に使おう。

 

「よっしゃ!」

「わわっ!」

「わぁっ!」

 

 フェイトちゃんとなのはちゃんの手を取って引っ張るように走り出す。目指すはすぐそこにある公園。臨海公園は広くて遊ぶには申し分ない場所だ。ここでなら、短い時間だけど約束を果たすなら絶好の場所だ。

 

「遊ぶぞ皆んな!残り1時間休みなしでノンストップだ!」

「あ……うん!そうだね慎司君!遊ぼう!」

 

 すぐになのはちゃんは体勢を整えて俺と並走する。俺のノリにすぐ合わせられる所は付き合いの長いだけある。フェイトちゃんはまだ状況が飲み込めず戸惑うばかり。

 

「し、慎司?」

「言ったろフェイトちゃん!今度会った時はもっと話してもっといっぱい遊ぼうってよ!今度は沢山遊ぶ番だ、死ぬほど地球の遊びってやつ教えてやるよ!!」

「っ……うん!」

 

 嬉しそうに頷くフェイトちゃんも一緒になって走る。

 

「おーい!アルフ、クロノ、ユーノ!何ボッーとしてんだよ、お前らも来いよー!」

 

 全員で遊ぶんだよ!人数多い方がたのしいだろうが。

 

「お前らにも地球式に面白い遊びをしっかり教え込んでやるよ!」

 

 そう言うと3人は互いに見あってやれやれとしながらもこちらに走って向かってくる。1時間という短い時間だったけど俺たちははしゃぎにはしゃいで遊んだ。フェイトちゃんの楽しそうな笑顔を脳裏に焼き付けて、アルフの幸せそうな表情を焼き付けて、クロノの何だかんだ楽しんでくれてる笑顔も焼き付けて………それなりに長い間会えなくなるけど……それでも俺たちは笑顔を添えて別れを済ませた。あの笑顔を、脳裏に焼き付け……強くて尊い眼差しに変わった気高く優しい子。彼女のこれからの人生に……どうか幸あれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別れを済ませた後、臨海公園には俺となのはちゃんとユーノだけが残された。何となく帰るのは寂しくて3人で海沿いの塀に座って海を眺めていた。太陽に照らされた海は輝きを放ちフェイトちゃん達の新たな旅路を祝福してるようにも感じた。

 

「行っちまったな……」

「うん……」

「それ、似合ってんぜ」

「えへへ、ありがと」

 

 別れ際、フェイトちゃんとなのはちゃんは自身が使っていたリボンをそれぞれ交換した。なのはちゃんはフェイトちゃんの黒いリボンをいつものツインテールの髪型で結んで使っている。普段使っている桃色のリボンとはかけ離れた色だけど意外と似合ってる。

 

「……………」

 

 静かに海を眺めてると何だかセンチメンタルな気分になってくる。そんな気分で色々考えてしまう。今回の事件の事、フェイトちゃん達の事、魔法の事。色々頭によぎって色々考えて俺は一つある事を思いついた。

 

「決めた……っ」

「え?何が?」

 

 俺は立ち上がって大きく息を吸い込んで海に向かって叫ぶ。

 

「救うぞ!今度こそ俺は救ってみせる!!」

 

 これからの人生、まだまだ俺を沢山の荒波が襲うだろう。苦痛や悲しみが襲いかかるだろう。今回のように手を差し伸ばしたけど助けれなかった命があったように。だから、下を向かず……前に進み続けるために誓おう。俺は、誓おう。

 

「これから起こる全ての出来事は、全部完全無欠のハッピーエンド!!そうしてみせる!それを掴んでみせる!!俺は……それができる男になってみせる!!」

 

 小さなことでも、今回の事のように大きな出来事でも俺が目指すのは完全無欠、ご都合主義上等のハッピーエンドだ。それ以外は目指さない、それ以外認めない。それを掴む事の出来る強い男になる。それをここで今誓う。

 

「俺は!荒瀬慎司は……もっともっと強くなる!頼れる男になるぞおおおおおおおお!!!」

 

 叫ぶ、在らん限りに感情をぶつけるように叫ぶ。それは悔しさもあったろう。けど、それ以上に俺は決意の感情を込めて叫んでいた。

 

「なのはも!なのはももっと強くなるよ!!」

 

 なのはちゃんも俺の隣に立って叫ぶ。一緒になって大声で叫んだ。

 

「慎司君と一緒にもっと頑張って強くなる!!」

「ああ、一緒だ。これからも一緒に頑張ろうぜ!!」

 

 子供2人、内1人は大人だが。そんな2人は周りを気にせず叫んで叫んで叫び続けた。フェレット姿のユーノはそんな様子を微笑ましげに見守っている。

 ハッピーエンドとはいかなかった今回の事件。だからこそ、同じような事が起きたのなら今度こそ俺は救うよ。ハッピーエンドを目指して救うよ。この誓いを胸に抱いて。

 俺達は忘れない、今回の事件も、フェイトちゃんの涙と笑顔も。プレシアの絶望と優しさも。俺達は忘れることはないだろう。それを抱えて、前を向いて……今日も明日に向かって進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 無印編本編はここでひとまず終了であります。次回A's編に入る前に蛇足(日常編)を数話挟みます。ひとまずはここまでお付き合いいただきありがとうございました!これからも閲覧等よろしくお願いします!

 これまで閲覧、評価や感想、誤字報告など皆様の応援に感謝を込めて。


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幕間
得意技と波乱の予感




 蚊取り線香の電気で繋がるやつ。あれマジ万能、超おすすめです


 

 

 

 

 

 

 

 フェイトちゃん達と再会を約束したあの別れの日から数ヶ月。元の日常へと戻った俺達はあいも変わらず楽しい日々も送っている。学校の授業に柔道の練習。友達との交流と日常の幸せを噛みしめて日々を過ごしている。

 さて、今日は日曜日。時間は夕方、俺は今高町家が経営している翠屋に足を運んでいる。実は今日、規模が小さいながらも柔道の大会がありそれに出場して優勝できた俺はそのお祝いで最早恒例と化した翠屋を貸し切っての俺の祝勝会に招かれている。とても嬉しいしありがたいことなんだけど毎回毎回こうやって開催されると申し訳なさと恥ずかしさも強まってくる。特に今日なんかは先日優勝を果たした県大会規模の大会よりも一回りも二回りも小さな大会なのだ。

 

「優勝おめでとう!慎司君」

 

 お酒を掲げて俺の持ってるジュースのコップをコツンと当てて祝杯をしてくれる士郎さんに頭を下げつつ周りを見回す。

 今日の大会の応援も最早毎回来てくれている俺の両親となのはちゃん達高町家、それとすずかちゃんとアリサちゃんも一緒だ。いや、本当に嬉しいんだけど毎度毎度来てもらっては申し訳ない気もするがまぁ、それは口に出さないで素直に祝福を受けることにした。そんな祝勝会もいつもと明確に違うのは俺の指導をしてくれている相島先生が参加してくれていることだろう。毎回士郎さんと俺のパパンの誘いを遠慮していたのだが今回は無理矢理連れて来ちゃったなんてパパンが言っていた。

 

「相島先生、お疲れ様です」

「おう慎司、お前も今日はお疲れ様だったな。優勝おめでとう」

「ありがとうございます、先生の指導のお陰です」

 

 来てくれた相島先生に挨拶も欠かせない。なんだかんだ料理や士郎さん達と柔道談義で楽しそうにはしていたので一安心だ。

 

「慎司……本当に強くなったな」

「ありがとうございます」

「だがそれ以上に、前よりも楽しそうに柔道をやるようになったな」

「そ、そうですかね?」

「ああ、今の調子で無理しすぎない程度に精進しろ。分かったな?」

「は、はいっ!」

 

 相島先生からの褒め言葉に胸が熱くなる。この人は練習日以外にも道場に顔を出して俺の自主練に付き合って指導してくれている。俺が前回の大会も今回の大会も優勝できたのはこの人の存在が大きい。日頃から感謝の気持ちを忘れないようしている。さて、せっかく皆さんが用意してくれた会だ。俺も思う存分楽しむとしよう。

 

「慎司君、はい。慎司君の分のケーキだよ」

「ありがとうすずかちゃん」

 

 すずかちゃんから取り皿に盛られたケーキとフォークを受け取り舌鼓。うーん、うまいなぁやっぱり。桃子さんのケーキ最高。本当、ケーキ作りの神様だよ。これが食べれるんだから幸せだ。フェイトちゃんも、俺が渡したケーキ美味しく食べてくれてるだろうか。

 

「慎司、あんた本当にすごいわねぇ………これで3回目の優勝じゃない」

「ははは、ありがとアリサちゃん。でも、今回は規模が小さい大会だったし。まだもっと凄い大会で結果を出さないと」

「でもそれでも凄い事だよ。今日なんか慎司君凄く余裕そうに全試合一本勝ちだったし」

「すずかちゃんにはそう見えたの?」

「うん、落ち着いてるなぁって感じたよ」

 

 ふむ、そう見られているのは意外に感じた。そりゃいくら小さい大会でも多少なりとも緊張やら何やらはしてるし。あたふたしていた訳でもないがそんな凄く冷静でいられた訳でもないと思ってたけど。

 

「何はともあれ優勝した事はめでたいんだから慎司も素直に喜んでなさいよ」

「そうだよ慎司君、私達も試合見てて凄く楽しかったから」

「おう、いつも応援に来てくれてありがとな」

 

 友達とはいえ毎回毎回こうやって応援に来てくれた子は前世でも皆無だった。それは別におかしな事じゃないし普通の事だけどこの2人の純粋な応援の気持ちはいつも試合で励まされている。ここ3回の大会は俺だけの優勝じゃない。皆んなの優勝だって思ってる。

 

「で、なのは……あんたいつまでそれ見てるのよ」

 

 一旦ジュースを飲んで喉を潤してからアリサちゃんが少し離れたテレビの前で微動だにしないなのはちゃんにそう声をかける。

 

「あと一回!あと一回だけだから!」

「それさっきも言ってたよなのはちゃん」

 

 とすずかちゃんは苦笑い。なのはちゃんはずっとあんな感じでテレビに釘付けなのである。何を見てるのかというとテレビで放送している番組ではなくテレビに繋いで出力したビデオカメラの映像だ。パパンが用意したもので、今日の俺の試合データである。俺の試合の1回戦から決勝まで全て何度もリピートしてずっと見ているのだ。一度この祝勝会が始まってから俺の試合の反省会も兼ねて相島先生と2人で見ていた時になし崩し的に全員で鑑賞する事になった。だから、一度皆んな目を通して各々談笑して食事を楽しんでいるのだがなのはちゃんは今現在に至るまでずっと1人で何度も見ている。

 何がそんなに楽しいのだろうか、一度見れば十分だろうに。

 

「前もそんな感じだったよな、なのはちゃん」

 

 俺の言葉に2人は苦笑い。前の大会、フェイトちゃんとの対決で俺の試合を見れなかったなのはちゃん。後日映像を見たいとゴネてくるのでちょうどいいってんでアリサちゃんとすずかちゃんも誘って試合の映像を見せたのだ。その時のなのはちゃんも

 

『わあ!わあ!すごいすごい!!』

『キャー!やった!一本っ!一本だよ慎司君!』

 

 と目を輝かせながら見ていた。いや俺らは皆んな知ってるしどうなったかもなのはちゃんに教えたじゃんかという俺の指摘は耳に入ってなかった。かく言う今回も

 

「やたー!また一本だ!慎司君の払腰やっぱりすごいよー!」

 

 この調子である。いや、もう何周も見てるのに何でそんな新鮮な反応なんだよ。怖いし恥ずかしいよ、俺が恥ずかしいからマジやめろって。

 

「今度は大内刈!流石慎司君かっこいい〜!!」

「…………くそがっ」

 

 くそぉ、強く言えない。あんなキラキラした目で言われてると恥ずかしいけど純粋にそう思ってるみたいだからなおたち悪い。

 

「うふふ、ごめんね慎司君。なのは慎司君の影響で本当に柔道好きになっちゃったみたいだから」

 

 見かねた桃子さんが俺にそうやって困ったように笑いながら口を開く。確かに前にもそう聞いたが更に拍車がかかってきた気がする。

 

「そんなに好きなら柔道始めないんですか?」

 

 アリサちゃんの最もな疑問に桃子さんうーんとうなりながらも

 

「確かに柔道は好きみたいだけど、純粋に見る事が好きみたいなのよね。特に慎司君が柔道してるのを」

 

 完全に影響されてんじゃねぇか俺に。そういえばゲームとか前よりやるようになったのも俺に影響されてだった気がする。最近またスマブラ強くなってたし、アリサちゃんやすずかちゃんもまた影響受けてきたしな。

 

「まぁ、確かになのはちゃんが柔道してるのは想像つかねぇな」

 

 俺のその言葉に3人ともうんうんと頷く。なのはちゃん、どちらかと言うと運動音痴だしな。柔道で怪我をしない為の受け身の練習で怪我をしそうだ。

 

「まぁでも、本当に柔道好きみたいなのよ。この間も柔道の世界大会録画してみてたのよね」

 

 おい、ガチじゃねぇか。まだまだ加速しそうじゃねぇか。俺もうこれ以上辱めを受けるの辛えよ。泣くぞ本当に。恥ずかしくて泣くぞ。

 

「にゃはは、ごめんね待たせちゃって」

 

 やがて満足したのかホクホク顔のなのはちゃんが戻ってきた。何でだよ、今回の映像なんか生でも見てたろ。何でそんな満足気なんだよ。

 

「俺が一体何をしたって言うんだなのはちゃん!!」

「なにがっ!?どうして泣いてるの!?」

「お前が俺を泣かせたんだよぉ!!」

「とんだ濡れ衣だよ!?」

 

 濡れ衣でも無いんだよなぁ……。もういいよ好きにしろよ。今後も俺を誉め殺してしまえよ。

 

「あはは、なのはちゃん満足した?」

「うん、すずかちゃん!やっぱり柔道してる慎司君が一番カッコいいよね〜」

 

 お前は俺の恋人か。惚気みたいに言うな。

 

「確かに慎司は柔道してる姿が一番男らしいわよね」

 

 アリサちゃんが俺の方をニヤニヤしながらそう言ってくる。なんだ?揶揄ってるつもりなのか?

 

「だよねだよね!柔道やってる時が一番輝いてるよね!」

 

 そう言うことかテメェゴラァ!煽るな!その暴走機関車を煽るんじゃない!

 

「柔道着着てる時雰囲気が一変するもんね。確かにあれはかっこいいかも」

「分かる〜、すずかちゃんもそう思うんだ!」

 

 おいすずかちゃんこら、やめなさいよ。本当にやめなさいよ。やめろって恥ずか死ぬって。俺の2度目の人生死因恥ずか死になっちゃう。

 

「おいやめろ、マジやめろ」

「ん?何、慎司君?」

「ほっぺ伸ばすぞコラァ!!」

「えっ!何そのテンション!?」

 

 貴様が原因じゃバカタレェ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ〜、ひどいよ。なのはが何したって言うの〜?」

 

 ほっぺをさすりながらそう言うなのはちゃん。つい力が入ってしまったのはごめんだけどまぁ、俺の恥ずかしさも分かってほしいところである。まぁ、そうやって褒めてくれる事は嬉しいんだけどね?照れがね?ちょっとね?今回だけ勘弁してくださいな。

 

「なのはちゃん、桃子さんが言ってたけどプロの柔道の試合も見たりしてるんだってね?」

 

 すずかちゃんの言葉になのはちゃんはうんっと頷く。実際柔道にはプロという言葉は不適当だがまぁそこら辺は何も言うまい。

 

「本格的に好きになったのね、ちなみに見てて好きな技とかあるわけ?」

 

 あ、それは俺も気になる所だ。アリサちゃんナイス質問、俺からじゃなんだか聞きづらいような気がして聞けなかったんだ。

 

「うん、と言ってもその技は柔道選手の試合見て好きになったわけじゃないんだけどね」

「というと慎司が使ってる技ね?」

「その通りだよ、私が一番好きな技はね………前回の大会の決勝戦で一本を決めてた『一本背負い』だよ!」

 

 ピクッと心臓が跳ねた。……そうか、一本背負いか。よりによってその技か。

 

「応援に行けなかったからビデオの映像でしか見れなかったのが残念だったけど、すっごいドキドキして興奮しちゃったんだ。慎司君の一本背負い」

「そういえば慎司君、今日の試合じゃ一回も使ってなかったね」

「今日どころかこの間の決勝戦以外じゃ見た事ないわよ」

 

 そして、今世では練習ですら一度も使った事は無かったはずだ。あの時の決勝戦、とにかく必死だった事しか覚えてない。俺もビデオを見てようやくどんな試合展開だったか細かく思い出せたくらいだ。終了間際、優勝したくて。俺の優勝がきっとなのはちゃんも元気付けられるかもしれないって思って、そう思ったら体が勝手に動いていた。前世では数え切れないほど練習して試合で発揮した一本背負いだが今世では一度も使った事は無かった筈なのに、あの強敵相手を投げれる程の威力を発揮していた。他の技や技術は体が変わった事によって改めて鍛え直す形になったのに一本背負いだけはすんなりと出来た。勿論、最後の終了間際の相手の油断と奇をてらった形になった事も一本を取れた起因にはなっているだろうけど。

 それでも不思議な事だった。

 

「慎司君は、どうして一本背負いあんまり使わないの?」

 

 なのはちゃんのもっともな疑問に思考を止めて答える。

 

「あの時はたまたま使っただけだよ。普段使ってない技が運良く決まっただけだ」

「そうかしら?素人目だけど慎司が使ってるどの技よりも一本背負いが綺麗でカッコよく見えたけど?」

 

 ぐっ、アリサちゃん鋭いな。流石に下手な嘘じゃ誤魔化せないか。

 

「そ、それはだな………」

 

 言葉が出なくなる。一本背負い、俺の得意技で決め技で相棒みたいなモノ。しかしそれは前世の話だし、使わなくなったのも理由があるにはあるが何て説明したらいいのか。前世の話だから素直に話すわけにもいかないし。

 

「まぁまぁ、慎司君がどんな技を使うのかは慎司君が決める事だもん。一本背負いもたまたまだったみたいだし」

 

 俺が言葉に詰まっているのを見てすずかちゃんがフォローするようにそう口を開く。その言葉にアリサちゃんはそれもそうねと納得してくれてそれ以上追求してくる事はなかった。

 

「でも、慎司君の一本背負い本当にカッコ良かったからもう一度見てみたいなぁ………」

 

 空気を読んでか読まずかそんな事を言うなのはちゃん。

 

「慎司君には一本背負い似合ってるような気がするんだ。ごめんね?勝手にそんな事言って」

「ああ、いいんだよ。なのはちゃんがそこまで言うなら使えるように練習する事も検討してみるよ」

「本当?慎司君がカッコ良く一本背負いで投げる姿見るとね?何だか勇気づけられるような気がして胸が熱くなるからいいなぁって思ってたの。あ、でもでも……慎司君が合わないなって思ったなら全然なのはの事なんか気にしないで練習しなくていいからね!」

「ははは、分かってるよ。そんな気負わなくていいから」

 

 と言っても、俺が自発的に柔道に一本背負いを取り入れる事は今世では無さそうだけどな。何せ、前世で柔道を続けないで辞める事になったきっかけもその一本背負いだったんだから。

 

「さて!腹も膨れてきたし………ゲームでもすっか!」

 

 流れを断つように手をパンと叩いてそう言う。3人とも口を揃えてさんせーい!と声を上げてくれる。大人達は大人達でまだまだ盛り上がってるみたいだし俺たちは俺たちでこの祝勝会を楽しませてもらおう。

 祝勝会は大いに盛り上がり夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、なのはちゃんがビリねー」

「あー!また負けた〜」

 

 とある日の放課後、柔道の練習はなく俺も定期的に体を休める為に自主練もこなさない日である。というわけで予定も合ったので俺の家でいつもの4人でトランプで遊んでいた。崩れ落ちるなのはちゃんを見やりつつトランプを再びかき集める。ちなみにやっていたのはババ抜きでなのはちゃんの三連敗である。悲惨である。

 

「何で皆んなババ引かないのー?」

「なのはちゃん、表情にでやすいし」

「ババに指置くたびに肩ビクッてさせられたらそりゃ分かるわよ」

 

 すずかちゃんとアリサちゃんにそう言われて自分でびっくりしているなのはちゃん。いやいや、まさにその通りだから。俺の方見たって同じだよ。

 

「し、慎司君もそう思うの?私分かりやすいかな?」

 

 そんなうるうるした目で見るなよ。実際に分かりやすい事はわかりやすい。この2人の観察力も小学生とは思えないほど良いとは思うけど、それでも負けの原因はなのはちゃんの分かりやすさだ。

 

「うーん、まぁ分かりやすいというより……」

 

 ここは慎重に言葉を選ぼう、なるべく傷つけないように。そうだな、うーん。

 

「単純だな。シンプルってやつだよ」

「………あれ?それ馬鹿にされてる?」

「恐らくな」

「何で疑問系なの!」

 

 間違えたんだバカやろう。ごめんなさい。

 

「単純っていうのは間違えたな。そう……お茶目だお茶目」

「お茶目とはちょっと違うと思うけど……」

 

 じゃあ何て言えばいいんだ……。

 

「……やっぱり分かりやすいんじゃない?」

「諦めないで!色々考えてたでしょ!?悪くない言い方!頑張って!」

「ポンコツ」

「よりひどい!?」

 

 がっくしとorzになるなのはちゃん。いや、そんなショック受けるなよ。そうでなくてもトランプなんか勝率悪いだろ。

 

「まぁでもそんなポンコツなのはちゃんだって俺やすずかちゃんとアリサちゃんに負けてない所があるさ」

「そうだよなのはちゃん、そんながっかりしないで」

「うぅ……ありがとうすずかちゃん。慎司君、またポンコツって言ったぁ……」

 

 そこは引っ張るなよ。

 

「なのはが私達に負けてないところ………そうね」

 

 アリサちゃんうーんと首を傾げて考える。

 

「勉強は……全体的な成績は俺達の方が上だしな」

 

 うぐっと何かに刺されたような動作をするなのはちゃん。2人は規格外だし俺は前世の知識があるからそれはしゃーない。

 

「運動は……なのは苦手だしね」

 

 アリサちゃんのぼやきに全員苦笑い。それはもう諦めよう。仕方ない。人間良し悪しあるもんだし、それに改善出来なくなもない事だ。頑張ろうなのはちゃん。

 

「うーん、ゲームもどちらかと言えば負けの方が多いもんね……」

 

 なのはちゃんトランプゲームとかは基本弱いし、スマブラとかポケモンとかのジャンルならある程度強くなってたけどそれ以外はなぁ……。

 

「あれ、私もしかして本当にポンコツ?」

「おまえあれだ……きっとこれから見つかるっていい所」

「諦めないでよっ!?慎司君だけが頼りなの!」

 

 そう言われても……魔法って言う才能はあるけどここで言うわけにはいかないし。

 

「あっ!あるじゃんなのはちゃんが俺達よりいい所」

「え?何何!どんなの?」

「素直で騙されやすい所!」

「叩くよっ!?」

「それは主に慎司に対してでしょうが」

 

 アリサちゃんのそんな呟きはなのはちゃんが怒ってポカポカして騒ぐもんだから全く耳に入らなかった。

 

「あー、怒るな怒るな。はい、これ飲んで落ち着けって」

「えっ?あ、ありがとう…………何これ?」

「プロテインの粉」

「せめて水混ぜてよぉ!」

「粉を飲む事に変わりはないかと思って」

「変わるよ!飲みやすさとか味とか色々!」

「……貴様プロテインに喧嘩売ってんのか?」

「なんでそうなるの!?」

「……私とすずかの飲み物もプロテイン混ぜた奴なの?」

「いや、2人は違うよ……豆乳」

「……いや嫌いじゃないけど普通こういう時に出す飲み物とは違うんじゃないかな」

「とろうぜ、タンパク質」

「この脳筋め……」

 

 いやちょうどお茶とジュース切らしちゃってそれしか無かったのよ。今ママンが買い物ついでに買ってきてくれると思うから。

 

「ほれほれ、飲み物飲んで少し休憩したら続きやろうぜ」

「このままじゃ飲めないよ……」

 

 水に溶かしてやるからそんな悲しそうな顔するなって。

 日常の特別に面白いわけでもない。特に平凡なちょっとした一コマであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある場所のとある研究所内。コツコツと足音だけが反響している。慣れ親しんだ道を迷う事なく進み目的の部屋にノックもせずに入る。先客が1人、机に資料を広げて文字を何度も書き殴りうなりながら何事か考えている。

 

「ユリカ、そろそろ帰ろうか。慎司もそろそろ練習から帰ってくる頃だぞ」

「あら、もうそんな時間?」

 

 壁の時計を見やるとギョッとした顔をしてすぐに乱れた髪と服を整える。研究者として恥も外聞もない乱れ切った外見からきっちりとした母親としての顔に切り替える。

 

「ごめんなさいね信治郎さん、わざわざ迎えに来てくれて」

「いいさ、どうせ転移ですぐだしな」

 

 資料を簡単に片付けてさて家に戻ろうかと言うところでふと机の上にある資料とは別に大事に保管されてあるガラスケースを見る。中にはそれを保存する為の培養液にその液の中で浮かぶ小さくて丸い光った物体。

 

「………慎司に話さなくてよかったのか?」

「言えないわよ………最終的にどうなるか分からないんだもの」

 

 ケースを改めて大事に仕舞い込んでユリカはそう言う。まぁ、確かに不確定な事を言って変に考えさせるのは父親としてもしたくなかった。魔法の事はバレてしまったがそれでも慎司にはまだこの事は話せない。

 

「それよりもこれ、見てちょうだい」

 

 妻から手渡される資料を受け取り目を通す。これは………。資料を持つ手が自然と力んだ。

 

「闇の書………もう既に新たな主に元に顕現したのか?」

「分からないわ、ただ部下にずっと闇の書の魔力を観測させていた中で微弱とはいえ反応があったのは確かなのよ。と言ってもこの程度じゃ計器の誤作動の範囲内なんだけどね」

「そうか………」

 

 それならば例え顕現していたとしても何処に現れたのかは掴めない。次元世界すら超えて現れる代物を探すのは不可能だ。

 

「また後手に回ってしまうのか」

「まだ顕現したかどうかも分からないわ。焦らないで」

「ああ……そうだな」

 

 次こそはと思いつい冷静さを見失いそうになる自分を戒めつつ、過去の記憶が蘇る。

 

「……クライド提督」

「……………」

 

 静寂が訪れる。自身が尊敬していた戦友であった男の名前。そして、闇の書が原因でその命を失ってしまった男の名前でもある。

 

「………久しぶりにリンディさんとクロノ君に顔を合わせたが……それなりに元気にしてるようでよかった」

「……そうね」

 

 ふうと息を吐き出して悲しみに包まれた思考を振り払う。

 

「ありがとう、とりあえずこのデータはグレアム顧問官にも見せてみるよ。あの人なら何か探っているかもしれない」

「分かったわ………さて、慎司が帰ってこないうちに私達も戻りましょうか」

「ああ」

 

 この先、何か波乱の出来事が起きそうな予感がする。しかし今は、慎司とユリカとの家族の時間を過ごそう。自分にとってなによりも大事なのは……かけがえのない家族たちなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 あと一話だけ挟んでその次から闇の書編となります


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メイド騒動

 途中で何度も俺は一体なにを書いてるんだ……と思って筆を置いたせいで難産に。まぁ、くだらなくてツッコミ所満載の話ですけど慎司君らしいといえばらしいのでたまにはこんな変な話もあると言う事で一つよろしくです。


 

 

 

 

 割と都会な街並みを人混みに紛れて歩く。俺が通ってる大学の近くは都会ほどじゃないにしろ建物も多く人も多い。今日の分の大学の講義が終われば時間さえあればいくらでも遊びに出かけるのには困らないくらいは色々充実している。人をかき分けつつ当てもなく歩いていると退屈そうにしていた友人がふと自身のスマホを覗いて。

 

「あ、葉月もこっち向かってるってよ。あと30分くらいでつくってさ」

「そっか、その間適当にカフェでも行って休んでようぜ」

「そうだな」

 

 俺の提案を友人はすんなり受け入れる。するとあっと何か思い出したようで

 

「そういえばよ、ここの近くに新しいカフェ出来たの知ってるか?」

「いや、知らん」

「ならそこ行ってみようぜ」

「別にいいよ」

 

 ぶっちゃけカフェなんて座ってお茶できるなら何処でもいい。

 

「それにしても優也、よく知ってたなそんな情報」

「バーカ、太郎が気にしなさすぎなんだよ」

 

 そうなのかな?まあ、別にどうでもいいけどさ。とりあえず葉月にその新しいカフェで待ってる事をメールで伝えておこう。

 

「あったあった、あそこだよ」

 

 優也に連れられ歩いて数分ほどで目的のカフェに着いた。確かに比較的綺麗で新しく見える。中に入って店員に案内され席について注文を済ます。そこまで終わったところで俺は優也に言わずにはいられなかった言葉を放つ。

 

「何で店員さん皆んなメイド服なんだよ」

「店のコンセプトらしいぞ」

「どんなコンセプトだよ」

 

 メイドカフェとは違うんだろうな。あのキャピキャピしてる感じじゃなくあくまで店員がメイド服の格好をしてるだけだ。と言ってもお店のレベルが高いのか所作や動作一つ一つが上品に感じた。飲み物を待ってる間に談笑してると優也がそういえばと前置きをして

 

「お前の例の大会の決勝戦の相手、復帰してもう柔道の大会にも出てるらしいぞ」

「………何でお前が知ってるんだよ」

「俺の知り合いがたまたまそいつの知り合いでな。話を聞いたんだよ」

 

 本当かね全く。まあ、いいけど。

 

「………マジな話さ、お前がもう決めた事だから余計なお世話だとは思うけどさ」

 

 少々口籠もって言い辛そうにする優也だが、ハッキリと俺に告げる。

 

「もう結構なブランクになっちゃったけどよ、今からでも柔道始めてもいいんじゃないか?」

「…………………」

「あんだけ頑張って結果も残してたんだし。いやごめん、無神経だった………忘れてくれ」

「いいんだ、心配して言ってくれてるのは分かってる。ありがとな」

 

 優也とは葉月同様中学からの長い付き合いになるが、ハッキリと大切だと思った事は口にするタイプだ。あいつなりに大切な事だと思ったのは理解していた。

 けど今から再開してもこのブランクはでかい。それこそ、中途半端に辞めた自分を恨むだろう。だからこそあの日その決断を下した俺の為にも柔道着に袖を通す事はないだろう。

 

「……まぁ、俺としてはお前が柔道やらないならこうやってつるめる時間も増えるからいいんだけどよ」

「何だよそれ」

 

 恥ずかしい事言うなって。

 

「おーす、お待たせ」

「お、葉月早かったな」

「でしょでしょ、ちょっと時間盛ったから」

「何でだよ」

 

 注文したコーヒーより早く来てんじゃねぇか。お前が30分かかる言うからここに寄ったのに。

 

「にしても優也も太郎もメイド服に興味あったの?私が今度着てあげよっか?」

「いや、いい」

「吐きそう」

「はっ倒すぞ」

 

 こえーよ。たまたまそうだっただけと話がめんどくさくなりそうだったのでそう告げて折角なので葉月もコーヒーを注文する。

 

「お待たせしましたご主人様」

 

 結構本格的なのな店員さんも。先に頼んでいた俺と優也の珈琲を目の前で上品に注いで最後に優雅にごゆっくり……と告げて去っていくメイドさんに目を惹かれた。

 

「太郎、何ずっと店員さん見てるの?」

「ストーカーみたいな目してるから止めとけよ」

「いや…………いいな、悪くないぞメイドさん」

「うわ、キモイ」

 

 葉月の割とマジな呟きに少々傷ついたのは内緒である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メイドさん雇いたい」

「まーた始まった」

 

 アリサちゃんがため息混じりにそう呟く。場所はすずかちゃん邸。すっかり通い慣れた印象になったすずかちゃん邸。いつもの4人でお茶会的な事とゲームしたり動物と触れ合ったりと遊びに来たところである。ちなみに今はお茶を頂いてゆっくりしてる所だ。だがこうやって毎度すずかちゃんの家にお邪魔するとどうしても思ってしまうのだ。

 

「メイド服……カチューシャ……」

「どんだけメイドさん好きなのよ」

「アリサちゃんには分かるまい……俺がどれだけメイドさんを渇望してるか」

「分かりたくもないわよ」

 

 ああいいなぁ、メイドさん。上品な振る舞いでお茶のおかわりとお菓子の補充をしてくれる月村家のメイドのノエルさんをチラッと見る。所作も完璧、寡黙で綺麗なイメージだ。理想のメイドさん像。

 

「ノエルさんノエルさん、知り合いにフリーのメイドさんとかいません?」

「申し訳ありません、フリーのメイドの知り合いはいないですね」

「フリーのメイドさんって何?」

 

 なのはちゃんのツッコミは適当に流しつつ、それよりもメイドさんである。

 

「慎司さ、メイド雇うのにどれくらい掛かるか分かってるの?」

「知ってるよ調べたもん」

「調べたんだ……」

 

 すずかちゃんなんでちょっと引き気味なんだよ。いいじゃん調べたって興味あるんだから。

 

「そりゃ俺みたいな子供じゃ、というか普通の稼ぎの大人でも雇うのは厳しいのは分かってるさ」

 

 そもそもメイドさん雇うのだってすずかちゃんやアリサちゃんみたいな豪邸に住んでいる人が広すぎて家事や身の回りに手が回らないから雇ってるのであって普通の家じゃ出番なんてほとんど無い。よほど家事やるのが嫌な人くらいだろ。

 

「でも憧れないか?自分だけに尽くしてくれる自分だけのメイドさん」

「慎司君の場合お金の関係だけどね」

「おいその言い方やめろ」

 

 なのはちゃんそんな廃れた物言いするなって。なんか目が死んでるし。まぁ、いつも俺がメイドの話をするとそんな目してるけど。

 

「自分だけのメイドさんに上品な仕草で『コーヒーのおかわりはいかがですかご主人様』って言って欲しい」

「はい慎司、おかわりいる?」

「台無しだよ」

 

 あー、所作もクソもない入れ方で注いでくれちゃってまぁ。ありがとうアリサちゃん。

 

「なのはちゃんなのはちゃん、ちょっとやって……」

「やだもん、絶対やらない」

「まだ言い切ってないだろ」

「もう慎司君に乗せられてメイドさんの真似なんてしないもんだ。どうせまた揶揄うんでしょ?」

「まぁその通りだけど」

「否定してよ!」

 

 しばらくそのノリには付き合ってくれなさそう。ちょっと以前にからかいすぎたかな。まあ仕方ない。そんなこんなでメイド談義をして今日はお別れをした。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、学校に登校して授業を受けても俺の頭からメイドさんが離れなかった。昨日ちょっとメイドの話題を長く話しすぎたせいだろうか。将来どうやって雇おうかとかうまい方法ないだろうかとか自分でもアホな事だと思うことを考えていた。

 

「じゃあこの漢字の読みを……荒瀬君、答えてください」

「メイドです」

「正解です。これは『冥土』と読みます。すこしイントネーションがおかしかったですが荒瀬君よく出来ました」

 

 あっぶね!奇跡的に正解したけど今何も考えずにメイドっつってた。ヤバイぞ、今日の俺はなんか変だ。いつも変だけど今日は特にヤバイ。頭からメイドさんが離れない。

 

「慎司君、授業中もボッーとしてたけど大丈夫?」

 

 休み時間、なのはちゃん達3人が俺を心配して様子を見に来た。

 

「いや、大した事じゃないんだ。ちょっと考え事しててな」

「悩み事?慎司君がよかったら相談に乗るよ?」

「あんた1人で考えたってろくな事思いつかないんだから素直に話しなさいよ」

 

 そう言ってくれるすずかちゃんとアリサちゃんの友情に涙が出そうになる。

 

「慎司君、大丈夫だよ。なのはも力になれる事ならいくらでも協力するから」

 

 うぅ、いい奴だなお前ら。持つべきものは友達だな。ここまで言ってくれたんだ。俺も正直に話すのが筋だろう。

 

「実はな?メイドさんについて何だけど」

「「「解散っ!」」」

「え〜?」

 

 まぁ予想はしてたよ。3人とも綺麗にはもって席に戻っていったよ。なんやねん。けど本当にさっきからメイドさんが頭から離れない。なんだ?洗脳されたのか俺は?ンなわけねぇけど。

 別の事を考えようにも気がついたらメイドさんの事を考えている。ああ、まだ見ぬ俺のメイドさん。果たして未来で会えるのか?

 …………いややべえって。本当に今日の俺おかしいって。言ってるそばからだよ。助けて。メイドに洗脳されてる。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になっても脳内メイドさん談義は続いていた。何だろう、モヤモヤする。根本的になんでこうなってるか分からないとずっとこうな気がする。

 

「はぁ……帰ろ」

 

 ため息つきつつ帰り支度をする。今日は3人とも用事で俺は1人で帰る。なんか久しぶりな気がする。練習も相島先生が所用で急遽休みになったし自主練する気も起きないからさっさと帰ろう。

 そう思い帰路に急いで廊下を早足で歩いていると

 

「あなた、メイドさんの事を考えていますね?」

「誰だお前」

 

 知らない奴に話しかけられた。学校の制服着てるからここの生徒だろうけど、眼鏡をかけた細身の男だった。

 

「失礼、私は『明 土太郎』と申します。貴方と同じ三年生です」

「めい……どたろう?」

 

 そんな面白い名前の同級生いたのか。いや、人の名前をそう思うの良くないけど。

 

「んで?土太郎、俺になんか用かよ?」

「ふふふ、先ほども言ったでしょう?メイドの事を考えていますね?」

「………お前、なんで分かった?」

 

 え?初対面の子に思考見破られてんだけど。しかもめちゃくちゃ恥ずかしい思考してる時に。

 

「当然です、貴方からメイドの波動を感じましたからね」

「メイドの波動て」

 

 一瞬魔法の関係者を疑った俺がアホだった。こいつはただの中二病だ。ほっとこう、俺もそう思われるのはごめんだ。

 

「そかそか、んじゃ俺は帰るんで」

「待ちなさい」

 

 肩を掴まられる。軽く振り払おうとするが……え?こいつ力強い!?

 

「な、なんだよ?」

「荒瀬慎司君」

「どうして俺の名を?」

「貴方この学校では結構有名ですよ?」

 

 あ、そうなんだ。へぇ、まぁ柔道でも結果とか出してるし友達も結構増えたしその影響かね?いや違うな、多分クラスメイトとかと大人数で色々やったからな。悪い事じゃないぞ?学校辞めちゃう先生にサプライズとかそう言うの。

 割と結構目立った学校生活歩んでんな俺。

 

「貴方、気持ちを抑えていませんか?」

「な、なんの事だよ?」

「メイドさんを愛するその心です」

「お前、何なんださっきからメイドメイドって」

 

 俺も人の事言えんけど。

 

「ふふ、何を隠そうの明土太郎……貴方と同じメイドさんを愛してやまない者なのです」

「ピッタリな名前だなおい」

「そして、私はずっと探していたのです……私と同じ志を持った同志を!」

「それが俺だと?」

「その通りです!」

 

 ビシッと俺を指差して土太郎は続ける。

 

「貴方には才能があります!この思想を広める才能が!」

「いらんわそんな才能」

 

 どうせなら柔道か魔法の才能がいいわばかたれめ。

 

「私は確信しています!荒瀬君!君なら世界を変えれると、すべての人をメイド好きにできる世界に!」

「悲惨な世界だなおい」

 

 何だこいつは、何が目的なんだ?

 

「その思想広げてどうしたいんだよ?」

「私はただ同志が欲しいだけですよ。メイドさんを愛する同志がね」

 

 危険な宗教みたいじゃねぇか。確かに俺もメイドさんは好きだが、そこまで広めたいとかそんな思想はねぇから。

 

「盛り上がってるとこ悪いが俺はそこまで自分の考えを広めたいわけじゃねぇよ。同志探しなら他を当たりな」

「……貴方の悩みを解決できる……そう言ってもですか?」

「は?」

「貴方の頭からメイドが離れない、悩んでますね?その事に」

「だからなんで分かるんだよ」

「メイドの波動です」

「お前凄すぎるだろ」

 

 怖いよ。本当に怖いよ。けど、その悩みが解決出来るってのは興味深い。

 

「どうすれば悩まずに済むんだ?」

「簡単です、その気持ちを我慢せず解放すればいいのです」

「解放?」

 

 土太郎曰く、俺が頭からメイドさんが離れないのはその気持ちを発散できてないからだと言う。溜まりに溜まったその思いが俺の頭を支配してるのだそう。長い期間発散できないとそうなるらしい。なんだそれ、メイド好きの宿命なの?けど少し俺も一理あると思ってしまった。何故ならば俺のメイド好きは前世から続いているのだ。前世からの気持ちも含めて溜まりに溜まったと言われると納得する部分もなくはない。

 いやねぇよ、何でだよ。でも実際頭からメイドが離れてないのも事実。

 

「解放するって言ってもどうすれば?」

「単純にメイドさんを雇ってその欲望を解放する事です。しかし、子供の身である私達にはそれは難しい事でしょう。ですので、もう一つの方法を取る必要があります」

「もう一つの方法?」

「はい、それはですね………」

 

 俺はその方法を聞いてすぐに実行に移す事を決めた。なり振り構ってる場合じゃない。とにかく早く頭の固定されたメイド思考を追い出したかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更に翌日。朝。

 

「あれなのは、慎司は?」

「うん、何か慎司君のお母さんが先に朝早くもう出ちゃったって。何か学校に用事でもあったのかな?」

「そうなんだ、後で慎司君に聞いてみようよ」

「そうね」

 

 確かに気になるところではある。高町なのはは少し疑問を抱いていた、別に朝早く自分達より早く出た事はいい。しかし、意外にしっかり者の慎司なら事前にメールで連絡くらいしてくれそうなものだと思ったからだ。

 よほど切羽詰まってたのか、単純に忘れてしまったのかは分からないが。まぁ、すずかちゃんの言う通り学校で会ったら聞けばいいかと頭の隅に置いた。他愛のない話をしながら3人で学校に向かう。校舎が見えてきた所で妙に騒がしいのと学校が異様な雰囲気に包まれている感じがした。

 

「な、何だろう?」

「妙に騒がしいわね」

 

 3人とも怪訝な顔で校舎に近づくと騒ぎの中心に誰がいるのかすぐに分かった。

 

「皆さん!!メイドです!世の中にメイドさんは必要なんです!気付いてください、メイドの素晴らしさに!!」

「………………」

「………………」

「………………」

 

 絶句する。校庭で騒いでいる慎司を見て3人は絶句した。メガホン片手にビラらしきものを配りながら訳のわからない事を叫んでいた。頭を抱える。ああ、何をやっているんだあのバカは。

 

「ちょっと慎司!うるさいわよ朝っぱらから!!」

 

 こう言う時に頼りになるアリサちゃんがずかずかと慎司君に近づいてそう大きな声で伝える。

 

「おおアリサちゃんおはよう!今日もいいメイドさん日和だなぁ」

「何わけ分かんない事言ってんのよ!いいから辞めなさい、先生に怒られるわよ」

「アリサちゃんも着てみないか?メイド服」

「話を聞け!」

「メイドを知れ!」

 

 あぁ、いつも以上に話が通じない。なんだ、とうとう頭でも打ったのだろうか。メイドさんを欲しすぎておかしくなったのだろうか。

 

「ああ〜!あのバカ一体どうしたのよ!?」

 

 イライラした様子で戻ってきたアリサちゃんをすずかちゃんがまぁまぁとなだめる。

 

「でもおかしいね、こんなに騒いでるのに先生が誰一人止めに来ないなんて」

 

 すずかちゃんの言葉に確かにと頷く。結構な大声だ、学校中には響いているだろう。けど誰かが止めに入る気配はない。ちょうど通りかかった女性の先生に事情を聞いて見ることにした。

 

「ああ、あれね」

「どうして誰も止めないんですか?」

「うーん、実はね校長先生直々に好きにやらせてあげなさいって職員全員に通達があったのよ」

「えぇ………」

 

 どう言う事だろうか?校長先生が許可をした?この意味の分からない演説を叫ぶ事を?

 

「そう言えば荒瀬君が配ってるあのチラシをホクホク顔で眺めてたわね」

 

 先生がそう言葉を漏らすのですずかちゃんがさりげなく慎司君にバレないようにチラシを受け取って戻ってくる。すごいすずかちゃん、忍者みたいだった。3人でチラシを覗き込むとそこにいかにメイドさんが素晴らしい存在なのかという題目でイラスト付きで長々と語られていた。

 一瞬興味ないはずの私達も引き込まれそうになる程の文章力で戦慄した。

 

「校長先生……慎司君に抱きこまれたのかな?」

 

 私のその言葉に2人は苦笑いでおそらくそうだろうと頷く。ああ、元々その素質があったのかは分からないが慎司君のせいで校長先生がメイド愛に目覚めてしまったようだ。

 

「うう、やだなぁ……幼馴染が変な人間なのも嫌なのに更に醜態を晒されると私まで鳥肌立ってくるよぉ」

「な、なのはちゃんちょっと口悪いよ……」

 

 そうは言ってもねすずかちゃん。本当に頭を抱えてしまうような事態なんだよ。このまま、まさかずっとあんな調子でいられたら私まで狂ってしまいそうだ。

 

「まあ、すぐに収まるわよ。誰も見向きもしてないからね」

 

 そう言って先生は校舎のほうに戻っていった。確かに先生の言う通り慎司君はかなり目立ってるが話をまともに聞いている生徒はほとんどいない。ふざけてチラシを受け取っている子も何人かいたがあの調子だとゴミ箱行きだろう。

 

「まぁ、たまにおかしくなるのも慎司らしいし……」

「アリサちゃんの言う通りだよ。確かにいつもより……その……変だけどそんな深刻にならなくてもいいんじゃないかな?」

「うーん、そうだよね」

 

 どうせすぐに元に戻るだろう。チラシにも書いてあったがただメイド好きの同志を広めたいと書かれていた。この意味不明な演説で人が集まるとも思えないし慎司君も飽きたら元に戻るだろう。相手にするのも疲れるので今は放っておこう。

 私達3人はそう結論づけてとりあえずは慎司君の好きにさせることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後

 

 

「えぇ………」

「人……増えてるね」

「いつの間に……」

 

 朝の登校。ここ数日は慎司君は演説で一緒に登校はしていなかった。なので、3人で学校に赴くとどうしたことか昨日まで慎司君ともう1人……明土太郎君?だったかな?この2人で演説していたのが今日は一気に増えて数十人規模で演説をしていた。

 ここ数日は学校が始まるまでは演説をして休み時間にも毎回各学年のクラスを回って広報。その情熱はもっと別方面に向けて欲しい。放課後も自身の柔道の練習に間に合うギリギリまで演説と忙しない日々を送っていた。柔道の練習はちゃんとこなしていた事は何故だかとっても安心した。

 

『メイドさんは素晴らしいんだ!とても尊い存在なんだああああ!!気付いてくれ!皆んな!メイドさんの素晴らしさにいいいいいいい!!!』

『おおおおおおおおメイドおおおおおお!!』

『メイドたーん!メイドたーん!!』

『僕にコーヒー入れてくださーい!』

『ご奉仕してくださーい!!』

 

「「「地獄だ」」」

 

慎司君を含めたメイド好きに目覚めてしまった人たちの演説内容だ。ほとんど演説になっていなかったがそれはどうでもよかった。

 

「ね、ねえ?どうしよう、このままもっと増えたりしないよね?」

「さ、流石にないよ。あ、あはは…」

「そろそろ慎司も……あ、飽きるわよ…ね?」

 

 アリサちゃんとすずかちゃんは不安げだ。私も不安だ。どうしよう、このまま知らないフリをしたい気持ちを頑張って抑えて私は慎司君を止めるべく演説をしているあの集団に近づいていく。

 

「な、なのはちゃん!」

「危ないわよ!」

 

 すっかり危険集団扱いされている。いや、私もそれは否定できない。とりあえず、慎司君と話をしないと。

 

「し、慎司君!」

『メイドおおおおお!!』

『メイドたーん!』

『萌え萌えキューン!』

「あ、おはようなのはちゃん!チラシ新しくしてみたんだ!いるか?」

「い、いらないよ!そうじゃなくて!」

『メイド!メイド!メイド!』

『ぼくちんはメイドと触れ合う為にうまれてきたんだ!』

「えぇ?なんだって?よく聞こえねぇよ!」

 

 外野がうるさいんだよ!もうバカの一つ覚えみたいにメイドメイドって!もう慎司君の分身にしか見えなくなってきたよ!

 

 

 

 

 

……………………。

 

「うぅ、ダメだったよ」

「仕方ないよ、誰にも止められないよ」

「よく頑張ったわよ、なのはは」

 

 そもそも会話が出来ない。これは……本当にどうしよう。慎司君の暴走は止まる事を知らずさらに数日が経つと

 

「また……増えてるわね」

 

 もう一学年ほどの規模になっていた。メンバーは全員男の子だけど同学年だけに留まらず後輩も先輩も巻き込んでいた。そしてさらに数日。

 

「もうデモだよコレ」

 

 すずかちゃんの言葉に全力で頷いた。規模も勢いも既に最初の面影はなく学校の全男子が参加してるんじゃないかと錯覚しそうになるくらいの人混みだ。そしてその全員がメイドとメイドと何かしら叫んでいる。どうしてこうなった。

 なのに、慎司君の演説内容は変わらずメイドさんがどれだけ素晴らしいのか、そしてそれを一緒に知って同志になろうと誘うだけ。最早カルト教団である。

 

「ど、どうしよう?このままだと学校どころか海鳴市まで巻き込みそうだよ?」

「すずかちゃん、ま…まさかそんなには……なりそうだね」

「海鳴どころか日本中まで巻き込みかねないわよあのバカ」

 

 否定できない。日本中の人があんな事を叫んでいると想像するとげんなりする。海外逃亡も辞さない。

 

「とにかくもっと大きくならないうちに止めないと!」

「で、でもどうすれば?」

「お困りのようですね?」

 

 だ、誰?って見覚えがあった。メガネをクイっと上げてニヤリと笑みを浮かべている細身の男の子。初日から慎司君と一緒に演説していた明土太郎君だ。

 

「あんた!隣のクラスのメイド太郎ね!」

「違う!ぼくは『明 土太郎』です!」

「どっちでもいいわよ!知ってるんだからね、あんたが慎司を焚きつけたこと!」

 

 あ、そうなんだ。

 

「そ、それについては反省しているんです。だからこうしてお声をかけたのですよ」

「でも、土太郎君が焚きつけたのなら今の状況は土太郎君にとって都合がいいんじゃないの?」

 

 私のその言葉に土太郎君は難しい顔をしながらうーんとうねる。

 

「確かに僕は荒瀬君にメイドの波動を感じたので、同志と思い声をかけたのです」

 

 メイドの波動ってなんだろう。もう、ツッコムのも疲れたから何も聞かないけど。

 

「そしてあの荒瀬君ならもっと同志を増やせるのでは?と思い今回の活動を提案したのです。荒瀬君の悩みも解決できるので利害が一致したんです」

 

 どんな利害があったのかは気になるがどうせ頭の痛くなるような案件な気がしてそれも聞くのはやめておいた。

 

「しかし、荒瀬君の影響力を侮っていました。予想以上に人が増えすぎました。僕としてはメイド好きの4、5人のグループでも出来ればいいなぁって思ってただけでしたので」

 

 何ともかわいい目的である。内容は全然可愛くないけど。

 

「それなら何で途中で止めなかったのよ?」

 

 アリサちゃんの最もな意見に土太郎君は困ったような顔をして

 

「いやその………思ったより成果が凄すぎて現実味がなかったというか……ハイになってしまったというか」

「勢いでとことんやっちゃえ……みたいな感じになっちゃったんだ」

 

 すずかちゃんの言葉に土太郎君はそんな所ですと同意した。何ともはた迷惑な話である。

 

「今の荒瀬君もきっと同じような状態です。冷静さを失って止めどころが分からず突き進んでしまっているのでしょう」

「そんな状態の慎司とあの連中をどうやったら止めれるのよ?」

 

 アリサちゃんの問いに土太郎君は待ってましたと言わんばかりにメガネをクイっと上げて難しい事ではありませんとニヤリと笑いながら言う。

 

「止めるのは荒瀬君だけで問題ありません。荒瀬君と一緒に盛り上がってるあの連中は荒瀬君に影響されてメイド好きの皮を被った偽物ですからね。メイドの波動を感じないのが証拠です」

 

 そんなものを証拠として堂々と語らないで欲しい。

 

「ですので荒瀬君の活動さえ止めれば自然とこの運動も終結します」

「でも慎司君だけ止めればいいって言っても……」

 

 広報活動をしている慎司君達に目を向ける。異様な盛り上がり様だ。少なくともこの集会中に止めるのは無理がある。そもそも、暴走状態の慎司君が果たして言葉だけでこの活動をやめてくれるかどうかも怪しい。

 

「でも、休み時間とかだと私達が止める間もなく演説してるし……」

 

 そうなのである。すずかちゃんの言う通り慎司君を説得しようと授業が終わるタイミングで捕まえようと実は何度もチャレンジしているがいつのまにか消えているのである。もしかして転移してる?と口を滑らしそうに何度もなった。メイドを原動力にしている時の慎司君はとても危険だ。

 

「荒瀬君を止める方法はただ一つ、彼の欲望を発散させてあげるのです」

「発散?」

「端的に言えば彼の満足するメイドさんを体験させれば彼の活動は止まるでしょう」

「そんな事で止まるの?」

「はい、間違いなく」

 

 何を根拠に自信を持ってそんな事提案できるんだろうと疑問には思ったけど訳の分からない行動を止めるには訳の分からない行動なんだなと思考放棄してそう思うことにした。

 

「メイドを体験させるって言ってもさ、慎司にそれ見せるにはあの連中も一緒って事でしょ?」

 

 アリサちゃんの言う通りだ。慎司君が1人になる機会を狙えない以上あの大勢の前でそのメイドさんを披露しなければならない。地獄だ。

 

「それは仕方ありません、彼ら全員の前でそれを披露するしかないでしょうね」

 

 慎司君が満足するメイドさんをあの大勢人の前で披露するってそんな恥ずかしい事絶対にしたくないなぁ。

 

「善は急げです、こちらに僕が持ってる子供サイズのメイド服が1着だけあるので荒瀬君と仲が良い貴方方3人の誰かがメイドさんを演じてください。その方が成功率が高いと思われます」

 

 そう言ってメイド服を手渡してくる土太郎君、私達3人は心底軽蔑の視線を土太郎君に向けつつどうしようかと悩む。

 

「どうしようか?」

「でも、これしか方法ないみたいだし……」

「となると適任は……」

 

 すずかちゃんとアリサちゃんが無言でジッと見てくる。

 

「えっ!また?またなの!?」

 

 また私がやるの!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『メイドおおおおお!!』

『メイド服うううううう!!』

『メイドドメインんんんんん!!!』

 

 地獄の光景を作り出すメイド好き集団。もうメイド好きじゃないよ、皆ただのバーサーカーだよ。その中心で俺はめげる事なく演説を続ける。

 

「あの純粋に主を想うその気持ち!それこそが主従の絆なんだ!!そんなメイドを好きになって何が悪い!!」

 

 正直俺も困っている。もうやめてもいいんじゃないかな?あ、でもここまできたらやれるとこまでやりたいな。うん、頑張ろう。何か大事なものを失いつつある気がするけどやってしまおう。

 

『コラーーー!!バカ慎司ーーー!!』

 

 演説を続けているとスピーカーメガホンで大声をあげるアリサちゃんの声が耳をつんざく。皆驚いて言葉が止まった。

 

『こっち向きなさいーー!!』

 

 声の方に振り向けば威風堂々としたアリサちゃんとスピーカーを重そうに持ち上げるすずかちゃんとメイド服を着たなのはちゃんがいる。………メイド服のなのはちゃん!?

 

「な、なのはちゃん?」

 

 ど、どうした?頭打った?え、なに?え、俺のせい?いや確実に俺のせいだよな。そんなパニックになってる俺を尻目になのはちゃんはゆっくりと一歩一歩俺達に近づいてくる。突然のメイドの出現に俺たちは固唾を飲んで見守っていた。俺との距離僅か数メートル程まで近づいてなのはちゃんは深呼吸を一度してから決意を固めた顔を一瞬挟んで

 

「おかえりなさいませ、ご主人様!コーヒー淹れましょうか?」

 

 と仕草やら所作を加えて可愛げな顔をして俺達メイド好き軍団大勢の前で披露して見せた。だんだん恥ずかしくなってきたのか徐々に赤面していくなのはちゃん。

 よくやったよなのはちゃん。俺を止めるためにやったことはよく分かった。けど、相手が悪かった。ここにいるのはにわかとは言えこだわりあるメイド好き達。全員の好みに合うなんて事は勿論、そして本物じゃないと満足しない俺相手だ。

 

『帰れー!』

『引っ込め高町ーー!』

『来世からやり直せー!』

『メイドを侮辱するなーー!』

『バーカwバーカw』

『このメイドの恥さらしーー!』

『もっと成長してからやれちんちくりん!!』

 

「ちょっと!?ちんちくりんって言ったの誰!!?」

 

 あ、俺です。まぁ、こうなるよなぁ。なんかごめんね?

 

 

 

 

 

 

 結局泣きそうになりながらアリサちゃん達に慰められたなのはちゃん。その後すずかちゃんが臨時で雇った本物の俺好みのメイドさんによって俺の目は覚めて自然とこの活動も終結を迎えたとさ。最初からそうすればよかったのに言ったらなのはちゃんが泣きだしかねないので黙っておいた。

 勿論、この騒動のあと俺はアリサちゃんとすずかちゃんとなのはちゃんにボッコボコのボッコボコにされてしばらく平謝りの生活だった事は言うまでもないだろう。反省である。余談だが、その後本当の目的はただ同じ趣味の友達が欲しかっただけだった土太郎とは一応友人?としての関係は続いていたりする。

 

「荒瀬君、頭の中のメイド思考は消えましたか?」

「あ、そういえば治ったな。土太郎の言う通りだったんだなぁ」

「ふふん、メイドの波動に不可能はありませんからね」

 

 いや本当なにもんだよお前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騒動からしばらく経って、放課後のランニングに勤しんでいる俺。いつもとは違うコースをハイペースで走っていると車椅子に乗った同い年くらいの女の子とすれ違った。

 

「あっ!」

「うん?」

 

 声に反応して後ろを振り向けば車椅子の女の子が買い物袋を落としてしまった様で周りに中身が散乱としていた。頑張って拾おうとしているが車椅子だからかうまくいかない様だ。

 

「ほらよっ」

「あ……」

 

 余計なお節介かなと思ったが見てられなかったので全て拾って袋に詰めて女の子に手渡す。

 

「……ご親切にありがとなぁ。ほんま助かったわ」

「どういたしまして……もしかして関西の方の子?」

「まぁ、そんなとこかな。初めて訛り聞いたん?」

「いや……そういうわけじゃないけどさ」

 

 なんかこう、関西弁聴くとうずうずしてくる。こう、真似したくなると言うか。言っちゃう?あれ言っちゃう?

 

「なんでやねんっ!」

「なにがやねんっ」

「「イェーイ」」

 

 おお綺麗にハマった。気持ちいいね。

 

「あはは、面白い子やね」

「はは、お前もな」

 

 さてと

 

「悪い、ランニングの途中だったんだ。じゃあな、今度は落とすなよ!」

 

 そう言ってランニングを再開する。

 

「あっ………ありがとー!ホンマに助かったでー!」

「おう!」

 

 手を振って別れる。少し離れてから心配になってチラッと様子を見てみるがさっきまではいなかった優しげな雰囲気の女性とキリッとした雰囲気の女性と楽しげに話していた。よかった、サポートしてくれる人がいるなら安心だ。家族かな?それにしては似てないけど。まぁ、どうでもいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 これが俺と八神はやての出会い。そして、一生忘れる事のない衝撃的な出来事の幕開けだ。

 

 

 

 

 

 





 次回からA's編です。

 なお、今回登場した名前付きキャラの明土太郎くんは幕間以外では一切出てきません。ごめんね土太郎くん


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A's編
出会い




 エース編開始ですが時間軸は原作の1話少し前。守護騎士達がはやての前に現れてから少し経った頃です。


 

 

 

 

 

 

「しゃあああ!!」

 

 気合と共に相手を畳に叩きつける。技は払腰、相手を自分側に崩し片足に重心をかけさせその重心を足で払い上げて腰で浮かせて投げる技だ。故に払腰と呼ばれてる。技のレパートリーも前世と引けを取らないくらいに増えてきた。力や技術が子供に戻ってしまって四苦八苦していたが前世で培った知識のおかげで通常よりも技術の向上が見られるのはありがたいし使える技が多ければ戦略や戦い方も広がるというもの、相変わらず一本背負いは封印したままだがそれに頼らずとも大会の結果は安定してきたし更に成長を感じている。

 

「よし!今日の練習はここまで、各自ストレッチをしてから整列して解散だ」

 

 はいっと練習生全員の元気な返事で返す。今日も今日とて変わり映えのしない練習の日々、季節は夏の一歩手前という所。気温が上がって暑日が続くがその分練習の熱も上がるというもの、割と暑いのは得意な俺には好きな季節とも言えよう。フェイトちゃんと別れてから既に数ヶ月、ユーノも故郷に帰る為とフェイトちゃんの裁判や魔法関係の手伝いでアースラに戻ってしまい今はいない。あれから皆んなとは会えない日々が続いている。

 時折寂しく感じる日もあるがまぁ、その内会える事は分かっている。焦らずゆっくりその時を待とう。

 

「慎司、今日は居残り練習は無しだ」

「はい。ちゃんと体を休めます」

「それでいい……適度に完全休日の日もちゃんと設けるんだぞ」

「分かりました。……それでは、失礼します」

 

 そう言って道場にも一礼してから後にする。俺も精神は大人だ、ちゃんと線引きをしてオーバーワークにならないように気を付けている。まぁ、試合前の追い込みとかはその限りじゃないけど。誰よりも練習して、ちゃんと効率よく休日を設けてバランス良くやるのが強くなる近道なのは分かっているからな。ガムシャラに頑張るのではなくあくまで効率なんだ、現実的な考えでないと今度の大会だって上には行けない。さて、柔道のことばっか考えてないでさっさと行かないと。

 練習終わりに翠屋に行く事になっているのだ。

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいましたー!」

「あら慎司君、いらっしゃい。練習お疲れ様」

「ありがとうございます桃子さん」

 

 出迎えてくれたのは桃子さん。既に翠屋店内には高町家全員と俺の両親が談笑しながら料理をつついていた。今日は高町家と一緒に夕飯の約束だったのだ。すっかり家族ぐるみで仲良くなった荒瀬家と高町家、こうやって一緒にご飯するのも定期的になっている。特に父母同士が仲が良くとても楽しそうだ。息子としては嬉しい限りである。

 皆んなからの出迎えの言葉を返しつつ定位置のなのはちゃんの隣に腰を落ち着かせる。今日も豪勢だなぁ、ちゃんとパパんがお金払ってるらしいけど家計は平気なのだろうか。まぁ、管理局ではある程度有名らしいパパンだ。懐も暖かいと信じよう。

 

「慎司君、練習お疲れ様」

「おうなのはちゃん、ありがとよ」

「はい、慎司君の分」

「サンキュ」

 

 面倒見のいいなのはちゃんである。

 

「あ、なのはちゃん…ほっぺにご飯粒ついてる」

「え、本当?……って、騙されないよっ。また揶揄うんでしょ」

「………なら俺が取るよ」

「え?あ、ごめんね?」

 

 疑ってしまった事を申し訳なかったのか素直に謝りつつ俺にほっぺを差し出すなのはちゃん。俺は手を伸ばしてご飯粒を取る。目の前に座ってる美由希さんのほっぺから。

 

「イェーイ、騙されたー」

「あーん!また引っかかったぁ……」

「美由希さん、ご協力あざます」

「いえいえ、慎司君の頼みだからねー」

「また仕込みなの!?」

 

 いい加減気づきなさいよ貴方も。まぁ、引っかかっちゃう所がなのはちゃんの可愛い所でもあるのでそのままのなのはちゃんでいてください。引っかかった事が悔しかったのか頬を膨らませて俺の肩をポカポカしてくるなのはちゃん。片手でポカポカを捌いて膨らましたほっぺを押して空気を押し出してからほっぺをびろーんと伸ばす。

 

「前より伸びるようになったな、お餅みたい」

「ひんしふんのへいでひょー!」

「なに?もっとやってほしい?ドMかよ」

「ひがうー!!」

 

 あっははは。やっぱり楽しいのうなのはちゃんと一緒は。高町家の面々も皆んな大好きですとも。しばらくほっぺを伸ばしているとなのはちゃんがあっ!と何か思い出したようなのでそのタイミングで手も止める。

 

「そういえばね慎司君、フェイトちゃんからビデオメールの返事が届いてたよ!」

「おっ、マジか。待ち兼ねたぜ」

 

 実は別れてから俺たちはフェイトちゃんにビデオメッセージを送っているのだ。俺となのはちゃんだけでなく紹介したいという事でアリサちゃんとすずかちゃんも一緒に。無論魔法の事とかそういうの伏せて海外の俺となのはちゃんの共通の友人って事になっている。

 それからフェイトちゃんも返事はビデオメッセージを送ってくれていていつの間にかビデオメールでやり取りする事が日常化している。高町家も海外の友人っていう事にして伝えていて事情を知っている俺の両親もそれに合わせてくれている。

 

「明日、アリサちゃんとすずかちゃんも呼んで一緒に見ようぜ」

「うん!楽しみだなぁ……元気にしてるかなフェイトちゃん」

「元気さ、きっとな」

 

 クロノ達も動いてくれてるし悪いようにはなっていない筈だ。そこは全く心配していなかった。アリサちゃんちゃんとすずかちゃんも返事が届いている事を伝えたら喜ぶだろう。メールしても良かったけど明日直接伝えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「届いたのね!待ち兼ねたわよ」

 

 早速4人で一緒の登校時に返事が届いた事を2人に伝える。アリサちゃんもすずかちゃんも嬉しそうだ。

 

「フェイトちゃん……いつになったら会えるのかな?楽しみだなぁ」

「そうね、会ったらいっぱい話したい事あるし」

「今すぐは無理でもそう遠くない日に会えるさ。それまでビデオメール続けようじゃないか」

 

 俺の言葉に2人は勿論っと答えて笑顔を浮かべる。互いを知ってる俺となのはちゃんとしても紹介できる日を心待ちにしている。まだ先だろうけど今から楽しみだ。

 

「つーわけで、今日の放課後……一緒に見ようぜフェイトちゃんからのビデオメール」

 

 俺がそう言うとアリサちゃんとすずかちゃんはあちゃーとした顔をして互いに目を合わせる。おっとこれは?

 

「あ、今日習い事の日だっけ?」

 

 俺の問いに頷く2人。あちゃー、そういえばそうだった。どうしようかと考えていると隣のなのはちゃんも何か思い出したようにあっと声をあげる。

 

「ごめん慎司君、私も今日放課後用事あるの忘れてた……」

「こんのドジっ子め」

 

 お前昨日ノリノリで放課後一緒に見ようって言ったらうんっ!て返事してただろうが!

 

「ちなみになのはちゃんはどんな用事?」

「塾の副講義……長期で休んだ分の補講しないといけないの」

 

 あぁ、アースラで頑張ってた時のか。そりゃ仕方ない。

 

「んじゃあどうするか……なのはちゃん、ビデオは持って来てんだろ?」

「え?う、うん、慎司君が持って来いって言うから……学校に持っていって大丈夫かな?」

「平気だよ、アニメとかドラマのビデオ持って来てる訳じゃないし。昼休みに飯食った後に事情説明して視聴覚室借りてみんなで見ようぜ」

「それは……早く見たい私達にはありがたいけどそう簡単に貸してくれるかなぁ?」

「大丈夫だよすずかちゃん、校長にメールしとくから」

 

 携帯を取り出して早速メールを打つ。

 

「慎司、なんで校長先生のメール知ってるのよ」

「いや、メル友だし」

「なんでよ」

「メイド好き同盟、俺と土太郎と校長先生」

「やめて、それトラウマだから」

 

 俺とアリサちゃんの会話を聞いていたなのはちゃんが青い顔をしてそう言う。確かにあの時のなのはちゃん傑作だったな。俺のせいだけど。

 あ、返信きた。

 

「校長先生オッケーだってさ」

 

 俺の言葉に3人は苦笑を浮かべて返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゃあ!飯も食ったしビデオ見るぜぇこの野郎!」

「慎司うるさい」

「慎司君黙って」

「慎司君静かに」

「3人とも当たり強スギィ!いいじゃん俺だって楽しみにしてたんだから!」

 

 そんなやり取りを挟みつつ視聴覚室のビデオデッキにセットしてモニターに映し出す。再生ボタンをポチッとな。写し出されたのは部屋の真ん中で緊張気味に立っているフェイトちゃんの姿。もう何度か送り合ってるんだからいい加減慣れなさいよ。冒頭は俺たちに向けてのいつものビデオのお礼と近況の報告。と言ってもフェイトちゃんもアリサちゃんとすずかちゃんが見る事は承知しているので魔法の事とか裁判の事とかややこしい事は上手く誤魔化してどれくらいでこっちに来れるとかそう言う報告だ。

 

『あ、それと慎司……同封して送ってくれた物、ありがとね』

 

 俺たち一人一人に俺達が送ったビデオメールの返事をコメントしてくれるフェイトちゃん。俺の番になった時にそう言って笑ってくれるフェイトちゃんが映る。

 

「あんたなに送ったのよ?」

「仮面ライダークウガのDVD全巻セット」

「あんたの趣味全開じゃない……」

「フェイトちゃんをどうしたいの?」

 

 いやぁ、特撮オタ仲間に。アリサちゃんとすずかちゃんは知らないけど裁判を受ける身であるフェイトちゃんはかたち上の勾留を受けてると思ってな。暇してる時間もあるのかもだと思って送ったのさ。俺の私物だから俺の趣味になるのは許せ。

 

『せっかくだから全話全部見たよ』

「マジで!?」

「なんで慎司君が驚いてるの」

 

 いやぁなのはちゃん、ちょっとしたジョークのつもりで送ったのもあったから。趣味に合わないだろうなと思ってたのが本心だし。気を使わせたかな?

 

『あ、気を使って無理してみたわけじゃないよ?見始めたら思ったより楽しくてついつい全部見ちゃったんだ』

 

 フェイトちゃん、君は天使だ。同じく過去に勧めなのはちゃんは「うーん……」って趣味に合わなかったようで数話見て見るのやめてたなのはちゃんとは大違いだ!

 

「………私と比較してないかな?」

「イヤシテナイヨ」

 

 なんでわかんだよ。

 

「でも意外だね、フェイトちゃんの表情から見ると本当に面白くて見たみたいだし」

「すずかも私も面白さ分からなかったしね」

 

 すずかちゃんにもアリサちゃんにも勧めたけどやっぱりこれくらいの年頃の女の子には中々合わないんだろうな。それも重々承知だったけど。

 

『面白くてついつい二周しちゃった』

「おい、ガチでハマってんぞ」

「良かったじゃない」

「複雑だよ」

 

 全話連続で二週ってガチファンでも中々いないぞ。

 

『慎司みたいにカッコよかったなぁ……ン・ダグバ・ゼバ』

「「「「クウガじゃないんかい!!」」」」

 

 おま、あれを俺みたいと言うのか?確かにファンも多いし姿もカッコいいけど性格とかいいもんじゃないぞ!!

 

『あとね、あとね……あの人もお気に入りなんだ……一条刑事』

「「「「クウガじゃないんかい!!」」」」

 

 おい、見事にハモるぞツッコミが。

 

『でもでも、やっぱり第二話の教会での変身がカッコいいよね!』

「わかるっ!」

 

 この娘ガチだぁ。ガチで好きになってくれてるぅ…。

 

「慎司君、泣いてるの?」

「うん、ようやく巡り合えた同志に感涙だよ」

『慎司も柔道頑張ってね、クウガみたいに』

 

 意味分かんないけど分かったよぉ!!

 

 

 

 

 

 後日俺の家の住所宛にクウガのDVDが送り返されて来ていた。ふむ、次のビデオメールで一緒にアギト送ろうと決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、3人は朝も言ったように用事なので今日は真っ直ぐ家に帰る。柔道の練習も今日はないから自主トレでもするかね。

 

「ただいまーっと」

 

 家に帰るといつもは出迎えてくれるママンの姿がない。電気も消えてる、留守か?どうしたものかと家を彷徨うとリビングの上のテーブルに書き置きとお金を発見。

 書き置きにはパパンもママンも管理局のお仕事で今日は帰れませんって事と謝罪文と共に冷蔵庫の中も空だから夕飯は置いてあるお金で好きにしてくれって事が書いてあった。ていうかママンは管理局辞めたんじゃないのかよ、最近はこういう事がちょくちょく増え始めた。俺としては精神的にはほぼ30歳だし別に家で1人なのは辛くも何ともないが普通に両親が心配である。

 両親も俺の事は理解してくれているからこうやって1人でも安心だと思ってくれているのだろうけど。

 さてどうするか………冷蔵庫の中を見てみたが確かに空も同然の状態だ。外食もいいが……たまには自分で自炊でもするか?大したもの作れんけど。よし、そうしよう。なればいつもより遠くのスーパーまでランニングついでの買い物だな、そうと決まれば早速準備しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 片道走って30分程のスーパーまでハイペースで走る。スタミナ作りに心肺機能上げるならやはりペースは早めでないといけない。帰りは荷物もあるから走れなくなるしな。息が上がってまともに呼吸できなくなっても耐えて耐えてペースを落とさずにスーパーの前まで走り切る。呼吸を整えて立ったまま軽くストレッチをする、とりあえずこれ終わったらスーパーで買い物しようかと思っていると

 

「頑張ってるなぁ、また会ったね」

 

 車椅子に乗った少女に話しかけられる。後ろには付き添いなのか車椅子を押している優しげな雰囲気のお姉さんと目がキリッとしていて何だか警戒心を持ち合わせた目で見てくる赤髪の少女の姿もあった。

 

「貴様は……悪代官!」

「よいではないか〜よいではないか〜……ってちゃうわ」

 

 流石関西出身、いいノリツッコミ。

 

「えっと……どちら様でしたっけ?」

「誰か忘れとるのにボケて来たん?」

「冗談冗談、この間ぶりだな。えっと……」

「八神はやて言うんや……よろしゅうな」

 

 八神のはやてさんね。覚えた覚えた。とりあえず握手をば。

 

「俺は荒瀬慎司、またの名を遠山の金さんってんだ」

「どっちなん?」

「荒瀬慎司」

「よろしゅうな慎司君」

「おう、こちらこそはやてちゃん」

 

 関西少女とかこの辺じゃ珍しいな。車椅子の事もあるし色々事情がありそうだ。まぁ、どうでもいいか。そんなの関係ないし。

 

「んでんで?そちらのお二人さんは?家族か?友達か?誘拐犯?」

 

 俺の冗談に2人はギョッとしながらもはやてちゃんは笑いながら家族やと答えてくれる。似てねぇなぁ……それもどうでもいいけど。

 

「ほうほう、さっきも言ったが改めて……俺は荒瀬慎司…そちらのなんでやねんさんとたった今友達になったもんです」

「誰がなんでやねんやねん」

「いや、言い辛いな……省略して省略」

「なんでやねん」

「なにがやねんっ」

「「イェーイ」」

 

 パンと両手でハイタッチ。

 

「「いや意味分からん!」」

「それはこっちのセリフです!」

 

 お姉さんからの渾身の叫びで笑い合う俺とはやてちゃん。あぁ、この子とは……なのはちゃん達と同じで波長が合って心地がいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 てなわけで、自己紹介もほどほどにスーパーに。はやてちゃんも夕食の買い出しで同じスーパーに用があった模様。ちなみ、お姉さんの名前はシャマルさんで赤髪の女の子はヴィータちゃんと名乗ってくれた。ヴィータちゃんは何故かブスッとした態度を取っていた、何か気に触る事でもしただろうか。まぁ、初対面だし致し方なし。

 

「慎司君もお夕飯の買い出しなん?」

「ああ、いつもは俺じゃないんだが今日はたまたまな」

「そうなんや今日は一人で夕飯?」

 

 そうそうと頷く。いつもは違うだがなー。さてさて、なにを作ろうかなと。お、新しい味のカップ麺見っけ。

 

「……まさかそれが今日の夕飯?」

「おう、これとプロテインが俺の夕飯で唯一作れる料理よ」

「それは料理とは言わん」

 

 まあその通り。と言っても前世の頃から料理はからっきしなのである。今世でも改善されずそのまま。まぁ、やる気がないんだからそりゃ上達はしないわな。

 

「せや、なんなら今日ウチで一緒にご飯食べへんか?御馳走するで?慎司君がよければ」

「え?そりゃ嬉しい申し出だけど迷惑じゃないか?」

「えぇってええって、一人増えた所で手間は変わらんし人数は多ければ多いほど楽しいやろ?それに、カップ麺とプロテインが夕飯って聞かされたらうちのプライドにかけてそれは許せへんしな」

「…………ママ?」

「せめてオカンって言え」

「関西のおばはん」

「あっははは……はっ倒すぞハゲ」

 

 怖い!?あとハゲじゃない!

 

「2人もそれでええよな?」

 

 食材を選んでるシャマルさんとヴィータちゃんに目を向けてはやてちゃんは同意を求める。

 

「ええ、勿論です」 

「あたしは……別に」

 

 2人は特に難色を示さなかった。

 

「ウチもこない間の親切してくれたお礼しとらんかったし……な?」

「大袈裟だなぁ……」

 

 ま、せっかく友達にもなれたし。ヴィータちゃんやシャマルさんそれに……はやてちゃん曰く家にもまだ家族がいるらしいしそのみんなとも仲良くなって友達になりたいなと思ったり。

 

「……んじゃ、お言葉に甘えてご馳走になろうかな」

「ホンマ?やった、そんなら1人分追加やね」

「あーそれと、その分の追加の料金は払わせておくれよ。そうした方が俺もはやてちゃんの料理気兼ねなく味わえるからさ」

 

 両親から預かったお金だけどな。でもそう言う事はキチッとした方がいい。

 

「別にええのに。まぁ、慎司君がそう言うなら素直に受け取るわ」

 

 そうしてもらえると助かりますよ。ちなみに今日の八神家のメニューはカレーらしくその為の買い出しをしつつ俺は3人の案内で八神家に足を運んだ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慎司君、ランニングしとったやろ?準備してる間シャワーでも浴びてな」

「え、いいのか?」

「かまへんよ。ヴィータ、案内したって」

「うん………」

「悪いな、ありがとう」

「いえいえ〜」

 

 まぁ、汗臭いままみんなの前で食事するのも失礼だしお言葉に甘えよう。途中シャマルさんとヴィータの他に以前にも見かけたキリッとした雰囲気で桃色の髪色をポニーテールで束ねた女性とアルフの獣形態を彷彿とさせる犬?狼?らしき動物を見かけたのでそれぞれ会釈だけしておいた。

 

「お風呂は…ここだ」

「ありがとうヴィータちゃん」

「……別に」

「あ、それと俺の荷物にヴィータちゃんが食べたそうにしてたアイス買って来たからさ冷凍庫に入れておいてくれる?みんなの分もあるから食後に一緒に食おうぜ」

「え?は?」

「スーパーで食いたそうにしてたろ?俺も好きなんだアレ」

 

 結構チラチラ見てたからすぐにわかった。遠慮してたのだろうか、しかし俺が準備してしまえば問題なかろうと思いついつい買ってしまった。溶かすのも勿体無いし皆んなに食べてもらわないと。

 

「お前、何でだよ」

「何が?」

「何でわざわざそんな事……」

 

 ヴィータちゃんが驚きの表情を浮かべてそう言っている。そんなに驚く事だろうか?少し疑問を抱きつつ俺はなんて事ないと答える。

 

「ヴィータちゃん達と仲良くなりたいからな、そのための親切みたいなもんさ。別に驚くような事じゃないだろ?」

「……そう言うものなのか?」

「そう言うもんさ」

 

 さて、体も冷えて来たしシャワーでスッキリさせてもらうとするか。

 

「案内ありがとねヴィータちゃん。んじゃ、また後で」

 

 そう言って扉を閉める。

 

「……………変なやつ」

 

 1人取り残されたヴィータちゃんがそう静かに呟いたのは勿論聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うめえええええええええ!!このカレー超うめええええええ!!」

「なんやそんながっつかれると照れるなぁ。カレーは逃げへんからゆっくり食べなって」

 

 苦笑気味のはやてちゃんにおうっと返事をしつつペロリと皿を空にする。シャワーを浴びてから服を借りてそれに着替えた後八神家の面々に自己紹介をしあった。ヴィータちゃんとシャマルさんはスーパーでも名前は聞いた。後の1人と一匹、キリッとした雰囲気で何だかカッコ良そうな女性がシグナムさん……犬(狼?知らね)の方がザフィーラとの事。そして八神はやて。今この面々で共同生活をしているとはやてちゃんは語った。家族全員似てないとか違和感感じまくりだけど突っ込むの無粋だし家族の形はそれぞれだ、その事に口出す権利もあるわけでない俺はその言葉を信じた。はやてちゃんはなんて事ないって顔しながら話してるけど他の皆んなは何だかそわそわしている様子だった。

 俺がいる事に何かあるのかそれとも別の理由があるのかは知らんけど。まぁ、そんな事気にせず俺はいつも通りの態度でいる事にする。

 

「慎司君まだ食い足らんやろ?いっぱい作ったからおかわりしてな」

「マジで?なんか悪いな」

「慎司君おるからついつい作りすぎてしもうてなぁ………残すのも勿体無いし遠慮しないで食べてぇな」

「なら遠慮なく」

 

 というわけで皿を持っていこうとするとシャマルさんが「私がやりますよ」と笑顔でよそってくれる。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうシャ……マルさん」

 

 おいおい、デカ盛りじゃねぇか。フードファイターじゃないぞ俺は。

 

「いくら何でも多くないか?」

「加減しろよ」

 

 シグナムさんとヴィータちゃんが苦笑気味にそう言うとシャマルさんはあわあわしながら

 

「ご、ごめんなさい」

「ええやんか、慎司君ならそれくらい食べれるやろ?」

「………おう、任せろ」

 

 そう言ってスプーンを手に取りカレーをかきこむ。

 

「流石男の子やな、ええ食べっぷり」

「そりゃどうも」

 

 まぁ、これくらいなら食べれなくはない。柔道の体作りの一環で普段からご飯は人より多く食べてるしな。

 

「……初めて会った時もランニングしとったし、見かけによらず体もがっしりしとるけど何かスポーツでもやってるん?」

「ああ、柔道やってんだよ」

「へー、そりゃカッコええな」

 

 どうもどうも、なんか照れるな。

 

「「「柔道?」」」

 

 そう首を傾げるシャマルさんとシグナムさんとヴィータちゃん。おや、知らないのかな?まぁ、外国人っぽいしおかしな事じゃないか。日本語流暢なのは気にしないでおこう。

 

「日本の国技だよ………えっとな…」

 

 げっ、俺がやってる試合の動画しかない。まぁいいか。

 

「ほら、こういうやつ」

 

 携帯に保存していた俺の試合の動画を見せる。ビデオで撮った動画を移行しているのだ。手持ち無沙汰の時に研究できるからな。ちょいと恥ずかしが。はやてちゃんも含めて皆んな食い入るように見つめる。お、ザフィーラまで後ろで見てるよ。

 

「これ、慎司君とちゃうか?」

「そうそう、右側が俺」

「おぉ……おぉ!すげぇ……」

「これは……見事な動きだな」

 

 ヴィータちゃんとシグナムさんの言葉に若干照れる。やめろって、自慢してるみたいだから。

 

「すごいですね……」

 

 シャマルさんまで……。俺が一本を取って試合が終わった所で携帯を返してもらう。皆んな少し興奮気味だ。

 

「慎司君すごいなぁ……めっちゃ強いとちゃうん?」

「まさか、まだまだだよ俺は」

「しかし、素人目だが目を見張る技の冴えだ。正直驚いたよ」

「ああ、シグナムの言う通りだ。カッコいいなお前」

「だははは、まぁありがとう。悪い気はしないよ」

 

 恥ずかしいからここらへんで話題を切っておきたい。が、はやてちゃんの次の一言で場の空気は少し固まる。

 

「ええなぁ、うちはこんな足やからスポーツ出来ひんからなぁ」

 

 俺もまだ未熟だった。そこで軽口でも返しておけばはやてちゃんに気を使わせずに済んだがつい言葉を止めてしまった。はやてちゃんもハッとした様子で

 

「ご、ごめんなぁ……失言やったわ、気にせんといて。慎司君も気を使って聞かないでくれたのにごめんなぁ」

「謝る事じゃないだろ別に」

 

 何とか言葉を絞り出す。ここでこの話を終わらせても良かったけどここまではやてちゃんが言ってしまったのならあえて聞くのもありだろう。

 

「いつから何だ?その足」

「……ちっちゃい頃からや。もう慣れたから気にせんといてなホンマに」

 

 つーことは、恐らく治る見込みはほとんどないってやつなのか。親と思われる人もいないのを見ると孤児なのだろう察しもつく。シグナムさん達はよく分からないけど。

 

「そっか……」

 

 スポーツどころか歩く事も出来ないこの女の子に俺が何を言っても傷付けるだけだ。励ましも同情もこの子にとっては辛いものだろう。だったら、俺は気にしないままでいよう。だからこそ、こんな提案する。

 

「だったらさはやてちゃん、今度俺の試合見に来てくれよ」

「慎司君の試合?」

「ああ、まだ少し先の話だけどさ…まぁまぁ大きい大会に出るんだ。暇だったら見に来ないか?」

「え、ええんか?」

「勿論、確かにはやてちゃんは普通のスポーツは出来ないかも知れないけどさ、スポーツの楽しみ方ってする事だけじゃねぇだろ?見る事だって楽しめるのがスポーツだよ。…………俺が、はやてちゃんを楽しませる試合を見せてやる」

「あはは、大きく出たなぁ……そんな事言って平気なん?」

「おう、約束してやんよ。ぜってぇ生で見てよかったって言わせてやるよ」

「慎司君男らしくてカッコええね、惚れてまうわ」

「嘘つけ、笑い堪えてんじゃねぇか」

「あ、バレた?」

「「あははははは」」

 

 2人して笑う。俺の友達は皆んな笑顔がよく似合う。その方がいい。笑ってる方が……いい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後はアイスでも食べながらはやてちゃんと中心に話をした。実は関西出身じゃないって言われた事が一番驚いた。嘘だろおい、関西弁なのは両親の影響だという。その両親も既に亡くなっている事も教えてくれた。シグナムさん達の事は何だかはぐらかされたが別に無理して知りたいわけでもないしな。

 はやてちゃんだけじゃなくてヴィータちゃんやシグナムさんとシャマルさんとも結構お話できたと思う。シグナムさんはしっかりしてる人だって事がよく分かった、シャマルさんは割とお茶目な所もある事を知った、ヴィータちゃんはムスッとしてるけど優しい子だって事を理解した。今日で割と皆んなと仲良くなれたと自負している。ああ、楽しい1日だった。

 

 時間を見てはやてちゃん達に別れとまたお邪魔する事を約束して八神邸を後にする。新しく出来た友人達に心を躍りながら帰っていると後ろから荒瀬……と声をかけられる。振り返るとさっき別れたばかりのシグナムさんとシャマルさんにヴィータちゃん、ついでにザフィーラがいた。はやてちゃん以外の面々が勢揃いだ。

 

「あれ?何か忘れ物でもしたかな?」

 

 所持品を確かめるが忘れ物は特になさそうだが。

 

「荒瀬……ありがとう」

 

 突然シグナムさんからお礼を言われる。

 

「ある………はやてにはお前のような同世代の友人がいなくてだな。またはやてとこうやって会いに来て欲しい」

 

 何だそういう事。家族思いの優しい人達だ。

 

「当たり前よ、俺が会いたいくらいさ……今日はめちゃ楽しかったからな」

「そうか……それならよかった」

 

 それだけだとシグナムさんが言うと皆んな踵を返そうとする。

 

「待てよ!何か勘違いしてるみたいだけど……俺ははやてちゃんに会いに行くんじゃないぞ?皆んなに会いに行くんだからな!」

 

 俺のその言葉で止まる一同。意味が分からなそうな顔をしているから改めて言葉にする。

 

「だーかーらー、はやてちゃんだけじゃなくてシグナムさん達と一緒なのも楽しかったって言いたいんだよ」

 

 全員に近づいて俺は宣言するように口を開く。

 

「お前らがそう思ってなかったとしてもこれからははやてちゃんだけじゃなくて皆んなも勿論友達だからな!今日は何か遠慮してあんまり話に入ってこなかったけど次はちゃんとお話ししてくれよ」

 

 笑顔を見せて約束だからなと伝える。今日のこの3人の態度には違和感があった。別に俺を邪険にしてるわけではなかったけどなるべくはやてちゃんと話をさせようとしたりとかそんな素振りがあった。気を使ったつもりだろうがとんでもない、俺ははやてちゃんも勿論皆んなと仲良くなりたいのだ。

 

「それと!荒瀬じゃなくて慎司でいいよ、いやそう呼んでくれ。その方が親しみあんだろ?」

 

 俺の言葉に3人は驚きの表情を浮かべる。フェイトちゃんもそうだったけどどうしてか俺の友達になろうって初めて言われたみたいな反応する子多いんだろう。

 

「あ、もちろんザフィーラもな。お前も友達だぞ、忘れんなよ」

 

 そう言って大きすぎるこの大型犬を撫で回す。それにしても大人しいな、嫌がるそぶりも喜ぶそぶりも見せねぇ。

 

「そうか……なら私の事もシグナム……そう呼んでくれ。その方が………親しみがあるんだろ?」

「あ、それなら私もシャマルって呼んでくれるかしら?」

「アタシも……ヴィータって……」

「ああ!改めてよろしくな、シグナム、シャマル、ヴィータちゃん」

「おい、アタシだけ変わってねーぞ」

「ヴィータちゃんはヴィータちゃんの方が親しみあるししっくり来るんだよ」

「まぁ……それならいいけどよ」

 

 ああ、よろしく頼むな。こうやって仲良くなっていけたら嬉しい。

 

「んじゃ、今度こそまたな。今日は本当に楽しかったよ!」

「私達も今日はお前と会えて楽しかった。また私達の家に遊び来てくれ、慎司」

「またね」

「またな」

「ワン」

 

 おお、ザフィーラが鳴いた。にしても下手くそなワンだな、返事を返してくれたのは嬉しいけど。お前本当に犬か?まぁいいけどさ。

 手を上げて別れを告げる。踵を返して歩を進め3人と一匹に見送られて帰路に着いた。後ろを向いた俺には分からなかったけど、何にも事情を知らない俺には知る由もなかったけど…………

 

 

 

 

 守護騎士達は今日、主はやての前以外で初めて心の底から笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 





 
 さぁ始まりましたエース編。頑張ります!


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応援とエールと励ましと



 眠いぜ、暑いのはしょうがない。寝にくいのはしょうがない。ただし蚊よ、てめーはダメだ


「甘いぃぃ!!砂糖をたっぷりのコーヒー牛乳より甘いぞヴィータちゃんんんん!!」

「や、やめろ!それだけはやめてくれ!」

「ふふふ………シールドブレイクされてピヨっちまったら最後……これの餌食だぁ!!」

 

 

 ファルコン……パーンチ!!

 

 

「あああああ!!また負けたぁー!」

 

 頭を抱えてorzになるヴィータちゃん。ただ今絶賛八神邸で俺が持ってきたスマブラをプレイ中。ふふふ、俺にタイマンで勝とうなんざ100年早いぜヴィータちゃん。

 

 八神家族と知り合ってから少し経ってあれから何度もお邪魔をしている。ゲーム持っていって皆んなでプレイするのも今日が初めてじゃない。最近前にも増して両親が家を空けるようになりそれを聞いたはやてちゃんはその時は一緒にご飯しようとせがまれてしまったのでこうやって甘えている形である。

 いや本当に感謝です。両親にそんなに忙しくて大丈夫なのかと一度話をしたが2人とも大事な用事だからしばらくこんな感じになってしまうと謝っていた。謝る必要はないけど子供としては心配だ、何事もない事を祈ろう。

 

「くそっ、慎司もう一回だ!」

「いいねいいね!もっと悔しさに顔を滲ませてやろう」

「どんなキャラやねん」

 

 プレイ画面を見ていたはやてちゃんからそんなツッコミが飛んでくる。

 ふふふ、負けず嫌いのヴィータちゃんだ。こんくらい煽れば料理もしやすくなると言うもの。よし、俺は永遠の二番手で行こう。ちなみにヴィータちゃんはデデデをよく使う。今回もそれだ。何が気に入ったのだろう?ハンマーかな?まさかな。

 

「この!この!この!」

 

 あーあー、動きがまだ単調だなぁ。まぁ、始めてからそんなに経ってないし仕方ない。問答無用で吹っ飛ばす!

 

「復帰阻止メテオじゃオラァ!」

「あー!ずるいぞ!!」

 

 ずるくなーい。テクニックと戦略でーす。

 

「くそぉ……慎司強すぎだろ」

「年季が違うからね年季が」

 

 こちとら前世からやってるんじゃ、そりゃ負けれねぇですわ。

 

「んで?まだやる?」

「………今日はもういいや」

「ごめんて、拗ねんなよ」

「拗ねてねぇ!」

 

 あー、怒んなって。

 

「それなら今度は私が相手となろう……ポケモンでな」

「お、シグナム……やっとメンバー選び終わったのか?」

「ああ、慎司からアドバイスを貰ってポケモンを育て直した。今度こそは負けないぞ」

 

 よーしいいだろう。スマブラの電源をOFFにして今度はポケモンを起動する。ちなみにシグナム達は皆んなそれぞれポケモンをゲーム機本体ごと持ってるらしい。俺のせいで八神家ではゲームがちょっとしたブームになってるらしくはやてちゃんが笑いながら自分の分も含めて全員分のセットを買ったらしい。なんかごめん、家計平気かな?何かはやてちゃんの亡くなったお父さんの知り合いから結構な援助を受けてるって言ってたけど。

 はやてちゃんは殆ど余って使い所に迷っていたらしくちょうど良いとは言っていたけども。

 

「よし、三対三のシングルバトルでいいな?」

「ああ、それでいい」

「やっちまえシグナム」

「頑張りー2人とも」

 

 ヴィータちゃんの私怨の応援に苦笑しつつ俺もポケモンを選んで対戦スタートさてさてどんな構成にしてきたかな?俺の初手はとくこう速攻型のブーバーン。シグナムは………

 

「おっ!ギルガルドか!」

 

 中々手強いポケモンだぞ。けどうまく使いこなせるのか?ギルガルドは攻守切り替えの出来るポケモン。攻撃形態になれば攻撃が上がるけど防御は下がる、キングシールドという固有技を使って自身を守りつつ防御形態に戻れば基本的には殴られ強い。セオリーなら、防御形態でパラメータを上げる技を使いチャンスを見て攻撃を仕掛けるのが理想だが。

 

「ちょ、バカお前」

 

 初手でかげうちやって来やがった!バカ!このバカ!かげうちは素早さが遅くても先制を取れる素早さが遅いギルガルドには選択としては悪くない技だが使うタイミングがおかしい!攻撃技選んだら攻撃形態になって次のターンまではそのままだからパラメータ上げられる前に攻撃技選択した俺のブーバーンが

 

「なっ!?」

 

 なっ!?……じゃねぇよ!当然だよ!みそっかすのとくぼうで俺のブーバーンの火炎放射くらえば終わりだよ!とくこうに努力値全振りしてんだから!しかも効果抜群だし。

 

「なぁ、シグナム。参考までに今のギルガルドの技構成教えてくれよ」

「ああ、ええっと……かげうち、アイアンヘッド、せいなるつるぎ、ギガインパクトだな」

 

 ドアホー!攻撃技しか入ってねぇ!つるぎのまいどころかキングシールドすらいれてねぇ!完全にギルガルドの個性殺しにかかってんじゃん!何がしたいんだお前は!

 ………まぁ、ゲームっていうのは好きにやるもんだしとやかく言うものじゃ無いけどそれにしたって酷い。

 

「まぁ、気を取り直して次だ。このポケモンは今のようにはいかないぞ慎司」

 

 不敵にニヤリとするシグナム。意外とポンコツかこいつ?しっかりしてそうでポンコツか?

 

 

 

 

 

 予想通りポケモンの個性を殺しにかかってるシグナムの戦い方は俺の相手にならず無残な結果に。我慢できずに俺も苦言を呈した。

 

「まずギルガルド!キングシールドないのは論外!あっても初手かげうちなんてするのはお前くらいだよ!」

「し、しかし先制攻撃が」

「出来ても威力弱いから意味ないの!その後無防備にやられる確率の方が高いの!その為のキングシールドとつるぎのまいなの!」

「……ちまちました闘いは性に合わなくてな」

「その流れだけでちまちま言うな!」

 

 戦闘狂かお前は!

 

「とにかく!ギルガルド育てなおせ、せめて技くらいはやり直せ」

「ぐっ………分かった。慎司に負けっぱなしなのは嫌だしな」

 

 俺が言うのも何だけどゲームだからそんな深刻に考えられても困るけど。

 ちなみにその後自信満々にシャマルさんからポケモン勝負を挑まれたが編成がピクシー、ハピネス、プクリンとなんとも偏った編成だった。ていうかまん丸ピンク系ポケモンが好きなだけだろ。とりあえず、八神家の皆んなゲーム下手なのがよくわかった。まぁ、今後とも鍛え上げるつもりで遊ぼう。うん、あまりに酷いからね。何だかんだ楽しんでくれてるしいいだろう。

 

「ほな、そろそろご飯にしよか」

 

 いつの間にか台所で料理を終えていたはやてちゃんにそう呼びかけられる。わお、いつの間に。以前手伝おうとしたのだが頑なに断られたなぁ。カップ麺を料理言うやつには安心して任せられへんだって。酷いよね、その通りだけど。あ、今日はシチューだ。皆んな席に着いたところで全員でいただきますと手を合わせてから料理を口にする。

 

「うおおおお!やっぱりうめぇなぁはやてちゃんの料理」

 

 俺だけじゃなくシグナム達も満足気に口に料理を運ぶ。やっぱり場数をこなしてるはやてちゃんの料理の腕は同い年とは思えないほど美味しい。

 

「やっぱオカンだよはやてちゃん」

「あはは、全然嬉しくない言葉やね」

「………ママ?」

「それを慎司君に言われるのは嫌やなぁ」

「くされ外道」

「なんでやねん」

 

 はやてママのツッコミは今日もキレッキレである。あ、ヴィータちゃんがちょっと笑ってる。楽しめたのならなにより。

 

「慎司君、今日も練習やったんやろ?大変やなぁ」

「大変じゃないさ。勝つ為の努力だからな、練習はキツいし疲れるけどその為だったら惜しくないさ」

 

 スポーツにおいての努力は所詮試合に勝つ為の努力だ。試合の勝つのが全てではない……俺もそうは思うが柔道家として一番の目的は試合に勝って強くなる事なのだから全てではなくても勝てなければ意味はない。

 それが現実だ。その事を俺はよく理解している。

 

「んで慎司、お前が言ってた試合はいつなんだよ?」

 

 シチューを呑み込みつつヴィータちゃんがそう問いかけてくる。そういえばまだ教えてなかったか。

 

「2週間後だよ」

「そっかぁ、2週間後かぁ、楽しみやね皆んな」

 

 はやてちゃんの言葉に皆んなうんうんと頷いている。

 

「私達もお前の活躍を見れる日を楽しみにしている。頑張れよ、慎司」

 

 シグナムからのエールにおうっと答える。約束したんだ、情けねぇ試合は見せられねぇ。そうじゃなくても、今度の試合はいつにも増して負けられないからな。

 

 

 

 

 

 ご飯もご馳走になり少しだけ八神家でゆっくりしてから皆んなに見送られ帰路につく。またすぐに来ることになりそうだ。世話になりっぱなしなのは申し訳ない気もするが、シグナム達との約束もあるししばらくはこんな感じでいいだろう。

 

「にしても、はやてちゃんには参ったなぁ」

 

 1人そうぼやく。別に悪口ではない、ちょっと困った一面を先日聞いたのだ。はやてちゃん達と知り合って何度も遊んで交友を深めたのでそろそろいいかなとなのはちゃん達を紹介しようと考えていたのだ。シグナムが俺と知り合う前は同世代の友達はいないって言ってたしきっと皆んなともが仲良くなれると思ったから。そう思いシグナム達にも相談したんだが

 

「私もそれには賛成だ。しかしな……」

 

 乗ってくれると思ったのだが以外にもシグナムは苦い顔を浮かべる。なんだ?何か問題が?

 

「……見てもらった方が早いだろう」

 

 そう言って八神家の台所に案内される。

 

「これを見てくれ」

 

 そう言ってそこにある冷蔵庫を開いて見せるシグナム。

 

「………なんじゃこりゃ」

 

 中には食材という食材がこれでもかとギュウギュウに詰め込まれていた。確かに八神家はザフィーラを除いて4人、冷蔵庫の中は必然と多くなるものだがそれでは説明できない程の量だ。

 

「これだけじゃない」

 

 そう言うとシグナムはもう一つ同じサイズの冷蔵庫を開ける。

 

「あれ?冷蔵庫って2つもあったっけ?」

「我がある………はやてがな最近買い足したんだ」

 

 我が……なんて言おうとしたんだ?まぁいいか。それにしても何故?そしてこの冷蔵庫にも恐ろしい量の食材やら何やらが埋め尽くされていた。自然と顔が引きつる。

 

「こういうことだ」

「どいうことですかねぇ?」

 

 シグナム曰く俺が足げに通うようになってからすぐに冷蔵庫を増やして食材はそれはもう必要以上に買い込むようになったらしい。その時はやてちゃんは

 

『慎司君は柔道もやってるし一杯食べさせたいからなぁ。これくらい必要やろ?』

 

 多すぎです!バカか!何でだよ、俺のためって言われると罪悪感だよ逆に!お金は!?生活平気なのほんと?

 

「そこら辺は心配しなくていい。蓄えは本当に余ってるみたいなんだ」

 

 だからって……うーん。

 

「こんな事は初めてでな。我々も正直戸惑っている、恐らくだが初めて出来た同い年の友達にテンション上がって暴走しているのだろう」

「暴走の域を超えてるよな絶対」

「とにかく、はやてに慎司の友人を紹介するのは少しの間待って欲しい。今の状態で同い年の友達が増えたら……何をするか分からん」

「皆んなと過ごせるようにもっと大きい家買うとか言い出さないだろうな?」

「………………」

「否定してくれ」

 

 とにかく、はやては根はしっかりしてる子だからしばらくすれば落ち着いて冷静にまともになってくれるだろうとシグナムは言う。それまでは待っててくれとの事。勿論今まで通り八神家には顔を出して欲しいとシグナムからお願いされた。

 いや、本当……金尽きる前にちゃんと頼むよ?本当。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はは、はやてちゃんも中々面白いな」

 

 そんなやり取りがあった為なのはちゃん達を紹介する事になるのは先になりそうだった。まぁ、慌てる事じゃないし気長に待とう。八神家の財産が心配だがまぁ本当に大丈夫だって言ってたし心配するのも野暮か。さて、明日も学校だし帰ったら支度してさっさと寝よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、学校の休み時間。

 

「ねぇねぇ慎司君、試合……いつだっけ?」

「……2週間後」

「そっか、ありがとう」

「おう」

 

 そう言って自分の席に戻っていくなのはちゃん。しかしそわそわしだしたかと思うとまた席を立ってこっちに来る。

 

「ねぇねぇ慎司君、今度はどんな大会?」

「……割と大きい大会。この間なのはちゃんが来れなかった試合と同じくらいの規模かな」

「そうなんだ、分かった。ありがとう」

「ああ」

 

 そう言ってパタパタと席に戻るなのはちゃん。しかし、またそわそわしだし先程と同じようにこちらに戻ってくる。

 

「ねぇねぇ慎司君、会場はどこかな?」

「県立武道館、なのはちゃんも応援に来てくれた時に何回か来たところ」

「あの大きい武道館なんだ、わかった!」

 

 軽い足取りで自分の席に戻るなのはちゃん。席に座った瞬間にまた立ち上がってこちらの席に

 

「ねぇねぇ慎」

「だぁ!!何でお前が俺よりそわそわしてんだよ!」

 

 俺の叫びになのはちゃんがピクッと驚く。

 

「そ、そんな事ないよ!」

「そんな事あるよ!しかもまだ2週間前だぞ?俺だってそんなそわそわしてねぇよ!」

「しょ、しょうがないじゃん!なのはだってすごい楽しみなんだけどなんだか緊張しちゃって……」

 

 なーんでお前が緊張するんだよー?

 

「まぁまぁ2人とも落ち着いて、ね?」

「そうよ、なのはが慎司の柔道の事になると挙動不審になるのなんか今更じゃない」

「挙動不審!?」

「まぁ確かに」

「納得しないで!?」

「いやするだろ」

 

 一部始終を見ていたアリサちゃんとすずかちゃんはうんうんと頷く。だってよぉ

 

「なのはちゃんこの間の大会の前日も私とアリサちゃんに夜中にずっとメールしてきたし」

「緊張して寝れないーって私達に言われても困る内容をね」

「うぅ……ごめん。なんかテンションがおかしくて」

 

 何してんだ本当に。

 

「それに、桃子さんから聞いたぞ、いつも俺の大会の近くになると……高町家の道場で正座で暴れ回ってるってな」

「「奇行!?」」

「ち、違うもん!ちょっと柔道の動きとかマネしてるだけだもん!」

 

 どちらにしても奇行だよ。影響受けすぎだってなのはちゃん。

 

「なのはちゃんが慎司君の柔道応援したい気持ちが大きいのは分かるけど……少し落ち着いた方がいいよ?」

 

 すずかちゃんにハッキリと言われなのはちゃんは涙目になりながら

 

「うぅ、気をつけます……」

 

 と綴った。まぁ、応援してくれる気持ちは毎度のこと嬉しいけどさ……。

 

「でも、慎司最近優勝続きで調子が良いんだし今回の大会も楽勝でしょ?」

 

 確かに小さな大会が続いていたとはいえ優勝という結果が安定してきたが油断は出来ない。それに、今回は今までの大会で一番優勝が過酷になると思う。

 

「そうはいかねぇさ、勿論優勝する気で出場するけどさ……今回の大会はアイツもいるんだ」

「アイツ?」

「『神童隼人』………なのはちゃんが来れなかった大会の決勝戦の相手だよ」

「あぁ!あのすごい強かった人だね、覚えてるよ」

 

 すずかちゃんの言う通り俺が今世で相手した柔道家ではこの神童が1番の強敵だった。後から知った事だがアイツは全国クラスの選手だ、正直言ってアイツにとってはこの間の県大会レベルの大きな大会も肩慣らし程度の気持ちだったのだろう。しかし、接戦とはいえ俺の勝利に終わった。無警戒の相手だった俺に負けたのだ、目を付けられたのは確実だろう。

 一度勝った相手には初戦より次から勝つ方が難しい、それに前回は俺が優勝するには必然的に当たる事は分かってたから映像なんかを調べて研究もしていた……今度は五分五分の条件になるだろう。正直、厳しい勝負になると思う。無論俺も努力はしている……前より質の高い練習をこなし自主練も減らさずサボりもしないで勝利の為に貪欲に頑張っている。だから、負けるつもりは毛頭ない。

 

「確かに強かったけど……」

 

 少し不安げな顔をするアリサちゃんにニコリと笑顔を向ける。アリサちゃんまでそんな顔しなくていいんだよ、気を使いすぎだ。

 

「そんな顔すんな、負けるつもりはねぇ。一度勝った相手に負ける訳にはいかねぇからな」

 

 と言っても簡単な相手じゃないのは確かだ。油断なんて以っての他。俺のベストを出し尽くさないといけない。

 

「慎司君なら大丈夫だよ!」

 

 満面の笑みでそう言うなのはちゃんに俺はどこからそんなハッキリ言える自信があるんだよと苦笑しながら言う。しかしなのはちゃんは笑顔を崩さないで

 

「だって、慎司君だもん。慎司君なら勝てるよ、私は慎司君が負けるなんて思ってないもん」

 

 表情を変える事なくそう言い切るなのはちゃんを見て俺達3人は視線を絡ませて苦笑してみせる。

 

「えっ?私変な事言ったかな?」

「ううん、なのはちゃんの言う通りだよ」

「そうよ、なのはの言う通り慎司が負けるなんて思わないわよね」

 

 お前らさぁ………。まぁ、ありがとよ。

 

「そんなら、俺はその3人の期待に応えないとな」

「勿論よ、負けたら承知しないんだから」

 

 ああ、と頷く。自然と、強張っていた思考が何となく解きほぐれたようにリラックス感覚に変わっていた。いつも、大会でいい結果出せてるのは3人の支えもあるんだなって思えた。

 

「頑張ってね慎司君!いっぱい応援するから!」

「はは、おうよ。けど、まだ気が早いよ」

「にゃはは、そうだった」

 

 そんな感じで試合が近くになると3人からの激励も毎度の事だったりするのだがそれで勇気づけられるのは確かだった。しかし、その数日後………

 

 

 

 

 

 

 

「え?試合来れないのか?」

「うん………私だけじゃなくてお父さんとお母さんも……あとお兄ちゃんとお姉ちゃんも」

 

 学校でなのはちゃんからそんな言葉が飛び出た。高町家全員か、今までそんな事無かったから驚きだ。なのはちゃんから詳しく事情を聞いてみると何のことない翠屋で団体のお客様のお相手をしなくちゃいけないそう。しかも、団体と言っても翠屋の席が全て埋まる規模で貸し切りとなるそう。いつも俺の応援の為に社員に任せて高町ご夫妻は店を空けるそうなのだが今回は大切なお客様らしくそうも行かなくなったらしい。そもそも俺の柔道の応援よりお仕事の方が大事なのだ。

 あまりに忙しくなるのでなのはちゃんもお手伝いに回るそうな。高町家総出のお仕事になるそう。

 

「ごめん〜。私慎司君の応援行きたかったんだけどお父さん達も人手が欲しいみたいで」

「きにすんなって、そもそもそっち優先した方がいいに決まってんだから。俺は高町家の皆には十分応援されてるからさ、ちゃんと優勝してくるからなのはちゃんも頑張れよ」

「うん……」

 

 と言ってもなのはちゃんは残念そうだ。本当に楽しみにしてくれてたんだなって思うと嬉しいような申し訳ないような感じだ。

 

「なのはも来れなくなっちゃんたんだ、慎司の応援」

 

 俺となのはちゃんが話しているとアリサちゃんとすずかちゃんもその輪に入ってくる。

 

「なのはもって……もしかしてアリサちゃんも慎司君の応援来れなくなっちゃったの?」

「うん、私だけじゃなくてすずかも」

「すずかちゃんも?」

「うん……実はそうなんだ」

 

 なのはちゃんが来れなくなった話を聞く前にアリサちゃんとすずかちゃんも来れなくなったって話をしていた所だった。アリサちゃんもすずかちゃんも習い事関係でどうしても外せない用事が出来てしまったと謝ってきた。謝る必要はないんだけどな、俺の事より自分の事を優先して欲しい。というかそれが当たり前なんだよね、皆俺の事優先しようとしすぎだよ。嬉しいけどさ……。

 

「そっかぁ………アリサちゃんとすずかちゃんも行けなくなっちゃったんだね。それだと今回の応援は慎司君のご両親だけなんだ」

 

 俺と同じようにアリサちゃんから事情を聞いたなのはちゃんがそうぼやく。

 

「あー………」

「どうしたの慎司君?困った顔して」

「あ、いや……すずかちゃん、困ってる訳じゃないんだけどさ」

 

 実はな……両親も来れないんだよね。今回の大会。理由はお察しの通り最近ずっと家を空けてる理由と同じだ。パパン男泣きしてたな。泣くなよ恥ずかしいから。

 

「えー、じゃあ今回慎司は1人なの?」

 

 そんな俺の両親の事情も簡単に説明を聞いたなのはちゃんはそう不安そうに聞いてくる。

 

「んな事ねぇさ、いつも通り相島先生も来てくれるし同じ道場の皆んなも一緒だ。1人って事はねぇさ」

 

 それに………なのはちゃん達には都合上まだ紹介できないから言えないけど今回は八神家も応援に来てくれる。会場で鉢合わせた時にはどうしたもんかと少し悩んでいたのだが望まぬ形でその事については悩まずに済むようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「っ!」

 

 組み手争い。柔道の試合において最初に始まる攻防、これの結果でその後の試合の流れが決まると言ってもいい。相島先生と直々の組み手の実践練習でレベルの違いを感じつつも何とか食らいついて励む。今回の大会で優勝するには必ず当たる事にはなるだろう神童隼人には一瞬の隙も見せる事は許されない、最初が肝心とはよく言ったものでこの組み手では絶対に完敗されるような事態には出来ない。技の精度を高めるのも大事だが組み手も試合における重要な技術なのだから。

 練習は苛烈さを増していた、俺がその神童を意識するが故だろう。自然と熱も力も入る、途中何度か相島先生に落ち着けと忠告されるが落ち着かない気分は抜けなかった。組み手争いだけではない、立技の練習においても寝技の練習においてもこれでもかと気合を入れて練習に励む。

 

 

 

 

 道場の練習が終わりその後の相島先生と自主練を終えても気持ちが落ち着かない。大会前はいつも神経質になりがちな俺ではあるが今回はそれの比ではなかった。そして帰り支度をする俺に相島先生が俺に話があると真剣な面持ちで言われ俺は手を止めて相島先生に連れられ別室に。向かい合って互いに椅子に腰かける。

 

「悪いな、疲れてる所」

「いえ……」 

 

 わざわざ話があると前置きをしてきたという事はそれなりに真面目な話だろう。予想はつくが。

 

「話っていうのは『一本背負い』の事だ」

 

 やはりか。そろそろ言われる頃合いかなと危惧していた。

 

「お前がどんな技を使おうがお前の自由だ、ちゃんと精度を高めて実践向きに仕上げるのならな……そのために必要なら勿論俺も協力する」

 

 俺が今、多くの技を使えるよう指導してくれたのは相島先生だ。この人の協力なしで俺のこれまでの功績はなかっただろう。

 

「あの大会でお前が見せた一本背負い……あれ以来練習でも大会でもお前は使わなかった。理由を尋ねてもお前はだんまりだしな」

「…………すいません」

「いや、それはいいんだ。全く一本背負いの練習をしてなかったお前になんであんな熟練とした一本背負いが出来たことやなんでそれを使わないのか色々気にはなっているが慎司が話したくなければそれで構わないんだ。大会も近づいてきたからな、俺が聞きたいのは一つだ……今後慎司が一本背負いを使うのかどうかだ」

 

 息をのむ。自然と体が強張り力が入ってしまう。落ち着け……落ち着け……。この問答には相島先生の中で今後の俺への指導方針にも関わっていると思われる。使うか使わないか……答えは決まっている。

 

「使いません」

 

 淀みなくそう答えられた。そもそも例の大会でも一本背負いを使ったのは本意ではなかった。朦朧とする意識の中で負けるわけにはいかないと心で叫び続けていた俺が前世で一番使い一本をもぎ取ってきた一本背負いを無意識でかけてしまったのだ。本来なら今世ではずっと使うつもりがなかった技だったのだから。

 

「そうか……わかった」

 

 慎司がそう言うならと相島先生はなにも聞かないでそう飲み込んでくれた。

 

「しかしな慎司……」

 

 先生は俺を真っ直ぐに見つめて強い口調で言い放つ。

 

「神童隼人は全力を出さなければ絶対に勝てない相手だぞ」

 

 それだけ言うと相島先生は大会も近くなってきてるから早めに休むようにと俺に言いつけて話を終えた。俺は一礼してから道場を後にして帰路につく。………そんな事は俺だってよく分かってますよ、相島先生……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうかしたの慎司君?貴方の番よ?」

「えっ?あ、ごめんごめん」

 

 シャマルに呼ばれボッーとしてた意識が覚醒する。練習の後また八神家にお邪魔してご飯を頂いたのだ。食後には皆んなで丸くなってトランプのババ抜きを嗜んでいた。慌ててシャマルが構えていたカードを引き抜く。げっ、ババだ。

 ゲームはそれとなく進んでいき最終的には俺が最下位となって終わる。

 

「あーあ、負けた負けた」

 

 そう言って乱雑に置かれたトランプを整理して元に戻す。軽くシャッフルしながら次はどうする?と皆んなに問いかけると何故だか難しい顔をしていた。手を止めて俺は

 

「皆そんな顔してどうしたんだよ?」

「いや………慎司が負けんのが珍しいからよ」

 

 ヴィータちゃんがそう言い淀む。確かにこのメンツだとそうかもだけどそんな驚くことでも無いだろうな。何か別の事を言いたげな様子だ。

 

「ヴィータちゃんらしくないなぁ……ハッキリ言えって照れ屋さん」

「……茶化すなって」

 

 あー、ごめん。シリアス嫌いなのでね。

 

「……お前なんか変だぞ?」

「変?」

「変ていうか……ボーッとしたりいつもより考え事してる気がする」

「うーん……」

 

 まぁ、相島先生とのやり取りで色々思うことがあったのは事実だがそんなあからさまに態度に出てたのか。俺もまだまだ子供だな。

 

「まあ、大したことじゃねえよ。それより続きだ続き」

 

そう告げてトランプを配って話を終わらせる。せっかく皆で楽しんでるんだ、少しでも空気が変わるような内容は避けたかった。

 

 

 

 

 

 少しトランプやらゲームやらを皆で楽しんだ。そんな中でも頭の片隅には今日相島先生に言われた言葉がよぎっていた。もう決めたことをぐちぐち考えてもしょうがないけどな。それでも、つい考えてしまうのは俺の意思が弱いからかね。

 今俺はゲームで俺に連敗して悔しくて俺抜きで特訓しているシグナムとヴィータちゃん、シャマルをはやてちゃんが用意してくれたお茶をソファに腰掛けすすりながらボーッと眺めている。そんな俺の隣にはやてちゃんがよっこらせとおじさん臭いことを呟きながら座る。

 

「皆楽しそうやね」

「はやてちゃんも特訓すれば?」

「ウチは勝てなくても一緒にやれればそれでええんよ」

 

 そんなもんか。まぁ、勝ち負けよりは皆んなでやる事の方が大切だもんな。

 

「なぁ慎司君」

「うん?」

「試合前でちょっとピリピリしてるなら……無理してウチに来んでもええよ?」

「………すまん、迷惑だったかな?」

「ちゃうちゃう、何でそうなるんよ。じゃなくて、ウチに気を使わんで家で1人で落ち着きたかったらって意味よ。慎司君が来るのはウチはいつも楽しみにしてるんよ?迷惑なんて思った事ない」

 

 すまんすまん。わかりきってた事だよな。無理して来なくて良いってはやてちゃんのセリフじゃないだろうに。色々世話になってるのは俺なのにな、俺の友達はいい子ばかりだ。

 

「迷惑じゃなければ……試合前でもお邪魔させてくれないか?皆んなとこうやって楽しんでる方がリラックス出来るんだ」

「勿論、大歓迎よ。皆んなも」

 

 ゲームに熱中してる自身の家族を愛おしそうに眺めながらはやてちゃんはそう言う。あ、ヴィータちゃん負けて悔しそうに地団駄踏んでる。

 

「………皆んなも慎司君が心配なんよ」

「心配?」

「うん、ウチらを試合に誘って変にプレッシャーを与えてないかって」

「……俺が自分で誘ったんだぜ?」

「それでもや、ウチら皆んな楽しみにしとるけど……楽しませる言うてくれた慎司君がウチらのせいで悩むのは本意じゃないんよ」

「…………試合前は少々ナイーブになりがちなんだよ毎回。はやてちゃん達が来てくれるのは寧ろ気合いが入って助かってるんだ」

「そかそか、それならええんやけど」

 

 そんな風に勘違いさせてしまったのか。それは悪い事をした。心ももっと強くならないとな……俺。

 

「まぁ、素人のウチからは慎司君に何言うても仕方ないけど……これだけは言わせて欲しいんよ」

「何だよ?」

「………頑張れって」

「………」

 

 照れ臭そうにはやてちゃんが微笑んだ。その一言はありきたりだけど誰かを応援する気持ちを伝えるのには1番の言葉。頑張れ……か。そうだな、何を思おうと悩もうと試合で出来る事はただ一つ。全力で頑張る事だけだ。一本背負いがどうとか神童がどうとか関係ないよな。分かってるはずなのに分かってなかった。俺はただ、全力をぶつけるだけでいいんだ。一本背負いを使わなくとも、神童と当たる事になろうとも……ただ全力で柔道をするんだ。

 

「……あぁ、頑張るよ」

 

 俺はとても穏やかな気持ちでそう告げた。……誰かに励まされてばかりな俺だけど、それは柔道で返そう、カッコいいところを見せてやろう。すごい所を見せてやろう。爽快な一本を見せてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間も時間なので八神家を後にして帰路につく。先程とは打って変わってとても穏やかで落ち着いた気分だ。吹っ切れればなんのその、試合までの残り期間全力で練習に取り組んで準備しないとな。

 少し歩いた所で後ろから走ってくる足音と俺の名を呼ぶ声が聞こえた。ヴィータちゃんだった。

 

「あれ?どうしたのヴィータちゃん?」

 

 結構全力で走ってきたみたいだけど意外と体力あるのか息切れ一つせずに俺に手に持ってるものを手渡してくる。

 

「ほら、忘れもんだよバーカ」

 

 あ、携帯!しまった、はやてちゃんの家に落としてたのか、あっぶねぇ。気づかなかったぜ。

 

「すまんすまん、助かったよ。ありがとな」

「おう、気を付けろよ」

 

 そう言ってムフーとするヴィータちゃんに苦笑しつつ携帯を受け取る。一応連絡とか特に来てないことを確認してからポッケにしまう。

 

「わざわざありがとねヴィータちゃん、そんじゃまた」

 

 立ち去ろうする俺をヴィータちゃんが「なぁ」と一言で呼び止める。その表情は何だか落ち着いてない様子でつい考えなく呼び止めてしまった事が窺える。

 

「どうした?」

 

 落ち着けという意味も込めてゆっくりと穏やかにそう告げるとヴィータちゃんは照れ隠しのように頭をかきながら口を開く。

 

「その……何だ、お前の試合……アタシ達皆んな楽しみにしてるからよ。頑張れよ」

「………ああ、勿論だ」

「……慎司は勝つか負けるかで色々その……考えてるかもだけど……その、何て言ったらいいのかな」

 

 頭を捻って考えて考えて言葉を紡ぐヴィータちゃん。しかし思うように言葉が出なくて「ああもうっ」と堪えずにそう吐き出す。そんな様子が面白くて自然と頬が緩んだ。

 

「と、とにかく!何かその……悩み?とかそういうのあったら言えよ!アタシが聞いてやるからさ」

 

 今日の俺の様子に敏感に反応していたヴィータちゃん。ヴィータちゃんは結局俺の内心なんぞ分かる訳もなく少しトンチンカンな事を言って来る。けど、言いたい事はよくわかった。分からないけど、どうすれば、何を言えばいいか分からないけどとにかく何かあるなら力になると。俺の様子を見て心配になってそう言ってくれてるんだ。

 

「ははっ、ありがとうよ。でも大丈夫だ、心は決まったよ………心配してくれてサンキューな」

「し、心配なんかしてねぇよ!その………友達なんだろ?アタシ達、それなら当然だろ」

「…………どっちにしろ心配してくれてんじゃんそれ」

「うっせぇな!用は済んだからさっさと帰れっ、しっしっ!」

 

 そんな照れて怒らなくてもいいのにー。

 

「………ヴィータちゃん、ありがとう」

「………おう」

「またな」

「………バイバイ」

 

 互いに手を振って別れを告げる。結局は励まされてばっかりだったな。情けねぇ……けど、嬉しかった。なのはちゃんやアリサちゃん、すずかちゃんには背中を叩かれて、はやてちゃんから励まされて、ヴィータちゃんから不器用だけど心温かいエールを貰った。それだけじゃない、皆んな……皆んなが俺を応援してくれてる。なら、俺の勝利の姿を届けたい。それが、俺が出来る恩返しなのだから。明日も頑張るか……そう呟いた言葉は夜の空に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 余談ですが、お話の中でゲームのネタ、ポケモンとかそういうのは慎司君の主観のお話ですので「いや、そんな事はないだろ」と思ってもスルーしていただけるとありがたいです


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意地のぶつかり合い






 

 

 

 会場には選手や関係者、応援に来た人達によって埋め尽くされていた。明らかに観客席は定員オーバーだ、その惨状を見てこの大会が小さいもので無いことを実感させられる。規模的には俺が神童に勝った大会と同じ県大会規模なのだが参加者数はより多いみたいだ。大会にも知名度やかけられる資金の差で同規模の大会でもこうも差がつくのか。

 小学生の大会は中学生や高校生の大会みたいに柔道連盟が定めた県大会や全国大会のような方式の大会は無くどれも各自治体や柔道協会によって大会が開催されるから差が出るのは当然だ。そんな理由もあって細かいルールなんかも変わって来ることが多い。

 試合時間やロスタイム、延長戦の有無。場合によっては結果に響くような内容だ。ちなみに今大会は通常小学生の大会の試合時間である2分では無く3分を採用している。その代わり審判が待てを掛けてもタイマーの時間は止まらない流し方式を採用している。そして大きく気をつけなければいけないのはGS(ゴールデンスコア)方式では無く旗判定方式。

 補足するとGSとは延長戦の方式の名称で時間内で決着が付かなかった場合時間無制限の延長戦が始まる。その延長戦で先に一本でなくてもポイントを先取した時点で勝利となるやり方。世界大会などの公式の大会はこのルールが採用されている。逆に旗判定方式は決着が付かなかった場合延長戦を行わずに主審1人、副審2人による多数決で勝敗を決める。材料はどちらが積極的に攻めていたとかポイントに近い惜しい場面がなかったかとか様々だ。多数決の際に3人の審判が同時に赤白で分けられた勝ったと思う方の選手の色の旗をあげるやり方から旗判定と言われている。

 

「………」

 

 深呼吸を一つ。大会というのは何度経験しても緊張してしまうものだ、適度な緊張は試合での集中を高めてくれるが度を超えた緊張は体が固くなってよくない。俺はどちらかといえば緊張しすぎてしまうタイプだ、会場入りしたらまずやることはいつも深呼吸。よし………よし……、大丈夫だ。大丈夫、沢山練習した。対策も何度も練って考えた、信じろ。自分の努力を信じろ。大丈夫だ。

 

「よしっ」

 

 少し落ち着けた。会場スタッフから大会のトーナメント表を受け取りすぐに小学三年生の部のページを開く。俺の名前は……あった、少し間が空くな。アップのタイミングに気を付けないといけない。神童の名も見つける、当たるのは……決勝戦だ。他にも警戒が必要な選手の名前も確認して把握する。確認を終えたらすぐに柔道着に着替えて開会式が始まる前に準備体操とストレッチを入念に行う。汗をかくのは少し間があくから後にしよう、とにかく入念に行う。……いつもなら、そろそろなのはちゃん達三人が発破をかけに声をかけに来てくれる頃合いなんだが今日は三人ともいない。高町家も俺の両親も……なのはちゃんにはああ言ったけど正直少しさみしく感じた。いかんいかん、こんな弱音を吐くようでは勝てる試合も勝てない。気合を入れ直すべく両手で自身の頬を思いっきり叩く。

 

「わっ、気合入ってるなぁ……」

 

 背後からそんな声がしたので振り返ると八神家一同がいた。ザフィーラは……流石に留守番だろうか、ペット入場不可だしな。

 

「約束通り皆で応援にきたで慎司君」

 

 シャマルに車いすを押してもらいつつ楽しそうにそう言うはやてちゃん。普段こういう場所には縁遠いからか少しうきうきしているようだ。

 

「ああ、来てくれてありがとな」

「うん……。慎司君の柔道着姿、生で初めて見たけど……かっこええなぁ…凄い似合ってる」

 

 ありゃ、そうだったか?そりゃどうもと軽く返しつつストレッチはやめない。

 

「……ごめん、お邪魔やったかな?」

「え?あー、ごめんな……試合前はいつもこんな感じなんだ。皆がよければ開会式まで時間あるからちょい話し相手になってくれよ」

 

 俺の反応の鈍さで勘違いさせてしまったことを謝りつつそう提案する。まだ俺の試合は先だから今は皆と話してリラックスでもしていたい。俺の提案に皆は勿論と快く頷いてくれた。

 

「んで、どうだ?初めての柔道の会場は?」

「いやーびっくりしたで、思ってたより人も多くて圧巻や」

「そうかそうか、人ごみで怪我しないようにな?」

「大丈夫や、皆もおるし」

 

 まあ確かにシグナムやシャマル、ヴィータちゃんもついてるし大丈夫か。

 

「それにしても参加人数も多いみたいだな、いつもそうなのか?」

「いいや、今回の大会は割と大きい規模だからな。人数も多くなるんだ。大会によってはこれより少なかったり多かったりするよ」

「ふむ、そういうものか」

 

 シグナムの疑問に答えると納得といった様子で頷いてくれる。神童に勝った大会の後にも何度か大会に出場したがこれまで見かけなかったのは単純に規模の小さい大会には出場してないからだろう。神童所属の道場がそもそも名門と呼ばれている道場だしな。

 

「そや慎司君、今日もご両親は留守なんやろ?」

「ん?ああ、また一段と忙しいみたいだよ」

 

 本当に大丈夫だろうな?過労死とかしないでくれよ。

 

「それなら今日もウチに寄ってかへんか?大会終わったら慎司君のお疲れ様会やりたいねん」

「え?いいのか?」

「当たり前や、来ない言うたら泣くで?……ヴィータが」

「な、泣かねぇよっ」

 

 顔を赤くして否定するヴィータちゃんに謝りながら冗談だよと笑うはやてちゃん。そうか、そんな計画立ててくれてたのか、試合はこれからだし気は早いけど楽しみだ。それなら、笑顔でそのお疲れ様会を送れるように尚更優勝しないとな。はやてちゃんに大会を終えたら寄らせてもらうと告げる。はやてちゃんだけでなく皆が笑顔で頷き返してくれた。すこしだけ話をして、そろそろ観客席に行くからとシグナムからの言葉で一旦別れることに。

 

「頑張りや」

「頑張れ」

「頑張って」

「頑張れよ」

 

 4人からのエールにああと力強く頷いて返す。十分落ち着けたと思う。皆んなのおかげだ、ありがとう。………よし、そろそろ開会式も始まるだろうし試合場にそろそろ向かうとするか。

 

「っ!」

「っ」

 

 ふと振り返って歩みを進めようとすると誰かに見られていた事に気付いて視線を交わす。10メートルくらい離れた所に柔道着姿の神童隼人がこちらを見ていた。たまたま目があってしまい互いに視線を逸らさなくなる。あちらも別に睨んでたとか厳しい視線を送ってきてるわけじゃ無かった。たまたま俺を見かけて見てしまっただけのようだ。しばらく無言のまま見合っていると会場全域に開会式をまもなく始めるとアナウンスが流れる。そのアナウンスで神童はハッとしたようで俺から視線を逸らして背中を向けて会場の方へ向かっていった。

 

「……………」

 

 体が震えていた。恐れではない、武者震いだ。視線が少し絡んだだけだが分かる。以前とは大違いだ。同じように挑んだら瞬殺される、そんなオーラを感じた。別にこっちに殺気を向けてきたとか怒りを向けてきたとかそんな見当違いな事はしてこなかった。ただ、通りすがりで目があっただけだ………それだけだったが俺は神童に柔道家としての強者のプレッシャーを感じた。これは……本当に油断できない。一度深呼吸をして落ち着いてから俺も会場に向かう。柔道家として闘志を燃やすような気持ちと同時にプレッシャーによる恐怖も湧き上がっていたことは気づかないフリをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初戦、自分の番は思ったよりも早く訪れた。十分にアップは済んで体は温まっている。問題はない。会場スタッフから名前を呼ばれる緊張を飛ばす気持ちで大声ではいと腹から声を出した。一礼してから畳の上に上がり所定の位置に立つ。再び一礼、開始線まで歩みを進めて初めてそこで対戦相手と目が合う。初めて試合をする選手だが俺は相手選手の事を知っている。神童とまではいかないもののそれなりに結果を出してきている選手だからだ、映像も見た事はある。名のある選手の映像はチェック済みだ、普通は小学生の試合でそこまでする事は無いんだが俺は勝つためならそう言う事もする。実際に高校生まで行くとビデオで相手の事を研究したりするのもおかしくない。映像なんかも小学生とはいえある程度有名な選手ならネットなんかで探せば大体見つかる。

 視線を背けぬまま互いに再び礼をして開始線から一歩ずつ踏み出す、すぐに審判から開始の合図が告げられた。

 

「っしゃこい!!」

 

 いつものように始まりにはこの声をあげる。前世でも今世でも。組み手争い……は無かった。この選手は組み手に関しては基本受け身だ、少しだけ抵抗するが基本的に相手にある程度組ませてから自分の組み手を行うのだ。理由は単純、それでも最終的に自分の組み手に持ち込める自信があるからだ。普通組み手は先に自分の組み手に持ち込めば相手が立て直さないうちに好き放題に仕掛けられる。そこでやられた方は逃げに徹すればマイナスとなる反則を受けたりする。しかし、この選手の映像を見ると最初は組ませてから中途半端に自分の組み手……とりあえず持てる場所を持つようなそんな感じの組み手をする。そこから力で強引に無理矢理相手の組み手をねじ伏せつつ自分の組み手に持っていくと言うスタイルだ。

 このスタイルは珍しくない、重量級が軽量級の相手をする時にやる選手も少なくはない。相手も力に自信があるから故なんだろう。組ませてくれるのなら話は早い。

 

「っ!」

「くっ!?」

 

 ガッツリとこっちの組み手で組む。相手は待ってましたと言わんばかりに組まれた後から俺の組み手を切り崩すべく力で押さえつけようと中途半端な場所を掴む。………確かに力は強い。それを持ち味にするのは寧ろベストだよ。だがな

 

「っ!?」

 

 全員が全員お前より力が無いわけじゃねぇ。筋トレなんかしてなくても柔道に必要な筋力は柔道をたくさんする事で鍛えられる。一度掴んだら離さない握力もそれを長時間維持できる前腕の筋肉も。そしてなにより、組み手を崩されない掴み方のテクニックだってある。力だけじゃ、柔道は勝てない。だから、いくら力があろうが最初の組み手を疎かにしては上では絶対に勝てない。

 俺に組み手を好きにさせたのが甘かったな、悪いけどお前の力じゃ俺は振り解けねぇよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来た!チャンスや!!」

「いけー慎司!!」

 

 観客席で慎司を見守る八神家の面々。はやてとヴィータが慎司のチャンスを見て声を上げる、シグナムは冷静に試合を見守っているが自然と拳に力が入っていた。シャマルはビデオカメラを手に録画をしつつ静かに応援をしていた。

 

「がんばれ……がんばれ!」

 

 相手が焦った顔をして振り解こうとしているのは分かるが慎司に完全に組み手で押さえ込まれて何も出来ない。はやての心臓はバクバクと脈打っていた。これから起こる期待に、慎司が見せてくれた試合の映像と同じようなあの爽快な………一本を。

 

「っ!!」

 

 完全に身動きが取れなくなった相手に慎司が仕掛ける。相手を崩しで振り回し始める、前後左右斜め。その際の慎司の体勢や動きに淀みはない、綺麗な動きだった。素人目でも技術の高さが窺える。

 

「よしっ!いけ、やれ慎司!」

 

 ヴィータのその言葉が合図だった。相手は振り回されたままだと消極的な体制と思われ反則を取られてしまう。それを嫌がり慎司が相手を後ろに押して崩した所で抵抗するべく踏ん張った。踏ん張っただけだった、押し返した訳じゃない、僅かに前に向かって体重をかけただけだ。それが慎司相手には命取り。

 

「おおおおおおっ!!」

 

 慎司の気迫が観客席にまで響く。浮いた、相手が宙に浮いていた。慎司から試合に誘われた時にはやては少しだけ柔道について勉強していた、だからたまたまあの慎司の技を知っていた。『体落とし』、相手を右前隅に崩し自身の体の脇から斜めに投げる技。相手の体勢崩し、右足を横に伸ばして相手に引っ掛けるだけ。落として投げるイメージだ。だが、慎司の熟練故かまるで宙を舞ってるかのように相手は畳に落ちた。

 

「一本!」

 

 審判が告げた一本の宣告に八神はやてだけでなく一緒に応援していた全員の心が沸いた。

 

「っしゃ!!すげぇぞ慎司!」

 

 ヴィータはまるで自分が勝ったかのように豪快なガッツポーズを見せる。

 

「よしっ」

 

 シグナムは真っ直ぐと立っていた状態からつい身を乗り出すような形でそう声を上げる。

 

「やった!すごいです!」

 

 シャマルは撮っていたビデオカメラを興奮のあまり見当違いな方向に向けてしまうほど。

 

「………すごいなぁ……慎司君」

 

 はやては感動していた。柔道自体はテレビのニュース映像とかで見た事はある。選手が豪快な技で一本を決める映像もニュースなんかではよく流れる。しかしだ、はやては小学3年生レベルの試合であるにも関わらずそれ以上の感動を覚えた。彼とはまだ出会ってちょっとしか経ってない。だが八神はやては知っている、彼の柔道への思いも彼がいかに真剣だったのかも。疲れた様子で我が家に訪れる慎司、小学生にしては筋骨隆々な体つき、真剣な面持ちで柔道の映像を見て研究する姿。

 全ての努力を結集して今の感動を覚えるほどの一本勝ちを八神はやては知った。

 

「カッコええよ……ホンマに」

 

 彼は言った。楽しませる試合を見せてやると。もう既にその約束は果たされた、この一回戦ではやては十分にそれを感じた。生で試合を見たからでも、友達の試合だからでもない。勝つ為の努力を怠らなかった荒瀬慎司の試合だからそう感じれたのだ。だから、後は自分の為に頑張ってほしい。

 

「頑張りやー!慎司君!!」

 

 既に一回戦は終えたけどついそう声をあげてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一旦終わりだっての」

 

 はやてちゃんの大声が耳に入ったのでついそう溢す。まぁ、そうやって応援されるのはやはり嬉しいし力になる。今の試合、楽しんで見てくれただろうか。自分の為に試合をしている俺だが片隅にははやてちゃんを感動させたいなんて気持ちもあった。だが、そんな余裕はすぐなくなるだろう。試合は始まったばかり、これからどんどん強敵に当たる。そして、別の試合場では神童隼人の試合が行われていた。遠目だが問題なく見える。対戦相手は………知っている選手だ。あの選手もレベルの高さで有名だ、しかし試合の展開は一方的だった。神童が一方的に組み勝ち好き放題に攻めている、相手は逃げの一手しか打てず2度の指導を受ける。指導とは反則をした際にうける物でこれが3度行われると反則負けとなってしまう。相手選手は後がなくなり攻めの一手にかける、しかしそれを難なく神童がかわしてその僅かな隙で技を披露する。

 

「一本っ!それまで」

 

 審判の号令が俺の耳にまで届く。華麗な『背負い投げ』だった。神童隼人の得意技でもある。俺も試合をした際に分かってても何度も投げられそうになった。神童はどちらかと言うと華奢な体つきだ。身長も平均よりやや小さい、俺も大きい選手ではないが身長体重は俺に劣る。それは柔道では基本的にハンデだ、だから中学生になると体重別で分けられる。大会で体重関係なしでやる試合が基本なのは小学生の間だけだ。だからこそ奴はすごい選手だ、ハンデと言っても結局は実力が上の選手が勝つのが柔道。その中で全国クラスと言われるまでの評判を持っている神童隼人は天才ともいえるだろう。いや、天才だけでは至らない境地だ。想像以上の努力をしているのだろう。だからこそ負けられない、俺の努力か神童の努力か。意地のぶつかり合いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後一回戦から準決勝……合計6回の試合を経て俺は決勝戦に臨む。はやてちゃん達の応援のおかげで危なげなくオール一本で勝ち進めて来れた。対する相手は予想通り神童だ、奴も圧倒的な一本を全ての試合で見せつけてここまで上ってきた。アナウンスが3年生の部の決勝戦の始まりを告げて互いに名を呼ばれる。いよいよだ。

 

 

 

 

「慎司君……」

 

 観客席でははやて達は固唾を呑んで様子を見守っていた。4人とも素人ながら試合を見ていたからよく分かっていた。慎司の実力の高さを、そして相対する神童も負けず劣らずの実力がある事を。

 

「我が主、大丈夫です。慎司ならきっと」

「……うん」

 

 そうはやてを励ますシグナムも落ち着かない様子だ。ヴィータもシャマルも今までの試合より落ち着かない気分になっている事は自覚していた。だが4人とも信じていた、荒瀬慎司の勝利を

 

「頑張れ……慎司君頑張れ……」

 

 自分を落ち着かせるようにはやてはひたすらそう呟く。そしてついに

 

『はじめっ!』

 

 試合開始の宣言が下された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ!」

 

 組み手争いの応酬。防ぎ防がれの繰り返し。互いに妥協せず、組み手の攻防で既に息が上がるほどだった。いくら組みにいっても掴めない、逆に相手の組みには敏感に反応して防げた。既に何分も経過したんじゃないかと錯覚を起こすほどだった。審判の待てがかかる、チラッと時計を盗み見るとまだ10秒ほどしか経っていない。互いに審判から消極的として指導が下される、珍しくはない展開だ。そしてすぐに始めと再開の宣言。

 再び組み手の攻防……とはならなかった。

 

「(速いっ!?)」

 

 すぐ様に片腕で袖を掴まれる、くそっ!体を捻って組み手を切ろうとするががっしり掴まれて切れない。切ろうとしてる間に襟を掴まれる、しかし俺も簡単にはさせない。切ろうとした時の体の反動で無理やり自身も袖と襟を掴む。若干襟を掴んだ位置が神童よりも低くなってしまったが何とか持ち直す。

 

「しっ!」

 

 仕掛けてきたのは神童だ、軽く崩しを加えての大内刈り。牽制みたいなもんだ、それは軽くかわす。今度は一瞬払腰の構えをとりすぐ様に体勢を変えて大外刈り、フェイントだ。が、体が十分に崩れてない今ならしっかりと落ち着いて体捌きと組み手の動きで防げる。瞬間

 

「っ!?」

 

 大外刈りの際に使う吊り手側の手を離し一本背負いと同じように俺の右肩を掴んで抱え込む、腕は一本背負いの形だが技は大外刈り……大外刈りの変形技だ!これもフェイントか!

 

「ぐっ!」

 

 フェイントで体が少し崩れる。そうなったら最後、相手の技に巻き込まれていく……体幹に力を込めても耐えれない。

 

「ああっ!!」

 

 必死に背中は付かないように体を捻った。しかし、完全には防げず

 

「うおおおおおおおっ!」

 

 神童の雄叫びと共に畳に沈む。

 

「技ありっ!」

 

 判定は技あり。会場が沸いた、体を捻ったおかげか一本は免れた。だが試合は止まってない、すぐ様に寝技の攻防が始まる。俺はすぐに寝技で抑え込みを狙う、しかし神童も速い。既に寝技の防御姿勢の亀になっていた。技を仕掛けてみるが岩のようにびくともせずすぐに待てがかかった。

 立ち上がって開始線に戻りながら思考する。やられた、とられちまったものはしょうがない。どう取り返すかだ。考えずに攻めたってダメだ。考えろ、俺の技量と神童の技量を考えて、どうすれば一本を取れる?どうすればいい。奴が苦手なやり方……探せ。ビデオで研究しても圧倒的な試合ばかりで参考にできたものはない、それでも探せ、今からでも見つけろ。思考を止めず、勝つ為の最大限のことをし続けるんだ。

 

「始めっ!」

 

 再開の宣言。すぐに仕掛けに行く、俺の左手……柔道で言う引手側で相手の袖を掴む。あっさりと掴めたのは位置を妥協したからだ、人にもよるが基本的に理想の位置は相手の肘より若干下くらいの場所。そこが相手によく力が伝わる場所だ、しかし俺は相手の手首あたりを掴む。そうやって位置を妥協するだけで掴みやすさは変わってくる、しかしその分相手に力は伝わりにくくなるがそれでいい。俺は掴んだ瞬間にすぐにその引手で相手を引き寄せながら技を仕掛ける。

 

「っ!」

 

 びくっと大げさに反応する神童。そうだよなぁ、片腕だけで仕掛けてきたらあの技を警戒するよなぁ。今の俺の状態からでも万全に仕掛けられてなおかつ前回それでやられてんだったら一本背負いだと思うよな、ポイントをとられた直後なら焦って仕掛けてきてもおかしくない。その警戒心が命取りだ。足運びも体の捻りや入り方も確かに途中までは一本背負いだ、しかしここからだ……一本背負いなら相手の腕を自分の釣り手側で挟んで絡めに行くところだが俺は釣り手を神童の背中に持っていく。

 

「なっ!?」

 

 大腰だ。神童は投げられる側に先回りして一本背負いを無効化しようとしていたが俺が背中を捕まえて引き寄せることでそれを封じる。

 

「ぐっ!!」

 

 しかし流石神童、すぐにフェイントに気付くと自身の後ろに体重をかけてそれを体幹を発揮する。全力で俺の大腰を耐える腹積もりだ。けど、甘えよ。そうやって反応できると思ってたよ、俺は神童が後ろに体重をかけた瞬間すぐに反転して持った背中と袖はそのままに大内刈りをかける。ここまでは防がれると読んでいた、体重をかけてまで防ごうとしちまえばもう動けない、後ろに向かって耐えるなら後ろに向かう技で投げる。基本中の基本、それをいかに相手に当てはめるかだ。

 

「おおおおっ!!」

 

 自然と口から出る気合。神童に防ぐ手立てはなく畳に押し倒す。もらった!!

 

「ぐううっ!」

 

 なにっ!後ろに向かって飛びやがった!ここにきてまだそんな反応できんのかよ!倒れることは防げなくても少しでも俺と距離を取ることで背中を捻る猶予を作りやがった。どんっと畳に衝撃、しかし自分でもすぐに理解できた。一本じゃねえ。

 

「技ありっ!」

 

 これで仕切り直しだ。一本は取れなかったが何とかイーブンには持ち込んだ。寝技の攻防をしつつ気持ちに余裕ができる、すぐに待てがかかり服装を整えながら呼吸も整える。ちらっとタイマーを見る。まだ始まって一分も経っていない。チャンスはまだある、今の連携は使えないが弱気になるな気持ちで負けるな。相対する神童からさらに闘志を感じた。いいじゃないか、俺も同じだよ神童。お互いに負けられねぇよなぁ!!再開の号令とともに激しく攻防を始める俺たち、息が切れても、腕が重くなってきても、互いに動きが鈍くなることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 応援席でシグナムは固唾を呑んで慎司を応援していた。正直、想像以上の代物だとシグナムは感じていた。シグナムはこれまで守護騎士としてはやての前に現れる前から別の主人の元でその力を振るっていた。命のやり取りを何度もした、人外の胆力と魔法で何度も窮地を脱してきた。そんなシグナムからすれば命の危険もない、魔法もない地球のスポーツにここまで気持ちを振り回されるとは思っても見なかった。そんな風に思っていた自分を恥じた。

 情熱と情熱、意地とプライドのぶつかり合い。柔道に限らずそれらに全力で魂を燃やしてぶつかり合う試合と言うものはここまで人を熱くさせるものなのかと感嘆した。そう認識を改めたからこそわかる、今試合を繰り広げている慎司と神童がいかに凄い試合を展開しているかと言う事を。他の学年、年上の5、6年生達とも引けを取らない、そして互いに柔道に燃やす情念はこの会場にいる選手達よりも随一だと言う事を。

 

「………………」

 

 隣を見ればヴィータとシャマルも同じように緊張した面持ちで試合を見守っている。主人であるはやてに至っては両手を合わせて慎司の勝利を祈っていた。試合が苛烈すぎて頑張れの一言も口から出てこない。あの強い慎司から見事な技術で技ありをもぎ取った神童も、そんな神童からすぐに技ありを奪い返した慎司も素人目でも分かるほどすごい選手だ。

 

 

 

 シグナム自身もきっと、この大会の後に慎司に感謝するだろう。素晴らしい試合を見せてくれたと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待てっ!」

 

 審判の待てで試合が止まる、残り30秒を切った。ロスタイムは取らずに流しだ、すぐに互いに開始線に戻る。あれから幾度も攻防を繰り返したが直接ポイントに繋がる事は無かった。どの技も神童には通じず、逆に神童の技も何とか防いだ。息は絶え絶え、後ワンプレーで恐らくタイマーはゼロを示すだろう。ここで決めなきゃ判定になる、正直どっちが判定的に優勢なのかは判断出来ない。それくらい互角の勝負だった。

 決めなくてはならない、残りの時間で何としても。神童もそう思っているようで鋭い目をこちらに向けていた。怯むかよ今更、上等だ。

 

「始めっ!」

 

 互いに一瞬で間合いを詰めて組み合う。互いに防ぐ余裕はなくお互い五分五分にがっしりと掴み合った。崩したくてもこうもがっしり組み合ってたら崩せない。しかしこのまま時間を浪費するわけにもいかない。

 

「くっ!」

 

 先に仕掛けてきたのは神童、焦りからか最後の賭けか崩し無しの内股を仕掛けてくる。崩しもしないで投げる事はもちろん可能だ、相当の技術量がいるだろうが。しかし目の前の神童はその技術を兼ね備えた選手だ、俺はすぐに体捌きと体幹でそれを防ぐ。その過程でたまたま俺の右手が外れた、左手は相手の袖を……右手は自由に、相手は技を防がれ戻りぎわのチャンス。

 脳裏に浮かぶ………ここは一本背負いだと。

 

「っ!!」

 

 体が勝手に一本背負いを仕掛けに行ったが俺はそれを反射的に理性で止めた。何もしないのはまずい、判定にも影響が出る。止まってしまった体を慌てて動かすが

 

「それまで!」

 

 無情にもタイマーのブザーが鳴り響き審判が終わりを宣言する。

 

「………くそが」

 

 誰にも聞こえないようそう呟く。何をやってるんだ俺は、くそっ。いや切り替えろ。試合は終わったがまだ判定がある。柔道家らしく、堂々と結果を待つんだ。互いに開始線の前に戻ると審判団が判定の準備をする。副審2人と主審1人、各々が赤白で分けられた旗を上げて多数決で決める分かりやすいやり方だ。赤が神童で白が俺だ。

 

「判定!」

 

 その宣言とともに上げられる旗、副審2人はそれぞれ赤と白に一本ずつ。これで一対一、主審で決まる。主審が上げた旗の色は……赤だった。

 

「優勢勝ち」

 

 そう言い神童の方に手をあげる審判。…………あぁ、負けちまった。それを理解したのは礼法を終えて畳から降りた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 柔道だけで1話を使ってしまうとは……


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悔しさを胸に



 現在他の作品と同時執筆となりますので以前ペースより頻度は遅くなると思われます。どうか長い目でお待ちいただければ幸いです


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 畳を後にしてとぼとぼと会場から出る。同じ道場の仲間達や相島先生からの励ましや叱咤を受けるがどこか他人事のような感覚だった。ボッーとした感覚のまま歩みを進めるといつの間にか会場の外にまで歩いていた。フワフワとして何故だが現実味がなかった。

 結果を受け止められないとかそんなやわな理由じゃない筈だ。負けたという事実は覆らない。それを受け止めて、反省を促して次に活かす。今度は負けないようにより一層努力する、そうあるべきだしそうすべきだと自分でも思考は固まっていた。

 まだ他の仲間の応援もある、会場に戻らないと。そう思って引き返そうとするが足が鉛のように重くて動かない。なんだよ、動けよ。どうしたんだよ。動くどころから足から力が抜けて立っていられなくなりつい膝をつく。

 

「………え」

 

 泣いていた。自然と涙が溢れていた。何……泣いてんだよ俺は。

 

「情けねぇ……くそ、止まれよ……」

 

 情けない、情けない、情けない。涙するなんて情けない。負けたのは誰でもない俺のせいだ。努力不足、思慮不足、全部だ。全部俺の責任だ。泣いてる暇があるなら立ち上がって次の努力をすべきだ。なのに情けない……情けない。試合に負けて1人こうやって不貞腐れて泣くなんて………。いや、違う。違うんだ……情けない理由はそうじゃない。負けたから情けないんじゃない。分かってる、自分が一番分かってる。この涙の理由も、さっきから現実感がないのも、自分が情けないって思う理由も………。

 

「……………くそがっ!!」

 

 地面を拳で強く打ち付ける。痛い、だがその痛みは罰だ。自分の意志の弱さの罰だ。俺は……あの決勝で、最後のあの一瞬。一本背負いをかけようとしていた。チャンスだった、決めれる自信があった。それはいい、俺は柔道家だ。チャンスがあれば、勝ちに行くためにそう思ってかけてしまいそうになるのは仕方ないと割り切っている。けど俺は自分で自分に課したんだ、一本背負いは使わないと、だから理性を働かして俺は慌てて技を止めた。結果最後には何も出来ずに試合を終えてしまった。仕方ない、そうなったのは仕方ない。けど、俺は………後悔していた。………最後のあの瞬間に一本背負いをかけなかった事に。

 

「……………」

 

 自分で勝手に誓ったんだ。そんな身勝手な誓いすら俺は自分の都合で破ろうとしてあまつさえ破らなかった事を後悔した。自分で決めたくせに、自分でそう課したくせに。それが情けなくて情けなくて、悔しくて。

 柔道だって本当は始めるつもりはなかった、けどそれに後悔した事に気付いて、今世では後悔しない人生を送りたくて柔道をまた始めたんだ。その代わり、俺は一本背負いを封印した。だって、俺に一本背負いを使う資格はない。一本背負いで1人の選手の柔道生命を奪いかけた俺は本当は柔道だってしちゃダメだって思ってたんだから。だから、一本背負いは使わない。一つのケジメとして使わないってそう決めたのに。なのに俺は……なんて情けない事を思ったんだ。

 

 

 

 

 

 どれくらいそうしてたかは分からない。しかし、往来の真ん中で1人膝をついてしゃがみ込んでいれば目立つのも必定だ。………はやてちゃん達が俺を見付けるのもおかしな話じゃない。

 

「慎司君っ!」

 

 車椅子を自分の手で動かして俺に駆け寄るはやてちゃん。声をかけられようやく俺はハッとして自身の状況を客観的に理解する。

 

「………だ、大丈夫?慎司君……」

「ああ、ごめんはやてちゃん……なんでもねぇんだ」

 

 そう言って立ち上がろうするが何だかまだ足が覚束ない。ふらつきながら立とうする俺を見かねてシグナムが寄り添って支えてくれる。

 

「しっかりしろ慎司、とにかくそこのベンチに行こう」

「ああ、ごめんなシグナム」

 

 お言葉に甘えてベンチまで肩を貸してもらう。ベンチ座って一息ついて落ち着いた所でようやく俺のフワフワとした現実感がなかった感覚も消えて体にも力が入るように戻っていた。全く、つくづく情けない。ショックであんな醜態まで晒してちゃ世話ない。

 

「ふぅ………ごめん。もう落ち着いたよ」

 

 そう言って何とか笑いかけてみるが4人は渋い顔をした。どうやらうまく出来なかったようだ。

 

「……………………」

 

 静寂。お互いに何を言えばいいのか分からず静寂がお達を包む。俺は空気を変えようと言葉を紡ごうとするが何を話せばいいか分からなくなってしまっていた。対するはやてちゃん達もかける言葉が見つからないようだった。

 

「………せっかく来てくれたのにごめんな?優勝出来なくて」

 

 何とか発した言葉はそんな内容だった。それも何て返事すればいいのか分からず困ったような雰囲気になる4人。馬鹿かよ俺、余計気まずくさせてどうすんだよ。

 

「…………私達からお前に何を言ってもその悔しさは晴らせないだろう」

 

 ようやく口を開いたのはシグナムだった。

 

「存分に悔しむといい、その悔しさはきっと本当に全力で努力した者しか味わえないものだ。本当に頑張った者だけの物だ」

 

 だから、今は全力で悔しがれとシグナムは言う。違うんだシグナム、たしかに試合の結果は悔しいし悲しい。けど、俺がショックを受けてるのは自分の意志の弱さが露呈した事なんだ。そんな事言えないけど、でも何でだろうか?何だか、その言葉は重く俺の心にのしかかった気がした。

 

「………慎司君」

 

 車椅子を転がして俺の目と鼻の先まで近づくはやてちゃん。真っ直ぐに俺を見つめてはやてちゃんは一呼吸置いてから

 

「………シグナムの言う通り、ウチが何言うても慎司君を逆に傷つけるだけかもしれへん。けど、それでもやっぱり伝えたいんよ」

 

 笑顔で、それはもう笑顔ではやてちゃんは言った。

 

「試合……見にこれてよかった。いっぱい、感動した。胸が高鳴ってドキドキした。………慎司君のおかげで柔道って言うスポーツ……楽しめたで」

「はやてちゃん…………」

 

 そう言えば、はやてちゃんには絶対に楽しませてやるって大見得切ってたんだっけか。それが本心ならせめてそれが達成できた事だけは嬉しく思う。

 

「ウチら先に戻ってお疲れ様会の準備しとくから。美味しい料理を沢山用意するから……気持ちの整理が出来たら、ちゃんと来てな?」

「……ああ、ありがとうはやてちゃん」

 

 そうお礼を言うと優しい笑みで頷くはやてちゃん。皆んなを促してこの場を後にする。別れる際にシャマルが俺の背中を励ますように何度かさすってくれた。

 

「………カッコよかったよ、お前」

 

 ヴィータちゃんはぶっきらぼうにそうとだけ伝えてそそくさと皆んなと一緒に歩いて行った。

 4人ともそう多くは語らなかった。俺の為のその優しい気遣いに、心配して励まそうとしてくれた4人の心が身に染みる。俺を1人にしてくれる優しさに感謝をした。嬉しくて、悲しくて、悔しくて、少しだけ涙が滲んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大会は正午過ぎには小学生の部が終わったため表彰式だけ済ませて帰宅した。はやてちゃん達にはメールで夕方過ぎ頃に行くと伝えてある、それまでは家でゆっくりしていよう。家には両親も仕事でいない、1人になりたかったから丁度よかった。家に着くなり鍵もかけずに鞄をそこら辺にほっぽり投げて自室のベッドに沈む。

 気持ちの整理はまだちゃんとつけれていない。何より自分の意志の弱さを認めたくなくてみっともなく気分が沈んでいるのだ。

 

「………はぁ」

 

 ため息を一つ。俺がこんなにも落ち込んでいるのはさっきも思った通り一本背負いを使わなかった事を後悔した事による意志の弱さの露見だ。けど、何だかそれだけじゃないような気がしてならない。自分で言うのも何だが俺は気持ちの切り替えは不得意ではなかった。少なくとも柔道に関しては、前世でも試合に負けて落ち込む事はあってもすぐに立ち直りポジティブに頑張ろって思えた事が多かった。

 現に、一本背負いの云々の事は情けなくて辛いが今度こそはそう思わないでちゃんと一本背負いと決別するんだと考え始めている。思っちゃったものは仕方ない、ならば次はもう一本背負いに頼る必要が無いほど強くなるんだと帰路についている途中でそう結論を出した筈だ。けど、気分は晴れなかった。

 試合に、神童に負けた事も悔しい。だから、気分が沈んだままなのか?けど、今ままで負けても落ち込む事は沢山あったけどここまで気持ちが追い込まれたような感覚はなかった。だから、戸惑っている。

 

「こんな落ち込んだ気分のまま八神家に行くわけにも行かないんだがなぁ」

 

 余計に心配させてしまう。ただでさえ励まされたばっかだ。せめて皆んなの前では楽しく飯くらい食いたいな。

 

「………はぁ」

 

 自然とため息が出る始末。情緒が変だ。自分で自分の気分が分からない。そんな感じでボーッとしていると自宅のチャイムが鳴り響く。誰だ?荷物か何かだろうか。無視する訳にもいかずいそいそとベッドから飛び出て玄関へ。

 

「あっ……」

「………なのはちゃん?」

 

 扉を開ければもう一度チャイムを押そうとしているなのはちゃんの姿が。どうしたのだろうか、今日は翠屋の手伝いに駆り出された筈だが。

 

「えっと、急にごめんね慎司君……上がっていいかな?」

「あ、ああ……どうぞ」

 

 本当は一人でいたかったがと口に出しそうになったのは内緒だ。そんな失礼な言い草をしてしまいそうになるくらい今の俺は不安定だった。

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず俺の部屋に案内して適当にジュースでも入れて持っていく。なのはちゃんはありがとうとそれを一口くちにする。何しに来たのだろうか、今日は試合があった事は知っていた筈だし翠屋の手伝いは大丈夫なのだろうか。

 

「……試合、お疲れ様」

 

 最初の一言はそれだった。表情から察するに既に結果は何処からか聞いているようだ、相島先生辺りだろうか。どうでもいいけど。

 

「…………ありがとう。なのはちゃんはどうしてここに?翠屋の手伝いは終わったのか?」

 

 そう聞くとなのはちゃんは困ったような顔をした。詳しく聞くと未だ翠屋は団体のお客さんの対応に追われてるそうな、ちょっとの休憩の合間を見てネットで試合結果が載ってないか調べたらしいのだがある程度大きな大会だからか小さなサイトであるが結果や進行状況を載せている所があったらしくそれで結果を知ったらしい。

 いてもたってもいられなくなったなのはちゃんはもう大会を終えて帰宅してると予想してここまで来たらしい、ちゃんと士郎さんと桃子さんの許可をとった上で。

 

「私が慎司君に会いに来ても慎司君困っちゃうかもって思ったんだけど……その、どうしても会わなきゃって何でか思ったんだ」

「………そうか、何か心配かけたみたいでごめんな?」

「ううん、私が勝手に来ただけだから」

 

 優しいなのはちゃんの事だ、とにかく励ましたくて来てくれたんだろうな。そんな気持ちに感謝しつつ俺はどうしたもんかなと思う。

 

「まぁ、心配して来てくれた所悪いけど思ったよりも元気だから大丈夫だよ」

「…………本当?」

「ああ、結果は残念だったし悔しいけど課題も見つけれたし反省もした。それをバネにしてもっと強くなろうって丁度切り替えられた所だからさ。平気だよ」

 

 嘘をついた。平気じゃない、前になのはちゃんに俺は明確な嘘は基本的につかないって会話した事がある。冗談を言う事はあるけど、後ろめたいことや隠したい事があって嘘を言う事はなかった。けど、俺は今初めてそんな嘘をついた。

 

「……………」

「そんな顔すんなって、クヨクヨしてたってしょうがないだろ?だから————」

 

 言葉の途中でなのはちゃんによって遮られる。ギュッと力強く頭を抱き締められた、顔も何だか必死そうな表情でギュ〜と力を込めて俺の頭を胸に抱くなのはちゃん。

 

「なのはちゃん?どうした?」

 

 戸惑いを抱く。急にどうしたんだろうか、そんなチカラを込めて抱きしめて。痛くはないけど、一体何の騒ぎだろうか。

 

「…………平気じゃないくせに」

「………………」

「嘘、下手なんだね慎司君。初めて嘘付いた所見たかも」

「………ははっ、バレたか」

 

 なのはちゃんは離してくれない。

 

「………慰めてくれてるのか?」

「分かんない、分かんないけど………今の慎司君見てたらこうしたくなっちゃった」

 

 ペットか俺は。

 

「………悔しいんでしょ?」

「…………………」

 

 確かに悔しい。気持ちの切り替えはちゃんと出来てない、けど気分が沈んでるのはきっと一本背負いの事で

 

「………みっともないって思ってるんでしょ?」

「………」

 

 一本背負い云々の事はなのはちゃんは知らない筈だ。前に一本背負いを褒めてくれたくらいでそう言う事情は知らない筈だ。だから、その言葉は俺の意志の弱さで情けないと思ったことの事を言ってるんじゃない。なら、何の事を……。

 

「私ね、慎司君が毎日朝早く起きて一杯練習してる事知ってたよ」

 

 ピクッとつい体が動いた。

 

「汗をすごいかいて、死んじゃうじゃないかってくらい息を切らして頑張ってる所を一杯見てたよ」

 

 後から知った事だがなのはちゃんも魔法の練習と称して朝早く起きて自主トレーニングに励んでいるらしい。その時によく俺を見かけたと言う。

 

 シャドー打ち込みをしながらのダッシュ。基礎体力作りと柔道技術の向上は柔道家としての永遠の命題だ。それは体を壊さないギリギリのラインをしっかりと見極めて死ぬほど真剣にやるしかない。

 

「身勝手な事言うとね、慎司君なら絶対優勝するってなのはは思ってた。あれだけ頑張って、あれだけ真剣に打ち込んで、あれだけ柔道に情熱を向けてたから負ける筈ないって思ってた」

 

 常に柔道の事ばかり考えて生活していた訳ではない。けど、やはり一日中ふと考える事は柔道の事ばかりだった。対戦相手の対策、自身の分析、どう練習するか、どう改善すべきか。暇があれば試合の映像ばかり見ていた。体が元気なら追加で練習に励んだ。そうだ、本当に出来ることは全部やったって自負があったんだ。だから………だから……驕っていた。

 

「ごめんね慎司君。私は慎司君にこんな事言う資格は無いけど、柔道の事については素人同然だけど………悔しいよね。すごく頑張ったのに、自分の納得いく結果にならないのは」

 

 勝てると思ってた。負けないって思ってた。前世の最後の現役時代より頑張ってた、頑張れた。それはやっぱり前世での経験を活かせていたから。頑張らなきゃ勝てないって事をよく知っていたから。

 だから、頑張ったんだよ。正直に言えば辛かったよ、頑張るのは楽しいし充実するけどその分辛くて苦しいんだ。何度も何度も今日くらいいいかな、1日くらいサボっても平気かなって考えがよぎった。けど、そんな弱気を無理やり飲み下した。全力で、全力で、後悔しない為に全力でやると決めた。

 

「……………ちくしょう」

 

 そうだ。だからだ。だからこんなに…………悔しかったんだ。意志の弱さとかそんなのはこの悔しさに比べたら些細なものだった。逆だ、悔しくて悔しくて。これだっけ頑張っても勝てなかった事を受け入れられなくて、だから見当違いな事を考えて誤魔化してた。ああ分かってる。俺は、負けた。けど、ちゃんと理解してなかった。ちゃんと受け入れてなかった。受け入れたフリをしていただけだった。だからこんなに……悔しいんだ。

 

「ちくしょう……」

「………うん」

 

 分かったらもう止められなかった。涙が浮かぶ、止まれと念じても止まらない。

 

「勝ちたかったっ………勝てるって……思ってたんだ」

「うん……」

「ちくしょう……くそぉ……」

 

 努力が足りなかったなんて思いたくない。けど結果が全てだ。一本背負い云々も関係ない。俺の実力が足りなくて負けたんだ。

 

「…………慎司君」

 

 優しい声に呼ばれ正気を取り戻す。慌ててなのはちゃんから離れる。ずっと頭を抱かれたままだった。

 

「私の知ってる慎司君はね……すごく強くて頼もしいんだ」

「………………」

「今はいっぱい悔しがって、いっぱい泣いていいと思う。けど、最後にはちゃんと前を見て立ち上がってほしいな」

 

 ……そうだな。涙を拭って、鼻水を乱雑にゴシゴシと拭いて。かすれた声で、けどハッキリと告げる。

 

「…………次は、負けねぇ」

 

 そう強がりでも言い放って見せた。

 

「うん、私の知ってる慎司君だ」

 

 なのはちゃんも、何故だか少し一緒に泣いてくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん……服汚しちゃったな」

「にゃはは、気にしないでよ」

 

 胸あたりが俺の涙やら何やらで少し湿っていた。少し落ち着いてお茶でも飲んで一息した頃には俺の心はすっかり落ち着いてた。焦燥感とか悔しさは綺麗さっぱりとは行かないけど気分がはすごく軽やかになっている。

 

「わざわざありがとな、来てくれて」

「うん、慎司君も私が来て欲しいって時に来てくれるから」

「そっか……」

 

 なら、お互い様か。

 

「…………冷静になって来ると思うんだけどさ」

「うん?」

「………めっちゃ恥ずかしい」

 

 その言葉になのはちゃんは苦笑いだ。なのはちゃんから見ると同級生が試合に負けて悔しくて泣いている所を励ましたと言う所かな。しかし俺からすると実年齢30にもなる俺が小学生に慰められると言う奇天烈な展開だ。恥ずかしさ通り越して死にたい。

 

「死にたい」

「お、大袈裟だなぁ」

「埋まりたい」

「だ、大丈夫だよっ!ちょっとかわいいなって思ったくらいだから!」

「埋まっちまえ」

「ひどいっ!?」

 

 そこで2人揃ってあははっと笑い合う。

 

「………ありがとうなのはちゃん、本当に」

「うん」

「………もっと頑張るよ」

「無理にしないでね?」

「ああ、そこは弁えてるさ」

 

 強くなるには……勝つための練習を効率よくだ。今日は、試合までの準備期間の疲れを取ろう。そして、明日から再出発だ。今度こそ勝つ為にな。

 

「あ、そういえばなのはちゃん」

「うん?」

「戻らなくて平気なのか?途中で抜けてきたんだろ?」

「…………ああ!」

 

 大慌てで帰り支度を始めるなのはちゃん。アワアワしている姿を微笑ましく感じながら玄関まで見送り。

 

「そ、それじゃまた明日学校でね!」

「おう、気をつけてな」

「うん!ばいばい」

 

 小走りで駆けていくなのはちゃんを見据えて思う。この子は、わざわざ俺のためにこうして励ましにきてくれた。その事実が、嬉しくて胸が一杯になって申し訳ないような、それでも感謝を感じている。だから、ちゃんともう一度言おう。

 

「なのはちゃん!」

 

 俺の声で足を止めて振り向くなのはちゃん。俺はさらに声を張り上げて伝えた。

 

「ありがとう!!」

 

 ちゃんともう一度、言葉にしてしっかり伝える。君のおかげで前を向ける、君のおかげでまた頑張れる。そう思いを込めて、そして今度は俺が君を助ける。そうやってそれを繰り返して俺達は支え合う。そういうあり方でいいんだ、俺となのはちゃんは。

 

 なのはちゃんは俺の言葉を聞いて笑顔で手を振ってまた駆け出していった。

 

「さてと……」

 

 とりあえず、もう少しだけゆっくりシャワーでも浴びてからはやてちゃんの家に行こう。ちゃんと応援してくれた事のお礼もしたいしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八神家では少し気の重い雰囲気に包まれていた。言うまでもなく慎司が原因であった。かなり落ち込んでいた事は見てすぐ分かったし、半ば強引に励ましたくて家のちょっとしたパーティーに誘ったが来てくれるだろうか。

 まぁ、約束した手前慎司の事だから来てはくれるだろうが果たして自分達で励ます事は出来るだろうかと八神はやてはそんな事を考えていた。しかし、答えの出ない問答をしている程暇ではない。とにかくパーティーの食事を一心不乱に作っていた。

 彼は普段から何でもかんでも美味しい美味しいと食べてくれるから何が好物なのかリサーチできていないはやてだがそこはそれ腕の見せ所である。パーティー映えのする料理をいくつも用意して過去に一番反応が良かった料理の用意も抜かりない。

 

「ヴィータちゃん、あの垂れ幕片付けた方が……」

 

 シャマルがそう言って指差すものは『優勝おめでとう』とでかでかと書かれた派手な垂れ幕。ヴィータが慎司は優勝するからと先に用意していたものだ。しかし、優勝出来なかった慎司がこれから来るのだからあれのそのままにしておくのはまずいだろう。

 ヴィータは慌てながらそれらを強引に引っ張り上げて片付ける。テーブルの支度やら料理の配膳をしているシグナムはどこか落ち着かない雰囲気だ。狼の姿に扮しているザフィーラも耳をパタパタとさせて忙しない様子。

 

 皆慎司をどう励まそうか、どうすれば喜んでくれるのか必死なのだ。はやてちゃんから見ても守護騎士達から見ても初めて出来た家族以外の大切な存在、自分達を友と呼んでくれる慎司の事が心配だった。付き合いは浅いかもしれないがそれでも皆んなそれぞれ慎司を大切に思っている。

 

「来るかな………あいつ」

 

 ポツリと漏らすヴィータの呟き。皆んなそれを聞いてすぐには返答できなかった。彼の落ち込み振りをみて簡単に来るとは言えなかった。だが、自分達が慎司に出来る事はきっとこうやって楽しませるイベントを用意してあげる事だけだ。作業を黙々と続けた。

 

 しばらくして、ちょうど準備が終わった所でインターホンが鳴る。全員、ホッとしたような表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お邪魔しまーす」

 

 一言そう告げてから扉を開けて玄関に押し入る。一応インターホン鳴らしたけど既に何度も通っている八神家なら返事が来る前に入ってもいいかと思いそのままお邪魔する形に。

 すぐに居間から皆んなが慌しい様子で俺を出迎えてくれる。

 

「いらっしゃい、慎司君」

「おう」

 

 車椅子に乗って俺をそう笑顔で迎えてくれるはやてちゃんに俺は作り笑いではなくちゃんとした笑顔でそう返した。

 

 皆んなに引っ張られるように居間に通されるとそこには豪華な料理の数々が、家庭でここまで出来るとは流石はやてちゃんとその一家だ。素直にすごいと言葉を送ると皆んなは嬉しそうに笑っている。俺のためにこんなに沢山の用意をしてくれた事に不覚にも泣きそうになりながらパーティーは始まった。

 俺も皆んなも思い想いに料理を口に運び、談笑に花を咲かせ楽しく過ごす。はやてちゃんは楽しそうにしながら皆んなに料理を取り分けて、ヴィータちゃんは俺にちょっかいかけながら料理を美味しそうに頬張り、そんなヴィータちゃんを苦笑いしながら注意するシャマル、珍しく自分から俺に話を振ってくるシグナムに俺の背中に寄り添いながら横になっているザフィーラ。皆んなが皆んな、俺を労い気を使ってくれていた。

 誰も、柔道に関係する話をしてこなかった。

 

「ちょっとトイレ借りるわ」

 

 そう言って一度席を立った。皆んなが俺に気を使ってくれているのはなんだか申し訳ない。せっかく用意してくれた楽しいイベントを皆んなにも気兼ねなく楽しんでほしい。

 だから、ちゃんと今の自分の心情を伝えなければ。用を足しながらそう決意して居間に戻る。皆んなと声をかけようとするとふと気づく。

 

「何だこれ」

 

 部屋の隅に隠すように置いてある巻物のような物が目につく。垂れ幕かな?こんな物この家にあったっけ?なんてそれを手に取って興味本位で開く。

 皆んなが慌てた様子でそれを止めようとしていたが俺は構わず開いた。

 

「あっ…………」

 

 ついそう声を漏らした。垂れ幕には大きな字で『優勝おめでとう!!』とでかでかと。俺が優勝すると信じてくれた八神家が用意してくれた物だとすぐに理解した。  

 重苦しい空気が八神家を包み込む。ぶっちゃけこれ俺が見ちゃあかんやつだし。皆んながおろおろしてるなか俺はあえて笑顔で。

 ちょうどいい、俺はもう大丈夫だって皆んなに伝えないと。

 

「ははっ、これとっといてくれよ」

「え?」

 

 呆けるはやてちゃんや皆んなを真っ直ぐに見つめて

 

「………次は、今度こそ勝つからさ。優勝するから、それまでとっといてくれよ」

 

 俺はもう次に向けて頑張るつもりだからさと付け加えてそう告げた。ありがとう、俺のために色々考えてくれてありがとう。気を遣ってくれてありがとう、そういう感謝の気持ちも込めて俺は言葉を紡いだ。

 

「だから次も、全員で応援に来てくれよ。頑張るからさ、俺」

 

 その言葉に皆んなはホッとしたような素振りを見せた。よかった、立ち直っていると……そう思ったのだろう。まだ、パーティーは始まったばかりだ。今日は英気をしっかり養って明日からまた全力疾走だ。

 

「強いんやね、慎司君は」

 

 そう告げるはやてちゃんに俺は首を振って答える。

 

「いや」

 

 俺が強いんじゃない。

 

「お節介で心配性で、優しい皆のおかげさ」

 

 ここにいる皆んなと、今頃翠屋の手伝いで奔走してるあの子の顔が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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不穏な知らせ


 気温が暑いから寒いへ。体に気をつけている作者です


 

 

 

 学校の昼休み、いつものように昼食を4人で囲んで和気藹々とした雰囲気で過ごす。先日の柔道の大会から数週間、最初こそはアリサちゃんやすずかちゃんに励ましの言葉をかけられてはいたが既に落ち込んではいられないと前を見てる俺を見て背中を押すように応援してくれたなんて出来事を経た。

 2人にももちろんなのはちゃんや八神家の皆んなには感謝しかない。それに報いるためにも何より自分の為にも次は優勝を届けてあげたい。再出発して、もっと努力をして、一本背負いなんか頼る必要のない俺に生まれ変わってもっと強くなるのだ。

 

 さて、それはさておき。

 

「もう届いたかな?ビデオメール」

 

 話題はフェイトちゃんについての事だった。先日のビデオメールの返事をようやく録画出来たので1週間ほど前に郵送したのだ。俺となのはちゃんはともかく魔法の事を知らない2人にはフェイトちゃんを外国に住んでいる子だと説明しているので届くのに時間がかかると思っている。

 実際地球にいないフェイトちゃんに届けるのだがそも魔法というのは便利なものでおそらく既にフェイトちゃんの手元にあるのではないかと思われる。

 

「届いてるさ、今頃見てくれてんじゃねぇの?」

「…………」

 

 俺の言葉を聞くとなのはちゃんは暗い表情を浮かべる。絶望だ、絶望の表情だ。

 

「どうしたなのはちゃん?暗い顔して」

 

 まぁ、理由は分かってるけど。

 

「う……」

「う?」

「うわああああああああん!!!」

「泣いた!?」

 

 号泣である。まぁまぁと慰めるアリサちゃんとすずかちゃん、オロオロとする俺。

 

「やっぱり撮り直そうよ〜!」

 

 悲痛な叫びをあげるなのはちゃん、ビデオメールの事である。撮り直した所で既にもう送ってしまっているので手遅れなのだが。

 

「何がそんなに不満なんだ、フェイトちゃんも喜んでくれそうなビデオメールが撮れたじゃないか」

 

 そうたしなめる俺をジトッーとした目でなのはちゃんは見る。

 

「それ慎司君が言うの!?そもそも………そもそも慎司君があんなイタズラしなきゃこんな事言わないもん!」

 

 プンプンと怒るなのはちゃんに苦笑する俺。まぁ、怒るのも無理はない。実はビデオメールの撮影の前にうっかり昼寝をしたなのはちゃんの額に『神』とマジックで落書きをしたのだ。

 面白かったので撮影を始めても俺は何も言わずアリサちゃんとすずかちゃんにはそういう演出だからツッコマないでと先回りして伝えてそのまま撮影をした。

 

 そのまま解散してなのはちゃんが落書きに気づいたのは帰ってからしばらくして鏡で自分の顔を覗いた時。俺は既にデータをダビングしてビデオを送った後である。

 

「ちょっとほっぺに猫の髭とかの落書きならまだいいよ?それくらいじゃなのはは怒らないもん」

 

 ホントかなぁ?

 

「でも『神』って何!?しかも額にでかでかと!」

「なのはちゃんらしい落書きかなと思って」

「どこが!?」

「……………………」

「せめて何か言ってよ!」

「ガム食う?」

「いらないよ!!」

 

 ビシッと関西人ばりのキレのあるツッコミを披露するなのはちゃんに関心しつつどう宥めようか考える。ふーむ、ちょっと悪戯が過ぎちゃったかな?そこは反省反省。

 

「安心してよなのはちゃん」

「いや、自分の事を神って公言してるかのような映像を見られてるんだよ?安心できないよ……」

「きっとフェイトちゃんだって馬鹿じゃない、すぐにイタズラされてるんだなって思うって」

「そ、そうかなぁ?」

「まぁ天然なところもあるからもしかしたら痛い子だなぁって思われてるかもだけど」

「安心させる気ないでしょ慎司君!?」

 

 結局この日も機嫌が治るまで平謝りであった。

 

 

 

 一方フェイトちゃんはと言うと

 

 

 

「……………」

「……………」

 

 じっとビデオメールの映像を真剣に見つめるフェイトちゃんとアルフ。再生が終わり、彼らからの温かい声と気持ちを胸いっぱいに受け止めて笑顔を浮かべる。

 

「………うん、ありがとう皆んな」

 

 そう呟いて記憶ディスクを取り出し大切にしまう。そして、今度はダンボールで届いた沢山のディスクを取り出して笑顔でアルフに

 

「じゃ、今度は慎司がまた送ってくれた『仮面ライダーアギト』……一緒にみよう?アルフ」

「そ、そうだね……」

 

 ルンルンとしながらディスクを入れ替えるフェイトちゃんを微笑ましく見つめつつアルフは呟いた。

 

「まぁ、どうせ慎司のイタズラか」

 

 ちなみに次のフェイトちゃんからのビデオメールで気を使って落書きに関しては全く触れてこなかった事に逆になのはちゃんは頭を抱える事になるのはまた少し後の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまーっと」

 

 しっかり練習で体を限界までいじめ抜きはやてちゃんに夕飯をご馳走になってから帰宅。あれ?家の電気が付いている。

 

「ああ、おかえり慎司」

 

 出迎えてくれたのは母さんだった。

 

「あれ、母さん仕事は?平気なの?」

 

 今日も帰れないからと連絡があったのだが

 

「うん、ちょっと資料だけ取りに戻ってきたのよ」

 

 そう言う母さんの顔は少々疲労の色が見られた。詳しくは聞けてないが父さんも母さんも無理を押してでもやらなくちゃいけない案件らしく管理局を辞めたはずの母さんが父さんの手伝いでここまで家を開けるのは今までなかった事だ。

 それほど大事な事なら息子としては無理をしないで休んでと無責任な事は言えなかった。

 

「そっか、まぁ倒れない程度には気をつけてよ。俺は大丈夫だからさ」

 

 管理局所属という役職がどれほど大変かは分からない俺はそう言う他なかった。

 

「うん、それじゃあお母さん行ってくるから。慎司には悪いけど明日も慎司に家の事任せっきりになっちゃうけど……ごめんね?」

 

 いいっていいってと答えて母さんを見送る。さてと、家の掃除機かけてから風呂入って寝るとしようか。そう思いとりあえず居間を通るとテーブルに紙の書類が置いてあった。

 ありゃ、母さんの忘れ物か?興味本位に覗いてみると日本語じゃない文字の羅列と一枚の写真が切り抜きされた書類だ。

 

「………本?かな……。もしかして魔導書とかそう言うやつかな?」

 

 魔法使いじゃない俺には何か全く分からないがこれについて調べているのだろうか?写真の本が何となく気になってまじまじと見る。

 

「俺が見たってしょうがないか……」

 

 とりあえず、母さんは恐らく転移で移動しただろうから追いかけて渡す事は俺には出来ない。通じるか分からないがとりあえず携帯に連絡を入れておいた。

 すぐに慌てて取りに戻ってきた母さんはちょっと印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある日、俺はもう何度目かも分からない八神宅に夕飯をご馳走になりにきた。流石に甘え過ぎかなと何度も思っていたが結局の所はやてちゃんに来て欲しい来て欲しいとキラキラした瞳で言われては断れなかった。

 練習を終えた後に来ているので既に日は沈み、辺りは暗闇に包まれている。……ん?

 

「電気……ついてないな」

 

 はやてちゃんの家から灯りが全く漏れていなかった。いつもならカーテン隙間から灯りが漏れ出たりしているのだが今日は全くそれがない。

 

「留守か?」

 

 試しにドアに手をかける。………開いてるな。顔だけ覗いて声をかけてみるが返事はない。番犬のザフィーラもいない。家の中は真っ暗だ。鍵をかけ忘れたのだろうか?

 事前に連絡はしてあった筈だが急用でも出来たのか?

 そんな事を考えているとポッケの携帯が震える。メールだ。確認してみると送られてきたのははやてちゃんの携帯からだ。しかし、文面からしてこれを送信したのははやてちゃんじゃなくて別の誰か。恐らくシャマルさん辺りだと思われる。

 

「……っ!」

 

 メールの内容を読み終えた瞬間俺は駆け出していた。冷や汗がツタリと背中を伝う。全力疾走をしても不思議と無限に走れるような気がして俺は病院に向かった。

 

 

 メールには、はやてちゃんが倒れて病院に運ばれたと書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院の救急所に赴き事情を説明して病室に案内される。チラッと覗くと病室のベッドには元気そうな様子のはやてちゃんの姿と八神家の面々が。ザフィーラまでいる。

 とりあえずはホッと胸を撫で下ろしつつ一応扉は開いていたがノックしながら声をかける。

 

「よっ、大丈夫か?」

 

 努めて明るい声でそう告げる。

 

「し、慎司君……ごめんなぁ」

 

 はやてちゃんは開口一番謝罪の言葉を口にしてきた。俺は謝る必要はないだろと笑いながら答えてそれをやめさせる。

 

「体は平気なのか?」

 

 そして一番気になっていた事を口にした。はやてちゃんは苦笑しながらただの貧血だと言う。皆んながあんまり大袈裟なんだと心配してくれた事はうれしそうにしつつもそう口にした。

 

「そっか………」

 

 と、再び胸を撫で下ろす。貧血なら少し休めば大丈夫なはずだ。貧血ならな。実際顔色は悪くないみたいだしとりあえずは安心していいだろう。

 

「ウチは大した事あらへんから慎司君は帰って休んでな?ご飯もウチのせいでまだやろうし………」

「なんだよ、折角来たんだ。もっとお話しようぜ?」

 

 どかっとまだ帰る気はないと言うように無遠慮に備付けの椅子に座る。ふふふ、逃さんぜぇ……。

 

「それよりもさ、聞いてくれよ。今日実はな………すごいもん見ちまったんだ」

「すごいもん?」

 

 俺がそう切り出すとはやてちゃんも一緒にいる皆んなも興味深そうな顔をする。

 

「学校から帰ってる途中にな………いたんだよ」

「いたって何が?」

 

 焦らす俺にそう早く言えと言わんばかりにそう問うヴィータ。小さく生唾を飲み込んでいた。

 

「………ト○ロ」

「トト○!?」

 

 ガタッと椅子から立ち上がるシグナム。意外と食いつきがいい。

 

「って、んなわけないやん。もうちょっとマシな冗談言ってや〜」

「いたもん………」

「えっ?」

「トトロいたもんっ!!」

「それ言いたかっただけやろ」

「まあな」

 

 脈絡ないのが俺ですから。

 

「そんな冗談よりももっと他の事話そうや」

「ゆ゛る゛ざん゛!!」

「うっさいな!」

 

 そんなやり取りで高らかに笑う俺とはやてちゃん。いや、心配したけど元気そうだし心配無用だったな。ははっ

 

 

 

 

 はやてちゃんの体は既に命の危機にまで迫っている事を知らなかった俺はそんな無責任な事を思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それかしばらく経ったある日、学校が終わりなのはちゃん達と別れて帰路に着いている途中だった。はやてちゃんが倒れたあの日を境に俺は八神邸に遊びに行く回数を減らして控えていた。

 

 理由は勿論先日倒れた事が起因している。病院から出た後深刻な様子のシグナムに呼び止められた。その時シグナムにはやてちゃんが本調子に戻るまで前みたいに頻繁に来るのは控えてほしいと申し訳なさそうに言われた。

 

 シグナムがはやてちゃんを心配しての事だから俺は二つ返事で了承し、いきなり全く会わなくなるのも逆に気を使わせてしまうので1週間に一度くらいのペースで会いに行っていた。

 貧血とはいえ心配になるのも分かるがシグナムの表情からただ事じゃないと俺は思ったが心配するなと言ったシグナムの言葉を信じて追求する事はしなかった。

 

「そろそろなのはちゃん達を紹介しようと思ってたんだがなぁ」

 

 それもはやてちゃんがちゃんと元気になるまでお預けだな。残念だが仕方ない。が、残念な事ばかりではなく嬉しい知らせもある。

 

「そういえば近々フェイトちゃんが来るんだよなぁ」

 

 感慨深いとはこの事だ。その連絡はビデオメールで知らされた。俺もなのはちゃんは勿論、アリサちゃんとすずかちゃんも大騒ぎになった。正確な日程は分からないが楽しみで仕方のない状態だ。

 

 さてと、家帰ったら準備して道場に行くか。次の目標に向けてまだまだ頑張らないといけないからな。

 と、家に到着したところで気づく。母さんが帰ってきている。

 

「ただいまママン、今日は管理局行かなくていいの?」

 

 台所で料理をしているママンの背中にそう声を掛けると。俺が帰ってきた事に気付いてなかったようで少々驚くような反応を見せた。

 

「お、おかえり慎司。今日は練習でしょ?ご飯用意して待ってるから、慎司が帰って来る頃にはお父さんも戻ってきてると思うわ」

「お、久しぶりに全員でご飯食えるね」

 

 ここの所帰ってこれる頻度はますます減っていたから2人の体の心配をしていた俺。母さんは少し疲れた顔をしているがそこまで深刻な程では無さそうで少し安心した。

 

「まだまだ時間かかりそう?その大事な案件は」

 

 俺のその他意のない質問に母さんは苦笑を浮かべながら「そうね」と短く答えた。

 

「ここの所母親らしい事出来なくてごめんね、慎司」

「ん?いやいや、大事な案件なんでしょ?それなら俺は応援したいからさ気にしないでよ」

 

 当初、これから帰りが遅くなって一緒に過ごす事が出来なくなると告げた時のパパンとママンの顔を思い出す。2人とも俺に申し訳なさそうな表情をしつつも瞳に宿るその目にはいつもとは違う覚悟のような物を感じた。少なからず因縁がある物なんだろう。

 なら、それに全力を向けてほしいと思った事は本心だ。全く寂しくないと言えば嘘になるが本当の子供ってわけじゃない俺には問題ない。それに

 

「一緒に晩ご飯食って過ごしてくれる新しい友達達も出来たからさ。心配しないでよ」

 

 今は、会う回数を意図的に減らしてはいるけど。

 

「この間言ってた子ね?色々落ち着いたら家に招いて頂戴。私もお父さんもお礼をしたいから」

「勿論、んじゃ俺ちょっと練習行ってくる!」

 

 すぐに支度を済ませて家を出る。

 

「車に気をつけなさいよー」

 

 毎度毎度トラウマ掘り起こすのやめて欲しいなぁ母さん。知らないから仕方ないけどさ。

 

 

 

 

 

 その日俺は練習が終わった後真っ直ぐ帰宅し、久しぶりの一家団欒に花を咲かせた。父さんも母さんも楽しそうにしてくれていた。明日にはまた忙しい日々に2人は戻ってしまうけど今はただ休んでほしい。

 そしてまた頑張ってほしい、頑張れ。

 

「あ、帰ってきた時に書類が散乱してたから適当に纏めて部屋に置いておいたから明日忘れないでね」

「あらそうだった?ありがとう」

「慎司、書類読めるのか?」

「まさか、日本語じゃないから無理だよ。悪いけど順番は適当だから勘弁してね」

 

 他愛もない会話一つ一つを楽しんだ。その夜、俺の預かり知らぬ所で一つの事件が発生していた事が分かったのはそのすぐ後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロノっ!」

 

 指定された場所に赴くとクロノが既に俺を待っていた。つい数十分前の事、突然携帯にクロノから連絡が入った。フェイトちゃんの事についてかなと思い、クロノからの久しぶりの連絡に胸を躍らせつつ電話を取った俺はクロノが発した言葉に耳を疑った。

 

『高町なのはが何者かに襲われて今管理局の施設で治療を受けている』

 

 それから先の言葉は耳に入らなかった。とにかく管理局の施設に転移をさせてやるから指定した場所に来いと言われて無我夢中で走って来た所だった。

 少し前にもはやてちゃんの事でこうやって走った事を思い出す。こんな立て続けに嫌な事が起こると何かの予兆のようで怖かった。

 

「慎司!こっちだ、すぐに転移する」

 

 再会を喜ぶ暇もなくクロノに促されその肩に触れる。瞬間目の前の景色が一瞬で変わり見た事のない場所に移動した。ここは?いや、今はそんな事はどうでもいい。

 

「クロノ、なのはちゃんは?なのはちゃんは無事なのか!?」

「慌てるな、電話でも話しただろう?怪我自体は軽い物で命に別状はない」

 

 そ、そうだったのか。焦って話が全く入ってこなかったらつい聞き逃してしまっていた。自身を落ち着かせるために一度深呼吸をして冷静になる。

 

「そうか……けど、なんだってそんな事に?」

 

 クロノから話を聞くとなのはちゃんを襲ったのは魔導師だったという。海鳴の町で複数人の魔導師の襲撃に遭い、怪我は軽いものの魔力の源であるリンカーコアから無理やり魔力を奪われたと語る。

 ふむ、どこのどいつらかは知らんけど命まで奪わなかったってことは元々魔力を奪うのが目的だったのだろうか?

 

「詳しくはまた後で話す。君をここに呼んだのは高町なのはの事もそうだが別件の用事もあるんだ」

「別件?」

 

 魔法関係で俺に用事が?

 

「それも後で話す。今は顔を見せてやったらどうだ?高町なのははこの先の奥の部屋で休んでいる」

「そ、そうか。分かったよ」

 

 その別件とやらが気になるがとりあえずはなのはちゃんだ。クロノに促され言われた部屋に押し入る。

 

「なのはちゃん!」

 

 部屋に入るとびっくりした様子で俺を見つめるなのはちゃん。パッと見た所目立つ外傷などは見つからず軽傷という話は本当のようで安心した。

 

「し、慎司くん?なんで……」

「クロノに呼ばれてな、それより……体は大丈夫か?」

「う、うん。怪我は大した事ないから大丈夫だよ」

 

 そう語るなのはちゃんの顔は少し優れない。そりゃそうだろう、いきなり襲撃されたと言うんだ。明るい顔をしろと言う方がおかしい。

 

「そ、そうだ慎司君、ここにフェ……」

 

 なのはちゃんが何か言いかけた所で病室の扉が開く。反射的にそちらを向くと俺はそこに立つ予想外の人物に驚く。

 

「あっ………」

 

 その人物も俺を見て驚いた様子で立ち尽くす。忘れるわけもない、ずっと再会を望んでいた。聞きたい事は沢山あった。

 

 元気だったか?調子はどうだ?そんな言葉ご浮かんで口にしようとするがうまく出来ない。その金色の髪は相変わらず綺麗に輝いていて、黒から桃色のリボンに変えた姿はよく似合っていた。

 

「…………フェイトちゃん」

「…………?」

「その……」

「……………うん」

「…………太った?」

「……………」

 

 一応補足して言うと別に見た感じは太ってはいない。何を言えばいいか分からずとにかく何か言おうと思って飛び出た言葉がそれだっただけである。

 

 それだけである。

 

「…………慎司」

「うん……」

「………久しぶりだね」

「うん………うん?」

 

 あれ?結構酷い事言っちゃったけどスルーしてるのかな?スルーかな?

 

「会えてすごく嬉しいよ」

「太った?」

「…………」

 

 思ってないよ?太ったなんて思ってないよ?俺の失言だしごめんなさい何だけど何だろう、見事なスルーだったからあえてもう一度地雷を踏みに行きたくなってる。

 なのはちゃんも絶句である。大口開けてとっても絶句である。

 

「慎司」

「はい」

 

 おっと、声にドスがかかってるぞー。

 

「………太ってないもん」

 

 かと思いきや今度は若干涙目でそう抗議してくるフェイトちゃん。一気に罪悪感が俺を支配する。

 

「ごめーん!?フェイトちゃんごめん!冗談だから!本心は全然そんな事思ってないからぁ!!」

「太って……ないもんっ!!」

「そうだね、太ってないよっ!全然太ってなんかない!ちょっとなのはちゃんと見間違えちゃっただけだからっ」

「ちょっと慎司君っ!?どう言う意味かなぁ!!」

「太ってないもんっ!!」

「再会して早々カオスだねぇ!!」

「「君のせいでしょ!!」」

 

 フェイトちゃんとなのはちゃんは久しぶりに会っても息ぴったりに俺にツッコミをしてくれましたとさ。フェイトちゃんも今後ツッコミキャラに育成するの意外とアリなのでは?

 

 

 

 

 

 

 

 

「慎司、私ね……すごくね、すごーく会えるの楽しみにしてたの」

「うん、俺もだよ」

「でもね?会って一言目にあんな事言われるとね?……何だろう、叩いていいかな?」

「いいよ」

「え、いいの?」

「うん、なのはちゃんをね」

「なんでよ!」

 

 なのはちゃんに怒られて正座中の俺、フェイトちゃんよりもプンスカとしているなのはちゃんにタジタジしつつも本当に怪我は大した事無さそうでよかった。

 

「はぁ、でも慎司も変わらず元気そうで良かった。また会えて嬉しい」

 

 ため息をこぼしつつそう笑みを浮かべて言ってくれるフェイトちゃん。まぁ、開始早々てんやわんやになっちゃったけど……ちゃんと言わないとな。今なら冷静になって変なこと言う心配もない。

 

「俺も会えて嬉しいよ、フェイトちゃん」

 

 互いに笑みを浮かべて破顔する。釣られてなのはちゃんも笑顔に、俺たち少しの間離れ離れになっていた時間を埋めるように他愛のない話に花を咲かせた。

 襲撃者の存在とか、フェイトちゃんの手首に巻かれていた包帯なんかをあえて無視して。

 

 

 

 

 

 

 一旦病室を退室した俺、今は2人で仲良くお話ししているだろう。病室の前で待っていたクロノに声をかける。

 

「で?色々説明してくれるんだろうな?」

 

 今回の襲撃の事と俺が呼ばれた別件についての事だ。

 

「ああ、歩きながら話そう」

 

 そう言うクロノの隣を歩きながら俺は詳細を聞く。まず襲撃の件だが実は最近魔導師に対しての連続襲撃事件が発生しているらしい、その一端ではないかと管理局は見ているようだ。

 

 襲撃の目的は恐らくリンカーコアからの魔力蒐集、なのはちゃんも含めて被害者は命は取られていないものの皆んな魔力を奪われている。なのはちゃんもしばらく回復するまで魔法は使えないとの事。

 

 なのはちゃんの襲撃の時に駆けつけてくれたのがフェイトちゃんやまだ会っていないアルフとユーノだったと言う。フェイトちゃんの包帯の理由はそれか………。色々もっと詳しい情報を求めたがクロノは

 

「今回の件は君は無関係だ。前回と違っておいそれと情報は言えない」

 

 と渋られる。仕方ないか、前回はフェイトちゃんと顔見知りだった事と直接巻き込まれた事……それらが重なってクロノ達との同伴を許されたのだ。リンガーコアのない俺に協力できる事はない。それは仕方ないと割り切る。だが

 

「それなら、何でクロノは俺をここに呼んだんだ?」

 

 今更だが、ここは前みたいなアースラではなくもっと凄い大きな施設だ。アースラは戦艦だったがここは完全にそれらを管理する大きな基地と思われる場所。時空管理局本局と呼ばれる場所だ。そんな御大層な所に俺を呼ぶ用事が思いつかない。

 

「ああ、これから慎司にはなのはとフェイトと一緒に面接を受けて欲しい」

「面接?」

「そんな構えなくていい、形式上面接と呼んでいるがそんな厳かなものにはならないと思う」

 

 何で俺が?とクロノに問うと理由は2つだった。一つ、この面接の目的はフェイトちゃんが今後自由に生活するための面接だそう。面接官はフェイトちゃんの保護監察官なのだ、そしてあの事件に深く関わりつつ事情を知っている友人として俺となのはちゃんは元々呼ばれる予定だったそう。

 

 もう一つは地球人として魔法という神秘を知っている俺の人柄を確認すべきという声があったらしくそのついでだ。確かに魔法の存在は知っているが直接管理局に協力してるわけでもなければそもそも魔導師ではない俺の立場は微妙なものだ。

 

 形上、面接はすべきだとクロノは語る。

 

「ちなみにどんな人なんだ?その監察官は」

「安心しろ、僕もお世話になった人でとても優しいお方だ。心配はいらない、それに……君の両親とも知り合いでもある」

 

 え、そうなの?そんな事突然聞かされたら逆に緊張するんだけど。俺のそんな戸惑いをよそにクロノの歩は変わらない速さで進んでいった。

 

 

 

 

 

 面接までまだ時間があるとの事で先にこの施設にいるアルフとユーノに会うかとクロノに問われ俺は勿論と返答した。クロノに案内された部屋に通ると何かしら作業をしているユーノと缶ジュースを片手退屈そうにしているアルフが。

 2人とも獣姿ではなく人間の状態だった。

 

「よっ、久しぶりだな」

 

 開口一番そう告げると2人は驚いた様子で俺の名前を呼ぶ。

 

「久しぶりだねぇ、元気だったかい?」

「そっちこそ」

 

 アルフと拳を突き合い。

 

「ユーノも、また会えて嬉しいぜ」

「うん、僕もだよ」

 

 ユーノとは肩を組み合う。フェイトちゃんと続いての再会に喜びを感じながら俺達は言葉を交わす。話は尽きないがあんまりゆっくりしていられる訳でもなく少し話しているといつの間にか退出していてたクロノがなのはちゃんとフェイトちゃんを連れてきた。

 

 なのはちゃんは既に襲撃された時にアルフとユーノとも会っていたようだがここでしっかり再会を互いに噛みしめ合っていた。

 

「慎司、なのは、フェイト……そろそろ…」

 

 クロノの言葉にドキッとしつつ俺は誰にも気付かれぬよう軽い深呼吸をする。クロノは形式上の者だと言っていたが俺の発言や行動でフェイトちゃんの今後が関わると思うと緊張するなと思う方が無理だ。

 

 構え過ぎるのも良くないが、軽く考えるのも頂けないだろう。俺達3人が頷くとクロノにここから少し離れた奥の応接室らしき所に連れ行かれる。クロノが先導してノックをしてから扉を開ける。

 

「失礼します」

「クロノ、久しぶりだな」

「ご無沙汰しています」

 

 初老の感じの良い男性がこちらに振り向いて人の良さそうな笑顔を浮かべる。

 

「初めましてだね、フェイト君、なのは君」

 

 2人を見てそう言う男性は今度は俺の方へ向くと

 

「……大きなったな。君は覚えていないだろうが久しぶりだね、慎司君」

 

 優しそうな雰囲気を醸し出しつつどこか大物さを感じる……実際大物らしいこの人が時空管理局顧問官、ギル・グレアムさんか。ああやばい緊張する。

 

 どうしよう……どうしよう、失礼のないように!失礼のないようにしないとっ!

 

「ごめんなさいっ!記憶にございませぇぇん!!」

 

 グレアムさんとのファーストコンタクトはジャンピング土下座から始まったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ようやく原作での1話です。余談ですが柔道には座礼という正座状態で頭を下げる礼法がありまして、まぁぶっちゃけ見た目は土下座に近い者ですがそんな事もあって慎司君の土下座のフォームはまぁ綺麗なフォームです


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約束

 



 アナザーエデンが面白くてハマったりしてる作者です


 

 

 

 土下座からの面接はグレアムさんが「面白い子に育ったなぁ」とぼやきつつ互いに対面に座った所で始まった。最初はフェイトちゃんの今後の身の振り方についてのお話しだった。

 

 といってもグレアムさんは「保護監察官と言っても形上だけのものだから」すぐに俺達を安心させるようにそう言ってくれた。監察官としてフェイトちゃんの人柄やら何やらを報告として受け取っていたグレアムさんはそう口にする。

 

「約束して欲しい事はひとつだけだ。友達や自分を信頼している人たちの事は決して裏切ってはいけない」

 

 それさえ守ればフェイトちゃんの行動について何も制限をかけないと。そのグレアムさんの言葉にフェイトちゃんが真剣な面持ちで頷くとグレアムさんは満足そうに笑っていた。結局、フェイトちゃんの今後の話は簡単に終わり俺となのはちゃんからフェイトちゃんについて聞かれる事はなかった。

 

 無駄に緊張して土下座までしたのに……。

 

「なのは君は地球の日本出身なのだね。懐かしいな」

 

 手元の資料を覗きながら感慨深そうにするグレアムさん。驚いた事にグレアムさんも元々地球出身の人だという。イギリス人で魔法との出会い方もなのはちゃんとそっくりだと笑っていた。

 地球人は基本的にリンカーコアを持たないが稀に天才的な才能を持った子が生まれるというのは以前聞いたが。

 

「さて、慎司君。最後は君だ」

「はい」

 

 表情を引き締める。雰囲気で何となく真面目な話をする事は予感できた。

 

「君の素行については何も疑っていない。君が地球で魔法の存在について吹聴している様子もないようだ。それに、先の事件の君の活躍も耳にしているよ」

 

 流石はあの2人の子供だと嬉しそうに笑うグレアムさん。

 

「父と母はグレアムさんとはどういう?」

 

 一番疑問に思っていた事を聞いてみる。まぁ、大方想像はつくが。

 

「君のお父さん、荒瀬信治郎は私の元部下でね。お母さんのユリカさんと結婚する前から共に頑張っていたんだ」

 

 懐かしむグレアムさんの顔は何故だか切ない感情を浮かべていた。何をかんがえているのだろうか、まるで既に死に別れてしまった人を想うように。父さんも母さんも健在なのに不思議に思った。

 

「君が生まれてすぐの頃に信治郎は私に君を抱かせてくれてね。よく覚えているよ」

 

 そうか、それで久しぶりだと。

 

「今では私は信治郎と別々の道を歩んではいるが交友はあるんだ。慎司君の話をよく聞いていたよ」

「そうです…か」

 

 何だか照れくさい。パパん余計なこと言ってないだろうな。

 

「話が逸れてしまったね。それで私から慎司君に伝えたい事は2つだ。1つは前のような無茶は絶対にしない事、君は本来魔法に関わる事は出来ない人間だからね」

 

 フェイトちゃんの時のような行動は控えるようにと告げられる。といっても早々俺が関わる事態にはなるような事はないと思うがな。理由がないし。

 この注意喚起も恐らく形上物だろう、本気で俺が関わるような事態になるかもなんてお偉い様も思ってないだろう。

 

「もう一つ、これが一番大事な事だ」

 

 ゴクリと生唾を飲み込む。何だろう、あと何を言われるのか検討がつかずつい身構える。

 

「君が友人として、なのは君とフェイト君を支えてあげなさい」

 

 思わぬ言葉に吐息を漏らす。

 

「これからなのは君とフェイト君は管理局で魔法というものに関わっていく。その道は君達が想像している物より過酷で大変な道だ」

 

 その言葉に年長者ならではの重みを感じる。地球出身のグレアムさんもきっと沢山の大変な思いをしてここまで登り詰めたのだろう。

 

「だから、君が支えてあげなさい。2人の友人で秘密を知る君が」

「勿論です」

 

 支えてあげたいっていう気持ちはグレアムさんに言われるまでもない。俺はそうしたくてフェイトちゃんとなのはちゃんのために自分なりに頑張ったんだ。

 

「即答か、信治郎とユリカさんの息子らしいな」

 

 満足そうに笑うグレアムさんに

 

「………」

「………」

 

 照れ臭そうに笑うなのはちゃんと恥ずかしそうにするフェイトちゃん。

 

「面談は以上としようか。お疲れ様」

 

 グレアムさんのその言葉でその場は締めとなる。はぁ、何だか無駄に緊張したな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 面談を終えて用が済んだ俺はすぐに帰ることになった。なのはちゃんはフェイトちゃんは今後の事を踏まえて話が残っている為帰るのは俺だけだ。

 

「一旦お別れだな、またすぐに会えるんだろう?」

「うん、数日後には会えると思う」

 

 フェイトちゃんのその言葉に笑顔で楽しみにしてると答える。

 

「なのはちゃんも、気をつけてな」

「うん、慎司君も。おやすみ」

「ああ、おやすみ」

 

 

 

 

 

 

 

 2人に別れを告げて再びクロノに案内される形で本局内を歩く。地球に転移するため転移装置に向かう道中でエイミィさんとリンディさんに出くわした。

 

「あら慎司君、久しぶりね」

「面談お疲れ様」

「お久しぶりですリンディさん、エイミィさん」

 

 今日は再会づくめですな。

 

「もう帰るところかしら?」

「ええ、今回は前みたいに事件に積極的に関わる理由もないですし」

 

 リンディさんはそこまで聞いてきた訳じゃないけど一応安心させるべくそう告げる。 

 しゃしゃり出て迷惑かけるような真似は俺だって本意じゃないのだ。前回は譲れない気持ちがあったとはいえその時だってそんな気持ちだったのだから。

 

「そう………それなら道中気をつけて。なのはさんが襲われたのは地球っていう事実に変わりはないわ。リンカーコアがない慎司君は狙われる心配はないと思うけど」

「ええ、一応気を付けておきます」

 

 そう言われふと気づく。そういえば地球でなのはちゃんが襲われたのなら襲撃者は地球に潜伏してる可能性があるのか?魔法で次元世界間を転移出来ることは知っているが個人で転移するには限界があって専用の機械を挟んだりしないと限界があるとか。

 現に個人の転移では地球からこの本局までは転移できないとさっきクロノに聞いた。もしそうなら地球を根城にしてる可能性は消して低くない。

 

「あの、質問なんですがその襲撃者は既になのはちゃん以外も襲ったりしているんですか?」

「慎司っ」

 

 俺が今回の事件について聞こうとするとクロノは少しカッとした様子で俺に詰め寄る。

 

「君は今回の件には関わらないのだろう?そんな事を聞いてどうする?」

「いや、別に他意はねぇよ。ただ、気になっただけだって」

 

 何だかクロノが妙に反応する。俺が事件に関わるのを避けさせたいようなのは一目瞭然なのだが理由が分からない。

 いや、恐らくは簡単な理由なのかも知れないが。

 

「クロノ、俺を心配してくれるのは嬉しいけどそんな過敏になるなって。本当に事件に関わる気はないしさっきも言った通り理由が無い。前回みたいに邪魔はしないよ」

「そんなつもりは……」

「はは、まぁ困らせたくはないし大人しく帰るよ。多分このままクロノ達アースラの皆さんが今回の事件も担当するんだろ?」

 

 俺のその言にクロノは肯定を示す。やっぱりな、リンディさんやエイミィさん達皆んなが出張ってきてるからそうだと思った。

 

「それならクロノ達も気をつけて頑張ってくださいな」

 

 そんじゃと手を振って転送装置に向かう。地球に帰ったらさっさと寝よう。色々あって何だか疲れてしまった。3人の別れの挨拶を受けながら俺は地球に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロノ君、慎司君を心配するのは分かるけどあんなに強く言わなくてもよかったんじゃない?」

 

 慎司を見送ったあとクロノ達3人は本局内を歩きながら話をする。エイミィが先程のクロノの態度をやんわりと注意したのだ。

 エイミィはクロノのぶっきら棒な態度には慣れたものだがだからと言って共通の友人でもある慎司に強く言い過ぎなのでは?と思ったのだ。

 

「エイミィ、だから僕はそんなつもりで」

「照れなくてもいいじゃない」

 

 小馬鹿にするようにからかうエイミィにクロノはムッとしながらも息を吐いて冷静になる。そして神妙な顔つきになってから言葉を紡いだ。

 

「………ジュエルシード事件であいつは笑っていたが本当はいつ死んでもおかしくない状況だった」

 

 クロノのその言葉にエイミィもリンディも押し黙る。彼は独断で単身プレシアの居城に乗り込んだ、彼の母親であるユリカの技術がなきゃ辿り着けなかったとはいえ彼は1人危険な場所に命をかけて向かう事が出来ると証明してしまったのだ。

 

 クロノはこの時あまり慎司に苦言を呈さなかった。巻き込む選択を取ったのは自分だし慎司にそこまでさせてしまった自分に不甲斐なさを感じたからだ。

 

 ジュエルシード事件の解決に大いに貢献してくれたとクロノは慎司に本心で感謝している。フェイトを救い同じく解決に大きく貢献したなのはの事をずっと励まし支えた慎司の功績はまさしく本物だ。だからこそ、魔法を使えない、そして本来なら知るべきではなかった慎司にそこまでさせてしまったのは不本意と言わざるを得なかった。

 

「あの時、本当は慎司を巻き込むべきじゃなかった、今日だってグレアム顧問官との面談がなければ呼ぶつもりも無かった」

 

 理由は簡単だ、エイミィにも慎司本人も言われた通り心配なのだ。クロノは荒瀬慎司が心配なのだ。友人として、心配なのだ。前回はたまたま運良く命は助かったがまた巻き込んでしまった時にそうなるとは限らない。

 

 だからクロノは徹底して関わらせないつもりだった。なぜ、こんなにもクロノは過敏に思うのは勿論他にも理由がある。

 

「今回の件と、これまで起きている同様の襲撃事件は恐らく闇の書が関係している」

 

 クロノ・ハラオウンとリンディ・ハラオウンの腕に力が籠る。この2人にとっては因縁のある名称だ。それを知っているエイミィの体も強張る。

 

「そして、慎司の両親……僕の父と同じ部隊で親友だった荒瀬信治郎さんと荒瀬ユリカさんも今独自で調査をしてくれている」

 

 2人にとっても闇の書は因縁のある物だ。それだけじゃないとクロノは続ける

 

「慎司の友人のなのはは襲撃されフェイトも関わる事になった」

「そ、そうだけど……慎司君だって言ってたじゃない。関わる気はないって、理由がないからって」

「エイミィ、それは裏を返せば慎司にとって理由が出来たら問答無用で首を突っ込むという事だ」

 

 徐々に周りに慎司が関わってしまう理由が出来ている。慎司はああは言っても前例がある以上クロノは気が気でなかった。

 

「今はその気がなくてもあと一つ、決定的な出来事があれば慎司は首を突っ込む………ような気がする。それこそ、前みたいに自分の出来ることを全てやり尽くして」

 

 そのクロノの言葉にエイミィもリンディも否定出来なかった。しばらく沈黙が訪れたが先に口を開いたのはリンディだった。

 

「クロノの心配も分かったわ。あんまり考えすぎだとは思うけど慎司君には極力関わらせないようにしましょう。エイミィも、いいわね?」

 

 リンディのその言葉にエイミィは頷く。確かに魔力を持たない慎司をそう易々と事件に関わらせるのは良くないとそこはエイミィも納得していたからだ。

 

「とりあえず今後の話をアースラの皆んなとなのはちゃんとフェイトちゃんにも話をしないと。エイミィ、皆んなを会議室に呼んでもらえるかしら?」

 

 リンディからの指示に返事をしつつ通信機を起動して各々連絡を取り始めるエイミィを尻目にクロノは慎司が帰っていった転送装置の方を向く。

 

「………まさかな」

 

 そう1人呟く。クロノは考えた、慎司がもしこの事件に関わると決めるような理由は何だろうと。前回は事件の容疑者として追われていたフェイトと顔見知りだった事が一つの理由に挙げられる。

 

 まさか今回もと邪智したが早々そんな事はないかとかぶりを振ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここを開けろおおおおおおお!!御用だ御用だぁ!!」

「うるさいわ!近所迷惑やろ!?」

「逮捕じゃあああ!!」

「じゃかしゃああ!!」

 

 玄関でワーワーしながらお出迎えされつつお邪魔する。管理局の本局に呼ばれて翌日の夜。柔道の練習を終えてシャワーを浴びてから八神宅に訪れた。先日病院に運ばれたはやてちゃんであったが今は普通に退院していつも通りの生活に戻ってはいる。

 

「貴様らぁ!俺ちゃんの登場だオラーん!」

「家の中でくらい静かにしたらどうだ?」

「あ、すんません」

 

 リビングに赴き開口一番テンションを上げて突撃して見たものの何だかいつも物静かなシグナムがさらにそんな雰囲気に深みを増しながらそう言われ反射的にピタッと背筋を正してしまった。

 

「何でぃシグナム、何か不機嫌か?」

「いや、そんな事はない」

「そっか、ならいいけど」

 

 とさらりと流すが違和感は消えない。不機嫌……て訳じゃないけど何だろうか。まるで真剣勝負をした後でまだその余韻が残ってる見たいな?

 俺も試合でよくあるんだが一度試合を終えた後に次の試合が控えている時に一度気分をリセットしたくて前の試合の余韻を必死に抑えようとする時がある。

 

 その試合が接戦だったりすると尚のことだ。今のシグナムからそんな似たような感覚を感じた。考えすぎかもしれないが。

 

「あ、慎司君いらっしゃい」

「よぉ」

 

 奥の部屋から俺の声を聞きつけシャマルとヴィータちゃんも顔を出す。2人からもシグナム程ではないしろ何か違和感を感じた。

 

「おっすおっす、お邪魔してますわ。お?何だザフィーラ?撫でてほしいのかぁ?」

 

 珍しく俺の足元に寄ってきたザフィーラを少し強引にモフモフと撫で回す。見た目によらずちゃんと躾けられてるよなぁ、吠えないし噛まないし基本大人しいし。

 それにしても相変わらずでかいなザフィーラは、下手な大型犬より全然大きい。……ホントに犬かお前?

 

 チラッとアルフの顔が浮かんだのは内緒だ。

 

「そういえば今日はこれ持ってきたぜぇ」

 

 ザフィーラを十分に堪能した後、満を辞した感じでバッグからそれを取り出す。

 

「じゃん、『ヒロアカ 』の最新巻!今回も熱かったぜぇ」

 

 と、漫画を一冊取り出すとシグナムとヴィータちゃんが「おぉ!」と大袈裟に反応する。やっぱり違和感は気のせいだったかな?

 

「待ってたぜ!続き気になって仕方なかったんだよ」

 

 ルンルンとした様子で俺から漫画を受け取るヴィータちゃんと興奮している自分を抑えるべく冷静に振る舞うシグナム。ちょっと面白い。

 

「シャマルさんにはこれ!『俺物語』の続きも出てたよ!」

「あ、本当ですか!ありがとうございます!」

 

 この方、雰囲気通り恋愛漫画を好むのだが俺が集めている恋愛漫画でハマったのがまさかの俺物語。剛田武男の漢気にキュンキュンしている。まぁ気持ちは分かる。

 

「へっへっへ、さあ感謝で咽び泣きながら読むがいい!!」

 

 皆んな漫画に夢中で誰も聞いてなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はやてちゃん?何か手伝おうか?」

 

 漫画を読む邪魔をするのも悪いので厨房で夕飯の準備をしているはやてちゃん所に。

 

「ああ慎司君、ええよええよ。ゆっくりしててやー」

 

 暇なんだよね。まぁ、はやてちゃん手際いいし俺が無理に手伝っても邪魔か。料理運ぶ時に手伝いすればいいかね。

 

「んじゃ話相手になってけろ。皆漫画に夢中だからの」

「いつもありがとうなー、皆趣味とかないからどうしようか悩んでたんよ」

「ふっふっふ、この調子で八神家総オタク化計画を進めてやるぜ」

「何がしたいねん」

 

 共通の趣味があれば楽しいじゃんか。

 

「………ホンマ、ありがとうな」

「ん?」

 

 急に真面目な顔してどうした?

 

「慎司君が来てくれるようになってから皆毎日が楽しそうしてくれとる。慎司君に会う前から家族で楽しく過ごしてたんやけど知り合ってからはますます楽しそうにしてくれてて嬉しいんよ」

「飯食わしてもらってる俺が礼言うべきだけどな」

「あはは、それでもや」

 

 ふむ、まぁ本当にそうなら嬉しい限りだけどな。友達冥利に尽きる。

 

「………最近、来てくれる回数減ってしもうたけどやっぱりウチが倒れたのを気にしてるん?」

 

 唐突にそう問われ回答に困る。意図的に減らした事をはやてちゃんは知らない。俺とシグナムの間で決めた事だった。体調が万全になるまでって言ってたしシグナムから何か言われるまではそれを続けるつもりでもあった。

 

 だが、はやてちゃんも馬鹿じゃない。恐らく確信を持ってそう言ってきてる。下手に誤魔化すのはダメだろう。

 

「正直に言えばそれもあるけど、両親がよく帰ってきて来れるようになったってのも理由の一つだよ」

 

 嘘ではない。一応な。

 

「皆心配症やな、別に平気なのに……」

「そう言うなって、そう思うなら早く万全になってくれよ」

「もう万全やって」

「番宣?」

「万全」

「安全?」

「万全っ」

「満漢全席」

「もう跡形もないやん」

 

 それなっ。

 

「もう、慎司君は……ホントに……おも……ろ……」

「はやてちゃん?」

 

 急に頭を押さえてふらつくはやてちゃん。そして持っていたお玉を手放してふらり崩れ落ちる。

 

「はやてちゃん!?」

 

 倒れる前に抱き留める。お玉が地面に転がり厨房に響く落下音。騒ぎを聞きつけリビングから慌てた様子で雪崩れ込むシグナム達。

 

 突然の出来事に戸惑うが一度冷静になりまずは部屋に運んで寝かせる。とりあえずシャマルに看病を任せてヴィータには栄養剤やら必要になりそうな物を買いに行かせた。俺とシグナムはリビングで対面になって座り話をしていた。

 

「病院に運ばれてからずっとあんな感じなのか?」

 

 率直に聞いてみるがシグナムは首を振った。

 

「退院してから体調に問題があるようには見えなかった。先程シャマルに診てもらったが恐らくたまたま今日は疲れていただけだと言っていた」

 

 前にシャマルが医療に理解があると言っていたからその診断はとりあえず信じておこう。

 

「だがこの間の事もある、少し心配だな……」

 

 そうぼやくとシグナム俺の肩に手を置いて首を振った。何だ?どいうことだよ?

 

「お前は何も心配するな。主はやての事は私達に任せてほしい、慎司にはこれまで通りはやてに会って笑顔を届けて欲しい」

 

 お笑い芸人じゃないぞ俺は。てか主はやてって、まさか普段そう呼んでんのか?いや、今その事に突っ込んでる場合じゃない。

 

「……大丈夫なのか?」

「ああ、深刻に考えなくていい。私達に任せておけ」

 

 何か引っかかる言い方だが家族のシグナムがそういうならそれを信じよう。

 

「慎司君」

 

 納得するように何度も頷く仕草をしている俺にシャマルさんが静かな声で俺を呼ぶ。シグナムに視線を向けると行ってやれ、と言うように顎ではやての部屋を指し示す。

 

 そう言う事だろう、用があるのはシャマルではなくはやてちゃんだ。

 

「体調の方はとりあえず大丈夫ですから、心配しないでください」

 

 再三シグナムに言われた事を反復させるようにすれ違いざまのシャマルに耳打ちされる。そこまでしつこいと逆に不安になる。分かったと俺も同じように耳打ちしてからはやてちゃんが横になっている部屋に入る。

 

「平気か?はやてちゃん」

「うん、たまたま今日は疲れてただけなんよ。ホンマ心配せんといてな?」

「………ああ」

 

 短くそう答える事しか出来ない。

 

「謝りたくて呼んだんよ。ごめんな?また慎司君に迷惑かけてもうて……これで2回目や」

 

 あははと心なしか弱々しく笑うはやてちゃん。本当に大丈夫だろうな?確かに顔色とかそういうのは平気そうに見えるけど何だかいつものような生気を感じない気がする。

 幽霊に呪われてる訳じゃあるまい、なんだか不安な気持ちが過ぎる。

 

「謝らなくていいから、明日元気になれるように今日はもう休みな。寝るまで側にいてやるからよ」

「ホンマ?慎司君独占や、ラッキーやなぁ」

「だろ?」

 

 何て言って見せて2人で笑う。睡眠の邪魔にならないようにゆっくりと静かに他愛もない話をする。眠たくなるまで付き合ってやるつもりだった。

 

「…………何で、側にいて欲しいって分かったん?」

 

 話の途中にはやてちゃんは唐突にそう問うてきた。そんなの、簡単だよ。

 

「顔に書いてある」

「え?ホンマ?」

「まぁ、そんな分かりやすい表情じゃないけど俺はやてちゃんの倍以上生きてるからさ、分かるんだよ」

「わたしと同い年やんか」

「実は30歳くらいだったりする」

「嘘つけ〜」

「はっはっは」

 

 嘘じゃないだなぁこれが。

 

「…………最近な、ずっと幸せなんよ」

「いい事じゃんか」

 

 話を聞く。はやてちゃんが言うにはシグナム達とこうやって一緒に過ごすようになったのも実はそんな前からではなく割と最近の事らしい。

 何だかどういう出会いだったかははぐらかされたけどまぁいいだろう。それまでは家ではずっと1人で寂しく感じていた正直な気持ちを俺に伝えてきた。

 

 分かりきってた事だけどこの八神家の家族達に血縁関係はない。俺がそれを理解していて何も言わないでくれたからとはやてちゃんは今こうして話してくれているらしい。

 

「家族の形なんて血縁が全てじゃないし、互いに家族だと思い合ってるならそれはもう家族なんじゃねぇの?知らんけどさ」

「うん、わたしもそう思う」

 

 なら尚のことそれでいいじゃないか。何をそんな………そんな不安そうな顔をしているんだよ。

 

「皆んなと一緒に過ごせるだけでも十分幸せやった。それなのにな?まだ幸せな事が待ってたんよ」

「幸せな事?」

「君や君、慎司君と出会えた事や」

「っ」

 

 胸が締め付けられるようなそんな気持ちになった。なんだよ、何でそんな事今言うんだよ。

 

「慎司君と友達になってな?わたしもっと幸せなんよ。シグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラも皆そう思ってる」

「大袈裟だなぁ」

「大袈裟やない、だって慎司君はわたし達にとって初めて出来たかけがえのない友達なんやから」

 

 曇りのない笑顔を向けてそう言うはやてちゃんの視線から何だか気恥ずかしくて頭をかいてそっぽを向いてしまう。

 恥ずかしい奴め、こんなの照れちゃうに決まってるだろうに。

 

「幸せ過ぎてな、逆に不安なんよ」

 

 と、思いきやくぐもった声ではやてちゃんは笑顔からいっぺん不安そうな表情をまた浮かべる。

 

「もしかして、わたしはもうすぐ死ぬのかなって。だから神様が最後くらいこうやって幸せにしてくれてるかなって」

「まさか、はやてちゃん……」

「ああ、勘違いせんでな?ただわたしが勝手にそう思い込んでるだけなんよ。病気とかそう言うんじゃなくて、それくらい幸せやって事だと思う」

 

 そうは言ってもはやてちゃんの顔は何だか切なげだ。本当に違うんだよな?ヤバイ病気とかそう言うのじゃないんだよな?散々シグナムとシャマルも言っていたけどそういうのじゃないんだよな?心配いらないんだよな?

 

 とめどなく溢れる俺の不安な心の声を何とか外に漏らさずに押さえ込む。

 

「だから、わたしがこのまま眠ったらもう目覚める事のないまま……ってそんな突拍子もない事考えてまう」

 

 それで、側にいて欲しかったのか。さっきから少し眠そうにはやてちゃんは目を擦っている。けど、それに抗い眠らないように気を張っていた。

 

 こういう時どう言えば安心してくれるだろうか。気にしすぎだとか、馬鹿な事言ってんなとか思う事はあるけどどれも今送るべき言葉じゃない。

 はやてちゃん真剣にそれに悩んで苦しんでいるのだから。

 

「じゃあさ、不安で眠れないなら約束しようぜ」

「約束?」

 

 あぁ、そうだ。約束だ、バカな俺が頭を捻って言葉を並び立てた所で薄っぺらい想いのこもってない言葉が飛び出るだけだ。

 今、俺が言いたい事したい事を伝える。それが正解なのか不正解なのかは関係ない。突拍子のない事を言うのが、するのが俺なんだから。荒瀬慎司、なのだから。

 

「そう、約束。もしもはやてちゃんが目覚めなくて、全然起きてくれなくなったらさ……俺が意地でも叩き起こしてやるよ」

「ど、どうやって?」

「そうだなぁ………頭突きでもかましとけば起きるんじゃね?」

「また適当な」

「けど起きるまで辞めねぇぜ?血が出ても、痛くても、頭が変形しても起きるまでやめない」

「そら怖いなぁ」

「怖いだろ?それが嫌ならちゃんと起きるか、起きれなかったら一発目の頭突きで起きるか。よし、そう言う約束にしよう」

 

 はやてちゃんの手を取り俺の小指とはやてちゃんの小指を絡ませる。

 

「俺ははやてちゃんがもし目覚めなくなったら頭突きする、どんな状況でも容赦なく。はやてちゃんは、俺に頭突きされたらちゃんと起きる。これ約束な」

「無茶苦茶や」

「そうだな。けど、ないよりいいだろ。約束ってのは守る為にあるんだ、約束したんだからはやてちゃんは例え眠ったままになっちゃっても俺が頭突きしたら起きれるよ」

「何を根拠に言うてるねん」

 

 いつも突っ込みのような感覚ではやてちゃんは笑うが俺は笑顔を崩さず言ってみせる。

 

「約束ってそう言うもんだろ?」

「………………」

 

 約束するんだ、だからはやてちゃんは起きれる。はやてちゃんは約束を守れる子だって俺が信じている。それでいい、根拠のない子供の理想論すらも厳しく聞こえてしまうような甘い幻想だ。

 

 けど、そんな突拍子もない俺のバカみたいな励ましでも

 

「……なら、頭の形が変わる前に起きんとなぁ」

 

 心が少しでも、気持ちが少しでも晴れやかになってくれるのならそれでいいんだ。

 

「だから、安心して寝な。ゆっくり休んで明日には元気になるようにな」

「…………うん」

 

 微笑を浮かべて目を閉じるはやてちゃん。やっぱり眠たかったのだろう、すぐにでも眠ってしまうような雰囲気だ。

 

「慎司君、ありがとう……なぁ………」

 

 そう言ってはやてちゃんは微睡に身を投げる。規則的な呼吸をしているのを見届けてから。俺は部屋を出る。扉を開ける直前、つい俺はもらしてしまう。

 

「俺はまだ、何もやってあげれてないよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 部屋が重苦しい雰囲気に包まれている。慎司は先ほど私達に別れを告げて帰路についた。流石にこれから夕飯という雰囲気でもなくなってしまい、主はやてを励ましてくれた後にすぐに帰ってしまった。

 

「シグナム……」

 

 重々しく口を開くシャマル。顔色は悪い、シャマルの体調には何ら異変はないのにその顔色は悪かった。慎司の前でよく隠し通せたと思う。

 

「闇の書の進行が予想よりも早いわ……」

「そう……か」

 

 沈黙。

 私達が出来る事は主はやてとの約束を違えて魔力を蒐集すること。それが唯一はやてを救える方法、例え許されぬ犯罪行為であっても私達は迷う事はない。

 

「私は蒐集に出る。はやてを頼んだぞ、シャマル」

「……分かったわ」

 

 はやてが用意してくれた地球での服から騎士甲冑に姿を変える。魔法を知らない慎司には見せれないな、だから当たり前だがはやての体の事も魔法の事も秘密だ。

 慎司には、これまで通りはやてに友人として接して欲しい。そして、やましい事をしている私達の荒んだ心にも安らぎを与えてくれる。大切な友人だからこそ言えるわけも無かった。

 

 それが私達ヴォルケンリッターの総意でもある。慎司、次はいつ会えるだろうか。出来るだけ速く憂を断とう、はやての事で心配をかけないようにしてやる。だから、どうかそれまでは………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 慎司と守護騎士達、そう遠くない日に訪れる決別の日は近い。

 

 

 




 閲覧どうもです。感想、意見等よければよろしくお願いします!


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不和


 デイズゴーンが面白い。ゾンビゲーはたまにやると面白い


 

 

 

「デッケェ部屋だなぁ」

 

 訪れたその場所を見てそう溢す。ここはなのはちゃんの家の近所にある高級マンションのその一室。部屋は当たり前に広く家賃を想像するだけで震える。ちなみになのはちゃんも来ていて今はフェイトちゃんと2人でお話中。

 

「あら慎司君、来てたのね」

「お邪魔してます」

 

 声かけてきたのはリンディさんだ。ここはリンディさんとクロノ、エイミィさんにフェイトちゃんが暮らしている。フェイトちゃんが地球に来る事は分かっていたがまさかこの4人で暮らし始めるとなるとは思わなかった。

 事前に事情を知るなのはちゃんから話は聞いていたが。

 

 今回の襲撃者の事件はやはりアースラの面々が対応する事になったらしく地球での拠点圏指令室としてここを利用するらしい。下世話な話だが管理局のお金かなぁ。

 

 ちなみになのはちゃんの家の近所なのも理由があり名目上は外部協力者のなのはちゃんの保護だと言うがまぁ恐らくはフェイトちゃんとなのはちゃんを喜ばせる為なのもあると思う。

 

「クロノとエイミィさんは?」

「奥の部屋で色々今後の準備をしてるわ、悪いけど邪魔しないでもらえるかしら?」

 

 申し訳なそうに言うリンディさんに了解ですと告げる。ちぇっ、ちょっかいかけようと思ったのになぁ。まぁ、俺に色々関わらせないようにしてるのか。今後の準備って多分調査とかそ地球での活動の事だろうし。

 リンディさんはごめんね?ともう一度言葉を紡ぐと別室に引っ込んでしまった。

 さてこれからどうしようかと考えているとフェイトちゃんに声をかけられる。

 

「慎司、どうかな?似合う?」

「うん?おう、ばっちりだぜ」

 

 とサムズアップしてみせる。今日はとりあえず引っ越し……とはちょっと違うけど引っ越し祝いと言う事で急遽プレゼントをフェイトちゃんに用意したのである。

 

 それを身につけるとフェイトちゃんは恥ずかしそうにしながらも身につけた姿を見せてきてくれる。

 服?アクセサリー?ノンノン、そんなありきたりな物じゃないぜ。フェイトちゃんの好みはまだリサーチ出来てないから下手な物買えないし。

 

 俺が用意したものは。

 

「ほ、ホント?嬉しいな」

 

 クウガの変身ベルトである。あ、勿論子供用のDX版ね、大人用のCSMは流石に用意できない。それを身につけて嬉しそうにしているフェイトちゃんは何だかシュールだ。

 いやまぁ、嬉しいですけどね?フェイトちゃんも仮面ライダーファンになってくれてさ、俺のせいだけど。

 

「フェイトちゃんが喜んでるならいいけど、女の子のプレゼントとしてはどうかと思うよ?慎司君」

「俺もそう思う」

 

 なのはちゃんに同意だ。ぶっちゃけボケたつもりだったんだけどな。まさかあそこまで嬉しそうにするとは想定外。複雑な気分である。

 

「折角だし変身ポーズやってみなよ」

「え?は、恥ずかしいよ……」

「勿体ないぜ?折角着けたんだし、俺もプレゼントしたからには一回は見たいなぁ……」

「う、うぅ……慎司がそう言うなら」

 

 フェイトちゃんが恥ずかしそうにポーズを取り始める。てかやっぱり覚えてるのね、連続で全話二週しただけのことはあるよ。

 なのはちゃんもドキドキとした様子で見守っている。俺はポーズを取り始めた段階で携帯を取り出していた。

 

「………へ、変身!」

 

 ベルトの変身待機音をしばらく響かせだ後、そう叫んでポーズを取る。ベルトからは変身音声が鳴り響く。一時の沈黙が訪れ

 

「はい、録画完了。永久保存します」

「わああああああ!!」

 

 魂の叫びと共に頭を抱えるフェイトちゃん。そんなに恥ずかしがらなくても可愛らしい映像だから気になさんな。本人はそう思えないだろうけど。

 まさかフェイトちゃんの黒歴史の立会人なれるとは光栄だ。

 

「け、消して慎司!お願い、は、恥ずかしいからぁ!」

「やなこった」

「そんな事言わないでぇ」

「なのはちゃん、データいる?」

「うーーーーーん………ごめんフェイトちゃん、ちょっと欲しいかも」

「なのは!?」

 

 ふむふむ、なのはちゃんとフェイトちゃんがじゃれ合ってる姿を見て眼福眼福と手を合わせているとフェレット姿のユーノと子犬姿のアルフが歩いてきた。………子犬姿?

 

「アルフ、お前なんだそれ?」

「新形態の子犬フォームだよ」

「なのはやフェイトの友達の前ではこの姿じゃないと」

 

 ユーノがそう代弁して確かになと納得する。いまアリサちゃんとすずかちゃんはこのマンションに向かってるんだ。

 ユーノはアリサちゃんやすずかちゃん達の前じゃフェレット姿しか見せてないしそもそも魔法も知らないし。

 アルフは逆に前の狼姿だと色々不都合だ。前にアリサちゃんが怪我をして拾った経緯もあるし説明がめんどくさい。

 

「なのは、フェイト、慎司……友達だよ」

 

 噂をすれば何とやら、クロノが来客の知らせをしにきてくれた。おいでなすったな2人とも。早速3人で出迎えに、フェイトちゃんは2人とははじめてのご対面だ。

 

「初めまして……てのも何か変かな」

「ビデオメールでは何度も会ってるもんね」

 

 玄関先でそう困ったように言うアリサちゃんとすずかちゃん、そうは言っているが2人は感慨深げだ。

 

「うん、でも会えて嬉しいよ、すずか……アリサ」

 

 フェイトちゃんも顔を赤くしつつ嬉しそうにそう言葉にする。フェイトちゃんもずっと楽しみにしてくれていたのだろう。共通の知り合いの俺は何だか嬉しくて胸が熱くなる。

 

「よしっ!折角皆んなで集まったんだ、外に繰り出すぞ!」

「何するのよ?」

 

 と肩をすくめるアリサちゃん。そうだな……

 

「とりあえずこのマンションの部屋一つ一つにピンポンダッシュして誰が最後までバレないかゲームするぞ」

「絶対嫌」

「何馬鹿な事言ってるのよ」

「フェイトちゃんの新生活を崩壊させる気かな?」

「慎司、悪い事は良くないよ?」

 

 冗談だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………。

 

 

 

 

 結局本当に外に繰り出すことになり近くの高町家が経営する翠屋に向かう事に。引っ越しの挨拶と言うことで俺達4人だけでなくリンディさんも一緒だ、既に前回の件でなのはちゃんをアースラで預かる時に挨拶はしていた(魔法の事は勿論黙秘しつつ)リンディさんはなのはちゃんの両親とは顔見知りだったため筒がなく行われた。

 

「うめえええ!桃子さん、今回の新作ケーキも最高です!!」

「慎司君がいつも美味しそうに食べてくれるから私も張り切って作れるわ、遠慮しないで一杯食べてね」

 

 言われるまでもなくぅ!頂きます!

 

「あんた、もうちょっとゆっくり味わいなさいよ」

「くぅぅ!ありがてぇ!トロットロッにとろけてやがる!犯罪的だ!」

「聞いちゃいないね」

 

 呆れ顔のアリサちゃんとすずかちゃんには目をくれずケーキを貪る俺。いやだってマジで上手いんだから、本当に。これ絶対ギネスいけるって。世界一美味いケーキで。

 

「フェイトちゃんどうかな?お母さんのケーキ」

「うん、凄く美味しいよ。前に慎司が食べさせてくれた時からお店に行くのずっと楽しみにしてたから」

 

 2人は2人でちゃんと楽しんでくれてるようでなりよりだ。そんなこんなで各々食事とおしゃべりを楽しんでいると見覚えのある人が何かが入った薄い箱を小脇に抱えてこちらに近づいてくる。

 あれは……確かアースラの組員の人だ。

 

 組員の人は俺達に会釈しながらフェイトちゃんその箱を渡して

 

「はいこれ、今日届いたから届けにきたよ。詳しい話はリンディさんにね?」

 

 そう言ってすぐに立ち去って言った。全員状況が飲み込めずとりあえずその箱を開けてみると

 

「あ、これ……」

「俺達の学校の制服だな」

 

 いやはやリンディさん、粋な事をするね。

 すぐに4人で桃子さん、士郎さんと立ち話をしているリンディさんの元に。

 

「あの、リンディさんこれって……」

 

 戸惑いながらフェイトちゃんが渡された制服をリンディさんに見せる。

 

「転校手続き取っといたから、週明けからから4人とクラスメイトよ」

「聖祥小学校ですか、あそこはいい学校ですよ。なっ、なのは?」

「うん!」

 

 事態を理解した士郎さんがそうなのはちゃんに問う。俺とアリサちゃんとすずかちゃんも同意だと頷く。

 

「よかったわね、フェイトちゃん」

 

 そう笑顔で桃子さんに言われてフェイトちゃんは

 

「あ、ありがとう……ございます」

 

 恥ずかしそうに顔を赤らめて制服の入った箱で顔を半分隠しながらそう嬉しそうに言った。

 

「よっしゃ!入学祝いじゃあ!!なのはちゃん!フェイトちゃんに生ビールを!俺の奢りじゃあ!!」

「いい雰囲気が台無しだよっ!?」

「あ、やべ!フェイトちゃんとこのマンションに携帯忘れたから取りに戻るわー!」

「やりたい放題かっ!」

 

 アリサちゃんのツッコミを背中に受けながらも俺は慌てて来た道を戻る。フェイトちゃんが数日後には俺達の学校に転入してくるならすぐにでも連絡してやりたい事ができたからだ。

 ふっふっふ、折角だし色々仕込んでやるぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

 

 

「おーいクロノ、俺の携帯見なかったかー?」

 

 お邪魔して声をかけてみるが返事がない。奥の部屋か?そういえば奥の部屋で今後の準備をしてるとか言ってたか。

 事件の捜査とかそう言うのだろうからとりあえず邪魔しないでおこう。しかし部屋を隈なく探してみるが携帯が見つからない。

 あれ?俺がいた場所は全部探したよな?うーん……しょうがないよな?奥の部屋の扉をノックして部屋に押し入る。

 

「忙しいとこ悪いクロノ、俺の携帯見なかったか?」

「っ!慎司か……」

 

 俺の来訪に気付くとクロノは慌てた様子で魔法でプロジェクターのように映し出された映像を消す。一瞬だけ映像が見えたが他は殆ど分からなかった。

 やっぱり、クロノは今回の件は徹底的に俺に関わって欲しくないんだろう。まぁ、その意は汲むつもりだからいいけども。

 

「携帯なら僕が預かってたんだ、ホラ」

「お、サンキュー」

 

 クロノから携帯を受け取り、礼を言ってすぐに退室する。扉を閉める瞬間にクロノから安堵のような溜息が聞こえたが聞こえないフリをした。

 

「…………」

 

 最初に部屋に押し入った時にわざとではないがモニターの画面についつい目がいった。見えたのは一瞬だったが俺はその時見た映像が気になっていた。

 

「あの本………」

 

 映像にあった装飾が施されている大きい本。魔導書なんてイメージがつくその本には見覚えがあった。両親が今調べている何かしら重要な事項の書かれた書類にあったものと一緒だった気がする。忘れ物として届けた時や乱雑に置かれていたのを整理した時に目についたのを覚えている。

 クロノ達が追いかけている襲撃犯と両親が調べているものは一緒なのか?または関係しているか。

 思考の海に浸かる前に頭を振って考えを消す。今回はしゃしゃりでないと決めたんだ。余計な事を考えるのはよそう。

 

 そんなことよりもだ、今のうちにいろんな奴に連絡せんとな。ふっふっふ………。

 

 

 

 

 

 

 

……………。

 

 

 

 

あっという間に数日が経ち、いよいよフェイトちゃんが俺達の通う小学校に転校してくる日がやって来た。とりあえず俺達4人は先に合流しフェイトちゃんのいるマンションに。

 

「あ、皆おはよう」

 

 何だか少し緊張気味のフェイトちゃんを出迎え、リンディさんに見送られて学校に向かう。道中は他愛もない会話をしながら楽しげに登校するフェイトちゃんだが学校が近づくにつれやっぱり少し緊張してきたようで。

 

「そんなに緊張しなくても平気よ、私達も色々手助けするから」

 

 アリサちゃんの一言にありがとうと笑顔でフェイトちゃんは返すがやはり表情は硬い。ふむ、そろそろ仕掛けるか……こっそりと携帯を操作しメールを送る。

 するとすぐに動きがあった。

 

「慎司っ!」

 

 俺たちの後ろから慌てた様子で声を掛けて来たのは俺たちのクラスメイトの男の子だ、俺も割と仲良くしている子でもある。

 

「大変なんだよ!」

「どうした?」

「とにかく一緒に学校に来てくれ!」

「お、おう?わかったよ。悪い、先に行ってるな?」

 

 そう4人に声を掛けて足早に2人で学校に向かう。4人が見えなくなったところで

 

「良い演技するじゃん慎司」

「うっせ、お前は逆に不自然だよ」

 

 何だよ大変な事って、もっと他に連れ出せる理由あるだろ。まあいいけどさ。

 

「とにかく準備しないとな、何とかギリギリ間に合いそうだぞ」

「本当か?よかった」

 

 完成さえすれば問題ない。

 

 

 

 

 

 

「大変な事って何だろうね?」

「慎司が関わってるならどうせくだらないことよ」

「あはは、そうかもね」

 

 取り残された4人のすずかとアリサとなのははそう言葉を交わしていたがフェイトの表情は相変わらず緊張した面持ちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝のホームルームの時間。既に教室には生徒が着席し先生の話をきくところなのだが、明らかにおかしい今の状況に女性の担任の教師は頭を抱えながら一言呟く。

 

「どうして男子が誰もいないのよ……」

 

 そう、既にチャイムが鳴り生徒は既に教室にいなければいけない時間なのだがこのクラスの男子が誰一人教室にいないのだ。

 

「また荒瀬君の仕業かしら……」

 

 頭を抱えながらそう悲壮に教師は漏らす。それを聞いたなのはとアリサとすずかは苦笑いを浮かべていた。今廊下に控えているであろうフェイトちゃんの折角の晴れの日に何をしでかすつもりなのだろうかと。

 

「まぁ……いいわ。今日はこのクラスに転校生がやって来ます、皆拍手でお出迎えしましょう」

 

 よくはないのだが教師は予定通りに話をホームルームを進めた。既にこの手の事で慎司が過去に色々大掛かりな事を何度もしている。

 既にこの教師も慎司に毒されもうどうにでもなれと言った感情だった。

 クラスの半分がいない拍手は少々盛り上がりに欠けつつもおずおずとした様子でフェイトが入室する、緊張した面持ちで注目を浴びつつ自己紹介を終えた時だった。

 ガラガラと乱暴に教室のドアが開かれそこにはまだ席についてなかったクラスの男子生徒が1人。教師が注意するがそれに意を返さずただ呟く。

 

「………天使だ」

「え?」

 

 フェイトの方を向いてそう言うその男子生徒はフェイトが疑問の声をあげるとダッシュで目の前まで移動してどこからかカーネイションを取り出しながら

 

「3秒前からあなたが好きです!俺のお嫁さんになってください!」

「「「えええええええええっ!??」」」

 

 素っ頓狂な声をあげたのはなのは達3人。残る他の女子生徒も勿論黄色い歓声ではなくええっ……というドン引きの声だった。

 

「えと、あの……そんな急に」

 

 どう返答したものかとフェイトが悩んでいると再びガラガラと乱暴に教室の扉が開く。

 

「ちょっと待ったーー!」

 

 カーネイションを持った別のこのクラスの男子生徒が叫ぶと同時に今度はバラの花束を取り出しながら

 

「僕は今日、たまたま職員室で見かけた18分前から君の事が好きです。結婚はしなくていいから僕の子供を産んでください!」

「「「大胆な告白だーーーー!?」」」

 

 なのは達の絶叫が響くなか、先に告白をした男子が

 

「お前!先に告白をしたのは俺だぞ!」

「ふん、馬鹿め。恋とは先に告白したかどうかが重要じゃない、重要なのは……恋した時間と渡す花の量だ」

 

 んなわけあるかと内心みんなツッコんだ。仮にそうだとしても時間に関してはたかが10数秒違いである。

 

「ぐぐ……くそっ!」

 

 そう言われ先に告白をした男子は悔しそうに膝をついた。

 

「待って!それを理由に諦めるの!?」

 

 なのはの至極真っ当なツッコミが飛んでくるが男子は変わらず悔しそうだ。

 

「というわけでフェイそんさん」

「フェイトだよ」

「僕の想いを受け取って貰えるかい?」

 

 どこか聞き覚えのある間違いを指摘しつつフェイトは考える。ぶっちゃけ振る以外の選択肢はない。名前間違えてるし、初対面だし、しかしどう言えば円満に話を進められるか残念ながら社交性がまだ低いフェイトには思い浮かばなかった。

 困った様子のフェイトを差し置いてバラの花束をズイズイと差し向ける男子は続けた。

 

「結婚はしなくていい、けど僕の子供は産んでくれないかな?フェイトたそとの子供だけ欲しいんだ」

 

 ああこの人絶対に振ってやるとフェイトは思った。あとフェイトたそってなんだ。もう手酷く振ってやろうとささやかな決意をしたフェイトだったが実行に移る前に再び教室のドアが騒がしく開けられた。3人目の男子だった、無論このクラスの。

 しかしその男子の格好は普通ではなく全身様々な花を身体中に気持ち悪いほどくっ付けているいわば花男と言うモンスターのような外見だった。全員絶句である。

 

「エイト・エスプレッソさん!」

「もう私の名前の原型が殆どないね」

 

 何者だその人は、コーヒーか。あとその格好はなんだろうか。フェイトの頭の中は疑念ばかりとなる。

 

「君の事は未来予知で知っていた、14日前から好きです。僕ごと花を受け取ってください」

 

 嫌ですと反射的に出かけた言葉をフェイトは呑み込んだ。未来予知ってなんだ嘘つくな。何を言っているんだこの人は、まさかクラスの男子一人一人にこの訳の分からない告白を受けるのか。そうなる事を想像してフェイトは戦慄する。

 

「俺も好きだー!フェイスさん!」

「僕もだー!フェルさん!」

「いや僕ちんの方が好きだ〜!フェイフェイ!」

「いいや!俺の想いこそが本物だよ。ね?フェーンさん」

 

 次々と扉から、ロッカーから、窓からこのクラスの男子が叫びながら一様の花を持ってフェイトに迫る。何がどうしてこうなった、そして誰一人私の名前を言えてないと内心フェイトは突っ込んだ。

 

『くぉら!この軟弱どもがああああ!!気持ちを伝えるならこんぐらい花を使いやがれえええええれ!!』

 

 突如、外からスピーカーを介した声が響く。この教室の窓からは学校のグラウンドが見下ろせるようになっておりそこが音源だった。

 

「この声は!?」

「まさか!」

「あいつなのか!?」

「あいつだ!あの大馬鹿野郎にちがいねぇ!」

「皆んなあそこを見ろ!」

 

 教室の男子が芝居がかった動きとセリフを言いいながら外を指さす。教室にいた女子も、教師も窓からグラウンドを見やると感嘆とした声をあげる。

 

「フェイトちゃん、こっち!」

 

 訳がわからなくオロオロしてるフェイトを外を見ていたなのはが嬉しそうにしながら手招きをして呼び寄せる。なんとなくおっかなびっくりといった感じでフェイトはゆっくりとグラウンドを見下ろす。

 

「あっ…………」

 

 そこにはグラウンドの真ん中に決して無いはずの花々。薄い紫のような綺麗な花々が並んでいた。よく見るとそれらは植木鉢でそれを沢山並べているのだ。そしてただ乱雑に並べられているわけではなくちゃんと意味があった。

 正確に言うならば上から覗くと文字になるように。

 

『かんげい』

 

 歓迎、ひらがなでそう並んでいた。そして花々の前にスピーカーメガホンを持った男が一人。

 

「慎司……」

 

 フェイトの口からそう漏れる。言わずもがな慎司の差し金なのは分かった。そして協力者はクラスの男子全員、下のグラウンドのぐったりとしている教室にいない残りの多数の男子がいた。

 教室に変な告白ばかりしてきた人たちはいわば時間稼ぎ。ホームルームが始まって誰もグラウンドより先生の方を注目しているうちにグラウンドの倉庫に隠してあった花を並べ、足りない時間は教室の男子達が注目を浴びて稼ぐ。

 

 こういった段取りだったのだ。

 

「ようこそフェイトちゃん、俺たち皆んなフェイトちゃんを歓迎するぜ!!」

 

 イェーイと教室の男子もクタクタになっている慎司を含めたグラウンドの男子も歓迎ムードでフェイトちゃんに手を振ったり声援を送る。慎司からの転入祝いのちょっとしたサプライズだった。

 

「あら、荒瀬くんも洒落てるわね」

 

 そうぼやく担任の教師にサプライズがですか?と問いかけるアリサ。教師はそれもだけどと前置きを置いてから続けた。

 

「あのグラウンドの花、アゲラタムっていう花なんだけどね?あれの花言葉の一つで『楽しい日々』っていう意味があるのよ」

「楽しい日々………」

 

 そう反復するフェイトを穏やかな目で見つめながら教師は微笑みを交えて

 

「荒瀬君なりのメッセージじゃないかしら?テスタロッサさん、あなたにこのクラスで楽しい日々送りましょうって言う」

 

 そう教師に言われてフェイトは恥ずかしそうに、けれども嬉しそうに顔を赤く染めながら慎司にもそして協力した男子達に感謝の気持ちを大きな声で伝えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「反省文の時間だよクソがぁ!!」

「口が悪いよ慎司君」

 

 机に突っ伏しなが叫ぶ俺をなのはちゃんがそう宥める。いやはや、確かにホームルームの妨害行為にはなったけどだからってこんなに反省文書かせなくてもいいじゃない。

 既に学校の授業を終えて放課後、紅い日差しが教室に差し込んでいた。これが書き終わるまでは帰れない俺はせっせと作業を進める。ちなみに俺以外の男子は俺が主犯なので罰は免除してもらっていた。

 

「なのはちゃんもフェイトちゃんも先に帰っていいんだぜ?」

 

 既にアリサちゃんとすずかちゃんは習い事があるので既に学校を後にしている。なのはちゃんと俺からのサプライズで用意した花の一部を花瓶に生けて上機嫌な様子でそれを見つめるフェイトちゃんにそう声を掛けるが急ぎの用事があるわけではないから待つとの一点張りである。

 

「それにしても本当にびっくりしたよ、あんな沢山のお花どうしたの?」

「町中の花屋さんから強奪した」

 

 俺のその言葉を鵜呑みにしたフェイトちゃんがギョッとしながら花瓶の花と俺を何度もキョロキョロと見比べる。

 

「町中の花屋さんにお願いして手配してもらったんだ」

 

 まぁそう言う事だ。ちゃんと汚さず枯らさずに殆どは返したし。色々クラスの皆んなで花屋さん手伝ったりしてバイト代みたいなもんで貰ったのもあるし。数日で用意するのは大変だったけどな。 

 ていうか何で通訳してんだよなのはちゃん怖いよ。

 なのはちゃんのその言葉を聞いたフェイトちゃんが安心してホッと胸を撫で下ろしてるのをみて軽く吹き出してしまう。純粋と言うか何というか。

 

「ね、慎司。この花大事にするから、本当にありがとう」

「その礼の言葉今日でもう8回目だよ」

 

 嬉しいのは分かったから。そのうち枯れるまでは大事にしてくれるならそれで十分ですがね。

 

「慎司君慎司君、私も何かサプライズして欲しいな」

「あっ、なのはちゃん足元に黒光りするGが!」

「え!嘘っ!?」

「嘘ピョーン」

「そういうサプライズじゃない!!」

「勝海舟?」

「無理矢理間違えないでよ!」

 

 俺となのはちゃんのやり取りにフェイトちゃんは堪えきれずに吹き出して笑っていた。

 結局その日は不満そうに頬を膨らませるなのはちゃんと花を大事そうに抱えながら持ち歩くフェイトちゃんに挟まれて帰ったとさ。

 

 そんな風に穏やかな日常が何より幸せな事だっていうのはよく分かっていた。そして、今は色々心配なはやてちゃんともそんな穏やかな日常を取り戻せるって何となく思っていた。 

 俺は、何も知らなすぎた。関わらない事が正解な時もある。だけど、今回の事は俺はもっと早く行動を起こすべきだったと後悔する事になる。俺にとっての日常は崩壊し、苦悩して選択を迫られる時が来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………。

 

 

 

 

 

 

「何だよ……コレ」

 

 この日、俺は八神家にお邪魔していた。シグナムに大事な話があるからと呼ばれたのだ。はやてちゃんは今のところ体調に問題がないらしいが大事をとって自分の部屋で休ませているらしい。

 一応顔を出してみたが気持ちよさそうに眠っていたのですぐに退出しようとした。だが、見てしまった、視界の端にたまたま捉えた。はやてちゃんの部屋の本棚、その端に隠されているように置かれている見覚えのある本を。

 

 心臓が跳ねた。記憶が呼び起こされる。母さんが見ていた資料の端々に載っていた装飾が施された魔導書のような物、クロノ達の部屋にお邪魔した際にたまたま映像に写っているのが見えてしまった同じ本。

 手に取る、それと同じ物だった。本を開こうとするが怖くなって辞めた。元の位置に戻して部屋を出る。

 

 リビングではシグナム達が神妙な面持ちで俺を待っていた。明らかに見た目ははやてちゃんと血縁関係がないシグナム達。この人達は何者何だろう、深く考えてなかった疑問が膨らむ。

 いや、たまたまだ。たまたま同じ見た目の本を持っているだけなのかもしれない。そうだ、きっとそうだ。

 

「なぁ、話ってなんなんだよ?」

 

 平静を取り繕ってそう皆んなに問いかける。シグナムが代表して俺に告げる。

 

「しばらく、私達と会うのを控えて欲しいんだ」

「えっ………」

 

 呆けた声が出る。それは予想外の言葉だった。けど冷静になって考えてみる、何故……俺を皆んなと、そしてはやてちゃんから遠ざけようとする?

 

「理由は……はやてちゃんの体の事か?」

「それもある、だが勘違いしないで欲しい。お前は私達にとってもはやてにとってもかけがえないの友人だ、それは変わらない」

「じゃ、なんで……」

「詳しくは……話せない」

「何だよそれっ」

 

 つい声が大きくなる。俺に、隠し事があるって事か。何か大きな隠し事が。そう、例えば……この間の夜。なのはちゃん達を襲ったのはシグナム達……とか?

 いや、と心中でかぶりを振る。その考えはいくらなんでも飛躍しすぎた。考えすぎだ、落ち着け。

 

「すまない、しかしはやての為でも慎司の為でもあるんだ。詳しくは話せないがそれは信じて欲しい」

「……………」

 

 そんな風に言われては何も言えない。

 

「約束する、全て解決したら慎司に全てを話す。だから、今だけは私の言葉を信じて欲しい。何も聞かずに言う通りにしてくれないか?」

「………くっ」

 

 踵を返して玄関に向かう。納得はいってない、疑問も疑念も多々ある、何より………あの本の事も聞けてない。しかし、俺はそれ以上考えるのが嫌になって玄関に向かった。

 

「………すまない」

 

 背中からシグナムの悲痛な小さな声を受け取る。軽く振り返って皆んなを見る。シャマルは目を伏せ悲しそうな顔をしてヴィータはどうしていいか分からず寂しそうなに顔を伏せ、ザフィーラは心なしか耳までぺたんと垂れていた。そしてシグナムは何かを抑えるように震えるほど拳を握っていた。

 

「……………」

 

 俺は何も言わず八神家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで……良かったんですよね」

「ああ、万が一でも慎司は巻き込めない。この間の件で管理局に本格的に目をつけられているだろうからな」

「…………」

「ヴィータちゃん?」

「ああ、くそっ………分かってるよ」

「………全て終わったら誠心誠意謝ろう。理由はどうあれ私達は慎司を傷つけてしまったから」

 

 シグナムの言葉に全員が頷く。慎司が出て行ってすぐにそんな会話が繰り広げられていた事を肩落として逃げるように帰路につく慎司には知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 





 ウルトラマンの動画ばっかり見てる。ぼーっとしすぎていきなり慎司がスペシウム光線を打ってる描写を描いた時は驚いた←マジです


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荒瀬慎司は立ち上がる


 シンウルトラマンの予告映像見た。絶対見に行きたい。


 気分が優れなくて俺はその日学校を休んだ。なのはちゃん達にメールで体調を崩したと伝え学校への連絡は母さんがしてくれた。今頃珍しく学校を休んだ俺に驚いている頃だろう。

 気分が優れないと言っても体調的な意味ではなく本当に気持ちとか気分が悪い。昨日のシグナム達に告げられた突然の決別………は言い過ぎか、距離を置いてくれと言われたのが堪えたのは事実だがそれだけではない。

 疑念は晴れてないのだ、あのはやてちゃんの部屋で見つけたあの本についての。

 

 ベッドから飛び降りて家を出る準備をしているママンを盗み見る。今は朝食の後片付けをしてくれている所でパパンは俺が起きた頃には既に家にいなかった。

 片付けに夢中のママンにバレないようにリビングのテーブルの上に置かれている書類をバレないように適当に数枚拝借して部屋に戻る。運良く一枚だけ目当ての物が載っている書類だった。

 

「やっぱり同じ……だよな」

 

 何かの勘違いかと期待したが容易く打ち砕かれる。やっぱりはやてちゃんの部屋にあった物と同じ本だ。クロノ達と俺の両親はこの本を追っている事は関係者じゃない俺でも想像はつく、そして状況的に考えてこの本の所有者がなのはちゃん達を襲撃した張本人の可能性が高い。

 はやてちゃんが?いや、何とも想像しづらい。シグナム達……はやてちゃんからは何で一緒に生活しているのかとか経緯は全く聞いてないから断言は出来ない。

 

 何にせよ材料が足りない。とにかくこの胸のモヤモヤを早く消し去りたい。消すには俺のこの想像が間違いだと証明できればいい。八神家が襲撃に関わってるなんて俺の妄想だと。その為には………襲撃者の顔は割れてたはずだ。クロノ達に直接聞きに行くか?

 

「いや、ダメだ」

 

 かぶりを振る。あいつらは俺を事件に関わらせるのを嫌がっている、理由もなく情報を教えてはくれないだろうしかといって理由を言えば真っ先にシグナムたちに白羽の矢が立つだろう。それは…避けたかった。真実はどうあれそれは嫌だった。

 パパンとママンに相談してみるか?同じあの本を追ってるなら情報も持っているだろうし。適当な言い訳をしてなんとかその襲撃者の顔がわかる映像でも見せてもらえれば……。ママンはまだお片付け中だ、聞くなら今しかない。俺は再び部屋からこっそりとリビングに行き、拝借した書類を元に戻しつつ何食わぬ顔でちょうど片付けを終えたママンに声をかける。

 

「なのはちゃんを襲った犯人の顔を知りたい?」

 

 俺のお願いにママンは難しい表情を浮かべる。

 

「慎司まさか、一人でその犯人を捜そうって魂胆じゃないだろうね」

「違うさ、ただなのはちゃんが襲われたのは海鳴なんだろ?という事は俺もたまたま見かける可能性だってあるじゃないか。顔を知っとけばいざって時クロノや母さん達に連絡できるだろ?」

 

 もっともらしい理由を告げてみるがママンは難しい表情をしたままだった。

 

「確かにその通りだけど……なんだって急に?」

「急じゃないよ、前から考えてはいたんだ。大事をとって学校休ませてもらってるからトレーニングは控えなきゃだし、かといって何もしないのもさ、正直暇つぶしな面もある」

 

 あははと愛想笑いを浮かべて苦しい言い訳を述べる。ママンも俺がまさか一人で事件を追おうとするだなんて思うまい。俺だって確認して安心したいだけさ、シグナム達は事件に関係ないって言う確認を。

 

「はあ、しょうがないわね」

 

 ため息を交えつつママンはリビングから書類を取り出して俺に手渡す。

 

「あんたどうせミッドの文字は読めないんだしこの中からその襲撃者の映像の切り抜きがあるから探してみなさい。コピーは別にあるから部屋でゆっくりと見てなさいな」

「あ、ありがとう……」

「言っとくけど、遊び半分な気持ちで見ていいものじゃないからね。もしもの時のためって事を忘れちゃだめよ」

「わ、わかってるよ」

 

 ならよしと頷いてママンはさっさと支度を済ませて家を出た。玄関先で昼食は冷蔵庫にあるからチンして食べなさいと言い残して。俺はそれを見送ってすぐに部屋に戻った。

 

「大丈夫、大丈夫だ……」

 

 そう言い聞かせて震える手で書類をめくる。心臓が早鐘を打つ。違うきっと違うはずだ。目当ての書類はなかなか見つからない。じれったくなる気持ちを抑えて一枚一枚丁寧に確認していく。そして……

 

「あ……あああ……」

 

 見つけた。文字は何が書かれているかさっぱりだが写真の切り抜きがある。バリアジャケットを身にまとい臨戦状態のなのはちゃんと相対しているハンマーらしき物を持った見覚えのある子を。見たことのない表情でハンマーを振りかぶりなのはちゃんに襲いかかっている……ヴィータちゃんの姿を。

 

「違う、嘘だ…」

 

 さらに資料をめくる、次に切り抜かれていたのはフェイトちゃんに対峙する剣を持ったシグナムの姿。互いに戦っている最中なのは映像じゃなくてもわかる切り抜きだ。

 

「嘘だ……嘘だ…」

 

 次に切り抜かれていたのは魔法陣を展開して何らかの魔法を行使しているシャマルの姿と見覚えのない筋骨隆々とした体つきの男。咄嗟にザフィーラの姿が思い浮かんだ。アルフの一例を知っている俺はすぐに答えに結び付いた。

 

「嘘だあああぁぁぁぁぁ…………」

 

 かすれたような情けない声が漏れ出る。違う、違う、こんなの……絶対に間違い…じゃないのは明らかだった。言い訳もできない彼女らがなのはちゃんを襲った襲撃者でありアースラが両親が追っている事件の容疑者だという事の。

 ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな

 

「クソがぁ!!」

 

 ドンと拳を机に叩きつける。知りたくなかった、こんなこと知りたくなった。知らないほうがよかった、見て見ぬふりをしたかった。そんな現実逃避を考えたがそんなことをしても状況は変わらない。冷静になれ、とにかく落ち着くんだ。そうだ、よく考えるんだ、俺は知ってるはずだ。シグナム達が私欲が理由でそんな犯罪行為に手を染めるとは思えない。

 管理局が知らない皆のこころ優しい一面を知っている。試合を精一杯応援してくれたことも、俺を励ましてくれたことも。はやてちゃんに対する親愛を俺は知っているんだ。だからきっと、仕方のない理由があるはずなんだ。そう、信じたい。だから考えろ、振り絞って考えろ。

 

 

 まず、はやてちゃんの事だ。この子がどう関わっているかだ。襲撃に関わっているのか否か、恐らくだが俺ははやてちゃんは襲撃どころか魔法にすら無縁なんじゃないかと思う。証拠があるわけではないが俺が今まで見てきたはやてちゃんの姿を思い浮かべるとそう考えたほうがしっくりくる。

 仮に、はやてちゃんが襲撃に関わってないとして、さらには一連のことを知らないとしてどうしてシグナム達と共に暮らしているかだ、これは全く思い浮かばない。

 そしてシグナム達があのような行動をしている理由、それについては推測ではあるが心当たりがあった。

 

『お前は何も心配するな。主はやての事は私達に任せてほしい、慎司にはこれまで通りはやてに会って笑顔を届けて欲しい』

『すまない、しかしはやての為でも慎司の為でもあるんだ。詳しくは話せないがそれは信じて欲しい』

 

 シグナムが口にしていたことを思い出していた。詳細な理由はつかめてないが事件を起こしている理由ははやてちゃんの為、俺を遠ざけたのは巻き込まないため。そこまでは推測できる。しかしそれ以上の事はわからない。俺は本来この事実をクロノや両親たちに真っ先に告げるべきなのだろう。しかし、それはそれで何か取り返しのつかないことになりそうな嫌な予感がしてならない。ただ単にシグナム達を庇いたいだけなのだろうが、それでもこのことを報告するのはちゃんとした理由が判明してからでもいいはずだ。他の被害者が出る前に急がなくてはならないが、詳細が分かれば平和的な解決だって望めるかもしれない。俺じゃなくても両親やアースラの面々がシグナム達と管理局に間に立って話し合いで事を済ませれる可能性だって甘い考えだけど出来るはずだ。

 

 そのためにも、なんとかして理由を突き止めなければならない。俺しか知らないこれらの事実を結び合わせれば可能性はある、そのためにも俺はまずは知らなければならない。基本的なことはまるっきり分かってないんだ。特に、この本のことについては。

 資料を見る、写真の切り抜きに俺がシグナム達を疑ったきっかけとなった例の本が載っている。この周りに記されている文字を解読できればこの本について何か分かるかも知れない。恐らく鍵を握っているのはこの本だろうから。両親達に聞く手もあるが怪しまれるのは避けたい。クロノ達アースラの皆も同じく、シグナム達に聞くのも言わずもがな論外だ。

 

「そういえば……」

 

 パパンは地球出身の魔法使いって前にリンディさんから聞いたな、だけどこの文字読めてるみたいだし、それにママンはミッドチルダ出身だけど普通に日本の文字つかえたよな……。もしかしたら二人の書斎に翻訳書があるかもしれない。

 そう思い至りすぐに二人の部屋をあさる。数十分ほどかかってしまったが二人の部屋からそれぞれ別の翻訳書らしきものを見つけた、そしてその二冊ともそれぞれパパンとママンが用意したであろうさらに分かりやすく、詳しく書かれたノートが挟まれていた。そう、