LBXを兵器になんてさせない (青蛙)
しおりを挟む

融合

ダンボール戦機の続編が出ないので初投稿です




 

 

 

 

 時は2050年、日本。この国から発信された手のひら大のロボットのおもちゃ『LBX』は、世界的な大ヒットを巻き起こし、全世界を熱狂の渦に巻き込んでいた。

 人々はLBX同士の激しいバトルに熱狂し、各地で大会が行われ、最早LBXバトルはただの遊びの枠を越えた。遂にはスポンサーのついたプロプレイヤーまでもが誕生し、激しさを増していく戦いに更に人々は夢中になる。

 

 

 そして今日も、日本国のオーサカシティにて、一つのLBX大会が終わりを迎えようとしていた。

 

 

「見事このオーサカ大会を制したのはァ、愛機『セイリュウ』と共に今年も圧倒的な強さを見せつけた、西日本最強とも噂される我等が『無敗の龍神』ンンン!」

 

 大会の実況解説をしていたスタッフが大仰な身振り手振りで観客達の視線を集め、マイク片手に天に向かって声高に叫ぶ。

 

青柳(あおやぎ)リュウセイだぁぁぁっ!」

 

 その瞬間、会場のボルテージは頂点に達した。

 歓声が沸き起こる中、スポットライトの光を一身に浴びて僕は表彰台へと上がっていく。

 

 全てを思い出したのは、その時だった。

 

「?……うっ!」

 

 突如として滝のように脳内に流れ込む大量の情報。混ざりあう今と昔の二人の自我。荒れ狂う思考の波。

 頭の痛みで崩れ落ちそうになる身体を必死に支え、誰にも感付かれないように、出来るだけ自然な動きで足を動かした。

 今の自我、青柳龍生としての自我が、観客達の前では絶対に倒れない強いチャンピオンを演じようと、途切れそうになる意識をギリギリのところで繋ぎ止めてくれている。

 

 なんとか壇上に上がり、オーディエンス達に向けて笑顔で手を振る。僕の首に金のメダルがかけられると、再び歓声と拍手がどっと沸き起こった。

 

「本大会の優勝者の青柳選手には世界最強のLBXプレイヤーを決める大会、アルテミスへの出場権が与えられます! 青柳選手、大会に向けて意気込みのほどをお聞かせ願えますか」

「はい。アルテミスは全LBXプレイヤーの頂点を決める最高の舞台。各国から激戦を潜り抜けて出場権を勝ち取った猛者達が集まってきます。ですが! 僕は負ける気など微塵もありません。この『セイリュウ』と共に、全LBXプレイヤーの頂点に立つとここに誓います!」

 

 そう力強く宣言した瞬間、会場のボルテージは最高潮に達した。

 皆から愛される、尊敬されるLBXプレイヤーであれ。西日本の覇者として、情けない姿は見せられない。額からは冷や汗を流しながら、必死に取り繕った笑みを張り付けてファンサービスに徹する。

 

「流石は我らがチャンプ! 世界大会相手にもいつも通り、力強いメッセージをくれたァ! それでは、皆さん優勝した青柳選手に今一度盛大な拍手を!」

 

 鳴り止まぬ歓声と拍手の嵐。

 何処か別世界の出来事の様にさえ思えてしまう。

 

 そう、全部思い出した。

 この世界はずっと昔に遊んでいた大好きなゲーム、『ダンボール戦機』の世界。そして、現在の僕にとってはそう遠くない未来、世界中の人々に愛されていたLBXというおもちゃが、悪い考えを持った人達によって人々を傷付ける兵器にされてしまう悲しい世界。

 僕はそんな世界でプロのLBXプレイヤーとして華々しく活躍する中学生。青柳リュウセイというキャラクターなんて原作には存在していなかったはずだが、自分が何者なのか、しっかりと今の僕が記憶していた。

 

「青柳選手ー! カメラお願いしまーす!」

 

 心の内が見ている人々に悟られないようにと願いながら、取材陣のカメラに笑顔を向ける。

 

 僕の表の顔は、数々のLBXの大会を制覇してきたトップLBXプレイヤー。

 そして僕の裏の顔は、神谷重工のお抱えLBXプレイヤーだと。

 

 

 




【青柳リュウセイ】
本作の主人公。中学一年生の少年。
表の顔は神谷重工をスポンサーにつけるプロLBXプレイヤーだが、裏の顔は神谷重工のテストプレイヤーであり敵対する人間の排除を行う神谷の最高戦力『四神』の一人である。
LBXバトルの実力は非常に高く、並みのプロLBXプレイヤーでは相手にすらならない程。使用LBXの『セイリュウ』は『四神』の一人である彼のために特別に作られた一点物である。
ひょんな事から突然前世の記憶を思い出したが、人格は前世のものでは無く元のまま。突然自分の世界の未来を見せられてしまい、軽度の混乱状態にある。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

LBXを狩る者

(アサシンを倒したので)初投稿です



 

 

 

 

 

  ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!

 

 

「あぁ、またか……」

 

 あの大会から数日後。学校からの帰り道、着信音に気付きCCMを開くと見慣れた四文字が目に入った。

 

「神谷重工、ねぇ」

 

 以前はこうも鬱陶しく思わなかったものだが、前世の記憶を取り戻し、LBXが悪用される未来を見せられた今となっては感じ方も変わる。

 メールを開くと案の定、ターゲットとなる人物の居場所と外見、使用するLBXと武器までご丁寧に記されていた。

 

 青柳リュウセイ。原作には存在していなかったLBXプレイヤーで、神谷重工のお抱えのLBXプレイヤーとしてイノベーターに協力している悪のLBXプレイヤーの一人だ。

 記憶では小さい頃に両親を失い、身よりの無かった僕達は神谷重工によって引き取られ、強力なLBXプレイヤーとなるべく育てられてきた。奇しくも海道ジンと似たような境遇になる。

 社長令息である神谷コウスケほどの待遇では無いにしても、計画に仇なすものを排除する為に揃えられた僕を含める四人は『四神』と呼ばれ、それぞれ一点物の強力なLBXを与えられている。

 

 LBX『セイリュウ』もその一体である。

 

 主な役割は先述した通りだが、各々にも個別の役割が与えられている。

 僕の役割は『神谷重工のイメージアップ及び試作品のテスト』。僕が公式の大会に出場し、神谷重工のLBXを使用し、正々堂々と戦って優勝する事で神谷重工のブランドイメージを向上させようという訳だ。そんな理由から大会では専用機『セイリュウ』以外にも、『デクー』『インビット』『デクー改』といった神谷重工の顔となる量産機を使用して頂点を勝ち取っていた。

 その効果は覿面で、原作とは違って神谷重工製のLBXはあのタイニーオービット製のLBXと並ぶ程の人気を博している。あの、敵役としてのイメージが一般人にまで染み付いていた神谷重工製のLBXが、だ。

 警備用のLBXとしても、『大会優勝する程の機体なら』と様々な企業が採用するようになり、デクーシリーズ及びインビットは飛ぶように売れた。

 

 元々神谷重工は大企業であったが、今や更に日本を代表するLBXメーカーの二大巨頭となった。

 しかし、そんな表向きは輝かしい優良企業の裏の顔に気付いてしまう者が居るのも避けられない事。原作『ダンボール戦機』においても主人公の山野バンや宇崎拓也達がそれにあたるが、原作には登場しなかったそうした人々がこの世界には存在している。

 四神の全員に与えられた使命が、そうした人々の排除だった。

 

「やりたくないなぁ」

 

 CCMを閉じてため息をつく。

 今までは何も疑うこともなく、これが輝かしい未来の為なのだと信じて、ただ命令に従っているだけだった。でも全てを思い出し、全てを知ってしまったのだ。

 自分の信じていた組織の真の目的。大好きなLBXが兵器として破壊と殺戮に使われてしまう未来。下らない野望のために殺されてしまう人々。

 

 こんなことはやりたくないと思いながらも、自分がどうするべきなのかただ悩み続けてCCMに示された地点に到着してしまった。

 

「……火村ケンジだな」

「ッ!? お前はっ!」

 

 夕焼けに染まった高架下の一本道。ターゲットを発見した僕はDキューブを片手に迫る。目の前の彼は僕が何をしようとしているのかを察して逃げ出そうとするが既に遅い。展開されたDキューブから黄緑色のフィールドが更に展開され、彼と僕を完全に閉じ込めた。

 

「なっ!?……クソッ、クソッ!」

「LBXプレイヤーを狩るための特殊なDキューブだ。LBXバトルが終わるまで逃げる事は出来ない」

「……そういう事か、青柳リュウセイ。ならば」

 

 男は斜めがけにしていたバッグから一対のLBXを取り出す。燃えるようなオレンジのLBX。

 

「行くぞ、『サラマンダー』!」

 

 LBX『サラマンダー』。タイニーオービット社製のブロウラーフレームのLBXだ。その独特なフォルムからか扱いが難しく使い手を選ぶと聞いていたが、どうやら彼も相当な使い手らしい。

 

「頼んだ、『トロイ』」

 

 だが、今はどうにも本気を出すような気分にはなれなかった。選んだのは『セイリュウ』ではなく、神谷重工から試作機として与えられていたLBX『トロイ』。『インビット』と同じく腕が武器腕になっている事が特徴的なブロウラーフレームのLBXである。完全自律型として作られたLBXだが、実戦での性能が如何程のものかと言うことで渡された。必要な戦闘データは既に神谷重工に全て送られていてもう僕に使わせる必要は無いのだが、報酬の一部として僕の手元に残っている。

 

「俺になんか本気を出すまでも無いってのか、チャンプ」

「……いや、そんな気分じゃ無いだけだ。始めよう」

 

 選んだバトルフィールドは工業地帯。鉄柱やパイプが植物のように張り巡らされ、撒き散らされた油や濁った水がLBXの動きを妨害する。暗い雰囲気の漂うステージで、不良の学生達なんかに人気があるらしい。

 

 トロイのその黄色の巨体が着地すると、ズゥゥンと重い音が響きステージを震動させた。暗闇に紫のモノアイが浮かび上がり、対峙するサラマンダーを威圧する。

 

「……っ、く。うおぉぉぉ!」

 

 バトルスタートの合図と同時に、相手のサラマンダーは一直線に走り出した。装備しているのは見たところサイスの『風林火山』。ゲームでもトップクラスの攻撃力を持った武器だ。原作時間において、山野バンが参戦する世界大会アルテミスが近付いているこの時点でこの武器を持っているとは、世界規模で見てもトップクラスのLBXプレイヤーである事は間違い無いだろう。

 あの武器でまともに殴られては、いくら化け物じみた性能をしているトロイでもロクにAC(アーマークラス)を上げていない事もあり、大ダメージを食らうのは想像に難くない。

 

「だが、まともに受けなければいいだけだ」

 

 サラマンダーに向かって、トロイの武器腕『デスバレル』が火を吹いた。現存する遠距離武器トップの攻撃力と連射性能。そして何よりもその異常な装弾数。

 攻撃を予測していたサラマンダーは咄嗟にブーストをかけて回避するが、固定砲台と化したトロイの吸い付くようなエイムに着実にダメージを与えられていく。

 

「くっ、だが性能に頼っただけの戦法じゃ」

 

 普通のLBXならば突破することも不可能な、止まない弾丸の嵐を風林火山で防ぎながら突進してくるサラマンダー。そのままトロイ目前まで迫った彼は、ズンと風林火山を地面に突き刺し、それを盾にしながらトロイの背後に回り込む。胴を軸に回転したサラマンダーの尾がトロイの装甲に激突し、火花を散らす。

 サラマンダーはさらに一撃をと言わんばかりに地面に突き刺していた風林火山を掴み、回転の勢いを利用して一気に引き抜いた。

 

「よし、もう一発!」

「遠距離だけじゃない」

 

 横凪に振るわれる風林火山。勝利を確信したのか火村の口角がきゅっと上がる。

 しかし、それはトロイの装甲を貫くには至らなかった。

 

「え………は?」

「トロイは無人機として設計されている。だから何ていうか………雑に強いんだ」

 

 左のデスバレルが、風林火山をしっかりと受け止めていた。その砲身には傷一つ無く、また圧倒的なトロイの膂力によって、あれ程の重たい武器で攻撃されたにも関わらず二機の位置は一ミリも動いていない。

 

「あと、性能に頼っているだけだって言ってたよね」

 

 右のデスバレルが火を吹いた。しかし狙ったのは目の前にいるサラマンダーでは無い。予想外の方向への発砲に火村は反応することが出来ず、サラマンダーは微動だにしなかった。

 

「お前、何を」

「盾になってよ」

 

  ドォォォォォン!

 

 直後、サラマンダーの背後で凄まじい爆発が起こる。トロイに攻撃した時のままの姿勢だったサラマンダーは回避が間に合わず、トロイによってその爆発の盾にされてしまった。

 先程狙ったのはサラマンダーの後ろにあったドラム缶。トロイの銃撃によって中の油に引火し、爆発を起こし、更に連鎖するように他のドラム缶にも引火して大爆発を起こしたのだ。

 

「さ、サラマンダー!」

 

 火村が悲痛な叫びをあげる目の前で、サラマンダーの装甲は尻尾から順に砕け散る。更に追い討ちのように正面からデスバレルの銃撃がサラマンダーを襲い、それから数秒の間で無残にもサラマンダーは鉄屑と化した。

 

「そん、な……俺は、負け」

 

 愛機を失い、これから自分がどうなるのかを察した火村はがっくりと項垂れ、膝から崩れ落ちた。

 サラマンダーが一直線に向かってきた時からずっとこれを狙っていた。武器だけでなく尻尾まで攻撃に用いるテクニックには感心したが、それだけだ。神谷重工にはもっと強く、化け物じみたプレイヤーが揃っている。攻撃的な彼のプレイングから、位置をコントロールするのは容易だった。

 

 黄緑色のフィールドが解除され、LBXが手元に戻ると同時にバトルフィールドはDキューブに戻る。

 あまりのショックに膝をついて項垂れたまま、動けなくなっている彼にトロイのデスバレルを突き付け、僕は彼に歩み寄った。

 

「(どうしたものか)」

 

 今まで通り本部に連絡し、こうして倒した彼を神谷重工に引き渡すのは簡単だ。しかし生まれ変わった自我と記憶が僕を迷わせる。

 本当にこのままで良いのだろうか? 元々ストーリーの表舞台に現れすらしなかった僕はいずれ消える存在だと、大人しく従い続けるままで良いのだろうか?

 

「僕は、どうしたいんだ?」

「………は? お前、何言って」

 

 火村が涙で濡れた顔を上げる。その瞬間、僕の中でカチリと何かがぴったりはまる音がした。

 

「そっか……僕は、LBXを兵器にしたくないんだ」

「は、はぁ? 兵器同然にLBXを扱ってる奴がなに言ってるんだ! 表では華々しく活躍してるお前の裏の顔だって、俺はよく知ってるんだぞ!」

 

 ぽかんと口を開いたままの間抜けな表情のまま、叫ぶ火村を見下ろすと、彼も叫ぶのをぴたりとやめてぽかんと口を開いたまま固まってしまった。

 唖然としているというか、半分呆れられているというか。火村のその表情からは「本当にお前は何を言っているんだ」という気持ちがありありと伝わってくる。

 

「火村さん、これあげるから、新しいLBX買って、逃げて」

「え、ハァ? って、じゅ、10万クレジットも!?」

「壊したサラマンダーは僕が証拠として貰うけど、貴方は自分の身を守るためにもLBXを買って。神谷重工以外ので、出来るだけ、強い奴を」

 

 僕はトロイのデスバレルを下げさせて、電源をオフにしてバッグにしまった。そしてバッグからフリーザーバッグを一枚取り出して、サラマンダーの破片を一つ一つ回収していく。

 回収が終わり、再び前を向くと、相変わらず唖然とした表情の火村が膝をついたまま固まっていた。

 

「どうしたの、逃げないの?」

「あ、あっ! ああ、逃げる。逃げるよ。でも、お前は何故」

 

 先程までサラマンダー相手に冷酷な戦いを見せつけた神谷重工のお抱えプレイヤーが、何故突然自分を助ける気になったのかと、火村は聞いてきた。

 彼からすれば予想外にも程がある展開だろう。いきなり敵幹部クラスに道端で襲われ、LBXバトルで完膚なきまでに叩き潰された。このまま自分は神谷重工に捕らえられてしまう。その筈が、何故かここまで自分をボコボコにした相手が突然救いの手を差し伸べてきたら、頭がイかれてしまったのかと思っても当然だ。

 だから、彼の疑いを出来るだけ晴らして、可能な限り信用して貰えるように真実を話す。

 

「僕はLBXが好きなんだって、今頃になって思い出した、それだけ」

「そ、そうなのか。それなら良いが………って、こんな大金受け取れないよ!」

「大会の賞金でお金には困ってないから、受け取って。身の安全の方が優先」

「はぁ………なら、受け取っておく。だが、俺を逃がして本当に良かったのか?」

「大丈夫。それに戦ってるのは貴方だけじゃない」

 

 小さい頃から神谷重工という会社の庇護の元に育ち、都合の良い価値観を植え付けられてきた青柳リュウセイという自我。それに理由は不明だが前世の記憶を捩じ込まれ、真に自信が何を求めていたのかをやっと理解することが出来た。

 青柳リュウセイはLBXが好きなのだ。今までの人生のほとんどをLBXに費やしてきた今となっては、LBXそのものが人生と言っても過言ではない。LBXこそ僕の全てであり、何よりも守るべき大切なものだった事に、やっと気付いたのだ。

 

「大丈夫。後から貴方の事を追尾させたりとか、そういう事は一切しない。だから兎に角逃げて。神谷重工と、イノベーターの手の届かない所まで」

「お前………いや、君は大丈夫なのか?」

「問題ない。上も一度のミスで重要な戦力を手放すほど馬鹿ではないだろうし、僕も頃合いを見てすぐにでも神谷重工からは抜けるつもりだから」

「そうか、なら、お互い頑張ろう。気を付けて」

 

 彼はそう言うと周りの様子を気にしながらそそくさと去っていった。

 

 彼の姿が見えなくなると、手元にあるサラマンダーの破片を眺めながら思う。勿体無い事をしたものだと。あれほどまでに丁寧にメンテナンスされ、素晴らしい動きを見せてくれたサラマンダーは滅多に居なかった。それをただの鉄屑に変えてしまった事が酷く悔やまれる。

 どうしてもっと早く気付かなかったものか。気付いていたならば最初から戦うことすらしなかったのに。

 

「………引っ越そう」

 

 どうして原作との乖離が生まれてしまったのかは未だにわからないが、僕を含めた四聖獣の働きによって神谷重工は原作以上の力をもってしまっている。

 山野バンとその仲間達は原作通りなら恐ろしく強いが、それでも今の神谷重工とイノベーターの率いるLBX軍団に勝てるかと言うとそれは怪しい。

 自分で撒いた種だ。だから自分でそれはどうにかしなければならない。だが一人で暗躍して山野バン達に敵だと勘違いされるのも困る。

 

「たしか山野バンの通ってた中学は……」

 

 上に報告する内容と言い訳と、山野バンとの繋がりを作るべく、引っ越し先の事を考えながら帰路につく。これから中学生の身で大企業とテロリストを相手取って戦うのだ。厳しい戦いにはなるだろうが、覚悟は決まった。

 

 

 さあダンボールの中で戦争を始めよう。

 LBXの未来をかけて。

 

 







【サラマンダー】
タイニーオービット社より発売された、ブロウラーフレームのLBX。ドラゴンをモチーフとして作られた機体で、オレンジのボディと太くて長い尻尾が特徴的。見た目のかっこよさから人気の高い機体だが、操作は他のLBXと比べて難しく、使い手を選ぶ。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。


【トロイ】
神谷重工が開発したブロウラーフレームの試作LBX。大きなモノアイと、圧倒的な分厚さの装甲を持つ。ナズーやインビットと同様に腕が『デスバレル』という武器腕になっており、その破壊力は圧倒的。リアルに「ずっと俺のターン!」が出来る化け物じみた機体。実は雑魚敵でお馴染みのデクーがベースになっている。
初出はマンガ「ダンボール戦機外伝」。



※本作品におけるAC(アーマークラス)について

原作ゲームにおいて、キャラクターのレベルとは別に各パーツの成長を示していたAC。本作品でもこの設定を採用しましたが、これは原作のようにLBXのパーツ自体の防御力や体力が上昇するものではないです。
本作品におけるACは、各LBXのアーマーフレームに内蔵されたAIが、バトルの中でのLBXの動きが各パーツに与える影響、攻撃を受けた際の衝撃の伝達などを学習し、よりダメージを受けない為にどのような動きをすべきかをコアスケルトンのAIに伝達させて各動作を最適化させていくといったものです。
『戦えば戦う程、動きが良くなっていく』といった認識でお願いします。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

離反


三話なのにまだ原作キャラ出てこないってマ?



 

 

 

 

「ほう、それで、取り逃がしたと?」

「はい。隠し持っていた二体目のLBXによる不意打ちを受け、逃げられてしまいました」

「ふむ……まあ良い。貴様がこのようなミスをするのは珍しいが、戦力を削げただけでも良しとしておこう。もう下がって良いぞ」

「はっ!」

 

 神谷重工のオーサカ支部にて重役達に今回の任務の失敗を報告し、逃がした件については必死に考えた嘘でどうにか誤魔化すことが出来た。やはりサラマンダーの残骸を回収して持ってきたことが説得力に繋がったらしい。サラマンダーと彼には申し訳無いが、このおかげで助かった。

 今日も今日とて年寄りのお偉いさんの無駄話を聞かされて無駄な時間を過ごす事になってしまったが、これも今日で最後だ。ご丁寧に辞表願いなんて出すつもりも無い。追手に邪魔される前にさっさと逃げてしまうのが最善手だ。

 

 会議室を退出し、エレベーターに乗って三階へと向かう。三階には神谷重工お抱えのLBXプレイヤー達が訓練を行っているスペースがあり、今日もその部屋では数人のLBXプレイヤー達が訓練を行っていた。

 いずれも無名ではあるが、世間的に見れば強者に位置する者ばかり。しかしただの『強者』では許されないのが、神谷重工のテストプレイヤーである。

 

 まだ専用機も与えられず、ただひたすらに訓練を続ける彼等を見ていると昔を思い出す。まだプレイヤー人口も少なかったLBX黎明期からLBXプレイヤーとなるべくLBXに触れ、同じ境遇の仲間達と共にああして切磋琢磨してきた。

 今日で僕は神谷重工から離れ、イノベーターとの戦いに臨む事は既に決めていたが、残していく四神の仲間達の事は最後まで気がかりだった。

 

「あっ」

 

 ふと、いつものLBXプレイヤー達の中に、見慣れない少年が混ざって訓練の様子を眺めているのに気がついた。真っ白な白髪と、攻撃的につり上がった蒼い目が特徴的な彼は、此方が見ていたことに気が付いたのか、観戦をやめてゆったりとした足取りで歩み寄ってくる。

 

「よォ、リュウセイ。今日は居ないのかと思ったぜ」

「ハクビ、どうして此処に。君は本部所属だろう」

 

 虎杖(いたどり)ハクビ。僕と同じく『四神』の一人にして神速のLBX『ビャッコ』の使い手。四神最強とも名高い彼には練習試合で散々煮え湯を飲まされてきた。

 しかし、だからといって彼を嫌っていたり苦手としている訳ではなく、彼とはライバルとして、友人として、家族として互いに信頼しあう仲。

 ただ、神谷コウスケが日本にいない今、本部にてイノベーターの守りの要を任された彼が何故ここにいるのかが疑問だった。彼は良くも悪くも命令に対して忠実であり、任務を放ったらかしてまで友人を訪ねてくるような性格では無かったはず。

 

「何不思議そうな顔してんだよ。俺がここにいちゃ悪いか?」

「いや、そういう訳じゃないし、むしろ会えたことは嬉しいけど」

「フン………さてはお前、俺が任務を放ってここに来たとか考えてないか?」

 

 考えを読まれていた事に驚いて目を見開くと、ハクビはさも可笑しそうにケラケラと笑って僕の肩を叩いてきた。

 

「バッカ、お前、俺がそんな奴に見えるかよ。俺は任務から外されたから暇だったんだよ。神谷コウスケが戻ってきたからさ。それに、お前のほうもじきに今の任務から外されるだろうさ」

「え? そんな話まだ聞いてないよ」

「あくまで俺の予想ってワケ。例の『サイコスキャニングモード』?とかいうやつの使い手がイノベーターからアルテミスに派遣されるらしくてさ。どんなのかは知らねぇけど、もしそうなったらお前がアルテミスで戦う必要は無いって事」

「そうか……」

 

 つまり僕は任務から外されて、アルテミスには出場しなくなるはずだったと言うこと。一応このまま神谷重工に残って戦う事も考えていたが、神谷重工を離れる選択は間違っていなかったらしい。

 アルテミスは物語の大きなターニングポイントだ。あの場で奪われるのはメタナスGXと偽物のプラチナカプセル。本物のプラチナカプセルは奪われなかったものの、どちらも世界を揺るがしかねない危険物で、それが揃ってイノベーターに奪われでもすれば正に絶望的。

 確実にこの二つを守る為にも、アルテミス出場は絶対条件だ。それを神谷重工に邪魔される訳にはいかない。

 

「なんだよ変な顔しやがって。任務から外されるって聞いてそんなにショックだったのか?」

「いや、そんな事はないよ。それより、ハクビはどうして僕に会いに来たんだ?」

「ンー、暇だったし、グレンの奴とヒスイの奴は他の任務で忙しいらしいし。丁度大会も終わって時間がありそうなお前のとこに来てみたってだけだ。んで、時間あるんだろ? 久し振りに一戦やろうぜ」

「ハクビ………よし、じゃあやろうか」

 

 空きのバトルフィールドへと歩いて行き、フィールドを挟んで向かい合う。勿論取り出すのは愛機『セイリュウ』。

 対するハクビも『ビャッコ』を取り出してフィールドに投入した。

 名前のとおりどちらも中国の神話に登場する神をモチーフにしたLBXで、『セイリュウ』は青と白を基調としたナイトフレーム、『ビャッコ』は白地に藍色のワイルドフレームになっている。

 

「レギュレーションは?」

「勿論そこん所はわきまえてる。ブッ壊して任務に支障をきたす訳にはいかないからな。一般的なストリートレギュレーションで、先に三機撃破した方が勝利だ」

「オーケー。こっちも準備できたよ」

 

 両手に剣『四聖獣セイリュウ』を構えたセイリュウが火山のフィールドに降り立つ。対するビャッコは、装備している爪『四聖獣ビャッコ』を静かに構えた。

 ここでゲームとの相違点が出てくるのだが、現実ではLBXはサブウェポンを装備する事は出来ない。そんな事をすれば重量もスペースもとってLBXの機動性が損なわれ、バトルどころでは無くなってしまうからだ。だからLBXプレイヤー達は常に自身が最も得意とする武器を選んでLBXに装備させている。

 また、ゲームのように『リペアキット』や『アタックリキッド』などのアイテムも現実には存在していない。一瞬にしてLBXの傷が治ったり、よくわからない力によってLBXの攻撃力が上昇する等の都合の良い物は現実では作れなかったようだ。万一作れたとしても、サブウェポンと同じように装備すること自体がデメリットになり、使用される事は無いだろうが。

 

「久々に骨のある奴が相手なんだ。ワクワクするぜ」

「今度こそ君に勝つ。四神二番手とは言わせない」

 

 僕と彼が試合を始めようとしているのに気が付いたのか、先程まで訓練をしていたプレイヤー達が集まってきていた。そもそも、たった二人でも四神が揃うことは珍しいのだ。彼等はざわつきながらフィールドを囲むように集まり、始まるのを今か今かと待っている。

 

  バトルスタート!

 

「行くぜビャッコぉぉ!」

「行こう、セイリュウ!」

 

 開始と同時にブーストをかけて真っ向からぶつかり合う二機のLBX。あのルシファーにも匹敵する強さのLBXが凄まじい速度でぶつかり合った事により、二機を中心として衝撃波が発生した。

 見ていたプレイヤー達は衝撃波によってある者はふらつき、ある者は尻餅をついて倒れ、またある者は腕で顔を守ろうとする。

 

 二刀流と爪。手数は互角。

 しばらくつばぜり合いをしていた二機は同時に距離をとり、互いに様子を伺う。常に相手の攻撃を防ぎ、また攻勢に転じれるように武器を構える。

 数分の膠着状態の後、先に動きを見せたのはセイリュウ。マグマの河を挟んで二機が向かい合った瞬間、セイリュウはブーストをかけてビャッコに迫り、さながらインファイトの如くビャッコに斬撃を浴びせる。

 しかしビャッコもそれを予期しており、見事にそのほとんどを爪でいなしきった。恐るべきはビャッコのプレイヤー、虎杖ハクビの反応速度。その動体視力と反応速度はかの『秒殺の皇帝』にも匹敵すると言われるほど。

 

「っ、相変わらず」

「そっちこそ。また腕上げたんじゃねーの? 俺がお前の攻撃を完全に防ぎきれなくなったのはいつからだっけか?」

「四年前ッ!」

 

 カウンターとばかりに放ってきたアッパーを宙返りでギリギリ回避し、セイリュウは形勢を立て直そうとする。が、暇を与える間も無くビャッコの猛攻がセイリュウを襲った。

 セイリュウを越えるスピードで放たれる斬撃をセイリュウは二刀流でいなしきれず、4度胴体に受け、最後に重い一撃をモロに食らって遺跡のオブジェクトまで吹っ飛ばされてしまう。

 

「セイリュウ!」

「まずは一機目ぇっ!」

 

アタックファンクション!コウソクケン・イッセン!

 

 土煙の中から立ち上がったセイリュウの眼前まで、金色の光を全身から放つビャッコが急接近する。圧倒的なスピードで光輝く爪がセイリュウの胴をしっかりと捕らえ、そして一気に駆け抜けた。

 

「……くっ」

 

 セイリュウの身体が力なく崩れ落ちる。そして全身から青い光を弾けさせた。

 先制したのはハクビのビャッコ。強いとはわかっていたが開幕から苦しい展開だ。周りからすれば良い戦いをしていたように見えたかもしれないが、セイリュウはビャッコに殆どダメージを与えられておらず、その上うまくコンボを決められて一機落とされてしまっている。完全にハクビのペースだ。

 

「セイリュウは速さで劣る。ビャッコを走らせずに仕留めるつもりだったんだろうが、悪いな、俺はそう簡単にはやられないぜ? 二機目はもっと速く落としてやるよ」

 

 そう言ってハクビはニヤリと笑った。

 実感させられる。自分が特別な存在では無いのだと。どんなにLBXが好きで、どんなに強くなろうと頑張っても自分は一般人の枠を抜け出すことが出来ない。まだ見たことは無いが、きっと海道ジンや山野バンはこのハクビをも凌駕する才能の持ち主だ。

 そんな事を考えて、またしても迷いが生じた。自分が神谷重工を抜けてイノベーターとの戦いに身を投じた所で何が変わるのか。自分など居なくても、山野バン達ならばどうにかしてくれるのではないだろうか。

 

「………いや、違う」

 

 数秒のクールタイムの後、セイリュウは再び立ち上がる。

 そのセイリュウに、ビャッコは容赦なく襲い掛かってきた。

 

「そうじゃない!」

 

 ビャッコの攻撃を弾き、その身体を空中に跳ね上がらせた。ブーストをかけて頭上を抜けようとするビャッコに、セイリュウは二本の剣を同時に天へと掲げる。

 

アタックファンクション!ギロチンカッター!

 

「何ッ!? ビャッコ!」

 

 紫色の闇を纏って放たれる縦方向の回転斬りは、ブーストをかけて飛び出したビャッコの頭に確実に重い一撃を与え、更に後方へと吹っ飛ぶビャッコに追い討ちをかけるが如く二撃、三撃と大ダメージを食らわせた。

 予想だにしなかった凄まじい反撃に、ギャラリーからは歓声が上がる。

 ビャッコはそのままフィールド外縁まで転がっていき、壁に激突して全身から青い光を弾けさせた。

 

「二機目は……何だって?」

「っ、く、クハハハッ! そう来なくっちゃなぁ、リュウセイ!」

 

 そうだ。違うのだ。

 僕の目的はイノベーターを倒すことでも神谷重工の悪を暴くことでも無い。僕はLBXが人殺しの道具にされるのを止めたくて神谷重工を抜けるんだ。

 目の前の悪よりも、見据えるのはもっと先の未来。これから先、LBXがいつか人殺しの道具として使われる未来がやってくる。そんな未来が許せないから、例えモブだとしても僕は戦うことを決めたのだ。

 

「行くぜビャッコ、仕切り直しだ!」

「迎え撃つよ、セイリュウ!」

 

 立ち上がり、大きく跳躍するビャッコ。それに向かってセイリュウは握っていた四聖獣セイリュウを一本、思い切り投げ付けた。ビャッコはそれを空中で回転しながら弾くが、剣に続いて跳躍していたセイリュウは弾かれる場所を予測していたのか、空中で再び剣を握り締め、ビャッコへと襲い掛かった。

 

 そして、それから数十分もの間、激しい戦いが繰り広げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷはーっ! 染み渡るわぁ」

 

 建物二階、神谷重工社員の憩いの場、社員食堂にて目の前の美少年は実に中年臭い仕草でサイダーを呷っていた。

 

「ハクビ、なんかオッサンみたいだよ」

「気にすんな気にすんな。それより今日は凄かったなぁ! まさかお前があそこまで強くなってるなんて思ってなかったぜ。俺ァもう大満足だ!」

「今回も勝った癖によく言うよ」

「ハァ? あんなん紙一重だろ。LBXバトルであんなに追い詰められた事なんて初めてだぜ俺は」

「それはハクビが異常なだけ。ところでハクビさ、今日はどうするのさ。もう時間も遅いし、泊まる場所は?」

「…………あっ」

 

 完全に頭に無かったらしく、滅多に聞けない彼の間抜けな声が聞こえ、彼は両手でサイダーのペットボトルを握ったまま完全に沈黙してしまった。

 彼もまたLBXが好きでたまらないからこそ、こうしてLBXバトルに没頭し、強くなっていく。だがそれで他の事が見えなくなってしまっていては駄目だ。あくまでLBXバトルは遊びであり、スポーツであるのだから。最低限生きることに気を遣うぐらいはしなければならない。

 

「あはは、やっぱり。家、泊まる? どうせ僕一人だし。夕飯は外で食べるつもりだけど」

「えっ、いいのか! 俺さぁ、今まで生活とか全部会社任せだったからさぁ、泊まるとことか全然考えて無かったんだよなぁ」

「構わないよ。ハクビも明日にはトキオシティの本部に戻るんでしょ?」

「ああ、まあな。暇っつってもずっと暇な訳じゃ無いし。上も使える戦力を遊ばせとくような事はしないだろ。どうせ明日か明後日ぐらいには新しい任務にでも回されるな」

 

 ハクビは残りのサイダーを一気に飲み干すと、空になったペットボトルを離れた屑籠に投げ入れた。ペットボトルは綺麗な放物線を描いて、吸い込まれるように円形の穴の奥へと消えていく。

 

「いよっし、ホールインワン!」

 

 そうして嬉しそうに笑う彼の横顔を眺めながら、こうして親しい仲間達に会うこともこれで最後かもしれないな、なんて一人で勝手にセンチメンタルに浸る。

 

 次の日。

 朝一番にトキオシティの神谷重工本社に向かったハクビの後を追うように、僕は新幹線に乗って山野バンの住む街『ミソラタウン』へと向かった。

 

 






【ビャッコ】
四聖獣『白虎』の名を冠したワイルドフレームのLBX。白いボディと長い尻尾、そして不気味な五つの目が特徴的。全体的に、激しく吹き荒れる吹雪を連想させるような、鋭くとがった角の多い見た目をしている。
初出はゲーム『ダンボール戦機』のダウンロードコンテンツ。この時点では製作元不明の謎の多い機体だったが、続編『ダンボール戦機W』にて、神谷重工製のLBXだった事が判明した。また、公式からは『格闘戦で敵無し』と紹介されていた。


【セイリュウ】
四聖獣『青龍』の名を冠したナイトフレームのLBX。頭部のパーツから延びる龍の尾をモチーフにした飾りと、頭と脚につけられた羽を思わせるクリアパーツ、腕と脚の龍の手を模した飾りが特徴的。顔は同時期のLBXとしては奇妙な程に丸くなめらかで、表面に鋭い目が浮かび上がる。
初出はビャッコと同じくゲーム『ダンボール戦機』のダウンロードコンテンツ。続編『ダンボール戦機W』にて、神谷重工製のLBXだった事が判明した。また、公式からは『LBX最強剣士』と紹介されていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二人目の転校生

(海道邸攻略まで進めたので)初投稿です
今回は山野バン視点から始まります




 

 

 

 

 ミソラ第二中学校、一年二組の教室にて、いつもの三人で集まり楽しく談笑していた山野バンの元に、一人の太った少年が慌ただしい様子で駆け寄ってきた。

 

「なぁ、なぁ! みんな! 大ニュースだぞ!」

「あれ、リュウ? ニュースって、何かあったの?」

「ふふふ……なんと、またしてもこの一年二組に転校生がやって来るんだって!」

 

「「「ええーっ!?」」」

 

 太った少年『大口寺リュウ』の持ってきた驚きの報せに、三人は揃って驚きの声を上げた。

 転校生といえば、つい最近、あの海道ジンが入学してきて間もないはずだ。そのジンもアングラビシダス以降学校で見かけることは無くなってしまったが。

 

「それで、その転校生は今何処にいるんだ?」

「多分今は職員室だと思うぜ。つってもそろそろ教室に来るだろうけどな」

 

 リュウがそう言った直後、教室の前の扉が開いて先生が入ってきた。そして、その後ろから入ってきた一人の少年に、クラスにいた皆は驚き、ざわつき始める。

 生粋のLBXファンである山野バンも、その少年の姿を見て驚き、目を見開いた。

 

「っ、彼は!」

 

 青空の如く澄んだ色をした水色の髪と、血のように紅い瞳。黒板の前に立った彼は、教室を見渡して人当たりの良さそうな笑みを浮かべた。

 

「はーい、皆席ついた? 皆さんおはようございます。みんなも気付いてると思うけど、今日はまた新しく転校生の子が来たの。もう知ってる子もいるかもしれないけど、それじゃあ、自己紹介して貰える?」

「はい、僕は青柳リュウセイと言います。今日からミソラ第二中学校の仲間として、皆さん宜しくお願いします」

 

 そう言って静かに礼をした彼にクラスじゅうから歓声が上がった。

 LBX好きならばきっと誰もが知っている。未だ出場した大会においてただ一つの敗北も無し。初めて公の場に出た10歳の時から、完璧なプレイングで観客達を沸かせ、全ての戦いを勝利で飾ってきた西日本の絶対王者。

 彼の愛機である『セイリュウ』を駆り、数多のLBXをひれ伏させて来たその姿から、付けられた二つ名は『無敗の龍神』。

 

「バン。確か奴もアルテミスに出場するって」

「ああ、カズ」

 

 突如として現れた強力なライバルに、バンは彼から目が離せなくなっていた。

 そうか、メタナスGXだけじゃない。アルテミスに出れば、あの彼とも戦えるのだ。

 探していた父親を見つけて目の前まで行ったにも関わらず、家へ連れて帰れなかった悔しさ。頼りになるはずだったシーカーはイノベーターの攻撃によって壊滅し、皆バラバラになってしまった。

 そんな時に流星のように現れた新たなライバルが、バンの心に新たな火を灯す。イノベーターにメタナスGXを渡さない為にも、負けてはならない戦いだとわかってはいたが、不謹慎にもワクワクしている自分が居た。

 

「絶対に勝とう、アミ、カズ」

「ええ、必ず勝ちましょう!」

「ああ、勿論だ、バン!」

 

 その瞬間だった。

 顔を上げたリュウセイと、バンの視線が交差する。

 言葉は無かった。しかし彼が自分の事をライバルとして認めている。そんな気がした。

 山野バンはアングラビシダスという、LBXオタクのバンでさえ知らなかった一般のLBXからすればインディーな大会でアルテミスへの出場権を得た。公に大会の内容が報道されるような事は無いし、彼が自分の事を知り得る筈はないのだが。

 

 

 

 しかし、その日の放課後に予感は悪い意味で的中してしまった。

 

「青柳さんってアルテミスに出場するんでしたよね! 俺、応援してます!」

「あはは……さん付けは良いって。応援ありがとう。必ず優勝してみせるよ」

 

「そういえば青柳クンってアルテミスでのサポートメンバー二人って決めたの?」

「んー、まだ決まってないんだけど、やっぱり出来るだけ強い人がいいかな。連携が出来るに越したことは無いけど」

 

 放課後、クラスメートだけでなく、他クラスからも集まってきたLBXプレイヤーの生徒達に囲まれた彼は、流石はプロと言うべきか一人一人に丁寧に対応していた。

 バン達も彼と話したかったのだが、とんでもない量の人の波で彼に近付けずに困っていた。

 

「ありゃすげえな。流石は人気LBXプレイヤーってとこか」

「なんたって強くてカッコイイ『無敗の龍神』なんだ! みんな集まって当然だよ」

「なんで貴方が自慢気なのよバン。アルテミスで戦うライバルでしょ?」

「彼がデビューした時からのファンなんだ。ああ、俺もはやく話したいなぁ!」

「全く、バンらしいぜ………ただ俺はアイツが神谷重工のLBXばっか使ってんのがどうも引っ掛かるんだけどな」

 

 カズはそう言って、クラスメート達の中心で笑う彼に訝しげな視線を向けた。その時だった。

 

「邪魔するぜ! 青柳リュウセイってのは………ソイツだな。話がある、来やがれ!」

 

 乱暴に扉を開いて教室に怒鳴り込んできたのは、ミソラ第二中学校の番長にして『地獄の破壊神』の異名をとる男、郷田ハンゾウ。

 多くの生徒から恐れられている彼の登場に、賑やかだった教室は一瞬にして静かになり、笑顔だった青柳リュウセイも真顔になって彼をまじまじと眺める。

 

 まさに一触即発。

 

 普段は「郷田さん郷田さん」とうるさい根っからの郷田ファンである御影ミカまでもが無言になり。山野バン、青島カズヤ、川村アミ、御影ミカ、大口寺リュウの五人は事態の行く末を見守る。

 

 静寂を破り、静かに口を開いたのは青柳リュウセイだった。

 

「別に構わない。でも様子を見るに、君は随分嫌われているみたいだけど。熱血漢は悪くないが、行動を省みたらどうかな」

「フン、どの口で言ってやがる。来るんならさっさと来やがれ、クズ野郎!」

 

 郷田ハンゾウは、普段の番長らしくどっしりと構えた様子の彼からは想像もつかない程に激昂していた。そんな彼の口から出た「クズ」という言葉に反応して、一人の男子生徒が飛び出した。

 

「青柳さんがクズだと! さんざん他人の大切にしてたLBXを壊してきたお前の方がよっぽどクズだ!」

「んだと………! テメェは引っ込んでやがれ!」

 

 凄まじい剣幕で怒鳴る郷田。しかしその男子生徒が付けた火はみるみるうちに膨らんで、大きな炎になっていく。

 

「そうだ………何が『地獄の破壊神』だ! ミソラ第二中に番長なんて要らない! この学校から出てけ!」

「そうよそうよ! 私の大事にしてたアマゾネス、壊した事忘れてないんだから!」

「俺のズールだって。返せ、返せよクズ野郎!」

「僕のムシャもだ! 誕生日に買ってもらって大切にしてたのに!」

「アタシもよ! 頑張ってかっこよく塗装したインビット、壊されたあと何日もご飯が喉を通らなかった!」

 

 青柳リュウセイは一度の敗北すらない西日本の絶対王者。一つの中学校の中で幅を利かせているだけの番長とでは、隔絶した差が存在していた。

 絶対に郷田ハンゾウよりも強いLBXプレイヤーが自分達の後ろにいる事に、たまっていた恨みが決壊したダムのように溢れ出す。

 

「な、邪魔を、邪魔すんじゃねぇ! クソッ!」

 

 バンはその様子を半ば呆然として見つめていた。

 郷田ハンゾウとの出会いは最悪だった。盗まれたアキレスを取り返すために向かった体育館裏スラム。そこでリュウのブルドとカズのウォーリアが彼らによって破壊されながらも、なんとかアキレスの奪還に成功。

 以降、彼とはレックスを通じて再び繋がりができ、アングラビシダスの時は対戦相手の情報をくれたり、壊れたアキレスの腕のかわりにハカイオーの腕を貸してくれたりと世話になった。

 しかし忘れてはいないか。郷田ハンゾウは地獄の破壊神としてミソラ第二中学校の生徒達に恐れられる存在であり、数々のLBXを破壊して多くの恨みをかっていた事に。

 彼はそれに対しての償いなんて一つもしていない。ただ自分が強くなる事、それだけに純粋なのだ。

 バンは世話になった存在であり、シーカーの仲間である郷田を庇いたい気持ちでいっぱいだったが、LBXを破壊された彼等を止めるだけの言葉が見付からなかった。

 

 だが、そんな彼等の怒りを鎮めたのも、例の彼だった。

 

「皆、静かにして! 彼が話があると言ったのは僕だけだ!」

 

 よく通る大きな声で彼はクラスメート達を制止する。

 

「で、でも、あんな奴と青柳さんを二人きりになんて」

「大丈夫。でも、そうだな。ねえ、そこの君たち」

 

 リュウセイはバン達五人を指差すと、生徒達の波を割って前へと出る。

 

「お、おれ?」

「うん。でも君だけじゃなくて、五人全員。二人だけだと心配らしいから、一緒に来てくれる?」

「ああ、俺は良いけど、皆は?」

 

 バンは振り返り、仲間達を見回す。全員が了解を示し、五人は青柳リュウセイ、郷田ハンゾウと共に教室を出た。

 

「チッ、何だってアイツらは」

「僕も他人に言えたことじゃないが、だから行動を省みるように言ったんだ」

「んだとテメェ!」

「ま、待ってよ二人とも! まだ建物の中なんだから喧嘩なんてしたら」

 

 イライラのおさまらないハンゾウと煽るような言葉を投げ掛けるリュウセイ。リュウセイにつかみかかろうとしたハンゾウに、慌ててバンが間に入って仲裁する。

 どうも互いに互いの事が気に入らないらしく、二人の間には険悪なムードが流れ続ける。バンもリュウセイの一ファンではあったが、心の中の彼のイメージがボロボロと崩れていくような感じがして溜め息をついた。

 

「まあまあ、気を落とさないでバン。いくらチャンピオンだって言っても人だもの」

「うん、そうだよね………ありがとうアミ」

 

 そんなバンの様子にいち早く気付いたのか、アミが甲斐甲斐しく慰めてくれる。やはり持つべきものは良い友達だと顔を上げると、二人は早足でずんずん先に進んでいってしまっていた。

 

「バン、イチャつくのも良いけどはやく行こうぜ。置いてかれちまう」

「んなっ! イチャついてなんか無いって! アミ、行こう!」

「ふふっ。そうね、バン」

 

「ううっ、アミちゃん………いつからあんなにバンと親密にぃぃ」

「郷田センパイ、かっこいい………馬鹿にした、アイツ許さない」

「お前らもはやく行こうぜ、な?」

 

 ついていくとは言ったものの、面倒な事になったものだと、カズは苦笑いした。

 

 五人がリュウセイとハンゾウに追い付いて到着した先は、人気の少ない体育館裏スラム。

 そこに到着した途端、ハンゾウはリュウセイの胸ぐらを掴み、校舎の壁に押し付けた。中学生の割りに身長のあるハンゾウと、まだ中学一年生であるリュウセイ。身長差は歴然で、リュウセイの身体は僅かに浮かぶ。

 

「ちょっと、なんて事するんだよハンゾウ!」

「黙ってろバン! コイツは……コイツは!」

 

 突然の暴挙を止めさせようとするバンを振り切り、ハンゾウは憎しみの籠った目でリュウセイを睨み付ける。ハンゾウの謎の怒りと、意味もわからず振るわれるリュウセイへの暴力にただ狼狽える事しか出来ない五人の前で、ハンゾウは叫ぶ。

 

「コイツは、神谷重工の、イノベーターのLBXプレイヤーなんだぞ!!」

 

 その言葉で、全員に衝撃が走る。

 間違いは無いと言わんばかりに怒気を強めるハンゾウ。

 バトルでは正々堂々、真っ向からぶつかりあい、文句の付けようがない完璧な勝利を見せてくれるチャンピオン。皆からの尊敬を集めるそんな彼が、テロリスト組織『イノベーター』のLBXプレイヤーであるなんて信じられない。

 

 しかし、胸ぐらを掴まれながらも、彼は顔色一つ変えずに全員の前で宣言した。

 

「うん、そうだよ。君の言う通り、僕は神谷重工のLBXプレイヤー、四神の一人で間違いない」

 

 

 山野バンの憧れが、崩れ去った瞬間だった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

vs ハカイオー

(アルテミス優勝したので)初投稿です



 

 

 

 

「やっぱりな。レックスの言った通りだ。もう逃げ場は無いぜ、イノベーター!」

 

 目の前で怒鳴る郷田ハンゾウを眺めながら、僕は予想通りだと安心した。

 僕が神谷重工から逃げ出してもう二週間経つ。流石にそろそろ僕が神谷重工を裏切った事は知れているだろうと思ったが、予想通りだった。

 神谷重工を抜けた事はイノベーターに伝わり、そしてイノベーターから黒幕であるレックスにちゃんと伝わっていた。大方あとで面倒な敵になりそうな奴が孤立しているから、孤立している内に消してしまおうとでも考えたのだろう。

 伝わっていなかったら、自身が元神谷重工のLBXプレイヤーであることを暴露するタイミングに悩むところだっただろうが、向こうから全員に教えてくれるなら話が早く済む。

 

「おい、何とか言わねぇのかクズ野郎!」

「ああ、ごめん。確かに僕は神谷のLBXプレイヤーだった。でも少し情報が遅いなと思って」

「………何だと?」

「僕は既に神谷重工を裏切り、イノベーターの敵として戦っている」

「は? 口からでまかせ言いやがって。なら証拠は!? あるのかよ! 言ってみろよ、ああ!?」

 

 ギリギリと胸ぐらを掴んで持ち上げる力が強まっていく。そろそろ苦しくなってきたところだが、平然を装い、ポケットからCCMを取り出して画面を見せる。

 CCMの画面には、何かの設計図が写し出されていた。

 

「なんだ、これ………」

「アンドロイド向け人工臓器技術『オプティマ』を、人間向けにしたものの設計図だ」

「なにっ!?」

 

 郷田ハンゾウが同様しているのが目に見えてわかった。強まっていた力はあっと言う間に弱くなっていき、表情からも力が抜け落ちていっている。

 

「オプティマ……確か海道邸で聞いたやつ」

「そうだ……! それを利用して、海道は石森さんを脅していた!」

 

 オプティマという名前を聞いて、ハッと思い出したカズが呟き、それを聞いたバンもそれが何だったのか思い出す。アミとミカも思い出したようで、その設計図がここにあることに驚きを隠せずにいた。

 ただ一人、あの時ひどく怯えていて会話の内容をさっぱり覚えていなかったリュウだけが、いったいその『オプティマ』とやらは何なのかと首をかしげる。

 

「え……そのオプティマって、何なんだ? 俺にも教えてくれよ」

「そうか、リュウは覚えてなかったか。海道邸に忍び込んで、俺の父さんを助けに行ったとき、石森さんが僕たちを裏切っただろ?」

「う、うん。あの時はもう死んだと思った……」

「その石森さんが裏切った理由が、あのオプティマなんだ! 石森さんには妹がいて、生まれた時から身体が弱くてずっと病院に入院してる。でもオプティマがあればその妹さんの命は助かるんだ」

「なら、そのオプティマってやつを使えば……あっ」

「そうなんだ。海道義光が利益を独占するために、圧力をかけているせいで医療に使えないんだ。だから、その妹さんが人質になるような形で……」

「だから石森さん、あの時裏切ったのか」

 

 バンの説明を受けたリュウは、合点がいったというようにウンウンと頷いた。

 説明を終えたバンが再びハンゾウに胸ぐらを掴まれたままの僕を向いた事を確認し、再び話し始める。

 

「このオプティマの設計図。僕が神谷を抜ける前に、コイツを使って盗んできた」

 

 CCMを操作して、あるLBXを呼び出す。

 校舎の屋上から、跳び跳ねながら降りてきたそのLBXを見て、バンとカズ、アミの三人がまたしても驚いたように目を見開いた。

 

「やっぱりそこの三人は知っているみたいだけど、コイツはLBX『アサシン』。イノベーターによる財前総理の暗殺作戦にも使用された隠密、精密射撃を得意とするLBXだ。流石に山野博士の『ハンター』には一歩劣る性能だけど」

「アサシン………まさかあの時のLBXを操作してたのは!」

「それは誤解だ。僕はコイツのテストを任されただけで、実際に暗殺に派遣されたのは外部から雇われたプロの暗殺者。結局その彼も証拠隠滅の為に消された訳だけど………」

「消された、って」

「殺されたんだよ。イノベーターに」

 

 ハンターにとっての宿敵アサシンを目の前に、怒りをあらわにしたカズ。しかし実際にあの場でLBXを操作していた人物が殺された事を教えると、彼は顔を青ざめさせて一歩後ろに下がった。

 

「命懸けで盗んできたオプティマの設計図は、信用に足る医療技術者に渡した。既に代替品が完成し、認可に向けて作業が進められている。最早自分の手を離れた物に海道も圧力はかけられない。安全の為に、石森ルナの入院している病院には知り合いのLBXプレイヤー達を集めて警護について貰った。石森理奈の妹、石森ルナもじきに入院の必要ない身体になるだろう」

 

 神谷重工を抜けると決めてから、どうやってイノベーターを追い詰めていくか対策を練り、入念に準備してきた。

 石森理奈をイノベーターに縛り付けておく為の人質である石森ルナを救うため、盗み出したオプティマもその一つである。

 プロのLBXプレイヤーとして活動する中で、培ってきた横の繋がり。人から人へと協力を求める中で必要な人材にたどり着き、協力体制を築いた。

 こちらに引っ越してきてからはミソラ第二中学校への転入までも時間があり、石森ルナとの顔合わせも済ましている。現在彼女の姉がどういった状況にあり、自身がテロリストの人質にされている事を伝えると彼女も快く了解してくれた。実際、原作のゲームにおいてはクリア後の世界で彼女と呼び出しバトルでLBXバトルをする事ができ、彼女の身体が外を出歩けるほどに健康になっている事がわかる。手術は無事に成功し、健康な身体を手に入れる事だろう。

 

「嘘だろ………お前、本当に」

 

 ついに僕の胸ぐらを掴んでいた手がゆっくりと離れ、だらりと垂れ下がった。自分が悪だと断じて疑わなかった存在が、むしろ自分達と同じく平和の為に戦う側だったと知ってショックを受けているのだ。

 ショックのあまり足にも力が入らなくなったのか、ふらりと後ろに倒れそうになるハンゾウの身体を、御影ミカが慌てて支えた。

 

「僕は、君たちの敵じゃない」

「………俺の、早とちりかよクソッ」

「気にしないで。正義感から神谷のプレイヤーだった僕を追い詰めようと思ったのに間違いは無いよ」

「お前は………どうして裏切ったんだ」

 

 ハンゾウは完全に勢いを無くし、力無くそう聞いてきた。何故危険を冒してまで神谷を裏切ったのか。信用する為にも、最後に聞いておきたかったのだろう。ならば、言うことは決まっている。

 

「LBXが好きだから。LBXを人殺しの道具にしたくなかった」

「………ハァァ~、ったくマジかよ。散々LBXプレイヤーをとっ捕まえてきたお前がか?」

「うん、その僕が。言い訳はしない。僕がしてきた事は間違っていた事に違いないから。でも覚えていて欲しい。僕はもう君たちの敵じゃない」

 

 そう言うと、ハンゾウは身体を支えてくれていたミカを離して、自分の足でしっかりと立ち上がった。その手には彼のLBX『ハカイオー』が握られている。

 

 彼はハカイオーを手のひらに乗せて、Dキューブを片手に迫る。

 

「ハンゾウ、何を」

「下がってろ、バン」

 

 彼が何をしようとしているのか察したバンが止めようとするが、ハンゾウは普段の番長としての落ち着きを取り戻し、彼を制する。

 そしてDキューブをこちらに突き付けて、静かに言い放った。

 

「理解はしたが、納得はしてねぇ。俺にはてんで難しい理屈の話は無理だ。だから青柳リュウセイ、俺と勝負しろ」

 

 こちらが返事をするよりも先にDキューブが展開され、地中海遺跡のバトルフィールドが現れる。そしてハカイオーは遺跡の中心に降り立ち、一点もののLBXであるハカイオーの専用装備『破岩刃』を構えた。守りなど要らないと言わんばかりに、片手剣使いならば普通は装備している盾も身につけず、威風堂々と仁王立ち。

 

「わかった。君がそれで満足するなら」

 

 結局最後は話すよりも肉体言語。先程呼び出していたアサシンをフィールドに呼び出し、ハカイオーと対峙させる。

 しかし、ライフルを持ったアサシンを見て、ハンゾウは不満げに眉を寄せた。

 

「まさかお前、それでやる気か?」

「いいや。アサシンは遠距離向きだけど、今使うのはこれじゃない」

 

 CCMを操作してアサシンにライフルを投げ渡させ、代わりにヒートブレイズとタワーシールドを投げ入れた。アサシンはそれを受け取り、即座に自分の腕に装着させる。

 

「ほう……片手剣。わざわざ俺と同じにしたってか」

「やるならば正々堂々と。はじめよう」

「応よ!」

 

 

   バトルスタート!

 

 

「ぶっ壊せ! ハカイオー!」

「切り刻め、アサシン!」

 

 ドスドスと大地を力強く踏みしめ、ブーストをかけて一直線に駆けてくるハカイオー。ブーストをかけずに歩いて接近していたアサシンの目の前に躍り出ると、破岩刃を思い切り振り上げて叩き付けんとする。

 

「まずは一発目、貰ったァ!」

「甘い!」

 

 しかし破岩刃が振り下ろされる直前にアサシンは右へと素早くステップをして回避、更にブーストをかけてすれ違いざまにハカイオーの駆動部を狙って切りつけた。武器を振り上げた状態で無防備だった為にそのダメージは大きく、その上ヒートブレイズの持った熱によって駆動部表面は赤熟し、ハカイオーはオーバーヒートを起こしてしまう。

 

「ハカイオー!」

 

 大幅な機能低下を起こしたハカイオーの腕はだらりと垂れ下がり、武器を振るうことすら出来なくなってしまった。力押しになりがちではあるが、優秀なLBXプレイヤーであるハンゾウは機能が戻るまで逃げ続けなければならないと即座に判断し、ジャンプで倒れた柱の裏へと逃げる。

 しかしそんなチャンスをアサシンが見逃すわけもなく、三段ジャンプで大きく飛び上がり、空中からハカイオーを強襲。咄嗟にハカイオーは横へと逃げるものの、高い位置からの重い一撃はハカイオーの重厚な装甲を貫いて左腕を切り落とした。

 

「リーダー! やっぱり此処に……って何やってんスか!?」

「郷田君!? 取っ捕まえるだけじゃ無かったのかよ!」

「まずいでごわす。郷田君のハカイオーが!」

 

 と、ここで騒ぎを聞き付けたのか四天王郷田三人衆が駆けつけてきた。矢沢リコを先頭に、続いて鹿野ギンジ、亀山テツオと現れ、一方的に攻撃を受けるハカイオーを見て言葉を失う。

 矢沢リコはあまりにも一方的すぎる戦況に、声を荒げて迫ってくる。

 

「どういう事だ……リーダーのハカイオーが全然動けなくなってる。どんな卑怯な手を使ったんだ、お前!」

「いいや。装備していたヒートブレイズの攻撃でハカイオーがオーバーヒートを起こしただけだ。卑怯な真似なんてしていない」

「そうだぜリコ。これは漢と漢の真剣勝負。黙って見てな」

「リーダー……」

 

 そうしている間も尚も続くアサシンの猛攻に、ハカイオーのボディはどんどん傷ついていく。そして、あと一撃で勝負が決まると言う瞬間に、ハカイオーは機能を取り戻した。

 

「良し、良く耐えたハカイオー!」

 

 アサシンの振るったヒートブレイズを破岩刃で受け止め、突き放す。満身創痍となったハカイオーは、しかし尚も両の足でしっかりと大地を踏みしめてアサシンを見据えた。

 

「行くぜハカイオー!」

 

  必殺ファンクション!我王砲(ガオーキャノン)

 

 みるみる内にハカイオー胸の中心にエネルギーが集束していき、赤い光を放ち始める。凄まじいエネルギーの波動に空気がビリビリと震え、周りの気温が僅かに上昇したのを肌で感じた。

 

「……これがプロメテウス最強のLBX!」

「ああ………受けてみろ!」

 

 直後、圧倒的なエネルギーの奔流がハカイオーから放たれた。

 

 迫るエネルギーを前にして、アサシンはただ盾を静かに構え、真っ向から向かい合う。

 ここで避けてはならないのだと、直感が告げていた。熱血漢である郷田ハンゾウが今求めているのは、絶対的な力だけではない。それはふとした瞬間に見せる漢気であり、拳と拳で理解しあう一つの信頼関係の形。

 僕という漢を見定めるために、彼はこの勝負を仕掛けてきたのだ。その期待を裏切るわけにはいかないからこそ、遠距離のアサシンに剣を持たせ、ハカイオーがオーバーヒートを起こそうと容赦なく追撃の手を休めず、そして今度は真っ向から『我王砲』を受け止める。アサシンがハカイオーの必殺ファンクションに耐えられなければそれまでで、僕は潔く敗けを認めるのだ。

 

「うおおおおおおお!」

「耐えろ、アサシン!」

 

 ハカイオーは、ボロボロにひび割れたその装甲を崩しながら全力でエネルギーを射出し続けた。

 エネルギーの波に飲み込まれたアサシンは最早その姿を確認することさえ出来ない。CCMから見るLBXのカメラもノイズまみれで何が起きているのか確認出来なかった。

 

 気の遠くなるような長い数秒間の後、やがて光の線は細くなっていき、僕とハンゾウの二人、そして戦いの行く末を見守る全員が息を飲む。

 

 全てのエネルギーが放出されきった先に残ったのは

 

「………っ、ふぃ~。マジかよ」

「……アサシン!」

 

 ハカイオーと同じく、装甲に幾つものひび割れを作りながらも、アサシンは立っていた。赤い三つの目には未だ消えぬ闘志を燃やし、暗殺者と言うには余りにも堂々とした雰囲気を纏い、遠くのハカイオーに向けてヒートブレイズの切っ先を突き付けた。

 

    必殺ファンクション!月下乱舞

 

「次は、こっちの番……!」

 

 真っ直ぐにヒートブレイズを立たせ、ぐっと身体に引き寄せて構えるアサシン。それを見ていた者は全て、アサシンの背後に咲く満開の夜桜と満月を幻視した。

 

「ハハッ、仕方ねぇ」

 

 身体を回転させながら放たれるのは、桜のエフェクトを纏った飛ぶ斬擊。三回に渡って連続で放たれたそれは、全てハカイオーに直撃し、一度に深い傷を負ったハカイオーは爆発四散した。

 

「ハカイオー、ブレイクオーバー。僕の勝ちだ」

 

 戦いを終えて顔を上げると、郷田ハンゾウの姿が目に入る。フィールドを挟んで立つ彼は、満足そうな笑みを浮かべていた。

 

 

 







【ハカイオー】
プロメテウス社の社長の息子である郷田ハンゾウの専用機。胸部パーツに砲門が作られた、特殊な構造のブロウラーフレームのLBX。プロメテウス社で初めてのスペシャル機で、郷田ハンゾウ自身がそれなりに有名なプレイヤーであることもあり、プロメテウス社の宣伝にも一役買っている。専用必殺ファンクション『我王砲』を持つ。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。


【アサシン】
財前総理暗殺のために作られた、神谷重工製のワイルドフレームのLBX。赤く光る三つの目が特徴的。暗殺者らしく長距離からの狙撃を得意とし、財前総理の就任記念パレードにおいてイノベーターの雇った暗殺者によって財前総理暗殺の為に使用された。その後は量産化されたらしく、結構な頻度でデクーやデクー改に混じって雑魚敵として登場してくる。
本作品では実用化前のプロトタイプが、神谷のテストプレイヤーであるリュウセイに渡されたという設定。因みにリュウセイに渡される試作機は全て、量産化される前の一点ものの為、ゲームで言う所のMGに位置する。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

石森ルナ

 

 

 

「見せて貰ったぜ、お前の漢気」

 

 ハンゾウはそう言うとフィールドの中から唯一原型を留めていた破岩刃を拾い上げ、穏やかな目で眺めた。

 どこか哀愁を感じさせるような笑顔になった彼に、四天王郷田三人衆と御影ミカが歩み寄る。

 

「僕を、信じてくれる?」

「ああ、一先ずの所はな。流石に完全には信用出来ないが、嘘偽り無い心は今の戦いで伝わった。いきなり怒鳴って悪かったな」

「僕も君を煽るような事を言って、すまなかった」

「良いんだ。思えばああなる原因を作ったのは他でもねぇ、俺だからな」

 

 僕はアサシンをフィールドから帰還させ、ハンゾウは残骸になったハカイオーを拾い集める。からっぽになったDフィールドは小さく収納され、ハンゾウの手に収まった。

 

「リーダー、大丈夫か?」

「郷田、さん………」

 

「リコ、ミカ、心配してくれてるんなら悪いが、俺は全然落ち込んじゃいないぜ。むしろハカイオーも最期まで戦えて満足だ」

 

「郷田君……」

「おいどんは、郷田君が負けて悔しいでごわす……」

 

「おうおう。ギンジとテツオも落ち込んでんじゃねぇ。戦ったのは俺だぜ? お前らが落ち込んでどうするよ」

 

 郷田ハンゾウ。徹底的に相手のLBXを破壊する狂暴なプレイングから『地獄の破壊神』として恐れられる、ミソラ第二中学校の番長。

 しかし、己が仲間と認めた者には人一倍情に厚く、彼を良く知る者達からの信頼は厚い。

 

 今も僕の目の前で、彼は四人の特に親しい仲間達に囲まれていた。誰よりも熱く、漢気に溢れた彼に憧れて、性別も性格もバラバラな彼等は集まってくる。何故か一瞬、矢沢リコと御影ミカがバチバチと火花を散らしているように見えたが………。

 

「青柳リュウセイ。お前が敵じゃないなら、教えてくれよ。イノベーターは一体何が目的なんだ。どうして財前総理の命を狙ったり、バンの親父を拐ったりする」

「君は……」

「青島カズヤだ。頼む、俺たちに教えてくれ」

 

 青島カズヤを先頭に、山野バン、川村アミの三人が近付いてきた。直接戦い、互いの心を確かめあったハンゾウとは違い、三人は未だに此方を強く警戒しているのが一目でわかった。

 ダンボール戦機の主人公、山野バンだけはきっとプロとして活躍していた僕の事をよく知っていたのだろう。何処か不安そうな面持ちで、しかし何かを期待するような眼差しを向けてきている。

 

 とはいえ、ここでレックスの本当の目的を教えることは出来ない。何故なら、この時点では海道義光はレックスの作ったアンドロイドと入れ替わりかけている訳だが、表向きにイノベーターの目的自体は変わっていないからだ。

 彼が黒幕である証拠もロクに揃っておらず、彼が本性を表すのはストーリー終盤直前。最早誰にも邪魔されないとわかった瞬間に全てを明らかにし、そして破滅へと向かう。

 

 LBXを兵器利用させない未来のためには、ダンボール戦機Wのヤンデレブラコンラスボスこと檜山真実をA国の副大統領アルフェルド・ガーダインに協力させないようにする必要がある。

 その為にもレックスの想いと、山野バンに託す事になる希望を正しく彼女に伝えるため、レックスの生存は絶対条件なのだ。レックスが生きていない場合、あの彼女がバン達の言葉を受け入れるのは全てが終わってしまった後になることは目に見えている。

 

 だから手遅れになる前にバン達と協力してレックスを止めたいのだが、証拠もほとんどない内に、初対面の人間から『君の恩人は敵の黒幕だ』なんて言われれば、コイツはやっぱり敵に違いないと思ってしまうだろう。その為にも、話す内容には気を遣わなければならない。

 

「イノベーターの目的、か。僕は直接協力していた訳じゃ無いから、あまり詳しく無いけど」

「それで良いんだ。知ってることを教えてくれ」

「それなら………僕が聞いた話では、イノベーターは世界征服を狙っているらしい」

 

「世界征服だと!?」

「そんな、無理に決まってるよ!」

「その通りよ。いくら何でもそんな馬鹿な事、大の大人が考える事じゃないわ!」

 

 世界征服という言葉に、三人は揃って驚きの声をあげる。中学生でもそんな事は不可能だとわかる程に、あまりにも馬鹿馬鹿し過ぎる目的だったからだ。

 

「だがこれが真実なんだ。次の世界大会アルテミスに、優勝賞品のメタナスGXとバン君の持つプラチナカプセルを狙ってイノベーターは刺客を送り込むだろう。イノベーターはこの二つを利用して最強のLBXを作り上げ、世界最大のエネルギープラント『タイラントプレイス』を爆破するつもりだ」

「た、タイラントプレイスを爆破だって!?」

 

 バンの二回目の大きな声で、何事かと、怯えているリュウを除く他の全員も集まってきた。

 

「どうしてそんなこと」

「イノベーターはあくまで彼等の目的の為の隠れ蓑に過ぎない。日本のテロリストによってタイラントプレイスが破壊されれば、現総理大臣の財前総理は退任せざるを得なくなるだろう。そうなれば新たな総理大臣に就任するのは、今でも多くの支持を集める海道義光。更にエネルギープラントの焼失によって、世界はエネルギー危機に陥る」

「ッ! そうか!」

 

 僕の話を聞いて、口を押さえて考え込んでいた青島カズヤは、全てが繋がったと声をもらす。

 

「カズ、どういう事なのさ」

「………バン、お前の親父さんは言ってたはずだ。無限のエネルギーを生み出す『エターナルサイクラー』。その設計図をプラチナカプセルに封じ込めたって」

「無限のエネルギー………そうか、それがあれば!」

「そうだバン。もし今リュウセイが言っていたイノベーターの計画が成功すれば、世界のエネルギーを一手に担うことが出来るのは、エターナルサイクラーを持ったイノベーターだ!」

「世界征服……あり得ない話じゃ無かったのね」

 

 最後を全て理解したカズがわかりやすく皆に説明してくれて、他のみんなも理解したようだった。

 

「世界大会アルテミス。イノベーターにとっては、メタナスGXとプラチナカプセルを一挙に手に入れられる、またとない機会だ。恐らく大会進行と関係なく、なりふり構わずに戦力を投入してくるはず。僕がこの学校に転校してきた理由は他でもない、君達にアルテミスでこの二つを『守って』欲しいと頼むためだ」

「リュウセイ君………」

「全員が『希望』なんだ。いつ何処で彼等は襲ってくるかわからない。ただ優勝を目指すだけじゃなく、どんな事があっても奴らに奪われないように全力を尽くして欲しい」

 

 そこまで言い切ると、静寂を保っていたハンゾウが前に一歩進み、大きな声で宣言した。

 

「勿論だリュウセイ。今回こそ俺はお前に負けたが、俺はもう負けねぇ! イノベーターなんかにメタナスGXも、プラチナカプセルも渡してたまるか!」

 

 彼の宣言が切っ掛けとなり、次々にバンを始めとするシーカーのLBXプレイヤー達が声を上げる。

 

「ああ、絶対に俺たちは世界を救って見せる!」

「絶対に世界征服なんてさせないんだから!」

「俺たちの力なら、テロリストなんて怖くねぇ!」

「郷田、さん………カッコイイ」

「お前の事はよくわかんねーけど、アタイ達に任せな!」

「アルテミスには出れないでごわすが、イノベーターにその二つが奪われないように全力を尽くすでごわす」

「ゲヘヘ………何だよ。そんな事なら言われるまでもないね」

 

 そして、顔を青ざめさせてスラムの道の端っこでプルプルと震えるリュウにバンは振り返り、いつもの明るい笑顔を向けた。

 

「勿論リュウも協力してくれるよな!」

「えっ、それは………ば、バンは怖くないのかよ。世界征服を狙ってるような、人殺しだってかまわないテロリスト達が相手なんだぞ!」

「そう言われると、確かにちょっぴり怖いけど。でも! 俺は皆が居てくれるから大丈夫! それに今度は『無敗の龍神』まで味方についてくれるんだ。怖くないよ!」

「う、うう………じゃあ、アミちゃんは?」

「私も、バン、それにカズ、皆が居るから怖くなんか無いわ。怖いなら無理強いはしないけどね」

「ぅ、ぅぁ、うう~~! やるよ! 俺もやる! イノベーターなんか怖くないからな!」

 

 本当は怖くて仕方ないのだろう。しかし涙と鼻水で顔中ぐしゃぐしゃにしながらも、彼は立ち上がった。これで、全員がイノベーターとの戦いに本格的に臨む事を宣言してくれた。

 例え本部が潰され、占拠されようと、シーカーの彼等には戦う心がしっかりと残っている。どんなに怖くても、大好きなLBXで悪いことをするなんて許せない、なんの関係も無かった人々を私利私欲の為に虐げ傷付けるなんて許せないと、彼等の目は物語っていた。

 

 今はもうこれで十分だろう。僕が敵でないことはしっかりと伝えられたし、より一層彼等の士気を高めることにも成功した。実際に彼等に会ってみて、何故か原作よりハンゾウとリコ、ミカの二人の距離が近かったり、バンとアミの距離が近いような感じがしたが、まあ思春期の少年少女達だし色恋に関しちゃ別に言うことは無い。全く問題なしだ。むしろ大いにやるといい。僕にはそういった事とは前世からてんで縁が無いから、他人の恋愛を見るのは嫌いじゃない。

 そろそろ時間も良い頃かと腕時計を見ると、すでに時間は五時を周り、20を少し過ぎていた。これ以上この場には居られない。

 

「っと、用事の時間が近付いてるからそろそろ僕は行くよ。他に聞きたいことがあったら、また明日」

 

 急いでアサシンをバッグに仕舞い、彼等に別れを告げる。一応自分が遅れた時の事も頼んではいるが、此方から頼んでいる身、あまり迷惑をかけるわけにはいかない。

 バッグをかけなおして走り出した。

 その瞬間、背後から山野バンの声がかかる。

 

「最後に一つ教えて欲しいんだ!」

「何? 他に聞きたいことなら明日に」

「父さんは……父さんは無事なのか?!」

 

 振り返り、彼の顔を見る。どんなにしっかりしていても、彼もまだ中学一年生の少年だ。目の前で助けられたはずの父親を再び失った彼は、ひどく弱ったような表情をしていた。

 

「……イノベーターが彼の身柄を押さえたとは聞いてない。彼はきっと無事な筈だ。それに、万が一捕まっていたとしても、彼には利用価値が残されているから殺されることはまず無いだろう」

「そっか、良かった……」

 

 それを聞いて安堵したようで、穏やかな表情になり、口元に笑みを浮かべるバン。僕は最後に彼等に笑顔を向けて、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リュウセイ、遅かったじゃねぇか。ルナちゃんずっとアンタの事待ってたぜ」

「遅れて済みませんガトーさん。にしてもガトーさん、ずっと子供の相手してるせいか冗談上手くなりました?」

 

 予定の時間から少し遅れてとある病室の前に到着すると、裏のLBXプレイヤー界隈で名を馳せる男、首狩りガトーがベンチに腰掛けて待っていた。

 彼は此方の姿に気が付くと、組んでいた足を戻して立ち上がり、ニヤニヤと笑いながら歩み寄ってくる。

 彼もまた、僕がプロとして活躍する中で得る事が出来た繋がりの一つ。見た目こそ恐ろしいが、案外話してみると気の良い人で、ファンを大切にするプロ意識の高い人だ。

 

「ったく、からかってやろうと思ったのにつまんねぇなぁお前。あんま子供っぽくねぇし。お前モテねぇだろ」

「なっ! モテるモテないとかは今関係ないじゃないですか! それより、今日はどうでしたか? 何か異変とかは」

「俺の方は今日も別に何も無かったぜ。だが隣のビルで警戒してた連中が怪しげなLBXを見付けたらしい。向こうは何もしてこなかったからこっちも手は出さなかったらしいがな」

「LBXの種類は?」

「神谷重工のインビットが二機と、サイバーランスのクノイチ弐式が一機だ。三機はまとまって行動していて、何か探すように動いてたらしいぜ。周囲に操縦者らしい奴は居なかったみてぇだから、神谷お得意の自律型だろうな」

 

 そう言って彼は懐から一枚の写真を取り出した。写真には通常カラーのインビットが二機と、黒くカラーリングされたクノイチ弐式が写っている。彼の言っていたように、三機はクノイチ弐式を先頭にして二機が並走して後ろにつく形で固まっていた。

 

「見ろ。アーミーチャリオットの三人が捉えたそのLBX達の写真だ」

「わざわざサイバーランスのLBXを使ってるって言うのは、やっぱり」

「神谷が大きく関わってるのを漏らさない為だろうな。アンタが神谷を裏切ったから、情報の漏洩から神谷に対して世間の疑いの目が行くのを恐れたんだろう。万が一自分等のLBXが鹵獲された時、神谷のだけだと不味いからな」

 

 せこいことばかり考えているあの社長の事だ、ガトーの言う通りで間違いないだろうと僕は彼の言葉に頷く。彼はその写真を僕に手渡すと、CCMを操作して病室の前に立たせていたブルド改を手元に戻した。

 

「俺の仕事はここまでだ。後は頼むぜ」

「はい。ガトーさん、ありがとうございました」

「そう畏まんなよ。界隈じゃあアンタの方が上なんだからよ。じゃあな。また明日も来るぜ」

 

 ヒラヒラと手を振りながら、彼は去っていった。僕は彼の姿が見えなくなるまで見送り、完全に見えなくなった後、病室の中に入る。

 真っ白な病室の中で、ベッドの上の彼女は起き上がって、ただ静かに月を見上げていた。月明かりの差し込む窓辺には、お姫様を守る騎士のように、二刀を構えたセイリュウが佇んでいる。

 

「ルナさん。こんばんは」

「……あっ、今日も、来てくれたんだ」

 

 僕が話し掛けると、三日月の髪飾りをつけた彼女はいつもの眠たそうな瞳をこちらに向けて、柔らかな笑みを浮かべた。月明かりに照らされた彼女は美しく儚げで、薄幸の美少女というのは彼女のような人を言うのだろうなと、心の中でひとりごちる。

 

「僕が、来ないと思ってたの?」

「うん。今日から、新しい学校に通うって、聞いてたから。新しい友達、出来て……私は邪魔かな、って」

「そんな、邪魔だなんて。むしろ君を利用してる僕の事を、君は嫌いにならないの?」

「嫌いになる? どうして?」

「どうしてって……今言った通りだけど」

 

 イノベーターから石森里奈を救出する為とはいえ、彼女を利用するような形になってしまっている現状。彼女に恨まれてもおかしくないだろうと考えていたのだが、今のところ予想に反して彼女はそんな素振りの一つも見せていない。

 

 一人困惑していると、ルナはポンポンとベッドの横を叩いて僕を呼ぶ。

 

「ここ。椅子空いてるから……こっち、来て。今日も沢山お喋り、しよう」

「あ、ああ。今行くよ」

 

 彼女に誘われるがままに椅子に座ると、彼女はニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべて話し始める。

 それは、何気ない今日の生活。朝御飯に好物の目玉焼きがあって嬉しかった事。お昼ごはんは味が薄すぎて、何を食べているのかよくわからなかった事。窓の外を見ていたら、猫がケンカしていた事。病室の外から見える広場で、オタレンジャーの五人が病室からも見えるようにパフォーマンスをしてくれた事。セイリュウの名前を呼んだら、返事をするようにこちらに振り向いてくれた事。コワモテのおじさんが、LBXについて沢山おしえてくれた事。

 

「それでね、ガトーさん言ってたんだ。アングラビシダスで凄い子供を見つけた、って」

「あぁ、それなら多分、僕も今日会ったよ。山野バンっていう名前じゃないかな?」

「そう! リュウセイ君、よくわかったね! もしかして……エスパー?」

「いやいや。彼は期待の超新星だって、一部のLBXプレイヤー達の中で話題になってるからね。アングラビシダスで優勝したとも聞いてたし」

「なぁんだ、知ってたのかぁ……えへへ。でも、リュウセイ君は、もっと強いんでしょ? ガトーさん、いっつも私に言うの。リュウセイは今まで戦った中で一番………ケホッ、ケホッ。ゲホッ! ゴホッ!」

「ルナ!? 不味い、ナースコール!」

 

 酷く咳き込み始めた彼女を見て、僕は即座に手に握っていたナースコールのボタンを押した。苦しむ彼女の口に、応急用に設置されていた呼吸機をあてがい、彼女が少しでも楽になるようにと背中に手を当てて看護師さんが来るのを待った。

 

「ゲホッ、ゲホッ………ゲホッ!」

「ルナ………頑張れ、もう少しだから。頑張って」

 

 彼女、石森ルナは時折こうして発作を起こす。咳が止まらなくなり、呼吸する事さえ困難な状態に陥ってしまうのだ。だから彼女は外に出ることが殆ど出来ず、生まれた時からずっと病院の中で生活している。運動なんてもってのほかで、たまに外に出る時も歩く必要が無いように、いつも介護者付きの車椅子での移動だ。

 僕が彼女の警護を始めてからも、こうした発作は何度も起きていた。歳の離れた姉である石森里奈しか頼れる家族の居なかった彼女は、こんな状態にありながらも、里奈がいない間はずっと一人で過ごしてきたのだ。それを思うと、胸が締め付けられるような想いだった。

 

「石森さん! 大丈夫ですか!」

 

 そんな女性の声がして、扉から看護師が一人とお医者さんが一人入ってきた。僕は苦しむ彼女から離れ、後を彼等に任せる。こんな時、LBXしか取り柄の無い僕がとても無力で、恨めしかった。

 

 





【ブルド改】
プロメテウス社製。赤いモノアイが特徴の、ブルドを双輪型にしたパンツァーフレームのLBX。性能こそブルドと比べて上がったものの、パンツァーフレーム愛好者の中では賛否両論な機体。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。


【インビット】
神谷重工製の監視用の無人稼働LBX。フレームはワイルドフレーム。量産型だが、特殊合金で作られた装甲は銃弾をもものともしない。武器腕『インビットアーム』は遠近共に高い攻撃性能を発揮する。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。


【クノイチ弐式】
サイバーランス社のストライダーフレームのLBX。人気のLBX『クノイチ』の装甲を強化し、新しいLBXとして生まれ変わらせた。基本カラーはクノイチ同様に紫。クノイチと違い、クリアパーツは一切使われていない。キタジマ模型店の北島沙希が黄緑にカラーリングしたものをメイン機体として使用している。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キタジマ模型店

(マスターコマンドがかっこよかったので)初投稿です
ダン戦小説流行れ流行れ……



 

 

 

 

 

 あれから、お医者さんと看護師さんのお陰で、石森ルナの容態は安定した。しかし彼女の発作は普段よりも長い時間続き、容態はあまり良いものとは言えなかった。

 僕はその日、お医者さん達が去った後も、眠る彼女の傍で看病を続けた。時折苦しそうに呻く彼女。額に浮かび上がる汗を清潔なタオルで拭い、いつまた発作が起きてもお医者さんを呼べるようにナースコールをいつでも押せるようにして、そうしている内に夜が明けた。

 

 翌朝。

 結局一睡もしないでいた為に、窓から差し込む日を浴びながら欠伸をしていると、ベッドに横たわっていた彼女が目を覚ます。

 

「ん………くぅ」

「おはよう、ルナさん」

「ふあぁ……おはよう、リュウセイ君。昨日は、ごめんね。また、あんな事になっちゃって」

「君が謝る事じゃないよ。君が悪い事なんて何もない」

「でも、私………」

「大丈夫。もうひと頑張りすれば、自由に外を出歩けるようになるんだ。そうしたら君のお姉さんと一緒に、ピクニックに行ったり、水族館や動物園に行ったり、LBXバトルも出来る。そうそう、ああ見えて君のお姉さんも中々のLBXプレイヤーなんだ」

「うん、そうだね……」

 

 昨日の夜、話している途中で発作が起きてしまったせいか、酷く落ち込んでいる彼女を元気づけようと色んな事を話してみるが、彼女の表情は暗いままだった。

 俯いて、悲しそうな表情になっていた彼女は暫くした後にふと顔を上げ、しかし取り繕ったような笑顔になって聞いてくる。

 

「ねぇ………もし、もしもね、リュウセイが言うみたいに、私が健康になっても、今みたいに、ずっと一緒に居てくれる?」

 

 表面上は僕を信用しきったような笑顔で、しかし何処か不安そうに、彼女は言った。そんな彼女と真っ直ぐ目を合わせ、彼女の細く、小さな両手をぎゅっと握り締めて、僕は言う。

 

「もちろん。ずっと一緒だ」

 

 彼女がどうして僕をこんなにも信頼してくれているのか、解せないところはあるが、少しでも彼女の心の支えになれるならと、僕はそう強く、宣言した。

 

 

 

 

 

 

「外で聞いていたぞ。男だな、リュウセイ氏」

「オタブルーさん………ヒーローが盗み聞きなんて、らしくないですよ」

「ハハ……それは失敬。しかし、あの子もお姉さんの事もあって、寂しい日々を過ごしていた事だろうな。そんな彼女の心の支えになろうと、付き合いもまだ浅いと言うのに手を差しのべるリュウセイ氏には、我らヒーローに通じるものがある」

 

 学生としてミソラ第二中学校に通う以上、ずっとはここに居られない僕は、セイリュウを置いたまま、病室を出て頼んでいた協力者に後を任せる。

 外に出て待っていたのは、アキハバラの平和を守る正義のヒーローが一人、アイドルオタクのオタブルー。イロモノ揃いのオタレンジャーの中でも、僅かに常識人寄りの人間である彼は、ビビンバードX-Ⅱを肩に乗せてベンチからゆっくりと立ち上がった。そして胸をはり、力強くサムズアップを見せてくれる。

 

「後の事はこの、アキハバラの平和を守る青き翼、オタブルーに任せたまえ!」

「任せました、オタブルー。何があっても、必ず彼女を守ってくださいね」

 

 オタブルーの力強い宣言に僕は安心し、眠気でふらつく足を動かしながら再びミソラ第二中へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リュウセイ君、どうしてもお願いしたい頼みがあるんだ!」

「私からも、お願い!」

 

 山野バンが両手を合わせ、頭まで下げてきたのは、その日の放課後の事だった。彼の隣では揃って川村アミまで両手を合わせて頭を下げていて、なんだか面食らってしまった。

 

「ちょ、ちょっと、そんな頭下げなくて良いって! 二人とも顔上げてって。そんな慌てて、いきなりどうしたのさ」

 

 慌てて二人に頭を上げさせ、どういう事なのかと事情を聞くと、どうやら二人はLBXバトルの練習に付き合って欲しいとの事。

 昨日の僕とハンゾウのバトルを見て、バンがレックスから超プラズマバーストを教わったとはいえ、アルテミスでの優勝は今のままでは難しいと思ったらしい。

 そこで、既にプロとして活躍している僕にLBXバトルの腕を鍛えて貰えないかと考えたと言うことだ。しかし、僕もアルテミスで戦うことになるかもしれないライバルの一人である為、断られるだろうも思いつつもお願いしに来た、と。

 

「良いよ。確かキタジマっていう模型店が商店街の方にあったよね。そこのジオラマを使わせて貰おうか」

「え、良いの!? 絶対断られると思ってたのに」

「プラチナカプセルを守るためにも、バン君達には強くなって貰わないと困るからね。それにこれからは、僕たちはイノベーターと戦う仲間だ。この程度、いくらでも協力するよ」

「ありがとう! アミ、やったな!」

「ええ! これでもっと強くなれるわね!」

 

 手を合わせて喜ぶ二人を見ると、思わず顔がほころんだ。原作ゲームでは結局最後まで何事もなく、Wではアミの方は後半殆ど空気になってしまっていた二人だったが、この世界ではこのまま上手く行って欲しい。前世、ネット上で流行っていたカップリングは青島カズヤと川村アミの『カズアミ』だったが、実際に二人を目にしていると案外これも悪くないんじゃないかなんて思った。

 

「あの、リュウセイ君、その………他のみんなも、呼んでいいかな」

「構わない。あいにくセイリュウは今手元に無いけど、何人でも相手になろう。僕はここで帰りの支度をして待ってるから、呼びたい人は呼んできて」

「本当!? じゃあ、俺みんなのこと呼んでくる!」

 

 そう言って、山野バンは教室を飛び出していった。

 教室には僕とアミが残り、僕はバッグに教育用デバイスなんかを仕舞いながら、バンが走っていった先を眺め続けていたアミに話し掛けた。

 

「………ねぇ、いつから彼の事が好きになったの?」

「っ! ……やっぱりバレてた?」

「うん、バレてた。茶化すような感じで誤魔化してるみたいだけど、結構みんな気付いてる。気付いてないのなんてバン君ぐらいじゃないかな」

「うわぁ、なんか恥ずかしいな。そんなに外に出ちゃってたかぁ」

 

 彼女は頬をほんのりと赤く染めて、恥ずかしそうに手を組んだ。暫く困ったような表情でもじもじした後、勿体ぶった様子で話し始める。

 

「前にね、バン達と、神谷重工のエンジェルスターっていうところに忍び込んだ事があったの」

「エンジェルスター………最初に山野博士が幽閉されていた施設か」

「そう。それで、そこの奥でおっきな機械と戦う事になったんだけど、狙撃してたハンターを鬱陶しく思ったのかしら。ハンターを狙ったその機械のレーザーが私の方に飛んできて、私動けなかった」

 

 機械、おそらく『イジテウス』の事だろうが、その話を聞いて、また一つ原作との乖離が起きていた事を知る。原作ゲームでは、目の前にLBXの操縦者であるバン達がいるにも関わらず、イジテウスはバン達を狙う事は無かった。イジテウスの操縦者であった霧島に残っていた良心が、バン達を狙うことを許さなかったと考えていたが、流れ弾の一つもバン達に行かないと言うのも不思議な話だとは思っていたが。

 

「レーザーが? 流石に子供を狙う筈は無いから、誤射か………でも、今君は無事に生きている」

「そうねぇ。わたし、もしかしたらあの時死んでたかも。でも、アキレスの操作に集中してたはずのバンが飛び出してきて、お陰で助かった」

「へえ。もしかしてそれで好きになったの?」

「ううん、それはただの切っ掛け。幼馴染みだったからかな。あんまりバンの事、男の子として見たこと無かったんだけどね、あの時「大丈夫か!?」って叫びながら抱き締めてきて、あぁ、いつものバンだなぁって思った」

 

 そう言って、彼女はピンク色にカラーリングしたクノイチをジャンプさせて手に乗せた。学校一の美少女である彼女と、その手の上で立つクノイチはさながら天使と妖精のようで、彼女に愛される山野バンはとんでもない幸せ者だなと、心の中で呟いた。

 

「つまり、いつものバン君に惚れてた事に、やっと気付かされたって事?」

「惚れてるって! まぁ、そう、だけど………なんだろうね。多分、ずっと心のどこかで意識してたんだ。LBXだって、バンが好きだって聞いたから始めて、色々教えてあげられるように沢山勉強して、結局自分もLBXが大好きになっちゃったけど、やっぱりバンと一緒にLBXで戦えるのは、凄く楽しい」

「そうかぁ。いいなぁ、青春だなぁ」

「青春って、リュウセイ君だって同い年じゃない! お年寄りみたいな事言うのね」

「僕はずっと会社暮らしで、そういうのとはてんで縁が無かったから。応援してるよ、アミさん。絶対に上手く行く」

「ほんとぉ? バンの事だから私の気持ちになんて気付きもしなさそうだけどなぁ」

「大丈夫だって………あっ、バン君も戻ってきたみたいだし、そろそろ行こうか」

 

 学校じゅうに散らばっていたシーカーの仲間達を集めてきたバンが、全速力で教室に戻ってきた。大きな声で僕とアミを呼ぶ彼に、乙女の顔を隠していつもの川村アミになった彼女は駆け寄っていく。僕も、そんな彼女に続いてバンの元へと駆け出した。

 

 集まったのは山野バン、川村アミ、青島カズヤ、大口寺リュウ、郷田ハンゾウ、御影ミカの六人。四天王郷田三人衆の三人は、それぞれ別に用事があるとかで集まれなかったらしい。

 最後に僕を加えた計7人は、すぐに商店街のキタジマ模型店へと向かった。キタジマ模型店につくと、僕は真っ先に模型店の入り口から店内に入ろうとする。

 

「リュウセイ君? 練習用のジオラマなら外にあるけど……」

「うん、わかってるよ。でもその前に準備しておこうと思って」

「準備?」

 

 店内に入るとすぐに、元気な女性の声に出迎えられた。

 

「いらっしゃい! キタジマ模型店へようこそ」

 

 上半身はその豊満な胸を隠すチューブトップのみと、お年頃の青少年には些か刺激が強すぎる格好の金髪の女性。キタジマ模型店の販売担当、北島沙希である。

 

「おう、いらっしゃい皆! 新しい顔が増えてるな。例の転校生クンかい? って、もしかして」

 

 続いて店のバックヤードから沢山のLBXの箱を抱えて現れたのは、健康的に日焼けした肌のがっしりとした体つきの男性。言わずもがな、キタジマ模型店の店長、北島小次郎だ。

 

「ああ、本物の青柳リュウセイなんだ! 今日はアルテミスに向けて一緒に練習しにきたんだ」

「先日こっちの方に引っ越して来ました、青柳リュウセイと申します。これから何度もお世話になるかと思うので、宜しくお願いします」

「ハッハッハ、マジかよあの青柳リュウセイが! ほら、みんな入り口で固まってないでもっと中に入りな。あんま広い店じゃないけどな」

 

 ぞろぞろと7人が店の中に入り、店の中はほとんど埋め尽くされる。確かに他のLBX販売店と比べれば多少こぢんまりとしてはいるが、暖かみのある店の雰囲気と丁寧にメンテナンスされた展示用のLBXには好感を持てた。ざっと見たところ、LBXは一般に流通しているものばかりだが品揃えも広く、むしろ今まで見てきたLBX販売店の中でもかなり良い。

 

「成る程………良い、お店ですね」

「本当かい? 西日本チャンプにそう言って貰えるなんて嬉しいねぇ。アルテミスでも応援してるから、是非ともウチの贔屓になってくれよな」

「ちょっ、キタジマ店長! 俺たちの事は応援しないの?」

「ハハハ。もちろん応援するに決まってるだろ。全員が優勝なんて出来ないけどさ、みんなの事、応援してるぜ」

 

 キタジマ店長はそう言って笑いながらバンの頭をわしゃわしゃと撫でた。いきなり子供扱いされて恥ずかしがるバンを、皆は微笑ましそうに眺める。キタジマ模型店の北島小次郎と北島沙希。まるで、みんなのお父さんとお母さんと言ったところだろうか。

 

 バンがキタジマ店長のわしゃわしゃ攻撃から解放されたのを見て、僕はバッグからちぎって折り畳んでいたメモを取り出した。そしてキタジマ店長と沙希さんの前に行き、メモを開いて見せる。

 

「それで早速なんですけど、アルテミスに向けてこのメモに書いてあるぶんのLBXを、コアスケルトンごと欲しいんですが……」

「へぇー。どれどれ? って、こんなに!?」

「うおっ! マジか! 本当に、これだけのLBXを買うのか? クレジットとか、足りるのか?」

「僕は大丈夫です。お金の心配なら要りません」

「はー、流石は一線で活躍するLBXプレイヤーって訳だ。そうだな……生憎タイタンは切らしてるが、他なら全部あるぜ。それでも良いか?」

「はい、お願いします!」

 

 メモの内容に二人は少々面食らっていたものの、一機を除いて全部用意出来ると言ってくれた。正直断られるかと思っていた所だったのだが、流石は山野バンも足しげく通うLBX販売店。天下のキタジマ模型店様は器が違った。

 メモを片手にキタジマ店長はバックヤードへとすっとんで行き、頼んだLBXを次から次へと持ってくる。カウンターには組み立て済みLBXの箱が山のように積まれ、LBX好きなら垂涎ものの光景が出来上がった。

 

「えーと、合計で16万5千クレジットね。まいどあり!」

「じゃあカードで……」

「あとこれも宜しく!」

「ん?」

 

 料金を支払おうと財布を出していると、ずいっと一枚の色紙を差し出された。

 

「ウチもそろそろ有名人の色紙とか? あったら良いなぁって……」

 

 恥ずかしそうに笑うキタジマ店長。僕はそれに笑顔で返し、料金を支払って色紙にサインを書いた。

 

「うわぁ………すごい量のLBX。こんなにどうするの?」

「しかも全部コアスケルトン付きって……そんな一度に操作出来ないだろ」

 

 ドン引きするバンとカズに横目に、僕は早速箱からLBX達を取り出して片っ端から自分のCCMと接続させていく。

 これは全てアルテミスでのイノベーターとの戦いに向けての布石であり、確実にバン達を勝ち上がらせる為の仮想敵。

 中身を出し終わった箱はDキューブと同じように小さく格納され、全てバッグの中にしまった。

 

「今からバン達にはこの12機のLBX達と戦って貰う。流石にレギュレーションはスタンダードで止めておくけど、これから先、イノベーターとの戦いで複数のLBXを同時に相手にする事もあるから、慣れといた方がいい。こっちは三体を除いて残りはCPU任せにするよ」

「成る程! でも、この練習方法で、アルテミスでの戦いに通用するかな……」

「大丈夫だよバン君。僕もデビュー前はいつも10人を相手にして練習してたから。僕が強くなれたんだから、バン君達ならもっと強くなれるよ」

「……うん。わかった。よぉーし、頑張るぞ!みんな!」

 

「「おおーっ!」」

 

 再び気合いを入れるバン達六人。キタジマ店長にジオラマを借りる事を伝えて、僕たちは外に出た。

 大量のLBX達を引き連れてジオラマの前に立つと、郷田ハンゾウがリュウとミカを引き連れてジオラマの反対側に立った。

 

「まずは俺からでも良いか? バン達はチームが決まってるからよ、残った俺たちが組む」

「バン達がいいなら大丈夫。でも、ハンゾウのハカイオーは昨日僕が壊しちゃったばかりだったと思うんだけど………」

「おう! それがよ、実はハカイオーの後継機を親父が会社で作ってくれてたらしくてな……見てくれよ、これが俺の新しいLBX!」

 

 そう言ってハンゾウは一機のLBXを取り出した。出てきたのは、本来ならばまだ彼の手元にはあるはずの無かったLBX。それを見て、僕の介入によって着々と未来が変わってきている事を実感した。

 

「『ハカイオー絶斗』だ!」

「郷田さんかっこいい」

 

 胸の砲門を2基に増やし、剣という名のチェーンソー『絶・破岩刃』を手に、ハカイオーはハカイオー絶斗へと進化して、戻ってきたのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アルテミス直前

(オタクロスを倒したので)初投稿です



 

 

 

 

「行くぜ、ハカイオー絶斗ォ!」

「……アマゾネス」

「頑張れ、俺のブルド!」

 

 12機のLBXがひしめく草原のフィールドに、ハンゾウ達の三機のLBXが降り立った。ハンゾウが『ハカイオー絶斗』、ミカが紫にカラーリングした『アマゾネス』、そしてリュウがオレンジにカラーリングした『ブルド改』だ。

 ハンゾウ達の目の前に立つLBXは、右側から『ウォーリアー』『アマゾネス』『ブルド』『オルテガ』『ムシャ』『ジョーカー』『ブルド改』『サラマンダー』『グラディエーター』『クノイチ』『ズール』『カブト』。

 12機はハンゾウ達のLBXが投入されるやいなや走り出し、それぞれの武器をふるって三機に襲いかかった。

 

「ハッ、本番同様にってか!」

「ああ。全力で倒しに来て」

「んなもんわかってるよ!」

 

 同時に襲いかかってくるブルド改とオルテガを、ハカイオー絶斗は凄まじい勢いの回転斬りで弾き飛ばし、更にブーストをかけてオルテガに接近、自重をかけた縦斬りでオルテガを仕留める。反撃とばかりに再び躍りかかってきたブルド改のハンマーを振り向きざまにいなし、返す刃で胴を横凪に斬りつけた。ブルド改もこれにはたまらず転倒し、青い光を弾けさせる。ブレイクオーバーだ。

 

「おっしゃあ! 二機撃破ァ!」

「良い。良い調子だ。だけど……」

 

 一方、ムシャとジョーカーに狙われたリュウのブルド改は苦戦していた。

 バランスの取れた性能で、ブルド改のハンマーをガードしながら隙を見て攻撃してくるムシャ。ストライダーフレームらしい素早い動きで翻弄し、背後からハンマーの重い一撃を加えてくるジョーカー。

 同級生達の中ではLBXバトルの強い方であると自負していたリュウだったが、それはあくまでミソラ第二中という狭い枠の中での話。二体同時に相手をするのは滅多に無い事で、普段ならばすぐに仲間が助けに来てくれる所、あまりの敵の多さにそれも望めない。

 

「ぶ、ブルドっ!」

 

 次第に防戦一方に追い込まれるブルド改に追い討ちをかけるように、更に一機のLBXが岩の影から襲い掛かった。

 水月棍を装備したそのウォーリアーは、明らかに他のLBXとは一線を隔する動きでブルド改との距離を一瞬で詰め、ブルド改の攻撃可能範囲よりも内側に潜り込んで何度も胴を殴りつける。パンツァーフレームで耐久力には自信のあったブルド改だったが、ウォーリアーの猛攻に遂に耐えきれず、ブレイクオーバーしてしまった。

 

「お、俺のブルドが……」

「リュウ!」

「大口寺、くん……!?」

 

 早々に落ちてしまった味方に二人は驚き、一瞬操作の手が止まった。しかしその瞬間にも、他の8体のLBX達は休むこと無くハカイオー絶斗とアマゾネスに襲いかかる。

 

「例え相手がAI操作の有象無象だとしても、エース機は必ず存在してる。神谷は数あるLBXメーカーの中でも特に自律操作に長けた企業。雑魚のLBXに苦戦している暇は無いよ」

「チッ、成る程。強いのと弱いのを見極めて、邪魔な弱いやつからさっさと片付けろって事か!」

「うん。弱くても集まられると厄介だから。強いのとの戦いで邪魔になる前に、処理しておいた方が良い」

 

 ミカのアマゾネスの周囲をグラディエーター、ズール、カブトの三機が囲む。三方向から同時に攻撃を仕掛けてくる三機に、アマゾネスは大きく飛び上がって宙返り。

 軽やかに着地したアマゾネスは、三機が一ヶ所に集まった瞬間を見逃さなかった。

 

「………決める!」

 

 アタックファンクション!トライデント!

 

 手首の回転機構によって槍を回転させながら、アマゾネスは槍にエネルギーを集中させる。そして槍が完全に青に染まった瞬間、アマゾネスは一気にそれを前へと突き出す。槍の先から放たれるエネルギーの奔流は三方向に分かれ、それぞれ螺旋を描きながら延びていく。

 攻撃動作の直後で三機は回避が間に合わず、アマゾネスのアタックファンクションの餌食となり、同時に撃破された。

 

「なかなかやるじゃねぇかミカ。この調子ならお前も入れて本当に四天王にしても良いかもな」

「イヤ………私は、郷田さんの特別になりたい」

「え? あぁ?」

 

 皆が見ている前だと言うのに、いきなり桃色の空気をかもし出し始めるミカ。しかし、ド直球の好意をぶつけられているにも関わらず、鈍感主人公体質のハンゾウは、わかったようなわからないような微妙な返事をする。

 

「ミカさん。そういうのはまた後で。残り7機だけど、まだエース機は落ちてないよ」

「………わかってる」

 

 不満そうにムスッと頬を膨らませる御影ミカ。しかしそうしている間も彼女の指は凄まじい速度で動き、ハカイオー絶斗と共に雑魚に設定していた4体のLBX『ムシャ』『ジョーカー』『サラマンダー』『クノイチ』を次々と撃破した。

 残るは『ウォーリアー』『アマゾネス』『ブルド』の三機だけだ。

 

「あれは……!」

 

 戦いの様子を見ていたカズが、最後に残った三機のLBX達を見て身を乗り出す。ウォーリアー使いだったカズだからこそ、エース機に指定された三機が何を意味していたのかすぐに気付いたのだろう。

 

「カズ、どうしたの?」

「驚いたぜ。特殊な調整とかはしてないから強さは数段落ちるだろうが、ありゃアジアチャンピオンの『森上ケイタ』のチームだ。リュウセイはアジア選手権には出場してないから、直接戦った事は無いはずだけど………武器も完璧に再現してる」

「森上ケイタ。最強のウォーリアー使いって呼ばれてる。カズの憧れの人ね」

 

 互いの背を守りながら立つハカイオー絶斗とアマゾネスの周囲を、棍を装備したウォーリアー、薙刀を装備したアマゾネス、両手銃を装備したブルドが囲んだ。

 ウォーリアーとアマゾネスの二機はハカイオー達の出方を窺いながらじわじわとその距離をつめていき、ブルドはいつでも二機の補助に回れるように静かに両手銃を構える。

 

「チッ……キッツイなぁ。滾らせてくれるじゃねぇか」

「ウォーリアーの相手は……私が」

「あぁ、早いとこ倒して合流しようぜ。ブルドの狙撃には気を付けろよ」

「……うん!」

 

 身動きを取れなくされてジリ貧になる前にと、ハカイオー絶斗はアマゾネスに、ミカのアマゾネスはウォーリアーへと突撃した。

 すかさずブルドからハカイオー絶斗に向けて銃弾が飛ぶが、ハカイオー絶斗は絶・破岩刃で難なくそれを弾き返し、アマゾネスに斬りかかる。アマゾネスは軽快なステップでそれを回避し、逆に薙刀でハカイオー絶斗の駆動部を狙って突きを放った。しかしハカイオー絶斗はそれを回避する事無く、両足で地をしっかりと踏みしめて、あろうことか肘と脚で薙刀の穂先を捕まえてしまった。武器を強く握っていたアマゾネスは、それによって一瞬動きを止めてしまう。

 

「一気に決めるぜ、ハカイオー絶斗ォォォ!」

 

 アタックファンクション!パワースラッシュ!

 

 至近距離から放たれた高火力技にアマゾネスは後方へと派手に吹っ飛び、ジオラマの壁に激突して青い光を弾けさせた。

 

「良し。ミカ、そっちはどうだ!」

「………ごめん、なさい」

 

 しかし時既に遅く、ブルドからの狙撃とウォーリアーの苛烈な攻撃をいなしきれず、ミカのアマゾネスはブレイクオーバーしてしまっていた。

 最後の一機になったハカイオー絶斗の前に、ウォーリアーとブルドが立ちはだかる。

 

「ッ! いや、謝んじゃねぇ。まだ終わってねぇぞ。それにな……」

 

 ハンゾウは一瞬こちらを見て、そしてジオラマの中のハカイオー絶斗を見下ろした。

 

「本気にもなってねぇコイツに、負けるわけねぇだろ!」

 

 そう叫んだ直後、ハカイオー絶斗はブルドの狙撃を掻い潜り、ブーストをかけてブロウラーフレームとは思えない程のスピードでウォーリアーへと接近する。振り下ろされる絶・破岩刃をウォーリアーは盾で防ぐが、回転する刃がウォーリアーのガードを崩した。僚機のピンチにブルドも場所を変えながら狙撃を試みるが、ハカイオーは上手く斜線の間にウォーリアーを置いてそれを許さない。

 ウォーリアーと激しい攻防を繰り広げたハカイオー絶斗は、徐々にその位置をブルドの方へと近付けていく。そしてウォーリアーとブルドの二機が一直線上に並んだ瞬間に、勝負は決した。

 

「行くぜ………生まれ変わったお前の必殺技!」

 

 必殺ファンクション!超我王砲

 

 ハカイオー絶斗の胸の二基の砲門に、エネルギーがみるみるうちに溜められていく。そして回避の間に合わなかった二機を、二本の極太のビームが飲み込んだ。

 ビームが放出されきった後には、倒れて動かなくなったウォーリアーとブルドが残され、ジオラマにはハカイオー絶斗のみが立つ。

 

「ハンゾウ君達の勝ちだ」

「っ、しゃぁぁぁっ!」

 

 勝利の喜びから、天に向かって吠えるハンゾウ。

 早々にリュウのブルド改が落ち、終盤にミカのアマゾネスが落ちてしまうという苦しい展開ではあったが、郷田ハンゾウ達三人のチームは辛くも勝利を納めた。

 

「ハンゾウ君とミカさんは思った以上にいい動きだったよ。あとは相手の動きを読んで、こっちの動きで相手の動作をコントロール出来るようになると良い」

「相手の動きをコントロールか。難しいが………成る程な」

「今回はダメだった。次は狙撃手に仕事させない」

 

 こうして戦いから学び、より強くなる。何度も戦い、自身の弱点を見極め、克服し、出来ることを増やしていくのだ。自分を含めた神谷のテストプレイヤー達は、皆そうして強くなっていった。

 

「俺は………」

「リュウ君は、今回は残念だった。でも僕は、君が特別二人より劣っているとは思わない」

「………どうして?」

「僕が思うに、リュウ君が撃破されてしまったのはテクニックの問題じゃなく、心の問題だと思う。君は、二機に挟まれた瞬間から、目に見えて動きが悪くなった」

「心の、問題……」

 

 落ち込んでいるリュウにそう言うと、彼は何か考え込むように口元を押さえた。

 予想に反して、一戦目から良い動きを見せてくれた三人。流石はメインキャラクター達だ。きっと僕なんてすぐに追い抜かれてしまうだろうが、彼等を鍛えていく事が楽しみでならない。

 

「よし! 次は俺たちだ!」

「今ぐらいの相手なら、郷田君達の半分の時間でおわらせてやるわ!」

「俺達のコンビネーションを見せてやるぜ!」

 

 ハカイオー絶斗達が回収されると、すぐにバン達のLBX『アキレス』『クノイチ』『ハンター』の三機がジオラマの中に投入された。

 自動メンテナンスを終えたこちらのLBX達も次々に起き上がり、その目に光をともす。訓練はまだまだ始まったばかりだ。

 

「操作機体変更………じゃあ、始めようか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、神谷重工本社、社長室にて。

 

「やっほ~。久し振りだなァお前ら」

 

「ハクビか………相変わらずのいい加減そうな様子で何よりだ」

「へー、随分イケメンになったじゃん。まぁアタシの好みからは外れてるけどさ」

 

 扉を開き中へと入った虎杖ハクビを出迎えたのは、真面目そうな顔の緑色の髪をした少年と、燃えるような赤い髪の強気な少女。ハクビはいつもの軽い笑顔を二人に向けて、ヒラヒラと手を振りながら二人に歩み寄る。

 

「そう言うヒスイも相変わらずの堅物メガネで安心したぜ。グレンちゃんキッツイなぁ。もうちょっと俺に優しくしてくんない? ほら、俺かっこよくなったんでしょ? 好きになっちゃわない?」

「悪いけどアタシ、もうちょい筋肉のついたワイルドな感じの方が好みなんだよね。遊んでるようなヤツは願い下げだけど」

「だとさ。手酷く振られたな、ハクビ」

「ちぇっ。まあ冗談だからノーダメノーダメ」

 

 部屋の主人である神谷籐吾郎もまだ来ておらず、下らない雑談を続ける三人だったが、しばらくして社長室の奥の扉が開き、神谷籐吾郎が姿を表した。

 彼の登場に三人は一斉に彼の方を向き、姿勢を正した。

 

「さて、全員集まっているようで何より。早速話を始めよう」

 

 そう言って話し始めようとする神谷籐吾郎に、亀島ヒスイは静かに手を挙げる。

 

「籐吾郎様、まだ青龍の青柳リュウセイが来ておりません」

「ああ、その事ならば今から話そう」

 

 神谷籐吾郎は酷く不機嫌な様子で社長椅子に腰を下ろして両手を組む。普段は無表情で何を考えているのかわからない狸爺である彼の、3人の誰もが見たこともないほどに動揺した様子にハクビ達は息を飲む。

 

「まず、四神が一人、『青龍』の青柳リュウセイは我が神谷重工を裏切り、イノベーターへの攻撃を開始した」

 

「「「!?」」」

 

「ヤツは世界大会アルテミスへの出場権を持っている。アルテミスの優勝賞品『メタナスGX』を狙って、ヤツは必ずアルテミスに現れるだろう。我々も海道先生のご協力の元、メタナスGXを手に入れるべく強力なLBXプレイヤーを二人用意したが、安心は出来ない」

 

 幼少の頃より共に育ち、LBXとして高めあってきた仲間の裏切りに、三人は衝撃を受けて声を出すことさえ出来ない。そんな三人の様子を知ってか知らずか、神谷籐吾郎は強い口調で続けた。

 

「お前達三人を呼んだのは他でもない。三人の中から一人を選び、アルテミスの予選に出場。そしてアルテミスにて、青柳リュウセイを叩き潰すのだ!」

 

「ま、待ってくれよ籐吾郎様!」

 

 動揺のあまり、ハクビは姿勢を正すことさえ忘れて大きな声を出してしまう。しかし籐吾郎もそんな彼を咎めるような事は無かった。ただ静かに、ハクビを見つめる。

 

「リュウセイが裏切るなんて信じられねぇ! ついこないだだって、俺はリュウセイとLBXバトルを……」

「だが事実だ。既に何人ものイノベーターのLBXプレイヤーがヤツによって倒されている。『セイリュウ』や『トロイ』までもを手にしているヤツは、最早並みのプレイヤーでは時間稼ぎにすらならない始末。故に我々も、お前達『四神』という最高戦力でもってヤツを始末するのだ」

「ッ、………そんな」

 

 ヒスイとグレンがショックで立ち直れなくなっている中、ハクビはそう言ってぐったりと項垂れ、しかし再び顔を上げると神谷籐吾郎の目の前まで歩いていった。

 そして机を挟んで籐吾郎と向かい合い、机に両手を力強く叩き付け、目の前の彼を睨む。

 

「ハクビ………その様子だと、決まったようだな」

「………ああ、他の二人にゃ悪いが俺にやらせろ」

「いいだろう。予選にはこちらでエントリーをさせておく。必ずヤツを仕留めるのだ」

 

 ポケットからLBX『ビャッコ』を取り出し、腕に乗せてハクビはヒスイとグレンへと振り返った。

 

「は、ハクビ」

「どうしよう………リュウセイが」

 

「二人とも、俺に任せろ。ヤツは強くなったが、まだ俺に勝てる程じゃねぇ。ぶちのめしてでも連れ帰ってやる」

 

 世界大会アルテミスまで、あと僅か。

 

 

 




【ウォーリアー】
タイニーオービット製のナイトフレームのLBX。扱いやすい初心者向きの機体で、多くのプレイヤーから愛されている。ストーリー序盤のカズや、アジアエリアチャンピオンの森上ケイタが使用している。森上ケイタのウォーリアーは独自の調整が施されており、通常のウォーリアーとは一線を画す性能。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。


【アマゾネス】
タイニーオービット製のストライダーフレームの機体。ゲーム内説明では『華麗に戦場を駆ける女戦士をモチーフにした機体』らしい。比較的扱いやすく、女性からの人気が高い。ストーリーでは御影ミカと、森上ケイタのチームメイトの中井レイナが使用。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

開幕、アルテミス!

やっと……ここまで来たんやなって。
世界大会アルテミス攻略RTAはーじまーるよー


 

 

 

 

 

 

「これがアルテミス……世界最高の舞台」

「あ、あわわ。い、いっ、いまから緊張してっ」

「ユジンさん落ち着いて下さい。ほら、深呼吸して、スー、ハー」

「…………すぅぅぅぅっ」

「不味い! ユジンさんが息を吸ったまま戻ってこなくなった! 衛生へーい!」

「チャリオット2、お前も落ち着け」

 

 世界最高のLBXプレイヤーが決まる瞬間を見ようと、大勢の人々が集まったアルテミスの会場を前にして、僕は同じく大会参加者の『オタレッド』ことユジンさんと、プロメテウス社をスポンサーにつけるLBXチーム『アーミーチャリオット』の三人と一緒にその舞台を見上げていた。

 元来気が弱く、人前に出るのが苦手なユジンさんが、大勢の人々が集まった会場を見て速攻で倒れ、それをアーミーチャリオットの三人の内の二人が慌てて介抱している。息を吸ったまま息を引き取るというだいぶ器用な事をやってのけたユジンは、気絶したまましばらく戻ってきそうには無かった。

 

「やっぱりユジンさんにアキハバラ以外での大会はキツかったかなぁ」

「ふあぁぁ……大丈夫ですよ。ユジンさんはヒーローですから。やる時はやりますって」

「リュウセイくん。君も大丈夫かい? 随分と眠そうだし、隈もひどい。例の山野バン君って子の訓練と、ルナちゃんを守るので忙しくて寝る間も無かったんじゃないか?」

「だい、じょうぶです、チャリオット3さん。バトルが始まれば、目は覚めますから」

「大丈夫じゃないじゃないか、全く。まだ開会まで時間もあるし、会場内に休憩室ぐらいあるだろうし、そこで仮眠でもとろう。時間になったら僕らが起こして挙げるから」

「すみません………ありがとうございます」

 

 チャリオット3さんに言われた通りに、バン君達の訓練とルナさんの護衛とでここの所忙しく、ロクに睡眠時間を取れていなかった僕は余りの眠気に倒れる寸前だった。

 チャリオット1とチャリオット2の二人が気絶したユジンの身体を支え、五人揃って会場に入った僕らは全員分の選手登録を済ませ、休憩室へと直行した。僕とユジンさんはすぐにソファに横にされ、その瞬間に溜まっていた疲れがどっと放出されたのか、自分でも驚くほどに速く眠りへと落ちる。気がついた時には開会式直前の時間になっていて、アーミーチャリオットの三人に連れられて、僕は開会式の行われるスタジアムへと向かったのだった。

 

 スタジアム内は照明が消され、暗闇に包まれるなか、スポットライトと共にスタジアム中央に現れたMCの声だけが大きく響く。

 

『2046年。『強化ダンボール』の発明によって世界の物流は革命的な進歩を遂げた。革新的な『未来の箱』が、運送手段の常識を覆したのだ。しかし、その箱は全く別の目的で使われることになる。ホビー用小型ロボット『LBX』の戦場として』

 

 MCによる静かな語りから始まった開会式。会場に集まった誰もが静かに、彼の語りに耳を傾けていた。

 

『少年達の戦いはストリートを飛び出し、そして世界へ飛び出した。 集え! LBXプレイヤー達よ! 世界の頂点をかけて!』

 

 力強く会場に響き渡る彼の言葉に、観客や参加者達から大きな歓声があがる。そうだ、今年も遂に始まるのだ。

 

『これより! 第三回LBX世界大会『アルテミス』を開幕致します!』

 

 会場じゅうから「おおーっ」という声があがり、会場の熱気は留まることを知らずに上昇を続ける。

 アルテミスMCはマイク片手にステージの上を端へと移動して、更に声をはりあげた。

 

『いよいよここで、アルテミスの賞品の発表となります! 今回のLBX世界大会、アルテミスのその栄えある優勝者に与えられる賞品は………こちらです!』

 

 踊る四色のスポットライト。MCがサッと腕でその場所を示した瞬間、四色のスポットライトは一点を集中して照らして止まった。スポットライトの下に居たのは、アルテミスのコンパニオンの格好をした一人の女性。

 人々がいったいどういう事だとどよめく中、彼女は堂々とした歩みでステージの中央に立ち、ポーズを決める。その瞬間、驚くべき事に女性の胸の中心が開き、中から精密機械が姿を現した。

 

『さあ、今回の賞品が姿を現しました!! 今回の賞品はこの高性能アンドロイドをたった一つの回路でコントロールできる超高性能CPU、『メタナスGX』です!!』

 

 その瞬間、スタジアムに凄まじい歓声が沸き起こった。なんたって見た目だけだと本物の人間との区別がつかないほどの高性能アンドロイドを、たった一つの回路でコントロールできてしまう程のCPUなのだ。もしも、あのCPUをアンドロイドではなくLBXに使ったならば………きっとそれは世界で最強のLBXになる。優勝者はそんなとてつもないものを手にできるとあって、参加者達の気合いも充分。

 

「メタナスGX……必ず私達で守り抜いてみせましょう」

「はい。ユジンさん………いえ、オタレッド」

 

 共にイノベーターと戦う仲間として、アルテミスに参加することが出来たユジンさんとアーミーチャリオットの三人。アルテミス優勝と、メタナスGXの防衛という二つの目標に、五人の心は今、一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、私はここで。大丈夫です、一番落ち着くので……」

「わかりました。それじゃあオタレッドさん、また後で」

「はい、また………あ、いえ。スゥーーッ………また会おう、少年!」

 

 アルテミス会場には、様々なLBXメーカーや販売店がブースを出している。その中にあったアキハバラの正規模型店のブースに、オタレッドは吸い込まれるように引き寄せられていった。どうやらあのブースだけ空気がアキハバラで、落ち着くのだと言う。

 

「それでは我々もこの辺で。決勝で会いましょう」

「はい、中々に厳しいブロックですけど、お互い頑張りましょう」

 

 プロメテウス社のブース前まで来て、アーミーチャリオットの三人とも別れた。彼等は山野バンや森上ケイタと同じCブロックに振り分けられており、順当に行けば山野バンチームとCブロック準決勝でぶつかる事になるだろう。

 青柳リュウセイとして生きてきた身としては、付き合いの長いアーミーチャリオットに勝ってほしい所だが、ストーリーの進行上、勝利するのは山野バンチームになるだろう。僕が大会直前まで彼等を鍛え続けたせいで、彼等は原作を遥かに凌駕する程の強さへと成長した事もあり、おそらくこれは揺るがない。

 

「それにしても、速くマスクドJを見つけないと」

 

 開会式が終わり、発表されたトーナメント表を見て僕は衝撃を受けた。

 何故なら、マスクドJこと山野淳一郎の振り分けられたブロックに、神谷重工の『四神』が一人、虎杖ハクビの名前があったのだ。しかもどうやらご丁寧に神谷のテストプレイヤーまで連れてきている。

 これを見て、自分が灰原ユウヤと同じブロックだった事さえもどうでも良くなる程に驚いた。あの男に勝てるようなプレイヤーなんて、山野バンか海道ジンくらいしか思い浮かばない。

 もしもマスクドJが勝ち上がらなかった場合、何が起きてしまうのか。それは、決勝戦にてマスクドJのLBX『マスカレードJ』がバンの『アキレス』に接触する事が出来ず、プラチナカプセルに後のバンのLBX『オーディーン』の設計図を書き込む事が出来なくなってしまうのだ。

 主人公の機体が強化されないのは余りにも大きすぎる痛手だ。山野バンにオーディーンを持たせるためにも、決勝戦にマスクドJを進める以外の方法での、マスカレードJとアキレスとの接触が必要だった。

 

「マスクドJ。どこだ、どこだ……」

「私をお探しかな、少年」

「う、うわっ!?」

 

 中々見付けられないマスクドJを探していると、突然背後から聞きなれた声がした。驚きつつも後ろを振り返ると、怪傑ゾロのような格好をした壮年の男性がこちらを見下ろしていた。

 

「ま、マスクドJ。あなたでしたか」

「驚かせてすまなかったね、青柳少年。それより、私に話があったのだろう?」

「ああ! それなんですけど……」

 

 万一、今から話すことをイノベーターの人間に聞かれたら困る。周囲にだれもいない事を確認して、彼と目を合わせた。

 

「虎杖ハクビ。彼は強い。貴方では敵わないかもしれない」

「ふむ。私では勝てないと言うのかね?」

「えっ! あっ、まぁ………はい」

「だがそれを私に話すことに何の意味がある。虎杖少年が勝ち上がると考えているのなら、わざわざ私を煽りに来たという訳でもあるまい」

「それは……」

 

 言葉にしようとして、一瞬躊躇した。このままだと起こり得る最悪の展開を話すべきなのか。それを話して、彼に不信感を抱かれて、敵対されてしまえばそれまでだ。だが、

 

「……このままでは、アキレスは破壊され、プラチナカプセルはメタナスGX共々イノベーターに奪われてしまいます」

 

 オーディーンの設計図を渡せなくなる未来に気付かせようと、出来るだけ遠回しに、それでいて誰でも知り得る可能性のある情報を出した。マスクドJはそれを聞いて、訝しむような視線を此方に向けてくる。

 

「! ………何故、君がそれを知っている? シーカーの仲間だとは聞いていないが」

「………」

 

 僕は無言でポケットから神谷重工の、未だ試作段階にあるLBX『トロイ』を取り出して彼に見せた。彼の表情は一層険しいものになり、しかし納得したといった風に僅かに頷く。

 

「山野バンという大きな戦力が失われるのは、イノベーターとの戦いにおいて大きな痛手になります。そして、身を隠して生活している貴方がこれ程の大舞台に現れた理由。それは山野バンにどうしても接触しなければならない目的があったからとしか思えない」

「ふむ………成る程。イノベーターが君の裏切りに慌てふためく訳だ。良いだろう、CCMを出しなさい、少年」

「? ええ、はい」

 

 言われた通りにCCMを出すと、彼は自身のCCMをそれに近付けて、何かのデータを送ってきた。データには厳重な保護がかけられていて、僕一人の力ではまず開くことは出来ないだろう。

 

「君が決勝戦に進む事があったら、これをアキレスに送信しなさい」

「っ! ………新たなる希望、ですか」

「その通り。君が私では難しいと言い出したのだぞ? ならば君が私の目的を果たしたまえ」

「……はいっ!」

 

 彼は帽子を深く被り直すと、CCMを操作してマスカレードJを自身の肩に乗せてくるりと振り返り去ってゆく。

 彼から送られてきたデータ。これこそ、山野バンが最後の戦いまで愛用する事になるLBX『オーディーン』の設計図に違いない。

 本来であれば彼のプラチナカプセルにこのデータを書き加えるのはマスクドJの操るマスカレードJの仕事だったが、それが出来そうにない現状、彼は大切なこのデータを僕に託す事に賭けたのだ。少々予想外だったが、そんな彼の期待を裏切るわけにはいかない。身の引き締まる思いだった。

 

「山野バン……」

 

 ふと見上げたモニターに、Cブロックでの戦闘の様子が映っていた。

 戦っているのは山野バンチームとジョン&ポール。戦闘に出ているのは山野バンと川村アミで、仮にも北米エリアチャンピオンである彼等を相手に一方的とも言える戦いを繰り広げていた。

 

「いっけー、アキレス!」

「いくわよ、クノイチ!」

 

 アタックファンクション! ライトスピア!

 アタックファンクション! 旋風

 

 ぴったりと息のあったアキレスとクノイチのコンビネーション攻撃に、二人同時に空中へと吹っ飛ばされたオルテガとタイタン。回避不可能な二機に向かって、アキレスとクノイチのアタックファンクションが容赦なく襲いかかる。

 アキレスの槍から真っ直ぐに放たれた光の槍がオルテガを貫き、クノイチの回転しながら放たれる高速の拳がタイタンの装甲をボコボコに凹ませていく。二機は大きすぎるダメージに、限界を迎えて爆散してしまった。

 

『おおっと山野バンチームvsジョン&ポールが決着ゥゥ~! 山野バンチーム、まさかのファイナルブレイクでの圧倒的な勝利だぁぁっ!』

 

「やったー! 勝ったぞ!」

「私達にかかればこんなもんよ!」

 

 同い年だと言うのに、そう言って笑いあい、ハイタッチをして喜ぶ彼等が、とても眩しく見えた。

 

 

 





【マスカレードJ】
山野バンの父、山野淳一郎が世界大会アルテミスに参加する為に作り上げたストライダーフレームのLBX。オレンジと白がメインカラーの流線的なフォルムの機体。原作ゲームではレイピアを片手に圧倒的な実力で決勝戦まで駆け上がった。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。


【クノイチ】
サイバーランス社製のストライダーフレームのLBX。女忍者をモチーフにした機体で、メインカラーは紫。アマゾネス、クイーンと並んで女性からの人気が高い。川村アミの使うピンク色のクノイチは、独自の調整が施されており通常のクノイチよりも高い性能を発揮する。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

vs ジャッジ

(つべでダン戦アニメ配信するらしいので)初投稿です
みんなもダン戦アニメ、見よう!



 

 

 

 

 

 

『おおっとぉ! 早速Dブロックの覇者が決まったァァ! Dブロック決勝を制したのは、自称『オタクロスの弟子』、ユジン選手だぁぁぁっ!』

 

 仙道ダイキの操るジョーカーMk-2を終始寄せ付けることなく、圧倒的な射撃スキルによってアタックファンクションさえ使う事なく勝利したビビンバードX。

 ここまで大会は一切の問題も起こる事なく順調に進行し、仲間のLBXプレイヤー達も着々と決勝へのコマを進めていた。

 

 Cブロックではアーミーチャリオットの三人に勝利した山野バンチームが決勝でアジアチャンピオンの森上ケイタチームと激突。カズにとっては憧れのLBXプレイヤーとのバトルとなった訳だが、戦いの決着はあっさりとついた。

 まず先行したアミのクノイチが森上ケイタチームの三機の動きを掻き乱し、続いて突撃したアキレスが完璧な槍さばきでブルドとアマゾネスを次々と撃破。残った森上ケイタのウォーリアーは奮闘したが、カズのハンターによる精密射撃とアキレスとクノイチの完璧なコンビネーションに為すすべなくブレイクオーバーした。

 

 しかし一方で、Bブロック決勝では予想通りと言うべきか、マスクドJと虎杖ハクビが激突。マスクドJの操るLBXマスカレードJは虎杖ハクビのLBXビャッコを相手に善戦したが、あと一歩及ばずに敗北。ハクビがマスクドJの正体に気付いた様子は無く、それには安心したのだが、彼が決勝戦に進出するという苦しい結果になってしまった。

 

 そしてAブロックも原作通りにレックスとハンゾウの二人と、海道ジンが激突。ハカイオー絶斗はエンペラーM2を相手に互角の戦いを繰り広げたが、途中から突然目に見えて動きが悪くなり、エンペラーM2のインパクトカイザーを受けてブレイクオーバー。残ったレックスのGレックスも、最後まで本気を見せること無く倒された。

 

 これで決勝に進む五人の内、四人が決められた。残るはEブロック決勝のみ。

 

「よう、ここに居たかリュウセイ」

 

 Eブロック決勝を前にして、缶コーヒーを飲みながら心を落ち着かせていると、後ろから声をかけられた。振り返ると、いつもの裸学ランという寒そうな格好をした彼が目に映った。

 

「ああ、ハンゾウ君か。バン君達は一緒じゃないの?」

「アイツ等とは別行動中だぜ。俺は負けちまって暇だからよ、オメーの応援に来たんだ」

「そうなのか、ありがとうハンゾウ君。でも、ハンゾウ君もあんなに頑張ったのに……」

「気にすんなリュウセイ。ハカイオー絶斗が駄目になったのは単に俺のメンテナンス不足だ。昨日は完璧に準備したと思ってたんだけどな………仕方ねぇ」

 

 そう言って、悔しそうに拳を握り締めるハンゾウ。しかしLBXに対しては人一倍真剣な彼が、日々のメンテナンスを怠るとはどうしても思えなかった。恐らくは、あそこで必ず負けるためにレックスが何かしら仕組んでいたに違いない。ハンゾウは拳を握り締める力を更に強くして、悔しそうに表情を歪めた。

 

「だが、解せねぇのはレックスだ。バトルが終わった後、海道ジンは言ってた。どうして本気を出さなかった、って。レックスはどうして本気を出さなかった! 俺はあそこまでジンのエンペラーM2を追い詰めた! もう少しで勝てるはずだった! なのに!」

「ハンゾウ君!」

「っ! す、すまねぇ……少し熱くなっちまった。少し外で頭冷やしてくるよ。時間になったら応援しに行くからよ………またな」

「うん、また後で……」

 

 あれだけ訓練を重ねてきて、かの『秒殺の皇帝』海道ジンに迫る強さを手に入れた郷田ハンゾウ。最後の最後でLBXの故障が無ければ勝てていたかもしれない。その上、バトルの後に伝えられたのは仲間だったはずのレックスが手を抜いていたという事実。見ていた此方も悔しかったが、一番悔しいのは彼自身だ。

 

「……勝たないとな」

 

 灰原ユウヤにも、虎杖ハクビにも。

 無二の相棒であるセイリュウを見下ろして、覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあさあ遂にやってまいりましたEブロック決勝! 戦うのは未だ公式戦では無敗を誇る西日本の王者『青柳リュウセイ』と、並み居る優勝候補を薙ぎ倒してきたダークホース『灰原ユウヤ』! 使用LBXは互いに一点ものの『セイリュウ』と『ジャッジ』! 決勝の舞台を前にして、二人はどんなバトルを見せてくれるのかーっ!』

 

 ステージに上がった僕は、フィールドを挟んで向かいに立つ灰原ユウヤチームの三人を睨み付けた。先頭に立つ不気味な目をした全身タイツの少年が、灰原ユウヤだ。まさかこの不気味な少年が、続くWにて大勢の大きなお友達を釣り上げる屈指の萌えキャラになろうとは思ってもいなかった。

 ただ無言でこちらをじっと見詰めてくる彼を観察していると、彼の後ろにいた一人の少年が突然口を開いた。

 

「青柳リュウセイ。神谷の裏切り者」

「………何だ」

「お前を倒し、セイリュウを回収せよと命令が出ている。悪く思うな」

 

 何かと思えば、わかりきっていた事だ。

 負ければ恐らくセイリュウは奪われ、自分もイノベーターによって消される事になるだろう。そんな事は覚悟の上で、このアルテミスへの出場を決めたのだ。今更その程度の脅しに怖じ気づくような僕じゃない。

 

「ジャッジは破壊する。灰原ユウヤは回収する。お前達は警察に突き出される。逃げ場が無いのはどっちだと思う?」

「………何だと?」

 

 フィールド『渓谷』にセイリュウとジャッジが投下された。高低差の激しいこのフィールドでは接近戦が主になる武器は非常に不利になるが、お互いに使用武器は剣であり、武器での相性は今回は無い。

 

『決勝へと進む最後の挑戦者が決まるこの一戦! 今、スタートです!』

 

 

   バトルスタート!

 

 

「往こう……セイリュウ!」

「ジャッジ、起動」

 

 開始と共にブーストをかけて飛び出したセイリュウ。一方でジャッジはカウンターを狙っているのか、開始位置から動かずに静かに剣を構えたまま動かない。

 

「そっちがそのつもりなら」

 

 高台に登ったセイリュウは、ジャッジめがけて飛び降りた。あからさまな攻撃の動きに、ジャッジはセイリュウの着地点から少しずれて、強烈なカウンターを決めようと剣を振りかぶる。

 しかし、セイリュウは着地寸前で空中回転斬りを繰り出し、逆にジャッジの身体を大きく吹き飛ばした。

 

「……!」

「チィッ! やはりコイツ程度の実力では駄目か。ここで使うつもりは無かったが……灰原ユウヤ、『サイコスキャニングモード』!」

 

 その瞬間、開始早々素の状態では部が悪いと判断した後ろの少年が、何かの機械を操作する。すると途端に灰原ユウヤとその使用LBXジャッジの身体が緑色の光に包まれ、目に見えて彼の様子がおかしくなり始めた。

 

「ウッ、ヒヒヒ………ヒヒヒヒ、ハハハハッ!」

「っ!? もう使ってくるのか!」

 

 突如として狂気的な笑みを浮かべて笑い始める灰原ユウヤ。

 吹っ飛ばされた先で華麗に宙返りを決めて着地したジャッジは、先程とはうって変わって攻撃的になり、凄まじい剣撃を浴びせてくる。セイリュウは二刀の四聖獣セイリュウでその全てを受け流していく。雷の属性を持つ四聖獣セイリュウの刃がジャッジの剣と重なる度に凄まじい火花を散らし、フィールド中を駆け巡りながら二機は激しい戦闘を繰り広げた。

 世界大会アルテミスとはいえ、1ブロックの決勝戦とは思えないほどにレベルの高い試合に会場は沸き立つ。

 

「クソッ! さっさと決めろ灰原ユウヤ!」

「イヒヒヒヒッ! アッハッハッハッハ!」

 

 アタックファンクション! パワースラッシュ!

 

「まずいっ!」

 

 剣のアタックファンクションの中でも特に基本的な部類に入る技『パワースラッシュ』。本来は特別強力な技では無いはずなのだが、今ジャッジの剣に集中していくエネルギーは通常の何倍にも膨れ上がっていた。

 

「セイリュウっ!」

「ヒャハァッ! アハッ!」

 

 セイリュウは急いでジャッジから距離をとり、放たれたその一撃を飛び上がって回避する。飛ぶ斬撃であるパワースラッシュは、フィールド上の岩などのオブジェクトを破壊しながら尚も突き進み、フィールドの壁に直撃して大きな傷を残した。

 その凄まじい威力に思わず目を剥く。LBXのリミッターを解除した『アンリミテッドレギュレーション』だって、今のようにフィールドの壁に傷を作ったりなんてしない。LBXが強化ダンボールを破壊できるはずが無いのだ。

 

「アハはっ……はっ? が、あぐぅ!?」

「灰原!」

 

 しかし今の一撃で灰原ユウヤも限界を迎えてしまった。突然苦しそうに呻き出し、頭を両手で押さえて暴れだす。

 

「まずい! 灰原ユウヤの精神が暴走を始めた! おい、青柳リュウセイ、聞こえているか! 速くソイツを倒せ!」

 

 客席の方からそんな聞き慣れた声が聞こえ、僕は再び戦いに集中した。操縦者があんなことになっているにも関わらず、ジャッジは尚も攻撃の手を緩めず、それどころか攻撃は先程よりもどんどん激しくなっていく。

 

 サイコスキャニングモードはLBXと操縦者の精神を同調させる事で、LBXを自らの手足のように自然に扱えるようにするというものだ。しかしその分操縦者の精神には大きな負担を強いるものであり、その負荷に操縦者が耐えられなくなった瞬間、LBXは操縦者の苦しみのままに暴走を始めてしまう。操縦者が苦しめば苦しむほどLBXは更に強くなり、いずれその余波は観客にまで響くことになるだろう。そして最終的に、操縦者は死亡する。

 

「聞こえてるよ、海道ジン」

 

 ジャッジの剣を受け止めずに回避に徹し、カウンターをジャッジの駆動部めがけて何度も打ち込んでいく。LBX自体は強くなっているが、動きは先程までと比べて単調になっている分、次の動作を予測するのは容易で、段々と形勢はセイリュウへと傾いていく。

 更にその数秒後にはジャッジは最早セイリュウに斬られ続けるだけのサンドバッグと化し、まともな動作さえ出来なくなった間接はガクガクと振動するのみで動けない。

 

「トドメだ!」

 

 必殺ファンクション! 神速剣

 

 完全に動けなくなったジャッジに、空中へと飛び上がったセイリュウから目にも止まらぬ速さの斬撃が殺到した。ジャッジのボディは頭、右腕、胸、腰、足と次々に切り刻まれ、ただの鉄屑になったそれらはフィールドに散らばった。

 

『Eブロック決勝、決着ゥゥゥ! 激戦だったもののセイリュウは最後までジャッジの攻撃を受ける事なくラストは必殺ファンクションで華麗に決めたァァッ!』

 

「あ……う、ぐぅ」

「灰原ユウヤ!」

 

 ジャッジが破壊されたと同時に、灰原ユウヤは糸の切れた人形のように力無く倒れる。すぐさま僕は彼に駆け寄り、その身体を抱き上げた。

 

「大丈夫だ、脈はある……警備員さん! そいつらを逃がすな!」

 

 突如として倒れた灰原ユウヤに混乱する会場に乗じて逃げようとしていたイノベーターの二人を警備員が押さえ付けた。

 灰原ユウヤは洗脳されて操られていただけに過ぎないが、彼等は違う。彼等もまだ子供とはいえ、イノベーターが何をしているのか知った上で、私欲の為にイノベーターに所属している悪人だ。そんな彼等をみすみす逃がすような真似は有り得ない。

 

「すみませんスタッフさん。救急車を呼んで頂けますか」

「は、はい!」

 

 しばらくして、灰原ユウヤは集まってきたアルテミススタッフによって担架で運ばれていった。灰原ユウヤについていた二人のプレイヤーも駆け付けた警官達によって連行されていき、ひとまずの所はこれで安心だろう。どうにか一つ目の山場を乗り越えることが出来た。

 

 

 

 

 

『ただ今、選手救護の為、大会を一時中止しております。再開までしばしお待ちください』

 

 決勝戦まで時間が出来てしまった僕は、会場中を歩き回って各ポイントのチェックをしていた。

 

 僕のアルテミスでの残りの目標はあと3つだ。1つ目は『僕かバンかユジンのいずれかが優勝する事』。奪うのではなく、正しい方法でメタナスGXを手に入れる為だ。

 そして2つ目が『山野バンのアキレスを破壊させないorプラチナカプセルの防衛に成功する』。これはレックスとの直接対決を早める為に必要な事だ。原作のゲームでは、イノベーターに奪われたプラチナカプセルをレックスが取り返すという形で、大会中に沸いたレックスへの不信感を打ち消してくる訳だが、今回はそれは行わせない。レックスはイフリートが手元に無い内に、素早く倒してバンにカウンセリングをして貰わなければならないからだ。

 そして3つ目が『メタナスGXをイノベーターから守り。原作で殺されるはずの警備員を守る事』。LBXを兵器にしないという最終目標の為にもLBXに殺しはさせたくないという事と、メタナスGX自体が最強のLBXを産み出し得る危険物であるという事が理由だ。各ポイントのチェックというのがこれの為に必要な事であり、決勝戦直後に襲撃してくるイノベーターのLBX達を迎撃するために、既にキタジマ模型店で購入したLBX達と元々持っていたLBX達をスタンバイさせている。

 

「一応全部大丈夫そうかな……」

 

 全機が無事に各地点についたのを確認して、会場エントランスホールまで戻った。適当に時間でも潰そうと、LBXメーカーのブースを覗いていると、遠くから一人の少年がこちらに歩いてくるのに気が付いた。

 

「海道ジン、か」

「青柳リュウセイだな、話は聞いている。こうして会うのは始めてだが……」

「なら知っていると思うけど、今の僕と君は敵同士のはず。わざわざ何の用かな」

「いや、ただ礼を言いたくてな。灰原ユウヤ………彼とはトキオブリッジの事故の時、同じ病院で入院していたからお互い顔見知りなんだ。まさかあんなことになっていたとは知らなかったが、彼を助けてくれてありがとう」

 

 そう言って、海道ジンは静かに頭を下げた。

 ただの顔見知りなら、そう頭を下げて礼を言う必要なんて無いだろうに。

 

「別に、礼を言われるような事じゃない。僕は最初から誰が相手だろうと勝つつもりだったし、目の前で死のうとしてる人間を止めるのは当たり前だ」

「………ああ、そうだな。それが当たり前だ」

「? どうかしたのか、海道ジン」

「いいや。元『四神』の君からそんな言葉が聞けるとは思わなくてね。僕は少しぼんやりとし過ぎていたのかもしれない」

 

 彼は何処か遠くを見るように窓の外を眺め、そして去っていった。

 時計を見ると、灰原ユウヤの救護が始まってからもう一時間が経とうとしている。決勝戦開始まで、あと少し。

 

 

 

 

 





【ジャッジ】
灰原ユウヤ専用に作られたイノベーターのLBX。フレームはナイトフレーム。操縦者の精神を同調させる事で性能を飛躍的に向上させる『サイコスキャニングモード』が使用可能。(ゲームでは敵のみ)
初出はゲーム『ダンボール戦機』。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アルテミス決勝戦! (前編)

(装甲娘のおかげか一気にダン戦小説が増え始めて嬉しいので)初投稿です

5/7 第2話『LBXを狩る者』のあとがきに、本作品におけるAC(アーマークラス)の扱いについて説明を追加しました。




 

 

 

 

 

「やったぁ……リュウセイくんが勝った!」

「っシャアッ! いよっし! 良いぞリュウセイ!」

 

 時は少し遡り………とある病院の一室で、テレビを前に可憐な少女といかついオッサンが子供のようにはしゃいでいた。

 テレビに映っているのはLBX世界大会アルテミスのEブロック決勝の様子。映っているのはLBXの様子だけであり、プレイヤーの様子は映らなかった為に、灰原ユウヤが倒れた事に二人は気付かない。

 

「しっかし流石だぜリュウセイのヤツ。あのジャッジとかいうLBXだって相当強かっただろうに、蓋開けてみりゃ無傷での完全勝利だぜ」

「リュウセイくん………ほんとに強いんだね」

「当ったり前よ。なんたって今までの公式戦無敗のバケモンだぜ?」

「あはは。どうしてガトーさんが自慢気なの?」

「アイツとは長い付き合いだからよ、ついつい自慢したくなっちまうんだよ」

 

 ガトーは穏やかな目でテーブルの上の愛機『ブルド改』を眺め、腕を組んだ。

 

「俺もアルテミス出場したかったんだがなぁ………まさか予選落ちするたぁ思わなかったぜ」

「ガトーさんの………ぶるど? でしたっけ。とても強そうなのに、それでも勝てないんですね」

「ハハッ。ルナちゃん、問題なのは機体の性能じゃねぇんだ。リュウセイならデクーでだってあのジャッジに勝ってただろうさ。単に俺の腕が足りてなかったってだけよ」

「でも、リュウセイ君は『ガトーさんは強い』って……」

 

 そう言って首を傾げるルナを見て、ガトーはベッドの上の彼女へと身体を向けてその頭をわしわしと撫でた。突然頭を撫でられて恥ずかしかったのか、ルナは目を細める。

 

「そういやぁ……例のヤツ、認可も下りてあと数日で手術予定日なんだってな。アイツも頑張ってるし、ルナちゃんも頑張るんだぜ」

「うん、頑張るよ。それに………約束、したんだ」

「約束? 誰と?」

「リュウセイくんと」

 

 ルナは今まで毎日、セイリュウが静かに佇んでいた窓辺を眺め、頬をほんのりと赤く染める。

 

「リュウセイくんがね…………私が、元気になったら、LBXを買ってくれるって」

「へぇ! ついにルナちゃんも自分のLBXが手に入るってワケだ。ルナちゃんずっと欲しがってたもんなぁ。何だよ、リュウセイのやつ、優しいじゃねぇか」

「えへへ………だからね、お願いしたんだ。リュウセイくんのLBXと同じ、青いLBXが欲しいって。そしたらリュウセイ君、すぐに頷いてくれた」

「そうか。それじゃあ尚更頑張って元気にならねぇとな。おじさんもルナちゃんとバトル出来るのを楽しみにしてるぜ」

「うん! 頑張るね、ガトーさん!」

 

 そうして、彼女は花が咲いたような笑みを見せた。会ったばかりの頃からは、考えられないような明るい笑顔で、ガトーは思わず自分の頬が緩むのを感じた。

 あと数日で石森ルナは健康な身体を手に入れる。この事はイノベーターに潜入している仲間から石森里奈へと伝えられ、彼女は思い残すことも無く、アンドロイドの海道義光を銃で撃つ事も無くイノベーターから脱出する事が出来るだろう。

 原作よりも早い時点で石森ルナは健康になり、石森里奈は何の後ろめたさも無く彼女とまた暮らす事が出来る。リュウセイの思い描く、一つの幸せの形だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いよいよクライマックス!! 世界一のLBXを決めるアルテミス・ファイナルステージ!!』

 

 スタジアム中央、決勝戦の舞台になるジオラマを囲むようにして、全員が背を向けて並んだ。客席からは歓声や、応援しているLBXプレイヤーの名を叫ぶ声が聞こえる。

 

『さぁ、ご覧ください! 激戦を勝ち抜いてきたファイナリストの勇姿を!』

 

 今までただの一度さえ勝てた事の無い相手、虎杖ハクビとの戦いを前にして、収まらない緊張をどうにかしようと関係の無いことに意識を巡らせた。

 例えば、観客達が応援するLBXプレイヤーは、やはり海道ジンが多いな、なんていう事。例えば、今やハクビと同じく敵になったヒスイとグレンはどうしているかな、なんて事。

 

『まずは『秒殺の皇帝』の異名を持つ天才LBXプレイヤー、海道ジン! LBXはエンペラーM2!』

 

 しかしそんな関係の無い事を考えようとしても、思考は虎杖ハクビへと傾いていき、臆病に心臓を脈動させた。これまで幾度と大会に出場し、ただの一度さえ緊張してこなかった筈が、最強のライバルを相手にして身体が危険を訴えている。

 

『次はまさかのダークホース! 無名にも関わらず、圧倒的な実力で並み居る優勝候補を蹴散らしてきた! 彼の快進撃は止まらない、虎杖ハクビ! LBXはビャッコ!』

 

 彼の名前がMCによって叫ばれる。

 僕からすれば彼は、現時点では機体性能の差もあり、海道ジンすら寄せ付けぬ最強のLBXプレイヤー。しかし何も知らない観客達からすれば、数々の優勝候補をなぎ倒してきた、恐ろしく強いだけの普通の少年だ。

 観客達は予想外のヒーローの登場に沸き立った。

 

『続いて、驚異のルーキー!! 期待の超新星!! 山野バン!! LBXはアキレス!!』

 

 山野バン。いずれ全てのLBXプレイヤーの頂点に立つ、最強の主人公。現時点では、僕が守らなければならない希望でもある。この決勝戦の舞台で、僕はマスクドJにかわって彼のプラチナカプセルにLBX【オーディーン】の設計図を送らなければならない。

 

『さらに、自称、愛と平和のLBXバトラー!! ユジン!! またの名をオタクロスの弟子!! 彼は勝利して本物のヒーローになれるのか!? LBXはビビンバードX!!』

「オタレンジャー・オタレッド参上! この世に悪がある限り、私の戦いは終わらない! アルテミスの平和は俺が守る!!」

『…………』

 

 満を持して名乗りを上げたのは、アキハバラの平和を守る正義のLBXプレイヤー集団オタレンジャーのリーダー、オタレッドのユジン。原作のアルテミス決勝では、サイコスキャニングモードになったジャッジに倒されるだけのちょい役だった彼だが、僕にとっては違う。僕と共にイノベーターと戦う仲間として自分から進み出てくれた友人であり、優勝を狙って競い会うライバルの一人だ。

 

『さ、さぁ気を取り直して、ラストは遂に世界大会にも姿を表したこの男! 決勝戦までただの一度さえ本体への攻撃を許さず、無傷で勝ち上がってきた! 付けられた異名は『無敗の龍神』、青柳リュウセイ! LBXはセイリュウ!』

 

 自分の名を呼ばれ、汗の滲む手を握り締めた。緊張している暇なんてもう無い。LBXさえ揃っていればこのような事にはならなかったのだが、恐らく現時点で虎杖ハクビに対抗し得る選手は僕一人。僕が虎杖ハクビを倒せなければ、間違いなく最後に残るのは彼だ。

 

『ファイナルステージは生き残りをかけたバトルロワイヤル! 自分以外は全て敵という状況の中で、最後まで生き残った者が勝者となる過酷なサバイバルバトル!! 優勝し、勝利の栄光と、超高性能CPU『メタナスGX』を手中に納めるのは果たして誰なのか!!』

 

 手のひらの上のセイリュウを見下ろして、視線をあわせた。ただの機械でしかないセイリュウが何の反応も示すことは無いとわかってはいたが、運命の大一番を前にして長年の相棒は何を感じているのだろうかと、そんな事を思う。

 

『それでは、第三回LBX世界大会アルテミス・ファイナルステージ!! バトルロワイヤル、まもなくスタートです!!』

 

 MCの言葉が終わった瞬間、フィールドを囲んでいた選手達は一斉に振り返り、フィールドへとそれぞれのLBXを投下した。

 アルテミス決勝戦に選ばれたフィールドは『火山』。奇しくも前回、虎杖ハクビと戦ったフィールドと同じフィールド。

 一つのフィールドに、各ブロックをここまで勝ち上がってきたLBXが揃う光景は圧巻だった。

 

 皇帝をイメージして作られた紫色のLBX、エンペラーM2。

 五つの金色の目を妖しく光らせる白いLBX、ビャッコ。

 聖騎士をモチーフにして作られたトリコロールカラーのLBX、アキレス。

 人々の平和を守るヒーローをイメージして作られた赤きLBX、ビビンバードX。

 そして、燃えたぎる炎をイメージしたクリアパーツを光らせる青きLBX、セイリュウ。

 

 ふと視線を感じて顔を上げると、彼と目が合った。

 

「……どうして裏切った、リュウセイ」

「僕らのしていた事の、真実に気付いたからだよ。ハクビ」

「真実? 俺たちの理想、無限のエネルギーによる争いの無い世界の創造だろう……まあ良いさ。俺はいつも通りお前を倒すだけだからな」

 

 CCMを開き、LBXを起動させた。

 隣では向かい合ったバンとジンが何やら言葉を短く交わし、ユジンはいつもの決めポーズを決めている。

 

「ハクビ、ここで僕は君に勝利する」

「やれるもんならやってみな。いつも通り叩きのめしてやるよ」

 

「バン君、これまでの戦いに決着をつけよう」

「ああ、望むところだ、ジン!」

 

「正義の翼は今ここに舞い降りた! 悪党共め、覚悟しろ!」

 

 

  バトルスタート!

 

 

 戦闘開始の合図と共に5機のLBXは一斉に攻撃を開始する。観客たちは世界最高のLBXを決める最後の戦いに沸き立った。

 

「セイリュウ! 行くよ!」

「赤き正義の翼、ビビンバードX!」

「行くぜビャッコ!」

 

「行っけー! アキレス!」

「行くぞ、エンペラーM2!」

 

 最初に激突したのはセイリュウ、ビビンバードX、ビャッコの三機。続いてアキレスとエンペラーM2が一騎討ち。

 

 タイマンでセイリュウを相手する予定だったビャッコは、ビビンバードXという思わぬ相手からの妨害を受けて攻めあぐねていた。

 セイリュウへと攻撃しようとすれば、横からビビンバードXによる攻撃が飛んできて、かと言って邪魔なビビンバードXを攻撃しようとすると、今度はセイリュウの剣がビャッコに襲いかかる。

 

「くっ、手ぇ組みやがったなお前ら!」

 

「僕に特別な才能は無い。そう簡単に君を一人で倒せるようにはなれないから」

「バトルロワイヤルだからな少年! 一時の共闘ぐらいは当たり前だとも!」

 

 ハクビにとって、ユジンのビビンバードXは本来ならば取るに足らない相手だ。山野バンや海道ジンも、タイマンであれば確実に勝利を納められる相手だろう。唯一対等に戦えるリュウセイも、1対1の戦いではただの一度さえ敗北した事も無い。

 アルテミスなど、ハクビにとっては優勝する事など容易いもののはずだった。

 

「地味に面倒臭ェ……」

 

 しかし、近距離に特化したリュウセイ操るセイリュウと、遠距離に特化したユジンのビビンバードXが組んだ事によってパワーバランスは一転した。

 

 ビャッコはセイリュウの二刀を両手の爪で受け止めるが、その間にビビンバードXからは雨のように弾丸が降り注ぐ。射線をずらしてセイリュウを盾にしようと目論むものの、ビビンバードXも流石は遠距離のスペシャリストと言うべきか上手く立ち位置を変えてそれを阻止する。

 アキレスとエンペラーM2は完全に一対一の勝負に集中しており、此方の戦いに干渉してくる事はまず無いだろう。

 

 ビャッコは劣勢に追い込まれていた。

 

「一気に攻める、セイリュウ!」

「ビビンバードX、必殺ゥッ!」

 

 肩に被弾、更に頭部を下から切り上げを受けてビャッコの身体は浮かび上がった。その瞬間にセイリュウの四聖獣セイリュウにオレンジ色のエネルギーが、ビビンバードXのビビンバードガンに蒼いエネルギーが集中し始める。

 

 

 アタックファンクション!パワースラッシュ!

 

 アタックファンクション!ハイパーエネルギー

 

 

 ビャッコの胴体中央めがけてセイリュウから飛ぶ斬撃が放たれた。ビャッコはそれを回避出来ず、装甲に深い傷とひび割れを作る。更に、くの字になって吹っ飛んだビャッコ目掛けて蒼い破壊のエネルギーの塊が飛来した。

 

「くっ、ビャッコ!」

 

 エネルギーの塊はビャッコの身体と重なりあい、空中で凄まじい爆発を起こす。そして、バラバラと白い装甲の破片と紫色のクリアパーツの破片が降り注いだ。

 

『必殺ファンクションが二発連続で直撃ィィッ! これは決まったか!?』

 

 アキレスの槍とエンペラーM2のハンマーがぶつかり合う音が響く中、セイリュウとビビンバードXは静かにビャッコの居た方へと武器を構えたまま様子を見守り続ける。

 

「おかしい、ビャッコが破壊されたなら破片はあの程度じゃ………」

 

 爆発の後も一向にビャッコがその姿を表さず、降ってきた破片の少なさにリュウセイが不安を覚えた瞬間だった。

 

「なっ!? ビビンバードX!」

 

 突如としてビビンバードXが背後から攻撃を受けた。

 不意打ちによりビビンバードXは受け身をとれずに前方へと転がり、重い一撃だったことも相まってビビンバードガンを落としてしまう。

 

「ビャッコか、何処にいる!?」

 

 即座にビビンバードXの居た場所の周囲を見渡すが、ビャッコの姿は何処にも見当たらない。CCMのレーダーにもそれらしい反応は一切無く、何が起きたのかを理解した。

 

「『インビジブル』……!」

「まさか、マッドドッグ等一部のLBXにしか使えない技では!?」

 

 ユジンが驚きの声をあげる中、倒れ伏していたビビンバードXの背中に見えない何かが深く突き刺さり、ビビンバードXは耐えきれずに爆発を起こしてしまった。

 そして、その爆発の煙の中から幽鬼のようにふらりと姿を現したのはビャッコ。その手には二つあったはずの四聖獣ビャッコは一つしか無く、装甲には多くのひび割れを作っていた。

 

「ビャッコは最強のワイルドフレームとして作られた機体だぜ? 有象無象に出来ることが出来ないわけないよなァ」

 

「さっきの爆発………四聖獣ビャッコの片方を身代わりにしたのか。そして同時にインビジブルを発動したから、音が爆発音に飲まれて必殺ファンクションの発動に気付けなかった!」

 

「流石だリュウセイ。よくわかってんじゃねぇか。まあ武器は半分になっちゃったけど? お前相手なら丁度いいハンデってとこだなァ」

 

 未だ無傷のセイリュウと満身創痍のビャッコ。

 形勢はまだ此方に傾いたままにも関わらず、ビャッコは不敵にもゆったりとした動作で、指差すように残った左腕の爪をセイリュウへと向けた。

 

 

 

 




【ビビンバードX】
アキハバラを守る正義のヒーロー『オタレンジャー』のリーダーである『オタレッド(ユジン)』の専用機。製作者はオタクロスであり、フレームはナイトフレーム。オタレンジャーのコスチュームと同じく鳥を模した頭部と、オタレッドのイメージカラーである燃えるような赤いボディが特徴。一点もののLBXではあるが、実はアキハバラの裏模型ブルータスで性能の下がった量産型が売られている。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。


【エンペラーM2】
海道ジンの操作速度についていけるように【ジ・エンペラー】に改良を施した機体。神谷重工製の機体であり、デクーやデクー改などのブロウラーフレームの汎用機からデータをとって作られていた経緯もあってか、見た目はブロウラーフレームのようだが実はナイトフレームの機体。使用武器『エンペラーランチャー』はハンマーとランチャーの複合武器であり遠近共に強い。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。




追記・今回、必殺ファンクション『インビジブル』についてLBX『マッドドッグ』にしか使えないはずといったような描写をしましたが、ゲームでは『インビジブル』は格闘武器の成長で覚える普通の必殺ファンクションです。しかし、LBXの『マッドドッグ』のゲーム内説明で『インビジブル』が専用必殺ファンクションのように書かれていたのでそちらを優先させて頂きました。混乱した方は申し訳ありません。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アルテミス決勝戦! (後編)

ダン戦って子供向けなのに結構人死にが多いんですよねぇ



 

 

 

 

 

 

『ああっとぉぉ! ここでユジン選手のビビンバードXがブレイクオーバー! なんとハクビ選手のビャッコ、あの必殺ファンクションを武器を身代わりにする事で防いでいたぁぁっ! 』

 

 僕は満身創痍のビャッコを前に戦慄していた。

 恐らくあと一撃アタックファンクションを食らわせれば、確実にビャッコはブレイクオーバーする。だと言うのに、勝てるビジョンが頭に全く浮かばない。

 

「そんな、ビビンバードXが………リュウセイ少年!」

「わかってる、大丈夫です。貴方の犠牲は無駄にしない!」

 

 あの状態からアタックファンクションを回避するなど、トップのプロプレイヤーでさえ同じ事が出来る数人居るだろうかという神業。更に、最初に自身がビャッコに食らわせたあの一撃も、恐らくは立て直しの為に甘んじて受けたもの。まともに受けていたのならば、一撃でブレイクオーバーしてもおかしくないものだった筈だ。

 

「ビャッコ、お前が最強のLBXだ!」

 

 アクセルフォース!

 

 傷付いたビャッコの身体を青と紫の光が風のように包み込み、その表面に薄い膜を形成してゆく。

 

 恐れていた事態が起きてしまった。必殺ファンクション『アクセルフォース』は直接攻撃を行うような必殺ファンクションではない。大量のエネルギーを消費する上に、戦いの決め手とならないのならばデメリットにしかならないと思われ、実際にこの必殺ファンクションを使用しているプレイヤーは少ないのだが、恐るべきはその能力。

 簡単に言うならば、一定時間の無敵。それも山野バンと海道ジンがストーリー終盤から使用する『X(エクストリーム)モード』と『O(オルタナティブ)モード』を足して合わせたような完全な無敵状態であり、先述した二つの特殊モードと比べると無敵時間はごく僅かだが、バトルも終盤になってきた頃に使用されると非常に厄介な代物になる。

 

「行くぜリュウセイ! 一瞬で終わらせてやるよ!」

「………望む、所だ!」

 

 守りを気にする必要が無くなったビャッコは、防御を完全に捨てて躍りかかってきた。ブーストもかけて恐ろしい速さで迫るビャッコに対し、足の遅い部類に入るセイリュウでは逃げることは不可能。出来ることは無敵時間が過ぎるまで耐え続ける事のみ。

 

 全力で振り下ろされる爪を両の剣で受け止め、押し返す。しかし、重量で勝るセイリュウが一瞬ビャッコを押し返したものの、ビャッコはすぐに体勢を立て直して恐ろしい速さの斬撃を繰り出した。

 鬼神の如き神速の連撃にセイリュウのガードは崩され、胴に4回、右肩に1回、左腕に2回と立て続けに攻撃を食らってしまった。ラストにビャッコの宙返りアッパーが決まり、セイリュウの身体は仰け反るように吹っ飛ばされる。

 

「とどめだァ!」

 

 アタックファンクション! ガトリングバレット!

 

 ハクビが叫び、ビャッコの左の爪と右の素手にエネルギーが集中していく。このまま食らえばブレイクオーバーはほぼ確実。

 

「させるか!」

 

 アタックファンクション! コスモスラッシュ!

 

 しかし空中で仰け反りながらもアタックファンクションを発動させ、ビャッコのアタックファンクションの迎撃を図る。

 二本の四聖獣セイリュウに蒼い光が集中し、その凄まじいエネルギーに周囲の空気はビリビリと震えた。

 

「ガトリングバレットぉぉぉ!」

「コスモスラッシュ!」

 

 LBXの動きの限界に迫るスピードで放たれるラッシュに、コスモスラッシュの推進力によって空中で体勢を立て直したセイリュウの四聖獣セイリュウが激突。

 重なり一つの巨大な剣と化した四聖獣セイリュウは、不利な状態であったにも関わらずビャッコを僅かに後退させた。しかしアクセルフォースによって完全な無敵状態であるビャッコは一瞬押し返されたのみで、仰け反りすらせずに連撃でセイリュウのコスモスラッシュを押し返す。

 

「っシャァァァッ!」

「セイリュウっ!」

 

 必殺ファンクション同士の勝負に押し負けたセイリュウは、ガトリングバレットの最後の一撃をモロに受けて大きく吹っ飛んだ。

 

 胸部パーツに大きな穴を作ったセイリュウは、地面を転がりながら吹っ飛んで行き、最後に先程ブレイクオーバーしたビビンバードXの近くで止まった。

 同時にビャッコのアクセルフォースの無敵時間も終了し、彼の表面を覆っていた膜は消滅。どうにか無敵時間の終了まで凌ぐ事は出来たが、セイリュウ、ビャッコ共に満身創痍。互いにあと一撃貰えばブレイクオーバーは免れない。

 

 結果的に形勢は均衡に持っていかれ、プレイヤーの腕を考えると形勢はハクビに傾いていた。

 

「ッ………よく、耐えた、セイリュウ」

 

「チッ、耐えたか。まあ、次で終わらせる。どう転んだってお前じゃあ俺には勝てねぇってな」

 

 ハクビはニヤリと笑い、静かにセイリュウを指さした。

 

「見てみろ、四聖獣セイリュウは今の衝撃で機能停止したみたいだぜ。いつもは出てるエネルギーブレードが消えてる。二本ともだ」

 

 セイリュウの装備していた剣『四聖獣セイリュウ』は度重なる激闘により破損、刃を失ってしまっていた。こうなってしまっては、最早ただの金属の棒も同然。素手よりはマシだろうが、相手にまともなダメージはもう与えられないだろう。

 

「でも、諦めない。必ず、君を止める。ハクビ!」

 

 四聖獣ビャッコを光らせ、ブーストをかけて突撃してくるビャッコ。セイリュウは刃を失った四聖獣セイリュウの内の一本を放棄し、残った一本を力強く握りしめて迎え撃つ。

 刃を失った四聖獣セイリュウの周りに紫色のエネルギーが纏わり付き、一時のみの刃を作り出した。

 

 アタックファンクション!Xブレイド!

 

「まだ残してやがったか! だがそいつぁ俺もなんだよ!」

 

 アタックファンクション! 気功弾

 

 普通のバトルではまず見られないほどの必殺ファンクションの応酬に観客達は沸き立つ。

 連続での必殺ファンクションの使用により、二機のエネルギーは最早限界寸前。これが二機の最後の必殺ファンクションであると、僕はCCMを握り締めた。

 

「今度こそ、止めだァァ!」

 

 ビャッコは大きく飛び上がり、両拳からハイパーエネルギー弾のそれと酷似した蒼いエネルギーの塊を投げ落とす。セイリュウはその二つのエネルギー塊を相殺するように、Xの字を描く斬撃を繰り出した。

 

 両者が衝突した瞬間、ドォォォン!という凄まじい音と共に爆発が発生し、そうして出来た煙が二機の姿を包み込んだ。

 爆心地を中心にして起きた強風に、戦っていたリュウセイ、ハクビ、バン、ジンの四人は腕で顔を覆い、戦いの手を止めざるを得なくなる。

 

『虎杖ハクビvs青柳リュウセイ! 山野バンvs海道ジン!どちらの戦いも両者共に一歩も譲らず、しかしビャッコとセイリュウとの戦いで遂に決着かぁぁぁっ!?』

 

「ぐうっ……ビャッコ!」

「セイリュウ!」

 

 煙の晴れた先、立ち上がって居たのは。

 

「ビャッコ!」

 

 静かに爪を構えたまま、直立するビャッコ。

 片膝をつき、動かないセイリュウ。

 

『こ、これは………?』

 

 直後、ビャッコの身体からは力が失われ、膝から崩れ落ちて地面に倒れ伏して青い光を散らした。その身体の中央には丸く大きな穴が空いており、その傷が剣によるものではない事は自明の理だった。

 

「よくやった………セイリュウ!」

 

 右手に四聖獣セイリュウ、左手にビビンバードガンを持ったセイリュウは、満身創痍ながらもなんとか立ち上がる。

 最後の最後で、戦いに勝利したのはセイリュウだった。

 

『な、なんと! リュウセイ選手、ビビンバードXのビビンバードガンを拾い、己の武器としていたぁっ!! バトルロワイヤルであったからこその驚きの戦術だぁ!』

 

「そんな………馬鹿な。俺がリュウセイに、負けた?」

 

 自身が負けたという事実を受け入れられず、ハクビは頭を抱えて膝をつく。

 

 ビャッコの気功弾とセイリュウのXブレイドが衝突したあの瞬間、ビビンバードXの近くに倒れた時に拾っていたビビンバードガンを使って、至近距離からチャージショットを撃ち込んだのだ。

 まさか此方が必殺ファンクション以外での遠距離攻撃手段を持っていたとは予想もしていなかったのだろう。チャージショットは寸分の狂いもなくビャッコの胴体中央に命中し、その体力を最後まで削りきった。

 

「でも、僕もここまでみたいだ……」

 

 セイリュウは数歩歩いた後、静かにその目から光を失って、立ったままその機能を停止した。

 原因は必殺ファンクションの使いすぎだ。確実にハクビのビャッコを倒すためとはいえ、必殺ファンクションの為のバッテリーを使いきった上に、本来ならばLBXの動作に回すバッテリーまで使いきってしまった。

 

『ああっと、まさかのセイリュウもバッテリー切れで立ち往生! 必殺ファンクションの連発が祟ったかーっ! 残るは終始一騎討ちを続けていた山野バンと海道ジン! 優勝の栄光とメタナスGXはいったいどちらの手に!?』

 

 僕の世界大会アルテミスは終わってしまったが、これで大会本戦での僕の目的は完了した。紙一重であったが、ユジンさんの協力のおかげでハクビを倒す事に成功。あとは山野バンが優勝するだけだが、見ている限りならもう大丈夫だろう。

 

「うおおおっ! 必殺ファンクション!」

「はあああっ! 必殺ファンクション!」

 

 

 必殺ファンクション!プラズマバースト!

 

 

 アタックファンクション! インパクトカイザー!

 

 

 戦いは前世で自分が見た物語のままに進み、最後の必殺ファンクションが両者から放たれる。

 海道ジンのエンペラーM2のハンマーが地面を叩き付けると同時に青の衝撃波がアキレス目掛けて真っ直ぐ延びていき、しかし超プラズマバーストの発動によって大きく飛び上がった山野バンのアキレスに『インパクトカイザー』は当たらず、回転する槍によって集められた電撃は真っ直ぐエンペラーM2を貫いた。

 

「エンペラーっ!」

 

 伝説のLBXプレイヤー『レックス』から直々に教わった必殺の一撃はエンペラーM2の体力を余すこと無く刈り取り、皇帝の膝を地につけさせた。

 膝をついて動かなくなったエンペラーM2の全身から青い光が弾け、ブレイクオーバーした事を皆が確認した。

 

「か………勝った?」

 

 山野バンが勝利を信じきれずに呆然と呟く中、会場にはMCの大きな声が鳴り響く。

 

『決まったぁぁーっ! 第三回LBX世界大会アルテミス、優勝者は山野バン! 何と言う大激戦! 何と言う死闘! 何と言う大波乱! そのファイナルステージに最後まで生き残ったのは、驚異の新人、山野バン!! 皆さま、盛大な、そして惜しみない拍手をこの勝者に送ろうではありませんかーー!』

 

 バンも段々と自身の勝利を実感し、握り締めていた拳を振り上げた。

 

「やった………やったぞー!」

 

 喜ぶ彼をジンは穏やかな表情で眺める。

 その時だった、機能停止していた筈のエンペラーM2の目が赤く光り、独りでに動き出した。

 

「んっ、これは!?」

 

 何が起きたのかとジンは咄嗟にCCMを操作するが、その操作の一切を無視してエンペラーM2はゆっくりと立ち上がった。

 

『デストロイ』

 

「………デストロイ?」

 

 聞き慣れない言葉がCCMから聞こえ、ジンは思わずその言葉を繰り返した。異変に気付いたバンがジンの方を気にするように首をかしげる。

 

「ジン、どうしたんだ?」

 

 そう聞いた瞬間、エンペラーM2はアキレスに飛び掛かり、無防備だったアキレスは組み伏せられてしまった。

 装甲の内側から漏れ出る光を見たジンは、それがいったい何を意味しているのかに気付き、声をあげた。

 

「まずい、コントロールがきかない……皆、伏せろ!」

 

 既に膝をついて項垂れていたハクビを除く、四人のファイナリスト達はその言葉を聞いて咄嗟に身体を伏せた。

 直後、フィールドの中でエンペラーM2を中心とした爆発が起こり、アキレスだったものとエンペラーM2だったものの破片が降り注ぐ。

 

「そんな………」

 

 突如として起きた異常事態に会場じゅうがどよめき、更に次の瞬間には会場の全ての照明がダウンした。

 

「っ、来たか! イノベーター!」

 

 戦いの合図と共に僕はLBX『トロイ』を取り出し、CCMと接続。暗視カメラを起動して、停電と同時にアキレスのプラチナカプセルを狙って現れたデクー改達を次々に破壊させる。

 更にメタナスGXを狙って現れるだろうイノベーターのLBXを迎撃すべく、ダクトの中で待機させていた全部で18体のLBXを起動させた。

 

「何が起きてるんだ!? LBX、まさかプラチナカプセルが………誰が戦ってる!?」

 

 突然の暗闇に目が慣れず、デクーの赤く光るモノアイを見て驚きの声を上げるバン。

 

「リュウセイ少年っ、これはまさか!」

「ユジンさん、貴方は観客達の守りを!」

「了解した! 再起動だ、ビビンバードX!」

 

 以前にイノベーターがここを襲撃するかもしれないと言うことを話していた事もあり、ユジンさんがビビンバードXを再起動し、セイリュウの手からビビンバードガンを取って戦いに参加してくれた。

 しかし、原作よりも明らかに多いデクー改や、更に黒くカラーリングされた神谷以外のLBXであるクノイチやグラディエーター、ブルド達が押し寄せてくる。

 フィールド内のプラチナカプセルを守りつつ、この全てを破壊するのはこの二機のLBXの力を以ってしても困難を極めた。

 

「これは、どういう事だ!?」

「ハクビ、まさか知らなかったのか?」

「聞いていない、こんな事をするなんて、俺は」

 

 作戦を聞かされていなかったのか、予想だにしていなかった出来事にハクビも混乱し、CCMからLBXを起動しようとした。しかし完全に破壊されたビャッコは反応を一切示さず、立ち上がらない。

 

「戦力が………トロイ、セイリュウを!」

 

 迫り来るクノイチとインビットを続けざまに鉄屑へと変えたトロイ。CCMからの命令を受けてセイリュウの元へと駆け付けると、四聖獣セイリュウを拾い上げてその手に握らせ、此方に向かって投げて寄越した。

 飛んできたセイリュウをキャッチするとトロイの操作をAIに切り替え、バッグからツールを取り出してセイリュウのコアパーツの交換を行う。バッテリーを充電済みの物と取り換えて、再びセイリュウを起動させた。

 

「セイリュウ、もうひと頑張り頼んだ!」

 

 既に満身創痍ではあるが、セイリュウは再び息を吹き返し、壊れた二本の四聖獣セイリュウを手にLBXの群れに向かって飛び降りた。

 セイリュウは恐ろしい速さで敵のLBX達を薙ぎ倒し、刃を失ったその二刀で叩き潰していく。

 

 セイリュウの投入によって戦況は一変した。迫り来るLBX達の処理に苦戦していたトロイとビビンバードXはより安定してプラチナカプセルの防御にあたる事が出来るようになった。

 このまま行けばイノベーターの襲撃からメタナスGXとプラチナカプセル両方の防衛に成功する、そう確信したその時だった。

 

「何!? 保管庫前のLBXが!」

 

 メタナスGXの防衛の為に配置して戦わせていたLBX達からの通信が次々と途絶していく。破壊されたのは『ウォーリアー』『アマゾネス』『ブルド』『デクー』『オルテガ』の五機。咄嗟にセイリュウをAI操作に変えて、向こう側の指令機として配置していたLBX『マスターコマンド』にCCMを接続した。

 

「何が………起こってる」

 

 LBXの群れの数は此方とほぼ変わり無い。せいぜい200程度といった所。機体性能は悪くとも、より良いAIを積んでいる此方のLBXの方が単体同士では優勢であったが、戦線は一機の謎のLBXによってじりじりと後退させられていた。

 メタナスGXを守っていた警備員達は何人かが倒れたまま動かず、数人は迫り来るLBX達に向けて銃を放ち、そして二人ほどが外部への応援を呼びにその場から逃げ出している。戦場となった保管庫前は床や壁の至る所で火災が発生し、地獄の様相を呈していた。

 

「アサシンっ!」

 

 キタジマ模型店で購入したLBX『ムシャ』『ジョーカー』『ブルド改』『グラディエーター』『ズール』『カブト』が次々と撃破される中、長い間共に戦ってきたLBX『アサシン』までもが破壊され、彼との通信が切れる。これ以上の戦闘はいたずらに此方の戦力を削るのみの無駄な足掻きである事は明白、最早撤退せざるを得ない。

 

「『これ以上は抑えられない、全員撤退してください! 殺されてしまう!』」

 

 マスターコマンドのマイクとCCMを繋ぎ、警備員達に逃げるように伝える。再びマスターコマンドから残った全LBXに撤退の命令を出し、通気ダクトから此方まで集合するように指示。

 マスターコマンドをAI操作に切り替え、再びセイリュウとCCMを接続しようと顔を上げた。

 

「リュウセイ君、後ろだ!」

「ユジンさん!? 後ろって」

 

 咄嗟に背後を振り向く、その先では、一体のデクーがその銃口をLBXではなく、僕の身体へと向けていた。

 

 

 





【マスターコマンド】
神谷重工製のブロウラーフレームのLBX。イノベーターの作戦の為に作られた自律稼動型のLBX。赤いモノアイと頭部に五本、背部に二本、両肘に二本あるコードが特徴。合計9本のコードによって様々な機械のハッキングが可能。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

怪物

連投は一話以来です
今回は短め
ダン戦小説いっぱい増えてウレシイ…ウレシイ……



 

 

 

 

 

 

「ぐ、うっ!」

「リュウセイ君っ!」

 

 デクーの放った銃弾は僕の脇腹を捉え、ステージの床に鮮血を散らした。銃は通常のエネルギー弾ではなく実弾であり、貫通しなかったそれは身体の中に残る。

 続けざまに二発三発とデクーから銃弾が飛び、僕のCCMを握っていた手と右足に命中。痛みによって僕はCCMを手から落とし、床に倒れた。

 

 止めを刺そうとその銃口を僕の頭へと向けるデクー。と、そこに満身創痍のセイリュウが颯爽と現れてデクーを破壊する。

 

「予想はしてたけど………狙いは、僕もか」

 

 撃たれた痛みを根性で抑え込み、再びCCMを握り締めて立ち上がる。狙われているとわかった以上、これ以上この場には居られなかった。

 

「りゅ、リュウセイくん……」

「すみませんユジンさん………あとは、お願いします」

 

 この場のイノベーターのLBXは一通り破壊し終わった。フィールド内に再び突入したセイリュウから、プラチナカプセルへとマスクドJから受け取った情報を送信。フィールドから脱出すると同時に、すれ違いざまにバンのズボンのポケットにプラチナカプセルを滑り込ませた。

 トロイとセイリュウに指示を出して、二機を自身の防御にあたらせて、足を引きずりながらステージを降りていく。

 

 会場のエントランスまで出てやっと安心かと思った所で、デクーとエジプトの群れが僕を狙って一斉に現れた。

 セイリュウとトロイの二機ならば、この程度のLBXの群れを蹴散らす事など赤子の手を捻るよりも簡単な事。マスターコマンド達も駆け付ければ、更に速く終わるだろう。

 しかし、僕と言うお荷物に一切の傷を付けずに戦う事は、不可能にも等しかった。

 

「万事休す、か……」

 

 セイリュウとトロイへの自身を守る命令を解き、捨て身の突撃を敢行しようとした、その瞬間だった。

 どこからともなくオレンジと白のLBXが颯爽と現れ、敵のLBXの群れを片っ端から切り刻んで破壊した。

 

 予想だにしていなかった助け船に呆然と立ち尽くしていた僕の前に、黒いマントとマスクの男が現れる。

 

「正義の為に戦う少年よ、肩を貸そう」

「………マスクドJ」

「ここから逃げるのだろう? 急ぎたまえ」

「感謝します、マスクドJ」

 

 彼が僕の身体を支えてくれたおかげで、少し歩きやすくなった。

 此方へと向かっていたマスターコマンドの部隊も合流し、襲い掛かってくるLBXを蹴散らしながら二人は会場の入り口へと向かう。

 しかし、あと少しで外へと出られるという所で()()L()B()X()は現れた。

 

 

 外へと続くドアと二人の間に飛来する火炎弾。

 その高熱は金属の床を難なく溶かし、穴を開けた。

 

「っ、何だこれは!?」

「そんな、馬鹿な………まだ、あれは」

 

 存在する筈が無い。

 そんな言葉が口から飛び出しそうになり、思わず飲み込んだ。

 

「何と言う、LBXだ……」

 

 空中に浮かぶその異様な姿に、マスクドJもとい山野博士さえも驚きを隠せない。

 

 凄まじい熱とプレッシャーをその身から放ち、四つの紫色の目に静かに光らせるオレンジ色のLBX。

 

「すまない……『デクー改』『インビット』『デクーカスタムR』!」

「少年、このまま逃げるぞ!」

 

 マスターコマンドの部隊から殿をつとめるLBXを三機選び、そのLBXの前へと出す。

 操縦しているだろう彼は何処だろうとその場から周囲を見渡すが、彼の姿はどこにも見当たらなかった。

 

 床に空いた穴を避けて扉を抜ける。

 もう二度と会うことは無いだろう、火炎弾が降り注ぐ中、三機のLBX達は果敢にそのLBXへと立ち向かった。

 

 おそらくマスターコマンドの部隊を壊滅させた原因であるLBX。

 その名は【イフリート】。

 

「どういうつもりだ……レックス!」

 

 ダンボール戦機のラスボスであり、事件の黒幕『レックス』の憎しみそのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呼吸、脈拍、共に安定しました。これで大丈夫ですよ」

「いつもすまねぇ、先生。ったく、ヒヤヒヤしたぜ……」

 

 ガトーはゆっくりとしゃがみ、ベッドの上で呼吸器を付けて静かに眠る石森ルナの頭を優しく撫でた。

 アルテミス決勝戦を見ていた途中で、今日も発作を起こした彼女にガトーは慌てて主治医を呼び、医者の手によって何とか彼女の容態は再び落ち着いた。

 

「あと少しの辛抱ですよ。異常のある臓器を人工臓器と取り換えれば、もうこのような発作を起こすことは無くなるはずです」

「そうか………それで、ルナちゃんはそれからも健康に成長できるんだな?」

「ええ、まあ。術後しばらくの間は定期的な検診が必要になりますが、オプティマであれば拒否反応を起こすこともなく人体によく馴染み、成長と共にいずれは完全に身体の一部となるでしょう」

「ハァ………なら良かったぜ。身体の成長と一緒にまた何回も手術してかなきゃならないなんて言われたらどうしようかと」

「ご安心ください。アンドロイドのものを元に作られたオプティマは、移植した人間の身体の成長と共に成長します。経過観察はある程度必要になりますが、日常生活に支障が出るほどでは無いかと」

 

 そうして医者は「また様子を見に来る」といって部屋を出ていき、部屋にはガトーと眠るルナだけが残された。

 ガトーは静かに立ち上がり、部屋のテレビをつける。

 テレビに映ったニュースでは、世界大会アルテミスで起きた事件の様子がライブ中継されていた。

 

「まぁ、見なくて良かったと思えば、な」

 

 ニュースでは『謎のLBX軍団がアルテミスを襲撃! 狙いは優勝賞品のメタナスGXと青柳選手か!?』といった内容の説明が何度も繰り返され、決勝戦の舞台に残された青柳リュウセイのものと思われる血痕の映像と、会場中央で飛翔する謎の赤いLBXの映像が流されていた。

 

「リュウセイのヤツ、大丈夫だとは思うが………」

 

 もしこの映像をルナが見ていたら、過度のストレスによって容態は今以上に悪くなっていたかもしれない。

 やっとオプティマを用いた手術が出来るという時になって、彼女の身体が弱ってしまっていては手術を始めることは出来なくなってしまっていた。

 

 

 この部屋には沢山の人が訪れる。自分もその中の一人であり、この子と共に過ごした時間は特に長い方だろう。

 しかし、この子にとっての今の一番の心の支えになっているのがあの少年である事は、そうした事に鈍感なガトーでさえもすぐにわかった。

 初めて会った時の事も何度もこの子から聞かされた。最初は多少強引な所もあったろうが、必死になって自分を助けようとしてくれている姿を見ていれば、そんな相手の事を嫌いになるはずがない。しかも彼はLBXのプロプレイヤーとして、テレビを通して活躍する姿を見せてくれ、勇気を与えてくれた。

 

「リュウセイ。早く戻ってこい」

 

 いつもセイリュウが静かに佇んでいた窓辺に、今はガトーのブルド改が居る。

 

 プロのLBXプレイヤーとして華々しいデビューを飾ったあの少年は、しかし初めて会った時からその強さに奢るような事は一度も無かった。

 彼のバトルを見て、その完璧なプレイングを褒めるたびに『自身は平凡な人間であると』口癖のように彼は言う。『自分より強いLBXプレイヤーは山のように居るし、きっと自分の強さは既に頭打ち』なのだと、年端もいかない少年だった彼は何処か遠くを見つめていた。

 

 年相応に軽口を叩けるようになったのはつい最近からだ。何か答えを見付けたように、吹っ切れた様子のあの少年が協力を求めてきたのに一人の大人として嬉しく思った。

 だが、まさかここまで大きなことをしでかすテロリスト達と戦う事になろうとは、思ってもいなかった。そしてあの少年が命の危機に晒されようとは。

 

「戻ってこい。戻ってこい」

 

 自分はこの少女を守るために、ここを離れることは出来ない。だからあの少年を捜しに行くことは出来ない。

 祈るように両手を組み、がっしりと握り締める。

 

 

 あの少年の強さは、デビュー当時から少しも変わっていない。他を寄せ付けぬ圧倒的な強さだったが、確かに彼の言った通りにその強さは頭打ちなのかもしれない。

 

 だが、それでもしも彼が世間一般での『平凡な人間』だったとしても、全ての人間にとっての平凡ではありはしない。

 ガトーにとってあの少年は『特別』であるように、石森ルナにとっての今の彼はおそらく、

 

 

「リュウセイ………!」

 

 

 『ヒーロー』であるに違いない。

 

 

 




※アミの最終機体についてのアンケートを実施します!皆さん推しのLBXに是非とも投票していって下さい!もしも選択肢の中にアミに使って欲しい機体が無い場合は活動報告で教えて頂けると嬉しいです。(出来るだけ時代背景に沿ってくれるとウレシイ)





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

奴隷戦士

バンくん精神強化イベント

お気に入り登録者いっぱい増えてウレシイ…
始めた時はまさかこんな沢山の人に読んで頂けるとは思ってもいませんでした。ありがとうございます


 

 

 

 

 

 

「くそっ、イノベーターめ……!」

「プラチナカプセルは青柳のヤツが死守してくれたが……」

「そのリュウセイ君は、もう」

 

 第三回LBX世界大会アルテミスは謎のLBX軍団の襲撃により、最早閉会式どころではなくなってしまった為に表彰すら行われずに幕を閉じた。

 出場選手が襲われて行方不明になった上に、メタナスGXを保管していた部屋の警備を行っていた警備員からは二人の犠牲者が出た事により、観客はスタッフによって全員会場の外へと避難させられ、会場への立ち入りは完全に出来なくなっている。

 

 そんな中、バンとアミ、カズの三人は会場の前の階段を降りた所で集まり、郷田ハンゾウとレックス、宇崎拓也の三人を待っていた。

 

「暗くてよくわからなかったけど……リュウセイ君が、このプラチナカプセルを守ってくれたんだ」

「他の場所でも襲撃してきたLBXを相手に戦ってたLBXが居たって聞いてるけど、もしかしたらそれも……」

「青柳リュウセイ、俺は正直まだ疑ってたんだけどな。ここまでされちゃ、信じるしかねぇよな。しかし今アイツが無事かどうか」

 

 バンはポケットからプラチナカプセルを取り出し、険しい表情でそれを眺めた。

 

「これの為に、イノベーターは沢山の人を傷付けたんだ」

「………バン」

 

 普段のバンの様子からは想像も出来ない今の彼の表情に、幼馴染みであるアミは心配になって思わず声をかけた。

 しかし、バンは何か決意したように顔を上げ、強い眼差しでアミとカズの二人と順に視線を合わせた。

 

「メタナスGXは奪われたし、アキレスも壊されてしまったけど、リュウセイ君が希望を繋いでくれた。おれはこの希望を失わないように、全力を尽くすんだ」

「バン、お前……!」

 

 カズはそんな彼の様子に少し驚いた。

 彼の良く知っているバンは、もっと子供っぽい性格で、正義感は強いが情に流されやすい。今までも、行方不明の父親を捜そうという彼の行動に自分達はついていき、そして数々の危険な目に合ってきた。

 だが、今自分の前にいるこの少年はいったい誰だ? ついさっきまで、ただの中学生の少年でしかなかった彼は、ひと回りもふた回りも成長したように見える。

 その瞳には強い決意の炎を燃やし、子供っぽい無謀な正義感は、現実を前にして巨悪へと立ち向かう眩しいまでの勇気へと変化していた。

 

「正直、おれは今、すごく怖い。イノベーターは目的の為なら人殺しだって躊躇わないって、話では聞いてたけど、すぐ近くでそれを見て実感した。でも、おれは父さんの作ったLBXを使って悪いことをするイノベーターが許せない! LBXは、世界中の子供達に笑顔を届けるために産まれてきたのに、LBXで人々を悲しませるなんて許せない!」

 

 バンはぐっと手の中のプラチナカプセルを握り締め、そして再びポケットの中へと戻した。

 

「アミ、カズ。おれは出来れば、これ以上二人にはついてきて欲しくない」

「えっ、どうして! バン、私たち今まで一緒に戦ってきたじゃない!」

「そ、そうだぜバン。俺たち、今までどんな危険な事があっても、皆の力を合わせて乗り越えてきたじゃないか!」

 

 突然のバンの言葉に二人は動揺した。

 今までずっと三人でイノベーターと戦ってきたのに、今更どうしてそんな事を言うのだと、二人はバンに抗議した。

 そんな二人にバンは、落ち着いた様子で口を開く。

 

「勿論! 二人がついてきてくれるならこれ以上に心強い事は無いよ。でも実感したんだ。このまま戦いを続ければ、もしかしたら殺されてしまうかもしれない。おれは父さんの事があるけれど、アミとカズは何の関係も無いのに、おれのせいで戦いに巻き込んでしまった」

「バン、私はそんなこと少しも思ってないわ」

「ああ、アミならきっとそう言ってくれると思ってたよ! でも! ………でも、おれは二人を失うのが、怖い」

「でも、私は………!」

 

 これからの戦いで二人を失ってしまう事を想像したのか、バンは苦しそうな表情になって顔を俯かせ、歯を食い縛った。元来強気な性格あったアミでさえ、「二人を失いたくない」というバンの言葉に、絶対に自分は死なないと言い切るだけの自信は沸いてこない。

 

「でも、俺たちだってお前を失いたくないんだ、バン!」

「………カズ」

 

 だが、それに待ったをかけるようにカズはバンの両肩を掴んで叫んだ。

 

「俺は、アミほどお前と過ごした時間は長くない。でも、俺にとってお前は胸を張って『親友』だって言える程の存在なんだ、バン!」

「でも、カズはイノベーターとの因縁なんて、何も」

「………一人で抱え込まないでくれ。俺たち、友達だろ? いつかバンが俺を助けてくれたみたいに、俺たちはいつだって以心伝心、絶対に失いたくない、仲間なんだ」

 

 そう言い切ったカズはしばらく無言になり、そして顔を赤くしてそそくさとバンから離れた。

 

「ま、まぁ、つまりはそういう事だ。何かこう、クサイ台詞みたいになっちゃったけどさ………俺もアミも、半端な気持ちで戦ってる訳じゃない。お前といつまでも一緒に居たいから、さ」

 

 そこまで言ってまた恥ずかしくなったのか、赤くなった顔を隠すカズに代わってアミがバンに話し掛ける。

 

「そう……だから、ついてきて欲しくないなんて言わないで。私が一緒に居たいと思ったから、私は一緒に戦ってきたんだもの。一度だってバンに頼まれて戦いに参加した事、ある?」

「それは……」

 

 彼女の言葉に、バンは今までの戦いを振り返った。

 最初に三人で戦ったのは、郷田のハカイオーと戦った時。盗まれたアキレスを取り返す為にアミは率先して名乗りを上げ、自分は行かないと言っていたカズもピンチに駆け付けてくれた。

 その後はエジプトというLBXからの洗脳を受けたカズをLBXバトルで助け、宇崎さん達の以来で財前総理暗殺を防いだり、神谷重工の施設で重機と戦ったりした。

 思い出せば、そのどれもがバンが何を言うまでもなく、全員が自らの意思で付いてきてくれたものであり、そこにバンの意思は介在しない。

 

「そうか。みんな………!」

 

 バンが顔を上げ、アミとカズの顔をみると、順に2人は小さく頷いた。

 

「わかった。おれが間違ってたよ。アミ、カズ、これからも一緒に戦おう!」

「そうこなくっちゃ!」

「フン、わかりゃ良いんだよわかりゃ」

 

 三人は再び一つになり、イノベーターとの戦いへの覚悟を決めた。

 これから先、もしかしたら誰か仲間が殺されるような事があるかもしれない。そんな危険があるとわかっていても、互いの為、未来の為に少年達は戦うことを決意したのだ。

 

「あぁ、居た! バン君、アミちゃん、カズ君!」

「捜したぞお前らァ!」

 

「宇崎さん! 郷田!」

 

 と、そこに宇崎拓也と郷田ハンゾウがやっと到着。しかし、合流したのはその2人のみで、レックスの姿が見当たらない。

 

「あれ……レックスは?」

「蓮か……実は何故か連絡がつかなくてな。もしかしたらリュウセイ君と同様に、あの戦いの中で何かに巻き込まれたのかもしれない」

「そんな、レックスまで!」

 

 バン達三人がレックスの失踪の報告を受けて驚きの声をあげる横で、ハンゾウは引っ掛かりを覚えていた。

 何かがおかしい。憧れのLBXプレイヤーであったはずのレックス。何度も会って、彼の事はわかっていたつもりだったが、今日の彼の様子は何処か違和感があった。

 

「……そうだ。なんで、レックスは手を抜いてたんだ?」

 

 ふと郷田の口から漏れ出した疑問は、鮮やかなオレンジ色に染まった夕焼けの空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう言う事だ、籐吾郎! あんなの俺は聞いていなかったぞ!」

「………『あんなの』とはいったい、何の事ですか虎杖君」

「決まってるだろ………何故リュウセイを殺そうとした!」

 

 神谷重工本社ビルの社長室にて、四神筆頭の虎杖ハクビは神谷籐吾郎に詰め寄っていた。

 原因は世界大会アルテミスで起きた大量のLBXによる襲撃事件だ。あの襲撃の最中、ハクビは自身の友であり、家族でもある青柳リュウセイが撃たれた瞬間を目にしていた。運良くリュウセイは逃げおおせたものの、味方であったはずのイノベーターが何故あのような行動をしたのか、ハクビはこれ以上無いほどに怒り狂っていた。

 

「何かと思えばその話ですか。簡単な事ですよ。青柳リュウセイを殺せばイノベーターへの強力な敵対分子を排除する事が出来、その上彼に持たせていた我が社のナイトフレームの最高傑作【セイリュウ】の回収も可能なのです。効率を考えれば最善の手ですよ」

 

 だがそんな怒り狂うハクビの様子を気にも止めず、神谷重工の社長である男、神谷籐吾郎は悪びれもせずにそう言い切った。

 この男にとって他人の命など、自社の利益と比べれば路傍の小石にも満たない程の価値でしかないのだ。

 金、金、金。神谷籐吾郎にとって金は全てであり、いずれ果たされるLBXの兵器運用の中で、神谷重工が世界最高のシェアを手に入れられるように、神谷の技術の粋を集めた傑作である【セイリュウ】は、なんとしても手中に入れておきたいものだったのだ。

 

「貴様………そんな下らない、そんな下らない事で、俺の家族を!」

「下らない? 下らないのは君の方ですよ虎杖君。何ですかあの無様な戦いは。元・四神である青柳リュウセイからの攻撃を受けてしまうならばまだわかります。しかし、ユジンなどという有象無象のLBXプレイヤーに傷を負わされるとは、私は君に失望しましたよ」

「失望? 勝手に失望しているがいいさ! 俺も貴様に失望した、神谷籐吾郎! 俺は神谷も四神も抜ける!」

「神谷を抜ける? まさか、そのような事は許しませんよ」

 

 踵を返し、部屋を出ようとしたハクビを、突如としてドアから入ってきた大勢の籐吾郎のボディーガードが取り囲んだ。

 ボディーガード達はみな拳銃を構えており、その銃口をぴったりとハクビへと向けていた。

 

「動いてはいけませんよ、虎杖君。少しでも動いた瞬間に、撃ちます」

 

 最早動くことは出来ず、籐吾郎へと背中を向けたままの姿勢でハクビは固まらざるを得なくなる。

 

「最初から用意していたのか、このタヌキ親父が………! どうするつもりだ!」

「まだ試作品の段階ですが………君は少々扱い辛くなってしまったのでね」

 

 いつの間にかハクビの背後に歩み寄っていた籐吾郎が、懐から何かを出してハクビの首に取り付けた。

 その何かは金属製の首輪であり、その中央に付けられた赤いランプはハクビが装着してからすぐに点灯する。

 

「ッ!? 痛ッ!」

 

 その途端、ハクビは頭に鋭い痛みを感じ、思わずその場にうずくまった。痛みは尚も続き、あまりの激痛にハクビは倒れ、そして十数秒もがき続けた後に気を失った。

 

「終わったようですね。お前達、彼を自室へと戻してやりなさい」

「自室ですか? またすぐに逃げ出されてしまうのでは……」

「大丈夫ですよ。目が覚めれば、彼は生まれ変わっている事でしょう」

 

 神谷籐吾郎は気絶したハクビを見下ろし、気味の悪い笑みを浮かべる。

 

「多少の犠牲は出るでしょうが、我が『四神』はいずれ完璧な存在となる。我が社の未来は明るいですよ」

 

 

 

 




アミの最終機体、現時点では原作通りのパンドラが優勢? シャルナックの人気は意外と低めな感じ




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

山野淳一郎

やっとこさオリ主強化イベントです
ちょっと他のオリ主達に比べて遅すぎんよ~

アミの最終機体は原作通りのパンドラで決定かな?
一応他の機体になった時の追加ストーリーも考えてたけど原作通りで安心。(ただでさえ邪道な感じなのに追加ストーリーなんてやったらヤバイヤバイ)



 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた時、そこは知らない部屋の中だった。

 

 パイプや電気機器のコードなどが道路のように入り乱れている天井。

 一切窓の存在しない無機質な白い壁。

 部屋の至るところには、神谷重工に居た時に見たような機械が並び、その上や周りのデスクの上にはLBXのものらしき部品が無造作に転がっている。

 

「どこだ、ここ……」

 

 青柳リュウセイが居たのはその部屋のベッドの上。起き上がって周囲を見回すが、どうやら自分以外には人はこの部屋に居ないようだった。

 

「ええと、僕、何をして…」

 

 何故自分がここに居るのか、ハッキリ思い出す事が出来ない。

 覚えていた最後の記憶は、此方を殺そうと襲い掛かってくるイフリートを相手に『デクー改』『インビット』『デクーカスタムR』の三機を同時に操作して戦った記憶。

 山野博士に身体を支えられながらも必死にCCMを操作して戦い、そして気が付いた時にはここに居た。

 

「いっ、たた……って、手当てされてる?」

 

 一瞬、あの後捕まってしまったのかと勘繰ったが、立ち上がろうとした痛みで身体を見下ろし、自身が手当てされている事に気付く。もし神谷重工に捕まったのだとしたら、わざわざ手当てまでして生かしたりなんてしないに決まっている。彼等からすれば、さっさと殺してしまった方が楽なはずだ。

 

「山野、博士……?」

 

 僕が気を失う寸前まで共に居たのはただ一人、山野博士だ。彼ならばあの後何があったのか覚えているだろうと彼の姿を探すが、やはり今は近くには誰もいないようだった。

 

 ベッドから降りて立ち上がった僕は、机の上に僕の荷物が置かれているのを見付けてそれに近付いた。

 机の上にはあの戦いを生き残ったLBX達がバッグから出されて並んでいて、丁寧にメンテナンスまでされていた。

 結局、最後まで殆ど傷付かず、まともな形で残ったのは『マスターコマンド』『クノイチ』『サラマンダー』の三機のみ。エース格だった『トロイ』は撤退戦での無理が祟ったのか酷く損傷しており、長年の相棒であり、自身の切り札でもあったセイリュウは、度重なる無茶な戦闘によってアーマーフレームが限界に近付いていた。

 

「………セイリュウ」

 

 ひび割れたセイリュウのフレームの一部が、ボロリと崩れ落ちた。内部のコアスケルトンもかなり傷付いていて、今思うと良く最後まで戦えたものだと感じる。

 

「おや、目が覚めたか。リュウセイ君」

「………山野、博士」

 

 背後の部屋の扉が開き、普段の研究者然とした格好になった山野博士が入ってきた。随分と自由そうなその様子から、此処は彼の隠れ家なのだとそこで察する。

 

「貴方が、僕をここまで運んでくれたんですね」

「あぁ、恐らく君が予想した通り、ここは私の隠れ家だよ。私の車までかなり急いだつもりだったんだが、君が気絶した時は肝が冷えた。まあ、君が気絶する寸での所でAI操作に切り替えたあの三機が、命を賭して守ってくれたからどうにかなったがね」

「ありがとうございます、山野博士。貴方も今は大変な身でしょうに」

「そう気にする事は無い。君は私との約束を十分に果たしてくれた。ほら、椅子もあるから楽にすると良い」

 

 彼に勧められ、僕は痛む脇腹を押さえながらゆっくりと椅子に座った。僕が座ると山野博士も椅子を持ってきて、僕と対面するような形で座る。

 

「君の使っていたLBX、確か『セイリュウ』とか言ったかな? 実に素晴らしい出来のLBXだった。これだけの技術があるにも関わらず悪の道を行こうとは。神谷重工、実に惜しい企業だよ」

「一人一人は悪くないんです………ただ、上が変わらなければ下も変われない」

「そうだね。君が神谷を抜けたように、真実に気付いて改めようと行動を起こせる人間はあの企業にも多く居るだろう。だから、私は聞きたいんだ。君が神谷を裏切った理由はわかる。だがそれで、君は何を目指している?」

 

 彼の瞳が眼鏡の向こう側できらりと光った。

 何を目指しているのか。青柳リュウセイは、まだ子供の身でありながら神谷重工という大企業を裏切ってまで何を為したいのか。純粋な興味が彼から伝わってくる。

 

「僕は………」

 

 思えばこれも、ひょんな事から始まったのだ。今の僕にとっても、前世の僕にとってもまるでファンタジー。

 彼にとっての僕はゲームの中のモブキャラであり。僕にとっての彼は、他人のようであり自分でもある奇妙な存在。

 

 ただ、あの未来を見せられた時、純粋にショックだったのだ。

 

 

 一機のLBXが戦艦を次々と破壊し、その乗組員達が死んでいく姿。ブレインジャックを受けたLBX達が、街中を破壊して回る地獄のような光景。少年達がLBXを用いた仮想戦争を行い、敗北したLBXのプレイヤーが次々と毒ガスで殺されていく一部始終。

 最後のものこそ、毒ガスは良識ある人間によって殺傷能力の無いものに変えられていた事で子供達の命は助かったが、一歩間違えていれば何人もの罪の無い子供達がLBXを用いた代理戦争の犠牲にされていただろう。

 

 

 罪の無い人々が傷つけられるのが許せなかった。

 大好きなLBXが殺戮の道具として使われるのが許せなかった。

 

 LBXを使って戦う事だけが唯一価値ある物だった青柳リュウセイにとって、これを見させられた事で得た幼稚な「正義感」はまさに青天の霹靂であり、持てる記憶の全てから真実を見抜かせてくれた。

 

 

「僕は、守りたいんです。人と、LBXの平和な未来を」

 

 

 今一度自身を見つめ直し、見つけた答えを口に出す。

 顔を上げると、山野博士は満足そうな笑みを浮かべていた。

 

「成る程、何となくだが君という少年の事がわかったような気がするよ」

 

 そう言って彼は机の上へと手を伸ばし、スクラップも同然の状態になったセイリュウから機能を停止した剣『四聖獣セイリュウ』をつまみ上げた。

 

「本来ならば、大人である私は子供である君を止めるべきなのだろう」

「………」

 

 一瞬険しくなった彼の表情に、思わず身体を強張らせる。しかし彼は自嘲するように溜め息をついて、手の平の四聖獣セイリュウを見下ろした。

 

「しかしね、私は良識有る人間ではない。だから君がその目的を達成する為に、私も出来る限りの力を尽くそう」

「………手を、貸して頂けるんですか!?」

「勿論だとも。私としても同じ目的を持つ仲間が欲しかった所だからね」

 

 そう言って、彼は右手を差し出してきた。それを見て僕も右手を差し出し、固く握手を交わす。

 

「先ずは君の主戦力である『セイリュウ』を直させて欲しい。君の為に専用機を作ることも考えたが、セイリュウの持つ能力はオーディーンのそれと比べても凌駕している。何より使いなれた機体を使うのが一番だろう」

「ありがとうございます博士。しかし、ここまで武器もアーマーフレームも破壊されて、直せるんでしょうか……」

「安心しなさい。これぐらいならアーマーフレームの復元は簡単だ。それにこの剣、調べさせて貰ったんだが別に壊れているようでは無いらしい」

「えっ、でもブレードは出なくなっているのに」

 

 山野博士は四聖獣セイリュウを近くの機械の中に入れ、器具で固定した。彼は機械を動かして何やら少し四聖獣セイリュウを弄ると、手をこまねいて機械の中を見るように言ってくる。

 

「これは……!」

「凄い物だ。流石にこれを素手で触ることは出来なくてね。まさかこれ程の物を作り上げていたとは、想像してもいなかったよ」

 

 四聖獣セイリュウだった剣からは、今までとは全く違う色のエネルギーブレードが伸び、以前とは比べ物にならない程の輝きを放っていた。

 

「君が今まで使っていたこれには安全の為か『リミッター』が設けられていたらしくてね、それがあの時の戦いで中途半端に外れていたようだ。きっと『セイリュウ』はこの武器を使いこなせるだけのスペックを要求されたから、これ程までに強力な機体になったに違いない」

 

「僕の………新たな希望!」

 

 僕がバンに届けた新たなる希望『オーディーン』と同じように、これから更に激しい戦いになることが予想されるイノベーターとの戦いに向けて、それは僕にとっての新たなる希望。

 

 セイリュウの専用装備として作られた二振りの剣『四聖獣セイリュウ』は、そのリミッターを完全に解除して新たな剣へと生まれ変わった。

 前世の記憶がその剣の名前をしっかりと覚えている。

 

 ゲーム『ダンボール戦機』の続編『ダンボール戦機ブースト』において、剣の頂点に立つ最強の武器。

 

 

「『四霊神セイリュウ』!」

 

 

 






【四霊神セイリュウ】
剣『四聖獣セイリュウ』のリミッターが外れ、真の能力が解放された。作中では『ペルセウスソード』に次いで二番目に高い攻撃力であり、更に属性は『雷』。『ペルセウスソード』との攻撃力の差も微々たるものであり、アンリミテッドレギュレーションでなくても相手をスタン状態に出来る分こちらの方が凶悪なイメージ。クッソ強いから、みんなも裏ランキングバトルクリアして、使おう!




※次はカズの最終機体についてのアンケートもとるので皆さん宜しくお願いします!




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クリスターイングラムより

コロナのしわ寄せがキツいので初投稿です




 

 

 

 

 

 

 偶然の結果ではあるが、山野淳一郎博士と共同戦線を築くことになり、情報共有の後、LBXの産みの親である彼の腕によって僕の主戦力となるLBX達は次々と直されていった。

 前線を支え続けた『セイリュウ』と『トロイ』は修復作業に時間がかかるという事でまだ手元に戻ってきてはいないが、現時点での最高戦力『マスターコマンド』に加え、『デクーエース』と『エジプト』が復帰し、一先ずの戦力は整えられた。

 

「本当に良いのかい?」

「ええ、どうぞ。貴方の元で、この二機が生まれ変われるのなら。バン君達の為に、使ってください」

「………わかった。ならこの二機は貰おう。神谷重工のまだ発売していない高性能のコアパーツに、弄りやすいコアスケルトンが二つも手に入るとは、中々に燃えてくる展開だよ」

 

 山野博士はLBX『サラマンダー』と『クノイチ』を手にして、きゅっと口元を引き締めた。

 この二機はバン君達を強くする特訓の為に、キタジマ模型店で用意したものだ。このまま僕が使っていくという選択肢もあったが、使いなれていない僕に使わせてすぐ壊してしまうよりも、彼のもとで新たなLBXへと進化してバン君達のもとに届けられた方が良いだろうと判断しての事だった。

 

「ところで、次の計画は決まっているのかい? リュウセイ君」

「ええ、まあ。そろそろ彼から連絡が来る頃なので、その結果次第です」

 

 彼の質問に、そう言ってCCMを開く。プロLBXプレイヤーとして活動してきて、繋がった知り合いは何もプロLBXプレイヤーだけでは無い。それはLBXを専門とするメカニックであったり、別の会社に属するテストプレイヤーであったり。

 今回、仲間として名乗りを上げてくれた彼も、そんな中の一人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こんばんは、石森さん。夜遅くに何方へ?」

「ッ……!?」

 

 宇崎達を裏切ってまで、妹の命を助けるためにイノベーターについた石森里奈。

 イノベーターの計画と共に、どんどん遅れていくオプティマの認可。このままでは妹の石森ルナの命が危ない。もしかしたら、身体を悪くして自分の知らない内に死んでしまっているかもしれない。

 そんな焦りから、彼女は拳銃を片手に海道義光の居る部屋へと向かっていた。理由は一つ、オプティマの認可を差し止めている海道義光を脅迫する為だ。

 

 しかし、だれも居ないと思っていた廊下を背後からつけてくる足音。咄嗟に振り替えると、引きつった笑顔を張り付けた顔の彼と目があった。

 

『随分と物騒な物をお持ちのようだが、それで何をするつもりだ?』

「貴方は………!」

 

 名前も知らない、イノベーターに所属するスタッフの一人。

 前から彼の事を基地内で目にすることはあったが、何処か超越したような不思議な雰囲気をいつも身に纏っている彼は多くのスタッフの中でも異質だった。

 命令には忠実で、他のスタッフ達と共にイノベーターに貢献する。量産型のLBX『アヌビス』を片手に日々訓練し、だが特別強いわけでは無い。他に埋もれていくような目立たない人間のようで、しかし妙な違和感を心の隅にのこしていく。

 

『その選択は、貴女の未来の為にもやめた方が良い』

 

 自身の口で一切喋らず、LBXの音声機能に喋らせ続ける彼は、ハッキリ言って不気味だった。

 

「う、動かないで!」

 

 見られたという焦り、なんとしても妹を救いたいという焦り。二重の焦りによって思考する事さえままならなくなった彼女は、咄嗟に拳銃を彼へと向けた。

 しかし、拳銃を向けられているにも関わらず、彼は眉一つ動かさず、その平静を崩さない。顔に張り付けた笑顔もそのまま、ただ眼鏡だけが薄暗い廊下の照明を反射させてキラリと光った。

 

『その銃で人を撃ってしまったら、もう戻れないぞ?』

「構わない………妹が、ルナが助かるなら!」

 

 里奈は叫ぶ。

 AX-00をイノベーターから盗み出し、しかし今度は宇崎達を裏切ってイノベーターに戻り。彼女の行動は滅茶苦茶に見えるかもしれないが、それも全ては正義感と妹への愛の板挟みになった結果。

 妹の石森ルナは生まれた時から身体が弱く、ずっと病院で生きてきた。学校にも通えず、同年代の友達も居らず。

 このままでは幸せを知らずに死んでしまうかもしれない彼女を、石森里奈はどうしても救いたかっただけなのだ。どんなに汚い手を使っても、どんなに無様な姿になっても、愛する妹に会えなくなったって良い。

 

 これがエゴだとはわかっている。

 それでもただ、救いたいだけなのだ。

 

『………石森ルナは助かるぞ』

「なっ、どこでそれを!?」

『仲間が居る。一人や二人ではなく、多くの』

「それで、私を脅す気……?」

『いや、私はただ事実を述べただけだ。私のクライアントは年の割に随分とお人好しでな、石森ルナを救う為に大分危ない橋を渡ってきた。その結果だ』

 

 彼は『クライアント』と言った。イノベーターではなく、彼は他についている人間がいるのだ。

 

「そんな………じゃあ、私のやってきた事は?」

『徒労と言う訳だ』

 

 ばっさりと一言で切り捨てられ、今まで妹を救うために自分がやってきた事が無意味だった事を知り、全身からどっと力が抜け落ちていく。

 銃を構えていた腕もだらりと垂れ、立っている床がパッと消えてなくなったような感覚に思わずへたりこんでしまう。

 

 こんな後悔は結果論でしかないが、ただ自分は自分の思う「正義」の為に真っ直ぐに走り続けるだけで良かったのだ。妹の命の為とはいえ、裏切る必要なんて微塵もなかった。

 

『私の仕事の一つは貴女をここから安全に脱出させる事。現在、私が協力を取り付けた海道ジンと八神英二、オペレーター数名がイノベーターへの離反を表明し、LBXの大群と交戦中だ。この混乱に乗じて八神達と共にエクリプスで脱出しろとクライアントから命令を受けている。立て』

「………わかったわ」

 

 もはや抵抗する気力も無い。石森里奈は差し出された手を力なくとり、おぼつかない足取りで立ち上がった。

 そんな彼女の身体を、意外にもその眼鏡の男は優しく支え、立ち上がらせる。

 

『別に貴女を脅迫しよう等と言う考えは一切無い。この仕事もクライアントの善意からのものであるし、私も十分な成功報酬を約束されている。裏切るような事は無いから安心すると良い』

「そう………その、随分なお人好しのクライアントが誰なのか、教えてはくれないの?」

『悪いがそれは話せない。先程も言ったようにクライアントも随分と危険な橋を渡った。故に自身も危険な状況にある』

「そう、よね………」

 

 ふと自分たち姉妹を助けてくれている『クライアント』とやらが何者なのか気になり尋ねたが、やはりと言うべきか望んだ答えは得られなかった。

 当たり前だ。一国の大臣二人に大企業が裏につく巨大なテロ組織を相手にして、ただでいられるはずが無い。むしろこうして助けを寄越してくれている事が奇跡のようなものだ。

 

 眼鏡の男に連れられて石森里奈は来た道を戻り、そして巨大ステルス機エクリプスが保管されているイノベーターの格納庫へと向かった。

 到着すると既にエクリプスは発進準備が始められており、追手を撒いてきたのか八神英二と何人かのイノベーター隊員の姿があった。八神はこちらに気が付くと、はやあしで寄ってきた。

 

「ゴジョーさん、そちらは成功したようですね」

『見ての通りだ。しかし『そちらは』とはどういう事だ?』

「ああ、なんとかエクリプスを仲間達と動かす事には成功したが追手の数が如何せん多くてな、ジンが一人残る形になってしまった」

『海道ジンが? ………仕方ない、二分でカタをつける。彼女を頼んだ』

「え、ちょっと、ゴジョーさん!」

 

 眼鏡の男、ゴジョーは力の抜けていた里奈の身体をひょいと八神に押し付け、アヌビスを操作してジンが戦っている方向へと駆けていってしまった。突然の事に八神も引き留める事すら出来ず、走っていく彼の背中を眺める事しか出来なかった。

 

「行ってしまった………まあ彼なら多分大丈夫だろうが」

「……八神さん、あの人いったい何者なんですか?」

「彼ですか? 彼はA国のクリスターイングラム社のテストプレイヤー、『M・ゴジョー』です。あまり有名ではありませんが、知る人ぞ知るLBXのトッププレイヤーなんですよ」

「全然、気付かなかった」

「目立たない人ですからね………しかし彼ほどの人をいったい誰がイノベーターに送り込んで来たのか。確かに助かりましたが。まあ、それはさておき彼等が敵を足止めしてくれている間にエクリプスに乗り込みましょう」

「……はい」

 

 そう言って、エクリプスの搭乗口へと移動する八神。その途中、一瞬M・ゴジョーが駆けていった方向を見て彼の口元が緩んだのを、里奈は見逃さなかった。

 安心したような、少し困ったようなその表情は、イノベーターで黒の部隊を指揮していた頃の険しい顔ばかりしていた彼からは想像もつかないものだった。

 

 

 

 

 




【アヌビス】
イノベーター専用のナイトフレームのLBX。安心安全の神谷重工製。LBX【エジプト】を元にした量産機であり、エジプトの催眠機能こそ失われたものの基本性能はあらゆる面においてエジプトを凌駕している。イノベーターでの基本装備は剣【ファラオブレード】。
初出はゲーム『ダンボール戦機』。




カズの最終機体もやっぱり原作のフェンリルが人気ですね。多分他のキャラクターも原作通りのLBXが望まれていると思うのですが、本作ではバンとハンゾウの二人に関してはラスボスの関係もあって原作とは別のLBXを最終機体にする予定なので少し申し訳ないです。




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

タイニーオービットへ

原作ブレイクが止まらない二次小説、はーじーまーるーよー。

今回あとがきに『オリ主とセイリュウ』の挿絵をのせてみました。クッソ下手な上にシャーペンイラストですが良かったら見ていって下さい。




 

 

 

 

 

 

 

「遅いなぁ、ハンゾウ」

「珍しいな。郷田のヤツに限って遅刻なんて。もう予定時間15分も過ぎてるぜ」

 

 ミソラ第二中の校門前に止められた宇崎の車の横で、バン、アミ、カズの三人と宇崎拓也は郷田ハンゾウの到着を待っていた。今日は拓也から「プラチナカプセルの解析を行いたいのと、タイニーオービット社で見せたいものがある」との話を聞き、バン達三人と郷田の四人は拓也の車でタイニーオービットまで行く予定だったのだが、珍しくハンゾウが出発の予定時刻を過ぎてもやって来なかった。

 

「何かあったのかな………」

「郷田君の事だから大丈夫だとは思うけど、少し心配ね」

 

 ハンゾウの身に何かあったのではないかと三人が心配になりはじめた頃、校舎の方から走ってくる人影が見えた。

 よく見るとその人影はハンゾウで、彼は到着するなりバッと頭を思いきり下げて、手をあわせて謝った。

 

「すまねぇみんな! 遅れちまった!」

「ハンゾウ! 良かった。遅刻なんて珍しいから、何かあったのかと心配だったんだ。何してたの?」

「あー、いや。まぁ………『罪滅ぼし』ってヤツだ。俺自身の問題だから、あんま気にしないでくれ」

「? ………うん」

 

 首をかしげるバンの頭をハンゾウはわしゃわしゃと撫で、そして拓也の前まで歩き、深く頭を下げた。

 

「拓也さん、遅れてすいませんでした」

「いや、来たならいいんだ。ただ君の身に何かあったのかと心配してしまったよ。次からは遅れそうになったらちゃんと連絡してくれよ?」

「はい、わかりました」

「うん。じゃあみんな、車に乗って。予定からは少し遅れたけど、この程度誤差みたいなものだからね。タイニーオービットに向かおうか」

 

 いつもと違った様子のハンゾウに拓也は少し違和感を感じたが、何か決意したような彼の目を見て『理由はわからないが、彼の中で何かがいい方向に向かったのなら良いだろう』と開きかけた口を閉じる。

 前の座席に拓也とハンゾウが。後部座席にバンとアミ、カズの三人が乗り込み、車はタイニーオービット本社へと向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 渋滞も無く車は順調にタイニーオービット社へと走り続け、遠くにはタイニーオービット社へと繋がるリニアモーターカーの線路も見えてきた。

 あと十数分もすれば到着するだろうと、一瞬腕時計を確認し、視線を前へと戻した拓也の目にチラリと何かが映り込む。嫌な予感を感じた彼は、隣のハンゾウに話し掛けた。

 

「今、何か後ろの方に見えなかったか? 運転に集中したいから後ろを確認してくれると嬉しいんだが……」

「ん? ああ、いいっすよ。後ろ、後ろか……」

 

 ハンゾウは車のルームミラーから、車の後方をじっくりと確認した。すると、妙なものが見えた。

 

「あれ、何……」

 

 それは大きなトラックだった。1台程度であれば、別に大きなトラックが走っているのも当たり前だろう。しかしその大きなトラックは1台だけでなく、まったくの同じ種類のトラックが、隊列でも組んでいるように並んで走ってきているのだ。

 その異様な光景に、ハンゾウは良くないものを感じ取り、即座にCCMを取り出した。

 

「ハンゾウ君?」

「トラックだ、拓也さん。多分俺たちを追い掛けてきてる。バン! アミ! カズ! 念のためにいつでもLBX出せるようにしておけ!」

「えっ? う、うん!」

 

 速度を上げたトラックがじりじりと接近してくる中、ハンゾウの言葉を聞いてバン達三人はLBXを取り出してCCMを構えた。

 ふと、今はLBXを持っていないはずのバンがCCMを開いた事にカズは気付く。バンの手元を見ると、前に見たことのあるLBXが握られていた。

 

「あれっ? バン、お前の持ってるソレって……」

「俺もプラチナカプセルを守るために、LBXが必要だと思って。そしたらキタジマ店長がくれたんだ、『LBXの基本みたいな性能だし、俺が改造したアーマーフレームだから弄りやすいだろう』って」

「成る程。キタジマ店長らしいや」

 

 バンの手にあったのは『グラディエーター』にキタジマ店長が改造を施した『グラディエイター』。大きな改造こそ施されてはいないものの、ほぼ全ての面において元となった『グラディエーター』を越える。元々あった扱いやすさには若干のクセが加わっているものの、山野バンほどのプレイヤーともなればその程度のクセは障害にならない。

 森上ケイタの『ウォーリアー』から山野バンの『アキレス』へ。そして今、『グラディエイター』の手には『アキレス』から受け継がれた『水月棍』が握られていた。

 

「くっ、速い。すまない皆、追い付かれる!」

「来やがったかイノベーター。バン、アミ、カズ! 公式戦じゃねぇんだ、四人で行くぜ!」

「ああ、ハンゾウ!」

 

 スピードを上げて迫ってきたトラックは遂にバン達の乗っていた車を囲むように並び、完全に逃げ場を無くした。そしてトラックの中から次々とLBXが飛び出して、バン達の乗る車の上に着地する。

 バン達四人はイノベーターの死角を迎え撃つべく、車のサンルーフから各々のLBXを出撃させた。

 

「ブッ壊してやるぜ、ハカイオー絶斗!」

「いっくぞー、グラディエイター!」

「いくわよ、クノイチ!」

「行くぜ、ハンター!」

「みんなバトルで盛り上がるのは良いが、あんまり運転の邪魔しないでくれよ!」

 

 車から飛び出した直後、グラディエイターは車のボンネットに立っていた一機のデクーエースへと一直線に突撃。水月棍はデクーエースの胸部装甲を深々と穿ち、開幕早々に手痛い反撃を受けたデクーエースは車の前方へと大きく吹っ飛んでいき、空中で爆発を起こした。

 

「へっ、さっすがバン。やるじゃねーか!」

「ああ、俺たちはこんな事で止まってるわけにはいかないんだ!」

 

 四方のトラックから山のように降り注ぐLBXの群れ。バン達四人は途方もない数のそれらに真っ正面から躍りかかった。

 グラディエイターは水月棍で迫り来るLBX達をひたすらに粉砕し続け、ハカイオー絶斗は絶・破岩刃を振り回してLBX達を斬りまくる。クノイチは持ち前のスピードを活かして前線を撹乱し、ハンターはトラックの上から銃で攻撃をしてくるLBX達をライフルで次々と撃ち抜いてゆく。

 

 イノベーターのLBX軍団は基本的に完全自律型ゆえ、当然ではあるが一機ずつの力ではバン達の方が圧倒的に上。3、4機程度で取り囲んだ所でバン達には敵わない。

 しかし数の暴力とは恐ろしく、バン達一人ずつが相手するLBXは3、4機どころかどんどん増え続け、じわじわと追い込まれて行く。

 

「くっ、数が多すぎる!」

「このままじゃ車の中に入られちゃうわ!」

「クソッ、俺のハンターも少し貰い過ぎた。倒しても倒してもキリがねぇ、奴ら無限にいるのかよ!?」

「無理すんなカズ。お前がやられちゃトラックの上の敵を倒せなくなっちまう」

 

 デクー改がハカイオー絶斗にヒートブレイズを振り上げて襲いかかり、それをハカイオー絶斗は一刀にて上半身と下半身の二つに切り捨てた。その直後、腕を振り抜いたハカイオー絶斗の背後にインビットが飛び降り、その鋭利な爪をハカイオー絶斗へと振り下ろす。

 

「ハンゾウ!」

「ぐっ、油断した! ったく俺も人の事言えねぇなぁ」

 

 しかし不意打ちを受けたと言えど、一点もののLBX『ハカイオー絶斗』と量産型の『インビット』とでは機体性能に大きな差が空いている。受けた傷は浅く、ハカイオー絶斗はすぐに体勢を立て直してインビットを破壊した。

 

「まずいわ、押されてきてる……!」

「なんとか立て直さなきゃ………っ、アミ、後ろ!」

「バン……? きゃっ!」

 

 兎に角速く倒そうという焦りからか、アミのクノイチは前に出過ぎてしまっていた。孤立状態になったクノイチに、チャンスとばかりに敵のLBXが群がってくる。数の暴力に押され、流石のクノイチも反撃すら出来ずに四方八方から攻撃を受けた。

 咄嗟にバンがグラディエイターで助けに行こうとするも、そうはさせないとグラディエイターにもLBXが大量に押し寄せた。

 

「くっ、前に進めない!」

「操作がきかない………お願い、動いて!」

 

 ストライダーフレームは全てのアーマーフレームの中でも最も速さに優れたフレーム。しかし速さに優れているという事は、それだけ軽く作られていると言う事。装甲は薄く、相手から攻撃を貰ってしまえば受けるダメージは他のフレームの比にならない。

 ひたすら攻撃を受け続けたクノイチは本体の自動防御機能と姿勢制御で手一杯になり、CCMからの命令を受け付けられない程の状態に陥っていた。

 

 一人でも欠ければ更に戦況は苦しくなり、前線は更に押し込まれていってしまう。絶体絶命かと思われた、その時だった。

 

「クノイチ!?」

 

 突如としてクノイチを囲んでいたLBX達が纏めて吹き飛んだ。

 砕けた装甲がバラバラと降り注ぎ、ブレイクオーバーしたLBXは車のボンネットから道路へと落下して爆発を起こす。

 

 アミは驚きに目を見開いた。

 まさかクノイチがあの状態から一気に逆転したとでも言うのか? CCMからの操作も受け付けられない状態だったのに、そんな事はあり得ない。

 

 クノイチは予想通りと言うべきか、装甲に沢山のひび割れを作ってその場に膝をついていた。そしてその傍に立つのは見覚えのある白いLBX。

 

「あれは……パンドラ!」

「パンドラ?! どうしてここに」

 

 白いLBXはクノイチがふらつきながらも立ち上がるのを見届けると、凄まじいスピードで敵のLBXを破壊し始めた。

 圧倒的な強さのLBXの出現によって、数による力は最早無意味となった。形勢は完全にバン達に傾き、車の上に乗ってきた敵のLBXは次々と破壊されてゆく。

 終わりの見えない戦いの中、謎のLBX『パンドラ』の登場によってバン達に希望の光が見え始めていた。

 

「ハンター、一発ブチかますぜ!」

 

 アタックファンクション! スティンガーミサイル!

 

 トラックの上の敵を一掃すべく、ハンターが必殺ファンクションを発動。ハンターの背中についているトゲ型のミサイルがアーマーフレームから外れ、エンジンを点火させてあらゆる方向の敵へと向けて発射した。

 普段はLBXの装飾でしかないこのミサイル。LBXの飾りとあって大きさはかなり小さいのだが、威力は見た目によらず凄まじい。通常武器の『ランチャー』のそれを大きく上回る。

 ハンターから放たれたミサイルは次々と周囲のトラックの上に着弾し、そこから狙撃を行っていた敵を余すこと無く一掃した。

 

 残るは車の上に居るLBXのみとなり、前衛のバン、アミ、ハンゾウの三人はパンドラと協力して一斉に残りのLBXへと襲いかかろうとした。その時だった。

 

「ッ!? パンドラ!」

 

 最初に気付いたのはアミだった。

 咄嗟にパンドラの前にクノイチを立たせ、デクーエースの銃撃をクナイで防ぐ。

 

「どうしたんだ、アミ」

「パンドラが………動いてない!」

「えっ、どうして!?」

 

 敵へ襲いかかろうと、クナイを握りしめて前のめりになった姿勢のまま、パンドラは完全に停止していた。

 アーマーフレームに傷は一切ついていないことから、ブレイクオーバーした訳では無いようなのだが、パンドラは何故か微動だにしない。

 

「そんな。なら今度はパンドラを守りながら戦わなきゃ」

 

 そう言ってパンドラの前にグラディエイターを移動させ、襲ってくる敵のLBXを迎え撃とうとした瞬間、グラディエイターとクノイチの目の前を白い風が駆け抜けた。

 

「え? えっ!?」

「また………動いた」

 

 先程まで完全に機能停止していたはずのパンドラが機能を回復し、敵のLBXを蹴散らしていったのだ。

 これにはバン達も困惑せざるをえなかった。

 何故パンドラは突然その機能を停止したのか。何故パンドラは機能停止状態から即座に復帰できたのか。今回もまた助けに来てくれたことは良いのだが、奇妙な点の多いLBXだ。

 

「あっ、パンドラが……」

 

 そんな事を考えている内に、パンドラは残りのLBXをあっという間に片付けて、車から飛び降りてどこかへと居なくなってしまった。

 

 戦えるLBXを失ったトラック達はじわじわと減速し、バン達の乗る車から離れていく。やがて車の周囲は元の通りに何もいなくなり、バン達はなんとか敵を退けることが出来たことにひとまず安心するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バン達が乗る車が走っていた道路からほど近い場所に建つビルの上に、一人の少年と一人の少女が立っていた。

 少年は双眼鏡を覗いて何かを観察しており、少女は気だるそうにその様子を眺めている。一通り観察が終わったのか、少年は双眼鏡から目をはなすと、少女の方へと振り返った。

 

「ふむ、少ししか見れなかったからハッキリとは言えないが、全員『そこそこ』といったぐらいの強さかな。各個の腕前は今のところ『アキハバラキングダム』参加者平均程度といった感じだ」

「『そこそこ』? じゃあ今すぐにでもやれるじゃない。アタシ行ってもいい?」

「何馬鹿な事を言ってるんだ。戦力確認までが任務だと言われただろう。戦うのは『侵攻計画』の時だから、それまで我慢するんだ」

「ちぇっ。せっかく久々に『スザク』と暴れられると思ったのに」

 

 眼鏡の少年から呆れたような表情を向けられ、赤髪の少女はムスッと頬を膨らます。彼女の肩の上で、真紅のLBXが太陽の光を浴びて輝いていた。

 

 

 








※下手+シャーペン注意

【挿絵表示】





投票の結果から、カズの最終機体はフェンリルで決めようと思います。皆さん、沢山の投票ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プラチナカプセル

やっぱりヤマジュンが全ての元凶だって、はっきりわかんだね
第18話、始まります




 

 

 

 

 

 イノベーターのLBX軍団との戦闘をくぐり抜けた後、拓也の運転する車は10数分ほど走り続け、タイニーオービット本社に到着した。

 バン達が車を降りて入り口の方に向かうとすぐに、タイニーオービットの現社長の宇崎悠介が秘書の女性を伴って現れ、バン達の来訪を歓迎した。

 

「やあ、よく来てくれた。確か、山野バン君に川村アミくん、青島カズヤ君に郷田ハンゾウ君と言ったかな。私はこのタイニーオービットの社長『宇崎悠介』だ。適当に『悠介』とでも呼んでくれ。宜しく頼むよ」

「はい、宜しくお願いします悠介さん」

 

 タイニーオービットの現社長『宇崎悠介』は、現在バン達と行動を共にする宇崎拓也の兄であり、その事を事前にきいていたバンは真っ直ぐに彼の瞳を見つめた。

 

 悠介はそんなバンの視線に一瞬だけ、僅かに気圧された。表情に出すことは無いが、驚きと少しの悲しさが入り交じったような感情が胸の奥に沸き上がる。

 山野バンの視線に籠められていた感情。それは中学生のまだ幼い少年が持つべきようなものでは無いと言う事に、気付いてしまったが故。『イノベーター』なるLBXを使用したテロリスト集団と戦っているとは聞いていたが、まさかそれがこれ程までに心に影響を及ぼしているとは予想していなかったのだ。

 

「プラチナカプセルがこの中に入ってます、悠介さん」

「ありがとう。よくここまで無事に運んでくれた。プラチナカプセルの解析は我々が責任持って行う。私とはこれが初対面だから難しいとは思うが、どうか信用してくれ」

 

 バンからプラチナカプセルの入ったアタッシュケースを受け取った悠介は拓也と一瞬だけ視線を交わし、僅かに頷く。

 

「これからすぐに解析を行う研究室まで向かう。バン君達も一緒に来るといい。何か聞きたいことがあったら秘書の霧野くんに聞くと良い」

 

 そう言って歩きだそうとした時だった。

 悠介の背中に声がかけられる。

 

「あの、もしかしてですけど………悠介さんと私たちって初対面じゃない、ですよね?」

「………どうしてそう思ったんだい?」

 

 僅かの驚きと興味から悠介は振り返り、声の主と目を合わせた。

 声をかけてきたのは紫色の髪の少女。彼女は何かを確信したように、少し嬉しそうな表情で続けた。

 

「だって、いつも私たちの事を助けてくれていたじゃないですか。『パンドラ』を使って。さっきだって、大量のLBXに襲われてた私たちのピンチに駆け付けてくれましたし」

「フフッ、まさか。私はずっとこの建物の中にいたんだ。CCMでLBXを操作出来る範囲からじゃあ君たちのいた所まで助けになんていけないさ」

「そんな事ないはずです。タイニーオービットはCCMの機能を拡張してLBXを遠隔操作出来るツールを研究してるって、LBXマガジンに書いてありました。試作機が出来てる可能性は十分にありますし、それがあったとして、使えるとしたらテストプレイヤーか社長である悠介さんだけ。私の記憶ではタイニーオービットはテストプレイヤーは雇ってないはずですから、そうなると可能性があるのは悠介さんだけです。そして私たちが襲われた場所とここまでの間にはリニアモーターカーの線路が通っている。ツールがLBXを直接操作するものだと仮定すると、リニアモーターカーの通過で通信が妨害され、パンドラが戦いの途中で突然停止したのにも説明がつきます」

 

 流れるように自身の推理を述べたアミはにっこりと悠介に微笑む。悠介は困ったように頭をかき、苦笑した。

 

「ハハハ、参ったなぁ。全くもってその通りだよアミくん。君の言う通り『パンドラ』を操作していたのは私だ。まさかここまで完璧に当てられるとは思っていなかったよ」

「えへへ、本当ですか? ほとんどカンみたいなものだったので少し心配だったんですけど、やっぱり『パンドラ』を操っていたのは悠介さんだったんですね!」

「って事は、ずっと俺たちの事を見守ってくれてたんですね………ありがとうございます!」

 

 パンドラの操縦者が悠介だったという驚きからか、呆けているカズとハンゾウ。バンもパンドラの操縦者が悠介だったという事実と、それを見事当ててみせたアミに一瞬驚いたが、すぐに悠介の方へと向き直り、頭を下げた。

 

「あぁ、バン君、そんな頭を下げられる程の事じゃない。むしろこれまで何度もイノベーターと戦ってきた君達には感謝しかないんだ」

「でも悠介さん、悠介さんの助けが無ければ『エンジェルスター』で重機と戦った時も、『アングラビシダス』でVモードが解除できなくなった時も俺は勝てませんでした」

「フッ………どうかな、私が手を出さなくても勝てていたかもしれない。さ、そろそろ中に入ろうか。話しているのも良いが、時間が無くなってしまうからね」

 

 悠介達に案内され、バン達はタイニーオービット社の中へと入っていった。

 建物の中では多くのタイニーオービット社員達が働き、平日だというのに流石は人気玩具メーカーと言うべきか、小学生ぐらいの年齢の子供達が会社見学に来ている。

 バン達が案内されて進んだのは、本来ならばタイニーオービットの社員、それもごく一部の限られた人間のみが入ることの出来る研究施設エリア。そこの研究室Aにバン達が入ると、一人の研究員が気付いて駆け寄ってきた。

 

「宇崎社長、解析準備完了しました」

「ああ、準備ありがとう。この中に例のプラチナカプセルが入っている。くれぐれも慎重に頼むぞ」

「はい、勿論です」

 

 彼は悠介からプラチナカプセルの入ったアタッシュケースを受け取ると、バン達の方に向き直った。

 

「ええと、君たちが拓也さんの言っていたシーカーの子達だね。僕は『結城研介』と言います。皆さんが命がけで守ってくれたプラチナカプセルは、僕たちが責任持って解析を行わせて頂きますね」

「はい、宜しくお願いします!」

 

 研究員の男『結城研介』はそう言ってニカッと笑うと、すぐに踵を返してプラチナカプセルを機械へとセットしに向かった。

 モニターには解析の進行状況が表示され、部屋にいた研究員達は皆作業に取り掛かる。時間がかかりそうだと判断した悠介は拓也に何か耳打ちすると、拓也はバン達へと振り返った。

 

「? どうしたんですか、拓也さん」

「少し時間がかかりそうだからね、見せたいものがあるって言っていただろう? 今から見に行かないか」

「だって、皆は?」

 

 バンがそう言って仲間達へと視線を向けると、全員が頷く。それを確認して、バンは再び拓也へと視線を戻した。

 

「わかりました、行きます!」

「よし、じゃあ行こうか。まずはさっき乗ったエレベーターまで戻って………あぁ、その前にLBXのメンテナンスをしてもらったらどうだ? 前の戦いで大分傷付いただろう」

「えっ、タイニーオービットでメンテナンスしてくれるんですか!?」

「ああ。タイニーオービットでは会社見学に来た子供達のLBXのメンテナンスもやっててね、バン君達は会社見学に来たわけじゃないけど頼めばやってくれるよ」

「へぇ、それじゃあお願いします!」

 

 そう言うと、近くに控えていたタイニーオービットの研究員が歩み寄ってきて、バン達から戦いで傷付いたLBX達を受け取って隣の研究室へと歩いていった。LBXを持っていった研究員は室内だというのにサングラスをかけ、時代遅れな髪型をした妙な格好の男で、バンは思わずその後ろ姿をじっくりと眺めてしまう。

 

「バン君どうしたんだい? 行くよ?」

「バンー! ぼーっとしてたら置いてっちゃうわよ!」

「あっ、待ってよー!」

 

 拓也とアミが振り返り、立ち止まって待ってくれている。バンはハッとして研究員から目を離し、慌てて先へ行った皆を追い掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 灼ける金属。

 舞い上がる砂煙。

 砕け散るコンクリート。

 

 両手銃を携えたモノアイのLBXは三体のLBXを同時に相手取り、数で不利であるにも関わらず圧倒していた。

 様々なゲームでもそうであるように、LBXバトルにおいてもガンナーは中、遠距離にて無類の強さを発揮する。しかし敵に近くまで寄られてしまうと一気に形勢が悪くなるのも、LBXバトルでも同様だった。

 

 だが、そのモノアイのLBXは違った。

 

 離れた場所のLBX二体を素早い射撃で足止めし、接近してきたLBX『ウォーリアー』の剣を銃身で受け止めて押し返す。そのまま仰け反ったウォーリアーの胴体を下から蹴り上げ、完全にがら空きになった身体に向けて至近弾を撃ち込んだ。もしもレギュレーションがアンリミテッドだったのであれば、弾は胴体を貫通してウォーリアーを破壊していただろう。それほどまでに強烈な一撃を受けたウォーリアーは爆発こそしなかったもののガクガクと四肢を痙攣させ、落下してきたところをモノアイのLBXによる回し蹴りを受けてビルのジオラマにめり込んだ。

 しかしモノアイのLBXがウォーリアーに専念していた短時間に残りの二体のLBX『ムシャ』『マスカレードJ』はブーストをかけて接近し、二方向から同時に襲い掛かってきた。数での不利、剣などの武器のように同時に大人数を相手にするのが難しい両手銃の辛いところだ。並のプレイヤーならばここで片方は攻撃出来ても、もう片方の対処に間に合わず手痛いダメージを受けることになるだろう。だが、

 

 アタックファンクション! レーザーカッター!

 

 操作しているのは並のプレイヤーではないのだ。

 モノアイのLBXはその場で大きく飛び上がると空中で逆さまになり、両手銃を構えて二体のLBXへと狙いを定めた。

 直後、両手銃の銃口から極太のレーザービームが射出され、マスカレードJの胴体を貫いた。更に一つ目が空中で身を捻った事によりレーザービームは円を描くように地を焼き、もう一方のムシャをも両断して破壊。モノアイのLBXが再び地面に降り立った時には最早周囲には動いているLBXの姿は一体も居らず、焦げた地面やLBXの残骸から煙が上るだけだった。

 

 モノアイのLBX『マスターコマンド』。

 神谷重工がイノベーターの為に作り上げた高性能のLBX。アーマーフレームの各部からのびるコードを使用してあらゆる機械へのハッキングが出来、主に潜入任務等に使われることを想定されていた。機体そのものの性能も従来の神谷重工の量産型と比べると段違いであり、神谷がそれだけ本気だという事が伺える。

 

 マスターコマンドは周囲を見渡して敵が居なくなったことを確認すると、ジャンプでフィールドを抜けて操縦者の手の平に飛び乗った。

 

「動きは上々、やっぱり今動けるのだとマスターコマンドが一番強いな」

 

 青柳リュウセイはそう言ってマスターコマンドの駆動部をじっくりと眺めた。

 首、肘、腰、膝など、関節部分はLBXでも特にデリケートな部分だ。一定以上の腕前の選手なら試合でも積極的にこうした関節部分を狙ってくる。

 マスターコマンドの関節は見たところ目立つようなキズは一つも無く、正常に動作している事は一目でわかった。

 

「でも少し動きに余裕が無いかな。動作範囲がセイリュウより小さいのは仕方ないんだけど……」

 

 マスターコマンドは強力なLBXだ。自動操縦でも一体で多くのLBXを相手取ることが可能なぐらいには強い。しかし、あくまでマスターコマンドは『量産機』だ。一点物の特別なLBXである『セイリュウ』に並び立てるかと言われると、それは否だ。動きの自由度でも、パワーでも、例えMGだったとしてもマスターコマンドはセイリュウには敵わない。リュウセイは自身がいかに『セイリュウ』の高い性能に頼りきってしまっていたのか、マスターコマンドをひとしきり動かして気付かされた。

 

「ふむ、毎日頑張っているね、リュウセイ君」

 

 不意に背後から声が聞こえ、振り替えると山野博士が小脇に分厚いファイルを抱えて立っていた。

 

「山野博士! いつからいたのですか」

「先程来たばかりさ。まさか『レーザーカッター』をあんな風に使うとは驚いたよ。普通は横に凪払うだけだと言うのに」

「確かにその使い方は単純でかつ効果的なんですけど、それだと360度全方位攻撃出来るだけの時間が無いんですよね」

「全くだ。精々もって1、2秒といった所だろう?」

「そうですね。だから流石に立ったままLBXを一回転させる時間は無いので、空中でブースターを片方だけ吹かしたら間に合わないかなと思いまして」

「ほう、試しにであれだけ上手くいったなら成功じゃないか」

「あー………確かに見た目は上手く行ったんですけど、姿勢制御と武器の性能に助けられた感じというか………まだまだこれからって感じです」

 

 咄嗟の事で若干雑になった操作でも、空中でああして綺麗に回転出来たのは神谷製のCPUによる高性能な姿勢制御技術のお陰。

 通常のレーザーカッターよりも短い時間しか直撃しなかったにも関わらず、あっという間に二機のLBXを両断出来たのは、簡単に高火力を叩き出せる武器自体の強さのお陰。

 特別高いLBX操作技術があった訳ではない。ただ思いつき、そして実行したというだけの話なのだ。だから、感心される程の事では無いというのが、青柳リュウセイの考えだった。

 

「それより、山野博士はどうして此処へ? 僕に何か用が無ければ此処へは来ないでしょう」

 

 普段リュウセイがLBXバトルの訓練に使用している部屋。山野博士の研究室からこの部屋までには廊下しか無く、この部屋にも研究に必要な何かが置いてあるという訳でもない。この部屋にわざわざやってくる理由なんて決まっている。

 

「ああ、その通りだよリュウセイ君。キミに頼みがあって来たんだ」

「何ですか、博士の頼みなら『犯罪』以外は引き受けますよ」

「うん、そうだな………まずはこれを見てくれ」

「これは………新型のLBX?」

 

 見せられたのは抱えていたファイルの中の1ページ。どうやらタイニーオービットの新作のストライダーフレームのLBXのコンセプトデザインらしい。どこでこんなものを手に入れたのかは知らないが、パッと見たところ単純なスピードタイプというよりもアクロバティックな動きを得意とするジョーカーに似ていると感じる。ジョーカー、ジョーカーMk-Ⅱに続く後継機といった所だろうか。

 

「これが、どうしたんです?」

「ああ、これは『ナイトメア』というタイニーオービットの新作のLBXだ。量産型ながら従来のLBXとは一線を画す性能。多少の扱いづらさはあるようだが、素組みでもプロの使用に耐え得る程だ」

「へぇ、それは凄いですね……僕も初めてセイリュウを見たときはその性能の高さに驚きましたが、量産型でプロの使用に耐え得るとなるとセイリュウ程のLBXが当たり前になる日も遠くないかもしれませんね」

「フフッ、流石にそれは言い過ぎだ。セイリュウをそのままの性能でだと如何せんコストがかかりすぎる。だが別の方法でならあり得ない話じゃないな。例えば、アキレスのような」

 

 そう言って山野博士は腕組みをして顔を上げ、何処か遠くを眺める。LBXの産みの親であり、世界の最先端を行く偉大な研究者である彼の頭の中ではどんな未来が描かれているのだろうか。願わくば、その未来が破滅へと繋がるような物では無い事を。

 しばらくして、彼はハッとした表情になりファイルへと視線を戻した。そしてやけにスッキリとした表情で一言。

 

「まあそれはさておきとしてだ、君に頼みたい事なんだが、この『ナイトメア』の試作機をタイニーオービットから盗んできてくれないか?」

「…………はい?」

「盗んできてくれないか」

「あの、『犯罪』以外って、言いましたよね?」

「ああ、そんな事言っていたかもな。私は覚えていないが」

「ハァ………山野博士」

 

 当たり前だと言わんばかりのドヤ顔の彼に、リュウセイの口から思わず溜め息が出る。

 命の危機を助けてもらったり、破損したLBXを修理して貰ったりと世話になっていたせいですっかり忘れていたが、山野淳一郎という男はどうしようもない程に頭のネジがぶっ飛んでしまっているのだ。

 自身の目的の為ならば犯罪にだって平気で手を出すし、自身の作る物に関しても多少の危険性は承知で世に送り出す。前世の記憶では確かに『父ート』とか『全ての元凶』なんて呼ばれていたが、それも頷ける。

 

「うん? 何かな、リュウセイ君」

「博士、せめてカケラぐらいの良識は持っていて下さい」

「ははは、私に『良識』なんて面白い事を言うなぁキミは」

「…………ハァ」

 

 話がまるで通じない。とりあえず面倒事がこれから先、色々と舞い込んでくることになるのだけは用意に想像出来た。

 

 






そろそろ仙道が出てくる頃ですね。
本来ならアングラビシダスやアルテミスで顔出しのはずだったのですが、本作では完全に空気状態でした。

と、言うわけで。
アンケートとります!

※『それ以外』で何か提案のある方は活動報告の方からお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

仙道ダイキ

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうしてナイトメアを盗もうってなったんです?」

 

 リュウセイは若干の呆れを言葉に含ませながら山野博士に問い掛けた。

 前世の記憶では、まだ開発段階だった『ナイトメア』が何故か『仙道ダイキ』の手に渡っており、どうして仙道の手に渡ったのかの説明などは一切無くストーリーは進められていく。『仙道ダイキ』の強化装置としての役目をストーリーで果たしただけで、ナイトメアが何故、誰の手によって彼に渡されたのかは不明のまま終わってしまった。

 正直このナイトメアについては僕も気になっていた所だったのだ。あれだけ事細かに未来を示されていた中で、これは全くの不明のままだったのだから違和感がしこりのように残っていた。

 

「ああ、それなんだけどね、是非ともナイトメアを使わせて上げたい子が居てね」

「つまり、バン君達の仲間にしようと?」

「まあそんな所だな。ほら、アルテミスでユジンに負けた彼だよ。覚えてるかい?」

「仙道ダイキですか」

 

 大会中は自身の予定で忙しく、他の選手の戦いはあまり見ることが出来なかった。しかし見ていなくとも、前世の記憶での『ダンボール戦機』という世界の中で活躍していた彼の事ならばよく知っている。ただ、ナイトメアという名前が出てきた時点で彼の名前が出てくる事は予想していたが、まさか直接名前が出るとは思わなかった。

 

「しかし何故彼を? 確かに優秀なLBXプレイヤーですし、バン君達との面識もある。ですが彼の性格からして、イノベーター討伐に協力してくれるとは……」

「まあ確かに協力してくれるのは期待してはいないな。だが、彼には少し問題があってね」

「問題、ですか? 」

 

 山野博士は懐からタブレット端末を取り出して一つのアプリケーションを起動させる。数秒後にアキハバラのものと思われる地図が開き、その上を青い点が一つと大量の赤い点がゆっくりと移動していた。

 

「この青い点が仙道少年。そしてこの赤い点全てがイノベーター所属のLBXだ」

「………え?」

「彼は、イノベーターに戦力として狙われている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 アキハバラの路地裏を、紫色の髪をした少年はある男との再戦を求めて一人彷徨っていた。

 昼間だと言うのに夜のように薄暗い路地裏を、数々の店から漏れ出る明かりが彩る。このアキハバラの路地裏では『申し込まれたLBXバトルは決して断ってはならない』という事が暗黙のルールとして根付いており、至るところからLBXバトルの音が響く。

 並ぶLBX販売店も、表では売れないような非正規の品ばかりが揃っている。例えば【裏模型ブルータス】では『月光丸』や『マスターコマンド』、『アサシン』といった神谷重工製の市販向けでは無い物の模造品が売られている。性能は本物には程遠いとは言え、そのフォルムは本物と遜色無い。何処から情報が漏れたのかはわからないが、そんな物が当たり前のように売られている此処は日本でも有数の無法地帯だった。

 そんな無法地帯をたった一人で歩いていた少年『仙道ダイキ』は唐突にその歩みを止め、ゆったりとした動きで振り返った。

 

「………誰だ、さっきから後ろをツケて来やがるヤツは」

 

 懐からLBX『ジョーカーMk-2』を取り出して起動させる。

 

 少年が睨み付けた先の角から一人の男が姿を現した。格好はアキハバラでよく見るオタクの服装と何ら変わり無い。灰色のパーカーにジーンズで、眼鏡をかけた長身の男だ。

 男はダイキの前に立つと懐から『デクーカスタムL』を取り出して起動させた。

 

「何が目的だお前」

「……君のアルテミスでの活躍はよく見せて貰いました」

「はァ? 煽ってんのか?」

「まさか。私達は君の力を認めていますよ。確実に君は強くなる。オタレッド、ユジンよりもね」

「……!」

 

 男のその言葉にダイキは目に見えて動揺した。この男は自分の目的を知っている。後をつけられていたとは言え、相手はいったい何処まで自分の事を知っているのか。何故自分の事をつけるのか、その理由がわからない。

 

「君がユジンとの再戦を望んでいる事はよく知っている。そして彼の居場所がわからずにここ数日、ずっとこの辺りを彷徨っている事もね」

「気持ち悪ぃヤツだな………何が目的だ。俺をつけてたんだ、理由があるんだろ」

「話が早くて助かります。あなたには私達の計画の手伝いをして頂きたいのです」

「計画だと? その手伝いをして俺に何のメリットがある。俺は忙しいんだ、悪いが断らせて貰「手伝って頂けたならば、ユジンの居場所をお教えしますよ」……何?」

 

 ニヤリと笑った男を前に、ダイキは迷う。「ユジン」の居場所、それはダイキにとって喉から手が出る程欲しい情報だ。

 彼に勝つためにLBXの腕を鍛え直し、そして訪れたアキハバラ。この数日間ずっと彼の事を捜し続けていた。しかし彼の居場所は一向に掴めず、それどころか彼と繋がりのありそうなオタレンジャーすらも見付けられていなかった。

 自身もアルテミス本戦に出場したことで有名選手の仲間入りを果たした身。秋葉原を彷徨く中で多くのLBXプレイヤーから勝負を挑まれ、その悉くを捻り潰してきた。だが、彼にとってそれは所詮無駄な時間に過ぎない。無駄な時間を過ごし続けるのは、彼としても本意では無かった。だが、

 

「いや………やっぱり断る。俺自身の手でヤツを見付けて、もう一度真っ向からやって勝たなきゃあ俺の復讐にならないんだよねぇ」

「そうですか、それは残念です」

 

 ハァと眼鏡の男は溜め息をついた。ダイキもこれで話は終わっただろうと踵を返したその時だった。男がパーカーのポケットから一枚の写真を取り出す。

 

「ならば此方も多少は強気に行かせて貰いますね」

「お前何を………ッ!? その写真、何処で撮った!」

「さぁ? 私は此方にはあまり関与していませんので。でも、これでわかって頂けましたよね?」

 

 写真に写っていたのは年端もいかない少女の姿。撮られた角度からして間違いなく盗撮だろう。ランドセルを背負った少女のその髪は、ダイキにそっくりな紫色をしていた。

 

「『仙道キヨカ』。貴方が誰よりも大切に想っている彼女に危害を加えられたく無ければ、我々に従う事です。全てが終われば解放し、報酬に莫大なクレジットもある。どうです?悪い話じゃあ無いでしょう」

「……このッ、下衆野郎が」

 

 万が一、相手が犯罪者じみた人間だとしても、LBXを使って戦えばどうとでもなると高を括っていた。しかし蓋を開けてみればどうだ。家族を、それも自身がこの世で一番大切に想っている妹を人質に取られたような状態で、完全に身動きを封じられてしまった。

 いつものように、お得意のタロットで未来を占う余裕なんて無い。ふと何者かに視線を向けられている気がして周囲を見渡すと、建物の間の隙間や看板の上、至る所から真っ黒なLBXがジッと此方を見詰めている。従ってしまえば楽になるのかもしれないが、人質をとって脅してくるような相手の考えている事なんて間違いなくまともな内容では無い。口では従えば身の危険は無いなんて言っていても、実際その通りだなんて信じられる訳が無い。ダイキは、これ以上無い程に焦っていた。

 

「さあ此方へ。通りで我々の車が待っています」

「く………」

「さあ、早く」

 

 喉の奥がカラカラで声が出ない。手も足も震えてまともに動かない。

 恐怖からでは無い。ただこの場を切り抜ける解決策が何も見つからない事に、地に足をつけていないような奇妙な感覚に陥っていた。

 

 歩み寄ってきた男がダイキへと静かに手を伸ばす。ダイキが震える手でその手を掴もうとした、その瞬間だった。ビルの上から蒼天の如く輝く弾丸が雨のように降り注ぎ、ダイキと男を囲んでいた無数のLBXを撃ち抜いて次々と破壊して行く。

 

「何? リュウセイはまだ動けないのでは無かったのか!?」

「コイツは………!」

 

 闇の中でぼんやりと緑色の光を放つジャンクショップの看板。秋葉原でも知る人ぞ知る老舗の入り口から、黄色ジャージに鳥を模したヘルメットを付けた男が姿を表した。

 

「ボクたちの秋葉原で悪いことをしようなんて、そうは問屋が卸さないんだな」

「お前は、オタイエローか! 何処までも我々の邪魔を……」

 

 眼鏡の男はギリッと歯軋りをしてデクーカスタムLを出撃させる。

 ビームサブマシンガンが直接オタイエロー目掛けて放たれるが、その全てが上空からの銃撃の雨によって防がれる。

 

 オタイエローの前にビビンバードX-Ⅲが着地を決め、デクーカスタムLへとビビンバードガンを突き付けた。

 

「ボクの黄色はカレーの黄色。お腹の中のカレーが尽きない限り、ボクは絶対に負けないんだな!」

「チィッ! 作戦変更だ。待機組も全員前へ、力尽くでも確保するぞ!」

 

 路地裏にたむろしていた者達の何人かが、その掛け声で一斉にCCMを取り出した。好機とばかりにダイキも眼鏡の男を突き飛ばし、オタイエローの隣に並ぶ。

 

「何で今になって現れるんだか。ユジンと戦う為に、ずっとアンタらを捜してた」

「申し訳ないんだな。ボク達も色々と忙しくて秋葉原を離れていたんだな」

「ハッ、そうかよ。俺から逃げてたんじゃなくてか?」

「んな訳無いんだな………さておき、この場は協力して乗り切るんだな!」

 

 オタイエローの助けによって落ち着きを取り戻したダイキはジョーカーMk-Ⅱを出撃させ、オタイエローと背中合わせになる形で周囲を取り囲む敵と対峙する。

 そして、ポケットから無作為にタロットカードを一枚抜き取って相手に見せた。

 

 

 

「『戦車』の正位置。早いとこ勝たせて貰おうか」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

襲撃、アキハバラ!

コラボも季節限定も星3ほぼ全て当たってるのにセイリュウちゃんが未だに当たらないのは私が小説を更新しないせいです。
お久しぶりです、更新大変遅れました。



 

 

 

 

「最初から全力で行かせて貰うんだな!」

 

 ダッシュで目の前のデクーカスタムLに肉薄したビビンバードX-Ⅲは、銃使いであると言うのに銃を持たない方の拳で相手の頭を下から殴り、よろめいたその身体に至近弾を連続で撃ち込み、更に追い打ちの前蹴りでデクーカスタムLを大きく吹っ飛ばした。

 吹っ飛ばした先ではイノベーターのLBXが丁度集まってきた所であり、しかしビビンバードX-Ⅲは臆すること無くその中へと突っ込んでいく。

 

「あの馬鹿守りを捨てて突っ込んで来やがった!」

「銃使いが近接戦なんて笑えるな!」

 

 四方から襲い掛かってくるイノベーターのLBX達。オタイエローのビビンバードX-Ⅲはハンマーを避け、剣をいなし、爪を弾き返し、群がるLBX達の僅かな隙間を素早く潜り抜けながら、格闘と銃撃を織り混ぜて着実に相手に攻撃を加えていく。

 アルテミス上位プレイヤーにも匹敵する高度なテクニックにイノベーターのLBXプレイヤー達は対応する事が出来ず、あっと言う間に四機ものLBXがブレイクオーバーし爆発四散した。

 

「う、嘘だろ……?」

「有り得ねぇ……ストライダーフレームでも無いのに動きが目で終えなかった」

 

「銃使いの近接戦等が強いのは特撮ヒーローのお約束なんだな。しっかり覚えておくといいんだな!」

 

「へぇ、ユジンのおまけぐらいに思ってたけど案外やるな」

 

「助けてあげた君に言われたくないんだな……」

 

 そんな軽口を叩いている間も二人の指は恐ろしい程のスピードでCCMからLBXに命令を送り続ける。今のオタイエロー程では無いが仙道ダイキ操るジョーカーMk-Ⅱもかなりのもので、重い大鎌を軽々と振り回して次々とイノベーターのLBXを撃破していく。プレイヤーとしての強さでは、イノベーターの戦闘員と彼等2人とでは圧倒的な差が出来ていた。だが、

 

「むぅっ………ちょっと相手の数が多すぎるんだな」

 

「倒す分にゃ問題ないが、バッテリーの方が保つかどうか」

 

 いったい何処にこれだけの戦闘員を待機させていたのか、倒しても次から次へと新手のLBXプレイヤーが現れ、ダイキとオタイエローに襲い掛かる。

 このままがむしゃらに戦い続けるのは悪手であると判断したオタイエローは、敵のLBX達を蹴散らしながらダイキに向かって叫んだ。

 

「ダイキ君、少しだけ、10秒だけ時間を稼いで欲しいんだな!」

「ハァ!? いきなり何で………ッ、仕方ねえなあ、10秒だけだぞ!」

 

 『行ける』と思って戦い始めたと言うのに随分と弱気じゃないかとダイキは少し腹が立ったが、不満を飲み込んで独りLBXの大群の前に立つ。追い込まれると普段被っている冷静な仮面が剥がれてしまう、悪い癖だ。

 

「お前達、今がチャンスだ一気に攻めろ!」

「このままオタイエローも捕えるぞ!」

 

 ビビンバードX-Ⅲが一旦戦線から引いたのを見て、イノベーターの戦闘員達の士気が上がる。

 この10秒間が勝負の分かれ目だ。

 

 この10秒を守りきれればダイキ達の勝利。

 守りきれなければイノベーターの勝利。

 

「ジョーカーっ!」

 

 ダイキは再び気合いを入れ直し、ジョーカーMk-Ⅱを発進させた。

 まずは1機目。右方向から片手剣で斬りかかってきたデクーをジョーカーズソウルで横凪ぎに両断。次に正面からハンマーを持って向かってきたデクー改を石突きで腕の隙間から突き上げ、縦の振り下ろしで破壊。続けて三方向から同時に襲い掛かってきたLBX達を、軌道をうまく見極めて回転切りで凪ぎ払う。

 

「隙有りィ!」

「っ、しまった!」

 

 振り抜かれたジョーカーズソウル。胴体を軸にして回転し、次の攻撃に備えていたジョーカーMk-Ⅱにライフルの弾が直撃した。撃ったのは、少し離れた場所にある店の看板の上に待機していたアサシン。

 敵の数が多すぎるが故に、その存在を見落としていた。ダイキのプレイングミスだ。

 

「もう一発!」

「ぐうっ!」

 

 ぐらりと体勢を崩したジョーカーMk-Ⅱをインビットがその鋭い爪で引っ掻く。軽く、装甲の薄いジョーカーMk-Ⅱだ。一度でも隙を見せればそれは致命的な瞬間となる。

 

「押せ押せぇぇっ!」

「ぶっ壊せ!」

 

 

 アタックファンクション!ギロチンカッター!

 

 アタックファンクション!トライデント!

 

 

 正面から接近していたデクー改からギロチンカッターが、左方から接近していたクノイチ弐式からトライデントが放たれる。

 

「やられて……たまるか!」

 

 負ければ自分は死ぬかもしれない。

 最愛の妹を守ることも出来ない。

 己の復讐を果たすことも出来ない。

 

 見ず知らずのこんな奴らに、好きなように使われてたまるか。

 

「ジョーカーッッ!」

 

アタックファンクション!デスサイズハリケーン!

 

 体勢を崩し、仰け反った状態のジョーカーMk-Ⅱの瞳に光が宿る。鎌で美しい螺旋を描きながら大きく跳び上がったジョーカーMk-Ⅱは寸でのところでデクー改とクノイチ弐式のアタックファンクションを回避し、空中で身体を捻りながら力強く大鎌を振りかぶった。

 

「不味っ、回避━━」

「あっ、近」

 

 避ける時間も、場所も無い。

 ジョーカーMk-Ⅱを中心にして発生した破壊の嵐は大勢のイノベーターのLBXを呑み込んだ。ダイキとオタイエローを仕留めようと集まってきていた事もあり、あっと言う間に何十ものイノベーターのLBXが次々とブレイクオーバーした。

 運良くデスサイズハリケーンに巻き込まれなかった者も、凄まじい風圧に押し返されて離れていく。

 

「もう大丈夫なんだな! よく耐えてくれたんだな!」

 

 直後、オタイエローが戦線に復帰。必殺ファンクション後の僅かな隙を狙って襲い掛かってきたLBX達の駆動部目掛けて攻撃し、機能停止に追い込んだ。

 

 大会でユジンが使っていたテクニックと同じものをオタイエローが使った所を目の当たりにし、ダイキは思わず「ほぅ」と声を漏らす。所詮オタレッドのおまけ程度に思っていたが、案外オタレンジャーとか言うのも粒揃いかもしれない。

 

「ハァ……遅いぞデブ」

「デブ!? ボクはこのお腹にカレーと言う至高の料理を━━」

 

「くっ、まだだ! 二人まとめて捕らえろーっ!」

 

 相当な数をやられたにも関わらずイノベーターのLBXプレイヤー達はまだ諦めていないのか、残ったLBXでチームを再編成し、尚も二人に襲い掛かってくる。

 味方の戦線復帰に少し安堵したダイキだったが、圧倒的な相手の物量と執念深さに冷や汗をかく。オタイエローのビビンバードX-Ⅲは兎も角、自身のジョーカーMk-Ⅱはその装甲に幾つもの傷を作り、その上大技のデスサイズハリケーンを使ったことでバッテリーは限界間近。

 

「行けんのか、コレ……」

「あとは信じて戦うだけなんだな」

 

 先はわからない。だが、多くの大人やLBXに包囲されて逃げる事も出来ないこの状況。どれだけ大人びていたとしても中学生の少年に過ぎないダイキは、オタイエローの言葉を言葉を信じて戦い続ける事しか出来ない。

 

 ジョーカーMk-ⅡとビビンバードX-Ⅲ。

 二機のLBXは再びイノベーターのLBX達に突撃を仕掛けていく。

 

 ジョーカーズソウルが三機のLBXの命を同時に刈り取れば、デクーエースの放った弾丸がジョーカーの右足を穿つ。

 インビットの爪がビビンバードX-Ⅲの肩を掠めれば、反撃の銃弾が周囲のLBXに向けて次々と突き刺さる。

 

 個々人の力の差は圧倒的だが、確実にそのダメージは二人のLBXの命を蝕んでいく。

 

「そこだぁっ!」

 

 先に限界を迎えたのは、より長く戦い続けていたダイキのジョーカーMk-Ⅱだった。

 バッテリーが無くなる寸前でパフォーマンスが低下していたジョーカーMk-Ⅱ。命令から動作までの僅かなラグが仇となり、そこをイノベーターのLBXは見逃さなかった。

 

「ジョーカーっっ!」

 

 ジョーカーMk-Ⅱの腕が胴から千切れ、宙を舞う。咄嗟の反撃によってイノベーターのLBXは倒され、追撃までは許さなかったが、ジョーカーMk-Ⅱにはもう戦いを継続できる力は残っていなかった。

 

「ダイキくん!」

 

 相方が力尽きた事に気付き、彼を守る為にオタイエローは必死にビビンバードX-Ⅲを操作しながら彼を背に庇う。

 

 万事休すか。思わずダイキが握っていたCCMを落としそうになった、その時だった。

 

 

「あ、マジでやってる」

「うわー、賑やかだなー!」

「これ、黒い方のLBXやって良いんでしょ?」

「腕が鳴るでありますよ~」

「オタイエローさん、助けに来ましたよー」

「拙者のブルド改カスタムの力を見せてやろう!」

「あっ、どうも~、バイト終わりに来ました」

 

 わらわらと表通りから路地裏に入ってくる、人、人、人。

 彼等は皆その手にLBXとCCMを握り締めており、何をしに路地裏に来たのか一目でわかった。

 

「な、何だこいつら……!」

「どんどん集まってくるぞ!?」

 

 困惑するイノベーターのプレイヤーやダイキを前に人は見る見る内に増えていき、あっと言う間にその数はイノベーターのLBXの残機の数を超えた。

 

 そう、一瞬にして形勢は逆転したのだ。

 

「オタイエロー……こいつは」

「ボクがさっき呼んでおいたんだな。そんなに多くは無いけど、みんなオタレンジャーのファンなんだな」

 

 見れば既に集まった人々は皆LBXを起動させ、臨戦態勢に入っている。彼等は、二人だけでは数で押し負けると予想したオタイエローの呼び掛けによって集まったLBXプレイヤー達。みな一般プレイヤーの域を出ない腕前ではあるが、日々秋葉原に通い、仲間内でLBXバトルをしている事もあってそこらのプレイヤーよりも強い。一人一人のレベルで言えば、イノベーターの一般プレイヤーと同レベルといった所だろうか。

 そんなLBXプレイヤー達が大勢集まり、その上複数体のイノベーターのLBXを相手に出来るオタイエローが居る。

 

 勝敗は決した。

 

「……くっ、撤退!」

 

 リーダー格らしき男がそう叫ぶ。すると路地裏に煙幕が撒かれ、周囲は真っ白に包まれて何も見えなくなる。

 

 バタバタと走るいくつもの足音が聞こえ、煙が晴れた時、ダイキ達の目の前にイノベーターのLBXプレイヤー達の姿は無かった。

 

「助かった、のか」

「ふぅ~、危ないところだったんだな」

 

 呆然と立ち尽くすダイキの前で、オタイエローは集まってくれた人々に礼を言い、一人、また一人と手を振りながら集まっていた人々は去っていった。

 

 そして全員が居なくなった頃、オタイエローはダイキの方を振り向いた。

 

「さて、君が奴らに狙われてる事を知った以上、ボクたちは君を放っておくわけにはいかないんだな」

「オタイエロー……あんた、奴らの事知ってるのか? なあ、奴らは一体何なんだ? 俺の妹は大丈夫なのか?」

「まあまあ、ここは一度落ち着くんだな。焦ってもしょうがないんだな」

 

 一難去った事で、頭の角に置かれていた不安がどっと押し寄せてきたダイキは矢継ぎ早にオタイエローに質問をぶつける。しかしオタイエローは質問に答える事は無く、なだめるようにダイキの肩に手を置くだけ。

 

「不安なのはわかるんだな。君もまだ中学生なんだな。だから、まずは僕たちの仲間のところまで行って、それから話をするんだな」

「なら、出来るだけ、早く頼む」

「大丈夫なんだな。すぐ近くだから、慌てる事は無いんだな」

 

 オタイエローはそう言って、ダイキの肩から手を離すと自分についてくるように彼に促す。

 

「そうだなぁ……お昼ごはんもまだだから、カレーでも食べながらじっくり話すんだな」

 

 二人の歩む先には、巨大なアキハバラタワーがそびえ立っていた。

 

 

 





【ビビンバードX-Ⅲ】
 アキハバラを守る正義のヒーロー『オタレンジャー』の一人『オタイエロー』の専用機であるLBX。製作者はオタクロスであり、フレームはナイトフレーム。基本的な造形はリーダー機である『ビビンバードX』と同じだが、カレー好きの彼を象徴するかのように全身が黄色にカラーリングされている。『ビビンバードX』と同様に、一点もののLBXではあるが裏模型ブルータスにて量産品が売られている。
 初出はゲーム『ダンボール戦機』。



【ジョーカーMk-Ⅱ】
 『箱の中の魔術師』の異名を持つミソラ一中の番長格の少年『仙道ダイキ』が、LBX世界大会アルテミスに向けてジョーカーを改造した機体。改造機体ではあるが、ベースのジョーカーがタイニーオービット製である為にゲーム内ではタイニーオービット製と表示される。カラーリングは黒から赤に変更され、性能も元となった機体から格段に向上している。頭部には新たにセンサーも追加しているらしい。中学生とは思えないほど技術力が高過ぎる。
 初出はゲーム『ダンボール戦機』。







目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。