悪役令嬢攻略物語 (助難)
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第一話 恋に落ちました
ある日目が覚めたら乙女ゲームのヒロインになってました。
何でや。
ある国の男爵家次女に生まれた私、ローダンには日本の女子高校生だった前世の記憶がある。
勿論最初からそんなものを持っていた訳ではなく、最近通い出した学校で、紫髪を持つ美人に呼び出された時覚醒した。
放課後特に予定もなく帰り支度をしていた私は、同じクラスの眼鏡をかけた女の子に誘われ、一緒に校舎裏に向かった。
決闘か何かだろうと理由も聞かずについていったのは間違いだったかもしれない。
ついた先には紫髪の美人と、その他のモブ女たちが射殺すような視線を向けて立っていた。
一緒に来ていた女の子はいつの間にかいなくなっていたので、使いっぱしりにされただけなのだろう。
特に頼んでもいないのに懐いてくる王子たちのせいで、私に嫉妬の目を向ける女子は多く、陰湿ないじめを受けていた。
嫉妬を向けてくる女子たちの中でも、公爵家長女であり王子の婚約者でもある紫髪の美人──ロベリアは私を虐める筆頭格だ。
今覚醒した頭で考えると将来王妃になるかもしれないロベリアから直々の虐めを受けるのは、ちょっとした背徳感がある。
ロベリアは私の事を「小汚い雌犬」やら「平民の娘」やら「身体を売って学校に入ってきた娼婦」なんて言って笑ってきた。
周りにいた頭の悪そうな女たちも何か言ってきたが、そこら辺は覚えていないので割愛する。
まあ、私の父は一代で平民から男爵位に登り詰めた人間なので、血統を重んじる上級貴族のロベリアから平民の娘と言われるのは少し納得できる。だってうちの家系は皆農家だし、父は男爵位を貰ってからも農業に励んでいるし。
かくいう私も農業をしたり、乗馬をしたり、犬と一緒に羊を追いかけ回したりと自由な暮らしをしていたので、ご令嬢っぽさは少し欠けている。そこが王子達にはツボなんだろうけど。
少女漫画みたいに目を潤ませて震えていればヒーローが助けに来てくれる。
そんな甘えた事を考えもしなかった私は、ロベリアに言い返していた。
何て言ったんだっけな、確か「私が雌犬ならお前らはご主人様に尻尾振れば交尾できると思ってる雌豚だな」的な事をお嬢様言葉で言っていた気がする。
今思えば、乙女ゲームにあるまじき主人公の暴言である。
しかしあの時の私はここが乙ゲーの世界なんて知らなかったし……、それに腹が立ったら言い返さないと気がすまないタイプなのだ。
ロベリアは私が言い返した事にカチンと来たのか顔を真っ赤にして、「犬風情が学園の制服を着るなんて烏滸がましいと思わないの」なんて言って取り巻きの頭も悪ければ口も悪い女たちに私の服を脱がせるよう命令していた。
何度も言ったと思うがこれは乙女ゲームの世界である。
エロゲーではない。
あと間違えても百合ゲーでもない。
何故かあのゲーム、BLルートはあったけど。
さて、服を脱がされるピンチにも関わらず、押さえ付けられた手足を何とか振りほどき、悪逆無道たるロベリアとタイマンを張ろうと拳を握った時、私は見てしまったのだ。
ロベリアの半泣き顔を。
薄い青色の瞳が潤むのを。
ローダン15歳。この世界で初めて恋に落ちた瞬間だった。
見惚れている間に何か固い物で殴られ、気絶したのはご愛嬌である。
そして、目が覚めたら前世の記憶を思い出していたということだ。
多分殴られた衝撃で何か記憶を司る神経がバーンってなったんだと思う。いや、よくわからないけど。
なんてことはない普通の女子高生だった私の記憶は、ローダンである私の記憶と融合し、ベッドの上で落ち込んでいる。
そう、落ち込んでいるだ。
おい、
お前は腐っても乙女ゲームの主人公だろう、攻略対象の王子とか騎士団長の息子とかに落ちるべきだ。
そもそもこの乙女ゲームには悪役令嬢ルートとか無かったぞ。まあそれはそうか、百合ゲーでは無いのだし……。
まあ、この乙女ゲームの主人公には前世の記憶云々の設定はなかったし、似た世界っていうのが一番納得できる、かなぁ?
しかしおまえ、初恋って。とある国日本では、初恋は実らないとか言われてるんだぞ。どうするんだお前、おい。
初恋はしょっぱい涙の味とか嫌だぞ、おい。
何より一番の問題は前世の私も、恋をしたことがない事だ。
前世を通しての初恋と言うものである。ロマンチックぅ! アホか。貴女を前世からお慕いしていました、とでも言うつもりか。
あと泣き顔で落ちるってお前、そういうのは漫画に出てくるドS俺様的なイケメンやるべきだろう。ローダン、泣き顔が唆るとか声に出して言うもんじゃない。分かってる、知ってる。お前と融合してしまった前世のお前も変態だ。だから落ち着いて。
そんなに騒いだら人が来ちゃうから!
「……貴女もう起きていたのね」
ほら、来ちゃったじゃん! バカ、バカローダン!
とくん、運命の人! っじゃねぇから! 胸をときめかせるな、頬を染めるな、ロベリアが戸惑ってるじゃねぇか!
「! あんなに頭を強く打ったのにもう笑ってるなんて、本当庶民は身体だけは丈夫ね」
そう言って顔を背けるロベリア。
で、デレキター! これはあれだ、「心配したこっちがバカみたいじゃない」って言われるやつだ! 知ってる、テレビで良く見た!
どうせほっとした顔を隠すためにそっぽ向いたんだろ! そうなんだろ! 見せておくれ、私は貴女のそう言う顔が大好きになってしまったんだ!
「元気になったのなら早く部屋に戻りなさい。娼婦が医療室にいるなんて漏れたらどうするつもり。それに貴女には物置っていう相応しい部屋があるでしょう?」
つまり明日も早いから早く休みなさいって事? ロベリア、貴女――
「本当に素敵ね!」
「はぁ?」
おっと、口に出ていた様だ。
◇◇◇◇◆◇◇◇◇
部屋──ロベリアが言うような物置ではない──に戻ってきた私は、明日の準備を終えてベッドに寝転んだ。
第一回ロベリアと仲良くなろう作戦会議を決行する為だ。
似たような性格の為かすぐに融合した私たちは前世の妄想力と今世の知識力を駆使し、ロベリアを落とす想像を重ねる。
吊り橋効果で上手くときめかせる?
──ご令嬢に吊り橋効果が発動するような目に合わせるなよ。一歩間違えれば首が飛ぶぞ
ロベリアが今惚れてる相手にこっぴどく振られている所を慰めて、あれよあれよという内にベッドへ?
──いや、ロベリアの幸せを第一に考えて行こうぜ
うんうんと唸りながら、考えを絞り出していく。
そもそもこの世界のご令嬢が仲良くなるには、家柄とか派閥の事込みで打算的な部分を持って友達になるのが一般的である。
個人的な付き合いは本当に仲が良い、それこそ前世で言う親友の様な存在にならないと出来ないし、それまでは二人きりなんて以ての外。
前世でのお友だちのなり方なんて覚えてないしなぁ。そもそも今世では使えなそうだ。
元となった乙女ゲームには、男と仲良くなる方法なら沢山描かれていたけど、女の子、しかもライバルで悪役であるロベリアと仲良くなる方法なんて全く描かれていなかった。
やっぱり手っ取り早いのはお茶会に誘うか誘われるかしか無さそうだな。誠に遺憾ながら嫌われている手前私から誘うのは気が引けるけど……。
「いや、これも仲良くなる為だ! ロベリア嬢と面倒だけど取り巻きたちに招待状を書こう!」
殴りかかってきても大丈夫な様に、刃物やフォークを使うようなお菓子はなしにしよう。
◇◇◇◇◆◇◇◇◇
何てこった。
お茶会を開こうとしたらロベリア嬢から招待状が来た。
もう一度言おう、何てこった。
何でも先日怪我をさせてしまったお詫びに謝罪の意味も込めてお茶会に招待させてくれないかとのこと。
誠に、誠に遺憾ながらめちゃくちゃ嫌っている私にこんなものを送るなんて、素直に喜べないのが現状である。
だってこれ果たし状じゃん……ご令嬢達が集団で襲ってくるやつじゃん……。
届けに来たロベリアの使用人さんも心なしか不安そうにしてたしな。絶対来るんじゃねぇぞ的な目をしていた。
ロベリアと二人きりならいつでも参加するんだけど、というかこちらからお願いするけど……いや、これはチャンスだ。ただでさえ滅茶苦茶嫌われているのに、そんな我が儘ばかり言っていたらロベリア嬢とくっつくまでの時間が長くなる……!
日時は明後日の昼二時。学園の薔薇園でお茶会。
その日は休日だからお茶会を開くための準備とか諸々しようとしていた日であり、そんな予定は最初からなかったのである。
「よっしゃ、この日に思い切って告白するぞ!」
待て
そうと決まればお茶会に着ていく服を選ばなければ。
ロベリアを意識して薄紫のドレスとか? いや、残念ながら可愛い系の私には似合わない。
ロベリアを意識して青色のドレスとか? 涼しげな色で良いかもしれない。
季節感的に黄色とか? もうそろそろ秋かぁ、サツマイモ食べたい。
あとは王子にもらったドレスぐらいしかないなぁ。
……ん? 今なんて?
次の更新は6/1です。
約一年間書き続けてきてこの文量である。
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第二話 前世の記憶
話を進めるために前世の私がプレイしたゲームを紹介しよう。
『シークレット~秘密の花園~』
私が中学生の時に初めてプレイした乙女ゲームである。
タイトルから察せられると思うが古いゲームで、確か1が出たのは2000年頃だったと思う。
私が買ったのはそのリメイク版。何と1の続編である2も入ったリメイク版である。中古でお安くなっていたため興味本位で手に取った。
『シークレット~秘密の花園~』は一人の女の子──デフォルト名 ローダンと、攻略対象の男性キャラクターの恋模様を描いた乙女ゲームである。
ローダンの家は貴族だが、所謂新興貴族であり、父親も母親も元農民であった。
父親が戦争で活躍し一代で男爵位まで登ったが、貴族になっても畑を耕す少し変わった人間。
母親は強い父に惚れた、と言うよりは土を弄っている時の、泥と汗にまみれた筋肉に惚れたこちらも変わり者。
ついでに姉もいるが、彼女の場合は2の方の登場人物なので今は関係ないだろう。こちらも今は割愛する。
そんな家庭で育ったためか
そんなほぼ平民の様な暮らしをしてきた人間が貴族しかいない学校に放り込まれ、浮かないはずもなく、気がついたら
そして、一人ぼっちな
メインの攻略キャラは五人。
第二王子、王子の幼馴染みである騎士団長の息子、若き魔導師、担任の先生、そしてラスボスの龍。
他にも隠れ攻略キャラが何人かいたり、ライバルの悪役令嬢がいたりするが、大体は一年間の全てを恋愛に注ぎ込ませるゲームである。学校なんだから勉強しろ。
大体の攻略キャラたちはルートに入ると過保護になり、イベントでは
しかも
王子を攻略してる時に選択肢で『私の馬になって』が出てきたときは度肝を抜かれた。しかもそれが最適解だった時の言い様のない心のざわめきは今でも思い出す。
攻略対象が結構な確率でMなこのゲームは当時異端だったと思う。
正直イベントを見るのが色んな意味で辛いゲームだ。
ライバルの悪役令嬢は攻略していくキャラクターによって変わり、私が愛しているロベリアは第二王子を攻略していくと登場する。
ロベリアは、王子とイチャイチャしている
そして最後には、公爵家からも見放され過去バチバチにやりあっていた隣国に追放されるのだ。
いや、追放は語弊があるか。身売りね、身売り。
隣国の王子がロベリアを気に入って妾にしたいと言われ、公爵家や王家から良い縁談だと、隣国との縁を結び国を救うのだと言われ、少数のメイドと花嫁道具を持ってロベリアは隣国へと旅立つ。
これが悪役令嬢ロベリアの原作で語られる全てである。
しかしこの乙女ゲーム、公式の設定集にはその後の事が少しだけ描かれているのだ。
隣国はこの国に戦争を仕掛ける。
元々この二つの国は仲が悪く、原作の少し前に戦争をしていた事もあって日々小競り合いはしていたのだが、ロベリアが嫁に入ってからは隣国からちょっかいをかけることも無くなり、王国が警戒を緩めた瞬間の事だった。
隣国に接している辺境伯領が何とか耐え、攻略対象である若き天才たちが隣国を焼き払い、そして隣国の王族たちを処刑した。
処刑された人達の中には勿論、悪役令嬢ロベリアの姿もあった。
隣国の王族たちは全ての罪をロベリアに擦り付け難を逃れようとしたが、隣国の王族たちを生き永らえさせればまた何をされるか分からないと全員漏れ無く処刑される。
公式設定集には断頭台へ向かうロベリアが挿し絵として描かれていた。
原作の時よりも細くなった手足と首に錠をかけられ、青色の瞳には生気が感じられず、枝毛なんて無かった長い髪は首元でざっくりと切られ、ふっくらと整った唇は切れガサガサになっていた。
正直、原作の時はお邪魔虫として色んな嫌がらせをしたり、攻略対象の好感度を下げられたりして、嫌いだった。
でも処刑される挿し絵を見たとき、その嫌いという気持ちに別の感情が交じった。ざまぁ見ろとは思えなかった。
私はその時確かに、同情という愛情をロベリアに向けてしまったのだ。
設定集を読んでからの二週目は正直ロベリアをどう攻略するか、もっと言えば友情エンドが無いかと探ったものである。
数少ない攻略サイトとネット掲示板をさ迷い歩き、イベントにうんざりしつつ自分でプレイした。
まあ、結果無かったんだけどね。
さて、何となく分かってはいたが、
しかも第二王子ルートでも好感度がMAXに近い状態である。まだ学園に通い出して1ヶ月経っていないのにどういうことなのか。
転生特典? どちらかと言えばバグに近いかもしれない。
二週目からは好感度が数%引き継がれるゲームだったので、そういうシステムが働いた、とか?
前世での私の周回回数が何らかの形で今世の好感度として表れた、とか。
いや、それはゲームのやりすぎか! HAHAHA!
今はそんな事を考えている暇はない。
第二王子から求婚されたら逃げ場が少ない。無いとは言わないけど、逃げたらロベリアと一緒にはなれないだろう。
ゲーム内イベントで、攻略キャラクター達から贈り物を貰うシーンが存在する。
そのイベント発生時点で一番好感度の高いキャラクターから一つだけ贈られる。贈り物は好感度によって変わるが、MAXの時の贈り物は『ドレス』である。
いやいや、ちょっと待ってくれよ。そうしたら何か? 王子が私にドレスを贈ってきたのはつまり
荒ぶる気持ちを抑え、何とか頭をフル回転させる。
とりあえず、お茶会には別のドレスを着ていこう。そうしよう。
キリがいいところで投稿。
ローダンのテンションががた落ちしています。
お気に入り、評価、しおり等ありがとうございます。
次の更新は未定です。暑くなってきたので遅くなると思います。
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