転生したら、暗殺一家長男。 (GON2929)
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転生した

この世に生を受けた日。

それは一番祝福される瞬間だと思っていた。

まだちんくしゃな顔をした我が子に、母は慈愛に満ちた表情を浮かべ、その横にはホッと胸を撫で下ろす父が佇むのが一般的な理想だと思う。

あぁ、この子貴方にそっくりね、なんて早くも親バカが発揮した両親に囲まれ、すくすくと成長していく未来が見え......なかった。

何故かって?

それは俺が産まれ落ちたのが一般的な家庭がじゃなかったからさ。

乳母に毒入りミルクを飲まされつつ、俺は産まれたばかりなのに将来を憂いていた。

 

 

話は変わるが、俺には前世の記憶がある。

所詮平凡なサラリーマンって奴だ。 

思い出したくもないが、記憶から察するに俺は駅のホームで酔っ払いに押され、あっけなく通勤快速の電車に巻き込まれご臨終したらしい。

んでその記憶を持ちつつ再び赤子からリスタートしたワケだが。

産まれた瞬間もまぁ、覚えてる。

まだ目も開けなかったが、俺の母親と思わしき女性は俺を抱きつつ色々と話かけられた。

やれ髪の色が銀だから将来有望だとか、いつから訓練を始めようかとか。

やけに興奮し息を荒げた母親に俺は初対面なのにドン引きした。

そしてそのドン引き具合は、その後一生続く事となる。

 

俺は産まれて暫くは乳母に育てられた。

産後の肥立ちが良くない......のではなく単純に両親が忙しいご身分らしい。

俺としては、あの母親に会わないのは願ってもないのだが、目も開いた事だし一度父親の顔も見ときたい所だ。

産まれてから半年、喉にピリピリ刺激を与えてくるミルクを嫌々飲まされつつも、俺はその時を待った。

 

「ルイ様、本日はトリカブト入りミルクでございます」

 

乳母さんよ...トリカブトって有毒植物ですよね...

これまで様々な説明をされてきたが、植物博士でも無い俺には何のことか皆目見当が付かなかった。

しかし日本でも有名な植物の名前を聞かされ分かってしまった、俺は毒入りミルクを日々与えられていたらしい。

虐待なのでは?と思ったが、この刺激を与えてくるミルク以外は、王族かってぐらい丁重な扱いされてんだよな。様付けだし。

 

もしかして本当に王子とか?

ならこのミルクの真意は、毒で暗殺されない為に徐々に身体を慣らしていってるとか...?

なるほど、うちの両親は王様と王妃様だったのか、それなら二人が忙しいのも合点がいった。

 

「ルイ様、本日はシルバ様がお帰りになられます」

 

しるば様?もしかして俺の父親の名か?

日本では聞き慣れない名だ。

外国の王族ってとこか、産まれ変わったら王子になってましたって展開、小説とかでは良くあるよな。

 

そうしてようやっと俺は父親の顔を見ることができた。

 

威厳は...すごくある。

てかありすぎる、なにそのピチピチの半袖からのぞく逞しい上腕二頭筋。

髪はなんか無造作ヘアって感じでほったらかしだし。

目つきも鋭いし、王様っていうより荒くれ武闘家みたいな風貌だな。

 

迫力ありすぎて思わずあぅ...なんて可愛いく呻いてしまった。

そんな俺を見て父親はふっと顔を緩めると、見た目にそぐわず優しい動作で俺を抱き上げた。

あ、よく考えたらこれ初めて親子での触れ合いってやつじゃん。

そう思うと少し涙腺が緩くなった。

この半年間思うように動けない身体にずっと焦れていた。

前世では立派な大人なのに、赤ん坊として扱われて何一つ一人で出来なくて俺は悔しさと同時に恥ずかしくもあった。

そんな俺の気持ちが、涙として消化されていってしまった。

 

 

「うわあぁああぁあん!」

 

「申し訳ありません、シルバ様...普段ルイ様は大人しいのですが」

 

「気にするな。これからゾルディックとして育てていけば良いさ」

 

 

は...ゾルディック?

 

その単語を聞いてピタリと俺は泣き止んでしまった。

何処かですごーく聞き覚えがある。

思案する俺に続け様に爆弾が放り込まれた。

突然扉が開かれると、ツカツカと黒髪の超絶美女が俺たちの元へと迫ってきた。

あれ、あの母親の声...?

 

「もう貴方ったら!!私もルイちゃんに会いたいのに抜けがけして!!」

 

「キキョウ、悪い」

 

「先に仕事が終わったからって酷いわよ!!あぁ、私の麗しきルイ!!これからあなたは立派な暗殺者になるんですからね!!」

 

シルバ キキョウ 暗殺者 そしてゾルディック

 

これだけの単語が揃ってれば分かる、前世では大好きだった漫画だったからな。

王族だから毒で暗殺とか杞憂でしか無かった。

俺は暗殺する側の人間、ゾルディック家に産まれてしまったんだ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 



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修行始まる

どうもこんにちは、ルイです。

毒入りミルクを突破し、無事一歳の誕生日を迎えることになりました。

一体何時暗殺訓練が始まるかと戦々恐々としていたが、ゾルディック家っていっても流石に赤子に拷問はしないらしい。

乳母の人にたっぷり甘やかされつつ、ぬくぬくと暮らしていた。

 

「ルイ様、もうそんなに歩けるようになったのですね、ココは嬉しゅうございます」

 

そう言ってにこりと笑いかけてくれたのは、俺が産まれてからずっと世話をしてくれているココという乳母さん。

後ろに大きな三つ編みを一つ結んでいる、20代半ばの女性だ。

一日の大半をこのココさんと過ごしている。

ココさんはこのゾルディック家の中でも極めて稀な普通の人みたいだ。

感情が読めない執事や他の使用人たちとは違い、この人だけは俺に笑ったり話しかけたりしてくれる。

俺がゾルディックに転生した事が分かっても正気を失わずに済んだのは、彼女のおかげかもしれない。

 

おぼつかない足取りでココさんの元に寄ると、彼女は優しく抱きとめてくれた。

まだうまく喋る事は出来ないが、ココさんは俺が言いたい事を汲み取ってくれたらしい。

窓際に寄ると俺に外の世界を見してくれた。

 

「ルイ様、上にある青いのが空。空に浮かんでる白色が雲っていうんですよ」

 

「そーら」

 

「はい、空、雲」

 

「そーら、くぅーも」

 

幼児の身体では呂律が回らず上手く発音出来ない為必死に言葉を反復練習する。

まさかこの年で単語の練習をする羽目になるとは。

こっちの公用語であるハンター語が、日本語として聞き取る事が出来たのが幸いだった。

そうやって平穏な一日を過ごしていたが、ある日その人は突然現れた。

 

「おぬしがシルバの子か」

 

髭を蓄えたおっさんに顔を覗き込まれ、思わずココさんの服の裾をギュッと掴む。

一日一殺と不吉な四字熟語が描かれた服を纏ったその人は、きっとゼノ・ゾルディックなんだろう。

背筋もシャンと伸びているため老人には見えない。

それもそうだ、今は原作より20年くらい前のはずだからだ。

俺はこの一年、イルミやミルキといった兄弟を見たことが無い。

それはまだ俺以外の兄弟が誕生していないという事なのだろう。

つまり俺は長男だ。

ゼノからしたら、初孫といったところか。

 

まじまじと顔を見られ、ふと頭を撫でられた。

 

「ふむ。銀髪の中に若干黒髪が混ざっておるな。素質はまずまずといったところか」

 

それってもしかして暗殺者としての素質って事ですか...

 

不吉な予感に改めてこの家族は暗殺一家なのだと思い出した。

もしかしてゼノが来たってことは...

 

「ルイ、今日から暗殺業の修行を始める」

 

俺の平穏な赤ん坊ライフは、到頭終わりを告げたらしい。

 

 

 

未だ足取りも覚束ない幼児に最初に与えられた修行は、感電だった。

最初は微弱な電気から始まり徐々にレベルを上げていく。

容赦ない電流が赤子の身体に流され、何時死んでもおかしくないくらいの衝撃を繰り返し毎日行われる。

数ヶ月後には100ボルトの感電を数分間耐えられるくらいの身体になった。

耐えられると言っても気絶しないだけで死ぬほど痛い。

離乳食のレベルも格段に上がった。

これまでの毒入りミルクが嘘かのように、嘔吐や腹痛に悩まされてココさんには何回も粗相の世話をしてもらった。

一般市民だった俺がそんな日々に耐えられず、例え精神は大人とはいえ、毎日ココさんに泣きつくのは当然だと思う。

 

「うっうっ...もういやだ…」

 

「ルイ様いけません、修行のお時間です」

 

困り顔のココさんは、俺に修行に行くように催促する。

彼女は修行に行かせるのも仕事の一つなのだろう。

それでも俺は精一杯拒否する。

ココさんは優しく俺の背を撫でて励ましてくれた。

 

「おい、ルイはまだか」

 

中々来ない俺に焦れたのか、ゼノが様子を見に来た。

 

「ゼノ様、それが...」

 

現状を説明する間も、俺はココさんから抱きついて離れない。

俺に前世の記憶がなかったら、ルイとして生を受けたならゾルディックとして、何の疑問も持たずに残酷な修行も受け入れていたのかもしれない。

それでも俺には前世の記憶がある。

逃れるもんなら逃げたい。

 

「...シルバの時は、こんなに嫌がらなかったのにのぉ」

 

蓄えた顎髭を撫でて、ゼノは思案顔をする。

 

「ルイ、お前はゾルディックの一員じゃ。その事実は逃れられん」

 

「いやだ...」

 

「なら取引といこうか」

 

取引...?

 

 

「ゾルディック家当主はシルバじゃが、いずれ次期当主を決める事になるだろう。

現状、後継ぎはルイしかいない。

しかしじゃが、これから産まれてくる子に跡継ぎとしての才能があるなら、お前をゾルディックから解放してやろう」

 

ゾルディック家から解放...?

 

「それ...ほんとう...?」

 

「勿論だとも。

但し、それまでお前はゾルディック家跡継ぎとしての責務を全うせよ」

 

ゼノの目は嘘偽り無く真実だと語っている。

ゾルディック家からの解放という言葉は、俺の希望だ。

 

つまりゾルディック家の歴史の中でもピカイチの才能を持つキルアが産まれれば、俺はこの家から解放されるということだ。

いや、キルアじゃなくてもよい。

イルミでもミルキでも、俺より才能があると認められれば俺は解放されるんだ。

 

いつか解放される、そう考えると俺は冷静になった。

涙もひっこみゼノの顔を見上げた。

ゼノは思いの外優しい表情をしていた。

 

「誓いをしようか、ルイ」

 

「ちかい?」

 

そういうとゼノは親指を歯で血が出るくらい噛み、こちらに向けた。

 

「ゾルディックの習わしじゃ。互いの血が滲んだ親指を合わせ、約束をする」

 

習った通りに親指に傷をつけると、ゼノの親指に合わせた。

 

「ルイ、お前は跡継ぎが産まれるその日まで、ゾルディック家として為せることを果たせ」

 

「...うん、わかった」

 

幸か不幸か、この誓いを立てた数日後、俺に弟が出来ることを知った。

 

 

 

 



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弟が出来た

3歳になりました、ルイです。

相変わらず死ぬほどキツい修行は続いているが、誓いのおかげか俺はそこまで鬱々としてない。

そして今俺の隣には、産まれたばかりの赤子がいる。

 

「うーん」

 

イルミなのか?この子

 

まだ顔の判別もはっきりつかない赤子を見て、俺は思案する。

朝から何やら騒がしいと思ったら、母キキョウは二人目の出産をしていたらしい。

ココさんから妊娠してるとは聞いていたが、気づけばもうそんなに時が経っていたのか。

毎日修行と軟禁まがいな事をされている為、外の情報どころか家の情報すら全く入ってこない。

 

 

「イルミ様という名前になったそうですよ」

 

「お帰りココさん」

 

ガチャリと開いたドアから俺の乳母兼、現在は家庭教師のココさんがやってきた。

その手には見たことがあるミルクの哺乳瓶セットが用意されていた。

赤子は予想通りイルミだったらしい。

俺とは違い薄らと黒髪が生え、母親似なことがわかる。

 

「母さんは?」

 

「キキョウ様は今は落ちついてらっしゃいますが、また仕事に戻られるそうです」

 

そういや俺が産まれたばかりの頃も、すぐに暗殺業に復帰したと聞いた。

滅多に会えない様子を察するに、シルバもキキョウもうちの家族は暗殺業が忙しいらしい。

理由なだけに繁盛していると喜ぶべきなのか微妙なところだ。

 

ココさんの手ずからミルクを飲む赤子を見て、この子が将来あのイルミになるなんて到底思えなかった。

 

 

「可愛いね、ココさん」

 

「はい、可愛いですね」

 

 

慈愛に満ちた彼女の表情を見ていると、キキョウとココさん、どちらが本当の母親なのか疑わしくなる。

まぁ俺にとってのこの世界の母は、間違いなくココさんなのだが。

 

 

「またココさんが乳母になるの?」

 

「そうなると思ったのですが、私はルイ様の家庭教師でもありますし、明日からはイルミ様専用の乳母がつきます」

 

 

ココさんが乳母ならイルミも人格捻じ曲がらないんじゃと考えたが、そう上手くはいかないな。

俺的にはイルミが才能を遺憾無く発揮してくれた方が、跡継ぎ候補から外されるため嬉しいが。

そのためにはイルミに俺より強くなって貰わなければ。

 

 

ミルクを必死に飲む手持ち無沙汰なイルミの掌に、思わず自分の指を握らせる。

小さな自分の手よりもっと小さいイルミにギュッと握られ、俺の頬は緩んだ。

 

 

そういや俺、前世では一人っ子で、ずっと歳の近い兄弟に憧れてたんだ。

 

この子も一年経てば、俺と同じく地獄の修行が始まる。

原作イルミは俺と同じく、長男としての責務を果たせと、幼い時より何の疑問も持たずに言われてきたのだろう。

イルミも長男じゃなく、俺の弟としてなら、あんな風にならないかもしれない。

この子の人格形成に良い影響を与えれたらいいな。

そう、ルイは少しばかり願った。

 



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【未来のはなし:sideイルミ】①

*この話は本編より少し未来の話です。
本編とは関係なくなるかもしれないくらい病んだ話です。

時系列的には ルイ 13〜15歳
       イルミ10〜12歳 ぐらいの時の話
ミルキは消失中
残虐描写有り閲覧注意


 

 

オレには三つ歳上の兄がいる。

オレも、兄であるルイも、ゾルディック家として一流の暗殺者になるため育てられた。

 

兄さん、と声をかけると、ルイは嬉しそうに俺の元へと駆け寄ってくる。

今日はどんな事があったか、何をしたか報告すると、随時逐一反応を返してくれる。

オレの周りは同じことを言う人形みたいな人間しかいないから、ルイはオレの話を聞いてくれる貴重な“生きた人間“だ。

 

ルイはゾルディック家に似つかわしくなく、感情表現豊かだ。

それは暗殺業を生業としているオレたちにとってマイナスだ。

例えばターゲットに情を移すかもしれない。

けどオレはルイが笑っているところが好きだった。

 

 

ルイは、いつもオレに向かって言う事がある。

 

もっと強くなれ

 

でも兄さんも強くならないと、跡継ぎ候補をオレにとられちゃうよ?

そういうと、ルイはすごく困った顔をした。

正直、オレはもうルイより強い自信がある。

それでも時折勝負をして負けるのは、経験の差だと考えた。

だからオレは沢山仕事をした。

殺しの技術ならルイに勝っていると、じいちゃんや親父にも褒められた。

その事を報告すると、ルイは酷く哀しそうな顔をしていた。

 

 

どうして?

ルイに言われた通り強くなったのに。

 

 

考えても理由がわからなかった。

だから親父にお願いして、それまで以上に暗殺業の仕事をさせてもらった。

沢山仕事をこなせるようになったら、きっとルイもオレを褒めてくれる。

オレは仕事に明け暮れて、いつしかルイと会わなくなった。

 

 

 

ルイと話さなくなって数年後、オレたちに新しい兄弟が産まれた。

 

名前はキルア・ゾルディック。

父さんがゾルディック家始まって以来の逸材だと、キルアを抱きながら嬉しそうに言った。

 

確かに、その髪からはゾルディック家の血脈となる銀髪が煌々と輝いていた。

ルイも銀髪だが、彼には所々黒髪が混じっている。

才能としてなら、キルの方が上になるのかもしれない。

ルイもオレも、後継者候補からは外れるけど、ゾルディックの繁栄が約束されるのは願ってもないことだ。

繁栄するということは、ゾルディックは永遠に終わらない。

つまりずっとルイと一緒にいられる。

だからオレはキルを一流の暗殺者に育て上げようと、彼に修行をつけた。

 

キルもルイ程ではないが、よく感情を露わにする。

それは影でこっそりルイがキルアと話している影響かもしれない。

 

 

キルは跡継ぎなんだから、ダメなのに。

 

 

 

そうして日々過ごす中、久しぶりに話したルイの口から出たのは、思いもよらぬ言葉だった。

 

 

 

「家をでるの?」

 

「うん、キルがいるし、もういっかなーって」

 

 

 

 

そうしてオレはルイと爺ちゃんが昔交わした約束を教えてもらった。

跡継ぎが他に決まったら、好きにしていいって何それ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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【②】

 

爺ちゃんに尋ねると、そういや昔、ルイが余りにも拷問訓練を嫌がるからそんな約束したわい、と白状してくれた。

父さんも母さんも知らなかったらしい。

母さんは発狂してたけど、爺ちゃんが血の誓いを交わしたから止める事は誓いを破ることになる。ゾルディックとしてそれは出来ん、とルイの自由にさせる事になった。

父さんも母さんもキルがいるから、そこまでルイに拘らないらしい。

 

本当に出ていくの、兄さん

 

そう尋ねると、ルイはたまに帰ってくるから、とオレの頭を撫でた。

昔はよく撫でられたが、最近はめっきりその回数も減っていた。

どうしてか胸が急に熱くなった。

風邪でも引いたかな。

 

 

 

 

刻一刻と、出立の日が近づいていた。

会話が無くなった少し前が嘘だったかのように、ルイとオレは色々話すようになった。

ルイは出立前に家族と思い出を作るみたいに、父さんと母さん、爺ちゃん、そしてミルとキルとも、ずっとしゃべっていた。

オレは仕事を増やしてもらってからあんまり家に帰れなかったけど、直ぐに終わらせて出来るだけルイと話す時間を作った。

 

仕事を終わらせて家に帰ると、ルイはほぼ自室に居らず、とある部屋に居た。

そこはルイの乳母に与えられた自室で、中にはルイと乳母がいる。

2人は時間が空けばここで談笑している事を知っていた。

 

ルイはその部屋でこの乳母に育てられた。

乳母としての役割が終わってからも、教育係としてずっとルイの側にいた女だ。

名前を確か、ココと言ったか。

40に差し掛かった彼女は、ルイの希望で未だにゾルディック家で使用人として働いていた。

彼女は何の力も持たない、一般人だ。

しかしルイが彼女を気に入っている事は周知の事実だった。

 

何がそこまで兄が気にいるのか、不思議に思って調べた事がある。

 

ココ・ヴェネット 41歳

ルイが産まれる為使用人を募集した際、若く健康だった為、見事乳母として採用されたらしい。

彼女はここが暗殺一家と知らずに応募して、知った時はさぞ驚いたようだ。

家族とは他界し、住み込みの働き先を探していただけの、何の変哲もない平凡な女。

たまたまルイに気に入られて、こうやってルイの時間をオレから奪っていく女。

 

あれ、何だろこの気持ち

どうしてこんなに、腹が立つのだろう

 

 

「あれイルミ?どうした、そんなドアの前に突っ立って」

 

談笑を止めて、オレに気づいたルイが話しかけてきた。

 

殺気でバレちゃったのかなぁ

 

なんか今すごいイライラしてるし

 

 

女はオレを見ると、スッとルイから一歩下がって頭を下げた。

使用人なのだからそれが当然なのだ。

 

 

「何を話してたの」

 

ルイはわざわざ女の方を見るとニコっと微笑んだ。

 

「俺、もう少しで家出るだろ?

ココさんにはこの家でずっとお世話になりっぱなしだし、

どうせならココさんも一緒にどうかなって」

 

「…どういうこと」

 

言っている意味が全然理解できない。

 

 

「...ルイ様が私を旅に誘ってくださったのですよ。私には大変勿体無きお言葉で…」

 

 

そう女がふふっと笑った瞬間、オレの目の前は真っ赤に染まった。

 

 

「...イルミ、おま...何して」

 

 

体中が女の返り血で染まる。

感情のまま肉体を操作した爪を振ったせいで、暗殺者としては最低レベルの死体が、そこに出来上がった……、

 

かの様に見えたが、寸でのところでルイが彼女を退かし、致命傷を避けられた。

彼女の左腕は、千切れて床に吹き飛んでいた。

何が起きたのかショックでマトモに話せないのか、震えた声でルイ様…と呟くとそのまま意識を失った。

 

 

「…ゴトー!!」

 

ルイはすぐさま使用人を呼び出して彼女の手当てを頼んだ。

 

お願いします、ココさんを助けてください

 

そう必死にお願いするルイ。

その間オレは一時もルイから視線を外さなかった。

 

 

 

 

喧騒が遠のき、オレとルイは血塗れの部屋に2人きりになった。

 

 

「…どうしたんだよ、イルミ」

 

ルイは怒るでもなく、泣きながらオレに理由を問いただした。

 

 

「兄さん、オレの事殺さないの?

オレ、兄さんが止めなかったら、確実に殺してたよ」

 

「違う、違うよ、そうじゃ無いんだよ」

 

「あーあ、兄さん

そんなに泣いたら暗殺者として失格だよ」

 

そう揶揄すると、ようやくルイは怒りを露わにした。

 

 

「ふざけるな!お前自分が何したか分かってんのか!!」

 

「兄さんの方こそ、自分が何したか分かってるの」

 

「何って、俺は何も」

 

ハッとして、まさかという顔をされた

 

 

「お前、俺がココさんと旅に出るって、それを聞いてから殺そうとしよな...そんなことで」

 

「そんなこと?そんなことって何。

何で家を出るって一人で決めたの?オレは許可してない。

許可なんかするはずも無い、だって家族でしょ?

ゾルディック家長男として、兄さんはククルーマウンテンから離れちゃダメだよ。

爺ちゃんと血の誓約したから?そんなのオレが許さないよ。

兄さんはここから離れられない」

 

 

あぁ、そっか

ムカついてたのは、ルイがオレから離れるって言ったからか

 

言いたい事をいい終えてスッキリしたから、ルイの方を見ると、酷く狼狽している様だった。

真っ青な顔は可哀想だけど、オレはとある考えを思いついて、ルイに止めを刺した。

 

 

 

「兄さん、街に友達いるよね」

 

「え…」

 

ルイは誰にも言ってない隠しごとがある。

たまに家を抜け出し街に降りると、暗殺者としてではなく、只の一般人として街の住民たちと馴染んでいた。

知ったのはつい最近だ。

ルイが暗殺業を抑え、街に降りる回数が増えたせいか、たまたま目撃した。

オレはなぜそんなことをしているのか不思議だった。

今ならわかる。

いつかゾルディックから解放された時、一般人に紛れ込めるように随分昔から計画していたのだ。

 

 

「そいつら、全員殺してくる」

 

「...そんなことをしたら、俺はお前を許さない」

 

ルイから殺気が漏れる。

それでもイルミを殺すと断定しないのは、ルイの優しすぎるからだ。

オレはルイみたく優しくないから、その優しさを利用する。

 

 

「兄さんが......ルイが、この家から離れないって誓ってくれるなら、オレは何もしないよ」

 

「…血の誓約ってことか?」

 

「うん」

 

昔爺ちゃんと誓った約束を、今度は違う形でオレと約束して

 

そうお願いすると、張っていた殺気を収めてくれた。

そして親指を噛みちぎるとこちらに向けた。

 

「約束しろイルミ。俺がこの家から出ない代わりに街のひとたちにも、ココさんにも手を出さないと、誓え!」

 

「約束する」

 

互いの親指を合わせ、ゾルディックの誓いは完了した。

 

 

ルイはオレの言葉を聞くと直ぐに部屋を飛び出した。

きっと女の元へ向かったのだろう。

 

「あー、兄さんが優しい人でよかった」

 

イルミはルイがの血がついた親指を舐めると、顔には出さずに安心した。

 

これで兄さんとずっと一緒だ。

 

 

 








自覚のない、病み


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暗殺業

 

 

「にいさん」

 

「はーいお兄ちゃんですよ〜」

 

どうも、弟との数少ない触れ合いを堪能しているルイです。

ゾルディックに産まれて五年が経ちました。

相変わらず無茶苦茶な拷問訓練と暗殺業の修行は続いてますが、何とか耐えてます。

そして本日はシルバとお出かけなので、そろそろイルミと離れないといけません。

出来るなら行きたくない。

 

 

 

数ヶ月前からシルバの暗殺業に同行することになりました。

と言っても横で気配消して見てるだけだが。

まだまだ暗殺者として未熟な俺に人を殺せない。

人が死ぬ瞬間なんて本当に見たくなかった。

シルバは一滴の血も流さず声も上げさせず、静かに暗殺する事に長けていたのは良かった。

お陰で目を背けて怒られる事も無く、今日も無事仕事が完了した。

 

 

「ありがとうございます、彼の仇がとれました......!」

 

 

涙ながらにお礼を言う依頼者に、シルバは言葉少なに対応する。

今回のターゲットは、依頼者女性の彼氏を殺した男だった。

とどのつまり、復讐の為に依頼されたのだ。

ゾルディック家の暗殺依頼は裏組織の顧客が殆どだが、金になるなら一般人の暗殺依頼も受けることがある。

 

シルバは口座に支払われた大金を確認すると、直ぐに依頼者の元を去った。

俺は帰り際にチラりと依頼者の方を確認した。

彼女は泣きながら、でもどこか達成感に満ち溢れた表情で、こちらを見送った。

 

ゾルディックは金のためならどんな暗殺業も引き受ける。

しかし、地元では名家と慕われているという話を聞いたことがある。

それは自らの趣向で人を殺しているのでは無く、あくまでも仕事として殺しを生業にしているからであって

快楽殺人鬼とは別物だからだ。

 

人間とは不思議なもんで、時間が経てば環境に順応していく。

俺はいつしかそこまで暗殺業という仕事に抵抗を抱かなくなった。

そら前世の論理観からしたら嫌なもんは嫌だが、仕事としてなら引き受けてもいいんじゃないか、という結論に至った。

それはいずれゾルディックから解放される、という思いを占めているのが理由であろう。

 

 

「ルイ、イルミはどうだ?」

 

 

仕事に同行するようになってからは、シルバと話をする機会が増えた。

最近はもっぱら、拷問訓練を始めたイルミに関する話題が多い。

 

 

「すごいよ、まだ二歳なのに200ボルトの電流を余裕で流されてるんだ」

 

 

イルミはたまに逃亡していた俺とは違い、真面目に訓練を受けていた。

その甲斐あってか尋常ではないスピードで拷問訓練から体術に至るまで、教育課程をこなしている。

俺はさらにイルミに注目が行くべく、イルミがどれだけ凄いのかをアピールした。

 

イルミには申し訳ないけど、ゾルディックからの解放を期待してのことだ。

 

 

「そうか。

ルイは体術はそこそこだが、拷問に関しては余り成長が見られない様だな」

 

「......拷問は苦手だよ」

 

 

人が死ぬ量の電流流されたり、鞭でぶったたかれたり、好んでする方がおかしいって。

俺はMじゃない。

そんな事は言えないのが、このゾルディック家だ。

 

「この後は家族で食事をしよう」

 

「げ、母さん帰ってくるの?」

 

母親、キキョウは最初から変わらず微妙な印象が続いている。

元々流星街出身の彼女は、個人で暗殺業を商いしていたところをシルバに見込まれ、スカウトされゾルディック家に嫁いだ、とゼノに教えてもらった。

基本的に過度な殺生はしないゼノやシルバとは違い、キキョウの殺しはサイコ的なやり方が多いので、俺は彼女を好きになる事はないであろう。

 

「相変わらず、キキョウが苦手だな」

 

シルバは呆れたように言うと俺の手を引き、待機させていた使用人が運転する車に乗り込んだ。

 

 

 



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天使

「いつぶりかのぉ、家族全員で夕食を

 

「もう!!ルイちゃんったら何で私が選んだお洋服を着てくれないの!!」

 

...静かにせぃ、キキョウ」

 

 

ゼノの言葉は発狂した美女によって遮られた。

顔もスタイルも申し分ないのに、何故中身はこんなに残念なんだ。

 

 

「母さん、俺はゾルディック家の男だよ?一流の暗殺者に女装は似合わないよ」

 

そう申し訳なさそうに言うとキキョウはあっさり引いた。

彼女は暗殺者になる為といったら大体の事は納得してくれる。

その場で納得するだけでまた後日違う衣装が送られてくるのだが。

てか男に女物の着物を用意するな。

 

 

「ルイちゃんに似合うと思ったのに......」

 

「そのぐらいにしておけ」

 

家長のシルバが言うと、キキョウはそれ以上何も言わなかった。

今日はシルバ、キキョウ、ゼノ、イル、俺、更にひい爺ちゃんマハと、作中未登場のゼノの奥さん"ボタン"と総勢7人での晩餐会だ。

何でもない日にこれだけのメンバーが集まるのは初めてかもしれない。

席列は上座のシルバから始まり向き合うようゼノとマハ、キキョウとボタン、俺とイルミが座った。

向かいのイルはまだ二歳なのに落ち着いて席についている。

むしろボタン・ゾルディックの登場に俺の方が興奮していた。

そしてキキョウの隣は成り行きで俺だ。

イルミの隣が良かった...

 

軽い挨拶を済ませるとそれぞれ食事を行う。

毒入りスープを一口飲み、ほっと一息つく。

イルを見るとスプーンとフォークを駆使して上手に専用の毒入り幼児食を口に運んでいた。

 

うんうん、見てないうちに何でもできるようになったんだな、偉いぞイル。

誇らしげにイルを見ていると、視線に気付いたイルミがこてん、と可愛らしく首を傾げた。

 

きゃわわー!

親バカの気持ちがわかる!

 

緊張していた晩餐会も、イルミという天使のおかげで無事に乗り切った。

最後までマハとボタンが話すことは無かった。

 

解散して俺は真っ先にイルミの側に寄った。

少し話がしたいので部屋へと誘う。

 

「イル、ちょっと俺の部屋に来ないか?」

 

「いく」

 

二つ返事で了承したイルミ。

 

 

「兄弟仲が良いのはいいのぉ」

 

ゼノが微笑ましそうに二人を眺める。

俺たちは手を繋ぎ部屋へと帰った。

 

 

 

ベッドに向かい合い、イルミの顔をジッと覗く。

原作イルミとは違い二歳のイルは、黒目がちなぱっちりとしたお目めが愛らしいキュートボーイだ。

その瞳に陰りは見当たらず、ほっと息を撫で下ろす。

 

「にいさん、どうかしたの?」

 

「えっと、今日はイルとおはなしがしたいんだ」

 

目的はずばり、イルミの身辺調査。

ゾルディックは暗殺一家とは言っても案外普通の家庭だ。

原作イルミはゾルディックの中でも、性格の捻じ曲がりっぷりが異常に思える。

どこかで歪んだ原因や、イルミに心理的ストレスを与える要因があるのかもしれない。

せっかく俺が長男になったのだから、イルミを良い方向に導いて行けたら、と考えていた。

 

ということで、イルミといっぱいお話ししようの会はじまり〜

 

「最近なにか楽しいことはあった?」

 

「たのしいこと...うーん、あ!

 

ゼノじいに、じんたいのきゅうしょ、をおしえてもらったよ」

 

「へ、へぇ〜すごいね〜」

 

 

人体の急所って。

そりゃ勿論ゾルディックにいる限りは習うことだけど、それが楽しい事なのか......

 

忘れてたけど、俺もイルミもほぼ家に軟禁状態だった。

普通の子みたいに遊びに行った事が一度もない。 

敷地が山一体だから敷地内でなら遊んだことはあるけど、見張りの使用人と一緒だ。

家で毎日訓練と拷問と勉強。

 

こんな環境ならイルミの性格が曲がるのも無理なくね?

 

根本から悪いことに俺はようやく気づき、頭を抱えた。

 

「にいさん、あたまわるいの?」

 

イルミ君、心配してくれるのは嬉しいけどそれじゃあ俺の頭が悪いみたいだよ。

 

話を変えることにする。

 

「イルミ、今の生活は楽しいか?」

 

「うん、たのしいよ」

 

「そうか...」

 

 

そうなのか...これ俺が見ない間にイルミの洗脳教育完了してないか。

 

イルミは俺に近寄ると服の袖をつかみこちらを見上げた。

 

 

「にいさんといっぱいはなせるのが、たのしい」

 

 

ーーッ!!

 

 

この天使は俺を萌え殺す気らしい。

 

 

「うん、イル、そのままいい子に育ってくれよ」

 

「?」

 

「あ、でも俺よりは強くなれよ」

 

 

これは俺が解放される為の希望だが、イルミの生存確率を上げる為でもある。

今後原作通りの展開だと旅団とか蟻とか危険が俺たちの周りに渦巻くだろう。

厳しいハンターハンターの世界で生き抜くためには、原作イルミといかないまでも確固たる強さを手に入れなければ。

ちなみに変態とイルミが関わる可能性は俺が潰す。

何としてでも潰すぞ。

 

そうして俺たちは寝るまで話をすると、イルミを彼の使用人の所まで送った。

 

あ、身辺調査忘れてた。





ボタン•ゾルディックはゼノの奥さんでオリキャラですが、今後出てくる事はほぼ無いです。
名前も適当です。


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念の開花

 

ハンターハンターの世界で重要な力、念能力。

最近の俺は、座禅を組みオーラの流れを読み取る努力をしていた。

 

まだシルバたちが念を教えないのは、俺の身体が未完成だからだと思う。

キルアも12歳すぎてやっと自分で辿り着いたぐらいだし。

 

来るべき日に備えて、ゆっくり精孔を開くことを目標に、俺は一人で修行を開始した。

 

瞑想をはじめ一年になるが、未だに俺にはオーラのオの字も分からない。

ゾルディックの血を引いてる分血統は申し分ないのだが、そう一筋縄ではいかないか。

 

面倒なので家族には念を知らないふりしつつ、淡々と訓練をこなし戦闘スキルを上げていった。

 

 

その日、ルイはゼノに同行していた。

今日は暗殺ではなく、ゼノの古くからの知り合いに要人警護の依頼をされた。

裏組織との繋がりがあると、稀にこういった依頼もこなさんといかんとゼノは語った。

 

依頼者はマフィアのボスだ。

パーティーに出席する予定だが、とある筋から暗殺対象にされていると情報が入った。

 

「食事には手をつけるなと警告したから毒殺は出来ん。

必ず対象の近くに寄ってくる、もしくは離れた位置からの銃殺じゃ。

まぁワシがいるから無理だがな」

 

 

ゼノは依頼者の側で護衛する為いつもの服装は止め、スーツ姿で会場に潜り込んだ。

俺は指示された通り会場外の茂みで気配を消し、暗殺者の姿を探した。

 

一応目の届く範囲に依頼者がいる位置に潜み、不審な点は無いか注意深く探る。

ゼノが側にいる限り依頼が失敗する事は無いが、警戒は怠らない様にした。

そうして二時間が経とうとしていた。

 

 

 

「あれー、こんな所で何してるの?」

 

「...ッ」

 

 

突然背後から聞こえた声に一気に緊張が走る。

 

 

すぐに距離を取り振り返ると、見たことがない20半ばぐらいの男がその場に立っていた。

答える間も与えず男は話を続ける。

 

 

「あぁそっか、キミも銀髪のおっさんと同じ警備員さんってわけ?」

 

十中八九ゼノの事を言っているのだろう。

 

間違いない、こいつ同業者だ。

 

 

「怪しいよキミ、こんな所で気配消して隠れて。

 

まるで、暗殺者みたい」

 

 

獲物を見定めるようにゆっくり舌舐めずりされる。

瞬間体中から汗が吹き出した。

じっとりとルイの身体に纏わり付く不快感、これは...念か。

 

自慢じゃないが、俺は修行の成果で気配を断つことに自信をもっていた。

俺が見つかった理由は念の応用技、円(エン)に違いない。

 

 

「あのおっさん隙が無さすぎて、ターゲット諦めたんだよね。

多分オレより強そうだし。

 

依頼失敗、違約金高いだろうな〜」

 

 

「だからさ、キミで憂さ晴らしさせてよ」

 

 

「ッぅあ!!」

 

ルイでは到底追いつけないスピードになす術もなく、顔面に強烈な右ストレートをいれられた。

 

 

「キミいくつなんだろ?8歳くらい?

 

オレね、キミみたいな将来有望そうな子の未来奪うの、だーいすき」

 

 

 

初めての戦闘、しかも相手は自らの実力を理解し、冷静に暗殺を諦めた念能力者。

間違いなく今の俺では勝てない。

それでも戦わなければ、殺されてしまう。

 

 

 

「へぇ、驚いた。その歳でそんな高度な技術が使えるんだ」

 

 

肢曲(しきょく)。足運びに緩急をつけ残像を生じさせ、何人にも見える様に見せる技術。

ゼノも常に円を張っているはずだ、この事態に既に気づいているだろう。

これで時間稼ぎし、ゼノが来るまで持ち堪えるしかない。

 

 

「でも残念でした〜」

 

男が腕をバッと広げると、ルイの周囲に風が巻き起こった。

咄嗟に目をつむる。

足下の砂利が風で舞い上がる感覚がした。

 

「複数居ても、全部まとめて薙ぎ払えば一緒だよ、ね!」

 

右腕を大きく振ると、一斉に砂利や砂が意思を持ちルイに襲いかかった。

ルイは数メートル吹っ飛ばされ、木に激突した。

男の念能力をまともにくらい、ルイの意識は朦朧とした。

男が腕をもう一度振り上げた姿をみて、これから来る衝撃に備えた。

 

 

「ぁ...え...?」

 

「無事か?ルイ」

 

 

目を開けると、男の心臓を手に持ちこちらを窺い見るゼノの姿があった。

茫然と立っている男の目の前で心臓を握りしめると、男は事切れた。

 

良かった、間に合った。

 

ほっと息を吐いた時、己の身に異変が起きていることに気付いた。

全身から迸るエネルギーが自らの身体から出て行くのを感じた。

 

 

「ルイ、お主...」

 

目を細めたゼノに、ルイも思い当たった。

念を浴びせられ、精孔が開いたのだ。

先ほど受けた風圧は、念のオーラで作り出されたものだったのだろう。

このまま全身を迸るオーラを放置すれば、俺はそのうちオーラ不足で死ぬ。

 

 

「今すぐそれを収めねばいかん。ルイ、今からワシがいうことをよく聞け」

 

ゼノに言われるまでもなく、ルイは集中するために目を瞑った。

 

「血液の流れを意識するのじゃ」

 

頭から爪先まで血液が全身を巡るイメージ。

普段の瞑想が役に立った。

程なくしてルイの身体にピタリとオーラが張り付くのを感じた。

 

「やはり、お主はゾルディックの血を引いておる。

血の誓約は無効だろうな」

 

「勘弁してよ...」

 

ルイは一言言い残すと、その場に倒れ込んだ。

 

 

 



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