忠犬と飼い主~IF~もしもオリ主が黒の組織の幹部だったら? (herz)
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IF① 幹部、シンガニの帰還



 本作品を読む前に、1度読んで欲しい注意書きです!


・この作品は二次創作小説です。

・あらゆる妄想を詰め込んでいます。

・キャラ崩壊(主に赤井さんとジン)あり。

・オリ主が登場します。

・ご都合主義です。

・作者は名探偵コナンの原作を読んでいません。アニメも見ていません。
(映画を少し見た程度。あとはpixiv内のコナンの小説から得た情報のみです。)

・登場人物の口調がおかしいかもしれません。

・「」の中は日本語、『』の中は英語を話しています。

・忠犬と飼い主~本編~から派生したIF設定の話です。

・作者に文才はありません!


 以上の注意書きを読み、それでも構わない!という方は、どうぞ!

 楽しんで読んでいただければ幸いです(*´∀`)




・まだ赤井が黒の組織に潜入していた頃の話

・オリ主が組織の幹部

・ジンやウォッカやキャンティはオリ主にとって弟分、妹分

・アイリッシュは悪友

・オリ主とジンの距離が少し近い

・特にジンのキャラ崩壊あり







 ある日の真夜中。ライ、バーボン、スコッチはベルモットに呼び出され、黒の組織の拠点へと向かっていた。

 

 

「……ったく……こんな時間に呼び出しやがって……」

 

「まぁまぁ……しょうがないだろ。ベルモットの呼び出しを蹴ったら後でどんな目に合うかも分からないしさ」

 

 

 しかめっ面で不機嫌を隠そうとしないライを、スコッチが宥めていた。……そこへさらに、バーボンが噛みつく。

 

 

「ぐちぐち言うぐらいなら、あなただけでも先に帰ったらどうです?そうしてあなただけ酷い目に合えばいい。僕達は高みの見物をさせてもらいますので」

 

「帰るつもりならもっと早くに帰っている。お前こそ、普段よりも疲れているように見えるぞ?帰って休んだらどうだ?」

 

「…………それは、僕が先日のあなたの派手な行動の後始末をやらされたせいで疲れているのだと、理解した上での発言ですかね……!?」

 

「あの時はあれしか解決方法がなかったと何度も説明したはずだろ…」

 

「うるさい!黙れ!!」

 

「ちょっ、バーボン落ち着けよ……!」

 

 

 バーボンがライに噛みつき、ライがそれを煽り、スコッチが仲裁する。……これは、3人で行動するようになってから何度も繰り返されている事だった。

 

 やがて、バーボンを宥めたスコッチが話題を変えるために口を開いた。

 

 

「ところでさ。ベルモットの言ってた俺達に会わせたい人って、どんな人なんだろうな?」

 

「さぁ?見当がつきませんね。……しかし、関係があるかは分かりませんが……最近拠点内で、ある噂が広まっていると聞きました」

 

「ホー……さすがだな、探り屋」

 

「噂って?」

 

 

 バーボンは、意図的にライを無視してスコッチの方へ顔を向けた。

 

 

「……どうやら、近いうちに数年前から重要な任務を与えられていた幹部が1人、任務を終えて帰ってくるらしい、という噂でした。その幹部の名前は、確か――シンガニ、だったかな」

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 会話しながら拠点内の通路を進み、ある扉の前で止まった。そして、先頭にいたバーボンが扉をノックする。

 

 

「バーボンです。ベルモット、いますか?」

 

 

 ……足音が聞こえた後、扉が開いた。

 

 

「……来たわね。入りなさい」

 

 

 ベルモットが顔を出し、3人を室内に招く。……室内にはベルモット以外に6人いた。

 ピスコ、アイリッシュ、キャンティ、コルン、ウォッカ、ジン。……幹部のほとんどが集まっている。

 

 ウイスキートリオ……否、NOCの3人は気を引き締めた。……幹部のほとんどが集まる程の何かがあったのか。それとも、バーボンが聞いた噂が真実だったとしたら……シンガニという幹部がそれ程の重要人物なのか。

 いずれにせよ、油断はできないと考えていた。

 

 

(……しかし、だとしてもこの空気は何だ?)

 

 

 ライは他の幹部達の間で、緊張感のない緩んだ空気が漂っている事に違和感を持った。

 

 

(……いや。これは緩むというより、浮わついている……?)

 

 

 よく見ると、ライ達3人を除いた他の幹部達はそわそわしていたり、笑っていたりと機嫌が良さそうだった。……そう。全員が(・・・)

 

 

(――あのジンが笑っている、だと!?普段は悪人面でニヒルに笑う男が、口元を緩ませている……!)

 

 

 自身の事を棚に上げて驚愕したライは、どうにかその驚きを表に出さないように抑えた。そして、隣にいるバーボンとスコッチの様子を窺う。

 ……彼らもまた、2人揃ってジンがいる方向を2度見。驚く様子がシンクロしていた。しかし、すぐにそれを隠す……と、思いきやスコッチだけはジンをちらちらと見て気にしていた。それに気づいたバーボンが、こっそり肘でスコッチの体を小突く。すると、スコッチはすぐに視線をそらした。

 

 ライは、仲良しか、と内心でツッコミを入れた。

 

 

「……で。俺達に会わせたいって人はまだ来てないのか?」

 

「えぇ。……そろそろ来ると思うわ」

 

 

 その時、ライ達の背後にある扉からノックが聞こえた。

 

 

「シンガニだ。入ってもいいか?」

 

 

 扉の先から、男の低い声が聞こえた。

 

 

「……おい、お前ら。扉の前だと邪魔になる。どけ」

 

 

 ジンの言葉に従い、ライ達は扉の前から移動する。

 

 

「……いいぜ、シンガニ。入れ」

 

 

 ……扉が開き、シンガニと呼ばれた者が中に入って来た。……黒髪黒目の、女顔の男だった。体格は細く、身長は推定で180にギリギリ届く程度。見た目だけで判断すれば、年齢は20代後半といったところか。

 

 

(……優男だな。……しかし、全く隙が見えない。素人だったら見た目で油断していただろうな)

 

 

 ライがシンガニを見てそう思っていたところで突然、キャンティがシンガニに向かって駆け寄り、飛び付いた。首に腕を回し、腰に足を巻き付けてしがみついて来たキャンティを、シンガニが咄嗟に受け止める。

 

 

「お帰り、シンガニ兄さん!!」

 

「おっ、と!?……ただいま、キャンティ。だが、いきなり飛び付くな。受け止めたからいいものの、失敗して怪我でもしたらどうするんだ」

 

「えー、いいじゃないか!兄さんならアタイを怪我させる事なんてないだろう?」

 

「確かにそうだが、お前は女なんだから、傷物になったら一大事だ。気を付けろよ?もちろん、お前が強い女で頼れる仲間だって事はよく知っているがな」

 

「……っあぁ、もう。シンガニ兄さんは相変わらず人たらしだねぇ……!そこがいいんだけど!」

 

「ぐっ、ちょっと待てキャンティ。腕と足の力が強くなってるぞ。締まってる、締まってるって……!」

 

 

 シンガニに飛び付いたキャンティを見て、ライ達3人が目を見開く。

 彼らがこんなにもはしゃいでいるキャンティを見るのは、ライフルを手にしている時を除けば初めてだった。

 

 そこへコルンが近づき、キャンティを羽交い締めにしてシンガニから引き離した。

 

 

「あ、ちょっとコルン!何するんだい!?」

 

「……シンガニ、苦しそう」

 

「え?あ、あぁ!ごめん兄さん」

 

「いや、気にするな。……久しぶりだな、コルン。元気だったか?」

 

「……ん。元気。……任務、お疲れ」

 

「あぁ。ありがとう」

 

 

 シンガニ達が3人で和やかに会話しているとアイリッシュがやって来て、シンガニの肩に腕を回し、一方的に肩を組んだ。

 

 

「よぉ、女顔のシンガニちゃん。久々だな!」

 

「おう、変眉アイリッシュ。久しぶり」

 

「相変わらず男のくせに切れ長目の美人だな。元気そうじゃねぇか」

 

「美人言うな、その強烈眉毛を引き抜くぞ。お前こそ元気そうで何よりだ」

 

「やめろよ、お前が言うと洒落にならねぇ。……お帰り」

 

「ははっ!……ただいま」

 

 

 その後、アイリッシュと軽口を言い合っていたシンガニに、ピスコが話し掛ける。

 

 

「シンガニ」

 

「あ、ピスコさん。お久しぶりです」

 

「おう。……悪いな。そいつはお前が帰って来ると聞いた日からちっとも落ち着いてくれなくてな。ようやく再会できて喜んでいるようなんだ」

 

「なっ、別にそんな事は…!」

 

「ない、と言いきれるか?アイリッシュ」

 

「…………」

 

「あらあら。図星だったのね」

 

「ん、ベル姐さんか。久しぶり」

 

「えぇ。お帰りなさい、シンガニ。あなたともっと話したいのは山々なんだけど……彼、そろそろ限界みたいよ」

 

「彼?」

 

 

 次にベルモットと話し、彼女の視線の先を辿った。……すると、そこにはシンガニが来る前までの上機嫌は何処へ行ったのか、不機嫌な様子でシンガニを見つめるジンがいた。ウォッカはその隣で冷や汗を流し、おろおろとしている。

 

 

「……あぁ、ジンか。悪いな、すっかり忘れてたわ。あとウォッカも久しぶり」

 

「へ、へい!お久しぶりです、シンガニ兄さん」

 

 

 幹部達の様子に目を白黒させて驚いていたライ達だったが、シンガニのジンに対する態度を見て、さらに驚いていた。そして小声で会話する。

 

 

「……え、ちょ、あの人殺されるんじゃないか……!?」

 

「ジンに対してあの言動……かなり肝が据わっていますね……」

 

「さて……どうなることやら」

 

 

 そして、しかめっ面をしていたジンが口を開いた。

 

 

「…………忘れてた、はさすがにどうかと思うぜ。普通は1番(・・)付き合いの長い弟分(・・)の俺に、真っ先に声を掛けるもんだろうが」

 

「それよりも先にかわいい妹分が飛び込んで来たんだから仕方ねぇだろ?」

 

「……ちっ……相変わらず女子供に甘いな、あんたは」

 

「男としては当然だと思うがな。……俺がいない間、何か問題はあったか?」

 

「いや、特にない。いつも通りだ。……ただ、」

 

「ん?」

 

「あんたがいないせいで、味気なかった」

 

「はっ?」

 

 

 思いがけない言葉を言われ、シンガニがきょとんとした表情でジンを見る。すると、ジンはその顔を見た瞬間、噴き出した。

 

 

「っふは……!く、ふふ、ははっ……!」

 

「!?……おぉ、珍しい。ツボに入ったか?」

 

「ふっ……あんたっ、その顔……!なんだその、間抜け面…っ……」

 

「……うるせぇな……俺だって今間抜け面さらしたなぁって自覚したところなんだよ……」

 

 

 ……唖然と、その様子を見ているウイスキートリオ。呆れた、とでも言いたげな様子を見せるベルモット、キャンティ、コルン、アイリッシュ、ピスコ。そしてあからさまに安堵した様子を見せるウォッカ。

 

 ……しばらくその状態が続いていたところで、ソファーに座っていたジンが笑いを抑え、自分の隣の席を示してシンガニを座らせた。

 そして、誰かを隣に座らせるジンに対してまた驚いているライ達に顔を向ける。

 

 

「……お前ら3人、前に来い」

 

 

 そこで呼び出された理由を思い出した3人は、ジンとシンガニの前に並んだ。

 

 

「……シンガニ。こいつらは最近あの方からコードネームを与えられた3人だ。……おい。1人ずつ簡単に自己紹介しろ」

 

「では、僕から。……コードネームはバーボン。探り屋の役割を任されています。以後、お見知り置きを」

 

「……じゃあ、次は俺で。コードネームはスコッチです。スナイパーやってます。どうぞよろしく!……で、最後の1人が…」

 

「……ライだ。同じく、スナイパー」

 

「……え?それだけかよ、ライ……こう、なんか一言ぐらい……」

 

「一言……そうだな。それなら……あんたとジンはどうゆう関係なんだ?」

 

「ちょっ!?」

 

「この馬鹿……!」

 

 

 スコッチとバーボンが、遠慮のない物言いをしたライに対して焦っている。

 案の定、一気に不機嫌になったジンが立ち上がろうとするが、それをシンガニが軽く抑える。

 

 

「まぁ、待てジン。落ち着け」

 

「だが、シンガニ……」

 

「俺は物怖じしない奴は嫌いじゃない。それに、遠慮がないからって目くじらを立てる程でもないだろ。関係を聞かれただけだ。……あぁ、ちなみに俺にとってのジンは1番付き合いの長い奴で、1番最初の弟分だな」

 

「……弟分?……どう見てもジンとあんたは同い年ぐらいに見えるんだが」

 

「ふむ……俺は何歳ぐらいに見える?」

 

「……27か28ぐらい」

 

「…………っは」

 

 

 シンガニの年齢を予想したライに対して、ジンが鼻で笑った。ライはそれを見て眉をひそめる。

 その様子に苦笑いしたシンガニが口を開いた。

 

 

「……残念。外れだ。正解は既に三十路を過ぎている」

 

「……は?」

 

「え?」

 

「み、三十路!?」

 

「はは……初対面だと毎回そういう反応が返ってくるんだよなぁ……」

 

「まぁ、20代の頃に10代だと勘違いされて補導されそうになるぐらいには童顔だからな、お前」

 

Shut up(黙れ)アイリッシュ。……おっと。俺も自己紹介しないとな」

 

 

 そう言って、シンガニが微笑む。

 

 

「コードネーム、シンガニ。スナイパーだ。数年前からボスの命令で日本から離れていたが、ようやく戻って来れた。日本を離れる前はキャンティ、コルンと組んでいたが……今後はどうなるかな。まだボスから指令が届いていないからなぁ……あとは、それなりに古株だ」

 

「……それなり……?」

 

「いやいや兄さん。組織の構成員になってそろそろ20年経つあんたが何言ってんのさ」

 

「ほら、ピスコさんと比べたら俺なんてまだまだ青二才だから」

 

「そんなもん、ここにいる奴らは全員同じだろ……」

 

 

 シンガニの事を知っている面子は揃って呆れていた。

 

 そんな中、シンガニの事を知らなかった3人のNOCが驚愕する。……20年。それはつまり、シンガニが組織の一員となったのは10代の頃、という事になる。

 

 

(……それ程前から組織に……一体、どんなきっかけがあってそうなったんだ?)

 

 

 ライがそう思っていると、ジンがソファーから立ち上がった。……何故か、シンガニの腕を掴んでいる。

 

 

「……顔合わせは済んだ。もういいだろう。行くぞシンガニ」

 

「は?あ、おい、引っ張るなよ!」

 

 

 そのまま引きずられ、シンガニはジンと共に部屋の入り口へ。

 

 

「ちょっと待ちな、ジン!シンガニ兄さんを独り占めする気かい!?」

 

「おい、てめぇ!勝手にそいつを連れて行こうとするんじゃねぇよ!!」

 

「そうよ、ジン。私だって彼と話したい事がたくさんあるんだけど?」

 

「そんな事は知らん。どうでもいい」

 

「はぁ!?」

 

 

 他の幹部達が文句を言う中、それに対して聞き耳を持たなかったジンは、ふと、振り返る。

 ――次の瞬間。とてつもない威圧感が、ジンから放たれた。……殺気だ。それは主に、ライ達3人のNOCに向けられていた。

 

 

「……今のうちに警告してやろう。もしもシンガニに……俺の兄貴分に手を出したら問答無用で殺すぜ?それも、ただ殺すんじゃない。ありとあらゆる拷問で精神的にも肉体的にも――殺してやる」

 

 

 ……まるで、呪詛のように呟かれたその言葉は、その場にいた者達の背筋を凍らせた。強い殺気に誰もが息苦しさを感じていたその時……

 

 

「――ジン。やめろ」

 

 

 凛とした声で、シンガニがジンにそう声を掛ける。すると、ジンはすぐに殺気を収めた。

 

 

「……やれやれだ。……すまなかったな、お前達。こいつ本当に短気な奴でさ……」

 

「い、いえ……」

 

「だ……大丈夫、です」

 

「…………別に」

 

「ん、そうか。本当に悪いな」

 

 

 それからすぐに、シンガニはジンに声を掛ける。

 

 

「ほら、ジン。どこに行くんだ?しょうがねぇから付き合ってやるよ」

 

「飲みに行く」

 

「いつものバーか?」

 

「いや。あそこは潰れた」

 

「え?……うわー、残念だなぁ……」

 

「代わりに、もっと良い場所を見つけた」

 

「おぉ。お前がそう言うなら信用できるな。そこに行くのか?」

 

「今日は定休日だ」

 

「はい?じゃあどうすんだよ」

 

「俺の家か、あんたの家か」

 

「俺の家、長らく空けてたから埃だらけだぞ。今度手を貸してくれ。掃除したい」

 

「それは構わないが……それよりもこの際、俺の家に住めばいい」

 

「だからそれは遠慮するって前から…」

 

「じゃあせめて今日は泊まれ」

 

「え、いやでも…」

 

「あんたのために保存してある年代物のワインがあるが?」

 

「お世話になります」

 

「よし」

 

 

 そんな会話をしながら、2人は部屋を後にした。

 

 

「…………何ですか、あれは。本当にジンなんですよね……?」

 

「その……はずだけど……」

 

「……変わり過ぎて気持ち悪い」

 

「初めてあなたに同意しますよ、ライ」

 

「俺もそう思ったわ」

 

 

 

 

 

 

 





・忠犬の飼い主改め、黒の組織の兄貴分

 コードネームはシンガニ(蒸留酒)。20年間組織に所属しているベテランで、役割はスナイパー。または、狂犬達(ジン、キャンティ、コルン)のストッパー。持ち前の人たらしスキルによって、弟分と妹分を量産している。

 最近の悩みは、1番最初に弟分になったジンが過保護である事。


・兄貴分を独り占めしたい過保護な弟分

 人たらしな兄貴分にコロッと堕ちた弟分。チョロ……ゲフン、ゲフン。
 1番付き合いが長いせいか、他の弟分や妹分よりもオリ主に心酔しており、ジンの中ではあの方に並んで優先すべき相手であると認識されている。

 兄貴分に手を出す奴は抹殺する所存。







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IF② 黒に染まった銀の弾丸



・黒の組織壊滅作戦中の話

・オリ主とジンの設定は大体IF①と同じ

・赤井さんが組織に寝返る

・オリ主と赤井さん、もといライの距離が近い

・ライとジンのキャラ崩壊あり




 

 

 ……それはあまりにも、突然の出来事だった。

 

 黒の組織壊滅作戦は大詰めとなり、気が急いてしまった江戸川コナンは、たった1人で組織の拠点内部に侵入してしまった。そしてそれを予期していたかのように、仲間の1人が彼の目の前に現れる。

 コナンは、その人物の事を心から信頼していた。だからこそ、彼が自分の護衛を勤めると申し出てくれた時、2つ返事でそれを了承した。……彼が自身の背中を守ってくれる。それだけで、コナンは安心していた。

 

 その事実が、コナンを油断させたのだ。

 

 

「……どうして……どうして、あなたが……!?」

 

 

 その突然の出来事は、コナンと彼を護衛していた人物が、降谷を始めとした他の仲間達と合流した時に起こった。

 コナンが彼らの元に駆け寄ろうとしたその時、背後から誰かに抱き上げられ、頭に銃口を突き付けられたのだ。……彼の背後にいたのは、彼を護衛していた人物だけ。

 

 

「なんでだよ――赤井さん……!!」

 

「……くくっ……悪いな、ボウヤ」

 

 

 悲痛な声を上げたコナンを拘束したのは、今まで彼を護衛していた人物……赤井秀一だった。

 彼は冷笑を浮かべ、コナンを見下ろしている。

 

 

「……赤井!!貴様どうゆうつもりだ!?コナン君を解放しろ!」

 

「断る」

 

「何を言ってるのよ、シュウ!その銃を下ろしなさい!!」

 

「その通りだ!銃を下ろせ!!」

 

「コナン君を放してください!」

 

「赤井君!!馬鹿な真似はやめるんだ!」

 

「だから……っあぁ、もういい。面倒だ。……おい、ジン!いるんだろ?さっさとそいつらを拘束しろ!」

 

「……ちっ。お前に指図されなくとも分かってる。……お前ら、行け!」

 

 

 いつの間にいたのか、赤井の声にジンが応え、下っ端に降谷達を捕らえさせる。コナンを人質に取られていた彼らは為す術もなく、簡単に拘束されてしまった。

 その後、コナンも赤井に腕や足を鎖で縛られ、降谷達が拘束されている場所まで連れて行かれた。

 

 

「……っ赤井秀一ィィ!!貴様、何故こんな事を……!」

 

「何故?……っは。お前のその立派なおつむで考えれば、すぐに分かる事だろ?……あぁ、それと。今の俺は赤井秀一じゃない。――ライだ」

 

「なっ……!?」

 

 

 その言葉に、誰もが青ざめる。その中でコナンが震える声で問い掛けた。

 

 

「赤井、さん……裏切ったの……?」

 

「……裏切る?……くくくっ……!!」

 

「……何がおかしいんだ、赤井!!」

 

「くっ、ははっ!……そりゃあおかしいだろ。なんせ――俺はそのガキと出会った時には、FBIを裏切っていたからな。出会った時から味方じゃなかった。つまり、裏切るも何もないって事さ……あぁ、笑えるな……!」

 

 

 そう言って、赤井……否、ライは嘲笑う。

 そんな彼の言葉を聞いてコナンは口を閉ざし、項垂れてしまった。逆に、降谷は怒りを募らせて口を開いた。しかし、その時、

 

 

「――ライ」

 

「!!」

 

 

 男の声が聞こえた。はっと振り返ったライは、その声の主の姿を見てキラキラと輝く笑顔を見せる。……嬉しくて堪らない。そんな表情だった。

 それを見たコナン達は驚愕し、目を疑った。

 

 

「マスター!!」

 

 

 ライは男の事をマスターと呼び、その側に駆け寄る。

 

 

「あいつは……!!」

 

「降谷さん、知ってるの!?」

 

「あぁ……君にも教えただろう?奴がシンガニだ!」

 

「!?……あの人が、シンガニ……!」

 

 

 コナンは、黒の組織にシンガニという幹部がいる事を、降谷から聞いていた。

 

 ……20年以上組織に所属しているベテラン。截拳道(ジークンドー)やパルクールの使い手で、スナイパーでもある。組織の一部の幹部達からは、ジンを筆頭に兄貴分として慕われている……など。

 

 いくつかの情報が思い浮かんだが、視線の先でライがシンガニの目の前で片膝をつき、頭を垂れる姿を見て、再び驚く。……一目で、相手に忠誠を誓っている事が分かった。

 

 

「マスター。あなたの命令を完遂させました」

 

「そのようだな。……Good boy(良い子だ)、ライ。よくやった。後でご褒美あげないとな……何がいいか、考えとけ」

 

「!?俺が決めていいんですか……?」

 

「あぁ。しっかり働いてくれたからな。ご褒美もそれに釣り合う物にしないと。……1つだけ、何でも言う事を聞いてやろう」

 

「何でも……!?」

 

「そう。……あ、でも俺ができる範囲でな。それから1つだけだぞ」

 

「っ……はい……っはい、ありがとうございます!!」

 

「……くくっ……そんなに嬉しいか?」

 

「はい!」

 

「そうか、そうか」

 

 

 よしよし、と満足げに微笑んだシンガニがライの頭を撫でる。

 ライが大人しくされるがままに撫でられている様子だけでも驚愕すべきだと言うのに、さらにライが犬のようにシンガニにすり寄ったため、コナン達は拘束されているのも忘れて唖然としていた。

 

 その時、ライを撫でているシンガニの元にジンがやって来て、小声で話し掛ける。

 

 

「……シンガニ」

 

「ジンか。何だ?」

 

「次はどうするんだ?」

 

「あぁ……とりあえず、拘束した奴らを最下層で監禁しておけ。見張りを置く事を忘れるなよ」

 

「分かってる」

 

「それと、女と子供はできる限り丁重に扱うように。……まぁ、これに関しては俺が勝手に希望してるだけだから、無理にとは言わねぇが……」

 

「……あんたがそう言っていた事を伝えれば、下っ端達は素直に従うだろうな」

 

「それは知ってるが、仲間を傷つけられて腹が立っている奴もいるはずだからな。そいつらに関しては無理にそうしろとは言わない、と皆には伝えてくれ。……ただし、あのガキ……江戸川コナンだけは、乱暴に扱うな」

 

「何故だ?」

 

「――ボスがそう望んでいる」

 

「!?……あの方が?」

 

「あぁ。……ボスの最終目標への、手掛かりになるかもしれない、と言っていた」

 

「……不老不死……!」

 

「そうだ。……さて。俺は事の次第をボスとラムに報告してくるから、後の事は頼んだぞ」

 

「了解」

 

「……というわけだから、ライ。お前はお留守番だ」

 

 

 ジンとの会話中にもシンガニの体にすり寄っていたライは、最終的にシンガニの背後から彼の頭に自らの顎を乗せ、彼の腰に腕を巻き付けるという状態で落ち着いていた。

 ……そんなライの事をシンガニは止めることもなく、むしろあやすようにその腕をポンポンと叩いている。

 

 

「…………もう少しだけ、このままがいいです」

 

「……そう、だな…」

 

「駄目に決まってんだろうが」

 

 

 捨てられた子犬のような目で見つめてくるライに、シンガニの心が揺らぐ。しかし、ジンがそんな彼からライを無理やり引き剥がした。

 

 

「ジン、何しやがる!?離せ!!」

 

「うるせぇ、喚くな駄目犬。シンガニの仕事の邪魔をするな。……大体、お前はいつもいつも俺の兄貴分から甘やかされやがって、何様のつもりだ……!!」

 

「……あぁ、なるほどな。ただの嫉妬か」

 

「あ"ぁ?」

 

「俺がマスターの寵愛を受けている事に、嫉妬しているんだろう?」

 

「…………っ!!」

 

「くくっ……図星か?」

 

 

 無言で銃口を向けるジンに、それを嘲笑うライ。……一触即発の空気が漂い、ライが懐に手を伸ばして拳銃を抜こうとした瞬間、シンガニが口を開いた。

 

 

「ライ、Stay(待て)

 

Yes Master(はい、ご主人様)

 

 

 すると、ライは即座に主人の命令に従った。それに対してジンもまた、悪態をつきながら拳銃を懐に仕舞う。

 

 

「……ライ。お前は俺が戻って来るまで、あいつらが無駄な抵抗をしないように見張ってろ」

 

「……命令、ですか」

 

「そうだ」

 

「…………了解しました」

 

 

 不満そうに返事をしたライを見て、シンガニは苦笑した。

 

 

「拗ねるなよ、ライ。ボスとラムへの報告を終えたらすぐに帰って来る。そうしたらまた構ってやるから、それまで良い子に仕事してしろよ?ちゃんとできたらその分構ってやる時間も増やしてやろう」

 

「真面目にやります!」

 

「ん、良い子だ。……ジン。ライと喧嘩しないようにな」

 

「…………」

 

「……よーし、分かった。ちゃんと言い付けを守ったら今度俺の家に泊めてやろう」

 

「任せろ」

 

「よし。……じゃあ、2人共。後は頼んだぞ」

 

 

 そう言って、シンガニは立ち去った。

 

 ……周囲から、恐ろしい者を見るような目で見られても、彼は全く気にしていなかった。

 

 

 

 

 

 






・犬好きな黒の組織の兄貴分

 ライを手懐け、黒の組織に寝返らせた張本人。本編の時とは異なり、IFでは自身の言葉が他人与える影響の大きさをよく知っている。

 ライがお気に入りで、他の妹分と弟分達よりも甘やかしている。……だって、犬みたいに懐くもんだからかわいくてつい……

 ライとジンの手綱をしっかり握っており、彼らの喧嘩を即座に鎮圧する事ができる。組織内でのあだ名は猛獣使い。


・既に黒に染まっていた狂犬

 オリ主が口説いた結果、寝返る。命令を完遂させたご褒美を貰う事になり、テンションMAX。

 犬のように振る舞えばオリ主が甘やかしてくれるという事を分かった上で、そのように振る舞っている。確信犯。その寵愛を受けるためなら喜んで犬になります!

 ジンとは犬猿の仲。喧嘩をする時は常にジンよりも余裕がある……と見せかけているが、実はそこまで余裕はない。むしろ"いっその事殺してしまった方が安心できるかも"と考えるぐらいには、オリ主を横取りされないように必死になっている。


・狂犬に嫉妬している弟分

 オリ主に甘やかされるライに嫉妬している。おい、そこ代われ!

 今までは自分が1番付き合いの長い弟分であるという事実が余裕を持たせていたが、ライがオリ主のお気に入りになった事で焦り、彼に喧嘩を売るようになった。

 いつか蹴落としてやる……!!







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IF③狂犬への第一歩 前編



・オリ主の設定はIF短編①、②と同じ

・赤井さんがNOCバレしてアメリカに帰った後の話

・オリ主が赤井さんを口説く…もとい、黒の組織へ勧誘する

・赤井さん視点

・FBIに関しての多大な捏造あり!

・カッコいい赤井さんはいません



 長くなったので、前編と後編に分けます。





 仕事を終えて、なんとか日付が変わる前にセーフハウスに到着した俺は、愛車から降りる。……ふと、何者かの視線を感じた。

 

 振り向くと同時に、夜闇に包まれた路地から足音が聞こえた。徐々に近づいて来ているようだ。念のため、懐にある拳銃に触れつつ警戒する。……やがて、足音の主が姿を現した。

 

 

「……っ!?」

 

 

 その姿を目にした瞬間、俺はその場から咄嗟に飛び退き、距離を取った。既に拳銃はいつでも抜ける状態にしてある。

 

 

「――よぉ、ライ。……いや、赤井秀一」

 

「――シンガニ……!!」

 

 

 何故この男がアメリカに……!?それも、ここにいるという事はおそらく、俺のセーフハウスがある場所を突き止めていたのだろう。一体、どうやって……!?

 

 

「くくっ……一瞬だが顔に出てたぜ。今、動揺したな?察するに、何故俺がここにいるのか。そしてどうやってセーフハウスの場所を知ったのか……と考えていただろう?」

 

「…………」

 

「無言は肯定と取るぞ。……しかし、お前がポーカーフェイスを一瞬だけでも崩すとは……それ程驚いたって事かな?」

 

「……っ……」

 

 

 思わず悪態をついた。……これだから、この男は厄介なんだ……!こちらが一瞬でも気を抜けば、優れた観察眼でそれを見抜いてくる。ある意味、ジンよりも手強い。

 

 俺はそう思いながら、周囲の様子を窺った。もしかしたら、シンガニ以外にも組織の人間がいるかもしれない。……しかし、

 

 

(他に気配は……ない、な)

 

 

 周囲に人間はいないようだった。別の場所であれば狙撃される危険性あっただろうが、このセーフハウスの周辺には狙撃に向いている場所がない。……つまり、シンガニは1人でここに来ている。

 ……とはいえ、どこか別の場所で組織の人間が待機している可能性もある。気は抜けない。

 

 

「さて、赤井秀一。……少し、話さないか?もちろん、懐のそれには触れたままでいいぞ。距離もこのままの方が安心できると言うなら、そのまま話そう。……どうだ?」

 

「…………いいだろう」

 

 

 本来なら、何か罠があると想定して断るべきだろう。しかし俺は、それよりも情報を得るためにその危険を冒すという選択を取った。

 だが、この男の話を聞こうと決めた理由は、それだけじゃない。これは、俺の悪い癖とも言えるかもしれないが……興味があったのだ。この男に。

 

 

 黒の組織に所属している数多くの者達から慕われる男。その数多くの者達の中には幹部に加えて、組織のボスも含まれているという。しかも、その筆頭はジンだ。

 それだけでも興味深いというのに、この男は黒の組織の奴らの中でも珍しい、穏健派。無駄な殺人は好まないようで、犯罪者はともかく、一般人を殺す事はまずなかった。

 そんな態度であれば、普通は組織の連中に疎まれるはず。しかし、シンガニはそうなる事がなかった。むしろ好かれていた。どうやってその立場を確立させたのか……実に興味深い。

 

 

 組織に潜入していた時は大体がジンに妨害されて、シンガニと話せる機会が少なかったからな。この機会にどんな人間なのかを知りたい。……そう考えた。

 

 

「ありがとう。……まず初めに言っておくが、今回はボスから命令されてここに来たのではなく、俺の独断だ。同行者もいない。……それどころか、休暇を取ると言っただけで、どこに行くとは誰にも告げずにここに来た。痕跡も丁寧に消したから、今頃組織内では大騒ぎになってるかもしれない。……帰ったらジンに何を言われるかな……」

 

 

 と、遠い目をしながらシンガニがそう言った。

 

 

「……大丈夫なのか、それ」

 

「…………最悪の場合、1週間くらいジンの家で監禁生活かな」

 

「大丈夫じゃないな」

 

 

 割りと深刻だった。それに……

 

 

「……なぁ。本当なら聞きたくないんだが、もしも休暇を取った理由に俺が関係していると知られたら、どうなるんだ?」

 

「…………最悪の場合、1ヶ月監禁生活かな」

 

 

 さらに深刻になった。……敵とはいえ、さすがに同情する。

 

 

「……で?それ程のリスクを冒した理由は何だ?……おそらく、お得意のハッキングで俺に関する情報を盗んだんだろう?ビュロウのセキュリティシステムは甘くない。逆に情報を抜き取られる危険性もあったはずだ。……そこまでして、俺の元に来た理由は、何だ?」

 

「……さすがだな。頭の回転が早い。……では、本題に入るとしよう」

 

 

 すると、奴は真剣な表情で、こう言った。

 

 

「赤井秀一――俺はお前に、警告をするために来たんだ」

 

「……警告?」

 

「あぁ。……信じるか否かはお前次第だが、近々、お前は任務中に命を落とす事になるかもしれん」

 

「!?」

 

 

 ……何だと?

 

 

「数日後、お前は上層部からある任務を言い渡されるだろう。断れるなら断った方がいいが……そうするとお前の立場は悪くなるだろうし、もしかしたらそれ以前に人質を取られるかもしれない。そうなったら、受けるしかないだろうな」

 

「待て!一体どうゆう事だ?その口振りだと俺を狙っているのはFBIの上層部だと言っているように聞こえるが……!?」

 

「事実、その通りだ」

 

 

 俺は言葉を失った。……シンガニは確信を持ってそう言っているようだった。

 

 

「どうやらそっちのお偉いさん方の大半は、お前の事が大層気に食わないらしい。といっても逆恨みだがな。お前が次々と功績を残していくものだから、その若さと天才的な才能に嫉妬したんだろう。任務にかこつけて"不慮の事故"で殉職した、という体で排除しようとしている」

 

「…………」

 

 

 ……確かに、上層部の人間に嫌われる事に心当たりはあった。以前から命令違反は度々やっていたし、態度が悪かったという自覚はある。

 だからその分、成果を上げて黙らせてやろうという気は少なからずあった。それが裏目に出た、という事だろうか。……もっとも、シンガニが嘘をついていなければ、の話だが。

 

 ……だが、そう思いつつも俺は、この男が嘘をついている可能性は限りなく低いと考えていた。

 

 

 ジンに監禁される云々のリスクは置いておくにしても、FBIのセキュリティシステムを抜けて潜入捜査官である俺の情報を手に入れるなんて、危険過ぎる。さらに、それを当の本人である俺に話してしまっている。わざわざ、自らの足で俺の元を訪ねた上で。

 

 万が一。話が拗れて戦闘となった時、互いの戦闘能力を鑑みるに、いい勝負にはなるだろうが……有利なのは俺の方だろう。体格差があり、どちらも截拳道(ジークンドー)の使い手である以上、その弱点は把握している。その事実を、目の前の男も理解しているはずだ。

 

 

 つまり、自身が確保される可能性があると知りながら、俺に接触した。

 

 

(――ますます、この警告が真実味を帯びる)

 

 

 しかしそうなると、どうしても解せない事がある。

 

 

「……もしも、その話が本当だったとして……何故、それをわざわざ俺に伝える?そうする事でお前にどんなメリットがあるんだ?」

 

「…………」

 

「NOCである俺を助けるような真似をして……一体、何を企んでいる?」

 

 

 返答によっては、殺し合いも辞さない。……そんな心境のまま、いつでも戦闘を始められるように構えた。

 

 そして、奴が口を開く。

 

 

「気に入らねぇんだよ。そうやって、無能な奴らが有能な人間を引きずり下ろそうとする様がな。……俺は、そうゆう雑魚共が大嫌いなんだ。虫唾が走る!」

 

「…………ホー……」

 

 

 常に冷静さを崩さないこの男が、ここまで感情を露にするのを見るのは初めてだった。こいつの仮面はかなり厚い。それが剥がれるとは……

 

 

「そんな奴がいるから俺の親父は…ってそれはいい。今回、俺がこの情報を得たのは偶然だった。初めはこれを知ってどうしようかと迷ったが……最終的に感情を優先して動こうと決断し、ビュロウにハッキングを仕掛け、お前の居場所を調べ上げてここまで来た。……そこまでやってお前に警告した理由は、さっきも言ったように無能共のやり方が気に入らなかったのが1つ」

 

「ふむ」

 

「それからもう1つ。――俺、お前の事は嫌いじゃないんだ。むしろ、好ましいと思っている」

 

「…………は?」

 

 

 今、何て言ったんだこいつは?

 

 

「ジンを相手にして物怖じもしてなかったし、遠慮もしていなかった。そうゆう奴は嫌いじゃない。

 

 他の奴らは生意気だと言っていたが、俺は実力さえあれば別にそれでも構わないと思っている。それだけ度胸があるって事だからな。そしてお前は、その実力がある奴だった。……お前には個人的に注目してたんだ。おそらく、俺を含めた組織のスナイパー達の中でも、お前が1番優れていたと思う。

 文句を言ってくる奴をその実力で黙らせているってのも良かった。あと、媚を売るような真似をしていなかった事もな。

 

 できる事ならいろいろ話してみたかったんだが、その度にいいところでジンに邪魔されてな。他の奴らと話すぐらいならあまり邪魔しないくせに、ライと話してると高確率で邪魔してくるものだから……あいつも困った奴だよな……まぁ、お前ら2人は特に仲が悪かったし、仕方ないか。

 

 そんなお前がNOCだと判明した時は、つい大笑いしちまったよ。怪しすぎて逆にNOCらしくないなと思ってたのに、見事に騙された。あの態度でよくもまぁ3年も潜り込めたものだ。……それだけお前が優秀だった、という事だろうな。

 だからこそ、勿体ないなと思ったよ。お仲間のミスによってお前が潜入捜査を断念する事になったと知った時は。

 

 お前の居場所を調べた時、ついでにお前の経歴も少しだけ見た。……実に優秀な捜査官だな、お前は。うちへの潜入捜査を任されたのも当然だ。

 FBIに加入してから短期間で他のベテラン捜査官達よりも目に見える成果を上げて、個人の犯罪検挙率もトップクラス。スナイパーとしても近接戦闘員としても大いに活躍しているFBIのエース。さらには観察眼や推理力も優れているという。……素晴らしいな。それに…」

 

Stop(止まれ)!!」

 

 

 そんな褒め言葉の羅列に耐えかねてそう言うと、シンガニは素直に黙る。それから俺は、目の前に敵がいるにも関わらず、顔を片手で覆った。

 

 

(…………何故、何故俺が褒め殺しされているんだ!?それも敵組織の幹部に!!)

 

 

 訳が分からなかった。顔に集まった熱が冷めない。

 

 

「……この程度の褒め言葉でお前がそこまで照れるなんて……もしかして、実は褒められる事に慣れてないのか?」

 

Shut up(黙れ)!!」

 

「なるほど、図星か」

 

「っ!!」

 

 

 こいつ……!!

 

 

「だとすると……お前の周囲の人間は、お前の何を見ているんだか……」

 

「何を…」

 

「なぁ、赤井秀一。……お前、今の立場に満足しているのか?」

 

「は、」

 

「――お前のお仲間達は、ちゃんとお前自身を見てくれているのか?」

 

「…………」

 

 

 ――咄嗟に、答える事ができなかった。そんな事は考えた事がなかった。

 

 今の立場に満足しているのか、だと?それは……どう、なのだろうか。それに、同僚達が俺自身を見てくれているのか、だって?…………それは……

 

 と、その時。どこからか足音と話し声が聞こえてきた。……誰かが来たらしい。

 

 

「おっと、時間切れか。……じゃあ、俺はそろそろ行くとしよう」

 

「っ!!待て、まだ話は…」

 

「あぁ、そうだ!忘れるところだった。……これを置いていく」

 

 

 シンガニは小さな紙袋を地面に置いた。

 

 

「この中には、俺が今回得た情報……お前にさっきまで話していた内容が詰まったUSBメモリが入っている」

 

「何……!?」

 

「中身を確認するかどうかは、お前自身が決めるといい。ウイルス等は入れてないが……信用できないなら最初から見なければいいし、見たいのなら対策をした上で見ればいい。……さっきも言ったように、この情報を信じるか否かは、お前次第だ。何なら、中身を見た後に改めて自分で調べるのもいいかもしれない。……じゃあな」

 

 

 そう言って、シンガニは立ち去った。……本当なら、FBI捜査官として追いかける必要があっただろうが……俺はそうしなかった。それよりも、シンガニが置いていった物の中身を確認したいと思ったから。

 

 ゆっくりと、小さな紙袋に近づき、それを手に取った。……軽すぎる。妙な音もしない。爆弾等が入っているわけではなさそうだ。

 中身を見ると、そこには確かにUSBメモリが入っていた。それから小さなメッセージカードが1枚。

 

 

「"話を聞いてくれてありがとう。お前の無事を祈る"……か。……敵対している相手の無事を祈ってどうするんだ……」

 

 

 そう呟いて呆れつつも、少しだけ嬉しく思っている自分がいる事に驚いた。

 

 

(……なるほど。確か、奴は組織の人間から"人たらし"と評されていたな)

 

 

 まさか、俺でさえそれに呑まれかけたとは。……やはり危険だな。あの男は。

 

 シンガニという男の危険性を改めて認知した俺は、ひとまずセーフハウスの中に入る事にした。……既に、日付は変わっていた。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ……それから数日後。俺は、とある廃墟で疲労困憊になっていた。

 

 

 あの日、結局俺はシンガニから渡されたUSBメモリの中身を見ようと決断した。そして、その情報が真実である事も確認した。

 それからはあえて、周囲にはその情報を教えずに過ごした。どこから上層部に洩れるかも分からなかったからな。真面目な態度で過ごす事も考えたが……それでは勘づかれるかもしれないと思い、止めた。

 

 そんな中、昨日。上層部からある任務を言い渡された。その任務は事前に得ていた情報と一致していたため、これがそうなのだろうと、確信した。

 そしてシンガニに警告された通り、これを受けなければジェイムズ達に危険が及ぶかもしれない、と遠回しに言われた。まさしく人質である。

 また、ジェイムズ達にも根回しされていたようで、この任務は俺1人で遂行する事になっていた。……これで、彼らの応援は望めなくなった。

 

 

 そして今日。とある廃墟に向かった俺は、決して小さくはない犯罪組織をたった1人で壊滅させた。……おそらく、事前に情報を得ていなければ、命を落としていただろう。それ程に激しい戦闘だった。

 ……始めた時は昼頃だったというのに、気がつけばもう夜だ。周囲では大勢の犯罪者達が気絶している。……生き残りがいないかどうかをよく確認した俺は、そこでようやく気を抜いた。

 

 

「っはぁ…………まずい、な」

 

 

 気を抜いた途端、疲労を自覚したのか、体が急に重くなった。そんな体に鞭を打ち、ゆっくりと廃墟の外に向かう。

 

 ……携帯は戦闘中に壊してしまった。この廃墟の周辺に人がいない事も分かっているため、どちらにせよ助けを求める事はできない。ここまで乗って来た車を止めてある場所までは遠いわけではないが、この体でそこまで行けるかどうか……

 

 

「…………絶対絶命、というやつか」

 

 

 そんな事を呟いたところで、ようやく外に出た。……そこで限界だったのか、足の力が抜ける。

 

 あ、これは倒れるな。

 

 なんて他人事のように思いつつ、地面に倒れ込む――その前に、誰かが地面を蹴る音が聞こえ、次の瞬間には何者かが俺の体を受け止めていた。

 

 

「――おっと!……ギリギリセーフ。……やれやれ。あの数の犯罪者を1人で片付けるなんてな……やっぱお前、すげぇな。最高だぜ」

 

 

 何者かの声が、俺の事を称賛する。……その声を聞いたのを最後に、意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 



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IF③狂犬への第一歩 後編

 ふと、目が覚めた。……しばらく微睡んでいたが、自分の状況を思い出して飛び起きる。

 

 

「っ!?……っ……!!」

 

 

 そしてすぐに体に激痛を感じて、再び沈んだ。

 

 

(……ここは……どこだ……?)

 

 

 痛みに耐えつつ、疑問を抱いていたその時、声が掛かった。

 

 

「おう、目が覚めたのか。……良かった」

 

「…………シンガニ……」

 

「あの後倒れたお前をここまで運ぶの、結構大変だったぞ」

 

 

 ……気を失う前に聞いた声から推測していたが、まさかあの時俺を受け止めたのが本当にシンガニだったとは……

 

 

「……ここは、どこだ?」

 

「俺の協力者から借りてる家だよ。ちなみに、数日前に俺が訪ねたお前のセーフハウスから、そこまで遠くない場所にある」

 

「協力者……あぁ、そうか……」

 

 

 まだ組織に潜入していた頃、この男がよく世界各地を飛び回っており、その各地にそれぞれ協力者がいるという話を聞いた事を思い出した。

 なるほど。この国にもいるのか……いや、待て。

 

 

「……そんな場所に、俺を招き入れていいのか?それに、俺のセーフハウスからそこまで遠くない場所にある、なんてばらしてしまっていいのか?」

 

「ん?」

 

「俺は、FBIだぞ?」

 

 

 俺がこの場所の情報を仲間に流すとは考えなかったのか?

 

 

「あぁ……別にいいぞ。流すなら流せばいい。そうなったら協力者を捨てるだけだ」

 

「……簡単に言ってくれるな」

 

「大体の協力者は、いつでも捨てられるような無能ばかりだ。問題ない」

 

「…………」

 

 

 数日前に俺を褒め殺しした人間とは思えない発言だ。

 

 

「さて。……怪我の具合はどうだ?信用できる闇医者に頼んで治療してもらったんだが……」

 

 

 信用できる()医者とはこれ如何に。……まぁ、そんな疑問は置いといて。

 先程とは違い、今度はゆっくりと起き上がった。

 

 

「……起きても大丈夫なのか?」

 

「問題ない」

 

「……そうか?ならいいが、あまり無理はするなよ。闇医者曰く、怪我の方は全治1ヶ月。ただ、幸いにして歩けなくなる程の怪我はなく、今日1日安静にしていれば歩いても問題はないそうだ」

 

「……分かった。……俺の車は?」

 

「お前の車は置いてきた。勝手に鍵を借りるのも悪いなと思って。それに、俺の車もあったからな。ここへはお前を俺の車に乗せて来たんだ」

 

「……そうか」

 

 

 さて。となるとこれからどうするかな。俺の足となる車を取りに行きたいし、任務が終了した事を報告する必要もある。だが、携帯は壊してしまったからそれもできない。……幸い、任務の期間は3日と設定されていたから、俺からの連絡がないからとすぐに騒ぎになる事はないはず。……そういえば。

 

 

「なぁ、シンガニ。今は何時だ?あれからどれくらい時間が経っている?」

 

「……夜中の2時過ぎだ。あれから6時間程経過している」

 

「そうか。……今日1日、ここにいて休んでもいいか?」

 

「……そりゃあ、構わないが……」

 

 

 という事は、今日1日はここで安静にして、明日の朝早くに車を回収し、そのままセーフハウスへ向かって任務完了の報告をしても充分間に合うな。これなら、問題ないだろう。

 ……そうだ。慰謝料代わりに休暇と新しい携帯をもぎ取ろう。新しい携帯の方は最新機種で。

 

 

「…………赤井秀一」

 

「なんだ?」

 

「疑わないのか?俺の言葉を」

 

「…………」

 

「ここがお前のセーフハウスから近い場所にあるという言葉が、嘘だという可能性は?それから車を放置したという言葉が嘘で、むしろ破壊されていたとしたら?それに、ここに時計はない。窓もない。さっき言った日時も嘘で、本当はあれからもっと時間が経過しているかもしれない。

 

 ……そもそも、数日前にお前に正確な情報を教えた事自体が仕込みで、この状況こそが俺の望んでいたものだったとしたら?……お前は、どうするんだ?」

 

「…………ふっ……」

 

 

 その言葉を聞いて、俺は思わず笑っていた。

 

 

「……おい。何がおかしいんだ、こら」

 

「くくっ……それは笑うだろう。俺はどうするか、だって?――どうもしないさ」

 

 

 正確には"何もできない"、だが。

 

 今の状況が、シンガニが望んだ通りのものだったとしたら、俺は見事に術中にはまった事になる。

 

 

 シンガニの言う"仕込み"の段階で、俺は既に主導権を握られていた。

 最初からセーフハウスの場所を突き止められた事で、少なからず動揺していたというのに、そこから上層部による俺の暗殺計画を聞かされ、かと思いきや褒め殺しされ、さらにはこれ見よがしにUSBメモリを渡された。

 ……この流れで、中身を確認しないという選択肢は、あの時の俺の中にはなかった。

 

 こうして、伝えられた情報に虚偽がない事も確認した俺は、その情報のお陰で生き延びる。……だが、終わった頃には既に疲労困憊だった。そしてそれを狙っていたかのようなタイミングで、シンガニは俺を確保した。……どこかで様子を窺っていたのだろう。

 

 それから現在。逃げるには体調が万全ではないし、うまく切り抜けたとしても足となる愛車が近くにない。ではシンガニが乗って来た車を奪えば?……おそらく、それも不可能だろう。この男なら何らかの対策をしているはず。……詰みだな。清々しい程に。

 

 

 ……といった事を、簡潔に伝えた。すると、シンガニはため息をつく。

 

 

「……そこまで分かっていながら、何故抵抗しない?それに、普通ならお前をはめた張本人である俺を恨むところだろ?」

 

「それは、シンガニが俺を見下していたらそうなっただろうな。……だが、お前は俺の事を高く評価している。だからこそ、気にかけてくれたんだろう?どうやらお前は、自分の懐に入れた人間……もしくは有能な人間への対応が甘くなるようだからな」

 

 

 逆に、無能な者や自分が懐に入れた人間に危害を加える者に対しては、徹底的冷たくなるようだが。

 

 

「……お前は俺の事を高く評価してくれているし、俺に対して未だに明確な悪意を向けてこない。そして、俺の命の恩人だ。そんな相手を恨もうとは思わない。……ところで、シンガニ。お前は本当に俺をはめようと計画していたのか?俺の予想では、お前はそこまで考えていなかったように思えるんだが?」

 

「……何で、そう思った?」

 

「お前が、本気で俺の事を心配しているように見えたからだ。……お前は、俺が気を失う前にわざわざ走って俺のもとに来て、倒れそうになった俺を受け止めてくれた。そして目が覚めてからも、俺が目を覚ました事で安心した様子を見せていたし、俺が起き上がった時も無理はしないように、と気遣っていた。

 

 俺をはめようと計画していたとして……だからといってそこまで気遣いを見せる必要はあるのか?……俺なら、そういった無駄な事はしない」

 

 

 有能な人間は無駄な事をしない。そんな人間を好むシンガニの事だから、逆に無駄な事を嫌うはず。

 

 

「…………お前に恩を売るためにやっているのかもしれないぜ?」

 

「だったらそもそも"疑わないのか?"なんて聞かないだろう?」

 

 

 すると、シンガニは口を閉ざした。……しばらくして、再び口を開く。

 

 

「やれやれ……さすがだな、赤井秀一。……と、言いたいところだが」

 

「?」

 

「確かに俺は、お前をはめようとは考えていなかった。……だが、決して下心がなかったわけではない」

 

「……ホー……」

 

 

 下心、ね……

 

 

「……ところで、数日前に俺が問い掛けた内容を覚えているか?」

 

「何?」

 

「今の立場に満足しているのか?お前のお仲間達はちゃんとお前自身を見てくれているのか?……そう、問い掛けただろう?」

 

「っ!!……それが、どうした」

 

「実際、どうだ?考えてみたか?」

 

「…………それ、は」

 

 

 ――実のところ、数日前にそう問い掛けられてから、その問いがずっと頭の片隅で燻っていた。

 

 

 今の立場に満足しているのか?――否。

 

 同僚達がちゃんと俺自身を見てくれているのか?――それも、否。

 

 

 ……考えた結果、そう結論付けた。

 

 

 自分からFBIという組織に所属すると決めておきながら、今の立場に不満を感じているなど、俺の我が儘でしかない。それは、分かっている。だがそれでも、どうしても納得できない事があるのだ。……それは、時折俺が無断で単独行動を取ったり、上司に意見を述べたりする時の事。

 

 俺は何も、好きで単独行動をしているわけではない。それがその時必要な行動だったからやっただけだ。

 単独行動をする時は、説明する時間がない時、そもそもその相手が説明してもそれを理解できない人間――シンガニに言わせれば無能と言える類いの人間――である時、早期解決が不可欠である時……などが大半だ。

 俺には、そういった理由で単独行動をしたからこそ、いくつもの事件を解決する事ができた、という自負がある。

 

 上司へ意見を述べる時も同様に、それがその時必要だった場合にのみ、俺は行動する。

 今の上司はジェイムズだからまだマシなのだが、それ以前の上司は最悪だった。俺が意見を述べてもそれを全く聞こうとしなかった。……いや、そもそもあれは俺の説明を半分も理解できていなかったのだろう。だから、生意気な部下が上司に意見しているという事しか理解しておらず、結果的にこちらが叱責される事になった。

 そんな上司だったからこそ、俺が単独行動を取る機会が増えるばかりだった。

 

 さらに、俺は大半の同僚に嫌われている。……被害妄想ではなく。

 どうやら今回俺を排除しようとした上層部の人間と同じく、俺の事を妬んでいるらしい。中には、その不満を直接俺に言ってくる馬鹿な奴も数名いた。

 曰く。ちょっと若くて顔がいいくらいで調子に乗るな、自分の活躍の場を奪うな、皆が皆お前のように頭の回転が早いわけではない、もっと周りと足並みを揃えろ……などなど。他にも挙げたら切りがない。

 

 ……とはいえ、俺の事を庇ってくれる少数派の者達――主にそれはジェイムズ、ジョディ、キャメルの3人だが、それ以外にも数人いる――がおり、彼らは俺に対して好意的に接してくれている。……だが、彼らの俺に対する扱いが問題だったのだ。

 

 ――彼らは俺を、まるで自分達とは違う世界にいる人間のように扱う。……フィクションのキャラクターのような扱い、と言えば理解できるだろうか。

 

 シュウならこれくらいできてもおかしくない。皆ができない事を容易にやってのけてしまうのが赤井秀一という男だ。こいつが簡単に死ぬ筈がない。お前なら何があっても大丈夫だろう。

 ……そんな言葉を、あいつらは俺の目の前で平然と言う。

 

 

(――ふざけるな!俺はフィクションの英雄(不死身のヒーロー)じゃない!お前らと同じ人間だ!!)

 

 

 ……そう、声を大にして叫びたい気持ちにさせられた。

 俺だって1人の人間だ。失敗だってするし、肉体的にも精神的にも疲れる時がある。できない事だって少なくない。……だというのに何故、俺がそんな扱いをされなければならない?

 

 質が悪い事に、あいつらは本気で俺の事を無敵の男だと思っているようだ。だから、俺の事を少しも疑おうとしない。気遣う事もない。……その信頼が、重圧となって俺に襲い掛かっていた。

 

 

 俺をフィクションのヒーローのように扱うのではなく――ただの"赤井秀一"として、俺自身を見てくれる存在は、どこにもいないのだろうか……?

 

 

 ……いつの間にか俺は、シンガニに長々とそう語っていた。数年越しの不満を吐き出したせいか、大分すっきりした。

 話をしている間に、敵を相手に何をやっているのか、という考えが脳裏に浮かんだが……もうどうでもよかった。

 

 

「…………そうか」

 

 

 俺の話を聞いたシンガニはそう呟くと、しばらく瞑目していた。……しかし、その眉間にはしわが寄っており、握られた拳は震えている。……怒っている、のか?珍しいな。……しかし何に対して?

 そんな疑問が浮かぶ間にシンガニは落ち着いたようで、既にいつものポーカーフェイスに戻っていた。

 

 

「よく、分かったよ。……本当に苦労してたんだな、お前は。そして――お前の周りには無能な人間と無知な人間しかいないという事も、よく分かった」

 

 

 俺でもぞっとする程の冷ややかな目で、シンガニは静かにそう言った。……どうやら、怒りを向けている対象は俺の同僚達だったらしい。

 

 

「……赤井秀一。確かに、お前は優秀だ。実際にフィクションの世界にいてもおかしくないぐらいには、な。……だが、お前は偶像ではない。現実に存在している、歴とした人間だ。時に強くなり、時に弱くなってしまう、人間なんだ。……その証拠に、お前は今俺の目の前で傷だらけの姿を晒しているじゃないか。――生きているよ。間違いなく」

 

 

 それから一転して、俺に対して優しい目を向ける。……その言葉に、思わず目頭が熱くなったが、なんとか耐えた。

 

 

「しかしお前の周りの連中はそんな事も分からねぇのか。屑ばかりだな。……本当に勿体ない」

 

「……何が勿体ないんだ?」

 

「お前の事だよ」

 

 

 まっすぐに俺を見つめる漆黒の瞳。強い意思を感じさせる瞳だ。……悪の組織に身を沈める人間には似つかわしくない。

 

 勿体ないな。この男の能力の高さを考えれば、警察組織でもやっていけただろうに。それこそFBIで俺の同僚になってくれたら、どんなに良かったか――

 

 

「――お前はFBIに置いておくには勿体ない。……俺なら、お前の周りの屑共とは違って"赤井秀一自身"を見てやれる」

 

 

 ……どうやら、似たような事を考えていたらしい。

 

 

「――こちら側に来ないか?赤井秀一」

 

 

 …………なるほど。

 

 

「それが、お前の下心か」

 

「……くくっ……さすが、察しがいいな。その通りだ」

 

「ホー……いいのか?そんなにあっさりと認めて」

 

 

 てっきり、はぐらかすのではないかと思っていた。

 

 

「構わない。――俺は本気で、お前が欲しいと思っている。そんなお前相手に嘘や偽りを話すなんて、あり得ない。俺はお前に誠意を見せたいんだよ」

 

「――――」

 

「さぁ……俺の手を取れ、赤井秀一。――絶対に、後悔させないから」

 

 

 差し出されたシンガニの手(悪魔の手)。俺は、その手を――

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ――シンガニに助けられた日から3日後。俺はFBIの本部に向かい、上層部の人間に任務が完了した事を報告した。……奴らの悔しげな表情に、内心でざまぁみろと嗤った。そして慰謝料……もとい、報酬として明日から1週間の休暇と最新機種の携帯をぶん取る……もとい、頂戴してきた。

 その後、会議室にいるジェイムズ達にも任務が終わった事を報告する。

 

 

「そうか。さすがだな赤井君。たった1人で犯罪組織を1つ壊滅させてしまうとは。……いや、君ならそれくらい朝飯前かな?」

 

「やったじゃない、シュウ!目立った怪我もなさそうだし……やっぱり、私達のエースはあなたしかいないわね!」

 

「赤井さんなら絶対に無事で戻って来ると、信じていました!さすがです!」

 

 

 口々にそう称賛してくる、ジェイムズ、ジョディ、キャメルを含めた同僚達。……やはり、俺の事を心配する声は皆無のようだ。

 だが、そのように称賛する声を上げる者はごく少数。大半の人間は影でひそひそと俺の成功を妬み、恨み言を言っている。……俺には聞こえないと思っているのだろうか。馬鹿な奴らだ。

 

 

「……さて、そろそろミーティングを始めようか」

 

 

 しばらくして、ジェイムズがそう言った事でミーティングが始まった。……しかし、そこで会議室の扉が荒々しく開かれた。

 

 

「――かっ、会議中に失礼します!つ、つい先程、このFBI本部内にて殺人事件が発生しました!!ジェイムズ・ブラック、並びにそのチームの捜査官は現場に急行するようにとの事です!!」

 

「何!?一体、誰が殺されたのだ!?」

 

「そ、それが……!!」

 

 

 会議室に入って来た捜査官の口から飛び出したのは、俺が先程任務完了の報告をしてきた、上層部の人間の名前だった。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 あれから現場に急行し、捜査をした結果。目撃者が多数いた事で、状況が判明した。

 

 

 まず、被害者の死亡時刻は午前11時半。……俺が報告を終えてから、およそ30分が経っている。

 

 死亡する寸前の状況は至ってシンプルなものだった。被害者が他の上層部の人間達と話し合いをしていた最中、被害者の背後の窓ガラスが割れ、それと同時に被害者の後頭部から眉間に掛けて弾丸が貫通。……それにより、被害者は即死した。

 当然、周囲にいた者達はパニックになり、外にいたFBI捜査官の1人に状況を説明。それから、俺達のいる会議室にまで報告が届いた。……という流れだ。

 

 現在はFBI本部周辺の捜査も行われているが……さて、どうなることやら。

 

 

 そう考えつつも、俺は必死に無表情を保っていた。……だが、それも保てなくなりそうだ。急いでこの場を離れて1人になる必要がある。

 

 

「……ちょっと、シュウ!どこに行くのよ!?」

 

「1人で考えたい事がある」

 

 

 ジョディの言葉に対して簡潔にそう答え、なるべく自然を装ってその場を後にし、屋上へと向かう。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 屋上への扉をくぐった後、すぐにその扉に鍵を掛け、屋上に人が誰もいない事も念入りに確認した俺は、そこでようやくポーカーフェイスを取っ払った。

 

 

「ふっ……くく……ふ、ふ――ははっ!ははははっ!!」

 

 

 そして、大声で狂ったように笑った。

 

 

「ははっ……!!っまさか、本当にやり遂げるとは……さすがだな、奴は…いや、あの人は……!!」

 

 

 あの人――シンガニは、俺の言う条件を見事にクリアしたようだ。

 

 

 ……事の発端は、シンガニが俺を黒の組織に勧誘してきたあの日。

 

 

 ――俺は、彼が差し出した手を取ったのだ。

 

 

「――そうか。こちら側を選んでくれるのか。……ありがとう」

 

 

 そう言って微笑むシンガニに対して、俺はこう言った。

 

 

「俺がそちら側に寝返るのは構わないが……その代わり、条件がある」

 

「……条件?」

 

「あんたの力を、証明してくれ」

 

「――ほう?」

 

 

 面白そうにニヤリと笑いながら見つめてくる彼に対して、俺はその条件を話した。……こちらが指定する人物を、指定した方法で、3日後……つまり今日、殺害するように、と。

 同時に、シンガニのメリットになるように、条件をクリアしたら俺が1つだけ、シンガニの言う事を何でも聞くという報酬をつける。さらに、どんな無理難題でも構わないと言った。

 すると、彼はますます愉快げに笑い、必ず成功させると意気込んだ。

 

 

 そして、指定した人物は今日、殺害されたのだ。条件通りに。それも、相当難易度の高い条件をつけたにも関わらず。

 ……遺体や目撃者から得た情報により、それが条件通りの殺害方法であった事が分かった時、咄嗟につり上がった口角を手で覆い隠したのは我ながらファインプレーだった。

 ……きっとその時の俺の表情は、決して周りに見せてはいけないものだっただろうから。

 

 ――これ程の力を見せつけてくれた相手であれば、喜んで下につく事ができる。

 

 

 そう考えていた時、シンガニから貰った携帯に電話が掛かってきた。……この携帯の番号を知っている人物は、今のところシンガニだけだ。

 

 

「……よぉ、赤井秀一。気分はどうだ?」

 

「あぁ、シンガニ――最高だ!!」

 

「くくっ……そいつは何よりだ。……で、俺はお前の言う条件をクリアしたわけだ。……約束通り、俺の言う事を1つ、聞いてもらうぞ。どんな無理難題でも構わないんだったな?」

 

「そうだ。……ただ、その前に……もう狙撃した場所からは離れたのか?」

 

「あぁ。今はちょうど空港に向かっているところだ。このまま日本に帰るとするよ」

 

「……そう、か」

 

 

 ……残念だ。日本に帰ってしまう前に一度会っておきたかった。……しかし、そうなると……

 

 

「……それなら、俺は何をすればいいんだ?もう日本に帰ってしまうんだろう?」

 

「なに、簡単な事だ。――今後、お前は俺のペットになれ」

 

「…………ペット?」

 

「そう、ペット。……俺、動物が好きなんだよ。特に犬。でも仕事が忙し過ぎて飼えなくてな……そんな時に有能で、放っておいても勝手に餓死する事のない、自由にさせておいても問題ない相手が手に入ったからな。ちょうどいいと思って。……まぁ、無理ならそれで構わないぜ?別に無理強いしたいわけじゃないんだ。最悪、本当に必要な時だけ、俺の言う事を聞いてくれればいい」

 

「…………」

 

「さぁ、どうする?」

 

 

 電話越しだが、シンガニの声音から少し笑っている事が分かった。……なるほど。どうやら、俺がどんな反応を返すのか、と楽しみにしているらしい。

 

 ならば。あえて乗っかるとしよう。

 

 

「――Yes Master(かしこまりました、ご主人様)。俺は今日から、あなたの犬になりましょう」

 

「え、」

 

「……しかし酷いですね、マスター。俺というあなたの犬を置いて、1人で日本へ帰ってしまうなんて……寂し過ぎて死んでしまったら、あなたのせいですよ?」

 

「お、おい、赤井…」

 

「おや、飼い犬の名前を間違えていますよ?――俺の名前は、今日から"ライ"だ」

 

「っ!!」

 

 

 そう。今日から俺はFBIの"赤井秀一"ではなく……かといって、黒の組織の"ライ"でもなく……

 

 ――シンガニ(ご主人様)"ライ"()になるのだ。

 

 

「ふっ……くくくっ……そうか……分かったよ――改めて、今日からお前は俺の犬だ。名前は、"ライ"」

 

「――ありがとうございます、マスター」

 

 

 ……さて。そうと決まれば、マスターの忠犬になるために勉強しなければな。でないと、いつマスターに捨てられるかも分からん。

 

 ……だが、今だけは。マスターとの会話を楽しむとしよう。

 

 そう考えた俺は、電話越しに聞こえるマスターの声に集中し始めた。

 

 

 

 

 

 

 …………なお、マスターの話はこれから待ち受けているジン(死亡フラグ)への対処をどうするか、という話が大半だった。

 

 ……マスター。それはさすがに俺でも対処できません。諦めましょう。

 

 

 

 

 

 

 




・銀の弾丸改め、未来の狂犬

 本人も無意識に抱いていた不満を見抜いたオリ主に口説かれ……もとい、勧誘された結果、狂犬への第一歩を踏む事になった。
 この後、初めは冗談の延長線で犬のように振る舞うが、途中からオリ主に構ってもらいたい、褒めてもらいたいという気持ちが勝るようになり、本気で犬になり始める。
 最終的に、オリ主が大好き過ぎて狂犬へと変貌する。


・狂犬を手に入れてご機嫌な黒の組織の兄貴分

 赤井秀一、ゲットだぜ!!さらに念願の愛犬()もゲットだぜ!!
 今後は赤井改め、ライを全力で甘やかす所存。自分に見捨てられないようにと健気に尽くしてくるライに骨抜きにされる事でしょう。
 迫り来る死亡フラグに少し怯えつつ、また、寂しがるライに後ろ髪を引かれつつ、日本へ帰国した。


・ヤンデレ臭が漂う死亡フラグな弟分

 鎖に足枷を用意して待ってるぜ、兄貴!!
<●><●>カッ


 …………オリ主、終了のお知らせ。







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IF④ジンのお泊まり編



・IF②の最後のあたりにあった、ジンがオリ主の家に1日お泊まりする話

・いろいろ捏造しています

・ジンとオリ主の距離が近い

・ジンのキャラ崩壊あり

・考えられたところまでしか書いていないので、中途半端に終わっています

・ちょっとだけベルモットが出てくる




 

 

 自宅にて。いつもより早めに起きた俺はつい先程、朝食を作り終えた。朝食のメニューはふわふわのオムレツに、大盛りのローストビーフサラダ。それからコーンポタージュ。特に、オムレツは自信作だ。

 いつだったか。あいつのためにこのオムレツを作った時があった。それ以来、これはあいつの好物になり、何度も作ってくれと言ってくるものだから、いつの間にか得意になっていた。

 仕上げに、あいつのお気に入りのブレンドコーヒーを淹れて……

 

 

「よし、準備完了。……さて。あいつは起きてるかな……?」

 

 

 廊下へと続く扉を開け、わざと音を立てながら進み、客室の扉を開けて室内へ。それから真っ先に閉めきったカーテンを開くと、太陽の光が室内を照らした。……それでも、室内のベッドの住人は起きない。

 

 

「……やっぱり起きない、か。まったく、いい歳した大人のくせに……」

 

 

 苦笑いしつつ、俺はベッドの住人――ジンの体に掛けられた毛布を、勢いよく取っ払った。

 

 

「――Good morning(おはよう)、ジン!朝だぞー!」

 

「……ぅ……?」

 

「ほれ、起きろ!」

 

「…………ぁと、5分……」

 

「だが断る。朝飯が冷める前に食って欲しいんだよ」

 

「……ねむ、い」

 

「……そうか……なら残念だが、俺特製のふわふわオムレツは俺が2人分食べ…」

 

 

 瞬間。ジンはむくりと起き上がった。

 

 

「おきる」

 

「お、おう。思ってた以上に効果があったようで何よりだ。……じゃあ顔洗ってこい」

 

「わかった」

 

 

 それからすぐにベッドから降りたジンは、のしのしと洗面所まで向かった。

 

 相変わらず朝には弱いらしい。昔から、起きてから顔を洗うまでは言葉も拙くなるし、子供っぽくなる。……しかし以前。酒が入った席で口を滑らして、この事をウォッカに洩らしたところ、あいつがジンを起こす時はそんな事はなく、毎回不機嫌な状態で目を覚ますのだという。

 となると、俺が起こす時だけ子供っぽくなるのだろうか。……そう考えるとジンに甘えられているようで、悪い気はしねぇな。

 

 

 ……その後、席に座って待っていると、ジンがリビングにやって来た。その頭を見た俺は、思わず吹き出した。

 

 

「…………おい。何を笑ってやがる」

 

「っふ……お前、か、鏡、ちゃんと見たのか……!?」

 

「あ?」

 

「寝癖…っくく、アホ毛みたくなってんぞ……!!」

 

「!?…………っ!!」

 

 

 ジンはぎょっとした表情で頭に触れる。……そして、確かに髪の一部が浮いている事に気づいたのか、すぐさま洗面所に取って返した。俺は耐えきれず爆笑した。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 リビングに戻って来たジンと朝食を食べ終えた。……それ以降、大きめのソファーに座っているジンは俺と目を合わせようとしないし、口も開かない。だが、俺が淹れたコーヒーは飲んでくれる。

 

 

「ジン」

 

「…………」

 

「おーい?」

 

「…………」

 

 

 ……駄目だな。完全に拗ねてやがる。飯食ってる時は上機嫌だったくせに。どうやら、俺がジンの寝癖を見て爆笑した事が余程気に入らなかったらしい。

 

 仕方ない。ご機嫌取り開始だ。

 

 

「……ごめん、悪かったって。思わず笑っちまったんだ。本当にごめんな」

 

 

 しおらしい声を出すように意識して謝りつつ隣に座り、コーヒーを飲んでいるジンの邪魔にならないように、その背中に腕を回して抱き締めた。

 

 

「もう笑わない。……だから、機嫌直してくれよ。……なぁ?」

 

 

 眉を下げて、首を少しだけ傾けながら上目遣いで深緑の瞳を見つめる。……それでも目を合わせてくれない。ならば、これはどうだ。

 

 俺は、片手を伸ばしてジンの頬を撫で、そのまま指を滑らせて美しい銀髪をとかす。

 

 

「…………可愛い弟分と口を利けないなんて、兄ちゃん、寂しいなぁ……」

 

 

 ピクリ。……お。ちょっと反応があった。もう少し。

 

 

「せっかく今日1日、2人揃って休暇を取ったんだから、たくさん話がしたいんだけどなぁ……駄目か……?」

 

 

 少し唸った。あとちょっと。

 

 ここで俺はあえて、今まで髪をといていた手と、抱き締めていた手を離し、すくっと立ち上がった。

 

 

「……そうか。駄目か。……しょうがないな。俺は邪魔になるだろうし、自分の部屋に籠ってるよ。じゃあな」

 

 

 そしてジンに背を向けて離れようとすると、腕を捕まれてぐいっと引かれ、その膝の上に座らされた。そしてジンは背後から俺の肩に頭をぐりぐりと押し付けてくる。それからボソッと一言。

 

 

「…………悪かった」

 

 

 ――よし。勝った。

 

 一瞬だけニヤリと笑い、それをすぐに引っ込めてからジンの頭を優しく撫でる。

 

 

「いや。元はと言えば俺が原因だし、拗ねても仕方ないって。……機嫌、直ったんだよな?」

 

「あぁ」

 

「なら、それでいい。……あぁ、このままでいたいなら、俺は大人しくしてるぞ」

 

 

 満足げに笑うと、その気配を感じ取ったのか、ジンはため息をついた。

 

 

「……あんたは本当に、質が悪いな。俺の扱い方をよく分かっていやがる。俺が何をすれば喜ぶのか、何をすれば嫌がるのかを知っていて、それを自分の目的のために容赦なく利用する……それでいて、最終的には俺を喜ばせている……とんだ小悪魔の兄貴だ」

 

「でも嫌いじゃないだろ?俺はそれが分かってるからあえてやってるんだぜ。……よくできた兄貴だろう?」

 

「訂正。魔性の兄貴だ」

 

「ははは、褒め言葉…っ!?」

 

 

 突然、ジンが俺の体を抱えたままソファーに仰向けに寝転んだ。同時に、俺はジンの上でうつ伏せにされる。

 

 

「おい、ジン……」

 

「寝る」

 

「は?2度寝したいなら俺を巻き込むな。俺には仕事が…」

 

「あんたの事だ。どうせ早めにやるべき仕事は終わらせてあるんだろ?この日のために」

 

「…………」

 

「あんたは"お兄ちゃん"だからなぁ?何だかんだ言って"可愛い弟分"のために時間はつくってあるんだろ?」

 

「…………ちっ。可愛くねぇ弟分だな」

 

「くくっ……」

 

 

 憎まれ口を叩いても今のこいつには通用していないようで、上機嫌に笑われて終わった。……この野郎。

 

 

「……まったく、いい歳したおっさん2人が揃いも揃って何やってんだろな……」

 

「他に誰もいないから問題ねぇ。それに、あんたは見た目だけならまだ20代で通るだろ」

 

「うるせぇ、黙れ」

 

 

 地味に気にしてんだから指摘すんな。

 

 

「にしても、」

 

「ん?」

 

「……今のこの状態を写真に撮ってライに送り付けたら、どんな顔をするだろうなぁ……?」

 

「おい、やめろ。いや、マジでやめろ!」

 

 

 言いながら携帯取ろうとするな!誰かにいい歳した俺のこんな格好を見られたら居たたまれないし、何よりも俺への執着心がヤバ過ぎるあいつが相手っていうのが不味い!!……まぁ、ライが嫉妬してくれるのは可愛いなぁ、とは思うけど。

 

 それでも結果的にどんな行動を取るのか予測不可能だから、止めてくれ。

 

 そのままポツポツと話していた俺達だったが、2人揃っていつの間にか寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ――カシャッ。

 

 

「ん……?」

 

「……起きたか」

 

「…………ジン、今、何時……?」

 

「12時を過ぎたところだ」

 

「おー……ちょうど昼時か…………そういえば、なんか音がしなかったか?」

 

「…………気のせいだろ」

 

「……本当か?」

 

「あぁ。俺には、聞こえてない。……気のせいだろ」

 

「んー……?」

 

 

 寝惚けてはいるが……確かに聞こえたと思ったんだけどな……

 

 

「そんな事より、飯作るからそこどけ」

 

「え、お前が作ってくれるのか?」

 

「……朝、作ってくれたからな。昼は作る。が、夜は任せた」

 

「ん、了解。頼んだ。……手伝うか?」

 

「いや。1人で充分だ」

 

 

 その後、ジンが作ってくれたのはナポリタンだった。ゆっくり味わって食べた。

 ……なんせ、ジンが作る飯なんて珍しいからな。こいつが誰かに作った料理を振る舞う事なんて滅多にない。そして何よりも、うまい。昔教えてやった甲斐があった。

 

 

 ……昼飯を食べ終えて、さて何をしようかとジンと話そうとしたその時、着信音が聞こえた。……俺の携帯だ。相手は……姐さん?

 

 

「…………悪い。ちょっと待っててくれ」

 

 

 ジンにそう声を掛けて席を立ち、電話に出た。

 

 

「……姐さん?どうしたんだ?俺、今日は休暇なんだが……」

 

「だから電話したのよ、シンガニ。……ちょっと買い物に付き合ってくれないかしら?お礼に、夜になったら一緒にディナーにいきましょう?最近、いいお店を見つけたの」

 

「……あー……とても魅力的だし嬉しい誘いなんだが……すまない。今日は先客がいてね」

 

「あら、先を越されたわね。……それで?私を出し抜いたのはどこの泥棒猫なのかしら?まさかキャンティじゃないでしょうね……?」

 

「いや、それは――っ?」

 

 

 その時、俺の背後に近寄っていたジンが、俺の携帯を奪い取った。そして俺から離れてそのまま会話を始める。……あまりの早業に、俺は唖然とした。文句を言う隙もなかった。

 

 

 

 

「――ベルモット。邪魔するな」

 

「!……その声は、ジンね。……泥棒猫どころじゃなかったわ。まさか私を出し抜いた相手が狼だったとわね……シンガニを独り占めしないでくれない?」

 

「ふん……誰がてめぇの指図なんざ受けるかよ。大体、今日は俺とシンガニが1日を共に過ごすと前から決まっていたんだ。俺がシンガニの言い付けを守った褒美としてな」

 

「……だとしても気に入らないわね……邪魔しちゃおうかしら?」

 

「……何?」

 

「あなた、結構前からなかなか愉快な事をしているようじゃない?……大好きなお兄様の秘蔵写真の集まりは順調かしら?」

 

「!……てめぇ……何故、それを」

 

「ふふ……私を甘く見ない事ね。……きっとシンガニは知らないんでしょうね……彼、特に親しい身内に対しては警戒心が緩んでしまうようだし、余程のミスがない限りあなたに盗撮されても気付かないんじゃないかしら?」

 

「……だったら、何だ」

 

「この事、シンガニに教えちゃおうかしら?そうしたらいくら身内に甘いシンガニといえど、さすがに怒るんじゃない?……大好きなお兄様に失望されてもいいの?」

 

「…………ちっ……何が望みだ?」

 

「さすが、話が分かるわね。……あなたが撮った秘蔵写真のうち、彼の寝顔を撮った写真を1枚、私に頂戴?」

 

「…………何故それを欲しがる?まさか、悪用するんじゃねぇだろうな?」

 

「そんなわけないでしょう。……シンガニの寝顔、私は見た事がないのよ。普段は警戒心の強い彼の寝顔なんて、すごく貴重だから見てみたくて……きっと、可愛い寝顔なんでしょうねぇ……」

 

「…………しょうがねぇな……いいだろう。シンガニに代わってから送る」

 

「ふふふ……ありがとう!嬉しいわ」

 

「その代わり、もしも邪魔をしたらどうなるか――分かってんだろうな?」

 

「……えぇ。もちろん、分かっているわ。シンガニが関わると見境がなくなるあなたの事だから、容赦しないんでしょうね」

 

「……分かっているなら、いい」

 

 

 

 

 ……ジンの声しか聞こえなかったが、何やら不穏な会話をしている事だけは分かった。

 珍しく、ジンがベルモットの姐さんに何らかの弱味を握られたようだが……一体何の話をしていたんだ?

 

 と、そんな事を考えているうちに話が終わったようで、俺の手元に携帯が帰ってきた。

 

 

「……ジンと何を話していたんだ?」

 

「ふふっ……内緒よ。言ったらジンに怒られるわ。……とりあえず、さっきの話はなかった事にするわ。とても残念だけど」

 

「あぁ。俺も残念だよ。……すぐには無理かもしれないが、いずれ必ず埋め合わせをするよ」

 

「あら。それは嬉しいわね。……期待してるわよ?」

 

「任せてくれ、姐さん。……それじゃ、また」

 

 

 ……電話を終えて、ジンに話し掛けた。

 

 

「ダメ元で聞くんだが、姐さんと何を話していたんだ?」

 

「シンガニは知らなくていい」

 

「即答かよ……」

 

 

 その後、気になって何度か聞いてみたが、ジンは最後まで口を割らなかった。

 

 

 

 

 

 






・与り知らぬところで盗撮されてる兄貴分

 今回、弟分を自宅に招いた。忙しい中、休暇を3日間だけ取り、そのうちの1日目を今回のお泊まりのために、3日目をライのご褒美のために使うという、身内大好きな男である。
 人の(特に身内の)好みを見抜き、相手が望む行動を取りつつ自分の思うがままに事を進める。魔性?褒め言葉だ(ドヤァ

 なお、もしもジンとベルモットが自身の盗撮写真を持っていると知った時、2人とは1週間口を利かなくなると思われる。


・兄貴分が大好き過ぎて盗撮しちゃう弟分

 兄貴分の自宅にお泊まりできてご機嫌。誰も見ていないからこそオリ主に存分に甘える。……実は今回、オリ主の休暇中にどちらが先に一緒に過ごすのか、ライと言い争いになり、最終的にオリ主の鶴の一声で仁義なきじゃん拳対決が行われた結果、勝者となった。
 オリ主が目覚める前に聞いた音の正体は、もうお分かりだろう。こいつが犯人だ。本人の与り知らぬところで、今回盗撮した"ジンの腹の上で熟睡するオリ主"の写真は、ベルモットのフォルダにも保管される事に。

 盗撮している事も、写真を横流しした事も、墓場まで持っていくぜ……






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IF⑤ライへのご褒美編



・IF②で触れていた、ライへのご褒美の話

・IF③を読むとより分かりやすいかもしれません

・いろいろ捏造しています

・オリ主とライの距離が近い

・ライのキャラ崩壊あり

・江戸川コナン、沖矢昴に対して少しだけヘイト表現





 

 

 ――誰かが、室内に入って来た。

 

 そんな気配を感じた俺は目を覚ましたものの、未だに微睡んでいた。その誰かの気配が、よく知っているものだったからだ。

 

 

(……起こしてくれるまで待つとしよう)

 

 

 そう思い、瞼は閉じたままその時を待つ。そうすればきっと、優しく起こしてくれるだろう。

 

 すると、よく知っている気配が窓の方へ動き、その直後にカーテンが開く音がした。一気に室内が明るくなる。……それから、俺が寝ているベッドへとその気配が近づいて来た。

 ギシッ、というベッドの軋む音が聞こえ、静かな息遣いが耳元に近づく。

 

 

「――Good morning(おはようございます),()my dear master(俺の親愛なるご主人様)……」

 

 

 バリトンボイスでそう囁いた男――ライは、意外に細長い指で俺の頬を撫で、起床を促してくる。それがくすぐったくて、思わず笑ってしまった。

 

 

「っふふ……Good morning(おはよう),()my dear dog(俺の親愛なる犬)

 

「……やはり、俺が部屋に入ったあたりから起きていましたよね?……何故、俺に起こされるまで待っていたんですか?」

 

「……くくっ……気がついていながら、わざわざ俺の耳元で声を掛けたんだな?」

 

「俺がそうしたかったので」

 

「そうだろう?……お前がそうしたいだろうと予想していたから、待っていたんだ」

 

 

 ……今回、ライが自分へのご褒美として俺に望んだ事は、"1日だけ、ライが俺のお世話をする事"だった。前日の夜からライの家に泊まってもらい、翌日の夜までお世話がしたいという要望があったため、それに従って昨夜からライの家に泊まり、今に至る。

 俺の世話をする事を望んだライなら、きっと俺を起こす事も望んでいるはず。……そう考えて、わざと待っていたのだ。

 

 

「……お前の望みに沿うようにしてみたんだが、どうだった?」

 

「…………最高でした。滅多に見られないマスターの寝顔を見る事ができましたし、更にあなたが目覚めて1番に目にするのが俺の姿であるという事実……とても気分が良いです」

 

「それは何よりだ。……で、そろそろ起きたいんだが……」

 

「おっと。……失礼しました。どうぞ」

 

 

 俺の上に覆い被さるようにしていたライが体を起こし、それから俺もベッドから起き上がった。

 

 

「既に朝食は用意してあります。マスターの準備が整ったら、リビングに来て下さい」

 

「あぁ。ありがとう」

 

 

 ライが部屋から出て行った後、服を着替えたり顔を洗ったりなどの身支度を整え、リビングに向かう。

 リビングへ続く扉を開くと、朝食の良い匂いがした。この匂いは……焼き魚と味噌汁の匂いだ。

 

 

「マスター。こちらへどうぞ」

 

「ん」

 

 

 椅子を引いて着席を促すライの元へ向かい、その席に座った。それから俺が座る椅子を軽く押し込んだライは、俺の真向かいに座る。

 

 

「……和食か」

 

「はい。以前、マスターは洋食よりも和食を好んでいると言っていましたよね?それからずっと練習していたんです。……それこそ、工藤邸に潜伏していた時期も」

 

「へぇ……俺のために?」

 

「当然です。……マスターに俺が作った料理を食べてもらうのは、今回が初めてです。だから、その初めてを最高のものにしたいと思って……」

 

「それで、俺が好んでいる和食を作ったわけか。……白いご飯にカブの味噌汁、だし巻き玉子。ナスとキュウリの漬物に……さらには俺の大好物の豚の角煮まで……素晴らしい」

 

「!!……これ、好物だったんですか?」

 

「……あれ?言ってなかったか?」

 

「はい」

 

「そうか。……知らなかったとはいえ、それを用意するとは……さすが、俺の犬。よくできた子だ」

 

 

 そう言って軽く頭を撫でてやると、幸せそうに目を細めた。……そうしていると大の男が可愛く見える。不思議だな。

 

 

「じゃあ、さっそく……いただきます」

 

 

 最初に、豚の角煮を一口食べた。俺は好物は先に食べるタイプだ。

 

 

「っ!…………うまい」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「あぁ!うまいよ、ライ。外国暮らしが長いのに、よくここまでうまい角煮を作ったもんだ……」

 

「っ!!……ありがとうございます!」

 

 

 ニコニコと嬉しそうに笑うライを見ていると、俺も嬉しくなった。……にしても、本当にうまい。間違いなく、俺が作った物よりもうまい。

 その後。豚の角煮以外の料理も食べたが、全てうまかった。さすがは俺が認めた男。料理もそつなくこなすか……

 

 

「……ごちそうさま」

 

「お粗末様でした。……この後、昼は洋食ですが、夜も和食を予定していますので」

 

「ほう……朝飯がこのレベルなら、他も期待していいのか?」

 

「ぜひ、期待していて下さい」

 

「うん。任せた」

 

「はい!」

 

 

 共に朝食を食べた後、ライは緑茶を淹れてくれた。……緑茶までうまいとは……こいつは一体何を目指しているんだか……

 

 

「それで?これから夜まではどうやって過ごす?」

 

「まずは、昼食までは一緒にのんびりしてもらい、昼食後に外へ出掛けたいと思っています」

 

「外へ?」

 

「えぇ。……マスターが着る服を、俺に選ばせて欲しいんです」

 

「…………用は、俺の服のコーディネートがしたいと?」

 

「はい!全身のコーディネートを」

 

「全身か……構わないが、何でそんな事を?」

 

「主人の服を見繕う事も、お世話の内です」

 

 

 ふむ……そうゆう事なら、任せてみるか。こいつがどんな服を見繕うのか、興味もある事だし。

 

 それに、ちょうどいい。あの店の事をこいつにも教えてやろう。

 

 

「……分かった。なら、午後は出掛けるとしようか」

 

「ありがとうございます」

 

「ただし、服を買う場所は俺に選ばせてくれないか?」

 

「それはいいですけど、どこに行くんですか?」

 

「俺のお気に入りの服屋だよ。その店の人間は俺にサービスしてくれるし、店が入っているビル自体が特殊でな。会員制で、一般人は入れない。それに、服以外にもいろいろ取り扱ってる店がある」

 

「マスター御用達の店……!俺も行っていいんですか!?」

 

「あぁ。そろそろ、お前にも教えてやろうと思っていたんだ。ついでに、会員になるといい」

 

「……お前に"も"という事は、他にも知っている人間が……?」

 

「コードネームをもらった人間の中で、俺の身内に含まれている奴らは全員知っているぞ。俺が紹介したら、全員もれなく会員になってた」

 

「……そう、ですか」

 

 

 ライは複雑そうな顔をしている。……あぁ、なるほど。

 

 

「……ちなみに、俺が誰かの服を選んでくれと頼まれる事は何度かあったが、俺自身の服を選びたいと言った奴は、お前が初めてだよ」

 

「!!」

 

「だから、ちゃんと考えてコーディネートしてくれ。記憶が薄れつつあるガキの頃を除けば、俺が誰かの選んだ服を着るのは初めてなんだぜ?……後々、良い思い出だと言えるものにしてくれよ?」

 

「っ……はい!必ず素晴らしいものにしてみせます!!」

 

 

 ……やはり、これで正解だったようだな。おそらく、こいつは俺に関係する事で"自分だけ"のものが、何かしら欲しかったのだろう。可愛い嫉妬心だ。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 その後。昼食を食べ終わった俺達は、ライが運転する車に乗り、その店に向かった。

 そして現在。俺はライの着せ替え人形になった事で、さすがに疲れていた。……まさか、服の上下を7セットも着せ替えさせられるとは思わなかった。

 

 

「…………なぁ、ライ。まだ着るのか?」

 

「……すみません、マスター。疲れさせてしまったようですね。では、これで最後にしましょう」

 

「おう。……って、おい。これは……」

 

「それは、俺が個人的にマスターに着て欲しいと思った服です。……着て、くれませんか……?」

 

「ぐ……分かった、分かったからそんな捨てられた犬みたいな目で見るなって!」

 

 

 俺はその目には滅法弱いんだ!

 

 

「ありがとうございます、マスター!」

 

「……全く、しょうがねぇな……」

 

 

 苦笑いしつつ、俺は試着室に入り、その服を身につけた。

 鏡には、全体的に色は濃い青だが、上から下にかけてライの服装とほぼ同じものを着ている俺が映っている。

 

 

「まさかの、お揃い……くくっ……本当に、これだから俺の犬は……」

 

 

 大の男が、俺の前では稀に子供っぽい事をする……これだから、ライは面白い。手元にずっと置いておきたくなる。……もっとも、既に捨てる気はさらさらないが。

 

 そして俺は、試着室から出た。

 

 

「あぁ……よくお似合いです、マスター」

 

 

 嬉しそうに、俺の犬が笑っている。そんなに喜んでくれたんだったら、こっちも着せ替え人形になった甲斐があったと思える。

 

 ライはその後、俺が身につけた8セットのうち、彼とお揃いの服を含めた4セットを買った。……俺が払うと言ったのだが、ライは自分が払うといった聞かなかった。普段世話になっているお礼として、これらの服を俺に送りたいと言ってきたのだ。

 結局根負けして、ライの好きなようにさせたのだが……お揃いの服を除いた3セットは、俺が特に気に入っていた服だった。ライには何も言っていないはずだが……さすが、よく見ている。

 

 

(……ん?あれは……)

 

 

 ライの会計を待っている間に店内を回っていた時、ある品物に目を奪われた。……俺は即座に、それを購入しようと決めた。

 ライにバレないようにこっそりと会計をし、それから店員にその品物にある一手間を加えたいと伝えた。すると、店員はその品物を別の店に回してその一手間を加える事を提案してくれたため、俺は購入した品物を預ける事にした。出来上がったら、帰り際に車を止めてある駐車場まで届けてくれるそうだ。

 

 実に良いサービスだ。今後も贔屓にするとしよう。

 

 

 それから、いくつか買い物をして駐車場まで戻る。すると、例の事を頼んだ店員が待っていた。

 

 

「お待たせ致しました。ご注文された商品です」

 

「あぁ、ありがとう」

 

「…………それは?」

 

 

 店員が立ち去ると予想通り、ライが口を開く。

 

 

「ふふ……今は内緒だぜ。後のお楽しみ」

 

 

 訝しげにこちらを見てくるライとは対照的に、俺は笑顔になっていた。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 帰宅後、俺はライと共に夕食を食べ終えた。……本来なら、これでライの望みを全て叶えたとして、ご褒美の時間は終わりなのだが……

 

 

「……どうした、ライ?何か言いたげだが?」

 

「いや……その……」

 

「良いぜ、言ってみろ。今回は特別だ。お前には俺の犬になった日から今日まで、よく働いてもらったからな……今日中であればあと1つだけ、何でも言う事を聞いてやろう。……それこそ、どんな無理難題でも聞いてやるぞ?」

 

「!!……それ、は」

 

「そう。ライが俺の犬になった日、お前は俺の言う無理難題を叶えてくれただろう?だから俺も叶えてやろうと思ってな」

 

 

 あの日はある程度戯れたら冗談だと言ってやるつもりだったが、まさか本当に叶えてくれるとは思っていなかったからな……その礼になるといいが。

 

 

「……ありがとうございます。では、お言葉に甘えます。……実は――」

 

 

 ……ライの話を聞いた結果、俺はその予想外な話に驚いた。しかし、できない事ではなかった。むしろ、俺としても叶えてやりたい望みだったため、その望みを叶える事にする。

 

 

 ……数十分後。準備を整えたライが、リビングに戻って来た。

 

 

「お待たせしました」

 

「……ほう。実物を見るのは初めてだな。――それが、沖矢昴か」

 

 

 ソファーに座ったまま振り返ると、そこには沖矢昴……の、変装をしたライがいた。

 

 

「にしても……中身を知っている身としては、その声には違和感しかないな」

 

「それはそうでしょう。全く別人の声ですから。この変声機、なかなかの高性能なので、保管しておく事も考えたのですが……やはり、マスター以外の人間に……それも、あんなガキに着けられた"首輪"を保管しておくなんて、耐えられません」

 

 

 そして、ライは俺に懇願する。

 

 

「必要な事だったとはいえ、俺はあのガキに別人の仮面を被せられた事……そして何より、"首輪"を着けられてしまった事に悔いが残っています。その悔いを、マスターの手で晴らしてもらいたいんです。だから……改めてお願いします、マスター。

 ――沖矢昴を、殺して下さい。他でもない、あなたの手で!」

 

「――任せろ」

 

 

 むしろ、喜んで殺してやるよ。たとえ必要だったとしても、俺の犬に勝手な真似しやがって……江戸コナン……いや、工藤新一だったか。

 ――クソガキが。俺の犬に首輪着けようなんざ、千年早い。

 

 

「じゃあ手始めに、そのメガネからだな」

 

 

 まず、俺は沖矢昴のメガネを取り、それを床に叩き付けてレンズを割った。

 

 

「あ。……悪い。後で破片は片付ける」

 

「いえ、それは俺がやるので別に構いませんが……マスターらしくない、乱暴なやり方ですね」

 

「……それだけ、俺も腸が煮えくり返っているって事だよ。そんな事より続けるぞ」

 

 

 次に、俺は折り畳み式のナイフを取り出し、その切っ先で軽く切れ込みを入れた。

 

 

「破るぞ。目、閉じてろ」

 

「はい」

 

 

 それから一気にマスクを破り、それも床に同じように叩き付ける。

 

 

「……本当なら火を使って盛大に燃やしてやりたいところだが、室内だからな。そこはしょうがない。……さて、最後に……」

 

 

 俺は変声機に――忌々しい"首輪"に手を掛け、それを取り外した。

 

 

「これは……さすがに叩き付けただけじゃ破壊できないか。ナイフも……無理か。となると……なぁ、ライ。この部屋って防音対策されてるか?」

 

「えぇ。対策済みです」

 

「そうか。ならば――」

 

 

 俺は、変声機をなるべく遠くに投げ込み、それを懐に忍ばせていた拳銃で撃ち抜いた。……バチッ、という音がした。

 撃ち抜いた変声機を拾い、ソファーに戻ってスイッチを入れた。……起動しない。どうやら破壊が成功したようだ。

 

 

「これでよし、と。……沖矢昴はこれで死んだ。って事でいいか?」

 

「はい……充分です。ありがとうございました、マスター」

 

「…………ライ。今さらこんな事を聞くのはどうかと思うが、お前、本当に――」

 

 

 ――本当に、俺の手を取って良かったのか。……そう聞こうとした瞬間、ライは首を横に振った。

 

 

「それ以上を言葉にする必要はありません」

 

 

 ――ライは俺の足元に跪き、俺の片手を手に取ると、その甲に口付けを落とし、それから俺を見つめる。

 

 

「……俺は既に心に決めています。――最後が訪れるその日まで、マスターの犬であり続ける、と」

 

「…………ライ……」

 

「それに、」

 

「ん?」

 

「心にもない事を言わないで下さい。マスターは、俺を手放すつもりは微塵もないのでしょう?」

 

「!」

 

 

 …………なんだ。気づかれていたのか。さすが俺の犬。

 

 

「くくっ……あぁ。その通りだ。……今のは、念のためにお前の意志を確認したんだよ。……そして、それ程の強い意志があるのであれば、"これ"を渡しても大丈夫だろう」

 

 

 そう言って、俺はライに小袋を渡した。

 

 

「これは……帰る直前に店員から受け取った物……ですよね?」

 

「あぁ、そうだ。まったく、良いタイミングでこれを買ったものだと我ながら思っているよ。……開けてみろ」

 

 

 ライは小袋を開き、中にある物を取り出した。

 

 

「……っ……!?……これ、は……」

 

 

 ――取り出された物は、チョーカーだった。黒地に赤い線が入っており、中心には黒いドックタグが着いている。そしてそのドックタグの裏には、文字が彫られていた。

 

 

「――To Shuichi(秀一へ ),()From Kazuya(カズヤより)……カズヤ……?」

 

「――荒垣和哉。それが、俺の本名だ」

 

「なっ……本名!?」

 

 

 ライは唖然とした表情で、俺を見ている。……まぁ、そうなるよな。今まで、組織内で俺の本名を知っている人間は、ボスしかいなかったのだから。

 

 ボスから"シンガニ"という名を頂いた時。俺は本名を捨てた。今ある戸籍には偽名を使っている。

 だから、ボス以外で俺の本名を知っている人間はいなかった。……そう。俺の一番最初の弟分である、ジンでさえも知らない。

 

 

「今までボスしか知らなかったその本名を、何故俺に……?」

 

「……なぁ、ライ。もしも俺とボスのどちらかを選べと言われたら、お前はどうする?」

 

「――無論、マスターを選びます」

 

「だからだよ。……俺を選ぶと即答してくれるお前だから、本名を教えた」

 

「……では、ジンは?」

 

「聞いてはいないが、ジンだったらまず即答はできないだろうな。……あいつを絶望から救ったボスと、その後にあいつを育て上げた俺。そのどちらも大切にしているから、天秤に乗せる事も嫌がるだろう。なんなら、両方と答えてもおかしくない」

 

「……なるほど。……しかし、マスター。そんな事を聞くという事は、まさか…」

 

「おっと。勘違いするなよ。俺はボスに反抗する気はないし、組織を裏切るつもりもない。今のは例えば、の話だ」

 

「……もしも本当に、あなたがそれを望むのであれば、俺はあなたについて行きます」

 

「滅多な事を言うなよ。気持ちは嬉しいけどな」

 

 

 こうゆう奴だからこそ、俺は本名を教えたんだ。――こいつなら、心から信頼できる。

 

 

「……ま、そうゆうわけだから、それは無くすなよ?下手をすれば、俺の本名がバレちまう。肌身離さず持っておけ。……あ、それから。それにはGPS機能があるからそのつもりでな。……ちなみに、お前が風呂に入る前とか寝る前以外でそれを外していた場合、余程の理由がない限りは俺への裏切りと見なす」

 

 

 つまり今後、ライがチョーカーを外さない限り、その居場所は俺に筒抜けという事になる。……たとえ逃げようとしても、もう俺からは逃げられない。

 

 

「……世界に1つだけ……お前だけのチョーカーだ。本当はドックタグには何も彫られていなかったし、GPS機能もついていなかったが、店員に頼んだら俺の希望通りの物が返って来た。いい仕事をしてくれたものだ」

 

「…………」

 

「一目見た時、これならお前に似合うなと思ったんだ。今まで俺に尽くしてくれた事、そしてこれからも俺の犬であり続けると約束してくれた事……それに対する、俺なりの礼だと思ってくれ。そしてそれは、今後お前を逃がすつもりはさらさら無いという、意志を示す物だ」

 

 

 すると、ライは俯いた。少し、震えている。

 

 

「…………あー、すまん。もしかして気に障った――」

 

「――違う!!」

 

「っ!?」

 

 

 ライが、怒鳴った。常に冷静を保っているこの男が、感情を剥き出しにしている。

 そのライはというと、座っている俺の足元にすがり付き、俺を見上げた。

 

 

「違う。違うんだマスター!俺はただ、こんなにも嬉しく思った事がなかったから、それをどう表せばいいか分からなくてつい……」

 

「…………」

 

「こんな……これ程の贈り物を貰えて、喜ばないはずがない!俺があなたの犬である証を、形にして貰えたのだから!」

 

 

 ……正直に言えば、たったこれだけの事でこいつがここまで感情を剥き出しにするとは、思っていなかった。全くの予想外だった。

 

 

「これを貰えたという事……さらには本名まで教えてくれたという事は……俺はこれからも、あなたの側にいていいんだよな?――他の奴らとは違って、俺自身を見てくれる、シンガニの側に……」

 

「――――」

 

 

 ……なるほど。だから、ここまで喜んでいたのか。

 

 おそらく、ライは……いや、赤井秀一は、FBIのヒーローとしての赤井秀一でも、組織の人間であるライでもなく、ただの"赤井秀一"を見てくれる人間を、ずっと探していたんだろう。……そんな時に、俺が現れた。

 "ライ"と改めて名付けたものの、"赤井秀一"である事に変わりはない。俺はそう思って、今までずっとただの"赤井秀一"を見てきた。……こいつは、そんな俺の態度に気づいていたんだろうな。

 

 そしてそんな俺が、目に見える形で今後も関係を続けるという意思表示を見せた。……そりゃ、喜ぶよな。

 

 

「――秀一」

 

「っ!!――はい、和哉さん」

 

「改めて、約束しよう。――俺は、お前を逃がさない」

 

「俺も、約束します。――あなたから、逃げない」

 

Good boy(いい子だ)

 

 

 頭を撫でてやると、俺の犬は恍惚とした表情で笑った。

 

 

 

 

 






・新たな"首輪"を送った狂犬の飼い主

 俺の犬が可愛くて今日も幸せ。ライによる甲斐甲斐しいお世話を楽しんだ。……しかし、俺の犬は一体何を目指しているのだろうか。ハイスペック過ぎる……
 ライへの信頼の証、またはもう逃がさないと意思表示をするために、チョーカーを贈った上で本名も教えた。ライはオリ主の中で既に優先順位の1位になっている。次点でボス。その次にジン。

 ライに対してかなり依存している事は、本人も自覚済み。


・新たな"首輪"を貰った狂犬

 俺のご主人様が尊くて今日も幸せ。オリ主のお世話を楽しんだ。……いつかは俺なしでは生きられないぐらいになってくれると嬉しい。
 悔いが残っていた沖矢昴の件を解決してくれたと思っていたら、それに加えて新たな"首輪"まで贈ってもらえたため、過去最高に舞い上がっていた。オリ主のためなら黒の組織を敵に回す事も辞さない覚悟がある。

 本人も自覚はしているが、オリ主への依存は、もう止まらない。止めるつもりもない。むしろアクセル全開で今後も依存を深めていく。






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IF⑥狂犬、お仕置きされる



・pixivのコメント欄にてリクエストをいただいた作品です

・ライ視点(途中からオリ主視点)

・時系列はそしかい前。映画、純黒の悪夢の直後

・純黒が始まるよりも前に、ライからの報告によってライの生存や、バーボンとキールの正体はオリ主、ジン、ラム、ボスにだけは筒抜けで、全部知っているけど泳がせているという設定

・ライとジンのキャラ崩壊あり

・捏造たっぷり




 

 

 東都水族館の喧騒から逃れるように、俺は車に乗ってその場を後にした。目的地は、マスターを除いて誰にもその場所を知らせていない、俺のセーフハウスだ。

 既に江戸川コナンやFBIの連中には"赤井秀一"の姿で工藤邸に戻るわけには行かない、と説明し、今日は別の場所で寝泊まりすると伝えてある。……今回の件について、マスターに報告しなければいけないからな。FBIの人間が稀に出入りする工藤邸に戻るわけにはいかない。

 

 やがて、セーフハウスに到着した。そして自宅の扉を開けようとして、気づいた。

 

 

(――誰か、いる)

 

 

 間違いない。扉の向こうに、誰かの気配を感じる。……だが、何者かは気配を隠そうとしていない。……だとすると、まさか……?

 

 

(……いや。早合点はするな。念のために拳銃はいつでも抜けるように……)

 

 

 それから俺は、扉を開けた。

 

 

「!!……っマスター……!」

 

「よぉ。邪魔してるぜ」

 

 

 やはり、マスターだった!……昂る心を抑え、素早く銃から手を放し、扉を閉めてその足元に跪いた。

 

 

「まさか直接お会いできるとは……!何の準備もできておらず、申し訳ございません……」

 

「構わない。何も言わずにここへ来たのは俺の方だ。……ほら、さっさとリビングに行くぞ」

 

「はい」

 

 

 ……この時。俺はどこか違和感を感じていた。いつものマスターなら、何の連絡もなしに行動を起こす事はない。それに……

 

 

(……頭、撫でてくれなかった)

 

 

 いつもなら、跪けば頭を撫でてくれるのに……

 

 そんな違和感に、少し不安を覚えつつ、俺はマスターに導かれてソファーに座った。

 

 

「さて……そのまま動くなよ、ライ」

 

「?……はい」

 

 

 "待て"と言われれば、もちろん待つが……すると、マスターは俺の体の触診を始めた。

 

 

「マ、マスター?」

 

「…………大体の怪我は上半身と顔に集中してるな……しかし、やっぱり服の上からだと面倒だな……よし、ライ。上着を脱げ。で、自分の怪我について、分かる範囲で今報告しろ。どうゆう状況で、どんな怪我をしたのか」

 

「それは、どうゆう……?」

 

「いいから、やれ」

 

「……Yes,master(はい、ご主人様)

 

 

 マスターがそう言うなら、やるしかない。……それから俺は自身の怪我について、覚えている範囲で報告した。

 

 

「…………なるほど。……まぁ今回の一件は、黒の組織が表立って動いたからな。今はFBIにいて、しかもボスに銀の弾丸(シルバーブレッド)と呼ばれているお前が関わるのは当然。むしろそうでないと不自然過ぎる。だから、大怪我は避けられないのは分かっていた。

 しかしだからと言って――一番酷い怪我が、バーボン……いや、降谷零に殴られた傷だというのは、どうかと思うぞ」

 

「…………申し訳、ございません」

 

 

 ……確かに。冷静になって考えてみれば、あんな状況下で殴り合いの喧嘩など、無駄でしかない。……無駄は、マスターが嫌っている事だ。

 

 

「例の、スコッチの一件か?原因は」

 

「……はい」

 

 

 マスターには以前、俺がまだ潜入捜査官だった時のスコッチの一件について、説明していた。だから、既に俺と降谷零の因縁についても知っている。

 

 

「……ふん。私情に囚われるなど、公安の……それも、ゼロの人間が聞いて呆れるな。そしてそれは……お前もだ、ライ」

 

「っ!!」

 

「今後、奴らは俺達を潰そうとさらに躍起になるだろう。そうなれば、ますますボロが出ないようにしなければならない。何せ敵には、頭の切れる奴や、観察眼に優れた奴が少なからずいるからな。……もしかしたら、たった1度のミスで、お前の寝返りが露呈するかもしれない……分かるな?」

 

「はい……」

 

「無駄な怪我をしたせいで、任務を遂行できませんでした……なんて展開はごめんだぜ」

 

「仰る通りです……以後は、2度と同じ失敗をしないよう、細心の注意を払います」

 

 

 このように叱られる事は、今回が初めてだった。自然と、俯き加減になってしまう。しかし……

 

 

「それは当然だな。だが――それとは別に、罰を与える」

 

「っ!?」

 

 

 その言葉に、はっと顔を上げた。……マスターの表情からは感情が読めなかったが、その代わりに漆黒の瞳には冷たい光が宿っている。……背筋が凍った。

 

 マスター……あなたは一体、今何を考えているのですか……?……まさか――

 

 

「――俺は、捨てられるのですか?」

 

「…………いいや。捨てはしない。罰を与えるだけだ」

 

 

 ……嘘はついていないようだ。ひとまずほっとした。

 

 

「では、どんな罰でしょうか?」

 

「簡単な事さ。――しばらくの間、俺と会話する事を禁止する」

 

「――――」

 

 

 あまりの言葉に、一瞬だけ思考が停止した。……会話を禁止する、だって!?

 

 

「俺に話し掛ける事、俺に電話する事、仕事以外でメールをする事を禁止する。……つまり、まともにやり取りをするのは仕事が関わった時のメールでのみ、という事だな」

 

「そんな、マスターっ…」

 

「口を閉じろ」

 

「っ……!!」

 

「……今のは許すが、今後はお前が話し掛けて来ても無視するし、話し掛ける度に会話禁止令の期間が長くなっていくからな。気をつけろよ?……まぁ、そもそも俺からお前に会いに行く事自体がしばらく無くなるから、そのつもりでな」

 

「なっ……!?」

 

 

 そんな……なんてことだ……!!

 

 

「と、言うわけで話は終わりだ。俺は帰る」

 

「なっ、もう!?マ、マスター!せめて今日は……今日だけはここにいてくれませんか!?」

 

「…………」

 

「マスター?……マスター!!」

 

「…………」

 

 

 ……無言のまま、マスターはセーフハウスから出て行ってしまった。

 ……本気、なのか……本気で、自分との会話を禁止する、と……

 

 

「――シンガニ…っ…!!」

 

 

 あなたとしばらく話せないなんて、俺は一体どうすればいいんですか……?しばらく、とはいつまでですか……!?

 

 

 ……マスターの一言で、俺は絶望の淵に立たされる事になった。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ――あれから、1ヶ月が過ぎた。……未だに、会話禁止令は解けない。

 

 

 自分でも相当参っている事は自覚していたが、意地でも表には出さなかった。そのおかげでFBIの人間にも、何かと鋭いあの名探偵のガキにも、気づかれていない。

 マスターから与えられた罰が原因で俺が動揺し、既に黒の組織に寝返っている事を悟られるわけにはいかないからな……

 

 ……しかし。そろそろそれも限界かもしれない。

 

 数日前から、食欲がなくなり始めている。それに不眠症状も出始めた。……これでは、近いうちに何らかの支障が出る。

 ……間違いなく、マスターと会っていないから不調になり始めたのだ。

 

 

(…………会話禁止令を出された当初から気づいていたが、抜け道は、ある。マスターはおそらく、あえてこの抜け道を作った)

 

 

 でなければ、会話禁止令を出した時にすぐさま"これ"を回収していたはずだ。……だが……

 

 

(……本当に、抜け道を使っていいのだろうか。今の俺は罰を与えられている身だ。それなのに、それを破るような真似をしていいのか……?)

 

 

 しかし、だからといってこのまま不調が続けば、今後、奴らを潰す作戦を実行する時に足手まといになってしまうかもしれない……

 

 

 沖矢昴の仮面を被ったまま、工藤邸内の客室で悩んでいたその時、沖矢昴として所持している携帯に、電話が掛かってきた。……非通知だ。

 念のため、その電話に出る事にした。

 

 

「……はい、もしもし」

 

「…………」

 

「……あの、どちら様でしょうか?」

 

「――くくっ……違和感しかねぇな。その声は」

 

「っ!?」

 

 

 この声……まさか……!?

 

 

「……何のご用でしょう?悪戯電話なら切りますよ」

 

「まぁ待てよ、ライ。……周りに誰もいないようなら、盗聴器等の確認をしてから変声機を切れ。普段の声以上に耳障りだ」

 

「…………ちっ」

 

 

 何故こんな時に、こんな奴と話さなければいけないんだ。……だが、何か重要な指令が伝えられるのかもしれないと考えれば、無闇に電話を切るわけにもいかない……

 そう思い、仕方なく――本当に、仕方なく――盗聴器等の有無を調べてから、変声機を切った。

 

 

「…………何の用だ――ジン」

 

「ふん……やっぱりムカつく声だな。さっきよりはマシだが……まぁいい。……普段ならシンガニの仕事だが、今あの人は手が放せないからな。俺がてめぇとの情報の共有を任された」

 

 

 ……なるほど。そうゆう事だったか。

 

 

「2度は言ってやらねぇから、しっかりと記憶しろよ。まず――」

 

 

 それからジンは、淡々と新たな情報や連絡事項を話した。

 

 

「――以上だ。分かったな?」

 

「あぁ。……それより、聞きたい事がある」

 

「あ?」

 

「マスターが今手を放せない……とはどうゆう事だ?」

 

「は?…………あぁ、なるほどな……くくくっ、ははっ!てめぇは何も聞いてねぇのか!」

 

 

 俺を嘲笑いながら、ジンはそう言った。……こいつ……!

 

 

『何がおかしいんだよこの――――が!』

 

「っは……落ち着けよ。今のてめぇは沖矢昴なんだろ?そんな汚い言葉を使っていいのか?なぁ?」

 

「っ……!!」

 

 

 ……変声機を切れって言ったのはてめぇだろうが……!!

 

 

「くくっ……いい子だなぁ、沖矢昴?……ご褒美に、教えてやるよ。他の幹部や下っ端達が全員知っているにも関わらず、てめぇだけが(・・・・・・)知らねぇ事を、な……」

 

「――っ!!」

 

 

 いつか……いつか絶対に殺してやる!この銀髪ポエマー野郎……!!

 

 

「……今、シンガニは国外にいる」

 

「何だと!?……っ!!」

 

 

 そういえば、マスターから俺に会いに行く事自体がしばらく無くなると言っていたが……もしや、この事だったのか……!?

 

 

「日本やアメリカの犬共を潰す作戦のために、下準備をしてくると言っていた。今後を左右する重要な下準備で、かなり本格的に取り掛かっているらしい。……あの東都水族館で弾丸の雨を降らせてやった日からそう間を置かずに出国して行ったからな。そろそろ1ヶ月が経つか?……まぁ、今日中には帰って来るそうだが…」

 

「帰って来るのか!」

 

「…………ちっ。俺としたことが、余計な事までバラしちまった。……いや、待てよ?……そういえば、シンガニが帰って来たとしてもてめぇはあの人と話せないんだよなぁ?会話禁止令が出てんだろ?」

 

 

 ジンがまたもや嘲笑うようにそう言った。……何故それを知っている……!?

 

 

「くくっ……シンガニから聞いたぜ。東都水族館でしくじった事への罰なんだろ?……っは、良い気味だぜ……」

 

「くっ……!!」

 

「お仕置きされてる気分はどうだ?犬っころさんよぉ……?」

 

「ぐぅ……っ……!!」

 

 

 殴りたい……!サンドバッグにしてやりたい……!!いや、いっその事犬らしく噛み殺してやろうかこの野郎……!!

 

 

「……あ?どうした、ウォッカ…………そうか、帰って来たか。…………聞いたか?シンガニが今帰って来たそうだ」

 

「!!」

 

「くくっ……まぁ安心しろ。俺がてめぇの代わりにシンガニの兄貴とたくさん(・・・・)話して来てやるからな」

 

「っ、てめぇ!!」

 

「はははっ!……じゃあな」

 

 

 ……電話が切れた。……それから、スマートフォンをベッドに向かって投げつけた。

 

 

『――――っ!!……あの野郎……!!』

 

 

 誰もいないのをいいことに、俺はひたすらスラング英語を撒き散らした。……そして……

 

 

「――限界だ」

 

 

 もう、耐えられない。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 国外での下準備を終えて、日本に帰国した。先に組織の拠点に寄ってボスに事の次第を報告し、それからジン達幹部に帰国した事を知らせるついでに、土産を渡す。……やけに機嫌のいいジンの事が少し気になったが……まぁ、いいか。

 

 その後、1ヶ月振りに自宅へと帰ったのだが……

 

 

(――誰かが、いる)

 

 

 家の中に、確実に、誰かがいる。……これは、もしや……?

 

 いつでも銃を抜けるように準備はしたが、俺はそこまで警戒していなかった。なぜなら、まず、この家のセキュリティはかなり高度なもので、泥棒やら不審者が入る事はまずないからだ。

 そしてそれを除けば、俺の家に入って来れる人間は、合鍵を渡している2人の男に限られる。そのうちの1人であるジンは、つい先ほど別れたばかりだから、除外される。

 つまり、この気配の正体は、合鍵を渡してあるもう1人の男の方だ。

 

 ……とはいえ、確認する必要があるな。

 

 俺は、スマートフォンを取り出して、とある人物に電話を掛けた。

 

 

「……あー、もしもし?今、俺の家の中を確認してもらいたいんだが…おぉ、そうか。それで?…………そうか。ちゃんと我慢できたんだなぁ……じゃあ、もういいよな?………了解した。

 ……だが、もうこんな事はこりごりだからな。余程の理由がない限りは止めてくれ。でないと――さすがに俺、怒るぜ?本気で。……じゃあ、切るぞ。ボスによろしく」

 

 

 電話で、ある事を確認した俺は、銃から手を離して警戒を解き、自宅の入り口の扉を開けた。――その瞬間、

 

 

「――っ!?」

 

 

 何者かの腕が俺の腕を掴んで、室内へと引きずり込んだ。そして、その腕の中に閉じ込められるのと同時に扉が閉まり、オートロックが掛かった。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 ……その後、沈黙が続いた。……こいつ、まさかまだ律儀に俺の言い付けを守っているのか?本当に、意外に健気な奴だよなぁ……

 

 それなら、"よし"って伝えてやらないとな。

 

 片腕を伸ばし、俺を抱き締めている男の頭を撫でた。

 

 

「――Good boy(いい子だな)、ライ。……会話禁止令は既に解かれた。もう話せるぞ」

 

「…………マス、ター……?」

 

「あぁ」

 

「っ……マスター……」

 

「んー?何だよ?」

 

「っ、マスター……マスター、マスター、マスター、マス…っシンガニ……!!」

 

「ぐえっ」

 

 

 突然、今まで以上に強く抱き締められた。おかげで変な声が出ちまった。……かなり我慢してたみたいだな……しばらく、やりたいようにやらせてやるか……

 

 ……しばらくの間、ライは俺を相手に、肩や背中にグリグリと頭を押し付けてきたり、正面から抱き締めてきたり、俺の頭の上に顔を押し付けてきたり……仕舞いには家の中のソファーまで、俺を抱き上げて運んでそのまま俺を膝の上に座らせたりと、好き放題に甘えてきた。

 そして現在。ライは俺の体に寄りかかって、俺の肩に頭を預けるという形で落ち着いている。

 

 

「……マスター」

 

「何だ?」

 

「……先ほど、マスターは会話禁止令は既に解かれた、と言ってましたよね?」

 

「あぁ」

 

「あれではまるで、会話禁止令を実際に出していたのはあなたではなく、別の誰かであったように聞こえたのですが……」

 

「……ふふ……やはりお前は冷静であれば、目の付け所が違うな……」

 

 

 実際、ライの言う通り、会話禁止令を出したのは俺ではなく……ラムだったのだ。

 

 

 先ほど、自宅の扉を開ける前に電話を掛けた相手が、ラムだった。……俺が電話で確認したかった事は、ライが1ヶ月の間、俺の家に入って来なかったかどうか、だった。

 最初、ラムに会話禁止令を出す事を指示された時、期間は無期限だった。しかし、それではライが耐えられないだろうと考えた俺は、期間を1ヶ月に設定するようにと、ラムと交渉した。

 その際、あえて抜け道を作る事を条件に、期間を1ヶ月にする事を認めてもらった。その抜け道というのが、"俺に会いに行く事を禁止しない"事だった。そして、合鍵をあえて回収しないようにすれば、ライも抜け道に気づくはず。

 

 では、何故そんな抜け道を作ったのか。……それは、ライの事を試すためだった。

 

 元々、俺に会話禁止令を出すようにラムが指示を出したのは、ライの忠誠心や忍耐力を測るためだったのだ。

 ……もしもその程度が低ければ、ライへの信用はなくなる。それはつまり、今後俺達を潰しに来るであろう警察組織に対抗する際、何らかの支障が出る事を意味していた。未だ奴らに裏切りを悟られていないライの存在は、既に作戦の要となりつつある。

 

 ならば、一度試さねばならない……と、ラムが言い出した。

 

 あえて抜け道を作り、それに気づいた時、ライはすぐにそれを使うか、否か。……そうする事で、ライには俺の命令を守る忠誠心があるのか、"待て"を継続できる忍耐力があるのかを、試したのだ。

 ちょうど、俺が例の下準備で1ヶ月ほど留守にする事が決まっていたため、ライにはその事を黙っておき、その間に俺の家にいくつか監視カメラを設置して、ライが現れるかどうかをラムが見張る事になった。

 

 ――完全に"人間モニタリング"だ。……実に、不快だった。

 

 組織の今後を考えれば、これは必要な事だった。それは、分かる。……しかしだからといって、俺の犬にこんな無理をさせるなんて……

 ……だから、電話でラムに確認して、ライが1ヶ月以上耐えきった事を知った俺は、内心ではかなり喜んでいた。ついでに、次にこんな事をやらせるなら本気で怒るぞ、と軽く脅しておいた。ラムは俺が本気で怒るとどうなるかを知っているから、今後は自重してくれるだろう。

 

 

 ……といった事を、ライに説明した。

 

 

「…………ごめんな。こんな無理をさせちまって……つらい思いをさせた。すまない」

 

「いえ……俺は、あなたが俺を捨てないでくれれば、それで構いません」

 

「……誰が捨てるかよ、バカ野郎」

 

 

 自分で飼うと決めた犬を捨てるなんて、飼い主失格だろうが。それに……

 

 

(――もう、俺はお前を手放せないんだ)

 

 

 捨てるなんて、考えられない。

 

 

「……目の下、隈ができてるな。……寝てないのか?」

 

「……はい。最近は特に。……あなたと1ヶ月も話せなかった事なんて、今までになかったもので、それで……」

 

「……いつ会話禁止令が解除されるのか、不安になり過ぎて……って事か?」

 

「はい……」

 

「そうか。……悪かったな」

 

「いえ。あなたのせいではないので……」

 

「俺のせいではない、ね……」

 

 

 ……実は、必ずしもそうとは言えないんだよな……

 

 

「…………あのな、ライ。確かに、会話禁止令を出したのはラムだが……どちらにせよ俺は、それがなくても別の罰をお前に与えていただろう」

 

「え……?」

 

「俺はあの時、確かに怒っていたぞ。……何故か、分かるか?」

 

「それは……俺が無駄な怪我をしたから…」

 

「違う。それは、組織の人間として思っていた事だ。……俺個人としては、お前が怪我をして俺を心配させた事と――何よりも、お前を危険な目に合わせてしまった、俺自身に怒っていたんだ」

 

 

 そう言って、俺は頭を抱えた。

 

 

「マスター……?」

 

「……本当に、何やってたんだかな、俺は。未だにこちら側へ呼ぶ事ができないとはいえ、お前を危険な目に合わせたし、ジン達だってオスプレイからうまく脱出してくれたから良いものの、危うく死ぬところだったし……俺だけが、安全な場所でのうのうと指示を送るだけだったのだと思うと……」

 

 

 ……溜め息が出た。

 

 

「……いや、もうそれはいい。既に終わった事だ。……とにかく!」

 

「!」

 

 

 話を変えるために、俺はライの顔を両手で掴み、無理やり目を合わせた。

 

 

「――もう、酷い怪我なんてしてくれるなよ。頼むから……」

 

「マス、ター」

 

「返事は?」

 

「――Yes,master(かしこまりました、ご主人様)。あなたを心配させないよう、尽力します」

 

「ん、Good boy(いい子だ)

 

 

 そう言ったライの頭を、気持ちを込めて撫でてやった。……さて、と。

 

 

「ライ。お前、今日はいつまでここにいられる?」

 

「そう、ですね……あと、3時間ぐらいなら」

 

「そうか。……じゃあうちでその3時間、寝ていくか?」

 

「!?……いいんですか?」

 

「あぁ。……今回の事は、確かに俺の本意ではなかったが……俺は1ヶ月前にお前が傷だらけになっているのを見て、勝手に腹を立てて……つい、冷たい態度を取って、結局ラムの計画に乗せられる形で行動してしまって……お前を傷つけた。……だから、その詫びに、と思ってな」

 

「……ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」

 

「おう。……何なら、添い寝してやってもいいが…」

 

「お願いします!」

 

「…………お、う。分かった」

 

 

 …………冗談のつもりだったんだが。……まぁ、いいか。たまには。

 

 

 

 

 






・実はモニタリングされてた狂犬

 会話禁止令を出されて絶望した。マスターと話せない、だと……!?……鬱だ、死の…いや、死んだら2度とマスターに会えないじゃないか!却下!!
 1ヶ月以上もオリ主と話せなかった上に、ジンに散々ざまぁwwwされてSAN値をゴリゴリ削られ、仕方なく抜け道を使ってオリ主の自宅に侵入。
 数時間、玄関で微動だにせず、オリ主の帰りを待っていた。

 黒ずくめでガタイのいい男が電気も点けずに微動だにしていないなど、傍から見れば恐怖でしかない……byラム


・後ろ髪を引かれつつ出国した兄貴分

 会話禁止令を出した時のライの絶望した表情が忘れられない。ごめん……ごめんなライ……!!
 帰国してからライがちゃんと命令を守っていた事をラムから聞き、感動した。ご褒美に、好きなだけ甘えさせて、甘やかす。
 実はオリ主もライが心配であまり寝ていなかったため、添い寝をした事で互いにSAN値回復。眠ったのは3時間だけだったのにめちゃめちゃスッキリした。

 もしもまた愛犬に無茶をさせるようなら本気でキレる所存。親バカならぬ飼い主バカ。


・ざまぁwwwした弟分

 ライwwwwwwざまぁwww(ゲス顔。普段はオリ主に甘やかされているライが、不憫な目に合っていてご満悦。ここぞとばかりに盛大にざまぁwwwする。

 だがしかし、後に……?







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IF⑥狂犬、お仕置きされる~おまけ~



・IF⑥の後日談。

・ジンが不憫。バーボンはそれ以上に不憫。それでも読みたいという方は、どうぞ!


 

 

①シンガニとジン

 

 

・会話文のみ

 

・ジンのキャラ崩壊あり

 

・ジンが黒の組織の拠点内の通路を歩いていた時、前方から歩いてきたシンガニを見つけたため、話しかける。

 

 

 

 

 

 

ジン「……シンガニ」

 

シンガニ「…………」

(無言で通りすがりにラリアット)

 

ジン「っ!?」

(間一髪で避ける)

 

シンガニ「……ちっ……避けんじゃねぇよデカブツ……」

 

ジン「な、おい!俺が何をしたってんだ!」

 

シンガニ「はぁ?自分がした事をもう忘れたのか?……あぁ、いや。そういえばてめぇは殺した人間の事はすぐに忘れちまうんだっけ?って事は記憶力は鶏並みか」

 

ジン「」

 

シンガニ「じゃあ仕方ねぇ。教えてやる。……俺が帰って来た日に、ライの事を散々弄んだらしいじゃねぇか。そんなに楽しかったか……?」

 

ジン「い、いやあれは…」

 

シンガニ「ほう……?やっぱり覚えてたんじゃねぇか。知らない振りをしてたのか」

 

ジン「ちが…」

 

シンガニ「問答無用」

 

ジン「ぐっ!?」

(腹を思い切り殴られた)

 

シンガニ「……ふぅ。多少はスッキリしたな。次はあいつか……」

(そう呟いて颯爽と去っていく)

 

ジン「」

(腹を押さえて沈んでいる)

 

 

 

 

 

 

ウォッカ「ガクガク((( ;゚Д゚)))ブルブル」

(実は一部始終を見ていた)

 

 

 

 

 

 

②シンガニとバーボン

 

 

・会話文のみ

 

・バーボンのキャラ崩壊あり

 

・バーボンとしての任務中。ターゲットとバーボンが会話をしている隙に、シンガニがターゲットを狙撃して殺害、という作戦を実行し、ターゲットは無事に狙撃されたのだが……

 

 

 

 

 

 

バーボン「……ターゲットは死亡。これでこの任務は終わ…っ!?」

(突然、銃弾が左頬をスレスレで通る。左頬から血が流れる)

 

バーボン「っ……一体どうゆうつもりですか、シンガニ……!」

(無線でシンガニと会話中)

 

シンガニ「……あぁ、悪い悪い。つい、手が滑ってなぁ……」

 

バーボン「へぇ……そうですか。あなたでも手が滑る事があるんですねぇ……腕が鈍ったんですか?…っ、なっ!?」

(再び、左頬の全く同じ場所を銃弾がスレスレで通っていった。傷が深くなる)

 

シンガニ「――試してみるか?」

 

バーボン「っ……いえ、遠慮しておきます……」

 

 

・その後、組織の拠点に帰る前の車内にて

 

 

シンガニ「いやー、さっきは悪かったな。今消毒してやるから、大人しくしてろよ」

 

バーボン「い、いえ、シンガニの手を煩わせる程でもな――っ…!?っ!!」

(傷にグリグリと消毒液たっぷりの脱脂綿を押し付けられた)

 

シンガニ「ハハハ、そう言うなよバーボン。遠慮するなって!」

 

バーボン「っ……!!僕、あなたに何かしましたか……!?」

 

シンガニ「いや、別に(俺には)何もしてないぜ」

 

バーボン「」

 

シンガニ「さて、思ってたより傷が深いな……消毒液をたっぷり染み込ませた脱脂綿をずっと傷口につけて置けばちゃんとした消毒になるかなぁ……」

(わざとらしく消毒液をちらつかせる)

 

バーボン「」

(全力で距離を取った)

 

シンガニ「……ふっ、なーんてな!冗談だぜ、冗談!何もしないからそう怖がるなよ」

 

バーボン「…………ほ、本当に、もう何もしないんですね?」

 

シンガニ「しないよ。……今は、な(ボソッ」

 

バーボン「」

(ボソッと言った言葉が聞こえた)

 

 

 

 

 

 

ベルモット「」

(( ゚∀゚)アハハ八八ノヽノヽノヽノ \ / \/ \)

(実は助手席で一部始終を見ていた。内心で爆笑している)

 

 

 

 

 

 






・怒りで暴走中の兄貴分

 ライからジンの所行を聞いて激おこ。通り魔的ラリアットを敢行した……が、避けられたので腹に一発入れた。
 オリ主はジンを嫌っているわけではないため、この日はずっと無視していたが、翌日にはいつも通りになっていた。

 バーボンについてはライを殴った恨みを込めて、徹底的に嫌がらせをした。
 俺には何もしてねぇけど、ライにはやっただろうがてめぇ……!!


・腹に一発入れられた弟分(銀髪)

 ラリアットは間一髪で避けたものの、結局瀕死状態に。この後、ライへの憎しみが割増される。
 オリ主に嫌われているわけではないと知っていて、今回の一件は兄弟喧嘩のようなものだと認識しているため、怒りはしない。翌日にはいつも通りに。


・不憫過ぎる探り屋

 頬を2度もスナイプされるわ、雑な消毒をされるわ、脅されるわ……厄日だ……
 当然、ライの事を知らないため、本人には全く心当たりがない。とても理不尽。

 しばらくは消毒液と脱脂綿がトラウマとして記憶に残る。


・一部始終を見ていた弟分(グラサン)

 あ、兄貴!?(||゚Д゚)ヒィィィ!(゚Д゚||)


・一部始終を見ていた姐さん

 シンガニ最っ高!!バーボンざまぁwwwwwm9(^Д^)プギャー!!







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IF⑦ 前編



・pixiv内で頂いた、「コナンやFBI視点の話を読んでみたい」というリクエストより。

・FBIと公安へのヘイト表現あり。

・ご都合主義、捏造過多。

・シリアス。

・キャメル視点


 前編と後編に分けます。




 黒の組織壊滅作戦は、失敗した。その原因は味方の――赤井秀一の、裏切り。

 

 まさか。……まさか、あの赤井さんが裏切るなんて……!そんな事、誰も予想できなかった。できるはずがなかった。

 何よりも、我々の司令塔であるクールキッド――コナン君が、1番信頼していた人だったから。

 

 そのコナン君はというと、我々が閉じ込めれている場所――組織の人間は拠点の最下層だと言っていた――には、いない。彼だけは、別の場所に連れていかれてしまった。それにボス……ジェイムズさんと降谷さんも、ここと同じフロアにいるはずだが、それぞれ別の場所で監禁されているようだし……

 心配だ。3人共、無事なのだろうか……?

 

 

(……ここに監禁されてから、全く情報が与えられない。与えられるのは、最低限の水や食料。それから環境。……まさか、監禁されている場所にシャワーやトイレが完備されているとは……それに、あらゆる衛生管理が整っている。……監禁にしては、待遇が良すぎる)

 

 

 一体、黒の組織は何を考えているんだ……?

 

 

 我々が監禁されている場所は、幾つもの広い牢屋だった。ここに監禁される前に、FBIと公安の捜査官達はまず、性別で2つに分けられた。そこからさらに5~6人のグループに分けられ、それぞれがこの広い牢屋に収容された。

 コナン君と、ジェイムズさんと、降谷さん以外の男性の捜査官達の事は、鉄格子越しに他の牢屋を見る事で把握できているのだが……ジョディさん達、女性捜査官はこことは別のフロアに監禁されているらしく、彼女達がどうなっているのかまでは、分からない。……無事だといいが……

 

 と、その時。突然このフロアの入り口がある方面から、幾つもの怒声が聞こえた。……その合間に、2人分の足音も聞こえる。誰が来たんだ?

 

 

「この裏切り者め!何をしに来た!?」

 

 

 ……という罵倒が聞こえた時、誰が来たのかが分かった。……赤井さんだ!では、もう1人は?

 

 それが気になった私は、一緒に収容されていた仲間達と共に鉄格子に近づいて、その様子を見た。……赤井さんと共にいたのは、黒の組織の幹部――シンガニだった。

 2人は怒声を浴びせられても表情1つ変える事もなく、颯爽と歩いている。しかし、

 

 

『――そんな女顔の野郎の犬に成り下がりやがって!恥を知れ!!』

 

 

 そんな、一際大きい声が聞こえた時、赤井さんの足が止まった。……私の同僚の声だった。

 

 この声の主の事を、私は嫌悪していた。……彼は赤井さんに……我々の大事なエースに嫉妬し、理不尽な誹謗中傷を浴びせたり、陰口を言う者達の中でも、特に目立っていた人間だ。

 一方的に赤井さんをライバル視し、その上、中傷を広めるような彼の事は、本当に嫌いだ。中傷は以ての他だし、何より、あの(・・)赤井さんに敵うはずがないのにライバル視しているなんて、烏滸がましい。

 

 そんな男の声を聞いた赤井さんは、そいつがいる牢屋の方へ振り向いた。

 

 

「……ライ?」

 

 

 シンガニもまた、足を止めて赤井さんを見た。……ライ、などと呼ばないで欲しい。

 

 彼は――赤井秀一は、我々FBIの大事なエースで、英雄(ヒーロー)なのだから。

 

 

「……申し訳ありません。マスター。今、聞き捨てならない言葉が聞こえたもので」

 

「放っておけ。そんな屑の言葉など、気にする必要はない」

 

「しかし――」

 

『あ?……なんだお前――そんな趣味の悪いチョーカーなんて着けやがって。まるで犬の首輪だな!!』

 

 

 ――ガァァンッ!!

 

 

 ……突如として響いたその轟音に、今まで罵声を浴びせていた者達が、一斉に口を閉じた。……一体、何が起こったのか。私はこの目で見ていた。

 

 ――赤井さんは、そのすらりとした長い足で、男がいる牢屋の鉄格子に向けて、回し蹴りを放ったのだ。……その威力は、先ほど聞こえた轟音が物語っている。

 

 

「……ライ。落ち着け」

 

『――今、何て言ったんだ、てめぇ……』

 

 

 静かで、とても低い声だったのに……何故かその声は、我々がいるフロア中に届いた。

 

 

『え……う、あ…』

 

『間違いじゃなければ……今、てめぇは馬鹿にしたよな……?俺の大事な大事なマスターから――俺が心から崇拝するシンガニから贈られた、このチョーカーの事を!!』

 

『ひぃっ!?』

 

「落ち着けって」

 

 

 あの赤井さんが……感情を爆発させている!?それも、烈火の如く怒りを顕にしている……!!

 

 

「ライ…」

 

『この―――――がっ!!これは世界にたった1つの、俺だけの特別なチョーカーだ!シンガニが俺を手離さない事を証明してくれた、大事な"首輪"なんだよ!!それをてめぇは…』

 

「――秀一!!」

 

「っ!!」

 

 

 ビクリと、体を震わせた赤井さんが、シンガニの方へ振り向く。そして、すぐにその足元に片膝をついて跪いた。

 

 

「…………マスター。……すみませんでした」

 

「……落ち着いたか?」

 

「はい……」

 

「ん、そうか……Good boy(いい子だ)ライ」

 

 

 そう言って、シンガニは赤井さんの頭を軽く撫でた。……それだけで赤井さんはうっとりと、息を吐く。……なんで、

 

 

(どうして赤井さんは――あんなに幸せそうにしているんだ……!?)

 

 

 FBIとして仕事していた時も、普段の時も、あんな……あんな緩んだ表情を見せてくれた事は、1度もなかった!それが何故、敵組織の幹部なんかに……!!

 

 わけが分からなかった。そして、シンガニに対する怒りを感じた。……きっと、奴が赤井さんに何かをしたんだ!

 

 そんな怒りを感じたまま、再び赤井さんと共に颯爽と歩き出したシンガニを睨む。そして、2人が私のいる牢屋の前を通ったその時、私と同じ牢屋にいる同僚が、口を開いた。

 

 

『どうして――なんでだよ、シュウ!お前は、俺達の仲間で、FBIのエースだったはずだ!それがなんで裏切りなんて……!!っ――信じていたのに!!』

 

 

 目の前で、シンガニが足を止める。

 

 

『…………1つ、聞きたい』

 

 

 シンガニが、英語でそう言った。

 

 

『信じていたのに、とはどうゆう事だ?』

 

『は……?』

 

『お前はライの事を、絶対的な味方だと、正義の象徴であると……そんな風に、信じていたのか?』

 

『……そんなの、当たり前だろ!だって、シュウはFBIのエースで、黒の組織を壊滅させる切り札の銀の弾丸(シルバーブレッド)で――みんなの英雄(ヒーロー)なんだぞ!!』

 

「っ……!!」

 

 

 ……気のせいか?今、赤井さんの肩が揺れたような――

 

 

 ――ガァンッ!

 

 

 ……瞬間。先ほどの轟音よりは控えめだったが、それでも充分大きな音が響いた。……シンガニが、私達のいる牢屋の鉄格子に、拳を叩きつけたのだ。

 その衝撃に、私達は全員後退りをした。……そして、恐ろしいものを目にする。

 

 

 ――酷く冷たい漆黒の瞳が、私達を見下していた。

 

 誰かが、息を呑んだ音が聞こえた。

 

 

「……つくづく、無能で、無知で、愚かで――反吐が出るほどに屑だな、てめぇら」

 

 

 いっそ恐ろしさを感じるほどに無表情なシンガニが、そう言った。……しかし、その無表情はほんの一瞬だけだった。

 

 

「その無責任な信頼がライを追い詰めていた事に、何故気づかない……?てめぇらはライを――秀一を、なんだと思っているんだ!!」

 

「っ!?」

 

 

 そう叫んだシンガニが、歯を剥き出しにして怒りを爆発させたのだ。そこからさらに罵倒しようと思ったのか、シンガニが口を開いた……その時――

 

 

 ――赤井さんが、背後から片手でシンガニの両目を覆い、もう片方の手でその体を抱き寄せた。

 

 

「何、」

 

「―――さん」

 

「っ、」

 

 

 赤井さんが、シンガニの耳元で何かを呟いた瞬間、先ほどまでの様子がまるで嘘のように、落ち着いた。

 

 

「あなたが先に言ったんだろう?……"そんな屑の言葉など、気にする必要はない"と」

 

「…………」

 

「俺のために、普段は冷静なあなたが、そこまで怒りを顕にしてくれる事は、とても嬉しい。しかし、」

 

 

 シンガニの体を抱き寄せていた手がシンガニの右手を掴み、それを自分の目線まで上げて、強く握られていた拳を開いた。……手の平には血が滲んでいる。

 

 

「――そのために自身の体を傷つけてはいけない」

 

 

 そんな手の平に、血が滲んでいるにも関わらず口付けをして、そのままそれに自分の頬を寄せる。――とても、愛おしそうに。

 

 ――それはまるで、神聖な儀式のようだった。

 

 

「……だが、そのおかげでよく分かった。やはり、俺の居場所は1つしかないのだと」

 

「……秀一」

 

「俺の居場所があるのは――あなたの側だけだ」

 

 

 そう言って、赤井さんは一瞬だけ寂しそうな表情を見せた後――一転して、凍りついた表情で、こちらを見る。

 

 

「俺にとって、シンガニ以外の存在は――全てが不要なのだと、改めて確認する事ができた」

 

「――――っ!!」

 

 

 血の気が一気に引いていったのを、強く感じた。……唐突に、理解した。理解してしまった。

 

 

 ――赤井さんがこちら側に戻って来る事は、もう2度とないのだと。

 

 

「…………もう、いいのか」

 

「……はい。……元々、期待はしていませんでした。先ほど様子を見てきた女の捜査官達も、こいつらと大差はありません。……江戸川コナンは、まだ分かりませんが」

 

「……そうか。では――救済は、不要か?」

 

「――えぇ。不要です」

 

 

 救済、というのが一体何を示しているのか、私には理解できなかったが……不穏な空気を感じた。

 その空気を感じて不安と焦りに襲われた私は、赤井さんに声を掛ける。

 

 

「あ、赤井、さん」

 

「じゃあ、行くか」

 

「はい」

 

「ま、待ってください!赤井さん!……赤井さん!?」

 

 

 私が呼んでも、赤井さんはもうこちらに目も向けてくれなかった。……それでも諦めきれずに、彼を呼んだ。

 

 

「っ、赤井さん!!」

 

 

 すると、彼は一瞬だけ振り向き――

 

 

「―――――――――」

 

 

 ある言葉を口にした。……その後は2度と振り返らず、その場から立ち去ってしまう。

 

 

「っ……うぅ……っ、あ、あぁ……っ!!」

 

 

 …………その言葉を聞いた私は、泣き崩れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――もう、手遅れだ……キャメル」

 

 

 

 

 

 



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IF⑦ 後編



・コナン視点。最後にオリ主視点。

・シリアス。


 

 

 ――ここに閉じ込められてから、一体、どれだけの時間が経過したのか。

 

 環境は整っていて、衛生管理は万全。水も食事も与えられる。……しかし、情報だけは与えられない。

 窓も時計もなく、正確な時間は分からない。入り口は部屋にある1つの扉だけで、当然そこは鍵が閉まっていて、密室だ。人間との接触もないため、それを問い詰める相手がいない。いくつか監視カメラを見つけたから、余計な行動は取れない……そもそも、博士が作ってくれた道具は全て取り上げられたから、そんな行動を取る手段すらない、という状態だ。

 

 

(…………八方塞がり、か。……徹底的に、反抗する術を奪われている)

 

 

 今、この状態で騒いでも、子供の体では体力を消耗するだけ。それに、下手をすれば食事も水も与えられなくなって、餓死もあり得る。……情報も与えられず、それを探る手段さえも奪われた状態が、こんなにも厳しいものだったとは……

 

 

(……これを考えた奴は、相当用心深く、頭が回る人間なんだろう。……あと、おそらく性格も悪いな。うん)

 

 

 悔し紛れに、そんな事を考えていた……その時だった。

 突然扉が開いて、誰かが入って来る。この部屋に閉じ込められてから、初めての事だった。一体、誰が――

 

 

「――っ、シンガニ…と、赤井さん!?」

 

 

 何をしに来たんだ!?

 

 

「やぁ、江戸川少年……いや――工藤新一」

 

「っ!?」

 

 

 ――何故、それを……!?……っ、まさか!

 

 俺は、赤井さんを見た。

 

 

「赤井さん……もしかして……いや、やっぱり気づいて……!?」

 

「……あぁ。その通りだ」

 

「……っ……」

 

 

 やはり、そうか……赤井さんはやっぱり俺の正体に気づいていて、組織にそれを報告していたんだ!

 

 

「とはいえ、最初は半信半疑だったがな。……念のために、お前の事をマスターに報告した時、組織がAPTX4869という薬を開発していたという事実を知った。そこから様々な情報を集め、精査し……共に推理した上で、お前の正体にたどり着いた」

 

「"不可能を消去して、最後に残ったものが如何に奇妙なことであっても、それが真実となる"……だったな?」

 

「!!読んでくれたんですね、シャーロック・ホームズ!」

 

「あぁ。……お前がやけに薦めてくるから、試しに読んでみた。なかなか興味深い話だったから、これからも読み続けてみる」

 

 

 こんな状況でなければ、シャーロキアンが増えるかも、と喜んでいたかもしれない。……こんな状況でなければ……!

 

 

「…………それで、あなた方は俺に一体何の用が?」

 

 

 正体がバレているなら、"江戸川コナン"の演技をしたってしょうがない。開き直ってそう問い掛けると、シンガニが俺に目を向けた。

 

 

「ほう……冷静だな、少年。他の無能共と比べれば、大分ましだ。……我々がここに来たのは君への処分と、それに対する報酬についての話をするためだよ」

 

「…………処分と、報酬……ですか。なるほど……俺に拒否権はなく、ただ決定事項を伝えるためにここに来た……という事ですね?」

 

 

 俺にも権利がある場合は、"取引"や"交渉"という言葉を使うはず。そうではなく、"処分と報酬"と言うのであれば……そうゆう事なのだろう。

 ここにずっと閉じ込められていたせいか、既に希望はなく、投げやりになっていた。……報酬は、おそらく――

 

 

「――俺の家族や幼馴染……それに、友人達や今回の作戦を知らない警察関係者達……そんな、俺の関係者に手を出さない代わりに、そちらの要求を呑め。……とでも言うんでしょう?それが、そちらが提示する報酬となる」

 

 

 すると、今まで表情を変えなかったシンガニが、目を見開いて驚愕した。

 

 

「……What a surprise(驚いた)……!報告は聞いていたが、予想以上に頭の回転が早い。そして――有能だ」

 

 

 心なしか、目が輝いているような……?

 

 

「俺の犬に……ライに勝手に首輪を着けた事を許すつもりはさらさらないが……その有能な頭脳に免じて、その件については多少、目を瞑るとしよう。……さて、話を戻すが、確かに君が言った通り、我々の要求を押し通す代わりに、君の大切な人達には手を出さない。……無論、それは君が我々に協力的だった場合に限るが、な」

 

「報酬、という名の人質ですね」

 

「そうとも言う」

 

「……で、俺に何をしろと?」

 

 

 さっさと本題に入るためにそう言えば、シンガニは……

 

 

「我々のボスの悲願――不老不死のために、我々が進めている研究に協力してもらう」

 

「不老、不死……!?……そんな事、本気で実現できると思っているんですか?」

 

「少なくとも、ボスはそう思っている……君や灰原哀……いや、宮野志保のような存在が現れてからは、特にね」

 

「っ……灰原にも手を出す気か!?」

 

「彼女は既に、我々の手中にある。……いずれ、彼女にも君と同じ処分と報酬を提示する事になるだろう。……君が捕らわれている事を知れば、きっと良い返事がもらえるはずだ」

 

「ぐ……っくそ……!!」

 

 

 やられた……!!こいつらは俺には灰原を、灰原には俺を……それぞれ、人質として利用するつもりなんだ!

 シンガニの言う通り、灰原は俺が捕らわれていると知れば、こいつらに従わざるを得なくなる……俺を、守るために……!

 

 

「このっ――卑怯者……!!」

 

 

 きっとこんな事を言ったって、何の効果もないだろう。……それでも、言わずにはいられなかった。

 そう思っていたら、思わぬ反応が返ってきた。

 

 

「――あぁ。その通りさ。俺は卑怯者だよ。子供相手に、こんな大人げない事をやっているんだから、な……」

 

 

 ……シンガニは、そう自嘲した。……演技には、見えない。

 

 

「……だから、せめてもの詫びとして、君と灰原哀の待遇を改善をしようと努めている。今、ラムとボスに交渉しているところなんだ。さすがに、君達を完全に解放する事はできないが……君達2人を会わせるぐらいなら、交渉次第でどうにかなりそうだ」

 

「…………本当に……?」

 

「あぁ。あくまでも交渉次第だが……成功したら、すぐにでも君達2人を会わせてあげたいと思っている」

 

 

 シンガニが、真剣な表情で俺を見つめている。……何故だろう。この男は黒の組織の幹部なのに……何故、俺は……

 

 

(なんで、こいつの事を信じたい、なんて思ってるんだ……?)

 

 

 相手は犯罪者で……おそらく、赤井さんを裏切らせた張本人だ。それなのに……!

 

 

「あと、もう1つ。――君と灰原哀を、元の姿に戻す方法を探す事についても、優先的に進めたいと考えている」

 

「何……!?」

 

 

 ――やっぱり、いくらなんでもおかしい!

 

 

「……分からない。……あんたは一体、何を考えているんだ!あんた達からすれば、俺はあんた達を壊滅させようとした組織の司令塔で、灰原は裏切り者なんだろ!?それなのに、なんで…」

 

「なんで、こんなにも優遇するのか?」

 

「っ、そうだ!」

 

「…………勘違いするなよ、江戸川コナン。我々が君達を優遇するのは、そうする事によって利益が生じるからだ。

 君達2人を会わせる事で、互いの無事を確認させれば、我々に対しても多少は協力的になるだろうし……それから、君達を元の姿に戻す方法を探る過程で、不老不死に関して何らかの手がかりが見つかるのではないか、という打算もある。

 だから、君達を優遇するんだ。そうする事でもたらされる、利益のために」

 

「…………」

 

 

 ……そうか。だからか――

 

 

「――というのが、建前」

 

「え?」

 

 

 建前、って……

 

 

「俺の本音は最初に言った通り……君達に対しての、せめてもの詫びだよ。子供に窮屈な思いを……つらい思いをさせてしまっている事への、詫びだ」

 

「な、なんでそんな事を気にしてんだよ、あんた!あんたは黒の組織の幹部……悪党なんだろ!?」

 

「――悪党である以前に1人の大人なんだよ、俺は。

 ……俺は、1つのデカイ組織の幹部だ。俺には同じ組織に所属する仲間や弟分や妹分達がいる。そいつらを守るためなら、何だってやってやる。……たとえ、子供を利用する事になったとしてもな。……だが、それは――大人として、最低な行為だと思っている」

 

 

 眉を下げて、申し訳なさそうな表情を見せている。……この人は、本当に悪の組織の幹部、なのか……?今のこの人はまるで、純粋に俺の事を……子供の事を心配している、ただの大人に見える。

 

 

「……これはあくまでも、俺個人の考え方だ。黒の組織の中では、俺のような奴は間違いなく異端だろう。だから、この本音をもっとらしい建前で隠しているのさ。……ここだけの話だからな。内緒にしておいてくれよ?」

 

「……今さらだけど、監視カメラは……」

 

「あぁ、それは問題ない。俺達がここに来る前に、あらかじめ止めておいたからな」

 

「……赤井さんは、いいのか?」

 

「ライはいいんだよ。こいつは死んでも俺を裏切らないから。……なぁ?」

 

「はい、マスター。俺は死んでもあなたの犬であり続けると、心に決めていますから。絶対に裏切りません」

 

「……と、まぁそうゆうわけだから、ライはこれを聞いても何の問題もない。……納得したかい、江戸川少年?」

 

「…………」

 

 

 そう聞かれ、黙り込んだ俺は……やがて、口を開いた。

 

 

「……聞きたい事がある。――あんたはどうして、黒の組織に入ったんだ?」

 

「…………」

 

「あんたみたいな人が……自分から臨んで黒の組織に入ったとは、到底思えない」

 

 

 俺は、そう考えていた。……そう、信じたかったのかもしれない。

 

 

「…………すまないな。それについては、知り合ったばかりで、敵組織の司令塔だった人間に……それも、子供に対して話せるような事じゃないんだ」

 

「…………」

 

「だが、少しだけ話せる事がある」

 

「!」

 

「――俺は元々、子供の頃からFBIになりたいと思っていた。FBIだった父親に憧れてな」

 

「え……!?」

 

 

 思わぬ言葉に、俺は驚愕した。……そんな人が、どうして黒の組織に……!?

 

 

「しかし――ある日俺の父親が、同じくFBI所属の、無能な人間や無知な人間……そういった屑共のせいで、死んだ。……詳細は省くが、俺が黒の組織に入ったきっかけは、間違いなくそれだ」

 

「……っ……」

 

 

 そう言った時のシンガニの瞳からは、光が消えていた。……まさしく、漆黒の闇のような、そんな瞳が虚空を見つめている。

 

 

「……おっと。時間が迫って来ているな」

 

 

 はっと、気づいた時には、シンガニの瞳に光が戻っていた。

 

 

「江戸川少年。……今この瞬間を逃せば、しばらくは俺達とも、他の誰とも会えなくなるが……その前に他に聞いておきたい事はあるか?」

 

「……では、あと2つだけ。……1つは、灰原を含めた俺の関係者について。……両親や、幼馴染に……みんなに、手を出してないでしょうね?」

 

「あぁ。誓って、そんな事はしていないし、むしろ、させないさ。大事な協力者が大切にしている人達だからね」

 

「…………その言葉を、信用しましょう。……しかし、あくまでも俺が信用するのはあなただけです。他の構成員達の事は信用できませんので、俺が協力するのはあなただけにしますよ。……いいですね?」

 

「……充分だ。……ありがとう」

 

 

 シンガニが、ほっとしたような表情で、笑った。……悪党とか、食えない男だとか……そんな印象を最初に抱いていたが、それは既に覆されていた。

 

 

「それで、もう1つは?」

 

「もう1つは……赤井さんに、聞きたい事があって……」

 

「……答えるかどうかは、質問の内容による」

 

「……俺が聞きたいのは――あなたが組織側についたきっかけと、理由です」

 

「……ホー……マスター。どうしますか?」

 

「構わない。お前が話したいと思ったところまで、好きに話すといい」

 

「……分かりました」

 

 

 ……それから、赤井さんは2年前のきっかけとなった出来事と、組織側についた理由について話した。

 

 FBIの上層部に嵌められて、危うく死ぬところだった事。事前に情報を提供してくれたシンガニのおかげで、生き延びた事。その後、シンガニに勧誘され、その手を取った事。赤井さんが指定した条件を、シンガニがクリアしたため、彼の要求を呑み、彼の飼い犬になった事。

 そして、シンガニの手を取った理由は……

 

 

「マスターだけが――シンガニだけが、ただの"赤井秀一"として、俺自身を見てくれる存在だったから。……だから、シンガニの手を取った。

 俺を化け物呼ばわりするような連中や、俺をフィクションのヒーローのようにしか見てこない連中とは違い、マスターだけは、俺自身を見てくれる……それが当時の……いや。今の俺にとっても、どれ程嬉しい事だったか……!!」

 

 

 そう言って、拳を強く握って語る赤井さんに対して、俺は……彼の心境を、強く理解していた。

 

 

 俺も、昔はそうだった。……まだ江戸川コナンになっていなかった頃、俺は自分の人間関係に対して物足りなさや、虚しさを感じていた。

 俺には、俺の事を理解してくれる家族がいた。……でも当たり前のように、両親は俺の事を1人の"息子"として見て、接してくる。……それだけでは、足りない。ただ単純に、"工藤新一"という1人の人間を見てもらえないと、この心は満たされない。……そう思っていた。

 

 しかし、江戸川コナンになって、この姿のままでも中身の"工藤新一"を見てくれる人達に出会い……その中に、両親が含まれていた事を知った時、俺は、目を覚ましたんだ。俺にはちゃんと、俺自身を見てくれる人達がいたのだと、気づけたんだ。

 それに対して……赤井さんの周りにはそんな人はいなかった。そんな状態で身の危険が迫った時に、たった1人だけの、自分自身を見てくれる存在が助けに来たら……そりゃあ、心酔するよな……

 

 

「…………そう、ですか。……俺はたまたま、江戸川コナンになった事で、自分自身を……"工藤新一"を見てくれる人が身近にいた事に気づけましたが……もしも、俺がコナンにならずに、高校生探偵を続けていたら……もしかしたら、あなたと同じような結果になっていたかもしれないな……」

 

「…………」

 

 

 俺がそう言うと、赤井さんは珍しく、きょとんとした顔で俺を見つめた。

 

 

「…………お前は、俺を罵ったりしない、のか?」

 

「え……むしろ、何故そんな事をしないといけないんですか?……確かに、あなたは俺達を裏切った。でもそれは、あなたが俺達よりも信頼できる人を……その人を見つけたからでしょう?俺達が、あなたが信じるに値する存在になれなかったから……だから、あなたは俺達を切り捨てたんだ。……俺が知っている赤井さんは、そんな人なんじゃないかなぁ……と」

 

「――――」

 

 

 ……すると、赤井さんは目を見開いて……そして、寂しそうに、微笑んだ。

 

 

「もしも、」

 

「?」

 

「もしも俺が、シンガニに出会わなかったら……その時は、シンガニよりも先に出会っていたお前こそが、俺自身を見てくれる存在になっていたんだろうな」

 

「?……っ……え、」

 

 

 ……赤井さんがシンガニに出会ったのは、組織に潜入していた頃だったはず。そんなシンガニよりも先に、俺が赤井さんに出会っていたなんて、そんなの――心当たりは1つしかねぇ……!!

 

 

「――覚えて、いたんですか……?10年前の、あの海での出来事を……!?」

 

「っ!?……お前こそ、覚えていたのか?」

 

「……思い出したのは、あなたに出会った後、世良にも出会った事がきっかけになって、それで……」

 

「真純が……そうか。……俺も、思い出したのは江戸川コナンになったお前と出会った事がきっかけだったよ。出会った時からずっと、既視感を感じていてな。……それから徐々に、思い出していったんだ」

 

 

 まさか、あの日の事を赤井さんが思い出していたとは……

 

 ……そうゆう事なら、言いたい事がまだある。

 

 

「……あの日、俺は生意気にも、あなたに対して"ワトソンぐらいにはしてやるよ"と言いましたよね?覚えていますか?」

 

「……あぁ。よく、覚えている。……あの時は、面白い子供だと思っていた」

 

「俺、あの日の事を思い出してからは……実はちょっとだけ、嬉しく思っていたんですよ。……あなたは覚えていなくても、今の共犯関係にある俺達は、まるでホームズとワトソンみたいだ、って」

 

「…………」

 

「……でも、その時にはもう、あなたはシンガニの犬になっていた。……知らなかったとはいえ、滑稽ですね。勝手にあなたを助手にした気分に浸っていた」

 

「…………」

 

「でも……それでも、俺は――!」

 

 

 気づけば、俺は涙を流していた。

 

 

「勝手な事だけど、分不相応だけど、俺は――あなたに、俺のワトソンになって欲しかった……!!」

 

「――――」

 

 

 子供のように――否、実際に子供だが――泣き叫んだ俺は、それから目を閉じて、赤井さんの言葉を待った。

 馬鹿馬鹿しいと鼻で笑われるか、ふざけた事を言うなと怒鳴られるか……それとも、失望されるか。

 何を言われても仕方ないと、覚悟を決めて待っていた……その時だった。

 

 

「――くくっ……ふ、ふ、ははははっ!」

 

「!?」

 

 

 赤井さんが、大笑いしている……!?まるで、10年前のあの時のように!

 ……視界の端で、シンガニが目を見開いているのが見えた。それから、俺の涙が引っ込んだ。

 

 

「はははっ!!……っ、そうか……お前は、10年経っても、そう思ってくれたのか……そう、か」

 

 

 ……そうして、嬉しそうに笑った赤井さんが、改めて俺を見た。

 

 

「だが……すまないな。俺はもう――お前を越える、"運命"に出会ってしまったんだ。だから、お前のその言葉に応える事はできない。……悪いな」

 

「っ……!!」

 

 

 ……分かっては、いたが……直接言われてしまうと、かなり傷つく。

 

 

「…………ライ。そろそろ時間だ」

 

「分かりました」

 

「……江戸川少年。では、しばらく経った後に、また来るよ」

 

 

 そう言って、俺に背を向けたシンガニについて行った赤井さんは……ふと、足を止めて、振り返った。

 

 

「お前と共に過ごした僅かな時間は……全てがそうだったわけではないが――悪くはなかったよ」

 

「っ、」

 

「それじゃあ――さよならだ、ボウヤ。……俺の、ホームズ」

 

「っ……う……ぅっ……!!」

 

 

 泣き出す俺に、別れを告げて再び歩き出した、その大きな背中に向けて……俺は、

 

 

「――さようなら、赤井さん……っ、俺の、ワトソン……!!」

 

 

 ――彼が振り返る事は、2度となかった。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「さて、ライ。――工藤新一の救済は、不要か、否か」

 

「――否です」

 

「……まぁ、そうだよな。……幸い、彼は想像以上に有能な人間だったし、それに子供だし……もしも元の姿に戻れたら、1度だけ彼の家族や幼馴染に会わせてやってもいいかもしれない」

 

「……ありがとうございます」

 

「代わりに、救済が不要な奴ら……FBIや公安の人間は、拷問して情報を絞り出すか、または新しく作った毒薬等の実験台にするか、新人構成員達の勉強(・・)の練習台にするか……まぁ、人数は腐るほどいるし、使い道はいろいろあるな。

 アメリカと日本への交渉道具としては、ジェイムズ・ブラックと降谷零がいれば、それで充分だろう」

 

「はい」

 

「……そこは、躊躇いがないんだな」

 

「えぇ。……以前は、あのボウヤも他の奴らと同じだと思っていましたが……改めて話した事で、それが思い込みであった事を知りました。……彼には、申し訳ない事をしたと思っています。

 しかし、ボウヤが例外なだけで、俺が最下層の牢屋の前で言った事が全てですよ。――俺にとって、シンガニ以外の存在は、全てが不要だ……と。そう言いましたよね?」

 

「……そうだったな。――俺は、工藤新一を越える、お前の"運命"なんだって?」

 

「!!……はい、そうです」

 

「ふふ……そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それにしても、」

 

「?」

 

「――ホームズと、ワトソン……ねぇ……」

 

「……マスター?」

 

「…………俺、ホームズのシリーズ読むの、止めようかな」

 

「そんな!?何故です!?」

 

「自分の胸に聞いてみやがれ」

 

 

 

 

 

 

(お前達の関係に――嫉妬した、なんて。……絶対に言ってやらねぇ!)

 

 

 あと――"お前も俺の運命だ"って言ってやりたかったけど、しばらくは言わない事に決めた!

 

 

 

 

 

 






・狂犬の飼い主

 狂犬をお供に、いろいろと見極めに行った。結果、ジェイムズと降谷以外のFBIと公安は"救済不要"、コナンは"救済"すると決めた。

 自分でライに屑共を相手にするな、と言った癖に自分がぶちギレた。……だって、俺の愛犬の心の傷に塩を塗り込むような真似をするから、つい……
 しかし、その愛犬に本名を呼ばれた事で、正気に戻った。だがしかし、屑共に容赦はしない。てめぇらは使い捨て決定だ!

 組織の幹部としてやらなければいけない事だと分かっているものの、若い頃に抱いていた正義感の欠片がまだ残っており、大人として子供に最低な行為を働いてしまった、と精神的なダメージを受けている。

 "運命"と言われた事は嬉しかったが、コナンとライの関係に嫉妬した……なんて、絶対に言わない!!

 だが、後に愛犬に問い詰められ、その理由をポロっとこぼし、自滅する事になる。


・狂犬

 飼い主と共にいろいろと見極めに行った先で、飼い主の事や大事な"首輪"の事を馬鹿にされて、激おこ。牢屋の中にいなかったらその場でぶち殺していたところだ……!
 本名を呼ばれて正気に戻ったが、今度は飼い主の方が自分のためにぶちギレてしまい、焦ればいいのか、喜べばいいのか……いや、とりあえず止めよう!と結論付けて実行した。

 コナンも所詮は他の奴らと一緒だろう、と思い込んでいたものの、それが間違いだったと知る。……しかし、俺は既に"運命"に出会ってしまったんだ。すまない、俺のホームズ。

 コナンを救済する、とオリ主が決めた事に、ほっとした。しかし、突然オリ主がホームズのシリーズを読むのを止めると言い出し、焦る。何故です、マスター!?

 後に、根気強く問い詰めたら、その理由が自分とコナンの関係への嫉妬だった事を知り、途端に上機嫌になる。俺のマスターがかわいい。


・切り捨てられたFBI

 最後まで、ライが裏切った理由を察する事はできなかったが、ライが正義側に戻る事は2度とない、という事だけは理解した。
 "もう手遅れだ"と言われて、号泣する。


・別れを告げられた名探偵

 シンガニの人心掌握術に、見事に嵌まった。……もっとも、シンガニは今回だけは本心を話していたため、意図的に掌握しようと考えたわけではない。

 ライに別れを告げられ、号泣。……ライがシンガニに出会っていなければ、彼らは名実共に"ホームズとワトソン"のような関係になっていたことだろう。

 ――さようなら、俺のワトソン……







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IF⑧復讐劇、開幕 前編


・IF⑦の続き。

・公安や降谷さんに対してヘイト表現あり。

・降谷さん視点。最後の方にオリ主とライ視点(会話のみ)。

・降谷さんはまだスコッチの死の真相を知らない。赤井さんとも和解しないまま組織壊滅作戦を行った、という設定。

・シリアス。

・前編と後編に分かれています。




 

――SIDE:降谷零――

 

 

 窓の無いこの部屋の扉は1つのみ。その扉は外から鍵が掛かっており、内側からは開けられない。何度か扉を壊して脱出しようとしたが……扉は頑丈で、何をしても開かなかった。部屋の壁も同様に、破壊は不可能。

 

 ――完全な密室に、閉じ込められたのだ。

 

 どれだけの時間が経過したのかも分からず、情報も与えられず……こんな状態が、閉じ込められてからずっと続いていた。

 それでいて、充分な水と食料が与えられているという事は……黒の組織は、俺に利用価値があると判断しているのだろう。でなければ、俺を生かしておく必要は無いはず……

 

 

 その時。扉の方から鍵が開けられる音が聞こえた。

 

 

「っ!?」

 

 

 思わず座っていた場所から立ち上がると、扉が開き……2人の男が入って来た。――シンガニと、赤井秀一……否、ライだった。

 

 

「貴様ら!!…っ、…………何の用だ」

 

 

 一瞬頭に血が上ったが、即座にそれを抑え込んだ。……ライの裏切りには腹が立っているし、“赤井秀一“を“ライ“に変えたであろうシンガニに対しても、そうだ。

 だが、ここに閉じ込められてから初めて外にいる人間がやって来た。相手が誰であれ、貴重な情報源である事に変わりはない。

 

 ――冷静になれ、降谷零。……なんとしてでも、情報を入手しろ。

 

 

「……“ゼロ“の一員というのは伊達じゃない、か……さすがだな、降谷零。バーボンの時から分かってはいたが、自身の感情をコントロールする事に長けている……」

 

「それはどうも。……で?何の用があってここに来た?俺が持つ情報を全て渡せという話なら、断る」

 

「分かっているさ。そんな無駄な事は聞かない。――日本警察や日本国家に関する情報を得る当てなら、幾らでもあるからな」

 

「なっ!?そんな口から出任せを……!!」

 

「さて、信じるか信じないかは君次第だ」

 

 

 シンガニは余裕の笑みを浮かべ、ライは相変わらず無表情。……駄目だ。奴らの表情を見ても、先ほどの話が嘘か真か……全く判断がつかない!

 

 

「そんな事より、話を進めよう。……今日は君に、ある情報を与えるためにここに来た」

 

「……!?」

 

 

 情報を!?……いや、油断するな!もしかしたら、それを与えて俺が何らかの反応を見せる事を望んでいるのか、もしくは……俺を揺さぶって、さらに情報を得ようとしているのかもしれない。

 

 いずれにせよ、何を言われても動揺しないように――

 

 

「スコッチ――諸伏景光の、死の真相について」

 

「――っ!!」

 

 

 その瞬間、頭が真っ白になった。

 

 

「――貴様……!!どうやってあいつの本名を!?」

 

「ライからいろいろお前に関する情報を聞いた時に、個人的に気になって自分で調べた。さすがに日本警察のセキュリティネットワークを掻い潜るのには苦労したよ。

 

 おっと、そういえば――長野県警に、諸伏景光の兄がいるそうだな?」

 

「――――」

 

 

 こいつ、まさか……!?

 

 

「あの人に手を出すつもりか!?」

 

「さぁ?君次第だな」

 

「っ――この野郎!!」

 

 

 ついに我慢できなくなり、俺はシンガニに殴り掛かった。そして――次の瞬間には天地がひっくり返り、地面に叩きつけられる。

 一瞬息が止まり、それから咳き込んだ。……その間に取り押さえられ、身動きが取れなくなった。

 

 

「マスター。――こいつの骨、一本残らずへし折っていいですか?」

 

「…………許可したら本気でやるだろ、お前。駄目だ」

 

「……ちっ」

 

 

 俺を取り押さえたのは、ライだった。……俺とした事が、頭に血が上り過ぎてこいつがいた事を忘れていた……!!

 

 

「……すまないな。俺の犬は番犬として非常に優秀なんだ。だから、一度飼い主である俺に襲い掛かった以上、用が済むまで解放する事はない……そこで我慢してくれ」

 

「ふふ……光栄です。マスター」

 

「くそっ……!!」

 

 

 抵抗しようにも、うつ伏せの状態で拘束されて動けない……!!

 

 

「では……俺がライから直接聞いた、諸伏景光の死の真相を、教えてあげよう」

 

 

 そして語られた――あの日の、真実。

 

 

「補足しておくと、俺がライを組織に寝返らせたのは2年前。……つまり組織に潜入していた頃のライは、まだFBIだった。……ライが諸伏景光を助けようとしていたのは、事実だ」

 

「…………」

 

「そんなライの邪魔をしたのは――てめぇだぞ、降谷零」

 

「っ!?」

 

 

 その言葉を聞いて顔を上げると、シンガニの冷たい目が、俺を見下ろしていた。

 

 

「てめぇが潜入捜査官らしくない軽率な行動を取ったせいで、諸伏景光を助けようとしたライの行動が無駄になった。そう――てめぇが、諸伏景光を殺したんだ。奴の幼馴染みである、てめぇがな」

 

「――――」

 

「だってそうだろう?てめぇがあの日焦って足音を立てながら階段を上ってしまったせいで、諸伏景光はそれを組織の追手だと勘違いし、ライの隙を狙って……自殺した」

 

「――っ、」

 

「奴は自身の携帯ごと胸を撃って死んだ。……携帯の中には家族や仲間達の情報が詰まっていたはずだ。当然、幼馴染みであるてめぇの情報だって含まれていただろうな。

 諸伏景光は、てめぇも含めた大事な人達を守るために自ら死を選んだ。……素晴らしいな。てめぇの幼馴染みは人情味あふれる良い奴じゃないか!しかし――」

 

 

 

 

 

 

「――そんな心優しい奴が、他ならぬ大事な大事な幼馴染みの軽率な行動が原因で死んだなんて――報われねぇよなぁ……降谷零」

 

「――――ぁ、」

 

 

 ――どこかで、何かが壊れる音が聞こえた。

 

 

「……嗚呼(あぁ)、可哀想に……」

 

 

 そう言って、俺の前にしゃがみ込んだ奴の手が、俺の頬に触れる。……そこでようやく、自分が泣いている事に気がついた。

 

 

「……酷い事を言ってすまなかったな。大丈夫。もう言わないよ」

 

「ぅ、あ」

 

「何も心配しなくていい。――俺が、君を受け入れてあげよう」

 

「……っ!!」

 

「君が潜入捜査官だったから……君が正義側にいたから、あんな悲劇が起こってしまったんだよ。でも、大丈夫だ。――俺の元まで堕ちて来られたら、もうあんな悲劇は起こらない。いや――そんな事、俺がさせないよ」

 

「――――」

 

「さぁ――こちら側においで。……君が俺の手を取ってくれたら、俺が君の心を癒してあげるから。――辛い事を全て、忘れられるようにね」

 

「――――」

 

「ほら、おいで――零」

 

 

 片腕だけ、拘束が外れた。……俺は――

 

 

 

 

 

 

 ――シンガニの手(悪魔の手)を、強く払った。

 

 

「…………誰が――誰が貴様の手など取ってやるものか!!俺は悪の組織に屈しない!誰に何と言われようが、俺は警察庁警備局警備企画課の降谷零だ!!それ以上でもそれ以下でもない!!

 

 俺は愛する日本とその国民のために、この身を捧げる!!この国と国民を守るためなら――死んでも構わない!!」

 

「――――」

 

 

 そう叫ぶとシンガニは大きく目を見開き――それから、微笑んだ。

 

 

「……そうか。……よく分かった」

 

 

 俺がその微笑みを見て唖然としていると、シンガニは立ち上がり、俺に向かって深々と頭を下げた。

 

 

「――お前のような日本を愛する警察官がいてくれて、本当に良かった。

 

 ――今まで、俺と俺の両親の大事な故郷を守ってくれた事に、心から感謝を……」

 

「は、」

 

「さて、俺の用は済んだ。……行くぞ、ライ」

 

「はい」

 

 

 ……拘束が外されても、俺がシンガニ達に殴り掛かる事はなかった。シンガニの言葉が、衝撃的だったからだ。

 

 どうゆう事だ?シンガニは一体、何をしたかったんだ?俺が寝返りを拒否したというのに、それ以上しつこく言ってくるわけでもなく、脅してくるわけでもなく――まるで、俺の答えだけを聞く事が目的だったような……

 

 

「あぁ、そうそう」

 

「!」

 

「諸伏景光の兄についてだが――実は、まだ組織には報告していない。この部屋の監視カメラも事前に止めておいたから、組織内でこの事実を知っているのは俺とライだけ……あとは、俺とライがこの話を墓場まで持っていけばいい」

 

「な、」

 

「――少なくとも組織が諸伏高明に手を出す事は無いと、断言しよう。……では、失礼するよ」

 

「ま、待て!……せめて俺の部下達や、コナン君がどうなっているかを教えてくれ!!」

 

「……江戸川コナンなら無事だ。彼には重要な役割があるし、君達の中でも比較的一番良い待遇を受けている。それから君の部下の事だが……無事だよ。――今だけは」

 

「――――」

 

 

 その言葉を最後に、シンガニはライと共に立ち去った。……鍵が閉まる音が聞こえて、室内は静寂に包まれる。

 

 

 ……あの人とコナン君が組織に害される事は無いと分かった。だが……部下達はあの口振りだと――

 

 

「――ろくな目に合わない、か……」

 

 

 ――くそが……っ!!

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

――SIDE:飼い主と狂犬――

 

 

「――想像以上だ。……降谷零は本気で日本を愛している、立派な警察官だった」

 

「あなたの期待通りの、ですか」

 

「あぁ。とはいえ――俺の犬を憎み、時に傷つけたという事実は変わらない。故に、今後の待遇改善はあり得ない。するつもりもない。……納得したか?」

 

「…………はい」

 

「そんなに心配しなくても、あの勧誘は奴を試すための嘘だ。本気で勧誘するつもりはなかった」

 

「……奴があなたの手を取っていたら、どうするつもりだったんですか?」

 

「うん?――利用するだけ利用して、使い捨てにするつもりだったぞ?……だから、奴が俺の手を払ってくれて良かった」

 

「……では、結局何が目的だったんですか?」

 

「個人的に確かめたかった。――奴が、本当に日本を愛する警察官だったのか、否かを。……その結果は想像以上だった。奴は確かに、俺と両親の故郷を守ってくれていたんだ」

 

「だから、奴に頭を下げたんですか……?」

 

「そうだ。俺は、シンガニとしてではなく――ただの荒垣和哉として、頭を下げた。……奴への感謝だけは、本心だ」

 

「――本当に、それだけですか?」

 

「…………」

 

「――和哉さん」

 

 

 

 

 

 

「…………あれほど日本の事を想ってくれる男に対して――申し訳ないと思った。思ってしまった。俺と両親の大事な故郷の平和ではなく――身勝手な復讐のために犯罪組織の繁栄を選んだ俺が、そんな事を思う資格など無いというのに……」

 

「――――」

 

「…………なんてな。――これからまさに復讐を始めようとしている奴が、今さら何言ってんだか……」

 

「……和哉さん」

 

「ん?」

 

「俺は例え、あなたがこの先どんな選択をしたとしても……あなたのお側にいます。あなたが望むのなら……行き先が世界の果てでも、地獄の果てでも、何処であっても――共に」

 

「――――」

 

 

 

 

 

 

「――秀一」

 

「はい」

 

「俺がこの先どんな選択をしたとしても、行き先が何処になろうとも――絶対に、ついて来い」

 

「――Yes,master (はい、ご主人様)

 

 

 

 

 

 



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IF⑧復讐劇、開幕 後編

・FBIの上層部やジェイムズさんへのヘイト表現あり。

・ジェイムズさん視点。最後の方にオリ主とライ視点(会話のみ)。

・ジェイムズさんが酷い目にあってます。

・いろいろと捏造あり。オリジナル設定満載(特に、オリ主の父親について)。

・IF②を読んでおくと分かりやすいと思います。

・ライよりもオリ主の方が目立ちます。

・シリアス。




 

――SIDE :ジェイムズ・ブラック――

 

 

「――あんたにとって、赤井秀一はどんな存在だ?」

 

 

 突然、私が1人で閉じ込められている牢屋の前にやって来たシンガニが、鉄格子の向こうから開口一番にそう問い掛けた。

 

 

「質問の意図がよく分からないのだが……」

 

「いいから――答えろ」

 

 

 その有無を言わさない口調に、私は仕方なく答えた。

 

 

「……彼は、我々FBIを導いてくれるエース――英雄(ヒーロー)だ。例え何があっても確実に生還する、無敵の捜査官だ。私は彼の事を、誇りに思っている」

 

「…………」

 

「そんな彼を――我々の大切なエースを奪った君を、私は絶対に許さない」

 

 

 必死に怒りを抑えながらそう言うと、シンガニは――ぞっとする程に冷たい目で、私を見る。

 

 

「……なるほどな。――てめぇがあの日から(・・・・・)何も学んでいなかった事は、よく分かった。てめぇは今でも何も変わらず、無知で、愚かな男だ。……それを再確認する事ができただけでも収穫だな」

 

あの日から(・・・・・)……?」

 

「…………いずれ分かる。――その時に思い知れ。クズ野郎」

 

 

 そう言って、シンガニは私に背を向けた。

 

 

「――ライ。今の話聞いたか?」

 

「…………はい。聞きました」

 

「っ、赤井君!?」

 

 

 物陰から、赤井君が姿を見せた。どうやら、今まで気配を消して隠れていたらしい。……何故か、チョーカーを身に付けていた。

 

 

「……ごめんな。こんな話聞きたくなかっただろう?」

 

「いえ……やはり、俺にとってマスター以外の存在は不要なのだと、俺も再確認する事ができましたから……結果的に良かったと思っています」

 

「……そうか。……じゃあ、行くか。分かってはいたが、こいつは何も変わってなかった。当たり前だが待遇改善はあり得ない」

 

「異議無しです」

 

 

 シンガニが出口に向かい、赤井君がその後を追う。私は慌てて赤井君を呼び止めた。

 

 

「待ってくれ、赤井君!君は、君は何故――」

 

「今の俺の名はライだ。俺が本名で呼ぶ事を許す相手はマスターのみ。――気安く呼ぶな」

 

「な、」

 

 

 私が言葉を失っている間に、彼はシンガニと共に立ち去ってしまった。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ……あの日以降。私は黒の組織の構成員に拷問を受けるようになった。しかしFBI捜査官として、米国の情報は絶対に明かさなかった。……幸い、奴らは肉体的な拷問のみに押さえている。体はボロボロだし顔も腫れているが、これぐらいなら……なんとか正気を保っていられる。

 

 そんなある日、いつも私の拷問を担当している組織の構成員の男が、牢屋にいた私の体を鎖で拘束し、口には乱暴にガムテープを貼り……それから私を引きずるようにして牢屋を出た。……一体、何をするつもりだ?

 

 

 その後。構成員の男は私を連れて、ある部屋に入った。

 

 

(――赤井君!!)

 

 

 そこには赤井君と……シンガニがいた。シンガニは見るからに高級なアームチェアに足を組んで腰掛けており、その斜め後ろに赤井君が立っている。

 

 

「……ありがとう。ご苦労様」

 

「は、はい!……これは、どちらに置けば……?」

 

「そうだな……とりあえず、俺達の足元に」

 

「了解しました!」

 

 

 まるで物のように扱われ、私はシンガニと赤井君の足元に投げ出された。床に叩き付けられ、その痛みにうめき声を上げる。

 

 

「では……終わったらこれの回収を頼むから、それまでは持ち場で待機していてくれ」

 

「はい!失礼します」

 

 

 ……男が立ち去ると、シンガニは足元にいる私を見下しながら口を開いた。

 

 

「……今から、俺はFBIの上層部の会議中にハッキングを仕掛け、割り込もうと思っている」

 

「!?」

 

 

 何だと!?一体何のために……!?

 

 

「くくっ……俺の目的が知りたいか?……俺はな、手始めにFBIの上層部を――あの無能なクズ共を、1人残らず絶望させてやりたいんだ」

 

 

 一瞬嘲笑ったと思えば、次の瞬間には無表情に変わっていた。しかし、その漆黒の瞳だけはギラギラと輝いている。……その差が、恐ろしく感じた。

 

 

「さぁて……始めるか、ライ。お前も奴らに言いたい事があれば、好きに言っていいからな」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「ん。……既にセキュリティ自体は突破してるから、あと数分で済むだろう」

 

 

 そしてシンガニの言う通り、パソコンを使い初めてから数分後……向こうと回線が繋がった。シンガニが英語で話し出す。

 

 

『――初めまして、FBIの上層部の諸君。……俺は黒の組織の幹部。コードネーム、シンガニだ』

 

 

 案の定、画面の向こうから上層部の者達の騒ぐ声が聞こえた。……その中で、代表の1人が口を開く。

 

 

『……どうやってハッキングを成功させたのかどうかは、ひとまず置いておく。……まず、何故組織の幹部である貴様と共に、我々の同志である赤井秀一がそこにいるのだ?』

 

『同志、だと……?っは、よくもまぁそんな事が言えたものだ……』

 

『全くですね――2年前、任務中の不慮の事故と見せ掛けて、俺を排除しようとしたくせに』

 

「――っ、!?」

 

 

 その言葉に、勢いよく顔を上げて赤井君の顔を見る。……彼はシンガニと同じように、冷たい目でパソコンの画面を見下ろしていた。……彼は嘘をついていないと、直感した。

 

 

『な、何の事だ!?』

 

『惚けるなよ。……ちゃんと証拠は残ってるんだ。てめぇらが、赤井秀一という有能な捜査官を亡き者にしようとした証拠がな。……それは2年前からずっと、厳重に保管してあるぜ』

 

 

 ……ざわざわと、上層部の人間が騒ぎ出す。……この様子からして、事実であるようだ。

 まさか、上層部の人間が我々のエースを罠に嵌めようとしたなんて……!!一体何故そんな事を!?

 

 

『そ、……っ、そんな事より!私は何故赤井秀一がそこにいるのかと聞いたんだ!答えろ!!』

 

『下手くそな話題転換だな。……まぁ、いい。せっかくだ。改めて名乗ってやれ』

 

『はい。……よく聞け、クズ共。今の俺はFBI捜査官の赤井秀一ではない。――俺の名はライ。シンガニの飼い犬だ』

 

『な、何だと……!?』

 

 

 ざわめく声が大きくなった。……裏切られる事は予想外だったらしい。

 

 

『どういうつもりだ赤井秀一!!貴様はFBIだろう!?何を血迷った事を……!?』

 

『血迷ってなどいない。俺は正気だ』

 

『馬鹿な!?我々や同志達を裏切っておいてそんな――』

 

『――先に秀一を裏切ったのはてめぇらだろうが』

 

 

 背筋が、凍った。……ドスの利いた声によって、向こう側もこちら側も静かになった。

 

 

『……てめぇらの無駄話はさておき、本題に入るとしよう』

 

『ほ、本題……?』

 

『まず、―――――――。てめぇは政治家の――――――から賄賂を貰ってるだろ?』

 

『な……!?』

 

『それから――――。浮気相手である女優の――――との間に子供ができちまったそうだな?』

 

『そ、それは!?』

 

『次に――』

 

 

 ……順々に上層部を名指して、相手の秘密を暴いていく。不祥事まみれだった。……その場にいた上層部の人間達は皆、異様に青ざめている事だろう。

 

 まさか、上層部がそこまで腐っていたとは……!?

 

 

『――というわけで、俺はてめぇら全員の秘密を握っている。その情報のいくつかは、ある人物が吐いてくれた。……ライ』

 

 

 シンガニが赤井君を呼ぶと、彼は私の体を無理やり起こして画面の前に引きずり出した!

 

 

『まさか……ジェイムズ・ブラック……!?』

 

『そう――日本に送り込まれたFBI連中のリーダー格であるこいつが、いろいろと吐いてくれたんだ。拷問に耐えきれず、てめぇらの情報を売ったのさ』

 

「――っ、……っ!?」

 

 

 ……出鱈目を言うなと叫びたかったのに、口元に貼られたガムテープがそれを許さなかった。そうか、このために口にガムテープを……!!

 

 

『っ、この―――――め!!よくも余計な事を話してくれたな!?』

 

『ふざけるな!!何て事をしてくれたんだ!!』

 

 

 そんな罵倒が、一斉に浴びせられる。誰1人として、私を信じてくれない……!!

 

 と、その時。シンガニが手を叩く。

 

 

『はいはい注目!!』

 

 

 ……すぐに、上層部の人間達は静かになった。どう見ても、主導権は既にシンガニのものとなっている。

 

 

『……さてさて。これらのスキャンダルに関する情報――どうしようかなぁ?なぁ、ライ。お前はどうしたらいいと思う?どうしたら面白くなるかな?』

 

『そうですねぇ――あらゆる方法を利用して、全米にばら蒔くというのはどうでしょう?それなら面白くなるのでは?』

 

『ふは……!いいねぇ……さすが俺の愛犬!!いい事思い付いたなぁ、良くできた犬だ』

 

 

 ……2人の会話に焦ったのか、上層部の者達が必死に説得を始めた。……しかし、シンガニも赤井君もそれに耳を貸さない。

 

 

『な、何が望みだ!?金か!?金ならいくらでも払うから、それをばら蒔くのは止めてくれ!!』

 

『金もまぁ、組織のためには欲しいが……それは他にいくらでも当てがあるから、別にいらない』

 

『では我々はどうすればいい!?何を渡せば止めてくれる!?』

 

『――情報』

 

『何!?』

 

『さらなる情報を……てめぇらの汚い不祥事よりも役に立ちそうな情報を寄越せ。例えば、FBIの機密情報とか、米国自体の機密情報をな。

 ――より良い情報をくれたら、そいつの情報だけは拡散しない……かも?』

 

 

 ――そんな悪魔の言葉を、彼らは鵜呑みにしてしまった。続々と、互いに競い合うように機密情報をべらべらと口にする。……おそらく、“より良い情報をくれた者のみ“という言葉が、シンガニの策略だったのだろう。

 自身の保身だけを考えて、我先にと機密情報を披露する。――嗚呼(あぁ)……

 

 

(上層部は、自分の事しか考えない奴らばかり――誰も、私と私の部下達を助ける事を考えてくれない……!!)

 

 

 我々は、こんな奴らの下にいたのか!!……そういえば、赤井君も奴らの被害に遭っていたようだし……何故もっと早くに気づけなかったんだ……!!

 

 

『……なるほど……いやぁ素晴らしい情報をありがとう。全てありがたく使わせてもらおう。……ところで、1つだけ真実を教えてやろう。

 

 ――ジェイムズ・ブラックはまだ、何1つとして情報を吐いていない』

 

『…………な、何だと!?』

 

『で、では我々の情報はどこから!?』

 

『そんなの素直に教えるわけがねぇだろ。……それにしても傑作だな!どれだけ拷問されても何も吐かなかった忠誠心の強いこの男を、他ならぬ上層部の人間が罵倒し……さらにはその上層部の人間達が、自身の保身だけを考えて自ら機密情報を吐いてしまった――何も情報をバラさなかった、この男の目の前で』

 

『――――』

 

 

 ……モニターに映る上層部の人間達の表情が――絶望に染まった。

 

 

「……くく、ふふ、くふふ――っ、ははははっ!!ひひ、あっははははは――!!」

 

 

 思わず、息を呑んだ。……常に涼しげな表情で、時に余裕のある笑みを浮かべていたシンガニが――狂ったように、笑っている。

 

 

「ふは、はは、ひひひ……っ!!――嗚呼(あぁ)、」

 

 

 

 

 

 

「――最っ高だなぁ……!!」

 

 

 

 

 

 

 ……それは邪悪で、凄絶で、身の毛のよだつ程に――美しい笑みだった。

 

 

 

 

 

 

『……そうだ。てめぇらのその表情が見たかった!その醜い顔が絶望に染まり、さらに醜くなる様子を、ずっとずっとずーっと前から見たかったんだ!!

 

 ――俺の親父が、てめぇらを含めた無知で無能で愚かな人間達のせいで死んだと知った時からなぁ!!』

 

「!?」

 

『な、……何だって……?何の事だ!?我々は貴様の父親など知らない!!人違いじゃないのか!?』

 

 

 この男の、父親?……一体誰なんだ?

 

 

『……まぁ、分からなくても無理は無い。俺の容姿は母親によく似ていて、親父の見た目とはかなり掛け離れているからな……名前を言わないと分からないだろう』

 

 

 そう言うと、シンガニは無表情でモニターを見据えた。

 

 

『……俺の本名は、和哉。――荒垣、和哉』

 

「――――」

 

 

 アラ、ガキ?――荒垣?…………そんな、まさか、――まさか……っ!?

 

 

『そして俺の父親は、生前はFBIの敏腕捜査官にしてエースと謳われた男――荒垣(あらがき)心哉(しんや)だ!!』

 

 

 ……その名を聞いた瞬間。上層部の人間達は言葉を失った。

 

 

 ――荒垣心哉。20年以上前にとある任務中に亡くなった、FBIの敏腕捜査官。――私の、上司だった人だ。

 

 

 無愛想だったし、なかなか気を許してくれない人だったが……その実力は本物だった。それから、彼には不器用な優しさがあった。

 多くの者は彼の無愛想な面しか見なかったが、私や他の少数の捜査官達は彼の優しさを知り、彼を強く慕うようになる。

 

 ……彼は、ありとあらゆる技術や知識を身に付けていた。

 どれか1つを極めるのではなく、全体的にバランスよく鍛えるというのが彼のやり方だった。万能型である彼は、どんな任務であっても大いに活躍していた。……そしていつの間にか、我々FBIのエースに――英雄(ヒーロー)になっていった。

 しかし、そんな彼の活躍を妬み、無駄な対抗心を燃やす者達が多くいた。私は他の少数の捜査官達……当時の私の先輩や後輩達と共に、彼を庇った。彼は我々の大事なエースなのに……その彼を貶す者達の気持ちが理解できなかったし、どうしようもない怒りを感じた。

 

 そんなある日、彼は単独でとある任務に就き――結果、帰らぬ人となった。

 

 信じられなかった。彼は我々のエースで、英雄で、無敵の男だったはず。それが何故、任務に失敗してしまったのか。……彼が担当したのは重要な極秘任務だったらしく、上層部以外にその任務について把握している者はいない。

 ……まさか、その任務中の彼の死に上層部の人間が関係しているのか……!?

 

 

 その時。上層部の人間の1人が、慌てた様子で口を開く。

 

 

『ま、待て、待て!思い出したぞ!!奴が結婚していたという情報は無かったはずだ!!』

 

 

 ……そういえば、そうだ!彼が結婚していて……ましてや子供もいたなんて、聞いた事が無い!!

 

 

『俺は両親が結婚する前……正式に籍を入れる前に日本で生まれたのさ。そして、親父はその事実をひた隠しにしていた。……あの人は有名になったせいか、いろんな奴らから狙われていたからな。外部からも、内部からも。

 だから俺とお袋を守るためにその存在を隠し……いろいろと落ち着いてきたら、アメリカに呼び寄せようと考えていたそうだが――そうなる前に親父が死に、お袋もその後を追って自殺した!!てめぇら上層部の人間と、親父の周りにいた雑魚共のせいで!!』

 

『ひっ――!?』

 

『てめぇらが優秀な捜査官である親父に醜くも嫉妬し、そんな親父を排除するために、無理やり例の任務を受けさせた事はもう知っているぞ!!』

 

 

 シンガニは椅子から立ち上がり、まるで獣の咆哮のようにがなり立て、恐ろしい目付きで画面を睨んだ。

 

 

『20年以上前……てめぇらは親父にとある極秘任務を言い渡した。それは――ある犯罪組織を3日で壊滅させろ、という任務だった。

 親父は任務開始日の数日前に突然言い渡され、詳しい情報を与えられず、事前準備もまともにできず、その犯罪組織の事をほとんど知らない状態で、送り込まれる事になった。

 もしも断ったら、所属しているチームの捜査官達を危険な目に合わせると脅迫した上でな……!!』

 

「……っ!?」

 

 

 何だと!?上層部は彼にそんな卑劣な真似を……!?

 

 

『今の俺から見れば無能で無知で愚かでクズで雑魚だが……そんな奴らであっても、親父にとっては大事な仲間だった。……心優しい親父はその任務を引き受け……その結果――

 

 ――ジェイムズ・ブラック!!てめぇらのようなクズ共なんかを守るために!俺の親父は死んじまったんだ!!』

 

「――――」

 

 

 …………あの人……荒垣さんの息子から憎悪を向けられるのは、正直、きつかった。シンガニは本気で、私を憎んでいる。……しかし、

 

 

(――何故、ここまで憎まれるのだろうか……?)

 

 

 少なくとも私や、他の少数の捜査官達は彼を慕っていた。決して悪感情は持っていなかった。それなのに――

 

 

『――何故憎まれるのかさっぱり分からない、なんて思ってるだろ?』

 

「――っ!?」

 

 

 心を読まれた!?

 

 

『……本当に無知で、クズだな……あの人は上層部の目を盗み、何とかしててめぇらに助けを求めようとしていたのに……てめぇらはそれに全く気づかなかった!気づこうともしなかった!!――親父は無敵のヒーローなのだと、本気で信じていたから!!

 

 ――その無責任さが親父を絶望させたのだと、何故気づかない!?それも親父が死んじまった原因の1つなのだと、何故分からない!?』

 

 

 怒りで血走った目が、私を射抜く。

 

 

『……親父が信頼していたとある人物が、親父の死後に俺とお袋に日記を渡してくれた。……親父の、直筆の日記だった。そこには親父の日々の様子が書かれていた。当然、上層部に妬まれていた事や、例の任務を遂行する事になった経緯についても記録されていた。

 

 その日記を読んで知ったんだ。――あの人が、日に日に追い詰められていた事を。

 

 親父はてめぇらの無責任な信頼によって追い詰められ、精神的に弱っていた。

 そんな時に例の任務を受ける事を強制され、仲間達に助けを求めてもそれに気づいてもらえず……“荒垣さんなら大丈夫だろう“、“荒垣さんなら死ぬはずがない“、“荒垣さんはヒーローだから“……そんな言葉を掛けられ――ついに、絶望した』

 

 

 歯を食い縛り、唇が切れて血が流れても構わず、私を睨み続ける。

 

 

『親父の日記の最後にはこう書かれていた。……俺とお袋の事を、いつまでも愛している。――弱くなってしまった俺を許してくれ、と……!!』

 

「――――」

 

『俺と共に日記を読んだお袋は、その数日後に自殺した!!その時心に決めたんだ!!――どんな手を使ってでも、FBIの上層部と親父が所属していたチームの人間全員に、復讐してやると!!』

 

「――――」

 

 

 ……そんな、シンガニの悲痛な叫びによって――私の心に、罅が入った。

 

 

(――荒垣さんがそんなに追い詰められていたなんて、知らなかった……!!)

 

 

 ……そうだ。知らなかった。知らなかったんだ!!

 あの人はいつも涼しい顔をしていたから、まさか私達の言葉があの人を追い詰めていたなんて、想像できなかった!!

 

 

『――知らなかった、なんて考えは言い訳にしかならねぇぞ』

 

「っ、」

 

『何故なら、てめぇは――!!』

 

『――マスター。そこから先は俺から話します。……その間に、少し休んでください』

 

『…………分かった』

 

 

 ……赤井君にそう言われて、シンガニは大人しく椅子に座った。それからすぐに、私は赤井君に胸ぐらを掴まれる。

 

 

『……なぁジェイムズ。……マスターのお父様の話を聞いて、何も気がつかなかったのか?』

 

「…………っ?」

 

 

 気づく?……何の事だ?

 

 

『…………そうか。気づかなかったか――残念だ。やはりてめぇはマスターの言う通り、ただのクズだった』

 

「っ!?」

 

『仕方ねぇから教えてやるよ……!!』

 

 

 胸ぐらを掴む手に、さらに力が入った。苦しい……!!

 

 

『今、マスターが話したお父様の境遇と、FBIにいた頃の俺の境遇は――よく似ているだろ!?なぁ!?』

 

「――っ!?」

 

 

 そう言われた瞬間、先ほどの彼の言葉の意味を理解した。……赤井君の言う通りだった。

 

 荒垣さんも赤井君も、FBIのエースで、英雄(ヒーロー)だった。多くの人間に嫉妬され、私を含めた少数の人間には慕われて……それから、

 

 

(――嗚呼(あぁ)……!!)

 

 

 そうだ!2年前に赤井君も上層部から極秘の任務を命じられて、1人だけで任務に向かって……!?

 

 

(まさ、か……!?)

 

 

 あの任務が、上層部の策略だったのか!?赤井君を、荒垣さんのように排除しようとしたのか!?

 

 

『……理解したようだな。俺が置かれていた状況を。

 

 そう。俺も2年前にマスターのお父様と全く同じ状況に置かれた。てめぇらを人質に取られ、任務を受ける事を強制された。……そして向かった先で死にかけたが――マスターに命を救われた。

 かなり後になってマスターから全ての事情を説明してもらい、自分の父親の二の舞になって欲しくなかったから俺を助けたのだ、という真実を打ち明けられて驚いたが……それよりも――マスターのお父様が、俺と同じように無責任な信頼を向けられていた事に驚いた』

 

「――――」

 

『マスターのお父様の気持ちが、痛いほど理解できたよ。俺も、周囲の人間に無責任な信頼を向けられて、無敵のヒーローだと思い込まれて――苦しんでいた……!!

 

 そんな俺を、マスターが――シンガニが救ってくれたんだ!!』

 

「――――」

 

 

 ……なんということだ。私は、私は――!?

 

 

『……これで良く分かっただろ?ジェイムズ・ブラック』

 

「っ、」

 

 

 シンガニが再び口を開く。そして――

 

 

『――てめぇは親父が亡くなったあの日から(・・・・・)何も学んじゃいなかった。……危うく秀一を――てめぇらの言う英雄(ヒーロー)を、もう一度殺すところだったぞ?

 

 俺が気づかなかったら――秀一は間違いなく死んでいた!!』

 

 

 ――私の心に、止めを刺した。

 

 

 

 

 

 

「――――――っ!!」

 

 

 私の悲鳴は、口元に貼られたガムテープによって意味の無い声に変換される。……それでも私は叫び続けた。そうするしかなかった。

 ――既に罅が入っていた心は、簡単に割れた。

 

 

「…………あーあ――呆気ない。もう壊れちまった……」

 

「どうします?」

 

「その辺に捨てとけ。あと、お前は俺の後ろに戻って来い」

 

Yes,master(はい、ご主人様)

 

 

 ……悲鳴を上げ続けている私が床に投げ捨てられた後も、話が続く。

 

 

『……いや、申し訳ない上層部の方々。ずっと放って置いたままだったな。……改めて、素晴らしい情報をありがとう。これらの情報は、全て有効活用させてもらおう』

 

『…………き、気に入ってもらえたようで何よりだ。そ、それで我々のスキャンダルに関する情報は――』

 

『あぁ、それか。――それなら全て、明日中には全米に広まるぞ。良かったな!明日にはマスコミ共がてめぇらに群がるぜ』

 

『――は……?』

 

『くっ、はは、ははははははっ!!話を聞いて無かったのか!?俺の目的は――てめぇら上層部と、親父と同じチームにいた人間への復讐だぞ!?それなのに、せっかく手に入れたてめぇらの不祥事に関する情報を、あっさりと捨てるような真似をするわけが無いだろうがぁ!!』

 

『な、あ、』

 

『いいか、良く聞け!――これは、序章に過ぎない。俺は今後もありとあらゆる手を使い、てめぇらに復讐し続ける。――親父が味わった以上の絶望を、その身で嫌というほど思い知るがいい……!!

 

 存分に苦しみ、喚き、醜く泣き叫んで俺の両親と秀一に――懺悔しろ!!』

 

『ひっ、』

 

 

 

 

 

 

『無知で無能で愚かでクズな雑魚共よ――てめぇら全員、楽に死ねると思うなよ?』

 

 

 

 

 

 

 ――悪魔の狂った嗤い声が響き、私の意識は途絶えた。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

――SIDE:飼い主と狂犬――

 

 

「……お疲れ様でした、マスター」

 

「…………和哉」

 

「はい?」

 

「今だけは、和哉って呼んでくれ」

 

「……和哉さん」

 

「……秀一」

 

「はい」

 

「――もう、後に引けない」

 

「……そうですね」

 

「俺は、親父達のいる天国には行けないだろう。――確実に地獄行きだ」

 

「……はい」

 

「――ごめんな」

 

「――――」

 

「俺はお前を――地獄まで道連れにする」

 

「…………俺は言ったはずだぞ、和哉さん。あなたがどんな選択をしたとしても俺は……俺だけは、あなたの側にいる。何時までも、何処までも――赤井秀一は、荒垣和哉と、共に在る」

 

「――――」

 

「そう、あなたに誓おう」

 

 

 

 

 

 

「……そこは、神に誓う、じゃないのか?」

 

「俺の神は荒垣和哉ただ1人です」

 

「あ、そう。……じゃあ、そうだな……何時までも、何処までも――荒垣和哉は、赤井秀一と、共に在る」

 

「――――」

 

「と、今は亡き俺の両親に誓おう」

 

「そこは俺に誓ってください!」

 

「俺にとっての神は両親だ。――お前は俺の飼い犬だろう?ライ」

 

「……そうでしたね。えぇ、その通りです。――俺はシンガニの飼い犬。名前は、ライ」

 

「――Good boy(いい子だ)

 

 

 

 

 

 





・復讐を開始した飼い主

 降谷が日本を愛する警察官だったのかどうかを確かめるために、勧誘(偽)してみた。結果的に降谷が精神攻撃にも耐えきって断ってみせたので、満足。
 今まで日本を守ってくれた警察官に対して感謝と罪悪感を抱いていたため、深く頭を下げた。――今まで日本を守ってくれてありがとう。そして、ごめんなさい。

 降谷に対してはほんの少し慈悲を与えたが、ジェイムズに対して慈悲は与えない。ジェイムズの心に止めを刺すために、FBI上層部との会話を強制的に聞かせる事にした。そして――復讐が始まる。
 上層部の秘密を暴露し、ジェイムズに罪を擦り付けた後、言葉巧みにさらなる情報を手に入れた。それから上層部に真実を明かし、彼らの絶望した顔を見て……豹変。

 ――最っ高だなぁ……!!(ゲス顔)

 そこから始まるスーパー★シンガニタイム(狂)!!ずっと俺のターンだぜ!自身がかつての敏腕捜査官の息子である事を明かし、今までに無いほど感情を爆発させ、憎しみを剥き出しにする。
 途中で狂犬にバトンタッチしてスーパー★シンガニタイム(狂)は一旦終了。ライのターンを眺めながら休憩し、ここぞというところでジェイムズに止めを刺した。あーあ――呆気ない。
 その後、復讐対象者に向けて、宣戦布告。――てめぇら全員、楽に死ねると思うなよ?(ゲス顔)

 降谷と話した後も、宣戦布告の後も、ライの言葉を聞いて泣きそうになった。きっとこいつなら本気で一緒に地獄へ落ちてくれるんだろうなぁ……

 何時までも、何処までも――荒垣和哉は、赤井秀一と、共に在る。


・飼い主の復讐の始まりを見守った狂犬

 オリ主が降谷を勧誘(偽)した時、内心は焦っていた。まさか、飼い犬を増やすつもりですか……!?しかし降谷がそれを断り、オリ主が本気で勧誘するつもりがなかった事を知り、安心。
 オリ主の弱音を聞き、本心を話す。何処かへ逃亡するもよし、死ぬのもよし。どちらにせよ俺はマスターについて行(逝)く。

 オリ主の復讐の序章を特等席で観賞できてご満悦。上層部の人間達が絶望していく様子を楽しんで見物していた。
 そして、オリ主の豹変に最初は驚くも、その邪悪で、凄絶で、身の毛のよだつ程に美しい笑み(ゲス顔)に見惚れた。
 あなたこそ最っ高です!!まだそんなにも素晴らしい表情を隠していたんですね!?脳内に永久保存しておきます!!

 スーパー★シンガニタイム(狂)を見て、今までに見た事の無いオリ主の表情を見る事ができて喜んでいたが、両親を失った悲しみと憎しみを全力でぶつけている様子に、胸を締め付けられた。マスターをここまで悲しませたクズ共を、1人残らず蜂の巣にしてやりたい。
 オリ主に少し休憩してもらおうと、バトンタッチした。ここからは俺のターン!……それにしても、マスターのお父様の境遇と自分の境遇がよく似ていて驚いたな……もしや、俺が気に入られたのは俺がお父様に似ていたからか……?

 オリ主の宣戦布告後。オリ主の言葉を聞き、改めてその側に居続ける事を誓った。荒垣和哉は俺の神。異論は認めない!!

 何時までも、何処までも――赤井秀一は、荒垣和哉と、共に在る。


飼い主(悪魔)の誘惑に打ち勝った公安

 一度心を壊されSAN値ピンチになった状態で勧誘(偽)されたが、見事に打ち勝ってみせた愛国心溢れる立派な警察官。そしてオリ主の感謝の言葉に面を食らった。結局何しに来たんだこいつ……!?
 諸伏の兄とコナンに手を出される事はないと安心したが……部下達の今後を考え、無力な自分を呪った。


・呆気なく壊れた狂犬の元上司

 拷問を受けながらも情報は絶対に吐こうとしなかった、こちらも愛国心溢れる捜査官。

 オリ主の復讐の序章を、次々と明かされる新事実に振り回されながら見ている事しかできなかった。
 罪を擦り付けられ、オリ主のゲス顔を見て恐怖を感じ、亡くなってしまった元上司の息子に憎しみを向けられ、元部下からも本音をぶつけられ……最後にオリ主に止めを刺され――SAN値直葬。





 降谷さんとジェイムズさん、本当に申し訳ありませんでした!!

 特にジェイムズさん!!前々回のネタの時といい今回の時といい本当にごめんなさい!!私はあなたの事は決して嫌いじゃないんです……(´;ω;`)by作者






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