忠犬と飼い主~IF~もしもオリ主とルパン三世が過去に出会っていたら? (herz)
しおりを挟む

プロローグ



 本作品を読む前に、1度読んで欲しい注意書きです!


・この作品は二次創作小説です。あらゆる妄想を詰め込んでいます。ご都合主義、捏造過多です。

・キャラ崩壊あり。

・オリ主が登場します。

・作者は名探偵コナンの原作を読んでいません。アニメも見ていません。
(映画を少し見た程度。あとはpixiv内のコナンの小説から得た情報のみです。)

・ルパン三世とのクロスオーバーですが、作者はルパン三世については名探偵コナン以上に知りません。

・ルパン三世VS名探偵コナンTHEMOVIEはFBIと公安の合同捜査本部が設置される前に起きている設定。

・時系列は組織壊滅作戦後。まだFBIがアメリカに帰っていない時期。

・基本的にオリ主視点。たまに別のキャラの視点。

・オリジナルのキャラが数人出てきます。オリジナル設定満載。

・登場人物の口調がおかしいかもしれません。

・「」の中は日本語、『』の中は英語を話しています。

・忠犬と飼い主~本編~から派生したIF設定の話です。

・作者に文才はありません!


 以上の注意書きを読み、それでも構わない!という方は、どうぞ!

 楽しんで読んでいただければ幸いです(*´∀`)




・少しだけ残酷な描写。(死体の表現)

・オリ主視点。最後にルパン三世視点。




 

 ――俺が、まだ10代だった頃。ある男と出会った。

 

 

 それは、家族と共にアメリカに来て4、5年が経過した、ある日のこと。

 

 俺はその日の夜中、バイト先から家に帰るために近道を通っていた。その近道はお世辞にも治安が良いとは言えない場所で、本当なら俺もそこは通りたくなかったんだが、その日はどうしても急いで家に帰りたくて、その道を選んだ。

 そしてようやく出口が近づいてきたところで、厄介事に巻き込まれた。……いや、自分から首を突っ込んだ、と言うべきか。

 

 曲がり角を曲がった瞬間、目の前に飛び込んできたのは……見るからに怪しい男が、赤いジャケットを着た男に拳銃を向けている、という状況だった。赤いジャケットを着た男の方は地面に片膝をついており、息が荒い。万全の状態にはとても見えない。

 そして、怪しい男が引き金を引こうとしているのを確認した時。考えるよりも先に体が動いていた。

 

 ――俺は、赤いジャケットを着た男の目の前に、体を投げ出した。

 

 

「――っ、ぐぅ……!!」

 

 

 ……運が良かったのか、銃弾が貫通したのは脇腹の端の方だった。これなら、傷はそこまで深くない。かなり痛いけどまだ、動ける。怪しい男も、赤いジャケットの男も、事態をうまく把握できていない。今のうちだ!

 俺は痛みに耐えながらも怪しい男に肉薄し、男が持っていた拳銃を叩き落とした。それから間髪入れずに、その腹に拳を叩き込んだ。男が後退りする。

 

 

(だが、まだ決定打が足りない!)

 

 

 そう考えた俺が、もう一撃入れようとした……その時、

 

 

「――伏せろ!!」

 

 

 日本語でその言葉が聞こえた瞬間、俺は咄嗟にそれに従って素早く地面に伏せていた。……銃声。そして、何かが倒れた音。

 

 ……体を起こして前を見た俺は、息を呑んだ。

 

 

「――っ……!!」

 

 

 そこにあったのは――怪しい男の、死体だった。

 

 男は眉間を撃たれており、目をカッと開かせて、息絶えていた。

 

 

「――おい!大丈夫か?」

 

 

 声が聞こえた方へ振り向くと、赤いジャケットを着た男が、切羽詰まった様子で俺の顔を覗き込んでいた。

 歳は、20代半ばといったところか。長身で細身。髪色、目の色は共に黒。顔立ちは猿顔で、愛嬌がある。その見た目からして、恐らく日本の血が入っている外国人か?さっきから日本語で話し掛けてくるしな……

 

 

「……あぁ、大丈夫ですよ。脇腹撃たれましたけど、多分そこまで傷は深くないはず…」

 

「っバカ野郎!そんなに血を流しながらガキが何言ってんだ!……とりあえず仰向けになれ!すぐに止血する!」

 

「血?……うわ、確かに酷いな。痛いし」

 

「他人事になってる場合か!?」

 

 

 ……それからその男は、文句を言いながらも素早く止血をしてくれた。かなり手慣れている。……あれほど正確な射撃能力があるのだし、やはり、裏社会で生きている人間なのだろうか?

 

 

「……これで良し、と。……ったく、ガキが無茶をするんじゃねぇよ……顔は青ざめてるわ、手は震えてるわ……相当怖かったんだろ」

 

 

 そう言われて、初めて自分の血の気が引いている事と、手が震えている事に気が付いた。……今さら怖くなってきた。

 必死だったとはいえ、拳銃を持っている人間に対して丸腰で立ち向かった。あまりにも危険な行為だ。……それに、

 

 

「多分――死体を見たのが、初めてだったのもありますね、これは」

 

「――――」

 

 

 そう。俺は今回、初めて死体を見たのだ。間違いなく、これも原因の1つだろう。

 

 

「…………ちょっと待ってろ。今、救急車を呼ぶからな。……おっと、そうだ。きっと驚くだろうが、大声は出すなよ?」

 

「?……分かりました」

 

 

 この状態じゃ、確かに動けないからな。大人しくしていよう。……家族はみんな大騒ぎになるだろうなぁ……

 しかしそれはそれとして、驚くとは何だ?

 

 

『――あ、もしもし!?今、○○通りで、お、男の人が死んでて、近くに人も倒れていて…っとにかく大変なのよ!警察と救急車を呼んで!早く!!』

 

「っ!?」

 

 

 突然、男が女の声を出した事に驚き、声が出そうになったが、なんとか抑えた。その様子を見て、男はニヤリと悪戯っぽく笑った。

 ……電話を終えた男は、そのままの表情で話し出す。

 

 

「んふふふ……驚いただろぉ?」

 

「そりゃ……驚きますよ……!」

 

 

 男の口から全く別の……それも女の甲高い声が出てくるなんて、あり得ない!一体どうやって……?

 

 

「っていうか、何でそんな声で救急車を?」

 

「俺がここにいたって言う痕跡を、出来る限り消しておきたいからさ。……さて。救急車が来る前に、お前さんに聞きたい事がある。――何で、俺を助けたんだ?」

 

「…………」

 

「一歩間違えば、お前の方が死んでたかもしれねぇ。そんな危険があったにも関わらず、俺を庇った……何故だ?」

 

「…………気がついたら、体が勝手に動いていたんですよ。助けなきゃって……それしか考えてなかった。そして多分、そんな行動をした理由は――俺が目指しているのが、警官だから……かな?」

 

 

 詳しく言えば警官っていうか、FBIを目指してるんだけどな。

 

 

「……お前、お巡りさんになりたいのか。そっかぁ……じゃあ――俺と真逆だな」

 

「……何?」

 

「――俺の名はルパン三世。泥棒さ」

 

「っ!?」

 

 

 その名を聞いて驚愕するのと同時に、顔面にスプレーで何らかの液体を掛けられる。……そして急に睡魔に襲われ、意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「……俺様特性の催眠スプレー。顔面に掛かれば最後、数秒でおやすみなさーい、だぜ。……って、もう聞こえてないか」

 

 

 ガキが眠った事を確認した俺は、その体を壁に寄り掛からせてから、その場を後にした。……その道中で、今回の一件について考える。

 

 

(……これは、俺の失態だ。あの程度の男に追い詰められて、ガキに庇われて――仕舞いには死体なんてもんをそのガキに見せちまった。それも、ガキにとってはこれが初めてだった!)

 

 

 確かに、あの場では奴を殺す事が最善だった。……だが元を辿れば、あの状況になった原因は俺にある。

 

 最近は何もかもがうまくいき過ぎていた。だから調子に乗っていろいろと準備を怠った。俺なら大丈夫だろうと、そう思って。……結果は、このざまだ。

 

 

「……庇ってもらった借りは、さっきの怪我の手当てと救急車を呼んだ事で返したが――俺の緩んでいた気を引き締めてくれた借りは、この程度じゃ返し切れねぇよな……」

 

 

 ……やっぱり、あのガキにちゃんと名前を聞いておくんだった……

 

 

「見舞いに行けない代わりに花を贈りたかったが……それさえ贈れやしねぇ……」

 

 

 かといって、恩人であるガキの……一般人の個人情報を勝手に調べるわけにもいかない。

 ……仕方ない。もしもまた会う機会があれば、その時にこの借りを返すとしよう。その頃には俺もきっと、今以上に成長しているはずだ。そうなれば、今返すよりもデカイものを返せるだろう。

 ……もしかしたら、その時にはあのガキも警官になってるかもなぁ……

 

 

「そしたら、俺を逮捕しようとして来たり?……ニヒヒッ、それはそれで面白いじゃねぇか……!」

 

 

 そうと決まれば、その日が来るのを気長に待つとするかねぇ……

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF① 事の発端&護衛任務開始



・オリ主視点。最後の方に赤井さん視点。と、ルパン一味がちょっとだけ登場。


 

 

「――護衛任務?こんな時にか!?」

 

「今は例の作戦の後始末や、残党狩りで忙しい事はよく知っているだろう、ジェイムズ」

 

「……うむ。荒垣君と赤井君の言う事は最もだ。……しかし上からそう言われてしまえば、こちらも逆らえないのだ。……すまない」

 

 

 ……黒の組織のボスとラムを逮捕した日から数日が経過した、そんなある日の事だ。幹部が全員揃って会議を始めようとした時、ボスが気まずそうにある報告をしてきた。

 

 突然FBIの上層部から、ある人物とその娘の護衛をするように、という命令が下されたのだという。

 

 ……当然、今の俺達にはそんな余裕はない。組織の残党はまだまだいるし、後始末だって始まったばかりだからな。

 

 

「だからって、何で俺と秀一が金持ちの道楽に付き合わなきゃならねぇんだ!」

 

 

 しかも、護衛をする相手は上層部の人間と懇意にしている資産家で、目的は日本にいる友人に会う事と観光。その護衛役を任命されたのが、何故か俺と秀一だった。

 この合同捜査の間、幹部である俺達が後始末の仕事から離れたら、仲間達に迷惑が掛かる。それは避けたい。避けたいのだが……

 

 

「……どうにかならないのか、ボス」

 

「…………すまない」

 

「…………はぁ……」

 

 

 ……どうやら、どうにもならないらしい。

 

 

「……ジェイムズさん。それって、どうしても荒垣さんと赤井さんじゃないとダメなの?」

 

 

 不憫に思ってくれたのか、コナンがボスにそう聞いてくれた。

 

 

「あぁ……その資産家の方がまず、FBIで1番実力のある捜査官に護衛を頼みたいと希望し、さらにもう1人、純日本人の捜査官を寄越して欲しいと言ってきたそうだ」

 

「……FBIで1番といえば間違いなく、赤井さんです。そして純日本人の捜査官といえば、荒垣さんですね……」

 

「そもそも、純日本人の捜査官はカズヤしかいないわね」

 

「え、そうなの?他に日本人の捜査官は?」

 

「昔は他にも数人いたみたいだけど……今はカズヤしかいないの」

 

 

 ジョディの言う通り、日本人の捜査官は今のところ俺しかいない。秀一のように、日本と別の国のハーフの捜査官や、クォーターの捜査官はいるのだが……

 

 

「なるほど詰みだなクソッタレ!」

 

「……荒れてますね、荒垣さん……」

 

「そりゃ荒れるわ!身内に仕事を邪魔されてんだからな!」

 

 

 どうせその資産家に恩を売って自分達だけが旨い汁を啜るために俺達をこき使おうっていう魂胆なんだろ!?

 

 

「ふ、ふふ、ふふふ……老害共め……アメリカに帰ったら1人残らずぶん殴ってやろうかなぁ……」

 

「あ、荒垣、さん……?」

 

「ははは……あの―――――が……!!」

 

「荒垣さんがスラング英語を!?」

 

「駄目ですよ荒垣さん!そんな汚い言葉を使ったら!あなたは僕の日本の国民でしょう!?」

 

「どさくさに紛れて何を言っているんだ、降谷君!和哉さんは昔は日本の人間でも、今では米国の人間だ!……いや、今はそれよりも和哉さん、」

 

「あ?」

 

「何徹目ですか?」

 

 

 …………あー……確か……

 

 

「……4徹目……?」

 

「寝ましょう!」

 

「寝なさい、荒垣君!護衛任務まではまだ1週間ある。詳しい説明はまた明日にしよう!」

 

「…………そーするわ……」

 

 

 秀一とボスに促されて、俺は仮眠室で眠る事にした。

 

 

 ……そして、翌日。改めてボスから詳しい話を聞く事になった。

 

 

「みんな、昨日は悪かったな。どうも久々の徹夜のせいで情緒不安定になってたらしい」

 

「和哉さん。もう大丈夫なんですか?」

 

「あぁ。問題ない。よく眠れたから、頭もスッキリしている」

 

「……良かった……いつもの荒垣さんだ」

 

「昨日は明らかにおかしかったものね……」

 

 

 本当にすまなかった……

 

 

「次からはしっかりと休みを取ってくれ、荒垣君。……では、昨日の続きを話すとしようか」

 

 

 そう言って、ボスが護衛任務について詳しい事を説明してくれた。

 

 

 まず、護衛対象は資産家のアーロン・ガルシア。そして、その娘のソフィア・ガルシアだ。日本を訪問する目的は、昨日も言っていたように日本人の友人に会う事と、観光をする事。

 この資産家の男とその娘は日本が大好きで、年に一回は日本に来ているらしい。だからこそ、日本の治安の良さはよく知っていて、本来なら護衛は自身が懇意にしているSPの人間に依頼するのだが、今回はガルシア氏が、"金はいくらでも出すし、大げさと思われても構わないからFBIの中で1番実力のある捜査官に護衛を頼みたい"と言ってきた。その理由は……

 

 

「数ヶ月前、ガルシア邸に脅迫状が送られてきたそうだ」

 

 

 事の発端は、ガルシア邸に送られてきた脅迫状。そこには、とあるネックレスに関する事が書かれていた。

 とあるネックレスとは、ガルシア氏の今は亡き妻、リリー・ガルシアの実家の人間が代々受け継いできた家宝、"エメラルド・フラワー"が埋め込まれたネックレスの事だ。そして脅迫状の内容は、"エメラルド・フラワーを手放せ。さもなくば、ガルシア家の人間は皆殺しだ"……という物騒なものだった。

 

 今現在、そのネックレスを所持しているのは、娘のソフィア・ガルシアだ。生前、病気で苦しんでいたリリー・ガルシアが、死の直前に形見として渡したらしい。

 ガルシア氏は、1度はそのネックレスを手放す事を考えたが、亡き妻の形見でもあるネックレスを手放すのは心苦しく感じたため、別の場所に移した上で、厳重に保管しようとした。……しかし、ソフィア嬢はそれに応じなかった。ガルシア氏が自分に渡して欲しいと何度説得しても、彼女は頷かなかったという。

 さらには、脅迫状の事もあって中止しようとしていた来日も、今回は彼女の我が儘で実施される事になったとか。ガルシア氏曰く、"娘がこんなに我が儘になる事は今までになかった"……らしい。

 

 

「…………話を聞く限りでは、とんだ我が儘娘のように聞こえるが……」

 

「確かにな。……だが、実際に俺達の目で判断するまで、断定はしないでおこう。もしもそれに何か理由があったとしたら、その子に対して失礼だからな」

 

「"物事はできる限り自分の目で判断する"……ですね?」

 

「そうゆう事だ」

 

 

 ……しかし。まだ納得できていない事がある。

 

 

「秀一が護衛役に選ばれた理由は分かった。……なら、俺は?ガルシア氏がもう1人護衛役として日本人を選んだ理由は何だ?」

 

 

 そう聞くと、ジェイムズは困った顔になり、こう言った。

 

 

「……娘のソフィアさんが、以前から1度くらいは日本人に護衛をお願いしたい、と言っていたからそれを叶えてやりたい……と、ガルシア氏が言ったそうだ」

 

「…………」

 

 

 ……頭が痛くなってきた。

 

 

「…………俺ってFBIだよな……?今回命令された内容は護衛であって、お姫様のご機嫌取りをする事じゃないよな……?」

 

「……御愁傷様です。でも、きっとあなたなら大丈夫だと信じていますよ、僕」

 

「……頑張って、荒垣さん。僕にできる事があったらいつでも言ってね!」

 

「当日は俺も一緒ですから。何かあればいつでも力になりますよ、和哉さん」

 

「お前らは……なんて良い子なんだ!……ただし降谷は除く」

 

「除かれた!?何でですか!?」

 

「頼りにしてるぞ、コナンと秀一」

 

「無視!?」

 

 

 何で除いたか、だって?励ましの言葉が1番他人事だったからだよ!!

 

 

「……っと、そうだ。ボス。脅迫状について、何か情報はないのか?特に、脅迫状を送ってきた相手に関して」

 

「それは現在、本国でも調査中だ。ガルシア氏にも詳しい話を聞いているそうだが……そもそも、エメラルド・フラワーについて知っている人間がいるという事実に驚いていたらしい」

 

「?……それはどうゆう事だ?」

 

「ガルシア氏は、このネックレスの存在を知っている人間は、自分と亡き妻と娘、それから長年仕えてくれている執事の、4人だけのはずだ、と証言している」

 

「何だと?……その妻の実家の人間は?」

 

「……既に全員亡くなっている。20年以上前に邸宅で火災事故が起こり、リリー・ガルシアを除いて、それに巻き込まれた者が全員亡くなってしまったのだ」

 

「そう、か……他に、脅迫状に関する事で判明している事は?」

 

「うむ……今のところは他にはないな」

 

「そうか……」

 

「ただ、」

 

「?」

 

「今回、ガルシア氏が会う約束をしている友人というのが……コナン君にも関係のある人物でね……」

 

「え、僕?」

 

「あぁ。――鈴木財閥の相談役、鈴木次郎吉氏だ」

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ……護衛任務当日の朝。俺と秀一は、空港でガルシア親子の到着を待っていた。

 

 

「……今日から3日間は護衛任務、か……短期間で良かったな。これなら、仲間達にあまり迷惑を掛けないで済みそうだ」

 

「そうですね。ただでさえ、例の作戦の後始末も、残党狩りも始まったばかりですし。……しかし、俺は嬉しいですよ」

 

「何がだ?」

 

「だって、和哉さんと2人だけの任務は数年振りですから」

 

 

 そう言って、秀一はにっこりと笑った。

 

 

「……お前……本当に変わったよな……6年前までの無表情っぷりが嘘みたいだ」

 

「俺は変わっていませんよ。今まで隠していたものが表に出てきただけです」

 

 

 ……そんな上機嫌の秀一と共に待ち続けていると、前方からやって来る3人が目に入った。

 

 

「秀一」

 

「はい。あの3人ですね」

 

「行くぞ。……念のため、失礼がないようにな。俺達への評価は、そのまま仲間達への評価に繋がる」

 

「心得ています」

 

「いい子だ」

 

 

 3人の元へ近づくと、向こうも気づいたようだ。

 

 1人目は、紺色のスーツを着こなしており、金髪碧眼で穏やかな表情をしている、長身の中年男性。

 2人目は、中年男性と同じく金髪碧眼で、長い髪をハーフアップにしている、可愛らしい少女。

 3人目は、白髪で片眼鏡を掛け、執事服を着ている高齢の男性。

 

 この3人のうち、高齢の男性が声を掛けてきた。

 

 

「失礼。FBIの方々ですかな?」

 

「えぇ。そうです。……あなたは?」

 

「おっと。失礼いたしました。……私は、ガルシア家の家令を勤めております、ブラッド・テイラーと申します」

 

 

 高齢の男性……ブラッド・テイラーは、柔和に微笑んだ。

 

 

「テイラーさん、ですね。私はFBI捜査官の、荒垣和哉です」

 

「同じく、赤井秀一です」

 

「荒垣さんに、赤井さんですね。存じております。……事前に頂いた資料を拝見いたしましたが、お二方はとても優秀な捜査官だそうで、我が主もお嬢様も、そして私としても、とても心強く思っております」

 

「光栄です」

 

 

 すると、少女が執事に呼び掛けた。

 

 

「ブラッド、早くお二方を紹介して下さい!私、とても気になっているんです!」

 

「あぁ、お嬢様。失礼いたしました。……それでは、こちらへ」

 

 

 ブラッドさんに誘導されて、男性と少女の元へ近づくと、男性が口を開いた。

 

 

「初めまして。アーロン・ガルシアです。そしてこの子は私の娘の…」

 

「ソフィア・ガルシアと申します。よろしくお願いします!」

 

 

 親子は揃ってニコニコと、俺達に挨拶した。……テイラーさんを含め、この3人の印象は今のところ悪くない。みんな穏やかそうな人達だ。

 

 

「初めまして。私は荒垣和哉、こちらは赤井秀一です。本日から3日間は誠心誠意、護衛を務めますので、どうぞよろしくお願いいたします」

 

「あぁ、いや。そこまで固くなる必要はないよ。護衛を頼んだのは私達の方だからね。……実は、後になって聞いたのだが、君達は今とても重要な案件を抱えているのだとか。……此方の我が儘に付き合わせてしまい、大変申し訳ない……」

 

「だ、旦那様……!」

 

 

 そう言って、ガルシア氏は深く頭を下げた。そしてそれを見て、テイラーさんが焦っている。……こんなに人目のある場所で自身の主がそんな行動を取ったのだから、焦るのも当然か。

 

 

「頭を上げてください、ガルシアさん。確かに、我々が重要な案件を抱えている事は事実です。……しかし、それでも最終的にこの任務を受けると決めたのは、我々自身なのです。ですから、あなたが頭を下げる必要はありません」

 

「し、しかし…」

 

「ガルシアさん。……我々としても、自国の大切な国民であるあなた方に危機が迫っているとなれば、見過ごせないのです」

 

「……荒垣さん……」

 

「それに、」

 

「……?」

 

「――資産家の親子の護衛を、FBI捜査官が見事成功させた事が広まれば、きっと自国内で我々の評価が上がるはずですから」

 

 

 こっそりとそう言って、わざとらしくウインクをして見せれば、ガルシア氏はきょとんとした後に、大声で笑った。

 

 

「っはははは……!!驚いた!顔に似合わず、意外にも強かな男だな君は!」

 

「顔に似合わず、とは一体どうゆう事なのかじっくり問い詰めたいところですが……今はそれよりも場所を移しましょうか。ここでは人が多過ぎます」

 

「おっと、そうだな。では、私達が予約しているホテルへ行こうか。私達は毎年日本へ来る時、いつもそのホテルに宿泊しているんだ。……ブラッド。既に車も回されているはずだな?」

 

「はい。先ほどホテルから連絡がございまして、既に送迎車が到着しております。私が先導いたしますので、どうぞこちらへ」

 

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 テイラーさんに先導されて向かった先にあったのは、見るからに豪華な1台のリムジンだった。

 

 

(……送迎車が1台だけだと聞いた時は人数的な意味で不安だったが……なるほど。これなら全員乗れるな……)

 

 

 というか、これほど豪華なリムジンが送迎車って……一体どんなホテルなんだ?

 

 それから全員が乗り込み、リムジンが発車した。……ふと、先ほどから思っていた事を口にした。

 

 

「それにしても……皆さん、日本語がとてもお上手ですね。驚きました」

 

「ふふ……それはそうですよ。私もお父様もブラッドも、みんな日本が大好きなんですもの」

 

 

 と、誇らしげにソフィア嬢がそう言った。

 

 

「そうですか。……日本人である私としては嬉しい限りですね。ここは、私の故郷ですし」

 

「そういえば、君はいつからアメリカに?」

 

「13になったばかりの頃、父親の転勤が理由で家族と共にアメリカに。それ以来は現在までの25年間、ずっとアメリカで過ごしてきました」

 

「え……ちょ、ちょっと待って下さい。25年前が13歳という事は……今は、38歳……?」

 

 

 ガルシア氏の問いに答えると、ソフィア嬢が困惑した様子でそう言った。……おや?彼女は俺の年齢を知らなかったのか?

 

 

「あぁ……そうだった。ソフィアにはまだ彼らの事を詳しく説明していなかったな。FBIで1番の実力を持つ捜査官と、日本人の捜査官が来るとしか……」

 

「えぇ、そうですよお父様!私すっかりもっと若い方だと勘違いしてしまって……!ごめんなさい、荒垣さん!」

 

「いえいえ、構いませんよ」

 

「……さすが和哉さん。相変わらずの若々しさですね」

 

 

 と、隣に座っている秀一がボソッと呟いたので、その足を思い切り踏んでやった。

 

 

「っ!?……っ何故踏むんですか、せっかく褒めたのに……」

 

「童顔で悪かったな!」

 

「いや、そうとは言ってませんよ……」

 

「知ってる。ただの八つ当たりだ」

 

「……それはさすがに理不尽過ぎですよ師匠……」

 

「「「師匠……?」」」

 

 

 ……あー……やっぱりそれが気になるか……

 

 

「……元々、私は彼の教育係だったのですが、それの延長線のようなもので、今は師弟関係にあります」

 

「今の私がいるのも、全ては和哉さんの師事のおかげです。私は、彼の弟子である事をとても誇りに思っています」

 

 

 俺の言葉の後に、秀一がそう言った。すると、3人は感嘆の声を上げた。特に、ソフィア嬢は瞳をキラキラと輝かせて俺を見ている。……子供の純粋な目が、精神的なプレッシャーとなって襲い掛かってきた。

 

 

「凄い……凄いです!FBIで1番の捜査官である赤井さんの師匠だなんて……

そして、そんなお二方が護衛についてくれる……これほど頼もしい事はないですね!」

 

「えぇ。お任せください。私と師匠がいる限り、あなた方の身の安全は保障します。……ですよね?和哉さん」

 

 

 やめろ……そんなキラキラした目で見つめるな……!

 って、ソフィア嬢やガルシア氏、それにテイラーさんまで同じような目でこちらを見つめている……!?

 

 …………あぁ、もういい。分かったよ、言えばいいんだろ!?

 

 

「――弟子の言う通り、あなた方の安全は、我々が保障しましょう」

 

 

 任務初日から胃が痛い……

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ……その後、ガルシア氏達が宿泊するホテルに到着し、彼らが寝泊まりする一室へと案内された。その一室はとても広く、そして豪華だった。

 

 

「…………こんな豪華なホテル、初めて見たぞ……」

 

「俺も初めて見ました……」

 

 

 荷物運びを手伝いつつ、ひそひそとそんな事を秀一と話す。……やがてそれも終わったため、今度は全員で一室の中でも1番広い部屋のソファーに座り、今後の行動について打ち合わせをした。

 

 その中で、やはり態度が固いからもう少し気安くしても構わないと言われた。俺達はやんわりと断ったが、ガルシア氏とソフィア嬢は、俺達ともう少し距離を縮めたいらしく、どうしてもと言われてしまった。

 ではそれに対して執事はどう思うのか、と聞いてみると、彼は"旦那様とお嬢様の望みを叶えて欲しい"と願ってきた。……結局。話が進まないからと、俺達の方から折れる事にした。

 

 ……まぁ、確かに。俺達も途中から彼らを警戒する事を止めて、互いを相手にする時は素で話してしまっていたから、今さらではあるよな……

 

 

「……では、俺がソフィアさんの護衛を。そして、秀一がアーロンさんの護衛を主に担当すればいいんですね?」

 

「あぁ。それで頼むよ」

 

「了解しました」

 

「まぁ……嬉しいです。私、以前から1度は日本人の方に護衛をしてもらいたいと思っていて……」

 

「ちなみに、それは何故?」

 

「日本人の方が護衛してくれるのなら、いつでも日本についていろいろな話ができるでしょう?いつも護衛してくれる人はみんな外国の方達だから、日本について話す事ができないのです……」

 

 

 なるほど。だからか……

 

 その後、しばらく打ち合わせをした後に、アーロンさんが俺を見る。

 

 

「さて、打ち合わせはこれくらいで充分だろう。あとは何か不都合が出た場合、また相談する事にして……荒垣君」

 

「はい?」

 

「実は、君には護衛とは別にお願いしたい事があってね……ブラッド、準備はできているか?」

 

「はい。既に別室にて準備は整っております」

 

「よし。ではその部屋に行こうか。……荒垣君、着いてきてくれ。詳しい話はその部屋で」

 

「?……分かりました。……秀一。お前はソフィアさんと一緒にいてくれ」

 

「了解です」

 

「お父様、ブラッド。私達を仲間外れにするんですか?」

 

「ははは。いや、そうゆうわけではないのだよ、ソフィア。後でちゃんと話すから、今は待っていてくれ」

 

「…………はーい……」

 

 

 秀一と、不満そうにしているソフィアさんを置いて、別室へと移動した。

 

 何故だろう。嫌な予感がする……

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 和哉さんがアーロンさん達と共に別室へと入って行った後、ソフィア嬢が俺に話し掛けてきた。

 

 

「ねぇ、赤井さん?」

 

「はい、何でしょう?」

 

「あ、今は敬語はいらないわ。お父様達がいないもの。あなた、敬語は苦手なんでしょう?」

 

「……よく分かったな、ソフィアお嬢様?」

 

「呼び方も、お父様達がいない時は気安くソフィーと呼んで欲しいの」

 

「では、ソフィー。……何故、俺が敬語が苦手だと分かったんだ?」

 

「んー……なんとなく、私達に対して敬語を使っているあなたの様子が、居心地が悪そうに見えて……あ、でも、」

 

「でも?」

 

「荒垣さんに対して敬語で話している時は、むしろ生き生きとしているように見えたわ。……あなた、本当に荒垣さんの事を尊敬しているのね。きっと、心の底から」

 

「…………」

 

 

 ……まさか、こんなにも早くにそれを見抜かれるとはな……

 さすがに仕事中は自重して、普段の和哉さんへの態度を隠していたのだが……この子供、なかなか侮れない。

 

 

「……参ったな。まさか見抜かれるとは思ってもみなかったよ」

 

「ふふ……私、そうゆう人の機微を見抜くのが得意なのよ」

 

「素晴らしいな。うちに欲しいくらいだ」

 

「あら、ありがとう。お世辞でも嬉しいわ。……そうだ。話は変わるけど、荒垣さんってどんな人なのかしら?」

 

「……ホー……和哉さんを心底尊敬している俺にそれを聞くのか?長くなるぞ?」

 

「構わないわ。お父様達が戻ってくるまで暇だもの」

 

 

 そこまで言うなら、思う存分話してやろう。

 

 

 ……そして和哉さんの話をしつつ、待つ事数十分……ようやく別室の扉が開き、アーロンさんとテイラーさんが現れた。

 

 

「待たせてすまなかったね。話は終わったよ」

 

「お父様。もう少し遅くても良かったんですよ?今、赤井さんから荒垣さんの話をたくさん聞いていたので」

 

「おや、それはそれは……赤井君とは仲良くなれたのかな?」

 

「それはもう!……ね?赤井さん」

 

「えぇ。……お嬢様は聞き上手ですね。つい、話し込んでしまいました」

 

「そうか!それは良かった」

 

「……それで、和哉さんは?」

 

「おぉ、そうだった!説得に時間が掛かったが、なんとか頷いてくれたよ。きっと、今の彼を見れば驚くぞ!なぁ、ブラッド?」

 

「えぇ。我ながら素晴らしい出来栄えだと思っております」

 

「「……?」」

 

 

 ソフィーと顔を見合せ、首を傾げた。……一体、何をしていたんだ?説得やら出来栄えやらと言っていたが……

 

 …………もしも、和哉さんに無理強いをしたのであれば、いくら依頼人とその執事であってもただでは済まさない――

 

 

「……さぁ出て来てくれ、荒垣君」

 

 

 ――という物騒な思考は、別室から現れた和哉さんの姿を見た事で、吹っ飛んでいった。

 

 

「――あら……まぁ!素敵……!!」

 

 

 ソフィーの歓声を聞きながら、俺はいつぞやのように唖然として、間抜け面を晒してしまった。

 和哉さん……一体、何があってそんなことに(・・・・・・)なったんですか……!?いや、しかし――

 

 

(――テイラーさん、Good job(良くやってくれた)……!!)

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 米国の某所にて――

 

 

「……くっ……くくく……!!」

 

「お、おい……ルパン?」

 

「……また何か悪巧みを……?」

 

「ははは……!!」

 

「おい、ルパン!一体何があった?突然笑い出しやがって……」

 

「ははっ……いやぁー、聞いてくれよ次元、五ェ門!次に狙う予定のお宝……"エメラルド・フラワー"の情報を探ってたら、良い情報が手に入ってさぁ……!!」

 

「へぇ……その情報ってのは?」

 

「んふふ……内緒♪」

 

「はぁ?」

 

「……どうゆう事でござる?」

 

「んー……正確には、お前らにとっては関係なくても、俺にとってはかなり重要で、とっても良い情報って言えるなぁ」

 

「……それで、笑ってたのか?」

 

「あぁ。……昔を思い出すぜ……俺がまだ若い頃にやらかした事を、な……」

 

「やらかした……まさか、女子に乱暴を……!?」

 

「んなわけあるか!!むしろ相手は当時まだガキだった男だよ!」

 

「何だと……?てめぇ、まさかペド…」

 

「違うっての!!……それにしても、まさか今は38だなんてな……って事はあの時は17か18?……とんだ童顔だな……」

 

「……お前がそうゆう趣味かどうかはさておき、その当時はまだガキだった男ってのは、一体どんな奴なんだ?」

 

「俺はペドじゃないぞ。違うからな!……そいつはなぁ……主に2つの意味で、俺の恩人なんだ。そして今回の仕事には、必ずそいつが関わってくる。なんといったって、そいつはFBIだからなぁ……

 まぁ何にせよ、俺様がやる事は変わらねぇ。いつも通り仕事を終わらせて……そして――あの日の借りを、必ず返すんだ」

 

 

 

 

「待ってろよ――荒垣和哉」

 

 

 

 

 

 






・大泥棒とエンカウントした飼い主

 今だけではなく若い頃も無茶をしていた飼い主。もしも昔の無茶が忠犬にバレたらお説教される事でしょう。

 上層部の無茶振りにより、赤井と共に護衛任務につく事になった。あの―――共、いつか絶対にぶん殴る……!!しかし、実際に任務へ向かうと、護衛対象の親子とその執事が良い人で一安心。
 ……と、油断していたら面倒事を頼まれた上に、正直に言えばあまり着たくない服を着せられる事になった。

 なんで俺がこんな格好をしなきゃいけないんだ!絶対に似合わないだろ!?


・子供()に守られた大泥棒

 まさか、この俺がガキに命を救われるなんて、な……

 当時のオリ主は大体17か18ぐらいの年齢だが、13か14ぐらいだと勘違いしていた。今回、事実を知って驚く。
 再会できたその時は、必ず借りを返すと決意している。ただし、仕事の方を優先させる模様。
 既に"エメラルド・フラワー"については、オリ主達よりも詳しい情報を掴んでいる。

 ――再会の時は近い。


・久々の2人きりの仕事でご機嫌な忠犬

 飼い主と一緒に任務を遂行できてニコニコ。ある意味、黒の組織を相手にした任務についていた時よりも張り切っている。
 だが、内心では忙しい時に無茶振りをしてきた上層部に対して腸が煮えくり返っている。この恨み、いつ晴らしてやろうか……
 任務中、依頼主と共に消えたオリ主が再び姿を現した時、ついポーカーフェイスが崩れてしまった。

 和哉さん、その格好は一体……!?だがしかし、執事は良い仕事をした!!







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF② 護衛任務~初日~ 前編



・コナン視点。

・ルパン一味は出てきません。

・前編と後編に分かれています




 

 

 荒垣さんと赤井さんの護衛任務当日。俺は蘭とおっちゃん、園子、少年探偵団と共に、鈴木次郎吉さんの自宅へと招待されていた。

 

 ちなみに、今回は灰原はいない。彼女は、例の作戦中に見つけたアポトキシン4869の資料を使って元の体に戻る薬を開発するために、今も研究し続けている。俺は、そんな灰原に対して息抜きも必要だから、と連れ出そうとしたのだが……

 

 

「……今回は、あの人と顔を合わせる事になるんでしょう?……なら、行かないわ」

 

 

 と言って、彼女は断った。……あの人、というのは間違いなく、赤井さんの事だろう。作戦が終わった後に、灰原には赤井さんの事も含めて事情を説明したのだが、1度深まった溝を埋める事はやはり難しいようだ。

 赤井さんも彼女に無理をさせないために、極力近づかないようにしているから、結局は現状維持しかできない。……これに関しては、時間が解決してくれるのを待つしかないのだろう。

 

 閑話休題。

 

 

「おぉ!良く来てくれた!」

 

「久しぶりね、次郎吉おじ様!」

 

「こんにちは、お邪魔します」

 

「「「こんにちはー!!」」」

 

「おぉ、園子も蘭君も、久しぶりじゃな!子供達も相変わらず元気じゃのう」

 

「こんにちは!」

 

「どうも。園子君から、あなたから私に相談がある、と聞いたのですが……」

 

「キッドキラーに毛利君も!良く来てくれた!……そう。実は名探偵として有名な君に、ある事を相談したくてな……だが、その前に……君達の後ろにいる青年は?」

 

「――初めまして、鈴木次郎吉さん。安室透といいます」

 

「おぉ、君がそうか!毛利君に弟子入りしているという……」

 

 

 ……そう。今回は何故か、降谷さん…じゃない。安室さんも同行していた。既に彼がついて来る事は、次郎吉さんにも連絡済みである。

 安室さんは、あの鈴木財閥の相談役がおっちゃんに相談したい事があるというのだから、きっと大事に違いない。最近は同行もできていなかったため、久しぶりに毛利先生の仕事振りから多くの事を学びたい……という理由から同行を申し出た。

 

 ……というのが、建前。

 

 本当の目的は、FBIの捜査官達が、任務中に何かやらかすのではないかと危惧し、万が一何かがあった場合はそれを阻止するため。……確かに、FBIには日本で勝手に捜査をしていたという前科があるからな。納得できる理由だ。

 ……しかし、実は他の理由もあるんじゃないか、と俺は考えている。彼はおっちゃんに話を通す前に、俺に同行したい事を伝えてきたのだが、その時……

 

 

「……荒垣さんには"あなたなら大丈夫だと信じている"と言った手前、彼らの仕事を見張るような真似はどうなのかと自分でも思うけど……"ゼロ"としては、念のために彼らを見張る必要がある。

 ……いや、別に荒垣さん達を心配してるとか力になりたいとかじゃないから…ってコナン君?何でそんな生暖かい目で見てくるんだ!?」

 

 

 ……と、言っていたからだ。……ハハ。素直じゃねーよなぁ、この大人……

 多分、この人はあの日荒垣さんに無視された事も結構気にしてるんじゃないか?

 

 

 ……その後、俺達は応接間――さすがというか、無駄に豪華な部屋だ――に通された。

 その際、まずは相談したい事から、という事でおっちゃんと安室さんは次郎吉さんと共に別の部屋へ。この時、少年探偵団の3人はその相談したい事の内容を気にしていたが、次郎吉さんが気をきかせて最近話題の新作のテレビゲームを用意していたため、すぐにそちらの方へ興味を示した。

 では俺は、というと。素直に待つ事にした。今回は安室さんが話を聞いてくれるから、後でその内容を教えてくれるだろうし……それに、次郎吉さんの相談内容については、予想がついていた。

 

 

(きっと、ガルシア邸に送られた脅迫状についてだ)

 

 

 だからこそ、大人しく待つ事にした。……そんな時。俺は園子と蘭が話している内容が気になった。

 

 

「……へぇー、じゃあ今日はそのソフィアちゃんが来るのね?」

 

「そうなの。あの子とは小さい頃に何回か遊んだ事があるだけで、それ以来は全然会ってないから……ソフィア、私の事覚えてるかしら……?」

 

 

 "ソフィア"……アーロン・ガルシアの娘の名前だ。園子は過去に会っていたのか!

 

 

「ねぇ、園子姉ちゃん。そのソフィアって子はどんな子?」

 

「あら、ガキンチョ。興味あるの?まぁ、そうね。ソフィアは昔からかわいい子だったし、今はもっとかわいくなってるはずだわ。12歳だから、ガキンチョとは少し年の差があるけど……」

 

「いや、そんなんじゃないから……」

 

 

 ったく、こいつは……すぐにそうゆう事と結び付けたがる……

 

 それから、ソフィア・ガルシアについて聞いてみたところ、彼女は頭が良く、好奇心の強い子供だったらしい。園子と会話した中で分からない日本語があれば、すぐにその疑問を解決しようと質問してくるし、よく難しい内容の本を読んでいたり、たまに園子も分からない難しい言葉を使ってきたり……

 

 

「……そう考えると、あの子、ちょっとだけ子供の頃の新一君に似てるかも」

 

「え、新一に?」

 

「えぇ。……あ、でもあの子の方が素直で良い子だったわよ?お姉様、お姉様って私の後ろをついてくる姿は、本当にかわいかったわ……」

 

「あー……新一、小さい頃から生意気だったから……」

 

「そうよねー」

 

 

 ……悪かったな。素直じゃない生意気なガキで!

 

 

「すまん、遅くなってしまったな!」

 

 

 と、その時。次郎吉さん達が帰って来た。

 

 

「あ、おじ様達。話は終わったの?」

 

「うむ。終わったぞ」

 

「どんな事を相談してたのー?」

 

「気になります」

 

「そうだそうだー」

 

「すまんな、子供達。君達に教える事はできない。これは大人の話なんじゃ」

 

 

 その言葉に、一斉にブーイングを送る3人。次郎吉さんやおっちゃんがそれを宥めていて、見かねた蘭と園子も加勢する。

 それを尻目に、俺は安室さんとこっそり会話をしていた。

 

 

「……安室さん、どうだった?」

 

「うん。……相談内容は、やっぱり例の脅迫状に関係する事だった。ガルシア氏とその娘が日本に滞在している時に何かがあったら、その解決に協力して欲しい、と言われたよ。どうやら次郎吉さんは、ガルシア氏から相談されていたらしい。今回の一件で誰か頼れる人はいないか、と」

 

「それで、小五郎のおじさんに相談を?」

 

「そのようだ。……それと、蘭さんや園子さん、それに子供達や君を呼んだ理由だけど……これに関しても、ガルシア氏から頼まれていたらしい」

 

「どうゆう事?」

 

「ガルシア氏は、娘のソフィアさんが今回の一件で不安になっているのではないかと心配して、それを和らげるために友人を作る機会を与えたい、と言っていたそうだ。それにどうも、ソフィアさんには友人があまりいないらしい。

 

 園子さんは以前、ソフィアさんに会っているらしいし、その友人である蘭さんとも仲良くなれるはず、という考えから。

 少年探偵団の3人は、その明るさでソフィアさんを元気にしてやって欲しい、という理由で。

 そして君は……子供ながら大人顔負けの知識や頭の回転の早さがある点が、ソフィアさんと共通している事から、仲良くなれるのではないか、という考えから。それぞれ招待されたようだ」

 

「……何だか、凄く娘さん想いの良いお父さんって感じだね」

 

「あぁ。……それがどうも毛利さんの琴線に触れたみたいで、彼は快く引き受けていたよ」

 

「……そっか」

 

 

 おっちゃん、蘭の事を凄く大事にしてるしな。その気持ちに共感したんだろう。

 

 

「それで、ガルシアさん達はいつ来るの?」

 

「予定ではそろそろ来るとの事だが……」

 

 

 

 

「失礼します。……アーロン・ガルシア様、ソフィア・ガルシア様がご到着されました」

 

 

 応接間の扉が開き、次郎吉さんが雇っている使用人がそう言った。

 

 

「おぉ、来たか!では、出迎えるとするかの。君達も一緒に来てくれ」

 

 

 そう言われた俺達は、次郎吉さんと共に使用人の先導でガルシア氏達の元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 向かった先にいたのは、金髪碧眼の中年男性に、金髪碧眼の少女。そして執事服を着た老人。それから……

 

 

(赤井さんだ!……ん?荒垣さんは?)

 

 

 中年男性の後ろに赤井さんがいたが、荒垣さんがいない。その代わりに若い男性がいるが……って……

 

 

(……え?……えっ……!?)

 

 

 ま、まさか……!?

 

 

「……コナン君!ちょっと……!」

 

 

 その時、後ろから安室さんにこっそりと呼ばれたため、近づいてひそひそと話をする。

 

 

「……見たかい?あれ」

 

「……うん。女の子の後ろにいる若い男の人なら、見たけど……」

 

「…………僕の見間違いかな?その若い男が――荒垣さんに見えるんだが……」

 

「…………いや。見間違いじゃないと思うよ。僕にもそう見えるし……」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 僕と安室さんは、揃ってもう一度荒垣さんを見た。

 

 髪をオールバックにしていて、銀縁の眼鏡を掛けており、柔和に微笑む荒垣さんは――

 

 

(――何で、執事服を……!?)

 

 

 何故か、執事になっていた。

 

 

「いや、何で……!?」

 

「一体何がどうしてそうなったんだ荒垣さん……!?」

 

 

 驚き過ぎて大声が出そうになったが、安室さんと2人でどうにか耐えた。

 

 だが、そんな俺達を他所に、次郎吉さんが彼らに声を掛けた。

 

 

「アーロン!ソフィア君!ブラッドも、一年振りだな!」

 

「久しぶりだね、次郎吉さん」

 

「お久しぶりです、次郎吉おじ様!」

 

「お元気そうで何よりです」

 

「なーに、まだまだ若いもんには負けていられんさ!……ところで、見知らぬ者達が2人いるようだが……?」

 

「あぁ。紹介するよ。……まず、私の後ろにいる人が、赤井秀一君。今回、我々の護衛をしてくれる人で……FBIで1番の実力を持つ捜査官なんだ」

 

「FBI……!?」

 

「FBIって、アメリカの……!?」

 

「そう。Federal Bureau of Investigation……アメリカの連邦捜査局に所属している人だ」

 

「……例の件が理由かの?」

 

「……あぁ。そうなんだ。私の知り合いのうちの1人が、FBIの上層部の人でね。その人に相談してみたところ、忙しかったにも関わらず、彼を護衛としてつけてくれたんだ」

 

「そうだったのか……いやしかし、その上層部の人間が推薦するくらいだ。余程腕のいい捜査官なのじゃろう。……赤井君、だったかな?私の友人とその娘の事を、よろしく頼むぞ」

 

「えぇ。彼らの事は、私が必ずお守りします」

 

「「「か、カッコいい……!!」」」

 

 

 少年探偵団の3人が、キラキラとした目で赤井さんを見つめている。……確かに、堂々としている赤井さんはカッコいい。

 

 

「ちょっとちょっと、蘭!あの人超カッコいいわよ!?名前は日本人だけど目は緑色だし、ハーフかしら?……ちょっと、蘭?どうしたの?」

 

「え?……あ、あぁ、そうね。カッコいい人だよね……」

 

「……蘭、もしかして旦那がいながらあの人に惚れちゃった?」

 

「ち、違うわよ!というか新一は旦那じゃないし……」

 

「あら?私は新一君だとは一度も言ってないけど……?」

 

「なっ!?……もう、園子……!!」

 

 

 ……と、向こうでは蘭と園子が話している。……そういえば、蘭はアメリカで赤井さんと会った事があるんだったな。それを思い出していたのか?いや、そのはずだ!……惚れたわけではないはず!きっとそうだ!!

 

 

「……それで、もう1人は?執事の服装という事は、新しい執事を雇ったのか?」

 

「あぁ、実はそうなんだよ。元々、ソフィアが日本人の執事を欲しがっていてね。それで最近有能な執事を見つけたので、すぐに雇ったんだ。まだまだ若いが、執事としての技能はブラッドのお墨付きだ」

 

「ほう!ブラッドのお墨付きか!それはそれは……君、名前は?」

 

「――初めまして、鈴木次郎吉様。仲井信二郎と申します。現在は、ソフィアお嬢様の専属の執事を勤めております」

 

 

 そう言って、ニッコリと微笑む荒垣さん……否、仲井信二郎さん。

 

 …………

 

 

(――いや、あんた誰だよ!?)

 

 

 普段の荒垣さんだったらそんな丁寧な言葉は使わないし、オールバックにだってしないし、眼鏡だって掛けないし、ニッコリとしたキラキラな笑顔なんて見せないし、そもそも名前違うし!!

 

 ……いや、待てよ?あの笑顔、どっかで……

 

 

「…………偽名、か。まさか、別人になって捜査を続ける気なのか?確かに、その方がFBIである事を悟られないだろうし、カモフラージュにはなるが……」

 

(――あ、なるほどこの人だ)

 

 

 今は降谷零の顔でぶつぶつと呟いている安室さんが普段見せる笑顔と、仲井さんが見せた笑顔が重なった。

 口調は別として、多分表情のベースは安室さんのそれだろう。

 

 

「彼は私の自慢の執事なんですよ、次郎吉おじ様!」

 

「おぉ、そうかそうか。良かったな、ソフィア君」

 

「はい!」

 

「そう言っていただけるとは……とても光栄です、ソフィアお嬢様」

 

「あら。ソフィーでいいと言っているじゃないですか、シンジ」

 

「い、いえ……そうゆうわけには……」

 

「私がそれでいいと言っているんですよ、シンジ」

 

「しかし、お仕えしている方を愛称で呼ぶなど、不敬にあたります……」

 

「……シンジ」

 

「うっ……も、申し訳ありません……」

 

「ソフィアお嬢様。そのあたりで許してやってください。まだまだ新参者なので、からかわれてもうまく対処できないのです」

 

「……もー……仕方ないわね……」

 

「……ほっ……」

 

 

 ……本当に……普段の飄々とした荒垣さんとは全く結び付かない立ち振舞いだ。さすがFBI捜査官。演技力もプロ級だな。……もしかして、赤井さんの沖矢昴としての演技力も、荒垣さんから教わったのか?

 

 

「んー……安室さんと似たタイプのイケメンかしら?結構若いわね」

 

「安室さんよりも少しだけ年下に見えるね……」

 

「そうね。20代半ばかしら?」

 

 

 残念。その人の実年齢は四十路に近いんだ。……もっとも、仲井信二郎として設定している年齢は、結構若いのかもしれないけど。

 あとで聞いてみよう。

 

 

 その後。立ち話もなんだから、と先ほどの応接間まで戻る事になった。そこでいろいろと話をしていく中で、ソフィアさんと少年探偵団の3人と蘭は、園子を通じて仲良くなっていた。もちろん、俺も。

 それから、赤井さんと俺と安室さんの関係について、話題が移った。

 

 

「……えっ!?ガキンチョと安室さんって、赤井さんと知り合いなの!?」

 

「うん。ある事件に巻き込まれた時に知り合ったんだ。……ね?安室さん」

 

「えぇ、まぁ非常に……非常に!不可抗力ではありますがね」

 

「おや。俺と知り合った事に不満があるようだな、安室君」

 

「大ありですよ!」

 

「それは残念だな。俺はボウヤと君にまた会えて嬉しかったが……」

 

「気色悪い事を言うな、黙れ!」

 

「あ、安室、さん……?」

 

「……珍しいな。安室がそんな態度を見せるなんて……」

 

 

 安室さんの赤井さんへの態度を見た事がなかった面々は、その豹変に驚いていた。

 

 

「あ……す、すみません!つい……この男に関してはどうしても歯止めがきかなくなってしまって……」

 

「へぇ、そうなんですか……」

 

「相性、ってやつか……?」

 

「えぇ、まぁ……そんなところです」

 

「俺は嫌いではないがな」

 

「貴様には聞いていない!」

 

「あ、あははは……」

 

 

 本当に、相変わらずだよなこの2人は……

 一方、仲井さんはというと……

 

 

「……ほう……うまいな。さすが、ブラッドのお墨付きというだけはあるのう……」

 

「ありがとうございます」

 

「本当においしいわ、このアールグレイ……」

 

「あぁ。素晴らしいね。とてもおいしいよ」

 

「お嬢様、旦那様も、ありがとうございます。光栄です」

 

「…………ふむ。まぁ、及第点ですね」

 

「は、はい!精進します」

 

「あら、ブラッドは厳しいわね……」

 

「ははは。それでこそ、我が家の家令だ」

 

 

 ……すげぇ……全く違和感がない。完全に執事に成りきってる……!さすがの荒垣さんも、彼らと出会って数時間で執事に成りきれるはずがないし……もしかして、経験した事があったのか……?

 ……ちょうど、赤井さんが1人になっていたので、こっそりと荒垣さんが仲井さんになった経緯を聞いてみる事にした。

 

 

「赤井さん……荒垣さんに何があったの?」

 

「それは僕も聞きたいですね」

 

「安室さん」

 

 

 同じ事が気になっていた安室さんも、赤井さんに聞きにきたようだ。

 

 

「…………実は、な……」

 

 

 赤井さんによると……荒垣さんは、ガルシア氏の提案で執事になる事になったらしい。

 

 最初は荒垣さんも断っていたようだが、ソフィアさんの日本人の執事が欲しいという願いを、3日間だけでも叶えてやりたいという、ガルシア氏の熱意に負けて、ああなったようだ。

 幸いにも昔、短期間だけだが潜入捜査中に執事になっていた時期があったらしく、その作法に関しては、本当に執事のテイラーさんのお墨付きをもらえたのだという。……現役の執事のお墨付きって……すげぇな荒垣さん……

 そんな荒垣さんは、最初は乗り気ではなかったらしいが……これはカモフラージュに使える、という考えが浮かび、今では真剣にやっているのだとか……

 

 

「それにしても……和哉さんの執事姿はとてもよく似合っている。素晴らしい。そうは思わないか?……いやしかし、むしろ俺の方が和哉さんの従者になりたい…」

 

「「あー、はいはい」」

 

 

 赤井さんは相変わらず荒垣さん信者だ。こればっかりは変わりそうにない。

 安室さんと顔を見合わせて、互いにやれやれと首を振った。

 

 

「あ……そういえば、次郎吉おじ様。ルパンはどこに?」

 

「「「――ルパン?」」」

 

 

 現役警官3名――なお、1名を除いて職業を偽装している模様――がその名前に反応した。全員が訝しげな表情を見せている。

 あー……そりゃあ思わず反応しちまうよな。あの大泥棒と同じ名前なんて。

 

 

「おぉ、そうだったな。ルパンも久々に会えれば喜ぶじゃろう。今連れて来るから、少し待っていてくれ」

 

 

 そう言って、次郎吉さんが退出すると、すかさず近くにいた赤井さんと安室さんが俺に聞いてきた。

 

 

「ボウヤ、ルパンというのは……?」

 

「さすがにあの大泥棒ではない、とは分かっていますが……」

 

「ルパンっていうのは、次郎吉さんが飼っている犬の名前だよ」

 

「「犬?」」

 

 

 声が揃った瞬間、安室さんが嫌そうな顔をした。

 

 

「……確か、次郎吉さんは怪盗キッドを目の敵にしているんだよね?……そんな人のペットの名前が、大泥棒の名前って……」

 

「あ、ははは……一応、ルパンは怪盗キッドを目の敵にする前から飼われていたはずだから……」

 

「……その後に名前を変えるわけにもいかない、か……」

 

 

 2人揃って苦笑いをしている。多分、俺も同じ顔をしているのだろう。

 

 と、その時。扉が開き、次郎吉さんと共にルパンが入ってきた。

 

 

「ワンッ!」

 

「うわ!……っはは、分かった!分かったから舐めるなって!久しぶりだな!」

 

「随分懐いているな……っと、俺もか?」

 

「っおっと。僕にもですか?人懐っこい子ですねぇ……」

 

 

 俺の顔を一頻り舐めてから、赤井さんや安室さんの元へすり寄り、それからおっちゃん、蘭、園子、少年探偵団、ガルシア氏、テイラーさん……と1人ひとりに挨拶をしてから、最後にソフィアさんと仲井さんの元へ向かったのだが……そこで、異変が起きた。

 

 

「ワウ?…………ッ!ウゥゥゥ!!」

 

 

 突然、ルパンがソフィアさんに向かって唸り始めた。

 

 

「えっ!?」

 

「こ、こら、ルパン!何をしているんじゃ!!こっちへ来い!」

 

「グルゥゥゥ!」

 

「っ、お嬢様!私の後ろへ!」

 

 

 飼い主の次郎吉さんの言う事も聞かず、ずっと唸り続けている。

 それを見た仲井さんは、ソフィアさんを自分の背後に隠した。

 

 

「ル、ルパン?どうしたの?……わ、私よ、ソフィア!」

 

「ガルゥゥゥ!」

 

「ひっ!!」

 

 

 ソフィアさんが呼び掛けても、唸るのを止めない。……おかしい。ルパンはこんなに唸るような犬じゃなかったはず。それこそ、唸るのは敵に対してか、もしくは何か危険がある時ぐらいで……

 

 

(――逆に言えば、それほどの何かが今のソフィアさんにはある、という事か?)

 

 

 まさか、とは思うが……誰かがソフィアさんに変装している、とか?

 

 そんな事を考えていた、その時だった。

 

 

「……赤井様。お嬢様の事を頼めますか?」

 

「え、……あ、あぁ。了解」

 

 

 いつもとは違う呼び方に戸惑ったのか、少し動揺を見せたが、赤井さんは仲井さんの言葉に応えて、ソフィアさんの側に移動した。

 

 

「では、お願いします」

 

 

 それから仲井さんは、未だに唸り続けるルパンの前に立ち、口を開く。

 

 

「――ルパン、待て」

 

 

 瞬間。ルパンは唸るのを止めて、仲井さんへと視線を移した。

 

 

「――座れ」

 

 

 ルパンは素直に座った。……仲井さんから目を離さない。

 

 

「――良い子だ」

 

 

 そう言って仲井さんが褒めると、ルパンはブンブンと尻尾を振って、喜びを露にしている。

 その様子に全員が唖然としていると、仲井さんがソフィアさんの方へ振り向いた。

 

 

「ソフィアお嬢様。こちらへ」

 

「え、えぇ……」

 

 

 赤井さんの後ろにいたソフィアさんが仲井さんに近づくと、再びルパンが唸る。しかし、

 

 

「待て」

 

 

 仲井さんがそう言うと、ピタリと止まった。……すげぇ。

 

 

「お嬢様、手を……」

 

「は、はい」

 

 

 ソフィアさんの手が、仲井さんの白手袋の上に添えられる。そしてそのまま、仲井さんがルパンの前で跪いた。……ちょうど、2人の手がルパンの鼻先にある。

 すると、ルパンがその匂いを嗅ぐ仕草を見せて……

 

 

「ワウ?…………ワンッ!ワン!」

 

 

 まるで、先ほどの様子が嘘だったかのように、ソフィアさんに懐き出した!

 

 

「わっ!……ルパン……ルパン!良かった……!!」

 

 

 ……この一連の流れは、まるで映画のワンシーンのようだった。今まで唖然としていた俺達はそれぞれ感嘆の声をあげる。

 

 

「おいおい……すげぇな、お前!若いのにあんな堂々とした様子で……!」

 

Excellent(素晴らしい)!!良くやったぞ、信二郎!」

 

「素敵!カッコ良かったわ!!私も真さんにあんな事されてみたい……!」

 

「まるで映画みたい……!」

 

「いやぁ、お恥ずかしい……ありがとうございます……」

 

 

 照れた様子を見せる仲井さんだが、先ほどルパンを制していた、あの堂々とした姿は、間違いなく普段の荒垣さんが出ていた。……今はそんな様子は全く見られない。とんだ演技派捜査官だ。

 

 

「いやー、素晴らしい躾じゃった!」

 

「いえ、そんな……むしろ申し訳ありませんでした。次郎吉様。あなた様の愛犬に対して失礼な事を……」

 

「いやいや、構わんよ!……それにしても仲井君。もしや、君も犬を飼っているのか?実に堂に入った躾じゃったが……」

 

「……いいえ。飼っていませんよ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「――得意なんですよ。犬の躾」

 

 

 そう言って、こっそりと横目で見た先には……

 

 

「……おい、言われているぞ狂犬」

 

「事実だ」

 

「……お前、それでいいのか……?」

 

 

 ついには安室さんにまで心配され始めた赤井さんがいた。

 

 

「はっはっはっ!!頼もしい執事だな!……ん、おっと。もう昼時か。……アーロン。これから観光に行くのか?」

 

「あぁ。そのつもりだよ」

 

「そうか。……もし、ソフィア君や君にその気があるんじゃったら、東都水族館に行かないか?園子や蘭君に、毛利君。子供達4人も一緒にな」

 

「東都水族館……確か、鈴木財閥が新しく建設した水族館だったね。レジャー施設もあるという……」

 

「そうじゃ。……どうかの?」

 

「そう、だな……」

 

「お父様!私、行きたいです!」

 

「ソフィア?」

 

「新しいお友達と、一緒に遊びたいです!」

 

 

 ソフィアさんの言葉に、子供達3人が同意し、園子と蘭も少し遠慮しつつそうしたいと伝えた。俺は、ソフィアさんの気持ちも分かるが、ガルシア氏の気持ちも分かる気がする。

 

 ソフィアさんは多分、昔の俺と同じで周りから遠巻きにされていたんじゃないかと思う。有名人や金持ちの子供っていうのは、大体がそうなんじゃないかな。周りから嫉妬されるか、もしくは媚を売られるか。……さっき安室さんから聞いた話では、彼女の友人は少ないみたいだし。……それに、例の脅迫状の事もある。

 彼女はその不安を、新しくできた友達と遊ぶ事で和らげたいのではないか?

 

 それに対して。ガルシア氏は確かに、ソフィアさんに友人ができる事を望んでいたが……脅迫状の事もあるため、不特定多数の人がいるような場所にはあまり行きたくないというのが本音ではないだろうか?

 彼女や、自分自身の安全を考えれば、得策ではない……そんな事を考えている気がする。

 

 

 そこへ、仲井さんがガルシア氏の側に寄り、耳打ちをした。……するとガルシア氏は頷き、次郎吉さんに返答する。

 

 

「分かった。行こうか」

 

「おぉ、そうか!」

 

「ありがとうございます!お父様!」

 

 

 ガルシア氏の言葉に、ソフィアさんや子供達は喜びの声を上げた。……一体、仲井さんはなんと言って説得したんだろうか。

 

 

「では、東都水族館に行く前に……うちで全員昼食を取っていきなさい!うちの料理人が作る料理はうまいぞ!」

 

 

 ……という事で、俺達は次郎吉さんの家で昼食を取る事になった。

 

 次郎吉さんの案内で、おっちゃん達が部屋から出ていく中、俺、安室さん、赤井さん、仲井さんだけが部屋に残った。

 

 

「……執事服よく似合っているよ、仲井さん?」

 

「それはそれは……光栄ですよ、江戸川様」

 

「う……今はそれ止めて!凄く様になってるけど普段と違い過ぎて変な感じがする!!」

 

「っははは!いやー、悪い悪い。お前の反応が面白くてつい、な」

 

「もー……」

 

 

 ようやく荒垣さんに戻ったので、先ほどガルシア氏になんと言ったのか、聞いてみた。

 

 

「あぁ……それはな。むしろ人が多い場所の方が、もしも脅迫状を送ってきた奴がいて、こちらに何かしようとしても、人目がある場所ではそう簡単に行動に移せないはずだ、って言ったんだ。それから、俺と秀一が責任を持って必ず守る、と伝えた」

 

「……なるほど。それで頷いてくれたんだ」

 

「あぁ。……秀一、悪かったな。勝手に護衛のやり方を決めちまって……」

 

「いえ。あなたは先ほど自分が決めて良いのかと聞いてきてくれましたから。問題ありませんよ」

 

「まぁ、そうだが……一応礼儀としてな」

 

「……ちょっと待ってください。あなた達、一体いつそんな事を話していたんです?ここに来てから会話らしい会話をしたのは、先ほど荒垣さんが赤井を呼び寄せてソフィアさんを守らせた時ぐらいじゃないですか」

 

 

 確かに、安室さん……いや、降谷さんの言う通りだ。俺から見ても、彼らの間に会話らしい会話はなかったはず……

 

 

「なに、どうという事はない。目で会話しただけだ」

 

「「…………は?」」

 

「和哉さんが目で"俺が決めてもいいか"と伝えてきたから、"構いません"と返しただけだ」

 

「…………いやいやいや!?」

 

 

 そんな事、できるのか!?そんなテレパシーみたいな事……

 

 

「複雑な会話は無理だが、意思表示をする事ぐらいは可能だ」

 

「……普通はそれさえも無理だって事は分かっているが……長年の付き合いのせいか、こいつとはそれができるんだよなぁ……何故か」

 

「これこそ師弟の……いや、飼い主と犬の絆だ」

 

「…………」

 

「……とりあえず、赤井。ドヤ顔するな。ムカつく」

 

 

 …………うん。考えても無駄だな!

 

 

 その後。俺達は今後の方針を軽く話し合い、それから応接間を出て次郎吉さん達と合流した。

 

 

 

 

「――それにしても、"ルパン"ねぇ……あの野郎、あの時少し怪我してたみたいだけど……大丈夫だったかな……まぁ、今も報道されまくってるし、大丈夫だったんだろう……」

 

 

 

 

 ……と、荒垣さんが呟いていた事を、俺は知らない。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF② 護衛任務~初日~ 後編



・オリ主視点。最後にルパン一味がちょっとだけ登場。

・前編より短い。




 

 

 鈴木次郎吉氏の自宅にて、昼食を済ませた俺達は、東都水族館へとやって来た。……例の事件があって復旧してからそう間もないというのに、かなり賑わっている。

 

 

「ソフィア姉ちゃん、行こうぜ!」

 

「行きましょう!」

 

「はやくはやく!」

 

 

 少年探偵団……だったか?その子供達が、ソフィアさんの腕を引いている。あれは……危ないかもしれない。

 

 

「ま、待ってみんな。そう焦らないで…っきゃあ!?」

 

 

 やっぱりか!

 

 俺は咄嗟にソフィアさんの元へ駆け寄り、倒れそうになった彼女を受け止めた。

 

 

「……お嬢様、ご無事ですか?」

 

「え、えぇ……ありがとう、シン…っ!?」

 

「…………ソフィアお嬢様?」

 

 

 突然、俺の顔を見つめて固まってしまった。……ん?顔が赤い?

 

 

「……大丈夫ですか?顔も赤いですし、まさか熱が…」

 

「い、いいえ!だ、だ、大丈夫です!!」

 

「……そうですか?」

 

 

 それならいいんだが……

 

 

「……今の見た?」

 

「見た!」

 

「ソフィア、かわいくない!?あれ、きっと仲井さんに惚れたわよ……!!」

 

「かもしれないね。仲井さん、さっきもルパンに唸られたソフィアちゃんの事を助けてたし……!」

 

「いいわねぇ……お嬢様と執事の恋愛……!!」

 

 

 ……なんて声が、後ろから聞こえてきた。…………まぁ、確かにソフィアさんはちょうどそうゆうお年頃だし、大人の男に憧れを抱く時期なんだろう。

 だが、蘭さんや園子さんが言うような恋愛に発展する事はない。俺は護衛任務のために一緒にいるだけだし、そもそも俺がもう少しで40になるおっさんだし。……自分で言ってて悲しくなってきた。今の仲井信二郎として設定されている年齢は、26なんだがな……

 

 それはさておき。

 

 

「……少年探偵団の皆様に、失礼ながら申し上げます。人には人それぞれのペースというものがありますので……あまり、お嬢様に無理をさせないよう、お願いいたします」

 

「あ……ご、ごめんなさい!」

 

「すみませんでした……!」

 

「ごめんなさい……」

 

「謝罪の言葉は、ソフィアお嬢様に」

 

 

 俺の言葉を聞くと、彼らはすぐにソフィアさんへ謝った。……うん。素直な良い子達じゃないか。なんだかんだ言って、彼らの世話を焼くコナンの気持ちが、少し分かる気がする。

 

 

「……さて。それでは今からはゆっくりと歩いてください。急ぐ気持ちは分かりますが、それでは楽しい時間があっという間に、過ぎてしまいます。お互いの事を話しながら、ゆっくりと歩いてみてはいかがでしょうか?」

 

「えー……でもよぉ、それだと遊ぶ時間が減っちまうぞ」

 

「確かに、小嶋様の言葉もごもっともですが……では、急いで遊び回った時と、ゆっくりと遊び回った時、どちらの方が皆様の思い出により残りやすいでしょうか?」

 

「え?……うーん……」

 

「……やっぱり、ゆっくり遊んだ時の方じゃないでしょうか?急いでいると、その分遊んだ事の思い出が、頭の中から流れていってしまう気がします」

 

「うん……歩美もそう思う!元太君も、時間がない時に急いで食べたご飯よりも、ゆっくり食べた時のご飯の方が、思い出に残るでしょ?」

 

「!確かにそうだな!ゆっくり味わって食べた時の方が、ずっと頭に残ってるぞ!」

 

「その通りです。それと、今回の事は同じ事。……それに、お嬢様と旦那様のご都合により、皆様とお嬢様が遊べる時間は今日、この時しかございません。……だからこそ、私としてはお嬢様のためにも、良い思い出を作って欲しいのです」

 

「あ……」

 

「……そっか。ソフィアさんとは今日しか遊べないんだ……」

 

 

 それから顔を合わせた子供達は、揃ってソフィアさんを見つめると、次に俺を見てこう言った。

 

 

「よし、分かったぞ!今日はゆっくりだよな!」

 

「僕達、ソフィアさんの思い出にもしっかり残るように、ゆっくり遊びます!」

 

「よーし、ソフィアさん、たくさんお話しよう!」

 

「……えぇ。そうね!……ありがとう、みんな」

 

 

 よしよし。ソフィアさんも嬉しそうだ。……おっと。忘れるところだった。

 

 

「……江戸川様。さぁ、あなたも」

 

「え?」

 

「そうだよコナン君!一緒に行こう!」

 

「コナン!ソフィア姉ちゃんとは今日しか遊べないんだぜ!」

 

「さぁ、行きましょう!」

 

「お、おいお前ら!?」

 

 

 そして、コナンも彼らに仲間入りした。……コナンは最近、だいぶ働き詰めだったからな。ここらで子供達の底なしの明るさに癒されてこい!

 おそらく、本当に迷惑だったら逃げてくるだろう。そうなったら謝るしかない。

 

 

「おい、俺は別に……」

 

「ダメだよコナン君!最近全然遊べてないもん!」

 

「そうですよ!今日はたくさん遊びますからね!」

 

「…………ったく、しょうがねぇなぁ……今日だけだからな!」

 

 

 ……ま、それも杞憂だろうけど。

 

 

「……さすがです、和哉さん」

 

「子供の扱いもお手のもの、ですか?」

 

「……赤井様、安室様。よろしいのですか?」

 

「心配はいりません。今は皆、子供達の様子しか見ていませんから」

 

「……そうか。なら、少しだけな。……お手のものってほどでもない。ただ、子供は嫌いじゃないんだ」

 

「ご謙遜を……ソフィーとボウヤのために、あの3人を誘導したのでしょう?」

 

「……ソフィー?」

 

「あぁ……彼女が、アーロンさんやテイラーさんがいない時は愛称で呼び、敬語もなしにして欲しいと頼んできたので」

 

「ふーん……なるほどそうゆう趣味か」

 

「止めてくださいよ和哉さん。本国では犯罪になると知っているでしょう?」

 

「日本でも犯罪だぞロリコンめ」

 

「誰がロリコンだ、誰が」

 

 

 と、馬鹿話が続きそうだったため、真面目な方向へと修正を試みる事にした。

 

 

「……さて。これで子供達はゆっくりと行動してくれるだろうし、護衛もやり易くなるな。突然、子供達だけでどこかに行ってしまう事はなくなるはずだ。コナンも巻き込んだから、万が一何かあっても彼らの抑止力になってくれる」

 

「……やはり、そうゆう意図もあったんですね」

 

「咄嗟にそこまで見通して彼らを誘導するなんて……頭の回転の早さは相変わらずですね。時々コナン君に対してもそう思う時がありますが、一体あなたの頭の中はどうなっているんだか……」

 

「そんな事より、仕事に戻るぞ」

 

「「はい」」

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 日本の某所にて――

 

 

「……うーん……東都水族館、ね……」

 

「……どうするんだ?ルパン」

 

「……しょうがねぇ。中止!お宝を狙うにはちと厳しいし、それに……お嬢様は結構楽しんでるみたいだからな。水を差すわけにはいかねぇ」

 

「…………やっぱりお前は女には弱いな」

 

「それでこそルパンでござる」

 

「なっはっは、褒めるなって五ェ門ちゃん」

 

「褒めていない。呆れているだけでござる」

 

「手厳しぃ!……今回の目的は、エメラルド・フラワー……の一部(・・)の回収だからな。それだけのために女、子供に迷惑を掛けるわけにはいかねぇ」

 

「……一部?」

 

「……なぜ一部?全てではないのか?」

 

「……そういや、お前らにはまだ説明してなかったっけ?エメラルド・フラワーの一部に、とんでもねぇもんが仕込まれているって事を……」

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

――――――――――

 

 

「…………おいおいおい……そいつはやべぇな。そのガルシア家の人間とか、他の奴らは誰も気づいてねぇのか!?」

 

「何も知らねぇのに、気づけってのが無理な話さ。だから、盗んでから一部だけ回収して、また返すつもりさ。その一部以外は無害だからな。……ただ、盗聴した内容から察するに、どうやら犬っころだけは気がついたみたいだな」

 

「……犬?」

 

「そう。……なんでか知らねぇが、俺様と同じ名前がつけられた犬が、鈴木次郎吉のところで飼われてんだよ!」

 

「"ルパン"って名前の犬?…………ぶふぅ……!!」

 

「笑うんじゃねぇよ、次元!!……とにかく!明日までは待機だ、待機!!」

 

「犬……っ、犬の名前が、ルパンって……ふはっ、はははははっ!!」

 

「だ、か、ら!笑うなって言ってんでしょーが!!」

 

 

 

 

 

 






・あくまで執事…もとい、FBI所属の飼い主

 今の私は仲井信二郎ですので、あしからず。

 一時的に、FBIから執事へジョブチェンジ!やるからには完璧にやってやるぜ。今の俺は26歳の新人執事だ!
 犬の扱いはお手のもの。だって普段はもっとめんどくさい犬(三十路過ぎ・性別♂)を飼ってるし。
 子供の扱いもお手のもの。だって普段から子供っぽい大人達若干2名(三十路過ぎの男と三十路前の男)と接してるし。


・飼い主の執事服を見られてホクホクの忠犬

 執事服を着た和哉さん…………あり、だな。

 普段なら絶対に見られないオリ主を見る事ができてご機嫌。
 だがしかし、普段通りにオリ主と話せる機会が減った事で、少しずつだがストレスが溜まりつつある。自分がオリ主に充分尽くす事ができない。むしろ、演技とはいえ、オリ主の方が他人に尽くしている姿を見せつけられて、ちょっとモヤモヤ。
 仕事中だから、我慢。仕事が終わったらオリ主におねだりして目一杯褒めてもらう予定。


・お嬢様のためにお仕事()を一旦中止した大泥棒

 女、子供に迷惑は掛けたくねぇからな。仕方ない。

 既に日本に滞在中。なるべく早くに決着をつけたいので、1日目に仕掛けようとしたが、お嬢様の楽しそうな声を(盗聴器越しに)聞いて中止。明日にしよう。
 何やらエメラルド・フラワーについて重大な秘密を握っているらしい……?

 おいこら、笑うんじゃねぇよ次元!!







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF③ 護衛任務~2日目~ 前編



・オリ主視点。途中、少しだけ赤井さん視点。

・前編と後編に分かれています。

・中途半端なところで区切っています。




 

 

 翌日。宿泊しているホテルから出発し、俺達が向かった先は、東都ベルツリータワーだった。……この場所でも以前、大事件があったのだと秀一から聞いた。この事件には秀一も関わっていたのだとか。

 ……昨日の東都水族館といい、米花町の観光名所は事件発生率が高過ぎる。そしてその観光名所は大体が鈴木財閥によって建設されたもので…………うん。鈴木財閥には素直に同情する。

 

 

 さて、今日は日曜日。つまり休日である。という事は、必然的に人も多くなる。それが観光名所であればなおさらだ。

 そんな中で俺はソフィアさんと離れないように、手を繋いでいた。その後ろから、アーロンさんとテイラーさん、そして秀一がついてくる。最初は手を繋ぐ事が恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしていたソフィアさんは、今ではそれよりも外の景色に気を取られていた。

 

 

「シンジ、見てください!町があんなに小さく見えます!」

 

「……そうですね、お嬢様」

 

 

 ……彼女に付き合いつつ、今日の朝方にボスから知らされた内容を思い出していた。

 

 

 ――昨日、ガルシア邸に脅迫状を送った犯人が逮捕されたのだという。

 

 

 ……それだけでも驚くべき事だったというのに、情報提供者の名前を聞き、秀一と顔を見合わせてさらに驚く事になった。

 

 情報提供者は――ICPOの銭形警部だったのだ。

 

 何故その名前が出てきたのかというと、銭形警部曰く、ルパン三世からメールが届いたのだという。……既にその時点でいろいろツッコミを入れる事を諦めていた。

 そのメールには、脅迫状の内容と脅迫状を出した犯人の正体。犯人がガルシア家の人間に危害を加えようとしている事。その犯人の居場所を教えるので、犯行を未然に防いで欲しい事。……が記されていたという。

 ルパン三世がガルシア邸に送られた脅迫状について知っていたのは、何故か。そんな事を頼んだのは、何故か。……それは、メールにも書かれていなかった。しかしそれにも関わらず、銭形警部はメールを見てからすぐに裏取りをして、そこで得られた確かな証拠と共に、その情報をFBI捜査官の知り合い――ちなみに、相当な敏腕捜査官である――に提供した。

 それから、共に犯人を逮捕した。

 

 

「ルパンがわざわざワシにメールを送ってくる事自体が珍しいというのに、"一刻も早く犯人を捕まえてくれ"なんて事が書かれていた。……ワシが動く理由は、それだけで充分だった」

 

 

 とは、銭形警部の言い分である。どうやら、彼とルパン三世の間には奇妙な信頼関係が築かれているらしい。

 ……というわけで、ガルシア親子に迫る危機は去った……と言いたいところだが、

 

 

(……まだ、終わっていない)

 

 

 そう。この一件はまだ終わりではない。……幸いにも犯人は単独犯だったようで、ガルシア家に関係する人々が危険にさらされる事はなくなったが……情報を入手したのがルパン三世――かの有名な大泥棒だった事が、問題になった。

 

 奴がエメラルド・フラワーを狙っている、という可能性が浮上したのだ。

 

 よって、"予定通りガルシア親子がアメリカに帰国するまで護衛任務を続行せよ"という命令が下った。そして昨夜、これらの事実をガルシア親子とテイラーさんに伝えた。アーロンさんとテイラーさんは、脅迫状を送ってきた犯人が捕まった事で安心していたのだが……ソフィアさんは、違う反応を見せた。

 犯人が捕まった事に対して安心していたのは確かだ。だが、エメラルド・フラワーを……大切な母の形見が狙われていると聞き、再び不安になったと同時に怒りを感じていたらしい。

 

 

「……これは、亡くなってしまったお母様にとって、本当に大事なものなんです。それほど大切なものを、私に預けてくれた。だから、それを預かった私には、これを守らなければいけない義務があるんです。――絶対に、誰にも渡したくない!」

 

 

 ……ずっと穏やかだったソフィアさんが、そう言って激昂した。きっと、彼女はそう思い込む事で、自身の心を守っているのだろう。……かけがえのない母を失ったという、とてつもない悲しみから。

 アーロンさんが、エメラルド・フラワーを別の場所へ移そうとした事に反対したのも、これが理由だったんだろうな……アーロンさんとテイラーさんもそれを悟ったらしく、悲痛な面持ちでソフィアさんを見つめていた。……彼女の悲しみがいつか晴れる事を、心から願った。

 

 ……さて、そうなるともう1つ……ソフィアさんが来日を強く望んだ理由も気になってくる。アーロンさん曰く、彼女にしては珍しい我が儘だったようだが、はたしてその理由は何なのか。彼女に聞いてみると……

 

 

「アメリカから少しの間だけでも離れる事ができれば、私にとっても……お父様やブラッドにとっても、気分転換になるんじゃないかと思ったんです。不安になっているのは、私だけじゃないって分かっていたから……」

 

 

 もしも犯人が日本まで追ってきたら?……そんな心配もしていたが、それよりも自分と父と執事のために、日本に行く事を選んだのだという。……本当に、健気な子だ。

 

 

「シンジ?……もう、信二郎!聞いていますか!?」

 

「っ!は、はい、お嬢様。何でしょう?」

 

 

 しまった。昨日の事を考え過ぎて上の空になっていたようだ。集中しなければ。

 

 

「あの建物は何ですか、と聞いたんです!」

 

「あぁ、申し訳ありません。あれは――」

 

 

 ……何はともあれ。ソフィアさんが元気になってくれて良かった。……彼女の笑顔を守るためにも、より一層力を入れて護衛をするとしよう。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

「……ふふ」

 

「!?……君でも、そのように笑う事があるのだな」

 

 

 アーロンさんにそう言われ、俺はすぐに緩んだ表情を引き締めた。

 

 

「……失礼しました」

 

「いやいや、構わないよ。……それより、何か嬉しい事でもあったのかい?」

 

「えぇ、まぁ……彼がとても生き生きとしているので、つい」

 

「それは、荒が…おっと、違うな。信二郎の事かい?」

 

「はい」

 

 

 安室君によく似た仮面を被っていて、周囲の人間からすれば分かりにくい変化だろうが……俺には分かる。和哉さんは今、やる気に満ちているのだと。

 

 最初はFBIとして義務的に護衛をしていた彼が、おそらくソフィーを守りたいという感情的な理由で護衛をし始めた。……間違いなく、昨夜の彼女の言葉が原因だ。

 "女、子供は積極的に守るべき"という紳士的な考えを持つ和哉さんの事だから、あの悲痛な叫びを聞いて同情し、自分だけでなく父親と執事の事まで心配する彼女に心を打たれ、庇護欲が増したのだろう。

 

 護衛対象の事を想えば想うほど、彼はより一層護衛に力を入れるようになる。自分の感情さえも力に変えてしまうとは……さすが和哉さんだな。俺も見習わなければ。

 

 

「うーん……私には全く変わっていないように見えるんだが……」

 

「私にも、そう見えますがねぇ……」

 

「長年の付き合いがある俺だからこそ、分かるんですよ」

 

 

 むしろ、そう簡単に見破られても困る。今のところ俺だけの特権だからな。

 

 

「演技中の彼の表情からその本心を見破る事は、非常に困難です。俺も、それを見破るのに数年は掛けましたから」

 

「それほどかい?」

 

「えぇ。……ん?」

 

 

 その時。俺達から少し離れた場所で外を眺めていた彼らの様子に、異変が見られた。……ソフィーが口元を押さえてしゃがみ込んでしまったのだ。和哉さんはそれを見て少し焦った様子を見せている。

 

 

「ソフィア!?」

 

「お嬢様!?」

 

「何かあったようですね、行きましょう!」

 

 

 3人で駆け寄ると、遠目では分からなかった様子が見えてきた。……ソフィーの顔色が悪い。

 

 

「信二郎!何があった!?」

 

「旦那様!それが、お嬢様が急に気分を悪くされたようで……とにかく。ここでは人が多過ぎるので、人がまだ少ないあちらの方への移動を愚考しますが……いかがいたしましょう?」

 

「そうだな……そうしよう。ソフィー?立てるかい?」

 

「……は、はい……お父様」

 

「よし。では、ゆっくり移動しようか」

 

 

 テイラーさんが先導し、その後ろにソフィーと、彼女を支えているアーロンさん、アーロンさんとは逆側にいる和哉さんが続く。そして、俺が最後尾で念のために周囲を警戒していた。

 もしかしたら、この状況でルパン三世が盗みを働くかもしれないからな。

 

 ……その後。無事に移動する事ができた。

 

 

「ソフィア。くれぐれも無理はしないでくれよ?ただでさえ最近、体調を崩しやすいんだから……」

 

「そうなんですか?」

 

「あぁ。……私はそれもあったから、日本へ行く事を反対したんだが……いや。今はそれよりも、ソフィア。今日はもうホテルへ帰ろう。観光なら明日もできる」

 

「でも……明日には、もう帰らなければいけないんでしょう?……これぐらいなら大丈夫ですよ。私、まだお父様達とみんなで観光を楽しみたいんです……」

 

「しかしなぁ……」

 

「――では、こうするのはいかがでしょう?」

 

 

 と、テイラーさんが口を開いた。

 

 

「このタワーの下の階には救護室がございました。そこで休まれるというのはいかがでしょう?しばらく救護室でお休みになられ、体調が回復すれば観光を続ける。回復しないようであればホテルに戻る……そうなれば、お嬢様にも納得いただけるのではないか、と」

 

「ふむ……それでソフィアが納得するのでれば、私はそれで構わないが……どうしたい?ソフィー」

 

「…………そうゆうことなら……そうしたいです」

 

「そうか。……赤井君。君はどう思う?」

 

「そうですね……」

 

 

 和哉さんに視線だけで確認を取ると、"俺の判断に任せる"との事。……ならば。

 

 

「……全員で救護室に向かいましょう。それなら俺も護衛がしやすいですし……」

 

 

 と言うと、ソフィーが反論した。

 

 

「いいえ……私と、シンジだけで救護室に行きます。お父様達は、ここに残ってください。……せっかく日本に来たのに、私のせいでそれを楽しめないなんて……私、嫌です」

 

「しかし、ソフィー…」

 

「絶対、嫌です。でないと私、このまま観光を続けますから」

 

 

 …………参ったな。このお嬢様はてこでも動きそうにない。

 

 

「…………旦那様。このまま問答を続けても、お嬢様の意見は変わらないかと……」

 

「……ブラッド。……だがな…」

 

「そうなれば、お嬢様の体調もますます悪くなってしまいます」

 

「う……そう、だな」

 

「ですので、私もお嬢様と信二郎と共に救護室へ行こうかと、考えております」

 

「お前が?」

 

「はい。……お嬢様に無理をさせないよう、私が責任を持って見守りますので……お側を離れる許可をいただけないでしょうか?」

 

「…………」

 

 

 ……結局。アーロンさんは、テイラーさんの言葉を受け入れた。よって、俺とアーロンさん、和哉さんとソフィーとテイラーさんで、二手に分かれる事に。

 本当なら、護衛対象が二手に分かれてしまう事は愚作だと言いたかったが……和哉さんに"考え"があるようだったので、黙っておく事にした。

 

 

「それでは、赤井様。旦那様の事をよろしくお願いいたします」

 

「分かりました」

 

「ソフィーの事を頼んだぞ、ブラッド、信二郎」

 

「はい」

 

「お任せを」

 

 

 テイラーさんと和哉さんは、ソフィーを支えながら立ち去る……その前に、和哉さんが一瞬だけ振り返り、俺と目を合わせて声に出さずにある言葉を口にした。……それを読唇術で読み取った俺は、和哉さんの言う"考え"が、俺の予想通りだった事を知った。

 

 

(――いざとなったら、例のもの(・・・・)を使うんですね?了解しました)

 

 

 心の中で、そう和哉さんに向かって呟いた俺は、そう思いつつも例のもの(・・・・)を使うような事態に陥らない事を祈った。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 2人と別れた俺達は、ソフィアさんを心配しつつ、救護室へと向かうためにエレベーターに乗る。すると、ソフィアさんがバランスを崩して俺に寄り掛かった。

 

 

「あ……ごめんなさい荒垣さん。目眩がして……」

 

「今の私は仲井ですよ、お嬢様。……それより、大丈夫ですか?お辛いようなら私が抱えますが……」

 

「……そう、ですね。そうしてもらえますか?……何故か、とても眠くて……」

 

「分かりました。……では、失礼」

 

 

 一言断りを入れてから、彼女を抱き抱えた。……さすがに軽いな……って、これは口にしたらセクハラになっちまうな。気をつけよう。

 それからすぐに、ソフィアさんは眠ってしまった。

 

 

「さて……お嬢様は眠ってしまいましたが、とりあえずはこのまま救護室へ向かうという事でよろしいのでしょうか、ブラッドさ…っ!?」

 

 

 そうテイラーさんに問い掛けた瞬間、背後から腰に冷たく硬い何かを押し付けられた。……この感覚はよく知っている。

 

 ――拳銃だ。

 

 

「…………どうゆうおつもりです?ブラッドさん……いや、テイラーさん」

 

「……申し訳ありません、荒垣様。そのまま動かないでください」

 

 

 そしてテイラーさんは背後から腕を伸ばし、俺の目の前にあったエレベーターのボタンの中から、地下駐車場のボタンを押した。

 

 

「説明は、後ほど」

 

「…………ちっ……分かったよ。どちらにせよ、俺に選択肢はない」

 

 

 そう。今の俺はソフィアさんを抱えているため、両手が塞がっている。この状態をなんとかしたいところだが……銃を手にした男の目の前で、手を空けるためにソフィアさんを降ろすわけにもいかない。万が一、人質に取られてしまったらまずい。

 

 

(それに、両手が塞がったままではあれ(・・)を起動させる事もできない。……八方塞がりだ)

 

 

 ……今は、従うしかない。そして隙を見て、あれ(・・)を起動させる。そのチャンスを見逃さないようにしなくては。

 

 

 ……やがて、救護室がある階を通り過ぎ、地下駐車場まで降りてきた。誰もいない駐車場内を、銃を突き付けられたまま歩き、そしてある車の前にたどり着いた。その車の前で待っていたのは……

 

 

「おう。その様子だとうまくいったみたいだな」

 

「――次元、大介……?」

 

 

 

 よく見れば、助手席に石川五ェ門の姿もある。…………という事は……!?

 

 

「……てめぇ……まさか、」

 

「その、まさかさ」

 

 

 突然、それまでの老人のしゃがれた声から、若々しい声へと変化した。そして、その男は老人のマスクを外した。

 

 

「――ルパン三世……!!」

 

 

 やはりそうだったか!……しかしまさか、テイラーさんと入れ変わっていた事に気づけなかったとは……不覚を取った……一体、いつ入れ変わって…いや、待てよ?

 

 

「っ!!そうか……今日ホテルから出発する直前に、テイラーさんがトイレに行くと言って少しの間1人になっていた、あの時だな!?」

 

「ピンポーン!大、正、解!!さっすが和哉ちゃん♪…って、それどころじゃねぇや。とりあえず乗って乗って!」

 

 

 ルパン三世に催促され、俺は未だに眠り続けるソフィアさんと共に車に乗り込む。……よし、チャンスが来た!

 

 俺は先にソフィアさんを座席に座らせ、そして手が空いた瞬間、あれ(・・)を起動させた。……よし。誰にも気づかれていない。

 それから俺も座席に座った後、ルパン三世が俺の隣に。次元大介が運転席に座った。

 

 

「さぁてと。次元、安全運転でよろしく!大事な大事なお姫様と俺様の恩人が乗ってるんだからな!」

 

「うるせぇ。分かってるよ!」

 

 

 車が動き出し、地下駐車場から外へと出て、徐々に東都ベルツリータワーから離れていく。……そういえば、こいつ。気になる事を言っていたな。

 

 

「おい、ルパン三世。……さっき、俺を恩人と呼んでいたようだが……?」

 

「ん?……あぁ、そうかぁ……さすがに覚えてねぇかな……」

 

 

 どうにも早合点されたようだが……まぁいいか。

 

 

「……20年ほど前。俺はアメリカで凡ミスをやらかしてな。ある男に追い詰められて、危うく死ぬところだった」

 

「ルパンが、凡ミスぅ……!?」

 

「……あの、ルパンが?」

 

「あの時の俺はまだ若かったんだよ。……用は、調子に乗っちまってたんだ。あんな状況になったのも自業自得さ。……で、その男に撃たれそうになった時、俺の前に1人のガキが飛び込んで来て、俺の代わりに脇腹を撃たれちまったんだよ。しかも撃たれたにも関わらず、そのまま男に殴り掛かって……

 あの時は本当に焦ったぜ。咄嗟に男を撃ち殺してすぐにガキの手当てをして……でもってやけに震えているガキに話を聞けば、死体を見たのが初めてだったからと言いやがるし……踏んだり蹴ったりだ。あの出来事は、俺にとっては数少ない大失態の1つだった」

 

「「…………」」

 

 

 次元大介と石川五ェ門の神妙な表情が、ルームミラーに映っていた。

 

 

「……それから、そのガキ……和哉ちゃんのために救急車を呼んでやって…」

 

「――それから、怪我をして身動きが取れない俺に対してあーんな事をした上で、その場を立ち去ったんだったよなぁ?」

 

 

 と、わざと意味深な発言をしてやった。

 

 

「なっ、お前まさか覚えて…」

 

「やっぱりそうゆう趣味だったのかよ!」

 

「当時10代の少年に対してなんて事を……」

 

「だーかーらぁ!!違うって言ってんだろ!?和哉も紛らわしい事言うんじゃねぇっての!!」

 

「だって分からねぇだろ?あの時俺はてめぇに強制的に眠らされたし、その後に何かされてたかもしれないし……っていうか気安く名前呼ぶんじゃねぇよ犯罪者」

 

「冷たい……冷たいぜ和哉ちゃん……!あの頃の純朴な少年はどこに……!!」

 

「もう少しで40間近のおっさんに向かって幻想を抱くな」

 

「いや、まぁそうなんだけどさぁ……!」

 

「……そういやお前さん38なんだっけ?その顔で?」

 

「年齢詐欺でござる……」

 

「うるせぇ!」

 

 

 余計なお世話だ!!……って、待て待て。落ち着け、俺。こいつらのペースに巻き込まれちゃ駄目だ。

 

 

「それで?――てめぇらの目的は、エメラルド・フラワーなんだろ?そのために俺ごとソフィアさんを拐ったのか?」

 

 

 情報集めよう。……秀一とみんなが助けに来てくれるまでは。

 

 

「……確かに、俺達の目的はエメラルド・フラワーだ。だが、何もそれそのものを狙っているんじゃねぇ。その一部が欲しいんだよ」

 

「一部……?」

 

 

 どうゆう事だ?

 

 

「まぁ、続きは俺達のアジトに着いてからって事で」

 

「……じゃあ、その前に1つだけ聞きたい事がある」

 

「お?何なに?俺様のスリーサイズでも…」

 

「――あの日、てめぇも怪我してたよな?あれは大丈夫だったのか?」

 

「――――」

 

 

 あの日はこいつが誰とは知らずに庇ったのだが、それはそれとして、相手がどんな奴であろうと、庇った相手の容態は気になるというもの。

 だから直接聞いたわけだが……

 

 

「ぬふ……ぐふふふ……」

 

「お、おい……?」

 

「あーっはははは……!!」

 

 

 急に大笑いし始めた!何だこいつ!?

 

 

「ははっ……あー、本当に面白い奴だよなぁ和哉ちゃんは!お前みたいなお人好しはあのガキンチョ以来だぜ!」

 

「ガキンチョ?」

 

「江戸川コナン。……知ってるだろ?」

 

「あぁ。知ってるぜ。……俺と彼が繋がっている事を知っているという事は、てめぇは例の作戦の事も調査済みか。よく分かった」

 

「あらー……誘導尋問?やるねぇ」

 

「よく言うぜ。今のはてめぇが教えても問題ないと判断したから、俺でも知る事ができたんだろ?てめぇがそうゆう用心深い奴だって事は、コナンから聞いた」

 

「…………ほーんと、生意気なガキンチョだな。嫌になるぜ」

 

 

 とか言いつつ、不満そうにしているが……内心では楽しそうにしてるんだろうな。

 コナンの話を聞く限りでは、こいつには用心深さがあると同時に、何かしらのスリルを求める心があるように思えた。だから時々、後々対処できる程度に手を抜いて、こいつなりにスリルを楽しんでいるのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF③ 護衛任務~2日目~ 後編



・オリ主視点。

・今回は特にオリジナル色が強い。

・赤井さんは最後にちょっとだけ登場。




 

 

 ……やがて、ルパン三世達のアジトだという、古い空き家に到着した。周囲に人気はない。

 まだ眠っているソフィアさんを抱え、今度は次元大介に銃を突き付けられながら、空き家の中に入る。……少し狭いな。仮に暴れたとして、3人の男に囲まれている状態でソフィアさんを庇いながら戦うのは無理そうだ。……やはり、助けを待つしかない、か……

 

 

「とりあえず、眠り姫様はそこのベッドに寝かしてやってくれ」

 

「…………」

 

 

 俺はその言葉には従わず、ソフィアさんを抱えたまま、ベッドに座った。

 

 

「手放した瞬間、眠っているソフィアさんに何をされるか分からないからな。このまま話を聞こう」

 

「……相当警戒されてるな……」

 

「いやいや……さすがはFBIの元エースだぜ。一瞬たりとも気を抜かねぇ」

 

 

 と、その時。眠っていたソフィアさんが目を覚ました。

 

 

「ん、う……?…………へ?っひゃあ!」

 

「!?ソフィアさん、落ち着いて!そんなに暴れたら落ちてしまう!!」

 

「あわわわ……!!」

 

 

 起きた瞬間、俺を見て顔を真っ赤にして暴れ出した。慌ててそれを押さえつつ、俺の隣に座らせる。

 

 

「ご、ご、ごめんなさいぃ……!」

 

「いえ……目が覚めて男の顔が間近にあれば、それは暴れたくもなるでしょう。仕方ありません」

 

「あ、いえ!別に荒垣さんの事が嫌だったわけじゃなくて……!」

 

「それは分かっていますから、大丈夫ですよ」

 

「…………なーんかラブコメでも見ているような気分になるぜ……」

 

「砂糖を吐きそうになるでござる」

 

「っ!?」

 

 

 そこでようやく、俺以外に人がいる事に気づいたらしい。周囲を見渡したソフィアさんは困惑した。

 

 

「ここは……一体どこですか?救護室ではないですよね?それに誰なんですかあなた達は!」

 

「……ソフィアさん。実は……」

 

 

 そこで俺は、あえて淡々と経緯を説明した。……すると、全く動じていない――ように見せかけている――俺の様子に安心したのか、彼女も落ち着いてきた。

 

 

「……そう、ですか……ごめんなさい、荒垣さん。こんな事に巻き込んでしまって……」

 

「いいえ。これはあなたのせいではありません。テイラーさんが偽物であると看破できなかった、俺達の責任なのです」

 

「で、でも……!」

 

「……申し訳ない。今は、こいつらの目的を知る事を優先させてください。」

 

 

 そう言って、俺はルパン三世を見た。

 

 

「で?説明してくれるんだろ?」

 

「あぁ。……まず、俺がエメラルド・フラワーの存在を知ったのは、全くの偶然だった。

 

 ……昔、とある彫金師がいた。ひょんな事からその彫金師の手記を手に入れた俺はそれを読み……エメラルド・フラワーの存在を知った。

 その手記によると、彫金師はとある貴族に恨みを抱いていた。自分が作った装飾品の事を、その貴族が馬鹿にしてきたからだ。彫金師が作る装飾品は全て駄作だ、と。……そこで、彫金師は貴族を見返すために、その貴族にある話を持ち掛けた。

 

 "自分は今までに作った事のない最高傑作を作ってみせる。それが成功したその時は、その言葉を撤回して謝罪してくれ。……しかし、それがもしも失敗したら、馬鹿にしてくれて構わない。それどころか、自分は彫金師を辞めてやろう"

 

 ……ってな。……貴族は、その話に乗った。さらに、"もしも素晴らしい物が出来上がったら、それを買い取って我が家の家宝としよう"とまで豪語したんだ。

 ……結果は、彫金師の勝利。見事に最高傑作を作ってみせた彫金師は、貴族の謝罪を受けた。そして、貴族は宣言通りその最高傑作を家宝とし、彫金師と貴族が亡くなった後も、貴族の家系で代々受け継がれていく事になった。……その最高傑作が、エメラルド・フラワーだった。……ここまでは、いいか?」

 

「……あの、その貴族の家名は……?」

 

「――フローレス」

 

「っ……!……やっぱり、お母様の実家の……」

 

「そう。つまり、ソフィア嬢の母親の先祖が、その貴族だったわけだ」

 

 

 その後も、話が続く。

 

 

「さて。それで話が終われば良かったんだがなぁ……そうは問屋が卸さない。実はエメラルド・フラワーには、とある秘密があったんだ。……ただ、それについて話す前に、前後して悪いが、ガルシア家に脅迫状を送った犯人の目的について話しておこう」

 

「ついでに、てめぇがわざわざ銭形警部にメールしてまで犯人逮捕を急いだ理由についても教えろ」

 

「まぁまぁ、そう焦るなって!……で、その犯人の目的ってのが――アメリカ全土を標的とした、大量殺人だった」

 

「えっ!?」

 

「アメリカ全土、だと……!?」

 

 

 そんなとんでもない事を考えていたのか!?

 

 

「エメラルド・フラワーの事を調べていたら、芋づる式に犯人の計画の事も知ったんだ。……知ってしまったからには、それを放っておくわけにもいかねぇ。しかもそいつは、脅迫状に従ってガルシア家がエメラルド・フラワーを手放したとしても、ガルシア家の人間を皆殺しにするつもりだった」

 

「っ!!」

 

 

 ソフィアさんが息を呑んだ。顔色も悪くなっている……

 俺は少しでもそれが和らぐようにと、側に寄り添った。

 

 

「そして、俺がそのとんでもない計画を知った時には、ソフィア嬢達が日本に行く日が決まっていた。犯人もそれに合わせて日本に行き、エメラルド・フラワーを強奪するつもりだったらしい。

 それを知った俺は、急いで情報をかき集めて銭形のとっつあんにその情報を送り、それを見たとっつあんが裏取りをしてからFBIにその情報を提供した。で、昨日逮捕されたってわけだ」

 

「…………」

 

 

 ……昨夜報告された内容との食い違いもない。これは、本当の事なのだろう。だとすれば次は……

 

 

「……ならばそもそも、何故犯人はエメラルド・フラワーを狙った?話の内容から察するに、金銭目的ではないだろう。そうじゃないなら、何故それを狙った?

 それに、本当ならエメラルド・フラワーの事を知っている人間……それも生きている人間は、アーロンさんとテイラーさんとソフィアさん。あとは、彫金師の手記を読んだてめぇだ、け…………」

 

 

 …………いや。まだ、それを知っていそうな人間がいる!

 

 

「……おい、ルパン三世。さっきの話に出てきた彫金師の家名は?」

 

「ぬふふ……気づいちゃった?……彫金師の家名は――ペレスだ」

 

「!!……やはり、そうか……」

 

「それって、昨日荒垣さんが言っていた犯人の……!?」

 

「えぇ。その通りです」

 

 

 昨日逮捕された犯人の名は――

 

 

「ロバート・ペレス……つまり、そうゆう事なんだな?」

 

「そう、大当たり!……今回の犯人の正体は、例の彫金師の子孫だったのさ。

 おそらく俺が手に入れた手記以外にも、エメラルド・フラワーの事が記された何かが残っていたんだろうな。その何かを見た犯人は、エメラルド・フラワーを手に入れて、自分の目的のために使おうとした。

 ……さて、そろそろ話を戻すぜ。エメラルド・フラワーには一体、どんな秘密が隠されているのか……」

 

 

 ようやくか……

 

 

「エメラルド・フラワーは、その名の通りエメラルドで構成されたネックレスだ。……しかし。一部にエメラルドとは異なる物が混ざっている。その一部こそ、俺達が回収したい物でな。

 ……それは、とある未知の鉱石から作られた。その鉱石は、世間一般ではまだ知られていない。それどころか既に採掘できなくなった鉱石だ。よって、正式な名前はねぇが……例の彫金師は手記の中でこう名付けていた。――悪魔の鉱石、と」

 

「悪魔の鉱石……ね。名前からしてヤバそうな代物のようだが……毒でも含まれてたのか?」

 

「あら、和哉ちゃん鋭い!その通り!悪魔の鉱石には人体に有害な毒が含まれていたんだ。それも、相当強い毒がな。……これはたとえ小さな欠片だったとしても、使い方次第で大人数を毒殺できるほどの代物だ。

 それを知ったロバート・ペレスがこれを求めるのも頷ける。奴の目的は大量殺人だったからな。……既に採掘できなくなった現状で、悪魔の鉱石が残されているのは、エメラルド・フラワーの一部にのみ。だから、奴はエメラルド・フラワーを狙った。

 

 で、その問題の一部が……エメラルド・フラワーの中心部分。一番大きいエメラルドの台座の裏側……そこにも、宝石が埋め込まれてるだろ?エメラルドと同じ、緑色の宝石がな……」

 

「……そうなんですか?ソフィアさん」

 

 

 俺はまだ実物を見ていないから、それについては知らない。

 ……すると、ソフィアさんはエメラルド・フラワーを直に見せてくれた。

 

 

「これが、エメラルド・フラワー……」

 

 

 ……なるほど。最高傑作というのも頷ける。一番大きいエメラルドを中心に、小さなエメラルドがそれを囲むように配置されていて、名前の通り一輪の花のように見える……実に美しいネックレスだ。

 そして、ソフィアさんはネックレスを首に掛けたまま、それを裏返した。

 

 

「……確かに、緑色の宝石が…っていうかこれもエメラルドじゃないのか?」

 

「私も、お母様からそう聞きました……」

 

 

 すると、ルパン三世は"ちっちっちっ"と指を振った。……なんかムカつくな。殴りたくなるからそれ止めろ。

 

 

「確かに見た目はそっくりだが、実は違う。見分けるためには、それを日の光に当てる必要があるんだ」

 

「光……」

 

 

 ソフィアさんの視線が、この部屋の窓に向けられた。ちょうど、日の光が差し込んでいる。彼女はそれを見てすっと立ち上がり、窓の近くへ。……俺も共に立ち上がり、彼女の背後へ移動した。何があっても対処できるよう、ルパン三世達の動きを警戒する。

 それを見て、近くにいた次元大介が口を開いた。

 

 

「そんなに身構えなくても、俺達は何もしねぇぞ?」

 

「これが俺の仕事だ」

 

「……仕事熱心な事で。けど、そうゆうのは嫌いじゃないぜ」

 

「はいはいそりゃどうも」

 

「棒読みかよ。つれねぇな……」

 

 

 やれやれと首を振るおっさんはさておき、俺はソフィアさんの後ろから、彼女がエメラルド・フラワーを光に当てる様子を見ていた。……すると、

 

 

「あっ……!!」

 

「――赤くなった……!?」

 

 

 緑色の宝石が、赤に染まったのだ。

 

 

「……そう。それが、エメラルドと見分ける方法さ。悪魔の鉱石は普段は緑色だが、日の光が当たった時だけ、赤く染まる」

 

「本当に……この宝石が、悪魔の鉱石?」

 

「あぁ、そうだよ。ソフィア嬢」

 

 

 ……その時。俺の頭に胸糞が悪く、そして最悪な予想が浮かんだ。

 

 

「…………ルパン三世。聞きたい事がある」

 

「ん?」

 

「悪魔の鉱石は、使い方次第で大人数を毒殺できるほどの物だって、さっき言ってたよな?」

 

「……あぁ」

 

「じゃあ――それが、ずっと人肌に触れていた場合は?その触れていた人物には、一体どれだけの影響が出る?」

 

「荒垣、さん……?」

 

 

 ソフィアさんが不安そうに見つめてくる。……申し訳ないが、今の俺にはそれを安心させてやれる余裕がなかった。

 

 

「……即死するほどではないが……じわじわと蝕み、いずれその人物を死に至らせるぐらいの影響なら、ある」

 

「っ……その過程では、どんな症状が出る?」

 

「まず、体調が崩れやすくなる。それから徐々にそれが悪化して、最終的にはベッドで寝たきり状態だな。しかも体内から毒が検出されるわけでもなく、直接触れている肌に変化が見られる事もないから、医者から見ても原因不明の病に冒されたようにしか見えねぇだろうな。

 ……ちなみに、初期症状は目眩や吐き気、それから――急激な眠気だ」

 

 

 あぁ……何てこった。俺はその症状を、目の前で見ていた……!!

 

 

「それ、は……それは、私の……!?」

 

 

 ……どうやら、ソフィアさんも気づいてしまったようだ。

 

 ――自身につい先ほど、その初期症状が見られた事に。

 

 

「……例の彫金師は、謝罪されたとしてもその貴族を許すつもりはなかったらしい。だから、わざわざ"自分への謝罪の証として、エメラルド・フラワーを肌身離さず、生涯ずっと身につけていてくれ"と念入りに言い聞かせて、その貴族をじわじわと死に至らしめる事にした。

 そして貴族はそんな彫金師の思惑に気づく事もなく、"エメラルド・フラワーを受け継いだ者は、生涯それを身につけておく事"と律儀にも家訓に残してしまった。そうして受け継がれていった結果……フローレス家の人間は短命である、なんて噂がついて回るようになった……」

 

 

 やはりそうゆう事だったのか。俺が考えていた、胸糞が悪く最悪な予想……それが当たってしまった。

 

 

「じゃあ……お母様が病気で亡くなったのは……!?」

 

「……間違いなく、悪魔の鉱石が原因だな」

 

「それなら、私、も……?」

 

「…………いずれは、母親と同じ状態に陥るだろう」

 

「……っ……」

 

「ソフィアさん!」

 

 

 顔面蒼白となり、崩れ落ちそうになったソフィアさんを慌てて支えた。その後、彼女を誘導して再びベッドに座らせる。

 

 

「……だが、それも悪魔の鉱石に触れ続けていたら、の話だ。それだけ取り外してしまえば、あとは無害な宝石しか残らない。……だから、俺にそれを回収させてくれ」

 

「…………これを回収して、それからどうするつもりですか……?」

 

「俺が責任を持って、処分する。もう2度と、誰かの手に渡らないように」

 

「…………」

 

 

 ソフィアさんは、しばらく何かを考える様子を見せた後、俺を見た。

 

 

「……荒垣さん。あなたは、どう思いますか?……この人に任せても、大丈夫だと思いますか……?」

 

 

 その言葉を聞いたルパン一味の3人の視線が、俺に集まった。

 

 

「……そもそも、こいつの言葉が信じられるか、否かですよね。もしも嘘だった場合、こいつが悪魔の鉱石を悪用する可能性だってある。こちらとしては、そのネックレスを回収し、FBIで研究した後に処分したい……」

 

「そう、ですよね……」

 

「あらら……やっぱり信用が…」

 

「というのが、FBI捜査官としての俺の判断ですが――ここからは、ただの荒垣和哉として、回答しよう」

 

「え?」

 

「おぉ?」

 

「結論から言えば、俺にはこいつが嘘をついているようには見えなかった。こいつは真剣に、君の身を案じているようだ。……もしもこいつが悪魔の鉱石を悪用するような人間だった場合、こんな比較的穏便な方法は取らずに、強引に奪う方法を取るはずだ。その方が手っ取り早いからな」

 

 

 それこそ、ソフィアさんが眠ってしまった時に俺を倒し、エメラルド・フラワーを奪う事だって可能だったはずだ。その時の俺は両手が塞がっていたし、ルパン三世が化けていたテイラーさんに背を向けていたからな。隙だらけだった。

 ……それにしてもまさか、入れ替わっていた事に気づけなかったとは……もっと精進しなければ。

 

 おっと、それはともかく。

 

 

「……しかし、こいつは手っ取り早く奪うのではなく、わざわざ君に説明した上で、その一部だけを回収するという方法を選んだ。それは何故か。……俺は、その理由がソフィアさんを気遣ったからではないかと思うんだが……どうなんだ?」

 

「…………さぁて。どうだかな。俺様は泥棒――悪党だから、な」

 

「ただの悪党が20年前に、勝手に厄介事に首を突っ込んで撃たれた馬鹿なガキを助けたりするかね?」

 

「…………」

 

 

 俺がそう言うと、途端に黙り込んでしまった。

 

 

「……さて。ソフィアさん……今のはあくまで、俺個人の考えだ。最終的にどうするのかは、君に任せよう」

 

「いいんですか?私が勝手に決めてしまって……そんな事をしたら、あなたがFBIの人達から怒られてしまうんじゃ……」

 

「気にしないでくれ。1番煩い上層部の老害…ごほん、失礼。お偉いさん達の事はどうにか説き伏せておくから」

 

「……今、老害って言わなかったか?」

 

「言ったな」

 

「言った」

 

「こそ泥トリオは黙ってろ。……それで、君はどうしたい?」

 

 

 俺がそう問うと、ソフィアさんは、

 

 

「――ルパンさん達を、信じます」

 

 

 と言った。

 

 

「……分かった。俺は、君の判断に従おう」

 

「え、本当に?いいのか、ソフィア嬢」

 

「はい。私は、そうすると決めました」

 

 

 そう言って、彼女はエメラルド・フラワーを首から外した。そして、それをルパン三世に差し出す。

 

 

「――確かに、受け取った。……次元。工具箱持ってきてくれ」

 

「あいよ」

 

 

 その後、ルパン三世は次元大介が持ってきた工具箱から道具を取り出て、俺達の目の前で慎重に悪魔の鉱石を外し、それからエメラルド・フラワーをソフィアさんに手渡した。

 

 

「ほい。念のため、確認してくれ。念入りに確かめたから削り残しはないはずだ。何なら和哉ちゃんも見ていいぜ?」

 

「……ふん。わざわざ俺達の目の前で作業しておいて、よく言うぜ……何も余計な事をしていないって事をそれで証明したんだろ?……まぁ、念のために確認はするが」

 

「んふふ……和哉ちゃんは疑り深いからなぁ……これぐらいはやっておかないと」

 

 

 全く抜け目のないやつだ。俺に文句を言わせないために、俺自身の目で異常がない事を確認させたのだろう。

 それから念入りに調べても何もなかったので、そのままソフィアさんに返した。

 

 

「……ありがとうございます、ルパンさん。このご恩は、忘れません」

 

「……だったら、その恩はソフィア嬢が俺達の事を忘れてくれれば、それでチャラって事で」

 

「え?ですが、何かお礼を…」

 

「真っ当な御令嬢であるお前さんが、悪党なんかにお礼なんてするもんじゃねぇぜ」

 

「でも…」

 

「ソフィアさん。……こうなったら、ルパン三世は何も聞かないと思います。どうにもこいつは、自分が悪党である事にこだわりを持っているようですし。……それに、たとえ命の恩人であろうと悪党は悪党です。こいつと繋がりがある事を周りに知られたら、あなただけでなく、アーロンさんの評判にも悪影響が出る可能性が高い」

 

「あ……」

 

 

 俺が説得すると、ソフィアさんは納得してくれた。

 

 

「ま、それはそれとして……ルパン三世」

 

「ん?」

 

「ソフィアさんの命を救ってくれた事……あと、ついでに20年前に俺の怪我の手当てをしてくれた事に、礼を言う。――ありがとう」

 

 

 20年前はろくに礼も言えないまま、強制的に眠らされてしまったからな。ついでに礼を言っておく事にした。

 

 

「…………お巡りさんが悪党なんかにお礼言っちゃっていいのかよ」

 

「これはけじめだ。てめぇには怪我の手当てをしてもらった借りがあったが、これでチャラって事で」

 

「……っは。……むしろ、借りがあるのは俺の方だってのに……」

 

「?」

 

 

 そう言って、ルパン三世は自嘲気味に笑った。……よく分からんが、言う事は言ったし、もういいか?……きっと、そろそろ来るはずだし。

 

 

「ところで、ルパン三世……俺は今現在、非常に優秀な"犬"を飼っている」

 

「は?犬?」

 

「そいつはありがたい事に俺の事をよく慕っていて、俺の身に何かがあると相当心配してくれる……ただ、場合によっては暴走する事もあってな。ただでさえ容赦がないのに、そうなるとより苛烈になるんだ。……今回みたいな事があった時は特に、な」

 

「……か、和哉ちゃーん?何が言いたいのかなぁ?」

 

「つまり――現在進行形であいつは怒っている」

 

 

 瞬間。空き家の扉が蹴破られた。……老朽化していたため、それだけで扉は粉々に大破してしまったようだ。

 

 

「――Freeze(動くな)。……指1本でも動かせば半殺しにするぞ、薄汚いこそ泥共……!!」

 

 

 

 

「…………あ、あはは、は……そうゆうことねー……」

 

「……とんでもねぇ狂犬を飼ってんだな、荒垣さんよ……」

 

「……凄まじい怒気でござる……!」

 

「……赤井、さん?」

 

 

 ルパン一味とソフィアさんがそれぞれ反応を見せる中、俺は思った。

 

 

(大破した扉ってFBIで弁償しないと駄目かなぁ……?)

 

 

 

 

 

 

 






・拐われた新人執事…もとい、飼い主

 護衛任務に本腰を入れ始めた矢先、護衛対象と共に誘拐された。まさか、別人になった事に気づけなかったとは……お嬢様の執事失格だし、FBIの名折れだ。
 まさかの再会に驚きつつ、救援が来るまで情報を集める事にした。

 そして狂犬のダイナミックお邪魔しますを見て、真っ先に考えた事が大破した扉の弁償についての心配。

 秀一のこうゆう反応にはもう慣れたからなぁ……(遠い目)


・誘拐犯()の大泥棒

 満を持して、俺様登場!……え、待ってないって?

 うまくお嬢様を誘拐()できた事よりも、オリ主とまた会えた事の方が嬉しい。いやー良い男になったもんだなぁ……
 そしてお嬢様を説得して目的を達成したのもつかの間、狂犬によるダイナミックお邪魔しますを受けて冷や汗を流す。

 和哉ちゃーん?お宅のワンちゃんとーっても怒ってますけどー!?


・"ダイナミックお邪魔します"を実行した忠犬

 生き生きとしているオリ主を見られてご満悦……だったのに。
 俺のマスターを誘拐?……ははは……やってくれたなこそ泥風情が……!!

 と、いうわけで居場所を突き止めてダイナミックお邪魔します!!







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF④ カーチェイス開始!&護衛任務終了



・オリ主視点。


 

 

 派手な登場をして銃を構えている秀一と、そんな秀一に殺気を向けられているルパン一味との間で一触即発の空気が漂う中、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

 

「赤井秀一ぃぃっ!何をやっている!?器物損壊罪で逮捕するぞ!!」

 

「……たった一蹴りで粉々って、どんだけだよこの人……」

 

「っ、安室!?それに、コナンまで……」

 

 

 危うく降谷と呼びそうになった。

 

 

「荒垣さん!大丈夫!?」

 

「何もされてませんよね!?」

 

「あ、あぁ。俺もソフィアさんも、この通り無事だ」

 

「それは良かった。……さて、」

 

 

 そう言って、安室もルパン一味に睨みをきかせる。……おい、降谷の顔が出てるぞ。

 

 

「そのまま動かないでくださいね、こそ泥さん?――怖い狂犬に噛み付かれたくなければ、ね」

 

「……和哉さん。ソフィーと一緒にこちらへ」

 

「分かった。……ソフィアさん」

 

「は、はい」

 

 

 座っていたベッドから立ち上がり、ソフィアさんと共に秀一達の元へ向かう。……そして、彼女をコナンと共に後ろへ下がらせてから、俺も懐から拳銃を抜いて、構えた。

 

 

「形勢逆転だな。ルパン三世」

 

「…………どうやってここを突き止めた?」

 

「追っ手はいなかったはずだ」

 

「簡単な事さ。俺が発信器をつけていて、秀一達はそれを追ってここまで来たんだ」

 

「発信器、か……そういや確認し忘れてたな……もしかして、そのネクタイピン?」

 

「……よく分かったな。正解だ」

 

 

 今、執事服を着ている俺は、あるネクタイピンを付けていた。それこそが、例のもの(・・・・)である。

 

 例のもの……ネクタイピン型の発信器は、俺と秀一のために2つ用意された。これを開発したのは、コナンがお世話になっている、阿笠博士さんである。

 これには発信器と盗聴器としての機能がついており、そこから得られた情報が大本となる機械へと送られる……という仕組みだ。

 実は今日。コナン、降谷、ジョディ、キャメルが、この大本となる機械を持って、東都ベルツリータワーの近辺で待機していた。エメラルド・フラワーがルパン三世に狙われている可能性が高くなったため、万が一何かが起こった時に対処できるよう、この4人が待機していたのだ。

 ……ちなみに、今回は珍しくボスが我が儘を言って、待機組として行動したいと主張したのだが、即座にジョディに却下されていた。ジョディ曰く、

 

 

「どうせ、峰不二子が目当てなんでしょう!?」

 

 

 との事。……どちらかと言えば、俺は次元大介派だ。クールなガンマンってカッコいいよな。まぁ、今回は誘拐した、されたの関係だから塩対応にしたけど。

 また、風見は降谷の代わりに公安の連中の統率を頼まれたため、不参加だ。

 

 ……そう言えば、その峰不二子がいないな。どこか別の場所にいるのか?……まぁ、今は気にしなくていいか。

 

 

「和哉さん、こいつらどうします?とりあえず手足を撃つか折るかして身動きが取れないようにしますか?それともボコボコにして半殺しにしますか?」

 

 

 さぁ指示をください、とばかりに俺を笑顔で見つめる秀一。……目は笑っておらず、爛々としている。非常に怖い。

 

 

「とりあえずその重苦しい殺気を仕舞って、stay(待て)

 

Yes,master(はい、ご主人様)

 

 

 そう指示を出すと、秀一は素直に大人しくなった。

 

 

「…………あらー、なんてよくできた忠犬なんでしょー……」

 

「見事に手綱を握っているようだな……」

 

「猛獣使いかよ……」

 

「で、安室。ここにお前らがいるって事は、アーロンさんの護衛としてジョディとキャメルを残して来たんだよな?」

 

「えぇ。そうです」

 

「よし。……コナンとソフィアさんは、前に出ないように」

 

「うん!」

 

「わ、分かりました」

 

「報告は?」

 

「しました。直に到着するはずです」

 

「了解。……というわけで、しばらく大人しくしてろよ?」

 

「……とか言われて、俺様達が素直に従うと思う?」

 

「思わねぇな」

 

「さすが和哉ちゃん♪分かってるねぇ……ってことで!!」

 

 

 そう言い切ると同時に、ルパン三世が何かを地面に叩き付けた。すると、室内に煙幕が充満する。それから、何かが崩れた音。

 

 

「…………ちっ……まぁ、そうなるよな」

 

 

 煙幕が晴れた時。空き家の壁の一部が綺麗に切り取られ、穴が空いていた。間違いなく、石川五ェ門の斬鉄剣によるものだろう。

 

 

「……でも、間に合ったみたいだよ」

 

 

 いつの間にか俺達の後ろから前に出ていたコナンが、切り取られた穴から外を覗いている。それに続いて、俺達も外を見た。

 

 そこには、大勢の警察官に周囲を囲まれたルパン三世達がいた。

 

 

「……あちゃあ……外国人も混ざってるって事は、もしかしてFBIもいる?」

 

「あぁ、そうだ。和哉さんが拐われた事が分かったと同時に、応援を呼んだ。ボウヤがそうするようにと言ったんだ」

 

「パパ達を捕まえるなら、これぐらいはやらないとね!特に前回捕まえられなかったからって、みんな張り切ってるんだよー」

 

「パパ言うな!」

 

「それにね――もーっと怖い人も呼んでるよ!」

 

「…………嫌な予感がすんだけどガキンチョ、それってまさか――」

 

「――そう!ワシの事だ!!」

 

「やっぱりとっつあん!何でいるの!?」

 

 

 ルパン三世が振り向いた先にいたのは、銭形警部だった。

 実は、ロバート・ペレスが捕まった報告と共に、銭形警部が日本に向かっているという報告もあったのだ。よって、銭形警部もルパン一味を捉えるために、我々に協力してくれる事に。……これほど頼もしい味方はいないな。

 

 

「さーて……次はどうするんだ、ルパン三世?」

 

「……そんじゃあこうしま…っ!?」

 

 

 その時。ルパン三世の手に握られていた何かを、秀一が撃ち抜いた。おそらく、また煙幕を利用して逃げるつもりだったんだろう。

 

 

「……2度も同じ手は使わせない」

 

Good boy(いい子)。よくやったな、秀一」

 

「はい!」

 

「良い腕だ!よくやってくれた。――総員、確保だ!!」

 

 

 銭形警部の号令で、警察官全員がルパン一味に飛びかかる。……ん?あれは……!

 

 

「っ、待て!全員下がれ!!」

 

 

 俺がそう叫んだ瞬間、ルパン達を中心に閃光が広がった。これは、スタン・グレネードか!

 後方にいた警官達や俺達にはあまり影響がなかったが、その近くにいた警官達はひとたまりもなかった。

 

 

「眩しいっ!」

 

「目がぁ……!!」

 

「おい、しっかりしろ!」

 

「……あ!?ル、ルパン一味がいません!!」

 

「逃げられた!?」

 

 

 閃光がなくなった頃には、既にルパン三世達はいなかった。……だが、音は聞こえていた。

 

 

「車が走って遠ざかる音が聞こえた!奴らは車で逃走したんだ!」

 

「あぁ、ワシも聞こえていた!そして、表の道はこの通り、パトカーで塞いでいる!つまり、奴らが逃げたのは……」

 

「空き家の裏か!」

 

「確認してきます!」

 

 

 そう言って、安室が空き家の裏へと回った。……そしてすぐに戻って来た。

 

 

「タイヤの跡がありました!逃げた方向は東です」

 

「よーし、追うぞ!動ける者達で追うんだ!」

 

 

 それから、動ける警官達はその準備に入った。……そんな中、俺はソフィアさんに話しかけた。

 

 

「……すみません、ソフィアさん。最終的な判断はあなたに任せると言っておきながら、こんな事になってしまって……」

 

「いいえ。構いませんよ。だって、荒垣さんは彼らを元から逮捕するつもりだったんでしょう?」

 

「!……何故、そう思ったんですか?」

 

「あなたは、ルパン三世にお礼を言ったりしていたけれど……"逮捕しない"とは一言も言ってなかったから」

 

「……なるほど、ソフィアさん。あなたは本当に聡明ですね。……それで、本題なのですが…」

 

「どうぞ、行ってください。お父様の時のように、他のFBIの方を護衛に回していただければ構いませんよ」

 

「…………本当に、あなたは……いえ、ありがとうございます!」

 

 

 ソフィアさんから許可はもらった。あとは……

 

 

「……安室」

 

「…………はぁ……駄目だと言っても、あなた方は行くんでしょうねぇ……いいですよ、行ってください。その代わり!あとでいろいろ聞きますからね!」

 

「助かる。……コナンは…」

 

「僕も行く!」

 

「あら、駄目ですよコナン君!そもそもどうしてここにいるんです?危ないでしょう!」

 

「え!?い、いや僕はそのー……」

 

「安室さんもどうして彼を連れてきてしまったんですか!?」

 

「いやー面目ないです……」

 

 

 そんな会話を聞きつつ、俺はFBIの何人かに護衛として残るよう指示を出した。

 

 

『あぁ、そうだカズヤ。頼まれてたもの、持って来たぞ』

 

『ありがとう。どこにある?』

 

『今シュウが取りに行ってる』

 

 

 すると噂をすれば……

 

 

「和哉さん。持って来ました」

 

「お、ありがとう。……こいつを使うのも久々だな……」

 

 

 頻繁に整備していたが、最近は忙しくて使ってなかったし……

 

 

「……もう銭形警部達は出発したようだし、俺達も行くか、秀一」

 

「……俺も乗っていいんですか?」

 

「あぁ。……ただ、後ろに誰かを乗せるのは家族を乗せた時以来だ。多少バランスが悪くなっても文句は言うなよ?」

 

「!!……つまり、家族以外ではまだ誰も乗せていないんですね……?」

 

「そうだが?」

 

「ありがとうございます!文句なんて言いません!!」

 

「お、おう」

 

 

 それくらい珍しくもないだろうに……何がそんなに嬉しいんだか。

 

 

「準備はできたか?」

 

「はい!」

 

「よし――行くか」

 

 

 それから2人揃って、俺の愛車に跨がった。

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ――都内の道路を、1台の車が猛スピードで走り抜けた。……その後、それを追うパトカーが何台も通り抜けていく。通常のスピードで走っていた何台もの他の車が、慌てて道を開けていた。

 

 

「はいはいすみませんねぇ、通りますよっと!」

 

 

 最初に猛スピードで走り抜けた車を運転していたのは、ルパン三世だ。助手席に石川五ェ門、後部座席に次元大介が乗っている。

 また、それを追い掛けるパトカー達の先頭車には、銭形警部が乗っていた。彼は窓を開けて身を乗り出し、叫んでいる。

 

 

「待てぇっ!ルパン!!今日こそは逃がさんぞぉ!!」

 

 

 

 

「全く……相変わらず銭形はしつけぇな……」

 

「このまま振り切るのか?ルパン」

 

「……いいや。日本の警官とFBIには悪いが、ここらで追跡を止めてもらおうかね……次元、上開けるぜ。頼んだ」

 

「へーへー……仕方ねぇな」

 

 

 ルパンが運転している車は、オープンカーだった。車の上部が開き、その間に拳銃を用意していた次元は後ろを向いて身を乗り出し、銃を構え――撃った。

 

 狙った場所は、先頭のパトカーとその近くのパトカーの前輪。……見事に命中し、大クラッシュが起きた。当然、その後ろを走っていた他のパトカーは、追跡を止めざるを得なかった。

 

 

「さすがだぜ次元ちゃん♪」

 

「ちゃん付け止めろ」

 

 

 一方、足止めを食らってしまった銭形は、次元への恨み言を呟きつつ、警官達に指示を出していた。

 

 

「……えぇい、次元め!……無事な車のみでもう1度追うぞ!」

 

 

 その時……突然止まっているパトカー達の後ろから、1台のバイクがやってきた。そのバイクは何台ものパトカーの間をすり抜け、そして……

 

 

「――なにぃっ!?」

 

 

 ――クラッシュしていたパトカーを踏み台にして、空中へと飛んだ。

 

 それから見事に着地したそのバイクは、ルパン達が乗っている車を追い掛けて行った。

 

 

「…………今のは、先ほどの執事と、腕の良かったニット帽の男か?そういえば、彼らは一体……?」

 

 

『今の、カズヤとシュウだよな?』

 

『出発遅れたのにもう追い付いたのか!』

 

『もうあいつらいれば充分じゃねぇか?』

 

『そんな事カズヤに言ってみろ。俺達に押し付けんなって怒られるぜ?』

 

『全くだな。さっさと迂回して追い掛けないと……』

 

 

『…………すまない、君達。そのカズヤとシュウについて教えてくれないか。あと、ついでに君達の車に乗せてくれ!』

 

 

 バイクに乗った2人……荒垣和哉と赤井秀一に興味を示した銭形は、FBIの3人の男に、そう声を掛けた。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 俺と秀一は、400CCのネイキッドバイクに乗り、ルパン一味を追跡していた。……ちなみに、"スーフォア"という愛称で呼ばれるこのバイクは、長年俺の相棒を勤めている。

 

 

「……よし。何とか追い付けそうだ。秀一、いけるか?」

 

「はい。いつでも」

 

「分かった。――振り落とされんなよ!」

 

 

 そう言って、俺は一気にスピードを上げ、ルパン三世達が乗る車に迫った。……それと同時に、次元大介がこちらへ向かって銃を構える。

 

 

「っ!来るぞ、しっかり掴まれ!!」

 

「はい!」

 

 

 銃口は下の方を向いている。って事は奴が狙っているのはタイヤのパンク!

 

 

「狙いが分かればこっちのものだ!」

 

 

 次々と放たれる弾丸を、必要最小限の動きで避ける。それから弾切れした瞬間を狙い、一気に距離を詰めた。

 

 

「カウントダウン!3、2、1――」

 

 

 瞬間、俺は車体を縦から真横に。そして――

 

 

「――Shoot(撃て)!!」

 

「――Yes,master(はい、ご主人様)!!」

 

 

 秀一が放った弾丸は、ルパン一味を乗せた車のタイヤに命中。走行不能となった!

 

 

「秀一、よくやった!」

 

「はい…っ和哉さん!!」

 

「うおっ!?」

 

 

 しかし突然、秀一が俺の体を抱き寄せてバイクの車体を蹴り、俺共々地面に転がる……と同時に、金属音が聞こえた。……おいおい、まさか……!?

 

 

「……俺の……俺のスーフォアが……!」

 

 

 見事に真っ二つだ。その側には石川五ェ門の姿があった。……よくも俺の長年の相棒を……!

 

 と、沈んでいたのもつかの間。今度は背後から猛スピードでピンク色の派手な車がやって来た。このままここに転がってたらぶつかる!

 

 

「危ねぇ、秀一!!」

 

「っ!?」

 

 

 今度は俺が秀一を引っ張って地面を転がり、間一髪でその車から逃れた。

 そして、危うく俺達を轢くところだった車はというと……

 

 

「――ハァーイ、ルパン!」

 

「ふーじこちゃーん!!ナイスタイミング!」

 

 

 峰不二子が乗っていた車だったようだ。ルパン三世達は、その車に乗って去って行った。逃げられたか……

 

 俺と秀一は同時に立ち上がった。

 

 

「……秀一。怪我は?」

 

「手を擦りむいた程度です」

 

「手!?っ馬鹿野郎!見せろ!!」

 

「っ、和哉さん……?」

 

 

 秀一の両手を見ると、確かに右手に擦り傷があった。……まだ利き手じゃなくて良かった。それに、これならすぐに治りそうだ。……良かった。

 

 

「お前の両手は大事な仕事道具で――仲間や俺を助けてくれる大切なものだ。無論、自分自身を守るものでもあるんだから、ちゃんと大事にしてくれ」

 

 

 あとで治療しないとな。

 

 

「…………和哉さん……」

 

「ん?」

 

「あなたは――これ以上俺の好感度を上げて、どうするつもりですか……!?」

 

「はぁ?」

 

 

 訳が分からん事を言うな。

 

 

「……ところで、秀一。お前、ルパン一味の事をどう思う?」

 

「俺のマスターを誘拐しやがった悪党共」

 

「そうゆう事じゃない。……お前、あいつらと正面切って戦ったとして――勝算はどれくらいある?」

 

「…………50:50(フィフティ フィフティ)……と、言いたいところですが、実際はこちらがかなり不利になるかと……」

 

「どうしてそう思った?」

 

「……奴らは、手を抜いていた」

 

「そうか――俺も、そう思う」

 

 

 秀一と見解が一致したという事は、おそらく予想は当たっているのだろう。

 

 例えば、ネクタイピン型の発信器に気づかれなかった事。

 例えば、銭形警部の来日を予想していなかった事。

 例えば、俺達が奴らに追い付けた事。

 

 例えば――俺達の怪我が軽症である事。

 

 他にもいろいろあるが……これらは全て、ルパン一味が本気を出していなかったからではないのか?

 

 

 ……という俺の考えを、秀一に話した。

 

 

「……その可能性は大いにあると思います。……しかし、それを言うなら和哉さんもそうですよ」

 

「ん?何がだ?」

 

「あなただって、手を抜いたじゃないですか」

 

「、何の事だ?」

 

「和哉さんが本気を出していたら、今この瞬間も他の捜査官達に電話して次々と指示を出していたはずです。あなたの本分は、どちらかといえば"手足"として動く事ではなく、"頭"として"手足"に指示を出す事ですから」

 

「…………」

 

「それに和哉さん。あなたはソフィーの言うとおり、盗聴器越しの時も、俺達の目の前で話している時も、奴らを逮捕しないとは一言も言っていませんでしたが――"逮捕する"、とも言っていませんでしたよね?一言も」

 

「――――さーて?何の事やら。それよりもほら。銭形警部達が追い付いたみたいだ。合流するぞ」

 

「和哉さん……」

 

「……何にせよ確かな事は、手加減された状態でも逃げられてしまった今の俺達じゃ――ルパン一味の逮捕は、夢のまた夢って事だ」

 

 

 本当に、厄介な相手だった。……それにしても……

 

 

「…………あーあ……俺のスーフォア……これじゃあ修復もできやしない……長年の付き合いだったのに……」

 

 

 そう嘆いて、俺は大きく溜め息をついた。そして秀一に必死に慰められた。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ――峰不二子が運転する車の車内にて。

 

 

「……いやー、助かったぜ不二子ちゃん♪」

 

「全くしょうがないわね……お宝が手に入るわけでもないのに助けに来て上げた私に感謝しなさいよねー」

 

「それはもう!」

 

「……相変わらず偉そうな女だぜ……」

 

「いつもの事だ」

 

「あら、何か文句でもあるの?私は助けて上げたのよ?」

 

「へーへーありがとうございました!」

 

「一応、礼を言う」

 

「はーい。……それで、ルパン。目的は達成したの?」

 

「あぁ。……日本に来た目的は、大方達成した。あとは、俺にとって一番重要な目的を果たすだけだ」

 

「あ?まだ何かあんのか?」

 

「また盗みか?」

 

「違う違う!……次元と五ェ門にはもう言ったはずだぜ?――借りを返すんだ、って」

 

「……あー……そういえば言ってたな。荒垣和哉に借りがあるって」

 

「誰?それ」

 

「……先ほど、お主が轢き殺しかけた男が2人いただろう?そのうち、執事服を着ていた男の方が、荒垣和哉だ」

 

「ふーん?どっちもヘルメットしてたから顔は見えなかったけど、カッコいいの?」

 

「カッコいいというか、あれは美人だな。悪く言えば女顔」

 

「女顔?……ルパン、あなたまさか…」

 

「不二子ちゃんまでそうゆう趣味?って聞くのは止めてくれよ?俺様さすがに傷ついちゃう。……っと、そうだ不二子」

 

「……な、何よ」

 

「今回は目を瞑るが……次からはあの2人に……特に和哉には危害を加えるなよ?そんな事やったら、俺――本気で怒る、かも」

 

「「「…………」」」

 

 

「――なーんてね♪ぬふふ、冗談だぜ不二子ちゃーん?だからそんなに怯えんなって!次元ちゃんも五ェ門ちゃんもマジになるなって!」

 

「…………なぁ、ルパン」

 

「どうした次元」

 

「……お前、荒垣に一体どんな借りがあるんだ?」

 

「……どんな借りかって?それはな……まず命を救われた事と、それから……調子に乗って気を緩ませてた俺に喝を入れて、それを再び引き締めてくれた事だな。

 ……後者に関しては、和哉は全く心当たりがねぇだろうから、さっきので貸し借りはもうなしだとでも思ってんのかね……」

 

「さっきの、って……」

 

「……奴が、手を抜いていた事か?」

 

「そうそう。……俺様達も手加減したけどさー……もしも和哉ちゃんが本気出して俺達を捕まえようとしたら――さすがにちょいと危なかったかもなぁ……」

 

「……そんなに危ないの?その荒垣和哉って人」

 

「あぁ。……和哉個人の能力は、周りの天才達と比べたら若干落ちるが……あいつが"頭"となり、周りが"手足"となった時は厄介だ。

 和哉はまるで、自分の本当の手足のように周りの人間をうまく使いやがる……あれは、人間関係に恵まれていて、さらに和哉自身が人たらしであるからこその力だな。……個人の力が強過ぎるせいで、周りに足を引っ張られちまう銭形のとっつあんとは真逆だ。

 ……そう考えると、和哉ととっつあんを足して2で割ったのがガキンチョ……ってところかな?」

 

「……じゃあ、もしもその3人が正式に組んで俺達を捕まえようとしたら、どうなる?」

 

「そりゃあ、もちろん――」

 

 

 

 

「――終わるぜ。俺達の泥棒生活が」

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 ――翌日。ついに護衛任務の終わりが近づいてきた。

 現在。俺と秀一はアーロンさんとソフィアさん。そして、昨日の事件後に救出されたテイラーさんを見送るために、空港にいる。

 

 

「……荒垣君、赤井君。……今回は、本当にありがとう!私達を護衛してくれた事、そしてソフィアとブラッドを助けてくれた事に、心から感謝する」

 

「いえ、アーロンさん。我々は謝罪しなければなりません。あなた方の身の安全を保障すると豪語しておきながら、大切なお嬢様と執事さんを危険にさらしてしまった。……本当に、申し訳ございませんでした」

 

 

 そう言って、秀一と共に深々と頭を下げた。

 

 

「……頭を上げてくれ、2人共。確かに、そうなってしまった事は事実だが……それでも最初に君達に任せるという判断をしたのは、私達なんだ。だからそれは、君達のせいじゃない」

 

「しかし……」

 

「それでもまだ納得できないのであれば、これは"貸し"という事にしておこうか」

 

「貸し、ですか……?」

 

「そう。――いずれまた、私達の護衛をしてくれた時に、それを返してもらおう」

 

 

 と言って、アーロンさんはわざとらしくウインクしてみせた。

 

 

「……ふ、あっははは……!もしかしてそれって、初日の俺の真似ですか?」

 

「バレたか。その通りだよ」

 

「ははっ……承知いたしました。その時が来たら、必ず借りをお返ししましょう。秀一、それでいいよな?」

 

「はい。俺もそれで構いません」

 

「ありがとう」

 

「ありがとうございます」

 

 

 アーロンさんがお礼を言うと、それに合わせてテイラーさんもお礼を言った。そしてソフィアさんはというと……

 

 

「…………」

 

 

 どこか思い詰めた様子で、先ほどからずっと黙っている。……何かあったんだろうか?

 

 

「あの、アーロンさん。……ソフィアさんに、何かあったんですか?」

 

「あぁ……そう、だな……うん……」

 

 

 アーロンさんに聞いてみると、彼は複雑そうな顔で俺を見て、口ごもる。……心当たりはあるようだが、それをどう言えばいいのか悩んでいる……だけじゃないな。どちらかというと、話したくない……のか?

 

 すると突然、ソフィアさんが顔を上げた。

 

 

「荒垣さん!!」

 

「は、はい?」

 

「私が……私が今よりもっと大きくなったら!その時は――私を荒垣さんのお嫁さんにしてください!!」

 

「!?」

 

 

 …………これは、想定外だな……

 

 周りを見ると、アーロンさんは顔に手を当てて天を仰いでおり、テイラーさんは苦笑い。そして秀一は……

 

 

(……なんとも形容しがたい表情だ)

 

 

 辛うじて、どちらかというと、この状況を嬉しく思っていない事が読み取れるぐらいか?

 

 おっと。今はそれどころじゃないな。

 

 

「その言葉に返答をする前に、あなたに聞きたい事があります。……ソフィアさん。あなたは子供扱いされる事と、1人の女性として扱われる事の、どちらを選びますか?」

 

「それは、」

 

「ただし!……女性として扱われる事を選べば、あなたは確実に後悔するでしょう。それを踏まえて、もう一度聞きます。……どちらを、選びますか?」

 

「…………女性として、扱ってください」

 

「……いいんですね?」

 

「はい」

 

「……分かりました」

 

 

 やれやれ……気が重いな。

 

 

「……俺は、君の言葉に応える事はできない。……悪いな」

 

「っ……」

 

 

 ソフィアさんは涙目になっている。……罪悪感が襲い掛かるが、こればっかりは譲れない。

 

 

「まず、君はまだ少女だ。これから俺以上に良い男に出会う機会が必ずやってくる。だから、こんなおっさんを捕まえてはいけない。

 次に、君はその気なのかもしれないが、俺にはそれがない。俺にとっての君はあくまで、期間限定の護衛対象だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「っ!!」

 

 

 ……本当にすまない。だが、これで最後だ。

 

 

「最後に、君とは年齢に差があり過ぎる。20以上の差が、な」

 

「……恋に年齢差は関係ないです!」

 

「あるんだよ。少なくとも俺にとっては。……俺はな、もしも次に誰かを愛する時が来たら、もうそれ以降は生涯、その1人だけを愛すると……つまり、結婚してその人と添い遂げると決めている。

 その相手の条件として、絶対に譲れない事がある。それが年の差だ。……許容できる範囲は、2、3歳差ってところかな。それ以上は駄目だ」

 

「……どうして?」

 

「それはな。年の差があり過ぎたら――どちらか一方が死んだ時、もう片方が長い間取り残される事になるからだ。

 俺は、取り残される事がどれだけ悲しいのかを、よく知っている。できる事なら、愛する人にその悲しみを知って欲しくない。だから俺と添い遂げる相手には、俺よりも先に死んで欲しい。

 取り残される悲しみを知るのは――俺だけでいい」

 

「……そんなの……っそんなのあなたの勝手じゃない!相手が同じ事を思ってたらどうするのよ!?」

 

「あぁ、そうさ。これは俺のエゴだよ。だから、"もしも"次に誰かを愛する時が来たら、と言ったんだ。……俺としては、そんなもしもの時が訪れない事を祈っている」

 

「…………つまり、あなたは誰かを愛するつもりはもうない、と?」

 

「回りくどくなってしまったが、そうゆう事だ」

 

 

 悪いな、ソフィアさん。俺は……臆病者なんだ。恋愛に関しては特に。

 

 

「…………最低」

 

「あぁ。俺は最低だ」

 

「――っ、馬鹿!」

 

「あぁ――俺は、大馬鹿者だよ」

 

 

 君のような、素敵な女性を泣かせてしまうのだから。

 

 

「でも――ありがとう。私を、1人の女性として見てくれて。……私、忘れないから。あなたが最低だって事も、大馬鹿者だって事も――私を、守ってくれた事も」

 

 

 そう言って、彼女は笑った。――美しい笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

―――――――――

 

 

 その後、アーロンさん達3人を見送った俺達は、帰路についていた。

 

 

「…………和哉さん」

 

「何だ?」

 

「――俺も、できればあなたよりも先に死にたいです」

 

 

 その言葉に、思わず足を止める。

 

 振り返ると、秀一の深緑の瞳が俺を真っ直ぐ見つめていた。

 

 

「……俺は先ほどの話から、例の作戦であなたが人質にされた時の事を思い出しました。……もしも、あなたが死んでしまったら……それを、少しでも想像しただけでぞっとしましたよ。あなたが俺を置いて死んでしまうなんて、耐えられない。だから――そんな悲しみを味わうぐらいなら、あなたよりも先に死にたいです」

 

「…………」

 

「でも、」

 

「?」

 

「そんな事になったら、あなただって悲しむ事になるんですよね?それも嫌です」

 

「…………我が儘な奴だな」

 

「えぇ、俺は我が儘なんです。そして貪欲だ。あなたと共により長く生きるためなら――きっとどんな事でもやってみせる」

 

「――――」

 

 

 その瞳から、目を離せなくなった。

 

 

「最終目標は、ほぼ同じタイミングで老衰する事ですかね」

 

「……俺の方が5歳年上だぞ。多分お前よりも先にぽっくり死んじまう」

 

「そこはできる限り頑張って長生きしてください。俺も頑張りますから」

 

「じゃあまずは禁煙からだな、ヘビースモーカー」

 

「そうですね。頑張ります」

 

「……意外だな。即答した」

 

「言ったはずですよ。あなたと共により長く生きるためなら、と」

 

「っ……ふん。3日坊主にならなきゃいいがな!」

 

 

 そう言った俺は、秀一に背を向けて再び歩き出した。……今、まともに秀一の顔を見るわけにはいかなかった。

 

 

(――間違いなく、今の俺は過去最高にみっともない顔になっている!)

 

 

 俺は慌てて、目尻から流れ出た雫を拭った。

 

 

 

 

 

 

 






・長年の相棒を失った飼い主

 ……俺のスーフォアが……(´;ω;`)

 今回、忠犬と共に愛車でタンデムした。バイクの運転技術について、FBIの中で右に出る者はいない。長年の相棒を失ったため、その日はずっと沈んでいた。……俺の相棒。安らかに眠ってくれ……
 実は、こっそり20年前に怪我の手当てをしてくれた借りを返すために、微妙に手を抜いていた。向こうも手加減してたんだからお互い様だ。

 そして次の日、お嬢様(12歳)による愛の告白を受けたが、丁寧に、そしてきっぱりと断る。恋愛に関しては独特な感性を持っている。だからこそ独身。

 その後。赤井の思わぬ言葉に感極まり、一瞬だけ涙を流す。……俺の弟子にして忠犬は、なんてよくできた奴なんだろう……


・飼い主とタンデムした忠犬

 和哉さんとタンデムデート()……!!しかも家族以外では俺が初めて、だと!?ありがとうございます!

 最初はルパン一味にオリ主を拐われて激おこだったが、逃走したルパン一味をタンデムして追う事になり、テンションMAX。だって合法で和哉さんと密着でき…ゲフン。今のはオフレコで。

 オリ主がお嬢様に告白されて、オリ主の魅力を分かってもらえた事に喜び、それ以上に告白したお嬢様に嫉妬し、結果的に形容し難い表情になった。その後、オリ主が丁寧に断っていたため、ほっとする。

 例え火の中水の中、銃弾の嵐の中……!とりあえず何だってやってみせる!!――和哉さんと、共に生きるために。


・逃亡した大泥棒

 狂犬の殺気に冷や汗を流し、オリ主の飼い主っぷりに唖然とし、さらには手加減していたとはいえ、2人に追われて追い詰められて、実は内心焦っていた。

 オリ主と銭形とコナンの能力を分析し、この3人に手を組まれたら本気で危ないと確信する。……あれ?俺達、そのうち本当に詰むんじゃね?

 現在。とある企みを実行中……







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IF⑤ 後日談&エピローグ



・オリ主視点。

・最後のエピローグ部分は次元視点。


 

 

 護衛任務が終了した、翌日。ルパン三世と関わった例の件について、俺と秀一――特に俺――が他の幹部達に詳しく事情を話す事になったのだが……そんな矢先にそれは起きた。

 

 俺達が使っている会議室には、1つだけ固定電話が設置されている。その固定電話に突然、着信が入った。この電話の番号を知っているのは、合同捜査に参加している人間のみ。

 だからこそ、そのうちの誰かからの連絡だろうと思って、電話の1番近くにいた俺が受話器を取った。

 

 

「はい…」

 

「――ハァーイ♪俺様ルパン三…」

 

 

 ――ガチャンッ!

 

 

 俺は、即座に受話器を戻した。……そして、再び着信を告げる音が鳴り響く。

 

 

「……あ、荒垣さん……?」

 

「何があったんですか?」

 

 

 頭を抱える俺に対して、コナンと秀一が声を掛けた。

 

 

「…………いいか。全員、今から何が起こっても声を出すなよ?いいな!?」

 

「それはどうゆう…」

 

「返事!」

 

Yes,master(はい、ご主人様)!」

 

 

 すぐに返事をした秀一に続いて、幹部の全員が了解した。……よし。それじゃあ電話に出て、スピーカーにして、と。

 

 

「あ、出た。酷いなぁ、いきなり切るなよ!俺様悲しい……」

 

「どうやってこの番号を調べた?ルパン三世」

 

 

 幹部達が声を押し殺して驚いている。秀一はそれに加えて殺気が出た。……ちょっと落ち着きなさい。ステイ。

 

 

「この番号を知る人間は限られている。どうやって知ったんだ」

 

「……その声は和哉か。こりゃあ好都合!ちなみに、どうやって知ったのかはまぁ、企業秘密って事で!」

 

「…………ちっ。どうせハッキング仕掛けたんだろうが……」

 

「もしかしたら、お仲間さんから教えてもらったのかも?」

 

「っは、抜かせ。俺達の同志が、そんな裏切りを働くわけがない」

 

 

 なぁ?と、視線で残りの幹部達にそう問えば、全員が頷いた。

 

 

「いやー、分からねぇぜ?……まぁ、その通りなんだけど」

 

 

 だろうな。

 

 

「……さーて、本題に入ろう。和哉ちゃんの事だし、電話に出た時点でスピーカーにしてるんだろ?だからここからは……お前さん達の言う、幹部だったか?その連中も聞いていると思って話すぜ。といっても、メインは和哉ちゃんなんだけど」

 

「俺がメイン……?」

 

 

 一体、何の用だ?

 

 

「まず、全員に関係がある話からな。――俺は、黒の組織の残党達が拠点としている場所を発見した」

 

「なっ……!?」

 

「何だと!?貴様、それは一体どうやって!?」

 

「お?その声は一昨日ワンちゃんとガキンチョと一緒にいた奴かな?安室透……いや、"ゼロ"の降谷零だったか?」

 

「……っ!!」

 

 

 こいつ……降谷の事まで……!?本当にどうやって調べたんだ?ハッキングするにしても、日本の公安……それも"ゼロ"の事を調べ上げるには、数多くのセキュリティを突破する必要があるはず!

 うちもそうだが、日本のサイバーセキュリティだって、そう簡単に突破できるような代物ではないはずなんだが……

 

 

「…………俺の正体をどこで知った!?」

 

「まぁまぁ。今はそんな事は置いといて話を戻すが……その拠点の場所は……」

 

 

 降谷の言葉には応えず、ルパン三世は拠点の場所を伝えてきた。……その場所は、確か……

 

 

「……我々が、残党達の拠点の有力候補だと睨んでいた3つの場所のうちの、1つですね」

 

 

 キャメルの言う通りだ。……ルパン三世の話が信憑性を増した。

 

 

「へぇ?もう3つまでに絞っていたのか。優秀だな!……そんで、その他諸々の情報を和哉ちゃんの仕事用のノートパソコンに送っておいたから、後で確認してちょーだい」

 

 

 ……は?

 

 

「おい、こら…」

 

「和哉さんの仕事用のアドレスまで盗み見たのか――いい加減にしろよ、てめぇ」

 

 

 あ、秀一がキレた。

 

 

『一昨日といい、今日といい、てめぇは何様のつもりだこそ泥。俺の和哉さんを拐い、銃弾を何発も飛ばしてきて、和哉さんの大切な相棒を真っ二つにし、次に轢き殺そうとして……さらには和哉さんの個人情報を盗んだ、だと?脳天に鉛玉ぶちこまれてぇのかこの――』

 

「秀一、Stey(待て)

 

「…………Yes,master(はい、ご主人様)

 

 

 そう指示を出し、スラング英語が飛び出す前に落ち着かせた。

 

 

「さっすが飼い主……っていうかワンちゃん?それの半分以上は俺様がやった事じゃないんだけど?」

 

「知らん。そしてワンちゃんと呼ぶな。俺を犬呼ばわりしていいのは和哉さんだけだ」

 

「ワーオ、筋金入りの犬だなこりゃ。愛されてるねー和哉ちゃん♪」

 

「一昨日も思ったが、和哉さんの名前を気安く呼ぶな!こそ泥風情が……!!」

 

 

 ……"待て"だけじゃ駄目か。

 

 

Quiet(静かに)。俺がOkay(よし)と言うまで話すな」

 

「…………」

 

 

 ……よしよし。これなら話が聞けるだろう。

 

 

「…………ほーんとに、よくできた忠犬ですこと……」

 

「で?続きは?」

 

「あ、はい。……とりあえず、全員が関係している話はこれだけ。次はお待ちかねの――和哉が関係してる話だ」

 

 

 ……どうやら、俺の話がメインというのは本当らしいな。さっきまではおふざけ混じりだった声音が、真剣なものに変わった。

 

 

「まず……俺が黒の組織の残党の拠点を調べ上げた時、ついでに奴らが使っているネットワークにもハッキングしていろいろ調べたんだが……その時、とんでもない情報が出てきてな……」

 

「とんでもない情報?」

 

「勿体ぶらないで早く教えてよ」

 

「まぁそう焦るなよガキンチョ。その情報はなんと――和哉の個人情報だった。生年月日、生い立ち、家族構成、現住所、連絡先エトセトラ……」

 

 

 すぐ隣にいる秀一が、息を呑む音が聞こえた。……いや。もしかしたらそれは、俺の喉から出た音でもあったのかもしれない。

 

 

「そんな……!」

 

「荒垣さんの個人情報を、残党が……何故……!?」

 

「そう思うだろ?……と、いうことで、俺様が探ってみました!その結果、和哉の情報を流した人物を突き止めた」

 

「誰だったの!?」

 

「――バーナード・オルソン」

 

 

 その名を聞き、FBIの面子は驚いた。……俺以外。

 

 

「何……!?」

 

「バーナード・オルソン!?」

 

「…………誰?」

 

「バーナード・オルソンは、FBIの上層部の人間だ……」

 

「え……!?じゃ、じゃあ荒垣さんは…」

 

「そう。本来なら、仲間であるはずの人間に、売られたんだよ」

 

 

 コナンにそう説明した俺は、そう言いつつも全く動揺していなかった。

 

 そして、思わず呟いた。

 

 

「ついにやりやがったな、あの野郎……」

 

「やっぱり、和哉には心当たりがあったか……お前さん、そいつには特に嫌われてるみたいだしな」

 

「……まぁ、な」

 

「……差し支えなければ、荒垣さん。その理由を教えてくれませんか?」

 

「あぁ。大した事でもないから大丈夫だ。……俺が上層部に意見する時、奴は毎回反発する。その度に言い負かしていたら、いつの間にか相当嫌われるようになっていた。

 そのせいか、奴にはいろいろと無茶振りされる事が多い。そして奴は上層部の中でも結構な権力を握っている。だから、他の上層部の人間もそれにつられて俺を厄介者扱いしてくる。……おそらく、今回の護衛任務が下ったのも、バーナード・オルソンが原因だと考えているんだが……どうなんだ?ボス」

 

「……確かに。今回の任務が下される事になった理由は、彼がそれを強行したからだと、本国の同僚から聞いている」

 

 

 やっぱりな。そうだと思ったよ。

 

 

「……幸いにも、和哉の情報が残党達の元へ流されたのはつい最近だったらしく、俺がその情報をごっそりと盗んだ事で、それが流出する可能性はなくなった。……ただし、既に残党達の何名かはその情報を把握しちまってる。……だからそいつらを確実に捕まえねぇと、この先どうなるか……何となく、分かるだろ?」

 

「…………荒垣さんがまた、人質にされる……?」

 

「ピンポーン♪……まぁ、そうゆう事だ。何せお前らに対抗するには、それが1番効果的だろうからな。和哉を捕らえれば、銀の弾丸(シルバーブレッド)を封じる事ができる……連中は、それを知ったのさ」

 

 

 全員の視線が、秀一の元に集まった。

 

 もしかすると……以前俺が危惧し、秀一に忠告した事が、現実になるかもしれない……

 

 

 ――まぁ、そんな事はさせないけどな。

 

 

 以前の俺は、自身が人質になる事で秀一の身が危険にさらされてしまうかもしれないと考えて、それを恐れていた。

 

 しかし、今の俺は違う。

 

 秀一を危険な目に合わせたくないのであれば、俺自身が人質にならないように、強くなればいい。

 ……今の俺は、そう考えている。そのために以前よりも鍛練の時間を増やした。……こう考えられるようになったのは、秀一のおかげだ。

 

 

 ――同じ失敗は、2度も繰り返さない。俺と秀一は、そう決意している。

 

 

「ん?……どうした、秀一」

 

 

 その時、秀一が俺の服の裾を軽く引っ張った。目を合わせると、何か言いたげにしている。

 

 

「黙ってたら何も分からな…って、」

 

 

 え?……あ、そうゆう事か!いくらなんでも忠実過ぎやしないかお前!?

 

 全くしょうがない奴だな!

 

 

Okay(よし)!話していいぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「…………本当に、"よし"と言われるまで話さなかった……」

 

「……そのまま黙らせておけば良かったのに、どうして許してしまったんですか荒垣さん!」

 

「ややこしくなるからお前も黙っとけ、降谷」

 

 

 秀一の様子に驚愕する風見と、憤る降谷。とりあえず、降谷は静かにしてくれ。

 

 

「僕はあなたの犬ではなく日本の番犬なので、命令は聞きませ…」

 

「――Be quiet(静かに、しろ)

 

「…………Yes,sir(承知しました)

 

 

 少々怒り気味に言ったら、黙ってくれた。

 

 

「…………和哉ちゃんはワンちゃんを2頭飼ってるのかな?」

 

「違う。1頭だけだ。あっちの日本犬の飼い主は日本という国であって……いや、それだと放し飼いになっちまうな……よし。飼い主代理は任せたぞ、風見」

 

「飼い主……代理!?私が!?」

 

「ちゃんと手綱握っとけよ。……で、結局秀一は何が言いたいんだ?」

 

「…………和哉さん」

 

 

 秀一は、真剣な顔つきで俺を見つめて、口を開いた。

 

 

「――同じ失態は、繰り返しません。もう、2度と」

 

「――――」

 

 

 ……そうか。秀一も同じ事を考えていたのか。……なんか、ちょっとくすぐったいな。

 

 

「……と、言いつつ、一昨日俺が和哉を拐ってるんだけどな。……そこんとこ、どう思う?赤井秀一」

 

「……あぁ。確かに、その通りだ。お前に和哉さんを害する意思がなかったからこそ、彼は無事だった。これも、俺が油断していたせいだ」

 

「……お前だけのせいじゃない。俺だってそうだ。俺も、油断していた。ルパン三世の変装を見破れなかったし、背後も取られた。……鍛練不足。職務怠慢……俺達は、2人揃って気を抜き過ぎていた」

 

 

 だからこそ――

 

 

「――互いに次はねぇぞ。秀一」

 

「――はい」

 

 

 俺達は、目を合わせて頷いた。

 

 

「……ふーん……ま、大丈夫そうだな。――これなら、危機感を煽った甲斐があったかねぇ……」

 

「何?」

 

 

 ……まさかこのこそ泥、わざと……?

 

 

「――わざと、俺も拐ったのか?俺と秀一の気を、引き締めさせるために……?」

 

「んー?何の事だ?……そんな事より、次の話だ。

 情報を流した人物が、FBIの上層部の人間だと分かった時、俺は和哉には悪いなと思ったんだが……勝手ながら、和哉の個人情報がどの程度守られているのかを、実際にハッキングする事で調べさせてもらった」

 

 

 ……こいつ、どんだけハッキングしてんだよ。

 

 

「で、その結果。――和哉の個人情報だけが、ハッキングされやすくなっていた事が分かった」

 

「は?」

 

 

 それは、つまり……?

 

 

「セキュリティが甘くなってたって事だよ。それも秘密裏に、な。どうなってんだと思ってさらに調べたら、原因はバーナード・オルソンにあった。

 奴は、FBIのサイバー対策課の人間達数名を買収し、和哉の個人情報を守るセキュリティのみを弱くさせて、かつ、それに関してその数名に口止め料も払っていた。

 ちなみに。それが実行されたのは、和哉が日本に向かった直後だったようだぜ」

 

「……と、いう事は……!」

 

「……ジンがカズヤの情報を手に入れる事ができたのは、まさか、そのせいなの……!?」

 

「おそらくな」

 

 

 そうゆう事だったのか……

 

 

「…………ホー、なるほど――つまり、全てが片付いて帰国したら、バーナード・オルソンをボコボコにすればいいわけだな。よし分かった」

 

「秀一」

 

「止めないでください、和哉さん。俺は殺ると言ったら殺りますよ」

 

「――俺も混ぜろ。ただし、一発ぶん殴るだけにしよう。とびっきり、重い一発を、な」

 

「!!……くくっ……!了解……」

 

 

 2人であいつをぶん殴ろうぜ!ついでに他の上層部の奴らも!

 

 

「荒垣さんっ!?」

 

「飼い主が狂犬の手綱を手放してどうするんですか!?」

 

「あー……そこの飼い主と狂犬さん?多分無駄だと思うぜ?あと2、3日もすれば、バーナード・オルソンは逮捕されるから」

 

「何……?」

 

「バーナード・オルソンは叩けば叩くほど埃が出てきてなぁ……それはもう汚職だらけだったんで……それらの情報ぜーんぶ、銭形のとっつあん経由で、もっと上に送っちゃった♪」

 

 

 送っちゃった♪って、おい。もっと上って……おいおい……!?

 

 

「その上ってまさか……FBI長官とか言うんじゃねぇだろうな……!?」

 

「そうだぜ?……あ、そうそう。和哉ちゃんの情報を守ってるセキュリティ。あれも勝手に強化しておいたから」

 

「はぁ!?」

 

「あれじゃあ、また流出してもおかしくねぇからな。ちょちょいと手を加えた。もう情報が流出する心配はないぜ」

 

 

 両手で頭を抱えた。とんだ大事になっちまった!……というか、そもそも、だ。

 

 

「……何で、てめぇがそこまでやるんだ?そもそも、てめぇが黒の組織の残党のネットワークにハッキングを仕掛ける必要があったのか?……何が目的だ?」

 

 

 ルパン三世が残党達のネットワークにハッキングを仕掛けなければ、俺の情報について知る事はなかった。さらには、その事を知ったとしても、情報を流した人物を調べる必要もなければ、わざわざ再び銭形警部に頼んで、長官へ報告させる必要もない。

 ましてや、セキュリティの強化をする必要なんて、どこにもない。

 

 

「――和哉に"借り"を返すため」

 

「借り、だと?」

 

 

 ……そういえば一昨日、こいつは"借りがあるのは俺の方"と言っていた。

 

 

「……借りなんてあったか?」

 

 

 さっぱり思い付かない。確かに、20年前にこいつを庇った事が"貸し"だというなら分かるが、それはその日、怪我の手当てをして救急車を呼んだ事で返されているはず……

 

 

「まぁ、和哉に心当たりがないのは当然だろ。これは、俺が勝手に借りだと思っていた事だからな」

 

「その、借りってのは?」

 

「……20年前。俺は和哉に助けられた。だから、俺を庇って代わりに撃たれちまったお前の手当てをして、救急車を呼んで、その借りを返した……それだけだと、お前は思ってんだろ?」

 

「……あぁ。そうだ」

 

「だが、俺にはもう1つ、借りがあるんだよ……調子に乗って気を緩ませていた当時の俺を、正気に戻してくれた事……これが、その借りだ」

 

「……それが、借り?」

 

 

 それほど重要な事だとは思えないんだが……

 

 

「……あの日、お前に……一般人のガキに庇われた事。そのガキが俺の代わりに撃たれちまった事。……そのガキにとっては生まれて初めての死体を、俺自身の手で目撃させちまった事……その全てが、衝撃的だった。その分、罪悪感も酷いものだった。

 

 しかしそのおかげで、何もかも成功し過ぎて調子に乗っていた俺は、ようやく正気に戻った。……もしもここで正気に戻っていなかったら、今頃俺は死んでるはずだった。

 和哉。お前はこの俺に、それほどでっかい貸しを作ったんだよ」

 

「…………」

 

「あの日以来、俺は極力過信しないようにした。いつ、何があってもいいように、慎重に事を運ぶようになった。……そして気がつけば、世界を股に掛ける大泥棒になっていた。

 

 ――ありがとう、荒垣和哉。お前のおかげで俺は、今もなお、大泥棒として生き延びているよ」

 

 

 ……その感謝の言葉は、FBIの俺にとって皮肉そのものだったが……聞こえたのは声だけだったというのに、俺は確信していた。

 

 ――本気で、心の底から、感謝されているという事を……

 

 

「だから、いつか機会が訪れたら、この借りを倍に……いや、数倍にして返そうと決めていたんだ。……20年経って、ようやくその機会が訪れた。ずっと待ってたんだぜ?この時を」

 

「……それで、一連の流れで俺を助けて、借りを返したって事か」

 

「そーゆう事♪……まぁ、バーナード・オルソンを逮捕させたのは半分がその借りを返すためで、もう半分は私怨なんだけどな」

 

「私怨……?」

 

「だってさぁ……俺の恩人にしてお気に入りの和哉を、自ら手を下さずに危険な目に合わせようとしたなんて――許せるわけがねぇだろ」

 

「っ、」

 

 

 …………声に、殺意が混じっていた気がする……

 

 先ほどまで上層部の奴らに怒りを感じていた俺だったが、この声を聞いた瞬間、一気に怒りが冷めた。そしてそれは、秀一も同様だったらしい。怒気が消え去り、代わりに顔が強張っている。

 

 

「ほーんとにさぁ……FBIの上層部ってほとんどがクズだよなぁ……本当ならそいつらがやってる後ろめたい事をメディアにでもバラしたいところだけど、そうすると上層部のほとんどがすげ替えになっちゃって、結果的に和哉ちゃんが苦労する事になるし…………なぁ、和哉ちゃん。FBI辞めて泥棒になる気は…」

 

「あるわけねぇだろ!」

 

「ですよねー♪……残念」

 

 

 警官を犯罪者の道に誘うんじゃねぇよ!俺は定年退職するまでFBIを辞めないって決めてるんだ!

 

 ……だから秀一。そんな人を殺せそうな目で電話機を睨むな。怖い怖い。

 

 

「けど、だからって何もしないってのは、なぁ……例えば、奴らのパソコンにウイルス仕込んだり、奴らの家族だけに例の後ろめたい事をバラしてやったりとか……」

 

「…………とりあえず、バーナード・オルソンの逮捕だけで今のところは腹一杯だから、止めてくれ」

 

 

 だがしかし。個人的にはゴーサインを送りたい。是非ともやって欲しい。……なんて、口にはしないけどな。

 

 

「んー……まぁ、和哉ちゃんがそう言うなら、止めとくかな。

 

 ……さて。これで俺様の用事は終わり!残党狩り、引き続き頑張ってちょーだい!」

 

「あぁ。捜査への協力に感謝する。一応な」

 

「…………相変わらず、律儀だなぁ……っと、そうだ。忘れるところだった。――赤井秀一」

 

「!?」

 

 

 秀一が背筋を伸ばした。

 

 

「――和哉の事、頼んだぞ。和哉がFBIを辞めない以上、後の事はお前に任せるしかない」

 

 

 ……その口振りだと、さっきの誘いが実は本気だったとも取れるんだが……冗談、だよな?

 

 

「犬らしく、飼い主の事はしっかり守ってやれよ」

 

 

 ……その言葉は、気に食わないな。

 

 

「おい。俺を甘く見るんじゃねぇぞ、ルパン三世。――俺は、ただ守られるだけの男じゃない」

 

「全くだな。確かに、飼い主を守るのは犬の務めだが――飼い主と共に戦う事もまた、犬の務めだろう。……俺の飼い主は――和哉さんは、そんな柔な男ではない」

 

「そして――秀一もまた、同じ失敗を繰り返すような馬鹿じゃない」

 

「そう――俺は、そんな和哉さんの信頼に応える事ができる男だ」

 

 

「というわけで、」

 

 

「お前のその言葉は、」

 

 

「「――大きなお世話だ」」

 

 

 

 

「…………くくっ……ぐふ、ふふ――っは、ははははっ!!」

 

 

 ……また突然笑い出したぞこいつ……

 

 

「はははっ!……そうか。大きなお世話、か――今2人で言った言葉、全部忘れんじゃねぇぞ。必ず、2人揃って、無事でいてくれ。……じゃあな」

 

 

 その言葉を最後に、電話が切られた。

 

 

「……ちっ。逆探知の準備ができていなかった事が悔やまれる……」

 

「いいや。それは後悔しても無駄な事だぞ降谷。奴なら、何らかの対策をした上で電話を掛けていたはずだ」

 

「……一昨日、盗聴機越しに話を聞いてた時も思ったけど……荒垣さんってルパン三世の事、結構高く評価してるよね」

 

 

 と、コナンが言った。……確かに、そうだな。だが……

 

 

「勘違いするなよ、コナン。俺は確かに奴を高く評価しているが、それはルパン三世が油断ならない人物だからだ。嘗めてかかったらこちらが痛い目を見る……必ずな。だから別に、奴に好意的だからという理由ではない。

 ……まぁ、昔助けてもらった事には感謝してるが……それでも最後の最後に、怪我で身動きが取れない俺の顔面に催眠スプレーぶっかけやがったからな。それでプラスマイナス0ってところだ」

 

 

 ……人柄は、嫌いではないが。

 

 と、心中でそう呟いた時。恐ろしいほどに低い声が聞こえた。

 

 

「ホー……――顔面に、催眠スプレー、ですか」

 

「あ」

 

 

 つい口が滑った……!!

 

 

「……そういえば和哉さん。一昨日に関しての事情聴取がまだ途中でしたね。……ひとまず、20年前のお話を先に聞きたいのですが――構いませんよね」

 

「あ、僕もそのお話とーっても気になるなぁ♪」

 

「確かにその話はまだ聞いていませんでした。是非ともお聞かせ願いたいですねぇ……」

 

 

 威圧感増し増し、そして満面の笑みでこちらを見つめる秀一。子供口調とは裏腹に、鋭い目で見てくるコナン。口元は笑っていても目が笑っていない降谷。

 

 

 あ、終わったな俺――と、ルパン三世。

 

 

 今のところは問題ないが、次にルパン三世に出会ったら、見つけた瞬間に狩りに行きそうな気がする。秀一が。

 

 

 ……その後。根掘り葉掘り事情聴取された俺は、ただ話しただけだというのに体力を大幅に削り取られ、事情聴取が終わってすぐに死んだように眠ったのだった。

 

 

 

 

 

 

―――

――――――

――――――――――

 

 

「…………珍しいよな。てめぇがそこまで気に掛けるなんてよ……」

 

 

 ルパンが電話を切った後に、俺はそう声を掛けた。すると、ルパンが振り向いた。……さっきまで素で大笑いしてたくせに、もう普段のニヤついた顔に戻っている。

 

 

「なーに?次元ちゃん。嫉妬?」

 

「違うわアホ。……最初は、あの探偵ボウズと同じくらい気に入ってるんじゃねぇかと思ったが……実はそれ以上に気に入ってるんだろ?」

 

「…………あー……」

 

 

 そう聞くと、ルパンは目を逸らした。そして、何かを言いあぐねているようだ。……これも珍しい。

 こいつは俺なんかや他の奴らよりも、頭の回転が早い。早過ぎる。……だから、レスポンスも早くなるはずだが……

 

 

「……実は、さ……俺様もよく分からねぇんだよなー……」

 

「……はぁ?」

 

「なーんであの2人を……いや、和哉ちゃんの事を気に掛けちまうのか……和哉ちゃんと直接会うまでは、確かにガキンチョの方が気に入ってたはずなんだよなぁ……」

 

「…………そりゃ、てめぇ……タラシ込まれたんだろ?荒垣に」

 

「へ?」

 

 

 きょとんとした顔で、俺を見つめている。……まさかこいつ、気づいてなかったのか!?

 

 

「一昨日、お嬢様と荒垣を拐った後。車の中で大笑いしたあたりから上機嫌だっただろ?だからきっとタラシ込まれたんだなって、五ェ門と話してたんだが……」

 

 

 まさか、自覚がなかったとは……今はいつもの修行でこの場にいない五ェ門も、きっと驚くだろう。

 

 

「それにてめぇが言ってたはずだぜ?ほとんどの犯罪者は、何故か荒垣にタラシ込まれやすいって」

 

「…………そうでした」

 

 

 呆然とそう呟いたルパンは、次に頭を抱えた。そしてため息。

 

 

「あーあ……こうなったら……もしも和哉に何かあったら本気で許さねぇからな、赤井秀一……!!」

 

 

 ……と、言いつつ。もしも赤井秀一にまで何かあったら、その原因を全力で潰すんだろうな、こいつ……

 

 

(――最強のセコム、誕生。……なんてな)

 

 

 

 

 

 






・即座に受話器を叩き付けた飼い主

 なんか凄い音が聞こえた気がする。すまない、受話器。お前に罪はない(´・ω・`)

 個人情報だだ漏れ。恨むぜ、クソ上層部め!自重を止めて赤井と共にぶん殴りに行こうと思ったら、ルパン(激おこ)に先を越されていた。とりあえず落ち着け。奴が逮捕されるだけで腹一杯だから。
 ルパンの気遣いを余計なお世話だと一蹴した。俺はそんなに柔じゃねぇし、秀一だって馬鹿じゃねぇ!俺と俺の弟子を嘗めるな!

 もちろん、お得意の人心掌握術(人タラシ)で最強のセコムが生み出された事は全く知らない。


・通常運転の忠犬

 和哉さんが望むのなら、1日黙っています。"よし"と言われるまで口を開きません!

 オリ主の個人情報がだだ漏れ状態だった事に、プッツン。よし、そいつボコボコにしよう。飼い主がGo(行け)!と言うなら尚更だ。……しかし、ルパン(激おこ)の声を聞いて頭が冷えた。むしろ冷や汗が流れた。
 オリ主との阿吽の呼吸で、ルパンに対して反論した。飼い主と犬の絆があってこそ成せる業だ!俺と俺の飼い主を甘く見るなよ?

 オリ主にタラシ込まれた、新たな敵の気配を察知!過去の催眠スプレー事件も含めて、見つけ次第狙撃する(サーチ&デストロイ)!!<●><●>カッ


・セコム化した大泥棒

 いやーこいつら、というか和哉が面白過ぎ!ガキンチョよりもお気に入りかも!

 ハッキングでオリ主の情報のだだ漏れ具合を知り、激怒。ちょっと本気を出して不届き者に退場してもらった。ついでに、和哉の情報に関してはセキュリティを強化させとこっと。
 なお、セキュリティはプロのハッカーがハッキングしても絶対に破れない程度のレベル。むしろ、カウンターでウイルスを送られる。

 何故そこまでオリ主の事が気に入ったのか、自覚していなかった。相棒に言われてようやく自覚。そして開き直ってセコムになる。

 ――最強セコム、爆★誕。








目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

おまけ



・もしもルパン三世VS名探偵コナンTHEMOVIEで、こんな展開があったら?

・オリ主は登場しない。

・時系列不明。

・ご都合主義。

・映画の最後のあたり。FBIが登場した場面からスタート。

・セリフの改変あり。




 

 

「――Freeze(動くな)

 

 

 背後からそんな声が聞こえた瞬間、ルパンは背中に拳銃を突き付けられた。

 

 

「――FBIの赤井秀一だ。……お前の身柄は、我々が拘束する」

 

「……何でFBIまで出て来ちゃうわけ?」

 

 

 ルパンが訝しげにそう言うと、コナンが口を開く。

 

 

「俺が呼んだんだ。……ノープランでこんな危険な場所に来るわけないだろ?」

 

「我々も、日本では好き勝手にやってしまっているからな。世界的に有名な大泥棒の身柄を引き渡し、日本警察に恩を売るのも悪くないと考えたわけだ。……さて、赤井君。彼の身柄を拘束してくれ」

 

「了解」

 

 

 ジェイムズにそう指示された赤井は、ルパンに銃を突き付けながらその身を拘束しようと手を伸ばした。しかし、

 

 

「待って赤井さん!迂闊に触れない方がいいよ。何をされるか分からないから」

 

「そうか……ボウヤがそう言うなら、そうなのだろう。……ルパン三世。両手を頭の後ろに組んで、跪け」

 

「…………このガキ……」

 

 

 銃を突き付けられつつそう言われてしまっては、ルパンも容易には動けない。大人しく従う事にした。……しかし、ただでは従わない。両手を組みつつも、腕時計の細工に触れる。

 その間に、コナンが腕時計型麻酔銃を構えた。

 

 

「まずは眠らせてから――確実に」

 

「ふっ……さすがはボウヤだ。容赦がない」

 

「それだけ油断できない相手なんだ。このオジサンは……」

 

「なるほど……では、俺も気を抜くわけには行かないな」

 

「……ほーんとに、嫌なガキ……」

 

 

 ルパンは、赤井が並大抵の捜査官ではない事に気がついていた。だからこそ、この場を切り抜ける事の難易度の高さも分かっている。

 

 

(……ちょっとマズイ、か……?)

 

 

 珍しく、ルパンが不安を覚えた……その時だった。

 

 

「――っ、伏せろ!!」

 

 

 赤井のその声に、ルパンとコナンは反射的に伏せた。……すると、ルパンの真上を銃弾が通過した。

 その直後、赤井がその銃弾を撃った相手に対して発砲。……銃弾は、相手が拳銃を持っていた手に命中した。悲鳴が上がる。

 

 

「ボウヤ、無事か!?」

 

「うん、大丈夫!」

 

「ならいいが…っ!?」

 

 

 瞬間。殺気を感じた赤井は咄嗟に背後に回し蹴りを放つ。……しかし、それは刀の峰で止められた。

 

 

「某の殺気にいち早く反応し、躊躇いもなく回し蹴り、か……見事」

 

「ちっ……!」

 

 

 その言葉に舌打ちを返した赤井は、即座に身を引き、五ェ門に向かって銃を構えたが……

 

 

「っ!!」

 

 

 咄嗟に、その場から飛び退いた。……銃弾が目の前を横切る。それから間髪入れずに、幾つもの銃弾が飛んで来た。

 

 

「ボウヤ、来い!」

 

「え、うわっ!?」

 

 

 それから逃れるために身を引き、近くにいたコナンを片手で抱え、側にあった敵の車の陰へと身を潜めた。

 

 

「今のが次元大介の射撃か……実に正確だな。……ジェイムズ」

 

「ここにいるよ」

 

 

 赤井が攻撃された時には、ジェイムズは既に同じ車の陰に身を潜めていた。

 

 

「敵対勢力の制圧は?」

 

「既に完了した。あとはルパン一味だけだが……」

 

「もう遅いみたい。……奴らが車に乗り込んでる!」

 

「何!?」

 

 

 驚いたジェイムズが車の陰から顔を出して様子を見た時には既に、ルパン一味が乗り込んだ車は発進していた。

 

 

「……我々は気づかれないよう車を置いてきてしまったからな。追跡は不可能だ。……しかし、」

 

 

 そう言って、赤井がバッグの中からライフルを取り出す。……実は、今まで背中にライフルが入ったバッグを背負っていたのだ。

 

 

「――せめて、一矢報いるぐらいはできるだろう」

 

 

 赤井は、遠くまで逃げてしまった車に向かって――引き金を引いた。

 

 

 銃弾は風を切り――走行していた車の、ルームミラーの中心に命中した。

 

 

「うっひゃあ!?……っ、は、ははは!すげぇ狙撃!こんなに離れた車のルームミラーに……それも中心に命中させるなんてな!!次元、どう思う!?」

 

「…………確かに、良い腕だ。でも俺だってそれぐらいはできるぜ!!」

 

「張り合ってるし!……さっきの五ェ門にやった回し蹴りもなかなかだったしなぁ……あのガキンチョ、とんだ男が味方になったな……」

 

 

 ルパン達がそんな会話をしていた一方で、赤井はライフルを下ろしていた。コナンはメガネの望遠鏡機能で、銃弾がルームミラーに命中した事を確認していた。

 

 

「…………すっげぇ……さすが赤井さん!これ、もしかしてパパと張り合えるんじゃ…」

 

「――パパ?」

 

「あっ」

 

「……ボウヤ。"パパ"というのは一体誰の事だ?お前の父親か?確か、お前の父親は世界的にも有名なあの人だったはずだが……」

 

「いや!優作おじさんの事じゃなくて…」

 

「ホー?俺は世界的にも有名"あの人"としか言っていないのだが、お前の父親は優作さんだったのか?」

 

「あっ!?いや違うよ!違うからね!?」

 

「で、"パパ"とは誰の事だ?」

 

「う、えっと、あの、その…」

 

 

 ……その後。満足するまでコナンをからかった赤井が追及を止めるまで、コナンは冷や汗を流し続けていた。

 

 

 

 

 

 






 こんな展開になって欲しかった、もしくはカッコいい赤井さんが見たかった、という願望から書きました(´・ω・`)


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。