VR艦これ カッコカリ (homu-raizm)
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1話

よくある何番煎じ


方向性もタイトルもまともに続くかどうかも考えてないからとりあえずチラ裏ぶっぱ。


 世間様から見れば何の変哲もない金曜の朝十時。世の中の皆さんが仕事に励む中、とあるゲームを発売日当日に配達指定したということで朝九時からスマホの通知をひたすら眺めつつ部屋をうろうろし続けていた俺の耳に福音が届く。

 

――ピンポーン――

 

『クロネコでーす』

「キタ! これで勝つる!! 人生オワタ!!!」

 

 

 

VR艦これ

 

 

 

 艦隊これくしょん、というモンスターコンテンツがある。特にサブカルに興味のないお父さんお母さんでもコンビニでのキャンペーンとかで一度くらいはその片鱗を目にしたことがあるであろうそれは、元々は小さなブラウザゲームから始まった。

 どういうわけか人気に火がつき一過性で終わるかと思いきや様々な方面からの思惑が重なり奇跡的な燃え上がり方をしたそれはゲームからありとあらゆる分野に広がり、時には自衛隊やまさかの米軍ともコラボをするなどといった信じられない実績を残し、そして三十周年を迎える段階でついに本家のサービス終了がアナウンスされた。

 文字通り世界中の提督が嘆き悲しみ、インターネット黎明期におけるモンスター掲示板にちゃんねるの流れを汲むひゃくちゃんねるはオリンピックの短距離で日本人が金メダルを取った時にも落ちなかったサーバーが半分以上叩き落され、サービス終了の撤回をなぜかホワイトハウスに求める署名サイトには開設から一日で一千万の署名が集まり、他方横須賀や呉はもちろんなぜかアイアンボトムサウンドにまで聖地巡礼を行う日本人と台湾人とアメリカ人とドイツ人の提督チームがロイターとBBCにまで取り上げられた。

 そんなころ、俺はサービス終了のアナウンスと同時に退職届を叩きつけた会社からの退職金を全額艦これ運営会社の株式にぶっこんだ。

 それは何故か? 文字通りこんな巨大で有望で世界中からいつまでも搾れるコンテンツを終わらせる理由なんかどこにもないからだ。そして俺は賭けに勝った。暴落していた株価は一か月後のニュースで超回復を超えて宇宙に届かんばかりの大噴火をしたからだ。それはつまり人生を辞めるだけの泡銭を手にしたことであり、開幕の発言につながるのだが。

 

『艦隊これくしょんの運営元、サービス終了予定のゲームに代わってVR艦これをリリース決定』

 

 さて、ここまで話せばわかるだろう。先ほど俺の手元に届いたそれはVR艦これそのもの。ここからはその神ゲーっぷりについて語らねばなるまい。

 

「よし、まずはR18マーク確認。すばら」

 

 このVR艦これは今まで提督の分身でしかなかった自分たちが焦がれた神モードが搭載されているのだから、万が一取り違えが発生して表現規制のどギツイ通常版を送られていたなら抑えていたレンタカーで黒猫さんに怒鳴りこみに行く必要があったわけで、とりあえず安堵してスマホからレンタカーをキャンセルする。

 

「だとすると……慣れた提督モードも捨てがたいが、やっぱり艦娘モードだよなあ!」

 

 そう、このゲーム、VR艦これの名を関するだけあって艦これ世界の住人の一人として艦これ世界を楽しむものなのだが、『成れる』ものが複数あるのが最大のウリなのだ。

 本家に近い提督モード、艦娘になって深海棲艦と戦える艦娘モード、とりあえずみんなの予想にあって開発元からも発表されているのはこの二つだが、株主の権利をチラつかせて聞き出した内容にはさらに二つ、妖精さんモードと深海棲艦モードまで搭載されているという神っぷり。

 岩井隊の一員になって空母おばさんの艦載機を枯らし尽くしてNDK? NDK?することもできるし、知り合いにこのことを話したら内火艇の妖精になって集積地を消し飛ばしたいなんて言ったやつもいたし、なんならレ級フラグシップになってとっ捕まえたながもんにあんなことやこんなこともできるしというのだから一粒で二度どころか一生遊んで暮らせるほどのものに仕上がっているといっても過言ではないだろう。

 だからこそのR18が神々しい。空母おばさんにNDK?するのはともかく、ながもんに触手プレイするのにR18表現がないとかそれもうやる意味ないよね、てなもんだ。もちろん提督になって嫁としっぽりもできるし、比叡になって金剛と百合百合だってできてしまうのも今更説明するまでもないだろう。

 

「さて、悩みに悩んだわけだが。ぶっちゃけ脳内投票率的には51:49ぐらいの僅差だったわけだが」

 

 そしてそしてこのゲーム、艦娘に成るうえでとある神の選択が可能なのがまた素晴らしい。

 具体例を挙げよう、先ほど比叡になって金剛と百合百合と述べたが、そうすると自分が比叡になるわけで、みんなが知っている比叡という艦娘はそのデータのプレイ中には存在しなくなってしまうわけだ。だが、そうすると『金剛の妹』になって『金剛型四姉妹全員』と百合百合するということができなくなってしまう。

 これは非常に問題だ、というわけで一部デメリットを受けることでこの場合なら幻の金剛型五番艦として生まれることが可能になっていたりする。

 そのデメリットとは何か、提督諸氏なら熟知しているであろうが、艦これというゲームは史実補正が特に大型イベントにおいては非常に重要な要素となっている。非存在艦となることでこの史実補正が全く受けられなくなってしまうのだ。場合によっては1.5倍以上の攻撃補正、これを捨てるなんて単純にゲームクリアだけを考えたらとんでもない話である。

 

「でもま、そんなんどうでもいいよね」

 

 最優先目的はぶっちゃけエロである俺にとってパラメータは優先順位が低い。どうでもいいのだ。

 ゲームの難易度は艦これらしく甲乙丙丁、ルナティックやFleet must dieがないだけ良心的ともいえるだろう。おそらく未開放の妖精さんモードや深海棲艦モードは乙以上で一回クリアしないと解放されないとかそんなだろうけども、とりあえず艦娘に成れるならすべては些事であるし、VRゲームなら仮に史実補正がなくてもきっと本家の完全特攻運ゲーと違って昔あったアケこれ程度にはこちらのスキルが介在する余地もあるだろう。

 艦これ株のおかげで残る人生をすべて艦これに捧げられる環境を整えた今、俺を止めるものは誰もいない。

 

「そんじゃま、ゲームスタート!」

 

 そして俺の意識は暗転した――

 




1.艦娘モードとか言っておきながら提督
2.やっぱ艦娘は最高だぜ
3.空母おばさんにNDK?するエスコン仕様
4.レ級フラグシップになって人類滅亡作戦




だれか空母おばさんにNDK?するお話書いてくれませんかね(小声


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2話

続いてしまった
GW暇だったししょうがないね


 

 

 さて、大事な大事なキャラメイク。

 

「悩みに悩んだが……これで」

 

 種別:戦艦

 艦種:長門型

 艦番:三番艦

 着任:ランダム

 能力:標準

 

 外見は会社を辞めた後に著名なデザイナーに頼み、二人三脚で練り上げた渾身の一品。まあ、長門と陸奥を足して二で割ったような感じなのだが。

 そしてこのゲームはステータスをある程度いじることもできる、さすが神ゲー。とはいえ十周年記念で実装されて以降、余りに強すぎて逆に崇拝の対象になったレ級フラグシップみたいなぶっ壊れ性能のステータスは作れないのだが。おまけに上限値というか、総合計が決まっているため、例えば火力を上げたら何でもいいけど何かを下げなければならないし、速力や射程といった超重要能力は変えられない。だったらデフォでいいじゃん、考えるのめんどい。

 

「名前は――上総」

 

 やっぱり戦艦は国名じゃないとね。そして最後に難易度の選択。

 

「ここは甲一択でしょJK」

 

 甲乙丙丁とあるが各難易度がどの程度のものかというのが正直全くわからない。であるならばそこそこ歴戦の提督としては甲を選ばざるを得ない。

 まあ、ダメだったらやり直せばいいだけだ。目の前に浮かんだ選択済み項目を再度確認し、隣に浮かんでいる鏡を見て前髪をちゃちゃっと直してオールクリア。

 

「いざ――抜錨!」

 

 目の前に浮かんだ抜錨とやり直しのボタン。俺は迷うことなく抜錨のボタンをぶっ叩いた。

 

 

 

艦これVR

 

 

 

――建造が完了しました。排水を開始します――

 

 無機質な音声とともに周囲を満たしていた水が引いていく。

 

――排水が完了しました。ドックを開放します――

 

 ゴウン、という重い音とともに目の前の扉が開く。

 深い海の底にずっと沈んでいたような感覚が抜けきらないまま、隙間より差し込んできた明かりに目を細める。

 ガチリ、と体をドックに固定していたベルトが外れ、支えを外された体がガクッと揺れる。

 

「……っと」

 

 膝から力が抜けて転びそうになり、支えるために一歩踏み出すと同時にドックの扉が開く。目が慣れきっていない中、どうやら出迎えが三人いるということだけは理解できた。

 

「……長門? 陸奥?」

「……すまない提督、確かに服装や艤装からも私と同型のようだが、やっぱりわからない」

「同じく。妹がいるなんて話、聞いたこと無いのよね……」

 

 一足先に正常な機能を取り戻していた耳が三人の声を拾う。ああ、素晴らしきかなあやねる、素晴らしきかなお姉さま。どうやら、提督と姉二人がわざわざ俺を出迎えに来てくれたらしい。

 遅れて明るさに慣れた視界には、なにやら難しい顔をしてこちらを見ている何度も何度も夢に見た長門と陸奥、そしてその後ろに真っ白い軍服を着た提督の姿――こっちは当たり障りない中肉中背の男――があった。

 とりあえずは第一印象、ということでビシッと敬礼を決め、挨拶をする。もちろん笑顔も忘れない。

 

「長門型三番艦、上総。着任しました! どうぞよろしゅうお三方!」

「……と、言っているが?」

「すまない提督、何度聞かれても答えは否だ。知らんものは知らん」

 

 だが、三人は俺の挨拶そっちのけで俺の存在について議論をしている。そりゃまあ、実際長門型三番艦なんてものは史実に存在しないわけで、いぶかしむ気持ちもわからんでもないのだが、とはいえこれはゲームだぞ? 普通ならスルーしちゃうようなところなのにどこまで作りこんでるんださすが神ゲー。

 あーでもないこーでもないと相談している三人を尻目に、せっかくなんでステータス画面を開いてみる。キャラメイクはデフォルトで作ったが、もしかしたら隠しステとか新規ステとかがあるかもしれない、と開いてみたところ、旧版には無かったステータスが追加されているのが確認できた。

 

「……旧版のステは確か、耐久・火力・装甲・雷装・回避・対空・搭載・対潜・速力・索敵・射程・運の十個だったはず。なんじゃこの筋力・体力・精神って、RPGかよ」

 

 およそ艦これらしくないステータスではあるが、艦娘のうち娘寄りのステータスと言われれば納得できなくもないか。もちろん燃料が最重要だろうが、体力切れたら動けなくなる、っていうのはありそうだし、疲労度の回復にも影響を及ぼしていたりするかもしれん。その辺はおいおい調べていくか。

 そうこうしているうちに話が纏まったのか、三人のうち一人がこちらに向き直り口を開いた。

 

「……そうね。どれだけ考えたってわからないんだし、本人に聞きましょ。ねえ、上総って言ったわよね?」

「そうだよむっちゃん」

「むっちゃん……」

 

 いきなりのむっちゃん呼ばわりに頭を押さえながら呻く、そんなむっちゃんもめっちゃ可愛い。

 

「……むっちゃん、って私たちのことわかるの?」

「そりゃまあ、姉二人を見間違えたりはしないでしょ。それよかむっちゃん、いっつも建造したときってわざわざ三人で出迎えるの?」

「……だいたい私か長門、あるいはその日の秘書艦が出迎えることが多いわね。基本提督はいないわ」

「じゃあなんで提督がいるの?」

「あなたの建造に際して本来ありえないはずの建造時間が出たからよ」

 

 そういえば長門型は建造時間が独特だったっけ。だからおかしいと思ったということか?

 

「おかしいの?」

「おかしいわよ」

「なんで?」

「いや、私も長門もここにいるのに長門型の建造時間なのよ? おかしいじゃない」

 

 ビス子は、と言いかけて条件を思い出す。秘書がレーベかマックスじゃないとダメだったっけ。じゃあ5時間だったら長門型一択だよな。

 

「むっちゃんがもう一人出るかも知れんやん?」

「そんなことあるわけないじゃないの」

 

 ふむ、旧版は一つの鎮守府に同じ艦娘が何人もいたものだが、VR版は違うということか。まあ、実際自分の目で見るようになった際に同じ子がそこら中歩いてたら軽くホラーだもんな。よくハイパー北上様とかは何人も持つ提督が多かったから実際それができたら大井っちが鼻血出してぶっ倒れそうだけど。

 

「なるほど、おかしいのか……」

「だからエラーが起きたんじゃないか、ってことでとりあえず私たちと提督が見に来たのよ」

「理由は分かったけど、もし仮に本当にエラーで大爆発とかしたらどうしてたの。提督死んじゃうよ?」

「……考えなかったわ」

「おま」

 

 マジかよ、と思って長門の方を見るとひきつった表情で冷や汗を流していた。こりゃ長門じゃなくてながもんだわ。

 

「ながもん、それでええんか」

「……呼び方の是非はともかく、だ。もちろん何かあったら身を挺して提督をかばっていたぞ?」

 

 ながもん、目が泳いでいるぞ。それにそもそもここにいなけりゃかばう必要もないじゃん……。

 

 

 

  

 

 とりあえず爆発はなかろうということで微妙になった空気を変えるべく執務室へ移動する。その際、ステータス画面に艤装格納とあったので押してみたらどこへとともなく艤装が消えた。すげえ機能だ、と感心しきりだったが、ながもんたちには当たり前の光景だったようで特にコメントはなかった。

 前を行くながもんが今まで廊下で見た中では一番立派な扉を開け、正面にある机の裏に回って提督が座る。その後ろを二人が固めたので、俺は少しばかり考えて――とりあえずその後ろに回ることにした。面白そうだから。

 

「おい、なぜこっちへ来る」

「え、ながもんとむっちゃんが後ろってことは俺もでしょ?」

「そんなわけあるか! 机の前に立て!」

「そんなに怒るなって、軽い冗談じゃないか」

 

 長門のこめかみに青筋が浮かんできたのでからかうのをやめて机の前に立ち、改めて敬礼する。選択肢が出るかの実験でもあったのだが、どうやら本当にこういった場面でも選択肢は出ないらしい。

 

「改めまして、長門型幻の三番艦、上総。着任しました、どうぞよろしゅーオナシャス!」

「……自分で言うのか」

 

 ぼそりと呟かれた長門の突っ込みは無視し、提督の反応を待つ。自己紹介に関しても選択肢は一切出ず、こっちの思った行動がそのまま反映されている。

 いわゆるゲンドウポーズをしている提督は俺のいい加減な挨拶にどうしたもんかと考えているようだったが、しばしの後にどうやら結論を出したようだ。盛大なため息とともに。

 

「……改めて、横須賀へようこそ、上総」

 

 おお、割かしあっさり行ったか。まあゲームだし、と思っていたら神妙な顔をしたながもんが提督に声をかける。

 

「提督、いいんだな?」

「ああ。そもそも俺たちにえり好みなんぞしている余裕はない。そうだろう、長門」

「……是非もない、か」

「どこまで本当かわからんが実際に長門型だというならこんなに心強いことはない。上総、頼んだぞ」

「お任せあれ!」

「……不安だ」

「……不安ね」

 

 提督は提督で早まったかなー、みたいな表情してるし、ながもんむっちゃんは肩落としてるし、どいつもこいつも失礼な。

 憮然としているとゲンドウポーズに戻った提督が気を取り直し、眼光鋭く告げる。

 

「上総。我々にはあらゆるものが足りていない、そのことを努々忘れるな。陸奥、施設の案内と浮けるかどうかだけ確認、それから現状を軽く説明しておけ。本格的な教練は明日からだ。下がってよし」

「はっ! ……それじゃ、行くわよ」

「あいよー」

 

 なんか随分ピリピリしてっけど大丈夫なんかねこれ。執務室を出て廊下を進む、その途中でむっちゃんに質問する。

 

「むっちゃん、色々足りてないってどゆこと?」

「色々は色々よ。時間も資源も艦娘も、ね」

「時間と資源は現状がわからんから何ともだけど、少なくともながもんとむっちゃんがいて艦娘足りてないの? マジ?」

「……一通り回ったら教えてあげる。ほら、まずここが食堂よ」

 

 食堂、と書いてある扉をくぐるも、ちょうど昼と夜の間の時間のためか誰もいない。間宮さんが仕込みをしているかと思ったけどどうやら違うようだ。

 

「おー、ここがメシウマで噂の! あれむっちゃん、間宮さんは?」

「間宮? 彼女は食堂にはいないわよ?」

「……そいや、甘味処だったっけ。もちろん後で行くよな?」

「はいはい、分かったわ。とりあえず食堂は見ての通り、今は何もないわ。次行くわよ」

 

 むっちゃんとの鎮守府デート。いやあ、チュートリアルの段階からこんなサービス全開とかほんと神ゲーっすわ。

 次いでやってきたのは酒保。旧版だと課金アイテムが買える場所だったが、果たして今回はどうなっているだろうか。

 

「はぁい明石」

「おや、陸奥さん……と、どちら様で?」

「陸奥お姉ちゃんの妹上総でーす、よろしゅー!」

「……えーっと?」

 

 明石に適当な挨拶をしながら品ぞろえを確認しようとしたらシステム画面が立ち上がる。スワイプしていくと結構色々な課金アイテムが確認できるが、やっぱりバランスをぶっ壊すようなアイテムや装備は昔同様実装されていないみたいだ。トマホークとかICBMとかあったらなー。

 さらに右下にはクレカの連動ボタンと、使い過ぎに対する注意書き。こんなところは妙に現実的なんだな。

 ちなみに、旧版に売ってなかったアイテムとしては服とか下着とかも売っていた。おいおいおいいろんな艦娘の制服も売ってるぞなんだこれやっぱり神ゲーじゃないか。

 

「一応そういうことらしいわ」

「えーっと……長門型に三番目がいた、なんて話は聞いたことがないんですが」

「安心して。私もよ」

「ええー……」

 

 雑談している二人を尻目にとりあえず増設を買ってみようとしたが、どうもチュートリアル中は買えないらしい。課金アイテムとしては必須級なのは間違いないため、あとで必ず来ようと心にメモをする。

 ついでに色々来てみたい他艦種の服装もあとで思い出しておこうと心にメモる。

 

「ま、提督がオッケーしたから大丈夫よ」

「いいのかなあ……」

「いいのいいの。ほら上総、次行くわよ!」

「あいよー。んじゃまたねー」

「あはは……」

 

 というわけで次にやってきたのは工廠。イメージとしてはよくわからん機械が山積みになっている倉庫といったところか、勝手知ったるとばかりに奥へ歩いていくむっちゃんについていくと、何やらこっちに背を向けて溶接作業をやっている誰かがいた。タイミングよく作業が終わったか、フェイスマスクを外して一息ついているところに二人で近寄っていく。

 

「ふぅ……あれ、陸奥さん?」

「はぁい夕張。今度は何作ってるの?」

「いやまあ、提督の無茶振りがですね……と、初めまして?」

「どーもはっじめましてー。ながもんとむっちゃんの妹上総でーす。よろしゅー!」

「初めまして……え、妹?」

 

 夕張の疑問を無視しながら周囲を眺めていると、酒保同様システム画面が立ち上がる。メニューは整備、修理、改修、魔改造の四つか、ていうか魔改造ってなんだ。選んでみようとしたけれど、チュートリアル中はどれも選べないようだ、残念。

 某大丈夫な博士みたいなものだろうか、だとしたら博打してみるのも面白いかもしれないが、このゲームはオートセーブなんだよなあ……。

 

「気にしないで。ここでは使い方さえわかれば自分で装備の改修なんかもできるけど、とりあえずは夕張かさっきの明石に任せるといいわ。さ、次行きましょ」

「あいよー。んじゃーバリさんまったねー」

 

 なんだったのかしら、なんていう夕張の呟きを背に受けながら次の場所へと向かう。工廠の外に出て暫し歩くと、切り立った海岸線の側にある建物が目についた。

 

「次はあそこ、弓道場よ」

「おー、弓道場。つまりあれか、空母勢がいると」

「ええ、今日は空母に出撃予定もなかったし、多分何人かはいるんじゃないかしら」

 

 靴を脱いで弓道場へ上がる。ここまでくると、継続的に何かの音――おそらくは矢が的に当たっているものだとは思うが――が聞こえてきた。

 

「ああ、やってるやってる。はぁい、赤城さん、加賀さん」

「陸奥、珍しいわね。それと……新入りかしら」

「どーも初めまして、長門型三番艦の上総でーす、よろしゅー!」

「……三番艦?」

「気にしないで」

「ま、あなたがいいならいいけれど……一航戦、加賀よ。よろしく。それから、今弓を引いてるのが赤城さんよ」

 

 加賀と軽く握手をして、そのままこちらの会話に全く反応せずに弓を引き続けている赤城を見る。矢筒から取り出し、構え、射かける、矢は当たり前のようにど真ん中に吸い込まれ、刺さっていた矢を真っ二つに断ち割って同じく真ん中に突き刺さる。いや、いくらゲームとはいえとんでもねーな。

 

「加賀っちはあれできるの?」

「……何、その呼び方」

「あり、気に入らん? いやいや軽い冗談じゃないですかそんな睨まんといてーな」

「……ま、いいけれど。できるかできないか、で言えばできるけど」

「おー、さすが一航戦。見せて見せて」

 

 加賀は旧版と同じく割かし無表情で感情の起伏も薄いように見えたけど、やっぱり旧版と同じで実は結構ノリがよく煽ったりおだてたりに弱かった。

 ちなみに、矢は三本射られて三本とも前の矢を真っ二つに断ち割ってど真ん中に突き刺さった。いや、一航戦怖すぎでしょ。さも、こんなの出来て当然という空気を醸し出しながらも地味にドヤ顔をしている加賀さんへ拍手をしつつ、隣にいるむっちゃんに質問する。

 

「たはー……ねえむっちゃん、あれって空母はみんなできるの?」

「いやー、そうだったらいいんだけどねえ。あの二人はちょっと別格なんだよね」

「あら、飛龍に蒼龍」

「どーも、二航戦飛龍でーっす。よろしく!」

「同じく、二航戦蒼龍でーっす。よろしくね!」

「長門型、上総でーっす。よろしゅー!」

「……長門型?」

「気にしないで」

 

 説明を投げ捨てたむっちゃんはとりあえずスルーし、気になったことを聞いてみる。

 

「なあ飛龍、なんで向こうは半分で壁無くなってて海見えてんの? ながもんが砲撃でもしてぶっ壊したん?」

「ああ、あれ? あれはね――」

「あれは発着艦の練習をするための場所だからですよ」

 

 飛龍を遮る形で後ろから声を掛けられる。振り返ってみると、先ほど完全に一人の世界に埋没していた赤城がいた。

 

「赤城さん、邪魔しちゃって悪いわね」

「いいえ、周囲に気を配れていなかった私が悪いんですからお気にせずに」

 

 むっちゃんの謝罪に対し、わけのわからない回答が返ってくる。

 

「蒼龍、どゆこと?」

「私に聞かれてもわからないわよ。赤城さん、どういうことですか?」

「集中するのは大事ですが、それによって周囲の把握が疎かになってはいけません。違うところから砲弾が飛んで来たらどうするんですか?」

「え、どうするって……」

「我々空母は飛行甲板に一発でも貰えば途端にお荷物に成り下がります。そうならないよう、射る先とは別に周囲に気を配る必要があるということです」

 

 もしも陸奥さんやあなたが害意を持っていた場合、私は大破してましたと。いやまあ、言いたいことはわかるけどその理屈はおかしい。蒼龍もなんかすげー微妙な表情してるし。

 

「……ま、そんときは俺やむっちゃんが庇うよ。な?」

「……そうね」

「というわけで改めまして、ながもんとむっちゃんの妹上総でーっす。よろしく!」

「一航戦、赤城です。こちらこそよろしくお願いしますね」

 

 にっこり笑う赤城と握手し、ついで飛龍蒼龍とも握手、矢を射ていた加賀っちに一声かけて、次の場所へと向かう。

 弓道場を出て少し歩くと運動場、体操服っぽい恰好をした集団がランニングをしている。ランニングというよりは木刀振り回した鬼教官から逃げるべく全力で走っているようにもみえるが……うん、見なかったことにしよう。

 

「見ての通りここが運動場よ」

「結構広いんだな」

「常識の範囲内で好きに使っていいわ。次行くわよ」

 

 むっちゃんもきっと同じ結論を出したのだろう。ぽいいいいいという叫び声を完全スルーし、運動場を突っ切り隣にある建物へ入る。

 

「ここは道場よ。トレーニング室も併設してあるから、運動場と同じく常識の範囲内で好きに使いなさい」

 

 畳の道場が一つ、隣にはむっちゃんの説明通り筋トレ器具やサンドバッグが吊るしてあるトレーニング室、中にはなんとボクシングのリングまである。

 

「設備すげーな。むっちゃんは筋トレとかすんの?」

「時々やってるわよ。長門はもっとやってるけどね」

「へぇ、ながもんはわかるけどなんか意外だな」

「失礼しちゃうわね」

「道場とかは誰か使ってんの?」

「時々誰かが使っていることはあるわね。私は使わないけど」

「ふーん」

 

 そんな話をしながら一通り中を見回ってから外へ。あと残っているのは演習場と風呂と甘味処ぐらいだろうか。

 しっかし、いくら横須賀とはいえ長門型が三隻に一航戦と二航戦に明石と夕張、さっき走ってたのが全員とも思えないけど駆逐やおそらく軽巡重巡もそこそこいるだろう。いくら何でも戦力揃いすぎじゃなかろうか。旧版は初期艦が駆逐一体だけだったのに。

 だとすると俄然海域の攻略状況が気になってくる。これだけ揃っていれば鎮守府海域程度ならどうにでもなるはずだが、仮にもゲームなら開始時点からいきなり海域が攻略されているというのも考えにくい。

 

「うーん」

「どうしたの?」

「いんや、こっちの話。海域の話とかって後でしてくれるんでしょ、そんとき確認するわ」

「そ。それじゃ最後は演習場よ。とりあえず浮けるかだけ見とけって言われているし、それだけ確認しましょ」

「お、いよいよかー」

 

 コンクリで固められた長い岸と、その先に色々浮いてるだだっ広い海域が演習場一円ということか。端っこの方では駆逐艦――ポーズしてシステム画面から確認してみたら吹雪だった――が障害物の間を走り抜ける機動訓練を行っている。

 

「さて……それじゃ、手を握って?」

「お、おう」

 

 ためらいもなく岸から海面に飛び降りた陸奥の手を握る。

 

「沈まないとは思うけど一応ね。それじゃ、立ってみて」

 

 その言葉と同時に視界が切り替わりシステム画面が出てくる。何々、チュートリアルその一、浮いてみよう。クリア条件、海面に浮く。ワンポイントアドバイス、バランスに気を付けよう。

 

「親切なのか不親切なのか……」

「?」

 

 意を決して海面に片足を付ける。地面のように固い、なんてことは当然なく、表現としては柔らかいマットレスが近いだろうか。とりあえず沈まないことが分かったのでもう片方も付けてみる。うん、とりあえず浮かぶことはできそうだ。

 システム画面上ではミッションクリアの表示。なんか報酬貰えるみたいだからあとで貰っておこう。

 

「とりあえずは大丈夫そうね」

「なんだか不思議な感覚だ」

「すぐ慣れるわよ」

「そうじゃないと困る」

 

 むっちゃんの手を握ったままぐるりと周囲を見回してみる。それだけの事なのに足元が動き、バランスが崩れ転びそうになる。

 

「っとと、あぶね……ちょっと頭動かしただけでこれか。なあむっちゃん、射撃ってこの状態でやるんだよな?」

「そうね、というよりもこんな立ち止まった状態で撃てることはむしろ少ないわよ? 基本は動きながらが多いもの」

「マジかよ、ちょっと撃つ真似してみてくんない? 撃たなくていいから、動作だけ」

「……いいわ。ちょっと離すわよ」

 

 むっちゃんが俺から少し離れたところでどこからか艤装を展開し、砲身を沖に向かって動かす。

 

「全砲門、開け! 撃てーっ!!」

 

 右手を大きく振り、声を張る。その瞬間、砲身から爆音とともに砲弾が飛び出す幻想が見えた。

 

「……とまあこんな感じだけど」

「それって手は動かす必要あるの?」

「んー……人によるかしら。私は動かしたほうが撃ちやすいのよ」

「意味がなくはない、のか。どれ――全主砲、斉射! 食らいやがれ!!」

 

 むっちゃんに倣って手を振ってみて、バランスが崩れてすっ転んだ。ばっしゃーん、と海面に叩きつけられ全身ずぶ濡れになった後、近くまで来たむっちゃんに引き上げてもらう。

 

「……マジかー」

「ちょっと、大丈夫?」

「……これは要練習だわ」 

 

 むっちゃんに支えられながらステータス画面を再度見る。これあれだな、最初に見た筋力とかもしっかり鍛えないとダメな気がしてきた。海の上でバランス取るには慣れもそうだけど並みの体幹じゃ効かんぞ。

 装備の軽い駆逐とかならまだマシかも知れんが、大型戦艦とかの弊害はこんなところにも出てくるのか。いや、海上で弓を撃つ空母よりはマシか、正直できる気しないぞ。

 

「……ここまで作りこむかね、ほんと」

「何のこと?」

「こっちの話」

 

 後でマニュアルをしっかり見るとして、とりあえずは某サクセス同様ランニングでスタミナ上げかねと内心嘆息した。

 




余りに強すぎて逆に崇拝の対象になった?
→勝率0.1%のオウガイさんさいっきょ

ステータス?
→整合性考えるのめんどいからネトゲ風ステータス数値紹介はやんない

ログアウトさん?
→いわゆる掲示板形式を含む現実世界ネタをやる予定が無いから消えてても消えてなくても一緒だよね


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3話

怒られたらR-15タグ付けます


 そういや間宮さんの甘味処に行くって話はどうなった。

 

「そんなずぶ濡れの状態で行けるわけないでしょ」

 

 それもそうか……ん?

 

「明日連れて行ってあげるわ。まずはお風呂よお風呂」

 

 お風呂イベキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

 

 

VR艦これ

 

 

 

 いよいよR18の本領発揮、とはいえ実質チュートリアルの段階でお風呂イベント発生とか本当に神ゲーっすわ。

 顔がにやけていくのが止められない。いやー、好感度イベントとか一切ないままむっちゃんと風呂とか姉妹艦サイコー!

 

「……何よ?」

 

 こっちの不躾な視線を感じたか、むっちゃんがいぶかし気に見てくるがそんなのは関係ない。こっちはちゃちゃっと脱いでいる、あとはむっちゃんの脱衣シーンをこの目に焼き付けるだけだ。自分の体? そんなのは後だ後、今はむっちゃんに全神経を注がなくてどうするんだ。

 ちなみに、このゲームに当然実装されている●RECボタンは神速で押している、抜かりはない。準備してある容量は最新の100ペタバイト、後々全方位から見直すことができるフルアングルモードでの録画は義務である。

 

「なんでもないよ?」

 

 うーん眼福眼福、あらゆる二次元スキーが格闘し続けてきた謎の光さんとか防御力高すぎ髪の毛さんとかそういった敵がいないってなんて素晴らしい。こっちに背を向け下着を脱いでいくその動作も滑らかすぎてやばい。

 

「さて……何してんの?」

「ありがたやーありがたやー」

「いや、何拝んでるの?」

「だってでかいし。おっきいし。ばいんばいんだし」

 

 全裸になってこっちに向き直った、その際にむっぱいがぶるんと揺れたのを見てついつい拝み倒してしまうのも無理はない。俺の発言になんとなく腕で前を隠すその動作も結局でかすぎて全然隠せておらず、むしろ煽るだけになっているのがたまらない。

 

「ちょっとやめってば」

「いやー、それはちょっと聞けない相談というか」

「ですよねですよねー。一体何食べればそんなドスケベ・ザ・エッチおっぱいになるのか、みーんな知りたがってるのに教えてくれないんですよ」

「漣!? いったいいつの間に……っていうか何よ今の!? 別にエッチでもスケベでもないわよ!!」

 

 いつのまにやら俺の隣には漣が同じように跪いてむっぱいを拝んでいた。音も気配も一切なかったんだけど、気にしたら負けだ。

 

「やーやー初めまして妹さん、第七駆逐隊の漣です。お姉さんと違ってひんぬーですがどうぞよろしく」

「こちらこそ初めまして同志、むっぱいに比べれば天と地ですがよろしゅー」

「いえいえいえいえ、同志のも十分すぎるほどだと思いますよ?」

「まあ、小・中・大で言えば中と大の間ぐらいという自覚はあるが、あれはどう見ても特大だからな」

「そうですねえ。特大ですよねえ。ぐぬぬ……なんだか腹が立ってきた、けしからん! けしからんですぞー!」

「ちょ、ちょっと漣!? 止めてってば!」

「むむむ、なんとうらやまけしからん! むっぱいを独り占めするなんて許さんぞ!」

「きゃ、ちょっと! 上総まで!? もう! 止めてってば!」

 

 なんという素晴らしい感触か、片手では到底収めきれないほどの大きさでありながら手のひらに確かに返ってくる抜群の弾力、にも拘わらずしっとりと吸い付いて離さないという二律背反を兼ね備えた――

 

「もう! 止めてって言ってるでしょ!!」

「あだっ!!」

「あいたーっ!」

 

 さすがにやりすぎたか、むっちゃんに拳骨を叩き落され漣と二人揃って頭を抱えて蹲る。

 

「ぐおお……」

「うっくぅ~、なんもいえねぇ~……」

「……何をやっとるんだ三人して」

「あ、長門」

 

 痛む頭を抱えながら涙で滲む視界を向けると、むっちゃんから事情を説明してもらったのか、心底呆れた表情でこちらを見下ろすながもん(全裸)と視線が合った。いつの間に来て脱いでいたのかはわからないが、パッと見でわかるほどに鍛え抜かれた全身と堂々とした佇まいからエロさが全く感じられない。むっちむちのむっちゃんとどこでどうして差がついた、コレガワカラナイ。

 

「……程々にな」

「いやー、反応が面白いからついつい」

「ですよねー。陸奥さんは色々余裕ぶってるわりに実は意外とピュアな点がギャップ萌え萌えなんですよ、すっげー分かりますー。ねえ、火遊びはやめてってば!」

「さすがは同志、よくわかっているじゃないか。むっちゃんはこのお色気ムンムンの中に純情さが混在している奇跡の存在なのだよ」

 

 がしっ、と右腕で漣の腰を抱え込み、左手で顎を軽く持ち上げ、互いの吐息が感じられるほどに顔を近づける。

 

「ふふ……おねーさん、本気になっちゃうぞ……?」

「むっはー! キタコレ!! 陸奥さん、宝塚ですよ宝塚!!」

「なーっはっはっは!」

「ひゃーっはっはっは!」

「あ、あんたたちね……」

「お前らな……」

 

 二人して馬鹿笑いしている俺たちを見るながもんとむっちゃんの視線が冷たい。しかし、改めて見てみるとながもんは腕を組んで下から乳を持ち上げているにも関わらずむっちゃんより胸が小さいように見える。いや、決して世間一般的に見て小さいわけではないのだが。

 

「でもながもんよ、ながもんは妹のが自分よりでかいことについて思うところはないのかね?」

「いや……普通ないだろう?」

「いやいや! それはおかしーですよ長門さん! なんで潮ばっかり! 潮ばっかり!! 昨日もブラが合わなくなったとかって言ってたんですよ!? 二か月前にも同じこと言ってたのに!! むきー!!」

「……いや、なんというか、すまん」

「……長門もこの間買い替えてたわよね」

「おい陸奥!?」

 

 背後からの突然の裏切りにながもんがうろたえる中、漣は漣で大きく目を見開き、俺の胸に突っ込んできた。

 

「うわーん! 同志ー!」

「おお、よしよし。ながもんよりちっさい俺のでよければ堪能してくれたまえ」

「ちょっとよこせ! 潮より大きくなるぐらい!」

「いでででで!」

「何やってるんだか……先入ってるぞ。陸奥、行くぞ」

 

 その後、風呂でどうにか言いくるめて背中を流すついでに義務とばかりに胸を揉もうとしたらながもんに腕ひしぎ食らったり、漣に背中を流してもらったら義務とばかりに背後から責められて若干気持ちよくなってしまったり、後から入ってきた愛宕と一緒にぱんぱかぱーんやったら愛宕の胸がむっちゃんと張り合うレベルでやばかったり、ついでにそれを見ていた漣の目からハイライトが消えていたりもしたけど、詳しくはわっふるわっふる。

 

 

 

 

 

 色々すったもんだあった風呂を上がり、長門型三人プラス漣とかいうよくわからん四人で食堂で飯を食い終え――胸をでかくしたければたくさん食えとながもんに煽られた漣が食いすぎで動けなくなったから放置してきたが――寮へと帰ってきた。

 一応姉妹艦ということで二人と同室になったのだが、ベッドはまだないということなので今日はソファで寝ることになった。むっちゃんの布団に入れてくれって言ったらむべもなく断られたからね、仕方ないね。

 

「はあ……なんだかどっと疲れたわ」

「うへへ、マッサージする?」

「いらないわ」

「つれないなー……まあいいや。んじゃ、寝る前に鎮守府の状況教えてよ」

「そういえばそんな約束もしてたわね……それじゃ、ざっと説明してあげる」

 

 ベッドに腰かけたむっちゃんが話してくれた内容を脳内艦これwikiに照らし合わせると、攻略状況的には南一号作戦を終えた、つまり鎮守府海域をクリアしたあたりであることが分かった。とはいえそもそも艦娘の数が足りないため、しょっちゅう侵入されていて完全に制海権を抑えているというわけでもないとのことだ。

 ゲームとしては1-1から始めるべきではないのかとも思うが、もしかしたら戦艦や正規空母なんかを選んだ場合は2-1スタートになるのかもしれないな。とはいえ残念ながらセーブデータは一つしか作れないので駆逐や軽巡でやり直すのはできなくもないがめんどくさいからやめておこう。

 それに加えて解放した海域の制海権維持という今までにはなかった要素が追加されていたりもする、これは少数精鋭の脳筋ゴリ押し主義をさせなくするための措置だろう、クッソ厄介な仕様だが、現実に即してみればさもありなんといったところか。

 

「なるほどねえ。押されっぱなしだったのをどうにか多少は押し戻したけど、こっちの数が全然足りなくてジリ貧、っと」

「ええ。どうにか維持はできているけど哨戒網が構築できないおかげで完全に排除はできないから、結局のところ本当に沿岸での漁ぐらいならともかく、民間船は外に出れないのよね」

「それってヤバくね?」

「ヤバいわよ。何よりも油が足りないわ、今はまだ何とかなってるけどね」

 

 メタハイやらなんやらでエネルギー資源そのものの輸入は減っていた日本ではあるが、艦娘はどうしたって動くのに油が必要になる。ブラウザ版にはタイムリミットはなかったけど、この状況がVR版でのタイムリミットなんだろう。とすれば海域を開放すればタイムリミットは伸びると思いたい。

 

「数かあ……」

「それに横須賀にばっかり艦娘増やすわけにもいかないしね。どのみち、石油を第一に考えたら呉や佐世保にもっと増やさないとだし」

「なるほどね。建造すりゃいいってもんでもないのか。その割に長門型なんて作ってるけど」

「いやあれは本当にエラーだったのよ。素材量的にはできて軽巡クラスの量しか入れてないのに」

「マジかい」

「おかげで建造ドックは全部封鎖して調査中よ」

「……俺のせいじゃねーし」

 

 とすると遠征を行う軽巡駆逐は他の鎮守府に任せてこっちはガンガン海域を開放していくしかないだろう。せめてブラウザ版でいうとこの2-4までどうにか超さないことにはタンカー護衛なんかもできなかったはずだ。

 

「攻める、って言っても哨戒がね……」

「そうは言っても攻めなきゃどうにもならんくね?」

「それはそうなんだけどね……どのみち決めるのは提督だし」

「そこは秘書艦なんだし上手いこと篭絡しなきゃダメでしょ」

「いや、しないわよ」

 

 まあ、艦娘が勝手に戦略考えて提督を手のひらで転がしてたらそれはそれで大問題だしな。してたらしてたで……いや、この場合は提督にNTRれたことになるのか? それはそれで興奮するぞ。何せ今の俺には生えてないからむっちゃんをひーこら言わせるのはきっと中々に大変であるからして。

 明石の好感度上げればエロアイテム作ってくれるかな、それとも秋雲の協力も必要だろうか、エロ同人みたいに。

 

「まあとにかく、現状はこんな感じ。わかった?」

「万事オッケーバッチコーイ」

「……不安だわ」

「終わったか。上総、明日は朝からテストだ。ちゃんと起きろよ」

「おねーちゃん起こして?」

「41cm砲で良ければな」

「あかん死ぬゥ」

 

 実際はゲームだから起きれないなんてことはないし、寝なかったからと言ってどうこうなるものでもない。疲労度の面からあまり起きてることが推奨されないのは現実と一緒だが。というか夜は寝たことにしてスキップできるしな。そんなわけで寝入ったながもんむっちゃんのすやすや寝息をしばし堪能したらシステム起動、夜スキップ。夜這いはまあ、もう少し好感度上がってからだな。41cm砲で迎撃されたらマジで死にかねん。

 スキップと同時に起床ラッパが鳴り響き、ぱっちり目を開けたむっちゃんとむっちゃんに布団から引っぺがされるながもんを尻目に歯を磨く。

 

「ながもんのが朝弱いのね、意外」

「……私としては上総が起きてることの方が意外だわ」

「失敬な、こう見えてちゃんとやるときゃやるんだぞ」

 

 実際はチートなんだけどな。中の人は朝なんか永遠に来なければいいと思っているタイプの人間だし。

 ちなみに、このゲームには他にも入渠スキップと移動スキップが搭載されている。入渠については提督がバケツ使ってくれればいいけどそうじゃない場合戦艦や空母は下手すりゃ一日以上風呂に入りっぱになっちゃうから、ゲーム内時間は過ぎるけどさすがにそこはスキップできるようになっている。もちろん、たまたま同じタイミングで誰かと入渠になったら満足するまで堪能したうえで途中からスキップできる神仕様だ。

 移動スキップに関してはゲームが進めば当然遠方の海域での戦闘になってくるが、現実世界を模している以上そこには当然ブラウザ版になかった移動時間というものが存在してしまうわけで、じゃあ例えば前にあった大型イベの欧州救援とかってなった場合、最終的にそっちまで移動する必要が出てくるけどもそうするとその間何週間も移動し続けるだけになってしまい、それはさすがにどうなのよということだ。だからゲーム内時間は過ぎるけどもスキップできるという仕様になっている、これはどこの海域でも同じという神仕様。閑話休題。

 

「長門、ほら、しっかりしてってば」

「うー……」

「なにこのながもんカワイイ」

「ながもん言うなー……」

「毎朝こんななん?」

「毎朝こんなもんよ。明日からはあなたにも手伝ってもらうわよ?」

「マジか! 朝からながもんにセクハラし放題とか!!」

「……ま、私が被害にあうわけじゃないから好きにして」

「姉を売るなー……」

 

 その後は洗面台までむっちゃんに引きずられ、溜められた水の中に容赦なく顔を叩きこまれるながもんがギャーギャー言いながら朝の支度を整えていくのをひとしきりからかって、三人で朝飯。どこか空いてる席ないかなと探していると、昨日死にかけてた漣が七駆の面々と食べてる隣が開いてたのでそっちに行く。

 

「やっほー同志漣、おはよーさん」

「おや同志上総、おはよーごぜーますですよ……あり、おっぱい姉妹は一緒ではないので?」

「ああ、それなら……」

 

 朝っぱらから飛ばしている漣だったが、残念ながら我が姉二人は今お前の後ろで仁王立ちしているんだがな。隣の朧が殺気に当てられて箸取り落としてるし、気付いてもよさそうなもんだが。

 

「誰がなんだって?」

「おぅ……」

「あらあらあらあら漣ちゃん? 食が進んでいないわよ? それじゃダメねー、成長できないわよ? どこがとは言わないけど。ねえ、長門?」

「そうだな、やはり体の成長にはたくさん食べることが大事だ。どれ、おにぎりを分けてやろうじゃないか。遠慮せずに食え」

「もがもがもが!!」

 

 あーあーあー、ながもん仕様のおにぎりを三つも口に突っ込まれてら。口は災いの元とはよく言ったもんだ、くわばらくわばら。

 

「死ぬんじゃね?」

「この程度で死んでたまるか」 

 

 まあ、漣に三つくれてやったのにも関わらずながもんのお盆には馬鹿でかいおにぎりが五個乗ってるし、戦艦基準で考えたらそりゃ死なないとは思うけども……。

 

「さ、漣ちゃん!? しっかり!?」

「…………」

 

 白目向いてる漣とその背中を叩く朧、二人を尻目に着席したながもんは悠々とその馬鹿でかいおにぎりを頬張るのだった。

 

 

 

 

 

 

 さて、朝からなんか色々あった気がするが、とりあえずながもんの指示通り演習場へ向かう。そこにはながもんとむっちゃん、はいいとして何故か一航戦二航戦その他もろもろに加えて提督までが揃っていた。

 

「遅かったな」

「いや、マルキューマルマル開始って言ったよね、今マルハチゴーゴーなんだけど」

「言ってみただけだ」

「心臓に悪いからやめれって」

「はっはっは、悪い悪い。だが、緊張は解けただろう?」

 

 確かにどえらい驚かされた分緊張はすっ飛んだけどさあ……。なんか素直に認めてやるのは癪だ。

 

「してねーっての」

「そうか、まあそれならそれで構わん」

 

 笑顔のままであることを見るにどうやら見抜かれているようだ。ちくしょう、明日の朝覚えてろよ。

 

「さて、さっそく始めるぞ、まずは航行からだ。駆逐艦、吹雪!」

「ひゃ、ひゃい!!?」

「……そう緊張するな。ここのところやっていた航行練習をやってもらう、ただし速度は微速で、だ。上総、お前は吹雪に付いていけ」

「りょーかい。吹雪よろしゅー」

「よ、よろしくお願いします……」

 

 ながもんたちが見守る中着水し、吹雪の後ろに着く。するとシステム画面が立ち上がり、チュートリアルその二のウィンドウが浮かび上がった。それに合わせて視界に車のメーターパネルのような表示が出る。速度、燃料、弾薬、風速、波、方角……こりゃすごいな。

 

「……というか、これ全部見ながらなおかつ相手に砲撃しなきゃならんの?」

「何をぶつぶつ言っている。始めるぞ」

「……ま、取り合えずやるだけやってみますかね。車と同じでその内慣れるだろ」

「航行テスト、はじめ!」

「駆逐艦吹雪、行きます!」

「戦艦上総、抜錨!」

 

 何々、パネルに表示されているエンジンキーを捻り、スキーの要領で前に体重をかけることでスタートできると。速度についてはある程度体重の掛け方で操作、大きな変更についてはギアを入れ替える必要あり、クラッチ操作のいらないマニュアル車みたいな感じか。ギアはパネル上にアケこれの旋盤があるのでそれをカーソルで動かすイメージと。今はチュートリアル中なのでロックが掛かっているが。

 

「お……おお!」

 

 動いている、ただそれだけのことなのにとても感動する。それと同時に足元が波で不規則に揺れて、思っていたよりもバランスを取るのが難しい。

 

「か、上総さん!?」

「おおっと、あっぶね」

 

 そして足元にばっかり注意していると前方不注意でこうなると。いやはや、免許取りたての若葉だってここまで前見ないってことはねーぞ、こりゃ難しいわ。

 

「……大丈夫ですか?」

「わりわり、もう大丈夫。多分」

「た、多分……」

 

 吹雪の表情がひきつるが、こればっかりは慣れるしかないだろう。ヒントにもあった通りスキーと同じ要領だ、足を肩幅程度に開き、へっぴり腰にならないように背筋を真っすぐにし、そこから少し膝を落として軽く前傾姿勢を取る。これが基本姿勢、内ももと体幹でバランスを取り、前方への体重はこの前傾を深くすることで調整だ。

 

「えっと、もうすぐで少しだけ左に曲がりますよ」

「あいよ」

 

 左、左か。スキーを思い出せ、左に曲がるためには右に体重を掛ける、だな。前方にポールが見える、そこを左に抜けていくんだろう。吹雪が左に動いたのに合わせて右足を踏み込み体重を掛ける。

 

「お、おお……おおおっ!?」

 

 確かに曲がった、曲がれた。基本的な考えは間違ってなかった、間違っていたのは掛ける体重の分量とでもいえばいいか。ほんの少しで良かったはずの体重移動を思いっきりやらかしたことで車で言えば超急ハンドル、直角に近いレベルで体が曲がり、上半身が遠心力に耐えられず大きく煽られ、左足が浮いたうえに右足が伸び切る。全体重が右足に乗った状態でとどめとばかりに波に右足を攫われた。つまり、思いっきりすっころんだ。

 

「おわたー」

「うひゃあ!」

 

 ばっしゃーん、と景気よく水柱が立ち上る。いやあ、これもスキーと一緒だな、転んで覚える。うん、頑張ろう。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「あっはっはっは!」

「……ええー」

 

 吹雪はぷかぷか浮きながら大笑いをする俺をドン引きした様子で眺めていた。

 

 

 

 




勝手な設定・想像

上総:88
長門:92
陸奥:96

何がとは言わんが


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4話

大本営からは怒られなかったので、今後もお風呂イベント()は入れて行こうと思います。


 

 

 あれから数時間、もうすぐお昼になろうかという頃合いか。提督を筆頭としたやじ馬たちは俺が盛大にすっころんだのを確認してとっとと帰ってしまった、薄情どもめ。それはさておき、まだ原速にすらなってないわけだがとりあえず微速の段階で転ぶことはなくなった。簡単なコースで慣れただけとも言えるが。

 

「ふむ……もういいだろう。昼食後に今度は砲撃テストだ。しっかり食っておくこと、後燃料も補給しておくように」

「あいさー。吹雪、長々付き合ってくれてあんがとね」

「い、いえ。こちらこそ」

「よっしゃ飯だ飯。二人も一緒に行こうぜー」

「え、ええ? 私もですか?」

「そりゃそーだ。付き合ってくれたお礼だ、アイス奢っちゃる。ながもんが」

「私か!?」

「俺まだ給料貰ってねーし」

 

 実のところセットしてあるクレジットからの自動引き落としで割かし好き放題買えるのはマニュアルで確認済だが、あくまで自分に使用するものに限られるのだ。もちろんゲーム内で入手したお金ならながもんにアイス買ったりむっちゃんにメイド服買ったりできるんだけど、リアルマネーで買ったメイド服は自分しか着れないということだ。

 

「……貸しにしておいてやる。さっさと風呂に行ってこい」

「へーい。ほら吹雪、行こうぜ」

「あ、はい……」

 

 すっころびまくってびしょ濡れのまま食堂に行くわけにもいかないのでながもんに言われた通り風呂へ向かう。ついでに会話で体力を削っておいた吹雪をサラッと誘うことで一切怪しまれずにお風呂イベントを追加する、これぞできる男。あ、吹雪は小さかったです。どうすれば大きくなるか聞かれたからむっちゃんに教えてもらえと言っておいた。

 

 

 

 

VR艦これ

 

 

 

 

 俺、ながもん、吹雪という三人で飯を食う。むっちゃんは昨日やらなかった分ながもんの代わりに秘書艦の仕事で遅れているとのことだった。そういや昨日むっちゃんは午後からずっと俺の案内して一日終わってたもんな。

 ずるずるとラーメンを啜りながら、そういえば俺も同じ長門型だけどももしかしたら提督に狙われる可能性があるのかと思いつく。さすがにそれはちょっと難易度が高いが、ながもんむっちゃん含む四人でならばむしろアリなのではと思い直す。そのためには秘書艦をやって提督と話す必要があるわけだが。

 

「……なあながもん。俺もその内秘書艦やんのけ?」

「さあな、提督次第だ。やりたいか?」

 

 まあ、今のところはいいだろう。とりあえずいろんな艦娘とお風呂イベントをこなすことが最優先だ。というわけで拒否る。

 

「全然」

「即答か……まあいい。とはいえ、我々戦艦や空母は旗艦になることも多いし遠方の泊地で疑似指揮官をやることもありえるから、そういった面から言えば秘書艦をやっておくのは悪いことではないぞ?」

 

 ふむ、ながもんの言うことも一理あるか。戦闘中の判断はともかくとして、遠隔地での疑似指揮官ともなってくると提督の方針をちゃんと理解したうえでの行動が必要になってくるだろうし、それを知るためには秘書艦をやるのが手っ取り早いのは間違いないだろう。

 とはいえ今はそんなことよりも海の上を滑ってるのが楽しいし、この後やる砲撃なんかもっと楽しみだ。頭を使うのはその内でいい。

 

「ま、その内ね」

「そうか」

「俺よか吹雪のほうがいいんじゃね? 秘書艦」

「うぇえ!? 私ですか!?」

「そーそー。俺と違って真面目そうだし。なあ、ながもん?」

「ふむ……どうだ吹雪、やってみるか?」

「え、ええっと……か、考えておきます……」

「あっはっは、提督振られたなー」

「い、いや! そういうのじゃなくてですね!?」

 

 うーん、真面目な奴はからかうと面白い。顔を青くしてわたわたする吹雪を尻目にラーメンを啜る。ながもんは腕を組んでうんうんと頷きながら吹雪に役に立たない助言をする。

 

「まああれだ、こいつの言うことは半分ぐらいで聞いた方がいいぞ」

「それ、乗ったやつの言うセリフじゃないよね」

「うう、お二人ともひどいです……」

「悪かったって。後でながもんがアイス二つ奢るから許したってや」

「こいつの給料から天引きしておくから好きなだけ食べるといい。三つでもいいぞ」

「おいィ?」

「私のログには何もないな」

 

 ながもんまさかのブロンティスト説。

 

 

 

 

 昼飯を食い終えて俺はながもんと演習場に戻ってきた。時間はヒトサンマルマル、砲撃演習開始の時間だ。ちなみに吹雪は離れたところにある演習場で航行訓練なので今はいない。

 

「さて、あそこに的が見えるか?」

 

 隣に浮いたながもんが指さした沖合に視線を凝らそうとするとシステム画面が立ち上がり、チュートリアルその三が始まった。初めての射撃! うん、知ってた。

 

「ですよねー」

「何がだ?」

「こっちの話」

 

 午前中散々世話になったパネル画面にFPSのような円形の照準マークが追加された。それに合わせてながもんが指さした方向に複数の的が浮いているのが確認できる。カーソルを合わせてみると『的』と浮かび上がった。まんまじゃねーか。

 

「見えてるよ。三つ並んでる」

「よし、まずは何も考えずに狙って撃ってみろ」

 

 狙って撃つ、か。ながもんの指示に呼応して砲撃ボタンがアンロックされる。照準を合わせたままカーソルを砲撃に合わせ、押し込む。

 

「どわっ!?」

 

 一応衝撃が来ることは想定していたものの予想を遥かに超える轟音と反動で浮き上がった砲身につられるまま後ろにぶっ倒れる。

 

「どうだ?」

「……こいつはすげぇや」

 

 ながもんに引っ張られて立ち上がる。当たり前だが的は何もなかったかのようにそのままだった。

 

「どこに飛んでった?」

「明後日の方向だな」

「ですよねー……とりあえずながもんお手本見せてよ」

「いいだろう、少し離れていろ」

 

 言われるがままに少し離れ、的に砲身を向けて仁王立ちしているながもんをじっくり眺める。

 

「ふぅー……全主砲、斉射!」

 

 俺と同じ41cm主砲が火を噴く。離れていても腹腔を穿つ重低音が水面を揺らし、けれどもながもんは反動にびくともせず、右手を前に突き出した体勢を保っている。

 僅かな後、三つあった的が二つ同時に爆散する。威力的に砕け散るのはおかしいことではないけども、二つ同時にぶち抜くのは十分驚嘆に値するだろう。

 

「……どうだ?」

「いやはや、見直したよお姉ちゃん」

「そうか。よし、あとは見た通りだ。頑張れよ」

「……マジかよ、なんつーかこう、もう少し何かねーの」

「……頑張れ」

「脳筋ゴリラめ」

 

 あれか、ズギャーンとかピシャーンとかそういう系でしか説明できない感じか。

 

「とりあえず、カッコいいポーズを決めればいいことは分かった」

「……そうか」

 

 何か言いたげなながもんを無視し、残る一つの的に向き直る。照準を合わせ、砲撃。

 

「撃てー!」

 

 さすがに二度目ともなれば反動で吹っ飛ぶこともない。無いのだが、やっぱり砲弾は的にかすりもしなかった。

 

「……撃つのが早い。砲身がしっかり目標に向く前に撃ったらそりゃ当たらん」

「マジか、そんなとこまで再現してんのかよ」

 

 ゆっくり撃つ、を意識してもう一度照準を合わせる。すると、白色だった外枠が徐々に黄色、緑と変化していく。それに合わせてわずかに左右の砲身が位置を微調整しているのがモニターパネルにも表示された。

 

「……つーかアケこれじゃねーか」

 

 よくよく照準カーソルを見るとただの円ではなく二重円となっている。外から内へ、定期的に円の光が移動していくが、アケこれに準拠するなら中の円が光った瞬間が狙い時だ。

 

「タイミングを合わせて……食らえや!」

 

 三度目の砲撃。タイミングは少しずれてしまったが中心をビタで狙っていない、むしろあえて少し早めに撃ったからきっと当たるはず。

 的の近辺に砲弾が降り注ぎ、水柱とともに的が視認できなくなる。モニターパネルからも的の反応が消えたので、隣で双眼鏡を覗いていたながもんに判定を任せることにした。

 

「ふむ……至近弾」

「つまりハズレか?」

「まあ、当たっていないという意味ではハズレだな。明後日の方向に飛んでいくよりはよほど良いが」

「マジかー」

 

 完全にアケこれ準拠ならこの程度の照準でも当たったはずだが、VR版はシビアなのか、あるいは練度等も関係があるのだろう。どのみち、当たらないならばもっとタイミングを合わせないといけない。再装填完了の表示と同時に復活した照準を的に合わせ、タイミングを計る。

 

「ステンバーイステンバーイ……発、しゃあ!?」

 

 砲撃ボタンを押したタイミングはドンピシャ、これは間違いない。だが、その直前波によって足場が微妙に崩されたせいで狙いは大きく外れてしまった。当然ながら砲弾は明後日の方に飛んで行ってしまう。

 

「マジふざけろし。さらに波までケアしなきゃなんねーのか」

「はっはっは、海とはそういうものだ。どうだ? なかなか難しいだろう」

「クソゲーなんだけど?」

「言っておくが、止まったまま撃つことなんてほとんどないからな? 普段は移動しながら移動している相手を狙って撃つんだぞ」

「そういやそうだったな……」

 

 止まってる的ですらこのザマの状態で動いてる相手に当てるとか不可能じゃね。もはや近づいてぶん殴ったほうが早いんじゃないか。

 

「その気持ちはわからんでもないが、一発殴ってどうにかできる相手に我々の速度で追いつくのは相当にしんどいぞ」

「あー……そりゃそうだよなあ」

「一つだけ言えるのは、とにかく焦らないことだな」

「へーい……」

 

 波でバランスを崩すことによりモニターパネルにあった波の表記が解放される。細く白い線が視界の波に沿って大体一定の間隔で動いている、太さが波の高さを示しているようだ。ニュースでよく見る何メートルとかそういう表記じゃなくて周囲の波の様子だったとはさすがに予想外だが、これは慣れれば随分助かる機能だろう。

 

「波が被らないかつ照準が一番絞れるタイミング……今だ!」

 

 再度の砲撃。現状出しえる最高の一撃、これで外すようなら後はもうもっと近距離から練習するしかない、そんな一撃。轟音から僅かに遅れて砲弾が的の付近へと降り注ぐ。

 

「ながもーん!」

「ふむ……おお、命中だ。おめでとう」

「よっしゃ! 終わった! 第三部完! これであとは出撃して実戦するだけだな!」

 

 チュートリアルその三、無事クリア。クリア報酬としてゲーム内通貨の一である軍票をもらう。ちなみにその二はリアルマネー。それはともかく、移動に砲撃と最低限必要なチュートリアルは終えたはず、これで出撃が解放されるに違いない。

 だが、喜びもつかの間、ながもんに冷や水をぶっかけられて気分が一気に盛り下がる。

 

「んなわけないだろう、まだまだ出撃は当分先だぞ」

「え、マジ?」

「マジだ。まだまだ覚えることは山ほどあるぞ、とりあえずは艦隊航行と陣形変更に移動射撃、対空砲火、偵察機の運用と弾着射撃、それと回避機動もだな」

「……多くね?」

 

 そんなんやりながら覚えればよくねえか、と思うが、ながもん的には違うらしい。

 

「ああ、多いぞ。だが、最低限だ。考えてもみろ、例えば単縦陣で航行中に敵艦載機発見の報が届いたとして、その場合どうする?」

「どうする、ってそりゃ迎撃だよな」

「そうだ、迎撃だ。そのためには即座に輪形陣へと組み換えて対空砲撃を行うわけだな。その際に陣形変更でもたついてみろ、どうなるかは考えるまでもないだろう」

「まあ……壊滅するかも知れんけど」

「分かればよし。とはいえなんだかんだ貴重な戦艦級を遊ばせておく余裕もない。まずは陣形を詰め込むぞ」

「うへぇ……」

「どのみち、私か陸奥が認めないと出撃はできんぞ。言いたいことはわかるな? 頑張れよ」

「ぐぬぬ」

 

 言いたいことはわかるけどそこまでチュートリアルやらせるか? どんだけ作りこんでるんだよこのゲーム。

 

「さあ、午後後半は座学だ。部屋に戻るぞ」

「……マジ?」

「言っただろう。陣形を詰め込むと」

「ヤメローシニタクナーイ!」

 

 とはいえながもんに力で勝てるわけもなく、部屋へドナドナされるのであった。

 

 

 

 

「あー……ひでー目にあった……」

 

 あれからながもん先生による知識缶詰プロジェクトが無事行われ、とりあえず陣形関連はどうにか覚えることができた。まあ、明日まで覚えてるかは不明だが。なお、ながもんは俺が机に突っ伏していたら結局戻ってこなかったむっちゃんを手伝うとかで執務室へ向かったので今は一人である。

 

「飯食っといていいとは言われたものの、だ」

 

 時間的にはヒトナナマルマルとか。食って風呂入って寝る、でもいいのだが、さすがにこれだけの自由時間を無為に過ごすのはもったいない。というわけでせっかく案内されたしということで道場へとやってきたのだが。

 

「……誰もいねえ」

 

 まあ、しょうがない。きっとこの辺はランダムイベントなんだろう。

 

「さて、と」

 

 気を取り直して。海上での砲撃が思った以上にバランス感覚を要することが身に染みたので、体幹を鍛え直すところから始めよう。その辺に転がしてあったバンテージを巻き、グローブをはめてサンドバッグの前に立つ。

 両手を顔の前に構え、左足を前に出すオーソドックスなボクシングスタイル。

 

「ふっ!」

 

 軽くジャブ、ストレート、フック、アッパーとパンチを確かめる。うん、悪くない。

 

「はっ!」

 

 次いで左右のロー、ミドル、ハイ。現実の体じゃ上段は蹴れないけどもVRならその辺は全然問題ないのが素晴らしい。続けて左右の前蹴り、右二―、左三日月蹴りからの右サイドキック、下ろして左ニーりからの右バックスピンキック。

 ずどん、とサンドバッグがくの字に折れ曲がり、吊り下げられた天井とチェーンがギシギシと音を立てる。

 

「いやあ、これだけ自由に体が動くってホントすげーわ。そんじゃま、一頑張りしますかね、っと」

 

 力任せにならないようフォームを意識し、体幹に力を入れてバランスを取ることを重視しながら動き続ける。徐々に吹き出てきた汗をその辺にまき散らしながら、ただただ無心に殴り続ける。

 

「ふっ、はっ!」

 

 跳ね返ってきたサンドバッグを相手の攻撃に見立て、両手を顔の前で構えたまま腰を落とし、頭を振って避ける。そのまま左足を一歩踏み込み左ボディ、からの左フック、右ストレート、右手に体が引っ張られるままに右ミドル、右足を下ろして左ハイ、とどめの右ストレート。

 

「ふぅ……」

 

 ギシギシ揺れるサンドバッグから距離を取り一息つく、すると後ろからパチパチと拍手の音が聞こえてきた。

 

「お見事です」

「どーも」

 

 顔を流れる汗をぬぐいながら後ろを向く。そこにいたのは――

 

「初めまして。軽巡洋艦、神通と申します」

 

 ――物静かな佇まい、しかして隠し切れない、というよりは隠そうともしない強者のオーラ。軽巡? 冗談じゃない、獲物を前にした猛獣にしか見えないぞ。

 

「ご丁寧にあんがとさん、俺は長門型戦艦の――」

「上総さん、でよろしかったですか?」

「――ああ、そうだよ。よろしくな」

「はい。よろしくお願いします」

 

 ぺこり、と下げられた頭が上がる。そこに爛々と光る瞳が俺を捉えて離さない。

 

「それで、上総さん。急なお話で大変不躾かとは思いますが――」

 

 首の後ろがチリチリする。目の前の神通はただの構えすら取っていないというのに、その雰囲気に飲み込まれそうになる。

 

「――一手、お手合わせ願えませんでしょうか」

 

 解釈の余地もないドストレートなお誘い、と言ってもその溢れ出る闘気のままにお茶のお誘いだったりしたら逆に驚きだったが。

 

「……いいぜ、やろうじゃないか」

 

 せっかくのランダムイベントなんだ。ここで断る理由もない。こういうのこそVRの醍醐味だよね、華の二水戦、あるいは鬼の二水戦かしらないが神通はスカートのまんまだし。パンチラ狙っちゃうぜー。

 

「ありがとうございます」

「ただし、条件がある」

「伺いましょう」

「さん、はいらねえ、上総でいい。ついでに敬語もいらねえよ」

「前者に関しては承りました。後者に関しては性分なので」

「ま、無理にとは言わんさ。んじゃま、禁止は目潰しと急所ぐらいでいいな? さっそくおっぱじめよう」

 

 道場に場所を移すことも考えたが、万が一胴着に着替えるとか言われたらパンツ拝めなくなっちゃうからな。誰もいないしここでやっても問題ないだろう。

 

「よろしくお願いします。それでは……二水戦、神通。推して参ります」

「こちらこそ。戦艦上総、受けて立つ」

 

 時間無制限、ほぼアリアリの一本勝負。左足を前、右足を後ろ。右手を軽く握って顔の前に、左手はそれよりもう少し前に構える。対する神通は左手を手刀の形にして大きく前に、同じく左足も前に出して腰を落とした空手の型。

 

「いくぜ!」

 

 じっとしてるなんて性に合わん、前に出てまずはジャブ。一発目は前に出ていた左手で軽く弾かれるがそれは当然予測している、神通に踏み込まれるより早く引き戻した二発目、こいつはスウェーで後ろに避けられる。その空いた隙間にさらにもう一歩入っての三発目を打とうとして、後ろに下がった神通がその動きを利用して左足を跳ね上げてきたのを今度は逆にこっちがスウェーで回避する。

 

「っと」

 

 こっちの顎を狙った蹴り上げが不発に終わったと見るや即座に下ろし、踏み込みからの右逆突き。こいつは左前腕で叩き落し、落とされるや否や飛んできた右回し蹴りは落とした左手を肘を中心に回転させ、右手で支えることで弾き返す。

 

「鉄槌に回し受け……!」

「ま、多少はね?」

 

 攻守交替、右足を弾かれたことでバランスを崩した神通めがけて踏み込み、左ジャブを右手で受けさせてからの右ストレート。狙いは良かったが、右足を下げた神通の左手刀で流される。お返しとばかりに右ミドルを狙ったところで再度神通の左蹴り上げを今度は左前にダッキングで交わす。

 

「!」

 

 左ボディ――右下段払い。

 左フック――右上げ受け。

 右ストレート――右鉄槌受け。

 右前裏拳――右ダッキング。

 右ボディ――左下段払い。

 右膝蹴り――バックステップ。

 

 躊躇なく膝で顔面狙ってきやがって、恐ろしいったらありゃしない。距離を取って一息つけるか、と思いきやそんな甘いことはなく。

 

 左前蹴り――右パーリング。

 右上段突――左パーリング。

 右ストレート――左上げ受け。

 右手刀打ち――左ダッキング。

 右手刀払い――右ウィービング。

 右フック――左上げ受け。

 右肘打ち上げ――左スリッピング。

 左ボディ――左鉄槌受け。

 右肘横打ち――左ブロック。

 右ストレート――左手刀受け。

 右貫手突き――バックステップ。

 

 俺がバックステップで距離を取った、その距離を詰めた神通が左足を抱え込んで――いや、距離が遠い!

 

「うおっ!」

 

 抱え込んだ足を下ろすと同時にくるりと回って右後ろ回し蹴り。距離が遠かったことでどうにか反応でき、辛うじて右腰を切ることで直撃は避けるも、貰ったら晩飯はまず食えないだろう威力があることは見て取れた。怖すぎるわ、殺す気か。パンツは予想通りの白だったけどもそんなこと気にしている余裕は一切ない。

 

「外した……!」

 

 だが、僅かな動作で避けれた今が絶好のチャンス。通常の構えから右腰を切る、つまり右半身になっている今の状態から出せる攻撃は当然ながら右ストレート一択だ。戻り切ってない体、前に残っていた左の前腕で受けられるも、衝撃を流せる状態じゃない。硬直した状態の神通へお返しの右ミドルキックを叩きこむ。

 

「オラァ!」

「ぐ……!」

 

 神通は左腕と左足でどうにかブロックしたものの、威力に押されて吹っ飛ばされる。とりあえず今まではすべて受け流されていたものをどうにかガードさせることができた。というかなんだこれ、ゲーム内日数二日目に出てきていい相手じゃないぞ、バグってんじゃねえのか。

 

「楽しくなってきました……!」

「おっかねえな……!」

 

 当たった感触からも結構な衝撃があったはずなのにおくびにもださず、さっきよりも眼差しをギラつかせて一切の躊躇なくこちらに踏み込んでくる。

 

「く……」

「はっ!」

「なんの!」

「あぶねっ!」

 

 手を変え品を変え殴りあう。お互いに直撃こそないものの基本スタイルがベタ足インファイトなため、神経がガリガリと削られていく。噴出した汗を拭う暇も上がり始めた呼吸を抑える暇もない。

 さらに数十回の交錯の後、ウィービングに合わせられた右打ち下ろしを慌ててブロックするも勢いに押されて左足を引く――つまり左右が逆、サウスポーの構えになってしまう。

 

「ふっ!」

 

 神通の反応は早い。すぐさま俺の右足の外に回り込もうと動く。外への攻撃は基本的に難しい、慣れない逆の構えなら尚更、けれどもそれは俺が不得手だったらの話だ。左足をわずかに引き、神通が俺の右の外に踏み出した足を狙って右のサイドキックでけん制する。

 

「!?」

 

 キックボクシングではなかなか見られない変則的な蹴り、確かに俺のベースはキックボクシングだが、それ以外ができないとは言っていない。初めての攻撃に神通が戸惑い、対応が若干遅れたその隙を逃さない。

 右足を下ろす前に左足で地面を蹴り右腰を前に、サウスポーになっていたことで前に出ていた右拳をその勢いのままに打ち込む。

 右の縦拳――ストレートリード。拳を横ではなく縦にすることで正面から見た際の横幅を小さくした一撃は左手のブロックをすり抜けついに神通を捉えることに成功する。

 

「貰った!」

 

 打ち込んだ右拳を開いて視界を遮り、左にダッキングしつつ大きく踏み込んで苦し紛れに出された右突きを掻い潜って左ボディ、体勢が崩れたところで視界を遮っていた右手で神通の襟を、ボディを打ち込んだ左手で手首を掴み、左手を大きく手前に引いて上半身を釣り出す。

 

「せいや!」

 

 後は流れるまま襟を掴んだ右手を捻じって巻き上げ、空いた空間に右足から飛び込み体落とし。巻く必要すらなく綺麗に背中から転がった、誰がどう見ても一本勝ち。ついでにスカートも派手に捲れあがって真っ白なパンツが晒されていた。全くエロくないけど。

 

「……まさかジークンドーに柔道までとは思いませんでした」

「柔道はともかくジークンドーがわかるのがすげーよ」

「姉さんが得意なので」

「お前の姉さんナニモンだよ」

 

 神通を引っ張って起き上がらせながら時計を見るとヒトキュウマルマル、さてどうしたもんかと思案したところでそういえば食堂がフタマルマルマルまでだったことを思い出した。

 

「……続きやる気満々なところわりーけど、飯にしない?」

「……そういえばそうでしたね。全然気付きませんでした」

「ま、その前に風呂だな風呂。一緒に入ろうぜ」

「そうですね。色々聞きたいこともありますし」

 

 その後風呂で神通とあれこれしていた結果、食堂にギリギリ駆け込んで間宮さんに二人並んで怒られた。お風呂イベントだったからね、しょうがないね。

 ちなみに神通の腹筋はながもんと同レベルだった。ウッソダロお前。  




川内:ジークンドー
神通:空手
那珂ちゃん:カポエイラ


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5話

そろそろ前書きに書くことなくなってきた


 

「むぐむぐ……ごっそさん」

 

 お代わりしたどんぶり飯をかき込み、味噌汁で流し込んで一息。今日も間宮さんの飯は美味い。

 

「同志上総は相変わらずよく食べますねー」

「なんだかんだ戦艦だからな。とはいえながもんに比べれば相当少ないぞ?」

「そりゃまあ、あの方はゴリラゴリラゴリラですから」

「お前仮にも人の姉に向かってなんてことを」

「三回言ったことには突っ込まないんですか?」

「正式名称だろ、知ってら」

「むー、つまんないです」

「つーかな、ながもんはあれで可愛いとこあるんだぞ? 朝とかめっちゃ弱いし、昨日はパンダのパジャマ着てたし」

「またまた御冗談を……え、マジですか?」

「マジ。ちなみにむっちゃんは透け透けのネグリジェだ」

 

 朝食を食べ終え、漣を適当にあしらいつつ間宮さんに感謝をしながら手を合わせる。艦娘のエネルギー源は燃料、のはずなのだが、食事を抜くと目に見えて活動効率が落ちるというのはここ数日の実験でよくわかったことなので、ゲーム内にも関わらず食事の時間を訓練に当てたりせずしっかりと朝昼晩食べている。どうやら艦部分の動力は燃料だが、娘部分に関しては食事が必要らしい。

 そんなわけで普段に比べてよっぽど規則正しい生活を送っている。ちなみにこの後は航行訓練と射撃訓練、昼食を挟んで午後一に演習やった後で今日は対空訓練と偵察機運用、午後後半はながもんの座学となっていた。

 

「とはいえもう十日だぞ。ぼちぼち出撃もあったみたいだし、いい加減俺だって出ていいと思わないか?」

「うーん、確かに同志上総は頑張ってると思いますけども。一通り訓練はやったんですよね?」

「演習も含めてな。ちらほら見てるだろ」

「こないだ赤城さんにハチの巣にされてましたね」

「あー……あったなそんなこと。なあ、あれどうすんの?」

「どうにもできませんよ? 赤城さんはあの人だけ艦載機の非撃墜率おかしいことになってますもん」

「だよなあ」

 

 思い出したくもない三日前にやった赤城相手の対空訓練、こっちの撃墜判定はわずか一機、被弾判定は十回轟沈してなおお釣りが来るといったものだった。対空砲火の重要性を嫌というほど叩き込まれた訓練であり、対空なんて無理じゃねと思わされた訓練でもある。流星どころか天山ですらない九七と、同じく彗星ですらない九九だというのに頭おかしい回避性能してたんだが、深海の艦載機もあんなイミフな機動してくんのかね。

 ちなみに俺の後にやっていた吹雪は結局一機も撃墜できないまま海上で吐いて失神して医務室送りになってた。赤城マジ赤鬼。青鬼はもうちょい優しいんだがなあ。

 

「いや、あれは赤城さんがおかしいだけだから心配せずとも大丈夫でっせ」

「それを聞いて安心したよ。実際、加賀や二航戦はそこまで頭のネジぶっ飛んだような動きしないからな」

 

 赤城だけあんな頭おかしいなんて設定はもともとなかったはずなんだが、どうなってんだ。味方が強い分にはまあいいんだけどさ。

 

「それはともかく、おっぱい姉妹は出撃についてなんて言ってるんです?」

「お前は本当に命知らずだな同志漣よ。まあいい、ながもんが言うにはながもんかむっちゃんのどっちかがオッケー出せばいいって言ってたけど」

「おっぱい二人は同志の訓練を見てるんですよね?」

「二人ともが付きっ切り、ってわけじゃねーけどな。大体どっちかは見てるよ」

「だとしたらまだなんじゃないですか? なんだかんだ戦艦は少ないですから遊ばせておく理由もないでしょうし」

「やっぱそうだよなー……はあ、今日も訓練か」

 

 食後のお茶を啜りながら漣と駄弁る。この十日間、ながもんが言った項目については一通り叩き込まれたしチュートリアルもクリアした。ほんとぼちぼち出撃してもいいと思うんだけど、ブラウザと違ってこっちは自分で艦隊組めないから自分の意志で出撃できない。とはいえゲームだし優遇はされていると思うんだけどなー。

 

「同志漣は今日どうすんの?」

「今日は遠征ですねー。天龍さんと七駆のみんなで海上護衛任務です」

「おお、そりゃ解禁されてるわな」

「解禁?」

「なんでもね。頑張れよ」

「お任せあれ」

 

 そっか、遠征か。南西諸島海域まで出れれば資源系の遠征ももっと増えるんだけどな。今は南一号が終わって次の海域攻略の準備中とのことだし、はやいとこ出撃したいな。なんて考えていたら館内放送の音が流れた。

 

『……秘書艦の長門だ。今から呼ぶ艦娘はマルキューマルマルに執務室へ集合するように。軽巡、阿武隈。軽空母、龍驤。それから戦艦、上総。以上三名。繰り返す。軽巡、阿武隈。軽空母、龍驤。戦艦、上総。以上三名はマルキューマルマルに執務室へ集合するように。上総、通達してあったスケジュールは全て無視して最優先だ。以上』

 

 おいおい訓練やらずに最優先で集合かよ。これはさすがに出撃の予感……!

 

「同志、今度は何やらかしたんですか?」

「やらかした前提で話すんじゃねーよ。お前俺のことなんだと思ってるんだ」

「いやですねー、言わぬが花というやつですよ」

「お前な……いやまあ、今回はマジで心当たり無いんだよ」

「ちぇー、つまんない」

「つーかやらかしで呼び出されるならお前と一緒だろ」

「……それもそうですね」

 

 

 

 

VR艦これ

 

 

 

 

 

 マルキューマルマル、の五分前、すなわちマルハチゴーゴー。執務室の前に着くと、そこにはすでに阿武隈と龍驤の二人がいた。

 

「二人ともおはよーさん。はえーな」

「いやいや、ウチは今着たとこや。あぶぅは知らんけどな」

「わ、わた、わたしは……」

 

 自然体の龍驤に比べて、阿武隈は今にもゲロ吐きそうなぐらいに顔真っ青でガタガタ震えている。いやまあ、あんな呼び出し方されたらその気持ちもわからんでもないが、いくら何でも廊下が軋むほど震えるってどういうことよ。

 

「……なんかめっちゃ緊張してね? 大丈夫か?」

「こ、こここ、このぐらいどうってこと」

 

 こらあかんわ。龍驤に視線を飛ばすと、どうやら向こうも同じことを思ったようで、こっちにどうにかしろと言ってくる。いや、どうにかしろって言われてもな……漫才でもすっか? 視線で問い直すと龍驤も面白そうだと笑みで了承を返してくれた。

 

「……なあ龍ちゃん、阿武隈何やらかしたん?」

「さあなあ。すっころんで提督に醤油でもぶっかけたんちゃうか」

「ふえ!? な、そ、そんなことしてませんよ!?」

「コーヒーやお茶とかじゃなくて醤油かよ。どっから出てくんだそのチョイス」

「おもろいやろ?」

「さすがだな!」

「うははははは!!」

「がははははは!!」

「ええい、うるさいぞ! 漫才やってないで揃っているなら入ってこい!!」

 

 扉の向こうからながもんの怒声が響く。阿武隈は多少落ち着いたようだったが、とはいえまだまだ本調子でもなさそうだ。龍驤に目配せすると、まだ時間になってないから大丈夫やろと謎の回答を貰ったのでもう少し阿武隈を弄って落ち着かせることにしよう。ながもんすまんな、俺はこのビッグウェーブには逆らえん。

 

「だってよ阿武隈」

「そうやぞあぶぅ」

「なんで私なんですか! っていうかなんですかその呼び方!」

「可愛いやん?」

「いやいや、刺されそうじゃね」

「……確かに。せやったら新しい呼び方考えなあかんな」

「考えなくていいですから! 普通に呼んでください普通に!」

「貴様ら! いい加減にしろ!」

「だってよ阿武隈」

「そうやぞあぶさん」

「~~~~~~~~!!」

 

 あぶさん、という呼び名でさらにいじろうかとも思ったが、この地団駄を見る限りではもう大丈夫だろう。龍驤は一仕事終えたと言わんばかりの表情で執務室の扉に手を掛けた。

 

「さて、ええ感じに緊張もほぐれたみたいやし、そろそろ入ろか。あんまり怒らせると41cm砲弾が扉ぶち破って来るよって」

「ながもんには龍ちゃんが怒られてくれよな」

「ええよ。その代わり提督にはかずやんが怒られてな?」

「しょーがないな、了解。ただ、あん中で一番怖いのはむっちゃんだからな。頑張れよ阿武隈」

 

 だが、どうやら龍驤はまともに扉を開ける気が無かったらしい。話がまた漫才の方向に流れていく。

 

「そうやであぶさん。陸奥はな、怒るとあのどすけべおっぱいで窒息させて来よるんやで。気ー付けや?」

「そんなことしないわよ! いいからとっとと入って来なさい!」

「な、ほんまあのおっぱいが……おっぱいが……べ、別に悔しくなんかないんやからな! ウチかて、ウチかて……!!」

「自分で言って自分で傷つくとか龍ちゃんホンマレベル高いわー」

 

 ドアノブから手を放して廊下にのの字を書き始めた龍驤をいじっていると、おもむろに扉が開いて中から夜叉のごとき相貌をしたながもんが出てきた。背中から大きくゴゴゴゴゴゴという文字がにじみ出ていると錯覚せんほどに怒気を振りまいている。あ、龍驤死んだわこれ。

 

「ヒィッ!?」

「貴様ら、聞こえなかったのか……?」

「あ、あわわわわわ」

「阿武隈落ち着け、とりあえず食われはしない、と思う。ほら龍ちゃん、お前の担当だぞ」

「おっしゃ任せい! いいか長門、とりあえず深呼吸してや。見てみい、阿武隈が白目向いて失神しそうやぞ? な? バナナ食って落ち着いてや?」

「ぶはっ」

「かひゅっ」

 

 龍驤がスカートの中からバナナの房を取り出してながもんに差し出す、その絵面を見て俺と阿武隈とついでに部屋の中のむっちゃんと提督が揃って噴き出した。いくら何でもここでバナナは卑怯すぎるだろ。ながもんにバナナというチョイスも、でかい房が何故かスカートから出てくる様も何もかもが面白すぎる。やっぱ関西弁は違うわ。

 

「お前どっからバナナ出してんだよ? そのチョイスほんとどうやって出てくんだよ! つか何で持ち歩いてるんだよ!?」

「おもろいやろ?」

「最高かよ!」

「うははははは!!」

「がははははは!!」

 

 龍驤と二人声を合わせて笑いあう。すると、おもむろに頭を鷲掴みにされた。徐々に力が入っていき、それとともに頭蓋骨がミシミシと嫌な音を立てている。

 

「貴様ら、ほんっとうにいい度胸だ。覚悟はできているんだろうな?」

「……ながもん、そこは笑って流すところじゃないのかね。提督やむっちゃんも笑ってたぞ?」

「せやせや。世の中ユーモアっちゅーんは大事やで?」

「あいにく私は頭が固いんだ。残念だったな」

「あだだだだだだ!! 割れる! 俺の頭をスイカにするな!」

「こらあかんわ、耳から脳みそ飛び出るで。さすが長門、ゴリラもびっくりや」

「まだまだ余裕だな。ふん!」

「あんぎゃー!!!」

 

 そのままずるずると引きずられ、執務室の床に投げ出される。提督とむっちゃんはさっき一緒に噴き出したにも拘わらず、この短い時間で外面を取り繕っていた。卑怯な。

 

「あんたも懲りないわねえ」

「一緒に笑ったくせにお咎めなしとか。汚いなさすがむっちゃんきたない」

「さて、私のログには何もないわね」

 

 まさかのむっちゃんまでブロンティスト説。

 

「ごほん……さて、お前たちを呼んだのは他でもない。長門」

 

 そこから先の説明を求められたながもんは心底嫌そうな顔をして、何をかは分らないが提督に翻意を促した。

 

「……提督、人選やり直したほうがよいのでは?」

「気持ちは分らんでもないが意図は説明した通りだ。諦めろ」

「はぁ……」

「ながもん、溜息ばっかり吐いてると幸せ逃げるぞ」

「せやせや。バナナ食って元気出しーや」

「誰のせいだ、誰の! バナナは後で食う!」

「阿武隈」

「あぶさん。つーか食うんかい」

「うぇえ!?」

「全く……」

 

 ながもんは再度盛大なため息をつくと、ごほんと一つ咳ばらいをして説明を始めた。

 

「鎮守府近海にはぐれ深海棲艦が侵入した。お前たち三人には捜索及び撃滅を命ずる。旗艦は阿武隈だ」

「うぇえ!? わ、私ですか!?」

「そうだ。旗艦阿武隈、以下上総、龍驤の三名でヒトマルマルマル鎮守府近海へ出撃、侵入したはぐれどもを撃滅せよ」

「りょ、りょりょ了解!」

「了解」

「了解や」

 

 ふむ、1-1か。だとするとこんなわけわからん編成で行く意味がさっぱりわからん。阿武隈のキラ付けするなら随伴は駆逐一択だしな。命ぜられるがままに踵を返して部屋を出て行こうとする阿武隈の襟首を引っ掴み、ながもんを見据える。

 

「じゃ、じゃあ二人とも、準備もあるしさっそく……ぐえっ」

「まあ待て阿武さん。ながもん、質問」

 

 していいか、と聞いたらダメだと言われそうな気がしたので有無を言わさない口調で問いかける。ながもんは一瞬提督に視線を送ったが、提督も特に何も言わなかったのでそれを了承と受け取ったのだろう。腕を組んでおっぱいを持ち上げながら口を開く。隣の龍驤から若干殺気が漏れたがそれはスルーする。

 

「……言ってみろ」

「いくつかあんだけど、ぶっちゃけこの編成の意味がわからん」

「なぜそう思う」

「鎮守府近海に敵発見、にも拘わらず大騒ぎになってない、ということは割と日常的なことだと考える。ここのところそうやって出撃していた連中は大体が水雷戦隊、とすれば侵入した相手は軽巡や駆逐程度だと考えるのが妥当だ」

「空母や戦艦が紛れたのかも知れんぞ?」

「だったらなおのこと一回も出撃したこと無い俺を当てる理由がねーよ、ながもんやむっちゃんが出張ればいい。そうなってないってことは大体同じ相手なんだろう、はぐれって言ってたしな。だとすれば阿武隈はまだしも俺と龍ちゃんを呼んだ意味が分からん」

 

 ながもんは目を丸くしていた。提督やむっちゃんも大層驚いた様子だったが、なんか失礼だな。

 

「……驚いたな。出撃できることに喜び勇んで飛び出していくと思っていたが」

「そらまあ嬉しいは嬉しいけど、それとこれとは別でしょ。言いたくないってんなら別にいいけどさ」

「聞かれなかったら話さなかったが、別に隠し立てするほどのことでもない。まず一つ、上総のテストだ。訓練や演習ではそこそこ動けるようになっているが、実戦はまた別物だからな。戦艦級とは言え実戦経験もなしに前線へ送れるわけもない、まずは簡単なところからということだ」

「まず一つ、ってことは」

「ああ。二つ目は阿武隈の旗艦適正検査だ。今後は水雷戦隊としての出撃も増えるだろう、その際に旗艦を張れるかどうか、こればっかりは練度だけでなく適正もあるからな。色々試してというわけだ」

「が、頑張ります」

「最後に三つ目、龍驤はお目付け役兼制空要員だ。というわけで龍驤、お前の装備だけはこっちで指定する。それと、よっぽどの事態以外では戦闘に直接参加することも禁止だ」

「現地で制空権を握りながら教導せえってことかいな。人使い荒すぎひん?」

「それだけ信頼しているということだ。普段の漫才さえ少なくなれば空母全体の目付も頼みたいぐらいにはな」

「そらあかんわ、ボケれんウチとかタコの入ってないタコ焼きみたいなもんや。ま、ウチらの統率は赤城と鳳翔に任せとけば問題ないよって」

 

 なるほどなるほど、この出撃の意図は理解した。三人ってことは陣形も単縦固定だから旗艦としてもやることは一つ減るわけだし、本当に最初のテストということだろう。ただ、鎮守府近海で制空権、必要なのか?

 

「上総、お前は基本阿武隈の指示に従えばいいが、一つだけこちらから指定がある。弾着観測射撃を最低一度はやってくるように」

「そのための制空権か、了解。装備は?」

「主主偵徹でいいだろう、夕張には伝えてある」

「ガチ装備じゃねーか」

「戦闘にガチも手抜きも無い」

「ごもっとも」

 

 というわけで一通りの指示を受け、夕張に手伝ってもらいながら装備を整え、現在時間はマルキューゴーゴー。阿武隈、龍驤とともに出撃ドックで待機しているわけだが。

 ちなみに装備は俺が41cm主砲二本に徹甲弾と零偵、阿武隈が主砲二本に魚雷、龍驤は零戦52式に天山と彩雲、ただし天山は使用禁止。

 

「…………」

 

 阿武隈が緊張で顔真っ青にして今にもぶっ倒れそうなぐらいに震えている。震えすぎたせいか砲身から転がり落ちた妖精さんが四つん這いでゲロの動作してんのさすがにヤバすぎだろ。

 

「……なあ、龍ちゃん。阿武隈って別に今回が初出撃ってわけでもないよな?」

「ちゃうで」

「なんであんな緊張してんの?」

「パンツでも履き忘れたんちゃう? 飛び込みの際にスカート捲れたら見えちゃうどうしよう、って」

「痴女か」

「違いますぅ!!!」

「おわ、びっくりした。大声出すなよ」

「誰のせいですか!!!」

「龍ちゃんだろ」

「上やんやろ」

「お二人のせいです!!!」

 

 肩を怒らせて一しきり吐き出したか、阿武隈は多少落ち着いたようだった。

 

「ま、なるようにしかならんよって、あんま考えすぎんなや。テスト的には失格になるかも知れんけど、いよいよとなったらウチもおるさかい、大船に乗った気で好き勝手やればええ」

「そうそう。それでも失敗するようなら敵味方の戦力見誤った提督が悪いんだよ」

「ひゃんっ!?」

 

 ばしん、と阿武隈の尻を叩く。それと同時に指定時刻ヒトマルマルマルになり、出撃のブザーが鳴り響いた。狙っていたとはいえ絶妙なタイミング、尻を触られたことに何か言いたげだった阿武隈がむくれながらもブザーに出鼻を挫かれたために言葉をなくしている。追及されなかった今のうちにもう一押し。

 

「ほれ、旗艦様から出撃して、どうぞ」

「むー……まあいいです。第一水雷戦隊、阿武隈! 出撃します!」

「戦艦上総、抜錨」

「軽空母龍驤、出撃するでー」

 

 いい加減な掛け声とともに出撃、阿武隈を先頭に単縦陣となってとりあえず付いていく形で適当に進む。俺の前を行く阿武隈はさっきあれだけほぐしてやったにも関わらず肩にめっちゃ力入っているのがはっきりとわかるほどに力んでいた。

 

「阿武さん阿武さん」

「な、なんですか龍驤さん」

「速度と方角指示せな」

「はっ、そうでした。え、えっと……じゃあ、だ、第一戦速、東京湾を抜けるまで南に、次いで東に向かいましゅ!」

「……了解や」

「了解っと」

 

 旗艦は大変だなー。今のもめっちゃ声上ずってたし。見るに見かねたか、龍驤が阿武隈の横まで行って肩を軽く叩きながらフォローする。

 

「それから、今からそんなに肩に力入れとったらすぐバテてまうで。まだ見つけてもおらんのやからリラックスしーや」

「う……善処します」

「旗艦がそんなやと随伴にも波及するよって、気ーつけや」

「……二人とも全然そんな素振りありませんけどね」

「そらウチはな。かずやんは……よーわからんわ」

「っても駆逐軽巡程度だろ、夜戦で魚雷でも貰わん限り死にゃしないんだから緊張するわけねーっしょ」

「はっはは、確かにそらそうや。でもかずやん、油断はあかんで?」

「わーってるって」

「さっきのセリフがフラグにならんとえーな」

「やめーや」

 

 そんなことを話しながら海を進む。右に見えていた三浦半島も後方に抜け、ぼちぼち外洋だ。阿武隈の話だととりあえず東に向かうとのことだが。

 

「と、取り舵!」

「了解」

「阿武さん、その前に偵察や」

「あ」

「あかんでー忘れたら、最重要や。マイナス一点やな」

「す、すいません……えっと、龍驤さんは正面、じゃなくって東側を、上総さんは南側をお願いします」

「了解や。かずやん、彩雲は索敵範囲めっちゃ広いよって、被らんよう気ーつけや」

「任された。真南に飛ばすさ、抜かりはない」

 

 阿武隈の指示と龍驤の指摘に従いモニターパネルを操作して南側へ零偵を飛ばす。とりあえず目についたところに敵影は無し。

 

「こっちはいないな」

「了解、龍驤さんはどうです?」

「んー……おったおった。駆逐イ級が一体、こっち向かっとる。このままいくとあとちょっとで接敵やな」

「一体だけですか、それじゃあさっそくですけども上総さんの弾着をやりましょう。龍驤さんは制空権を取ってください」

「了解や」

「進路このまま、第四戦速!」

「ちょ、ま」

「一気に行きます!」

「お、おう」

「あーもう!」

 

 急加速した阿武隈に置いてかれないように急いでスピードを上げる。ちょっとした後、モニターパネルに龍驤の言っていた駆逐が現れる、制空権もばっちり、戻って来たばっかりの零偵を急いで飛ばす。

 とはいえ向こうもこっちに向かってきていて、こっちも相手に突っ込んでいっていることから相対速度は相当なもの。結局間に合わず、俺の射程に捉えたタイミングでは零偵がまだ届いておらず、零偵が届いたころには互いの射程に入るまでに近づいてきてしまっていた。

 

「上総さん!?」

「悪い、けど物理的に無理なもんは無理だった。この後どうすんだ」

「え、えっと……」

「まずは回避や回避! 撃ってくるで!」

「! 全艦、取り舵!」

 

 目の前のイ級に対し、阿武隈と龍驤は回避するべく左へ曲がる。が、それでもやっぱり俺は間に合わないだろう。

 

「かずやん!?」

 

 後ろを確認できない阿武隈と違い、前を進んでいた俺が指示に従わず直進しているのを見た龍驤から驚きの声があがる。それもそのはず、このままいけば正面衝突コース、いくら戦艦対駆逐とはいえ、衝角も付いてないのにわざわざ正面からぶつかり合う理由がどこにある。

 だが、俺は逆に考える。下手に避けようとして半端にぶつかるかもしれないなら、いっそのこと真っ向からぶち破ってしまえばいいと。

 衝突の直前、イ級が跳ねる。その口の中から覗いた砲身が俺の顔を違わず捉えているのがはっきりとわかる。水しぶきすらスローモーションに映る世界の中、先に動いてしまわぬように、隙を見せてしまわぬように、阿武隈と龍驤の声すらも置き去りに、全神経を集中する。

 

「――!」

 

 イ級が撃つ、その意を逃さず捉え、その瞬間一気に進行を止めて海面に顔が着くほどにダッキング。放たれた砲弾が髪を散らす感覚に背筋を冷やしながらも、イ級の砲撃をかわすことに成功する。

 

「っせい!!」

 

 沈み込んだ膝のばねを開放し、跳び上がらんばかりの左ボディでイ級のどてっ腹を抉る。

 

「らぁ!!」

 

 そのまま左手を引き戻し、返す渾身の右ストレートをだらしなく開かれた顎の下に叩き込む。ぐしゃり、と何かを破壊する感触を残し、イ級がもの凄い勢いですっ飛んでいき。

 

「嘘……」

「ははっ、やるやんけ」

 

 爆発四散。中に残った弾薬に引火したのか、ド派手に散った破片がこっちまで飛んできた。そいつを手ではたき落としながら、もう片方の手で髪をかき上げてビシッと決める。

 

「へっ、汚ねえ花火だぜ」

 

 こうして、俺のスコアに一が刻まれた。まあ、まさか初日にながもんに否定された肉弾戦によるものが最初になるとは思ってなかったけどさ。

 

 




龍驤の関西弁はテキトー。お姉さん許して

ながもんのパジャマ
猫→兎→パンダ→おにぎり→苺


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