遊戯王IS〈インフィニット・ストラトス〉 (LAST ALLIANCE)
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EXTRA PACK(設定集等)
キャラ設定資料集 Vol.1


キャラ設定が一段落したので投稿します。
今回は第3章の学年別クラス対抗トーナメントを見据え、登場させるキャラをまだ早いですが出させて頂きました。理由は思いついたら直ぐ書かないと忘れるからです(汗)



・原作との主な相違点

 

①原作であった『亡国機業(ファントム・タスク)』はこの小説では存在していない。構成員は何かしらの形で出てくるのでご安心を(?)

 

②原作では後に1組に専用機持ちが集められたが、この小説ではそのような事にはならない。元々1組に専用機持ちが集まりやすいようになっていたが、この小説では代表候補生は1クラスに最低でも1人はいる事になっている。

 

③ストーリーはアニメ版準拠だが、文化祭襲撃事件は女尊男卑を掲げる権利団体の暴走によって引き起こされた。これによって一般客にも少なからず被害が生じた為、女尊男卑と言う歪んだ社会風潮に対する不満や怒りが至る所で爆発するようになった。

 

 

 

・用語説明

 

『黒田商事』……黒田純一の父親、黒田洋介氏が社長を務める日本でトップの総合商社。IS関連の部品等も取り扱っている為、IS関係者も知っている人が多い。

 

『呉島エンタテインメントスタジオ』……『ソリッドビジョンシステム』を開発した企業。3Dの立体映像を用いたゲーム等を開発している。今回のデュエルディスク開発の発案を行い、大きく発展を遂げた。社長は呉島高虎。開発事情部部長は仙谷竜馬。

 

『KONNNAMI株式会社』……この小説での『遊戯王OCG』の販売・開発企業。女尊男卑の時代によって売り上げがガタ落ちした為、『呉島エンタテインメントスタジオ』と企業提携してデュエルディスク開発に携わった。その結果、大きく持ち直す事に成功。

 

『三井重工』……デュエルディスクを開発している企業。ちなみに訓練機のIS、『打鉄』を開発しており、『平等院財閥』の傘下にある。

 

『平等院財閥』……権力、名声、財力のどれもが日本の中でもトップクラスで、総資産は全世界の富の数%あると謳われている。“弱気を助け、強気を挫く”事を家訓にしており、助けられた人々の中で後にのし上がったり、世界的に有名人になる人が続出している。

 

『私立鳳凰学院』……『平等院財閥』が経営している私立学校。戦前はお嬢様学校だったが、今では男女共学となった。普通科と国際教養学科の他に、IS学科を新設した。代表候補生や国家代表等を取り込んでいる為、IS学園でもその存在を恐れられている。

 

『デュエル・ストラトス』……ISと言う名のデュエルディスクを用いた『遊戯王』。

 

IS環境……IS学園で行われる『デュエル・ストラトス』。知識や経験、財力やデッキパワーの差を少しでも抑える為、以下のような特殊制限ルールが定められている。

実はこのルールは女尊男卑を掲げる権利団体が純一の独走を阻止する為、IS学園にいちゃもんを付けてきたと言う噂もある。

 

・市場での平均価格が1000円以上するカードは使用禁止

・現在環境で結果を残しているデッキは使用禁止

・ルールと禁止制限は公式の物を採用(禁止制限は執筆している段階の物を使います)

 

 

 

・1年5組……エキシビジョンデュエルがあった翌日、IS委員会の意向を踏まえて行われた職員会議で純一が異動となったクラス。

クラス代表はスペインの代表候補生、ナタリア・スアレス・ナバーロが務めている。担任はナターシャ・ファイルス。副担任はスコール・ミューゼル。

『カードターミナル』のインストラクターを講師に迎え、純一と言う最強にして唯一無二の切り札を手に入れた今、1年生の最強クラスの称号を手にするべく全員が一丸となって研鑽に励んでいく。

 

 

黒田純一

 

使用デッキ:【Kozmo】、【儀式青眼】、【準カオススタン】等々

 

概要/この小説の主人公。IS学園1年1組に在籍していたが、『遊戯王OCG』の授業開始に伴って1年5組に異動となった。身長は175cm。世界で2番目の男性IS操縦者。優等生風な優男。本来は高校入試で合格した志望校に入る筈が、ISを動かした事でIS学園に強制入学させられてしまった。その事からIS業界に進むつもりは無いと宣言し、進学補習を受けながら大学進学を目指している。毎日の努力もあって、ISの実力は訓練機で代表候補生とタイマンでそこそこ渡り合えるくらいとなった。クラスの副代表を務めていた経験もあり、持ち前の知恵と人徳でクラスをまとめ上げる。『遊戯王』に復帰し、『デュエル・ストラトス』の中心に立つ事で、“リーダーとは何なのか?”、“人の上に立つ上で何が大事なのか?”と言うような事を考えながら、皆を引っ張っていくリーダーとして成長していく事となる。IS適性はSランク。専用機は『打鉄』→『亜白龍』。

 

性格/義理に厚く受けた恩を決して忘れず、筋が通っていない事や曲がった事を嫌う正義漢。仲間想いで親切丁寧な対応を取る為、女子生徒からは隠れ人気がある。ただし不運・不幸体質。普段は冷静沈着かつ穏やかで“自分に厳しく、他人に優しい”人物。しかし本質的には心に熱い物を持っており、正々堂々とした闘争を好む。女尊男卑を掲げる女性には一切容赦せず、理不尽な言いがかりには理論的で隙のない反論で対抗したりする。そういう訳で女尊男卑を信じる女性達からは敵扱いされている。『遊戯王』はガチ勢で大会優勝経験もある為、他の経験者と比べてプレイングや知識が頭一つ抜けている。ただあくまで大会に強いだけで、フリー対戦では足元を掬われる事もしばしば。ソリティアのように回しながら展開するより、やる事がシンプルで確実にアドバンテージを稼いでいくデッキを好む。

 

 

 

ナタリア・スアレス・ナバーロ

 

使用デッキ:【インティ&クイラ(と言う名前のスキドレビート)】

 

概要/この小説におけるヒロインの1人。IS学園の1年5組に所属。スペインの代表候補生。身長は160cm。金髪のポニーテールとモデル体型が特徴で、誰とでも直ぐに仲良くなれる事が特技。エキシビジョンデュエルを生観戦した時、純一のデュエリストとしての実力に驚きつつ、『遊戯王』プレーヤーとしてデュエルを心から楽しんでいる姿に惹かれた。『遊戯王OCG』は初心者だが、『デュエルリンクス』をやっている為、ある程度ルールは知っている。授業を真面目に受けつつ、代表候補生全員参加のクラス対抗デュエルトーナメントを機に純一と親しくなろうと考えている。

 

性格/スペイン人らしく、寂しがり屋でお節介焼き。両親の影響からか陽気で気さくな性格だが、“ISが無ければ自分はただの女子高生。自分はただISが使うのが人より上手なだけで、別に偉くも何ともない”とドライな考えを持っている。ISの実力は代表候補生の中では平均的で、専用機を貰えるかどうかは微妙なライン。IS適性はAランク。専用機はカスタマイズした『ラファール・リヴァイヴ』。

 

 

 

四十院神楽

 

使用デッキ:【帝王】、【墓守】等々

 

概要/原作では1年1組在籍だが、この小説では1年5組在籍となっている。旧華族出身であり、平等院友希那とは親友。彼女の計画の支援者の一人であり、純一の味方ポジションでもある。風貌は大和撫子で清楚で気品があるが、実は『遊戯王』経験者で純一に匹敵する実力者。

 

性格/おっとりした雰囲気で穏やかな性格。名家の出身だけど親しみやすいキャラをしている。友希那から純一の事をよろしく頼まれた為、5組にやって来た純一をサポートする。彼女自身、純一の事はよく知っており、“敵に回したくないタイプ”と言っている。

 

 

 

白井比奈

 

使用デッキ:【聖刻】等、【ドラゴン族】を切り札としたデッキ

 

概要/鈴同様に身長は小柄で活発な雰囲気を出している。何事にも一生懸命だけど、空回りする事が多い。しかしその愛嬌の良さと可愛さが多くの人に好かれる理由。エキシビジョンデュエルを生観戦した時、純一の《ブルーアイズ》モンスターに一目惚れし、【ドラゴン族】デッキを使う切っ掛けになった。しかし、他の種族を全く使わない訳ではなく、あくまで【ドラゴン族】を切り札としたデッキを使っている。

 

性格/無邪気かつ陽気な性格だが、礼儀正しい。IS学園に入学したのは“将来の保険”と言っており、見かけや言動以上に理知的で賢いが、オタク気がある。テスト成績もトップ30をキープしている。どうやらIS業界に進むかどうかは慎重に見極めている様子であり、ここ最近の女尊男卑の風潮の激しさからIS業界に進む事を諦めようか考えている。

 

 

 

・1年1組……世界初の男性IS操縦者の織斑一夏と、ISを開発した天災科学者の篠ノ之束の妹の篠ノ之箒が在籍するクラス。クラス代表は織斑一夏が務めている。担任は織斑千冬で、副担任は山田真耶。

クラス副代表を務め、『遊戯王OCG』の頭脳として期待されていた純一が諸事情で異動となったが、依然として一夏と箒、そして本音の3人の経験者を擁している。

クラス代表の一夏がリーダーとしての自覚と責任感に目覚め、他の皆で助け合う事から団結力と嵌った時の恐ろしさは1年の中でもトップクラス。

 

 

織斑一夏

 

使用デッキ……【ライトロード(カオス軸)】、【ギャラクシー】

 

概要/原作主人公。原作よりメンタルが安定している。整った容姿をしていて、無自覚に女性をときめかせる言動をする為、学園の内外を問わず数多くの女子に好意を寄せられている。しかし、“織斑一夏と言う個人が好きなのか、織斑千冬の弟たる自分を利用したいだけなのか分からない”と不信感を抱いている為、わざと鈍感なふりをしている。それを見抜いているのは純一と千冬と束のみ。純一とは小学生の頃からの親友兼ライバル兼理解者。幼い頃から千冬に守られてきた為、“誰かを守る”事に強い憧れを抱いているが、今の自分は本当に誰かを守れるのかと自問自答する事もある。『遊戯王』は小学生の頃に遊んだ程度だが、学習速度の速さと本人の努力で純一の対抗馬になりつつある。

 

性格/飄々とした性格をしているが、信念を貫く熱い一面を持っている。純一の本心を知っていながらも最後まで寄り添おうとする、人間的な度量の広さも併せ持っている。卑怯な事は基本的に好まないが、勝つ為なら時には構わない等、原作に比べて清濁を併せ持つようになった。原作とは違って2人目の男性操縦者がいる事もあって、親友思いで凄く良い人となっている。友達になりたいランキングNo.1。

 

 

 

篠ノ之箒

 

使用デッキ……【不知火】、【六武衆】

 

概要/原作ヒロインの一人。昔から人付き合いが苦手で集団から孤立する傾向があったが、価値観や環境の違いで周囲とのズレを気にし、一人でいた純一が声を掛けた事から仲良くなった。『遊戯王』は小学生の時に触れた程度だが、1組の皆と二人三脚で上達に励んでいく。目標は純一に勝つ事らしい。

 

性格/男勝りだけど根は乙女。カッとなって暴力的行動に出易く、力に溺れて自分や周りを見失う事があるが、周りの影響で次第にその傾向も薄れてきている。余談だが、どんなデッキを使うかかなり悩んだらしい。

 

 

 

セシリア・オルコット

 

使用デッキ……【代行天使】

 

概要/原作ヒロインの一人。イギリスの代表候補生。イギリスの名門貴族の出自で、過去に両親を列車の事故で亡くし、勉強を重ねて周囲の大人たちから両親の遺産を守ってきた努力家。純一は自分の失言をフォローしながら取り直してくれた恩人であり、勝負にならない事を承知の上で試合に挑んだ心意気を認め、一夏同様に好意を抱くようになった。後にIS模擬戦闘での成績が下がりがちになり、試験機的要素の強い専用ISの性能も相まって実戦では連戦連敗を喫していることに苦悩したが、純一が“自分を無理に変える事はない。自分を信じて道を進め。そうすれば必ず良い結果は出る”とアドバイスした事もあって、立ち直る事が出来た。

 

性格/『遊戯王』は全くの初心者。セシリアの幼なじみにして優秀な専属メイドのチェルシーや、一夏や箒達のおかげでメキメキと実力を付けている。育ちのためかプライドが高く、上品な口調と物腰をしているが、中身はまともでしっかりしている。流石は名門貴族出身。

 

 

 

布仏本音

 

使用デッキ……【マドルチェ】、【スキドレマシンナーズ】

 

概要/『アーキタイプ・ブレイカー』でヒロインに昇格した女子生徒。生徒会書記。純一が“1組の中で一番好きな女子”と言いきるくらい、惚れ込んでいる。ちなみにそれを聞いた本人はめっちゃ照れてました。更識簪の専属メイドでもあり、彼女の世話やISの整備を手伝ったりしている関係で、『遊戯王』にのめり込んでいる。実力は簪同様に高く、簪と互角レベル。純一は簪同様に警戒しているが、単純に対戦したいと言うデュエリストならではの本能を見せている。

 

性格/ おっとりとしているが、したたかさも合わせた掴みどころのない人物。特有の不思議な雰囲気を持っている為、独自の世界を有する純一も瞬く間に引き込んでしまう。スタイルはかなり良く、会う度に抱き締められている純一をして“戦略兵器”と言わしめる程グラマラスである。

 

 

 

1年2組……中国の代表候補生、凰鈴音が在籍するクラス。人柄と実力の純一、名声とカリスマの一夏とは違い、彼女自身が協調性に欠けたところがある為、三沢リサが実質的なまとめ役となっている。

 

 

凰鈴音

 

使用デッキ……【戦華】、【炎星】

 

概要/原作ヒロインの一人。中国の代表候補生。自他共に認めるほどフットワークが軽く、IS学園に編入してきた時に持ってきた私物もボストンバッグ一つで収まるほど中学三年から猛勉強し、たった1年で代表候補生かつ専用機持ちに抜擢された努力の天才。一夏と純一とは小学生の頃から知り合い、特に純一とは性別を越えた友情を築き上げている。実家が中華料理店だったため、中華料理が得意。その腕前は舌が肥えている純一曰く、“お金を払ってでも食べたいクオリティー”との事。

 

性格/サバサバした性格で気性が激しいところがあり、考えるよりも行動するタイプ。一夏にずっと好意を抱いているものの中々素直になれず、自らの気持ちをうまく伝えることができずにいるツンデレ。純一の場合は自分の気持ちを素直に伝える事が出来ている。

 

 

 

三沢リサ

 

使用デッキ……【化合獣】

 

概要/眼鏡をかけた地味な外面をしているオタク系女子。眼鏡を外すと1年生どころかIS学園の中でも超絶美少女であり、その美しさは純一が思わず発狂した声を上げる程。純一以上に『遊戯王』好きでマニアックなテーマを使っていて、インストラクターの人ですら驚かせている。

 

性格/以前はかなりの引きこもり気質だったが、『遊戯王』を通じて外向的になった。しかし、オタク気質がある事から自分に自信が持てずにいたところ、純一のエキシビジョンデュエルを生観戦して勇気づけられ、自分から変わる事を決意する。マニアックなデッキを使う変人だが、実力は確かできちんとした物を使えば間違いなく恐ろしい相手になる。

 

 

 

早川ちとせ

 

使用デッキ……【ファーニマル】

 

概要/ポニーテールが特徴な女子生徒。少しクールな雰囲気を漂わせているが実は気だるげ。それでもクラスメートとの交流は楽しんでおり、今時の女子高生っぽい所がある。

 

性格/落ち着いて見えるが、想定外の事態になると弱い時がある。ぬいぐるみが大好きで、自宅の部屋には所狭しと置いてある。使っているデッキにもそれが反映されていて、時々それを弄られる事がある。

 

 

 

1年3組……フランスの代表候補生のシャルロット・デュノアと、ドイツの代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒが在籍するクラス。クラス代表はラウラだが、人見知りっぽい所がある彼女をシャルがサポートしている。

 

 

シャルロット・デュノア

 

使用デッキ……【ドラグニティ】

 

概要/原作ヒロインの一人。原作では1年1組在籍だが、この小説では1年3組在籍。原作では男装して一夏に近付いたが、この小説では“男装? んなもん直ぐにバレるから無し。一夏君ではなく純一君に近付き、専属コーチとして指導しながら『デュノア社』のモニターになってもらおう”と言う指示を受け、純一に近付いた。しかし、純一が『ラファール・リヴァイヴ』に乗っておらず、専属コーチが付いている為、目論見は不発に終わった。一通り話を聞いた純一が父親の洋介に相談し、『黒田商事』が『デュノア社』を買収した事で結果的に救われた。その事から父親のアルベート共々純一には恩義を感じており、時々ISの操縦技術を教えたり、練習相手になったりしている。

 

性格/基本的に控えめで穏やかな性格。基本誰にでも心優しく接しているが、怒らせると怖い。純一曰く、“僕が女性に性転換したみたい”との事。頭脳明晰だが、他人に遠慮しがち。『遊戯王』は元々経験があり、純一と意気投合している。勝負に勝つより、対戦を楽しむエンジョイ勢。

 

 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

使用デッキ……【列車マシンナーズ】

 

概要/原作ヒロインの一人。原作では1年1組在籍だが、この小説では1年3組在籍。原作同様に一夏を毛嫌いしており、純一を含めた他の学生たちのことも見下していた。しかし、機体の暴走トラブルを一夏と純一に助けられた事で一夏に惚れ込み、純一を命の恩人としてリスペクトする事になった。シャルを含めたクラスメートを始めとする他の生徒との交流を通じて次第に性格も柔和になり、年頃の少女らしい反応を見せるようにもなってきている。

 

性格/明快かつロジカルな考え方をする傾向が強く、純一と気が合う所がある。使用デッキも比較的シンプルかつ強力である為、他の代表候補生達からも恐れられている。ちなみに本来は【列車】を使いたかったが、市場環境によって汎用ランク10エクシーズの何枚か(例えば《スペリオル・ドーラ》)が使用禁止になった為、【マシンナーズ】と合体させたらしい。

 

 

 

銀城茜

 

使用デッキ……【バスター・ブレイダー】

 

概要/運動が苦手だけど愛嬌があって笑顔が素敵な女子生徒。それでいてコミュ障、もしくはいじめられっ子的な一面があり、過去に虐めを受けてきた様子。コミュニケーションが苦手で無口でいる事が多かったが、シャルのおかげで少しずつ持ち直してきた。

 

性格/過去に受けた虐めが原因なのか、他人の悩みを一緒に分かち合える優しい性格。見た目はショートカットの美少女だが、明るくて一緒にいたくなる魅力がある。隠れゲーマーであり、やり込みが凄まじい。好きなゲームは『モンスターハンター』。

 

 

 

1年4組……1年の女子生徒で最強の実力者たる更識簪を擁するクラス。3組同様、内向的な簪を皆でサポートしているが、簪自身も自分の経験や知識を皆に伝えており、1組や5組と同じく皆で一丸となって団結している。

 

 

 

更識簪

 

使用デッキ……【HERO】、【忍者】等々

 

概要/原作ヒロインの一人。日本の代表候補生。趣味はアニメを観る事で、『遊戯王』も趣味を通じて始めた。そこからメキメキと実力を付けてきたが、性格もあって大会には出た事がない。純一が“大会に出たら間違いなく優勝出来そう”と言うくらい実力があり、“デュエルするのが最高に楽しみだ”と言う程、純一から警戒されていると共に実力を認められている。

 

性格/やや内向的で人見知りの傾向があるが、一度決めたことには強い執着を見せる等意固地な面もある。純一は姉経由で知り合ったが、自分を更識の人間で楯無の妹ではなく、一人の人間として接してくれる純一の優しさに触れ、何時の間にか一夏以上の好意を抱き、気が付いたら惚れ込んでいた。純一を越えるべき壁として認識しており、自分の手で必ず倒すと決めている。

 

 

 

櫻井香澄

 

使用デッキ……【炎王】

 

概要/クラス代表の簪を支える参謀兼情報屋。クラスのパワーバランスや情勢に詳しく、現実を見据えた上で対応を取るリアリスト。しかしそれは表向きな顔であり、裏では甘い物が大好きでぬいぐるみに目が無い年相応の少女らしさがある。

 

性格/常に氷のような冷静さを保っているが、内心では激しく心を燃やす激情家。ツンデレな要素もあるけど、ヤンデレな要素もある為、クラスでは“少々面倒臭いけど頼りになる”との事。頼まれたら断れない性格な為、面倒事を引き受ける事が多い。

 

 

 

上田詩織

 

使用デッキ……【魔導書】

 

概要/純一が本音を言える数少ない女子生徒の一人。純一とは図書室で知り合い、本を通じて意気投合した仲。『黒田商事』の関連会社、『黒田食品』の課長を父親が務めており、純一とは父親経由で知り合った。趣味は読書とお菓子作り。隠れ巨乳。

 

性格/文学少女らしく物静かで、控えめな性格。ただ自己主張はしっかりする、芯のある一面を見せている。香澄のアドバイスと簪の協力でかつての環境デッキを制作し、使いこなす程頭も良く、プレイングもセンスを感じさせる。簪には劣るが、中々の実力を秘めている。純一に対抗できる数少ない人物。

 

 

 

1年6組……クラス代表と担任の先生が女尊男卑を掲げており、他のクラスメートを道具扱いしている事から、クラスの雰囲気は最悪と言っても良い。その為団結力も何もあった物ではないが、亜依と蘭の2人でどうにか持っているのが現状。インストラクターの人曰く、“女尊男卑と言うか、IS学園の闇を見た”との事。

 

 

エヴァ・ヨハンソン

 

使用デッキ……【スキドレSin】

 

概要/オーストラリアの代表候補生。母親が女尊男卑を掲げる権利団体の理事を務めており、その影響で女尊男卑に染まってしまった。母親のコネで代表候補生になる事が出来たが、その事を自分の実力と勘違いしており、それを知っている人達からは嫌われている。

 

性格/女尊男卑に染まる前は明るく朗らかで天真爛漫な性格だったが、今では傲慢で人を見下し、自分以外の人々はどうでも良いと考える自己中心的な人物となってしまった。自分達に刃向かう純一の事を蛇蝎の如く嫌っており、純一も“デュエリストどころか人間としても最悪”と辛辣な評価を下す一方、“女尊男卑と言う社会風潮が彼女を狂わせた”と悲しく考えている。

 

 

 

伊藤亜依

 

使用デッキ……【命削り型妖仙獣】

 

概要/6組の良心兼苦労人の一人。エヴァにこびへつらう腰巾着な女子生徒だが、これは演技でクラスの皆を守る為に自分を生贄にしている。蘭の親友。ISの登場によって尊敬していた母親が女尊男卑を掲げる権利団体に入った事で変貌し、良識があって裕福な父親に引き取られた過去がある為、女尊男卑を信じる女性を憎悪している。

 

性格/大変な過去を経験している為か、涙脆い苦労人。6組の良心で努力家。突出した容姿や才能はないが、何かを継続する事に関しては物凄い才能を持っている。将来は父親に海外旅行と言う親孝行をしたいと言っている。

 

 

 

徳川蘭

 

使用デッキ……【シムルグ】

 

概要/6組の良心兼苦労人の一人。将来はIS関係の仕事に就き、両親に恩返しをしたいと考えている健気な良い子。エヴァと担任の横暴な振る舞いに心を傷めつつ、亜依と共に皆をまとめ上げている。純一と仲が良く、『遊戯王』の事で相談する事が多い。その為エヴァから疎ましく思われているが、それ以外のクラスメートは彼女を庇っている。

 

性格/勉強に部活に一生懸命な良い子。教師の間でも評判が良く、亜依と共にインストラクターの人と個人授業で奮闘中。更に純一のサポートもあって、下手したら代表候補生の経験者と渡り合えるのでは?と思いたくなるぐらい、無限の可能性を秘めている。

 

 

 

1年7組……他のクラスとは違って全員が初心者。全員一丸となって上達と勝利を目指すスポ根魂を見せており、このクラスだけ気温がいつも高いと言う噂がある。インストラクターの人も教え甲斐があると喜んでいる。

 

 

アンナ・シュナイダー

 

使用デッキ……【ダイナレスラー】

 

概要/スイスの代表候補生。普段はお淑やかだが勝負事には熱くなる。『遊戯王』と言う未知の世界に興味を抱き、心から楽しそうに勉強しながらデュエルしている。勝っても負けても相手をリスペクトする精神の持ち主で、正に理想のデュエリストと言える。

 

性格/お淑やかなお嬢様で常に笑顔を絶やさず、皆を笑顔にさせているが、勝負事になるとキャラが一変。全力で勝ちを目指す勝負師に変わる。そのギャップが凄く、色んな人を驚かせている。

 

 

 

佐藤楓

 

使用デッキ……【クローラー】

 

概要/天然な所があるが、周りを見て行動できる視野の広さを持っている女子生徒。朝に弱い等色々ポンコツな所があるが、雰囲気や見た目が大人びている為、色々誤解される事が多い。

 

性格/左利き。子供っぽさと可愛さ、美しさが同居する不思議な雰囲気を有している。それでいて天真爛漫で礼儀正しい。好きな飲み物はドクターペッパーと言い切っていて、何気に変人扱いされている。

 

 

 

1年8組……他のクラスに比べて特徴らしい特徴がなくて地味に思えるが、女尊男卑の風潮に染まった生徒もいない、個性的な生徒も少ない事から快適な学園生活を送るには最適なクラスとなった。基本的に良い子ばかりが集まっている。

 

 

 

モニカ・ゴンザレス

 

使用デッキ……【BK】

 

概要/メキシコの代表候補生。ISを兵器・道具として扱わず、自分の相棒として大切にしている為、整備科の方々からの評判が良い。女尊男卑の風潮の社会でも、お国柄か男性には親切にしている。

 

性格/能天気で親切。でもいい加減な所が玉に瑕で、クラスの皆に時々迷惑をかけている。それを皆に補ってもらっている為、必然的にクラス代表としての責任を自覚するようになり、代表候補生として正しい振る舞いを心掛けている。

 

 

 

速水加奈

 

使用デッキ……【シャドール】

 

概要/気が強いけど、真面目で優しい委員長キャラ。モニカのサポート役で彼女の能天気さといい加減さに一番振り回されるが、優しさと努力を認めている。

 

性格/礼儀正しく真面目で、女子に抵抗があった『遊戯王』の授業もしっかり受けている内に、何だかんだで楽しむようになった。『ストラクチャーデッキ』を3箱購入して強化していく王道路線を突っ走っている。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・使用デッキの傾向

今回紹介したキャラのデッキの傾向として、「比較的安価で構築出来る」、「初心者の人でも使える」、「フリー対戦でそこそこ強い」事を重点に置きました。中には「それ違うよね!?」と突っ込みを入れたくなる物もありますが、そこはご愛嬌で。
もう一つ挙げるとすれば、【スキドレビート】と【マシンナーズ】の多さでしょうか。《スキルドレイン》は安くて強い永続罠カードで、デッキ・カードパワーの差を埋められる事が大きいです。【マシンナーズ】は単純に私の好みです(汗)

・クラスの個性

これを考えるのが一番大変でしたが、一組だけ明らかに爆弾を抱えているクラスがあります。絶対何かやらかしそうな気がしますが……(汗)
果たして被害者と犠牲者は誰になるのでしょうか? そしてそのクラスの明日は!?


次回から第2章に突入します。第1回目となる7話は純一君が5組に来て、『遊戯王OCG』を始めた切っ掛けや今までの経験を皆の前で語ったり、インストラクターの方と一緒に授業を行う所まで記そうと思います。

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。

次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!



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デッキ紹介Vol.1 【Kozmo】&【Sin】

今回はTURN14で使用した【Kozmo】デッキと【Sin】デッキのレシピ・回し方・強化案を
説明する番外編となります。
架空デュエルですが、出来るだけリアリティーに即したようにしています。

現在アンケートで募集した番外編の執筆も行っていますが、予想以上にヘヴィーな内容になりそうです(汗)



 はい! 皆さん初めまして! 『遊戯王IS〈インフィニット・ストラトス〉』の主人公を務めさせて頂いています、黒田純一と申します。

 今回のお話なんですが、デュエル回で僕らが使ったデッキを紹介する番外編となっています。デッキレシピから回し方、各カードの紹介や強化案を一緒に考えていきたいと思います。第1回は第14話で僕が使用した【Kozmo】デッキと、平等院零児さんが使用した【Sin】デッキをそれぞれ紹介します。ではお呼びしましょうか。平等院零児さん! 

 はいどうも! 平等院零児と言います。名前の元ネタは『遊戯王ARC-V』に登場した赤馬零児から取りました。この名前はもう1つ意味があるのですが、それは第15話で明かされますので暫しお待ちを。

 では零児さんと一緒にデッキ紹介の方をさせて頂きます。先ずは零児さんが使用した【Sin】デッキになります!

 

 

 

・【Sin】デッキのレシピ

 

メインデッキ:40枚

 

モンスター:18枚

《Sinパラドクスギア》×3

《Sinパラレルギア》×3

《Sinトゥルース・ドラゴン》×1

《Sinパラダイム・ドラゴン》×2

《Sinスターダスト・ドラゴン》×3

《Sinサイバー・エンド・ドラゴン》×3

《Sin青眼の白龍》×1

《Sinレインボー・ドラゴン》×1

《究極宝玉神 レインボー・ドラゴン》×1

 

魔法:16枚

《Sin World》×3

《テラ・フォーミング》×1(制限カード)

《Sin Territory》×3

《Sin Cross》×2

《Sin Selector》×3

《神縛りの塚》×1

《ワン・フォー・ワン》×2(準制限カード)

《ハーピィの羽根箒》×1(制限カード)

 

罠:6枚

《Sin Claw Stream》×3

《神の宣告》×3

 

EXデッキ:15枚

《スターダスト・ドラゴン》×3

《サイバー・エンド・ドラゴン》×3

《Sinパラドクス・ドラゴン》×2

《神樹の守護獣-牙王》×1

《冥界濁龍 ドラゴキュートス》×1

《炎斬機ファイナルシグマ》×1

《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》×1

《超巨大空中宮殿ガンガリディア》×1

《神竜騎士フェルグラント》×1

《No.38希望魁竜タイタニック・ギャラクシー》×1

 

 

 

・キーカードやコンボの紹介

 

 こちらが新規カードを搭載した【Sin】デッキのレシピとなります。そもそも【Sin】デッキは攻撃力が高く、召喚条件の緩い《Sin》モンスターによるビートダウンを戦術とした、ハイビートデッキなんです。ハイビートは高打点モンスターでビートダウンを行うデッキの総称です。

 今まで《Sin》モンスターは“フィールドに1体しか存在出来ない”、“モンスターゾーンにいる限り、他の自分のモンスターは攻撃宣言できない”、“フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合に破壊される“と言うデメリット効果を抱えていました。

 それを《スキルドレイン》で無効化したり、【壊獣】に組み込んだりしていましたが、その中でも《Sinスターダスト・ドラゴン》と、《Sinサイバー・エンド・ドラゴン》の採用率が高かったです。と言うのも、彼らはフィールド魔法を一度発動すれば、EXデッキから指定されたモンスターを除外して特殊召喚出来るので、メインデッキを圧迫せず、手札事故も起こりにくくしていました。

 しかし、2019年2月9日に発売された『20th ANNIVERSARY LEGEND COLLECTION』と、2020年6月20日に発売された『COLLECTION PACK 2020』で大幅な強化を受けました。特に『20th ANNIVERSARY LEGEND COLLECTION』に収録された2枚のカード、《Sinパラドクスギア》と《Sin Territory》は超強力で3枚搭載しました。

 

 

《Sinパラドクスギア》

効果モンスター

レベル1/闇属性/機械族

ATK/0 DEF/0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールド魔法カードが表側表示で存在する場合、このカードをリリースして発動できる。デッキから《Sin パラレルギア》1体を特殊召喚する。

その後、デッキから《Sinパラドクスギア》以外の《Sin》モンスター1体を手札に加える。

(2):自分の手札の《Sin》モンスターを、自身の方法で特殊召喚するためにモンスターを除外する場合、そのモンスターの代わりにフィールド・墓地のこのカードを除外できる。

 

 

いや~強いとしか書いていないですよこれは。フィールド魔法カードが表側表示で存在する時限定ですけど、《Sinパラドクスギア》をリリースしてデッキから《Sin パラレルギア》1体を特殊召喚し、デッキから《Sinパラドクスギア》以外の《Sin》モンスター1体をサーチ出来る効果持ちですし。

 ちなみに“フィールド魔法カードが表側表示で存在する時”なので、相手がフィールド魔法を発動していればモンスター効果を発動する事が出来ます。それに手札の《Sin》モンスターを特殊召喚する時の肩代わりコストにもなるので、3枚採用しました。

 これで手札シンクロが可能な《Sinパラレルギア》を特殊召喚し、状況に応じてレベル8・レベル10の《Sin》モンスターをサーチすれば、レベル10・レベル12シンクロモンスターをシンクロ召喚する事が出来ます。なのでEXデッキには汎用レベル10シンクロの《神樹の守護獣-牙王》を入れて、シンクロ素材の条件を満たしている《冥界濁龍 ドラゴキュートス》、汎用レベル12シンクロの《炎斬機ファイナルシグマ》 を入れました。

 

 

《冥界濁龍 ドラゴキュートス》

シンクロ・効果モンスター

レベル10/闇属性/ドラゴン族

ATK/4000 DEF/2000

闇属性チューナー+チューナー以外のドラゴン族モンスター1体

(1):このカードは戦闘では破壊されない。

(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。

このカードはもう1度だけ続けて相手モンスターに攻撃できる。

(3):自分スタンバイフェイズに相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を半分にし、その数値分だけ相手にダメージを与える。

 

 

 先ず《冥界濁龍 ドラゴキュートス》ですが、効果耐性で言えば《神樹の守護獣-牙王》には及びません。しかし、攻撃力が勝っていて、それでいて戦闘破壊されない所が優秀だと感じました。

 それと2回連続攻撃出来る所も魅力に感じました。攻撃力が4000あるので大抵のモンスターは倒せます。なのでフィールドにモンスターが複数体並んでいて、レベル10シンクロが可能な場合は《ドラゴキュートス》をシンクロ召喚します。

 本編ではお見せ出来ませんでしたが、《神縛りの塚》とのコンボは地味に強いと思います。元々《ドラゴキュートス》は戦闘破壊されない効果を持っていますが、《ダークシミター》のように効果破壊持ちのカードには弱いです。

 それを《神縛りの塚》で補って無敵状態を作る事が出来ます。《神縛りの塚》が存在している間、フィールドのレベル10以上のモンスターは効果の対象にならず、効果では破壊されなくなります。そうなれば戦闘・効果破壊されず、効果の対象にもならない攻撃力4000の2回攻撃可能な《ドラゴキュートス》が誕生します。

 それに《神縛りの塚》はフィールドのレベル10以上のモンスターが戦闘でモンスターを破壊して墓地へ送った場合、破壊されたモンスターのコントローラーに1000ダメージを与える事が出来る効果を持っています。なので《ドラゴキュートス》で攻撃しながら相手に戦闘ダメージを与えつつ、《神縛りの塚》の効果でバーンダメージを与える事が出来るようになります。それが2回連続となると、かなり相手のライフポイントを削る事が出来るようになるんじゃないかな~と思います。

 それでもし相手のライフポイントが多少残っていたら、《ドラゴキュートス》の3つ目の効果で次のターンの自分のスタンバイフェイズで相手フィールドの表側攻撃表示モンスターの攻撃力の半分にし、その数値のバーンダメージを与えるなり、メインフェイズ2で自分フィールドにいるレベル10モンスターとエクシーズ召喚し、《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》のモンスター効果で2000バーン与えれば、下手をすればゲームエンドまで持っていく事も出来ます。

 《ドラゴキュートス》はそういった理由で採用しました。もしまた本編で登場してデュエルさせて頂けるようであれば、純一君とのデュエルでお見せ出来なかったコンボをお見せ出来ればと思います。

 

 

《炎斬機ファイナルシグマ》

シンクロ・効果モンスター

レベル12/炎属性/サイバース族

ATK/3000 DEF/0

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードはEXモンスターゾーンに存在する限り、《斬機》カード以外のカードの効果を受けない。

(2):EXモンスターゾーンのこのカードが相手モンスターとの戦闘で相手に与える戦闘ダメージは倍になる。

(3):このカードが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。

デッキから《斬機》カード1枚を手札に加える。

 

 

 《炎斬機ファイナルシグマ》はEXモンスターゾーンにシンクロ召喚します。と言うのも、EXモンスターゾーンに存在する限り、《斬機》カード以外のカードの効果を受けないと言う疑似的な完全耐性を得るからです。この状態の《ファイナルシグマ》を除去するには、攻撃力3000以上のモンスターで攻撃して戦闘破壊するか、《壊獣》モンスターで除去するか等になります。出せれば殆どのデッキは対処に苦労するでしょう。

 ちなみに、《斬機》カード以外のカードの効果を受けなくなるので、《Sin》モンスターのデメリットを一切気にする必要はありません。それに相手モンスターとのバトルで相手に与える戦闘ダメージは倍になる効果なんですが、攻撃力3000あるので、まぁ大抵のモンスターは戦闘破壊出来るかと。

 ただ《神縛りの塚》の恩恵を受けられなくなるので、あくまでフィールド魔法が発動されていない状況でシンクロ召喚する事が多いですね。でも自分フィールドに《Sin》モンスターが複数体展開されていても関係なく攻撃出来たり、そもそも攻撃力3000ありますし、制圧要員・フィニッシャーとして本当に優秀ですね。

 

 

《Sin Territory》

永続魔法

(1):このカードの発動時の効果処理として、デッキから《Sin World》1枚を発動できる。

この効果で発動したカードがフィールドゾーンに存在する限り、お互いにフィールドゾーンのカードを効果の対象にできない。

(2):《Sin》モンスターの持つ、「《Sin》モンスターはフィールドに1体しか表側表示で存在できない」効果は、「《Sin》モンスターは1種類につきフィールドに1体しか表側表示で存在できない」として適用される。

(3):バトルフェイズの間だけフィールドの《Sin》モンスターの効果は無効化される。

 

 

 《Sin Territory》は発動時の効果処理として、デッキから《Sin World》1枚を発動できます。なので《テラ・フォーミング》を含めると、実質《Sin World》7枚搭載になります。

 そして《Sin World》に対象耐性を付与するので対象に取ってからの破壊や除外、そしてバウンスが通用しなくなります。対象に取らない除去には弱いですが……(汗)

 更にこれまで【Sin】デッキのデメリットだった“フィールドに1体しか展開出来ない”効果を“フィールドに1種類しか展開出来ない”効果に書き換え、“他のモンスターが攻撃出来ない”効果をバトルフェイズの間だけ無効化すると言う、チートじみた効果を持っています。これで【Sin】の悩みが一気に解決されました。

 序盤はこのカードを発動し、フィールドに維持していきたいです。なので3枚フル投入し、もし初手に無かったら《Sin World》や《Sin Selector》でサーチしていくスタイルにしています。でないと厳しいです正直。

 

 

《Sin Selector》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の墓地から《Sin》カード2枚を除外して発動できる。

除外したカードとカード名が異なる《Sin Selector》以外の《Sin》カード2枚をデッキから手札に加える(同名カードは1枚まで)。

 

 

《Sin Cross》

速攻魔法

(1):自分の墓地の《Sin》モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズに除外される。

 

 

 《Sin Selector》はその場でサーチするカードを選んでいますが、墓地から《Sin》カード2枚を除外しないと使えないのがネックですね……なので中盤から使うようにしています。墓地に除外コストがないと使えないですし……手っ取り早く使う方法はさっさとシンクロ召喚してコストを用意する事ですね。

 《Sin Cross》は“特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズに除外される”デメリットはありますが、相手ターンにも使える優秀な蘇生札です。

 でも基本的に自分ターンで使ってアタッカー要員として呼びつつ、バトルフェイズが終わったらメインフェイズ2に移り、エクシーズ召喚すればデメリット効果を踏み倒す事が出来ます。そういう使い方の為に入れています。

 

 

《Sinパラダイム・ドラゴン》

特殊召喚・効果モンスター

レベル10/闇属性/ドラゴン族

ATK/4000 DEF/4000

このカードは通常召喚できない。

フィールドに《Sinパラダイム・ドラゴン》が存在しない場合に、EXデッキから《Sin》モンスター1体を除外した場合のみ特殊召喚できる。

(1):フィールドに《Sin World》が存在しない場合にこのカードは破壊される。

(2):1ターンに1度、デッキから《Sin》カード1枚を墓地へ送って発動できる。

除外されている自分のレベル8のSモンスター1体をEXデッキに戻す。

その後、そのモンスターをEXデッキから特殊召喚できる。

このターン、自分は《Sin》モンスターでしか攻撃できない。

 

 

 《Sinパラダイム・ドラゴン》は《Sin World》がないと自壊するデメリットがあるので、《Sinスターダスト》や《Sinサイバー・エンド》みたいな汎用性がなく、【Sin】デッキでしか能力を発揮出来ませんが……それを差し引いても強いです。

 特にデッキから《Sin》カード1枚を墓地へ送ると、除外されている自分のレベル8のSモンスター1体をEXデッキに戻し、そこからEXデッキから特殊召喚する効果が強いと感じました。ただその後《Sin》モンスターでしか攻撃出来なくなりますが……

 2番目の効果は特に強いですよね~デッキから《Sinトゥルース・ドラゴン》を墓地に送って特殊召喚への布石を打ちつつ、《Sinスターダスト》の召喚コストで除外した《スターダスト・ドラゴン》を特殊召喚出来ますし。その《スターダスト・ドラゴン》で効果破壊を防いだり、相手を牽制出来ますし。普通にランク8エクシーズを立てられるので、本当に柔軟な動きが出来るようになりましたね……

 

 

《Sinパラドクス・ドラゴン》

シンクロ・効果モンスター

レベル10/闇属性/ドラゴン族

ATK/4000 DEF/4000

《Sin パラレルギア》+チューナー以外の《Sin》モンスター1体

(1):《Sinパラドクス・ドラゴン》はフィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(2):このカードがS召喚に成功した時、自分または相手の墓地のSモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

(3):フィールドに《Sin World》が存在しない場合にこのカードは破壊される。

 

 

 《Sinパラダイム・ドラゴン》の特殊召喚コストの《Sinパラドクス・ドラゴン》ですが、デメリット効果が《Sinパラダイム・ドラゴン》と共通なんですが、打点も高いですし、S召喚に成功した時、自分・相手の墓地のSモンスター1体を自分フィールドに蘇生出来る効果が強いですね。

 このデッキだと《牙王》と《ドラゴキュートス》が蘇生対象になりますが、中々突破される事はないので、《Sinパラダイム・ドラゴン》の召喚コストとして除外する事が多いですね。或いは相手の墓地にSモンスターがいる時に利用する事も出来ます。そうしたら《Sin》のデメリットも関係ないですし、最悪壁にも使えます。

 

 

 

・【Sin】デッキの強化案

 

 【Sin】デッキのレシピを一通り見ましたが、純一君から見てこのカードを入れた方が良いと言う事があったら遠慮なく言って下さい。

 そうですね……デッキ自体は本当にまとまっていてよく考えて構築したんだなと感じました。ゴチャゴチャソリティアするより、でかいモンスター出して殴って勝つ!と言う漢気が伝わって来たんですけど、高打点で殴る以外の突破手段がないのが気になりました。

 確かに……戦闘耐性があるモンスター相手だと突破に困る事があるので、EXデッキに《超巨大空中宮殿ガンガリディア》を入れていますけど、やっぱり心元ないですよね……

 先ず《スキルドレイン》は採用するとして、相性が良いカードを提示していきます。相性が良いのは《ダイナレスラー・パンクラトプス》ですね。相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多ければ特殊召喚出来て、リリースすれば相手フィールドのカード1枚を破壊出来るフリーチェーンの効果持ち。《スキルドレイン》が発動されてても使えます。

 後は召喚権が余る事が多そうなので、《ファイヤー・ハンド》と《アイス・ハンド》をおすすめしたいです。《ファイヤー・ハンド》 は相手によって破壊されて墓地へ送られると、相手フィールドのモンスター1体を破壊して自分のデッキから《アイス・ハンド》1体を特殊召喚出来ます。

 《アイス・ハンド》は相手によって破壊され墓地へ送られた時、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を破壊して自分のデッキから《ファイヤー・ハンド》1体を特殊召喚出来るので、場持ちが良いと言いますか、相手からすれば嫌な流れになるかと。

 それと【Sin】デッキってフィールド魔法や《スキルドレイン》に《Sin Territory》が自分フィールドから無くなると、途端に厳しくなるのでそれを補うカードがあります、

 

 

《魔晶龍ジルドラス》

効果モンスター

レベル6/闇属性/ドラゴン族

ATK/2200/守1200

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが手札・墓地に存在し、自分フィールドの魔法・罠カードが相手の効果でフィールドから離れ、墓地へ送られた場合または除外された場合に発動できる。

このカードを特殊召喚する。

その後、自分の墓地のカード及び除外されている自分のカードの中から、魔法・罠カード1枚を選んで自分の魔法&罠ゾーンにセットできる。

この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 

 このカードは自分フィールドの魔法・罠カードが相手の効果でフィールドから離れ、墓地へ送られた場合・除外された場合に手札・墓地から特殊召喚出来ます。その後自分の墓地のカード及び除外されている自分のカードの中から、魔法・罠カード1枚を選んで自分の魔法・罠ゾーンにセット出来ます。

 【Sin】はフィールド魔法や《Sin Territory》の維持が大切なので、このカードを入れておくだけでもかなり変わってくると思います。

 成る程~後は汎用罠等で守りを固めると……確かに尖り過ぎていましたね。これならバランスが良くなりますね!現代『遊戯王』ってモンスター効果で除去する事が多いので、それを封じるだけでもけっこう刺さりますし……

 後はEXデッキでこの小説の独自ルールなしで考えると、ランク8は《銀河眼(ギャラクシーアイズ)》モンスターと《宵星の機神(シーオルフェゴール)ディンギルス》がお勧めですね。

 特に《銀河眼(ギャラクシーアイズ)》モンスターの中では、《No.107《銀河眼の時空竜(ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン)》は入れておきたいですね。バトルフェイズ開始時にフィールドのモンスター効果を無効にし、ステータスをリセットするモンスター効果が、《Sin》モンスターのデメリット効果を打ち消してくれるので、自分を含めた他のモンスターも攻撃する事が出来るようになります。

 後、《宵星の機神(シーオルフェゴール)ディンギルス》は特殊召喚に成功した場合、相手フィールドのカード1枚を“選んで”墓地へ送るか、除外されている自分の機械族モンスター1体を選び、このカードの下に重ねてX素材とするかのどちらかを選んで発動する事が出来ます。前者の場合は対象を取らない除去なので、《カオス・MAX》も除去出来ます。

 もう1つの効果は自分フィールドのカードが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードのX素材を1つ取り除く身代わり効果で、ランク8が出せるデッキは採用しても良いんじゃないかと思います。ステータスはブルーアイズと同等ですし。

 ランク10になると、《No.81超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ》と《超弩級砲塔列車ジャガーノート・リーベ》が鉄板になるかと。

 強化案は以上になります。【Sin】デッキは劇場版『遊戯王~超融合!時空を越えた絆~』で登場した敵キャラ、パラドックスが使用していたテーマです。映画を観て【Sin】デッキを作りたいと思った人、新規カードで強くなった【Sin】デッキでパラドックスになり切りたい人、その他色々あるとは思います。是非組んで遊んでみて下さい!

 

 

 

・【Kozmo】デッキレシピ

 

メインデッキ:41枚

 

モンスター:22枚

《Kozmo-ダークエクリプサー》×1

《Kozmo-ダークシミター》×3

《Kozmo-フォアランナー》×1

《Kozmo-ラントウォーカー》×1

《Kozmo-スリップライダー》×2

《Kozmo-ダーク・エルファイバー》×2

《Kozmo-グリンドル》×2

《Kozmo-ドロッセル》×2

《Kozmo-フォルミート》×2

《Kozmo-フェルブラン》×3

《エフェクト・ヴェーラー》×3

 

魔法:13枚

《Kozmo-エメラルドポリス》×3

《テラ・フォーミング》×1(制限カード)

《ハーピィの羽根箒》×1(制限カード)

《緊急テレポート》×2(準制限カード)

《闇の誘惑》×2(準制限カード)

《封印の黄金櫃》×1(制限カード)

 

罠:6枚

《リビングデッドの呼び声》×3

《Kozmo-エナジーアーツ》×3

 

EXデッキ:15枚

《リンクリボー》×1

《水晶機巧-ハリファイバー》×1

《トロイメア・ケルベロス》×1

《ヴァレルロード・ドラゴン》×1

《デコード・トーカー》×1

《フォーミュラ・シンクロン》×1

《No.61 ヴォルカザウルス》×1

《迅雷の騎士ガイアドラグーン》×1

《月華竜 ブラック・ローズ》×1

《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》×1

《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》×1

《神竜騎士フェルグラント》×1

《No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシ-》×1

《No.90 銀河眼の光子卿》×1

《銀河眼の光波刃竜》×1

 

 

 はい。本編第3話で作った【Kozmo】デッキになります。EXは第3話と第4話の間で作りましたが、正直あんまり使いません。取り敢えず《エフェクト・ヴェーラー》がチューナーなので、出せそうなシンクロモンスターと、汎用のリンク・エクシーズモンスターを入れただけです。

 第14話ではやむを得ず使いましたが、あれはイレギュラーなケースです。そもそも【Kozmo】ってメインデッキだけでも十二分に戦えるので、EXはあんまり要らないかな~と言う印象です。ゴーキン用のコストに後でなりますし。

 でもEXに何を入れたら良いか?と聞かれると、僕個人はリンク3の《混沌の戦士 カオス・ソルジャー》を推します。と言うのも、【Kozmo】は高打点耐性持ちのモンスターが出ると、突破が難しくなると言う欠点があるからです。例えば《アルティメット・ファルコン》のような効果を一切受けない奴とか。【壊獣】で処理すれば良いですけどね……

 《混沌の戦士 カオス・ソルジャー》はレベル7以上のモンスターをリンク素材にした場合、相手の効果対象にならず、効果破壊されないと言うチートじみたモンスター効果を持っています。だから平均価格が高くてIS環境ルールでは使用禁止になるんですよ……(汗)

 後【Kozmo】は闇属性モンスターが多いので《超融合》を入れて、《スターヴ・ヴェノム・フュージョン・ドラゴン》を出すのもありかと。

 

 

 

・キーカードやコンボの紹介

 先ず【Kozmo】デッキって何ぞや?と言う人の為に軽く説明すると、【Kozmo】は元々海外で誕生したテーマデッキです。元ネタは『スター・ウォーズ』と『オズの魔法使い』です。初登場したのが海外で2015年8月7日に発売された『Clash of Rebellions』と言うパックになります。

 当時海外では環境入りしていた事もあって、超高額で取引されていたそうです。日本には『EXTRA PACK 2016』で来日しましたが、来日当時は【ABC】がトップの環境でした。私も【青眼】を握っていて大会やフリーで何度も対戦しましたが、ひたすら強かった印象しかなかったです。環境入りしていた時期もありましたが、【十二獣】と言う9期最大の頭おかしい強さのデッキが環境トップに立つと、都落ちしていきました。

 しかし、新マスタールールの施行によってエクストラデッキからの大量展開が出来なくなると、また環境で大暴れしていました。今はデッキパワーの問題で中堅デッキに落ち着いていますが、何かあればまた爆発しそうな予感がします。

 話が脱線したので元に戻します。【Kozmo】デッキは自身を除外し、後続を特殊召喚する効果を持つ《Kozmo》モンスターを中心にしたビートダウンデッキです。それぞれモンスター効果を使って耐性持ちで強力な効果を持つ大型モンスターを展開し、フィールドを制圧していくのが主な戦術です。

 自身を除外し、後続を特殊召喚する効果はフリーチェーンなのでいつでも発動する事が出来る効果なので、バトルフェイズの時も使う事が出来ます。これによって攻撃と特殊召喚を連続で行い、怒涛の連続攻撃を叩き込む事が出来ます。

 《Kozmo》モンスターは2つの種族のどちらかになっていて、種族によって特徴があります。サイキック族は自身を除外すると、手札から自身よりレベルが高い《Kozmo》モンスターを特殊召喚する事が出来ます。機械族は戦闘・効果破壊時に自身を墓地から除外すると、デッキから自身よりレベルが低い《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚したり、サーチする事が出来ます。

 一度機械族を特殊召喚できれば、例え戦闘・効果破壊されても共通効果があるので、長期戦に持ち込まれても大丈夫です。ただその為にはサイキック族のモンスターがいないと駄目です。なので機械族とサイキック族を上手く手札にキープ出来るよう、モンスターの採用枚数には気を付けています。

 

 

《Kozmo-フェルブラン》

効果モンスター

レベル1/光属性/サイキック族

ATK/0 DEF/0

《Kozmo-フェルブラン》の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードを除外して発動できる。

手札からレベル2以上の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚する。

この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):自分・相手のエンドフェイズに500LPを払って発動できる。

デッキから《Kozmo》カード3種類を相手に見せ、相手はその中からランダムに1枚選ぶ。そのカード1枚を自分の手札に加え、残りは墓地へ送る。

 

 

先ずこのデッキのキーカードの《フェルブラン》。元ネタは『スター・ウォーズ』の“R2-D2”と『オズの魔法使い』の“ブリキの木こり”ですね。

(1)のモンスター効果は《Kozmo》下級モンスター共通なので説明は先程した為省略しますが、大事なのは(2)のモンスター効果。

 エンドフェイズにデッキから3種類の《Kozmo》カードの内ランダムに1枚サーチし、残りを墓地へ送る効果。僕は《ダークシミター》、《ダーク・エルファイバ―》、《スリップライダー》を選択しています。

 2枚のモンスターカードが墓地に送られる事になるので、事前に《リビングデッドの呼び声》等の蘇生系罠カードを伏せて置くことで、後述する《ダークシミター》と《スリップライダー》の除去効果をいつでも発動出来るようになります。そうしたら相手からしたら嫌な展開になるでしょう。

 仮に《リビングデッドの呼び声》が破壊されたとしても、機械族《Kozmo》モンスターの共通効果が発動するので、そこまでアド損にはなりません。

 

 

《Kozmo-ドロッセル》

効果モンスター

レベル3/光属性/サイキック族

ATK/1500 DEF/1000

《Kozmo-ドロッセル》の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードを除外して発動できる。

手札からレベル4以上の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚する。

この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、500LPを払って発動できる。

デッキから《Kozmo》カード1枚を手札に加える。

 

 

 《ドロッセル》の元ネタは『オズの魔法使い』のドロシーと、『スター・ウォーズ』シリーズの主人公のルーク・スカイウォーカーでしょうか。《フェルブラン》と同じサーチ要員ですが、違うのは確定サーチが出来る事です。

 《フェルブラン》はランダムなので相手次第になりますが、《ドロッセル》は相手に戦闘ダメージを与えればデッキから好きな《Kozmo》カード1枚をサーチ出来ます。ただ攻撃力が1500とそこまで高くないので、《ドロッセル》軸のデッキなら相手モンスターを除去するカードだったり、後述する《オネスト》を入れた方が良いです。

無難なのは相手フィールドががら空きの時の直接攻撃で発動条件を満たし、モンスター効果発動の方がよろしいかと。

 ただ光属性である為、相手が攻撃してきた所を《オネスト》のモンスター効果を発動すれば、相手モンスターを戦闘破壊しながら相手に戦闘ダメージを与える事が出来ます。そこでモンスター効果を発動し、デッキから《ダークシミター》等のレベル4以上の《Kozmo》モンスターをサーチすれば、連続攻撃を繰り出す事も出来ます。

 

 

《Kozmo-グリンドル》

効果モンスター

レベル4/光属性/サイキック族

ATK/1800 DEF/1000

《Kozmo-グリンドル》の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードを除外して発動できる。

手札からレベル5以上の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚する。

この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):1ターンに1度、500LPを払い、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを裏側守備表示にする。

 

 

 《グリンドル》はライフコストを払うと、《月の書》を発動出来る強力な効果を持っています。レベル4で攻撃力1800とステータスも高めなので、《虚無魔人》や《ライオウ》のようなメタカードも突破出来ます。

 『スター・ウォーズ』側の元ネタはヨーダとオビ=ワン・ケノービ、『オズの魔法使い』側の元ネタは善い魔女“グリンダ”です。

 これは本編第3話で触れましたが、相手フィールドに《インフィニティ》や《クリスタルウィング》みたいに攻撃力も高くて、フィールドを制圧出来るモンスター効果持ちがいて、自分フィールドに《グリンドル》がいて、手札に《ダークシミター》があるとします。

 ライフコストを払って《グリンドル》のモンスター効果を発動し、相手モンスターを裏側守備表示にしようとします。相手はそれが嫌なのでモンスター効果を発動し、《グリンドル》のモンスター効果の発動を無効にした上で破壊しようとします。それにチェーンして《ダークシミター》を特殊召喚してモンスター効果を発動すれば、制圧系の効果持ちのモンスターを討ち取る事が出来ます。なのでデッキに入れています。

 

 

《Kozmo-スリップライダー》

効果モンスター

レベル5/光属性/機械族

ATK/2300 DEF/800

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

(2):このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキからレベル4以下の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

 このデッキにおける魔法・罠破壊要員です。『オズの魔法使い』としての元ネタはドロシーの靴で、スター・ウォーズ』側の元ネタは宇宙戦闘機“Xウイング”でしょう。

 《スリップライダー》の主な仕事は相手の伏せカードを除去し、展開を優位に進めたり、攻撃を通しやすくする事です。後、これは第14話では使えなかったのですが、専用のフィールド魔法の《Kozmo-エメラルドポリス》を破壊し、サーチ効果を発動させる事も出来ます。正直攻撃力はもう少し欲しかったですね(苦笑)

 

 

《Kozmo-ダークシミター》

効果モンスター

レベル8/闇属性/機械族

ATK/3000 DEF/1800

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。

(2):このカードは相手の効果の対象にならない。

(3):このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキからレベル7以下の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

【Kozmo】デッキの切り札です。元ネタは映画『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』に登場するダース・モールの宇宙船“シミター”こと“シス・インフェルトレーター”、『オズの魔法使い』において東の魔女が使用していた銀の靴及び箒だと思われますが、『スター・ウォーズ』側の元ネタがマニアック過ぎる……(汗)

 確かに検索してみたら似てますよ? 白と灰色を基調としたカラーリングやコクピット両側に取り付けられた主翼を見ると……でも宇宙船かな? 個人的には宇宙戦闘機扱いでも良い気がします……第14話では宇宙戦闘機と記していますけど、文献やサイトによっては宇宙戦闘機や宇宙船とも記しているのもありますし……解釈は皆さんに任せます。

 《ダークシミター》の強い所は先ず攻撃力が3000ある事。やっぱり攻撃力3000あるってのは安心と信頼ですね。そして(1)の効果。召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドのモンスター1体を効果破壊する事。

 【Kozmo】デッキにおけるモンスター除去要員なのですが、これ相手のモンスターでなくても良いんです。自分のモンスターを破壊する事も出来ます。《ダークシミター》自身でもOKです。なのでバトルフェイズ中に《ダークシミター》を特殊召喚し、モンスター効果で自分フィールドの他の機械族《Kozmo》モンスターを破壊し、リクルート効果で別の《Kozmo》モンスターを特殊召喚し、追撃する事だって出来ます。

 そして(2)のモンスター効果が強い。“相手の効果の対象にならない”と言う事は、対象に取る効果は通用しないと言う事です。仮に《ブラック・ホール》等で破壊されたとしても、今度はリクルート効果が発動する為、完全に除去するには対象をとらず、破壊ではない手段が必要になります。

 切り札なので序盤で早い段階でサーチして、手札に確保しておきたいです。なのでサーチする優先度は一番高いです。3積みです。

 

 

《Kozmo-エメラルドポリス》

フィールド魔法

(1):1ターンに1度、除外されている自分の《Kozmo》モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に戻し、自分はそのモンスターの元々のレベル×100LPを失う。

(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。

手札の《Kozmo》モンスターを任意の数だけ相手に見せ、デッキに戻してシャッフルする。その後、自分はデッキに戻した数だけデッキからドローする。

(3):フィールドゾーンのこのカードが効果で破壊された場合に発動できる。

デッキから《Kozmo》カード1枚を手札に加える。

 

 

 【Kozmo】デッキ専用のフィールド魔法ですが、どの効果も強いとしか書いてないです。先ず(1)の効果ですが、除外されている《Kozmo》モンスターを回収出来ます。戦闘・効果破壊に限らず、《闇の誘惑》や《封印の黄金櫃》、《抹殺の指名者》で除外しておいた《Kozmo》モンスターを回収出来るので、疑似サーチみたいな動きが出来ます。

 (2)の効果は手札交換ですね。【Kozmo】デッキの弱点は手札事故が起きる事です。下級サイキック族と上級・最上級機械族が良い感じで混ざっていない時があります。それを防げるのはとても大きいです。

 (3)の効果は破壊されたらサーチ出来る効果なんですが、そもそも相手にアドを与える為に破壊してくれるとは考えにくいので、《スリップライダー》のモンスター効果で破壊する事で発動させる事が多いです。このカードの対策として、《コズミック・サイクロン》が使われていた記憶があります。あのカードは一時期凄い高かったんですよ。今は再録でけっこう安くお手軽に手に入るようになりましたね。

 名前の元ネタは『オズの魔法使い』のエメラルドの街と呼ばれる都市で、イラストの元ネタは『スター・ウォーズ』に登場する銀河共和国・銀河帝国の首都惑星コルサントでしょうか。中々良いイラストで個人的に好きです。

 

 

《Kozmo-エナジーアーツ》

通常罠

《Kozmo-エナジーアーツ》は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドの《Kozmo》モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを破壊し、相手のフィールド・墓地のカード1枚を選んで除外する。

 

 

 これは《ダークシミター》では突破出来ない高打点で破壊耐性持ちに対する除去カードですね。除外効果は対象を取らないので防ぐ手段が少ない為、《カオス・MAX》も簡単に除去出来ます。

 破壊する《Kozmo》モンスターは機械族モンスターにすると、リクルート効果で後続が呼べるのでアド損は最小限に抑えられます。

 元ネタは『スター・ウォーズ』シリーズのフォースによる首絞めですね。流石にこの小説では表現が過激すぎるので、エネルギー波による攻撃に変更しました。

 

 

 

・本編で使用しなかったカードと使い方について

 

 

《Kozmo-ダーク・エルファイバー》

効果モンスター

レベル5/闇属性/サイキック族

ATK/2200 DEF/1800

《Kozmo-ダーク・エルファイバー》の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードを除外して発動できる。

手札からレベル6以上の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚する。

この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):1ターンに1度、このカード以外のモンスターの効果が発動した時、1000LPを払って発動できる。その発動を無効にし破壊する。

 

 

 《ダーク・エルファイバー》は制圧要員で、ライフコストを払うと《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》と同じモンスター効果を発動する事が出来ます。

 フィールドに出す時は下級サイキック族《Kozmo》モンスターの共通効果を使う事になりますが、打点がそこまで高い訳じゃないので、バトルフェイズに入って攻撃対象にされたら、(1)のモンスター効果を発動し、手札の上級・最上級機械族《Kozmo》モンスターを特殊召喚した方が良いでしょう。

 『スター・ウォーズ』側の元ネタは“ダース・ベイダー”で、『オズの魔法使い』側のモチーフは“西の悪い魔女”でしょう。

 

 

《緊急テレポート》

速攻魔法(準制限カード)

(1):手札・デッキからレベル3以下のサイキック族モンスター1体を特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターは、このターンのエンドフェイズに除外される。

 

 

《緊急テレポート》は《フェルブラン》を特殊召喚してモンスター効果でサーチしたり、《ドロッセル》を特殊召喚して相手に戦闘ダメージを与えてから展開する等、色々な事が出来ます。《幽鬼うさぎ》もサイキック族で《緊急テレポート》に対応しているので、【Kozmo】デッキに入れても良いと思います。

 ちなみに《緊急テレポート》の効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに除外されるのですが、《フェルブラン》のサーチ効果と組み合わせてデメリットを踏み倒す事が出来ます。と言うのも、エンドフェイズ時には自分が好きな順番でチェーン処理を組む事が出来るからです。

 《フェルブラン》の下級《Kozmo》モンスターの共通効果を使用し、サーチ効果でサーチしたモンスターや手札にあるレベル2以上の《Kozmo》モンスターを特殊召喚すれば、《緊急テレポート》のデメリットを踏み倒す事が出来ます。

 

 

《封印の黄金櫃》

通常魔法(制限カード)

(1):デッキからカード1枚を選んで除外する。

このカードの発動後2回目の自分スタンバイフェイズに、この効果で除外したカードを手札に加える。

 

 

《抹殺の指名者》

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):カード名を1つ宣言して発動できる。

宣言したカード1枚をデッキから除外する。

ターン終了時まで、この効果で除外したカード及びそのカードと元々のカード名が同じカードの効果は無効化される。

 

 

《闇の誘惑》

通常魔法(準制限カード)

(1):自分はデッキから2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体を除外する。

手札に闇属性モンスターが無い場合、手札を全て墓地へ送る。

 

 

この3枚の共通点は手札・デッキからカードを除外する事ですね。このデッキはモンスターを除外して効果を発動するカードばかりなので、これらのカードとはとても相性が良いです。

 《闇の誘惑》は本編でも使いましたが、《Kozmo》は闇属性モンスターが多いので、手札を増やしながら《ダークシミター》等を除外し、《エメラルドポリス》の効果で回収する事が出来ます。或いは《フォルミート》のモンスター効果で効果無効化状態で特殊召喚し、アタッカーとして運用する事も出来ます。

 《抹殺の指名者》はメタカードで相手のカードをデッキから除外し、無効化する事が出来ます。カードなので魔法・罠でもOKです。このデッキだと、速攻魔法と言う点を活かして相手ターンに発動し、《ダークシミター》等を宣言して除外し、自分ターンで《エメラルドポリス》の効果で回収する事が出来ます。

 《封印の黄金櫃》はこのデッキにおける4枚目の《抹殺の指名者》扱いですが、《抹殺の指名者》と違って効果無効状態にならないのが強みです。なので除外されているモンスターを特殊召喚する効果持ちのカードと組み合わせると、除外したモンスターのモンスター効果を発動する事が出来るようになります。

 

 

 

・【Kozmo】デッキの強化案

 

《強欲で金満な壺》

通常魔法

(1):自分メインフェイズ1開始時に、自分のEXデッキの裏側表示のカード3枚または6枚をランダムに裏側表示で除外して発動できる。

除外したカード3枚につき1枚、自分はデッキからドローする。

このカードの発動後、ターン終了時まで自分はカードの効果でドローできない。

 

 

《竜嵐還帰》

通常罠

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):除外されている自分または相手のモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに持ち主の手札に戻る。

 

 

デッキの強化案ですが、《うらら》や《増G》みたいな汎用枠は省略します。このデッキはEXデッキを使う回数が少ない為、ゴーキンはフル投入して良いかと思います。ただゴーキンを発動すると、《エメラルドポリス》の手札交換効果を使う事が出来なくなるので、手札とよく相談して使って下さい。

《竜嵐還帰》は自分から除外していくこのデッキと相性が良く、相手ターンに発動して展開を妨害したり、自分ターンに発動して効果を使いながらアタッカーにしたり、色々な使い方が出来ます。

 特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに持ち主の手札に戻るデメリットがあるのですが、このデッキから見ればそこまでデメリットにはならないでしょう。

 

 

《海亀壊獣ガメシエル》

効果モンスター

レベル8/水属性/水族

ATK/2200 DEF/3000

(1):このカードは相手フィールドのモンスター1体をリリースし、手札から相手フィールドに攻撃表示で特殊召喚できる。

(2):相手フィールドに《壊獣》モンスターが存在する場合、このカードは手札から攻撃表示で特殊召喚できる。

(3):《壊獣》モンスターは自分フィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(4):相手が《海亀壊獣ガメシエル》以外の魔法・罠・モンスターの効果を発動した時、自分・相手フィールドの壊獣カウンターを2つ取り除いて発動できる。

その発動を無効にし除外する。

 

 

 《ガメシエル》は相手モンスターの除去要員として使います。先程も申しましたが、【Kozmo】は攻撃力3000以上で耐性持ちのモンスターを出されると厳しくなる事があります。その突破口として、《壊獣》モンスターの採用は必要になるかと。

 相手が攻撃力3000以上で耐性持ちのモンスターを出したのに対し、その相手モンスターをリリースして《壊獣》モンスターを相手に送り付け、送り付けた《壊獣》モンスターを《ダークシミター》のモンスター効果で破壊し、攻撃を通しやすくします。

 

 

《センサー万別》

永続罠

(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、お互いのフィールドにそれぞれ1体しか同じ種族のモンスターは表側表示で存在できない。

お互いのプレイヤーは自身のフィールドに同じ種族のモンスターが2体以上存在する場合には、同じ種族のモンスターが1体になるように墓地へ送らなければならない。

 

 

 《センサー万別》なんですが、ここ最近のデッキの傾向として種族を統一したり、特定の種族が大多数を占めるデッキが増えてきた気がします。

 このデッキはあまりモンスターを展開するデッキではないですし、相手へのメタとして採用しても良いと思います。特にエクストラデッキを主力にするデッキを相手にする場合、同種族のモンスターを複数体展開する事もあるので、それを抑制する為にも入れていても良いかなと思います。

 元ネタが『スター・ウォーズ』なので、『スター・ウォーズ』好きなデュエリストと盛り上がる事も出来ますし、何よりメインデッキだけで戦えて、安く作れるのが良いですね。それに強いですし。

 特に《ダークシミター》が強いです。そろそろ新規くれませんかね? 元ネタも増えていると思えますし……はい。これで【Kozmo】デッキの一通りの紹介は以上になります。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・今回の進め方

一応キャラが話している設定です。不評なら違うスタイルにします。


・【Sin】デッキ

 今回使用したのは純【Sin】デッキですが、随分と小回り効くようになったな~と思いました。でもEXデッキが圧迫されていると言う……(汗)

・【Kozmo】デッキ

 比較的新しいカードは《抹殺の指名者》ぐらいしかないです。今は安く手に入る様になりましたが、昔は高かったです。



次回は第15話を投稿しますので暫しお待ちを。

次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。


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キャラ設定資料集 Vol.2

第2章完結と言う事で設定集の第2弾を投稿します。
鳳凰学院側のデュエルはもう少し先になりますが、念の為に載せておきます。

UA10,000記念にまた特別編を記しますが、アンケートの方を後で用意します。
皆さん投票の方をよろしくお願いします。


更識楯無

 

使用デッキ:【 影霊衣(ネクロス)】等の水属性デッキ

 

概要/IS学園2年生で生徒会長。2年2組在籍。現役のロシア代表操縦者。裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部“更識家”の当主であり、17代目の楯無。“楯無”とは更識家当主が代々襲名する名前で、本名は更識刀奈。明瞭快活で文武両道、料理の腕も絶品でスタイルも良く、カリスマ性も高いと純一からは“何処の漫画の主人公だよ”と呆れられる程ハイスペック。純一の専属コーチを務めており、彼の努力家な所を高く評価している。彼の本心も理解しており、自分の出来る範囲内で応援していくとの事。

 

性格/ミステリアスで掴み所の無い性格をしている。強引かつマイペースな言動で容赦なく他者を振り回す子供じみた一面がある一方、飄々とした態度の裏で学園や生徒を守ろうと様々な考えを張り巡らせている。人の心の掌握にも長けているようで、短時間で他者を自分のペースに引き込んでは男女問わずに仲良くなれる。自分に苦手意識を持つ簪との関係を改善しようと努めていたが、長年上手くいかずにいた。今は関係修復となったが、その過程で純一に好意を抱くようになった。『遊戯王』の実力は高く、純一と渡り合えるレベル。

 

 

 

布仏虚

 

使用デッキ:【ガジェット】

 

概要/IS学園の3年生で3年3組所属。本音の姉。生徒会会計。成績優秀であり、学年では首席で整備科に所属。顔立ちは似ているが、眼鏡に三つ編みをしており、紅茶を淹れるのが上手で、楯無からは“世界一”と評される程。純一も教わっているが、中々思うように行かずに苦労している。

 

性格/しっかり者で本音とは対照的。妹の本音と同様に更識姉妹とは幼なじみ。時々楯無のことを“お嬢様”と呼んでいる。『遊戯王』は正確で容赦ないプレイングで相手を妨害しながら追い込んでいくスタイルで、純一をして“精密機械のように正確で相手したくない”と言わしめる程。

 

 

 

ダリル・ケイシー(レイン・ミューゼル)

 

使用デッキ:【 剣闘獣(グラディアル・ビースト)

 

概要/IS学園の3年生。3年1組在籍。アメリカ代表候補生。金髪と長身、Fカップのバストが特徴。下着が露出するほどの短いスリットスカートと、黒いガーターベルトを着用している為、純一からは“痴女”判定されている。

 

性格/やる気のない性格に反して、『遊戯王』とISの双方で実力は高く、“痴女”判定した純一をからかったり、スキンシップを取るなど、意外に脈ありな態度を示す。平等院財閥派に所属しているが、学年や時期もあってIS学園に残る事にしている。とは言えど、IS学園の情勢等を伝える約束をした。

 

 

 

フォルテ・サファイア

 

使用デッキ:【恐竜】

 

概要/IS学園の2年生。2年6組在籍。ギリシャ代表候補生。三つ編みを結ったぼさぼさの髪型に、猫背気味の小柄な少女。

 

性格/ダリル同様にマイペースながらも、『遊戯王』とISの双方で高い実力を有する。ダリルとは同性の恋人同士。彼女に付いてIS学園から離れるか、そのまま留まるかの苦渋の選択を突き付けられるが、純一の説得もあって結局はダリルに付いていくことを決める。

 

 

 

織斑千冬

 

使用デッキ:【堕天使】、【 BF(ブラック・フェザー)

 

概要/一夏の姉であり、1年1組の担任を務める人物。茶道部顧問で1年生の寮長。第1回IS世界大会《|モンド・グロッソ 》総合優勝および格闘部門優勝者。元日本代表経験あり。学生時代に箒の実家の道場に通っており、居合いの心得もある。IS用の近接ブレードを生身で振るったり、戦闘服と数本のブレードのみの装備で第3世代機であるファング・クエイクと戦闘が出来る程、非常に高い身体能力と戦闘技術を持つ。その強さは純一曰く、“真正面から戦いを挑んだら十中八九負ける”との事。

 

性格/学園では非常に厳しく、規則を破った生徒には容赦ないが、純一のような正当な理由がある場合は例外。平時では山田真耶を下の名前で呼んで親しく接したり、自宅で一夏と2人だけの時は案外ずぼらな一面も見せている。純一の事を2人目の弟のように可愛がっており、純一もそんな千冬を慕っている。『遊戯王』は高校生の頃に嗜んでおり、当時使っていた【 BF(ブラック・フェザー)】を現代版にアップデートして使用している。

 

 

 

山田真耶

 

使用デッキ:【 古代の機械(アンティーク・ギア)

 

概要/1年1組の副担任。巨乳でメガネをかけている、常に生徒にも敬語を使う温和な教師。その巨乳は純一曰く、“核弾頭レベル”との事。元日本代表候補で学生時代は“銃央矛塵(キリング・シールド)”と呼ばれており、ISの操縦技術は千冬が認めるほどの高さを誇り、模擬戦ではセシリアと鈴音の二人の代表候補性が同時に挑んでも歯が立たなかった。“あの山田先生でも代表候補止まりだったのか。当時はそれだけ層が厚かったのか?”と純一は不思議がっている。

 

性格/押しが弱くてやや天然で、ドジな所があるが、生徒に対する賞罰はきちんとしている教師。純一も本心を打ち明けられると信頼を置いていて、真耶自身も純一を大切に思っており、彼が進みたい道に進んで欲しいと願っている。『遊戯王』はアニメを切っ掛けに始めた過去があり、好きなキャラはクロノス教頭と言い切る程、使用デッキに愛着を持っている。噂では大会優勝経験があるとかないとか……?

 

 

 

ナターシャ・ファイルス

 

使用デッキ: 【パーミッション代行者】

 

概要/1年5組の担任。元々はアメリカ空軍所属でISのテストパイロットを務めていたが、文化祭での黒田純一襲撃事件を機に、IS学園防衛強化を兼ねてIS学園に教師としてやって来た。実は平等院財閥派であり、アメリカ大統領直々に純一の保護と言う使命を受けている。

自身のISの事を母親のように愛着を持っている為、束からの好感度は高い。

 

性格/陽気で天真爛漫。生徒の事を第一に考えており、守るように言われた純一を可愛がっていて、キスやハグをする等、常にドキドキさせている。『遊戯王』は遊びでやった程度だが、センスを感じさせる物があって上達速度には目を見張る物がある。

 

 

 

スコール・ミューゼル

 

概要/1年5組の副担任。元CIA所属で現在はIS委員会に所属している。元々IS委員会からIS学園に送り込まれたスパイだったが、黒田純一襲撃事件を機に平等院財閥派に鞍替えした。今ではトリプルスパイと言う多忙な日々を過ごしているが、本人はどうと言う事はないらしい。

 

性格/自身もIS操縦者で国家代表に勝るとも劣らない実力者。ナターシャとは面識があり、夫婦漫才のような場面があるとかないとか。

 

 

 

オータム

 

概要/IS委員会の役員で、現在は管理官の1人。暴走しつつある女権団体の動向を伝えるスパイとして活動中。スコールとは旧知の仲で、かつて共に仕事をしてきた仲。

 

性格/髪はロングヘアー。口が悪くて短気。女尊男卑を掲げる権利団体には巻紙礼子と名乗って対応し、穏健派としてのらりくらりと過ごしている。

 

 

 

篠ノ之束

 

使用デッキ:【月光】、【真紅眼】……等々

 

概要/1人でISの基礎理論を考案・実証し、全てのISのコアを造った天才科学者。デュエルディスクの開発にも携わり、平等院財閥派に属する人間。天才的な頭脳と高い技術力を用い、一夏やIS学園で起きる事件に関与していると思われているが、真相は不明。純一が何故ISを動かせるかと言う謎に対する答えを唯一知っており、純一を巻き込ませたくなかった様子。今の世界に大きな不満を抱いている為、デュエルディスク開発に協力したと推測される。

 

性格/原作では自分の興味のないことには冷酷なまでに無関心になる性格だったが、この小説では純一のおかげで多少緩和されている様子。『遊戯王』は本気になると純一が“勝てない”と口にする程強いが、本気を出す場面が極端に少なく、普段はロマンデッキやネタデッキを使う場合が多い。

 

 

 

平等院佐智雄

 

使用デッキ:【 転生炎獣(サラマングレイト)

 

概要/『私立鳳凰学院』2年生。生徒会長。友希那の兄。平等院財閥の次期リーダーで、友希那と一緒にいられる時間が少ない事を悔やむ等、妹思いの良い兄貴。普段から自分を鍛えており、実力は楯無以上と推測されている。

 

性格/冷静沈着かつ穏やかでありながら、常に学院と生徒達を守るのか策を張り巡らせている。性別や身分を問わず、実力と心意気があれば誰でも迎え入れると言う、人間として大きな度量を持っている。直接戦う事はないが、己の手足となるIS部隊を組織したり、対IS学園用の戦術・戦略等を用意する等、政治家としてもやっていける才覚がある。

 

 

 

平等院友希那

 

使用デッキ:【オルタ―ガイスト】

 

概要/『私立鳳凰学院』1年生。生徒会書記。佐智雄の妹。純一とは中学生の頃、『遊戯王OCG』を通じて知り合った仲。計画に加わるよう薦めたり、デュエルディスクのモニターに推薦する等、純一に惚れ込んでいる。『遊戯王』の実力は大会優勝経験もあり、純一と互角以上に渡り合える。

 

性格/芯が強く、自分が決めた事や信じた事を最後まで貫き通す意思の強さを持っている。何事にも真面目に取り組む為、空回りする事もしばしば。手回しや下準備を大事にしており、兄の佐智雄も信頼している程。

 

 

 

平等院零児

 

使用デッキ:【Sin】、【真竜】

 

概要/『私立鳳凰学院』1年生。生徒会役員。一夏の兄で、千冬の弟。平等院家には養子入りした。人には言えない重い過去があり、信頼できる人にしか話さない。『遊戯王』とIS双方で高い実力を誇り、代表候補生が束になっても一蹴出来る実力者。

 

性格/佐智雄に助けられた事に恩義を感じ、彼の為なら何でもやると誓う程、仁義ある良識的な人物。一夏と千冬も“会った記憶はないけど、大切な家族”と言い切り、何かあれば守り抜こうと決めている。

 

 

 

平等院マドカ

 

使用デッキ:【サイバー・ダーク】

 

概要/千冬、零児、一夏の妹。平等院家に養子入りしているが、今はIS委員会で各国が開発している試作機のテストパイロットを務めている。しかし、本当は平等院財閥が送り込んだスパイ。来たるべき決戦の為に、IS委員会の動きや内情を佐智雄達に知らせている。

 

性格/試作機のテストパイロットを務めている為か、複数の専用機持ちを相手取りながら互角以上に立ち回るなどIS操縦の実力は高い。口数は多い方ではないが、きちんとコミニュケーションは取れている。『遊戯王』は零児や友希那に教わりながら上達しているが、中々のセンスを見せている。

 

 

 

鬼塚公輝

 

使用デッキ:【剛鬼】

 

概要/鳳凰四天王の一人。生徒会役員。『私立鳳凰学院』1年生。強面の巨漢。料理人としてその名を知る物はいない程有名な父親が経営しているお店が、女尊男卑の風潮によって赤字に追い込まれ、倒産した過去から女尊男卑の風潮と思想を持った女性を激しく憎んでいる。ちなみに父親は現在『私立鳳凰学院』の食堂でその腕を振るっている。

 

性格/情に厚い男で曲がった事を嫌う正義漢。常に自分を鍛え上げ、自慢の筋肉で皆を守ろうとするナイスガイ。『遊戯王』は正々堂々としたスタイルだが、手札誘発等の汎用カードを使う事も構わない勝負師な所を見せている。

 

 

 

天城海斗

 

使用デッキ:【メタルフォーゼ】

 

概要/鳳凰四天王の一人。生徒会副会長。『私立鳳凰学院』2年生。常に笑顔を絶やさず、何を口にするにも丁寧な口調で話す人物であり、佐智雄を支える理解者。誠実で争いごとを望まない性分である為、有事の際は裏方に徹している。

 

性格/頭が良くて何事も俯瞰して見る癖があるが、その人柄からか嫌われる事がない。しかし、『遊戯王』では容赦なく相手と対戦する為、そのギャップに戸惑う人が多いとか。デッキは【メタルフォーゼ】と他のテーマと混合型のデッキを使用している。

 

 

 

壇玄人

 

使用デッキ:【アンデジェネレイド】等

 

概要/鳳凰四天王の一人。生徒会参謀。『私立鳳凰学院』2年生。黒縁眼鏡が特徴な男子生徒。文武両道で優れた能力を有する為、佐智雄にスカウトされて参謀となった。IS学園に知り合いの女子生徒(=黛薫子)がいて、彼女からIS学園の情報を得ている。

 

性格/腹黒い所があるが、仲間想いで優しい人物。 “王”や“神”と言う言葉が大好きである為、そのような名前が入っているモンスターが主力なデッキを使う事が多い。大会で使えるガチデッキから、皆を笑わせながら楽しませるエンタメまで幅広いデュエルが可能。

 

 

 

万丈目準也

 

使用デッキ:【サンダー・ドラゴン】

 

概要/鳳凰四天王の一人。生徒会役員。『私立鳳凰学院』1年生。万丈目財閥の跡取りだが、財閥の跡取りらしいエリート意識等はなく、意外と真っ当な人物。

 

性格/争いごとを好まない穏健派であり、IS学園との戦争は回避した方が良いと考えている。戦う事が嫌いではなく、無意味な戦いでお互いに傷付く事を嫌っている。あだ名は“サンダー”であり、ブラックサンダーが大好物。

 

 

 

今村俊介

 

使用デッキ:【クリフォート】

 

概要/『カードターミナル』の本部スタッフで、IS学園に派遣された講師の一人。1年5組を受け持ち、純一を助手として皆に楽しく分かりやすい授業を行う。

 

性格/純一の事を小学生の頃から知る人物。明るくて皆を盛り上げるムードメーカーだが、デュエルになると、相手に勝つ事だけを考えるデュエリストになる。

 

 

 

長尾大樹

 

使用デッキ:【 甲虫装機(インゼクター)

 

概要/『カードターミナル』の本部スタッフで、IS学園に派遣された講師の一人。1年6組を受け持ち、エヴァの横暴な振る舞いと担任の永田洋子の無関心さに心を痛め、振り回されてきた苦労人。新人スタッフでありながら次期店長最有力候補であり、仕事は優秀で人格も良い。それにイケメン。

 

性格/思いやりがあり、他人の事を第一に考えられる人物。『遊戯王』は当時パックを買い集めて作った【 甲虫装機(インゼクター)】デッキを愛用し続けている。

 

 

 

押村良樹

 

使用デッキ:【磁石の戦士】

 

概要/『カードターミナル』の本部スタッフで、IS学園に派遣された講師の一人。講師達のまとめ役。眼鏡をかけた温厚な人物。

 

性格/千冬から頼まれていた事もあって、一夏には実の兄のように接して彼の成長を促している。純一の事は大会常連者である事から知っており、“心からカードゲームを楽しむ真のプレーヤー”と認めている。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
普段は後書きとして裏話・裏設定を書いているのですが、今回はQ&A方式で行きます。

Q:織斑千冬の『遊戯王』の実力は?

A:強めに設定しています。【 BF(ブラック・フェザー)】を現代風にガチにアレンジしているので、主人公とのデュエルでは大盛り上がりになるでしょう。


Q:作中最強のデュエリストは?

A:本気になった束さんです。でも安定感で言えば純一君=友希那さん、次いで簪さん……って感じですかね。今の所は。


Q:何故別の学校を登場させたのか?

A:他のIS小説では珍しいのと、学園物(一応は)なら別の所を出した方が面白そうだから。




他にも疑問点があれば、感想に添えてお願いします。
次回はUA5,000突破記念の番外編を投稿しますが、お盆に入るので投稿が遅れます。
来週以降になるかと思いますが、気長にお待ちください。

次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。


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UA5,000突破記念 IF話~もし女権団体がIS学園を占拠したら?~

皆さんお久し振りです。最初「純一君の専用機を本気出させる」話を書いていたら、何時の間にか「架空話」になっていました(汗)本当に申し訳ないです。
でも折角出来た話をお蔵入りしたくないので、今回投稿させて頂きます。

ちなみに本編もこうなる可能性が出てきています……ISの世界観って実は怖くないか!?と思ってました。


 皆さんは“もしもあの時こうしていたら~”、“もしもこれがあれだったら~”みたいな事を考えた事あるだろうか。恐らく大抵の人はあると答えるだろう。

 それと同様に、歴史でも“もしもあの人物が生きていたら~”、“もしもあの出来事が無かったら~”みたいな考察が行われている。そのような考察が面白いと言う人がいるのも事実であり、作者もそのような考察が好きだ。

 このお話では本編のIFとして純一がIS学園から『私立鳳凰学院』に転校した後、IS学園が女尊男卑を掲げる女性権利団体に占拠されたと言う仮定で話を進める。そして平等院財閥が率いる対IS用特殊部隊が攻め込んだ場合の展開を記してみようと思う。

 

 

 

「こんな事がいつまでも続いて良い訳がないわ!」

 

「ISによる今までの絶対的優位が崩れてきている。このままISに対する価値観や使い方が変われば女尊男卑の風潮も無くなる……そうなったら私達はおしまいよ!」

 

「これ以上許される訳がないわ! あの黒田純一のせいで全てが狂った! いや違う! 『呉島エンタテインメントスタジオ』と『KONNAMI』がデュエルディスクを開発したせいで、今までのISに対する考え方が変わったのよ!」

 

「そうよ! あいつらのせいで私達の居場所は何処にもなくなった!」

 

 ある日。とある建物の中にある会議室。そこでは複数人の女性達が会議を行っていた。彼女達は女尊男卑を掲げる女性権利団体のメンバーだった。

 その中には学年別クラス対抗デュエルトーナメントの直前、IS学園から追放されたエヴァ・ヨハンソンと永田洋子の姿もあった。

 彼女達は純一と『呉島エンタテインメントスタジオ』と『KONNAMI株式会社』に恨みを抱いているが、純一からいれば逆恨みとしか思えない。

もし純一ならば、IS学園の文化祭で自分を襲わなければ、少なくとも今よりはマシにやれている可能性はあったと反論していただろう。

 

「こうなったら『呉島エンタテインメントスタジオ』と『KONNAMI』を潰し、黒田純一を殺すしかないわ! そうと決まったら世界中にいる同志達に連絡しましょう! 徹底的にやるしかない……全兵力を投入するのよ! 手始めにIS学園が恐れている『私立鳳凰学院』から潰しましょう!」

 

「IS委員会が何を言おうとやるしかないわ! 世界は女尊男卑である事が正しいのよ! ISに選ばれ、ISを動かせる私達が世界を動かせる権利がある! 男共は皆私達の言う事に従っていれば良いのよ!」

 

「ISを奪うなりして今すぐ部隊を組織して学院を破壊しに行きましょう! 学院にいる奴らは全員捕まえるなり、殺すなりすれば良いわ!」

 

 女尊男卑を掲げる女性権利団体はこれ以上我慢する事が出来なかった。デュエルディスクが登場して以降、自分達にとって悉く都合が悪い展開になってきているのだから。

 それはIS学園からエヴァと洋子が追放された事が切っ掛けとなり、学年別クラス対抗デュエルトーナメントで純一率いる1年5組が優勝した辺りから顕著になってきた。

 これまでは色々な飲食店や販売店で代金を踏み倒したり、過剰な値引きを強要させる等の横暴な振る舞いをしてきたが、現在ではそのような振る舞いが不可能となった。

 そもそも現実に行えば犯罪になり、逮捕されて何かしらの罰を言い渡される事になるので、皆さんは決してやらないように注意して欲しい。

 もし強行すれば通報されて直ぐに逮捕され、顔と名前をネット社会に晒され、二度と社会復帰出来なくなってしまう。それだけ色々な人々に恨まれ、憎まれた結果だ。

 そして、反女尊男卑思想やそれを掲げる勢力を台頭するようになり、今まで許されていた筈の事が全て許されなくなった。今まで許されていたのはISが兵器としての存在感を放っていたからだった。

 更にISの兵器としての運用に少しずつではあるものの、疑問を抱かれるようになると共に、自分達に向けて憎悪や嫌悪等の感情を向けられるようになった。それが一番女性権利団体にとって我慢出来ない所である。

 

「抵抗するなら殺しても良いわ!」

 

「今すぐに他国の女性権利団体と協力しましょう! 数で押せば制圧間違いなしだわ!」

 

「ねぇ、ISを奪うとなると色々な問題が出てくるから、いっそIS学園を乗っ取りましょう? IS学園にいる優秀な生徒を使えば、鳳凰学院よりIS学園が優れていると言う事を証明出来るわ!」

 

「それよ! 良いアイディアじゃない!」

 

「決定! それで行きましょう!」

 

 こうして女性権利団体は恐ろしい計画を立案した。黒田純一の抹殺。兵器としてのISの運用の復権。『私立鳳凰学院』の排除。それらを一度に叶える最悪な計画を。

 その為の準備として、IS学園を乗っ取って生徒や教師等の全ての人を自分達の兵力にする。そのIS学園乗っ取り計画を作成すると共に、IS部隊の編制が始まった。

 それから少ししたある日。突如としてIS学園は女権団体と彼女達が引き連れた部隊によって占拠された。この乗っ取りによってIS学園の生徒達は地獄としか言えない日々を過ごす事となった。

 

「ウフフ……全てが私達の思い通りに進んでいるわ!」

 

 それから1ヶ月後。IS学園の学園長室。心から満足している様子な女性はIS学園の新しい学園長であり、女性権利団体のトップ。IS委員会では重要なポストにいたのだが、現在ではIS委員会から追放されている。

 と言うのも、純一が『私立鳳凰学院』に転校するまで行われていた『デュエル・ストラトス』、もといIS学園で行われていた『遊戯王OCG』の大会の方針や目的の違いで仲違いし、最終的に女性権利団体に所属している役員達は全員IS委員会から追放されてしまった。

 これまで自分達が横暴な振る舞いをしても許されていたのは、IS委員会と言う強力な後ろ盾があったから。その強力な後ろ盾がない今、彼女達の拠り所になっているのはIS学園が所有する専用機・訓練機合わせて数十機ものIS。

 世界でも最多となる数のISを保有しているIS学園、いや女性権利団体は世界最大の兵力を有する軍隊となってしまった。今や女性権利団体に手出しする組織や国家はいない。皆静観を決めて沈黙を続けている。

 

「後は『私立鳳凰学院』を潰し、黒田純一を抹殺して平等院財閥を潰して総資産を奪い取れば一生遊んで暮らせるわ! 今やこのIS学園は女性権利団体の物! ここにあるISの数は世界最多! ISの力があれば全てが思い通りになる!」

 

 しかし、女性権利団体の天下は僅か1ヶ月で終わる事となった。その終わりを告げたのは突如として鳴り響いた爆発音。

 その爆発音はIS学園が建てられた人口島と、日本本土を繋ぐモノレール橋が破壊された証だった。これでIS学園は文字通り孤島となった。

 

「な、何!? 今の音は!?」

 

 先程の笑顔と余裕は何処へ行ったのやら。慌てふためく女性を嘲笑うかのように、女性権利団体への裁きの鉄槌が下された。

 警告は発せられなかった。異変の前兆さえも無かった。突如として始まった戦争。戦争が起きるなら自分達が仕掛ける側で、絶対に勝利すると信じていた。

 IS学園を占拠した女性権利団体はこの時はっきりと思い知る事になる。因果応報。悪い行いをした者は悪い結果をもたらすと言う事に。

 

 

 

 時間を少しだけ遡る事を許して欲しい。女性権利団体によって存在意義を大きく歪められたIS学園。そんな学校を見下ろせる高度に不可視となっている戦闘機があった。

 黒色が特徴なカラーリングに“剣”を彷彿とさせる見た目。コクピットの両側に取り付けられた主翼。そんな戦闘機に乗っているのは航空自衛隊に所属するパイロット、坂井次郎。平等院財閥が保有する対IS用戦闘機部隊の隊長。

 戦闘機の名前は《Kozmo・ブラックシミター》。平等院財閥がやがて来るであろうIS学園との戦闘に備え、『私立鳳凰学院』がある都市―通称“学院都市”の地下にある格納庫で極秘開発した試作型戦闘機である。

 この戦闘機の特徴は『私立鳳凰学院』に在籍する代表候補生の専用機を徹底的に解析し、対IS用の兵装やシステムを搭載している事にある。

 元々《Kozmo-ダークシミター》の元ネタとなった『シス・インフィルトレーター』の情報を基に、平等院財閥は《Kozmo・インフィルトレーター》を開発した。それを小型化し、より速度と小回りの良さを重視して開発されたのが《Kozmo・ブラックシミター》。

 肉眼はおろか、ISのハイパーセンサーでも探知不可能とする、“クロ―キング・システム”と言うステルス性能を搭載している。そのエネルギー源はISコアの源となる『 時結晶(タイム・クリスタル)』。これにより、透明になる事で敵の警備の隙を突いたり、緊急時に戦闘区域から離脱する事が出来る。

 武装は主翼に搭載されている伸長式の2門のレーザーキャノン。時には無数の赤いエネルギー弾を撃ち込んだり、時には赤いレーザー砲撃で敵のISを撃墜していく。

 

『次郎隊長、全員配置に付きました。純一君はIS学園の地下区画の入り口に辿り着きました』

 

「了解。皆、そろそろ時間になる。準備は良いな?」

 

『はい!』

 

「改めて作戦の確認を行う。今回の作戦目的は女性権利団体を壊滅させ、IS学園の生徒全員を救出すると共にIS学園を取り戻す事。確かに今のIS学園の兵力は世界最大だ。専用機持ちも複数人いて、訓練機だけでも数十機はある。それに“ブリュンヒルデ”、対暗部用の暗部“更識家”の当主がいる。そう簡単には攻め込まれない。常に攻めるのは自分達。女権団体はそう思っている筈だ。ここまでは良いな?」

 

『はい!』

 

 《Kozmo・ブラックシミター》を囲むように小型戦闘機が浮遊している。《Kozmo・ウィングライダー》。《Kozmo・ブラックシミター》を一回り小型化させたオレンジ色の戦闘機は、主翼に2門ずつ、合計4門のレーザーキャノンを備えている。

 火力や隠密性では《Kozmo・ブラックシミター》に劣るものの、製造コストや扱いやすさ、機動力では《Kozmo・ブラックシミター》に勝っている。

 味方に指示を出しているのはこの作戦の総司令官であり、『平等院財閥』の次期リーダーの平等院佐智雄。作戦の立案者は純一と佐智雄の合作。純一が大まかな策を立て、佐智雄が細かい役割を振った。

 

「奴らは自分達の足元を見ていない。自分達は世界最大最強の兵力を有している。IS学園の生徒は皆優秀で、自分達の言う事を必ず聞く。だから負ける筈がない。そう信じている。数で勝負すれば数が少ない側が負ける。でも数が少なくても、数が多い敵に勝てる方法がある。それは優れた作戦とそれを実行する下準備と決断力。こちらは数が少ないから攻めるしかない」

 

「純一君がIS学園の工事と建設を担当した大手ゼネコン、そして当時の国土交通省の役員から頂いた見取り図によると、IS学園の地下区画から日本本土に向けて1本のトンネルが通っている。これは有事の際の緊急避難通路だ。このトンネルを純一君が一気に駆け抜け、今は地下区画に突入する所にいる。彼は一夏君を救出した後、地上に出てIS学園を制圧にかかる」

 

 女性権利団体がIS学園を乗っ取った事で、一夏は地下区画にある懲罰房に幽閉される事となった。幾ら織斑千冬の弟と言えど、世界初の男性IS操縦者である以上、女性権利団体が見過ごす筈が無かった。

 教員たる千冬の存在もあり、彼はIS学園の地下で寝泊まりし、必要が無い限り地上に出る事が出来なくなってしまった。

 その一夏を助けるのは彼の親友の純一。一夏を助けた後、彼は地上に出てIS学園を制圧しながら敵部隊を殲滅する。その手筈となっている。

 

「俺と共に上空から強襲する部隊は真っ先に格納庫とアリーナを抑えろ。アリーナでなるべく戦闘に持ち込め。格納庫には訓練機が置いてある筈だ。幾らISが沢山あると言えど、訓練用ISを抑えればこっちの勝利は決まった物だ」

 

「幾ら敵がISを有していようと、パイロットの大半は一般人。先ずは強襲をして混乱させる。最初が肝心だ。先制攻撃が全てだ」

 

「作戦開始だ。行くぞ」

 

 次郎は目の前に広がるIS学園を見据えながら出撃命令を下すと同時に、《Kozmo・ブラックシミター》を急降下させていった。

 それと同時に専用機持ちのIS操縦者達も続き、途中で2つのグループに散開していく中、佐智雄は《Kozmo・ブラックシミター》の不可視機能を解除せず、IS学園と日本本土を繋ぐモノレール橋を見ると、2門のレーザー砲の照準を定めてボタンを押した。

 2門のレーザー砲から放たれたのは2発の赤色のエネルギー弾。その攻撃はモノレール橋を捉え、木端微塵に破壊していった。

 これでIS学園は物理的に孤立したと確信しながら、佐智雄は《Kozmo・ブラックシミター》をターンさせ、不可視機能を解除しながらIS学園に向けて2門のレーザー砲から砲撃を撃ち込む。

 

―――女権団体に気を付けて下さい。IS委員会と言う後ろ盾を失った奴らはどんな手段を取るか分かりません。IS学園を乗っ取ってこっちに攻め込んでもおかしくありません。僕は女権団体を一人残らず斬るつもりでいます。女尊男卑の風潮も消します。もしその時が来たら、こちらから先に攻撃しましょう。でないと勝てないです。

 

(純一君。君の言う通りだった。もし君がいなければ、今頃俺達とIS学園の立場が逆だったかもしれないな……)

 

 『私立鳳凰学院』に転校した初日。純一はそのように佐智雄に申し出ていた。佐智雄は純一の言葉を受け、対IS学園用の戦略を立て始めた。

 その一環としてIS学園を物理的に孤立させた。そもそも女尊男卑を掲げる権利団体が乗っ取った時点で、IS学園は人間社会から孤立していったような物だ。

 

 ―――IS学園の関係者は如何なる組織や国家からの干渉を受けない。

 

 それに加えてIS学園にはこのような校則があるが、別にIS学園その物が干渉を受ける訳ではない。その解釈を利用して女性権利団体はIS学園を乗っ取ったが、この校則が逆に自分達の首を絞める事となった。

 この校則がある以上、救援要請を出す事が出来ない。そもそも女性権利団体の救援要請に応えてくれるような組織や国家等はない。

 同じ女性権利団体の連中の大半は逮捕されるなり、偽名を使って逃亡していたり、足を洗って人里離れた平和な所で過ごしている等、救援要請に応える余裕もないし、応える事もないだろう。

 現在IS学園にいる女性権利団体の面々はその生き残りであり、最後の悪足掻きと言わんばかりにIS学園を乗っ取った。まるで『あさま山荘事件』のようだ。これで女性権利団体の奴らを捕縛すれば、取り敢えずは平和になるだろう。

 佐智雄はこの戦いの先を見据えながら『私立鳳凰学院』の生徒会室から戦況を見守るのと同じ頃、次郎は《Kozmo・ブラックシミター》の操縦桿を操作しながら、目の前から現れた教員部隊に向けてレーザー砲の照準を合わせた。

 

 

 

「い、一体何がどうなっているんだ!?」

 

 次郎が搭乗する《Kozmo・ブラックシミター》がモノレール橋を破壊した頃、IS学園の地下区画にある懲罰房に一夏はいた。

 女性権利団体にIS学園を乗っ取られて以降、一夏は懲罰房で幽閉生活を送っていた。誰とも話をする事が出来ず、何もする事はなく、ただただ暇で仕方なかった。そんな一夏だったが、自分の親友で『私立鳳凰学院』に転校した純一の事を心配していた。

 

―――純一は自分のやりたい事や夢を叶える為、IS学園から『私立鳳凰学院』に転校した。確かにあの学校なら純一がやりたい勉強も出来るし、『遊戯王』のレベルも高い。その方が良いよ。

 

 IS学園で行われた数々の『遊戯王OCG』の大会、『デュエル・ストラトス』を経験し、『私立鳳凰学院』で平等院友希那とガチデュエルをした事を経て、純一は自分が本当に満足出来る居場所は『私立鳳凰学院』にあると感じた。

 これ以上IS学園にいても自分が本当に進みたい道に進めず、『遊戯王OCG』でも不満足な日々を送る事になる。純一は自分の感覚を信じ、ナターシャに『私立鳳凰学院』への転校を相談するようになった。

 この頃になると、『デュエル・ストラトス』で輝きを放つ純一を慕い、彼に好意を抱く女子生徒が増えてきた。“純一派”と呼ばれる程の規模に膨れ上がり、決して無視出来るような物ではなくなった。

 しかも“純一派”の中にはフランス代表候補生のシャルロット・デュノア、日本代表候補生の更識簪、スペイン代表候補生のナタリア・スアレス・ナバーロのように数名の代表候補生がいて、IS学園とIS委員会の頭を悩ませた。

 しかし、最終的にIS委員会は“純一派”の転校を許可すると共に、IS学園から教師達の異動も同時に許可された。

 この転校への一連の流れはスムーズに進み、余計な混乱を招く事は無かったが、楯無は簪の身を守りながら、情報を送るべく本音を一緒に転校させた。やはりある程度警戒されていたようだ。

 

―――でも寂しくなったよ、純一。お前がいなくなった後のIS学園は……何か息苦しく感じるようになった。

 

 純一達が転校した後、『デュエル・ストラトス』は盛り上がりに欠けるようになり、次第に女子生徒達の話に出なくなった。来年度にまた行事があるが、純一がいなくなった後どのように盛り上げるかが課題となった。

 一夏も親友がいなくなり、IS学園で唯一の男子生徒となってから、何処か寂しそうで哀愁が漂う雰囲気を見せるようになった。

 そんな中、IS学園は女尊男卑を掲げる権利団体によって乗っ取られた。一夏は何もする事が出来ず、地下区画にある懲罰房に幽閉される事となって今に至る。

 

―――純一。今のお前が俺を見たら笑うだろうな。俺は誰も守れやしない。今まで千冬姉に守られてばかりだった……だから俺も皆を守れるようになりたいと願った。でも結局誰も守れず、自分さえも守れなかった。幾らお前でも俺を笑うだろうな……

 

 一夏はこの時程自分の無力さに押し潰された事は無かった。自分は何も守れなかった。他人だけではない。自分さえも守れなかった。今までもそうだ。ずっと千冬に守られてきた。

 そんな自分を見たら純一はどう思うだろうか。自分の考えは間違えていると現実を突き付けるだろう。無力で弱い自分を笑うだろう。きっとそうだ。そうに違いない。今まで同じ場所に立ち、同じ景色を見ていた親友になら言われても仕方ない。

 そんな時に突如としてIS学園が襲撃を受けた。爆発音が鳴り響き、女子生徒であろう女性の悲鳴が響き渡り、聞いた事のない戦闘機のスラスター音が聞こえる。

一体地上で何が起きているのか。誰がIS学園を襲撃しに来たのか。一体何の為に。自分は一体どうなるのか。そういった不安が頭の中をグルグル回る。

 一夏がこんな時も自分が無力である事を痛感していると、地下区画に何者かが侵入してきた。侵入者の足音が聞こえる中、一夏は息を潜めてこっそり隠れる。その場をやり過ごす為に。

 

「此処だな。そこの君、ちょっと下がっていてくれ」

 

「その声は……!」

 

「待たせたな一夏。久し振りだ」

 

「純一!」

 

 一人の少年が懲罰房の目の前に立つと、両手に装備したトンファーを手に持ってX字に振り下ろし、懲罰房の鉄格子をバターのように一刀両断した。

 これで一夏は懲罰房から出られるようになった。自分を助けてくれた侵入者に驚きつつも、その正体を探ろうとした一夏にかけられたのは今は別の学校に転校した少年の声。

 黒田純一。“世界で2番目の男性IS操縦者”であり、デュエルディスクのモニター。現在は『私立鳳凰学院』に転校し、生徒会総長と言う役職を与えられている。

 平等院財閥の対IS用特殊部隊に志願し、一夏を助けると共にかつての仲間やクラスメートを取り戻しに、自らIS学園に戻ってきた。そして女性権利団体との因縁に終止符を打つ為にも。

 

「話はダリルさんとフォルテさんから聞いていた。女権団体が来て散々な目に遭ったらしいな……ずっとここに幽閉されて……辛かっただろう。けどもう大丈夫だ!」

 

「純一……俺は何も出来なかった。皆を守れず、自分さえも守れなかった。ISがあるのに、専用機があるのに、力があるのに、俺は何も……」

 

「一夏、過ぎた事を悔やんでも仕方ないよ。例え一夏が一人立ち向かったとしても何も変わらなかったと思う」

 

「えっ……!?」

 

「一夏は専用機持ちで、これまで自分より強い相手に挑んでピンチになっても、何だかんだで勝利して来たんだろう?でもな一夏。それって全部自分一人で成し得た事だった?」

 

「一人で? いや違う。クラス対抗戦の時は鈴が、タッグトーナメントの時は純一が、臨海学校の時は箒達が、そして専用機タッグマッチでは楯無さん達がいたから俺は、俺は乗り越える事が出来た」

 

 懲罰房から出た一夏は純一に抱き付くと、純一は一夏の頭を撫でながら抱き返す。そっちの趣味はないが、今の一夏の精神状態を考えると、この行いが正しいと判断した。

 自分にもっと力があれば皆を守る事が出来たし、この状況を招く事も無かったと落ち込む一夏を、純一は宥め諭しながら励ます。

 

「だろう? 一夏、僕達は確かに世界で希少な“男性IS操縦者”だ。でも単体で戦局を変えられる力も無ければ、専用機にもそういう機能も持っていない。それにな、そもそもつい半年くらい前から勉強を始めて、ISに乗った僕らがそこまで出来ると思うか?」

 

「そう……だよな。出来る訳ないよな……俺、周りが凄過ぎるのを知っていてあいつらに追い付き、追い付こうと思って頑張ってた。でも俺が強くなればなる程、ISが成長すれば成長する程、自分の無力さや未熟さに打ちのめされるばかりだった。それでも強くなりたいって、皆を守れるようになりたいって願って……」

 

「それで良いんだよ一夏。僕はお前の願いを否定しない。お前の願いは間違えていない。でもな、無理に背伸びしたりする事はしなくて良い。今の自分に出来る事を精一杯やれば良い。そうすれば必ず道は拓ける。……って転校する前日に残した言葉と同じ事言っているなぁ僕」

 

「純一……あ、そうだ! それより今どういう状況になっているんだ!? 助けに来たって事はIS学園が誰かに攻撃されているって事だろ!?」

 

「あぁ。実は平等院財閥が保有している対IS用特殊部隊が、現在警備部隊と交戦中。最初の爆撃で日本本土と繋がっているモノレール橋を破壊し、女性権利団体の奴らの逃げ道を無くした。奴らはIS学園の生徒と教員を迎撃に向かわせて戦わせている間に、自分達だけ逃げようとするだろう……自力で出るには船かISを使うしかないけど、そもそも学園に船は置いてないし、ISを使おうにも奴らが動かせるかどうかは怪しい所だ。チェックメイト当然だな。後は女権団体がどう出るかだけど……」

 

「そっか……じゃあ早い所ここから脱出しないとだな! 恐らく奴らは俺を確保しに来る!」

 

「行こう。女権団体の息がかかったIS部隊が僕らを狙いに来る前に、ここから脱出して部隊の方々と合流する!」

 

 純一は一夏を護衛するようにIS学園の地下区画から抜け出す中、途中で通信機を使って一夏の救出完了を佐智雄に連絡すると、佐智雄は《Kozmo・インフィルトレーター》を伝えるポイントに向かわせると連絡した。

 

 

 

 さて『私立鳳凰学院』の特殊部隊側の動きをこれまで見てきたが、次にIS学園側の動きを見ていこうと思う。IS学園側の初動は完全に出遅れた。この一言に尽きる。

 無理もないだろう。IS学園の警備システムや警備網が幾ら優秀だとしても、不可視になれる《Kozmo・ブラックシミター》の前には成すすべも無かった。

 それ故に動き始めたのはモノレール橋の破壊が行われた後。その頃には、ISの台頭により、居場所を失った航空自衛隊や各国の腕利き空軍パイロット達の無双が始まっていた。これまでの恨みを晴らすように。

 

「い、一体何がどうなっているのよ!? 警備システムは!? 警備部隊は!?」

 

「それが……警備システムは正常なのに作動しなかったらしく、それに警備部隊は全滅しました」

 

「な、何ですって!? 警備システムを潜り抜け、警備部隊を全滅させるなんて……ISは現代兵器を凌駕しているのにどうして!?」

 

 IS学園の学園長と女性教員は真っ青な顔をしながら話し込んでいる。お互いに女性権利団体の役員である為、IS学園が敵の手に堕ちたら自分達は破滅する事を理解している。

 だからISの不敗神話やIS学園の生徒の優秀さに縋り付くしかない。何故なら彼女達はISを動かす事が出来なければ、優れた頭脳もなく、相手部隊と戦う為の戦略を立てられる事も出来ないのだから。

 それだけに現実が信じられなかった。今では一昔前と揶揄される事もある戦闘兵器が、ISの登場によって半ばお役御免とされている戦闘機が、IS学園の警備システムを潜り抜けただけでなく、ISを身に纏った警備部隊を全滅させた事に。

 

「恐らくISの技術を搭載した戦闘機かもしれません……或いは対IS用を想定した設計なのか……どちらにしても、今交戦中の部隊だけでは厳しいです。特に黒い戦闘機が強過ぎます」

 

「何と言う事……敵は誰なの!? 何処の軍隊なの!?」

 

「分かりません! それに最悪な事にモノレール線の橋を破壊されました……私達は孤立したも同然です」

 

「孤立したって……どうすれば良いのよ!?」

 

「私達だけでどうにかするしかありません……」

 

 項垂れるしかない学園長と女性教員。そもそもの話、IS学園を占拠した事が最大の過ちだった。確かに数十機のISを手に入れる事ができ、IS学園の生徒と教員達を戦力として取り込む事が出来た。これは事実だ。

 しかし、この行動によって全世界を敵に回した。各国の首脳もIS学園への支援を打ち切り、自国の生徒達の救出作戦を考案・人員を用意する等、対応策を取るようになった。

 それに加え、そもそもIS学園を占拠した事が戦略的に間違えていた。IS学園はISがあるだけで所詮は高等学校だ。防衛機能や武装は特にない。だから各国の代表候補生に学園防衛を依存している。

 その為敵の攻撃を防いで城に籠る籠城戦には向いていない。そもそも、籠城戦はほとんどの場合、味方からの援軍の“後詰め”が来る事が前提の戦術だ。女性権利団体は数十機のISとIS学園その物を戦力に出来たが、これによって味方を失った。その時点で籠城戦を取る事が出来なくなった。

 だから彼女達はIS学園から『私立鳳凰学院』に攻め込もうとしていた。しかし、その前に平等院財閥が所有する対IS専用特殊部隊に攻撃を受けている。

 

「こ、こうなったら専用機持ちと教員部隊も投入するしかないわ! IS学園が誇る各国の優秀な専用機持ちなら、対IS用の戦闘機の1機くらいは堕とせる筈よ!」

 

「し、しかし敵は警備部隊を全滅させたんですよ!? 幾ら専用機持ちでも……」

 

「そうでもしないと私達も終わりよ! 早く放送入れて!」

 

 平等院財閥の対IS用特殊部隊の襲撃。それはIS学園の新しい上層部にとっては地獄となり、生徒や教員にとっては救世主のように思われた。とは言えど、流石に強襲である事から恐怖に感じられてはいるが。

 また時間を遡る事を許して欲しい。女性権利団体がIS学園を占拠した後、IS学園は悪い意味で変わってしまった。先ず国立学校とは名ばかりで、運営母体となった女性権利団体の手によって自分達の営利目的を重視した私立学校当然となった。

 世界中の誰もが自分達を嫌い、校則やISの保有数もあってIS学園に手出し出来ない事を利用し、IS学園を自分達にとって都合の良い居場所へと仕立て上げた。校則も大幅に改変され、生徒や教員達が反感を持ってもおかしくない物も制定された。

 その一環がIS学園の生徒を有事の際に戦力としての運用を可能とした事。幾らISが兵器だと世間一般で認識していても、IS学園の生徒を戦力として使うのは最早戦時中の話である。時代錯誤も甚だしい。

 

「今思うと、純一が転校したのは正しかったかもしれないな」

 

「でも純一さんはやりたい事がありますし、それに女性権利団体を激しく憎悪してましたから……」

 

「文化祭の時は襲撃され、『遊戯王』の大会では足を引っ張られる……文句言いたくなるのも分かるわ」

 

「だが純一がいなくなった事で奴らに付け入る隙を与えてしまった……」

 

 対IS用特殊部隊の襲撃が行われたのはお昼過ぎ。ちょうど生徒達がお昼ご飯を食べている時間帯だった。IS学園の食堂で食事を取っているのは箒、セシリア、鈴、ラウラの4人の専用機持ち。

 彼女達の表情は晴れない。女性権利団体がIS学園を占拠した後、専用機持ちは一般生徒達が乗る訓練機を率いる指揮官に任命された。

 ドイツの代表候補生でIS配備特殊部隊“シュヴァルツェ・ハーゼ”隊長で中佐のラウラはともかく、他の面々は不安しかなかった。有事の時は戦力となると共に、一般生徒をまとめ上げなければならない。

 自分達がいる場所は最早平和な場所ではなくなった。いつ戦争が始まってもおかしくない場所となった。IS学園の周囲には武器を持ち、ISを身に纏った警備部隊がいる為、脱出不可能。正に最強最大の要塞、生徒と教員にとって最悪の地獄となった。

 そんな時に発生したIS学園への襲撃。その手始めに日本本土とIS学園を繋ぐモノレール橋が爆撃されて物の見事に破壊され、複数機もの戦闘機がIS学園に向けて急降下してきた。まるでISによって居場所を失った事に対して恨みを晴らすように。

 

「何だ!?」

 

「何処で爆発が……!?」

 

―――緊急事態発生! 緊急事態発生! IS学園を所属不明の戦闘機部隊が強襲! 現在警備部隊が交戦中! 一般生徒は大至急避難シェルターに避難して下さい!

 

―――緊急招集! 緊急招集! 全専用機持ちは直ちにIS学園作戦本部へと急行せよ!

 

「せ、戦闘機部隊!?」

 

「何処の誰かは知らないが迷惑な事をしてくれるな!」

 

 箒、セシリア、鈴、ラウラの4人は食べていた昼食に未練を残しながらも、作戦本部に向かって走り出した。

 彼女達が作戦本部に到着した時、IS学園にいる専用機持ちが全員集合していた。楯無とダリルとフォルテもいる。本来なら此処に簪とシャルロットもいるが、彼女達は純一と共に『私立鳳凰学院』に転校した。

 

「状況を説明する。先程IS学園と日本本土を繋いでいるモノレール橋が戦闘機によって破壊された。今やIS学園は社会からも、物理的にも孤立した状態になった」

 

『ッ!?』

 

 千冬の説明に箒、セシリア、鈴、ラウラは愕然となるしか無かった。女性権利団体が運営に関わった時点で社会的に孤立し、通信販売で必要な物資を取り寄せるしか無くなっていた。それはIS関連企業も同じだ。

 IS関連企業はIS学園がIS操縦者、技術者、整備士等、IS関連の仕事に就く女子生徒の為に協力していた。それが女性権利団体が来てからと言うもの、そっぽを向いて女性権利団体に協力せず、話も聞かず、静観を決めている。

 そんな状態に追い打ちをかけるように、謎の部隊による襲撃で日本を繋ぐ橋を破壊されれば、外からの救援は当てにならない。敵がどんなに強大でも、目的が分からなくても、全て自分達でどうにかするしかない。

 

「戦闘機部隊はIS学園の周辺に配備された警備部隊を瞬殺し、今は戦闘教員と一般生徒の合同部隊と交戦している」

 

「け、警備部隊が!?」

 

「そんな!? ISは従来の兵器を凌駕する圧倒的な性能を有しているのに!?」

 

「教官。その戦闘機がISを蹴散らしたと言う事は、確実に対IS用として開発された物と思われます」

 

「ラウラの言う通りだ。敵の戦闘機部隊は対IS用として開発された物と推測される。更に状況はこちらにとって最悪と言える。第3アリーナと格納庫を所属不明のIS数機、格納庫を謎の機械部隊が制圧した。こちらは完全に出遅れた形となる」

 

「敵の狙いは一体何でしょうか……?」

 

 セシリアの呟きに答えられる者は誰もいない。ダリルとフォルテも、楯無も、千冬も無言を貫き通すしか無かった。箒、鈴、ラウラは言うまでもない。

 分からない事が多過ぎる。疑問だらけなのに、答えが少な過ぎる。それに考えさせる時間を与えさせない。ナチスドイツが得意とした電撃戦の如く、敵部隊は疾風怒濤の勢いで攻め込んでいる。

 分かっている事は敵が戦闘機部隊である事。その戦闘機は単体でISを倒せる程に強い事。そしてモノレール橋が破壊された事でIS学園は孤島となり、救援を望めない事。

 

「……恐らく女性権利団体ごとIS学園を潰すつもりだろう。或いは生徒達の救出か……どちらにしても、我々は戦わないといけない。私は例えIS学園がどうなろうと、教師である事には変わりない。ならば教師としての責任を最後まで果たす。それだけだ」

 

「これより各員もバックアップ態勢に入ってもらう。戦闘準備が整い次第、二手に分かれて第3アリーナと格納庫へ向かい、敵部隊と交戦するように!」

 

『はい!』

 

 千冬は薄々敵部隊の狙いに気付いていた。女性権利団体の巣窟となったIS学園の破壊、及びIS学園の生徒救出。でないと攻め込んで来る理由がない。

 それでも千冬は自分の仕事を最後まで果たす。IS学園の教師として、開発当初から関わっていたIS操縦者として、対IS用特殊部隊に戦いを挑む。もし自分達が負けても女性権利団体に全て罪を擦り付ける。純一からテクニックを学んだ。

 現状はIS学園側にとって最悪と言える。警告すら起きず、突如として複数もの戦闘機部隊が襲撃を仕掛け、警備部隊を全滅させた。更にモノレール橋を破壊し、現在は教員・一般生徒部隊と交戦中。

 更にIS学園上層部が戦闘機部隊に気を取られている隙に、IS専用機部隊と無人機械部隊が第3アリーナと格納庫を占拠し、IS学園を制圧しようと動き出している。

 

「楯無。お前には別の仕事を頼みたい。地下区画にいる一夏を助けて欲しい。この状況だ。奴らは自分達が生き残るのに必死で一夏の事を考えている暇がない。頼むぞ」

 

「了解しました。しかし、既に一夏君は敵の手に落ちたかもしれません……或いは敵に救出されたのか」

 

「何れにせよ、一夏を奪還する必要があるな……」

 

 千冬は楯無に一夏の救出を任せると、楯無が退出したのを見届けてから真耶と共に作戦本部から戦況を見ながら表情を険しくさせる。

 敵の攻め込むスピードが速い。そもそも攻撃は突然行われた。生徒達が食事を取っているお昼時に。この状態で混乱するなと言う方が無理だ。どのように防げば良いのか。一夏は無事なのか。色々考えながら千冬は考える。

 

 

 

―――緊急事態発生! 緊急事態発生! IS学園を所属不明の戦闘機部隊が強襲! 現在警備部隊が交戦中! 一般生徒は大至急避難シェルターに避難して下さい!

 

―――緊急招集! 緊急招集! 全専用機持ちは直ちにIS学園作戦本部へと急行せよ!

 

 IS学園の至る所で鳴り響くサイレン。告げられる放送。それを尻目に空き教室で純一は一夏を空き教室で休ませている。

 1ヶ月もの幽閉生活で心身共に弱った一夏に、純一は携帯食として持っていた“白飯”と“肉じゃが”の缶詰を開け、それを一夏に分け与えていた。

 食事を終えて水を飲んでいる一夏は、窓の外から聞こえて来る戦闘機と教員部隊の戦闘を聞いて不安を覚えていた。

 女性権利団体がIS学園を占拠し、運営母体になってからいつかは来ると思っていた。IS学園と何処かの部隊による戦闘が。でも地下区画に幽閉されている自分には関係ないと何処か他人事のように感じていた。

 しかし、その時がやって来た。最初は不安だった。自分は殺されるか、連れ去られるかのどちらにしかないと思っていたから。

 ところが来たのは純一で、自分を助けに来てくれた。純一は様々な事情でIS学園から『私立鳳凰学院』に転校したけど、自分を見捨てては無かった。IS学園で最高の親友である事に感謝する事しか出来ない。

 

『純一君! そっちの様子はどうだ? こっちは格納庫を占拠した!』

 

「零児さん! こっちは一夏を救出! 指定されたポイントに向かっています!」

 

『了解! 今通信を入れたのは格納庫にあるであろうISの訓練機が無かったからなんだ! 奴ら、一般生徒に訓練機を与えて部隊に入れやがった!』

 

「何ですと!?」

 

『あぁ! 戦闘機部隊の隊長、坂本次郎さんから通信が入ったから確かだ! 次郎さんは攻撃を当てず、威嚇射撃で応戦している! 彼女達は無理やり戦わされているからな!』

 

「目的の為なら手段を選ばず、か……やって良い事と悪い事の分別も付かないのか!」

 

 航空自衛隊のエースパイロット、坂本次郎は《Kozmo-ブラックシミター》を駆りながら、銃弾の雨を掻い潜り、教員部隊が身に纏うISを相手している。

 一般生徒相手には2門のレーザーキャノンからエネルギー弾を連射するが、直撃させずに威力を落としつつ、足元の地面に向けて撃つ事で戦意を喪失させている。

 戦意を失って戦場から逃亡する一般生徒を女性権利団体の息がかかった教員が引き留めようとするが、そういう教員達を容赦なくレーザーキャノンで撃ち抜き、身に纏っているISを解除して避難用シェルターに逃げるように呼び掛けている。

 

『そっちも気を付けてくれ! 一夏を救出しようと千冬姉さんが専用機持ちを差し向けた筈だ!』

 

「零児さん、一旦通信切ります。どうやら専用機持ちがこっちに近付いてきてます」

 

『分かった! 必要なら援護しに行く!』

 

「助かります。では!」

 

 純一は通信を切ると、空き教室の物陰から周囲の様子を伺う。目の前に見えたのは水色の髪に赤い瞳をした女子生徒。彼女の名前は更識楯無。IS学園2年生で元生徒会長。女性権利団体が占拠する前は生徒会長を務め、純一の専属コーチだった恩人。

 その表情は何処か晴れない。女性権利団体にIS学園を占拠された後、生徒会長から生徒会副会長に降格となった。その代わり、生徒会長は女性権利団体の息がかかった女子生徒が就任した。所謂お飾りと言う物だ。

 今までの生徒会長ならば多少発言力があったが、生徒会副会長になった今は発言力が無くなった。それでも腐る事なく生徒会の仕事をこなしたり、純一がいた時には中々出来なかったISの訓練やトレーニングを行っていた。

 全てはIS学園を守る為。IS学園にいる全ての人々を守る為。例えIS学園がどうなろうと、如何に変わろうと、自分の役割は一緒だと信じて。

 

「一夏。楯無さんが近付いている。恐らく侵入者の僕を排除し、一夏を確保する為だろう」

 

「どうするんだ? 幾ら純一でも勝てる確率低いだろう?」

 

「そうだな……僕が楯無さんを引き付けている間に行け。《Kozmo-インフィルトレーター》がいる場所に。通信機と地図を渡すから」

 

 物陰から様子を伺い、状況を理解した純一は一夏に状況を説明しながら指示を出す。楯無を自分が引き付けている間に、空き教室から指定ポイントまで向かい、平等院財閥の対IS特殊部隊に保護されるようにと。

 純一は部隊の面々に一夏の事を託していて、そもそも今回の襲撃に加わったのも一夏を助ける事が理由の1つだった。それだけに親友の身を案じているが、そう簡単に引き下がる一夏ではなかった。 

 

「で、でも俺だって戦える! これ以上お前に助けられてばかりじゃ……」

 

「気持ちは嬉しいけど、君を無事に帰す事が僕にとっての任務なんだ。それに君は幽閉生活で弱っているし、ISに触っていないだろう? そんな状態で戦っても何にもならない。こっちはこの日に備えて猛練習に励んできた。心配するな」

 

「そっか……そうだよな。純一。お前を信じるよ」

 

「ありがとう」

 

 一夏は“誰かを守る事”に強い憧れを持ち、それに拘り過ぎて自分の実力以上の行動を取ったり、直情的になる事が欠点。それを知っていて待ったをかけている純一。

 ただ頭ごなしに言えば良いのではない。一夏が理解出来るよう、納得できるように言葉を選びながら、一夏を宥め諭すようにするのが純一のやり方。

 一夏が納得して純一から通信機と地図を受け取り、何時でも空き教室から出れるようにする一方、純一は静かに空き教室から出て楯無の前に姿を現す。

 

「お久し振りです、楯無さん」

 

「純一君!?」

 

「元気そうで何よりです。少し顔色が悪いのが心配ですが……」

 

「貴方がこの襲撃の首謀者?」

 

「首謀者ではありません。ですが、今回の作戦の立案者は僕です。一夏の事は大丈夫です。既に部隊の人が保護して、今はこの場所から離脱しました」

 

「そう……良かった。取り敢えず無事なのね」

 

 楯無は扇子に取り付けた二対となる菱形のストラップを握り締め、自分の専用機、『霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)』を展開し、身に纏って純一と対峙する。

 その右手に握られているランスー蒼流旋(そうりゅうせん)の槍先を純一に向けるが、彼女の表情は苦しそうで、悲しそうな物が感じられる。

 それを読み取ったのか、純一はニコニコと笑顔を浮かばせていた。本心は別の事を考えているのを読み取らせない為にも。

 

「楯無さん。相変わらず生徒会長として学園を守っているんですか? 今の学園はもう僕が知っている所ではなくなった。女権団体が支配する恐怖の監獄となった。僕はこの監獄から皆を解き放ちに来ました。それなのにどうして貴女は僕に武器を向けるんですか?」

 

「私は自分の仕事を果たす。学園に侵入した悪を排除する。IS学園と生徒達を守る。例え生徒会長でなくなったとしても、例え相手が実の弟のように可愛がっていた後輩だとしても……!」

 

「戦う事でしか分かり合えない事がある……か。良いでしょう。楯無さん! 貴方のその心を解き放つ!」

 

 純一も戦う覚悟を決めたのか、かけている眼鏡をゆっくりと外した。人前で自分から眼鏡を外す事は滅多にない事なのか、楯無は驚きながら純一を見つめる。

 眼鏡を外した純一の顔は一夏に勝るとも劣らないイケメン。外した眼鏡を折り畳んで眼鏡ケースに入れると、服の内ポケットにしまう。

 楯無を見つめる純一は笑みを浮かべている。楯無と言う強敵と戦う事への歓喜なのか。自分の本来の力を解き放てる事への喜びなのか。それとも内に秘めた狂気を解き放った証なのか。それは純一本人にしか分からない。

 純一は自分の専用機を装備し、身に纏うと共に両手にトンファーを握り締める。純一の専用機。それは全身装甲型のIS、『亜白龍』。

 頭部は騎士を象ったような白兜で、両腰にバインダーを付け、両腕にガントレットを装備し、背中にH型のバックパックを背負い、大型のエネルギーウィングを備えたガンダ〇みたいな見た目をしたIS。

 それは最早ISと呼んでも良いのか。ISとは別次元の存在なのではないか。そう思わせる程の荘厳さと圧倒的威圧感を前にしても、楯無は動じる事なく両手に蒼流旋《そうりゅうせん》を握りながら構えを取る。

 両者は同時に突撃を開始し、楯無が突き出した蒼流旋《そうりゅうせん》を純一が右手に持ったトンファーで受け流したのを合図として、2人の戦いが始まった。

 

 

 

 IS学園作戦本部。千冬と真耶は至る所で繰り広げられている戦闘をモニターで見ているが、状況は依然として対IS用特殊部隊が優勢に立っている。

 《Kozmo-ブラックシミター》と《Kozmo-ウィングライダー》の戦闘機部隊と教員・一般生徒合同部隊の戦闘。それは戦闘機部隊による一方的な蹂躙劇となっていた。

 《Kozmo-ウィングライダー》を撃墜しようと、教員部隊が上空から無数の弾丸を浴びせる。アサルトライフルから、ガトリングから弾雨が降り注ぐが、《Kozmo-ウィングライダー》はその類まれな機動力と速度を活かし、弾丸の雨を掻い潜る。

 そもそも最高速度の時点でISを凌いでいるのだが、それに気付いた教員部隊はミサイルポッドから無数のミサイルを放つ。二段構えの攻撃だ。

 しかし、そのミサイルは上空から放たれた無数の赤いエネルギー弾によって迎撃され、その全てを破壊された。

 

「上から!?」

 

「ハイパーセンサーには反応がないぞ!」

 

 突如として上空から放たれた攻撃に教員部隊が動揺していると、彼女達を嘲笑うかのように透明化を解除した《Kozmo-ブラックシミター》が姿を現した。

 それと同時に一瞬で放たれた無数の赤いエネルギー弾。その砲撃が教員部隊が身に纏う『ラファール・リヴァイヴ』を破壊しながら、操縦者の意識を狩り取っていく。

 操縦者が意識を失った事で『ラファール・リヴァイヴ』は制御を失い、ガシャンと言う音を立てながら地面に墜落した。

 

「えっ……!?」

 

 その様子を見ていた一般生徒の誰もが絶句した。全てのISに備わっている操縦者の死亡を防ぐ能力―“絶対防御”。シールドバリアーが破壊され、操縦者本人に攻撃が通る事になっても、この能力があらゆる攻撃を受け止めてくれる。例え攻撃が通っても、操縦者の生命に別状ない時にはこの能力は使用されない。

 この能力が使用されるとシールドエネルギーが極度に消耗すると言うデメリットがあるが、エネルギーはまだある程度余裕があった筈だ。

 一般生徒達が現実を受け入れきれず、教員を介抱していると、《Kozmo-ブラックシミター》のパイロットが通信を入れて説明を始める。

 

―――教員部隊、及び一般生徒達に告ぐ! 我々は女性権利団体に洗脳されて戦わせている君達を解放しに来た! かなり手荒な真似をして大変申し訳ないが、我々の乗っている戦闘機は対IS用に開発されている。訓練機はおろか、国家代表の乗る戦闘機も相手に出来る! このように“絶対防御”も突破する武器もある! これ以上の抵抗は無駄だ!

 

―――おとなしく身に纏うISを解除し、降参するように! そうすれば君達の命を助け、引き続きIS学園で仕事をしたり、勉強に励めるように取り成す! これは約束だ!

 

「ほ、本当にIS学園で仕事をさせて頂けるのですか?」

 

―――もちろんだ! ただIS学園は何処かに移設するだろうが……それまでは仮設校舎での勉強になるが我慢して欲しい。

 

「またISの勉強が出来るんですか? 今までの楽しい生活が送れますか?」

 

―――それは絶対に約束する!

 

「なら……」

 

 教員部隊と一般生徒部隊の全員は身に纏っていたISを外すと、両手を上げて降参の意思を戦闘機部隊に示した。元々女性権利団体が逃げる時間稼ぎの為に戦わされていたような物だ。戦意も然程高くなかった。

 しかし、この事実が女性権利団体に与えた影響は大きかった。IS学園の戦闘教員達は全員並の代表候補生以上の実力があり、並大抵のIS操縦者では手も足も出ない。

 その実力者達が悉く無力化され、戦闘機の1機も撃墜する事が出来ず、戦闘機部隊の猛攻に敗れ去り、降参したのだ。この事実は女性権利団体のみならず、千冬にも大きな衝撃を与える事となった。

 

「まさか戦闘機がISを倒すとはな……この戦いは我々の負けだ。と言うより、ISの時代がもう私達の知らない間に変わったのかもしれない」

 

「そんな事言わないで下さい! まだ第3アリーナと格納庫で戦っている専用機持ちと部隊がいます! 皆さんが最後まで頑張ろうとしているのに織斑先生が諦めちゃ……」

 

「山田先生……第3アリーナと格納庫にいる専用機持ちの中に内通者がいた。ダリルとフォルテだ。あの2人は最初から敵と繋がっていた」

 

 千冬と真耶が見ているモニター。そこでは第3アリーナと格納庫で繰り広げられている戦いの様子が映し出されている。

 零児とマドカが率いる機甲IS部隊と交戦している専用機持ちと女性権利団体が連れてきたIS部隊。最初はある程度良い勝負になっていたかと思いきや、ダリルとフォルテの裏切りによって総崩れとなった。

 女性権利団体が連れてきたIS部隊は専用機持ちの目の前で悉く抹殺された。抵抗すれば自分達もこのようになる。そう感じたのか、箒達は身に纏っていた専用機を解除して機甲IS部隊に降伏した。

 

「でもどうしてダリルさんとフォルテさんが?」

 

「恐らく純一が転校する頃に内通し始めたようだ。純一は転校する時に簪やシャルロット、ナタリア達に声を掛けていたからな……やられたよ。相手は平等院財閥だ。我々IS学園を本気で潰しに来たんだ」

 

「そんな……純一君が……?」

 

「今純一は校庭で楯無と戦っている。先程戦闘機部隊からの通告があったよ。“織斑一夏はこちらで保護した。女性権利団体の身柄を引き渡して欲しい”と。一夏は無事だ。だが女性権利団体の身柄を引き渡そうにも、奴らが何処にいるのかが分からない。だから私は確保しに行くよ」

 

 千冬と真耶が観ているのはモニターに拡大された映像。そこに映し出されているのは2機のISの戦闘。白いISを纏った純一と水色のISを纏った楯無。

 何時の間にか校内から中庭に戦場を移し、激しい戦闘を繰り広げている。転校する前までは楯無とそこそこ良い勝負になれば良かった程だったが、今では互角以上に渡り合えるようになっている。凄まじい成長スピードだ。

 千冬は真耶に後の事を託すと、女性権利団体の面々を捕まえに来た。これ以上この戦闘を長引かせない為にも、自分に出来る事をやるだけだった。

 

 

 

 最初は校内で戦闘を繰り広げていたが、校内のような狭い場所だと楯無に有利と気付いた純一によって、楯無は中庭に移動を余儀なくされてからの戦闘を余儀なくされていた。

 楯無の専用機、『霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)』はナノマシンで構成した水を攻防一体の武器として使用できるのが特徴の1つ。

 入学してからずっと楯無の教えを受けてきた純一は、楯無の実力の高さを認めながら、『霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)』を研究し続けてきた。何れ来るであろうIS学園との全面対決の時の為に。

 確かに『霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)』は強力だ。水の刃を飛ばしたり、水の盾を作ったり、水蒸気爆発を起こす等、攻撃力と応用力で言えば専用機持ちの中でもトップクラスと言える。それに攻撃に大気中の水分を利用する為、ISのシールドエネルギーを使う事もそこまでない。

 しかし、水は無形である事から周囲の環境に左右されやすい。機体性能を存分に発揮するには水が水として存在している場所でないといけない。

 寒い場所だと水は凍る上に、水蒸気もダイヤモンドダストになる。熱い場所では水は直ぐにお湯となり、水蒸気も蒸発してしまう。暗部の長と言う肩書を持つ割には、安定した性能が出しにくい機体と純一はジャッジを下した。

 

「そこだ!」

 

 『亜白龍』の背中のバックパックが自動変形すると共に、格闘戦形態へと姿を変えた。背中に装備された砲身が伸長し、『霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)』に向けてミサイルを撃ち込む。

 楯無は水のナノマシンを壁のように展開する事で連続砲撃を防いでいる隙に、純一はトンファーのグリップを握りながら、両足の脹脛に付けられている複数のスラスターを噴射させて楯無との間合いを詰める。

 スラスターを吹かす直前に地面を蹴り上げて加速し、一気に楯無の目の前に姿を現すと、右手に握るトンファーを突き出す。

 

「ハァッ!」

 

「クッ!(速い!? 瞬間移動と勘違いするくらい速かった!?)」

 

 繰り出された一撃を蒼流旋(そうりゅうせん)で受け止め、両者は鍔迫り合いに移行する。体格では男性たる純一が勝っているが、楯無は多種多様な格闘技に精通しており、軍人として訓練を積んできたラウラを手玉に取る程に身体能力は高い。

 しかし、鍔迫り合いは純一が押しており、楯無が押されている。純一は右足で楯無を蹴り飛ばし、蹴り飛ばされた楯無は空中で姿勢を安定させながら着地した。

 

「やっぱり強いですね、楯無さんは。僕はずっと楯無さんみたいになりたかった。何をやらせても完璧に出来る天才で、色んな人と直ぐに仲良くなれる貴女みたいに」

 

「純一君……どうして此処に来たの?」

 

「どうして……ですか。決着を付けに来ました。女性権利団体との因縁に。IS学園から転校する時、いや文化祭で襲われた時から、僕は決めていました。女性権利団体を潰すと。女尊男卑思想を持つ女性全てを根絶やしにすると。奴らはISの存在を利用し、これまで数多くの悪行を行いました。そして終いにはIS学園を乗っ取った……IS学園と言う戦力を手に入れた以上、奴らをこれ以上野放しには出来ません。それに……一夏達皆を助けたかったんです。例え自分が望まずに入学したとしても、この場所で僕は大切な仲間が出来、貴重な経験をして、色んな事を学べました。確かにここは僕にとって回り道だったかもしれません。でも……それでも、ここにいた事を無かった事にしたくない。だから自分の意思でここに来ました」

 

 純一が戦場に立っている理由。それは自分の命を狙っただけでなく、世界を歪ませた諸悪の元凶たる女性権利団体の連中を全員根絶やしにする為。

 と言うのは建前で、本音は一夏や楯無達を助けたかった為。純一はIS学園に強制入学させられ、不本意な学園生活を送っている中、『私立鳳凰学院』側のオファーを受けて転校する事を決め、簪やシャルロット達といった女子生徒と共に転校していった。

 しかし、IS学園で過ごした事に対しては全然悪いとは思っていない。むしろ良かったとさえ口にしている。転校した理由は自分の将来の為だった。

 それでもIS学園で出来た仲間や経験を無かった事にしない。元IS学園生として、1人のIS乗りとして純一はIS学園に戻ってきた。

 

「そう……如何にも純一君らしい真面目で、しっかりとした答えね。だったら示しなさい。貴方の信念を!」

 

「やってやりますよ!」

 

 楯無は蒼流旋(そうりゅうせん)に内蔵されている四門のガトリングガンを連射する一方、純一は背中のバックパックに内蔵しているスラスターを噴射させ、楯無との間合いを瞬時に侵略する。

 機動力と速度の高さを活かして攻撃を瞬時に躱すと共に攻撃に転じる。両手に握り締めるトンファーを振るい、連続打撃を繰り出していく。

 間合いを侵略された以上、ランスの出番はない。楯無は純一の攻撃を防ぎながら蹴り飛ばすと、蒼流旋(そうりゅうせん)から高圧水流を発することができる蛇腹剣―“ラスティー・ネイル”に持ち替え、純一との間合いを侵略する。

 楯無が武器を持ち換えたのを見た純一も、背中のバックパックを格闘状態から通常形態に戻し、両腰のバインダーから伸びている柄を引き抜いた。

 その柄はガンブレードの物だった。片刃の近接専用ブレードと拳銃が一体化したような形状を持った銃剣、やや大型で取り回しに少し難があるが、扱えればどうと言う事はない。

 ガンブレードと蛇腹剣が激突すると、純一は自分から距離を取って連続でエネルギー弾を撃ち出していく。それに対し、楯無はナノマシンで構成される水を蛇腹剣の刀身に纏わせ、横薙ぎに振るう事で水の斬撃を放つ。

 

「純一君、貴方は本当に強くなったわね!」

 

「そりゃどうも!」

 

『純一君、聞こえるか? こちらスカーライト。織斑千冬さんが女性権利団体の奴らを連れて降伏しに来た』

 

「えっ!? 楯無さん一旦ストップ!」

 

「どうしたの?」

 

 突如として入った通信が純一と楯無の戦闘を中断させた。何でも千冬が人口島から逃げようとした女性権利団体の面々を一人で全員捕まえ、彼女達を引き連れて降伏しに来たと言う、信じられないような内容だった。

 楯無もその通信を聞くと、2人共顔を見合わせて困ったような雰囲気が暫く流れていたが、上空を飛んでいる戦闘機部隊がIS学園全体に呼びかけを行っている事で、ようやく通信が真実を述べている事を理解した。

 こうして女性権利団体によって占拠されたIS学園と言う名前の監獄は解放され、IS学園の生徒と教員は全員無傷で帰れる事となった。しかし、IS学園が受けた代償は大きかった。

 先ず国際連合の監視下に置かれる事となり、IS学園があった人口島は戦闘によって破壊された為、修理された後で女性権利団体の面々が移送され、アルカトラズ島もびっくりな程厳重な刑務所が建てられる事となった。

 その刑務所にはこれまでISによって生じた歪みや出来事の全てが刻まれ、訪れる人々はISが台頭してから今まで起きた負の歴史と向き合いながら、明日を生きる事となった。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・このお話の時間軸

 IS学園で一通り『遊戯王OCG』の行事が終わり、純一君が転校した後となっています。本編で言えば今よりもだいぶ後の話になります。

・学園占拠!?

 この話を記している時、2004年9月1日から9月3日にかけてロシアの北オセチア共和国ベスラン市のベスラン第一中等学校で、チェチェン共和国独立派を中心とする多国籍の武装集団(約30名)によって起こされたベスラン学校占拠事件を思い出しました。

・女権団体とIS委員会の仲違い

 最終的にIS委員会は『遊戯王OCG』の大会の方針や目的の違いや、大会の妨害を行ってきた女権団体を切り捨て、IS委員会から追放させました。
 女権団体が学園を占拠したのもこの理由が大きかったです。拠り所を無くしたと言うより、自分から捨てたような物ですし。

・戦闘機の元ネタ

 『スター・ウォーズ』に搭乗するXウィング・スターファイターと、シミターことシス・インフェルトレーターです。
 《Kozmo・ブラックシミター》はエピソード3に登場したジェダイ・スターファイターをイメージしました。分からない人は検索して下さい。

・一夏君に必要な事

 原作読んでいて思ったのですが、一夏君に必要な物って自分を好きになるヒロインより、兄貴分と言いますか、同性で何でも気兼ねなく話せる仲間だったんじゃないかと思う時があります。特にアンチ一夏物を読んでいるとそう感じます。
 親がいなくて、ただ一人女子高に放り込まれた彼の拠り所になるような人がいれば、少しでも変わるのかなと思います。それをイメージして純一君を用意しました。

・透明になれる戦闘機!?

 スターウォーズ バトルフロント2のプレイ動画でシミターを観たのですが、何と透明になれるんです……これ強くないですか!?

・IS=兵器について

 個人的にISは兵器と言う運用をされているなら、こういう事もあるかな?と思いながら記しました。参考資料として太平洋戦争の本土決戦のシュミレーション本を使いましたが、あっちの方が悲惨でした。

・“白飯”と“肉じゃが”の缶詰

 自衛隊の携帯食です。

・純一君が眼鏡を外したら……?

 イケメンになってキャラが変わります(マジ)そして実力が上がります。


次回は本編に戻り、平等院佐智雄君と純一君の対談をメインにします。

次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。




 


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デッキ紹介Vol.2 【シムルグ】+a

今回はTURN17で使用した【シムルグ】デッキのレシピを紹介しながら、カードの効果や使い方を解説する番外編となります。

前回の反省を踏まえ、丁寧に解説するように心がけました。
もしよろしければ構築の参考にして下さい。


 はい! 皆さんお久し振りです! 黒田純一です。今回もデュエル回で僕らが使ったデッキを解説していく番外編となっています。今回はデッキレシピから回し方、各カードの紹介を中心に行います。

 第2回となる今回は僕が使用した【Kozmo】デッキの大会用デッキレシピを紹介しながら、1回戦第1試合の1本目で対戦した徳川蘭さんの【シムルグ】デッキの解説もやっていきます。蘭さんは初心者なので、まだ自分のデッキを解説するまでには至っていない事もあって、代わりに僕が解説させて頂きます。先ずは僕が大会用にチューンした【Kozmo】デッキを紹介します。

 

 

 

・【Kozmo】デッキレシピ

 

メインデッキ:42枚

 

モンスター:22枚

《Kozmo-ダークエクリプサー》×1

《Kozmo-ダークシミター》×3

《Kozmo-フォアランナー》×1

《Kozmo-ラントウォーカー》×1

《Kozmo-スリップライダー》×2

《Kozmo-ダーク・エルファイバー》×2

《Kozmo-グリンドル》×2

《Kozmo-ドロッセル》×2

《Kozmo-フォルミート》×2

《Kozmo-フェルブラン》×3

《古聖戴サウラヴィス》×3

 

魔法:14枚

《Kozmo-エメラルドポリス》×3

《テラ・フォーミング》×1(制限カード)

《ハーピィの羽根箒》×1(制限カード)

《緊急テレポート》×2(準制限カード)

《強欲で金満な壺》×3

《封印の黄金櫃》×1(制限カード)

 

罠:6枚

《リビングデッドの呼び声》×3

《Kozmo-エナジーアーツ》×3

 

EXデッキ:15枚

《リンクリボー》×1

《水晶機巧-ハリファイバー》×1

《トロイメア・ケルベロス》×1

《ヴァレルロード・ドラゴン》×1

《デコード・トーカー》×1

《フォーミュラ・シンクロン》×1

《No.61 ヴォルカザウルス》×1

《迅雷の騎士ガイアドラグーン》×1

《月華竜 ブラック・ローズ》×1

《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》×1

《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》×1

《神竜騎士フェルグラント》×1

《No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシ-》×1

《No.90 銀河眼の光子卿》×1

《銀河眼の光波刃竜》×1

 

・サイドデッキ:15枚

 

《ダイナレスラー・パンクラトプス》×2(準制限カード)

《闇の誘惑》×2(準制限カード)

《海亀壊獣ガメシエル》×2

《センサー万別》×2

《御前試合》×2

《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》×1

《ワン・フォー・ワン》×2(準制限カード)

《砂塵の大嵐》×2

 

 

 

 構築の大本は変えていませんが、一部のカードは変更しました。先ず《エフェクト・ヴェーラー》の代わりに、《古聖戴サウラヴィス》を投入。これは学年別クラス対抗デュエルトーナメントの独自ルールで1クラス同名カード3枚までの使用可となっている為、《ヴェーラー》をナタリアさんに譲り、代わりに《古聖戴サウラヴィス》を入れました。

 

 

《古聖戴サウラヴィス》

儀式・効果モンスター

レベル7/光属性/ドラゴン族

ATK/2600 DEF/2800

《精霊の祝福》により降臨。

(1):自分フィールドのモンスターを対象とする魔法・罠・モンスターの効果を相手が発動した時、このカードを手札から捨てて発動できる。その発動を無効にする。

(2):相手がモンスターを特殊召喚する際に、フィールドのこのカードを持ち主の手札に戻して発動できる。その特殊召喚を無効にし、そのモンスターを除外する。

 

 

《古聖戴サウラヴィス》は手札から捨てる事で、自分モンスターを対象とする効果を無効にする事が出来ます。無効に出来る対象が広く、《エフェクト・ヴェーラー》と並んでIS環境で活躍が見込める手札誘発効果を持っています。

 ただ発動を無効にするだけで破壊する訳ではないので、《ダーク・アームド・ドラゴン》等の1ターンに複数回使えるタイプの効果を完全に防ぐことは出来ません。なので使い時をしっかりと見極めないといけません。

 手札誘発モンスターの話がよく本編に出ますが、そもそも手札誘発モンスターは何ぞやと言うと、手札から捨てる、もしくは墓地に送る事で効果を発動できるモンスターの事を指しています。条件を満たせば相手のターンでも効果の発動ができます。また、中にはフリーチェーンと言って、いつでも効果を発動できるモンスターもいます。

 現代『遊戯王』では手札誘発モンスターのデッキ採用率が高いです。最早『遊戯王』プレーヤーにとって、手札誘発モンスターをデッキに入れる事は当たり前の世界になっています。ではどうして手札誘発モンスターを採用しているかと言うと、『遊戯王』では先攻が圧倒的有利だからです。

 先攻を取られると、手札誘発モンスターや手札から捨てて発動するカードが無ければ、高校プレーヤーは相手の展開を見ているだけで何もする事がありません。相手が1ターン目から強力な制圧盤面を展開してターンを明け渡すと、何も出来ずに負けてしまう事もあります。しかし、手札に手札誘発モンスターがあれば、相手の先攻1ターン目の展開を妨害する事が出来ます。

 先程も述べましたが、最早現状必須と言っても過言ではない手札誘発モンスターですが、沢山入れれば良い訳ではありません。

 あくまで手札誘発モンスターは防御カードです。不必要なカードを入れるなら、コンボパーツやドローカード等を入れた方がデッキの展開力が上がるでしょう。

 手札誘発モンスターを何枚採用すれば良いのか。この疑問に明確な答えはありません。自分のデッキと相談して決めて下さいとしか答えられないからです。1枚のカードから展開出来るデッキであれば多めに入れられますが、複数枚のカードが揃って展開するデッキから少ない方が良いでしょう。

 

 

 

《強欲で金満な壺》

通常魔法

(1):自分メインフェイズ1開始時に、自分のEXデッキの裏側表示のカード3枚または6枚をランダムに裏側表示で除外して発動できる。

除外したカード3枚につき1枚、自分はデッキからドローする。

このカードの発動後、ターン終了時まで自分はカードの効果でドローできない。

 

 

 最初にこのカードをパックで引き当てて効果を確認した時、一瞬で“このカードは強い”って確信出来ました。それくらい強いです。EXデッキを裏側で除外する代わりに2枚ドロー。普通に考えても強いです。

 EXデッキのカードを沢山使うデッキには入れられませんが、EXデッキを全く・そこまで使わないデッキには強力なドローカードになります。

 EXデッキを全く使わないデッキはメインデッキだけで十二分に戦えるデッキになるので、その代表例は【メタビート】や【Kozmo】と言えるでしょう。特殊召喚もあまり使わないデッキの場合は《強欲で謙虚な壺》との併用をお勧めします。《強欲で謙虚な壺》はドロー効果ではないので、ゴーキンを使った後のデメリットを無視する事が出来ます。

 他にもEXデッキから特殊召喚するモンスターが少ないデッキであれば、十二分に採用出来ます。【オルタ―ガイスト】や【サブテラー】とか。他にもサーチを多用するデッキでも活躍が望まれます。

 前回のデッキ紹介でキーカードやコンボを紹介したので、今回は新しく投入したカードの紹介に止めました。今後もデッキの中身が変わり次第、この場所で引き続き報告していこうと思います。では次に【シムルグ】デッキを紹介します。

 

 

 

・【シムルグ】デッキレシピ

 

メインデッキ:40枚

 

モンスター:18枚

《雛神鳥シムルグ》×3

《招神鳥シムルグ》×3

《烈風の結界像》×1

《ダーク・シムルグ》×2

《烈風の覇者シムルグ》×2

《ダークネス・シムルグ》×3

《こけコッコ》×2

《霞の谷の巨神鳥》×2

 

魔法:16枚

 

《テラ・フォーミング》×1(制限カード)

《おろかな埋葬》×1(制限カード)

《ハーピィの羽根箒》×1(制限カード)

《強欲で金満な壺》×3

《神鳥の霊峰エルブルズ》×3

《神鳥の来寇》×3

《神鳥の排撃》×2

《帝王の烈旋》×2

 

罠:6枚

 

《ハーピィの羽根吹雪》×3

《魔封じの芳香》×3

 

EXデッキ:15枚

 

《王神鳥シムルグ》×3

《蒼翠の風霊使いウィン》×3

《HSR-GOMガン》×3

《グレートフライ》×3

《ハーピィ・コンダクター》×3

 

 

 

・デッキに入っている《シムルグ》カードの紹介

 【シムルグ】は2019年4月13日に発売された『RISING RAMPAGE』でカテゴリ化されました。2006年3月16日に発売された『ストラクチャーデッキ-烈風の覇者-』で《神鳥シムルグ》が登場していましたが、正式なカテゴリになったのは『RISING RAMPAGE』が発売されてからです。そして2019年11月23日に発売された『 LINK VRAINS PACK 3 』で強化を受けました。

 カテゴリになるまで実に13年以上かかりました。開発途中で色々あってストラクに収録するのではなく、パックに収録と言う形になったと思いますが、どうせならストラクを出して欲しかったです。

 この【シムルグ】デッキがやる事は主にアドバンス召喚、時々リンク召喚になります。なので初心者や復帰勢の方にお勧めです。比較的安く組めますし、やる事もそこまで難しい訳でもありません。高いカードと言えば《強欲で金満な壺》と《王神鳥シムルグ》ぐらいかと思います。そして手札誘発も。

 

 

《雛神鳥シムルグ》

効果モンスター

レベル1/風属性/鳥獣族

ATK/0 DEF/1600

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。

このターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに《シムルグ》モンスター1体を召喚できる。

(2):このカードが墓地に存在し、相手の魔法&罠ゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。このカードを守備表示で特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

この効果の発動後、ターン終了時まで自分は鳥獣族モンスターしか特殊召喚できない。

 

 

《招神鳥シムルグ》

効果モンスター

レベル2/風属性/鳥獣族

ATK/1000 DEF/1000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。

デッキから《招神鳥シムルグ》 以外の《シムルグ》カード1枚を手札に加える。

(2):このカードが墓地に存在し、相手の魔法&罠ゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。このカードを守備表示で特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

この効果の発動後、ターン終了時まで自分は鳥獣族モンスターしか特殊召喚できない。

 

 

 下級《シムルグ》モンスターは共通効果があって、墓地に存在する場合、相手の魔法・罠ゾーンにカードがセットされてない時、自身の効果で墓地から特殊召喚する事が出来ます。なので先攻1ターン目に《王神鳥シムルグ》をリンク召喚した後、共通効果で自己蘇生してアドバンス召喚のリリース要員としての運用が基本的な使われ方となります。

《雛神鳥シムルグ》は召喚に成功したターン、《シムルグ》モンスターの召喚権を増やす効果を持っています。なので初手に来た時は真っ先に出しましょう。

《招神鳥シムルグ》は召喚に成功した時、《シムルグ》カード1枚をサーチ出来ます。サーチ先は《 神鳥(シムルグ)の来寇》や《 神鳥(シムルグ)の霊峰エルブルズ》等、手札と状況に合ったカードになるでしょう。

 

 

《烈風の覇者シムルグ》

効果モンスター

レベル8/風属性/鳥獣族/

ATK/2900 DEF/2000

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):アドバンス召喚したこのカードは相手の魔法・罠カードの効果の対象にならない。

(2):魔法・罠カードの効果が発動した時、自分フィールドの鳥獣族・風属性モンスター1体をリリースし、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを持ち主のデッキに戻す。

(3):このカードが墓地に存在し、自分の鳥獣族モンスターが戦闘で破壊された時に発動できる。このカードを手札に加える。

 

 

【シムルグ】デッキの切り札の1枚です。純粋に打点が高いですし、レベル8なので《トレード・イン》に対応していますし。このデッキには墓地に送る手段もかなり用意されています。なので初手に来たら直ぐに墓地に送るなり、手札に加えましょう。

1番目の効果は強いですが、ここ最近はモンスター効果を使って除去する環境なので、刺さるかどうかは微妙な所です。それに2番目の効果もターン1制限が付いているので使い所を見極めないといけないですし……

 それにモンスター効果を受けてしまうのが痛いですね。僕とのデュエルの時は特にそうでしたが、《Kozmo-ダークシミター》のようにモンスター効果で破壊してくるようなカードには滅法弱いです。

 なのでこのデッキにおける《ハーピィの羽根吹雪》のようにモンスター効果を妨害するようなカードを採用したりする等、盤面を如何に維持しながら戦っていけるかどうかが問われます。

 

 

《ダークネス・シムルグ》

効果モンスター

レベル8/闇属性/鳥獣族

ATK/2900 DEF/2000

このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが手札・墓地に存在し、自分が闇属性または風属性のモンスターのアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードの属性は“風”としても扱う。

(3):魔法・罠カードの効果が発動した時、自分フィールドの鳥獣族・風属性モンスター1体をリリースして発動できる。その発動を無効にし破壊する。

 

 

《烈風の覇者シムルグ》と同じく、【シムルグ】デッキの切り札の1枚です。素早くサーチして手札に加えるなり、墓地に送るなりして闇属性・風属性のモンスターのアドバンス召喚を行い、手札・墓地からさっさと特殊召喚しちゃいましょう。

 3番目の効果は自分も風属性になる為、最低でも1回は発動出来ます。自身のステータスが高いので、発動コストさえ用意出来れば、相手にプレッシャーを与える事も出来ます。

 ただ《烈風の覇者シムルグ》と同じくモンスター効果には無力なので、カバー出来るカードと組み合わせた方が良いです。それに3番目の効果もターン1制限が付いているので、発動の見極めも必要不可欠となります。

 

 

《ダーク・シムルグ》

効果モンスター

レベル7/闇属性/鳥獣族

ATK/2700 DEF/1000

(1):このカードが手札に存在する場合、自分の墓地から闇属性と風属性モンスターを1体ずつ除外して発動できる。このカードを特殊召喚する。

(2):このカードが墓地に存在する場合、手札から闇属性と風属性モンスターを1体ずつ除外して発動できる。このカードを特殊召喚する。

(3):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードの属性は“風”としても扱う。

(4):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手はカードをセットできない。

 

 

 《ダーク・シムルグ》を入れている理由ですが、《 神鳥(シムルグ)の来寇》でサーチ出来る《シムルグ》モンスターが同じ属性は1体までと言う縛りを受けているからなんです。風属性の《シムルグ》モンスターは多いのですが、闇属性となると 《ダークネス・シムルグ》と《ダーク・シムルグ》しかいません。

 それともう1つ。《 神鳥(シムルグ)の来寇》と《 神鳥(シムルグ)の排撃》は墓地効果で手札の鳥獣族モンスターのレベルを1つ下げる事が出来ます。《烈風の覇者シムルグ》と《ダークネス・シムルグ》のレベルは8なので1つ下げてもレベル7。モンスターを2体リリースしないとアドバンス召喚する事が出来ません。

 しかし、《ダーク・シムルグ》のレベルは7。1つ下げるとレベル6になり、1体リリースしてアドバンス召喚出来ます。《魔封じの芳香》 と組み合わせるとセット出来ず、魔法・罠の発動を許さない鬼畜コンボを使う事が出来ます。そうすれば下級《シムルグ》モンスターの蘇生効果も使えますし、《王神鳥シムルグ》のリクルート効果で最上級鳥獣族モンスターを特殊召喚する事も簡単に出来ます。

 

 

 

《王神鳥シムルグ》

リンク・効果モンスター

リンク3/風属性/鳥獣族

ATK/2400

【リンクマーカー:左下/下/右下】

鳥獣族モンスターを含むモンスター2体以上

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

このカードはリンク素材にできない。

(1):このカード及びこのカードのリンク先の鳥獣族モンスターは相手の効果の対象にならない。

(2):このカードが戦闘で破壊される場合、代わりに自分フィールドの《シムルグ》カード1枚を破壊できる。

(3):自分・相手のエンドフェイズに発動できる。

使用していない自分・相手の魔法&罠ゾーンの数以下のレベルを持つ、鳥獣族モンスター1体を手札・デッキから特殊召喚する。

 

 

 こちらが《シムルグ》のリンクモンスターになります。リンク3で鳥獣族モンスターを含むモンスター2体以上をリンク素材に要求しています。蘭さんは鳥獣族3体でリンク召喚していましたが、もっと簡単にリンク召喚する方法があります。今現在制限カードの《 水晶機巧(クリストロン)-ハリファイバー》等、鳥獣族モンスターを展開可能なリンク2を利用すれば特殊召喚しやすいです。

 リンク素材に出来ないと言うデメリットこそありますが、1番目の効果はけっこう厄介でした。自身とリンク先の鳥獣族モンスターに対象耐性を与える効果。この効果があるおかげで、そう簡単に除去される事なく、展開しやすくなりました。

 自身のステータスの低さもあって、2番目の効果は正直微妙に感じます。と言うのも身代わりにする《シムルグ》カードが中々なくて……せいぜい自分のターンで展開しやすい《ダークネス・シムルグ》ぐらいしか現状なさそうです。せめて鳥獣族モンスターにして欲しかった……場持ちは良いんですけどね。

 3番目の効果は強いです。【シムルグ】は相手の魔法・罠ゾーンを空けやすい為、先攻1ターン目から最上級モンスターの展開も出来ます。《烈風の結界像》で相手の展開をロックするも良し、《霞の谷(ミスト・バレー)の巨神鳥》で相手をコントロールするも良し。このカードは本当に強いです。

 

 

神鳥(シムルグ)の来寇》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

①:手札から鳥獣族モンスター1体を捨てて発動できる。デッキから《シムルグ》モンスター2体を手札に加える(同じ属性は1体まで)。

②:墓地のカードを除外して発動できる。手札の鳥獣族モンスター1体を相手に見せる。このターン、そのモンスター及び自分の手札の同名モンスターのレベルを1つ下げる。

 

 

 【シムルグ】デッキのサーチカードで、初動に欲しいカードです。発動コストとして墓地に送りたいのは。《烈風の覇者シムルグ》か《ダークネス・シムルグ》のどちらかになります。サーチしたいのは下級《シムルグ》モンスターが最優先となります。

 墓地効果で手札の鳥獣族モンスターのレベルを1つ下げる効果ですが、このデッキの場合は《ダーク・シムルグ》の他にも、レベル7モンスターとして《霞の谷(ミスト・バレー)の巨神鳥》がいるので、そちらをレベル6にしてリリース1体でアドバンス召喚する事も出来ます。

 

 

神鳥(シムルグ)の霊峰エルブルズ》

フィールド魔法

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドの鳥獣族・風属性モンスターの攻撃力・守備力は300アップする。

(2):手札のレベル5以上の鳥獣族・風属性モンスター1体を相手に見せて発動できる。

このターン、自分は鳥獣族モンスターを召喚する場合に必要なリリースを1体少なくできる。

(3):自分フィールドに鳥獣族・風属性モンスターが存在する場合に発動できる。

鳥獣族モンスター1体を召喚する。

 

 

 【シムルグ】専用のフィールド魔法ですが、これは【シムルグ】に限らず、鳥獣族・風属性モンスターを主力にしているデッキにおいて強力なサポートカードと言えます。

 1番目の効果は鳥獣族・風属性の全体強化です。上昇値はそこまで高くはありませんが、元々の攻撃力が2900の《烈風の覇者シムルグ》と《ダークネス・シムルグ》が3000を超えるのは大きいです。

 2番目の効果はアドバンス召喚を主体にしている【シムルグ】ならではのリリースを減らす効果。手札のレベル5以上の鳥獣族・風属性を見せる必要がありますが、別に見せたモンスターに限らず、鳥獣族モンスターのリリース素材を1体減らせるのがありがたいです。

 サポートカードやモンスター効果を駆使すれば、簡単にリリース1体で《烈風の覇者シムルグ》をアドバンス召喚する事が出来ます。そして手札・墓地にいる《ダークネス・シムルグ》が飛んでくる仕組みになります。

 3番目の効果はフィールドに鳥獣族・風属性モンスターがいると、鳥獣族モンスターの召喚権が増えます。【シムルグ】デッキの場合、《シムルグ》下級モンスターの召喚成功時効果をサポート出来ますし、2番目の効果でリリースを減らした鳥獣族モンスターを召喚する事が出来ます。

 

 

神鳥(シムルグ)の排撃》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):手札から鳥獣族モンスター1体を捨てて発動できる。

相手の魔法&罠ゾーンのカードを全て持ち主の手札に戻す。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。

手札の鳥獣族モンスター1体を相手に見せる。

このターン、そのモンスター及び自分の手札の同名モンスターのレベルを1つ下げる。

 

 

 このデッキでは最上級《シムルグ》モンスターを手札コストとして捨てつつ、下級《シムルグ》モンスターの墓地蘇生効果を通す為に必要なカードとなります。ただ全てになるので2枚以上セットされている時に使いたいですね……

 墓地効果で除外すると鳥獣族モンスターの同名レベルを1下げるのは、《ダーク・シムルグ》や《霞の谷(ミスト・バレー)の巨神鳥》をアドバンス召喚する時に大事となります。

 

 

・他のカードの紹介

 

 

《ハーピィの羽根吹雪》

通常罠

自分フィールドに《ハーピィ》モンスターが存在する場合、このカードの発動は手札からもできる。

(1):自分フィールドに鳥獣族・風属性モンスターが存在する場合に発動できる。

ターン終了時まで、相手が発動したモンスターの効果は無効化される。

(2):魔法&罠ゾーンのこのカードが相手の効果で破壊された場合に発動できる。

自分のデッキ・墓地から《ハーピィの羽根帚》1枚を選んで手札に加える。

 

 

 【シムルグ】デッキの弱点はモンスター効果に弱い事です。《シムルグ》カードの効果が全体的に魔法・罠カードの妨害に集中しているので、モンスター効果への対策が疎かになりやすいです。【Kozmo】とのデュエルではそれが顕著に出ていました。

 モンスター効果対策として搭載しているのがこのカード。発動条件は“自分フィールドに鳥獣族・風属性モンスターが存在する場合”なので、このデッキなら発動条件を簡単に満たす事が出来るでしょう。

 1番目の効果は相手が発動したモンスター効果を無効にする効果です。この効果はこのカードを発動したターン終了時まで適用されるので、モンスター効果を発動してからの展開を封じる事が出来ます。刺さらないデッキは少ないと思います。

 自分のターンで使う場合は、主にバトルフェイズ中になるでしょう。《バトルフェーダー》等の手札誘発系だったり、《超電磁タートル》等の墓地で発動するタイプのモンスター効果を無効に出来るので、安全に攻撃を通す事が出来ます。

 2番目の効果は相手によって破壊された場合、デッキ・墓地から《ハーピィの羽根帚》をサーチ・サルベージ出来る効果です。ただ相手の効果で破壊されないと発動出来ないので、あくまでおまけ程度と考えておきましょう。

 

 

《こけコッコ》

チューナー・効果モンスター

レベル5/風属性/鳥獣族

ATK/1600 DEF/2000

(1):お互いのフィールドにモンスターが存在しない場合、このカードはレベル3モンスターとして手札から特殊召喚できる。

(2):相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにカードが存在しない場合、このカードはレベル4モンスターとして手札から特殊召喚できる。

(3):表側表示のこのカードはフィールドから離れた場合に除外される。

 

 

このカードは先攻・後攻どちらでも簡単に特殊召喚出来るチューナー・モンスターです。初登場したのが2014年9月13日に発売された『EXTRA PACK -KNIGHTS OF ORDER-』と少し前になります。

 今は《 水晶機巧(クリストロン)-ハリファイバー》が登場して以降、扱いやすい自己特殊召喚能力を持つチューナーとして、【ABC】等の幅広いデッキで採用されるようになりました。

 このデッキだとリリース素材にしたり、《王神鳥シムルグ》のリンク召喚の素材として使う事が多いです。

 

 

霞の谷(ミスト・バレー)の巨神鳥》

効果モンスター

レベル7/風属性/鳥獣族

ATK/2700 DEF/2000

このカードの効果は同一チェーン上では1度しか発動できない。

(1):魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、自分フィールドの《ミスト・バレー》カード1枚を対象として発動できる。

その自分の《ミスト・バレー》カードを持ち主の手札に戻し、その発動を無効にし破壊する。

 

 

 《霞の谷(ミスト・バレー)の巨神鳥》はアドバンス召喚したり、《王神鳥シムルグ》のリクルート効果で特殊召喚する事が多いです。

 攻撃力が2700あるのに加えて、自分も含めた《ミスト・バレー》カードをセルフバウンスすると、《神の宣告》を打てるのが超強いです。なのでこのモンスターがフィールドに立っているだけでかなり展開しにくくなります。だって一度止められますし。

 しかも恐ろしいのが手札に戻る事なんですよ。《王神鳥シムルグ》のリクルート効果は手札・デッキからなので、やろうと思えば《霞の谷(ミスト・バレー)の巨神鳥》を毎ターンのエンドフェイズに特殊召喚する事も出来ます。これは相手からすれば嫌ですね~しかも先攻1ターン目から来ると、もう頭を抱えたくなります。

 

 

《烈風の結界像》

効果モンスター

レベル4/風属性/鳥獣族

ATK/1000 DEF/1000

このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、お互いに風属性以外のモンスターを特殊召喚できない。

 

 

 《烈風の結界像》は《王神鳥シムルグ》のリクルート効果で特殊召喚する事が多いです。風属性以外のモンスターを特殊召喚不可能になるので、このモンスターがフィールドにいる間、闇属性の《シムルグ》モンスターを特殊召喚する事は不可能になります。

 《王神鳥シムルグ》の効果で対象を取る効果も防げる為、除去による突破は難しくなりますが、ステータスが低いので戦闘破壊されるのがネックです。なので何かしらの補助カードを入れた方がより盤面を維持しやすくなるでしょう。

 

 

 

 はい。以上が【シムルグ】デッキの解説となります。EXデッキをそこまで使わないので《強欲で金満な壺》を入れたり、アドバンス召喚主体なので除去も兼ねて《帝王の烈旋》を入れたりしました。

 それにやろうと思えば、《ダーク・シムルグ》と《魔封じの芳香》で【アロマ・コントロール】も出来ます。このデッキレシピは“サンプルデッキを多少弄った程度”らしいので、皆さんも興味が出たら構築して自分独自の【シムルグ】デッキを作ってください!

 




次回はUA10,000突破記念の番外編、原作主人公の一夏君目線で本編開始前の出来事を振り返りつつ、純一君の人となりを記していきます。

次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。


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UA10,000突破記念 原作主人公から見た小説主人公

今回はUA10,000を突破した記念に他のキャラから見た小説主人公と言う訳で、この小説では記していない原作部分を色々好き勝手記してみました。
好評なら他のキャラ視点で記していこうと思います。


 織斑一夏。彼は『IS〈インフィニット・ストラトス〉』の原作主人公である。IS学園の1年1組に在籍しており、1組のクラス代表を務めている。

 女性しか乗る事が出来ないISを世界で初めて動かした男性である為、世間からは“世界初の男性IS操縦者”と言われている。彼は専用機持ちで、“白式”の操縦者。

 俗に言うイケメンであり、無自覚に女性をときめかせる言動をする為、数多くの女性から好意を抱かれる事が多い。しかし、恋愛に対しては異常に鈍感なフリをしていて、相手の好意には気が付かないようにしている。

 

―――俺に告白してくる女性は俺の事をどうでも良いと思っているんだろう。皆して千冬姉の義妹や義姉になりたいだけじゃないのか? 俺の事を好きだって言ってくれる人や、見てくれる人はこの世の何処にもいないんじゃないのか?

 

 IS学園に入学する前、そしてIS学園に入学してからもひっきりなしに数多くの女性から告白されてきた一夏。しかし、彼はわざと鈍感なフリをする事で告白してきた女性の本性を確かめていた。

 と言うのも、一夏の姉は世界最強の称号こと“プリュンヒルデ”と呼ばれている織斑千冬だからだ。幼い頃から千冬に守られてきた過去から、“誰か(何か)を守る事”に強い拘りを持っている。

 そんな一夏から見て黒田純一は一体どのような人間なのか。『デュエル・ストラトス』が始まるまで一体どのような日々を過ごし、どのような出来事を経験したのか。ここでは普段語られる事のない心情や日々の様子を一人の人間視点で記していく。

 

 

 

「これが純一の……大会優勝経験者の実力か……」

 

「強いですわ……確実に相手の展開を妨害しつつ、自分は展開して制圧しに来ていますし」

 

「私達は勝てるのか? 純一率いる5組に……」

 

 俺の名前は織斑一夏。この日はIS学園の学園行事、学年別クラス対抗デュエルトーナメントの初日。俺達1年1組の試合は第2アリーナで第2試合に組み込まれていて、試合を控えた俺達は『カードターミナル』IS学園店で試合を観戦していた。

 第2アリーナで行われている第1試合。1年5組と6組の試合。その1本目はかつてのクラスメートであり、俺の親友で“世界で2番目の男性IS操縦者”の黒田純一がデュエルを行っていた。

 かつて同じ教室で勉強しながら笑い合い、同じ景色を見ていた仲間と準決勝で戦わなければならない。そう思いつつも、純一対策を踏まえて彼のデュエルを観ていた。

 純一のデュエルを改めて思った。強い。本当に強い。大会優勝者の肩書きは伊達ではないと。心からそう思った。

 決して派手ではない。1ターン目からソリティアのように展開し、決して崩れない盤石の布陣を築く訳でもない。確実に展開しながら相手の妨害を行い、盤面を自分の思うようにコントロールしていく。正に純一らしい強さだ。

 

「成る程……織斑先生の仰っていた通り、【Kozmo】デッキを使っていましたか。“魔の9期”、『遊戯王』のインフレが進んだ環境の中でもまれた彼らしいチョイスだ。あのテーマは9期の中盤に海外で生まれ、【ABC】が環境にいた頃に来日しました」

 

「純一の話によると、束から勧められたと聞きました」

 

「ほぉ。あのISの生みの親が……是非手合わせ願いたい物です。そう言えば織斑先生は久し振りに他人のデュエルを拝見されましたがどうですか?」

 

「そうですね……やはり環境の高速化とインフレを感じました。私がしていた時はシンクロ召喚全盛の頃……第7期だったので今のカードはより強く、より複雑になった印象を受けました」

 

 俺達の横でデュエルを観戦している千冬姉と押村先生。千冬姉は第6期~第7期、シンクロモンスターが大暴れしていた頃のプレーヤーであり、【BF(ブラック・フェザー)】を使って大会に出ては優勝したりしていた。

 その千冬姉と純一は1組と5組の合同授業、デュエルディスクの操作方法を皆で覚える時に行ったデュエルで対戦し、激闘の末に純一が勝利した。

 俺は信じられなかった。ISでも無敗で、『遊戯王OCG』でも俺よりも強かった千冬姉でも純一には敵わなかった。インフレした環境で鍛えられた純一が凄いのもあるけど。

 それでも純一は、“織斑先生は間違いなく強い。今の環境や使われているカードを覚えれば、絶対僕を倒せる力がある。今回は偶々勝てたけど、次は負ける可能性が高い”と評価しつつ、より強さを追い求めるような発言を残している。

 

―――純一はIS学園で『遊戯王OCG』が行われるようになってから、性格が良くも悪くも変わっていった。闘争を好み、強さと満足を追い求める求道者となった。まるで今までの鬱憤を晴らすかのように……

 

 かつてのクラスメートとして、小学生の頃からの親友として、同じ男性IS操縦者として、純一の活躍は自分の事のように嬉しく思うけど、これまでの純一の事を考えると、何処か喜べない複雑な自分がいる事に気付いた。

 『カードターミナル』IS学園店に設置されている巨大モニター。その画面に映し出されている純一の試合を観ながら、俺は純一が1組にいた頃の思い出を振り返る事にした。

 

 

 

 俺と純一の出会いは俺達が小学生の頃だった。箒とは小学1年生の時に知り合い、純一とは小学2年生の時に知り合った。

 純一は転校してきた事もあって、中々クラスに馴染む事が出来なかった。だからか一人で本を読んでいる時間が多かった。そんな純一が俺と関わるようになったのは、箒が同級生の男子児童からいじめを受けている事だった。

 下校途中、箒が男子児童数人に囲まれていた時、通りかかった純一が男子児童達を煽るような言い方をして挑発。それにのった男子児童達と殴り合いの喧嘩になったと言う。

 数の上では不利だったけど、純一はそれを物ともしなかった。見ず知らずの箒を助けてくれた純一。俺は箒からその話を聞き、一人本を読んでいた純一に話し掛けた。

 

―――僕は誰かを救えるような力はないけど、誰かを見捨てる勇気もない。やった方が良い事をやっただけだよ。

 

 こうして俺と箒は純一と知り合い、3人で仲良く過ごすようになった。純一の家に行って遊んだりしたけど、箒が小学4年生の時に引っ越し、IS学園に入学して再会するまで離れ離れになった。

 鈴とは小学5年生の始めに俺のいる学校に転校してきて知り合い、それから中学2年生の終わりまで、俺達と一緒に過ごした。中学に入ってからは俺と弾との3人でよく遊んでいたけど、純一とも一緒に遊んでいた。休日以外はな。

 何故休日は遊ばなかったかと言うと、純一が断っていたからだ。まさかあの時『遊戯王OCG』をやっていて、しかも大会に出て優勝しているとは思ってもみなかったよ。

 そして俺は私立藍越学園を受験する筈が、間違ってIS学園に試験会場に入って受験者用のISを起動させてしまった。こうして男性でありながら特別にIS学園に入学させられたが、その後に行われた適正検査で純一がISを動かせてしまい、俺と同じく強制入学となった。それをニュースで見た時は親友と一緒に過ごせると喜んだ。

 でも純一のお父さん、洋介さんから話を聞くと、日本で最難関の高校の入試に合格していたのを取り消され、純一は物凄く怒り狂ったと。死に物狂いで勝ち取った物を取り消され、泣きながら暴れる事しか出来なかったと。俺は本当に申し訳ない事をした。

 俺はあの時の事を謝ったけど、純一は特に気にしていない様子だった。でも付き合いの長い俺には分かる。純一は今も心の何処かで俺とISを恨んでいる。自分の人生を狂わせ、そして世界を歪ませた元凶に。

 

 

 

 IS学園に入学した俺は純一と箒と同じ1組に在籍する事となった。初日は授業が始まる前までは憂鬱だったけど、純一と箒と再会してその憂鬱は吹き飛んだ。

 担任の先生が千冬姉でワーキャー言われていてうるさかったけど、この日から俺は純一の人となりをいきなり見る事となった。

 俺が知っている黒田純一は直情的になりやすい俺とは違い、常に冷静で一歩引いた視点から物事を見たり分析したりして、感情に支配される事なく冷静に動ける。それが本当に羨ましい。俺には出来ない事だから。5組に移ってからも決して変わっていないらしい。

 入学当初、クラス代表を決める時間にセシリアが暴走(?)した場面があった。日本を侮辱する発言でクラスの雰囲気が悪くなり、思わず俺も反論しようとした時、純一がセシリアの発言を一言で止めた。

 

「そこまでにしてもらいましょうか、セシリアさん」

 

 それまでは発言を一切せず、クラス代表の推薦にも名前が上がらなかった純一。彼の一言でクラス中は冷水をかけられたかのように静まり返った。

 クラス中の視線が自分に集まっても全く気にする事なく、純一はセシリアを見据えながら言葉を続けた。

 

「セシリアさん。私はIS関係はド素人当然ですが、代表候補生は国家代表の候補生……言わば幹部候補生と言う事でよろしいですね?」

 

「その通りですわ!」

 

「今の貴女の行いは代表候補生として些か、いやかなり問題のある行動に思えます。ISを開発した篠ノ之束博士、そしてこのクラスの担任にしてモンド・グロッソ2連覇を達成したブリュンヒルデこと織斑先生はこの国の人間。そしてここにいる大半の人間は日本人。我らの国をイギリスの代表候補生が侮辱した。これは日本とイギリスの間で国際問題になる事は間違いないでしょう」

 

「……!」

 

「私が思うに、代表候補生はISの技術や知識だけが人より優れているだけでは務まらないでしょう。常識や良識、態度といった人間力が物を言うと思われます。私から見ても今の貴女は代表候補生にあるまじき振る舞いをしたとうつります」

 

 丁寧な言葉でセシリアの発言の何処が問題があったのかを分かりやすく説明する純一に、セシリアは自分の発言が如何にとんでもなかったかを知り、顔を青褪めていた。

 純一は感情ではなく理性で動く人間だ。如何に相手に分かりやすく丁寧に伝えられるかを考え、言葉を選んでいる。それが知性を感じさせているのかもしれない。

 

「ここは傷口が広がる前に謝るべきです」

 

「……皆さんの国を侮辱する発言をしてしまい、大変申し訳ありませんでした!」

 

「まぁ……本人もクラスの事を思って名乗り出た筈が、ちょっと空回りしてしまったみたいです。ここは私の顔に免じて許してあげて下さい」

 

 セシリアが深々と頭を下げて謝罪するのに合わせ、純一はフォローを入れながら一緒に頭を下げた。その姿を見て誠意が伝わったのか、クラスに流れていた険悪な雰囲気が瞬く間に消え失せ、穏やかな雰囲気となった。

 その後は“代表候補生と戦える貴重なチャンスなので経験させて欲しい。試合にはならないだろうが”と言い、純一がクラス代表戦に名乗りを上げた。

 

「純一さん……先程は不快な発言をしてしまい申し訳ございませんでした。そして助けて頂きありがとうございました」

 

「起きてしまった事は仕方ない。問題はその後だ。……代表候補生らしい振る舞いを心掛ければ、皆も分かってくれるさ。それに入学して早々にクラス内で揉め事が起きるのが嫌だっただけさ。何よりセシリアさんの今後の為も思って……ちょっと言い方がきつくなったけどね」

 

「そこまで考えていたとは……」

 

「まぁ親の教育の賜物って奴だよ。僕の父親は大企業の社長で、英才教育って奴をみっちり叩き込まれた。父親に恥じないよう気を付けているし、何より会社の後継ぎとして立派な振る舞いをするように意識しているだけさ」

 

「そうだったのですね……私は一応名門貴族の出ですが、純一さんの方がしっかりしていますね」

 

「いやいやいや。僕なんかまだまだだよ……異国の地で慣れない事とか色々辛い事があるだろうけど、何かあったら僕に相談して欲しい。話ぐらいなら聞けるからさ」

 

「ありがとうございます!」

 

 純一はセシリアと話す内に、何時の間にか彼女と仲良くなっていた。人たらしと言う訳ではないが、これも『黒田商事』と言う大企業の社長を親に持っているからなのか。

 物心つく前に両親に捨てられて以来、俺は姉の千冬と2人で暮らしてきた為、親と言う存在がいる人に何処か憧れを抱いていた。それを知ってか知らずか、純一の両親には千冬姉共々お世話になっており、絶対に足を向けられない。

 そんな純一は父親を尊敬しており、彼の背中を常に追いかけていた。社長になると言う夢はその憧れの形であり、父親越えの証だと俺には思えた。

 ちなみに後日行われた試合はと言うと、セシリアは当たり前の2勝、純一は俺に勝って1勝1敗、俺は2敗と言う結果に終わった。

 純一と俺の試合は泥試合となった。近接戦に持ち込みたい俺と、常に距離を取って確実に一撃を与えたい純一。考える事とやろうとしている事が真逆で、しかも初心者同士と言うお互いに決め手に欠けた勝負となった。

 それでも1週間専属コーチの指導を受けた純一が最後はペースを掴み、結局俺は負けてしまった。ところがクラス代表は俺になり、副代表として純一がサポートする事となった。

 と言うのもセシリアが先の失言もあってクラス代表を辞退し、俺をクラス代表に据えて純一がサポートする仕組みにした方が良いと千冬姉が考えたらしい。まぁ結果的に言えば、そのシステムは上手く行ったんだけど。

 

「う~ん……どうした物か」

 

「どうしたんだ純一? カタログなんか読んで……」

 

 それから2組に中国の代表候補生で俺の幼馴染の鈴が編入し、クラス対抗戦で無人機ISの襲撃があったりした。

 その後は3組にフランスの代表候補生、シャルロット・デュノアが編入してきた。純一に会った時、デュノア社のIS用最新装備が掲載されているカタログを渡していた。

 そのカタログを読み、目を細める純一にデュノア社の最新装備のモニターになってもらおうと言う魂胆に思えた。純一は俺と同じ男性IS操縦者なのに、どういう訳か専用機を与えられていない。そこをデュノア社は突いてきたのか。

 

「いや……何でデュノア社が僕に近付いてきたのかなって。普通お前だろ一夏。お前の方がIS業界ではネームバリューあるし、広告塔にさせたりすりゃ大儲け間違いないのに……」

 

「確かに……でもさ、俺って専用機持っているから色々な事情があって無理だと判断したんじゃないか? 今のお前はノーマークだから今の内に話を付けておこうって可能性も有り得るし」

 

「成る程な……でも何か裏がありそうだな。僕にコンタクトを取ろうとしてきたんだよ?」

 

 お互いに首を傾げ合う俺と純一はデュノア社について調べる事にした。そうしたらデュノア社が何故純一に接触しに来たのかと言う答えが明らかになった。

 技術・情報力不足に伴うIS開発の遅れによって、デュノア社は経営危機に陥っていた。それを打開すべく、デュノア社の社長のアルベール氏は第3世代以降のISのデータ収集も兼ねて、純一と俺のどちらかをデュノア社の広告塔になってもらおうと考えた。

 しかし、俺は専用機持ちで千冬姉と束さんの後ろ盾があって迂闊には手を出す事が出来ない。そうなったら残る純一に広告塔になってもらうしかない。純一はただの消去法で選ばれただけだった。

 

「そう言う事か……待てよ、これはチャンスだ」

 

「えっ? 何がだよ?」

 

「親父の会社はIS企業と取引しているけど、まだまだ中小企業止まりなんだ。IS事業に参入したのもつい最近だし……経営危機に陥っているとは言えど、量産機ISのシェアが世界第3位の大企業と企業提携出来るのは大きいよ。それに『黒田商事』は情報収集と物品調達力なら総合商社トップだからね。経営危機を解決すれば恩を売れるし、IS企業にもかなりのインパクトを残せるかもしれない」

 

「お前……まさかデュノア社を逆に取り込もうって訳じゃないよな?」

 

「そうだけど?」

 

「ですよね~お前は普段まともな事考えている割に、時々こういうぶっ飛んだ事言い出すから怖いんだよ……」

 

「そこまでぶっ飛んでなくないか? 親父にはこの事を打診してみる」

 

 この後、洋介さんは純一が言い出したデュノア社との企業提携に賛成し、アルベール氏に打診した。アルベール氏も『黒田商事』の事を知っており、『黒田商事』からの申し出に感謝していたとの事。

こうして『黒田商事』とデュノア社は企業提携を結び、後にデュノア社の経営危機は少しずつではあるものの、解消されていった。

 この一件を通じてデュノア社を経営危機から救った『黒田商事』はIS業界でも注目されるようになり、取引したいと言う申し出が引っ切り無しに来るようになった。

 シャルも純一に深く感謝し、純一とすっかり仲良しになって放課後のISを用いた訓練で一緒になったり、楯無さんが不在の時にコーチを務めるようになった。純一は、“シャルの教え方は分かりやすくて丁寧で良いんだけど、何かあるごとにデュノア社の製品を勧めてくるんだよ~それさえ無ければ良いのに”とコメントを残している。

 俺はこの時気付いた。シャルは純一に好意を抱いていると。本人は気付いているかどうかは分からないが、俺は影ながら応援する事を決めた。

 

 

「貴様が……!」

 

「ッ?」

 

「私は貴様があの人の弟である事を認めない!」

 

 それからして、今度は3組にドイツの代表候補生のラウラ・ボーデヴィッヒが編入してきた。ラウラは編入初日に廊下で会った俺にビンタをしてきたけど、その手が俺に当たる事は無かった。

 恐る恐る目を開けてみると、そこにはラウラの右手を掴んで制止させた純一がいた。彼の目は鋭く細められていて、明らかに怒っている事が分かった。

 

「そこまでにしてもらおう。初対面の人に平手打ちをするとはどういう事だ?」

 

「貴様には関係ない! 離せ!」

 

「断る。この手を離せば君は一夏をはたく。僕は一夏の親友だ。君と一夏の間に何があったかは知らないが、ここで見捨てる訳には行かない」

 

「ッ……!」

 

 純一の視線の鋭さに当てられたのか、ラウラは掴まれていた手を払いのけてその場を立ち去っていった。それを見て溜息を付く純一だったが、俺の方を振り返ると何時もの穏やかな笑顔を見せた。

 後で知った話だが、ラウラはドイツのIS配備特殊部隊、“シュヴァルツェ・ハーゼ”隊長。れっきとした軍人。それなのにものともしなかった純一は凄かった。

 ツーマンセルトーナメントの第1試合。俺と純一ペアと、ラウラと女子生徒のペアとの試合中に起きたアクシデント。ラウラが操縦するIS―『シュヴァルツェア・レーゲン(黒い雨)』が突然変異を始めた。

 

「アアアアアァァァァァッ!!!!」

 

「あれは雪片!? 千冬姉の機体と同じじゃないか!」

 

「何だと!?……まさかあの機体、VTシステムを搭載していたのか!」

 

「VTシステム!? ちょっと待て純一! それって確か今じゃ禁止になっているんじゃ……」

 

「ラウラの機体を開発したのはドイツだ! あのナチスドイツが君臨していた国だぞ? こういう違法な事をやっていても何一つおかしくはない!」

 

「そんな……!」

 

 まるで黒い泥に包まれながら、身に纏うISごと別の“何か”に変わっていくラウラ。その姿を見ている俺は唖然となり、純一は険しい顔をしながら構えを取る。

 そして突然変異を終えると、そこにはラウラではない別の何かが立っていた。千冬姉が公の場で使用したISこと“暮桜”。

 それを見た時俺はキレた。目の前で大切な人を、憧れる人を侮辱された気がしたから。怒りに任せて突進しようとした時、純一が俺の左手を掴んで制止させた。

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「おい。何一人で突っ込もうとしているんだ?」

 

「離せ! あいつは千冬姉の姿をしているんだぞ! 俺にとって大切な誰かを侮辱しているんだぞ! それを黙って見ていろと……」

 

「一夏。先ずは落ち着け。熱くなって良いのは心だけだ。頭も熱くなってはいけない」

 

 俺を見る純一の目は鋭く細められていた。普段は温和で優しい雰囲気を放っているのに、あの時はまるで猛獣のようなオーラを放ち、言う事を聞かないと叩きのめすと告げられているような気がした。

 そのオーラに当てられる形で俺が突進しようとするのを止めると、純一は深呼吸して自分を落ち着かせてから俺に話し掛ける。

 

「奴を見ろ。こっちを攻撃してこない。恐らく相手が攻撃して来ない限りは手出ししないようになっているんだろうな」

 

「あぁ……そうみたいだ。攻撃して来ないし……」

 

「でもだからと言ってこのまま放っておく訳には行かない。このまま放っておくとラウラさんの命に関わる問題になる。こういう状況だと、お前の単一仕様能力(ワンオブ・アビリティー)が役に立つ。確か自身のシールドエネルギーを消費し、対象のエネルギー全てを消滅させるんだったな?」

 

「あぁ。その認識で合っている」

 

「分かった。僕が後ろから掩護する。お前は斬り込め。今のお前の力は“誰かを助ける”為にある。2人でラウラさんを助けるぞ!」

 

「応!」

 

 その後は俺と純一の2人がかりで黒い“暮桜”と戦い、何とかラウラを助け出す事に成功した。もしあの時純一が止めてなかったら、俺と純一は各個撃破されていただろうし、ラウラも大変な事になっていたかもしれない。純一には本当に感謝する事しか出来ないし、俺もまだまだ未熟だと突き付けられた。

 あの後。ツーマンセルトーナメントは中止となり、寮部屋で俺と純一は飲み物を飲みながら話をしていた。

 純一の外見は眼鏡をかけた優等生風な優男。一見真面目に見えるし、事実そうなんだけど、心を許した人にはかなりフランクに喋り、自分の全てを曝け出している。

 

「一夏……お前、あの黒い暮桜と戦った時どうだった?」

 

「どうだったって言われても……最初はキレたよ。目の前で千冬姉を馬鹿にされたと思ったから。でも純一、お前が落ち着かせてくれたおかげでラウラを助けられたよ。もし俺が止まらなかったらとんでもない事になっていた……自分が情けないよ」

 

「お前の欠点は直ぐ熱くなりやすい事だ。一度落ち着いて冷静になるべきだ。今回はどうにかなったけど、次からは気を付けてくれよ。」

 

「肝に銘じておきます……」

 

「僕さ、あの時すげぇ怖かったよ。あの黒い暮桜を目の前にした時、恐怖で体が動かなかった。だってさ、目の前で急にISが変わったんだよ? 訳分からねぇ事が起きたんだよ? それで平然と出来る奴ってよっぽど凄ぇ奴じゃないと無理じゃん……あの時一夏が動かなかったら僕は何も出来なかったよ。そういう意味では感謝しているよ」

 

「それはまぁ……良かったよ……」

 

 俺はIS学園に入学して以降、千冬姉や色んな人に注意されてきた。“誰か(=何か)を守る”事に強い憧れを持ち過ぎて、実力や立場を弁えない行動を取ったり、熱くなりやすい事を指摘され続けている。俺も気を付けてはいるけど、中々直らない。

 その中でも純一は俺の信念を否定せずに受け入れてはいるけど、必要な時にはこうして注意をしたり、反省を促している。俺に分かるように丁寧かつ分かりやすく。

 俺と純一は正反対だと言われる事が多い。外見とか考え方とか。まるでお互いがお互いを埋め合い、お互いを補完しているように思える。

 

「話は戻るけどさ、僕は初めてこういう不測の事態に立ち会ったけど、やっぱりすげぇ怖かった。得体のしれない何かと戦うのが……別に戦うのが嫌と言う訳じゃない。世界を救える力はないのに、世界を見捨てる勇気がない半端者だからさ。改めて気付かされたよ。ISは兵器だ。戦う為の道具であり、人を殺す事が出来る道具でもあるって」

 

「でも……ISにはシールドバリア―や絶対防御があるだろ? それは言い過ぎじゃ……」

 

「あのなぁ~一夏。それをお前が言えるか? お前の専用機の単一仕様能力は自身のシールドエネルギーを消費する代わりに、対象のエネルギー全てを消滅させる事が出来るんだろう? つまり使い方次第では人を殺す事も出来るって事さ」

 

「人を殺す事も出来る……!?」

 

「今更気付いたのか? 僕は既に理解していると思っていたよ。ISは兵器だ。“白騎士事件”で一度認識された以上、それを覆す事は出来ない。ここはそんな兵器の事を学び、兵器の近い方を学ぶ軍人養成所みたいな所だ」

 

 純一はまるでISの事を心底憎むように、唾棄するようにISを兵器だと言い切った。俺はその言葉を聞いて反論する事は出来なかった。

 純一の言っている事は正しかった。俺が手にした“誰かを守る為の力”は一歩間違うと、“人を殺してしまう力”になってしまう。ISがあっても、専用機があっても必ずしも皆を守れる訳ではない。まるで木槌で頭を叩かれたように、俺は自分の考えを否定された。

 

「クラス対抗戦の時、お前と鈴が無人機と戦っているのに、僕は避難用シェルターに避難していた。すげぇ怖かったし悔しかったよ……親友が戦っているのに僕は何も出来なかったし、無人機がまるで人を殺す為に送り込まれたみたいに思えて。でも仕方ないよ。僕は専用機も無いし、初心者同然だ。弾除けにもならない。入学した時は同じだったのに、どうしてこんなに差を付けられたんだろう。そう思うと悔しくて悲しかった……」

 

「だからか……クラス対抗戦が終わった後、お前は思い詰めたような顔をしていたのは」

 

「ああ。お前の方がISの分野に才能があるのか、或いは専用機のアドがあるのか……今でもよく分からないけど、僕は何も出来ない自分に怒りが湧いてきていた。そんな時に楯無さんに相談したんだよ。“守る物もない、貫く信念もない、戦う事を恐れる自分はこの先どうすれば良いのか”と」

 

「楯無さんは何て答えたんだ?」

 

 更識楯無。IS学園2年生で生徒会長。現役のロシア代表操縦者。純一の専属コーチであり、IS学園において純一が本心を話せる数少ない人物。

 俺は会った事はないけど、純一の話を聞いていると、凄い魅力的で純一が心から信頼出来るなら間違いないと思っている。

 

「“それで良い”ってさ。“悩んだり、焦ったりしている事は頑張っている事の証明。純一君はISを兵器として見ているからこそ、その怖さに気付いている。何も出来ない自分に打ちのめされたから、少しでも何か出来るようにしているけど、それが上手く行かない。だから悩んでいるんでしょう?”って。僕の心を言い当てたよ……」

 

「すげぇな……伊達に生徒会長と国家代表やっている訳じゃないってか」

 

「あぁ。“ここにいる生徒の大半は私から見ても、意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしているように見える。それに比べれば純一君は立派よ。ISを兵器として扱っている。貴方は戦う事の怖さを知っている。大切な人が傷付けられる事の辛さを知っている。自分の無力さを知りながらも、それでも抗おうとしている”と言った」

 

「“戦士として必要なのは力ではなく心。戦いを怖れるからこそ同じ戦いを怖れる人達の為に戦える。自分の信念があれば、それを貫く為に戦う事が出来る。純一君。貴方は確かに専用機は無く、技術も知識も少ない。それでも戦士として大切な物を手にしている”って楯無さんは言っていた。それからだよ。僕が吹っ切れたのは。僕は織斑一夏じゃない。黒田純一だ。ならば僕にしか出来ない事が、黒田純一にしか出来ない事がある。やるべき事をやる。それで良いって思えるようになったんだ」

 

「力ではなく心か……確かに俺は力を手にした。でも心がまだ追い付いていない……そう言いたいんだな?」

 

「あぁ。まぁ無理もないけどね。半年未満の初心者に欠陥品同然の専用機持たせて、教員部隊や専用機持ちで相手するような強敵を目の前にしたら、嫌でも未熟さが出る。そういう事だ」

 

 純一はこの時専用機を持っていなかった。しかし、楯無さんとの個人指導で確実に実力を付け、メンタルトレーニング等を通して成長してきている。

 元々大企業の跡取りと言う事もあって英才教育を受けていたのが、自分が目指すべき上に立つ者の姿を見て考え方や振る舞いを見ながら学習しているみたいだった。

 純一には夢がある。父親の洋介さんが社長を務める大企業、『黒田商事』の跡を継ぐと言う夢が。それに向けて一生懸命勉強を重ねたり、毎日走り込みと筋トレをしている。常に自分を鍛え続けるその姿に、俺は思わずその夢を応援したくなった。

 そんな純一は俺にこうして大切な事を教えたり、色々な話をしてくれる。俺は純一の話を聞く事が好きで、純一も色んな人と話をする事が好きだ。IS学園にいる数少ない同性と言う事もあって、俺と純一は絶対と言える程強固な信頼関係を築いている。

 

 

 

2学期に入って学園祭の準備が始まった。俺のいる1組はメイド・執事喫茶をやる事になったけど、純一は“自分に執事服は似合わない”と言ってサボろうとしていた。

 それをクラス全員と千冬姉と山田先生で説得して参加させる事に成功したけど、意外に純一の執事服姿も似合っていた。むしろ俺がいるよりお客さんが来ていた気がする。やっぱり外見だけじゃないんだな……

 ただこの学園祭は中止となった。純一が女性権利団体が雇ったIS部隊に襲撃を受け、そのIS部隊が一般客を怪我させたのだから。おかげでIS学園は連日テレビで叩かれる事となり、IS学園はかなりピリピリとした雰囲気に包まれる事となった。

 おかげで専用機限定タッグマッチは中止となり、純一が冗談交じりで一度皆でお払いに行かないかと言う程だった。

 そんな時に俺達の運命を大きく変える出来事があった。それはとある日の放課後。専用機持ちの俺達は千冬姉に呼び出された。

 

「……急に集めて申し訳なかったな。今日集まってもらったのは他でもない。実はIS学園で『遊戯王』をやる事になった」

 

『えっ!?』

 

「な、何で『遊戯王』なんですか?」

 

「『呉島エンタテインメイトスタジオ』と『KONNAMI株式会社』が企業提携を行い、デュエルディスクを開発した。元々『呉島エンタテインメイトスタジオ』は『ソリッドビジョンシステム』を開発していたから、『KONNAMI』が目を付けたんだろうな。その先駆けとしてISにデュエルディスクを搭載し、デュエルをする『デュエル・ストラトス』を行う事となった」

 

「で、でも織斑先生……私はカードゲーム経験ありませんよ?」

 

「俺も小さい頃に遊んでいたレベルで……」

 

 俺達は驚く事しか出来なかった。まさかIS学園で『遊戯王』をやるなんて。しかもデュエルディスクを使って行うなんて。『遊戯王』のアニメで出ていたデュエルディスクが現実に出て来るなんて思いもしなかったからだ。

 でも不安に思った。俺は『遊戯王』は小さい頃に遊んだ程度だし、セシリアは全くの未経験者。この時集まっていた中には経験者はいるけど、俺達だけで補う事が出来るのか。そう心配になったが、千冬姉が言葉を続けた。

 

「ああ、それは分かっている。その為、特別許可を頂いて『遊戯王』に詳しいカードゲーム業界の方を講師として招く事にした。『カードターミナル』と言う業界再大手のカードショップのスタッフが担当してくれる事になった。それとここにいない人物がデュエルディスクのモニターに選ばれた」

 

「それって誰ですか?」

 

「純一だ。奴は高校受験の本格的な勉強に入る前まで、『遊戯王』のプレーヤーだった。大会で何度も優勝する程強い。話をした時、純一から直接聞かされたよ。まさかのガチプレーヤーだったとは。私も自分のデッキを持っているが流石に古いカードでな……デッキも純一がくれたカードで大幅に強化された」

 

 『遊戯王OCG』はかなりテキストが複雑で効果処理が面倒なカードゲームだ。幾らIS学園の女子生徒が優秀だとしても、自主学習で上達出来る程甘くはない。それをカードゲーム業界の方が教えてくれるのは心強い。

 そして驚いたのは純一がデュエルディスクのモニターに選ばれた事だ。まさかガチプレーヤーだったなんて思いもしなかったよ。大会で何度も優勝した!? マジかよ!? 化け物じゃん! そりゃ選ばれて当然だよ。

 

「本題に入ろう。今日集まってもらったのは皆に専用機に付けるデュエルディスクと、『遊戯王』カードとルールブック等を渡す為だ。学園祭で純一が襲撃された一件で、IS学園の印象が悪くなったのは皆も知っているだろう。そこでIS学園のイメージアップも兼ねて、『遊戯王』の大会を行う事が決定した」

 

 こうして俺達はIS学園で『遊戯王』の勉強をしながら、切磋琢磨していく日々を過ごすようになった。途中で純一がクラスを替えられたりしたけど、俺はクラスをまとめながら頑張っている。

 純一にはまだまだ及ばないけど、それでも俺は前を向いて一歩ずつ前進する。皆を守れるように強くなる為にも。心も体も。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。


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UA15,000突破記念番外編 古き良きテーマ! 【ガジェット】VS【ドライトロン】 ★

今回はUA15,000を突破した記念に、『WORLD PREMIERE PACK 2020』で強化された【ガジェット】と、『デッキビルドパック ジェネシス・インパクターズ』で登場した【ドライトロン】の対戦を記しました。
本編のネタバレ的な物も含んでいますので、読む時はその点を注意して下さい。



『デュエル! サティスファクションズ!』

 

「動画をご覧の皆様、こんにちは! 『チーム・サティスファクションズ』リーダー、黒田純一です! さて今回もフリー対戦の様子を皆様にお届けしていきます!」

 

『ちょっと待った~~~!』

 

 とある休日。『カードターミナル』IS学園店で活動を行っているのは『遊戯王』同好会、『チーム・サティスファクションズ』。

 純一がリーダーを務める同好会は彼が入院している頃にナタリアが中心になって立ち上げ、顧問にナターシャを据え、純一が退院してから彼をリーダーとして迎え入れた。

 地道な宣伝や純一の影響力もあってか、今では数十人もの規模となり、大会の失敗によってIS関係の企業やIS学園が連日批判に晒され、主だった活動が取れなくなる部活動がある中、今一番勢いがある同好会と言える。

 活動実績も兼ねて、週に1回のペースで純一のYoutubeチャンネルに対戦動画を投稿している。この日はその動画撮影の日だったが、ここで思わぬ乱入者が現れた。

 

「えっ!? な、何!? 撮影の邪魔しないで貰えるかな?」

 

「楯無さんに……虚さん!? どうしたんですか急に?」

 

「あ、撮影中だったの? ごめんごめん。実はちょっとお願いがあって来たの」

 

 乱入者は更識楯無と布仏虚。彼女達は本来であれば休日を満喫している所だが、学年別クラス対抗デュエルトーナメントでの出来事を受け、迂闊に外出する事が出来なくなっていた。と言うのも、外出した生徒達が色々な場所に入れなくなったり、追い出されたりすると言う事態に陥っていたからだ。

 それもあってか、生徒会の仕事をしながら対暗部用暗部としての仕事も平行して行っている。例えば襲撃者に備えて動向を予測したり、生徒や教員に怪しい動きが無いかどうかの聞き込みをしたり等々。

 

「お願いですか?」

 

「あの……これは生徒会からのお願いじゃなくて、虚ちゃんからのお願いなんだけど聞いてくれるかな?」

 

「虚さんから? どうぞ」

 

「ありがとうございます。私も対戦の方に混ぜて頂けませんか?」

 

「対戦に参加する……?」

 

 純一は虚からの頼みに驚いてキョトンとした顔を浮かべた。少なくとも自分が関わっている中で虚から何か頼まれ事をさせる事は初めてだったからだ。

 そんな純一の顔を見てクスリと笑いながら、虚はポケットからデッキケースを取り出し、ケースを開けて1枚のカードを見せる。

 

「実は私、【ガジェット】デッキを使っているのですが、先日発売された『WORLD PREMIERE PACK 2020』をお嬢様と一緒に開封してデッキを作りました。ただ生徒会の仕事やら何やらで使う機会が無くて……」

 

「同好会で使いたいから僕達の所に来たって訳ですね。分かりました。そう言う事でしたら喜んで協力します」

 

「ありがとうございます。この対戦は撮影するのですか?」

 

「そうですね。出たばかりのカードなので、宣伝も兼ねて撮影していこうと思います」

 

「分かりました。ではよろしくお願いします」

 

 虚が見せたカードは《起動提督デストロイリボルバー》。『WORLD PREMIERE PACK 2020』に収録されているカードで、【ガジェット】の新規カード。

 同好会での動画撮影はフリー対戦だけでなく、新規テーマや新規カードの紹介も兼ねている事と、新規カードを入れたデッキを使いたい虚の間で利害が一致し、フリー対戦の様子が動画撮影される事となった。

 早速動画撮影の準備に入る俊介と、撮影用の席に座る純一と虚の2人。お互いにプレイマットを広げ、デッキを用意して撮影開始の合図が出るのを待つ。

 

 

 

『デュエル! サティスファクションズ!』

 

「動画をご覧の皆様、こんにちは! 『チーム・サティスファクションズ』リーダー、黒田純一です!」

 

「動画編集担当兼アドバイザーの今村俊介です!」

 

「はい! 今回もフリー対戦の様子を皆様にお届けするのですが、先日『WORLD PREMIERE PACK 2020』が発売されました。皆さんは買いましたか? 僕は5箱購入しました。目当てのカードは手に入りましたが、《デュナミス・ヴァルキリア》のプリズマティックシークレットレアだけは手に入りませんでした」

 

「今回は『WORLD PREMIERE PACK 2020』に収録されている新規カードを入れてデッキを作って来てくれた方が、今回ゲストとして参戦しています。では自己紹介の方をお願いします」

 

「動画をご覧の皆さん、初めまして。布仏虚と言います。今回は『WORLD PREMIERE PACK 2020』で登場した【ガジェット】の新規カードを入れたデッキで、純一君に挑んでいきます」

 

 何気に純一と虚は初めての対戦になる。同好会活動を始めてから、IS学園の女子生徒で純一に勝利した事があるのは神楽だけ。それだけ純一の力が頭一つ抜けていると言う証拠であり、生徒以外で純一に勝てるのは俊介だけ。

 虚も更識姉妹や本音に引き摺られる形で遊びとして『遊戯王』を嗜んでいるが、やっていく間に楽しくなり、整備科主席と言う優秀さもあって3年生の中でトップと言える強さを誇る実力を持っている。

 

「僕は最初の動画で使った【ドライトロン】を自分専用にカスタムしてきました。あの時はパックに収録されているカードをメインに入れていましたが、今回は儀式モンスターの種類を増やしたり、よりガチ目にチューニングしてきました!」

 

「あの動画観ましたけど【ドライトロン】は物凄く強かったです……でも負けません」

 

「では対戦の方に移りましょう」

 

 純一と虚は自分のデッキをカット&シャッフルを行った後、お互いのデッキを相手に渡して更にデッキをカット&シャッフルを行う。先攻はじゃんけんに勝利した純一が取った。

 そして対デュエル!と言う掛け声と共にデュエルが始まると、動画撮影が本格的にスタートした。

 

 

 

・1ターン目

 

「では参ります。スタンバイフェイズ。メインフェイズに入ります。手札から魔法カード、《極超の竜輝巧(ドライトロン・ノヴァ)》を発動したいです」

 

「はい、どうぞ」

 

 

極超の竜輝巧(ドライトロン・ノヴァ)

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分は通常召喚できないモンスターしか特殊召喚できない。

(1):デッキから《ドライトロン》モンスター1体を特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。

 

 

「デッキから《ドライトロン》モンスター1体……《竜輝巧(ドライトロン)-バンα》を特殊召喚します。このカードを発動するターン、僕は通常召喚できないモンスターしか特殊召喚出来なくなりました」

 

「通常召喚出来ないモンスターしか特殊召喚できない……複雑で珍しいテキストですね」

 

「ですね……カードパワーのインフレを抑える為だと思います。《極超の竜輝巧(ドライトロン・ノヴァ)》の効果で特殊召喚した《バンα》はエンドフェイズに破壊されます。続けて行きます。手札にある《サイバー・エンジェル-弁天》をリリースし、手札の《竜輝巧(ドライトロン)-アルζ》の効果を発動します。《アルζ》を守備表示で特殊召喚したいです。何かありますか?」

 

「ありません」

 

「守備表示で特殊召喚した《アルζ》、召喚コストとしてリリースされた《弁天》の効果をそれぞれ発動します。《弁天》の効果をチェーン1、《アルζ》の効果をチェーン2にして効果処理を解決していきます。《アルζ》の効果でデッキから儀式魔法カード1枚、《流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)》を手札に加えます」

 

 

竜輝巧(ドライトロン)-アルζ》

特殊召喚・効果モンスター

レベル1/光属性/機械族

ATK/2000 DEF/0

このカードは通常召喚できず、《ドライトロン》カードの効果でのみ特殊召喚できる。このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の手札・フィールドから、このカード以外の《ドライトロン》モンスターまたは儀式モンスター1体をリリースして発動できる。

このカードを手札・墓地から守備表示で特殊召喚する。

その後、デッキから儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。

この効果を発動するターン、自分は通常召喚できないモンスターしか特殊召喚できない。

 

 

「続けて《弁天》の効果を発動します。このカードがリリースされたのでデッキから天使族・光属性モンスター1体、2枚目の《弁天》を手札に加えます」

 

 

《サイバー・エンジェル-弁天》

儀式・効果モンスター

レベル6光属性/天使族

ATK/1800 DEF/1500

《機械天使の儀式》により降臨。

(1):このカードが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。そのモンスターの元々の守備力分のダメージを相手に与える。

(2):このカードがリリースされた場合に発動できる。デッキから天使族・光属性モンスター1体を手札に加える。

 

 

「そして手札から儀式魔法、《流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)》を発動します。攻撃力の合計が儀式召喚するモンスターの攻撃力以上になるように、自分の手札・フィールドの機械族モンスターをリリースし、自分の手札・墓地から儀式モンスター1体を儀式召喚します。僕は手札の儀式モンスター、《竜輝巧(ドライトロン)-メテオニス=DRA》をリリースし、《竜輝巧(ドライトロン)-メテオニス=QUA》を守備表示で儀式召喚します」

 

「? 《バンα》と《アルζ》を素材に使わなかったんですか?」

 

 

流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)

儀式魔法

儀式モンスターの降臨に必要。

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):攻撃力の合計が儀式召喚するモンスターの攻撃力以上になるように、自分の手札・フィールドの機械族モンスターをリリースし、自分の手札・墓地から儀式モンスター1体を儀式召喚する。

(2):このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの《ドライトロン》モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を相手ターン終了時まで1000ダウンし、このカードを手札に加える。

 

 

「良いんですよ。先攻1ターン目ですし。では墓地の《流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)》の効果を発動します。このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの《ドライトロン》モンスター1体の攻撃力を相手ターン終了時まで1000下げる事で、このカードを回収します。《竜輝巧(ドライトロン)-メテオニス=QUA》を対象に、《流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)》を手札に加えます」

 

「だから《メテオニス=QUA》を守備表示で出したと……守備力4000なので大きな壁になりましたか」

 

「ですね……回収した《流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)》を発動します。フィールドの《バンα》と《アルζ》をリリースし、墓地から《メテオニス=DRA》を儀式召喚します」

 

「成る程……狙いは《メテオニス=DRA》の儀式召喚だったんですね」

 

「その通り。これでフィールドに2体の《ドライトロン》エースモンスターが揃いましたし、《メテオニス=DRA》による相手ターンの妨害の構えも出来ました。さぁどう突破するか見せてもらいましょう。ターンエンドです」

 

 

 

黒田純一

LP:8000

手札:1

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《竜輝巧(ドライトロン)-メテオニス=QUA》(守備表示)、《竜輝巧(ドライトロン)-メテオニス=DRA》

魔法・罠ゾーン:なし

 

 

 

・2ターン目

 

(噂には聞いていましたが、これはかなりの物ですね……)

 

 自分にターンが回った虚は手札を見ながら、純一の盤面を見る。3年生の間でも純一の噂は聞こえていたが、実際に直接対峙して見ると、オーラやプレイングに圧倒されてしまう。

 先攻1ターン目で2体の大型ステータスを持つ儀式モンスターを儀式召喚して見せた。片方は攻撃力4000でモンスター効果の対象にならず、もう片方は守備力4000で魔法・罠の対象にならない耐性効果持ちである。

 更に《メテオニス=DRA》は相手ターンに発動出来る除去効果を持っている。罠カードをセットしていないものの、実際セットされている状態に等しい。

 虚は気持ちを切り替える。大会優勝経験者と戦える喜びも沸き上がるが、先ずは自分の展開を行いつつ、相手の盤面を崩す。彼女のターンが始まった。

 

「私のターンです。ドローフェイズ、ドローします。スタンバイフェイズ。メインフェイズに入ります。手札から《ゴールド・ガジェット》を通常召喚します」

 

「はい、どうぞ」

 

「召喚に成功した《ゴールド・ガジェット》の効果を発動します。手札から機械族・レベル4モンスター1体、《レッド・ガジェット》を特殊召喚します」

 

 

《ゴールド・ガジェット》

効果モンスター

レベル4/光属性/機械族

ATK/1700 DEF/800

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。

手札から機械族・レベル4モンスター1体を特殊召喚する。

(2):このカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。

デッキから《ゴールド・ガジェット》以外のレベル4の《ガジェット》モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「特殊召喚した《レッド・ガジェット》の効果を発動します。デッキから《イエロー・ガジェット》1体を手札に加えます」

 

 

《レッド・ガジェット》

効果モンスター

レベル4/地属性/機械族

ATK/1300 DEF/1500

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。

デッキから《イエロー・ガジェット》1体を手札に加える。

 

 

「《ゴールド・ガジェット》と《レッド・ガジェット》の2体でエクシーズ召喚を行います。召喚条件は機械族レベル4モンスター2体。 《ギアギガントX》をエクシーズ召喚します。効果発動まで大丈夫ですか?」

 

「何もないです」

 

「X素材となっている《ゴールド・ガジェット》を取り除き、《ギアギガントX》の効果を発動します。デッキからレベル4以下の機械族モンスター1体、新規カードの《起動兵長コマンドリボルバー》を手札に加えます」

 

「おお~! 新規カード!」

 

 

《ギアギガントX》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/地属性/機械族

ATK/2300 DEF/1500

機械族レベル4モンスター×2

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

自分のデッキ・墓地からレベル4以下の機械族モンスター1体を選んで手札に加える。

(2):表側表示のこのカードがフィールドから離れた時、自分の墓地のレベル3以下の《ギアギア》モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

 

「《音響戦士(サウンドウォリアー)ギータス》をPスケールにセッティングして効果を発動します。手札の《ジェット・シンクロン》をコストとして1枚捨てて、デッキから《音響戦士(サウンドウォリアー)》モンスター、《音響戦士(サウンドウォリアー)マイクス》を特殊召喚します」

 

「はい、大丈夫です」

 

 

音響戦士(サウンドウォリアー)ギータス》

ペンデュラム・効果モンスター

レベル3/風属性/機械族

ATK/1500 DEF/100

【Pスケール:青7/赤7】

《音響戦士ギータス》のP効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):手札を1枚捨てて発動できる。

デッキから《音響戦士ギータス》以外の《|音響戦士》モンスター1体を特殊召喚する。

【モンスター効果】

(1):このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の《音響戦士》モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

 

「《マイクス》が召喚・特殊召喚に成功したターン、私は召喚権が1つ増えます。その増えた召喚権を使って《イエロー・ガジェット》を通常召喚します」

 

 虚の初手は純一と同じかそれ以上に良かったみたいだ。純一が何時妨害しようか盤面を眺める中、今の所は教科書通りに展開する事が出来ている。

 

 

音響戦士(サウンドウォリアー)マイクス》

ペンデュラム・効果モンスター

レベル5/風属性/機械族

ATK/2300 DEF/1100

【Pスケール:青1/赤1】

(1):もう片方の自分のPゾーンに《音響戦士》カードが存在しない場合、このカードのPスケールは4になる。

(2):自分エンドフェイズに、除外されている自分の《音響戦士》モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

【モンスター効果】

(1):このカードは自分フィールドの音響カウンターを3つ取り除き、手札から特殊召喚できる。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功したターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズにモンスター1体を召喚できる。

 

 

「召喚に成功した《イエロー・ガジェット》の効果を発動します。デッキから《グリーン・ガジェット》を手札に加えます」

 

 

《イエロー・ガジェット》

効果モンスター

レベル4/地属性/機械族

ATK/1200 DEF/1200

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。

デッキから《グリーン・ガジェット》1体を手札に加える。

 

 

「《イエロー・ガジェット》と《ギアギガントX》でリンク召喚を行います。召喚条件は機械族モンスター2体。《クリフォート・ゲニウス》をリンク召喚します」

 

「《クリフォート・ゲニウス》か……大丈夫です」

 

 

《クリフォート・ゲニウス》

リンク・効果モンスター

リンク2/地属性/機械族

ATK/1800

【リンクマーカー:左下/右下】

機械族モンスター2体

(1):リンク召喚したこのカードは魔法・罠カードの効果を受けず、このカード以外のリンクモンスターが発動した効果も受けない。

(2):1ターンに1度、このカード以外の、自分及び相手フィールドの表側表示のカードを1枚ずつ対象として発動できる。そのカード2枚の効果をターン終了時まで無効にする。

(3):このカードのリンク先にモンスター2体が同時に特殊召喚された時に発動できる。デッキからレベル5以上の機械族モンスター1体を手札に加える。

 

 

「《クリフォート・ゲニウス》の効果を発動します。私のフィールドの《ギーダス》と、そちらの《メテオニス=QUA》の効果をターン終了時まで無効にしたいです」

 

「う~ん……どうするかな? ここは……通します」

 

「了解です。では先程サーチした新規カード、《起動兵長コマンドリボルバー》の効果を発動します。自分のフィールド・墓地の機械族《ガジェット》モンスターを2体、墓地の《レッド・ガジェット》と《ゴールド・ガジェット》を選び、《コマンドリボルバー》を特殊召喚します。その後、《レッド・ガジェット》と《ゴールド・ガジェット》を装備カード扱いとして装備します」

 

「ほぉ~! 面白い効果ですね!」

 

 

《起動兵長コマンドリボルバー》

効果モンスター

レベル4/地属性/機械族

ATK/0  DEF/2000

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分のフィールド・墓地の機械族の《ガジェット》モンスターを2体まで対象として発動できる(同名カードは1枚まで)。このカードを手札から特殊召喚する。

その後、対象の自分のモンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

(2):このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備しているモンスターの数×1000アップする。

 

 

「《コマンドリボルバー》の攻撃力は、このカードの効果で装備しているモンスターの数だけ1000上がります。なので今は2000なのですが、正直今はあまり関係ありません」

 

「と言うと?」

 

「手札から永続魔法、《起動指令 ギア・チャージ》を発動するからです。このカードの発動時に、自分フィールドの装備カード扱いの《ガジェット》モンスターカードを好きな数だけ特殊召喚出来します。《レッド・ガジェット》と《ゴールド・ガジェット》を特殊召喚します」

 

「新規カードの効果が凄くえげつない……! 一気にレベル4モンスターが2体並んだ!」

 

 

《起動指令 ギア・チャージ》

永続魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードの発動時に、自分フィールドの装備カード扱いの《ガジェット》モンスターカードを任意の数だけ対象にできる。その場合、そのカードを特殊召喚する。

(2):手札を1枚捨てて発動できる。

デッキから《起動提督デストロイリボルバー》1体を手札に加える。

 

 

「特殊召喚された《ゴールド・ガジェット》の効果はターン1制限が付いていて発動する事が出来ませんが、《レッド・ガジェット》はターン1制限がないので発動出来ます。《レッド・ガジェット》の効果でデッキから《イエロー・ガジェット》を手札に加えます。更に《ゲニウス》のリンク先にモンスター2体が同時に特殊召喚されたので、デッキからレベル5以上の機械族モンスター1体、2枚目の《マイクス》を手札に加えます」

 

「すげぇ……改めて思うんですけど、あれだけ展開してるのに手札がそこまで減らないのが【ガジェット】の強い所なんですよね」

 

「本当にそう思います。では《ゴールド・ガジェット》と《レッド・ガジェット》の2体でエクシーズ召喚を行います。召喚条件はレベル4モンスター2体。《No.39希望皇ホープ》をエクシーズ召喚します」

 

「流石にここを通すと《ホープ・ザ・ライトニング》が出て来るので、《メテオニス=DRA》の効果を発動します。墓地の《バンα》と《アルζ》を除外し、《ホープ》と《ゲニウス》を墓地に送ります」

 

「ここで《メテオニス=DRA》の効果を使いましたか……仕方ないです。墓地送りにされます」

 

 純一は《ホープ・ザ・ライトニング》をエクシーズ召喚される事を読み、《メテオニス=DRA》の効果を発動して虚の展開を妨害した。

 《ホープ・ザ・ライトニング》は【ドライトロン】デッキの高打点モンスターを戦闘破壊する事が出来る効果を持っている上に、《カオス・MAX》のように無効効果やカードの効果への耐性を持つモンスターも一方的に戦闘破壊出来る。

 《シューティング・クェーサー・ドラゴン》等の破壊された時やフィールドを離れた際に後続を呼び出すモンスターや、自己再生を行えるモンスター達の効果の発動自体を封じる事が出来る為、そのようなモンスターを完全に除去する事が出来る。

 その為、戦闘における突破力が非常に高いXモンスターを言える為、ランク4のエクシーズモンスターを主力とするデッキにおいて、《ホープ・ザ・ライトニング》の採用率は極めて高い。

EXデッキを圧迫する欠点はあるが、それを差し引いても強力な効果を持っている。純一はその脅威をIS学園の生徒の中でよく知っている。何しろ大会やフリー対戦で何度も見かけ、時には敗北する要因になったのだから。

 

「ならばプランBと行きましょう。先程サーチした《マイクス》をもう片方のペンデュラムスケールにセッティングしてペンデュラム召喚を行います。手札から《イエロー・ガジェット》と《グリーン・ガジェット》、《A(アーリー)・ジェネクス・バードマン》をペンデュラム召喚します」

 

「《ゲニウス》除去しておいて良かった……」

 

「本当だったらペンデュラム召喚で《ゲニウス》の効果を使いたかったんですよね……そこまで読んでいて除去したみたいですね。流石としか言えません。ではペンデュラム召喚した《イエロー・ガジェット》と《グリーン・ガジェット》の効果を発動します。デッキから《グリーン・ガジェット》と、《レッド・ガジェット》を手札に加えます」

 

 

《グリーン・ガジェット》

効果モンスター

レベル4/地属性/機械族

ATK/1400 DEF/600

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。

デッキから《レッド・ガジェット》1体を手札に加える。

 

 

「《コマンドリボルバー》と《グリーン・ガジェット》の2体でエクシーズ召喚を行います。召喚条件はレベル4モンスター2体。《ガガガガマジシャン》をエクシーズ召喚します」

 

「《ガガガガマジシャン》……!? 何ですかそのエクシーズモンスターは?」

 

「先程やりたかった事をさせてもらいます。X素材となっている《グリーン・ガジェット》を取り除き、《ガガガガマジシャン》の効果を発動します。私の墓地のXモンスターを効果無効状態で特殊召喚します。私の墓地には……」

 

「やっべぇ! 《希望皇ホープ》いるじゃん!」

 

「はい。希望皇ホープを特殊召喚します♪」

 

 

《ガガガガマジシャン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/闇属性/魔法使い族

ATK/2000 DEF/2000

レベル4モンスター×2

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードのX素材を1つ取り除き、《ガガガガマジシャン》以外の自分の墓地のXモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを効果を無効にして特殊召喚する。

(2):このカードを素材として持っている《未来皇ホープ》Xモンスターは以下の効果を得る。

●このカードのX素材を2つ取り除き、自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。

ターン終了時まで、そのモンスターの攻撃力は4000になり、効果は無効化される。

 

 

「《希望皇ホープ》1体でエクシーズ召喚します。《CNo.39 希望皇ホープレイ》を《希望皇ホープ》の上に重ねてエクシーズ召喚します。更に《希望皇ホープレイ》1体でエクシーズ召喚します。《SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング》をエクシーズ召喚します」

 

「マジか……本当にそれだけは避けたかったんですよねぇ! 通すしかない!」

 

 《ガガガガマジシャン》は純一が『遊戯王OCG』から離れている間に登場したカードであり、同名カード以外のエクシーズモンスターを蘇生する事が出来る効果持ち。

 効果が無効となる為、単純にアタッカーやリンク召喚やエクシーズ召喚等の素材に用いるのが基本となる。

 

「まだ行けますよ? レベル5モンスターの《マイクス》に、レベル3チューナーの《A(アーリー)・ジェネクス・バードマン》をチューニング。レベル8の《ヴァレルロード・S(サベージ)・ドラゴン》をシンクロ召喚します」

 

「うわぁ……こりゃやべぇな……何もないです」

 

「シンクロ召喚に成功した《ヴァレルロード・S(サベージ)・ドラゴン》の効果を発動します。自分の墓地からリンクモンスター1体、《クリフォート・ゲニウス》を装備カード扱いとしてこのカードに装備します。そして《ゲニウス》のリンクマーカーの数、2つのヴァレルカウンターをこのカードに置きます。《S(サベージ)・ドラゴン》の攻撃力は装備した《ゲニウス》の攻撃力の半分、900上昇して3900になります」

 

 

《ヴァレルロード・S(サベージ)・ドラゴン》

シンクロ・効果モンスター

レベル8/闇属性/ドラゴン族

ATK/3000 DEF/2500

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがS召喚に成功した場合に発動できる。

自分の墓地からリンクモンスター1体を選び、装備カード扱いとしてこのカードに装備し、そのリンクマーカーの数だけこのカードにヴァレルカウンターを置く。

(2):このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの攻撃力の半分アップする。

(3):相手の効果が発動した時、このカードのヴァレルカウンターを1つ取り除いて発動できる。その発動を無効にする。

 

 

「更に……発動コストとして手札の《グリーン・ガジェット》を捨てて、《起動指令 ギア・チャージ》の効果を発動します。デッキから《起動提督デストロイリボルバー》1体を手札に加えます。そして特殊召喚コストとして手札・フィールドの《イエロー・ガジェット》を墓地に送り、《起動提督デストロイリボルバー》を特殊召喚します」

 

「それも新規カードですか!」

 

「《起動提督デストロイリボルバー》の効果を発動します。このカード以外のフィールドのカード1枚を対象に取って破壊します。では《メテオニス=QUA》を破壊します」

 

「効果が無効化されているから破壊された時の効果が使えない! 通ります!」

 

 

《起動提督デストロイリボルバー》

特殊召喚・効果モンスター

レベル8/地属性/機械族

ATK/2500 DEF/2500

このカードは通常召喚できない。

手札及び自分フィールドの表側表示のカードの中から、《ガジェット》モンスターカード2枚を墓地へ送った場合のみ特殊召喚できる。

(1):自分フィールドに《ガジェット》モンスターまたは装備カード扱いの《ガジェット》モンスターが存在する限り、このカードは戦闘・効果では破壊されない。

(2):1ターンに1度、このカード以外のフィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

 

「バトルフェイズに入ります。先ずは《ホープ・ザ・ライトニング》で《メテオニス=DRA》を攻撃します。ダメージ計算時、このカードのX素材を2つ取り除いて《ホープ・ザ・ライトニング》の効果を発動します。攻撃力は5000になります」

 

「《メテオニス=DRA》は戦闘破壊されて、戦闘ダメージを受けます」

 

 

《SNo.39 希望皇ホープ・ザ・ライトニング》

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/光属性/戦士族

ATK/2500 DEF/2000

光属性レベル5モンスター×3

このカードは自分フィールドのランク4の《希望皇ホープ》モンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。このカードはX召喚の素材にできない。

(1):このカードが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時までカードの効果を発動できない。

(2):このカードが《希望皇ホープ》モンスターをX素材としている場合、このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時に、このカードのX素材を2つ取り除いて発動できる。このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ5000になる。

 

 

「続けて攻撃力2000の《ガガガガマジシャン》でダイレクトアタックします」

 

「ライフで受けます」

 

「攻撃力2500の《起動提督デストロイリボルバー》でダイレクトアタックします」

 

「はい、ライフで受けます」

 

「最後です。攻撃力3900の《ヴァレルロード・S(サベージ)・ドラゴン》でダイレクトアタックです」

 

「負けました~!」

 

 純一の【ドライトロン】の初手は良く、動きも良かったが、それ以上に虚の展開が凄まじく、1ターンキルを可能にする程初手が良かった。

 完全なる捲りゲーであり、盤面を見ていた俊介も目を見開いて驚き、楯無もまさか純一に勝つとは思ってもみなかったのか、唖然とするしか無かった。

 

 

 

『対戦ありがとうございました~!』

 

「いや~綺麗な1ターンキルでしたね。どうでした純一君?」

 

「正直に言うと、今回新規で登場したカードが凄く強かったです。先ず《起動兵長コマンドリボルバー》ですが、フィールドと墓地に《ガジェット》モンスターが2体いれば特殊召喚出来るので、ランク4エクシーズやリンクモンスターを立てやすくなった印象を受けました」

 

 対戦終了後は必ず振り返りを行う事になっているが、今回は新規【ガジェット】カードをそれぞれ感想を述べていった。

 先ずは《起動兵長コマンドリボルバー》はフィールド・墓地にガジェットがあれば、手札から特殊召喚出来る為、エクシーズ素材やリンク素材として使いやすい。更にレベル4である為、《ギアギガントX》でサーチ出来るのも良い。

 

「《起動指令 ギア・チャージ》は《起動兵長コマンドリボルバー》の効果で装備した《ガジェット》モンスターを特殊召喚出来るので、より展開しやすくなった事とより手札が尽きなくなった事が印象的でした。《起動提督デストロイリボルバー》もサーチ出来ますし、手札コストも《ガジェット》モンスターの効果で確保しやすいな~と思いました」

 

「成る程。《起動提督デストロイリボルバー》はどうでした?」

 

「そうですね……《マシンナーズ・フォートレス》張りに特殊召喚しやすくて、除去効果が普通に強いです。ステータスがちょっと低めですが、レベル8シンクロと組み合わせてランク8要員になれるのが良いな~と感じました。《ディンギルス》とか《タイタニック・ギャラクシー》のように、ランク8エクシーズモンスターは汎用性が高くてステータスも強いので余計にそう思いました」

 

「虚さんはどうでした?」

 

「最初純一君が《メテオニス=DRA》と《QUA》を儀式召喚した時、正直返せるかどうか不安になったのですが、新規カードが今までの戦術の中で使いながらより展開しやすくなったり、より効果を発動させやすくなったりして、何とか勝つ事が出来ました」

 

 【ガジェット】デッキの強みは“モンスターを常に展開し続け、除去しながら攻撃して勝利出来る”事。幾ら強力なモンスターを相手が出しても、今回の対戦のようにそれをいとも簡単に巻き返す事が出来る。

 例え攻撃力やレベルが低くても、展開していけば必ず突破口を見出せる。それをこの対戦が教えてくれたような物だ。

 

「と言う訳で『WORLD PREMIERE PACK 2020』で強化された【ガジェット】デッキでした! この動画を観て【ガジェット】デッキを組みたくなった人は高評価を!」

 

「【ドライトロン】の更なる力を見たい人はチャンネル登録を!」

 

『是非お願いします!』

 

「それでは次の動画をお楽しみ下さい!」

 

『ご視聴ありがとうございました!』

 

 動画撮影はここで一度終了となった。後は俊介が動画編集ソフト等を使ってより見やすく、より面白くした対戦動画を編集して投稿するだけだ。

 この時点でチャンネル登録数は5万人を突破しており、『遊戯王』を取り扱うYouTubeチャンネルの中でもトップクラスになりつつあった。

 

 

 

「いや~まさか後攻1キルされるとはな~あれでいけるだろと思ったけど、僕も甘かったな……」

 

「何気に純一君負けるの初めてよね?」

 

「負けるのはたまにあるんですよ。動画にしていないだけで。でも動画に撮影していたり、お客さんが見ている場面だと今回が初の敗北です。う~ん……もうちょっと防御を強めた方が良いかな?」

 

 

 動画撮影終了後。動画投稿等の公式の場で初敗北を喫した純一は苦笑いを浮かべながら、【ドライトロン】デッキを見ていた。動きや初手は良かったが、虚の展開力に押し切られてしまった。本人は何も悪くなかっただけに、この敗北は中々悔しい。

 【ドライトロン】デッキは前回の対戦後、儀式モンスターを《ドライトロン》モンスター以外を入れたりしてみたが、その真価を発揮する事が出来なかった。

 

「虚さん、近い内にリベンジ申し込むのでその時はお願いします」

 

「はい。今回久し振りに対戦しましたが、正直楽しかったです。またよろしくお願いします」

 

 今回虚に敗北した事で、純一は再び強さを渇望するようになった。今まではIS環境によって手札誘発等の汎用パワーカードを使えず、教える側に回る等、真の実力を解放出来る機会に中々恵まれなかった。

 同好会でもリーダーとして皆を引っ張っていく者としての活動や、動画撮影等で忙しかったが、同好会ではIS環境ではない、公式環境で行わせる方針を取っている為、自分のリハビリに専念する事にした。

 その矢先に久し振りの敗北を経験した事が、彼の向上心に火を付ける結果となった。虚にリベンジする事を誓い、再戦を申し込んだ。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。


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第1章  THE DUELIST ADVENT(プロローグ)
TURN01 デュエルスタンバイ!


 皆さんこんにちは。LAST ALLIANCEです。新しい小説をスタートさせました。
 この小説は『DS 〈デジタライズ・ストラトス〉』から人物と設定を一部流用していますが、読んだ事のない人でも楽しめるようになっています。
 また、この小説のデュエルのノリはカジュアル7:ガチ3を目指していますので、なるべく最近の『遊戯王』が分からない人でも楽しめるよう、努力していきます。それではお楽しみ下さい!



「出来た~!」

 

 IS学園1年1組所属、“世界で2番目の男性搭乗者”の黒田純一。眼鏡をかけた優等生風な外見をした少年は自宅の部屋で一作業を終え、大声を上げながら両拳を掲げた。

 彼の目の前には三重ものスリーブに入れられたカードの束がある。俗に言うデッキ。『遊戯王OCG』のデッキ。純一はとある理由でIS学園で『遊戯王OCG』をやる事になった。それでデッキを構築していた。

 事前にレシピを考えていて、そのレシピに基づいてカードを集めていた。今までカードの一枚一枚をスリーブに入れると言う作業をしていて、それがようやく終わったのだ。

 

「お疲れさん。完成した純【Kozmo】デッキ、戦えそうか?」

 

「あぁ。安く組めたし、回すのも簡単。それでいて強いから学園の特殊制限ルールでも十二分に戦えそうだ。それにソリティアみたいな展開がないから、対戦相手に優しいのも良いね。強さも強過ぎず、弱すぎずでフリー対戦にちょうど良い」

 

 純一の目の前にある【Kozmo】デッキ。それを一緒に見ているのは五反田弾。赤い長髪にバンダナを巻いたイケメン。純一の親友の一人で、実家は五反田食堂という食堂を営んでいる。純一も休日になると、必ず足を運んでいる。

 休日に純一は弾を自宅に招き、中学生時代からの親友と遊んだりしている。この日は【Kozmo】デッキを完成させていた。弾は純一が作った『遊戯王OCG』の分厚いカードファイルを見ていた。

 

「俺や一夏みたいな復帰勢や学園の女子達のような初心者にもお薦めって事か」

 

「そういう事。ただバトルフェイズ中に出来る事が多いから、慣れるまでに時間がかかるのが難点かな? けどチェーンブロックの組み方を学べるからそういう意味では良いのかも」

 

「レシピ後で見せてくれるか? 参考にしたいから」

 

「良いよ?」

 

 純一が【Kozmo】デッキを構築した理由は篠ノ之束から薦めされたから。安く組める上に強い。それでいて動かし方も比較的シンプル。高校受験の為に一時期『遊戯王』を引退していた純一が復帰するには丁度良いテーマと言える。

 束も“『遊戯王』初心者や復帰勢の人達向けのデッキの1つ”と太鼓判を押していて、実際カードショップの店員も同じ事を言っていた。

 

「成る程な……まぁ大会にも出ている純一が言うからには事実なんだろうな。にしても災難だな……魂のデッキ、【青眼(ブルーアイズ)】が使えないなんて」

 

「使えなくはないけどさ、学園の特殊制限ルールで僕が大好きな亜白龍(オルタナティブ)が使用禁止になって……今の構築じゃ駄目なんだよ。使うなら違う構築にしないと……儀式軸にしても《カオス・MAX》が禁止になったからどうしようって思って……」

 

「平均価格が1000円以上のカードは使用禁止か……特殊制限にしてはかなりイレギュラーだよな……でも純一はそういう大会にも出ていただろう?」

 

「まぁね。僕が出た特殊制限大会は環境入りしてたデッキのキーカードが軒並み禁止カードだったけど……それでも学園の特殊制限はやりすぎってレベルだと思えるよ」

 

「でも学園側の判断も間違いじゃないんだよなぁ……手札誘発とか今の時代のデッキ構築に必要なカードって、それなりに良い値段する物ばかりだから」

 

 純一の頭を悩ませているのはIS学園の特殊制限ルール。公式が定めたリミットレギュレーションの他に、平均価格が1000円以上するカードは使用禁止となった。

 例えば《増殖するG》や《灰流うらら》のような手札誘発効果を持つモンスターや、《強欲で金満な壺》や《無限泡影》のような強力で汎用性の高い魔法・罠カードが挙げられる。

 つまりは環境への採用率も高く、市場価格も高額で取引されているカードの大半が使用禁止になると言う、大会に出ているガチデュエリスト達が涙目になるようなリミットレギュレーションとなった。

 

「まぁどうやったって、1人のプレーヤーが運営側が決めたルールを引っ繰り返す事は出来ない。だったら決めたルールの中で最強のデッキを作ってデュエルするしかない。 IS学園で最強になって満足するしかない」

 

「そうだな……ところで一夏はどうなんだ? あいつ『遊戯王』やるの小学生の時以来だろう? 中学生の時に誘ってもバイトで出来なかったし……」

 

「一夏は鈴や箒達に捕まってデュエルやっているみたいだよ? あいつらは一夏と一緒にいたいんだよ……仕方ないね。弾、悪いけど【Kozmo】デッキの調整に付き合ってくれないか?」

 

「良いぜ? 久し振りのデュエルだ。腕が鳴るぜ!」

 

「それは俺もだ……と言っても、僕は一夏とデュエルしたけどね……まぁ僕の魂を満足させてくれよ!」

 

 こうして始まった純一と弾のデュエル。その中で純一はつい最近の出来事を思い出す。自分がとある企業が開発したデュエルディスク機能を搭載したISのモニターになった事を。そしてIS学園で『遊戯王OCG』をするようになった事を。

 それは“世界で2番目の男性IS操縦者”として、一人のデュエリストとして純一を一回りも二回りも成長させる経験の始まりだった。

 

ーーーーー

 

 黒田純一。何処にでもいるような男子高校生。眼鏡をかけた優等生風な見た目をしている。そんな彼は大企業かつ総合商社の『黒田商事』の社長を務めている。つまりは跡取り息子と言う事になる。

 純一は社長である父親の黒田洋介を尊敬していて、いずれは親父の会社を継いで社長になると言う夢を抱いている。

 そんな彼だが、“世界初の男性IS操縦者”の織斑一夏の存在が明らかになった事で、運命を大きく変えられてしまった。と言うのも、後で行われた適性検査でISを動かしてしまい、見事合格してIS学園に強制入学させられる事となったからだ。

 おかげで高校受験で合格したトップクラスの進学校の入学が取り消しになってしまい、折角第一志望で合格した喜びが水の泡になって消え去った。当時の純一は悔し涙を流し、自分がISを動かしてしまった事を心底呪ったらしい。

 そういう訳で今はIS学園に通いながらIS関連の勉強をしたり、ISの操縦技術を学んだりしている。それとは平行して、大学のセンター試験に向けての勉強も行っている。親友の織斑一夏曰く、“最高の努力家”。それが黒田純一の人物像。

 ISとは何か。正式名称は『インフィニット・ストラトス』。俺がIS学園に転入した10年前に開発されたマルチフォーム・スーツ。宇宙空間での活動を想定し、篠ノ之束博士によって開発されたけど、残念な事に本来の運用の研究はされていない。

 篠ノ之束と織斑千冬による自作自演疑惑が高い『白騎士事件』によって従来の兵器を凌駕する圧倒的な性能が世界中に知れ渡り、各国は軍事力兼抑止力の要として運用している。

 一応IS運用協定ことアラスカ条約によって軍事利用は禁止されているが、純一はアラスカ条約は形骸化していると考えている。今はスポーツの競技種目として運用されていて、テレビでは頻繁に試合中継が行われている。

 ただこのISには致命的な欠点がある。それは女性にしか動かせない事。おかげで女尊男卑の世の中になり、男性には息苦しい世の中となった。本来女性にしか動かせない筈が、どういう訳かISを動かしてしまい、“世界で2番目の男性IS操縦者”としてIS学園にいる純一も、世の中の風潮には辟易している時もある。

 IS学園はIS操縦者育成の為に設立された教育機関。IS操縦者だけでなく、設計者や整備士の育成も行っている。2年生になったら操縦士科や整備士科等のコースを選択できるらしい。純一はIS関連の道に進むつもりはないから興味ないが。

 純一と一夏は1組所属。担任の先生は一夏の姉の織斑千冬。彼女は純一の両親とも面識があり、純一を2人目の弟と言わんばかりに面倒を見てくれている。

 IS学園に来て、純一は色んな人々に出会いながら様々な出来事を経験した。その中で自分の良い所を教えられ、悪い所も付き付けられたりした。最初はクラスに馴染めるかどうか不安だったけど、今はクラス副代表としてクラスの皆と仲良くやれている。

 学科の方も毎日予習と復習を行っているおかげで、テストは常に15番以内をキープしている。ISの操縦の方では、専属コーチの更識楯無による毎日のマンツーマンの指導のおかげで、代表候補生と何とか渡り合えるレベルの実力に至った。とは言うものの、純一の努力をあまり認められていない。

 

「やっぱり織斑くんはすごいよね~」

 

「凄いよ織斑君!」

 

「流石一夏君!」

 

「一夏君のおかげよ!」

 

 その理由は一夏と言う存在にある。純一は一夏の事を最高の親友だと思っている反面、越えるべき宿敵と思っている。

 女性しか動かせないISを世界で初めて動かした男性。IS操縦者として世界最強の称号を持つ織斑千冬の弟。ISの開発者の天災科学者の篠ノ之束の数少ないお気に入り。それが織斑一夏の今。まるで映画・アニメの主人公みたいだ。

 コネもあってか専用機を所有し、どんなトラブルも解決して賞賛を受け、関わった女性には例外なく惚れられる。ゲームのようなよく出来たストーリーだが、純一はそんな事がまかり通る世の中に中指を立てている。

 

―――見ていろよ。必ず俺が一夏を越えてみせる。世の中な、最後に勝つのは最後まで正しい努力を続けた奴なんだよ。

 

 “正しい努力を続ければ、必ず良い結果が出る”。純一は父親からそれを教わり、その事実をこれまでの人生で証明し続けた。

 だからIS学園でも証明させる。顔は良くない。才能もない。天才じゃない。センスもない。そんな自分でも良い結果を残せる。そう言い聞かせながら、彼はとにかく毎日コツコツと正しい努力を積み重ねていく。

 

ーーーーー

 

 2学期のある日。純一達は屋上で昼食を食べていた。純一と一夏。篠ノ之箒。セシリア・オルコット。凰鈴音。シャルロット・デュノア。ラウラ・ボーデヴィッヒ。更識簪。皆で屋上に集まって昼食を食べるのも日常茶飯事だ。

 

「純一、ここ最近よく本を読んでいるなぁ……いや止めはしないから続けて良いよ?」

 

「あ、ごめん。実は親父の頼みでさ、とある企業が新しく事業をスタートする事になって、それに協力して欲しいと頼まれて……その勉強をしているんだ」

 

 皆より先に昼食を食べ終えた純一がブックカバーを付けた本を読んでいると、一夏は苦笑いを浮かべながら俺に話し掛ける。

 一夏は純一の事を“努力型の天才”と言っていて、“俺よりももっと評価されるべき”と常日頃から言っている。純一自身も一夏の事を賞賛する事はかなりあるから、お互いがお互いを高め合っている関係性にある。

 おかげで一部の女子生徒からはどっちが受けで、どっちが攻めかと言う議論がされているらしい。一説に寄れば、本人達の許可なしで同人誌が作られているとかいないとか。

 

「純一さんのお父さんの会社は何をしているのですか?」

 

「親父の会社は総合商社って言って、一言で言うと物を仕入れて販売している会社だよ。会社ってさ、実際物を作って販売しようにも販売ルートが無かったり、お客さんがいるのに仕入れる物が無い場合があるんだ。今だったらインターネットでクリック一つで出来るけど、それはあくまで個人のお客様相手。企業や法人相手になると、大量に仕入れて大量に販売する掛け取引が中心になるんだ。商社は企業とお客さんの仲介をして、取引を成立させている。ラーメンから航空機まで何でも揃える総合商社は日本ぐらいしかないかな?」

 

「でもどんな事業を始めるの? 今更IS関連の事業をやると言うの?」

 

「まぁやるのは親父の会社じゃないんだけど……悪いが詳しい事は俺の口からは話せない。今のご時世は個人情報や機密情報にはうるさくなっていて、滅多な事は話すなときつく言われているから。と言うより、俺も何を頼まれるか分からないんだ」

 

 セシリアの質問に純一はなるべく分かりやすく答えたつもりだったけど、同じ大企業のお嬢様のシャルロットや頭が良い簪以外にはあまりピンと来なかったようだ。

 この時の純一はまだ知らなかった。まさか父親に手伝って欲しいと頼まれた事業。それが今までIS学園で脇役だった自分の立場を、大きく書き換える事になる事を。

 

ーーーーー

 

 それから数日後。放課後。純一は父親の車に乗り、父親と共にとある企業に向かっていった。その企業の名前は『呉島エンタテインメイトスタジオ』。

 『呉島エンタテインメイトスタジオ』の本社に入ると、受付の人に会議室に案内された。これから社長に会って面談するとの事。

 社長の名前は呉島高虎。年齢は20代後半。人当たりの良いイケメン。敏腕で時には冷徹な判断を下す事もあるが、現場や社員の事を第一に考え、定時上がりをしつこく言ったり、仕事とプライベートの両立をモットーにしている。そんな福利厚生を手厚くする等、理想の上司と言えるような人物とこれから面談をする。

 

「初めまして。『呉島エンタテインメイトスタジオ』代表取締役社長、呉島高虎と言います」

 

「『呉島エンタテインメイトスタジオ』開発事業部部長、仙谷竜馬です」

 

「黒田純一と申します。初めまして」

 

 高虎社長の隣にいるのは胡散臭そうな外見をした男性。名前は仙谷竜馬。『呉島エンタテインメイトスタジオ』の開発事業部部長を務めており、今回の事業を企画・開発した人物である。見かけは胡散臭いが、中身はまともとの事。

 父親は既にこの2人に会っているが、純一はこの2人とは初対面だ。お互いに自己紹介を行うと、高虎社長が今回の会社提携について話し始めた。

 

「事情はお父さんから聞いていますか?」

 

「はい。何となくですが……」

 

「分かりました。確認の意味も込めて最初から事情を話します。これは私もですが、君にもとても大事な話になります。真剣に聞いて下さい。そもそもこの会社、『呉島エンタテインメイトスタジオ』は私が社長になってから社名変更をしました。元々は『呉島ゲームズ』と言って、先代の社長で私の父の呉島幸喜氏の下、3D映像を用いたゲーム作品を開発していました。ところが大手のゲームメーカーの台頭もあって次第に売れ行きが悪くなり、3D映像を具現化・実体化するゲームの開発に取り掛かりました。その中で完成したのが……」

 

「『ソリッドビジョンシステム』ですね?」

 

「正解。それが大当たりしました」

 

 『呉島エンタテインメイトスタジオ』は元々『呉島ゲームズ』と言う社名で、先代の社長の呉島幸喜が設立したゲーム会社。3D映像を用いたゲーム作品の開発が特徴で強みとしており、一時期はそれで多くの利益を取っていた。

 しかし、大手ゲームメーカーの台頭によってシェアを奪われ、ゲーム事業から撤退しようかと考えたが、自社の強みである3D映像を活かし、3D映像を具現化・実体化する『ソリッドビジョンシステム』の開発に成功した。

 この『ソリッドビジョンシステム』が大当たりし、再び『呉島ゲームズ』は多くの利益を取るようになった。

 

「ところがこの『ソリッドビジョンシステム』以外にヒット商品が出なくて、イベント事業も次第に赤字になっていきました。そんな時にISが登場して、『ソリッドビジョンシステム』をシミュレーション具現化ソフトとして使おうと言う話になって、ISの操縦訓練用の仮想シュミレーターを開発しましたけど……これがあまり出来が良くなかったんです」

 

「う~む……そのシュミレーターの開発にかなりのお金を使ったのに、売り上げが良くなくて次第に辛くなっていったんですか?」

 

「そうですね……強みである3D技術が足枷になってしまった感じがします。2年前、前社長が“これからは若者の時代だ。老兵はもう出番はない。私は好きにしてきた。これからはお前が好きにしろ”と言って、まだまだ若手の私に社長の座を譲りました」

 

「高虎社長が私を開発事業部部長に抜擢してくれましたが、自社の強みである『ソリッドビジョンシステム』を使い、どのように売り上げを回復させるかを考えました。先ずは『ソリッドビジョンシステム』を伸ばそうと思い、これまでの3D立体映像から、質量を持った3D立体映像にバージョンアップさせた『リアルソリッドビジョンシステム』を開発しました。そしてこれを用いてゲーム作品を世に出しました。」

 

「ただ問題だったのはこれをどのようにして他の分野で活用するかでした。どの事業に用いようか考えていた時、『KONNAMI』に企業提携を申し出る事にしました」

 

 『KONNAMI』こと『KONNAMI株式会社』。ゲーム事業やアミューズメント事業、スポーツ事業等、幅広い事業に携わる企業。一番のヒット商品と言えば『遊戯王OCG』。世界中で人気なカードゲームで、世界大会は超大盛り上がりだ。

 純一自身も高校受験までは『遊戯王』プレーヤーで、大会やイベントに何度も出た経験がある。実力はそこまで高くなかった。優勝した事もあったけど、それはあくまで自分のデッキが強いだけだった。

 

「純一君もご存じだと思いますが、『KONNAMI』は『遊戯王OCG』の販売会社。企業提携してデュエルディスクを開発し、より多くの人々に『遊戯王』を楽しんでもらおうと考えました。ところがこれは一歩間違うと軍事利用される上に、カードゲームで相手を傷付けてしまう危険性を持っていました」

 

 虚構が現実の物となってしまう。今までアニメの世界でしか有り得なかった、デュエルディスクを用いたデュエルで行える。それを知ったらデュエリストの皆は歓喜するだろう。それはかつてデュエリストだった俺もそうだ。

 しかし、竜馬氏の言い分も分かる。只の紙切れからモンスターが出現し、その攻撃で物を破壊出来る。発動したモンスター効果・魔法・罠も同様だ。悪用されればISに勝るとも劣らないどころか、それ以上の兵器になり得る可能性もある。

 今はISの登場によって、女尊男卑の世の中になった。ISのせいで家族離散となったり、仕事を失って引きこもりになったり、世の中に絶望して自殺する男性だっている。それを色んな所で見聞きしているから、純一はそんなニュースを見る度に心が痛んでいった。

 もし只のカードゲームがISと対抗出来る兵器になれるとしたらどうするか。間違いなく世の中に絶望している男性達は手に取り、血で血を洗う大戦が勃発するだろう。それだけは絶対に避けなければならない。

 カードゲームはコミニュケーションツールであり、楽しむ為にある。それを人を傷付ける為に使ってはいけない。

 

「そこで我々はISに目を付けました。聞く所によると、操縦者を守る為に、ISの周囲に張り巡らされている“シールドバリアー”があるとか。そして全てのISに備わっている操縦者の死亡を防ぐ“絶対防御”も。これがあれば、対戦において人が死ぬ事も防げると」

 

「つまりISその物にデュエルディスクが搭載されていると言う訳ですね? しかしISは女性にしか動かせないので、仮に実用化に成功しても需要があるかどうか……カードゲームは男性がやるイメージが強いですし……」

 

「その通りです。ここからが本題なのですが今回、わざわざ来て頂いたのは“世界で二人目のIS男性操縦者”の純一君にデュエルディスクのモニターをやって頂ければと」

 

―――やはりか。僕がここに呼ばれたのはそういう事だったのか。

 

 純一は自分がここに呼ばれた理由をようやく理解した。彼は訓練機の『打鉄』を特別に専用機として受領している。自分が使いやすいようにカスタムしているが、やはり訓練機止まり。一夏達が使う専用機には性能では勝てない。それを技術や戦略で補っているのが現状。

 ここでデュエルディスクを搭載しているとは言えど、念願の専用機を受領出来るのは嬉しい話だ。でもどうして自分を選んだのか。それが気になって仕方ない。

 

「お気持ちはとても嬉しいですが、何故織斑君に頼まなかったのですか? 彼は織斑千冬先生の弟ですし、知名度やイメージは私なんかよりも格段に良いと思うのですが……」

 

「織斑君には事前に試作型のデュエルディスクを送りました。ISに装着するタイプのデュエルディスクです。他の代表候補生の方々や、専用機持ちの方々にも同様にデュエルディスクを送りました。ですが彼らはあくまで国の方から試供されるだけなので、我々の方から直接渡すのは純一君だけです」

 

「それに『黒田商事』の事はこちらでも調査済みで、純一君の人となりは把握しているつもりです。世界女王の弟と、大企業の息子。ビジネスを生業にしている我々から見ても、純一君の方が信頼出来ると判断出来ました」

 

「……分かりました。喜んでお受けしたいです」

 

「ありがとうございます! この一連の話は学園側に事前に話を通しています。後は純一君の了承を頂くだけになっていました。来週の月曜日の6時間目に全校集会で今回開発したデュエルディスクとIS学園で行う『遊戯王』のルールについて我々の方から話をします。純一君は完成型のデュエルディスクを用いたエキシビジョンマッチに出場してもらいます。後程日程の方をお伝えします。どうぞよろしくお願いします!」

 

「了解しました。こちらこそよろしくお願いします。」

 

 こうして純一は『KONNAMI株式会社』と『呉島エンタテインメイトスタジオ』の企業提携により、開発されたデュエルディスク機能を搭載したISのモニターとなった。

 この後は書類にサインし、確認事項と注意事項の確認をしてから『呉島エンタテインメイトスタジオ』を後にした。

 IS学園に戻る途中、自宅に立ち寄り、『遊戯王』カードが入った分厚いファイルや箱、デッキケースやプレイマット、スリーブ等を全部かばんの中に入れた。それらはこれから必要になる物だからだ。

 

ーーーーー

 

「一夏はまだ戻ってこないか……」

 

 アリーナでISの訓練をしている一夏よりも先に、純一は学生寮の自分の部屋に戻った。純一のルームメイトは一夏。男同士であり、お互いにやりやすい。

 この日は楯無との訓練を休み、『呉島エンタテインメイトスタジオ』に行って面談の話をしてきた。これからやる事と言えば授業の予習・復習か、これから関わる『遊戯王OCG』のルール確認をしながらデッキをいじる事ぐらいか。

 

(確か今年からまたルール変わったんだよな……融合・シンクロ・エクシーズモンスターは自分のメインモンスターゾーンにも特殊召喚できるようになった……俺の【青眼】も全盛期とまでは行かないが、それなりに上手くやれるだろう。俺の魂のデッキだ。学園で使えるようになると良いな……)

 

「やぁやぁジュン君、久し振り! 臨海学校の時以来かな?」

 

「束さん!?」

 

 純一が考え事をしていると、突然目の前に一人の女性が現れた。彼女の名前は篠ノ之束。箒のお姉さんで、1人でISの基礎理論を考案・実証し、全てのISのコアを造った“ISの生みの親”。

 ウサミミが装着されたカチューシャをつけ、胸元が開いたデザインのエプロンドレスを着ている美女だが、自分の興味のないことには冷酷なまでに無関心になり、身内と認識している者以外の人間には本当に興味がない、とても人間社会では生きて行けそうにない。

 

「お久し振りです、束さん。相変わらず元気そうですね」

 

「うんうん。ジュン君も元気そうで何よりだよ!」

 

「俺の方は前に比べてISの技術も身に付いてきましたし、学科も相変わらず11位のままです。いい加減トップ10に入りたいですが、まぁ順調にやれてます」

 

「そっか~それは良かった! ジュン君内向的な所があるから心配してたけど、今の所は大丈夫そうだね!」

 

 そんな束は純一を身内として認識しているだけでなく、まるで彼を弟のように可愛がってくれる。束の両親と純一の両親が元々付き合いがあって、小さい頃から束さんにお世話になった。

 

「ところで今日は何をしに来たんですか? まさか世間話をしに来ただけじゃないですよね?」

 

「あ、そうだった。ごめんごめん。ジュン君と沢山お話がしたかったからつい……えっとね、さっきちーちゃんからジュン君がデュエルディスク機能搭載のISのモニターになったと聞いて、伝言がてらアドバイスしに来たんだ」

 

「耳が早いですね……伝言がてらにアドバイス? まさか束さんがIS型のデュエルディスクの存在を許したなんて……明日は嵐が来るんですかね?」

 

「さらっと酷い事言うね……まぁ良いや。デュエルディスクは面白い物だよ? 賞賛に値するよ……虚構が現実になるなんて。一体誰が想像したんだろう? 私でさえそれは無理だと思った。でも呉島社長と仙谷開発部部長はそれをやってのけた。あの2人は凄いね……2人が作った物は私には出来なかったから」

 

「確かにデュエルディスクが実用されるのは俺としても嬉しい話です。ところで伝言がてらにアドバイスとは一体?」

 

「残念な話なんだけど……ジュン君の大切な【青眼】デッキは、IS学園でのデュエルでは使っちゃ駄目だって」

 

「!? どうしてですか!? 今の【青眼】は環境入りしてないです! そりゃたまに大会で結果を残していますが、今はそこまで強い訳じゃないです!」

 

 純一は納得出来なかった。彼の魂である【青眼】デッキ。それを使わせてもらえない事に強い反発を覚えたからだ。

 かつては環境を席捲していたが、今は中堅デッキに落ち着いている。弱くもなく、強すぎもない。フリー対戦にちょうど良いデッキ。もちろん大会にも挑める。

 そんなデッキを使わせてもらえない事に純一は怒った。その怒りを受けて束は彼を宥め諭すように話し始める。

 

「ジュン君の言う通り。でもね、大事なのはそこじゃないんだ。お金の問題。【青眼】ってデッキ作るのにけっこうなお値段するでしょ?」

 

「確かに。今は再録されたりして前よりは安くなりましたが、それでも他のデッキに比べるとブルジョワなデッキになります」

 

「まぁそれだけ【青眼】が人気って証拠だからね……私の方で調べたけど、大体2万5千円はかかるね~メインデッキだけでも。これでエクストラを含めると4万円はすると考えた方が良いかな。高校生の間だけ『遊戯王』をするとして、1つのデッキを作るのに約5万円払わないといけないとしたらどう思う? 多分大半の人が付いていけないと答えるよ? ブルジョワなデッキを使う事が出来るのはジュン君のようなお金持ちじゃないと無理だよ? IS学園って皆が皆富裕層じゃないんだ。中には一般家庭の女子生徒もいるから……」

 

「そうですね……強い上にデッキ構築に必須になって来るカードが高額だと、どうしても初心者のプレーヤーには敬遠されてしまいがちですよね。それなら納得が出来ます。と言う事は手札誘発系も同じですか?」

 

「鋭いねジュン君は。その通り。手札誘発と言うと、《灰流うらら》や《増殖するG》だね。後は《無限泡影》とかかな?……環境への採用率も高くて、市場価格も高額で取引されているカードは全て禁止になる。IS学園は特殊制限レギュレーションで『遊戯王』をやっていく。これは私が決めた事じゃない。ちーちゃんや理事長、そしてカードショップの最大手、『カードターミナル』が集まって話し合った結果、平均価格が1000円を超えているカードは使用禁止になるって。私はそれを事前にジュン君に伝えに来たの。ジュン君ってガチ勢だから先に伝えないと、後でとんでもない事になりそうだから……」

 

「成る程。あまりお金がない生徒の為に、なるべくデッキパワーを平等にしてあげようってつもりですね」

 

 『遊戯王』のようなカードゲームには、強い上にデッキに必須なカードが高額で取引・販売される事が多い。と言うより日常茶飯事。

 ガチ勢に限りなく近いエンジョイ勢だった純一は元々お小遣いが高額な上に、自分でお金を儲ける方法を勉強し、株取引といった手段で小遣い稼ぎをしていた。だから多少高額なデッキを作る事が出来た。下手をしたらサラリーマンの月収クラスは稼いでいる。

 しかし、中には家庭の事情だったり、経済事情の問題でそれが出来ない人もいる。そういう人達との力の差を無くす為に、学園側は特殊制限を定め、環境に顔を出している上に高額で強いカードを禁止にする事にした。これは仕方ない。たかがカード1枚に高いお金を出すより、もっとやるべき事だってある。その人にはその人の人生があるのだから。

 

「それでもプレイングやデッキ構築で差が出来ちゃうけど、そこは経験とオリジナリティーの問題だから私が口出し出来る問題じゃないね」

 

「そうなると困りましたね……俺が持っているデッキは意外に多くないです。後は【命削り真竜】や【音響ガジェット】、【HERO】ぐらいしかないです」

 

「それでも十分だと思うんだけど……ねぇジュン君。ジュン君も今回復帰する訳だし、新しくデッキ作ってみない?」

 

「デッキを? でも話を聞く限り、それなりに安くて強いデッキを作った方が無難だと思うのですが……」

 

「そう。そこでねジュン君。私はジュン君に【Kozmo】デッキをお薦めするよ!」

 

 【Kozmo】デッキ。かつて純一が公認大会や特殊制限大会に出てた時、何度も対戦した事があるデッキの1つ。勝ったり負けたりを繰り返していた。正直強い。手を焼いたデッキの1つと言える。

 【Kozmo】は『EXTRA PACK 2016』で登場したテーマの1つで、『オズの魔法使い』と『スター・ウォーズ』をモチーフにしているとか。

 

「【Kozmo】を? どうしてですか?」

 

「先ず安く組めるようになったから。大体3000円~5000円あれば純構築デッキは組める。それに《ダークシミター》や《ドロッセル》等のキーカードが1000円以下になっている。そしてメインデッキで戦える事。エクストラ要らないから余計なコンボや展開を覚える必要ないよ? 初心者や復帰勢にもお薦めだよ!」

 

「確かにそれは魅力的ですね……僕も対戦経験があるので何となく回し方も分かりますし……早速組んで回してみます」

 

「それとね、ジュン君。これは個人的なお願い。皆にデュエルの楽しさだったり、面白さを伝えてあげて欲しいんだ。この学園には『遊戯王』を知らない人だったり、昔遊んでいたけど今のルール分からない人とか色々いると思うの。そういう人達の力になってあげて」

 

「了解です。俺もデュエリストとして皆と一緒にデュエルを楽しみ、『遊戯王』を通じて仲良くしていきたいです」

 

「うんうん♪ その意気だよ! 特殊制限リストは近い内に発表するから、平均価格調べながらデッキ構築してね! じゃあ私はデュエルディスク機能を搭載したISを完成させるから!」

 

 こうして純一はIS学園の特殊制限レギュレーションルールを受け入れ、その上で【Kozmo】デッキを作る事にした。

 純一は特殊制限大会にも出場して優勝した事があるが、公認大会とは違う面白さがある事も知っている。実は公認大会より出ている回数が多いのだが。

 環境デッキの核パーツや汎用カードの殆どが禁止カードになっている為、プレーヤーのデッキ構築力、プレイング、各々のアイデンティティが存分に発揮される。色々なデッキと戦う事が出来るのが良い。

 一夏が部屋に戻ってくるまでの間、純一はスマホでカードの平均価格を調べながら、【Kozmo】デッキを作る事にした。

 

「う~ん……ノーマルカードはそれなりにあるけど、《ダークシミター》や《ドロッセル》等の主要カードが足りないな……ネットで注文するか、休日にカードショップ行って買うしかないかな? と言うかゴーキン禁止か……エクストラそんなに使わないから入れようか考えていたけど……」

 

 ちなみに純一は【壊獣】欲しさに『EXTRA PACK 2016』を購入したけど、【Kozmo】パーツのノーマルはある程度揃えていた。しかし、《ダークシミター》のようなキーカードの枚数が足りなかった。前途多難な始まりだったのは言うまでもない。

 




ここまで読んでくださり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・【Kozmo】デッキ

 私もつい最近になって再び『遊戯王』に復帰しましたが、それに合わせて主人公に使わせるなら何デッキが良いかな?と思って色々なサイトや動画を観ていたら、【Kozmo】デッキが目に入ってこのデッキにしました。
 私がかつて『遊戯王』に復帰して大会に出ていたり、フリー対戦をしていた時期が【ABC】の全盛期~《ハリファイバー》が初登場した頃になります。
 【Kozmo】デッキとは大会で対戦した事がありますが、《ダークシミター》がひたすら強かった印象があります。何とか2-1で勝てましたが……
 今は安く組める上に強いのが【Kozmo】デッキ。もう少ししたら出て来ます。

・企業や人物の元ネタ

 呉島高虎や仙谷竜馬は『仮面ライダー鎧武』に登場した人物が元ネタです。『KONNAMI株式会社』は『KONAMI』さんです。

・IS学園の特殊ルール

 殆どが初心者な女子生徒だったり、資金ゲーと呼ばれるTCGの格差を解消する為に、平均価格が1000円を超えているカードは使用禁止にしました。
 なので【青眼】は《亜白龍》を入れられなくなりました。《強欲で金満な壺》等ももちろん使用禁止に……ちなみに平均価格はトレカネット様を参考にします。

・各キャラの使うデッキ

 ぶっちゃけあんまり決まっていません。後でじっくり考えますが、アイディアがある人は遠慮なくお願いします。一人のキャラが複数テーマ使うのはOKです。
 リアリティも追及するので、ストラクチャーデッキ3箱だったり、初心者が使いやすいテーマや、安価で組めるデッキが中心になるかと思います。ただ【魔導書】とか昔環境を取っていたテーマも出そうか考えています。

以上になります。
次回は呉島社長によるプレゼンがメインになるかと。
次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

p.s.皆さん。よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気がレベルアップします。


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TURN02 親友対決! 純一VS一夏! ★

今回は前回の後書きで記した所まで行けませんでした。
やはりデュエル描写を書くと、カードの効果を記した方が分かりやすいので、初めて使ったカードは必ず効果を記すようにしました。

この小説における注意事項はあらすじにも書きましたが、登場人物紹介を投稿する時、一緒に記していこうと思います。


「おぉ一夏! お帰り~!」

 

「ただいま~」

 

 純一が【Kozmo】デッキのレシピを考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえて来た。デッキの構築作業を一時中断して適当な場所に隠し、部屋のドアを開ける。

 そこには自分の親友でクラスメートで、かつルームメートの織斑一夏がいた。左手を軽く上げて挨拶をすると、一夏もそれに答えながら部屋の中に入った。

 

「今日は誰にしごかれてたんだ?」

 

「箒。いや~大変だったよ」

 

「そうかい。まぁお疲れ様。僕の方は面談が無事に終わった。大成功だったよ」

 

「良かったな~デュエルディスクのモニターになれて」

 

「……一夏。何処でそれを聞いた?」

 

 一夏の言葉を聞いた純一の目が途端に細まった。怒ってはいない。何故誰にも話していないのに一夏が知っているのか。それが気になっただけだ。

 細まった純一の目から発せられる視線。それに耐えきれなかったのか、一夏は申し訳なさそうに答える。

 

「ごめんな……実は千冬姉から聞いていたんだ。事前にISに装着するタイプのデュエルディスクを受け取った時、カードも沢山受け取ったんだ。その時に千冬姉が“純一にデュエルディスクのモニターの話が来ている”と教えてくれて……」

 

「その事は他に誰が知っている?」

 

「俺の他の専用機持ちと代表候補生達。あ、大丈夫。皆は純一がモニターになる事は承知している。聞いて驚いたよ……純一が大会に出ていて、しかも優勝経験もあるって。そりゃモニターにならないかって言われるよな~」

 

「確かに呉島社長が話していたな……こっちこそごめん。うっかりしていた。実はさっきさ、束さんからこの学園の特殊ルールで平均価格が1000円以上するカードが使えないって聞いたから、新しくデッキを作っていたんだ。ただパーツが足りないし、レシピもまだ出来ていないから実質紙束状態だね。完成は休日にならないと無理だな~と思う」

 

「てことはけっこう打撃を受けているんだ……大会に出てるからそりゃそうだよな……」

 

 純一の他にデュエルディスクを持っている生徒。一夏。箒。セシリア。鈴音。シャルロット。ラウラ。簪。楯無。サラ。現在は純一を含めて10人。他に転校生が来ると、もっと増える事になる。

 彼らは純一の実績を知って驚いていたが、デュエルディスクのモニターの案件は誰一人として反対しなかった。と言うより反対する気持ちになれなかったのが正解だが。

 

「ところで一夏の方は大丈夫? 今年の4月から新ルールになったけど」

 

「あぁ、ルールの方は大丈夫。新しく増えたカードの種類も一通り覚えた。俺の記憶はシンクロ召喚で止まったから……先攻ドロー廃止で、フィールド魔法は先に使った奴を破壊しなくて良くなった。前は自分と相手、どちらかしか使えなかったな……それとメインモンスターゾーンの他にエクストラモンスターゾーンが出来て、魔法・罠ゾーンの右端・左端がペンデュラムゾーンとして使用可能となった。そしてエクストラデッキからモンスターを特殊召喚する場合、エクストラモンスターゾーンにしか出せなかったのが、メインモンスターゾーンにも出せるようになった……までは覚えた。ただ貰えたカードが沢山で全部目を通していないし、何より小学生の頃に使っていた【ギャラクシー】デッキも特殊制限に合わせてカードを抜いていないし……」

 

「そっか……まぁ折角だし久し振りにデュエルしようよ。ここに戻る途中で家に立ち寄り、デッキとかカードファイル持ってきたから、終わった後は少しは良いアドバイス出来そうかな?」

 

「本当か!? ならデュエルしようぜ!」

 

『お互いのデッキをカット&シャッフル!』

 

 純一と一夏はお互いにデュエルする事を決めると、机の上にプレイマットを敷いてメインデッキとエクストラデッキをそれぞれ置いた。

 お互いに自分のデッキをよくシャッフルして相手に渡し、それを受け取って2つか3つの山に分けながら積み直していく。これがカット&シャッフル。

 

「最初はグー。ジャンケンポン!」

 

「先攻は頂いた!」

 

「僕は後攻だ!」

 

『せーの、デュエル!』

 

 ジャンケンを行った結果、グーを出して勝った一夏が先攻を選んだ。お互いにデッキの一番上から5枚のカードを取って手札にする。

 5枚の手札を取り、挨拶をしてデュエル開始。『遊戯王』は小学生以来の一夏と、高校受験前まで大会に出ていた純一。IS学園にて初めてのデュエルが始まった。

 

ーーーーー

 

「俺のターン! スタンバイ。メイン。自分フィールドにモンスターがいない時、このモンスターを特殊召喚出来る! 俺は手札から《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚!」

 

「おっ、早速か……」

 

 

《フォトン・スラッシャー》

特殊召喚・効果モンスター

レベル4/光属性/戦士族

ATK/2100 DEF/0

このカードは通常召喚できない。

自分フィールドにモンスターが存在しない場合に特殊召喚できる。

(1):自分フィールドにこのカード以外のモンスターが存在する場合、このカードは攻撃できない。

 

 

「続けて手札から《フォトン・クラッシャー》を通常召喚!」

 

 

《フォトン・クラッシャー》

効果モンスター

レベル4/光属性/戦士族

ATK/2000 DEF/0

(1):このカードは攻撃した場合、ダメージステップ終了時に守備表示になる。

 

 

「レベル4モンスターが2体……しかもこの組み合わせは……まさかいきなり!?」

 

「お前の考えている通りだ。俺は《フォトン・スラッシャー》と《フォトン・クラッシャー》の2体でオーバーレイ! 2体の《フォトン》レベル4モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 《輝光帝ギャラクシオン》!」

 

 

《輝光帝ギャラクシオン》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族

ATK/2000 DEF/2100

「フォトン」と名のついたレベル4モンスター×2

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を2つまで取り除いて発動できる。

この効果を発動するために取り除いたエクシーズ素材の数によって以下の効果を適用する。

●1つ:手札から「銀河眼の光子竜」1体を特殊召喚する。

●2つ:デッキから「銀河眼の光子竜」1体を特殊召喚する。

 

 

「来るか……来るのか!」

 

「オーバーレイ・ユニットを2つ取り除き、《ギャラクシオン》の効果発動! デッキからこのモンスターを特殊召喚する! 闇に輝く銀河よ! 希望の光となりて我が魂に宿れ! 光の化身よ、今この地に降臨せよ! 《銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》!」

 

 

銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)

効果モンスター

レベル8/光属性/ドラゴン族

ATK/3000 DEF/2500

(1):このカードは自分フィールドの攻撃力2000以上のモンスター2体をリリースして手札から特殊召喚できる。

(2):このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップに、その相手モンスター1体を対象として発動できる。

その相手モンスターとフィールドのこのカードを除外する。

この効果で除外したモンスターはバトルフェイズ終了時にフィールドに戻り、この効果でXモンスターを除外した場合、このカードの攻撃力は、そのXモンスターを除外した時のX素材の数×500アップする。

 

 

「カードを1枚セット。ターンエンドだ。カットお願いします」

 

「あいよ!」

 

 

一夏 LP:8000

   手札:2

   エクストラモンスターゾーン:なし

   メインモンスターゾーン:《輝光帝ギャラクシオン》、《銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)

   魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

ーーーーー

 

「一夏め、やりやがるな……先攻1ターン目からエースモンスターの《光子竜(フォトン・ドラゴン)》を出すとは」

 

「お褒めに預かり光栄だ。でもお前なら直ぐに引っ繰り返せるだろう?」

 

「まぁ出来なくはないが、やってみせよう。僕のターン。ドローフェイズ、ドロー。スタンバイフェイズ。メインフェイズ。モンスターをセット。カードを1枚セット。ターンエンドだ」

 

 手札を3枚消費しながらもエースモンスターを召喚した一夏とは対照的に、純一は静かな立ち上がりを見せた。

 目は細くて鋭く、まるで獲物を捉えた猛禽類の如く。それでいて紳士の心を忘れず、シャカパチ等の相手を威嚇する行為を全くしない。それが純一のやり方。

 

 

純一 LP:8000

   手札:4

   エクストラモンスターゾーン:なし

   メインモンスターゾーン:セットモンスター×1

   魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

ーーーーー

 

「(純一の割にはおとなしいスタートだな……あのセットモンスターは《メタモルポッド》ではないけど、リバースした時に何かしらの効果を持っている筈だ)俺のターン、ドロー! スタンバイ。メイン。手札から《銀河の魔導師(ギャラクシー・ウィザード)》を通常召喚!」

 

 

銀河の魔導師(ギャラクシー・ウィザード)

効果モンスター

レベル4/光属性/魔法使い族

ATK/0 DEF/1800

(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。

このカードのレベルをターン終了時まで4つ上げる。

(2):このカードをリリースして発動できる。

デッキから「銀河の魔導師」以外の「ギャラクシー」カード1枚を手札に加える。

 

 

「《銀河の魔導師(ギャラクシー・ウィザード)》の効果発動! このカードをリリースし、デッキからこのカード以外の《ギャラクシー》カードを加える……」

 

「サーチ出来るのは《ギャラクシー》カードだからモンスターだけじゃなくて、魔法・罠でも良いんだよな……」

 

「それな~本当に便利過ぎる。俺は魔法カード《銀河遠征(ギャラクシー・エクスペディション)》を手札に加え、そのまま発動! このカードは俺のフィールドにレベル5以上の、《フォトン》か《ギャラクシー》モンスターがいる時に発動出来る。デッキからレベル5以上の、《フォトン》か《ギャラクシー》モンスター1体を守備表示で特殊召喚出来る!」

 

 

銀河遠征(ギャラクシー・エクスペディション)

通常魔法

「銀河遠征」は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドにレベル5以上の、《フォトン》モンスターまたは《ギャラクシー》モンスターが存在する場合に発動できる。

デッキからレベル5以上の、《フォトン》モンスターまたは《ギャラクシー》モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

 

「俺がデッキから特殊召喚するのは……《銀河戦士(ギャラクシー・ソルジャー)》! そして《銀河戦士(ギャラクシー・ソルジャー)》の効果発動! このカードが特殊召喚に成功した時、デッキから《ギャラクシー》モンスター1体を手札に加える事が出来る……ここは2枚目の《銀河戦士(ギャラクシー・ソルジャー)》を手札に加える」

 

 

銀河戦士(ギャラクシー・ソルジャー)

効果モンスター

レベル5/光属性/機械族

ATK/2000 DEF/0

「銀河戦士」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカード以外の手札の光属性モンスター1体を墓地へ送って発動できる。

このカードを手札から守備表示で特殊召喚する。

(2):このカードが特殊召喚に成功した時に発動できる。

デッキから「ギャラクシー」モンスター1体を手札に加える。

 

 

「このパターンは《ノヴァインフィニティ》かな?」

 

「いや……《サイバー・ドラゴン・ノヴァ》の平均価格が1000円を超えているから、《ノヴァインフィニティ》は出来ない」

 

「……あ、そうか。 この前《インフィニティ》が再録されたから《ノヴァ》の需要が上がったのか……」

 

「そうなんだよ……だから《ノヴァインフィニティ》はこの学園じゃ使えないんだよ……手札の光属性モンスター、《フォトン・クラッシャー》を墓地に送り、2枚目の《銀河戦士(ギャラクシー・ソルジャー)》を特殊召喚!」

 

「この流れだと《プレアデス》が来るか……」

 

「正解。俺は2体の《銀河戦士(ギャラクシー・ソルジャー)》でオーバーレイ! 2体のレベル5光属性モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろランク5! 《セイクリッド・プレアデス》!」

 

 

《セイクリッド・プレアデス》

エクシーズ・効果モンスター

ランク5/光属性/戦士族

ATK/2500 DEF/1500

光属性レベル5モンスター×2

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを持ち主の手札に戻す。

この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

「《セイクリッド・プレアデス》の効果発動! オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、フィールドのカード1枚を持ち主の手札に戻す。俺が選ぶのは純一、お前のフィールドのセットモンスターだ!」

 

「悪いがそうはさせない。《プレアデス》を残しておくと後々面倒な事になる。手札の《幽鬼うさぎ》の効果発動! フィールドのモンスターの効果が発動した時、手札にあるこのカードを墓地に送り、そのカードを破壊する! 《プレアデス》には退場してもらおう!」

 

「クッ! まさか《プレアデス》が出オチになるなんて……」

 

 

《幽鬼うさぎ》

チューナー・効果モンスター

レベル3/光属性/サイキック族

ATK/0 DEF/1800

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのモンスターの効果が発動した時、またはフィールドの既に表側表示で存在している魔法・罠カードの効果が発動した時、手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。

フィールドのそのカードを破壊する。

 

 

「と言うかちょっと待て! 《幽鬼うさぎ》って使って良いのか!?」

 

「調べてみても良いんだよ? 1000円しないから」

 

「ちょっと待ってろ……ごめん、本当だ。1000円しなかった」

 

「だろう? それで? どうするんだ?」

 

「このままバトルフェイズに行こう。《銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)》でセットモンスターを攻撃! バトルステップ時に効果発動! 相手モンスターと共に除外される! これでフィールドはがら空きになった……セットカードが怖いけどやるしかない! 《ギャラクシオン》でダイレクトアタック!」

 

「ライフで受ける!」

 

「……お、おぅ。バトルフェイズ終了時、《光子竜(フォトン・ドラゴン)》とセットモンスターはフィールドに戻ってくる。このままターンエンド。カット頼むね」

 

 

一夏 LP:8000

   手札:1

   エクストラモンスターゾーン:なし

   メインモンスターゾーン:《輝光帝ギャラクシオン》、《銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)

   魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

純一 LP:8000→6000

   手札:3

   エクストラモンスターゾーン:なし

   メインモンスターゾーン:セットモンスター×1

   魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

 

 

「僕のターン……ドローフェイズ、ドロー。スタンバイフェイズ。メインフェイズ。相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、このカードは手札から特殊召喚できる。手札から《ダイナレスラー・パンクラトプス》を特殊召喚!」

 

「な、何だそのモンスター!? 効果確認良い!?」

 

「良いよ? 今の環境でも使われている強いカードだよ?」

 

「えっ……強いとしか書いていない」

 

 

《ダイナレスラー・パンクラトプス》

効果モンスター(準制限カード)

レベル7/地属性/恐竜族

ATK/2600 DEF/0

このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):自分フィールドの「ダイナレスラー」モンスター1体をリリースし、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを破壊する。

この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

「続いてセットモンスターを反転召喚。《シャドール・リザード》。効果発動。このカードがリバースした場合、フィールドのモンスター1体を破壊する。《ギャラクシオン》を破壊!」

 

「何!? 《光子竜(フォトン・ドラゴン)》じゃなくて良いのか?」

 

「《光子竜(フォトン・ドラゴン)》を蘇生する手段は幾らでもある……墓地にやるよりもっと良い方法で除去するから」

 

「グヌヌ……《ギャラクシオン》は破壊される!」

 

 

《シャドール・リザード》

リバース・効果モンスター

レベル4/闇属性/魔法使い族

ATK/1800 DEF/1000

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードがリバースした場合、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを破壊する。

(2):このカードが効果で墓地へ送られた場合に発動できる。

デッキから「シャドール・リザード」以外の「シャドール」カード1枚を墓地へ送る。

 

 

「更に手札から《ネクロ・ガードナー》を通常召喚。これで行けるな……レベル4の《シャドール・リザード》に、レベル3の《ネクロ・ガードナー》をチューニング!」

 

「レベル7シンクロ……!」

 

 

《ネクロ・ガードナー》

効果モンスター

レベル3/闇属性/戦士族

ATK/ 600 DEF/1300

(1):相手ターンに墓地のこのカードを除外して発動できる。

このターン、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にする。

 

 

「正解。シンクロ召喚! 現れろ、《月華竜 ブラック・ローズ》!」

 

「厄介な奴が来たな……」

 

 

《月華竜 ブラック・ローズ》

シンクロ・効果モンスター

レベル7/光属性/ドラゴン族

ATK/2400 DEF/1800

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードが特殊召喚に成功した時、または相手フィールド上にレベル5以上のモンスターが特殊召喚された時に発動する。

相手フィールド上の特殊召喚されたモンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す。

「月華竜 ブラック・ローズ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

 

「《月華竜 ブラック・ローズ》の効果発動! このカードが特殊召喚に成功した時、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す。対象は《光子竜(フォトン・ドラゴン)》!」

 

「クソッ! バウンスは一番強い除去だ! これはきつい!」

 

「バトルフェイズ! 《月華竜 ブラック・ローズ》でダイレクトアタック!」

 

「ライフで受ける!」

 

「このままターンエンド!」

 

 

一夏 LP:8000→5600

   手札:2

   エクストラモンスターゾーン:なし

   メインモンスターゾーン:なし

   魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

純一 LP:8000→6000

   手札:2

   エクストラモンスターゾーン:なし

   メインモンスターゾーン:《ダイナレスラー・パンクラトプス》、《月華竜 ブラック・ローズ》

   魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

ーーーーー

 

「俺のターン、ドロー! スタンバイ。メイン。手札から魔法カード、《トレード・イン》を発動。レベル8モンスター、さっき戻された《光子竜(フォトン・ドラゴン)》を捨てて2枚ドロー。……来たぜ!」

 

 

《トレード・イン》

通常魔法

(1):手札からレベル8モンスター1体を捨てて発動できる。

自分はデッキから2枚ドローする。

 

 

「更に手札から魔法カード、《フォトン・サンクチュアリ》を発動! このカードを発動したこのターン、俺は光属性モンスターしか召喚・反転召喚・特殊召喚できなくなる。だが! 自分フィールドに《フォトントークン》を2体守備表示で特殊召喚!」

 

「《フォトントークン》を……? まさか!」

 

「気付いたみたいだな……これで手札に来たこのモンスターの“召喚条件”を満たした。フィールドに《フォトン》か《ギャラクシー》モンスターがいる場合、このカードはリリースなしで召喚できる。手札から《銀河騎士(ギャラクシー・ナイト)》を召喚!」

 

 

銀河騎士(ギャラクシー・ナイト)

効果モンスター

レベル8/光属性/戦士族

ATK/2800 DEF/2600

(1):自分フィールドに《フォトン》モンスターまたは《ギャラクシー》モンスターが存在する場合、このカードはリリースなしで召喚できる。

(2):このカードの(1)の方法で召喚に成功した場合、自分の墓地の「銀河眼の光子竜」1体を対象として発動する。

このカードの攻撃力はターン終了時まで1000ダウンし、対象のモンスターを守備表示で特殊召喚する。

 

 

「考えたな……《銀河騎士(ギャラクシー・ナイト)》の召喚は俗に言う“妥協召喚”。《月華竜》の効果は、相手フィールドにレベル5以上のモンスターが特殊召喚された時にしか発動しない。だからバウンスされない。でも効果を使うと反応するぞ?」

 

「どの道反応しても大丈夫なようにしている。《銀河騎士(ギャラクシー・ナイト)》の効果発動! 攻撃力をターン終了時まで1000ダウンさせる代わりに、《光子竜(フォトン・ドラゴン)》を守備表示で特殊召喚!」

 

「だが《月華竜》の効果が発動する! 相手フィールドにレベル5以上のモンスターが特殊召喚された時、対象のモンスターをバウンスする。対象は《銀河騎士(ギャラクシー・ナイト)》だ!」

 

「その効果の発動を許可しない! リバースカードオープン! 《タキオン・トランスミグレイション》!」

 

 

《タキオン・トランスミグレイション》

カウンター罠

自分フィールドに《ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン》モンスターが存在する場合、

このカードの発動は手札からもできる。

(1):自分フィールドに《ギャラクシーアイズ》モンスターが存在する場合、チェーン2以降に発動できる。

このカードの発動時に積まれていたチェーン上の全ての、相手のモンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし、この効果で発動を無効にしたフィールドのモンスター及び魔法・罠カードを全て持ち主のデッキに戻す。

 

 

「何だと!?」

 

「このカードは俺のフィールドに《銀河眼(ギャラクシーアイズ)》モンスターがいる場合に使う事が出来る。このカードの発動時に積まれていたチェーン上の全ての、相手のモンスターの効果・魔法・罠カードの発動を無効にし、この効果で発動を無効にしたフィールドのモンスター及び魔法・罠カードを全て持ち主のデッキに戻す。と言う訳で《月華竜》は退場してもらおう!」

 

「《月華竜》はエクストラデッキに戻されてしまう!」

 

「そして俺のフィールドに光属性モンスターが2体以上いる場合、このカードは手札から特殊召喚できる。《ガーディアン・オブ・オーダー》を特殊召喚!」

 

 

《ガーディアン・オブ・オーダー》

効果モンスター

レベル8/光属性/戦士族

ATK/2500 DEF/1200

自分フィールド上に光属性モンスターが2体以上存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

「ガーディアン・オブ・オーダー」は自分フィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

 

 

「これでレベル8モンスターが3体……!」

 

「行くぜ! 俺は《ガーディアン・オブ・オーダー》と《銀河騎士(ギャラクシー・ナイト)》でオーバーレイ! 2体のレベル8モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、《聖刻神龍-エネアード》!」

 

 

《聖刻神龍-エネアード》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/ドラゴン族

ATK/3000 DEF/2400

レベル8モンスター×2

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。

自分の手札・フィールド上のモンスターを任意の数だけリリースし、リリースしたモンスターの数だけフィールド上のカードを破壊する。

 

 

「何だっけそのモンスターの効果……効果確認良い?」

 

「良いよ? 1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除くと、俺の手札・フィールド上のモンスターを任意の数だけリリースする。リリースしたモンスターの数だけフィールド上のカードを破壊する。つまり俺のフィールドにある《フォトントークン》を2枚リリースすると、《パンクラトプス》とセットカードを破壊出来るって事になる」

 

「成る程なぁ……そいつは困るな。《エネアード》の召喚成功時、セットカードを使わせてもらおう。罠カード発動!《バージェストマ・ディノミスクス》!」

 

 

《バージェストマ・ディノミスクス》

通常罠

(1):フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。

手札を1枚捨て、対象のカードを除外する。

(2):罠カードが発動した時、その発動にチェーンしてこの効果を墓地で発動できる。

このカードは通常モンスター(水族・水・レベル2・ATK/1200 DEF/0)となり、モンスターゾーンに特殊召喚する(罠カードとしては扱わない)。

この効果で特殊召喚したこのカードはモンスターの効果を受けず、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 

「な、何だと!? どういう効果の罠カードなんだ!?」

 

「一言で言えば除去効果と、相手の罠カードが発動したら墓地から通常モンスターとして蘇生出来る……つまり一枚で二度美味しい効果持ちの罠カードだ。手札を1枚捨て、フィールドの表側表示のカード1枚を除外する。手札の《ジェット・シンクロン》をコストにし、《エネアード》を除外!」

 

「クソッ、いけると思ったんだけどな……」

 

「詰めが甘いな一夏。そもそも《パンクラトプス》があるから、君が幾らランク8エクシーズを召喚しても除去出来るようになっていた。こうなる事は最初から分かっていたんだよ」

 

「何と言う事だ……ターンエンド」

 

 

一夏 LP:8000→5600

   手札:0

   エクストラモンスターゾーン:なし

   メインモンスターゾーン:《銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)

   魔法・罠ゾーン:なし

 

純一 LP:8000→6000

   手札:1

   エクストラモンスターゾーン:なし

   メインモンスターゾーン:《ダイナレスラー・パンクラトプス》   

魔法・罠ゾーン:なし

 

ーーーーー

 

「僕のターン、ドローフェイズ。ドロー。スタンバイ。メイン。手札から《終末の騎士》を通常召喚」

 

《終末の騎士》

効果モンスター(制限カード)

レベル4/闇属性/戦士族

ATK/1400 DEF/1200

(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。

デッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送る。

 

 

「効果発動。このカードが召喚に成功した時、デッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送る事が出来る。僕が墓地に送るのは……《シャドール・ビースト》。そして《シャドール・ビースト》の効果が発動。効果で墓地に送られた時、デッキから1枚ドローできる。カットお願いします」

 

「けっこう噛み合っているな~」

 

 

《シャドール・ビースト》

 

「そりゃ噛み合うようにデッキ構築しているからね~1枚ドローして……墓地の《ジェット・シンクロン》の効果発動。手札を1枚墓地へ送ってこのカードを特殊召喚出来る。今引いた《ゾンビキャリア》を墓地に送り、《ジェット・シンクロン》を蘇生。この効果で特殊召喚した《ジェット・シンクロン》は、フィールドから離れたら除外される」

 

 

《ジェット・シンクロン》

チューナー・効果モンスター

レベル1/炎属性/機械族

ATK/500 DEF/ 0

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。

デッキから「ジャンク」モンスター1体を手札に加える。

(2):このカードが墓地に存在する場合、手札を1枚墓地へ送って発動できる。

このカードを特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 

「レベル8シンクロの構えか……!」

 

「正解。レベル7モンスター、《ダイナレスラー・パンクラトプス》にレベル1チューナー、《ジェット・シンクロン》をチューニング! 王者の雄叫びが天地に轟く時、唯一無二の覇者がこの地に舞い降りる! シンクロ召喚! 《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》!」

 

 

《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》

シンクロ・効果モンスター

レベル8/闇属性/ドラゴン族

ATK/3000 DEF/2500

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り《レッド・デーモンズ・ドラゴン》として扱う。

(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。

このカード以外の、このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ特殊召喚された効果モンスターを全て破壊する。

その後、この効果で破壊したモンスターの数×500ダメージを相手に与える。

 

 

「《スカーライト》の効果発動! 《スカーライト》以外で、《スカーライト》の攻撃力以下の攻撃力を持つ特殊召喚された効果モンスターを全て破壊! 《アブソリュート・パワー・フレイム》!」

 

「《光子竜(フォトン・ドラゴン)》は破壊される!」

 

「更にこの効果で破壊したモンスターの数だけ、相手に500ポイントのバーンダメージを与える! 500ポイントのバーンダメージを受けてもらおう!」

 

「クッ! でも俺のライフはギリギリ残る!」

 

「僕が残り数百のライフポイントを残してあげるとでも思うか? 甘いな……僕は墓地の光属性モンスター、《幽鬼うさぎ》と闇属性モンスター、《シャドール・ビースト》をゲームから除外し、《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》を手札から特殊召喚!」

 

 

《カオス・ソルジャー -開闢の使者-》

特殊召喚・効果モンスター

レベル8/光属性/戦士族

ATK/3000 DEF/2500

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地から光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ除外した場合に特殊召喚できる。

このカードの(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。

(1):フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを除外する。

この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

(2):このカードの攻撃で相手モンスターを破壊した時に発動できる。

このカードはもう1度だけ続けて攻撃できる。

 

 

「バトルフェイズ。《終末の騎士》でアタック!」

 

「ライフで受ける!」

 

「続けて《スカーライト》でアタック! 《灼熱のクリムゾン・ヘル・バーニング》!」

 

「ライフで受ける!」

 

「最後。《開闢》でダイレクトアタック! 《開闢双破斬》!」

 

「ありがとうございました!」

 

 純一と一夏。お互いにとって小学生の時以来のデュエル。結果は純一の勝利。2人はお互いの健闘を労いながら、デッキを片付けた。

 

ーーーー

 

「いや~やっぱきついな~大半の汎用ランク8エクシーズが使えなくなると……」

 

「使えたら勝てたかもしれないな……どうだった? 久し振りにデュエルしてみて」

 

「勝ち負けはともかく楽しかったよ? 何だろう……こう駆け引きだったり、ISでは味わえない展開がたまらなかった。でも汎用ランク8エクシーズが使えなくなったのはきつい……」

 

「そうだね……僕も久し振りにやったけど忘れていたこの感覚、たまらねぇぜって感じかな? それをこれからISを使ってデュエル出来るってなると、もう楽しみで仕方ないよ。【ギャラクシー】は新規来たし、《銀河眼(ギャラクシーアイズ)》のリンクモンスターも出たけど、使っていく?」

 

「う~ん……正直に言うと、俺は【ギャラクシー】デッキはこの学園でのデュエルでは使わない予定。ランク5・ランク8エクシーズをポンポン出すのがこのデッキだからなぁ……ランク8の大半が使えないとなると、正直このデッキの強みを活かせないと思うんだ……」

 

「確かに……普通なら使える筈のモンスターが使えないってかなりきついよな~学園が定めた特殊制限ルール、これって僕ら経験者に思い切りぶっ刺さるよな……」

 

 IS学園が定めた特殊制限ルール。市場での平均価格が1000円以上するカードは使用禁止と言う独自の追加事項。これはIS学園にいる女子生徒の大半が『遊戯王』初心者になる事から、純一や一夏達経験者との実力差を少しでも無くす為の事項。

 このルールはやはり純一や一夏に思い切り刺さっていた事から、やはり経験者にとってかなりのダメージが予想される。

 

「それに純一とこうやって勝負したのって……クラス代表を決める試合の時以来じゃないかな? 俺の記憶が確かなら」

 

「懐かしいな……あれから半年くらい経ったな」

 

 クラス代表決定戦。クラス代表を決める時、クラス中の女子生徒から推薦された一夏に納得出来ず、セシリアが抗議しながら日本を侮辱するような発言をした為、それを純一が諫めた事が始まりだった。

 一夏とセシリアの2人で試合を行う事になったが、放課後に純一が“一夏が出るなら自分も出た方が良いのではないか?”と千冬に相談しに行った。やり取りの結果、純一も試合に参加する事に。

 試合までの1週間、楯無とのマンツーマンレッスンを受けたものの、代表候補生と初心者では結果が見えていた。純一曰く、“絵に描いたような無謀。世紀の迷勝負”。

しかし、観戦していた千冬と真耶も純一の素質と努力を認め、セシリアも“初心者とは思えないセンスをしている。努力を続ければ代表候補生クラスになれる”と太鼓判を押した。

 専用機の『白式』を貰えた一夏との勝負は僅差で純一の勝利に終わった。ISの実力は稼働時間に正比例すると言われており、訓練機を使いながらも国家代表のコーチ付きな純一が勝つのは最もだ。

 クラス代表は一夏が務め、一夏を支える副代表を純一が務める事となった。2人で1人のクラス代表と言う事になる。

 

「純一に聞くけど、これから俺はどういうデッキを使っていけば良い?」

 

「う~ん……使いたいデッキを使えば良いって答えるのが正論だと思うけど、専用機持ちで立場が立場だから、特殊制限に引っ掛からず、それでいて環境入りしているか、若しくは環境入りの経験のあるデッキを使った方が無難かな? 幾つか候補はあるけど、『ストラクチャーデッキ』を買って組むなら【シャドール】か、『ソウルバーナー』こと【サラマングレイト】がお勧め。あれ3箱に少々足すだけでかなり戦えるデッキになる。多分注文書来ると思うから、商品があったら迷わず3箱買った方が良い」

 

 純一が一夏にお薦めした『ストラクチャーデッキ』は、【シャドール】と【サラマングレイト】。過去に環境入り経験のあるテーマと、現在環境入りしているテーマ。この2つを買ってデッキを組めば、それなりには戦えるレベルになるだろう。

 もちろん大会に出る上で改造を施せば、それ相応の強さを手に出来る筈だ。でも今は復帰した『遊戯王』に慣れる事からだ。

 

「ありがとう。こういうのって、やっぱり大会に出ている純一に聞いた方が良いなと思ってたんだ。もう1つ聞きたい事があるんだ。これからクラス対抗戦だったり、学年別トーナメントがあると思う。そこでクラスだったり、学年で誰が勝ち上がるか予想を聞きたい」

 

「学年か……1年生しか分からないけど答えられる範囲内で答えるよ。クラス別に答えていくけど、1組は僕はともかく、一夏と箒の2人がやっぱり頭一つ抜いているかな? 昔やっていたのもあるけど……セシリアさんは未経験者と見て良い。やっている暇なかったと思う。ダークホースはのほほんさん。簪さんはアニメ観てたと思うからそこから『遊戯王』初めて、それで簪さんの遊び相手になって『遊戯王』やって、知らない間に強くなっていた可能性がある」

 

「セシリアは未経験か……純一の読み通りだ。カードとデュエルディスク渡された時、困惑してたからな……のほほんさんは意外だな」

 

「2組の鈴は僕らとやってたから多分直ぐに適応出来ると思う。厄介な相手になるだろう。ただ、クラス対抗戦で考えるなら3組が一番厄介。シャルさんとラウラさんの2人がいる。ラウラさんが副隊長のクラリッサさんから教わっているとしたら、相当な強敵になる筈だ。シャルさんは正直分からない。でももし、ラウラさんとクラリッサさんの指導を受けているとしたら、同じく厄介な相手になるな……」

 

「俺もそう思う。シャルとラウラは同じ寮部屋だから上手くやっているし、それこそお互いに教え合っているとしたら厄介だな……」

 

「現状分かっているのはクラス対抗戦で言えば1組と3組が頭一つ抜けている事。そしてここからが個人・タッグデュエル。4組の簪さんが僕と同格か、或いはそれ以上の強さだと思う。根拠は【HERO】デッキ使うからだと思う。僕も【HERO】デッキ使っているけど強いよ? 環境入りちょくちょくしているし、新規も定期的に増えているから侮れない相手になるだろうな」

 

 純一の予想は“クラスで見るなら3組が一番厄介。学年で見るなら簪が自分の最大の敵となる”との事。後に純一の予想は現実の物になるのだが、ここにダークホースとしてとある一人の女子生徒が入る事になるのだが、それはまた別の話になる。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・この小説での一夏君と純一君の関係

 親友でお互いを認め合っている仲で、切磋琢磨している感じを出しました。理想としては『遊戯王』の遊戯さんと城之内君です。最後の方で雑談してる描写も入れたのも仲の良さをアピールする為でした。

・IS学園の特殊制限改訂

 思い切りぶっ刺さっていました。この先の学園行事で行われる大会の結果次第では更なる制限改訂も待ち受けているので、感想を書きながら「次はこのカードが禁止になるのでは?」みたいに予想していくのも面白いかと。

・今回の使用デッキ

 一夏君は【ギャラクシー】、純一君は【準カオススタン】デッキでした。【ギャラクシー】は主力ランク8エクシーズが軒並み特殊制限で壊滅したので、多分この先出てこないと思います。【準カオススタン】はもしかしたらまだ出てくるかも……
 一夏君の声はカイトさんで脳内補完して下さい(汗)

・純一君の役割

 一応は主人公ですけど、どちらかと言うと兄貴的ポジションになるかなと。一夏君達にアドバイスしたり、成長を促したりする役目です。もちろん展開上負ける事もありますが、それはご愛嬌で。
 この小説は『遊戯王』で俺TUEEEEEE!するのではなく、皆でワイワイ楽しもうぜ!と言う感じを目指しています。今回の特殊制限も”学園側が純一君を弱体化させつつ、高額で強いカードを使えなくさせる事でパワーバランスを調整させる為に設けた””と言う設定です。

・現状のヒロインの使用デッキ(予定)まとめ

箒……六武衆(日本モチーフのカードテーマ)
セシリア……光天使(聖騎士も考えましたが、ちょっと難しそうなので)
鈴……戦華(中国繋がり)
シャル……ドラグニティ(拡張性と人気の高さ繋がり)
ラウラ……列車(エクシーズモンスターがドイツ繋がり)
簪……HERO、忍者(戦隊物や仮面ライダー繋がり)
楯無……影霊衣(水属性繋がり)
のほほんさん……マドルチェ(お菓子繋がり)
アーキタイプ・ブレイカー組……未定

次回は純一君の休日を記していきます。
五反田弾君と一緒に【Kozmo】デッキを作り、フリーデュエルしている様子を書いていこうと思います。

次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

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TURN03 安い! 強い! 簡単! Kozmoデッキを作ろう!

皆さんこんにちは。今回のタイトルはYoutubeの動画にありそうな感じですみません。

今回は第1話の序盤をリメイクしつつ、純一君が弾君と協力して【Kozmo】デッキを作る過程を記しました。この小説では普段脇役の弾君も準レギュラー扱いで出していく予定です。
この小説は一応架空デュエル小説ですが、このようなリアリティーも追及していくスタンスなのでよろしくお願いします。

※小説のタイトルとタグを訂正したりしましたが、近い内に注意事項と小説で行われるルールをまとめようと思います。

※小説の章は過去に発売された『遊戯王OCG』のパックの名前から取っていきます。


 来週の月曜日にデュエルディスク型のISによるプレゼンと、IS学園で行われる『遊戯王』の説明会を控えたとある休日。

 純一は自室でパソコンを操作しながら、手元にあるメモに何かを記している。それは束が推薦した純【Kozmo】デッキのレシピ。自分がどのカードを持っているか一通り把握した後、インターネットで大会優勝者や有名動画投稿者のデッキレシピを見ながら、自分が使いやすいように構築を考えている。

 もちろんIS学園での特殊制限ルールを踏まえた上での構築になるが、先ずは公式大会で使われる構築にしてみて、そこからIS学園仕様に寄せていこうと言うのが純一の考えだ。

 

「取り敢えずこんな物かな? いや~ゴーキンが禁止なのはやっぱりきつい。相性良いのにな~代わりは《闇の誘惑》にするかな? でも準制限カードだから、そこに制限カードの《封印の黄金櫃》入れて、4枚目の《抹殺の指名者》にするか……」

 

 今はIS学園で使うレシピを考えている最中。純一が悩んでいるのは《強欲で金満な壺》と言う魔法カードを入れる代わりに、どのカードを入れるかと言う事。

 ゴーキンこと《強欲で金満な壺》。自分のエクストラデッキの裏側表示のカードを3枚、若しくは6枚ランダムに除外すると除外したカード3枚につき1枚ドローする、最大で2枚ドローが可能な超強力な魔法カード。

 エクストラデッキを多用する・依存するデッキには採用しにくいが、メインデッキだけで戦えるデッキや、エクストラデッキをそこまで必要としないデッキ等に採用しやすい。例えば【メタビート】や【トゥーン】デッキのように。

 【Kozmo】はメインデッキだけで戦えるデッキなので、《強欲で金満な壺》を採用する事が出来る。しかし、学園の特殊制限ルールの“市場での平均価格が1000円以上するカードは使用禁止”と言う事項に引っ掛かった為、《強欲で金満な壺》はIS学園でのデュエルでは使用禁止となってしまった。束に確認した所、“幾らそのカードを使えるデッキが限られたとしても、高額カードであれば問答無用で禁止になる”と言う回答が返ってきた。

 その為、3枚入れようとしていた枠を他のカードで代用する事となった。純一が考えているのは魔法カードの《闇の誘惑》。デッキから2枚ドローし、その後に手札の闇属性モンスター1体を除外する準制限カード。【Kozmo】は闇属性モンスターが多い為、このカードを投入しても相性が良い。

 《封印の黄金櫃》。デッキからカード1枚を選んで除外し、発動後2回目の自分スタンバイフェイズに、この効果で除外したカードを手札に加える効果の魔法カード。環境によって制限から準制限、そして無制限を行ったり来たりと忙しいが、【Kozmo】デッキに入れると、効果で除外したモンスターをフィールド魔法、《Kozmo-エメラルドポリス》の効果で回収すると言う、疑似的なサーチが出来る。

 《抹殺の指名者》。宣言したカード1枚をデッキから除外する効果持ちの速攻魔法。ターン終了時まで、この効果で除外したカード及びそのカードと元々のカード名が同じカードの効果は無効化される。

 主な使い方としては相手のデッキのキーカードを除外すると言う、メタカードの側面がある一方、《封印の黄金櫃》と同様に効果で除外したモンスターをフィールド魔法、《Kozmo-エメラルドポリス》の効果で回収する事も出来る。

 

「まぁ今日は一夏とカードショップ行って、色々話しながらデッキ組んでフリー対戦する予定なんだけど……あれ? 一夏から電話だ。どうしたんだろう?……はい、純一です」

 

『純一か? 悪いけど今日カードショップ行けなくなった……ごめん!』

 

「何かあったのか?」

 

『その……ついさっき箒達が俺の家に来て、これから一緒にカードショップ行く事になったんだ。純一がいつも行っている所とは違うから会う事は無いけど……ごめんな。せっかくの予定が台無しになって』

 

「成る程……そりゃ仕方ないな。一夏、今日は箒達が満足するまで付き合ってあげて。僕の事は気にするな。一人で出来るから。今日の埋め合わせはまた次の時に」

 

 純一のこの日の予定。一夏と共に地元にあるカードショップの『デュエルラボ』に行って、【Kozmo】デッキに必要なカードを買い足してデッキを完成させる予定だった。

 同時に一夏のデッキも構築して完成させ、2人でフリー対戦しながらデッキの動かし方を体に染み付かせる。本来であればその予定だったが、一夏からの電話でそれが無くなった。

 箒達に振り回されている一夏の様子を想像して苦笑いを浮かべると、純一は身支度を済ませて『デュエルラボ』に向かっていった。

 

ーーーーー

 

(これで一通り足りなかったカードは揃った……これからは必要そうなカードも買うし、後はどんなデッキにしていくかが問題だな。まぁ帰ってから考えるとするか……)

 

「ん? あれ? 純一、お前来てたのか?」

 

「その声は……」

 

 『デュエルラボ』の店内。メモ用紙に記載したカードを一通り揃えた純一が考え事をしていると、そこに赤い長髪にバンダナを巻いたイケメンが声を掛けてきた。

 彼の名前は五反田弾。純一の中学生時代からの親友であり、デュエル仲間でもある。どうやらカードやパックを買いに来ているのだろう。弾の実力は純一に匹敵するレベルであり、彼自身も大会での優勝経験もある。

 

 

「弾。まさかここで君達に会うとはな……」

 

「あぁ。純一、お前『遊戯王』に復帰するのか?」

 

「まぁそんな感じだ。人目が付くから詳しい事はここでは話せないけど……」

 

 純一は弾にカードショップに来た理由を話した。【Kozmo】デッキを作っている最中なのだが、【Kozmo】カードが足りない事に気付き、買い足しに来た事を。

 弾はデッキをそこそこ持っている筈の純一がまたデッキを作ろうとしている事に疑問を抱くと、純一が先にその質問に答えた。

 

「【Kozmo】デッキか……俺も大会で見かけた事あるからアドバイスは出来るぞ?」

 

「ありがとう。こうなったのもIS学園が特殊制限ルールを定めたおかげで、市場価格の平均が1000円以上するカードが使用禁止になったんだ……おかげで【青眼(ブルーアイズ)】デッキが大打撃を受けたよ」

 

「かなり変わった特殊制限ルールだな……でも構築変えれば戦えるだろう? そりゃエクストラは制限されるけど……」

 

「そうなんだよ……けど僕には出来ない。僕にとって青眼(ブルーアイズ)亜白龍(オルタナティブ)から始まったんだ。魂のカードが使えないなんて……デュエリストとしてこんなに辛い事はないよ」

 

 純一は劇場版『遊戯王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』の前売り券特典カードとして配布された亜白龍(オルタナティブ)のふつくしさとデザインに惹かれ、【青眼(ブルーアイズ)】デッキを構築した。

 それ以来大会で優勝した時も、【青眼(ブルーアイズ)】が環境落ちしてからも、イベントに参加した時もずっと肌身離さず、色々と構築を変えながらも【青眼(ブルーアイズ)】デッキを使用し続けた。

 しかし、IS学園の特殊制限ルールで亜白龍(オルタナティブ)が使用禁止になった為、IS学園では【青眼(ブルーアイズ)】デッキを使わないと決めた。それでもちゃっかり新規カードは購入する予定でいるが。

 

「そっか……お前の亜白龍(オルタナティブ)への愛は俺もよく知っている。スリーブもプレイマットも揃えるくらいだからな……そりゃ使えないと言われたら精神的に来るよ。と言う事は一夏も同じか。ランク8エクシーズの大半が使用禁止になったからか」

 

「本当は一夏と一緒にここに来る予定だったけど、箒達にドナドナされたみたいで……」

 

「ありゃ~それは大変だな」

 

「それに普段使っている《うらら》や《増G》も駄目となった今、構築を工夫して考えないと、IS学園の特殊制限下の大会で勝ち上がるには恐らく難しいと思う。IS学園にいる女子生徒は皆すげぇ倍率の中を勝ち抜いて入学してきたエリートなんだ。『遊戯王』にも直ぐに適応してしまうだろう」

 

「まぁ《幽鬼うさぎ》や《ヴェーラー》が禁止になっていないのは良心的だな……なぁ純一。これから家帰ってデッキ作るんだろう? 俺も付き合って良いか?」

 

「良いよ? 調整相手お願いします!」

 

 純一達はお互いに購入するカードを持ってレジに並び、会計を済ませてカードショップを後にして純一の家へと向かっていった。

 そこでIS学園での特殊制限環境仕様の純【Kozmo】デッキを作り、フリーデュエルをして調整を行う。この後の予定は決まった。その前に途中のラーメン屋に立ち寄り、ラーメンを食べたのは余談だが。

 

ーーーーー

 

「さてカードショップで言っていたけど、IS学園で『遊戯王』をやる事になった理由を話す。けどこれは他言無用で頼む。僕は君を一人のデュエリストとして、一人の親友として信頼している」

 

「何やら曰くつきって奴か……」

 

 純一の自室。そこで彼は弾に自分が『遊戯王』に復帰する事となった経緯を話した。デュエルディスク型のISのモニターに選ばれた事。それが切っ掛けでIS学園で『遊戯王』を行う事になった事。非公認で小規模・中規模とは言えど、大会優勝経験のある自分が皆を引っ張らないといけなくなった事。

 親友である彼に全てを打ち明けた。もちろん良い事ばかりではなく、今まで一夏の影だった自分が光を浴びて良いのかといった苦悩も全て打ち明けた。

 

「IS学園に入学してから、僕は一度も輝いた事が無かった。僕の直ぐ隣に一夏がいた。初心者なのに専用機貰えて、何か事件やトラブルがあるといつも解決して、その度に皆からワーキャー言われて、色んな女性から好意を抱かれて……僕なんか一度も光を浴びた事なんか無かった。テストで20番以内に入っても、一夏と一緒にトラブル解決しても、誰も何も言ってくれなかった。皆は僕の事なんかどうでも良いのかなって思えて……でもそんな僕が初めて輝けるチャンスを手にしたんだ。けど……こんな僕で本当に良いのか、もっと相応しい人がいた筈なんじゃないかだと思えて……」

 

「そっか……俺はIS学園の事はよく分からないけど、純一が悩んでいる事は分かったよ。一夏は確かにイケメンで女性から好かれやすいし、千冬さんの弟だから専用機を貰えて当然だよな……でも皆が皆、お前をどうでも良いと思っていないはずだ。だってお前は“世界で2番目のIS男性操縦者”なんだろう? 世界でたった2人しかいない貴重な存在なんだろう? ISの男性操縦者は。それこそアメリカの大統領や日本の総理大臣よりも大事なんだよ。IS学園の先生もそうだし、ISの関係者も皆お前が分からない時に色々配慮しているんだよ。一夏から聞いたよ。すげぇ倍率のエリート学校に何もない人が放り込まれても、それなりに上手くやれてるって。国家代表が専属コーチなんだって? テストで良い点数取って、テストが近付けば皆から頼りにされているんだって? そんな奴をどうでも良いなんて思えないよ……普通は」

 

「……そんなもんかな?」

 

「お前はさ、もっと自分の事を認めてやれよ。そりゃ確かに隣に一夏がいて自分より凄い事やっているのは分かったけどさ、お前には一夏にはない良い所があるんだ。それは物事に真剣に取り組み、向き合う事だと俺は思う。『遊戯王』だってそうだろう? 最初は弱かった。でも一生懸命デッキ作って、大会やイベントに出て修行して、フリーデュエルで経験積んで、大会優勝するまで強くなったんだろう? その……今まで積み上げてきた努力が今回結果として出たんだ。ここから先はお前が輝く番だ。今まで一夏が好きにやってきたんだろう? だったら純一も好きなようにすれば良いよ」

 

「好きなようにしろ……か。そうは言われても、僕は思うんだ。これからは僕が皆を支えると言うか、リードしていかなければならないって。今まではISの事は色んな先生だったり、先輩だったり、同級生から教わりながら勉強していった。でも今度はその逆になると思う。『遊戯王』の事を皆に教えつつ、一緒に楽しんでいかなければいけない。と言うより僕にはその責任や義務がある。例え小規模・中規模だったとしても大会優勝経験があるから、実績や経験がある訳だから自分にすげぇ大役が来たんだ。これからはIS学園と、僕を信じてデュエルディスクを託す企業の看板を背負う事になる……そう思うと今から頭が痛いよ」

 

 弾は純一の“自分が皆に認められていない”と言う悩みを否定しながら励ます一方、純一は自分がIS学園と企業の看板となるだけでなく、自分にかつてない程の大役を任される事への重圧を打ち明けた。

 IS学園の皆だけじゃなく、デュエルディスクを渡す企業や全世界にいるデュエリスト達の思いを背負わなければならない。何故ならデュエルディスクのモニターに選ばれたのだから。自分達がしている『遊戯王』の新たなる可能性を示し、いずれ辿り着く場所の景色を見せてくれる先駆者なのだから。

 

「そうだよな……そう思うのも無理はねぇか。けど純一、お前色々考えすぎなんだよ。難しい事になると特にそうだけど……もっとこう……理論的じゃなくて感情的に動いても良いんじゃねぇの?」

 

「そう言われても難しいんだよ……いずれ僕は親父の跡を継いで社長になる。そういう夢がある。親父から教えられた事がある。ボスとリーダーの違いについて。ボスは強いだけの奴が務める。リーダーは強くて皆を引っ張れる奴が務める。……ってな。僕は束さんから託された。皆にデュエルの楽しさや面白さを伝える事を。色んな人の思いや期待を背負わされるんだ。考えすぎって言われても……僕よりもっと強い人だったり、人間が出来た人ならもっと楽にいけるだろうけど」

 

「そっか……まぁまた何か困った事あったら遠慮なく俺や数馬に伝えてくれよ。話を聞く事なら出来るからさ。それで前置きがすげぇ長くなったけど、【Kozmo】デッキを作っていこう! ……そもそもの話、純一って【Kozmo】知っている?」

 

「あぁ。大会でこれまで何度も対戦してきた。勝ったり負けたりを繰り返してきた。……嫌でも知っているよ。相手のターンだったり、自分のバトルフェイズ中にオールラウンドに動けるデッキって印象が強い。下級サイキック族と上級機械族の2種で構成されていて、サイキック族がフリーチェーンでフィールドから除外出来る効果を持っていて、フィールドから除外されると手札から自分よりレベルの高いモンスターを特殊召喚出来る。上級機械族は戦闘・効果破壊されると、デッキから自分よりレベルの低いモンスターを特殊召喚出来る。下級サイキックで展開しつつ、上級機械族で制圧していく感じかな?」

 

「正解。流石何度も戦ってきただけあるね。臨機応変に戦えるのが【Kozmo】の強みで、ソリティア嫌いでオールラウンドに戦うデッキ好みの純一にはぴったりだよ。先ずはデッキを作る上で先ず軸を決めよう。下級サイキック族の《ドロッセル》と《フェルブラン》、どっちを軸にする?」

 

 【Kozmo】デッキの構築を始めた純一、弾、数馬の3人。先ずはデッキを作る上で必要な軸を決める事。やりたい事を決める事。

 このデッキの場合、下級サイキック族の《Kozmo-ドロッセル》と《Kozmo-フェルブラン》と言うサーチャーが2体いる。

 両者を混ぜ合わせた構築も十分可能だが、この2体の性質の違いは戦略にも若干の影響を及ぼす為、まずはどちらを軸にするかから決めるとデッキの方針を安定させやすい。

 今回の目標は《Kozmo-フェルブラン》軸のデッキを作る事。このデッキは相手をコントロールしながら盤面を制圧していく戦術を中心にしている。。

 

「え~と……下級サイキック族には共通効果があって、フリーチェーンでフィールドから除外すると、手札から自分よりレベルが高いモンスターを特殊召喚出来るんだったよね?」

 

「そうそう。《ドロッセル》が相手に戦闘ダメージを与えると、500LP払ってデッキからのサーチ効果が発動出来る。《フェルブラン》はエンドフェイズに500LP払うとデッキから《Kozmo》カードを3種類見せて相手にランダムで1枚選ばせる。選んだカードを手札に加えて、残りは墓地に送る。墓地肥やしをしながらサーチが出来るって奴だ。どっちにする?」

 

「僕の性格的に考えて、《フェルブラン》軸の方が良いかな?《ドロッセル》でサーチするとなると、《ドロッセル》の攻撃力自体がそこまで高くないから、戦闘補助系のカードを入れないといけなくなる。そうなるとデッキの枠を食う事になるから、《フェルブラン》の効果を使いつつ、《ドロッセル》で補助していくスタイルが良いな。その方が良いかな?」

 

「俺もそう考えていたよ。それじゃ《フェルブラン》軸の【Kozmo】デッキの構築を始めますか」

 

 純一が事前に考えていた構築案を元に、弾と共に《フェルブラン》軸の【Kozmo】デッキの構築を始めた。墓地肥しを兼ねたサーチ効果を持つ《Kozmo-フェルブラン》を主軸としたタイプのデッキ。

 効果の発動タイミングの関係上相手ターンに動く事が多い為、展開がややコントロール寄りのビートダウンになる事が特徴。

 墓地からの蘇生を戦術に組み込める事から、《Kozmo》の弱点の1つである除外封じにある程度対処出来る強みがある。

 

「取り敢えず軸となる《フェルブラン》は3枚入れるとして、《フォルミート》は……2枚で良いかな? 3枚入れ……るか? 正直3枚入れなくても良い気がするんだよな……」

 

「《フォルミート》は1ターンに1度、500LPを払うと、除外されている自分の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚出来る。でも必ずしも除外されているとは限らないし、かと言って手札には持っておきたいし……2枚で良いと思う」

 

「だな。《フォルミート》は2枚、《ドロッセル》も2枚で良いよ。レベル4に《グリンドル》と《ダーク・ローズ》がいるけど、どっちにするか……」

 

「俺個人の意見としては《グリンドル》がお勧め。攻撃力は《ダーク・ローズ》が勝っているし破壊耐性もあるけど、《グリンドル》は《月の書》搭載だからな~それに攻撃力1900あるから、効果使ってから《ライオウ》とか《虚無魔人》も突破できるし……」

 

「それとさ、これ思い出したんだけど、《グリンドル》に、《クリスタルウィング》や《インフィニティ》にモンスター効果を無効にさせる効果を使わせて、手札にある《ダークシミター》を特殊召喚して破壊するテクニックを使えるから、2枚は入れたいね」

 

 先ずは《Kozmo》のサイキック族下級モンスターを選んでいく2人。一定値のライフポイントを支払うと、それぞれの《Kozmo》モンスターカードの効果を発動する事が出来る。

 特殊召喚できるのは自身のレベルに1足した数値以上なので、基本的には低レベルの《Kozmo》モンスターを使い、広い範囲の高レベル《Kozmo》モンスターを展開していく事が理想的だ。

 

「えっ、そういうテクニックもあるんだ!? 実際見たの!?」

 

「あぁ。大会の時に実際味わった。それで《クリスタルウィング》突破されて負けた……あれは本当に凄かった。そうしたら先に下級の《Kozmo》モンスターを特殊召喚出来るカードを入れよう。《緊急テレポート》。速攻魔法で、手札・デッキからレベル3以下のサイキック族モンスター1体を特殊召喚出来る。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズに除外されるけど、効果で除外される前に下級の《Kozmo》モンスター共通効果使って、自分を除外して自分のレベル以上の《Kozmo》モンスターを特殊召喚すれば問題ないね」

 

「それに速攻魔法だから相手ターンに使ったり、バトルフェイズに使って追い打ちかけれるから良いよね~でもこれは準制限カードだから2枚までしか入れられない。次は上級《Kozmo》モンスターだね。《-ダーク・エルファイバー》は上級モンスターでサイキック族だけど、このカード以外のモンスターの効果が発動した時、 1000LP払うとその発動を無効にして破壊できる。取り敢えずこれを立たせておけば大丈夫。駄目なら効果使って、上級モンスターを特殊召喚すれば良い。2枚入れよう」

 

 雑談を交えつつ、先ずは下級のサイキック族《Kozmo》モンスターを選んで枚数を入れ終えた純一と弾。次は上級の機械族《Kozmo》モンスターを選びつつ、《Kozmo》と相性の良いカードを選んで枚数調整を行う。

 

「ここから上級機械族になるけど、彼らは戦闘・効果破壊されて墓地に送られたら自身を除外し、自分よりレベルが低いモンスターをデッキから召喚出来る効果持ちなんだ。先ず《-スリップライダー》は2枚入れよう。召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドの魔法・罠カード1枚を破壊出来る。セットカードの除去要員なんだけど、これ相手だけじゃなくて、自分の魔法・罠カードでも良いんだよ。この効果を使って、専用フィールド魔法の《エメラルドポリス》を破壊する事も出来る。《エメラルドポリス》が効果破壊されると、デッキから《Kozmo》カード1枚を手札に加える事が出来る」

 

「そうなんだよな~それ知った時も驚いたよ。全部で3つ効果があって、1つ目はさっき言った効果で、もう1つが除外されている自分の《Kozmo》モンスター1体を手札に戻す効果。ただこれを使うと、モンスターの元々のレベル×100LP失うから使う時は気を付けないと。もう1つは手札の《Kozmo》モンスターを任意の数だけ相手に見せた後にデッキに戻して、シャッフルしてその数だけドローする効果。効果破壊された時以外の2つの効果はターン1制限付いているから気を付けよう」

 

「そうなると《エメラルドポリス》を持ってくる《テラ・フォーミング》を制限だから1枚入れるとして、デッキとか手札から《Kozmo》モンスターを除外する手段がないと駄目だな……」

 

「やっぱりドローソースは欲しいね。手札を充実させないと、《Kozmo》お得意のモンスターを入れ替える戦術は使えない。本当ならゴーキンを入れたいけど、市場環境で禁止だから《闇の誘惑》だな。これは2枚ドローした後、手札の闇属性モンスターを除外するんだけど、上級機械族の殆どが闇属性だから相性良いんだよ。《エメラルドポリス》と組み合わせれば、除外したモンスターを回収出来るからお得だね」

 

 購入したカードや事前に用意してあるカードにスリーブを通していく純一。彼のスリーブは三重になっている。最初はカードにぴったり合ったインナースリーブ。次は公式スリーブ。純一は【青眼】のスリーブを使う事が多い。最後は硬くて丈夫なスリーブ。

 基本的にはこの順番で重ねスリーブをしており、それを入れる作業が面倒である為、入れるカードが決まったら次々とスリーブに通している。

 

「でも準制限だから2枚しか積めないね……後は制限カードだけど《封印の黄金櫃》。これはデッキからカードを1枚除外する魔法カード。発動後2回目の自分のスタンバイフェイズに手札に加えられるけど、その前に回収するのが多いかな? 他には《抹殺の指名者》。これは3枚入れよう。効果なんだけど、宣言したカード1枚をデッキから除外出来る。ターン終了時まで、この効果で除外したカードと元々のカード名が同じカードの効果は無効化される。《封印の黄金櫃》と使い方は同じだけど違って速攻魔法だから相手ターンに打てるし、何より相手を妨害出来るのも強い。Vジャンプの付録カードだったなぁ~これ。3冊買ったぜ?」

 

「な、何て模範的なデュエリストなんだ!? 《ランドウォーカー》は自分の《Kozmo》カードが戦闘・相手の効果で破壊される場合、代わりに他の自分フィールドの《Kozmo》カードを破壊出来る。さっき言った《エメラルドポリス》と組み合わせれば、デッキから《Kozmo》カードを加えられて無駄がないね。これはピン差しで。《フォアランナー》は攻撃力2800でライフ回復効果持っているけど、そこまで使わないと思う。でも入れておいて損はないから 取り敢えず1枚は欲しいな……相手の効果の対象にならないし」

 

「このデッキのエース、《ダークシミター》は3積み確定。攻撃力3000、召喚・特殊召喚した時にモンスター破壊、相手の効果の対象にならない、しかも戦闘・効果破壊されたら後続呼べる。強いとしか書いてない!」

 

「《ダークエクリプサー》は……これ入れるか? 効果は強いけど墓地にモンスターいないと意味ないし……」

 

 ここからは《Kozmo》の機械族最上級モンスターの選別に入った。エースモンスターの《ダークシミター》は効果が強くて打点も高く、相手の効果対象にされず、破壊されても後続を呼べるから真っ先に手札に確保しておきたい。

 現在の環境だけでなく、IS学園の特殊制限環境でも極めて強力なモンスターになる事は間違いない。それだけに大会で活躍して制限カード入りしそうなのが怖いが。

 

「まぁ《フェルブラン》の効果で墓地肥やせるし、攻撃力3000で耐性あるからアタッカーとして使おう。回してみて要らなければ、一度抜いてサイドデッキに入れれば良いし」

 

「取り敢えずデッキの主要パーツはこれくらいかな? 枚数は……31枚。残る9枚をどうするか考えよう。流石に守りの要素を入れないと駄目な気がする」

 

「守りとなると、《エナジーアーツ》と言う罠カードになるね。これは自分フィールドの《Kozmo》モンスター1体を破壊し、相手フィールド・墓地のカード1枚を選んで除外する。これ“選んで”と書いてあるから、“対象を取らない”除去になるんだ。破壊耐性持ちはこのカードで処理しよう」

 

「《リビングデッドの呼び声》は相手ターンに動くのなら採用した方が良いな。《フェルブラン》の効果で墓地肥やせるし、《ダークシミター》を蘇生すればけっこう威圧感あるから出したいね」

 

「後は手札誘発と汎用カードだね。《幽鬼うさぎ》3枚と、制限カードの《ハーピィの羽根箒》を1枚入れて完成だな!」

 

「41枚になったけど、メインデッキは40枚~45枚が理想だから良いんじゃないかな? 《ワン・フォー・ワン》入れても良い気はするけど取り敢えず回してみな? 俺はその間対戦するデッキをそっちの特殊制限に寄せるから」

 

 取り敢えず完成したIS学園仕様の【Kozmo】デッキ。純一は一人回しをしてデッキの動かし方を一通りシュミレーションし始める。

 その間に弾と数馬は持ってきているデッキを調整していた。それが終わると、純一が持っている分厚いカードファイルを見始めた。その数とクオリティーの高さに苦笑いを浮かべたのは秘密である。

 

「いや~出来た~!」

 

「お疲れさん。完成した純【Kozmo】デッキ、戦えそうか?」

 

「あぁ。元々パーツは持っていたとしても安く組めたし、回すのも比較的簡単。それでいて強いから学園の特殊制限ルールでも十二分に戦えそうだ。それにソリティアみたいな展開がそんなにないから、対戦相手に優しいのも良いね。強さも強過ぎず、弱すぎずでフリー対戦にちょうど良いね」

 

「それじゃあデュエルさせてもらいましょうかね!」

 

「僕の純【Kozmo】デッキを満足させてくれよ!」

 

 純一は純【Kozmo】デッキを用いて弾とのフリー対戦に挑む事にした。お互いにラバー製のプレイマットを広げ、デッキをカット&シャッフル。“デュエル!”と言う掛け声と共に対戦を始めた。

 

ーーーーー

 

「いや~強ぇな【Kozmo】。流石元環境デッキだけあるよ」

 

「そういう弾も相変わらず強いな!」

 

「純一には負けるよ」

 

 気が付いたら外は夕暮れ時になっていた。一体どれくらいの時間デュエルしていたのだろう。何回対戦したのだろう。何度デッキを変えたのだろう。考えるのが面倒になるくらい、二人は心からデュエルを楽しんでいた。

 勝てば嬉しい。負ければ悔しい。普段大会特有のピリピリした雰囲気を味わっている二人だが、フリー対戦では肩の力を抜いてデュエルしている。

 

「にしても特殊制限環境か……一体どうなるのやら。IS学園の特殊制限だと、今環境にいるテーマは使用禁止になるんじゃないかって思う。【サラマングレイト】や【エンディミオン】や【シャドール】みたいなストラクである程度組めるテーマは分からないけど……」

 

「やっぱりか~僕らが出ていた特殊制限大会もそうだし、特殊制限って聞くと普通はそっちを思い浮かべるんだよね。ファンデッキしか使えない大会だったり、そういうイベントもあるから僕自身は全然良いんだよ。多分だけど【オルターガイスト】や【トリックスター】のように安く組めて、それでいて環境入りの経験のあるデッキがこれから活躍しそうな気がする。でもね、そういうデッキが組めるのって僕達だけだと思うんだ。カード知識がそれなりにあって、かつ環境の事を知っていないと無理だから」

 

「まぁでもIS学園にいる女の子達の大半は『遊戯王』初心者だし、大会の事を考えるのはこれからで良いだろう。でさ、『遊戯王』を始めるのってけっこうハードルが高いと思う。と言うのも、ルール難しいし、効果処理ややこしいし、何よりお金がかかるだろう? だから学園側も高いカード使用禁止にしたんだと思う」

 

 数馬の予想に純一も同意していた。IS学園の特殊環境では現環境を支配しているテーマが軒並み禁止に追いやられる事を。

 そもそも特殊制限大会は現環境で使われているテーマやキーカードを禁止・制限する事で、プレーヤーのデッキ構築力やアイデンティティを存分に発揮させる為にある。今回の場合は初心者・復帰勢の人でも大会を楽しめるようにする配慮なのだが。

 その中で昔は環境にいたけど、禁止制限や規制やカードパワーによるインフレで環境落ちを余儀なくされたデッキが活躍する。例えば【ライトロード】や【BF】等。

 しかし、それを理解してデッキを構築出来るのは、それなりにカード知識のある純一のような一握りの人間だけだ。その時点で格差が出来ているが、こればかりは仕方ない。純一は特殊制限ルールで大幅な弱体化を余儀なくされたが、それでもまだまだトップに君臨出来るだけの力がある。

 

「多分僕以外の経験者以外の生徒は、『ストラクチャーデッキ』を3箱買って、それをベースに独自のデッキを作っていく感じかな? となると環境に入りそうなのはその辺かな?」

 

「俺もそう思う。となると今出ているストラクで環境入りしそうなテーマは……やっぱり【マシンナーズ】かな? 俺達がまだ小さい頃に出たストラクがリメイクされたんだぜ? すげぇよな……もう良い世の中になったよ」

 

 純一は大会の上位を占めるのは自分達専用機持ちや代表候補生だが、使われるデッキは『ストラクチャーデッキ』を3箱買って構築した物と予想する。

 それに頷く弾は環境入りするのは【マシンナーズ】のように汎用性が高く、それでいてシンプルで強いテーマやデッキが来る事を告げる。後にこの予言は的中するのだが、それはまた別の話にしよう。

 

「次は【ドラグニティ】だもんな……学園だとこうして環境の事とか話せる人いなくなるからな……休日は弾や数馬、カードショップにいるデュエリスト仲間が僕の満足を満たしてくれるよ」

 

「おいおい。学園に女友達の一人二人いるだろう? 彼女達ともデュエルしてやれよ。俺も付き合うからさ」

 

「ありがとな。にしても【Kozmo】デッキか……まさか今まで散々僕を苦しめたデッキと一緒に戦うなんて夢にも思わなかったよ。しかも束さんが僕にお勧めしたなんて……」

 

「束さんが!? どういう風の吹き回しなんだ!?」

 

「多分さ、【Kozmo】って宇宙をテーマにしているだろう? 厳密に言えば違うけど……そもそもISって宇宙空間での活動を想定して開発されたマルチフォーム・スーツだろう? 宇宙進出って夢を束さんが叶えたいから開発した……今はそっちの分野での研究が停滞しているけど、束さんはやっぱりISを宇宙で使いたい思いがあるんじゃないかな? だからデュエルディスク型のISを使う事になった僕に、同じ宇宙をテーマにした【Kozmo】を使って欲しいから勧めた。……と信じたいね」

 

 その後も純一と弾はデュエリスト同士仲良く談笑に耽っていた。来週からいよいよデュエルディスク型のISを渡され、本格的にIS学園で『遊戯王』が行われる。

 果たしてそのデュエルは自分を満足させてくれるのか。自分は何処まで通用するのか。自分の限界を突き破り、見果てぬ先を目指す純一の目には楽しみしかなかった。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・この小説における五反田弾君とは

 原作では一夏君の悪友ですが、この小説ではそれに加えて純一君の親友兼デュエル仲間と言う設定です。実力は純一君と互角と言う設定にしていますが、使うデッキはまだ考えていません(汗)
 イメージは戦士族モンスターを使ってそうなので、使用デッキは【カオス・ソルジャー】にしようか考えています。
 純一君は弾君を親友として、デュエリストとして心から信頼していて、一夏君や両親には言えない事を正直に打ち明けていきます。例えば今回みたいな苦悩だったり。

・純一君にとっての【青眼】デッキ

 亜白龍に一目ぼれしてデッキを作り、大会に出場しまくったと言う設定です。スリーブとプレイマットも亜白龍と言う異常なこだわりを見せており、亜白龍が入らない青眼デッキは使わないと言い切る程です。
 なのでこの小説では【青眼】デッキのデュエルは多分1~2回あるかないかくらいの割合になると思います。

・純一君の実績と小説での立ち位置

 非公認・公認大会の最高成績……優勝 店舗大会・CSの最高成績……準優勝

 ※CSの最高成績は青眼の全盛期で、それ以外はベスト4が最高成績です。

 今作では一応このような設定ですが、特殊制限ルールによって大幅な弱体化を喰らっています。自身が実績持ちで専用機持ちになり、また企業のモニターに選ばれた為、”自分が皆を引っ張っていく”と言う自覚と覚悟を持つ事になります。
 立ち位置としては主人公でありつつ、一夏君達を引っ張りながら成長を促す兄貴的ポジションになるかと。

・この小説における環境デッキは?

 『ストラクチャーデッキ』で純粋に強い【マシンナーズ】、安くて強い【Kozmo】や【オルタ―ガイスト】等が来るかな?と思います。制限カードになりそうなのは《スキルドレイン》でしょうか。あれは強い(汗)ただ私が使うと敗北フラグですが(笑)

・束さんが純一君に【Kozmo】デッキを勧めた理由

 本編で言及していましたが、本来宇宙空間での活動を想定して開発されたISと、同じ宇宙をテーマにしたデッキ繋がりと言う事です。

 以下に掲載するのは今回の話で純一君が構築した【Kozmo】デッキ。純粋な【Kozmo】デッキです。IS学園仕様になっており、普通のレギュレーションでは《灰流うらら》や《強欲で金満な壺》を入れると、より強くなります。デッキ枚数は41枚。
 遊戯王の初心者・復帰勢・【Kozmo】を使いたい方は是非参考にしてみてください。アドバイスがあれば遠慮なくどうぞ。

・モンスター:22枚

ダークエクリプサー×1
ダークシミター×3
フォアランナー×1
ランドウォーカー×1
スリップライダー×2
ダーク・エルファイバー×2
グリンドル×2
ドロッセル×2
フォルミート×2
フェルブラン×3
幽鬼うさぎ×3

魔法:13枚

エメラルドポリス×3
テラ・フォーミング×1(制限カード)
緊急テレポート×2(準制限カード)
ハーピィの羽根箒×1(制限カード)
闇の誘惑×2(準制限カード)
封印の黄金櫃×1(制限カード)
抹殺の指名者×3

罠:6枚

リビングデッドの呼び声×3
エナジーアーツ×3

純一君のコメント:ゴーキン使えるようにして欲しいなぁ……

次回は『呉島エンタテインメントスタジオ』のプレゼンと、カリスマデュエリストによるルール説明を記していきます。

次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

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TURN04 この学園はデュエルフィールドとなる!

話数のカウントを”~話”から、”TURN”に変更しました。
そちらの方が『遊戯王』っぽいと思ったので……

第1章は次回で終わる予定です。
次々回からいよいよIS学園で『遊戯王』が行われると言う事で、改めてルール説明もかねて授業風景を描写しようと思います。
原作だと学園らしい事していないような……それで良いのかな?

今回はプレゼンとルール説明の回となります。
前回の前書きにも記しましたが、ルール解説と登場人物紹介を合わせて投稿するので暫しお待ちを。
デュエル描写がある場合、サブタイトルの所に星マークを付ける事にしました。


 純一が『呉島エンタテインメイトスタジオ』の本社に赴き、デュエルディスク機能を搭載したISのモニターになる面談を行った金曜日。それから3日経過して月曜日になった。

 この日の6時間目に全校集会が行われる。そこでは『呉島エンタテインメントスタジオ』の社長の呉島高虎と、開発事業部部長の仙谷竜馬が自社で開発したデュエルディスクについてプレゼンテーションを行う。

 そして『KONNAMI株式会社』所属のカリスマデュエリスト、マスター・ユウギがIS学園で行う『遊戯王』のルールを説明する。このような手順になっている。

 

「おはようございます!」

 

『純一君おはよう!』

 

「あ、純一君。髪切ったの?」

 

「ん? あぁ、昨日美容院に行ったんだ。寝癖が出来るようになったからそろそろかなと思って……やっぱり僕は短い髪が好きだよ。こう見えて癖毛だし」

 

「そうかな? あたしは長い方が好きかな?」

 

「いや私は今の方が良いよ~」

 

 月曜日の朝。休日に英気を養いつつ、『遊戯王』の勉強とIS学園の勉強に打ち込んだ純一。彼は1年1組の教室の扉を開くと、元気よくクラスメートに挨拶をする。

 純一の声を聞いた女子生徒達は一斉に純一の方を振り向くと、純一も元気よく挨拶を返して席に着く。女子生徒達に微笑みを見せながら、日曜日に髪を短くした純一は軽快に言葉のキャッチボールを交わす。

 

「純一おはよう。土曜日はごめんな」

 

「一夏おはよう。気にすんな。こっちは弾と一緒に遊んだから」

 

「そっか……それなら良かった」

 

「次はさ、弾や数馬と一緒にどう? 男連中でやるのもたまには悪くないよ?」

 

「そうだな……また次の時に」

 

 自分の所に来た一夏と話している間に時間が過ぎ、チャイムがなって朝礼の時間となった。全員が席に付き終わると、担任と副担任が教室に入って来た。

 1組の担任は織斑千冬。一夏の姉で、第1回IS世界大会総合優勝および格闘部門優勝者。ISに開発当初から関わっていた為、ISに関する知識は豊富で、操縦技術も他のパイロットよりも遥かに高い。公式試合で負けたことがなく、大会で総合優勝を果たした、世界最強のIS操縦者。その実力は健在だ。

 純一の両親とは小さい頃からお世話になっており、まるで純一の姉みたいに可愛がられていた過去がある。その為純一の両親には頭が上がらず、純一がIS学園に入学する事が決まった時は純一を守る事を誓い、純一を自分の二人目の弟のように可愛がりつつ、叱咤激励している。

 副担任は山田真耶。元日本代表候補でISの操縦技術は千冬が認める程の高さを誇っている。二人の代表候補生が同時に挑んでも歯が立たない程に。

 

「先週も話したが、今日の6時間目は全校集会だ。『呉島エンタテインメントスタジオ』の社長と、『KONNAMI株式会社』の方が来て説明会を行う。と言うのも、IS学園で『遊戯王OCG』をやる事になったからだ」

 

『ッ!?』

 

「静かに! 今回の話が理解出来ない人や付いていけない人がいるのも無理はない。実は『ソリッドビジョンシステム』を開発した『呉島エンタテインメイトスタジオ』が、『遊戯王OCG』を生み出した『KONNAMI株式会社』と企業提携をする事になった。皆も新聞やニュース、ネット情報を見て知った筈だ」

 

 1組の中で事前に話を聞いていた生徒は純一、一夏、箒、セシリアの4人だけ。残る女子生徒達は今回初めて聞かされた内容に驚き、教室中でざわめきが起きる。

 まさかIS操縦者や専門のメカニック等、ISに関連する人材を育成する特殊国立高等学校で『遊戯王』をする事になるのか。一体どういう風の吹き回しなのか。そもそも自分達に教えられる人はいるのか。ちゃんと対戦出来るのか。

 様々な不安や疑問が渦巻くが、千冬は一喝してクラス全体を静かにしてから話を続ける。今回IS学園で『遊戯王』をする事になった理由を話す為に。

 

「『KONNAMI株式会社』は最大のヒット商品の『遊戯王OCG』を、『呉島エンタテインメイトスタジオ』は主力商品の『ソリッドビジョンシステム』を合わせた物を開発した。アニメを観た人なら知っている筈だ。デュエルディスク。それを開発した。今までのコスプレ用ではない。アニメに出てくるキャラのようなデュエルが本当に出来てしまう。本物がついにこの世界に生まれた」

 

 1組の中には『遊戯王』のアニメを観た事がある人もいれば、純一達以外に『遊戯王』の知識がある人もいる。そんな彼女達は唖然となるしか無かった。

 無理もない。今まで実現不可能と言われていたデュエルディスクが現実の物になり、しかも自分達が使う事になるのだから。

 

「だが軍事利用される等の大事にならないように、ISにデュエルディスクを装着し、ISを身に纏いながら『遊戯王』を行う事が決定されている。スポーツ競技型のカードゲーム、『DS(デュエル・ストラトス)』だ。突然で大変済まないが、これからIS学園で『DS(デュエル・ストラトス)』を行う。その為には『遊戯王』の勉強をしなければならない。カードゲームだからと言って手を抜く事をしないように」

 

「織斑君、篠ノ之さん、セシリアさんの3人には事前にデュエルディスクと『遊戯王』カードを渡しました。そして、このクラスからデュエルディスク機能を搭載したISの専用機のモニターに黒田純一君が選ばれました!」

 

 真耶が告げた事実に一夏、箒、セシリア以外の全員が驚き、一斉に純一の方に視線を向けると、純一は恐縮したように何度も頭を下げていた。

 純一の事を信頼している人や彼の人となりを知っている人は歓迎するが、中には一夏ではなく純一が選ばれた事に疑問を抱いたり、不満に感じる人もいた。それを見た千冬は注意も込めて理由を説明する。

 

「純一を選んだのは『呉島エンタテインメイトスタジオ』側だ。それに純一には『遊戯王』の大会に参加して優勝したり、上位進出した経験がある。ショップで開かれる公認大会や非公認大会で優勝経験があり、店舗代表決定戦やCSといった大きな大会にも出て上位進出した経験がある。恐らくこの学園の中で一番頼りに出来るだろう」

 

「織斑先生。僕は強くありません。強いのは僕が作ったデッキであり、僕はたまたま運が良かっただけです。今強いデッキの傾向と対策をしっかりやっただけなので……」

 

「……と本人は言っているが実力は確かだ。某動画サイトに大会動画が転がっているからな。皆は困った事や悩んだ事があったら遠慮なく純一に聞くように。私も『遊戯王』をやるのは久し振りだからな。皆も知っているとは思うが、純一は優しくて良い子だ。求められればきちんと応えてくれる」

 

「そういう訳なので今日の6時間目は体育館で全校集会があるので、遅れずに整列して下さいね~」

 

 この日は1時間目から5時間目までは普通の授業で、6時間目に全校集会が行われる。しかし、純一はいきなり頭を抱える事となった。

 自分が大会に出ているガチ勢で、そこそこ強い事が明かされた為、クラスの女子生徒からの質問攻めに遭う事が確定したからだ。

 余談だが、純一の予想通りに一夏を含めた皆から質問攻めに遭った。しかも他のクラスからも噂を聞き付けた女子生徒も参戦した為、全ての質問に答えるのが大変だったのは言うまでもないだろう。

 

ーーーーー

 

 6時間目の授業が始まる時間。普段なら6時間目の授業が行われるが、この日は特別に全校集会が行われる事となった。

 『呉島エンタテインメイトスタジオ』の社長、呉島高虎によるデュエルディスク機能を搭載したISのプレゼンテーションが行われ、『KONNAMI株式会社』所属のカリスマデュエリスト、マスター・ユウギがIS学園で行う『遊戯王』のルールを説明する事となった。

体育館の至る所には各国の首脳に向けたプレゼンと言う事もあって、ビデオカメラが設置されている。画面の向こう側にいる各国の首脳も固唾を飲んで見守っている。

 

「これより、『呉島エンタテインメイトスタジオ』、呉島高虎代表取締役社長によるプレゼンテーションを始めます」

 

 全員が整列し終わると、千冬の司会進行と共にプレゼンテーションが始まった。高虎が舞台袖から現れると共に拍手が鳴り響いた。その高虎の後を純一が続いていると、事情を知らない女子生徒達は首を傾げる。

 

「皆様、初めまして。私は呉島高虎と言います。『呉島エンタテインメイトスタジオ』の代表取締役社長を務めています。今日お集まり頂いたのは、我が社が開発した『ソリッドビジョンシステム』を用いた新たなるISを皆様に紹介する為です」

 

 『呉島エンタテインメイトスタジオ』が誇る主力製品、『ソリッドビジョンシステム』。それを搭載した新型のIS。その全貌に生徒や教師のみならず、各国の首脳が固唾を飲んで見守る中、高虎の説明が始まる。

 スクリーンには『呉島エンタテインメイトスタジオ』の紹介映像が映し出され、高虎の説明と共にプレゼンが進んでいく。

 

「そもそも我が社が開発した『ソリッドビジョンシステム』とは一体何なのか。3D映像を具現化・実体化するゲーム技術の事です。これを用いたゲーム作品が数多く世に出て、ヒット作を生み出しました。これが第一世代。次の第二世代はこれまでの3D立体映像から、質量を持った3D立体映像を実体化させる『リアルソリッドビジョンシステム』。そしていよいよ第三世代となる技術をついに発表出来るようになりました!」

 

 高虎が第一世代と名付けたのは、『ソリッドビジョンシステム』を用いたゲーム作品。スクリーンに映し出されたタイトルを見た教員達は、自分が遊んだ作品の事を思い出して昔を懐かしんでいた。

 

「それが『リアルソリッドビジョンシステム』搭載のデュエルディスク! 今までの机に座って行うカードゲームから、スポーツ競技型のカードゲームに昇華させる事に成功しました! 今回『KONNAMI株式会社』と企業提携を行い、アニメのような『遊戯王』を皆さんに楽しんで頂きたいと思い、この度IS学園にて発表を行っています。ISはスポーツ競技に用いられ、使用者を死から守るシステムを搭載されていると伺いました」

 

「であれば、『リアルソリッドビジョンシステム』で受ける衝撃で怪我をしたり、命に関わる大事故も防げると言う訳です。それがISを用いて行う『遊戯王』。デュエルディスク機能を搭載したISで大地を駆け巡り、空を舞い、デュエルフィールドで熱いデュエルを繰り広げます。それが『デュエル・ストラトス』。ISを用いた新しい競技、新しいカードゲームを今回IS学園の皆さんにプレイして頂きたいと思い、今回プレゼンテーションの機会を設けました。そしてこちらが新しい可能性を秘めたデュエルディスクを使うデュエリストであり、新型のISのモニター……“世界で2番目の男性IS操縦者”の黒田純一君です!」

 

 高虎の紹介に応じた純一はマイクを手に取り、目の前に広がる大勢の人々を見渡すと、そこには自分が見知った人を含めた全員が自分を見つめている。

 事前に世界各国の首脳も見ている事を聞かされていた為、純一は一瞬頭の中が真っ白になった。経験者・ガチ勢と言う立場への重圧。世界で2人しかいない男性IS操縦者への期待。一夏以外周り全員が女子と言う普段なら有り得ない光景。

 それでも何とか持ち堪える。しっかりしろ。お前はこれから大企業の社長になるんだ。このくらいの人の前で発言する事なんか嫌でも増えてくる。落ち着け。深呼吸してゆっくりでも良いから自分の思いを吐き出せ。

 

「純一君は大会の優勝経験もある素晴らしきデュエリストです。今回モニターとして選ばれた彼に抱負を伺いたいと思います」

 

「只今紹介に預かりました、黒田純一と申します。この度、『呉島エンタテインメイトスタジオ』様が開発されたデュエルディスクのモニターに任命され、デュエルディスク機能を搭載したISを頂く事になりました。“世界で2番目の男性IS操縦者”として、今までこの学園に入学してからISの技術や知識の習得に励んできました。その成果が今実ったと思いますし、これからは今まで以上にもっと頑張らないといけないと身を引き締めています」

 

「呉島社長も仰っていましたが、これからISを用いた『遊戯王』を行うと言う事で、経験者である私の知識や経験が皆さんのお役に立てるようにしていきます。皆さんと一緒に『遊戯王』を楽しみながら、多くの事を学んでいきたいです。もし『遊戯王』で困った事や相談したい事があれば、遠慮なく私に申して下さい。そして私を信じてこのような大役を任せて頂いた呉島社長と仙谷開発事業部部長、ISの開発者の篠ノ之束博士、学園の先生方や日頃から仲良くさせて頂いている皆様。本当にありがとうございます! そして皆様の期待に応えられるよう、精一杯努力していきますのでどうぞよろしくお願いします!」

 

 深呼吸をしてから皆を見渡しながら、自分の思いを素直に伝えた純一。自分の時代が来たからと言って天狗にならず、自分がこれまで培った経験や知識を皆の為に役立てていきたい。その中で自分自身も多くの事を学びたい。

 実直でストイックな人柄が伝わるコメントに暖かい拍手が返ってきた。まるで純一を祝福するかのように。彼の思いを受け取ったかのように。

 

「ありがとうございました! 以上でプレゼンテーションを終わります。後程質問タイムを設けますので、質問ある方はその時にお願いします」

 

「続いては『KONNAMI株式会社』所属のカリスマデュエリスト、マスター・ユウギさんによるIS学園における『デュエル・ストラトス』の説明です。マスター・ユウギさんよろしくお願いします」

 

 ステージに登壇したのは、アニメ『遊戯王DM』に登場する闇遊戯ことアテムのコスプレをした一人の男性。彼の名前はマスター・ユウギ。

 カリスマデュエリストとは、遊戯王のアニメのキャラクターを元にしたイメージキャラクターもどき。 二次元ではなく三次元の人々であり、基本的にアニメの登場人物のコスプレをしている。

 

「皆さんこんにちは。私はマスター・ユウギと申します。見ての通り、武藤遊戯さんが大好きなただのデュエリストです。はい。前置きはここまでにして、IS学園における『デュエル・ストラトス』のルール説明をしたいと思います。本格的に『遊戯王』を行うのはもう少し先になるので何言っているか分からない人がいましたら、純一君に聞くなり、公式サイトを見て頂くなりお願いします。先ずはルールの方ですが、2020年4月1日から施行しているマスタールールに則ります。禁止制限も公式のリミットレギュレーションに則ります。そしてここからが一番大事なのですが、IS学園で行う行事……例えばクラス対抗デュエルリーグだったり、学年別タッグトーナメント等の大会では特殊制限ルールを設けます。公式のリミットレギュレーションの他に、平均価格が1000円以上するカードの使用を禁止します」

 

 マスター・ユウギが言葉を言い切ると、スクリーンに特殊制限ルールで使用禁止になるカードの名前が出た。

 それを見ている殆どの女子生徒は話に付いていけずにスクリーンを見ているが、勉強熱心な女子生徒達はリストに上がっているカードを見て頭を抱えていたりする。

 

「何故今回このようなルールを設けたのかと言いますと、現在の『遊戯王』で強くてどのデッキに入るカードはけっこう良いお値段をするからです。皆さんのお小遣いが月にどれくらいするかは私には分かりません。沢山貰っている方もいれば、そうでもない方もいるでしょう。そうなった場合、資金力だったり、カードの知識や経験が物を言う世界になってしまいます。多くの方々は付いていけないでしょう。なので強力で高額なカードの使用を一律禁止しました。そうする事でデッキパワーだったり、資金力の差が生まれにくくなります。流石にプレイングだったり、経験の差が物を言う事もありますが、極力皆さんが平等な状態でデュエル出来るようにこちらとしても配慮していきます」

 

「そしてもう1つの特殊制限ルールですが、今現在至る所で『遊戯王』の大会が開催されていますが、そこで結果を残しているデッキ……我々で言う環境入りしているデッキの使用を禁止します。このルールも先程説明した通り、資金力の差を無くす事が挙げられます。しかし、環境デッキの中には安く出来るデッキもあります。確かに安く組めて強いデッキを使えば初心者の方も勝ちやすく、勝つ喜びを知って『遊戯王』を楽しめるでしょう。しかし、それだと『遊戯王』と言うカードゲームではなく、とある一定のカードとデッキしか使わない狭い世界のカードゲームになります。『遊戯王』カードは1万種類以上あるのに。それだと結局飽きちゃうんですよ」

 

「皆さん想像して下さい。友達とデュエルする時、これから行われる大会に出た時、同じデッキしか使わない人達を見てどう思いますか? Aさんも、Bさんも、Cさんも、Dさんも皆同じデッキです。中身が少し違うだけでデッキは同じテーマ。こんなカードゲーム面白いですか? 面白くないですよね? 『遊戯王』を始める皆さんが楽しくデュエルし、勝ち負けの先にある物を感じ取って欲しい。そう思って我々は環境デッキの、ガチデッキを使用禁止にしました」

 

 一夏は全校集会が始まる前に配られた資料にもう一度目を通した。そこには今回の特殊制限ルールで禁止カードに指定されたカードと、使用禁止になったデッキテーマが掲載されている。

 環境デッキは軒並み禁止に追いやられ、環境下位だったり、かつて環境にいたファンデッキがこの特殊制限環境で活躍する事が予想されている。奇しくも純一と弾が予想した通りの展開になりそうだ。

 【ドラグーンビート】。【オルフェゴール】。【サンダー・ドラゴン】。【エルドリッチ】。【サラマングレイト】。【閃刀姫】。【オルターガイスト】。【エンディミオン】等々。2020年4月時点で環境にいるこれらのデッキは使用禁止となり、IS学園の特殊制限環境は先が全く読めない混沌世界となった。

 

「これから皆さんには『遊戯王』をやってもらいますが、大半の方がルールが分からない人ばかりだと思います。ですがご心配なく! プロデュエリストの方々を今回講師として招く事が学園とのやり取りで決定しましたので、皆さん遠慮せず分からない事は聞いて下さい!」

 

「そして今週の土曜日、私と純一君でデュエルディスクを使ってエキシビジョンデュエルを行います。IS学園の特殊制限環境を用いたデュエルで、場所はIS学園にあるアリーナではなく、『キャノンボール・ファスト』と言うイベントで使用されたISアリーナです。強制参加ではないですが、実際のデュエルディスクを使ったデュエルを観たい方は是非来てください!」

 

 『キャノンボール・ファスト』。ISを使用して疾走するレースの事だ。安全性が約束されている為、相手への妨害が認められている。

 アクシデントによって中止となり、純一は“何か僕ら1組のせいで行事が悉く潰されてない? 一度皆でお払いに行く?”と自嘲気味にジョークを言ったのは秘密だ。

 こうして質問タイムを挟んだ後、呉島高虎によるプレゼンテーションは終了した。結果は言うまでもなく大成功。デュエルディスクの実用化に向けて大きな一歩を刻む事となった。

 

ーーーーー

 

「先程のプレゼンテーションであったように、今回IS学園にデュエルディスクが特別に試供される事となった。デュエルディスク機能を搭載したISだが、諸事情で純一用にしか新型を作っていない。そこで1人1台ずつデュエルディスクを購入し、訓練機に装着して使うように」

 

「皆さんに渡したのは注文書です。『スターターデッキ』と、『ストラクチャーデッキ』、スリーブとプレイマット等。『遊戯王』をする上で必要になる物ばかりです。専用機持ちの皆さんには事前にデュエルディスクを渡していますので、デッキだけを注文するようにお願いします。間違って余計に注文する事をしないように。注文書は3日後のHRで回収しますが、書き終えた人は適宜渡してもらっても構いません」

 

(この内容なら……『シャドール』に『マシンナーズ・コマンドR』で良いかな? 買い逃した奴をここで一気に買ってしまおう)

 

 帰りのSHR。純一達に配られたのは1枚のプリントと集金袋だった。プリントはデュエルディスク、初心者用のスターターデッキとストラクチャーデッキの注文書だった。

 千冬と真耶の説明を聞きつつ、純一は注文書に素早く購入するデッキの個数を書いていた。もちろんスリーブとプレイマットも購入する。スリーブとプレイマットはあればあるで気にしない主義だ。

 

「先生! 質問があります!『遊戯王』初めての人はどれを買えば良いですか?」

 

「初心者は『スターターデッキ』がお勧めだ。初心者向けで“これから遊戯王始める”人用の商品だからな。デッキの内容がそこまで難しくなく、どんなデッキにも入れられる強いカードが揃っている。……純一。お前はどう思う?」

 

「いきなり来ましたか……僕は『ストラクチャーデッキ』から入るべきだと思います。『スターターデッキ』は初心者向けとは言っても、デッキとして組めるかと言われると少し疑問に感じます。『スターターデッキ』には確かに強くて安くてどんなデッキにも入るカードが入っていますが、『ストラクチャーデッキ』を3箱買って、必要に応じてカードを足していくやり方でも良いと思います」

 

 純一は『遊戯王OCG』を本格的に始めた時は『ストラクチャーデッキ』を3箱買い、必要に応じてカードを買い足していくスタイルだった。

 そこから作りたいテーマがあればデッキレシピをネットで調べて模倣し、そこから自分色に染め上げていった。

 

「同じ内容のデッキを3つ買った方が良いと言うのは、1つのデッキに大抵1種類ずつカードが入っているからです。『遊戯王』は1つのデッキに同じカードを3枚まで入れる事が出来るから、3つ買った方が良いです『遊戯王』のメインデッキは40枚以上60枚以下と指定されています。40枚の中から強いカードを1枚引き当てるより、3枚引き当てる方が確率として高いですよね? それとスリーブは必ず買って下さいね? カードを傷から守り、カット&シャッフルをやりやすくする為にも」

 

「……と言う事だ。『ストラクチャーデッキ』はそのテーマの動きを学べるが、それだけになってしまう。『スターターデッキ』は強くて安くてどんなデッキにも入るカードが入っているから、『ストラクチャーデッキ』を強くするにはもってこいだ」

 

「ありがとうございます! 純一君もありがとう!」

 

「……どういたしまして」

 

 質問者は『遊戯王』初心者となる相川清香。純一と仲が良いが、もっと彼と仲良くなりたいと内心で思っている。

 そんな清香のお礼の言葉に照れ臭そうに答える純一だったが、この後にクラス中の女子生徒から可愛がられたのは言うまでもない。

 

ーーーーー

 

 放課後。純一は千冬に職員室に呼び出され、とあるアイテムを渡された。それは腕時計のような形をした物。これはデュエルディスク型のIS。その待機状態。束が純一の為に開発した、純一の為のIS。

 

「束がお前の為に開発したそうだ。名前は『亜白龍』。お前が一番大切にしているカードの名前らしいな」

 

「束さん……やっぱり僕には優しいんですね」

 

「そうだな……このコアは普通のISとして使う事も出来るが、デュエルディスク機能を搭載している事もあって、コア自体が普通のISとは違っているらしい。これから何度もデュエルを行うだろう。純一、お前はクラス副代表として、一夏を支えながらクラスを盛り立てて欲しい。一夏には楽しめと言ったが、奴は小学生の時から『遊戯王』から離れている。対してお前はつい最近まで大会に出ていて、それなりに知識もある。そうなるとこっちとしてもお前に期待しがちになり、プレッシャーをかけてしまう事もあるだろう。済まないな、こういう言葉しかかけられなくて……」

 

「いつもの事なのでご心配なく。僕は自分がやるべき事に常に全力で挑むだけです」

 

「そうか。まぁ折角だ。少しは『遊戯王』を通じて学園中の女子達と仲良くやるのも良いんじゃないか? それに私も一度お前と満足するまでデュエルしてみたい」

 

「それは僕もです。その時を楽しみに待っていますよ?」

 

 デュエルディスク型のIS、『亜白龍』を受け取った純一は、そのまま第一アリーナへと向かっていった。待っていたのは2年生で生徒会長の更識楯無。純一の専属コーチ。篠ノ之束と高虎と竜馬の3人。

 同じアリーナで訓練している女子生徒達は純一の事を好意的に見る人もいれば、悪意を持って見ている人もいる。悪意を抱く理由は純一が専用機を持つ事への妬みや嫉妬だったり、モニターに選ばれるのは一夏だと決めつけている連中ばかりだった。

 

「お待たせしました。これからデュエルディスクの調整ですね?」

 

「はい。先ずは全ての種類のカードが正常に読み取れるか、正常に発動出来るかを確認します。そして召喚方法もきちんと出来るのかも」

 

「了解しました」

 

 純一は右腕に付けた純白に光り輝く腕時計―『亜白龍』の待機状態を見た後、“展開”と一言呟くと、全身を光の粒子が覆い尽くした。

 その時間は僅か一瞬。彼の身体にISが纏われ、デュエルディスク機能を搭載したIS―『亜白龍』が今ここに降臨した。

 

「あれ? 全身装甲型なんですね?」

 

「うん。ジュン君が“姿がほぼ丸見えなのが嫌だ”と言うから、フルスキンにしてもらいました!」

 

 頭部は騎士を象ったような白兜で、両腰にバインダーを付け、両腕にガントレットを装備し、背中にH型のバックパックを背負い、大型のエネルギーウィングを備えたIS。束が純一の要望を踏まえ、純一が使っていた『打鉄』のデータを取り入れて完成させた機体。

 その後は『遊戯王』カードを使い、モンスターカードの召喚と効果の発動、魔法・罠カードのセットから発動、融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム・リンク召喚を一通り試してみた。

 結果は見事に大成功に終わった。これでようやく実用化に向けて歩き出せる。胸を撫で下ろす竜馬を見た後、高虎は純一に話し掛けた。

 

「どうだったかな? 君の専用機は」

 

「いやもう、素晴らしいです! ISの事は置いといて、アニメで観ていたようなデュエルが本当に出来るんだな~って思えましたし、それにリアルソリッドビジョンの質感や存在感がまるで現実に存在しているように感じました……本当にありがとうございます!」

 

「気に頂けて嬉しいよ! 土曜日のエキシビジョンデュエルは私も観戦する予定だ。楽しみにしているよ」

 

「一人でも多くの人に『遊戯王』の魅力を伝えて、会場を盛り上げられるように頑張ります!!」

 

 この後、高虎と竜馬は仕事がある為『呉島エンタテインメントスタジオ』に戻り、純一は楯無の指導を受けながらISの訓練に励んでいた。その様子を見ながら、束は自分が開発したISのデータ取りに励んでいた。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・カリスマデュエリストとは?

 YoutubeのVジャンプチャンネルの、遊戯王動画に登場するアニメキャラのコスプレをした方々です。分からない人は検索して一度動画を観て下さい。

・IS学園の特殊制限環境

 以前にも記しましたが、平均価格が1000円以上するカードの使用禁止に加え、環境デッキが使用禁止になりました。さてどんなデッキが環境を席捲するのか……?

・純一君のIS

 あんまり使う場面はありませんが、戦闘用ではありません。原点回帰して宇宙活動を想定して開発されました。

次回はエキシビジョンデュエルを記します。
次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

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TURN05 死力を尽くしたエキシビジョンデュエル! 【青眼】VS【ブラック・マジシャン】 ★

お待たせしました。
前回の前書きで”第1章は次回で終わる予定です。”と記しましたが、今回はデュエルが長くなったので次回に先延ばしになりました。本当に申し訳ありません。
今回はエキシビジョンデュエルがメインですが、序盤は今後の伏線になるであろう部分を幾つか仕込んでみました。

それではお楽しみ下さい。


 IS学園でデュエルディスクのプレゼンテーションが行われてから数日後。土曜日。ついにエキシビジョンデュエルが開催される事となった。

 自分の為に用意された特等席に座っている呉島高虎。『呉島エンタテインメントスタジオ』の代表取締役社長は、緊張の面持ちでISアリーナの中央を見ている。

 彼にとってこの日は特別の日。自社と『KONNAMI株式会社』が企業提携して開発したデュエルディスクの本格的なお披露目式なのだから。ここで失敗してしまえば、今までの努力が無かった事になり、信用は失墜してしまう。

 このデュエルは全世界に中継されている。世界各国の首脳だけでなく、世界中の一般市民もモニターやテレビに釘付けとなっている。年齢も、性別も、デュエリストであるかどうかも関係ない。

 今回のデュエルを通じて今まで『遊戯王』を知らなかったり、関心がなかった多くの人々に興味関心を持ってもらい、『デュエル・ストラトス』のアピールに繋げると共にデュエルディスクを世に知らしめる。それが成功すればデュエル産業が発生する。もし出来なければ失敗に終わる。それだけに高虎は手に汗を握っていた。

 

「お久し振りです、呉島社長」

 

「これはこれは。平等院友希那様ではございませんか」

 

「友希那で構いません。今回のデュエルはとても楽しみですね」

 

「はい。私としても社運がかかっている重大なイベントですので、邪魔が入らないように厳重に警備を重ねています。友希那さんも楽しみにしていましたか?」

 

「もちろんです。今回私の目の前でデュエルを繰り広げる黒田純一さん……あの人は私にとって大切な人だからです」

 

 高虎の隣に座ったのは平等院友希那と言う少女。アルビノを思わせる程肌が白く透き通っており、黒く長い髪を後ろに垂らしている。正にお嬢様と言える少女だった。

 その少女に高虎が目上の人のように接している理由は、友希那が旧華族の由緒正しい家柄である事が挙げられる。

 友希那が熱意を込めながら見つめている純一。彼女は純一を大切な人と言った。と言うのも、初めて参加した『遊戯王』のイベントで右も左も分からない自分に親切丁寧に教えてくれただけでなく、彼女を護衛するように一緒に行動してくれたからだ。

 彼女は小学校の頃から所謂お嬢様学校に入学していて、異性と触れ合った経験は数少なかった。そんな中でアニメを切っ掛けに『遊戯王』を始めたものの、周りに一緒にデュエルしてくれる友達もいなければ、大人もいなかった。自分の姉以外は。

 自宅から近い範囲のカードショップに通っては対戦相手を探していたが、初心者でしかも綺麗なお嬢様相手に応じてくれるデュエリストは中々いなかった。諦めずに何度も何度も対戦してくれる相手を探していた時、たまたま来ていた純一が快く応じてくれた。

 対戦に応じてくれただけでなく、デッキの改良案を提示したり、好きなカードやアニメの話にも付き合ってくれた。デュエルを重ねる毎に純一への好感度が上がっていき、何時の間にか恋心を抱いてしまった。

 そして今回。自分の平等院財閥が経営している『私立鳳凰学院』に進学した彼女は、とある野望を胸に抱きながらISアリーナに足を運び、エキシビジョンデュエルを観戦しに来た。

 

「デュエルディスクのモニターを織斑一夏君ではなく、純一君にするように熱望したのは貴女でしたね……随分な肩の持ちようで」

 

「誰の援助のおかげで今回のプロジェクトが実現出来たのでしょうか? それをお忘れなきように」

 

「失礼。平等院財閥のおかげで今回のデュエルディスクの実現が叶う事が出来ました。本当に感謝しています」

 

「フフッ♪ ではデュエルディスクを我が『私立鳳凰学院』にも試供をお願いします。さぁいよいよデュエルの開幕です。私を満足させて下さいね純一さん……」

 

 高虎が友希那に頭が上がらない理由は今回のプロジェクトにあった。デュエルディスクの開発とその実現を後押ししてくれたのは平等院財閥のおかげだった。

 権力、名声、財力のどれもが日本の中でもトップクラスで、総資産は全世界の富の数%あると謳われている。大財閥で名家の平等院家の援助がなければ、デュエルディスクは今こうして完成していなかった。

 ISアリーナの観客席。その特等席と呼ばれている場所から高虎が緊張の面持ちで見守る一方、友希那は何処か楽しそうだった。

 

ーーーーー

 

 このデュエルを行うのはカリスマデュエリストの1人、マスター・ユウギ。漫画・アニメ『遊☆戯☆王』に登場する闇遊戯のコスプレをしている。元ネタと名前の通り、【ブラック・マジシャン】デッキを愛用している。

 もう1人のデュエリストは黒田純一。“世界で2番目の男性IS操縦者”であり、呉島高虎が選んだデュエルディスクのモニター。大会で優秀な成績を収めており、人格も優れたデュエリスト。

 この日は《|青眼の亜白龍《ブルーアイズ・オルタナティブ・ホワイト・ドラゴン》》がプリントされた白いTシャツの上に黒いジャケットを着て、下はジーパン姿と普通の私服姿だった。

 両者の準備は既に整っている。後は開始の合図がかかれば何時でもデュエルを始める事が出来る。2人を見守る観客は固唾を呑み、デュエルの開始を待っている。

 

「純一大丈夫かな? こんなに沢山の人の前でデュエルするとなると緊張するよな……俺だったら胃が痛くなって吐きそう」

 

「学園の行事とは全然違うからな……それこそ世界中の人が見ているとなると、緊張は凄いのだろうな。『遊戯王』の世界大会もこんな感じだろうか?」

 

「Youtubeでも配信されていますし……物凄いビッグイベントですわね」

 

 観客席の一角。そこにいるのは純一のクラスメートだったり、同級生の面々。織斑一夏は純一の事を心配しつつも、大勢の観客が見守る中でデュエルする事に恐ろしさを覚えていた。彼は学園行事で生徒達の前で試合をしているが、今回は注目度やスケールが違う。比較するだけ野暮と言われればそこまでだが。

 篠ノ之箒が自動販売機で買った飲料水を飲みながら頷く一方、セシリア・オルコットはスマートフォンでYoutubeを観ていた。そこではこのエキシビジョンデュエルの配信が行われている。視聴している人数はかなり多い。

 彼らが見守る中、2人のデュエリストはお互いにデュエルディスクを展開した。そしてデータ化された5枚のカードを手に取ると、特等席にいた高虎が立ち上がって声高らかにデュエルの開始を宣言した。

 

「では始めましょうか……デュエル開始!」

 

『デュエル!』

 

 デュエルが始まった事が全世界に伝わると、世界中の誰もがデュエルの様子を見逃さないように画面に釘付けになった。ご丁寧にデュエルの解説やカードの説明も付いていると言う親切仕様だ。

 観客が一斉に自分達を凝視するが、純一とマスター・ユウギには関係ない。デュエルが始まれば2人だけのフィールドとなるのだから。

 

ーーーーー

 

・1ターン目

 

 デュエル開始前に行われたコイントス。それに勝利したマスター・ユウギの先攻でエキシビジョンデュエルが始まった。

 このエキシビジョンデュエルはIS学園における特殊制限ルールが適用されている為、市場での平均価格が1000円以上するカードの使用は禁止となっている。

 その為、お互いに平均価格が1000円以下のカードしか使用出来なくなり、デッキ構築を大いに悩んだ事は言うまでもない。

 

「私の先攻! 先攻はドローは出来ない。スタンバイ。メインフェイズに入る。手札から《ベリー・マジシャン・ガール》を召喚!」

 

 マスター・ユウギのフィールドに現れたのは、口におしゃぶりを付けた赤ちゃんの姿をした魔術師。右手に魔法の杖を持っている。

 その見た目に女性達は母性をくすぐられて歓声を上げるが、《ベリー・マジシャン・ガール》を知っているデュエリスト達は表情を崩さない。

 

 

《ベリー・マジシャン・ガール》

効果モンスター

レベル1/地属性/魔法使い族

ATK/400 DEF/400

(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。

デッキから《マジシャン・ガール》モンスター1体を手札に加える。

(2):1ターンに1度、このカードが相手の効果の対象になった時、または相手モンスターの攻撃対象に選択された時に発動できる。

このカードの表示形式を変更し、デッキから《ベリー・マジシャン・ガール》以外の《マジシャン・ガール》モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「《マジシャン・ガール》モンスターですと!?」

 

「いや~実は【ブラック・マジシャン】デッキもIS学園の特殊制限ルールによる弱体化を受けてしまってね……《マジシャンズ・ソウルズ》とか《幻想の見習い魔導師》が使用禁止になってしまったんだよ……だから《マジシャンズ・ロッド》を引けなかった時の代わりに《マジシャン・ガール》モンスターを入れたんだよ……」

 

「マスター・ユウギさん……貴方もIS学園の特殊制限の被害者になったんですね」

 

「そうだよ……我々カリスマデュエリストもルール作成側に立ったけど、意外とこれ経験者に突き刺さるルールだったようだね……ここは調整失敗だったみたいだ。まぁ初心者の方々ばかり参入するから、ある意味ではちょうど良いルールかもしれないね。しかし! このデッキはエクストラを除けば比較的安く組めるから、お金があまりない学生さんでも構築出来る!」

 

 マスター・ユウギが使うのは《マジシャン・ガール》モンスターを入れた、【ブラック・マジシャン】デッキ。再録カードがここ最近あった為、お小遣いが少ない学生でも安価で構築する事が出来る。エクストラデッキは流石に良いお値段をするが。

 カリスマデュエリストらしく、これから『遊戯王』を楽しむIS学園の学生に向けたメッセージのデッキと言える。

 

「それはブルジョワのデッキを作った僕に対する皮肉ですか?」

 

「そう聞こえたのなら申し訳ない。《ベリー・マジシャン・ガール》のモンスター効果を発動する。召喚に成功した時、デッキから《マジシャン・ガール》モンスター1体を手札に加える。《チョコ・マジシャン・ガール》を手札に加えよう」

 

 【ブラック・マジシャン】デッキの核として、基本となるカードの《マジシャンズ・ロッド》。1つのデッキに同名カードは3枚まで入れられない為、引けない可能性もある。

 そこで入れたのは《マジシャン・ガール》モンスター達。《ベリー・マジシャン・ガール》は手札を補充しつつ、防御と展開をこなせる優秀な初動が可能だ。

 

「続けて手札からフィールド魔法、《魔法族の里》を発動する。これは君に刺さるんじゃないかな?」

 

「ま、《魔法族の里》ですと!?」

 

 マスター・ユウギのフィールドが無機質なISアリーナから一転。魔法使いが暮らしている里の風景へと瞬く間に変わった。

 純一が慌てたのは《魔法族の里》の効果にあった。【魔法使い族】デッキに投入されていてもおかしくないこのカードが、純一を倒さんと言わんばかりに牙をむく。

 

 

《魔法族の里》

フィールド魔法

(1):自分フィールドにのみ魔法使い族モンスターが存在する場合、相手は魔法カードを発動できない。

(2):自分フィールドに魔法使い族モンスターが存在しない場合、自分は魔法カードを発動できない。

 

 

「私のフィールドにだけ魔法使い族モンスターがいる場合、君は魔法カードを発動できない。つまり《ベリー・マジシャン・ガール》がいる以上、君は儀式魔法も使えないし、墓地肥やしやサーチ効果を持つ魔法カードも使えないと言う事だ!」

 

「ッ!?」

 

「恐らく君のデッキは【青眼】。特殊制限によって《亜白龍(オルタナティブ)》と《カオス・MAX》が使えない以上、君は青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》を主力にした【儀式青眼】を使って来ると。そうだろう? 動揺していると言う事は図星と言う事だな?」

 

「流石ですね……仰る通りです」

 

「とは言っても、こっちもこれ以上カードを発動出来ない。カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

 マスター・ユウギは下級モンスターを召喚し、フィールド魔法を発動して1ターン目を終えたが、純一にとって行動をある程度制限させられている状態となった。

 仮にモンスターを召喚して《ベリー・マジシャン・ガール》を攻撃すれば、別の《マジシャン・ガール》モンスターが特殊召喚される未来が見えている。

 また、フィールド魔法の《魔法族の里》が発動している状態である為、展開の起点となる魔法カードの使用が封じられている。自分のターン開始前から厳しい戦いを約束されている純一だった。

 

 

マスター・ユウギ 

LP:8000

手札:4

フィールドゾーン:《魔法族の里》

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《ベリー・マジシャン・ガール》

魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

ーーーーー

 

・2ターン目

 

「純一君……いきなり厳しい展開になったわね」

 

「うん……攻撃しようとしても、除去しようとしてもどちらにしても厳しい展開になる……」

 

「しかもロックされているよ~ジュン君負けないで~!」

 

 観客席の一角。厳しい表情をしているのは更識楯無。純一のISの師匠であり、ルームメイト。姉が欲しかった純一は時々楯無に甘える事があり、まんざらでもない反応を示している時があるのは秘密だ。

 その隣で楯無の言葉に頷いているのは簪。楯無の妹で純一の友達。純一が実力を一番警戒しているデュエリスト。

 純一に声援を送っているのは萌え袖の私服を着ている布仏本音。純一のクラスメートで、IS学園で初めて純一と仲良くなった女子生徒。純一曰く、“のほほんさんマジ天使”。

 

「僕のターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイフェイズ。メインフェイズ入ります」

 

「どうぞ!」

 

「成る程……魔法カードが使えないと。ならば魔法カードを使わずにモンスターを展開しつつ、その厄介なフィールド魔法を除去してみせましょう! 手札から《マンジュ・ゴッド》を召喚!」

 

「《マンジュ・ゴッド》……デッキから儀式モンスターか儀式魔法をサーチする効果を持っているが、魔法カードが使えない今、儀式召喚は出来ないよ?」

 

 純一のターン。《魔法族の里》を除去するべく、早速動き出した。フィールドに全身から万本もの手を生やした天使のような姿をしたモンスターを召喚し、モンスター効果で儀式魔法カードをサーチした。

 《魔法族の里》の効果で儀式魔法を発動し、儀式召喚をする事は出来ない。しかし、純一の狙いはそれではなかった。

 

 

《マンジュ・ゴッド》

効果モンスター

レベル4/光属性/天使族

ATK/1400 DEF/1000

(1):このカードが召喚・反転召喚に成功した時に発動できる。

デッキから儀式モンスター1体または儀式魔法カード1枚を手札に加える。

 

 

「僕が《マンジュ・ゴッド》を召喚したのは次の展開の布石の為……《マンジュ・ゴッド》のモンスター効果を発動! このカードが召喚に成功した時、デッキから儀式モンスター1体か儀式魔法カード1枚を手札に加えます。ここはそうですね……儀式魔法の《高等儀式術》を手札に加えます」

 

「何か狙っているな?」

 

「もちろん。手札の《青き眼の賢士》のモンスター効果を発動! このカードを手札から捨て、自分フィールドの効果モンスター1体を墓地へ送り、デッキから《ブルーアイズ》モンスター1体を特殊召喚出来ます」

 

 

《青き眼の賢士》

チューナー・効果モンスター

レベル1/光属性/魔法使い族

ATK /0 DEF/1500

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。

デッキから《青き眼の賢士》以外の光属性・レベル1チューナー1体を手札に加える。

(2):このカードを手札から捨て、自分フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを墓地へ送り、デッキから《ブルーアイズ》モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「フィールドの《マンジュ・ゴッド》をリリースし、デッキから《白き霊龍》を特殊召喚!」

 

「しまった! 《白き霊龍》はカード名をルール上《ブルーアイズ》カードとしても扱うってテキストに書いてあった!」

 

「その通り! だから《青き眼の賢士》のモンスター効果で特殊召喚出来るんですよ!」

 

 万本もの手を生やした天使の姿が消滅すると、その残滓となった光の粒子が次第に何かの形を形成していった。

 そうして現れたのは1体の龍。全身を神々しく純白に光り輝かせ、青い眼を携えたドラゴン。純一の狙いは最初からこのドラゴンを特殊召喚し、モンスター効果で《魔法族の里》を除去する事にあった。

 

 

《白き霊龍》

効果モンスター

レベル8/光属性/ドラゴン族

ATK/2500 DEF/2000

このカード名はルール上《ブルーアイズ》カードとしても扱う。

(1):このカードは手札・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを除外する。

(3):相手フィールドにモンスターが存在する場合、このカードをリリースして発動できる。

手札から《青眼の白龍》1体を特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

「《白き霊龍》のモンスター効果発動! このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、相手フィールドの魔法・罠カード1枚を除外します! 《魔法族の里》よ、消え去るが良い!」

 

「しまった! これで純一君が魔法カードを使えるようになった……」

 

 純白に光り輝く龍が雄叫びを上げて天高く羽ばたくと、その全身が光り輝いて純白の光がマスター・ユウギのフィールドを包み込んだ。

 フィールド魔法によって魔法使い族が暮らしている里だったのが、何時の間にかISアリーナの無機質な風景へと戻っていった。

 

「よっしゃあ! とは言っても《ベリー・マジシャン・ガール》がいるから、バトルフェイズには移れないな……ターンエンドします」

 

「ちょっと待った! エンドフェイズにセットカードを発動する。リバースカードオープン! 罠カード発動! 《マジシャンズ・ナビゲート》!」

 

 

《マジシャンズ・ナビゲート》

通常罠

(1):手札から《ブラック・マジシャン》1体を特殊召喚する。

その後、デッキからレベル7以下の魔法使い族・闇属性モンスター1体を特殊召喚する。

(2):自分フィールドに《ブラック・マジシャン》が存在する場合、墓地のこのカードを除外し、相手フィールドの表側表示の魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。

そのカードの効果をターン終了時まで無効にする。

この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

 

「《マジシャンズ・ナビゲート》の効果発動! 手札から《ブラック・マジシャン》1体を特殊召喚する! 現れろ、伝説に名高い黒衣の大魔術師よ! その叡智と秘術を以て勝利を手繰り寄せろ!」

 

「す、すげぇ……これがリアルソリッドビジョンの《ブラック・マジシャン》……本物だ。何て凄い迫力で、凄い威圧感なんだ……」

 

「ハッハッハッ! いや~私も事前にテストしたけど本当に最高だ! まさか憧れの武藤遊戯のようにデュエルが出来るとはな……」

 

 純一がターンエンドを宣言した時、マスター・ユウギはセットしてあった罠カードを発動した。これにより、手札から伝説に名高い大魔術師―《ブラック・マジシャン》が降臨。

 かの有名な闇遊戯のエースモンスター、《ブラック・マジシャン》。その登場に純一は震え、あまりに強大な存在感と威圧感に圧倒されるしかなかった。

 

 

《ブラック・マジシャン》

通常モンスター

レベル7/闇属性/魔法使い族

ATK/2500 DEF/2100

魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。

 

 

「そしてデッキからレベル7以下の魔法使い族・闇属性モンスター1体を特殊召喚する! ここは次の私のターンの事も考えて、《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》を特殊召喚!」

 

「次のターンでランク7エクシーズを狙ってますね?」

 

「正解。物分かりが早いね」

 

 更に現れたのは黒い影をした大魔術師。《ブラック・マジシャン》を思わせるシルエットをしているが、曖昧でよく分からない。

 

 

《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》

効果モンスター

レベル7/闇属性/魔法使い族

ATK/2100 DEF/2500

このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分が相手ターンに魔法・罠カードの効果を発動した場合に発動できる。

このカードを手札から特殊召喚する。

(2):このカードはモンスターゾーンに存在する限り、カード名を《ブラック・マジシャン》として扱う。

(3):このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、自分が魔法・罠カードの効果を発動した場合に自分の墓地の《ブラック・マジシャン》1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

 

「これで効果処理が終わりましたね。改めてターンエンドします」

 

「了解!」

 

 

純一 

LP:8000

手札:5

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《白き霊龍》   

魔法・罠ゾーン:なし

 

マスター・ユウギ 

LP:8000

手札:4

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《ベリー・マジシャン・ガール》、《ブラック・マジシャン》、《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》

魔法・罠ゾーン:なし

 

ーーーーー

 

・3ターン目

 

「純一がようやく展開出来ると思ったら、先にマスター・ユウギさんに展開されたわね……」

 

「レベル7モンスターが2体いるからエクシーズモンスターは確実に来るね。出来れば《黒の魔道陣》が来ないで欲しいけど……」

 

「そうだな……まだライフポイントは減っていないが、減る時は一気に減ってしまう。純一、ここが踏ん張り時だ!」

 

 1年2組在籍で中国の代表候補生、純一の幼馴染の凰鈴音はマスター・ユウギのフィールドを見て、純一にとって再び厳しい展開となりそうな予感を感じた。

 隣にいる1年3組在籍のフランス代表候補生のシャルロットがそれに頷き、同じクラスのドイツの代表候補生のラウラが声援を送る中、マスター・ユウギのターンが始まった。

 

「私のターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイ。メインフェイズに入る。手札から《チョコ・マジシャン・ガール》を召喚!」

 

 

《チョコ・マジシャン・ガール》

効果モンスター

レベル4/水属性/魔法使い族

ATK/1600 DEF/1000

(1):1ターンに1度、手札から魔法使い族モンスター1体を捨てて発動できる。

自分はデッキから1枚ドローする。

(2):1ターンに1度、このカードが攻撃対象に選択された場合、《チョコ・マジシャン・ガール》以外の自分の墓地の魔法使い族モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを特殊召喚する。

その後、攻撃対象をそのモンスターに移し替え、攻撃モンスターの攻撃力を半分にする。

 

 

「《チョコ・マジシャン・ガール》のモンスター効果を発動する。手札の魔法使い族モンスターを1体、《ブラック・マジシャン・ガール》を墓地に送ってデッキから1枚ドロー!……フム。良いカードを引けた」

 

「何ですと?」

 

「行くぞ! 私は《ブラック・マジシャン》と《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》でオーバーレイ! 2体のレベル7モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

 《ブラック・マジシャン》と《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》が紫色の光に変わると、地面に吸い込まれていった。

 マスター・ユウギのフィールドの中央に巻き起こった渦に2つの紫色の光が飛び込み、渦の中から漆黒の闇が広がっていく。

 そして現れたのは一人の魔導師。褐色の肌に全身を黒衣で身を包んだ彼を人はこのように呼ぶ。《幻想の黒魔導師》と。

 

「古より伝わりし伝説の魔術師よ、常闇の力を身に纏い、新たなる姿へ昇華せよ! エクシーズ召喚! 降臨せよ、ランク7! 《幻想の黒魔導師》!」

 

 

《幻想の黒魔導師》

エクシーズ・効果モンスター

ランク7/闇属性/魔法使い族

ATK/2500 DEF/2100

レベル7モンスター×2

このカードは自分フィールドのランク6の魔法使い族Xモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。《幻想の黒魔導師》の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。

手札・デッキから魔法使い族の通常モンスター1体を特殊召喚する。

(2):魔法使い族の通常モンスターの攻撃宣言時、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを除外する。

 

 

「やはり来ましたか《幻想の黒魔導師》! ならば召喚成功時に手札の《エフェクト・ヴェーラー》のモンスター効果を発動します。このカードを手札から墓地へ送り、《幻想の黒魔導師》の効果をターン終了時まで無効にします!」

 

 純一が手札にある《エフェクト・ヴェーラー》のカードをデュエルディスクの墓地ゾーンに置くと、妖精の姿をしたモンスターが《幻想の黒魔導師》の頭上に姿を現し、羽から光の粒子を振りかけた。

 その影響なのか、《幻想の黒魔導師》から発するオーラが弱くなり、気が付けば消え去っていた。モンスター効果が適用されたようだ。

 

「クッ! このターンで《ブラック・マジシャン》を展開しつつ、《白き霊龍》を除外したかったけど、そうはいかないか!」

 

「《幻想の黒魔導師》は厄介なモンスター効果を持っているので、早めに除去させてもらいますよ!」

 

「ムムッ、やはり一筋縄では行かないか……カードを1枚セットしてターンエンドだ」

 

 

純一 

LP:8000

手札:4

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《白き霊龍》   

魔法・罠ゾーン:なし

 

マスター・ユウギ 

LP:8000

手札:3

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《ベリー・マジシャン・ガール》、《チョコ・マジシャン・ガール》、《幻想の黒魔導師》

魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

ーーーーー

 

・4ターン目

 

「上手い所で《幻想の黒魔導師》のモンスター効果の発動を防ぎましたね……」

 

「下手したらさっきのターンで終わっていたかもしれなかったからな……純一も反撃に出たい所だ」

 

「僕のターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイフェイズ。メインフェイズ入ります。……よし。そちらが展開したのなら、こちらも展開させてもらいます! 手札のカードを1枚、《太古の白石(ホワイト・オブ・エンシェント)》を捨てて、魔法カード、《ドラゴン・目覚めの旋律》を発動!」

 

「まずい!? 確かさっきのターンで儀式魔法サーチしてた!!」

 

 

《ドラゴン・目覚めの旋律》

通常魔法

(1):手札を1枚捨てて発動できる。

攻撃力3000以上で守備力2500以下のドラゴン族モンスターを2体までデッキから手札に加える。

 

 

「その通り……ようやくこのデッキの主役を登場させましょう! 攻撃力3000以上・守備力2500以下のドラゴン族モンスターを2体までデッキから手札に加えます!」

 

 純一のターン。千冬と真耶の2人が見守る中、彼もエンジンをトップギアに上げていく。魔法カードを発動すると、純一の目の前にギターを携えた《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》が現れた。

 観客に一礼してからかき鳴らされるのはドラゴン達の魂を振るわせる旋律。それが鳴り終わると同時に《ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-》の姿が消え、純一は2枚のドラゴン族モンスターカードを手にしていた。

 

「僕は《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》と、《混沌帝龍《|カオス・エンペラー・ドラゴン》-終焉の使者-》の2枚を手札に加えます。ここまで大丈夫ですか?」

 

「OK! 続けて良いよ!」

 

「では……儀式魔法、《高等儀式術》を発動します!」

 

 

《高等儀式術》

儀式魔法

儀式モンスターの降臨に必要。

(1):レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、デッキから通常モンスターを墓地へ送り、手札から儀式モンスター1体を儀式召喚する。

 

 

「デッキから通常モンスターの《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を墓地に送り、手札からこのモンスターを儀式召喚します!」

 

「ま、まさか!?」

 

「強靭にして無敵なる龍よ、混沌の力をその身に宿して眼前の敵を粉砕せよ! 儀式召喚! 現れろ、《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》!」

 

 純一のフィールドで行われるのは儀式モンスターを召喚される為の儀式。青い眼をした白き龍にエネルギーが降り注ぎ、新たなるモンスターへの転生の儀式が行われる。

 その儀式が完了した瞬間、そこには強靭にして無敵なドラゴンがいた。青い瞳をした青黒いドラゴン。その名は《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》。

 

 

青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)

儀式・効果モンスター

レベル8/闇属性/ドラゴン族

ATK/3000 DEF/0

《カオス・フォーム》により降臨。

このカードは儀式召喚でしか特殊召喚できない。

(1):このカードは相手の効果の対象にならず、相手の効果では破壊されない。

(2):《青眼の白龍》を使用して儀式召喚したこのカードの攻撃宣言時に発動できる。

相手フィールドの全てのモンスターの表示形式を変更する。

この効果で表示形式を変更したモンスターの攻撃力・守備力は0になる。

このターン、このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

 

「攻撃力3000のモンスターだと!?」

 

「それだけじゃありません。《混沌龍(カオス・ドラゴン)》は相手の効果対象にならず、効果破壊もされません。極めて制圧力の高いモンスターであり、IS学園の特殊制限環境では間違いなく強力なモンスターと言えます。更に! 僕は手札から魔法カード、《復活の福音》を発動!」

 

 

《復活の福音》

通常魔法

(1):自分の墓地のレベル7・8のドラゴン族モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを特殊召喚する。

(2):自分フィールドのドラゴン族モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。

 

 

「自分の墓地のレベル7・8のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚します。甦れ、我が魂に宿りし光の化身! 《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》!」

 

 

青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)

通常モンスター

レベル8/光属性/ドラゴン族

ATK/3000 DEF/2500

高い攻撃力を誇る伝説のドラゴン。どんな相手でも粉砕する、その破壊力は計り知れない。

 

 

「《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》……凄い。本物だ!」

 

「ふつくしい……リアルソリッドビジョンの《青眼(ブルーアイズ)》最高!」

 

 現れたのは全身が純白で青い瞳を携えたふつくしきドラゴン。本物の《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》の登場に会場にいる人達だけでなく、モニターで観戦している世界中の人々だけでなく、マスター・ユウギと純一も大興奮。

 青く美しい眼。ふつくしいとしか言えない曲線美。それでいて強靭にして無敵なオーラを放つ威風堂々たる姿。海馬社長が夢中になるのも納得出来る。

 

「そして《白き霊龍》と《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》でオーバーレイ! 2体のレベル8モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」

 

 《白き霊龍》と《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》が黄色の光に変わると、地面に吸い込まれていった。

 純一のフィールドの中央に巻き起こった渦に2つの黄色の光が飛び込み、渦の中から眩い光が広がっていく。

 そして現れたのは一人の騎士。伝説として伝わる巨神竜の力を引き継いだと謳われている、《神竜騎士フェルグラント》。

 

 

《神竜騎士フェルグラント》

エクシーズ・効果モンスター

ランク8/光属性/戦士族

ATK/2800 DEF/1800

レベル8モンスター×2

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。

このターン、対象のモンスターは効果が無効になり、このカード以外の効果を受けない。

この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

「太古の巨竜の力を受け継ぎし騎士よ、輝く剣で敵を斬り裂け! エクシーズ召喚! 現れろランク8! 《神竜騎士フェルグラント》!」

 

「うわっ、面倒なエクシーズモンスターが来た!」

 

「オーバーレイ・ユニットとなっている《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を取り除き、《神竜騎士フェルグラント》のモンスター効果を発動! フィールドの表側表示モンスター1体の効果を無効にし、このカード以外の効果を受けなくさせる! 僕が選ぶのは当然《チョコ・マジシャン・ガール》!」

 

「しまった! 《チョコ・マジシャン・ガール》は攻撃対象に選択されないと効果が発動出来ない!」

 

「今のうちに除去しておかないといけない気がします! このままバトルフェイズに入ります!」

 

「ちょっと待った! バトルフェイズ開始時、セットしていたこのカードを発動する! リバースカードオープン! 永続罠、《マジシャンズ・プロテクション》!」

 

「何ですと!?」

 

 

《マジシャンズ・プロテクション》

永続罠

(1):自分フィールドに魔法使い族モンスターが存在する限り、自分が受ける全てのダメージは半分になる。

(2):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合、自分の墓地の魔法使い族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

 

「私のフィールドに魔法使い族モンスターがいる限り、私が受ける全てのダメージは半分になる!」

 

「クッ! このターンで大ダメージを与えたかったですが、仕方ないです! 気を取り直してバトルフェイズ! 先ずは《神竜騎士フェルグラント》で《チョコ・マジシャン・ガール》に攻撃!」

 

「グァッ! 本来なら1200の戦闘ダメージを受けるが、《マジシャンズ・プロテクション》の効果で半減されて600の戦闘ダメージを受ける!」

 

 《神竜騎士フェルグラント》が右手に握る剣を構えながら突進を開始すると、水色の魔導衣を着ているスタイルの良い少女―《チョコ・マジシャン・ガール》が、迎撃しようと右手に握る杖から魔導弾を放つ。

 それを躱して間合いに入り込み、剣を振るう《神竜騎士フェルグラント》。その剣閃が《チョコ・マジシャン・ガール》を斬り裂いた。

 

「続けて《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》で《幻想の黒魔導師》に攻撃宣言! この瞬間、《混沌龍(カオス・ドラゴン)》のモンスター効果が発動します! 《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を儀式素材に使用して儀式召喚したこのモンスターの攻撃宣言時、相手フィールドの全てのモンスターの表示形式を変更します! 全員守備表示になりやがれ!!」

 

「しまった!? 確か《混沌龍(カオス・ドラゴン)》って貫通効果持ちじゃ……」

 

「その通り! この効果で表示形式を変更したモンスターの攻撃力・守備力は0になり、このターン、《混沌龍(カオス・ドラゴン)》が守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ貫通ダメージを与えます! 《混沌龍(カオス・ドラゴン)》の攻撃! 《混沌のバーストストリーム》!!!」

 

「グッ! 《幻想の黒魔導師》が……!」

 

「バトルフェイズを終了してエンドフェイズに移ります。《ドラゴン・目覚めの旋律》の発動コストとして墓地に送った、《太古の白石(ホワイト・オブ・エンシェント)》のモンスター効果を発動します」

 

 

太古の白石(ホワイト・オブ・エンシェント)

チューナー・効果モンスター

レベル1/光属性/ドラゴン族

ATK/600 DEF/500

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。

デッキから《ブルーアイズ》モンスター1体を特殊召喚する。

(2):墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の《ブルーアイズ》モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

 

「このカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズ、デッキから《ブルーアイズ》モンスター1体を特殊召喚出来ます。2体目の《白き霊龍》を特殊召喚し、モンスター効果を発動します。《マジシャンズ・プロテクション》を除外します」

 

「しまった……!」

 

「ターンエンドです」

 

 

 

純一 

LP:8000

手札:2

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》、《神竜騎士フェルグラント》、《白き霊龍》

魔法・罠ゾーン:なし

 

マスター・ユウギ 

LP:8000→5900

手札:3

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《ベリー・マジシャン・ガール》

魔法・罠ゾーン:なし

 

ーーーーー

 

・5ターン目ーーーーー

 

「一気に逆転しましたね、束様……」

 

「うんうん♪ 私はジュン君とデュエルするのがとても楽しみなんだ。いつも一生懸命だし、それでいて丁寧だから対戦するには最適なプレーヤー。でもマスター・ユウギさんもここから反撃してくると思うな……」

 

 観客席の中で観戦している篠ノ之束とクロエ・クロニクル。彼女達は変装している為、誰も彼女達の存在に気付いていない。

 束の言う通り、ライフポイントをついに減らしてしまったマスター・ユウギの怒涛の反撃が始まろうとしていた。

 

「私のターン! ドローフェイズ、ドロー!……私が今引いたこのカードの効果は、このカードをドローした時、このカードを相手に見せる事で特殊召喚が出来る。私は《守護神官マハード》を特殊召喚!」

 

「馬鹿な!? この局面で《守護神官マハード》を引き当てただと!?」

 

 

《守護神官マハード》

効果モンスター

レベル7/光属性/魔法使い族

ATK/2500 DEF/2100

(1):このカードをドローした時、このカードを相手に見せて発動できる。

このカードを手札から特殊召喚する。

(2):このカードが闇属性モンスターと戦闘を行うダメージステップの間、このカードの攻撃力は倍になる。

(3):このカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。

自分の手札・デッキ・墓地から《ブラック・マジシャン》1体を選んで特殊召喚する。

 

 

「ではスタンバイフェイズ。メインフェイズに入る。《マジシャンズ・ロッド》を通常召喚!」

 

「来ましたか! 【ブラック・マジシャン】デッキのキーカード!」

 

 反撃の狼煙を上げたマスター・ユウギ。彼が召喚したモンスター。それは《ブラック・マジシャン》が携えている杖。

 しかしただの杖に在らず。かの有名な黒衣の大魔導師が使う杖だ。それはとても強力な能力を秘めている。

 

 

《マジシャンズ・ロッド》

効果モンスター

レベル3/闇属性/魔法使い族

ATK/1600 DEF/100

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。

《ブラック・マジシャン》のカード名が記された魔法・罠カード1枚をデッキから手札に加える。

(2):このカードが墓地に存在する状態で、自分が相手ターンに魔法・罠カードの効果を発動した場合、自分フィールドの魔法使い族モンスター1体をリリースして発動できる。

このカードを手札に加える。

 

 

《マジシャンズ・ロッド》が召喚に成功した時、モンスター効果が発動する! テキストに《ブラック・マジシャン》のカード名が書いてある魔法・罠カード1枚をデッキから手札に加える。私が手札に加えるのはもちろん《黒の魔導陣》! そして今手札に加えた永続魔法、《黒の魔導陣》を発動!」

 

 

《黒の魔導陣》

永続魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードの発動時の効果処理として、自分のデッキの上からカードを3枚確認する。

その中に、《ブラック・マジシャン》のカード名が記された魔法・罠カードまたは《ブラック・マジシャン》があった場合、その内の1枚を相手に見せて手札に加える事ができる。

残りのカードは好きな順番でデッキの上に戻す。

(2):自分フィールドに《ブラック・マジシャン》が召喚・特殊召喚された場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを除外する。

 

 

「発動時の効果処理として、自分のデッキの上からカードを3枚確認。その中に、テキストに《ブラック・マジシャン》のカード名が記された魔法・罠カードか、《ブラック・マジシャン》があった場合、その中の1枚を相手に見せて手札に加える事が出来る。残りは好きな順番でデッキトップに戻す。では確認して……と」

 

 マスター・ユウギがデッキトップから3枚のカードを確認する。罠カードの《マジシャンズ・コンビネーション》。モンスターカードの《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》。そして魔法カードの《死者蘇生》。

 手札を確認すると、マスター・ユウギは《マジシャンズ・コンビネーション》を手札に加える事を決め、《死者蘇生》をデッキトップ、《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》を2番目に置くことを決めた。

 

「私は罠カードの《マジシャンズ・コンビネーション》を手札に加え、残りを好きな順番でデッキトップに戻して……バトルフェイズに入る!」

 

「バトルフェイズ開始時に《神竜騎士フェルグラント》のモンスター効果発動! オーバーレイ・ユニットとなっている《白き霊龍》を取り除き、《守護神官マハード》のモンスター効果を無効にします!」

 

「クソッ! だがこれで《神竜騎士フェルグラント》はオーバーレイ・ユニットを使い果たした……このまま《白き霊龍》を攻撃!」

 

「迎え撃て、《白き霊龍》!」

 

 《守護神官マハード》が《白き霊龍》に向けて魔導弾を放つと、それに負けじと《白き霊龍》も口から白い光弾を放って応戦する。

 魔導弾と白い光弾は両者の中央で激突し、やがて大爆発を引き起こしてその余波は神官と霊龍を巻き込んでいく。

 黒煙と爆炎の中から姿を現したのは《白き霊龍》。ドラゴンを守る優しい音色が戦闘破壊から救ってくれた。

 

「墓地にあった《復活の福音》を除外し、《白き霊龍》を戦闘破壊から守りました」

 

「メインフェイズ2。カードを3枚セットしてターンエンド」

 

 

 

純一 

LP:8000

手札:2

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》、《神竜騎士フェルグラント》、《白き霊龍》

魔法・罠ゾーン:なし

 

マスター・ユウギ 

LP:8000→5900

手札:0

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《ベリー・マジシャン・ガール》、《マジシャンズ・ロッド》

魔法・罠ゾーン:《黒の魔導陣》、セットカード×3

 

ーーーーー

 

・6ターン目

 

「マスター・ユウギさんがセットしたのは《マジシャンズ・コンビネーション》だな……1枚目は」

 

「兄さん。もう1枚は《永遠の魂》でしょうか?」

 

「その可能性はあるな。そうしたら純一のフィールドにいるモンスターが除外されてしまう……ここからが勝負だ純一!」

 

 五反田弾・蘭兄妹と御手洗数馬が手に汗を握りながら見守る中、純一のターンとなったが、ここでマスター・ユウギが動き出した。

 

「僕のターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイフェイズ。メインフェイズに入ります」

 

「メインフェイズ開始時、リバースカードオープン! 速攻魔法、《イリュージョン・マジック》を発動!」

 

 

《イリュージョン・マジック》

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドの魔法使い族モンスター1体をリリースして発動できる。

自分のデッキ・墓地から《ブラック・マジシャン》を2体まで選んで手札に加える。

 

 

「自分フィールドの魔法使い族モンスター1体をリリースし、デッキ・墓地から《ブラック・マジシャン》を2体まで手札に加える事が出来る。私はフィールドの《マジシャンズ・ロッド》をリリースし、デッキから《ブラック・マジシャン》を2体手札に加える! そしてもう1枚リバースカードオープン! 永続罠発動! 《永遠の魂》!」

 

 

《永遠の魂》

永続罠

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):以下の効果から1つを選択して発動できる。

●自分の手札・墓地から《ブラック・マジシャン》1体を選んで特殊召喚する。

●デッキから《黒・魔・導》または《千本ナイフ》1枚を手札に加える。

(2):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分のモンスターゾーンの《ブラック・マジシャン》は相手の効果を受けない。

(3):表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動する。

自分フィールドのモンスターを全て破壊する。

 

 

「セットしていましたか!」

 

「《永遠の魂》の効果発動! 自分の手札・墓地から《ブラック・マジシャン》1体特殊召喚する! 私は手札から《ブラック・マジシャン》1体を……守備表示で特殊召喚! そしてこの瞬間にコンボが発動する! 私のフィールドに《ブラック・マジシャン》が特殊召喚された事で、《黒の魔導陣》の効果が発動! 相手フィールドのカード1枚を除外する! 私が除外するのは《神竜騎士フェルグラント》!」

 

「攻撃力2800のアタッカーが!? 仕方ないです。墓地の《太古の白石(ホワイト・オブ・エンシェント)》をゲームから除外し、墓地の《青眼(ブルーアイズ)》を手札に加えます」

 

 フィールドに現れた魔導陣が光り輝いた瞬間、魔導陣の中心から眩い先攻が放たれる。それに呑み込まれた《神竜騎士フェルグラント》が消滅していった。

 これが【ブラック・マジシャン】デッキの理想的な動き。毎ターン《永遠の魂》の効果で《ブラック・マジシャン》を特殊召喚し、《黒の魔導陣》の効果で相手フィールドのカードを除外していく。この動きが本当に強い。

 

「バトルフェイズに入ります。《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》で《ブラック・マジシャン》を攻撃!」

 

「《ブラック・マジシャン》は戦闘破壊される!」

 

「メインフェイズ2! カードを1枚セットします。ターンエンドです」

 

 混沌の力を宿したドラゴンの一撃が防御態勢を取る黒魔導師を戦闘破壊するが、《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》はモンスター効果を発動し、相手モンスターを守備表示にしないと貫通ダメージを与えられない。

 相手に戦闘ダメージを与えられず、自分は毎ターンフィールドに出したカードを除去され続けなければならない厳しい戦いとなった。

 

 

 

純一 

LP:8000

手札:3

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》、《白き霊龍》

魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

マスター・ユウギ 

LP:8000→5900

手札:2

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《ベリー・マジシャン・ガール》

魔法・罠ゾーン:《黒の魔導陣》、《永遠の魂》、セットカード×1

 

ーーーーー

 

・7ターン目

 

「まずいな……徐々に純一が追い詰められている」

 

「さっきのターンで展開されたのが効いている……このターンで攻撃力3000以上のモンスターを出されたら……」

 

「今は《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》がいるからどうにかライフを維持出来ていますが、それが突破されると……」

 

「私のターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイフェイズ。メインフェイズに入る。《永遠の魂》の効果発動! 手札から《ブラック・マジシャン》を特殊召喚! そして《黒の魔導陣》の効果を発動! セットカードを除外!」

 

 マスター・ユウギのターン。一夏・箒・セシリアが心配な表情を浮かべる中、不利な戦局を一気に打開すると共に自分に手繰り寄せる段階に入った。

 

「……セットカードは《強靭!無敵!最強!》でした。除外されます!」

 

「何て危ないカードをセットしていたんだ!? 続けて手札から魔法カード、《ティマイオスの眼》を発動する!」

 

 

《ティマイオスの眼》

通常魔法

このカード名はルール上《伝説の竜 ティマイオス》としても扱う。

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドの《ブラック・マジシャン》モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを融合素材として墓地へ送り、そのカード名が融合素材として記されている融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。

 

 

「私のフィールドの《ブラック・マジシャン》を融合素材として墓地へ送り、融合素材としてテキストに書いてある融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する!」

 

「この状況で出すモンスターは……!」

 

「黒衣の大魔導師よ、竜破壊の剣士よ、その力を重ねて邪悪なる敵を滅する魔導剣士となれ! 融合召喚! 現れろ、《超魔導剣士-ブラック・パラディン》!」

 

 

《超魔導剣士-ブラック・パラディン》

融合・効果モンスター

レベル8/闇属性/魔法使い族/攻2900/守2400

《ブラック・マジシャン》+《バスター・ブレイダー》

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。

(1):このカードの攻撃力は、お互いのフィールド・墓地のドラゴン族モンスターの数×500アップする。

(2):魔法カードが発動した時、手札を1枚捨てて発動できる。

このカードがフィールドに表側表示で存在する場合、その発動を無効にし破壊する。

 

 

「ですよね~対ドラゴンデッキなら間違いなくぶっ刺さりますし……」

 

「《ブラック・パラディン》の攻撃力は、お互いのフィールド・墓地のドラゴン族モンスターの数だけ500ポイント上昇する。さぁドラゴンの数を数えろ!」

 

「え~と……墓地に《白き霊龍》が1体いて、フィールドに《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》と《白き霊龍》がいるから合計3体になりますね……

 

「つまり《ブラック・パラディン》の攻撃力は1500上昇して4400になる!」

 

『攻撃力4400!?』

 

 純一のフィールドには攻撃力3000の《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》がいるが、マスター・ユウギのフィールドにそれを上回る攻撃力4400の《超魔導剣士-ブラック・パラディン》が姿を現した。

 その攻撃力の高さに観客の殆どがどよめきを上げる中、マスター・ユウギは《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》を倒しにかかる。

 

「バトルフェイズ! 《ブラック・パラディン》で《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》に攻撃!」

 

「《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》は戦闘破壊されます!……が! この瞬間、手札にあるこのモンスターを特殊召喚する条件が整いました!」

 

「まさか!?」

 

「無窮の時、その始原に秘められし白い力よ。鳴り交わす魂の響きに震う羽を広げ、蒼の深淵より出でよ!《ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン》!」

 

 

《ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン》

効果モンスター

レベル10/光属性/ドラゴン族

ATK/0 DEF/0

(1):自分フィールドの表側表示の《ブルーアイズ》モンスターが戦闘または相手の効果で破壊された時に発動できる。

このカードを手札から特殊召喚し、自分の墓地のドラゴン族モンスターの種類×600ダメージを相手に与える。

(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、自分の墓地のドラゴン族モンスター1体を対象として発動する。このカードの攻撃力はそのモンスターの攻撃力と同じになる。

(3):フィールドのこのカードが効果で破壊された場合に発動する。

相手フィールドのモンスターを全て破壊する。

 

 

「ば、馬鹿な!? 《ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン》だと!?」

 

「《ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン》は僕のフィールドの《青眼(ブルーアイズ)》モンスターが戦闘・効果破壊された場合、手札から特殊召喚する事が出来ます。そしてモンスター効果を発動します! 自分の墓地のドラゴン族モンスターの種類分600ポイントのバーンダメージを相手に与えます! 僕の墓地には、《白き霊龍》、《太古の白石(ホワイト・オブ・エンシェント)》、|()()()()()()()()()()()()()……4種類のドラゴンがいます。よって1800のバーンダメージ……いやドラゴン達の怒りを受けやがれ!」

 

「グアアァァァッ!!!!!」

 

 フィールドに現れたのは女性的なシルエットをしたふつくしいドラゴン。その雄叫びは墓地にいるドラゴン達の怒り。自分達を墓地に追いやった敵ではなく、自分達の主を傷付けた敵への怒り。それがマスター・ユウギに襲い掛かる。

 雄叫びの音圧による衝撃波。それを真正面から受けたマスター・ユウギは吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた。

 

「そして《ディープアイズ》は召喚・特殊召喚に成功した場合、自分の墓地のドラゴン族モンスター1体のモンスターの攻撃力と同じになります。僕は墓地にいる|()()()()()()()()()()を選択! 《ディープアイズ》は攻撃力3000となる!」

 

「だがこれで《ブラック・パラディン》の攻撃力は500上昇して4900となった! 私のフィールドにはセットカードがあり、毎ターン《永遠の魂》と《黒の魔導陣》のコンボで君のフィールドのカードを除外出来る。この布陣を突破出来るかな?」

 

「それは次の僕のターンで考えます。そろそろどうにかしないと、一斉攻撃でやられてしまいますからね」

 

「ターンエンド!」

 

 

純一 

LP:8000→6600

手札:2

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:、《白き霊龍》、《ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン》

魔法・罠ゾーン:なし

 

マスター・ユウギ 

LP:8000→5900→4100

手札:1

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《ベリー・マジシャン・ガール》、《超魔導剣士-ブラック・パラディン》

魔法・罠ゾーン:《黒の魔導陣》、《永遠の魂》、セットカード×1

 

 

 

・8ターン目

 

「純一君にとってこのターンは重要ですね……このターンでどうにかしないと、次のターンで決着が付いてしまいます」

 

「私は『遊戯王』については勉強中の身ですが、純一君のライフポイントはまだ半分も切っていないのに?」

 

「はい。毎ターンモンスターは1体除外されますし、例え展開したとしても攻撃しにくい状況です。《ベリー・マジシャン・ガール》は攻守0ですけど、攻撃対象に選んだからデッキから《マジシャン・ガール》モンスターを特殊召喚出来ます。そして《ブラック・パラディン》の攻撃力は4900。このターンで打開しないと、一気に流れがマスター・ユウギさんに傾いてしまいます」

 

「純一君のライフポイントが一気に0になってしまう……それで良いのですか友希那さん?」

 

「構いません。そうなったら純一さんは所詮そこまでだったと言う事です。しかし、私は信じています。純一さんはここで終わるようなデュエリストじゃないと。純一さんには私の野望を実現する為の柱になってもらいます」

 

「僕のターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイフェイズ。メインフェイズ入ります」

 

 高虎と友希那が緊張の面持ちで見守る中、純一のターンとなった。恐らくこれが自分にとっての最後のターン。そう感じているだけに、純一の表情が強張り、自然と緊張した物へと変わっていく。

 

「メインフェイズ開始時、《永遠の魂》の効果発動! 手札から《ブラック・マジシャン》を特殊召喚! そして《黒の魔導陣》の効果を発動!」

 

「どちらを除外するんですか?」

 

「《白き霊龍》だ!」

 

「やはりそう来ましたか……《白き霊龍》のモンスター効果を発動します。相手フィールドにモンスターが存在する場合、このカードをリリースし、手札から《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を特殊召喚します!」

 

「そうはさせない! リバースカードオープン! 永続罠、《マジシャンズ・コンビネーション》!」

 

 

《マジシャンズ・コンビネーション》

永続罠

(1):1ターンに1度、魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、自分フィールドの、《ブラック・マジシャン》または《ブラック・マジシャン・ガール》1体をリリースして発動できる。

リリースしたモンスターとはカード名が異なる《ブラック・マジシャン》または《ブラック・マジシャン・ガール》1体を自分の手札・墓地から選んで特殊召喚し、その発動した効果を無効にする。

(2):魔法&罠ゾーンの表側表示のこのカードが墓地へ送られた場合に発動できる。フィールドのカード1枚を選んで破壊する。

 

 

「何ですと!?」

 

「1ターンに1度、魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、自分フィールドの、《ブラック・マジシャン》か《ブラック・マジシャン・ガール》1体をリリースし、リリースしたモンスターとはカード名が異なる《ブラック・マジシャン》か《ブラック・マジシャン・ガール》1体を自分の手札・墓地から特殊召喚し、その発動した効果を無効にする! 私はフィールドの《ブラック・マジシャン》をリリースし、墓地の《ブラック・マジシャン・ガール》を守備表示で特殊召喚する!」

 

 

《ブラック・マジシャン・ガール》

効果モンスター

レベル6/闇属性/魔法使い族

ATK/2000 DEF/1700

(1):このカードの攻撃力は、お互いの墓地の《ブラック・マジシャン》《マジシャン・オブ・ブラックカオス》の数×300アップする。

 

 

「そして《白き霊龍》のモンスター効果を無効にし、《黒の魔導陣》の効果で《白き霊龍》を除外する!」

 

「《白き霊龍》は除外されますが、これで貴方はもう僕のターンで出来る事は無くなりましたね。この瞬間をずっと待っていました。僕は墓地の光属性モンスターの《マンジュ・ゴッド》と闇属性モンスターの《青眼の混沌龍(ブルーアイズ・カオス・ドラゴン)》をゲームから除外し、手札から《混沌帝龍《|カオス・エンペラー・ドラゴン》-終焉の使者-》を特殊召喚します!」

 

「何だと!?」

 

 

《混沌帝龍《|カオス・エンペラー・ドラゴン》-終焉の使者-》

特殊召喚・効果モンスター

レベル8/闇属性/ドラゴン族

ATK/3000 DEF/2500

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地から光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ除外した場合のみ特殊召喚できる。

このカードの効果を発動するターン、自分は他の効果を発動できない。

(1):1ターンに1度、1000LPを払って発動できる。

お互いの手札・フィールドのカードを全て墓地へ送る。

その後、この効果で相手の墓地へ送ったカードの数×300ダメージを相手に与える。

 

 

「このターン既にモンスター効果を発動していますが、《マジシャンズ・コンビネーション》で無効化されているので、《混沌帝龍《|カオス・エンペラー・ドラゴン》》のモンスター効果は発動出来ます。1000ライフポイントを払い、お互いの手札・フィールドのカードを全て墓地へ送って下さい」

 

「クッ、私のフィールドのカードと手札を合計すると7枚墓地送りになる……本当は《マジシャンズ・コンビネーション》が墓地に送られるとフィールドのカード1枚を選んで破壊出来る……だが対象がいない!」

 

「その後、この効果で墓地へ送ったカードの数だけ300ポイントのバーンダメージを相手に与えます。つまり……2100のバーンダメージを受けてもらいます!」

 

「良いだろう……! まずいな、そろそろライフポイントが危険水域になってきたぞ!」

 

「僕はこれでターンエンドです」

 

 

純一 

LP:8000→6600→5600

手札:0

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:なし

魔法・罠ゾーン:なし

 

マスター・ユウギ 

LP:8000→5900→4100→2000

手札:0

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:なし

魔法・罠ゾーン:なし

 

 

 

・9ターン目

 

 《混沌帝龍《|カオス・エンペラー・ドラゴン》》-終焉の使者-》のモンスター効果によって、お互いのフィールドはリセットされた状態となった。

 手札・フィールドはお互いに0枚。ここからはお互いの運命力が物を言う、引きゲーとなった。まさかの展開に誰もが驚きつつも、終盤に差し掛かっているデュエルの勝利者は誰になるのかを見ようと、モニターに釘付けになる。

 

「私のターン! ドローフェイズ、ドロー! ……う~ん、これはちょっときつい! スタンバイフェイズ。メインフェイズに入る。取り敢えずデッキ圧縮はしよう! 魔法カード、《黒魔術の継承》 を発動!」

 

 

《黒魔術の継承》

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の墓地から魔法カード2枚を除外して発動できる。

《黒魔術の継承》 以外の、《ブラック・マジシャン》のカード名または《ブラック・マジシャン・ガール》のカード名が記された魔法・罠カード1枚をデッキから手札に加える。

 

 

「自分の墓地から魔法カード2枚を除外し、このカード以外の《黒魔術の継承》 以外の、《ブラック・マジシャン》のカード名または《ブラック・マジシャン・ガール》のカード名が記された魔法・罠カード1枚をデッキから手札に加える。墓地の《イリュージョン・マジック》と《ティマイオスの眼》をゲームから除外し、デッキから……《永遠の魂》を手札に加える。そしてそのままセットしてターンエンド!」

 

 

 

純一 

LP:8000→6600→5600

手札:0

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:なし

魔法・罠ゾーン:なし

 

マスター・ユウギ 

LP:8000→5900→4100→2000

手札:0

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:なし

魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

 

 

・10ターン目

 

「僕のターン! ドローフェイズ! ドロー! ……!? ターンエンドします!」

 

「何を引いたかは分からないが、エンドフェイズ。リバースカードオープン! 永続罠《永遠の魂》を発動! 効果で墓地から《ブラック・マジシャン》1体を特殊召喚!」

 

「グッ……しまった! 次のターンモンスターを引かれたらゲームエンドだ! 改めてターンエンドします!」

 

 

 

純一 

LP:8000→6600→5600

手札:1

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:なし

魔法・罠ゾーン:なし

 

マスター・ユウギ 

LP:8000→5900→3500→1400

手札:0

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《ブラック・マジシャン》

魔法・罠ゾーン:《永遠の魂》

 

 

 

・11ターン目

 

「私のターン! ドローフェイズ、ドロー! ……クソッ! モンスターカードが引けない! だが! だがまだ行ける! 永続罠《永遠の魂》を発動! 効果で墓地から《ブラック・マジシャン》1体を特殊召喚! このままバトルフェイズに突入! 2体の《ブラック・マジシャン》で攻撃! 《黒・魔・導(ブラック・マジック)》!!!」

 

「ライフで受けます!」

 

「ターンエンド!」

 

 

 

純一 

LP:8000→6600→5600→600

手札:1

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:なし

魔法・罠ゾーン:なし

 

マスター・ユウギ 

LP:8000→5900→4100→2000

手札:1

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《ブラック・マジシャン》×2

魔法・罠ゾーン:《永遠の魂》

 

 

 

・12ターン目

 

「ヤバイ! 純一のライフが残り600になった! ガンマンライン越えたぞ!」

 

「このターンでどうにかしないと真面目にヤバイわ!」

 

 一夏と楯無の言う通り、このターンでどうにかしないと純一はデュエルに敗北してしまう。その未来が既に見えている。

 ガンマンライン。残りライフ800以下の状態を指しており、これ以下の状態で相手にターンを渡せば高確率で戦闘を介さずに敗北となるデッドライン。

 

「僕のターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイフェイズ。メインフェイズ入ります!」

 

「メインフェイズ開始時、《永遠の魂》の効果で墓地から《ブラック・マジシャン》1体を特殊召喚! これで《ブラック・マジシャン》が3人! アルティメット・ブラック・マジシャンだ!」

 

「ふ、ふつくしい! けど! それもここまでだ! 手札から魔法カード、《ハーピィの羽根帚》を発動!」

 

「な、何だって!?」

 

 

《ハーピィの羽根帚》

通常魔法(制限カード)

(1):相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する。

 

 

「相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊!」

 

「さっきのターンで引いてたのか!? 《永遠の魂》は破壊される! そして表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合、自分フィールドのモンスターを全て破壊する!」

 

「これでフィールドはがら空きだ! 手札から速攻魔法、《銀龍の轟砲》を発動!」

 

 

《銀龍の轟砲》

速攻魔法

《銀龍の轟砲》は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の墓地のドラゴン族の通常モンスター1体を対象として発動できる。

そのドラゴン族の通常モンスターを特殊召喚する。

 

 

「自分の墓地のドラゴン族の通常モンスター1体を特殊召喚します。甦れ、《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》!」

 

「《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》……このデュエルの決着を付けるには相応しいモンスターだな……」

 

 目の前に現れた《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を見て、マスター・ユウギは感慨深そうに呟く。

 フィールドはがら空き。手札にあるカードは、発動しても意味のない《イリュージョン・マジック》。自身の敗北を悟ったマスター・ユウギは微笑みを浮かべる。

 

「バトルフェイズ! 《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》でダイレクトアタック! 《滅びの爆裂疾風弾(バーストストリーム)》!!!」

 

「ライフで受ける!」

 

 《青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》のダイレクトアタックが通り、エキシビジョンデュエルに決着がついた。

 《青眼(ブルーアイズ)》は勝利の余韻に浸る事なく、ソリッドビジョンシステムが終了するのに伴って消滅していった。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・今回のデュエルで選んだデッキ

 ここから本格的に始まる!と言う意味も込めて、初代の由緒正しいテーマである【青眼】と【ブラック・マジシャン】を選びました。

・プロレスのような展開

 この小説におけるデュエルは極力一方的な展開にならず、お互いにライフポイントをギリギリまで減らした物にしていければ……と思います。
 要はプロレスのように展開がめまぐるしく動き、優勢と劣勢が変わっていくデュエルを表現していきたいです。
 ただこればかりだと強いキャラのデュエルを表現しにくくなるので、そこはまぁ臨機応変に対応していきます。

次回はエキシビジョンデュエルのその後を記します。
第1章が終わったら、先にキャラ設定を投稿します。
もし登場キャラにこのデッキを使って欲しい・このデッキを使う人出して欲しいと言う意見があれば、感想に添えてお願いします。

次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

p.s.皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、投稿頻度が上がります。


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TURN06 新たなる波乱

お待たせしました。今回で第1章もとい序章が終わります。
今回の話を執筆している中で、この小説の方向性を「IS学園で繰り広げられる架空デュエル小説」から、「IS学園の生徒達を中心に、色々な登場人物繰り広げる青春群像劇兼架空デュエル小説」に変えました。

今回はエキシビジョンデュエル後の話になります。なので『遊戯王』関係ありません。
この話からアンチ・ヘイト要素が加わりますが、キャラをアンチするのではなく、原作にあった女尊男卑と言う風潮と如何に向き合うかに主眼を置きます。
流石にイベントの邪魔はさせません……原作で一夏君とその周りのせいで行事の悉くが中止になっているので。と言うか行事の殆どが中止でそれでも学校として大丈夫なんですかね?


 黒田純一とマスター・ユウギによる壮絶な死闘、もといエキシビジョンデュエル。勝ったのは純一だった。12ターンにも及んだ死闘。一進一退の展開。《混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン)》-終焉の使者-》のモンスター効果により、フィールドがリセットされた状態からの引き勝負。

 観客達による暖かい拍手と声援の中、お互いの健闘を労う純一とマスター・ユウギ。流石に長時間のデュエルをこなした為か、若干ながら疲労の色を見せているが、それでも心から良い笑顔を浮かべている。

 高虎による終わりの挨拶が終わった後、待機部屋に戻った純一とマスター・ユウギ。2人にとってこれが初デュエルだったが、このデュエルを通じてお互いを認め合った。

 今回のエキシビジョンデュエルを通じて、『呉島エンタテインメントスタジオ』と『KONNAMI株式会社』が企業提携し、共同開発したデュエルディスクのお披露目会は大成功に終わった。

 デュエルディスクの開発は訓練用ISの『打鉄(うちがね)』を開発した『三井重工』が行う事となっていたが、当然の事ながらデュエリスト達への支給はもちろん行われる。

 また、それだけでなく世界中から買取の注文が大量発生し、『呉島エンタテインメントスタジオ』と『KONNAMI株式会社』はこれを機に一躍大きな発展を遂げる事となった。

 ISアリーナでエキシビジョンデュエルが行われた次の日。IS学園の職員室。そこでは教職員が集合して職員会議が急遽行われる事となった。主な議題は昨日のエキシビジョンデュエルを踏まえ、『遊戯王』の行事大会のクラス別のパワーバランスの調整だった。

 昨日のエキシビジョンデュエルの動画を一通り観終えた後、教職員達は1年1組の純一をどのクラスに異動させるかを考え始めた。

 

「ではこれより職員会議を始めます。え~昨日のエキシビジョンデュエルの観戦を踏まえ、これからの授業について話し合いたいと思います。先ず今までのISと基本科目の授業と訓練を今まで通り行います。それと並行して『遊戯王』の授業を行う事となりましたが、今回は特別許可を頂いて『KONNAMI株式会社』の直営店のカードショップ、『カードターミナル』のインストラクターの方々にお願いをしました。私も以前『遊戯王』を嗜んでいましたが、今のルールを把握するのに必死なので……こういう事はプロの方にお願いするのが一番だと思いました。その方針でよろしくお願いします」

 

「次の議題として、『遊戯王』の大会におけるクラスのパワーバランスの調整です。やはり問題なのは純一君をどのクラスに割り当てるかですね……」

 

 1年1組は一夏と純一の2人で1人のクラス代表で今までやってきた。ルックスとハートの強さの一夏と温和な知恵者の純一。小学生時代からの親友だった事もあり、2人の力で1組は一つにまとまっている。

 一夏と箒の2人が過去に『遊戯王』で遊んだ経験があり、今はリハビリと新ルールの把握に励んでいる。本音は現在進行形で嗜んでおり、純一も一目置いている程の実力者。セシリアは初心者だが、本人の懸命な努力もあって力を付けている。

 そこに純一が加わったら一体どうなるのか。学年別クラストーナメントで優勝候補間違いなしになり、1組による一強になる可能性が出てくる。

 それを危惧した上層部ことIS委員会によって、今回の職員会議が行われている。今回のエキシビジョンデュエルを通じて、彼らにとって純一は目の上のたんこぶとなった。

 純一をどうにかして排除したい所だ。女尊男卑を維持しつつ、ISを扱う女性デュエリストを頂点に立たせる為にも。しかしそれは難しい。世界中の人々にかなりのディープインパクトを与え、『デュエル・ストラトス』のシンボル的存在になったのだから。それに何より純一が強い事が一番。

 純一が企業所属扱いとなり、専用機を持った時点で、女尊男卑とIS至上主義を掲げる女性の権利団体は純一を警戒対象と見定めた。例え世界最強の千冬が抑えても、彼女達の強欲で貪欲な執念は消える事はない。

 女性権利団体はIS至上主義を掲げ、女尊男卑を絶対視している。例え女性でも自分達の考えに賛同しない者には容赦しない。無関係な男性に痴漢冤罪を吹っ掛けて人生を破滅に追いやる。買物の踏み倒しや無銭飲食。恐喝や強盗。他にも誰がどう考えても重罪になるような犯罪もしている。

 女性だけが使えるIS。自分達はISに選ばれた数少ない女性。そう信じてISを絶対視し、ISの存在を穢す存在を絶対に許さないと言わんばかりに私利私欲で動く。

 それを当たり前のように受け止めている者が多いIS学園の中で、純一は異端と言える。筋が通っていない事や曲がった事を嫌う正義漢である為、女尊男卑を掲げる女子生徒達と何度もトラブルを起こしている。しかし、大半は純一が巻き込まれたり、理不尽な目に遭った事への怒りから来る物なので、教師達は純一に同情している。

 教師陣が純一側であり、加害者側の女子生徒達に容赦ない処分を下している為、純一を厄介に感じている女子生徒も少なからずいる。特に身内に女尊男卑を掲げる権利団体の重役がいる場合には。

 

「となると何処かのクラスに異動になりますね。2組~4組は専用機持ちがいるから駄目です。となると5組~8組の何処かになりますね」

 

「でしたら5組にお願いします」

 

「ナターシャ先生……!」

 

 挙手をして純一を自分のクラスに迎え入れる事を申し出た教師。髪型は鮮やかで艶やかな長い金髪で左耳に認識票と思われるイヤリングを付けたアメリカ人。ナターシャ・ファイルス。アメリカ軍所属でテスト操縦者。

 今はIS学園の防衛強化も兼ねてアメリカ軍からIS学園に出向し、教師として自分の知識や経験を皆に伝えている。2学期になって来たばかりなのでまだまだ未熟な所があるが、努力家で一生懸命な所がついつい応援したくなる。

 

「昨日のデュエルを観戦していましたが、純一君のデュエルはとても素晴らしかったです。真剣勝負を楽しんでいましたし、相手を心からリスペクトしていました。とてもデュエリストらしい戦いをしていたと思います。私も今回『遊戯王』を始めましたが、是非彼を通じて沢山学びたいです。どうかお願いします」

 

「織斑先生。どうですか?」

 

「ナターシャ先生は純一君にとって良き先生になるでしょう。引継ぎもスムーズに済むでしょうし」

 

「分かりました。では純一君は1組から5組へと異動と言う事でよろしいですね?」

 

 IS学園の用務員でありながら、IS学園の実務関係を取り仕切る事実上の運営者。轡木十蔵の進行の下、職員会議は次の議題に進んでいく。

 

「次の議題ですが、『呉島エンタテインメントスタジオ』がIS学園にデュエルディスクを試供しました。実はもう1校デュエルディスクを試供した高校があります」

 

「その高校とは?」

 

「『私立鳳凰学院』です」

 

 次の議題は『私立鳳凰学院』について。途端に職員室は瞬く間に張り詰めた空気に支配された。無理もない。『私立鳳凰学院』がどのような所なのか。それを知らない訳ではない。

 

「皆さんもご存知だと思いますが、『私立鳳凰学院』は明治時代からある由緒正しい学校。戦前はお嬢様学校でしたが、今では男女共学でかなりの進学校になりました。学科は普通科と国際教養学科の2学科でしたが、5年前にIS学科を設立しました。そしてISコアを保有すると共に量産に成功しました」

 

「我々IS学園に対抗するつもりでしょうか?」

 

「向こうはそのつもりはないようです。“女尊男卑によって虐げられた男性や女性の為の受け皿となる”と言っていましたから……」

 

「我々に対する皮肉のように聞こえますな……」

 

 『私立鳳凰学院』は明治時代に設立された高等学校。戦前はお嬢様学校だったが、今は男女共学の進学校となった。授業料は私立な割に良心的。

 学科は普通科と国際教養学科の2つに5年前に設立されたIS学科の3つ。IS学科は職業訓練と大学みたく学術的要素がある為、社会人になってからでも入学する事が出来る。

 IS学園の教職員達が厄介に感じている理由。それはIS学科の事。保守系与党の自由第一党総裁、内閣総理大臣の阿部野信三が援助していると言う噂が流れている程、IS学科の設備がIS学園張りに良いのだ。

 更に噂ではタイ、オランダ、ギリシャ、ブラジル、ベルギーの代表候補生達を取り込みつつ、IS学科の教職員を充実させつつあるとの事。一体何を考えているのか。IS学園としても放ってはおけない。

 

「平等院財閥は今回のデュエルディスク開発に多額の出資・援助を行いました。その報酬としてデュエルディスクを試供されたかと」

 

「成る程……しかし話はそれだけではない筈です。理事長、要件は?」

 

「はい。IS学科を設立してISコアを保有して量産し、代表候補生を取り込みながら教職員を充実させている。となると次は……」

 

「男性操縦者を狙って来ると?」

 

「恐らくは。彼らが狙うのは……黒田純一君です」

 

 十蔵が告げたのは『私立鳳凰学院』の次なる狙い。世界で2人しかいない男性操縦者。そのどちらかを取り込もうとする筈だ。織斑一夏と黒田純一。

 織斑一夏は世界最強の織斑千冬の実の弟。天災科学者の篠ノ之束の数少ないお気に入り。そして世界で最初の男性IS操縦者。これまでIS学園で起きた色んなトラブルを解決してきた。外見も良い上に浮ついた言葉も言う為か、学園内にファンも多い。

 対する黒田純一は父親が大企業の社長で、母親が元皇族出身。天災科学者の篠ノ之束の数少ないお気に入り。世界で2番目の男性IS操縦者。見た目は地味だが性格は良い。どちらも優良物件だが、IS学園では一夏が比較的大切にされている。

 

「私も理事長の意見に同意します。純一君はIS学園を憎んでいます」

 

「憎んでいる?」

 

「彼は元々、尾田高校と言う日本隋一の進学校に入学する予定でした。死んだ気になって勉強して掴み取った合格。それを私達とISが奪い取った。聞いた話によると相当荒れたとの事です」

 

「私も進学補習を純一君からお願いされた時に聞きました。ISの道に進む気はないと」

 

 数学担当の教員―エドワース・フランシィと、部活棟の管理を任されている教員―榊原 菜月が口々に千冬の言葉に補足説明を加える。

 IS学園の授業カリキュラム。通常学科とIS学科の比率は3:7か2:8との事。とにかくIS学園では通常学科の比率が少ない。IS業界に進むつもりはない純一のような生徒には困った状態。現在の進路状況では大学進学を考えている生徒がいない為、大学受験を考える時は自分でどうにかするしかない。

 純一はIS学園に入学した時から決めていた。IS学園にいる間はきちんと勉強する。でも卒業した後はISに金輪際関わらない。であれば進路はただ一つ。大学進学。父親の後を継いで社長となる。この夢を簡単に諦める純一ではない。

 自分が“世界で2番目の男性操縦者”である事は分かっている。束に気に入られている事も分かっている。恐らくISからは逃げられない。それでも。それでも自分は夢を諦めたくない。諦められない。

 純一は無理を承知で千冬と真耶に自分の本心を明かし、今後どうすれば良いのかを尋ねた。彼女達はIS業界以外の道に進む生徒の対応の経験があまり無かったが、純一の真剣な思いを無視出来ず、彼の願いを聞き入れる事にした。

 こうして純一は通常学科の進学補習を受ける事になった。一夏が“純一が通常学科の時に物凄い集中力を発揮するから話し掛けにくい”と言う程、没頭している事が伺える。そのおかげか通常科目を担当している教員からの受けが良い。

 

「私としては『私立鳳凰学院』とは姉妹校のような関係を結びたいと思いますが……向こうと女尊男卑の権利団体の出方次第になりますね」

 

「『私立鳳凰学院』はともかく、女尊男卑の権利団体は十中八九行動を起こすと思います。そして今回のエキシビジョンデュエルの件で純一君に対する風当たりが強くなり、彼に対するプレッシャーは今まで以上となるでしょう」

 

「女尊男卑の風潮……私達もどうにかしたいですが、現状幾ら指導しても中々直らない人が多数います」

 

「風紀委員のような物を設ける必要がありますね……ただやる人がいればの話ですが」

 

「全く困った物です……女尊男卑と言う社会風潮、一部の驕り高ぶった女性達のせいで我々IS関係者は肩身の狭い思いを感じなければならない……」

 

 IS学園の教職員達は険しい表情を浮かべる。“世界で2番目の男性IS操縦者”、黒田純一の扱いと彼への対応。女尊男卑を掲げる権利団体とそれに煽られた女子生徒達への指導。

 どちらも直ぐには解決策が出るような物ではなく、その後も色々と話し合いが行われて、職員会議は解散となった。

 

ーーーーー

 

 時間軸を前の日に戻そう。『呉島エンタテインメントスタジオ』の会議室。そこでは幾つかの長テーブルを連結させ、その上にオードブルやお菓子、飲み物やグラスが置かれている。

 会議室にいるのは呉島高虎と仙谷竜馬。『KONNAMI株式会社』社長の赤羽礼二。カートショップの最大手、『カードターミナル』の代表取締役の池田直人。平等院財閥のご令嬢、平等院友希那。他にもプロデュエリストやアリーシャ・ジョセスターフ等の国家IS操縦者達もいる。

 その中で異彩を放っているのが黒田純一。今回のエキシビジョンデュエルの主役の1人で、華々しいデビューを飾ったデュエリスト。その近くには純一の両親やマスター・ユウギもいる。

 彼らが集まっているのは今回のエキシビジョンデュエルの打ち上げ。今回のイベントは誰か一人のおかげで成り立った訳ではない。皆の力が物凄いエネルギーを生み出し、今回のイベントを大成功に終わらせる事が出来た。

 デュエルディスクのアイディアを生み出した人。『遊戯王』カードの使用を決断した人。デュエルディスクの開発を援助した人。ISアリーナの使用に協力した人。そしてエキシビジョンデュエルでデュエルした人。ここにいる皆は何かしらの形でこのイベントの成功に関わった。

 

「呉島社長、そろそろ乾杯の音頭を」

 

「では僭越ながらやらせて頂きましょう。お集まりの皆さん。今日のイベントは大成功に終わりました。それは皆さんの力があってこそのおかげです。デュエルディスクと言う概念を生み出した高橋先生、『遊戯王OCG』を販売している『KONNAMI株式会社』、デュエルディスクの開発の援助をして頂いた平等院財閥……そしてエキシビジョンデュエルを行った純一君とマスター・ユウギさん。そしてここにいる皆様。本当にありがとうございました! 今日は無礼講で行きましょう。乾杯!」

 

『乾杯!』

 

 グラスを打ち付け合って一気に呷る。その後皆は仲良く談笑しながらオードブルを食べ、飲み物を飲んでいる。

 その中で純一が一人飲み物を静かに飲んでいると、高虎とマスター・ユウギと友希那の3人が歩み寄ってきた。

 

「純一君。お久し振りです。私の事、覚えていますか?」

 

「貴女は……友希那さんじゃないですか! どうしてここに!?」

 

「実は今回のデュエルディスクの開発をお手伝いしまして……その縁もあって今回観戦しに来ないかとお呼ばれされました」

 

「友希那さんの名字……平等院……待てよ。平等院!? あ、あの有名な平等院財閥じゃないですか!? し、失礼しました!! 知らなかったとは言え、ご無礼を!」

 

「いえいえ。私は自分の家の事をなるべく話さないようにしています。もし話してしまうと恐れ多くて話し掛けられなくなるので……なのでデュエルをしていた頃のように話し掛けて下さい」

 

「分かりました。しかし……何故デュエルディスクの開発の援助を?」

 

 純一にとって予想外過ぎた友希那との再会。中学生の頃にデュエルしまくった時は単純に“周りに対戦相手がいない『遊戯王』プレーヤー”と言う認識だったが、蓋を開けてみれば大財閥のお嬢様。しかもデュエルディスクの開発に携わった恩人。

 その相手には低姿勢になるしかない。そうなると疑問に思う事があった。何故大財閥のお嬢様が援助を行ったのかを。

 

「理由は幾つかありますが、先ず何と言ってもアニメで観たデュエルディスクを使ってみたかったからです。私もアニメからOCGに入った身なので、一度は夢見ました。それが今回開発したいけどお金が足りないから援助して欲しいと要望が入ったので、今回援助させて頂きました」

 

「他には何かありますか?」

 

「私情が入りますが、私は今のこの世の中が好きじゃないです。ISが登場してから、女尊男卑の世の中になって男性が暮らしにくい世の中になってしまいました。私はISの事を否定しません。本来は宇宙開発に使われる筈なのに、今は兵器として使われている事が悲しいです。そしてISが登場して女性の方が偉いと言う風潮になりました。でも偉いのはISを動かせる女性であって、全ての女性ではありません。自分達が強い・偉いと勘違いしている一部の女性達が富や力を全て吸い上げ、私利私欲の為に使って世界を我が物にしている。それが私にとって許せないのです」

 

 自分の思いをはっきりと告げた友希那。その言葉と思いに胸を打たれたのか、純一は押し黙る事しか出来なかった。

 ノブレス・オブリージュの精神を地で行く責任感の強さを持っていて、力なき者・弱き者に手を差し伸べる優しさを併せ持つ、流石大財閥のお嬢様と言いたくなる程だった。

 

「だから私はデュエルディスクの援助を行い、純一君……貴方をデュエルディスクのモニターに強く推薦しました。対戦相手がいない独りぼっちだった私に、『遊戯王』の楽しさを教え、共に分かち合った貴方に私達の夢を託したいと思ったのです」

 

「一夏君じゃ駄目なんですか? 彼は素晴らしい人ですが」

 

「確かに織斑君の事も選択肢に入れていました。しかし、織斑君を選ぶと本人の意思に関係なくIS学園を、そして学園を裏で牛耳っているであろう女尊男卑を掲げる権利団体を増長させてします。私達の夢を、願いを、思いを全て悪意や欲望によって踏み躙られてしまいます。それだけは避けなければならないのです」

 

「だから残る私を選ばざるを得なかった……でも良かったのですか? 束さんの許可を得ずに押し通したのは……」

 

「許可はもらいましたよ?」

 

「……えっ?」

 

「うん。実は友希那さんから許可はもらっていたよ?」

 

「た、束さん!?」

 

 何時の間にか純一の目の前に姿を現した篠ノ之束。彼女は笑顔を見せながら純一に言葉をかけると、純一は動揺する事しか出来なかった。

 そう言えば肝心な事を聞いていなかった。何故束がデュエルディスク開発に協力したのかを。デュエルディスク機能搭載のISを作る気になったのかを。

 

「今回のデュエルを観て確信したんだ。私が見たかったISの形の一つがこれだったんだって。私も一人の『遊戯王』プレーヤーとして夢見ていたんだ……デュエルディスクを付けてデュエルするのを」

 

 束が開発に協力したデュエルディスク型のIS。それは悪意や欲望といった、人間の負の感情が込められて開発された物ではない。

 最初は一つの会社会議から始まった。強みを活かした新商品開発を考える会議の中で、『遊戯王』のアニメの話が出て大盛り上がり。そこからアニメのデュエルディスクを完全再現出来ないか?と言う話となった。

 そこから『KONNAMI株式会社』に営業を仕掛けた。『KONNAMI株式会社』は『遊戯王』プレーヤーの減少と売り上げの落ち込みを抱えており、それを打開する為にこのビッグウェーブに乗る事を決めた。

 しかし、ここで問題が浮上した。デュエルディスクの開発を何処に依頼し、何処から援助してもらうか。かなりの数を開発するのだ。大企業や大財閥に依頼するしかない。

 そんな時に手を差し伸べたのが平等院財閥と『黒田商事』だった。この大財閥と大企業の子供が『遊戯王』プレーヤーだった事が幸いし、資金援助と開発元の宛てが見つかった。

 平等院財閥が資金援助を行い、『黒田商事』が開発元を斡旋してくれた。更に『黒田商事』経由で話を聞いた束がデュエルディスク型のISの開発を行い、その代わりにIS学園にデュエルディスクの試供を約束した。

 それを聞いた平等院財閥も経営している『私立鳳凰学院』にデュエルディスクの試供を申し出て、何やら波乱が起きそうな雰囲気を漂わせている。そして『黒田商事』経由で『三井重工』がデュエルディスクの開発に携わる事となった。

 切っ掛けは自社の強みを活かした商品開発の会議。そこから出たアイディアだった。それが何時の間にか色んな人々の思いや願いを込めて作られたデュエルディスクとなった。

 自社の強みの技術が込められた商品で遊んで欲しい。世界的に人気なカードゲームで楽しんで欲しい。アニメのような熱いデュエルを繰り広げて欲しい。そしてデュエルを通じて沢山の絆を結び、多くの事を学んで欲しい。

 

「純一君が初めてISを正しく使えた。正直ISは今の世界には早過ぎた。今のISはスポーツ競技とは言いつつ、やっている事は只の戦争に近い物。まぁIS学園に無人機送り込んでいる私が言えた事じゃないけど……」

 

「束さんが世界を憎んでいる理由は何となく分かります。宇宙開発の為に開発した物がスポーツ競技とは名ばかりの闘争に使われていると聞いたら、誰だって怒りたくなりますよ」

 

「だから私はデュエルディスクに賭ける事に決めたんだ。ISは兵器じゃない。宇宙開発の為に作った。でも“白騎士事件”で兵器として皆に見られた。私は何も出来ずにいた。どうやれば本来の使い方になるのかを考えていたから……」

 

「今回デュエルディスクとして新しい可能性を見出した、と言う事で良いですか?」

 

「そう。“無限の成層圏”ならぬ“無限の可能性”を魅せてくれた。そしてそれが成功した。他でもない皆の力と努力のおかげで。だったら開発者として協力しない訳には行かないよ」

 

 限りなく優しい表情を浮かべる束に、純一も微笑みを浮かべた。自分以外の前では絶対に見せない、優しいお姉さんのような姿。何故自分にだけ見せるのか。何度も聞いてもはぐらかせてしまうが、それでも純一にとって束は大切な人である事に変わりはない。

 

「それにしてもこの打ち上げの席には、かなりの有名人が集まっていますね。まさかアリーシャさんがお出でになっているとは……」

 

「今回こうしてISのに国家代表操縦者の方々にも集まって頂いたのは我々、平等院財閥の計画に加わって頂く為です。もちろん純一君……貴方にも加わって頂きます」

 

「束さんもですか?」

 

「私も面白そうだから加わる事に決めたよ? それに私の夢を叶えるお手伝いをしてくれるとユッキーが約束してくれたから」

 

「これだけかなりの人を呼んだんです。大掛かりな計画かと思います。その内容をお聞かせ下さい」

 

 平等院友希那と言う魔王を前に、純一は物怖じせずに彼女の野望を聞き出した。このビッグウェーブに乗るかどうか。それを判断する為に。

 

「平等院財閥が経営している『私立鳳凰学院』では、5年前にIS学科を新設しました。IS学園はIS操縦者育成用の特殊国立高等学校。操縦者や専門のメカニックなど、ISに関連する人材はほぼこの学園で育成される……と言われていますが、メカニックになりたい人は社会人の方でもいます。男性でも純粋にISと言う存在に興味を抱き、ISに関わる仕事に就きたい。そう思う人も少なからずいます。しかし……」

 

「女尊男卑の世の中がそれを許さない……と」

 

「はい。そこで束博士からISコアを幾つか試供して頂くと共に、国家操縦者の方々を講師に招き、代表候補生の何人かも取り込みました。ISと言う物を兵器ではなく、純粋な科学技術として研究する為に。そして在るべき姿、宇宙開発に戻す為に。その可能性の中でデュエルディスク型のISが生まれた。そう言っても過言ではありません」

 

 『私立鳳凰学院』は女尊男卑の風潮に傷付けられた人々を守る為、IS学科を新設して社会人の為の職業訓練校としている。

 そのおかげで入学者が相次いだが、女尊男卑の影響で仕事を失った人に関しては授業料無料、就職先斡旋、アフターケア万全と三ツ星ホテル顔負けのサービスを行っている。

 未来が見えなくなり、希望を失った人々にはもう1度未来を信じる勇気と手に職を付けられるスキルを与える一方で、女尊男卑を掲げる連中には容赦のない対応を取る事で知られている。この時点でIS学園では取り上げられていないが。

 

「ですがIS学科は現状ではおまけ程度。『私立鳳凰学院』は共学の普通科と国際教養学科しかない私立高校。そこでなら貴方が諦めかけている夢を叶える事が出来ます」

 

「諦めかけている夢……」

 

「話は聞いています。お父さんの会社を継ぐと言う夢をお持ちで。素晴らしいですよ? ですが今のままでは叶う可能性は低いでしょう。IS学園にいる限りは」

 

「確かに。とは言ってもIS学園が私を手放すとは思えませんが」

 

「それはどうでしょうね? IS学園は織斑一夏と言う最高のカードを手にしています。世界初の男性操縦者であり、世界最強と謳われている織斑千冬の弟。世界情勢は相変わらず女尊男卑で男性への風当たりが強いです。一夏君と貴方。どちらが優先されるかと聞かれると、当然一夏君が優先されます」

 

「となると遅かれ早かれ私は研究施設に連れてかれる……かもしれないと」

 

 純一の言葉に友希那は頷く事で答えた。織斑一夏は有名人の実弟であり、純一は実質一般生徒扱い。特別にコーチを付けられているが、専用機もなく、特に待遇は一般生徒と然程変わりない。

 いざと言う時に切り捨てられる可能性はある。幾ら千冬が純一の両親と親しく、純一を守ろうとしても、あくまで一人の教師でしかない千冬でも限界がある。

 

「現状を言うと、今の貴方は織斑一夏の当て馬になりかけています。いやなっていると言っても良いでしょう。私はそうなる未来を阻止する為に貴方をここに招待しました。本音を言えば『私立鳳凰学院』に転校し、学業に打ち込みながら夢を追って欲しい。“世界で2番目のIS操縦者”と言う肩書を捨て、黒田純一と言う一人の人間に戻って欲しい。今日のデュエルを観て、私は強く思いました。デュエルに挑んでいる貴方は間違いなく輝いていました。その輝きを理不尽な悪意によって消させたくない!」

 

「純一君。友希那さんの言う通りサ。今回のエキシビジョンデュエル、そして『デュエル・ストラトス』の始動に伴い、IS委員会、及びその上層部の女尊男卑とIS至上主義を掲げる連中は君の事を邪魔に感じるようになった。今は千冬が抑え込んでいるけど、それもいつ破られるか……」

 

「アリーシャさん……状況はそこまで悪いんですか?」

 

「今はそうではないけど……“膨らみ過ぎた風船はやがて破裂する”って事だナ」

 

 友希那の言葉に答えたのはアリーシャ・ジョセスターフ。腰まで届く赤髪のツインテール。肩から胸元まで露出する程までに着崩した着物。そしてピンヒール。特徴的な服装をしている美女。

 テンペスタIIと言うISの起動実験事故に伴い、右目と右腕を失っているが、第2回モンド・グロッソ大会優勝者でイタリアの国家代表を務めている。2代目ブリュンヒルデと言われているが、本人は“千冬との決着はついていない”と言って、第2回モンド・グロッソのブリュンヒルデ受賞を辞退している。

 

「……まさかこのような事態になるなんて」

 

「私の願いは女尊男卑を壊して元々の社会を取り戻す事。ここにいる皆さんはそれに賛同してくれました。中には自分達のいる業界が冬の時代になってしまったが為に、かつての勢いを取り戻したいと考えている人もいますが……それでも願いは一つです。元々の社会に戻って欲しい。皆が未来を見れない社会に明日はありません。男性も、女性も、老人も、子供も等しく希望を持って生きられる。そんな世の中にする事。それが私の、いや平等院財閥の使命です。純一君。貴方に私の夢を叶えるお手伝いをして欲しいです。難しい事は頼みません」

 

 純一は考える。友希那の考えは理解出来る。自分も女尊男卑の思想が蔓延る前の社会に戻って欲しい。しかし自分に出来る事は何なのか分からない。大企業の息子で学生でしかない自分に一体何が出来るのか。

 世の中の事を知ろうと、色んな人に会って見聞を広めている。自分でやっている副業で稼いだお金を寄付したりしている。でもそれ以上の発想が出てこない。

 

「私も友希那さんと思いは一緒です。確かにIS学園で多くの事を学び、沢山の思い出や仲間が出来ました。しかし私が目指している未来と今いる場所は相容れません。父親の会社を継いで、社長になる夢を私は諦めたくありません。正直私に何が出来るのか分かりませんが、この私でも出来る事があるのならば私は全力を以て応えます」

 

「ありがとうございます。何れ貴方の夢を叶える手筈を整えます」

 

 こうしてエキシビジョンデュエルの打ち上げはお開きとなり、デュエル産業の勃興と共に水面下で何やら動き始めた。

 今まではIS学園の一人の生徒だった純一だったが、エキシビジョンデュエルを通じて一気に世界の中心へと追いやられた。しかも友希那の企みに乗っかる事を決め、同時に自分の叶えたい夢に向けて動き出した。

 その切っ掛けはエキシビジョンデュエル。今までISの世界では輝けなかった自分が輝く事が出来た。自信を得ると共に前に進む勇気を貰えた。だから自分を変えようと決意する事が出来るようになった。

 実を言うと、純一は内心IS学園に不満を抱いていた。女尊男卑の風潮が蔓延っている事や、誹謗中傷を受ける事もそうだが、自分が目指している夢が遠のいていく気がしている事が一番大きい。父親の会社の社長となり、後を継ぐと言う夢。

 当然の事だが、IS学園の授業カリキュラムはISに関する授業や訓練の比重が大部分を占めており、純一はセンター試験の科目を進学補習と言う名前の個人指導でやりくりしているのが現状だ。

 時々模擬試験を受けているが、志望校たる東京大学はC~D判定とあまり良い結果ではない。IS学園にいる状態で少ない勉強時間で頑張っている方だと励ましの言葉をかけられても、純一は満足出来ない。納得できない。

 自分の中学生時代の親友はその先に進んでいると言うのに、どうして自分はこの位置にいる? 足りない。足りなさすぎる。時間が足りない。もっと勉強に打ち込めるだけの時間が欲しい。もっと勉強のやり方を考える時間が欲しい。こんなんじゃ志望校に合格する事が出来ない。満足出来ない。

 今まではISの勉強や訓練もあって溜め込んでいたが、『遊戯王』に復帰した事で心の奥底から沸き上がってくる強欲で貪欲な渇きが沸き上がってしまった。かつてデッキを組んで対戦していた日々が、大会に出て一心不乱に勝利を求めるあの野心が純一の奥底に眠る物を呼び覚ましてしまった。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・純一君が1組から5組に!?

1組は一夏君と箒さんとセシリアさん、そしてのほほんさんがいるので純一君がいなくてもそこそこ戦えます。
純一と言うジョーカーがいると流石に手が付けられないので、他のクラスに飛ばされる事になりました。決定したのはIS委員会。
本編でも触れましたが、女尊男卑を掲げる女性達が純一君の活躍を快く思わず、最悪命を狙う事も想定されます。なので寮部屋も変更になります。

・女尊男卑って……

原作だと”女尊男卑が当たり前になってしまった”と言っていますが、具体的にどういう所がそうなったか今一分からないんですよね……なので手探り状態で執筆しています。
原作読んでいると一夏君も適応出来ている(?)みたいなんですが、純一君は女尊男卑に中指立てて抗っています。なのでトラブルが絶えません。
でも大事にならないのは彼の人徳だったり、トラブルの内容が理不尽な言いがかりばかりで「そりゃ怒っても仕方ないよな~」と思える物ばかりです。

・ナターシャ先生

原作に登場したけど、アニメには登場しなかったナターシャ・ファイルスさん。
この人は「元々アメリカ軍でISのテスト操縦者だったけど、防衛強化の一環で教師としてIS学園にやってきた」と言う設定です。
原作でも「銀の福音暴走事件」の後出番がないので、良いキャラと言う事もあって私個人の独断と偏見でレギュラーに昇格させました。

・『私立鳳凰学院』関係の元ネタ

名前の元ネタは漫画『クローズ』と『WORST』に登場した鳳仙学園です。
内閣総理大臣の名前は安倍首相。
取り込んだ代表候補生は『アーキタイプブレイカー』の方々が中心です。

・一気に注目度が上がった純一君

今回のデュエルディスクのモニター案件、エキシビジョンデュエルを通じて、比較的安値だった純一君の株が大幅に上昇しました。
それと共に世間の注目が集まり、女性権利団体の標的になる事に……この小説ではIS学園の先生方はかなり良心的な人ばかりなので、どうやって純一君を守り通すかをテーマにしていきます。
とは言っても女尊男卑に染まった女子生徒達と今後もトラブルがあるので、純一君からしたら「転校したいよ~」と思いたくなるのが現状です。

・純一君の本音

元々日本一の進学校に進むはずが、IS学園に入学させられたので内心不満があります。
そりゃ死んだ気になって勝ち取った合格をかき消されたら怒りますよ……
本人は夢を諦めきれず、センター試験に向けて独学+補習で頑張っていますが、IS学園の都合上中々上手く行っていない……

・純一君教師達の苦悩

『デュエル・ストラトス』の開始で純一君が勢いに乗り、カードゲーム業界や男性達が希望を抱く一方、IS学園の教師達は女尊男卑に染まった女子生徒達をどう抑え込むかを考えなければいけない……
一方で純一君は夢を叶えたいから努力しているけど思うように上手く行かない。IS学園に正直いたくないから離れたいけど、そういう訳にも行かない。
だから『私立鳳凰学院』に来ないかと誘われていますが……本人は乗る気になりました。
この小説の最終章では答えが出ますが、それまではお互いに苦悩しながら毎日を過ごしていく事になります。

・『私立鳳凰学院』

ありそうでなかったIS学園の対抗馬。
IS学科を職業訓練校扱いにしたのは、現実にある職業訓練校をリスペクトしたからです。後々ハローワークと提携するとかしないとか……

・2人目のIS男性操縦者が出たら?

このサイトでは色々な小説が出ていますが、原作だと2人目以降のIS男性操縦者が出たらどうするんですかね?
この小説では今までは「あまり目立たせたくないし、大したことないから専用機を与えない・でも仮にも2人目だから教えないと駄目だよな~」だったのが、「えっ!? こいつデュエル強くない!? しかも世の中の男性が元気になっているし、このままだと私達の優雅な生活が無くなってしまう!? 潰せ! 潰せ!」と言う感じになりました。自分で書いてて思いましたけど、身勝手過ぎる……


次回からいよいよ第2章、本格的に『デュエル・ストラトス』が始まります。先ずはルール説明(モンスター・魔法・罠等々)を行い、最後にインストラクターの方と純一君がデュエルして終わりと言う流れにします。
ルール説明は1話ずつモンスターカードや魔法カード、それに罠カードをテーマ別に分けて説明します。
その前に用語・世界観・キャラ設定を投稿します。
登場キャラにこのデッキを使って欲しい・このデッキを使う人出して欲しいと言う意見があれば、感想に添えてお願いします。

次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

p.s.皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。


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第2章 RISE OF THE DUELIST(初心者育成編)
TURN07 新たなるクラスへ


今回から第2章に突入します。
第2章は『遊戯王』のカードの種類やターンの進め方を授業風に紹介しつつ、純一君達の学園生活を記していこうと思います。

前回のお話を投稿してから来た感想を元にここではっきりと記します。

IS環境の禁止カードの基準たる”平均価格が1000円以上のカード”は、トレカネット様の方で調べながら判断します。
ちなみに執筆している段階で判断するので、「あれ? このカード1000円以上していないのにどうして禁止なんだ?」と思っても、「この時は禁止だったのか」とご理解して頂ければ幸いです。
《強欲で金満な壺》が1000円以下になったので、その事にも触れていこうと思います。

では今回から1年5組に移籍する純一君。
担任のナターシャ先生(原作だとそんなに出番が無かったので口調を把握するのに必死)と、オリキャラまみれのクラスでの活躍にご期待下さい。



 エキシビジョンデュエルが行われてから3日後。火曜日の朝。この日は各生徒が注文したデュエルディスクや、『遊戯王OCG』の『ストラクチャーデッキ』等の商品が到着し、それぞれ受け取る日となっている。

 いよいよ今日から『遊戯王』の授業が始まる事になっているが、一人学食で新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる純一は、ここ数日の新聞に目を通していた。土曜日はエキシビジョンデュエル関連に追われていた為、帰宅してから直ぐに休んだ。その為何も出来なかった。

 翌日は普段の授業の予習・復習と大学進学に向けての勉強を一日中やり、昨日は1組から5組に移籍する準備等があって、ようやく今になってエキシビジョンデュエルの反響を確認している。

 

―――世界で2番目の男性IS操縦者はまさかのガチデュエリスト!?

 

―――強靭にして無敵! 衝撃のデビュー戦は勝利に!

 

―――アニメのような展開! 世界中のデュエリストが震撼!

 

―――デュエルディスクのモニターは大会優勝経験者!?

 

―――カリスマも認めた真のデュエリスト!

 

(わぁお……思っていた以上に反響があったのか。これからは大変になるな……より一層責任感を持って行動しないと)

 

 日曜日の新聞は至る所でエキシビジョンデュエルの話題で持ちきりだった。一面ででかでかと掲載している物もあり、自分がデュエルしている姿を撮影した写真を見て、純一は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 まさか自分のデュエルがここまで大きな出来事として報道されていたのか。全く考えていなかっただけに、純一はコーヒーを飲むのも忘れて新聞を読んでいく。

 見た事の無い新時代のデュエル。モンスターが実体化する。魔法・罠も同様だった。『遊戯王』のアニメを観た事がない人に衝撃を与え、アニメを観た人は大興奮だった。それはもう目立つしかない。更に有名動画サイトで配信されていた事もあって、沢山の人々も引き込んだ結果となった。

 既にマスメディアとSNSを通じて、世界中の人々に伝わってしまった。ここまで来れば自分は最早有名人同然。話題性もあるし、これからは行動する時に慎重にならないといけない。そう言い聞かせる。

 

「よっ、純一」

 

「純一、おはよう」

 

「おはよう。一夏、箒。昨日は本当に済まなかった……いきなりクラス移籍になって」

 

「仕方ないよ……純一だって全校集会の前に千冬姉からいきなり言われたんだろう? 気持ち整理するの大変だっただろうな……」

 

「思いっきりIS委員会に振り回されているではないか……」

 

 昨日は朝礼が始まる前に全校集会が行われた。『遊戯王』の授業を行うインストラクターの講師達と、講師をサポートする“チューナー“に選ばれた各クラスの生徒達の紹介があり、1年5組の”チューナー“は純一が務める事となった。

 1組の純一が5組の“チューナー”を務めるのか。事情を知らない生徒達は驚いたが、その中には1組も含まれていた。

 全校集会が終わった後の朝礼で千冬が皆に話した。“純一は明日から5組に移る”と。その後で日曜日の職員会議で話された内容を正直に明かした。

 

―――正直に言うが、IS委員会の上層部は女尊男卑の世の中を維持しつつ、ISを扱える女性デュエリストを頂点に立たせるつもりでいる。先日のデュエルで純一は一躍有名人となってしまった。企業所属で専用機持ちとなった今、奴らは全力で排除しに来る。純一の強さは学年……いや学園でもトップクラスと言っても良い。

 

―――文化祭の時に純一が襲撃された事は皆も知っているとは思う。委員会は否定しているが、私は奴らが指示を出したと睨んでいる。まさか奴らが実力行使に出るとは思ってもみなかった……SNSやマスメディアのおかげで少しは沈静化したと思ったが、奴らはまだ懲りていないらしい。

 

 とても理不尽な通達だったが、純一はこれを了承した。理不尽な事を言われるのはIS学園に来てから沢山あった。もう既に慣れてしまった自分がいる。

 それにこのような理不尽等、女尊男卑を掲げる連中から言われる理不尽に比べればどうと言う事はない。それに社会に出ればこのような事は幾らでもある。

 

(しかし『デュエル・ストラトス』の時だけはどうにかなってもらいたい物だ……もし女性権利団体が問題を起こしても見ろ。とんでもない事が起こりそうで怖いぞ……)

 

 一方、朝食を食べ終えてのんびりしている千冬は溜息を付いていた。正直な所、千冬は女性権利団体を快く思っていない。しかし、IS学園の教師と言う立場上、強く物を言う事が出来ないでいる。

 彼女が想定するとんでもない事。それは純一がIS学園を離れる事。既に『私立鳳凰学院』に転校する可能性が高いと教職員の間では話が出ている。もしそうなれば世間はおろか、世界中からIS学園に物凄いバッシングが来る未来が見えている。

 既に純一がIS業界に進む気が毛頭ない事を知っている。それを女性権利団体が知ればとんでもない事になる。IS学園が割れるか、大混乱に陥るかもしれない。頼むから何も起きないで欲しい。そう願うしかない。

 

「それで? 相変わらず新聞読んでいるんだ……」

 

「あぁ。ここ数日色々あったからな……まとめ読みって奴だ」

 

「日曜日か……いや~この前のデュエル凄かったな~アニメを観ているみたいだったよ! 台本のないガチンコデュエル凄かったな!」

 

「ありがとう。やったこっちも楽しかったからね~」

 

「凄かったな~至る所で話題になっている。純一も有名人だな!」

 

 昨日のクラス移籍の話を終えた純一達。彼らは土曜日に行われたエキシビジョンデュエルの話題で盛り上がる。

 彼らもニュースやSNSをチェックしており、純一の大活躍を嬉しく思っていた。小学生の頃からの親友が歴史に名前を残す程の大役を果たしたのだ。喜ばない訳には行かない。

 

「でもな~これで何か起きそうな予感がするんだよ。何か一夏の気持ちが分かる気がするよ」

 

「そうだよな~確か文化祭の時に女尊男卑を掲げる権利団体が襲撃してきたもんな……」

 

「しかも純一を狙いに来たと言う……ピンポイント過ぎて驚いたぞ? ラウラが来ていなかったら今頃どうなっていたのか……」

 

 一夏と箒が言っているのは文化祭の時の話。この時、女尊男卑の権利団体に雇われたIS部隊が純一を襲撃すると言う事件が起きた。

 純一が一人でいる所をIS部隊が襲撃してきた。純一は専用機として受領していた『打鉄』を展開して応戦するも、自分より格上相手に多勢に無勢で追い詰められた時、ラウラが駆け付けて純一はその場から離脱する事が出来た。

 その後は教員部隊と専用機持ちで瞬く間に制圧し、IS部隊を捕縛した。身元を調査した時、女尊男卑の権利団体に雇われた事が分かり、学園側も警備を強化すると共にナターシャを教師として迎え入れる等、防衛戦力の強化と見直しを行うようになった。

 

「あの時僕は分かった。男性IS操縦者を狙う組織や団体が多いって事を。一夏を狙わないのは織斑先生が後ろ盾だから。でも僕は違う。只の一般人だ。だから狙われたんだ」

 

「純一……ごめんな。俺がお前を守れるくらい強くなくて」

 

「一夏は何も悪くないよ。悪いのは女尊男卑を掲げる女共だ。まぁこの学園にいる女子生徒としょっちゅうトラブル起こす僕も悪いんだけどね」

 

「いや純一は悪くない。あれは正直私も怒りたくなる」

 

 純一の見た目は優等生風な優男。一見学園内でのトラブルとは無縁そうに見えるが、実はかなりトラブルに巻き込まれている回数が多い。本人が不幸・不運体質である事も相まっているのだが。それを目撃している女子生徒も多く、大半が純一の味方をしている。

 そのトラブルの大半は女尊男卑を掲げる女子生徒とのいざこざ。理不尽な要求や言いがかりに理路整然と反論すると、必ず相手が逆切れを起こして殴りかかってしまう。それに反撃して相手を逆に傷付けてしまう。正当防衛と言えど、女性に手を上げてしまうのは良くない。それは分かっていてもどうしようもない。

 その後指導室に呼ばれて事情説明を受け、注意を受けてそこで終わりになる。ところが、そういった事を何度も積み重ねていく内に女尊男卑の権利団体のメンバーの耳に入り、今回の襲撃事件を引き起こしてしまった。

 

「どちらにしてもIS学園の警備には穴があるってのも分かったし、IS学園にいるからと言って安心安全って訳でもないってのも分かった。女尊男卑の思想に染まっているク〇共を排除しないと、この先もっと大変な事になるぞ? ただでさえ『デュエル・ストラトス』が今日から始まろうとしているんだ。『カードターミナル』さんから来たインストラクターさんの顔に泥を塗ってみろ。この黒田純一、『カードターミナル』さんに合わせる顔がない」

 

「そうだよな……あいつら尋問の時に言っていたよ。純一の事を“男性操縦者がISを扱えるメカニズムを探る為の道具”って。怒りたくなるのを必死で抑えたよ」

 

「酷い話だ……このまま何事もなければ良いのだが」

 

 純一、一夏、箒の3人は溜息を付きながらこれからのIS学園生活に思いを馳せるが、この時彼らはまだ知らなかった。

 これから始まる『デュエル・ストラトス』で女尊男卑の権利団体が再びやらかす事を。予想もしないような大事件が起きる事も。そして純一が重大な決断を迫られる事も。

 

ーーーーー

 

 1年5組の教室。1時間目の授業が始まろうとしているのにも関わらず、女子生徒達はソワソワしていた。と言うのも、この日は転入生が来る事になっているからだ。

 1時間目の授業はLHR。転入生の紹介をしつつ、注文していたデュエルディスクや『遊戯王』の商品を配る事になっている。

 彼女達はその転入生が誰なのか知っている。このクラスの“チューナー”であり、1組から来る男子生徒。そして現在このIS学園にいる最強のデュエリストであり、別格とも言える『遊戯王』プレーヤー。黒田純一。

 

「はい、1時間目の授業を始めるわ。……とその前に、今日からこのクラスに転入生? う~ん……何と言えば良いのか分からないけど、とにかく皆が知っている人がこのクラスにやってきたわ。じゃあ来てもらおうかしら? どうぞ!」

 

『ワアアアァァァァァァーーーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

「1年5組の皆さん、初めまして。1組から移籍してきた黒田純一です。今日から『遊戯王』の授業が始まると言う事で、講師の方と皆さんの調整役としてこれから励んでいきます。そして私がこれまで積み重ねてきた知識や経験を皆さんにお伝えしつつ、一緒に『遊戯王』を楽しんでいきたいです」

 

 5組の担任はナターシャ・ファイルス。鮮やかで艶やかな長い金髪に左耳に認識票を思わせるイヤリングを付けた、スタイルの良い女性。

 アメリカ空軍所属でISのテスト操縦者だった。本来ならば『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』のパイロットになる予定だったが、軍の意向で試験無人機になった事でその話は流れてしまった。

 しかし、試験無人機となった『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』はAIの調整不足による暴走事件を引き起こし、臨海学校を中止に追い込んだ。

 今回ナターシャがIS学園で教師をしているのは、文化祭で純一が女尊男卑を掲げる権利団体が雇ったIS部隊に襲撃された事件を受け、学園の防衛強化も兼ねてやってきた。専用機は制式仕様の有人機となった『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。

 ナターシャが合図を送ると、教室のドアが開いて一人の男子生徒が入って来た。その姿に女子生徒達は歓喜の声を上げた。

 眼鏡をかけた優等生風な優男。黒田純一は歓声に苦笑いを浮かべつつも、教壇に立って目の前にいる女子生徒達に挨拶する。

 

「皆さんとこれから『遊戯王』の勉強をしながら一緒にデュエルする事になりますが、性別や実力関係なく楽しくデュエルしていきたいです。それに行事でクラスだったり、個人対抗戦があると思いますが、私から一つ聞かせて下さい。私と一緒にてっぺん取る覚悟はありますか? このクラスでてっぺん取りたいですか?」

 

『……』

 

「OK。不安や心配はさせません。私に任せて下さい。私が皆さんにてっぺん取らせます。だから……一緒にてっぺん取りに行くぞ!!」

 

『キャアアアァァァァァァーーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 渾身のイケボと共に繰り出した宣言。このクラスで一丸となって学年の、引いてはIS学園の頂点にのし上がる。純一の野望を面白いと感じたのか、女子生徒達は歓声を上げながらノリ良くついて来ようとしている。

 クラスを一致団結させながら溶け込もうとする純一の目論見はそれなりに上手くいったようだ。ナターシャも純一のビッグマウスに驚きつつも、面白そうに笑っている。

 

「ナターシャ先生、すみません!」

 

「いえいえ。これくらいどうと言う事はないわ。むしろ皆の前でてっぺん取るって宣言するのが凄いわ本当……では2時間目から『遊戯王』の授業が始まるから、皆が注文した物を渡すわね。名前を呼ぶから各自取りに来て。純一君、ナタリアさん。手伝ってくれる?」

 

「分かりました」

 

「はい!」

 

 ナターシャと副担任のスコールが持っているのは、クラスの全員分のデュエルディスクや『ストラクチャーデッキ』等の商品。そして教科書。

 これらを各自配っていく。手伝うのは純一だけではない。長い金髪をポニーテールにした碧眼の少女―ナタリア・スアレス・ナバーロの4人。注文書を確認しながら、女子生徒が注文したデュエルディスクと『ストラクチャーデッキ』等の商品を渡していく。

 

「皆受け取った? 次の時間から使うから失くさないでね?」

 

「先生! 時間余っていますがどうしますか?」

 

「では……純一君から『遊戯王』の話を聞こうかしら。始めた経緯とか、好きなカードとか」

 

 全員に配り終えたが、時間はまだ何十分も残っている。残った時間は新しくクラスに加わった純一が話をする事に決まった。

 お題は『遊戯王』の話。始めた経緯からどんな経験を積んできたか。好きなカードは何なのか。そういった事をクラスの皆に話す。

 

「はい。え~改めて自己紹介をさせて下さい。黒田純一です。これから『遊戯王』プレーヤーとしての自己紹介をします。先ず始めた切っ掛けなんですが、僕の家の近くにカードショップがあって、そこは書店と一緒になっている所なんです。そこで買い物をした時、ちょうど置いてあった『ストラクチャーデッキ』……僕の原点と言える『青眼龍轟臨』を3箱買ってもらって始めました。この前のエキシビジョンデュエルで使った【青眼】デッキは、『遊戯王』を始めた頃の思い出が詰まっている、僕にとっての魂のデッキと言えます」

 

 純一が『遊戯王』を始めた切っ掛け。それは6年前の冬、カードショップで『ストラクチャーデッキ-青眼龍轟臨-』を購入してもらった事。本人曰く、“このデッキを手に取った時、ビビッと来た”との事。

 3箱購入してデッキを作った後、カードショップにいては子供や大人達とデュエルしてはデッキを改造してまたデュエルして、の繰り返しだった。

 

「大会に出たのは【HERO】のストラクが出て、それを改造している時……だったと思います確か。店員さんから大会に出てみなよ!って誘われて出る事にしました。当日は物凄く緊張しましたが、やっている間に緊張が解けて、気が付いたら物凄く楽しんでいました。結果は3戦全勝で準決勝に進みましたが、そこで同じデッキの人にボコボコにされて負けました。はい……格が違いましたね」

 

「えっ? 初めての大会で勝てたの?」

 

「そうですね……カードショップで色んな人と対戦したり、ネットの動画を観て勉強しながらデッキを改造していたので、使い方を把握していた事が大きかったです。後は大会でどういうデッキが使われているか・どういうカードが対策になるのかといった、メタを張っていた事も理由の一つだったと思います。あ、このメタを張るって言うのは1ヶ月後に行われる学年別クラスデュエルトーナメントで詳しく話します」

 

「成る程。つまり傾向と対策を掴んでいたのね?」

 

「その通りです。テストだったり、入試だったり、どういう問題が出るのか・どういう勉強をすれば良いのかを考えさせられる事があるとは思いますが、僕は『遊戯王』を通じて学ばせて頂きました」

 

 純一にとって初めての大会。普段行っているカードショップで開催されている小さな大会に、『ストラクチャーデッキ-HERO's STRIKE-』を3箱買って改造したデッキで挑んだ。その結果は準決勝敗退だったが、初めての大会で勝利する事が出来た。

 初戦と2戦目は2-1で、3戦目は2-0で勝利した純一。しかし、準決勝では格の違いを見せつけられ、0-2で敗北した。ちなみに純一に勝った人が優勝した。

 これで大会に出る事に耐性が付いたのか、純一は色々なカードショップで行われている大会に出るようになった。

 

「当時は『ストラクチャーデッキ』を3箱買って強化していくスタイルだったので、パックを買う事は大会に出る為の条件以外ではそんなに無かったです。自分が使っているデッキの強化カードが来た時は例外でしたが……そんなこんなであんまりカードを買わず、デッキも同じ物を使い続けていましたが、とあるカードと出会った事が僕の運命を大きく変えました」

 

「そのカードとは?」

 

「先日のデュエルでIS環境に引っ掛かって使う事が出来なかったカードなんですが、こちら《|青眼の亜白龍《ブルーアイズ・オルタナティブ・ホワイト・ドラゴン》》と言うカードです。このカードは原作漫画の新作映画、『遊☆戯☆王 THE DARK SIDE OF DIMENSIONS』の前売り券特典カードとして初登場して、今でもけっこう良いお値段するのですが、僕はこれを3枚確保する事が出来ました。このカードを初めて見た時、本当にかっこ良いと感じたのですが、それ以上に効果が強くて、また【青眼】デッキ使おうと思いました。その後に出た『シャイニング・ビクトリーズ』と言うパックで【青眼】が強化されると言う知らせを聞いて、ひたすら買いまくりました。どれくらい買ったかな?……5箱は買ったと思います」

 

 純一が見せたのは専用機に名前を付ける程、心から愛しているモンスターカード。《|青眼の亜白龍《ブルーアイズ・オルタナティブ・ホワイト・ドラゴン》》。

 このカードとの出会いが純一を変えた。今までファンデッキ止まりだった【青眼】デッキを環境デッキにのし上げたこのカードは、純一に大会に出始めた頃の楽しさをもう1度教える事となった。

 

「強化した【青眼】デッキで僕は再び大会に優勝出来ましたし、大会に出ては連戦連勝で本当に良い思いをしていました。でもその後に強いテーマが台頭して大会で勝てなくなるのが『遊戯王』では当たり前です。仮に強いテーマが君臨していても、3ヶ月毎に来る制限改訂で主要カードが禁止になったり、制限になったりで環境から都落ちするのも当たり前なんです。【真竜】と言うテーマを使っていた時にけっこう感じました。この制限改訂と言うシステムもまた後日に話をします。以上ですかね?」

 

「ありがとう。ここで質問タイムにするわ。純一君に質問したい人は挙手して」

 

「……けっこういますね」

 

 純一が自分が『遊戯王』を始めた切っ掛けや大会に出た時の事、思い出のカードの事を話し終えると、ナターシャが純一への質問タイムを設けた。

 一斉に挙手をした女子生徒達。それを見た純一は苦笑いを浮かべる。即興の話だった為、本当だったらもう少し話したかった事もあった。しかし、それは後で随時話していけば良い。そう思って割り切る事にした。

 

「ナタリアさんからどうぞ」

 

「はい! 純一君ようこそ! 1年5組へ! 私はクラス代表でスペインの代表候補生のナタリア・スアレス・ナバーロです! 質問なんですが、純一君がアニメのキャラとデュエル出来ると言われたら誰とデュエルしたいですか?」

 

「歓迎ありがとうございます、ナタリアさん。う~ん……難しい質問ですね。皆さん素晴らしい方々ばかりなので一人に絞り切れませんが、強いて言うならやっぱり遊戯さんとデュエルしたいですね。個人的に原点にして頂点のデュエリストだと思っているので、一度対戦して何処まで喰らい付けるかを試してみたいです」

 

「ありがとうございます!」

 

「続いては……比奈さん」

 

「はい! 白井比奈と言います! 純一さんはエキシビジョンデュエルで【青眼】デッキを使っていましたが、一番お気に入りのデッキは【青眼】デッキですか?」

 

「そうですね……使っていて楽しいですし、大会優勝回数も多い上に愛着があるので【青眼】デッキはお気に入りの1つです。ただ初めて大会で勝てて、優勝経験もある【HERO】デッキも大切なデッキです」

 

身長は小柄だが、長髪で活発な雰囲気を放っている白井比奈。彼女の質問に答える純一は一つ一つの質問に丁寧に答える。

 これが純一の人柄を表しており、クラスの中では少しずつ純一が“真面目で誠実な人柄”だと認識し始めている。

 

「次は誰が……四十院さんどうぞ」

 

「四十院神楽と言います。純一さんに質問があります。今回の『デュエル・ストラトス』が始まった事で何が一番変わりましたか?」

 

「何が一番変わったか……先ず世間の反応ですかね。今までは“世界で2番目のIS操縦者”として扱われていましたが、今では一夏君より注目が集まって、本当に有名人扱いになりました。それによって責任感が生まれましたし、5組に来る前、1組にいた時から“僕が皆を引っ張るんだ!”と言う気持ちが生まれていました。それはやっぱり自分が経験者で、知識もあるからと言う理由もあるとは思いますが……後は立ち位置でしょうか。今までは自分がISの技術や知識を教わる側でしたが、今度は自分が皆に『遊戯王』の事を教わりながら教える側になった事が大きいかなと思います。もしかしたら他にもあるかと思いますが、今の所回答出来るのはここまでになります」

 

「はい! ではそろそろ時間になるからここまでにするわ。皆、新しく来た仲間を大切にしながら一緒に過ごしていきましょう!」

 

『はい!』

 

 気が付いたら授業が終了5分前の時間となっていた。5組は温和で優しいナターシャの下、明るい性格のナタリアを中心にまとまっている。

 自分に親しそうに質問してくるクラスメートを見て、どうやらこのクラスで上手くやっていけそうと言う確信を得たのだろう。純一は笑顔を見せていた。

 

ーーーーー

 

 休み時間。自己紹介兼経験談を語った純一は、5組の女子生徒達に囲まれていた。この後2時間目の授業は『遊戯王』の初回であり、皆は楽しみにしている。

 やはり純一が魅せたエキシビジョンデュエルが大きかったようだ。もしかしたら自分達も出来るのではないか。いや絶対出来る筈。何故なら自分達はISを動かせる人間であり、倍率が物凄く高い入学試験を突破してここにいるのだから。

 

「純一君。先程は貴重なお話をありがとうございました! 私は『デュエルリンクス』をやっているのでカードはある程度分かりますが、『OCG』は初めてになるので分かる人がいると心強いです」

 

「確か……初期ライフが4000で最初の手札が4枚だったよね?」

 

「はい! それと先攻ドローなしでモンスターゾーンと魔法・罠ゾーンがそれぞれ3枚までしか使えなくてメインフェイズ2がない、本当に『遊戯王』の入門みたいな感じでしょうか」

 

「僕はリンクスをやった事ないから分からないけどけっこう違うんだね……ナタリアさんは何のデッキ使っているの?」

 

「【ライトロード】を使っています」

 

「良いテーマじゃん!」

 

 ナタリアは『デュエルリンクス』で『遊戯王』に触れていて、今は【ライトロード】デッキを使用している。

 【ライトロード】は主に墓地を肥やしながら戦っていくテーマであり、初心者から復帰勢まで幅広く使う事が出来る。何より使いやすく、やる事が分かりやすいのが長所。拡張性も高く、改造のし甲斐があるのも良い。

 

「はい! はい! 『デュエルリンクス』は私もしてるです!」

 

「比奈さんも!?」

 

「私はドラゴンさんデッキを使っているです! ドラゴンさんが大好き過ぎなんです!」

 

「そうなんだ……やっぱりエキシビジョンデュエルを観たから?」

 

「はい! 純一さんの《ブルーアイズ》さんがとてもふつくしくて、私もドラゴンさんを使ってデュエルしたい!と思いました!」

 

「そっか。僕なんかのデュエルでそこまで思ってくれたのは嬉しいな」

 

 1組ののほほんさんこと本音のように、元気一杯に話し掛けてくれる比奈に釣られたのか、純一もニコニコと微笑みながら話が出来ている。

 自分のデュエルが同じ学年の女子生徒の心を揺さぶった。それだけでエキシビジョンデュエルに出た意味があったと実感出来た。

 

「比奈さんもナタリアさんと同じで『OCG』は初めて?」

 

「いえ、実はルールはある程度分かっています。兄と遊びでやっていたのでデッキは強くないですが幾つかあります。ドラゴンさんデッキしかありませんが……」

 

「いやいや。あるのとないのとでは大違いだよ。自分の好きなデッキで楽しみながら対戦する。それもまた『遊戯王』の楽しみ方の一つだ。放課後にデッキを見せてくれるかな? アドバイスがてら、新しくIS学園に出来た『カードターミナル』に行きたいと考えているんだけどどうかな?」

 

「はい! 私は大歓迎です! 楽しみです! もっとドラゴンさんドラゴンさん出来るのが!」

 

 兎のようにピョンピョンと跳ねながら喜ぶ比奈。彼女を見て苦笑いを浮かべるナタリア達と、キョトンとしている純一。

 純一は知らない。白井比奈と言う人間の事を。それに気付いた神楽が純一の所に近付いてこっそり教えた。

 

「比奈さんは普段は落ち着いていて賢い子なんだけど、どうもドラゴンの事になるとキャラが変わるみたい。オタクっ気があるのかも」

 

「随分と面白い人もいるもんだな……でも嫌いじゃないな。もし機会があれば対戦したい」

 

「純一君は既にデッキを用意してあるの?」

 

「あぁ。IS環境用の新しいデッキを、そして以前大会で何度も対戦した事のある元環境デッキを用意してある。何、何れ分かるさ。何れね(さてここからどうしていくか……先ずはクラスの皆の顔と名前を覚えつつ、プレイングやデッキの作り方を教えて強くさせて行こう。幾ら僕が強くても、他が強くなければ意味が無い。先ずはそこからだ)」

 

 含みのある笑いを神楽に見せると、純一は思考の海に沈んだ。自分のやるべき事を整理する。先ずはクラスのメンバーを覚える事。それから主要行事に出場するクラスメートにデッキの作り方やプレイング、個人に合ったデッキを紹介する事。他にも色々あるが、考えただけでもかなりある。

 幾ら自分が強くても、周りがそうでなければ意味が無い。強いだけが取り柄のデュエリストではなく、強い+aが自分の目指すデュエリスト像。そのように純一は考えている。その+aを模索している最中だ。

 

(にしても1ヶ月後か……IS学園の授業の事を考えると、そう時間がある訳でもない。ましてや僕は他にもやる事がある。これは前よりハードになったなぁ……)

 

 純一は険しい表情をしつつ、『遊戯王OCG』の教科書に目を落とした。その名前の通り、IS学園はISに関する授業や訓練が大部分を占めている。それに通常科目があり、『遊戯王』が加わるとなると、全員で勉強できる時間があまり確保出来ないのが実情となる。

 純一の場合、進学補習を受けており、そこに『遊戯王』の“チューナー”としての仕事が加わるとなると、かなりハードな毎日を送る事となる。その状況でデッキ調整の時間を捻出するとなると、かなりタイトなスケジュールとなる。

 

(それに学校行事がある所、常に何かのトラブルがある。IS委員会がこれを見逃す筈がない……何とかしないとIS学園どころか、今の社会でとんでもない事が起きる)

 

 純一が恐れているのは自分の敵と言える女尊男卑を掲げる権利団体、そしてそれらの後ろ盾となっているIS委員会が横槍を入れてこないかと言う事。

 例えば観戦チケットを高額で売り付けて利益を得たり、八百長試合をさせたり、自分のような気に入らない相手の試合を無効にしたり。

 もしそうなった場合、世間や社会から批判が殺到してIS学園がとんでもない事になる。自分はまだ良いかもしれない。けど問題なのはIS業界で働きたいと決めて真面目に頑張っている人達の努力が踏み躙られる事。

 地頭の良い純一は分かっていた。もしIS委員会や女尊男卑を掲げる権利団体の介入があった場合、IS学園はおろか社会全体で動乱が起きる事を。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・チューナーとは?

 予備校や学習塾のチューターと同じような物です。講師のお手伝いをしたり、生徒と講師の中継役になる等、それなりの知識や経験が求められます。普通は授業を行う事はありませんが、5組の場合は純一君も授業に参加します。

・IS委員会と女権団体の介入

 あるかないかと聞かれたら、今の所は答えられません。しかし、女尊男卑思想を掲げる女子生徒によって行事中にトラブルが起きる描写は記そうと思います。
 女子生徒の中にはカードゲームを授業でやる事に対して不満を持ったり、中にはやる気がない人もいるので。

・純一君のキャラ

 設定集に記したとおり、普段は物静かで真面目なんですけど、熱い物を心に秘めています。自己紹介の時はインパクト勝負と言う事もあって強めに出ました。

・純一君の『遊戯王』歴

 かなり現実に即して記しました。現実離れはそこまでしていない、一人の『遊戯王』プレーヤーとしてありそうな設定にしました。

・これからの小説の展開

第2章でざっくりとしたルールやカードの説明をし、第3章で学年別クラス対抗戦を記します。果たしてどのクラスが優勝するのか?
クラスの情勢や他のクラスの様子も随時記していきますので暫しお待ちを。

次回は魔法カードの種類や説明の回となります。

次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

p.s.皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。


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TURN08 授業開始! モンスターの種類を覚えよう!

今回から初心者用講座として、『遊戯王』の授業を記していきます。
第一回目はモンスターの種類。通常モンスターと効果モンスター。
この小説を読んでいる皆さんは『遊戯王』知っているかは分かりませんが、なるべく理解出来るように頑張っていきます。

前回投稿した日のUAが物凄い事になりましたが、日頃のご愛顧や感謝を込めてUAが5,000を達成したら特別編を記そうと思います。
そこでアンケートをご用意しますので、もし小説を読んだらご協力頂けると嬉しいです。

ちなみに7月の制限改訂ですが、全然ダメージはなかったです。
それより何故ドラグーンを禁止にしなかったのかが分かりません。


「皆さん。初めまして! 今日から『遊戯王OCG』の授業を担当します、今村俊介と言います! 私は『遊戯王』を始めたのが皆さんと同じくらいの歳だったので、初心に帰って楽しく分かりやすく教えていきたいです」

 

 1年5組の2時間目の授業。『遊戯王OCG』の第一回目。担任のナターシャも教室の後ろで授業を受けている。どうやら教員も受けるように言われたのだろう。

 5組の担当は今村俊介。年齢は25歳くらい。『カードターミナル』の新人3年目。仕事も出来て人柄も良く、IS学園に派遣された講師組の中で最年少。

 

「このクラスの“チューナー”は黒田純一君ですが、彼とは『カードターミナル』に入社してからの付き合いなので、こうして彼がいるクラスに来れたのも何かの縁だと思います。皆さん、私の説明が至らない時が多々あるかと思いますが、その時は純一君に聞いて下さい。私も気を付けますが、彼に伝えてもらえるとこちらもやりやすいです」

 

 “チューナー”と言う役職は講師と生徒達の調整役。主な仕事は生徒達の勉強をサポートする事。『遊戯王』と言うカードゲームはルールを覚えたり、デッキを構築するのに正解と言う物が存在しない。分からない事で悩む生徒の為に“チューナー”と言う役職を持つ人間がサポートする仕組みとなっている。ちなみにクラスや学年関係なく。

 とは言っても講師のように授業を行う訳ではなく、あくまで講師と生徒の補助を行う事がメインの仕事である。授業の補助を行うが、あくまで補助止まりだ。

 

「では授業に入っていきます。先ず『遊戯王』を知っている人、若しくは今やっている人、『デュエルリンクス』してるって人どれくらいいますか? 手を挙げて下さい。……ありがとうございます。大体3分の1ですかね。残り3分の2が知らないと。OKです。では知らない皆さん目線で説明をしていきます」

 

「先ず『遊戯王』と言うカードゲームは大きく分けて、3種類のカードがあります。メインで戦うモンスターカード。展開の補助を行う魔法カード。相手の妨害を行う罠カード。この3種類のカードを使うカードゲームです。デッキは40枚~60枚までです。なので39枚や61枚では駄目です。デッキの枚数きちんと数えて下さいね? そして相手のライフポイントを先に0にした方が勝ちます。最初のライフポイントは8000です。今回はモンスターカードに重点を置きながら説明します」

 

 教壇の上に立っているのは眼鏡をかけた短髪の青年。教科書とカードを手にしながら、初心者の人向けの説明を行っている。

 純一は『遊戯王OCG』のルールやカードの種類はフリー対戦の中で学んでいた為、大体は知っている。ターンの進め方も同じだ。それでもしっかり話を聞いている。

 一度学んだ内容を聞いている為、この授業は復習にしかならない。しかし、勉強において復習はとても大切な事だ。何しろ、純一は去年の春から今年の秋にかけて『遊戯王OCG』から離れていた。理由は高校受験とIS学園での日々。自分が知らない間にルールや裁定が変わるのは日常茶飯事。だからこそしっかり聞いている。

 

「先ず皆さんがご覧になっている3枚のカードがありますね? 《エルフの剣士》、《暗黒騎士ガイア》、《ブラック・マジシャン・ガール》です。先ずカードの一番上に黒く印字されている文字がありますね? これがモンスターの名前です。その隣に“地”とか“闇”と書いてあるのが見えるでしょうか? これはモンスターの属性です。特定の属性をサポートするカードがあったり、ある特定の属性を持つモンスターを素材にして召喚するモンスターもいるので必ず覚えて下さい。テキストの上に種族が書いてありますが、こちらも大事になるので覚えて下さい」

 

 生徒達が見ているのは3枚のモンスターカード。《エルフの剣士》。《暗黒騎士ガイア》。《ブラック・マジシャン・ガール》。全て武藤遊戯が使用したカード。その絶妙なチョイスに純一は苦笑いを浮かべる。

 

「先生、質問があります! 属性は全部で幾つありますか?」

 

「おっ、早速質問をしてくるなんて中々素晴らしいです! では純一先生、質問にお答え下さい」

 

「私ですか!? はい、お答えします。属性は地、水、炎、風、闇、光の6種類に分かれます。中には神と言う属性を持つモンスターがいますが、大抵はこの6種類に分類されます」

 

「ありがとうございます! 皆さん、分からない事があれば遠慮なく質問して下さい! 純一先生が答えてくれますよ~?」

 

「無茶ぶりは止めて下さいね……」

 

 5組の『遊戯王』の授業。新人の俊介を純一が支えるスタイルになっているが、実質的に俊介が純一に無茶ぶりをしている為、純一が振り回される事になっている。

 しかし、今の所女子生徒達には好評である為、暫くはこのスタイルを維持していこうと俊介は考えている。

 

「次にモンスターの名前の下に幾つか星マークがありますが、これはモンスターの“レベル”になります。この3枚のカードで言うと、《エルフの剣士》がレベル4、《暗黒騎士ガイア》がレベル7、《ブラック・マジシャン・ガール》はレベル6になります。レベル4までのモンスターは手札から普通に召喚出来ますが、レベル5以上になるとアドバンス召喚と言う召喚方法を使わないとフィールドに出せません。アドバンス召喚は自分フィールドのモンスターを墓地に送って、手札から召喚するやり方です。フィールドのモンスターを墓地に送るのは“リリース”と言います。レベル5・6は1体、レベル7以降は2体リリースしなければいけません。なので今皆さんが見ているカードの中だと、《暗黒騎士ガイア》は2体リリースしないとフィールドに出せないモンスターで、《ブラック・マジシャン・ガール》は1体リリースしないとフィールドに出せない事になります」

 

「これは少し余談になりますが、中には神のカードのように自分フィールドのモンスターを3体リリースしないとフィールドに出せないモンスターもいます。そういう場合は、モンスターのイラストの下に書いてある文字……テキストって言うんですけど、このテキストに召喚条件として書いてあります。有名なのは【三幻神】と言うカードです。《オシリスの天空竜》、《オベリスクの巨神兵》、《ラーの翼神竜》の3枚です。もし皆さんにお見せする機会があれば、お見せしたいです。はい……」

 

「次に移ります。テキストの下に“ATK”と“DEF”が書いてありますが、これは“攻撃力”と“守備力”になります。そしてこれがちょっと大事になるんですが、《ブラック・マジシャン・ガール》だけカードの色が違うのが分かりますか? 《ブラック・マジシャン・ガール》のカードの色がオレンジっぽい色になっています。これは“効果モンスター”と言って、魔法カードのような特別な効果を発揮する事が出来ます。今の『遊戯王』ではこの効果モンスターが活躍しています」

 

「では《エルフの剣士》や《暗黒騎士ガイア》は何なのかと言うと、“通常モンスター”と言います。特別な効果は持たないけど、攻撃力と守備力が効果モンスターに比べて高めに設定されています。黄色いモンスターカードです。中には墓地にいる時みたいに、特定の条件や状況で通常モンスター扱いになる効果モンスターもいます。それは後々授業で説明していきます。通常モンスターは何の効果もない、プレーンな状態なので“バニラ”と呼ばれる事があります。他のカードゲームでも同じように呼ばれているので、別に『遊戯王』に限った話じゃありません。今カードの色がバニラっぽいからそう呼ばれているんじゃないかと思った人、正直に手を挙げて。はい。正直でよろしい。実は僕も同じ事を思ってた時がありました!」

 

 純一が苦笑いを浮かべながら自分の失敗談を話すと、クラスは笑いの雰囲気に包まれて至る所で笑い声を挙げる生徒がいた。

 やはり授業になると堅苦しい雰囲気になってしまう為、真面目の中に笑いを仕込む事で受け手を飽きさせない工夫を凝らしている。

 

「モンスターカードの説明はここまでにして、次はモンスターの表示形式について説明します。先ず表側で縦向きにしてあるのが攻撃表示。横向きにしているのが守備表示となります。例えばお互いのフィールドに《エルフの剣士》と《暗黒騎士ガイア》がいるとします。自分が《暗黒騎士ガイア》を攻撃表示で召喚したと仮定します。そして相手フィールドの《エルフの剣士》に攻撃宣言をしました。攻撃表示同士のモンスターのバトルになります。この場合、どちらが勝ちますか? では今度は生徒さんに振ってみましょうか……え~と、村松朱里さん!」

 

「はい。《暗黒騎士ガイア》の攻撃力が2300で、《エルフの剣士》の攻撃力が1400なので……《暗黒騎士ガイア》が勝ちます」

 

「正解です! バトルの結果は《暗黒騎士ガイア》の勝利で、負けた《エルフの剣士》は戦闘破壊されて墓地に行きます。そして《エルフの剣士》を召喚したプレーヤーが戦闘ダメージ……今回だったら2300から1400引いた数字の900ポイントのダメージを受けます。最初は8000ライフポイントがありますが、そこから900引いたら7200になります。では《エルフの剣士》が守備表示だった場合どうなるかと言うと、守備力が1200なので当然戦闘破壊されますが、プレーヤーは戦闘ダメージは受けません。ではこの逆パターンはどうなるか。守備力2100の《暗黒騎士ガイア》に、攻撃力1400の《エルフの剣士》で攻撃したらどうなると思いますか? お答え下さい、ナターシャ先生!」

 

「わ、私ですか!? え~と……今までの説明から察すると、先ず《エルフの剣士》は戦闘破壊されません。ただ差分の戦闘ダメージは受けると思います」

 

「おお~! 凄い! 大正解です! 攻撃力が低いモンスターが守備力の低いモンスターを攻撃すると、攻撃力が低いモンスターは戦闘破壊されません。ただ攻撃力と守備力の差分の戦闘ダメージ、謂わば反射ダメージを受ける事となります。私の授業は誰に来るか予測不能なので、真面目に受けて下さいね?」

 

 純一がクラス一丸となって実力を挙げつつ、頂点を取ると宣言した以上、それに応えるべく俊介も説明は分かりやすくしながら、純一に説明や無茶ぶりをさせたり、担任のナターシャに振る等、とにかく楽しみながら覚えさせるスタンスを取っている。

 そのおかげか、生徒達は真剣に授業を聞いている。大半は純一の説明を聞きたいが為なのかもしれないが。

 

「ちなみに相手フィールドにモンスターがいない時に攻撃する事も出来ます。これはダイレクトアタックと言います。この場合は攻撃したモンスターの攻撃力分の戦闘ダメージを受ける事となります。なので如何に自分フィールドにモンスターを維持させるか・より強力なモンスターでフィールドを制圧出来るかが重要になります。おっと、チャイムが鳴ったので今日はここまでにします。次の授業では魔法カードと罠カードの説明をしますので、予習をお願いします。もちろん復習もお願いしますが、分からない事があれば純一君に聞いて下さい。後は授業の要望があればまぁ、常識の範囲内であれば極力応えるようにします。何分教師みたいな仕事をするのは初めてなので、まだ不慣れな所がありますが……」

 

「俊介先生、ありがとうございました! また次回もよろしくお願いします!」

 

 この授業の後、俊介はこのように語っていた。“大勢の女子生徒の前で授業するなんて拷問に近い仕事で正直しんどかったです。でも純一君がいた事と、皆真面目に聞いていた事もあって思っていたよりもやりやすかったです。純一の宣言通り、このクラスがてっぺん取れるように私も全力でサポートします”との事。

 『カードターミナル』のインストラクター、今村俊介。彼を講師に迎え、純一と言う最強にして唯一無二の切り札を迎え入れた1年5組。純一の宣言の下、IS学園における最強クラスの称号を手にするべく、その一歩を刻み始めた。

 

ーーーーー

 

「ここが新しく出来たカードショップですか……」

 

「『カードターミナル』は品揃えが良く、カードも良心的な値段で手に入る。正にカードゲームの宝箱って所だ。入ろう」

 

『はい!』

 

 その日の放課後。純一達はIS学園の中に新設されたカードショップに足を運んだ。『カードターミナル』IS学園店。そこは学生割引が適用されるだけでなく、店員達で作ったオリジナルデッキが良心的な価格で販売されている。

 純一はナタリア、比奈、神楽の3人と共にカードショップに入店した。出迎えたのは今村俊介。純一のいる5組を受け持っている講師だ。

 

「いらっしゃいませ!……って純一君か! おめでとう! 君がこの『カードターミナル』IS学園店のお客様第1号だ。さぁお嬢様方も一緒に写真を」

 

 何と純一が『カードターミナル』IS学園店のお客さん第1号だった。それを記念してスタッフの皆と写真を撮った後、俊介は純一に要件を尋ねる。

 今回純一が来店したのはカードを買う事以上に、ナタリア達に安くて強いデッキの作り方を教える事が主な理由だ。

 

「そう言えば純一君はどうしてここに? ISの訓練は大丈夫?」

 

「今日は専属コーチの楯無さんが生徒会の仕事で来れないので、“『遊戯王』の勉強したり、皆に指導して良いよ”と言われました」

 

「成る程。それなら大丈夫だね……それで今回は何を教えるんだい?」

 

「安くデッキを作る方法を伝授しようかと」

 

「あ、それ良いね! 実は我々も学生さんに向けてデッキの作り方だったり、汎用カードの紹介をまとめた冊子を作ろうとしているんだ。是非純一君にお手伝いしてもらいたいけど良いかな?」

 

「私で良ければ喜んで。それと完成したら一冊下さい。何分ここ1年以上『遊戯王』から遠ざかっていたので、カードの知識の遅れを取り戻したくて」

 

「もちろん! おっと、君には君の仕事があるんだ。さぁ私に遠慮せずにやってくれ」

 

 対戦コーナー。そこはデュエル用の長机とイスが設置されているデュエルスペース。そこで純一は持参したカードファイルを机の上に置き、ナタリア達の前で開く。

 純一と反対側で座っているナタリアと比奈の表情は何処か強張っていた。目の前にいるのはIS学園の男子生徒ではない。歴戦の『遊戯王』プレーヤーだからだ。

 神楽は全く動じずに楽しそうな笑みを浮かべる中、純一はナタリアと比奈に向けて安くて強いデッキの作り方を教え始める。

 

「はい。では安いデッキを作る方法をお二人に伝授するよ?一番はデッキを渡して使い方を教えれば良いんだけど、それだと自分の為にならないから今回はやり方を教えて自分で実行させる。自分でデッキを作っていく内に、カードの知識を深める事が出来るようになるからね」

 

「純一君は普段どんな感じでデッキを作っているの?」

 

「僕の場合? そうだね~新しいパックやストラクの情報を見て、これ作ろうと思った物を作っている。後はテーマに関連するカードを集める。それだけだ」

 

「まぁそんな物だよね~ちなみに安く作るコツって何かあるの?」

 

 4人の中で経験者は純一と神楽の2人。神楽は純一に質問をしながら彼から有力な知識を引き出させ、純一は少しでも役に立つ情報を話している。

 2人は先日のエキシビジョンデュエルの打ち上げで同席し、意気投合した仲。既に親友とも言える仲となっていた。

 

「先ずテーマを選ぶ所からだね。今回のように安くて強いデッキを作るとなると、今流行しているテーマや人気な物は避けた方が良い。昔のテーマや過去に環境入りしていたテーマが良いかな?」

 

「環境?」

 

「どんなカードが強いか、どんなカードが大会で使われているか等をまとめて指している言葉だ。大会で優勝したいなら環境を制しろと教えられた。それくらい大事なんだ。環境を把握する事は」

 

 環境。それは“どんなカードがあるのか”、“大会ではどんなカードが使われているのか”、“どんなデッキが大会で大多数を占めているのか”等をまとめて指している言葉。

 大会で勝ち抜く為には環境を把握し、その上でデッキ構築を行いながら対策をしなければならない。

 環境は常に変化している。新しいカードが出たり、制限やルールや裁定が変わったり、新しいコンボやシナジーが見つかったり等。

 

「過去に環境入りした事があるって事は当時から相応の強さを持っているって事になる。幾らIS環境になったと言っても、結局物を言うのはデッキパワーとプレイングと運だ。それなら強いデッキを作り、使い方を体に染み込ませるくらい覚えればどうと言う事はない」

 

「昔のテーマって探すの大変ですし、それに昔環境入りしてたデッキを作ろうにも、それなりのお値段をするんじゃないですか?」

 

「ナタリアさんの言う通り。でもショップによってはテーマをまとめ売りしている所もあるし、フリマアプリだとテーマのまとめだけではなく、構築済みデッキや複数枚のセット出品も良心的なお値段でされているから、IS環境のルールさえ守れば良い感じのデッキを作れると思う」

 

「成る程~今の時代ってショップに行く以外に、オークションやフリマアプリとかありますよね~」

 

「はいはい! ところでどういうテーマが安く組めそうな感じですか? 純一さんから見て、このテーマはIS環境に来る!みたいに思える所とか……」

 

 比奈の質問に純一は少しの間考え込む。実はまだ大会が開催されていない為、環境を予想しようにも誰がどんなデッキを使うのかがさっぱり分からないからだ。

 予想なら何とでも言えるが、あまり無責任な事は言いたくない。純一は自分の中で考えをまとめると、ゆっくりと話し始める。

 

「正直こればかりは予測出来ない。僕のように経験者がいれば初心者もいるし、『デュエルリンクス』をやっている人もいるから、このテーマが来る!と言うのは分からない。ただ『ストラクチャーデッキ』で言うなら【マシンナーズ】かな? 安く組めそうなテーマか……こういう場合、やる事が単純な物が来るんだよね。一番はあれかな? 【スキドレビート】」

 

『【スキドレビート】?』

 

 純一はカードファイルから《スキルドレイン》と《神獣王バルバロス》の2枚のカードを引き抜き、それらをテーブルの上に置きながら説明を始める。

 ナタリアと比奈の目は不思議そうではあるものの、何処か楽しそうにも見える。気が付けば、カードショップに来店した女子生徒達もギャラリーとして集まって来ていた。

 

「《スキルドレイン》は1000ライフポイントを払うと発動出来る永続罠カードで、フィールドのモンスター効果を無効にする効果を持っているんだ。現代『遊戯王』は効果モンスターが主流だから、これをメインデッキに入れておくと、まぁ色んなデッキにぶっ刺さるんだよねこれが。効果聞くとデメリットに感じるかもしれないけど、あくまでフィールドで発動する効果を無効にするだけだから、手札や墓地で効果が発動するモンスターが主役のデッキに入れると、相手の動きを封じながら自分は展開出来るから相性は良いと言えば良いね」

 

「その……手札や墓地で効果が発動するモンスターが主役のデッキって何がありますか?」

 

「何があったかな? ……例えば、【暗黒界】とか【インティクイラ】、後は【竜星】とかかな? それと、《スキルドレイン》と相性が良いカードの代表例はこの《神獣王バルバロス》ってカードなんだよ。このカードはレベル8モンスターで、普通に出すなら自分フィールドのモンスターを2体リリースしないとフィールドに出せないんだ。これは今日の授業で教わったよね? 二人共OK?」

 

「はい! でもこれと《スキルドレイン》がどうして相性良いのですか?」

 

「このカードはリリースなしで通常召喚出来るんだ。だから自分フィールドのモンスターを2体リリースしなくても、普通にフィールドに出す事が出来る。ただ攻撃力が3000あったのが1900に落ちちゃうけど……それを《スキルドレイン》でモンスター効果を無効にさせると、攻撃力が元々の3000になるんだ。この高火力で殴って勝つデッキなんだ」

 

 【スキドレビート】は《スキルドレイン》と言う永続罠カードを使い、相手の使う効果モンスターを無効化しつつ、有利に戦闘を進めるデッキ。

 デメリットを負うものの、本来必要になるコストを軽減して行える妥協召喚モンスターを展開し、《スキルドレイン》でモンスター効果を無効にさせながら高火力モンスターによるビートダウンによる戦術がメインとなっている。

 

「おお~! 成る程! 《スキルドレイン》はモンスターのデメリット効果も無効に出来るんですね! 高火力のモンスターを展開して、相手のモンスター効果を無効にしながら攻撃して勝つ。単純で分かりやすいです!」

 

「ただ弱点はある。《王宮のお触れ》と言う永続罠カードがあるんだけど、このカードを発動されると《スキルドレイン》に限らず、フィールドの全ての罠カードの効果は無効化されてしまう。後は魔法・罠カードを破壊するカードにも弱い。永続罠カードを使っているデッキの宿命だけどね。後はモンスターを破壊する手段が戦闘破壊しか無いから、除去手段が少ない事かな? 戦闘破壊されないモンスターを出されたらけっこう詰むよ?」

 

「う~ん……そうなると別の手段で除去しないとですよね? 《スキルドレイン》をメインギミックに据えず、サブに据えるくらいの感じが良さそうですかね?」

 

「そうだね。だから《スキルドレイン》と相性は良いけど、使わなくても大丈夫なようにしておいた方が無難と言える。他にお勧めのテーマは【妖仙獣】かな? メインデッキの大半はノーマルカードで組めるし、パーツその物も安く組めるから。このテーマは鎌鼬を元ネタにしているだけあって、次々とモンスターを召喚して相手のカードを吹き飛ばし、ターンの終了時に手札に戻る。フィールドにモンスターが残らないから破壊されにくいけど、守りが手薄になるから魔法・罠カードで守らないといけなくなる。そこは構築のセンスとプレイングが物を言うだろうな……」

 

「今までの説明から考えると、やる事が単純でノーマルカードで出来るデッキが安上がりで出来るって事ね。他に何かコツってあるの?」

 

「コツか……そうだね。先ずレアカードが少ないテーマを選ぶ事。『遊戯王』に限らず、他のカードゲームでもそうだけど、高いカードって大抵レアカードが多いんだ。予算を抑える意味でも、レアカードの採用は抑えたいね。中には安いレアカードがあるけど、そこは市場価格を調べないと」

 

 神楽の誘導質問に丁寧に答えていく純一。その言葉をメモ帳に書き留めていく女子生徒達。後で実践したり、クラスの皆に教えるつもりだろうか。

 

「それから再録情報を抑える事も大事だね。と言うのも安いカードって再録が多かったり、ここ最近再録されたカードの比率が高いんだ。再録されるカードが入るパックと言えば、アニメに登場するキャラがテーマになっている『デュエリストパック』や『デッキビルドパック』、『ストラクチャーデッキ』にも再録カードが入る。公式サイトや公式Twitterをまめにチェックした方が良いね」

 

「再録されるって事はそれだけ需要があるって事ですよね~昔高かったカードが安く手に入るって良い事ですし、他にはありますか?」

 

「他か……そうなるとエクストラデッキかな? エクストラデッキはメインデッキとはまた別のデッキで、融合・シンクロ・エクシーズ・リンクモンスターの特殊な召喚方法でフィールドに出すモンスター達を集めた物。15枚まで用意出来るけど、別にエクストラは無理やり用意する必要はない。メインデッキだけで使えるデッキは沢山あるから問題ない。ただエクストラデッキを使うデッキで言うと、最初は必要最低限で良い。最初は少なめにして、後から少しずつ足していく感じで良いかな? エクストラデッキのカードも比較的高いからね」

 

「と言う事は……“やる事が単純”で、“再録が多かったり、再録されたカードで作る”デッキが安上がりで済むって事?」

 

「そうなるね……まぁ実際にやるかどうかは人それぞれだから僕は何とも言えないけど、こういうテクニックを教えるのが僕の仕事だ。以上! 安いデッキを作る方法でした!」

 

 純一が伝授した安くデッキを作る方法。それを聞いていた女子生徒達は一斉に散開し、ストレージコーナーでカードを見る等、早速行動を開始し始めた。

 それに気付いた純一はあちゃ~と言う顔を浮かべた。5組のクラスメートを対象にした筈が、何時の間にかクラスや学年を越えてしまった。それでも全体のパワーアップに繋がれば良い。そう思って割り切る事にした。

 

ーーーーー

 

「ただいま戻りました~」

 

「お帰りなさい、純一君」

 

 カードターミナルIS学園店で要件を済ませると、純一は寮部屋へと戻った。1組から5組に移籍するに辺り、寮部屋も変更となった。

 ルームメイトは一夏から更識楯無に変わり、何気に初めての女子生徒との寮部屋になった為、毎日がドキドキとなっている。

 更識楯無。IS学園2年生で生徒会長。現役のロシア代表操縦者。裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部の“更識家”の当主。更識家当主が代々襲名する“楯無”を高校2年生の女子が務めている。これも女尊男卑の世の中ならではである。

 楯無の本名は更識刀奈。彼女が純一の新しいルームメイトになったが、純一は彼女とはIS学園に入学した頃からの付き合いである。

 楯無はISに関する知識や経験が圧倒的に乏しい純一の師匠となり、彼に色々な事を教えている。“更識さんのおかげで今の自分がいる”と純一が誇らしく語る程、楯無には本当に助けられている。

 今回ルームメイトになった理由は文化祭での襲撃事件。いつまた何処で襲われるか分からない為、学園最強のIS操縦者の楯無が護衛役となった。純一は“人格に少々問題あるけど、それ以外は頼れるお姉さん”との事。

 

「かんちゃんから聞いたわよ? 今日移籍した5組で学園のてっぺん取る!って宣言したでしょ?」

 

「あれ? 4組に丸聞こえでしたか?」

 

「丸聞こえだったみたいよ? おかげで授業が一時中断したみたいだし……」

 

「知らなかった……明日謝ってきます」

 

「そう気にする事ないわよ。良いじゃない。てっぺん目指すって宣言するの……男気があって如何にも番長って感じがするから。もしかして純一君はIS学園の番長になりたいって事?」

 

「そんな訳ありませんよ。ただ僕がいる以上、クラスの皆に過剰なプレッシャーを与えたくないですし、デュエルを観戦しに来る方々が皆を批判しそうだったので、だったら僕が皆を引っ張って強くさせて行こうじゃないかって決意しただけです」

 

 純一がこの日の1時間目にIS学園の最強を目指すと宣言した理由。それは新しく来た5組の皆を守る為。自分が来た事で女子生徒や教職員、観戦客が思うに違いない。

 

 ―――黒田純一を擁しているのだから最強に決まっている。

 

 もし自分が勝っても、他で勝てなくては意味が無い。特にクラス対抗戦のような団体戦では。自分が勝って、他が負けたら自分以外のクラスメートが責められるかもしれない。それだけは避けたい。

 だったら自分が中心になって皆を強くさせれば良い。皆が強くなって結果を残せば誰も文句を言えなくなる。そう考えた上で最強を目指すと宣言した。

 

「そっか……そこまで考えていたのね。何か私馬鹿らしい事考えていたわ……」

 

「何を考えていたんですか?」

 

「実は今度の学年別クラス対抗デュエルトーナメントの優勝賞品を考えていたのよ。織斑君と同部屋になる権利や交際する権利にしようかなと思っていたけど……」

 

「物凄くどうでも良くて草生えますよ。それに優勝したクラスに何もメリットがない事について」

 

「止めて! 草生やさないで!」

 

「……冗談ですよ」

 

 あたふたしている楯無とニコニコと微笑んでいる純一。楯無はミステリアスで掴み所の無い性格をしており、強引かつマイペースな言動で容赦なく他者を振り回す時がある。

 純一も最初はそうだったが、次第に傾向と対策が分かって来たのか、このようにカウンターを喰らわせる場面が次第に増えてきた。

 

「そう言えば放課後に5組の子達に安くデッキを作る方法を教えていたんですけど、けっこうギャラリーいましたね。『カードターミナル』の人達と一緒に実戦的なテキスト作ろうと言う話もしましたし……」

 

「それ良いわね! でも大丈夫? 純一君って進学補習もあるし、ISの訓練や勉強もあるし……」

 

「まぁその辺は上手くやりますよ。多少睡眠時間削ってでも仕事をします」

 

「純一君。人の事言えないけど働きすぎは良くないわよ? まだ社会人になっていないのに、ワーカーホリックになるのは止めてね? これでも私は更識家の当主を務めているから、心理学だったり、そういう勉強はしているのよ?」

 

「分かりました。その辺は相談しながらやっていきます」

 

 一人っ子で兄弟姉妹がおらず、内心羨ましがっていた純一。彼の思いを汲み取り、まるで実の姉のように接している楯無。

 その楯無には心を開きながら時には窘めたり、時に甘えたりしている。楯無の言葉に微笑みながら答えると、テキストとノートを開いて勉強机で自主学習を始めた。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・授業で取り扱う範囲

 基礎から応用まで幅広く取り扱いですが、デュエルの内容をしっかりとした物にしたいです。それに小説と言う事もあって、『遊戯王』を知らない人でも理解出来るように複雑なコンボは極力使わないようにします。と言うより作者が書けない……

・通常モンスター=バニラ

 時々専門用語が出ますが、きちんと説明していきます。なので普段「こういう言葉ってどういう意味で使っているんだろう?」と思っている方でも分かるようにします。

・何故担任の先生も授業受けているの?

 これは現時点では答えられません。取り敢えず理事長からの指示と言う事で。

・安いデッキの作り方

・昔のテーマや光るカードが少ないテーマを選ぼう。
・戦術が比較的シンプルな物を選ぼう。
・エクストラを用意する時は先ずは必要最小限にして後々足していこう。

 今回紹介した一例です。これを踏まえて色んな人がデッキを作る場面を記そうと思います。他にも良いやり方があれば教えてください。

・寮部屋の変更

 ルームメイトは一夏君から楯無さんへと変更になりました。純一君の師匠で護衛役。文化祭での襲撃事件の様子も記したいと思います。時期が来たら。


次回は魔法・罠カードの種類と説明を行います。
そして各クラスの様子を出来るだけ記したいと思います。
原作だと一夏君とその周りを軸にしていますが、この小説ではなるべく全てのクラスに光を当てていきます。

次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。






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TURN09 魔法と罠の説明と種類 動き出す生徒達

今回は授業として、魔法・罠カードの説明と種類について説明していきます。
それと一緒に各クラスがどういう事をしているのかを簡単に記しました。
どうしても主人公がいるクラスにスポットがいきがちになるので、たまにこうして触れようと思います。

アンケートにご協力して頂いて本当にありがとうございます。
まだまだ投票の方を受け付けているので、投票していない方はご協力の方をお願いします。


「はい! 皆さんおはようございます! 今日は『遊戯王』の授業、2回目となります! 前回はモンスターカードとその種類について勉強しましたが、今回は魔法・罠カードとその種類について勉強したいと思います! 前回皆さんから受け取った要望を踏まえ、純一君と協力して“初心者向けの実戦テキスト”を作成する事になりました。完成したら報告します。皆さんのお役に立てればと思います。皆さん大丈夫ですか? 予習と復習はバッチリですか?」

 

『はい!』

 

「了解です。では授業を始めましょう! では教科書を開いて……」

 

 『遊戯王OCG』の授業の2回目。今回は魔法・罠カードとその種類をテーマに据えている。前回の授業の反響を踏まえ、実戦的な内容をまとめたテキストを作成する事となった。色んなデッキに使える汎用カードを紹介したり、デッキの作り方をまとめたり。

 時間やカリキュラムの都合上、どうしても講師が全員に教えられるのは基礎的な所に限定されてしまう。実戦的な話は実際に大会に出て優勝経験もある純一を交え、自学自習してもらう事となった。

 

「先ず魔法カードとは何なのかについて説明します。魔法カードは皆さんが見ているこの緑色のカードです。このカードの名前は《増援》と言います。この魔法カードは通常魔法と言います。名前の隣に“魔”と書いてあって、その下に黒い文字で“魔法カード”と書かれてあります。下に黒く小さい文字で効果が書かれています。テキストですね。では使い方を説明しますので、デュエルフィールドを展開します」

 

 講師の今村俊介がプレイマットを広げてデュエルフィールドを整えると、それが全員の目に写った。

 それを確認すると、純一が事前に用意していたデッキを取り出して教壇に移動する。俊介は横に移動しながら説明を続ける。

 

「通常魔法を使う時は魔法・罠ゾーンと書いてある場所で使います。魔法・罠ゾーンに魔法カードを置いて発動を宣言します。そしてテキストを読み、相手に自分がこれから何をするのかを伝えて下さい。伝えたら効果処理を行います。一連の処理が終わったら、使い終わった魔法カードは墓地と言う場所に置いて下さい。汎用カードの紹介は後にするとして……まぁ言葉で言っても分からないと思いますので、純一君に実演してもらいましょうか。ではお願いします」

 

「はい! では行きます。手札から魔法カード、《増援》を発動します」

 

 

《増援》

通常魔法(制限カード)

(1):デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える。

 

 

「先ず純一君は魔法カードを魔法・罠ゾーンに置いて発動を宣言しました。魔法・罠ゾーンが全部埋まっていると魔法カードは使えません」

 

「効果を発動します。デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加えたいです」

 

「続いてテキストを読み、相手に自分がこれから何をするのかを伝えました。相手に確認したのはカードの発動に対して妨害してきたり、発動を無効にしてくる事があるからです。ちなみにデッキからカードを手札に加える行動を“サーチ”と言います。では通された設定で進めて下さい」

 

 サーチ。それはデッキに眠っている状態のカードを一定条件下で探す事。或いはカードをデッキからドローせずに選択して手札に加える事。

 ちなみにサーチ等の行為で自分のデッキを触ったら自分でデッキをシャッフルした後、相手にカットしてもらわないといけない。好きなカードをデッキトップに持ってくる等の不正行為を防ぐ為にも。

 

「私は……《聖騎士アルトリウス》を手札に加えます」

 

「これで一連の処理が終了となります。そうしたら使い終わった魔法カードを墓地に送って下さい。これが通常魔法の使い方となります。では次に魔法カードの種類の説明をしながら使い方を紹介します。次は装備魔法です。純一君。今手札に加えたモンスターを召喚して下さい」

 

「はい。手札から《聖騎士アルトリウス》を通常召喚します」

 

 

《聖騎士アルトリウス》

通常モンスター

レベル4/光属性/戦士族

ATK/1800 DEF/1800

聖騎士団に所属する聡明な青年騎士。

導かれるかの如く分け入った森の中、ついに運命にたどり着く。

そして青年は大きな一歩を踏み出すのだ。

――これは全ての始まりであり、大いなる叙事詩である。

 

 

「装備魔法はその名前の通り、モンスターに装備する魔法カードです。カードの右上の“魔法カード”の隣に太い十字架型のアイコンがあるのが特徴です。装備したモンスターの攻撃力・守備力を上昇させたり、特定の効果を与えたり、色々な効果があります。装備魔法は基本的に1体のモンスターに装備されます。ここで大事なのが発動条件です。“装備魔法を装備出来るモンスターがいる事“と、”装備魔法のテキストに記された条件を満たしているかと言う事“です」

 

「装備魔法を発動する時は装備するモンスターを指定して下さい。では純一君。実演をお願いします」

 

「はい。手札から装備魔法、《天命の聖剣》を発動します。このカードを《聖騎士アルトリウス》に装備します」

 

 

《天命の聖剣》

装備魔法

戦士族モンスターにのみ装備可能。

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):《天命の聖剣》は自分フィールドに1枚しか表側表示で存在できない。

(2):装備モンスターは1ターンに1度だけ戦闘・効果では破壊されない。

(3):フィールドの表側表示のこのカードが破壊され墓地へ送られた場合、自分フィールドの戦士族の《聖騎士》モンスター1体を対象として発動できる。

その自分の戦士族の《聖騎士》モンスターにこのカードを装備する。

 

 

「これで《聖騎士アルトリウス》は1ターンに1度だけ戦闘・効果破壊されなくなりました。装備魔法は通常魔法と違って発動しても墓地に送られません。発動したらフィールドに残り続けます。これは永続魔法も同じ事が言えますが、フィールドから離れて墓地に送られると、効果は適用されなくなります」

 

「先生! 質問です! 装備魔法や永続魔法はどうやったらフィールドから離れますか?」

 

「例えば魔法カードを破壊する効果を持つカードを使われた場合です。装備魔法の場合は装備したモンスターがフィールドから墓地に送られると、装備魔法も一緒に墓地に送られます。戦闘破壊されたり、効果破壊されたりした時とか。次は永続魔法を説明します。“魔法カード”の隣に∞のマークがあるのが特徴です。発動後もフィールドに残り続け、フィールドから離れるまで効果を発揮し続けます。ただ効果を発動する時に破壊されると、効果を使えないまま破壊された事になるのでご注意を」

 

「汎用カードだと、先ず装備魔法では、自分フィールドの表側表示モンスターの数だけ800ポイント攻撃力を上がる《団結の力》だったり、自分フィールドの魔法・罠カードの数だけ500ポイント攻撃力を上げる《魔導師の力》が有名です。《団結の力》はモンスターを大漁展開するデッキと、《魔導師の力》はモンスターの数が少なめで魔法・罠カードで戦うデッキと相性が良いです。どちらを採用するかはデッキと相談して決めましょう」

 

「永続魔法だとお互いの墓地へ送られるモンスターは墓地に行かず、ゲームから除外される《次元の裂け目》が有名でしょうか。現代『遊戯王』は墓地を使うデッキが大半なので、墓地を封じられると、かなり展開に苦しむ場合があります。ただ自分のモンスターも除外されるので、除外をメインギミックに使うデッキに入れるべきです。後は1ターンに1度自分のモンスターが戦闘・効果破壊されたら1枚ドロー出来る《補給部隊》が有名です。自分でモンスターを破壊して展開するデッキと相性が良いです」

 

 1年5組の大半が初心者デュエリストである為、汎用カードの紹介はとても有り難く思われている。その為、純一と俊介は適宜紹介するようにしている。

 紹介される度に必ずノートに記す程、全員が熱心に授業を聞いている。模範的なクラスと言えるだろう。

 

「次は速攻魔法の説明に入ります。”魔法カード“の隣に稲妻のようなマークがあるのが特徴です。速攻魔法は今まで紹介した魔法カードとは違い、相手のターンでも効果を発動出来る魔法カードです。罠カードに近い性質を持っています。基本的に魔法カードは自分のターンにしか発動出来ませんが、速攻魔法は条件を満たしていれば相手ターンにも使えます。ただ相手ターンに使うには魔法・罠ゾーンに裏向きにして置いてからになります。裏向きにして置く行為を”セット“と言います。カードをセットする時は”カードを〇枚セット“と宣言して下さい」

 

「相手ターンに速攻魔法を発動するタイミングの例として、相手がモンスターを召喚したり、魔法・罠カードをセットか発動しようとした時等が挙げられます。魔法カードはセットしたターンに発動する事は出来ますが、速攻魔法だけはセットしたターンに発動する事は出来ません。罠カードに近い性質と言う事もありますが……と言う訳で純一先生。汎用速攻魔法を教えて下さい!」

 

「速攻魔法で汎用カードと言われると、やっぱり《サイクロン》が一番有名ですね。フィールドの魔法・罠カードを1枚破壊するシンプルな効果ですが、相手が罠カードをセットしたターンの終了時に、あらかじめセットしてあった《サイクロン》を使うと、セットしたターンには使えない為、相手が伏せた罠カードを除去する事が出来ます。これが“エンドサイク”です」

 

「おお~! 他には何かありますか?」

 

「デッキに2枚しか入れられない準制限カードなんですけど、《超融合》が強いですね。手札を1枚捨てると、自分と相手フィールドのモンスターを融合素材にして融合召喚出来る超強いカードです。しかもこのカードの発動に対して魔法・罠・モンスターの効果は発動できないので、妨害される事もないので起死回生の一手や追撃にも使えます。ただどの融合モンスターを出すかは大会でどんなデッキが使われているか、どんなモンスターが入っているか、自分のデッキで融合召喚出来るモンスターは何なのか等を把握しないといけません」

 

「ありがとうございます! では次にフィールド魔法の説明に移ります。フィールド魔法はフィールドゾーンに置いて発動する魔法カードの事で、発動した後もフィールドゾーンに残ります。一度発動したフィールド魔法を墓地に送り、新しく発動したいフィールド魔法を発動する事も出来ます。これを“フィールド魔法の張替え”と言います。方位磁針のような細い十字型のアイコンが目印です」

 

「昔はお互いのフィールドに1枚ずつ発動出来なかったんですけど、何年か前のルール変更で自分のフィールドに1枚ずつ発動出来るようになりました。フィールド魔法の特徴はフィールドと言う名前の通り、自分や相手が効果を受けたり、効果を使える事です。汎用カードなんですが……意外と少ないんですよ」

 

「9期に入って頭がおかしいくらい強い効果持ちのフィールド魔法が増えましたけど……大体フィールド魔法ってテーマ専用だったりするんですよ……強いて言うなら《チキンレース》ですね。1000ライフポイントを払うと相手のライフポイントを1000回復させたり、デッキから1枚ドローが出来たり、カードを破壊する効果の3つから選べます。そして相手よりライフポイントが少ないプレイヤーが受ける全てのダメージは0になるのですが、ドローカードとして割り切って使って下さい」

 

 フィールド魔法で有名なカードと言えば、《竜の渓谷》や《ユニオン格納庫》、《ドラゴニックD》等が挙げられる。

 しかし、どんなデッキにも入るフィールド魔法と言えば、《チキンレース》や《幻魔境》ぐらいしかない。フィールド魔法を使いたいのならば、フィールド魔法を使う専用のデッキを構築しないといけない。

 

「最後は儀式魔法。これは儀式モンスターを儀式召喚する為に必要な魔法カードです。“魔法カード“の隣に炎を模ったアイコンをしています。詳しい説明は儀式召喚の時にまとめてします。では……まだまだ時間があるので罠カードの説明に移ります」

 

「はい。では罠カードの説明を始めます。紫色っぽい罠カードは魔法カードと同じで色々な効果を持っています。名前の横に“罠”と言うマークがあります。相手を妨害したり、自分の展開を優位に進めたり等。魔法との大きな違いは、相手ターンに効果を発動できる事です。ただ相手の出方に応じて発動する為、使いどころを見極めないといけません。少し使うのが難しいです。使い方は魔法・罠ゾーンにセットする事。セットした次のターンから、条件を満たせば使う事が出来ます」

 

「種類は3つあります。通常魔法と同じで使い切りの通常罠。永続魔法と同じアイコンを持っていますが、相手の行動や展開を妨害したり、じわじわと相手にダメージを与えるといった効果が多い永続罠。そして最後。これが魔法カードと大きく違います。相手が発動した効果を無効にしたりするカウンター罠。左向きの矢印っぽいアイコンが特徴です。名前の通り、相手の行動に対して発動しますけど、大抵発動するのにコストが必要になります」

 

「罠カードは魔法カードより種類も少ないですし、説明する事もそこまでないです。実際のデュエルで説明する事の方が多いですが。今日説明する分はここまでです。残り時間はデッキ制作やデッキ診断等の時間にしますので、分からない事があれば私や純一君に聞いて下さい」

 

 今回のテーマの説明が終わった為、後は自主学習の時間となった。この時間を利用してデッキを構築したり、構築したデッキを診断してもらう等、個人がスキルアップに当てる時間となる。

 講師の俊介が教室中を回りながら生徒達に話し掛ける中、純一はナタリアからデッキ診断を頼まれる事となった。

 

「純一君! この前教えてもらったコツを踏まえ、デッキを作ってみました!」

 

「おっ、早速作って来たんだ! 偉い! 何デッキかな?」

 

「【インティクイラ】デッキです!」

 

「【インティクイラ】デッキね……どれどれ」

 

 ナタリアからデッキを受け取り、丁寧に中身を見ていく純一。【インティクイラ】は『デュエルリンクス』に実装されており、『デュエルリンクス』をしているナタリアには作りやすいテーマの一つだったようだ。

 メインデッキとエクストラデッキを一通り見終えた後、純一は率直な感想と強化案をナタリアに提示していく。

 

「うん。だいぶ良い感じに出来ているね。デッキ作ったの初めてだよね? にしても凄く良く出来ているよ」

 

「ありがとうございます! 何かアドバイスがあればお願いします」

 

「そうだね……メインデッキは回してみてからの感想を聞いてからになるけど、エクストラデッキが《インティ》と《クイラ》しかないのが気になるな。レベル6とレベル8シンクロが出せるから、もう少し種類を増やしても良いと思う」

 

「どんなモンスターが良いのですか?」

 

「先ず《スキルドレイン》が搭載されているから、《スキルドレイン》と相性が良いモンスターを選ぼう。それに安く手に入る事を考えると……《スターダスト・ドラゴン》のように《スキルドレイン》の影響が及ばない墓地効果を持つモンスターや、《レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト》のように打点が高い上にモンスター効果が強いモンスターを選んだ方が良いかな? それとチューナーがいるから、リンクモンスターの《(クリストロン)水晶機巧-ハリファイバー》は入れても良いね。制限カードだから1枚しか入れられないけど、あるのとないのとでは大違いだ。一時期めっちゃ高かったけど、再録されたおかげで今では本当に安く手に入るようになったんだ。だからこの前再録情報は必ずチェックするように伝えたんだ」

 

「はい! 今日の昼休みにカードショップに行って探してきます!」

 

「ナタリアさんは勉強熱心で良いね。これから開催される学年別クラス対抗トーナメントは、代表候補生には出場義務がある。それまで僕も出来るだけ教えるようにするよ。なんたってこのクラスの柱だから、副代表兼参謀として貢献出来るように頑張るよ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 純一がアドバイスしたのはエクストラデッキの充実。現状《太陽龍インティ》と《月影龍クイラ》しかない為、よりオールラウンドに動けるように他のシンクロモンスターやリンクモンスターの投入を推奨した。

 お調子者の様に明るくも物腰柔らかく、それでいて謙虚で礼儀正しいナタリアの人となりに純一は魅入られ、気が付いたら恋心のような物を抱いていた。

 

「純一さん! 次は私のデッキを見て下さい!」

 

「あいよ~!」

 

 次は白井比奈が純一にデッキ診断を依頼した。比奈の所に歩み寄り、彼女からデッキを受け取って1枚ずつカードを見ていく。

 普段の温和で優しい目をしているが、実際はデュエリスト・『遊戯王』プレーヤーの目であり、剃刀のような鋭さも併せ持っている。

 

「成る程ね。【巨神竜】デッキか。ストラク3箱で作ったまんまだね……」

 

「はい……取り敢えず作ってはみたものの、そこから先が思いつかなくて……」

 

「僕が作った時は【青眼】を混ぜたな~と言うかその方が安定してた。比較的だけど。エクストラは随時足すとして、先ずは【青眼】関連のカードを足してごらん。それだけでけっこう変わると思う。他にドラゴンのテーマで組めそうな物があったら、僕の方からお勧めするよ」

 

「は~い!」

 

 その日の授業は他にもデッキ構築のお手伝いや質問に答えたりして終わった。次の時間は効果モンスターの種類と紹介となる。まだ儀式・融合・シンクロ・エクシーズ・リンクモンスターには入らない為、今の内に予習するように伝えられた。

 純一の場合は授業の予習・復習以外にも、実戦テキストの編集もある為、『遊戯王』関連は大忙しとなっている。

 

ーーーーー

 

 さてここまで1年5組を中心に見てきたが、他のクラスの様子を見てみよう。先ずは1年1組。かつて純一が在籍していたクラスで、今は彼の親友の織斑一夏がクラス代表兼チューナーとして頑張っている。

 純一が1年5組に移った日の朝礼。千冬に許可を取り、一夏は教壇に立って皆に向けて自分の思いを伝えながら宣言した。

 

―――俺の親友で、皆にとって大切な仲間だった純一は他のクラスに移った。でも純一は俺達と共に過ごした大切な仲間だ。今、純一は新しいクラスで自分の知識や経験を伝えて馴染もうと頑張っている。俺達も純一に負けないように頑張ろう。一緒に目指そうぜ、てっぺんって奴を!

 

 一夏の宣言によってクラスは一つにまとまり、5組に勝るとも劣らない団結力を見せるようになった。1組で『遊戯王』の授業を担当している押村良樹もとても楽しく、やりやすそうに授業をしている。

 また、授業後に必ず質問してくる一夏には親切丁寧に教えたりしているが、この日の放課後は一夏にとって大事な作業を行っていた。

 それはデッキ構築。実は純一が【Kozmo】デッキを構築していた時、一夏は箒達に振り回されてそれどころではなかった。それに加えてISの授業や訓練に追われ、IS環境用のデッキを作る事が中々出来ないでいた。

 そして今回ようやく講師の良樹と共にデッキを作る事となり、どのようなデッキを作ろうか相談している所だ。

 

「織斑君はどんなデッキを作りたいんだい?」

 

「う~ん……IS環境で強くて、普通のフリー対戦でも強いデッキが良いです」

 

「成る程ね。そうなると……織斑君は復帰勢だし、それなりに動かし方がシンプルで強いテーマが良いね。【ライトロード】はどうかな?」

 

「【ライトロード】……ですか?」

 

「君のお姉さん、織斑先生がやっていた頃にあったテーマだったかな? 昔に比べて遥かに安く作れるし、ややこしいコンボもそんなにないね。モンスターを出しながら墓地を肥やして大きなモンスターを出す。そして攻撃して勝つ。シンプルでしょ? それに改造しがいがあるから、自分で好きなように出来る」

 

 【ライトロード】は2008年に登場したテーマで、《ライトロード》モンスターで墓地を肥やした後、《裁きの龍》を特殊召喚してフィニッシャーとする事が基本戦術。

 単体のカードパワーが高く、ギミックも柔軟性が高い為、他のテーマと混合させやすく、数多くの派生デッキが登場している。

 

「あ、そうそう。実は純一君と協力して汎用カードやデッキの構築について、実戦的なテキストを配る事にしたんだ。今は作っている最中だからもう少し待っていてくれ」

 

「純一が……やっぱり凄いなぁ」

 

「今村君から聞いたよ。講師の手伝いをしてくれるだけでなく、デッキ診断やデッキ構築の手伝いもしてくれると。それに5組に馴染んで、今ではクラス副代表兼参謀と言う重役を任されているって。しかも皆の前でてっぺん取るって宣言したから、クラス全体がまとまっている。一筋縄じゃ行かないね……」

 

 純一の現状を聞いた一夏は溜息を付くしか無かった。純一は自分が思っていた以上に上手くやれていた。クラスに溶け込んで重役を任せられ、『遊戯王』の授業では講師と共に授業を行い、自分の経験や知識を役立てている。

 一夏も上手くやれている。純一がいなくなった後のクラスをまとめ上げつつ、授業を真面目に受けながら研鑽に励んでいるからだ。その努力は皆が理解して認めている。

 1年生のクラスの中で1組と5組が抜きんでている。それは一夏と純一と言うカリスマがいるからかもしれない。

 

「織斑君。だからと言って自分を卑下する事はない。君は強い。間違いなく強い。必要以上に背伸びすることはないし、自分を信じて前に突き進めば良い。そうすれば必ず良い事が訪れるから」

 

「はい!」

 

「それに今はチャンスだ。純一君は仕事や勉強に追われてデッキ触れていないと言っているし、フリーデュエルの回数もそこまでこなせていない。今の内にデッキを完成させて回し方を覚えれば、ここぞと言う時に必ず役立つ。さぁ【ライトロード】デッキを作っていこう!」

 

「お願いします!」

 

 押村良樹。現在『カードターミナル』の本部で動画作成担当を務めているが、元々は敏腕店長として長年活躍してきた。教え方は分かりやすく、1組の女子生徒からは“まるでダンディーなおじさん”ことまダおと呼ばれている。

 一夏と一緒に【ライトロード】デッキを考えている姿は、単純に『遊戯王』が大好きな男性の姿をしていた。

 

ーーーーー

 

 1組のクラス代表で皆の憧れの象徴の一夏は、純一に追い付き追い越さんとばかりに奮闘しているが、1年2組の様子は一体どうなのかを見てみよう。

 放課後。『カードターミナル』IS学園店のデュエルスペース。そこではツインテールがトレードマークの少女―凰鈴音と、茶髪のショートヘアに黒縁眼鏡をかけたオタクっぽい見た目の少女―三沢リサがカードを触りながら話をしていた。

 

「どうでした? 新しいデッキは」

 

「えぇ。大体のパーツは揃ったわよ! ただ……思っていたより安く作れたのが意外だったわ」

 

「あはは。そのデッキは比較的安く作れますよ? レアカードがそんなにないので……」

 

「5000円以内で組めたのが驚きだったわ……」

 

 リサは鈴に付き合う形で『カードターミナル』IS学園店に来ていた。と言うのも、鈴が【戦華】デッキを構築したいと言い出し、そのサポート役として付き添いとしてやってきた。

 【戦華】デッキは鈴の出身国こと中国で有名な『三国志』をモチーフにしており、獣戦士族で統一された《戦華》モンスターを中心としたビートダウンデッキ。

 自軍の効果の発動をトリガーとしたり、敵軍の数を参照したりとフィールドを広く見る力が必要となる、中々テクニカルなデッキとも言える。

 

「おっ、鈴も来ていたのか」

 

「ラウラじゃない。どうしたの?」

 

「うむ。実はデッキ診断を受けて、それを踏まえてカードを買ってきた所だ」

 

「あたしはリサと一緒にデッキを作ろうとしていた所。そっちは何デッキを作ろうとしているの?」

 

「【列車】デッキだ。ただIS環境ルールに引っ掛かって使えないカードがあるから、どうしようか悩んでインストラクターの人に相談してきた」

 

「あ~成る程。《スペリオル・ドーラ》とかのエクシーズモンスターですね……」

 

 鈴とリサの所にやってきたのは1年3組のクラス代表・副代表コンビ。ラウラとシャルロットの2人。彼女達もデッキ構築・強化に必要なカードを買ってきたみたいだ。

 ラウラは3組の授業を受け持っているインストラクター、小林健次郎に【列車】デッキを診断してもらい、そのアドバイスを踏まえてカードショップに足を運んできた。

 

「それでどうするの? 【列車】デッキって基本エクシーズして戦うテーマでしょ?」

 

「小林先生がね、【マシンナーズ】と混ぜたらどうかってアドバイスしてくれたんだ。ストラクで強化されたし、相性が良いって」

 

「【マシンナーズ】? あたしのクラスでもストラク買っている人多かったな~人気なのかしら?」

 

「昔から人気ですしね……確かに【列車】と種族と属性が一緒ですから、サポートも受けられますし、ランク10エクシーズの何枚かが使用禁止になったこの学園なら勝ち上がれるかもしれないです」

 

「それで今さっきランク10エクシーズや【列車】のデッキパーツを買ってきた。【マシンナーズ】のストラクにも一部【列車】のデッキパーツが入っていたが……」

 

「ならあたし達も手伝うわ! こういう時は助け合いよ!」

 

「私も付き合います!」

 

 こうして鈴・リサ・シャル・ラウラの4人で【列車マシンナーズ】デッキを構築し始めた。その様子をカードショップにいたスタッフが優しく見守っていた。

 何れクラス・タッグ・個人でデュエルする時は来る。その時は当然敵となる。しかし、日常生活では共に同じ景色を見て過ごす仲間。そんな青春をスタッフ達は懐かしんでいた。

 

ーーーーー

 

 その頃。純一が一番警戒している更識簪が在籍している1年4組。上田詩織の寮部屋には3人の女子生徒が集まっていた。

 一人は上田詩織。眼鏡をかけ、黒髪を後ろでポニーテールにまとめたおとなしげな雰囲気を出している少女。もう一人は更識簪。セミロングの青い髪に癖毛が内側にハネていて、眼鏡の見た目をした外部ディスプレイをかけている。もう一人はクールな雰囲気を放つ少女。櫻井香澄。

 簪と香澄は詩織のデッキ作りに手伝っていたが、彼女が購入した『ストラクチャーデッキ』を見て何か思いついた。

 

「【魔導書】デッキ?」

 

「うん。このデッキにパーツが何枚か入っているし、前に比べて安く作れるようになったからどうかなって……」

 

「強いの?」

 

「まぁまぁ強いって感じかしら?」

 

「うん……2013年に出たパックに収録された《魔導書の審判》……今禁止カードだけど、あれは本当に頭おかしいレベルで強いって聞いた」

 

 詩織が購入したのは『ストラクチャーデッキR-ロード・オブ・マジシャン-』の3箱。その中身を見ていた簪と香澄は《魔導書士 バテル》、《グリモの魔導書》、《ヒュグロの魔導書》、《トーラの魔導書》を見てある事を考えた。

 

―――かつて環境デッキだった【魔導書】デッキを作らせてみよう。

 

 簪と香澄も考えていた。IS環境を制するのは昔環境で活躍したテーマで、デッキ・カードパワーが強いデッキである事を。

 それに加え、これから開催される学年別クラス対抗戦で一人でも多くの実力者を確保しておきたい。来るべき決戦に備えて。

 

「そもそも【魔導書】って何するテーマなの?」

 

「簡単に言うと、【魔導書】は《魔導》モンスターと、《魔導書》魔法カードで構成された魔法使い族のテーマで、《魔導書》魔法カードはサーチ・蘇生・除去等の色んな効果を持っている。《魔導書》魔法カードでデッキを回して、モンスターを展開して攻撃するのが基本戦術かしら?」

 

「実際に作ってみないと分からないね……純一や講師の人にも聞いてみよう。協力してくれるし」

 

 【魔導書】。かつて環境を席捲してきた【征竜】と激闘を繰り広げてきた元環境テーマデッキ。今では【征竜】が息していないと言っても良い時代に、《魔導書の審判》と言う頭のおかしい禁止カードが出てしまったが、《ルドラの魔導書》が代わりになっている。

 全盛期ほどではないが、今でも汎用性と改造しがいの高さがあるデッキの一つ。上田詩織と言う女子生徒。ダークホースとなりそうだ。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
後書きですが、今回は特に記す事がないので省略します。

次回は効果モンスターの種類について授業と言う形で触れつつ、学年別クラス対抗戦のメンバーを決める予定です。

次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。


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TURN10 効果モンスターの種類 クラス対抗戦に向けて

今回も授業形式で、効果モンスターの種類について取り上げていきます。
そして次章取り上げるクラス対抗戦に向けて下準備を行う様子も記しました。
授業形式も後2~3回くらいで最後にデュエルの進め方をしたら、一度皆さんにも解ける『遊戯王OCG』のテスト(難易度は低め~普通?)を用意します。
感想では答えを記さず、解いた感想を教えて頂ければ幸いです。

アンケートにご協力して頂いて本当にありがとうございます。
まだまだ投票の方を受け付けているので、投票していない方はご協力の方をお願いします。


「はい! 今日も『遊戯王』の授業を始めていきます。今回は効果モンスターの種類について取り扱います」

 

 1年5組。1時間目の授業は『遊戯王』の授業で、何時ものように講師の今村俊介が純一と共に『遊戯王』の事を皆に教えていくが、今回のテーマは“効果モンスターの種類”。

 この頃になると女子生徒達も『遊戯王』カードに触れる回数が多くなり、中には『遊戯王』にのめり込む人も増えてきている。

 

「一番最初の授業で効果モンスターを取り扱いましたが、実は効果モンスターにも様々な種類があります。今日はそれを勉強していきます。口頭で説明しても分かりにくいかと思いますので、例の如く皆でカードを見ながら勉強していきましょう。先ずはデュアルモンスター。こちらのカードを見て下さい」

 

 

《ダークストーム・ドラゴン》

デュアル・効果モンスター

レベル8/闇属性/ドラゴン族

ATK/2700 DEF/2500

(1):このカードはフィールド・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。

(2):フィールドの通常モンスター扱いのこのカードを通常召喚としてもう1度召喚できる。

その場合このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。

●1ターンに1度、自分フィールドの表側表示の魔法・罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する。

 

 

「種族名の横に“デュアル”と記載されているのがデュアルモンスターです。デュアルモンスターの共通効果は“フィールド・墓地だと通常モンスター扱いになる”事です。手札とデッキでは効果モンスター扱いとなります」

 

「な、何だかややこしいですね……」

 

「慣れれば大丈夫だと思います。そしてデュアルモンスターの共通効果はもう一つあって、二回召喚する事が出来る事です。その時初めて効果モンスターとなり、モンスター効果を発動する事が出来ます」

 

「う~ん……それだと普通に効果モンスター使った方が良くないですか?」

 

「そうです! 折角の通常召喚権を使ってもう1度召喚するより、別のモンスターを召喚して展開した方が合理的です!」

 

 ナターシャや女子生徒の言葉は至極最もであり、クラスの大半の女子生徒達も同意するように頷いた。

 言いたい事が分かる純一も苦笑いを浮かべるが、折角のデュアルモンスターの利点を説明しない訳には行かない。ここで俊介から説明役をバトンタッチする事にした。

 

「確かに言う通りです。一理あります。ですがデュアルモンスターにも利点があります。それは墓地だと通常モンスター扱いとなる事です。例えばこの《竜の霊廟》と言う魔法カードと相性が良いです」

 

『《竜の霊廟》……?』

 

 

《竜の霊廟》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):デッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る。

この効果で墓地へ送られたモンスターがドラゴン族の通常モンスターだった場合、さらにデッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

 

 

「簡単に言うと、デッキからドラゴン族モンスターを2体墓地に送れます。制限カードの《おろかな埋葬》は1体しか墓地に送れませんが、《竜の霊廟》は条件付きですけど2体墓地に送る事が出来ます。デッキからドラゴン族モンスターを1体墓地に送り、それが通常モンスターだった場合、追加でデッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る事が出来ます。なので今皆さんが見ている《ダークストーム・ドラゴン》を墓地に送った後、デッキから更に追加でドラゴン族モンスターを1体墓地に送る事が出来ます。例えば《アークブレイブドラゴン》を追加で墓地に送った場合、次のターンのスタンバイフェイズに、《アークブレイブドラゴン》のモンスター効果で《ダークストーム・ドラゴン》を墓地から特殊召喚する事が出来ます」

 

 

《アークブレイブドラゴン》

効果モンスター

レベル7/光属性/ドラゴン族

ATK/2400 DEF/2000

(1):このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合に発動できる。

相手フィールドの表側表示の魔法・罠カードを全て除外し、このカードの攻撃力・守備力は、この効果で除外したカードの数×200アップする。

(2):このカードが墓地へ送られた次のターンのスタンバイフェイズに、《アークブレイブドラゴン》以外の自分の墓地のレベル7・8のドラゴン族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

 

「これが《竜の霊廟》と《アークブレイブドラゴン》のコンボです。デッキにドラゴン族が入っていたり、デッキが【ドラゴン族】主体なら是非使ってみてください。他には先日のエキシビジョンデュエルで使用した《銀龍の轟砲》ですね。墓地の通常ドラゴン族モンスターを特殊召喚する効果の速攻魔法なのですが、これも相性が良いです。皆さんもデッキを構築する時、テーマだけで組むのではなく、種族や属性でどんなカードと相性が良いのかを考えると、より強いデッキが作れます」

 

「はい。デュアルモンスターの説明はここまでにして、次は“リバースモンスター”の説明に移ります。リバースモンスターはデュアルモンスターに比べてかなりシンプルです。では代表的なカード、《メタモルポッド》を例に取ってみましょう」

 

 

《メタモルポッド》

リバース・効果モンスター(制限カード)

レベル2/地属性/岩石族

ATK /700 DEF/ 600

(1):このカードがリバースした場合に発動する。お互いの手札を全て捨てる。

その後、お互いはデッキから5枚ドローする。

 

 

「裏側表示から表側表示になった時、リバースモンスターはモンスター効果を発揮します。反転召喚したり、相手モンスターが攻撃した時とか。後はカードの効果でリバースされた時も。リバースモンスターを主体にしたデッキは意外にそう多くありません。【シャドール】に【クローラー】、【サブテラー】ぐらいでしょうか」

 

「次は“スピリットモンスター”の説明に移ります。共通効果として召喚・特殊召喚されたターンのエンドフェイズに手札に戻ります」

 

『えっ!?』

 

 

《阿修羅》

スピリットモンスター

レベル4/光属性/天使族

ATK/1700 DEF/1200

このカードは特殊召喚できない。

召喚・リバースしたターンのエンドフェイズ時に持ち主の手札に戻る。

このカードは相手フィールド上に存在する全てのモンスターに1回ずつ攻撃をする事ができる。

 

 

「使いづらくないですかそれ?」

 

「でも相手ターンにはフィールドにいないから、相手の除去効果を持つカードを腐らせやすく出来ます。その分守りは罠カードや手札誘発効果を持つカードで固めないといけません。正直使いにくいので、中級者くらいになってから使った方が良いと思います。では次に“トゥーンモンスター”の説明に入ります」

 

 

《トゥーン・デーモン》

トゥーンモンスター

レベル6/闇属性/悪魔族

ATK/2500 DEF/1200

このカードは通常召喚できない。

自分フィールド上に《トゥーン・ワールド》が存在する場合のみ特殊召喚できる(レベル5以上はリリースが必要)。

このカードは特殊召喚したターンには攻撃できない。

このカードは500ライフポイントを払わなければ攻撃宣言できない。

相手フィールド上にトゥーンモンスターが存在しない場合、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。

存在する場合、トゥーンモンスターを攻撃対象に選択しなければならない。

フィールド上の《トゥーン・ワールド》が破壊された時、このカードを破壊する。

 

 

《トゥーン・サイバー・ドラゴン》

トゥーン・効果モンスター

レベル5/光属性/機械族

ATK/2100 DEF/1600

(1):相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードは召喚・反転召喚・特殊召喚したターンには攻撃できない。

(3):自分フィールドに《トゥーン・ワールド》が存在し、相手フィールドにトゥーンモンスターが存在しない場合、このカードは直接攻撃できる。

 

 

「先生! どうして2枚のモンスターカードを出したんですか?」

 

「“トゥーンモンスター”は2種類あります。1つ目は《トゥーン・ワールド》が発動している状態でしか召喚出来ないタイプ。《トゥーン・ワールド》は1000ライフポイントを払って発動出来る永続魔法なんですが、効果は特にありません。発動条件だけしかテキストに記されていません。例としてはこちらの《トゥーン・デーモン》。2つ目は《トゥーン・ワールド》が発動していなくても召喚出来るタイプ。《トゥーン・サイバー・ドラゴン》みたく」

 

「何だか話だけ聞くと、《トゥーン・サイバー・ドラゴン》の方が強そうに聞こえるのですが」

 

「《トゥーン・サイバー・ドラゴン》の方が後に出て来ましたから……“トゥーンモンスター”の共通効果は2つあって、“召喚・反転召喚・特殊召喚したターンには攻撃できない”事です。『遊戯王』だと召喚したターンに直ぐに攻撃出来るのですが、《トゥーン》モンスターは1ターン待たないと攻撃する事が出来ません。これは少々デメリットになりますが、条件付きではあるものの直接攻撃が出来る事が大きな強みです。相手モンスターを無視して、相手プレーヤーに直接攻撃出来るのは大きいです。【トゥーン】デッキを使う人って実はそんなにいません。もし使いたいなら専用の構築が求められます」

 

「最後は“ユニオンモンスター”です。こちらのモンスターは【マシンナーズ】のストラクを買った人ならご存知のカードだと思います」

 

 

《マシンナーズ・ギアフレーム》

ユニオン・効果モンスター

レベル4/地属性/機械族

ATK/1800 DEF/0

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。

デッキから《マシンナーズ・ギアフレーム》以外の《マシンナーズ》モンスター1体を手札に加える。

(2):1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●自分フィールドの機械族モンスター1体を対象とし、このカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。

装備モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。

●装備されているこのカードを特殊召喚する。

 

 

「“ユニオンモンスター”は装備魔法みたく、自分の他のモンスターに装備する事が出来ます。装備魔法と違う所は一度召喚してからでないと、装備する事が出来ません。召喚権を使う事がデメリットですが……はい。効果モンスターの種類は以上になります。ここはテストにも出るので、きちんと復習して下さいね?」

 

「次の時間からいよいよお待ちかね! 儀式・融合・シンクロ・エクシーズ・ペンデュラム・リンク召喚を教えていきます。それが終わったら実際のデュエルの進め方を教えます。引き続き予習復習の方をお願いします」

 

 ちなみに『遊戯王』の授業もテストがある。ただ内容自体はそこまで難しくない。ややこしい効果処理を回答する等のインストラクター向きではなく、本当にプレーヤーとして覚えるべき必要最低限の知識を問われる内容となるからだ。

 そして次回の授業の内容を聞かされた時、女子生徒の間から歓声が上がった。いよいよ多彩な召喚方法を教わる段階となったからだ。純一と俊介はお互いに苦笑いを浮かべていた。

 

ーーーーー

 

「さてここからは何時ものように自習時間に充てたいのですが、今回は再来週に行われる学年別クラス対抗戦とそのルールについて説明したいと思います。先ず学年別クラス対抗戦なのですが、その名の通りクラス対抗戦なのでクラスが一丸となって、クラスが一つのデッキを使うデュエリストとなって挑む大会となります」

 

『おお~!』

 

「出場登録するメンバーは4人で、試合に出るのは3人となります。残る1人は補欠みたいな感じでしょうか? 後は突然のアクシデント等で当日出れなくなった選手の代わり扱いになります。ルールなんですが、3対3の団体戦となります。先に2本先取したクラスの勝利となります。これは実際の『遊戯王』の大会と変わりません」

 

「えっ!? そうなんですか!? 純一君本当?」

 

「はい。アニメみたいに1回勝負じゃないんですよね……」

 

 アハハと笑っている純一。実は彼も大会に初出場するまで、デュエルは1回勝負と思い込んでいた。しかし、予習している時に3本勝負で2本先取と言う事を知って驚いた。ナタリアの質問を聞いて昔を思い出したのは言うまでもない。

 学年別クラス対抗戦は団体戦。『遊戯王』の大会でもある形式の一つで、現実でも調べればきちんと開催されている。ルールは公式大会に則り、3本中2本先取したチームの勝利となる。

 登録メンバーは4人となっているが、出場メンバーは3人。1人は不測の事態に備えての予備戦力だが、敢えて参謀を投入して作戦会議を行う事も可能だ。

 

「大会では公式のリミットレギュレーションとIS学園のリミットレギュレーションを採用します。なので公式大会での禁止・制限・準制限カードを確認しつつ、市場での平均価格が1000円以上するカードを入れないように気を付けて下さい」

 

「今村先生。市場価格が1000円以上するカードの禁止の件ですが、市場価格って毎日のように変動しています。昨日まで1000円しなかったカードが当日になって1000円以上に跳ね上がる事もありますし、その逆もまたあります。その場合ってどうしますか?」

 

「あ~良い事聞いてくるなぁ。流石純一君だ」

 

 純一の質問は大会出場者目線の内容。市場価格が1000円以上するカードは原則禁止となっているが、当日になって禁止に指定されたり、若しくは解除されたりする場合もある。

 そのような時はどのように対処するのか。カードを入れ替える事は可能なのか。その時間があるのか。盲点だった所に来た為、俊介は少し考えてから答える。

 

「その件は授業が終わってから講師の皆で相談して決めます。恐らくですが、試合がある日の1時間目の授業をデッキ調整の時間にするので、その時に市場価格を調べてデッキの中身を随時入れ替えてもらうかなと思います。決まったら直ぐに報告します」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

「そして今回は特別レギュレーションを設けました。『遊戯王』では1つのデッキに同じカードは3枚まで入れる事が出来ます。リミットレギュレーションで指定されている禁止・制限・準制限のカード以外は。ですが、今回は同名カードのデッキ投入を制限します。出場登録者の4人で1チームになると先程説明しましたが、同名カードは全てのデッキで合わせて3枚まで入れる事が出来ます。つまり皆さんは4種類のデッキを構築してもらう事になります」

 

 学年別クラス対抗戦の特別ルール。それは同名カードの投入制限。普通ならば1つのデッキに3枚まで同名カードを投入する事が出来るが、今回は1つのチームで同名カードを3枚まで使用出来ない縛りが課せられた。

 これによって、各チームは4種類の異なるテーマデッキの構築を義務付けられた。種族や属性は重ならない事が望ましい。

 

『ッ!?』

 

「先生! もう少し分かりやすく説明して下さい!」

 

「例えば私、純一君、ナタリアさん、ナターシャ先生の4人で1つのチームだと仮定します。私がデッキに速攻魔法の《サイクロン》を入れました。そうしたら他の3人は《サイクロン》を使えなくなります。デッキに1枚しか入れられない制限カードと、2枚しか入れられない準制限カードも同じ事が言えます」

 

「先程ユニオンモンスターで例として挙げた《マシンナーズ・ギアフレーム》は、地属性・機械族で召喚された時に《マシンナーズ》モンスターをサーチする効果を持っています。《ギアフレーム》は【マシンナーズ】デッキに必要不可欠なキーカードなので、チームの一人が《ギアフレーム》を選んだ時点で、他の人が【マシンナーズ】デッキを使う事が出来なくなります」

 

「成る程……分かりました。つまり今回のクラス対抗戦ではデュエルが強いだけじゃなく、デッキの構築力だったり、クラスの団結力が問われると言う事ですね?」

 

「その通りです。なので今回の団体戦では、デッキ構築の段階からデュエルが始まると言っても過言ではありません。そして後日学年別の優勝・準優勝クラスを含めて最強クラス決定戦を行います。その時には特別レギュレーションを撤廃して、自分が使いたいデッキを使うようにさせようと考えています」

 

 俊介の説明を聞いた女子生徒達は騒然となった。純一さえいればどうにかなる。そのように思い込んでいた。しかし、今回の特殊ルールでそのアドバンテージがあまり意味を成さない事となった。それでも戦力にしては心強いが。

 純一が来たからと言って、油断や慢心は出来ない。逆に純一と言う切り札をどのように運用していくかが求められる。クラス代表のナタリアと神楽は頭の中で考えていく。

 

「でも後で行われる最強クラス決定戦って……数足りなくないですか? 1年~3年で優勝・準優勝チームを数えても6チームです。後の2チームはどうするんですか?」

 

「最強クラス決定戦は教職員チームと我々インストラクターチームが加わります。では長くなりましたが、今から本題に入ります。学年別クラス対抗戦に登録するメンバーを決めようと思います。先程も説明しましたが、学年別クラス対抗戦の登録メンバーは4人。一試合に出場するのは3人。ちなみに出場義務があるのは代表候補生の人と“チューナー”を務める人。このクラスではナタリアさんと純一君になります。ナタリアさん。純一君。よろしくお願いします」

 

「はい! このクラスの代表として恥ずかしくないデュエルをします!」

 

「了解しました」

 

「では残る2人の登録メンバーを決めましょう。我こそはと思う人は遠慮なくどうぞ。別に出なかったと言っても、成績に影響する事はありませんのでご心配なく」

 

 学年別クラス対抗戦の登録メンバーは4人で、実際に出場するのは3人。その場その場で出場する選手を選抜する事が出来る。

 出場義務があるのは代表候補生のナタリアと“チューナー”を務める純一の2人。仮に“チューナー”でなくても、クラス副代表兼参謀を務める純一は自薦していただろう。

 クラス対抗戦で求められるのは実力の高さだけではない。チームの皆と協力してデッキを構築出来るかどうかと言う団結力やコミニュケーション力、どのデッキを構築するかを考えて決める決断力等々。

 かなり特殊なルールに女子生徒達から見れば団体戦ならではの醍醐味を味わえるが、純一と言う圧倒的なアドバンテージを活かせない事に不安を感じていた。

 

「今村先生。私をメンバーに入れて下さい。純一君には及びませんが、私も嗜んでいるので何かしら役に立てるかと」

 

「四十院さん。ありがとうございます」

 

 後頭部の髪を御団子に纏めた大和撫子―四十院神楽が名乗りを上げた。彼女は時折授業の進行を円滑にする為、的確に質問をしてくる事が多い。

 と言うのも、彼女自身は『遊戯王』プレーヤーであり、その実力は純一と匹敵しているか、互角に渡り合えるレベル。

 純一をサポートする為、クラスを頂点に立たせる為、今まで隠していた実力を披露する事を決めた。これで残り一人となった。

 

「実力に自信が無くても大丈夫です。2週間あれば一般生徒相手なら勝てるように僕の方で指導します。大事なのはやる気だけです。やるかやらないか。この大会は僕が5組に来て初めての大会。これから先、どのように見られるかは皆さんの頑張りにかかってます」

 

『……』

 

「無理に頑張るなとは言いません。皆さんは皆さんのペースで、皆さんのやり方で強くなれば良いです。不安や心配があれば僕が全部消し去って見せます。だからどうか今回は力を合わせて下さい。僕はこのクラスをてっぺんにすると言いました。その言葉と思いは本物です。それに嘘をつきたくありません」

 

 ナタリアと神楽以外の女子生徒達は不安だった。純一がいるこのクラスが優勝出来るかどうかではなく、自分達が純一に付いてこれるかどうかと言う事に。

 最初に『遊戯王』の授業を行うと言われた時は戸惑った。どうしてカードゲームをやらなきゃいけないのか。どうしてカードゲームの勉強をしなければいけないのか。自分達はISの勉強をしにこの学園に入学した。なのに一体どういう事なのか。

 しかしそのような不満もエキシビジョンデュエルを観た事で消えた。ルールは分からないし、カードの事もよく分からない。でもどうしてだろう。どうして胸が躍るのだろう。台本のないぶっつけ本番だったから、多くの人を魅了出来たのだろう。かどうやったら強力なモンスターを展開し、心躍るデュエルが出来るのだろう。

 そんなデュエルをこれから自分達がやる。果たして出来るのか。不安で仕方が無かったが、自分達のクラスに純一がやって来た。

 今まで純一の事は“世界で2番目のIS操縦者”で、“見た目と実績が地味”と言う印象しかなかった。何しろ“世界で最初のIS操縦者”の一夏の影に隠れていた為、中々実力を発揮出来ず、他のクラスにも認知されなかった。

 それが『遊戯王』の授業開始に伴って大きく名を上げる事となった。そしてどういう訳かこのクラスに移籍する事となった。一体どういう人物なのか。不安と心配があったが、純一はかなり良い人でクラスに溶け込もうと努力してきた。

 しかし、『遊戯王』の授業で講師の今村俊介を支えているのを見ると、やはり純一は自分達とは別格の存在だと突き付けられた。手を伸ばしても届かない。専用機持ちの代表候補生のように。近いのに遠くに感じる。

 だからこそ躊躇してしまう。自分達が純一と共に戦って良いのか。一緒にいて良いのか。1組にいた方が良かったのではないか。今でもそう考えてしまう。でも現実を受け入れなければならない。純一は1年5組に来た。そしてクラスに来て早々にクラス副代表兼参謀と言う重役を担っている。

 その純一が手を差し伸べている。自分のペースで良い。自分のやり方で良い。だから僕と一緒にてっぺんを取りに行こう。勝ち方やデッキの作り方は全部教える。その為にこのクラスにやってきた。自分の名誉の為じゃない。仲間の為に。

 

―――戦いたい。戦いたい。私も純一君のようにドラゴンを自由自在に召喚して勝ちに行きたい! デュエルを楽しみたい!

 

 純一の思いを知った白井比奈は内心考える。自分は『デュエルリンクス』でドラゴン族デッキを使って満足していた。勝ち負けに拘らず、自分の好きなデッキを作ってはデュエルして作ってはデュエルしてきた。それで満足していた。

 でも『OCG』の世界に入った事でその先の景色を見てみたくなった。全てはあのエキシビジョンデュエルが切っ掛けだった。純一が《ブルーアイズ》モンスターを使っているのを見て、自分もあのようなデュエルがしたいと心から強く願うようになった。

 ならばどうする。強くなるしかない。デュエルするしかない。勝ち取りたくば己で掴み取れ。願いを叶えたいのならば自分で動け。決心して純一の方を見据えると、比奈は立ち上がって名乗りを上げた。

 

「純一さん! 私もメンバーに加えて下さい!」

 

「比奈さん?」

 

「純一さんのデュエルを観て私は決めたんです! 純一さんみたいにドラゴンさんと戦うデュエリストになるって! 例え道のりがどんなに険しくても、私はドラゴンデュエリストになってみせる!」

 

 比奈の真っすぐな思いを受けた純一。彼の心は揺れ動いていた。自分のデュエルは世の中に一石を投じただけでなく、クラスの仲間の心をも動かした。

 今まで自分はISの勉強をやっても、訓練をやっても、何をやっても良い結果を残せなかった。やり方が悪いのか、才能がないのか、スキルがないのか。それは分からない。

 それでも。それでも。正しい努力を続けていれば必ず良い事が起きる。世の中と言う漠然とした何かを動かすより、近くにいる人の心を動かした事の方が大きい。

 純一は心から嬉しそうにニコリと笑うと、大きく頷きながら答えた。比奈が待ち望んでいた答えを。彼なりの感謝の言葉を。

 

「ありがとう、比奈さん。その思いを確かに受け取った。今村先生。この4人で1年5組はてっぺんを取ります」

 

「分かりました。では対戦を決める抽選会の日程が決まり次第直ぐに報告します」

 

 黒田純一。ナタリア・スアレス・ナバーロ。白井比奈。四十院神楽。1年5組で学年別クラス対抗戦に出場・登録するメンバーが決まった。

 経験者の純一と神楽がナタリアと比奈をサポートする形となる、バランスが丁度良い感じで取れたメンバー構成となっている。

 

ーーーーー

 

「これより学年別クラス対抗戦に向けて、デッキ構築会議を始めます!」

 

『イエ~イ!』

 

「え~司会進行はクラス副代表兼参謀の私、黒田純一が務めます。そもそも今回皆さんに集まってもらったのかを説明しますと、約2週間後に迫った学年別クラス対抗戦。先程ここにいる4人で登録を済ませました。そしたら誰がどのデッキを使うかを決めようと思います」

 

「補佐役は講師たる私、今村俊介が担当します。今回かなりルールが特殊なんですよね~チームで同名カードを3枚までしか使えないと言うルール。例えば普通のルールであれば、4人で同名カードを3枚フル投入するとなると、合計12枚必要になりますが、今回はそれが出来ません。なので誰がどのカードを使うかが勝敗に響いてくると思います」

 

「例えば《死者蘇生》のような制限カードは皆使いたいですよね? 強いですし、どんなデッキにも入れられるので。チーム戦になるので皆同じデッキは使えないと言う事で、誰がどんなデッキを使うのか、若しくは使いたいのかを決めようと思います!」

 

 学年別クラス対抗戦まで残り後2週間を切ったある日の放課後。純一、ナタリア、神楽、比奈、俊介の5人は担任の先生であるナターシャの部屋に集合していた。

 ナターシャも一緒に参加する中、彼らは学年別クラス対抗戦に備えて会議を行う。その議題は“学年別クラス対抗戦で使うデッキについて”である。

 1クラス4人の登録メンバーで、同名カードは3枚まで使用可能。これが学年別クラス対抗戦の特殊ルール。このルールに則り、4つのテーマデッキを作りながら制限・準制限カードの中で誰がどれを使うかを決めなくてはならない。

 今回ナターシャの部屋に全員集合したのは誰がどのデッキを使うか、誰が制限・準制限に指定されたカードを使うかを決める為。

 

「はい! 今から参謀モードに入ります。今回の大会はIS学園で行われる初めての『遊戯王』の大会になるので、正直どのデッキが主流になるかは全く分かりません。ただ初心者の人でも作れて、回せるデッキ……前説明した【スキドレビート】とかそういうデッキが来るんじゃないかと思います」

 

「講師の目線で話すなら、過去に環境入りしたテーマが主流になるかなと予測してます。例えば【クリフォート】だったり、【剛鬼】だったり……ただIS学園の中で言えば、経験者ってそう多くないんですよ。1年生の中でも大体2~3割くらいでしょうかね。クラスの中には初心者しかいないって所もありますし……そう考えると、エクストラデッキから大量展開するようなデッキはあんまり来ないんじゃないかな?と。せいぜい1体~2体が限度な気がします」

 

「エキシビジョン観ていて思ったんですけど、攻撃力のラインってやっぱり3000が基準になるのかな~と考えています。それと破壊耐性が付いているモンスターが1体場にいるだけで威圧感出せますし、そういう強力なモンスターを出せるデッキが強いんじゃないかな~と思います。エクストラデッキ使うかどうかはさておき」

 

「私はやっぱり相手の妨害と言いますか、行動を制限するデッキが強いと思います。特殊召喚を封じたり、エクストラデッキからモンスターを出せなくしたり……それだけでけっこう詰むデッキって多いじゃないですか。なので私が使うならそういうデッキにしようかな~と」

 

「フィールド魔法をサーチする《テラ・フォーミング》が制限カードなら……フィールド魔法を使うデッキは極力1つにするべきだと思うわ。使うとしても専用のサーチカードで補えるなら、そのテーマを使っても良いかもしれないけど……」

 

「私はドラゴンさん一筋です! ドラゴンさんは蘇生カードも多いですし、サポートも充実しています! ドラゴンさん最強!」

 

 制限・準制限カードのリストを見ながら考えを言い合う純一達。俊介は経験者の割合の問題から大量展開するデッキは使われないと、純一は初心者の人でも扱えるデッキが主流になると予測する。

 ナタリアは攻撃力3000以上で破壊耐性のあるモンスターを使うデッキが強いと推測し、神楽は恐らく使う人が少ないであろうメタビート・パーミッション系の使用を匂わせ、ナターシャはフィールド魔法を使うデッキは1つに絞る事を推奨する一方、ドラゴンデュエリストの比奈は平常運転だった。

 

「それじゃあ次は使いたいデッキを決めましょうか。ちなみに使いたいデッキ決まっている人いますか? 僕は決まっているんですけど」

 

「えっ!? 純一さん用意していたんですか!?」

 

「気になります!」

 

「【Kozmo】です」

 

『おお~~~!!!』

 

『【Kozmo】?』

 

 純一が学年別クラス対抗戦で使うのは【Kozmo】デッキ。束にお勧めされ、弾と共に作ったデッキがようやく力を発揮する事となった。

 俊介と神楽がどよめく中、ナタリア・ナターシャ・比奈の3人は首を傾げた。そもそも【Kozmo】デッキがどういうデッキなのかを知らないからだ。

 メインデッキだけで戦えるデッキで、安上がりで構築出来る。ややこしいコンボも特に必要なく、ややこしい裁定もあんまりない。しかも元環境デッキだからそれなりに強い。

 

「【Kozmo】ならエクストラデッキ使わないですし、メインデッキだけで事足ります。ただフィールド魔法使うので《テラ・フォーミング》が必要になりますけど」

 

「【Kozmo】はこのIS環境だと強いですし、何より純一さんが使うとなるととんでもない事になりそうです。それで私は先程相手の妨害だったり、行動を制限するデッキが強いのではないかと言ったので、そういうデッキを使おうと思います。考えた結果、【墓守】や【帝王】が良いと考えましたが、環境入りしていた経験がある【帝王】を今回使おうと思います」

 

「おお~! 純一君も四十院さんも環境入りしていた超強力なデッキを使うんですね! これは心強いです! さてナタリアさんと比奈さんはどうしますか?」

 

「私は『デュエルリンクス』で使い慣れている【インティクイラ】を使いたいです。もう少し時間があったら環境入りしていた強いデッキを作る時間が取れると思いますが、今は使い慣れているデッキを極めた方が良いと思いました」

 

 純一は【Kozmo】、神楽は【帝王】と言う過去に環境入りしていたデッキを使う事を決める一方、ナタリアは使い慣れているデッキを選んだ。

 残り2週間弱。ナタリアはスペインの代表候補生である為、授業の予習・復習やISの訓練に人一倍打ち込まなければならない。また。学生寮の門限もある為、長い間外には出られない。その残された時間を考えると、新しくデッキを作るより、使い慣れたデッキを強くさせた方が良い。そう考えた。

 

「比奈さんはどうしますか?」

 

「うむ……それがですね、ドラゴンさんデッキを使いたいだけで特に考えていなかったのです……」

 

「成る程……確か【巨神竜】デッキを持っていましたよね?」

 

「はい……後【聖刻】も作り始めました。完成度はまだ低いですけど……」

 

 比奈はドラゴン族デッキを使いたいと言ったものの、具体的にどのドラゴンを使いたいかまでは口にしていなかった。

 今現在構築しているデッキは【巨神竜】と【聖刻】。ところがまだ作り立てである為、完成度はあまり高くない。

 

「比奈さんはドラゴンデッキをどうしたいんですか? 強い奴を単体で出すのか、展開しながら盤面を整えていくか」

 

「う~ん……展開しながら強いドラゴンさんを出したいです」

 

「そうしたら【聖刻】ですね」

 

「使うデッキはこれで決まりですね。僕の方でナタリアさんのサポートをします」

 

「私の方で比奈さんの【聖刻】デッキを凄い物にしましょう」

 

 ナタリアは【インティクイラ】、比奈は【聖刻】を使う事となり、取り敢えず使用デッキは一通り決まった。ナタリアのサポートに純一、比奈のサポートに俊介が入る事も決まった。

 次に決めるのは制限・準制限カードを誰が使うかどうか。俊介はナタリアと比奈の2人に制限・準制限カードの詳細が書かれている資料を渡した。

 

「では次に制限カードと準制限カードを誰がどれを使うかを決めたいと思います。純一君と神楽さんは欲しいカードってありますか?」

 

「僕はフィールド魔法を使うので《テラ・フォーミング》、サイキック族がデッキに入るので《緊急テレポート》が欲しいです。それと出来れば《ハーピィの羽根箒》と《ダイナレスラー・パンクラトプス》は欲しいです」

 

「まぁ妥当と言いますか、無難な所ですね。神楽さんは?」

 

「《増援》と《ワン・フォー・ワン》は欲しいです。後は《虚無空間(ヴァニティー・スペース)》が欲しいです」

 

「【帝王】はアドバンス召喚が主体のテーマなので、《虚無空間(ヴァニティー・スペース)》と相性良いですからね……ナタリアさんと比奈さんなんですが、この中から使えそうなカードを選んでいきましょうか」

 

 純一と神楽の要望だけ聞くと、後はナタリアと比奈の為に使えそうなカードを選び始めた。もちろん全員でカードと効果を見ながら。

 選んだ制限カードをああでもない・こうでもないと言い合いながら選んでいき、選ばれなかったカードはお互いにサイドデッキに入れる事となり、一連の会議を終えた。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・デュアルモンスター

 何か不遇なんですよね……『ウォーリアーズ・ストライクR』が出ましたが、やっぱりデュアル=不遇のイメージが拭えない(汗)

・リバースモンスター

 何気にポッドシリーズって禁止・制限多いんですよね……初期に出ている効果モンスターって割とぶっ壊れが多いと言う……(汗)

・スピリットモンスター

 《八咫烏》と言う『遊戯王』の中でも屈指の凶悪、いやカードゲームの中でも中々極悪な効果を持っているモンスターがいるんですよ……いつかどれだけ凶悪なのかを解説出来れば良いな~

・トゥーンモンスター

 ペガサスさんが使っていたイメージがありますが、構築次第では中々化けそうな予感がします。ちなみに使う人はペガサスさんの物真似をしないといけないと言う……

・ユニオンモンスター

 【ABC】のイメージが強いです。4月の制限改訂でまたダメージを受けましたが、本当に制限改訂に振り回され続けていますね……(汗)

・クラス対抗戦の特殊ルール

 2017年に行われた『遊☆戯☆王リーグ』のルールを拝借しました。クラスの皆で一致団結する必要がありますが、設定集にあったとあるクラスは……?


次回は1年6組の話を中心にしていく予定です。
次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。



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TURN11 儀式・融合召喚をマスターせよ! 

皆さん土曜日に【霊使い】のストラクが発売されましたが、購入しましたか?
私はしてません。理由は金欠です。次の【ドラグニティ】のストラクに備えます。

1日から新しい制限改訂が施行されましたが、皆さんはどうですか?
私はのほほんエンジョイ勢なので特に関係ありません。
果たして環境はどう動くのか? 

今回の話は授業以外に色々な話を盛り込みました。
なのでいつもより文章量が多いです。





 IS学園で『デュエル・ストラトス』に向けた授業が行われているのと同じ頃、『私立鳳凰学院』でも『遊戯王OCG』の授業が行われていた。

 『私立鳳凰学院』ではIS学園と同じく平均価格が1000円以上するカードが使用禁止になっているが、現在の環境デッキは使用可能となっている事が唯一の相違点。

 その為、【サラマングレイト】や【オルタ―ガイスト】、【サンダー・ドラゴン】といった現在の環境デッキが活躍している。これらは2020年7月1日より施行されているリミットレギュレーションでは影響を受けず、これまで通りの展開が出来るようになっている。

 一般生徒は先日発表された制限改訂を見ながら今後どのようなデッキが流行し、環境に入るのかを考えている。とは言っても、環境デッキは高くて強いカードが使われる為、殆どが使用不可能になるのだが。

 そんなある日のお昼休み。4人の男子生徒が集まって囲みながら、1枚のチケットを見ていた。この4人の男子生徒は通称“鳳凰四天王”こと“BIG4”と呼ばれている。

 “鳳凰四天王”こと“BIG4”。彼らは生徒会に所属しており、人格と学力も優れており、同時に『遊戯王OCG』の腕も立つ男子生徒4人の事を指している。

 

「これ……なんですか?」

 

「これですか? これはですね、IS学園から頂いた『デュエル・ストラトス』の無料招待券となります。つまり観戦チケットとなります」

 

 強面の巨漢―鬼塚公輝が1枚のチケットを手にしていると、隣にいる温和でいつも優しい笑顔を浮かべている天城海斗が説明する。

 彼らが目にしているのは『デュエル・ストラトス』の無料招待券。この1枚が欲しい為に、世界各国の要人達が血眼になっているのだが、“鳳凰四天王”は何処か胡散臭そうな様子で見ていた。

 と言うのも、彼らが抱いているIS学園のイメージは“女尊男卑思想の養成所”だったり、“最強兵器の取り扱い方を学ぶ軍隊養成所”と言う、如何にもネガティブな物しかないからだ。残念な事に世論がそう思っている以上、一般市民にそう思われても仕方ない。

 こうなった原因は文化祭で起きた黒田純一襲撃事件が大々的に報道された事にある。これまでIS学園には安心安全と言うイメージがあったのだが、文化祭と言う不特定多数の人々が出入りする中で、このようなテロ活動じみた事が起きた事で安全神話は脆くも崩壊する事となった。

 更に言えば、黒田純一襲撃事件の実行犯が“女尊男卑を掲げる権利団体が雇ったIS部隊”だった事が判明した事で、世論はISに関しては嫌なイメージを抱くようになり、ISによって虐げられていた男性等が立ち上がる事となった。

 

「しかしIS学園と聞くと、どうも嫌な予感がする。あそこは今年に入って学園行事の殆どが中止になったりしている。何か起きそうな予感しかしないのだが……」

 

「壇君の仰る通りです。ですが学年行事の件は織斑一夏とその周辺が大半の原因となっています。純一君は彼と親友関係にあり、行事を潰された事への不満や怒りの捌け口となっています。本人も嫌がっていると聞きました」

 

「気分悪いですね……別に純一君が悪い事をした訳でもないのに」

 

「IS学園は女尊男卑思想者の育成所、または女尊男卑主義者達の巣窟だ。女尊男卑に刃向かう人間だったり、標的たる男性を見たら攻撃するのが当たり前なんだろうな……」

 

 黒縁眼鏡が特徴な壇玄人がIS学園の内情について話すと、納得いかないような表情を浮かべながら万丈目準也が純一に同情する。

 今まで全く関わり合いの無かったIS学園。それが『デュエル・ストラトス』を通じて交流を持とうとしている。自分達にとって嫌な存在と関わらないといけない。そう思うだけで彼らは頭痛がする。

 

「このチケットを寄こしたと言う事は、我々に学年別クラス対抗デュエルトーナメントを観に来いと言う意思表示なのでしょう」

 

「だろうな……多分ISのイメージアップだったり、『デュエル・ストラトス』のアピールを狙ったイベントだよこれ。絶対キナ臭いよ……裏でIS委員会と女権団体がいてもおかしくない。だってチケットの金額見てごらん。高いよ……普通こんなんしないよ……」

 

「確かに。生徒会長と友希那さんもキナ臭いと思っていたけど、純一君のデュエルが観たいから行くって言ってたよ?」

 

「仕方ないね。あの2人が行くって言うなら、俺達も行くしかない。決まりだな」

 

 こうして“鳳凰四天王”こと“BIG4”の4人、鬼塚公輝・天城海斗・壇玄人・万丈目準也がIS学園に赴き、学年別クラス対抗デュエルトーナメントを観戦する事となった。

 生徒会長の平等院佐智雄とその妹、平等院友希那も観戦しに行く事になっていたが、その付き添いみたいな物だろう。

 

ーーーーー

 

 その頃。IS学園では学年別クラス対抗デュエルトーナメント開催まで残り後10日になっていた。この時期になると、どのクラスも初めての『遊戯王OCG』の大会を迎える為、ワクワクしたり、緊張したりしている生徒ばかりだった。

 そんなある日の昼休み。IS学園の会議室。そこでは学年別クラス対抗デュエルトーナメントの対戦カードを決める抽選会が行われていた。1年生、2年生、3年生はそれぞれ別室で行われる為、他の学年の対戦カードを知る事は出来ない。

 抽選会に出席義務があるのは代表候補生と“チューナー”の役職を持つ生徒の2人。1組から一夏とセシリア、2組から鈴とリサ、3組からシャルロットとラウラ、4組から簪と香澄が参加している。そして5組からナタリアと純一、7組からアンナと楓、8組からモニカと加奈が来ている。

 

「全員揃った……ん? エヴァが来ていないな……」

 

「先生! エヴァさんは外せない用事があると言っていて……」

 

「何だと? これもクラス代表として大事な用事なのだが……まぁ良い。始めよう。皆に集まってもらったのは他でもない。学年別クラス対抗デュエルトーナメントの対戦表を決める為だ。今回の大会はトーナメント方式で行われる。勝ち抜き戦と言えば早いな」

 

「その対戦カードを今から決めますが、決め方はくじ引きとなります。箱の中にA~Hまでのアルファベットが書かれてあります。この箱に手を入れて掴んだ紙に書かれたアルファベットで対戦カードを決めます」

 

「では1組から順番に引きに来るように」

 

 学年別クラス対抗デュエルトーナメントの対戦カードを決める抽選会。1年生の部では千冬と真耶の1組の担任・副担任コンビが仕切っている。

 最初に引いたのは1組の一夏。彼が引いた紙に書かれてあるアルファベットは“C”。続いて引いたのは2組の鈴。引いた紙には“E”と書いてあった。

 そして次にラウラが引いた時にどよめきが起きた。彼女が引いた紙には“F”と書いてあったからだ。これで3試合目は1年2組と3組の対戦が決定した。

 

『おお……!』

 

「これは荒れるな……」

 

 専用機持ちがいるクラス同士の対戦。千冬と真耶も目を見張り、純一は目を細める中、簪が“H”と書かれた紙を引いた。

 そして来た5組の番。引くのは純一。会議室の中の雰囲気が変わる。1年生、引いては学園の中でも別格とも言える純一の引きに誰もが注目する。

 

「“A”です」

 

 ドヤ顔で皆に“A”と書かれた紙を見せる純一。皮肉にも、第1試合目の対戦カードは、今や世間的な有名人となっている黒田純一が在籍する1年5組が片側に入る事となった。

 続いて1年6組の徳川蘭が引いたのは“B”と書かれた紙だった。その紙を見た蘭は絶望したように天井を見上げた。相手は純一が率いる1年5組。勝てる筈がない。そう判断したようだ。

 次に1年7組のアンナが“B”と書かれた紙を引き、最後に1年8組のモニカが“G”と書かれた紙を引いて対戦カードが決まった。

 これで対戦カードが決まった。第1試合は1年5組と6組。第2試合は1年1組と7組。第3試合は1年2組と3組。第4試合は1年4組と8組。

 

「対戦カード、決まったな」

 

「ああ。お互い勝ち上がれば準決勝で当たる。頑張ろうぜ」

 

「ところで来ませんでしたね、エヴァさん」

 

「彼女は来ませんよ。と言うより授業にも出ていない噂ですし」

 

『えっ!?』

 

 IS学園の食堂。そこでは一夏、セシリア、鈴、シャルロット、ラウラ、簪、純一、ナタリアの8人がテーブルを囲んで昼食を取っていた。

 彼らの話題は先程終わったばかりの抽選会で決まった対戦カード。1組と5組は初戦を勝ち上がれば対戦する事になっている。一夏と純一。お互いに男性IS操縦者であり、『遊戯王』プレーヤー。その時は熱いデュエルになるだろう。

 何時しか話題が抽選会に来なかったエヴァの事になると、ナタリアは何処か素っ気ない様子で返答した。その返答に驚く一夏と純一だったが、事情を知っているセシリア達は納得するように頷く。

 

「いやいやいや! 授業出てないってヤバくないか!? 後1週間と少しだぞ!? 大会出なきゃいけないのに大丈夫なのか!?」

 

「それに代表候補生は大会に出場義務があるんだぞ!? 各国のお偉いさんが来るのにそれでいいのかよ!?」

 

「確かに仰る通りですが、別に良いんじゃないですか? 彼女は自分さえ良ければ良いって考えですし、私達には関わり合いのない事ですし」

 

「それにエヴァって奴は正しいやり方で代表候補生になっていないわ。あいつは金の力で代表候補生になった奴だし」

 

『ッ!?』

 

 一夏と純一の言葉は正論だった。今回の学年別クラス対抗デュエルトーナメントでは、代表候補生に出場義務が課せられている。初戦~決勝戦まで何処か必ず1試合はこなさないといけないと言う決まりになっている。

 つまり、『遊戯王OCG』の授業を受けながらデッキを構築し、大勢の観客の前でデュエルをしなければならない。こういう事となる。しかし、その出場義務を放棄しているような状態である事が一夏と純一には理解出来ない。

 

「私も聞いた事ある。エヴァって人は、『偽りの代表候補生』と」

 

「ボクも。実力で言えば、一夏や純一でも勝てると思う」

 

『えぇ~~!?』

 

「そ、そんな体たらくで代表候補生になれるの!? 普通そういう物なの!?」

 

「違う。嫁と純一は知らないだろうからここで教えるが、IS委員会によって各国に代表候補生を選出する為の試験を設けている。筆記と実技の2つの部門だ。その両方が合格基準を満たさないと代表候補生になる事は出来ない。ちなみに筆記試験の内容は各国で異なっている。カンニングを防ぐ為だろうな……」

 

 ラウラから代表候補生の選抜方法を聞いた一夏と純一。彼らは顔を見合わせながら、お互いに溜息を付いて考え込む。

 彼らは代表候補生と言うエリート、その中でも専用機持ちと言うエリートの中のエリートと試合をしたり、練習したりする機会が多い。

 ISに触れてまだ半年程度しかない彼らだが、持ち前の才能や日々の努力で彼女達を追い越さんと奮闘しているが、中々思うように行かない。それが代表候補生の恐ろしさだ。

 

―――いや~世紀の迷勝負でしたね。まぁ勝てる訳ないですよね~相手はIS業界におけるエリート。こっちは素人。勝てる訳ないです。

 

 これは純一のコメント。1組にいた時、クラス代表を決める試合でセシリアに敗北した後、落ち込みながらも残した言葉。

 この時純一は1週間の短期間で専属コーチの更識楯無と一緒に練習し、セシリアの専用機の対策も行ったが、経験と技術の圧倒的な差で多少ダメージを与えただけで無念の敗北を喫した。

 千冬と真耶は純一が自ら試合参加に名乗りを上げた事を知っている為、労いと励ましの言葉を送り、相手を務めたセシリアも純一のポテンシャルの高さを認めた。

 

「私の知り合いにオーストラリアの代表候補予備生がいるのですが、本来だったら彼女が選ばれる筈でした。その人は人間的にも素晴らしく、筆記と実技のどちらも1位を取っていました。間違いなく代表候補生になると誰もが思っていました」

 

「けどそうはならなかった……と」

 

「はい。1年6組のクラス代表、そしてオーストラリアの代表候補生。そいつの名前はエヴァ・ヨハンソン。今日来なかった奴です。ちなみに筆記・実技共に最下位でした」

 

『何だと!?』

 

「な、何で最下位の奴が代表候補生になっているの!? オーストラリアのIS関係の人って馬鹿なの!? 馬鹿しかいないの!?」

 

 純一が憤慨するのも無理はない。代表候補生選考の大事な試験。筆記と実技でトップを叩き出したのにも関わらず、最下位だった人を代表候補生に選んでしまう。

 これは一体どういう事なのか。このような不条理が通って良い物なのか。台パンしそうになるのを抑える純一にナタリアが裏事情を話し始める。

 

「これは聞いた話なんですけど、エヴァの母親が女尊男卑を掲げる権利団体のお偉いさんらしく、選考委員に賄賂を渡したらしいんですよね……しかもそいつはオーストラリア政府の要人とパイプがあって誰も口出し出来なかったそうです」

 

「不正合格じゃねぇかよ! ったく、女権団体の奴らって本当にク〇だな! 全員まとめてこの世から消え去れば良い。そうすればこんな狂った世の中も少しは良くなるんじゃないかな? だってそうだろう? 人間的にも素晴らしくて実力もある人が、馬鹿な奴らのエゴで潰されたんだよ。こんなふざけた話はないよ」

 

「そう言えば純一君は女権団体の奴らが雇ったIS部隊に襲撃されたんですよね……その時の事を話して頂けますか?」

 

「分かった。あれはそうだな……文化祭の時だったな」

 

 初めて純一の口から語られるIS部隊による襲撃事件の事。それは専用機持ちですら事実だけ知っていて、実際の過程を聞かされていなかった。

 襲撃された本人からようやく明らかになる一部始終。一言一句聞き逃すまいと、一夏達は聞く耳を立てた。

 

ーーーーー

 

「黒田純一様。少しお時間宜しいでしょうか?」」

 

「貴女は?」

 

「失礼。申し遅れました。私は神崎玲奈と申します」

 

「改めて自己紹介させて下さい。黒田純一です」

 

「私はIS関連企業、『KOS』の営業担当を務めさせて頂いています。今回純一様に、是非とも我が社の装備を使って頂きたく……」

 

「企業案件ですか……ふむ……」

 

 文化祭。クラスの出し物の休憩時間。純一が一人飲み物を飲んで休んでいると、そこに神崎玲奈と名乗る女性が声をかけてきた。

 黒いスーツをバッチリと着こなし、メイクも万全。如何にも優秀なキャリアウーマンな見た目をしている。

純一は玲奈から製品カタログを受け取ると、パラパラとページを捲りながら製品に目を通していく。既に答えは決まっているが、相手方に申し訳ないと思ったのだろう。純一の人の良さが伺える。

 

「わざわざありがとうございます。しかし、このような案件は私一人の一存では決めかねないので、しっかりと相談してから後日名刺に記載されている電話番号にご連絡させて頂きます」

 

「分かりました。出来ればこの場で返事を頂きたかったのですが、仕方ありません。当社は何分つい最近出来たばかりの小さな会社でして、こうして純一様に直接お話を通すしか無かったのです」

 

「成る程。それはとても大変でしたね……ところで一つ聞きたい事があるのですが、貴女は本当に営業担当の方でしょうか?」

 

「えっ!? それはどういう……」

 

「いえ、外回りの営業と言えば愛想の良さと表情が命だと私は考えています。ですが商談が思うように行かなかったからと言って、そのように不愉快な表情をさせると気になるんですよ……貴女は本当に営業の方なのでしょうか? 幾ら貴女が新入りだとしても、そのような表情を人前でされると気分が悪くなります」

 

「クッ……! 男だと思って甘く見ていたけど、中々勘が鋭いようね。だったらもう正体を隠す必要はない! さっさとその命を頂く……ガァッ!」

 

 本性を現した玲奈。しかし、彼女は言葉を言い終えるよりも前に吹き飛ばされた。純一がジャンプして玲奈の顔面に右膝蹴りを叩き込んだからだ。

 玲奈はIS企業の営業担当ではない。自分の命を狙いに来た刺客。ならば先制攻撃を仕掛けるしかない。

 

「ガッ……ウゥッ……」

 

「おい、お前何者だ? 女権団体の差し金か?」

 

「そうだと……言ったら?」

 

「ぶっ潰す」

 

「無理ね……所詮男なんか……ISを動かせる事自体が間違っている! ガッ!」

 

 攻撃を喰らった玲奈は地面を転がりつつ、自分を見上げる純一に恐怖を感じた。先程までの温和で優しい人柄はない。今目の前にいるのは自分達のような敵を倒す為だけにいるような戦闘マシーン。

 情け容赦のない純一が目を覚まし、玲奈を右足で踏み付けて黙らせる。口調もヤンキーみたいな攻撃的な口調となっている。

 

「ごちゃごちゃうるせぇよ。こっちだって動かしたいから動かした訳じゃないのに……要はあれだろ? 男なのにISを動かせる僕が気に入らないから潰しに来たんだろう? でも一夏に手出ししないのはお姉さんの織斑千冬がいるから。……だろう? 虎の威を借りる狐って奴か。ISを動かせる事でしかマウント取れないク〇が……まぁ良い。文化祭の時にドンパチやりたくないけど、そっちがその気なら仕方ない。やるっきゃないか!」

 

「私“達”を敵に回した事を後悔させてやるわ!」

 

「成る程。部隊で押しかけて来たって訳か。そっちこそこのような場所でドンパチやった事を後悔させてやる!」

 

 純一は自分用に支給され、自分が使いやすいようにカスタムした専用の訓練機―『打鉄《うちがね》』を起動させて纏うと共に、近接用ブレードの“葵”を抜刀して構える。

 純一は自分が襲撃されたと言う事実を受け入れながらも、この一件が何か良からぬ方向に進もうとしていると感じた。

 文化祭と言う各国の要人や一般客が多数来ている中で発生した襲撃。これが報道された時、IS学園とISに対する反応は決して良い物ではない。そう思いながらも、『ラファール・リヴァイブ』を起動させて纏った玲奈と対峙する。

 純一は目の前にいる敵を倒そうと、スラスターからエネルギーを放出させながら敵に目掛けて突進を開始した。

 

「それで神崎玲奈って奴と戦って何とか押し始めた時に、奴の仲間が駆け付けて形勢逆転。シールドエネルギーがギリギリになって、こりゃ駄目だって思うくらい追い詰められた時に、ラウラさんが来てくれて何とかその場から離脱出来た……って事さ」

 

「後は私を含めた専用機持ちと教員部隊で襲撃してきた連中全員を捕縛する事が出来た。純一が録音しておいた音声記録もあって、奴らの身元も直ぐに分かった。襲撃してきたのは女権団体に雇われたIS部隊。大方、物凄い報酬に釣られて参加した連中なのだろう」

 

「それであの後文化祭が中止になったんですね……まさか女権団体がテロ活動をするなんて……」

 

「奴らも必死だったのだろう。嫁と純一が現れた事で、今までの自分達の生活と立場が脅かされる事となった。それを守ろうと純一を排除しようと決めたと思う。だがそれが逆に自分達を追いやる事になるとは思わなかったようだ」

 

 ラウラの言った通り、襲撃事件が大々的に報道された事によって、IS学園とISに対するイメージが悪くなり、女尊男卑を掲げる権利団体に対する怒りや憎悪が各地で爆発する事態となった。主にデモや集会と言う形で。

 IS学園にはテロリストを簡単に校内に侵入を許し、破壊活動をさせた事に対する批判が相次いだ。更に一般人に怪我人を出した事も追い風となった。

 黒田純一襲撃事件。それはIS学園に足を運んでいた多数の一般市民がスマートフォンで撮影し、それを映像記録としてタレコミと言う形で新聞記者や雑誌編集者に提供した事で、大々的に報じられる事となった。

 

―――白昼堂々の襲撃事件! 狙われたのは世界で2番目のIS操縦者!?

 

―――襲撃事件の黒幕は女権団体! 我々が掴んだ独自の悪行がここに!

 

―――人権を無視した非道な行いの数々! 罪のない一般人が多数犠牲者に!

 

―――テロリストの侵入を招いたIS学園の杜撰な警備! 

 

 そのような記事が新聞や雑誌、テレビやインターネットで報じられただけでなく、インターネットの動画サイトにその時の様子が動画として多数投稿され、一般市民の目に晒されて大炎上する事となった。

 元々世論はISを兵器として見なしていたが、ついにIS学園で一般市民が怪我を負う事態となり、SNSでは至る所で炎上が発生した。以下の書き込みはその中から一部抜粋した物である。

 

―――今回の事件って若しかしたらIS学園の中に女権団体のスパイがいたのでは? 

 

―――あ~有り得そう。そいつらが学園の中に侵入させやすくしたんだろうな。そしたら犯罪で捕まるだろ!

 

―――それにしても一般人に怪我人が出たのはまずいだろう……今回の件で学園側も警備を見直すとは思うけど、これでイベント行きにくくなったな。まぁ行くつもりはないけど。

 

―――結局さ、ISって兵器だよな……生徒達って自分達が兵器の使い方を学んでいるって自覚あるのかな?

 

―――無いと思う。あったらこういう事件起きないだろうし。

 

「この話はここまでにしよう。過ぎた事をいつまでも引き摺るのは止めよう。問題はこれからだ。ナタリアさん、そのエヴァって奴がいる6組はどんなクラスなんだ?」

 

「え~とですね、代表候補生になれたのは自分の実力だと勘違いしているエヴァが、傍若無人な振る舞いをしているので、クラスメートからは完全に嫌われています。孤立していると言っても良いでしょう。そんな訳なのでチームワークも団結力もあった物ではありません。更に担任の先生もエヴァの振る舞いを見て見ぬふりをしてますし、更に自分の担当科目を自習にしたりと、もう目も当てられません」

 

「何だよそれ……」

 

「恐らく6組の担任は女権団体と繋がっているな。ハァ~こりゃ6組の皆が可愛そうだよ。出来ればデュエルの時、何も起きないと良いんだけど」

 

 純一は初めてとなるIS学園でのデュエルを楽しみにしているかと思いきや、意外にも不安と心配しか抱いていなかった。

 しかし、純一の予想は悪い時に限って的中してしまう。どうやら学年別クラス対抗デュエルトーナメントは波乱が起きそうだ。

 

ーーーーー

 

「はい! 皆さんこんにちは! 今日の『遊戯王』の授業は5時間目。お昼ご飯を食べて眠くなるとは思いますが、頑張っていきましょう。さていよいよ学年別クラス対抗デュエルトーナメントが近付いてきて、対戦表も決定しました。5組は隣の6組と対戦すると聞きました。頑張って下さい。私も当日は皆さんと一緒に応援したりします」

 

「皆さんは本当によく授業を受けていて先生は本当に嬉しいです。心から褒めてあげたいです。これからも良いですか? 一致団結して上を目指しましょう!」

 

『はい!』

 

「細やかですが、皆さんにプレゼントがあります。以前お伝えした“初心者向けの実戦テキスト”が完成したので、皆さんに配りたいと思います。このテキストにはデッキの作り方から汎用カードの紹介、その他色々これからの授業で役立つ情報がつまっています。大切にして下さい」

 

 学年別クラス対抗デュエルトーナメントの対戦カードを決める抽選会。それがあった日の5時間目。1年5組は『遊戯王OCG』の授業が入っていた。

 この日は授業に入る前に、『カードターミナル』のスタッフと、トーナメントプレーヤーの純一が共同制作した“初心者向けの実戦テキスト”が完成した為、それを5組の皆に配る事となった。

 強いデッキの作り方から汎用カードの紹介等、幅広い内容を取り扱っており、これ1冊を完璧にマスターすれば、大会に出れるレベルになれるかもしれない。そう言えるだけのクオリティーだった。

 手に取った女子生徒達の目はキラキラと輝いており、中には我慢できずに読み始めた人もいた。担任のナターシャもその一人で、それを見ていた純一が思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 

「では授業に入っていきます。今回は儀式・融合・シンクロ召喚の3つの召喚方法について取り扱います。では教科書を開いて……先ずは儀式召喚を取り上げます。儀式召喚モンスターとは一体何なのか。こちらのモニターをご覧下さい」

 

 

《カオス・ソルジャー》

儀式モンスター

レベル8/地属性/戦士族

ATK/3000 DEF/2500

《カオスの儀式》により降臨。

 

「儀式モンスターはカードの枠が青色のモンスターカードです。融合・シンクロ・エクシーズ・リンクモンスターとは異なり、専用の儀式魔法カードを使用して特殊召喚されるモンスターです。魔法カードの効果で特殊召喚するので、フィールドだけでなく、手札にあるモンスターを使う事も出来ます」

 

「儀式モンスターの扱いですが、デッキを作る時にメインデッキに入れて下さい。手札に儀式モンスターと儀式魔法が揃った時に儀式魔法を発動し、必要な召喚手順を踏んで、手札から儀式召喚します。なので手札に儀式モンスターと儀式魔法がないと駄目なので、手札消費がやや激しく、手札事故も起きやすいです」

 

 手札事故。手札に極端な偏りが起こり、デッキが機能しない状況の事を指す。具体的に言うと、手札の中に今使えないカードが多く存在していたり、特定のコンボパーツが揃わず、無理に動くと、効率が悪い展開をしなければならないような状況等を指す。

 起こる原因の一つとして、発動条件や召喚条件があるカードだったり、効果が発動出来る状況が限られているカードを沢山投入している事が挙げられる。

 最大の問題は、自分の行動の選択肢が狭まってしまう事になる。例えば、手札がモンスターカードだけしかない場面だったら、モンスターを1体通常召喚してターンエンドとなり、魔法・罠カードしか手札に無かったら、相手の展開を許したり、相手から直接攻撃を受ける事も想定しないといけなくなる。

 なので先ずはサンプルレシピ通りにデッキを構築する等して、どうすれば手札事故が起こりにくくなるかを考えることが重要となる。その後で自分の周囲の環境に合わせて行けば良いだろう。

 

「儀式魔法は魔法カードの一種で、カード右上の【魔法カード】の隣に炎を模ったアイコンをしているのが特徴です。儀式モンスターを儀式召喚するのに必要な魔法なのですが、大体このようなテキストをしています」

 

 

「(儀式モンスター名)」の降臨に必要。

(1):自分の手札・フィールドから、レベルの合計が(降臨する儀式モンスターのレベル(以上/と同じ)になるようにモンスターをリリースし、手札から「(儀式モンスター名)」を儀式召喚する。

 

 

「儀式魔法は特定のカード名を指定するもの以外にも、カテゴリや属性を指定したり、色々あります。気を付けて欲しいのは儀式モンスターのレベル“以上”になるようにリリースする儀式魔法と、儀式モンスターと“同じ”レベルになるようにリリースする儀式魔法があるので、もし儀式デッキを作る時は気を付けて下さい」

 

「では儀式召喚をしてみましょう。今回は例として《カオス・ソルジャー》を儀式召喚してみます。先ず儀式召喚を行うには、儀式モンスターと対応する儀式魔法カードが手札にある事を確認して下さい。また、儀式召喚を行う時は、素材となるモンスターはテキストに記載が無ければ、ぶっちゃけ何でも良いです。儀式魔法のテキストに記された条件であれば、どんなモンスターでも手札・自分のフィールドからリリース出来ます」

 

「次に、自分のメインフェイズで儀式魔法カードの発動を宣言し、魔法・罠ゾーンに置きます。純一君、お願いします」

 

「はい。手札から儀式魔法、《カオスの儀式》を発動します」

 

 

《カオスの儀式》

儀式魔法

《カオス・ソルジャー》の降臨に必要。

(1):自分の手札・フィールドから、レベルの合計が8以上になるようにモンスターをリリースし、手札から《カオス・ソルジャー》を儀式召喚する。

 

 

「ありがとうございます。次に儀式魔法カードに書いてある条件を満たすように、自分の手札・フィールドからモンスターをリリースします。この時、手札のモンスターや自分フィールドの裏側守備表示、セットモンスター等、内容が相手に分からない状態のモンスターをリリースする事もできます。ただマナーとして、儀式モンスターのレベルに合うようにリリースしている事を相手が分かるように、儀式召喚を行って下さい。でないと後でトラブルの原因になる可能性があります」

 

「今回は手札に《カース・オブ・ドラゴン》と《エルフの剣士》があると言う設定で儀式召喚を行います。モンスターをリリースした後、使った儀式魔法カードに対応した、手札の儀式モンスターをメインモンスターゾーンに出します。最後に、使い終わった儀式魔法カードを墓地へ送って、儀式召喚完了となります。この時、儀式召喚した儀式モンスターは特殊召喚扱いとなる為、表側攻撃表示・表側守備表示のどちらの形式で出してもOKです。では純一君。お願いします」

 

「手札のレベル5モンスターの《カース・オブ・ドラゴン》と、レベル4モンスターの《エルフの剣士》をリリースし、手札から《カオス・ソルジャー》を儀式召喚!」

 

「はい。以上が儀式召喚の手順となります。儀式デッキに興味を持ったり、作りたいと思ったら、私や純一君に声をかけて下さい。では次に融合召喚について説明します」

 

「ここからエクストラデッキから特殊召喚するモンスターの説明に入りますが、その前にエクストラデッキの説明をします。エクストラデッキとはメインデッキとは別に用意する、特殊な方法で召喚する融合・シンクロ・エクシーズ・リンクモンスターを集めたデッキの事を指します。メインデッキとは別に15枚まで用意して、デュエルで使用する事が出来ます。無理やり用意する必要はないので、メインデッキだけで戦うデッキを使う場合はメインデッキだけでけっこうです」

 

 現代『遊戯王』ではエクストラデッキを主体に戦うデッキが主流だが、中には【エルドリッチ】や【真竜】、【Kozmo】や【帝王】のようにエクストラデッキに依存しない・必要としないデッキがある。

 最近では《強欲で金満な壺》と言う超強力なドローカードがある為、エクストラデッキをコストに使う用に適当に15枚用意する事もある。

 

「エクストラデッキの枚数はメインデッキの枚数には数えません。エクストラデッキはエクストラデッキで数えますので。エクストラデッキをデュエルで使用する時、エクストラデッキゾーンに裏向きで置いて下さい」

 

「今年の4月からルールが変更になり、エクストラデッキから融合・シンクロ・エクシーズを特殊召喚する時、エクストラモンスターゾーン・メインモンスターゾーンに置く事が出来るようになりました。今までだとエクストラモンスターゾーンにしか置く事が出来ず、エクストラデッキから大量展開したいとなると、エクストラモンスターゾーンにリンクモンスターをリンク召喚して、リンクマーカーが指し示しているメインモンスターゾーンにしか出せなかったのです。その縛りが無くなりましたね……なので皆さん、好きな召喚方法で戦えるデッキで遊べるようになりました。もちろんリンクモンスターも強い効果を持っていたり、テーマをサポートしてくれる物もあるので是非使って下さい」

 

「では融合召喚の説明に入ります。融合モンスターはカードの枠が紫色のモンスターカードの事を指します。シンクロ・エクシーズ・リンクモンスターとは違い、《融合》と言う魔法カードを使用して呼び出されるモンスターです。こちらも儀式モンスターと同じく、魔法カードの効果によって呼び出される為、フィールド上だけでなく、手札のモンスターを使用する事が出来ます。手札やデッキに戻す時は、エクストラデッキに戻ります。例えば融合召喚した融合モンスターが、相手が発動した罠カードの《強制脱出装置》の効果の対象になった時、エクストラデッキに戻ります。墓地にある場合も同じです。要はメインデッキには行かないと言う事です。デュエルが終わった後、間違えてメインデッキに混ぜないよう気を付けて下さい」

 

「では融合召喚の手順について説明します。今回はこちら、《竜騎士ガイア》を例に取り上げます。先ず、融合召喚を行うには融合モンスターに記載されている素材となるモンスターと、《融合》魔法カードが必要です。メインデッキには、その融合モンスターの素材となれるモンスターと、《融合》魔法カードを必要な枚数分入れて下さい」

 

 

《竜騎士ガイア》

融合モンスター

レベル7/風属性/ドラゴン族

ATK/2600 DEF/2100

《暗黒騎士ガイア》+《カース・オブ・ドラゴン》

 

 

《融合》

通常魔法

(1):自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。

 

 

「次に自分の手札かフィールドに融合召喚したい融合モンスターの素材となるモンスターと、《融合》魔法カードを揃えて準備をします。素材となるモンスターは表側表示でなくても構いません。今回はフィールドに《暗黒騎士ガイア》、手札に《カース・オブ・ドラゴン》と《融合》魔法カードがいる設定で進めます」

 

「そして、自分のメインフェイズで《融合》魔法カードの発動を宣言し、魔法・罠ゾーンに置きます。その後に融合召喚したい融合モンスターの素材となるモンスターを自分の手札・フィールドから墓地へ送ります。墓地へ送ったモンスターを素材とする融合モンスターをエクストラデッキから取り出し、メインモンスターゾーンかエクストラモンスターゾーンに出します。最後に、使った《融合》魔法カードを墓地へ送って、融合召喚完了です。では純一君にお手本を見せてもらいましょう」

 

「はい。手札から魔法カード、《融合》を発動します。手札の《カース・オブ・ドラゴン》とフィールドの《暗黒騎士ガイア》を素材に、《竜騎士ガイア》を融合召喚!」

 

「以上が融合召喚の説明になります。ただ融合モンスターの中には、《融合》魔法カードを使わない融合召喚モンスターもいます。例えば……」

 

 

《ABC-ドラゴン・バスター》

融合・効果モンスター(制限カード)

レベル8/光属性/機械族

ATK/3000 DEF/2800

《A-アサルト・コア》+《B-バスター・ドレイク》+《C-クラッシュ・ワイバーン》

自分のフィールド・墓地の上記カードを除外した場合のみ、EXデッキから特殊召喚できる(「融合」は必要としない)。

(1):1ターンに1度、手札を1枚捨て、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを除外する。この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):相手ターンにこのカードをリリースし、除外されている自分の機械族・光属性のユニオンモンスター3種類を1体ずつ対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

 

「ここ最近では専用の融合魔法が増えたり、《ドラゴン・バスター》のように融合魔法を使わない融合召喚モンスターが増えてきています。なので使いたい場合はどういう条件で出せるのか、どういうデッキ構築にするのかをよく考えて下さい」

 

「続いてシンクロ召喚に移りたいですが、その前に実戦テキストの〇ページを開いて下さい。融合召喚モンスターを使う上で説明が欠かせないカードが2種類あるので、そちらを説明させて下さい。先ずはこちら、《簡易融合(インスタント・フュージョン)》です」

 

 

簡易融合(インスタント・フュージョン)

通常魔法(制限カード)

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):1000LPを払って発動できる。

レベル5以下の融合モンスター1体を融合召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できず、エンドフェイズに破壊される。

 

 

「このカードは1000ライフを払うだけで、レベル1~5の融合モンスターを融合召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚出来ます。ただ攻撃出来ないし、エンドフェイズになったら自壊するデメリットもあります。このカードの使い方は幅広くて、アドバンス召喚からリンク召喚まで幅広く対応出来ます。リリース要員に使うも良し、融合・シンクロ・エクシーズ・リンク召喚の素材に使うも良し。本当に幅広い使い方が出来ます」

 

「それにもう1つポイントなのが“融合召喚扱いとしてEXデッキから特殊召喚する”事です。なので“蘇生制限”を満たしている為、《死者蘇生》のような墓地から特殊召喚する効果のカードが使えるようになります」

 

 蘇生制限。デッキや手札から直接墓地に送られた特殊召喚モンスター等、正規の手順でフィールドに出ていない特殊召喚モンスターは、墓地からの特殊召喚をする事が出来ない。その状態を指している。

 蘇生制限を満たせない場合の一例として、手札やデッキから直接墓地へ送られた・除外された特殊召喚モンスターや、《神の宣告》等のカードで“正規の手順の特殊召喚”を無効にされた特殊召喚モンスター等々。

 

「《簡易融合(インスタント・フュージョン)》で使える融合モンスターはレベル別にテキストにまとめたので、時間がある時に目を通して下さい。続いては《デビル・フランケン》です」

 

 

《デビル・フランケン》

効果モンスター(制限カード)

レベル2/闇属性/機械族

ATK/ 700 DEF/500

(1):5000LPを払って発動できる。

エクストラデッキから融合モンスター1体を攻撃表示で特殊召喚する。

 

 

「このカードは5000と言う大きなライフコストが必要ですが、攻撃力が高かったり、強力なモンスター効果を持つ融合モンスターを特殊召喚出来ます。弱点を挙げるなら、先ずライフポイントが5000以下の時は効果を使えない事、モンスター効果の発動を封じられたらピンチになる事、攻撃力が低い事でしょうか。確かに強力なカードですが、そう闇雲に効果を使えないモンスターだと言えます。特殊召喚におすすめな融合モンスターはテキストにまとめていますので、参考にして下さい」

 

 《デビル・フランケン》は昔と今でかなり使われ方が変わったモンスターだ。昔は高火力のモンスターを特殊召喚し、攻撃するキーカードとして使われた。当時から除去や妨害に弱く、仕留め損ねると返しのターンでピンチになったり、敗北する事も多かった。

 今では主に封殺効果を持つモンスターを序盤から特殊召喚し、相手の反撃や行動を徹底的に封じる使用法をされている。環境の変化だったり、このカードを取り巻く状況の変化を感じさせる。

 

「では次にシンクロ召喚に……って何!? もう時間なの!? 説明長かったかな? え~次回はシンクロ召喚とエクシーズ召喚について勉強しますので、皆さん予習・復習を忘れずに!」

 

 授業終了を告げるチャイムがなった為、シンクロ召喚の説明は次回に持ち越しとなってしまった。講師の今村俊介は次回はシンクロ・エクシーズ召喚を次回の授業で取り扱う事を告げると、教室を後にした。

 5組の皆は配布されたテキストを読み始め、分からない事は純一に聞く等、それぞれの時間を過ごしていた。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・鳳凰四天王の名前の元ネタ

鬼塚公輝=『遊戯王VRAINS』のGO鬼塚
天城海斗=『遊戯王ZEXAL』の天城カイト
壇玄人=『仮面ライダーエグゼイド』の檀黎斗
万丈目準也=『遊戯王GX』の万丈目準

キャラ設定までは引き継いでいない所もあります。

・世論のISに対するイメージ

世論は兵器として見なしていますし、文化祭で襲撃事件が起こり、その時に一般客に怪我人が出た事でイメージダウンしました。

・クラス対抗戦の対戦カード

5組と6組。1組と7組。2組と3組。4組と8組。なるべく全試合デュエル描写を記したいです。地の文は実況・解説にしようか検討中です。

・代表候補生の問題児!?

原作初期のセシリアさんが可愛く見える程、今回かなりヤバめの爆弾を用意してしまいました(苦笑)
出場事務のある大会に必要な勉強しない、賄賂で代表候補生になった、実力はそこまで大したことない……いやISの原作でもそういう人いるんじゃないですかね?

・省略した戦闘シーン

この小説には要らないと思ってカットしました。
ちなみに『KOS』の正式名称ですが、

K=故障
O=多いけど
S=心配しないで

お笑い芸人の陣内智則さんのネタを拝借しました(汗)

・キャラが変わる主人公

 『空の境界』の蒼崎橙子さんみたく、眼鏡をかけている時とかけていない時に性格が変わるキャラです。ちなみにかけている眼鏡にも秘密がありますが、これは番外編で書きたいネタなので今は割愛します。

・純一君が環境デッキを使うなら?

 本人は【エルドリッチ】か【サラマングレイト】、【メタビート】を使うとの事。

・儀式モンスターを使うテーマ

 当時夢中になっていた時期もあって、【影霊衣】や【儀式青眼】のイメージが強いです。今の環境やテーマは勉強中です。

・融合モンスターを使うテーマ

 今はかなり専用融合魔法が増えてきた印象が強いです。環境のインフレは何処まで続く?

 今回は予定を変更し、授業を織り交ぜながら話を進行していきました。
次はシンクロ・エクシーズ召喚を取り扱いますが、召喚口上を純一君に言わせます。
次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。




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TURN12 シンクロ・エクシーズ召喚を覚えよう! 動き出す波乱の芽

約2週間ぶりの投稿になります。
お話自体は既に完成していたのですが、中々投稿時間を取る事が出来ませんでした。
投稿が遅れた事をこの場をお借りして謝罪します。

そして番外編で書く内容のアンケートを取っていたのですが、気が付いたらUAが5,000を突破していました。
なのでここで一度投票を締め切り、執筆に取り掛かろうと思います。
投票して頂いた皆さん、本当にありがとうございました!





 IS学園の学年別クラス対抗デュエルトーナメント開催まで残り1週間と少し。この大会はIS学園のアリーナで行われるが、先日のエキシビジョンデュエルとは違い、IS委員会が主催となっている。

 協賛は『呉島エンタテインメントスタジオ』、『カードターミナル』、『KONNAMI株式会社』等々となっているが、彼らは主催者のIS委員会に快い感情を抱いていない。と言うのも、IS委員会は女性権利団体と癒着関係にある事が関係している。

 本来ならば、協賛となっている色んな会社や事業者が協力してこのイベントを成功に導く事になっていたのだが、IS委員会は彼らの仕事を全て自分達で行う事に決めた。下請けと言える女性権利団体に委託し、その報酬として売り上げの一部を着服すると言う犯罪じみた取り決めをして。

 とは言え、彼らも何もしない訳ではない。恐らく観客の殆どが黒田純一である事を最大限活用し、純一本人もそれを承知の上で仕事を受け持った。

 それは他のクラスや学年のデュエルの実況・解説。『KONNAMI株式会社』からカリスマデュエリストのマスター・ユウギと工藤流星が来る予定だが、1年生の部限定ではあるものの、純一が解説を務める事となった。当然自分のクラスの試合がある時は来れないが。

 そしてついに対戦カードが決定した。1年生の部だけでもかなり見応えのありそうなデュエルが予想されている。

 第1試合は1年5組と6組。第2試合は1年1組と7組。第3試合は1年2組と3組。第4試合は1年4組と8組。

 各クラスは出場メンバーを決定し、各自が使うデッキのテーマも決めて特殊ルールを踏まえてデッキ構築をしている。そんな中、『遊戯王OCG』の授業は行われている。

 

「はい! 今日の授業はシンクロ召喚とエクシーズ召喚の2つの召喚方法について説明します。前回勉強した儀式召喚と融合召喚は魔法カードを使う必要がありましたが、シンクロ召喚とエクシーズ召喚はその必要はありません。では先ずはシンクロ召喚について勉強して行きましょう」

 

 IS学園で初となる『遊戯王OCG』の大会まで後少し。この日も授業が行われていた。今回のお題はシンクロ召喚とエクシーズ召喚。デッキの切り札として使われる事が多く、レアリティ―の高いカードばかり。

 制限・禁止カードにも何枚か入っている・入っていた時期もあった。それ程汎用性が高く、効果も強力なモンスター揃いだ。

 

「シンクロモンスターはカードの枠が白いモンスターカードです。使用する時はメインデッキではなく。エクストラデッキに入れて、エクストラデッキゾーンに置いて下さい。シンクロモンスターを召喚する、シンクロ召喚に必要なのは2種類のモンスター。“チューナー”とテキストに書かれているモンスターと、それ以外のモンスター。それらのモンスターのレベルを合計したレベルのシンクロモンスターを特殊召喚する事が出来ます」

 

「一度正規召喚をすれば、蘇生制限を満たすので殆どのシンクロモンスターは墓地から特殊召喚出来ます。しかし、中には“シンクロ召喚でしか特殊召喚できない”とテキストに書かれたモンスターがいるので、注意して下さい。ちなみにシンクロ召喚をする時に必ずモンスターを2体以上必要とする為、今の所レベル1のシンクロモンスターはいません」

 

「ではシンクロ召喚のやり方を純一君の実演を交えて教えて行きます。例として使うのは《スターダスト・ドラゴン》です」

 

 

《スターダスト・ドラゴン》

シンクロ・効果モンスター

レベル8/風属性/ドラゴン族

ATK/2500 DEF/2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):フィールドのカードを破壊する魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースして発動できる。その発動を無効にし破壊する。

(2):このカードの(1)の効果を適用したターンのエンドフェイズに発動できる。

その効果を発動するためにリリースしたこのカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

「先ず自分のフィールドに、シンクロ召喚したいシンクロモンスターの素材となるモンスターを揃えます。素材となるモンスターは表側表示であれば、攻撃表示でも守備表示でも構いません。次にシンクロ召喚に必要なモンスターが自分フィールドに揃ったら、自分のメインフェイズ時にシンクロ召喚を行うと言う宣言をします。素材として使用する自分フィールドのモンスターとチューナーを墓地へ送り、シンクロモンスターをエクストラデッキから取り出し、エクストラモンスターゾーンか、メインモンスターゾーンのどちらかに出します。これでシンクロ召喚完了です」

 

「シンクロ召喚したシンクロモンスターは特殊召喚扱いとなる為、表側攻撃表示・表側守備表示のどちらの形式で出しても大丈夫です。では純一君にやってもらいましょう。今回から召喚の仕方をやや実戦方式にします。自分フィールドにモンスターがいなくて、手札に《簡易融合《インスタント・フュージョン》》と《シャドール・ヘッジホッグ》が、エクストラデッキに《テセウスの魔棲物》と《スターダスト・ドラゴン》がある状況です。ではお願いします」

 

「はい。手札から魔法カード、《簡易融合《インスタント・フュージョン》》を発動します。1000ライフポイントを払い、エクストラデッキからレベル5以下の融合モンスターを融合召喚扱いで特殊召喚します。《テセウスの魔棲物》を特殊召喚!」

 

 

《テセウスの魔棲物》

融合・チューナーモンスター

レベル5/水属性/アンデット族

ATK/2200 DEF/1800

チューナー×2

 

 

 

「続いて手札から《シャドール・ヘッジホッグ》を通常召喚します。……今村先生、これって召喚口上言った方が良いですか?」

 

「うん。言った方が盛り上がるよ?」

 

 クラスの皆の前で召喚口上を言う事に抵抗があるのか、純一は冷や汗をかき、顔を強張らせながら講師の俊介に尋ねる。

 クラスを見渡すと、担任のナターシャを含めた皆が目をキラキラ輝かせている。誰がどう考えてもやってくれと言っているような物だ。

 

「……分かりました。やります。レベル3、《シャドール・ヘッジホッグ》にレベル5、《テセウスの魔棲物》をチューニング!……集いし願いが新たに輝く星となる! 光さす道となれ!シンクロ召喚!飛翔せよ、《スターダスト・ドラゴン》!」

 

『オオオオォォォォォォーーーーーーーーーーーー!!!!!!』

 

 《スターダスト・ドラゴン》は、テレビアニメ『遊☆戯☆王5D's』の主人公、不動遊星の切り札と言えるシンクロモンスター。純一はその召喚口上を一言一句間違えずに言い切り、シンクロ召喚を再現してみせた。

 5組の皆は大喜び。拍手喝采を純一に送るが、当の本人は恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になっていた。

 

「はい! ありがとうございました! 以上がシンクロ召喚の説明とやり方でした。続いてエクシーズモンスターの説明とエクシーズ召喚のやり方を説明します。では教科書の25ページを開いて下さい」

 

「エクシーズモンスターはカードの枠が黒いモンスターカードです。使用する時はメインデッキではなく、エクストラデッキに入れてエクストラデッキゾーンに裏向きにして置いて下さい。それでですね、エクシーズモンスターの特徴はレベルがない代わりにランクがある事です。基本的に自分フィールドに同じレベルのモンスターを2体以上揃えた後、“エクシーズ召喚”と言う方法で特殊召喚されます」

 

「エクシーズ召喚の素材となったモンスターはエクシーズモンスターの下に重ねられ、様々な効果を発揮するのに使用されます。なのでエクシーズ召喚した時に間違えて墓地に送らないで下さいね? 墓地に送る時はモンスター効果を発動する時や、除去された時だけなので」

 

「エクシーズ召喚を行うには、エクシーズモンスターをあらかじめエクストラデッキに入れておきましょう。また、エクシーズ召喚を行うには、エクシーズモンスターに記載されている素材となるモンスターが必要です。例えば……今回は《No.39希望皇ホープ》を例にしますけど、黒い星マークが4つあるのが見えるでしょうか? これはランクが4つあると言う意味です。つまり《No.39希望皇ホープ》はランク4のエクシーズモンスターと言えます。ちなみにランク4のエクシーズモンスターは出しやすさもあって、モンスター効果が多彩です。汎用カードは実戦テキストに載っているので、そちらを参照して下さい」

 

 

《No.39希望皇ホープ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/光属性/戦士族

ATK/2500 DEF/2000

レベル4モンスター×2

(1):自分または相手のモンスターの攻撃宣言時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。そのモンスターの攻撃を無効にする。

(2):このカードがX素材の無い状態で攻撃対象に選択された場合に発動する。

このカードを破壊する。

 

 

「エクシーズ召喚に必要なモンスターが自分のフィールドに揃ったら、自分のメインフェイズに“エクシーズ召喚”を宣言します。素材となる自分フィールドのモンスターを、メインモンスターゾーンかエクストラモンスターゾーンに重ねるようにして置きます。重ねたモンスターを素材とするエクシーズモンスターをエクストラデッキから取り出し、素材としたモンスターの上に重ねます。これでエクシーズ召喚完了となります。エクシーズ召喚する場合、エクシーズモンスターは表側攻撃表示・表側守備表示のどちらの形式で出しても構いません」

 

「今回は手札に2枚のカードがあります、レベル4モンスター、《召喚僧サモンプリースト》と言うモンスターカードと、《成金ゴブリン》と言う魔法カードです。メインデッキの中にレベル4モンスター、《翻弄するエルフの剣士》があると言う設定で行きます。では純一君に実演してもらいましょう」

 

「はい。では手札から《召喚僧サモンプリースト》を通常召喚します。このカードが召喚・反転召喚に成功した場合、このカードは守備表示になります。手札から魔法カード1枚を捨てて、モンスター効果を発動します。デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚します。手札の《成金ゴブリン》を捨て、デッキから《翻弄するエルフの剣士》を特殊召喚します」

 

「これでレベル4モンスターが2体揃い、エクシーズ召喚の準備が出来ました。後はエクシーズ召喚をするだけです」

 

「行きます。俺はレベル4《召喚僧サモンプリースト》と、《翻弄するエルフの剣士》でオーバーレイ! 2体のレベル4モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れよNo.39!我が戦いはここより始まる。白き翼に望みを託せ。光の使者、《希望皇ホープ》!」

 

『オオオオォォォォォォーーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 『遊☆戯☆王ZEXAL』の主人公、九十九遊馬のエースモンスターの《No.39希望皇ホープ》の召喚口上を言い切った純一。再び教室中のボルテージが急上昇し、黄色い歓声が響き渡る中、純一は机に突っ伏している。

 これは言わば公開処刑。後で他のクラスの女子生徒に弄られる事間違いなし。かなり大声で召喚口上を言ったからだ。

 

「はい! 純一君ありがとうございました! これでエクシーズモンスターの説明と、エクシーズ召喚のやり方の説明を終わります。ではここからシンクロ召喚・エクシーズ召喚の補足説明に入ります。シンクロモンスターにはシンクロ召喚の素材に条件が記されていますが、種族や属性等制限があります。例えば、《シューティング・スター・ドラゴン》はシンクロ・チューナーモンスターと、《スターダスト・ドラゴン》が召喚条件となっています」

 

「そしてシンクロ召喚は基本的に自分のターンに自分フィールドで行いますが、中には墓地でシンクロ召喚する効果を持つモンスターもいます。例として、《BF-大旆のヴァーユ》を挙げておきます」

 

「更に《アルティマヤ・ツィオルキン》と言うシンクロモンスターなんですが、これはシンクロ召喚出来ないんですよ。自分フィールドの表側表示のレベル5以上で同じレベルの、チューナーとチューナー以外のモンスターを1体ずつ墓地へ送った場合のみ特殊召喚出来ます。このように色々なシンクロモンスターがいるので、勉強がてら色々なカードに触れておいてください」

 

「そしてエクシーズモンスターなのですが、中には特殊な召喚条件を持つエクシーズモンスターがいます。エクシーズ召喚は基本的に、同じレベルのモンスター2体以上をエクシーズ素材として行うのですが、中にはエクシーズ素材をレベルではなく、特別な条件を満たすモンスターを要求したり、1体のモンスターをエクシーズ素材にする物もあります。そこはテキストをよく読み、分からなかったら各自調べたり、純一君や私に説明して下さい」

 

「補足説明はここで終わります。残り時間ですが、クラス対抗戦に出る人は各自デッキ調整を、そうでない人は自習にして下さい」

 

 次回の授業はペンデュラム召喚とリンク召喚を取り扱い、最後にデュエルの進め方を実戦を交えて行い、一通りの基礎は終了となる。

 少し駆け足気味になったが、何とかクラス対抗デュエルトーナメントまで間に合わせる事が出来る。俊介は内心ほっとしていた。

 

ーーーーー

 

 今回の学年別クラス対抗デュエルトーナメントが開催される事が決まった理由。それはエキシビジョンデュエルを観たIS委員会の意向が大きく働いているから。

 もちろんIS委員会の面々は『遊戯王』の事を全く知らない。しかし、純一とマスター・ユウギが魅せた真剣勝負を観た事で、彼女達は大きく焦る事となった。

 世間はデュエルディスクと『遊戯王OCG』に夢中となり、黒田純一が一躍有名人となり、ISに全くと言って良い程見向きもしなくなったからだ。

 ISの開発者たる篠ノ之束はと言うと、『遊戯王OCG』の大会優勝経験もあり、デュエルディスク開発に大きく関わっている為、自分が開発したISがこのような形で使われる事にとても満足している。

 しかし、IS委員会や女尊男卑を掲げる権利団体は違う。彼女達は兵器といった側面でISを見ていた。それを篠ノ之束が望んでいないとしても。

 女性でしか使えないISによるアドバンテージで男性にマウントを取り、私利私欲のまま世の中を思い通りに動かしてきた。これまでは。

 そこに登場した『デュエル・ストラトス』。デュエルディスクは男性・女性に関わらず、使用可能。必要なのはカードの知識と情熱。カードを買うお金がなくても、データベースに無料登録さえすれば無料でカードを使い、デッキを作る事が出来る。流石に紙のカードを買う必要はあるのが欠点だが。

 日々の仕事やストレスやらで疲れ切った人々の心を癒す物。それは心から笑えるお笑いと観戦しながら熱くなれるスポーツ。これまでのISとは正反対とも言えるアプローチで熱狂させた『デュエル・ストラトス』。女尊男卑の風潮もあって、荒み切っていた人々の心を掴むのに時間はそこまで掛からなかった。

 しかも、熱狂的なデュエルを繰り広げたのが純一とマスター・ユウギの2人の男性である事が問題だった。純一は“世界で2番目の男性IS操縦者”だが、IS委員会から見た価値は低かった。身内にIS関連の有名人がいないからであり、彼自身に光り輝く物が無かったからだ。或いは光り輝く物がないと判断したのか。

 隙あらば男性がISを動かせるメカニズムを解析する為のモルモットにするつもりでいたのだが、専用機を貰えて企業所属となって強力な後ろ盾が付いてしまった。

 更に新たなるISの可能性を魅せてしまい、一躍時の人となった。そうなると、迂闊に手を出せなくなり、今までのような行いが出来なくなる。

 

―――物凄い倍率の試験を潜り抜け、入学したIS学園の生徒達があのようなデュエルが出来ない筈がない。1ヶ月さえあれば十分だ。あのエキシビジョンデュエルを凌駕するデュエルなど、ISを動かす事の出来る女子生徒達なら楽勝だ。

 

 このように豪語したIS委員会と女尊男卑を掲げる権利団体。実の所、IS学園に対する印象は世間的にダウンしていた。と言うのも、文化祭で発生した黒田純一襲撃事件で一般客に怪我人を出してしまい、その様子がSNSで拡散されてしまったからだ。

 これによってIS学園の警備のガバさと対応の遅れに多くの人々から批判を集め、IS学園のイメージダウンに繋がってしまった。

 更には襲撃事件の実行犯が“女尊男卑を掲げる権利団体が雇ったIS部隊”だった事が明らかになると、女権団体とISに対して更なる批判が向けられる事となった。

 以前のような傍若無人とも言える所業が出来なくなり、世間からの信用が下落した事を受け、IS委員会と女権団体はIS学園とISの信用回復も含め、『デュエル・ストラトス』の大会を開催する事となった。

 『遊戯王』の授業開始から1ヶ月と言う短いスパン。そんな短い期間で開催される事となった学年別クラス対抗デュエルトーナメント。その開催が発表された事で、世間はどのように受け取ったのか。SNSでは何とも言えない反応だったり、ネガティブな反応が多数を占めていた。

 

―――何か開催するの早くない? もう少し時間をかける物だと思ったけど……『遊戯王』って簡単なカードゲームじゃないんだろう?

 

―――『KONNAMI語』を理解するのはIS学園の生徒でも難しいだろうに……1ヶ月で大丈夫か? 問題しかないよ。

 

―――確かに。IS学園ってISの事を勉強したり、訓練するのがメインだろう? 時期尚早だろうに……生徒達が可愛そうだよ。

 

―――多分だけどさ、IS学園の上層部、いやIS委員会は焦っているんじゃないかな? 正直大した事がないと思っていた純一君がすげぇデュエルをしちゃったから。中々話題に出なかっただろう?

 

―――あ~! それだ! それだよ! ISを使える筈のなかった男性がISを使えるだけじゃなく、凄いデュエルをしたなんて聞いたら、女尊男卑を掲げる女共のプライドに傷が付くだろうな!

 

―――分かる! 絶対思っていそう! と言うかさ、一般販売されたチケットの金額見た? 高くねぇ!? 俺二度見したよ! チケット代だけでも5万円だよ!? ちょいと高くない!? 手数料とかその他含めるともっとかかるよ!

 

―――俺も俺も! 俺はたま~に好きなアイドルとかロックバンドのライブ行くけどさ、この大会観戦するお金だけで野外フェス2、3回は行けるよ!

 

―――それは高すぎだろ!? しかも平日にやるんだろ? 俺らサラリーマンは観に行けないよ! 有給使わないと無理だし……観に行く人は富裕層とかそういう連中じゃん。需要ねぇよ! 少しは配慮しろよ!

 

―――高いお金払ってまで行きたいかと言うと、正直微妙なんだよな……だって殆どが初心者なんだろう? いや純一君以外に経験者はいるだろうけど、けどな~そこまでして観戦したいかって言われると……正直言って微妙なんだよな。正直ネット配信観れば良いやって感じになるよ。

 

―――生観戦は生観戦の良さがあると言うけどね……(苦笑)と言うか、俺地味に『遊戯王』やってんだけど、沢山のお客さんの前でデュエルするなんて公開処刑も良い所だぜ!? アニメのようにやれって言われても無理だし、純一君メンタル強すぎ!

 

―――純一君は大企業の跡取りだからじゃないかな? でも本人も緊張していたって言っていたよ? ……俺も『遊戯王』やっているし大会にも出てるけど、正直大会のノリとアニメのノリは別。大会出てる俺からしてみると、アニメのノリはちょっと苦手なんだよ。俺が陰キャだからってのもあるけど。

 

―――まぁつまり、IS学園の女子生徒は叩くなって事だね。彼女達は一生懸命やっている訳だし、中には好きでやっている訳じゃない人もいるんだよ。でも純一君のデュエルは観たい。まぁネット配信で満足するしかないな。

 

―――そうしよう。その方が良いよ。俺もネット配信で満足するよ。

 

「これが世論の声って奴か……」

 

 放課後。楯無とのISの訓練を終えた純一は、『カードターミナル』IS学園店で俊介とデュエルをする約束をしていた。

 もう少しで開催される学年別クラス対抗デュエルトーナメントに向けて、1年以上離れていたブランクを埋めつつ、デッキの調整を『カードターミナル』のスタッフと共に行っている。この日も講師の俊介と約束していた。

 時間までまだあった為、スマートフォンでニュースを検索していた。試しにIS学園で開催される『遊戯王OCG』の大会について検索してみると、あまり良い反応は無かった。

 初心者ばかりのデュエルは時期尚早ではないか。チケット買って観戦するお金や時間もない。そもそもチケットが高額過ぎて一般客には厳し過ぎる。平日の昼間にやるからネット配信で結構。そのような意見で溢れ返っていた。

 世論の反応を見た純一は確信した。このイベントは何か良からぬ事が起きそうだと。開催前だと言うのに、問題が起きそうな予感しかしない。

 

「遅くなってごめんね。いや~ナタリアさんと比奈さんに付き合っていると、何だか初心者を自分で育てている感じがして時間を忘れてしまうんだよ……」

 

「お気になさらず。僕の方はどうにでもなるので、2人を育ててあげて下さい」

 

 俊介はナタリアと比奈の専属コーチとなっているが、それは純一が依頼したからだ。自分と神楽とは違い、経験や技術で劣る2人をサポートして欲しいと。

 確かに自分と神楽が出続ければ勝てるだろう。しかし果たしてそれがクラスの為になるのか。2人が納得するのか。クラスの為にもならないし、2人の為にならない。

 例えデュエルに負けたとしても、自分達の出番が来たとしても構わない。最初は誰だって大会に出れば負ける事を経験する。そこで何を掴み、何を学び、どのように活かすか。大事なのはそれだ。

 

「とはいえ、僕も1年以上ブランクがあるので相手の方をお願いします」

 

「ああ。それじゃあやっていこうか」

 

 純一と俊介がフリーデュエルに没頭しているように、学年の各クラスは初めての『遊戯王OCG』の大会に向けて準備を進めていた。

 純一のように対戦相手を見つけてデュエルしたり、デッキを調整したり、中には相手のデッキ対策を考えたり、色々な方法で大会に向けて準備を行っている。

 しかし、中には例外が存在する。1年6組。純一がいる1年5組が初戦で戦うクラスなのだが、このクラスは割と重大な問題を抱えていた。

 

「一体どういう事なの!? 何で寄りにも寄って黒田純一のいるクラスの隣を引いちゃったの!?」

 

「すみません! 本当にすみません!」

 

 時間を遡る事を許して欲しい。学年別クラス対抗デュエルトーナメントの抽選会が行われた日の昼休み。IS学園の整備室。そこでISのシュミレーター訓練に没頭していたのはエヴァ・ヨハンソン。1年6組のクラス代表であり、オーストラリアの代表候補生。

 本来であれば、彼女は学年別クラス対抗デュエルトーナメントの抽選会に出席しなければならなかった。しかし、どういう訳か彼女は出席せず、この日もISのシュミレーター訓練に没頭していた。

 エヴァはオーストラリアの代表候補生であり、学年別クラス対抗デュエルトーナメントの抽選会に出場義務がある。これは『カードターミナル』ではなく、IS委員会が定めたルールだ。

 ところが、エヴァのオーストラリアの代表候補生と言う地位は偽りの物。本来の実力は一夏はおろか、純一にすら及ばないとナタリアから評価された程。一般生徒より強いが、代表候補生には劣る。それだけでなく、半年前まで素人だった一夏や純一にも劣る始末。2人のポテンシャルや努力が凄まじい物もあるが。

 それでも代表候補生に選ばれ、今でもその地位にいられるのは、女尊男卑を掲げる権利団体の役員を務める母親のおかげ。彼女が政府要人とパイプを持っており、賄賂を贈った事でエヴァは代表候補生になる事が出来た。

 しかし、エヴァが代表候補生になれた理由や本当の実力を知っている者達からは総スカンを喰らっており、中には “あんな奴は代表候補生じゃない”と言い切る人もいる程。それでも本人は自分が代表候補生になれたのは実力があるからと勘違いをしている。

 そんなエヴァは『遊戯王OCG』の授業をサボり、その時間は毎回一人ISのシュミレーター訓練をこなしている。

 そこで休憩している時、クラスメートの伊藤亜依がやって来て抽選会の結果を伝えた。その結果に激怒して亜依を叱り付けている。

 その理由は彼女が毛嫌いしている黒田純一率いる1年5組と対戦する事になった為。母親が女尊男卑を掲げる権利団体の役員である事から、娘も自然と女尊男卑の考え方に染まってしまった。

 

「ハァ~どうするのよ全く! これじゃ勝てる訳ないじゃない! ふざけないでよ~私は出ないからね。デュエルトーナメントとか知らないから」

 

「し、しかし、今度の大会は各国の要人が多数訪れますし、代表候補生は必ず参加しろと織斑先生が……」

 

「知らないわよそんなの!! 大体、何でIS学園でカードゲームなんかやらなきゃいけないの!? 馬鹿でしょ!? 何で誰も疑問に思わないの!? 幾らISを使うって言っても、所詮飾りじゃない! やってやれないわ! 私は出ないから! 誰が何を言おうと出ないから!」

 

「で、でも……この大会は代表候補生は出場義務があるってIS委員会が……」

 

「名前だけ登録しておいて! 後はあんたら3人で出場して! 私は当日無関係だから!」

 

「は、はい……」

 

 エヴァから怒られた事もあって、萎縮したようにシュンとなりながら整備室から出て行った亜依。溜息を付きながら。彼女は学年別クラス対抗デュエルトーナメントについて考え始めた。正直1年5組に勝てる確率は限りなく低い。

 相手は大会優勝経験のあるトーナメントプレーヤーを擁し、彼の教えを受けながら成長し続けているクラス。対するこちらは初心者しかいないクラス。普通に考えればこちらが負けるに決まっている。

 

「どうすれば良いのかな……?」

 

 亜依は途方に暮れた。こういう時に頼りになる人は6組にはいない。いるのは話を聞いてくれて、一緒にクラスをまとめ上げている親友達だけ。

 クラス代表で代表候補生のエヴァは今回の大会には不参加で、無関係を貫き通すと言っている。恐らく男子生徒がまとめているクラスに負けたと言われるのが怖く、恥ずかしいだけなのだろう。

今のままではまずい。代表候補生が名前だけ登録して、大会に出場しないのはルール違反となる。IS委員会が定めた以上、もし違反となれば何らかのペナルティーを受ける事となる。そうなれば、自分達も被害を受ける事になる。

 

「? 亜依さんじゃないですか。大会当日はよろしくお願いしますね!」

 

「ナタリアさん……」

 

「何か悩み事がありますね? 私で良ければ話を聞きますよ」

 

「あ、ありがとうございます。実は……」

 

 中庭を歩いていると、ナタリアに出くわした亜依。ナタリアは6組の事情を知っている事もあってか、亜依の悩みを吹き飛ばすような笑顔を浮かべている。

 亜依もナタリアの人の良さを知っており、純一が来てからの5組の活気の良さを羨ましがっていた。それと同時にナタリアのような人が自分達のクラス代表になってくれればと内心切望している。

 

「抽選会があった日に純一君には話していたのですが、まさかそこまで……」

 

「はい。私達6組の皆はエヴァの道具ではありません。ISの事を勉強し、IS業界の道に進みたいんです。正直もう限界です」

 

「確かに私もエヴァさんのやり方は気に入りません。代表候補生の地位だけしか取り柄がないのに、自分の好き勝手に振る舞っている。私のように努力して代表候補生になった人達を侮辱しています」

 

「ナタリアさんもそう思うんですか?」

 

「はい。私は代表候補生の中でも中間クラスで、専用機を頂けるかどうかも怪しい所です。それでも毎日努力はしています。もしかしたらいつか頂けるかもしれない。努力はいつか必ず何処かで、何かしらの形で実るかもしれない。そう思って毎日続けています。なのでそれを侮辱した彼女には怒りしか出て来ません」

 

 ナタリアがエヴァに対して怒りを覚えるのも無理もないが、やはり新しく来た純一の存在や彼の人となりもあるだろう。

 時間を見つけて『遊戯王OCG』の初心者の自分と向き合い、どのようにして強いデッキを作るか・どのように回すのかといったような事を丁寧かつ根気強く教えている。その知識や経験を積み上げるには相当の努力を要したのだろう。

 また、1組に赴いては純一の事を聞き、彼が入学してから物凄い努力家で人格者だった事を知り、益々純一に好意を抱くようになった。

 

「しかし、このまま何もしないでいる訳にも行きません。私に考えがあります。今ここで行動を起こしたらクラス対抗戦に影響が出てしまいますが、状況が状況なだけに仕方ないです。もうチケット販売が始まり、既に準備の方も動いています。今更中止には出来ないでしょう。なので6組を中から変えていきましょう」

 

「と言うと?」

 

「エヴァさんを代表候補生の座から引き摺り下ろし、6組から追放させれば良いのです」

 

「ッ!?」

 

 後に亜依はこう語っている。“普段は人当たりが良く、明るいナタリアさんが悪い顔をしていた”と。それ程までにインパクトが強かったようだ。

 或いは余程エヴァの事が気に入らなかったか、彼女のような人物が代表候補生になれた事に怒りを覚えているのか。

 

「でもどうやって……?」

 

「今までエヴァさんが行った振る舞いを記録した物や、動画や音声記録を使って嘆願書を記して下さい。それを理事長に提出するのです。流石に無視は出来ないでしょう。代表候補生あろう者が横暴な振る舞いを半年以上もしていたとなると……」

 

「もし駄目だった場合は?」

 

「世論を味方に付けましょう。SNSに拡散させるのです」

 

「随分とブラックですね……さては純一君に影響されました?」

 

「さぁどうでしょう。私は昔からこういう人間ですよ? ただ人よりISを使うのが少しだけ上手なだけの女子高生ですし」

 

 亜依に秘策を預けたナタリアは一人夕日を見ながら考える。純一が5組に来てから、少しずつではあるものの、ISの時代が変わろうとしている。

 ISの技術を利用したデュエルディスクの開発が始まり、ISを兵器以外の用途に使えないかと各国で開発が始まった。例えば医療。農業。レスキュー。本来の宇宙開発は停滞していたが、ここ最近になってようやく復活の目途が立ち始めている。

 もし時代が変わろうとする時、IS学園はどうするのか。それに合わせて自分もどのような行動を取らないといけないのか。難しい頃になったと感じるナタリアだった。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・学年別クラス対抗デュエルトーナメント

 イベント自体は成功しそうですが、波乱は起こりそうです。IS委員会と女性権利団体の癒着のせいですが……

・シンクロ召喚とエクシーズ召喚

 個人的にこの2つの召喚方法は好きです。レベルが低く、攻撃力が高くないモンスターでも活躍できるので。ただインフレが加速した感は否定できません。

・日々の仕事やストレスやらで疲れ切った人々の心を癒す物

 似たような事を『ビーストウォーズ メタルス』でダイノボットが言っていました。藤原さん……(涙)

・平和を取り戻せ!

 6組のエヴァさんを追放する計画が新たなる波乱を呼ぶ事になりますが、それはまた別の話で。この小説はかなり動乱が多くなります。

次はペンデュラム・リンク召喚を取り扱います。
次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。




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TURN13 ペンデュラム・リンク召喚でフィニッシュ! 下される制裁の一撃

今回で一通りの基礎知識の習得が終わり、次回からいよいよ本格的な話になります。
前にUA5,000突破記念の番外編を記すと言いましたが、投稿は第1章が終わってからになります。本編のネタバレはなく、あくまでIF世界の話にする予定です。

評価ポイントが入りましたが、あまり良い点数ではありませんでした。
これはもっと頑張れと言うお告げだと割り切って、頑張っていきます。


(まずいなこのままだと……まさか代表候補生が授業をボイコットしているなんて……とんでもない事案だ)

 

 IS学園。『カードターミナル』IS学園店。学年別クラス対抗デュエルトーナメント開催まで残り1週間となった。そんな中、『デュエル・ストラトス』こと『遊戯王OCG』の講師として派遣された、『カードターミナル』のスタッフ、長尾大樹は困った表情を浮かべていた。

 その理由は彼が講師を受け持っている1年6組にあった。6組のクラス代表兼オーストラリアの代表候補生、エヴァ・ヨハンソンが授業を全て欠席している事。代表候補生はこの大会に出場義務があるにも関わらず。この出場義務を定めたのは自分達でも、IS学園でもなく、IS委員会なのに。

 このイベントの主催者ことIS委員会のシナリオでは、このイベントを通じてISのイメージ回復兼『デュエル・ストラトス』の普及を行いながら、チケット販売等で得たお金を莫大なコストがかかるISに充てたり、自分達の羽振りの良い豪華な生活に使用するつもりだ。

 しかし、現実は予想通りに行かないのが常である。まさか彼女達も予想していなかっただろう。授業を全部欠席している代表候補生がいると言う事に。

 

(エヴァさんがクラスで横暴な振る舞いをし続けたせいで、クラスの雰囲気は最悪で団結力はないような物だ。担任の先生も見て見ぬふりをしているし、学級崩壊と言っても良いレベルだ。よく今までもっていたな……)

 

 6組の問題はエヴァだけではない。彼女が横暴な振る舞いをし続け、担任の先生がそれを黙認しているせいで、6組の雰囲気が余りにも悪いとしか言えない物となっていた。

 クラス代表と担任を除けば、副担任の先生とクラスのまとめ役のおかげもあって、何とかクラスとしての機能を維持している。

 外部から来た自分でも分かるくらい、現在の1年6組の内情は酷いとしか言えない。早急に何とかしないといけない。と言うのも、学年別クラス対抗デュエルトーナメント開催まで後1週間となった事もあるが、この時既にチケット販売が始まっている事が問題だった。

 そんな状態に加え、IS学園は『カードターミナル』のスタッフにこのような意向を示した。“1ヶ月で初心者たるIS学園の生徒達をトーナメントプレーヤーの純一レベルにするように”。ただでさえ無茶な要求に加え、6組の内情が内情なだけにとてもではないが、IS委員会の要望を満たす事は難しい。

 IS委員会が主催するIS学園及びISのイメージアップ、『デュエル・ストラトス』のお披露目イベントの大会。現状のまま大会を迎えれば、確実に6組のゴタゴタの影響を受けてISの更なるイメージダウンに繋がってしまう可能性は高い。

 そうなった場合、IS委員会は大会失敗の責任を自分達、『カードターミナル』に擦り付けるつもりだ。”お前達がしっかりした授業が出来なかった為、醜態を世間に晒す事になった”だの好き勝手言いながら。

 

「はい、授業を始めます。その前に皆さんに大事なお話があります」

 

 1年6組。『遊戯王OCG』の授業。この日もエヴァは欠席し、整備室でISのシュミレーターで一人訓練に励んでいた。

 そんな中、大樹は6組の女子生徒達にカードショップ側の人間として現実を突き付ける事に決めた。例えどう思われようとも、自分の仕事を果たす為に。

 

「学年別クラス対抗デュエルトーナメントまで残り後一週間となりました。はっきり言わせてもらいます。このままで行くと、このクラス、6組のせいでイベントが失敗になる可能性があります」

 

『……』

 

 大樹の発言に6組の誰もが俯きながらも現実を受け入れた。彼女達も理解していた。傍若無人過ぎるエヴァの振る舞いと、それを見て見ぬふりで黙認している担任。2人がいる限り、6組に真の平和は訪れない。

 出場義務のある代表候補生が授業をボイコットし、担任も出席していない。それを放置しているクラスメートも連帯責任で何かしらの罰を受ける事になるだろう。

 恐らくIS委員会と女性権利団体は代表候補生を守り、一般生徒を切り捨てる方針で行くつもりだ。エヴァの実態を知らない彼女達ならばやりかねない。

 

「このクラスで一体何があったのかは聞きません。私は外部から来た講師なので、この学園の事情に踏み入る事は出来ません。ですが、代表候補生が使い物にならないどころか義務を果たさない体たらくでは、試合に勝つ負ける以前の話になります。今の6組は正直クラス対抗戦に挑める状態ではありません」

 

 大樹はこの時内心ではエヴァと担任の永田洋子に激しい怒りを覚えながらも、それを押し殺して冷静に話を進めた。

 代表候補生と言う立場にいる以上、やらなければいけない事や背負わなければいけない物がある。つまり責任や義務が発生すると言う事となる。

 エヴァの体たらくもあって、1年6組は雰囲気だけで見ると、全クラスの中でもぶっちぎりの最下位。クラス代表のエヴァが傍若無人な振る舞いをしつつ、クラスメートを道具扱いしている事から総スカンを喰らっているに等しい状態。更に言えば女尊男卑を掲げている為、純一からの説得や援助は期待できない。

 それに対して担任の永田洋子はただ見ているだけでエヴァを注意しない。更には自分の授業の大半を自習にする程。一体何処で何をしているのやら。おかげで6組の成績もあまり良いとは言えない。

 クラス対抗戦では個々の実力やデッキ構築力もそうだが、それ以上にクラスの団結力が問われる。誰がどのデッキを使うか。どのカードを選ぶか。それだけを切り取っても、周りとどれだけ協力出来るかが問われる大会となる。

 そんな人間関係が最悪と言って良い状態でどうやって勝ち抜けと言うのか。6組は全員が初心者であり、エヴァもその一人だ。それなのに授業をボイコットしている。勝てる筈の勝負を自ら捨てに行っているとしか思えない。

 確かにIS学園の一日のスケジュールを見ると、当然の事ながらISに関する授業や訓練の比重が大きい。疲れもあるだろう。授業の予習復習もしたいだろう。その気持ちも分かる。

 しかし、その合間を縫ってデッキを構築したり、デュエルしたり、情報交換を行う等と努力をしている生徒達がいる。その人達の為に鬼になるしかなかった。

 

「長尾先生はこのクラスを捨てるつもりですか?」

 

「まさか。ただ私はこのクラスがきちんと大会に出て、それなりのデュエルをする為にはあの代表候補生と担任が危ないと思っているだけです。はっきりと言います。このクラスを守る為にはあの2人を排除すべきです」

 

「私も……そう思います」

 

「伊藤さん?」

 

「長尾先生……抽選会があった日、私……エヴァさんの所に行きました。その時に言われました。“自分は名前だけ登録するけど当日は出ない”と」

 

 亜依の言葉に大樹は目を見開き、クラスの至る所でどよめきが起こった。まさかここまで傍若無人だったとは。出場義務のある大会に出ず、無関係を貫き通す。

 その姿勢に大樹は悟った。もう話し合いでどうにか出来るレベルではない。実力行使でどうにかするしかないと。

 

「それに、純一君のいるクラスと対戦が決まった事を伝えたら酷く怒られました……もう我慢出来ません。正直嫌です。エヴァさんがいるとこのクラスどころか、私もどうにかなりそうで……それで5組のナタリアさんに相談しました。そうしたら嘆願書を書き、理事長に提出するようにアドバイスを受けました」

 

 そう言った亜依が見せた嘆願書、もとい報告書の書類。そして証拠記録として用意していた音声や映像記録の数々。テープレコーダーやら何やら色々とある。

 “膨らみ過ぎた風船はやがて破裂する”とは言うが、今まで伝えるチャンスを逃していた為、かなりの数となっていた。

 試しに大樹は報告書に目を通してみた。書類だけでもかなりの数があり、普段どれだけエヴァが横暴な振る舞いをしてきたのか、理事長に伝えるには十分すぎる内容と言える。

 

「これは驚いた……まさかここまでだったとは」

 

「長尾先生、ご協力をお願いします」

 

「分かりました。出来る限りの事をします。ですが出来れば大会が始まる前に決着を付けましょう。私の経歴に泥を塗る事は一向に構いませんが、皆さんの美しい顔に泥を塗る訳には行きません」

 

 こうして長尾大樹は講師としての仕事を逸脱する事を理解した上で、1年6組からエヴァ・ヨハンソンと永田洋子を追い出す手助けをする事となった。

 何故手助けをするようになったのか。理由は幾つかあるが、一番はエヴァと洋子以外の面々がきちんと授業を受け、着実に成長している姿を見ている事だった。

 

ーーーーー

 

「まさかここまで酷い有り様だったとは……私の教員の管理不届きですね」

 

「これは酷い……まさか代表候補生あろう者が……」

 

 次の日。理事長室。IS学園の実務関係を取り仕切る事実上の運営者こと轡木十蔵と、その妻である轡木綾子の2人は6組の嘆願書と証拠記録に一通り目を通すと、6組で起きていた事の重大さに打ちのめされた。

 まさか自分達の知らない所で代表候補生が横暴な振る舞いをしていたり、担任の先生が授業放棄をしていたとは思ってもみなかったのだろう。

 

「直ぐにエヴァさんと永田先生を呼ぶように」

 

 そう言い切った十蔵は内心激怒していた。そこには“学園内の良心”と言われている姿は無く、妻の綾子ですら一歩引く程の怖さを放っていた。

 それから数分後。理事長室に2人の女性が入って来た。彼女達は真剣な面持ちをしながら、十蔵と向き合っていた。

 1人は1年6組のクラス代表でオーストラリアの代表候補生、ツインテールの金髪に釣り上がった瞳が特徴なエヴァ・ヨハンソン。もう1人は黒髪のショートヘアで怖そうに目を吊り上げている永田洋子。

 

「何かあったんですか?」

 

「私はISの訓練がありますので手短にお願いします」

 

 洋子とエヴァの言葉を受けた十蔵は渋い表情となった。まるで他人事のような態度だったからだ。

 自分達のせいで1年6組の皆が辛くて嫌な思いをしている事に気付けない、気付こうとしない事に苛立ちを覚えながらも、十蔵は彼女達に現実を突き付け、理事長としての判断を下す事を決めた。

 

「お忙しい所大変申し訳ありません。今回お話したい事なんですが、実はお2人がいる1年6組の皆さんと講師の方から報告書を頂きました」

 

 そう言った十蔵は目を鋭く細めながら、彼女達に6組の皆が記した報告書の数々を渡し、数々の証拠を見せた。

 報告書に目を通し始めたエヴァと洋子の表情が見る見るうちに青褪めていく。まさか6組の生徒達が、見下している女子達が結束して自分達を陥れようとは思ってもみなかったのだろう。

 

「エヴァさん。正直言って貴女の行いは代表候補生はおろか、人間の風上にも置けません。クラス代表で代表候補生を務める貴女が授業をボイコットしているに飽き足らず、これまでクラスで横暴な振る舞いをしていました。幾ら代表候補生になれたと言っても、やって良い事と悪い事があります。貴女の行いは最早常識から逸脱しています」

 

 容赦なくエヴァに突き刺さる十蔵の言葉。普段は決して怒らない人物だが、怒った時の迫力は千冬ですら震え上がる程に凄まじい。

 そんな十蔵の姿にエヴァは震え上がる事しか出来ない。今までの行いのツケが、これまで自分の行いで迷惑を被った人間の代弁として聞こえて来たからか。

 

「永田先生。貴女も同じです。私はこの報告書に目を通し、音声や映像記録を一通り確認しました。そして長尾先生の話も聞きました。エヴァさんが授業に出てくれない。クラスの生徒がどんなに説得しても駄目だと。毎回酷い事を言われる。自分が説得しても全然駄目だ。もうこのクラスは学級崩壊しているも同然の状態。大会まで残り一週間しかない。今の内にどうにかしないととんでもない事になる。長尾先生はこのように仰っていました。外部講師として来た長尾先生の方が、担任を務める貴女よりクラスの事を思い、例え自分がどうなろうともクラスの皆を守ろうとしている。貴女は何も感じないんですか!?」

 

「クラスが崩壊しかけているにも関わらず、貴女は担任の仕事も放棄し、自分の授業も自習にしていると色んなクラスから苦情も来ています。一体どういう事ですか? 全部話してもらいますよ」

 

「申し訳ありません。何分他の仕事が重なっていて中々出席出来ず……」

 

「他の仕事? あぁ、女権団体の理事を務めているんですよね貴女は」

 

「ッ!? どうしてそれを!?」

 

「文化祭で純一君が襲撃された事件を覚えていますよね? 犯人のIS部隊を雇った女権団体の名簿を調べていた時、貴女の名前があったのですよ。貴女ですよね? 文化祭の日、純一君を襲撃する部隊を迎え入れ、何の罪もない一般人に怪我をさせたのは」

 

 十蔵は全てを理解していた。文化祭で純一を襲撃したIS部隊を雇った女権団体。その役員の一人が永田洋子である事に。

 でないと納得が出来ない。何故十数人以上ものIS部隊がIS学園に簡単に侵入する事が出来たのか。それはIS学園に内通者がいたから。となると、IS学園の中に女権団体の役員を務めている人がいるとしか考えられない。

 そう考えながら調べていた時、襲撃部隊の雇い主だった女権団体の役員名簿の中に洋子の名前があった。顔写真も掲載されており、完全に一致していた。言い逃れは出来ない。

 ちなみに洋子は授業を放棄している間、女尊男卑を掲げる権利団体の会合に参加している。一説に寄ると、IS委員会の下請けと化している女尊男卑を掲げる権利団体から送り込まれたスパイとされている。

 IS学園には女尊男卑の思想に凝り固まった女子生徒や教師が多い。洋子のように女尊男卑を掲げる権利団体に所属している誰かが内通している事で、文化祭の黒田純一襲撃事件を引き起こした程、女尊男卑の思想は根強く浸透されている。

 

「お二人には懲罰房にて無期限の謹慎処分を下します。エヴァさん。今回の一件はオーストラリア政府に報告します。永田先生も追って処分を言い渡します」

 

 余談だが、2人のその後について少し語っておこう。先ずはエヴァ。彼女は6組で行った数々の悪行がIS学園において白昼に晒されただけでなく、SNSに拡散され、世論から袋叩きに遭った。自業自得としか言えない。

 事態を重く見たオーストラリア政府は彼女を強制帰国させて事情聴取を行っている時、各国の代表候補生から“エヴァは間違ったやり方で代表候補生になった”と言う告発文書が次々と送付された。

 調査の結果、エヴァの母親が女権団体の役員を務めており、政府の要人に賄賂を贈って彼女を代表候補生に選ばさせたと言う事実が明らかになった。また、オーストラリアの代表候補予備生達からも同じように告発が殺到した。

 クラスだけでなく、世界中から総スカンを受けたエヴァは代表候補生の権限を剥奪させただけでなく、母親と共に国外追放となった。2人は女権団体に保護され、同士として迎え入れられる事となった。

 担任の永田洋子は教員免許を剥奪され、女権団体に身を寄せる事となった。しかし、この時十蔵は知らなかった。エヴァと洋子。2人を保護した女権団体が後に報復としてIS学園を襲撃しに来る事に。

 

ーーーーー

 

「はい! 皆さんこんにちは! 今日の授業で召喚方法を一通りマスターする事となります。今回はペンデュラム召喚とリンク召喚の2つを一緒に勉強します。では最初にペンデュラム召喚から入ります。教科書の〇ページを開いて……」

 

 理事長室で6組の担任とクラス代表に制裁が加えられているのと同じ頃。1年5組では『遊戯王OCG』の授業が行われている。この日のお題はペンデュラム召喚とリンク召喚。

 今回の授業でようやく一通りの召喚方法をマスターする事となる為、女子生徒達とナターシャの目は真剣だ。そんな中で純一は召喚口上を言わされると思うと、少し憂鬱そうにしているのは秘密だ。

 

「先ずはペンデュラムモンスターの説明をします。ペンデュラムモンスターは、モンスターとして召喚するだけでなく、ペンデュラムゾーンに魔法カードとして発動する事も出来る、一枚で二度美味しいモンスターカードです。モンスターとして召喚する場合はメインモンスターゾーンに召喚します。魔法カードとして使う場合、魔法・罠ゾーンの左端と右端、ペンデュラムゾーンに置いて発動します」

 

「ペンデュラムモンスターの左側に青色の矢印、右側に赤色の矢印が書かれているのが分かりますか? この矢印の下に数字がありますが。これはペンデュラムスケールと言う数字になります。ペンデュラム召喚に必要な数字になります。ここで例として、2枚のカードを挙げましょう。《星読みの魔術師》と《時読みの魔術師》です」

 

 

《星読みの魔術師》

ペンデュラム・効果モンスター

レベル5/闇属性/魔法使い族

ATK/1200 DEF/2400

【Pスケール:青1/赤1】

(1):自分のPモンスターが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法カードを発動できない。

(2):もう片方の自分のPゾーンに《魔術師》カードまたは《オッドアイズ》カードが存在しない場合、このカードのPスケールは4になる。

【モンスター効果】

(1):1ターンに1度、自分フィールドのPモンスター1体のみが相手の効果で自分の手札に戻った時に発動できる。その同名モンスター1体を手札から特殊召喚する。

 

 

《時読みの魔術師》

ペンデュラム・効果モンスター

レベル3/闇属性/魔法使い族

ATK/1200 DEF/600

【Pスケール:青8/赤8】

自分フィールドにモンスターが存在しない場合にこのカードを発動できる。

(1):自分のPモンスターが戦闘を行う場合、相手はダメージステップ終了時まで罠カードを発動できない。

(2):もう片方の自分のPゾーンに《魔術師》カードまたは《オッドアイズ》カードが存在しない場合、このカードのPスケールは4になる。

【モンスター効果】

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、1ターンに1度、自分のPゾーンのカードは相手の効果では破壊されない。

 

 

「例えば《星読みの魔術師》と《時読みの魔術師》をペンデュラムゾーンにセットしました。これでペンデュラム召喚の準備が整いました。ペンデュラムスケールの間のレベルを持つモンスターを手札から特殊召喚する事が出来ます。この場合だと、レベル2からレベル7のモンスターを同時召喚出来ます。エクストラデッキからもペンデュラム召喚出来ますが、ルール改訂によってリンクモンスターを使わないと出来なくなりました……やはり簡単に大量展開出来るようになったのがまずかったのかな~と私は思います」

 

「ではリンク召喚について説明します。先ずはリンクモンスターから。リンクモンスターはレベルとランクと守備力を持たない、紺色の枠をしたモンスターカードです。使用する時は、メインデッキではなくエクストラデッキに入れましょう。リンクモンスターは“リンクマーカー”と言う赤い矢印を持ち、そのモンスター自身だけでなく、マーカーが指し示す先の場所だったり、その場所に置かれているカードに様々な効果を与える事が大きな特徴です」

 

「リンクモンスターの攻撃力の隣に“LINK”の数字があるのが見えるでしょうか? これはリンク召喚するのに必要なリンク素材の数です。この数字はリンクマーカーの数字と一緒です。モンスター1体はリンク素材1体分とみなしますが、“LINK-2”とあるリンクモンスターを別のリンクモンスターのリンク素材にする事も出来ます。その場合は、“LINK”の数字と同じ数のリンク素材として扱います。“LINK-2”とあるリンクモンスターであれば、2体分の素材として扱います」

 

「では実際にリンク召喚とペンデュラム召喚をやってみましょう。先ずリンク召喚のやり方を説明します。今回は例として、フィールドに《レッド・ガジェット》と《ゴールド・ガジェット》の2体のモンスターがいると仮定します。手札に《グリーン・ガジェット》と《イエロー・ガジェット》、《星読みの魔術師》と《時読みの魔術師》があります。そしてエクストラデッキに裏向きで《クリフォート・ゲニウス》、表向きで《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》がいると言う状況です」

 

「先ずリンク召喚を行う場合、あらかじめリンクモンスターをエクストラデッキに入れておいて下さい。そしてリンク召喚を行う為に必要なリンク素材を揃えて下さい。リンクモンスターに召喚条件が記されてますが、例えば《クリフォート・ゲニウス》はリンク2で、機械族モンスター2体をリンク素材として要求しています。今はフィールドに機械族モンスターの《レッド・ガジェット》と《ゴールド・ガジェット》がいますが、あらかじめ自分フィールドにリンクモンスターの素材となるモンスターを用意して下さい」

 

 

《クリフォート・ゲニウス》

リンク・効果モンスター

リンク2/地属性/機械族

ATK/1800

【リンクマーカー:左下/右下】

機械族モンスター2体

(1):リンク召喚したこのカードは魔法・罠カードの効果を受けず、このカード以外のリンクモンスターが発動した効果も受けない。

(2):1ターンに1度、このカード以外の、自分及び相手フィールドの表側表示のカードを1枚ずつ対象として発動できる。

そのカード2枚の効果をターン終了時まで無効にする。

(3):このカードのリンク先にモンスター2体が同時に特殊召喚された時に発動できる。デッキからレベル5以上の機械族モンスター1体を手札に加える。

 

 

「リンク素材となる自分フィールドのモンスターですが、表側表示ならば攻撃表示でも守備表示でも構いません。リンク召喚に必要なモンスターが自分フィールドに揃ったら、自分のメインフェイズに“リンク召喚”を宣言します。やり方はアドバンス召喚と似ているので、シンクロ召喚やエクシーズ召喚よりは楽だと思います。素材として使用するモンスターを墓地に送るだけなので。その後に墓地に送ったモンスターをリンク素材とするリンクモンスターをエクストラデッキから取り出し、エクストラモンスターゾーンに表側攻撃表示でリンク召喚します。これでリンク召喚が完了となります」

 

「注意するのは、リンクモンスターをリンク召喚した時は必ずエクストラモンスターゾーンに出す事と、リンクモンスターは守備表示が存在しないので必ず表側攻撃表示でフィールドに出す事の2つです」

 

「続いてペンデュラム召喚なんですが、儀式・融合・シンクロ・エクシーズ・リンク召喚は条件さえ満たせば1ターンに何度でも出来ますが、ペンデュラム召喚は1ターンに1度しか出来ません。ペンデュラム召喚を行うのに必要なのは、ペンデュラムスケールの数字が異なるモンスターです。それらを2体以上入れましょう。自分のメインフェイズに、手札から自分の左右両端の魔法・罠ゾーンに、それぞれスケールの違うペンデュラムモンスターを置きます。ペンデュラム召喚しないデッキでも、手札から置く事で魔法カードとして発動する事も出来ます。発動した後はカードの効果で破壊されたり、手札に戻される等の事がない限り、ペンデュラムモンスターは魔法・罠ゾーンに残り続けます。例えば汎用カードで言うと……《解放のアリアドネ》でしょうか」

 

 

《解放のアリアドネ》

ペンデュラム・効果モンスター

レベル4/光属性/天使族

ATK/1700 DEF/800

【Pスケール:青3/赤3】

(1):このカードがPゾーンに存在する限り、以下の効果を適用する。

●自分はカウンター罠カードを発動するために払うLPが必要なくなる。

●自分はカウンター罠カードを発動するために捨てる手札が必要なくなる。

【モンスター効果】

(1):このカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。

デッキからカウンター罠カード3枚を相手に見せ、相手はその中から1枚選ぶ。

そのカード1枚を自分の手札に加え、残りをデッキに戻す。

 

 

「《アリアドネ》のペンデュラム効果なんですが、簡単に言うとカウンター罠を発動するのに必要なコストが不要になります。有名な所で言えば、《神の宣告》・《神の警告》・《神の通告》の3枚でしょうか。この3枚は強力で、汎用カウンター罠カードの代表格と言えます。皆さんの作ったデッキにも恐らく入っていると思います」

 

「ただこの3枚は発動するのにライフポイントをコストとして払わないといけません。《神の宣告》だったら半分、《神の警告》は2000ポイント、《神の通告》は1500ポイント払わないといけません。ライフコストは軽いようで重いです。それを踏み倒せる《アリアドネ》はカウンター罠を多用するデッキに入れても良いと思います」

 

 《解放のアリアドネ》は【パーミッション】や【罠ビート】デッキのように、カウンター罠カードを使うデッキに採用される事が多いモンスターカードだ。

 自分のライフポイントをなるべく高く維持したり、手札コストを踏み倒して手札をキープする為に使われる事が多い。また、本来であれば使えない状態のカウンター罠カードを使いたいときにも使える状態にする事が出来る為、中々に使い勝手が良い。

 

「話が逸れたので元に戻します。ペンデュラム召喚の説明でしたね。2体のペンデュラムモンスターをペンデュラムゾーンに置いたら、自分のメインフェイズに“ペンデュラム召喚”を宣言します。左右のペンデュラムゾーンに置かれたモンスターのペンデュラムスケールの数字の間のレベルを持つモンスターを手札から好きなだけ……正確に言うと、自分の空いているモンスターゾーンの数まで特殊召喚する事が出来ます。これでペンデュラム召喚は完了です」

 

「では純一君にリンク召喚とペンデュラム召喚を実演してもらいましょう。先ずはリンク召喚からお願いします」

 

「はい。僕は《レッド・ガジェット》と《ゴールド・ガジェット》でリンク召喚を行う! 召喚条件は機械族モンスター2体! 現れろ、LINK-2! 《クリフォート・ゲニウス》!」

 

「続いてペンデュラム召喚をお願いします」

 

「僕は《星読みの魔術師》と《時読みの魔術師》をペンデュラムスケールにセッティング! これでレベル2からレベル7までのモンスターを同時に召喚可能! 現れろ、我がモンスター達! ってな感じで手札から《グリーン・ガジェット》と《イエロー・ガジェット》、エクストラデッキから《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》をペンデュラム召喚します」

 

「はい、ありがとうございました! ではここでリンクモンスターとペンデュラムモンスターの補足説明をさせて下さい。先ずリンクモンスターですが、先程も説明した通り、守備力がありません。それにレベルやランクがありません」

 

 リンク召喚とペンデュラム召喚の説明とやり方を終えると、補足説明に入った。この補足説明にはとても大事な事がある為、女子生徒達はしっかりと聞いてノートに記している。

 

「レベルやランクがないと言う事は儀式召喚のリリースに使えないですし、シンクロ召喚・エクシーズ召喚の素材に一切使用出来ません。それに守備力が無いと言う事は表側・裏側問わず守備表示に出来ませんし、表示形式を変更する効果を持つカードでリンクモンスターを対象にする事も出来ません」

 

「次にペンデュラムモンスターです。戦闘やカードの効果で破壊されたモンスターは普通であれば墓地に送られますが、ペンデュラムモンスターは例外です。ペンデュラムモンスターはフィールドで破壊された場合、墓地には行かずにエクストラデッキゾーンに表向きで置かれます。もしそれが相手ターンに破壊されて次に自分のターンでペンデュラム召喚を行う時、エクストラデッキゾーンに表向きにペンデュラムモンスターが表向きで置かれていると言う状況があるとします。そうなった場合、そのペンデュラムモンスターもペンデュラム召喚する事が出来ます」

 

「しかし、ここで注意事項があります。エクストラデッキからペンデュラムモンスターをペンデュラム召喚する場合、手札からペンデュラム召喚されるモンスターとは違い、エクストラモンスターゾーンに特殊召喚されます。ただ、自分フィールドのエクストラモンスターゾーンにリンクモンスターがいると、エクストラモンスターゾーンだけではなく、リンクモンスターのリンクマーカーが指し示す先のメインモンスターゾーンに特殊召喚する事が出来ます。なのでペンデュラム召喚からモンスターを大量展開したいとなると、どうしてもリンクモンスターが必要不可欠になってしまいます。そこに注意しましょう」

 

「……おっと、授業はここまでです。次回はクラス対抗戦前最後の授業となります。実際のデュエルの進め方を一緒に勉強していきます。教材なんですが、純一君と私が次の授業までにデュエルをします。それを撮影した物を皆さんと一緒に観ながら、解説していこうと思います」

 

 次の『遊戯王OCG』の授業。学年別クラス対抗デュエルトーナメント開催まで残り3日となる為、大会実施前最後の授業となる。

 そこで実際のデュエルの進め方を純一と俊介が対戦した様子を撮影し、それを皆で観ながら随時解説していくスタイルとなった。

 それを聞いた5組の女子生徒とナターシャは目を輝かせる。トーナメントプレーヤーであり、5組最強の純一のデュエルがまた観れる。その事実に喜ぶと共に興奮していた。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・ペンデュラム召喚とリンク召喚

 けっこう好き嫌い激しそうな召喚方法ですが、私は好きです。でもペンデュラム召喚がやりにくくなったのはなぁ……(【クリフォート】使い)

・女尊男卑について

 原作では全然と言って良い程触れられていませんが、中にはこのように横暴な振る舞いをやっている人もいると思います。
 と言うか原作は一夏とその周辺にスポットが置かれ過ぎている気が……(それを言っちゃおしまいだけど)

次回なんですが、この小説のオリキャラが登場して純一君とデュエルします。


・次回予告

 クラス対抗戦まで残り2日。デッキ調整等に勤しむ生徒達。
そんな中一人休んでいた純一の前に一人の少年が姿を現す。
彼の名前は平等院零児。
友希那の指令で純一の実力を調べに来たと言う彼は、眼鏡を外せば髪型以外は織斑一夏とそっくりな人物だった。
零児と純一の間で繰り広げられるデュエル。果たしてその勝者は?

次回 平等院財閥からの刺客!? 【Kozmo】VS【Sin】

デュエルスタンバイ!

次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

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TURN14 平等院財閥からの刺客!? 【Kozmo】VS【Sin】★

久し振りのデュエル描写になります。
『遊戯王』の小説なのにデュエルをしないとはこれ如何に……でもここからデュエル描写増えますのでご勘弁を(汗)今回は実際のデュエルの進め方も記しています。

では海外発のテーマ【Kozmo】と、ここ最近新規カードが来て強化されている【Sin】の対戦をお楽しみ下さい!

※次回は今回使用した【Kozmo】と【Sin】のデッキレシピ・回し方・強化案等を投稿します。


 IS委員会主催の学年別クラス対抗デュエルトーナメント開催まで残り2日。この日は土曜日であり、月曜日から開催される大会に向けて準備をしている生徒達で『カードターミナル』IS学園店は賑わっていた。

 1年5組は前日に『実際のデュエルの進め方』と言うお題で授業を行い、クラス対抗戦までにやるべき授業を全て消化した。これまでにモンスター・魔法・罠カードを勉強し、様々な召喚方法を教わった。その集大成がその授業だった。

 これまでは今まで教科書に基づいて教えていたが、今回は純一と俊介が『カードターミナル』IS学園店で行ったガチ対戦のフリーデュエルを教材として、適宜解説しながら進行していく形だった。

 しかし、今回は教科書を使わず、フリーデュエルの映像を一緒に観ながらデュエルの進め方だったり、カードの効果や駆け引きの様子を解説していくスタイルだった。

 手加減や遊びを排除したガチ勝負。5組が誇る最強兵器であり、クラス副代表兼参謀の純一。そのデュエルの様子を見ながら勉強出来るだけではなく、彼の実力を見る事も出来る。ナターシャだけでなく、女子生徒達は目をキラキラと輝かせながら映像に釘付けとなったのは言うまでもない。

 本来であれば純一とナタリアの実演を予定していたが、純一の練習不足もあり、1年以上のブランクを埋めるべく。彼に本来の実力を取り戻させようと、俊介自らが相手になる事を買って出た。

 授業は大盛り上がりの間に終了した。ちなみに俊介は5組の監督として参加する事となっている。大会がある日は1時間目の授業がある。出場メンバーはデッキ調整を行い、そうでない生徒達は自主学習を行う事となっている。

 そんな土曜日の昼下がり。純一は食後の一服とは行かないが、昼食を食べた後に缶コーヒーを飲んで一休みしていた。この日はフリーデュエルで勘を戻しながら、女子生徒達の質問に答えると言う忙しさに追われていた。

 

「黒田純一君だな?」

 

「如何にも。貴方は?」

 

「俺は平等院零児。友希那義姉さんの指令の下、貴方の実力を試しに来た」

 

 寮の裏手にあるベンチに座っている純一が缶コーヒーを飲み終えた時、彼の目の前に一人の男性が現れた。黒縁眼鏡をかけ、短い黒髪をウニのように立たせた平等院零児。

 目を鋭く細めながら戦気を飛ばす零児と、飲み終えた缶コーヒーの缶をゴミ箱に投げ入れて立ち上がる純一。彼らは獲物を見つけたと言わんばかりの猛禽類にも似た笑みを浮かべている。

 

「成る程……そっちに転入する為の試験みたいな物か。んで一つ聞きたいんだが……どうして君は一夏とそっくりさんなんだ? 生き別れの弟? でも一夏は千冬さん以外に家族はいないと言っていたな……」

 

「知りたいか? 例え一夏の秘密を知ったとしても構わないのか?」

 

「当たり前だろ。例え一夏の正体が何だったとしても、僕は親友を裏切らないし見捨てない」

 

「それなら大丈夫そうだな。俺に勝てたら教えてやるよ」

 

「面白い。満足させてくれよ?」

 

 純一と零児はお互いにデュエルディスクを展開させると、お互いにデッキを取り出してシャッフルしていく。その後はデュエルディスクのデッキ差し込み口に入れると、自動でシャッフルされる。そういう仕様になっている。

 ちなみに現実で行われている対戦だと、先ずは先ずはお互いのデッキをカット&シャッフルする所から始まる。自分のデッキをシャッフルした後、相手に渡してカット&シャッフルしてもらう。自分も相手のデッキを受け取ったらカット&シャッフルをしよう。

 作者個人は最初はディールシャッフルを行う。カードをいくつかの山を作るように分け、その後で山をランダムに重ねる。その後にファローシャッフルを行う。ファローシャッフルのやり方はデッキを2つの束に分け、片方の束を下に置き、カードとカードの間に隙間を作るように持ち、束を落とし込むように入れる事がポイント。

 この時、下の束の角を目安に上の束の隙間に差し込むようにすると、よりカードが混ざりやすくなって不正行為も起きにくくなる。推奨なのはファローシャッフルとヒンズーシャッフル等、複数種類のシャッフルを行う事。

 

「先攻は譲るよ。君のプレイングとタクティクスを見たいからな」

 

「そこまでじゃないよ。でもご期待に応えられるように頑張るよ」

 

「行くぞ! せ~の!」

 

『デュエル!』

 

 相手にカットしてもらったデッキはデッキゾーンに、エクストラデッキはエクストラデッキゾーンに置く。エクストラデッキはカット&シャッフルは不要。

 その後は先攻・後攻を決めるじゃんけんをして、じゃんけんに勝った方が先攻・後攻を決める事が出来る。

 デュエルディスクには自動でじゃんけんをする機能が搭載されており、じゃんけんに勝った零児が先攻を純一に譲った。このデュエルは純一が先攻で、零児が後攻となった。

 そしてデッキの一番上からカードを5枚引いて右手に握る。手に持っているカードを“手札”と呼ぶ。手札を手にしたらデュエル開始となる。

 

 

 

・1ターン目

 

 『遊戯王OCG』では自分のターンと相手ターンを交互に繰り返し、デュエルを進めていく。お互いのターンでやる事はフェイズに分かれる。

 ドローフェイズ。スタンバイフェイズ。メインフェイズ1。バトルフェイズ。メインフェイズ2。エンドフェイズ。エンドフェイズで自分のターンが終了し、相手ターンになってドローフェイズから進めていく。これの繰り返しだ。

 

「僕の先攻! 先攻ドローは出来ない為、ドローフェイズをスキップ! スタンバイフェイズ。メインフェイズに入る!」

 

 先ずドローフェイズから入る。デッキの一番上からカードを1枚引く事が出来ます。しかし、先攻1ターン目はドローが出来ない。

 続いてスタンバイフェイズ。フィールド上に“スタンバイフェイズに~する”と書かれているカードがある場合、そのカードの処理を行う。発動するカードが無ければスキップし、メインフェイズに入る。

 

「《テラ・フォーミング》を発動! デッキからフィールド魔法1枚を手札に加える!」

 

(フィールド魔法を主軸にしたデッキか……どんなデッキだ?)

 

 魔法カードは手札から魔法・罠ゾーンに置いて発動する。《テラ・フォーミング》はフィールド魔法をサーチする魔法カードで、今は制限カードに指定されている。

 と言うのも、9期に入ってからフィールド魔法が軸になるデッキが増えると共に、強力なフィールド魔法が世に出た為、それをサーチ出来るカードが規制されてしまった。

 

 

《テラ・フォーミング》

通常魔法(制限カード)

(1):デッキからフィールド魔法カード1枚を手札に加える。

 

 

「デッキから《Kozmo-エメラルドポリス》を手札に加え、そのまま発動!」

 

 純一が《Kozmo-エメラルドポリス》の発動を宣言すると、辺り一面の景色がまるで近未来の都市のような風景に塗り替えられた。

 天を貫かんばかりに聳え立つ高層ビルの摩天楼。宙を浮きながら移動する乗り物達。純一のみならず、零児も魅了される。

 

「【Kozmo】デッキだと!? まさか元環境デッキを使うなんて……」

 

「その通り。このデッキはな、僕が大会に出てた時に何度も対戦した因縁のあるデッキだ。優勝を阻まれた時もあったし、逆に優勝を阻止した時もあった……このデッキは環境入りしていた時期もあった良テーマデッキなんだ。僕はこのデッキを束博士から勧められた……束博士の為にも負ける訳には行かない!」

 

「束博士から!? そいつはすげぇな……話には聞いていたけど、やはりトーナメントプレーヤーだけある……ならその力を俺に見せてみろ!」

 

「応よ! 続けて《闇の誘惑》を発動!」

 

 

《闇の誘惑》

通常魔法(準制限カード)

(1):自分はデッキから2枚ドローし、その後手札の闇属性モンスター1体を除外する。

手札に闇属性モンスターが無い場合、手札を全て墓地へ送る。

 

 

「デッキから2枚ドローした後、手札の闇属性モンスター1体を除外する! 僕が除外するのは《Kozmo-ダークシミター》!」

 

 《闇の誘惑》は闇属性モンスターが入っているデッキ専用の手札交換カード。闇属性モンスターしかいないデッキでなくても、ある程度闇属性モンスターの多いデッキや、汎用性の高い闇属性モンスターを投入したデッキでも十分採用できる。とにかく闇属性モンスターを多く採用していれば、投入する事も視野に入れても良い。

 更に言えば、除外された場合に発動する効果を持つカード等と組み合わせると、より強力なシナジーを生み出す。このカードは手札交換カードの中でも汎用性が高くて 強力である事と環境デッキで多く使用されている事の2点より、今の制限改訂ではデッキに2枚しか入れられない準制限カードになっている。

 

「更に《Kozmo-エメラルドポリス》の効果を発動! 除外されている《Kozmo》モンスター1体を手札に戻し、そのモンスターのレベル分だけ100ライフポイントを失う。レベル8の《Kozmo-ダークシミター》を手札に戻し、800ライフポイントを失う!」

 

 フィールド魔法は自分のフィールドゾーンに置いて発動する魔法カードの1つ。破壊されたり、除外されたり、手札に戻らない限りは、発動した後もフィールドに残り続ける。自分の古いフィールド魔法を墓地へ送って、新しいフィールド魔法を発動する事も出来る。  

 《Kozmo-エメラルドポリス》。【Kozmo】デッキの回転力と継戦能力を支えるメインエンジン。潤滑油としての働きを期待されている。

 

 

《Kozmo-エメラルドポリス》

フィールド魔法

(1):1ターンに1度、除外されている自分の《Kozmo》モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを手札に戻し、自分はそのモンスターの元々のレベル×100LPを失う。

(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。

手札の《Kozmo》モンスターを任意の数だけ相手に見せ、デッキに戻してシャッフルする。その後、自分はデッキに戻した数だけデッキからドローする。

(3):フィールドゾーンのこのカードが効果で破壊された場合に発動できる。

デッキから《Kozmo》カード1枚を手札に加える。

 

 

「そして《Kozmo-フェルブラン》を通常召喚!」

 

 純一のフィールドに姿を現したのは、ブリキで出来たロボットの見た目をしたモンスター。《Kozmo-フェルブラン》。不確定要素があるが、優秀なサーチ要員兼墓地肥やし要員。

 モンスターカードには2種類ある。効果を持たない通常モンスターと、効果を持つ効果モンスター。手札からモンスターをメインモンスターゾーンに置いて召喚する事を通常召喚と言う。

 モンスターの表示形式は表側攻撃表示、表側守備表示、裏側守備表示の3つがあるが、通常召喚で出せるのは表側攻撃表示と裏側守備表示の2つだけ。表側攻撃表示で出す時は“召喚”、裏側守備表示で出す時は“セット”。通常召喚は1ターンに1度しか出来ない。

 モンスターには攻撃力と守備力があるが、攻撃力が高い方を召喚して、守備力が高い方をセットした方が良い。

 

 

《Kozmo-フェルブラン》

効果モンスター

レベル1/光属性/サイキック族

ATK/0 DEF/0

《Kozmo-フェルブラン》の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードを除外して発動できる。

手札からレベル2以上の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚する。

この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):自分・相手のエンドフェイズに500LPを払って発動できる。

デッキから《Kozmo》カード3種類を相手に見せ、相手はその中からランダムに1枚選ぶ。そのカード1枚を自分の手札に加え、残りは墓地へ送る。

 

 

「カードを1枚セットしてエンドフェイズに移り、《Kozmo-フェルブラン》のモンスター効果を発動する! 500ライフポイントを払い、デッキから《Kozmo》カード3種類を相手に見せ、相手はその中から1枚選ぶ。選んだ1枚を手札に加え、残りの2枚は墓地に送る!」

 

 メインフェイズが終わった後はバトルフェイズを行うが、先攻1ターン目はバトルフェイズを行えない。その為、メインフェイズが終わったらエンドフェイズに移る。

 エンドフェイズでは“エンドフェイズに~~~発動する”と記されたカードの効果処理を行う。もしやる事が無ければ、ターンエンドを宣言する。エンドフェイズでは手札が7枚以上あったら、6枚になるように捨てる事も忘れてはいけない。

 

「僕が選ぶのは《スリップライダー》、《ダーク・エルファイバー》、《ダークシミター》の3枚。よく混ぜて……と。さぁこの中から選んでもらおう」

 

「どれ選んでも嫌な予感しかしないんだよな……」

 

「当たり前だろ。相手のデッキが何なのか分からない以上、状況とデッキに合わせて手札を整える。それがデュエルって奴だ!」

 

「何だろう……すげぇ言葉に重みがある」

 

 《Kozmo-フェルブラン》が映像で見せた3種類のモンスターカード。1枚はX字の翼をした戦闘機。もう1枚は顔に漆黒の仮面を付けた魔女。もう1枚は剣の形をした宇宙船。

 どれを選んでも自分にとって嫌な展開になりそうな予感しかしない。そう感じて口にする零児と、己のデュエル理論を口にする純一。純一の言葉にはトーナメントプレーヤーならではの重みがあった。

 

「え~と……俺は真ん中のカードを選ぶ!」

 

「真ん中だな? 真ん中は……《スリップライダー》か。まぁ良いだろう。《ダーク・エルファイバー》と《ダークシミター》は墓地に送られる……ターンエンドだ」

 

 

 

黒田純一

LP:8000→6700

手札:4

フィールドゾーン:《Kozmo-エメラルドポリス》

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《Kozmo-フェルブラン》

魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

 

 

・2ターン目

 

 後攻の零児の1ターン目。後攻の1ターン目からドローを行う事が出来るし、バトルフェイズも行う事が出来る。

 

「俺のターン! ドローフェイズ、ドロー。スタンバイフェイズ。メインフェイズ! 俺は永続魔法、《Sin Territory》を発動する!」

 

「【Sin】デッキか……」

 

「その通り。俺と言う人間は罪深き存在……織斑一夏も、織斑千冬も同じだ」

 

「……どういう事だ?」

 

「いずれ分かる。俺に勝てたらの話だがな」

 

 零児が発動したのは永続魔法。魔法カードは使用した後は墓地に送られるが、永続魔法は発動後もフィールドに残り続け、その場から離れるまで効果を発揮し続ける魔法カード。

 1枚のカードで長時間の効果を期待できるのが魅力だが、フィールドから離れてしまうと効果を発揮できずに終わってしまう。

 純一は零児の言葉を聞いて訝しげに目を細めるが、零児は自信に満ちたような笑みを浮かべながらターンを進める。

 

 

《Sin Territory》

永続魔法

(1):このカードの発動時の効果処理として、デッキから《Sin World》1枚を発動できる。

この効果で発動したカードがフィールドゾーンに存在する限り、お互いにフィールドゾーンのカードを効果の対象にできない。

(2):《Sin》モンスターの持つ、《《Sin》モンスターはフィールドに1体しか表側表示で存在できない》効果は、《《Sin》モンスターは1種類につきフィールドに1体しか表側表示で存在できない》として適用される。

(3):バトルフェイズの間だけフィールドの《Sin》モンスターの効果は無効化される。

 

 

「《Sin Territory》の発動の効果処理として、デッキから《Sin World》1枚を発動する! そしてEXデッキの《スターダスト・ドラゴン》を除外し、《Sinスターダスト・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

 フィールド魔法を発動したことで、零児のフィールドは罪深き世界となった。その世界に舞い降りたのは1体のドラゴン。全身が純白だが、身体の所々が黒くなっている。雄叫びを上げたのは《Sinスターダスト・ドラゴン》。

 その音圧の凄さを身体で感じる純一だったが、恐怖や恐れはない。あるのは目の前にいるモンスターと相手に対する闘志だけ。例え相手がどんなに強力でも最後に勝つのは自分と言う圧倒的な自信。

 

 

《Sinスターダスト・ドラゴン》

特殊召喚・効果モンスター

レベル8/闇属性/ドラゴン族

ATK/2500 DEF/2000

このカードは通常召喚できない。

EXデッキから《スターダスト・ドラゴン》1体を除外した場合のみ特殊召喚できる。

(1):《Sin》モンスターはフィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、フィールドゾーンの表側表示のカードは効果では破壊されない。

(3):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、他の自分のモンスターは攻撃宣言できない。

(4):フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合にこのカードは破壊される。

 

 

「どんどん行くぞ! 更にEXデッキの《Sinパラドクス・ドラゴン》をゲームから除外し、 《Sinパラダイム・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

「!? な、何だそのモンスターは!? 初めて見るぞ!?」

 

 霊児のフィールドに現れたのは先日発売されたパック、『COLLECTION PACK 2020』に登場した新たなる《Sin》モンスター。

 黒と白の機械じみた翼を持ったドラゴン。《Sinパラダイム・ドラゴン》が罪深き世界で雄叫びを上げる。

 

 

《Sinパラダイム・ドラゴン》

特殊召喚・効果モンスター

レベル10/闇属性/ドラゴン族

ATK/4000 DEF/4000

このカードは通常召喚できない。

フィールドに《Sinパラダイム・ドラゴン》が存在しない場合に、EXデッキから《Sin》モンスター1体を除外した場合のみ特殊召喚できる。

(1):フィールドに《Sin World》が存在しない場合にこのカードは破壊される。

(2):1ターンに1度、デッキから《Sin》カード1枚を墓地へ送って発動できる。

除外されている自分のレベル8のSモンスター1体をEXデッキに戻す。

その後、そのモンスターをEXデッキから特殊召喚できる。

このターン、自分は《Sin》モンスターでしか攻撃できない。

 

 

「だろうな! このモンスターは先日発売された『COLLECTION PACK 2020』で収録された新たなる《Sin》モンスター! その強大な力を見せてやる!」

 

「ッ……! 来い!」

 

「《Sinパラダイム・ドラゴン》のモンスター効果を発動! デッキから《Sin》カード1枚を墓地へ送り、除外されている俺のレベル8のSモンスター1体をEXデッキに戻してから特殊召喚する! 俺はデッキから《Sinトゥルース・ドラゴン》を墓地に送り、《Sinスターダスト・ドラゴン》の召喚コストとして除外されていた《スターダスト・ドラゴン》を、EXデッキに戻してから特殊召喚! 飛翔せよ! 《スターダスト・ドラゴン》!」

 

「強い! な、何と言うインチキ効果持ちなんだ!?」

 

 零児のフィールドに純白に光り輝く美しきドラゴンが降臨した。《スターダスト・ドラゴン》。テレビアニメ『遊☆戯☆王5D's』の主人公・不動遊星のエースモンスター。

 これでレベル8モンスターが2体揃った。ランク8エクシーズモンスターをエクシーズ召喚する事が可能となった。IS環境でランク8エクシーズモンスターは軒並み使用禁止に追いやられたが、依然として強力な効果を持つランク8エクシーズモンスターはいる。

 

 

《スターダスト・ドラゴン》

シンクロ・効果モンスター

レベル8/風属性/ドラゴン族

ATK/2500 DEF/2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):フィールドのカードを破壊する魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースして発動できる。その発動を無効にし破壊する。

(2):このカードの(1)の効果を適用したターンのエンドフェイズに発動できる。

その効果を発動するためにリリースしたこのカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

「俺の場にはレベル8モンスターが2体いる……が! エクシーズ召喚はあえて行わない!」

 

「何だと? 《Sin》モンスターはモンスターゾーンに存在する限り1体しか出せないし、他の自分のモンスターは攻撃宣言できない筈では?」

 

「ふぅん。甘いな純一君。君はとても甘いよ。今までの《Sin》ならそうだった。だがしかし! 今の《Sin》モンスターは例え複数体展開する事も出来るようになり、バトルを行う事も出来るようになった! 何故なら俺のフィールドにある《Sin Territory》によって、《Sin》モンスターのデメリットは帳消しになっているからな!」

 

「どういう事だ!?」

 

「知らないようだな……なら教えよう! 《Sin》モンスターの共通効果として、“《Sin》モンスターはフィールドに1体しか表側表示で存在できない”と言う効果は、“《Sin》モンスターは1種類につきフィールドに1体しか表側表示で存在できない”と言う効果にすり替えられたからだ! 更にバトルフェイズの間は《Sin》モンスターの効果が無効となる! ただその間は《Sinスターダスト》の効果も無効になるから、フィールド魔法を破壊から守る効果は使えなくなるんだけどな……」

 

「何だと!? と言う事は今までの《Sin》のデメリットが帳消しになり、自慢の高火力でブイブイ言わせる事が出来るようになったのか!」

 

「その通り! 幾ら【Kozmo】が強力な効果を持つ元環境デッキと言えど、高火力の前では何も出来まい! 結局『遊戯王』はパワーが最後に物を言う!」

 

 従来の【Sin】は“《Sin》モンスターは自分フィールドに1体しか展開”出来ず、“自分の他のモンスターの攻撃が出来ない”と言う2つのデメリット効果を持っていた。

 しかし、《Sin Territory》の登場により、この2つのデメリット効果を改善すると共にデッキの強さを引き上げる事に成功した。

 

「バトルフェイズ! 《Sinパラダイム・ドラゴン》で《Kozmo-フェルブラン》に攻撃!」

 

「ならば攻撃宣言時、《Kozmo-フェルブラン》のモンスター効果を発動! フィールドのこのカードを除外し、手札からレベル2以上の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚する! 現れろ、《Kozmo-ダークシミター》!」

 

 後攻1ターン目からバトルフェイズが行える。自分モンスターで戦闘を行う事が出来るが、バトルを行えるのは表側攻撃表示のモンスターだけだ。中にはモンスター効果で表側守備表示のままバトルを行える効果を持つモンスターもいる。そしてモンスター1体につき1度まで攻撃が可能。中には複数回出来る効果持ちモンスターもいる。

 特殊召喚は通常召喚以外の方法でモンスターを召喚する召喚方法。条件を満たしていれば、1ターンに何度でも出来る。特殊召喚は表側攻撃表示と表側守備表示のどちらかの表示形式を取る事が可能。

 【Kozmo】はバトルフェイズ中に攻撃と特殊召喚を交互に行い、擬似的な連続攻撃を仕掛けるのが最大の特徴。サイキック族のモンスターは自分を除外して手札から自分よりレベルの高いモンスターを特殊召喚する事が出来る。そして機械族モンスターでフィールドを制圧しながら、ビートダウンを行っていく。

 

「《Kozmo-ダークシミター》のモンスター効果を発動! このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドのモンスター1体を破壊する!《Sinパラダイム・ドラゴン》を破壊!」

 

「クッ! 破壊効果持ちのモンスターだったとは……!」

 

 ブリキで出来たロボットの見た目をしたモンスターの姿が消えると、近未来的な都市の何処かから飛行音と共に一機の宇宙戦闘機が飛来してきた。その宇宙戦闘機の左翼部分に《Kozmo-フェルブラン》が収納されている。

 《Kozmo-ダークシミター》。白と灰色を基調としたカラーリングと、コクピット両側に取り付けられた主翼が特徴な“剣”を彷彿とさせる見た目をしている。

 そんな宇宙船の両翼に備えられたキャノン砲から放たれた2発の赤いレーザー。その強力な攻撃が《Sinパラダイム・ドラゴン》を破壊していった。

 

 

《Kozmo-ダークシミター》

効果モンスター

レベル8/闇属性/機械族

ATK/3000 DEF/1800

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。

(2):このカードは相手の効果の対象にならない。

(3):このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキからレベル7以下の《kozmo》モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「さぁバトルフェイズ中だがどうする? 君の《Sinスターダスト》と《スターダスト》の攻撃力は2500。対する《Kozmo-ダークシミター》の攻撃力は3000。突破出来るならやってみろ!」

 

「……仕方ない。バトルフェイズは終了してメインフェイズ2に移行する。俺はこのターン、まだ通常召喚をしていない!」

 

 バトルフェイズの後はメインフェイズ2に移る事が出来る。メインフェイズ1と同じく、モンスターを召喚したり、魔法カードを発動したり、罠カードをセットしたり出来る。

 このターン、零児はまだ通常召喚を行っていない為、手札からモンスターを通常召喚する事が可能だ。

 

「俺は 《Sinパラドクスギア》を召喚! フィールド魔法カードが表側表示で存在する場合、このカードをリリースして《Sinパラドクスギア》のモンスター効果を発動する! デッキから《Sin パラレルギア》を特殊召喚!」

 

 零児のフィールドに現れたのは頭部が四角い歯車の形をした機械のモンスター。そのモンスターが姿を消すと、今度は頭部が黄色くて丸い歯車の形をした機械のモンスターが姿を現した。

 《Sinパラドクスギア》。『20th ANNIVERSARY LEGEND COLLECTION』で登場した

【Sin】デッキの超強力な下級モンスター。

 このカード1枚で《Sinパラレルギア》によるレベル10・レベル12等のシンクロ召喚の準備を簡単に終える事ができる。

 

 

《Sinパラドクスギア》

効果モンスター

レベル1/闇属性/機械族

ATK/0 DEF/0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールド魔法カードが表側表示で存在する場合、このカードをリリースして発動できる。デッキから《Sin パラレルギア》1体を特殊召喚する。

その後、デッキから《Sin パラレルギア》以外の《Sin》モンスター1体を手札に加える。

(2):自分の手札の《Sin》モンスターを、自身の方法で特殊召喚するためにモンスターを除外する場合、そのモンスターの代わりにフィールド・墓地のこのカードを除外できる。

 

 

「そして、デッキから《Sinパラドクスギア》以外の《Sin》モンスター1体を手札に加える! 俺の手札は……成る程。それなら《Sin青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》を手札に加える!」

 

「《Sinサイバー・エンド》じゃなくて良いのか?」

 

「《Sin Territory》の効果で耐性を得た《Sin World》でサーチ出来るからご心配なく。そして《Sinパラレルギア》はチューナーモンスターであり、このカードをS素材とする場合、他のS素材モンスターは手札の《Sin》モンスター1体でなければならない! この意味が分かるか?」

 

「ハッ! ま、まさか手札シンクロをすると言う事か!?」

 

 

《Sinパラレルギア》

チューナー・効果モンスター

レベル2/闇属性/機械族

ATK/0 DEF/0

このカードをS素材とする場合、他のS素材モンスターは手札の《Sin》モンスター1体でなければならない。

 

 

「その通り! 俺は手札のレベル8、《Sin青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》に、レベル2チューナー、《Sinパラレルギア》をチューニング! シンクロ召喚! 現れろ、レベル10!《神樹の守護獣-牙王》!」

 

 零児のフィールドに百獣の王、ライオンに似た強力なシンクロモンスターが降臨した。《神樹の守護獣-牙王》。汎用レベル10シンクロモンスターであり、効果破壊耐性と高火力を有している強力なモンスター。

 

 

《神樹の守護獣-牙王》

シンクロ・効果モンスター

レベル10/地属性/獣族

ATK/3100 DEF/1900

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードは、自分のメインフェイズ2以外では相手のカードの効果の対象にならない。

 

 

「やはりか……是非もないな」

 

「《神樹の守護獣-牙王》は効果対象にならない攻撃力3100のモンスター。そう簡単には突破は出来まい……俺はこれでターンエンドだ」

 

 

黒田純一

LP:8000→6700

手札:4

フィールドゾーン:《Kozmo-エメラルドポリス》

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《Kozmo-ダークシミター》

魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

 

平等院零児

LP:8000

手札:2

フィールドゾーン:《Sin World》

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《神樹の守護獣-牙王》、《Sinスターダスト・ドラゴン》、《スターダスト・ドラゴン》

魔法・罠ゾーン:《Sin Territory》

 

 

 

・3ターン目

 

「僕のターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイフェイズ。メインフェイズ! 《Kozmo-エメラルドポリス》の効果発動! 手札の《Kozmo》モンスターを任意の数だけ相手に見せ、デッキに戻してシャッフルしてからデッキに戻した枚数だけドロー出来る!」

 

「手札交換か……良いだろう!」

 

「僕は手札の《Kozmo-ランドウォーカー》と《Kozmo-フォルミート》をデッキに戻し、2枚ドローする!……良し、これなら行ける! 先ずは《Kozmo-グリンドル》を通常召喚してモンスター効果を発動する! 500ライフポイントを払い、相手フィールドの表側表示モンスター1体を裏側守備表示にする! 《スターダスト・ドラゴン》を対象にし、モンスター効果の発動を阻止させてもらおう!」

 

「チッ! 効果モンスターは表側表示しか効果を発動出来ない……考えたな!」

 

 純一のフィールドに現れた女戦士は《Kozmo-グリンドル》。緑色の肌に尖った耳を持ち、白い着物のような服の上に茶色の外套を羽織り、右手に緑色の光刃を放つ剣を持っている。

 《Kozmo-グリンドル》が《スターダスト・ドラゴン》に向けて手をかざすと、《Kozmo-グリンドル》の手から不可視のエネルギーが放たれ、《スターダスト・ドラゴン》を消滅させた。

 

 

《Kozmo-グリンドル》

効果モンスター

レベル4/光属性/サイキック族

ATK/1800 DEF/1000

《Kozmo-グリンドル》の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードを除外して発動できる。

手札からレベル5以上の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚する。

この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):1ターンに1度、500LPを払い、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを裏側守備表示にする。

 

 

「続けてリバースカードオープン! 永続罠、《リビングデッドの呼び声》を発動! 僕の墓地にいる2枚目の《ダークシミター》を攻撃表示で特殊召喚! そしてモンスター効果で裏側守備表示になっている《スターダスト・ドラゴン》を破壊!」

 

「クッ! 済まない、《スターダスト・ドラゴン》……!」

 

 罠カードは魔法・罠ゾーンに一度裏向きで置く、セットをしなければ発動する事が出来ない。つまりセットしたターンには発動する事が出来ない。しかし、相手ターンに発動する事が出来るので、罠カードで相手の行動を妨害したりしよう。

 魔法カードと罠カードの違いだが、魔法カードは手札からそのまま発動する事が出来る。もちろんセットしてから発動する事も出来る。ただ速攻魔法以外は自分のメインフェイズにしか発動する事が出来ない。罠カードはその逆で、自分のメインフェイズにセットしてからでないと発動出来ないが、相手ターンにも発動出来るのが強みだ。

 

 

《リビングデッドの呼び声》

永続罠

(1):自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。

そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。

このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。

そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。

 

 

「そして僕はレベル8モンスター、《Kozmo-ダークシミター》2体でオーバーレイ! 2体のレベル8モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、《No.90銀河眼の光子卿(ギャラクシーアイズ・フォトン・ロード)》!」

 

 2機の《Kozmo-ダークシミター》が紫色の光に変わると、地面に吸い込まれていくと共に、純一のフィールドの中央に巨大な渦が巻き起こる。

 その渦に2つの紫色の光が飛び込んで中から漆黒の闇が広がっていくと、そこには右手に光槍を、左手に楯を携えた一人の戦士が立っていた。

 

「更に《No.90銀河眼の光子卿(ギャラクシーアイズ・フォトン・ロード)》でオーバーレイ・ネットワークを再構築! ランクアップ! エクシーズチェンジ! 現れろ、ランク9!《|銀河眼の光波刃竜《ギャラクシーアイズ・サイファー・ブレード・ドラゴン》》!」

 

 純一のフィールドの中央に巨大な渦が再び巻き起こると、《No.90銀河眼の光子卿(ギャラクシーアイズ・フォトン・ロード)》が黄色い光に変わり、巨大な渦の中に飛び込んでいった。

 その中から漆黒の闇が広がり、両腕に鋭い刃を携えた1体のドラゴンが降臨する。その名前は《|銀河眼の光波刃竜《ギャラクシーアイズ・サイファー・ブレード・ドラゴン》》。

 

「攻撃力3200……! 《牙王》の攻撃力を上回った!」

 

「X素材を1つ取り除き、《|銀河眼の光波刃竜《ギャラクシーアイズ・サイファー・ブレード・ドラゴン》》のモンスター効果を発動! フィールドのカード1枚を破壊する! 消え去れ、《Sinスターダスト・ドラゴン》!」

 

 《|銀河眼の光波刃竜《ギャラクシーアイズ・サイファー・ブレード・ドラゴン》》が刃を振るい、放たれた斬撃で破壊されていく《Sinスターダスト・ドラゴン》。

 

 

《|銀河眼の光波刃竜《ギャラクシーアイズ・サイファー・ブレード・ドラゴン》》

エクシーズ・効果モンスター

ランク9/光属性/ドラゴン族

ATK/3200 DEF/2800

レベル9モンスター×3

このカードは自分フィールドのランク8の《ギャラクシーアイズ》Xモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。このカードはX召喚の素材にできない。

(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除き、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

(2):X召喚したこのカードが相手モンスターの攻撃または相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合、自分の墓地の《銀河眼の光波竜》1体を対象として発動できる。

そのモンスターを特殊召喚する。

 

 

「《Sinスターダスト》まで……だが! この瞬間、墓地の《Sinトゥルース・ドラゴン》の特殊召喚条件を満たした! このカード以外の自分フィールドの表側表示の《Sin》モンスターが戦闘・効果破壊された場合、LPを半分払ってこのカードを手札・墓地から特殊召喚する! 現れろ、《Sinトゥルース・ドラゴン》!」

 

「やはり来たか……攻撃力5000で相手の場を一掃出来る、恐ろしい効果持ちの《Sin》モンスター!」

 

 しかし、この行いが零児の墓地にいる罪深きドラゴンの怒りを呼び覚ましてしまった。現れたのは巨大な黄金のドラゴン。

 《Sinトゥルース・ドラゴン》。自分と同じ罪深きモンスターの破壊をトリガーに特賞召喚出来、戦闘で相手モンスターを破壊すると、相手フィールドのモンスターを全滅させる攻撃力5000の恐るべきモンスター。

 

 

《Sinトゥルース・ドラゴン》

特殊召喚・効果モンスター

レベル12/闇属性/ドラゴン族

ATK/5000 DEF/5000

このカードは通常召喚できず、このカードの効果でのみ特殊召喚できる。

(1):《Sinトゥルース・ドラゴン》以外の自分フィールドの表側表示の《Sin》モンスターが戦闘・効果で破壊された場合、LPを半分払って発動できる。

このカードを手札・墓地から特殊召喚する。

(2):《Sin》モンスターはフィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(3):フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合にこのカードは破壊される。

(4):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動する。

相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する。

 

 

「だがやれる事はやっておこう!《Kozmo-グリンドル》のモンスター効果発動! フィールドのこのカードを除外し、手札からレベル5以上の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚する! 現れろ、《Kozmo-スリップライダー》!」

 

「何だと!?」

 

「更に《Kozmo-スリップライダー》のモンスター効果発動! このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドの魔法・罠カード1枚を破壊出来る! 破壊するのは《Sin Territory》しかない!」

 

 《Kozmo-グリンドル》の隣に降り立ったのはX字の翼が特徴的な小型の宇宙戦闘機だった。カラーリングは赤色と白色を基調にしている。

 彼女は宇宙戦闘機に乗ると、近未来的な摩天楼な並び立つ都市を飛び回り、レーザー砲で実体化している《Sin Territory》のカードを破壊した。

 

 

《Kozmo-スリップライダー》

効果モンスター

レベル5/光属性/機械族/攻2300/守 800

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

(2):このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキからレベル4以下の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「バトルフェイズ! 《|銀河眼の光波刃竜《ギャラクシーアイズ・サイファー・ブレード・ドラゴン》》で、《神樹の守護獣-牙王》を攻撃!」

 

「《牙王》は破壊される!」

 

 バトルフェイズでモンスター同士の戦闘が発生する場合、モンスターの表示形式によってその結果が変わってくる。

 攻撃力3200の《|銀河眼の光波刃竜《ギャラクシーアイズ・サイファー・ブレード・ドラゴン》》と、攻撃力3100の《神樹の守護獣-牙王》のバトルでは、攻撃力の高い《|銀河眼の光波刃竜《ギャラクシーアイズ・サイファー・ブレード・ドラゴン》》がバトルに勝利する。

 そして戦闘破壊されたモンスターは墓地に送られ、攻撃力の差分のダメージを《神樹の守護獣-牙王》のコントローラーが受ける事になる。

 もしお互いに攻撃力が同じモンスターでバトルを行った場合、お互いのモンスターは戦闘破壊されるが、戦闘ダメージは発生しない。

 裏側守備表示のモンスターに攻撃した場合、裏側守備表示モンスターを表側にして守備力を確認する。守備力を攻撃力が上回っていれば戦闘破壊する事が出来るが、戦闘ダメージを相手に与える事は出来ない。ただし、“このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、

 その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える“とテキストに記されたモンスターが攻撃した場合は、貫通ダメージを与える事となる。

 守備力が攻撃力を上回っていた場合、守備力の差分となる反射ダメージを受ける事となるが、お互いに戦闘破壊される事はない。守備力と攻撃力が同じだった場合、お互いに戦闘破壊される事もなく、戦闘ダメージを受ける事もない。

 相手フィールドにモンスターがいない場合、相手プレーヤーは攻撃したモンスターの攻撃力分のダメージを受ける事になる。これを直接攻撃、或いはダイレクトアタックと言う。

 

「メインフェイズ2。カードを2枚セットしてターンエンド!」

 

 

 

黒田純一

LP:8000→6700→6200

手札:2

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《Kozmo-スリップライダー》、《|銀河眼の光波刃竜《ギャラクシーアイズ・サイファー・ブレード・ドラゴン》

魔法・罠ゾーン:セットカード×2

 

 

平等院零児

LP:8000→3900

手札:2

フィールドゾーン:《Sin World》

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《Sinトゥルース・ドラゴン》

魔法・罠ゾーン:なし

 

 

 

・4ターン目

 

「俺のターン! ドローフェイズ。《Sin World》の効果発動! デッキから《Sin》カード3枚を相手に見せ、相手はその中からランダムに1枚を選ぶ。そのカード1枚を自分の手札に加え、残りのカードはデッキに戻す。……さぁ3枚の《Sin Selector》の中から選ぶが良い!」

 

「確定サーチじゃねぇか! 《Sin Selector》以外選択肢がない! 好きな奴選べ!」

 

 

《Sin World》

フィールド魔法

(1):自分ドローフェイズに通常のドローを行う代わりに発動できる。

デッキから《Sin》カード3枚を相手に見せ、相手はその中からランダムに1枚を選ぶ。

そのカード1枚を自分の手札に加え、残りのカードはデッキに戻す。

 

 

「俺は真ん中の《Sin Selector》を手札に加え、そのまま発動する。墓地から《Sin》カード2枚を除外し、除外したカードとカード名が異なり、このカード以外の《Sin》カード2枚をデッキから手札に加える! 俺は墓地の《Sin青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)》と《Sinパラレルギア》を除外し、《Sin Territory》と《Sinパラドクスギア》を手札に加える!」

 

「また大型シンクロを狙うつもりだな……」

 

 

《Sin Selector》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分の墓地から《Sin》カード2枚を除外して発動できる。

除外したカードとカード名が異なる《Sin Selector》以外の《Sin》カード2枚をデッキから手札に加える(同名カードは1枚まで)。

 

 

「続いて《Sin Territory》を発動! そして《Sinパラドクスギア》を通常召喚してモンスター効果発動!デッキから《Sin パラレルギア》1体を特殊召喚! その後にデッキから《Sin パラレルギア》以外の《Sin》モンスター1体、《Sinスターダスト・ドラゴン》を手札に加える!」

 

「レベル10かレベル12シンクロが可能に……!」

 

「行くぞ! 俺は手札のレベル8モンスター、《Sinスターダスト・ドラゴン》にレベル2チューナー、《Sin パラレルギア》をチューニング! 次元の裂け目から生まれし闇よ、時を越えた舞台に破滅の幕を引け!シンクロ召喚!《Sinパラドクス・ドラゴン》!」

 

 零児のフィールドに現れたのは白色と黒色を基調とした強大なドラゴン。《Sinパラドクス・ドラゴン》は高火力だが、シンクロ召喚成功時に自分・相手の墓地のSモンスター1体を特殊召喚可能と言う恐ろしい効果を持っている。

 レベル8・レベル10シンクロモンスターを蘇生する事が出来れば、ランク8・ランク10エクシーズモンスターをエクシーズ召喚する事も出来る。

 

 

《Sinパラドクス・ドラゴン》

シンクロ・効果モンスター

レベル10/闇属性/ドラゴン族

ATK/4000 DEF/4000

《Sin パラレルギア》+チューナー以外の《Sin》モンスター1体

(1):《Sinパラドクス・ドラゴン》はフィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(2):このカードがS召喚に成功した時、自分または相手の墓地のSモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

(3):フィールドに《Sin World》が存在しない場合にこのカードは破壊される。

 

 

「《Sinパラドクス・ドラゴン》のモンスター効果を発動! このカードがS召喚に成功した時、自分・相手の墓地のSモンスター1体を自分フィールドに特殊召喚する! 甦れ、《神樹の守護獣-牙王》!」

 

「《Sinパラドクス・ドラゴン》のモンスター効果の発動にチェーンし、手札の《エフェクト・ヴェーラー》のモンスター効果を発動! 手札にあるこのカードを墓地に送り、《Sinパラドクス・ドラゴン》のモンスター効果を無効にする!」

 

「クソッ、《ヴェーラー》を握っていたのか! 《Sinパラドクス・ドラゴン》のモンスター効果は無効となる!」

 

 

《エフェクト・ヴェーラー》

チューナー・効果モンスター

レベル1/光属性/魔法使い族

ATK/0 DEF/0

(1):相手メインフェイズにこのカードを手札から墓地へ送り、相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。

その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

 

 

「ならばEXデッキの《サイバー・エンド・ドラゴン》を除外し、《Sinサイバー・エンド・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

 

《Sinサイバー・エンド・ドラゴン》

特殊召喚・効果モンスター

レベル10/闇属性/機械族

ATK/4000 DEF/2800

このカードは通常召喚できない。

EXデッキから《サイバー・エンド・ドラゴン》1体を除外した場合のみ特殊召喚できる。

(1):《Sin》モンスターはフィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、他の自分のモンスターは攻撃宣言できない。

(3):フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合にこのカードは破壊される。

 

 

「これで終わりだと思うなよ? 手札から《Sin Cross》を発動! 俺の墓地の《Sin》モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する! 甦れ、《Sinパラドクス・ドラゴン》!この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズに除外されるが、メインフェイズ2でエクシーズ召喚すれば問題なし!」

 

 零児のフィールドには攻撃力3000以上のモンスターが3体並んだ。普通に行けば敗北間違いなしの状況だが、純一はそんな時でも不敵に笑っている。

 彼には見えている。理解している。この絶望的とも言えるような盤面を引っ繰り返す方法が。その方法を実行するカードがフィールドと手札にある。

 

 

《Sin Cross》

速攻魔法

(1):自分の墓地の《Sin》モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズに除外される。

 

 

「悪いが次のターンで決着を付ける! リバースカードオープン! 《Kozmo-エナジーアーツ》!」

 

 

《Kozmo-エナジーアーツ》

通常罠

《Kozmo-エナジーアーツ》は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドの《Kozmo》モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを破壊し、相手のフィールド・墓地のカード1枚を選んで除外する。

 

 

「僕のフィールドの《Kozmo》モンスター1体を破壊し、相手のフィールド・墓地のカード1枚を“選んで”除外する! 《スリップライダー》を破壊し、相手フィールドの《Sin World》を除外する!」

 

「何だと!? 《Sin Territory》の効果で発動した《Sin World》がフィールドゾーンに存在する限り、お互いにフィールドゾーンのカードを効果の対象にできないぞ?」

 

「僕が何故《Kozmo-エナジーアーツ》のある部分を強調したのか分かるか? 相手のフィールド・墓地のカード1枚を“選んで”除外だぞ? “選んで”だぞ? この意味が分かるか?」

 

「……ハッ! 対象を取っていない!」

 

「そういう事だ! 罪深き世界よ、聖なる光によって消え失せろ!」

 

「し、しまった! フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合、《Sin》モンスター達は破壊されてしまう!」

 

 純一の右手から放たれた聖なるエネルギー波によって、罪深き世界は消え失せた。それにより、罪深きモンスター達は存在を維持する事が出来ず、破壊されていった。

 

「そして《スリップライダー》のモンスター効果を発動する! このカードが戦闘・効果破壊されて墓地へ送られた場合、墓地のこのカードを除外し、デッキからレベル4以下の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚! 現れろ、《Kozmo-ドロッセル》!」

 

「……ターンエンドだ!」

 

黒田純一

LP:8000→6700→6200

手札:1

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《Kozmo-ドロッセル》、《|銀河眼の光波刃竜《ギャラクシーアイズ・サイファー・ブレード・ドラゴン》

魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

 

平等院零児

LP:8000→3900

手札:1

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:なし

魔法・罠ゾーン:《Sin Territory》

 

 

 

・5ターン目

 

「僕のターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイフェイズ。メインフェイズ! X素材を1つ取り除き、《|銀河眼の光波刃竜《ギャラクシーアイズ・サイファー・ブレード・ドラゴン》》のモンスター効果を発動! フィールドのカード1枚を破壊する! 《Sin Territory》よ、消え去れ!」

 

「徹底的だな!」

 

「バトルフェイズ! 《Kozmo-ドロッセル》でダイレクトアタック!」

 

「ライフで受ける!」

 

 赤毛の少女が手にするレーザーガンから緑色のレーザービームが放たれ、零児の身体に直撃する。リアルソリッドビジョンシステムである為、ダメージを実際に受ける事はない。ただ受けた衝撃を体感するだけ。

 しかし、《Kozmo-ドロッセル》が戦闘ダメージを与えた事で恐るべきモンスター効果が発動し、【Kozmo】ならではの連続攻撃の開始の合図となった。

 

 

《Kozmo-ドロッセル》

効果モンスター

レベル3/光属性/サイキック族

ATK/1500 DEF/1000

《Kozmo-ドロッセル》の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードを除外して発動できる。

手札からレベル4以上の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚する。

この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた時、500LPを払って発動できる。

デッキから《Kozmo》カード1枚を手札に加える。

 

 

「《Kozmo-ドロッセル》が相手に戦闘ダメージを与えた時、モンスター効果を発動する! 500LPを払ってデッキから《Kozmo》カード1枚を手札に加える! 僕はデッキから《Kozmo-ダークシミター》を手札に加え、フィールドの《Kozmo-ドロッセル》を除外し、手札から特殊召喚する!」

 

「馬鹿な……!」

 

「これで終わりだ! 《Kozmo-ダークシミター》でダイレクトアタック!」

 

「ウワアアァァァッ!!!! 対戦ありがとうございました~!」

 

 黒田純一と平等院零児のデュエル。【Kozmo】と【Sin】の壮絶な戦いは【Kozmo】に軍配が上がり、純一の勝利に終わった。

 そして純一はこの勝利で零児に隠された秘密を聞く事が出来るようになったが、それは自分の親友である織斑一夏とその姉の千冬にも関わる事実を知る事を意味していた。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・平等院零児

零児と言う名前の元ネタは、『遊☆戯☆王ARC-V』に登場した赤馬零児から取っています。本当なら零と春or秋を組み合わせた名前にしたかったですが、ネーミングセンスが皆無な私には無理でした。
彼の名前の意味は次回明かそうと思います。

・純一のカード知識

 受験があった為、2019年4月~2020年の今までの知識が抜けていると言う設定にしています。なので新規の《Sinパラダイム・ドラゴン》を見て驚く場面を入れました。

・《Kozmo-ダークシミター》の元ネタ

 元ネタですが、エピソード1で登場したダース・モールが乗っていた宇宙船、『シス・インフェルトレーター』なんです。海外では”シミター”と呼ばれているそうで。正直思いました。マニアック過ぎだろ!?と。

・珍しくEXデッキを使った【Kozmo】

 【Kozmo】デッキの弱点の”高打点耐性持ちモンスターの突破方法”を見せましたが、【壊獣】や《百万喰らいのグラットン》等、色々対処法はあります。
 ただランク8は平均価格1000円以上使用不可のIS環境ではかなり弱体化しています。

・かなり強くなった【Sin】

 新規カードによる強化を受け、かなり強くなった印象を受けました。今回のデュエルでは割とあっさりめに負けたかと思われますが、実際純一君は【Sin】の高火力に警戒していました。

・何故【Sin】デッキを選んだか?

 先ず新規カードが来た事による宣伝。次にメタい話で、使わせようとしていたキャラが話の展開で使用不可能になった為です。


・次回予告

 激戦の末に零児を下した純一は、一夏と千冬に隠された秘密を知る。
その秘密は一夏と千冬の根幹に関わる物であり、一夏がISを動かせた理由に対する答えとなっていた。
その秘密を知った純一は? そして零児とマドカが平等院家にいる理由とは?

次回 TURN15 明かされる秘密

デュエルスタンバイ!


次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

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あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。




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TURN15 明かされる秘密

2日連続の投稿となります。今回は零児を含めた織斑家の秘密を明かす話です。
今回で第2章終了となるので、次回はキャラ設定からの番外編の投稿となります。

そろそろUA10,000が見えてきたから、またアンケート取らないとですね。



「ここなら遠慮せず、周りの目も気にせずに話が出来る筈です」

 

「成る程な~人口島に建設されたIS学園らしい良い景色だな。あ、敬語は良いよ。タメだし」

 

 激闘を終えた純一と零児。彼らは少し歩いて海が見える場所に来ていた。これから話をするのは彼らだけの話であり、決して他人が聞いてはいけない内容だからだ。

 デュエルディスクを解除し、缶コーヒー片手に海を見ている2人。零児は頭の中で話す内容を整理すると、純一に話し始めた。自分の正体を。一夏と千冬の秘密を。

 

「俺の本名は織斑零児。一夏と千冬姉さんの家族と言える。そしてもう1人、マドカと言う妹がいる。俺達は『織斑計画(プロジェクト・モザイカ)』と言う、何処ぞの誰かが考えたかよく分からないが、頭の悪い計画によって生み出された人造人間……まぁ強化人間の方が正しいかな?」

 

「人造人間……?『織斑計画(プロジェクト・モザイカ)』……?」

 

「信じられないかもしれないが事実だ。『織斑計画(プロジェクト・モザイカ)』は遺伝子操作によって、人工的に“最高の人間”を造り出す計画だった」

 

「”最高の人間”……?」

 

 目の前にいる零児、初めて存在を明かされたマドカ、最高の親友の一夏、姉として慕っている千冬が実は強化人間だった。その事実を純一は受け入れるが、その一方で自分の想像出来ない現実に打ちのめされた。

 何があっても見捨てないと誓っていた最高の親友。実は誰にも言えない秘密があり、それを本人も知らなかったと言う現実。それをどう受け止めて良いのか分からずにいる。

 

「“最高の人間”って言われてもピンと来ないよな……例えば身体能力。運動能力、耐久力、自然治癒力、免疫力。そういった全てが常人を遥かに上回る超人なのさ、俺達は」

 

「ッ……!」

 

「どうやら思い当たる節があるようだな?」

 

 純一は零児の話を聞いて思い出した。千冬の身体能力の規格外さに。打鉄用の近接ブレードを生身で振るう。戦闘服と数本のブレードだけで第3世代機の『ファング・クエイク』と戦闘可能な非常に高い身体能力と戦闘技術を持っている。

 話を聞いた時は驚いたが、千冬だから仕方ないと思考放棄していた。あえてその事実から目を逸らしてしまった。考えなければいけなかった。それを怠っていた。それくらい凄まじい物を織斑千冬は見せていた。

 一夏もそうだ。初めて乗った専用機で代表候補生相手に五分以上の勝負を繰り広げていた。こちらは1週間訓練機に乗って専属コーチから指導を受けていた。あの時から一夏はその片鱗を見せていた。

 

「数多の試作体が造られては廃棄され、造られては廃棄されていった。そして千番目の試作体兼初めての成功体が千冬姉さんだった」

 

「名前に千が入っていると思ったらそういう事だったのか……ん? でもそうしたら一夏はどうなるんだ?」

 

「成功体を量産させる為に生まれたのが俺と一夏だ。量産型って奴だよ。千冬姉さんがガンダムなら俺と一夏はジムだ」

 

「ジムにしては性能高いと思うのは僕だけだろうか?」

 

「さぁな。話を戻そう。量産するなら完成形のデータを使った方が手っ取り早いし、失敗も少ない。千冬姉さんのデータを使って造る過程で、染色体の情報を男性に書き換えたんだろうな」

 

「身体能力云々は女性より男性の方が優れているからな~量産に適しているのは男性だから合理的な判断だ」

 

「そういう事だ。俺は量産型のプロトタイプとして造られ、一夏は俺のデータに改良を施した量産型第一号機って奴だ。ちなみにマドカは千冬姉さんのスペアとして造られたけど、本来計画には無かった失敗作扱いだった。けどこの計画は一夏を作り終えた段階で放棄・凍結となった。理由は天然の素体こと束博士の存在が確認されたから。高額なお金を払って俺達のような量産型を造るより、天然の素体を捕まえて解析した方が手っ取り早いし、お金も安上がりで済む。連中はそう思ったんだろう」

 

 やはり束が関わっていたのか。何処まで行ってもあの人は規格外としか言えない。そう思いながら純一は零児の話を聞き続ける。

 頭の中で事実をまとめ上げる。千冬がコストを度外視して完成させた試作機。零児が量産型のプロトタイプ。一夏は量産型の初号機。マドカは試作機のバックアップ。ややこしく感じるが、そこまででもない。

 

「束博士の存在が知られた事で計画は放棄・凍結となり、データや資料は処分される事となった。しかし、完全には処分出来なかったみたいだ。計画のデータや資料を利用して同じような事をしようとした国があったからだ。でも莫大なコストがかかったり、成功例が出来なかったり等で断念せざるを得なかった。ただ“とある国”が成功例を生み出し、量産化に成功した」

 

「話を聞いていて思ったんだが、僕の仲間にラウラって言うドイツの代表候補生がいる。まさか彼女は……」

 

「どうやらドイツでは成功していたみたいだな。そのラウラって言う女子生徒も似たような感じなんだろう。流石に俺もそこまでは把握してなかった……」

 

「……と言う事は一夏と千冬さんは偽の記憶を植え付けられていたのか。両親に捨てられたと言っていたけど、そもそも両親いないじゃん……」

 

「俺とマドカは偽の記憶を植え付けられる前に自力で施設から逃げ出せた。それで色々あって日本に来たけど、そこで限界が来て倒れてしまった……目が覚めたら俺とマドカは平等院家にいた。偶々通りかかった佐智雄義兄さんが助けてくれたんだ。俺とマドカが何者かと言う事を全て話した時、佐智雄義兄さんは俺達の事情を一切気にせず、家族の一員として迎え入れてくれると言った。見ず知らずの俺達を……」

 

 涙ぐみながら語る零児。彼が今生きて居られるのは平等院佐智雄のおかげ。友希那の兄であり、平等院財閥を引っ張っていく次世代のリーダー的存在。零児が惚れ込む程の器の大きさを持っており、純一も是非一度会ってみたいと思った。

 友希那からは自慢の兄として何度も話を聞いていて、ここ最近一緒に遊べなくて寂しいとも聞いていた。それもあって純一と遊べる事を楽しんでいたのかもしれない。

 

「だから俺は平等院家の人間として、佐智雄義兄さんに恩を返す為にここにいる。今こうして俺が生きていられるのは佐智雄義兄さんのおかげなんだ。だから佐智雄義兄さんと友希那姉さんの夢を叶える為にも、俺はこれからも努力を続ける」

 

「そこまで言わしめる程凄いのか、佐智雄さんは」

 

「君も一度会えば分かる。佐智雄義兄さんの器の大きさを」

 

 零児は自分を救ってくれた平等院家に恩を返す事に存在意義を感じ、一夏は幼い頃から千冬に守られてきた事から“誰かを守る”事に意義を感じている。

 生まれた経緯や過ごしてきた環境は違うけど、心にある物は同じだ。織斑兄弟に接した唯一の人物たる純一はそう確信した。

 

「一夏がIS学園でどんな日々を送っているかまでは知らないし、俺には知る必要もない。けどな、例え一度も顔を合わせた事がないとしても、俺に取っちゃ大切な弟だ。兄たる者、自分の弟と妹は守らないといけない。俺はそう思っている」

 

「と言う事は零児もISを動かせるし、専用機も持っていると?」

 

「あぁ、もちろん。俺が何でISを動かせるかは知らない。常人じゃないからか、遺伝子情報に千冬姉さんのデータが残っているからか……まぁそんなことは正直どうでも良い。束博士から専用機は頂いているし、学校にいる代表候補生の連中と毎日ハードワークしているよ。専属コーチもいるし……自信はないけど代表候補生と良い勝負が出来そうだ」

 

「なら……どうして僕もISを動かせるんだ?」

 

「さぁな……それは俺にも分からない。だけどいつか分かるだろう。例えそれがどんなに残酷だったとしてもな……」

 

 零児は『私立鳳凰学院』の1年生であり、現在学院にいる代表候補生や一般生徒達と切磋琢磨しながら勉強に打ち込んでいる。

 本来はISに乗る必要はないのだが、佐智雄と友希那を守ると誓った為、自ら訓練に打ち込んでいる。実力は代表候補生に迫るくらいになっている。

 そうなると疑問が出てくる。何故純一がISを動かせるのか。一夏や零児のような強化人間ではない、純粋な一般人たる自分が何故ISを動かせるのか。不思議で仕方ない純一だが、零児はそこまでは分からなかった。

 

「ちなみにマドカさんは今何を?」

 

「彼女はIS委員会所属で、各国で開発されているISの試作機のパイロットをしているよ。表向きはね」

 

「表向きは……?」

 

「あぁ。本当の目的は平等院財閥が送り込んだスパイさ。IS委員会の動きを監視し、何かあったら俺達に伝えている。まぁ密偵みたいなもんだな。IS委員会はIS条約に基づいて設置された国際機関で、国家のIS保有数や動きなどを監視している組織なんだが……その実態は女権団体の元締めみたいな物だ。それにIS学園の上層部だ」

 

「成る程な。今回の大会の主催者はIS委員会。『遊戯王OCG』の大会運営経験もないド素人が大勢の観客を呼んだ上で開催する……下手したら失敗ものだ。カードゲームの大会運営って意外と難しい……僕も運営側に立っていた人間だからよく分かる」

 

「だろうな……『KONNAMI』さんが来るとは言っても、奴らは自分達が前に立たないと気が済まない性分だ。まぁ俺達も観戦しに来るが、何事もなく終わってくれる事を願うよ」

 

 この時、既に学年別クラス対抗デュエルトーナメントの中止・延期は不可能な状態となっていた。最終的に1枚20万円以上もの高額となったチケット。それが完売した。

 大々的に宣伝されて実際に行われるのは、初心者ばかりの『遊戯王OCG』の大会。チケットの金額と大会の中身が伴わない。下手をすれば炎上物になってしまう。

 

「……と言ったそばから、実は事件が起きていた。君がいる1年5組と対戦する1年6組なんだが、とある事件が起きてSNSでは炎上中なんだよ。知っているかい?」

 

「いや、初めて聞いた……」

 

「6組にエヴァ・ヨハンソンと言う女子生徒がいた事は知っているかい?」

 

「あぁ。クラス対抗戦の抽選会があった日、5組のクラス代表のナタリアさんから話を聞いた。何でも代表候補生に出場義務がある大会なのにも関わらず、『遊戯王』の授業を受けていないとか。それと代表候補生になれたのは女権団体の役員を務める母親のおかげであって、自分の力ではないとか……それがどうかした?」

 

「ニュースで出ているよ? 担任諸共謹慎処分を受けているぞ?」

 

「何!?」

 

 零児の言葉を聞いた純一は直ぐにスマートフォンを開き、ニュースを検索した。そしてその全容を知ると、驚きのあまり固まる事しか出来なかった。

 

―――現在話題沸騰中の『デュエル・ストラトス』。その本格的なお披露目となるイベント、IS学園で行われる学年別クラス対抗デュエルトーナメント。参加クラスの1年6組のクラス代表で、オーストラリアの代表候補生のエヴァ・ヨハンソンさんが代表候補生にあるまじき行動を取り続けてきた事が発覚しました。先日6組のクラスメート及び外部講師からの嘆願書が理事長に提出され、その嘆願書にはこれまで彼女が行った横暴な振る舞いの数々が記されています。

 

―――また、6組の担任の永田洋子氏もエヴァさんの振る舞いを見て見ぬふりをして黙り込み、6組をクラス崩壊寸前に追いやった事が明らかになりました。2人は現在学園の懲罰房にて無期限謹慎処分を下し、然るべき処分が下される予定です。

 

「何だと……!?」

 

「これは俺も予想外だったな~まさかIS学園でこんな事が起きていた上に、今までバレていなかった事に。つまりIS学園は女尊男卑信者にはもってこいの場所って事が世間に知れ渡った事になる。これは普通なら国際問題になっても何一つおかしくない。エヴァって奴は代表候補生の地位を剥奪され、国外追放処分を受ける未来が待っている。まぁせめてもの救いがIS学園内で問題が起きて、イベントが開催されるのがIS学園内だと言う事かな?」

 

「でもこれでまたIS学園のイメージが悪化する……新しい事業に挑戦するのは良いけど、その事業の成果をプレゼンする前にこんな醜態晒していたら本末転倒だ。まぁ6組の誰かが拡散したのは事実で、咎めるつもりはないけどこりゃとんでもない事になったな……」

 

 純一が今さっき知ったばかりのニュース。それは『デュエル・ストラトス』に関する内容だった。来週の月曜日に開催される学年別クラス対抗デュエルトーナメント。

 その大会に出場する1年6組のクラス代表でオーストラリアの代表候補生、エヴァ・ヨハンソン。世界が注目する代表候補生の1人が何と、金の力でなった偽りの代表候補生であり、クラス内で横暴な振る舞いを数多くしてきた。それに加え、担任の先生も見て見ぬふりをしていた。これは炎上してもおかしくない内容だった。

 更に問題なのは、担任の永田洋子が女尊男卑を掲げる権利団体の役員も務めている事だった。これが結果として火に油を注ぐ形となり、SNSの至る所で炎上している原因の一つとなっている。

 

「部外者の俺が言えたもんじゃないけど、これはもうイベントを行える状態じゃないよ。でもやるんだろうな……何しろチケットは完売しているし、払い戻しになるとトラブルが起きるのも待ったなしだからな」

 

「あぁ。それにこのイベントはIS学園のイメージアップも兼ねている。SNSで誹謗中傷が飛び交っている状態なのに、イメージアップも何もあったもんじゃない。開催前にイメージダウンしているからな……」

 

「そうだった……君はデュエルディスクのモニターを務めているんだった。顔に泥を塗られたような物だよな……でも拡散した人を憎まないでやって欲しい」

 

「それは分かっている。分かっているけど……何か釈然としないな」

 

 純一が見ているスマートフォンの画面。そこには“Twitter”の書き込みが映し出されている。至る所で飛び交う誹謗中傷。流石はインターネット社会。容赦のない書き込みが純一の心に突き刺さっていく。

 純一は反女尊男卑派である為、別に女尊男卑を掲げる女性達がどうなっても知った事ではない。むしろもっとやれと普段であれば言うだろう。しかし、今回のようなIS学園のイベントの運営に支障が出るのは勘弁して欲しい。今の心境はこのような感じだ。

 

―――代表候補生どころか人間の風上にも置けねぇ女だ!

 

―――よくクラスの皆は我慢出来たな……俺だったらブチ切れて殴りかかるぞ?

 

―――それだけ代表候補生ってのがステータスあるって事なのかな? でも金の力でなっただけに金メッキだったのがな……よく今までバレなかったな。

 

―――担任もグルだったなんて信じられない! しかも女権団体の人間だったなんて!

 

―――文化祭の襲撃事件もあいつが裏で手を引いていたのかもしれないね。にしてもIS学園の教員って全員女尊男卑主義者だろ! 

 

―――流石にそれはないと思うけど……でもこれで明らかになったね。IS学園の歪みって言うか、女尊男卑で被害を受けているのは男性だけじゃないって事が。中には女性も色々被害を受けているんだ……

 

―――あんな人間としてどうしようもない奴と一緒のクラスにいるなんて地獄だよ。クラスの皆と先生達の力で追い出したんだろう? これでやっと平和になるって。イベントがどうなるか知らねぇけど、学園生活が少しでも実りある物になれば良いんじゃない?

 

―――話変わるけどさ、来週の月曜日から始まるイベントってどうなるんだろう? 中止になった場合ってチケットの払い戻しあるのかな? 俺はネット配信で満足するけど、ちょっと気になったんだ。誰か教えて下さい!

 

―――多分イベントは予定通りやるんじゃないかな? それに仮に中止になっても、チケットの払い戻しはないだろうな。だってチケット1枚だけでもかなり高いんだぜ? しかもフリマアプリやオークションでは高額で転売されているし……

 

―――ですよね~まぁISってけっこう金食い虫だから仕方ないかなとは思うけど、それ以上に女って基本守銭奴だろう? それに女尊男卑の連中は横暴だから余計に……マジやってられないぜ。

 

―――それにさ、IS委員会や学園って『遊戯王』の情報って配信している? 授業の様子とか俺は観てないよ?

 

―――俺も俺も。Twitterの『カードターミナル』と純一君のアカウントや、Youtubeの公式チャンネルでしか授業風景や様子を観てないし……

 

―――と言うか女権団体の奴らってさ、ISさえ有れば何でも出来るし、何でも許されるって思ってね? マジムカつくんだよな……

 

―――そうそう。飲食店で無銭飲食したり、服屋で踏み倒しや値切りをするわ、やりたい放題だよ。ISが無ければイキれない哀れな奴らだけど、あいつらがいるせいで世の中が狂っていると思うと怒りが……

 

―――IS学園の人には申し訳ないけど、俺は純一君の応援に専念するよ。

 

 エヴァ・ヨハンソンの代表候補生不正就任と6組での横暴な振る舞い。それらが全世界に向けて報道されると共に、インターネットに拡散して大炎上している。

 その矛先はIS学園だけに向けられている訳ではない。純一は知らないが、オーストラリア政府にも飛び火し、オーストラリア政府は火消しの作業に追われている。

 

「そう言えばマドカさんはIS委員会の密偵をしていると言っていたけど、奴らはこれをどう捉えているんだ?」

 

「そうだな……先ず大会の事なんだけど、マドカは“開催を強行する”と言っていたな。背に腹は変えられないと言うか、チケットの払い戻しで揉めたくなさそうな雰囲気だと俺は思う」

 

「よく平気で嘘を付けるな……あんな馬鹿高いチケットを売って儲けた利益を手放したくないだけだろうに。まぁ世界中にアナウンスしたから、払い戻しでトラブルを起こしたくない気持ちは分かる。取り敢えず開催の件は了解した。大会はもちろん優勝を目指すよ」

 

 今回の事件は改めて情報化社会やSNSの恐ろしさを突き付ける事となった。もしこれがIS学園内の関係者だけで終わる話ならば良かったが、どういう訳か何者かが今回の事件の映像記録や録音記録をSNSを通じて拡散した。

 1度インターネットと言う海に投げ込まれた情報を完全に消し去る事など出来る筈がない。現代の情報化社会では、大半の人間がありとあらゆる情報を発信しているのだから。1度暴露されたシークレットやスキャンダルはどんなに隠蔽しても、最後まで隠し通す事は難しい。

 IS委員会主催で行われるIS学園のイベントである為、良くも悪くも世界中からの注目が集まっている。そんな中で巨大な爆弾が投下された。

 事が事なだけに世論は炎上し、イベント開催自体出来るのかどうかと言う話になる中、イベントを延期・中止にするべきと言う意見が上がった。しかし、IS委員会はそれらを黙殺してエヴァと洋子に厳しい処分を下すと発表する事を決め、学年別クラス対抗デュエルトーナメント開催を改めて宣言した。

 チケットは既に完売しており、払い戻し等でトラブルが起きる事を未然に防ぐとコメントしているが、純一と零児の2人はそれが建前である事を見抜いている。

 IS委員会の頭にあるのは如何にISとIS学園のイメージを取り戻すかと言う事。純一がいるクラスが優勝しようが、一夏がいるクラスが優勝しようと、正直それはどうでも良い話だった。大事なのは大会を成功させる事だ。

 人間は一度手にした莫大な利益を手放す事が出来ない。IS委員会と癒着状態にある女性権利団体の頭にあるのはISの優位性を改めて証明する事と、そのISを使える女性に刃向かう事の愚かさを思い知らせる事。

 彼女達は黒田純一と言う『遊戯王OCG』トーナメントプレーヤーなど、ISに選ばれた女性の前では敵ではないと言う事を世に示すつもりだろうが、純一はそれに真っ向から戦いを挑む。ただそれだけだ。

 

「あぁ。どの道IS学園のイメージダウンは免れないんだ。だったら大会で優勝して自分の株を上げるのに専念した方が良い」

 

「そうするよ。けど授業開始から1ヶ月で大会ってスパン早くないか?もう1ヶ月待っても良かっただろうに……」

 

「俺もそう思うけど、それだけIS委員会が焦っているんだろうな。何しろ襲撃事件でIS学園とISに対するイメージが悪くなり、一夏に比べて実績・見た目共に大した事がないと思っていた君が、世界中にディープインパクトを与えたからな。そりゃ対抗意識を持ってもおかしくないよ」

 

「襲撃事件の黒幕は女権団体だろうに……まぁISさえ有れば何でも出来て、何でも許されると思っている奴らに現実を突き付けてやる。初心者が1ヶ月でトーナメント優勝出来る程、『遊戯王』は優しくないカードゲーム。半端な気持ちで入って来た事を後悔させるまでだ」

 

 流石に喉が渇いて来たのか、純一と零児は缶コーヒーを飲みながら話をしている。お互いにデュエルを通じて打ち解け合っているのか、気兼ねなく話が出来るようになってきた。

 

「でもIS学園って以外に脇が甘いんだな~だってそうだろう? 確か校則で如何なる組織や国家にも所属しないんだろう? その割にはIS委員会の制御下に置かれ、女権団体の好きなようにされているようなもんだし、どんな敵が来ても自分達でどうにかしないといけないんだろう?」

 

「そうなんだよ……今年に入ってかどうかは分からないけど学園行事の殆どが中止になったり、文化祭で僕は襲撃されるわでもう大変だよ……IS学園って思っている以上に全然安全じゃないんだ」

 

 IS学園は今年に入り、学園行事の殆どが一夏とその周辺の面々のせいで中止に追い込まれている。それの煽りを他の生徒が受けている。

 IS学園には訓練機と言う名前の沢山のISが存在している。それらを奪取しようと暗躍する勢力が存在してもおかしくない。だからこそ、防衛戦力として他国の代表候補生を運用しているが、それでも限界がある。

 現在は敵と言える存在の侵入を一度許してしまった以上、IS学園の安全神話は崩壊したも等しい状態となっている。しかもその敵は女性権利団体だったと言う皮肉。

 そういう訳で今のIS学園の内部はガタガタとなっている。1つのクラスが一丸となり、女権団体の幹部を母親に持つ女子生徒、しかも代表候補生を破滅に追いやった程なのだから。IS委員会が更なるイメージダウンを恐れ、エヴァと洋子を切り捨てたと考える事も出来るのだが。

 

「……まぁ他にも色々話したい事はあるが、そろそろ俺は退散するよ。そうしないと君が怪しまれる」

 

「もう行くのか……」

 

「要件は済んだ。じゃあまた月曜日に」

 

「あぁ。また会おう」

 

 純一と零児は再会を約束して別れた。次に会うのは学年別クラス対抗デュエルトーナメントの時。しかし2人は確信していた。

 いずれまた会った時はデュエルをする事になると。お互いに実力を認め合ったデュエリストであり、『遊戯王』プレーヤーなのだから。

 

 

 

(平等院零児……手強いデュエリストだった。もし本来のデッキで来られたら流石にきついな……)

 

 その日の夜。【Kozmo】デッキの調整をしながら、純一は対戦した零児の事を思い出していた。IS学園での授業が始まって以来、久しぶりに強いデュエリストと戦う事が出来た。その喜びは一人のプレーヤーとして本望であり、同時に零児の強さに敬意を払う。

 しかし、純一は予感を感じている。零児とはまた何処かでデュエルする事に。その時零児は本来のデッキで挑んで来ると。今回は小手調べだったが、次は自分を倒す為のデッキを用意してくる。

 自分と零児は実力で言えばほぼ互角と見て良い。今回勝てたのはデッキパワーのおかげだったが、もし次はデッキパワーが同じなら、実力やプレイングや引きが物を言うだろう。それだけに純一は新たなる好敵手の登場に内心歓喜していた。

 彼は内心満足していなかった。IS学園で鎬を削る事が出来る相手が少ない為、本来の力を発揮出来る機会に恵まれない。『私立鳳凰学院』でも『デュエル・ストラトス』をしている為、転校したいと内心考えている程だ。

 

(にしても一夏と千冬さんが人造人間だったとはな……この事は僕からは話せないな。逆に怪しまれるし、そもそも信じてもらえないし)

 

 零児とのデュエルはとても心が躍り、デュエルディスクを用いた【Kozmo】デッキは思っていた以上によく動いていた。

 しかし、学年別クラス対抗デュエルトーナメントで優勝するにはまだ足りないと言える為、こうしてデッキ内容を吟味している。

 それ以上に驚いたのは一夏と千冬の正体。一夏の兄で、千冬の弟と名乗る零児の登場。『織斑計画(プロジェクト・モザイカ)』と言う狂気に満ちた計画。一夏と千冬は人造人間だったと言う事実。

 正直純一は一夏と千冬は何か曰く付きだとは思っていた。そもそも自分もだが、男性が本来女性でしか扱えないISを動かせる時点で何かがおかしい。それに千冬の馬鹿げた戦闘力も同様だ。正直ドーピングしているのでは?と疑いたくなるほど、千冬の戦闘力は並外れている。だから『平等院財閥』にアリーシャが味方で加わっている。

 しかし、人造人間だった事実は彼にとって予想の斜め上だった為、今でも信じる事が出来ないでいる。頭では理解出来ている。しかし、感情がそれを拒否している。一夏が人造人間だと言う事実を受け入れると、自分の中で大切な“何か”を無くしそうな気がする。

 

(まぁ一夏が何であれ、あいつが僕の親友である事に変わりない。例えどんな秘密を抱えていたとしても、織斑一夏は僕の親友だ。だが、僕は近い内に一夏や楯無さん達と戦う事になる。果たしてその時どうなるかは分からないけど……)

 

 『平等院財閥』の会合に加わって以来、純一にとってIS学園は敵地となった。いや正確に言えば違う。文化祭の日、女権団体が雇ったIS部隊に襲撃された時からIS学園は敵地と言う認識となった。

 IS学園の上層部はIS委員会であり、そのIS委員会は女権団体の元締めでもあり、癒着関係にある。つまりはIS委員会が自分を暗殺しようとして来たと言う話になる。

 それを知った時、純一はIS学園を、そしてIS学園に来てから出会った全ての人々とたもとを分かつ事を決めた。

 

―――ISの時代がこれから変わろうとしている。それも目の前で。なのに僕達は何をやっているんだろう……?

 

 自分のやっている事は何だろう。ISを兵器としての運用等を学び、その使い方を教わるだけの毎日。自分はISのパイロットになるつもりはない。IS業界に進むつもりもない。それなのにどうしてIS学園にいるのか。

 ISを動かせたと言う理由。たったそれだけ。これではIS業界に進むか、進学するかの2択しかない。当然進学を選ぶが、そうなった場合IS学園にいた意味を見出せず、空虚な思いを抱いてしまう。

 ならば抜け出してしまおう。また命を狙われるのであれば、IS委員会が手出し出来ない所に行って自分が進むべき道を選んで夢に向かって努力すれば良い。

 

「皆には悪いが、いずれIS学園は世論の敵となるだろう。IS委員会が女権団体と癒着関係にある以上、女権団体の影響を受けてしまうのだからな。ただでさえ卒業した後に地獄を見る女子生徒で溢れ返っているのに、この学園の居場所は何処にもなくなる。さて次はどう動こうかな?」

 

 純一の目は鋭く細められ、まるで獲物を見据える猛禽類のように今後の事を考える。彼の中でこれからの事が何となく見えていた。

 これからIS学園で開催される『遊戯王OCG』の大会を開催するのは結託したIS委員会と女権団体。奴らは自分を疎ましく思って排除するつもりだろう。

 向こうがその気ならこちらもやるしかない。いずれIS学園にいる女尊男卑信者を潰し、IS学園からおさらばする。その為にはやるべき事をやるだけだ。

 

 

 

 次の日。学年別クラス対抗デュエルトーナメント開催を翌日に控えたIS学園では、IS訓練用のアリーナで翌日のトーナメントに備え、様々な準備が行われている。音響機器の調節やパンフレットや販売グッズの確認、昼食や飲み物等の調達等々。

 当然の事ながら、世間一般の関心はIS委員会主催の初となる『遊戯王』大会、学年別クラス対抗デュエルトーナメントに向けられていた。IS委員会が様々なキャッチコピーや煽り文句を打ち出し、チラシや雑誌等の広告を熱心に打ち出していた事から、気合の入りようが分かるだろう。

 ちなみにそこには純一の直筆で、“IS学園の女子生徒の大半が初心者です。プレイングミスやデッキ構築の拙さがあったとしても、SNS等で誹謗中傷したり、批判しないで下さい。彼女達にとって初めての大会です。くれぐれも心無い行動を取らない事を願います”と言う一文が刻まれてあった。

 これは『カードターミナル』も同様であり、“IS学園の生徒は1ヶ月で知識を叩き込まれ、大会に挑む事になりました。『遊戯王』の大会に出る事に抵抗を感じるプレーヤーがいるのは事実です。でも彼女達を責めたり、笑わないで下さい。もし責めたり、笑いたければ講師として彼女達に教えた我々にして下さい”と言う文章を公式HPやTwitterに発信した。

 彼らの願いが通じたのか、一般客として観戦する市民や各国の要人は海のように広い心で彼女達のデュエルを観戦する事を決めた。やはり影響力のある純一がコメントを記したり、動画等で配信した事が成功したようだ。

 さて今回の大会の主催者たるIS委員会はと言うと、何が何でも大会を成功させる事に専念していた。と言うのも、今回の大会の成功でISとIS学園のイメージアップを狙っているからだ。どの部でどのクラスが優勝しようが正直どうでも良い。とにかく大会が無事に成功すれば、彼女達にとって満足なのだから。

 そもそもISとIS学園がイメージダウンした原因は、IS委員会と癒着関係にある女権団体がIS部隊を雇い、IS学園の文化祭に侵入して黒田純一の暗殺を狙った事にあった。

 結果的に失敗に終わったものの、この事件によってISのイメージダウンに繋がり、IS学園の安全神話が崩壊する事となった。

 IS委員会はIS学園の上層部なだけあって、一般人を巻き込んだ破壊活動を行った女権団体の重役とIS部隊に厳重な処罰を下した。ちなみにこのようなケースは史上初である。

 事件後、IS委員会は女権団体に“今後如何なる理由があろうと、ISを用いた破壊活動は絶対禁止にする”と警告した。一般人を巻き込んだ事で世論を敵に回した結果となり、ISとIS学園のイメージダウンを招いた事を重く受け止めたからだ。

 しかし、それは所詮サッカーで言う所のイエローカードを出した程度に過ぎない。その程度で女権団体が止まる筈がなかった。

 大会に向けた準備を進める中で、黒田純一の存在の快く思わない女権団体のメンバー達が如何にして優勝を阻止させるかを話し合っていた。

 

「ISの専用機持ちに特殊スキルの使用を許可する? どういう事?」

 

「ほら、『遊戯王』の実力じゃ純一の方が圧倒的に上じゃない。そんな状態じゃ奴が大会のタイトルを悉く取ってしまう事は明白。だったら『遊戯王』以外の所で勝負するしかない。そう考えた時、専用機持ちの『 単一仕様能力(ワンオブ・アビリティー)』を見て思い付いたの」

 

「確か……IS学園の生徒は訓練機や専用機にデュエルディスクを付けた状態でデュエルするのよね?」

 

「そうそう。『デュエルリンクス』と言うアプリゲームがあるんだけど、その中で過去のアニメキャラ達がそれぞれ固有のスキルを使っているの。ただISを装着したままデュエルするのは面白くないから、ISを装着している状態ならではのデュエルを魅せるって言う提案を『カードターミナル』にするのはどうかしら?」

 

「それ良いわね! でもスキルばかり使われると後でSNS等で批判が来るから、使用制限設けるなり、効果も専用機の特色を活かした物にしないと……」

 

 『単一仕様能力(ワンオブ・アビリティー)』。それはISが操縦者と最高状態の相性になったときに自然発生する固有の特殊能力。通常は第2形態から発現するが、第1形態で発現する事もあれば、能力が発現しない場合もある。

 女権団体の連中は専用機持ちのデュエルディスクに固有スキルを登録させ、『単一仕様能力(ワンオブ・アビリティー)』として発動させる事で大会を盛り上げつつ、純一を倒してしまおうと言う考えだった。

 何故女権団体の連中がIS学園にいて、IS専用アリーナで大会の現場監督をしているのか。それは女権団体が大会で発生する全ての利益を独占する為だった。全ては自分達の優雅な生活の為。

 本来であれば、今回の大会は『カードターミナル』や『KONNAMI株式会社』が主催となり、各イベント業者が協力して行う物だった。しかし、IS委員会は主催者権限を利用し、自分達だけで準備を行う事を宣言した。素人同然の彼女達がイベントを主催したら一体どうなるのか。明らかに失敗する未来が見える。

 それにも関わらず、女尊男卑を掲げる権利団体に協力してもらって準備を進めている。大会の運営に口出しや介入をしない代わりに、報酬として売り上げの一部を渡すと言う約束をした上で。

 

「そうね。使用は1回のデュエルに付き3回まで。効果は専用機の特色と『遊戯王』のカード効果が出来るだけ近い物が望ましいわ。強過ぎず、弱過ぎずのバランスが大切よ」

 

「あまり強過ぎると、“IS学園の生徒達は特殊スキルでゴリ押ししか出来ない”と批判されそうね……最近は世論の目が厳しいから慎重に行かないと駄目ね」

 

 彼女達は理解していた。お客さんの大半がIS学園の生徒より、黒田純一目当てであると言う事に。だからこそ、黒田純一を敗北に追いやってIS学園の生徒を優勝させる事が彼女達にとっての大会成功となる。

 その為、専用機持ちのデュエルディスクに特殊スキルの搭載及び使用を認めさせようとしている。こうでもしないと純一に勝てる確率が上がらない。非常に気に入らないが、事実として純一は大会優勝経験者。その実力と知識は本物だ。

 もし純一に勝利すれば、観客達は嫌でもIS学園の生徒の優秀さを認める事となる。そうなれば純一はデュエルディスクのモニターを外され、自分達の息のかかった生徒をモニターに推薦する事だって出来る。

 『デュエル・ストラトス』はデュエルディスクでデュエルを行うと言う、アニメを完全再現した『遊戯王OCG』と言う事もあり、社会現象を引き起こしている。

 また、今回の大会はIS委員会の扇動行為とも言える過剰な広告等により、一夏や純一といった男性操縦者が参加している事もあって、彼らの活躍を観ようと、各国の要人もチケットを獲得しようと動いていた。

 

「所詮黒田純一は『遊戯王』ではかなりの実力者だけど、ISの前では敵じゃない。『遊戯王』とISが合体した『デュエル・ストラトス』の前では、幾ら大会常連者もスキルを使われれば途端に不利になる! 大勢の観客の前で無様に負けさせればブーイングが来るし、本人も恥をかく事になるわ。そうなればIS学園の生徒が優勝し、ISとIS学園の生徒達の優秀さが証明される。そして私達はこの大会の収入で豪華な生活が送れる!」

 

 女性権利団体は自分達の考え通りに事が進むと思うと、ニヤニヤが止まらない。彼女達は自分達の思い通りにならない現状に不満と苛立ちを覚えていた。

 ISが登場してから女尊男卑の世の中となり、何事も女性優位の社会となっていた。全てが自分達の思い通りだった。例えば男性からお金等の大切な物を巻き上げても、冤罪を被せても許されてきた。

 ISと言う絶対的なシンボルがあるから、IS委員会と言う絶対的な後ろ盾があるからこれまで罪にならなかった。彼女達もある意味では被害者である。ISによって作られた社会風潮による被害者。

 しかし、IS学園で発生した黒田純一襲撃事件が全てを変えた。あの事件を引き起こしたのが女権団体と彼女達が雇ったIS部隊だと言う事実が、IS委員会の調査で判明した。これにより、女権団体は世論とIS委員会から大きく叩かれる事となった。

 そしてデュエルディスク登場に伴い、『デュエル・ストラトス』が始動した。これまで兵器として運用されていたISを、様々な分野で運用しようと研究・開発が始まり、ISの時代が大きく変わろうとしている。

 女権団体はその波に乗り切れない。いや乗ろうとせず、これまで通りの事をやろうとしている。しかし、自分達の行いのせいで今まで許されてきた事は全て許されなくなった。もしやろうとすれば、直ぐに警察に捕まって刑務所行きとなるだろう。

 ちなみに既にこの大会のチケットは売り切れ、女権団体はその売り上げを受け取って浪費してしまった。何に使ったかまでは把握出来ていないが、恐らくブランド物のバッグ等の高級品に変わったと推測されるだろう。

 

―――IS学園の優秀な生徒ならば、幾ら経験で劣っていたとしても特殊スキルなり、ISの力さえあれば実力者を倒す事だって出来る筈だ。IS委員会が最強と謳っているのだから、間違いではない!

 

 女権団体はIS委員会が推しているIS学園の生徒達の実力を信じていた。正確には縋っていると言った方が良いだろう。

 IS学園は入学試験の倍率が1万を超える超名門校。優秀な生徒である事に変わりはない為、黒田純一を倒す事が出来ると信じていた。

 しかし彼女達は知らない。黒田純一の実力は初心者が1ヶ月間週1、2回の授業を受けただけで倒せる程甘くはないと言う事を。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・何でオリ主はISを動かせるの?

この作品だときちんとした解答を用意しています。
明かすのは番外編が先になりますけど。

・兄弟ならでは

原作では一夏君は”誰かを守る”事に執着してますけど、この作品の零児君は”助けられた恩を返す”事に意義を感じると言う、兄弟ならではの共通点を見せるようにしました。

・まさかのイメージダウン

IS委員会がISとIS学園のイメージアップを狙って頑張っているのに、まさかのイメージダウンが……踏んだり蹴ったりですが、そもそも原因が何処にあるのかを考えると、当然っちゃ当然と言えます。

・『遊戯王』プレーヤーとしてのメッセージ

初心者で大会に出るって凄い事ですし、勇気がいる事だと思います。
純一君や『カードターミナル』は誹謗中傷を少しでも食い止める為、自分達からメッセージを発信しています。
それで無くなるかと言えば無くならないですが、やらないよりはずっと良いと思いたいです。ましてや今の世の中が世の中ですし……

・特殊スキル

『デュエルリンクス』では当たり前のようにありますし、『遊戯王VRAINS』でもありますが、この小説でも試しに入れてみました。
効果は割と強めにして、専用機のイメージや能力と合うように気を付けます。

・IS委員会と女権団体の対立

 大会を成功させたいIS委員会と純一の優勝を阻みつつ、優雅な生活を送りたい女権団体。知らない間で対立関係が生まれていますが、これが後でどうなるかはお楽しみと言う事で。


次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

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第3章 RAGING BATTLE(学年別クラス対抗デュエルトーナメント編)
TURN16 トーナメント開始!


昨日『ドラグニティ・ドライブ』のリメイクストラクが発売されましたが、私は仕事があったので今日買います(汗)

今回から第3章、学年別クラス対抗デュエルトーナメント編に突入します。
長くなりますが、各クラスのデュエルを丁寧に記していく予定です。

UA10,000突破ありがとうございます! アンケートの受付は締め切ります。
他にも色々と記したい話があるので、随時外伝として投稿していこうと思います。


(いよいよだ……いよいよ天下に黒田純一の名前を轟かす時が来た。そして歴史にその名を刻む)

 

 IS学園にて初めて行われる『遊戯王OCG』の大会、学年別クラス対抗デュエルトーナメント。大会が開催される当日。その一大イベントを前に、純一は心から楽しみと言わんばかりに笑みを浮かべている。

 デュエルディスクを付けたISを身に纏い、自分自身で構築したデッキと共に戦う新しいISの競技。『デュエル・ストラトス』。その初めてのお披露目が今回の大会となっている。

 今回の大会では1クラスが1つのデッキとなって戦うと言うコンセプトの下、1つのデッキに同名カードは3枚まで投入出来ないと言う縛りがある。その為、同じテーマデッキを使い回す事は不可能となっている。

 大事なのは誰がどのテーマデッキを使うか、順番をどのように振るのか。『遊戯王』の実力だけでなく、クラスの団結力も問われる大会となっている。

 

(この大会はただの大会ではない。これから先、僕が自分の実力で成り上がれるかどうかの大一番となる……全てはこの大会にかかっている。絶対に優勝を掴み取って見せる!)

 

 この日の朝も純一は10km走り、ジムで筋トレ等のトレーニングに励んだ。日々の日課だ。常に自分を磨き上げて鍛え続ける。最高の努力家と言われる由縁だ。

 トレーニングが終わった後、シャワー室で汗を流して着替える。黒い短髪に黒縁眼鏡が特徴な温和な少年。しかし、その目には闘志と野心で漲っている。

 

「やぁやぁジュン君久し振り~!」

 

「お久し振りです束さん」

 

「うん! ジュン君、私が勧めた【Kozmo】デッキはどう?」

 

「凄く使いやすいです。僕が大会に出ていた“魔の9期”に出てたカードのデッキと言う事もありますが……このまま使い込めばより強力になるでしょう」

 

「うんうん♪ 良かった良かった! レイ君とのデュエルをデュエルディスク越しに観てたけど、けっこう使い込んでいるみたいで安心したよ!」

 

 自室に戻った純一の前に現れたのは束。彼女は自分が薦めた【Kozmo】デッキの事を純一に尋ねると、純一は正直に感想を述べた。

 元々純一は9期の初期~10期の中盤にかけて大会に出たり、デッキを作ったりした経験者。【Kozmo】とは大会やフリー対戦で何度も対決した為、動かし方や対策もある程度頭の中に入っている。

 

「それで今日は一体どんな用事で?」

 

「え~とね。依頼していた専用機の調整が終わったから渡しに来たよ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 束が純一に渡したのは腕時計のようなアイテム。純一の専用機の『亜白龍』。IS学園でのデュエルを通じて、改善出来る所がある事に気付いた束によってアップデートされた。

 先ずはデュエルディスク単体としての運用を可能とした事。今まではガ〇ダムみたいな外見となって完全展開しないと、デュエルディスクとしての機能を使う事が出来なかった。それをデュエルディスクだけ部分展開する事で使用出来るようになった。

 

―――僕はデュエルディスクのモニターに選ばれました。それは僕自身に実績があるからだと考えています。なので一人の『遊戯王』プレーヤーとしてISではない、純粋なデュエルディスクで挑みたいです。

 

 この大会に挑む上で、純一は大勢の人々が自分達のデュエルを観戦しに来る事を知っていた。やはり『遊戯王OCG』プレーヤーとして、ISを纏った上にデュエルディスクを装着してデュエルを行うのは心理的抵抗があったのだろう。

 理事長とIS委員会の役員に頼み、純一だけデュエルディスクを部分展開してデュエルに挑む事を許可された。これも彼が影響力があり、それだけこの大会をIS委員会が成功させたい証拠なのだろう。

 次に改善した所は操作面。今までだったらカードの発動もボタンを使わないといけなかったり、操作する時にやや不便な所があった。合同授業の時もそのような意見が多発し、純一も意見書を提出していた為、開発に携わった束が関わる事となった。

 しかし、『遊戯王OCG』のゲームを参考資料として使う事で、デュエルディスクでまるでゲームをプレイしているかのような臨場感を感じつつ、初心者でも簡単かつ楽しくデュエルが出来るようになった。

 

「カードの登録やデッキ構築やカード検索、効果処理のQ&A等々、幅広い機能を付けました!」

 

「だいぶ使いやすくなりますね。この後大会が始まります。使うのが今から楽しみです」

 

「私も観戦していくからね! 大会頑張るんだよ~!」

 

「はい!」

 

 束はまるで瞬間移動したかのように姿を消した。相変わらずだなと思って苦笑いを浮かべながら、純一は空腹感を覚えて食堂へと向かっていった。

 食堂に入った純一は焼き魚定食を頼み、ご飯を大盛、味噌汁を豚汁にしてもらってトレイを受け取ると、テーブルに座って一人静かに食事を始めた。

 

「純一君、おはようございます!」

 

「おはようです、純一君!」

 

「純一君、おはよう」

 

「あぁ、おはよう皆」

 

 そこにやって来たのは5組の仲間達。ナタリア、比奈、神楽の3人。彼女達も朝食が盛られたトレイを持っており、純一の近くに座った。

 『遊戯王OCG』の授業を通じて、彼女達とは打ち解け合い、すっかり5組の知恵袋となった純一。彼は微笑みながら挨拶を返す。

 

「いよいよですね~大会! 確か今日の第1試合でしたよね?」

 

「あぁ。1年生の部のトップバッターは5組と6組の対戦だ。チケットは完売して大勢のお客さんが来るだろう。その人達の前でデュエルするんだ。かなりハードになるだろうね」

 

「正直今から緊張しています……何しろIS学園に来て、大勢の人の前で試合するのが初めてなんです」

 

「? 初めて?」

 

「はい……これまで色々な学園行事があって私も力を発揮出来るチャンスがあったのですが、行事が悉く中止になって中々活躍の場がなくて……」

 

「そうか……そう言えばそうだったな……」

 

 今年に入り、学園行事の殆どが“一夏と彼に関わる人々”が原因で起きるトラブルが原因で中止となっている。

 クラス対抗戦は一夏と鈴の試合中にゴーレムIが乱入した事で中止となり、ツーマンセルトーナメントでは第1試合の最中にラウラのISが暴走した事で中止となった。

 臨海学校では2日目に装備試験を行う予定が銀の福音暴走事件が起こって中断となり、キャノンボール・ファストはアクシデントによって中止となり、専用機限定タッグマッチはゴーレムIIIの乱入で中止となった。

 ここまで悉く行事が中止に追い込まれた学園は未だかつてあっただろうか。果たしてIS学園は学園として機能していると言えるのだろうか。純一が一抹の不安を抱くのも無理もないだろう。

 

「はい……大勢の観客の前で試合するのが初めてなので、不安と緊張しかなくて……」

 

「心配しないで。僕もだ。エキシビジョンの時は勝敗関係なく自由にやれてたけど、今回はチームと自分の名誉の為に勝たなければならない。皆よりプレッシャーが大きいよ」

 

「初めて出た大会もそんな感じだったんですか?」

 

「あの時はちょっと違ったな……ドキドキワクワクだったかな? 初めての大会だ~わ~楽しみだな~みたいな感じだったな確か」

 

「そうだったんですね……思えば今年に入って学園行事の殆どが中止になっているんですよ。なので先輩の方々は必死なんです。何しろ就職先や所属先がかかっている大一番なので……いえ、織斑君は別に悪くないんです。でも……学園行事って純一君や織斑君が思っている以上に、私達代表候補生やIS関連企業に就職したい学生には大事なんです。これは私が話すより、進路指導の先生に聞いた方が詳しく分かります」

 

 一夏は整った容姿に加え、無自覚に女性をときめかせる言動をする事から、学園の内外を問わず、数多くの女子に好意を寄せられている。

 純一もそう考えていたが、全員が全員好意を寄せるとは限らない。IS学園の中には一夏に反感を持つ者がいたり、嫌っている者もいたりする。

 一夏本人は気にしていないだろうが、純一はそうではない。一夏が原因で起きたトラブルがどのような事に繋がっているのかが気になって仕方が無かった。

 

「……すみません。大事な大会前なのにちょっと暗い話をして」

 

「大丈夫だよ。ただ嫌な予感がするんだ。この大会が、いや……この学園行事もまた中止になるんじゃないかって」

 

「どうしてそう思うんですか?」

 

「僕の予感は悪い時に限って当たる。そういう物だからさ」

 

「その予感が外れる事を願います」

 

 この時純一は予測していなかった。まさか自分の予感が的中してしまう事になるとは。どうして悪い時に限って自分の直感は冴え渡ってしまうのか。後で頭に抱える事になるとはこの時思ってもみなかった。

 後にIS学園に更なるイメージダウンを招き、純一の顔に泥を塗る事になる学年別クラス対抗デュエルトーナメント。その始まりは何気ない普通の物だった。

 

ーーーーー

 

 学年別クラス対抗デュエルトーナメントがこの日から開催されると言う事もあり、改めてその説明を兼ねて全校集会が体育館で行われた。

 全校生徒は学年別クラス対抗デュエルトーナメントのルールが記された紙を渡され、それを観ながら説明を聞き、改めてこの大会への闘志を燃やす。

 

 

 

①大会の日程について

 

・本大会は1回戦1日、準決勝1日、決勝1日の合計3日間行われる。

・デュエルの形式はシングル。新マスタールールを適用。トーナメント方式で行われる。

 

②大会のルールについて

 

・大会で使用できるカードは平均価格が1000円以下の物とする。

・1クラスで1チームとみなす為、同名カードは1クラスにつき3枚までとする(制限・準制限カードも同様の物とする)

・3本勝負で先に2本取ったクラスの勝利とする。

・先攻・後攻は1試合目ではデュエルディスクに搭載しているじゃんけん対戦機能で行うが、2試合目以降は前の試合で負けた側のクラスが先攻・後攻を決める。

・対戦クラスはあらかじめ誰が何番目に出るかを申請する事。変更は受け付けられない。

・優勝クラスには『カードターミナル』から物凄く素敵なプレゼントを頂ける。

 

③注意事項

・カードの効果処理等分からない事があれば、ジャッジに質問して良い。

・以下のような行為は不正行為である。もし以下に該当するような行為を行った場合、デュエルディスクが反応するようになっている。不正行為を行った選手は強制失格となると共に強制敗北となる。不正行為の内容次第では大会の中止も考え得る為、絶対にやらないように。

 

・デッキの一番上のカードを操作する事。

……デュエルが始まる時やサーチ効果を持つカードを使った時や、デッキの中を見た時は必ずシャッフルをしないといけない。この時に意図的に自分の手札に来て欲しいカードをデッキトップに移動させる行為。

・デッキ以外の場所、鞄やプレイマット等からカードを手札に加える事

……相手プレイヤーがサーチ効果を持つカードを使った時等、自分から目を離した隙にあらかじめ用意しておいたカードを手札に加える行為。

・カードの効果を使わずに墓地やデッキからカードを手札に加える事

……墓地のカードやデッキの中を確認する時、相手に分からないように欲しいカードを手札に加える行為。墓地のカードはお互いに情報を公開しているが、枚数が増えてくると自分だけでなく、相手のカードも全て覚えるのは大変となる。

・カードの効果やルール上出来ないことをする事

……わざとなのか、それとも本当に分からないのかは状況とプレーヤーに左右される為、1回目は通告処分、2回目は警告処分と見なす。3回目は失格処分と見なす為、カードの効果は一通り頭に入れる事。

 

 

 

(不正行為をここまで詳しく記し、処分も決めているとはな……流石に『カードターミナル』側も考えているな。女性権利団体の介入を防ぐ為もあるだろうけど……確かに大会での不正行為問題は根深い。世界大会優勝者もやらかした事もあった。こればかりは人としてのモラルの問題になるからな……)

 

 スポーツやゲームの世界では不正行為は絶対にしてはいけない事として挙げられる。何故なら不正行為はルールを意図的に破り、その上で行われている行為なのだから。

 『遊戯王OCG』における不正行為が発生する理由は、相手プレイヤーにバレないようにルールを破る事で、自分の有利な状況に運ばせる事でデュエルに勝利する事を目指す為。要は目先の勝利の為と言う事となる。

 不正行為が判明した場合、審判によって勝敗が決定するのだが、小さな大会ではジャッジの判断基準に任される事が多い。つまり、明確な判断基準と言う物が存在しにくいと言う事になる。ここでは『カードターミナル』のスタッフが審判についているが、このような場合はあまり見受けられない。

 一部の不正行為は“間違えただけ”と言われればジャッジキルにならない事が多く、相手が誰がどう見ても故意的に行っていたとしても、そのままデュエルが続行されてしまう事が多い。このジャッジの判断にもグレーゾーンと言える事項が多い為、相手が不正をしていたにも関わらず、そのまま押し通されてしまうというケースも中にはある。

 

(にしてもデュエルディスクに不正防止機能が付いていて良かった……過去の大会で起きた不正行為を全て調べ上げ、その傾向と対策をまとめた上でデュエルディスクに反映させたって、相当な努力があったに違いない。本当に頭が下がる思いだよ。だからこの大会で優勝してみせる! デュエルディスクのモニターとして……一人の『遊戯王』プレーヤーとして!)

 

 デュエルディスクには不正防止機能が数多く搭載している。デッキの一番上のカードを操作する不正行為の対策として、自分がサーチ効果でカードに触れないようにする方法を考える事が一番である。その発想を得たのは『遊戯王OCG』のゲームである。

 まるでゲームをプレイしているみたいにサーチしたいカードを画面から選ぶと、デュエルディスクがそのカードを自動的にデッキトップに持ってきてくれる。プレーヤーが選んだカードを手札に加えた後、オートシャッフルしてくれる親切機能も付いている。

 他にもデッキレシピを登録した上でデッキの差込口にデッキを入れると、もし万が一デッキの中身が異なっていたり、違う場所からカードを手札に加えたりしても、エラー表示が出て不正行為を行った事が一発で分かるようになっている。

 他にもカードの効果を使用せず、墓地やデッキからカードを加えようとするとエラー表示が出たり、フィールドのカードの影響上、またはルール上出来ないことをしようとしても、デュエルディスクの仕様で出来ない等、不正防止には細心の注意を払っている。

 

(まぁ不正行為の一番の対策はそもそも自分がやらない事と、相手の行動をよく見る事に限る訳だけど……景品の物凄く素敵なプレゼントとは一体……?)

 

 純一が気になるのは優勝クラスへの景品。『カードターミナル』が用意した物凄く素敵なプレゼント。1クラス30人近くいる為、あまり豪華な賞品は期待出来ない。最新パック1ボックスやプレイマットが妥当なラインだろう。

 11期に入ってからアニメ放映が『ラッシュデュエル』に移行した為、既存テーマのリメイクや強化が顕著となった。その中で《禁じられた一滴》や《三戦の才》等の相変わらずのパワーカードも出ているが。

 

ーーーーー

 

 全校集会が終わった後、各教室では朝礼が行われている。5組の教室は何処かそわそわしたような感じとなっている。

 担任のナターシャは何処かわくわくしていた。何しろ彼女が担任となって初めて行われる学園行事なのだから。

 

「皆、いよいよ今日から学年別クラス対抗デュエルトーナメントが始まるわ。純一君がこのクラスに来て1ヶ月、私も含めて色んな事を彼から学んで教わった。この大会はその成果を発揮する時。純一君がてっぺんを取らせると言うなら、私達皆で彼をてっぺんに押し上げましょう!」

 

『はい!』

 

「純一君からも一言お願い」

 

「分かりました。皆さん、僕がこのクラスに来て1ヶ月が経ちました。『遊戯王』の授業やISとデュエルディスクを用いた実習を通じて、僕は可能な限り皆さんに自分の経験や知識を伝えてきました。正直に言います。今の1年5組に勝てるクラスはいません。それは僕がいるからではありません。皆さんが一生懸命努力している成果だと確信しています。今日から始まる大会で、その確信を自信に変えていきましょう!」

 

『はい!』

 

「あ、それでね純一君……実はIS委員会の人からの頼みで、第1試合に1番手として出て欲しいって」

 

「えっ!? 僕1回戦は出るつもり無かったんですけど!?」

 

 数時間後に始まる大会。数時間後に始まる試合に向けて気持ちを高め合っている時、突然IS委員会からの頼みで試合に出る事になった純一。彼は驚きながらも戸惑っている。

 実は1年6組と対戦する1回戦はナタリア・比奈・神楽の3人で出る事に決めていたのだが、ここに来てまさかの順番決め直しとなった。

 

「この大会は『デュエル・ストラトス』のお披露目もそうだけど、ISとIS学園のイメージアップも兼ねているの。それで広告塔である純一君に1年生の部最初の試合に出て貰おうって言うつもりみたいで……」

 

「分かりました。要は広告塔らしい仕事をしろって事ですね? ったく自分達でイメージダウンさせておきながら困った時に人に頼みやがって……」

 

「まぁまぁそう言わずに……6組の人には話を通してあるから……」

 

「そういう問題じゃなくて……ハァ、了解です。頼まれたからにはきちんと仕事を受けます。でも次はもっと早めに連絡するように伝えて下さいね?」

 

「ごめんね……後でIS委員会の人には私からきつく言っておくから」

 

 IS委員会としては、この学年別クラス対抗デュエルトーナメントは必ず成功させたい所だった。何故ならイメージダウンしたISとIS学園のイメージアップを狙っていて、その為に影響力のある純一を最大限に利用しようと考えている。

 その手始めに1年生の部の最初の対戦となる5組と6組の試合で、純一を5組の1番手として出場させ、『デュエル・ストラトス』のアピールに繋げようと言う魂胆だった。

 

「ではこの後1時間目の授業は出場メンバーはデッキの調整を、残りの皆はレポートの準備に取り掛かって下さい」

 

 さて同じ頃。談話室に各学年の専用機持ちが集合していた。集めたのは織斑千冬。彼女の表情は真剣その物だった。まるで何かに追われているように。何かを突き付けられているかのように思える。

 集まったのは1年生で7人、2年生で2人、3年生で1人。純一以外の全ての専用機持ちがその場に集まっている。

 

「今日から学年別クラス対抗デュエルトーナメントが始まるが、皆には行動や振る舞いには気を付けろと言いたい。文化祭でIS部隊による襲撃事件が起きた事で、IS学園のイメージダウンに繋がってしまった。今回の大会はIS学園のイメージアップも狙っている。なので今までの学園行事同様、IS関連の企業や各国要人だけでなく、一般人も客として来る。お前達、専用機持ちの振る舞い一つだけで彼らの印象は変わる。細心の注意を払うように」

 

「千冬姉……じゃなかった、すみません。織斑先生。それだけを伝えに俺達を集めたのですか?」

 

「いや、ここからが本題だ。実はIS委員会の提案で試験的ではあるが、専用機持ちに“特殊スキル”の使用を許可された。“特殊スキル”は1回のデュエルにつき3回まで使用可能だ。魔法カード扱いとなり、 単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が発動出来る機体の搭乗者は、 単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)に即したカード効果となる。例えば、一夏の場合は……」

 

『ッ!?』

 

 ウィンドウに映し出された一夏の“特殊スキル”。魔法カード扱いの 単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は、誰もが驚くほどに強い内容だった。

 

 

《零落白夜》

通常魔法

《零落白夜》は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):このカードの発動は無効化されない。

(2):このカードの発動成功時には、このカード以外の魔法・罠・モンスターの効果は発動できない。

(3):相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの攻撃力をターン終了時まで0にする。

 

 

「こ、これ……普通に強くないか!? ターン1制限付いているが発動を邪魔されず、耐性持ちのモンスターの攻撃力も0に出来るんだぞ!?」

 

「確かに強い為、“特殊スキル”の発動条件はライフポイントが4000以下になった時となった。それを差し引いても強いが……この提案は『カードターミナル』側も了承して頂いた。だから気にする必要はない」

 

(この1ヶ月間、俺は皆と一緒に『遊戯王』の勉強をしたり、デュエルする中で自分の弱さに向き合いながら、強くなろうと足掻き続けた。俺の一歩先を行く純一を超えられるように。今の俺じゃどう足掻いても純一には勝てない。でも俺の専用機、『白式』と力を合わせれば俺だって……)

 

 IS委員会の思惑として、今回の大会はデュエルディスクを装着したISでデュエルするだけではなく、操縦者等のISに関わる人材を育成しているIS学園ならではの工夫を凝らす事となった。

 一夏が自身の特殊スキル、《零落白夜》の効果テキストを読みながら純一とのデュエルの思いを馳せているその横で、純一とは長年付き合いがあり、彼の性格を知っている鈴は千冬に不安交じりの質問をぶつけた。

 

「織斑先生。純一と『カードターミナル』はこの“特殊スキル”の存在を知っているのですか? 仮に知っていたとして、使用は許可しているのですか?」

 

「あぁ。IS委員会の方から純一と『カードターミナル』に話をして、許可を頂いたそうだ。純一は許可したそうだが、“『遊戯王』の世界にISの事を持ち込む事は出来ない”と言って、本人の使用は断ったらしい」

 

「そうですか……」

 

 千冬が純一から許可を貰っていると言った為、鈴は引き下がるしか無かった。彼女は純一の性格から考えて、この特殊スキルの導入に強く反発する事を予想していた。

 この時専用機持ちの誰かが純一に確認すれば良かった。結果論でしかないが、大会で起きるとある出来事の発生を抑える事が出来たのだから。

 1時間目の授業。各クラスの試合出場メンバーはデッキ構築を行い、それ以外の生徒は観戦レポートの下準備に入っている。この観戦レポートは観戦したデュエルの感想や印象に残ったカード等を各自自由に記載する事となっている。

 

「やっぱり《幽鬼うさぎ》は使用不可能か……1000円オーバーだからな」

 

「となると手札誘発は《エフェクト・ヴェーラー》だけが使えますね……」

 

「いやもう1枚使えるよ? それがこれ、《古聖戴サウラヴィス》」

 

 

《古聖戴サウラヴィス》

儀式・効果モンスター

レベル7/光属性/ドラゴン族

ATK/2600 DEF/2800

《精霊の祝福》により降臨。

(1):自分フィールドのモンスターを対象とする魔法・罠・モンスターの効果を相手が発動した時、このカードを手札から捨てて発動できる。その発動を無効にする。

(2):相手がモンスターを特殊召喚する際に、フィールドのこのカードを持ち主の手札に戻して発動できる。その特殊召喚を無効にし、そのモンスターを除外する。

 

 

「儀式モンスターなのに手札誘発効果を持っているんですね……」

 

「あぁ。《ヴェーラー》はナタリアさんが使って良いけど、その代わりにこの《サウラヴィス》は僕が使う」

 

「どんな効果なんですか?」

 

「対象に取るカードの効果を無効に出来る。カウンター罠には打てないけど、《ヴェーラー》と違って発動出来る場面も多いし、対象も広くなったから一長一短だね」

 

「分かりました。《ヴェーラー》は私が使って、《サウラヴィス》は純一君が使うと言う事で」

 

 ナタリアと相談し合う純一。彼らの議題は“手札誘発効果を持つモンスターをどうするか”と言う事だった。純一から見れば、手札誘発効果を持つモンスターの投入は当たり前となっている。これも大会出場経験者だからか。

 話し合いの結果、《エフェクト・ヴェーラー》をナタリアが、《古聖戴サウラヴィス》を純一が使う事となった。

 

ーーーーー

 

 1時間目の授業と言う名前のデッキ調整が終わった後、純一達試合出場メンバーは第2アリーナのピットに移動していた。1年生の部は第2アリーナで試合を行われる。

 ピット内に備え付けられているモニター。そこには満杯となったアリーナの観客席が写し出されている。生徒の保護者や企業の営業担当、各国の首脳等の来賓客が大半だが、中には、『私立鳳凰学院』の面々もいる。

 

「凄い数の観客ですね……」

 

「それだけこのイベントが注目されているって証拠だ」

 

「黒田純一さん。まもなく入場時間となります。移動をお願いします」

 

「分かりました。では行ってきます」

 

 モニターを観ているナタリアは息を呑む一方、純一はデュエルディスクを展開して操作の再確認をしていた。

 一通りの操作が終わった時、この大会の為に雇われたスタッフが彼らの所にやって来て、純一に移動を促してきた。

 

「行ってらっしゃい!」

 

「勝利を信じているです!」

 

「落ち着いてプレーするのよ? 焦らないで!」

 

「相手は初心者でも油断しちゃ駄目よ!」

 

「悔いのないように!」

 

「はい! 勝利をこの手に!」

 

 ナタリア・比奈・神楽・ナターシャ・俊介の激励の言葉を受け、純一はスタッフの案内を受けながら第2アリーナへと向かっていった。

 純一の服装は下はIS学園の制服だが、上は『デュエル・ストラトス』の公式Tシャツを着て、その上に黒くて薄いジャケットを着ている。完全にラフな服装だ。

 

ーーーーー

 

 学年別クラス対抗デュエルトーナメント初日。超満員の観客で賑わう中、1年生の部の第1試合が始まる時間となった。1年5組と1年6組の対戦。

 公認大会優勝経験者であり、デュエルディスクのモニターの黒田純一擁する1年5組と、先日までエヴァ・ヨハンソンの悪行で苦しんでいたものの、今ではすっかり雰囲気が良くなった1年6組。下馬評では1年5組が圧倒的に有利だ。

 

「時間になりましたのでこれより1年5組と6組の試合を始めます。審判は私、小林健次郎が務めさせて頂きます。皆さんどうぞよろしくお願いします」

 

『ワアアアァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!』

 

 1年5組と6組の試合のジャッジを務めるのは小林健次郎。『カードターミナル』が派遣したスタッフで1年2組等の講師を務めている。

 『カードターミナル』入社以前は『遊戯王OCG』の強豪プレーヤーであり、全国大会でベスト4に入った程の実力者だった。その経歴を認められて入社した。

 『カードターミナル』入社後は動画出演を行い、ガチデッキからファンデッキまで色々なカードを使ったり、ルール解説を行う等、常にプレーヤーや視聴者に寄り添ったデュエルを心掛けているとの事。

 

「これより選手の入場を行います。先ずは1年5組の1番手! この『デュエル・ストラトス』の大目玉! “世界で2番目の男性IS操縦者”であり、『遊戯王』の公認大会優勝経験者! 黒田純一選手の入場です!」

 

『ウオオオォォォォォォーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 最初に入場してきたのは黒田純一。左腕にデュエルディスクを付け、観客達の声援に応えていく。入場時には一礼してから入る等、礼儀正しさも好印象を与えた。

 本来なら準決勝からの登場を予定していたが、この大会の直前で起きた事件によるイメージダウンの影響を抑える為、IS委員会の依頼で急遽試合に出る事となった。

 最初は事前連絡が無かった事で不満を抱いていたが、観客の声援を受けたらその不満も和らいでいった。後は試合に勝てるかどうかの問題だ。

 

「続いては1年6組の1番手! クラスのまとめ役でしっかり者! 目指すは大金星! 徳川蘭選手の入場です!」

 

『ウオオオォォォォォォーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 続けて入場してきたのは徳川蘭。黒髪のショートヘアが特徴な少女で、訓練機の『打鉄』を身に纏い、左手にデュエルディスクを付けての登場となった。

 その表情は緊張している事もあってぎこちない。無理も無いだろう。1年生の部の第1試合でトップバッター。対戦相手は大会優勝経験者。しかも大勢の観客の前でデュエルするのが初めて。これで緊張しない方が逆に凄いと言える。

 

「あ、あれ? 対戦相手純一君になったんだ……やっぱり話は本当だったんだ……」

 

「そうなんだよ……IS委員会がさ、ISとIS学園のイメージアップを兼ねて開催したこの大会で、広告塔の僕を使って大儲けしようとしているらしくて……」

 

「……確か文化祭で起きた事件でIS学園はイメージガタ落ちしているってネットの提示版に書いてあって……」

 

「その通り。だからIS委員会は必死なんだ。そのガタ落ちしたイメージを上げようとこの大会を開催し、一儲けしようと。まぁ僕らには関係のない話かもしれないけどね……」

 

「うぅん。私達一般生徒は代表候補生だったり、純一君のような人と関わる事があまり無いから、こういう話を聞けるのって新鮮に感じるんだ」

 

 蘭は6組の3番手の亜依と共にクラスをまとめ上げており、バトミントン部に所属している。勉強に部活に一生懸命な生徒で、本人の可愛さもあって教師からの信頼も厚い。

 『遊戯王OCG』ではこの大会に出場が決定してから講師の長尾大樹の個人指導を受けたり、純一からデッキ構築を教わったりと一生懸命に楽しんでいる。

 

「お~い、お二人さん。そろそろ始めようか?」

 

「あぁ、すみません。蘭さんが緊張していたので、緊張を解していました。ほら、大勢の人達の前でデュエルするんです。しかも学園行事が色々な事情で今年は悉く中止になっていますし、中々人前に出る機会に恵まれなくて……」

 

「あ、そうなんだね。それは失礼。経験者として良い心掛けだよ。でも時間も押しているし、蘭さんの表情も良い感じになってきたから始めよう」

 

「はい! ではよろしくお願いします!」

 

「こちらこそ! お手柔らかにお願いします!」

 

 お互いにデュエルディスクを展開する純一と蘭。最初に行うのは先攻・後攻を決めるじゃんけん。デュエルディスクに搭載されているじゃんけん機能を使った結果、純一が“グー”を出し、蘭が“チョキ”を出した。

 じゃんけんに勝利したのは純一。彼は迷う事なく先攻を選んで蘭が後攻となった。お互いにデュエルディスクのデッキ挿入口にメインデッキ・EXデッキを入れると、オートシャッフルされていく。

 オートシャッフルが完了すると、お互いにデッキトップから5枚のカードを引いた。己の手札を持った事を確認すると、健次郎がデュエル開始の宣言を行う。

 

「デュエル開始の宣言をするよ? せ~の!」

 

『デュエル!』

 

 打ち合わせもせず、選手と審判と観客が一つになってデュエル開始の宣言を行った。これには純一と蘭はお互いに苦笑いを浮かべるしか無かった。

 ついに始まった学年別クラス対抗デュエルトーナメント。1年生の部の開幕は純一と蘭の試合だった。観客の誰もがこれから始まるデュエルに期待を含まらせながら、アリーナの中央で対峙する2人のデュエリストに視線を送る。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・学園行事が中止になっている件について

 冷静に考えればこれってかなりの異常事態ですよね。昨今は某新型ウィルスの影響で中止せざるを得ませんが……行事が中止になった余波による影響はいずれ記します。

・まさかの出場

 純一君が1回戦から出る事になったのは、初戦の1番手は彼が相応しい事とISとIS学園のイメージアップを狙ったからです。

・“特殊スキル”

 けっこう強いな~と我ながら思うカード効果にしましたが、まぁ妥当と言えば妥当でしょうか。

・手札誘発

 IS環境で軒並み禁止になっているので、相手に妨害されずに展開する事が簡単になりました。現実はそう甘くはありませんが。


次回予告

ついに始まった学年別クラス対抗デュエルトーナメント。
初戦の純一と蘭のデュエルは大勢の観客で満員御礼!
大宇宙の大いなる力、【Kozmo】を使う純一と、大空を制する神鳥、【シムルグ】を使う蘭の攻防は一進一退に。
この戦いを制するのはどっちだ!?

TURN17 超光速の奇襲!!【Kozmo】VS【シムルグ】


次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。


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TURN17 超光速の奇襲!!【Kozmo】VS【シムルグ】★

相変わらず暑い日が続いていますね……そんな中での投稿となります。

次回以降のデュエルは純一君+aが解説していくスタイルにしていきます。
この話の次はデッキレシピを記し、番外編を記します。

※9/9 次回予告を変更しました。



 学年別クラス対抗デュエルトーナメント初日。この日は各学年の1回戦の試合が行われている。開催されているのはIS学園に3つあるアリーナ全て。その中でも超満員のお客さんで賑わっているのが第2アリーナ。

 何故なら1年生の部の試合がそこで行われており、第1試合の1年5組と6組の対戦が要注目試合として取り上げられているからだ。

 今行われているのは1番手同士の対戦。黒田純一と徳川蘭。『デュエル・ストラトス』の広告塔で、大会優勝経験者で影響力と勢いのある人物の試合を見逃すなと言わんばかりに、第2アリーナは超満員のお客さんで賑わっている。

 

・1ターン目

 

 この試合の先攻は純一。1試合目の先攻・後攻は、デュエルディスクに搭載されているじゃんけん機能に勝利した側が決められる。2試合目以降は試合に負けた側が先攻・後攻を選ぶ権利が自動的に与えられる事となる。

彼が使用する【Kozmo】デッキは何度も対戦した経験がある因縁の相手。時には勝利し、時には敗れた過去のあるデッキの1つ。当然使い方を把握しており、零児とのデュエルでは元環境の力を見せ付けた。

 今回の【Kozmo】デッキは零児とのデュエル後、この大会に向けて調整した対大会用の構築となっている。9期で日本と海外の環境に君臨していた【Kozmo】の力が、ついにIS学園で発揮される瞬間がやってきた。

 

「僕の先攻! スタンバイフェイズ。メインフェイズ入ります」

 

「ど、どうぞ!」

 

「大丈夫!? 手が震えているけど大丈夫!?」

 

「大丈夫です!」

 

「OK……では行きましょう。《Kozmo-エメラルドポリス》を発動したいです。何かありますか?」

 

「無いです。発動OKです」

 

 純一が発動したフィールド魔法によって、第2アリーナの風景が瞬く間に近未来的な都市の風景に書き換えられていった。

 リアルソリッドビジョンシステムによって、都市の喧騒が聞こえて来る。その臨場感にプレーヤーのみならず、観客も魅了されていく。

 

「凄い! フィールドが都市になった! 本物みたい!」

 

「これ凄いよね! 流石リアルソリッドビジョンは違うな~って感じだよ! では続けて……《Kozmo-フェルブラン》を通常召喚したいです。何かありますか?」

 

「効果発動まで大丈夫です!」

 

「では《Kozmo-フェルブラン》を通常召喚します」

 

「可愛い~♪」

 

 純一のフィールドに現れたのは小さなブリキのロボット。《Kozmo-フェルブラン》。【Kozmo】デッキの墓地肥やし要員であり、不確定ではあるもののサーチ要員でもある。

 『スター・ウォーズ』シリーズに登場する“R2-D2”を彷彿とさせる見た目に、蘭は思わず黄色い声を上げてしまう。

 

「カードを2枚セットしてエンドフェイズに移ります。500ライフポイントを払い、《Kozmo-フェルブラン》の効果を発動します。デッキから《Kozmo》カードを3種類見せます。その中からランダムに1枚選んで下さい。選んだカードは手札に加えて、残りのカードは墓地に送ります」

 

「了解です!」

 

「《スリップライダー》、《ダーク・エルファイバー》、《ダークシミター》の3枚の中から選んで下さい……さぁどうぞ!」

 

 《Kozmo-フェルブラン》の頭から投射機のような物が出現すると、黒い宇宙戦艦、灰色と黒色の“剣”の見た目をした宇宙船、仮面を付けた漆黒の魔女の3種類の映像が映し出された。

 

 

《Kozmo-フェルブラン》

効果モンスター

レベル1/光属性/サイキック族

ATK/0 DEF/0

《Kozmo-フェルブラン》の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードを除外して発動できる。

手札からレベル2以上の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚する。

この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):自分・相手のエンドフェイズに500LPを払って発動できる。

デッキから《Kozmo》カード3種類を相手に見せ、相手はその中からランダムに1枚選ぶ。そのカード1枚を自分の手札に加え、残りは墓地へ送る。

 

 

 

「(多分セットカードのどれかは蘇生系カードかな? 《リビデ》や《戦線復帰》とは思うけど……)え~と、右側のカードを選びます」

 

 相手に選ばせて手札に加えるカードの効果処理の場合、デュエルディスクでは使用者の目の前に裏側表示のカードの映像が複数枚出てくる仕組みとなっている。

 このデュエルの純一はカードショップで対戦するモードとなっており、好青年でカードの効果を読む時も相手に聞き取りやすくする等、真面目さと誠実さを兼ね揃えているが、内心は闘争心で燃えている。

 

「右側ですね……これは……《ダークシミター》でした。これを手札に加えます。残りの《スリップライダー》と《ダーク・エルファイバー》は墓地に送ります。ターンエンドです」

 

「見た感じ《Kozmo》モンスターやカードが多い……さては【Kozmo】デッキ?」

 

「その通り。僕が使っているのは“魔の9期”に海外で大暴れし、来日後も環境に上り詰めた元環境デッキ。大会に出てた頃に激戦を繰り広げた因縁のデッキ! 元ネタは『スター・ウォーズ』だけに、【Kozmo】の力を見せてやろう!」

 

「何と!? 元環境デッキ……うぅっ! 頑張るしかない!」

 

 

 

黒田純一

LP:8000→7500

手札:2

フィールドゾーン:《Kozmo-エメラルドポリス》

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《Kozmo-フェルブラン》

魔法・罠ゾーン:セットカード×2

 

 

 

・2ターン目

 

「これ強いぞ純一君! 先攻1ターン目で《フェルブラン》と《エメラルドポリス》は強い! しかも手札には《ダークシミター》がある!」

 

「そう言えば、1組との合同授業で織斑先生と対戦した時もこんな感じでしたね……」

 

「そうなの!? 見たかった……!」

 

「次は蘭さんのターンね。どんなデッキを使うんだろう?」

 

 ピットの中で純一のデュエルを見守る5組の面々。安定した初動に俊介は一人盛り上がる一方、ナタリアは1組との合同授業の事を思い出して苦笑いを浮かべた。

 1組との合同授業で一通りのデュエルディスクの操作を学習したが、この時純一は千冬とデュエルを行った。その時は純一が激戦の末に千冬を下した。

 その合同授業では講師の俊介はいなかった為、彼のデュエルを観る事が出来ず、一人悔しがっているその横で、神楽は蘭の動きに注目していた。

 

「私のターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイフェイズ。メインフェイズに入ります」

 

「どうぞ!」

 

「手札から鳥獣族モンスター1体を捨てて、《神鳥(シムルグ)の来寇》を発動したいです。大丈夫ですか?」

 

「【シムルグ】デッキ……良いでしょう! 通します」

 

 蘭の使用デッキは【シムルグ】。鳥が大好きな蘭に純一が薦めたデッキ。その理由は安く作れて、比較的簡単に使う事が出来る為。デッキ構築のアイディアは純一が提供し、実際の構築や回し方は講師の大樹が教えた。

 【シムルグ】は鳥獣族モンスターを中心としたデッキであり、メインとなるモンスターは風属性だが、一部のモンスターは闇属性を必要とする混合デッキでもある。

相手の魔法・罠ゾーンを吹き飛ばし、大型モンスターをアドバンス召喚して勝負を決める事が主な戦術となっている。

 

「手札の《烈風の覇者シムルグ》を捨てて、デッキから《雛神鳥シムルグ》と《ダークネス・シムルグ》を手札に加えます」

 

 

神鳥(シムルグ)の来寇》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):手札から鳥獣族モンスター1体を捨てて発動できる。

デッキから《シムルグ》モンスター2体を手札に加える(同じ属性は1体まで)。

(2):墓地のこのカードを除外して発動できる。

手札の鳥獣族モンスター1体を相手に見せる。

このターン、そのモンスター及び自分の手札の同名モンスターのレベルを1つ下げる。

 

 

「相手フィールドにモンスターがいて、自分フィールドにモンスターがいない時、このカードはレベル4モンスターとして特殊召喚する事が出来ます。手札の《こけコッコ》を特殊召喚したいです。ここまで大丈夫ですか?」

 

「問題ないです」

 

 蘭のフィールドに現れたのは鶏の姿をした可愛らしいモンスター。その登場に女子生徒を含めた女性達は黄色い歓声を上げる。

 

 

《こけコッコ》

チューナー・効果モンスター

レベル5/風属性/鳥獣族

ATK/1600 DEF/2000

(1):お互いのフィールドにモンスターが存在しない場合、このカードはレベル3モンスターとして手札から特殊召喚できる。

(2):相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにカードが存在しない場合、このカードはレベル4モンスターとして手札から特殊召喚できる。

(3):表側表示のこのカードはフィールドから離れた場合に除外される。

 

 

「《雛神鳥シムルグ》を通常召喚します。効果発動まで良いですか?」

 

「どうぞ!」

 

「このカードが召喚に成功した時、《雛神鳥シムルグ》の効果を発動します。このターン、私は通常召喚に加えてもう1度、自分メインフェイズに《シムルグ》モンスター1体を召喚出来ます。なので《招神鳥シムルグ》を通常召喚します」

 

 下級《シムルグ》モンスター達を使って展開と下準備を行う蘭に対し、純一は妨害を一切行わずにただ見守るだけだった。

 IS環境ルールで手札誘発効果を持つモンスターカードが軒並み使用禁止に追いやられている事もそうだが、《エフェクト・ヴェーラー》をナタリアのデッキに入れた為、代わりに《古聖戴サウラヴィス》を投入している。

 《古聖戴サウラヴィス》は自分モンスターを対象とする効果を無効にする手札誘発効果を持っており、主に防御札として活躍が望まれる。

 

 

《雛神鳥シムルグ》

効果モンスター

レベル1/風属性/鳥獣族

ATK/0 DEF/1600

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。

このターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに《シムルグ》モンスター1体を召喚できる。

(2):このカードが墓地に存在し、相手の魔法&罠ゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。このカードを守備表示で特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

この効果の発動後、ターン終了時まで自分は鳥獣族モンスターしか特殊召喚できない。

 

 

「《招神鳥シムルグ》が召喚に成功した時、効果を発動します。デッキからこのカード以外の《シムルグ》カード1枚を手札に加えます。ここは……《神鳥(シムルグ)の霊峰エルブルズ》にします」

 

 続いて蘭のフィールドに現れたのは橙色で王冠を被った鳥の姿をしたモンスター。ここまで理想的な展開を行う蘭に対し、純一は何処で妨害しようか考えている最中だ。

 

 

《招神鳥シムルグ》

効果モンスター

レベル2/風属性/鳥獣族

ATK/1000 DEF/1000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。

デッキから《招神鳥シムルグ》以外の《シムルグ》カード1枚を手札に加える。

(2):このカードが墓地に存在し、相手の魔法&罠ゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。このカードを守備表示で特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

この効果の発動後、ターン終了時まで自分は鳥獣族モンスターしか特殊召喚できない。

 

 

「私は《こけコッコ》、《雛神鳥シムルグ》、《招神鳥シムルグ》の3体の鳥獣族モンスターをリンクマーカーにセット!」

 

 蘭がリンク召喚の準備に入る事を告げると、《こけコッコ》、《雛神鳥シムルグ》、《招神鳥シムルグ》の3体の鳥獣族モンスターがそれぞれ緑色の光に変わっていく。

 3体の鳥獣族モンスターが3つの緑色の光に変わると、天空に周囲八方向に矢印のついた正方形のリングが出現し、その中に3つの光が吸い込まれていく。

 そしてリングの左下と下と右下の部分の矢印が光り輝いた瞬間、リングの中央から緑色に輝く神鳥が現れた。王の名を冠する神鳥。《王神鳥シムルグ》が舞い降りた。

 

「召喚条件は鳥獣族モンスターを含むモンスター2体以上! 神鳥の王よ、最果てにある霊峰より飛び立ち、世界に烈風を巻き起こせ! リンク召喚! 現れろリンク3! 《王神鳥シムルグ》!」

 

 

《王神鳥シムルグ》

リンク・効果モンスター

リンク3/風属性/鳥獣族

ATK/2400

【リンクマーカー:左下/下/右下】

鳥獣族モンスターを含むモンスター2体以上

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

このカードはリンク素材にできない。

(1):このカード及びこのカードのリンク先の鳥獣族モンスターは相手の効果の対象にならない。

(2):このカードが戦闘で破壊される場合、代わりに自分フィールドの《シムルグ》カード1枚を破壊できる。

(3):自分・相手のエンドフェイズに発動できる。

使用していない自分・相手の魔法&罠ゾーンの数以下のレベルを持つ、鳥獣族モンスター1体を手札・デッキから特殊召喚する。

 

 

「来たな《王神鳥シムルグ》!」

 

 その力を目の当たりにしても純一は動じる事はなく、むしろ楽し気に獰猛な笑みを浮かべている。それはデュエルが好きで好きで仕方がない只の『遊戯王OCG』プレーヤーの本性だからか。

 

「バトルフェイズに入ります。《王神鳥シムルグ》で《Kozmo-フェルブラン》に攻撃します!」

 

「ならば攻撃宣言時にフィールドのこのカードを除外し、《Kozmo-フェルブラン》の効果を発動!」

 

「な、何ですって!?」

 

「手札からレベル2以上の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚! そっちがエースモンスターで来るなら、こっちもエースモンスターで応じようじゃねぇか!」

 

 近未来的な都市に響き渡るのは超速で飛行する宇宙戦闘機のスラスター音。その音が徐々に大きくなっていく。こちらに近付いているかのように。

 純一は手札の1枚のカードを右手に持ち、狂気なのか歓喜なのか分からない笑みを浮かべながら、高らかに叫んだ。

 

「宇宙の遥か彼方より飛来する侵入者よ、暗黒の剣となりて全てを殲滅せよ! 出撃の刻だ、《Kozmo-ダークシミター》!」

 

 現れたのは《Kozmo-ダークシミター》。白と灰色を基調としたカラーリングに、コクピット両側に取り付けられた主翼が特徴な宇宙船。

 その圧倒的な威圧感と存在感は【Kozmo】デッキにおけるエースモンスターだからか、それとも巨大な宇宙船だからか。

 

 

《Kozmo-ダークシミター》

効果モンスター

レベル8/闇属性/機械族

ATK/3000 DEF/1800

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。

(2):このカードは相手の効果の対象にならない。

(3):このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキからレベル7以下の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「こ、これが【Kozmo】デッキの切り札……!」

 

「応よ! 《Kozmo-ダークシミター》は召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドのモンスター1体を破壊出来るんだけど……」

 

「《王神鳥シムルグ》とこのカードのリンク先の鳥獣族モンスターは相手の効果の対象にならないので、対象に取る破壊効果は使えない!」

 

「そこなんだよね~まぁ取り敢えず、対象に取れない攻撃力3000のモンスターを立てただけ良しとするか。さぁどうする?」

 

「ちょっとすみません、効果確認しますね……攻撃力3000で相手の効果対象にならない……戦闘・効果破壊されたらレベル7以下の《Kozmo》モンスターをリクルート……強い! と言うか今は突破無理! バトルフェイズは中断してメインフェイズ2に入ります。先程手札に加えた《神鳥(シムルグ)の霊峰エルブルズ》を発動します。今はまだ何もないです」

 

「ならば《神鳥(シムルグ)の霊峰エルブルズ》を発動した時、チェーンしてリバースカードオープン! 《リビングデッドの呼び声》!」

 

 

《リビングデッドの呼び声》

永続罠

(1):自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。

そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。

このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。

そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。

 

 

「自分の墓地のモンスター1体を攻撃表示で特殊召喚します。《Kozmo-スリップライダー》を攻撃表示で特殊召喚します。ここまで大丈夫ですか?」

 

「はい、大丈夫です!」

 

「では《スリップライダー》の効果を発動します。このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドの魔法・罠カード1枚を破壊出来ます。なので……《神鳥(シムルグ)の霊峰エルブルズ》を破壊したいです」

 

 純一のフィールドに現れたオレンジ色の小型戦闘機。その戦闘機が聳え立つ霊峰にレーザー・キャノン砲から砲撃を撃ち込むと、その風景はまるで幻想のように儚く消えた。

 

「通します……《エルブルズ》はキープしたかったですけど、そうはさせませんよね……」

 

「【シムルグ】デッキは《エルブルズ》が良い仕事をするので、それを妨害しないと後々きつくなるから……」

 

 

《Kozmo-スリップライダー》

効果モンスター

レベル5/光属性/機械族

ATK/2300 DEF/800

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

(2):このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。デッキからレベル4以下の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「カードを1枚セットしてエンドフェイズに入り、《王神鳥シムルグ》の効果を発動します」

 

「通します!」

 

「使用していない自分・相手の魔法&罠ゾーンの数以下のレベルを持つ、鳥獣族モンスター1体を手札・デッキから特殊召喚します」

 

「僕が使っていないのは3ヵ所、蘭さんが使っていないのは4ヵ所なので、合計してレベル7以下の鳥獣族モンスター1体を手札・デッキから特殊召喚出来ると……」

 

「なのでここは……《ダークシミター》の攻撃力が3000あるし、耐性持ちだからなぁ……どうしよう。そうだな……《ダーク・シムルグ》を特殊召喚します」

 

 蘭のフィールドに現れたのは黒くて巨大な神鳥。《ダーク・シムルグ》。【忍者】や【アロマ・コントロール】デッキ等で使われているカード。

 

 

《ダーク・シムルグ》

効果モンスター

レベル7/闇属性/鳥獣族

ATK/2700 DEF/1000

(1):このカードが手札に存在する場合、自分の墓地から闇属性と風属性モンスターを1体ずつ除外して発動できる。このカードを特殊召喚する。

(2):このカードが墓地に存在する場合、手札から闇属性と風属性モンスターを1体ずつ除外して発動できる。このカードを特殊召喚する。

(3):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードの属性は“風”としても扱う。

(4):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手はカードをセットできない。

 

 

「懐かしいカードだな!? ちょっと効果確認しますね……セットが出来ないか……困ったなぁ……」

 

「それに《王神鳥シムルグ》の効果と噛み合っているんです。《王神鳥シムルグ》が戦闘で破壊される場合、代わりに自分フィールドの《シムルグ》カード1枚を破壊出来ます。つまり身代わりになれます」

 

「う~ん……戦闘破壊せず、対象に取らない除去でないときついと言う事か……」

 

「そう言う事です。これなら流石に2ターンはもつはず……ターンエンド!」

 

 

 

黒田純一

LP:8000→7500

手札:1

フィールドゾーン:《Kozmo-エメラルドポリス》

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《Kozmo-ダークシミター》、《Kozmo-スリップライダー》

魔法・罠ゾーン:セットカード×1、《リビングデッドの呼び声》

 

 

 

徳川蘭

LP:8000

手札:2

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:《王神鳥シムルグ》

メインモンスターゾーン:《ダーク・シムルグ》

魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

 

 

・3ターン目

 

「徳川さんのデッキは【シムルグ】か……強さでは【Kozmo】が上かもしれないけど、展開力なら【シムルグ】の方が上だな。今の盤面は純一君にとって嫌な流れになっている」

 

「? どうしてですか?」

 

「徳川さんのフィールドにいる《王神鳥シムルグ》は耐性持ちだし、今は《ダーク・シムルグ》がいるから、戦闘破壊を1度は凌げる状態にある。それに早めに除去しないと、エンドフェイズ毎にデッキから強力な鳥獣族モンスターを召喚され続けてしまう……」

 

「そ、それは大変です!」

 

「先に《王神鳥シムルグ》を除去しないときつい展開になる……だが《王神鳥シムルグ》は効果対象にならない耐性持ち。となると対象に取らない除去か、戦闘破壊しか突破方法はない。さて純一君はどうするか……」

 

 今の状況は純一にとって嫌な展開になっている。お互いに良い手札で良い初動が出来たのだから。ましてや今の純一は少なからずプレッシャーを受けている。

 しかし、5組の誰もが信じている。純一は必ずこの盤面を引っ繰り返す事が出来る事を。そしてこのデュエルを制すると。

 

「僕のターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイフェイズ。メインフェイズに入ります。ではメインフェイズ開始時! 《強欲で金満な壺》を使いたいです」

 

「どうぞ!」

 

「ではEXデッキのカードを6枚裏側表示で除外し、2枚ドローしたいので除外するカード6枚を好きに選んで下さい」

 

「……この6枚でお願いします!」

 

「はい! では2枚ドロー! このカードを発動した後、ターン終了時まで僕はカードの効果でドロー出来ません」

 

 《強欲で金満な壺》で除外するEXデッキのカードはデュエルディスクがオートシャッフルした後、相手がデュエルディスクの画面で選ぶ仕組みとなっている。

 ちなみに《強欲で金満な壺》で除外した裏側表示のEXデッキのカードは、《強欲で金満な壺》発動した側のプレーヤーだけが見る事が出来る。

 

 

《強欲で金満な壺》

通常魔法

(1):自分メインフェイズ1開始時に、自分のEXデッキの裏側表示のカード3枚または6枚をランダムに裏側表示で除外して発動できる。

除外したカード3枚につき1枚、自分はデッキからドローする。

このカードの発動後、ターン終了時まで自分はカードの効果でドローできない。

 

 

「続けて《封印の黄金櫃》を発動します。何かありますか?」

 

「その魔法カードの効果って何ですか?」

 

「デッキからカード1枚を除外します。発動後2ターン目の僕のスタンバイフェイズに、除外したカードが手札に加わります」

 

「う~ん……2ターン後だから良いかな? 通します」

 

 

《封印の黄金櫃》

通常魔法(制限カード)

(1):デッキからカード1枚を選んで除外する。

このカードの発動後2回目の自分スタンバイフェイズに、この効果で除外したカードを手札に加える。

 

 

「デッキから2枚目の《Kozmo-ダークシミター》を除外します。続いて《Kozmo-エメラルドポリス》の効果を発動します。除外されている自分の《Kozmo》モンスター1体、今除外したばかりの《Kozmo-ダークシミター》を手札に戻したいです」

 

「つまり疑似的なサーチ……恐ろしい! 通します!」

 

「OK。《ダークシミター》を回収し、そのレベル分100LPを失います。《ダークシミター》のレベルは8なので、800ポイントのLPを失います」

 

 

《Kozmo-エメラルドポリス》

フィールド魔法

(1):1ターンに1度、除外されている自分の《Kozmo》モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に戻し、自分はそのモンスターの元々のレベル×100LPを失う。

(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。

手札の《Kozmo》モンスターを任意の数だけ相手に見せ、デッキに戻してシャッフルする。その後、自分はデッキに戻した数だけデッキからドローする。

(3):フィールドゾーンのこのカードが効果で破壊された場合に発動できる。

デッキから《Kozmo》カード1枚を手札に加える。

 

 

「《Kozmo-グリンドル》を通常召喚します。効果は今は使わないです。そして……リバースカードオープン! 《Kozmo-エナジーアーツ》!」

 

 

《Kozmo-エナジーアーツ》

通常罠

《Kozmo-エナジーアーツ》は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドの《Kozmo》モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターを破壊し、相手のフィールド・墓地のカード1枚を選んで除外する。

 

 

「コ、《Kozmo-エナジーアーツ》!?」

 

「効果を発動します。自分フィールドの《Kozmo》モンスター1体を破壊します。ここは《Kozmo-スリップライダー》を破壊し、相手のフィールド・墓地のカード1枚を“選んで”除外します」

 

「で、でも《ダーク・シムルグ》と《王神鳥シムルグ》は相手の効果の対象にならない!」

 

「残念なお知らせです。《Kozmo-エナジーアーツ》は相手のフィールド・墓地のカード1枚を“選んで”除外する、対象に取らない除去カードです。なので……ここは《ダーク・シムルグ》を除外します」

 

「あっ、あぁ……《王神鳥シムルグ》を守ろうと出したのに……」

 

 純一の右手から迸る【Kozmo】のエネルギーがオレンジ色の小型戦闘機を破壊しながら、蘭のフィールドにいる黒くて巨大な神鳥―《ダーク・シムルグ》を消し去っていった。

 

「そして《スリップライダー》が破壊されたので、《リビデ》も効果で破壊されます。そして効果破壊された《スリップライダー》の効果を発動します。このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、墓地のこのカードを除外し、デッキからレベル4以下の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚します。これにチェーンは?」

 

「チェーン? これ以上やられっぱなしはさせません! リバースカードオープン! 《ハーピィの羽根吹雪》!」

 

 

《ハーピィの羽根吹雪》

通常罠

自分フィールドに《ハーピィ》モンスターが存在する場合、このカードの発動は手札からもできる。

(1):自分フィールドに鳥獣族・風属性モンスターが存在する場合に発動できる。

ターン終了時まで、相手が発動したモンスターの効果は無効化される。

(2):魔法&罠ゾーンのこのカードが相手の効果で破壊された場合に発動できる。

自分のデッキ・墓地から《ハーピィの羽根帚》1枚を選んで手札に加える。

 

 

「《ハーピィの羽根吹雪》 だと!?」

 

「このカードは自分フィールドに鳥獣族・風属性モンスターが存在する場合に発動出来ます。今、私のフィールドには《王神鳥シムルグ》がいるので発動出来ます。このカードを発動したターン終了時まで、相手が発動したモンスターの効果は無効化されます!」

 

「成る程。【シムルグ】は魔法・罠に対しては強いけど、モンスター効果には弱いと言う弱点を埋めてきたか……良いでしょう。でも僕にはバトルフェイズがある! バトルフェイズ!《Kozmo-ダークシミター》よ、《王神鳥シムルグ》を殲滅せよ!」

 

 透明化して姿を消していた《Kozmo-ダークシミター》が突如として姿を現すと、《王神鳥シムルグ》に向けて超スピードで突進。

 両翼から伸長した2門のレーザー・キャノン砲から無数の赤いエネルギー弾が撃ち込まれ、全身に喰らった《王神鳥シムルグ》は苦痛に満ちた声を上げながら消滅していった。

 

「《王神鳥シムルグ》は戦闘破壊されますが、この時墓地の《烈風の覇者シムルグ》の効果が発動します。このカードが墓地に存在し、自分の鳥獣族モンスターが戦闘で破壊された時、このカードを手札に加えます!」

 

「続けて《Kozmo-グリンドル》でダイレクトアタック!」

 

「クゥッ!」

 

 尖った耳に茶色の道着を来た女性―《Kozmo-グリンドル》がレーザー・ブレードを振るい、『打鉄』を身に纏う蘭を攻撃する。

 戦闘ダメージを受けた蘭の『打鉄』に衝撃が走り、ライフポイントと言う名前のシールドエネルギーが削られていく。

 

「メインフェイズ2は特にやる事ないので、このままターンエンドします」

 

 

 

黒田純一

LP:8000→7500→6700

手札:3

フィールドゾーン:《Kozmo-エメラルドポリス》

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《Kozmo-ダークシミター》、《Kozmo-グリンドル》

魔法・罠ゾーン:なし

 

 

 

徳川蘭

LP:8000→5600

手札:3

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:なし

魔法・罠ゾーン:なし

 

 

 

・4ターン目

 

「あぁ~蘭の布陣が崩された……!」

 

「あれは仕方ないよ。無理やりにでもどかせた純一君が凄い……でも蘭さんだってここからリカバリー出来ればまだまだいける!」

 

 1年6組の面々がいるピット。出場メンバーと臨時担任の榊原菜月、そして講師の長尾大樹がモニターで試合を観戦しながら、蘭の行動に注目している。

 蘭としては《王神鳥シムルグ》を維持しながら、エンドフェイズに次々と強力な鳥獣族モンスターを展開したかった。しかし、純一によってそれを返しのターンでいきなり阻まれる形となった。

 しかし、ライフポイントはまだ半分以上残っている。ここから展開し直したい。まだ【シムルグ】デッキの真価を発揮出来ていないのだから。

 

「私のターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイフェイズ。メインフェイズ入ります。ではメインフェイズ開始時、今引いた《強欲で金満な壺》を使いたいです」

 

「トップゴーキンか……強いなぁ……通すよ」

 

「ではEXデッキのカードを6枚裏側表示で除外し、2枚ドローしたいので除外するカード6枚を好きに選んで下さい」

 

「じゃあこの6枚で」

 

「はい! では2枚ドロー! このカードを発動した後、ターン終了時まで私はカードの効果でドローが出来ません。行きます!このカードが墓地に存在し、相手の魔法・罠ゾーンにカードが存在しない場合、墓地の《雛神鳥シムルグ》の効果を発動出来ます。このカードを守備表示で特殊召喚します」

 

「通します」

 

 先程は純一の猛攻に押されていた蘭だったが、《強欲で金満な壺》を発動した後は息を吹き返して反撃の下準備を行う。

 観客達も純一と言う絶対王者に挑むチャレンジャーを応援しており、その声援が蘭の背中を後押ししている。

 

「続けて《招神鳥シムルグ》も同じように守備表示で特殊召喚します。この効果を発動した後、このターンが終わるまで私は鳥獣族モンスターしか特殊召喚出来なくなります。更に効果で特殊召喚した《雛神鳥シムルグ》と《招神鳥シムルグ》は、フィールドから離れた場合に除外されます」

 

「了解!」

 

「更に……さっきは発動前に破壊された《神鳥(シムルグ)の霊峰エルブルズ》を発動します。2番目の効果。手札のレベル5以上の鳥獣族・風属性モンスター1体を相手に見せて発動出来ます。このターン、自分は鳥獣族モンスターを召喚する場合に必要なリリースを1体少なく出来ます。なので手札の《烈風の覇者シムルグ》をアドバンス召喚するのに必要なリリースを1体少なくしたいです」

 

 蘭が発動したフィールド魔法により、彼女のフィールドがまるで田舎風景とも言える、巨大な霊峰が聳え立つ風景へと変わっていく。

 

 

神鳥(シムルグ)の霊峰エルブルズ》

フィールド魔法

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドの鳥獣族・風属性モンスターの攻撃力・守備力は300アップする。

(2):手札のレベル5以上の鳥獣族・風属性モンスター1体を相手に見せて発動できる。

このターン、自分は鳥獣族モンスターを召喚する場合に必要なリリースを1体少なくできる。

(3):自分フィールドに鳥獣族・風属性モンスターが存在する場合に発動できる。

鳥獣族モンスター1体を召喚する。

 

 

 

「と言う事は1体リリースで出てくるのか……!」

 

「《招神鳥シムルグ》をリリースし、《烈風の覇者シムルグ》をアドバンス召喚します!」

 

 現れたのは黄金の王冠を頭に被り、所々に金色の装飾が施された神鳥。《烈風の覇者シムルグ》が蘭のフィールドに姿を現した。

 

 

《烈風の覇者シムルグ》

効果モンスター

レベル8/風属性/鳥獣族

ATK/2900 DEF/2000

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):アドバンス召喚したこのカードは相手の魔法・罠カードの効果の対象にならない。

(2):魔法・罠カードの効果が発動した時、自分フィールドの鳥獣族・風属性モンスター1体をリリースし、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。

そのカードを持ち主のデッキに戻す。

(3):このカードが墓地に存在し、自分の鳥獣族モンスターが戦闘で破壊された時に発動できる。このカードを手札に加える。

 

 

「私が風属性のモンスターのアドバンス召喚に成功した場合、墓地にいる《ダークネス・シムルグ》 の効果が発動します。このカードが手札・墓地に存在し、自分が闇属性・風属性のモンスターのアドバンス召喚に成功した場合、《ダークネス・シムルグ》 を特殊召喚します!」

 

「おお~! マジか! 一気に持ち直した!」

 

 蘭のフィールドに黒色と灰色の羽毛に、頭に王冠を被り、身体に装飾が施された神鳥が降臨した。《ダークネス・シムルグ》 。《烈風の覇者シムルグ》がかつて捨てた己の闇と伝承では言われているとか何とか。

 瞬く間に攻撃力2900の最上級モンスターを2体展開した蘭に、純一は唸りながらフィールドを見ている。

 

 

《ダークネス・シムルグ》

効果モンスター

レベル8/闇属性/鳥獣族

ATK/2900 DEF/2000

このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが手札・墓地に存在し、自分が闇属性または風属性のモンスターのアドバンス召喚に成功した場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードの属性は“風”としても扱う。

(3):魔法・罠カードの効果が発動した時、自分フィールドの鳥獣族・風属性モンスター1体をリリースして発動できる。その発動を無効にし破壊する。

 

 

「今、《烈風の覇者シムルグ》と《ダークネス・シムルグ》 の攻撃力って上がっているんだよね?」

 

「うん。《神鳥(シムルグ)の霊峰エルブルズ》の効果で、フィールドの鳥獣族・風属性モンスターの攻撃力・守備力は300上がっているよ? だから今攻撃力3200になっている」

 

「それは困ったな……《Kozmo-グリンドル》の効果を発動します。フィールドのこのカードを除外し、手札からレベル5以上の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚します。手札の《Kozmo-ダークシミター》を特殊召喚します」

 

「《Kozmo-ダークシミター》が2体……!」

 

「《Kozmo-ダークシミター》の効果を発動します。このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、フィールドのモンスター1体を破壊します。では……《烈風の覇者シムルグ》を破壊したいです」

 

「破壊されます……」

 

 《Kozmo-グリンドル》の姿が消えると、純一のフィールドにもう1機の《Kozmo-ダークシミター》が姿を現す。

 《Kozmo-ダークシミター》が撃ち出した無数の赤いエネルギー弾。それにより、《烈風の覇者シムルグ》は効果破壊されていった。

 

「で、でも私にはバトルフェイズがある! せめて1体だけでも! バトルフェイズに入ります! 攻撃力3200の《ダークネス・シムルグ》で、《Kozmo-ダークシミター》を攻撃!」

 

「《Kozmo-ダークシミター》は戦闘破壊されますが、効果を発動します。このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、墓地のこのカードを除外し、デッキからレベル7以下の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚します。ここは……《Kozmo-スリップライダー》にしましょうか」

 

「ま、また《スリップライダー》が……」

 

 《ダークネス・シムルグ》の突進により、剣を象った形をした黒くて灰色の宇宙船が破壊されていった。

 しかし、その破壊がトリガーとなり、近未来都市から新たにオレンジ色の小型戦闘機がフィールドに飛来してきた。

 

「《Kozmo-スリップライダー》の効果発動! 《神鳥(シムルグ)の霊峰エルブルズ》を破壊!」

 

「これで攻撃力が元通りに……ターンエンドです」

 

 

 

黒田純一

LP:8000→7500→6700→6500

手札:2

フィールドゾーン:《Kozmo-エメラルドポリス》

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《Kozmo-ダークシミター》、《Kozmo-スリップライダー》

魔法・罠ゾーン:なし

 

 

 

徳川蘭

LP:8000→5600

手札:3

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《雛神鳥シムルグ》、《ダークネス・シムルグ》

魔法・罠ゾーン:なし

 

 

 

・5ターン目

 

「純一……強い」

 

「えぇ。デッキテーマもそうだし、何よりプレイングが機械みたいに正確。アニメのような派手さはないけど、相手が展開したい時に的確に妨害して来る。こりゃたまった物じゃないわ……かんちゃん勝てそう?」

 

 試合の様子はアリーナの観客席にいる人々しか観る事が出来る訳ではない。『カードターミナル』IS学園店に設置されている大型モニターでも観戦する事が出来る。

 楯無と簪の更識姉妹は午後に試合を控えており、午前中は試合観戦する余裕があった。そこで純一の試合を観ているが、経験者の彼女達は改めて純一の強さを思い知った。

 デッキが強い事もそうだが、デッキテーマの事を把握しており、何処でどのように妨害すれば展開が止まるのかを理解している。だから純一は強い。

 それは大会に出場して色んなデッキと戦ったり、情報を得て分析したりした結果。要は勝つ為の、強くなる為の努力を積み上げてきたから。

 

「(《ダークネス・シムルグ》 は魔法・罠カードの効果が発動した時、自分フィールドの鳥獣族・風属性モンスター1体をリリースすると、その発動を無効にして破壊するんだよな……さてと。どう来るかな?)僕のターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイフェイズ。メインフェイズ入ります。《Kozmo-ドロッセル》を通常召喚します」

 

「通します!」

 

「《Kozmo-エメラルドポリス》の効果を発動します。除外されている自分の《Kozmo》モンスター1体、《Kozmo-ダークシミター》を手札に戻したいです。これにチェーンは?」

 

「え~!? と言う事はまた手札から飛んでくるんですよね?」

 

「うん。それを無効にして破壊するとそっちのモンスターが1体減って守り薄くなるし、《エメラルドポリス》は効果破壊されると、デッキから《Kozmo》カード1枚を手札に加えられる。さぁどうする?」

 

「……どっちにしてもそっちの得にしかならない! じゃあ除外されている《ダークシミター》を手札に戻してどうぞ!」

 

「除外されている《ダークシミター》を手札に戻し、800ライフポイントを失います。では試合を終わらせに行きますか……バトルフェイズに入ります」

 

 純一の目が猛禽類の如く細められ、獲物を狩るハンターの物となった。この試合を終わらせると言う宣言が第2アリーナに静かに響き渡り、観客の誰もが息を呑む。

 それは蘭も同様であり、観戦用のモニターで観ている人々も同じだった。時が止まったと言う錯覚を感じながら、誰もが純一の次の行動を見つめる。

 

「《Kozmo-ダークシミター》で《ダークネス・シムルグ》 を攻撃します」

 

「《ダークネス・シムルグ》は戦闘破壊されますが、墓地の《烈風の覇者シムルグ》の効果が発動します。自分の鳥獣族モンスターが戦闘で破壊された時、このカードを手札に加えます!」

 

「《Kozmo-スリップライダー》で《雛神鳥シムルグ》に攻撃します」

 

「破壊されます!」

 

「《Kozmo-ドロッセル》でダイレクトアタックします」

 

「ライフで受けます!」

 

 先ずは蘭のフィールドにいる神鳥達を殲滅していく。黒くて灰色の剣を形をした侵入者が漆黒の神鳥を、オレンジ色の小型戦闘機が可愛らしい見た目の緑色の神鳥を戦闘破壊し、道を切り拓く。

 《Kozmo-ダークシミター》と《Kozmo-スリップライダー》が切り拓いた道を、《Kozmo-ドロッセル》が駆け抜ける。左手に持ったレーザーガンが蘭が身に纏う『打鉄』のシールドエネルギーを削った瞬間。その瞬間が【Kozmo】怒涛の連続攻撃の幕開けだった。

 

「相手に戦闘ダメージを与えた時、《Kozmo-ドロッセル》の効果が発動します。デッキから《Kozmo》カード1枚を手札に加えます。手札に加えるのは《Kozmo-ダーク・エルファイバー》! そして《ドロッセル》の効果発動! フィールドのこのカードを除外し、手札からレベル4以上の《Kozmo》モンスター、《Kozmo-ダークシミター》を特殊召喚!」

 

「また、攻撃力3000の《Kozmo-ダークシミター》が!?」

 

「《ダークシミター》の効果発動! 攻撃し終えた《ダークシミター》を破壊!」

 

「えっ!?」

 

「《ダークシミター》の効果発動! このカードが戦闘・効果で破壊されて墓地へ送られた場合、墓地のこのカードを除外し、デッキかららレベル7以下の《Kozmo》モンスター1体を特殊召喚! 現れろ、《Kozmo-フォアランナー》!」

 

「攻撃力2800……」

 

 蘭を含めた観客達は理解出来なかった。何故自分のモンスターを効果で破壊したのか。【Kozmo】を知っている人達は瞬時に理解したが、それ以外の人はそうではない。

 蘭は純一を見るが、純一は不敵な笑みを崩さない。まるでこの行いが正しいと、最善であると確信しているように。

 《ダークシミター》が破壊された事をトリガーとして、円盤のような形をした宇宙船―《Kozmo-フォアランナー》が姿を現した。

 

「まだ僕のバトルフェイズは終わっちゃいない! 《Kozmo-フォアランナー》でダイレクトアタック!」

 

「キャアアアアァァァァッ!!!!!」

 

「止めだ! 《Kozmo-ダークシミター》でダイレクトアタック!」

 

「私のライフポイントは0……負けました」

 

「ガッチャ! ありがとうございました!」

 

「第1試合1本目の勝負は黒田純一選手の勝利!」

 

『ウオオオォォォォォォーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 【Kozmo】特有の連続攻撃によって蘭のシールドエネルギーが0となった瞬間、純一の勝利が確定した。観客の雄叫びにも似た歓声に応える純一と、純一の勝利を喜ぶように拍手を送る蘭。観客達は拍手喝采を送り、大声で声援を送る。

 こうして1年5組と6組の第1試合は1本目を5組が先取し、一歩リードを広げて第2試合を迎える事となった。

 

 

 

「どう言う事よ!? 話が全然違うじゃない!」

 

「IS学園の優秀な生徒なら1ヶ月あれば、大会優勝経験者を倒せるんじゃなかったの!?」

 

 黒田純一の勝利は観客達に喜ばれているが、女性権利団体の面々は決してそうではなかった。何故なら彼女達は純一の勝利を嫌がっており、純一の存在を心底憎んでいるから。

 純一率いる5組の優勝を阻止すべく、IS委員会の女尊男卑派と組んで一夏達専用機持ちに“特殊スキル”を使用出来るようにさせた。純一と『カードターミナル』の許可を得ず、純一潰しと言う目先だけの感情で行った行為だった。

 そこまでやる理由は純一の実力が高いと聞いていたから。『エキシビジョンデュエル』で魅せた輝きは物凄かったから。彼女達は恐れている。黒田純一と言う存在が自分達を含めた世界を喰らい尽くす事を。

 だからこそ純一を潰そうと躍起になっている。IS学園は倍率1万を超えるほどの超名門校。そこに入学出来た時点で優秀な生徒である事に変わりない為、たかがカードゲームぐらい、1ヶ月練習すれば経験者を凌駕出来ると信じていた。

 しかし、現実は違った。徳川蘭は僅かな戦闘ダメージを与えただけで、黒田純一の前に敗れ去った。確かに《王神鳥シムルグ》をリンク召喚し、《烈風の覇者シムルグ》と《ダークネス・シムルグ》の2体をフィールドに揃える等、初心者にしては健闘はした。それは事実であり、純一も内心舌を巻いていた。

 それでも結果は敗北と言う現実を突き付けられた。つまり幾らIS学園の生徒が優秀でも、1ヶ月練習したぐらいで大会優勝者に勝てる程、『遊戯王OCG』は甘くないと言う事になる。それが余計に女権団体の面々を苛立たせていた。

 

「こうなったらなりふり構わずあいつの優勝を阻止するまでよ! 明日の試合、明日の試合で反則負けにさせるなり、どうにかして赤っ恥をかかせるのよ!」

 

 しかし、女性権利団体の面々は知らない。自分達が現場監督を行ったこの大会が失敗に終わり、IS学園とIS委員会がまたとんでもない事になる事を。

 その原因を作ったのが黒田純一を排除する名目で、自分達が考えた企みだったと言う事をこの時の彼女達は知らなかった。

 

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・安定した初動

 同じような動きしかしないと揶揄されそうですが、それだけこの動きが強いと言う事になります。

・召喚口上

 元ネタを使ったり、自分で考えたりしています。我ながらセンスがないな……

・強さの種類

 純一君はソリティアで制圧するより、確実にアドを稼ぎながら一気に攻め込む事を得意とするタイプです。確実に相手の妨害をしつつ、自分の展開を通す。【メタビート】を好む設定にしています。


次回予告

1年5組と6組の試合。初戦は純一が蘭とのデュエルを制し、5組が準決勝進出に向けて王手をかけた。
しかしここでまさかの事態が発生し、急遽1年1組と7組のデュエルが行われる事に。
1番手の一夏とアンナの対戦は途中でとんでもない事に!?

TURN18 想定外の結末!? 【カオスライロ】VS【ダイナレスラー】


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TURN18 想定外の結末!? 【カオスライロ】VS【ダイナレスラー】

秋らしく涼しくなってきましたね。約1ヶ月ぶりの投稿になります。
話の展開をどうするか悩んでいたり、最新パックで組みたいテーマがあってその構築をしていたりで投稿が遅くなってしまいました。すみませんでした。

今回は1組と7組の対戦となりますが、最後は書いていて辛かったです。



「やりましたね純一君! 先ずは1勝!」

 

「最後の連撃が凄かったです!」

 

「ありがとう。今回のデュエルは初戦と言う事もあって、正直緊張してたけど、やっていく間に慣れていったよ」

 

「これで私は気持ちに余裕を持って挑めます! 必ず勝利してきます!」

 

「そう気張らなくて良いよ。落ち着いて行こう。練習通りやれば必ず勝てる」

 

「はい!」

 

 学年別クラス対抗デュエルトーナメント初日。第2アリーナでは1年5組と6組の第1試合が行われている。今は選手交代も兼ねて10分間のインターバルが設けられており、その間観客席からIS企業等の広告や宣伝を観る事が出来る。

 今は1本目の試合が終了した後のインターバル。その間に純一は5組の面々がいるピットに戻り、汗を拭いたり、水を飲んだりしていた。

 その中で純一の勝利に喜び、【Kozmo】特有の怒涛の連続攻撃に魅せられたナタリアと比奈とハイタッチを交わし、彼女達と喜びを分かち合っている。

 その様子を観ている神楽とナターシャと俊介の3人は一安心している。先ずは純一が1勝を勝ち取る事が出来た。純一と神楽の2人で2勝を勝ち取れる計算になっているが、やはりクラス代表のナタリアが勝つと、クラスも大きく盛り上がるに決まっている。

 5組の2番手はナタリアが出る事になっている。ナタリアは初心者である為、純一が勝った事で少しでも緊張を解し、良い状態で試合に臨む事が出来るようになった。

 仮にナタリアが負けたとしても経験者であり、純一と互角に渡り合える神楽が控えている。どの道2勝して準決勝に駒を進める事が出来るようになる。このまま何事も無ければの話ではあるが。

 比奈はこの試合では出ない方針となった為、先日発売された【ドラグニティ】のストラクを購入し、【ドラグニティ】のデッキを構築している。

 試合を観戦しつつ、【ドラグニティ】のデッキを構築していているが、その収録内容の豪華さと強さに若干引いていたのは秘密だ。

 

「ナタリアさん! ナタリアさんはこちらにいますか?」

 

「あ、はい! 私です! 何かありましたか?」

 

「実は……6組が諸事情で棄権を申し出ました。これにより、1年5組の準決勝進出が確定したのでその報告に来ました」

 

『ッ!?』

 

 この大会の為に雇われた派遣スタッフが伝えた事に、5組の出場メンバーと教師陣は驚きのあまり呆然となった。

 エヴァ・ヨハンソンと永田洋子がいなくなった事で平穏を勝ち取り、団結力が上がってきた中での途中棄権。不可解としか言えないタイミングでの申し出に純一は訝しむような表情になると、派遣スタッフに申し出を行った。

 6組の所に行って直接事情を確認して来なければならない。このタイミングでの棄権申し出は明らかに何かある。

 

「すみません。6組の人がいる所に案内してもらえますか? 少々確認したい事が出来ました」

 

「あ、はい! 分かりました! こちらになります!」

 

「純一君!?」

 

「皆はスタッフさんの指示に従って! どうも嫌な予感がする……」

 

 派遣スタッフに案内される形で6組のいるピットに到着した純一。そこで彼が目にしたのは俯きながら涙を流している蘭、亜依、大喜多育江の3人と、彼女達を慰める榊原菜月と、怒りで震えている長尾大樹の姿だった。

 一体ここで何が起きていたのか。状況が分からず混乱する純一の存在に気付いた大樹は、純一の所に歩み寄って悲嘆の思いを吐き出す。

 

「これは一体……どうしてこうなったんだ?」

 

「純一君……これが! これがIS学園のやり方なのか!?」

 

「長尾先生……一体何があったんですか!?」

 

「君が悪いとは言わない。君は全力を出してデュエルを行って蘭さんに勝った。それは事実だ。でもIS委員会の役員共は俺達が指導した生徒達の思いや頑張りを踏み躙った!」

 

 大樹の話によると、先程IS委員会の役員を名乗る2人の女性が来て、蘭、亜依、育江の3人を散々罵倒したとの事。

“お前達はIS学園の優秀な生徒なのに黒田純一に負けた”、“IS学園の面汚し”、“お前達のせいでIS学園の看板に泥を付け、イメージを悪化させた”等と心にもない事を強く言われ、その剣幕と言葉に耐え切れず、3人は泣き出してしまった。

 試合を終えた蘭はともかく、試合を控えている亜依と育江は精神的にダメージを受けてしまい、試合云々を言っていられる場合ではなくなった。

 その為、菜月と大樹はスタッフに6組の棄権を申し伝え、それが対戦相手の5組に先程伝えられた。以上が事の顛末だった。

 

「長尾先生。そいつらは恐らくIS委員会の役員じゃありません。IS委員会は何が何でもこの大会を成功させたがっています。僕のいるクラスが優勝しようがしまいが、そんな事はどうでも良い。とにかく何事もなくこの大会を成功させ、ISとIS学園のイメージアップを狙う。それが奴らの考えです」

 

「じゃあ誰が……一体何の為に?」

 

「女尊男卑を掲げる女性権利団体の連中でしょう。奴らは心底僕の存在を気に入らず、何かあれば排除しようとしています」

 

「だが奴らはIS委員会と癒着していると噂では聞いている。どうしてこんな事を? これがバレたらIS委員会のやり方に反対したと見なされ、切り捨てられる可能性もあるのに……」

 

「分からないです。もしかしたらIS委員会の中でも派閥争いがあって、過激派と見なされている連中が今回の大会の運営等に関わっているのかもしれません」

 

「そうか……済まなかったな純一君。でも俺はこの出来事を受けて一つ決めた事がある。例えこの大会がどうなろうと、俺はIS学園の講師を辞めて『カードターミナル』に戻る」

 

「ッ! そんな……」

 

 純一は『カードターミナル』のスタッフの中で年齢が近い大樹とは付き合いが長く、一緒にフリー対戦をしたり、次期環境や禁止改訂について語り合った事もあった。

 そんな大樹は仕事を最後まで投げ出さず、コツコツと頑張ってIS学園の講師に選ばれるまでとなった。それを知っているだけに、大樹の突然の告白には純一も言葉を失うしか無かった。

 

「確かにこの学園の生徒は優秀だ。授業をしている時は凄く楽しかったし、自分がカードゲームを始めた時の気持ちを思い出す事が出来た。でもね純一君。それを差し引いてもこの学園は異常だ。代表候補生としての義務を放棄し、責任感を持たない生徒や教師としての仕事を放棄している教師がいたような学園は果たしてまともだと言えるか?」

 

「長尾先生。先生の仰りたい事は僕も同じように考えていますし、気持ちも分かります。しかし……!」

 

「俺の目から見てもIS学園は最早公正な教育機関として機能しているとは思えない。IS委員会、引いては女尊男卑の世の中にとって気に入らない奴を排除しようとする。学校の虐め問題と同じだ。都合が悪い事が起きると隠蔽したりする。それを平然と行える連中が上層部にいる学園の何処が公正な教育機関と言えるんだ?」

 

「それは……」

 

「純一君。悪い事は言わない。事態が悪化する前に『私立鳳凰学院』に転校するんだ。俺も平等院財閥から話を聞いている。君の事は弟のように可愛がってきたけど、君までISの犠牲者になるのは俺には我慢出来ない」

 

 大樹は不運だったとしか言えない。担当を受け持ったクラスが学級崩壊を起こしているようなクラスで、問題が解決して大会に挑んだと思ったら、訳の分からない連中に好き勝手されてしまった。そして自分が大切に思い、指導した生徒達に辛い思いをさせてしまった。

 全ては自分の力不足だと痛感した大樹だったが、IS学園の闇を見た事で講師を辞めて、IS学園から去る道を選んだ。『カードターミナル』に戻り、お客様相手にしながらカードに囲まれる仕事に戻る道を。

 

「悪いな。君はこれから審判の仕事があるんだったな。俺はもう少しこの学園にいる。まぁフリー対戦でも何でも付き合うよ」

 

「長尾先生……」

 

 純一は自分のクラスの試合が終わった後、審判としての仕事がある。『カードターミナル』から頼まれた仕事であり、本人は決して断る訳には行かなかった。

 大樹に促される形で第2アリーナに向かっていく純一だが、彼の心は晴れなかった。どうしてこうも事態が悪い方向に進んでいるのか。それを考えるだけで辛くなる。

 

 

 

 さて学年別クラス対抗デュエルトーナメント初日だが、1年生の部の第1試合が6組の棄権と言う結果となり、1年5組は実質純一の力で勝利したと言う事になる。

 もしこれが棄権でなければ嬉しかっただろうが、この異常としか言えない事態に観客だけでなく、IS学園の生徒や教員達ですら驚きと戸惑いの声が相次いだ。

 特にナタリアの出身国、スペインの要人は純一のおかげでパワーアップしたナタリアの奮闘を心待ちにしていただけに、彼女の試合が無くなった事で落胆と驚きを示し、IS委員会に問い合わせる程だった。

 

「何だよ……純一君が試合して勝ったら戦意喪失か? 一体何がどうなっている?」

 

「話によると、控えている2人が体調不良になったとか何だとか……俺もよく分からないよ」

 

「純一君のデュエルを見せられてやる気を無くしたのか? 全くだらしないな! ISさえあれば何でも出来るって思っていたんじゃないのか?」

 

「いや、確か6組は女尊男卑を掲げる代表候補生と担任に虐げられていたらしい……ISを動かせる思い上がりはないと思うな」

 

「と言う事はあれか? IS委員会だか何だか知らないが、上からの圧力って奴で棄権させられたのか?」

 

「その可能性はあるな……或いは別の何かがあったのか。何れにせよ、きちんとした説明を行わない限り、俺達は納得出来ない」

 

 第2試合は1年1組と7組の試合。“世界初の男性IS操縦者”の織斑一夏がいるクラスが試合を行う為、IS委員会は純一には負けるもののそれなりに盛り上がると信じていた。

 しかし、一般客は織斑一夏のデュエルはどうでも良かった。黒田純一のデュエル見たさにわざわざ高いお金を払ってチケットを購入し、わざわざ仕事を休んでIS学園まで足を運んでいた。純一以外の試合に興味あるのはIS関係の連中と政府要人だけ。

 第1試合で純一が出場し、大会優勝経験者の実力を見せ付けながらも、対戦相手の蘭も健闘した。事実、純一の試合を観戦していた『遊戯王OCG』のプレーヤー達は口を揃えてこう言っていた。

 

―――蘭さんが先攻を取っていたら純一君に勝てた可能性もあった。

 

 純一もデュエルディスクに搭載されている記録機能で見返すと、蘭の初手の良さに驚き、先攻を取られていたら危なかったと冷や汗をかいた。

 改めて先攻を取った事と、1ターン目で《ダークシミター》を手札に持っていた事が勝因だったと振り返っていた。

 

「あれ? 何か違うぞ? 5組の2番手同士の対戦なのに、どうしてその次のクラスの対戦になっているんだ?」

 

「何か6組が棄権したそうだよ? 理由はよく分からないけど……」

 

「えっ? 一体何がどうなっているんだ? 俺達の知らない所で何が起きているんだ?」

 

 こうして学年別クラス対抗デュエルトーナメントに不信と疑念が渦巻く中、1年生の部では第2試合の1年1組と7組の試合が始まった。1組の1番手は一夏で、7組の1番手はアンナ。観客達は戸惑いながら2人を観ている。

 審判を純一が務め、両者が不正をしないように目を光らせる中、一夏は緊張しながらも先攻を選んでデュエルを開始させた。

 

 

 

・1ターン目

 

 はい、皆さん。お久し振りです。マスター・ユウギです。今回は大会が動画配信されていると言う事で、実況と解説を交えながらお送りしたいと思います。

 やあやあ皆さん、どうもこんにちは! 古のデュエリスト、篠ノ之束で~す! 私もつい最近復帰しましたけど第7期、今から10年前で知識が止まっています! 非常に覚える事が多くて大変です!

 今回は束博士と一緒に織斑君とアンナさんのデュエルを観ながら、過去の歴史について振り返ったり、カード効果を説明したりします! ではよろしくお願いします!

 

「俺の先攻! スタンバイ。メイン入ります。先ずは《光の援軍》を発動!」

 

 いっくんは【ライトロード】デッキか~懐かしいな~私がやっていた頃は環境入りしていたけど、そもそも初登場は第5期の『LIGHT OF DESTRUCTION』で、けっこう古くからある由緒正しいテーマなんだよね~

 確か《オネスト》が表紙だったんですよね? その後2008年9月の制限改訂で、【ライトロード】の切り札の《裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)》が準制限カードになった程、環境どころか『遊戯王』に大きな影響を与えたテーマですよね。

 私が覚えているのは、第6期に出た『EXTRA PACK Vol.2』で出た《光の援軍》かな? あの時はそこまで規制を受けていなかったし、新規サポートカードを貰って大暴れしてたな~私はそれにアンデットモンスターを入れて、【アンデライロ】を使っていたよ。

 あ~ありましたね! さて一夏君が発動したのは今話に出た《光の援軍》! かつて制限カードだった経験もある程、当時の【ライトロード】にとって強力なサポートカードです!

 

 

《光の援軍》

通常魔法

(1):自分のデッキの上からカードを3枚墓地へ送って発動できる。

デッキからレベル4以下の【ライトロード】モンスター1体を手札に加える。

 

 

「自分のデッキトップからカードを3枚送り、デッキからレベル4以下の【ライトロード】モンスター1体を手札に加える! 俺が手札に加えるのは《ライトロード・アサシン ライデン》!」

 

 一夏君はチューナーモンスターの《ライトロード・アサシン ライデン》をサーチしましたが、シンクロ召喚狙いでしょうか? 恐らく手札には自力で特殊召喚出来るモンスターがいるとは思いますが……

 ちなみに3枚墓地に落ちたのは《超電磁タートル》、《裁きの龍(ジャッジメント・ドラグーン)》、《ゾンビキャリア》……ちょっと弱いね。

 いや《超電磁タートル》と《ゾンビキャリア》が落ちたのは良いです! 墓地で効果を発動するカードなので、これで正解です!

 

「俺のフィールドにモンスターが存在しない場合、このモンスターは手札から特殊召喚できる! 現れろ、《フォトン・スラッシャー》!」

 

 

《フォトン・スラッシャー》

特殊召喚・効果モンスター

レベル4/光属性/戦士族

ATK/2100 DEF/0

このカードは通常召喚できない。

自分フィールドにモンスターが存在しない場合に特殊召喚できる。

(1):自分フィールドにこのカード以外のモンスターが存在する場合、このカードは攻撃できない。

 

 

「続けて《ライトロード・アサシン ライデン》を通常召喚! 俺のデッキの上からカードを2枚墓地へ送り、この中に《ライトロード》モンスターがあると、このカードの攻撃力は相手ターン終了時まで200上がる!……まぁこの効果はどうでも良いんだけどな」

 

 

《ライトロード・アサシン ライデン》

チューナー・効果モンスター

レベル4/光属性/戦士族

ATK/1700 DEF/1000

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分メインフェイズに発動できる。

自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。

この効果で墓地へ送ったカードの中に《ライトロード》モンスターがあった場合、さらにこのカードの攻撃力は相手ターン終了時まで200アップする。

(2):自分エンドフェイズに発動する。自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。

 

 

「俺はレベル4モンスターの《フォトン・スラッシャー》に、レベル4チューナーの《ライトロード・アサシン ライデン》をチューニング! 終焉の闇と開闢の光が交わりし時、大いなる混沌より全てを統べる魔龍が解き放たれる! 現れろ、《混沌魔龍 カオス・ルーラー》!」

 

 何このドラゴン!? 私初めて見たよ!? 名前からして《カオス》モンスター?

 そうですね……このSモンスターは第11期になって発売された初めてのパック、『RISE OF THE DUELIST』で登場したSモンスターで、まぁ実質【ライトロード】強化と言えます。打点も高いですし、効果が強いです。

 

 

《混沌魔龍 カオス・ルーラー》

シンクロ・効果モンスター

レベル8/闇属性/ドラゴン族

ATK/3000 DEF/2500

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードがS召喚に成功した場合に発動できる。

自分のデッキの上からカードを5枚めくる。

その中から光・闇属性モンスター1体を選んで手札に加える事ができる。

残りのカードは墓地へ送る。

(2):このカード以外の光・闇属性モンスターを1体ずつ、自分の手札・墓地から除外して発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 

「S召喚に成功した《カオス・ルーラー》の効果発動! デッキトップからカードを5枚めくり、その中から光・闇属性モンスター1体を選んで手札に加え、残りを墓地に送る!」

 

 さて《カオス・ルーラー》の効果でいっくんのデッキトップから5枚カードがめくられたけど、マスター・ユウギさん、いっくんはどれを使えると思う?

 めくられたのは《亡龍の戦慄-デストルドー》、《混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン)-終焉の使者-》、《BF-精鋭のゼピュロス》、《ソーラー・エクスチェンジ》、《おろかな埋葬》の5枚です。この中なら 、《混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン)-終焉の使者-》でしょうか。

 

「俺は《混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン)-終焉の使者-》を手札に加え、残りを墓地に送ってターンエンド!」

 

 

織斑一夏

LP:8000

手札:4

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《混沌魔龍 カオス・ルーラー》

魔法・罠ゾーン:なし

 

 

 

・2ターン目

 

「1ターン目から攻撃力3000のSモンスターを出すとは流石ですわ! しかし、私も負けていられません! 私のターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイ。メイン。では私のデッキの力をお見せしましょう!」

 

 さて後攻のアンナさんなんですが、今回の大会がIS学園の学園行事に初登場となるスイスの代表候補生。普段はお淑やかなお嬢様だが、勝負事になるとキャラが変わると7組の担当講師の方からプロフィールを預かってきました。

 

「先ずは……そうですね、先にこのカードを使いましょう。《化石調査》を発動します。デッキからレベル6以下の恐竜族モンスター1体を手札に加えたいです」

 

「【恐竜】デッキか……良いよ」

 

 《化石調査》……今は準制限に指定されている超強力なカード! 【恐竜】デッキにおける《増援》枠です!

 えっ!? このカードの登場は6期だけど、今準制限に指定されているって事は【恐竜】は物凄く強くなったの?

 なりました。9期の最後に発売されたストラク、『恐獣の鼓動』のリメイク版で環境入りして世界大会を制覇する程に。あの時は【恐竜竜星真竜】と言う3つのテーマの混合デッキとして使われていましたが、2017年10月の制限改訂で準制限になりました。

 へぇ~と言う事はジュン君も当然そのデッキと対戦して、このカードの強さを知っている訳か。それじゃ私の知らないカード達を勉強する為に拝見しましょう。

 

「《魂喰いオヴィラプター》を手札に加えます。そして手札から《ワールド・ダイナ・レスリング》を発動し、そのまま《ロストワールド》に張り替えます」

 

「なっ!? 発動した意味があるのか!?」

 

「本当は《おろかな副葬》で《ワールド・ダイナ・レスリング》を墓地に落としたかったけど、手札になくて……でも墓地効果が使えるようになりました!  それを今から教えてあげます。相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、このカードは手札から特殊召喚出来ます。《ダイナレスラー・パンクラトプス》を特殊召喚!」

 

「まさか……【ダイナレスラー】デッキ!?」

 

「その通り。正確には《ダイナレスラー》を軸にした【恐竜族】デッキですけど」

 

 出ました《ダイナレスラー・パンクラトプス》! こちらも準制限に指定される程の超強力なカードです! 

 えっ!? これ強くない!? 打点2600で《サイバー・ドラゴン》みたいな特殊召喚効果持ちで、相手ターンにも除去効果使えるんだよ!? 

 そうなんですよ~しかも自分フィールドの《ダイナレスラー》モンスター1体をリリースして発動する効果なので、自分を対象にしても発動出来るんです。色んなデッキに出張出来る事もあって準制限カードになっちゃいました……

 

 

《ダイナレスラー・パンクラトプス》

効果モンスター(準制限カード)

レベル7/地属性/恐竜族

ATK/2600 DEF/0

このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):自分フィールドの《ダイナレスラー》モンスター1体をリリースし、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

「ここで《ロストワールド》の2番目の効果を発動します。恐竜族モンスターが召喚・特殊召喚された場合、1ターンに1度、相手フィールドに《ジュラエッグトークン》1体を守備表示で特殊召喚します」

 

「えっ? 良いのか? 俺のフィールドに《トークン》を特殊召喚しても」

 

「良いんですよ? ここからが【ダイナレスラー】の本領なので」

 

 

《ロストワールド》

フィールド魔法

(1):恐竜族以外のフィールドのモンスターの攻撃力・守備力は500ダウンする。

(2):1ターンに1度、恐竜族モンスターが召喚・特殊召喚された場合に発動できる。

相手フィールドに《ジュラエッグトークン》(恐竜族・地・星1・攻/守0)1体を守備表示で特殊召喚する。

(3):相手フィールドにトークンがある限り、相手はトークン以外のフィールドのモンスターを効果の対象にできない。

(4):1ターンに1度、フィールドの通常モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにその数だけ自分の手札・デッキの恐竜族モンスターを破壊できる。

 

 

「先に使いましょうか。手札の《幻創のミセラサウルス》を墓地へ送って効果を発動します。このメインフェイズの間、私のフィールドの恐竜族モンスターは相手が発動した効果を受けません。なので《エフェクト・ヴェーラー》は無意味になりました」

 

 《エフェクト・ヴェーラー》は相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる効果なので、《幻創のミセラサウルス》の効果で発動しても意味が無くなりました。

 9期に入ってからストラクのリメイクが大部分だと思うけど、だいぶ恐竜族強化されたんだな~これ昔使っていた人大歓喜だよ!

 

 

《幻創のミセラサウルス》

効果モンスター

レベル4/炎属性/恐竜族

ATK/1800 DEF/1000

《幻創のミセラサウルス》の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分・相手のメインフェイズにこのカードを手札から墓地へ送って発動できる。

そのメインフェイズの間、自分フィールドの恐竜族モンスターは相手が発動した効果を受けない。

(2):自分の墓地からこのカードを含む恐竜族モンスターを任意の数だけ除外して発動できる。

除外したモンスターの数と同じレベルの恐竜族モンスター1体をデッキから特殊召喚する。

この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。

 

 

「相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、墓地にある《ワールド・ダイナ・レスリング》を除外して効果を発動します。デッキから《ダイナレスラー》モンスター1体を特殊召喚します。《ダイナレスラー・システゴ》にします」

 

「成る程! 《トークン》を俺のフィールドに特殊召喚したのは、《ワールド・ダイナ・レスリング》の墓地効果を使う為だったのか!」

 

「その通り! 《ダイナレスラー》モンスターの一部は共通効果で、“相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合”とテキストで記されているので、【ダイナレスラー】と相性が良いんですよ」

 

 ここ最近のカードってフィールドに出して効果を使った後、墓地から除外して発動出来る効果持ちが多いの? 例えば《ネクロ・ガードナー》がその切っ掛けみたいな所はあったけど……

 そうですね……《ブレイクスルー・スキル》や《ギャラクシー・サイクロン》みたく、汎用魔法・罠でもそのような効果持ちのカードがあります。

 

 

《ワールド・ダイナ・レスリング》

フィールド魔法

このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分フィールドに《ダイナレスラー》モンスターが存在する場合、お互いのプレイヤーはバトルフェイズにモンスター1体でしか攻撃できない。

(2):自分の《ダイナレスラー》モンスターの攻撃力は、相手モンスターに攻撃するダメージ計算時のみ200アップする。

(3):相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、墓地のこのカードを除外して発動できる。

デッキから《ダイナレスラー》モンスター1体を特殊召喚する。

 

 

「特殊召喚に成功した《ダイナレスラー・システゴ》 の効果を発動します。デッキから《ダイナレスラー》モンスター1体か、《ワールド・ダイナ・レスリング》 1枚を手札に加えます。ここは……2枚目の《パンクラトプス》にします」

 

「でもターン1制限で特殊召喚は出来ないぞ?」

 

「そうなんですよね……フィールドにいる《パンクラトプス》の効果を発動します。自分フィールドの《ダイナレスラー》モンスター1体をリリースし、相手フィールドのカード1枚を破壊します。これは相手ターンでも発動出来るフリーチェーン効果です。なので……《ダイナレスラー・システゴ》 をリリースし、《カオス・ルーラー》を破壊したいです」

 

「お、俺の《カオス・ルーラー》が~!」

 

 ありゃりゃ……折角出した《カオス・ルーラー》が……でも次のターンで光・闇属性モンスターを1体ずつ、自分の手札・墓地から除外すれば蘇生出来るんだよね?

 そうなんですけどね……果たして一夏君に次のターンがあるかどうかが問題なんです。まだアンナさんのメインフェイズは終わっていませんし……

 

「このターン私はまだ通常召喚をしていませんでした。さっきサーチした《魂喰いオヴィラプター》を通常召喚して効果を発動します。このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合、デッキから恐竜族モンスター1体を選んで手札に加えるか、墓地へ送ります。ここは《ダイナレスラー・カポエラプトル》を墓地に送ります」

 

 

《魂喰いオヴィラプター》

効果モンスター(制限カード)

レベル4/闇属性/恐竜族

ATK/1800 DEF/500

《魂喰いオヴィラプター》の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。

デッキから恐竜族モンスター1体を選び、手札に加えるか墓地へ送る。

(2):このカード以外のフィールドのレベル4以下の恐竜族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。

その後、自分の墓地から恐竜族モンスター1体を選んで守備表示で特殊召喚する。

 

 

「《魂喰いオヴィラプター》の効果を発動します。このカード以外のフィールドのレベル4以下の恐竜族モンスター1体を破壊し、私の墓地から恐竜族モンスター1体を守備表示で特殊召喚します。織斑君のフィールドの《ジュラエッグトークン》を破壊し、今墓地に送った《ダイナレスラー・カポエラプトル》を守備表示で特殊召喚!」

 

「レベル4恐竜族モンスターが2体……! まさか……!」

 

「織斑君の墓地に《超電磁タートル》がいるからここは……良し! 私は《魂喰いオヴィラプター》と《ダイナレスラー・カポエラプトル》でオーバーレイ! 2体のレベル4恐竜族モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ、ランク4! 《エヴォルカイザー・ドルカ》!」

 

 こ、これがエクシーズ召喚……同じレベルのモンスターを複数体揃えて行う召喚方法……初めて見た! 凄い凄い!

 アンナさんがエクシーズ召喚したのは《エヴォルカイザー・ドルカ》と言って、素材を1つ使う事でモンスター効果の発動を無効にして破壊する効果持ちなんです。初登場したのは2012年の『EXTRA PACK』でした。

 へぇ~海外から来たんだ。海外からたま~に強いカードやテーマが来るんだよね……例えば【Kozmo】や【彼岸】とか。

 

 

《エヴォルカイザー・ドルカ》

エクシーズ・効果モンスター

ランク4/炎属性/ドラゴン族

ATK/2300 DEF/1700

恐竜族レベル4モンスター×2

(1):このカード以外のモンスターの効果が発動した時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。その発動を無効にし破壊する。

 

 

「私はまだ動けますよ……墓地の《ダイナレスラー・システゴ》 と《幻創のミセラサウルス》をゲームから除外し、 《 究極伝導恐獣(アルティメットコンダクターティラノ)》を特殊召喚!」

 

 

究極伝導恐獣(アルティメットコンダクターティラノ)

特殊召喚・効果モンスター

レベル10/光属性/恐竜族

ATK/3500 DEF/3200

このカードは通常召喚できない。

自分の墓地の恐竜族モンスター2体を除外した場合に特殊召喚できる。

(1):1ターンに1度、自分・相手のメインフェイズに発動できる。

自分の手札・フィールドのモンスター1体を選んで破壊し、相手フィールドの表側表示モンスターを全て裏側守備表示にする。

(2):このカードは相手モンスター全てに1回ずつ攻撃できる。

(3):このカードが守備表示モンスターを攻撃したダメージステップ開始時に発動できる。

相手に1000ダメージを与え、その守備表示モンスターを墓地へ送る。

 

 

「バトルフェイズ! 先ずは《エヴォルカイザー・ドルカ》で攻撃!」

 

「墓地にある《超電磁タートル》の効果……」

 

「X素材を1つ取り除き、《エヴォルカイザー・ドルカ》の効果を発動します! 《超電磁タートル》の効果を無効にして破壊……おっと墓地にいるので破壊出来ませんね。攻撃は通ります!」

 

 あちゃ~いっくん、これは厳しい展開だね。《エヴォルカイザー・ドルカ》の効果は後1回使えるけど、手札に《バトルフェーダー》や《冥府の使者ゴーズ》がないとワンターンキルされちゃうよ~!

 【ダイナレスラー】と言うより、【恐竜族】が強いんですよね……流石9期最後で超強化されたテーマだけあります……

 

「続けて《パンクラトプス》で攻撃!」

 

「ライフで受ける!」

 

「止め! 《 究極伝導恐獣(アルティメットコンダクターティラノ)》でダイレクトアタック!」

 

 1年生の部2試合目。1年1組と7組の1本目。織斑一夏とアンナ・シュナイダーのデュエルは予想外の結末を迎える事となった。

 何と、『遊戯王』経験者で純一の対抗馬として期待されていた一夏が、初心者のアンナに敗北してしまったからだ。しかも後攻1ターンキルと言う形で。

 まさかの1ターンキルを成し遂げたアンナに観客達はどよめくも、勝利を祝福するように歓声と拍手を送り、アンナはそれに応えてからピットへと戻っていった。

 

 

 

「いや~綺麗な後攻1キルだったね……」

 

 選手交代も兼ねた10分間のインターバル。審判の純一は困ったような表情を浮かべながら、今もなお呆然と立ち尽くしている一夏に声を掛けている。

 一夏は信じられなかった。まさか初心者相手に負けるなんて。しかも後攻1ターンキルを許してしまうと言う形で負けたなんて。その現実を受け入れられず、その事実に打ちのめされていた。

 IS学園に入学してからこれまで数々のバトルをこなしてきた。代表候補生と戦った事もあったし、無人機と戦った事もあった。その時は勝った事もあったし、それなりに競い合ったりしてきた。負けた事はあったけど、ここまで一方的にやられた事はなかった。

 それなのに。それなのにこれは一体どういう事なのか。自分は経験者な筈なのにどうして初心者にこうもあっさりとやられたのか。1ターンキルをされたのか。

 

「一夏。よく覚えておけ。これが『遊戯王』の大会だ。大会常連者でもカジュアル勢に負ける事もあれば、大会に初めて出た人に負ける事もある。その逆もまた然り。最後まで何が起きるか分からない。それがデュエルの面白さであり難しさだ」

 

「まぁそう気を落とすな。この大会は団体戦。2番手と3番手で勝てば良い。次は箒だったな。ほら、そろそろ戻ろうよ。次の試合の人に迷惑かけるからさ。……一夏?」

 

 純一は一夏を励ますように肩を叩きながら退場を促すが、一夏は俯いたままその場から動こうとしなかった。

 その様子を見ていつもの一夏らしくないと感じたのだろう。純一が一夏の顔を覗き込むと、その時異常事態が発生した。

 

「ガァッ!?」

 

 純一の胸を横一文字に斬り裂いたのは、一夏が纏うISこと『白式』の主武装。刀剣型近接武器の雪片弐型。その薙ぎ払いによって、純一の胸から夥しい量の血飛沫が舞い散り、彼の視界と第2アリーナの地面を真っ赤に染め上げていく。

 胸部から伝わる激痛に顔を歪ませつつ、景色が霞むのをこらえ、純一は意識を失いながらも一夏に向けて手を伸ばす。それは自分を突然攻撃してきた親友を思いやっての事なのか。或いはまだ死にたくないと言う意思表示からなのか。

 




ここまで読んで下さり、大変ありがとうございます。

次回予告

純一が斬られた事で、学年別クラス対抗デュエルトーナメントはまさかの中止の事態になった。発生した事件によってIS学園は世論の逆風に晒される事になる。
職員会議で明らかになる事件の概要と真実。果たして純一と一夏の運命は!?

TURN19 動乱の始まり 起こるべくして起きた悲劇


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TURN19 血染めの惨劇

どうも。【ドライトロン】のパーツが一通り揃いました。
後はゴーキン等のパーツを集めてデッキを完成させるだけです。
【ドライトロン】も次章から本編に登場させます。

今回は前回の続きで、衝撃的な終わりを迎えた所から始まります。
果たして純一君と一夏君の運命は!?


「な、何が起きたんだ!?」

 

「分からない! 急に織斑一夏が純一君を斬り付けた!」

 

「ヤバイ! 血が出てるよ! 早くしないと死んじゃうよ!」

 

「学園は一体何をやっているんだ!?」

 

 学年別クラス対抗デュエルトーナメント。それは初日の午前中で早くも中止に追い込まれる事となった。と言うのも、1年生の部の第2試合、1年1組と7組の対戦のインターバルで、一夏が純一を突然攻撃すると言う異常事態が発生したからだ。

 一夏こと『白式』は突如として機体の装甲を白騎士の形状に変貌させると、雪片弐型で純一を斬り伏せた。何の予兆もなかった。突然の変貌だった。流石に純一も予想出来ず、攻撃を受けるしか無かった。

 

「山田先生、レベルDの警戒体制を発令して下さい」

 

「はい!」

 

 第2アリーナで観客の怒号と悲鳴が響き渡る中、1組の出場メンバーがいるピットでは千冬が真耶に指示を出していた。

 実の弟に発生した異変。弟同然に可愛がっている教え子に起きた不測の事態。千冬としては今すぐ第2アリーナに向かって事態の収拾を計りたい所だった。

 私情を押し殺して冷静になって自分がやるべき事をこなしていると、ナターシャとナタリアの2人が現れた。

 

「織斑先生! 純一君を早く助けないと!」

 

「このまま放置しておくと死んじゃいます!」

 

「分かっています、ナターシャ先生。しかし今は観客を避難させる事が優先です。他のアリーナにも中止連絡を出し、観客を避難させなければ……」

 

「そうですね……ならば指揮はお任せします。教員部隊は私が率います」

 

「ナターシャ先生?」

 

「私がここに来た本当の理由は、大統領から直々に純一君を守るよう命令されたからです。今ここで不毛な議論をするより、私は自分の職務を全うします。失礼します!」

 

 ナターシャは教員では珍しい専用機持ちだが、その実態は純一を守る為にアメリカ大統領権限でやって来た。

 かつて無人機だった頃に暴走事件を引き起こした銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を束がナターシャ仕様にカスタムし、それを受領してからIS学園に赴いた。彼女は元アメリカ空軍所属。それだけに教員部隊を率いる資格がある。

 ナターシャがIS学園に来た本当の理由を知った千冬が呆然としたように固まっていると、それを見かねたナタリアが口を開いた。

 

「織斑先生。私は専用機こそありませんが、これでも代表候補生です。どうか避難誘導でも良いので指示を。このまま何もせずにいるのは嫌です!」

 

「分かった。戦闘教員は迎撃に当たるように。専用機持ちはそのバックアップに入れ。それ以外の代表候補生は一般教員と共に避難誘導を!」

 

 千冬の指示を受けたIS学園の面々がそれぞれ動き出す中、純一はと言うと、実は意識があった。とは言っても重傷を負っている事に変わりはないのだが。

 何故生きているのかと言うと、『白騎士』の攻撃を受けた時に咄嗟に半歩下がっていたからだ。これによってダメージを少しではあるものの軽減する事が出来た。もし半歩下がっていなかったら確実に死んでいた。

 この半歩下がると言う動作は、純一のIS専属コーチの更識楯無が教えた動作だった。純一は“相手と相対する時、必ず攻撃に対処できるように半歩下がって構えろ”と言う教えを守り、この事態でも無意識に対処していた。

 純一は楯無をIS操縦者として心底尊敬しており、彼女の教えを必ず守っている。その真面目さが結果的に彼の命を繋ぎ止めた事となった。

 この後、暴走した『白騎士』は専用機持ちと戦闘教員達による合同部隊によって無力化され、純一は無事に救出されて病院に搬送される事となった。

 

 

 

 純一は搬送された病院でその日の内に意識を取り戻した。彼の無事を願っていた仲間や教員、両親達を大いに喜ばせた。特に更識姉妹、ナターシャ、ナタリアの4人は純一の声を聞いた瞬間に大喜びして抱き付き、目覚めたばかりの純一を困らせる程だった。

 純一は怪我が治るのが最低でも1週間かかると医師から診断された為、安静も兼ねて2週間は搬送先の病院で入院生活を余儀なくされる事となった。

 その2週間の間にIS学園を取り巻く状況は大きく変わる事になった。何故なら学年別クラス対抗デュエルトーナメントは最悪とも言える結末を迎える事になってしまったからだ。

 先ず大会は初日でいきなり中止となった。その為に純一の直感が的中した事となった。しかも中止になったタイミングが悪すぎた。

 観客達が観戦出来たデュエルは僅か数試合。しかも1年生の部に至っては、最初の試合が突然の棄権となった。更に2試合目で突然のIS暴走事件が発生し、『デュエル・ストラトス』の広告塔の純一が重傷を負う事件が発生した。

 幸い観客の中に死傷者は出なかったものの、事の顛末を直接見ていた各国の要人を含め、観客達からは怒りと不満の声が相次いだ。その主な理由はチケットの金額と大会の中身が伴わなかった事に対する物だった。

 

「おい、ふざけんじゃねぇぞ! どうしてISを展開したままデュエルさせた!? こういう事態が起こり得る事が分かっていた筈だ!」

 

「純一君のようにデュエルディスクだけを展開させたままやらせた方が良かっただろう!? ISなんか兵器だ! 人殺しの道具だ!」

 

「高いお金を払わせて見せられたのはこの程度か!? ふざけんな! こっちは頑張って有休使わせてもらったんだぞ! それに貯めてたお金を使ってまでチケット買ったのに! なのにこんな事になるなんて……ちくしょう! ちくしょう!」

 

「こんなのは詐欺だ! 金を返せ! 訴えてでも返金させるぞ!」

 

「この映像を流せば……お~! すげぇ事になった! こりゃ炎上物だわ! ハハハッ、ざまぁみろ! ISさえあれば何でも出来るって思いこんでいるからこうなったんだよ!」

 

「それに一体どういう事だ? どうして“世界初の男性IS操縦者”が“世界で2番目の男性IS操縦者”を攻撃した? 仲良しじゃなかったのかよ!?」

 

 観客達は改めて思い知る事になった。ISは女尊男卑の象徴で兵器である事を。それだけにこのような事態を招いたIS学園とIS委員会を挙って批判した。

 彼らの目の前で黒田純一は斬り伏せられた。血しぶきを上げながら倒れ伏せる純一の姿は観た者の心にトラウマとして刻まれる程だった。男子生徒が重傷に追い込まれただけに、世間はこの大会の失敗を重く受け止めていた。

 IS学園で初めて行われたカードゲーム大会は、ISのイメージアップも兼ねて大々的に宣伝され、超高額とも言えるチケット代を提示した上で開催されたが、その結果は大失敗と言える結果となった。

 1年6組の謎の棄権、突如として暴走した一夏と『白式』、重傷を負った純一と言う、予想外としか言えない最悪の事態が立て続けに発生したのだから。

 その日の内に黒田純一が意識を取り戻し、命に別状がないと言うニュースが流れると、観客を含めた誰もが安堵した。しかし、IS学園とIS委員会に対する不信感や不満がより一層大きくなったのは言うまでもない。

 

―――やはりISは兵器だ。それを使う生徒達の意識が低すぎるのではないか。

 

―――チケット代と内容が見合っていない。明らかな詐欺だ。

 

―――貯金を切り崩して買ったチケット代だ。返金して貰わないと割に合わない。

 

 状況は最早IS学園の力で解決する事が出来る範囲を超えてしまった。詐欺とも言える大会を開催したとして、IS委員会とIS学園は未曾有の批判を受け、至る所で大炎上が発生する事となったのだから。

 高額なチケット代の返金を求めて至る所で裁判や騒動が起こったが、ここでまた炎上騒ぎが発生し、批判が巻き起こる事となった。それは大会の現場監督を務めた女性達がIS委員会と癒着関係にある女性権利団体のメンバーである事が明らかになり、チケット代を含めた売上金を持ち逃げして姿を晦ませている事が判明したからだ。

 もちろん多額の売上金を持ち逃げして行方を晦ませた女性達は指名手配になり、警察等が血眼になって捜索しているが、後の調査によって彼女達にはもう1つの容疑がかけられる事となった。

 それは1年6組が棄権する理由となった出場メンバーへの恫喝・叱責によるパワハラ疑惑だった。これは6組の出場メンバーだった蘭・育江・亜依の3人と講師の大樹、臨時担任の菜月のその場にいた全員の告発文書がトリガーとなった。

 更に大会の為に雇われた派遣スタッフが援護射撃を行った。女性権利団体から来た女性達が怪しい企てを話している場面や、6組の出場メンバーを叱責・恫喝している様子を動画付きで公表した。これが更なる炎上を招いたのは最早言うまでもない。

 その時の映像は派遣スタッフによってスマホ等で撮影され、SNSに投稿されては至る所で炎上している。これがニュースに取り上げられ、注目されている。

 これによって、IS委員会と女性権利団体は社会から“努力している人の足を引っ張る事しか出来ない奴ら”と言う認識を抱かれ、IS学園も同じような烙印を押された事は言うまでもない。

 

 

 

「一夏、君が覚えているのは何処までだ?」

 

「俺が覚えているのはお前が俺を励ましてくれていた時だ。肩を叩かれた時に意識を失って……」

 

「と言う事はその時点で暴走が始まったのか……」

 

 その日の夕方。一夏が純一の所にお見舞いに来ていた。一夏は最初に謝罪したが、純一は気にする事なく受け入れた。

 そこから純一は一夏に尋ねた。あの時一体何が起きたのか。一夏が暴走した時何が起きていたのか。それを知る為に。

 

「一夏。これで分かっただろう? お前が持っている専用機、もといISは兵器だって事が。お前の力は誰かを殺す事だって出来るんだ」

 

「あぁ……でもお前は助かった……」

 

「咄嗟に半歩下がったからな。でも本当に半歩下がっただけで生きれるのか? だって僕が斬られてから病院に運ばれるまでそれなりに時間あったし、けっこう血も流れた筈だ。普通なら失血死していてもおかしくないし……まぁ良いや。専用機持ちの特権って事にしておくよ。けど斬られたのが僕で良かったな。『カードターミナル』の人だったら間違いなく死んでいたぞ? そしたらお前立派な犯罪者だ」

 

「犯罪者……か」

 

「あぁ。ここから先、お前は大変な事になるだろう。事が事だからな……」

 

「そんな……」

 

 純一は自分が生きている事に疑問を感じつつも、一夏に残酷な現実を突き付ける。自分が得た筈の“誰かを守る為の力”が、“人を殺す力”として純一を傷付けた事を。

 その事に絶望する一夏だったが、この日の放課後に行われた職員会議では彼の処分が決められていた。問題なのは専用機の暴走も相まり、純一を重傷に追いやった事。一夏の意思とは関係なく、純一を斬り伏せた処罰をどうするかと言う事。

 千冬は一夏の意思ではない為処分を軽くして欲しいと訴えたが、ナターシャは軍人ならではの人の命に関わる問題を起こした所を追求した。

 

―――最低でも専用機を没収しないと示しが付きません。人の生き死に関わる問題で、しかも大勢の人の前で起こった事件です。ここで厳罰を下さないと、世論から更に叩かれる事になるでしょう。

 

 純一の担任のナターシャの言葉により、教員会議で一夏に下された処分は2つ。1つ目は専用機没収。2つ目は1ヶ月の謹慎処分。この処分には千冬も言い返す事が出来ず、俯きながら結果を受け入れた。

 一夏との面会時間が終わると、純一はパソコンを立ち上げ、Twitterを立ち上げて学年別クラス対抗デュエルトーナメントの反応を見ていた。

 

―――ISなんか使わなきゃ良かったのに……俺達が見たかったのはデュエルだ! ISじゃねぇ! 

 

―――織斑一夏って織斑千冬の弟だろう? さては姉の地位を守る為に暴走させられた? だとしたら可哀そう過ぎるだろう……

 

―――IS学園は女尊男卑の巣窟だ! 二度とあんな所行くか!

 

―――あんなISとかいう兵器をファッションのように使っている女達なんか、全員悪魔だ! 

 

 大会の失敗。これによって発生した結果は最早国際問題になる可能性が高い。各国の要人の目の前で男子生徒が重傷を負ったのだから。

 第三者から見ても、一夏が純一を斬り伏せた事に変わりはない。IS委員会と女性権利団体の介入によって、学年別クラス対抗デュエルトーナメントは大失敗に終わった。

 

 

 

「『学年別クラス対抗デュエルトーナメント大失敗! 白昼で起きた惨劇!』か……そりゃ一面にでかでかと載るよなぁ」

 

 学年別クラス対抗デュエルトーナメントの中止となった次の日。『私立鳳凰学院』の食堂では、平等院兄妹と“鳳凰四天王”、IS学科に在籍している代表候補生達の面々が食事を取りながら、テレビを観ていた。

 『私立鳳凰学院』の面々もIS学園に招待されて学年別クラス対抗デュエルトーナメントを開催されたが、事件が発生した時に避難するかのように学院に戻った。唯一友希那が純一と連絡が通じる為、彼の無事を知る事が出来た時は全員喜んだのは言うまでもない。

 例えIS学園にいても、純一はいずれ学院に来る仲間であり、生徒会に重要な役職として迎え入れる用意も出来ている。それくらいの待遇を用意する程、佐智雄と零児は純一の事を評価している。

 

「結局、俺達は馬鹿高いチケット代だけ払わされて、数試合しか観れずに帰ってきた訳か。ハァ~やってられねぇぜ」

 

「公輝さん……」

 

「結局、ISを使ったデュエルなんかやらねぇ方が良かったって事だよ。純一君みたいにデュエルディスクだけで良いじゃん。テレビでも言っているよ? ISは兵器だって。IS学園はな、兵器の使い方を学んで覚える軍学校と同じだ!」

 

「それは幾ら何でも言い過ぎじゃ……」

 

「ヴィシュヌさんの言いたい事も分かる。でも公輝は親父がやっていた超有名料理店を女尊男卑を掲げる連中によって倒産に追いやられた過去がある。だからISと女尊男卑を掲げる連中を心底嫌っているんだ。察して欲しい」

 

「はい……」

 

 溜息を付きながらテレビを観ている短髪の巨漢―鬼塚公輝を心配するように、褐色の肌に緑色のショートカットが特徴なタイの代表候補生―ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーが見つめる中、公輝は紛然たる思いで言葉を吐き捨てる。

 そんなヴィシュヌに声をかけたのは平等院零児。公輝とは同じクラスで親友とも言える関係である為、彼の肩を持っている。

 

「まぁでも今回の事件は酷いね……純一君って文化祭でIS部隊に狙われたんだよね? 今度は死にかけるなんて……お姉さん、ちょっと可愛そうに思えるよ」

 

「もうIS学園は安全な場所とは言えないですね。今年に入って織斑一夏が原因かどうか分かりませんが、少なくとも彼の影響で行事が悉く中止になっていると聞きます。そして今回の事件……確実に彼は学園内での立場が悪くなるでしょう」

 

 ニュースを観て苦笑いを浮かべるのはグリフィン・レッドラム。彼女はブラジルの代表候補生であり、水色のロングヘアに褐色肌が特徴な女子生徒。

 彼女の話に相槌を打つのは天城海斗。温和な表情を浮かべており、その笑顔は人々の心を自然と癒してくれると評判だ。

 

「それより問題なのはIS学園の生徒達だ。大会は中止になるわ、世論から叩かれるわで大変な事になっているのでは?」

 

「いやそりゃそうだろう……IS学園にいる知り合いの話だと、今までにないぐらい大変な事になっているらしい」

 

「フォルテは大丈夫かしら?」

 

「大丈夫だと信じましょう」

 

 銀髪のショートヘアでボーイッシュな雰囲気を見せるロランツィーネ・ローランディフィルネィが心配そうな表情を見せると、壇玄人がスマホのLINEを見せた。

 スマホの画面を見たロランツィーネが表情を変え、玄人も表情を曇らせる隣で、赤髪のロングヘアで眼鏡をかけたベルベット・ラウを万丈目準也が励ましていた。

 その頃。IS学園の会議室で緊急の職員会議が行われていた。そこには『カードターミナル』の押村良樹の姿があり、搬送先の病院の病室にいる純一はオンラインでの参加となった。

 特に純一は一夏の暴走事件の被害者と言える人物。あの日何が起きたのかを知っているだけあり、事の真相を探るにはどうしても彼の証言が必要だった。

 

「これより緊急の職員会議を始めます。今日集まって頂いたのは他でもありません。純一君が退院した事で、ようやくこの議題について話せる時が来ました。IS学園の今後についてです。純一君は病院にいたので初耳になりますが、事件があった当日、一通り事が終わってから取り調べを行いました。今回の事件は何故発生したのか。誰が何の為に起こしたのかを分析しつつ、IS学園の今後について話し合いたいです」

 

「先ず今回の事件が起きた経緯についてです。調査の結果、今回の事件は起こるべくして起きた物だと言う事が分かりました。先ずは純一君のお話を伺うとしましょう。純一君、一夏君の機体が暴走した時の状況を教えて下さい」

 

『はい。一夏がアンナさんに1ターンキルをされて負けた後に励ましていましたが、彼は俯いたまま沈黙していました。どうしたのかな、やっぱり勝てる筈の相手に1ターンキルされて負けたのが重かったのかな、と思って顔を覗き込もうとした次の瞬間、僕は斬られました。まさかその後に暴走するなんて思ってもみなかったです……』

 

「それにしてもよく生きていられるわね……」

 

『咄嗟に半歩下がったんです。楯無さんの教えで、“常に攻撃を躱せるように半歩下がって構えろ”と言われていたんです。それを守ったおかげで、こうして生きていられます。本当、感謝する事しか出来ないです』

 

 緊急職員会議の司会進行役は轡木十蔵が務めている。表向きはIS学園の用務員で、柔和な人柄と親しみやすさから“学園内の良心”といわれている壮年の男性。

 しかし、実態はIS学園の実務関係を取り仕切る事実上の運営者であり、純一や一夏が心を開く事が出来る数少ない人物の1人とされている。

 純一は十蔵に促されて当日の様子を語った。突然の攻撃に対処しきれずに斬られたが、半歩下がっていたおかげで一命は取り留めた。

 

「その後は専用機持ちと教員部隊で一夏君を無力化させて、純一君を救出する事に成功しました。先程純一君が言った通り、彼が咄嗟に半歩下がったおかげで即死にはならなかったです。それでも胸を斬り裂かれ、重傷である事は分かりませんでしたが……」

 

『それで、一夏のISが暴走した理由は何だったんですか?』

 

「あぁ、実は一夏のISに暴走プログラムが仕込まれていた……原因は私の不徳にある」

 

『ちょっと待って下さい。暴走プログラムが仕込まれていたまでは分かりました。ですがどうして織斑先生が悪いんですか?』

 

「実は……私は騙されたのだよ、女性権利団体に」

 

 一夏のIS、『白式』が暴走した理由。それは『白式』に暴走プログラムが施されていた為だった。無力化させた後、束と共に『白式』を調べた結果、暴走プログラムが施されていた事が判明したのだ。

 束が自分が触ってもいないのにどうして暴走したのか疑問に感じていると、千冬はとある出来事に思い当って顔が真っ青になったと言う。

 

「大会の現場監督としてIS委員会から来たと言っていた女性達から、専用機持ちに試験的に“特殊スキル”の導入を促された。“特殊スキル”は1回のデュエルにつき3回まで使用可能で、発動条件はライフポイントが4000以下になった時。 単一仕様能力(ワンオブ・アビリティー)が発動出来る機体の搭乗者はそれに即したカード効果となった」

 

『“特殊スキル”の導入? 初めて聞きましたが……押村先生はご存知でしたか?』

 

「純一君、実は私も大会中止後に聞かされたんだよ……我々にも話は通っていなかったんだ」

 

「押村先生の話から分かる通り、お前達には話を通さず、独断で事を進めていたようだ。IS委員会は許可を貰ったと言っていたが、そもそも話をしていなかったからな。これは私が悪かった。お前と押村先生に確認を取っていれば、少なくともこうなる事は避けられた筈だ。申し訳ない」

 

 実は“特殊スキル”の話は女性権利団体が発案し、純一や『カードターミナル』には通さずに導入された。これは純一は初耳であった為、驚く事しか出来なかった。

 女性権利団体はIS委員会から来たと偽った為、千冬でも見破る事が出来なかった。それだけに、千冬は自分の確認不足を素直に認めて反省している。

 

『確かに確認不足だったのは否定出来ませんし、もしかしたら大会の失敗を防げたかもしれません。でも、もう終わった話です。問題はこれからですよ。この会議は失敗を分析して理解し、その後の事を話し合う為に行っているんですよね?』

 

「そうですね……でも確認不足で言うなら私達教員も同じです。私が純一君や押村先生達に確認を取っていれば、少なくとも純一君と一夏君に辛い思いをさせずに済みましたし……」

 

『え~と、話を戻すとその“特殊スキル”を登録した時に暴走プログラムを仕込まれたと言う事ですか? その時ぐらいでしょうかね。暴走プログラムを仕込めるとしたら』

 

「そうだな……考えられるタイミングとしたらそれしかない。それにIS委員会の役員にも問い合わせたのだが、彼女達も“特殊スキル”の存在を聞かされてなかったと言っている」

 

『と言う事は……女性権利団体の奴らの仕業……?』

 

「そうとしか考えられない。奴らはIS委員会の役員と偽って『白式』に暴走プログラムを仕込んだ。一夏がデュエルに負けた時に起動するように仕掛けた。それが起動キーとなり、今回の事態を招いた」

 

 学年別クラス対抗デュエルトーナメントが中止となった最大の理由。それは一夏のIS、『白式』が暴走した事にあった。その原因は暴走プログラムが仕込まれていた事。

 暴走プログラムを仕込んだのは女性権利団体のメンバー。彼女達は一夏がデュエルに負けた時に発動するように仕掛けていた。

 もし千冬や楯無達が“特殊スキル”の許可使用に違和感を覚え、純一に相談しに行っていれば、まだこのような結末を回避する事が出来ていたのかもしれない。

 

『その女性権利団体のメンバーの行方は一体どうなっているんですか?』

 

「今IS委員会が捜索しているが、見つかっていないらしい」

 

「しかもチケット代を含めた売上金全てを持ち逃げしたみたいです……これが今ニュースで揉めている一因なんです」

 

『……これ主催者はIS委員会なんですよね? だとしたら女性権利団体と癒着状態にあったと言う事になりますよね?』

 

「そうですね……もうSNSでは至る所で炎上しています」

 

 真耶や菜月も頭を抱えている程、今のIS学園は創設以来未曾有の危機に陥っていた。しかも陥らせたのはIS委員会と女性権利団体と言うのが笑えない。

 大会が中止になった次の日。世界各国の新聞では学年別クラス対抗デュエルトーナメントの中止がこれ見よがしに報道され、新聞の一面を飾る事となった。

 

―――『デュエル・ストラトス』大失敗!? 白昼に起きた殺傷事件!?

 

―――まさかの事態!? 専用機の謎の暴走!?

 

―――黒田純一君一時意識不明の重傷! 犯人は“ブリュンヒルデ”の弟!?

 

 これらの見出しは日本の新聞による物だった。僅か数試合しか行われず、謎の棄権負けがあったり、ISによる殺人未遂事件が起きると言う、散々な結果に終わってしまった。

 IS委員会は大会を成功させてISとIS学園のイメージアップを狙いたかったが、図らずも黒田純一の優勝を阻止したい女性権利団体によって阻止される事となった。

 この結果を受けたIS委員会が黙っている筈がない。幾ら癒着関係にあるとは言えど、自分達の行いを邪魔されたからだ。間違いなく女尊男卑を掲げる女性権利団体のメンバー達は排除されるのが目に見えている。

 

「世間ではIS委員会と女性権利団体が叩かれています。恐らくこれから責任の擦り付け合いが始まるかと。ですが、IS委員会が女性権利団体出身の役員を全員追放して終わりそうな気がします」

 

「まぁ確かにそっちの方が手早く、安全に済みそうですしね。ところで皆さん、長尾先生の講師辞任の話は伺いましたか?」

 

『ッ!?』

 

 良樹が冷え冷えとした目をしながら問い掛けると、IS学園の教員は誰もが驚いたような顔を浮かべた。大樹本人から聞いていた菜月と純一は悲しそうに顔を俯けた。

 純一は覚えている。怒りに打ち震えた大樹の悲嘆と彼の決意を。それによって自分が感じた悲しみを。それだけに遣る瀬無い怒りを抱えている。

 

「大会で異常事態が発生した後、彼が私に言ってきたのです。“IS委員会の役員共は俺達が指導した生徒達の思いや頑張りを踏み躙った”と。恐らく女性権利団体の奴らだと思いますが、そいつらはあろう事か6組の出場メンバーを “お前達はIS学園の優秀な生徒なのに黒田純一に負けた”、“IS学園の面汚し”、“お前達のせいでIS学園の看板に泥を付け、イメージを悪化させた”だの好き勝手に罵倒しました。そのせいで6組の残る2人は出場出来なくなり、6組は棄権に追い込まれました」

 

「そ、そんな事が起きていたとは……」

 

「私はそれを聞いた時、こう思いましたよ。これで我々『カードターミナル』の仕事は終わったと。私達は貴方達IS学園の教師が『遊戯王』の事を教える事が出来ない為、代わりに教えるようIS委員会に頼まれてここに来ました。しかし、彼らは条件を出していました。“IS学園の生徒達は初心者だが、優秀なので1ヶ月さえあれば大会優勝経験者と同レベルになれる。そのように指導しろ”と」

 

『なっ!? IS委員会はそんな無茶な要望を出していたんですか!?』

 

 良樹が口にしたのはIS委員会から『カードターミナル』スタッフへの要求。かなりの無茶ぶりに純一は驚く事しか出来なかった。

 『遊戯王OCG』の大会に優勝する事は決して簡単な事ではない。デッキパワーが強い・弱いの二元論だけでなく、デッキやカードの対策を行う高度な情報戦となるからだ。

 それは大会に出てみないと分からない事が多かったりする為、授業で説明するにはかなり無理がある。

 

「我々はIS委員会の要求が無理難題過ぎる事は理解していましたが、それでもやれる所まで頑張ろうと思い、純一君の力を使ってまで頑張ってみました。しかし結果はこの通りでした。指導した生徒は純一君に負け、その生徒がいるクラスは棄権負けに追いやられ、織斑君の専用機は暴走させられて大会は中止となった。IS学園の教員方に問いたい。これが貴方達のやり方か。自分達にとって都合が悪い事が起きたら直ぐに隠蔽したり、無かった事にしようとする。それが教育機関として、いや大人として正しいやり方なのか。私は一人の人間として問いたい!」

 

 良樹の剣幕に千冬を含めたIS学園の教員達は誰も応える事が出来ない。良樹の言葉は正論だった。IS委員会と言う上層部に振り回された結果、自分達は尻拭いをさせられた。返す言葉が見当たらなかった。

 純一は何も発言せず、静かに良樹の言葉を聞いている。彼の気持ちは良樹達『カードターミナル』側にあり、今回の件で完全にIS学園を見限る事を決めた。

 

「私達は仕事で来ました。IS学園の『遊戯王』の授業を担当し、指導を行うと言う仕事を引き受けました。大元となる大会が中止……いや失敗に終わった以上、我々スタッフは責任を取る形で辞任する事になるでしょう。ただ今の世論を見ていると結論を出すのはまだ早いかと思いますが、私の中では十中八九辞任する事になると思います。『カードターミナル』の方も退職するかもしれませんね……」

 

 良樹はIS委員会の無理難題に応えられなかった時点で、自分達はどう転がってもIS学園から去らなければならない事を実感していた。

 IS委員会は1ヶ月で純一と同レベルになる事を望んだが、結局それは出来なかった。更にイメージアップをするつもりが、様々な要素が複雑に絡み合った結果、更なるイメージダウンを招いてしまった。

 IS委員会のやり方を見ていると、恐らく責任を取らされる形で自分達はIS学園の講師を辞任する事になると良樹は考えている。依頼主が満足する内容に及ばなかった所か、最悪の結果を招いてしまった。幾ら事情が事情でも世論が許してくれないだろう。

 

「……ところで今後はどうするのですか?」

 

「今後なのですが……まだ目途が立っていません。世論も炎上していますし……なのでほとぼりが冷めるまでは何時も通りになるかと思います」

 

 こうして緊急職員会議は終了となり、参加していた面々は解散していくが、その中で純一は一人険しい表情をしていた。

 理由は現在IS学園が置かれている状況が余りにも過酷過ぎるからだ。これからもっととんでもない事が起きるのではないか。そのような確信が純一にはあった。

 

 

 

「純一。改めて謝らせて欲しい。一夏がお前を重傷に追い込み、私の確認不足がこのような事態を招いた。本当に申し訳なかった」

 

『良いですよ織斑先生。一夏はわざと傷付けたんじゃなく、暴走した上でああなったんです。それにこちらがもっと介入していれば良かったですし……』

 

 緊急会議終了後。一人会議室に残った千冬は純一に深々と謝罪していた。専用機の暴走があったとは言えど、自分の弟が一時意識不明の重傷を負わせた事には変わりはない。それに加え、自分の確認不足でこのような事態を招いてしまった。

 純一も一夏の事情に理解を示しつつ、自分と『カードターミナル』が大会運営に介入していればこのような事は無かったと反省している。

 

『まぁ今後このような事が起きない為にも何が悪かったか、何が問題だったのかを考えて理解しないと……と言っても次があるかどうかなんですよね』

 

「あぁ……恐らくIS学園では二度と行えないだろうな。今のままだと」

 

『ですね……何しろ経緯はどうあれど殺人未遂事件になりましたから。起きた場所がIS学園で良かったですね。もし日本の法律が適用されていたら、今頃一夏は警察に捕まっているでしょう』

 

「そうだな……」

 

 IS学園は学園の土地はあらゆる国家機関に属さず、いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されないと言う国際規約がある。

 これを言い換えればIS学園は無法地帯であり、何をやっても許される事になる。アクセサリーの形状をしている兵器を持ち歩き、何かあればそれを使う。戦争にアレルギーがある日本人からすればたまったものではない。

 

―――所詮ISは兵器だ。幾ら授業で主にスポーツのような競技種目で使われているって言っても、インターネットと僕の目を誤魔化す事は出来ない。

 

 IS学園での日々を通じて、純一もラウラと同意見となった。IS学園の学生は意識が甘く、危機感に疎く、ISをファッションか何かと勘違いしていると。

 世論は完全にISを兵器と、人を殺す事が出来る道具として認識するようになってしまった。無理も無いだろう。観客の目の前で少年が斬り付けられ、血飛沫が舞い上がった。

 観客達の中にはトラウマとなった人が出てもおかしくない。いや事実トラウマになってしまった人が出てしまった。心療内科に通うようになってしまった人が発生してしまい、益々IS学園に対して批判が向けられるようになった。

 

『これからどうなると思いますか?』

 

「そうだな……更にイメージダウンしたせいで世論はISに対して批判的になっているから、来年度のIS学園の入学者の数が減るのは目に見えているな」

 

『別に良いのでは? だってISコアの数は限られていますし、それこそ、ISに乗れる人なんて代表候補生とか限られた人になって来るでしょう。ここでISの事や操縦方法を教わっても、大半の生徒がこの先長い人生で使う場面なんて早々ないでしょう。習うだけ無駄と言えます』

 

『純一……お前』

 

「そもそもIS学園がまともな所じゃないんですよ。今回の件ではっきりと分かりました。この学園は女尊男卑を掲げる連中の巣窟であり、IS委員会の傀儡に成り果てている。最早この学園は公正な機関としては機能していません」

 

 純一の目が鋭く細められて千冬を射抜く。純一の言葉は正論だった。ISのコアは数が限られている以上、IS学園を卒業して操縦者としてやっていけるのは卒業生でも極僅か。数%の世界となっている。

 そんな数%の世界の競争で、相手は代表候補生達。IS学園に入学してから本格的にISに触れる一般生徒が彼女達に勝てるのか。純一は勝つのは難しいと踏んでいる。だからこそISの操縦技術を終わっても卒業後は意味のない物となると言い切った。

 IS学園の卒業生の主な進路はIS企業かIS学園で培った技術を活かせる一般企業に就職するか、或いは大学や短大に進学するか。そのどちらかになっている。

 更に純一の心は今回の一件で完全にIS学園から離れてしまった。学園行事にIS委員会と女性権利団体が介入して好きなようにした結果、行事は失敗すると共に自分も重傷を負った。しかも明らかに自分を追い落とす魂胆が丸出しだったと言うおまけ付き。

 IS学園は最早公平な教育機関に在らず。女尊男卑を掲げる連中の巣窟であり、純一のように自分達の邪魔になるような人々を平然と追い落としにかかる。そのような野蛮な考えを持つ連中の場所だと言う認識を抱かれた。

 

「お前の言う通りだ。だが少々言い過ぎだ。IS学園に対して批判的な意見が寄せられているが、大半はIS委員会と女性権利団体の内容だ。こっちは風評被害を受けている感じだ。何とかしなければもっと大変な事になる」

 

『只でさえ大変なのにこれ以上大変になられても困るんですよね……ところで一夏はその後どうなったんですか?』

 

「実はな……今は懲罰房で謹慎処分が下された」

 

『まぁ何かしらの処罰を受けるだろうとは思っていましたが……あ、そろそろ時間になるので戻った方が良いですよ?』

 

「もうこんな時間か……早いな。安静にするんだぞ」

 

 純一が自分を斬り付けた親友の事を尋ねると、千冬は表情を曇らせながら、純一が斬られた後の事を話し始めた。一夏のその後と処分についても合わせて。

 結論から先に言うと、一夏は純一を一時意識不明の重傷に追い込んだとして専用機を没収され、懲罰房に移動した上での謹慎処分を下された。

 例え純一に重傷を負わせたと言っても、様々な要因があった事は否定出来ない。専用機に女性権利団体が仕込んだ暴走プログラムによって、意識とISのコントロールを奪われていたと言う事実がある。しかし、それでも純一に重傷を負わせたと言う事実に変わりはない。

 一夏が純一を斬り伏せた直後、専用機持ちと教員部隊の合同部隊が一夏のISと戦いを始めた。暴走しているとは言えど、流石に複数の専用機持ちと言う実力者達相手に勝利する事は出来なかったが、千冬の計算だと10分は戦っていたらしい。

 幾ら咄嗟に半歩下がっていたとしても、流石に斬撃を喰らっていたのは事実。彼の身体から血液が失われていき、10分もあれば最終的に致死量に至ってもおかしくなかった。それでも楯無が確認した時は辛うじて意識がある状態だった。

 合同部隊によってISを停止させられ、意識を失ったまま救護室に運ばれた一夏はと言うと、意識を覚ました時に千冬から映像付きで現実を見せられた。その現実は一夏を絶望させるには十分だった。

 親友を斬り伏せて重傷を負わせただけでなく、連日の報道によって、自身が得た“誰かを守る力”たるISが“人を殺せる兵器”として世間一般から認識されてしまった。女性権利団体によって、一夏を取り巻く状況もまた変わってしまった。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。


・原作通り

 この小説でも原作のお約束事を守りました。学園行事が一夏とその周辺によって中止に追い込まれると言う……ところが今回は最悪の結末を迎えました。


・変わりゆく世の中

 初日で中止。見れた試合は片手で数える程。突然の棄権負け。暴走事件からの重傷者発生。これだけあれば中止にするのは妥当でしょう。
 そして金額と中身が伴わなかった事で観客からはブーイング。しかも暴走は意図的で、売り上げは持ち逃げされた。
 この大会の失敗でISに対する不信感がMAXになり、女尊男卑の社会風潮が崩れる事になりました。


・鉄の主人公!?

 半歩下がったから何とか助かりましたが、それでも致死量レベルの出血で生きていられる……いや生かされている純一君の謎。
 この理由は後で明かしますので心配なく。


・一夏君への処罰

 人命に関わる大事を例え自分の意思で無かったとしてもやらかしたので、今回は処罰を受けました。これは軽い方なのか重い方なのかは皆さんに委ねます。
 自分の力は誰かを傷付ける事が出来る事は分かっていましたが、それが親友を傷付けたなんて……一夏君の精神的ダメージはでかいです。
 しかも世の中がISとIS学園に対して否定的になったので、彼を取り巻く状況はあっという間に悪くなっていきます。


・事件の真相

 ISの暴走は意図的で女権団体の仕業。大会を成功させてイメージアップをしたいIS委員会と、純一の優勝を阻止しながら大会を成功させたい女権団体。
 この意見の相違が今回の事件の引き金となりました。IS委員会と女権団体の決裂は決定的になりました。


・IS学園に心は在らず。

 もう1つ決定的になったのは純一君がIS学園を見限った事。命を狙われ、重傷を負った事でIS学園に対する信頼は地に堕ちました。
 しかしIS学園の教員や生徒への信頼関係はそのままなので、学園に復帰次第新しい動きを見せます。



次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。


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第4章 BREAKERS OF SHADOW(IS学園動乱編)
TURN20 変わりゆく世界


今回から新章に突入しますが、正直言って内容が暗めです。
何しろ純一君達を取り巻く状況が次第に悪化していき、IS学園が未だかつてない危機に遭う事になりますので。

その中でもデュエル描写はしっかり入れますのでご理解を。


 学年別クラス対抗デュエルトーナメントで起きた事件。それによってIS学園と、ISに関わる全ての人々の状況は一変してしまった。主に悪い意味で。

 純一が病院に入院して安静にしている頃、一夏は懲罰房で謹慎処分を受けていた。これは学園側が決めた処罰であり、千冬から言い渡された物だった。

 様々な要因があったとは言っても、一夏が純一を意識不明の重傷に追い込んでしまった事実は変わらない。“世界初の男性IS操縦者“であり、織斑千冬と篠ノ之束と言う強力な後ろ盾がいるとしても、大勢の人々の目の前で重傷者を出してしまった事は事実だった。

 厳しい処罰を下さないとまた世論が炎上すると考えたIS学園によって、一夏は1ヶ月間懲罰房に移動した上での謹慎処分を言い渡された。勿論専用機没収もされた上で。これには千冬も口出し出来なかった。今回の事態を引き起こした一因を担っただけあって。

 そして純一はと言うと、被害者と言う事もあってか、世論からは同情や擁護の声が相次いだ。専用機を持つようになった矢先の出来事と言う事もあったが、世論は文化祭の時に狙われた事もあり、あまり専用機の事は触れなかった。

 織斑一夏と黒田純一。同じ男性IS操縦者でありながら、加害者と被害者でこのように大きく民衆から見方が分かれた。純一は影響力を保持しながら難を逃れ、一夏もIS学園と同じく厳しい状況に立たされた。

 

―――『デュエル・ストラトス』大失敗!? 専用機の暴走で生徒が重傷に!?

 

『暴走した専用機持ちって織斑千冬の弟だろ?』

 

『暴走したとは言っても、負けた腹いせに人を斬るなんて信じられない!』

 

『それより純一君どうなるんだろう……今回の件で一番ダメージ受けているから心配だよ』

 

『IS委員会と女権団体の奴らめ、絶対許さねぇ!』

 

『IS至上主義者よ、懺悔の用意は出来ているか!』

 

「酷い言われようだな……」

 

 『私立鳳凰学院』の生徒会室。そこにいるのは短い黒髪をウニのように立たせた少年―平等院佐智雄。彼は『私立鳳凰学院』2年生で生徒会長を務めるだけでなく、平等院財閥の次期総帥を務めるポジションにいる。

 彼は連日報道されている学年別クラス対抗デュエルトーナメントの事を細かくチェックしており、純一の事を内心心配している。

 妹の友希那が認める程の実力者であり人格者。お見舞いに行った時にお互いに自己紹介し、打ち解け合って意気投合した程気が合った。

 

「良かったと言えば良いのか……これでお客さんを招いて大々的に行うとこうなるってのが分かった。やはり学内で、こじんまりとした所からやろう。良いサンプルになったと言えばそこまでだけどな」

 

 佐智雄は窓から見える晴天の空を見ながら考える。実は『私立鳳凰学院』でも『デュエル・ストラトス』をやっていて、その一環として『遊戯王』の授業をしているのだが、IS学園と比べてのんびりとした授業スピードなのが特徴だ。

 1ヶ月でトーナメントレベルにすると言う無茶な要求もない為、確実に覚えながら一歩ずつ上達していく事を目指している。その為、知識を詰め込む事なく、歴史や環境の変遷の説明にも力を入れている。

 環境デッキに使われていて、平均価格が1000円以上するカードは使用禁止と言うルールがあるが、現在の環境デッキもカードの平均価格が1000円以下なら使用可能と言う条件の為、生徒達はIS学園より質の高いデュエルに励んでいる。

 近い内に学内大会を開催する予定だが、IS学園のやり方を見て参考になった所があった事も事実。佐智雄は頭の中でイメージを描きながら新聞を読み進めていく。

 

(取り敢えずメディアに大々的に宣伝するのは無し。今のこの状況だ。こっちのダメージが大きい。それと『デュエルラボ』さんが主催で行う。“餅は餅屋”だ。それが良い)

 

 今の世の中は女尊男卑であり、男性にとって息苦しい世の中となっている。見ず知らずの女性の言う事を聞いたり、道を歩いているだけで警察に連れていかれるような事だったあるからだ。それが積もりに積もって女性やISへの不信感や憎しみを募らせ、このような事態を招いたと言っても過言ではない。

 IS学園で再び発生した不祥事。それはIS学園の信頼を地に堕としただけでなく、IS委員会と女性権利団体の横暴や不正、汚職等を白昼に晒したと言う事になる。

 

 

 

「テレビは何処もIS学園の事しかやってないし面白くないな……まぁ僕には“これ”があるんだけどね」

 

 さて純一は何をしているかと言うと、病院のベッドで安静にしていた。テレビを観ているが、どのテレビ局もIS学園で発生した不祥事の事ばかりで飽きてしまった。

 テレビを消すと、純一は差し入れで頂いた『遊戯王OCG』の最新パックを手に取り、パック開封を始めた。彼が貰ったのは2020年9月12日に発売された『デッキビルドパック ジェネシス・インパクターズ』。

 このパックは同じシリーズのカードがまとまって入っていて、収録カードだけでデッキ構築を楽しめるパックになっている。このデッキビルドパックシリーズは【エルドリッチ】や【ドラゴンメイド】、【閃刀姫】等の環境デッキを輩出している。

 純一が『ジェネシス・インパクターズ』で構築したいデッキは【ドライトロン】。純一にとって久しぶりの新デッキであり、11期に入って初めて構築するデッキとなった。高い攻撃力を持つ機械族の儀式テーマが【ドライトロン】。

 公式Twitterや考察サイトを調べていく中で、純一は【ドライトロン】は強い上にカスタマイズするのが面白い事に気付き、大会直前の土曜日に発売されるパックを、自宅の近くにあるカードショップで5箱事前に予約購入した。

 そして彼の手元にあるのは『カードターミナル』と『KONNAMI株式会社』からの差し入れで頂いた10箱。1箱15パック入りなので、合計150パックを開封する事となった。

 

「さてお目当てのカードは全て揃うかな?」

 

 純一が時間を掛けながら150パックを開封し始めるのと同じ頃。今回の失敗を通じて、IS委員会と女性権利団体の間では埋める事の出来ない溝が生まれていた。

 学年別クラス対抗デュエルトーナメントが目指す目標がそもそも異なっていた事が、今回の事態を引き起こす原因となったのだから。

 IS委員会は大会の成功だけ。女性権利団体は大会を成功させつつ、黒田純一率いる1年5組の優勝を阻止する事。IS委員会は癒着状態にある女性権利団体に協力を求めた時点で、この大会は失敗する運命だった。

 その為に女性権利団体は一夏達専用機持ちのISに細工を仕込んだり、1年6組を棄権負けさせたりした。その悪行は世間に晒され、今や女性権利団体は世界中の敵と言える所まで落ちぶれた。

 

「今回の大会は貴女達の失敗で世論から袋叩きになっています。何の罪もないIS学園の生徒達まで巻き添えになっているこの状況……言い逃れは出来ませんよ?」

 

「知らないわ! そもそも薄汚い男の分際で女性達の象徴である神聖なるISを動かしたのが悪いのよ!」

 

「男の癖に生意気なのよ! 黒田純一と織斑一夏が私達の栄光を穢そうとした! だから私達は奴らを始末しようとした! だから私達の行いは正義なのよ!」

 

「ハァ~本当に貴女達とは会話が成立しませんね。良いですか? 貴女達のその身勝手な考えと思い込みのせいで、一体どれだけの人が迷惑していると思っているんですか?」

 

 とある場所。とある建物の中にある会議室。広い室内を取り囲むように配置されている机と椅子には、十数人の女性が座っている。

 片方の席にはIS委員会の役員が、もう片方の席には女性権利団体のメンバーが座っている。前者の表情は氷のように冷たく、後者の表情はマグマのように怒りで熱くなっている。

 まるで証人喚問のようにIS委員会の管理官―沖田美紀は女性権利団体の役員に問い詰めるが、彼女達は自分達の行動の正当性を主張するばかり。議論は全く進展せず、IS委員会の役員の中には露骨に苛立ちを見せる女性もいた。

 

「知らないわよ! それに私達ばかり責められているけど、貴女達も悪いじゃない! 私達に協力を求めた時点で貴女達も同罪なのよ!」

 

「そうよそうよ! そもそも初めてのカードゲーム大会で私達素人がやったからこうなったんじゃない!」

 

「確かに貴女達の仰る事は事実です。『カードターミナル』さんの協力を仰がず、自分達だけで事を進めた私達が最も責められるべきです。しかし、貴女達の行いも同じ事が言えます。私達が警告したにも関わらず、貴女達はIS学園で事を起こした。しかも世界中の世論を巻き込むと言う結果に……」

 

 女性権利団体のメンバーが口々に反論すると、美紀は自分達の過ちも素直に認めつつ、女性権利団体に下した警告の事に触れた。

 IS委員会は純一から見て女性権利団体の大元でIS学園の上層部と言う認識だが、それは半分正解で半分不正解だった。

 元々IS委員会の正式名称は国際IS委員会でIS条約に基づいて設置された国際機関であり、国家のIS保有数や動き等を監視している。それがどういう訳か何時の間にか、女性権利団体と癒着関係を結ぶに至った。

 

「我々は警告しました。文化祭で黒田純一を殺すべく、貴女達がIS部隊を雇って襲撃させた時に。二度は無いと警告しました。それで貴女達は少しは抑えるだろうと思いましたが……どうやら我々の勘違いでしたね」

 

「貴女達は知らない! あの黒田純一の恐ろしさを……奴がデュエルディスクのモニターになった事で世論は、世界は一気にデュエルディスクに注目してISに見向きもしなくなった!」

 

「そうよ! あの黒田純一は“フェンリル”……この世界に災いをもたらす者、私達女尊男卑に終焉をもたらす悪魔なのよ!」

 

「何の事を言っているか分かりませんが、貴女達が“フェンリル”を言って怖れる純一君を殺そうと文化祭にIS部隊を派遣したせいで一般人にも怪我人が続出……これでIS学園と私達のイメージダウンが始まり、不信感を抱かれるようになりました。そして今回の件で完全にISへの信頼が失墜し、兵器として見られるようになりました」

 

「貴女達が神聖だと崇めるISと、貴女達女性権利団体の威信は他ならない貴女達によって失墜させられた……その事実を深く受け止めなさい」

 

 IS学園の文化祭で黒田純一を襲撃した時、IS部隊は一般人にも決して少なくない数の怪我人を出していた。それによってIS学園の対応が批判され、IS学園とISのイメージダウンが始まってしまった。

 そのイメージダウンを解消する為、学年別クラス対抗デュエルトーナメントをデュエルディスク発表から1ヶ月と言う短い期間で行わせたが、結果は物の見事に大失敗に終わってしまった。自分達IS委員会と女性権利団体のせいで。

 全てが自業自得な結果になったとは言えど、IS委員会と女性権利団体は面白くない上に、美紀はこの一件が更なる混乱を招くのではないかと危惧している。

 何故ならこの一件を利用して、日本政府や平等院財閥等の反女尊男卑派が何かしら行動を起こす事が目に見えているからだ。純一も反女尊男卑派の一人であり、彼をシンボルに据えて何か行動を起こすに違いない。

 今の日本政府は持病の悪化で総理大臣と自民党総裁を辞任した阿部野信三から、若手の政治家で官房長官を務めていた菅野拓郎が総理大臣兼自民党総裁になった。

 菅野首相は日本政府から女尊男卑思想を持つ政治家を全員追い出すと宣言し、世論の支持を獲得している。

 学年別クラス対抗デュエルトーナメントの失敗によって、色んな人々や多方面からの信頼を失い、インターネットの至る所では炎上したり、マスメディアでは大きく叩かれている。

 

「今回の事態の責任は私達IS委員会と女性権利団体で取るしかないです。そもそも主催者がIS委員会で、最も貢献したのが貴女達ですから」

 

「な、何を言って……」

 

「今回の事態を招いた責任を取る為に、大会の主催から協賛に関わった人達全員に処罰を下します」

 

 こうしてIS委員会でも新しい動きがあった。IS委員会から女尊男卑思想を持つ人間全員が追放されたのだ。それがニュース速報で流れた時、純一も驚く事しか出来なかった。

 こうして学年別クラス対抗デュエルトーナメントの失敗によって、ISに携わる人々の立場や状況が変わるようになった。

 

 

 それから数日後。土曜日。前日に病院から退院した純一は、親友の五反田弾の家に遊びに来ていた。弾の部屋にいるのは純一と弾、そして弾の妹の蘭の3人。

 五反田兄妹も先日発売された『デッキビルドパック ジェネシス・インパクターズ』のボックスを複数購入していた。今現在行われるのはボックスの開封式であり、デッキ構築後のフリーデュエルだった。

 弾に影響されてか、蘭も『遊戯王』をしている。今は中学3年生だから息抜き程度に嗜んでいるが、純一をして“手強い”と言わしめる程に強い。

 

「そう言えば純一も災難だったな~折角の大会が中止になって。俺、お前の試合が配信されると聞いて楽しみにしていたけど、大会が中止になったから配信は停止になったんだよ……」

 

「あぁ。僕は良いけどさ、問題なのは一夏だよ。毎日のようにIS学園の事が報道されているせいで、世界中で顔が知られている。“ISで人殺しをやろうとした奴”って思われても仕方ないよ」

 

「一夏さん……どうなるんでしょうか?」

 

「どうなるって言われても……純一、お前は知っているんだろう?」

 

「あぁ。専用機没収に懲罰房で謹慎処分。まぁ妥当と言えば妥当だな~」

 

 純一も一緒にパックを開封しながら弾と蘭の五反田兄妹の質問に答えているが、何時もの歯切れの良さがなく、何処か悩んでいるような様子だった。

 IS学園は創設以来最大とも言える危機に立たされている。世界中の要人達を観客として招待して行われた学年別クラス対抗デュエルトーナメントは、誰がどう見ても失敗と言えるような結果になって終わったからだ。

 純一はこのように考えていた。本来、世界は誰に対して平等であって不平等で無ければならない。これまで特定の人間の為に世界は都合良く動く事は無かったが、今はで特定の人間の為に世界は都合良く動いていた。

 それは今変わり始めている。デュエルディスクの台頭と黒田純一の成り上がりによって、世界は全ての人間に平等かつ不平等な世界に回帰しようとし始めている。つまり、女尊男卑やIS絶対至上主義を掲げる連中にとって、都合の悪い世の中になってきている。

 

「それに良い事にならないのは蘭ちゃんの方だよ。僕はこの際だから直接言いに来たんだよ」

 

「何かあったんですか?」

 

「いやさ、鈴から聞いたんだよ。IS簡易適性試験を受けてA判定を出したんだって?」

 

「はい、それが何か……」

 

「悪い事は言わない。IS学園には来ない方が良い。蘭ちゃんの為にも」

 

 純一は目を細めて鋭い視線で蘭を見る。まるで睨み付けるような視線に蘭は一歩後ずさるが、弾は純一の行動を咎めたりはしなかった。

 中学生の頃からの悪友だけあり、純一の思考はある程度読む事が可能な弾。彼は純一が言おうとしている事が何となく推測出来た。

 

「話は既に聞いているよ。来年高校受験なんだろう? 第一志望をIS学園にしていると。 止めておいた方が良い」

 

「純一さん……」

 

「今のIS学園は世論の批判に晒されて大炎上している。この大炎上は当分の間収まるとは考えられない。つまり今のままで行くと、来年度の入学者数が減る可能性が高いって事だ。そうなると適正値が高い人は強制入学させられる事だって考えられる」

 

「そ、そんな事があるんですか!?」

 

「あくまで予想の範囲内だけどね……IS委員会の連中ならやりかねない。今からでも遅くない。進路についてよく親御さんと話し合った方が良い。一度きりの人生だ。後で後悔しないようしっかり考えるんだ」

 

「そうします。実は純一さんが文化祭で襲撃された事件の報道を見て、IS学園を受ける事に疑問を持っていました。でも今回の件で決めました。私はIS学園を受けず、今いる学校の高等部に進学します」

 

 純一が蘭に忠告したのはIS学園の入学について。彼は今回の大会の失敗を受け、IS学園の来年度の入学者数が激減するのではないかと考えている。

 世論の批判に晒されているのはIS委員会と女性権利団体の介入があった事と、彼らの傀儡になっている事に対して。他にも大会で重傷者を出したり、チケット代の返金トラブル等々もあるのだが。

 蘭は一夏に恋心を抱いてIS学園への入学を目指しており、IS簡易適性試験を受けてA判定を出している。この高い判定を出してしまった事が純一にとって一番の心配材料であり、IS委員会がIS学園に強制入学させる考えの裏付けとなっている。

 それだけに純一は蘭の事を心配している。後で自分が受けているような事を受けさせない為にも、厳しい言葉を使ってでも蘭に伝えている。

 あの後弾と蘭の五反田兄妹と雑談をしたり、ワーキャー言いながらデッキを構築してデュエルしまくった。大会の時に受けた嫌な事が全て吹き飛ぶくらい、とても楽しい時間を送る事が出来た。そう言えるくらい、純一は五反田兄妹を大切に思っている。

 

 

 

「純一か……」

 

「織斑先生……いや千冬さん。こんな所でどうしましたか?」

 

「一夏の為に買い物をしていてな……家に戻ろうとしていた時にお前を見かけた。お前も買物か?」

 

「はい。コーヒー豆を切らしていたのを思い出して、学園に戻る前日に買おうと」

 

「そうか。この後時間はあるか? お前が退院したから昼食を取りながら色々話したいと思ってな。特別に奢るぞ?」

 

「ありがとうございます」

 

 翌日。日曜日。純一は自転車を漕いで大型ショッピングモールに来ていた。IS学園の寮部屋にコーヒーメーカーを置いているのだが、そのコーヒー豆を切らしてしまい、学園に戻る前日に仕入れる為に買い物に出ていた。

 コーヒー豆を仕入れて駐車場に向かっている最中、純一は千冬に会った。千冬は帽子を被り、髪を結び、眼鏡をかけた変装姿だった。

 それなりに手が込んだ変装をした千冬は一夏の為に買い物に出ていた。一夏は今謹慎処分中でIS学園の懲罰房にいる為、休日になると千冬は一夏が出したリストを見ながら欲しい物を購入している。

 お互いに買い物を終えた所だった事もあって、千冬と純一はショッピングモール内にあるフードコートで食事を取る事にした。

 

「僕が入院している間、皆は大丈夫でしたか?」

 

「あぁ。大丈夫と言えば大丈夫だったが……流石に5組がお前がいないからか空気が重かった。1組も一夏がいなくなった……まるでお葬式のように重くて暗い雰囲気だった」

 

「取り敢えず僕が明日戻るので多少は和らぐでしょう。一夏の方は大丈夫ですか?」

 

「それがな……かなり気落ちしていて私でも手が付けられないのだよ」

 

 千冬が1組と5組の様子を話すと、純一も困ったような表情を浮かべる。一夏と純一は在籍しているクラスでかなりの影響力を持っており、彼らの不在は大きい。

 5組はクラス代表のナタリアが支えているが、1組はクラス代表の一夏が起こした事件によって雰囲気が悪くなっている。

 

「そもそもですけど、授業初めて直ぐと言えるタイミングで、大会をやろうと言う事に無理があったんです。せめて一通り学園行事こなしながら勉強して、今年度の行事が終わってからでも良かったでしょうに……」

 

「あぁ。お前の言葉には一理ある。だが文化祭からまだ時間が経っていないから、IS委員会がIS学園をイメージアップさせたい気持ちは分からなくもない。だが各国の要人を招き、かなり宣伝して行った大会が出オチと言っても良いタイミングで中止になったなんて前代未聞だぞ……」

 

「しかも中止になった原因が一夏にあったのが余計に……失敗するべくして失敗したと言えばそこまでですけど、今年の学園行事ってどれも成功しましたっけ?」

 

「少なくとも今年成功した行事はない。何かあると、殆どが一夏関係で中止になっている」

 

 千冬にとって、純一はIS学園の生徒の中で本音を話せる数少ない存在。一夏には話せない事も普通に純一に話す事が出来る。

 自分がいない事でクラスの皆の事を心配する純一だが、明日復帰する事もあってまた皆に会える事に何処か喜びを感じていた。

 しかし不安材料なのは一夏の事だった。今まで彼が原因で学園行事が中止になる事が多々あり、今回は重傷者まで出す事態となった。しかも原因の一端を担ったのが千冬だったと言うおまけ付きだ。

 今回の件で一夏に対する風当たりが強くなり、千冬のIS学園生徒に対する影響力が低下するのではないか。純一はそれを心配している。自分にも火の粉が降りかかりそうな大きな問題になる事が予想されるからだ。

 

「IS委員会と女性権利団体のせいで、一般人からの信頼は失墜した。折角高いお金出して、何とかお休み貰ってわざわざ来てくれたのに……それだけ楽しみにしていた大会がこんな結果になってしまった。合わせる顔がない……」

 

「僕達は最初からIS委員会と女性権利団体の欲望と利益の為に利用されていたのか……『カードターミナル』の方々の思いを踏み躙り、一夏の思いを利用し、大勢の人に迷惑をかけた……全ての責任は奴らにあります。僕達の努力は……願いは……一体何だったでしょうね?」

 

「本当に済まなかったな純一……今回の一件は一夏よりお前の方が一番ダメージを受けた筈だ。起きてしまった事は仕方ないが、今回の件は完全な事故だ。マスコミは事件だと騒ぎ立てているが実際は事故だ。これからIS学園の生徒は厳しい風当たりに晒される事になる」

 

「まぁそうなるでしょうね……あれだけ宣伝した大会で事故や不祥事が起これば、マスコミが見逃す筈がありません。初めて行った大会が中止になって、世間からは袋叩き。こりゃもうたまった物じゃないです……IS学園の皆がいたたまれないです。高校生が背負えるキャパシティーを超えている……」

 

 純一はデュエルディスクのモニターとなってYoutubeチャンネルに出演したり、雑誌でコラムを書いたり、Twitterを始める等精力的な活動を行う中で、マスメディアとの上手な付き合い方を勉強するようになった。

 その中でSNSやマスメディアの恐ろしさをIS学園の誰よりも深く知っている。個人情報の流出はこの情報社会において避けたい事の1つだからだ。

 

「僕が一番心配しているのは一夏の事もそうですけど、千冬さんもです。世間でも知名度が高く、“ブリュンヒルデ”と今でも呼ばれています。嫌かもしれませんけど、自分はそれだけの実力と名声があると言う自覚を持ってください。今の世の中、家族を巻き込む嫌がらせがあります。それに巻き込まれてもおかしくないでしょう」

 

「そうだな……ありがとう。気を付ける」

 

 純一が退院してからもずっと、マスメディアの至る所ではIS委員会と女性権利団体、IS学園の問題が中心に取り上げられている。

 ニュースを見ていると、千冬と一夏の織斑姉弟の自宅に脅迫文等の物騒な手紙が送られていると言う物もあった。千冬は性格的に気にしていないだろうが、純一が見る限り千冬の顔色はあまり良い物ではなかった。

 恐らく一夏と純一の2人を傷付けた事で世論に叩かれ、IS委員会に色々言われているのだろう。その精神的な疲労が蓄積されているとしか思えない。

 事実千冬の所には彼女の事を尊敬しているIS操縦者達の激励の手紙から、一般人からの誹謗中傷や脅迫といった内容の物まで届いている。IS業界からの支持が根強い一方、それ以外は全く支持されていない。正に今のISの在り方を示しているようだった。

 

「まぁここから女尊男卑思想を持つ女性、引いてはIS関係者達が排除されるかもしれないな……」

 

―――株式会社〇〇に勤務の女性(25)、投身自殺を行う!?

 

 千冬と別れた後、純一は駐輪場に行って自転車に乗ると、真っすぐ帰宅した。帰宅して最初に観たのはスマホ。そこにはIS関連のニュースが速報として出ていた。

 IS学園のOGが投身自殺したと言う衝撃的なニュース。その詳細を読んでいくと、この女尊男卑の社会風潮による歪みがまた明らかになった。

 自殺したその女性、もといIS学園のOGは女尊男卑思想に凝り固まっていた。IS学園卒業後、彼女は一般企業に就職した。そこで横暴な態度を取って社員を困らせたり、取引先を縮小させる等会社に不利益を与えていた。

 ISと言う存在が後ろ盾にいる以上強くは言えない為、会社側は今まで見て見ぬふりをしてきたが、文化祭で発生した純一襲撃事件で一転攻勢に出た。

 ISを動かせる女性は男性より優れている。それならば男性の倍仕事をして、給料に見合っただけの成果を出してもらわないと困る。会社側はこれまで女性の後ろ盾だったISを逆手に取り、女性に過剰労働を強いるようになった。

 このようなケースは数多く確認されており、被害者の全員は女尊男卑主義者だった。女性は男性より体力が少なく、会社から男性以上の仕事量を押し付けられたら悲鳴を上げたくなるのは当然の事だ。

 目の前の仕事が終わってもまた別の仕事を押し付けられ、その仕事を終えても他の仕事を押し付けられる。正に仕事の押し付けによる無限ループ。気が付けば日付が変わる事なんか当たり前の世界。

 そんな無限仕事地獄による過剰労働によって心身共に疲弊していき、彼女は過労のあまり投身自殺を計った。今日も世界の何処かでこのような事が起きているとなると、幾ら反女尊男卑派の純一でも表情が曇ってしまう。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・IS学園に吹く逆風

 今回の事件が純一のみならず、彼の周辺や世界を巻き込む事態となりました。仮にも”世界で2番目の男性IS操縦者”ですし、大勢の人の前で重傷を負ったので。


・IS委員会に切り捨てられた女性権利団体

 今回の大会の失敗の責任を取る形で追放されました。IS委員会も主催者なのでどっちもどっちな感じは否定できません。


次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

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TURN21 チーム・サティスファクションズの立ち上げ

今回は小説主人公が退院してからの出来事がメインになります。
この章から原作で学園行事が悉く中止になっている事で生じた皺寄せ(もとい弊害)を記していきます。
動乱と記したとおり、IS学園内で起きる出来事を中心になりますが、この章から本格的に『私立鳳凰学院』も参戦する事になります。


「何か本格的に世の中が変わり始めたな……」

 

 純一が退院してIS学園に戻ってから1週間後。放課後。純一はIS学園の変わり果てた雰囲気に戸惑い、何処か居心地の悪さを感じていた。

 備え付けられているベンチに腰掛け、缶コーヒーを飲みながら、純一は自分がIS学園に復帰したその日にあった出来事を思い出した。

 純一が復帰した事に5組のみならず、彼と関りのあるクラスの誰もが喜んだ。しかし、純一は1組を訪れた時に一夏の席を見て悲し気な表情を浮かべた。

 自分を重傷に追い込んだ一夏は懲罰房で謹慎処分を受けている。そのせいもあってか、1組の雰囲気はお葬式のように暗く落ち込んでいた。

 

「今回の事件でIS委員会、女性権利団体とIS学園に対して一般市民の感情が悪化していると言うニュースが連日報道されているのは皆知っているよね? その原因は織斑君が純一君を攻撃した事。ISが兵器として認識された事。確かにあれは織斑君の意思じゃなかったけど、どちらにしても織斑君がやった事には変わらない。あの事件が切っ掛けで世論はISを兵器と見なし、私達を寄せ付けないようになったわ」

 

「兵器ですか……」

 

「そんな……私達だって被害者なのに……」

 

 1年5組の教室。SHR。担任のナターシャが連日の報道によってISとIS学園に対する悪印象が高まっている事を伝えると、教室中は騒然となった。

 それを制したナターシャだったが、目の前の現実を受け入れる事が出来ない生徒達を見て溜息を付く事しか出来なかった。彼女なりに思う所はあるようだ。

 学年別クラス対抗デュエルトーナメントでの出来事を受け、世の中は大きく変わり始めていた。そんな中で置かれた立場と状況が変わってしまったのは純一や一夏だけではなく、IS学園の生徒達も同様だった。

 あの出来事を受け、一般市民はISを兵器として見なし、人殺しの道具をファッションのように着飾り、アクセサリーのように何気なく持ち歩いている事に恐怖を抱き、社会から排除しようと動き始めた。

 

「それともしかしたら外出自粛になる可能性も高いわ。今のままだと外出した時に一般市民からの攻撃や誹謗中傷を受ける可能性が高いと考えられているの。今回の一件やSNS等で拡散された映像によって、今は世論が大炎上していると言っても良い。もう誰にも止める事が出来ないわ」

 

 今の世の中は女尊男卑と言う社会風潮が蔓延し、例え女性が横暴を行っても許されるような社会となった。ただ道を歩いているだけで謂れも無い被害を受ける男性が出ているが、それはISと言う存在による優位性が存在していた。

 しかし、その優位性もデュエルディスク登場後に崩れる事となった。今回の大会の失敗は言わば、特大級の不祥事と言っても過言ではない。

 ISの存在を傘にした女性達による横暴に苦しむ者達がそれを利用しない事はない。今までの鬱憤を晴らすが如く、反撃に打って出ている。

 女性権利団体の建物を襲撃したり、デモや抗議活動を起こす等行動を起こしてきたが、それにIS学園の生徒も巻き込まれてしまった形となる。

 

「皆も見たでしょう? 純一君が斬られたのを。彼は文化祭の時も命を狙われた。今度は死にかけた。これでISを尚も競技用パワード・スーツと言い張るのも限界がある。IS企業も批判されているから、もうISと言う存在が世論から批判されているって言っても過言じゃないわ」

 

「そんな……それじゃあ私達がここにいる意味もないじゃないですか……私達のこれまでの努力は……」

 

「だから皆の皆の安全も考えて不便に感じるかもしれないけど、生徒の外出は極力自粛してもらう事になるかもしれないわね。必要な物は通信販売等で取り寄せる形になるかもしれないけど……」

 

「IS学園は社会から孤立するかもしれないって事ですか……」

 

 5組の面々は純一の影響もあってか、どのクラスよりも今回の件を重く受け止めていて危機感を抱いている。無理も無いだろう。クラスの副代表兼参謀と言う重要なポジションにいる男子生徒が、“世界で2番目の男性IS操縦者”が大変な事になったのだから。

 今回の一件を通じて、IS学園は社会からの批判の格好の的となった。もちろんIS委員会と女性権利団体も批判されているが、一般市民にとってIS学園は“女尊男卑主義者の育成所”、“兵器の扱い方を学ぶ場所”と言う認識を完全に抱かれてしまった。

 IS企業は同じISを取り扱う企業だけあって理解を示しているが、そのIS企業も批判を受けている中、何時支援を打ち切られるか分からない状態となった。

 IS委員会と女性権利団体のせいで、IS学園にいる女子生徒達は大変な事態に直面する事となった。彼女達は生贄になったのかもしれない。ISと言う物が生み出した社会の歪みを正す為の生贄として。

 

「父さん。IS学園が生徒達に外出自粛令を出すかもしれないって。必要な物は通信販売で取り寄せる事になるけど……」

 

『本当か!? 通信販売で取り寄せるって言っても応じてくれる企業は普通ないぞ!?』

 

「どういう事?」

 

『今のこの状況だ。IS学園に手を差し伸べる企業はないって事だ。IS企業以外はな。もしIS学園に支援を行った事がバレても見ろ。袋叩きになるだろう。IS学園は切り離されたんだよ社会から……』

 

「マジか……冗談きついぜ」

 

 SHR終了後。純一はスマホで父親の洋介に電話をして状況を伝えながら、駄目元でIS学園への支援を頼んでみた。

 純一の父親は『黒田商事』の社長。『黒田商事』は国内で有数のトップ企業の総合商社であり、今回の事態に決して無力とは言えない。取引先の会社から何かしら良い返事が貰えると純一は期待した。しかし現実は甘く無かった。

 話を聞いた洋介は多少驚きながらも純一に現実を突き付ける。例え通信販売を行ったとしても、応じてくれる企業がいるかどうか。それ程までにIS学園が置かれた状況は厳しくなっている。

 

「と言う事は僕も外出自粛!? ふざけんな! こちとら被害者なんだぞ!」

 

『言いたい事は分かるが落ち着け。こっちでIS学園への通信販売に応じてくれそうな企業をリストアップし、一社ずつ当たってみる。流石にこのままじゃヤバい気がするからな……』

 

「もう頭が痛いよ……」

 

『まぁそう気に病むな。何かあったらまた連絡する』

 

 洋介との電話を終えた後、放心したように純一は大きく溜息を付いて項垂れる事しか出来なかった。事態は予想外の方向に進んでいる。純一としてはもう何もかも逃げ出したいくらい、酷い状況となっている。

 そもそもこうなったのはIS委員会が無茶な事を言い出した事が全ての始まりだった。1ヶ月と言う僅かな期間で、純一と同レベルにすると言う無茶な要求。ISの実習や座学が多いIS学園において、1ヶ月は幾ら何でも短すぎた。

 それに応えるべく、『カードターミナル』と純一が奮闘した結果、このような有り様となった。せめてもう少し時間があれば。せめてアリーナで予行演習さえ出来れば。彼らは悔し涙を流したのは言うまでもない。

 

(今回の一件で恐らく一夏と千冬さんにアンチやヘイトが集まりそうな気がする……今年のIS学園の行事は全て一夏絡みで中止になったし、今回は人の生死に関わる事になった。これ一夏にとってヤバくなるんじゃないか? それに千冬さんも報道で真実をありのままに伝えているけど、事態を引き起こした責任もあるし……もう止めよう。頭痛くなってきた)

 

 思考の海に沈んだ純一だったが、あまりの状況の悪さに頭痛がした為、思考の海から戻って教室に戻る事にした。

 そもそも今回の事態の悪化を招いたのはISに対しての価値観がある。そもそもISは何かと聞かれても、ISに興味ない人でも競技用パワード・スーツと答えるくらい、何処かはっきりしない所があった。

 しかし、今回の事件でISは兵器であると一般社会は認識してしまった。元々純一はIS部隊に殺されかけた事がある為、それを知っている市民達は声を合わせてISを兵器だと認識して排除しにかかっている。

 とは言えどISは兵器であると言い切ったら、日本人の大半は戦争に対して過剰なアレルギーを持っている為、社会から受け入れられない未来しかない。だからこそ競技用パワード・スーツと言って誤魔化す事しか出来なかった。

 そうしないと、IS学園を日本に設置する事が出来なかったのかもしれない。利権絡みの政治の世界の話になるが。

 

(束さん……僕は貴女を恨むよ。貴女が女性を羽ばたかせたいと言っていた物が、今や女性の足を引っ張っている。ISは早過ぎたんだ、世の中に出て来る事が。そして貴女が起こした“白騎士事件”でISの運命が決まっていた。最初から失敗する運命だったんだよISは……)

 

 純一が束に恨み言を内心呟いているのと同じ頃。世界中の何処かにあるとされている束の移動用ラボでは、束は何時ものにこやかな表情を消してモニターを観ていた。

 彼女の表情は何処か元気がなく、まるで追い詰められたような表情を浮かべていた。それを心配そうにクロエが見ている。

 

「束様、一度休んだ方がよろしいかと……」

 

「そうなんだけどね……寝れないんだよ。目を閉じると、ジュン君がいっくんに斬られた時の事を思い出して……」

 

 束は一夏とアンナの試合をマスター・ユウギと共に実況・解説席から観ていた事もあり、運悪く純一が一夏に斬られる場面を見てしまった。

 その時に束の中で何かが壊れてしまった。無理もない。自分が開発した最高傑作を身に纏った大切な人が、同じ大切な人を殺し掛けたのだから。束は気を失い、千冬によって保健室に運ばれた。これには千冬も驚いたと言う。

 後で『白式』を解析して暴走プログラムが仕込まれていた事を知ると、IS委員会と女性権利団体に向けて凄まじい憎悪を燃やした。

 本来の居場所に戻った束だったが、悪化していくIS学園の状況と、次々と明かされていくIS委員会と女性権利団体の悪行を見て自分の無力さに打ちのめされつつ、一夏や千冬、そして箒の心配をしている。純一のお見舞いにも行ったが、そこで純一に心配された。

 

―――束さん。顔色悪いですよ? ちゃんとご飯食べて早く寝ないと、折角の美人が形無しになりますよ?

 

 純一とクロエに心配される程、束の精神状態はお世辞にも良い状態ではなくなった。自身が製作に携わったデュエルディスク。ISの技術を取り入れた“それ”は世界中の人々の心を掴む事に成功し、IS学園で初めての大会が開催される事になった。

 ここまでは良かった。ここまでは束の想定していた範囲内であり、彼女も大会は成功する物だと信じていた。出来れば純一に優勝して欲しいと思いながら。

 しかし、彼女によって予想外だったのはIS委員会と女性権利団体が介入した事。文化祭での襲撃事件で世論からのISとIS学園への信頼を取り戻すべく、大会の主催者として運営を行って大規模な大会を開催したが、結果を言えば大失敗に終わった。

 その結果ISの信頼は底辺にまで落ちたと言っても過言ではないレベルになり、更に言えばISは兵器として社会は見なすようになった。純一が大勢の観客の前で斬られ、重傷を負ったと言う事実がISへの不信感を増大させていく理由となってしまった。

 ISが登場してから、世界は混沌となった。それが今度は何処かで戦争が起きそうな状態となっている。言わば危ない火薬庫状態。

 

「どうしてこうなったんだろうね……IS委員会と女権団体が悪いと言えばそこまでだけど、ISにまで不満が行くなんて……何が悪かったのかな?」

 

 束も危惧していた。今回の失敗で一夏に対しての不信感が出ている事を。何しろ突然暴走して純一を斬り付けたのだから。事情を知らない観客達からすると恐怖でしかなく、それが今の世論を形成した理由の1つだ。

 しかし束は理解出来なかった。何故ISが悪いかと言う事に至る経緯を。全ては自分が自作自演で起こした“白騎士事件”が切っ掛けだと言う事に。あの出来事がISの運命を決定づけた事を束は知ろうとしなかったし、理解しようとしなかった。

 

 

 

「……てな感じで1週間経ったけど、流石にきついなぁこれは」

 

 1週間前の出来事を振り返り終えると、純一は缶コーヒーを飲み終え、ごみ箱に空き缶を放り投げてゴールインさせた。

 純一は先週の土日に実態を調べる為に外出届を出して都市部を歩いてみたが、同じく外出届を出したIS学園の女子生徒が販売店では突っぱねられ、飲食店から締め出され、遊園地には立ち入り禁止を言い渡されるわ、とにかく散々な目に遭っているのを見た。

 幸い純一は眼鏡を外した姿で街を歩いていた為、普通にお店に入れたり出来、自分の事を明かした時、色んな人から励ましや同情の声を受けた。

 IS学園は今後の学園行事を中止にせざるを得なくなった。例えば運動会や修学旅行。その為、普通の学園生活を送る事を余儀なくされている。

 と言うのも、各国要人を招いた大会で重傷者を出してしまい、しかもその人が今勢いがあり、世論に影響力がある男子生徒だった事も裏打ちされ、各国の政治家やIS企業の面々が慎重な行動を取らざるを得なくなった事も関係している。

 

「まぁ原因はIS委員会と女性権利団体があるとは言えど、IS学園も色々やらかしているね……こればかりは仕方ないか」

 

 その為、純一が校内を歩いているだけでも雰囲気と居心地の悪さを感じ取れている。それに加え、このような状況を作り出した原因がIS委員会と女性権利団体にあると言う事から、フラストレーションをぶつける対象がいない事が加速させている。

 純一に重傷を負わせた一夏は懲罰房にいて、しかも姉は世界最強の実力者。下手に手出しをしたら何をされるか分からない為、彼女達は何とか不平不満を抑えながら今の生活を送っている。

 学年別クラス対抗デュエルトーナメントの失敗。それによって生じた影響は世間一般のみならず、IS学園にも大きな影響をもたらしていた。その中で純一は現実を受け止めているが、それでも予想外の展開に頭を抱えている。

 

「このままIS学園はどうなるのかな? 早くこんな所からおさらばしたいよ……それに新しくデッキを組んだのは良いけど、果たして真価を発揮出来る日が来るのか……現状は分からないよ」

 

「こんな所にいましたか」

 

「ナタリアさん……」

 

 純一が自身の左手に付けている腕時計、もとい待機状態の専用機ことデュエルディスクを眺めていると、とある女子生徒が唐突に声を掛けてきた。

 その女子生徒の名前はナタリア・スアレス・ナバーロ。純一が移った5組のクラス代表でスペインの代表候補生。金髪をポニーテールにまとめた女子生徒。彼女は純一の隣に腰を下ろして座った。

 

「逃げているんですか? 目の前の現実から」

 

「逃げている……? 僕程目の前の現実に抗っている人はIS学園の中にはいないと思うんだけどね」

 

「分かっていますよ。純一君が一番今回の失敗を真剣に受け止めていて、一番の被害者である事も。でも純一君。今回の失敗はもう純一君一人で解決出来る領域を超えています。最早世界中の問題となっています。それを全て抱え込み、一人だけで悩んでいるって言うのは逃げている事と同じなんです」

 

 ナタリアは純一の隣に腰掛けると、純一の苦悩や立場を理解している上で、純一の事を“目の前の現実から逃げている”と批判した。

 学年別クラス対抗デュエルトーナメントの失敗。それは純一が重傷を負った事も含めてニュースで話題となり、連日連夜報道されている。ナタリアですらうんざりするくらい。

 更に主催者のIS委員会の杜撰な対応や女性権利団体の汚職や不正行為も併せて公表されると、更なる炎上が発生した。勿論IS学園も無関係ではない。連日の報道のおかげもあってIS学園にも風評被害が及び、民衆の怒りが向けられている。

 

「こんな事を言っても慰めにもならない事は知っていますけど、敢えて言わせてもらいます。例え純一君が専用機を展開して織斑君と戦っても、どの道大会は中止になっていました。一般客もいる中、突然専用機が暴走したんです。あの中で続行したとしても、結果は目に見えていました。そもそも素人のIS委員会が主催で行い、女性権利団体の介入を許した時点で大会は失敗に終わる運命だったんです」

 

「そうかもしれない……それにしても随分と冷静なんだね」

 

「いえ、私も今回の件で自分の身の振り方について考えないといけないな~って思ったんです。純一さんには私の事を話していなかったですね……」

 

「ナタリアさんの事?」

 

「はい。そう言えば、こうしてのんびりお話しする機会が無かったですね。どうして私が代表候補生になったか」

 

 そう言うと、ナタリアは純一に自分が代表候補生になった経緯について話し始める。ナタリアは勉強・運動の両方共に平凡だった。何が秀でている物はなく、何か輝くような物は無かった。只の平凡な少女だった。

 そんな少女はISの適性検査を受けた結果、平均以上の適正値を叩き出した。この時分かった。自分にはISがあると。自分の力で空高く羽ばたく事が出来ると。何もない自分にも居場所がある事が。

 それからのナタリアは本人の努力もあって代表候補生試験に合格し、見事代表候補生になる事が出来た。しかし、ここからが本当の闘いだった。

 代表候補生は国家代表になる為の戦いと、代表候補生としての地位を守る為の戦いがある。各国の代表候補生の中でも平均レベルなナタリアは、自分の地位を脅かす人が出て来る事を怖れながら、国家代表になろうと努力し続けた。

 そしてIS学園に来てからは特に目立った所はなく、学園行事の相次ぐ中止に内心不満を抱えながらも、今日まで一生懸命に駆け抜けてきた。

 

「そうだったんだ……で、今は国家代表になりたいの?」

 

「それなんですけどね……何だか自分でも分からなくなってきました。ISが動かせるって言っても、今のままじゃ逆に自分の首を絞めちゃいますし……何だか私ってけっこう流されて生きてきたのかなって思います」

 

「別に良いんじゃないかな? 流されて生きるってのは。むしろ僕みたいに自分の考えや意思を持って動ける人の方が珍しい気がする。やりたい事があるんだったら、それを極める為に専門の学校に行った方が良いけど、ここの奴らって本当にISの道に進みたいから入学したのかどうかってちょっと言えない所があるんだよ」

 

「成る程……確かにそうですよね。それを言うなら私もなんですよ。偶々ISの適正値が人より良かっただけで、偶々ISを動かせるのが上手だったから代表候補生になれただけですし。そりゃ努力は当然しましたけど。でもISの道に進みたいかって聞かれるとそうじゃないですし……これをやりたいって言える物がないんですよね私は」

 

「今はそれで良いと思うよ。気付けたって事が第一歩になった訳だし。取り敢えずISの道に進むかどうかは考えているって事で良いんだね?」

 

「はい。今回の一件はIS企業も少なからぬダメージも受けましたし……結局私にはISしかなかったんです。でも今は違います。私、純一君の姿勢を見て色々学んだんです。最初私は純一君の事を疑っていました。今までクラスで一度も話に出て来ませんでしたし、『遊戯王』の大会優勝経験者と言われてもピンと来ませんでした。でも……エキシビジョンデュエルを観て、私の中で何かが変わりました。あの時の純一君、物凄く輝いていて楽しそうでした」

 

 はっきりとした口調で、決然とした表情で話すナタリアの思いを否定せず、純一はデュエルディスクを見ながら考える。

 確かに自分は逃げているのかもしれない。これからの事が不安で仕方がなく、自分がどうなるかさえも分からなくなった。それでもナタリアのように藻掻き、苦しみ、抗いながらも頑張っている人もいる。

 ならばやる事はあるのではないか。未来に悲嘆せず、目を逸らさずに現実に抗い続ける。そうやって生きていたら物凄い幸運が天から降り注いだ。だから今後も同じように現実に抗い続けよう。

 

「まぁそうだったね……あれは本当に台本なしのガチンコだったからねぇ」

 

「そして純一君が5組に来て、『遊戯王』を教えてくれたりしていました。正直凄い楽しかったですし、もっと色んな事が知りたくなりました。いつもだったら何かをやらされたり、流されるしか無かった私が初めて自分の意思で何かをやりたいと思えた瞬間だったからです。ISしか無かった私に道を示し、認めてくれる人がいるんだなと気付けたんです。だから私は自分の意思でやりたい事を見付けたいです」

 

「……ありがとう。ナタリアさんが初めてだよ、こういう形で僕にちゃんとお礼言ってくれたの。それだけで分かった。僕がやってきた事って無意味じゃなかったんだなって」

 

「はい! あ、そうだ。純一君……あの……一緒に同好会やりませんか?」

 

「同好会!?」

 

「実は私と比奈さんと神楽さんで話したんです。折角試合に向けて練習してきたのに中止になった今、このまま終わりたくないって言う話になったんです。デュエルディスクも使う場面がこれから減るだろうと思います。だったら普通に『遊戯王』で対戦して楽しもうって話になって……それなら純一君が退院してから話をしようかと……」

 

 ナタリアからお願いされた同好会の話に純一は驚き、目を丸くさせながら話を聞く。流石に同好会と言う言葉が出て来るとは思ってもみなかった。

 ナタリアは純一の手を握り、お願いするかのように目を伏せながら言葉を続ける。まるで純一に願うように。純一を信じるように。

 

「駄目ですか? メンバーは今の所は私と神楽さんと比奈さんしかいませんが、『カードターミナル』の方が全面的に協力してくれると約束してくれました。それに私達の他に『遊戯王』が好きな人や、何か楽しい事や気晴らしが欲しい人の為の居場所になりたいと思って……」

 

「成る程な……でも同好会をやるって言うなら生徒会長の楯無さんに届け出を出して、顧問の先生も探さないと駄目だよ? その辺は大丈夫?」

 

「はい。ナターシャ先生が顧問に、後は純一君がリーダーになって、人を集めて届け出を出せば大丈夫なようにしています」

 

「準備万端だなおい!?」

 

「フフッ♪ 純一君が入院している間に手配しました♪」

 

「凄ぇな……参ったよ。そこまでして同好会をやりたいって訳ね。確かに外部に向けての活動は出来なくなったけど、学内で活動する分には大丈夫だな……」

 

 純一が入院している間、ナタリアは『遊戯王』同好会の立ち上げに向けて大きく動き出していた。メンバーを集め、顧問の先生を決め、後は届け出を書いて生徒会に提出する所までの段階となっている。

 現段階のメンバーは純一の他にナタリア、比奈、神楽の合計4人。学年別クラス対抗デュエルトーナメントでの1年5組の出場メンバーが集っている状態。そこに担任のナターシャを顧問に据えている。

 更に『カードターミナル』の全面協力を取り付けた為、『遊戯王』を楽しみながら学ぶ環境が整備されたと言う事になる。

 

「純一君、本当はこのまま終わりたくないんですよね? でないとデュエルディスク付けたままにしてないですし、デッキを持ち歩かないですよね? やっぱり心の何処かで『遊戯王』を続けたい、このまま終わりたくないって思っているんですよね? 違いますか?」

 

「あぁ。僕は5組の皆に優勝させると約束したけど、結局その約束を果たす事が出来なかった。約束を破った事になる。それにこの状況下だ。身動きが取れず、楽しい事も少なくなった中、僕に出来る事を考えたらやっぱりデュエルで魅せる事ぐらいしかないと気付かされてね……」

 

「では純一君。今度は純一君について教えて下さい。1組にいた時、デュエルディスクのモニターになる前の話を」

 

「分かった。あまり良い事はないけど……」

 

 今度は純一がナタリアに1組にいた頃の話を始めた。1組にいた時、純一は一夏の影に隠れるだけの日々を過ごしていた。

 クラス代表決定戦ではセシリアに完敗したが、一夏に辛勝してクラス副代表となって事実上1組のクラス代表として君臨していた。

 毎日専属コーチの楯無の個人指導を受け、確実に上達していったが、専用機が無かった事でタッグマッチトーナメントしか参加する事が出来ていない。そこで初めての実戦を迎え、一夏とのタッグでラウラの暴走を何とか止める事が出来た。

 専用機持ちではないが、結果だけを見ると専用機持ち以上の成果を出していると言っても過言ではない。しかし、専用機は与えられず、中々実力を認められず、無駄口陰口を叩かれるだけの毎日を過ごしていた。

 それでも理解してくれる人はいた。一夏や千冬、真耶や楯無、1組の皆や鈴達といった他のクラスの専用機持ち。彼らは純一の事を理解し、努力を認めている。

 

「僕は最初からIS関係の道に進むつもりは無い。だからISの事を学んでその先に進むIS学園にはいない方が良いんだ。だから皆と見ている景色は同じでも、目指している先が違っていた。だからここでは浮いているような存在だった」

 

「確かお父さんの会社を継ぐんですよね? 純一君の夢は」

 

「あぁ。でもデュエルディスクのモニターになってここでの生活が変わった。今までは何の目的も持てず、ISの事を学ぶだけだったけど、『遊戯王』の授業が始まって責任が芽生えたんだ。経験者で結果を出している以上、それに見合っただけの事をやらなければいけないと思えた。だから自分の知識や経験を極力伝えて、実戦的な事を少しでも理解して貰えるようにしたんだ」

 

「今思うと本当に面白くて理解しやすかったです」

 

「やっていく間に色んな人から声を掛けられて教えたりして、ここに来て輝けなかった僕が初めて輝けるようになった。それに改めて自分を理解してくれる人や認めてくれる人がいるんだなって思えて……だからその人達の為に何かやらないとって思ったけど……今のこの世の中でこの状況になると何も出来ないって悩んでいたんだ」

 

 デュエルディスクのモニターになり、『遊戯王』の授業が始まった事は純一にとって色んな意味でのプラスとなった。

 IS学園の生徒達に実力を認めさせ、人徳も広める事が出来た。同じ1年生だけでも純一を慕う人が続出する程、彼の影響力は計り知れない。

 

「でもナタリアさんが同好会に誘ってくれたおかげで、僕にも出来そうな事が見つかったよ。『遊戯王』と言う世界をもっと見せてやりたい。その気持ちに嘘はない。分かった。その同好会に加わるよ。勿論リーダーとして」

 

「ありがとう!! もちろん喜んで!」

 

 純一は満足出来ていない自分の思いに向き合おうと、自分を慕っている人達の為に同好会入りを決めた。これで純一が同好会の会長となり、同好会を率いる事となった。

 ナタリアは副会長となって純一の補佐を行う。後に“純一派”と呼ばれる一大勢力。それが今ここに旗上げとなった。

 

 

 

「ここが私達同好会の拠点です」

 

「まぁここしかないよな……」

 

 ナタリアに案内されたのは同好会の拠点、もとい『カードターミナル』IS学園店の中にあるデュエルスペース。

 そこは数週間前は女子生徒達で賑わっていたが、今ではその見る影もない。授業の為に渋々やらされていた感じがあった為か、純一も何処か寂しそうな笑みを浮かべた。

 

「あ、ナタリアさん。やっと来ましたか!」

 

「待ってましたよ、2人共」

 

「比奈さんに神楽さん……」

 

「純一君、お帰りなさいです!」

 

「これでやっと同好会として動けますわね」

 

 デュエルスペースの奥に行くと、フリー対戦をしている2人の女子生徒がいた。白井比奈と四十院神楽。純一とナタリアのクラスメートであり、5組の大会出場メンバー。

 そして彼女達を見守っているのはナターシャと俊介。5組の面々が中心となり、同好会を立ち上げた。

 

「今村先生……あれ? 『カードターミナル』の皆さんはどうしたんですか?」

 

「俺以外は皆自分の担当している店だったり、本部に戻ったよ。この世の中だ。IS学園への批判に巻き込まれたくないからな……特に大樹さんはIS学園に対して完全な不信感を抱いている。もうあれは一生直らないだろうな……」

 

「そう、ですか……でもどうして今村先生は残ったんですか?」

 

「俺が残ったのは君の為だよ。君が入院している時、『カードターミナル』の皆はIS学園から逃げるように出て行った。俺はそれが正しい事だと思っていた。ニュースを見てもIS学園、引いてはISその物が袋叩きにされている。そんな時にここにいても意味は無いし、自分達にもマイナスしか残さない。沈みゆく泥船から逃げ出すのは当然だ」

 

「でもな、俺にはここから去る事が出来なかった。それは純一君が理由だった。純一君が5組を優勝させると言って今まで頑張ってきた。聞いた話だと寝る時間を減らしてまで勉強してカード知識を身に付け、自分が『遊戯王』から離れている間の時間を埋めていたって。それを聞いたら俺も最後まで君を応援したくなった。だからナタリアさん達の頼みを、同好会立ち上げに協力する事にしたんだ」

 

 俊介は『カードターミナル』の中でも純一と付き合いが長く、努力や苦悩を知っているからこそ、一人だけIS学園に残る事を決めた。

 良樹や大樹の反対や説得を押し切り、純一の為と言い張り続けて残る道を選んだ。それ以外の面々は荷物をまとめてIS学園から立ち去り、今は元々の仕事に戻っている。

 

「話は分かりましたけど、ここに残ったってやる事はないでしょう?」

 

「まぁね……放課後にならないと君達は来ない。けどさ、今回の件で実はIS学園から逃げ出した教師が数人いたんだ。それが全員一般教員だったんだよ。つまり一般科目を教えられる先生が急遽必要になったって事なんだ。それで俺は理事長先生に打診した。これでも前は有名予備校で講師していて、東大に沢山合格者を送り込んだ経験があるからさ。それに教員免許も持っているし……まさかここで役立つとは思ってもみなかったけど」

 

「それで今は講師みたいな立場に……」

 

「そう言う事。純一君がこの学園を離れる時が、俺もこの学園からいなくなる時だからよろしく頼むよ。じゃあ予定通りリーダーは純一君で、副リーダーはナタリアさんで良いね。あ、純一君。これ申請書だから書いておいてね」

 

「了解です」

 

 俊介から申請書を渡されて必要事項を記入していく純一。その記入が終わると、同好会の名前を決める事にした。

 実は『遊戯王』同好会は現実に存在しており、東京大学等の大学の他にもヤフー株式会社にもある。他にもSNSでも検索すればかなりの数の同好会が見つかる。

 

「さて折角だから同好会の名前を決めようと思うんだけど……実は純一君が好きそうな取っておきな名前を用意してきたんだ」

 

「何ですかそれ?」

 

「これだよ、これ。今の俺達に必要な物さ」

 

「これは……!」

 

「『チーム・サティスファクションズ』……?」

 

 俊介がホワイトボードに書いていく同好会の名前。それは『チーム・サティスファクションズ』。純一が反応するのは無理もない。

 元ネタとなった『チーム・サティスファクション』は『遊戯王5D's』に登場する伝説のチームで、無法地帯と化したサテライトを統一したと言う実績持ち。メンバーは不動遊星、ジャック・アトラス、クロウ・ホーガン、鬼柳京介。

 

「あぁ。世論とか色々な事情でどうやったって、今のIS学園から逃げる事は出来ない。だったら、ここで満足するしかない。ここでデュエルして満足しよう。だからこそ『チーム・サティスファクションズ』と名付けさせて頂いた。ちなみに本家本元から許可を頂いてある。どうする純一君? 何か他にも良い名前があるか?」

 

「……今村先生。それで行きましょう。『チーム・サティスファクション』は伝説を築き上げた。僕は伝説を築こうとしたけど失敗した敗者。でも戦う気力がある限り、まだ負けていません。伝説を築き上げましょう」

 

「決定だな。純一君。後は君に任せよう」

 

「『チーム・サティスファクションズ』……行くぞ!」

 

『オオオオオオォォォォォォーーーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 純一はメンバーの意思を確認するように、左右を交互に見やる。右側にいる神楽、比奈、ナターシャの3人は笑顔を見せながら頷き、左側にいるナタリアと俊介はサムズアップをして純一の背中を押した。

 これで全員の気持ちは一つになった。そう確信した純一が声を上げると、誰もいない『カードターミナル』IS学園店で伝説が産声を上げた。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。


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TURN22 同好会の始動と変化する世の中

22話の投稿になります。

先日の活動報告で記しましたが、『インフィニット・ストラトス』要素が薄くなった事を感じた事を受けて、新しい小説に移行した方が良いのではないかと思うようになりました。
今の小説を続けるべきか。それとも新しい小説に移行するべきかを考えているので、意見がある人は”活動報告”の方にコメント下さい。”活動報告”の方です。




「さて始めるのは良いけど、先ずは人を集める所からだね。今調べてみた所、IS学園の校則で同好会として認められるには、“5人以上のメンバー”と“3ヶ月の活動実績”が必要なんだ」

 

「同好会の活動内容と言えば、皆で集まってデュエルするぐらいですよね……後一人いないと同好会として認められない……」

 

「どうしますか?」

 

「広告を打とう。放送を入れたり、チラシを作って各クラスの提示版に張るなり、勧誘するのもありだな。ただし無理やりな勧誘は認めない。まぁやらないとは思うけど」

 

「チラシやポスター作りなら俺に任せろ。こう見えても『カードターミナル』では広報・営業担当だったからね」

 

「おぉ、それは頼もしい!」

 

 IS学園。『カードターミナル』IS学園店。そのデュエルスペースの一角で、『遊戯王』同好会こと『チーム・サティスファクションズ』が会議を行っている。

 同好会の会長に就任した純一が現実を突き付けたのは、メンバーを5人以上集めないと同好会として設立する事が出来ないと言う事。今は純一、ナタリア、神楽、比奈の4人しかいない。後1人集まれば同好会として設立する事が出来る。

 先ず『チーム・サティスファクションズ』がやる事はメンバー集め。広告を打って人を集めたり、勧誘するなりして同好会に入りたいと言う人を募る。何事も地道な活動から。営業活動から全てが始まる。

 幸い、『チーム・サティスファクションズ』をサポートするのは『カードターミナル』の今村俊介。広報・営業担当の経験からパソコンでのチラシ作りを得意としており、メンバー集めの時に役立つだろう。

 

「一通り出来たタイミングを見計らって、僕とナタリアさんでクラスに声掛けをしてみる。何で僕とナタリアさんかと言うと、お互いに顔が広いから。神楽さんと比奈さんは学内にポスターを張り出して欲しい。出来ればチラシも配って欲しいけど、果たして受け取ってくれる人がいるかどうか……」

 

「分かりましたわ。しかし応じてくれる人はいるのでしょうか?」

 

「一応応じてくれそうな人はいるけどどう出るか……」

 

 この後は細かい事項の話し合いとなり、『チーム・サティスファクションズ』の最初の活動は、顔合わせと活動方針を決める話し合いで終わった。

 その中で出た取り組みの一つとして、自分達の活動内容として対戦動画を撮影して純一のYoutubeアカウントで投稿していく事が決まった。

 

 

 

 2日後。純一は『チーム・サティスファクションズ』の宣伝として、放送部に頼んでお昼の放送で『チーム・サティスファクションズ』の紹介を行う事にした。

 原稿は話し合いが終わった直後に寮部屋に戻り、夕食を取る時間を遅らせてまで考えた内容。自分達の事を正しく伝えつつ、如何に聞き手の心を掴めるかどうか。

 翌日にナターシャと俊介にチェックして添削して貰った程、純一は放送に力を入れている。全ては満足するデュエルを行う為に。

 

―――あ~、あ~、マイクテスト中です。ワンツー、ワンツー。皆さんこんにちは! 1年5組のクラス副代表兼参謀の黒田純一です。IS学園の生徒の皆さん、お話があるので少し聞いて下さい。この度私、黒田純一は『遊戯王OCG』同好会、『チーム・サティスファクションズ』のリーダーとなりました。この放送は『チーム・サティスファクションズ』の宣伝と勧誘の為の放送です。

 

―――今、ISを取り巻く状況は極めて過酷です。IS学園の卒業生が、一般企業に勤めている女性が自殺したと言うニュースが流れたり、IS関係の暗いニュースが報道されたり、この前の大会による失敗で世間から叩かれ、私を含めた皆さんは厳しい状況に置かれています。

 

―――そこで私達は自分が出来る事を考えていました。その結果、『遊戯王OCG』の同好会を立ち上げて活動する事にしました。

 

―――この状況だからこそ、厳しい世の中だからこそ、自分に出来る事、やれる事を精一杯やろうと決めました。どうやっても今の状況を変える事は出来ません。だったら今を思い切り楽しみ、全力で満足しましょう。と言う訳で……『チーム・サティスファクションズ』は『カードターミナル』のデュエルスペースで放課後に活動します。入りたい人は僕かナタリアさんに声を掛けて下さい。毎日出ろとは言いません。週1でもOKです。他の部活動と掛け持ちでも大歓迎です。デッキが無くても心配ありません。やる気だけあれば十分です。一人でも多くの参加者を心よりお待ちしています。

 

 この放送によって『チーム・サティスファクションズ』の存在が知られる事になり、女子生徒達の間では話が持ちきりとなった。

 何も出来ないからこそ現状を受け入れ、ありのままに楽しもうと言うメッセージが受け入れられた事と、リーダーが純一である事が関係していた。

 その日の夕方。『カードターミナル』IS学園店のデュエルスペース。『チーム・サティスファクションズ』の面々が集まっていた。

 俊介が見守る中で神楽と比奈はフリー対戦を行い、純一とナタリアは入会者が来ないかどうか待っている。顧問のナターシャは所用でこの日は同好会には来れないとの事。

 

「どれくらい人が来てくれれば良いですか?」

 

「最低でも1人。5人来れば上々。何事も素早くスピーディーに行う。先手必勝。今の内にメンバーを集める。まだこれといった実績を出していないけど、何れは同好会を部活動に格上げ出来れば良いな」

 

「! 2人来ましたよ! 伊藤さんと徳川さんです」

 

「あの……『チーム・サティスファクションズ』の活動場所はここで合っていますか?」

 

「あぁ、合っているよ。入会希望で良かったかな?」

 

『はい!』

 

 純一とナタリアが話をしていると、6組の元出場メンバーの伊藤亜依と徳川蘭の2人が『カードターミナル』IS学園店に入って来た。

 辺りをキョロキョロ見渡してから純一達を見付けると、そのまま歩み寄って純一に同好会への入会を希望した。

 

「伊藤さんと徳川さん……先日はお疲れ様。色々大変な事になっちゃったね……」

 

「うん……純一君は入院してたから分からないと思うけど、大会の失敗から皆から陰口叩かれるようになったよ」

 

「こうなったのはお前達のせいだって……悪いのは私達じゃなくてIS委員会と女性権利団体のせいなのに……」

 

「そうですね……私達も同じような事言われていました」

 

 大会の中止の原因の1つとなった6組の棄権。世論は同情して庇ってくれているが、IS学園の生徒や教員はそうではない。中には亜依や蘭に誹謗中傷を行ったり、罵倒する心無い者も少なからずいた。

 しかし、千冬や真耶、ナターシャのような心ある教師やナタリア等の生徒達が彼女達を守り、心の支えとなった。その為、亜依と蘭の2人は何とかやってこれている。

 

「まぁまぁここではこういう暗い話は無しにしようよ。それで、2人は同好会が何する場所かは分かっている?」

 

「はい。皆でルールを守って楽しく『遊戯王』をやる場所です」

 

「満足を追い求めるデュエリストが集まる場所です」

 

「採用!」

 

『やった~!』

 

 亜依と蘭の質問の回答を聞いた純一は直ぐに入会を認めた。喜び合う亜依と蘭を見やりつつ、ナタリアと純一は嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 そうしていると、今度は1人の女子生徒が『カードターミナル』IS学園店に入店して純一達の所にやって来た。

 

「やぁ上田さん。もしかしたら入会希望かな?」

 

「はい。入会して大丈夫?」

 

「いや全然OKだよ! むしろウェルカムだよ! 実は同好会として設立出来るのは5人以上いないといけないんだ。丁度良いタイミングで来てくれたよ!」

 

「そうなの!? 良かった~!」

 

 その女子生徒の名前は上田詩織。長い黒髪を棚引かせ、カチューシャをしている事が特徴な少女。実は隠れ巨乳。1年4組の元出場メンバーであり、純一とは面識がある一般生徒。

 純一とは図書室で知り合い、本を通じて意気投合して父親経由で仲を深めた。と言うのも、『黒田商事』の関連会社、『黒田食品』の課長を父親が務めているからだ。

 お昼の放送は宣伝として効果はあったようだが、何しろIS学園には部活動がある為入会を悩んでいる女子生徒も少なからずいた。

 IS学園の部活動で確認されている範囲ではテニス部、ラクロス部、茶道部、剣道部、料理部、ハンドボール部、陸上部、山岳部、新聞部がある。これだけ数多くの部活動がある為、掛け持ちOKと言われても直ぐに決断しにくい。

 詩織は文芸部に所属しているが、特にやる事もあまり無い為か、『チーム・サティスファクションズ』のメンバーになろうとしている。

 

「それで……やっぱり入会するには面接とかあるの?」

 

「まぁ何も無い訳には行かないけど……どうして同好会に入りたいと思ったの?」

 

「単純にデュエルしたかったから。私はあまり目立たないし、ずっと地味だったけど、『遊戯王』の授業で出場メンバーに選ばれたの。更識さん以外誰もやる人がいなかったから実力で櫻井さんと私が選ばれて……それで大会までの間、デッキを作って対戦していたら、講師の人に褒められたの。“間違いなく純一君と戦えるポテンシャルがある”って」

 

「マジ!? そこまで強いの上田さん?」

 

「でも大会は知っている通り中止になって、実力を発揮する機会が無くなった。授業も実質中止になったけど、私は続けたいと思っていた。だって今まで頑張って練習したのに、それを見せる機会を奪われて、それで終わりたくなかったから……だから今日の放送を聞いて同好会に入りたくなった。純一君ともっと仲良くなりたいのもあるけど、このまま何もしないで終わりなのも嫌だから……」

 

「成る程ね。やっぱりそういう人もいたんだ。何となく予想していたんだよ。授業でやらされていたけど楽しくなって、大会中止になったけど続けたい人が少なからずいるんじゃないかって。予想通りだった」

 

 詩織が強いと言う話を聞いた純一はデュエリストの本能が一瞬疼いたが、それを押し殺して詩織の話を聞いた。

 彼女が同好会に入りたい理由は、授業を切っ掛けに始めた『遊戯王』を続けたいと言う思いから来ていた。純一はそういう人が一定数いると予想していたが、いきなり的中する事となった。

 

「じゃあ最後の質問に行こうかな? 『遊戯王』で好きなカードを一枚自由に語って欲しい」

 

「好きなカード……《ルドラの魔導書》かな? 【魔導書】デッキの要で、私が文芸部にいて魔法物やファンタジー物の物語を読んでいるから、イラストが好きになったから……で良いかな?」

 

「採用!!!」

 

『オオオオオオォォォォォォーーーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 純一が簡単な面接をして詩織に採用を告げると、それを見ていたナタリア達が祝福の歓声を上げた。詩織も嬉しそうに笑顔を浮かべ、ナタリア達とハイタッチを交わした。

 これでメンバーが7人揃って5人以上を超えた為、生徒会に同好会設立の申し出を行う事が出来るようになった。

 詩織はポテンシャルを秘めていて対戦経験があまりないが、経験を積めば間違いなく純一に匹敵する強さを持てる。

 純一は入会の基準を強さよりも心構えを重視している。強さは後で付いてくるが、心構えは人間性の問題。相手をリスペクト出来ない、ルールを守らない、そのようなプレーヤーは問答無用で退会させる。

 この同好会はサティスファクションと言う単語の意味の通り、満足する事に重点を置いている。対戦を楽しんだり、勝ち負けに拘ったり、真剣に色々な満足を追求して心から満足する。それがこの同好会において大切な事だ。

 

「これで5人以上になりましたね! 同好会としてやっていけます!」

 

「いや、代表候補生が後1人か2人欲しい」

 

「どうしてですか?」

 

「僕は毎日同好会に顔を出せる訳じゃない。楯無さんとのIS訓練や進学補習がある。ナタリアさんだって用事があるだろう? だから仕切れる人がもう1人くらいいた方が小回りが効きやすい」

 

「確かにそうですね……」

 

 亜依と蘭、詩織がフリー対戦に加わる傍ら、純一は自分達が不在の時のまとめ役の存在を欲していた。出来れば代表候補生が良いと言っていたのは、何れはこの同好会を起点にIS学園内に一大勢力を築き上げようと言う考えがあるからだ。

 今の同好会のメンバーは自分とナタリアぐらいしかインパクトのある人物がいない。ナタリアも代表候補生の中では中堅であり、それを差し引くと純一頼みになっている事が現実だった。それだけにもう1人有力な人物が欲しかった。

 しかし、今は高望みをせず、先ずは同好会が設立出来た事を喜ぼう。そう考えながら皆で盛り上がった。

 

「まぁまだ活動始めたばかりだし、届け出も出せるようになったから良しとしよう。じゃあ生徒会室に行って書類出して来るね~」

 

「いってらっしゃい!」

 

 純一は申請書類に必要事項が全て記入されている事を確認すると、生徒会室に向かっていった。同好会のリーダーになってから事件が起きる前の強欲で貪欲な姿勢が戻り、自分がこう在るべきと言うイメージがはっきりと分かるようになった。

 生徒会室と言う表札を確認してドアをノックして入室すると、そこには生徒会長の楯無と会計の布仏虚がいた。彼女達は生徒会の仕事をしている最中。

 

「あら、純一君じゃない。どうしたの?」

 

「楯無さん。こんな時で大変申し訳ありませんが、同好会の設立をお願いしたくて来ました。書類はこちらになります。全て必要事項は書いていますが、確認の方お願いします」

 

「同好会ね……どれどれ。……『チーム・サティスファクションズ』?」

 

「『遊戯王OCG』の同好会です。5人以上メンバーを集めましたし、顧問の先生も用意しました。何か不満でも?」

 

「いやそういう訳じゃないけど……よく同好会を立ち上げようって気になれたわね」

 

「今の世の中だからこそ立ち上げようって決めたんです。この状況はかなり大変ですが、僕達に出来る事をやろうと決めた結果がこれです」

 

 生徒会長の楯無に申請書を提出すると、楯無は書類に一通り目を通してから苦笑いを浮かべた。まさか『遊戯王OCG』の同好会を立ち上げるとは。予想外の展開だった。

 純一達の行動力に目を見張る事しか出来ない。自分を含めた誰もが何も出来ず、現状に不平不満を言う事しか出来なかった。ピンチをチャンスに変える姿勢と行動力が今の自分達に必要に思えた。

 

「そう言えば放送で言っていたわね……良いわ。書類も全部書くべき事は書いてあるから、この書類は担当の先生に渡しておくわ。設立は私の方から許可させるから」

 

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

「その代わり、明日『カードターミナル』に行くから活動内容を見せて欲しいな。要はデュエルしている所を見せて欲しいって事。新聞部に声を掛けて記事にしてもらおうと思うの。これでまた宣伝になって、同好会に入りたい人も増えるでしょう?」

 

「OKです。動画投稿も考えているので撮影するなりしても大丈夫です」

 

「ありがとう! じゃあ明日。楽しみにしているわ!」

 

 楯無から同好会の設立の許可を貰った純一は『カードターミナル』に戻り、メンバーに『チーム・サティスファクションズ』設立の許可を貰った事と、明日生徒会と新聞部が撮影しに来る事を伝えた。

 その日は記念すべき1日となる。何しろ『チーム・サティスファクションズ』が初めてデュエルを行う日になるのだから。

 そのデュエルを撮影して動画投稿サイトに投稿しながら同好会のPR動画に使う。これによって新しいメンバーを増やしつつ、世間一般からの支持を勝ち取ろうと言う魂胆だ。

 

 

 

「……と言う訳で明日のPR動画の対戦なんだけど、やはりリーダーとして僕が出ようと思う」

 

「そうなると問題なのは対戦相手ですね……この中で純一さんと対等以上に戦えるのは……」

 

「私と上田さんしかいませんね……」

 

 フリー対戦が終わったのを見計らい、純一達は机を囲って明日の動画撮影について話し合いを始めた。議題は対戦動画の事。

 先ずデュエルを行うのはリーダーであり、Youtubeアカウントを持っている純一。問題なのはその相手だ。純一と対等に渡り合えるデュエリストは現時点で神楽と詩織の2人だけ。

 どちらかが動画に出演しなければならないが、神楽と詩織のどちらかが出演するかで悩む事となった。詩織はおとなしい性格で動画出演には少し難しい。

 

「ここは俺にやらせてくれないかな? 『カードターミナル』の人間として、エンターテインメントをお届けしたいからね」

 

「今村先生、ありがとうございます。皆はそうだな……お客さんを呼んで欲しいな。ギャラリーが沢山いるとやりがいがあるからね」

 

 動画の出演と純一との対戦は俊介が名乗りを上げた。初回である事から活動の方向性を解説する傍ら、純一と真剣勝負をしたかった事が背景にあった。

 純一と俊介はお互いに良い笑顔を浮かべているが、目に見えない火花をぶつからせていた。お互いに負けず嫌いな実力者。絶対に負けたくない思いがぶつかりあっている。

 

 

 

『もしもし?』

 

「純一です。久し振り、友希那さん」

 

『純一君! そっちはどう?』

 

「どうと言われても最悪だよ……学園の雰囲気悪いし、もうやってられねぇって感じだよ。まぁ休日は変装して外出しているけどね。何処もかしこもIS学園の生徒にはきつくてさ……僕は大丈夫だけど、皆が心配だよ」

 

『そう……私達が思っているより状況は大変と言う訳ね。後でインターネットで調べた方が良いけど、企業や大学の方でIS学園生を受け入れ拒否しようとしている所が増えているわ。テレビでは報道されないのは、したらしたでとんでもない事になりそうだからかも』

 

「何……!?」

 

 『チーム・サティスファクションズ』のその日の活動を終えると、純一は人目のつかない場所に行って平等院友希那の所に電話をかけていた。

 友希那は重傷を負った純一の所にお見舞いに行ったり、差し入れを渡したり等、純一を心底大切に思っている。だからこそ自分達の所に来るようにオファーを出している。

 

『本当よ? これだけ世間から叩かれているから巻き込まれたくないんでしょうね。それで、私に電話しに来たって事は何か動きがあったって事よね?』

 

「あ、あぁ……そうだね。実は『遊戯王』の同好会を立ち上げてさ、明日の放課後に動画撮影して近日中に投稿する予定なんだ。そのお知らせを伝えたかったんだ」

 

『えっ!? 同好会始めたの!? 大丈夫なの!?』

 

「別に『遊戯王』をやるなって言われていないし、学内でやる分なら大丈夫だと思ったんだろうな。僕が入院している間、僕のクラスメートのナタリアさん……スペインの代表候補生なんだけど、彼女が神楽さん達と一緒にナターシャ先生を顧問に据えたんだって。僕がリーダーになって一昨日から本格的に活動始めて、ついさっき人が集まったから同好会として設立出来たよ」

 

 友希那は純一から『遊戯王』の同好会を立ち上げた事に興味津々そうになり、動画投稿すると言うお知らせには目を輝かせている。

 純一が入院している間、同好会の下準備を行っていたナタリアの発想と行動力に友希那は純粋に興味を抱いた。

 

『おお~! そのナタリアさんって人、凄い行動力ね。スペインの代表候補生?』

 

「そう。元々『デュエルリンクス』やってて『OCG』に来たけど、凄い努力家で飲み込み早いし、正直弟子にしたいぐらい良いよ。同好会立ち上げたのもナタリアさん自身が試合に向けて頑張っていたのが中止になって、このまま終わりたくないって言う話から『遊戯王』が好きな人や、何か楽しい事や気晴らしが欲しい人の為の居場所を作りたいってな感じで用意したんだ。僕には考えられない事やってて、本当にすげぇと思ったよ」

 

『興味湧いてきた……一度会ってみたいわ……そうだ! 純一君、ちょっと良い話があるけど聞いてみない?』

 

「聞きましょう」

 

『実は来週の土曜日に鳳凰学院の学院祭があるんだけど、そこに純一君をゲストとして招こうかなと思っているの。私もデュエルディスクのモニターに選ばれたけど、モニター同士の対戦をやろうと考えていた時に事件が起きたでしょう?』

 

「あぁ。おかげでこっちは外出するのが難しくなったし、どうしようもなくなったよ」

 

 平等院財閥はデュエルディスク開発に大きく貢献した為、『呉島エンタテインメントスタジオ』は『私立鳳凰学院』にもデュエルディスクを送り、友希那をデュエルディスクのモニターの権利を与えた。

 純一程ではないものの精力的に活動している友希那は、『私立鳳凰学院』の学院祭で純一をゲストとして招き、デュエルディスクのモニター同士のデュエルをやろうと考えていた。

 

『でもまだデュエルディスクのモニターなんでしょう? だったらモニターの仕事だの云々言ってこっちに来ちゃいなさいよ。ナタリアさん連れて』

 

「そうだね……ナターシャ先生に許可取らないとだけど」

 

『ナターシャさんもこっち陣営だから、話通して当日引率で連れて来させるわ。学院の雰囲気を掴んで転校した時のギャップに悩まないようにさせてあげるし、純一君の悪いようにさせないから』

 

「分かった。来週の土曜日だね? こっちで調べておくよ。まぁモニターの仕事と言えば向こうも無下にはしないだろうさ」

 

『そういう事。じゃあ電話切るわね? お休みなさい』

 

「お休み~!」

 

 電話を切った友希那は一人考える。実は親友の神楽から同好会の話は聞いていた。『チーム・サティスファクションズ』。まだ小規模な同好会だが、純一が率いるだけあって、これから大きくなる事が予想されている。

 本来であればIS学園と『私立鳳凰学院』による全面対決を行う予定でいたが、先日の事件によって外出自粛によってこのプランは延期にせざるを得なくなった。

 そこで計画を変更し、学院祭で純一とナタリアとの関係を改めて築き上げた後、『チーム・サティスファクションズ』との全面対決に持ち込む事を決めた。

 

「ただ前回の大会がIS委員会の意向が絡んでいたから、今回の同好会も同じような事があるのかもしれない……そこは学院祭で試してみましょう」

 

 純一を信頼しているとは言えど、友希那としてはIS委員会やIS学園の密偵のような役割で来る可能性もあった。彼女は目の前で純一が斬られたのを見てしまった事でISを兵器として認識し、兵器としてのISを排除するつもりでいる。

 それに加え、『私立鳳凰学院』の中にはIS学園を敵視していたり、忌避感を抱いている者も少なくない。特に“鳳凰四天王”の鬼塚公輝がそうであるように。

 更に先日の事件の影響で、IS学園内の状況は限りなく悪化している。そのような状態でIS委員会やIS学園が純一をコントロール出来るかどうかさえも怪しい。何しろ純一がこの状況を利用して暗躍し始めているのだから。

 

 

 

「明日ナタリアさんと神楽さんとナターシャ先生に話通さねぇとだな……」

 

 自分の寮部屋に戻っている最中、純一は友希那から受けたお誘いを頭の中でまとめていた。来週の学院祭に自分がゲストとして招かれる。そこにナタリアを同席させ、IS学園と『私立鳳凰学院』の対決を実現させても面白そうだ。

 しかし、問題なのはIS学園が孤立している事。学年別クラス対抗デュエルトーナメントの結果、IS学園は孤立していると言える程追い詰められている。

 大会で発生した事件を経て、活発化した反女尊男卑及び反IS至上主義の思想から生徒を守る為に、外出自粛も止む無しと判断するような状態になっている。必要な物は通信販売で仕入れる形になると言っているが、そもそも受けてくれるような人の良い業者はいるのか。

 

「……さて友希那さんの言葉が真実かどうか確かめてみますか」

 

 純一はスマートフォンを操作しながらニュースを検索してみると、“反IS至上主義団体の発足”や“反女尊男卑団体の設立”、終いには”IS学園見直しへの議論が始まる“等といったIS関係の人にはネガティブな印象を与える見出しが真っ先に飛び込んできた。

 試しにそれ以外のニュースを検索してみたが、ポジティブなニュースや良いニュースはあまり無かった。ニュース記事のコメント欄を見てみると、案の定IS学園やISについてネガティブなコメントばかり書き込まれていた。

 

―――このまま行くとIS学園無くなるんじゃないかな? でもそうしたら女尊男卑主義者がこっちに来そうで嫌なんだよ……皆はどう思う?

 

―――流石にIS学園が無くなる事は有り得ないと思う。だって同じIS学科がある鳳凰学院は私立だぜ? IS学園は腐っても国立だし、政府が支援を打ち切らない限りは無くならないだろう。

 

―――でもさぁ……今の状態だと、政府も支援を打ち切るのも時間の問題じゃないかな? 何しろ菅野首相は反IS派……と言うより兵器としてISが使われている事に疑問を持っているから、何かしらの対策を打ち出しそう。実際今のIS学園って社会から切り離されているようなもんじゃん。更に追い打ちかけそうで怖いよ。

 

―――それはありそうだね。嫌だな~笑いながら銃撃ってきたり、攻撃してきたりするのは。そういう奴らは全員刑務所行きだ!

 

(確かに今の状況は企業から見放されているに等しいし、もし政府も見放されたらIS学園の生徒はどうなる? 僕は鳳凰学院に行ける。と言うか来いと言われている。でもそれ以外の人はどうなる? まさかIS学園に入った事が失敗と言われて、一生陽の目を見る事が出来ない人生を送らないといけないのか?)

 

 今の日本政府、政権与党の自民党の首相は菅野拓郎。若手の政治家で貧乏人上がりの超苦労人だけあり、一般市民の気持ちに寄り添った政治を目指し、これまでになかったような政策を次々と打ち出している。

 前の首相の阿部野信三内閣の路線を引き継ぎ、ISの在り方を見直す事を前提として、IS学園の見直しを掲げていたが、今回の事件によってそれが現実味を帯びて来た。

 コメント欄を見ている純一は途端に考えた。自分は『私立鳳凰学院』からオファーを貰っていて、世間からも全くと言って良い程叩かれていない。むしろ心配されている。しかし、IS学園の女子生徒達はどうなのか。

 彼女達はISの事を勉強したいから、将来はIS関係の仕事に就きたいと思って入学した人も一定数いる。それが一度の失敗で二度と立ち上がれなくなって良いのか。純一は疑問に思いつつも、コメント欄を読み進める。

 

―――IS学園って女子高だろ? 女子の虐めってけっこう悪質で陰湿と言う噂を聞いた事がある。ISを使う事なんか日常茶飯事だろうな……それで気に入らない人を自殺に追いやったりしているんじゃないの?

 

―――いや~どうなんだろう? と言うかそんなニュースあったっけ? 少なくとも俺は知らないなぁ。

 

―――いやいやいや。隠蔽していて俺達が知らねぇだけだって。毎年何人もの生徒が自殺しているんじゃねぇの? ひでぇ話だよ。だからさ、女尊男卑思想の奴らは全員消えてくれた方が良いって事だよ。

 

―――まぁそうだね……それに本当かどうか分からないけど、よくニュースとかネットの書き込み見ていると、女尊男卑思想の連中が昼食代とか踏み倒しているって言うけど、あれって本当なの?

 

―――あ、それはマジです。本当です。知り合いから聞いた話だけど、滅茶苦茶化粧して着飾っていた女がブランド物の服とか鞄とか踏み倒していたって。

 

―――何だと!? 信じられねぇ……IS学園はそういう奴らの育成所なのか? 見た目は美人で優秀でも、中身は女尊男卑思想の信奉者なのかよ!? 勘弁してくれよ!

 

 純一はコメント欄を少しの間見ていると、友希那が言っていた事を思い出した。“企業や大学の方でIS学園生を受け入れ拒否しようとしている所が増えている”と言っていた。

 その事を思い出すと、直ぐに該当するような見出しのニュース記事を探した。すると、“IS学園生のお先真っ暗!? 受け入れ拒否の企業が続出中!?”と言う見出しの記事が見つかった。

 純一がその記事を詳しく見ていくと、『黒田商事』の取引先の会社の人事担当者が記者の質問に答えていた。

 

―――今回の件も踏まえて、IS学園の卒業生の方々を採用したく無くなりました。我々は『黒田商事』と取引しており、その社長の息子さんが大変な目に遭った事を伺っています。この状況ですし、例えIS学園の卒業生の方々が人格や能力が優れていても、採用した我々が逆にデメリットを背負う事になるのでこの決断に至りました。

 

―――そもそも、IS学園その物が閉鎖的で一体何なのかが分かりづらい事に問題点があると思います。IS企業や政府関係者ぐらいしか入らない事もありますが……そもそも日常生活で役に立たないISの知識や操縦技術の話をされても、我々からしたら“だから何?”の世界です。

 

―――恐らくこの決断を下したのは私達の企業だけでなく、他にもいると思います。例えば飲食業や接客業だと、女尊男卑思想を持った人がいると言う事が知られただけで、イメージダウンに結び付く事もあります。なのでIS学園生が一般企業に就職するのは困難になるでしょうしし、IS企業も世間から叩かれているのでどうなるか分からないです。

 

(やはり本当だったのか……)

 

 IS学園の生徒の進路。それは国家代表や代表候補生を目指す操縦者の道と、メカニックとして生きていく整備士の道と、IS企業や一般企業として社会人となる道と、短大や専門学校、大学に進学する道の合計4パターンがある。

 その社会人となる道が事実上閉ざされたと言う事実に純一は打ちのめされながら、友希那の言葉が事実だった事を感じた。

 この記事のコメント欄を見てみると、人事担当者の決断を評価している声が圧倒的であり、純一は一つ一つ目を通す事にした。

 

―――まぁこの決断は妥当だよ。下手に採用して社内でトラブル起こすより、就職試験で落とした方がお互いに幸せかもしれないね。

 

―――純一君はよくやっていられるなぁ。俺だったら3日でギブアップだよ。

 

―――普通に考えて俺達には無理だよ……兵器の使い方や動かし方を勉強してきた奴と一緒に仕事するのは。普通に軍隊や自衛隊に行った方が良いと思うんだけど……

 

―――それも無理じゃね? IS学園の連中って何か気に入らない事があるとヒステリー起こしてIS展開するんだろう? それで殺人事件とか起こされたら夜も眠れないよ。

 

―――何かISが登場してから世界は悪い方向に変わっちゃったよな……これならISなんか出て来なきゃ良かったのに。その方がまだ幸せだよ。

 

―――そう言えば俺の通っている大学、東大と双璧を為している京〇大学なんだけど、何か噂で聞いた限りだとIS学園の卒業生の受け入れを拒否するらしいぜ? 多分他の大学も同じような事考えているんじゃないかな?

 

―――何だと!? 就職出来ない、進学出来ないってほぼ人生詰んでないかこれ!? 高校生で進路絶たれたらどうしようもねぇぞ!?

 

―――ヤバいぞこれ……進学するにしても最終的に就職する人大半だから、これで大半が詰んだって事になる。IS学園の中にはまともな人もいるから、その人達を助けるようにしないと、また良からぬ事が起きそうだよ。

 

(マジか……もうこれはきついってレベルを超えているぞ)

 

 ニュース記事のコメント欄を一通り見た純一は溜息を付きながら、空を見上げる事しか出来なかった。今回の件で一般市民が抱えていたISへの印象が表に出てしまい、女尊男卑と言う歪んだ社会風潮に対する怒りや不満が爆発している。

 それに進路先も徐々に狭まれている。大学や一般企業は受け入れ拒否の姿勢を見せており、IS企業に就職したり、IS関連の道に進むしか選択肢が無くなってきている。

 気が付けばIS学園の生徒達の進路は悲惨な事になっており、それが純一の心に突き刺さる物が重く鋭くなっている。

 

(今まで僕は自分の事しか考えて来なかったし、見ようとしなかった。けど『遊戯王』の授業が始まって、今回の事態になってようやく僕は大切な事に気付けた。他人と初めて向き合える機会を貰えて、やっと分かった。リーダーは自分に付いてくる奴らの為にある。背中に付いてくる奴らの気持ちが分からない、気付けない奴がリーダーになる資格はない。父さん。僕はやっと分かった。社長になる為に必要な物が何なのかを)

 

 しかし、この事実が純一にある責任感に目覚めさせる事となった。それはリーダーとしての在り方。今までは自分さえ良ければ良いと言う自己中心的な在り方だったが、『遊戯王』の授業を経て、少しずつ自分が皆を引っ張る事を意識してきた。

 そして今回の事態を踏まえ、如何にしてIS学園の生徒達の未来を少しでも明るくさせるかを考えなければいけない。そのような立ち位置に自分が置かれた事を実感させられた。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。


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TURN23 純一の新たなる力! 【ドライトロン】VS【トゥーン】★

23話の投稿になります。久し振りのデュエル回となります。

前回の前書きで記しましたが、今の小説を続けるべきか。それとも新しい小説に移行するべきかどうかの意見を募集しています。
コメントの方は最新の活動報告の方にお願いします。

さて今回は新しく出た儀式テーマの【ドライトロン】と、先日強化された【トゥーン】の対戦になります。お楽しみ下さい。


「思っていたよりけっこう人集まったな」

 

「お昼の放送で宣伝した効果がありましたね」

 

「そのようだな。さぁ撮影の準備も出来たし、そろそろ始めるとしよう。これは只の同好会のアピールじゃない。学園の皆を楽しませ、少しでも元気づける為の行いだ。僕達も楽しんでやっていこう」

 

 IS学園生達の進路先が狭められてお先真っ暗になりつつある中、『カードターミナル』IS学園店ではこの日の放課後にとある事が行われようとしていた。

 そこには楯無・簪の更識姉妹と虚・本音の布仏姉妹、新聞部の副部長の黛薫子の姿もあり、純一と俊介を見守るように十数人の女子生徒が集まっていた。

 カードショップの対戦スペースの一角。そこでは『遊戯王』同好会、『チーム・サティスファクションズ』の動画撮影が始まろうとしている。楯無達はそれを観戦する為に来ていて、純一と俊介も自然と緊張した表情となっている。

 この日のお昼の放送で宣伝を行っていた事もあって、それなりの数の一般生徒が観戦しに来ている。真耶等の教員も知らない間にそこにいた。

 動画撮影の為のカメラを覗き込むナタリアと薫子が、店内に備え付けられているモニターに映し出されている盤面の広さや明るさを調整していく。2人が調整完了の合図を出すと、純一と俊介は深呼吸をしてから撮影開始の合図を出した。

 

 

 

「せ~の!」

 

『デュエル・サティスファクションズ!』

 

「動画をご覧の皆様、初めましてこんにちは! 『チーム・サティスファクションズ』リーダー、黒田純一です! このチャンネル、『デュエル・サティスファクションズ』では『遊戯王OCG』のフリー対戦の様子をお見せしたり、新しく発売されたパックで登場したテーマや強化されたテーマを対戦を交えて紹介していきます」

 

「初めまして! 副リーダーのナタリア・スアレス・ナバーロです! 我々『チーム・サティスファクションズ』はIS学園の『遊戯王』同好会です。『遊戯王』が大好きな人や、満足したい人で『遊戯王』を楽しむ事が活動内容です」

 

「皆さんこんにちは! 『カードターミナル』所属、『チーム・サティスファクションズ』の編集担当兼アドバイザーの今村俊介です! 第1回目の対戦は『チーム・サティスファクションズ』の男同士、最強決定戦と行きましょうか!」

 

 『チーム・サティスファクションズ』の対戦動画。その最初は純一と俊介の対戦。男性同士で、同好会最強を決める決定戦と言う熱い対戦カード。

 

「対戦に入る前に使うデッキを紹介します。僕が使うのはこの前発売された『デッキビルドパック ジェネシス・インパクターズ』で登場した新時代の儀式テーマ、【ドライトロン】! これまで在りそうで無かった機械族の儀式テーマで、高い攻撃力と制圧力が特徴! それに汎用性も高くて個人的に次期環境入り候補の1つだと確信しています!」

 

「ここから先はMr.今村に代わり、ペガサス・A・クリフォートでお送りしマ~ス! ミーが使うのは、先日発売された『WORLD PREMIERE PACK 2020』で強化された【トゥーン】デッキ!」

 

「それでは対戦の方に移ります!」

 

 お互いに自己紹介と挨拶を行うと、純一と俊介は自分のデッキをカット&シャッフルを行った後、お互いのデッキを相手に渡して更にデッキをカット&シャッフルを行う。先攻はじゃんけんに勝利した俊介が取った。

 そして対戦の準備が整った事を確認してデュエル!と言う掛け声と共に、『チーム・サティスファクションズ』活動開始を告げる初デュエルが始まった。

 

 

 

・1ターン目

 

「ミーのターン! スタンバイフェイズ。メインフェイズ行きマ~ス! 手札から《伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)》を通常召喚しマ~ス!」

 

「はいどうぞ……駄目だ。あまりにも似すぎて笑いが止まらない……誰か助けて……」

 

「純一ボーイ、真面目にやりなサ~イ! 効果を発動しマ~ス! このカードをリリースして、デッキからレベル7以下の《レッドアイズ》モンスター、《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》 を特殊召喚しマ~ス!」

 

 俊介が物真似をしているペガサス・J・クロフォードが余りにも似過ぎている為、純一は笑い過ぎてお腹を抱えている。

 隣のナタリアだけでなく、観戦している楯無達も大笑いしている為、動画に笑い声が聞こえているのはご愛嬌。

 

 

伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)

効果モンスター

レベル1/闇属性/ドラゴン族

ATK/0 DEF/0

《伝説の黒石》の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれ1つしか使用できない。

(1):このカードをリリースして発動できる。

デッキからレベル7以下の《レッドアイズ》モンスター1体を特殊召喚する。

(2):このカードが墓地に存在する場合、自分の墓地のレベル7以下のモンスター《レッドアイズ》1体を対象として発動できる。

そのモンスターをデッキに戻し、墓地のこのカードを手札に加える。

 

 

「《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》の効果を発動しマ~ス! 手札からトゥーンモンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚出来マ~ス! 《トゥーン・ブラック・マジシャン》を特殊召喚しマ~ス!」

 

 

《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》

トゥーン・効果モンスター

レベル7/闇属性/ドラゴン族

ATK/2400 DEF/2000

(1):このカードは召喚・反転召喚・特殊召喚したターンには攻撃できない。

(2):自分フィールドに《トゥーン・ワールド》が存在し、相手フィールドにトゥーンモンスターが存在しない場合、このカードは直接攻撃できる。

(3):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。

手札から《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》以外のトゥーンモンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。

 

 

「《トゥーン・ブラック・マジシャン》の効果を発動しマ~ス! 発動コストとして手札の《トゥーン・サイバー・ドラゴン》を捨て、デッキから《トゥーン》魔法・罠カード……《トゥーンのしおり》を手札に加えマ~ス!」

 

「それが新規カードか!」

 

「Yes! 純一ボーイ、貴方に新しいトゥーンの恐ろしさをお見せしマ~ス!」

 

 

《トゥーン・ブラック・マジシャン》

トゥーン・効果モンスター

レベル7/闇属性/魔法使い族

ATK/2500 DEF/2100

(1):このカードは召喚・反転召喚・特殊召喚したターンには攻撃できない。

(2):自分フィールドに《トゥーン・ワールド》が存在し、相手フィールドにトゥーンモンスターが存在しない場合、このカードは直接攻撃できる。

(3):1ターンに1度、手札から《トゥーン》カード1枚を捨て、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●デッキから《トゥーン・ブラック・マジシャン》以外のトゥーンモンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。

●デッキから《トゥーン》魔法・罠カード1枚を手札に加える。

 

 

「魔法カード、《トゥーンのしおり》を発動しマ~ス! 《トゥーン・ワールド》のカード名が記されたカード、こちらも新規カードの《トゥーン・テラー》を手札に加えマ~ス!」

 

「サーチカードか……強い!」

 

 

《トゥーンのしおり》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):《トゥーンのしおり》以外の《トゥーン・ワールド》のカード名が記されたカードまたは《トゥーン・ワールド》1枚をデッキから手札に加える。

(2):自分フィールドの《トゥーン・ワールド》が効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。

 

 

「では満を持して発動しましょう。手札からフィールド魔法、《トゥーン・キングダム》を発動しマ~ス! このカードの発動時の効果処理として、自分のデッキの上からカード3枚を裏側表示で除外しマ~ス!」

 

「発動コストが重過ぎる……」

 

 

《トゥーン・キングダム》

フィールド魔法

(1):このカードの発動時の効果処理として、自分のデッキの上からカード3枚を裏側表示で除外する。

(2):このカードはフィールドゾーンに存在する限り、カード名を《トゥーン・ワールド》として扱う。

(3):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分フィールドのトゥーンモンスターは相手の効果の対象にならない。

(4):自分フィールドのトゥーンモンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに破壊されるモンスター1体につき1枚、自分のデッキの上からカードを裏側表示で除外できる。

 

 

「《トゥーン・キングダム》はフィールドゾーンに存在する限り、カード名を《トゥーン・ワールド》として扱いマ~ス! つまりお互いのフィールドに出されたカードは全て《トゥーン》カードとなり、《トゥーン》モンスターは《トゥーン》モンスターでしか倒せなくなりマ~ス!」

 

「それは原作効果! OCG効果にはそんなチートはない!」

 

「純一ボーイ、これは只のジョークデ~ス! 細かい事を気にしない時が世の中ありマ~ス! カードを1枚セットしてターンエンドしマ~ス!」

 

 

 

今村俊介(ペガサス・A・クリフォート)

LP:8000

手札:1

フィールドゾーン:《トゥーン・キングダム》

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》、《トゥーン・ブラック・マジシャン》

魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

 

 

・2ターン目

 

「(今セットしたカードはさっきサーチした《トゥーン・テラー》に間違いない……)いや~まさか1ターン目からぶん回すとは流石ペガサスさん! でも僕も負けてられない! 僕のターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイフェイズ。メインフェイズに入ります。手札から魔法カード、《エマージェンシー・サイバー》を発動したいです」

 

「発動OKデ~ス!」

 

「デッキから通常召喚できない機械族・光属性モンスター1体、《竜輝巧(ドライトロン)-バンα》を手札に加えます」

 

 

《エマージェンシー・サイバー》

通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):デッキから《サイバー・ドラゴン》モンスターまたは通常召喚できない機械族・光属性モンスター1体を手札に加える。

(2):相手によってこのカードの発動が無効になり、墓地へ送られた場合、手札を1枚捨てて発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。

 

 

「下級《ドライトロン》モンスターには共通効果があって、通常召喚出来なくて《ドライトロン》カードの効果でしか特殊召喚する事が出来ません。なので《エマージェンシー・サイバー》で全部サーチする事が出来ます。ちなみにこの《エマージェンシー・サイバー》もデッキビルドパックに再録されているから、欲しい人は要チェックするように!」

 

「説明と宣伝を一緒にするなんて、何て模範的なデュエリストなんでShow! YouはやはりMr.今村から聞いていた通り、素晴らしいデュエリストデ~ス!」

 

「ありがとうございます! では今サーチした《竜輝巧(ドライトロン)-バンα》の効果を発動します。《ドライトロン》下級モンスターは共通効果で、自分の手札・フィールドからこのカード以外の《ドライトロン》モンスターか、儀式モンスター1体をリリースすると手札・墓地から守備表示で特殊召喚する事が出来ます。手札の《アルζ》 をリリースし、《バンα》を手札から守備表示で特殊召喚!」

 

「OKデ~ス!」

 

 

竜輝巧(ドライトロン)-バンα》

特殊召喚・効果モンスター

レベル1/光属性/機械族

ATK/2000 DEF/0

このカードは通常召喚できず、《ドライトロン》カードの効果でのみ特殊召喚できる。

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の手札・フィールドから、このカード以外の《ドライトロン》モンスターまたは儀式モンスター1体をリリースして発動できる。

このカードを手札・墓地から守備表示で特殊召喚する。

その後、デッキから儀式モンスター1体を手札に加える事ができる。

この効果を発動するターン、自分は通常召喚できないモンスターしか特殊召喚できない。

 

 

「その後、デッキから儀式モンスター1体を手札に加えます。更に共通効果として、固有効果を発動するターン、通常召喚できないモンスターしか特殊召喚出来なくなります」

 

「Oh!儀式モンスターをサーチ出来ると言う事は、《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》のように、他の儀式デッキで使われる儀式モンスターをサーチ出来るんですか?」

 

「そうですね! サーチ効果にテーマ指定がないので、色んな儀式テーマと組み合わせて使う事が出来るのが、この【ドライトロン】デッキの魅力の1つです」

 

「Wow! 純一ボーイのデッキには凄く強い儀式モンスターが入っているに決まっていマ~ス! アンビリ~バボ~!」

 

 【ドライトロン】デッキは儀式モンスターの攻撃力を参照にして儀式召喚を行う為、強力で様々な儀式モンスターをデッキに投入する事が出来る。

 《ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン》のように制圧力と打点が高い儀式モンスターや、対象を取らない除去効果を持つ《トリシューラの影霊衣《|ネクロス》》等、その人の好みや性格が出やすい構築となるだろう。

 

「《バンα》の効果でこのデッキのエースモンスターの1枚、《竜儀巧(ドライトロン)-メテオニス=DRA》を手札に加えます」

 

「Oh! とても強力な儀式モンスターに匂いがプンプンしマ~ス!」

 

「続けて墓地の《アルζ》の効果を発動します。手札の儀式モンスター、《サイバー・エンジェル-弁天-》をリリースし、墓地の《アルζ》を守備表示で特殊召喚します。その後、デッキから儀式魔法カード1枚を手札に加えます。デッキから《流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)》を手札に加えます」

 

「OKデ~ス!」

 

 

竜輝巧(ドライトロン)-アルζ》

特殊召喚・効果モンスター

レベル1/光属性/機械族

ATK/2000 DEF/0

このカードは通常召喚できず、《ドライトロン》カードの効果でのみ特殊召喚できる。

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):自分の手札・フィールドから、このカード以外の《ドライトロン》モンスターまたは儀式モンスター1体をリリースして発動できる。

このカードを手札・墓地から守備表示で特殊召喚する。

その後、デッキから儀式魔法カード1枚を手札に加える事ができる。

この効果を発動するターン、自分は通常召喚できないモンスターしか特殊召喚できない。

 

 

「《アルζ》の特殊召喚時にリリースした《サイバー・エンジェル-弁天-》の効果を発動します。このカードがリリースされた場合、デッキから天使族・光属性モンスター1体を手札に加えます。2枚目の《弁天》を手札に加えます」

 

「OKデ~ス!」

 

 

《サイバー・エンジェル-弁天-》

儀式・効果モンスター

レベル6/光属性/天使族

ATK/1800 DEF/1500

《機械天使の儀式》により降臨。

(1):このカードが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。

そのモンスターの元々の守備力分のダメージを相手に与える。

(2):このカードがリリースされた場合に発動できる。

デッキから天使族・光属性モンスター1体を手札に加える。

 

 

「手札から《流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)》を発動します。ここでこの【ドライトロン】デッキ最大の特徴を説明しますけど、儀式魔法って今までなら儀式モンスターのレベルの合計以上になるようにモンスターをリリースして儀式召喚するんですけど、この《流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)》は攻撃力の合計が儀式モンスター以上になるように、手札・フィールドの機械族モンスターをリリースして手札・墓地から儀式召喚するんです」

 

「What!? レベルではなくて攻撃力を見るんですか!? ……Wait a minute! 下級《ドライトロン》モンスターはレベル1で攻撃力2000もあるじゃないですか!? インチキ効果も大概にして下サ~イ!アンビリ~バボ~!」

 

「原作でチート効果だった《トゥーン・ワールド》作った人には言われたくない……」

 

 

流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)

儀式魔法

儀式モンスターの降臨に必要。

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):攻撃力の合計が儀式召喚するモンスターの攻撃力以上になるように、自分の手札・フィールドの機械族モンスターをリリースし、自分の手札・墓地から儀式モンスター1体を儀式召喚する。

(2):このカードが墓地に存在する場合、自分フィールドの《ドライトロン》モンスター1体を対象として発動できる。

そのモンスターの攻撃力を相手ターン終了時まで1000ダウンし、このカードを手札に加える。

 

 

「手札の《竜儀巧(ドライトロン)-メテオニス=QUA》をリリースし、手札の《竜儀巧(ドライトロン)-メテオニス=DRA》を儀式召喚!」

 

「Wow! それがYouの【ドライトロン】デッキのエースモンスターですね、純一ボーイ!」

 

「その通り! 続けて《流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)》の効果を発動します。このカードが墓地にある時、《メテオニス=DRA》の攻撃力を相手ターン終了時まで1000ダウンさせ、このカードを手札に加えます」

 

「アンビリ~バボ~! サルベージ出来るなんて強過ぎま~す!」

 

「回収した《流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)》を発動! フィールドの《アルζ》と《バンα》をリリースして、墓地から《メテオニス=QUA》を儀式召喚!」

 

 純一のフィールドに揃った《メテオニス=DRA》と《メテオニス=QUA》。2大【ドライトロン】エースモンスターの登場に、純一の表情もニヤリとする。

 

「(恐らくそのセットカードは《トゥーン・テラー》だろうけど、ここで使わせるしかないな)《メテオニス=QUA》の効果を発動します。このカードの儀式召喚に使用したモンスターのレベルの合計が2以下の時、相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊出来ます! 《トゥーン・キングダム》とそのセットカードを破壊したいです」

 

「Wait a minute! 《ハーピィの羽根箒》と同じ効果の発動をミーが許す筈ありまセ~ン! 《メテオニス=QUA》の効果の発動にチェーンして、セットしていたこのカードを発動しマ~ス! カウンター罠、《トゥーン・テラー》!」

 

「やっぱりか……」

 

 

《トゥーン・テラー》

カウンター罠

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドに《トゥーン・ワールド》及びトゥーンモンスターが存在し、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。

 

 

「このカードの効果を一言で言えば、【トゥーン】専用の《神の宣告》デ~ス! 自分フィールドに《トゥーン・ワールド》及びトゥーンモンスターが存在し、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、その発動を無効にして破壊しマ~ス!」

 

「破壊された《メテオニス=QUA》の効果発動! 儀式召喚したこのカードが破壊された場合、自分の墓地から攻撃力の合計が4000になるように、《ドライトロン》モンスターを特殊召喚します。と言う事で墓地から《アルζ》と《バンα》を特殊召喚!」

 

 

竜儀巧(ドライトロン)-メテオニス=QUA》

儀式・効果モンスター

レベル12/光属性/機械族

ATK/4000 DEF/4000

《流星輝巧群》により降臨。

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドのこのカードは相手の魔法・罠カードの効果の対象にならない。

(2):このカードの儀式召喚に使用したモンスターのレベルの合計が2以下の場合に発動できる。相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する。

(3):儀式召喚したこのカードが破壊された場合に発動できる。

自分の墓地から、攻撃力の合計が4000になるように《竜儀巧-メテオニス=QUA》以外の《ドライトロン》モンスターを任意の数だけ選んで特殊召喚する。

 

 

「Oh! また儀式召喚の準備が出来てしまいまシタ~! 超きついデ~ス!」

 

「いや、《流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)》のサルベージ効果はターン1制限が付いていますし、手札にないのでこのターンはこれ以上儀式召喚は出来ません。ですが僕のフィールドにはレベル1モンスターが2体……これがどういう意味なのか分かりますね?」

 

「What!? Oh,No~! レベル1モンスターが2体! 来ますよ遊馬ボ~イ!」

 

「遊馬君はいない! 僕はレベル1の《アルζ》と《バンα》の2体でオーバーレイ! 2体のレベル1モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろランク1! 《LL(リリカル・ルスキニア)-アセンブリー・ナイチンゲール》!」

 

 【ドライトロン】デッキは《メテオニス=DRA》と《メテオニス=QUA》が強力な制圧効果と除去性能を持っており、色々な儀式モンスターを搭載出来る都合上、EXデッキをそこまで使う場面はない。

 構築次第では《強欲で金満な壺》のコストにしたり等出来るが、ランク1エクシーズモンスターやリンクモンスターを入れる事も出来る。

 

「《アセンブリー・ナイチンゲール》の攻撃力はこのカードのX素材の数だけ200上昇し、X素材を持ったこのカードはその数まで1度のバトルフェイズに直接攻撃する事が出来ます。なので《アセンブリー・ナイチンゲール》の攻撃力は400で、2回直接攻撃が出来ます」

 

「What!? 直接攻撃は【トゥーン】の専売特許デ~ス! ミーの許可なく直接攻撃をするのは認めまセ~ン! 不快デ~ス!」

 

「だが断る! バトルフェイズ! 《アセンブリー・ナイチンゲール》でダイレクトアタック!」

 

「合計800のダメージを受けマ~ス! アンビリバボ~!」

 

「《メテオニス=DRA》で《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》を攻撃!」

 

「《トゥーン・キングダム》の効果を発動しマ~ス! 自分フィールドのトゥーンモンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに自分のデッキの上からカードを裏側表示で除外して守りマ~ス! でもダメージは受けマ~ス!」

 

 【トゥーン】デッキの弱点。それは《トゥーン・キングダム》を破壊される事。《トゥーン・キングダム》はトゥーンモンスターに強力な耐性を持たせる等、強力な効果を搭載しているが、除去されるとどうしようもなくなる。

 もちろん相手は真っ先に《トゥーン・キングダム》を除去しに来る為、それを守る為のカードを入れたりしないと、例え新規カードが来ても正直厳しい。

 

「メインフェイズ2に移ります。僕は《アセンブリー・ナイチンゲール》でオーバーレイ!自分フィールドのランク3以下のXモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築! ランクアップ! エクシーズチェンジ! 《ダウナード・マジシャン》をエクシーズ召喚!」

 

「What!?」

 

「更に僕は《ダウナード・マジシャン》でオーバーレイ! 自分フィールドの戦闘を行ったXモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築! ランクアップ! エクシーズチェンジ! 現れろ、《天霆號(ネガロギア)アーゼウス》!」

 

「アンビリ~バボ~! それは超強力なエクシーズモンスター! Oh,No~! これはきついデ~ス!」

 

「カードを1枚セットしてターンエンド!」

 

 

 

今村俊介(ペガサス・A・クリフォート)

LP:8000→6600

手札:1

フィールドゾーン:《トゥーン・キングダム》

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》、《トゥーン・ブラック・マジシャン》

魔法・罠ゾーン:なし

 

 

 

黒田純一

LP:8000

手札:3

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《竜儀巧(ドライトロン)-メテオニス=DRA》(攻撃力3000)、《天霆號(ネガロギア)アーゼウス》

魔法・罠ゾーン:セットカード×1

 

 

 

・3ターン目

 

「ミーのターン! ドローフェイズ、ドロー! スタンバイフェイズ。メインフェイズ入りマ~ス! メインフェイズ開始時、手札から魔法カード、《強欲で金満な壺》を発動しマ~ス! EXデッキから裏側表示でカードを6枚除外し、2枚ドローしたいデ~ス! ではEXデッキをシャッフルして……どれを除外しますか?」

 

「上から6枚で」

 

「分かりました~ではこの6枚を除外して2枚ドローしマ~ス!」

 

 

《強欲で金満な壺》

通常魔法

(1):自分メインフェイズ1開始時に、自分のEXデッキの裏側表示のカード3枚または6枚をランダムに裏側表示で除外して発動できる。

除外したカード3枚につき1枚、自分はデッキからドローする。

このカードの発動後、ターン終了時まで自分はカードの効果でドローできない。

 

 

「手札から魔法カ~ド、《トゥーン・フリップ》を発動しマ~ス!」

 

「これも新規カード!?」

 

「その通りデ~ス! このカードは私のフィールドに《トゥーン・ワールド》がある時に発動出来マ~ス! デッキからカード名が異なる《トゥーン》モンスター3体を相手に見せるので、Youはその中から1枚選んで下サ~イ! そのモンスター1体を召喚条件を無視して自分フィールドに特殊召喚しマ~ス!」

 

「うわぁ……選択間違えたら大惨事になってしまう!」

 

 

《トゥーン・フリップ》

速攻魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。

(1):自分フィールドに《トゥーン・ワールド》が存在する場合に発動できる。

デッキからカード名が異なるトゥーンモンスター3体を相手に見せ、相手はその中からランダムに1体選ぶ。

そのモンスター1体を召喚条件を無視して自分フィールドに特殊召喚する。

残りのモンスターはデッキに戻す。

 

 

「ミーが選ぶのは《レッドアイズ・トゥーン・ドラゴン》、《トゥーン・ブラック・マジシャン》、《トゥーン・カオス・ソルジャー》デ~ス! よくシャッフルして……さぁ選びなサ~イ!」

 

「僕から見て左でお願いします」

 

「ミーから見て右ですね。先に予告します。マインドスキャン! Youが選んだのは新規カード、《トゥーン・カオス・ソルジャー》デ~ス!」

 

「仕込みはないですよね? 外れるに決まっています」

 

「では確認しましょう……Oh~! Youが選んだのは《トゥーン・カオス・ソルジャー》! ミーのマインドスキャンが当たりました~! 《トゥーン・カオス・ソルジャー》を特殊召喚しマ~ス!」

 

「嘘だろう!? ならば《アーゼウス》の効果を発動します。X素材を2つ取り除き、このカード以外のフィールドのカードを全て墓地送りにします!」

 

 

天霆號(ネガロギア)アーゼウス》

エクシーズ・効果モンスター

ランク12/光属性/機械族

ATK/3000 DEF/3000

レベル12モンスター×2

《天霆號アーゼウス》は、Xモンスターが戦闘を行ったターンに1度、自分フィールドのXモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。

(1):このカードのX素材を2つ取り除いて発動できる。

このカード以外のフィールドのカードを全て墓地へ送る。

この効果は相手ターンでも発動できる。

(2):1ターンに1度、このカード以外の自分フィールドのカードが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。

手札・デッキ・EXデッキからカードを1枚選び、このカードの下に重ねてX素材とする。

 

 

「アンビリ~バボ~! ミーのモンスター達が全滅してしまいました~! Oh,no~! Oh,My god~! ミーの《トゥーン》モンスター達が~! 1対4交換なんて有り得まセ~ン!」

 

「無茶苦茶言うの止めて下さい……」

 

「たった1枚のカードでミーのボードがリセットされました~! ミーのハンドじゃ何も出来まセ~ン! ミーのハンド弱過ぎ~! Oh,No~! ターンエンドデ~ス!」

 

 

 

今村俊介(ペガサス・A・クリフォート)

LP:8000→6600

手札:1

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:なし

魔法・罠ゾーン:なし

 

 

 

黒田純一

LP:8000

手札:3

フィールドゾーン:なし

EXモンスターゾーン:なし

メインモンスターゾーン:《天霆號(ネガロギア)アーゼウス》

魔法・罠ゾーン:なし

 

 

 

・4ターン目

 

「僕のターン。ドローフェイズ、ドロー! スタンバイ。メインフェイズ入ります。ではメインフェイズ開始時、《強欲で金満な壺》を発動したいです」

 

「何もありまセ~ン……」

 

「テンションだだ下がりじゃないですか……EXデッキをシャッフルして、2ドローしたいので6枚除外したおです」

 

「上から6枚除外して下サ~イ」

 

「はい。2枚ドローして《エマージェンシー・サイバー》を発動し、デッキから通常召喚できない機械族・光属性モンスター1体を手札に加えます。2枚目の《メテオニス=DRA》を手札に加えてリリースし、墓地の《アルζ》を守備表示で特殊召喚します。その後、デッキから儀式魔法カード1枚、2枚目の《流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)》を手札に加えます」

 

 純一はEXデッキを用意しているが、《強欲で金満な壺》も使える構築にしている。《アーゼウス》を用意しているあたり用意周到なのだが。

 

「続けて手札の《弁天》をリリースし、墓地の《バンα》を守備表示で特殊召喚します。デッキから儀式モンスター1体、2枚目の《メテオニス=QUA》を手札に加え、リリースした《弁天》の効果で3枚目の《弁天》を手札に加えます。そして手札から《流星輝巧群(メテオニス・ドライトロン)》を発動! フィールドの《バンα》と《アルζ》をリリースして、手札から《メテオニス=DRA》を儀式召喚!」

 

「Oh~! これは詰みデ~ス!」

 

「バトルフェイズに入ります! 《アーゼウス》でダイレクトアタック!」

 

「ダメージ受けマ~ス!」

 

「《メテオニス=DRA》で止め!」

 

「Oh.No~! 純一ボ~イの勝ちデ~ス!」

 

 こうして純一と俊介の対戦は純一の勝利に終わった。【ドライトロン】の強力な力を見せつつ、《アーゼウス》の恐ろしい効果で押し切った事が勝因だった。

 

 

 

『対戦ありがとうございました~!』

 

「ではお互いに使ったデッキの感想だったり、使えなかったカードの効果を言い合う等、反省会じみた事をしましょう」

 

「あれ? 素に戻った」

 

「何気にペガサスさんの物真似喉使うからきついんだよ……勘弁してくれ」

 

 対戦が終了した後は雑談兼解説コーナー。流石にこの時は俊介はペガサスの物真似を解除し、何時もの状態になっている。

 

「先ず俺が使った【トゥーン】デッキですが、今回新規カードが数枚追加されました。先ずは《トゥーンのしおり》。これはサーチカードなんですけど、使い終わって墓地に行った後、自分フィールドの《トゥーン・ワールド》を効果破壊から守る事が出来ます。【トゥーン】デッキの要、《トゥーン・キングダム》は《トゥーン・ワールド》扱いになるので、《トゥーンのしおり》の恩恵を受けられます」

 

「そうしたらどうして《メテオニス=QUA》の効果発動時に使わなかったんですか?」

 

「あれは純一君にしてやられたよ。あれを通すとセットしていた《トゥーン・テラー》が破壊されるから、《トゥーン・テラー》をあの時に発動するしか無かったんだよ……そしたら《アーゼウス》が来たからもう酷いよ……」

 

 先ずは俊介が使用した【トゥーン】デッキ。今回のデュエルは純一のライフポイントを削る事が出来なかったが、見せ場はかなりあって新規カードをお披露目する機会もあった。

 

「純一君はどうでしたか? 【トゥーン】デッキは?」

 

「そうですね……やっぱり新規カードが来た事でけっこうテコ入れされた感じがしました。《トゥーン・テラー》は自分フィールドに《トゥーン・ワールド》と《トゥーン》モンスターがいたら、あらゆる効果の発動を無効にして破壊出来ますし、《トゥーン・フリップ》も不確定ですが、自分フィールドに《トゥーン》モンスターが出せるのが強いです」

 

「後今回使えなかったけど、《トゥーン・カオス・ソルジャー》がとても強いんだ。自分の手札・フィールドから、レベルの合計が8以上になるようにトゥーンモンスターをリリースして特殊召喚出来るけど、自分フィールドに《トゥーン・ワールド》があるとフィールドのカード1枚を除外出来るんだ。効果を発動したターンは攻撃出来ないけど、自分フィールドにレベル8モンスターがいたら、ランク8エクシーズモンスターをエクシーズ召喚出来るのが良いね」

 

「他にレベル8モンスターっていますか?」

 

「《獣王アルファ》をこのデッキに入れているし、EXデッキに《ハーピィ・レディ・SC(スクラッチ・クラッシュ)》を入れているんだ。出し方は自分フィールドの《トゥーン・ハーピィ・レディ》をチューナー扱いにして、レベル4の《トゥーン》モンスターとシンクロ召喚する事だね。EXデッキには《タイタニック・ギャラクシー》と《ディンギルス》を入れているよ」

 俊介も純一と同様に《強欲で金満な壺》のコスト用にしているが、EXデッキを使えるようにしている。時にはドローソースのコスト、時には盤面制圧等、状況と用途に応じて使い分けている。

 特に《トゥーン・キングダム》を守ったり、《トゥーン》モンスターではどうにも出来ない盤面を引っ繰り返すように、他にもランク7エクシーズモンスターを入れたりしている。

 

「ありがとうございます。次に純一君が使った【ドライトロン】デッキです。個人的にはかなり儀式召喚がしやすいデッキに感じました」

 

「そうですね……レベルじゃなくて攻撃力を参照にして儀式召喚するのが新しくて、《ドライトロン》儀式モンスターは打点が4000とかなり高くて耐性があって、除去効果もあるので、制圧力がとにかく半端なかったです」

 

「他の下級《ドライトロン》モンスターはどんな効果があるの?」

 

「ラスβ》 は除外されている《ドライトロン》モンスターを墓地に戻せますし、《エルγ》は下級《ドライトロン》モンスターを蘇生し、《ルタδ》は手札の儀式魔法か儀式モンスターを見せたら1ドローです」

 

「どれも強いですね……」

 

「デッキを使った僕からすると、斬新な儀式召喚でカテゴリー指定がないので、色んなタイプの構築が出来るかなと思いました。今回使用したデッキはパックで手に入るカードの大半を入れて作りました。まだ慣れない所がありましたが、これから自分用にアレンジして大会に出れるようにしていきます! 出られたらの話ですけど」

 

「はい! この動画が気に入った方は高評価とチャンネル登録をよろしくお願いします!」

 

「次回の動画でお会いしましょう!」

 

 こうして『チーム・サティスファクションズ』の動画撮影が終わると、拍手喝采が沸き起こって純一とナタリアを笑顔にさせた。

 解散後、その場に残った女子生徒達が入会希望を申し出て、瞬く間に『チーム・サティスファクションズ』のメンバーは数十人もの規模となった。

 入会希望者の中には2組の三沢リサや4組の櫻井香澄等の一般生徒から、7組のアンナ・シュナイダーと8組のモニカ・ゴンザレスといった代表候補生もいた。

 予想以上の手応えに純一とナタリアは満足したような笑顔を浮かべ、サムズアップをしてから拳を合わせていた。

 今回撮影した動画は撮影していた俊介によって編集され、翌日の夕方に純一のYoutubeチャンネルに投稿された。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

ペガサス・A・クリフォートとは?

AはアポのAで、繋げるとアポクリフォートになります。
これは今村さんが【クリフォート】使いと言う設定から考えました。

・今回のペガサスさんの物真似

パック開封デスマッチで有名な実況者の「愛の戦士」さんの物真似や、最近私が嵌っている城下町デュエルさんをリスペクトしました。
城下町デュエルさんは激流葬1枚で人を笑わせるから凄い……動画もクオリティーが高く、プレイングやデッキ構築も凄いのに、それ以上にネタが豊富で笑わせに来るのがもう最高です。


次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

皆さん。よろしければ感想・高評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想や前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価もよろしくお願いします。


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第24話 決闘への序曲

第24話になります。次回はデュエル回となります。

新作小説の件はこの小説を終えてからにする事を決めました。
そしてもう少しでUA20,000になるので、番外編を記す頃合いになりました。
「チートオリ主VS小説オリ主」として、【邪神】と【ドライトロン】の対戦にする予定です。




―――IS学園にて『遊戯王』同好会設立!

 

―――満足しようぜ! 『チーム・サティスファクションズ』始動!

 

―――新デッキ【ドライトロン】を携え、黒田純一復活!

 

 IS学園において『遊戯王』の同好会が設立された。『チーム・サティスファクションズ』が活動を本格的に始めた。このニュースは学園新聞として大々的に報じられただけでなく、『遊戯王』のニュースを取り扱うサイトでも大きくピックアップされた。

 

「同好会に入りたい?」

 

「うん♪ ジュン君の対戦動画を観ていたら私もデュエルしたくなったのだ~♪」

 

「私も……純一と一度デュエルしたくて」

 

「ボクもかな? あの動画観ていたらやりたくなって……」

 

 この日も『チーム・サティスファクションズ』は活動を行っているが、純一は新しく入会を希望する女子生徒達の話を聞いていた。

 布仏本音。更識簪。シャルロット・デュノア。先日投稿された対戦動画を観て純一が『遊戯王』を再開させた事を知り、同好会への参加を決めた。

 

「歓迎しよう。一緒に満足しようぜ!」

 

 対戦動画の投稿によって、この日新たに3人のメンバーが加わった。しかもその中の2人は代表候補生であり、純一と互角以上の実力者がいる。『チーム・サティスファクションズ』も賑やかになった。

 入会参加が通って笑顔を浮かべる3人を前にして、純一は少し考え事をした。今日は皆に伝える事があった。これは自分を含めた同好会メンバーにとってとても大事な事だった。

 

「皆一度手を止めて聞いて欲しい。実は今週の土・日に僕とナタリアさんと神楽さんの3人は仕事が入って同好会に出れなくなった」

 

「仕事? 同好会の取材か何か?」

 

「いや違う。これは僕個人が引き受けた仕事なんだけど、それにナタリアさんと神楽さんが同行する形になった。僕は今もデュエルディスクのモニターだ。そのモニターとしての案件が今回の仕事だ」

 

「新型のデュエルディスクが出来たとか?」

 

「それも違う。単刀直入に言おう。皆は『私立鳳凰学院』と言う学校を知っている?」

 

 純一の問いかけに誰もがキョトンとしながら首を傾げた。『私立鳳凰学院』と言う学校があるのは誰も知らない。名前さえも聞いた事がない。

 流石にこの質問をしたのは悪かったみたいだ。純一が苦笑いを浮かべていると、簪がゆっくりと手を挙げた。

 

「私、知ってる……と言うかお姉ちゃんが言っていた。IS学園の他に、ISを取り扱う学校があると言う事を」

 

「えっ!?」

 

「それ本当!?」

 

「初めて聞いた……」

 

「じゃあ簪さん。説明お願いしてくれるかな?」

 

「うん……あそこは平等院財閥と言って、世界の富の数%を所有しているくらい凄い財閥が経営していて、ISを他の分野に使えないかを研究するIS学科があるんだって。確か……専用機持ちも何人かいて、対IS用の装備とか部隊を持っているとかいないとか」

 

 同好会の面々が驚く中、簪は淡々と事実を話していく。彼女は姉の楯無から話を聞かされている為、話す事が出来ている。

 

「その……『私立鳳凰学院』から頼まれた案件ってどんな物なの?」

 

「あの学校にも僕と同じデュエルディスクのモニターがいて、今度の学院祭でエキシビジョンマッチをする事になったんだ。向こうから話を持ち掛けられて参加に応じたら、同好会を立ち上げたナタリアさんに興味を持たれて……」

 

「そうなんだ……」

 

「向こうに僕の知り合いがいてさ、それで今回のエキシビジョンマッチが実現したんだ。流石に皆を連れて行く事は無理だけど、ナタリアさんが撮影してくれるからそれで我慢してね。僕の話は以上。そういう訳でよろしく!」

 

 純一は口が裂けても言えなかった。まさか自分が平等院財閥のお嬢様と知り合いであり、彼女のおかげでデュエルディスクのモニターになれた事を。連絡事項を伝えると、皆は再びデュエル等の同好会活動に戻っていった。

 

 

 

 時を遡る事を許して欲しい。この数日前。『私立鳳凰学院』でも1つの動きが見られていた。今回の事件で『私立鳳凰学院』側も少なからぬダメージを受けていた。

『私立鳳凰学院』は普通科と国際学科、そしてIS学科の3つのコースがあるのだが、IS学科の方に主に事件の皺寄せが来るようになった。

 IS学科ではISを学術・技術的に勉強する場所であり、IS技術をどのように広めていくか、どの分野で活用できるか等を研究している場所でもある。レスキューや医療、農業等に転用出来るか検討されていたが、今回の事件による影響で全てが台無しになった。

 

―――ISは所詮兵器だ。人を殺すだけの力があるのに、それを女性をアクセサリーのように身に付け、ファッションのように着飾っている。そのような在り方は極めて危険だ。

 

 IS企業も叩かれている中、『私立鳳凰学院』のIS学科にも誹謗中傷や風評被害が多発するようになり、IS学科にいる生徒達は気が滅入っていた。

 IS学園の生徒の進路先が自然と狭まれているが、IS学科の生徒達もまた進路先について見直す事が求められるようになった。

 幸い平等院財閥と繋がっているIS企業に受け入れが出来る分、『私立鳳凰学院』の方がまだ良いと言えるレベルなのだが、時間が経てば経つ程苦しい状況に追い込まれる可能性もあった。

 彼らの声は嘆願書や署名として生徒会長の平等院佐智雄に届けられ、それだけで一つの書類の山が出来ていた。その嘆願書や署名が書かれた紙を1枚1枚見ている佐智雄の表情は険しかった。

 

「どのニュースを見ても、IS反対IS反対か……」

 

「日ごとにIS反対意見が大きくなっていますね……」

 

「女尊男卑と言う社会風潮への不満、IS委員会や女性団体の介入による最悪の結果が招いた……それが此方にも飛び火している。一般市民からの感情は最早最悪と言った所だな」

 

「今度の学院祭は録画や配信等は一切禁止し、純一君を招いたデュエルも慎重に行わないといけないわね」

 

 生徒会室で行われているのは生徒会定例会議。佐智雄が嘆願書や署名が書かれた紙を1枚1枚見ている目の前で、“鳳凰四天王”と友希那と零児の6人がニュース記事を真剣な表情をしながら見ている。

 兵器としてISの存在感を示しながら、私利私欲のままに好き勝手してきた女性達。その横暴が許されたのはISの存在感があったから。しかし、純一をめぐる2つの出来事が引き金となり、ISの在り方に限界が見え始めていた。

 

「一旦話を聞いて欲しい。ニュースやインターネットを見ているから分かっているとは思うけど、いよいよ時間が無くなって来た。ISによって日本が大荒れになるまでの時間が」

 

「日本が大荒れに……!?」

 

「あぁ。今の日本は例えるなら火のついた火薬庫同然の状態。何かの引き金で国を巻き込んだ争い事が始まると言える。女尊男卑と言う社会風潮が蔓延していたこの国だったけど、IS学園で発生した襲撃事件でISの在り方に疑問視されるようになった。今まで競技用パワード・スーツと言っていたのが、ここに来て兵器として運用されていたって事実が隠蔽されていたんだからな」

 

 21の国と地域が参加して成立したアラスカ条約に基づいて日本に設置されたIS学園。それが設立したのは割と最近であり、当時政権与党だった民進党(今は野党第一党)が大きく関係していた。

 民進党はIS学園を設立する為に犯罪じみた事を平気で行った。様々な団体や有名人から多額の支援を受け、今の政権与党の自民党を打ち破り、政権与党になって最初の仕事としてIS学園を設立した。

 彼らはISを兵器として認識していたが、戦争や兵器に関して過剰なアレルギーを持っている日本人を納得させる為、ISを競技用パワード・スーツと偽ってまでIS学園を設立させた。これはISの技術を独占的に保有していた日本への情報開示とその共有に応える事が表向きの理由だった。

 では本来の目的は何か。それはISに関連する人材を育成させると共にISのデータ収集を行い、IS開発を行いながら莫大な利益を得る為。その得た利益は自分達を支援してくれる人々に渡す。

 当時“白騎士”の操縦者が女性である事が分かっていた為、民進党の支援者の女性達は一生遊んでくれる程の大金を手にしながら、このように言いふらした。“ISを動かす事の出来る女性の方が優れていて、ISを動かせない男性は劣っている”と。

 その考え方が何時の間にか人々の間に撒き散らされ、それが社会風潮となって今の世の中になった。それが“女尊男卑”と言う名前の歪みの正体だった。

 

「それを隠蔽したのが当時の政権与党だった民進党。奴らが今の世の中を築き上げた元凶って奴だ。この事実は未だに公表されていない。と言うか出来ない。今公表したら何が起きるか分からないぞ」

 

「このまま何れにしても内乱が起きる……それを見逃す諸外国じゃない。ISの技術を手に入れようと内乱に乗じて手を出して来るに決まっている」

 

「そうだな。だから俺も本腰入れて動かないといけない。今のIS学園は外出自粛と連日の世論からの批判に晒されて身動きが取れない。ならば俺が動くしかない」

 

「何をするんですか?」

 

「決まっている。今週の土曜日にある学院祭に招待する純一君に話をするんだ」

 

 『私立鳳凰学院』で平等院佐智雄が動き出す事を決めたのと同じ頃。女尊男卑派を追放したIS委員会が新体制となって動き始めた。

 その新体制の中心にいるのは元管理官で執行官となった元IS学園OGの沖田美紀と、平等院財閥派のスコールこと巻紙礼子。彼女達は反女尊男卑派であり、原点回帰を掲げる事を記者会見で堂々と宣言した。

 最初に行った事はIS委員会にいる女尊男卑派の取り締まり。これまでIS学園の運営に関わっていたとされる女性権利団体とIS委員会のメンバーの名簿、及びその証拠となる書類等が公表された。

 IS委員会は女尊男卑派の役員達を全員追放する事を発表すると、世論はこれを見逃す筈が無かった。IS委員会の対応に評価を下し、女性権利団体とIS委員会の女尊男卑派に攻撃の矛先を向けた。

 この頃学年別クラス対抗デュエルトーナメントの現場監督をしていた女性権利団体のメンバーが逮捕されたと言うニュースが報道され、その女性達は現金の持ち逃げ等の沢山の犯罪を犯していた事が明らかになった。

 その女性達は裁判にかけられる事になったのだが、学年別クラス対抗デュエルトーナメントの観客達による誹謗中傷や卵投げ攻撃等、とにかく散々な目に遭っているらしい。

 そして犯した犯罪が複数あって世論からの反応もある為、必然的に厳罰が下される事が目に見えていた。目の前の利益を追い求め、感情のままに動いた末路。因果応報と言う事実を受け入れる事しか出来なかった。

 

 

 

 同好会活動を終えた純一は校庭の中庭でスマホ越しに話をしていた。その相手は平等院友希那。今週末に行われる学院祭に純一を招待する上で、一度直接会って話をしたいと言う理由で、純一に電話をかけてきた。

 

「僕とナタリアさんに来て欲しい?」

 

『えぇ。明後日から始まる学院祭に純一君をゲストとして呼ぶ話は前にしたけど、前に純一君の話に出たナタリアさんにも興味が出て来たって話は前にしたよね? だから学院祭に純一君と一緒に呼ぼうかなと思うんだけど、その前に一度会いたいと思って……』

 

「成る程。場所と時間は?」

 

『場所は“椿園”と言う料亭。時間は明日の午後6時30分に予約を入れたわ』

 

「“椿園”……ですか!?」

 

『えぇ。そこならお忍びで会えるでしょう? それにまさかIS学園の人も“椿園”に行くなんて思いもしないでしょうし』

 

 “椿園”と言う料亭は由緒正しい料亭であり、世界的にも有名な高級料亭として知られている。純一ももちろん名前を知っているが、友希那から聞かされた時は流石に驚きを隠せないでいた。

 “椿園”はかなりの金持ちや政治家でないと予約が取れないと言う噂があるからだ。純一も父親の洋介と共に使った事があるが、その時は取引先の大企業との食事に付き合ったりした程度だった。

 過去に3回日本で行われた先進国首脳会議、もといサミットの社交晩餐会を担当した経験もあり、今でも政界や財界の有名人や外国要人の接待に使われている。

 

「分かった。ナタリアさんには僕の方から話をするよ」

 

『お願いね。神楽さんとナターシャさんには話は通しているから』

 

「はい、では当日はよろしく」

 

『えぇ。お休みなさい』

 

「お休み」

 

 当日は純一とナタリアの他に、神楽とナターシャも参加する事になっている。純一は友希那から神楽とは親友の間柄である事を聞いて驚くと共に、彼女が平等院財閥の密偵としてIS学園に入学していた事には呆然となった。

 

 

 

 料亭“椿園”。それはIS学園の大半の人物が立ち入れないような高級料亭。その料亭の一室にIS学園の面々がいた。

 黒田純一。ナタリア・スアレス・ナバーロ。四十院神楽。ナターシャ・ファイルス。学年別クラス対抗デュエルトーナメントにおいて、1年5組の元出場メンバーとその担任。更に言えば『遊戯王』同好会、『チーム・サティスファクションズ』の中心メンバーと顧問。

 この日彼らは同好会活動を早々に切り上げ、ナターシャの車で料亭に来ている。純一は久し振りに訪れた料亭の雰囲気に浸っているが、ナタリアとナターシャは何処か居心地が悪そうにソワソワしている。

 

「な、何か凄い違和感しかないです……」

 

「私こういう所始めて来るから慣れないのよね……純一君と神楽さんは大丈夫なの?」

 

「はい。僕は何回かここに来た事があるので大丈夫です」

 

「私もです」

 

「こ、これが旧華族出身と大企業の跡取りのパワー……!」

 

 ナタリアとナターシャの2人は日本の高級料亭に入る事は初めてであり、早く『私立鳳凰学院』の人が来ないか待っていた。

 すると、襖が開いて4人の人物が入室してきた。平等院佐智雄と友希那と零児の平等院兄妹、そして彼らの父親である平等院十次郎。

 

「大変お待たせして申し訳ありませんでした。初めまして、平等院十次郎と言います。今日はどうぞよろしくお願いします。こちらは私の子供達です。佐智雄、友希那、そして零児です」

 

 筋骨隆々で強面だが、声がとても優しいと言うギャップが特徴な男性が平等院十次郎。現在の平等院財閥のリーダーであり、佐智雄と友希那の父親。零児とマドカには義父と言える存在である。

 父親に促されるように佐智雄と友希那、零児の3人が一礼すると、純一達もそれに応えるように頭を下げる。

 

「これで皆さん揃いましたね。さぁ楽しい宴会の始まりと行きましょう」

 

 飲み物と食事を注文して一通り来た事を確認してから全員で乾杯すると、IS学園と『私立鳳凰学院』の垣根を超えた宴会が始まった。

 ナタリアとナターシャは最初こそ緊張していたものの、時間が経つにつれて緊張やぎこちなさが無くなっていった。

 

「ナタリアさん。純一君から話は聞きました。彼が入院している間に同好会を設立したと。今回招いたのも是非貴女の事を聞きたいからなんです。明後日の学院祭の話は聞きましたか?」

 

「あ、はい。特別に招待させて頂けると……でも私なんかで良いんですか?」

 

「もちろん。貴女の行動力は凄い物を感じました。スペインの代表候補生なんですよね? 代表候補生に上り詰めるのは素晴らしいです」

 

「いえ、私はたまたまISを動かせるのが上手だっただけです。それに専用機ももらえない中途半端な立ち位置です。私は、恐らく今回の一件で代表候補生を首になってもおかしくありません。そうなったらISしかなかった私の居場所は何処にもなくなるでしょう」

 

「ナタリアさん……」

 

「だってそうでしょう? 今回の件でISは兵器として見なされるようになった。毎日テレビで言っていますよ……“IS学園は人殺しの道具の使い方を教える軍学校だ”、“女尊男卑の育成所だ”って」

 

 今回の一件によって世論からの批判を受けているIS学園。そこに在籍している女子生徒達の中には、将来に不安を感じるようになった者が続出するようになった。

 ナタリアもその一人だった。話を聞いた純一はともかく、ナタリアの気持ちを聞いている面々は静かに耳を傾けている。

 

「私は何をやっても駄目でした……勉強もスポーツも人並みで、人より優れている所なんか何一つありませんでした。でもISを動かせた事で世界が変わりました。代表候補生まで登り詰めたんです。……でも今回の一件でどうすれば良いか分からなくなって……だから自分に出来る事をやって、自分の世界を変えていこうと思ったんです」

 

「それで良いと思う。俺はIS学園の状況とかニュースで見る程度だから、ナタリアさん達が置かれている環境とか詳しい事は分からない。けど、自分でどうにか行動して世界を変えようって言うのは凄い事だと思う。考えているのと行動するってのは全然違うからね」

 

「ナタリアさん。だから私は貴女を招待しようと思ったんです。自分の進むべき道が分からない人に少しでも世界を見せてあげたい。そう願って……」

 

「友希那さん……」

 

「無理にこっちに来いとは言いません。でもこのままIS学園にいても何も変わりません。自分に正直になって何をしたいかを真剣に考える中で、色々やってみても良いと思います。少しくらい夢……見ても良いじゃないですか」

 

「そうですね……やっぱりここに来て正解でした。ありがとうございます」

 

 平等院兄妹と話をしていく中で、ナタリアの表情が憑き物が落ちたように晴れ晴れとした物に変わっていった。

 今回の事件で自分の将来が分からなくなり、不安を抱くようになったナタリア。自分の行動を肯定してくれる人がいる、自分は一人じゃないと言う自信を手にする事が出来た。

 

「そう言えば友希那さんと零児さんって純一君と親しそうですが、前に何処かで会った事があるんですか?」

 

「あぁ……俺はこの前カードショップでフリー対戦した時に知り合ったよ。終わった後にカフェで話している間にお互いの事が分かってつい意気投合したんだ」

 

「そうそう。いや~まさか平等院財閥の人とは分からなかったよ~」

 

 零児は多少事実を捻じ曲げてナタリアに伝えると、純一も若干苦し紛れではあるものの助け舟を出した。

 まさか自分を試す為にIS学園の敷地内に侵入したなんて口が裂けても言えない。とは言えど、その様子を知っているのは純一と零児の2人だけなのだから。

 

「友希那さんとは?」

 

「私は中学生の時になるわね……純一君が私を対戦に誘ってくれた。そこから始まったの」

 

 友希那はナタリアに話し始める。自分と純一の出会いを。それは今から数年前に遡る。純一と友希那が中学生だった頃。とあるカードショップで彼らは出会った。

 そのカードショップに純一はシングルカードとスリーブを買いに来て、お目当てのカードとスリーブを購入して店を後にしようとした時、純一は対戦スペースで一人ポツンと座っている少女が目に入った。

 

「……店員さん。彼女、一人でいますけど大丈夫ですか?」

 

「あぁ、彼女ね……週に2,3回のペースでここに来ては対戦相手を探しているけど、綺麗な女の子だから誰も近付こうとしないんだ。ほら、女尊男卑の世の中だろう? だから近付きにくくて……」

 

「ちょっと対戦出来るか声かけてきます」

 

「あぁ。普段だったら俺達店員が相手してやっているけど、今は忙しくてね……頼むよ」

 

 その少女は如何にもお嬢様と言う雰囲気を放っていた。黒髪ロングの美少女。スタイル抜群で普通だったら色んな男性に声を掛けられそうだが、女尊男卑と言う社会風潮から逆に避けられている。女性に手を出して変な事に巻き込まれたくない。

 しかし、純一は女尊男卑と言う社会風潮に全く動じる事はない。少女の所に近付いて優しく声を掛けてみた。

 

「君、一人かい? 対戦相手探しているんだけど大丈夫?」

 

「あっ、はい! 大丈夫です……」

 

 これが切っ掛けで純一と友希那は仲良しになった。フリー対戦をしたり、連絡先をお互いに交換し合って電話やメールのやり取りをしたり、カフェでお茶をしながら『遊戯王』の話をしたりして仲を深め合った。

 純一がIS学園に入学してからは疎遠になったが、デュエルディスクが登場してからは今まで以上に話すようになった。

 

「最初の友希那さんはお嬢様と言うか、人形みたいな感じだったけど……何か話している間に少しずつ自分を出せるようになって、少しずつどういう人なのかが分かって来たよ」

 

「純一君には話してなかったけど、実は俺達の中で最初に『遊戯王』を始めたのは友希那なんだよ。アニメの『VRAINS』に出て来るゴーストガールが使う【オルタ―ガイスト】って言うデッキを組みたくて始めたんだけど、俺や零児は遊んであげる時間が無かった。だからカードショップに行って相手を探していたんだけど……」

 

「女尊男卑の世の中。しかも美人なお嬢様。誰も近付きたがらず、毎回店員さんとやっていて申し訳なく思っていた所に純一君が声を掛けてくれた。最初の頃の友希那は凄く落ち込んでいてネガティブだったけど、純一君が声を掛けてくれたおかげで『遊戯王』をやっと楽しめるようになったんだ。だから本当に感謝しているんだよ。純一君がいなければ今の義姉さんはいなかった。そう言い切れるくらい」

 

「あの頃の私は本当に弱かった。カードの効果を間違えたり、タイミングを間違えたり、プレミも多かった……でも純一君に追い付きたい、いつか恩返しをしたいと思って頑張っている内に大会に優勝出来た。やっと純一君と同じ場所に立てるようになったって嬉しくなったの……」

 

 友希那は平等院財閥のお嬢様として、礼儀作法や言葉遣い等の全てが上品で完璧である事を求められて教育を受けてきた。

 しかし、彼女は偶々見た『遊戯王VRAINS』で『遊戯王』に嵌ってしまい、大好きなキャラが使うデッキを作った。家族で当時やっていたのは自分だけだった為、カードショップに行って対戦相手を探したが、中々見付からずにいた。

 言われたことをしてるだけ。空っぽで、退屈で、楽しくないのに笑ってて、何もかも嘘だらけな毎日。そんな日常を変えてくれると思ったカードゲーム。でも対戦相手が見つからず、不満足な日々を送った。

 そこに現れたのは黒田純一。彼と対戦していく中でモチベーションが上がり、経験を積んでいく中で自然と強くなった。大会で優勝出来るくらいに。それも全て純一との出会いがあったから。

 

「だから私は純一君に恩返しがしたい。デュエルディスクのモニターを呉島社長にお願いしたのも、学院祭に招待したのも全部純一君の為。私は純一君のおかげで変わる事が出来た。前に進めるようになった。強くなれた。だからその証を純一君に魅せたい! そう願った……例え間違っていたとしてもこの思いは絶対に譲れない……」

 

「友希那さん……ありがとう。明日の学院祭、一緒に盛り上げようね」

 

「はい!」

 

 友希那の真っすぐな思いに当てられたのか、純一は言葉を失う事しか出来なかった。自分をそこまで大切に思ってくれていたのか。自分の為にそこまでしてくれるのか。

 純一は俯けていた顔をゆっくりと上げて友希那にお礼を言うと、友希那は心底素敵な笑顔を浮かべて答えた。

 

 

 

「さてそろそろ肝心の学院祭について話そう。先ず明日・明後日の2日間に渡って開催される学院祭で、午後にエキシビジョンデュエルがプログラムに入っている。その対戦相手に純一君を招待しようと思って、今回声を掛けたんだ」

 

「純一君と神楽には話していたけど、私は『私立鳳凰学院』のデュエルディスクのモニター。そもそも今回のデュエルディスクの開発の援助は平等院財閥がけっこう出資していて、援助の代わりに純一君をモニターにするよう頼んだの」

 

「と言う事は純一君がモニターになるのは決まっていたんですか? えぇ~何か凄いです……」

 

「言ったでしょう? 純一君に恩返しがしたいって」

 

「な、成る程……そう言えばそうでしたね。と言う事は、IS学園と『私立鳳凰学院』のデュエルディスクのモニターによる、正に頂上対決……!」

 

 良い感じの雰囲気になると、ようやく本題に入る事となった。『私立鳳凰学院』の学院祭は土・日の2日間に渡って開催される。

 その午後にデュエルディスクを用いてエキシビジョンデュエルが行われるが、平等院財閥の面々は純一を招き、デュエルディスクのモニター同士の対戦を実現させようと考え、純一に声を掛けた。

 つまりこのエキシビジョンデュエルはデュエルディスクのモニター同士の対戦以上に、IS学園と『私立鳳凰学院』の代理戦争の意味合いがある。とは言っても純一はIS学園の代表ではなく、あくまで同好会の代表としての参加なのだが。

 

「生徒会長として言わせてもらうけど、これ企画したのは俺だからな? それにそもそも俺はIS学園と鳳凰学院、どっちが強いかを競うつもりはない。あくまでこれはIS学園と『私立鳳凰学院』で友好関係を築く第一歩として企画した。出来ればこれを足掛かりに、こっちの同好会と交流試合でも出来れば良いな……」

 

「そちらも同好会があるんですね」

 

「あぁ。まぁそれは後々に。先ずは明日のエキシビジョンデュエルが少しでも良い物になる事を願おう」

 

 IS学園と『私立鳳凰学院』で友好関係を築く意味も込めて語り明かした一行。後にこの2つの高校は不可侵協定を結び、友好関係を築く事になるのだが、それはまた別の話だ。

 

 

 

 翌日。俊介と比奈に後を任せてナターシャの車で『私立鳳凰学院』に向かった一行。純一は『鳳凰学院』の生徒会の面々と共に音響を調節したり、デュエルディスクに不備が無いかどうかをチェックしている。

 

「定位置はどうしますか?」

 

「ステージ側から見て友希那の前に純一君にしようかなと思う。友希那に純一君が勝負を挑むと言う演出にしたいから。それとソリッドビジョンの問題で少し場所は広めに確保してくれるかな?」

 

「了解です!」

 

「友希那さん、音量はこれくらいが良いですか?」

 

「ごめんなさい、もう少し下げてもらえるかしら? ここは音が反響しやすいから音は少し小さめの方がちょうど良いの」

 

 エキシビジョンデュエルの会場は多目的ホール。全校集会や舞台演目、発表会等が行われる時に使用されている。もちろん使用許可を貰っており、準備を進めていた。

 大人数を収容する事が出来るだけでなく、2階や側面にも観客席が設置されている、大きなコンサート会場と言える建物である。

 準備が終わってから30分後の正午。エキシビジョンデュエルの入場が始まった。事前に宣伝していた事もあって、エキシビジョンデュエルに興味関心がある生徒達や『遊戯王』が大好きなデュエリスト達が次々と詰め掛けた。

 瞬く間に座席は満杯になり、立ち見をするお客さんもチラホラ現れる事となった。ちなみにエキシビジョンデュエルに純一が来る事は生徒会の面々しか知らない為、一般生徒から見ればサプライズゲストと言う事となる。

 多目的ホールの一室。そこでは真剣な表情を浮かべながら、スーツ姿の純一がデッキを調整していた。その表情とオーラは誰も寄せ付けず、一人静かにカードを1枚1枚見ている。

 今回使うのは【ドライトロン】デッキ。この前虚に後攻1ターンキルを決められて敗北してから、ずっとデッキ調整と対戦を重ねて使い方や構築を見直し続けた。全てはこの日の為に。全ては友希那に勝つ為に。

 

「会場の様子を見て来たけど、満員御礼で凄い熱気だ……」

 

「これは気を引き締めないといけないわね……」

 

「義姉さん、そろそろ時間だ。純一君はスタンバイしている」

 

「分かったわ。今行く」

 

 公輝が会場の様子見から戻って来ると、友希那は表情を引き締めた。流石に緊張を隠せないでいる。何しろ初めて大勢の人の前でデュエルする事になるのだ。誰だって最初は緊張するのも仕方ない。

 零児の指示を受けた友希那。黒いドレスを着た女王は舞台へと上がり、打ち合わせの通りに位置に付いた。観客席と舞台の間は三重ものカーテンによって遮られているが、観客席の喧騒はしっかり聞こえている。

 話し声等の騒めき。期待と衝動を内包した嵐の前を思わせる静寂。深呼吸をした友希那の心で闘志が燃え上がり、興奮が高鳴る。これから挑む相手は自分の恩人にして客人。久し振りのデュエルに胸の昂りを抑える事が出来ない。

 

「準備が出来ました。いつでも出来ます」

 

『皆様、大変長らくお待たせしました。これよりエキシビジョンデュエルを開始致します』

 

 友希那がイヤホンマイクを通して準備完了を告げると、ブザー音が鳴り響いた。その音が鳴り止んだ事を確認し、観客席側のアナウンスを担当している放送部の生徒がマイクを通してエキシビジョンデュエルの開始を宣言した。

 幕が上がり、左腕にデュエルディスクを付けた黒いドレス姿の友希那が姿を現した。彼女の目の前に広がるのは満員御礼の観客席と自分を見る観客達。

 

『この場所に集いし皆様、これより始まるのはデュエルディスクを使った熱きデュエル! 台本ややらせも無い真剣勝負。白熱した攻防を見逃さないように! 対戦するのは平等院友希那!』

 

『そしてもう1人は……スペシャルゲスト! 今回の為にはるばるIS学園から来たこの男! 黒田純一!』

 

 名前が告げられて手を挙げて応える友希那に、観客達は声援と拍手を送る。最初は緊張でぎこちなかった表情も自然と柔らかくなっていく。

 続けて告げられた対戦相手の名前に観客達は大きくどよめき、歓声と拍手を送る中、純一はお辞儀をしてから登場した。

 

『2人共準備はOKですか?』

 

「えぇ。何時でも大丈夫よ?」

 

「こっちも大丈夫です。さぁ満足させてくれよ!」

 

『行きます! せ~の!』

 

『デュエル!』

 

 『私立鳳凰学院』の多目的ホール。この場所で純一と友希那の約2年ぶりとなるデュエルが幕を開けた。お互いに大会優勝経験者同士。ハイレベルなデュエルが期待出来る。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。


・女尊男卑の社会風潮

 今回はその原因を自己解釈してみました。束博士が自作自演で行った白騎士事件を政権与党だった民進党が利用した事にしてみました。
 『仮面ライダー鎧武』の戦極凌馬がミッチに言った名言を参考して考えてみました。悪い大人に利用されたと言う感じで。


・新生IS委員会の仕事

 これはいつか書いていこうかなと思います。例えばIS学園にいる女尊男卑思想主義者の追放とか。


・椿園の元ネタ

 今回登場した料亭の元ネタは『船場吉兆』です。十年以上前だったかな? 色々とやらかした事で有名な。


・迷走気味なナタリアさん

 次章で何かしらの答えを出しますが、今はまだ悩みます。

次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

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