もてもてドクター (雅裕)
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二アール

敗北してない女騎士がすきです。
というわけでドクターとくっつかせます。うちの世界線の二アールさんはこうなので、その体でよろしくお願いします。


「御機嫌よう、ドクター」

 

突然だけどうちのロドスに元騎士がいる。だけどその威厳あふれる姿は今でも騎士のそれだ

彼女に幾度か救われた者も少なくない、もちろん私も。いや私が一番救われてる

その故あってか、近づきがたい雰囲気が自然に身にまとうようになった

みんながニアールに対する目は、なにか恐ろしいものではなく、半ば神格化された存在を拝むそれに近い

そんな彼女には当然のように信頼を寄せているが、一つだけ、思う所がある

 

「どうかしたか」

 

距離が近いのだ。ドクターの身長が低いわけではない、それでも身長差があまりないのだ

なんなら息がかかりそうなのだ

 

「あ、あぁ...ごめん、少し考え事をしてた」

 

そのような流れでは理性に悪い。そう言うと周りの目を気にして一歩彼女から距離を取った

 

「たまには休暇を取ったらどうですか」

 

そう言うと一歩前へ。取った距離を埋め...いやもっと近くなった

 

「果たしていつになるかな」

 

とりあえず歩き出した。特に行先はないけれど、いつまでもあの距離では黄色い噂が立ちかねない

『うちのコミュ障ドクターがあの女騎士を堕としたぞ』『やっぱニアールさんだし仕

方なく付き合ってあげてるんじゃない?』

などと言われた日には首を吊る。本人への評判も変わってしまうだろう

しかし気づけば他愛のない会話をしていた、距離感そのままで

今のニアールはあの鎧は付けていない、黒のワンピースに近い普段着だ

ついに肩がぶつかった。すぐには言わなかったが、少し歩きだしてから聞いた

 

「...どうしてそんなに距離が近いんですか」

 

歩き出したのが間違いだったか...?

 

「...?」

 

珍しくきょとんとした顔のニアールさんが見れた、初めてかもしれない

 

「ご、護衛...です」

 

何を言ってるのかわからなくて脳内パニックだが、とりあえずそうか、とまた歩き出した

どう反応すればいいかもわからず、またいつもの話に戻っていた

ふと「ドクターは彼女などいらっしゃるのですか?」と

騎士様らしからぬ質問がやってきた。やはり高貴な方であれど、下世話な話が好きなのかと一瞬思うが

今はそれより質問の内容に気を配る必要があった。本来ならさらっと答えてるはずの質問だがドクターは違う

なぜなら彼は”女性経験が一切ない”のである。覚えていないのではない、非陳述記憶とでも言うべきか

魂が語りかけてくるのだ、そればかりか己は童貞であると

ここで素直に答えてしまえばドクターの名が廃れる、仮にも皆の上司だ、これが噂となり

『うちのコミュ障ドクター、あの女騎士堕とした割には童貞らしいよ』『やっぱニアールさんだし仕方なく付き合ってあげてるんじゃない?』

などと言われた暁には首を吊る

 

「あー。ないよ、"今は"」

 

体が覚えていたのか、あるいは前世の知恵か、どんなことであれ『今は』と付け足してしまえばあだかも

過去はあったように見せかけられるという技をドクターは知っていた

 

「そうですか」

 

瞬時的にニコラ・テスラをも凌駕するIQを働かせ理性と引き換えに出した答えがたった一言で片付けられてしまった

しかしニアールの顔には、どこか安堵したような顔が浮かんでいるのを、ドクターは未だ気づかないでいた

ふと隣で歩いてる彼女に目を逸らす

ここと戦場とはまるで別世界だが彼女はどこまで変わらない貫禄を通している

当初騎士といえばヴィクトリアの叙事詩にあるように、手で握りつぶしたじゃがいもをマッシュポテトと言い張るゴリラばかりが跳梁跋扈するのかと思いきや、彼女を一目見ればすぐにその偏見が地平線のかなたに飛んでいった

やだもうかっこいいに凛々しいにて最強かy...

 

「ドクター...?!」

 

などと、先ほどの反動か下心の入った考えが脳裏を逡巡するうちに、壁に顔をぶつけてしまった

 

「やはり、様子がどこか変だ、一度診察を受けてはどうでしょうか」

 

変にさせてる元凶はすぐ目の前にいる。とでも言いたいがやめた

 

「ううん、大丈夫。まだ書類残ってるから、僕はここらで失礼するよ」

「あぁ...ドクター」

 

足早にその場を引こうと片足を方向転換させたとき、呼び止められた。

 

「ドクター、その...コホン、事務室に入らせてはいただけないだろうか」

 




意外とむずかしい....。こんな調子で書きますよろしくお願いします


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ニアール!

前回の続きになります。本当はもっとね、肉体的にいちゃつかせたいんだ。
うちのドクターは純情派らしい。


「大変助かる、ここには大量の蔵書があると聞いているので」

 

まさかと童貞ドクターは思っていたが表情に出ていたのか、

ニアールは急いで弁明した。

今は自分の席から見て左斜め前の来客用のソファの腰を下ろしている、普段そのような方がここロドスに来ることは少なく、実にそこへ人が座ってるのを見たのは久しぶりかもしれない。

向かいの低いテーブルには他にもいくつか、歩兵戦術や鉱石病研究入門発展。前は大量に読んでいたらしい書物を未だ溜め込んではいても今や読んだって点でわからなかった

しかしさすが、文武両道にそれらはわきまえているようで、彼女は本に集中している

 

「. . . . 」

 

と思ったのも束の間のようで、気づけば開かれた本は膝に置かれていて、少し俯いた顔になにやら視線だけはこちらを向いていた

目が合った、しかし特段話すこともなく秒針が刻まれる、しびれを切らしたのか相手からこちらに話しかけてきた

 

「何か用ですか」

 

こっちのセリフだよ。

 

「いや特に」

「何をされてるんですか」

「昨日の書類」

「何かお手伝い致しましょう」

「大丈夫」

「ですがこの量です。私と分割したほうが効率的ではありませんか」

「いいや、大丈夫」

 

大丈夫なはずがない。善意を踏みにじるのも柄ではない。

しかしそうまでして断る理由は一つあった。

ペットボトル一本分の高さか、積み上げられた書類は100枚で一センチならざっと2000枚は下らない。どこからかふって湧いて出てくるのだ。

しかしその絶望的な高さの裏に、そこだけは機転が利くのか、ドクターはそこへタブレットを隠した。映画を垂れ流したタブレットを書類の裏に隠したのだ。真に都合がよいとでも言うべきか。この具合にサボらないと理性崩壊片道切符なのだ。

しかし当然だが、迅速にタブレットをしまえない以上、見つかればあとはない。だからこそ誰にも見られてはならないのだ

 

「書類程度ならそつなくこなせるはずですが」

「本当にうれしいけれど、遠慮する」

「しかし....」

「一人でやるのが好きなんだ」

「毎日あれほど嘆いて...いえ...なにも」

「....わかりました、そこまで言うのなら」

 

良心は痛むがやっと諦めてくれるらしい。

今タブレットで流れてるのは少し古いが有名な映画だ。主人公がどん底から人気者に成り上がる過程が面白くて、見るのは二回目になる。ちなみにエフイーターは出演してない。音は流せないが、字幕がある。無問題

 

「なるほど...そういった映画がお好みで...」

 

沈黙が流れた。背もたれに手をかけ、興味深そうにタブレットを覗いていた

 

「あー....」

 

左に振り向くと目が合った。

 

「どうしてここにいるんですか」

「書類に感動の涙を流す人は初めてお目にかかりました」

「どこから見てたんですか」

「ビクターが空港を出るところ」

 

一番いいシーンじゃねえか

 

「あの、このことは...!」

「どうでしょう」

 

何かを察したニアールは微かにニヤついていた

 

「...よいな?」

「はい...」

「やはり作業は二人で分割したほうが合理的だ」

 

そう言ってニアールは壁に寄せられている予備の椅子を自分の隣に置いた

相変わらず距離は近いが、肘が当たらない程度には離れている。

確かに枚数にして2000枚積みあがっているが、書類としてホチキスに止められているものばかりだ、この量ならば彼女の言うとおりである。

 

「...秘密にしてもらえないですか」

「何故ですか?」

「あー...そりゃ上の立場として...」

「でも本当は?」

「本当もなにも...」

 

返事の代わりに、彼女はただこちらを横目に微笑んだ

 

「アーミヤやケルシーに没収されるから...」

「最初からそう言えばいいのに」

 

返す言葉が見つからない。

 

「では、二人だけの秘密だ」

 

そう言うニアールはどこか嬉しそうだった

 

「それならもう少し、私を頼ってくれ」

「...頼らないとどうなる?」

「どうなるでしょう?」

「バラされる」

「ならきちんと、頼りにすることだ」

 

素直に返事ができず、頷く代わりに書類にせっせと手を付ける。正直ニアールさんはそんな人ではないと思いたい。

映画は流れたままで、気づけばエンドロール

 

「どうして...そんなにも親切にしてくれるんですか」

 

そう聞くと、少しの間沈黙が流れた。書類を書き進めながら、その返事を待つと、聞こえるのは早まる筆の走りばかりだった

 

「...言わなければダメか?」

「まぁ...でも教えてほしいかな」

 

そう言うと自分の手を止め彼女の方に顔を向けた

 

「あまりこの手の事は慣れてない。たからその...」

「だから...?」

 

ニアールは一つ咳をつくと、顔をこちらに向けた。口をもごもごと閉じながら、少し俯いて、視線だけはこちらを見ていると思いきや、どこかそっぽ見てる

 

「言えない」

「どうしてですか」

「言う理由がないではないかっ」

「"気になるから"は理由にならない?」

「無論だ。ただ、どうしてもと言うならば...」

 

言い淀んでる。紅潮した顔に、勘が鈍いドクターでもわからなくても察してしまうだろう

 

「どうして伝わらないだろうか」

「...?」

「元々稽古一辺倒で、こんな体験初めてでどう接したらいいかわからなくてずっと私は...!」

 

少しずつ、彼女は次第に早口になった

 

「やはりどこか距離感を間違えているというべきか、不用意に近づいて周りの目が見えなかったりとか」

 

彼女は何かの弁明を始めた。訴えかかってきてるようにすら思えてきて、普段の騎士様では考えられないような仕草が目の前で起きている。夢でも見ている気分だが、いま彼女は耳まで顔を真っ赤に染めながらなぜか必死に普段の態度立ち振る舞いのわけを説明している。

 

「つまり...?」

「つ、つまり、私はドクターのことが...その」

「僕のことが?」

「す......」

 

忙しかった動作も終わったようで手を膝に乗せスカートをぎゅっと強く握っていた

深く俯いて何を言っているか、唇の動きを見ることぐらいしか伝わる術がない

それでも勇気を出したのなら、しっかり答えを返さなきゃいけないことぐらいドクターでもわかってる

 

「その....ありがとう」

「ど、どういたしまして...?」

 

俯いていた顔が上がった、なにかを待っているような、あるいは終わってしまったかのようななんとも言えない表情をしている

 

「僕も好きだよ」

「___っ」

「ド、ドドドクター!私も故郷を追われた身であれど元は一介の騎士だ、その騎士にかくもそのこ、ここ告白などは主であれど聞き捨てはならん!」

 

言い始めたのはどちらか。

 

「だがその....ありがとう。これは騎士としての私ではなく、マーガレット・ニアールの出した答えだ」

 

彼女は目を合わせ、手を上から重ねた。やっと落ち着いたのか、いつもの調子に戻った。その表情は安堵で満ちているようであった

 

「あー...コホン、今日は一度これで失礼しよう。お邪魔したな」

「ううん、手伝ってくれてありがとう」

 

そう返すとニアールは席を立ち椅子をもとの位置に戻した。しおり綴じした本を返すと、執務室のドアノブに手をかけた。それを引くと、振り返りこう言った

 

「明日もお邪魔して良いだろうか」

「いつでもおいでよ」

「感謝する」

「いつでも頼りにしてるよ」

 

ドアが閉じる瞬間、彼女に向けてそう言った。聞こえるかはわからないが、これも自分の気持ちだ。この際聞こえてるかは関係ない。ドクター自身が、言いたかったこと

だったのだから

 

 

その後は毎日のようにニアールは執務室へ足を運ぶようになった。

ついに「『うちのコミュ障ドクターがあの女騎士を堕としたぞ』『やっぱニアールさんだし仕方なく付き合ってあげてるんじゃない?』などと噂が飛び交うようになったが、首を吊ることはないし、ニアールは聞かなかったことにした。




好意を寄せる過程は省きます。

ニアールさんは初見から好きだったんです、運命感じましたね。しばらく当てられませんでしたが。

ありがたいことに前回のお話、誤字報告してくださった方がおりまして、どうやらニアールのニがことごとく漢数字の二だったそうで...失礼しました。

一応これでニアール編はまたにしといて、次は別の世界線で別の誰かとくっつかせたいな。シャイニングにでもしようか


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シャイニング

初めて当てた☆6がシャイニングさんだったんですよ。
というわけなのでドクターとくっつかせます。うちの世界のシャイニングはこうなのでその体でよろしくお願いします


「なんだか静かですね」

 

 秒針と紙の擦れる音、それ以外なにも聞こえないこの部屋で声はぽつりと雫のように垂れる

 彼女も静かなのは嫌いじゃないらしいが、それでも少し気まずいのか先にシャイニングが話しかけた。

 なにも意図してこうなっているわけでもなく、単に話す話題用意してなかったがゆえにこうなる

 

「そうだね、昼間はあんなに人が出入りしてたのに」

「ええ……これほど静かになるのは今でも違和感を覚えますね」

「でも、これほど静かだと退屈じゃないの?」

「いいえ…、私は…ここに居るだけで充分です」

彼女は微笑みながらそう答える

 

やはり誰もいない方が落ち着くのか、シャイニングはこの時だけ微笑みを見せる事がある

いずれにせよ、時針は0時を指してる。ほとんどの職員は寝てるし、騒がしい方がはた迷惑だ

 一方でドクターは底冷えする部屋で未だ終わりが見えない事務作業に心を削られ、精神崩壊まで秒読みである。実のところロドスが抱える闇は大きい

 

「就寝……なされないんですか?…お体に障りますよ」

 

 心配してくれているのか、こんな時間までシャイニングは付き添ってくれている

終わる気配がなくても、そこに彼女がいるならまだ辛抱ができる

 

「シャイニングは寝ないの」

「私は大丈夫ですよ…それよりドクターは」

「まだやる事があるんだ。今に終わるよ」

「……普段どこで寝ていらっしゃるのですか」

「そこだけど」

 

 シャイニングの座っている1つ向かいのソファ、そこを指さすとまた作業に戻った。

 今に終わると言って終わらない、今は終わりたくても終えられない。

 昨日は何時に寝ていたか、どのような体勢で寝ていたか、ドクターはハッキリとは思い出せない、だけれど昨日もきっとこの時間で、同じ気持ちでここに座っていた

 

「…昨日から一睡も居ていないのではありませんか?」

「どうして。僕でも覚えてないのに」

「ずっとあなたの傍におりましたから」

 

 だそうで、ならば昨日と同じことをするまで。実にドクターは単純な男であった

 

「そろそろ……寝てはどうでしょうか」

 いつまで経っても終わらない作業に、シャイニングはしびれを切らしこちらを見ている

「……まだ」

「寝てください」

 

 穏やかだった声が、些かでも突然と力が入っているように思える、

 思考停止していたドクターの耳に届くには充分だった

 

「疲れているあなたを見るのは…心が痛いのです」

「…………」

「ベッドはないんですか……?」

「ない」

「でしたらソファでも構いません、どうか睡眠を……」

「明日の書類がある」

「……頑固な方ですね」

 

 勘が鋭いのかドクターはペンを置いて身構える

 一方で意を決したシャイニングは席を立ち上がって互い見つめたまま、ドクターの左側まで寄ると、こちらの右脇と膝裏に手を伸ばした

 俗に言うお姫様抱っこ。しかしドクターは勘が鋭い。彼女の行為を素早く察し、くるりと身を回して力を入れられる前に席を立ち上がった。椅子を挟んで向かい合う2人、歪な攻城戦は幕をあげる

 

「さぁ……こちらへ」

「いやだ! あと少しなんだ!」

「手荒な真似はしたくありませんが……致し方ありませんね」

 

 そうしてシャイニングは椅子を避けてこちらへ距離を詰める

 当然男としてお姫様抱っこはされたくないので詰められた分だけまた後ろへ下がる

 しかしこれではいつまでも不利、壁に背が当たると今度は右へ避けた。彼女は至って冷静で落ち着きながらも着実に距離を詰めるが、同様に眠いのか、彼女もまた足にふらつきがあった

 

 彼女から回り込んで壁のない方へ移動した。状況が状況だ、執務室から出れば、たちまち敗北を意味する。

 為す術もなく部屋をぐるぐる回れば、最終的に後ろ歩きのドクターはソファに膝裏がぶつかり倒れ、起きるより先に、シャイニングも側へ寝転び頭を抱える形に抑えられる。

頭がほんの一瞬、冴える感覚を覚えるが、抵抗する気力もなく、ついにされるがままになった

 

 もはや争いのベクトルではない、不毛な距離の詰合いはさっさと幕を下ろした

 

「これで寝てくれますね……?」

「……息がしずらい」

「我慢してください」

鎖骨の辺にあるスカーフへぴったり顔が埋まっている

「…私がそばに居ますから、安心して…どうか安らかに」

「私の鼓動が……聞こえますか」

耳を澄まして聞こうとすればするほどに自分の心音で打ち消される

「あんまし…かな」

「あなたの鼓動が……こんなにも近くで聴こえます」

そう言うと抱きしめられる力が強くなった

 

それからは互いに一言も発さず、眠りにつこうとしている

製薬会社の実質トップと謎の多い旅医者が、今だけは怪談じみたものに捕われることもなく心の距離縮められる気がした

 

彼らは深く、暖かい暗闇に身を委ねる




眠い中で書いてたからぼくも実質ドクター。

あと前に、ニアールさん編を出したかと思うんですけれど、それとこれはまた別の世界線ってことなので浮気にはならないかと思います。

ナイチンゲールさんは持ってないので別の派閥書きます。リクエストあればどうぞ


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シャイニング!

どうしてシエスタのシナリオにシャイニング出てこなかったのだろう。不条理だと思うまい?


長時間寝ていたようで、意思と肉体が乖離を直に感じる

身を起こすと頭が引っ張られた

 

「...まだ朝は早いですよ」

 

一段ずつまた階段を登るように昨日直前の事を思い出す

今、事務室のソファに二人で横たわり、地面から落ちまいと互い向き合って納められ

自分の顔はシャイニングの肩と首の隙間で挟まれていて、

ジャスミンとも白檀とも言えない香りをまとっている髪の毛が自分の顔を意地が悪そうにくすぐる

とりあえず今は時間を確認したい

 

「もう少し...こうしましょう」

 

少し姿勢を変え、自分を抑えるように抱きしめ彼女の肩を、とんとんと叩く

兎にも角にも今は書類を終わらせなければならないし、こないだの荷物も受け取ってない

 

「...今じゃなきゃいけませんか?」

 

受け取られてない荷物は数日たつとよそに送られる、そうなると面倒なんだ

 

「でしたら...一緒に受け取りに行きましょう」

 

なぜもっと前から受け取らなかったといわれそうだが、彼女は優しい

そういって外側にいたシャイニングからソファを降りて行った

本当に朝が早かったようで日の出前、空がかすかに紫かかっている。時間で見れば寝てから大して経っていないが、体がそうなってしまったのだろうか。

 

「いい朝ですね?」

 

彼女は人形のようにまったく落ち着いた足取りで、その下で細く器用な指が自分の手首を撫でている、薄くすぐったいからと手を退かすと、薬指が小指に絡めとられ、最後には上から手の甲が重ねられていたが、人の気配に気づくとゆっくり離れ、一歩後ろに立った

 

「どーも、ドクター」

 

目当ての場所に着くと、配達ロッカーの管理人から挨拶があった。この時間なのにご苦労だ

 

「それに...シャイニングさんじゃないですか、珍しくフードはずしてるから一瞬誰かわかりませんでしたよ!」

「ええ。…そんなに珍しいですか?」

「初めて見ましたよ!おふたりって仲良いんでしたっけ」

 

...そんなに珍しいだろうか?

2人の会話に軽い相槌を打ちながら、自分はロッカーの荷物を受け取りに行った

 

「最近一緒なこと多くないですか?」

「私と...ドクターがですか...?」

「うん、まあ」

 

シャイニングは一瞬考えると

 

「最近...ではないかと」

「二人はなんかそういう...」

「...どう思いますか?」

 

彼は自分とシャイニングを交互に目をやり、一瞬方眉を上げると、顎に手を当て空いてるほうの手で親指をあげた

それから彼は二ヤついて何も言わず、二人はまっすぐ事務室へ戻った。深夜テンションを引きつった徹夜明けみたいな人だった

 

「着きましたね」

 

意外とすぐに戻るとドアを開け、彼女はまっすぐソファに座り無言でこちらを見つめてきた

何をやっているのかわからず、ぽかんと首をかしげると、彼女は困ったように目をそらして両手を広げてきた

 

「...わかりませんか?」

 

その時全てを察した。ここまでくると、断っては殴られかねない

して控えめに手をひろげ、ソファに近づくと彼女は磁石に引き寄せられるように抱き着いてきた

 

「やはりこうしたほうが...私は好きです」

 

脇の下から肩をつかまれ、座りなおすとそれに合わせ引っ張られた体は膝をついてがくんと落とされる

途端に心臓が早鐘となって胸を突きつくが、次第に音は二つと気づいた

服越しに互いの心臓の鼓動が振動となって伝わる

 

もう一段、シャイニングが座ったまま横に倒れると、上半身だけ動いた自分は彼女の胸の上で志半ばに倒れたように見えるだろうか、考えてみれば少しダサいが、今は二人なのだから見栄えが悪くても気にしたことではない

太くはない自分の体を彼女は横腹から横腹へ方腕できつく抱きしめ、もう一本は後頭部に置かれている。

動悸は収まらないが、落ち着いて目を閉じた。眠れる気がしないが、彼女も同じようで自分の髪をグルグルねじっている

少し振り向こうとすると、彼女は愛しく頬をすりとこすりつけた

 

しかししばらくして突然、一昔前のびっくり系フラッシュのような勢いで大事な事が脳裏に廻った

そうだ、今はなすべきことがある、なさなければならないことが山ほどある。こうしてはいられない、育成計画チェックにリソース管理、わかりもしない論文を査読してスケジュールチェック、スカウト資料に...やる前から理性を摩耗するのは良くない。

手をゆっくりどかして起きようとすると、彼女はきょとんとした顔になった

 

「どうしたんですか...?すごい顔ですが....」

 

数ある感情の中で、絶望はもっとも顔に出やすいものらしい

 

「事務...ですか」

 

眉尻の下がった彼女は心へもろにくる。ならば最後、一緒に甲板の空気でも吸おうとドアへ向かうが止められる

ならば事務作業をと机に戻ってもそれはそれで止められた、何か隠しているようでも聞いただけでは答えてくれない。

気持ちは教室鬼ごっこで机を挟んで左右動向をうかがう心理戦、しかしこの手の事は経験があるのかわからないが、ドクターはわずかな隙を乗じて外に出ると、窓の外にあるはずの朝日がなく、代わりに遠くの都市の街灯が寂しく光る

 

なにか視界の奥がグワンとした。朝かと思いこんでいたものの実は夜だったというこの地味な思い込みの違いが、意外にびっくりするものだと初めて理解した。

 

「ごめんなさい、ドクターが疲れているのは...みたくなくて...」

 

驚いた後ろから彼女の声が聞こえた。

決してさっきまで眠っていたわけではない、自分はさっき、数十分まえ確かに太陽が昇るのが見えて

 

「ここ...西窓でしたよ」

 

あぁ.....忘れてた

 

しかしそうなったなら散歩してもしょうがない、部屋に戻りまっすぐ机につくと、今度は止められることもなかった。

彼女は申し訳なさそうに両手を握ってこちらを見ている、僕の何に対してかはわからないが、自分の健康を気遣ってくれたなら怒る理由もない。ならばどうしようか。シャイニングを隣に呼ぶと、胸に抱きよせた。

一瞬驚いた顔をするが、意図を理解すると喜んで抱き返した

 

椅子に座ると、ドクターの膝の上に彼女は向き合った状態で跨って腰を下ろした

座高が高いとさすがに猫のような扱いではいかない、横から覗き込む形で書類に取り掛かるのは正直やりにくいが、それ以上に人のぬくもりは暖かかった

 

 

 

 

 

「それでやっぱシャイニングとドクターってそういう関係らしいんだよ!!」「あのシャイニングが?お前徹夜で幻覚でもみたんかいな」




いいプロットが思いつきませんでしたが僕はただシャイニングが好きです。シャイニングが大好きです。性能が好きです。絵師がすきです。ビジュアルが好きです。性格が好きです。体調が悪い時に付き添ってくれるのが好きです一人にしてられる場所があればいいのに何かお話しようとする気遣いが好きですちょっと身長高いの好きですちら見えする太ももがすきです携えて謎の荷物が好きです戦闘中守られるのが好きです医者のジレンマが感じられるのが好きです輪廻思想ちょっと入ってるのが好きですプロファイルのかっこよさがすきです水着が好きです鴉羽の装束みたいなマントが好きですカラスと仲良さそうなのが好きですマントの下でちらと見える服が好きです密ですほとんど顔が見えてないのがすきです絵の練習ができないくらいトレースが大変なのが好きです水着とのギャップが好きですちょっと闇深そうなのが好きです本気出したら強そうなのが好きです鼓動を聞かれるのが好きです毎回気分を尋ねられるのが好きです。フードの角を通すチャックもなんでも愛しいですよろしくお願いします。



プロットを探す旅に出ます。ドクター一言もしゃべってないのはただの気まぐれです


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エイヤフィヤトラ

エイヤフィヤトラを当てた途端、
アーミヤCEOの活躍が10割減しましたね。
てなわけでくっつかせます。うちの世界ではこうです


朝の巡回が終わると執務室の前であの子が立ってた

無機質な廊下で誰かを待ってる

挨拶のように手を振ると、のこのこと、こちらへ歩み寄って目と鼻の先まで近づくとしかめっ面を晴らし返事した

 

「おはようございます、先輩」

「おはよう、エイヤフィヤトラ。あー…目、大丈夫?」

「はい、目も耳も悪くなってしまいましたが、なんとかやっていけそうです」

 

正直あれほど近づかなきゃ見えないようなら、かなり支障が出ると思うのだけれど、この子ならばきっと…大丈夫だと思う。ただ迂闊に男性職員には関わらせれないかな

 

「どうしてここに?」

「荷物を受け取りに来たのですが、ノックはしたものの入っちゃって大丈夫かなって悩みまして…」

「う〜ん...みんな入り浸ってるし、気にすることないんじゃないかな」

「本当ですか…わかりました」

 

不本意ながらもそうと認めざるを得ない事で、日々ドクターのプライベートスペースは侵略されつつある。いつか完全になくなり、トイレもご飯も睡眠も誰かに隣で凝視されるようになる日も遠くない

その点で彼女はかなり優しい部類だ

 

「それで資料だけど、先にやることがあるからそれを済ませてからでもいいかな」

「はい。…あの、良ければ私も一緒にいいですか?」

 

二つ返事で了承すると、やはりよくみえないそうで、仕方なく手をつなぎ一緒に歩き出して

日常会話でもひとつ。エイヤはなにか元気なようだが、やはり何も話さないのは居心地が悪い。

ケルシー先生は彼女の何か別の感覚が反比例して鋭くなっているらしいが、大事なところを聴き逃した

「エイヤフィヤトラさんとドクター、おはようございます」

「アドナキエルさん、おはようございます」

まあどうあれ、エイヤならここでよくやっていけ……うん?

 

「あれ…エイヤフィヤトラ、さっきくらい近づかないと見えないんじゃないの?」

「えっ…?み、見えませんけど……」

「今普通に挨拶してなかった?」

「き、気のせいかと」

「そんなはずは……」

 

きょとんとした。これ以上は聞かない。

とりあえずやることを済ませると、一緒に執務室へ入った。

 

「荷物はこれかな?」

「はい。見てみますか?」

「うん、中に何が入ってるの?」

 

珍しく返事は来ず、エイヤは開封を急ぐ

すると中身は、赤いに近い色のメガネだった

 

「似合ってますか?先輩」

「まだつけてないけど・」

「じゃあ似合うと思いますか?」

「まぁ...そりゃ似合うと思うけれど...」

「よかった...」

 

そう言って少し間を置くと、彼女はメガネをケースにしまった

 

「え、掛けないの」

「鉱石病で目が悪くなってしまって、メガネではどうしょうもないそうなのです」

「そんな...でもどうしてこれを...」

「少しは、安心できるかなって...でもいざこうすると、かけるだけ少し悲しくなるかなって」

「...そっか」

 

僕は何も言えなかった。管轄内の事なのに、あまりの無力さを直に突き付けられる

「そのメガネ、貸してみてもらえる?」

彼女の持ってるケースから取り出すと、かけずに片目を閉じメガネと彼女の顔を重ねた

否応無しに、それが今の自分にできる精一杯の行動だった

 

「先輩...?」

「うん、やっぱりよく似合ってるよ」

「本当ですか?」

「嘘はつかないよ」

 

彼女の顔に少しだけ、微笑みを取り戻したように思う、正直そう思いたい

 

「やっぱり、先輩がいてくださるなら安心ですね」

「え?」

「明日も、今日のように手を引いてくれますか?」

「まぁ...それでいいのなら」

「はい!...これならきっと、どこまでもいけます」

「ならよかった」

「だからその...これからもよろしくお願いしますね」

 

 

 

以後よく一緒に行動してるのを目撃されているそう。

「でもエイヤフィヤトラって確か...」「うーん、それは野暮ってものじゃない?」




どんなにかわいくてもどんなに推してても鉱石病の行きつく先を考えると胸が痛い。それを止めるためのドクターだけどね。

恒例の別世界線です。いつも勝手にエイヤって呼んでます
リクエスト受け付けてますのでぜひよろしくお願いします、だれでもどうぞ


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ファイヤーウォッチ

とてもとてもかっこいい。なのでくっつかせますよろしくお願いします


「____そろそろ休憩取るか?」

疲れで自分の歩きが遅くなると、彼女はそう聞きだした

 

「大丈夫だよ、日暮れまでには到着したいしね」

「直径ならば9マイルだが険しい山を越えることになる、どうだろうな」

 

歩きで行くには少し遠いが、ここは整備されていない土地が多く車では少々きついところではある

ファイヤーウォッチは歩調を落とし自分のペースに合わせてくれる

 

今回の目的は僻地にある農村の事前調査

 

なんとも爽籟(そうらい)な日で、隣で彼女の髪が宙を波打つと、

樹々の隙間から淡い秋の日光が肩で感じられた

周りは驚かんばかりの雑草が生い茂っていて、足元で乾いた枯葉と枝の音がまとわりつく

鳥の囀りがわずかにうるさい

湖につながる川を下流から上流に遡っていくと、目標への直線ルートに入った

 

「こういう所は慣れてるの?」

獣道に沿いながら話しかけた

「狭い部屋よりかは、こっちのほうが管轄内ではある」

おおよそ二人は正反対

「ドクターはあまり慣れていないようだな」

「申し訳ない」

「問題ない、私についてくるといい」

そう言って微笑み彼女はドクターの手を引っ張る

わずかに足取りが早くなると、流れるように山頂へついた

 

山頂といえど、標高の低い山である以上樹々に囲まれあまり実感がわかないが

開けた場所を見つけると目の奥から視野が広がったようにその感覚がふっと湧き出た

青い山が少しずつ秋色に侵食してきていて、遠くから見ると二色の様子がはっきりと見ることができた

今まで歩いてきた道はよく見えないが、かすかに地形から通ってきた場所がわかる

ドクターに文芸の才があったなら一句の歌でも書いていたろうが、そんな不筆の彼でも

本来の目的ごと忘れ去るような景色だった

 

「なんとなくここで叫んでみてもいいかな?」

「なにか抱え込んでるのか?」

人のいない山奥だと、無性に叫びだしたくなる、理性が足りないわけではない

「いいや、無性にやまびこが聞きたくなって」

「そうか。だがその声を聴いて猛獣でもやってきたらどうするんだ?」

「それも....そうか、ごめん」

後ろ道から前へつま先を逸らしまた歩き出すと、今度は彼女が足を止めた

「......しかし、このような任務はそうそうない、この場に長居しなければ大丈夫だろう」

 

そう言ってドクターが遅れた分彼女は引き返してきた

彼女が大きく息を吸うと腰を折り曲げ大きく呼び声を叫び、

それをなぞりドクターも同じように叫んだ

二人の声が反響すると、バラバラな音になって帰ってきた

 

「んー、なんか思ってたのと違うな」

「バラバラに言葉をしゃべったからな」

「じゃあ今度は一緒に同じことを叫ぼうよ」

「今度だな」

どこかすまし顔の彼女は、少し恥ずかしそうに()()()()、歩き出した

彼女の意外な一面を今日は初めてみたかもしれない

夕日が左肩にあたり、先を急ぐ二人の影法師が地面に映る

 

谷を跨ぐ倒木を超えると、生暖かい風を背中で感じた

何か嫌な予感がするといつも決まってよく当たる

それを予感ではなく経験で察知するとファイヤーウォッチは慣れた足つきで雨が降る前に雨宿りする場所を見つけた

 

山の天気はいつも気まぐれで、見当がつかない。

この浅い洞窟は熊が住むには狭すぎるようで、安全な場所は確保できた

中から外の様子を見ると亡霊でも紛れていそうなくらいに濃い霧がかかって

雨が白い糸になって遠くの山を消した。

 

ドクターは麻紐をほぐし、火打石が起こした火花を当てると洞窟の前にある小さ目な枯れ木をそのまま利用し薪として使った。ある程度の知恵は持っている

 

そしてこまったもので、雨がやまない限りやることもない。唐突に寒くなった山から身を守るために二人は少しずつ体を寄せ合った

 

ファイヤーウォッチは火を見ている。本来の意味とはまるで逆の行為だがどこかしっくりくる

ドクターは少し眠いようで、少し瞼が重力に負けているように感じる

 

「眠いのか?...なら私が火番をしよう」

「いいの?」

「問題ない」

「ならお言葉に甘えて...」

 

すると横たわるわけでもなく、膝に荷物を置き、それを支えに彼女の横で座ったまま目を閉じた

いつもはあまり好いていない雨と篝火の音が今は妙に心地がいい

意識はやがて深いところに入り込んだ。次々暗くなるプールに深く深くダイブしているようだ

ふと眠りにつく直前、右肩に重しがかかった。一瞬体が条件反射的にびっくりしたが、すぐに落ち着いた

体を動かさず首と目だけを動かさすとファイヤーウォッチは自分の右肩に頭を預けて目を閉じていた

正確には角が邪魔なのか寄りかかるというより添いのそれに近い

 

手を動かし、深く身を寄せるように頭をなでると、彼女は口開いた

「...すまない。私も、少し眠い」

言うと彼女は体重の半分をこちらに預けた

「落ち着くな...思い出してしまうよ」

 

その思い出が彼女にとっていい物なのか、はたまた毒になっているのかはわからない。ただ彼女の頭、右角の付け根を優しく撫でる

 

「あの...角は、困る...」

「ごめん、嫌だったか?」

「嫌ではないんだ、ただ...少しくすぐったい」

 

そのことがわかると、まるで図に乗ったように、今度は壊れ物に触れるように優しく撫で出した

二人寄せ合う焚火は、あたたかい

 

 

 

気が付くと、あっという間に夜を越え次の朝がやってきた。

未だに霧は濃いが少し晴れてきたほうだ

けれどもまだ、二人は身を寄せ合って座っている

一晩色々な話をして、眠りについた

結局の所、夕暮れまでに到着する予定のはずが、こうして日を跨いた

再び北へ向かって前進を続けると、一つ山の奥に目的の村が見えた

 

「___また、このような機会があるといいな」

「そうだね」

「そしたら何を話そう?」

「君がしてくれる話なら、なんだって聞くよ」

「そうだな。なら今度は、もっと違う話で、違う場所で、また一緒に...」

 

二人の足取りは軽かった




なんかThe Hunter:Call of the wild思い出した。



リクエスト待ってます。だれでもどうぞ


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サイレンス

めがねすき。なのでくっつかせますよろしくお願いします


自然に目が開くと、体全体が心地よくしびれていて、頭の半分はまだ冴えていない

「起きたか、ドクター?」

身を起こすと、サイレンスは自分の席に座っていた

「ん...いつの間に」

「随分と寝てたな。あと少しで全ての書類が終わる所よ」

「ごめん、今行く」

そういって床に足をつけると、まっすぐ机へ向かう

「分けてもらえる?」

「はい、これ。すぐに終わるはずだよ」

 

研究以外の時間のほとんどはここにいて、手伝ってくれる。ありがたい限りなんだ

自分もサイレンスの隣に座ると、せっせと作業を始めた

いつもとは席が逆の様子

 

時計は2時を指している。昼間では眠そうにしているが、今こうして見る限り、本当に夜型のようだ

 

「それはしなくていいの?」

「これは大丈夫。イフリータに渡す宿題だから」

「...イフリータも最近、よく笑うようになったの」

「君のおかげだよ」

 

これ以上は触れなかった。イフリータはいい子だ

いつも忙しい彼女はこの頃、眉間の皺が晴れた気がする

 

「この作業が終わったら何かする?」

「することもないでしょう」

「それはそうだけど...」

「ならもう一度寝たらどう?」

「少しもったいないけど、そうするかな」

 

そう決めると手元に視線を戻し今に書類を終わらさんと、会話は少なくなった

ほとんど触らずに寝ていたはずだったのに、起きるとサイレンスがほとんどを終わらせてくれていて、頭が上がらない

 

「よし。これで最後だ。いつも手伝ってくれてありがとう」

「もとから一人で終わるような量じゃないでしょう。好きでやってるから気にしなくていいよ」

「それじゃ僕は寝るけど、サイレンスはどうするの?」

「私もどうするかな」

「寝てる間はここ、好きにしていいから」

「ならそうさせてもらうよ」

 

最後に提出するものを仕分けると、ドクターはまたソファへ戻った。ベッドは、ない

待ちかねたように飛び込み、仰向けに身を預けると、すっと寝息を吐いた

しかし程なくして目が覚めると、薄目に周りを見渡した

 

人は寝る直前に見た情報と今を照らし合わせて状況を確認するらしいが、特段言うことはほとんどなく

一つ、サイレンスは頭のすぐ上に座りこちらを見ていて、手が自分の頬に添えられている

 

「寝なくていいの?」

尋ねると、同じように自分の頬に手を重ねた

「狸寝入りとはらしくないね」

「寝てたのは本当だよ。君が寝たほうがいいんじゃない?」

「今は、まだ眠くないかな」

「まぁ、無理はしないでね」

 

頬に添えられた手はやがてゆっくり移動しながら、頬を撫でた

 

「世界からオリパシーはなくなるのと思う?」

「...いつか。かな」

「ならそれまで、一緒に研究を続けてくれる?」

「もちろんだよ」

「それが聞けたなら安心ね」

 

そう言うと、首元を持ち上げられる。ずるずると器用に体を上へ移動すると、ドクターの頭は彼女の膝の上に置かれた。ありていに言って膝枕

日が当たらないために白く、それがまるでつい先刻まで何かに覆われていたものが初めて外気にさらされたように、色も形もあまり無防備に見えた

 

「でももし、一生なくならなかったらどうする?」

「一生やるよ」

「それはどういう意味?」

「そのままの意味だけど」

「...そう、なら私も頑張らないとね」

 

そう言って彼女は微笑んだ。それを最後にパタリと会話は止んだ。

多少寝ていれど体の細胞は未だ睡眠を求めるように訴えかかっている。

目を閉じるとそのまま暖かい泥に身を包まれるような感覚を、覚える間もなく眠りについた

 

やがて最後に目が覚めると、頭を体で挟むように、サイレンスは寝息を立てていた

 

 

 

以後は何もないが、サイレンスはよく実験成果を事務室へ報告してくるようになった




"イフリータを生み出した"を直喩として捉えた途端、三人の関係性が昼ドラに思えてきました



リクエスト待ってます


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フロストリーフ

ストーリーがかっこよかった。なのでくっつかせますよろしくおねがいします


「あれ。ドクターか」

 

冬暮れ空の下を用もなくふらつくと、壁に寄りかかったフロストリーフは声をかけてくれた

 

「ん?おはよう」

「久々にここで合ったな」

「やっと外の空気が吸えたよ」

「散々だな」

 

彼女はヘッドホンを外して首にかけると、両手をポケットに戻した

 

「フロストリーフは何してたの?」

 

聞いて無言で繋がったままのウォークマンをポケットから取り出すと、ひらひらこちらに見せた

 

「どんなの?」

「聞いてみるといい」

 

そう言うとヘッドホンを外しこちらに渡してきた

メタリックな物で、ユニットを両手で掴み、彼女の真似をするようにヘッドホンを付けてみる

 

「見慣れないな」

「あまり付けないからね」

 

事実ほとんどつける機会がない

 

「こういうジャンルが好きなの?」

「まぁな。あとは...こんな感じの」

 

小さな手で器用にボタンを押すと、音楽が切り替わった

 

「これもいいね」

「ありがとう。いつも聞いてるんだ」

 

自分の好きな物を褒められると、まるで自分も褒められたように嬉しくなる、彼女もそうだろうか

 

「この後暇なら、一杯どうだ?」

「特に用事はないから、行こうか」

「いいとこを知ってる」

 

彼女は微笑んで歩き出すと、それについていった

ヘッドホンを歩きながら彼女の頭にかけた、丁寧にやったつもりでも多少ずれるようで、彼女は一瞬だけ迷惑そうな顔をすると、しっかり耳にかかるように直した

 

「行きつけでもあるの?」

「行きつけというほどではないがな」

 

慣れた足つきそこへ着くと彼女はまっすぐ席に座り、隣を指さした

初めてきたバーだ。時折誘われ通うことはあったが、たまに場所が違うことがあり、最近はここで安定しているらしい

少し時間のせいもあってか少し寂れていて、薄暗がり。何人かいる客はこの空気を壊さないように小声で話している

 

注文して素早い手つきで渡されると、店員は少し離れたところでグラスを拭き始めた

 

「つぶれないといいな」

「そんなに弱いのか?」

「雰囲気だけで酔うくらいには」

「まぁ...安心しろ」

 

他人につられるように自分たちもまるでひそひそ話でもしているようになった

彼女は右手を頬につき、こちらを何か見据えているようなふりをして、なにもみていない

脅迫概念ほどでもないが、とりあえずは話を振りたい

そうしてさっきの音楽の話を持ち出し、話は逸れ、オリジムシの味はエビかカニか、斧がどうだか、軌道に乘ったように色々な話をした

フロストリーフは左頬杖して、軽い相槌と珍しく微笑んでこちらをみている

 

「...飲まないのか?」

「え?」

「それだよ」

「あー....忘れてた」

 

彼女は顎でコップを指し、言われて思い出すと全く手をつけていないそれを飲み干した

 

「意外に豪快だな」

「酒ってこういうものじゃないの?」

「本気で言ってるなら大ウケだな」

「え...まぁ....これくらいなら大丈夫...でしょ」

 

露骨にわかりやすく、自分のやらかしに気づく

 

「まぁ、せっかく飲んだのだから、他にもなにか頼もうじゃないか。これは私の奢りだ」

 

頷くと、彼女はウェイターを呼んだ。三種類ほどか、それぞれ色の違う酒を一つの器に入れると、混じって汚れることもなく溶け込んでく

最後、蓋をして器をして振っている。はじめは手によって振られていたが、しまいには振られているよう見えた

この動作はかっこよくて、憧れる

グラスに注がれると、よくわからない酒の名前と動詞を言われこちらに差し出された

 

「これがおすすめ?」

「まぁな」

 

手に取ってみると、フルーティな香りに交じってアルコールの匂いが鼻腔を走る

奢られた以上は飲むしかない。腹をくくって、今度はちびちび飲むと、また会話に戻った

しかし腹をくくっただけではどうしょうもならず、酔いがすぐに回り始めると、呂律の代わりに頭が回らなくなった

彼女は同じものを飲んで平然としている

 

「それで、本当にあの時ブラウン隊長がいなかったら...」

「そんな話してたか?」

「僕も酒強くなったかな」

「グラスに指入ってるが」

「大丈夫だよ、この酒は熱くないから」

 

彼女は困惑したように笑う

 

「そろそろ帰るか」

「...うん」

 

最後に水を飲むと、席を立った。その頃にはすでに夜で、店も来客が増えた

ドア窓から、冬の初雪が見える。雨の音がしないと思ったときに、外の雪はほのかに青く煙った

 

最後に振り向くと店内を見渡した。彼女がよくここを通うならせめて内装は覚えようとしたのだ

外へ後ろ脚に踏み出すと、次の瞬間景色が変わった。キャンドルは激しく視界を上下すると、段差につまずいたことに気づく

しかし不思議と痛みはなく、先に出たフロストリーフに体を支えられていた。派手に転びそうになったのを助けてもらったようで、まるで地面すれすれのお姫様だっこだった

 

「あ...ありがとう」

「...気をつけろ」

 

彼女が一段かっこよく見えた。騎士様でも見出した気分だ。しかし絵面が絵面だ、あまり音は立ててないが目立つものは目立つ。街行く人やバーの中からの視線に気づくと刹那、背中が宙を浮き、あっという間に地面へ衝突した。

体勢を立て直して彼女の方をみると、少し距離を離して、他人事のように呆れた顔をしている

視線から逃げるように彼女のそばへ駆け寄ると二人早歩きに店をあとにした

 

「まったくしっかりしてくれ」

「ごめん...」

 

顔を真っ赤にして目をそらしている。ドクターがである

万事休すだ、私は女子に姫様抱っこされたというレッテルを張られ生きていくのか、次の言葉を噤んでいくうちに彼女から話かけられた

 

「まぁ、仕方ない。代わりに次も付き合え」

「それで...いいなら」

「誰もみていないさ。これでも聞いて落ち着け」

 

泣きそうな自分にヘッドホンをかけると、それに繋がったウォークマンに、まるで手綱のように軽く引っ張られる

そうして歩いたことが最後の記憶だった

 

フロストリーフはよく酒に誘ってくるようになった

毎回記憶があいまいでも隣で男が寝てることはない、少しは耐性がついた。そう願う

 

 

 

「あの二人、なんでそういうことに至らないの?」「え、ドクターってあの子にお姫様だっこされてなかった?」「それ言ったら襲われるらしいぞ」「あ、待ってフロストリーフがこっちをみ」




てごわかった....

チェルノボーグに出てきた一般前衛オペレーターくんみたいな服めっちゃ好みだけどどういうジャンルのファッションなんだろう

そろそろep.2手付けないと


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ナイトメア

ep.2を書くといったな?あれは嘘だ

二重人格かわいい


「こ...こんばんは、ドクター....」

 

聴いて一瞬身構えるが、すぐに声の主を認識すると部屋の明かりを落とす

代わりにデスクライトの反射光だけが部屋を照らした

 

「...オリジニウムの場所は教えないよ?」

「...?い、いえ、私はただ...」

「まぁ、好きにしといていいよ」

 

するとナイトメアはソファに椅子に、まるで眠りについた犬をおっかなびっくり横を通るように見ながら、最終的には自分の一つ隣、予備の席に座り手元を眺めていた

一度彼女のほうを見ると、同じように目が合った。何も話すことはなく、彼女は首をかしげる

 

「眠らないんですか?」

「今何時なの」

「今はもう0時を...あれ?」

「あの時計は止まってる」

 

そうしてナイトメアの視線の先を顎で指した

 

「時間の感覚、わからなくならないんですか?」

「窓もないと日の感覚もわからなくなる」

 

正確には止まっているのではなく壊れているが、時間になると大抵呼ばれるからと、今に直すといって一行に直そうとしない。きっと億劫だとか、面倒だとかそんな理由だろう

だからか時折、まるで大海の中で立ち往生しているような不安に襲われもするが、これはまた別の話だ

 

「ところでなんで、この時間に?」

「いえ...気づいたら事務室の前に立ってて...」

「別に寝てしまってもいいけれど」

「だ、大丈夫です...、こうしていたら思い出すかもしれないので...」

 

そうか、と相槌を打つと、部屋は芯と紙が擦れる音だけが流れた

足音も聞く間もなく、視界の端から彼女はふっと姿を消して、

気付くと後ろから自分の肩がつままれている

 

「釣れないわねぇ、せっかく私と二人っきりなのに、なにひとつ行動もないなんて」

 

恐れていた事は相も変わらず突然やってくるし、この状況で下手に動けば何をされるかわからない以上、座ったまま体は固まった

 

「すごいしかめっ面よ~?"私の前ではもっと楽しそうにしてくれ"とでもいうべきかしら?」

「...何しに来たんですか」

「イヤね、お話しにきただけなのにその言われようは」

 

そう言うと、椅子の裏と背中の間から、こちらへ体重を預け腕を組む領域で首へ腕が絡まった

 

「むふふ...でも、いいわねその表情...ゾクゾクするわ~」

「近いんだけど」

「近づけているのよ?」

 

右肩に顎を載せてるナイトメアを横目に見ながら取られまいと書類をまとめ裏変えしにすると、手を彼女の手の甲を重ねた

 

「そんなに私が怪しいかしら?」

「そういうわけではない」

「私だって寂しいのよ?」

「...ごめん」

「いい子ね...さ、一緒に...」

 

子供をあやすように、端正な指が上から髪に絡まってほどける

そして脇に手をいれ持ち上げられると、そのまま立ち上がった

 

「どこいくの」

「いい子ならもう寝る時間よ~?」

「いや...まだ...」

「ほんっと釣れないわね~?せっかく私がこうして誘ってるのに」

 

ジリ貧に、ああいえばこういう説得の押しあいが始める

 

「それとも、私と寝るのがイヤ...?」

「そういうわけでは...」

「ならいいわよね」

 

仮に演技でも涙目には弱い、どちらにせよこのままでは、物理的に寝かせられるか能力で寝かせられるか自分の意識で寝るかしか選択肢はなくなってくる

 

「...一緒に寝ればいいの?」

「そうよ」

「ソファだけど」

 

そんな事知っている。とでも言わんばかりに彼女が微笑み、自分は手を引かれ一歩先にソファへ座った

彼女は横から押さえつけるように、頭に抱きつくと疲れた体はバランスを崩して倒れた

 

「最初からこうすればよかったのよ?」

 

結局のところ、押し負けるなら潔く負けたほうが早いが、こればっかりはそうといかない

彼女の持つ能力は、永遠と夢を見させられると聞いた。少なくとも最後に経験したことをもとにするならば、それは水が低きに流れるが如くに、全てが悪夢であったかのように忘れられるでもなく、夢は覚めるのだ

 

ナイトメアは薄目にこちらを見ている

 

恐ろしさばかりが主張されるが、眠気に抗える人は少ない

相も変わらずこの感覚は奇妙なもので、ひどく熱い海の深きに自ら潜りゆくように、まどろみにはまった

 

「ずっとこうしてみたかったわ...」

 

 

 

 

最後、ドクターは黄色い悲鳴に目が覚めると、ナイトメアは顔を赤らめて部屋を出て行った

そのあとは時折本当にあの日"おいた"はしていないでしょうかと質問されるようになった

 

 

 

「え、ワンドがないとあれってできないの?」




てごわかった....「男子三日合わざるは刮目してみよ」という諺があるので三日以内に出したかったんですよね...とりあえず、急ぎ足で出しただけなので加筆修正する可能背大です

あとね、プロットがね、思い付きがね、ないのね、悲しいね。


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シュヴァルツ

当てた時変な声出たのでくっつかせます


「あぁ...もうむり」

 

帰りの市電の駅で頭を抱えてしゃがみ込むと、横にいるシュヴァルツはいつもの真顔でこちらの頭に手を置いた

その日はとんでもない厄日だったようで、朝からアンテナに吊るされたと思えば、また山ほどの書類押し付けられ、三日に一度壊れる精密機械を修理して、くじには一度も当たらないのに、カキには大当たり

死んだ目で最後、町での用事を終わらせると、事務室で待ってもらっていた彼女が出口の横で立っていた

 

「少し目を離した間、また随分とやつれましたね」

「だって今日だけで...」

「言わなくともわかります」

 

今に日が暮れ、夜が活発になる

目の前のやるべき事が終わると、これが終わったらあれしよう、こうしようと思っていたこと手を付けるのが億劫になる

あ゛ーと魂の抜ける音を出しながらかろうじて考えことをしていると、シュヴァルツからは飲みに誘ってもらった

彼女の酒癖の悪さは知っているが、考える前に電車はやってきた。...なにか行きつけはあるだろうか

 

入ると、自分は彼女の一つ右後ろの席に腰を下ろした。バスみたいな、一部のシートが進行方向を向いているタイプだ

今日は人が少なく、数人が乗った程度で電車はがら空きだった

ドアが閉まると、モーターの音と共に景色が動き出した

頬杖をつき外を眺める彼女を、自分は前のシートに頭を寄りかからせながらなんとなしに見ていると、すぐに目が合った

 

「どうかしましたか?」

 

そういう彼女のこわばった表情は多少緩みこちらに尋ねた

 

「別になんでも」

「近頃はよくそう言いますね」

 

目的の駅は遠くなかったようで、数駅乗り、電車が止まると「着きましたよ」と、最後に車内を見渡して彼女は降りた

行先がわからずシュヴァルツの後をついていくと、時折そこにいることを確認するように彼女は振り返り、程なく近いところにそれはあった

 

「ここにはよく通うの?」

「いいえ、一度だけです。以前勧められましたので」

 

そう言って入った店の中は想像よりも静かで、薄暗い

 

「こういう所にも来るんだね」

「ええ...まぁ、ここならばあのような失態を起こすことはないと思います」

 

慣れない僕を気遣って彼女は慣れた手つきで自分の分も注文してもらった

そうしてカウンターで二人に渡されてきたのはどこか懐かしい香りのする林檎酒だった

 

持って一瞬傾けると、特に乾杯をせず飲み始めた

いつもの雑談だ、しきり話しかけるのはやめろというが、気づくとどうでもよくなり

クールな口調で彼女から話しかけてくることも多くなった

が、今は気づくと彼女の返事はやけに遅くなっていた

 

「ん...シュヴァルツ?」

「待て、ドクター。後ろを向かないでください」

 

言われた通りにそうすると、視界の端で彼女をとらえた。顔は赤くなっていない

 

「どうしたの?」

「今のうちに代金を支払ってください。5時方向、電車にいた男がこちらを見ている」

「尾行されているのか」

「わかりません。ですが早く行きましょう」

 

ポケットから幣を多めに取り出してカウンターに置くと、すぐさまそこから離れた。出る際にちらとそのほうを見ると、あからさまな格好で店の柱に寄りかかった男が見える

顔まで隠していない以上気の狂ったサラリーマンにも見えなくないが、店から出るとその男が続いて出てきたのが見えれば、その可能性は限りなく0に近づいた

念のために連絡はしておこう。店を出て左の方、駅へは遠回りになるが、直接向かう方が危険だ

手を引かれ速いペースでブロックを一周すると、追手はまいたようで、警戒しながら電車に乗ったころには林檎酒の味をド忘れした

 

「ここまでくれば安全でしょう」

「とんでもない...厄日だ」

「...まだ少し続くかもしれません。バーから出た時、他にも二人の視線を感じました」

 

えぇと言ってる間も無く、まもなく着く次の駅さっきの男がいた。いや、そう見えたが身なりがひどく似ている

急便もロドスもどこもかしこも面倒な目にあうのは同じらしい

 

「ドクター...」

 

呼ばれて立つと男は前から乗り込んで手すりからくるりと最寄りの席に座った。目を合わせないように猫背気味に姿勢を低くして電車から出ると、後にシュヴァルツが続く

外に足がつくと、扉が閉まった。男は焦ったように両手をガラスの扉に手を当ててこちらを見ているが、電車は進みだす

 

「連絡は付けたほうがいいかもしれません。こちらへ」

 

道路の向こう、歩道からこちらへ向かってくる人影が見えた。ラフな格好にしては距離の取り方があまりに適切なのだ

そのような情報しかわからないが、さっきから連なってる事から推測するならば十分

シュヴァルツに手を引かれ駅を後にした。中途半端なところで降りた此処は、昼間ならば間違いなく観光地だろうが、景観を重視するあまりに夜になれば街灯しか見えなくなる

通行人が通りかかることを願いながら石畳みの上を歩く、教会前の広場に建物の間、店の裏を通って、橋の裏に続く道にやってきた、人通りは少なく、前後からさっきの奴らが来ると、それに挟まる形になった

 

「...ここで騒ぎを起こしたくはありません。気を付けて、ドクター」

 

そう言ってシュヴァルツは自分から距離を取るように歩き出し、前をふさぐ男のすぐ横ですれ違うと、懐の拳銃がシュヴァルツへ向けられる、すかさず彼女はスライドを抑え込み、銃口を左に逸らすとそのままひねってトリガーガードを絡め指を折った

奪い取った得物を後ろに向けると、また自分の前に立った

さっきの奴は折られた指に痛がってるが、いつ立ち直るかわからない。彼女は構えをキープしたまま背中でこちらを押すように後退りすると、二人で走り出した

 

「ここにくれば、安全です」

 

そういって連れられたのは鉄柵に囲まれた廃屋の中だった。ホームレスのたまり場からは少し離れており、最近こうなったのか、荒れているが天井に穴が開いてるわけではない。運よく柵がはがれていてよかった

彼女はさっきの拳銃に、そこらへんで拾った布切れを巻いている、こうして包まって処分するそうなのだ

 

「ロドスへ連絡は取りましたか?」

「あぁ、今取る」

 

自分のできることはそれくらいか。端末を素早く取り出すと、メッセージを3通送った。電話番は基本自分でやっているから留守電はない。あとは誰かが読んでくれるのを祈る

水滴がアスファルトにあたって跳ね返った音が聞こえたと思えば、外は雨が降っていた

さすがにシュヴァルツも疲れているようで、入口の横で腰を下ろしている

 

「終わったよ。ごめん、こんなことになるとは思ってなかった」

「あなたの問題ではありませんよ。ですが、今後もしこのようなことがあれば、出かけるたびに必ず護衛を付けてください」

「護衛...か。恐れ多いや」

「...あなた自身の立場を弁えて言ってください」

 

それを言われると、ドキりとする。実際問題、身の回りに護衛を付けている人は当然少なく、何度言われても自分がそのような立場であるのかが疑問に思える

そんな上の立場なら理不尽事を減らしてもらいたい。だがないものねだりしても仕方なく、今は目の前の申し訳ない気持ちが勝った

 

「ごめん、ウカツだったよ」

「い、いえ..別に謝ってほしくていったわけではありません。ですがせめて...」

 

彼女は視線を逸らして、手の甲で口と鼻の間を一度拭くと、改めて目を合わした

 

「せめて、もう少し警戒してください。...あなたを失いたくありませんので」

 

言葉の意味を理解すると、どう反応すればいいのか、リアクションに困る。このように言われた経験は少ない

焦って弁明する彼女に自分は護身術くらいは習うべきかと聞くと、彼女の返事はあやふやだった

 

「それができるのであれば、習う方が無難です」

「でもこれじゃ厳しいよなぁ...」

「なら、私に頼ってください」

 

頼りなさげに自分の体を眺める一方で、そうすれば外出は安心だ。とでも言わんばかりに、彼女の顔は自信に満ち満ちている。でもそれだと...

 

「僕と毎回一緒に外出することにならない?」

「...そうですが」

「悪いよ」「命に比べれば安い」

「そりゃ命に比べたらなんでも安くなるよ」

 

彼女は、はっとため息をついて眉間をつまむと、膝をついたまま、向かいの自分に歩み寄ってきた。彼女の周囲にまとっている体温が感じるくらい近くなる

 

「だから私に従えば、安全と言っているんです」

「でも...」

 

タンッと、顔の横で打ち放しコンクリートに手がつく音が鳴ると、身にまとう静電気すら感じられるくらいに、また距離が縮んだ

暮色の慧眼がこちらを見つめて離さない

 

「...言葉に甘えるよ」

「最初からそう言えばよかったんです」

 

満足げに微笑むと、近づいた順に体が離れて自分の隣につく。今となって動悸が訪れたように感じる

寒いのか、彼女は自分の手をそっと握ると、肩をこちらに寄せた

 

「...あまり飲めませんでしたね」

「うん。まぁ、運がいいのか悪いのか」

「どういう意味ですか?」

「いやなんでも。できればもう少し話がしたかったね」

「はい。私にもまだ言いたいことがありました」

 

よくよく考えれば、今暇ならば、ここでその言いたいことも話せばいいと思ったが彼女は、ここでは言いたくないの一点張り。

でもまぁ、本当に毎日護衛されるというのであれば、いくらでも話す機会はあるだろう

 

そこからは、しばらくの間無言が続いた

 

「先ほどの言葉、覚えてますか?」

「ん...?」

「いえ。忘れたなら、そのままにしてください。少し興に乗っただけですから」

「多分、あの了承がなくても、君の言葉ならすべて聞いてたと思うけれど」

「...本当ですか?」

「うわごとは言わないよ」

「...正気ですか?」

 

なにか言いたげだが、とりあえず信じてもらえた。また無言が続く、バーについた時は色々と話題を思いついていたが、途中で吹っ飛んだ

 

「うーん...今何時?」

「今は...11時28分です。いつもならロドスに着いて新規書類作成をしている時間です」

「少し、眠ってもいいかな」

「了解。警戒は私がしますから、体を休めてください」

 

 

 

 

近頃はあまり眠れていない。この姿勢で瞼だけを下ろすと、すぐに意識は雨音と消えた

次彼女の声に起こされたとき、すでに日が昇っていた、さっきまで雨が降っていたようで、空はひどく青く澄んでいた

 

「ん...シュヴァルツ?」

「はい。どうかしましたか?」

 

働かない頭で昨日の事を思い出そうとして、まず入ってくるのは尻と首の痛みだ

そうして次に自分を認識すると、頭は体育座りした彼女の足と腹の間に挟まっていた。いつから?

慌てて身を起こすと、腕に絡まった彼女のしっぽも同時にほどけて元のすらっとした状態に戻った

 

「ご、ごめん。いつの間にか...」

「よく眠っていたようですね。よかったです」

「シュヴァルツはまだ一睡もしてないの?」

「どうということはありません。....たら一瞬でした」

 

何を言ったか。どうあれ、眠れていないことには変わりがないだろう

ならば早いところロドスへ帰ろう。立ち上がって五体満足なことを確認すると、手を引いて彼女を起こした

いくらなんでもさすがに追手はいなくなってる。来た柵をまた超えると、一晩世話になった廃屋にさようならを告げた

 

 

 

「ちょっと記念に自販機買っていこ」「このタイプは久々に見ました」「あ、ゾロ目でた」




お久しぶりです。あのスケスケ衣装の正体を探る旅に出てました

フェリーン好き。スキル3すき。ストーリーすき。かっこいいすき


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メテオリーテ

龍門郊外殲滅でめっちゃお世話になってます。なので(ry


「ねえおじさん!今日は何をしてあそぶ?」「ねえね!こっちにおもしろいものがあったよ!」「なに~!いまみにいく!」

 

ツタのように体に引っ付いてきた子供がそそくさに去ると、あべこべな体勢からやっと立ち直れる

このような言い方は語弊しかないが、まるでドクターフィッシュみたいだった

「ふふ...おじさん、ねぇ」

左後ろから遅れてやってきたメテオリーテは、両手いっぱいの段ボールを置いてこちらに話しかけてきた

 

「まだそんな年でもないんだけどなあ」

「身動きの話じゃないかしら?ほら、背中にシワができてるわよ」

「ん、あぁありがとう。靴跡はついてない?」

 

子供はいつも素直に思った通りのことを言う。

彼女が背中をはたき終わるとそれに合わせて歩き出した

このような配達はそこそこの頻度で行っている、大体はスラムの住民、

子供たちに食料ワクチン、スケッチブックに筆記用具

それから適切な教育を施して、これを行く先々で繰り返す。

同意してくれる人がいるかぎりこれをやる

 

あらかたの事が済んだ頃には、いよいよ日が暮れ始める

あとは大人たちに任せようと、他のスタッフを集めてまた帰投した

どこに行ってもこのような格差はあるものなのか

 

特に言うことはないが、時折よく会う子どもたちから手紙を受け取ると、

メテオリーテはたいそう嬉しそうに笑って、その子たちに抱き着く。自分は見てるだけだったが、それでも嬉しそうな彼女たちを見て暖かく感じる

今度の手紙はぎぐしゃくだけどしっかり読める字になっていた、初めはひどく、

言葉の概念から説明しなければいけなかったが、飲み込みはみな早い。でも相変わらず落書きはする

時折、子どもたちからからかわれることがある。この活動の成り行きでいつも二人で行動しているせいもあってか、やれお嫁さんだ、やれ新郎さんだ。

彼女は気恥ずかしそうに顔をぼりぼり掻いてはいても、

結局めったに別々に行動をすることはなかった

 

本当にそうならば夢だ。自分の薬指にそのような跡はないし、自分はどう返事したらいいかわからなかったが

とりあえず「無邪気な子供の言うことだ」とだけ言うと、彼女は少しだけ怒り気味に「当たり前よ!本気になんかしていないわ」と言う

基本的にこれで終わりだが、何度も言って言われると、時折ぶつぶつと顔を伏せて小声で何かつぶやくことがある。

「ただもし......」や「私と.........」とばかり、最初は聞こえこそすれ、最終的に子供の声に交じって口パクみたいになる

 

「うん。わかった。そろそろご飯にしよう」適当な返事をして、聞こえなかったときの逃げセリフだ。彼女は焦った後、一度咳をついてすぐに元通りになり炊き出しの準備に進めた

手先の早業ならば、いくらかはお手の物。大人数では人手が足りないので、みんなと一緒の作業だ

なぜか彼女は、チップスでも作るかのように皮の剥かれたじゃがいもを、またピーラーで身がなくなるまで削ってた

ひょっとすれば、適当ではすまされない会話をしてしまったかもしれない。

心配で様子を尋ねたが、どこも悪くない模様で、不審に感じてもそれ以上この場では言わなかった

 

じきにご飯が出来上がると、周りと同じものを一緒に食べた、メテオリーテもすぐそこにいる

本当ならもう帰っている時間だが、みんなして止められた。

そして夜になる

 

その日は静かで、月がよく出ていた。丘の少し上で彼女が座っていたので、自分もその隣についた

どうやってさっきの話を持ち出そうかと悩むうちに、先に彼女の方から話しかけてきた

 

「あ、あの?」

「うん?」

「昼間の話は本当かしら?」

「まぁ...」

 

今、それの弁明をしようししたが、不安気な目を見ると、ここで実は___なんて入ればいろいろ良くない気がした

曖昧な返事をすると、彼女は大きく肩を撫でおろして、垂れさがった眉尻は元通りになった

 

「でも..本当にいいのかしら?私、サルカズよ?」

「別に種族は関係ないと思うけれど」

「そう言ってくれるのはうれしいわ。本当はずっと前からこうして伝えようと思ってたの」

 

そう言って少しずつ、彼女は話した。そこまで放流のように多くの事をつぶやかなくても、節々に前から考えてあったことだと伝わる

感謝とか、子供たちへの思いとか、次第に話題はもっぱら自分にチェンジしていったが、それでも、本筋の主語がないから、それが現れるまでは相槌を打つ

 

「呼び名とか、どうしたらいいのかしら...」

「すきなのでいいと思うけど」

「そうかしら...私、こういうことは初めてで」

 

脚に手を挟んで、落ち着かないようにもじもじ動いていた彼女は、その姿勢を崩してこちらに体を向けた

 

「ねぇ、もしあなたがよければでいいのだけれど...」

「う、うん」

「"ダーリン"...って呼んでもいいかしら」

「ぇ?」

 

唐突に言われ頭が固まるが次の瞬間、気づいた

 

「え、いえ!嫌なら今まで通りで大丈夫よ」

「あいや、そうじゃない、そうじゃないむしろ...うれしい」

 

確かめるように彼女は再度聞くと、がぱっと体を覆うように抱き着いて、顔が見えないが

新しい呼び名と、ありがとうが交互に聞こえてきて、自分はその背中を触れる程度に腕をまわした




強引に終わらせちゃった。何気にこういう風に正式にやるのはじめて。たぶん、加筆修正する

お久しぶりです。投稿頻度落ちてます。絵描いてました。時間がたつのが早すぎる。


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スワイヤー

がおーすき。くっつけ。


近頃、やたらとスワイヤーを見かける

 

食堂で一人カウンターで昼食を取っていれば、どこに座っても隣を見たら彼女が座ってるし、

誰かと会話すれば視線を感じ、あたりをつけて呼んでみたら本当に廊下の角からおそるおそる出てきたりするし、

毎朝、いつも執務室を出る時間になると、その扉の前で左へ右へスワイヤーがそわそわうろついていて、ドアスコープの存在に気づいていないのか、自分が部屋を出ると、目の前を横切るように歩き出し、声をかけると"偶然ね"とでも言いたげな表情で返してくる

 

スワイヤーは暇なのかな、なぜしきりに自分に話しかけるんだろう、恨みを買った覚えはないんだけどな

もっともこの身が五体満足で、あの同僚と同じ目に合っていないということが、それがただの杞憂という証明だけど

 

「探したわよ、こんなところにいたのね」

「あ、あー...スワイヤーか」

「冷たいわね、アタシの前ではもっと楽しそうな顔をしてちょうだい?」

「どこかで聞いたことあるセリフだな」

 

廊下の光が差し込んで、スワイヤーは部屋の電気をつけると、積まれた段ボールを避けていつものように隣に座ってきた

 

「ところで、なんで物置部屋にいるのかしら?」

「...執務室は見た?あの大量に積まれた書類を0時までに読了して論文を出せだって」

「あれは確かに頭が痛くなるけど、逃げてもしょうがないでしょう?」

「つらい。あんなの人間がやる物じゃないって」

「もう...それ、私以外の人には絶対に言わないでよね。そうね、アタシも手伝うから、一緒に終わらせて、そのあとは...ふ、ふたりでディナーでもいかがかしら?」

「いいけど...それまでに終わるかなぁ」

 

あのまま姉とでも名乗る勢いで、マセた顔で頭を撫でられた。指先でそっとさすられるから、少しくすぐったい

正直、背中を押されたからってよしやるか、と着手できるようなものでもないが、時間は有限よと言って引っ張るスワイヤーが思ったより強かった。伊達にあの鉄球振り回してない

 

 

 

「つぎはぎだらけだったけどあれでよかったのかな」

「細かい事は気にしない、怒られたら書き直すまでよ」

「まあそれまでの時間はできたからいっか。手伝ってくれてありがとうね」

「これくらいお安い御用よ、もっとアタシを頼っていいかんね!

 

提出して、流れで廊下をぶらぶら、体をほぐすために散策する。最初の話通りなら二人でどこか行く予定ではあったけど、いったん間が開くと、なかなかその話を切り出せずにいた

結果なにしてるかといえば、どこに向かうわけでもなく、町に行って、交差点を渡って、数ブロックをクルクル回ってる

 

無言にこそはならないけど、特別おどけた面白話を持ってるわけではないから、自然と身の上話や、世間話だったり、スワイヤーは犬猿の同僚の愚痴だったり。脊椎反射でしゃべって、時々話を聞いて、聞こえなくてもそれらしく返事して、隣で歩く彼女は妙に楽しそう

あまり、仕事以外の面の彼女は見ない気がするけど、意外と、下世話な方なのかな。

 

ふと気づいたときに、道を変えて、今度は左折してみよう、右折してみよう、人通りが多くなる、いい加減疲れる

一つ歩きながら、視界の端にふと看板のネオンが目に入り、立ち止まる

 

「あれ、この店新しくなってる」

「ここ?新しくなったというより、まったく別のレストランになったのよ」

「そうなのか、ここらへん詳しいの?」

「よくパトロールでここ通るのよ」

 

結局、予約制だからと、その二つ交差点を渡った向こうにある、俗に言うところの、龍門の料理店らしい所にした

普通この手のものは、何々店といった代名詞が自然と付く、付けられると思ったけど、ここは一向にそういった名称が思いつかない。龍門店?

入ってみると、どこからともなく、酒とその店特有のタレの匂いが鼻をつつく

 

「それにしても、あんまりよね」

「ん、何が?」

「今日の書類について」

「ああ、抗議したことないこともないけどね」

「ねぇもしも辛かったら、ろ」

「転職の予定はないよ」

「あ、アンタ一人ならアタシがやしなえ」

「辞職の予定もないよ」

「もう!つれないわね」

 

数えてないけど、これと似た会話は度々してる。最初はやんわり断ってたけど、どう返しても同じと気づくと、返事はどんどん適当になっていく

 

「ねぇ、アンタってアタシのこと、どう思う?」

「すごい急だな、どうしたの」

「い、いえ...なんとなく、そういうのってアンタの口からきいたことないと思って」

「信頼...してるけど?」

「そうじゃなくて!こう...色々あるじゃない?」

 

スワイヤーの口からも聞いた覚えがない。

質問の意味がわからず、あやふやに流して、結局答えられないで終わった

つれづれに流されたままの質問と思っていたものが、想像よりも長く糸を引いて

次の夜に再びこの話はぶり返された

 

横長な机で、案の定返却されたファイルの加筆修正

任されて隣で退屈気なスワイヤーは自分を見て、あくび一つかいて手持ち無沙汰に呼びかけてきた

 

「うん?」

「昨日の返事、ま、まだ聞いてないわよ...?」

「そんなに気になる?」

「き、興味があるの」

「前言ったと思うけど」

「違う、もっと別の言い方で...」

「好きか嫌いか、とか?」

「そ、そうよ!そんなところ」

「そりゃ嫌いならここにいてもらってないし、好きだけど」

「それって、どういう面での...?」

「どういう面って、どういう?」

「このわからず屋!」

 

そう言って、今にもビンタしてきそうな勢いで、机に顔をうずくまってしまった。

怒らせたかな、しばらくそのままで、会釈代わりに一度頭に触れて、作業を続けた

 

視界の端で動くのが見えて、呼ばれて手元から横に振り返ると、文字通り目と鼻の先に彼女がいて、それほど怖くないが、よくありがちなびっくり演出のようで、思わず身を引くと、その隙間さも詰め寄られた。どうしたかと聞いて何も答えない、代わりに

「アンタがどう思ってるかわからないけど、あ...アタシはアンタの事が...」と

眉間にしわを寄せるような真剣な表情で、自分が変に話しかけても口息がかかりそうで、そのままじっとした

唇がまもなく触れるところで、時間が止まり、ブツンと我に返ったのかみるみる顔が赤く膨らんで彼女はそそくさと席を立つ

 

「で、では!来週の休日に期待しますわ!それまでに考えて頂戴な!」

「ちょっと待って考えるってなにを」

 

ドアが閉まって、声になりかけの絶叫が聞こえた

 

 

 

「だからどうしようかって」「...相手に言わせようとするミススワイヤーもそうですが、それに気づかないドクターもドクターですね。小官が言うべき事ではないですが」「なんでそんな呆れるの?」




クーリングオフしてないからあとで随所修正するかもよ

一週間くらいチマチマ書いてたけど結局勢いで一夜漬けした方が徹頭徹尾でいいや

ちなみにもうすぐ(7月1日)スワイヤーさんの誕生日ですよ
次回はホシグマ(の予定)、スワイヤーも出るよ。なるべく...がんばる


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スカイフレア

強めな妄想小話。お久しぶり、また再開します。


紙が自然発火するのは華氏451度、摂氏にして意外に高く220度ほど

 

「あなた、そこをどいてくださいます?」

 

さては長い時間寝たのか意識は朦朧としていて、五体満足を確認するために手を動かすと、右手からペンが落ちた。元々仮眠を取るつもりだったのだろうか

ああ、やらかしてしまったな。そう思うと窓から刺す光から顔を逸らして目を閉じた

 

「そう。なら失礼」

 

突如、膝の少し上、太ももの辺りに何かが乗った気がした。

何事かと首を伸ばして下の方を見ると、自分の上で、スカイフレアはまるでそこに居るのが当然かのように、凛とした顔で自分が夜なべして書いた論書に目を通していた

 

「ど、どうして...」

「なにかしら?ん、ここ漢字間違えてるわよ」

「どうしてこんな所に座ってるんだよ!」

 

ささっと足を引っこ抜いて、座りなおり改めて聞いた

 

「あなたがどかないからでしょう?ここはわたくしの席よ」

「そう決まった覚えはないし、というか起こしてよ」

「これで起きたのだからいいじゃない」

 

雑。それ以上にらしくない

それはそうと誤字の確認は後回しに、部屋中を見渡して時計を確かめる

時折、いや頻繁にに時計の位置が変わる。メリットは壁にかつて時計が飾ってあったであろう痕跡が残らないこと、デメリットは言わずもがな

幸い今日も昨日と変わらない位置にあった。

昼は越したか、ランチタイムは過ぎてるし、なにか用意しよう

 

「どこにいくのかしら?」

「ちょっとご飯でも作ろうかなって」

「なんならわたくしが作って差し上げましょうか?」

「結構です」

 

実際彼女の手料理には思い返すだけで鳥肌がよだつような出来事の方が多い

以前、体調を崩したとき、親切にも看病してもらったことがある

基本問題はなかったが、そこで出された粥は、むしろシュルレアリスムとして語られるある種の芸術品の方が近いものがあった

皿と"黒く蠢く何か"。正直食べようとすれば1d3/1d20(正気度ロール)は免れないが、自信満々に差し出されたのを断ってひんしゅくも買いたくないからと、断腸の思いで嚥下した

 

やたらとその体調不良が長引いてしばらくしたあと、めったにそんな機会はないが、話の流れから偶然、スカイフレアの料理を拝むことができた

だし巻き卵を電子レンジで創造しようとするし、コンロを教えても"そんなもの邪道ですわ"と、卵をフライパンに入れてファイヤー、ブレイズ、インフェルノ

目が痛いほどの烈火が天井に届きそうになくらいになり、急いで止めた。

その件もあり、自分もさしてうまい方でもないが手取り足取り、猫の手ひき肉包丁たまねぎみじん切り。最近はチャーハンと称して白米を炒めたものが出された。これは大きな進歩だ、ほんとうに、本当に

 

「結構上達してるんですのよ?」

「成長は認める。えらいぞ」

「当然ですわ。もっと言ってちょうだい」

 

さあどいたどいた、とでもいわんばかりにキッチンに行こうとするスカイフレアを通せんぼして、食べたのは結局引き出しに入れてあった、インスタントカップ麺。

以前、食べたことがないからと、食べさせたことがあるが、微妙な反応だった。別に"こんなにおいしい物初めて食べましたわ!"などと期待していたわけではないが、少し拍子抜け。スカイフレアは思うほど平べったくはなかったわけだ

 

同じように、ジャンクフードに連れて行ったこともある

別にわざわざあの微妙な反応から何かが変わる事を期待するほど自分は酔狂でもない

"あなたはどこにいくにしても危なっかしいのよ"と言ってきかないし本人が、いないものと思って行動してと言うから、本当にそのようにしたのみ

その割には、しきりに話しかけてくる。

 

購買部に通えば腕を引っ張って、自分にはよくわからないアンティーク類やイヤリングを買いたがり

町に赴けば、人込みが苦手なのか異常に声は小さくなって、後ろをことさらにぴったりついてくるようになり

いつのまにか後ろか横にいるのが当然のようになって、でかいポンチョが持ち物の大半を占めるようになった

 

「とりあえず注文しましたが...なんですのこれ」

「...知らない?」

「み、見たことくらいはありますわ!で、なんですのこれ」

「ほら、ハンバーグみたいなのにパンを挟んだものだよ。君が持ってるのはパンではなく米だけど」

「ふーん...」

 

一足先に食べ始めた自分を真似て同じように、だが手掴みに対して抵抗ありげに食べて、やっぱり微妙な顔だった。思えばわからないという顔の方が近しいかもしれない

 

「うん、おいしいわね」

「本当に?」

「食べれなくはないわ」

 

そいつはおいしい物に対するものの言い方じゃない

 

「お世辞できたんだ...」

「おいしいのは本心よ?」

「どっち...」

 

彼女はむっと、少し拗ねた。

 

最後にスープを飲み干して、席を立ちがった。相変わらずスープ最後の方がしょっぱい

適当に片付け、それで誤字はどこだと座る彼女の隣に行くと、ありとあらゆる荒を改善点まで含めて指摘され、最後に漢字間違いについて触れられた

うん、あとにしよう。と再び自分の席に座り、彼女はそのままその論書を読み返している

 

「そういえば、いつからここにいたの?」

「ちょうどお昼くらいよ。食堂に中々来ないから呼びに来たのよ」

「なんでそれで起こさなかったのさ」

 

少し前まではたたき起こされ、お叱りを受けるところだったのに

 

「知りませんわ。気づいたらあんな時間だったんですもの」

「そんなのは時間の無駄ではなかったの?」

「確かに無駄よ。...でもすべてがじゃないわ」

 

そうか。とペンを握りなおすが、ほどなくしてその意図がつかめず、頭がハテナでいっぱいに埋められる

小首をかしげて、どういうこと?と問えば彼女はむっとしてから、言葉を探って間を置いた

 

「では何が無駄ではないって?」

 

確かに反応した声が聞こえたはずが、一向に返事が返ってこない。ふと目を向けると言葉を考えてるのか視線があっちこっち向いて落ち着かない

 

「無駄じゃないとは言ってないわよ。ただ...わ、わからないかしら?」

 

気付くと彼女は、手に持った書類で口元を隠して、その手元にあたった光がかすかに歪んでいる

 

「どうしても言わなければダメかしら...?」

「差し支えなければね」

 

「だ..だってこう言ってしまったらまるで...まるでわたくしが」

「よ、要するにおそらく」

 

非常ベルはここぞとばかりに鳴り始める




こんなものでいいかしら、見当がつきませんわ。
あら、ホシグマじゃなくてごめんなさいね、
どうあがいてもうまくいかなかったのでまた修行し直します


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シージ

初めて当てた時は発狂したのだわ


布団の下には






 布団の下にはシージが眠っている!これは信じていいことなんだよ。何故って、布団があんなにも膨らんでいるなんて信じられないことじゃないか。俺はあの膨らみが信じられないので、この毎日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。布団の下にはシージが眠っている。これは信じていいことだ。

 

 

 いつの間にか自分にとって、シージのことを形容するなら、ライオンというより猫の方が近く感じるようなった。

夏場には、クーラーをつければ大体風に当たっている。ここが一番よくあたるからと、隣で文字通り溶けはじめる。

冬場には、ストーブをつければ大体熱に当たっている。足が冷たいから足元に置いておくと、彼女が足元で寝始める。さすがによろしくないと思って、彼女に貸し与えて、自分はブランケットを使う。そうしてストーブは埃をかぶるようになった。

夏には自分の肌が涼しいから、冬には暖かいからと言って、何かとつけて近くにいたがる。

 

 自分には彼女が何を考えているのかがわからなかった。

常に眠そうな顔をして、なぜかジャケットのもう片方の袖を通そうとしない。何か思いつめた顔をしてると思ったら、まったく同じ飴二つもってどちらを取るかを悩んでいる。

今日も、シージは自分の布団に住んでいた。広義では同衾だが、頭が同じ高さにない。包まっていつも足元にいる。寝ぼけた時は、不意に足で布団の中でうごめく物の存在を確かめる。その度彼女は嫌な顔をするが、それなら何も同じ布団に入る必要はなかったと思う。

これでも外に出れば、いつもの凛々しい彼女に豹変するものだから、いよいよ幻覚を見ていないかと疑わしくなる

 

彼女が執務室に入る時は、決まって外がうるさいという。確かにうるさい日もあるが、そうでないときも同じことを言っている。

なぜこうもやってくるのかと尋ねたことがある、視線を逸らして何も言わなかった。別に嫌ではないから、これからもくるといい。

そうして気づいた頃には、いよいよ執務室に住み始めた。我が物顔で、ソファに横たわってる。そこを占領されている限り、仮眠は大抵雑魚寝している

せめて布団をよこせ、代わりにベッドをくれてやる。そうとは言うが、布団とシージはセットとなって出てくる。

 

どうも自分に懐いている。手を差し出して平を下に向ければ頭を当ててきて、上に向ければ顎を置かれる。

帰ってくるときは決まってドアの前で待ってくれるが、まっすぐソファに行って座ると、そこが妙に暖かい。

事務作業に集中するときは大人しくじっと待ってくれるが、決まって両耳がこちらを向いている。試しに名前を呼んでみると、すさまじい速さで反応してきた。

ついさっきも、そばにシージがいた。自分はあぐらをかいて座っているが、その足の間にチョコンと収まるほどシージは小さくない。それでもはみ出しながらなぜかそこにこだわる。

 

 その飴は、どんな味がするんだ。ふと聞くと隣の彼女は含んでいた飴をつまんで、舐めてみるかと尋ねてきた。まあ気になる。

なら、試してみるといい。言ってそれを差し出してきた。何の冗談だと、不可解な顔を見せる

そうか。と彼女はすぐに察すと、ならば目は閉じろと言う。なにも照れくさくて拒否しているわけではない。

懸命にダメな理由を述べているうちに、うるさいなと両頬をつままれて突っ込まれた。味がしない

急いでどけると、彼女は目線をそっぽ向けて口に戻す。怒っていいのかがわからなかった。

 

 

「な、なあ。暑いんだけど」

「私が寒いのだ」

「ストーブ用意してたろ」

「あれは使い物にならん。火事になる危険すらある。それと比べれば、ドクターの方がはるかに安全だ」

 

何を思うか、背中に当たる息がくすぐったい。




続く。


気づくとだいぶ作風変わってたけど許して


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