積もった初雪に足跡を (ルーガ龍)
しおりを挟む

弊ドクターの設定とプラマニクスについて

カランドイベントがきたな?
この連載はもう無法地帯だ


うちのドクターの見た目とか背丈とか内面
それからどんな風に展開するかと弊ロドスのプラマニクスについての注意点

あくまでもこの物語は『 うちのロドス』でのドクターとプラマニクス、そしてオペレーター達に起きる出来事です。
公式のドクターとの設定などの相違が多数見受けられる事と思いますがそこまで理解した上で用法用量を守ってごらん下さい


Dr.ノートル(本名はクロガネ)

種族:フェリーン(虎)

身長:194cm

体重:105kg

年齢:??(見た目は20代半ば)

 

目が覚めたら己の本名以外の時記憶がないのに、長ったらしい話の後『オペレーター達を指揮してください』とか言われて「お前はかなり失礼な奴だな」とだけアーミヤに言い放つ程度のコミュ力の持ち主

 

口下手、無口、仏頂面、表情筋が死んでる、突拍子がない言葉に定評がある、指揮してる時と別人格。

とオペレーター達から評価されている

 

ドクターとして指揮するのもデスクワークも苦手でむしろ率先して戦場に立ちたい、と内心思っているがケルシーやアーミヤからの許可が貰えずそれが無理なので渋々デスクワークをしている

デスクワークの合間に身体を我武者羅に鍛えており肉体派や武闘派のオペレーター達も舌を巻くレベルに身体は頑丈で、ひとたび戦場に立てば戦闘センスの方が卓越レベル

脱ぐと何故か大きな傷や小さな傷も至る所に存在しており、レスラーや格闘家の如バッキバキに鍛えられていて虎の様な紺色の縞模様があり水色の髪にも紺色の虎模様、そして瞳孔が細い群青色の瞳を持っている

とてもデスクワークがメインの男とは見えず、戦場に立つ傭兵の様な身体の持ち主。

 

目が覚めて真っ先に指揮官の様な仕事を押し付けられ面倒に感じるし、自分の心はまるで何かが抜け落ちた様だと強い虚無感を抱いており漠然と自己評価も低くどこか諦めたような感情が渦巻いていた

しかし特別な指名券を使い同じように『ロドスでの仕事に興味の薄い』プラマニクスを適当に指名したところ、そこで現れたプラマニクスに全身全霊の一目惚れした為に空っぽだった自分の中身の全てがプラマニクスに関することで構築されてしまった

なので彼女の為なら当たり前にロドスを裏切るのも厭わない程に愛しているしプラマニクスが全ての行動理由になっている

 

 

 

弊プラマニクス

おサボり巫女さんでありちゃんと信仰心とあの負けん気も持ち合わせていたものの、ドクターと出会ってそれらがジワジワと変わっていってしまって…と物語中で変化を遂げていく

 

 

※以上のことから分かるようにプラマニクスもドクターとしても捏造過多でプラマニクスやイェラグ、カランド貿易の動き次第で本家ドクターの設定は一部分踏まえながらもかなり自由になります。

なぜならプラマニクスが全てだからです

※基本のんびり更新になります。思い浮かんだ話を思い浮かんだ時に更新してプラマニクスとイチャイチャしたり悩んだりしてる物語です

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本編
初雪と出会った日


「こちらの通信機器から、今ロドスに来てもいいと仰っている特定の人物をオペレーターとして迎える事が可能ですよ、ドクター。」

 

と、言いながら茶色い毛並みにうさぎの様に長い耳を頭部から生やした少女が末端とロドス人事部が特別に1枚だけ発行した指名権を渡して来た。

 

目が覚めて間もないせいでロドスのドクターと言われても大した実感も無く、言われるがままに末端に表示される情報を流し読みしていく…正直誰でも良かった。

なんせ目の前のこの少女は自分を『記憶にない名前で呼び』果てにドクターとまで付けるのだ。

 

全く身に覚えのない名前と役職だがそれでも今下手な行動をする事は懸命ではないと、本能的に悟ってとりあえず与えられた情報に頷くことを優先した。

 

「……4人、候補がいるのか。」

 

ふと、とある人物の項目でドクターは手を止めて情報の欄を読む。

『働きたくないのだ』と目立たないように記入されたそれに思わず頬が緩むと同時にこれくらいの人物だったなら自分も気負わなくていいとそのまま選んだのだ。

 

そしてロドスにやってきたのは、純白の……目が覚めるような新雪を彷彿とさせるかのような女性だった。

初めまして、なのに関わらず尾がゆるりと揺れるのを感じて胃の腑がソワソワとした。

 

「あのぅ……身共の顔に何か付いているでしょうか?」

 

と何も言わず己を凝視してくるドクターに困惑と若干の引きを感じさせながら彼女……プラマニクスは尋ねた。

 

見蕩れていた状況から現実に戻ってくれば、「いや、別に。それより良ければ秘書にならないか。」とぶっきらぼうな返しからの突飛な提案が口から飛び出していたのだった。

 

 

一目惚れだと、何となく理解してからドクターは頭を抱えた。

過去が分からず、自分が何者であるかもしっかりと確信が持てない役職と名ばかりの男が……イェラグ宗教国家の事実上のトップに片思いなどしても及ばぬ恋は馬鹿がする……到底叶う事なんてないと。

 

「まして、あんまりに美人いや可憐……過ぎる……俺がそんな新雪を踏み荒す様な事は出来ない………。」

 

「突然どうしたんですかドクター、理性無くなりましたか。」

 

仕事部屋の椅子にもたれかかりブツブツと独り言を言っていたつもりがいつの間にかアーミヤが来て不審者を見る目で見ていたようだった。

 

「……不法侵入か?」

 

「ノックもしたし声掛けもしましたよ!!ドクターまだお仕事があるのでぼんやりしないでください!」

 

とだけ言って机にドサリ!と鉱石病を患っているオペレーターや職員の事をまとめた資料、戦術の提案書等まとめた物をアーミヤは置いた。

 

「これ、今日までに目を通してサインしておいてくださいね?私は人事部とのお話があるのでこれで…。」

 

冷酷ともとれる発言をして颯爽とドクターの仕事部屋を去っていく背中に何も言う暇もなかった為ドクターは無言でアーミヤが出ていった出入口と仕事の山を交互に見たあとそっと通信機を起動させた。

 

 

 

 

 

「………仕事を手伝え、と言う事でよろしいでしょうか?」

 

着任時の謎の無言凝視といい、それからの秘書任命で明らかに不信感を滲ませるプラマニクスを呼び付ける図太さを発揮したドクターに書類の山をちらりと見てから『やはり』といった様に心底嫌そうなオーラを揮発させたプラマニクスがそう投げ掛ける。

 

「……ソファに座ってお菓子でも食べててくれないか?」

 

「はい?」

 

ドクターの予想から大きく外れた発言に間髪入れずに困惑しきった返答を返すのは至極当然の事であった。

 

「仕事が多すぎるから来てくれ。ドクター命令だ」と言われてプラマニクスは働かせされるのだと、とてもげんなりして嫌々来てから書類の山を見て更に肩を落としそうになったというのに肝心のドクターから言われたのは『お菓子を食べててくれ』だったのだから、プラマニクスはいよいよこのドクターが何を考えているか分からなくなっていく。

 

「……俺は仕事をする、プラマニクスはお菓子を食べる………確かここに……あった、これとあと……多分…これだ。」

 

喋りながら自分の机の引き出しをあけ、次々とスナック菓子やチョコバーのような物を取り出して置いていくドクターの行動……奇行をただプラマニクスは見つめているしかできない。

 

「……たしか、働きたくない。と言ってたな?なら俺の傍にいるといい、ドクターと共に働いているんだろうと勘違いして他の作業を押し付けられる心配が減るぞ。」

 

そう言うとガサッとプラマニクスの近くにお菓子の山を押しやる。

 

「えぇ、まぁ確かに休める時は休みたいと申しましたが……本当にいいのですか?」

 

「…あぁ、………俺が1人で作業したくないだけだから、これもお前の業務の内だ。」

 

では、と言ってすぐに書類に向いたドクターにそれ以上突っ込むことも出来ず完全に手持ち無沙汰と化したプラマニクスは、とりあえずお菓子の山を手にソファに座った。

 

不定期に聞こえる資料をめくる音や、末端をタップするドクターの指の音。

それからプラマニクスが時々食べ進めるお菓子の包装を破る音と咀嚼音だけが響く部屋の異質とも言える謎の空間に、きっとドクターが目覚めてからすぐに着任したエクシアが来たならば「なにこの空間…え?」と突っ込んだこと間違い無しであろう。

 

1人で作業したくない、は半分嘘で半分は本当だった。

正確には「プラマニクスが傍にいたら仕事が捗りそうなのでプラマニクスに傍にいて欲しい」なのだが出会って間もないのにそんな事を告げれば間違いなく、距離は空いたままどころか更に離れてしまう事になるだろうとドクターは分かっていたのだ。

 

だからこそ告げた言葉選びは間違っていなかったようで、プラマニクスも黙々と自由に何もしない時間を謳歌している様子だった。

 

しかしそれも長く続くとは限らない。

なんせプラマニクスにとって何もせずにただお菓子を食べるだけというのも居心地がいい訳では無いのだから。

じわじわと何かすべきだろうか、と言うのを考えはじめてしまうものだ。

 

「あの……」

 

「………ん、喉が乾いたな確かあっちに水のボトルが…」

 

「いえ、そうではなく…」

 

プラマニクスの声に飲み物はあっちだと資料から目を離さず指を指すドクターの言葉にプラマニクスが否定で返せば、ドクターは顔を上げて視線をプラマニクスに向ける。

 

「………なにか?」

 

「身共にも何か手伝える事はありますか?」

 

その言葉にドクターは僅かばかりに驚いた様で目を向いてプラマニクスを見る。

 

「……進んで働きたくないのに?突然どうしたんだ。」

 

「割と失礼ですね。呼ぶだけ呼んで何もさせずにお菓子だけ与えるなんてワケの分からない事をさせるドクターも中々にどうしたんだ、ですよ。」

 

失礼、と言われてあからさまにショックを受けて耳を項垂れさせるドクターにプラマニクスも「どうして落ち込んだ風なんですか」と更に問い続ける。

 

「……いや、気にするな。……だったら気だるそうなプラマニクスでも面倒だと感じなさそうな作業を………。俺が目を通した資料に、不備が無いか確認してくれ。」

 

相変わらず耳を項垂れさせたまま、一応目を通し終わった書類と末端内にある情報をもう1台に反映させるとドクターはそれらをプラマニクスに手渡した。

 

「面倒だと感じなさそうなって……一言二言多いって言われる事はありませんか?」

 

「……何を考えているかよく分からない、は言われる。」

 

「あ、ロドスの皆さんもそう思ってるんですね。」

 

等と言い合いながらもプラマニクスは一応渡された物を手にソファに向かうとそれらに目を通し始めた。

 

ドクターの謎のペースに飲まれて何故か当たり前の様に言われた言葉に返答が出来てしまう。

それが少し、不思議に感じるプラマニクスであった。

 

 

 

それからしばらくして、ドクター指示のもと初陣を果たしたプラマニクスはロドス内で過ごす時とは打って変わって驚くほどテキパキと喋り明瞭かつ的確に指示を出すドクターのギャップに驚いたのだが、他のオペレーターからも「あれ初めは驚くよね」と言われてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー時間軸????ーーーーーーーーー、

 

 

 

 

 

「むぅ………、今……何時ですか…。」

 

「昼を過ぎたくらいだ、眠り巫女。」

 

ソファから起き上がりくぁ…と控えめに手で覆いながら欠伸をし、腕を伸ばすプラマニクスの身体からズルリ…とドクターのコートがずり落ちた。

 

床に全部が落ちる前に慌てて抱き寄せるとコートを抱きすくめる形になる。

ドクターは顔を上げて背中をバキリと鳴らしてからそんなプラマニクスを見ている?

 

「……臭うか?」

 

と不安そうに聞いてくるドクターに思わず笑ってしまうが、そんなことはない、と首を振った。

 

「いえ、そんな事はないですよ?それより、ありがとうございます。」

 

「……ならいい…。ん、気にするな。」

 

それだけ短く返すとまた机に向きなおろうとする。

はたと、先程まで夢で見ていた懐かしい光景を思い出して今と比べる。

 

最初はこの仕事用でしかない部屋は簡素なソファと、仕事をする為の机にせいぜい少しだけ物が置けるテーブル位しか無かったのに、いつの間にやらお菓子や紅茶用のポットを収納する開き戸の棚が取り付けられ、ソファも柔らかくいいものに変わりテーブルも立派になったのだ。

それも全部、プラマニクスと過ごす空間をより良くしたいと思ったドクターの計らい…というか独断での行動だった。

 

「……なにを1人で笑っているんだ?」

 

「いえ、夢でこの部屋に初めて来た時の事を見ていたので……少し思い出していたんですよ。」

 

「…………そ、うか…。」

 

視線を泳がせるドクターが、心の内でのたうち回る程プラマニクスへの想いを募らせているとは知ってか知らずかプラマニクスは柔らかく微笑んでいる。

 

「ふふ、えぇなので今回は久しぶりにお手伝いしてあげましょう。」

 

「む……、寝起きで作業するのか。」

 

「寝起きだからこそ英気を養ったばかりで作業に丁度いいのではないですか。あ、ただしあの日の様にドクターが目を通し終わった物を再確認する作業ですが…あ、あとお菓子も欲しいですね。」

 

そうコートを膝掛けの様にしながら、ドクターに笑いかけるプラマニクスを永遠に見ていたいとドクターは思いながらそれをお首にも出さずに椅子から資料と末端を手に立ち上がる。

 

「それなら、これを頼む。……あと菓子だったか。」

 

そう言うといそいそと棚に向かって行き戸を開けてお菓子と…それからポットも取り出した。

 

「……これでいいか?」

 

と、ドクターはプラマニクスの前にお菓子と紅茶を入れたポットを用意して腕を組む。

流石にここまでされた事にプラマニクスも目を丸くしていたが、ドクターはそんなプラマニクスを凝視して(今日もなんて綺麗な目だ…可愛いな)等と考えている。

 

「ここまでされては、私も少しは頑張って差し上げないとですね。」

 

と両手を膝の上に重ねて置くと、綺麗な背筋で胸をはっている。

 

「……俺の指名券の使い方も、なかなか優秀だったな。」

 

そう小声で言えばプラマニクスはドクターを見上げてまた微笑んでいたのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

束の間の休憩

いわく、「指示を出す時と平常時で喋り方に差がありすぎる」とはオペレーター達の総意的なものであった。

 

プラマニクスが息抜きを兼ねて読書に興じていると横にふと気配を感じたと同時にテーブルに、コトッ…と音を立てティーカップが置かれている。

そのまま見上げるように顔を上へ向けたら相変わらずの無表情が、黙って自分の顔を見ているので暫し見つめ合った後に口を開く。

 

「えぇと……ありがとう、ございます?」

 

「あぁ。」

 

そしてドクターは頷くとプラマニクスの横に座った。

秘書として任命されてから他のオペレーター達よりもドクターと過ごす時間が増えて察したのだが、彼は人と話す時あまりにも言葉が足りていなかった。

 

「…この前のお茶とは違う香りがしますね。」

 

一旦本に栞を挟み、カップを手にして漂ってきた香りの感想を述べながら彼の顔を見ると雰囲気が柔らかくなるのを感じた。

 

「……だろうな。」

 

「相変わらず言葉が足りてないですよ?」

 

この返事1つに色々な言葉が埋まっているのだがさすがにそれを全て察する事など巫女の力を持ってしても出来るはずがない。

カップに口をつけてまたドクターの顔を見るように視線を向けると、顎に手を当てながら考える姿が目に入る。

 

「…新しい、紅茶を頼んでいたから……それで飲ませようと思って…。いつも同じ味は、飽きるだろう?」

 

ドクターなりに精一杯の「プラマニクスの為に取り寄せた」と言う言葉だった。

何時だったか、プラマニクスが『 紅茶が好きだ』と言う話をした日以来ドクターは2人でゆっくりしたい時に紅茶を渡すようになった。

 

「わざわざありがとうございます…。心が落ち着く匂いですね。」

 

ゆらり…とゆっくりとした所作でプラマニクスの尾が揺れるのに合わせてドクターの長い虎の尾も同じ様に揺れた。

 

「……サボるのに、丁度いい。」

 

そう言いながら自分は何もせず、表情すら変えずにじっと自分を見ているドクターの視線に恥ずかしさを覚えてしまいながら口を開く。

 

「サボりではありません、英気を養っているんです。ドクターだってそうでしょう?」

 

言葉足らずを理解したうえでわざと少し語気を強くして言えばドクターは何事も無いかの様に

 

「俺は、プラマニクスがサボっている時の表情が好きだからな……見ているだけで、英気は養える。」

 

と言った。

相変わらず表情を1つも変えず、それでいて何時ものどこか張り詰めて他者を寄せ付けない様な雰囲気が嘘の様に柔らかい空気を纏うドクターの、真意を測り兼ねる言葉にプラマニクスの紅茶を飲む手はピタリ…と止まり耳はピンと立った。

 

(これは、紅茶が熱いせい……。)

 

このドクターが、言葉足らずなのに時折こうした事を言ってくるのは最近あることなのだ。

 

「そ、うですか…なら私の休憩にとことん付き合って貰いますからね。」

 

温度が上がった顔の事を振り払う様にそう口にして背筋を伸ばしてみせた。

 

「……あぁ。」

 

とまた短く返すドクターの声は、少し優しさを含んでいた様な気がした。

 

ーーーーside,Dr.ーーーーーー

 

求人をして、シルバーアッシュと名乗る男が来てからプラマニクスの纏う空気が強ばった様な哀しさや辛さなんかの負の感情と懐かしさが綯い交ぜになった形容しがたい物に変わったのにはドクターはすぐに気付いていた。

 

彼はプラマニクスに一目惚れだった。

すぐに彼女を秘書に任命した直後に(分かりやすかっただろうか。)と彼なりに後悔したがそんな事とは露も思わないプラマニクスと過ごしていくうちに彼女に時折複雑な感情が入り乱れる事があったのは分かっていたが……。

 

(あの男が元凶だろう…しかし。)

 

ドクターは、やたらと親しく接してくるシルバーアッシュを蔑ろにも出来ず話してすぐにクリフハートの兄だと……まぁ3人に共通する匂いで分かってはいたが、それが確信できてから更に無下に扱う事は出来なかった。

 

しかし、ドクターはプラマニクスの顔が曇るのは見たくなかった。

束の間の休息の際に緩む表情や、紅茶が好きだと語った時の顔や自分の趣味やクリフハートの事を話す時の声が好きで何時しか「紅茶をいれたから」を口実に彼女と2人で僅かにでも過ごす平穏な時間を愛していた。

 

だからこそ、自腹を切ってでもいい茶葉を買って少しでもプラマニクスが安らげる様にしたかったのだ。

 

言葉が足りてない、と注意してくる時の繕わない表情が好きだ。

2人で戦いの事を考えず、プラマニクスが巫女としても過ごさず…「エンヤ」と言う少女として振る舞えるこの時間が何よりも大事だ。

サボりだと言えば「違う」とキッパリと、どこか胸を張って言うところは愛らしい。

少しだけ気が緩んで本音を零してしまった時のその反応は、勘違いしそうになるから止めてくれ。

 

(俺は…お前ときっと一緒になってはいけないだろうからな……。)

 

この時間がずっと続けば、なんてありきたりな事は望まない。

ただプラマニクスの中で少しでも俺と過ごした時が安らげた時間として残ってくれたのならそれでいい。

いくらでも休息には付き合う代わりに、俺の両目でしっかりとそんな普通でいられる時間のお前を見て、忘れぬように記憶に焼き付けておこう。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お気に入りの場所で

 

「ドクターも、ここがお気に入りの場所になったんですか?」

 

プラマニクスが、巫女としての職務の一環でロドス基地内に持ち込んでいた書類に目を通し終え一息着こうと、眺めのいいお気に入りの場所に向かえばそこには先客が座っていた。

 

「……ん。今回は俺が先にいた、脚を凍らされる言われはない。」

 

歩みを止めずにそう尋ねれば座ったままのドクターはちらりと視線をプラマニクスに移してそう返す。

初めてこの場所で会った時、サボりを邪魔されてはたまらないと反射的に攻撃の体勢に入りかけたのをドクターは忘れてたおらず、こうして時折蒸し返してからかってくる。

しかし顔は何時もの無表情なので人に寄っては嫌味とも受け取れるが…

 

「むぅ……揶揄うんだったら少しでも表情筋を動かすべきですね。まるで嫌味か脅しの様に聞こえますよ?」

 

「顔を……ふむ…。」

 

大きくてフワフワとした尻尾で座るドクターの背中をペシリと叩いてから、拳2つほど空けて隣に座る。

背中を叩かれても逞しい身体はびくともしないが言われたドクターは自分の口角を触って首を傾げる。

 

「えぇそうです。ちょっとは笑顔の1つでも作って見たらどうですか?」

 

「…………どうだ?」

 

何とか自分なりに少しは微笑んだつもりなのだろうが、それはプラマニクスから見てあんまりにも不器用で名状し難い顔だった。

 

「フッ、フフッ…それは、ええ、えぇ。いえ、その顔は…んふっ、あまり…人に見せない方がいいですね。」

 

思わず笑いが込み上げて彼女の方が笑ってしまったのを見てドクターは「プラマニクスが言ったんだろう……」とだけ呟くとなんとも心外だと言わんばかりの顔をし、それがまた面白さに拍車をかけてしまう事になってプラマニクスはしばらく笑ってしまった。

 

「ふぅ……こんなに笑ったのは久しぶりの様な気がします。」

 

自分の目元を指先で拭う動作1つにドクターが心奪われている事など知りもしないプラマニクスが、そう言って遠くを見詰める。

 

「確かに、そんな風に笑えるんだなと思った。」

 

「む……失礼ですねぇ…笑うことも出来ないドクターには言われたくありません。」

 

そう言い合いながらドクターは思い出したかの様に脇に置いていた保温ボトルを空けるとカップとして使える蓋に中身を注いでプラマニクスに手渡す。

 

「ふむ……これは……コーヒー、ですか。」

 

「お前の味覚に合わせてミルクと砂糖たっぷり入れておいた。……いつも紅茶だと、俺が飽きる。」

 

「小馬鹿にしてます?…と言うかそれならわざわざ同じ物を飲まなくてもいいじゃないですか…。」

 

けれど、自分が前にコーヒーを苦いと零したのをしっかりと覚えていてくれたドクターが、甘く苦味の少なくなったコーヒーを用意して持っていた事に胸中が暖かくなって行くのをプラマニクス自身感じていた。

 

「……いや、俺がプラマニクスと同じ物を口にしたいからな。」

 

コーヒーの入ったボトルを手にしたままドクターはプラマニクスの顔を見てくる。

 

「……そう言うところ、天然なんですか?」

 

と返してカップの中身を飲み干すと、ドクターは意図を測りかねているのか首を傾げてていたのでそのままカップを返す。

そして、ドクターはあろう事かカップを拭くでもなくそのままボトルの中身を注ぐと自分もそのカップでコーヒーを飲んだ。

 

「………甘すぎたか?」

 

親指で自分の唇についたコーヒーを拭ってからプラマニクスを見てそう尋ねてくるドクターの、一連の行動にプラマニクスが止まっている事に彼が気付いて眉根を少し寄せた。

 

「……どうした?やはり甘すぎたか?それで不機嫌に…。」

 

「どうしたらそう………違います。違うんです……ただ、私が変な事を気にしてしまっただけです。」

 

このままだと謝罪されると思ってそうでは無い事だけ告げる。

 

せめて自分が飲んだ箇所と違うところから飲んでくれればいいのに、なんで同じところから飲むのだろうとか。

それをドクターは全然気にしていないのに自分だけがまるで少女の様に間接的にキスをした事に動揺しているのも驚いてしまって。

 

それに、言葉が足りてない人なのに時折私を混乱させる事を言ったりしたりする。

 

気を張り詰めていないサボりの時の顔が好きだと、私と同じ物を口にしたいと言う。

時折作戦でも考えているのかと酷く真面目な顔をしながら、布団の寝心地の悪さについて悩んでいたり普通に食事の事を考えていたりする。

巫女の職務とロドスの傭兵業務が重なって多忙だった時『 休め』とぶっきらぼうに言われてソファに無理に運ばれた事もある。(この時は流石に抱き上げられた瞬間お互いに慌て、すぐに降ろされて歩いて向かったのだが…。)

この時(この人はこんな顔もするのか)と珍しい物が見られて少し得した様な気持ちになった。

 

今だって、きっと彼女の頬には寒さとは関係ない朱がさしているはずなのにドクターは相変わらずの顔だった。

しかし、はっと何かに気付いた様な顔をしていつも着ている上着の胸元のポケットに手を入れた。

 

未だにザワつく胸中に振り回されているプラマニクスの目の前に包みに入ったお菓子が差し出された。

 

「これを忘れていた……菓子だ。茶請けが無いと、気にしていたんだろ。」

 

お菓子が欲しくて俺を見ていたんだな?間違いあるまい、とどこか自信さえ感じさせるドクターの雰囲気にプラマニクスは再び時を止めてしまう。

 

「……やっぱり凍らせていいですか?」

 

そして動き出したプラマニクスの口から出た言葉に本日2度目の「なぜだ。」と言う表情を浮かべたドクターの手から奪い取る様に包みをひったくって気持ち乱暴に開けてから雑に口に入れる。

 

「ゴミ、捨てておいてくださいね!」

 

それっきりドクターと目を合わせぬ様にそっぽを向いて尻尾で床を叩くプラマニクスを見ながら「菓子が気に入らなかったのか……」と呟いたドクターの腕をバシンと尻尾で叩くのだった。

 

 

ーーーーーーーーーside.Drーーーーーーーーー

 

間接キスになっていた、と気付いたのはドクターを見たまま硬直したプラマニクスを見た時だった。

 

だから思わずコーヒーが甘すぎたから不機嫌になったのかと切り出した。

我ながら、間接キスが嫌だったからと言われる前に張った予防線としてドクター的にはいい返しだったと思っているのだが、プラマニクスは「変な事を気にしただけだ」と言ったきり顔を合わせたまま視線だけ泳がせる姿に彼は(やはり間接キスが嫌だったのだろうか)と思ってぐるぐると思考を巡らせた。

プラマニクスの頬が少し紅くなっているのも先程吹いた風のせいで寒くなったからだろうと予測を立てる。

 

そして何とか思い出したのは、プラマニクスに渡そうと思って貰った菓子の存在だったのだが……。

これで機嫌がとれるだろうと踏んだ目論見も虚しくハズレ何故か不機嫌になったプラマニクスにそっぽを向かれてしまったのだ。

しかも「菓子が気に入らなかったのか」と聞けば尻尾でまた叩かれる始末であった。

 

しかし、最初の頃は事務的な会話ばかりだったのに、今では尾で叩いてきたり軽口を言ったり…不機嫌になっても自分の前から去ろうとしないプラマニクスを見ていると、ここまで心を許して貰えていると言う事実が嬉しくて彼の胸は満たされると同時に締め付けられる程苦しかったのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

徐々に踏み込む

プラマニクスは先程ケルシーと出会い頭に

 

「ドクターにこの前の戦闘映像の最後の編集をしてくれと、コレを渡しておいてくれ。」

 

と言われて作戦記録が詰められた封筒を渡された。

 

周りからの扱いとしてドクターとプラマニクスはニコイチで、ドクターが見当たらなければプラマニクスに聞けばいいし逆ならば聞く相手も逆にする、と言う風潮がオペレーターや職員達の間に生まれつつあった。

それはそれで悪い気がしないと、片隅で思いながら封筒を手にドクターに教えられている情報を頼りに頭の中でルートを構築する。

 

ドクターなりの気遣いで、よくシルバーアッシュが通ったり居座る場所をプラマニクスは伝えられていたのだ。

だからそこを避けて今の時間帯にドクターがいるであろう場所に目星をつけて移動する。

 

(この時間で……、今日はそんなにデスクワークが無いと言ってましたね。……そうなると今いる場所は、)

 

とチラリと時刻を確認してから向かう先は訓練所だ。

ただでさえ自室にもトレーニングマシーンを沢山置いているというのにうちのドクターは「万が一に備えて自分も鍛え抜いておくべきだ。あと身体を動かせないと死ぬ」と言う考えの元、空いた時間を見付けたりわざわざ纏まった時間を作っては筋力トレーニングやスパーリングに勤しんでおりそのおかげで虎の耳と尾に相応しい屈強な肉体を持っている。

 

 

「むぅ、やっぱりここにいましたか。」

 

そうプラマニクスが訓練所の中を覗きながら告げる。

訓練所の一角で、ドクターは上半身裸で逆立ちの状態で少し腕を曲げた体勢をキープしている。

備え付けのタイマーを見たら時間が10分以上は経過しておりまさかこの体勢をずっと続けていたのかとプラマニクスはドクターから目を逸らしながら思った。

 

「ん……プラマニクスか。…あと5分待ってくれ。」

 

コチラを見る事無く逆立ちを続けるドクターの体をチラリと見る。

記憶が無い…とはいえ彼の体には縞模様に混ざって大小の傷があった。

 

果たしてこれは本当にドクターに付くような傷なのか……どちらかと言えば戦場に立つオペレーター側なのではないか?とプラマニクスは疑問に思うが真相は分からない。

 

「5分間、私はドクターのこの姿を見ているしかないと……。」

 

「そうなるな。」

 

キッパリとそう言い切ったドクターを見て、要件を伝えて帰ると言う選択肢を捨てたプラマニクスが近くにあったベンチに腰掛けて封筒を横に置いた。

ドクターの姿を見ながら(しかしよくもまぁ彼の生活リズムが分かるようになったものだ)とぼんやり思う。

 

最初はなんで配属されたばかりの自分が秘書に任命されたか分からなかったが「ドクターである自分の傍にいればサボっていてもバレない 」「秘書になっていれば、多少ズル休みの融通が効く」とドクターはこっそり教えてきた。

私の性質を加味したとしてもだからといって入って日が浅い自分を秘書にする理由にはならない、と思ったのだがこれ幸いとそれ以上突っ込むことは無かった。

 

しかし最初は全く何を考えて何を言い出すか分からなかったのだ、このドクターは。

 

ある日普通に並んで次の戦地の戦闘シュミレーションをタブレットを見ながらしていたら突然ドクターが「白いな。」と呟いた。

プラマニクスが「はい?」と聞き返したら「いや、プラマニクスは髪も肌も白いな、と……。」と、言ってタブレットに添えられた自身のゴツゴツとして傷だらけで血色のいい手と彼女の手を見比べて「俺と比べたらなお白く感じるな……ところでこの高台なんだが」とそのままプラマニクスの返答を待たずしてまたシュミレーションの話へと戻ったのだ。

この時?マークを大量に浮かべ軽く混乱しながらも何とかシュミレーションの話に持ち直したのが懐かしい。

 

それが幾つもの戦場を渡り、仕事を共にこなすうちに何となく主語や確信的な部分が抜けがちで突飛なドクターの会話を理解できるようになったのだ。

 

最近では「ドクターがちょっと何言ってるか分からないから翻訳して!」とクリフハートこと、妹のエンシアに頼まれた事すらあった。

 

そんな風に出会った頃と今とを頭の中で比較していると、トンッと軽い音がしてドクターがようやく普通に立ち上がる所を見た。

床に投げてあったタオルを手に汗を拭きながら歩寄ってくる。

兄…シルバーアッシュが来ていた時遠目に2人を見たことがあるのだが、身長はたぶんそこまで変わらないのに体格差のせいなのかドクターの方が大きく見えてしまい何故笑みが溢れた事があった。

 

優越感、に近い様に感じたがついぞその反応と心情の答えは見付からないまま今に至る。

 

「プラマニクス……なんだ。」

 

「なんだとはなんだ、ですよ……ドクターにお仕事……で、す。」

 

やれやれ、と顔を上げてドクターに封筒を渡そうとしてぴたっと視線が釘付けになった。

 

汗を拭う為なのか何時もは顔を少し隠すように長い前髪が雑にかきあげられて顔がハッキリと見えてその双眸がしっかりとプラマニクスを映している。

しかも要件を聞くためなのか多少前屈みになっているドクターの顔が思ったより近くにあるのだ。

 

それを見て上がる脈拍を抑えるのに尽力し、何とか視線をずらすも彼は今半裸で鍛え抜かれた筋肉が惜しげも無く晒されているせいで下方には向けられず、だからといって顔も見れず少し視線を泳がせた後に何とか脇に目をやりドクター越しに壁を見る。

 

「封筒…………またデスクワークか……。」

 

そんな彼女の状態を分かって居ないかのように「はぁ」、と短く溜息を吐きながら尾と耳を下げるドクターの姿が目に入る。

既に何度か目にしているプラマニクスだが毎回物珍しいドクターの様相を独り占めできるのは特権だと思いながら今回の落ち込み具合も…目を逸らしつつ見ていた。

 

「えぇ、ですので早く終わらせる為にも早急に服を着て執務室に戻ってくださいね?」

 

と言えば「む。」と短い返事をしてからドクターは1歩下がり

 

「すまない、汗をかいていたのに近付いて。……少し待っててくれ。」

 

そう言うとまた封筒を返してきてから足早に踵を返してシャワー室の方に向かっていく背中を見る。

 

「これは………執務室には一緒に戻るから待て…と言うことでいいんですよね。」

 

封筒で口元を隠すようにしながら1人呟いて尾をゆっくりと揺らす。

短く息を吐いて、先程まで見ていたドクターの身体や顔を思い出しては忘れようと務める。

プラマニクスの中に芽生えたドクターへの感情は昔兄と呼んだ者に抱いた尊敬から、既に信頼を超えて恋慕の範疇に片足を入れていた。

しかしそれは『伝える事も叶うことも無いのだろう。だから諦めろ』としっかり自分を律するものの…

 

シャワーを素早く浴び、ノシノシと言う効果音が似合う足取りで何時ものドクター衣装…少しシャツがキツそうな物を着た彼が、機嫌がいい現れだと言わんばかりに尾をゆったり揺らしながら近付いてくるのを見てしまうと蓋をしようとした気持ちがまた頭をもたげ始めそうになる。

 

「待たせた。」

 

それだけ短く言って、待っていてくれたのが当然だからという態度で手を出してくる。

一瞬何を求めているんだろうか、と考えてからすぐに封筒だろうと思い直して淡い期待をかき消す様に封筒を渡す。

 

「むぅ……私が待ってるのが当たり前だとでも言わんばかりですね……はい。」

 

「待っててくれたからな……差し出すのは手でも良かったんだぞ?」

 

渡された封筒を手にしながら、開けて少し中身を確認しつつそう言うとドクターはプラマニクスとのすれ違い様にそう言った。

 

「冗談だ、怒るな。……仕事が待ってるから早く戻ろう。」

 

「怒ってません!それにそう言う冗談は控えた方がいいですよ、そもそもドクターの場合その顔のせいで冗談が分かりにくすぎるので。」

 

後ろを着いていく事無く振り返っていたプラマニクスが、先程の言葉に怒ったのかと勘違いしたドクターのセリフに怒り気味に返して後を着いていく。

 

「今怒ってるじゃないか……。すまなかったと言ってる、許せ。」

 

そう言って振り返りポンッとプラマニクスの頭の上に、ドクターの手が1度置かれてすぐに退いて行く。

 

「………本当に貴方と言う人は何がしたいんですか。」

 

なかなかに自分もマイペースなだと思っているのに、このドクターも負けず劣らず…というか上手を行く自由人か、飛び抜けた朴念仁と言うレベルのマイペース人であることだけは分かる。

諦めようと、忘れようとする気持ちに何度も踏み込まれて来て結局恋慕と叱責で心は板挟みのままになる。

 

執務室へ向かう道すがら、「俺は、俺がやりたい事をしているだけだ。人様に迷惑のかからない範囲で。」と言うので思わず立ち止まり「もう人を散々振り回してますよ。」と言い返せばプラマニクスに向いたドクターが僅かに驚いたんだと分かる様な顔をして見せる。

本当に僅かな瞳の変化だったのだがそれでもプラマニクスには十分に伝わり、

 

「なに驚いてるんですか……。」

 

と言っていたら、たまたま横を通りかかったエクシアが「えっ!?リーダー今驚いてたの!?」と正しい驚きのリアクションをしてみせたのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

心は同じ紅茶色

前話の続きのお話


 

「ここは消しても問題ないな。」

 

「そうですね……あ、今の……そうです、こちらの戦局は残しておくべきかと…。」

 

2人でモニターを眺めながら、作戦記録として残すのに必要な場面か否かを取捨していく。

時に早送り、時に戻しながらドクター自らが指揮したの物とは違う戦場の映像も繰り返し見る。

 

「俺だったらここはそうだな……この敵に発見されにくい草陰からメランサに奇襲させて……」

 

そうプラマニクスに聞かせているのか、1人で自分ならどう動かすかを口に出しながら考えているのか分からない呟きを繰り返しながらも目線は忙しなくモニターに映し出される戦局を追い続ける。

 

「あの……ドクター…?」

 

耳にプラマニクスの声が入ってきて映像を一時停止して視線をプラマニクスに移した。

お前が手にする鈴よりも遥かに耳障りのいい音がする声だ…と内心思いながらそんな、とてもフィルターのかかった感想を抱いているなんて事を全く表に出すこと無く口を開く。

 

「……サボりたいのか?勝手に休んでいいぞ。」

 

「ちがっ!いませんけどサボりではなくて、これはドクターの為を思ってのお誘いですよ。お気付きで無いかもしれませんがもう1時間以上モニターから目を離して無いんですよ?………ただでさえこの作業を始める前から長時間鍛錬していたと言ってましたし、だったらそろそろ休憩時間を取るべきかと。」

 

 

執務室に入る前、プラマニクスとの会話で「どれくらい鍛錬していたんですか?」と聞かれてしばし顎に指を添えて黙りこんだ。

鍛錬で身体を動かしている間は時間の経過など全く気にしていないので、タイマーを見ながら測った凡その目安しか分からないのだ。

黙った時間が思ったより長かったのかプラマニクスがそっと顔を覗き込む様に見上げてくる。

(今日も美人だ……いや、可愛らしいのか?………どっちもだな。)

と言ういつも抱いている感想を真っ先に浮かべながら「………3時間くらいか。」と返せばプラマニクスが目を見開いて驚く番だった。

 

 

さてそんな入室前の出来事から今に戻ればドクターはぶっ通しで休まず動いていることになる。

鍛錬とは違った理由でだが、デスクワークの方は嫌いなので早く終わらせようと時間を気にせずに作業するのがザラだった。

 

視線を時刻を現すパネルとモニター、そしてプラマニクスへとぐるりと動かしてからまたしばし無言になる。

 

「………俺はまだやれる。」

 

なんせ、こうして映像編集等の作業をしていたら誰の邪魔も気にする事無く、2人で堂々と過ごせる口実になりえて嫌いな作業であればこそ早く終われば作業の締切を急かされる心配をせずに2人で休めるのだから。

 

だからこそ手を止める訳にはいかないと、もう一度再生を押した瞬間プラマニクスに一時停止を押される。

 

「休みましょうか。」

 

笑顔ではあるがそう言いながら白い手にそこそこに力を込めながら手首を掴んでくるプラマニクスから何かしらの圧を感じてドクターは大人しく手を止めざるえなかった。

それにプラマニクスが力を込めてもそこまで痛くも痒くもなく、そう言うところもまた可愛いと思ってしまい僅かに表情筋が緩んだ気がした。

 

 

 

 

「紅茶もコーヒーも補充が沢山ありますね……あっ、お菓子も幾つか貰いましょう。」

 

執務室=2人の空間の様なものだったのでわざわざ開き戸の棚を取り付け、そこに紅茶用のポットやらプラマニクスが好む紅茶や過去に「美味しい」と口にした菓子類を突っ込んでいる。

それに、資料や記録媒体を置いた棚を隅に追いやり冷蔵庫や座り心地のいいソファにテーブルまで置いた為もはや執務室なのか休憩に特化した部屋なのか分からない部屋になっていた。

 

「むぅ…高い……。」と聞こえたので「そこに居てください」と言われ連行されたソファから立ち上がり、尾をプルプルさせながら少し背伸びして腕を伸ばしたものの目当ての物に手が届かず早々に諦めたプラマニクスの背後から手を伸ばしてこれだ、と思う物を取り出した。

 

「…これか?……今度、台を持ってこないとな。」

 

「む、座っててって言ったのに。けどえぇ、そうですね…あれば助かります。」

 

「いや、食器が割れたりしたら大変だからな。」

 

自分の頭2つ程下に片想いの相手がいて見上げられるのは悪い気がしないのだが折角、あの出来れば楽をしたがるプラマニクスが自分の為に何かしてくれようとしているのだからその心を汲む手伝いをしようと思う。

 

しかしその過程で怪我などされたら罪悪感で堪らなくなって自刃しかねないし、シルバーアッシュの傘下ことカランド貿易組に睨まれたら軽く面倒だ。

 

「それは……いえ、なんでも無いです。しかしこれ以上台や飲食物を持ち込むと怒られそうな気もしますが……。」

 

「ケルシーとアーミヤには既に小言を言われている。」

 

「なっ、聞いてないですよ。」

 

「俺が好きで持ち込んでいる、プラマニクスに小言を言ってるのをあの角の付き人や小鹿に見られシルバーアッシュに告げ口されたら困るだろう?と返しておいた……アーミヤに『仕事さえしてくれたら構いませんが…、2人で住まないでくださいね?』と光の消えた目で付け足されたがな。」

 

そう言いながら後はプラマニクスの好意に甘えて座って待とうとドクターはまたソファにかけ直した。

 

話を聞きながら冷蔵庫から水を出してポットに入れて沸かしたりお菓子を取り出す姿を見ながら、(もし彼女と付き合えたなら、こんな景色が日常になってくれるだろうか)と考えてから心で自嘲し「告げ口されるって…まぁ確かにあの人に私のする事が筒抜けになるのも嫌ですね」と言うプラマニクスの声を聞きながら目を瞑る。

自分はこの世の中で『ドクター』と言う立場で、彼女は………どんな経緯であれどイェラグの宗教トップなのだから、こんな風に住む世界の違う2人がお茶を入てもらいながら雑談する今のこの光景こそ夢に近いのだ。

 

そしてそんな事を考えてしまえば、プラマニクスから平穏な日常を奪った国とシルバーアッシュに対するドロリとした負の感情が真っ黒いインクの様に零れ落ちシミを作く

る感覚に陥るのに、どこかで『それのお陰でこうして彼女と出会えたんだろう』と自分勝手な意見が首を突っ込んでくる。

それにその点さえ除けば自分は優秀な戦闘技術を持ち、どんな理由であろうと親しみを顕にしてくれるシルバーアッシュを嫌ってはいない。

 

「………やっぱり疲れてるんじゃないですか。凄い眉間にシワがよってますよ…私がこうして誘わなければ倒れていたかもしれませんね。」

 

「ん、あぁ…そう見えるか。……俺は倒れたりせんと思うが感謝する。」

 

テーブルに置かれたティーポットとお菓子の皿の音と、プラマニクスの呆れた様な声に意識が黒い負の泥中から戻ってくる。

獣の様に鋭い嗅覚は紅茶の匂いと、お菓子の僅かな甘い香り……そして、既に何よりも効果のある安定剤と化したプラマニクスの匂いが近くから漂って、鼻腔をくすぐるのに先程まで重く心を埋めようとした真っ黒い物が晴れて行く気分になった。

 

「今だって凄い顔してましたよ。……まったく、ドクターは自分で自分の事分かって無さすぎですね。貴方が倒れたらどれだけの人々に迷惑がかかると思ってるんですか?」

 

「……俺以外に優秀な人材はいる。俺が欠けてもたぶん……次がくる。」

 

「そう言うところありますよね。それに換えが効くとか効かないではありません……私だってもし貴方が倒れたら、心配しますから。」

 

3兄妹の中で1番大きくフワフワとした尾を身体に巻き付ける様にしながら、紅茶を入れているプラマニクスの言葉に彼女の方を振り向く。

 

「……心配、なんてしてくれるのか?」

 

「当たり前です………それなりの付き合いなんですよ?」

 

カップに注いだ紅茶を、ドクターの前に置きながら自分の分も注ぐプラマニクスはどこか落ち着かない様な感じになっていて頬が赤い。

 

「そうか……プラマニクスに心配してもらえるなら、倒れるのも悪くないかもしれない。」

 

ふっと緩んだ口角で、そう言いながら紅茶に1度息を吹きかけてから1口啜る。

 

他の誰でもなくプラマニクスが心配してくれる、と言う事実だけで心が踊るのを感じる。

しかし横から聴こえていたプラマニクスの動く音がしなくなってはて?とまたプラマニクスを見ればこちらを見て手を止めていたが目が合えばハッとして口を開いた。

 

「……なんですかそれ、そんな理由で倒れられたら私はお見舞いにはいきませんっ。それより…、そんな顔も出来たんですね。」

 

「言ってる事がチグハグだぞ……それよりそんな顔?」

 

プラマニクスに言われて自分の顔をさすってみる。

今自分はプラマニクスを驚かせる変な顔をしてしまっただろうか。

 

「私に心配されたくて倒れるのと、頑張りすぎて倒れるのは別でしょう。……いえ、少しだけ、ドクターが笑っていたので。」

 

「あぁ…プラマニクスに気にかけてもらえるのは嬉しいなと……考えていたらな。」

 

「そう言う事はサラッとたまに口にしますよね…。」

 

これだけ言い合ってもドクターとプラマニクスは直接的な好意を伝える事は無かった。

それが許される立場ではないと分かっていて、ドクターは(自分が彼女の特別になれる訳が無い)と思っているからだ。

それでもこうして2人で過ごし、同じ紅茶と菓子を食べる時間は揃って至福の時である事は同じで

 

「この時間が続けばいいな。」

 

「えぇ、本当にそうですね。」

 

ゆらり、と2人揃って揺れた尻尾がこの言葉が2人の本心である事を示していた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

恋人未満?なプラマニクスと基地内デート

シルバーアッシュセコムとアーミヤ監視官がチラチラ出てきます


 

「購買センターで買い物したいんだが……。」

 

「クッキーでお願いします。」

 

「……善処しよう。」

 

こんな会話が繰り広げられたのは仕事に疲れはじめたつい数十分前の事だった。

この短いやり取りだけでドクターが休憩を兼ねてプラマニクスと購買部に行くのを希望していると彼女は気付く事が出来るようになっていて、そしてドクターもプラマニクスが着いていくのに報酬を要求する事も織り込み済みだった。

 

「……購買センターの菓子はよく買い占められると聞くから、あればいいんだが……。」

 

「そう言えばそんな話を聞いたような気がしますね……。無ければ他の物でも構いませんよ?」

 

「あぁ。」

 

ロドス基地内部でこの2人が並んで歩く時、軽口や雑談を交えながらプラマニクスに目線を合わせようと少し猫背になるドクターの姿を見ている戦闘や仕事で一緒に過ごす事が多い戦場に出るオペレーター達では無い職員達は(イェラグの巫女を『あの』ドクターが口説き落としたのか?)と誤解する事が多いらしい。

 

購買部や共有の休憩スペースでも姿を見かけた時はだいたい一緒。

購買部で物を買う時、離れた位置で品物を見ていても気付けばどちらかが近付いて並んで品定めをしているし、菓子類を買う時等お互いが手にした物を見比べている姿など恋人同士と勘違いされてもおかしくないものだった。

 

「……そう言えば。」

 

購買部に到着してプラマニクスが早速お菓子を物色しに行く後ろを着いて行こうとしてドクターは足を止める。

 

「どうかしましたか?」

 

と、プラマニクスはドクターではなくお菓子の棚に目を向けたまま人差し指を顎に当て様々なお菓子の中から何を買って貰うかを吟味しながら聞く。

 

「クロージャに頼んでいた物が………。」

 

それだけ言ってノシノシと購買部の各々が注文している品物が届くコーナーに向かうドクター。

 

そしてプラマニクスは珍しくまだ誰にも買われていなかった、高級そうな缶に入ったクッキーとチョコの箱を手にご満悦といった風だ。

そんなプラマニクスの元にノシノシと戻ってくるドクターが缶と箱を見てからちらりと金額を見て一瞬肩を落しかけるもプラマニクスの上機嫌な尾の揺れとその幸せそうな横顔が目に入ればそちらの方が優先事項で「それだけでいいのか?」と尋ねる。

 

「んー…そうですね。今日はこれくらいでよしとしてあげましょう。」

 

と、笑いながら振り返りドクターに缶と箱を渡そうとしたプラマニクスだったがドクターが両手に抱えた大きな箱に目が行く。

 

「それが欲しかった物ですか?」

 

大きな箱の上に当たり前の様にお菓子を乗せようとするプラマニクスに合わせる様に、ドクターが箱の位置を下げて乗せやすくしつつ頷く。

 

「そうだ、少し前に……頼んでな。」

 

「ふむ、ドクターがそれなりの大荷物を……ですか?」

 

大きな箱の上に箱と缶を乗せてからようやくプラマニクスが「あっ」と言ってから「カゴがあった方が良かったですね」と、待つように告げるとカゴを取りに行く。

 

待つように言われたドクターがそのままボーッとお菓子の棚を眺めならがつったているとクロージャが寄ってきた。

 

「ハロー!ドクター!基地内デートの真っ最中かな?」

 

手をヒラヒラとさせながら、そういつもの調子で声をかけてくるクロージャを一瞥する。

 

「……デート?誰とだ。」

 

「いやいや……、まぁドクターだもんね。仕方ないか……。」

 

(これで付き合ってないんだもんなぁ)と内心思っているクロージャに疑問符を飛ばすドクターに対し、呆れを通り越しここまで朴念仁が過ぎれば一種の才能になるか、とクロージャが関心しているとプラマニクスが戻ってきたのに気付いたドクターのがゆらり、と横に大きく1度揺れた。

 

「2人の邪魔はしないけどさ、ドクター言うことあるよね?」

 

わざとらしくプラマニクスが戻って来てからクロージャが腰に手を当てながら言えば、何かを思い出した様にドクターはクロージャに向き直した。

 

「あぁ………そうだったな。仕入れリストにない物を頼んだと言うのに入手してくれて助かった。感謝する。」

 

「どういたしまして〜、それじゃあごゆっくり。」

 

来た時と同じ様にヒラヒラと手を振りながら立ち去るクロージャだけが、2人の事をずっと見ている2つの人影を捉えていたのだった。

 

「仕入れリストに無いものを、わざわざ注文したんですか?」

 

物欲には乏しそうなドクターがそうまでして…?とプラマニクスは疑問に思いながら尋ねる。

プラマニクスが手にしたカゴを受け取って自分の荷物と彼女のお菓子をそこに入れながらドクターは頷く。

 

「……まぁ、ここではあまり欲しがる奴もいないような物だったからな……、それでもどうしても欲しくて。」

 

「そうですか…。」

 

気にはなるもののドクターの私物について根掘り葉掘り聞くのもなんだか、とプラマニクスはそれ以上言及はしなかった。

ドクターがカゴを手に持ち、支払いしようと歩き出したのでそれに着いて行く。

 

するとある棚の前でピタリ…、とドクターが足を止める。

急な事だったのでプラマニクスも一瞬遅れて立ち止まる。

 

「と、急に立ち止まらないでくれませんか?」

 

プラマニクスが不満げに眉を顰めながらドクターを見れば、棚に手を伸ばし陳列されていた物を取りしげしげとそれを眺めてからプラマニクスを見てきた。

 

「……突然無言でジロジロ見てきてどうしたんです?」

 

とプラマニクスが言えば短く「いや」と言ってから彼女の目の前に少し光を反射する薄紫と水色が混ざった様な淡藤色と、青紫がかった群青の鉄紺色の紐が編まれた組紐を差し出す。

 

「……プラマニクスに、似合うかと思ったが……もう既に色々身に着けているから増えても邪魔だな。」

 

そう言いながらプラマニクスと組紐を交互に見たあと、手にした紐を元の棚に返そうとするドクターの手をプラマニクスは引き止めていた。

自身でも咄嗟の事だったのかプラマニクスは1度目を泳がせてから口を開く。

 

「邪魔かどうかは私が決めるので!あ、あと…そうですね、別にオペレーターとしての任に就いていない時などに着けたら……えぇ、邪魔にはなりませんから。」

 

そんなプラマニクスのどこかそわついた様な様子にドクターも1度目を瞬かせ

 

「分かった……なら、これも…買うとしよう。」

 

と言ってからカゴに入れた。

そしてしばらくプラマニクスが顔を隠すように少し俯いたままドクターの腕を掴みっぱなしで、ドクターもそんなプラマニクスを見詰めたまま固まる、と言う事態が発生したのだった。

 

 

 

 

「アーミヤよ、あれは本当に付き合ってないのだな?」

 

「えぇそうなんです、どちらかがあれ以上何の行動も起こさないのであの関係性のまま止まっているんです。あとドクターはまだお仕事を残しています。」

 

と、購買部の外で隠れながら話す長身の男とロドスのCEOでありドクターを射抜くような目をした少女の姿が目撃されたのもまたこれと同時刻であった。

 

 

 

 

 

買い物を終えて、もう少し息抜き(ただでさえ買い物はかなりの息抜きのような物だったが)しようとどちらからともなく提案し、共有の休憩スペースにドクターは手にした荷物を置いてプラマニクスにも座って待つように言う。

 

この2人が現れた瞬間スッ……と2人が座るであろう定位置の近辺からオペレーター達が離れた席へ移動したことに2人は気付いてないが。

 

珈琲とお茶…それからガムシロップとミルクを手に、席についたドクターがプラマニクスの前に全てを置けば少し思案した後にプラマニクスがお茶を取ったので、ドクターは珈琲を手にガムシロップとミルクを入れた。

甘い珈琲を飲むかお茶を飲むかプラマニクスに先に選ばせて、自身は彼女が選ばなかった方を選ぶのはドクターの習慣だった。

 

双方1口飲み物を飲んでリラックスした辺りでドクターが思い出した様に己の通信用末端に記録させた画像を展開してプラマニクスの目の前に持っていき見せる。

 

「あの場所で偶然見れた、……プラマニクスにも見せようと思ってな。」

 

と自慢気なドクターに微笑みながら画像を見るプラマニクスが

 

「虹ですか。こんなにはっきり写っているならさぞ実物は綺麗だったんでしょうね。」

 

と返しながら談笑している。

 

(ドクターのあれどんな感情?)

(こっちから見たって無表情なんだから分かるわけないでしょう!?)

 

そしてそれを遠巻きに見るオペレーター達からすれば全てを察してにこやかにしているプラマニクスとひたすらに無表情で過ごすドクターの組み合わせに謎が深まるばかりであった。

 

 

 

 

「あと、30分して執務室に戻らなかったらカチコミます。」

 

(あれほどアーミヤには枷をしておけと言ったではないか盟友よ…。)

 

臨界点を超えそうになっているアーミヤとそれを見ながらため息を吐いたシルバーアッシュを目撃したケルシー女史が頭を抱える事になったのはこの後の事である。

 

 

 

しかしアーミヤの心配?も杞憂に終わり、その後コップ1杯分の飲み物を双方が飲み終わるとそのまま2人は執務室へと戻っていったのだ。

それを無事に見届けたアーミヤはようやく追跡の心配が無くなったと安堵した様子だったが、シルバーアッシュの方はこの時まだ己の妹とドクターの関係性のもどかしさが胸に突っかかる様に感じていたらしい。

 

 

 

「……仕事を再開しなければ、アーミヤの部屋の床に敷く毛皮にされてしまう。」

 

とドクターなりの小粋な虎ジョークを言うものの

 

「冗談が分かりにくいですね。」

 

とプラマニクスにバッサリ切られてしまった。

しょんぼり、と言う風な効果音が似合いそうな耳と尾の垂らし方をしながらドクターは荷物をソファに置くと執務用の机に向かう。

しかしその足を止め踵を返してソファに腰掛けたプラマニクスの方に戻っていく。

 

「……プラマニクス、これを。」

 

買い物した袋から、件の箱を取り出すとそれをドクターはプラマニクスの目の前に差し出したのだ。

予期していなかった事でプラマニクスが驚いてドクターと箱を交互に見た。

 

「これを……私にですか?」

 

状況が掴めないままに箱を受け取りながらドクターに聞けばコクリ、と頷いている。

 

「……開けてみて、いらなければ…、破棄したらいい。俺が渡したかっただけだ……いつもの礼として。」

 

「またそう言う事を言う……まだ何も言ってないし現物を見てもないんですよ?」

 

そんなマイナスな事を言うドクターを軽くたしなめる様に言いながらプラマニクスは箱を開封する。

そして、中を見て蓋を開けた手が止まった。

その横で少し落ち着かない風に尾を揺らすドクターへと視線を移す。

 

「これ、を……わざわざ取り寄せて?」

 

「あぁ、……以前、俺の仕事を見るのが暇なら…やりたい事をすればいいと言っただろ?その時プラマニクスは『読書用の本か、編み物が出来る物があればわざわざ昼寝なんてせずにしている』と言ってたからな。」

 

箱の中には数冊の本と、棒針かぎ針と言った編み物をするのに必要な道具に様々な種類の糸の束が入っていた。

 

「中々の出費だったが……プラマニクスの息抜きになればと。……ここでは心置き無く趣味に没頭してくれ…。」

 

プラマニクスの様子を伺うように、ドクターは近付いてしゃがんでいた。

そしてドクター自身気付いていないがその表情は慈しむ様に柔らかくなっていた事をプラマニクスだけが見ていた。

 

「っ、ありがとうございます……大事に、大事にしますね?」

 

と、微笑んで返したプラマニクスが大事に箱を抱き寄せる姿を見てドクターは心の底から満足し同時に贈って良かったと思うのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

貴方の特別になれたら

プラマニクスがドクターをどう思っているのか、と言うお話なのでしっかりと『この作品のロドスにいるプラマニクスの話』と言うのを念頭に置いてどうぞ。

信頼度200%になったプラマニクスの会話バレあります。

イェラグとか巫女の設定やらも想像の範疇。
ドクター側の視点もあげるかは悩み中です。


雪境の小さな宗教国家イェラグ。

天災の影響は少なくとも年中雪に鎖された過酷な環境と閉鎖的で文化の進歩も遅れた国。

そんな国で私は、3族貴族会と言う名家の1つシルバーアッシュ家の長女として生を受けた。

優しい両親としっかり者の兄と、そして産まれて間もなくてぷくぷくと柔らかく愛らしい妹…何不自由のない生活。

 

しかしそれはある日終わりを告げた。

政敵による両親の死と、もみ消された事実。

そこから失意と悲しみに包まれた暗雲の中で目まぐるしく変わってしまった日常。

 

そんな生活が続き、お兄様が私と妹を育て留学した後……私は。

 

兄の決断は許せないものであった。

選聖され過酷な巫女に至るための道すがら、私はカランド神の加護を受けれず道半ばに倒れた少女達を見ながらそう思いつつ進んだ。

 

進む道中、決まりを決して違えぬ様に進みながら脳裏に幾度も過ぎったのは過酷な雪境であれど温もりに溢れていた家の中、家族の団欒と陽だまりの中で感じていた母の膝の上で一緒に楽しんだ編み物と、父に読んでもらった本や兄に背負われた思い出……泣いてばかりだった妹が私を「おねえちゃん」と呼んだ日の事だった。

 

負けてたまるか、こんな所で。

全てを奪われ続けたままで、終われない。

 

そうして私は、意地と…きっと神の加護もあったのかもしれないが天道を進み山頂の神殿へ鐘をかけるに至った。

 

巫女になり神の伴侶などと謳われる頃には、お兄様と身内として会話する事は……無くなった。

 

 

 

 

私は私の願う事の為に行動していたはずだった。

なのにそれが、ロドスに駐留するようになってから揺らぎ始めてしまった。

 

最初は変な男に気に入られたと思ったのだが、ロドスの切り札とも言える司令塔である『ドクター』相手であったし、上手く接していれば自分に不利益はないと思っていたのだ。

もし裏があったとしてもきっと伊達に蔓殊院の長老団や政治家達との腹芸をこなしてきていないのだから、こちらがやられっぱなしにやる事や利用される事ばかりではあるまい、と。

 

……しかし実際はどうだ、ドクターと呼ばれる彼は私に裏なんて持ち合わせていなかった。

 

 

 

 

秘書として付き添う様になってから分かった事は、司令塔として仕事をしている時は的確な判断を瞬時にくだすのに平常時はまるで考えず物を言う事。

 

『プラマニクス………あぁ、また昼寝か。』

『ちょっと返事が遅れただけでそういう事言わないで貰えませんか?』

 

『……今日はいつもより、髪の毛のクセが激しいな。』

『……それ女性に言うにはすっごく失礼ですよ。』

 

『お前の戦い方は……相変わらず、危なっかしい……いっそ部隊から外そうかと、たまに思う。』

 

こういう物言いのせいで何度オペレーター達が頬を引き攣らせ、目を点にしたり言い返してきた所を見ただろう。

その度に「事実だ。何故怒る」と言われたオペレーター達が何度ドクターに言い返すだけ無駄だと肩を落として呆れただろう。

 

『…いい事があったか?今日は何時もより、笑顔が多い……俺も嬉しくなる。』

 

『流石だな……すごい度胸の持ち主だ。あそこで、震える事もせず、退かないとは。』

 

『プラマニクス、今日は…顔色が優れてない……寝ておけ』

 

その癖たまに私の容姿や行動を表情1つ変えずに褒めてきて、私の体調を1番に心配する。

 

私が、何度面食らった事か。

 

もう1つ、ドクターは幼い相手にはとても優しく……接する事。

初めて見た時は驚いた。

 

戦場に立つには些か早すぎる歳の頃のオペレーター達にこっそりと補給部から盗んだお菓子を配っては怪我をしてないか聞いて、しっかり寝ているか、怪我をしていないかを聞いて回って……その時も表情が変わる事は無いけれどそれでもドクターなりに心配しているのは伝わった。

 

そしてなりより妹も、疑いを一切向けずに懐いて揶揄いの対象としていた事が私から警戒心を奪う切っ掛けだったかもしれない。

 

そんな風変わりなドクターと過ごす内、私はいつしか巫女として貼り付けるのに慣れた巫女としての笑顔の仮面を捨てていた。

 

常にベッタリと背中に張り付いているかのように背負わされたイェラグ全土の名誉、あらゆる思惑の中に立たされる自分自身の立場、あらゆる職務の重責…その全てが彼の傍に居る時だけは軽くなっていくのが分かった頃に、私はドクターに恋をしたのだと気付いた。

 

いつか本で読んだ物語のように、母に『いつかエンヤにも分かる』と言われた心が落ち着かなくなる感覚を…けれど巫女の立場になって……『プラマニクスである私』はフワフワとするその気持ちに気付いた時に蓋をしなければと理解して、泣きたくなった。

唇を噛み締めて、きつく目を閉じて…数珠を手に祈るように合唱して膝をついて何度も何度も1人蓋をしようと育ちつつある想いから目を逸らした。

 

だからドクターとどれだけ距離を縮めても、どれだけ心地よく思える言葉をかけられても一定以上心を近付けない様にした。

これ以上、彼の傍にいる事でまるで家族と過ごしたあの暖かくて陽だまりの中にいた頃の様な穏やかさを生み出してどんどん私の心の中で存在を大きくしていく事は……避けなくてはならなかったのに。

 

 

 

 

『どうやってここに来たのですかっ!?くっ、貴方の脚、二度と使えぬよう凍らせてっ』

 

ドクターとの事を考えるのに没頭していた私が佇むお気に入りの場所に、不意に現れたドクターにそう言い放った時の眉を寄せて明らかに表情が変わった姿を見た時…

 

(あぁ……きっとドクター、こんな顔を見たのは……、私が初めてなのでしょう。)

 

と思って私の心が満たされるのを感じた。

 

『その物騒な物言いは……シルバーアッシュ家の、血筋なのか………。』

 

それだけ言ってすぐに何事もないかのように私の前にぶっきらぼうに突き出されたコーヒーの缶を、私は受け取っていた。

 

『……ドクターも、ここで少しのんびりしませんか?えぇ、サボりってやつですね。………ここからの眺めは格別です………2人だけの、秘密…ですよ?』

 

コーヒーを受け取って尚立ち去る気配の無いドクターに私はそう告げていた。

ドクターの言葉に言い返すでもなく、ただ私のお気に入りの場所を……他の誰でもなくドクターと、彼と共有して一緒にその場所からの景色を眺めたかった。

そのまま1口コーヒーを口に運んで『苦い』と呟く私の横で

 

『子供舌…か……。』

 

そう言って少し笑ったドクターが、私の気に入った景色を眺めている横顔を見ている。

 

『……確かに、良く見付けたな……、とても綺麗だ。』

 

子供舌と私を揶揄った言葉では無いのはドクターを知るうちにもう理解していた。

ただドクターは事実を述べているだけで、続いた言葉もきっと私の顔を見ながら言っただけの、彼の何時も通りの何も考えていない……感想で……。

 

(そう、何も無い。私とドクターの間にこれ以上進む物なんてあってはならない。)

『そう、でしょう?……本当に、本当に……特別…なんです。』

 

『なら………今度から、サボりの邪魔はしない。………すまなかった。』

 

『サボりではありません。ですが……、これからも来てくれて構いませんよ。』

 

私が、邪魔をしたのだと謝るドクターに間髪入れずにそう返した時…私は既に手遅れだったのだろう。

もう、蓋をする事なんてままならない程に大きくなっていた癖にそれでも私は『蓋をして目を背ける事』に心力を尽くし『これは決して好意なんかじゃない』と思い込む。

 

ドクターの顔を見ることもせずに、苦いコーヒーを口に入れてはひたすら込み上げてくる想いごと押し流して飲み下す。

これを飲み終えたら、何事もない何時ものドクターと『プラマニクス』に戻るのだ。

 

私ならできる。

 

なんせ私はカランドの巫女……凍てつかせる事は得意なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

けれどそれでもこの後何度も何度もドクターは私の心を溶かそうとして踏み込んできた。

どれだけ私が冷たい返しをしてもどこ吹く風で、自分の言いたい事を言いたい様に言っていく。

 

表情の1つも変えないで、それに加えて強引で自分勝手で振り回してきて。

 

『やりたい事をやっているだけ』

 

なんて言って私と過ごすための道具をどんどん執務室に揃えていって。

 

私が言われる度に嬉しくなる言葉をどんどんこぼしていく。

 

『この時間が、続けばいいな。』

 

貴方と一緒飲むお茶も、貴方と食べるお菓子も誰と口にするよりも美味しいって感じるんですよ?

 

『えぇ、本当にそうですね。』

 

絆されてしまう、凍てつかせようとした心がもう『限界が近い』と悲鳴をあげる。

それでも、耐えなければ……私達に待つものはきっと幸せでは無い。

 

それなのに、ドクターは私に贈り物をする。

本に、裁縫道具一式に、特別な組み紐に。

どんどん彼を忘れる事が出来なくなる物を渡される。

そして私もそれを喜んで受け取るのだ、私に贈り物をしてソワソワと落ち着かないドクターや私が受け取ったのを見てその仏頂面が解けるように柔らかくなる顔を見て心がトクリ、トクリッと熱く脈打つのを感じながら。

 

私だけ…私だけに見せる顔でいて欲しい…紡ぐ言葉も私だけに向けていて欲しい。

だけどきっと叶わないし、いつか私達に訪れるのは最悪の別れかもしれない……

 

ドクター、もし貴方と離れることになってもそれでも私は心の何処かで想い続けるのだろう……貴方の、特別になれたら。と。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

冷却される世界

立場が邪魔して素直になれない2人のすれ違いから起きる仲違い



目頭を抑えて頭を振りながらプラマニクスは息を吐いていた。

ロドスに通いながらも、巫女の職務を疎かにして本国の者達に勘繰られたり、折角の秘密のルートを探られたり……まだ吹雪の中に隠れているかのような『 あの人』の掴めない思惑や思考に良いようにされたくないと、やれる範囲でプラマニクスは巫女として経文の解読や内政の書類を持ち込んで処理しているようだった。

 

最初のうちは1人で、都市への襲撃への対応や戦闘のない日、その合間に何度も休みながら行っていた。

 

「……今日は、どうした?随分と働き者だな。」

 

ドクターは珍しく疲れの色を滲ませるプラマニクスが心配でたまらなくなり、近付くとその頭上から声をかけた。

ドクターの声を聴きながら今は、こうしてドクターに巫女の職務すら手伝ってもらう様になったとプラマニクスは口が裂けたって兄や他の者には言えなかった。

 

「えぇ…まぁ。」

 

何時もの言葉回しに今日は付け足したり突っ込みを入れるのもプラマニクスは少し怠く感じてしまう。

確かに今日は何時もより長く文字と向き合っていた様に感じるし、頭も目を酷使しすぎたせいなのか重い気がする。

 

頭の中では(まるで私がサボっている時間の方が多いみたいじゃないですか)とか(ドクターの見てない所ではこれくらいやれてます)なんて返しが浮かんで来るのにそれが上手くまとまりそうにないのだ。

 

重しが乗せられた様な回転率の落ちた頭でそんな風に考えているとポンッと両肩に手が置かれたのが分かった。

ドクターは労るつもりで肩に手を置きマッサージをしようとしているのだ。

 

「なに、をっ、ひゃ!?」

 

何をしているのか、と問うより早く両肩が強く押されるのを感じて突然の事に変な声が上がってしまいドクターの手もピタリと止まった。

プラマニクスの手より遥かに大きな自分の手に、もし力を込めすぎてしまえばプラマニクスの肩など砕くことだって出来そうだなとドクターは考えながらも、痛みを感じさせぬ絶妙な力加減で身体が心地良さを感じる所を押したままの状態で手を止めて口を開いた。

 

「疲れているようだったからな……マッサージでもと……」

 

「……せめて一言かけてくれてもいいんじゃないですか?……まぁ……今更ドクターに言っても無駄ですね。」

 

頭上にあるであろうドクターの顔を見上げる様に上を向けば眉根を寄せて困惑した顔のドクターと少し呆れながらも微笑んでいるプラマニクスの目が合う。

疲れ過ぎて(相変わらず綺麗な目…)だなんて今の状況と関係ない事がプラマニクスの脳裏を一瞬過ぎったがすぐにそれを隅に追いやり言葉を続けた。

 

「ですがそもそも、私以外の女性にそう言う事をするとドクターと言えどセクハラだと訴えられるかもしれませんよ?もう……。」

 

ドクターはプラマニクスを見詰めたまま1度パチリと瞬きをしてから肩に置いた手の力を緩めもう一度力を込めるとそのままマッサージを普通に始めてしまった。

プラマニクスが(話を聞いているのか、この人は…。)とぼんやり考える。

 

「ふむ……嫌だったら俺を振り払えばいいのにしないと言う事は…続行していいんだな?」

 

ドクターはプラマニクスの言葉が自分を否定するものでは無かった事で口が軽くなっていたのだ。

そして言われてから、プラマニクスははたと自分が口にした言葉を頭の中で繰り返した。

そうだ、あんな言葉を使えば『 私ならドクターに突然触られても文句を言わない。』と自分から告げたような物だったと。

 

そう考えた時また顔に熱が集まりそうなのを感じてぱっと下を向きながらどうにか平静を装うよう何時もの声色で言葉を紡ぐ。

 

「えぇ、私はドクターを信頼してますから…それに、こうしてマッサージされるのも嫌ではないですよ?」

 

信頼、自分で口にしておきながら気持ちを誤魔化す単語を使ったせいか嫌なざわめきが胸中に生まれて自分の表情が曇るのを感じる。

それに、先程顔が赤くなる前に視線を外した時……ドクターが僅かに微笑んだような気がしてそれですら自分を落ち着かなくさせている事に気付いてプラマニクスは無意識に膝の上に乗せていた手を固く握っていた。

しかしそんなプラマニクスに気付いてか気付かずになのかドクターは優しく肩を揉み解しながら口を開いた。

 

「…エンヤは、偉いな。」

 

「え…?あ…ありがとうございます。 」

 

秘書になってどれくらい経った頃だっただろうか、ふとコードネームの話をしていた時に「そう言えばカーディは着任と同時に本名を名乗った 」と言う話が出てつい自分の名前を口にしてしまったことがあった。

それはドクターへの警戒心が無くなり、風貌からくるイメージとは違う一面を見始めた頃だったように思う。

 

その話の最中ドクターは別段普通と変わらないトーンで、作業の手を止めると「2人の時は本名で、呼んでもいいか」と聞いてきたのだ。

その時はプラマニクスも手を止めて一拍考えたあと「えぇ、構いませんが…」と返したもののいざ2人きりの時になってみたらドクターは滅多にその名前を呼ぶ事は無かった。

それが、なんだか少し寂しいと思う様になりだしたのは自分の気持ちがとうに誤魔化しようが無くなりだした頃だった。

ドクターとて本当は彼女のコードネームよりも本名を呼びたかったが、いざ口に出してしまえばもうこの気持ちに歯止めがかからなくなりそうだと察していた。

だからどれだけ呼びたくても我慢し続けていたにも関わらず、今日ドクターはとうとう口に出してしまったのだ。

 

(今日はどうしたんでしょうか…私も……ですけど。)

 

そう考えているとドクターは言葉を続ける。

プラマニクスから見えないであろうドクターの表情は僅かに歪んでいた。

 

「…今の、お前は…巫女である必要はない。……2人きりの時は、エンヤとして過ごして欲しい……俺の傲慢な願いだが………この時間だけでも息が詰まるほどの重責から逃げて…欲しいと…」

 

今日は、やたらと良く喋るんですね。理性回復剤を飲みすぎましたか?

と言う返しは喉に張り付いたかのように出てこない。

ドクターの、こんな言葉はすぐにでも遮って何時もの様に茶化してしまわねばと思うのに、張り詰めていた胸中にじわじわと広がって行く温もりを止めたくない。

好意を好意として受け入れたい、しかし絆されてもいけない、と言う気持ちがぶつかり合う。

 

「……巫女になる、試練は厳しいと資料で見た……それをエンヤは成し遂げた…それだけでも、とても…頑張ったと思う。そして、……今も逃げ出さずに巫女としての責務を果たし続けている。…………なのに、俺が…こんな事に巻き込んだばかりに、エンヤは」

 

「内密に抜け出して来たって言ったでしょ?忘れたんですか?あなたに祝福も捧げると言ったじゃないですか、全く。」

 

徐々に申し訳無さを滲ませ始めたドクターの声を遮り少し強めにそう返した。

きっとお互いに話せない秘密事も抱える身だ、いつ立場がどうなるかも分からない関係なのに。

だからまだ耐えられる今が瀬戸際で、彼にこれ以上心に入られたら不味いと警鐘がなる。

 

「そうだったな……なぁエンヤ。」

 

一旦言葉を区切って話しながらも器用かつ的確にツボを揉み続けていた肩揉みする手を止める。

 

「俺は……巫女としてのお前に祝福されるより、巫女の力を借りるより……エンヤと言う名の女性と……、取り留めない話をして何でもない時間を過ごしたいと思ってしまうんだ。俺と過ごす時くらいはせめて……少しでもいいから我慢したり取り繕う事は無いと………すまない。」

 

鼻の奥がツンとして喉が詰まる様に苦しくなる。

そろりと肩の温もりが離れると同時に温度の低い声で

 

「それは、告白ですか?」

 

とプラマニクス自身でも面食らう言葉が口からこぼれた。

後ろに立っているであろうドクターの気配が先程のいたたまれない悪事を白状する子供様な物からピシッ…と張り詰めた物に転じる。

そしてプラマニクスがドクターに恐る恐るといった風に振り返り2人の揺れる瞳が交わった。

 

「違う。俺はただお前が辛そうな顔で、貼り付けた様な巫女の顔で無茶しているのを見ていたくない。」

 

違う?違う。

こんなに口数が増えて今まで言ったことのない様な言葉を吐いているのに。

そしてプラマニクスの目に映ったのは今まで見た事のない顰めたような、今にも泣きそうな子供の様な顔をしたドクターだった。

 

「…す、みません。今日は、もう体調が優れないので…」

 

ドクターの顔から視線をすぐに逸らして立ち上がると同時に本当に調子が悪いのか、はたまた今の否定のせいで頭がグラグラして視界が回りそうになっているせいなのか一瞬ふらついた体を迷う事無く支えてくる、分厚い胸板と力強い腕が今は不快に感じる。

これは、きっとあの人に失望した日の感覚に少しだけ似ていてけれど、彼を……ドクターを嫌いになれない彼女自身の心との葛藤だった。

 

「……あぁ、分かった。片付けはしておく…だからしっかり休んでくれ………」

 

プラマニクスがドクターの手を、顔を一瞥することも返事を返すとこも無く振り払い押し退ければドクターは何事も無かったかのような普段通りの無表情で振り払われた己の手を見詰めていた。

 

「今度は、嫌がられたな。」

 

そんな言葉が後ろから聞こえた様な気がしたがプラマニクスは部屋を出るなり早足で己の宿舎に向かう。

途中走るようになって、視界が涙で歪みだした事に彼女が気付いていたのかは分からない。

 

 

ーーーーーーーーーside.Drーーーーーーーーー

 

 

シルバーアッシュが弊ロドスと同盟を結び、頻繁に顔を見せる様になってからと言うものプラマニクスはわざと自分の仕事を増やしているのでは無いかとドクターは感じていた。

 

巫女となった時、長兄シルバーアッシュと長女プラマニクスの関係に決定的な亀裂が入る事になったと言っていたのは誰だったか……。

クリフハートの心労も察するところではあるし、ケルシーはシルバーアッシュやカランド貿易が絡む者に心を許すなと言ってくる。

何があったとしても力でねじ伏せたら言い…と言ったら「それは君の身体を持ってしてできる君にしか出来ないだ解決策だ」と呆れられた。

そもそもシルバーアッシュだってきっと言葉にしない、出来ない理由があるだけで妹2人の事を考えているに違いなしもし敵対したとてそれは彼の理念に基づいた行動によるものだろうから。

 

悩みや不安がある時、人は様々な方法でそれを誤魔化そうとしたり解消しようとする。

プラマニクスは、そのらしさを忘れたのかストレスが溜まったのか逆に仕事を増やす(ドクターの中で感じただけだが)事でどうにかしようとしたのではないか……と。

 

だからただでさえ手伝うようになっていたプラマニクスの巫女の職務の一環に頻繁に手を貸していたが、今日はやってしまったとドクターは思った。

 

「私は貴方に触られても嫌じゃない」

 

と、暗に言われて舞い上がった。

だから上機嫌のまま少し調子に乗った事を言えばプラマニクスは下を向いて「信頼しているから」だと言う。

嬉しさと、所詮「信頼の置ける関係」でしかないと言う事が胸を締め付け表情を歪ませた。

好意を向けられたいなんて、なんて贅沢な願いなんだろうかと奥歯をバレない様に噛む。

 

そして、彼は取り返しのつかない選択肢を選び続けた。

 

あんまりにも1人で色々と抱えようとしている、本来なら穏やかな時間の流れと柔らかな雪解け前の様な澄んでいて朗らかな空気の中で生きるのが似合う彼女に、自己の欲求が混ざった身勝手過ぎる怒り抱いて口を出しすぎて本音がこぼれ落ちてしまった。

自分をもっと頼って欲しい、と。

途中で止めようと思えば止められた思いの数々が音になって、お世辞にも喋りや言葉選びが上手くはない口から出てくる。

そして口に出しながらどんどん心は沈んで行く。

なんて出過ぎた真似で、なんて傲慢だったんだろうと全てを吐き出した後にとてつもなく後悔したが、プラマニクス……否、エンヤが絞り出すように言った言葉で双眸が見開かれる事になった。

 

「告白ですか?」と。

 

そして彼は、気を張る。

ダメだ、「そうだ、俺はエンヤを」と大きな声で返さぬ様にギリギリと奥歯を噛み締める。

それが空気を張り詰めさせた事は分かったが彼は何とか嘘と……、確かな本音を混ぜた言葉を吐き出した。

その時どんな顔をしていたか、ドクター自身分からない。

 

その後下唇を噛み締め震える声で不調を訴えたエンヤに、なんの変化も与えられないつまらない返答をしながら立ち上がってふらついたプラマニクスに思わず手を出して支えてしまったが、二度と視線をドクター側に向ける事無く足早に立ち去るその後ろ姿を見てから払われた手を眺め、無力感と取り返しのつかぬ後悔で項垂れて己への皮肉を込めた言葉をこぼすしか無かった。

 

『 これで、本当に嫌われてしまえば諦めがつく。お前には勿体ない存在だ』と、せせら笑う己の心の声に逆らう様に手から血が溢れる程強く拳を握り締めても、想いを捨てきれぬ自分が憎くてたまらなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雪豹達の威圧

クリフハートとシルバーアッシュとの会話回

クリフハートの本名バレ注意


 

あの日から数日、ドクターとプラマニクスが一緒に行動する事が無くなったと言うのは基地内で少し話題になったがすぐに「きっと言葉足らずで誤解を生むような事を言ったか、逆に余計な事を言ってプラマニクスを怒らせたんだろう」程度の認識に収まった。

 

それも、ドクターが全く顔色を変えず通常通りに働いておりプラマニクスの事を聞かれても「元から働きたがりじゃないから休んでいるんだろう」と返すからだった。

 

それにマッターホルンやクーリエから何も言われる事も無かったので完全に油断していたと言える。

 

ドクターが1人人気の無い通路を通り訓練所へと向かう道すがら、ヒュンと背後から音がしてから締め付けられる感覚を感じてやれやれと下を見たら胴体を登山用のピッケルが着いた頑丈そうなワイヤーが締めていた。

もう少し早く、自分を問い詰めに来るかと思っていたが…などと考えながらドクターは振り返る。

 

何となく背後の気配は分かっていたし、ピッケルが風を切る音でもう誰なのか目星はついていた。

 

「クリフハ「ドぉークぅータぁー……?」

 

鋭い目と声色が、自分への怒りを顕にしているのを瞬時に察して遮られた名前を呼び終える事無くスッ……とドクターは目を逸らす。

というかやはりクリフハートはシルバーアッシュの方に似ているなぁ、等と思考を逃げさせるドクターにクリフハートはズカズカと足音にすら怒りを滲ませながら近付いてきてドンッと胸を1発殴ってきた。

 

「お姉ちゃんに何したの?」

 

ロドス内では昔の様に姉妹として過ごす2人が時折見られる。

その時のクリフハートはとても年相応で活発さを感じさせ人あたりの良い表情しかしないのだが…。

ギロリ、と下から睨み付けてくるクリフハートから全力で目を逸らしながら何と言ったものかフル回転させた脳で考える。

そもそも、クリフハートならばいつかこの事に言及してくると分かっていたのだから言い訳なりなんなり考えておくべきだったのだが、ドクター自身その実素知らぬ顔で仕事こそすれどその内心は常にテンションは地の底であり、ずっと後悔の念に苛まれプラマニクスの事ばかり考がえておりそんな事へ思考の枠を割けなかったのだ。

 

「なに、とは……」

 

「お姉ちゃんのとこに行ったら!!すっごい落ち込んでたの!!!いつもより倍増ししてぐーたら気味だったし!!」

 

「…ぐーたらなのは割とよくあ「それで聞いたら『ドクターとはなにもないですよ、えぇ』って泣きそうな顔で言うんだから絶対何かあるじゃん!!!!あとこっち見る!!」

 

今にも唸り声が聞こえて来そうな剣幕で言われて胸ぐらを下に引っ張られる。

こんなにも野蛮でアグレッシブだったろうか…と思いながらしぶしぶクリフハートに向いた。

あと出来ればそろそろワイヤーを外して欲しいなとも思う。

 

というか、プラマニクスは泣きそうな顔をしていたのか……とここでさらにドクターの中で申し訳無さと消えたいと言う気持ちが強くなっていく。

 

「いや……その、考えの相違と言うか……なんと言うべきか……」

 

本当に、なんと言えばいいか分からない。

しかし下から睨みをきかせて牙でも剥きそうなクリフハートの圧には勝てない。

ので時系列で詳細は隠しながら説明するしかない、とドクターは結論付けた。

 

「まず、俺が疲れていたプラマニクスの肩を揉んでいた。それからプラマニクスを褒めた、そして……2人で過ごす時間だけは、素の巫女じゃないプラマニクスでいて欲しい…とお願いした…前から2人で過ごすのは俺の至福の時で好きだと言ってたからな…それで、エンヤと言う女性として一緒に過ごして欲しいと……伝えた。」

 

「うん…?それって捉えようによっては告白チックな……」

 

「そう言われたから即座に否定した。」

 

ギリィ!と身体に回されたワイヤーが締まって流石に少し苦しさと痛みを感じて焦る。

 

「そんな事自分から言っといて否定するって絶対それが原因じゃん!!ドクターさいってー!!」

 

「いや、しかしエン……プラマニクスはイェラグの、宗教トップでシルバーアッシュ家の長女だ…そこで肯定してもいい未来にはならないと、だな……」

 

「今もじゅーーっぶんに!良くない結果なんですけど!!」

 

「ぐぬ……」

 

更にワイヤーの締め付けを強くしてくるクリフハートの射抜く様な視線を浴びて、苦しさと居心地の悪さからへどもどになりながらも言葉を返せば、言い返す事が出来ない様な返事がかえってくる。

 

「確かに2人とも立場はあるだろうけし、いい未来は見えないかもしれないけどだからって今!ここで!折角割と両想いっぽいのに諦めていいの!?それにどんな窮地でも乗り越えるくらいの男気みせなよドクター!!」

 

グイグイ話しながらワイヤーを引っ張りつつそう言う。

オリパシーを患い、このままいつか病で死ぬと分かっているのに常に真っ直ぐ未来への事を語るクリフハートの言葉に胸が詰まって思わず下唇を噛む。

 

「あたしいつも言ってるじゃん?登頂できない山はない、乗り越えられない窮地はないって!」

 

ふんっ!と胸を張りながらそう言うとようやくワイヤーを解いてくれた。

そして言い終わる頃には先程までの怒りが嘘だったかのように笑顔を浮かべている。

 

「そう、そうだな……クリフハートの明るさに、助けられた。」

 

ポン、とクリフハートの肩に手を置いてそう返せば少し驚かれた。

 

「へぇ、ドクターってちょこっとなら笑えるんだ。」

 

「……笑う?…しかし、やはりプラマニクスに色々と……伝えるのはもう少し考えてからと言う事で…謝罪はしに行くが……。」

 

「うーん、まぁそれならいいけどね!それに、お姉ちゃん…ドクターといる時は巫女になってから初めてかもってくらい笑ったり和んだりしてるんだからね!………あ、でも次にお姉ちゃん泣かせる事があったら……」

 

また胸ぐらを掴んで睨み付けてくるクリフハートに「あ、あぁ。分かった。」と短く返して頷けば「分かればよろしー!」と笑顔で元気に言い手を離してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

クリフハートから解放され、彼女が立ち去ってから「ふぅ」と短く息を吐いて訓練所に行くより1度甲板にでも出て頭を冷やし、プラマニクスにどう謝罪するかを考えようと向き直った時だった。

 

先程とは違う…しかし頭を抱えたくなる気配が近付いて来ていた。

 

「さっきはエンシアと随分話しこんでいたな?盟友。」

 

「……………シルバーアッシュ……。」

 

走って逃げる間もなく、クリフハートが立ち去った方向とは反対の通路の曲がり角から威圧感を湛えてシルバーアッシュが歩み寄りながら声をかけてきた。

と、言うか話しているのを知っていたならどこからどこまで……と最悪のパターンが脳裏を過ぎる。

 

そして何故今日、続け様のタイミングで雪豹2人に睨まれて威圧されねばならないんだと天を恨んだ。

 

「最近盟友が……1人でいる事が多い話をエンシアとしていたようだが?」

 

「あぁ、まぁ色々あってな。」

 

「ほう、色々か。」

 

あくまで自分からプラマニクスの名前を出さないあたり(拗らせてるんだな)と考えてしまう。

そしてドクターの無口っぷりではシルバーアッシュとの会話が中々続かない。

 

「………立ち聞きしてたならある程度は知ってるだろう。」

 

からのこの返事である。

シルバーアッシュが目を細め僅かに口角を上げているがそれが何の感情を含んでいるかなんて考えたくもなかった。

身長差は無いので双方の顔は良く見える。

ドクターは前髪で隠しがちではあるのだが。

 

「たまたまお前を探して歩いていたら話し声が聞こえたからな。邪魔してはいけないと思っての事だ。……しかしふむ、まさかエンシアにまで手は出してないだろうな?」

 

「出してない!!」

 

自分でも驚いた声量だったが、それはシルバーアッシュも同じだった様で僅かに目が開かれた気がした。

と言っても元から表情を隠すのは得意そうなので本当に少しの変化だったのだが。

 

「そんな声も出せたのか……まぁいい。それよりも、盟友はすでに『秘書』とそう言う仲かと思っていたが違ったのか。」

 

「……まだ肩を揉んだくらいしか手は出てないしそう言う仲でもない。」

 

「そう言う意味の手出しでは無いが……そうか、あまりにも2人でいる時の距離の近さや表情が恋人同士の様なソレだったのでな。」

 

カツン、と杖の底で金属製の床を叩く。

 

「どこを見たらそう見えたんだ……。」

 

「どこから見てもだが……何時だったか2人で何処からか戻ってきた時にやたら中睦まじそうにじゃれていたしな。」

 

シルバーアッシュが一瞬困惑したような、なんとも言えない者を見るような目をした後に軽く首を振った。

ドクターが記憶の糸を手繰り寄せるがプラマニクスと過ごした記憶はどれも楽しいものばかりで、時折尻尾で攻撃してくる事もあってそれすら愛しいのだから何をもってじゃれあいとするか分からなかった。

 

顎に手を当てて首を捻っていると、耐えかねたのかシルバーアッシュが軽く息を吐いてからどこで見たのかを教えてくれた。

 

「あぁ……あの場所か。」

 

それは、いつかプラマニクスのお気に入りの場所で2人仲良く珈琲を飲んだ時の帰りだった。

あの後も機嫌を損なっていたプラマニクスに別のお菓子の話やケーキがあると言う話を振っては「もういいです、私がまるで食いしん坊みたいでしょ」と尻尾で背を叩かれていたのだ。

それに対して「あまり尻尾を武器にするな。」と返せば「誰のせいだと思ってるんですか」といよいよ一周して面白くなったのかプラマニクスは笑ってくれた。

 

「……あの時、遠目ながらも何時ぶりに見たか分からぬ表情で笑っていたのを見て、……お前には更に信頼を置いたのだがな。」

 

シルバーアッシュの尾を見れば、それは早めのスピードで揺れていて少し苛立ちのような感情を抱いている事を察知させた。

 

「……すまない、俺は……少し、恐れ過ぎていた。」

 

「…そうか、しかし忘れるな。このシルバーアッシュはお前を認めていると言うことを。……たとえこの先、どうなろうとお前は止まる様な男ではあるまい?」

 

真っ直ぐにシルバーアッシュを見詰めるドクターを見て、その心情と覚悟を読み取ったシルバーアッシュが「やれやれ」と言わんばかりに少し微笑みながら目を伏せて首を振ってからそう言った。

 

「あぁ、何を考えているか分からない……と良く言われる俺が、型にハマった行動なんてするものじゃないな……。まして自責と恐れで惚れた女を泣かせるなんて……」

 

と改めて決意を固めるドクターをシルバーアッシュは満足そうに眺め、先程からシルバーアッシュ同様ドクターを見定めるかのように目を光らせていたテンジンもバサリ、と翼を1度羽ばたかせた。

 

そうして漸く覚悟を決め、プラマニクスの元に向かおうかと思った矢先に通信機に連絡が入る。

 

『ドクター!近くの市街でレユニオンらしき暴徒が…』

 

と火急の要件を伝えるアーミヤの声が焦りを含んで状況を説明する。

 

「了解した、すぐに部隊を編成したら出陣する。各職員達にも帰還した時の治療の準備と出発の為の用意を頼んでおいてくれ、それから…………あぁ、あとは頼んだ早急に向かう。……と、言うことだ…頼めるかシルバーアッシュ。」

 

「ここでの指揮官はお前だ、お前は思うままに私を使えばいい…そう伝えているはずだが?」

 

アーミヤに指示を与えながら通信を終えると同時にシルバーアッシュにそう告げれば自信に満ち溢れた男が杖を再びカンッ!と慣らしてから頷く。

それだけの自信が俺にもあれば、とドクターは少し考えてからシルバーアッシュと並んで早足で出陣の用意の為に通路を駆けた。

 

その間に

 

「そう言えば先程、肩を揉んだくらいだと言ったが……思い返せばお姫様抱っこもした事があった。………すぐに下ろしたがあれだ、見た目の通りでとても柔らかかった。」

 

「……………盟友、私はお前を信頼しているし見込んでもいるが……もし万が一今回の戦場でテンジンがあらぬ軌道を描いてお前に体当たりしてもただの事故だと思ってくれ。」

 

と言うやり取りが行われていたそうだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界が半分になっても構わない

エクシアやラップランド、シルバーアッシュ等のオペレーター達が登場します

ドクターは本当は戦闘狂だし強いとこを見せる回です
流血描写あり


時刻は夜明けまで僅かと言った頃、ドクターの指揮のもとロドス・アイランドに手を貸すオペレーター達は出陣した。

レユニオン、と言っても大部隊では無かったのが幸いだ。

しかし高台が多く、近接オペレーターを配備させるスペースが少ない立地だったせいでドクターは作戦に参加させるオペレーターの選択に僅かに逡巡する事になったものの、私情で優秀なオペレーターを参加させずにそれで救える者が救えなくなったのでは情けないと、プラマニクスを参加させた。

 

それにプラマニクスを作戦に参加させた事で、高い防御力を誇る重装兵達の盾を虚弱化させる事ができたおかげで少ないスペースに配備したシルバーアッシュやクーリエの斬撃が敵によく通る様になっていた。

あまりシルバーアッシュと共闘はしたくないだろうプラマニクスだがそれはそれ、として割り切る事はしてくれるし2人を近過ぎる場所には配置しないようにし、クリフハートにも手を貸してもらったのだ。

指揮を出しながらクーリエを途中でマッターホルンと交代させ、図らずとも退いたクーリエを含めたらカランド貿易揃い踏みの戦場となる。

 

(贅沢な使い方だな……。)「マッターホルン、右手から伐採者の接近を確認した、エクシアで援護はするが上空から怪鳥Mk2の飛来もある。撃ちもらした伐採者と兵士の処理は頼んだぞ。」

 

指示を出しながらも、自分が配置していくオペレーターの顔触れの豪華さとその手腕に興奮しながら、自分も突撃して戦えたらさぞかし楽しいのだろうな…と言う考えが思考を埋め始めるのをなんとか頭から追い出す。

 

「シルバーアッシュ。見えてると思うが前方から盾兵が3人接近、だがクリフハートが2人は落とすな、残りを頼むぞ。」

 

剣戟と、アーツの爆発音に狙撃手達の銃撃の音……そして戦う者達の声にドクターの内で(なぜ自分は混ぜれないのか)と言う衝動が強く襲って、その破壊衝動を抑えようとする程に目眩の様な物に蝕まれるのを誰も知りはしなかった。

衝動に呑まれぬように努めて、冷静に指示を出し続けているのだという事も。

 

そうしているとリンリン、と耳に聞き慣れた音が入ってきてハッとする。

再び準備の整ったプラマニクスの神授の聖鈴が戦場に似つかわしくない清らかな音色を奏でる。

毎回、戦場に自ら出たくなるような高揚と衝動に蝕まれてもその鈴の音と扱うプラマニクスの姿を見るとその一点に心の奪われ釘付けになり完全に正気へと引き戻される。

 

医療オペレーターも配置しているので多少目を離しても問題は無かった。

戦場を見渡して敵影を探るもそろそろ打ち止め、と言った様相で今シルバーアッシュやマッターホルン達近接オペレーター達が立ち回っている兵士達が最後なのだろう。

 

レユニオンの悪あがきにも攻撃を軽く流す近接オペレーター達の攻撃を見ながら、エクシアの「バラージュ!!」と言う掛け声が聞こえると同時にマッターホルンと向き合って居た兵士が崩れ落ちシルバーアッシュと対峙していた2人の兵も1人は彼の剣術の前に崩れ落ち、その後ろから飛んで行ったラップランドの白銀の斬撃によってもう1人が吹き飛んだきり、動く事は無かった。

 

 

 

 

「ドクター、今日の戦場はちょぉっと物足りなかったよ?折角ノって来たとこで終わっちゃってさ。」

 

戦場の事後確認のために一応医療キット片手に瓦礫の残る戦地に踏み込んでいるドクターの背中をドンと手にした剣の底で叩いてくるラップランドに「……それは軟弱な敵に言え」と返してたまたま足元にあったレユニオンの頭を足で軽く蹴りながら返す。

こんな姿あまりオペレーター達に見られるのはよろしく無いのだが、ラップランド等の一部のオペレーターの前で取り繕う事はしなかった。

 

そうすればいつもの様にケラケラ笑いながら「アッハハハ!確かにねぇ!こんなに弱いのに復讐だなんて笑っちゃうよ。」と言って足元のレユニオンの死体を剣先でつつきながら見ていた。

 

そんなラップランドを背に少し遠くにいた医療オペレーター達に他の戦闘者の負傷の具合を聞けば、ガヴィルもフィリオプシスも「大した重傷者は無し」と返答を寄越してくる。

 

「仕事が少なかったな。」

 

なんてそう「残念だったな…」と言う感じで返せば

 

「それが1番いいんだろうが!」

 

とドクターはガヴィルに杖で殴られたのだがもう1人の医療オペレーターであるフィリオプシスはそれを無言で見てから空を見上げた。

ラップランドからもガヴィルからも攻撃されるとは……と思いながらフィリオプシスにつられて夜明けが近付く、地平線から差す薄明に照らされる空を見てみたドクターの背後から

 

「リーダー、早く行かなきゃならないとこがあるんじゃない?」

 

そんなエクシアの声が聞こえて振り返る。

 

「ん、あぁ…ここで油を売ってる場合では無かった。」

 

振り返ったエクシアと目が合うと彼女はある方向を指差しながらドクターを見て苦笑いを浮かべている。

 

「何があったか知らないけどさ、まぁ……何とかしなよ?」

 

と背中をポンポンと叩かれてドクターは首を傾げる。

エクシアも自分とプラマニクスの事情を知っているのだろうか?と不思議に思いながらも「とりあえずは」と言ったていで頷けば「アタシも割とリーダーと付き合い長い方だからね?」と笑われたのだった。

 

 

 

 

 

エクシアが指差した方にはカランド貿易の面々が居るのだがそこをそろりと通り過ぎようとした時、頭部にドスッと何かが飛来して去っていった。

 

飛翔物が当たった所を擦りながら振り返ると突撃を終えたテンジンを腕に止まらせたシルバーアッシュがジト…とコチラを見ている。

出陣前に「テンジンが飛んで行くかもしれない」と言っていたが、戦闘後にぶつけに来ることは無いだろう。と内心思いながらもコチラを見るシルバーアッシュ含めた面子が『自業自得だ』と言った目で見てくるのであえて今の事に文句を言って火中に飛び込む事はしたくない、とそのまま歩いて目的の人物の元に向かった。

 

 

「……今日は3回も味方に攻撃された。プラマニクスは、無傷か?」

 

「……………1週間ぶりの会話の第一声がそれですか。えぇ、おかげさまで擦り傷位ですよ。」

 

カランド貿易の面々より少し離れた瓦礫の上に腰掛けていたプラマニクスの背中に話かければ振り向く事はせずたっぷりと間を空けてからいつもより単調な声色で返事を寄越す。

無視されるよりは余程いい、と歩み寄ろうとすればプラマニクスが立ち上がったので(これは逃げられるのでは)と思ってすっ…とプラマニクスの前に立ち塞がる形になった。

 

「…………手当てしたいので退いていただけますか?」

 

「俺がする……話もあるからな。」

 

と、顔を見上げる事をしないどころか顔すら逸らしているプラマニクスに傷付きながらも元凶は自分だったと思うと胃がキリッと痛んだ。

 

「いえ、そんなわざわざドクターの手を煩わせるような「俺が、やる。」

 

それでも尚、理由を付けてドクターを通り過ぎようとしたプラマニクスの腕を軽く掴んで背を曲げると確固たる意志を滲ませながら正面から顔をのぞいた。

 

「……………………はぁ、どうしてそう突然思い切りがいいんですか貴方は……。」

 

と、諦めたプラマニクスが肩を落としながらため息を吐くと再び瓦礫に腰かけた。

 

 

無言で手のかすり傷の手当をするドクターと、そんなドクターを無言で見ているプラマニクスの沈黙の時間が続く。

 

「……プラマニクスに謝ろうと思って、困らせて悪かった。」

 

まるで子供の謝罪のようで、いつもの調子なんだなとプラマニクスは手当するドクターの手元を見ながら思う。

 

「俺は、何時も自分勝手だと思う……好き勝手言ってその答えを聞くのが……怖くて、相手の話を聞こうとしない……からな。」

 

わざわざ巻かなくても良さそうな包帯まで巻きながら視線を必死に動かしてどうにか言葉を引き出そうとする。

 

「自覚、あったんですね。」

 

「あぁ……それで今こうなってるしな……俺は、プラマニクス……というより」

 

と一旦区切ってから周囲を見渡してから声のボリュームを潜めてから続ける。

 

「エンヤ……がほしい。」

 

あんまりにも拙すぎる言葉だったと我ながら思うが、他に浮かばなかった。

先に謝罪をすべきだっただろうかと思案するより先に今しがた自分が言った言葉の後に握ったままのプラマニクスの手が僅かに震えているのに気付いて(また、やってしまったのか)と一瞬考えた時、

 

ガラ……、

 

と自分達の横側から小さく瓦礫の崩れる音がした。

 

(しまった…!)

 

その音に先に気付いたのが耳のいいドクターで、同時にその音の発生源がコチラに敵意を持っている事に刹那としてドクターは気付いて瞬時に行動していたのだ。

 

 

 

音に気付くと同時に咄嗟に、プラマニクスの手をひいて自分の後ろに押しやった。

(そこまで強い力では押していないが、エンヤは転けたりして怪我をしてないだろうか。)と言う思いがドクターの心の内で真っ先に浮かんだ感想だった。

同時に双剣隊長と思われる人物が身体を捻りながら捨て身で遠心力任せに振り上げる刃が既に近い位置にあり過ぎて、ぼんやりと(完全には避けられないな)と言うくらいのどこか冷めた気持ちで眺め、本能的に少し避ければ顔の側面に冷たい刃が肉に食い込む感触が下から走ってきて片方の視界が赤く染まり、黒く潰される。

チッ、と自分でも意識していない舌打ちをすると同時に自分の顔を裂いた刃を握っていた方の手を力任せに掴めばバキリっと骨の砕ける音がして、双剣隊長が何やら呻き声の様な悲鳴をあげるのを意に介さず思い切り、腹に力を込めて渾身の力で腹部に風穴を空け穿たんばかりに殴る。

 

肉と骨、内臓が砕けて混ざる様な手応えを手に感じていると相手の仮面越しにごぼり…と何かを吐き出す様な音がして仮面の下から血が溢れるのを見つつ、次は握った拳でその仮面を被った顔を殴りつけていた。

明らかに異音としか取れない破壊音と、拳に伝わる何かが砕ける感触を察してそのまま握り続けていた相手の手を離せば、そのまま双剣隊長は勢いよく吹っ飛んで地面を1度バウンドしピクリと僅かに動いてから息絶えたのが見て取れた。

 

これが、プラマニクスの前で起きた僅か数十秒の出来事だった。

 

 

 

「っ、あ、」

 

突き飛ばされてからの一部始終を見ていたプラマニクスが口を開くより先に早く、ドクターは座り込んだ彼女のその肩を掴んで少し強めの語気で話しかける。

 

「怪我はないか!?痛かっただろう?手加減はしたつもりなんだが押してしまってすまない、咄嗟の事で…、怖い思いはしてな…いや今したんだったな、大丈夫か?」

 

と、人が変わったように慌てながらまくし立てる様にプラマニクスに矢継ぎ早に聞くドクターにプラマニクスは、今にも泣き出しそうな顔で頷く。

 

「あぁ……そうか、そうか………なら良かった…良かった……エンヤが無事で、何よりだ。」

 

そう言うドクターの顔は不穏な騒ぎを聞き付けて集まったロドスオペレーター達も、プラマニクスも初めて見る一等分かりやすくて場に似つかわしくない笑顔だった。

嬉しさに突き動かされた反射でそのままプラマニクスに抱き着いた顔は、満足そうに頬を綻ばせ子供の様に笑いいつもの凪いだ水面の様な瞳は穏やかに揺れている……そんなドクターの顔は、頬から右目にかけて大きく刃で裂かれていた。

 

「ド、クター……、」

 

ドクターの耳に震えるプラマニクスの声が入って来て思わず離れた。

 

「すまない、無事なのが嬉しくてつい……服や髪は汚れてないか…?」

 

折角許して貰おうと思っていたのに、血で服や髪の毛を汚したらきっとプラマニクスはまた不機嫌になってしまう…。

アドレナリンが出ているドクターの脳みそではそちらの方にしか思考がいかず顔を斬られた痛みすら感じ取れていなかった。

 

「えぇ……えぇ……いい、んです…そんなこと……どうだって、だってドクター……」

 

プラマニクスの目から一筋涙が溢れるのを見てドクターの口から

 

「っ、やはりどこか痛かったのか?」

 

とそんな悲壮感を漂わせ慌てた言葉が出てきてもう一度よく、プラマニクスを観察しようとするのだが片目が見えないせいで、最愛たる彼女の状態を酷く確認しづらいせいで少し歯痒く、先程から止めどなく流れ落ちている血で顔の気持ち悪さがさらに腹立たしたを強くする。

 

そう思っていたら黒く塗りつぶされた視界の方に暖かい何かが触れるのを感じた。

ぬるり、と血を撫でる感触でようやくプラマニクスに頬を撫でられているんだと思い至れば更にドクターがにわかに焦った。

 

「やめろ、手が汚れるぞ?服だって……血の汚れは取るのに「どうして……私の事しか気にしないんですか!」

 

片方が暗くなった視界の中でプラマニクスが怒った様な顔をして泣いていた。

ふと気付いて光と景色を映せる瞳で周囲を軽く見れば、シルバーアッシュも苦虫でも噛んだ様な顔をしているし、クリフハートも何故か肩を落として悲しそうな顔をしていた。

エクシアも何か言いたげな顔で見ていて酷く居心地が悪い。

 

「どうして……と言われても、お前が1番大事だからだ。」

 

嘘偽りのない、伝えたかった心の底からの本心。

 

「なんで、今そんな事言うんですか……。」

 

と泣きながらプラマニクスが胸に顔を埋めてきた。

ドクターはそんなプラマニクスに(どうしてだろう?)と言う感想とどうしたらいいのか分からない気持ちが重なって、優しく汚れていない方の手で頭を撫でるしかなかった。

 

そんな2人を見かねたシルバーアッシュが怒気を僅かに含ませた足取りで2人に近付きドクターの首根っこ辺りを掴むと「医療オペレーターは手当を」と一声かけるとどうにも動けないままになっていた面々がようやく我に返って慌ただしく動き出し、ドクターがこの事を他人事のように捉える景色の中片方だけの視界でふと見上げた空を見て(あぁ、夜が明けていたのか)と気付いたのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

半分の世界で初雪と迎える明日

 

気付こうと思えば気付けたのに、意識をプラマニクスに集中させ過ぎて敵の気配に気付けなかった己の不甲斐なさを呪うしかない。

 

だからプラマニクスも泣かせたしシルバーアッシュも怒ったのだ、当然だ。

仲違いしているとは言え妹が危険に晒されたんだから…。

 

などと血で汚れた服を脱がされ半裸になり、傷口の手当をされた後ガーゼと包帯で顔の片側を覆われ豊富に用意されている医療用のベットの上に放置され医務室で1人掛け布団に下半身を突っ込んだまま座るドクターは頭に片手を当ててため息を吐きながら考えていた。

 

あの後大慌ての医療オペレーター達に簡易的に手当され、そのまま急いで基地まで連れ戻され医務室で手当てされながらアーミヤやケルシーにしこたま文句を言われた気が……する。

 

それと言うのもプラマニクスが気になって、危険が無くなった今は他の事柄に気や思考をやる余裕がなく疎かになっていたからだ。

だから言われた事の半分以上は覚えてない。

 

ただ「大人しくしてろ」と言う言葉に対して頷くまで圧をかけられた事だけは覚えており、今だってプラマニクスの元に走って行きたいというのに我慢していたのだが(そろそろ抜け出そうか…)と考えていた時だ。

 

顔を見たいと思ってやまなかった人物の気配が近付いているのに気付いたのは。

 

 

 

 

 

 

 

「……来てくれたのか。こっちから行こうかと思っていた。」

 

「大人しくしてろ、って言われた意味…分かりますか?」

 

そう呆れながらベットの横に置かれていた椅子を調整しながらプラマニクスはドクターの見える視界側に座る。

 

「………分かっているがさっきは話の途中だった。」

 

そこまで言って、プラマニクスの目元が赤くなっている事に気付いて口を噤んだ。

 

「……そう言う顔、しないでくれません?………もう、嫌です…疲れました。」

 

それからプラマニクスに絞り出すように言われた言葉と、その表情にハッとさせられる。

突き放す様な言葉と裏腹に彼女の顔は、あの日「告白」か聞かれ否定した自分のそれに似ていると本能的に察した。

 

「貴方のいつもいつも足りない言葉を補うのも、言葉の真意をはかるのも……行動だって予測できなくて突然私を喜ばせる様な事をしたり突き放そうとしたり突飛なくて……今回だって、私の事ばかりで……貴方はそんな顔になったのに…」

 

俯きながらも辛いのを耐えようとするように下唇を噛んで、固く膝の上でその手を固く握り元より白い手は更に血の気を失って白くなっていて、そんなプラマニクスの手をそっとドクターが握ろうとするも、それをはらわれる。

あの日の様な拒絶、それでも今回手を離してしまえばきっともう二度と掴むことが出来ないと反射的にその手首を掴んだ。

 

「だから!「話を聞いてくれ!」

 

自分でも、懇願するかのような必死な声が出て驚きかけたが目の前で一瞬たじろいだプラマニクスに言葉が詰まる。

 

「……俺は、言葉を上手く紡げない……エンヤを前にすると尚更そうで…今からの事も、途切れ途切れになって言葉につまづいて、誤解させるかも……、しれない……それでも、最後まで聞いてくれ。」

 

プラマニクスの目を見詰めながら改めて手を握ると今度は振り払われる事が無かった。

 

「……最初に、見た時から……俺の全てを、奪っていた。……一目惚れだった、だが……立場もあるし、俺の様な不器用で無愛想な男では振り向いてもらえないと……」

 

1拍置いてから深く短く息を吸う。

 

「……しかし、エンヤは……次第に俺に心を開いてくれているのが分かって……怖くなった。このまま大きくなる想いも、それを告げても、いつか離される日がくる……ずっと一緒に居ることは叶わないと……だから、俺は逃げた。俺も…疲れたんだ、この何処にも行けない気持ちを抱えたままエンヤと過ごす事に。」

 

笑顔がみたい、でも見れば手離したくなくなる。

声が聞きたい、けれどいつかは聞けなくなってしまう。

ドクターの視線は気付けばベットの波打つシーツの海に逃げていた。

言葉を紡ぐために定期的に短く深く深呼吸しなければ、窒息死してしまいそうになる。

静まり返った部屋に聞こえる機械の控えめな音が鼓膜に刺さるようだった。

尾と耳が緊張で張り詰めて痛い。

 

「……あの日から、考えて考えて……そして今回ようやく踏ん切りがついた。もう好きじゃない……俺との関係を終わりにしてくれ。」

 

ビクッとするプラマニクスが誤解せぬように手を掴む手に力を込めて今度は深く深呼吸して、彼女が口を開くより早く言葉を紡いだ。

 

「それで、新しく始めてくれないか。……好き…ではなくて愛しているに変わってしまった……俺の視界が半分無くなったのなんて気にならない……例えこの先がどうなったって構わない、どんな障害が立ち塞がったって絶対に壊してやろうと思える程に…『エンヤ』が欲しい。」

 

そう言うとようやく力を込めていた耳と尾が脱力する。

言いたい事は言ったからあとはもうどうなろうと良いと思った。

 

「……………。」

 

「…………………。」

 

沈黙が痛い。機械の駆動音が責めてくる様に感じる程にこの空気に耐えられそうにない。

そうして沈黙に耐えかねたドクターが口を開こうと僅かに口を開けた時、プラマニクスが片手を伸ばし頬に触れた。

 

 

 

 

「自分の事を、大切に出来ない人にそんな事言われたくありません。」

 

言葉とは裏腹に、プラマニクスは微笑んでいる。

 

「…っ、すまない!今度からはエンヤの次に自分を大事にする!!」

 

思わず声を張れば、クスッと笑ってくれる。

ドクターとしてはここが踏ん張りどころであり真剣なのだが。

 

「口説き文句もまぁ……ドクターとしては頑張った方かと思います。そうですね……そう、とても嬉しいですよ?こんな事の後でなければ。」

 

プラマニクスの感情が読み取れないが、そこはかとなく怒っているのが伝わる笑顔で言われドクターの耳が後ろに倒れる。

そう言われてしまえば言葉に詰まるしかなくなり再び小さな声で「すまない…」と返すしかない。

 

「出会った時からそうでした、無愛想で何を考えているか分かりにくい。人の事を振り回すのに意識してない…本当に、本当に疲れるんですよ?今もそうです、普段からこんなに話さないから溢れた想いがひたすら言葉になっていて……予測のつかないことばかりして……そんな貴方から目が離せなくなってしまった私も大概なんですけどね。」

 

そう口にしたプラマニクスが、そっと立ち上がるとそのままドクターを抱き寄せたのだった。

 

 

 

「私が、しっかり見てないとますますダメになりそうですから。えぇ……無茶苦茶な言葉でしたがそこまで言って下さるなら…これからも貴方の傍に居て差し上げましょう。それにこんな貴方の面倒を見れるのは私だけです。」

 

抱き寄せられて、今まで嗅いだことが無いほど胸いっぱいプラマニクスの香りに包まれて一瞬(こんな幻覚を見る程に自分は血を流しただろうか)と疑う程だった。

そもそも顔に当たる感触だって…柔らか過ぎて(やはりこれは鎮痛剤が効きすぎて見ている夢か?)と沈黙しながらパニックに陥っていると上から柔らかな声色の声が聞こえてくる。

 

「私も沢山気持ちを我慢してきて…………って、今もしかして凄い失礼な事考えてますか?」

 

「………柔らかいなとか、いい匂いがするとかでこれは夢や幻覚だったかもしれないと考えている。」

 

「今言うには素直すぎる感想ですね、本当にペースが掴めないと言いますか……けど、これは夢じゃありませんよ?」

 

「そう……らしいな。」

 

自分を抱き寄せているプラマニクスの腕にそっと触れながら顔を上げると、同じようにこちらを見ているプラマニクスと目が合う。

 

こんなに意識しながら間近で顔を見る事は、お互いあっただろうか。

ただ惜しいのは、ドクターの視界が半分になってしまった事だろう。

今少しだけ彼は悔やんだ。

 

「……やはり、何度見てもエンヤは綺麗だ。」

 

「…ありがとうございます。」

 

「……独り占めしたい、誰にも渡したくない。」

 

「子供ですか?それに……これからは1番近くで私を見れるでしょ?」

 

そう言いながら少し顔を近付け、言い聞かせる様に話しながら包帯越しにドクターの顔の傷を優しく撫でる様に指を滑られせるプラマニクスに、言い様のない興奮を覚えてしまう。

 

「……それは、今……は止めてくれると助かる。」

 

色々誤魔化すべく身体を動かせばプラマニクスが何かを察したのか少し顔を赤くして小さな声で謝罪した。

 

「……嫌ではないが、今は困る………また今度別の機会に頼めるか?」

 

「むぅ……もう、そういうのは頼んだりするのではなく……いえ、ドクターにそう言う空気の読み方を求めるものではありませんね…。」

 

「何かおかしかったか?」

 

「いえ……お気になさらず……色々と先が思いやられますねぇ。」

 

眉根を寄せて何か粗相をしただろうか、と僅かばかり表情に出して不安げにしているドクターに眉を下げながら笑うプラマニクス。

 

こんな人でも、私は心奪われて目が離せなくなって……立場を捨てて好意を受け止める事を選んだのだ。

自分も彼と同じように悩んで気持ちに蓋をしようと努めた事も、好意を自覚してはいけないと戒める日々もあったのにいざこうして想いを受け止めて、両想いになってみたら今までとあまり変わらないではないか。

 

と思うとプラマニクスは可笑しくなって笑ってしまった。

 

もうとうの昔に、2人の想いは隠して誤魔化して消せない程に大きくなっていたのだ。

先の事が不確かな2人でも、何故かこのドクターならどんな困難や障害がきてもそれを乗り越えて……否、壊して新しい道を掴み取ってしまいそうな気がしてプラマニクスはドクターと額を合わせた。

 

ようやく、ようやく暗かった世界が明ける。

たとえ未来の見通しが悪くともきっとどうにかしてみせようと。

 

「…これからもよろしくお願いしますね?私の大好きな、」

 

これは、以前たった1度だけ言われたドクターの本名だった。

ドクター『 』はアーミヤが呼んだ名前であって自分が唯一覚えていた本名は別にあると。

 

「あぁ……、愛しいエンヤ。これからも傍にいてくれ。」

 

ゴロゴロ、と低くドクターの喉が鳴る音を聞きながらプラマニクスはそっとその額に口付けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ですがドクター?」

 

「なんだ?」

 

「………今度自分の身体を危険に晒してその後まっっったく自分に無頓着だったりした時は………分かりますね?」

 

「あ、あぁ……、肝に命じよう。」

 

そしてこのカランドの巫女の威圧のあと、しばらくして現れたクリフハートにしこたま怒られて怪我が増えそうになったのは別の話である。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

初めての口付けを

次の話がR18なんですがこのままタグ付けして投稿するか、やはりR18指定の方はpixivで…とするか少し悩みながらも投稿です。

感想とかご意見がありましたら是非に


お互いの想いを告げ、両想いになってから1週間が経った。

 

オペレーター達は(前途多難だろうけどまぁなるようになるだろう)と考える者とあえてノーコメントを貫く者と様々だ。

しかし付き合いだしたからと言って第三者から見た2人の行動が特に変わった訳ではなく…そもそも元からもう付き合っている様な距離感だったのもあって目立った行動は特に見受けられない。

 

そう、2人きりの時ですらそれは変わらなかったのだ。

 

 

 

 

 

「……終わった…。」

 

何時もの執務室で、何時ものように仕事を終えたドクターが目頭を抑えてから深くため息をはく。

片目になってしまった視界でのデスクワークは、慣れるまで以前よりも少し疲れが溜まりやすくなってしまった様子である。

 

「お疲れ様です、こちらでお茶にしませんか?」

 

と、プラマニクスが頃合を見て用意していたお茶とお茶請けを目にしたドクターがハッとして耳と尾を立てて、プラマニクスだけが察せる感じで喜ぶ。

動きたくない事に主軸を置くプラマニクスだが、ドクターとこの関係になってからたまにだがこうしてドクターを労るべく休憩時間を良くする為の用意をする様になった。

 

そうして何時ものソファで、プラマニクスのすぐ横にドクターは腰掛ける。

以前より2人の間にスペースはない、無いのだがプラマニクスはハッキリと予期した。

 

付き合い出してから1週間経ったのに、告白の日に抱き締め合ったのが1番密着度が高く、長い時間していた触れ合いでありそれ以降はこんな風に真横に座るくらいしかしていない………そしてこの横で呑気にほんわかした空気でお茶を飲みクッキーを一口で食べている男は今日もきっとこの距離でちょっと私の頭を撫でて終わるだけだ……と。

 

自分から何かを強請るのは、はしたないだろうかと気にしていたが流石に抱きしめる事もキスもしないとはどういう事だ…と笑顔の裏でじわじわと不満が溜まっておりそれが爆発する事となる。

 

「………俺の顔に何かついているか?」

 

「私は抱き締めるに値しませんか?」

 

ドクターが自分を直視し続けるプラマニクスに上半身を向けてそんな疑問をぶつければ思いも寄らぬ言葉が返ってきて時が止まった。

プラマニクスの真摯でどこか思い詰めているかのような顔と声にドクターはたじろぎそうになりながら脳内がバグり「今の質問の答えになっていない」と言う言葉を真っ先に浮かべながら、それを口に出すより先に行動してしまった身体は思案するかのようなゆっくりした動きで手を広げたのだった。

 

「…………私の方からいけと?」

 

「………………いや、抱きしめていいか、ずっと分からなくて…。」

 

「むぅ……分かってはいましたけどここまでとは思いませんでした。」

 

そう文句を言いながらも、プラマニクスは嬉しそうにぼすっと音を立てて自分からドクターの胸に顔を埋めて腕を回してみた。

鍛えているだけあって中々の感触だ、と思って軽くスリスリと動いてみてからふと抱きしめ返して来ないなと気付いて動きを止めた。

 

「抱きしめ返してくれないんですか?」

 

「………。」

 

プラマニクスに言われてようやくドクターはそっと壊れ物にでも触れるかの様な力加減であからさまに恐る恐ると言った風に抱きしめると、そっと撫でてきた。

自分から抱き着いたのもあって恥ずかしさで頬を赤くしていたプラマニクスだったが、胸に顔を埋めているからこそドクターの心音が早鐘を打っている音をようやく耳が拾った。

その早く脈打つ心音と、あんまりにもおっかなびっくりな触り方に思わず笑いがこぼれる。

 

「んふっ……そんな、そこまで震えながら触らなくてもっ……ふふっ。」

 

「あんまりにも、柔らかくて……本当に雪にでも触ってるんじゃないかと思ってだな……。力加減を間違えたら傷付けないかと不安になる。」

 

過去は覚えていないから分からないが、目が覚めてからは1度も女を抱いたことは無く、鍛え続けた身体は司令塔と言うよりも兵士の様でその腕力や握力も強いドクターだからこそ愛しい者に触れるのを躊躇っていた。

そして今やっと、プラマニクスが胸元に顔を埋めて笑ったり喋ったり無意識なのかたまに擦り寄る様に頭を動かして伝わってくるくすぐったい幸せに包まれているのだ。

緩くウェーブしている豊かで長い銀糸の髪の毛に指を這わせながら撫でる。

髪の毛の手触りの良さと、自分に抱きしめられてちらりとこちらを上目遣いで見上げながら笑うプラマニクスに危うく生唾を飲みかける。

 

「そこまで脆くないですよ、それに私の手首とか何度か掴んでるじゃないですか。」

 

「あれは咄嗟で……痛かったか?」

 

「むー、そうですねぇ。痛い時もありましたけど、気にしてないです。」

 

「すまない。」

 

謝罪しながら耳の間をゆっくり撫でると少しプラマニクスもくすぐったかったのか身を捩った。

 

お互い抱きしめ合いドクターがプラマニクスの背中を撫でたり髪の毛を指で梳いたりして、プラマニクスがたまに深く胸元で呼吸したりしながらドクターを真似る様に背中に手を這わせて上機嫌そうにユラユラと尾を揺らして数分。

これは、流石に色々とマズいとドクターは思い始める。

愛して止まない女性が、自分の胸元に顔を埋めながらスリスリし、上目遣いで見てくるこの光景。

 

ドクターは顔を上げて1度心頭滅却すべく目を閉じる。

そして我慢と欲求の板挟みになった結果、

 

「……エンヤ、こっちを見てくれ。」

 

「むぅ?なんです」

 

か。とプラマニクスが言うより先に彼女の頬に手を這わせて自分の方を向かせるとそのまま唇を重ねていた。

時間にしてたった10秒程度のものだったそれが、逆にドクターの中で火を着けそうになってしまい慌てかけるが赤面したプラマニクスが目を逸らしながら唇を震わせて小さな声で零した言葉をドクターは聞き漏らさなかった。

 

「………短過ぎますよ?」

 

そうプラマニクスが言うと吸い寄せられるようにもう一度そっと唇を重ねる。

すぐに唇を離してからもう一度、と何度か啄むかのような唇を重ねるだけのキスを繰り返す。

いつの間にかドクターの片手はプラマニクスの腰に回されて、プラマニクスも縋る様に背中に回した手でドクターのコートを掴んでいた。

 

そして何度かチュッ、とリップ音をさせながらバードキスを繰り返してどちらともなく口を僅かに開けた瞬間、引き寄せられるように唇を重ねればそのままこわごわとドクターはプラマニクスの口内に舌を割入れた。

プラマニクスの身体が僅かにピクリと反応するが、ドクターがそれを拒絶だと誤解しないようにと思ったのか彼女から侵入してきたドクターの舌に自分の舌先を触れさせる。

舌先に甘い痺れを感じながらプラマニクスの小ぶりであってもしっかりとした肉食獣のようにしか鋭い牙に時折舌が触れるのを感じた。

 

最初は双方遠慮がちだったが、お互いに舌先を触れさせてゆっくりとザラりとした舌を触れさせ合っていると段々遠慮が無くなって本能的になり始める。

 

「んっ、あっ」

 

プラマニクスが少し離れた時に短く声を出せばそれに触発されたかの様にまた舌をねじ込む。

いつの間にか唾液の絡む音がし始めた舌の絡ませあいに、プラマニクスのコートを掴んだ手に力が入るのを感じドクターも抱いたプラマニクスの腰を更に自分の方に寄せながら彼女の口の中を貪る。

少し逃げそうになるプラマニクスの舌を捕まえる様に根元から舐めてそのまま歯列をなぞり牙の形を縁取るかの様に舌を這わせて時々それを阻止しようとするかの如く押し付けられる彼女の舌をまた自分の舌で絡めて扱く様に舐める。

ドクターの視界の先で、プラマニクスの尾がゆるりと横に逸れる様に動いているのが見えてゴクリと喉がなる。

と同時にそれが、本能的に男を受け入れようとし始めている予備動作だとドクターが察知した時最後の理性がストップをかけたのだ。

 

(何の準備もしていない。そもそも相手は巫女だぞ、処女性が必要かもしれない!)

 

と。

無駄に、理性が働いたのである。

自分の方の下半身ももう十分に準備段階に入っているにも関わらず。

 

内心このまま押し倒してめちゃくちゃに抱いて暴きたい本能と大事にしろ。まだ早いと引き止める理性の板挟みの中そっとプラマニクスと重ね続けた唇を離せば、お互いの口から透明の橋をかけるように糸をひいているのを見てまた下半身に熱が集中してしまう。

それに目の前の息を切らせて肩を上下させるプラマニクスの顔も既に生理的な涙で潤んで、頬の紅潮も合わさりドクターの理性を素早く減らしてくる。

 

「……?」

 

物足りなさそうに、小さくドクターの名前を呼んだプラマニクスを見てやはり理性を捨てるべきだとまた彼女に手を伸ばした時、空気を一転させ切り裂く機械的な着信音が鳴った。

 

驚きつつも焦ってその連絡に出れば

 

『ドクター今きっと仕事中ですよね?そうですよね?輸送部隊がレユニオンに狙われているそうです!!急いで護衛任務についてください!』

 

と我がロドスCEOの声が響く。

 

「了解した………………。」

 

と今までのどんな反応よりも地に落ちた声でドクターがそう告げるとブツンッと通話を切る。

 

「っっっっ!!!」

 

「……殲滅させましょう、1人残らず。全員雪風で凍らせて雪の下に埋めます。」

 

声にならない怒りで尾を逆立ててから 唸り声を上げて殺意を顕にするドクターと、同じように怒気を孕んだ目で聖鈴を手にしたプラマニクスがこの後の作戦で目まぐるしい戦果を上げたのは言うまでもなかった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

新雪に踏み込み残すは痕(R18)

プラマニクスが♡喘ぎするので苦手な方注意(と言っても数は多くないです控えめな♡)


初めてのキスから5日ほど経ち、プラマニクスは振り分けられた私室で激しく頭を抱えそうになっていた。

あの日、あのまま行けば一線は超えていたであろう雰囲気だったが予期せぬ、無粋過ぎる邪魔が入り流れてしまった。

初めての抱擁とキスと……そう言う事が一挙に来てしまうのもどうかと思うが、それはそれで良いと思っていたのだ。

 

しかし、あろう事かあの日からドクターは彼女に抱擁やキスする事はしてもそれ以上になりそうになるとスっと離れてしまうのだ。

タチが悪い事にキスは初めてした時の様に激しく貪るような物だし、腰と後頭部に手まで回してしっかり抱き寄せるのにピタリとそこから先は止めてしまう。

別に場所が悪い、訳では無い。

確かに2人のお気に入りの場所だったり、人気のない通路で突然……だったりする時もあるが大体は執務中は人が入らない様に徹底してある執務室でしているのだから。

 

流石にそんなドクターの行動の訳が分からずプラマニクス的にも生殺しの様な状態が続く事に耐えきれず少し強めに問い詰めたらば。

 

『事前の……準備がまだ出来てない………それに、エンヤはカランドの巫女だからな……』

 

とこちらを気にし過ぎな回答が返ってきたのだ。

準備……というのはなんなのだろうと言う考えよりも、巫女だから、と言われた事の方が胸に引っかかった。

それでも構わないと言ったのは彼だったのに…とプラマニクスは溜息を吐いた。

 

そうして膝を抱えて悶々と考えていると、いっそう訳の分からない連絡がドクターから入る事になった。

 

やたらと上機嫌なドクターに呼び出され、鬱屈とした感情を抱えたままプラマニクスは手ぶらでドクターの自室へと向かったまでは良かったのだが、そこからドクターの自室に新しく完備された浴室を誇らしげに自慢された。

そしてそのままいつものドクターの言葉足らずから「入るか?」、に続き「お言葉に甘えて」の流れで、言葉の綾で意味のすれ違いが起き何故か2人一緒にドクターが新設した風呂に2人でいる事態になっていたのだ。

 

 

 

途中ドクターもすれ違いに気付いた時には既に遅かったが、プラマニクスが「……一緒に入るんですよね?」と繋いだ手の指を絡ませできたので素早く頷いて答えた。

 

 

今は、プラマニクスが先に浴室に入って身体と髪を終え……ドクターがギターノから譲り受けた、マトイマルも御用達の髪留めで髪を止めた状態で湯船に浸かっている。

この髪留めはギターノから『近々来る些細な災難の回避に』と食事と引き換えに得た物だったがまさかここで役に立つとは、とドクターはギターノに感謝した。

先にプラマニクスに渡して湯に入れて貰った入浴剤は乳白色が濃ゆく、湯を不透明にしているおかげでプラマニクスの身体が見えることは無いのだがそれはそれとしても何時もより色気が増しているとドクターは思う。

 

「エンヤ……その、位置はそっちで良いのか?」

 

このまま入るとお互い向き合って湯に浸かる事になるのでと身体や髪を洗い終えたドクターが聞けば、視線を壁や水面に向けていたプラマニクスがこちらを振り向いてバチャッと水を跳ねさせて驚いた顔をしてからピンッ!!と耳と、濡れてボリュームを失った尾を逆立てさせた。

 

「なっ!?なんで前隠さないんですか!?」

 

「どうして隠す必要が……恥ずかしくないぞ?」

 

「ドクターが恥ずかしくなくても私はそうじゃないんです!!あぁ!もうっ!このままでいいから入ってください!!!」

 

怒りなのか湯に浸かり過ぎたせいなのか振り向いた瞬間ドクターの隠しもしない股間が視界に入った事による羞恥が原因なのか、どれとも取れる理由で顔を赤くしたプラマニクスがバシャン!と尾を振るってお湯をドクターにかけながらそっぽを向いて叫び気味に言った。

お湯をかけられ自分が悪かったのを棚に上げて解せないと言った顔をしてからプラマニクスと向き合う形で湯船に入った。

 

「そんなに怒らなくても……見たことくらいあるだろう?」

 

「へっ?」

 

「シルバーアッシュがいるだろ…」

 

「いつの話ですか!?と言うか大人になってから見た事ある訳ないでしょ!!」

 

向き合いながら再びお湯をかけてから尻尾でもドクターの脚に攻撃してプラマニクスも流石にドクターにかなり立腹の様相を呈していた。

 

「子供の頃だって……!はぁ………もういいです。」

 

これ以上言うと幼少のみぎりの思い出が浮かんできてナーバスになってしまうとプラマニクス自身が途中で折れて深いため息を吐き、発言を止めた。

と同時にドクターへのお湯かけも止めると何事も無かったかの様にドクターは顔を拭っている。

 

「そうか、すまなかった。……確かにそうだな、大人と子供のソレだと形状も何もかも「もうその話は止めましょうか。」

 

「………あぁ。」

 

なおも続けそうになっているドクターに威圧するように口元だけ笑って見せればドクターは気まずそうに口を閉ざした。

 

「………そう言えば、この湯船は普通の物より大きいのでは無いですか?」

 

何とか話題と空気を変えようと思案したプラマニクスがそう切り出すとドクターもそちらへと興味が移る。

 

「ん。俺は身体が大きいからな……それに、まぁ2人で入る機会があればいいな……と。」

 

バツが悪そうに顔を拭った手のひらを見詰めながらそうこぼすドクターに、「はて?」とプラマニクスは思う。

「いつこんな物を作るように頼んだんだ」と部屋に入ってから聞いた時確か、ドクターは付き合い始める前だったと言っていたはずだ。

 

「まさか……」

 

「………どうなるか分からないにせよ夢くらいは持たせてくれ。」

 

このドクターは本当に、

 

「私と付き合いたかったのか気持ちを押し殺そうとしてたのか本当に分からない人ですね……こんなもの作って。」

 

何を考えているか未だに理解しにくい恋人だと手のひらに湯を溜めて気を紛らわせようとしたプラマニクスは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そちらに、行ってもよろしいですか?」

 

プラマニクスが不意にそんな事を口にした。

ドクターの視界に映るのは、今口にした言葉と温めに設定したとは言え数分湯に浸かっていたせいで白い肌と頬に朱色が映える身体で、勇気を出した後に気恥しさが勝っただろうにチラリとこちらを見てくるプラマニクスで、そんな彼女に不覚にも喉を鳴らしてしまう。

それは、甘えたり好意を伝える時の物ではなく確実に欲を孕んでいるものだと己が1番、良く理解していたが湿度の高い浴室で少し乾いた口から零れた返答は短い物だった。

 

「……。」

 

目の前に、普段は長く豊かな銀髪や襟巻きのような装飾に隠されていて絶対に見ることが出来ない恋人のうなじが濡れた髪を纏わせて無防備に晒されているのを見るのも、己の硬い太腿に時折柔らかなプラマニクスの太腿や体の一部が触れるのも…何より当てない様にしているのだろうが濡れているせいで水中を漂う彼女の尻尾の毛が時折際どい位置を撫でるのが大変いただけないとドクターは歯を食いしばっていた。

 

「エンヤ……その、尻尾がだな。」

 

せめて、前に抱える様にしてくれればと思っていたのにあろう事かプラマニクスはドクターの腰に尻尾を巻き付けたのだ。

 

「………、」

 

すると思い詰めたかのように少しだけ振り返ったプラマニクスがドクターを見上げ、少し強く腰に巻き付けた尾を締めるとそっとドクターの膝に手を置いた。

 

「………私は、1つも魅力がないでしょうか。」

 

と、恥じらいを込めて弱々しく言うプラマニクスを見てドクターはとうとう観念した。

これ以上、惚れ込んでいる恋人を不安にさせる訳にはいか無いし何より彼女に色々と言わせるのは情けなさ過ぎると……今でももう十分に情けないのだが、と苦笑いする。

 

「そんな訳がないだろう。むしろいつも、全力で我慢していた……1人で鎮めた事も両手じゃ足りない。」

 

プラマニクスをそっと後ろから抱きしめる様にその柔らかく括れた腰から腹にかけて腕を回し、肩口に顎を乗せてから言えばピクリと肩が震える。

 

「なら、どうして……」

 

「エンヤが『巫女』だからな……地域によっては巫女は処女じゃなければ勤まらず、失う事でその力も無くなると言われている事もある。……それに、まぁ頼んだ物があったり、あと…力加減を間違えて傷付けやしないか、とかだ。」

 

「それならそうと、早く言ってくれたら……っ、ん」

 

「……ふ、全く…エンヤの言う通りだ。」

 

プラマニクスの話の途中でドクターが音をさせながら肩口を柔らかく吸ってみるとくすぐったいのか短く色っぽい声をあげたのを聞いてからそのまま己も短く息を吐いた。

先程吸い付いた辺りを舌で舐めながら回した腕を動かしてプラマニクスのキメ柔らかい女性的な下腹部に手を添えて撫でる。

 

「っ、ふ、」

 

噛み殺した様な息遣いと、少し口からこぼれたプラマニクスのまだ媚声と言うよりはくすぐったさに耐える様な声が聞こえる。

 

「エンヤ……」

 

そう囁くかのようにプラマニクスの耳の裏に唇を触れさせながら名前を呼ぶと、振り返ったユキヒョウらしいオレンジの虹彩を纏った銀灰の瞳と自分の隻眼が視線を交わらせる。

そしてそのまま言葉を交わすことなくドクターの首に腕を回して来たプラマニクスのうなじに手を手を回して顔を近付けさせてその唇を重ねた。

 

 

 

ーーーーーーーーー、

 

 

湯船の中でひとしきりお互いの口内を貪ったあとおもむろにドクターがプラマニクスの腕を引いて立ち上がり湯船を出るよう促して、浴室の壁に追いやる様な形で向かい合うと壁に手をつき背中を丸めたドクターがプラマニクスの唇を舐めれば再びプラマニクスはドクターの首に腕を回して答える様に舌を出してドクターの舌に絡ませてくる。

その間にプラマニクスの長い髪の毛を止めていた髪留めに手が当たった時「もう取ってくれていい」と少し口を離してから言った後にもう一度自分から唇を重ねそのままチロリと唇を舐めて来たプラマニクスの舌に自分の舌を絡め入れながらそっと髪留めを外せば、まだ多分に水分を含んだままの銀髪が重力に従い落ちた。

 

 

ピチャ、ピチャと唾液の絡む音をさせながら次第にどちらの物ともつかない涎がプラマニクスの顎を伝い首筋を流れるのに気付いたドクターが、舌を離しそれを辿る様に舐めるとプラマニクスの喉が『ひくり』と動いて短い媚声が聞こえた。

 

「んっ、…」

 

その声に合わせるように軽く仰け反って剥き出しになった首の腹を軽く喰みながら舐め壁についていた片手を腰から辿らせて優しく指の間に尻尾の根元を挟み、片手は胸の双丘の片方を下から掬う様に揉み込む。

 

「エンヤは、俺が今まで触ってきたどんなものより柔らかいな。」

 

「つっ、そん、な事っ今は……」

 

喉から口を離して柔らかく指が沈み込む様な乳房を綿菓子に触れるような強さで掴んでゆっくりと大きく円をかくように動かしながらそう言ったあと、プラマニクスが手の甲で口元を隠すのを見たてから視線をほんのりピンクに色付いた乳房に移せばふと指の間で僅かばかりに主張を始めた色素の薄い乳頭へのイタズラ心が芽生え、顔を動かし頭上から聞こえたプラマニクスの一瞬の静止とも驚きとも取れる声を聞きながらべロリとざらついた舌で舐め、口に含む。

 

「ぁっ、やっん」

 

痛くないと思われる程度の力で吸い、そっと牙を当てて軽く噛みながら舌で押して輪郭をなぞりながらなめ、空いた手で反対の乳頭を軽く摘んだり押したりして刺激を与える。

合間に、思い出した様に緩く尻尾の付け根を指の間で挟みながら扱くように撫でれ身体を時折跳ねさせるプラマニクスの色の混ざり始めた声が降ってくる。

 

「あっ、あ…ふっ、ん♡」

 

(ここは流石に柔らかくないな)と言う舌と指先で感じている感想は流石に口に出さないまま、ドクターはそろりと尾の付け根を揉みつつ撫でていた手を指先だけで軽く撫でる様に動かし体の線に合わせ、女性の最も大事な場所である子宮がある場所をキメ柔らかな腹部の上から優しく数回撫でてペースを変えずにそのまま、髪の毛より少し硬質だがそれでも十分に柔らかくたおやかささえ感じる手触りの下生えの下へと滑り込ませた。

 

「……綺麗なものだ。」

 

「っ〜〜、なにっ、ふっあっ、ぁっ、ん♡」

 

髪の毛より少しだけグレーを帯びている下生えへを触りながら感想をうっかりこぼした事への苦情が出る前に、もう一度乳頭を甘噛みしながら既に愛液でぬちゅりと音を立てた秘裂を行き来させるように指の腹を動かし、そのぬるりとした液を指に纏わせると乳頭と同じ様に硬さを持ち始めていた陰核を優しく指で挟み上下に動かした。

 

「……痛くないか?」

 

「あっ、あっ♡だいっ、んっ、ひゃっ♡」

 

顔を上げ耳元でそう聞くと大丈夫、と言いかけたプラマニクスの返答に陰核への刺激に対し痛みを感じるタイプでは無かったことに安心しそのまま指先で弾力を楽しむ様に軽く押してゆっくり揺すればプラマニクスの肩がぴくんと跳ね、挟んで扱くようにしたあと少し背伸びしている陰核の周辺だけを指の腹で触れるか触れないかの瀬戸際で撫でててたりトン、トン、と指先で陰核を軽く叩けばプラマニクスはドクターの背中に手を回して息を荒らげ始める。

 

「はっ、はぁ、んんっ♡……っぁ、これっゾクゾクしてぇ、っ♡」

 

ようやく顔を上げてプラマニクスを見て見れば既に快楽からくる熱で頬を染め生理的な涙が大きく綺麗な瞳からこぼして、呼吸をする為に空いた口から舌を覗かせたプラマニクスが誘っている様に見えてそのまま舌を無粋な力強さで捩じ込ませる。

突然入って来た舌と愛液を掬っては続けられる陰核への刺激に加え新しく、先程まで愛液を掬うのみの刺激だった秘裂をなぞる指の触れ方が、明確な意思で肉唇を開き膣口へと指の先を侵入させ浅いとは言え内側からクチュリと指の腹で引っ掻く動作へと変わったのだ。

 

「んんっ♡ん……はっ!やっあぁ、んっ…そこはっ、ダメ、ダメですっ」

 

ピッタリと自分の豊かで形の整った胸といつもは整っている三つ編みが解けた分の長い髪を押し付け、縋る様にドクターに抱き着くプラマニクスとドクターの口が離れた瞬間プラマニクスが媚声混じりでイヤイヤと首を振る。

どうやら痛いと言うよりは、他者に与えられる未知の感覚への拒絶といった感じであると察して沈めた指を更にプラマニクスの膣の中へと進めるとピクピクとナカが震えたあとキュウ…とドクターの武骨な指を絞めてきたのでプラマニクスの耳を食みながらペロリと耳の内側を舐めて「安心しろ、痛い時だけ教えてくれ」と告げると丁度陰核の裏側に位置する辺を指の腹で押し上げながらクリュクリュと小刻みに揺すり、そっとプラマニクスから離れてしゃがみこんで膝をつく。

そして空いている片手でプラマニクスの膝の裏を抱えて自分の肩に脚を乗せさせると、有無を言わさず顔をその秘裂の近くへと持っていきくいっと陰核周辺の肉を指で拡げ唾液をしっかりとまとわせた舌先で、震える陰核を宥める様に舐めた。

 

「ひゃあん!やっ、そんなとこっなめっ、っ〜〜♡んっはぁ、んっ♡」

 

ぷっくりとした膣壁を優しく、優しく押して褒める様に撫でて時折少しずつ指を奥へと侵入させながら外からはすっかり紅く色付いてピクンと震える陰核の周囲を舌先で舐めてから包皮を親指で押し上げる様に押してグッと舌を押し付けて小刻みに揺らたり舐め上げてからチュッ、と吸う。

既に脚が震え、無意識に腰を動かして尾をドクターの腕に巻き付けながら必死にドクターの肩に片手を置きながらも静止しようと力の入らない手で獣耳を掴んでいるプラマニクスの全ての所作がドクターの下腹部へと更にズンッとした重さを足してくる。

 

「あぁ、あっん♡はっ、んっ♡それっそれぇ、やぁ♡」

 

「…ずいぶんと、ヨガってくれるな?」

 

「あっうっ、んっ♡ふ…いわないっでぇ」

 

膣の奥から、ドロリとした粘着性の高い体液が指を伝って来るのを感じながらそれをナカでかき混ぜる様にクチュクチュと音を出しつつ指を動かしてゆっくりと2本目の指を入れる。

2本目の挿入に、1度身を震わせるも2本目もゆるゆると膣口を撫でてこれからの挿入を教える様に動かして行けば何とか2本目も咥えこんで切なそうに膣内がしまる。

 

「病みつきになるな。」

 

挿入した指で優しく膣口を広げて、そう言うとネチャ…と透明の糸を引く唾液より遥かに粘度のある液を気にとめず、しかし慎重に舌を秘裂の間へと進めていく。

 

「なっにをっ!やっやぁ♡そんなっ、んんっ、あんっ♡ダメ、って…ひゃあん♡これっ、はずかし…!」

 

舌を入れる為にほとんどプラマニクスの股の間に顔を埋めているせいか恥じらっているようだがそれがまた男心を煽るのだと、ドクターは熱く胎動する膣内へと侵入させた舌で膣内のヒダの1つ1つまで確かめる様に舌を這わせていく。

舌に感じるヌメリを帯びた愛液に甘味すら感じる様に思えて夢中で舐める。

舌を抜き差しし、陰核の裏の陰核脚近辺に指とは違う刺激を与えるドクターの動きにプラマニクスは無意識に快楽を求めて腰を押し付ける様になっていた。

 

「っは、気に入ってくれた様で嬉しい。」

 

そう言ってまた秘裂へと舌を這わせる。

 

「あっ、ふぅ、ん♡もっ、そればっかり、はぁ♡っつ、んぁ、もうっなめ、ちゃっ、ひっ♡」

 

留まることなく溢れてくる愛液がドクターの舌に絡みついて浴室に隠微な粘着音を響かせる。

そしてプラマニクスの尾が一際ギュッ、とドクターの腕を締め付けた時そっとドクターは離れた。

 

「んっん、ふぅ…?っ、あっ…」

 

「……エンヤ。」

 

立ち上がり、口元の愛液を拭ってからプラマニクスの下腹部にギチギチにイキり勃って先走りを溢れさせた自分の肉棒を押し付けながらそう伝えると、物足りなさそうな顔をしていたプラマニクスが息を飲むのが聞こえた。

 

「すまない、今は…まだ、中には入れん。」

 

「ふぇ…?どういう…っんっ、ひゃ、ぁん♡」

 

プラマニクスに覆い被さる様にしてその細い腰を掴んだドクターがそう言えば意図を掴み損ねたプラマニクスが疑問をぶつけるより早くその答えを提示した。

プラマニクスの陰核に己の肉棒の先をあてがうとそのままゆっくりとずらして濡れきった割れ目へとスライドさせた。

 

「っっ〜!?♡ぁんん、ひゃ、あっ、はっ♡あ、あっなん、でっ♡」

 

「っ、言いながら、もっと濡れたぞ。」

 

クッチュクッチュ、と音を立てながらプラマニクスのべっとりと濡れた秘裂の間で何度も己の肉棒を往復させながら、思い出したかのように陰核も亀頭で押しつぶすように刺激する。

そしてそれを防ごうとプラマニクスが太ももを閉じたとしてもそれは肉棒の上部が更にプラマニクスの秘裂に押し付けられて感じている証の愛液とひくつきを楽しませることになり如何せん素股と言われる行為を手助けし、ただでさえ熱く昂った肉棒を秘裂に押し付けドクターのソレがどうなっているかをプラマニクス自身に詳しく伝える事に拍車をかけるだけだった。

 

「やっ…、やぁ!♡はぁっ♡はっ、どくたぁ!……っ!あぁっん、あっ♡」

 

「ハッ、名前を、よぶな……制御できなくなる。」

 

ぱちゅぱちゅ、と肉同士のぶつかり合う音と2人が視線を交えてからは何度目になるか分からない口内の貪り合いの音が浴室内に反響する。

プラマニクスはまだドクターの背中に手を回して必死になれない快楽に抗おうとするが、ぐりっ、ぐりっ、と陰核に亀頭が擦れる度に貪り合いのせいで塞がれた2人の口から声が漏れる。

 

「ハッ、ハッ、エンヤっ」

 

「っ♡っぁあ、あっあ!んっ♡んんっ、もっと、もっとぉ♡」

 

離れた口からこぼれる無意識の言葉にぐっと睾丸がせり上がるのを感じて低く喉を鳴らしてしまう。

今すぐにでも濡れて熱く雄を求めるあの膣内をめちゃくちゃに出来たら、と言う本能を必死に抑えながらドクターは腰をつき動かしているとプラマニクスもいつの間にかドクターの腰に尻尾を回しながら、ドクターの動きに合わせる様に拙いながらも腰を動かしており、丁度お互いの動きが合った時だった。

意図せず亀頭で陰核の裏を弾くように動いた後にそのまま押しつぶす動きで追撃してプラマニクスが身体を強ばらせるとそのままヌメリに助けられさっきよりキツく閉じられた太腿の間で肉棒が刺激されることになったのだ。

 

「なっ、グッ!」

 

「ひゃあんっ!?」

 

その刹那ドクターは背中に微かに痛みを感じたがそれを上回る予想していなかった刺激で射精し、プラマニクスも他者の手によって受けた初めての絶頂を経験していた。

 

「……エンヤ、」

 

「…ひゃ、い…」

 

賢者タイムと言う物がいつもなら来るはずなのに、果てたせいで自分の胸板に柔らかな双丘を押し付けて涙を零しながら荒い呼吸をして甘え足りないと意識してかせずなのかドクターに身体を擦り付けてくる呂律の回らないプラマニクスの頬を両手で包むようにして火が着きっぱなしのドクターは口を開いた。

 

「俺は、続きがしたい。エンヤを本当に俺のものにしたい……、もし風呂から上がってからも……その、なんだ、気が変わらないなら…俺にエンヤをくれないか?」

 

そう言いながら生理的なせいでこぼれた涙の後にそっと口付けてから軽く唇を触れさせるとドクターは「先に、あがる」と告げてまだ少し放心しているプラマニクスを背に浴室を後にした。

 

.

.

.

.

.

.

 

 

 

先に風呂場を後にし、一応プラマニクスの着替えの代わりになるかと自分のワイシャツを脱衣場に置いてから簡素で頑丈そうであれそこまで柔らかい訳では無いベッドに下着だけ履き上半身裸で胡座をかいて座るドクターは腕を組んで考えていた。

 

(俺には賢者タイムが全く来ないとは言え……流石にエンヤがもう正気に戻ってそうだ。)

 

今日は予め仕事を片付け、時間もあるからと興が乗ったのはいいが1度クールタイムを設けた為にああ言った物のプラマニクスが続きを嫌がれば…と言う悪い想像が過ぎってしまう。

 

(もしそうなったらそうだな、無理はさせたくないがせめて見抜き…「ドクター…?」

 

などと労わっているのか不埒なのか分からない考えを巡らせているとプラマニクスの声が聞こえて顔を上げた。

顔を上げて視界に入ったのは、少しと言わずだいぶ大き過ぎたドクターのシャツを何とか羽織ってまだ少しだけ濡れて解かれたままの髪型で、装飾品として……いつだったか購買部で買ってプレゼントした組み紐だけを腕に付けこちらを窺うように首を傾げるプラマニクスだった。

本日数度目の生唾を飲み込んだ後、そのあんまりにも扇情的で目に悪い姿からそっと隻眼を逸らしているとプラマニクスが横に座り肩に頭を乗せてきた。

 

「エンヤ、それで……いいのか?」

 

と腰に腕を回すと先程までのことを思い出してか、ふるりと身体を震わせたプラマニクスがドクターの下着だけしか纏っていない太腿の内側に手を添えてきた。

浅ましくもドクリ、と下半身に熱が走る。

 

「むぅ……求めて、いただけるのはとても嬉しいのですが……その、自分から、これ以上を強請るのは……流石に、恥ずかしいので、……」

 

と、言いながら相変わらず紅く染まったままの顔で視線をこちらに向けずに添えた手を擦るように動かしつつ尻尾を回してきて、手を添えてない方の太腿の内側を一撫でしてきたプラマニクスを見て、ドクターは察すると口を開いた。

 

「なら、いま尾でしてくれた事を合図にしよう。それなら、言葉必要ないだろ?」

 

そして自分の太腿に置かれたままの尻尾を撫で返しながら、自分も尾でプラマニクスの太腿を撫でながらようやくこちらを見上げて頷いてきたプラマニクスの額に口付ける。

 

「ところで……組み紐、付けてくれたのか。」

 

「ふふ、えぇもちろん。私の宝物ですよ?」

 

そのまま額同士を合わせてどちらともなく喉を鳴らしてスリスリと擦り付きあいながら唇を重ねてそっと押し倒した。

 

 

 

 

ーーーーーーーーー、

 

上等なスプリングが使われている訳では無いベッドが軋む音と、プラマニクスの媚声。

そしてドクターがプラマニクスの股の間に顔を埋め、指と舌で秘裂を嬲る音だけが部屋に満ちる。

プラマニクスが着た、大き過ぎるシャツを脱がすのもそこそこに前だけ肌けさせた状態でドクター達は事を進めていた。

 

先程の様に立たせている訳では無いので膣内へと入れていない手でプラマニクスの白くふわふわとした手触りの内腿や鼠径部を撫でたり、そこに舌を這わせながらぐるりと内部に入れて少し指先を曲げた指を回して少し跳ねる腰の動きを堪能する事が出来た。

 

「ひっんっ、はっ♡あぁ、はぅ、んん…あっ♡」

 

綺麗な喘ぎ声に混ざって時折、ドクターの名前を切なそうに呼ぶプラマニクスの声が聞こえる度に下半身の肉棒はムクムクと再び首を持ち上げ始めている。

 

「我慢しなくていいと言うのに…気持ちよくないのか?」

 

「いやぁ、あんっ♡…っ、……ち……い、です♡」

 

くぷくぷと入口の浅いところばかりを2本の指で引っ掻くように焦らしながらそうたずね、あえて返事を待てば眉根を寄せて涙目でこちらを見てから口元を手の甲で抑えて隠しながら震える小さな声でプラマニクスが何か言う。

 

「ふむ……気持ちいいんだな?」

 

聞き取れたのだが、あえてそう目を見ながら再確認して少し指を奥に進めゆっくりと膣壁の腹側を押して指を引けば、コクコクと頷いてまた声を漏らすプラマニクスに目が奪われそうになる。

そのままむしゃぶりつきたくなるような下腹部に目を落として(この白くて薄い腹の中に、今から自分だけが暴いていい場所がある)と思うとたまらなくなり、臍にそろりと舌を差し込んだ。

 

「やっ!はっぁっ、それ、くすぐった、んんっ♡あ、あっ、ひぅっ♡」

 

「…ほんとにくすぐったいだけか?」

 

少し息を吹きかけて、また舌先でチロチロと舐めてそのまま臍のラインを辿り下腹部の丁度子宮のありそうな辺をカプリと優しく噛んでから、

 

「あ♡あっあっ、いっ!…なにしてっ、」

 

「……人目につく場所じゃない、これくらいは許してくれ。」

 

少し強めに吸ってそこへ鬱血痕…キスマークを付けた。

自分だけの女の、自分にだけさらけ出される女性の最も尊くて大切な場所の上へ独占の証を付けるとほの暗い獣欲と征服欲が顔を出す。

付けたばかりのキスマークをペロペロと舐めながら、プラマニクスの反応が一際良くなる場所を探っていく様に膣内を曲げた指の腹で刺激し続けていく。

 

「む、うっん、あっぁう♡はっはぁ、ん」

 

「…っ、だんだんと分かってくるものだ、エンヤが一段と気持ち良くなってくれる場所が。」

「い、わないっでっ、やっ♡はずかしっ!ああっ!」

 

ギュッとナカが指を強く締め付け尾や耳がピクンっ!と跳ねるように突っ張る反応を示した場所をくりくり指で円を描く様に押してその近くを往復するように動いてから、1度ぬるりと指を抜けば透明な愛液の他にほのかに白い本気で感じている時に出る粘りを帯びた体液が2本の指の間で糸を引いているのが目に入いり、そろそろ辛抱たまらなくなりそうだとベッドの傍の机へと手を伸ばして引き出しを開けて中にある必要な物を2つ取り出す。

 

「……少し気持ち悪いだろうが我慢してくれ。」

 

そう言いながら1つは脇に置いた後手にしたボトルを空けて傾け、中身のドロリとした透明の液体を先程までプラマニクスの膣内を蹂躙していた自分の手の平に1度出してから、プラマニクスの秘裂へとその液体を塗り付けた。

 

「っ、それ、は…?ふっ、んっ」

 

「……なるべく、痛みは感じさせたくない……からな。」

冷たさと、敏感な場所への初めての感触からプラマニクスが一瞬身体を強ばらせるも直ぐに先程より遥かにヌルヌルと滑るようになった指の刺激に脚を閉じそうになったのをドクターが制すると、ボトルの中の液体をそのまま秘裂と指の境目へとかけ、奥に流れ込む様に指を出し入れさせる。

 

「つめっ…た、ぁっ、やっ!ふっ♡んんんっ、あぁっあっあっ♡」

 

「眼福だな…。」

 

耳を後ろに倒し、耐えるように必死にシーツに皺を作りながらシャツの袖口も巻き込んで握るプラマニクスの反応を一頻り眺めてからドクターは指を抜いた。

ボトルの中身……ローションが指とプラマニクスの膣口を渡る様に橋をかけるのを雑にプラマニクスが着たままの己のシャツで拭き、机から取り出したもう1つ……避妊具の箱を力任せに空け1つ取り出した袋を破いた。

 

一連のドクターの動きをどこかぼんやりとした思考で他人事のように見ていたプラマニクスがドクターが下着を下ろした時ようやく窮屈なそこから出てきた逸物を視界に入れた時、瞳が揺れた。

 

「あぅ……あの、…大きい、ですね……」

 

「……今そう言う事を言うと煽っているのかと勘違いするんだが……、ただなんだ、痛すぎたら言ってくれ。」

 

「うっん、ちが……はっ、」

 

ドクターのそれは体格に見合う立派な物で反り返っている先端はへその上に位置していおり、少しだけネコ科のそれに似た特徴を持ち合わせている様だった。

さっき素股していた時はそれどこれでは無かったのでマジマジと見た訳では無かったのだがしっかりと目視すると少し恐怖が産まれてしまう。

 

「……痛くならないよう、善処する。」

 

「えっあっ、はぃ……っ、」

 

ぐいっと足を膝の裏から抱えられてプラマニクス的には恥ずかしい格好にされながらも、避妊具を装着したドクターの亀頭の先がゆるゆると膣口を撫でる様に上下する。

そうしたひたすら労るかのようにゆっくりとした動きの中、少しずつ肉棒が膣内へと侵入を始めた。

咀嚼する様に収縮を続ける、熱くうねるナカに一突きで全て収め欲望のままに腰を打ち付けたい気持ちを歯を食い縛って耐えながら腰をじわじわ進める自分の顔がどんな物か、ドクターは想像したくなかった。

 

そして進んでは戻り、次に進む時はさっきより奥へとある程度推し進めた時、

 

「いっ!?」

 

プラマニクスが目を見開いて、短く明確に痛みからくる悲鳴のような声を上げて喉を引き攣らせた。

人によりこれも痛みがない場合や出血を伴わない場所もあるが……やはりこの受け入れる側との体格差も痛みを助長させる原因なのだろう。

 

「…っ…止めた方がいいか?」

 

「い、いえ…、へいきっへいきです…。」

 

亀頭をすっぽり包まれ、その下も僅かばかり押し込んだところでドクターは息を荒く吐きながらもピタリと動きを止め、大丈夫だと止めようとするドクターに首を振るプラマニクスの頬を撫で、身を穿かれる痛みから零れそうになる涙を湛えた瞼にそっと口付ける。

 

「……分かった。」

 

それならばと、残っているローションをかけながら慎重に慎重を重ねプラマニクスと口付けを交わしながら蕩けそうだと感じる膣内へと肉棒を進める。

ローションの助けもあってそこからは、苦しそうに口を開けることもあったが何とか進んでいくが、一旦突っかかる場所へ辿り着いた時プラマニクスが短く息を飲んだ。

 

「………、エンヤ…。」

 

「……貴方の物に、していいですから…」

 

目が合うと少し目を泳がせたあと、再び視線を交えてからそう言って手を伸ばし、そのままドクターの身体へと腕を回してこちらを見てくるプラマニクスに頷いてグッと腰に力を入れて推し進めた。

 

「っっっ〜〜!いっ、っはっ、」

 

「っ、エンヤ、力をっ抜けそうか…?」

 

痛みで震えたプラマニクスを労りながらも心を満たす、真新しく汚れもなんの跡もない初雪が積もった雪原に自分だけがたった一つの消えない証を付けた様な優越感と支配欲に脊髄から興奮が駆け上がる感覚を覚えた。

それでも本能任せに唸って鳴り散らす獣欲の声を抑え、なんとかそう紡げば涙を流すプラマニクスがなんとかハッハッ、と短く息を吐く。

 

「はっ、っ、」

 

「すまない、すこし、落ち着いたら…動く。」

 

申し訳なさと満たされる気持ちと、『男は狡い物だ。』と言う感想を抱きながらプラマニクスを抱きしめる様になんとか身体を動かした。

彼女のナカに包まれた自分の肉棒は、今すぐにも動けと命令を下すかの様に過敏にプラマニクスのナカの収縮と脈動を伝えてきて時折ビクンッと自分のソレが脈打つのを感じる。

 

「…だ、いじょうぶっ、ですからっ……」

 

「…そうか?………なら、動いてみるぞ?」

 

言われて引き抜く動きより、今は奥に自分の存在を教えるのが先だと軽く押し進めるように腰を動かしてからそのまま揺する。

最奥であろうか、亀頭に当たるクリュっとした感触に腰が戦慄くが慎重にプラマニクスの様子を伺いながら上下に腰を動かしてその反応と触感を確かめる。

 

「っ、んっ、…はっ、ふっん、…ぃっ」

 

「ハッ、エンヤっ、くっ…んっ、いいっな。」

 

腰を動かすほどに、1つずつ自分の証を刻み込んでいる様な気持ちになり次第にプラマニクスを心配する気持ちより、快楽を貪りたがる自分が勝り始める。

痛くないようにとグリグリと奥で動かすだけの動きはやがて、腰をゆっくり引いてはそれより少し早いペースで差し入れ…と言うピストンに代わっていく。

引き抜こうとする度に引き止めるかの様に絡んでくる肉壁がカリにひっかかる感触と、挿入する動きになるとまだ僅かに抵抗しながらもクチュリと音を立てて押し広げていく感触を亀頭でまざまざと感じる。

 

「ひっ、あっあっ、んっふっぅ、ゃ、ん」

 

「エンヤッ、エンヤッ、これはっ、いたくない、か?」

 

「はっ、ん!やっ、そ、れはっ、あっあっ、っ…」

 

プラマニクスの開いた口からこぼれる声が突かれる事で圧迫されて出る音なのか、はたまた少しは感じているのかと尋ねれば突かれながら必死にしがみついてくるプラマニクスがなんとか言葉を紡ごうとする姿が興奮を煽ってくる。

一旦、じわじわと早くなりがちな腰の動きをなんとか抑え、再び奥に到達した時には緩く円を描く様な動きで子宮口の感触を確かめるように腰を動かしながら、じっくりとプラマニクスの反応に着眼点を置いた。

腰を動かして、まだ痛みと違和感を感じているであろう内壁を優しく擦りあげる様に押し上げながらじっくりじんわりとナカの収縮やプラマニクスの声の色の付き方を観察して反応を見損じない様にする。

人体を破壊するのが得意ならそれを流用すればいい、どこが弱いかある程度目星をつけて身体を触りながら肉壁をゆるくしかし的確に突くことに気を向ける。

 

「これは……好きか?エンヤ。」

 

「あっ、ひっ!?ソコ、はっ、んんっあっぁん、はぁ、んっん、すきっ、です♡」

 

グリュッ、と一点を突くように腰を揺すればピクンっと身体が震えて爪を立てて縋り付いて、羞恥も忘れて言われた事を反復するように素直に好きだと返す。

それを聞いてなるべくソコを狙う様に腰を突き上げてみたりあえて外しながら他の反応が代わる箇所も探し出そうと腰を動かす。

1つ暴く度に、腰を僅かに浮かせて応えてくるプラマニクスがたまらなく愛おしい。

そして1つよがる所を突いてこそぐように動かすその度に、ずり落ちて腕に回ったプラマニクスの手が爪を立てて自分の腕を引っ掻かいてくるのも心地よく、尚更今のこの瞬間も、この美しい身体もずっと自分だけの物だという気持ちを強くした。

 

「エンヤっ…はぁっ、まだ、んっ痛いか?」

 

「ふっ、ふっ、うっンっ…わから、なぁ…ひゃっ、けどっ…いや、じゃなぁ♡っあぁ、い、でっ、す♡」

 

声に滲む、快楽を拾った様な音とだんだんと痛みより気持ちよさを感じ取り始めたと分かるプラマニクスの表情にゾクゾクと腰を震わせ、無意識に尾が張る。

グッチュ、と言う粘着質なローションと再び潤いを取り戻したプラマニクスの秘裂の間で擦れる肉棒の音とぶつかる肌の音がじわじわと緩急をつけて部屋に響く。

 

「はぁ、はっ、エンヤっ……ふっ、たまら、ないっ。」

 

「ぅ、やぁ、ん♡あっんぁ、はっぁん♡」

 

すっかり再び解れ始めたプラマニクスの膣内で、最早遠慮はいらないとばかりに、カリで先程まで誰も受け入れていなかった肉壁を押し広げ根元まで押し込んで奥まで蹂躙したいと肉棒を進めるドクターの腰に、プラマニクスの尾が巻き付いて離れたくないと言っているように見える。

それに応えたのかドクターはプラマニクスの手を取って、まるで布団に縫い付けるかの様に指を絡めて両手を握った。

腰に回ってきて膣内で肉棒を絞めるのと同じようにギュッと締めてくるプラマニクスの尻尾が目の前の愛しい雌への愛情に拍車をかけ、それに合わせて腰の動きが早くなる。

 

「んん、あっあぁん、ひっう、まっ、どくったぁ♡……っ、ひゃ、これ、いゃぁ♡♡」

 

いや、と口にしながらドクターと呼びながらもその合間に愛しげに彼の名前を口出しながらドクター太腿を足でさするプラマニクスの無意識の行動にドクターの唸り声がいっそう低くなりその興奮度合いを分からせ、いつしか打ち付けては離れるお互いの股の間にローションなのか新しく溢れてきた愛液なのか分からない粘ついた液体が離れ難いと言う様に糸を引いているのが見えた。

 

「エン、ヤっ、ふぅ、このままっ、いいかっ」

 

「っ〜!あっあっん、はぁっふっ、んっいっ、…あ♡いい、っです、よ♡ん、はっ♡」

 

ドクターのビクンと力強く脈動し始めた肉棒と脚へと絡んできた長く逞しい尻尾に答えるかの如くプラマニクスの膣内がキュウッと肉棒を絞めあげれば更に肉棒の硬さと形を自分の蕩けてしまったナカで感じたのか腰を上げて自分から擦り付ける様に動かしている。

それを聞き、プラマニクスの動きを感じればドクターは動くペースを変えて彼女の反応が一際大きな物になるスピードを保つように歯を食い縛った。

 

「はっあんっ!だめ、だめぇ♡♡これっ!あっあっんん、やぁ♡やめっふっ、っん♡ひっ、あっ、からだっいうこと、きっかなっあっ♡」

 

「っ、すまんっやめられ、ないっ!」

 

早く果てたい気持ちともっとプラマニクスの蕩けた顔を見ていたい気持ちがせめぎ合って1番彼女が蕩けたままになるスピードで腰を動かせば尻尾だけではなく脚が腰に絡まってきていよいよドクターの理性を焼き切ってしまい、隔たりがあるとはいえ本能に従った繁殖目的の腰の動きへと変わる。

絡ませて指の間同士を擦っていた手を離れて、彼女の細い腰をがっちり掴んで漠然と『良い子を産みそうだ』と認識する下半身へと力強く腰を打ち付けてすっかり雄を受け入れる事への抵抗を無くした膣内の最奥へとグッ、グッと亀頭の先を押し付ける様に動けばプラマニクスが手を伸ばしてくる。

 

「あっぁん♡♡はっ、も、ふっあ、あっあっ、ひゃうん♡♡うっん、はっや、んっ、イ…っ!♡♡」

 

「エ、ンヤッ!俺も、ッ…射精るっ!」

 

その伸ばされた手が届くように上体を倒せば首に腕を回されて抱き寄せられた。

そしてドクターが数回グッグッと腰を子宮口へと押し付ければそれに合わせてキュウキュウと肉壁が脈動し避妊具越しであってもその心地良さと熱く溶けた内部の様子を肉棒へと伝えてきてそのまま、プラマニクスの膣内で剛直を脈打たせながら白濁を吐き出した。

2度3度と脈打つのに合わせてギュッと大切な物を抱き締めるように、種を搾り取ろうとしている動きで膣内が絞まるとそのナカの期待に答えるかの如くビクンと脈打って尿道に残った精液すら外に送り出す。

 

「エンヤ……」

 

「はっ♡はっ♡…」

 

名前をお互い呼びあって、そっと唇を重ねる。

舌を絡ませて唾液を交換したあとずるり、とプラマニクスのナカから肉棒を引き抜けば、自分が初めてを奪った証がまとわりつき、避妊具にたっぷりと精を吐き出しているのをみたドクターは唾を飲み込むとそっと避妊具の箱を手にとった。

 

「すまない、エンヤ……俺は、足りない。」

 

「っ、♡……おてやわらか、に♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、更にドクターと2回戦繰り広げたプラマニクスは案の定翌日の任務に支障をきたす事になりドクターの私室で寝こけ、ドクターが1人業務をこなすその傍らでコータスキメラなのにも関わらず般若の幻影を纏わせたアーミヤが付きっきりで睨みを効かせていたと言う。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

手綱を握るのは君でいい

ドクターが周りとプラマニクスを困らせたりするイチャイチャ話


「あのさぁ、………お姉ちゃん。」

 

プラマニクスが妹であるクリフハートと、クリフハートの自室でカップに入れた飲み物片手に大皿にドクターに買わせたお菓子を広げいつもの様に世間話をしていればクリフハートが何か意を決しつつも、言いにくそうに口を開いた。

 

「どうしました?エンシア。」

 

「ドクターのことなんだけど……あの天然と言うか、こう……変なとこでストレートな性格どうにもならないよね?」

 

「変な、ところで………。」

 

会話から出てきたドクターの話題と『変なところで』の一文だけで凄まじく嫌な予感をプラマニクスは感じてしまう。

背中にいやぁな汗が伝うのを感じながら先を促す様に見ていれば苦笑いとも取れる笑みの妹が目をそらし、コップの淵をなぞりながら事の顛末を話した。

 

「2、3日前なんだけどさ………、」

 

ーーーーーーーーー、

 

それはクリフハートが購買部の近くを通りながら『今日は何をしようかな』と考えている時の事だった。

ロドス職員の…仕入れ担当者だろう人物を捕まえて何やら話しかけるドクターを見かけ、からかおうと思ったのだ。

 

 

 

姉であるプラマニクスとドクターが恋人同士であるのはロドスで知られる所であり、ある時1日中まったく姉の姿を見掛けておらず「もしかしたら!」と思っていたところで『俺の自室でプラマニクスが動けずに寝ているので仕事は出来ない』と言う話をドクターがしてしまいオペレーターたちの前でケルシーとアーミヤにドクターが叱られる事件があったのは記憶に新しい。

 

その日はすぐに姉に連絡してドクターの自室に行ってプラマニクスをからかったのだが、体が痛むのかたまに眉間にシワを寄せながら揶揄う妹をたしなめつつも常に幸せそうに笑っていた姉の表情と、ずっと上機嫌にゆっくりと揺れる尾を見て心の底から「良かった」と思ったものだ。

 

 

 

だからこそ紆余曲折はあったももの今は色んな意味で家族に近い認識を抱いたドクターにクリフハートはだいぶフランクに接している。

 

「ドークター!何してんの?お姉ちゃんへのプレゼントでも買うの?」

 

ドクターに声をかけながら押したところでビクともしないのは知っているので背中を押す。

そんなクリフハートにゆったりとした所作で振り返ったドクターは口を開いた。

 

「いや、ベットを新調しようと思って、な……ふむ、ベットの新調は言われてみたらプラマニクスの為にもなるか?」

 

言葉の途中で何かに気付いたドクターがこう言った時にピタッと周りの空気が変わり、クリフハートの視線の先にいた仕入れ担当者もバツが悪そうに頬をかきながら視線を逸らす。

そしてこの時クリフハートは悟った。

碌でもないことになる事を言った、と。

 

「……さっきのベットへの注文だが、硬くないの他に激しく動いても壊れない、音がしにくいも追加してくれ。」

 

そんな周りの固まった空気など一切気にとめず平然とドクターは言ってしまった。

当然だ、恋人と1番濃く深く愛を語る場所が安いスプリングの軋みで煩くシーツが爪なんかで破れたりしたら雰囲気も台無しになる、だからこのオーダーは胸を張っていいものだ。

しかし購買部近辺に沈黙が流れたあと、それを壊すようにゲラゲラと笑い始めたのはスナック菓子を手に持って近くでこちらを見ていたラップランドだった。

 

「アッハハハ!!ド、ドクター!君ってそんなに激しいんだねっ!いや、いやうん、確かにその身体だし戦う時も激しかったから当然かぁ……ソッチ方面は大人しいかな?とちょっと思ってたけどなるほど、そっかそっか。けど、壊れないっベットって……ベットより先に彼女を壊さない様にしなきゃね?ハハハ!」

 

ドクターに近付いて肩を肩を叩きながら笑うラップランドにクリフハートはもう何を言っていいのか分からず黙し、仕入れ担当者は虚無を見詰めドクターはドクターで「ソッチについては労るのが大事だからな。最初は静かな方で力加減は得意だし心配無用だ」と付け加えたせいで更にラップランドがツボって笑いながら腹を抑えてしゃがんでしまう。

ドクターとしてはなぜラップランドがここまで笑うのかは分からないが、まぁ面白い事があるのはいい事だなと解釈している。

「最初は静か」という事はお互いにヒートアップしたら激しくなっている、と暗に伝えているにも等しいのだと無論気付いていない。

見るに耐えかねたのか、弓の手入れ用の道具を物色していたらしいメテオが困ったような様な笑顔を浮かべながら歩み寄る。

 

「ドクター…そうね、あの……あまりそう言うのは言わない方がいいと思うわ。いえ、とても彼女を大事にしてるのは伝わるのだけど……」

 

「む……?そうなのか。まぁ大事にしてるのが伝わればいい。激しくなるのは、」

 

「だから、そう言うところよ!言わなくていいの!」

 

とうとうラップランドは耐え切れず床で笑い転げる程になりメテオも聞きたくもないであろうドクターと、最近能力の関係でよく戦地で組まされる同僚のそう言う方面話を危うく聞かされかけて赤面しながら注意し続け、クリフハートもこんな状況に巻き込まれるとは全く予見しておらず揶揄うとかイタズラしようとか言う目論見はとうに消え失せ、仕入れ担当者は置物になっていた。

 

 

ーーーーーーーーー、

 

「っーーーーーー!!!」

 

予想以上に問題を起こしていたドクターの話を聞かされたプラマニクスから綺麗なソプラノの高音叫び声が出ると共に。

そのまま顔を覆ってしまった。

当然と言えば当然である。

 

「お姉ちゃん!?そんな声出るの!?じゃなくて…とりあえず常にドクターの手綱をお姉ちゃんが握るか……うん、これは人前で言うな!って事を教えてあげた方がいいと思うなぁ……ドクター下衆な感じでワザと言ってる訳じゃなくて明らかにお姉ちゃんへの好意とかを口からそのまま出力してるっぽいし…。」

 

「分かっていました……数日前から私を見る周りの目が労る様な感じだったりメテオさんに「大変かもしれないけど頑張ってね」と突然言われたりしたので彼が何かやらかしたのだろうとは……ですが、そこまで……はぁ…もう関係性が周知されているとは言え彼に注意すべきですね。私と周囲の為に。」

 

カップに注がれたぬるくなったお茶を飲み干すと善は急げとプラマニクスはクリフハートに「ドクターを探してきます」と告げて立ち上がると部屋を後にする。

 

その背中に手を振りながら他者との会話の中でドクターを呼ぶ時、いつの間にか『ドクター』から『彼』に変わっているのに気付いたクリフハートはニヤニヤしながら姉の変化を喜ばしく思うのだった。

 

 

 

 

 

クリフハートの部屋を後にしたプラマニクスが、ドクターの居場所を探して歩いていると最近着任したばかりのヴァーミルとイフリータ、それからフロストリーフ達にお菓子を渡しているドクターを見掛けた。

思えばドクターは以前からまだ幼さを残すオペレーターの事を良く子供扱いしていたなぁ、とプラマニクスは遠巻きに見ながら思う。

3人の頭を雑に撫でればイフリータからは手を払われながら、苦情を言われフロストリーフからは「優しく撫でれないのか」と文句を言われヴァーミルだけが比較的大人しく撫でられていた。

 

偶然揃っただけの様な面子は、ドクターがその後ノソノソと歩き出せばすぐに散り散りになったので後をついて行ったのだが……

 

 

 

 

 

「ドクター!相変わらず鍛えてるねぇ、今度またあたし達と手合わせしてよ!」

 

「そうだぜボス!またハチミツ集めたからよ、トレーニングの後皆で食おうぜ!」

 

ドクターが、分け隔てない男である事は知っていた。

知っていたがまさかああしてエフイーターやビーハンター達にベタベタ胸やら腹部やら体を触られたり腕を引っ張られても、いつも通りぼんやりしながら「あぁ」とか「そうだな」と返すだけに留め好き勝手触らせ続ける程とは考えて無かった。

確かに彼女達の様な力の強いウルサスの、特に武闘派気質の面々には気に入られやすい体格と力量を持っているしスパーリングの相手も彼女達の様に快活で本当に身体を動かすのが好きなオペレーター達だと知ってはいたが……。

 

(流石に、目の前で見るとモヤモヤしますし……ふつふつと怒りがわきますね…。)

 

一言文句を言ってやろうと、訓練所の前でまだ引っ付かれたたままでこちらに気付かないドクターに歩みを進めた時だった。

 

「テメェ!そんなとこで何してやがる!!」

 

と、力強い咆哮の様な声がプラマニクスの後方から飛んできた。

ビーハンターとエフイーターも音の出処の方を向いてプラマニクスと背後の人物に気付き、これにようやく振り返ったドクターが「プラマニクス?」と言うので声をかけようとしたが、それより早くズカズカと早足でドクターに歩み寄って物凄い勢いでケリをその横腹に入れた者がいた。

 

「ズィマー、いいケリだな。」

 

「軸ズラして急所を避けやがった癖になに言って…、じゃねぇ!テメェは自分の女の前でナニ他の女に囲まれてるとこ見せてんだ!あと邪魔だ!!入れねぇんだよ!」

 

そう言われてようやく蹴られた横腹を抑えていたドクター含めた3人のうちの誰かから「あっ」と言う声が聞こえて慌ててエフイーターとビーハンターは謝る為にプラマニクスに近付いた。

 

「あちゃー、ごめん!つい今までの癖でさ…あのドクター相手だから全然変な意味はないんだけど次からはしないよ…。」

 

と手を合わせて謝るエフイーターに

 

「ボスはただの喧嘩仲間だから気にしないでくれよ!ボスはあの性格だからアタイそう言う意味じゃタイプじゃねぇし心配いらないぜ!」

 

と言うビーハンターのセリフからそこはかとなく2人からのドクターの内面に対しての微妙な評価をくだされながら謝られてプラマニクスの溜飲は下がっていた。

それに2人の後ろでズィマーからみぞおちを殴られて呻いたドクターを見たおかげでだいぶ満足したのだった。

 

 

 

満足はしたが、だからと言ってプラマニクスの不満が全て解消された訳ではなくそのままドクターは彼女に連行されていた。

 

もう怒りは収まりつつあったものの二重にお灸を据える意味を込めて怒っていると態度に出しながら「着いてきてください」と言えば、トボトボとした様子で尾を項垂れさせて着いてくるドクターの様子が可笑しく少し笑いそうになるのを耐えながら歩いて向かうのは、2人のお気に入りの場所だった。

 

「全く、貴方への小言が増える事になりました。」

 

「す、すまん……。」

 

「内容を聞いてないうちから謝らないの!さて、まず1つ目ですが……」

 

お気に入りの場所に、先に座り自分の横を叩いてドクターに座るよう促せば肩を丸めていたドクターが身を縮めながら座った。

 

それからクリフハートから聞かされた話の内容についてドクターをたしなめる。

そう言う話をされると恥ずかしくて外を歩けなくなるから止めて欲しい、それに周囲も聞かされたら困るでしょう?と。

 

「それに……そう言う話から色々連想する人がいないとは限らないでしょうし。」

 

と、これは念には念を入れた釘刺しとして言ってみたが…言っておきながらもし下世話な妄想をされたらと我ながら考えてとても嫌な気持ちになってしまった。

 

「っ!そうだな…すまなかった。エンヤとの事を考えるとつい、嬉しい事ばかりで口が変に軽くなってしまってな…それに確かにもし仲間であれそんな事をするやつがいたら俺は許せない。」

 

そう、本当に申し訳なさそうに眉根を寄せながらプラマニクスを覗き込むために背を丸めて謝って、それから怒気を僅かに含ませるドクターのおかげで先程の嫌な気持ちは霧散していく。

こんなに彼は表情が変わるものだったか、それとも自分だけが気付けると言う特別感なのか分からないが、そんな気持ちが不快感を打ち消すに足りたのだ。

 

「ふふっ、分かってくれたなら次から本当に気を付けてくださいね?それからさっきの、」

 

続きを言う前に服の袖を引っ張られ、プラマニクスは止まった。

 

「それは、俺が先に謝罪しよう……エンヤ以外の女は等しく同じか、幼ければ面倒を見る位の認識しか無かった。殴ったら簡単に死にそうか、殴り合うに足るかくらいの違いで……俺が抱きしめたい、身体を繋げたいと思うのはエンヤだ「そっ、っ〜!もう分かりましたから!!」

 

怒られた子供の様に袖を引っ張ってきたドクターに呆気に取られていると、続いた言葉に更に驚かされて思わずドクターの口を手で塞いだ。

 

「だから、そう言う…繋げたいとかあんまり口にしないでくださいと言ったばかりでしょ!?」

 

塞がれたままの状態でモゴモゴと言い返すドクターに手がくすぐったくなり手を退ければそのまま手首を掴まれる。

 

「2人きりの時はいいだろう?……ただ、こっちは約束はしよう。もうあんな風に人に身体を触らせない…他に約束して欲しい事が出来れば言ってくれ。俺には言われなければ分からない事が多くて……すまない。」

 

言いながら、隻眼を閉じてプラマニクスの手にそっと口付けるドクターの言葉と動作を取りこぼさない様に見ていると本当に先が思いやられると思いながらも、惚れた弱味なのかそんな欠陥すら愛おしく感じてしまう。

 

「2人きりの時は……まぁ、許してあげましょう。それから、私が怒ったらちゃんとその都度教えてあげますから1つも忘れないでくださいね?もし忘れたら……そうですね、今度は凍らせるのは脚だけじゃすみませんよ?」

 

耳を伏せながら揶揄う様に、微笑みながら言えばドクターの尻尾と耳が立って焦ったような表情になるのが面白くて笑いがこぼれた。

 

 

 

 

 

 

ドクターにとって、「愛し合う2人の仲睦まじさを語る」事がなぜ控えるべき事なのか理解出来なかった。

しかし今日プラマニクスに言われ、それが自分の落ち度であると言う事をしっかりと理解し深く反省した。

自分から恋人の良さを語ると周りに奪われる可能性だって出てくるし、不埒な輩が出てこないとも限らないのだと。

そんな危険な事をしていたと痛感し、二度とするまいと思った。

 

2つ目、これに関してはイマイチ理解出来なかったがプラマニクスが心底嫌だという雰囲気を醸し出していたので誓ってもうしないと心に決めた。

ドクターの中で「殴り合っても平気もしくは立ち回れる者」「力があったとしても大人が保護しなければならない者」「殴ったら容易く死ぬ者」そして「プラマニクス以外の女」「敵か味方の男」程度のざっくりとした認識で人を見ていたからだ。

だからプラマニクス以外の女性に身体を触られてもそれがどれだけ魅力的な肉体をしていようと、ドクターにとっては「プラマニクス以外」であって身体まで繋げたいと思えないからだった。

 

自分は理解出来ていない事が多すぎると、申し訳なくなりながらもプラマニクスの手に自分なりの愛情を込めてキスを落とせば、きっと冗談ではない台詞が返ってきた。

 

(シルバーアッシュ家の血筋だ、きっと本心だな)

 

そう思えば自然と焦るかのような対応になってしまって、それがプラマニクスには面白かったのか笑っている彼女の姿を見ればこのかけがえない笑顔の為にも言われた事……プラマニクスの願いは全て必ず叶えようと心に誓って、そんな彼女を見ていればふと唇を重ねたくなったドクターがいつの間にか距離を詰めていたプラマニクスの腰に手を回して抱き寄せる。

 

そうして抱き寄せられれば、まだ少し恥じらいを見せながらも身を委ねてきたプラマニクスに、優しく口付けるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

愛しき休暇(R18)

オブフェスに前夜祭があるのかなぁってログインイベント的なのをやりながら書いてたやつです。
ちょっとしたやり取りしながらもそのままHに雪崩込むお話!


 

観光都市シエスタ……ここで行われる『オブシディアンフェスティバル』略してオブフェスに、休暇も兼ねて参加するべくロドス一行だったが、

 

「こうも人が掃けると静かでいいな。」

 

「そうですね、何時もよりゆっくり過ごせている様な気がします。」

 

前夜祭で賑わう都市へと繰り出したオペレーター達とは違いドクターとプラマニクスはそんな人が少なくなった基地内でゆっくり過ごしていた。

すれ違う人も少ない基地内をそんな話をつつ歩きながら購買部へと向かって、他愛もない会話を重ねながらドクターの自室にプラマニクス用として常備してあるお菓子の追加を買った帰りに、買い物袋を抱えたドクターは急に思い立ってプラマニクスの尻尾に自分の尾を巻き付けた。

 

「っ!……せめて一言かけませんか?」

 

「手の代わりに繋ごうかと思った。」

 

「もう……、人が少ないからいいですけど…。」

 

いきなりドクターの尾を巻き付けられたプラマニクスの尻尾は一瞬ぼふっと質量を増したものの、それを振り払う事はせずに尻尾を巻き付け返す。

 

人の気配を感じたら離せばいいと思いながら歩くも、部屋に向かう途中誰ともすれ違う事がなかった事で改めて今の基地内の人の少なさを再確認する2人であった。

 

ゆったりと仲良く、人目を気にせずにイチャつきながらドクターの自室に戻ったまでは良かったし、マントとネックウォーマーを脱いだプラマニクスとコートを脱いだドクターが合皮製のソファに密着しながら座って頭を寄せゴロゴロと喉を鳴らして擦りあいながらお互いの尻尾の手触りを確かめる様に触り合い毛に指を通して睦み合うのも非常にいい雰囲気だった。

それに今日ばかりは邪魔者が現れる心配もないのだから。

 

しかしドクターの発した「テレビでもつけるか」と言う発言を皮切りにこの空気が変わる事となる。

 

「………リモコンはどこだ?」

 

「むぅ?最後に使ったのはドクターでしたよね?」

 

「……エンヤじゃなかったか?」

 

「いえ、ドクターでした。」

 

「……む。」

 

さてこうなると行方知れずとなったリモコンの捜索に気が行ってしまうのがこのドクターである。

プラマニクスとしてももうドクターはこんな性格と割り切ってはいるが、せっかくの休暇でドクターの仕事の事を気にしなくていい時なのでなるべく2人でまったりと過ごしたい、なのでさっさと見付けて欲しい。

1人モニターの前やベットの上、机の下などを探すドクターにやれやれといった風に首を振りながら口を開く。

 

「ドクター、最後どこで触ったんですか?」

 

「ソファの近くだったと思ったが…。」

 

プラマニクスは動きたくないのでソファに座ってチョコを口に運びながらクッションの隙間を調べる様に手を突っ込んでみたり、下を覗き込んで見るもののやはりリモコンの影も形もない。

 

「せっかくの休暇にこんな事に時間を取られるとは……らしいと言えばらしいですけど。」

 

と付け加えながらもう1つ、新しく開けたチョコを口に放り込んで口の中で転がす。

「むぅ」と言いながらリモコンを探すドクターの背中を見ながら(口癖が移りましたかね…)とプラマニクスは思いながらお茶よりも冷たい飲み物を飲みたいと立ち上がっているドクターに声をかけた。

 

「リモコン探しのついでに、冷蔵庫から飲み物を取っていただけませんか?」

 

言葉こそ丁寧なれど、拗ねる様に硬さを微かに感じる合皮製ソファに横になったプラマニクスがそう言えばドクターは2つ返事で冷蔵庫へと向かいドアを開けた。

 

「あぁ……ん、リモコンがあったぞ。」

 

「はいはい、良かったで………はい?」

 

ソファから上体だけ起き上がらせてプラマニクスはドクターの思いも寄らなかった発言に間の抜けた返事をして、ドクターを視界に捉える。

 

「よく冷えてるぞ。リモコンも。」

 

ソファに転がりながら視線だけドクターに向けるプラマニクスに冷蔵庫から取り出した炭酸飲料と、冷えたリモコンを渡しながら言えばプラマニクスは困惑の色を浮かべたままどちらも受け取った。

 

「……ほんとですね、でもどうしてそんなとこに……。」

 

と、冷やされたリモコンの冷たさを手の平から感じつつもそのままテーブルへと置いた。

何となく手持ち無沙汰なので飲みたい、と思っていた炭酸飲料への興味もリモコンの衝撃で失せてしまい今飲まなくてもいいとリモコンの横に置く。

 

「まったく、わからん。……それよりエンヤ………座れん。」

 

「んっ、ちょっと…そう言いながら座る気ありますか?」

 

ソファを独占するように寝転がるプラマニクスに覆い被さる様にしながらそう言って、髪の毛で覆われている首筋へと顔を埋めるドクターの行動にこそばゆさを感じて少し声を漏らしながら、言葉を弾ませながら言う。

内心、なんのためにリモコンを探していたんだ。というツッコミがわかないでも無かったがそれを口に出す様な彼女ではなかった。

 

「エンヤ次第だな。」

 

「私次第、ですか……。」

 

ドクターの感情の読み取れない顔が少しこの状況を楽しんでいる風に見えて、プラマニクスは身を返して仰向けになり向かい合うとドクターの首に手を回し尾を太腿に巻き付ける。

リモコンにかまかけていたドクターへの、ちょっとした仕返しのつもりで恥ずかしさもあるが普段はしない様な誘う仕草をして見せれば今度はドクターが面食らっているようだった。

 

「っ……アナタが言い出したのになんて顔してるんですか。」

 

「いや、すまない。……揶揄うだけのつもりだったが予想よりクるな。」

 

ソファの背もたれをグッと手前に少し倒せばギギっと言うバネが軋む音を立ててから奥の方へと倒れソファは平面なベットの様になる。

執務室のソファとは違い、ドクターの自室のそれはソファベットの役割を兼ねていた。

倒してベット状態へと姿を変えたソファに乗り、プラマニクスをしっかりと押し倒した形になったドクターが顔を近付けプラマニクスの鼻先と自分の鼻先を擦り合わせてから口付けた。

 

 

 

 

 

「んっやっ、はっんぅっ」

 

「エンヤは、どこもかしこも柔らかいな。」

 

コートも白衣も脱ぎ捨てたドクターはプラマニクスの片脚の膝を抱えながら、下着の隙間からぬるりと濡れた秘裂に親指を滑り込ませクチクチと指の腹で押すようになぞりながら太腿の内側に舌を這わせる。

舌を這わせながらその雪のように白い柔肌に自分の証を刻みたくなってヂュッと強く吸ってみれば、秘裂に潜り込ませていた親指がギュウと締められた。

 

「っちょ!そんな、とこに痕をつけたらっ……あっ、はなしの、とちゅうでっ…」

 

「あぁ…そう言えばエンヤの服装だと見えるか……まぁ、マジマジとそんなとこを見る奴がいるとすれば、これは尚更いい虫除けになるだろう。」

 

まるでいいことを思い付いたと言うかのように、そのまま顔を下げてプラマニクスの下着をぬがしながら太腿の付け根の際どく、柔らかな肉体の中でも更に皮膚が薄く柔らかいところに次々にチュッと強く吸い付いて痕を残してはその上を舌先で舐める。

1つ、1つと新しい朱が刻まれる度に短くも官能的な澄んだ高音の声がプラマニクスの口からこぼれ落ちていき、何時の間にか顕にされた秘裂には親指ではなく人差し指が侵入しグチュリと濡れた膣壁を押し上げ円を描きながら内部を弄んでいる。

 

そして両方の内腿の付け根に赤い証を複数付けて満足したドクターが、秘裂へと舌を伸ばせばプラマニクスから媚声混じりの「せめて服は脱ぎたい」と言う制止が入って正直このまま着衣の状態で続けても良かったのにと思いながらもプラマニクスの腹部を止めているベルトを外し、民族衣装の様にも見える服を1枚づつ脱がせていった。

 

「あっん、ふっ…みないで、ください…ひゃ♡」

 

「今更隠す事も無ければ、隠す必要性もない身体だと思うんだが…よく見せてくれ。」

 

それでもプラマニクスにとってはろくに電気も消していない部屋で裸に剥かれてマジマジとドクターに見られているのだからたまったものでは無いとつい胸を隠してしまう様で、そんないじらしさがたまらなくなり隠している腕を掴んでプラマニクスの力では適わないが痛くない絶妙な力加減で腕を退かして、阻止しようとした両手ともまとめて掴む。

 

「綺麗だな、いくらでも眺めていられる。」

 

「や、ぁん、ひっぅ…もっ、」

 

両手首を掴まれて抵抗する術がなく、腟内をまさぐりぐりゅぐりゅと膣壁の上部を嬲り親指で陰核を優しく捏ねるドクターの手に合わせて揺れる腰や、それに合わせて震える胸を余す所なく明るい場所で見られている白い肌はじわじわと赤みを帯びていき、銀糸の髪と同じ色の耳はすっかりヘタレて後ろに倒れている。

そんな耳に顔を近付けてべロリと舐めて、軽く噛めば指への締め付けがいっそう頻繁になって中で動かす指の動きを押したり撫でる様な物から締め付けとは逆にゆっくり開くような動きに変えてみる。

ネチャリ…とした音を耳が拾えばそろそろ良いだろうかと指を引き抜き、捕らえていたプラマニクスの手首を解放してからすっかり濡れたプラマニクスの耳から離れて指と秘裂とを繋ぐ透明な糸へと視線をやる。

 

「…そろそろいけるか?」

 

「……どうぞ…。」

 

と、自由になった手で近くにあったクッションを握り締めて顔を埋めながら消え入る様な声で返事が聞こえ雑に脱ぎ捨てて放ってあったコートの胸元のポケットへと手を伸ばし、ソコに突っ込んであった避妊具の袋へと手を伸ばした。

軽く扱いて、手早く自分の肉棒へと被せる一連の動作を生理的に濡らした瞳と紅潮した頬をしたプラマニクスが見ている事にゾクゾクとした興奮を覚えながら膝裏に片手を添えそっと秘裂に亀頭を擦り付ければクチュクチュと濡れた粘膜と潤滑用のジェルの着いたゴムの擦れる音がして、亀頭の先を優しく食むように熱い割れ目が吸い付いてくる。

 

その感触を楽しむ事と今から押し入るのを教える為に秘裂を上下に撫でるように亀頭の先で擦りながらゆっくりと肉棒を沈めていけば、柔らかい腟内の動きとは対照的に時折キュッと絞める膣口の刺激に、薄いとはいえ隔たりのある挿入ながら腰が震える。

 

「んっんっ、あっはぁ、ど、くたぁ…♡」

 

緩やかで、それでも気まぐれに浅い所の出入りをカリ首で味わうかの様なドクターの動きに焦れ始めたのかプラマニクスがクッションを手放して曲線を描く腰を掴んでいるドクターの腕を掴み淫猥さの含まれた切ない声で呼ぶ。

無意識なのか少しづつ雄を求めるかのように腰を自ら動かしている姿に我慢が出来なくなって猛った肉棒で一気に腟内を自分の肉棒の形で押し広げながら腟奥まで貫けば肌のぶつかる音と同時に腟内が震えながらもねだるように肉棒を締め付けてきた。

 

「っ、〜〜〜!あぁぁぁ♡」

 

「なかなかどうして…最近慣れてきたか?」

 

痛みを感じずに快楽だけ拾ったプラマニクスにそんな事を言うドクターに言い返す余裕も隙も与えられず、間髪入れずに腰を押し付けて亀頭で子宮口をほぐすようにぐりぐりと腰を回され「ひぁ、あぁぁ♡…うっんんっ♡」と甘い声を漏らすことしかできない。

 

「ハッ、はっ…こうも、ねだって貰えると嬉しいものだ。」

 

腰を揺する度に、子宮口を嬲る度に咀嚼でもするように肉ヒダの1つ1つで胎内を貫く愛しい肉棒を咀嚼するかの如く舐めてまるで射精をねだるかのような動きに答えて少しだけ腰を引いてから突くピストンの動きに変えれば今まで密着して愛でられていた子宮口が予期していなかった新しい動きを機敏に感じ取ってプラマニクスが僅かに腰を反らせ震える。

 

「ひぅっ!♡しらなっ…♡ちがぁ♡♡」

 

「そんなに溶けた顔をしておいて…そうじゃ、ないのか?ふむ…。」

 

息も絶え絶えに「ねだってなんてない」と否定しようとするプラマニクスの浮いてきた腰を両手で捕らえて逃げられない様にすれば、それをさらに手助けするようにプラマニクスの尾が太腿に巻き付いて来て「これでも欲しがってないのか」と返してから猛った肉棒でトロトロ愛液を流し続けるまだそこまで雄を知らない肉壁を抉る様にすり上げ引き抜く時の名残惜しむかのようなヒダの感触を味わう。

 

「素直に、なった方が…気持ちいいぞ?」

「いっあぁ♡いやっんん、あっあ♡」

 

(意外と強情なのか)などと考えながら再び子宮口まで突き上げて柔らかさの増した子宮口の当たりをグリュグリュと円を描きながら押し付けて亀頭の先でチュクチュク引っ付いてくる感触やギュッとぬるぬると柔らかな肉壁で必死に絡み付きながら締め付けてくる腟内の感触を貪る様に楽しんでいればプラマニクスは何時の間にかドクターの腕に爪を立てながら白い喉を反らせ自ら腰を押し付けて自分からも動いていた。

それが優越感を抱かせてグッと射精欲が強くなってくればスピードを上げて柔らかな腟内をかき分けながら太い肉棒を送り込むと狭い腟内がギュッギュッと小刻みに収縮してくる。

 

「はぁっ、もう出そうだっ。」

 

「あっあぁ、♡ひっ、わたし、も♡」

 

それを聞いたドクターが腰をがっしりと押さえ込み、遮るものがあるにも関わらず本能的に繁殖しようとする種付けの動きに変わり、膣口まで引き抜いてから柔らかくなった子宮口へ一気に貫く様な動きを繰り返しはじめれば、更に膣壁のヒダが蠢いて射精をねだり促すように蠕動し、子宮口にごりゅっと亀頭を押し付ければ限界を迎えた肉棒がビクビクと力強く脈動し尿道を熱い精液が駆け上がる感覚に腰が震えた。

 

「あぁぁ、んんっ、ひゃう♡」

 

「ふーっ……エンヤ…平気か?」

 

うっとりと惚けて瞳から涙をこぼすプラマニクスの頬を撫でながら何度も軽く唇を重ねる。

チュッとプラマニクスがドクターの唇を吸ってから視線を交わらせる。

 

「えぇ……」

 

「それなら、良かった。」

 

それからプラマニクスの腟内から肉棒を引き抜くと愛液が糸を引いて未だに2人を繋ぐのが目で見えてしまい少しまた欲望が首を持ち上げそうになったが慌てて首を振り、コンドームを外して捨ててからソファベッドに2人で横になるとプラマニクスが甘える様に胸に頭を預けて抱き着いてきた。

 

 

 

「エンヤ。」

 

「はい?どうしましたか。」

 

少し下にあるプラマニクスの頭を撫でながら、耳の先に唇を寄せれば擽ったそうに耳がはねる。

それを見てからプラマニクスの頭を撫でつつ柔らか髪の毛に指を通しては撫でるを繰り返しながら口を開いた。

 

「黒曜石祭だったか……行ってみるか?昼だと陽射しが強いだろうからアーミヤにバレないようにホテルでも借りて、夜にでも…。」

 

「人混みは嫌いなのかと思ってました。けど、そうですねぇ…ドクターがエスコートしてくださるなら。」

 

「俺にそんなもの期待するな。それに人混みは確かに好きじゃないが……エンヤと行くならいい。」

 

「ふふっそれもそうですね、でしたら…一緒に行ってみましょうか。」

 

「あぁ」と短く返したドクターが、顔を上げてこちらを見るプラマニクスの額にそっとキスを落とす。

 

(人混みに紛れたら、エンヤを連れて2人逃げてもバレないかと思って…などと言ったらきっと困らせるだろうな。)

 

そんな本心を今は飲み込んだドクターがプラマニクスの尾を優しく撫でるのであった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大好きって伝えるだけのゲーム

タイトルそのまま
クリフハートちゃんに唆されてドクターとプラマニクスちゃんがひたすらイチャイチャしているだけのお話


「お姉ちゃん!最近話題のカップルで出来る遊びがあるんだけどやってみない!?」

 

キラキラとした瞳で快活に話しかけてくる妹に対してプラマニクスは「うっ」と言葉を詰まらせた。

クリフハート…エンシアの言う事ゲームなのだからとんでもなく若者向けだったり、恥ずかしい物なのではないかと……。

 

「お姉ちゃんでもできるって!題して『大好きって伝えるゲーム』!」

 

「はい……?」

 

小首を傾げて疑問符を浮かべながらも妹に詳しい話を聞いたプラマニクスは暫し熟考し、少しなら試してみるが絶対に人前ではしないと付け加えた。

それに対してクリフハートは不服そうだったが、プラマニクス自身はもしかしたらちょっとは面白いことになるのではないかと今から期待感を抱いているのだった。

 

 

 

 

 

 

その日の執務室

 

今日の職務は戦闘記録の振り分けと次の任地でのオペレーター配置の例を幾つか組み立てることであった。

ドクターが組み立てた配置に対しプラマニクスが編み物片手に聞かれた時だけアドバイスすると言う、プラマニクスは仕事をしているのかしていないのか分からない状況だったがこれが常の事でもある。

 

そしてドクターが休憩しようとプラマニクスの横に座った時だ。

 

「ひと段落したんですか?お疲れ様です、大好きなドクター。」

 

突然言われた『大好き』と言う言葉にドクターがカップを取ろうとした手を伸ばしたまま固まった。

今プラマニクスはなんと言った?と。

 

耳を立て目を開いて(と言っても僅か過ぎて普通は気付かないレベルで)動きを止めてプラマニクスを見詰めるドクターに、それ以上何も言わずいざやってみたらとんでもなく小っ恥ずかしい事が分かったがここで止めるのも…と思いながら耳を倒して少し顔を赤くし口元をネックウォーマーの下に隠したプラマニクスはひたすら無心で毛糸を編んでいくのだった。

 

 

その数刻後、2人で精神統一と題した昼寝から目覚ましの音で目覚め目が合った時に

 

「起きましたか?おはようございます、ドクター…好きですよ。」

 

と言ってまたドクターをフリーズさせ、仕事の合間に

 

「私の大好きなドクター、この資料なのですが…」

 

と言って手元を狂わせたり戦闘任務を無事に終えたあとすれ違い様に人がこちらを見ていないのを確認して、ドクターにしゃがむように手で合図して

 

「今日も完璧な指揮ですね、流石ドクター。…そんな所も大好きです。」

 

と耳打ちしたりしていた。

最初こそ恥ずかしさを感じていたがこれが慣れてくるとなかなかにドクターの反応が一々面白いせいで羞恥より楽しさが上回ってきていた。

 

「大好きなドクター、いつも私の為に紅茶を入れてくれてありがとうございます。」

 

対するドクターはあんまりにも毎回「好き・大好き」を言われ続けてその都度心臓が跳ね回りどうして良いか分からない。

そして、押し倒していいのか?とか、どうするべきか悩んでいるうちにプラマニクスが話題を変えたりすると言うことが続いて面食らう事ばかりで少なくとも分かったのは、人目がない時か周囲にバレなさそうな時にだけ言ってくるという条件くらいだった。

 

しかしそれもずっとしていてはゲームにならない、とプラマニクスは3日目には止めようと決めた。

その日はなかなか2人になる時間が取れ無かったのもあって2人きりになったのは通路を歩いている時だった。

 

「そう言えばドクター、購買部に新しく入荷した新作のスナック菓子はもう食べましたか?」

 

「っ!エンヤ?」

 

ふと思い出したプラマニクスがそんな話をふると、ドクターが慌てた様子で腕を掴んでプラマニクスを引き止めた。

 

「どうかしました…」

 

そこまで言って突然のドクターのキスで口を塞がれる。

プラマニクスが一瞬何が起きたか分からず困惑一色で染められた脳内で『ここは通路ですよ』とか『あの話から突然どうして?』と言う言葉で一杯になる。

しかし突然のキスも唇を触れさせ合うだけのもので、直ぐに離れたのだが今回はプラマニクスの方が面食らう事態となっていた。

 

「これで、許してくれるか?」

 

「はっ…?許す……?」

 

「今日は……今2人きりになったのに、好きだと言ってくれなかった。……俺が、毎回答えなかったので……怒ったんだろ?」

 

腕を掴んだまま、そう落ち込んだ様子でドクターは告げる。

あんなに好きだと言ってくれていたのに何も返さずにいた態度にプラマニクスが怒って、好きと言ってくれなくなったのだとドクターは思ったのだ。

 

「えっ?え………っん、ふ、ふふっ。」

 

プラマニクスが当初予想していたよりドクターには効果があったようで、さっき突然キスされた驚きはすぐに忘れ一瞬驚いた後に思わず微笑ましさから笑いがこぼれてしまって口元に手を添えながら笑ってしまえば、ドクターは困惑した様な雰囲気を醸し出す。

 

「何がおかしい?」

 

「いえ、ふふっドクターはそう考えたんですね。安心してください、怒ってませんよ?あれはそういうゲームだったんです。」

 

と、微笑みながらドクターの頬を撫でればまたドクターが相変わらずと言った感じで目を開いて気持ち驚いているのが伝わる程度の表情を浮かべる。

 

「会話の端々で貴方に『好き』と伝えるゲームだったのですが……予想より効いていたみたいで良かったです。」

 

「…なら次からは言ってくれないのか?」

 

これは分かりやすく耳を垂らしてどこか寂しそうにして腕を掴んだままの手の力も抜けていくわかり易さなので、プラマニクスが再び手を伸ばしてドクターの頬に添えてなでる。

 

「あんな風に毎回は……ですが、私が貴方を大好きなことに変わりはありませんから、ちゃんと伝える時はお伝えしますよ?」

 

「ふむ……そうか。……なら今度は俺がやってみよう。」

 

「それは」とプラマニクスが口を開くより早くまた唇を重ねられる。

しかも今度は「口を開け」と舌で唇を舐められてせっつかれプラマニクスは(人が通ったら)と考えたがまるで「口を開けないなら」と言うように腰を抱いてきたドクターに従うことにした。

最近だんだんとこういう方面に関して人目がないと悟った途端大胆になりつつあってプラマニクスはどうしたものかと考えながらも大人しく口を開けばぬるりと肉厚な舌が侵入して、プラマニクスの舌を捉え舐めてくる。

咥内をいいように舐めてくるドクターの舌を受け入れながらゾクッ…とした感覚を覚え尾をゆっくり揺らしてドクターに巻き付けつつさせたい様にさせながら身体を預けた。

 

ドクター的には今まで抑えていた感情を言葉で表現できない分行動で示そうとしていての事なのだがこれもこれで問題であった。

 

現にこの通路の曲がり角で一部始終を聞いており、ドクターに用事があったシルバーアッシュが妹と盟友が睦み合っているのを悟って身動き取れずにどうするべきか悩んでいると2人は露知らぬ事であったしこの後、改めてシルバーアッシュに呼ばれたドクターは「盟友、仲睦まじいのはいいが場所を考えた方がいいぞ」と進言されるのだったがそれに対して「外でそう言うことをする趣味はないが」と返して話をややこしくしたりした。

 

更にはドクターは後に宣言通り『大好きって伝えるゲーム』をやったのだが、その1発目を他のオペレーター達もいた任務の後に皆の前でやらかしプラマニクスの肘鉄と尻尾ビンタを盛大に食らう事になったり、クリフハートがそれを見てニヤニヤしながら「幸せそうじゃーん」とプラマニクスを揶揄っていたり、色々な感情がこもった視線をマッターホルンに向けられていたりして周囲に仲の良さを見せ付ける結果になった挙句にカーディに「やっぱり2人はすごく仲良しだったんだね!いっつも匂いが混ざってたし!」と悪意なき爆弾発言されてプラマニクスがいよいよその場から逃げたのにも関わらず誇らしそうにしているドクターの姿が目撃された。

この時、シルバーアッシュも同席していたが無表情で風に吹かれながら遠くを見詰める姿が目撃されたとか…。

 

ちなみにカーディはこの後ドーベルマン教官とスチュワードに叱られたのは言うまでもなく、ドクターもアーミヤにしっかりと「場を選んで行動するように」と釘を刺される事になり、次からは2人きりの時にするようにした。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

立場なんて忘れて

オブシディアンフェスティバルの時にコツコツと書いていたお話です

甲板でイチャイチャしている(いつもイチャイチャしている)ドクターとプラマニクスちゃん


プラマニクスと2人甲板に出て座り、地平線を眺めれば日差しと時折吹いてくる風が心地よくドクターはゴロンと大の字に寝転がる。

耳をすませば、心穏やかになるような風の音だけが鼓膜に届く。

 

「こういう日は、外での休憩にかぎりますね。」

 

プラマニクスは笑みを浮かべながら、寝転がったドクターの腹部にぽふんと大きな尻尾を乗せると1度だけパタンと腹部を尾の先で撫でた。

 

「……最高の、瞑想日和だろう?」

 

「ふふ、えぇそうですね、せっかくの休憩なので今回は取り繕わず全力で休むとします。」

 

瞑想だとか精神統一だとか何かとそれらしい事を言って昼寝したり休んだりはままやることであったのでドクターにそう言われたプラマニクスがくすくす笑いながら上機嫌そうに耳を動かしている。

ボトルから紅茶をコップに注いで1口飲んでからプラマニクスは横目に寝転がったままのドクターを見て、ちょっと試してみたいことができた。

 

「ドクター、そのまま動かないでくださいね?濡れると大変なので。」

 

「ぬれ…?何をする気……………俺はテーブルじゃない。」

 

「いえいえ、なかなかいいテーブルになってますよ?」

 

尻尾を退かしてから鍛えられているドクターの腹の上にコップを置いてみれば流石の体幹の鍛え方とバランス感覚と言うべきかコップは呼吸の上下に合わせて動くのみで、必要以上に揺れる様子はまるで見られなかった。

腹部に紅茶の入ったコップを乗せられながらそれを自分から退ける事をしないドクターにこれ幸い、と小ぶりのバスケットから暇潰しに料理をしていたオペレーターからドクターが貰ったマフィンを出し小皿に乗せて置いてみる。

 

「……面白いのか?エンヤ。」

 

寝転がりながらプラマニクスの顔を見ているとずっとムフフといった効果音が似合いそうな顔で笑いながらどんどん物を乗せていくもので、ドクターは聞いてみる。

 

「楽しい、ですね……。こうして貴方と2人で誰にも、何にも邪魔されることもなく……余計な事も考えなくていい時間を穏やかに過ごせるのは。」

 

「…そ、うか……。」

 

ドクターはそれだけ言うとまたされるがままになった。

プラマニクスから見てドクターの表情はまるで変わらないままだったが、ドクターはプラマニクスの言葉に思考を巡らせていた。

こんなふうに、お互い立場からくるしがらみを考えずに緩やかかつ穏やかにずっと過ごせたらならば他に何もいらないのに…それはいつか許されなくなってしまう事かも知れないのだ。

ロドス・アイランド、イェラグの宗教組織リコリス院、そして暗躍を続けるカランド貿易。

あんまりに、自分達の関係には邪魔になるものが多すぎて大きすぎる。

 

薄氷1枚のギリギリで保っているような極限のバランスを…つき崩せば雪崩が起きて全てを変え白く覆い隠して壊してくれるだろうか。

腹にものを乗せる事を止めて、幸せそうに尾を揺らしながら「美味しいですね」とマフィンを食べるプラマニクスの笑顔を見ながら、そう考えていると自分の中で眠らせていたはずの黒い欲望がまた胸中に広がり始める。

 

(いっそ、いっその事……子供でも孕ませてしまえば、変わる、だろうか……。)

 

守りたい・必ず傍に居続けたい・愛しているからこそ手離したくない…これらの感情は、プラマニクスと肉体関係を持ってからは一等この気持ちが日に日に強くなるばかりであった。

何もかも塗り替えてしまうような大事を起こしてしまえば、『カランドの巫女、プラマニクス』を『ただの女性であるエンヤ・シルバーアッシュ』に戻すことが出来るのでは無いかと……しかしそれが土台無理な話であることをドクターは分かっていた。

たとえ、そうして孕ませたとしても果たして長くイェラグを閉鎖し続けてきた保守派とリコリス院が変わるだろうか、それが自分たちの自由に繋がるのだろうか…そんな訳がない、と。

グルグルと、願う事しか許されない平穏な未来と自分の身勝手な欲望が混ざった黒い願いが渦を巻く。

時折聴こえてくる風の鳴き声が穏やかな空気を作ってたが、さっきまでとは打って変わり雑音と認識されて脳がグラグラし始めて酷く不快感を煽った。

レユニオンの動向も鉱石病の事も、自分の過去もドクターにとってはもうどうでもいい事でただただプラマニクスとの未来を考えていた。

これから先どんな未来がプラマニクスに訪れ歩むことになっても己の存在が近くにいることを望みゆるしてくれるなら他のどの組織でもなく「エンヤ」の傍に居て味方をしようと…。

 

「……むぅ、ドクター、なんて顔をしてるんですか?めっ!ですよ。」

 

「っ…!俺は、変な顔をした覚えはない。」

 

「変な、とは一言も言ってないのですが…」

 

プラマニクスがドクターの顔をマジマジと見てから、眉間をそっと人差し指で押しつつそう子供に言い聞かせる様に微笑み優しく告げた。

ドクターが暗い思考から引き戻されて驚きながらもそんなプラマニクスの言葉に眉根を寄せながら言い返せば、プラマニクスは少し困った様に笑う。

 

「まったく、気付いてないんですか?……今のドクターは………アナタはとても……とても怖い顔をして、辛そうに眉間にシワを寄せていたんですよ?」

 

そう言って少し寂しそうに微笑んで再びドクター眉間を指で撫でてから、そっと頭を撫でた。

こういう所作をするのがサマになりされる事にも抵抗感を持たないのは、妹がいるからなのかやはり手馴れていると感じる。

 

「そうか……っ、……考え事を、していたから……顔に出たのかもしれない。」

 

そう言いながら額に腕を乗せて顔を覆うようにしたドクターに対し、プラマニクスは先程までドクターの腹部に乗せていたコップや小皿を「やれやれ」と言った感じで短く息を吐いてからのけるとドクターの腹の上に、覆い被さると向かい合う様に寝転ぶ。

ドクターが1度いい淀みかけた『考え事』という言葉に薄々また1人で勝手に落ち込もうとしていたんだろうと察したプラマニクスがドクターの気を紛らわせ、落ち着かせるためにやったのだ。

コップや小皿等とは明らかに重みが違う物が乗ってきたが、この抱き合ったまま寝転がるのはたまにやるのとプラマニクスの重さなので問題無かったものの突然だった為ドクターの喉から短い呻き声が出た。

 

「ぐっ……いきなり乗るな…。」

 

「ドクターもよくいきなり行動するじゃないですか、それにこれはいつもしてるでしょ?」

 

「そう言われると、言い返せなくなる……。確かにそう、だが……重いんだぞ?」

 

「今なんて言いました…?」

 

さっきのコップや皿より、という意味だったがドクターの主語が抜けた言葉にプラマニクスがのそりと起き上がって、怒気を含ませた目でドクターを見下げて来る。

 

「ドクターの事なので……えぇ、分かっていますよ?けっして『身共』の体重が重いと言う訳では無いことは……ですが、いざそれだけ言われますと……ね?」

 

「…………、コップや皿より……軽い。」

 

「それは逆に言い過ぎですよ?ドクター?」

 

プラマニクスの言わんとする事を理解し、尚且つプラマニクスが自分を『身共』と言う場合は改まった場か怒っている時だと知っているドクターが視線を泳がせながら目を逸らして何とか機嫌を取ろうとそう言えば、グッと腹に置かれた手に力が入りプラマニクスが爪を立ててきた。

 

「なっ……どうしろと……あー……まて、今絞り出す。」

 

プラマニクスの下で眉間にシワを寄せながら至極真面目に言葉を探し出そうとするドクターを見て……プラマニクスは「ふふっ」と笑みを零しながらも物悲しそうな笑顔を浮かべてからドクターの胸に頭を預けると、困惑気味のドクターがそろりと体に腕を回してくる。

 

「もう、辛くないですか?」

 

「なに……を…。」

 

「考え事…、ドクターのことですからきっと、『先』の事を考えでもしてそんな険しい顔になっているのかと思ったので…当たってます?」

 

「……お見通しか、流石だ。」

 

「なにせドクターは、それ以外の事でそんな風に悩まないでしょ?」

 

「あぁ……、そうだ。」

 

プラマニクスの身体に回した腕に少しだけ力を込める。

自分の記憶が無いと分かった時も、記憶喪失で目覚めてすぐそのまま焚き付けられる様に作戦指揮を取らされた時もまったく悩むことなどなかったと言うのに。

 

「エンヤと出会ってからは……悩みっぱなしだな。」

 

「それ貶してます?」

 

「……そんな訳、ないだろう。ただ……どう言った物か……一目惚れして、好きだと伝えるのを抑えて…好意を殺そうとして、抱くのを躊躇って……思えば、記憶を失って空っぽになった俺の中身は……全てエンヤで詰まっているな。」

 

「……またそういう事を言う。」

 

胸に埋められたプラマニクスの頬は赤くなり、耳がパタパタと忙しなく動きながらも豊かな尻尾はゆるりとドクターの身体に巻かれる。

だが紛れもない事実だった。

記憶を持たず目が覚めてから空っぽで、常に乾いて飢えた様な感覚しかなかったのに雪の様に真っ白な自分の前に現れたたった1人の存在は、その乾きを癒し自分に中身を与え野心すら抱かせたのだ。

 

「…私もドクターと出会ってから、色々と変わったんですから。」

 

「む……そうか。」

 

そう言いながらプラマニクスがまるで自分の物だと、主張するようにドクターの胸へと頭をグリグリと押し付けマーキングする。

ドクターは、ロドスの中枢を担う存在で、誰にでも分け隔て無く接するのでどうしても女性オペレーターや職員と高い頻度で関わりがちだ。

この前など昇進を告げたオペレーターが、「襟が曲がっている」と言いながらドクターの襟を正して「見かけ通りこういう事には疎いのね。はい、できた」と笑いながら胸をポンポンと叩いていたのを見てしまった。

 

襟を正す以外に他意はなかっただろうしそれに対してドクターはいつもの仏頂面をしていたのでどうとも思うことは無かったのだろうが……そのオペレーターは『香り』に精通しそれを医療に用いるせいで、ドクターの体にはどうしてもその香りが残っていたのだ。

指摘すべきか、否か悩んで結局その時はしなかったし過去に「他の女性と迂闊に触れ合わない」と約束を交わしたもののあの様な不意打ちではドクターを責める事も出来ない。

 

(まさか、今になってアレを思い出してしまうとは……むぅ、私もドクターにあてられましたかね。)

 

「……くすぐったい、エンヤ。」

 

プラマニクスが眉を顰めながら考える、そんな胸中を知らずにドクターは押し付けられている頭をポンポンと撫でる。

プラマニクスとて不安が無い訳では無い。

両親が政治の策略で死に、兄はそんな逆境の中で留学し人が変わってしまった。

妹もあらゆる思惑が絡んだ事故に巻き込まれて鉱石病を患って……自分は、保守派の代表と呼ばれてもおかしくない巫女の座に座り兄と仲違いする事に。

その若さで、兄とは違う方向ではあるが1人で背負うには重すぎる物を背負うことになっているのだから。

……普通の女性の様に好きな相手と添い遂げる事すらきっとままならない。

風が吹き抜けるタイミングでそう思ってしまって身を縮こませれば、それに気付いたドクターが声をかけてくる。

 

「……、寒いか?」

 

「そんな訳、」

 

「だろうな。」

 

雪国に比べたら暑い程だろう。と、プラマニクスの言葉を遮ったドクターが今度は撫でつける様に頭を撫でた。

ドクターとて流石に頭を押し付け、白衣を巻き込んで力強く握られた手と身体を縮めた恋人の不安な胸中を察する事が出来ないほど無神経では無い。

さっきと立場が逆ではないか…とプラマニクスが心の中で呟いて唇を軽く噛めばそれに気付いたのか軽く笑う声が頭上から聞こえてきて耳を倒した。

 

「……フェスティバルでは、種族も…出身も関係なく楽しめるらしい……。」

 

「そう聞きました。」

 

「なら……立場だって、忘れていいだろう?」

 

ピッ、と耳を立ててドクターを見やれば口端をほんの少しだけ上げている顔と目が合った。

『立場を忘れて』……それはお互いに言える事で、少しでも『ドクター』と『カランドの巫女』では無い者として過ごせる時間を作りたかったに他ならなかった。

 

「約束、していたしな……宿は取った、安心してくれ。」

 

「あ、ありがとう…ございます。」

 

こうして、2人立場を忘れてオブシディアンフェスティバルを楽しむ事になった。

せめて、ほんの一時だけでもただの恋人として過ごせるならば…と。

 





プラマニクス
職務は他の人じゃ務まらないの知ってるし理解してるけどそんな自制心すら超えてしまいそう…な予感がし始めている

ドクター
プラマニクスへの愛が行き過ぎて所属が『プラマニクス』の領域
2人で逃げ出せたならば……と考えまくっている


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プラマニクスと過ごすオブシディアンフェスティバル

オブフェス真っ只中に書いたオブフェスデートの模様です
1部オブフェスのストーリーを脚色してます


観光都市シエスタ…小さな都市と思われがちだがそこでは大規模な音楽フェス『オブシディアンフェスティバル』が開催されていた。

そのフェスにはあらゆるアーティストが集い、人々や観光客は日々のストレスや疲れを吹き飛ばし、街は熱狂の渦に包まれる……。

 

そんなフェスティバルでの休暇をケルシーに勧められ、楽しむべくロドスオペレーター達もこの都市に来ていた。

それはドクターも同じで、恋人であるプラマニクスと泊まるためにクリフハートには教えたが、それ以外のアーミヤ達には内密にちょっといい感じの宿も別に取ったのだ。

 

しかし失念、というより予想以上の問題が立ち塞がった。

 

「ドクター……この都市はとても暑いと言いましたよね?」

 

「さすがに、暑すぎる。」

 

シエスタの賑わいの中立ち尽くすアーミヤと都市に合わせて薄着のドクター。

都市のこの日の最高気温は36度。

この夏1番の暑さを誇る事になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そのせいで…………、

 

『……暑すぎる。』

 

『ドクター、これは無理です。怠惰とかサボりとか抜きにして普通に動きたくありません。』

 

と、言うやり取りのあとプラマニクスは部屋から1歩も出ようとしない。

さすがにドクターもガンガンに冷房を入れながら不服そうにベッドで尻尾を抱きながら横になったプラマニクスに『熱中症にでもなったら大変だから、また夜にでも出掛けよう』と声をかけるしかなかった。

 

そんなプラマニクスにせめて、と一旦ホテルを出て近くの店でシャーベットを購入し、急いで部屋に戻って手渡せばカラフルなシャーベットをちょっとづつ咀嚼している状態であった。

 

『エンヤ、下見してきて構わないか?』

 

『下見…、街のですか?』

 

『あぁ、マップがあって……そこにスケジュールだの色々書いているらしいからな。お前を、エスコートする為にもと……。』

 

シャーベットを掬って食べていたスプーンを口に当てたままプラマニクスがこちらを見てくる。

変なことは言ってないはずだが、とドクターが首を傾げながらプラマニクスを見詰め返す。

 

『いえ…まさか本当にエスコートして貰えるとは思っていなかったので驚いて…。』

 

『おい』とツッコミを入れようとすれば、そのドクター反応を見てクスクスと笑うプラマニクスのせいでその先を口に出す事はなかったが。

 

『ですが、期待しておくとしましょう。ドクターのような飛び抜けた朴念仁がどんな風にエスコートしてくれるか楽しみになりました。』

 

と、プラマニクスが(ドクターにとって)破壊力抜群の嬉しさを滲ませた微笑みを向けてきたおかげで、ドクターがそのまま突然キスしてしまえばプラマニクスの尻尾がボフッと膨らんで、顔を赤くしながら『早く下見に行ってください!』と突っぱねられたのだった。

 

 

 

 

ここまで到着したばかりの時の回想。

そして今はたまたま出会ってしまったアーミヤに省略しながらもホテルの一室での出来事を話していた。

 

「確かに、海を見たことが無い方々は意気揚々と出掛けて行きましたしマッターホルンさんも海岸にいるようですが……プラマニクスさんほどの毛量や、そもそもあの性格を考えたらこの気温で出歩く事はしたがらないですよ。」

 

「アーミヤの言う通りだ……今頃、サボり巫女の名に相応しい……堕落っぷりを楽しんでる事だろう。」

 

「ドクター、そんなこと聞かれたら凍らされますよ。」

 

などと言うアーミヤの言葉を受け流しながらドクターは先程入手したマップ片手にエリア毎の情報を頭に入れていく。

グルメもアミューズメントも豊富に用意されているシエスタの情勢に舌を巻きながら、『市民広場は酔っ払いが多そうでプラマニクスは嫌がりそうだ』とか『ギャリソン遊園地かセカンドアベニューはどうだろう』等と考える。

女性が好む物をリサーチしてデートプランを立てる…戦術立案はできるがこちらに関しては全くもって門外漢であるせいでなかなかルート構築が上手くいかない。

 

「……むぅ。」

 

「ドクター……移ってますよ……。あっ!閃きましたドクター!私と先に周りませんか?」

 

プラマニクスの口調が移ったのか低く可愛げは感じられない感じで唸っているとアーミヤが手を打って耳を立たせてそう言ってきた。

 

「アーミヤと……?」

 

「えぇそうです。マップを見て空想で考えるより実際に見て回った方が色々参考になるはずですよ。」

 

一理ある。と思ったドクターはアーミヤの案に賛同する形で連れ立って歩き始めるのであった。

 

「ここ最近ドクターは色々あってお疲れでしょうし………折角の機会なので思いっきり羽根を伸ばしましょう。」

 

『色々あってお疲れでしょうし』と嫌味を込めて言う時のアーミヤのジト目たるや…。

しかしそんな咎める様なアーミヤの視線も意に介さずドクターは賑やかな人々と立ち並ぶ店を見回しながらプラマニクスをどう連れ歩こうかを考えている。

 

「……はぁ、聞いてましたか?ドクター。」

 

「ん、あぁ。……心遣いに感謝する。」

 

もう一度溜息を吐きながら、アーミヤは嫌味が無駄になったと悟って耳を項垂れさせながら『このドクターに嫌味を言っても通じないのなんて今更だ』とアーミヤは改めて思った。

 

大いに賑わう街を歩いていると街中でヴァイオリンを弾く者、ダンスを披露する者……まさにあらゆる音楽ジャンルの詰め合わせといった様相だった。

アーミヤと並んで歩く中でオペレーター達ともすれ違ったが皆一様に明るく楽しげな表情を浮かべていてドクターも頬の筋肉が緩くなるのを感じた。

普段は血腥い戦場ばかりを目にする我等にとって、この休暇は大事な息抜きになるのだとドクターはオペレーター達の様子を見ていた。

 

そうしていれば途中胡散臭い声の天災トランスポーターのアナウンスが流れて来て、その中で黒曜石と鉱石病の関係について御託を並べているのが耳に入って、アーミヤと『それで鉱石病が防げるならどれほどいいか』と語ったのだ。

 

ビーチに向かえばなんかどっかで見たような観光客を2人ほど見かけた様な気がしながらも、露店でウルサス特製アイスを振る舞うグムを見付ける。

 

「あれー?ドクター、なんでアーミヤちゃんと……?」

 

「……プラマニクスは、暑いから…部屋から出ない。」

 

「あっ!そう言う事かー。折角だしアイス食べて貰いたいんだけどなぁ。」

 

と、そんな会話の最中にも続々と客が来る。

余程グムのアイスは美味しいのだろうと思うと同時に、こんなに客が来るほど美味しいなら是非プラマニクスにも食べさせたいと思った。

 

「グム……、出来れば一つだけで構わない。夜まで、アイスを残して置いて貰えないか?」

 

「いいよー!けど夜はもう露店閉めちゃってるからそうだなー……そうだ!アーミヤちゃん、ちょっとお手伝いして!」

 

「えっ…?」

 

グムに話を聞けば、忙しすぎて目が回りそうだから手伝って欲しい。夜は露店を閉めてビーチの演目にアーミヤを連れていくので、その前にドクターにアイスを渡ししたらいい、と。

 

「アーミヤ……。」

 

「…分かりました、ですがくれぐれも面倒事は起こさないで下さいね?」

 

「俺が面倒を起こすように見えるか?」

 

「とても。」

 

『心外!』とありありと顔に滲ませるドクターを尻目にアーミヤは着替えるべくグムに連れられて行った。

 

(俺がなんの面倒を起こすように見えるんだ……。)

 

そう思っていたドクターだったがこの後数時間に渡ってこのシエスタ、そして全ての住民並びに観光客の命に関わる大事に巻き込まれる羽目になるとは考えてもいなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

まずドクターが最初に思ったことは『自分は巻き込まれ体質なのだろうか』と言う事と、『運も無いのではないか』と言う事だった。

確かに最初とあるオペレーター達からの連絡が来た時からもう嫌な予感しかしなかった。

指定された部屋に向かえば市長の娘までそこに同伴している。

 

そして嫌な予感と言うのは当たる物だと相場が決まっていて、まさかこの都市のシンボルたる火山が噴火の危機に瀕していると聞かされて頭を抱えそうになった。

 

『プラマニクスを連れてとっとと帰る』と喉元までせり上がってきたものの何とか飲み込んで話を聞けば更に『この都市の危機に力を貸してくれ』ときた。

内心『ふざけるな』であったが直ぐに『ここで拒否すればプラマニクスにも失望されるのでは…?』と考えているうちに何故か流れるような所作でオペレーター達がエイヤフィトラに通信を繋ぐとサンプル送りや状況説明を始める。

自分が蚊帳の外に置かれながらも事が進む様子に何か大きな力でも働いてるのか……と疑わずにはいられない。

そしてこれを皮切りに事態は都市の存続をかけたものになってしまったのだった。

 

 

 

 

 

この事件の黒幕だったクローニンとかいう胡散臭い優男を捕まえ、「プラマニクスまで危険な目に会うところだった」と呟いてぶん殴ったらヘラグに「落ち着けドクター、そんな力で殴るとその男が死んでしまうぞ。」と落ち着かされてからようやく『はっ!』として自分のプライベートな通信機を見れば数回プラマニクスからの着信が入っておりその後に『なにしてるんですか?』の一言だけが送られていた。

ホテルを出てから1度もなんの連絡せずにいたのだから当然だろう。

 

大慌てで電話……はできる状況ではないのでメールを返す。

 

『野暮用だ』と。

 

そうして全ての面倒事を終えて意気揚々と(傍目には仏頂面)ホテルへと向かおうとした時だった。

 

市長とやらに声をかけられてビーチを歩くことになったのは。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー、

 

 

そこで聞かされた市長と今は亡き妻の話だけがドクターの中で残っている。

 

「『ずっとここで一緒に生きて行ければいいのに』と。」

「君に理解できだろうか?この都市は私が彼女の為に作り上げた天国なんだ。」

「君は私と同種の人間だ。」

 

(あぁ……、そうだな。愛する者の為なら、善悪なんて超えて…綺麗事なんて捨てて……天国だって作ってやろうと……俺だって思う。)

 

余計な波風をこれ以上立たせぬ様に当たり障りない回答だけしたが、今プラマニクスが居るであろうホテルの部屋の前でドクターはあの時の回答を胸にドアノブに手をかけて立ち尽くしている。

 

(ずっと、一緒に……。)

 

自分の中で更にその気持ちが肥大化していくのを感じて無抵抗と分かりながらも頭を振った。

そしてロックを解除していたドアノブを押してドアを開けたのだった。

 

 

部屋に入るなりプラマニクスの笑顔……ただし少し目が座っている…を向けられドクターの尻尾が自分の脚に巻き付く。

先程までの暗い気分も吹き飛ばすような背筋の凍りそうな出迎えをされて思いっきり目を反らした。

 

「ドクター、こちらに座ってくれますか?」

 

「いや……俺はここでかまわ「ドクター。」

 

「分かった…。」とプラマニクスの指したベッドの上に彼女と向かい合う様に座った。

 

「身共に説明を。」

 

「……野暮用…」

 

「はい?」

 

これがカランドの威圧か……なんだか以前もこうして別のユキヒョウ達に威圧されたな…とドクターが思考を逃避させようとするもプラマニクスはじっとドクターを見てくる。

逃げる方法なんてない、と観念したドクターが事の顛末を説明しプラマニクスに大きく溜息を吐かれて呆れられたのは1時間後の事だった。

 

「事情は分かりました……はぁ…、ここが遠くない未来に溶岩に沈むとは…。」

 

「あぁ……綺麗なのに、惜しい。……だからなんだ、良ければ……少し早いが出歩かないか?」

 

日は既に傾きつつあったがそれでもまだプラマニクスにとっては十分に暑い気温である事に違いないのだが、あの海岸沿いの景色をなるべく2人で記憶に焼き付けたい。

 

『いつか沈んで無くなる前に、あの綺麗な景色をエンヤと2人で思い出に残したい』と素直かつ直球で伝えれば俯き加減で顔を赤くしてパタン…とゆっくりと1度だけ大きく尾を揺らしたプラマニクスから

 

「誘い、文句としては十分ですね……しばしお待ち下さい。私も支度というのがありますので。」

 

と、何時だったか昇進を告げた時に言われた様な言葉を言われる。

多分言いながら笑っていたのでプラマニクスは確信犯なのだろう。

しかしあの時から関係は随分と様変わりしてしまったが、ドクターの気持ちだけは変わっていないのは、プラマニクスは知らぬところであろう。

 

そんな事を考えながらドクターはベッドから降りて装いを整えに向かったプラマニクスの準備ができるのを座った体制のまま待つのであった。

 

 

 

 

 

準備を終えたプラマニクスが『お待たせしました』と言うと同時に彼女を視界にとらえたドクターの時が止まる。

 

いつもは降ろしっぱなしの豊かな銀の髪を暑さを逃がす為に後頭部の少し高い位置で結んで、いつもの巫女服の延長の様な装いとは全く違う水着にも見えるワンピースにストールを羽織ったプラマニクスの姿。

 

街を歩くのにも違和感がなく露出も多すぎず、かと言って着込み過ぎているわけでは無いし色合いもとてもプラマニクスの姿を可憐に映えさせている…そんな装いに思わず直視し続けた状態から一変、口元を隠しながらドクターは視線を逸らした。

 

「あの!何か言ってくれませんかねっ!?」

 

そんなドクターの反応に耐えられ無くなってしまいまた顔を赤くし涙目になりかけるほど必死な様子で言ってくるプラマニクスにまたドクターは顔を隠ししながら絞り出す様な声で

 

「……………よくっ、似合っているっ。」

 

とだけ答える。

とりあえずこれ以上直視を続ければ、この不慣れというか今まで縁が無かった様な服装に身を包んでとても恥ずかしそうに現れ今もそんな羞恥を押し殺さんとする健気極まりない彼女を確実にここでこのまま押し倒してしまい、外出なんて二の次になりそうなのでドクターは努めて冷静になるよう努力した。

 

「もう、それだけですか?……ドクターにそれ以上を求めるのは酷と言うものでしょうが…………むぅ。」

 

プラマニクスのドクターの性質を分かっていながらもやはり物足りないと少しむくれ気味な声が聞こえて来てからようやくドクターは立ち上がり、プラマニクスの前に立つ。

 

「正直、他の男達には見せたくない………独り占めしたいほど、似合っている。」

 

そのまま頬を撫でると、交わっていた視線をスっと逸らしたプラマニクスがポツリと『後で好きなだけ独り占めしたらいいでしょ?』と呟いてお互い不意打ちの豪速球愛の言葉を交わした為に、ドクターはあらん限りの理性を全て総動員してその場を持ち堪えたと言う。

 

その後何とかドクターも短パンとシャツに着替えてから改めてプラマニクスを見て深く深呼吸したそうだ。

 

ーーーーーーーーーーーーー、

 

比較的静かな立地にあったホテルをとってはいたがそれでも日も傾き始めて夜が近付いてきたにも関わらずシエスタは更なる熱気に包まれていてホテルの前もかなり騒がしくなっていた。

 

そうなってくるとあまり素行の良くなさそうなチンピラモドキもウロウロし始め女性に声をかけている姿がチラホラ見えてよろしくないと、一旦立ち止まり繋いでいた手を離してプラマニクスの腰を抱き寄せれば驚かれる。

 

「えっ、なっ、いきなりなんですか!?」

 

「……ん?いや、エンヤに変な男が寄ってこない様にだが……。」

 

そう表情1つ変えずにこれが全くもって当たり前の事の様に言いながら歩く。

だからそう言う事をする前に、一言声をかけてください!とはもう何度もプラマニクスが言って来たのだがこの男はやはり聞き分けがないのか覚えていないのか……。

それにただでさえ、この巨躯と傷を持ったドクターと手を繋いで歩いていて並のチンピラやゴロツキはプラマニクスを邪な感情で見てもすぐに苦虫を噛み潰したような顔やしけた顔で避けていたのにこうなるともう周りの男達が近寄る事すらしない。

 

「はぁ……効果は覿面だと思いますがさすがに……。」

 

恥ずかしい、と言おうとしかけたがドクターが口を開いた。

 

「歩きにくかったか。」

 

そう言って腰に添えていた手を離す。

プラマニクスはこちらを無感情の様に見える顔で見てくるドクターを見てから少しだけ考えて「いえ」と首を振った。

歩くのを阻害されるほどは寄せられてはいなかったので歩きにくさはなかったし…それに。

そして口元に指を当てて考える素振りを見せて

 

「……あのままで、構いません。」

 

と。

こういう場の空気や特別な状況は人を大胆にさせるとはよく言ったものだと思いながら口に出す。

きっと今日を逃せばこんな事を自分から願うのが次は何時になるか分からないしこの場には、自分が崇高な存在だなんて知っている者はいないのだから…崇高で穢れない、なんて既に純潔はドクターの手によって散らしているのでまだそう言っていいのか分からないが。

そしてドクターの事を見上げながら言えば、賑わいの中で声を拾う為に少し身を屈めたドクターの顔が近くにあって、お互いにぱちくりと瞬きする。

 

「……そうか、不都合があったら、言ってくれ。それと、出来れば俺の目が見える側にいて欲しい。……今日のその姿のエンヤを、一瞬足りとも見逃したくない。」

 

そう直球の愛情を口に出しながら色とりどりの明かりに照らされたドクターの、死んでいると言われる表情筋が動き微笑んでいたので2重に不意打ちを食らったプラマニクスは、再び少し抱き寄せられた手に返す様にドクターの上着を掴むのであった。

 

 

「色んな音楽が、流れているが……エンヤの故郷の音楽も…あるのか?」

 

「ふむ……どうでしょうか。私達の故郷のもとなると…」

 

2人で興奮の坩堝と化す街をドクターの先導で器用に人混みの中でぶつかるのを避けつつ歩きながらいつもの調子で雑談し、時折興味を惹かれた露店に立ち寄って串焼きやら飲み物を買って行く。

ドクターは肉と、たまに変わり種の串焼きを買うのでプラマニクスも見ていて飽きない。

そしてこの熱気のおかげで喉が乾くので飲み物はいくら買っても足りなくなり色んな物を飲むことができて、たまに珍しい飲み物を買っては「ハズレだ…」と味が口に合わなくて落ち込むドクターの姿が面白かった。

 

 

「その服なんだが……エンヤが決めたのか?」

 

歩いている最中に、そんな服は持ってきていなかった様な…とドクターがふと思った事を口にすれば

 

「……エンシアと2人で、見に行ったんです。ドクターが下見に行っている間に。」

 

と照れ混じりに、しかしとても嬉しそうに返ってきた。

姉妹でちゃんとしたショッピングなんて、何年ぶりだったのだろうか。

巫女になってからも、クリフハートが鉱石病になってからもそんな姉妹らしい行動とは無縁になってしまっていたから。

プラマニクスがショッピングの時の事を思い出しているのか柔らかく微笑みを浮かべていてドクターもそれにつられる。

 

「なら、クリフハートにも感謝しないとな……。」

 

「えぇ、そうですね。……あの子には色々と感謝しなければなりません。」

 

ドクターとプラマニクスの関係の背を押したのもクリフハートだったのでいよいよドクターはクリフハートに頭が上がらないな、と思った。

 

 

途中、歩くのに疲れたプラマニクスの為に座れそうな店に寄って少し何か食べようと言う事になり、ドクターがプラマニクスを残し席を外した時……案の定というか、お決まり的にチャラついた輩がプラマニクスに声をかけていた。

それを見てそっと買ってきた食事をテーブルに置いたドクターに『なんだぁ!?』とガンを飛ばした男が、その姿を見上げるや否や顔面蒼白になって目を見開いていくのはいい見物だったと笑って、そのまま首根っこを掴んで男を持ち上げ優しく移動させたドクターへ『よく手を出さずに我慢しましたね』と微笑んでドクターを褒めるプラマニクスだった。

 

そうして食事を終えて外に出れば既に夕日は沈んでいたが、街はライトアップのせいか昼の様に明るいままで。

 

そんな街に鳴り響き続ける音楽を聴きながらドクターが「そろそろビーチに行こう」と、プラマニクスに提案し2人は歩いた。

 

 

ビーチに到着する前にドクターが通信機でアーミヤに連絡を入れる。

それを覗き込みながらプラマニクスが開く。

 

「どうしてアーミヤさんに?」

 

「あぁ…、昼間アーミヤと歩いていた時に、グムにあってな…」

 

と事情を掻い摘んで説明すればプラマニクスの眉がにわかに顰められた。

そんな様子にドクターが「どうした」と僅かに屈みながら聞く。

 

「いえ……別に……。」

 

我ながらここまで子供っぽいヤキモチを妬くような性格だっただろうかとモヤモヤする。

昼間に外出を嫌がったのは自分、そのおかげでこうして洋服を買う事もできたしドクターがある程度街の立地を理解して、自分を迷わずに案内出来ている。

ただ、ドクターが最初に街を歩いて景色を見ていた横には自分ではなくあの少女がいたと言うだけ……それだけなのに。

 

「……ふむ?それならいいが……」

 

プラマニクスの胸中とかヤキモチを妬いてるとか肝心な時に気付かないドクターの服を強い力で握りながら頭を振る。

楽しい気分に水を差すような思考を振り払いながらドクターと並んで歩いて行けば程なくしてたどり着いたビーチで見慣れた茶色い耳が視界に入った。

 

「ドクター!………随分と堂々と腰を抱いてらっしゃいますね。」

 

駆け寄ってきたアーミヤがマジマジと2人の状態に気付いてトーンダウンさせた声で言うと、改めて言われたプラマニクスは恥ずかしくなって俯いてしまう。

だからと言って今更ドクターが離すわけもなく、それどころかアーミヤに見せ付けんばかりに更に抱き寄せられたなんか満足気な顔をしているドクターとは反対にプラマニクスは照れるしかない。

 

「もうっ、ドクター!アーミヤさんの前なのでっ!」

 

「プラマニクスさんが真っ赤になってて可哀想ですよドクター…。」

 

「可愛いの間違いだろう?」

 

と、流石に他人の…それも仲間の前でこれ以上密着するのは恥ずかしすぎると少し離れたくなってドクターの身体を押していたプラマニクスがぴたっと止まってアーミヤが死んだ目になる。

 

アーミヤ的には『何を見せられているんだろう』だったしましてドクターが抱き寄せるその相手がカランド貿易代表の妹でイェラグのトップの巫女と言うのはもう悪い夢ではなかろうかと……ケルシー先生やドーベルマン教官が居たら頭を抱えてしまうか机を叩きそうだ…と。

 

そんなアーミヤの眼前でプラマニクスがドクターの横腹に肘鉄を入れるのを見ながら、早くグムの所へ戻ろう…と思考放棄したアーミヤが手にした小型のクーラーボックスをドクターの前に突き出した。

 

「……ドクター、お約束の品です。それと、良いですね?『ただでさえ盛り上がったファンと揉める』なんて事を起こしたので…これ以上は絶対に『外で!変な事を!』しないでください…ね?」

 

そう力強く強調しながら釘を刺してくる少女からは14歳とは思えぬ貫禄が見て取れる。

ドクターもクーラーボックスを受け取りながらコクコクと頷くしかないしプラマニクスはドクターに代わって「分かりました」と返すしか出来なかった。

 

「いえ、プラマニクスさんが問題を起こすとは思ってないので大丈夫ですが……ドクターに流されない様に気を付けていただければ問題ないですよ。では私はグムさん達を待たせているのでこれで…」

 

と、ニッコリと笑うアーミヤにドクターが声をかける。

 

「ありがとうアーミヤ…あとグムにも礼を伝えてくれ………。そうだ、変な男達には気をつけろ…それから、遅くまで出歩くならヘラグか他の大人を付けるんだぞ……あと、食べ過ぎて腹を壊さないように…。」

 

「お父さんかなにかですか!もう!子供扱いして!」

 

「子供じゃないか……目いっぱい、楽しんでくるといい。」

 

そう言って軽く手を振ったドクターにアーミヤがポカン…と驚いた顔をしてから微笑んで「はい!」と返事をして走り去った。

きっとその方向にグム達がいるんだろう。

 

それから腰を抱きなおそうとプラマニクスの方を見ればクスクスと笑っていた。

何時もより素晴らしい笑顔に見えるのはやはり特別な場所で見るからだろう、などとドクターは考える。

そんなドクターの内に抱いたプラマニクスへ特別視な感想なんて気付いてもないプラマニクスはドクターが驚く事を口にしかけた。

 

「今のドクターは、本当にお父さんみたいに見えましたよ?きっとドクターはいいお父さんに…」

 

そこまで口にして、プラマニクスもはたと自分が何を言おうとしたのか気付いて口を手で抑えて視線を伏せた。

ドクターが父親に?誰との子の?自分と……なんて、そんなのはきっと

 

(望めない。)

 

『なら、他の誰かとの、』とまで考えそうになってズキリと胸が痛むと同時に『絶対にそんなのは嫌だ』と言う独占欲を自覚して、隠した唇を噛みながらせっかくアーミヤへのヤキモチは消えたというのにまた新しいモヤが生まれてしまったとプラマニクスは眉をひそめた。

そして一瞬でも、考えそうになったのだ。

望みこそしても、有り得てはならない未来の事が。

 

それは、今プラマニクスの目の前で眉を下げながら寂しそうな顔をして、それでもなんとか表情を和らげてみせようとするドクターも同じだった。

そんな顔をさせるつもりはなかったのに。

 

「……エンヤに、そう言われるのは有難いが……俺は、きっと父親には…なれない。」

 

そう、不器用に笑ってプラマニクスの頭を1度優しく撫でてから腰をまた抱き寄せるドクターにプラマニクスは何も返せなかった。

謝るのは違う、だからと言ってさっきの言葉を続けるのも…「そんな事ないですよ」なんてありもしない希望をお互いに持たせる言葉も、他の誰かとの可能性を匂わせるような言葉なんて口が裂けても言えなかった。

 

ドクターもプラマニクスが困っているのを感じて、なんとか話題を切り替えなければ……と思った時忘れかけていたアイスの存在を思い出した。

 

「…それより、あっちの、人の少ないところで……シャーベットを食べないか?グムが作っていた……行列が出来るほどの人気だった。」

 

と、クーラーボックスをプラマニクスの前に掲げて見せればなんとかプラマニクスが眉を下げながらも微笑んでくれた。

 

「……そうですね。そんなに人気があるならきっとさぞ美味しい事でしょう。」

 

今は本当に束の間の休暇なのだから楽しい事に目を向けよう。

2人でこの時間を楽しまなければ勿体ない。

 

 

 

 

そうして昼間、市長と歩いたビーチを歩いてみるがやはり人が多い…そんな中でなんとか比較的人が少なく波打ち際も近い岩場を見つけてほど良く腰を落ち着けられそうな場所を発見した。

 

しかしそこに流石にそのままプラマニクスを座らせる訳にはいかない。

クーラーボックスも椅子に出来そうなほど大きくはない…ドクターはちょっとだけ考えてから自分の上着を脱いで敷いた。

上着が汚れるのが嫌だった訳ではなく、上着に座るのが嫌なのではないかと思ったのだがプラマニクスはそんな事無かったらしい。

 

「ありがとうございます。」

 

「あぁ。さて、それより……」

 

並んで座って、目の前に置いたクーラーボックスを開けると中にはアイスが2つ並んでいた。

リクエストは1つだったのに気を利かせて2種類入れてくれたのだろう…グムには何か改めて礼をしなければとドクターは思いながらアイスを取り出して閉じたクーラーボックスをテーブル代わりにしそこにアイスを置く。

 

「どっちがいい?」

 

「むぅ……そうですね……。」

 

プラマニクスが並んだアイスを見比べる。

どちらもドクターには見覚えがあった。

確かオレンジの方がマンゴーマティーニ、ピンクの方がストロベリーテキーラ……冷静に考えたらどちらも酒のアイスである。

 

「確かこっちが……ストロベリー…こっちがマンゴー………どっちも酒のアイスの様な気がするが……。」

 

「グムさんって未成年……いえ、考えるのはやめましょう。食べていた訳では無いでしょうし……ふむ、決めました。私はこちらで。」

 

そう言いながらストロベリーの方を手に取ったプラマニクスを見てからドクターもマンゴーマティーニの方を取る。

それから2人で食べ始めた。

確かに美味い、これならあの盛況ぶりも納得だと言った感じで食べ進める。

横ではプラマニクスのその尻尾が雄弁にアイスが美味しい事を物語る様にうねっていた。

 

「そっちも1口くれ。」

 

「むっ!でしたらドクターの方も1口いただきます。」

 

ドクターがそう言えばプラマニクスが先にドクターのアイスにスプーンを突っ込んでガバッとアイスを取っていく。

『そんなにとるのか!?』と取られた量に無言で驚きながらプラマニクスを見れば、アイスを口に含んで幸せそうな微笑みを浮かべていたので全てをチャラにした。

 

そして宣言通りドクターもプラマニクスからアイスを貰う。

プラマニクスが取ったより少し少ないがそれなりの量を削って口に入れ「ふんっ」とした感じでプラマニクスを見てみればドクターの顔を見て瞬きした。

 

「ドクター!そんなに取るなんて聞いてないですよ!?」

 

「エンヤも取ったからな…おあいこだろう。」

 

あーだこうだと言い合いながらも、2人で仲良くアイスを完食した。

そうしてひとしきりアイスの感想を述べあったところでふっと沈黙が流れた。

遠くから響く音楽の盛り上がりの音に、波の音はほとんどかき消されているがそれでも賑わいの中心からは離れている場所なので波の音が耳に音が入ってくるし、地平線に続く海……正しくは湖らしいが、どこまで続いていそうな深い色の中で煌めく水面に目を奪われる。

 

しかしドクターがそれよりも目を奪われるのは、横に座るプラマニクスであった。

どこを切り取って見たとしても整っていて至高の存在としか思えないのに、自分は深くまで触れる事が許されている…。

けれど本当の意味で手に入る事は無い高嶺の氷の花。

 

「海とは……こんなにも人を虜にするものなのですね……少し、怖くもありますが。」

 

「だな……特に、夜は昼間と違う。」

 

怖い、と言うのが分からなくもない。

暗くどこまでも続いている様でまるで全てを飲み込んでしまいそうでありながら、夜空の星や月を映す姿は恐ろしい程に美しい。

 

「少し、近くに行きませんか?」

 

「ふむ、構わないぞ。」

 

立ち上がって、ドクターは上着を羽織っていれば一足先にプラマニクスは波打ち際まで降りていた。

その姿に、息を飲む。

 

深い夜の青を溶かした水に、光が反射する水面は星空、そして銀色の髪がそこに加わるとそれは月のようで……。

 

らしくない下手な詩だと思いながらもドクターはその瞬間を永遠にしたいと持っていた自分専用の通信機の撮影機能を起動し、躊躇うことなくその風景を機械に納めた。

 

撮影時の音でプラマニクスがドクターに気付いて振り返る。

こちらを見てくれたのでもう1枚撮影すると今度は少し怒ったような顔をしていた。

 

「突然撮らないでくれませんか?」

 

「なぜだ…。エンヤは突然撮ってとしても綺麗だぞ?……ふむ、むしろ海や月が負ける程に美しいな。」

 

と、撮影した画像をマジマジと見ながら歩いてきたドクターが思考をフィルターに通すことなくプラマニクスを賛美する感想を述べるのでプラマニクスは赤面してしまう。

 

「ドクターのそういう所がっ…もう!」

 

そう言ってバシャン!と足で水を蹴って少しドクターにかける。

照れ隠しにこれくらいの事をしたって許されるはずだ。

それにこんな事もう二度と出来ないかもしれない……あの雪国では、こんな事は出来ない。

驚いて飛び退くドクターの姿が面白くて、プラマニクスは今度は明確に狙いを定めて水を掬ってかけてみた。

 

「エンヤっ、」

 

名前を呼ぼうとしていたドクターが避ける事も出来ずにその水を受けてしまって上着が濡れ、顔にもかかったようでバタバタ頭を振っている。

 

「フフっ、普段は俊敏な方なのにっ!」

 

「ふぅ……まったく。意外とはしゃぐ方だな。」

 

そんなふうに水気を払おうとするドクターを見ながら笑うプラマニクスが愛おしくて、残しておこうともう一度撮る為に懲りないドクターが機械を手にして伸ばせばプラマニクスが寄ってきてその手を掴んだ。

 

「せっかくです…2人で撮りましょう。」

 

「………本当に、浮かれてるな?」

 

「ドクターも人の事言えませんよ。それに私いつも言ってるでしょ?遊ぶ時はそれなりの秩序をもって」

 

「真剣に、挑むべき。か?」

 

「えぇ。そうです!」

 

と、言ってもう一度ついでのようにドクターは水をかけられた。

そして、そう言ったものの2人とも自撮りなんてした事がない。

こういう時に慣れていそうなクリフハートとかが居てくれたら…と思うがそこまで都合がいい訳でもなく、紆余曲折しながらなんとか2人で納得がいくものを撮った。

こうして2人で言い合い、試行錯誤するもどかしい時間すらかけがえのないものだと感じてしまう。

 

「……こういう時くらいは笑いませんか?ドクター。」

 

「俺にしては、頑張った方だ。」

 

そう言いながらプラマニクスのことを見ればやはり、綺麗な横顔で画面を眺め「むぅ……これ笑ってるんですか?」と表情を崩して笑いながら楽しそうにしている恋人の姿が目に入って、ドクターは思わず口を開いていた。

 

「こうして撮っておけば、何かあっても……エンヤとの思い出が形として残るからな……嘘に、なる事もない。」

 

自分がまた、もし記憶を失うことがあっても……この画像さえどこかに残ってくれていたなら、こうして2人で過ごした何物にも変えられない愛しい時間が喪われる事はない。

例え、どうしようもなくなって離れてしまう事になっても……きっとこの時間も想いも嘘にはならない。

ボソリとそんな気持ちを込めてこぼした言葉は、プラマニクスにも意味が分かる様に届いてゆっくりとドクターの方を向いた。

 

空に浮かぶ月の様な、オレンジに縁取られた銀の瞳がドクターを見ていた。

 

「……もし、ドクターの記憶がまた無くなったなら……私は、持てる力で貴方を探し出して…独り占め出来るって喜ぶかもしれませんよ?」

 

「っ……それは、嬉しすぎて…望んでしまいそうだ。」

 

プラマニクスは、ドクターがそう返すと知った上で言ったのだ。

なんせ巫女になったとはいえシルバーアッシュ家の人間なのだ。

欲しい者をなんのしがらみも無く手に入れられる状況になったら間違いなくそうするだろう。

表情筋が分かりやすく仕事をしている珍しいドクターの顔。

照れなのか口周りに手を当てて隠そうとする癖。

プラマニクスしか見ることが出来ない特別な表情や仕草だとやはり見る度に優越感が込み上げてきて、他の誰にも見せないで欲しいと願ってしまう。

 

「…………このまま、人混みに紛れて消えたら、どうなるだろうな。」

 

ドクターが続けてぽつりとこぼした言葉。

なんて、なんて甘い誘惑なんだろう。

 

ー信仰心はどこに行った?巫女として代わりの効かない、自分しか果たせない責務があるだろう?聖なるカランドの神との仲はどうするのだ?妹や、兄は?故郷は?ー

ー『今回だけは特別』とロドスに手を貸したはずがいつからドクターの傍だけが『心休まる場所』『自分にとって聖なる場所』になっていた?時折息抜きしたかっただけなのに、ドクターとずっと一緒なら…と考え始めた、のはー

ー不浄を清める?既に、ドクターを他の誰にも取られたくないと思ってグズグズと思考を暗くする自分が?『カランドの巫女』として?ー

 

そのドクターの一言で、プラマニクスの胸中に重くのしかかっていたあるあらゆるしがらみや想いが全部雪解けの様にドロリと溶けて流れて、どこかに行きそうになる。

頷いてたった一言「2人で消えたい」と返したらきっとこのドクターはここで通信機の全てを壊し、手を取って駆け出して行ってくれるのだろうと思うと胸が高鳴ってしまった。

 

 

「っ、」

 

しかし、その返事を良しとしない最後の理性が働いて返答に詰まっていればドクターが困ったような崩れた笑みをこちらに向けていた。

 

「俺は、いつも言葉が上手くない……告白の時だって、作ったようなセリフすら器用に伝えられないが……それでも、本心だけを伝えている。」

 

熱さもあるせいなのかとても口が乾く。

ドクターにいつの間にか握られた手首がそんなに強く握られている訳でもないのにジンジンと痺れる様に熱く感じる。

視界がじわり、と歪んで一筋自分の目から涙が伝うのを感じた。

 

(私、私は……、)

 

ドクターがプラマニクスの銀の瞳から溢れて流れ落ちた一筋の涙をそっと親指で拭う。

ドクターは自分で酷な質問をしてしまったと思ったのだがそれでも言ってみたかったのだ。

そうしたらプラマニクスはどう思うだろうかと。

解放的な気分、打って付けなこの人混み、平和そうに過ごす他の恋人達をすれ違いながら目にして……自分達も立場を捨ててああなれたならと。

そして『善悪を割り切って行動して、妻の為に都市を作り上げた男』の話と……プラマニクスに言われた『いい父親に』と言う言葉がドクターの背中を押してしまった。

 

「すまない……困らせたな。」

 

「い、え……そんな、そんな……事は…。」

 

流石にこれ以上は困らせる事は出来ないとドクターは謝る。

添えられたままのドクター手に自分の手を重ねながら首をゆっくりと振るプラマニクスの表情から生憎ドクターは全ての感情をすくい上げ読み取る事はできなかった。

 

「___、」

 

波の音と、喧騒にかき消されない程度に小さく名前を呼ばれドクターが「どうした」と全て言い終わる前に、プラマニクスが胸に顔を埋める様に抱きついてきた。

 

「あなたが……、欲しくてたまらないので……部屋に戻りませんか?」

 

ドクターの耳がピンっと張る。

今胸に埋められたプラマニクスの顔は羞恥で真っ赤に染まっているのだろうか。

ここまでプラマニクスに言わせたのは果たしてフェスティバルの空気なのか、ドクターの発言のせいなのか分からなかったが……それでも部屋に戻るという事は逃げる事はしないという意味で少しドクターは残念に感じてしまった。

 

「俺も……エンヤと同じだ。」

 

しかしプラマニクスが望む事を与えて実行するのがドクターなのだ。

そう返しながらドクターはプラマニクスの腰に手をまわすのだった。




この後の2人

プラマニクス
この後ホテルの部屋に帰ってからドクターと夜明けまでしこたま愛し合ったので翌日は完全に部屋でダウン。
部屋に遊びに来たクリフハートにアザとか噛み跡とかキスマークやら甲斐甲斐しい世話の痕跡を見られて色々察される。
ジワジワとドクターの存在で自分の中の大切な物の境界線が狂っていってる。

ドクター
プラマニクスと明け方まで愛し合ったけどそれでもまだ足りないと感じるくらいプラマニクスの事が好き。
クーラーボックスを忘れて帰っていた為大慌てで翌日探しに行って発見。
その後グムとアーミヤにお礼の品を買うべく会いに行ったら首筋にある噛み跡とか腕の引っ掻き傷を見られてアーミヤに「隠しませんか??そういうの」とめっちゃガンを飛ばされた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

初雪を余すとこ無く貪って(ドスケベックスR18)

時系列的には多分これオブシディアンフェスティバルの前ですね…

ドクターの疲れマラにフェラしてくれたプラマニクスを見て興奮しすぎたドクターが鼻血出しながらもプラマニクスに中出しする

そんなお話です。

事が終わったあとは独自解釈含んだ真面目な話をケルシー先生達がしているだけなのでスキップ可


プラマニクスと恋人関係になり、身体を重ねて幾夜。

初めての時に3回…挿入してないのを含めれば4回もヤッてしまい翌日舞い込んだ仕事で彼女を使い物にならなくしてしまったのを悔い改め、それからそう言う事をする際はなるべく1回で我慢しているのだが…。

 

(正直、まるで物足りない。)

 

元からそうだったのか、ドクターは自分の性欲の強さを自覚していた。

身体さえ重ねられれば……と思っていたが、ようやく我が物にしたプラマニクスを前に毎回行為を1回で済ませるのは逆にフラストレーションが溜まる状況へと陥っている有り様だった。

 

しかしながらそれでも日々舞い込むレユニオンの鎮圧、各都市から送られる資料の始末、オペレーター達の容態報告書の目通し等々の仕事を自己の欲求の事を片隅に追いやりながらもそつ無くこなしていたのだが……。

 

「ふむ……、そろそろ休憩しませんか?」

 

「ん、あぁ……これが終われば取り敢えず区切りがつくから、それからな。」

 

戦闘時や艦内をうろつく時とは違い、ネックウォーマーのような装飾とマントを脱いで軽装になっているプラマニクスの声にそう返し淡々と今手をつけている仕事を片付ける。

プラマニクスとなるべく密な時間を過ごしたいとドクターは最近ぶっ通しで仕事をする事が多くなり疲れは溜まっていたと思うし、溜まり続けた性欲のフラストレーションもあった。

 

 

(まずい、とてもまずい。)

 

先程手をつけていた仕事を終え、休憩するべくソファへと移動して座ったまでは良かった。

そこからプラマニクスの横に座るのも問題無かったのだが彼女が席を立って足りなくなったお菓子を取りに行った後ろ姿を見なが一息ついた時……、

 

ドクターの下半身は元気になった。

 

欲求不満を押し殺し続けたところに疲労が原因で起きる現象が後押しと言う形で重なり、トドメにプライベート時と同じ様にマント等を脱いでいるプラマニクスを見て全てのスイッチが入ったドクターのソコがそそり勃ってしまった。

 

慌てて前屈みになるが、もうこれが手のつけようがないのは身体の持ち主である自分が1番理解している。

戻ってきたプラマニクスが不自然に前屈みで座るドクターにぎょっとしたのはすぐの事だった。

 

 

 

 

「………疲れと、欲求不満が原因なので部屋を一旦出て貰えたら助かる。」

 

「私を前にしてそう言う事を言いますか…。」

 

困惑しながらもドクターの横に座り直したプラマニクスに事情を説明し、処理するのでと前屈みのまま言えば溜息混じりに呆れられた。

 

「俺の事情にエンヤを巻き込む訳には……」

 

「……そうやって1人で色々片付けようとするの、良くないですよ?」

 

そう言うと、前屈みの状態のままのドクターの返事に少し顎に手を当て考えてからやれやれ…と首を振ってドクターの身体に頭を預けて身を寄せきたプラマニクスの暖かさに、ドクターは息を飲む。

今のこの刺激やプラマニクスの匂いは非常に下半身にマズいと、ゆっくりとした動きで諦めて上体を起こせばそのままプラマニクスが向き合う様に抱きついてきた。

 

「エ、エンヤ…?」

 

「欲求不満と言いましたね?……薄々そうじゃないかとは思ってたんですよ?なんせ初めての日は………あんなに、したんですから。」

 

言いたいことはあるが恥ずかしいのか、そのままドクターの顔を見上げる事なくドクターの胸板に顔を埋めるようにしながら『ふぅ』と一拍開ける。

 

ドクターの手はプラマニクスを抱き締め返すべきか迷ってソファの背もたれとクッションに置かれたままだが、向き合う様な形で抱きしめられているせいで豊かな胸が押し付けられてもうそれこそ歯止めが効かないところまで来ていた。

 

「そ、れは……言葉の綾だ。エンヤのせいじゃない。」

 

「むぅ…そう言われましても……私だって……アナタにそう感じさせたとなると思うところがあるんですよ……。決めました、今日はドクターにお返しするとしましょう。」

 

悩むように視線を動かしたあと少しイタズラっぽく言うプラマニクスの「お返し」の意味が分からないドクターだったがすぐ下半身に走ったもどかしく甘い感覚に喉が引き攣る。

プラマニクスが不慣れな動きながらも、指先ですっかりテントを張ったソコを形を辿るように撫でてきたのだから。

 

「エンヤっ?止めっ」

 

「やめません、何時もそう言いますが今日は聞きませんので。」

 

何をして来ようとしているのか察したドクターが慌てて止めようとするもそんな中でお互いの顔を見合わせれば、プラマニクスが頬を染めながらも「譲らない」と言う意志を滲ませた目で見詰め返してきて、ズボンの下で下着にも抑えつけられながら布越しに撫でられるソコが窮屈だと悲鳴を上げている様にジリジリと痺れてもどかしさを募らせていく。

 

ドクターの制止も無視して、カチャカチャ金属音をさせながらベルトを緩めるプラマニクスに見入ったドクターは、観念して生唾を飲みながら事の成り行きを見る事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「改めて……、見ると本当に…」

 

万が一があってはいけないとテーブルを足で押すという無作法な行動でテーブルをソファから離したドクターに口篭りながら言って、もたれ掛かる様に胸に頭を預けたままのプラマニクスが雪の様に白く、綺麗に整えられた爪の並ぶ手の指先で曝け出されたドクターの肉棒をなぞればそれに合わせてピクピクと肉棒が震える。

 

自分には付いてない物体である事と、自分の胎内に入れたことはあれど1度も直に触ったりしっかりと見詰める事がなかったせいなのか啖呵を切ったは良いものの臍まで届かんと反り返る立派過ぎとも言える肉棒を見てプラマニクスはどうするべきか悩んでいる様子だった。

 

「っ、…本当に、無理しなくていいんだぞ?」

 

「無理、と言うよりやはり……マジマジとは見たことが無かったので……」

 

頬を赤く染めながらも好奇の目で剛直を見ながらそっと握りゆっくりと上下に動かし始めたのだが、恐る恐る触れている力加減のせいでゾワゾワとして擽ったい方が強くかなり焦らされているような気持ちになる。

 

「もう少し、強めに握っても平気だ……例えば、鐘を握ってる時の力加減くらいならどうだ。」

 

「………それを例えに出しますか。」

 

なんて背徳的で不信心な例えなんだろう、と思いながらもプラマニクスは不思議とそんな言葉に怒りが湧くこともなくドクターに言われるまま自分が何時も鈴を手にしている位の力で握って先程の様にまた擦ってみれば肉棒は分かりやすく手の中で震えた。

 

「はっ、…なかなか悪くない。だが、もう少し強くてもっ、いいな。」

 

「………。」

 

一瞬ドクターの口から切なそうな声が出て(この先鈴を手にする度にコレを思い出したらどうしてくれるんだ)とプラマニクスがそんな予感を抱きつつ、ドキドキとうるさくなった自分の心音を聞きながら更に肉棒を上下に擦ればさっきよりはっきりと自分の手に肉の熱さと脈動する硬さを感じてしまってもじ…と太ももを擦り合わせ、耳が伏せっていってしまう。

そんな耳を目に止めたドクターがイタズラに耳の裏をチュッと吸ってべロリと舐めたせいでプラマニクスの喉からも「ひゃっ」と短い声が出れば、その声に合わせて肉棒の先からトロリ…と我慢汁が溢れて伝うのがプラマニクスの目に入った。

 

まさか自分の僅かな声だけでこうして我慢汁がこぼれるとは……とプラマニクスの胸にくすぐったいような気持ちが生まれる。

 

どうなるだろうか…と好奇心から透明なそれが、肉棒を伝い落ちるのを人差し指の先で掬い流れに逆らう様に上へとなぞり上げて尿道口を指の腹でクリッと押してみれば指の腹に、そのパクパクと開閉する感触が伝わって来るようでプラマニクスの背筋をゾクリとさせ尾を震わせた。

 

「んっく、エンヤ…それは、ゾワゾワするっ」

 

「えぇ、そのようですね。」

 

プラマニクスの目にはどんなドクターの表情が映っているのかドクター自身からは分からないがプラマニクスはどうやらそんなドクターの反応がとても気に入った様で指の腹で何度も尿道口を往復するように動かす。

ネチャッ、ネチャッ、と往復する度に新しい我慢汁がこぼれ指で遊ぶ度に粘着音がしてドクターの肉棒が震える事が楽しいのか何度か繰り返してから思い出した様に肉棒を掴んで動かしてみる。

 

既にあふれてこぼれ落ちた我慢汁のおかげで先程より遥かに滑りやすくなった事と少し勝手が分かってきたプラマニクスが上下だけしていた手に捻りを加えてカリ首の辺りを触ってきた。

 

「ドクター……随分と、いいお顔をしてますよ?」

 

「っ、はっ、エンヤの、おかげでなっ。」

 

こうして興が乗ってきたせいか、プラマニクスはドクターから離れるとソファとテーブルの間に先程出来たスペースに膝をついて丁度ドクターの前に座るような感じになり、目の前に肉棒がそそり勃つ形になった。

このプラマニクスの行動にさすがにドクターも正気を取り戻し慌てる。

 

「ま、まて!エンヤ、本当にっ!それはっ」

 

「どうしてですか?…『アナタ』だって何時も私がダメと言っても沢山舐めてくるのに。」

 

そそり勃った眼前の肉棒を手で握り顔を近付けようとしたプラマニクスをドクターが再び、先程よりも焦った様子で止めようとするがこう言う行為の時や2人きりの時にする「アナタ」と言う呼び方をしながらどこか熱に浮かされた様に興奮の色を隠しきれていないプラマニクスが言いながら裏筋をツッ…と撫でてくるてくる。

 

「つっ、裏側は……じゃ、無くエンヤの口にそんなっ…」

 

「私、お返しするって言ったでしょ?」

 

そう、下から見上げつつ言われればもう言い返す事なんて出来なかった。

 

自分のそそり勃つ血管の浮き出たグロテスクな肉棒のすぐ近くで自分を慕ってくれる美しく可愛らしい雌が潤んだ目で見詰めながら舌先でペロリと玉から竿の付け根を舐めてくる光景に綺麗事を言う余裕が消し飛んだのだ。

 

その無言を承諾と取ったプラマニクスが改めてそろりと舌を伸ばして、肉棒の先から溢れる我慢汁を舐めてから舌を離せば小さくピンク色の舌先とグロテスクさを持った肉棒が透明な糸で繋がっていて、それから竿の付け根からゆっくりと裏筋をなぞる様に舐め上げる。

プラマニクスが、舌に未知の味が広がっているせいなのか少し表情を歪めながらも必死に自分の肉棒を舐めている姿に釘付けになった。

 

カランドの巫女、神の啓示を受けし者、褒め称えられし者…あらゆる穢れとは程遠い崇高な称号を持ち、鈴を鳴らす時に祝詞を唱え職務で経典を読む神聖な口が、舌が自分のような記憶喪失でともすれば無頼漢のように見えるナリの男の下半身に顔を埋め、亀頭を口に含んだり舌で舐め必死に欲望の現れに奉仕しているのだと強く認識した時ドクターの中で何かが溢れた。

 

「っふ…、ん、むぅ……なかなか変な味ですね……っ!……えっ?」

 

1度顔を離して息をついたプラマニクスの手にボタッ、と何か落ちてきたと同時にプラマニクスはとてつもなく困惑し驚嘆した。

 

「っ〜、エンヤを、見ていたらっ……つ、続けてくれないか?」

 

驚いて顔を上げたプラマニクスの視線の先では、色々と理性の限界突破したらしいドクターがそれなりの量の鼻血を出しながら、今まで見たこと無いほど瞳孔を開いて歯を食いしばり、なんとか猛獣の如く暴れるのを抑えているのがまざまざと伝わる程目をギラつかせてこちらを見ていたのだ。

それこそ本当に飢餓状態で生肉を前にした獣の様相を呈しているとしか言い表しようがないほどで、そこにくわえて鼻血まで出ているというのに何故かプラマニクスはそんな普段の様子から掛け離れて興奮気味のドクターから目が離せないでいた。

 

ドクターがコートと窮屈そうな白衣を雑とも言える荒々しさで脱ぎ捨てあろう事か血で汚れたプラマニクスの手を白衣で拭ってようやくプラマニクスは我に返る。

 

「あ……、えっ、」

 

「エンヤ…たのむ。」

 

フッ、フッ、と荒く息を吐くドクターがそっとプラマニクスの後頭部に触れて顔を肉棒の方に僅かに押してくるせいでプラマニクスの柔らかな唇に我慢汁でベトベトの亀頭が触れる。

ほんの少しだけ残った理性がプラマニクスにそれ以上の乱暴を働かないものの、何時も必ずプラマニクスの事を気遣うドクターの行動からは考えられなかったし、ここで我慢させたら間違いなく強行しそうなのは分かった。

 

「わ、かり…ました。」

 

ドクターは鼻血が垂れない様に自分の顔の下半分を白衣越しに押さえながらもギラギラした眼でプラマニクスを見ている。

普通なら鼻血を出すドクターに対して驚いて心配になりそこで止まれるはずなのに、プラマニクスも言われて促されるまま再び舌を出して今度は竿の下…睾丸の方へとその舌を伸ばして舐めていく。

プラマニクスの中で『仏頂面で何を考えているか分からないと皆が思っているドクターがこれ程までに表情を変え鼻血を出すほどに、自分を見て興奮している』と言う事実がたまらなく胸に切なくなる程込み上げてきて、そのままドクターの興奮が伝染したのだろうかと思った。

 

「くっ…手で、さっきみたいにしてくれるか?」

 

「んっ、チュッ……こう、ですか?」

 

控えめというよりかは慣れてないからといった舌使いで舐めて少し吸うような動きをしながら視線を少し上げて竿を擦り始める。

 

そしてふと、ドクターが毎回しているようにヌメリがあった方が良いだろうと思い舌に唾液を纏わせながら、竿の根元や裏筋をフェリーンらしさを感じさせる動きでピチャピチャと舐めつつ尿道口をぐるりと撫でるように指先を滑らせれば舌にどんどんこぼれ落ちてくる我慢汁の独特の風味が広がり、鼻先に匂いの原因があるせいで雄の匂いが鼻腔を満たしクラクラするような錯覚に陥る。

プラマニクスは触られてもいないのに、自分の下着の中が既に濡れ始めている事に気付いて恥ずかしさと同時に「自分も触られたい」と言う気持ちが芽生えているのが分かった。

 

(なるほど……こんな気持ちになるから、私の事も、あんなに……。)

 

と、頭の中で考えれば普段ドクターがしている執拗な程の秘裂への愛撫や身体への愛咬を思い出して尾が揺れ、トロリと股の間から新しく溢れた自分の愛液の温かさ感じてしまう。

だが自分から今日はドクターに尽くすと決めたのだからと、我慢汁でしとどに濡れた肉棒の尖端…亀頭をパクリとくわえてゆっくり口内へと入れていく。

 

ドクターが何時もどんな風に自分の肉芽を舐めていたかを思い出しながらそれを真似て舌で包む様に肉竿を挟みながら舌を動かして亀頭のカエシの部分を舌で舐め上げれば口内でドクドクと脈打ちながら次々にこぼれてくる先走りの味がいよいよ濃ゆくなる。

 

「フーっ、フーっ、……エンヤっ!」

 

「む、ぅ、んっんっ、むっふっ」

自分の後頭部を押えているドクターの大きな手が、何とか気を紛らわせる為なのか頭を撫でてきてプラマニクスの背中に溶けるような甘い感覚が走る。

それに答えたくて、ゴツゴツとした血管が這う肉棒をできる限り口に入れて血管の周囲をなぞって浮き出た血管を舌で押しながら舐めて口に入りきれなかった部分は手での刺激を与え続ける。

裏筋側の、亀頭と竿の境目の部分を舌で舐めれば分かりやすくビクン!と震えるのが分かってそこを重点的に舐めながら、ドクターが自分の陰核にしてくる様に先っぽの方を吸ってみれば口内に少し味の違う液体が流れこんできた。

1度口を離してみれば、透明だった先走りに白く濁った物が混ざっていてそれがなんなのか本能的に察し、よりソレを求めようとまた口に入れて必死に舌を動かす。

 

舌先で、開閉しながら精液混じりの我慢汁をとめどなく垂れ流す尿道口の感触と味を感じれば無意識なのか、プラマニクスの片手はドクターの内腿を撫でて尾はとうに雄を受け入れる為に横に避けたままになり、腰が浮きつつあった。

 

「はっ、はっ…エンヤっ、このままだとっ」

 

そう声をかけながら抑える様にプラマニクスの頭に添えたままの手を退かす事無くドクターは腰を動かしていた。

自分の下腹部から聞こえてくる少し苦しそうな声のおかげで僅かばかりの理性が働くもののそんな声もさらに欲望を煽るだけに感じてきて、ドクターの動きに合わせる様に口内を満たして犯す肉棒に舌を這わせて懸命に吸っているプラマニクスの献身さにとうとう限界をむかえてしまった。

 

「くっ…!射精るっ!」

 

「ん…、むっ!?っ!」

 

欲望の赴くまま、あろう事かプラマニクスの喉の奥までとはいかないものの口の奥の方で熱を吐き出してしまえば、勢いのある熱くドロリとした体液が口内に突然溢れ、海綿体ががドクンドクンッと脈打って精液を送り出すのが舌に伝わってきたプラマニクスが驚きに身を固める。

その反応が分かってドクターは直ぐに頭を押さえていた手を離したが、そのせいで剛直が口から引き抜かれた反動でまだ射精途中であった精液が彼女の顔にかかったのが見えた。

 

「っ、げほっ、うぅ…」

 

「す、すまなかったエンヤ…大丈夫か?」

 

ゲホゲホと俯いて噎せ続けるプラマニクスに申し訳なさを抱きながら一部が血で真っ赤に染まった白衣を手から捨て、そのまま手を伸ばして頬を撫でながらこちらを向かせれば、苦しさからなのかボロボロと涙を流し、赤くなった頬にマダラにちった精液の白さが映え飲み込め無かった精液が口の端から伝い落ちようとしているいやらしさを醸し出したプラマニクスと目が合う。

 

「いえ……げほ…、大丈夫、です。」

 

「大丈夫そう、には……見えないんだが…」

 

口では労りの言葉が出るもののそのあんまりに劣情を煽る姿に今しがた射精を終えたはずの肉棒に再び熱が集まり萎える前にまた血が通いグンッと勃ち上がるのを感じた。

顔についた精液はドクターが拭ったが、意識してなのか興味からかプラマニクスはドクターより先に自分の口端から溢れた精液を指で拭うと親指でネチョリと触ってからペロリと舐め、そのまま彼の目の前で半立ちの肉棒を掴むと残った精液を尿道口から垂らす亀頭をチュッと吸ってから舐めてきた。

 

「むぅ……好ましくはないですが…不思議と嫌じゃなく、癖になりそうな味ですね。」

 

「エ、ンヤ……。」

 

「……また鼻血が出ますよ?その前に、」

 

とうに鼻血は止まっているが白衣で雑に拭ったせいで少し血の色の残る鼻先を指でつつきそう言ったプラマニクスが立ち上がって、座ったドクターに跨る様に座ってスカートの前面の独立した布を手で避ければ既に下着が役割を放棄する程に濡れきっていて、下着すら超えて溢れた愛液でぬらぬらと濡れた太腿が視界に入っていよいよドクターの肉棒がまたガチガチにイキり勃った。

プラマニクスも変なスイッチが入っているのか煽るようにドクターの脚を尻尾で撫で、先を促すように振舞っている。

 

そのまま下着を止めている紐を解けばズレ落ちた下着のクロッチと秘裂から大量に溢れた愛液が糸を引きながら下着は取り払われた。

そうして、しとどに濡れた膣口へとゆっくりと2本指を入れればグ…チュリと遥かに重い粘着質な音と、待望の刺激に戦慄き迎え入れる様に蠢く腟内のうねりが指にまとわりついてきてたまらなくなってすぐに指を引き抜けば、透明な愛液に混ざった白っぽい本気汁という名の蜜が混ざっているのが見えドクターの理性は限界だった。

 

「はぁ、んっ……どくたぁ」

 

「すまん、本当に……許してくれ。」

 

抱き着いてきたプラマニクスにそれだけ告げ、コンドームを着ける余裕もないドクターはそのままぬかるんでご馳走を前にヨダレを垂らす様に愛液を流し続ける秘裂に亀頭をあてがうと入口の震えを味わう余裕もなく一気に貫いた。

 

そうすれば、双方共に昂っている事と初めて隔たりなく粘膜同士を深く絡ませて触れ合っているからなのかプラマニクスは貫かれた時に軽くイッてしまった様で胸を押し付けながら「はっ!んんんっあぁ」と喜悦の混ざった媚声を上げるが、それを気遣う余裕のないドクターは射精して間もないにも関わらずそのまま我慢汁がたっぷりと溢れる亀頭の先を子宮口に押し付けてぬちゃぬちゃと塗り付ける様に動く。

 

「ハッ、ハッ、エンヤっ、これっはまずいな……今度から、どうしたものか。」

 

「ん、ぁあぁぁっぐりぐりはっ、あぁぁぁ」

 

もう…こうして直にプラマニクスの包み込む様な腟内を味わってしまったドクターが、これからはコンドームなどつけたくないと言う意味を含めて呟く。

 

ドクターの肩口に顔を埋めながら押し付けられてコネ回される子宮口への刺激にイヤイヤと首を振るプラマニクスの腰をしっかりと掴んで下から突き上げてはそんな言葉を無視してぐりゅと子宮口と尿道口をキスさせるように押し付ける度に、トロトロと新しい愛液を滴らせ雄を喜んで迎え入れる様に蠢く腟内に更に剛直をくわえこもうと、言葉とは裏腹にプラマニクスは腰を振って押し付けてくる。

 

「はっあっあっ、ひっぅ、んんんっ、もっ、むりっやぁ、ん」

 

「エンヤっ」

 

繋がったお互いを遮る物が無いだけでこれ程までに興奮して昂り余裕がなくなるのか、と既にどっくんどっくんと次の射精へ向けての準備を始めるのを感じながら腰の打ち付けを早くしていけば肉のぶつかる音も早くなった。

 

「っつ〜〜、あっあっこれもっ、キちゃいま、っ」

 

「っ、このままっ。」

 

それだけ言って、太い肉の幹で腟内を穿つ様に突き上げ蕩けきって受け入れる様に柔らかくなって開いた子宮口にピッタリと先端を押し付け、たっぷりと粘膜同士の触れ合いを味わいながら匂いと存在を刻む様にぐりゅとダメ押しで突き上げれば、肉棒がドクドク脈打ちながら尿道を熱い精液が駆け上がって欲望のまま腟内へと容赦なく出ていき、プラマニクスは自分の胎内に直に叩き付けられる熱を感じながら背を反らして絶頂した。

 

「いッ〜〜、っ、あぁぁぁぁ♡」

 

「はっ、くっ……」

 

絶頂の影響で絡み付いてうねる腟内でどっくんどっくんと脈打ち続ける海綿体の動きに合わせ出続ける精液をマーキングの様に膣奥へ塗り込む様に、腰を動かしていけばドクターの全ての理性が掻き消える。

 

「エンヤ……さきに謝る。すまん」

 

「ふぁ、い…?」

 

まだ絶頂の余韻で蕩けきったままの顔をして浮かされた様な間の抜けた返事をしてくるプラマニクスの下唇を舐め、1度深く口付ければドクターの舌に必死に絡み付いて腟内を侵していた時の様な激しさで舌を絡ませ合い、口を離せばドクターが力の入らないプラマニクスから肉棒を引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっあぁぁっんんっ!はっ、ん!やぁっ、だめっだめぇ!」

 

「先に、謝った…っ。フッ、くっ!」

 

ソファの背もたれにプラマニクスを預けるようにしてドクターはプラマニクスを背後から突いていた。

 

着せたままにしてしまったプラマニクスの服のスカートの裾は既に溢れすぎたお互いの体液でベトベトに汚れてしまっている。

生理的な涙が止まる事無くあふれて視界は揺れる。

しかし太いマダラ模様の尻尾をドクターの腰に巻き付け背もたれに必死に爪を立てながら、振り返って後ろのドクターへ制止を願っても彼は何度も何度も精液と混ざった白い本気蜜でドロドロに溶けて熱い泥濘の様になった膣内を貪り、腰の動きに合わせるようにキュッと膣口で剛直を締め付けてくる反応と感触を楽しみながらプラマニクスの腟内を自分の剛直で押し分けて進み、彼女の腹の内側をこそぐように亀頭を押し付けるのに夢中になっていた。

 

「それに、そんな顔で見られてもっ…煽られているようにしか見えん。」

 

「あぁっん、ちがっちがいま、ぁ…ひぅっ!あっ、これいじょう、っきもちい、のっだめぇ」

 

「ほらっ、やっぱり気持ちいいんじゃないか。」

 

瞳を潤ませながらうっとりとした顔で制止を請われてもそれはただ更にドクターの欲望を加速させることしかできない。

 

その欲望に従ってなのかドクターの口からは普段から考えられない煽る様な言葉がどんどん紡がれていく。

 

膣奥を嬲りあげながらパンパンと肌のぶつかる音をさせてグズグズに溶けた子宮口と、尿道口がキスする度にキュウッと絞まる事を続け最早快楽しか拾わなくなってしまった腟内で、粘膜同士隙間なく密着しながら摩擦を繰り返す肉ヒダの壁と血管の浮き出た肉棒の熱く逞しい脈動にプラマニクスは惚けた顔で口を開けたままの表情になってしまっている。

 

それを見たドクターが覆い被さって無防備になった口を舌で舐めれば反射的になのかプラマニクスも舌を伸ばしてきて再び舌を絡ませ合う。

その間も絶えず剛直で腹の内側を引っ掻き抉られ続けドクターの下で彼女の身体がはねる。

 

「ひっいっ、ん、むぅ、ふぅ、んっいまっ、うごかなっいで…うごいちゃ、いやぁ」

 

「エンヤは…言葉と逆の事をされると悦ぶな?」

 

何時の間にかまた絶頂していたプラマニクスの腟内が震えるのを感じながらそれでも腰を止めずにそんなイキたての内壁を引きずり回す様にピストンを続ける。

それも快楽を拾えば拾う程に海綿体に甘える様にうねって絡み付き、誘う様に蠕動をする肉壁を堪能したくて歯止めが効かなくなっているせいだった。

 

「病みつきになってしまいそうだっ、またイキそうか?」

 

「ひゃん、ひっう!もっ、これっまた、また、あぁぁっイッちゃ、!」

 

そう官能的な声で悲鳴の様に鳴きながら真正面を見ておとがいを引き攣らせるプラマニクスを甘やかす様に耳の裏をペロリと舐めてから甘噛みを繰り返してから、長い髪の毛をどかして汗ばんだうなじに食らいつきながら逃がさないと腰を夢中で振る。

 

まだ尚も熱く猛ったままの肉棒で、入口から奥まで余す所なくじっくりとそのパンパンになった剛直の存在を教える如く肉壁をかき分けながら3度目の射精への準備が始まる。

すっかり受け入れ体勢に入った子宮口を、グロテスクで我慢汁と精液と愛液で濡れきった肉厚な亀頭で押し潰しながら、更に奥へ奥へと進まんとするように腰を押し付けて種付けが目的の様な激しいピストンを続ければ熱くぬるぬると蠕動しながら雄を悦ばせる肉壁が一層ナカの剛直を強く絞めた。

 

「っっ〜〜ひっ、はっぁ、んっっ」

 

「っぐ!っ!…はっ、気持ちいいぞ…。」

 

何度目かの絶頂で蕩けさせた腟内を震えさせながら声にならない声を上げるプラマニクスのすっかり開いた子宮口に再び込み上げた精液をドクドクと容赦なく浴びせる。

剛直を引き抜かれて胎内から抜けていく質量に震え、それから少ししてどろりとこぼれて太腿やスカートを濡らした精液の感触に「はっぁ」と淫猥な声を漏らすプラマニクスの耳の裏に口付けたドクターが彼女の腰が震えるような事をドクターは耳元で告げた。

 

「まだ、ヤれそうだ。」

 

ーーーーーーーー、

 

その後ソファに座らされ真正面で向き合う様にしながら突かれる時はずっと舌を絡ませ合いながら、うわ言のようにお互い愛の言葉を発してはまた舌を絡め合わせて零れた唾液を舐め上げ息をするのも必死だった。

くわえて擦り合わせ続け萎えぬ剛直と腟内の肉ひだが絡まる度粘膜から伝わる快楽はこの世にあっていいのかと思う程の物で。

 

執務室にグチュグチュと響く粘着質な愛液と精液の音だけが響いてドクターが腰を動かす度に繋がった部分から糸をひき、お互いの下生えをぬらぬらと濡らしてとろりと体液が繋がりつたい落ちる様子をたまに視界に捉えては興奮し、唾液同士の混ざる音とぶつかり合う肌の音が気分を更に昂らせ続ける。

 

プラマニクスはドクターの首に手を回して縋り付くように揺すられ甘くとろけてもうとうの昔に意味を持たない声を上げるしか出来なくなりながら視界を白く明滅させ腰を戦慄かせ与えられ続ける快楽と、ドクターの熱い精液を甘受して時折強くドクターの肩口を噛んだり耐える様に背中や腕に爪を立てるしかなかった。

 

腟内の全部で肉棒を締め付けながら揉んで敏感な亀頭と力強く胎内を蹂躙し続け萎えることを忘れたかの様なドクターの剛直への奉仕を怠らないプラマニクスの肉壁に、亀頭の先を擦りつける。

 

その後も何度も新しく作られ歯止めの効かなくなった精液を欲望のままに吐き出してはその度に愛液と混ざって溢れてこぼれ落ち、水溜まり様に下肢の間で溜まって服を汚し続ける淫水を見ては何度も動物の様にプラマニクスの喉元に歯を立て、射精が近くなる度に孕ませようと子宮口に亀頭の先を押し付けては腰が震える様な射精を繰り返す。

それをどれくらいの時間繰り返したのか2人には検討がつかなかった。

 

何もかも投げ捨てても構わない。

どれだけ貪っても足りない。

そんな気持ちが、溢れてしかたない。

 

プラマニクスの……エンヤの全ては余すとこなく、俺の物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドクターが上半身裸の引っ掻き傷だらけで私の所に駆け込んできた第一声は、なんだったと思う?『緊急避妊薬をくれ』だぞ?思わず人生で最大級の舌打ちをしかけるところだった……」

 

「………しかけるところだった、と言うと?」

 

ケルシーが会議の後にドーベルマンを捕まえてそんな話を振る。

ドクターの第一声的にもこれはアーミヤには話すことが出来ない内容と思ったのだろう。

確かに自分もそんな局面に巻き込まれたら確実に間髪入れずに舌打ちする。

そもそもただでさえまったく信用していないカランド貿易のトップであるシルバーアッシュの妹で、イェラグの巫女で保守派の手の内にあるなんて非常にややこしい立場にいるプラマニクスに惚れて入れあげているドクターには頭を抱えているのだから。

 

「……少しだけ、考えたのさ。もし、ロドスのドクターがイェラグの宗教代表を孕ませたとなったら、カランド貿易とイェラグはどう動くだろうか、と。」

 

「……恐ろしい話だ。」

 

「しかし起爆剤にはなるだろうとな……。その時起こすのは大規模な取り返しのつかぬほどの雪崩と言ったところか………それこそ、全てを壊すような。」

 

ドーベルマンが苦い顔をしながら顎に手を当てるが、ケルシーは表情1つ変えずにどこかに遠くを見ながら続ける。

 

「しかし同時に思ったのは保守派の代表とも呼べる蔓珠院や、保守派2大貴族にとって取るに足らない事かもしれないし、もしくは巫女の懐妊を逆手にとってロドスを味方につけカランド貿易との繋がりを断ち切らせようとするか……。」

 

「神聖で崇高な巫女を穢し貶めた、とロドスと同盟を結んでいるカランド貿易……シルバーアッシュ家をイェラグ国内で再び失墜させる新たな圧力にするか…か。どちらにしてもとんでもなく面倒になって我々の立場が不味くなるのには変わりない。」

 

はぁ…、とどちらの物とも取れるため息がこぼれる。

それに、アーミヤはどうか分からないがこの2人は薄々察しているのだ。

 

『ドクターが、プラマニクスの為ならロドスすら裏切ってどんな道にも進むだろう』と。

 

「まだ、今はまだいい……傍観を続けられる…が、もし本当にそうなったら厄介だ。」

 

「……あのドクターは本当に頭痛の種を増やす。」

 

その後ケルシーが「結局舌打ちして薬を探して投げつけ、『白衣はそこに捨てていけ』とすごんだが……全く効いた様子無く走って去った。」と言いながら舌打ちするのを見て、ドーベルマンは眉間を抑えるのであった。




プラマニクス
目が覚めたら当然ながら身体がダルすぎて動けないしドクターの自室だったし喉が痛くて声は出にくいし、腰とか首も痛いので鏡で自分の体に残った歯型や手形を見て驚いて文句言いながらも、独占欲をまざまざと主張され嬉しそうでドクターが帰ってきてからちょっとイチャイチャした。
渡された緊急避妊薬も(渋々ながら仕方ないので)飲んだ。
この後ドクターが残した伝説のせいで周りに何となく執務室ハッスルがバレて後日ドクターに怒る。

ドクター
仕事は中途半端、執務室のソファは大惨事、ロドス内を明らかに事後っぽい半裸(しかも鼻のいいオペレーター達は皆濃厚すぎる匂いで気付いた)で真っ赤な白衣片手に走り回ってオペレーターや職員を絶句させアーミヤCEOを危うく王として覚醒させるとこだったしこの事は語り草になった。
シルバーアッシュが不在だったのは救いだか耳には入る事だろう。
介抱したのにプラマニクスには後日しこたま叱られてしまったので抱きしめておいたが許されなかった。
ので1週間プラマニクス専属紅茶係になる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ご都合アーツの影響で

ご都合アーツ……ありそうで見かけないやつ


 

「お二人共体調が悪くなったりはしてませんか?」

 

「あぁ……その辺は問題ない。プラマニクスもそうだろう?」

 

「えぇ…今のところは。」

 

後方で待機していたアーミヤが、先程サルカズ術師の逃げる寸前の最後っ屁的な攻撃を食らってしまったドクターとプラマニクスを心配するも、2人曰く「ダメージらしい物は感じなかった」との事だった。

共に任務をこなしていた医療オペレーターのフィリオプシスも「問題は見当たらない」との見解を示している。

 

「最後っ屁にしては、随分と意味が分からない事したよねぇ…。それにしてもドクターを狙うなんてね、せのせいで驚いて仕留めそこなっちゃったし。」

 

ブンッ、と口元を歪めながらも不機嫌そうに愛刀を振ったラップランド。

 

「まぁ、ネコダマシ的なやつだったんじゃない?」

 

と、そんなラップランドに苦笑いを浮かべながらエクシアも返す。

 

「……そう言えば、ドクター。」

 

オペレーター達が2人に大事無いと分かり安堵から談笑気味に意見を交わすのを見守っていたプラマニクスが、隣に立っているドクターをマジマジとみる。

 

「なんだ、プラマニクス。…今日もお前はとても可愛いな。」

 

プラマニクスに呼ばれたドクターが返事を返し…突然そんな事を口にした為にオペレーター達が一斉に2人に振り返って動きを止めたあとぎこちなく…シルバーアッシュとクーリエを見た。

この任務にはこの2人もいたのである。

流石のシルバーアッシュも突然の事で面食らったような顔をしているし、クーリエも愛想のいい、いつもの顔のまま止まっている。

 

(これはプラマニクスが怒るやつだ…)

 

と誰もが思った時、

 

「えぇ…ありがとうございます、ドクター。ドクターも、その…とてもカッコイイと思いますよ?先程、私の手を引いてくれた時なんてドキッとしてしまいましたから。」

 

「っ」と息を飲んだのは果たしてオペレーター達の誰だったのか。

全員が全員言葉を失って2人を見つめる。

皆より後方にいるシルバーアッシュの方に向いて、その言葉に出来ない顔に「ぶふっ!」と吹き出したのはラップランドでそれを手で抑えて制したのはエクシアだった。

 

「そうか、プラマニクスの…綺麗な声でそう言われると、今にも抱きしめたくなってしまう。」

 

そう言いながらドクターがプラマニクスに手を伸ばしかけたところで『流石にこれはおかしい!』と慌ててアーミヤがドクターの腕を掴んで止めに入った。

 

「ド、ドクター!?ほんとにっ、ほんとにっ体に異変はないんですよね!?」

 

慌てたアーミヤにプラマニクスに触れるのを邪魔をされた事で不快に感じたのかジロっと見ながらドクターは「ない」と短く返す。

そのドクターとアーミヤの様子を見ていたプラマニクスが口を開く。

 

「むぅ……仕方ないとはいえ妬いてしまいますね。離れてください。」

 

と言うなりドクターの片腕に抱き着いて引っ張る様にしながら少しむくれたプラマニクスの頭を、いつの間にか離されている手でドクターが撫でた。

 

「安心しろ、俺はプラマニクスの物だ。」

 

目の前で繰り広げられ続ける事態に『なんだこれは』と一同が思う中、口を開いたのはエイヤフィヤトラだった。

 

「あ、あのっ…もしかしてさっきのアーツは身体へのダメージでは無くて精神に干渉するやつだったのでは…。」

 

目の前の出来事に呆然としすぎてその考えにたどり着くのが遅れたとしか言えない。

聴覚に問題を抱えるエイヤフィヤトラからドクターとプラマニクスのやり取りは明確に聞こえないものの明らかにおかしい2人の行動を見ながらそう言った傍から2人の距離がもっと近くなっている気がする。

 

「ドクターの手は……大きくてとても男らしいのに見た目と裏腹にいつも優しく撫でてくれますね。」

 

「当然だ。俺は、お前が世界の何よりも大事だからな……。」

 

そう言いながらプラマニクスの頬を撫で、それに甘える様にすりついているプラマニクスの姿に見てはいけない物をありありと見せ付けられている状況になってしまいフィリオプシスがよく状況が分かっていないイフリータの目を覆う。

 

「ねぇ!これってこのままどこまでいくのかな!?最後?最後までイッちゃう感じかな!?」

 

「オイ!なんで隠すんだよ!!なんだぁ!?ドクターとあのシロモフモフはなにしてんだ!?」

 

ラップランドがとうとう決壊した様に笑い始めたらイフリータもそれに合わせて大声でフィリオプシスに文句を言う。

 

「ちょっ!それはさすがに……いややっぱダメダメ!!リーダー!!」

 

ラップランドに『そんなことあるわけがない』とエクシアが言おうとした時には既にお互いゴロゴロ言いながらおでこをすり合わせドクターがプラマニクスの首筋に顔を埋めようとした辺りで、エクシアが駆け出した。

それに合わせて茫然自失となっていたシルバーアッシュをクーリエが引っ張りまくって正気に戻しドクターを止める為に駆けていく。

 

しかしラップランドは『このまま行くとこまでいかせようよ!』と制止するのに乗り気ではなく逆にエクシアを止めようとするし、アーミヤは思考停止だしエイヤフィヤトラはそんなアーミヤを気にかけながらドクター達を見ないようにして、フィリオプシスは無言のままイフリータの情操教育に良くない物を見せまいとしている中「あっまてよ!オレサマあんな感じの見たことあるぜ!!サイレンスとサリ」と言った辺りで口を塞ぐ方に移行していた。

なんとも阿鼻叫喚の大騒ぎである。

その中で唯一自由に動けたのは今の今まで理解が追いついていなかった為無言でフリーズしていたメテオと、ドクターサイドを止めに行ったシルバーアッシュとクーリエのみであったが、なんとか引き離しに成功した。

 

「おっ、落ち着いて!?」

 

この2人の睦みあいを見ていると昔、森でたまたま動物の交尾を目撃してしまった時の様ななんとも言えない気まずさを感じてしまう、と…メテオは思いながらとりあえずプラマニクスを止めれば、心底不服だと言わんばかりの表情を向けられた。

 

「メイユウ、ドウシタ…。」

 

「シルバーアッシュ様の喋り方がっ!それにドクターも、おちっ…力強っ!!」

 

ドクターの方は戦闘慣れして鍛えている男2人掛かりでようやく止められているといった感じだった。

それにシルバーアッシュは多分心が何処か遠くに旅立っている。

クーリエは最近、シルバーアッシュがドクターとプラマニクスのイチャつきを目撃してしまう度に酒の相手をさせられて少し疲れているので『これはまた面倒くさくなる』と内心辟易していた。

 

すったもんだありながら、なんとか両者を落ち着けたはいいもののまた油断すると引っ付き兼ねないととりあえず少し距離を置かせた。

 

 

「プラマニクスさん、あの……今はどんな気分ですか?」

 

「早くドクターに抱き締めて欲しいですね。」

 

エイヤフィヤトラの問に、手持ち無沙汰なのか豊かで兄妹の中で1番大きな自分の尻尾を抱き締めて撫でながらプラマニクスは不服そうな顔をしながら返した。

 

「少なくともアーツを受けて少しの間はこんな事なかったのに……時間差ですかね?」

 

「そうかもしれませんね。」

 

と、アーミヤとエイヤフィヤトラが話始めてその辺はあの二人に任せようとエクシアは「つまらない」と文句を言い始めたラップランドを放置してプラマニクスに話かけた。

 

「いやぁ、なんだか大変な事になっちゃったね?」

 

「大変……ですか?特にそうは思わないのですが。」

 

「うん……いや、周りがね…。」

 

「むぅ?むしろ折角ドクターといい感じになっていたのに邪魔されて私の方が大変です。……もっとずっとドクターと一緒に居たんですからね?私。」

 

と三つ編みを弄りながら少し拗ねながらも恋する少女の様に頬を赤くするいつもの様子とはかけ離れているプラマニクスを見ながらエクシアは心の中で(主よ……どうか早くこのアーツの効果を終わらせてください)と祈りを捧げるしかなかった。

 

 

 

一方ドクターの方と言えばなんとか正気を取り戻したシルバーアッシュと、肩で息をするクーリエにたち塞がされていた。

 

「俺はプラマニクスの所に行って今すぐ抱き倒した……違う、抱き締めたいんだが。」

 

「抱きたお……時と場所を考えろ盟友。ではなくて、そういうのは2人きりの時に……これも違うな。とりあえず落ち着くといい。」

 

「シルバーアッシュ様も…はぁ、落ち着いてください。」

 

最早この場に正常な状態の者は自分しか居ないんだとクーリエはため息を吐いた。

なんだって大変な労働である戦闘を終えた後こんな目に合わなければならないんだ……ヤーカの兄貴が居てくれたらと考えずに居られない。

 

「………シルバーアッシュ、この際だが……俺はとてもとてもプラマニクス…もといエンヤを愛しているのだが。」

 

「なに。あぁ、そうだろうな。ん、そうだろうな?」

 

「それこそシルバーアッシュとエンヤが兄妹であろうがその情に勝りそれよりも深く愛していと言う自負があるのでこの先も何をしてでも一緒にいるつもりなんだが…………義兄さん、もしくは兄弟と呼ばれるならどっちがいいんだ?」

 

「…ん??

 

ん?……今日は口数が多いな盟友よ。」

 

「誰かこちらに増援をー!」

 

ドクターの熱烈な妹への愛と、突然の義兄さん呼びに戸惑い顎を触りながらとりあえず思った事を遠い目をしながら言うシルバーアッシュに『もう1人では手に負えない』と匙を投げたクーリエが女性陣に助けを求めたらそのままプラマニクスも追従してきて結局また2人はゴロゴロと抱き合って「ようやく抱きしめられた」「ずっとこのまま腕の中に居させてください」と語り合いながら擦り寄り始めたせいでイキのいいラップランドまで舞い戻ってきて最初の状態に戻る事になったのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー、

 

 

 

 

「盟友が……私を兄と……エンヤの兄は私で、盟友の兄も私…」

 

「今日の若君はいつも以上に飲むな…。」

 

「いやぁ、目の前であれだけエンヤお嬢様とドクターの仲睦まじい様を見せ付けられて良く真銀斬しなかったなって……。」

 

虚ろな目でロドス内に併設されたバーカウンターにてひたすらショットで酒を飲むシルバーアッシュとそれに付き添わされる男2人の背中はどこか疲れを滲ませていた。

 

 

 

 

 

「エンヤ、ところでシルバーアッシュの事をなんと呼ぶかなんだが………」

 

「あの人の事は好きに呼んだらいいでしょ!!!それよりっ!…………も〜〜っ!私は!!!!」

 

これはドクターの自室で平然としているドクターと、顔を覆って布団に潜ったまま出てこなくなったプラマニクスとの間で起きたやり取りである。

アーツを受けた時の記憶が消える事は無かったのであった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

星空をみに

タイトルそのまま甲板で星空を見ながらイチャつくドクターとプラマニクスのお話です


 

Am/8:00

 

 

「今日は雨だな…。」

 

「そうですね…故郷では雪ばかりだったので目新しくもありますが…髪の毛の手入れに少し、手間取ります。」

 

執務室でずっとデスクに向かっていたドクターが顔を上げ、ソファで編み物に勤しんでいたプラマニクスに向けて言えばため息混じりに手を止めて、自分の髪をいじる彼女からそんな返事がきた。

予報でもそうであったように今日は午前中は大雨で、夕方から夜にかけて曇りとの事で先程見た窓には、大粒の雨が無数に叩き付けられて流れ落ちていた。

 

ロドス艦船の汚れも落ちそうだ…と考えながら少しだけ雨粒の流れを目で追ったのを思い出す。

 

「…今日は、お気に入りの場所には行けんな…。」

 

「むぅ……仕方ありません。また別の日にしましょう。」

 

本来なら今日は仕事の合間に休憩としてプラマニクスと彼女のお気に入りの場所に行こうと話していたのだが、あの場所は雨が振り込んでしまうのでこんな大雨の日には到底出られる物ではなかったし、雨が止んでもきっと濡れていて座る事はままならないだろうと断念せざるを得なかった。

 

「あぁ……しかしそうだ、エンヤ知ってるか?」

 

「はい?」

 

「雨上がりの空は素晴らしいと聞く。大気のチリや汚れが雨に混じって落ちて、空気が掃除されて…綺麗になるそうだ、雨が上がったら空を見に行こう。」

 

このドクターは本当にこういう事を思いつくとすぐに口に出すのだな…とプラマニクスが編み物を編んでいた手を止め、尻尾をゆっくりと1度揺らしてドクターに微笑みかけた。

 

「えぇ……もちろん、喜んで。」

 

『雨上がりの空は綺麗だから見に行こう』だけならロマンチックな誘いなのにわざわざ空が綺麗になる理由を添えてしまうから彼は彼なのだ、と再び作業するためデスクに向き合ったドクターを見ながらプラマニクスは1人でクスッと笑いながら再び編み物を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー、

 

PM/22:00

 

 

オペレーターに昇進に関しての手続きをしてもらった書類に目を通しまた足りなくなりつつある作戦記録をまとめ、それから製造所や発電所への配置票を整理して勤務時間を管理する…それらの仕事をしていたらすっかり夜になっていた。

 

プラマニクスはそんな仕事の途中で部屋に帰ってしまった。

なんでも読みかけの本をドクターの自室の机に置きっぱなしにしたのでそのままゴロゴロしながら読みたいとの事。

もうほとんどのプラマニクスの私物はドクターの自室にありさながら同棲の様相になっているのでドクターも好きにさせている。(あとアーミヤももうツッコミを入れる事は無くなった)

 

 

 

そうしてドクターの部屋で先日届いたばかりの新しいベットの上で、ドクターの帰りを待ちながらも読んでいた本を読み終え(ドクターはまだ仕事だろうか)と考えながらふと小窓の外を見たプラマニクスの目に飛び込んできたのは、今朝の雨が嘘のような満点の星空だった。

いつ雨が止んだのか外の音が聞こえない部屋にいたので分からないが、窓越しにみる濃紺の空に星が煌めく光景は窓枠によって1枚の絵画のように切り取られて見える。

 

プラマニクスはそれに気付くとドクターとの個人用の連絡末端を手に取って手早く彼に『仕事は終わりましたか?甲板で会いましょう』とだけ送ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「まさか、夜になってここまで晴れるとはな…。」

 

「曇り、の予報はハズレましたね。」

 

2人並んでまだ水溜まりや雨露の残っている甲板に1歩出て、空を見上げたドクターが先に口を開く。

雨上がりの独特な香りとじっとりとした空気がまとわりついてくるがこうして何時もより澄み切った星空を、愛しい相手と見ているからか、それを不快には思うことは無い。

丁度仕事を終え、自室に戻る途中だったドクターと甲板に行くなら…と紅茶をボトルに入れて用意したプラマニクスはタイミングよく通路の途中で合流することが出来た。

 

曇りの予想はなんだったのかという程に邪魔な物が存在しない星空は美しく、2人の視線を釘付けにしている。

 

「満天の星空、と言うやつだな……」

 

「雪がひとしきり降ったあとの空も澄み渡っていて綺麗ですが……雨上がりの空もなかなかですね。」

 

そう言ってドクターは横で紅茶をすすってから返事をしてきたプラマニクスに振り向いた。

 

「むぅ?どうしました…?」

 

「エンヤ、ちょっとこっちに来てくれ。」

 

そう言うが早いかドクターはプラマニクスの肩を抱いてから顔を覗き込んだ。

 

「こうして傍で星を見る方が、何倍も格別だ…。ところでエンヤ、あの星の並びだとどちらが北になるか分かるか?」

 

「えっ?え、えぇ…ええと……なんでしたっ、け。」

 

突然される行動には慣れたとは言えやはり不意打ちで顔を近付けられてピッタリと密着されるのは慣れないし胸も高鳴るものでプラマニクスは紅茶を注いだボトルを両手で握ったまま視線を泳がせる。

と言うか最初はロマンチックな事を言ったのになんで直ぐにそんな実用的な話を?ともプラマニクスは考えずにはいられなかった。

 

「ふむ……イェラグだと星の見方や星座なんかの位置、逸話も変わってくるだろうか……星座や星の名前でだいたい方角がわかるんだが……俺が知っているのだとな、」

 

そう言うなりボトルに添えていたプラマニクスの片手を掴んで離させるとプラマニクスの手のひらを包むように拳を作った。

 

(もう身体を重ねた仲とはいえ、これは……)

 

不意打ち続きで高鳴る心臓のせいでドクターの話がろくに頭に入ってこない。

拳1つ分が角度としては何度で、人差し指と親指を広げたのが15度だから親指と人差し指の先にあるのがどんな星かと言われても、そうして解説する度に指を絡ませながら解説するもので話を聞く所ではない。

 

顔には熱が集まってしまうし星空とドクターの横顔を交互に見るのに必死でまったく解説が入ってこないので「そ、そうなんですか。」といったような生返事しかできないでいる。

 

「……こうして方角が分かれば……、離れ離れになっても距離を測ってまた会えるだろ?エンヤ。」

 

そう言われてハッとしたプラマニクスがドクターの顔を見ればドクターも同じようにこちらを向いていた。

どこか寂しさを滲ませるように見えたドクターの優しげな表情に魅入ってしまう。

 

「えぇ……きっと、会えますね。たとえどれだけ離れる事になっても……私も必ずまたアナタと出会う為に尽力します。」

 

もうとっくに貴方を手放したり、貴方から離れる気は無いですけど…と言う言葉は飲み込んでドクターに微笑み返す。

プラマニクスはドクターの手から己の手を離してコートの襟を自分側に引っ張りながら背伸びして、夜空と同じように深く濃い青色の瞳に吸い込まれるままドクターに触れるように口付ける。

 

顔を離してからふと我に返って赤面するが、ドクターは少し驚いたように目を開いた後プラマニクスの腰を抱き寄せて顔を近付け、額同士を合わせた。

 

言葉を交わさなくてもなんとなく、お互いに「この先もこうしてずっと2人でいたい」と思っているのが伝わって心が満たされ軽くなるような感じがした。

 

「これから私が見る景色の中に……必ずいてくださいね?ドクター。」

 

「あぁ、もちろんだ……俺は何があってもエンヤの傍で同じ景色を見て、お前の世界にいる。」

 

「ふふ、そう言ってくれるのは分かっていましたが、やはり言葉にされると嬉しいですね。………ねぇドクター、いつか一緒に故郷の……イェラグの空も見ましょう?」

 

「そうだな……是非とも見たい。その時は今日のように、エンヤと2人で。」

 

ふわりと微笑んでスリ…とドクターの額に自分の額を寄せ返す。

そんなプラマニクスを見ながらドクターは更に強く(エンヤと引き離されてたまるものか)という気持ちを胸に刻むのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。