JCの夜凪景は役者より先に女になった (尾張のらねこ)
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本編
夜凪景は対価を払おうとした


 夜凪(よなぎ)(けい)の母親が亡くなり、とどこおりなく……というには少々問題があったが、とにかく葬式まではなんとか終えることになった。

 

 大好きな母のいない生活は、しかしその空虚さという意味で、景の心を蝕んだ。もしルイとレイがいなかったら、景はここで壊れてしまっていただろう。心が壊れて自暴自棄になった美少女の人生は、あまり良い方向に進むとは思えない。

 

 尤も、この時点でルイとレイ以外にも景の心の拠り所となる身内はまだ残っていた。それはもちろんいなくなった実の父親などではなく、母方のイトコである(いつき)である。

 

 

 景の四歳上のイトコである樹は、いまは離れて住んでいるためここしばらくは直接会うことはなかった。そのため一時期ほどの交流はなかったが、定期的にメッセや通話のやりとりはあり疎遠というほどでもなかった。

 

 最近は少し気恥ずかしかったが、親しみを込めて景は小さな頃から「樹おにーちゃん」と呼んでいた。いまでもうっかりするとその呼び方が出てしまうくらいには、彼に対して気を許している。

 

 もともと小さい頃から親戚付き合いがあった二人の仲は良かった。実の妹同然に大切に可愛がってもらってもいた。

 景の記憶にはかけらも残っていないが「おにーちゃんとけっこんする」と騒いで樹の両親を大喜びさせたこともあるらしい。その時の樹本人の反応は結局教えてもらえなかったが。

 

 小学校の頃は樹が家族とともに近所に住んでいたこともあり、いつも一緒に遊んでいた記憶があった。イトコだが気心の知れた幼馴染と言ってもいいだろう。色気はないとはいえ幼い頃から整った顔立ちの美幼女や美少女だった景を狙う、おかしな男たちから守ってくれたことも幾度となくある。

 

 幼い子供が無条件に自分を守ってくれる存在に心を許すのは、ごく自然な流れだったと言えよう。景の場合はそれが母親であり、もうひとりは樹だった。色んな意味で学校で浮いていた景に、他に親しい友人や異性はいなかった。

 

 

 

 葬式のあと、小さな家族三人だけの生活がしばらく続いた。襲いくる寂しさと生活の苦しさに中学生の少女が音を上げかかった頃、樹から唐突に連絡があった。

 

 景と双子が住む家を、一度訪れたい、と。

 

 景の心情的には突然発生した樹の訪問ではあった。まだしばらくのあいだ、彼に会えるとは思っていなかったので素直に嬉しくはあった。

 

 数日後に現れた樹は、死の知らせを受けたとき国内にいなかったので叔母である景の母親の葬式に間に合わなくてごめん、と詫びたあと、景たちの事情を把握しているのか、

「景が父親のお金を遣いたくないというのなら、僕に三人分の生活費を出させてもらえないか。施しが嫌だというのならカタチだけは無催促無利子の借金扱いで、景が働くようになって余裕ができたら返してくれればいい」

と切り出した。

 

 

 年齢で言えば成人するかしないかほどで大学生くらいの樹がそんな事を言いだしたことに、景はまず驚いた。いいかげんな申し出ではなく、彼がそれを叶えるだけの金銭的な余裕を持っているということにも。

 詳しくは教えてもらえなかったが、すこし特殊な仕事やら遺産やらでお金があるというのは事実らしい。

 そして、そんな事を言ってもらえたことが、とても嬉しくて、頼る相手のいない生活の中ですこしずつすり減っていた心が暖かくなるのを感じた。

 

 申し出の内容は断ったが。樹の表情が少し曇ったのを見て心が傷んだ。

 

 樹は色々あって金銭的に困っていないから遠慮はいらないと言ってくれる。というものの、つつましく暮らす子供とはいえ家族三人が過ごしていくための生活費である。近く親しい親戚で身内扱いとはいえ気軽に貰ったり借りたりするような金額ではもちろんなかった。

 

 そもそもそんなことをするくらいなら、毎月入ってくる父親からのお金を景が使えばいいだけの話である。それをしないのは現実的で金銭的な理由よりは景の意地というだけの話で、新聞配達のバイトを含めて一応かつかつながら生活できるとの目算があるからにすぎない。それが、たとえ少し甘い目算で見積もりであり、景の精神を少しづつ削ることになっていたとしても。

 

 

「ありがとう。でもやっぱり話はすごく嬉しいんだけど、お世話になるような額じゃないと思うわ」

 

「そうだね。僕だっていきなりこんな事言われたら断るかもしれない。でも僕のお金よりも景とルイとレイの幸せのほうが大事だって思うのは、僕のわがままかな?」

 

「そんな、ことは……」

 

 景は口ごもるも、どうしても施しのように与えられたそれをただ言いなりに受け取りたくはなかった。なぜそんなに意地を張ってしまっていたのかは、あとからその時の自分の感情を追憶してみた景にもよくわからない。ただ単に格好をつけたかっただけなのかもしれない。大好きな樹おにーちゃんに。

 

 あとから景が思い出してみても、この瞬間まで樹は純粋に援助を受け取ってほしかっただけなのだと思えた。おそらくは、この瞬間に樹は思いついてしまったのだ。景にお金を受け取らせる、たったひとつの冴えたやりかたを。

 

 

 

 もしどうしても気がとがめると言うなら、とぽつりと言ったあと、(いつき)は次の言葉を続けるのをしばらく躊躇していた。苦悩するように、瞳が揺れる。

 

 なにを言いよどんでいるのか、と。景はそんな樹のことを首を傾げながら不思議そうに見ていた。発することを躊躇するほどの言葉になにがあるというのかがわからない。

 

 樹のそれは初めて見る表情で、熱の籠もった瞳はまっすぐに景のことを見ている。頬や耳がすこし赤くなっているのも見えた。発熱があるというわけではないと思うのだけれど。

 

 

「僕が出すお金に、景ちゃん自身が対価を払ってくれるというのはどうかな?」

 

 想像もしていなかった言葉が、樹の口から飛び出してくる。

 

「景ちゃんの身体を、お金で買うよ」

 

 それは、樹おにーちゃんが恥ずかしそうに切り出した、景との性的な関係の申し出だった。

 

 

 

 驚きはしたものの、景の心情的には樹の申し出に対して特に否定的な感情はなかった。文字通りの援助交際だが、交際しなくても援助すると言っているのを(景が)無理やり交際させろと迫っているに等しい。

 その手があったのかと景はむしろ悔しがった。なぜ自分から先にそれを言い出せなかったのかと。樹おにーちゃんに自分を無理なく売りつけるチャンスだったのに。

 

 見てくれは文句のないほどの美少女ではあったが、いやむしろそれだからなのかもしれないが、夜凪(よなぎ)(けい)の思考はすこし世間からズレていた。

 

 

 どちらかというと景の懸念は他のところにあった。自分の身体が樹の嗜好に合うかどうかの一点である。

 樹が年上趣味だったり巨乳好きだったら、むしろそれは不必要に押し売りをしてしまうことにならないだろうか?

 

 もともと無料でいいというのを断ってマイナスで売りつけるなど厚かましいにもほどがある。樹の提案を聞いた瞬間からすでに景は自身を買ってもらいたかったが、押し売りをしたいわけではない。年上にはどうあがいてもなれないが、自分の未来のおっぱいにはまだ可能性がある。あるったらある。

 

 拙速はことを仕損じるかもしれない。数年後まで待ってもらうというのはどうだろうか。いや、待てば貴重な付加価値であるJC(微乳処女)がJK(微乳処女)になってしまうだけではないのか。

 いっそ押すべきは今ではないのだろうか?

 

 結論は出ない。景はぐるぐる目で迷走していた。

 

 



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夜凪景は美少女の価値を知った

「私は処女だし、痩せてるし胸もないし色気もなくて、せ、セックスしても(いつき)が気持ちよくなってくれるかどうかの自信がまったくないのだけれど。それでもいいのかしら?」

 

(けい)ちゃんは美人さんだし、昔から可愛いと思ってる僕にとっては最高の女の子だけど」

 

「えっ!? びじん……かわいい……?」

 

「ただ金で抱きたいと言うなんて、景ちゃんに失礼かもしれないけど」

 

「だきたい……!?」

 

「やめとく?」

 

「あっ、ごめんなさい。嫌なわけでもなくて、その、どちらかというとそんなこと言われて嬉しくて舞い上がってしまっているというか、あらためて抱きたいなんて言われると思ってなくて……これって、おかしいのかな私。どきどきしてる。恥ずかしいわ」

 

 困ったように、景がぎこちなく微笑む。笑顔の表情筋があまり仕事をしないのは昔と変わっていないようだった。すこし早口だったのは焦っていたのかも知れない。

 

 

 他の誰かだったら馬鹿にされていると誤解をしたり怒ったりするかもしれないな、と思いついた樹は、それとわかる景と親しい自分の立ち位置に少し優越感を感じていた。

 

 その様子を見る限り、離れていた間に景に好きな男の子ができていたり、お付き合いをしていたりということはないようだ。樹はほっと息を吐いた。

 

 妹のように見るようにはしていたけれども、まったく異性として惹かれていなかったというと嘘になる。独占欲的なものがないわけではなかった。

 

「他の誰よりも、景ちゃんがいいんだ」

 

 ぽろっとこぼれだしてきたその素朴な言葉は、景の心を即座に撃ち抜いた。

 

 

 

 実のところ、景は異性への恋愛というものがよくわかっていなかった。見てきた映画の中に無数に存在してはいたが、女子中学生が恋愛の参考にできるかというと微妙に思える。

 

 一方で、身内への愛は溢れんばかりに持っているし自覚もあった。身内枠であり異性でもある樹の願うことは、景にとって基本的にその愛の範疇内で叶えるべきものとなる。まして自分の求める方向と一致しているのならなおさらに。

 

 景の愛は割と重い。美少女だからとそこらの中高生が簡単に手を出せる相手ではなかった。が、樹にはむしろご褒美にしか感じられないかもしれない。

 

 幼い頃からの幼馴染的な年月は伊達ではない。愛の重さではお似合いの二人と言ってよかった。

 

 

 

「お付き合いでもいいのに、お金でって言ってくれたのは、そうしたほうが私が納得できるし、負担に感じないと思ったからなんでしょう?」

 

「過程を飛ばす理由がはっきりしてたほうがいいかなって思ったのは確かかな」

 

 樹が突然そんな提案をしてきた不自然さは、景も当然把握していた。

 

 

「自分を貶めてでも、私を助けてくれるつもりなんだから。……そんなに、ひどい顔、してたかしら」

 

「……手から儚くこぼれていきそうだったから、すり抜けていく前に掴みたかったんだ。僕と男女の繋がりがあれば、景ちゃんは壊れたりしないでしょ?」

 

「樹おにーちゃんが、そうしたほうがいいと思うのなら、たぶんそれが一番良い選択なんだと思う。そうして欲しいわ」

 

 

 気がつけば樹は見蕩れてしまっていた。

 

 自分の身体を確かめるかのようにかるく腕で抱く景に。不安を感じている様子はない。それは拒否ではなく、指先が震えていたりもしない。彼女からの許しと樹への信頼がそこには現れていた。

 

 『樹おにーちゃん』と、景が久しぶりに呼んでくれたことも含めて。

 

 その少しきゃしゃな身体つきの美少女を、好きにして――抱いても処女を散らしても良いとはっきり許可がもらえたのだと。

 

 

「ありがとう。私たちを助けに来てくれて。私が受け入れられるようなかたちにしてくれて」

 

 景の澄んだ瞳がじっと見つめてくる。

 

「……言葉づらだけ聞くと、やってることは外道っぽいけどね」

 

「当人同士が納得してるなら、それでいいじゃない?」

 

 おかしそうに、景がくつくつと笑った。自分の身体を売るという話なのに。

 

 歳下の少女からの信頼というのは男としてどこか誇らしい。照れながらもそのもらえる信頼に喜びが湧いてきた。

 

 なによりも、すこし支離滅裂な提案をした、樹の心の奥まで理解しようとしてくれたことが嬉しかった。

 

 

 

「景は制服姿も可愛いよね。ところで、なんで着替えたの?」

 

「……女子中学生としての価値が高まるかなと思って。できれば一緒に着て、一緒に通いたかったのだけれど。無理だったし」

 

 歳が離れているので、樹が中学校に上がってからは一緒の学校に通ったことはない。学校外で頻繁に会っていたので、樹の制服姿は結構見ていたけれども逆の機会はあまりなかった。

 

 

「……思っていたよりも恥ずかしいわ」

 

 樹に見つめられている景の顔に、少しだけ赤みがさした。黙ってじっと見られていることに恥ずかしさを感じたのかもしれない。

 

 景は学校で授業を受けるときと同じ姿だった。制服のすこし長めのスカート。学区が同じため、樹も通っていた中学校の制服には見覚えがある。数年前には自分もその制服を着た少女たちと並んで授業を受けていた。もちろん、その中に景はいなかったが。

 

 樹の記憶の中にある別の少女の制服姿と、景の制服姿が重なる。幻視の中に、教室の中の景がその制服姿ですごす日常が浮かぶ程度には。

 

 

「生徒会とか風紀委員とか似合いそうだよね」

 

 景は姿勢がいい。凛とした感じで、透き通った存在感がある。まだ子供と言っても通る歳なのに。

 

「人をまとめるのには向いてないから、するとしたら補佐とかかしら?」

 

 きりっと整った顔立ちの美少女である。週刊誌の巻頭グラビアで水着特集が組まれていてもおかしくないほどの。水着を披露するにはやや胸に不足はあるかもしれないが。

 

 なぜか容姿の本人の評価は低いが、美少女すぎて周りが接触しないから評価がつかないのかもしれない。母や樹など、身内枠からの褒め言葉はお世辞と思っているフシもある。

 

 実は学校などでは仲良くしようと近づいても拒否される、つんとした猫のような存在だと思われていた。笑顔の表情筋が仕事をしないので、景は誤解をされやすい。実際には警戒心は強いが一度認めた身内にはとろとろに甘えるワンコだったが、それを知るものはほとんどいなかった。

 

 

「……どうしたんですか、先輩?」

 

「いやちょっとまってそれ卑怯」

 

 唐突に小芝居を始めた制服姿の景にやられたのか、樹の瞳に情欲の色がすこしだけ混ざる。

 

 もちろん我を忘れて襲いかかるなどということもなければ、景に酷いことをするつもりもなかった。お金を払って女子中学生のまだ幼い身体に破瓜のきずあとをつけるのを酷いことと見ないかどうかは、その人によるかもしれないが。

 

 

 

 

 茶番でしかなかったけれども、条件については二人で真面目に話し合いをすることになった。

 

 一応の契約としては、夜凪(よなぎ)(けい)の処女喪失については200万円の価値があることとした。女子中学生の処女の値段として妥当なのかどうなのかはよくわからない。最初は樹が1000万円と言い出して、目を見開いてしばらく固まった景を見てなにを勘違いしたのか値上げをしようとしたので慌てて止め、高すぎると値段を下げさせた。

 

 そもそも、いくら美少女でもいずれは好きな誰かに無料で捧げていたであろうものである。やや例外はあるだろうが、世間でもだいたい無料で配られている。仮に告白して普通にお付き合いをした過程で樹が望むなら、景もそうしただろう。少なくとも、景の自己評価内ではその値段は高すぎた。

 

「ふふっ……」

 

 まさか自分の処女の価値を値切ることになるなんて、と景は不思議な気持ちになった。昨日の自分にそんな事を言っても信じるとはとても思えない。不謹慎と言うなかれ。おかしくなって、うっかり少し笑ってしまったのは景だけの秘密である。

 

 それがとても自然で、見てしまった樹の心をとりこにするほど魅力的な笑顔だったというのは、しばらくのちに聞くまで景が知ることはなかった。

 

 

 




R-18の日間ランキング2位に入ってました。ありがとうございます。




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夜凪景は大人のキスをした

 

 抱くのならちゃんとしたホテルに行こうという(いつき)に反対して、(けい)は自宅の畳の上に布団を出した。女子中学生である景と大学生(相当年齢)である樹の組み合わせを追求されたら困るという不安もあったし、ルイとレイが帰ってきたりなにかあったときにホテルでそういうコトをしているなんて、と考えるのも落ち着かなかった。

 

 綺麗なホテルの一室で樹に抱かれるのに憧れないでもなかったが、ずっと住んでいる見慣れた部屋で抱いてもらうほうが安心する。なにより無料である。景は家庭的かつ貧乏性だった。

 

 自宅は自宅で双子が突然帰ってきたらどうするのかという問題はあったが、樹が

「そのときは風呂場にでも飛び込めばいい」と言えば

「風呂場で続きをしたら声が響くからダメよ」と景が返した。

 いや、景だけ裸の理由がつけばという意味なんだけどと樹は苦笑する。樹は下だけ履いてしまえばなんとでも誤魔化せるだろう。

 一瞬遅れて景も自分がなにを口走ったのかを理解して赤くなった。

 

 まあ、ルイとレイになら見られてもいいか、くらいには思っている二人である。

 樹は双子とも仲が良かった。別に見られたいわけではないし、実際に本当に二人が物理的に繋がっているところを見られたらかなり恥ずかしい思いはする気がするが。

 後日、悪気もなく同席した人にぽろっと暴露されそうなところも恐ろしい。

 

 ……とりあえず、その問題は棚上げすることにした。

 

 

 

 ()()まえにお風呂場のシャワーを使ったほうがいいのかしら、と考えて、景はどっちも選べずに羞恥に身悶えた。

 

 そういうことをする準備として身体を身綺麗にするのも恥ずかしいし、かといってそんなつもりで手入れのされていないままの身体を余すところなく樹に晒すのも恥ずかしい。これでも女の子なので。

 

 もちろん、樹が来るのはわかっていたので今朝シャワーは浴びて身綺麗にはしていた。その後に汗とか匂いとかが増えていなければ問題はない……のだが。どうなんだろう。

 

 している途中で色々と触れられたり舐められたりするものらしいし。変な味とか匂いとかしてたら困る。とても困る。具体的には恥ずかしくて死ぬ。

 

 

「大丈夫だよ、汗臭くもないし。むしろ景ちゃんからはいい匂いがするし、肌は綺麗だし毛は薄そうだし。まあ、どんなだったとしてもたぶん興奮するけど」

 

「樹おにーちゃんはそういうところ、気遣いができそうなのに残念だって女性から言われたりしないかしら?」

 

「……言われる。ここは一緒にお風呂に誘うべきところだったのかな……」

 

「残念度が増したわ。これから抱く処女の女子中学生と明るいなか裸で洗いっことか、犯罪臭しかしないと思うの」

 

「まあそうだよね。でも先でもあとでも景ちゃんが身体を洗ってる間ずっと待ってるとか無理。気力が持たなそう」

 

 というやり取りの末、シャワーは浴びずにそのまま続行ということになった。別々に入って一度仕切り直したら冷静になって行為自体を続けられなくなるかもという懸念のほかに、相手の体臭やその他に互いに微妙に興味があった可能性も否定はできない。

 

 

 

 ふたりとも、いまからする行為に緊張していた。布団を前に座り込んで向かい合っているのに、視線があからさまに泳ぐ。

 

 景は処女だったし、樹は童貞ではないが、ある意味当たり前だが景のような年齢の初めての少女を抱いた経験はなかった。

 

 ふたり揃って、ことをどう進めればいいかで迷う。

 

 

「できるだけゆっくりするし、景ちゃんの身体の準備ができるまではしないつもりだから」

 

 意を決して抱き寄せると、ぽすっと腕の中に落ちてきた景の耳元で、樹は囁くように告げた。

 

 以前より背が高くなってはいたが、それ以外はまだまだ成長途中の景の身体である。過度に痩せているというほどではないが肉付きは薄いし多分ものすごく軽い。胸も含めて脂肪は薄かった。全体的にまだまだ開花には遠いつぼみといった印象が強い。

 

 でも抱きしめれば確かに女の子の柔らかさで、遠慮がちにしがみついてくる腕がくすぐったく、触れた布越しの身体は温かい。いまこのときの景はいまだけの未成熟な魅力に溢れていた。

 

 景という美少女の身体はまるで麻薬のようだった。溺れれば、容易く帰ってこれなくなるだろう。

 

 

 抱き合っているだけで、景は幸せだったしふわふわと身体が浮いているような気分だった。

 

「こうして相手と抱き合っているだけで、受け入れる準備ができたりはしないの?」

 

「個人差もあると思うけど、これだけだとさすがに難しいんじゃないかな」

 

 樹はできるだけ景の身体をほぐしてとろとろに蕩かして、不安や痛みをなるべく感じない初体験にしてあげたいと思っていた。途中で樹が暴走する可能性も否定はできないが。

 

 この男を蕩けさせる美少女の誘惑に耐えなければいけない。

 

「僕らが互いに触ったりキスしたりしてたら、えっちな気分になるとは思わない?」

 

「どうかしら。もうそういう気分な気もするけど。……身体のほうはよくわからないわ」

 

「それはこれからちょっとずつ確認してみるよ」

 

「……まずはもっとぎゅって抱きしめて」

 

 自分より大きな樹の身体に抱きしめられると落ち着く。昔からそうだった。常に景より大きな樹に安心とともに悔しさを覚え、せめて並びたかった。樹はもう大人の男の身体をしている。追いつくのは無理だろう。

 

「痛くても怖くても、私のためなのはわかっているわ。だから、乱暴に扱ってもどんなふうにしても……」

 

 いいの。

 

 同じように耳元で囁き返されて、樹はいきなり暴走しそうになる。

 

 控えめに言っても歳下の可愛いイトコは天使だと思っていたが、小悪魔のツノを髪の中に隠している可能性を否定できなかった。

 

 

 

 抱きしめあったまま布団の上に移動する。景が、制服姿のままその身体をころんと布団の上に横たえた。視線は樹を見たままで、どこか楽しそうに見える。

 

 これからすることを考えれば、どこか場違いなゆるい空気感が漂っていた。これから景がするのは未知のことだが、する相手のことはよく知っている。

 

 

 すでに少しだけゆるめられた制服で布団の上に横たわる景の頬に、樹の手のひらが優しく触れた。間髪なく、景がその手の甲を自分の手のひらでさらに包む。すりすりと、猫が顔を擦り付けるような仕草で、そのまま景の顔が揺れた。

 

 樹が顔を近づけると、景は期待と覚悟をもってゆっくりと目を閉じた。互いの唇が遠慮がちに少しだけ、でも確実に触れる。

 

 少しだけ角度を変えて、もう一度。さらにもう一度と、どちらからともなく求めあう。

 

 

「そういえばファーストキスの値段はつけてなかったし、これは特別サービスということにしておく?」

 

「なんでそう、僕がむらっとする情報を小出しにしてくるのかなこの小悪魔」

 

「相手がいないから。これまでキスなんてしたことがなくて当たり前じゃない」

 

 ちゅ、と景のほうから唇を突き出せば、ぷにっとした感触を楽しみながら、樹も応える。

 

「じつは景ちゃんが小さい頃、僕としたことあるんだけどね」

 

「……覚えてないわそれ。本当なの?」

 

「どうかな。でもやっぱりこれが最初ってことでいいや」

 

 

 どちらから求めたのか、両手の指を互いに絡ませあっていた。いわゆる恋人繋ぎの状態で、それ以上溶けあえないもどかしさを埋めるように、ぐっと握りしめられたまま腕は布団の上に落ちる。

 

 男に布団に組み伏せられた少し乱れた制服の女子中学生。作り物めいたほどの美しさを持つ顔が、ほんのすこしだけ崩れた。蕩けて、雌の表情を見せる。

 

「もっと……いっぱいして?」

 

 樹は自分がこれまでにないくらい興奮しているのを感じていた。股間に昂りを感じると同時に、景と肌を触れ合わせたくてたまらなくなってくる。唇も手のひらもぴったりと隙間なく合わせ絡めても、まだまだ足りはしない。身にまとう邪魔な布は取り去って、身体中で相手のぬくもりを感じたかった。

 

 おそらくは、景もそうなのだろうと思う。

 

 上から覆いかぶさっている樹の胸板が、景の胸を制服の上から押しつぶした。触れたままの唇の隙間から、舌が差し出されて絡み合う。先に舌を絡ませたのはどちらだったか。くちゅくちゅといやらしく唾液を交換する音が響くうちに、二人の吐息も荒くなっていく。

 

「……んっ……はぁっ……。こんなキス、清純な女子中学生に教えて、どうするつもり……? 道を誤ってしまうわ。人生の先はまだ長いのに」

 

 景のお腹の中に、痺れるような感覚が生まれていた。いやらしいキスをするたびに、それに対応するようにじんわりと湧き上がってくる。身体の芯が濡れたような奇妙な感じもした。

 

「……その、オンナノコの準備って、これ?」

 

 思わず下腹部に手を当てる。女性にしかない器官が、なにやらお仕事をはじめたのかもしれない。

 

「あとでちゃんと確かめるから、いまはこっち」

 

「なにを確かめられるのかしら……」

 

 至近距離で見つめ合う会話のあいまに、唇を合わせていく。互いに背中に回した腕できつく相手を引き寄せた。密着しても、なにか足りない感じは残っていたが。

 

 

「……このまま続けたら貞操の危機だわ。あ、もう良い値段で売れてたわね」

 

「買ったね。値切られたけどね……」

 

「一生に一度のものとはいえ自分で見たこともない小さな膜にあの値段とか、現代社会は色々と病んでると思うの……」

 

「痛いと思うから慰謝料的なところも含めて、と考えておこうよ」

 

 痛くすることは前提なので、慰謝料が含まれてるのはおかしい気もしたが、そんなものかと景は納得しておくことにした。

 

 

 ……もし痛くなかったらどうしよう? 返金?

 



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夜凪景は裸になった

 深いキスをしながら抱き合えば、当然の結果として下半身も絡み合うことになる。(けい)の両脚の太ももを割るようにして(いつき)の脚が挟まっていた。景の脚にも触れた布の中で、窮屈そうに膨らんだ樹の男性器が存在を主張している。

 

「大きくなってる」

 

「まあ、それなりに」

 

 やや厚い布越しのはずなのに、景には妙にそこが熱を持っているように感じられた。しっかり見たり触れたことがあるわけではないが、それがなにであるかの知識くらいは当然として景にもある。そういう欲望を受ける対象として見られやすい少女でもあった。

 

 自分という存在が男の興奮を呼んでいるということが嬉しいと思ったのは、景には初めてだった。それで嫌悪感や忌避感を覚えたことは、数えきれないほどあったのに。

 

 

「これ、すこし触ったりしたほうがいいのかしら」

 

 太ももに布ごしに押し付けられるそれをどうしてあげるのが正解なのか、経験がない景にはよくわからない。苦しくはないのだろうか。一度出せば落ち着くとなにかで読んだことがある気がする。

 

「その、平気ならちょっとだけお試しで、してほしい」

 

「わかったわ」

 

 ごそごそと身じろぎながら腕を自由にして、景の指がひとまず樹のお腹に触れる。なぞるようにして下がっていき、布の上から膨らみに触れると、試しに指先できゅっと軽くはさんだ。

 

 

「……なんかすごくその、大きくてカタいものなのね」

 

「そりゃ景ちゃんとこうしてるんだ。興奮してる」

 

「興奮した分だけ大きくカタくなるものなの?」

 

「まあ、限度はあるけど。っ……」

 

 遠慮も躊躇もする気はないのか、するっとへその下から景の指先が下着の中に侵入して、樹の大きくなったものの先端にじかに触れた。漏れた先走りが溜まっているところをかすめて、竿を包み込むようにして指先が滑っていく。

 

 指が少し濡れたせいで滑らかになった分、景の指先は敏感なところに快感を与えていった。軽く握られるだけで、樹の腰のあたりからぞくりと痺れるような感覚が背筋を抜けていく。気持ちよくて、腰がびくんと跳ねた。

 

 

「……うぐ」

 

 景がそんなことをしてくれていると考えるだけで、樹は頭がくらくらするくらいの快楽を得ていたが、さすがにそれだけで出すわけにはいかないと、なんとか耐える。

 

 それを不思議そうに、どこか嬉しそうに、樹の男性器を初めて手の中に握りながら景は見ていた。時折ぴくぴくと手の中でそれが跳ねるたびに、樹が恥ずかしそうに視線をさまよわせる。

 

「景ちゃんの指、すごく気持ちいいんだけど」

 

「こうかしら?」

 

 すこしいじわるがしてみたくなる。年上のイトコをこんなに可愛く感じるなんて思わなかった。こしゅこしゅと、動かしづらい中で手のひらを前後に動かしていく。

 

「その、さすがにまずいから、とりあえずそのあたりで」

 

 乞うような熱い吐息が漏れるのを聞くまで、景はそれをゆっくりと続けた。

 

 

 

「教えてくれれば、舐めたりしたりも出来ると思うの」

 

「……あとでね」

 

 女慣れしていそうだと思っていた樹に意外と余裕がないことが、景には嬉しかった。女性に対する経験値がというよりは、景に対する興奮で余裕がなかったのだが、そこまではわからない。

 

 手慣れた誰かに滞りなく導かれていくよりも、ぎこちない樹とわたわたしながら行為を進めていくほうがきっと楽しいに違いない。

 

 景は今日のことを一生忘れないだろう。できれば、樹にもそうであって欲しかった。

 

 

 

 脱がし合う……というには少しぎこちなくてうまくいかなかったが、二人は互いに協力しながら服をすべて脱ぎすてて全裸になった。

 

 

「自分で、脱ぎます、からっ」

 

「ダメ」

 

「くうっっっ」

 

 景のブラとショーツは樹の手によって脱がされた。自分で脱ぐのを許してもらえなくて、涙目になった景を見て可愛さのあまり樹が悶絶していたが。

 

 脱いだ服は脱衣場に持っていくことも考えたものの、ルイとレイが来たときに備えて部屋の隅に目立たないように畳んで置いておくことにした。裸なのを気にせず丁寧に服をたたむ景が日常感を醸し出す。女子中学生なのに景には新妻の風格すらあった。

 

 

 気持ちを仕切り直して、裸のままなぜか向かい合う。急に互いに照れが来て、真っ赤になるタイミングまで一緒なのがおかしかった。

 

 身体を寄せて軽く口づけると、景はそのまま逃げるように布団に身体を横たえる。困ったように上目遣いで樹を見た。横たわったまま、指を伸ばして樹の脚に触れる。

 

「この歳で裸の見せあいっこするなんて、なんだかおかしいよね」

 

 くすくすと笑って、布団の上をごろんと転がる。無邪気さの中にほんの僅かに媚びを混ぜて、樹を誘った。

 

 

 

 歳下のイトコであり幼馴染でもある夜凪(よなぎ)(けい)の裸身は、樹の昔の記憶からおぼろげに想像していたよりも数段美しく、樹を興奮させた。思わず息を呑んだ樹に、恥ずかしそうに景が笑う。

 

「裸を見て見られてすごく恥ずかしいのに嬉しいって、どういうことなのかしら」

 

「すごく綺麗で、すごくいやらしく見えるよね」

 

「お互い様だと思うけど、ありがとう?」

 

 

 肩甲骨の下あたりまで無造作に伸ばされた景のややくせのついて跳ねた綺麗な黒髪が、布団の上に扇状に広がっている。頭頂部から一筋だけピンと立った特徴のあるくせ毛が、重力に負けずに額の前にかかっていた。髪はすこし伸ばすようになったが、髪型は小学生の頃とほとんどかわっていない。

 

 恥じらって身体を丸めている景の裸は、樹に全部見えているわけではなかった。それでもやや薄いながらもふっくらと女の子らしく膨らんだ形の良いおっぱいと、しっかり肉が付きながらもキュッとしまったお尻と、なによりまだ毛が薄く割れ目の部分がほとんどあらわになっている股間が、樹の目を引いた。

 

 

「景ちゃんの裸は……えっちです」

 

「なんで敬語なの」

 

「いやこんな天使みたいに綺麗なのに、こまる」

 

「語彙が退化してない? 私からしたら、樹の身体も綺麗に見えるけど」

 

 

 鍛えられているというほどではないが年相応に引き締まった樹の裸体に、景が指を這わせた。男性の身体にあらためて触れるというのも新鮮な体験ではある。皮膚の下の脂肪がいくぶん薄く、ゴツゴツしているような感じもしたが、腰もお尻も女性とは違う形状なりに引き締まっている。

 

 景は樹の裸に見とれていた。

 

 女性とは違うけど、これは造形美というのだろうか。もちろん映画に出てくるような肉体美というほどではない。それに景のひいき目が十二分にあるのは間違いないが、この際そんなことは些細なことだった。

 

 ただ、股間にすごく大きな棒状のものが張り出ているのが目立ったけれども。複雑なのにどこか愛嬌があるかたちをしている。あとで景の身体におさまるであろう男性器官。

 

 映画にも美術館の裸体像にも、そんな大きさのものはなかった。いやらしいもののはずなのに、上を向いて伸びているさまはどこか滑稽にも見える。

 

 景は樹の裸でなごんでいた。

 

 

 

「景ちゃんの年齢なら、生理はもうあるんだよね?」

 

「あるわ。周期は割と安定してるほうだし、そういう意味での心配はあまりしなくても大丈夫。今日はたしか、かなり安全な日ではある、のだけれど。できれば、付けないでしてほしい」

 

 ある意味男の夢である、ナマでして。というのを景ほどの美少女に真顔で請われて、樹の頭が混乱する。

 

「いやちょっとまって。絶対大丈夫とかないし、やっぱりよくないと思」

 

「もし普通ではできないはずの日の行為で赤ちゃんができたら……それはそういう運命だってことだと思うの。樹おにーちゃんのお嫁さんとして予約して、そのまま産むということでどうかしら? もちろん、ルイとレイも一緒で暮らしてくれるなら、だけれど」

 

 プロポーズじみた言葉が出てきて、樹は思わず絶句する。現実味の少ない、実現は困難であろう未来に対して、わずかばかりの疑いも持たずに幸せな夢を語るその表情に。

 ほぼ名目上だけとはいえ、景の弱みにつけこんで金銭でその身体を好きにしている相手に対する溢れんばかりのその愛情に。

 

 そうだ、景とはこういう存在であったのだと、樹は改めて思った。

 身内に対する、無条件の信頼と愛情。そしてそれを裏切ったモノに対する憎しみ。

 重いといえば重いだろう。普通の男なら腰が引けるであろうそれを、だが樹は喜びを持って受け止めた。

 

「なら、覚悟には応えるよ」

 

 心が弾んでしまうのを止められない。年長者として止めるべきことなのに。

 

 景の初体験は、生えっちでということになった。それがどんな結果を生むのか、この時点ではもちろんわからない。互いのうっすらとした覚悟だけはあったが。

 

 

 景と樹のふたりに共通するのは、血なのか、遺伝的なものなのか、それとも育ってきたその環境か。

 それが一方通行の想いではないあたり、お似合いの相手ではあった。お互いに。

 

「景にこんな病んだ愛情を持つなんて思ってなかったんだけど」

「樹にこんな澄んだ愛情を持つなんて思ってなかった気がするわ」

 

 樹は困ったように、景は嬉しそうに、一緒に昔を懐かしむ。

 

 

 なんでこうなったのかしら、とお互いに首を傾げながら。

 

 



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夜凪景は準備を終えた

 美少女の一糸まとわぬ裸身というものは、人を狂わせる。夜凪(よなぎ)(けい)のやや幼いながらも蠱惑的な裸を前に、(いつき)は視線をそらすことが出来なかった。それがすでに手のひらに落ちてきた自分だけの天使であっても。

 

 

 景の身体は、歳の割には身長があるが、歳の割には肉付きも脂肪も足りていなかった。裸体を見た相手が顔色を変えるほど痩せているということもないが、うっすらとあばらが見える程度の痩せ方はしていた。その影響なのか別の要因なのか、胸も脂肪がつかずに大きくはない。

 

 胸に関しては以前からすこし気にしている。同じ学年の女の子と比べて足りてないのは分かっていた。母も大きくはなかった記憶がある。未成熟なりにかたちは良いと思うのだけれど感触はどうなんだろう、樹に気に入ってもらえるかどうかはわからない。

 

 手足は背に比例してすらっと伸びていて自慢できる。細くてすこし筋肉が足りないかも知れないので、トレーニングはしたほうがいいかも知れない。

 

 お尻は自慢できるくらいにはいい形だと思う。鏡で見ることの出来る後ろからの曲線のラインは気に入っていた。もっちりして触れても楽しい。身体が成長すればもう少し大きく魅力的になるだろう。

 

 そして、女性のあそこ。男性を迎え入れる場所。

 割れ目のすぐ上のあたりには、薄い陰毛が言い訳のように少しだけ生えている。中学生になってからすこしだけ増えた。全体的に体毛は薄いので、もう増えないのかも知れない。

 股間の縦すじはぴったりと合わさっていて、普段はその奥は見えていない。おしっこやお風呂のときにはすじをひらいて中を見ることがあるけど、おまんこ?は桃色で内臓みたいで生々しかった。

 その閉じてるようにしか見えない箇所が穴状になっていて、棒状の男性器を挿入する場所らしい。樹のそれが入るほどの穴が自分にあいているとは思えなかったけど、大丈夫なんだろうか。入れるのが無理だったら泣いてしまいそうだった。

 

 樹も含めて男性は、女性のあそこを見て触りたがるもののようだ。当たり前かもしれないけど、景が自分のピンク色のそこを見ても興奮はしなかった。ただ、そこに樹のものが挿入されるところを想像したらすこし身体の奥が切なくなった。

 

 

 樹は景の裸を見て、すこし興奮が止められなくなっているようだった。男性器――おちんちんは猛って、大きく張っている。血管が浮き出ているような箇所もあり、色も黒っぽい桃色でへその上のあたりまで反っている。先ほど景が触ったときはあんな大きさだっただろうか? 増えているようにも見える。

 

 冗談のようだけど、あれが自分の中におそらくは全部はいるのだと、景は知っていた。長さから見てお腹のこのあたりまで入るのだとお腹に当てた手で測る。その瞬間を想像して、景のお腹の奥がきゅんと疼いた。

 

 

 

 抱きあって裸の肌が触れた。樹も景も息がやや乱れている。

 

 恋人同士がするような、情熱のこもった抱きしめられかた。全裸なので、当然あわさった肌は体温をそのまま伝えてくる。すこし体温が高い気もする。

 

 馬鹿みたいに鼓動を刻む心音まで相手に伝わるかもしれない。

 

 

 求めるように、互いの腕に力が入った。ぎゅっと抱きついたまま脚が絡みあう。

 

 

 

「想像以上に景ちゃんが可愛くてつらい」

 

 顔を強張らせた樹が、うめき声を上げた。

 

「天使かと思ったら実は淫魔だった」

 

「怒っていいところ?」

 

 景のお腹の上に、熱い塊が押し当てられる。腰を動かす樹の膨らんだ男性器が、マーキングをするように何度となく景の股間に擦り付けられたまま前後に動いた。

 

「媚薬盛られたらこんなかんじなのかもって」

 

 まるで準備運動のように見えた。遠慮することはないのに。

 すじの上をおちんちんが動いていくと、時折気持ちいいところを擦っていく。そのすこし下には、樹を待っている穴があるはず。

 

「こんなになったの初めてなんだけど!」

 

「……べつに挿れてもいいでしょうに」

 

「いやごめん。大丈夫」

 

 

 すこし冷静になったのか、樹が動きを止める。すこしつらそうではあったがなんとかなるということなのだろう。

 

「手とか口でいちど出したら落ち着くかしら」

 

「……最初は景ちゃんのなかでいきたい」

 

「じゃあもうすこし……我慢?」

 

 

 互いに顔を寄せて唇を合わせる。唇を割って樹の舌先が景の口内に侵入していく。迎えた舌を押し付けてぬるぬると舌を絡め合った。

 

「ん……んちゅ…………ふぁ……」

 

「……けい……」

 

 

 裸でするキスは、それまでとは何かが違った。全身の肌が触れているのが敏感にさせるのか、唇以外の箇所も繋がっているかのような不思議な感覚がある。親愛をあらわすキスは裸ではしないから、ここから先はセックスだという区切りになるからなのか。

 

 股間に直接押し当てられた樹の熱を持った男性器がもたらす期待が、なにか影響を与えているのかもしれない。

 

 いやらしく交わるキスが景の脳髄を蕩かしているうちに、樹の指は景の肌の上を滑っていく。くすぐったいようでいて、触られたところが全部熱を持っていくような不思議な感覚。

 

「あっ……ぃ……んっ……、ぁう……」

 

 時折、いいところをかすめていくのか、景の身体が自然と震える。背中にぞくぞくと響いたときには、いやらしい声も上げてしまっていた。恥ずかしいのに、もっと気持ちよくしてほしくて、樹におねだりをしたくなる。

 

 

「胸とか……あそことかも、触ってほしい……」

 

 景が望めば、樹の指は触れてくれた。おっぱいの先端のツンと立った乳首を、くにくにと指先が押さえる。全体の膨らみを優しく揉むように、手のひら全体が景の胸の上で蠢く。固い先端を二本の指でつままれて、こりこりと転がすように刺激をされる。気持ちいい。

 

「こんな感じでいい? もし痛かったら、言って」

 

 最初こそ遠慮がちに。景が受け入れていると分かるにつれて徐々に大胆に。

 

 指のあとには唇が触れ、さらに濡れた舌がちろちろと乳首や肌の上を這っていく。身体を舌で舐められているという事実だけでも、いやらしさで悶絶したくなった。淫らな行為。今日舐められていないところも、キスをされていないところも、いずれは隙間なく樹に知られてしまうに違いない。

 

 期待と妄想が混じり合ったところで、現実の樹が触れてくる感触が戻ってきた。背筋の奥がぞくぞくして全身が震える。控えめに言っても、景は発情していた。樹が欲しくてたまらない。

 

 

 準備ができると、オンナノコが濡れるということは習った。景のあそこはもうとろとろに濡れていて、準備は終わっているとしか思えない。まだそこに直接触られたわけでもないのに。

 

「すこし、ほぐそうか」

 

「……もうほぐれてる……かも?」

 

 くちゅ、といやらしい濡れた音とともに、樹の指が景の女性器の入り口からすこしだけナカに挿入された。別の指で同時に押しつぶされた豆状の突起が、ぞくりと湧き上がるような快感を景の身体にもたらす。

 

 

「んあっ……」

 

 ぴりっと、景の身体に痺れが走った。普段自分が触れないところに、いとしい樹の指が触れている。奥歯を噛み締めていないと、どこか知らないところに連れて行かれそうだった。

 

 思考が蕩ける。樹の指が動くたびに、キモチイイが、徐々に頭を埋め尽くしていく。

 

 

 私のなかに、指先がはいってきて――

 

 えんりょがちにキモチのいいあなをさぐりあててくる指をうけいれる。じゅんびのととのったワレメのおくから、とろっとしたものが零れて垂れていったのがわかった。

 

 あたまのなかがぐちゃぐちゃで、気がつけばすがるようにささやいていた。

 

「……もうそのまま、して」

 

「まだはやくないかな?」

 

「おかしくなってるくらいだから。いたみで正気にもどして」

 

 かぜで高熱になっているときのように、ぼうっとした頭でおねがいしていた。

 

 ちからの抜けた両足が、すこし開かれながらもちあがる。すごい格好をしているきがした。はずかしい。

 

 

「……いれるよ」

 

 言葉と同時に、熱くて太い樹の男性器が、景の割れ目の奥へと身体を割り開いて侵入してくる。同時に襲ってくる強烈な痛み。いや熱さ。あんなに蕩けていた思考が一瞬でもとに戻った。それは焦るようなはやさで奥へと入り込んでくる。

 

 身体は樹のものを受け入れているので問題はない。焼けるような違和感も、嫌なわけではなかった。

 

 ちかちかと目の前が明滅する。涙が溢れ出して、顔を伝って落ちていった。それがどんな種類の涙なのかはよくわからなかったが、悲しい涙でないのは確かだった。

 

 



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夜凪景は処女を捧げた

「その、すごく痛いの。でも、心が温かいの。痛みなんて忘れてしまうくらい」

 

 

 一生に一度だけの少女が迎えた破瓜(はか)の瞬間は、与えられた痛みこそが嬉しいのだという困惑した感情を(けい)の中にもたらしていた。

 

 (いつき)は初めてではないようだったが、景の初めては樹に奪われた……というか貰ってもらえた。嬉しかった。

 

 自分の身体に熱い肉の棒を打ち込まれてぎっちりと押し広げられて、血を流して痛みを感じながらしかもそれを愛おしく感じるなんて。

 

 女の身体と心は不思議でできている。

 

 

 女性が男性と初めての性交をする――処女を捧げるのが、特別なことなのだというのを知識として持ってはいた。

 

 人間の女性器には入口近くに処女膜というものがあり、そこを男性器が貫通する際、破れて出血があるということも。

 

 そしてそれが、二度はないということも。大抵の場合は痛みを伴うということも。

 

 そんなあくまで知識として景が持っていた『処女喪失』は、樹のモノが自分の中に入ってきた瞬間に、意識の彼方へと飛んでいってしまった。

 

 

 たしかに、痛みはあった。だが、それよりも強烈に襲ってきたのは、景の中のオンナが目覚める感覚だった。

 

 樹の熱いものが挿入されたままの下腹部から、痺れるような痛みとも快楽ともわからない感覚が湧き上がってくる。どろりと、身体の奥から何かがあふれていくような感じがした。

 

 気持ち良さというのとはすこし違うかも知れない。もう少し大きななにか。身体が生み出す肉体的な快感と、樹を初めて身体の中に受け入れたという精神的な充足が混ざり合って、景の頭と身体を蕩けさせていた。

 

 恋愛とは、日常的にこんなものを感じているのだろうか。なるほど、これは狂ってしまうのかも知れない。恋というものに。

 

 かなり間違っていたが、景は自分なりの結論に納得していた。

 

 

 

 

 一方の樹は、はじめての景のなかの気持ち良さを、肉体的な面でも精神的な面でも存分に味わっていた。極上の美少女である景の、初めての男になったのだという誇らしさもある。

 

 もとめられて、かなり早く挿入することになってしまったのは予定外で、大丈夫なのか心配ではあった。もっとも、見る限りでは景の身体は問題なさそうではある。

 

 先ほど樹のペニスがなかを貫通した瞬間、景の身体はビクリと跳ねた。

 

 文字通り身を裂く痛みに、美しい景の顔が歪んで、だがすぐにへにゃりと崩れて喜びを含んだものに変わるのを樹は見た。それに続いて、瞳から涙が溢れ出したのには焦りを覚えたが、悲しみや痛みの涙というわけでもないようだ。

 

 

 まだ女性として育ちきっていない景の裸身が仰向けになり、大きく足を開いて樹の男性器を奥深くまで受け入れている。無防備であられもない姿が、樹への信頼を表していると言えた。

 

 結合部に根元だけがちらりと見える自分の()()が、ぬるぬるに濡れてはいてもなお狭い景のナカでしっかりと包み込まれているのがわかる。

 

 まだ痛いだろうと動かないようにしていたが、景の幼い膣の中に挿入しているだけで、その暖かさと窮屈さが十分に性感を高めてくれていた。入れる前の高ぶりもあわさって、いつ達してもおかしくないくらいのところまできている。

 

 すこし情けなかったが、逆に我慢せず、すぐにでも景の身体の奥に精液を放つほうが自然で真摯であるようにも思えていた。たとえ快楽に溺れるままに蠢き大量の精を放ったとしても、景は嬉しそうに笑うだろう。

 

 

 腕の中にいる景が愛おしい。性欲の解消のために抱くのではないオンナ。おそらく、いずれは自分との子を孕み人生をともに歩む女性。小さい頃からともに育ってきたイトコで幼馴染の少女。

 

 目が合った。澄んだ瞳がじっと樹を見る。同じことを考えているのだろう。一緒に表情が崩れた。

 

 頭を抱いて、ゆっくりと撫でてやる。さらりとした景の髪が、指先を滑っていく。互いに緊張がすこしほぐれた。こわばっていた身体から、すこしだけ力が抜ける。

 顔をすこし傾けると、唇が触れあった。ねだるようなキスに応える。やわらかく、舌先だけをしばらく絡めあった。

 

 

「景ちゃんの中に僕のが全部入ってるの、わかる?」

 

「……うん」

 

 仰向けになっている景からは見えづらいだろうと、たしかに繋がっているのだということを伝える。身体の中の違和感で、わかっているようではあったが。

 

 安心させるための嘘でもなく、樹のものは景のなかに根元まですべて収まっていた。とても全部は入らなさそうに見えたのに、いともあっさりと呑み込まれていた。

 

 

 いま景のなかは狭く固く、そして温かくて蕩けていた。絞られすぎていると感じるほどにぎっちり狭いのに柔らかい。ぎゅっとペニス全体を包まれて、ぬるっとしたひだの感触がところどころをきつく締め付けてくる。

 

 一度も異物を受け入れたことのない膣に押し入ったことで押し返されている感じも強くはある。だが、小柄な景の身体の奥まで受け入れられていた。はじめてで全部無理なく入ったことが不思議な感じさえした。

 

 

 

 樹が少しだけ腰を引くと、秘裂との隙間からとろっと流れ出してきた液体と男性器の表面に、景の初めてを破ったしるしである赤い血が見えた。

 

「景ちゃんを買った証としては、これでいい?」

 

「……もうこれで、私の初めては誰にも奪われないわ。樹が初めてで、唯一の相手になったもの」

 

 ずっと背負っていた重い荷を下ろしたように、ほっとした口調で景が抱きつく。こんな年齢で処女を奪ったことに思うところがないわけでもないが、景の初めてになれたということに樹も妙な安心感を感じていた。

 

 

 

 景は幼い頃から美しかった。美しい幼女や少女には性的な危険が伴う。無邪気な幼女にいたずらをしたり、少女のはじめてを自分のものにしようとする相手から、景は自らを守らなければならなかった。

 いつか幸せなレンアイをするためだよと、言ったのは誰だったか。

 何度か危ない場面をへて、景は今日まで処女だった。性器を指でいじられたりするような、あぶない行為も経験していない。ある程度性的に無垢でいられたのは、幸運だったと言えよう。

 

 そのうちいくつかの場面で、景を守ってくれたのは樹だった。

 

 守ってくれる樹に下心なんてなかったのは知っていた。でももし仮に自分が将来景とそうなりたいからとの下心で守ってくれていたのだとしても、樹への信頼が揺らぐことはなかっただろう。最終的にもたらされる結果は一緒なのだから。

 

 

 

 

「まだかなり痛い?」

 

「……最初だけあったけど。もう大丈夫、かな」

 

 初めてなのにいまはもう気持ちいいほうが優っていて痛くない、というのは淫らなオンナノコみたいで恥ずかしい。()()がじゅぶじゅぶに濡れているせいでバレるかも知れない点はあえてスルーしておきたい。

 

「なら、すこし動くね」

 

 樹のものが身体の奥からゆっくり抜けていく。ずるりと、身体の内部が引っ張られるような感じがした。こすれた粘膜が刺激を感じているのか、ぞくぞくと背筋が震える。マッサージの時のほぐれる気持ちよさを何倍にも増幅したような感じがする。

 

 男性のソレは先端が膨らんだかたちをしていて、動くと身体の中を擦って刺激することで快楽を得るようなのだ。人間というのは動物なのだなあと、おかしなところに感心していた。

 

 

 顔を樹の首筋に埋める。すこし男の汗の匂いがした。不快には思わない。すんすんと匂いを嗅いで、舌を出してすこしだけ味見をしてみる。ちょっとだけ舌に刺激があった。味はよくわからない。本人にそのつもりはないが、まだ緊張しているのかも知れない。

 

 なにしろ、女の子としての特別なイベントをクリアしたばかりなのだ。

 

 

 



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夜凪景は精液を受けとめた

 部屋の中に、二人の吐き出す息が混じり合って溶けていた。

 

 (けい)を見下ろしている(いつき)の表情はどこか真剣さが見える。景にしてみれば一区切り付いた気がしていたものの、冷静になってみればまだ行為の途中にすぎない。支払いとしても……まあそれはどうでもいいのだろうけど。

 

 裸で身体をさらけ出すばかりか繋がってすらいるのに、いまさらながら裸を見られていることに微妙に照れが出た。すこしおかしい。

 

 

 景は勝手がわからないので身を任せてしまっているが、いまのところ問題はなさそうだった。たしかに樹と身体が繋がっている幸せと、じんわりと継続した性感が絡み合いながら、ふわふわと雲の上を歩いているような心地よさを感じている。

 

 気がつけばそれまでの緊張は抜けつつあった。嬉しくなる。

 

 

 ――樹はどうなんだろう?

 

 景の初めての膣内(なか)はまだ異物を新しく受け入れたばかりで慣れていないはず。処女でなくなったばかりのその、おまんこは樹をよろこばせることが出来ているのか。女性側でなにかできることはないのか、景にはあまり知識がなかった。

 

 力は抜けていると思うけれども、ぎゅうぎゅうと樹を無理に締め付けていたりしないだろうか。あそこが狭すぎて痛がらせたりしても困る。

 

 

 ――私は気持ちがいいのに。

 

 たしかに奥が濡れているのを感じる。樹が動くたびに愛液が想いとともにあふれるように湧いてくる。そういえば女性が濡れると、男性器の出し入れが容易になって快楽を得られやすくなると聞く。よかった。

 

 

 樹が動いた。身体の奥まで入り込んでいた暖かな感触が、すこしずつ押し出されるように抜けていく。そして、女性器の入り口付近のあたりまで戻ってから、また奥へと入り込んでくる。

 

 動き方にすこし変化が加わった。浅いところを刺激したり、すこし上の襞を刺激したりしながら、何度も前後が繰り返される。

 

 樹の動きに連動して、ゆっくりと景の身体も揺れていた。キスもされた。身体を揺らしながら。

 

 

 

 もともとの興奮があるからなのか、まだゆっくりと動きはじめたばかりでも、樹は達してしまいかねなかった。特に問題はないがすぐに出してしまうのはとても勿体なく、すこし落ち着くまで気を散らしながら耐えていく。

 

「大丈夫? なにか微妙な表情だけど」

 

「え!?」

 

「あまり気持ちよくなかったりとか……するのかしら?」

 

 少し不安そうな声で聞かれる。景が感じている幸せは、樹とどこか共有できないものだったのだろうかと。

 

「……逆」

 

「逆、って?」

 

「気持ちよすぎて景ちゃんの身体に溺れそう、このまま」

 

「……えっ!?」

 

 なにを言われたのかわからない、と眉をひそめた景が、なにを言われたのか遅れて理解する。一瞬で景の顔から耳の先までが真っ赤に染まった。

 

 

「一度出したい。景の子宮に、先っぽ押し付けたままどろどろの濃い精液を迸らせて、孕ませるくらいに」

 

「語彙がおかしくなってないかしら?」

 

「なってる。そのくらい気持ちよくて、つらい」

 

「……我慢しなくていいのに」

 

「男はそれが勿体ないって仕組みになってるから」

 

 我慢したほうがいいというものらしい。男の身体は色々と面倒そうだと景は思った。

 

 

 こういった行為は一方的なものではなく、お互いに協力しながら作り上げていくものだったはずなのだけれど。と、景は戸惑っていた。

 

 そのあたりはいずれは話しあうべきことなんだろうけれど、いまはとりあえず……。

 

「えいっ」

 

 口に出すよりも確実に思えて、手足すべてを駆使して、景は樹の身体にしがみついた。

 

 両腕は背中を掻き抱くように。男性らしいすこし厚めの胸板と肌がぴったりと密着する。自分のあまり大きくはない胸部の脂肪が、ふたりの間ですこし潰れてかたちを変えた。

 

「……こうだったかしら」

 

 足ははしたなく左右に開いて投げ出されていたのを、樹の腰の後ろに回して両足首を交差させ、ぐっと手前へと引き寄せる。『好き』を全身で表す格好らしい。たしかにこれは密着がすごい。どきどきする。

 

 

「ふぁっ……」

 

 同時に景の足に押された樹のおちんちんがすこしだけ中に深く入ってきて、おかしな声を上げた気もするけれども。自業自得? なんか違う。

 

「なにやってるの……」

 

 すこし涙目の景に、呆れた声がかかる。

 

 樹と繋がってる割れ目の入り口がまたちょっと開いて、とろっとした液体が垂れた気がする。股間をお尻の穴をかすめて落ちたのでたぶんシーツへこぼれた。破瓜の血も混ざっているかも知れない。赤い染みになったら恥ずかしい。お尻に敷いたはずのタオルに吸えていればいいんだけど。

 

 

「……好きの表現、とか」

 

「いやまあ嬉しいけど……別に無理しなくても大丈夫だよ」

 

「うー」

 

 

 樹が身体を揺らした。それに連れてつながっている互いの性器も、こすれ合いながら二人に快感をもたらしていく。

 

「……ちょっとこれ、刺激が強くっ」

 

「ごめん、もう我慢出来そうにない」

 

 焦ったように、大きく反り返ったものが景のなかを何度も行き来する。追い立てられるように、それまでとは違って気遣いにやや欠けた樹の動き。

 

 絡めていた指先が、男の力でぐっと握り込まれる。少し痛い気もしたが、なんだか嬉しかった。求められているという実感を証明してくれているように感じられた。

 

 

 樹の身体から体重がかかって、斜め下へと身体をぐっと押し付けられる。繋がっている股間だけではなく、景の全身が樹の身体に押された。

 

 圧迫感に一瞬息が詰まる。肺が呼吸を求めた。

 

「んっ」

 

「……ごめん、こっち」

 

 樹も余裕を失っているのか、圧迫していたところだけ開放して、行為は止めようとしなかった。ぐちゅぐちゅと、触れている互いの性器が濡れた音をたて続けていく。

 

 

「……ずっと、大切にするから」

 

「……うん」

 

 それまで限界まで挿入されていたはずの樹の大きくなったおちんちんが、ぐいぐいとさらに存在を主張しながら奥へと侵入しようとする。

 

 ぐっと押し込まれれば、景が意識しないまま、膣の内壁がそれを締め付けにかかる。

 

 

「景ちゃん、気持ちいい……いいよ」

 

「樹……おにーちゃん……っ」

 

 身体の奥からぞわりと湧き出してきた未知の快楽が、景の全身を溶かしていく。自覚のないまま景の腰はいやらしく左右に動いていた。自然と身体中がぴんと張って、背中に爪を立てるくらい必死で樹にしがみつく。

 

「あっ……あっあっ……だめ、へんよこれ、こんなのおかしいっ……」

 

 これまで絶頂を知らない身体に、いとしい男のモノが強制的に快楽を刻み込んでいく。刻み込まれていく。

 快楽が幸せなのか、幸せが快楽に変換されているのかは、よくわからなかったが。

 

 

 ぎゅうっと腕に抱かれる。男のがっちりとした両腕が自分の背中に回されて、潰される。息苦しいのは、肺を圧迫されているからなのか、それとも終わらないくらいに押し寄せてくる波のような快楽のせいなのか。

 

 一番深い? いや高いところだろうか。たどり着いたような気がしてた。気持ちよくも幸せな時間はひとまず終わるはずだと思ったのに、それはまだ続いていた。

 

 

「んっ、あっ……なんか、出て……」

 

 景の身体の中で、樹のものが弾けた。びくびくと何度も跳ねながら、先端から大量に精液を吹き出す。そんなはずはないのに、まるで熱いお湯を注がれているようにすら感じる。

 

 赤ちゃんのもとになる、白く粘ついた液体が身体の奥へと何度も注がれていくのを、快楽の波に何度も攫われながら、景は確かに感じていた。

 

 

「これ……」

 

 あまり力のはいらない腕で、お腹を押さえる。気のせいにすぎないだろうに、手のひらがじんわり温かくなったような気がした。この内臓の奥に、景と樹の子供になる生命のもとがある。

 

 景はなかに出された樹の精液が、まるで身体の中に染みて溶けていくような錯覚を覚えていた。

 

 

 

 樹のおちんちんは一度精液を存分に放出しても、治まることはなかった。出した直後は少し大きさを失ったように思えたのに、抱きしめられて景が余韻を堪能している間にいつの間にか大きさと硬さをとりもどしていた。

 

 その身体の奥での刺激に、ついきゅっとなかを絞めてしまったのは、景が悪いわけではないと思う。

 

 

「……誘ってるの?」

 

「ちがうわ」

 

 じんわりとまだ先ほどまでの余韻が残っている身体に、ゆっくりと新たな刺激が加わる。

 

 消えかけていた焚き火の残り火に、まるで燃料でもふりかけたように。くすぶっていた景の身体に火がついた。

 

 

「……ちがうわよ?」

 

「仕切り直し。やっと落ち着いた……と思ったんだけど、また溺れそう」

 

「一度くらいは狂ってもいいのに」

 

 まずはキスからはじめよう。ふれあいは大事にしたい。気持ちいいし。

 

 

 

「こっち……乗って」

 

 布団の上であぐらをかいて座った樹と、正面から抱き合う。まるで大好きな親に抱きついている小さな娘のように。

 

 顔が近い。お互いに裸で、繋がったまま下から身体を突き上げられる。何度も。そのたびに、触れあったおちんちんとあそこが、ぞくっとする痺れを引き起こしていく。

 

 とろとろに溶かされていく。キスをされて、頭を撫でられて、抱きしめられながら、身体を突き上げられて。

 

 

 力が抜けそうになるたびに、慌てて目の前の身体にしがみつく。支えてもらってはいたが、勢いよく後ろに倒れたりはしたくない。

 

 こつこつと、樹のものがオンナノコの一番奥を突いてくる。痛いような、感じたことのない感覚を呼び起こされるような、変な感じがした。

 

 

「んっ……ふぁ……」

 

 身体と一緒に性感も突き上げられているような気もした。未知のところまで上げられてしまいそう。怖くなって、途中で必死にしがみつく。

 

「景ちゃんの奥、吸い付いてくるみたい」

 

 やめてもらえない。抱きしめられたまま、ぐりぐりと股間を押し付けあった。息が詰まる。でもふわふわする。続けてもらいたくなる。

 

 身体が近くて、肌の触れあいが多いという点では、この格好はなかなかいい気がする。身体のあちこちに力が入るので、あとでほぐしておかないと翌日大変なことになりそうだけど。

 

 

「あっ、あっあっ……やっ……」

 

 時間をかけて念入りに高められたあとで、樹が景のなかに精液を迸らせるのにあわせて、身体を後ろに反らせながら景は達した。

 

 

 

 

 

 男はしたあとに賢者になることがある、というのは景も聞いたことがあった。

 一度出してしまったあと、性的に満足して続きをする気がなくなるのだと。

 

 なら、いまはどうなんだろう? と首をかしげる。一度……どころではなかった気がする。すでに数えてなかったが。いっぱい出して満足したということでいいのだろうか。

 

 

 すこし落ち着いたのか、裸で抱き合ったまま、景は樹の髪をゆっくりと撫でていた。いとしい男に触れながら、母性が溢れそうにも感じる。

 

 だいぶサイズは小さくなってはいたものの、樹のペニスはまだ景の中に収められたままで、身体を動かすと繋がっているところに刺激が走ってすこし困った。甘いのか淫らなのかはっきりしない空気が漂っている。

 

 

「……もうずっと挿れたまま景ちゃんとすごしていたい。何時間でも」

 

「ダメよ」

 

 遅くとも夕方にはルイとレイが帰ってくるのでなければ、景も同意してもいいと思わないでもなかったが。さすがにこの惨状で帰られては困ってしまう。

 

 

「今日はその、もう少し短かくないと困るわ」

 

「……90分?」

 

「映画一本分……それでもすこし。ルイとレイに見られないうちに後始末をしないといけないし」

 

「急かされるのも慌ただしいけど、まだもうちょっとは大丈夫かな」

 

 樹のものが、景の中ですこし大きくなった。敏感なところを刺激されて、景も思わずぎゅっと樹を抱きしめる。

 

 

 

 ふたりとも若くて歯止めが効くかどうかわからないことには、この時点ではどちらも気づいていなかった。

 

 

 



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夜凪景は役者より先に幸せになった

 何度目かの互いの絶頂を経由して、二人の落ち着いた吐息が部屋の中へと溶けていた。

 

 どんなことにも終わりは訪れる。さすがにふたりとも精も根も……というか、むしろ(いつき)の精が尽き果てていた。愛にも限界はあるようだ。

 

 

 布団の上には手足をくったりと投げ出して全裸で天井を見つめる、少し幼くも美しい少女――(けい)が身を投げだしていた。

 

 汗が浮かんだ全身のところどころには、精液が飛び散って乾き付着していた。ぽうっと上気して幸せそうに緩んだ表情が、それまでの愛された行為の名残を思わせる。

 

 淫靡に蕩けた美少女が惜しげもなく裸身を晒している横で、同じように全裸で仰向けに横たわる男の表情も、やや疲れたふうではあったが幸せに満ちていた。

 

 少女の横顔を愛おしげに見る優しげな瞳が、この二人が恋人同士の愛し合う時間を過ごしたあとであると、明確に物語っている。

 

 

 脱力した指を絡めて繋いだ手だけのつながりから、どちらからともなくもそもそと動いて、二人の手足がまた絡み合った。さすがに性欲ではなく、相手の身体のぬくもりを求めたにすぎないようではあったけれども。

 

 

 ――そしてそれを、部屋の外から小さな瞳に見られていた。

 

 

 ルイとレイは、自分たちのおねーちゃんと一緒に裸で布団に横たわっているのが、大好きな樹おにーちゃんであることを一応確認だけして、そっと扉を閉めた。

 樹がおねーちゃんを襲ったのだとしてもむしろ歓迎なので、二人の甘い時間の邪魔をする気はない。

 

「あと一時間くらいかな?」

 

「あまり遅いと心配するかも」

 

「「どこで時間潰そう……」」

 

 物わかりが良すぎるうえにやけに大人びた知識を持つ、おねーちゃんもおにーちゃんも大好きな双子だった。

 

 景は背後から覗かれたことに気づかなかったため、恥ずかしさで床を転げ回る事態はとりあえずは回避されることになる。

 

 樹は双子の気配を認めて景の身体越しに一応気怠げに二人に手を振ったが、意識が朦朧としていたので目が覚めたら忘れている可能性を否定できない。

 

 

 

 

 幸せなまどろみを感じながら、(けい)は夕日の差し込む部屋で目を覚ました。

 

 最後は睦み合いながら、半ば気を失うようにして眠ってしまっていたらしい。(いつき)は隣でおとなしい寝息を立てて眠っていた。

 二人とも全裸だった。さらにどう見ても事後の男女の姿だった。敷かれた布団と乱れに乱れて汚れたシーツ。隣でいっしょに寝ていただけとか言い訳しても、とても通用しそうにはない。

 

 ルイとレイはどうなったんだろう。こんなところを見られていたら恥ずかしすぎる。

 この時間で帰ってきてないとしたらそれはそれで心配だけれど、友達の家で遊んでいるのであればぎりぎり問題ない時間帯でもある。

 

 

 とりあえず、お風呂に入らないと。

 

 起き上がろうとして、ずっと片方の手をつないだままだったのに気がついた。樹が起きる気配はない。男性のほうが体力を使うのだろうし、もう少しだけ寝かせておいてあげることに決めた。

 

 固まった感じすらする絡まった指を慎重に外して、一瞬迷ってから寝ている樹の唇に軽く口付けた。それだけで、胸の奥がきゅんと切なくなる。

 

 樹ひとりなら、布団で裸で寝てても……いや、かなりまずくはあるけれど。

 

 そもそも布団も変えないと匂いが……いや換気が……などと考えては見たものの、とりあえず使ってなかったタオルケットをかけて誤魔化しておく。起きてから風呂に入ってもらってシーツを換えれば一応問題はないだろう。

 

 

 冷静に考えれば景自身の身体が一番の惨状と言えた。肌に飛び散ったり垂れている精液と足の付け根から肌を伝った血痕だけでも、身体からおとしておいたほうが良いだろう。とくに血の跡は生々しすぎてあまりよろしくない。

 

 初めて樹に抱いてもらった余韻を、お風呂場で思い返してじんわり幸せを噛みしめるのも楽しそうだった。

 

 

 お風呂にたどり着くまでに、ぽたりと床に垂れ落ちた精液や、足を伝って流れていった精液の処理をすることになったけれども。

 

 畳と精液は相性がよくないことを景は知った。あまり将来役に立たなさそうな無駄知識である。さらに床の汚れを拭いているうちに次の汚れが足元に落ちて焦るとか、子供の頃に鼻血が止まらなくなって困ったとき以来の出来事だと思う。

 

 全裸で泣きそうになりながら床を拭いたり、ティッシュで股間を押さえながらよたよた歩いた自分の姿は、恥ずかしいので記憶から封印しておくことにした。

 

 

 

 お風呂場でぬるいお湯のシャワーを全身に浴びると、ところどころが染みた。自分が樹の背中に何度か爪を立てたのは覚えているが、樹も似たようなことをしていたらしい。

 

 染みた箇所を確認してみる。跡が残りそうなものは流石にないようだったけれども、あってもよかったのにと思う。

 

 

 首元にキスの跡は残っていただろうか。何度も吸われた気がする。見えるところにあったら流石にまずい気もするけど、誰かに見つけてもらいたい気持ちもある。

 

 樹に抱かれたのだと、大声で叫びたい。景は彼のものになったと触れ回りたい。顔がにやける。

 

 下手すると樹が捕まりかねないので、さすがにする気はなかったが。

 

 

 

 どこかぼんやりした、快楽の余韻が景の身体にまだ残っていた。

 

 石鹸でのんびりと身体を洗っていると、身体の奥から樹が出した精液がまたとろりと流れ出してくる。

 

「樹おにーちゃんの精液……まだあるんだ」

 

 樹はどれだけ中に出したというのか。処女を失ったばかりのいたいけな女子中学生に!

 ある意味容赦のない愛されっぷりに、表情が緩む。いまは笑うところではなかったはずだけれど。

 

「性欲がすごいのか、私のことが好きすぎるのか、どっちなの」

 

 若さだけで片付けてしまうにはすこし常軌を逸していなかっただろうか。おかしい。

 

 客観的に見ればそれに最後まで過不足なく応えた幼さの残る女子中学生も大概かもしれないが、そこはとりあえず棚上げしておく。

 

 樹には次からは自重……は別にしなくてもいいのだけど。

 

 なにか責任を取らせるべきではないだろうか。部屋に戻ってからのお仕置きを、考えておかねばならない気がした。すこし贅沢な甘いものを三人分……いや四人分か。

 

 

 

 あらためて、樹との関係を想う。

 

 

 自分たちが、条件と運が()()()()子供ができるような行為をしたのだという認識が、まだふわふわした意識の中で少しだけ現実感を伴って心に落ちてくる。

 

 シャワーのお湯と一緒に肌の上を滑って床に落ちた白い粘性の塊は、そのまま排水口へと消えていく。すこし勿体ないようなどこかほっとするような、景はおかしな気分になった。

 

 何回出されたかは覚えていないし、まだたくさん景のなかに残っているのだろうけれども。今夜も明日以降にも、まだまだたくさん景の中に精液を出されてしまって、いずれはまだ中学生なのにも関わらず、赤ちゃんを孕んでしまうかもしれないけれど。

 

 少しそんな妄想をしてみたものの、それはあまり現実的な未来とは思えなかった。当然だけれど、まだいまの年齢で妊娠をすれば世間の目は厳しいだろうし、婚姻を結ばずに出産するのも同様だ。成長しきっていない景の身体への負担も予想しづらい。

 

 樹が、そんな未来を景に積極的にもたらそうとするとは思えない。今日は特例中の特例であり、互いに歯止めを()()()()()()()だけにすぎない。

 

 二人の結婚が可能な年齢になった日に届けを出しに行く、その日から子作り解禁、くらいはしかねないかもしれないけど。

 

 

「今日がわりと安全な日なのは本当だし……もう少しずれてて、危ない日だったらどうなったんだろう……」

 

 計算は間違ってない……筈だった。嘘をついたわけでもない。あれだけ景の中に出してもらったとはいえ、赤ちゃんができる可能性は低い。

 

「でも、安全日は絶対じゃないって習ったし」

 

 もちろん樹もそんなことくらいは知っているだろう。それ込みで今日は景の中に出してくれた。嬉しい。

 

 おそらく妊娠はしないと思うけど、想像して、にまにまするくらいは許してほしい。

 

 

 

 もしかしたらという可能性は残っている。もしそうなったら、樹おにーちゃんのお嫁さんになるよりも先に、お母さんになってしまうかもしれないのだ。ルイとレイは、おじさんおばさんである。

 

 家族は、減るよりは増えるほうがずっといい。

 

 

 色々と、困ったことは出てくるかも知れない。けど、家族で顔を見合わせて、そしてしょうがないなって笑って、一緒に解決していけばきっとなんとかなるだろう。

 

 私がいて、樹がいて、ルイとレイがいて、そして子供が何人かいて。

 

 それはそれで、色々と大変ではあっても楽しい日々になる気がして、景はわくわくしてくるのだった。

 

 

 

 樹に買われて、愛されて、処女を失って、幸せを感じている。

 昨日までの私が知らない、持っていなかったものを、今日の私は持っている。

 

 いままで許せなかったことも、忘れたふりをして許してしまおう。

 不器用な子供だった私は、もういないのだ。

 

 

 

 

 この日、夜凪(よなぎ)(けい)は女になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




< JCの夜凪景は役者より先に女になった 完 >








最後までお読みいただきありがとうございました。
よければ感想や評価をしてもらえると嬉しいです。




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その後 IF話
父になる日にシチューを (前)


本編終了後の、樹がいた中学生時代を経た夜凪景のお話をお送りします。

基本的に本編後こんな未来があったかもしれない的なIF話となりますので、お話ごとに時系列や本編終了後の出来事が異なる場合があります。ゆるふわ認識でお願いします。

なお、本編の余韻がIF話で台無しになっても責任は負いかねます。その際は見なかったことにして忘れましょう。





 自称・役者なのに舞台や演技の経験がまったくなく、実際にはまだアマの役者ですらない夜凪(よなぎ)(けい)は、朝早くに家を出てすぐ、通学途中に誘拐にあった。いや、正確にはあやしいヒゲ男に誘拐同然に車に載せられた。

 

 

「スタジオ大黒天(だいこくてん)の、黒山(くろやま)(ひいらぎ)です」

 

 専業の芸能事務所ではないが役者として所属しないか、というお誘いのようだ。やり方はどうかと思うが、事務所を探していた景としては渡りに船ではある。事務所として信用が置ければ、の話だが。

 

 名刺を出された。きちんと印刷されたもので、自宅のプリンタで作ったようなものではない。スターズの審査員でもあったし、一応はちゃんとした業界の人なのかもしれない。景は警戒度を内心ですこしだけ下げた。

 

 

 あやしいヒゲ男は黒山(くろやま)墨字(すみじ)という名前らしい。すでに昨日会っていたし名前も聞いてはいた。映画・映像監督とのこと。ヒゲ男と呼ぶことにしている。その隣には(ひいらぎ)(ゆき)と名乗る、景よりもすこし年上の女性。

 

 柊さんはたぶんヒゲ男の部下のはずだが、聞き分けのないヒゲ男を遠慮なく叩いていた。二人がどういう力関係なのかすこし興味が出てくる。映像を撮ること以外はなにもかもダメな男の世話を焼くタイプなのかもしれない。もう手遅れかもしれないけど男に騙されないよう気をつけたほうがいいと思う。

 

 

 いまいるのは『父の日にシチューを』というコンセプトで撮影されるウェブCMの撮影現場らしい。あまり大きくないが天井は広いスタジオの中は、撮影の準備に人が行き来してざわついている。なぜここにいるのかというと、新人の役者として景がCMを撮られるという話らしいのだが。

 

 いきなり現場とか、契約の内容その他は大丈夫なんだろうか?

 

 素人なので慣習とか条件の良し悪しはよくわからないが、とりあえず役者としてスタートを切らなければ始まらない。仕事自体は試しにやってみてもいいかもしれない。いくらなんでも無料ということはないだろうし、最低でも高校生バイトの時給くらいはもらえるだろう。

 

 失敗時や退社時に損害賠償とか借金を背負わされそうな契約だったら断ろう、と景は一応気を引き締めた。

 

 

 

 

 話はすこし戻って、昨日の夜までさかのぼる。

 

 

 大手芸能事務所『スターズ』の俳優発掘オーディションに落ちて凹んでいた景は、家の前で空を見上げながら落ち込んでいた。ルイとレイにすこし慰めてもらって気が晴れたが、黒山墨字と名乗るヒゲ男の登場に困惑することになる。

 

「審査員のヒゲ男に気に入られて『お前は役者になるために生まれてきた』なんて言われても、オーディションには受からなかったのよね」

 

 

 その後、イトコで中学生の頃からの恋人である(いつき)にそのことをつい愚痴ってしまった。最終審査の演技では手応えは確かにあったし褒められもしたし楽しかったのに、グランプリは取れなかったと。

 

 もちろん以前からそれに参加することは話していたので、結果について話さないつもりではなかった。でも、まさかあんな惜しいところまで行った挙げ句に落ちるとは思ってなかったのだ。もっと早く落とされるか、さもなければなんとなく受かると思っていた。後ろ向きな言葉の一つくらいは出ても仕方がないだろう。

 

 その後まさか、それを気にした樹がそのまま車で家に直接やってきて、景を夜のドライブに連れ出すなんて思ってなかったのだ。

 

 ルイとレイはそろそろ寝る時間だったので、おやすみを言って出かけることになった。

 

 

「残念だったね。でもまた次の機会もあるさ。景ちゃんは美人さんだしね」

 

 そんなことを言って、景の恋人は笑った。慰めても褒めてもいない気がする。割といつもどおりだった。

 

 基本的には樹に会えた時点で、景の機嫌は急上昇してしまうため、普段から慰めて貰う必要もほとんどなかった。樹もそのあたりはよく理解していて、慰めるようなことは言わない。恋人たちの貴重な時間は、もっと楽しい言葉で彩られるべきであろうとお互いに思っている。

 

 暗い夜空ときらきらした街の灯り。二人きりで車を走らせるだけで、かけがえのないデートの時間の出来上がりである。普段の生活も含めて、女子高生になってもその気になれば景はかなりお安くあがる女の子だった。

 

 右側で車を運転している樹の横顔を見つめる。真剣に前を見つめる姿が格好いい。真剣でないときも格好いいけど。運転の邪魔にならないように慎重に、樹の腕に手のひらを重ねた。次にそっと頬ずりしてみる。抱きつくのはさすがに危ないかもしれないのでやめておくことにした。

 

 まだ中学生だったころに結ばれて、はじめてを捧げた相手。それ以来ずっと恋人としてすごしている。ちょっと、いやかなりえっちだけど、会うたびにいっぱい愛してくれる。精神的にも、肉体的にも。

 

 

「走りながら夜景を見るのが目的だったんだけど、どこか行きたいところはある?」

 

 だから、そんな樹の問いにすこし顔を赤くしながら景は答えた。

 

「……ホテル」

 

 

 

 景の家から距離的にはかなり離れた、やや郊外に位置するそういう用途のホテルに到着する。部屋は来る途中で予約済み。ここは以前にも何度か利用したことがあった。

 

 泊まりで部屋を取って、朝早くに出てルイとレイが起きる前くらいに家に帰ることが多かった。甘い朝をふたりで迎えるというのにも憧れるものの、次の日は景も学校があるしズル休み前提というわけにもいかない。

 

 乗ってきた車を駐車場に止めてチェックインし、ふたりで部屋に向かう。

 

 

 部屋に入ってすぐ、景は樹の身体に抱きついた。女性とは違う固い肉付き。独特の匂い。車の中で我慢していた分、隙間がないくらいに密着して抱きついた。

 

 キスして、すぐに舌を絡ませる。くちゅくちゅと音を立てて執拗に繋がりを求めた。樹も応えてくる。抱き合いながらベッドに向かった。

 

 急かされるようにふたりで服をすべて脱いだ。互いに興奮しているのがひと目で分かる。目の前に晒されていた。おおきく屹立した男根と、とろとろに濡れた秘裂。互いの視線が絡まる。

 

 しばらくは互いの身体をまさぐりあった。指や舌で触れるたびに、気持ちが高ぶっていく。前戯はいらずすぐに繋がってもいいくらいには発情しているのに、惜しむようにもうすこしだけそれを高めていく。

 

 

「「もう、いいよ」」

 

 同時に耳元で囁いて、どちらからともなく目を合わせて笑いあった。ついばむようなキスをしながら、性器をあてがう。相手のものが自分のものに触れただけで、ぞくりと痺れるような快感がはしっていった。

 

 ゆっくりと、樹の大きなおちんちんが、景の濡れたおまんこのなかにはいっていく。一番奥までつながると、頭の中に星が飛んだ。きゅっと締まるのを感じる。粘膜が直接絡み合う。お互いに身体を揺らしながら、気持ちいいを探っていく。

 

 

 ふたりの夜は、まだまだ長い。

 

 

 

 

 恋人たちの夜は、やや長すぎた。具体的には明け方まで続いた。

 

 

 中にいっぱい出された。呆れるくらい出された。樹が暴走して止まらなかったとか無理やりとかでは全く無く、景が途中で「そのままでいい」だの「奥にいっぱい出して」だの、おねだりしながら思い切り抱きついていた記憶があった。現役美少女JKのおねだりに耐えられなかったのは樹の責任とは言いがたい。無罪。

 

 半月くらい前にも似たようなことがあった記憶がある。残念ながらその時の反省は生かされてなかった。

 

 恥ずかしながら、樹との身体の相性が良すぎて色々とまずい領域に踏み込んでいる気がしなくもない。樹に身体を開発されている、と言われるとお腹の奥がきゅんとするが。言い方がやらしい。

 

 エロく開発されすぎている女子高生というのもあまり外聞が良くない。もっとも処女を失って以来正真正銘、相手は一人だけで変なプレイをしたことがあるわけでもない。至ってノーマルだった。ややこなした回数が度を越しているだけなのだ。問題はない。はず。

 

 

 ……ちょっと他の同世代の男女に比べて、ナマで中出ししている率は高いかもしれない。

 

 結婚が前提にある16歳の女性のお付き合いなので、いざ授かってもなんとかなる、というゆるい認識が二人の間になかったとは言わない。というかゆるゆるだった。景などむしろ孕みたい派に投票してもいいくらいである。

 

 

 

 日本では女性は16歳になれば結婚できる。ただし保護者の同意が必要となる、らしい。

 

 景はまだ中学生で樹にはじめてを買ってもらった日からお嫁さんになって子供を授かる気満々だったし、樹は嫁にして孕ませる気でいっぱいだった。互いに相手として不安はない。子供は三人以上は欲しい。しかし日本の法律上すぐに女子中学生とは結婚できない。景の年齢が上がるのを待つ必要があった。

 

 景はできればしたくないくらいには嫌だったけれども、16歳になった時点で未成年の娘の婚姻に同意する旨の書類を、なんとか連絡をとった血縁上の父親に書いてもらっていた。内容は気にもしていないようで義務だけは果たすと言わんばかりに数日であっさり届いた。

 

 樹はすでに成人なので、これさえ用意しておけば、景が16歳の現在では夜中にでも思い立って役所に駆け込めばその時点から法律上も問題なく夫婦として生活が出来る。

 

 

 その後、婚姻届に保護者の名前と押印があれば、保護者本人の署名や同意の証明がなくてもまず問題なく受理されると聞いて景は三日くらい落ち込んだ。日本の行政システムはそんな適当でいいのか。あの葛藤は何だったのか。実の父親に頼み事をしなければならないのを何だと思っているのか。

 

 まあ実際にそれをやってしまうと偽造なので、あとから何かと言われても困る。きちんと手続きをしておくことは悪いことではないと自分を慰めた。

 

 そんなわけでもともとは景が16歳の誕生日を迎えると同時に籍を入れようという話になっていたのだが、景が役者としての道を選んで歩む際に不利になってもいけないと、籍を入れるのはいまのところ一時的に保留となっていた。

 

 

 

 



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父になる日にシチューを (後)

 話は現在に戻る。

 

 

 CMの撮影現場に連れてこられた(けい)は、あまり大きな声で言うことの出来ない理由で困っていた。

 

 垂れてきてしまうかもしれないのだ。自分のあそこの奥にある(いつき)のあれが。

 

 

 前日の夜は一晩中たっぷりと子宮の中に精液を出されたあと、樹のおちんちんでそれに栓をするように繋がりながら寝て早朝までをすごした。膣の中にあった分は軽く流して拭いたものの、奥からたまに溢れてくる量に関しては予想がしづらい。

 

 以前も何度か平日前の夜に樹に抱かれたことがあった。中学生時代は自宅で。高校に入ってからは自宅とホテルで。一応きちんと学校には行ったのだが、樹が激しかった日はどうしても寝不足になるので、次の日の学校は睡魔との戦いになってつらかった。

 

 中に出されてしまった分が次の日の学校で早々に垂れて出てきてしまって困ったこともなくはない。さすがに匂いとかでバレたりしたら恥ずかしくて死にそうになるだろう。薄い本みたいに脅されるのも嫌だ。そんなときは早退するなり休むなりするようにした。

 

 今日も、あきれるくらいに出されたし、学校に行こうかどうしようか迷っていたのだ。登校途中に眠気に襲われて、帰って休むほうに傾きかけたところでヒゲ男に攫われてきたのだが。そこだけ見ればたいそう迷惑な話だった。

 

 

 さすがに撮影中に垂れてきてスカートに染みたりしても困る。空想上のお父さんも困るだろう。柊さんに生理用品がないかどうか聞いてみることにした。

 

 タンポンとナプキンを併用すればなんとかなるだろう。いくらなんでもスカートのなかを撮影したりはしないだろうし。

 

 表情に疲れが出たり、寝不足でくまが出ていないかも気になった。準備にまだ時間がかかると聞いて、すこしでもいいので仮眠させてもらうことに決めた。

 

 

 

 撮影前には、衣装を決めて簡単な化粧をする。化粧はカメラ映えするように少し整えるだけだ。すっぴんで調理しているように見えなければいけない。

 

 制服が自前なのだけれども、そのままでいいのだろうか。聞いたがかまわないというか自然な感じでいいらしい。普段から着ているものなので、傷んでたりほつれが映像で目立ったりしないかだけが心配だった。

 

 エプロンを制服の上から付ける。制服のリボンとかは見えているが、それほど特徴のあるかたちでもないし、問題にはならないだろう。

 

 

 景はいきなり最初の撮影テストで、何も考えずに普段どおり手際よく調理してしまって叱られた。

 

 たしかにCMのコンセプトに合っているとは言いがたい。まだすこし頭が回っていないのかもしれない。

 

「お前、『芝居』を何だと思っている?」

 

「…………思い出すこと?」

 

「分かってるなら、早く()れよ」

 

「……父親に料理を作ったことないの」

 

「相手は誰でもいい。初めて手料理を作った日を思い出せ。俺が撮りたいのはお前の愛情だ」

 

 

 愛情を持って、初めて誰かのために作った料理。たしか、ルイとレイのために作ったカレーだった。お母さんの代わりにおいしく作ってあげて、ふたりにおいしいねって笑って欲しかった。

 

 実際には失敗して、コゲて苦くて、食べきることもできなかったけど。

 

 あんまりなひどさに、三人で顔を見合わせて、笑ってしまった。それって一応、目的は達したと言えるんだろうか。

 

 いまの景の料理の腕を知ってる者が聞いたら、誰もが驚くだろう。でも三人にとって、それは大切な思い出だった。

 

 

「カット!! OKだ!」

 

 墨字の声がスタジオに響いた。景は過去の感情から戻ってくる。

 

 いまのでいいのだろうか。確かに愛情は出ていたと思う。はじめてのぎこちなさも。

 

 でも、父のためにというのなら、たぶんもっと別の――。

 

 

「……黒山さん。いまのでもいいんですけど、できればもう一回撮影お願いしても、いいですか?」

 

 なんとなく、私の父ではなく、私の子の父に向ける愛情が見えるCMのほうがいい気がした。

 

 

 

 『父の日にシチューを』

 

 脳裏に大好きな樹のことを思い浮かべる。過去の記憶ではなく、未来の記憶。彼が子供の父親で、幼い子のために一生懸命働いていて、そのために私は美味しいシチューを作ってあげたくて……。

 

 料理には苦手意識があってこれまでシチューは作ったことがなかった。でも市販のシチューのもとは買ってきた。箱の説明どおりに作ればそんなにおかしなものにはならないはず。鶏肉と玉ねぎ、人参にじゃがいも。皮を向くのはピーラーでもいいんだろうか。包丁では自信がない。

 

 表情が緩む。先ほどまでに感じたのとは違うかたちの愛情が胸の中に湧き出てくる。

 

 70億分の1の相手。彼と出会い、結婚し、彼の子供を授かって、無事に産むことが出来たという奇跡への感謝。生まれてきた子供にきちんと愛情を注いでくれる父親という存在に対する憧憬。

 

 母というよりは女の顔が混ざってしまったかもしれない。自分で提案してはみたけど、あまりよい映像は撮れていないような気がする。

 

 シチューをゆっくりと作り終わると、墨字の声がかかった。

 

「カット!! こっちもOKだ!」

 

「……OKなの?」

 

「ああ。いい表情の演技だった」

 

 それで、ひとまず撮影は終了となった。

 

 ずっと撮影を横で見ていたプロデューサーとクライアントも、あっけにとられたような表情ではあるけれども満足そうだった。いい撮影になったのかもしれない。

 

 これが、夜凪(よなぎ)(けい)の役者としての初仕事だった。

 

 

 

「どっちを使うの?」

 

「……プロデューサーとクライアント次第だな。俺はどっちもいい出来だったと思う。だが方向性はかなり違う出来になった」

 

 撮った映像のチェックをする墨字の後ろから、景はモニターを覗き込んでいた。カメラで切り取られて映像になった自分を見ると、なにか不思議な気分になる。

 

「最初のコンセプトからすれば前のテイクでいいだろう。ただあとのテイクも風変わりだがかなり面白い映像になった。父への料理を作る姿にはちょっと見えないが、クライアントがOKを出せば世間の話題くらいにはなるかもな」

 

 自分で思っていたよりも、映像の自分は綺麗だった。

 

「まあ、枠や方向性がかっちり決まってるテレビCMじゃなくてウェブCMだからな。両方採用で同時掲載っていう可能性もある。コンセプトがボケるって嫌われることもあるから、なんとも言えないが」

 

 墨字の映像監督としての腕がいいからだろうか。流れている映像に見とれてしまう。何時間でも見ていられそうだった。

 

 帰ったら、樹とルイとレイのためにシチューを作ろう。そして皆で一緒に食べて笑顔になろう。

 

 話されていた墨字の言葉は、半分も聞こえていなかった。後で叱られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 『父の日にシチューを』

 

 とある食品会社が自社のシチューのもとのウェブCMとして公開したその映像は、父の日にはじめてシチューを父親のために作っている清楚な美少女のあどけなさと家族への愛情あふれる表情が一部で話題を呼んで人気となった。

 

 そして、しばらくして公開された別バージョンのCMでは、その美少女がはじめて異性に料理を作ってあげようと頑張る、愛情に加えて女としての恋と色気がにじみ出す表情がさらなる話題を呼び――。

 

 

 二ヶ月後、その16歳の美しい少女が、子供を授かったためにイトコの幼馴染的な男性と結婚するという話題で、日本中の青少年を絶望の渦へと叩き込んだ。

 

 のちの出産日から数えると、CM撮影の半月ほど前には妊娠していた計算になり、おなかに愛しい命を宿した状態であのCMを撮影したことが知られることになる。

 

 人生経験が深いある程度以上の年齢の人間は、CMで見せた少女の表情にその事実で納得し。

 

 若い青少年の一部は、そのCMで少女の見せる表情と色気と裏の事実に勃起し、性癖をこじらせたという。

 

 

 

 ある意味、少女が出演するCMとしては伝説となった。

 

 

 当初は未成年の妊娠出産と、それを助長するような食品会社のCMへの扱いに非難もあったが、その後に結婚した夫婦の仲睦まじさなどが伝わるとそれも下火になり、未成年の妊娠出産への偏見をわずかばかりとはいえ解消してみせた。撮影に偶然立ち会い、掲載を強烈に押した役員の評価も上がったという。

 

 そのシチューのもとは、品質自体はやや上質だがシリーズの食品としてはありふれたのものであったが、一時期話題をさらったことで幅広い世代が知る人気商品となり、長きに渡ってヒット商品として世に流通しその会社を支えることになった。

 

 ささやかな感謝として定期的に食品会社からはそのシチューのもとがまとまって贈られ、彼女は妹弟を含めた家族みんなでシチューを作って食べているという逸話が残っている。

 

 

 

 『()()()()()()シチューを』

 

 妊娠結婚の事実が知られたのちに別バージョンのCMに誰かが揶揄(やゆ)して付けたその呼称は、正式な名称ではないものの広く知られ、最終的には食品会社のHPや某ウェブ百科事典にも注釈入りでその名称が掲載された。

 

 いまでは子の父になった、当時は恋人だった夫に手料理を食べてもらうときには、彼女はいつもCMに似た笑顔を見せるとは、友人たちの談である。

 

 

 

 

 




< 父になる日にシチューを 終 >




いただいた感想とその返信からこのお話は生まれました。
この場を借りてお礼申し上げます。





とある日のトレンドワード
#美少女CMネトラレ




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真っ赤になって身悶える美少女のウワサ

本編終了後、数カ月後くらいのお話です。




 いい加減慣れたほうがいいと思ってはいる。でも慣れない。無理だった。

 

 ATMで(いつき)がつくってくれた援助専用の銀行口座からお金をいくらか引き落とす時に。通帳に記帳をする時に。夜凪(よなぎ)(けい)は最初に樹に抱かれたことを思い出してしまうのだ。なぜってこのお金はすべて、その行為の代価としてもらったものなのだから。

 

 下手をすればその吐息を、その肌のぬくもりを、その大きく反り返った立派な――。

 

 昼間の往来で女子中学生が脳裏に浮かべる想像の域を超えそうになって、景は慌ててカードと現金を財布にしまい込んだ。

 

「はやく帰らないと……」

 

 火照っているのが自分でも分かるくらいには顔が真っ赤に染まっているだろうことや、スカートの下で自分の女性器がはしたなくじゅんと濡れてしまっていることが分かるくらいには、景は冷静だった。全然冷静ではなかったが。

 

 

 

 

 ATMで真っ赤になってもじもじと股をすり合わせる中学生くらいの美少女がいるという都市伝説を最初に言い出したのは誰だったか。

 

 エロい。

 

 その文章の字面だけで、女子に縁のない男子中高生なら抜けるまである。目撃情報は結構あった。

 

 曰く、黒髪を伸ばしていて、すらりとした手足の凛とした美少女である。

 

 曰く、お尻はキュッと締まっていて綺麗だが、胸は残念である。

 

 曰く、真っ赤になってるときにはやたらエロい雰囲気を放ち、まわりの男子を(うずくま)らせる。

 

 曰く、スカートの中から、しずくが脚を伝って流れ落ちるのを見た。汗かもしれないけど違うかもしれない。

 

 曰く、スマホで撮影しようとすると気配を察知してダッシュで去る。速すぎてうまく撮れないし追いつけない。

 

 曰く――

 

 

 とりあえず、二番目の証言者は早めに逃げたほうが身のためだと思う。死すら生ぬるい報復を受けてからでは遅い。四番目は別の意味で危ない。ことが起こる前に少女幼女からは隔離したほうが良いだろう。

 

 

 

 そんな都市伝説が流布していることを景は知らなかったが、ATMで恥ずかしい姿を晒すたびに結構まわりから注目されていることは自覚していた。なにしろもともと美少女なのだ。周囲の視線には敏感である。

 

 なんとかする必要はあった。自分の頭が一時的に桃色に染まってしまったときに自分の中のオンナが目覚めてしまうことを。

 

 景の周りから性犯罪者を出すわけにはいかない。あんなエロい女がいなければ手は出さなかったとかリアルに言われかねない。

 

 自分が引き金を引いてしまって他の女の子が犠牲になったりしても寝覚めが悪い。もしかすると奥手なカップル未満に大人の階段を登らせるきっかけになったかもしれないが。途中を飛ばしすぎるのも良くない。

 

 

 

 発情してしまった景の取る手段は、限られている。中学生の女の子がするようなことではないけれども、この際は仕方がない。

 

 恋人たる樹を呼び出してセックスしてもらうか、自分で慰めるか。選ぶまでもなく前者になるだろうことは明らかだった。

 

 実のところ、景は自分で自分を慰める――俗に言うオナニーをしたことはほとんどないので。

 

 性的なことを樹に教えられてしまった初体験の時以前は割と純真で、ぼんやりとした性的欲求はあったものの気にしていなかった。それ以降は性的な欲求というよりは樹とするのが楽しいのであって、身体が疼いたりするようなこともない……ことはないが、樹に訴えればわりといつでも会えるし解消されてしまうので気にするほどでもなかった。

 

 本体がすぐ手の届くところにあるのに、劣るおまけで満足する必要はあまりない。

 

 

 とりあえずスマホのライイン(LieIn)で樹に連絡してみることにした。なんかおかしな名称だが大丈夫なんだろうか。無料通話も出来てスタンプとかあるあれである。

 

 夕食後に相談したいことがあると送ると、すぐに返事が来た。連絡しておかなくてもまず家にはくるだろうが、こういういかにもなやり取りも実は楽しい。

 

 スマホはお付き合いをはじめた後に半ば強制的に持たされていた。本体も月々の支払いも樹持ちでと言われては断れない。

 

 わりと普通のバカップルっぽいやり取りをするくらいにしか使ってなかったが。

 

 あとはルイとレイがたまに無料ゲームをしているくらいで、徘徊対策や連絡用にスマホを持たされるお年寄りとあまり変わらないレベルの活用度ではあった。

 

 

 

 景と樹は、そういう関係になってから、同棲こそしていないものの土日は一緒にいることが多い。平日でも夕方以降は顔をあわせている。

 

 ルイとレイも一緒の時間が多いのでずっといちゃいちゃしているわけではないものの、下手をすれば同じ中学高校に通うカップルよりも同じ時間をすごしているかもしれない。

 

 同じご飯を食べていれば仲良くなれるし性格も似ると言ったのは誰だったか。それは友愛的な意味なのか、栄養学的な意味なのか。

 

 ともかく、毎日のように夕ご飯を一緒に食べる仲だった。毎日味噌汁を作るという条件ならすでにクリア済み。まだ女子中学生なのに、下手をすれば新妻を通り越して長年連れ添った嫁である。

 

 

 ごちそうさまを言った後、ルイとレイが別の部屋で遊んでいるのを確認してから、景が切り出した。

 

「その、援助のお金を入れてもらってる口座なのだけれど」

 

「あれ? 今月まだだったっけ。入金してるはずだよね」

 

 むしろ入金があったから問題が出るとも言えるのだけれども、それはとりあえず置いておく。

 

 

「いえそうではなく、……えっと、ATMでお金をおろすたびに、樹とそういうことをしてのお金なんだと認識してしまうのが困るというか」

 

「……なんか問題あるんだ」

 

「その、身体が……すこし」

 

「想像してえっちな気分になったりするの?」

 

「……すこし」

 

 実際のところはすこしどころではなかったが、一応そういうことにしておいた。

 

 

「作ったほうじゃなくて、前から使ってた口座に振り込むようにしたほうがいい?」

 

「普段使いの口座を見ても身体が反応するようになってしまったら、すごく困るわ」

 

「ならいっそ、現金で渡そうか? もともとあまり会えない状況を想定したから振り込みにしてたけど、現状だとあまり意味はないし」

 

 樹は近くにマンションを借りて引っ越してきていた。一緒に住んでもよかったのだが、一応は近所からよく遊びに顔を出す親戚という位置づけになっている。訪問頻度が多くてよくわからなくなっていたが。

 

 

「ルイとレイが寝てから渡してもらえるなら、それで」

 

「渡したあとは?」

 

「そのまま抱いてほしい、かしら」

 

「……なんかいやらしいことを無理やり言わせてる気分になってくるんだけど」

 

 気がつけば距離が近い。景が距離を詰めていた。

 

 

「だって、覚えてるの。初めての日にあんなにされたこと、忘れるわけない」

 

「……景ちゃん?」

 

「あのとき私の処女を買ってもらっておにーちゃんのおちんちんが大きくなって私のおまたの奥に入ってきていっぱい中に出してもらったお金なんだと考えるとおまんこの奥がきゅんって……」

 

「いやなんでわざわざすこし舌足らずでいやらしい言い方で全部言うの」

 

「……キャラ付け?」

 

 メソッド演者の真骨頂が無駄に発露している景だった。自身がロリだった頃もこんな感じではなかった気がしたが。

 

「景ちゃんの美人系の外見でロリキャラとかなかなか攻めてくるね」

 

「恥ずかしい……」

 

「照れるタイミングがおかしくないかな……」

 

 あざとかわいい。とりあえず樹はスルーしておいた。かわいい無罪。

 

 

「……きゅんってなるのだけど、どうしたらいいと思う?」

 

「続けるんだ?」

 

「わりと切実なの」

 

「する直前にお金渡すとかなんか生々しいけど、かまわないよ」

 

「ありがとうございます、ご主人さま」

 

「なんで俺が調教完了したみたいな反応になってるのか……」

 

「なんでかしらねご主人さま」

 

 とても愛らしいのでやめてくれとは言いづらいが、聞かれると双子に悪影響を及ぼしそうな呼称ではあった。

 

 

 

「でも、そんなことになっていたのなら、もっとはやく相談してくれてもよかったのに」

 

「ごめんなさい」

 

「もしかしたらこんなことになったかもしれない。すこし想像してみて」

 

 『メイド服』と大きく書かれた謎Tシャツに着替えた景を前に、樹が警告する。この可愛いイトコはどうにもあぶなっかしいところがあるので。

 

 

「ATMでいやらしい気持ちになってる景ちゃんを物陰に連れ込もうとする人影」

 

「は、走って離れるようにしてるから、それは大丈夫だとおもう、けど」

 

「去ろうとしてる景ちゃんを捕まえて無理やり車に乗せてそのままホテルに連れ込む俺」

 

「!?」

 

 颯爽と助けに現れるヒーローかと思いきやまさかの加害者だった。

 

 

「景ちゃんの淫気にあてられてケダモノと化してしまってるから」

 

「えっちな小説並みの展開ね」

 

「後ろから襲ってもいい?」

 

「…………ケダモノみたいに後ろからされるのは少し」

 

 脳内シミュレーションの結果、悪くはないけど恥ずかしいという結論で却下されていた。悪くはないけど。

 

 

「そ、そういうのじゃなくて」

 

 もじもじしながら、甘えたような景の声が樹の耳に届く。

 

「その、前からいっぱいぎゅってしながら、してほしい……」

 

 

 そのあと滅茶苦茶お互いにぎゅってしながらした。いつもよりも盛り上がって二人して寝不足になったのは当然の結果だったかもしれない。

 

 




< 真っ赤になって身悶える美少女のウワサ 終 >


※ 百合(?)R-18短編ですが「千世子と景のデスアイランド」(改題)もよければどうぞ



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R-18?デスアイランド

 問答無用に放り込まれたデスアイランドでのデスゲームは進行していた。すでに何人も死んでおり、もうスマホの指示を無視する者はいない。

 

 『○○をしろ』

 

 『クラスメイトを一人殺せ』

 

 『女子のクラスメイトを一人殺せ』『男子のクラスメイトを一人殺せ』

 

 指示に逆らえばどちらにせよ誰かが死ぬ。彼らに選択の余地はあまりなかった。

 

 

 だが今日はまだ誰も死んでいない。すでに男女それぞれのスマホに別々に指令は出ている。『女子のクラスメイト○○を殺せ』『男子のクラスメイト○○を殺せ』と。

 

 指令に関してはそれぞれのスマホに来る相手の名前が異なる。誰か一つの指令が遂行されれば本日のノルマはクリアされる。カレンが情報として共有しようと声をかけてはいた。だが、成功しているとは言いがたい。

 

 誰もが、他のクラスメイトのスマホに自分の名が載るのを恐れていた。そしてそれを知ることを。知ったら、はたして平静でいられるのだろうかと。その相手に先に手をかけはしないかと。

 

 指令外の殺害や反撃をした際のペナルティの有無も不明。極端な話、誰かが指令を待たずして自分以外の全員を殺せば勝利条件を満たすのかもしれない。彼らには確かめるすべはなかった。

 

 ある者は絶望し、ある者は諦め、そしてある者はこの状況で精一杯あがいていた。

 

 

 

 スマホのアプリで女子の一人から呼び出しがあった。1対1のメッセなので受信者は自分だけだろう。この島に来るまでは喋ったこともほぼないコだった。すこし恐ろしくなるような美しさを持つ美少女。独りが好きなのかあまり他の女子と仲良くしてはいなかったけど、容姿だけでも自分とは対極にある。そもそも学校生活で接点がなかった。当然、相手の指令の内容は知らない。

 

 呼び出されたからには殺される可能性が一番高い。複数人や不意打ちでの待ち伏せがあれば容易くやられるだろう。女子が男子から身を守るために何人か、あるいは全員で手を組んでいても不思議はない。

 

 でも彼女が?という疑問はあった。そういったことの正反対にいそうな存在。いまの状況にも独りで淡々と対応し、出来る限り生き、ダメならば独りで死ぬ。そんな印象があった。

 

 次点で、こっそり共闘しようという申し出だろうか。だがこっちが彼女を知らないように、彼女も自分を知るまい。よく知らない男を仲間にしようとするとは思えない。よく知ってる相手ですら、いま信用できるかどうかも怪しいのに。

 

 

 もちろん、呼び出されても行かなければいいだけではあるのだが、行くことに決めていた。

 

 

 これだけ大掛かりなデスゲームの舞台が整えられて、もう実際に死人も出ている。遊びや冗談ではすまない。

 

 主催者の正体も不明。最終的には、一人か数人を残してみな殺されるのだろう。ならば自分が生き残る可能性など皆無に近い。どうせ数日中には自分も死ぬ。

 

 今日殺されて他のみんなが生き残るというのなら、それもいい。自分の命だというのに守るのが面倒になってきていた。特に、自分を守ると他の誰かが死ぬという二択がきつい。じわじわと、心を削ってくる。お前は、他人より生き延びるにふさわしいだけの人生を送ってきたか?

 

 

 指定場所は廃ビルの一室だった。念のために部屋を2階に変更してくれと送る。いざとなったら窓から逃げればいい。死んでもいいと思いつつ警戒する自分がおかしかった。

 

 すぐにOKのスタンプが返ってくる。

 

 部屋に着いたものの、まだ誰もいなかった。窓を開けて外を確認していると、ゆっくりと階段を下りる靴音がした。ひとつだけ。

 

 

「……きたんだ」

 

 ケイコが姿を見せた。意外そうに、その澄んだ瞳が見つめてくる。

 

「呼ばれたからね。……なんの用なの?」

 

 誰かが彼女のスマホを使って騙そうとしている可能性もあるかと思っていたのに、そうではなかった。まるでいつもと同じ淡々とした様子で話し出す。

 

「取引できたらと思って」

 

「……なにを?」

 

「私の身体を抱くかわりに、カレンと私を殺さない」

 

「え、え? 僕が?」

 

「そう。あとこれはカレンには秘密。それだけ」

 

「君とセックスをしてもいいってこと?」

 

「特殊な性癖とかなければ。……もしかして、初めて?」

 

「う、うん。経験ないと、ダメ……かな」

 

「別にかまわないわ。私は初めてではないから、わからないところがあればおしえてあげる」

 

 

「終わるまでは、恋人みたいにしてくれていい。まずはこうして、だきしめて」

 

「うわ、おっぱい柔らかい。なんかいい匂いする」

 

「好きなことしていいよ」

 

「触っても……いいの?」

 

「オンナノコにしてみたかったこと、ない? キスでも、胸でも、それ以外でも。彼女にするようなことならなんでもしていい。あ、痛いことはできればやめて欲しい」

 

「そ、そっか。なら……」

 

「……そのさわりかた、気持ちいい……優しいんだね」

 

 

 

「このままする……から」

 

「う、うわ……すごい、濡れてる……」

 

 

 

「で、でるっ……出して、いいっ?」

 

「いいよ、出して。そのまま」

 

「……あっ……あっ……すご……ぃ……」

 

 

 

「……なんで、こんなことしてるの?」

 

「カレンは誰も殺そうとはしない。だから私も殺さない。あなたもそうして。生き残っていたら、またしましょう」

 

「そうだな、じゃあまた……明日」

 

 今日を生き残るために誰が死ぬのかはまだわからないけれど、あがくと決めたから。

 

 

 

 

 

 

「みたいなことがデスゲームの裏で起こっているかもしれないじゃないですか!」

 

 どばどばと鼻血を垂らしながら、スターズ組の和歌月(わかつき)(せん)が興奮して叫んだ。

 

「いや、極限状態やし生き残るためにそーいうコが出てくるのはまあええねんけど……原作無視でよくはないけど……なんでそれがケイコなん?」

 

 よりにもよって男子を誘惑していたしてしまうキャラがなんで彼女なのかとげんなりした顔で、オーディション組の湯島(ゆしま)(あかね)が応える。顔が赤い。

 

 横で妄想の中で役を演じさせられていた夜凪(よなぎ)(けい)がうんうんと頷いていた。生娘のように見えても年上のイトコと色々と経験済みなので、この手の話には耐性があるのか平然としている。

 

 

「ケイコは友人であるカレンだけを生き残らせたいと思っているからですよ。そのためには、男性は全員死んでもいい……いえ、むしろ互いに争って死んでほしいと思ってる。でも彼女には武器がないから、自分の容姿を利用することにするんです」

 

「いや、まあおちつきーな」

 

「いえいえ、落ち着いてますよ! 男に抱かれるのはイヤだけど平気なふりをしてカレンだけを見てる、って壊れ方が切ないと思いませんか」

 

「身体を差し出してるにしては要求がささやかじゃないかしら」

 

「自分とカレンが殺されづらい状況を作りたかったとか? これが地味に効いててケイコとカレンが最後に残るとかはありえますよ」

 

 生かしておくメリットもあり、残しておくデメリットもない相手だと頭の片隅にでも置いてもらえれば、生き残るという点で有利になることはたしかにあり得る。

 

「……結構、したたかなのね」

 

 景は妄想の中の自分に感心していた。そこまでカレンを慕う想像はいまひとつ掴みきれなかったが。

 

 

「でも壊れてるで言ったら和歌月のほうがひどいやろ。リンが死んだのがショックで教室で竜吾を斬り殺したのはまあええとして、その後なんでうちら三人は追いかけられなあかんの?」

 

「台詞にもありましたけど、グルだと思いこんだんでしょうね。もしくは死んだリン以外なんてもうどうでもよくて、あの時点でおかしくなっていたとか」

 

「ケイコと竜吾がグルとかひどい言いがかりやわ。しかも逃げたうちら追って延々崖まで追ってくるし、かんなはとばっちりで斬られるし崖から飛び降りても追ってくるし」

 

「台本どおりとはいえ、あれはすいませんでした」

 

「……水は冷たくて気持ちよかったわ」

 

 進行を遅らせたことで叱られたのに、景はあまり懲りていなかった。

 

 

「ていうか、これ相手誰なん?」

 

「イメージ的にはオーディション組の小西(こにし)(とおる)くんあたりですか」

 

「あーあのぽっちゃりしたコか。まあ実際どうかは知らんけど、たしかに童貞っぽい感じはあるなぁ。おとなしめの幼馴染とか義理の妹とかにはめっちゃ慕われそうな感じなのに、そんなんいなかったから女子にずっと縁はありませんでしたみたいな」

 

「茜さんあたりが幼馴染なら、わりとお似合いだと思うんですけど」

 

 景も千も容易に想像ができた。のほほん系男子とおせっかい系女子でいいコンビかもしれない。

 

「なんでうちの名前だすんや。作中のキャラやろ!」

 

「最後は茜さんを守って泣かれながら腕の中で死ぬ。もしくは茜さんを守りきれずに呆然としているところを直後殺される……」

 

「名前ださんでええわ! なんか本当みたいな気分になってくるから!」

 

「もうそれでキャスティングしてもらったらどうかしら」

 

「アキラくんとカレンが似た感じだった気がするし、無理じゃないですかね」

 

 

「ていうか和歌月さんてこんなキャラやったっけ? まあオーディションでスターズに入ったのも最近やから染まってないのは分かるねんけど……なんかそういうのとも違う気がするわ」

 

「オーディションのときはきりっとしてたから、もっと生真面目な人かと思っていたわ」

 

 景がそう言うと、千の目が泳いだ。自覚はあるらしい。

 

「うっ……ちょっとその……男兄弟の中で育ちましたので()()()で、女の子の世界に憧れがないとはいいませんが……」

 

「その憧れてる女の子の世界が男を誘惑する美少女しかおらんって、どう考えてもおかしいやろ!」

 

「そうなんですか? 参考になる本がないので、兄たちの本棚の奥に隠されている肌色の多い本を参考にしたんですが……」

 

「たぶん、参考にした本が間違ってると思うわ」

 

「そんな本は全部、燃やして捨ててまえっ!」

 

 あんまりな千の認識にキレた茜によって、千の兄貴達のお宝本の行く末は決まった。景の燃やすよりも古本屋で売ったほうがいいという意見は却下された。参考書のダメさ加減については、のちほど茜と景からじっくりとお叱りがあった。

 

 

 後日、帰宅した千の氷点下の視線にさらされながら、涙をこらえてお宝本を庭で燃やす男たちがいたという。

 

 




< R-18?デスアイランド 終 >



これを書くために原作で死亡シーンをカウントしたら8人分しかありませんでした。残りは生死不明。作中で3分の1しか死んでないデスゲーム……。


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めいどのみやげ

「冥土カフェ???」

 

 聞き慣れない単語が頭の中で上手く漢字に変換されずに、(けい)は戸惑った。

 

 お化け屋敷だろうか。番町皿屋敷?

 

「ちがう。メイドだって」

 

 間髪入れずに友人の朝陽(あさひ)ひなが反応する。慣れたものだった。景のボケじみた言動にツッコミをいれるのはいつものことではある。

 

「冥土?」

 

「うん、多分違う変換してるから、漢字から離れたほうがいいと思う。メイドさんのメイドね。可愛い服着て『ご主人さま』とか言うほう」

 

「メイド……Maid Cafe?」

 

「うわ、なんか発音がいきなりネイティブっぽくなった」

 

「ぐろーばるに活躍するなら英語の発音はちゃんとしとけって(いつき)(おにー)ちゃんが」

 

「なんでぐろーばるはひらがななの……ていうか誰なの樹ちゃん」

 

 景の言動はつぎはぎなので割と適当なだけなのを、()()はまだいまひとつ把握していなかった。いかにもな外見に反して、中身は意外と真面目なところがある。

 

 

「ほかに候補はー?」

 

 いまは杉並北高校の学校祭、通称『杉北祭(すぎきたさい)』の出し物をクラスでなにをやるかについて、HRで話し合いの最中である。

 

「出し物の詳細はともかく、店で夜凪(よなぎ)さんに出てもらえば盛り上がるのは間違いないと思う」

 

 とりあえず景のような美少女がいるなら、それを最大限に活用した出店をしておこうと画策しているクラスメイトを責めることは難しい。問題は、景にいまひとつ愛想とかを期待できないところではあるのだが。

 

 彼氏である樹との交流を通じて多少改善は見られるものの、景にはコミュ障というか対人での独特な言動と距離感のようなものがある。

 

 いわゆる普通のJKらしさは皆無に近く、それを許容できないと景との付き合いは難しい。

 

 現に樹に微妙な顔をされつつもバイトをしようとしたカフェは接客がろくにできずに早々にクビになった。あまりにも結果が出るのが早すぎて慰められたのは記憶に新しい。

 

 つまり、外見の美しさだけでは庇いきれないものがこの世にはあるということである。残念な美少女に期待しすぎるあたり、ある意味、クラスの期待は根本的に間違っているとも言える。

 

 むしろ男装をして男装カフェのほうが、景の苦手な愛想がなくても乗り切れそうな雰囲気はあった。会話おさわり厳禁で窓際に美少年が立っている的な扱いになるかもしれないが。

 

 

「断層カフェ???」

 

 聞き慣れない単語が頭の中で上手く漢字に変換されずに、景は戸惑った。本日二回目。日本語の読解能力にやや不安を覚えないでもない。

 

 露出した化石を見ながらお茶でも飲むのだろうか。教室内にどう配置するのか、興味はある。

 

「ちがう。男装だって。男子の装い」

 

 ひなも付き合いがいいというか、独り言に近い景の発言をきちんと拾って返す。

 

「ああ、男の子になるほうね。愛想よくしなくてもいいなら、そっちのほうができそうだけど……」

 

「いや、無理じゃないかな……」

 

 ひなの分析のほうが正しいだろうというのが満場一致で可決された。景の味方はいなかった。

 

 

「何人か男装して、似合いそうな男子には女装してもらったら?」

 

「……吉岡(よしおか)君とか?」

 

「ちっちゃくて可愛いから似合うと思う」

 

 いつのまにか、クラスメイトの女子が違う方向で盛り上がっている。

 

 ノーメイクでウィッグ付けるだけでロリ系胸無いメガネっ娘になれそうな女顔の吉岡(よしおか)新太(あらた)は、一部の女子層に密かに人気があった。本人は知らなかったが。

 

 16歳男子で身長が156cmという現実はやや酷にすぎる。平均身長だと12~13歳男子くらい。つまり男子小学生並みでありショタである。おまけにそばかすがあるので赤毛の三編みウィッグもいいなとか思われてもいた。そっちは地味子ロリか。業が深い。

 

 

 クラスでの話し合いの結論としてはひとまず飲食系ということになった。扮装の方向は衣装の絡みもあるので、メイドか男装が有力だがおいおい詰めるらしい。

 

 景には店頭への露出が期待されていたが、裏方で調理……というか紅茶を淹れたり飲み物を注いでもらっていたほうが平和だろうということに落ち着いた。

 

 あとは『美少女ちゃんの手作りクッキー』を景が大量に焼くことになった。

 

 頼まれた数量の桁が間違っているようにしか見えなかったが、余ったら男子に全部買わせるから大丈夫と押し切られた。ちなみに、余らなかったら別で全員分を焼いてくださいと男子からは懇願された。

 

 

 

 杉北祭を間近に控え、ついにその日がやってくる。大量の手作りクッキーを作らなければならないのである。控えめに見ても焼いても焼いても終わらない量なのは気のせいではないだろう。

 

 色々調整の結果、ひなも一応の美少女枠ということで手伝いに回っていた。アシスタント的な立ち位置ではあったが。

 

 残念ながら、ほかに増援はなかった。吉岡君を美少女枠に入れようとしたら怒られた。

 

 

「手についた美味しそうな匂いが取れない……」

 

「バターいっぱい使ってるから」

 

 特に指でこねたりする工程はなくても、まったく生地に触れないということもないのでいい匂いがしてくるのは避けようがなかった。

 

 バターと砂糖と卵と薄力粉を混ぜてこねて寝かせて型を抜いて焼いて、粗熱を取って袋に入れて簡単にラッピングする、を繰り返す。

 

 もとから手際の良い景に、すでにひなもある程度追いついてきていた。それほど難しい手順でもない。コツを聞いて回数をこなせば、作業には嫌でも慣れていく。味に直接影響するようなところは、景がするようにしてはいたが。

 

 

「結局は男女混合メイド&執事カフェになったけど、いろいろと作業多くて大変だったよね」

 

「私はひたすら服の作り変えをやっていた気がするけど」

 

 メイド服に似た感じの古着に、装飾をしたりしてそれらしい服を作り上げていく作業の手伝いも景はいくらかやっていた。手縫いもミシンも、ある程度こなせる女子高生は割と貴重ではあるので。

 

 担当者が凝り性だったのか、予算があまりない割には良い生地の古着が選ばれていて、さらにそれに足していく装飾のセンスもよかった。

 

 既製品やレンタル品のような統一感には欠けるものの、すこしづつ違う個性が出ていてそれはそれで良い出来になっているとも言える。

 

 

「これが終わったら、あとは当日にひたすら紅茶を……なんかそんな感じのことばっかりしてる気がするけど」

 

 当日は景もひなも結局は裏方で、一応それっぽい服装にエプロンを付けて、他の子の給仕と同時に客から見えるところでおじぎだけすることになっていた。見目がいい景をすこしでも有効活用する苦肉の策でもある。

 

 ひなはある意味で景の保護者的な立ち位置になっていたので、セットで基本的に同じ作業を振られていた。景は基本的に何でも出来るが、暴走しやすいのでそれの押さえと、コミュ障もどきの緩和のためである。

 

 

 

 朝陽ひなが夜凪景と一応の友人になったのは、4月に同じクラスになったばかりの頃だった。

 

「夜凪……だよね? 名前」

 

「うん」

 

 そんな言葉が、たしか最初だった。現実離れしたくらいに綺麗な顔立ちの美少女。仲良くなりたくて思わず声をかけていた。誰よりも一番先に仲良くなりたくて。

 

 すこしだけ愛想の乗った瞳で見つめられる。まずはクラスの親睦会でカラオケに誘った。

 

「あまり歌える歌がないのだけれど」

 

 謙遜ではなくカラオケが苦手だという景は、クラスの皆の前で恥ずかしがりもせずに童謡を楽しそうに歌いきり、やたらと上手いその美声で皆を沸かせた。天然美少女キャラとして定着したのは、これがきっかけだったかもしれない。

 

「選曲が童謡とかフツーじゃないし」

 

「小さな弟妹が好きだったから、よく歌ってあげてたの」

 

 聞いてみれば、理由も納得できる。普通の歌謡曲は聴く機会がないから知らない、ということのようだった。他には、古い映画を見るのが好きなので、そのあたりの主題歌的なものなら……と言われたが、多分誰もわからないだろうから避けたのだろう。

 

 少なくとも、童謡なら誰も知らないという事態は避けられるのは確かだった。

 

「もうさすがに二人もそんな歳でもないから……最近は弟が好きなウルトラ仮面の歌とかかしら」

 

「それならアキラ関連で女の子のファンもいるからギリ許容範囲かも」

 

「歌詞は覚えてるし歌えるけど、弟もいないカラオケで歌うのもおかしな気がするわ」

 

「……まあ、聞いて喜ぶコがいないと意味ないかぁ」

 

 結局、景はたまに童謡を挟みながらカラオケを楽しんでいた。あまり来る機会がないので、雰囲気を味わうだけでも楽しいというのが本音だったらしい。

 

 

 

 

 杉北祭の当日、サンタクロースが背負うような大きな袋がいっぱいになるくらいの数の手作りクッキーは、飲み物との注文で順調に売れた。

 

 順調すぎて、行列を捌ききれず、途中から時間制の整理券を配って入れ替え制になっていたのは、良かったのか悪かったのか。

 

 

 景はメイド服を着て紅茶を淹れて給仕の子に渡して席に向けて礼をする、を繰り返すだけなので特に問題はなかった。愛想はあまりないもののその美少女っぷりから男女ともにウケはいい。

 

 ひなはメイド服を着て楽しそうにしながらたまに給仕のシフトに入ったり、そのままの格好で他のクラスの男子と学校祭を一緒に回ったりしていたらしい。

 

 吉岡君はメイド服を着せられて女装男子として赤面しながらロリメイドとして働いていた。あまりに似合いすぎていて、写真を撮って送ったら雪ちゃんやルイとレイにも男子とバレなかったけれども。

 

 

 最終的に、景たちのクラスは馬鹿みたいな売上を記録した挙げ句、手作りクッキーは余らなかったので後日クラスメイトの分を別に焼くことになった。

 

 

 

 景の最終的なメリットは、割としっかりした作りのメイド服もどきを家に持ち帰れたことだろうか。

 

 樹と一緒に、それは有効に活用されたと言って良いと思う。

 

 




< めいどのみやげ つづく >



たまにはエロいお話をと、メイド服でまるっとえっちするだけの話を書くつもりだったんですがなぜか導入部を先に書いたら伸びて時間切れに。
これで終わりでもいいんですが、一応えっちなところに続きます。


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夜凪家のメイドさん

「お帰りなさいませ、ご主人さま」

 

「だんなさまー」

 

「ごしゅじんさまー」

 

 (いつき)夜凪(よなぎ)家を訪問すると、JKメイドとチビ執事とチビメイドが出迎えた。(けい)は学校祭で使ったメイド服もどきで、ルイとレイはそれっぽい感じに飾り付けただけの服ではあるものの、揃って頭を下げるとそれらしく見えてくるあたり不思議ではある。

 

 

「……なにこれ」

 

「私が衣装あわせてたら、ルイとレイが自分たちもするって言って聞かないから、それらしい服を寄せ集めたの」

 

「「おねーちゃんメイドに悪さするきちくごしゅじんさまを見張ってないと」」

 

「……しないよ?」

 

「「ごしゅじんさまは嘘つきです」」

 

「くくくっ、そうさ。騙されないとはなかなかやるではないか」

 

「「いやー襲われるー」」

 

 ルイとレイが景の左右に別れて逃げ出すふりをする。レイも年齢的にアウトだが、ルイも別の意味でアウトである。樹にはそんな趣味はなかった。ただしお仕置きはしておく。

 

 

 

 

「「おやすみなさいませー」」

 

「おやすみー……ぶれないなアイツら」

 

「おにーちゃんが来るまで寝ないってきかなくて……」

 

 樹と景は部屋に戻って寝る双子を見送ると、顔を見合わせて笑った。

 

 

 手作りのメイド服もどきではあったものの、なかなか出来はよかった。景の美少女っぷりもあって、立ち姿はなかなか絵になる。

 

 お屋敷にでもいそうなメイドさんではあったが、いるのは夜凪家で、部屋は和室だった。畳の上のメイドさんである。あえてどちらもツッコまないが、真面目な顔で向き合っていても違和感はある。

 

「ご満足いただけるまでご奉仕させていただきます」

 

「どっちが満足するまで奉仕させられるのだか……」

 

 すっと景の表情が変わった。柔らかかった表情からは、笑みが消えて真剣な雰囲気を漂わせる。真面目なメイドのお仕事がはじまるらしい。

 

「お食事になさいますか?」

 

「いや、軽く食べてきたからとりあえずはいい」

 

「では、こちらで」

 

 樹のベルトに手をかけると、するっとほどいた。すぐにファスナーを下ろして下半身を露出させる。

 

「このメイドさんは奉仕にためらいがない……」

 

「ご奉仕ですので」

 

「まったく説明になってないのに納得してしまうあたりがすごい」

 

 

 これからする行為への期待にすこしだけ固くなっている樹のものを、下着の布の上から景の手がやわらかく挟み込んだ。かたちを確かめるように、三本の指でゆっくりとなぞっていく。

 

 景が顔を近づける。先端のあたりを唇で軽く挟むと、樹のそれはすこし大きさを増した。

 

「直接、舐めて」

 

 ちらりとだけ樹を見て、景がボクサーパンツに手をかける。すこし持ち上げるようにしてから下ろすと、固くなった樹のおちんちんが跳ねるようにして立ち上がった。

 

「興奮……されましたか?」

 

 言いながら、ためらいなく口をつけた。濡れた舌の感触が、樹のかたちを確かめるようにして何度か往復していく。

 

 亀頭へと舌を這わせると、景はそのまま唇を開いて咥えこんだ。舌で表面を舐めながら、一番太いところを口の中に収める。

 

「いつもより興奮してるかも」

 

「ほーへふね」

 

 舌先を動かしながら、根元まで飲み込んでいく。ぬるっと感じる舌が添えられたまま唇に吸い込まれていく感触は、女性器のそれとは違うものの別の気持ち良さを樹にもたらしてくる。

 

 激しさはないものの、ゆったりと性感が高められていく感じ。口内で押さえ込まれているのに逆らうように、時折ぴくんと跳ねる。じらすように、何度かそれを解放して、舌先でなぞるように舐めたりもした。

 

 途中で垂れてくる髪が気になったのか、景が片手でそれをかきあげた。それにあわせて頬に手を当てると、嬉しそうに微笑んですこしだけ擦り付けてくる。

 

 じゅ、じゅるっと濡れた音を立てて、景が顔をゆっくりと上下させた。メイド姿の美少女がしている自分への行為に、妙な背徳感があわさって樹の背筋がぞくりと震える。

 

 達する直前に、景が樹のものを根元まで咥え込んだ。腰が跳ねそうになるのを押さえながら、景の喉の奥へと精を吐き出していく。

 

 こくりと景の喉が動いて、出された精液を飲み込んだ。まだ固いままの男性器を舐め取るようにしながら、少しずつ抜いていく。上目遣いで見てくる景の頭を、樹は撫でてやった。

 

 

「……いかがでしょうか」

 

 唾液で濡れた口の周りを拭きながら、メイドさんが結果の確認をしてくる。

 

「かなりよかった」

 

 ご主人さまの満足度はかなり高いらしかった。メイドだからなのか、そうしてくれるコが愛おしいからなのかは、よくわからなかったが。

 

 

 

 

「えっと、ならこれはご主人さまからのおしおき……じゃあないか。ご褒美? まあどっちでもいいけど」

 

「……はい」

 

 景が期待を瞳ににじませながら後ろを向くと、膝下まであるスカートをするするとたくしあげた。すらりとした脚があらわになり、すぐに引き締まったお尻が樹の目に晒される。

 

 見える下着の中央に、確かに濡れた染みができていた。興奮したのか、それなりに目立つ状態になっている。

 

「おしおきされるのに、期待してるのかな?」

 

「……は、はい」

 

 背後から景を抱きしめて、お尻と胸に手を添える。樹はそのままメイド服の上から胸をまさぐり、お尻を撫でまわした。肌の上を指が滑っていく感触が心地良い。くすぐったいのか、景が吐息を漏らした。

 

「ふぁっ……」

 

 そのまま、濡れたショーツを下ろしてしまう。股間に後ろから樹が指で触れると、濡れた秘唇の感触が確かに感じられた。くちゅくちゅと音を立てて、それをいじる。

 

「んっ……はぁっ」

 

 可愛らしい声が上がった。樹のものを舐めながら感じていたのか、それとも自分で少しいじってでもいたのだろうか。

 

「あぅ……ご主人さま、もう……その、準備はできていますから」

 

 どこまでが()()なのか、景にも樹にももうよくわからなかった。一旦落ち着いた樹のものは、もう固くなって準備を終えている。止めるものはなにもなかった。

 

 

 樹は手早くゴムを付けると、景の濡れたおまんこにゆっくりと侵入していった。ぬるぬるに濡れている暖かな感触に包まれながら腰を進めて、一番奥まで到達する。

 

「ご主人さまのが、奥に……届いてます」

 

「お仕置きだからね。余裕があるなら、もうすこし激しくしようか」

 

「…………あっ」

 

 ぐいっと一度押し付けてから、抜ける寸前まで引いて、勢いをつけて押し込む。一番奥を刺激すると、景の口から甘えるような蕩けるような声が上がった。

 

「ご、ご主人さまそこは……」

 

「気持ちよくなっちゃうなんて、はしたないメイドだな」

 

「も、申し訳……」

 

「まあ、そんなメイドさんのほうが可愛いんだけど」

 

「っ……」

 

 

 ぱちゅぱちゅと、水音をたてながら樹のモノが景のなかを何度も往復していく。言葉に偽りはなく、興奮しているのかいつもよりも大きく固くなっているようにも感じられた。

 

「あっ、そこ、だめですごしゅじんさまぁ……」

 

 がくがくと景の身体が震える。力が抜けて床に崩れ落ちそうになるのを、樹の腕が支えた。

 

「……なんだかんだで結構余裕あったりする?」

 

「そ、そんなこと……は」

 

 ご主人さま呼びを忘れていないのは、余裕があるのか、それともメイドになりきっているためなのか。景の中でもすでに曖昧になりつつあった。樹に喜んでもらいたいという想いで、理性をなんとかつなぎとめる。

 

 

 樹のおちんちんが、大きさを増した。子宮口に押し付けられたそれがびくびくと跳ねながら、ゴム越しに何度も精液が吐き出されていく。

 

 同時に、景も達していた。今日はじめての絶頂をむかえながら、樹のものを締め付けていた。ぴんと張った身体から、徐々に力が抜ける。

 

 大きさが落ち着くまでゆるゆると揺れていた樹のものが、身体の中から抜けていくのがわかった。ゴムを付けている時に挿れたままにしているのはよくないにせよ、同時に余韻を楽しめない寂しさも感じてしまうのは仕方のないことだった。

 

 

 

 

 それで満足して終わっていれば、やや物足りないながらも平和ではあっただろう。

 

 受け身のご主人さまというのも試してみたいと言ったのはどちらだったか。やや無表情ぎみのメイドさんと、おとなしめのご主人さま。たしかそんな設定だった。

 

 襲うメイドと襲われるご主人さまではなかったはず、なのだけれども。メイドさん上位の体位なのは、まあいいとしても。

 

 

「ご主人さまのことを好きすぎるメイドがすること、だから」

 

「え、いやちょっと落ち着いて」

 

「大好きな大好きなご主人さまの子種が、欲しいと思うのではないかしら?」

 

 樹のそそり立ったものにたった今はめたばかりの避妊具を、景の指がするっと取り外す。

 

「してくださいご主人さま。な、か、に」

 

「相変わらず演技なのか違うのか判断にっ……」

 

 景が迷わずに腰を落とした。抵抗もなくにゅるんと呑み込まれて、それまでとは違う感触が樹のそれを包み込む。根元までみっちりと、粘膜にじかに触れて繋がった感触。

 

「んっ……ご主人さまの、すごく」

 

 景がぶるっと身体を震わせた。同時に、樹のものをきゅっと絞り込むような刺激が襲う。そのまま吸い取られるように腰を上げると、景はゆっくりと上下に身体を揺らし始めた。

 

「こっちでも、ご奉仕させていただきますから」

 

「このメイド景ちゃんがかわいすぎる……」

 

 樹の上にまたがった景が全身をゆるゆると揺らした。髪が跳ね、布が擦れる音がする。繋がっている箇所はスカートに隠されて見えないものの、身体の動きにあわせてちゅぷちゅぷと音が漏れている。

 

 最初は樹の胸の上に置かれていた景の手が、さぐるようにして樹の指先と絡んだ。繋がった指先に力が入って、メイドがご主人さまの胸元へと倒れ込んでくる。

 

「んっ……ん、ご主人さまの、気持ちいい……」

 

 ぐにぐにと腰を回すようにしながら、顔を寄せて唇が触れ合う。吸い付くようにしながら、すぐに舌を絡めた。

 

 ご主人さまを襲う前にしていた行為の火照りが、まだ収まっていない。いとしいモノとナマで直接粘膜を触れさせながら繋がっているいま、高ぶりが引くこともない。

 

 キスをしながら、別のところでも繋がりあう。深く浅く、執拗に。避妊具の隔たりはない、愛する者との交尾。妊娠するかもしれない行為。

 

 お互いに、あっというまに最後の高みへと押し上げられていく。

 

 身体の奥に、樹の精液が吐き出されるのを確かに感じる。ご主人さまが大好きなメイドは、それを受け止めながら意識を飛ばした。

 

 

 

 

 景は目を覚ました。いつの間に寝てしまっていたのか、記憶になかった。

 

 確かメイド服を着て何度かして、それから……。樹と抱き合ったまま寝てしまっていたらしい。メイド服は途中で脱いだのか、寝てしまってから脱がされたのか、布団の横に置かれている。

 

 全裸なのに頭のホワイトブリムは外されていないあたり、樹の趣味なのか外し方に困ったのか、よくわからない。とはいえ、これならまだメイドということでいいだろう。

 

 

「舌で綺麗にしますね……」

 

 最後にご奉仕とばかりに、口でお掃除をする。念入りに汚れを落とすために妥協はしない。綺麗にはなった。ついでにもう一度大きくもなった。なかなかに逞しい。

 

 ――寝ているご主人さまは、メイドが襲うのがお約束ではなかったか。

 

 

 夜凪家のメイドの夜は、まだ終わらない。

 

 

 

 



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