ストーンフリーは解れない (空条徐倫)
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レッド・ホット・チリ・ペッパー





続けるか未定です。
でも、続きが見たい方がいたら書こうとは思ってます。



 

 

「おじいちゃん、もうすぐ着くわよ」

「おお、すまんのぅ」

 

 徐倫は耳の遠くなった祖父に聞こえるよう、口を大きく開けてハッキリとした発音で告げた。祖父は若い頃とてつもない力を持つ柱の男達と渡り合い、そして60を過ぎてからも(自分は幼かったので留守番だったが)()()()や仲間たちと共にエジプトまでDIOを倒すため旅をして……戦ってきた歴戦の戦士だ。

 ──だが、どんなに偉大な人間にも必ず死はやってくる。ゆっくりとだが確実に死に向かって老いてゆくのだ。それは偉大な戦士である祖父にも当然当てはまることだった。

 

 徐倫の兄、空条承太郎は現在日本のM県S市杜王町という町にとある調査に行っている。そんな兄から『じじいを連れて来てくれ』と言われた時は、思わず電話越しに大声で怒鳴り散らしてしまった。ジョセフ・ジョースターはもう十分戦った。火山の噴火に巻き込まれ左手を失い、エジプトで1度は心肺停止にまで陥って何とか生き返り、ようやく静かに老後を過ごしていたのだ。隠し子騒動やらもあったがそれ以外は平和に暮らせていたし、危険なことは一切なかったのだ……徐倫としてはこれ以上危険なことに巻き込まれて欲しくない。もう祖父は79歳になって現役時代の半分も戦う力はないだろうに……兄さんは敵の姿を念写するだけと言っていたが、それだけで済むという保証はどこにもないのだ。これまで予定通りに事が進んだということはほとんどないのだから。

 どうしてもというのでせめて自分がついて行くと言うと、兄はやれやれとため息をついた。徐倫は高校を卒業してからすぐ、スピードワゴン財団所属のスタンド使いとしてアメリカのテキサスにある本拠地を拠点にして世界中を飛び回っていた。いつも忙しく動き回り東京にある実家にもあまり帰らない妹が、祖父のために自国に帰るというので呆れたようだ。

 

(兄さん、何を考えてるのかしら……。ほんと、やれやれって感じだわ)

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「レッド・ホット・チリ・ペッパー……やつを見つけ出すことは出来る。()()()()()()()()()()()()()が今日の正午に杜王町の港に到着するからだ!」

「「「えぇ〜〜〜ッ!」」」

「み、見つけ出せる? やつの本体を!」

「スタンド使いかよ!? そいつッ!」

 

 承太郎の言葉に、仗助たち3人は驚きの声を上げた。なんと、あれほど正体のつかめなかったレッド・ホット・チリ・ペッパーの本体を見つけ出せるというのだ。驚かないわけがない。

 

「そうだ……ただその男はかなり歳でな、もう戦えるような力は残っていない。だから付き添いでおれの妹も一緒に来るってわけだ……」

「「「い、妹〜〜〜!?」」」

「じょ、承太郎さん妹さんがいらしたんですか? 知らなかった……」

「ああ、じじいをこちらに呼び寄せると言ったら自分も行くと言って聞かなくてな……いつもは世界中を飛び回ってるじゃじゃ馬なんだが、あいつは昔からおじいちゃんっ子だったからな、心配なんだろう。やれやれ……」

 

 仗助と康一は顔を見合せた。億泰は頭が悪いから気づいて居ないようだが、妹の話になると普段より少し饒舌になる承太郎の姿ははっきり言って意外だった。口では呆れたような事を言っているが、妹のことを大切に思っていることがよく伝わってくる。

 

「そ、そうなんすか……で、そのスタンド使いのじいさんって何者なんです?」

「…………ジョセフ・ジョースター、お前の父親だ。今日集まってもらったのはじじいを守るためだ! このことがチリ・ペッパーのやつに知られたらやつはじじいを始末するだろうからな……まあ、妹がついてるなら大丈夫だと言いたいところだが、念には念をってことだ」

 

 承太郎の言葉に、辺りに沈黙が訪れた。

 一生会わないだろうと思っていた仗助の実の父親……ジョセフ・ジョースター。まさかこんな形で会うことになるとは……

 

 

 

バチバチバチバチ! 

 

 

 

「「「「!!?」」」」

 

「けけ……確かに、確かに聞いたぞ! 正午に港にね……その老いぼれを殺すッ!」

「な、レッド・ホット・チリ・ペッパー!?」

 

 何故こいつがここにいるのか……こいつに話を聞かれないために、承太郎はわざわざ町から離れ、電線もないこの場所に集まろうと言ったのに……

 

「バイクだ! 億泰くんのバイクのバッテリーの中に潜んでいたんだッ」

「まずい、やつに話を聞かれたぞ! じじいのところに行くまでにやつを倒さなければッ」

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 コンコン

 

「入っていいわよ」

 

 徐倫がそう言うとスピードワゴン財団の職員が1人、ジョセフと徐倫がいる部屋に入ってきた。

 

「失礼します……港からボートが一隻近づいてきています」

「ボート? 一体誰が乗ってるの?」

「それが……空条承太郎さんと、恐らく日本の学生が1人乗っているんですよ。なにか電話では伝えられない事情があって直接話に来たのかもしれません」

「なるほどね……ありがとう」

 

 徐倫は職員に礼を告げてからゆっくりと立ち上がった。兄がわざわざこちらに向かっているというのだから、よっぽど危機迫っているのだろう……だから自分は反対したのだ。

 

「やれやれだわ……」

 

 徐倫は壁にかけてあったコートをはおり、ジョセフに一言かけてから外に出た。港ももうあと10分しないうちに着くだろうという距離まで来ている。ボートはもうすぐそこまで来ていたので、徐倫は声を張り上げて承太郎に言った。

 

「兄さん! 何かトラブルでもあったの? だからあたしは反対したのよ」

「……」

 

 承太郎は何も答えず、隣の学生は口をぽかんとあけて惚けたような顔でこちらを見ており、やはり何も言わない。徐倫は苛立ちが募るのを感じながら、2人がボートから降りてくるまで待った。

 

「状況が変わった……敵にじじいの存在がバレた。港で仗助たちが足止めしているが、こちらに来るかもしれない」

「だから言ったじゃないの! おじいちゃんを危険な目に合わせて──」

「……悪かった。とにかく、今はじじいを守ることだけを考えなければ……徐倫は億泰と一緒にじじいの周りを守れ。おれは他を見張る」

 

 徐倫はしぶしぶ頷くと、相変わらず惚けている億泰に着いてくるようにと合図をしてジョセフの元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

「た、大変ですッ徐倫さん! 敵がこの船に乗り込んできたようです!」

「なんですって!」

 

 徐倫が億泰とジョセフの噛み合わない会話を聞きながら窓の外を見張っていると、職員の男が1人駆け込んできた。

 

「脱ぎ捨てた服を発見しました! ずぶ濡れだったので恐らく泳いできたのかと……」

「なるほど……ストーンフリィィイイィ──!! 

 

 徐倫は問答無用で男をぶん殴った。

 ストーン・フリーの強烈な一撃を受けた男は、入ってきた扉を突き破って外に吹っ飛んでいき、甲板の手すりにぶつかって止まった。

 

「んん〜? どうかしたかの?」

「いいえ、何でもないわおじいちゃん」

 

 徐倫が手すりに捕まって何とか立ち上がろうとする男に近づいていくと、男は自身のスタンド、レッド・ホット・チリ・ペッパーを出しながら震える声で言った。

 

「な、なぜ俺が敵だと分かった……」

「ハァ……あんたバカァ? あたしはこの船にのってアメリカから何日もかけてここまできてんのよ。見たことない顔がいたらすぐわかるわ……あんたがおじいちゃんを狙ってるクソ野郎だってことはね」

 

 男は震える足で何とか立ち上がると、徐倫に向かってスタンドを仕向けてきた。満身創痍だが、最後の悪あがきといったところだろう。

 ──だが、そんな状態のスタンドのパワーで徐倫のストーン・フリーに叶うわけが無い。徐倫は冷静に相手の動きを見極め、そして兄やこの敵に対するフラストレーションを全てぶつけるように攻撃を放った。

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ────ッ!!」

 

 

「ぎゃああああァァァあああッ!」

 

 男は惨めな叫び声を上げながら、到着間近の杜王町の港まで吹っ飛ばされていった。港で学生服の青年2人が驚愕の表情を浮かべているのを確認してから、徐倫はため息をつき、祖父の隣に腰を下ろした。

 

「フゥ〜、ほんと、やれやれって感じだわ。まあ、これで一件落着と言ったところね」

「す、すげ〜さすが承太郎さんの妹……」

 

 億泰の呟く声を聞きながら、徐倫はマイペースに港へ降りる準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「お、音石が吹っ飛んできた……」

 

 あまりの衝撃的な出来事に、仗助も康一も驚くことしか出来なかった。

 音石か飛んできた方向を見ると、これまたスタイル抜群の美人が腕を組んでいるものだからさらに驚かされた。

 

「……あの人が承太郎さんの妹さんなのかなぁ? 綺麗な人だね、仗助くん」

「ああ、承太郎さんにそっくりだぜ。にしても凄いスタンドパワーだな……そこんとこもやはり似てるみてーだ」

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

「……最初はあの二人を会わせるのも心配だったけど、案外悪くなかったかもね」

「ああ……」

 

 徐倫は仗助の手を借りながら歩くジョセフの後ろ姿を見て微笑んだ。ジョセフは船の中で毎日仗助の事を気にしていたので、仗助が手を貸してくれてとても嬉しそうで徐倫も嬉しくなった。徐倫は昔っからおじいちゃんっ子だし、結果だけを見れば大成功だ。

 ──だが、過程も含めるとまた話は変わってくる。

 

「結果オーライみたいになってるけど、兄さんがおじいちゃんを危険に晒したことは間違いないんだからね。そこんとこ忘れないでよ」

「……やれやれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





一応徐倫は六部の原作と同じ19歳の設定です。
感想頂けたら嬉しいです!





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漫画家といっしょ




続けてみました。




 

 

 

 

 

 

 

 コンコン

 

 個室病室のドアをノックすると、中から若い男の声が返って来る。

 了承を得たので、徐倫は病室の引き戸をガラガラという音を立てて開け、素早く中に入った。個室とはいえ彼は有名人であり、噂というものはすぐに広まる。下手に人が覗きに来たり、お見舞いに来た女性と熱愛などという根も葉もない噂を立てられるのは徐倫にとっても、彼にとっても不快な事だ。考えすぎと思われるかもしれないが、不動産屋の立ち話を耳にした男子高校生2人が彼の家を特定して尋ねてしまうくらいなのだから、決してありえない話では無いのだ。

 

「調子はどう? ずいぶんとタコ殴りにされたようだけど」

「……あんたは確か、空条徐倫……さん」

「やめてよ、徐倫でいいわ。あんた私と同い年くらいでしょ?」

「そんなことはどうでもいい。今ぼくが聞きたいのは、なぜあんたがここに来たのかってことだけなんだからな」

 

 徐倫は友好的に話しかけたつもりだったが、突っぱねられてしまった。この岸辺露伴という男は、あまり人と馴れ合うつもりは無いようで、さっさと要件を言えとばかりにこちらに視線を向けている。もちろん、そこにはさっさと終わらせてさっさと帰れという意味も含まれているのだろう。

 

「なによ、つれないわね。あたしが来たのは、今回の件の後始末についてよ……あんた、このこと訴えるつもり?」

 

 徐倫が露伴の元に現れたのは、スピードワゴン財団の仕事のためだ。

 徐倫は世界各国を飛び回り、スタンドに関する問題を解決するための仕事をしている。一般人の目に見えないスタンドは法律で裁くことができないため、徐倫のように世界中に散らばったスピードワゴン財団所属のスタンド使いが解決の手伝いをすることになっているのだ。特に今回は叔父の仗助が絡んでいるため、このまま放っておく訳にもいかない。

 

「たしかに、康一くんたちがあんたの家の場所を知ったからって押しかけたのはいい事だったとは言えないわ。でも先に手を出したのはあんただし、何よりスタンド絡みで裁判を起こせはしない。……見えないんだからね」

「……そんなことは分かっているさ。自分が悪かったってことじゃあなくて、裁判を起こせないってことがね。……それにものすごい漫画のネタを手に入れたんだ、後悔はしていない」

 

 露伴は手元のスケッチブックをパラパラとめくりそれを眺めながら、少しばかり嬉しさの滲んだ声で言った。全く反省の色が見られない上に、自分がボコボコにされているにも関わらず嬉しそうにしている……

 

(うへぇ〜……こいつ、なんかヤバい性癖とか持ってんじゃあないの……?)

 

 心の中で気味悪がっていると、勘が鋭い露伴に「今なにか失礼な事を考えてないか?」と聞かれてしまったが、慌てて手を顔の前で振って否定した。自分って結構顔に出やすいのかもしれない、気をつけよう……と思っていると、不意に露伴のもつスケッチブックが目に飛び込んできた。

 

「へぇ、あんたやっぱりスゴい漫画家なのね」

「ふん……ぼくの漫画を読んだこともないやつに何が分かるって言うんだ?」

 

 徐倫は素直に露伴の描いた絵を褒めたつもりだったが、またしてもつっけんどんな態度をとられてしまった。彼は相当心がねじ曲がっていると見える……

 この男は何も分かっていないと言うが、徐倫にも芸術を美しいと思う心はある。……まあ、たしかに、今まで1度も露伴の漫画を読んだことはないのだが。

 

「分かるわよ! これ、相当リアルに書かれてるわよね。髪の毛1本1本の質感とか、光って見える部分とか……ホンモノ見てるみたいで楽しいじゃない」

「……へぇ」

 

 露伴は徐倫の言葉に少し目を丸くし、そして感心したようにため息をついた。信じられないことに……思わず自分の目を疑ったが、たしかに彼の口角が上がる様子を見たような気がする。どうやら露伴の絵に対する徐倫の感想には彼を喜ばせる何かが含まれていたようだ。

 

「案外君とは波長が合うかもしれないな。……たしか、康一くんのファイルに音石明を見つけるために杜王町へ来たと書いてあったが、あとどれくらいここにいるんだ?」

「何なのよ急に機嫌よくなって……ほんとやれやれだわ。そうね、音石の件は済んだけど、まだこの町にはたくさんスタンド使いがいるだろうし、もう暫くは滞在すると思うわ」

 

 どうやらこの杜王町には虹村形兆や音石明に矢でいられたスタンド使いが多く潜んでいるようだし、徐倫のすべき仕事も山積みだろう。そのことを露伴に伝えると、彼はそうかと呟き、何やら顎に手を当てて考え始めた。

 何を考えているのかは知らないが、話も着いたことだし徐倫も暇ではないので、そろそろこの場を後にすることにする。

 

「お詫びとして、あんたの治療費は全部こっちで出すから安心して。じゃ、そういう事だから。お大事にぃぃ〜〜」

 

 そう言い残して病室を後にしようとした徐倫だったが、少し焦ったような声で呼び止められてしまった。

 徐倫が後ろを向くと露伴がこちらに手のひらを見せて手を伸ばしている。どうやら呼び止められたのは聞き間違いでは無いようだが、一体自分にこれ以上何の用があるというのだろうか? あんなに早く帰って欲しいという態度を取っていたのに……怪訝な表情で見つめる徐倫を気にすることなく、露伴は信じられない提案を持ち掛けてきた。

 

「治療費はいい、全額自分で出したって痛くも痒くもないくらいの金は持ってる。その代わりと言ってはなんだが……たまに君に取材をさせて欲しいんだが」

「はァ!? 取材? あんた懲りてないワケ? どうせその能力であたしの記憶を奪うつもりに決まってるわ」

 

 予想の上を行く答えだった。もちろん、先程までの会話で岸辺露伴がとんでもなく変わったヤツだということは十二分に伝わってきたが、ここまで頭の悪い男だとは思わなかった。……いいと言うわけがないのだ。こうすれば徐倫が了承するだろうというつもりで治療費をいらないと言ったのかもしれないが、それで信じてもらえると思っているのならば、よっぽどの楽観的なマヌケだ。

 

「違うッ本当にただの取材だ! 君は世界中飛び回ってたくさんのスタンド使いと戦って来たわけだろ? 治療費なんかよりも君がしてきたその体験の方が、ぼくにとってはよっぽど価値があるんだ!」

 

 どうやら、彼は本気らしい……。徐倫は世界を旅しながら何人ものスタンド使いを相手に戦い、時には言語の分からない国で人と心を通わせてきた。露伴の言葉と情熱に嘘がないことは、彼の目を見れば明らかだった。そしてそういう熱い心をもつ人間を、空条徐倫は無下に出来ないのだ。

 

「……もしあたしに少しでもスタンド能力を使ったら、今度は二度と漫画の描けない体に……再起不能になってもらう」

 

 

 ──こうして、空条徐倫と岸辺露伴の奇妙な協力関係が始まったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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