ディセプティコンに栄光あれ (white river)
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サイバトロン星
^1
DotM小説版の設定が若干でてきますが、和解ENDだったということを知っていれば未読で全く構いません。
重暗くならないように頑張ります。
「いきなり武器を構えて囲まなくても…………」
おずおずとそう言うと、俺の目の前でブレードを突き出したオプティマス・プライムが、その警戒心を全く隠しもせずに言った。
「質問に答えろ。君は何者だ。オールスパークが宇宙に放逐されて以来、新しく命の生まれることがなくなった我々トランスフォーマーに、君のようなスパークの若い機体がいるのはおかしい」
俺はクイックセーブ。今は絶賛オプティマス・プライムとその仲間たちに囲まれている最中だ。正直かなり不味い。
しかし、メンツの中に嘗て副官として名を馳せていたと聞くジャズがいるようなので、おそらくは俺の作った "あの" 装置が成功したのだと思われる。
……座標指定は上手くいかなかったようだが。
「……」
「答えろ」 何も答えない俺に痺れを切らしたオプティマス・プライムが、ずいとブレードを押し出してにじり寄ってきた。
「いやー、最近コールドスリープから目覚めたばっかりで……」
すこしおどけて、ここに来る前に予め考えておいた言い訳をする。通じるとは思っていないが、まあ少しは時間稼ぎになるだろうと思ったからだ。
「なるほど、それならばありえるのか…………」
「しかし、なぜ……いや、どうやって突然我々オートボットの司令部メインルームに現れることができたんだ。嘘を吐けばインシグニアを背負わない一般市民だろうが撃つ」
キャノン砲を構えているのは恐らくアイアンハイド。……ここは司令部のメインルームなのか! 予想以上に不味い状況だ。通りで豪華なメンツの集まりなわけだ。
「はは、それはですねー……」
取り囲む奴らに気取られないよう、左腕に取り付けた装置を慎重に起動させる。中距離スペースブリッジを開くために。……よし、いける。
「そいつの左腕に強いエネルゴン反応だ! 何か仕掛けて、」
「アデュー、ボッツ共! 俺はお前らのことがずっと嫌いだったよ!」
バツンっという音と共に、俺は見知らぬ街の中に移動していた。
「ここが…………」
見知らぬ街。いや、それどころか─────
「ここが、サイバトロン星……」
金属のみで構成された、有機惑星とはまったく違う姿の都市。戦闘のあとが見られるがそれでも、生まれて初めて見る生きたサイバトロンの街。
「これが、メガトロン様の、スタースクリーム様の故郷……」
……メガトロン様の、ディセプティコンの執着していた景色。
俺はその景色をブレインサーキットに強く焼き付けた。───こんな程度のものか、という思いと共に。
*
俺は、時間跳躍によって未来から来たトランスフォーマーだ。
幼体として卵から生まれて、親であり敬愛すべきマスター、スタースクリーム様やメガトロン様に育てられ、そしてボッツ側の人間に親であるスタースクリーム様を殺された。そんな地球産トランスフォーマーがこの俺、クイックセーブだ。
2013年。ディセプティコンとオートボットは和解した。それでも還ったスパークは戻らない。
俺は幼体達の中でも特別優秀な個体で発育も早く、そのおかげで全てを覚えていた。そう、全てだ。
乾燥した砂の土地で、メガトロン様が手ずから食事を与えてくださったことも、卵の中でまどろむ俺にスタースクリーム様が話しかけてくださったことも、崩れゆくネメシスも。
そして、他のやつらのように人間やオートボットがスタースクリーム様の仇であることも、ずっと忘れられずにいた。
メガトロン様は言った。「戦いに辟易した」と。戦いよりも、メガトロン様は未来の可能性にかけたのだ。そしてそれは恐らく俺たち幼体のためでもあった。
そのためにスタースクリーム様が無念のうちに散り、その仇はのうのうと生きているのかと考えれば複雑なものがあったが。
だが、そんな俺の気持ちにメガトロン様も気がついていたらしい。地球と荒廃したサイバトロンを往復する合間に、メガトロン様はボッツや人間に隠れて俺に多くのことを教えてくれた。
サイバトロンや戦争の歴史、地球よりはるかに進んだ数学、サイバトロンのあらゆる言語、そしてディセプティコンのトップとして養った、戦術や戦略、加えて戦闘技術。メガトロン様に教わったこと全てを俺は身につけた。
しかしそのあとも俺はボッツに対する憎しみをひた隠しにし続けた。奴らに近づき、知識を吸収するためだ。結果、それは成功だった。俺はそこで科学を学んだ。
センチネル・プライムの遺した英智の数々を元に、俺は科学者としてとある装置の開発に専念した。戦闘訓練も並行して怠らずきちんとしていたが。
作ったのはタイムマシンだった。過去に行き、未来を変えたかった。
装置を作るのに成功したのがこの間だ。途中副産物としてスペースブリッジも出来たが、完成にこぎ着けるまでに何百年かかっただろうか。いや一千年は越しているかもしれない。(俺はその時には違う星に研究室を構えて暮らしていたので知らないが、地球の彼らは何かと戦ったりしていたらしい)
その間もトランスフォーマー達は変わらず地球を拠点としていて、未だにサイバトロンの復興は出来ていなかった。
俺も幼体から立派な成体になった。もうだれかの庇護下に居なくとも生きてゆける。頃合だった。
過去に行く前、メガトロン様にだけは挨拶をした。「お前ならそうすると思っていた」 驚いたことにメガトロン様は俺が過去に行くことを分かっていたらしい。
確かに時間跳躍という事例は、偶然の産物とはいえいくつか報告例があるため、察知されていてもおかしくは無いのだが。
驚いている俺にメガトロン様は、そのために俺にあれだけの知識を授けたのだ、と言った。「餞別だ。受け取れ」 渡されたのは、一振りの大剣。メガトロン様が愛用していたはずのものだ。「ありがとうございます」
「ディセプティコンを、頼んだぞ」
俺は頷いた。
「……オールヘイル、メガトロン」
そして俺は今、ディセプティコンの入軍選別を受けている。
全ては我がマスター、スタースクリーム様を救い、ディセプティコンを勝利へ導くために。
クイックセーブ
主人公。航空機と装甲車のトリチェン。大型。
上から殴る紙耐久アタッカーで賢い。スタースクリームを敬愛している。オートボットが嫌い。
2013年
ダークサイドムーンの時間軸。
詳しい設定とか世界観、解釈については https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=238776&uid=155940
長いので注意
これを読まなくても分かるように、あとがきではざっくりとした登場人物や用語、世界観の説明を入れていくつもりです。
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^2
TFの二次創作少なすぎでは?
オススメあったら捜索掲示板の方で教えてください。
「演算速度一位、機体速度一位、精密動作試験一位、戦闘試験は戦闘用ドローンをスクラップするまでにかかった時間が8.5秒。しかし知識試験が堂々のオール無回答。
それを踏まえてさえ総合成績が240機中二位で、しかもトリプルチェンジャー。本人曰くコールドスリープ明け。
……なんです、閣下。このようなあからさまに怪しい機体のデータなんて寄越して。まさか……」
「貴様に拒否権はない。その機体、たしかクイックセーブとかそういう名前だったはずだが、配属希望が航空部隊だったのでなァ?
本日付で貴様直属の部下として配属させた。言うまでも無いが監視を兼ねてだ。上手く扱え、スタースクリーム」
「そ、そんなメガトロン様。せめてブラックアウトの部隊に配属させてはくださいませんか」
「ダメだ」
**
入軍選別試験から三日。配属先の発表が今日である。そろそろその通信が入るはずなのでソワソワしっぱなしだ。
科学開発班にまわされたらたまったものではないので、知識試験ではひとつも回答をしないという露骨なことをしたが、それでも航空部隊に配属されない可能性も大きいので不安である。
試験では敢えて俺を怪しませるような結果を出せるように尽くした。戦争というのは消費の権化だ。時間も資源も人手も消費する。
それを踏まえればいくら怪しいとはいえ有能な人材を、メガトロン様ならば入軍拒否しないはずだ。監視のために高い地位に配属される可能性もある。これがスタースクリーム様に近づく最善なのは間違いない。
そして結果は。
「お前がクイックセーブだな。オレはスタースクリーム。あー、誠に遺憾ながら今日からお前の上司になる」
大成功(!)だった。まさか監視要員がスタースクリーム様になるとは。スパークがソワソワしている。嬉しい。
「はっ、これよりクイックセーブ、着任致します」
スタースクリーム様は嫌そうだ。だがそんなことは俺にとって些細なことである。なぜならスタースクリーム様が生きているからだ。
俺がこのお方に育てていただいた期間は5年。たったの5年だ。それでも忘れられないのは、スタースクリーム様が俺たち幼体にとっての親だったから。
このお方に生きてお仕えするこの時を、俺はずっと夢見てきた。
「まあせいぜい励め」
それが今、同じ目線の高さで言葉をかわせている。これからは、この方の役に立つことが出来る。「はっ」 そのことが本当に嬉しくてかなわなかった。
*
オートボットとの大規模な戦闘を何度も経ていくうちに、自分で言うのもなんだが俺が何度かイイ働きをする場面もあった。
異例の配属ということもありやっかみを受ける場面も多々あったが、その度に俺に対する周囲の評価は上がっていった。……スタースクリーム様の懐疑心も上がるばかりである。
今はリペアルームで体の整備をしている所だ。そして武器のオーバーホールも。分解していたのは、左腕に取り付けてある例の装置。
1度の時間跳躍でタイムスリップ機能は壊れてしまっていたが、スペースブリッジの中距離展開だけは可能なので定期的なメンテが必要なのだ。
まあ、未来に帰るつもりは無いので壊れていようがどうでもいいのだが。
「ふう……しかし、壊れている部分だけでも外せばいいのにそれをしないってのも、中々に女々しいもんだなァ」
「なんだ、修理はしないのか?」
誰だって独り言に反応があれば驚くだろう。「うわ!」 思わず声をあげ、勢いよく振り返ればそこには───
「ぶ、ブラックアウトさん。驚かせないでくださいよ」
「あのクソ参謀の部下にしてやる気遣いなんてものはない」
───航空部隊の部隊長の一機、ブラックアウトがいた。ちなみに彼とスタースクリーム様は仲のいいライバルのような関係だ。本人たちは認めないだろうが。
「で、なぜそれは直さないんだ。お前はアイツの部下にしては中々ヤるからな。上だって融通してくれるんじゃあないのか」
ブラックアウトの問いかけに苦笑しながら答える。
「いえ、修理には希少金属がかなり必要で今は厳しいんですよ。ありがとうございます」
「ふん」
言動こそぶっきらぼうだが、その性格は真面目そのもの。部下からの人望もある。ブラックアウトはかなりいいひとだ。……スタースクリーム様の方が凄いからな!
「リペアルームに来たということは、まだリペアは済ませていないんですよね。俺手伝いますよ」
俺はそう申し出たのだが、当のブラックアウトは「ああ、いや」 と、少しまごつきながら答えた。
「オレじゃあない。こいつのリペアだ」
途端、ブラックアウトの背中から一体のドローンが飛び出す。 「陸上ドローンですか」 可愛いのだが、確かに尾が途中でちぎれている。咥えているのがその部分だろう。とても痛ましい。
「可愛いですね。それに賢そうだ。リペアの手伝いは必要ですか?」
俺の言葉に、ブラックアウトは面食らったような表情をした。
「……ああ、では断面の処置を頼めるか。おい、スコルポノック。クイックセーブとここで待ってろ。オレはパーツを取ってくる」
それからしばらくして、俺とブラックアウトは結構仲良くなっていた。こっちで出来た初めての友人である。
あと、このことについてスタースクリーム様が嫌そうな顔をしていて面白かった。
暗転(こいつ……スコルポノックの良さがわかるとは……)
ブラックアウト
航空部隊の部隊長の一機。真面目で人望がある。
近接戦闘が得意なはずだが、実写無印ではレノックス一人に撃破された。
スタースクリームが嫌い。メガトロン様が好き。
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^3
玩具展開のみで映画本編では出てこないキャラが出てきます。
「お前の戦い方は、メガトロン様によく似ているな」
戦闘訓練所で剣を使った稽古をしていると、後から入ってきたらしい同僚(スタースクリーム様の直属、という意味だ)の先輩であるサンダークラッカーが声をかけてきた。彼はスタースクリーム様の忠臣だ。その忠誠心は俺に負けず劣らずなのでは無いだろうか。
「急にどうしたんです、サンダークラッカーさん」
正直かなり驚いている。まさか剣筋だけで身バレ(?)するとは思っていないが、やはり内容が内容なので過敏になってしまうのだ。
「なんとなくそんな気がしたんだ。以前見たメガトロン様の身のこなしに似ている、と。多分気のせいだろう」
「そ、そうですよー、気のせい気のせい」
絶対に気のせいではない。俺の戦闘技術はメガトロン様仕込みだ。いや、サンダークラッカーがそこまでの切れ者じゃなくてよかった。
そう安心していると、ふとサンダークラッカーがこっちを見ていることに気がついた。話は終わったんじゃあなかったのか。
「今は丁度スタースクリーム様が訓練所の視察に来ているんだ。良かったら組手でも頼んだらどうだ」
「天才ですか? 行ってきます」
サンダークラッカーはあんまり頭は良くないがいい先輩だった。
*
「スタースクリーム様! 是非このクイックセーブと組手のひとつでもいかがですか?」
「オレがお前と? はっ、やるわけないだろう」
俺の申し出は瞬く間に一刀両断された。これがディセプティコン1のスピード……。
あっけなくあしらわれた俺に、遠くでサンダークラッカーが苦笑いをしているのが見えた。スタースクリーム様の俺に対する "アレ" な態度は、ディセプティコンの航空部隊の中では周知の事実になっていた。
「でも先日はブラックアウトさんと廊下でやってたじゃあないですか!」
「あれば組手じゃない!」
はいはい喧嘩ですね。このクイックセーブは分かっていますよ。好きの反対は無関心。
「ぜひ! このクイックセーブと組手を!」
「やらない」
へばりつく俺と、その俺を蹴飛ばすスタースクリーム様の様子に野次馬が集まってくる。
お前らは俺より弱いんだから戦闘訓練でもしてろ!
「お願いします!」
「やらないっつってんだろ!」
「なら俺とやるか?」
聞き覚えのありすぎる声。ぴたりと訓練所の喧騒が止まる。勿論俺とスタースクリーム様も。ぎぎ、と油を刺し忘れて何十年も経ったような音をたててスタースクリーム様が振り返る。
「ぜひお願いします、メガトロン様!」「閣下!?」
「ほう、逃げずにこの俺に向かってくるのか」
メガトロン様との組手の機会。"久しぶり" なのでこの期を逃すわけがない! 俺はワクワクしながら訓練所の中央へ向かった。
そんな俺をスタースクリーム様が渋い顔で見つめていた。
**
金属どうしのぶつかる鈍い音がする。素手の組手とはいえ大型機同士だ。迫力も質量も十二分にあり、訓練所は大いに盛り上がっていた。
しかしこの異様な程の熱狂は、それだけが原因ではない。
「クイックセーブのやつ、メガトロン様相手に結構粘りますね、スタースクリーム様!」
「…………」
スタースクリームはクイックセーブとメガトロンの組手を黙って見つめていた。その横ではサンダークラッカーが大盛り上がりで観戦している。
サンダークラッカーが気のせいだと称した、"メガトロンとクイックセーブの戦い方が似ている" という点。スタースクリームはそれを偶然だと流しはしなかった。
(メガトロンがこうして部下と組手することは殆どない。なのに何故、クイックセーブのやつは慣れきったかのように先読みして動けているんだ?)
メガトロン本人も心なしか驚いているような顔をしている。まさしくクイックセーブは異常であった。
破壊大帝メガトロンと組手をして互角に相手できるディセプティコンなんて限られている。それを入軍して長くないクイックセーブが達成しているなんて、おかしいにも程があるのだ。
スタースクリームはちらりと周囲をみた。気がついているのは、スタースクリーム自身と(癪だが)ブラックアウト、他幹部クラスの二割程度といったところだろうか。
自分以外の参謀はこの場にいないが、もし見ていたとすればショックウェーブやサウンドウェーブも気づいたに違いない。スタースクリームはそんなふうに考える。
メガトロンの肘鉄を潜り、その先の膝を避け、更に足祓いを仕掛けるクイックセーブ。そう、まるで "パターンを知っている" かのようだ。スタースクリームは漠然とそう思った。
戦う前に先読みで結果が見えている、と豪語して久しいグラインダーでさえ、このような精度の先読みはできないだろう。
スタースクリームが目を伏せて考えているうちに、訓練所の中央から大きく鈍い音が聞こえてきた。思わず顔を上げる。
そこには腹を押さえてよろけるクイックセーブと、自分の腕を見てオプティックをぱちぱちさせるメガトロンがいた。どうやら組手が一段落ついたらしい。
「あーっ、クイックセーブのやつが腹に一撃貰いましたね。メガトロン様の見事な加減のお陰で怪我こそしていませんが、勝負はついたし組手はここで終わりですか。
しかしクイックセーブ、あのメガトロン様相手に大健闘でしたね、スタースクリーム様」
「だから貴様はそれ以上出世できんのだ、サンダークラッカー。オトモダチのショックウェーブが泣いているぞ」
当のクイックセーブはスッキリとした顔でメガトロンに礼を述べている。メガトロンはまだどこか思い悩んでいるようだ。
ふと、そのメガトロンとスタースクリームの目が合った。「サンダークラッカーはしばらくここで気晴らしに訓練でもしていろ」 スタースクリームは観戦したその足で、司令室に向かったのだった。
サンダークラッカー
スタースクリーム直属の部下で同型機。
スタースクリームが好き。ショックウェーブも好きで友達。
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^4
今日は航空部隊が主力となった戦闘になるらしい。俺を含めスタースクリーム様も前線に出張る予定だ。俺は気取られないようそっと隣を見た。
スタースクリーム様は難しい顔でパネルをいじくっている。最近はなんだかもう排気してるだけで感動するようになってきたので(もちろん、自分のことではなくスタースクリーム様のことだ)、そろそろ自分が気持ち悪くなってきた次第だ。
「おい、クイックセーブ」 スタースクリーム様が話しかけてきた。すぐさま俺はリアクションを返す。
「お呼びでしょうか、スタースクリーム様」
これを見ろ、と言われて映し出された3次元マップには、星々のモデルと共に赤と青の点が数多く打たれていた。恐らくサイバトロン近隣星域のディセプティコンとオートボットの拠点分布だろう。
しかしなぜこれを俺に? まじまじとモデルを眺めていると、スタースクリーム様が試すような声調子で言った。
「ここ十数
かつかつ、と二股に別れた指先でデスクを叩くスタースクリーム様。「はあ」 なんらかのテストなのは確実だが、多分これは俺がボロを出してオートボットのスパイだというのが露見するのを期待されているのではないだろうか?
スパイではないんだけどなあ、とやるせない気持ちになる。信頼してません感がここまで強いと、なにかスパークにくるものがある。
しかしこれは俺の意見を伝えるチャンスだ。スタースクリーム様の役に立てる機会とも言う。
この分布マップは本物だ。ならばこれがテストであろうがなかろうが、事実に基づいたことを述べるのにかわりはないので、現実、スタースクリーム様は一意見として俺の話を聞くに違いない。嬉しい。
「では僭越ながら……。この一見基地が他の区域と比べて疎らになっているようにみえる、ええ。ここからこの辺りですが、tj3-155恒星と、tj3-156/7連星の引力の影響で、向こう数億ステラサイクルは磁気嵐がかなり弱いと考えられます」
スタースクリーム様はフェイスパーツをピクリとも動かさず言った。「続けろ」 切り上げられなかったことに安心しながら俺は陳述を続けた。
「私が思うに恐らくこの辺りはダミーで、推定ダミーの基地を除くと確認出来る、小惑星群を迂回して曲線状に配置されている基地。これらはオートボット共の新しい補給ラインではないでしょうか」
腕を組みながら俺の話を聞くスタースクリーム様。重心が片方の足に偏ってはいるが、その顔は真剣そのものだった。
スタースクリーム様は言った。
「この惑星に作りかけの基地が1つ。小惑星群に1つ電子アンテナが建設中だとの情報がある。そうだな、3つまでの基地を襲撃できるとしたら、どこを落とすべきだと思う」
俺は迷わず答えた。「この一つだけの基地で事足ります」 「根拠は」 すかさずスタースクリーム様が問いかけてくる。
「惑星の座標と環境です。先程仰られた電子アンテナや作りかけの基地の座標から、恐らくはこの基地は資材の集約地だと考えられます。
加えて、恒星からの距離やその恒星の大きさと構成物質を考えるに、表面温度はかなりエネルゴンの保存に適しているはずです。地下にはかなりの広さの基地が建設されているでしょう」
「それで?」 俺は更に言葉を重ねた。
「ここを落とした場合、補給ラインは小惑星群を2つ避けるこちら側しかなくなりますし、ここからそちら側の基地らは役目を失います。
当然防備も堅いでしょうから労力を省みた末で、ひとつで十分だと述べた次第であります」
我ながら完璧な意見だ。きっとスタースクリーム様も褒めてくださるに違いない! ……と、思っていたのだがやはりスタースクリーム様は難しい顔をしながらモデルを見つめていた。
「申し訳ありません。きっとわたくしめの今の意見に欠陥でもおありだったので───」
「いや、そうじゃない。もういい、下がれ。今日は貴様もオレも前線だ」
こちらを一瞥すらせずそう言い捨てるスタースクリーム様。俺はまた失敗したのだな。そう思いながら「はっ。ではクイックセーブ、失礼します」 と言って全線で戦うための準備をしにその場を離れた。
*
「閣下、どう思われますか」
「…………俺と思考プロセスが似通い過ぎている。むしろほぼほぼ等しい。気味が悪いことにな」
「……あの考察は、先日閣下の話してくださった事そのものです。しかしあの場にはわたくしスタースクリームと閣下、そしてあと二参謀しかいなかったのも事実」
「……貴様はこれから前線指揮のはずだな。帰還後にすぐクイックセーブを連れて俺の元まで来い」
「承知致しました、閣下」
グラインダー
インテリ系ヘリ。前話で名前だけ登場した。
戦う前に勝負が頭の中でついてるらしいが、リベンジでは早々に顔面破壊大帝の餌食となる。
ブラックアウトの部下でスタースクリームがまあまあ好き。
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^5
───ズガガガガッ!
マシンガンから空の薬莢が山のように溢れている。
「薬莢だって金属だしなあ」
パク。建物に身を潜めながら、俺は薬莢を食べた*1。クチャクチャ、ボリボリ。「火薬くせえ」 薬莢は全く美味しくなかった。
「おいそこのお前ッ、あの時突然現れたワープ野郎だろう!
「お、ブラックアウトさん。呼ばれてるんじゃあないですか?」
「少なくともオレじゃあない。お前じゃないのか? クイックセーブ」
「俺にも全く心当たりがありませんね……」
嘘だ。俺のことに違いなかった。俺はウンザリしながら大きく排気をした。
わざわざオープン回線で挑発してくるあたり、本当ボッツはムカつくと思った。
かつて街だったであろうこの場所は、今ではディセプティコンとオートボットの戦いの最前線地帯となっていた。最も最近は宇宙にまで戦線が拡大されているが。
「しかしあいつらの指揮官がジャズなのがマジで頂けねえな」
「そうですね。なんでわざわざこんな所まで出張ってきたのやら」
建物に両軍身を隠しながらの銃撃戦。俺はブラックアウトの隊に臨時所属していた。これはスタースクリーム様からの指示だ。
一時的にブラックアウトの下につくことに関しては文句はない。他でもないスタースクリーム様の指示なのだから。
それに、航空参謀直属とはいえまだまだ経験の浅い俺と、歴戦の戦士で部隊長のブラックアウトなら、実質の立場は大して変わらないことも理由だ。
ただ、俺とブラックアウトは近接戦闘の方を好むので、銃撃戦という状況はお互いにとってストレッサーでしかなかった。
「バカっ、出過ぎだっ!」「ぎゃっ」 隊員の一人が腕を吹っ飛ばされた。一瞬の出来事だった。やけに狙撃の上手いボッツがいるのだなあと思ってチラリと伺えば、やったのは黄色い中型のオートボットだった。もしかして、あれはバンブルビーだろうか。
俺も負けじと撃つ。放ったミサイル2発のうち、1つは迎撃されてしまったようだが、手応えアリだ。もう1つは多分あたった。
しかし、この膠着状態が続いて早
まあ俺はカプセルトレインが動いてるところを見たことないわけだけど。
突然ブラックアウトが言った。「このままじゃあ埒があかん」 「なにか案でもあるんですか」 ブラックアウトは「ある」 と答えた。
「クイックセーブ、お前はオレの部隊のメンバーの1人をつれてスタースクリームのクソの所へ向かえ。そうだな、グラインダー。一時的にクイックセーブの指揮下に入れ。
んで、合流したらクイックセーブはそれをクソに譲渡しろ。お前もそのまま向こうで動け。
他の部隊からも少人数ずつ出してもらうよう要請した。寄せ集めだが自由に使えるコマを増やせば、癪だが腐っても航空参謀だ。アイツならどうにかするだろう」
俺はすかさず言った。
「そりゃ越権行為ですよ。
「数
強くそう言ったブラックアウトに、俺はもう反論するのをやめた。たしかにスタースクリーム様なら経験を活かしてこの状況を脱却するよい指示を出せるだろうし、そしてなによりそれ以外に賭けることの出来る手立ても持っていなかった。
*
「────、グラインダー。そして私クイックセーブを含む計8機、臨時飛行小隊仮称アルファー01。これより任に当たります」
「……チッ、あのクソヘリか。越権行為はもちろんのこと、余計なことをしやがる。……そう言いたいところだが、今回ばかりはアイツも役に立ったな」
各航空部隊からの寄せ集めでできた俺たちアルファー01小隊。スタースクリーム様はそんな俺たちを苦虫を噛み潰したような表情で歓迎した。物資の容器や他の様子を見るに、ブラックアウトの指示と全く同じか似たようなことを指示しようとしていたに違いない。
その時、スタースクリーム様は俺をみて微妙な表情を浮かべていたのだが、スタースクリーム様とともに前線で戦えることが嬉しすぎてそんなことは目にも入らなかった。
スタースクリーム様は続けた。
「アルファー01小隊はこれより600
……───今より各自、急ぎ装備を整えろ」
「はっ」
スタースクリーム様の狙いは簡単、補給を潰してボッツの戦闘力を下げ、拘泥化した戦局をディセプティコンに傾ける、ということだ。
簡単に思いつくことのように思えるが、実行し成功させるのは難しい。だがそれを成功させるのがディセプティコンのナンバー2だ。
俺は送られた座標と地形図を照らし合わせてほくそ笑んだ。流石はスタースクリーム様だ。
「ああ、それと」 スタースクリーム様が振り返った。「クイックセーブに副隊長を任せる。期待しているぞ」
えっ。
ジャズ
オートボットの副官(将校)。チャラチャラしてる。
前日譚的なやつでは引きずられて退場みたいなシーンがあるらしいが忘れた。
オプティマスが好き。メガトロンが嫌い。
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^6
「お前の」
「いかがされましたか、スタースクリーム様」
「お前のビークルは独特だな。自分でデザインしたのか?」
突如アルファー01小隊の副隊長になってしまった俺は、流れるままにこの行軍中スタースクリーム様の近くに配置されてしまった。
しまった、というのは決して嫌な訳ではなく、過度な幸福は毒にもなるという意味である。
そして今は行軍中だ。具体的に言うと、とある地点を目指して超低空飛行をしている最中。
しかしここでひとつ問題が発生した。問題、というほどの問題かと言われれば悩むところではあるのけれど。
行軍中は小隊全員が航空ビークルだったのだが、それでも俺とスタースクリーム様だけはダントツで移動がいつも早いため、他の隊員に合わせるとなるとどうしても余裕がうまれてしまう。
つまり雑談が増える。スタースクリーム様は俺のビークルに興味があるようだ。すこし不味ったか、と俺は焦った。
焦る理由は簡単だ。このビークルは地球の戦闘機、F-15Cをモデルにしてあるからだ。サイバトロン用に、と改造に改造を重ねたので原型は崩れているが、しかしそれでもサイバトロン星にはあまりないデザインなのである。
今までは見咎められなかったが、今回こうして共同任務を行うことで目に付いてしまった、というわけだろう。しかし今更ビークルをスキャンし直すのも、違和感が強いし遠慮したい。
俺は落ち着きを心がけながら答えた。とにかくスタースクリーム様の気をそらさねば。
レーダーがオートボット反応を捉えた。俺はチャンスとばかりにこれに食いつく。
「……ええ、まあ。それよりもオートボットのはぐれの集団です、スタースクリーム様。このまま30サイクル程度直進したところで接触しますが、いかがなさいますか」
それを聞くと、スタースクリーム様は煽るような声色でこう言った。
「クイックセーブ、お前なら何機つれていけばその小隊を迅速に殲滅できる?」
話が流れた! いい調子だ。俺は笑って言った。
「小・中型の工作員の集まりのようですし、私単独で15
「13サイクルで後始末までして戻ってこい。無傷でな。行け」
スタースクリーム様のゴーサインと共に、俺は小隊を離脱した。
しかし話を逸らすことは出来たが、代わりに特攻しろとは。スタースクリーム様の信用が痛いものである。
スタースクリーム様は俺の事を信頼こそしていない様子でいらっしゃるが、俺の能力は信用(!)しておられるのだ。その信用に応えたいと思うのは正しいことではないだろうか。
端的に言えば張り切っている。
(いた、はぐれボッツだ。数は……小型6、中型1か。少ないな)
簡易索敵の範囲にはぐれ共が入った瞬間、そこに向かってポイントでジャマーを発する。救難信号や応援を呼ばれるのを防ぐためだ。はぐれはジャマーを張られて、ようやく俺という襲撃者に気がついたようだった。
「皆伏せッ───」 すれ違いざま、腕だけを先にビークル解除した。
ブレードを展開。ろくな抵抗もなく一機のはぐれの上半身が泣き別れて、代わりに循環オイルが飛び散った。「なっ、ヘキサクルーザー!?」 ボッツだったスクラップが辺りにぶちまけられる。あーあ。あそこまで粉々になったら、リペアパーツとして使うのも難しいだろうな。
俺のでは無い体内オイルとエネルゴンで塗れた、側腕のブレードを振る。びしゃりと汚れが地面に広がった。
スピードを殺しながら水平方向から垂直方向へ機体を傾け、着地の体勢へ移行する。
「……クイックセーブ───」
ぎごがご、ぎ。
翼は背に、表面装甲が四肢に拠れ広がっていく。空中ビークルから片腕だけが出ていた気味の悪い状態から、より完全な人型へ。
真っ先に形を成した足が地面を踏みしめる。
「───トランスフォーム」
がご。
最後に腹側にあったエアインテイクが背中にまわると、俺は腕のブレードを収納し、背中に収納していたメガトロン様より下賜して頂いた大剣を抜いた。
いつの間にかボッツ共は俺を取り囲むように円状に広がっている。俺は笑いながら話しかけた。
「こんにちは。ここはディセプティコンの領域ですが、皆様ビザはお持ちですか?」
戦場には似つかわしく無いほどの静寂が当たりを支配した。
ゆらり。
「ッバカにしやがってええ!! 死ねッ! ヘキサクルーザーの仇ッッ!!」
───釣れた。
「誰だよ、その
飛びかかってきたはぐれボッツ────こいつの事は死に急ぎボッツと呼ぶことにする───の横に回り込み、両足を大剣で切り落とした。
「あ゙あ゙ッ!」
足を無くして地に伏せたた死に急ぎ君の胸部から、スパークチェンバーへ腕を刺す。
どくん。
軽く握った手のひらの中にスパークの拍動を感じた。握り潰せばこいつは死ぬ。確実に。
「ビザはお持ちではない? そりゃあダメだよなァ?」
チェンバーを握り、貫いた腕で死に急ぎボッツ君をゆらゆらと空中散歩させてやる。
ぶらり、ゆらゆら。回路が切れたのか、ぐったりと力の抜けている様子が、まるで不格好な作業用ドローンのようで面白い。
見せつけるようにぐるりとその場で一周すれば、
「黙れディセプティコン! ここは俺たちの故郷だ、ゔあ゙あ゙!!」
騒ぎ出した死に急ぎがムカついたのでかるくチェンバーを握った。
「お前らここで何してた? 見た感じこの前壊滅させたハズの破壊工作員の生き残りだろ」
答えやすいようわざわざ親切に問いかけてやったのに、死に急ぎは痛みに悶えているだけだし、はぐれの仲間もだんまりだ。「ふうん」 俺は独りで喋り続けた。
「つってもまあ、方角的に俺たちと目的地は一緒だろうし、じゃあいいか」
ぶちん。「あ゜」 死に急ぎボッツのスパークチェンバーを胸から捻り出して、お仲間に見せつけながら握りつぶした。
「殲滅しろってお達しだからなあ」
その死骸に刺したままの腕からブレードを展開して、上半身を縦に割る。
ぼたぼた。
死に急いだ結果本当に死んでしまったボッツ君の死骸から、循環オイルが次から次へと溢れた。
「きったねえなあ。いくら無傷でも、無駄に汚れたらスタースクリーム様に叱られるだろうが、あ?」
スパークの輝きが生き汚くも点滅しながら宙にとけた。
「こいよ」
「こちらクイックセーブ、敵の殲滅が完了しました。只今より帰投します」
オートボット
キモプティコンとクソトロンが嫌い。(言語版G1並感)
全体的にディセプティコンよりやや小柄。
ビザはお持ちですか?
ピザはお餅ではない
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^7
テンション上がったので初投稿です。
「遅かったな。13サイクルピッタリだぞ」
俺は付着したエネルゴンを舐めとりながら答えた。「遊んでいたもので」 時間ピッタリなので許して欲しい。
「ついたぞ。
穴を捜せ、との命令で小隊は散らばり、全員で周辺の探索をはじめる。
俺たちアルファー01小隊が低空飛行で向かっていたのは、今は使われていないカプセルトレインのトンネル入口だった。
カプセルトレインはかつて、サイバトロンの主要都市ほぼ全てを繋いでいた。そして当たり前だが、戦争が始まると同時にトンネルは爆破され、オートボットとディセプティコンの全線周辺は封鎖された。
つまりはここら一帯のトンネルは死んでいる訳だが、聡明なるスタースクリーム様は辛うじて生きているであろう場所に目をつけたのだ。それがここ。
「時間が無い! 1メガサイクルで見つけろ!」
スタースクリーム様が声を張り上げた。
再度言うが、カプセルトレインは主要都市ほぼ全てを繋いでいた。もちろん、俺たちがさっきまで戦っていた、そしてブラックアウト達が今でも戦っている戦線、その
だが、と俺はスタースクリーム様の元へ向かう。
「なんだ、クイックセーブ」
お前も捜索に参加しろと言わんばかりの眼光が俺を貫く。
「念の為に報告したいことがありまして」 「なんだ」 不機嫌そうな態度。きっと聞かないのだろうな、と思いながら、それでも俺は言葉を紡いだ。
「先程わたくしの殲滅したはぐれ共ですが───」
スタースクリーム様は少し考えたが、「それは考えすぎだろう」 と言ってそれ以上聞き入れてはくれなかった。
……時間に追われていたとはいえ、はぐれをさっさと始末してしまったことが悔やまれた。証言があれば、否が応でも信じざるをえなかったのに。
*
ざくざくと剥がれ落ちた天井の欠片たちの上を歩く。むき出しの岩盤が不気味だった。
澱んだ空気がファンを通り抜ける。まるで粘性を持っているかのように感じられてブルリと震えた。俺は汚いのが嫌いだった。
暗視でスタースクリーム様をみれば、同じ気持ちなのか目元のフェイスパーツが歪んでいる。様子をみるに恐らく "センサー感度を下げている" のだろう。俺よりは無事そうだった。
嫌そうな顔が少し面白い。そう思ったのがばれたのか、スタースクリーム様がじろりとこちらを睨んできたので慌てて顔を逸らした。
ざくざく。何十サイクルの間歩いただろう。
「クイックセーブさん」 グラインダーが個人回線で話しかけてきた。「どうした」 グラインダーは黙ってしまった。
「なにか言いたいことがあるんじゃあないのか」
俺は続きを促した。躊躇っていたらしいグラインダーだったが、しだいにぽつりぽつりと喋りだす。
「このトンネル、何かが変です」 「気味が悪い」 「演算がまるで出来ません」
一度口を開けば、言いたいことが多くあったのだろう。次々とグラインダーは思ったことを口にしだした。
しかし、それのどれもが感覚的なことばかり。
「具体的にどこが変なのかわかるか?」
俺の質問にグラインダーはNOと返した。
「わかりません。ですが、あえて言うなら静かすぎます」
そして、少し間をあけてからグラインダーは言った。
「まるで
瞬間。
俺のセンサーが空気の揺らぎを感じ取った。ここは換気扇なんて動いていない地下なのに。
俺はその場から飛び退いた。
───カカカカカカカンッ!
銃弾が飛び退く前に俺がいた場所に突き刺さる。
「オートボットだ! 総員戦闘態勢!」
目の前のオートボットは、俺と大してかわらない体格の大型だった。
こんな場所に潜んでいたのか! しかも中々にすばやい。
俺は背中のミサイルを向けようとした。だが場所を思い出しそれを止める。ここはトンネルだ。ミサイルなんて使えば崩落してしまうかもしれない。いや、するだろう。
目の前の大型以外にもオートボットは複数いるようだ。混戦は避けられまい。
大剣は不向きと考え、俺は両腕のブレードを展開する。
「今日がお前の解体記念日だ」
「死ね、オートボット」
俺は目の前の大型オートボットと対峙した。じりじりと場所を動きながら、俺も相手も動けない状況が続く。
(ッ、動いた! )
それを確認してから俺も動き出す。そして───
────目の前のオートボットは、スタースクリーム様のいる方へ駆け出した。
フェイスパーツからサッと熱が引く。
「俺への攻撃はブラフかッ!」
やばい。オートボットの向こうに見える、別の個体と対峙しているスタースクリーム様は目に見えるほど動きが悪い。ミサイルが使えないことと、加えてあれは、
スタースクリーム様は今、
(まずい!)
今、スタースクリーム様のスパークに襲いかからんとしているオートボットは疾い。ここからでは追いつけない。そしてきっと、今のスタースクリーム様では攻撃に反応できないだろう。
銃撃、レーザー射撃、だめだ。破壊力が無く無力化ができない。
ミサイルもだめだ。生き埋めになってしまう。
俺は左腕の装置を展開した。
「その小汚い手で!」
俺は無理やりこじ開けた超短距離スペースブリッジに飛び込んだ。開き切ってないのに飛び込んだおかげで、機体中に激痛が走る。痛覚センサーを切っておくべきだった。
「スタースクリーム様に触るなッ!」
下腹部に強い衝撃。ブシュッと液体の漏れる音がする。オートボットの腕が横腹を貫通していた。俺は自身を貫いている腕を両手で握り込む。
「死ね」 俺がそう言うのと同時に、機関銃がソイツを蜂の巣にした。
ずるり。腕が腹から抜ける。ひゅうと汚い空気が穴を通り抜けた。
「スクラップがお似合いだ、クソボットめ」
「クイックセーブ!」
暗視が機能しなくなる直前に見たのは、庇うことに成功したスタースクリーム様の驚く顔だった。
*
「作戦、見事だったぞスタースクリーム。ブラックアウトに礼でも言っておくんだな」
「……もったいないお言葉です」
「ところで、貴様を庇ったとかいうクイックセーブは今、リペアルームにいるのだな?」
「………………はい、閣下。今はようやく容態が安定しだした様子で、」
「サウンドウェーブを呼べ」
「……は」
「脳内侵入プログラムを行う」
素早かったオートボット君
嗅覚と触覚を犠牲に俊足の足を手に入れた大型ボッツ。きったねえ空気もへっちゃら。ディセプティコンが嫌い。
脳内侵入プログラム
脳内に侵入するプログラム。
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^8
評価、お気に入りありがとうございますー!
頭が鈍い。まあ "あれだけ
カメラアイの立ち上げが遅れているのか、それにしても視界がおかしい。
……ああ、暗視がついているのだった。ここは明るいから、そりゃあ見え方に難が出てくるだろう。
ぱちん。カメラアイのモード切り替えの音が聴覚センサーをくすぐった。
そして俺は ぱしぱしとオプティックを瞬かせる。
(…………? まだ狂っているのだろうか)
一度アイカメラを立ち上げ直す。「……あー」 アイセンサーの異常ではなかった。俺は大きく排気したくなるのを堪えて言った。
「スタースクリーム様、どうしてここに……」
「…………メガトロン様が首を長くしてお前をお待ちだ」
俺の目の前にはスタースクリーム様がいた。
*
スタースクリーム様に連れられて入室した司令室には、当たり前ではあるがメガトロン様と、そして更に情報参謀であるサウンドウェーブがいた。
サウンドウェーブは物言いたげに俺を見つめている。バイザーのせいであまり分からないが……。
「よく来たな、クイックセーブ。今回の働き、見事だったと聞く。
「恐縮であります」
メガトロン様はにんまりとフェイスパーツを笑みに歪ませる。俺は驚愕で機体を硬直させた。
「ところでクイックセーブ。貴様───おい、何処を見ているのだ」
「はっ、いえ、メガトロン様がお笑いになったのでつい……」
メガトロン様に声をかけていただいてようやく我に返った。手遅れだろうか、と思いながらも俺は弁明を試みた。
「誤解なさらないでください。メガトロン様がお笑いになったことがいけないのではなく、ただあまりにも、その……」
「もういい。本題に入る」
メガトロン様が言った。
「貴様、なにか隠しているだろう」
しん、と司令室が静まり返った。サウンドウェーブはじっと俺を見つめている。俺の横でスタースクリーム様がオプティックを見開いていた。
「メガトロン様」 「黙っていろ」
なにか言いたげだったサウンドウェーブを、メガトロン様は容赦なく一蹴した。
赤くらんらんとしたオプティックが俺を射抜く。
「……は、それは勿論、人にはひとつやふたつぐらい他人に言いたくないことも…………」
「誤魔化しても無駄だ。ついさっきサウンドウェーブに脳内侵入プログラムをさせた。勿論お前にだ。
だが当のサウンドウェーブが、お前のことは信用できるとの一点張りでなァ。本人に説明させようと思った次第だ。……言え、クイックセーブ! 何を隠している!」
「それは───」
「お言葉ですが、閣下」
誰もがその声に驚いた。心做しかサウンドウェーブもバイザー越しに顔をそちらへ向けている気がする。
俺も例外ではなく、中途半端に口を開けたまま思わず真横に首を向けてしまった。
「貴様の発言は許可していないぞ、
スタースクリーム様は黙らない。
「クイックセーブは信頼できると、サウンドウェーブがそう言ったのだから良いではないですか」
スタースクリーム様はその場から一歩前へ───まるで俺を庇うような動作で───出ると、そのまま発言を続けた。
「こいつがわたくしを庇って重症を負った事がそのまま事実でしょう。そもそもこいつは作戦前、『オートボットに生きたトンネルの存在が知られているかもしれない』という報告をしてきました。しかし───」
ちらりとこちらに視線を寄越したスタースクリーム様。彼は俺と目が合うと フ、と軽く笑い、そしてまた前を向いた。
「───この度の不手際は、このスタースクリームがそれを一蹴したことに要因がございます。折檻ならわたくしが受けます」
「なッ」
「ほう? 貴様がそんな殊勝な発言をするとはな。泣かせてくれるではないか」
司令官の席を立ち、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくるメガトロン様。サウンドウェーブは驚きから回復した後なのか、既にこちらを無感動げに眺めている。
「しかし、スタースクリーム。俺は折檻がしたいのではないのだ」
「……と、言うと?」
「尋問だ」
メガトロン様は意地の悪い顔でそう言った。
俺はそんなスタースクリーム様とメガトロン様の間に躍り出る。「ほう?」 メガトロン様は面白そうだった。
「どうかしたのか、クイックセーブ」
「
スタースクリーム様が叫んだ。「クイックセーブ! 貴様は黙っていろ!」 俺はその声を無視して口を開いた。
「俺は、
サウンドウェーブ
バイザー野郎。身長は小さめ。好きな女性のタイプは人工衛星。
小動物が好き。オートボットは好きではない。
別次元の宇宙
宇宙は一つだけではない。オートボットとディセプティコンの善悪が逆転している宇宙もあれば、人間とトランスフォーマーがめっちゃキスしてる宇宙だってある。
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^9
今もルーキー日間にいますねー!うれしい!ありがとうございますー!
「別次元の宇宙? それで?」
メガトロン様はにやにやと面白がる表情を隠しさえしない。俺がこれから "どんな
もちろん、別次元の宇宙から来たなんてのは真っ赤な大嘘。俺は正真正銘、この宇宙でスタースクリーム様やショックウェーブ様によって生み出していただいたトランスフォーマーである。
「は……お前は何を言い出すんだ…………?」
そして、メガトロン様とは対照的に大きく困惑しているスタースクリーム様。
……まさか、スタースクリーム様が俺の事を庇ってくださるなんて思ってもなかった。
だってこの方は俺を疑っていたはずだ。秘密を追求する側でこそあれども、秘密を言わないでいいと許容する立場ではない。
(スタースクリーム様……)
俺はその事実に感激しつつ、メガトロン様の後ろで控えているサウンドウェーブを見やった。やはり
「で? それでどうだというのだ。答えよクイックセーブ」
「メガトロン様」
俺に発言の催促をするメガトロン様に誰かが口を挟んだ。メガトロン様は振り返った。声の主はサウンドウェーブだった。
サウンドウェーブは淡々と言った。
「そいつの話は事実だ」
途端、顔から笑みが消えるメガトロン様。サウンドウェーブは畳み掛けた。
「おれはそいつの脳内で記憶を見た。そいつの言ういわゆる異宇宙の話は事実だ。おれは言っただろう、"信頼" できると」
「……クイックセーブ、続きを言え」 メガトロン様は笑みがきれいさっぱりなくなった表情でそう言った。
「……俺は、別次元の宇宙のディセプティコン軍でした。といっても、研究部門所属で戦闘にはあまり出ていなかったのですが」
メガトロン様は真顔を崩さない。
これも嘘だ。確かに俺は科学者として研究ばかりをしていたが、ディセプティコンのインシグニアを背負ったのはここに来てからがはじめてだ。
……インシグニアを機体に刻むことも、俺の夢だった。ディセプティコンを名乗ることは、周囲の空気が許さなかったのだ。
俺は話を続けた。
「しかし、戦場に出張った時にちょうどオプティマス・プライムと鉢合わせてしまい、戦ったもののブレインサーキットが吹っ飛んだと思えば、俺はこの宇宙にいました」
そこに、オートボットの本山にです、と付け加える。メガトロン様は真顔だ。
ちらりと後ろを見れば、スタースクリーム様がオプティックを見開いて何やら考えていらっしゃる様子だった。
メガトロン様は指を遊ばせながら言った。
「まだ何か隠しているだろう。言え、俺と貴様の関係を。闘い方も、思考回路も、全てがまるで俺だ。貴様は何者だ」
「先程、メガトロン様が笑ったことに俺がたいそう驚いていたのは覚えていらっしゃるでしょうか」
メガトロン様が排気の音をたてた。
「だからなんだ」
「俺は研究者である以前に、メガトロン様の弟子でもありました」
だから俺は多くのことが貴方様に似ているのでしょう。我が師メガトロン様は、決して笑わない存在でした。だから驚いたのです。
しんとした司令室に俺の声だけが響いた。
*
「クイックセーブ、貴様はあろうことか閣下に闘いを仕込まれておきながらオートボットに敗北したのか」
「そ、それは……」
回答に困る俺に対しスタースクリーム様は一言、冗談だと言った。
俺は今、再びリペアルームに向かっている最中である。メガトロン様と面会したとはいえ、損傷はまだ癒えていないのだ。
ぽつりとスタースクリーム様が呟いた。
「……悪かったな。あの時、地下トンネルに入る前、きちんとお前の話を聞き入れていればそんな怪我はしなくてすんだろう」
俺は首を振りながら慌てて言った。
「そんな! 全てわたくしの不徳のなすところです!」
スタースクリーム様は笑った。
「一人称が戻っているな。閣下に啖呵を切っていた時は 俺、と言っていただろう」 俺は更に慌てた。「も、申し訳ありません」
「いや、いい」 スタースクリーム様はにやりとした。「これからはオレの前でもそれで構わん」
がしゃんがしゃんと、俺とスタースクリーム様が廊下を踏みしめる音だけが辺りに響く。
「しかし閣下にああまで遊び心があるとはな」
「遊ばれる側としては、少なくないスパークの危機を感じますがね」
全ての尋問が終わった時、メガトロン様はそれまでの真顔を崩し、再度(あてつけのように)笑ってこう仰ったのだ。
『結局はサウンドウェーブが信頼出来ると報告してきた時点で、貴様の忠誠心を疑ってはいなかったのだがな、クイックセーブ』と。
俺はとても騙された。そうだった、あの方はそういう所があった。そもそも
それを思い出して俺は大きく排気をした。
「閣下も人が悪いからな」
「知ってますよ……」
俺は頭に手をやった。目覚めてからずっと頭が痛かったのに、さっきまでのことで余計に頭痛が増してしまった。
しばらくはブレインサーキットをこう酷使するのは控えよう。そう考えながら、俺は頭痛の原因を回想しだしたのだった。
メガトロン様
悪いおじいさんに唆されてグレた。
顔面破壊大帝オプティマスと昔は友達だった。初期設定だと兄弟。
今はまだ気がついていないけどサイバトロン星が結構好き。
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^10
文字数が少なくても頻繁に更新したらOKらしいので初投稿です。
投稿2日目にして更新ペース落ちそう(課題が有り余ってる)
今回と次回で過去編(概念)入ります
気がつけばサウンドウェーブは見知らぬ空間にいた。いや、そもそもここは空間なのだろうか。
彼は自分の機体を見た。四肢の端へゆくほどぼんやりと薄くなっている。ぐっと力を込めるように体を意識すれば、途端に四肢は色と質感を取り戻した。電脳空間の一種だろうか。サウンドウェーブはそう考えた。
(おれは確か、クイックセーブとかいう奴に脳内侵入プログラムを仕掛けたはずだが……ここは、どこだ?)
少なくとも脳内侵入プログラムが失敗したことは確かである。
あれは対象者のメモリを無理やり外部に投影する装置で、こんな訳の分からない場所に引きずり込むようなものではない。
サウンドウェーブはぐるりと周囲を見渡した。六角形をしたモニターが辺りを埋めつくしている。そのモニターには、それぞれなにかしらの映像が映し出されていた。
ふと、背後から声をかけられた。
「貴方は、もしかして情報参謀サウンドウェーブか?」
「……貴様がクイックセーブとやらか。状況の説明をしろ」
ゆっくりと声の方向へ振り返りながら、サウンドウェーブはそう言った。そこにはサウンドウェーブよりも大柄な飛行型ディセプティコン───クイックセーブが佇んでいた。
クイックセーブはくるりとその場でまわりながら言った。
「ここが俺の中だ、というのは貴方なら分かっているんだろう。ここはブレインサーキットの中でも、記憶メモリーを管理する場所だ。
ここに来たということは、貴方は、俺に脳内侵入プログラムを仕掛けた、ということだろう」
違うか? と聞くクイックセーブ。サウンドウェーブは驚いていた。脳内侵入プログラムというのは、彼自身とショックウェーブがつい最近開発した技術だったからだ。
「なぜそれを知っているのか、と考えているんじゃあないのか? 理由はひとつ。俺にとってその技術は、とうの過去に開発されたものだったからだ。
俺は予め、脳内侵入プログラムを仕掛けてきたヤツを、逆にブレインサーキットに引きずり込むプログラムを組んでいた。上手くいくかは不安だったが、無事成功したようで何よりだ」
「わざと核心を避けた説明をするのはやめろ。なぜこのことを知っている。貴様は何者だ」
苛立たしげにそう言うサウンドウェーブ。対照的にクイックセーブはひょうひょうとしていて、引きずり込んだ側と引きずり込まれた側、という明確な力関係がここには現れていた。
しかし、ここでクイックセーブはぴたりとその態度を取りやめる。サウンドウェーブはバイザーの下で訝しげにオプティックを歪めた。
「情報参謀サウンドウェーブ。今まで長らくディセプティコンを支え、そしてこれからも忠実によく働いて "いた" 貴方を見込んでお願いがある」
サウンドウェーブは黙っている。クイックセーブは話を続けた。
「今から俺の記憶メモリーを貴方に見せる。容赦なく解析して貰って構わない。
もし、それらのメモリーが虚像ではないと貴方が判断して、その上で俺を信頼できると思ったならば。ディセプティコンのため、メガトロン様のために、俺に協力してくれないか」
いつの間にかサウンドウェーブと同じぐらいの体格にまで縮んでいたクイックセーブ。サウンドウェーブはそれを、これらの "像" が意識を投影した姿だとすれば、この程度造作もないことなのだろう、と思った。
「記憶メモリーをよこせ」
サウンドウェーブは、同じ目線の高さにあるオプティックをじっと見つめながらそう言った。
*
(これは、どこの星だ……?)
サウンドウェーブは縦に長い建造物の立ち並ぶ、見覚えのない都市に一機立っていた。
(文明の違いぶりからして、サイバトロン星では無いことは確かだ。だが、陸上型ビークルモードのトランスフォーマーに似たものがあちこちに散らばっているな)
それは地球の言語でいう、いわゆる車と呼ばれるものだったのだが、今のサウンドウェーブには知る余地もないことだった。
激しい戦闘が行われたのか、都市は大損害を受けており、あちらこちらに鉄くずとガラス化した鉱物が転がっている。加えて、おそらくこの土地の生命体であろう小さな何かの死骸。
そしてなによりサウンドウェーブが気になったこと。それは───
(……ディセプティコンと、オートボットのスクラップだらけだ)
───至る所にサイバトロンの宇宙船の残骸や、死んだトランスフォーマーのパーツが転がっていることである。
(むごいな)
サウンドウェーブはふと、近くで動く存在がある事に気がついた。それは小さなトランスフォーマーだった。
今どきプロトフォームの幼体だなんて、珍しい
特に興味は無かったが、なぜか無意識に体がその幼体の方へ向かっていく。
(ならばこの記憶の主はこの幼体か。なるほど、記憶とは主観の最たる例だ。意識しなくても場面はこいつの周囲に切り替わるわけか)
サウンドウェーブは大人しくその幼体についていく。幼体は無言だった。
そして一瞬の後、サウンドウェーブは己の目を疑う。
そこにあったのは、スパークチェンバーを粉々に打ち砕かれた、サウンドウェーブ自身の機体だった。
そこにスパークの輝きは、無かった。
脳内侵入プログラム②
脳内に侵入できるプログラム。
TFPでスタスクが踊ってたシーンみたいに頭の中身をいろいろ映し出す。
サウンドウェーブ達のいる場所
クイックセーブの頭の中。
サイバーバースの2話とか3話とか見たらいいと思う。
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^11
過去編は書く側は楽しいですが、あんま続くと読む側的には嬉しくないので(主観)今回で終わりです。短いね。
最下部に挿絵
少しパーツの様相が変わっているが、見間違えるはずがない。これは自分だ。自分の死体だ。サウンドウェーブは驚きでオプティックを見開いた。
周囲を見る。崩れた建造物。スクラップ。空。何も変なところはない。ここまで精密な
幼体は黙ったまま少しだけその場で立ち止まり、再び歩き出した。
小さな幼体の一歩はとても小さい。だが、今のサウンドウェーブにとってはその歩くスピードでさえ速く感じられた。
(……なんなんだ。これは、一体いつの、なんの記憶なんだ)
そう思ったところで、この記憶の中から抜け出せるわけではない。自分のことを非人間であると認識しているサウンドウェーブだったが、この時ばかりは心がガリガリと削られるのを感じた。
それからも、サウンドウェーブは多くの見知った顔の死体を見た。
ドリラーがその大きな体を地面に横たわらせていた。
その飼い主のショックウェーブが、みるも無惨な姿でゴミクズのように転がっていた。
部下であるレーザービークと思しき金属塊が落ちていた時は、思わず目を逸らした。
他にも、見覚えのある部下、所属は違えど何度か言葉を交わしたことがある者、はたまた全く見覚えのない者。
それら全てがスクラップとなってぶちまけられているのを、サウンドウェーブは見た。
どこをみても、死体、死体、死体。生きているディセプティコンは、目の前の幼体しかいなかった。それが不気味だった。
そして、その死体の森を歩き続ける幼体は、終始無言であり続けた。
ぴたり。幼体が立ち止まる。サウンドウェーブもつられて立ち止まった。
そこで初めて幼体が声を上げた。悲しく、か細い声で。
「すく、りーま……あ?」
サウンドウェーブは顔を上げた。彼はそこで、大きく頭部を失くし地を這うように死んでいるトランスフォーマーを見つけた。
空を飛び、空を愛し、空に生きるジェットロン。それはスタースクリームの死体だった。
ぱっ、と画面が一瞬だけ変わる。幼体が今思い出している記憶だった。
自分たちを可愛がるスタースクリーム。手ずから食べ物をくれるメガトロン。あたたかな暗闇の中で聞こえるスタースクリームの声。
サウンドウェーブはそれを見た。
ぱっ。
画面が戻った。幼体は泣きながらスタースクリームの死体に寄り添っている。
「すくりーま、スクリーマー……」
幼体は何度も死体を呼び続けていた。
(やめろ)
そいつは既に死んでいるのだと声をあげそうになった。だが、サウンドウェーブの体はなぜか金縛りにあったかのように硬直して動かない。
「スクリーマー、起きて。ねえ……起きて……」
幼体の声が段々と小さくなってゆく。ブレインがオーバーヒートしているのだろう。オプティックからぼたぼたと冷却水が流れていた。
「スクリーマー、スター、スタースクリーム様……」
「……そやつは死んでいる。お前も分かっているだろう」
「…………」
サウンドウェーブは驚いた。幼体に声をかけてきたのが、姿は少し違えどメガトロンだったからだ。
(……ひどい姿だ)
メガトロンは全身を酷く損傷していて、おまけに傷口には錆がまとわりついていた。
(これが、メガトロン様……?)
サウンドウェーブが衝撃を受けている中、幼体は声を張り上げた。
「スタースクリーム様を殺したやつを殺します。絶対に殺します」
メガトロンが言った。
「……それは出来ない」
「どうしてですか」
そして、2つ目の衝撃がサウンドウェーブを襲った。
「オートボットと和平を結ぶことになった。……ディセプティコンは負けた。戦争は、終わったのだ」
*
サウンドウェーブを取り巻く風景が切り替わる。中型程度の大きさまで成長した幼体と、怪我の癒えたメガトロンが一緒にいる場面だ。ぱっ、ぱっ、と複数の場面が飛び交う。
「そんなことも分からないのか。その調子では周囲に出し抜かれて終わりだな」
「それだけか? その程度の能力で一体何に役立てられるというのだ」
「出来ないなら野垂れ死にするか?」
「もう一度かかってこい。そんなのでは殺したいやつも殺せんぞ」
場面が切り替わる。いたのは、大型とまで成長した幼体と、メガトロンだった。
「ディセプティコンを、頼んだぞ」
幼体は────クイックセーブは頷いた。
「オールヘイル、メガトロン」
ああ、そうか。
サウンドウェーブはここでようやく理解した。
(────こいつは、この未来を変えるために "ここ" に来たのだ)
**
サウンドウェーブは元の電脳空間に戻ってきていた。そして彼はクイックセーブを見るなりこう言った。
「お前を信頼しよう」
スクリーマー
スタースクリームのこと。
卵の研究に加え、そこから生まれた幼体の面倒を見ていた。クイックセーブ達幼体は、しばしばスタースクリームのキャノピーの中に入れてもらって散歩をした。
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^12
これで第一章サイバトロン編は終了です。前回の内容が可哀想だったので今回でバランスをとりました。主人公は復讐に走るだけじゃなくて、ちゃんと友人もいるのだという話です。
次回からはプライムの血統編に入ります。
「酷い怪我だったらしいな。もう平気なのか?」
「まだ完全とは言えないですけど、おかげさまで。
……スコルポノックー! 心配してくれたのか? お前は本当に優しいなあ」
ブラックアウトが見舞いに来た。部屋に俺以外の誰もいないのを確認するや否や、スコルポノックを出してやる辺り、本当に自分のドローンが好きなのだなあと思う。
きゅっきゅと可愛い声を上げて飛びついてくるスコルポノックは確かに愛らしく、戦闘用ドローンだとは信じられない程だ。
「ドクタースカルペルが言っていたぜ。あれだけズタボロになっておきながら、中身がこうまで無事なのは気持ちが悪いって」
「俺は外がヤワいかわりに中を硬くしてるんですよ。ちょっと砲撃くらって四肢がぶっ飛んだところで、俺のスパークとブレインは無傷になるはずです」
「まるで
心外だと怒る俺と、それに便乗してきゅうきゅうと声を上げるスコルポノック。2対1で早々に不利を察したブラックアウトは、「悪かったよ」 と謝罪してきた。「冗談ですよ」 俺は笑った。
ふとブラックアウトが言った。
「ちょっと待っていてくれ」
ブラックアウトが手をフェイスパーツにあてる。何をしているのだろう。表情の練習……?
待つこと数サイクル。やっと終わったらしいブラックアウトがこっちを見て言った。
「お前はいつになったらオレに対して敬語をとるんだ?」
「ふふっ」
練習したての、ムッとした顔でそんなことを言うものだから笑ってしまった。
「そんなことを気にしていたのか。確かにそうだ。俺たちは友人だし、これぐらいがいい気がするな」
だろう? と、満足気なブラックアウトがおもしろかった。
俺たちはしばらくの間、取り留めもない話ばかりを広げていたのだが、そういえば、と聞きたいことが出来て俺はブラックアウトに問いかける。
「戦闘はあの後どうなったんだ。作戦は成功したのか?」
途端、ブラックアウトは「ああ、」 と煮え切らない返事をした。「言いたくないなら大丈夫だぞ。他のやつに聞くし」俺がそう言うと、ブラックアウトは「いや、気を使わなくて大丈夫だ、クイックセーブ」 と視線を床に動かした。
ブラックアウトは言いづらそうに喋りだした。
「グラインダーの報告なんだが、お前が倒れた後はそれはもうアルファー01臨時小隊の勢いは凄まじかったらしい。……特にスタースクリームが」
言いたくなかった理由が瞬時に分かってしまい、思わずまじまじと目の前のブラックアウトを見つめてしまった。きまずげに逸らされる顔。
「で、補給ラインの破壊から作戦を変更して、ボッツの現地司令部の背後から強襲をかけた小隊だが、聞いて驚け。ジャズが手も足も出ずにやられちまったんだと。下半身が吹っ飛んだらしい。ざまあないな」
口調とは裏腹に気乗りしない様子のブラックアウト。
「……それをしたのがスタースクリーム様なんだな?」
無言は最大の肯定だった。
詳しく話を聞けば、どうやらカプセルトレインのトンネルの存在は、かつてその現地を故郷としていた一部のオートボットだけの知るものだったらしい。
そして俺に庇われたスタースクリーム様は、俺の穴を埋めるかのようにものすごい働きをしたのだとか。かなり感動した。俺のためにあの方がそこまでしてくださるなんて。
聞けば聞くほど、地下トンネルで待ち伏せをしていたボッツの襲撃者たちがいかに辛抱強いやつらだったのかがわかる内容だった。あんな小汚いところによく長い間いれるなあ。
「───それで戦線は崩壊、お前がイビキかいてる間に、あの一帯はオレたちの支配下になった」
「……そうか。悪かったな、ブラックアウト」
「いや、いいんだ。お前は早く現場復帰できるよう努力しろ」
ブラックアウトは笑いながら、スコルポノックを連れて部屋を出ていった。
**
同時刻。
メガトロンは薄暗い部屋の中、モニター越しにとある一機のトランスフォーマーと話をしていた。
そいつは機体のあらゆる所にケーブルとチューブが繋がれていて、傍から見れば今にも死んでしまいそうな有様だった。実際、チューブから送られる薄いエネルゴン液がなければ、そいつはたちまち機能停止に陥ってしまうだろう。
「我が師よ、堕落せし者よ。お呼びでしょうか」
ディセプティコンのリーダー、メガトロンがモニターに跪く。堕落せし者────ザ・フォールンは満足気に言った。
「我が弟子、
メガトロンは思わずと言ったふうに顔を上げる。
「……いえ、あれは本当に弟子などではなく、」 「御託は良い。おれをそいつに合わせろ。興味が湧いた」
メガトロンはすこし逡巡してから、「ですが、あれはまだ不出来でして」と言いづらそうに話した。
愉快そうにザ・フォールンは答える。
「では弟子として完成したらでよい。おれの前にそいつを
…………なぜおれが知っているかきになるのか? 教えてやろう。おれに忠実なのは、何もお前だけではないということだ、我が弟子よ」
メガトロンはただ一言、わかりましたと伝えてその場を退室した。
その場にはなにも移さないモニターだけが残った。
メガ様(ほんまに弟子と違うんやけど)
ザ・フォールン
メガトロナス・プライム。諸悪の根源その1。メガトロンを唆した。
顔面がどう見てもマンドリルにしか見えない。
自分がだいすき。
テラーコン
TFP仕様なのでつまりゾンビ。ヤク中の死体。
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プライムの血統─前
*1
プライムの血統編 始まりますですよ〜!
というわけで今回は触りだけで話が動くのは次からです。多分
ガバを見つけたので前回の最後の方を20文字ぐらい修正しました。
二機のトランスフォーマーが対峙していた。一方は手甲剣を両腕に構え、もう一方は一振の大剣を構えている。
機体の表面には真新しい細かな傷が両者多く刻まれていて、長い間二機が戦っていることが想像できた。
彼らはどちらも大柄で、武器のリーチでは後者が有利。一見、手甲剣のトランスフォーマーが劣勢に見える。だが。
大きく横凪に大剣が振るわれた。地球よりも密度の小さなはずの空気を、まるで重たいものかのように大きく音をたてて切り裂く大剣。
しかしそれは大きく前に飛び込まれることで回避された。ガシュンという音と共に手甲剣が瞬時に収納され、そのトランスフォーマーは両手を地面につけた。
そのまま一回転して勢いを殺すのかと思いきや、そいつは腕をバネに動く向きを垂直方向に変えた。そして、その足で大剣を振り切ったことで隙のできたフェイスパーツの真下を蹴りあげる。
がきん。鈍い金属音が響いた。
「ぐ、あ! っこの!!」
しかし相手もタダではやられない。蹴り返そうと勢いよく膝を振り上げる。その蹴りは胸部の直下中央あたりに命中したのだがしかし、食らった当人は応えた様子もなく手甲を再度展開すると、大剣を握る手の片方の指を切り落とした。
ぼたぼたと指が地に落ちる。
「勝負あり、だ。クイックセーブ。前の組手の時から思っていたが、別宇宙の俺が教えていただけあって流石の腕だ。次はもっと攻めてこい」
「つぎも、ぐ、あるんですか、メガトロン様」
クイックセーブは息も絶え絶えに、───指を切り落とされながらも───信じられないという顔つきで、目の前に悠々と立つメガトロンを見た。
「俺とて不本意だ。リペアが終わったら次は16メガサイクル後に座学だ。資料室にこい」
メガトロンは落ちていたクイックセーブの指を全て拾うと、お優しいことに持ち主の指が残っている方の手に握らせた。
「忘れ物だぞ」
とても意地の悪い笑顔で。
*
スタースクリーム様の仰った言葉を聞いた時、俺がは思わず聴覚センサーを疑った。
「俺がメガトロン様と戦闘訓練ですか? それはまた唐突ですね」
「閣下のお考えになることは時々よくわからなくなる」
スタースクリーム様は頭を抑えていた。「こいつはオレの部下だぞ」 「何のつもりなんだ」 「やはり訳の分からないメガトロンよりもオレの方が」
そうぶつぶつ呟くスタースクリーム様に、俺は思わず励ましの声をかけた。
そしてメガトロン様に呼ばれた先でしていたのが、さっきの戦闘訓練だ。指は見事なまでにすっぱりと切断されている。
「あれだけの強さで、主武器が手甲剣じゃないとかおかしいだろ…」
そう、メガトロンは手加減と称して慣れない武器で俺を相手取ったのだ。
「銃火器無し、主装備は一種類とかいう縛りなのはいいですが、まさか無力化に指を切り落とさなくてもいいでしょうに」
こんな戦闘訓練が次回もあるのか、という苦い思いがひとつ。メガトロン様と戦える事が嬉しいのがひとつ。
俺はアンビバレンツ的な思いを抱きながら、さっきまでのメガトロン様の体捌きを思い出した。
(メガトロン様、強かったなあ)
……明らかにメガトロン様の動きは
(動力だ)
そうだ。かつてメガトロン様は暗黒物質をエネルギー源として活動していた、と言っていた。暗黒物質。過度に密度を大きくしたものは危険物なので工業・供給用に使われることは無いが、一個人が使う程度ならば全く問題のない、優良エネルギー源だ。ただし暗黒物質に適合するスパークはほぼ皆無。
もし扱えれば活動に必要とするエネルゴンも少なくてすむし、何よりあらゆる事の出力が段違いとなる。メガトロン様のさっきの強さの秘密はこれだったのだ。
だが一度死に、オールスパークの欠片で復活してからは、スパークが変質し暗黒物質を受け付けなくなった、と。本人がそう言っていたのだから間違いがない。
つまり、俺の知っている未来のメガトロン様は、今さっき戦ったこの時代の彼自身よりも大きく弱体化していたのだ。
(……復活させる手段が分かっているとはいえ、メガトロン様を一度も死なせてはならない)
戦闘訓練を反芻していただけなのに、思わぬ所に思考が着地したものだ、と俺は少しだけ笑った。
まだ起きてない未来だからこその余裕だった。
*
金属の板に刻まれた(サイバトロンではとても珍しい記録方法だ)見知らぬ文字の数々。サイバトロン語である事は辛うじて理解出来る。
だが、ほぼ全ての年代、地域、用途のサイバトロン語を履修している俺にとって、知らないサイバトロン語があることは実に驚くべきことだった。
「なんの文字かは知っているか?」
メガトロン様が問いかける。俺には一つだけ心当たりがあった。恐る恐る、まさかと思いながら俺は答えた。
「これは、もしかして古代プライムの文字ですか?」
メガトロン様は頷いた。
(プライムの文字だって!? 未来では誰も読めず、そしてこれからも "一切" 解読出来ないだろうとまで言われていた、あの失伝した言葉!?)
「メガトロン様は、これをまさか、習得しておられるのですか……?」
メガトロン様はなにやら複雑そうな顔をした。
「…………とあるツテがあってな」
(流石はメガトロン様だ!)
プライムの文字。未来ではオプティマス・プライムの受け継いだオールスパークの叡智の解読にあたっての、最大の障壁だったもの。(文字が読めなければ、百科事典があっても使えないのと一緒だ)
"その"プライムの文字を習える! その事に俺は感激した。目の前のメガトロン様が知っていたならば、嘗て俺が師事したメガトロン様だって知っていたに違いないのだが、きっとそれは事情があったのだろう。
だが、未来のメガトロン様が教えなかったことを、なぜこのメガトロン様が俺に教えようとするのか。
肝心な時に馬鹿を発揮する俺は、そこに考えが至らなかった。
暗黒物質
暗黒の物質。実写無印ではメガトロンの動力源だったらしいが、そのうち設定が自然消滅した。
オールスパークの叡智
実写二作目の後、サムからオプティマス(のマトリックス)に移ったらしい。
古代のプライムの文字
地球の言語と違ってサイバトロン語は複雑すぎるため、情報をインストールするだけでは完全に習得したとはいえない。
古すぎてデータがほぼ存在しない。
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*2
サイバトロン11話(過去編後半)に挿絵を追加しました。挿絵だけならこちらで見れるのでぜひ見て(?)
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=239019&uid=155940
「いってえ! ばか、まだ痛覚切ってねえよ!」
「切断面が滑らかだから、痛覚を切らなくてもすぐ腕の溶接は終わる。これもメガトロン様が? すごいな」
俺は今、リペアルームでドクタースカルペルによって治療を受けていた。そう、治療だ。俺の腕は、メガトロン様との戦闘訓練ですっぱりと切れてしまっていたのだ。
初めは切断すると言っても指だけで小さな部分だったし、あとは装甲を剥がされたり刺されたりといったぐらいだった。
しかし何を思ったのか、突如メガトロン様は俺の戦闘訓練に熱を入れるようになったのである。 具体的にいえば足とか腕が切り取られることが増えた。
(一体何をお考えになられているのか)
俺は痛覚回路をそのままに溶接された自分の腕を見た。中のケーブルは雑に繋がれていたが、自動修復でどうにかなるだろう。
「何がすごいだ。ふざけるな。痛めつけられる俺の気持ちを考えてみろ」
俺は不貞腐れながらドクタースカルペルを見た。一方スカルペルは俺の事を視界にもいれずに、リペアツールの清掃をしている。
「お前こそその切り口の凄さが分かってないようだな。いいか、メガトロン様はお前のリペアがすぐ済むように気を遣って下さっているのだ。だがそんなこと、並のトランスフォーマーじゃあできない。まさに神業だ。
いいかよく聞けクイックセーブ。打撃だとかで押しつぶされて損傷していたとしたら、お前の腕はもっと長時間使い物にならないんだぞ」
俺はぐっと言葉につまった。そのとおりだった。メガトロン様は訓練では切れ味の良い刃系の武器を多く使う。それが俺への気遣いであることは薄々わかっていた。
そうでない時もあるのだが、そういう時は俺にリペアが必要なほどの怪我をさせる前に訓練を終わらせてくれている。
「それに、」 ドクタースカルペルが続けた。
「この状況はお前にも大きくメリットがある」
「……そうなのか?」
俺は驚いた。
「お前は自己修復機能が高い。それでこれだけのペース機体を損傷し続けているのだから、そろそろ装甲に変化が出てくるはずだ」
「変化」 俺が聞き返すと、ドクタースカルペルは頷いた。
「それだけ怪我と治療のサイクルが早ければ、装甲が記憶する。端的に言えば、お前のそのクソ脆い装甲が、多少は硬くしなやかに変わっていくだろうってことだ」
その言葉を聞いてまじまじと溶接痕を見る。全くそんな気がしないのだが。
「それにしてもお前の自己修復能力の高さは、少し劣るどいえども航空参謀並じゃないか? 流石だな」
「……そうかよ」
ドクタースカルペルのその言葉を背に、俺はリペアルームを後にした。
**
最近は出撃が少なく、楽でとてもいい。スタースクリーム様がお忙しそうなことだけはいただけないが。
直属の部下なりに職務の手伝いはするが、それでもスタースクリーム様本人しか行えない業務も多いため、中々役に立てているとは言えない状況だ。
メガトロン様は、なんとあの方も忙しいだろうに何故か指導は続いている。流石に戦闘訓練ではなくなっているが。
「あ、クイックセーブ。久しぶりだな」
「サンダークラッカーさん! 遠征任務から帰ってきてたんですね」
サンダークラッカーは少し前からサイバトロン星外任務に就いていた。今本部にいるということは任務が終わったからに違いない。
しばらくぶりに会うサンダークラッカーは、何故か俺を見てにこにこと笑みを絶やさなかった。
「それよりクイックセーブ、おめでとう」
「急にどうしたんですか」
俺は疑問を投げかける。
「いや、前に組手していた時から少し予感は感じていたんだ」
「はあ。何をです?」
サンダークラッカーは機嫌良さげに言った。
「あのメガトロン様に弟子入りしたんだろう。流石だな」
俺は卒倒した。
*
「め、めめメガトロン様! 俺俺俺ってメガトロン様の弟子なんでしょうか!?」
「……ようやくその噂を聞いたのか? 入軍して日が深くないから仕方がないとはいえ、貴様は "耳" が遠いな」
「知っていらしたのですか!」
「別に違う "俺" の弟子だったのだろうが。そう騒ぐな」
メガトロン様は言った。少し前からディセプティコンの間でとある噂が流れている、と。
噂の内容は、俺がメガトロン様の初となる弟子になった、というものだ。
前に組手をした事やその時の攻防の様子、俺の戦い方がメガトロン様ソックリだという話まで流れているらしく、そのせいで噂が信ぴょう性を増してしまったとも。
「そしてそれがとあるヤツの……お方の耳に入ってしまい、俺はお前を弟子にせざるを得なくなった」
「通りで突然戦闘訓練を………」
メガトロン様は話を続けた。
「初めは面倒だったのだが、そのうち考えを改めたのだ。
流石、"俺" の弟子だっただけはあったが、ものたりない部分もあったからな。突然戦闘訓練が厳しくなったろう」
「そ、それはまたどうして考えをお改めに」
「それを教えるにはまだ早い」
メガトロン様はそう言うと、ひとつのデータファイルを送ってきた。
「拝見いたします」 ファイルを開く。それはサイバトロン星上にある、ディセプティコン所属の研究基地のデータだった。何故これを?
「サウンドウェーブからの情報だ。近々この研究基地をオートボットが襲撃するらしい。そしてその司令官は、オプティマス・プライム。本当ならば俺様が直々に防衛指揮を執ってもいいが」
そこで一旦言葉を切るメガトロン様。まさか。
「貴様にはこれの防衛指揮官になってもらう。それの結果で弟子としての出来、不出来を判断することにした。精々励め」
メガトロン様は確かにそう言った。
ディセプティコンの研究基地
研究施設。代表管理者は例のモノアイ。
近隣には巨大なワーム型の生き物が住んでいる。
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*3
6作目は別時空
〈オートボットに動きあり。およそ
指揮官はオプティマス・プライムかジャズの可能性が高い。最近の戦闘頻度の少なさから、かなりの規模の戦闘になることが想定される。兵力全体の半分近くを出撃させると予想〉
(俺が、防衛とはいえ対オートボット戦闘の指揮官……)
ここは自室だ。俺はそこでメガトロン様から渡された基地データと、その後追加で送られてきたサウンドウェーブの報告を見ていた。次の俺の任地だからだ。
俺はついさっきスタースクリーム様に辞令を頂いた。弟子がどうだのという話を知っているのだろう、あの方は複雑そうな顔をしながらこう仰った。
「クイックセーブ。今から3
お前はオレの部下だってのに勝手にするメガトロン………メガトロン様は気にくわねえが、指示が来やがった以上はしょうがない。……お前が戻ってくるのを楽しみにしている」
「はい! 必ずや俺が全て、完璧に! やり遂げて参ります!」
以前の信頼されていない態度から一転、こうもあけすけに好意と信頼を向けられるのはスパークに悪い。スタースクリーム様はどれだけ俺があの方を慕っているのか理解していないのだ。
(しかし、この研究基地の代表がショックウェーブとはなあ)
ショックウェーブについて思いを馳せる。彼もまた、スタースクリーム様と共にオールスパークを介さないで俺たち幼体を作る研究をしていたはずだ。そういえばスタースクリーム様も科学に造詣があるのだろうか。
俺は時間を確認してから、研究基地へ向かうべく腰をあげたのだった。次にこの部屋に戻ってくるのは、俺がオートボットでチタンのクズを大量生産した後だ。
*
「貴方がショックウェーブですね。俺はクイックセーブ。メガトロン様の命により、これより貴方の下で────」
「それは既に事前情報で知っている。既知情報を態々口頭で言うのは非論理的だ。従って今からお前に仕事を与える。私が席を外す間にお前はこの装置のエネルギー反応の様子を観察し、必要があれば出力をさげろ。では私は行く。しばらくしたら戻ってくる」
職員に案内されて入ったショックウェーブのラボ。そこで初対面であるショックウェーブに挨拶をしようとしたのだが、彼はつらつらと説明する気のない説明を述べてからどこかへ行ってしまった。
それが4メガサイクル前。俺はその場にあった長椅子に倒れ込んだ。
(しばらくが長えよ。大体俺はこの基地の警備戦闘員と顔合わせもしなきゃあならないのに)
勿論その間も装置からは目を離していない。
俺は装置を改めてまじまじと見つめた。装置は小さい。俺の手のひら程度だ。だが測定できるエネルギー量はかなりのものである。つまり密度が凄まじい。
こんな状態のエネルギーの使用用途は限られる。そしてショックウェーブは兵器開発が主だと聞いた。ならばこれは、
「使い捨てのエネルギー弾」
「正解だ。流石はスタースクリームの部下だな」
「ショックウェーブさん」
いつの間にかショックウェーブが戻ってきていた。俺は慌てて起き上がる。ショックウェーブはいかにも無関心といったふうに俺に背を向け、装置を弄っている。
「敬称は不必要だ。我々は研究者であり互いへの敬意を必要としない。それに回数を重ねれば無駄にする時間も無視できないものとなる」
「そうですか、ショックウェーブ……」
ショックウェーブは装置の電源を落とした。どうやらしたいことは終えたらしい。
「ただしお前のその私へ対する丁寧な口調は必要だ。無駄なコミュニケーションの摩擦を避けるのに効果的であるし、周囲にも上下関係を示して置くべきだと判断したからだ」
そしてショックウェーブは「別室に警備の代表を連れてきている。顔合わせをしろ」 と言ってラボを出ていった。俺は慌てて後をついていく。
連れて行かれたのは、……屋外?
別室の定義について考えていると、遠くからズドンと大きな音を立てながら近づいてくるやつがいた。超大型のディセプティコンだ。
「こいつはデモリッシャー。警備顧問だ。おい、話は聞いているな。クイックセーブは今度の大規模防衛の司令官だ。この研究基地の警備について教えろ。私はラボに戻る。クイックセーブは明日の朝またラボに来い」
そしてその場には俺と、かなり大きなディセプティコン……デモリッシャーが残された。
デモリッシャーは大きな音を立てながら、体格に見合ったこれも大きなビークルになると一言 言った。
「……上、乗れ。敷地内を案内してやるからよ」
「あ、ああ。頼む」
ショックウェーブ
マイペース理系。非論理的なことに対する理解が少ない。
ゲームではラスボスをしていたが本編はセリフをほぼ貰えなかった。
研究がすき。
デモリッシャー
大きい。映画本編(上海の指揮官)の時よりもまだ出世できてない。
サイドウェイズという斥候担当の友達がいる。
ディセプティコンがすき。
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*4
あと一回ぐらい話を挟んで防衛戦です。
ところでこの小説は今更ですがカタカナが多いので、閲覧設定で左右余白を10パーセントぐらいにすると読みやすいと思います。
「そっちの区画にはショックウェーブ科学参謀の実験動物が収容されている。代表的なのはドリラーだ。名前ぐらいは知っているだろ」
「ああ、……たまに、聞くな。ところで科学参謀というのは?」
「むしろ知らなかったのか。そりゃあショックウェーブ科学参謀は研究部門のトップだからな。参謀なんて地位ももらっちまうってんで、……お、悪いな。通信入っちまった」
「大丈夫だ」
なるほど、スタースクリーム様がショックウェーブ付きを降格では無いというわけだ。副官とはいえ参謀の直属で複数いる中の一機と、ただ一機の参謀の補佐。同格かそれ以上だろう。
デモリッシャーに運んでもらいながら研究基地を案内される俺。体格差がばかじゃないから、まあ移動的にもこちらの方が都合が良いのだが、それにしてもまあ変な絵面だと思う。
研究基地は広かった。敷地が凄まじい。そして警備のやつが全体的にでかい。さっきからすれ違う警備が軒並み俺のふた周りぐらい大きいのだ。
さりげなく聞いてみたところ、基地の規格が大きいここは体格のあるディセプティコンの配置にぴったりなのだとか。納得した。
「サイドウェイズか。久しぶりだな。急にどうしたんだ? ──────、え? ────────、─────。ああ、わかった。
……あんた、クイックセーブだっけ。メガトロン様の弟子ってのは本当なのか? 驚きだな」
「今そう聞いたのか? まあ、そうらしいぞ」
「……ふうん」
サイドウェイズというのは斥候員でデモリッシャーの友人らしい。そんな感じで雑談も交えながら俺たちは敷地内を一周した。
この研究基地を実際にみてわかった事はいくつかある。その中でも特に重要だったことがふたつあった。
まずひとつ。今度オートボットが救出に来るらしい民間の研究員だが、どうも全員嬉々としてここで研究しているようだ。
確かに設備は整っているし、兵器なんて開発すればすぐに実地検証ができるのだ。兵器やそれに準ずる物、転用できるを元から専門として研究していたのならば、これほど良い環境はあるまい。
ようは全員マッドサイエンティストなのだ。
ふたつ。ただ極秘なだけかもしれないが、まだ俺たち "卵" の研究は始まっていないということ。
オールスパークが失われてかなり時が経っているのにこの研究が行われていないというのは、まだ彼らが消えたオールスパークを見つけられると思っているからか。
そしてこれは重要ではない(個人的にはかなり重要だが)情報だが、なんとスタースクリーム様も以前ここに所属していたらしい。戦前は科学者だったというのだ。
そしてショックウェーブはその頃のスタースクリーム様の僚機やら上司やらなんらで、聞けば友人だとか。スタースクリーム様のショックウェーブに対する評価は来る前散々聞いたので、それについては腐れ縁的な言葉が正しいだろう。
なるほど、だからあの「流石はスタースクリームの部下」 という言葉に繋がるわけか、と俺は一機納得した。
*
辞令を受けてから
「もうあと半デカサイクルで襲撃ですよ。なのになぜ、俺が本軍へした援軍の派遣要請がことごとく両断されているんですか。貴方の、手によって。答えてくださいショックウェーブ」
ショックウェーブは特徴的なモノアイをこちらへ向けると、作業の手は止めることなくこう言った。「非論理的だからだ」 と。
俺は信じられないという目でショックウェーブを見た。彼は大真面目にそう言っているようだった。
「どこが、どう非論理的だと」
こちらが真面目に話しているというのに、ショックウェーブは作業の手を止めない。俺は言いようもない憤りを感じた。
「必要のない援軍は、他戦線を圧迫し兵にストレスを与える。そして無駄な損害を出す。論理的なはずがない」
さらに基地の規模からして、と非論理的だと一貫した説明を続けるショックウェーブ。
「必要のない? ショックウェーブあなた、現状を理解して───」
「無論だ。そしてそれは我が基地の防衛設備や研究成果でまま対応可能だと判断した。
クイックセーブ、お前は限られた人員と豊富な手段でもって、オートボットから基地を守りきれ。加えていうとメガトロン様も承諾した」
ショックウェーブはそう言って、ひとつのデータを俺に転送するや否や、これ以降は口を開かなかった。
データの中身は、基地の防衛設備と戦闘時運用可能な生物実験の産物たち、そして警備員の数。
まて、警備員って12機しかいないのか?
サイドウェイズ
デモリッシャーの友達。リベンジでは初見だとサイドスワイプと見分けがつかないと評判が高い。最近カルト宗教にハマっている。
防衛戦
気分はまるでアースウォーズ(TFのアプリ)
三幹部
初代よりも世界観的に近いTFPを採用。ショックウェーブは光波ではないしお留守番参謀でもない。
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*5
実写3作目見る度にセンチネルの顔面はよ剥がれろって思ってしまいます。最下部に挿絵。
「非戦闘員は奥のシェルターへ! 急げ! 」
「ハニカムの上だ! 対空射撃用意!」
「来たぞ! オートボットだ!」
「クイックセーブ、何をしている」
「心配しなくても警備隊と実験動物で迎撃しています。少し黙っていてくれませんか、ショックウェーブ。今はコネクトに集中しているので」
研究基地、メインコントロールルーム。俺はそこに座っていた。
勿論休んでいるわけではない。俺の機体からは無数のケーブルが放射線状に広がっていて、ルーム中のコンピュータと繋がっている。
ショックウェーブは俺を見て怪訝そうにしている。俺のしたいことが分からないのだろう。それぐらい俺が今試みていることは突拍子のないことだった。
「防衛の指揮はお前が執ることをわかっているのか。基地のオート迎撃システムである程度戦えはすると言ったが、それはお前が指揮をしなくていい理由にはならないぞ。私は今回の件においてメガトロン様から指揮権を与えられていない。
いいか、少ない人員を的確に指示してここを守るのが、お前に求められていることであり最適解だ。遊んでいる暇があれば────」
「ショックウェーブ。貴方はドリラーで地下から牽制していただけませんか。見ての通り俺ははここから離れることが出来ないので」
俺は頭に繋がっていたケーブルを引き抜いてそう言った。「実験動物の指揮も出来たらお願いします。……かなり今、俺が辛いことが見て分かりませんか」
そう言った俺を、ショックウェーブがモノアイで観察する。軽くスキャンでもしているのだろうか。直後、彼は口元のパーツを歪ませた。
「……なるほどな、ほう。流石だな、前言を撤回しよう。お前は最良の行動をとっている。あっちの指揮は、そうだな、いいぞ。してやろう」
ショックウェーブは通信をどこかに飛ばして(きっとお気に入りであるドリラーだ)コントロールルームを去っていった。
俺は首周りに装着した外部パーツを左腕で撫でた。左腕の装置と首のこれの間には、太いケーブルが二本繋がっている。
これこそが、この防衛戦の要となる装置だった。
*
時は遡る。
「デモリッシャー。ショックウェーブは科学者としては有能だが、なんというか、アレだな。話すこと全部に『理論上なら』って付くタイプじゃないか?」
俺は警備の詰めてる部屋に来ていた。部屋と言っても、大型が複数機所属している故か倉庫のような様相である。作戦のすり合わせをするため、というのが来た理由だ。
「まったくもってその通りだ。ショックウェーブ科学参謀は、残念なことにいつも現場の負担もなにも考えやしない。
なまじ本人のスペックと技量が高いからな。自分ができることは当然他人もできると、いや。他人に自分と同じレベルを求めてくる。
確かに警備がショックウェーブ科学参謀12機だったなら、防衛も十分可能だろーが、残念ながらそんな気持ちわりぃ事実はない」
ショックウェーブの言っていた、「現状のまま、援軍がなくても迎撃が可能だ」 というのは言わば机上の空論だった。確かにこの研究所にある防衛システムは有能だ。火力も申し分ない。オートボットを使ったスクラップを大量生産出来るだろう。
だが、本当にそうか? 敵はあのオプティマス・プライム、もしくはジャズだ。何らかの手はうってくるだろうし、オプティマス・プライムが無生物相手にやられるなんて思えない。
だって我々は金属 "生命体" だ。生きている。感情の起伏やメンタル状態によって、普段のスペックより下の力しか出ない時もあれば、大幅に上回る力が飛び出てくる時だってある。生命とは不確定要素の塊のことを指すのだ。
「なにか手を考えないと、お前はメガトロン様に失望されてそれで終わりだろ。どうするんだ」
「何も無い。現場を知らないショックウェーブの頭でっかちのせいで詰んだ」
俺は両腕で頭を抱えた。ショックウェーブは確かに軍属ではあるし近接戦闘もかなりのものだと聞く。だが、それより前に彼は科学者だ。研究者だ。それは仕方の無いことだ。
物事は確定された要因を元に起きていて、全て理論で説明できると思ってしまうのも、研究者ならば仕方の無いことなのだ。ショックウェーブが悪いという訳では無い。ただ、どうしようも無いということだ。
「顔上げろって、なんか手はあるだろ。オレたちここの警備の命運はお前に委ねられてるんだ、頑張ってもらわなくちゃあ困る」
「……それも、そうだな」
デモリッシャーの雑な励ましで、俺は腕を下ろす。丁度その時、左腕の例の装置が目に入った。時間跳躍機能は故障して久しい。だが。
「……スペースブリッジ…………センチネル・プライム………………」
「ボッツの前司令官がどうしたっていうんだ」
俺はまじまじと装置を見つめた。正確には、スペースブリッジ展開機能を。装置を展開する。青いエネルギー波がバシンと音を立てた。
…………センチネル・プライムの最大の遺産であるスペースブリッジは、俺でもっても再現が難しかった。ジェットファイアーという古代のシーカーの装置も参考にしたのだが、それでも厳しかった。だから流用した。
それ以外にも色々な理由があったのだが、俺が
ではなぜ俺がこの装置を使えるのか。そこに鍵がある。
「生き物と、非生き物の戦いなのが問題なら」
「……おい? どうしたんだ」
「生き物同士で戦えば、不確定要素と不確定要素でぶつかればいいんだ」
この腕の装置には、死んだ
*
そして俺は、残りの時間を費やしてひとつの外部パーツを────装着式ブレインサーキット補助装置を作った。その目的は、演算処理速度の上昇。
俺は基地の自動防衛システムにブレインを繋げた。
俺は今や自分の一部となった基地のミサイルを発射した。
センチネル・プライム
アイアンハイドとツインズを返せ(殺意)
小説版だとコズミックルスト(宇宙サビ。映画だとサブ武器)という生物兵器で戦う畜生。生物兵器使うやつは、必ず最期に自分もその餌食になるというテンプレを見事達成した。サイバトロン星と自分が好き。
今は難破した宇宙船でゆっくり死にながら漂流している。
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*6
好きなキャラほど苦境に置きたいっていう衝動、文字書きなら誰しもが経験ありますよね?
「1デカサイクル丸々の準備期間を経たが、この調子だとディセプティコンに民間研究員解放計画は知られていなかったようだな、オプティマス」
「ああ…………」
民間の研究員がディセプティコンの研究基地に監禁されて、兵器開発をさせられているという情報を受け、オートボットたちは研究員を解放するべく綿密な作戦計画を練ってきた。
そして作戦がいざ実行されたのだが、オプティマスはひとり心のうちで言いようもない漠然とした不安を抱えていた。
(あっさりとしすぎている。作戦が順調すぎではないか?)
そう、作戦は成功していた。1寸の狂いもなく。普通、不測の事態のひとつやふたつを想定し、柔軟に対応出来るよう予備の案を備えてあるものだが、それが全く出番を貰えないのだ。はっきり言って異常だ。オプティマスは深く考え込んだ。
(こう言ってはかなり釈然としないが、あのサウンドウェーブがここまで大々的な襲撃の情報を全く手に入れることが出来ていないなんておかしい。しかし、情報があれば研究基地の警備を強化しているはずだ。どうなっている)
ディセプティコンの研究基地本部の警備は、1ステラサイクル前の偵察時から一切変わっていなかった。たった12機の警備、危険な実験動物、自動防衛装置全て。
理論でもって自動防衛システムを信頼しすぎた科学者たちは今、襲撃に対してザルすぎる警備でもってオートボットに対抗していた。
計画通りにゆき周囲が沸き立つ中、オプティマスはひっそりと作戦の行先に不安を抱いた。
「オプティマス、そんな顔をしてどうしたんだ。この作戦の成功は君の手腕だ。誇っていい」
「……だが、」
そんな煮え切らない態度をしたオプティマスに、仲間の一機が言った。
「俺は今から出撃するが、どうだ。こっちの圧倒的優勢だし、不安ならばオプティマスも今出撃しては?」
オプティマスはその意見に飛びついた。元々は作戦の終盤、民間研究員達の奪還後に出撃予定だったのだが、それが早まった。もちろん、さほど作戦に影響しないだろうという考えの元だ。
しかし、この判断をオプティマスは後に英断だったと感じることになる。
いや、そもそもが作戦として上手く行きすぎていただけに、新たなディセプティコンの強兵の力の一端を見ることが出来たことは、オプティマス───いや、オートボットにとって何よりも得がたい収穫となったのだ。
*
「クソッタレ! どうなってやがる。なんなんだ、このレーザー銃は!」
「落ち着け、アイアンハイド。今喚いても状況が改善するわけではない。一刻も早くこの場面を切り抜けなければ」
大きなコンクリート壁の残骸に身を隠しているオートボットが二機。オプティマスとアイアンハイドだった。
オプティマスが出撃してから突如戦況が変わったのだ。まるで、それを待ち望んでいたかのように。
初めは、愚直に頭部と胸部ばかりを狙っていたレーザータロットが脚部を狙うようになった程度だった。
次に、機関銃が牽制とばかりに回避運動をとった先の床を狙いだした。
オートボットにとって、そこからは悪夢の始まりだった。警備兵である大型ディセプティコンをサポートするかのように動く迎撃兵器たち。おまけに追撃砲が遠くから狙い澄まして飛んでくる始末。
戦況は、勢いよくディセプティコンに傾いていた。
(まるで、一機の超々大型トランスフォーマーを相手取っているようだ)
オプティマスはこの小休憩で深く考え込む。この状況をどう脱するかを。
アイアンハイドは割れた自身の装甲を見て、口腔に溜まったオイルを地面に吐き出し、叫ぶように言った。
「だがオプティマス! ありえない! これではただの兵器が、独立した意志を持ってるようなものだ! じゃないと説明ができない!
プログラムで兵士の補助をするような動きをさせることはできても、こんな痛ぶるような素振りはさせれねえ! こいつらまるで
アイアンハイドは自身の弟子であるサイドスワイプの安否を確認した。途切れ途切れの通信音の後、ようやくサイドスワイプが通信に答えた。ノイズが酷い。
〈──ザザッ────こちらサイドスワイプ、ショックウェーブの子飼いの実験動物と交戦中! 名称ドリラーと推定っぐあ、──ザッ────クソッ! レーザー銃が細々ジョイントをイカレさせようとしてきて、戦闘に集中できない! そち──と合流した───ザッ───ザザ───ぐううッ─────ザッ──ザ────〉
「サイドスワイプッ!!」
被弾したのか、サイドスワイプの呻き声を最後に途切れた通信に、アイアンハイドは焦った声をあげた。オプティマスはその通信を聞きながら、伝わってくるアイアンハイドの焦りと緊張を直に受け止めた。
「アイアンハイド、急に通信妨害電波が酷くなった。敵に捕捉されたと見なしていい。急いでここを離れなければ、」
オプティマスが言葉を途切れさせる。「オプティマス?」 アイアンハイドが訝しげに声をかけた。
〈ザザザ─────あー、頭いて……どうも。聞こえるか、オプティマス・プライム。お前にだけ話しかけている。実は初めましてではないのだが、そちらは覚えているかな?〉
「…………君は、だれかな」
突如入る謎の通信。オプティマスは回線を何度も切ろうと試みた。しかし、切ったそばからタイムラグゼロで別の周波数で飛ばされてくる通信に、気持ち悪さと執念を感じつつも応答せざるを得なかった。もちろん警戒は怠らず、逆探知も飛ばしている。
〈君のところの副官の、ジャズ辺りなら確実に覚えているんじゃあないか? 名指しされたからな、
オプティマスは途端に一機のディセプティコンについての報告と、とある出来事を思い出した。
突然ワープで総司令部に現れ、突然消えた謎のトランスフォーマー。そして、直後から確認された一機の若い航空型ディセプティコン。報告によれば、にわかに信じ難いが初配属がスタースクリームの直属であるとのこと。
機体名を、クイックセーブ。
オプティマスのスパークから、ふつふつと怒りが湧いてきた。
「……クイックセーブ、といったか。貴様の話は聞いているぞ、我らオートボットの残兵の虐殺*1もな。よくも彼らをああも無惨に殺したな!」
その瞬間。チッ、と焦がす音を立てながら、レーザー弾がオプティマスのバトルマスクを掠った。「ガッ、ア………!」 「アイアンハイド!」 アイアンハイドが呻き声をあげる。レーザー弾がその右肩のジョイントを穿いていた。キャノン砲ごと、支えを失ったアイアンハイドの右腕がぶらりと垂れる。
(どこからだ!? この射線にはレーザー砲なんてなかったはず、)
オプティマスは驚愕した。飛んできた方を見やれば、そこには歪んで曲面を描き、さらには熱せられて大きく凹んでいる合金版が落ちていたからだ。
(ッ跳弾! 狙って起こしたのか!)
驚きと共に、ひとつの
通信の主、クイックセーブは愉悦を音声に滲ませながら言った。
〈立場を分かっているのか? そこのアイアンハイドみたいにお前も、……なんだ。外したか。本当は殺さない程度に首を千切って、程々に痛めつけてやるつもりだったんだが〉
「貴様ァ!」
激怒したオプティマスを歯牙にもかけずに、クイックセーブはひょうひょうと通信を続けた。
〈まあいいか。で、オプティマス・プライム。俺はお前が心底憎いが、尊敬もしている。
一度は卒するも、虫けらの手を借り再び立ち上がったというプライマスに愛されたとも言うべきその強運。メガトロン様やスタースクリーム様に何度も辛酸を舐めさせた手腕も〉
「なんのことだ」
〈黙って聞け。……この襲撃で戦闘に出ていたオートボットのうち、凡そ二割のスパークが散った。対してこちらは建物や設備の中程度の破損以外は、実験動物が死んだぐらいだ。そして、そこのアイアンハイドの弟子を筆頭に、我々は21機のオートボットの捕虜を得た〉
「何が言いたい」
〈ここで撤退しろ。もちろん捕虜も解放してやる。
〈ただし、オプティマス・プライム。お前はそこに残れ。一機でだ。俺と話をしよう〉
アイアンハイド
赤いサイバトロン代表がさらに脳筋っぽく、若干マイルドになった姿。最近の公式によって、歯の妖精の座がオプティマスに奪われそうになっている。
オートボットがすき。ディセプティコンが嫌い。
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*7
需要は全私にあるので書いたら読みに行くから教えてください。
プライムの血統5話(前々話)に挿絵を追加しました。
挿絵だけはこちらから https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=240001&uid=155940
クイックセーブの一応全身が見れます。
次回でプライムの血統前半戦が終了します。キリがいいので章も分けようと思います。
さすがに敵地ですしオプティマスとクイックセーブの持つ会話時間というのは短いです。なので対話回は今回だけ。
重心を調整し、平衡感覚を司る内部センサー以外、赤外線も、磁気感知も、聴覚センサーと、映像センサーも。全てのセンサーを切断させられたオプティマスは、その作られた暗闇の中を歩いていた。電子手錠を嵌められながら、ディセプティコンの兵士に連れられている。
(────ずっと地下への道のりを歩いているが、随分複雑な経路を歩かせるな。道順を覚えさせないためか)
経路の記録を複雑化させるために彼は無駄に多くを歩かされていたが、しかしオートボットの司令官のブレインはその程度で混乱するような出来ではなかった。
着実にブレインに地図を刻み込んでいたオプティマスだったが、ふと彼を連れていたディセプティコンの足が止まった。
beee…………rrreeep beee
オプティマスの頭の中に独特のビープ音が響く。
(ロックが解除されている音だろう。つまりこの先か。…………? 妙だな。足音が去っていく。私を連れてきた兵士だろうに、残さなくていいのか?)
〈─────そのまま、前に進んでくれ。まっすぐだ〉
またも脈絡もなく突然繋がれる通信。2度目のことなので、オプティマスは実に落ち着きはらいながらまっすぐ前を見た。センサーの切られた世界は未だに暗闇だった。
オプティマスが前に足を踏み出せば、ロックの解除されたハッチが開いた。まっすぐ前に。その指示通りオプティマスは進んでいく。
瞬間、オプティマスの世界が戻ってきた。
広がる視界。白く明るすぎるその視界に、彼はオプティックを少し閉じて光を調整する。まず初めにオプティマスがみたのは、部屋いっぱいに広がるケーブルの数々。足の置き場がない。
そして彼は、自分が今足を置いている場所がケーブルの束の上であることに気がついた。オプティマスはゆっくりとその場から足をどかした。
(それにしても…………)
オプティマスは自分の装甲に触れた。かなり熱せられている。そう、この部屋は尋常ではないほど暑かったのだ。オプティマスは思わず冷却ファンを一層強く稼働させた。
オプティマスが熱源の方、……ホストのいる方に視線を移す。そこには一度だけオプティマスが間近で見たことのあるディセプティコンが、機体の至る所をケーブルに繋げながら彼を見ていた。
「やはりそうか。君はこの基地の防衛システムとブレインを直結させていたのだな。しかも、たった一機であの芸当をしていたのか? 随分と命知らずだな」
ディセプティコンはニヤリと笑った。
〈────そこは企業秘密だ。さて、天下のプライム様にこんな体勢で話すのは失礼かもしれないが、そこは許して欲しい。それと、こんな状態では声帯パーツを満足に動かせないから通信を使わせてもらうが、構わないか?〉
「ああ」
オプティマスがそう答えると、ディセプティコンはあくどい笑みから一転、フェイスパーツから緩く力を抜いた。
〈助かる〉
オプティマスは意外に思っていた。アイアンハイドと共にいた時の通信からして、もっと過激な機体を予想していたからだ。
だが目の前のこいつはどうだ。オプティックこそ赤いが、その目には高い理性が宿っている。態度は皮肉げではあったが、それでも纏う雰囲気はディセプティコンというより、まるで────
(まるでオートボットだ)
〈……そうだな、誠意の表明として、オプティマス・プライム。もう少しこっちへ来てくれ〉
ディセプティコンが指をくいくいと曲げる。ぶらりと腕から垂れる細いケーブルが揺れた。
(なにか、してくるつもりではないのか?)
オプティマスは目の前のディセプティコンを再度警戒し直す。いくら今穏和に見えるとはいえ、相手はオートボットの仲間を一部隊丸ごと壊滅させた機体だ。
〈そうだ、そこでいい。では改めて、俺はクイックセーブ。天下のプライムと話す機会を得て光栄だ〉
ディセプティコンは、クイックセーブはそう言ってその指で下を指した。オプティマスのオプティックがその先を追う。
がしゃん。オプティマスの聴覚センサーが、自らから何かが落ちる音を拾い上げた。
「…………なんのつもりだ」
オプティマスは声色に懐疑心をこれでもかと乗せて言った。
音の正体は、オプティマスにつけられていた電子手錠が解除され、その手首から落ちた時の音だった。
〈汝の敵には軽蔑すべき敵を選ぶな。汝の敵について誇りを感じなければならない。────ンン、これはとある惑星の薄汚い有機生命体の1匹が発した言葉だが、中々に一考する余地があるとは思わないか、オプティマス・プライム〉
口元のパーツは一切動いていないというのに、通信上でのクイックセーブは饒舌だった。少し気味が悪いとオプティマス思い、そして無言だったが、そんなこと関係ないと言わんばかりにクイックセーブは一機で非常に良く喋った。
〈そう急かすような顔をするなよ。俺は話がしたいと、そう言ったろう。まあ、お前は戦闘になると思っていたようだが。
それでもノコノコとついてきた理由は、この状況でディセプティコンと戦闘になっても切り抜けられる、という自分の能力への自信か?〉
正しくクイックセーブの言う通りだった。オプティマスは必ず連れていかれた先で闘うことになるだろうと予測していたのだ。それを言い当てられ、オプティマスは不快そうな表情を浮かべた。
(まさか、本当に話をするだけのつもりなのか?)
〈つまりだ。さっきの俺の言葉を思い出せ。いいか、俺はお前を "信頼" しているんだ。俺がこんな "無防備で敵意がないことを示している" のだから、まさかオートボットの司令官が攻撃なんてしてこないだろう、と。
俺はオプティマス・プライムというボッツについて少しは知っているつもりだ。事実、お前はこんな俺を攻撃できない。なぜなら "俺に攻撃の意思がないから"。オートボットの司令官というのも大変だな?〉
正義のオートボットには、アンフェアで卑怯な戦いを仕掛けることはできないだろう? 皮肉げにそう告げられるが、オプティマスにはそれを否定することが出来なかった。事実その通りだからだ。しかし、
「───だが君は、
〈
オプティマスとクイックセーブが見つめ合う。どちらも決して視線を逸らさない。
オプティマスが口を開いた。
「…………話がしたいと、そう言ったな。いいだろう。何について話したいんだ」
〈────……………………〉
黙ったまま、クイックセーブは立ち上がった。ぼたぼたとケーブルの束が落ちていく。
彼は首周りに手をかけ、その肩口を後ろにぐるりと囲んでいた装置を外して投げ捨てると、どこからか取り出したエネルギー砲を天井に構えた。
「な、」
オプティマスは防御態勢を取った。
一瞬の出来事だった。
クイックセーブの口元のパーツが初めて動く。
「…………もう、目的は済ませた」
カッと閃光が部屋を満たした。直後に膨大なエネルゴン反応。光が引いてようやく視認ができるようになったその部屋の天井には、大型機が一人通れるような穴が、ずっと地上まで空いている。オプティマスは愕然としてその光景を眺めた。
クイックセーブは再びその場へ座り込んだ。
「オプティマス・プライム。お前のことは戦場で必ずメガトロン様が殺す。お前は閣下の獲物だ。だから今回は見逃す。
だが忘れるな。俺が今日言った言葉を。汝の敵について誇りを感じろ…………これを今日、この場所で、他でもないこの俺が言ったという意味を、せいぜい何千年も考えるがいい」
「……君は、」
オプティマスは、そんなクイックセーブになにか言葉をかけようとしたが、少し躊躇った後黙って背を向け、腕先から発射したワイヤーで器用に穴を登って行った。
その場にはクイックセーブ一機が遺された。
「……オートボットは大嫌いだし、憎い。でも、 "オプティマス" 。
だが話してわかった。貴方は俺にオートボットの精神を見出していた。それこそが欺瞞の産物であると見抜けずに。あの時の通信こそが俺の素だった」
クイックセーブは未来でのオプティマスのことを思い出していた。正しくサイバトロニアンであれ、と常に告げてきていた、地球におけるトランスフォーマーのトップを。
(彼もまた、師…………いや、先生と呼ぶべき人物だった。憎しみの対象ではあったが、貴方は常にディセプティコンに対しても誠実であり続けた。オートボットは皆殺しにしてやりたがったが、貴方だけは尊敬していた。だが、)
「話をしてようやく決心がついた。次に会った時には、
そう言い残して、クイックセーブのオプティックから赤いランプが消えた。何も映していないその目は、ただ地上への穴を見つめていた。
オプティマス・プライム
オートボットの司令官。クイックセーブのいた未来では、卵から生まれた幼体たちを心の正しいサイバトロニアンに育てようと心を砕いて接していた。
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*8
最後の騎士王でスタースクリームっぽいやつが過去に地球におったっぽい理由がよく分からないので初投稿です。
次に幕間を挟んでプライムの血統後編です。フォールンはそっち。
「お前さんは流石だな。捕虜になったというのにたった一機で脱出してきてしまうとは」
ディセプティコンの研究基地から脱出したオプティマスは、オートボットの基地に戻るやいなや検査を受けるためリペアルームに押し込まれていた。
「ああ…………」
「なんだ。随分らしくないな、オプティマス。感情パルスが奇妙な数値を示しているぞ」
オプティマスのまるで心ここに在らず、といった様子に訝しげな声をかけるオートボットの軍医、ラチェット。
「…………ラチェット」
じっ、とラチェットの青いオプティックを見つめるオプティマス。だがその実、そのアイセンサーはラチェットを捉えているようで別のものを見ている。
ラチェットはそんな彼を見て、オプティマスは、ディセプティコンの基地でなにか良くないものを見てきたのか、さもなければウイルスにでも感染してしまったのかもしれないな、と思って排気した。
カチャカチャとリペアツールの小さな金属音だけが響く。ラチェットの名前を呼ぶだけ呼んで、あとは黙りこくって微動だにしないオプティマスに、軍医様はいよいよ自らの司令官が心配になってきた。
「患者のメンタルケアも私の仕事のうちだ。言いたいことがあるのではないか?」
ラチェットのその言葉を聞いて、オプティマスはゆっくりと顔を上にもたげながらポツリと呟いた。
「私には彼がわからない。オートボットの残兵を見つけて容赦なく皆殺しにする一方で、しかし実際は話のよく通じる皮肉屋の喋りたがり。加えて彼は私を逃がした。そして言ったのだ。『お前を信頼している』と」
「一機で脱出したわけではないのか! まさかディセプティコンに協力者がいたなんて」
驚きながらそう言ったラチェットにオプティマスは首を振る。
「協力者ではない。……彼は、ディセプティコンのインシグニアを背負うには、まるで考え方がオートボットだった。
……恐らく彼自身はそれを演技だとでも思っているのだろうが、それは違う。彼は心の底から私を信頼していた。彼はスパークの底に正しくサイバトロニアンの精神を持っていたのだ。
私が思うに、むしろディセプティコンらしさが後付けで、そのうちにきっと混じってしまったから、あんな奇妙なことになってしまったのだろう」
あっている確証はないが、と付け加えて言うオプティマス。ラチェットは言った。
「それだけ気づいていれば、お前さんは十分その、彼? とやらについて理解出来ていると思うよ。それに、ディセプティコンもオートボットも元はひとつの種族だった。メガトロナス・プライムの手によって二分されるまではね。
ならそんなディセプティコンがいたって、まったく不思議ではないだろうよ」
それで、その彼というのは誰のことなんだい。
そう聞けば、散々ジャズが文句を喚き散らしていたとあるディセプティコンの機体名をオプティマスが告げたものだから、ラチェットは少しの間驚きで放心した。
*
研究基地本部、モニタールーム。俺はそこでメガトロン様と防衛の顛末を報告すべく通信をしていた。
だが通信モニターは何も映さない。メガトロン様はお忙しいのかよくわからないが、今は音声通信だけをしている。
〈サウンドウェーブからも報告は受けている。まさか援軍が要らないと言われるとは、さすがのこの俺も思っていなかったが。ショックウェーブとの関係は実に良好そうだな?〉
「……はい、メガトロン様。彼はなんというより、その。あまりメガトロン様に忠誠が無いように感じられますが」
俺はショックウェーブのことを思い出した。非論理的だと言って援軍要請を両断したことについては、まあよくもやってくれたなと言った思いである。
メガトロン様は言った。
〈科学者というものは総じてそうだ。所属する集団への執着心がない。したいことが出来れば場所や立場なんて関係ない。ショックウェーブはそういう男だ。
それよりクイックセーブ。オプティマスを捕虜にしたものの、逃げられたそうだな〉
(もうそこまで話が行っているのか! 随分とまあ早いな。俺の報告いらなくないか)
何故オプティマスを捕虜にしておきながら逃げられたのか、何故あの状況でもっとオートボットに損害を与えなかったのか。そう聞かれて、「オプティマス・プライムと私語がしたかったから」 と答えるわけにはいくまい。
「オプティマスの放ったエネルギー砲が、研究員も重要機材も掠らずに地上まで貫通したのか? そうか」 とこれみよがしに言ってきたショックウェーブを思い出す。
苦々しく思いながら、さてどう言い訳をしようか迷っていると、メガトロン様は声だけでもわかるぐらい愉快な様子で言った。
〈電子手錠を壊された後、ショックウェーブの開発したエネルギー砲を奪われ、逃亡を許した。ほう? オプティマスが逃げたか。貴様がアレから逃げたのではなくてか?〉
サウンドウェーブ! 内心で事実と違う報告をしてくれた情報参謀に全力で拍手を送った。電子手錠を外したのは俺だし、ショックウェーブのエネルギー砲を使ったのも俺だ。
これがこのまま報告されていたらディセプティコンには居られなくなるところだった。……見ていたのならば助力ぐらいあってもよかったのになあ。
だがメガトロン様にオプティマス関連の報告が既に行ってしまったのも事実。「そのような事実は決して────」 焦って弁明しようとする俺だったが、しかし。
〈と、普段の俺なら追求するが、今回は時間が無い。クイックセーブ、よくやった。参謀との関係も悪くない。これならば俺がいなくてもスタースクリームが上手くやるだろう〉
俺は言葉が出なかった。
48メガサイクル後にオールスパーク探索の為、宇宙に旅立つのだと、メガトロン様はそう言った。
ラチェット
発声回路切っちまうぞ(挨拶)
デリカシーに欠けるオートボット。オートボットが好き。
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幕間__雛
表示設定で特殊タグのオンオフを切り替えると、サイバトロン語と英語で切り替わります。
ウィトウィッキーは英語なのでどちらでも英語表記です。
「これがトランスフォーマーの赤ちゃんなんだ。僕らよりちょっと小さいんだね。近寄っても大丈夫?」
「ああ。そこの子らはまだパーソナリティが発達していない"から"、たとえ君が近づいても大丈夫なはずだ」
シカゴでの戦闘の後、和解したオートボットとディセプティコンたちはNEST基地に拠点を置いていた。収容、と言い換えることもできる。
シカゴの被害は凄まじく、直後はトランスフォーマー反対派が熱を帯びていたものの、地球外の技術が欲しい国家上層部達の手によりマスメディアにはテコ入れが行われ、現在は反対派も勢いを失っていた。
そのNEST基地に、軍人でも国家職員でもない人間がオプティマスと居た。オートボットのメッセンジャーであるサム・ウィトウィッキーである。
オプティマスと共に、サムはNEST基地の奥にある、厳重に防護加工がされた一区画に来ていた。ディセプティコン軍がかつて育てていた、そして今は地球で育てられているトランスフォーマーの幼体を見るためだ。
「写真撮ってもいい? カーリーに見してやりたいんだ。彼女興味持ってたし」
「ああ、いいとも。……いや、後で聞いてくる」
小さく甲高いビープ音をのみ出す幼体達。部屋の中央には人の体程の大きさの金属片がいくつも積まれており、彼らはこれで遊んでいたのだろうとサムは見当をつけた。
「─────、───_________」
「──、_______───」
わらわらと幼体達がサムに群がる。指先でつついたり、足をべたべたと触られているが当の本人は嬉しそうだ。
「はは、何を言ってるのかわからないよ。これもサイバトロン語?」
「いや、まだこの子らにはそこまでのブレインサーキットが出来ていない。少し似たような部分はあるが、これはただの鳴き声だ」
オプティマスのその言葉を聞いて、へえ と呟くサム。彼がふと壁際に目をやれば、隅の方で一機の幼体がドラム缶にもたれているのが見えた。
「ね、オプティマス」 サムはオプティマスをちらりと窺ったが、偉大なる司令官様もまた幼体に群がられていてそれどころではないようだ。しばらくそれを眺めた後、サムはふらりふらりと壁際の幼体に向かっていく。
幼体はドラム缶にもたれている、というよりは寄り添っているようだった。オプティックに光が灯っていない。寝ているのだろうか? そう思いながら起こさないようにゆっくりと近づくサム。
(他の子たちよりもふた周りぐらい大きいな。僕と同じぐらいはあるんじゃあないか? どうして一匹で隅にいるんだろう)
その幼体まであと3メートル、といったところまでサムが近づいたその時。
その幼体のオプティックが赤く輝いた。
幼体はぽつりと呟いた。
「…………Witwicky?」
「! 僕を知って、」
瞬間。
────ズガガガガガガッ
「うわあ!?」
「サム!! ああ、あの子の目が覚めたのか……! そっちへは近づくな!」
サムの足元を取り囲むように放たれる機関銃。幼体の片腕が変形したものだった。威嚇なのか一発も命中してはいないが、サムはその場で尻もちをついたし、オプティマスは突然のことでたいそう慌てながら、幼体達を機体から剥がしている。
「how dare you come here! Sam Witwicky!!(どの面下げてここに来た!)
get away from me! if you take one more step! i will kill you!!!(これ以上おれに近寄るな! 一歩でも踏み出せば殺す!)」
サイバトロン語でまくし立てる幼体。サムにサイバトロン語は聞き取れなかったが、彼はこの様子からして自らがこれ以上この幼体に近づくのはダメなのだ、とわかった。
「オーケーわかったよ! わからないけどわかった! わかったから!」
「fuck off ! get the fuck out of here!!(消えろ! さっさとここから失せろ!)」
尻もちをついて後ずさるサムに、なおも叫ぶ幼体。
「
オプティマスが幼体の名前を叫んだ。途端、幼体……クイックセーブの発するサムへの罵声がぴたりと止む。
「───
「STOP IT HUMANITY IS ONE OF US(よせ、人類は我々の仲間だ)」
ゆっくりと諭すよう言うオプティマスに対し、クイックセーブは今度はそちらに食ってかかった。
「but this guy killed sir starscream! he is not the only one Witwicky killed a number of the deceptions!
(しかしこいつはスタースクリーム様を殺しました! 他のディセプティコンも)」
サイバトロン語が理解できないサムは、目を白黒させて二機のトランスフォーマーを見ている。
オプティマスは静かに言葉を返した。
「BUT THE DECEPTICONS ALSO KILLED MORE THAN A FEW HUMANS AND OF COURSE THE AUTOBOTS
(だがディセプティコンもまた人間と、もちろんオートボットを手にかけた)
……ISN'T THAT RIGHT?(違うか)」
「…………get out human(出ていけ、人間)」
小さく言い捨てて、クイックセーブはドラム缶の元に戻った。
*
幼体の区画から飛び出すや否や、サムはオプティマスに問いかけた。
「さっきの子はなんだったの? なんというか随分な剣幕だったけど」
すこし逡巡しながらオプティマスは答える。
「ああ……QUICKSAVE、クイックセーブは幼体の中でも一番発達の速い機体だ。パーソナリティの発達レベルもほぼ私に近い。
……まだ、あの子は我々の和解に納得がいっていないのだ。幼体はこの部屋から出すことができないから、あの子が眠っている間に全て済ませるつもりだった」
そんな二人に後ろから声が掛かった。
「それだけではないぞ、プレイボーイ217」
「バリケード」
「まて、それ以上言うな」
オプティマスが静止の声を上げる。サムが後ろを振り返ると、そこには以前彼の相棒と戦いを繰り広げたディセプティコン、バリケードが立っていた。彼はディセプティコンでも数少ない、地球常駐の機体だった。おそらく彼もまた、幼体の様子を見に来たのだろう。
「いいよ、教えて」
「サム!」
バリケードはニタリと笑った。
「あの雛たちは元々スタースクリームが育てていたやつらだ。貴様が殺した、な」
**
「スクリーマー、あの」
「なんだ、哨戒についてきたいのか? ……お前だけだぞ。ほら、早くキャノピーに入れ」
スクリーマーがキャノピーをあけてくれたので、おれは中に入りました。閉じられたそこをカリカリと引っかけば、スクリーマーはひとこと、コラと言いました。
「ショックウェーブが
「おれは楽しいです!」
「お前は気楽で羨ましいなァ」
おれとスクリーマーは空を飛びます。スクリーマーのステルスはピカイチなので、ばかな人間やオートボットは全く気がつきません。
キャノピーからみえる景色はすばらしいです。おれはまだこんなに高くは飛ばしてもらえないし、速くも飛べないので、心底スクリーマーのことをすごいと思いました。
「おれもスクリーマーみたいに飛びたい」 そう言うと、スクリーマーは笑って言いました。「お前ならそのうちオレに並んで飛べるようになるだろうな。それが楽しみだ。なんて言ったってクイックセーブ、お前は────」
「夢か」
珍しい。そう思った。金属生命体は総じてあまり夢を見ない。シカゴでの戦いの少し前の夢だった。懐かしい夢だった。
「ついに明日だ。明日ここを出ていく。メガトロン様にはきちんと挨拶しないと」
明日、俺は過去に飛ぶ。
サム・ウィトウィッキー
スタースクリームに直接手を下し、間接的にも多くのディセプティコンの死因となった。
クイックセーブはサムのことを憎んでいるが、彼にはいささか被害者ヅラをしすぎと思える部分があるように見える。ディセプティコンもまた人間を殺していることに変わりはない。
ドラム缶
ドラム缶に見える幼体保護用のシェルター。ディセプティコンが地球に潜伏しながら幼体を育てているときに使われていた。
クイックセーブは残されたシェルターになにか思うところがあったようだ。
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プライムの血統─後
"1
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今回からプライムの血統後編です〜!
「ガッ、お、やめくださいメガトロン様、ぐ」
ディセプティコン軍の司令室にスタースクリームの悲鳴が響き渡る。殴られたからだ。悲鳴の原因、メガトロンは殴った腕でそのままスタースクリームを掴みあげると大声で叫んだ。
「この千年、我らディセプティコンは独自に探索隊を組み、オールスパーク捜索を続けていたが、どいつもこいつもやれエネルゴンの補給がと騒いだ挙句、揃いも揃って信号がロストし続ける有様だ!」
パッと手が離される。ガシャンと大きな音とともにスタースクリームが床に落ちた。
「……戦いの為に造られた機体ばかりのディセプティコンゆえに仕方の無い面もあるが、全てがあまりもお粗末すぎる。もう我慢ならん」
排気を浅く繰り返しながらスタースクリームは起き上がる。
「だからといって閣下が探索に踏み切る理由には、」
「理由ならある。俺の動力源は暗黒物質とエネルゴンの併用だ。補給も向こう8000年は必要ないだろう。加えて単身で宇宙を
メガトロンはそう食い気味に言うと、傍に走っていた太いケーブルの上にどかりと座った。
スタースクリームはなおも言う。
「ですが閣下の居なくなったディセプティコン軍を誰が率いるのですか」
メガトロンはそう言ったスタースクリームを見て笑った。
「貴様にとってはその方が都合がよいのではないか?」
ヒュッ、とスタースクリームの機体が固まる。「そ、んなことは決して……」 メガトロンはそれを見て、やれやれとでも言うように視線をスタースクリームから逸らした。
「まあいい。これでも俺は貴様の働きを認めているのだ。でなければ副官になぞ据えん。それに今はクイックセーブがいるだろう。
あいつは気味が悪いほどに有能だ。俺のいないディセプティコンでも上手く貴様を補佐してくれるだろう」
メガトロンは無意味に指先を変形させて遊んでいる。スタースクリームは、そんなメガトロンの様子を不機嫌からくるものだと思い、また自分は殴られるのではないかと怯えた。
「で、は……せめて捜索隊の信号がロストした区域までは、乗り捨てで構いませんので宇宙船をお使いください」
「いいだろう」
「ありがとうございます、閣下……」
喉の奥からその一言を絞り出すなり、司令室を退出するスタースクリーム。メガトロンはその様子を無感動に見つめていた。
クイックセーブがメガトロンに報告をする、その直前の出来事だった。
**
信じられない。そう思いながら、俺はデータチップを指でつまんだ。
やるべきことを全て終わらせて、(デモリッシャーがとても協力的で、処理の3分の1ぐらいを請け負ってくれた) ようやく本部に帰投した俺だったが、なんともう既にその時にはメガトロン様は宇宙に旅立ってしまわれていた。
このデータチップはスタースクリーム様が渡してくださったものだ。メガトロン様かららしい。防衛の件を聞いていたのだろう、「よくクソボッツのスクラップを大量生産してくれた!」 「ディセプティコンは一機もスパークを散らさなかったらしいじゃあないか!」とお褒めの言葉を賜った。
こころなしか過剰気味に思えたその言葉は、きっといない間に全てが終わっていた俺に対する励ましの意味もあったに違いない。
(しかしこのデータチップ、必ず一機でいる時に確認しろとはどういうことだろうか)
思案の沼にズブズブと浸かりながら通路を歩く。ディセプティコンでよく資料譲渡やメッセージ保存に使われるチップとは違う。そもそも端子が規格外のもので、確認には結構手間がかかりそうだ。
「────た、あんた」
規格外といっても、少し機体のレセプターを弄れば差し込めそうではあるが、果たしてそれだけでいいのか。
「なあ、あんた!」
「うおっ、あ、下か。すまない、気がつかなかった」
声に気がついて(驚いて)みずからの下を見やれば、そこには磨かれたシルバーを持った中型のディセプティコンがいた。
シルバーの中型はあきれたように笑いながら言った。
「やっぱ気づいてなかったよなあ。まあオレ、あんたより小せえししょうがねえけど。
あんたクイックセーブだろ? オレはサイドウェイズ。いつもは斥候ばっかりしてる。友人のデモリッシャーからお前さんの話を聞いて、ぜひあんたと仲良くしたいと思ってたんだ」
デモリッシャーの友人を名乗ったシルバーの中型、サイドウェイズはヒトのよさそうな笑みを浮かべた。サイドウェイズ。聞き覚えがある。
「デモリッシャー……ああ、前に彼と通信してたやつか。そうか、その通り。俺はクイックセーブ。この軍に来てまだまだ年数が浅いんだ。ぜひ仲良くしてくれ」
「……なんだ、オレのことを既に知っていたのか」
ぼそりとサイドウェイズが何かを言った。戦闘中でないのを理由に、各センサーの感度を落としていたせいで彼の言った言葉を聞き取れず、俺は申し訳なく思いながら聞いた。
「すまない、なんて言ったんだ? 聴覚センサーが音を拾えなかった」
「あー、いや。オレのこと知っててくれて嬉しいって言ったんだ。気にしないでくれ」
俺とサイドウェイズはその場で別れた。俺にもデータチップを確認するという用事があったし、サイドウェイズにもこの後することがあったらしいからだ。
くたびれた様子で歩いていく俺の事を、サイドウェイズはじっと見つめていた。
*
(さて)
1デカサイクルぶりにようやく無事自室へ戻れた。道中、サイドウェイズに会った以外には別に特筆するべきことも起こっておらず、久々の自室を満喫しようとしたのだが。
(そのまえに……)
データチップの端子をゆっくりと眺めた後、首元のレセプターを軽く変形させる。これでこの規格外の端子からデータを読み込めるはずだ。
メガトロン様からのものだから、ウイルスが入っていたなんてことは無いだろう。
────カチ
───────beeprrrrr……
(スパーク認証か。たかがデータチップにそんなものを盛り込むなんて珍しいな。それほどまでに重要な情報が入っているのか?)
データチップを差し込み、映像記録を読み込む。3Dモデルが目の前に映し出された。それはメガトロン様だった。
〈クイックセーブよ、今回の防衛は見事だった。本来ならばきちんと対面して称えてやりたいところだが、許せ。とあるヤツらに情報が回るよりも先に、オールスパーク探索へ旅立つ必要があったのだ〉
映像記録のメガトロン様はなんだかしおらしい。この方がオールスパーク探索に出ること自体は知識として知っていたのだが、とあるやつら、とは誰のことだろう。口ぶりからしてオートボットではなさそうだ。
〈俺の不在時はスタースクリームに軍の指揮を任せるからな、恐らくお前も地位が上がるだろう。予言してやろうか? 十中八九航空参謀代理だ。
お前は "この" ディセプティコンに来てまだ100年かその程度だが、若干の詰めの甘さと
時間が無い、と言う割にはつらつらと世間話のようなことを続けるメガトロン様に、俺はまるで何かを警戒しているようだと思った。そしてそれは当たっていた。
〈……よし、盗聴されてはいなかったらしいな。されていたのならばもう何かしらのアクションがあったはずだ。
よく聞け、クイックセーブ。今回貴様への伝言を『データチップの手渡し』というアナログな手法でしたのには理由がある。通信を使いたくなかったからだ。傍受される可能性があった〉
メガトロン様の表情は真剣だ。赤いオプティックが更に深い赤色になっていく。
〈あまり警戒させて勘づかれるのもダメだからな。一言だけ、俺からお前に警告をやろう。
────
そう言って、メガトロン様は笑った。
〈弟子としては申し分ない出来だったぞ、クイックセーブ。では、次の定期通信までさらばだ〉
映像記録はここで終わっている。
(ザ・フォールン……)
メガトロン様の言っていたその名を、俺は記録として知っていた。堕ちた原初のプライム。メガトロン様が師と仰ぐ、始まりのディセプティコン。そして、マザーコンピューターのオリジナルの所有者だった機体だ。
マザーコンピューター。それは、オールスパーク無しで金属生命体を生み出す、唯一の手段だ。
「警戒しろってことは、敵対しているのか……? 師なのではないのか?」
考えても分からない。情報が少なすぎる。耳が悪いというのは本当にさっさと改善すべきところだな、と思った。
(サイドウェイズ、だったか。彼はそういうの得意そうだし、そうだな。これから付き合いを深めるべきか?)
いくら考えても思考が輪のようになって終わりが見えないので、とりあえずはスリープモードになって、俺は久々の休みを甘んじて受け入れたのだった。
目が覚めてしばらくした後、俺はスタースクリーム様から "航空参謀代理" の辞令を頂いた。
サイドウェイズその2
デモリッシャーの友達。映画ではビークルしか出てこない。喋らない。
ゆえに二次創作では幸薄・臆病キャラとして描かれがち。カルト宗教にどハマりしている。
このタイミングで登場したということはつまりそういうこと。
オールスパーク探索
宇宙へ放たれた直後からメガトロン様が探していれば、オールスパークはすぐ見つかったと思う。ので、この作品ではキューブ行方不明とメガトロン出立の間に、おおよそ1000年のタイムラグがあったとしています。
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"2
次かその次ぐらいにバリケード出したいですね。
床に這いつくばっているブラックアウトの胸部に、スタースクリーム様の足が勢いよく叩きつけられる。俺と野次馬たちはその様子を見ていた。
「ッぐ、あ」
「メガトロンが不在のディセプティコンを率いるのにオレが相応しくないならば、え? ブラックアウト。じゃあ他に誰がいるってんだ」
ぐりぐりと足を押し付けている部分をよく見れば、そこはさっきスタースクリーム様がぶち抜いたせいで装甲が剥がれている所だった。痛そうだし、ブラックアウトは今 最も仲のいい友人ではあるが、可哀想だとは思わない。
メガトロン様がオールスパーク探索に出立なされてからどれぐらい経っただろうか。少なくとも数年ではとてもきくような時間ではないが、その間ディセプティコンはスタースクリーム様に率いられていた。
スタースクリーム様直属ということもあり、俺も航空参謀代理の任を与えられ、オートボットと競り合う日々。
だが、スタースクリーム様をよく思わない一派だって存在する。彼らに担ぎあげられたのは、スタースクリーム様との不仲で有名なブラックアウトだった。
うまいこと口車にのせられたのか、自ら発案したのかはわからないが、ともかくブラックアウトはスタースクリーム様に対して「ディセプティコンのリーダーとして力不足だ」 と宣った。
そうして通路でそのままされることになったブラックアウトとスタースクリーム様のサシでの戦闘。結果は、圧倒的なまでのスタースクリーム様の勝利だった。
「が、あ゙ッッ」
「おいおい、まさかとは思うがクソヘリ、お前まさか自薦するつもりだったのか? とんだ笑い話だな。
力を至上主義とするディセプティコンのそのトップになろうっていうヤツが、まさかお前の言う "相応しくない" ヤツに負けるなんて、愉快以外にないじゃあないか。なあ、クイックセーブ。お前もそう思うだろう」
スタースクリーム様は楽しそうに(実際楽しいのだろう)にやにやとしながら俺に同意を求めてきた。ブラックアウトは悔しそうに顔を背けている。
「失笑を誘う以外のなにものでもないですね。ディセプティコンの副官で、空を支配する誇り高きジェットロンの長が、どうしてリーダーに相応しくないのです?」
そして、俺はブラックアウトを見て言った。「無様だな」
「オレの、忠誠は、メガトロン様にある………スタースクリームにでは、ない」 ブラックアウトは排気も絶え絶えにそう言った。
「いくぞ、クイックセーブ」 「はい」 俺とスタースクリーム様は、ブラックアウトを置いてその場を後にした。
**
ブラックアウトの造反事件から
俺とブラックアウトはあの後から疎遠になっている。スタースクリーム派の代表的な機体である俺と、反スタースクリーム派で担がれてるブラックアウト。距離が空くのは当然の事だった。
……当然のことだったのだが。
「……またリペアルームにいるのか。怪我しすぎじゃあないのか?」
「ひと月前スタースクリームのクソのせいでした怪我のメンテだ。ボッツとの戦闘によるものじゃあない」
俺はふうん、と言ってリペア台を弄った。必要なのは、ピンセットと溶剤と、レーザーメスと。あとな何だっただろうか。
「……お前もリペアか?」 ブラックアウトは言った。俺はピクリとも顔をそちらへ向けずに答えた。「俺じゃない。この後任務帰りのサイドウェイズに、メンテとリペアを頼まれているんだ」
リペアルームを無言が支配する。かちゃかちゃと小さな金属の擦れる音だけが響いた。
ぽつり。ブラックアウトが呟く。「サイドウェイズ? アイツがお前に近づいてきているのか」
「俺の交友関係だ。お前に口出しされる筋合いはないはずだが」
ブラックアウトはオプティックを見開いた。
「……お前、本当に
「クイックセーブ! いるかー? サイドウェイズさんが来てやったぞ!」
通路への扉から、勢いよく小柄なシルエットが飛び出してきた。サイドウェイズだ! 俺はリペアツール一式を持って振り返った。
「サイドウェイズ、やっときたか。あのなあ、俺だって暇じゃあないんだ。少しは待たせないように努力をだな」
「悪かったって。ちょっくら野暮用が出来てたんだよ」
俺とサイドウェイズは二機で奥のリペア台を使うため、その場を移動しようとした。
「おい、待てって!」 「あんたは手先が器用だって評判だからなあ。期待してるぜ」 「まかせておけ」
「クイックセーブ!」
ブラックアウトが後ろからしきりに声をかけてきていたが、俺はずっと無視を決め込んだのだった。
「なあ、クイックセーブ。ブラックアウトから何か言われたか? 例えば、そうだなあ。最近のことについて、とか」
「スタースクリーム様を敬わないヤツのことなんて知らないな」
「……おう、あんなやつのこと忘れちまえ! ほら、これ食えよ!」
*
(まずいな)
「どうしたものか、なあ。スコルポノック」
反スタースクリーム派
スタースクリームのアンチの一派。マイノリティ。ちなみにマジョリティはスタースクリーム派。ブラックアウトは担ぎあげられたことについて、まあそうなったかと思っている。
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"3
バリケードの登場はしばらくとっておきます。
リペアルームの一件の後から、色々な忙しさもあって俺とブラックアウトはみるみる疎遠になり、逆にサイドウェイズとはよく付き合うようになった。
サイドウェイズは本当に良い奴だった。誰かと話していたり、仕事をしている時は一切絡んでこないのに、仕事の休憩中や合間合間、「あ、暇だ」 と思った途端に現れて俺を元気づけてくれる。ついでに差し入れのエネルゴンやオイルもくれる。
どっかの誰かと違ってスタースクリーム様を貶すことはしないし、俺とはあまり縁のない陸上型ディセプティコンの話を面白おかしく聞かせてくれるサイドウェイズ。 "耳の悪さ" を補えるかもしれない、という目的抜きに俺は彼と親交を結んだ。
「クイックセーブ、ちょっとこっち来い」
そんな事を考えていたら、そこに俺の敬愛してやまない方が現れた。「スタースクリーム様。どうしましたか」 立ち上がってかしこまる俺をみて、スタースクリーム様は短く満足げに排気をした。
「……今データファイルを送った。オレの代理なんだろう? 48
「わかりました」
頼んだぞ、と言って去っていくスタースクリーム様。背中の主翼が上下に動いているのが見える。機嫌がいいのだろう。
そう、俺とブラックアウトの仲がギクシャクしだしてから、スタースクリーム様の機嫌がみるみるよくなっていったのだ。曰く、「オレの部下がクソヘリとつるんでる事自体がおかしかった」 とのこと。
さて。
スタースクリーム様から送られたファイルを一切の躊躇もなく開く。害になるような何かが入っていれば、それは何かをしでかした俺に対する罰なのだろう。
俺は甘んじてそれを受け入れる所存だから、ウイルスチェックなんてものは一切必要ない。
「……このタイミングでするのか」
ポンと出てきた1行を見て、思わず口からそう言葉が漏れた。
─────オートボットへの大規模攻勢案。
なんとまあひしひしと、忙しくなりそうな予感をさせる言葉だ。
*
「メガトロン様がオールスパーク探索のためにサイバトロンを留守にしている、という情報は恐らくオートボットには既に流れているだろう。だからこその攻勢だ」
サウンドウェーブが3Dモニターを操作しながら話している。モニターにはサイバトロン星のマップと、それを二分する軍勢の領域モデルが映し出されていた。
サウンドウェーブが言うには、メガトロン様が不在の今、オートボットらは我々が攻勢に出るとは考えておらず、ここぞとばかりに後回しにしていた内部問題の解決に勤しむだろう。その油断と思い込みを叩くのだ、とのこと。
スタースクリーム様は難しい顔をしながら黙っている。それもまあ当然のことだろう。面と向かって、「正しくリーダーでないお前に、ディセプティコンをまとめあげて戦えるような技量はない」 と言われたようなものだからだ。
もちろんそんなことはない。ブラックアウトの一件以降、スタースクリーム様はメガトロン様のいないディセプティコンを、力と恐怖でまとめあげている。反対派はなりを潜め、少なくとも表面上は全軍がスタースクリーム様に従っていた。
だがオートボットはそう考えないのだろう。それほどまでにディセプティコンという軍はメガトロン様のワンマンで、その欠落の穴はとても大きい。
オプティマス・プライムを核にしているオートボットだからこそ、指揮官の不在を大きく見るはずだ。俺はそう考えたし、サウンドウェーブも同じ考えのようだ。
「加えて、メガトロン様が単身で探索しているという事はオートボットに知られていない。奴らはメガトロン様どころか兵力すら削られていると思い込んでいる」
「しかしサウンドウェーブ。攻めることができるから攻撃する、というのは非論理的だ。目的が不明瞭では無駄に兵を消費するだけだ、とは考えれば誰でもわかる話だと私は思うが」
サウンドウェーブに対し、そう言ったのはショックウェーブだ。ショックウェーブはつらつらと声に熱をそう乗せることなく発言を続ける。
「確かにオートボットを削ることが出来るのはそれだけでメリットとして成り立つが、それにしても費用対効果が見合わない。我々の損害も以前より増える、と簡単に予想できる」
ギョロギョロと動く単眼。「なるほどなァ」 スタースクリーム様が初めて口を開いた。大きく、誰よりも赤いオプティックがじとりとそちらを捉えた。
「驚いたぞ、ショックウェーブ。お前にまさか恐れとかいう感情が残っていたとはな」
だってそうだろう? と続けるスタースクリーム様。そのオプティックは愉悦に歪んでいる。ショックウェーブをからかいたいだけに違いない。俺は黙ってことの成り行きを見守ろうとした。
したのだが。
スタースクリーム様の軽いからかいに、ショックウェーブは本気で噛み付いた。
「スタースクリーム。貴様、私を馬鹿にしているのか? 高精度な演算で事象を論理に基づいて判断できる私に、恐怖などというくだらないノイズは必要ない。
貴様こそ、ブレインの7割以上をそのくだらない恐怖と野心に使っているのでは無いのか? あほらしい」
「口を謹んでください、ショックウェーブ。スタースクリーム様は現状におけるディセプティコンの最高司令官でいらっしゃいます」
こともあろうにスタースクリーム様をなじる発言をしでかしたショックウェーブに、俺は口を挟まずにはいられなかった。「なんだと? 私の計算に文句があるのか」 ぎょろり。ショックウェーブの単眼が次はこちらを捉えた。
「貴方こそ、士気という言葉をご存知でないようですが。つい先日の防衛の成功によって、メガトロン様がおらずともディセプティコンの士気は保たれていますが、それも薄氷の上になりたつ均衡です。
今行動しなければ、ディセプティコンは蝕むように端から崩れていきます。この攻勢はオートボットを叩くのが主目的ではなく、ディセプティコンへのテコ入れが最大の目的です」
そうですよね、情報参謀。そう問いかければ、サウンドウェーブはショックウェーブを一瞥してから、「その通りだ」 と答えた。
「感情を不要だと切り捨てたからですか? 説明されずともこの程度、誰でも理解できると思っていましたが、貴方は違ったようだ。
そうやってラボに引きこもって誰にも認められず、ただ無生物と下等生物相手にずっと研究をしていればよろしい。まあそんな科学者、誰もパトロンにはなりませんが」
「もういい、クイックセーブ。それ以上ショックウェーブを煽るな」 「失礼しました」
ぴり、と機体が電荷を帯びたような錯覚を受けた。ショックウェーブは黙っていたが、フッとオプティックから力を抜くと、「確かに感情面での影響を顧みた場合、この攻勢は非常に合理的だ」 と言った。
*
「サウンドウェーブ。お前は防諜も担当しているんだろう。にしては漏れが具体的だったが」
会議のあとにそう声をかければ、サウンドウェーブは「そうか」 と軽く相槌をした。
「ところで、以前に未来でのメガトロン様がしたオールスパーク探索について話したことがあったな」
「そうだな」
「……あれだけが理由じゃあないんだろう。流石は情報参謀だ。味方にすればこれほどまでに心強い」
俺は熱心にサウンドウェーブから色々聞き出せないかと試みた。しかし、彼のテコでも口にしないその様子に、俺は早々に根負けするとミーティングルームを退室した。
「───やはりまだ若い。今回でその未熟さを強みに昇華するか、あるいは切り捨てるかさせないとダメだな」
〈呼ンダカ、サウンドウェーブ〉
「ああ、お前にはバディを一時解散してもらって、一つ任務に就いてもらう」
大規模攻勢
サウンドウェーブ立案。前はオートボットが攻撃側だったので、次はディセプティコンの番。別にオートボットを叩くことが目的なわけではないが、殴れるなら殴るのがディセプティコン。
ドリラー憑依、書きたいですね……
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"4
当作は少しの小説版と映画本編、若干のゲーム版と微妙な他宇宙設定流用のハイブリット。
ズキン
ブレインサーキットが痛む。
「ヒィッ、く、クソっ! 」
目の前には、ディセプティコンではないトランスフォーマーがいる。ディセプティコンの信号コードを発していなければ、それは全てオートボットに所属しているトランスフォーマーだ。
「……非戦闘員は捕虜にしろ、という軍規があるが」
ズキン
ああ、まただ。またブレインが痛んだ。
「こ、れでも食らえ……ッ! ガッ! うぐ、ァ…………」
そのボッツに大剣を振り落とす。たとえ戦闘に向いた機体でなくとも、そう───非戦闘員だとしても、オートボットはオートボットだ。
「攻撃の意思あり、とみなされた場合は解体していいことになっている。心配するな、苦しまないよう一撃でブレインを破壊した。
最も、既にスパークが散ったお前に俺の話が聞こえているとは思っていないが」
……非戦闘員。武装をせず、あるいは最低限の武装のみをして、直接戦闘には参加しない構成員。
そしてその大半は、オートボットとディセプティコンのインシグニアを、まるで名ばかりといった風に背負っている一般人だ。
「捕虜は輸送部隊に任せろ! 第二部隊は俺と共に帰還する!」
今、俺が殺したのもそういうヤツだった。
─────ああ、頭痛が酷い。この攻勢が終わったら、一度機体をスキャンしよう。
*
サイバトロニアンは元来、どの個体も戦闘や破壊に長けている。輸送に特化した機体として、あるいは計算に特化した機体として組み立てられたとしても、それは変わらない。
そして、小型だろうがそのスパークの内には、大なり小なり必ず破壊衝動を飼っている。
……まるで戦いのために生まれてきたかのようだ。オールスパークが? 一体なぜ。そもそもオールスパークとはなんなのか。
地球のムシケラは違った。戦闘員は訓練を通して生むものであった。他の星の生命体も恐らくそうで、では我々は?
……戦うことを前提として組み立てられていることに、誰も疑問を抱かない。俺以外の誰も。
戦ったことがないことと、戦闘のための能力があること。我々にとって、この2つは全くの無関係だ。ゆえに一見非武装に思えるようなオートボットでも、ディセプティコンの兵士には戦闘員相手にするような対応が求められる。
そしてそれは、ディセプティコンの非戦闘員に対するオートボットの対応でも等しいことだ。オートボットは決して善ではない。ただの保守的なサイバトロニアンで、クーデターを起こされた側なだけ。
(そも両軍に決着はついていないのに、第三者から見てどちらが善だとか悪だとかの議論というのは、甚だ不毛でしかないのだが)
なぜこんな不毛なことを考えているのか。それは、今から俺がオートボットを殺しに行くからだ。この小休憩、なぜからしくもないことを考えてしまった。
「……そろそろだな」
そう呟いた直後、スタースクリーム様から俺に通信が入る。〈出番だ、クイックセーブ〉
作戦が、始まったのだ。
「航空第一部隊、出撃しろ」
手筈通り指示を飛ばす俺。第一航空部隊────ブラックアウトの部隊だ。少し気になったのでオプティックをそちらへ向ければ、まるで音をたてるように俺とブラックアウトの視線が交差した。
「────……、」
ブラックアウトに話しかけようとして、よした。時間にして、ほんの数ナノクリックにも満たない間、俺たちの間に固く張りつめた空気ができあがる。
ブラックアウトの口が少し開いて、閉じた。
「……第一部隊、出るぞ」
そうしてそのまま、ふいと顔を背けて出撃していった。隊員に混じって、グラインダーが何か言いたげな顔をしながらその後をついていくのが見えた。
この後、グラインダーもブラックアウトも、非戦闘員をも巻き込んで多くのボッツのスパークを散らさせるのだろう。そして、俺も。
「第三、第四航空部隊、出撃しろ。第二は俺に続け!」
……オートボットが、憎い。そのインシグニアを背負う全てが憎い。だが、本当にそうか? 全てが憎いのか? 戦う意思のない者までも殺して、本当にそれが─────
ズキン
(───今、俺は何を考えた? )
俺は頭を振った。何をしているんだ。らしくないぞ、クイックセーブ。自分をそう奮い立たせてから、俺は第二部隊と共に出撃した。
難産でした。
第一航空部隊
ブラックアウトやグラインダーのような、飛行速度にはさほど優れていなくても中・近接戦闘に長けた大型機を中心に構成された部隊。部隊長はブラックアウト。
空中戦ではなく地形を無視した空からの強襲と、その後の陸上戦を想定して組まれた。ディセプティコンでも無類の強さを誇る部隊の一つ。
第二航空部隊
スタースクリームやクイックセーブとまでは行かずとも、飛行速度、飛行能力、火力に優れた中・大型機を中心に構成された部隊。
空爆を主とし、陸上戦は想定されていない。空を飛ぶことの出来るディセプティコンでも花形ともいえる部隊。
第三、第四以下
一般的な航空型によって組まれた部隊。
頭痛
ブレインへの負荷のかけすぎや、ウイルスに感染した時などに頭痛がする。
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"5
TFのファンフィクションを読み漁ってたら更新から1ヶ月以上開きました。ビックリ。国内に無さすぎて海外に求めた結果です。皆もTFの二次創作してね。
第二航空部隊を引き連れ、俺を先頭にトライアングルを形成して空を切っている。ここは地上からそびえ立つ高い塔、その跡地の更なる上だ。
部隊の隊員の一機であるスラストが呟く。
「ヴォス……久しぶりだが、今じゃあこんな有様か…」
「なんだスラスト。懐かしいのか?」
「そりゃあ。なんせ━━━」
ピピッ。
短い電子音が鳴る。通信回線からだ。「すまないスラスト。通信が入った」 発信元を確認し即座に回線を開く。それはスタースクリーム様からのものだった。
〈スタースクリームからクイックセーブへ。現状を報告せよ〉
「は、現在は都 ヴォスの上空を進んでいます。かなり高い地点にいるのであまり懸念はしていないのですが、崩落しているとはいえやはり塔が高く、内部にオートボットが潜んでいた場合目視されるかも知れません。……スタースクリーム様?」
〈……いや、久々にヴォスの名を聞いたと思ってな。そうか、ヴォスも崩壊したか〉
都市国家ヴォス。戦前はシーカーのみが生活していた、らしい。伝聞だが。つまりはスタースクリーム様の故郷、ということである。グラウンダーのための地上の出入口はほぼ存在せず、高い塔のみがそびえたつ、シーカーのための都市国家。
……なるほど、スラストにとっても故郷というわけか。だからあいつはここを懐かしんでいた、と。
スタースクリーム様がすこしヴォスを気にかけているようだったので、俺はどうするかな、と少し迷ってから、〈気になりますか? もしそうであれば少し周囲を偵察して報告しますが〉 と聞いた。
するとスタースクリーム様から、〈逆に聞くが、お前は気にならないのか?〉
という、かなり驚いたような声色の通信が返ってきた。
「━━━……」
沈黙。返答に困って言葉が詰まる。なぜスタースクリーム様はヴォスへの強い関心が自分以外にもあると思ったのだろうか。俺はそんなにヴォスが好きだと思われるようなことをしたことがあっただろうか。
沈黙を破ったのはスタースクリーム様だった。
〈……俺はシーカーで、誰よりも疾い空の支配者、ジェットロンだぞ? 当然、ヴォスが故郷だ。お前もトリプルチェンジャーとはいえ羽持ちだろう。少しは━━━━〉
合点がいった。
(そうか、スタースクリーム様は俺もまた、ヴォスを故郷とするシーカーの一機だと思っているのか。)
俺はサイバトロン星で生まれていないから、全盛期のヴォスを訪れたことはない。そして、当然のことだがスタースクリーム様はそれを知るはずもない。
過去に来てから数度、塔たちが崩落する前のヴォスを通過したことはあったが、そこに輝かしいシーカーの栄光は存在しなかった。シーカーの殆どはディセプティコンとして戦争に参加していたからだ。
「あ、いえ、俺は━━━ウッ、」
ズキン。
(スクラップ! 最近はヤケにブレインが痛む。なんなんだ、一体……)
〈どうした、クイックセーブ〉
「いえ、頭痛がしてしまって」
馬鹿らしくなったのか、スタースクリーム様は通信越しにも聞こえる大きな排気音をたててから、そして面倒くさそうに言った。
〈まあいい。最後に聞くが、クイックセーブ。お前、今ドローンでも連れてるのか?〉
「? はい、いいえ、スタースクリーム様。連れていません」
〈……気のせいだったか? フン、じゃあ切るぞ〉
そう言ったあと、スタースクリーム様は少し迷う素振りをみせてから〈せいぜい撃ち落とされるなよ〉 と言って通信を切った。スタースクリーム様からの激励の言葉! 俺はかなり感動して、通信内容を厳重にロックを重ねて保存した。
「クイックセーブ、あー…参謀代理。あと5
通信に夢中になっていたとみえるのか、スラストが気をつかってそう報告をよこした。そんなに露骨だっただろうか?
「……全員隊列を組み直せ。高度を少しあげるぞ、ついてこい」
気持ちを切り替えるため、俺は内部機構の一部を変形しなおした。すると。
「ウワッ! 急ニ何スンダヨ!」
「っわ、なんだ」
どこからか声が聞こえた。「……おい、誰か何か言ったか?」 そう聞いたが、隊員から返ってきたのは全ていいえの一言だった。
*
「いいか。再三言うが今回は殲滅ではなく足止めだ。トドメに拘らなくてもいいが、その分取りこぼしは許されない。第一部隊が向こうを殲滅し終わるまで、決してレッカーズをアッチに合流させるな」
ディセプティコン 大規模攻勢の作戦はシンプルの一言だ。オートボット本隊に第一航空部隊が先制攻撃をしかけ、そこに陸上部隊を投入する。攻撃の目的は、ディセプティコンの士気を保つためと、エネルゴンや資源の奪取、そしてオートボットの殲滅。
中でも、俺たち第二航空部隊の任務はレッカーズの足止めだった。今現在、レッカーズはオートボット本隊を離脱し、独自に何らかの工作活動をしているとの報告がある。だからこそ、そこを分断すればボッツの戦力を大きく削ることが可能である今、ディセプティコンは攻勢に出たのだ。
(……レッカーズ。懐かしい響きだが、いったいどうして憎たらしい響きをしている。今も過去も、どれだけの同胞がアイツらの手にかかったことだろう)
……陸上戦のプロフェッショナルであるレッカーズ。何機かの生き残りについては俺もよく知っている。地球でイイコの皮を被っていた頃の俺に、野戦のなんたるかを仕込んだのはアイツらだからだ。
(だが、本当に憎むべきはレッカーズなのか?レッカーズが、オートボットがディセプティコンのスパークを散らしているのは、そもそも戦争があったからだ。憎むべきはレッカーズではなく、もっと別の何かじゃあ━━━)
ぐるぐるとブレインを駆け回る思考の渦。
「オイ、シッカリシロ!」 誰かの声が聞こえた気がして、
ぱしん。
そして、音を立てて火花が散った。
(━━━ " また " だ。俺は一体どうしたんだ? オートボットはくず鉄すら残さずスパークを穿つべきヤツらだろう。クソ、何を考えているんだ、俺は)
「……ふう、」
大きく排気を繰り返した。
「クイックセーブからブラックアウトへ。こちら第二部隊。レッカーズ野営地、捕捉完了」
〈ザザ━━━こちらブラックアウト。了解。第一部隊、10
「……第二部隊、アブレストを組め」
10、
9、
8、
7、
「爆撃準備」
6、
5、
4、
3、
2、
1、
「━━━投下しろ」
直後、閃光が一帯を覆った。
ヴォス
サイバトロン星の都市国家のひとつ。だった。
公式なのかは知らないけど王制が敷かれている。
ファンフィクだとだいたい飛行型の聖地。
スラスト
今回第二部隊に配属された。地球ではF-35ライトニングⅡをスキャンしたが、果たして彼は地球到達まで生き残ることができるのか。
シーカー
飛行型。リベンジに出てくる「シーカー」はこの作品では「探索者」という意味で解釈。ジェットファイアーの父親は飛行型じゃないのにシーカーって、ちょっとそれはちがうくない?
謎の声
多分妖精か何か。
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