聖闘士星矢vs幽遊白書~Legend of Soldiers (シャンディ)
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魔界血戦編
第1話 全ての始まり


聖闘士星矢の時間軸はNDの後でΩのマルスが襲来する少し前。

幽遊白書はアニメの最終回の少し後。


SIDEアテナ

 

ここは城戸邸……私が城戸沙織として育った思い出の場所。

私は小さいころに、お爺様と撮った写真を見つめていた。

 

そしてこの場所に来ると、いつも思う事がある……アテナではなく、普通の人間であったらどういう人生になっていただろう……。

私は地上の平和と人間を守る神であるアテナの化身……決してまともな生活には戻れないだけに、自分と同じ年代の女性たちを羨ましく思う時がある。

私だって普通に恋愛がしたい、お洒落もしたい、子どもだって欲しい……でも、それは叶わぬ夢。

人並みの幸せに私はなれない……それが宿命のだから。

 

もちろん自分の宿命は受け入れているが、現実逃避したくなる時だってある。

だから、そう言う時はこの城戸邸に戻ってくるのだ。

 

冥王ハーデスとの聖戦では黄金聖闘士12人全員が全滅……その後は冥王の剣の呪いにより3日の命となった星矢を救うべく、240数年前の過去にも飛んだ。

何とか星矢を救う事はできたが、残る聖闘士は私と幼いころから過ごした顔馴染みと白銀聖闘士のシャイナと魔鈴だけになっていた。

 

これでは、また邪悪な神の脅威が迫った時、守りきれないかもしれない。

私はすぐさま、聖闘士とサンクチュアリの建て直しに着手した。

まずは12人全滅した黄金聖闘士を何とかしなければならない。

 

まずは星矢をペガサスの青銅聖闘士から射手座の黄金聖闘士に昇格させた。

 

紫龍には天秤座、氷河には水瓶座、瞬には乙女座、一輝は獅子座の黄金聖闘士に昇格させようと思ったが、瞬と一輝は「今の聖衣の方がしっくる来る」、氷河は「まだ自分は我が師の聖衣を着れる程に至っていない」、紫龍は「一応、引き継ぎはするが、あくまでこれは老師の聖衣だから管理するだけ。あくまで自分はドラゴンの聖闘士でその聖衣が着なくなったときは聖闘士を引退する時」と全員が昇格を拒否。

 

なんとか獅子座、蠍座、乙女座、水瓶座、山羊座は確保したが、まだ半分しか確保できておらず、こんな時に本来は聖域を離れるべきではないのだが、今は少し休みたかった。

星矢は「ゆっくり気が済むまで休んできてくれ」と言ってくれた。

 

「じゃあ僕は隣の部屋にいるんで、なにかあったらいってください」

 

「あっ!瞬!」

 

緑がかった長い髪と女性のような美しい顔立ちの彼はアンドロメダの聖闘士である瞬。

私を警護するべく、城戸邸まで着いてきてくれたのだ。

瞬もまた私と幼馴染の聖闘士で長い付き合いだ。

誰よりも優しく、戦いを好まない性格……その美しい心が原因でハーデスに憑依されてしまったこともあった。

これは瞬に限った事ではないのだが、私が幸せになれない分、彼らには幸せになってほしい……これ以上彼らが傷つくのを見たくないと言う思いが私の心にはある。

 

「もし辛いのなら聖闘士を辞めても構わないのですよ?」

 

「どうしたんです急に? この前、乙女座の黄金聖闘士にならないかと言ったばかりでしょう?」

 

「それはそうなのですが……一般人に戻れば人並みの幸せが得られるかもしれませんし、これ以上貴方達が傷つくのを見たくはないのです」

 

「確かに聖闘士である以上、自分が人並みに幸せになるのは無理かもしれない……でも人の幸せを守る手助けはできる……それだけで僕は十分なんです。だから、これからも一生、僕は、いや……僕ら聖闘士は沙織さん、いや……アテナ、貴方についていきます!」

 

「ありがとう瞬」

 

その時だった。

 

それまで快晴だった空を雨雲が覆い、台風並みの雨風が発声し、雷が鳴り響く。

 

休む暇はないようだ……。

 

邪悪な気配を感じ取った私は椅子から立ち上がる。

瞬もその気配を感じ取ったらしく、オペラピンク色のアンドロメダの聖衣を装着し、武器であるチェーンを構える。

 

「間もなくこの地上は闇が支配することとなる……」

 

低く、威厳のある声が城戸邸全体に響いたかと思えば、不気味な高笑いが聞こえる。

 

「誰です!?」

 

私がそう言った瞬間、部屋の窓ガラスが割れたのだった。

 

 

 

その頃、時を同じくしてもう一つ事件が起こっていた……。

 

 

SIDE幽助

 

俺の名前は浦飯幽助、元はこの世で悪さをしている妖怪を退治する霊界探偵をしていたが、今は裏稼業のなんでも屋として妖怪と人間の間に共存する世界を目指して、彼らの間に起こるトラブルを解決している。

ちなみに俺の親父は数いる妖怪の中でも闘神と言われ、最強を誇った雷禅。

 

そして俺の父である雷禅が亡くなったと同時に魔界の王を決める魔界統一を行った。

大会の優勝者は親父の昔の喧嘩仲間である鬼の妖怪である煙鬼で「人間界に迷惑をかけないこと」を約束し、煙鬼が魔界の王となってからは人間界で生活する妖怪も増え、悪事もピタリと止まっていたのだが……。

 

「大丈夫か桑原!? おい、起きろ! 目を覚ましてくれ!」

 

横たわる親友、桑原和真の無惨な傷だらけの姿……凄まじい邪気を感知して、来てみた時にはもう手遅れだった。

 

「浦飯か……すまねぇ……螢子ちゃん守りきれなかった……」

 

「何も言うな! すぐに救急車が来るからな!」

 

雪村螢子……俺の最愛の人……俺が来るのが遅かったばっかりにこんな事になってしまった……俺の怒りのボルテージは最高点に達し、両手の拳をグッと握りしめた。

 

「蔵馬も一緒に連れて行かれちまった……」

 

「何だと!? 蔵馬まで……どんな奴に連れて行かれた!?」

 

蔵馬はこの世では借りものの肉体で活動している為、魔界でのようにとはいかないが、それでも高い実力を誇る妖怪で、俺たちの仲間として共に厳しい戦いを乗り越えてきた。

その蔵馬、そして桑原がいても、あっさりやられてしまう程、敵は強い……俺はゴクリと唾を呑んだ。

 

「分からねぇ……一瞬の事でよぉ……でもあの妖気はただもんじゃねぇ……2人を返してほしければ今度開かれる暗黒武術会に出場して優勝しろだとさ……」

 

「暗黒武術会……だと?……」

 

暗黒武術会と聞いて思い出すのは地獄のような戦いだ。

かつて俺と蔵馬、飛影、桑原、そして幻海の婆さんと共に出場し、戸愚呂などの強敵と戦い、優勝を果たした。

あの時は武術会と言うより、ただの殺し合い……煙鬼が魔界の王となってからは武術会と言う言葉通り、技を競い合い、己の力を試す大会となっており、殺し合いは禁止となっている。

何故、暗黒武術会なのか……もしやその武術会に出場する中に螢子と蔵馬を連れ去った奴がいるってことなのか?……。

今は考えても仕方がない……罠かもしれないが、この大会に出場して優勝するしか方法がない。

 

 

 

 

3日後……

 

 

 

SIDE星矢

 

 

「なんだって!? 辰巳、それは本当なのかよ!?」

 

聖域全体に俺の声が響き渡る。

俺だけでなく、その場にいた聖闘士全体に衝撃が走った。

 

「アテナが……沙織さんがさらわれただと!? 瞬は……瞬はどうした!?」

 

「恐らく瞬も沙織お嬢様と一緒に……」

 

俺は責任感から聖域の壁を殴る。

あの時、休んで来いなんて言っていなければ、こんな事にはならなかったはずなのに……。

 

「俺のせいだ……」

 

「星矢、お前のせいじゃない」

 

ブロンドの長髪と青い瞳……白鳥星座の氷河が俺の肩に手を置く。

 

「氷河の言う通りだ星矢! さらわれたのならさらった奴を捜しだして倒すまで」

 

「しかし、敵はどんな奴でどこにいるのかも分からないのだぞ?」

 

沙織が自らスカウトし10年に一人と言われる逸材と言われていたる獅子座・レオのシャインの言葉に山猫座の白銀聖闘士から昇格した女聖闘士の蠍座・スコーピオンのアンドシアが疑問を投げかける。

 

「そう言えば、沙織お嬢様を返してほしければ、暗黒武術会に参加し優勝しろと言ってた!」

 

辰巳の言葉に全聖闘士が顔を見合わせる。

 

「暗黒武術会? なんだそりゃ?」

 

黄金聖闘士シュラの弟子であった山羊座・カプリコーンのハリソンが首を傾げる。

 

「このヤシャ、聞いたことがある……武術会に招待状が届いた5人の者たちに拒否権はなく、武術会と言うのは名ばかりでただの殺戮の場」

 

「それは前の話よ……今は自分たちこそ最強と自負する腕自慢の妖怪たちが集まって自身の力を試す場になっているわ」

 

自らを金剛夜叉明王の化身と称する乙女座・バルゴのヤシャの言葉にアイスランドに住む雪女であった水瓶座・アクエリアスのベルが訂正する。

 

「だったらその大会に出るしかない」

 

「星矢……これは罠の可能性が高いと思われますが?」

 

「ヤシャ、そんなの言われなくても分かってるさ。それでもなにか掴めるかもしれない……だから俺はこの大会に参加する」

 

「そうですか……そう言うと思ってました しかし、私はいきませんよ? わざわざ危険と分かってて行くなんて馬鹿馬鹿しすぎますからね」

 

「ヤシャ、貴様……それでも聖闘士か!? アテナが心配じゃないのか!?」

 

シャインがヤシャに掴みかかるがヤシャはそれを冷静に躱す。

 

「落ち着けシャイン……私とてアテナは心配だ……しかし敵がなにか分からぬ以上、迂闊に罠に飛び込んでは命を落としかねない。聖闘士の数も少なく、ここで我々が参加して黄金聖闘士が全滅する訳にはいかんだろう」

 

ヤシャ以外は行く気満々のようだが、俺の心の中は決まっていた。

 

「俺と氷河だけで行く。後の皆はもし俺たちになにかあってもいいようにここで待機しててくれ」

 

俺の言葉に黄金聖闘士全員が驚く。

そりゃそうだろう……暗黒武術会の参加人数は5人それを黄金ではなく青銅である氷河と2人だけで出場すると言うのだから。

 

「敵は強いわ……2人じゃ無謀すぎる……」

 

「ベル問題ない。必ずアテナと瞬は連れて戻る」

 

「そうか……ならば魔界への道はこのヤシャが開いてやろう」

 

「あぁ、頼む」

 

「承知した……オーム!!」

 

聖域の真ん中に円形の裂け目ができる。

中の色は真っ赤でまるで血の色だ。

 

「さぁ行け。この先が魔界だ」

 

「待て星矢、紫龍と一輝にも伝えないと!……」

 

「いや氷河、紫龍と一輝には伝えなくてもいい」

 

「なぜだ?」

 

「あいつは父親になるんだからな……それに一輝はなにも言わなくても来てくれるさ」

 

そう……紫龍は幼馴染の春麗と結婚し、春麗は妊娠していた。

聖闘士の戦いはいつ死ぬかも分からない……俺たちは父親の顔も知らない孤児……だからその悲劇を繰り返してはならない。

 

「そうか……なるほどな。よし行こう!」

 

「星矢、死ぬなよ?」

 

「あぁ、俺たちに任せておけシャイン」

 

俺と氷河はヤシャの開いた魔界へと続く裂け目に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 



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第2話 暗黒武術会前日

SIDE星矢

 

光が指す方へ真っ直ぐに進め、その先に魔界はある……乙女座の黄金聖闘士ヤシャが俺たちにかけた言葉。

その言葉通り、真っ直ぐ進む俺と氷河。

光を抜けると、薄暗い森林へと出た。

 

魔界と聞いていたので、もっとおどろおどろしい場所なのかと思いきや、俺たち人間が住む世界と大して変わらないことに気づく……妖気や殺気があちらことらにプンプンする以外はだが……。

 

そして、さらに奥へと進むと、今回の参加者たちが大勢集まっていた。

人間と似たような奴から、異形の物まで様々だ……そして、早速、一匹の赤鬼のような妖怪に目をつけられた。

 

「オマエら人間か? 随分度胸がある奴だな 人間のくせに俺たち妖怪に勝てるとでも言いたいのか?」

 

「当たり前だろ。あんまり人間の力を見くびると、痛い目に遇うぜ?」

 

「おもしろい奴だな、オマエ。煙鬼様は人間たちに迷惑をかけるなと言うが、俺には関係がない。人間を殺すのになんの躊躇いもない」 

 

「どうする氷河? いっその事まとめて叩きのめすか?」

 

「待て、殺るのはいつでもできる。今は相手がどんな強さなのか、誰なのかも分からない。おそらくこの大会で決勝まで残った奴がアテナと瞬をさらった本人だろう。敵の戦力や強さを確認する為にもここは大人しくしといた方がいい」

 

氷河の言う事はもっともだ……俺たちの目的は妖怪たちを倒すことではない。

あくまでもアテナと瞬を取り戻すのが最重要だ。

それさえできれば、こんな大会などどうでもいい。

挑発されてカッとなったが、氷河の冷静な判断のおかげで、怒りを収める事ができた……もし俺が1人でこの場に来ていたら、ここにいる妖怪を全員まとめてボコボコにしていたかもしれない。

俺は拳を緩めると、赤鬼が腹を抱えて笑い出す。

 

「やっぱり腰抜けか。そんなんじゃ1回戦でボロ負けするのがオチだ。ここは弱っちぃ奴が来る場所じゃないんだよ」

 

「何だと!?」

 

「落ち着け星矢。言いたい奴には言わせておけ……どっちみち大会が始まれば、あいつも黙るさ」

 

腹を抱えて大笑いしながら去っていく赤鬼を見ながら、俺は軽く舌打ちをした。

隣では氷河が涼しい顔をしているが、おそらくはらわたは煮えくり返っていることだろう。

 

 

そして、その後俺たちは船に乗ると、孤島に案内された。

その孤島には円形で野球場のような闘技場と大きく立派なホテルが建っている。

 

中は日本の高級ホテルと全く変わらない……冷蔵庫にベッド、ソファーにテレビにトイレとバスルームつきだ。

ホテルから出された食事も喉を通らず、ベッドに横になる。

 

「なんか今から闘うって感じじゃねーよなぁ……ホテルだなんて」

 

「人間で言う空手大会みたいなもんなんだろ。一応、武術会だからな」

 

「ホテルで呑気に寝てられるかよ……アテナと瞬がさらわれたって言うのによぉ」

 

「まぁな……だけど休んだ方がいい。これからどんな強敵と戦うかもわからないんだからな」

 

「そりゃそうだけど……ちょっと俺散歩して来るよ」

 

「外は危ないぞ星矢」

 

「あぁ、それは分かってる。散歩はホテルの中だけさ。すぐに戻る」

 

俺はベッドから起き上がると、部屋のドアを開けた。

いてもたってもいられなかった……動いてないと、どんどん不安になるばかりだ。

こうしている間にもアテナと瞬が……そう考えただけでさらった敵とアテナを……沙織さんを守りきれなかった自分にムカついてくる。

 

俺は1階に降りると、ホテルの外へ出た。

氷河にはホテルの中だけだと言ったが、やはり外が一番落ち着く。

森の奥へと進み、空を見上げると夜空に綺麗な星々が輝いている……こんな欝な時に皮肉なものだ。

 

「沙織さん……」

 

その時、後ろで気配を感じた。

 

「誰だ!?」

 

「驚かしてすまなかったねぇ」

 

暗い森の奥から歩いて来たのは、小柄でピンク色の髪をした老婆が現れる。

 

 

 

 

幻海SIDE

 

 

もう私はそんなに長くはない……昔から長らく、戦いに次ぐ戦いで己の身体をイジメ続けてきたのだ。

そろそろガタが来たとしても、不思議ではない。

私の土地は<アイツたち>に託した……人間と妖怪が共存する世界を実現させる為に……。

だが、その時までワシは生きてはいない……自分の身体の事は自分が一番分かる。

おそらく、末期の病に侵されている……だが病で死ぬなど、恥ずかしくて誰にも言えない。

武道家として、最期を遂げたい……だからワシはここへ来た。

この大会には弟子の幽助も出場するはず……幽助にトドメを刺されるのなら本望。

だが問題はワシ以外の4人の妖怪は雑魚同然で名声が欲しいだけのチンピラだと言う事。

少し強い敵と戦えば、彼らはあっさりとやられてしまうだろう……なんとか幽助のチームと戦う時までに耐えられればいいのだが……。

 

どちらにせよ、今は考えても仕方がないのだ……まだ暗黒武術会は始まってすらもいないのだから。

ワシがホテルに帰ろうと、来た道を戻ると、空を見上げてため息をついている少年がいた。

年齢は幽助と同年代くらいなのだが、奇妙な光景だった。

赤色のTシャツにボロボロのジーパンを着て、背中には四角形の金色に輝く箱のような物をランドセルのように背負っている。

それにどうやら妖怪ではなく人間のようだが、この暗黒武術会に人間が参加することなど滅多にない。

それにその少年からは霊力や妖気ではないなにかを感じ取ることができた……それはまるで宇宙をエネルギー化したような存在。

いや……少年の身体から湧き上っているのは紛れもなく、宇宙そのものであった。

 

「誰だ!?」

 

気配を消して近づいたのだが、気づかれたようだ……この少年なかなかの遣い手だ。

 

「驚かしてすまないねぇ」

 

「妖気はしないし、婆さん人間なのか?」

 

「見ての通り人間じゃよ」

 

ワシが老いぼれババァとでも思っているのか、少年から殺気が消え、苦笑いを始める。

 

「もしかして婆さん、暗黒武術会に参加するつもりか? まさかそんな訳ないよな」

 

ジョークのつもりなのだろうか、後頭部を右手で掻き毟りながら、高笑う。

だが、次の瞬間に少年は笑うのをやめた。

 

「お主の言う通り、暗黒武術会に参加するんじゃよ。この大会をワシの武道家人生の集大成にしたいと思ってな」

 

「おいおい、正気かよ?……」

 

少年の顔がみるみるうちに曇っていく……当然と言えば当然だ。

今から戦うかもしれない相手がここにいるのだから。

 

「何故、お主はこの大会に参加する? 賞金か?それとも名声か?」

 

ワシの質問に少年は目を瞑り、鼻で笑う。

 

「そんなのいらねぇよ……俺は守りたい人を救う為にここに来たんだ。ただ、それだけだ」

 

幽助にどことなく似ている……その真っ直ぐな眼差し。

この少年はまだまだ強くなる……根拠はないが、そう確信した。

 

「その気持ちがあれば、お主はまだまだ強くなるじゃろう……精進を怠らんことじゃ」

 

「なんだよ急に?」

 

「まぁ気にするな……ところで、お主から発せられる霊力でも妖気でもない、その宇宙の塊のようなエネルギーはなんじゃ?」

 

「あぁ……それは小宇宙だ」

 

「小宇宙じゃと?」

 

「人間なら少なからず誰もが持っているものさ。俺はその小宇宙を爆発させることで常人を超えた力を発揮できるのさ」

 

「なるほどな……」

 

ワシは武道家として、人間が持つ不思議な力について研究し、戦いに活かす事に生涯を費やしてきた。

霊力や妖気、魔力などがそれにあたる。

だが、小宇宙など聞いたこともなかった……。

人間の持つ不思議な力については研究し尽くしたつもりだったが、まだ知らない未知の部分があると言うことなのか……。

 

「おっと……敵に喋りすぎちまったみたいだぜ。そろそろ俺はホテルに戻るよ。じゃあ大会でな婆さん」

 

「待つのじゃ」

 

「ん?」

 

「お主の名を聞いておきたい」

 

「武道家を名乗るんなら自分から先に名乗るのが筋ってもんじゃないか?」

 

「こりゃ一本取られたな。生意気な小僧め」

 

「あぁ。よく言われるよ」

 

「ワシの名前は幻海。霊気チームの大将じゃ」

 

「俺の名は射手座・サジタリアス星矢」

 

「星矢か……憶えておくぞ」

 

「まっ、戦う機会があったらお手柔らかに頼む」

 

あの余裕……自信過剰なところまで幽助に似ている。

おそらく、S級妖怪並みの実力にまで達した幽助とまったくの互角の強さであろう……死ぬ前に幽助と星矢の戦いをいち武道家として見てみたい……そう思った。

 

 

 

 

SIDE氷河

 

星矢には休んだ方がいいと言っときながら、そんな俺も落ち着かず眠れないでいた。

まぁ、この状況で落ち着いて休めと言う方が無理なのだ。

しかし、それにしても星矢の奴、すぐに戻ると言っておきながら、もう1時間以上帰ってこない。

 

「星矢の奴、遅いな。まさかな……」

 

嫌な予感が胸をよぎる……それは最悪の展開。

そんなはずはない……星矢が負けるはずがない。

自分にそう言い聞かせるも、時間が経つ事に不安は大きくなる一方だ。

星矢を捜しに行こうと、ソファーを立つと、部屋の扉が開いた。

 

「まだ寝てなかったのか氷河」

 

入って来たのは星矢だった。

 

「なにが寝てなかったのか?だ。心配したんだぞ?」

 

すると星矢は申し訳なさそうにして謝りながら、ソファーに腰かける。

 

「悪ぃ氷河……それが変った婆さんに会っちまってさ」

 

「変わった婆さんだと?」

 

「幻海とか言ったっけな? 暗黒武術会に参加するらしいぜ? 結構仲良くなっちまった」

 

呆れる……なんと言うか……敵として戦うかもしれない相手と話すなど警戒心が足りなさすぎる。

 

「星矢……その婆さんがアテナや瞬をさらった奴かもしれないんだぞ?」

 

「それはないだろ。武道家とか言ってたけど人間だし、瞬があんな婆さんにやられるわけねーよ」

 

「この武術会に参加する奴らは腕自慢ばかりだ。油断はできないぞ」

 

「そうは言ってもなにもされてないし、問題ねーよ。明日になれば分かる事さ」

 

「そうだな……今日はもう寝て、明日に備えよう」

 

そう……明日になれば全てが分かる。

なんとしてでも決勝まで残らねば……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第3話 暗黒武術会開幕!聖闘士の実力!

暗黒武術会当日……。

 

 

SIDE星矢

 

 

今日は暗黒武術会の開催日……開会式が行われているが、とっとと始めてほしかった。

早く優勝してなんとしてでもアテナと瞬を救わなければならない……。

それにしてもこの会場の雰囲気は昔、

そして1回戦の相手はなんとも奇遇……この闘技場に来る前に因縁を吹っ掛けてきた赤鬼が率いるチームだったからだ。

 

俺たち聖闘士チームはオープニングゲーム……つまりこの暗黒武術会の最初の試合に出場すると言う事だ。

これはこう都合……とっとと試合を済ましたい俺にとっては好都合。

対戦相手も決まり、俺と氷河が闘技場のリングに向かう通路を歩いていると、昨日の夜にホテルの外で出会った幻海と言う婆さんが待っていた。

 

「どうやら、お主たちとはあたらなかったようじゃ。まぁ観客席からお手並み拝見させてもらうとしようか」

 

「呑気だな。婆さん」

 

「これでも2度この大会で優勝しとるからのぉ。まだまだ若いモンには負けん」

 

「そうかい。じゃあ、ちょっと肩慣らししてくるよ」

 

俺と氷河が通路を出て、闘技場のリングに上がると、ブーイングと歓声が入り混じる。

 

 

会場から沸き起こる歓声と応援は全て赤鬼率いる鬼族チームに向けてのものでブーイングは俺たちにだ。

ここは魔界……同種族なのだから、妖怪は妖怪を応援するのは当然。

もし俺が同じ立場だったとしたら、人間を応援するだろうからおかしいことではないが、俺たちが普通は5人で戦うところを2人しかいないからナメられていると思って気に入らないのだろう。

しかし、こんなアウェー状態だが、こんな事程度で取り乱されるような俺と氷河ではない。

 

「氷河、とっとと終わらせるぞ」

 

「無論だ」

 

俺と氷河は2人でリングに上がると赤鬼率いる赤、青、緑、黄、桃の色をした鬼が仁王立ちしている。

そして俺たちと赤鬼チームの中間点にパッと見は人間だが、狐のような尻尾と耳、ひげが特徴の女の妖怪がマイクを持ち立っていた。

 

【聖闘士チームの登場です!さて猫耳妖怪の小兎が実況兼審判を務めさせていただきます!】

 

「審判ちょっといいか?」

 

「はい……なんでしょうか?」

 

「相手が弱すぎて、タイマン張るのめんどくせぇからよぉ、もうこのまま勝負つけちまっていいか? バトルロワイアルってやつさ」

 

「えっ? まぁルールは大将同士で決める事になっているので、鬼族チームの大将さえ良ければ……」

 

会場中から妖怪たちが嘲笑う声が聞こえる……俺たちは人間でしかも5対2で数でも圧倒的に不利な状況だ。

 

「腰抜けのガキ共が人間のくせに俺たちにタイマンじゃなくて、バトルロワイアルで勝負するだと? おもしろい奴らだな、審判そのバトルロワイアル受けようじゃないか」

 

【それでは決まりました! もう間もなく試合開始です!】

 

「おもしろいのはお前の方だろ。頭から湯気が出て真っ赤な顔が余計に真っ赤になってるぞ」

 

「貴様……余程死にたいようだな……望み通りその生意気な口が聞けなくしてやる!」

 

【それでは試合開始です!】

 

今、戦いのゴングが鳴らされた。

 

 

 

 

幽助SIDE

 

 

遂に暗黒武術会のトーナメントが始まった……。

またこの大会に参加することになるとは夢にも思わなかったが……。

俺たちは前回優勝チームの為、シードされているので2回戦からだ。

しかし蔵馬は連れ去られ、桑原は大怪我で入院、幻海の婆さんは行方知れずでチームは俺と飛影だけ。

戸愚呂みたいな強敵がいるかもしれないが、螢子と蔵馬を助けるためにはなんとか乗り切るしかない。

 

「おい幽助、あいつら人間のようだぞ? しかも2人しかいない」

 

「そうみたいだな」

 

「変った奴もいるもんだ……」

 

そう1回戦で戦っているのは金色の鎧と白い鎧を着こんだ人間だ……しかしただものじゃない。

なんというか、霊力とはまた違った凄まじいオーラを感じることができる。

まぁ、この大会に参加してる時点でまともな人間などいないのだが……。

 

「喰らえ!ダブルビーム!!」

 

白い方の奴に黄色と桃色の鬼が頭部にある2本の角からレーザービームのようなもので攻撃する。

 

【あぁぁぁぁぁぁぁっと氷河選手に直撃だぁぁぁぁぁ!!】

 

しかし、ビームが直撃しても平然としている……いや……直撃していない。

氷河と言う白い鎧を着た男が凍気を身体にビームが直撃するギリギリに発生させて、それがビームを防いだのだ。

おそらく、それが分かっているのは飛影やこの会場にいる強者だけだろう……並みの妖怪ではビームが直撃したようにしか見えてないはずだ。

 

【おぉぉっと!氷河選手、ビームをまともに浴びても顔色一つ変えません!】

 

「俺たちのビームを喰らっても平気だと!?」

 

「その程度のビームではこのキグナスの聖衣の薄皮一枚傷つけることはできん……今度はこっちの番だ!」

 

氷河が掌を前に突き出すと、黄色と桃色の鬼の足から胸部へと徐々に凍っていく。

 

「な、なんだこれは!?」

 

【なんということでしょうか!黄鬼選手と桃鬼選手の身体が氷漬けになっていきます!】

 

そして顔だけを残し、残りの身体は全て凍ってしまった。

 

「助けてくれぇーーー!!」

 

「寒いよぉーーー!!」

 

「氷結リング……慌てるな。その氷は一時的なモノだ。戦いが終わったら解放してやるから安心しろ。それまでにお前らが凍死しなければの話だがな……」

 

【クールすぎます!顔色一つ変えず、相手を凍てつかせる眼差し、新たなスターの誕生でしょうか!そして星矢選手が前へ出ました!」

 

星矢と言う金色の鎧を纏った男が氷河の一歩前に出る。

 

「赤鬼、お前言ったよな? 俺たちが腰抜けだと、弱っちぃと……そしてこうも言った。人間を殺すのになんの躊躇いもないと」

 

「それがどうした!? 弱い奴に弱いと言ってなにが悪い!? 弱い奴は駆逐されて当たり前だ!」

 

「それはこちらの台詞だ。今の俺はムシャクシャしている……邪悪な妖怪を殺すのになんの躊躇いもない!」

 

「えぇい!思い知らせてやる! 青、緑やれ! 俺たち妖怪の力を人間に思い知らせてやれ!」

 

「やはり来るか……ならば仕方がない」

 

青鬼と緑鬼が星矢を襲いにかかるが、星矢はその場で手を握り、頭上に振り上げ、そして振り下ろす。

すると一本の金色の閃光が走り、青鬼と緑鬼に直撃し、一度彼らは宙に浮くと、そのまま仰向けに地面に落下し、失神した。

 

【今のはいったいなんなのでしょうか!? 星矢選手、氷河選手共に人間離れしております!】

 

「これでも手加減してやったんだぜ?」

 

「なんだと!?」

 

「めんどくせぇから降参しろよ」

 

「黙れ!!うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

巨大な棍棒を持って星矢に殴りかかるが、勝負は明白だった……。

 

「そ、そんな……バカな……」

 

【星矢選手、赤鬼選手の巨大な棍棒をなんと人差し指だけで受け止めました!!】

 

そして、赤鬼の持つ棍棒にヒビが入るとヒビは徐々に広がり、棍棒はやがて使い物にならなくなるほど大破し、会場全体がどよめく。。

棍棒が木端微塵になるのと同時に赤鬼は膝から崩れ落ちた。

余程、悔しかったのだろう……自分が馬鹿にしていた人間に完膚なきまでに叩きのめされたのだ。

地獄へと落ちた気分なのではないのだろうか……。

 

「参った……」

 

【勝負あり!鬼族チームの大将のドロップ宣言により、勝者は聖闘士チームに決まりました!!】

 

勝負が終わり、飛影が声をかけてくる。

 

「見たか? あの星矢とか言うのが放った閃光は拳だ」

 

「あぁ。あいつら相当つえーぞ……」

 

そう少なくとも俺と飛影には見えた。

星矢が青鬼と緑鬼に放った金色の閃光は星矢の拳から放たれるパンチだ。

手加減したと言うのが事実なら、さらに速いとパンチを繰り出せると言う事になるが……ただものではない事くらい分かってはいたが、あそこまでとは知らなかった……。

 

「一番のライバルになるかもしれんな……あの氷河と言う奴は同じ凍気を使う凍矢と互角か、もしくはそれ以上か……」

 

「あぁ……あの星矢って言う奴も、S級妖怪にも引けをとらない強さだ」

 

聖闘士チームの目的はいったいなんなんだろう……まさかあいつらが螢子と蔵馬をさらったのだろうか。

あいつら程強ければ、蔵馬を連れ去り、桑原に重症を負わすことも無理ではないかもしれない。

しかし証拠がない……。

だから今はこの暗黒武術会を勝ち上がるしか、螢子と蔵馬を助ける方法はないのだ。

飛影とそれを確認し合うと、一時ホテルに戻った。

 

 

 



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第4話 出陣!浦飯チーム!

SIDE幽助

 

とうとう俺たちの戦いが始まる……闘技場に上がれば、大歓声で浦飯、飛影コールが沸き起こる。

そんな中、俺は……いや飛影も同じことを思い出していたに違いない。

俺、飛影、蔵馬、桑原、幻海の婆さんと参加した初めて参加した暗黒武術会の事だ。

ゲストとして呼ばれ、戸愚呂など強敵と戦い、そして勝利した。

あの時は、まだ魔界は統一されておらず、人間に友好的な妖怪も少なく、俺たちが勝ち上がる度にブーイングが起きていた……それが今ではヒーローが登場するかのような、黄色い声援が会場内から飛んでいる。

あのブーイングが懐かしくも思えたがそれは贅沢と言うものだろうか……。

 

聖闘士チームにはいいものを見せてもらった。

もちろん螢子と蔵馬を助け出すのが第一ではあるが、久しぶりに骨のある奴らと戦えるかもしれない……それが俺には楽しみだった。

 

「飛影、俺たちも聖闘士チームには負けられねぇ。一発でケリをつけるぞ」

 

「お前ならそう言うと思っていた」

 

初戦の相手は怨霊チームを破り、勝ち上がってきた魔界の炎チームだ。

全員が炎遣いの妖怪で3-0と言う大差で怨霊チームには圧勝している。

真っ赤なロングの髪の毛にガングロの肌を持つ大将らしき妖怪が俺たちに詰め寄る。

その他の4人も顔は違えど、大将と同じような容姿をしており、おそらく同種族の妖怪なのだろう。

 

「お前があの雷禅の息子で全大会の優勝者浦飯幽助か……俺が大将の獄炎様だ。お前と飛影を倒せば、俺様の名が魔界に轟くぜ!」

 

「倒せたら……な。テメーらが全員まとめてかかってきてもいいんだぜ?」

 

「前大会優勝者だからと言って調子に乗っているようだが、そんなにこの大会は甘くはないぜ?」

 

「御託はいいからとっととかかってきやがれ」

 

「えぇい! 審判始めろ!」

 

【は、はい! それでは試合開始!!】

 

「かかれぃ!」

 

しかし、その言葉と同時に崩れ落ちたのは魔界の炎チームの獄炎以外の4人だった。

 

「どうしたんだお前ら!? これはいったい!?」

 

【おぉぉと!魔界の炎チーム大将の獄炎選手以外崩れ落ちて動けませぇぇぇん!!】

 

「なにが起こったのかも分からねぇようじゃ話にならねーな。棄権しな」

 

「なんだと!? 棄権など誰がするものか!」

 

「後ろを見てみな?」

 

【飛影選手がいつの間にか獄炎選手の背後に回りこんで背中に剣を構えています!これはまさに袋の鼠状態!獄炎選手はこの窮地を脱することができるのでしょうか!?】

 

そう……獄炎以外の4人を倒したのは飛影だ。

飛影のスピードは過去に参加した暗黒武術会の時とは比べ物にならない程に増している。

倒れている彼らもなにが起こったのか分からず、意識を失っているはずだ。

 

そして獄炎が後ろの飛影に気を取られているうちに……。

 

「うぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

俺の拳が獄炎の腹部をまともに捉えた。

獄炎はリング外の観客席の壁まで吹っ飛び、うつ伏せに倒れたまま動かない。

観客席から驚愕する声が多少聞こえてくるくらいで、会場中が葬式場のような静寂に包まれた。

 

【獄炎選手、起き上がれません!それにしても驚きです!タフさを持ち味としていた獄炎選手を浦飯選手は一撃で動けなくしてしまいました!】

 

「実況はいいから早くカウント取りに行けよ!」

 

俺のツッコミに小兎が慌てて、カウントを取りに行く。

 

【8……9……10!勝負あり!浦飯チーム貫録の勝利です!】

 

これで終わりではない……今後、さらに強い敵が控えているだろう。

だが俺たちは螢子と蔵馬の為にも負けるわけにはいかないのだ。

 

 

 

 

SIDE紫龍

 

中国・五老峰の奥地で俺は瞑想し、1人で座していた。

背後で廬山の大滝が轟く……それは龍が唸っているようにも聞こえる音が心地よい。

邪悪な神々と死闘を繰り広げてきた俺にとって、この五老峰は唯一の安らぎの場となっていた。

ここはそして我が天秤座・ライブラの黄金聖闘士でかつての聖戦で活躍した童虎に俺が聖闘士としての基礎を学んだ思い出の場所……幼いころに聖闘士の候補生としてこの場に送り込まれた俺にとって故郷とも呼べる大切な場所なのである。

そしてこの場所で俺は天秤座の聖衣を管理しているのだ。

名目上は俺が天秤座の黄金聖闘士と言う事になってはいるが、あくまで管理しているだけで使用する気は無い。

何故なら、俺はまだ我が師である童虎の足下にも及ばないからだ。

 

「老師……あなたの魂は安らかに眠れているでしょうか……」

 

「あなた!お客さんよ!」

 

「今、行く!」

 

ここには支えてくれる幼馴染の春麗もいる。

何度も邪悪な神々と戦い、傷ついた俺を優しく介抱してくれたり、戦いに出る度に無事を祈ってくれていた。

やがて俺は春麗と結婚し彼女は妊娠。

春麗のお腹の中には新しい生命が宿っている。

俺は父親になるのだ……気が早いが生まれてくる子どもの名前は男なら龍峰、女なら龍蘭にしようと思っている。

少し前まで捨て子であった孤児、翔龍を我が子同然のように育てていたのだが、親族の人たちが引き取りに来てしまったのだ。

こればかりはどうしようもなく、翔龍は親族の元に帰って行った……正直悲しいが、その親族がいい人そうだったのが唯一の救い。

その直後に春麗の妊娠が分かり、俺たちは大いに喜んだ。

 

生まれてくる子どもには聖闘士ではなく普通の人間として幸せになってもらいたい気持ちが半分、聖闘士として後を継いでほしいと言う気持ちも半分。

こればかりは子どもがやりたいようにさせるべきなのかもしれないが……。

 

そして俺は客に会う為に立ち上がると、足早に住んでいる家に向かう。

そう言えば、3日前くらいから胸騒ぎがしていたのだ……それもなにやら嫌な方の胸騒ぎだ。

家に入ると、大柄でスキンヘッドにコワモテの顔……見間違えるはずもない……この男は……。

 

「辰巳か……」

 

辰巳徳丸……城戸家の執事で小さいころからの腐れ縁……滅多に顔を出さない辰巳が泣きそうな顔をしてこの場に来ている。

なにかよからぬ事が起こったのだと確信する。

 

「辰巳、なにがあった?」

 

「紫龍、助けてくれ!」

 

「詳しく話してくれ。じゃないと助けられん」

 

辰巳は頭を抱えて喋りだした内容はとんでもないものだった。

 

「沙織お嬢様と瞬がさらわれた……」

 

「アテナと瞬が!?」

 

「星矢と氷河が今、魔界に乗り込んでいる」

 

「魔界だと? そこにアテナと瞬が囚われていると言うのか?」

 

「それは分からん……だが、沙織お嬢様と瞬を返してほしければ、魔界で行われる暗黒武術会に出場して優勝しろとさらった奴が言ってたんだ……」

 

「何故、星矢と氷河はそんな大事な事を俺に教えないのだ!? 俺たちはアテナを守る仲間ではないのか!?」

 

辛い戦いを乗り越えた仲間だと思っていたが、俺はそこまで信用されてないのだろうか……。悲しく悔しい想いと同時に、怒りをおぼえたが、辰巳はそんな俺を見て、首を横に2度振り、たしなめた。

 

「本当は星矢と氷河には紫龍には言うなと言われていたんだが……」

 

「なに?」

 

「お前らは孤児だった……親がおらず、寂しい想いをお前たちはしてきたはずだ。この戦いでお前が命を落とせば、お前の子は父親なしで育つことになる。だから星矢と氷河は敢えて黙って自分たちだけでなんとかしようと魔界へ乗り込んだのだ」

 

俺の心は廬山の大滝に打たれるような衝撃だった……ほんの一瞬でも、そこまで考えてくれていた仲間に怒りをおぼえた自分が情けない。

 

「あいつら……」

 

今すぐにでも助けに行きたいのだが、春麗は妊娠していて心配だ……なにより星矢と氷河の心遣いを無駄にしかねない。

だから即答ができなかった……そんな決めかねている俺を見かねて春麗が言葉を発した。

それは予想外の言葉。

 

「あなた行って……」

 

「いいのか? 春麗?」

 

「本当は行ってほしくはない……でも大事な仲間を見ないフリして何気なく生活するあなたは見たくない……だから行って」

 

「春麗……」

 

「でも1つだけ約束して……絶対に生きて帰ってきて」

 

涙がこぼれそうになるくらい嬉しかった……行かないでと言われるかと思っていたが俺の考えすぎだったようだ。

俺は春麗を抱擁すると、必ず生きて帰ってくると約束し、星矢と氷河が向かった魔界へと向かうべく、聖域に旅立った。

 

 

 

 



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第5話 白鳥vs狼!炸裂!ダイヤモンドダストの恐怖!

SIDE星矢

 

その後も暗黒武術会で俺と氷河は無難に勝ち上がっていった。

ただ勝ち上がってきた訳ではない……敵の強さ、戦術、技、性格などを細かくチェックしながら勝ち上がった。

もちろん、自分たちが戦う時だけではなく、別のチーム同士が戦う時も隅々までチェックしている。

そして俺と氷河が要注意にしてきたチームが全てがベスト8に名を連ねた。

浦飯幽助が率いる前回優勝浦飯チーム、風使いの陣が大将を務める陣チーム、幻海と言う婆さんが率いる霊気チーム、怒羅吸螺(ドラキュウラ)率いるに黒童話チーム、外道(ゲドウ)率いる闇武道チーム、闇坊主率いる闇坊主チーム、赤マント率いる都市伝説チーム、そして俺たち聖闘士チームだ。

ここから先はどのチームと当たっても強敵揃い……なにより残ったチームは俺たちを含めて、全力を出してはいない。

ただでさえ、こちらは人数的には不利。

決勝まで残ったとしても無傷と言うわけにはいかなそうだ。

 

そしてその強敵ぞろいの中でもおそらく一番の実力が高いのは浦飯チームだろう……俺たちと同じ2人と言う圧倒的不利の中勝ち上がってきた……目立たないようにしているが、本気を出せば浦飯、飛影は黄金聖闘士に勝るとも劣らない実力だろう。

 

 

「なぁ氷河、沙織さんと瞬をさらったのは浦飯チームだと思うか?」

 

「さぁな……確かにあいつらはこの大会では一番の脅威だとは思うが……今はとにかく勝ち進むしかない」

 

「そうだな……」

 

確かに今は試合に集中しなければ、足元を救われる。

 

その後、抽選が行われ、俺たちは黒童話チームと試合をする事に決まった。

黒童話チーム、怒羅吸羅と言う吸血鬼の妖怪がリーダーのチーム……高い実力を誇っているが、浦飯チームはもちろん、陣チームや闇武道チームにも劣る。

 

「ルールは基本的にタイマン。生きているうちは何度戦ってもいい。これでいいか?」

 

「いいだろう」

 

怒羅吸螺がルールを提案し、俺たちはその提案を呑む事に決めた。

ここから先はベスト8に残った強者たちが出てくる……数が少ないこちらとしてはむしろタイマンの方がありがたい。

 

ルールが決まると、リング上に先鋒の狼男が登場する。

狼男とは言っても、見た目は角刈りの頭に白いタンクトップを着た普通の人間だが……。

 

「星矢、俺が行こう」

 

「頼んだぞ、氷河」

 

氷河がリングに上がるとまたブーイングが起こる。

クールをモットーとしている氷河は顔色一つ変えない……しかし心の中ではメラメラと闘志を燃やしているはず。

氷河はブーイングなど自分の力に変えてしまう男だ。

 

 

 

 

SIDE氷河

 

「お前が先鋒か。たった2人で俺たちに勝とうなどと本気で思っているのか?」

 

「今のうちだぞ?」

 

「なにぃ?」

 

「この氷河が黒童話チームでお前が一番弱い奴だと言う事に気づかないとでも思っているのか?」

 

「バカにしおって!命乞いしても無駄だぞ!この狼男様を怒らせちまったんだよお前は!」

 

「悪い事は言わん……やめておけ。お前じゃ相手にならん」

 

「許さねぇぞ……白鳥、貴様を食べてやる!」

 

【では氷河選手対狼男選手試合始め!】

 

狼男は俺の周りをウロウロする……なかなかのスピードを持っているが、この程度では到底、俺には敵わない。

 

「俺様のスピードに……ブホッ!?……」

 

狼男は自慢のスピードで翻弄していたつもりだろうが、俺にはスローモーションに見えている。

狼男が飛びかかったところを俺は殴る。

 

【氷河選手、驚異の動体視力でスピード自慢の狼男選手を捉えました!】

 

「人間とは言え、さすがにベスト8まで残った事はあるな……」

 

「これで分かったろ?お前程度の実力ではこの氷河には勝てん」

 

狼男は俺のパンチを右頬に受けたが、そこまでダメージを受けていない……と言うよりも本気を出すまでもないので俺が手加減したのだ。

 

狼男は切れた唇から滴り落ちる血を腕で拭き取ると、笑いながら立ち上がる。

 

「なにがおかしい?」

 

「キグナス氷河、三匹の子豚と赤ずきんの童話を知っているか?」

 

こいつ試合中に童話の話をしだしてなんのつもりだろうか……時間稼ぎか、或いは関係ない話をすることによって俺の気を逸らせようとしているのか……。

 

「往生際が悪いぞ、狼男」

 

「俺様は三匹の子豚と赤ずきんの狼の言わば悪霊なのさ……あの話は作り変えられている……実際は子豚も赤ずきんも俺様が殺して食べちまったのよ!」

 

「そうか……言い残すことはそれだな?」

 

狼男の眼がギラリと妖しく輝き、ニヤつく。

俺はそのニヤつきに不気味さにも似た不快感をおぼえた。

 

「どうやって食べたか教えてやろう……暗闇の中で恐怖におびえたあいつらを喰らいつくしたのだよ!お前も同じ目に遇わせてやる!見せてやろう……俺様の本気を!妖影千夜!!」

 

雲一つなかった空に狼の鳴き声が響き、月が出現、そして辺りが闇に包まれる。

 

【ど、どうした事でしょう!?急に夜になってしまいましたぁぁぁ!】

 

「なんだこれは!?」

 

そして月明かりに身体を照らされた狼男は身体中から黒い体毛が至る所に生えていき、爪は鋭くなり、顔も怖ろしい狼の姿に変貌していく……その姿はまさしく獣で最早、人間らしさの欠片もなくなっていた。

邪気もさっきとは比べ物にならない程のパワーアップしている。

あの姿がきっと狼男本来の姿なのだろう……。

 

【狼男選手、先程とは比べ物にならない迫力です!自分の2倍はあるかと言う相手に氷河選手はどう立ち向かうのでしょうか!?】

 

「驚くのはまだ早いぞ?」

 

そう言うと、月が消え、本当に暗闇に包まれてしまった……これではなにも見えない。

 

【月明かりも消えてしまいました!これではなにも見えませぇぇぇぇぇん!】

 

「死ねぇぇぇぇぇ!!」

 

殺気を感じたが、避けきれない……狼男の鋭い爪が俺の腕に傷をつける。

集中して気配や殺気を感じようとしても会場全体が試合を見れない不満を口走っており、集中できない。

 

そして俺のみぞおちを狼男の蹴りが襲う……まるで巨大な岩を腹に投げつけられたようだ……。

俺はその攻撃で膝をついてしまう……立とうとしたら狼男の爪が俺の顔を襲う。

そして俺の右頬から血がポタポタと流れる。

 

「これでお相子だ……次は確実にお前の心臓をこの爪が貫くぜ?」

 

「狼男にはこの暗闇でも敵が見えていると言うのか……」

 

「見えてはいない……だが俺の嗅覚は人間のお前とは比べ物にならん程敏感なのだ!匂いからお前のいる位置、なにをしようとしているか全て手を取るように分かる!」

 

「なるほどな……俺は少々、お前を見縊っていたようだ」

 

俺は小宇宙を身体から湧き上らせる。

 

【おっと白鳥が飛び立ったと思ったら今度は流星群が現れました!そしてなんと綺麗な星々でしょう!星々が闇を照らしだしています!】

 

「な、なんだ、ここは!?俺様は宇宙にいるのか!?」

 

「ここは俺が作り出した宇宙だ……ここではお前の姿がよく見えるぞ」

 

【なんという事でしょう!?……氷河選手は自らのエネルギーで自由に空間も作れるようです!】

 

「狼男よ、確かにお前はなかなかの強さだった……しかし相手が悪かったな。ただ暗闇にしただけでセブンセンシズに目覚めているこの氷河に勝てるとでも思ったか!」

 

「えぇい!こんな空間ただのまやかし!俺様の爪の威力をその身で受けろ!!」

 

「来るか……ならば次は貴様が味わう番だ!キグナスの真の冷気、ダイヤモンドダストの恐怖をな!」

 

本当はもっと後の戦いにとっておきたかったが、仕方ない……この空間は長くは持たない。

一発で仕留められなければ、こちらが不利だ。

 

【氷河選手が踊り始めました!まるで、白鳥が舞っているかのように美しい舞いです!】

 

「ダイヤモンド……ダァァァストォォォォォォォ!!」

 

最も俺の使い慣れた必殺技ダイヤモンドダスト……小宇宙で作り出した凍気をブローに込めて放つ技だ。

極限まで小宇宙を高めれば、敵の全身を凍結させることもできるが、そこまでする必要はない……80%の力で十分だ。

 

「なんだ、この凍気は!?」

 

狼男は俺のダイヤモンドダストで両腕と両足が凍結した挙句、その威力で吹っ飛ばされ、リング外のフェンスに激突。

 

【す、凄い威力です!狼男選手リング外としてカウントを取りたいと思います!】

 

狼男が立ち上がることはないだろう……この俺にダイヤモンドダストを放たるざくえなくなるまで苦しめたのは評価に値するが、黒童話チームで一番実力が落ちるのは確かだろう。

本気で放つ程の敵ではない。

 

【8……9……10!勝者、氷河選手!】

 

「怒羅吸螺と言ったか?あまり俺たちをナメるなよ?勝ちたいならもっと強い奴を出してこい」

 

まだ黒童話チームには4人残っている……1人でも多く俺が敵を倒して、星矢に負担をかけさせないようにしなければいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第6話 氷河苦戦!悪魔の蛙!

SIDE氷河

 

 

黒童話チームの先鋒の狼男を倒した俺はリング上に立ち続ける。

連戦になるが仕方ない……こちらは2人しかいないのだ。

できるだけ敵を倒して星矢にバトンタッチしなければ……。

 

「ゲロゲロ~ロ!君、なかなかやるね!おもしろくなりそうだよ!僕ちゃん蛙男!かえるのおうさまって言う童話から飛び出たんだ!」

 

「貴様の説明などどうでもいい……とっととかかってこい!」

 

「怪我したくなかったら、試合放棄って言う手もあるけど?」

 

「怪我などが怖くて聖闘士などやっていられるか……怪我は無論、死は覚悟の上よ!」

 

「ふ~ん……忠告はしたからね」

 

リング上に次鋒の対戦相手が上がってくるが、そいつの眼光に一瞬だけ後ずさりしてしまった……。

何故なら凄まじい妖気と殺気を身体中から放っているからだ。

先程、戦った狼男より強いのは確実……見た目は小太りでかつ小柄なさえない中年男性だが、かなりの実力者だ。

そして焦点が定まっておらずグルグル回っている両目に不気味さをおぼえる。

 

【それでは聖闘士チーム対黒童話チーム2回戦開始!!】

 

相手がどんな技を仕掛けてくるのか、確かめるか……それとも先手必勝でダイヤモンドダストを放ち、攻勢を仕掛けるか……。

ダイヤモンドダストを放とうと思ったが、やはり相手の出方を見るべきだ……俺が勝てばそれで良し、もし万が一の事があったとしても、星矢が蛙男の技を見れば、有利になる。

 

「あれ、攻撃してこないの?」

 

「貴様などその気にいつでも倒せるからな……」

 

「あっそ……じゃあこっちから遠慮なく……空速飛翔激!」

 

蛙男は息をとめて、全身の妖気を身体中に溜めこんで全身が風船のように膨れ上がっている……なにをする気なのだろうか……。

いつでも対応できるように俺は敵に集中する。

 

【蛙男選手息をとめていますが、大丈夫なのでしょうか!?】

 

「やっほ~い!」

 

「!?」

 

そして、蛙男は足のバネを使って勢いをつけ、地面スレスレから目にもとまらぬ速さで俺に突撃してくる。

それは蛙が手足のバネを使い、宙に浮くようだ……しかも光速に限りなく近いスピードだ。

 

だがこの手のスピードなら集中すればなんとか紙一重で躱せる……。

 

俺が躱すと蛙男は勢いがつきすぎたのか、そのまま場外にリングアウト。

そしてフェンスに激突し穴を開けた。

 

【蛙男選手、自ら場外へと飛び出していきました!】

 

数秒後、フェンスに開いた穴から蛙男がもう一段階スピードを上げている……避けきる事は不可能だ……避けきることが不可能なら、捨て身で蛙男に攻撃するまで。

 

「ぐはっ!」

 

「ぐへっ!?」

 

蛙男の腹部にアッパーで放った俺の拳がヒット、また蛙男の頭突きも俺の腹部に直撃し、お互い一度、空中に身体が浮き、地面に落下。

 

俺が蛙男の腹部を殴った直後、蛙男は口から大量の唾液を水しぶきのように発生し、俺の身体にもかかったのだが、これが後々、苦戦する要因になる事に気づくよしもなかった。

 

「かかったな!……俺の目的は君に俺の唾液を浴びせる事」

 

「どういう意味だ?……うっ!?……どうした事だ!?……身体中が熱い……」

 

身体が燃え上がるようなそんな錯覚さえ覚える……それだけではない……頭がボーっとするまでの酷い頭痛も発症。

そして体がだるく、徐々に痺れていく……これでは上手く小宇宙を燃やすことができない。

 

「頭が……割れそうだ……」

 

俺は頭痛のする頭を両手で抑えながら、膝をついてしまう。

 

「僕ちゃんの唾液には猛毒が含まれているのさ!」

 

「猛毒……だと!?……」

 

ケッケッケと俺を見下し、蛙男は膝をついて蹲っている俺を一蹴。

その蹴りは顎に直撃し、軽く吹っ飛ばされる。

 

「俺の猛毒は弱い奴なら即死するくらい強力なんだ!どうだい苦しいかい?」

 

立ち上がる事すら困難な俺はなにもできない……そんな俺を蛙男は迷わずに何度も頭を踏みつける。

 

「ひょ……う……が……」

 

星矢の叫び声も意識が朦朧としてなにを言っているのか分からない……俺に勝機はあるのか……それとも、ここで終わりだと言うのか……。

いや……必ずチャンスはある……俺はアテナと瞬の為にも最後まで、死ぬまで諦めない。

 

 

 

 

SIDE飛影

 

 

俺と幽助は聖闘士チームと黒童話チームの後に行われる都市伝説チームとの対決に備え、観客席から試合を眺めていた。

 

「ほう……あの蛙、見た目とは裏腹になかなかやる」

 

まともに戦えば、氷河の方が上なのだろうが、毒を使って動けなくするとは考えた……この勝負見ものだ。

 

試合を集中して見ている時に背後からお寺の住職のような服装をしたスキンヘッドの男が近づいてきた。

目つきは鋭く、凄まじい妖気を感じる事ができる……何故ならコイツは人間ではなく妖怪だからだ。

名は北神と言い、魔界一柔軟な体を持つS級妖怪で雷禅に仕えていた実力者。

俺は2人だけで十分と言ったのだが、幽助が万が一の為に浦飯チームの3人目として呼んでおいたのだ。

 

「よぉ、北神久しぶり!わざわざ呼び出して悪ぃな」

 

「いえ……遅くなってすいません。外のモニターで試合を見ていたものですから、つい……」

 

「気にすんなって!試合までに来てくれたんだから全然OKだぜ!」

 

「い、痛いですって幽助さん……」

 

幽助はそう言って豪快に笑い飛ばしつつ、北神の背中を力強く叩く……よく言えば大らか、悪くいえば能天気……幽助の性格は死んでも直らないだろう。

 

俺は再び、氷河と蛙男の試合に視線を戻す。

 

「この状況では氷河って言う人は負けですね……」

 

「それはない……この勝負は氷河が勝つな」

 

「え?でも、この状況じゃ勝ち目ありませんよ。ね、幽助さん?」

 

「北神、オメー戦いを見る目落ちちまったのか?まっ……見てりゃ分かるよ」

 

【氷河選手、蛙男選手の攻撃に防戦一方です!】

 

試合はまだ、蛙男が動けない氷河を一方的に殴ったり、蹴ったりしている。

普通の見方をすれば、氷河に勝ち目はない……しかし俺と幽助には氷河と言う奴が刺し違えてでも敵を倒そうとする人間だと言う事に気づいている。

今までの戦いぶり見たところ氷河と言う選手は修羅場を経験している……このまま無抵抗でやられるわけがない……殴られ、蹴られている最中にもなにか考えがあるのだと悟った。

蛙男は自分の毒にかなりの自信があるのだろう……だから一発でトドメを刺さず、何度も甚振っている。

しかしそれが氷河に考える猶予を与えてしまっているのだ……戦いの中では潰せる時に潰しておかなければ、如何に有利な状況でも一発逆転される可能性は高くなる。

それは相手が強ければ、尚更、命取りになりかねない。

 

「さぁて、そろそろトドメを刺そうかな?」

 

「それは……どうかな?……お前の……下半身を見てみろ……」

 

「バカな!?」

 

氷河が考えていたのはこれだ……蛙男、最大の攻撃を生み出す下半身を氷漬けにしたのだ。

蛙男は何も考えずにいたぶっていたのだろうが、氷河と言う男はゆっくりと時間をかけて、蛙男に気づかれぬように徐々に下半身を凍らせたのだ。

 

「あ、足が動かない!?」

 

「水晶聖闘士より教えられし、シベリア仕込みの足封じ技だ……」

 

【氷河選手、蛙男選手の命とも言える下半身を凍結させました!】

 

そして氷河は自分を鼓舞するかのように大きな雄叫びをあげると、力を振り絞って立ち上がる。

 

「バ、バカな!?僕ちゃんの毒を浴びて立っていることなどできんはず!」

 

「かつて戦ったヒドラの市の毒にさえ遠く及ばん!この程度なら、時間が経てば小宇宙で回復させることは造作もない!」

 

「こ、こんなはずでは……」

 

「俺をここまで苦しめたお前に敬意を称して、キグナス氷河、最大の拳で葬ってやろう!」

 

【おっと氷河選手、立ち上がっただけではなく再び白鳥のように優雅に舞っています!必殺、ダイヤモンドダストを放つ気なのでしょうか!?】

 

これは先程、狼男戦で使用したダイヤモンドダストと言う技ではない……同じように見えるが、ところどころで違っている。

 

そして氷河が拳をアッパーカットで真上に冷気を打ち上げ、冷気は空中で巨大な竜巻に変貌。

 

【た、竜巻です!……竜巻が氷河選手を包み込んでいます!大丈夫なのでしょうか!?】

 

「オーロラァァ……サンダァァ……アタァァァァァァァァック!!」

 

そして氷河は両手を組み、その両手から凄まじい凍気の弾丸を放つ……その弾丸は竜巻の中でさらにスピードと威力を増ししていく。

 

【す、凄まじい竜巻です!……私まで飛ばされそうです!……】

 

下半身を封じられて、身動きの取れない蛙男に勝機はない……あの凍気をくらえば、戦闘不能になる事は明白……勝負あった……。

 

凍気が命中し、さらに竜巻が蛙男を吹き飛ばす……蛙男は氷河の発生させた竜巻により、空高く、そして場外まで飛ばされていった。

 

【こ、これは……蛙男選手戦闘続行不能として氷河選手の勝利です!】

 

「す、凄い冷気だ……死にそうだった氷河と言う奴のどこにあんな力が!?」

 

「あいつらは死ぬ覚悟でこの大会に臨んでるからな……そう言う奴らは強い……怖気づいたのなら国に帰ってもいいんだぞ?この大会は俺と幽助だけでも十分だ」

 

そしてその勝利した数秒後に氷河が倒れるが、それを星矢と言う奴が地面に倒れる寸前に氷河を支える。

勝ったとは言え、猛毒に犯されていたところを無理をして戦った氷河に暫く戦いは無理だろう……。

残るは大将の星矢と言う奴のみだ……この勝負、なかなかおもしろくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第7話 紫龍vs紫龍!?怒羅吸螺、驚異の変身!

SIDE星矢

 

俺は蛙男と戦い力尽き、倒れそうになる氷河を支える。

 

「大丈夫か、氷河!?」

 

「少し休めば平気さ……それよりすまない星矢……もう少し俺が倒せれば良かったんだが……」

 

「暫く休んでろ。後は俺がなんとかする。だから次の戦いまでに休んでおけ」

 

強がってはいるが、蛙男は放った猛毒は予想以上の力で氷河を蝕んだ事だろう。

毒を取り除くには氷河の小宇宙を持ってしてもかなり時間がかかるはず……俺は氷河を芝生の上に寝かせる。

 

敵は残り3人……こちらは戦えるのは俺しかいない……意を決し、リング上に上がった。

 

リング上から見渡すと、怒羅吸螺の姿がない……そして逆に敵の2人がリング上にいる。

がちょう番と言う童話に出てくる馬の悪霊で下半身は馬、上半身は人間の剣汰右呂主(ケンタウロス)と兄と妹と言う童話に登場する鹿の悪霊で見た目は普通の美少年だが、二本の大きな角と身体中に茶色い毛が生え、人間では考えられない程、筋肉が隆々としている鹿男。

 

「我が名は剣汰右呂主!」

 

「そして私は鹿男!」

 

「俺は射手座の黄金聖闘士・サジタリアスの星矢!」

 

そして剣汰右呂主は俺にある提案をしてきた。

 

「星矢か……俺たち2人でお前の相手をしていいか?」

 

「なんだと?」

 

少し迷ったが、その提案を受けることにした……その時の俺は気持ちばかりが焦っていた。

早くコイツらを倒せるなら、それに越したことはないからだ。

 

「いいだろう……何人でも何十人でもかかってこい!」

 

【それでは星矢選手と剣汰右呂主&鹿男選手試合開始です!!】

 

剣汰右呂主と鹿男が俺に向かって突進してくる……俺はパンチ一撃……拳の風圧で剣汰右呂主と鹿男を吹き飛ばす。

そして彼らはそのまま倒れて立ち上がらず、試合は10カウントで俺の勝ちだったが、心のどこかでなにかが引っかかっていた。

 

おかしい……剣汰右呂主と鹿男からは氷河を苦しめた狼男と蛙男より強く強大な妖気をプンプン放っているのにあの程度の攻撃だけでダウンするわけがないし突進してくる時もまったく殺気を感じなかった。

なんと言うか……わざと突進して攻撃を受けているようにも感じられた。

 

「やっぱお前、強いな……」

 

「私たちじゃ敵わない……」

 

俺は見逃さなかった……剣汰右呂主と鹿男が立ち上がる時、不気味な薄ら笑いを浮かべていたのだ。

そして姿を消していた、怒羅吸螺がいつの間にか戻っていた。

なにか黒童話チームが企んでいる事に気づきながらも今はそれがなにか分かっていなかった……。

 

「さぁ、逃げはないぞ怒羅吸螺!お前とサシで勝負だ!」

 

俺はリング上から怒羅吸羅を指差し、勝負を申し込むが、怒羅吸螺は必死に笑いを堪えているように見えた。

 

「それはどうかな?」

 

【え~……ただいまの試合ですが、星矢選手と剣汰右呂主&鹿男選手の試合ですが、大将の怒羅吸螺選手が不在にもかかわらず、無断で変則ルールを決めたため、星矢選手と剣汰右呂主選手及び鹿男選手の試合を没収試合及び彼らをこの試合出場停止に致します】

 

「な、なんだと!?」

 

納得ができず、俺は小兎と言う審判に掴みかかる。

 

「ふざけるな!審判、これはどう言う事だ!?」

 

【そうは言われましても……大会本部の判断でして、ルールブックにも大将同士の了解が限り、ルールを変更する事は違反とありましてですね……】

 

氷河は戦える状態ではなく、俺が失格となれば戦える奴は誰もいなくなり、聖闘士チームは失格となる。

アテナと瞬を救う為にこんなところで負けるわけにはいかない……俺は必死に審判に抗議を続けるが、判定は覆らず、戦う人がいないならば聖闘士チームの負けを宣告すると言われ、拳を地面に叩きつける。

 

「くっそぉ!怒羅吸螺……貴様、ハメやがったな!」

 

これですべて合点がいく……そもそも剣汰右呂主と鹿男は最初から俺に勝とうなどとは思ってなかったのだ。

攻撃を受けダウンし、わざと負け、試合を早く終わらせる……全部計算通りだったのだ。

 

【あのぉ……メンバーがいないようでしたら、負けを宣告しますが、どうなんですか?】

 

会場の観客は俺たちに負けをとっとと認めろと騒いでいる……。

 

「こんなところで負けるわけにはいかないんだ……」

 

俺が怒羅吸螺に向かって拳を構えると、その拳をグッと掴み抑えた奴がいた。

誰かと思い、振り返るとそれは意外な人物。

 

「紫龍!?どうして来たんだ!?」

 

「辰巳に聞いたのでな」

 

「辰巳のヤロウちくりやがったのか!」

 

あれだけ紫龍だけには言うなと口止めしたのに……なんて口の軽い奴なんだ……。

紫龍に俺たちが戦っている事を伝えれば、必ず助けに来るのは分かっていた。

 

「紫龍、お前は帰れ!春麗の為にも、生まれてくる子どもの為にもお前を戦いに巻き込むわけにはいかない!だから帰ってくれ!」

 

俺たちみたいな寂しい思いを紫龍の子どもにさせたくはない……俺たちのような悲劇を繰り返してはダメなのだ。

 

「断る!」

 

「なんだと!?」

 

「星矢、お前と氷河の気持ちはありがたい……だが、俺はアテナ聖闘士だ。そして親友が……仲間が必死で戦っているのを見て見ぬフリなどできんのだ」

 

「紫龍、お前……あぁ、頼んだ!」

 

そうだ……紫龍はそう言う義理と人情に溢れた男なのだ。

ここで帰れと言ったところで帰るような男ではない。

俺は紫龍とハイタッチをしてリングを降りる。

 

「任せておけ。俺が戦おう……この試合を乗り切れば、インターバルで1日開く。ここは総力戦だ」

 

【では紫龍選手が聖闘士チームとして戦うと言う事でよろしいですね?】

 

「ちょっと待て審判!試合中に現れた奴が戦ってもいいのか?反則だろ!」

 

【それはですね……】

 

ルールブックを開こうとした小兎の手を紫龍は制止する。

 

「怒羅吸螺とやら、そんな卑怯な事をして恥ずかしくないのか?貴様も男なら正々堂々と戦ったらどうだ?」

 

「卑怯?なんの事かさっぱりだな」

 

「なるほど、怖いのか」

 

「怖いだと?この俺が人間のような惰弱な生き物を怖がるわけないだろう!」

 

「そんなにこの試合の勝ちが欲しいのならくれてやる。その代わり、その惰弱な生き物相手に姑息な手段でしか勝てない情けない奴と言う噂が魔界中に広まってもいいならの話だがな」

 

「いいだろう……そこまで言うのならブッ殺してやるよ!」

 

「それでこそ大将にふさわしい。来い!龍星座、ドラゴン紫龍が相手になってやる」

 

巧い……紫龍の挑発に怒羅吸螺が乗ってリング上に上がる。

おそらく、プライドの高い怒羅吸螺が見下している人間に挑発されたら、すぐにでもその気になると紫龍は呼んだのだろう。

 

【それでは怒羅吸螺選手対紫龍選手試合開始です!】

 

「頼むぞ、紫龍!」

 

今、準々決勝のゴングが会場内に鳴り響いたのであった。

 

 

 

 

SIDE幽助

 

聖闘士チームにはもう一人戦える奴が来た……黒く腰の方まで伸びた長髪を靡かせた青い鎧を纏った男……実況によれば名前はドラゴン紫龍。

きっと紫龍と言う男も氷河に引けを取らない実力を持つ男なのだろう。

これで人数上負けとなっていたら、大会運営に怒鳴り込みに行こうかと思っていたが、心配なさそうだ。

これで聖闘士チームと戦える可能性が出てきた……星矢って奴と戦いたい……久しぶりに俺の魔族としての血が騒ぐ。

 

「紫龍の方が地力が上っぽいな……奇跡が起きない限り、聖闘士チームが準決勝進出だな」

 

飛影が言うとおり、紫龍は冷静だ……負けたら終わりのこの試合なら緊張するのが当たり前だが、巧みに怒羅吸螺の攻撃を躱している。

おそらくカウンター攻撃を狙っているのだろう……一瞬の隙を見せれば、その瞬間に怒羅吸螺の敗北は決まる。

怒羅吸螺も決して弱い妖怪ではない……攻撃力もスピードも黒童話チームの他のメンバーよりも上のはずだが紫龍の実力はその上をいっている。

 

「あれでは疲れたところをカウンターくらって終わりだ」

 

「だな……もうちょい黒童話チームやるかと思ったんだけどな」

 

「冷静に分析している場合ですか!?紫龍とやらのスピードが尋常じゃないんですが?……」

 

怒羅吸羅はいきなり攻撃をやめて、紫龍から距離を取る。

 

「地力では勝てんか……人間相手に使うのは屈辱だが、仕方がない……」

 

「どうした怒羅吸螺?もう終わりか?」

 

「いけっ!俺のかわいい子どもたちよ!」

 

怒羅吸螺のマントから大量の蝙蝠が発生し、紫龍に攻撃する。

 

「くっそ!邪魔だ!」

 

しかしあっさりと紫龍が発生させた霊力に似たエネルギーによって蝙蝠たちを撃退。

だが1匹の蝙蝠が生き残り、怒羅吸螺の手に戻る。

 

「そんな子ども騙しの蝙蝠ではこの紫龍を倒す事はできんぞ?」

 

「お前の首を見てみろ」

 

紫龍が首元を押さえている……まさか噛まれたのだろうか……だが蝙蝠に噛まれたくらいでは怯むはずがない。

 

「この怒羅吸螺の奥義を見せてやろう!秘術!形影血痕!」

 

怒羅吸螺は蝙蝠を食べると、突然苦しみだし、蛹が脱皮するかのごとく、皮膚が剥がれていく。

 

【怒羅吸螺選手、突然苦しみ出しましたが大丈夫なのでしょうか!?】

 

そして剥がれ落ちた、皮膚の中から出てきたのは紫龍だった。

 

【ど、どう言う事でしょうか!?怒羅吸羅選手の中から紫龍選手が出現しました!】

 

「俺の姿を真似してどうするつもりだ?」

 

「これこそ怒羅吸螺、最終の奥義!血を吸った蝙蝠を食べる事で吸った奴の影になれると言うわけだ。つまりお前の必殺技ですらも完璧にコピーできるのだよ」

 

会場中から驚きの声があがるが驚いたのは俺と飛影、北神も同じだった。

声までそっくりで着ている鎧まで、同じ……鎧の色が血のように赤いと言う以外は見た目はまさに紫龍そのもの。

 

先程まで上だった怒羅吸羅のスピードは紫龍と同程度までなっていた。

攻撃力、防御力、スピード共に紫龍とまったくの互角……しかしこれでは決め手がないように思えるが、紫龍にはなにか考えはあるのだろうか……

 

「怒羅吸螺よ……このままでは埒があかん。俺と賭けをしないか?」

 

「賭けだと?」

 

「至近距離から同時に廬山昇龍覇を放ってどちらが立っていられるかと言う賭けだ。俺の姿を借りているとは言え、妖怪のお前が人間に負けるはずなどないなのだろう?」

 

「いいだろう……その賭け、乗ったぞ!」

 

【突如変則ルールが決まりました!果たしてどちらが勝つのでしょうか!?】

 

これは危険な賭けだ……威力もまったく同じとなれば、後は本人の精神力次第で勝負が決まると言う事。

 

そして紫龍と怒羅吸螺がリングの中央に立つと、その会場にいる全員が固唾を呑んで見守る。

 

お互いに力を溜める……紫龍は霊力にも似た濃緑のエネルギー、怒羅吸螺は赤い妖気を体に溜めこむ。

 

「廬山の大瀑布さえも逆流させる紫龍最大の奥義!!廬山……昇龍覇!!」

 

「行くぞ、紫龍!!廬山……昇龍覇!!」

 

技を放った瞬間は同じタイミング……そして同じアッパーカット。

紫龍の右腕には緑色の龍、怒羅吸螺の右は赤色の龍が俺たちには見えた。

そして互いに技を浴びるが、どちらも倒れない。

精神力まで互角だと言うのか……決着は着かなかったと誰もがそう思った。

 

だが突然、怒羅吸螺の鎧が硝子が割れるように粉々に砕け散る。

その僅か、数秒後に怒羅吸羅はうつ伏せに倒れる。

 

「何故だ……攻撃力は同じはずなのに何故俺の聖衣だけが……」

 

「怒羅吸螺よ、まだ自分が負けた理由が分かっていないようだな」

 

「なにぃ?……」

 

「姿形は真似できても聖衣の真の力までは真似できんかったようだな。俺の聖衣は意思を持ち生きているのだ……しかしお前の聖衣は防御力と形だけを模倣した、ただの玩具にすぎん。つまり貴様も聖衣は死んでいる。それが勝負を分けたのだ」

 

怒羅吸羅は両目を開けたまま意識を失い、紫龍の姿から本来の姿に戻っていた。

その姿は自分が負けた事を信じられずにいるようだ。

 

【聖闘士チーム、準決勝進出です!!】

 

さて次は俺たちの番だ……俺と飛影と北神はリングに向かうべく、観客席を立ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第8話 血で染まる赤い帽子!闇闘士の影!

SIDE幽助

 

俺の……いや俺たちの胸は高鳴っていた。

汚い手を使われながらも、奇跡を起こした聖闘士チーム……あいつらなら陣たちを倒してきっと決勝に進むだろう。

そして俺たちの中で本当に聖闘士チームが螢子と蔵馬を連れ去ったのかと言う疑念が生じるようになった。

聖闘士チームの戦いぶりはどこか俺たちと似ている……自分たちの命を賭けてでも守りたいものの為に戦っているように見えるが……。

 

「幽助さん、どうかしましたか?」

 

そんな事を考えていた俺は北神の言葉で我にかえる。

 

「お、おう……なんでもねーよ。で、なんの話だったっけ?」

 

「戦う順番の話だろうが……」

 

「そうだった!」

 

そうだ……今は誰が戦うのかを決めている最中だった。

今までは圧倒的な力の差があったので俺と飛影が1人で5人を相手していたのだが、これからの戦いはそうもいかないだろう。

 

「とりあえず私が先鋒で相手の様子を見ますよ」

 

「いや、俺一人で十分だ。お前は引っ込んでろ」

 

しかし2人とも意見がかみ合わな過ぎる……このままではチーム内でバトルが勃発してしまいそうなので、ジャンケンで順番を決める事を提案する事にした。

 

「またジャンケンか……」

 

飛影はジャンケンと聞いて苦虫を噛み潰したような顔をしつつも、渋々、承諾。

ちなみにルールは3人で同時にジャンケンをして最初に勝った奴が先鋒と次鋒、次に勝った奴は中堅と副将、勝てなかった奴は大将戦だけと言うルール。

その結果、北神が一抜け、飛影が二抜け、俺は大将戦だけとなった。

 

「じゃあ私が最初ですね」

 

「せいぜい惨めな負け方をせんようにするんだな」

 

北神にジャンケンで負けた事が気に入らないのか、飛影はフェンスの前で寝転がり、ふて寝をしてしまった。

まぁ飛影はその不満を試合にぶつけてくれれば、いいとして……俺たちの相手はこれまた凄まじい強さででベスト8に残った赤マント率いる都市伝説チームだ。

正直、このチームは不気味だ……誰一人として声を発しないし大将は赤いマントを着て、素顔見せないし……。

聞いた話によると元々は霊界や人間界で残虐な事件を各地で起こしまくっていた前科のある犯罪者集団らしく、試合を見ていても相手を殺すのを躊躇わないスタンスのようだ。。

都市伝説チームの全員から禍々しく、邪悪な妖気を放っている……ある意味一番危険ななチームかもしれない

 

北神の最初の相手はイギリスの民間伝承に登場する精霊レッドキャップのモデルになった妖怪の赤帽子。

長く薄気味悪い髪、燃えるような赤い眼、突き出た歯に、鋭い鉤爪を具えた、醜悪で背の低い老人の姿をしており、赤い帽子と鉄製の長靴を身に着けて、杖をたずさえている。

 

【それでは浦飯チーム対都市伝説チームの試合を始めたいと思います!】

 

S級妖怪で親父に仕えていた北神なら大丈夫だと思うが……心配事が一つある。

魔界が煙鬼によって統一されてから、北神は断食しているのだ。

妖怪の食料は主に人間で北神は人間に迷惑がかからないようにしているのだが、腹が減っては戦はできぬと言うように北神は空腹状態で戦うわけだ……少なくとも100%の力は出せないだろう。

 

【では北神選手対赤帽子選手……試合開始!!】

 

お互いに数秒の間、睨み合い、北神が攻撃を仕掛ける為に赤帽子に向かっていく。

 

だが赤帽子は地面スレスレを瞬間移動するかの如く、神速のスピードで北神に接近。

さらに北神の長い手が届く前に腹部を杖で殴打。

しかも馬鹿力でゴルフの球を打つかのように北神を空中に打ち上げる。

 

次の瞬間、赤帽子が俺の視界から消えた……いや、消えてなどいない。

目にも止まらぬスピードでジャンプし、北神の頭上にいたのだ。

 

「北神、避けろ!」

 

俺の声も無駄だった……赤帽子の杖が北神の後頭部を捉える。

石が砕けるような鈍い音がして北神は地面に落下。

 

それでも立ち上がる北神だが、立ち上がったと同時に赤帽子の杖の先端がみぞおちを直撃。

 

口から血を吐く北神……赤帽子はその血を地面から拭き取るかのように帽子に血を染み込ませている。

 

【北神選手、赤帽子選手のスピードにまったくついていけておりません!】

 

確かに赤帽子は強敵だが、北神が本来の力を出せれば、柔軟な身体を使ったりして攻撃を回避できるはず……それができないの言う事はやはり空腹の影響で体力が落ちているのだろうか……。

 

 

 

SIDEベル

 

懐かしい匂いがする……そう言えば、水瓶座の黄金聖闘士になる前に一度だけこの暗黒武術会に参加したことがある。

私は人間ではなく妖怪……魔界からアイスランドの雪山に移住した雪女一族の最後の生き残りだ。

人間から見た私の見た目は10代後半に見えるだろうが、少なくとも200年は生きている。

 

「ヤシャ、貴方は人間世界に戻ってもいいのよ?」

 

「この大会の行く末を見守る事もまた一興……」

 

と言いつつ、このヤシャと言う男は星矢たちを心配しているのだ。

もし星矢たちになにかあれば、自分が戦おうとでも思っているのだろう。

 

「それよりベル、君がこの大会を見たいと言ったのは星矢たちが心配だったからだけではあるまい。このヤシャに話してみなさい」

 

さすがはヤシャ……鬼神と呼ばれた金剛夜叉明王の化身なだけはある……なにもかもお見通しと言うわけか。

そう……私が魔界へ来たのは星矢たちの戦いを見る為だけではない。

 

「アイツらの臭いがした……」

 

「アイツらとは?」

 

「闇闘士よ……」

 

私が魔界に来たのは地獄の神であるタルタロスが率いる闇闘士(ダークネス)の気配を察知したからだ……2年程前、平和にもひっそりと暮らしていた私たち雪女の一族をは闇闘士の襲撃にあった。

私たちは戦った……自らの住処を守る為に……でも無駄な抵抗だった。

闇闘士の圧倒的な戦力の前に私たちはなす術もなく、次々と一族は死んでいった。

家族も全員が惨殺されたが私だけ、かろうじて生き残ったものの、あの時に味わった絶望感は計り知れない。

絶望に打ちひしがれた私は焼け野原にされた山奥で意気消沈していた……なにもやる気は起きず、ただ膝をついて泣いていた。

 

そんな時にアテナに聖闘士としてスカウトを受けた……アテナの優しく、慈愛に満ちた小宇宙は私の悲しみを洗い流してくれた。

私たちのような惨劇が人間にも起きないように聖闘士になる事を決め、今に至る。

 

「ですが殆どの闇闘士はアテナによって封印されたはず……残りの闇闘士も霊界の牢獄に入っているはずですが?」

 

「アテナの封印は解けかかっているわ……得体の知れない邪悪な小宇宙が高まっている事くらいヤシャ、貴方なら気づいているはずでしょ?私には分かるの……闇闘士に間違いないわ」

 

数週間前から強まっている邪悪な小宇宙……忘れもしない……闇闘士が私たちの住処に攻め入る前に感じた小宇宙だ。

 

「確かに邪悪な小宇宙は感知していましたが、まさか闇闘士だとは……」

 

「アテナとアンドロメダを連れ去ったのもおそらくは闇闘士でしょうね」

 

「しかしそうだとしても分からぬことがあります……何故、闇闘士たちは我らに暗黒武術会などに出場しろなどと言うのでしょうか?」

 

「私にも分からない……でも奴らがなにか企んでいるのは間違いないはずよ」

 

「アテナも行方知れず、黄金聖闘士のみならず、白銀聖闘士まで数が足りぬ今、闇闘士との戦いになれば苦戦は必至……覚悟を決めなければいけないようですね」

 

私たち雪女の一族は本来、戦闘能力も高い民族だったが、あっさりとやれてしまった……そしてタルタロスは言ったのだ……暇つぶし程度にはなった……と。

その言葉と虫けらを見るような目つきを思い出すだけでも怒りと悲しみがこみ上げてくる。

必ず闇闘士を倒し、一族の敵は討つ……私は無念の末に散った一族のみんなに心の中で誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第9話 奥の手!?北神の本気!

SIDE北神

 

私は赤帽子に苦戦していた……。

 

おそらく赤帽子の実力はS級に限りなく近いA級だろう……私はS級妖怪なので本来ならなんとか勝てるはずなのだが、腹が減って力が出ない。

魔界の王が煙鬼さんになってから一度も食事をしていない……人間を食べる事は煙鬼さんの「人間界に迷惑をかけない」と言う公約に反してしまうからだ。

 

ただし奥の手はある……それは最近、躯が開発した人間の魂に限りなく似せたエネルギー球をカプセル状にしたもの。

人間界で言う栄養ドリンクのようなもので、一度飲めば数日は満腹状態でいられると言う代物だ。

 

ただし開発途上で副作用がある……それは効果がきれた後、3日間は全身に地獄のような激痛が発声する。

霊力や妖力が弱い妖怪が使えば、あまりの痛さに死んでしまう程、激しい副作用を伴うので、使うのは万が一の時の為と決めていたのだが、勝つには使うしかない。

 

私は再び、赤帽子の杖で殴られてうつ伏せに倒れたが、その時を待っていた。

素早く懐から取り出したカプセルを飲み込む……まさしく人間の味がする……それもまさしく極上。

 

力が戻って来た……これなら大抵の妖怪には勝てるはず。

 

うつ伏せのまま、えび反りの体勢から両足を伸ばし、赤帽子の顔面にキック。

 

赤帽子は蹴られた反動でゴロゴロと転がり、リング外に落ちる。

 

【防戦一方だった北神選手、ついに反撃開始です!】

 

カプセルの効果は抜群で力が戻っている……数秒後、赤帽子はピョコッとジャンプしリングに上がって来て、私に攻撃を仕掛けた。

 

「北神!!」

 

幽助さんが私の身を案じてくれているが、心配いらない。

今まで見切れなかった赤帽子の攻撃が遅く感じるからだ。

赤帽子の攻撃を躱し、再び赤帽子の顔に蹴りをいれる。

 

明らかに赤帽子はダメージを受けている……どうやら攻撃力も霊力も元に戻っているようだ。

これなら絶対に幽助さんたちの足を引っ張ることはない。

 

私は勝負に出た……一気に決める。

 

赤帽子の全身を柔軟な身体を紐のように使って締め上げる。

 

赤帽子がどんなに足掻いたところで、私の身体から逃げる事はできない。

息はできず、関節技も仕掛けているので赤帽子は悶え、のたうちまわっている。

 

【北神選手、一気に形勢逆点です!!さぁ赤帽子選手は耐えきれるのでしょうか!?】

 

無理だ……一度、俺の軟体術にかかってしまえば、赤帽子にもう勝ち目はない。

 

そして俺はさらに強く、キツく締め上げる……その数秒後、赤帽子の妖気が感じられなくなった……意識がなくなったのである。

 

【赤帽子選手、戦闘不能として北神選手の勝利です!】

 

「やるじゃねぇか北神!そんなにつえーなら最初から本気出しとけよな!心配して損したぜ」

 

はしゃぐ幽助さんに私は微笑で返した……魔界でも最強と言われた雷禅様の№2として、この大会は負けるわけにはいかない。

 

電光王散破弾

 

 

SIDE桑原

 

ぼたんの奴によれば、浦飯は螢子ちゃんと蔵馬を取り返す為に暗黒武術会に参加しているらしい……。

不意を突かれたとは言え、螢子ちゃんをさらわれたのは俺の責任でもある……だから浦飯が戦っているのに、病院のベッドで大人しくしている事など俺には無理だ。

と言っても今の俺の身体では浦飯の力になる事はできないから、応援だけと言う約束で魔界に来ている。

 

「大丈夫ですか?和真さん……」

 

「あぁ……悪ぃな雪菜さん……」

 

「とんでもない……和真さんにはいつも助けられてばかりですから」

 

優しさが心に沁みる……こんな優しい雪菜さんが飛影の妹だなんて未だに信じられない。

 

「もう少しですよ……和真さん」

 

闘技場へ歩いている最中に4匹の異形の妖怪が現れる。

 

「おいおい、人間がそんなかわいこちゃん連れてるなんて許せない」

 

「かわいこちゃん、人間なんて放っておいて俺たちと遊ぼうよ」

 

「腹が空いてるから喰っちまおうぜ?」

 

「それがイイね!」

 

幽助からは悪い妖怪は殆どいなくなったとと聞いていたが、まだこんな連中がいたとは……。

それとも少なくはなったが、たまたま運悪く、遭遇してしまっただけなのか。

 

「雪菜さん、逃げてくれ」

 

なんとしてでも雪菜さんだけは逃がさないと……だが妖怪たちから守るように俺の目の前に仁王立ちした。

 

「なにをしてるんだ、雪菜さん!?」

 

「和真さんを置いて逃げる事なんでできません。死ぬ時は一緒だとこの前に言ってくれたのは嘘だったんですか?」

 

覚えていてくれたのか……それはこの前、俺が雪菜さんにプロポーズの言葉としてかけた言葉。

あっさりとスルーされたので聞こえていなかった

 

「雪菜さん……」

 

「やめてください!酷い怪我をしてるんです!」

 

情けない……本当はこの俺が雪菜さんを守ってあげるべきなのに逆に守られているなんて……。

 

「やめな!」

 

「やるのなら私たちが相手になろうか?」

 

俺と雪菜さんの背後から2人の女性が歩いてくる。

一人は茶髪でもう一人は緑色のロングヘアー……どちらも仮面を装着しており、素顔を見る事はできない。

だが、まった妖気を感じないと言う事は人間と見て間違いはなさそうだ。

 

妖怪たちの標的が俺たちからその女性たちに変る……あっと言う間に囲まれる女性たち……このままじゃ喰われてしまうと思った時だった。

 

「サンダァァ……クロウ!!」

 

「流星拳!!」

 

2人の女性は霊気に似たオーラを纏い、一瞬のうちに妖怪を粉砕……周りの妖怪たちも俺たちもなにが起こったのか分からず、唖然とし、立ち尽くしていた。

 

「あの……危ないところをどうもありがとうございました!」

 

「気にするな。通りかかったついでだ」

 

今の技、とても人間業とは思えんが……。

 

「あんたらいったい何者だ?」

 

「鷲星座・イーグルの魔鈴。私の弟子が出てるから様子を見にね」

 

「私は蛇遣い星座・オピュクスのシャイナ理由は魔鈴とほぼ同じさ」

 

弟子が出場していると言う事は幽助以外にも今回は人間が参加しているのか……魔界でも最強クラスまでに成長した幽助と飛影が負けるとも思えんが……。

 

「じゃあ私らは急ぐから」

 

「気をつけるんだよ?」

 

魔鈴とシャイナはそう言うと歩いて闘技場の方へと向かって行った。

 

「和真さん、私たちも向かいましょう」

 

俺は雪菜さんの言葉に頷くと、再び、闘技場へ向けて歩き出したのだった。

 

 



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第10話 軟体術vs触手

SIDE北神

 

先鋒の赤帽子に勝った私の次の相手は次鋒の長(ちょう)。

海外の都市伝説に登場するスレンダーマンのモデルとなった妖怪だ。

背が高く極度に痩せていて、異様なまでに長い手足を持った無貌の男で黒いスーツと白いワイシャツを着ている。

顔は麺棒のように白く塗り潰されていて、まるでのっぺらぼうのよう。

 

それにしても都市伝説チームは一切喋らないのが不気味だ……。

喋らずに戦う奴以外はこちらをジーッと凝視している……そこからは威厳を……感じないか。

 

【それでは北神選手対長選手、試合開始!!】

 

長の身長は3メートルはあり、異常な程、手足が長い……と言う事は私と同じタイプの妖怪だろう。

あの長い、手足を使って攻撃して来るに違いない。

だが俺の予想は見当違いだった……長は手足ではなく、背中から生えている触手で攻撃してきたのだった。

 

「むむっ!?」

 

凄い勢いで迫る触手……慌てて避けると、顔面に衝撃が走る……避けた先に長がいて、パンチされたのだ。

急すぎてさすがに回避するのは不可能だった。

 

【長選手、得意の瞬間移動、スレンダーウォーキングで北神選手に渾身の一撃を浴びせました!】

 

「ス、スレンダーウォーキング!?」

 

しゅ、瞬間移動を使うなんて聞いてなかった……角度があり、尚且つ威力もある。

私はリングのギリギリまで吹っ飛ばされてしまった。

 

「北神、言い忘れてたけどそいつテレポーテーション使うから覚えといて」

 

「幽助さん、戦いが始まってから言わないでくださいよ!」

 

自分のミスを笑って誤魔化している…幽助さんを見てため息をついた。

相手がA級妖怪だったからまだ軽傷で済んだもののあれがS級妖怪のパンチだったらと思うとゾッとする。

 

所詮は格下の敵……勝てない事もないが少々、リスクのある戦いになりそうだ。

まぁ私の試合は一応、次鋒までだし多少のダメージはいいか……。

 

まずは長の瞬間移動が厄介なのでそれを封じる事が先決。

それさえ封じれば、なんとかなる。

そして気づいたことが一つ……瞬間移動はどうやら触手で攻撃する時にはできないらしい。

ならば、触手を伸ばした時がチャンスだ……長は私が触手で避ける事が精一杯だと思っているはず。

ならば触手をわざと放たせて、その前に潰す。

 

そしてその時が遂に来た。

 

触手が来る前に長い手足を活かして、長を拘束する。

これではテレポーテーションしたくとも、私の身体から発する妖気に遮られてできないはず。

 

「電光王散破弾!!」

 

電光王散破弾……妖気の弾を両手から無数に放出して攻撃をする技。

そこまで威力は高くないのだが、格下の相手ならば葬る事は可能だ。

それに相手を拘束して、超至近距離から放っているのでA級妖怪の長をノックアウトさせるのには丁度良い技だろう。

 

電光王散破弾を放ち、命中すると俺は拘束していた長から手と足を離す。

 

そのまま長の身体から白い煙が上がっていて、実況兼審判の小兎がカウントを取る。

 

【10カウント!この試合、北神選手の勝利です!】

 

私はため息を吐いて、リングの上から降りると幽助さんと飛影が出迎えてくれた。

 

「よくやったぜ北神!」

 

「やっと終わったか……雑魚相手に随分時間をかけたな」

 

これで一応、私の出番は終わりと言う事だ……少なくともこの試合は。

後は飛影と幽助さんがなんとかしてくれるはず……特に飛影は試合が待ちきれないようだ。

全身からメラメラと炎のような妖気を発生させて、次の対戦相手を待っている。

 

ここからは飛影の戦いぶりをじっくりと見学させてもらいましょう。

 

 

 

 

SIDEシャイナ

 

私と魔鈴は魔界へと足を運んでいた。

獅子座の黄金聖闘士であるシャインに魔界へ行ってヤシャたちと合流しろと言われたからだ。

それに聞くところによると星矢たちがアテナと瞬を取り戻す為に戦っているらしいではないか。

私と魔鈴はそれを聞いて、急いで魔界へ飛んで来たのだ。

 

「よく来ましたね。魔鈴、シャイナ」

 

私たちにヤシャが声をかけるが耳にまったく入ってこなかった。

早く星矢たちの元に駆けつけて一緒に戦いたいと思っていたからだ。

 

「じゃあ私と魔鈴は星矢たちの加勢にいくよ」

 

星矢たちの応援に向かおうとする私の手をヤシャが掴んだ。

 

「なりません」

 

「どうして!?」

 

「シャイナの言う通りだ。この大会は5人制のはず……私とシャイナが加勢にいってなにが悪い?」

 

「貴方たちにはやってもらいたい事がるからです」

 

私と魔鈴は顔を見合わせ、首を傾げた。

 

「実は地獄の神であるタルタロスが復活しかけています」

 

「しかしタルタロスはアテナによって封印されているはず」

 

タルタロスと言えば、冥王ハーデスが拠点としていた冥界よりもさらに下方、にある地獄に君臨していた神。

数いる神々の中でも最も邪悪で魔鈴が言うとおり、神話の時代にアテナに封印されていたと聞いたのだが……。

 

「アテナの封印は弱まっています……解けるのは時間の問題でしょう」

 

「私たちになにをしろって言うんだい?」

 

「タルタロスを復活させようとしている闇闘士の者がこの近くにいるはずです。少なくともこの島のどこかにいるでしょう……ベルと共にその闇闘士を捜してほしいのです。もし星矢たちに万が一の事が起きれば、このヤシャが戦います」

 

確かに今、タルタロスが復活すれば、人手不足の我々では勝てるかどうか……。

私と魔鈴は星矢たちに加勢したい気持ちを抑え、闘技場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第11話 幽助と飛影!成長の証!

SIDE星矢

 

蛙男の毒を浴びた氷河をホテルで寝かせて、俺と紫龍は闘技場へと戻っていた。

全大会優勝チームでこの大会、最も障害となり得る浦飯チームの視察の為だ。

本来は次の対戦相手の風使いの陣チームの試合も観戦する予定だったが、間に合わなかった。

ただ噂によれば、風使いの陣チームと闇武道チームとの試合はかなりの激闘だったらしく、風使いの陣チームは辛くも勝利したものの、2人重傷者を出したらしい。

本来は怪我人が出たことを喜ぶべきではないのだろうが、これで3対3で戦えるのでこちらとしては戦いやすくなった。

氷河が回復すればいいのだが、もし戦えないとなると俺と紫龍の2人で戦わなければならないからだ。

 

現在は浦飯チームが都市伝説チーム相手に2連勝しているようだ……現在は飛影が件(くだん)と言う、人間の体と牛の頭部を持つ半人半牛の妖怪を相手にしている。

 

件の身長、体重は飛影の2倍いや3倍はあろうかと言う巨漢の妖怪……このパワーファイター相手に飛影がどう戦うのか注目して見ていたが、どうも件は遊ばれている。

 

大きな斧を振り下ろすも、飛影のスピードにかすりもしない。

 

「紫龍、飛影はかなりの強敵だな」

 

「そのようだ……あのスピードは光速。黄金聖闘士並みだ」

 

件が攻撃しているのは飛影の残像……そして飛影は件の頭の上に飛び乗ると、剣を脳天に突き刺した。

 

「のろまな牛め!」

 

件は会場中に響き渡る断末魔の悲鳴をあげながら、横たわる。

なんて残酷な事を……いや、ああしなければ逆にやられていたか……都市伝説チームの奴らからは邪悪なオーラを感じる……。

 

【ひ、飛影選手余裕の勝利です!】

 

どうやら次も飛影が相手をするらしいが、次の都市伝説チームの奴はどこかで見たような気がするが……。

マスク、赤いベレー帽、赤いコート、赤いハイヒールにを履いている女……さてどこで見た案だったけか?……。

 

「紫龍、あの都市伝説チームの選手をどこかで見たことある気がするんだが……」

 

紫龍は少しばかり考えると思い出したようで俺に話してきた。

 

「もしかして口裂け女じゃないか?」

 

「それだ!」

 

そう……口裂け女だ。

マスクをした若い女性が、学校帰りの子供に「わたし、きれい?」と訊ねてくる。

「きれい」と答えると、「……これでも……?」と言いながらマスクを外す。するとその口は耳元まで大きく裂けていた、というもので昔、日本中がパニックになった都市伝説だ。

 

【飛影選手対殺傷(せっしょう)選手試合開始!】

 

飛影が鞘から剣を抜刀すると口裂け女も服のポケットから出刃包丁を取り出す。

妖怪の知識に乏しい俺でも口裂け女くらいは知っていたので、ちょっと興味深い……。

 

口裂け女も……いや殺傷もスピードはあるが高速……飛影の光速には遠く及ばない。

 

飛影の剣と殺傷の出刃包丁が交わる……スピードは飛影だがパワーは殺生に分があるか……。

 

鍔迫り合いになっていた飛影は殺生の怪力で弾き飛ばされるが、その前に殺生のマスクを斬っていた。

 

「その醜い顔を見せろ……」

 

やはり口裂け女だ……殺傷の口は耳まで裂けている。

 

「わたし……きれい?……」

 

これも口裂け女の有名な台詞だ。

 

「冗談は顔だけにするんだな……」

 

そんなにはっきり言わなくてもと思うが……その時、口裂け女のオーラがさらに大きく邪悪なものになっていった。

 

「わたし……きれい?……きれい?……きれいきれいきれいきれいきれいきれい!!」

 

【殺傷選手、怒り狂っています!】

 

長髪がオーラの影響かボワッと風が吹いたように靡き、出刃包丁は鎌に変り、飛影に近づいていくが、凄まじい邪気だ。

 

そして目にも止まらぬ速さで飛影の右腕を斬りつける……飛影はなんとか躱したが右腕から出血。

なによりマスクをしていた時よりもスピードが上がっている……これは光速のスピード。

飛影と殺傷のスピードは互角となっていた……それに加え、殺傷には怪力がある。

 

それになんという無茶苦茶な攻撃をするのだろう……殺傷の鎌の扱いは小学生のチャンバラレベルで振り回しているだけ。

しかしそれが逆に功を奏しているのか、飛影に反撃の余地を与えない。

 

そして遂に飛影は殺傷に追いつめられる。

 

殺傷の鎌が飛影の脳天からバッサリと斬りつけた。

 

これでは飛影は即死。

 

誰もがそう思った……しかし殺傷の背中から血飛沫が飛び散ると、殺傷の手から鎌が落ち、髪の毛は元のように垂れ下がった。

 

「甘いな……俺をナメるなよ?」

 

飛影の一言が合図だったかのように殺傷が力なく倒れる。

 

「見たか、紫龍?」

 

「もちろんだ……飛影、怖ろしい男だ」

 

最後、殺傷の鎌を躱し、背後に回り込んだ飛影のスピードは光速を僅かながらに超えていた。

なんと言う実力だろう……次は浦飯幽助が出てくるようだがこの男の実力は飛影クラスかそれとも……。

 

 

 

 

SIDE幻海

 

 

一足先に闇坊主チームを下し、準決勝進出を決めていた。

さすがにこのクラスとの戦いになれば、幽助も本気になるかと思ったが、見た限り飛影すら本気で戦っていない。

初めて出場した時はここまで来るまでですらあっぷあっぷだった連中がよく成長したものだ。

この試合に幽助たちが勝てば、私のチームと当たる事になる。

 

【さぁ!ここで決まってしまうのでしょうか!?浦飯選手対赤マント選手試合開始です!!】

 

「オメーが大将か」

 

「そうだ……我が名は赤マント」

 

「おっ!あいつらと違って喋れるようだな!」

 

「黙れ!あいつらは言葉さえ喋れないし、決していい妖怪たちではなかった……だが俺を慕ってくれていた……大将としてこのままでは奴らに示しがつかぁぁぁぁぁん!」

 

いきなり幽助に襲いかかる赤マント……しかし決着はあっさりと着いた。

 

「ぐはっ!?」

 

幽助は一歩もそこから動かずに赤マントみぞおちに拳をいれる。

腹を押さえて、後退し、倒れる赤マント……さすがに実力が違いすぎた。

 

幽助の戦いを見て、私は度胆をぬかれた……長い人生の中でこれ程まで強い奴を見たのは初めてかもしれない。

格下とは言え、ここまで勝ち上がってきた大将のA級妖怪をいとも簡単に倒すとは……。

幽助は出会った当初と比べて、明らかに強くなっていて……既に攻撃力、防御力、精神力、霊力すべて師匠である私を超えている。

今の強い幽助と戦って死ねるのなら、これ程、武道家として幸せな事はない。

これならば、幽助たちの優勝は堅いだろう……ただし聖闘士チームが次の準決勝に負ければの話だが……。

聖闘士チームは追い込まれたり、強い敵と戦う時に本領を発揮している……彼らが決勝に進むような事があれば、幽助たちと死闘になるだろう

 

「お前たち、今日までご苦労じゃった」

 

金で雇ったチンピラの妖怪たちを帰らせると、私はまだ試合が終わった今もその席でリングを見つめていた。

私の身体は長くない……もう覚悟を決めていた。

 

「戸愚呂……もうすぐ私もお前のところに行くよ……」

 

先に霊界に旅立ったかつての戦友、戸愚呂に心の中で誓ったのだった。

 



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第12話 ヤシャと躯!鬼神と少女の邂逅

SIDEぼたん

 

幽助と飛影が暗黒武術会で必死に戦っている頃、あたしは霊界にいた。

すぐにでも駆けつけたかったのだが、霊界では脱獄が行われていて手が離せなかったのだ。

 

「コエンマ様、大変です!!

 

呑気におしゃぶりをしゃぶりながら、居眠りをしている。

 

「なんだ?……折角寝てたのに……」

 

「寝てる場合じゃありませんよ!脱獄です!」

 

「なんだ……脱獄か……脱獄だって!?」

 

コエンマ様は飛び起きると頭を抱える。

 

「えぇい!防衛隊はなにをしておる!?脱獄したのは誰だ!?」

 

「それが……下級と中級の闇闘士たちでして……」

 

「な、なんじゃとぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

闇闘士は圧倒的な戦力で主であるタルタロスの命により、かつて地獄から霊界、魔界、冥界、人間界を支配しようと企んだのだが、計画は失敗。

主であったタルタロスは神々の力によってどこかに封印され、霊界に進軍していた闇闘士たちは力を失い、霊界の牢獄の中で、凶悪な犯罪者が入ると言われている牢獄にまともて閉じ込めてあったのだが、どうやら力を取り戻したらしく脱獄を始めたのだ。

 

かなりの数を閉じ込めていた為に、選りすぐりのエリート集めた霊界の防衛隊でさえも対処しきれなくなっていた。

 

「まずいなぁ……幽助と飛影に助っ人頼むこともできんし、桑原は戦える状況じゃないし、蔵馬は行方不明だし……」

 

「コエンマ様が戦えばいいのでは?」

 

「うるさぁい!」

 

青鬼で秘書をしているジョルジュ早乙女がいつものようにコエンマ様に茶々を入れて、殴られている。

 

「このままじゃ収拾がつかなくなりますよ!?」

 

このまま全員が脱獄すれば、霊界は終わり……それ程闇闘士は怖ろしい力を持っている集団なのだ。

 

「アイツらに……助けてもらうしかないな」

 

「そのアイツらってまさか?」

 

コエンマ様が言うアイツらに心当たりがある。

それは幽助とも戦った相手、そして今、霊界で処分を審議中の神をも誑かした男。

彼らが霊界の為に働くとは思えないのだが……。

 

「仕方あるまい!ダメ元で頼んでみろ!じゃないと皆殺しにされて終わりだぞ!?」

 

「わ、わかりました!」

 

私は助っ人を呼びにその場を後にしたのであった。

 

 

 

SIDEヤシャ

 

暗黒武術会の準々決勝が終了後、会場を後にした。

 

今日の試合はここまでで、準決勝と決勝戦は1日のインターバルが空き、明日の早朝に行われる。

星矢たちの激励に行こうかとホテルの前まで来たのだが、この島のどこかに潜んでいる闇闘士を捜す方が先決だと思い、島中を歩き回っていた。

 

そして雑木林の中で懐かしい顔と妖気に出会う。

 

「久しぶりだな、ヤシャ」

 

「躯……」

 

雑木林の中で佇む、若き女性は躯……魔界を支配する三大妖怪の一人だ。

 

「この会場に来ていたとは……何年ぶりかな?」

 

顔の右側にレンズがついた布……中性的で整った顔……そして凄まじい妖気。

 

「さぁな……魔界で一度、戦った時以来だな。ところで、久しぶりに会ったんだ。少し話さないか?」

 

躯は横にあった岩石に腰掛ける。

 

「どうした?座らないのか?」

 

「立ちで結構です……なるべく手短に済ませてもらえますか?こっちは忙しいのです」

 

ゆっくり雑談をしている時間など今の私にはない。

一刻も早く闇闘士を見つけなければ、取り返しのつかない事態になりかねないからだ。

 

「まぁ、そう言うな……そう言えば、あの時の礼を言ってなかったな」

 

「その時の少女は、修羅の道へ進み、今では魔界の三大妖怪の一人にまでなりましたか……」

 

「あんたのおかげだよ……こうしていられるのはね」

 

それはまだ私が聖闘士になるずっと前の話だ……幼いころから奴隷として扱われていた名もなき少女を私は助けた。

私は迫りくる追っ手を排除し、彼女を必死で逃がした。

しかし、いつしか背後に逃げ道はなくなっていた……断崖絶壁……絶体絶命。

私一人ならまだしも、幼い少女を庇って戦うとなるとただでは済みそうにない人数だった。

 

だが、その少女は私が制止する暇もなく、崖から川へと自ら、身を投げた。

 

死んだと思っていた……それから数年後、魔界を旅していた私を衝撃が襲った。

魔界で形振り構わずに妖怪を虐殺している躯と言う妖怪がいると聞き、駆除しようと住んでいると言われる洞窟へ向かった。

洞窟には躯に惨殺された妖怪の死体が無数に転がっていた……こんな事をするのは悪い妖怪に違いない。

その昔、私は人間を喰らう魔神だった……しかしいつしか人間が持つ美しい心に魅かれ、改心。

罪を償う為になにか、できる事はないか……そう考えた時に私ができる事は一つ。

人間にとって障害となるべき、邪悪なものたちは排除する事だ。

 

しかし躯と言う妖怪の正体はかつて私が助けた少女の成れの果てであった……戦いに明け暮れ、ボロボロになった体が痛々しく思えた

 

こんな事をするのは間違っている……私は説得した。

しかし躯は決して受け入れようとはしなかった……こうなった以上人間に危害を加える前に躯を葬ろうと考えた私は彼女と戦った。

 

だが躯の妖力は凄まじく、鬼神と呼ばれていた私でさえ驚く程になっていた。

 

このまま野放しにすれば、手が付けられなくなる……死闘の末に私は躯をなんとか追いつめた。

ヴァジュラと言う聖なる武器を使い、躯にトドメを刺そうとしたのだが、私にはできなかった……まだ彼女は改心できる……そう信じていたから。

 

あの時の判断は果たして正しかったのか……人間には危害を加えてはいないが、その後も修羅の道を進み、今では魔界を牛耳る妖怪にまで成長している。

か弱き少女と思って助けたのに結果的には最強の妖怪となってしまったとは皮肉なものだ。

 

「俺は魔界三大妖怪の一人と言われ、あんたはアテナの聖闘士になった……お互いに望んだ道ではないが、こうなる運命だったんだよ」

 

「果たしてそうですかね?」

 

「なにが言いたい?」

 

私には運命だったと躯が自分に言い聞かせるようにしか聞こえなかったのだ……きっとまだ捨てきれてはいない。

 

「君は奴隷以下と扱われた過去の怒りをぶつけていたのだろう?女であることを忘れる為にな」

 

「やめろ……」

 

「君は私と2度目に出会った時、汚れた出来損ないだと言いましたね?それは君が女としての機能を失っているからなのでしょう?子どもが欲しい、幸せに暮らしたい……その思いを今でも諦めきれていないはずです」

 

「やめろ!あんたこそ何人の人間を殺したと思っている!?大方、どうせ聖闘士になったのもアテナの為ではなく、俺が人間界に出て悪さをした時の為の保険なんだろ!」

 

「それについては否定も肯定もしません……」

 

だが、図星だった……躯の言う通りだ。

私は躯が強大な妖怪になる事くらい薄々勘付いていた……聖闘士になれば、情報も得やすくなるからと思いつき、今に至る。

 

「悪かった……ついカッとなった」

 

「いや、私こそ酷い事を言いましたからね……話題を変えましょうか。何故、ここに来たのです?」

 

「部下が出ていてな……その応援だ」

 

「そうですか……私も似たようなものです。知り合いが出ているのでね」

 

「残念だが、優勝は俺の部下がいる浦飯チームに決まりだろうな。飛影と幽助はいずれ俺を凌駕する力を秘めている」

 

「それはどうですかね?聖闘士チームだってしぶといですよ?邪悪な神々と渡り合い、何度も奇跡を起こしてきた彼らなら優勝は間違いないと思いますがね」

 

背後に殺気を感じる……邪悪な気配だ。

 

「ヤシャ、お客さんのようだな」

 

「そのようですね……」

 

私たちは岩石から地面に飛び降りると周囲を警戒する。

ガサガサと音を立てて出てきたのは、ドス黒い聖衣を纏った数十人の男たち。

 

「我らはタルタロス様に仕える下級闇闘士だ!」

 

「ほう……貴様ら闇闘士か。やはりアテナをさらった黒幕はお前らだったか」

 

「ヤシャ、こいつらどうする?」

 

「片づけましょう」

 

「アテナがさらわれたんだろう?居場所を聞かなくてもいいのか?」

 

「構いません……」

 

「ヤシャ、手伝おう」

 

下級闇闘士と自称しているが、実際のところは雑兵だろう……雑兵の分際でアテナの居場所を知っているとは思えない。

 

「たった2人でなにができる!?死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

躯が掌を翳すと、地面が爆発し半分以上の闇闘士が餌食になる。

 

「な、なにが起こったんだ?……」

 

動揺する闇闘士たちに私も躯と同じく手を翳し、小宇宙を燃やす。

 

その小宇宙で電撃を発生させる。

 

電撃は残りの闇闘士たちを包み込み、全員を瀕死に陥れた。

 

「実力は衰えていないな」

 

「君こそ、さらに強さを増しましたね」

 

「話しにならない弱さだったが、闇闘士とはなにものだ?」

 

「地獄の神であるタルタロスの下僕たちの総称です……今のは雑兵。上級を相手にすれば、私とてただでは済まないでしょうね」

 

「なぜ闇闘士はアテナをさらい、あんたを襲う?」

 

「地上はおろか、霊界、魔界、冥界……全てを支配するために動き出したのですよ」

 

刺客が来ると言う事は敵が本格的に動き出した証拠だ。

命に代えてもタルタロスの復活だけは阻止しなければ……しかし何故、闇闘士は暗黒武術会に参加するように指示を出したのか……奴らのメリットはなんだ?。

 

やはり指示を出している上級闇闘士を捜すしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第13話 美しき魔闘家鈴木再び!

SIDE幻海

 

今日はいよいよ、暗黒武術会の準決勝、決勝が行われる日……今日の第一試合は聖闘士チーム対風使いの陣チームだ。

そして第二試合目に私のチームと浦飯チームの試合となっている。

 

それにしても聖闘士チームと風使いチームの試合は中々に興味深い……勝つのは聖闘士チームだろうと予想。

理由は二つ……まず酎、鈴駒と言った実力者たちが離脱した事。

もう一つには陣のチームには穴がいる……美しき魔闘家鈴木だ。

この前の試合は運よく、一番弱い奴と戦ったから生き残ったようなもので聖闘士チームの誰にも勝てないだろう。

S級妖怪までに成長したのは立派だが、如何せん性格に問題がある。

修業を通じて、真面目になったと思っていたが、調子に乗ってすぐにあのふざけた性格に戻ってしまった。

そもそもピエロと言う格好が既にナメている……おそらく今の鈴木はA級程度の実力だろう。

 

しかも初戦から鈴木……相手は紫龍と言う聖闘士。

鈴木ではまず勝てない……氷河が蛙男から浴びた毒はどんなに回復力が高かろうと、1日では抜けきらないはず。

万全ではない氷河にならもしかしたら勝てるかと思ったが、1日休んでコンディションがばっちりな紫龍に勝てるわけがない。

 

「私の名は美しき魔闘家鈴木!」

 

「魔闘家鈴木か俺の……」

 

「どう言うつもりだ?」

 

鈴木の投げたトランプのカードが紫龍の右頬を霞め、切り傷ができる。

 

「鈴木の前に美しいをつけろ!」

 

これには私だけではなく、観客全員からもため息が漏れる……私の元で修業した奴かと思うと呆れる。

 

【魔闘……あっ!美しい魔闘家鈴木選手、試合が始まっていない時に攻撃は禁じられています!】

 

「少なくとも試合が始まってすらいないのに不意にトランプを投げつけるのは美しいとは思えんがな」

 

「黙れ!」

 

鈴木は再び、トランプを投げつけるが紫龍に簡単にキャッチされる。

 

「鈴木、貴様に美しいと言う言葉は似合わん。美しい戦い方を……武人としての戦い方をこのドラゴン紫龍が教えてやろう!」

 

【もぉう!試合開始!】

 

「爆肉鋼体!」

 

どんどんと鈴木の身体が筋肉ムキムキになっていくが、正直、見かけと力が少し強くなるだけの技だ。

そしてボディービルダーのように紫龍に見せつけては大声で笑っている。

なにがおかしいのかまったく分からないのだが……。

 

「私は伝説になるのだぁぁぁぁぁ!!」

 

紫龍にパンチするが、あっさりと盾で阻まれ、手をおさえて悶える。

 

「骨が折れた……なんだその盾は!?」

 

「ドラゴンの盾は88星座の中でも最も強固な盾なのだ」

 

「なら、その盾を破壊してやる!レインボーサイクロン・エクストラフラッシュ!!」

 

波長を変えた妖気を七つ同時に放出する鈴木の必殺技。

修業をし真面目でS級までに成長した時の威力は最早なく、見かけ倒しの頃に戻っている。

 

「な、な、な、な、なにぃぃぃぃ!?私のレインボーサイクロン・エクストラフラッシュを素手で受け止めただと!?」

 

【紫龍選手、魔……いえ美しき魔闘家鈴木選手の必殺技を素手で受け止めました!これにはさすがの美しき魔闘家選手も動揺を隠せないか!?】

 

紫龍がその妖気を右手で握る潰すように、技を受け止め、消滅させると鈴木は劇画のようなタッチになりその場に固まる。

ちょっと動揺するとすぐこれだ……。

 

「鈴木とやら……悪いが、お前の技はドラゴンの盾を使うまでもなかったようだ」

 

すぐさま容赦のない紫龍の拳が腹部を直撃し、鈴木は空中でくの字になり、ダウンする。

 

【紫龍選手の、鋭いパンチが美しき魔闘家鈴木選手にもろに直撃!】

 

「や、やるな……だが、その程度ではまだまだだ!……ってえぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

「廬山……龍飛翔!!」

 

紫龍は龍の闘気を全身に纏い、鈴木に突進する……なんと言う技だ……鈴木の技の威力とは段違いだ。

鈴木程度がまともに喰らえば、ひとたまりもない。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!龍が飛んでくるぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

背を向けて逃げ出す鈴木だが、無駄な抵抗だった。

紫龍の技が背中にヒットし、勢いそのままにリングから何十メートルも先のフェンスに激突。

威力は凄まじく、フェンスに穴が開く程……数分後にフラフラとしながら鈴木は出てくるのだが、そのまま力尽きてダウン。

 

【美しき魔闘家鈴木選手、戦闘不能続行として紫龍選手の勝利!!】

 

その戦いぶりにはさすがに会場中からため息が漏れた……このような醜態を晒すとは……これを教訓に鈴木が再び真面目な性格に戻る事を祈ろう。

 

 

 

SIDEシャイナ

 

あれから島の殆どを捜しつくしたが、結局、指示を出してると思われる闇闘士は見つかっていない。

現れるのは雑兵だけ……さすがに打つ手なしと言ったところだ。

 

「魔鈴、本当にこの島のどこかに指示を出してる奴がいると思うか?」

 

「今は黙って捜すしかないだろう」

 

それはその通りなのだが、闇雲に捜しまわっていても意味がないように思えるが……。

 

「そうかい……じゃあ私は一旦会場に戻って星矢たちの様子を見てくるよ」

 

闇闘士の事はもちろんだが、星矢たちの様子も気になる……。

魔鈴はもう少し調べてから戻ると言うので、私は闘技場へと戻る事にする。

 

会場に戻ると、氷河と凍矢の試合が始まっていた。

 

その試合をヤシャと一人の女が立見席で凝視していた。

 

「ヤシャ、戻ったよ」

 

ヤシャとその女がこちらを振り返るが、その女の凄まじい巨大なオーラに鳥肌が立った。

この女、白銀聖闘士の私がまともに戦っても敵わない……そんな恐怖をおぼえた。

 

「シャイナ、紹介します。こちらは私の古い知り合いで躯」

 

「躯だ」

 

「蛇遣い座・オピュクスのシャイナだ……ヤシャが言うような奴は隅から隅まで捜したけど見当たらなかったよ」

 

「そうですか……魔鈴はどうしました?」

 

「魔鈴はもう少し捜すってさ……ところで星矢たちはどうなってる?」

 

それが知りたい……だから私は戻って来た。

 

「星矢チームが先勝しましたよ……1回戦の相手が残念な奴でしてね。今は氷河が戦ってますが厳しいですね……」

 

ヤシャの言う通り、氷河の動きにいつものキレがない。

小宇宙も弱まっている……どこか怪我をしているのだろうか……。

 

「氷河の動きおかしいねぇ……」

 

「氷河は昨日の試合で毒を浴びたのです……その影響でしょう」

 

「でも昨日だろ!?氷河程の小宇宙を持っているなら毒ぐらい……」

 

躯が私に向かって口を開く。

 

「あれは魔界の毒だ。どんなにタフな奴でも完全に抜けきるのには最低3日はかかるはず……」

 

だが氷河ならきっとやってくれるだろう……星矢、氷河、紫龍は何度も奇跡を起こしてきたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第14話 舞え、白鳥よ!熱き氷上の戦い!

SIDE氷河

 

もう少しだ……もう少しで決勝へ辿り着ける。

 

この試合にさえ勝てば、後は星矢が必ず大将戦を勝ってくれるはず。

 

そんな想いを胸に、俺が戦っている相手は呪氷使いの凍矢。

同じ凍気を操る敵だ……そんな奴に負けるわけにはいかない。

 

だが、状況は苦しい……凍矢は273.195度、つまり絶対零度に目覚めていて、動く速さも光速。

それに加え、俺は昨日受けた毒の影響でまだ眩暈と酷い頭痛がしてフラフラの状態……お世辞にも良いとは言えなかった。

俺と凍矢の凍気がリング上を覆い、リングは凍っていた……氷上は俺の得意ステージなのだが、それは凍矢も同じ事。

下手をすれば、この試合に負けてしまう……凍矢はそれくらいの強敵だ。

 

「もう少し、やると思ったんだがな……この程度か」

 

俺は渾身の力を込めたパンチは凍矢に簡単に受け止められ、逆にカウンターの蹴りを浴びせられる。

 

少し俺は自棄になっていた……ここで負けるわけにはいかない。

そんな気持ちばかりが先行してしまっていた。

 

「ダイヤモンド……ダァァァァ!ストォォォォォ!!」

 

ダイヤモンドダストは確かに凍矢に命中した。

しかし凍矢はダイヤモンドダストの凍気の中を平然と歩いてくる。

 

「そんな赤子みたいな凍気では俺には通用しない」

 

俺は凍矢の拳を顔面に受け、吹っ飛ばされるがすぐさま立ち上がる。

まだ戦える……どんなに傷ついてもこの試合だけは俺がなんとかするべきなのだ。

 

「通用しなくても、通用するまで技を放つまでだ!キグナス氷河、最大の拳を受けてみよ!……オーロラァァ……サンダァァァ……アタァァァァァァック!!」

 

俺の発生させたオーロラサンダーアタックは凍矢を呑みこんだかに見えた……しかし放ち終わった後に凍矢の姿はなかった。

吹っ飛ばされたのか……いや、違う!……俺は後ろに殺気を感じて振り向くが時遅し。

 

「魔笛霰弾射!!」

 

凍矢は手のひらに凍気の塊を数多く作り出し、それを散弾の如く吹いて攻撃してきた。

この技を浴びるのは4度目だ……普段なら実力差が離れてない限り、1度見た技は見切れるはずはずなのだが毒、毒のせいか身体が言う事を聞かないのだ。

それも今までとは違い、今度は超至近距離からまともに浴びてしまい、俺はかなりのダメージを負った。

 

魔笛霰弾射を浴びた直後、目の前が真っ暗になり、俺は意識を失った。

 

なにも見えない……なにも感じない……体も動かない……そんな暗闇の中で俺の名を呼ぶ声が聞こえる。

その声は当初、一人だったのが徐々に増えていった……そしてその声全員に聞き覚えがあった。

仲間である星矢、紫龍、瞬、一輝、かけがえのない大事な人マーマ、かつて戦ったベータ星メラクのハーゲン、聖闘士の先輩である水晶聖闘士、蠍座のミロ、こんな俺でも大切に思ってくれている絵理衣、フレア、兄弟子のアイザック、俺たちの希望アテナが……そして我が師カミュの声も聞こえる。

 

みんなの叱咤激励が俺の心に響く……その時、俺は力が沸いてくるような、小宇宙が一時的に高ぶっていくような不思議な感覚があった。

周囲は暗闇でまったく見えないが、みんなが俺を囲んでいる……我が師であるカミュも傍にいてくれている。

 

「我が師……カミュ……」

 

「お前はもう立派な聖闘士だ。既に師である私を超えている」

 

「私などまだまだです……」

 

「いや、今はベルが装着しているがゆくゆくはお前が水瓶座の継承者になるのだ」

 

「私が……この氷河が水瓶座を?……」

 

「だから氷河、こんなところで負けてはならん。思い出すのだ……かつての苦しくも、地獄のような戦いを何度も経験してきた事をな……この程度で立ち上がれなくなる弱い聖闘士ではないはずだ」

 

そうだ……俺たちは黄金聖闘士やライバルたちと戦い、冥王ハーデスを始め、神々との苦しい戦を何度も経験してきた。

それに比べれば、この程度の大会など子ども騙しにすぎない。

 

「光が見える……カミュ、必ずこの試合、勝ちます!」

 

「その意気だ、氷河!お前には仲間がいる……友がいる……そして私の魂もお前と共にある事を忘れるな!行け!聖闘士の力を見せつけてやるのだ!」

 

「はい!」

 

俺は光に吸い込まれるようにして暗闇から抜け出した……目を開くと、そこは闘技場。

審判の小兎がカウントを取っていた……今こそ燃え上がれ……俺の小宇宙。

 

【8!……9……おっと!氷河選手、凄まじい執念です!魔笛霰弾射を至近距離から浴びて立ち上がりました!】

 

「な、なんてタフな奴だ……俺の魔笛霰弾射を何度もまともに浴びて、立ち上がれる奴など見たことがない……何故だ……何故、そこまでして立ち上がる!?」

 

俺が立ち上がり、凍矢に向かって歩く……凍矢は信じられないような顔でジリジリと後退。

 

「ここで……同じ氷使いのお前に屈したら……我が師であるカミュや水晶聖闘士に面目が立たない!」

 

いや、それだけではない……アイザックやハーゲンは俺を叱咤してくれた……ここで負けては俺に倒された彼らの顔に泥を塗ってしまう事になる。

 

「凍矢……お前は確かに強かった……だが一つだけ間違っている事がある!お前はこの程度かと言ったな?だが、この氷河の真の凍気をお前は知らない!」

 

【氷河、選手の周りのリングがさらに凍結していきます!……そしてかなり寒いです……まるで私は氷の国にでもいるのでしょうか?……ハ……ハックション!】

 

「俺の事を大切に想ってくれている友がいる……仲間がいる……俺と戦い散った者も大勢いる!この身体が傷だらけになろうと、そいつらの分まで俺は戦う!」

 

「凄まじい凍気だ……今までの弱弱しい凍気ではない……これが氷河の真の力だと言うのか!?しかしあんなボロボロの氷河のどこにこんな力が!?」

 

「教えてやろう凍矢……俺たち聖闘士は追い込まれてこそ、最大の力が出せるのだ!」

 

「なるほど……誰かさんのチームとそっくりだな。俺だってここで負けるわけにはいかん!やはり、リスクを犯してでもトドメを刺しておくべきだった」

 

「決着を着ける時だ」

 

「そのようだな……呪氷剣!!」

 

凍矢は自らの右手に氷を張り巡らせ、その氷はやがて鋭い剣となった……その剣には凍矢の凍気が込められている。

あの剣を受ければ、聖衣を着ていたところで意味をなさない。

 

剣を振りかざし、俺に向かってくる凍矢……俺は目を瞑り意識を集中させる。

 

今は俺の小宇宙が最大限にまで高まっている……見える……凍矢が剣を振り上げ、そしてその瞬間に振り下ろした。

 

「氷河、お前!?」

 

俺は凍矢の呪氷剣を両手で掴んだ……真剣白羽取り。

 

そして左手でガッチリと、呪氷剣を掴み、右手で凍矢の腹部に拳をいれる。

 

腹を押さえて、後退する凍矢……その時、再びカミュの声が聞こえた……氷河、あの技を使えと。

 

俺は我が師カミュ最大の奥義を発動するべく、両手で水瓶の形を形成し、頭上に掲げる。

 

【氷河選手が両手を頭上に掲げました!まるで水瓶座を体で体現しているかのようです!】

 

「舞えぇぇぇ!白鳥よぉぉぉぉぉ!オーロラァ!エクスキューション!!」

 

その口から水が注がれるのが水瓶座……だがこの技はそんな生温いものではない。

黄金聖衣ですら凍結させてしまう程の凍気を放つ技……俺は感じる……カミュが俺の背中を押してくれている。

 

「こ、これは……絶対零度すらを遥かに凌駕した凍気!?ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

技を放ち終えると、凍矢が横たわっていた……俺は横たわっている凍矢を抱きかかえる。

 

「同じ……凍気を使う相手に……俺が負けるとはな……」

 

「いや、俺一人ではお前に勝つ事は不可能だっただろう……急所は外しておいた。今はゆっくり休め」

 

「幽助たちは……もっと強いぞ……」

 

「どんなに相手が強かろうと俺たちは絶対に勝つ」

 

凍矢は意識を失った……俺の勝利宣言が発表されたのと同時に、眩暈が酷くなった。

ボロボロの状態でどうやら小宇宙を燃やしすぎたらしい……決勝戦まで俺は暫く休む事にする。

星矢なら、負けるはずがない……。

 

 

 

 

SIDE幽助

 

 

ここは闘技場から少し離れた、洞窟。

 

「幽助か……」

 

俺は幻海の婆さんをずっと捜していた……螢子と蔵馬がさらわれ、何者かが暗黒武術会への出場を強要してきた。

本来は5人で戦うのが暗黒武術会は基本。

飛影と北神はすぐに俺の話に乗ってくれたのだが、それでも三人……だから婆さんに力を借りようと思ったのに、どこにもいなかった。

 

だから暗黒武術会で婆さんを見た時は驚いた……話をしに行こうとしてもすぐどこかに消えてしまうからだ。

 

「婆さん……こんな時になにやってんだよ?」

 

「懐かしい……そう言えば、ここでお前に霊光玉を継承したな」

 

確かにここは婆さんの霊光玉を継承した場所だが、そんな昔話をしに来たわけではない。

 

「幽助……次の戦いだが、命を賭けあおう」

 

「はぁ!?冗談だろ!?」

 

なにを言い出すのかと思えば、命を賭けあうなんてそんなバカな事できるわけがない。

ましてや相手は俺の恩師とも言える婆さんだ。

 

「冗談ではない!」

 

「婆さん……」

 

「お前が私を殺せないと言うのなら、私が殺すから覚悟しな」

 

「螢子と蔵馬がさらわれた……武術会に優勝しないと螢子と蔵馬の命が危ねーんだよ」

 

「じゃあ、なおさら私を殺す気で来ないとな」

 

「なんとも思わねーのかよ!?」

 

「ちなみにその試合は私とお前のタイマン。生き残った方のチームが決勝に進む、それでいいな?……じゃあ試合でな」

 

婆さんは死ぬ気だ……背中が物語っている。

婆さんと殺し合いなんて絶対にしたくない……でも婆さんは本気だ。

もし俺が手を抜くような事があれば、本気で殺しに来るだろう……。

この戦いは最早、とめる事はできないのか……本当に方法はないのだろうか……。

そもそも婆さんはどうして急にあんな命を捨てるようなバカな事を急に言い出すのだろうか……なにか理由があるはずだ。

 

その理由は婆さんは絶対に口では語ってくれないはず。

婆さんなら口ではなく拳で伝えてくる……だったら上等だ。

俺の拳で婆さんの考えを変えさせてみせる……俺は婆さんの背中を見ながらそう誓ったのだった。

 

 

 

 

 



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第15話 翼は天を翔る!伝説の聖闘士、星矢!

SIDE陣

 

この試合に勝てば、幽助たちと戦えただろうに、とんでもない奴らと当たってしまった事を痛感していた。

凍矢は同じ凍気を使う氷河と激闘の末に敗北、妖力値が落ちたとは言え、A級妖怪の鈴木も完膚なきまでに叩きのめされ、残るは俺一人となっていた。

俺が聖闘士チームの大将を倒し、紫龍と氷河も倒さなければ幽助たちとは戦えない。

 

魔界統一トーナメントでは俺、凍矢、酎、鈴駒、鈴木、死々若丸、全員が幽助と戦う事を目標に幻海のところで地獄のような修業をしてきたのに誰一人としてそれを成し遂げたものはいなかった。

 

だから再び、魔界で俺たちは自分より強い妖怪たちに挑み、鍛えてきた……鈴木以外は……。

それなのにまたしても阻まれるのか……また幽助と戦えなえないのか……。

しかし複雑な気持ちだ……幽助とは戦いたいが、目の前には幽助と同等の力を持つ男が立っている……聖闘士チームの大将でサジタリアスの黄金聖闘士、星矢。

実は彼の名前は魔界でも轟いていた……神を殺した人間がいると……。

しかし所詮は噂、そんな奴いるわけがないと思っていたが、その人間が目の前に立っていて、今から対戦するのだ。

 

胸が高鳴り、脈が速くなる……そして尖った耳がさらに鋭くなる。

これは強い相手と戦う時に感情が高ぶった時になる現象だ。

 

「オメー、相当つえーらしいな!俺の耳を見てみろ!」

 

「耳がどうした?」

 

「尖ってるべ?これはオメーがツエー奴だからだ!」

 

こんなに尖ったのは幽助と戦った時以来かもしれない……神殺しの異名を持つ人間と戦える……こんな相手と戦えるなんて滅多にない。

 

【それでは星矢選手と陣選手の大将戦を始めます!】

 

「行くぞ!陣!」

 

【星矢選手、強烈な先制攻撃です!】

 

星矢が拳を前に突き出すと、凄まじい拳圧が俺に直撃し、吹っ飛ばされるが飛翔術を使って空中に浮き、ダウンは免れる。

す、凄い威力だ……こんなの何発も浴びたら、骨折どころの話しじゃない。

 

「やっぱツエーな!」

 

「今のは小手調べだ」

 

「あぁ!そんなの知ってるべ!」

 

凄い威力ではあったものの、星矢はまだ本気を出していない。

本気を出したらどレ程の強さなのか……久しぶりにゾクゾクし耳が尖る。

 

それには星矢に本気を出させなければ……俺は空中に浮き、そのまま垂直に落下。

そのまま俺のパンチが星矢の顔面に直撃し星矢は倒れる。

だが星矢は自ら当たりに来ていた……俺の攻撃力を試そうとでもしているのだろうか……。

 

【今度は陣選手の強烈なパンチが星矢選手に直撃です!】

 

ダウンした星矢だが、ダメージは少なかったようで何事もなかったかのように立ち上がる。

 

「俺の拳を受けて、ピンピンしているなんてな!並みの奴だったら失神してるべ!」

 

「お前以上のパンチを何度も浴びてきたからな。俺を失神させたいのなら、今の100倍の威力で来い!」

 

「100倍かぁ!オメー、おもしろい奴だな!」

 

「お前ほどじゃないさ」

 

「よぉぉぉぉし!ぜってー本気出させてやるべ!」

 

こうなったら星矢になんとしてでも本気を出させたい……本気を出した星矢を倒したい。

星矢は幽助と互角の強さだと思われる……星矢に勝てなきゃ絶対に幽助には勝てない。

 

俺は両手をグルグルと回転させ、小規模な竜巻を発生させる……その竜巻は俺の両腕を包み込む。

 

「修羅……旋風拳!!」

 

【どうしたのでしょう!?星矢選手、自ら陣選手の技を浴びてしまいました!!】

 

空中から勢いをつけ、修羅旋風拳を星矢に向かって放つが、星矢は逃げずにまたしても自ら辺りに来た。

吹っ飛ばされ、フェンスに激突する星矢……さすがに修羅旋風拳をまともに受けたら例え星矢でもかなりのダメージを受けているはず。

 

「今のは効いたぜ……じゃあお返しだ!うぉぉぉぉぉぉっ!」

 

しかし、星矢はすぐさまリングに戻るとペガサスの星座を模るように腰を屈め、両手を動かす。

 

【おっと、星矢選手がペガサス座の奇跡を描いております!!】

 

「ペガサス流星拳!!」

 

【星矢選手、お返しとばかりに目にも止まらぬ速さの光速拳で反撃です!】

 

「爆風障壁!!」

 

周囲の風を操り、一瞬にして風の壁を作りだす技で星矢の流星拳をなんとか弾く。

流星拳を防がれたのを見て、星矢は舌打ちをし、苦笑いを浮かべる。

だが今の技も本気じゃない……100%中の80%くらいだ。

 

「陣、頼むから降伏しろ。お前ほどの奴なら、どちらが勝つか分かるはずだろ?」

 

「それはオメーが本気を出したらの話だべ!それに俺は幽助と戦う為にこの大会に出ただ!自分からそのチャンスを諦めるわけねーべさ!」

 

本気を見てみたいが出さなければ、それはそれで結構……星矢は強いが、本気を出さずに勝てる程、甘くはない。

 

「さぁて……そろそろ決めるべ!」

 

俺は空高く、飛び上がる。

 

「修羅電撃旋風拳!!」

 

さっきの修羅旋風拳に電撃の威力を加えた俺の必殺技だ。

破壊力は先程の修羅旋風拳の比ではない。

 

空中から勢いをつけて垂直に落下、やはりペ星矢は逃げる素振りはなく、リング上に突っ立っている。

もらった!……勝ったと確信したのも束の間だった。

 

「なにっ!?」

 

あろう事か星矢は涼しい顔をして、修羅電撃旋風拳を素手で受け止めたのだ……しかもいくら力を込めても星矢は後退すらしない。

 

【せ、星矢選手、陣選手の必殺技、修羅電撃旋風拳を受け止めています!!】

 

「陣、俺もここで負けるわけにはいかないんでな……ここからは本気で行くぞ!……燃えろ!俺の小宇宙!!」

 

星矢の身体から黄金のオーラを発生させる……身の危険を感じて、空中に退避するが、退避した場所に星矢の姿があった。

星矢の拳が俺の顔面を捉え、かつてない激痛が右頬に走ったかと思うとリング場に落下していた。

躱したと思ったのに……躱し切れなかったのだ。

これは光の速さを超えている……光速を超えた光速拳……これが星矢の本気だと言うのか……。

 

「飛べるのはお前だけではないぞ。サジタリアスの聖衣には羽がある事を忘れるな」

 

これは幽助でも苦戦する程、怖ろしい実力……神殺しを倒した伝説の人間と言うのも頷ける。

 

「もう終わりか?」

 

「まだまだ……勝負は……これからだべ!」

 

「やはり来るか……ならば!!ペガサス……彗星拳!!」

 

「爆風障壁!!……なっ!?」

 

風の壁もペガサス彗星拳の前には無意味だった……さっきのペガサス流星拳の威力が一点に集中し、逆に風を吹き飛ばし、俺にもダメージを与えた。。

 

【星矢選手、陣選手の鉄壁の防御を崩しました!】

 

「まだやるか?」

 

「そんな事……言わなくても分かってるべ?」

 

「なら仕方がない……俺の本気を見せてやる!」

 

この勝負、どちらが勝つかくらい分かっていた……でも退くわけにはいかない。

それに星矢の本気の必殺技がどれ程の威力なのか興味がある。

 

俺はかつてない程、高く上空に舞い上がる……俺のダメージは既にかなりもの……この必殺技に全妖気を賭ける。

 

「修羅……電撃旋風拳!!」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!ぺガサス……流星拳!!」

 

星矢に俺の拳は届かなかった……さっきのペガサス流星拳とは桁違いのスピードと威力だ。

俺の全身を星矢の台風のような拳が襲う……本気のペガサス流星拳を受けた俺に立ち上がる力は残ってはいなかった。

 

「今の……まるで台風みたいだっただ……」

 

審判がダウンのカウントを取り始めたが、もう立つ気も起こらない。

このまま10カウントを取られて俺は負ける……でも満足だ。

幽助に再挑戦すると言う目標は潰えたが、こんなに強い奴と戦えた……上には上がいるものだと改めて感じた。

 

「陣、しっかりするんだ」

 

「オメー……スッゲェなぁ……」

 

この時、聖闘士チームの勝利が決まり、俺たちのチームの敗北が決まった。

俺は星矢の腕の中で幽助と星矢が対決するのを想像しながら暫し、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第16話 幽助の想い!師弟対決の結末!

SIDE幽助

 

もう一つ勝てば決勝戦なのに目の前にいる立ちはだかるのはこの大会で最も相手にしたくかった人物。

それは俺の師匠である幻海の婆さんだ。

婆さんは本気の殺し合いを望んでいるが、婆さんを俺の手で殺す事なんてできない。

 

リング上で俺と婆さんはずっと睨み合ったまま動かなかった……2人だけの世界に入っていたのだ。

実況兼審判の小兎がなにやら言っているが、まったく耳に入ってこない。

 

「幽助、本気で行くよ?」

 

霊気を高めた婆さんの姿は全盛期の若々しい、肉体へ変貌……そして一気に俺に殴りかかる。

 

俺はその婆さんのパンチと蹴りを何度も何度も浴び続けた……時には喀血もした。

受け続けることに意味がある……反撃したら意味がないのだ。

婆さんの想いを……どんな考えなのかを悟るには攻撃を受け続ける必要性があった。

 

【浦飯選手、反撃しようとしません!絵にかいたような幻海選手のワンサイドゲーム!】

 

「行くぞ、幽助!……霊丸!!」

 

婆さんは指先から俺に向かって霊気を放つ……そして、その霊丸を受けた俺には婆さんの想いもなにを考えているのか、どう言う状況なのか、すべてを悟った。

 

「幽助!何故、反撃しない!?」

 

「馬鹿馬鹿しい!……そんな魂のこもってねーような攻撃じゃ反撃する価値もねー」

 

「なら、もう一発喰らえ!霊丸!!」

 

俺は婆さんの放った霊気を片手で受け止め、婆さんに投げ返す。

 

「バカな!?私の霊丸を片手で!?」

 

俺が投げ返した霊丸をジャンプし回避する。

 

「婆さん、なんで俺が婆さんの霊丸を簡単に跳ね返せたか分かるか?」

 

婆さんからの返答はない……しかし俺は口を閉じない。

 

「婆さんがマジで本気出したらいくら俺でも片手じゃ止められねーよ。怪我がなんか知らないがどっか、悪いんだろ?そうなんだろ、婆さん?」

 

婆さんは殺し合いをしようかと言っていたが、あれは口だけでパンチやキック、霊丸には殺気も覇気もこもってなく、霊力もかなり弱まっている。

それは婆さんが、ほぼこの大会を一人で戦い抜き、連戦で疲弊しているからと言う理由だけではない。

と言うより婆さん程の使い手が運よく雑魚同然の組み合わせになって苦戦することなく、上がって来たのに疲弊も糞もないのだ。

 

でも婆さんの眼差しは悲壮感が漂っており、死を自ら望んでいると見て間違いはない……それは怪我か病気で霊力が落ちてきているからに他ならないだろう。

婆さんの性格なら、病気などで死ぬよりは戦って散りたいと思っても不思議ではなく、俺が婆さんの立場でもそうしていると思うが、婆さんをここで死なすわけにはいかない。

 

「黙ってないで、なんか言ったらどうだ?」

 

「そうだ……だが何故、私が病魔に侵されている事が分かった?」

 

「決まってんだろ……婆がそう言ったんじゃねーか。婆さんのその拳がな!」

 

「それで悟れる程、お前は成長していたか……さすがは私の弟子だね」

 

「悲壮感漂わせて死ぬ気満々なとこワリーんだけど、俺、婆さんを殺す気ねーから!」

 

「なにを言っておる!私を倒さなければ、決勝に進めず、螢子と蔵馬を救えんのだぞ!?」

 

「倒さなくても勝つさ……どんなに攻撃を浴びても、俺は負けねぇ!婆さんの気持ちが折れるまで耐えてやらぁ!」

 

「ナメおって!」

 

婆さんの容赦のないパンチと蹴りの連打が俺の全身を襲うが、俺は倒れない。

 

「霊光弾!!」

 

霊光弾……拳に霊力を集め直接、相手にぶつける技で霊丸より威力がある技だが、俺はなんとか踏ん張る。

さすがは婆さんの技だ……こんだけ霊力が落ちていても、かなりの威力。

それでも俺は倒れずに、その場に踏ん張る。

その後も殴られたり蹴られたが、一度もダウンしなかった……ここで耐えられなきゃ男じゃないと何度も自分を奮い立たせて、耐え続ける事数十分……婆さんが俺から間を取り、後方に下がった。

その姿はもう若々しい肉体の婆さんではなく、老人の姿に戻っていた。

ゼェゼェと苦しそうに息をしながら、休憩している。

 

「もう終わりかよ、婆さん?……そんな魂のこもってねーパンチやキックをいくら浴びせたところで無駄だぜ」

 

「なんとタフな奴……これでは幽助の思う壺……なら、これに全霊気を賭ける!」

 

「そうかよ……じゃあ分からせてやんよ!」

 

婆さんが霊丸を打つ構えをしたので、俺も霊丸を放つ為に霊気を指に集中させる。

 

「おい、浦飯!こんな戦い今すぐやめろ!……イテテテ……」

 

「和真さん……大丈夫ですか?」

 

「いいから……黙って見てろ!」

 

桑原がこの戦いをやめさせようと観客席から降りて来たみたいだが、どうやら俺と婆さんが本気で殺し合いをすると勘違いしているようだ。

気持ちはありがたいが、余計なお世話だ。

 

だってこの戦いはどちらもお互いを殺す気なんてないのだから……。

 

「霊丸!!」

 

「霊丸!!」

 

お互いの手から同時に発射される霊丸……婆さんの霊丸はとても巨大な丸く、青い霊気。

俺の霊丸も婆さんと同じ形だが、婆さんの半分もない大きさだ。

 

お互いが放った霊丸がぶつかり爆破を起こす。

俺の放った小さな霊丸が婆さんの放った巨大な霊丸の威力を相殺したのだ。

 

「言っとくけど、俺は半分の力もこめてねーぞ?」

 

婆さんは力を使い果たしたのか、崩れ落ち、膝と手をつき四つん這いのような形になっていた。

 

「見事だ……幽助…さぁ、トドメを刺せ」

 

「できるかよ……婆さんを殺す事なんて俺にはできねぇ!」

 

「甘い!」

 

「甘いのは婆さんの方だろ!」

 

「病気が治らないから殺せだぁ!?笑わせんな!それこそ病気から逃げてるだけーじゃねーか!病気だろうがなんだろうが諦めず最後まで戦ってくれよ!」

 

「幽助……そうだな……私が間違ってた……審判、私の負けだ」

 

婆さんのご乱心も無事、一件落着したが、この後すぐに、聖闘士チームとの決勝戦が始まる……俺たちに休んでいる暇はない。

 

 

 

SIDEぼたん

 

「うっわぁ……酷い……」

 

ここに来ると、吐き気がするから嫌いだ……血なまぐさい臭いと、傷だらけになっても拷問されている人間たちを見るのも不快だ。

ここは冥獄界……生きている時に罪を犯した極悪人たちが収容されている場所。

あたしは冥獄界にいる戸愚呂と言う男に助けを求めに来たのだ……かつては暗黒武術会で幽助たちと敵対したものの、最終的には幽助に自分の全力を引き出してくれた幽助に感謝しつつこの世を去った。

そして武道家としての功績から軽い地獄で済むはずだったのが、本人の希望で霊界で最も過酷な冥獄界に輸送されたのだ……消えない罪の意識を背負い続けているのだろう。

 

「あっ!いた!」

 

久々に会ったが、冥獄界でもトレードマークのサングラスは健在……しかも高身長で威圧感は変わっていない。

 

「なにか用かね?」

 

「戸愚呂、あんたの力を貸してほしいんだよ!」

 

「力をだと?何故、俺が霊界なんかに力を貸さないといけないのかね?」

 

「闇闘士ってのが出てきて、危険な状態なんだってば!」

 

「知った事か。自分たちでなんとかするんだな」

 

「霊界だけじゃないんだよ……このままだったら魔界も人間界も支配される。あんたの亡くなった弟子たちもこう言う時にこそ、あんたのその拳を使ってほしいと思ってるんじゃないのかい?」

 

戸愚呂は数秒間黙ったが、微笑するとあたしの説得に折れた。

 

「いいだろう……だがこれは貸しだね」

 

「それでも構わないよ!感謝するよ、戸愚呂!」

 

あたしは戸愚呂を連れて、冥獄界を出る。

 

「やっと帰って来たか……」

 

「誰だね、お前は?」

 

「お前こそ、なにものだ?」

 

「助っ人を頼まれたものだ」

 

「奇遇だな……俺もだ。だが足を引っ張るなよ?」

 

「その台詞、お前にそっくり返す」

 

「はいはい!ストーーーーーーーップ!!もぉ……仲間割れしてどうすんのさ!?」

 

なんか喧嘩になりそうだったので、あたしが間に入ってとめる。

しかし目的は同じ、仲間なんだから仲良くできないものなだろうか……。

 

「紹介するよ、こちらが元双子座・ジェミニのカノン、で……こっちが戸愚呂、はい二人とも握手握手!」

 

無理やりカノンと戸愚呂を握手させると、あたしはため息をつく。

そして3人でコエンマ様のところへ向かっている最中に戸愚呂に幽助がどうしているのかと聞かれたため、幽助の現状を伝え、霊界特製のタブレットで暗黒武術会の中継を映し出す。

 

「星矢か?しかし何故、星矢たちが……」

 

「今は決勝戦のようだね……って事はこの聖闘士チームが螢子ちゃんや蔵馬をさらったって事か」

 

あたしの何気ない言動がカノンを怒らせてしまったのだ……カノンは鬼の形相をしてあたしの胸ぐらを掴む。

 

「バカを言え!俺と同じで星矢たちは地上を守るアテナ聖闘士だ!誘拐などするわけがない!」

 

「いや……でも、相手の要求は決勝戦に勝つって事だし……」

 

「このポンコツの死神め!これは真の黒幕、闇闘士によって仕組まれたものだと言う事に何故、気付かん!?」

 

「闇闘士が黒幕!?」

 

「あぁ、そうだ!これでは戦力を削り合う事になるぞ!?とっととあの戦いをとめてこい!霊界の闇闘士たちは俺たちに任せろ!」

 

それが本当ならお互いの戦力を削り合う為にこんな事を……戦いぶりを見るに、幽助たちと聖闘士たちが戦えば、まったくの互角。

全員が相討ちになってもおかしくはない……そうなれば闇闘士の計画通りと言うか……これはマズイ状況だ。

なんでもっと早く気づかなかったのかと自分自身を責めたが、そんな暇はない……一刻も早くあの戦いをやめさせないと!。

 

「それじゃあ……喧嘩しないよう頼むよ!」

 

私は空飛ぶ櫂に乗り、霊界を後にした。

 

 



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第17話 勝つのはどっちだ!?英雄たちの決勝戦開始!

SIDE紫龍

 

とうとう決勝戦まで辿り着いた……敵の要求はこの暗黒武術会で優勝する事。

と言う事は今、目の前にいるのがアテナと瞬をさらった連中と言う事だ。

目の前にいるのは浦飯チーム……浦飯幽助、飛影、北神の3人から成り、破格の実力で決勝戦まで上がってきたチーム。

試合を見る限り、かなりの強敵……苦戦は免れないだろう。

さらに氷河はかなりのダメージを負っていて、コンディションはよろしくない……元気に動けるのは俺と星矢だけ。

しかし相手は3人共、コンディションは万全のようだ……準決勝であれだけ攻撃を喰らっていた浦飯幽助でさえ、1時間後にはケロっとしている。

状況はこちらが多少不利か……しかしやるしかない。

 

「星矢、俺が飛影と北神を倒す。大将は頼んだ」

 

【皆様、大変お待たせ致しました!聖闘士チーム対浦飯チームの決勝戦を始めたいと思います!】

 

俺はリングに上がると、そこには北神が立っていた。

 

「先鋒はお前か、北神」

 

「幽助さんと飛影の出る幕じゃないですから。私が聖闘士チームを倒します」

 

「随分とナメられたものだな。このドラゴン紫龍、命に代えても浦飯チームを倒す!」

 

【それでは……試合……開始!!】

 

北神が動き出したのを見て、俺も動き出す。

 

動きはかなり速い……この北神もやはり黄金聖闘士くらいの実力はある……。

 

俺たちはお互いに牽制しつつ、サイドステップで隙を見せるのを待っていた。

 

先に動く出したのは北神だった……急接近し、長い手を伸ばし、パンチをしてくる。

 

俺はそれを盾で防御し難を逃れた。

 

「なんて硬い盾だ……」

 

「ドラゴンの盾は88星座の中でも最強の硬度を誇る。その程度のパンチではビクともしないぞ!」

 

「これならどうだ!霊光散波弾!!」

 

北神は掌から妖気の弾を複数打ち出して来たので、俺は盾でガードする……小規模の爆発が起こり、煙が立ち込める。

この程度の技ではドラゴンの盾は壊せない……しかしこれは目眩しだ。

煙が消えると、北神の姿がなかった。

 

「ここだ……」

 

真上を見上げると、北神の足が顔に直撃。

さすがに今までの戦ってきた敵とは一味も二味も違う……試合を長引かせるのは得策ではない。

ならば……一気に蹴りをつける!。

 

「霊光散波弾!!」

 

俺は再び、それを盾でガードし、真上を見た……予想通り、煙の中に北神の影が見える。

 

「ドラゴン紫龍最大の奥義を喰らえ!……廬山!……昇龍覇!!」

 

廬山昇龍覇はアッパーカットで放つ技……真上にいる敵には有効な技だ。

 

そしてそれは北神にヒット……手応えも確かにあったのだが、北神の身体を俺の拳がすり抜けていくようだ。

 

「バカな!?」

 

「残念でしたね。私は魔界一の柔軟性を持つ妖怪なのを忘れていませんか?」

 

そして北神は俺の身体に自分の身体をロープのように巻き付け、締め上げる……俺はなんとか身体から北神を引き離そうと、もがくが逆効果で余計に苦しくなるだけだった。

 

「無駄ですよ。私の身体はあなたが足掻けば足掻く程、キツクしまりますからね」

 

一転して、俺はピンチに陥った……こんな時、どうすれば、いいのか……手も足も出ないとはまさにこの事か……。

 

「さぁ、いつまで意識が持ちますかね?」

 

そう言えば、老師はこう仰っていた……「手も足も使えん状況になる時もあろう……しかし、諦めてはならんぞ?そう言う時こそ小宇宙は真価を発揮する」……老師が言っていたのはまさに今みたいな状況の事じゃないか。

俺は諦めない……集中し、小宇宙を高める。

 

「燃えろ……俺の……小宇宙!!」

 

小宇宙が全身から湧き上る。

 

「な、なんだ!?このオーラは!?ぐぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

俺の小宇宙が発生させた爆風で身体を締め付けていた、北神が吹っ飛ぶ。

 

「この私の軟体術を破るとは……恐るべし、ドラゴン紫龍」

 

「北神、お前は武人としてミスを犯した。そのミスさえなければ、俺はやられていたかもしれない」

 

「ミ、ミスだと!?」

 

「自分の軟体術を過信しすぎたお前は、俺の体に巻き付いた瞬間、勝ったと確信して気を抜いた……あのまま一気に絞め殺していれば、俺は生きてはいなかっただろう」

 

北神は悔しそうな顔をしている……その表情は明らかに動揺していた。

今が好機……北神は所詮、柔軟な身体を使って技を躱しているに過ぎない……だったら柔軟な身体でも躱せない程の技を繰り出せばいいだけの話だ。

その技は老師こと、我が師童虎より教わった最強の必殺技。

 

「受けよ!我が師童虎の最大奥義である百龍の牙を!……廬山!……百龍覇!!」

 

数多の龍の闘気が北神を呑み込んでいく……これではさすがの北神もどうしようもできないはず。

 

「ダメだ……躱せない!……ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

北神がリングに倒れる……しかしさすがだ……躱しきれなかったとはいえ北神はしっかりと急所に当たらないようにダメージを最小限に抑えている。

 

【北神選手、ダウン!カウントを取ります!】

 

結局、10カウントでこの試合はなんとか勝利した。

だがこの次が問題だ……次鋒の飛影は北神よりも強敵だ……北神戦で百龍覇を使い、小宇宙を消費していた俺にとっては厄介な相手だ。

しかし戦うしかない……俺が負けたとしてもなんとか敵の技さえ引き出せば、星矢か氷河がなんとかしてくれるはずだ。

 

俺はリングに上がってきた飛影と睨み合う……身長は150㎝程度と小柄だが、底知れぬ威圧感を感じる鋭い目、自身に満ちた表情、そして燃えがるような凄まじい妖気……飛影との勝負はただでは済まない事を覚悟しなければならないだろう。

 

 

 

SIDE

 

うちの名は左京マリヤ……都内の進学校、私立盟王学園高校の2年生。

父はうちが幼い頃に蒸発、母親は死んだと伝えられており顔も知らずにいる。

今は父の兄であるおじさんの家で面倒を見てもらっているが、うちの居場所はないに等しい。

おじさんにはうちよりも一歳上の娘がいる……おじさんとおばさんはうちには冷たくあたり、自分の娘には優しくすると言う絵に描いたような継子苛めをしてくるのだ。

 

うちはなんとか褒めてもらおうとして、必死に勉強して都内でも有数の進学校である私立盟王学園高校に進学した。

でもそれは無駄だった……結局、状況はなんにも変らず、愚痴を言われるだけの存在。

 

大して勉強なんて好きでもないのに褒めてもらうと頑張ったのになんだか馬鹿馬鹿しくなって、高校を辞めようかと思った時、あの人に出会った。

薔薇のように赤い髪の毛、女性と見間違えるかのような整った顔……一目惚れだった。

その相手は一つ上の南野秀一先輩だ……南野先輩の事を想うと夜も寝れない。

南野先輩は誰にでも優しいしスポーツ万能で頭脳明晰とあれば、学校中でも一番人気の男子でライバルも多い。

南野先輩への想いがうちを高校に留まらせているのだ。

 

「マリヤ、帰えろう?」

 

「ごめーん。今日は用事があるから」

 

いつも一緒に帰っている友達を先に帰らせると、うちは校舎の前で一人黄昏ていた。

 

夕日を見つめ、自分が何故生きているのかを考える……一緒に帰ろうと言ってくれた友達以外はうちを気持ち悪がっている……それはおじさんやおばさんも例外ではない。

それはうちには不思議な力があるからだ……幽霊が見えたり、念力が使えたりする。

 

「うちなんて、産まれてこなければ良かったのに……」

 

「なーに辛気臭い顔してんの?」

 

「あっ……博美お姉ちゃん」

 

「産まれてこなければ良かったってそんな事ないよ……マリヤは人の為に頑張ってるじゃん?」

 

「そうだといいんだけど……」

 

博美お姉ちゃんはおじさんやおばさんとも違って、うちに優しい。

実はうちが来た当初は気味悪がっていたのだが、失くした愛犬が見守っている事を伝えたり、たまに現れる悪い妖怪から守っていくうちに本当の妹のように接してくれるようになってくれた。

また同じ高校に通っていて、南野先輩と同じクラスなのでうちの印象が良くなるような事を言ってくれているらしい。

 

「お姉ちゃん……うち決めた」

 

「マリヤ、まさか……」

 

南野先輩の存在を知ってから、すぐにうちの周りを取り巻く状況は急激に変わったのだ。

不思議な力を持つうちは霊界から目をつけられ、人間界で起こる怪奇現象を調べる霊界探偵にスカウトされたのだ。

ぼたんとか言う人には今度、また来るからその時までに決めといてと言われたのだが、うちは悩んだ。

今まで成仏したくてもできてない霊などを救っては来たものの、それはあくまで自然の成り行きであってそれを仕事にするのは少し抵抗があったからだ。

その事を姉に相談したのだが、「危ないからやめた方がいい」と言われ、正直、断る方に気持ちが傾いていたが、うちの力を人の為に使いたい……自分の生きる価値を見出したいと思い、霊界探偵になる事を決めた。

 

「うん……」

 

「そっか……いいんじゃない?その代わり、自分が選んだ道なんだからしっかりと貫きとおしなさいよ?もし壁にぶち当たったら遠慮せずにいつでも相談して」

 

「ありがとう!」

 

そう言ってもらえてホッとした……うちは戦う!。

一人の女子高生が霊界探偵に生まれ変わる決意した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 



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第18話 飛影、奮闘!魔界の黒龍と百龍の牙!

SIDE飛影

 

こちらの先鋒だった北神を破った相手、ドラゴン紫龍……どれ程の強さなのか……腕が鳴る。

北神は破れたとは言え、S級妖怪であの雷禅の国家の№2だ……人間の中には俺がまだ見ぬ強敵がいたと言う事か……。

 

【聖闘士チームと浦飯チームの第二回戦を開始したいと思います!】

 

睨み合う俺と紫龍……スピードは僅かながら、俺の方が上だ。

さて……どう攻めるか……魔界の力で剣の切れ味が上がっているとは言え、左腕についている盾は鉄壁で壊せるどころか、カウンターを喰らいかねない。

それに紫龍の打撃系の技はかなりの威力だ……だったらその打撃技を生み出す右腕を使えなくしてしまえば、かなり有利になる。

 

スピードは俺の方が上……俺が紫龍の右半身を狙えば、盾でガードする暇などなく、反射的に右手を使うはずだ。

 

俺は鞘を抜刀すると、得意のスピードを活かして、一瞬のうちに紫龍の目の前まで移動する。

 

さすがにスピードが予想以上だったのか、目を見開かせ、驚愕している。

 

今ならば……紫龍の右半身を狙い、剣を振り下ろすが、なにか硬いものに弾かれた。

 

そんなはずはない……盾は使ってなく、右手で紫龍はガードしたはずだが……。

 

「俺の剣を弾き返しただと!?」

 

「驚いたか?俺は小宇宙を高める事によって、右腕を聖剣エクスカリバーに変貌させる事ができるのだ。それは、かつて戦った山羊座の黄金聖闘士・シュラの残した遺産」

 

そして俺は見た……紫龍の右腕に聖剣エクスカリバーの残像がオーバーラップするのを……。

 

「聖剣だと?……フザけやがって」

 

「ならばフザけているかどうか、その身で確かめるがいい。唸れ、聖剣エクスカリバー!!」

 

紫龍が右腕を振り下ろすと、凄まじい拳圧が俺の方に向かってくる。

 

なんとか真横に飛び、回避した俺だったが、髪の毛数本がパラパラと地面に落ちた。

もし当たっていれば、真っ二つだったと言う事か……。

 

「よくぞエクスカリバーを躱したな。さすがに決勝戦まで残る事はある」

 

「そんな煽てはいらん……」

 

集中すれば、エクスカリバーを躱す事は可能だ……しかしそれは相手も同じく左腕の盾と右腕のエクスカリバーのコンボは厄介だ。

このままでは決定打がなく……いたずらに時間だけが過ぎていく。

 

やはり紫龍を倒すにはあの技しかないようだ……魔界の黒龍を召喚する最大にして最強の俺の必殺技だ。

 

「どうする飛影とやら。俺たちの実力は拮抗しているようだが?」

 

紫龍は俺に必殺技を出す様に仕向けている……だったら望み通り、放ってやる……。

 

「ならば、最大の必殺技で紫龍!貴様を倒す!」

 

「そうか……お前がその気なら、こちらも我が師、童虎より授かりし最強の奥義で対抗させてもらおう!」

 

最強の奥義と言う事は北神を倒した時の技である廬山百龍覇を放つと言う事か……二つの大きな力がぶつかればどちらが勝つのか予想は不可能。

だが、勝つにせよ、負けるにせよここまで戦いを楽しいと思ったのはいつぶりだろうか……。

 

「邪王炎殺……黒龍波!!」

 

「見よ!百龍の牙を! 廬山!……百龍覇!!」

 

俺の手から放たれる黒龍と紫龍の両手から放たれる無数の青龍が中間地点で激突。

威力は僅かながら俺の黒龍波の方が上。

黒龍が青龍をゆっくりとだが、確実に押し返していく。

 

【これは凄まじい龍のぶつかり合いです!若干、飛影選手の黒龍波が押しているか!?】

 

これなら勝てる!……しかし気を抜けば、逆にこちらがやられてしまう程の威力だ。

本来なら互角の威力…だが、紫龍は北神戦で一度使用している為、疲労が見えている。

それが勝敗を分けたのだ。

 

もう少しだ……もう少しで紫龍に黒龍が直撃する。

 

「紫龍、躱せ!!このままだとまともに技を浴びてしまうぞ!?」

 

星矢と言う奴の忠告も聞かず、百龍覇を諦めずに放ち続けている。

俺にはこの紫龍と言う奴の気持ちがよく分かる……俺がもし同じ立場であったとしても、黒龍波を放ち続けていただろう……。

 

「バカめ!自ら死を選ぶとはなぁ!!」

 

俺も口ではそう言いつつも、紫龍と言う男を殺したくはなかった……こいつは根っからの武人といった男だ。

昔の俺なら躊躇わず、そんな事考えはしなかっただろうが、幽助たちと出会い、純粋に戦いを楽しむようになった。

 

このまま百龍波を放ち続ければ、百龍波の威力を吸収した黒龍波が紫龍に直撃……まともに身体に浴びれば、いくら頑丈な鎧を纏っているとはいえ、ただではすまないはずだ。

 

その後、遂に黒龍が百龍を完全に押し返し、爆発し黒煙が立ち込める。

 

【黒龍が百龍に打ち勝ちました!これではさすがに紫龍選手も無事ではすまないでしょう!】

 

煙が消えていく……リング外でうつ伏せに倒れている紫龍の姿があった。

 

鎧はボロボロで盾が木端微塵に砕け散っている。

きっと当たる瞬間に盾を使って、その身を守ったのだろう。

 

【2回戦は飛影選手の勝利です!】

 

「盾で消滅は回避したか……さぁ星矢とやら、戦えるのは貴様一人だ!」

 

紫龍は意識がなく、氷河はまともに戦える状況ではなく、残っているのは大将の星矢のみ。

 

「いいだろう……勝負してやろう!」

 

リングに上がろうとする星矢を氷河が肩に手を置き、制止する。

 

「待て星矢……俺が戦う……」

 

「氷河!?ダメだ、その体では!」

 

「冷静になれ星矢……敵の大将の実力はお前と千日戦争になりかねん……ここでお前に力を消費させるわけにはいかない。大丈夫だ……後一人くらいならなんとか戦える」

 

「バカめ……そのボロボロの身体で俺に勝てるとで思っているのか?」

 

氷河は蛙男の毒がまだ抜けきれてないだけではなく、凍矢との戦いでエネルギーを使い果たしているはず。

今の状態では立っているのでさえ、困難なはずなのに……氷河と言う男をここまで奮い立たせるものはなんなのか……いや、氷河だけではない……聖闘士チームは死を覚悟の上で戦っている。

自分が犠牲になろうとも、なにか信念を持って戦っているように感じる……コイツらが本当に螢子と蔵馬を連れ去ったのだろうかと言う疑念を抱かずにはいられない。

 

【それでは3回戦、飛影選手対氷河選手の試合を始めます!】

 

「無駄だ……その体ではまともに動く事さえできまい。そんなに死にたいのか?」

 

「アテナの聖闘士には死を恐れるような臆病者は一人もいない!」

 

氷河が殴りかかってくるが、やはり本来のスピードもキレもない……余裕で躱せる。

 

殴りかかってきた氷河はその勢いでフラツキ転ぶ。

 

【氷河せんしゅ、フラフラです!この状態で飛影選手に勝つ事はできるのでしょうか!?】

 

「無様な奴だ……」

 

「無様で結構……どんなに無様でも俺は最後まで諦めない!」

 

「お前……クールに気取った奴かと思いきや、意外と熱い心を持っているんだな」

 

「飛影とか言ったか……それはお前も同じ事だろう」

 

「確かにそうかもしれんな」

 

「飛影……お前はなんの為に戦う?」

 

「お前には関係ない……だが、ここで負けるわけにはいかん」

 

「そうか……俺の体力、気力共に既に限界だ。これ以上、戦いを長引かせても無意味」

 

「その体では大した技は放てんはずだ。やめておけ」

 

「それでもやるしかない!……ダイヤモンド……ダァァァァァァ!ストォォォォォォォ!!」

 

氷河のダイヤモンドダストは俺の体を氷漬けにしていくが、すぐさま俺は炎の妖気を使って氷を熔かす。

 

【氷河選手、膝をついてしまいました!!】

 

俺は炎の妖気を使う妖怪……この程度の凍気では俺を氷漬けにする事は不可能だ。

 

「今度はこっちの番だ!邪王!……炎殺煉獄焦!」

 

俺は魔界の炎で拳を覆い、氷河を何度も殴りつける。

 

今の氷河なら、剣も黒龍波を使わなくてもこの程度の技で十分だ。

 

勝った……そう思い氷河に背を向けるが、背後に氷河の気配を感じる。

 

俺が振り向くと、やhり氷河はまだ立ち上がっていた……さすがの俺も呆然として少し固まってしまった。

 

「ただでは……終わらん!フリージングコフィン!!」

 

氷河は俺に向けて凍気を放つが、俺はそれを真横にジャンプし、躱した……いや躱したつもりだったが、ふと下に目を向けると鞘が凍っていた。。

 

「バカめ!最後と足掻きとやらか?……剣が凍っているだと!?」

 

氷河の狙いは俺ではなく、剣を封じる事だったのだ……なんて奴だ……。

しかも魔界の炎ですら熔かすことが困難な程の氷……俺が氷河の方を見るとそれは抜け殻。

氷河は立って、技を放った状態で気絶していたのだ。

 

【こ、これは……氷河選手、戦闘不能と見なし、飛影選手の勝利です!!】

 

その時、鳥の鳴き声のような甲高い音が聞こえたと思ったら、会場のフェンスが炎に包まれ……怖ろしい程、攻撃的なオーラを感じる。

 

「なんだ、この妖気にも似た攻撃的なオーラは!?」

 

その炎の中から悠然と歩いてくる男がいた……紫龍や氷河以上の殺気を含み、こちらに向かってくる。

まさか聖闘士チームにはまだ戦える奴が残っていたのか……しかも一番、強い奴が……。



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第19話 孤高の不死鳥!鳳凰星座の一輝、ここに天翔!

SIDE幻海

 

氷河が敗れた直後、突如として炎の中から現れた男……彼もまた聖闘士なのだろう。

 

「試合はもう始まっている!」

 

「お前を通すわけにはいかん!」

 

「邪魔だ、雑魚どもが」

 

試合中なので警備をしていた妖怪二匹が男を連れ出そうとするも、男の体に触った途端に炎に包まれて跡形もなく消滅。

悲鳴をあげながら、消滅した警備の妖怪たちを見て、私は戸愚呂の事を思い出していた。

戸愚呂も圧力だけで弱い妖怪を消滅させたが、まさしくそれと同じ原理。

 

【ここに来て、乱入者です!】

 

圧倒的な威圧感、恐怖を一切感じていない瞳、体全身から放つ殺気……どれをとっても他の聖闘士たちとは一線を画している。

少なくとも覚悟が違う……他の聖闘士たちは目的があるにせよ、妖怪を殺す事に迷いがあった。

だがこの男は違う……会場全体を皆殺しにしかねない程、殺気を放っている。

こんな怖ろしい殺気と攻撃的なバトルオーラは初めてかもしれない。

 

「誰だ……貴様は?……」

 

「鳳凰座……フェニックス一輝」

 

「フェニックスだかなんだか知らんが、貴様も紫龍や氷河のようになりたいようだな」

 

聖闘士チームは残りが星矢一人、浦飯チームはまだ飛影と大将の幽助が戦える。

状況から見て、浦飯チームが有利だと思ったが、この一輝と言う男によって勝負は互角……いや……聖闘士チームが優勢になったかもしれない。

それ程、この一輝と言う男の出現は戦局を大きく揺るがすだろう……。

 

「連戦で疲れている紫龍と本調子ではない氷河を倒したくらいで浮かれるとはお里が知れるな」

 

「なんだと?……紫龍と氷河が万全の状態じゃなかったから、俺が勝てたような言い草だな」

 

「笑止!……あいつら程の奴がお前のような小物にむざむざと負けるはずあるまい」

 

だが実際にそうかも知れない……もし紫龍が廬山百龍覇を、氷河がオーロラエクスキューションを万全の状態で放っていたとしたらその威力は黒龍波の威力とはまったくの5分……紫龍と氷河が本来の力を出していたら……。

 

「飛影とか言ったか……あの世へ行く準備ができたのならとっととかかってこい」

 

【あ……あのぉ……ルールでは補欠は一名だけでして、紫龍選手がそれに該当するので……】

 

「ルールなど俺にとってはどうでもいい!認められんと言うのなら貴様を殺してでも飛影と戦うまで」

 

【わ、分かりました!……そ、それでは試合開始!】

 

試合のゴングが鳴り、睨み合う両者。

 

飛影なら気づいているはず……一輝がかなりの実力者であり、疲弊していた紫龍や氷河のようにはいかないことを……。

 

「俺を紫龍と氷河のようにするとか言ったな?」

 

「それがどうした?」

 

「口だけではなく、行動で証明して見せよ」

 

「言われなくとも……」

 

一瞬にして一輝の目の前に出現し、殴りかかる飛影だったが拳を右手でいとも簡単に受け止められる。

 

「なにぃ!?」

 

「その程度のスピードではこの俺を捉えようとは笑止!」

 

一輝の左ストレートパンチが飛影の腹部に炸裂し、リングをゴロゴロと転がる飛影。

 

「どんな奴かと思ったが、所詮は小物……俺が目を瞑ってでも貴様では俺に攻撃を当てることはできん」

 

一輝が目を閉じると、会場中が呆気に取られる。

 

【一輝選手、本当に目を瞑っています!】

 

暗黒武術会の前回優勝チームの一員で魔界三大妖怪の一人である躯に仕えるS級妖怪……今では名前を聞いただけで敵をビビらす飛影を目の前にして、人間である一輝が目を閉じて戦うなど妖怪たちにとっては信じられない光景だろう。

 

「調子に……乗るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

怒りに身を任せ、さらにスピードを上げた飛影は瞬間移動のような速さで一輝の背後に現れるが、一輝はクルリと背後を向き、飛影の左頬を殴る。

 

フェニックスの一輝……怖ろしい奴だ……完全に飛影のスピードを見切っている。

万が一、飛影が勝てるとしたら黒龍を取り込んで妖力を高めるしかない。

だが紫龍の時に黒龍波を使い、そこでかなり妖力を消費している……成長した飛影と言えども、使えるのは2回程度だろう……。

飛影の性格からして自分が星矢も倒そうと考えてるに違いない……だから妖力を温存する為に黒龍波を打つことを躊躇っている事は想像に容易い。

 

「まさか……幽助以外で俺のスピードを見切れる奴がいたとはな……」

 

「かつての俺なら見切れていなかったかも知れん……しかし、お前以上の敵と俺は何度も戦って来た……今の俺にはお前のスピードは蠅が止まるくらいノロマにしか感じない」

 

「俺以上の敵だと?……笑わせるな!本当の地獄はここからだぞフェニックス!」

 

「地獄?……地獄を渡り歩いてきた俺に地獄を見せるとは笑止千万!地獄を見るのはお前の方だ飛影!……フェニックス!……幻魔拳!!」

 

なんだ……今の技は?……飛影が立ち上がったと思ったら急にいきなり崩れ落ちて、ブルブルと震えている。

いったい飛影になにが起こったと言うのだろうか……。

 

 

 

SIDE飛影

 

 

俺は暗闇の中に佇んでいた……助けて……助けて……俺に助けを求める声が聞こえる。

 

「こ……この声は……」

 

その声には聴き覚えがある……妹の雪菜の声だ。

雪菜が俺に助けを求めている……助けに行こうとするが、体が動かない。

 

「何故、動かん!?」

 

徐々に視界が明るくなっていく……目の前には雪菜が下級妖怪たちに襲われている。

 

だが十字架に身体を縛り付けられているようで、手も足も動かない。

 

「貴様ら、ただではおかんぞ!」

 

振り向いた妖怪たちはかつて俺が盗賊をしていた頃に殺してきた妖怪たちだった。

 

「飛影、自分がどんな状況に置かれているのか分かってるのか?」

 

妖怪たちの鋭い爪や牙が雪菜の体を切り刻んでいく……悲鳴をあげる雪菜……見ていられない。

 

「貴様らが憎いのは俺だろ!?どうして雪菜を襲う!?」

 

「お前に地獄を見せる為だよ……俺たちがお前に受けた地獄をな!」

 

「やめ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

雪菜の体から血飛沫が飛ぶ……絶望……雪菜を守りきれなかった……。

 

「次は飛影、お前の番だ!」

 

そして妖怪の鋭い爪が俺の心臓を貫いた……。

 

【飛影選手、どうしたのでしょうか?……急に苦しみだしましたが……】

 

ここは……リングの上?……後ろを振り返ると雪菜は怪我をしている桑原を支えている……。

 

「まさか……俺は幻覚を見ていたと言うのか……」

 

「その通り……フェニックス幻魔拳は心の中に潜む恐怖を映し出し相手の肉体よりも精神を破壊する……なぁに、安心しろ、今のは単なる様子見程度」

 

「ふざけた幻覚を見せやがって……貴様には死が相応しい!!」

 

俺は雪菜が無惨な殺され方をする幻覚を見せられ、完全に頭に血が昇っていた。

一輝を倒すにはこれしかない……頭につけている包帯を外すと俺の額から第3の眼が出現する。

 

「炎殺!……黒龍波!!」

 

紫龍との戦いでも使用したように魔界の黒龍を召喚する技だ。

 

それを一輝は受け止める。

 

【一輝選手、なんと黒龍波を受け止めました!!】

 

「飛影……この程度のパワーでは俺を倒すことはできんぞ!」

 

一輝が押し返した黒龍波が俺に直撃する……俺はこれを待っていた。

 

黒龍波は敵に対して放つイメージが強いが、根本的には黒龍を召喚し、取り込むことで能力を爆発的に高める技である。

自らに放ち取り込み妖気を飛躍的に上昇できる代償に体力の消耗も激しく、使用後は消耗した妖力・体力を回復するための深い眠りが待っている。

 

本来は星矢を相手にした時に使おうと思っていたのだが、一輝を倒すには使うしかない。

 

妖気が……霊力が……気力が漲ってくる。

 

今の黒龍を喰った俺が負けるはずがない!。

 

「一輝、今までのようにはいかんぞ……」

 

「飛影……お前、黒龍の力を体内に取り込んだか」

 

おそらく一輝には見えているはず……俺の妖気と共に黒龍の姿が浮かび上がるのが……。

 

聖闘士チームは霊力のような力を持つ人間……おそらく纏っている鎧がその力にブーストをかけているのだろう。

 

だったら、その鎧を破壊すれば、防御力は生身の人間……こちらが有利に立てる。

 

狙うは……鎧だ!。

 

俺はさっきとは比較にならない程のスピードで一気に迫る。

 

「邪王炎殺煉獄焦!!」

 

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

俺は一輝の全身に万遍なく、拳で滅多打ちにする……魔界の炎と黒龍の力で強化された力で一輝の着こんでいた鎧を粉々に破壊する。

 

「邪眼の力をナメるなよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

最後のパンチを鎧が壊れて、生身である一輝のみぞおちに放つと、一輝はリングの端に吹っ飛ぶ。

 

【一輝選手、ダウンです!それではカウントを取りたいと思います!】

 

さすがに黒龍の力を借りた俺の本気のパンチを受けて、起き上がれる人間……いや……生き物などいないはず。

 

【5!……6!……一輝選手、飛影選手の怒涛の攻撃を浴びてもなお立ち上がりました!】

 

「飛影、どこへ行く?……まだ俺は死んではいないぞ!」

 

立ち上がっただと!?……手加減なしの俺の技を喰らって立ち上がる奴など到底信じられない。

まさか一輝と言う男はその名の通り、不死鳥そのものだとでも言うのだろうか……。

いや……一輝だけではない……聖闘士はボロボロになりながらも立ち向かって来る……彼らを突き動かしているのはいったいなんなのだろうか。

 

「生きていたのか?……どちらにせよ、傷口が広がるだけだ」

 

「飛影、俺は全身を八つ裂きにされようと骨が砕かれようと戦うぞ!」

 

「鎧もなしでどうやって戦うつもりだ?」

 

「聖衣の事か……飛影、教えてやろう……不死鳥は死なん!この俺が小宇宙を燃やし続けている限り、何度でも蘇るのだ!」

 

一輝の周辺に炎の渦が巻き、一輝を包み込む……熱風が強烈で立っているのがやっとだ。

そして俺は感じた……その炎の渦の中で一輝の小宇宙とやらが回復していくのを……。

 

炎の渦が消え……その中から現れた一輝は壊したはずの聖衣が元通りに戻っている。

 

しかも一輝の小宇宙もさらに強さを増している……これは想定外だ。

まさしく不死鳥の二つ名に違わぬ、強さと聖衣……ここまで来て……黒龍波を使ってまで負けるわけにはいかない。

 

「貴様の聖衣が不死身だと言うのなら何度でも破壊してやる!……邪王!……炎殺煉獄焦!!」

 

一輝を目掛けて再び、炎殺煉獄焦を繰り出すが、俺の目の前から一輝の姿が煙のように消える。

 

「なにぃ!?」

 

「聖闘士に同じ技は二度は通じぬ!これは最早常識!」

 

躱された……黒龍の力でで強化されたスピードを躱すなんて事は到底信じられなかった。

 

負けた……背後に一輝の殺気を感じる……俺のスピードを持ってしても、もう避けきれない。

 

「その身で受けろ!星をも砕く鳳凰の羽ばたきを!……鳳翼……天翔ぉぉぉぉぉぉ!!」

 

振り向くと、一輝が伸ばした両腕から強烈な爆風が発生……その爆風はフェニックスの姿に形を変えて、俺を呑み込む。

全身に受けた事もない激痛が走る……これはまるで炎の拳……そして俺の黒龍波の効果が切れ、意識を失ったのだった。

 

 



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