ガールズ&レイバー (恵美押勝)
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プロローグ

初めまして!恵美押勝と申します!初めてネット小説に手を出したのでお見苦しい点もあるかと思いますが暖かく応援していただければ幸いです。それでは本編をどうぞ!


 

___暗い暗いそれは冷たい水の中に一人のその水の暗さに勝るとも劣らない黒い服を着た少女がいた。少女は息ができないのを耐え水中に沈みつつある一つのレイバーのコクピットに近づいていた、そしてとうとうコクピットにたどり着き外側にある緊急用ハッチを捻り内部に水が大量に流れ込んでしまわない内に赤毛の少女らの手を握った、次の瞬間低い何かが爆発したような音が上から伝わってきた、少女らはそれに構わず一心不乱で水上を目指した、心臓の鼓動が早くなっているのを感じる。水上に出て大きく息を吸うと脳が酸素をより求めてそれを痛みとして訴えてくる。頭痛が少しおさまったころ鉄の焼けるような匂いがした。少女の心臓の鼓動が再び高まった、恐る恐る顔をあげるとそこには主人を失い横たわっていたレイバー「ブロッケン」が敗北を告げる白旗を上げていた。

__悪夢だ、これは夢に違いない

しかし無情にも心臓と頭が現実を訴えてくる。そして細い金切り声が頭上から聞こえてくる銀髪の少女....そして少女は崖の上から水上にいる少女に向かってこう叫んだ

「西住 みほ 」 と

銀髪の少女が大声で自分を呼ぶ声と同時に機械的な不快な音が聞こえたそれらが頭の中をぐちゃぐちゃに掻き回し平衡感覚が分からなくなったところで彼女、この物語の主人公である西住みほは目を覚ました

「またあの夢かぁ....」

ベットから起き上がり規則正しい機械音を告げるイルカ型の時計のボタンを押した、みほは背中と額にヒンヤリしたのを感じそれをベットの近くにあったタオルで拭った、徐々にぼんやりとしてた意識が覚醒する。ふと辺りを見回すと周りの景色がいつもと違うことに感じた、自分以外誰もいない自分のみの世界がそこにあった。そこで彼女の意識は完全に覚醒し悪夢から解放され安堵する

「そうか!もう家じゃないんだ!」

壁にかけてあるハンガーから制服を取って着替え、バタートーストと牛乳だけの簡単な朝食を済ませ歯を磨いて家を出た。上機嫌な心地で寮の階段を降りようとする。ふと、鍵をかけたか不安になった。急いで引き返しドアノブに手を触れて引いた

「よし、鍵はちゃんとしてあるね」

安堵した彼女は再び上機嫌な心地で寮の階段を降りて彼女が住んでる街へと繰り出した。この街はごくありふれた街だが我々が知る街とは少し違う。この世界では学園艦と呼ばれる空母の甲板上に学校が置いてあるのが多数存在してるのだ彼女が住んでる街「大洗女学園」もその一つである。

少し街を歩くとコンビニが見えた、何の変哲もないコンビニだが彼女にとっては地元で見た事がない新しいコンビニだった、学校終わったらそこによって甘いものでも買ってのんびりしよう....そう思った矢先頭の部分に衝撃が走った

「あいたっ!」

よそ見したのが災いし電柱に頭をぶつけてしまっていたのである、

言い忘れてことがあるが彼女....「西住みほ」は『超』がつく程のうっかり屋なのである

そんな少女がこの街「大洗女学園」の運命をも左右とはまだ誰も知る由もなかった…

 

 

 

 




今回はここで終わりとさせていただきます、次回からはもう少し長くしようと思います。この物語は基本的にはガルパン本編を軸にしてまぜオリジナルエピソードや展開をちょくちょく挟むと思います。それではご視聴いただきありがとうございました!


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特車道、始めます! part1

ど〜も恵美押勝です!いやぁノリと勢いでのアンツィオ式で始めたこの小説、意外と反応があって嬉しいものであります(単純バカ)
それでは本編をどうぞ!


電柱にぶつけた額を摩りながら歩くこと10分、みほが通う学校「大洗女学園」の校門が見えた。時間に余裕がある登校だ、少し眠いし教室に入ってから寝ようそう思いながら自分の教室へと入っていった。教室には既に数人がいた、しかし彼女らはみほの存在に気づかず彼女自身も声をかけることが出来なかった。

__西住みほは転校生である、諸事情により熊本からここに来た。転校生と言うものは最初こそチヤホヤされるがある程度時間が経つと「転校生」と言うラベルの効果が無くなってしまうのだ。良くも悪くも特徴がない彼女はそのラベルの効果がある間に自ら声をかけたり友達を作ろうとしなかった...いや出来なかったのである、人と話すのが極度に苦手な彼女は他人の受け答えが精一杯なのだ、ましてや自ら声をかけようなんてとてもじゃないが出来やしなかった.

 

ともかく彼女は1人も気づかれることなくホームルームの時間まで寝ていた、目が覚めたのはホームルームを告げるチャイムが鳴ってからだった。眠気も取れ彼女はこれから始まる授業に身構える。授業が始まりノートにカリカリと書き、黒板を見てまたノートにカリカリと書く。こんなことを何十回してる内にあっと言うまに時間は流れもう昼休みの時間である。回りの人達は既に食堂に大急ぎで行っている、急がなければ食堂で待ちぼうけしてしまうそう思い急いで椅子から立ち上がろうとしたがこれがいけなかった。前にも言ったが彼女は「超」が付くほどのうっかり屋である膝が机の下にぶつかりその反動で上に置いていたペンが落ちてしまった、慌てて拾おうとするが不運は重なるもので今度は頭をぶつけペンケースが派手な音を立てて中身をぶち撒けた。『もう嫌になっちゃうよ....』彼女は心の中で呟きながら一つずつ拾った、全て拾いこれから食堂に行こうとした時突然何処からか声がした

「ヘイ彼女!お昼一緒にどう?」

辺りをキョロキョロと見回すとそこに淡い茶色の少女と黒い長髪の少女が立っていた。みほは信じられなかった、彼女の名前は知ってる「武部沙織」と「五十鈴華」だ。だがどうして彼女らは自分なんかに声をかけたのだろうか、今まで面識らしいものは無かった筈だ。そう思考がグルグル回転し声にならない声が出たところで華が口を開けた

「ほら沙織さん、西住さんびっくりしてるじゃないですか」

「あぁ、いきなり声をかけてごめんね西住さん」

「改めて私たちと一緒にお昼どうですか?」

何故だ、何故自分なんかと昼ごはんを食べたいのか。その考えが思わず声に出てしまう

「あの...私なんかとですか..,!?」

震えながら出した声に彼女らは優しく微笑みながら頷いてくれた。

 

大洗女学園 食堂

幸いにして食堂はそこまで混んでおらず食券を買い並んだ、その間に沙織が「ナンパしちゃった」と笑いながら言った。

「私達一度西住さんとお話ししてみたかったんです」

「え、そうなんですか?」

「なんか西住さんいつもあわあわしてて面白いんだもん」

....「面白い」初めてこの地で受けた人からの評価が「面白い」とは....みほは困惑したがなんだかおかしな気分になり笑った

沙織はハッとしたような顔で自己紹介したが生憎彼女は2人の名前、誕生日を知っていた。こんなことがあろうかと入学前に名簿を全て暗記していたのだ。しかしまさか役に立つときが来るとは彼女自身予想できなかった、その話を聞くと沙織は「やっぱり西住さんは面白いよね」と言いこう付け加えた

「そうだ、いつまでも西住さんではアレですし名前で呼んでいいかな?」

「『みほ』って」

この地に来てから初めて名前を呼ばれた、今まで友達に縁がなかった自分が名前で呼ばれた。まるで友達が出来たかのようだ、彼女は歓喜し目の前に配膳されたサバ味噌に定食をまるでバレエを踊るが如く運ぼうとしてこけそうになった。やはり彼女のうっかり屋は死んでも治りそうにない

 

適当なテーブルに付きご飯を食べ始める

「良かった、友達が出来て。私大洗には1人で来たから」とみほは言うそれに対してすかさず沙織が

「ま、人生色々あるよね〜三角関係とか泥沼の争いとか恋人に振られるとか」

何故か恋愛の話ばかりであるがみほは苦笑いしてスルーした

今度は華が

「ご家族に不幸とか?骨肉の争いとか遺産相続とか」

ドラマの見過ぎである、彼女の家はややこしいが決してそんなヤクザな家系ではない

「そう言うわけでもないんだけどね」

そう言いお茶を濁すと沙織が親の転勤関係かと聞いてきた。

親...その単語を聞いた瞬間みほは急に黙り込んでしまった。一気に空気が重くなる。

しまった、触れてはいけないワードに触れてしまった。そう察した沙織達はは話題を変え空気を戻した

 

 

_______生徒会室

みほ達が昼食を済ませてる間電気が消されて太陽の光しかない薄暗い部屋に3人居た。ここは生徒会室、そして彼女らは生徒会員である。ここでの生徒会の権力は恐ろしいまで強力で学園艦の形式上のトップで理事長よりも強いとの噂が絶えない。そんな生徒会のトップ、生徒会長である角谷杏は副会長の小山柚子から怪訝の声で質問を受けていた

「それは一瞬の情報操作なのでは…」

「大丈夫大丈夫」と杏は呑気な声で答える。

それに対して広報の河嶋桃は直ぐに取り掛かると答えた。

彼女らは早速生徒会室から出て目標の地へと向かった。

生徒会室は静寂に包まれた

 

みほの教室

昼飯を食べ終わり彼女らは雑談していた。沙織がモテて困ってると言うこと(華曰くそれはないと言うことである)そんな風にモテるのは沙織がフレンドリーだからだとみほは本心で褒めた。沙織は彼女とはまるで真逆のような人物だと思ったからである、そうやって話してく内に昼休みの終わりが近づいてきた。名残惜しいが一旦これにてお開き…と思った矢先に自分を呼ぶ声が聞こえた

「やぁ西住ちゃん」

入り口を見ると3人組の少女が見えた。真ん中にいるツインテールの少女が自分の事を呼んだのだろうかこのツインテールの少女は誰だ?何故自分を知ってる?困惑してる彼女に沙織が彼女らは生徒会で呼んだのは生徒会長であると耳打ちしてくれた

その生徒会長が自分の席に近づきこう言ってきた

「必修選択科目なんだけどさ、特車道取ってね。んじゃ宜しく」

特車道…みほはビクビクと震え冷や汗を流し震えながら訪ねた

「この学校には特車道はないはずじゃ…私特車道が嫌でこの学校に転校して来たんですけど…」

すると桃が今年から復活したと残酷な真実を告げた。

「必修選択科目は自由の筈じゃ…」そんな彼女の悲痛な声を遮るように杏はとにかく頼んだわと言ってそのまま帰ってしまった。




はい!今回は杏がみほに選択科目を迫るところでお終いとさせて頂きます!次回は特車道についての本格的な説明、そしてみほがレイバーを見つける所まで進めたいと思います。それではご視聴ありがとうございました!


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特車道、始めます!part2

どーも恵美押勝です!昨日は忙しくて更新出来ませんでした。申し訳ありません、お詫びと言っては何ですが今回の話はいつもより長めとなっております。それではごゆっくりお楽しみ下さい!


________一方的だ余りにも一方的だ。みほは杏に特車道を進められたのもそうだが存在することを知ってしまい脳のキャパシティが限界突破し思考停止状態になってしまった

…昼休みを終えるチャイムがなり沙織達は心配そうな目で見ながら自分の席へと座った。

 

 

「どうして」「何故」「特車道」「強制」「悪夢」様々な負の感情が押し寄せてきた。もはや昼休みの彼女とはまるで別人であった。そんな中自分を呼ぶ声が再び聞こえた、教師が自分を当てたのだ。そのことすら気づかずボーッとしてると保健室に行くことを勧められた。

 

保健室

みほ以外にも沙織、華が一緒について来てくれた。友達になったばかりとは言え尋常じゃない様子を心配し思わず自分達も保健室へ行くと言ってしまったのである。静寂を割いて沙織が訪ねる

「ねぇみほ、生徒会長に何言われたの?」

「今年から特車道が復活したって…」

「特車道と言うと乙女の嗜みと呼ばれるあの…?」

「それとみほに何の関係が?」

「私に特車道やれって…」

沙織は益々分からず生徒会が恋のトラブルで嫌がらせしてるのではないかと言う頓珍漢な予想をしてみほは否定する。すると華が生徒会長からご指名なんて特車道の達人ではないかと聞いて来た

沈黙がしばらく続きとうとうみほが話した

「…私の家系はね代々特車道で活躍してるの、でも私はあんまりいい思い出がなくて。それで特車道から避けるためにこの学校に来たの」

みほは初めて友達に自身の境遇を明かした

「じゃあ無理してする事はないじゃん」

みほは驚いた、同情されたからである。何も同情されたことに腹を立ててるのではない、今まで弱音を吐いたらすかさず叱られたのだ。誰かに同情されたと言う経験は無かったのである。

そして華も生徒会に断り入れるなら私達が一緒に付き合うと約束してくれた

「ありがとう」

少し涙ぐみながらこう言った。今のみほにはそれしか言う言葉が見つからなかった

授業を終えるチャイムが鳴りこれにて下校と思ったらスピーカーから生徒会が全生徒を招集すると言う声が聞こえた。

 

体育館

どうやら必修選択科目についての説明があるようだ、しかし教師の姿は何処にも見当たらない。沙織曰くこう言う生徒会が呼び出すことはよくあるのだそうだ

そして辺りが暗くなり目の前で動画が流れ出した。

 

特車道とは簡単に説明すれば汎用人型作業機械=レイバーを使用して行う武道である、レイバーを使用し指揮車などの助けを借りチームワークでお互い全力を尽くして戦うことでそこから見えるものを習得して清く正しく美しい大和撫子になるにはうってつけの武道である。レイバーを使用した戦いという性質上大衆受けし熱狂的な支持を集め日本政府から「特車道連盟」なるものが作られ更に世界的にも流行してるのである。

尚使用できるレイバーは

・レイバー産業が最も栄えていた1998〜2001年までの機体

であり指揮車は特車道連盟が公認した車両が使用できる

 

以上の説明が流れビデオは終わり部屋が明るくなった

広報の桃が言うには数年後に特車道の世界大会が開かれるため文科省から全国の高校、大学に特車道に力を入れるようにとお達しが来たということで大洗もその要請を受けて特車道を復活させたそうだ。それにあたって特車道を履修すると様々な特典が付くと杏は言い小山にバトンタッチした。小山曰く特車道を履修し優秀な成績を修めると

・食堂の食券100枚

・遅刻見逃し200日

・通常授業の3倍の単位を与える

と言う正に至れり尽くせり夢のような内容であった

それらのことを告げると杏は「そんじゃ宜しくお願いしますわ」と言って他の二人を連れて帰って行きそこで説明会は終了となった

 

みほが浮かない顔をしながら教室に帰ろうとすると沙織がこんなことを言った

「私、特車道やる」と。

理由はモテるかららしいがそんなことはどうでもいい、みほは先程まであんなに特車道について不平不満を漏らしてた沙織がそんなことを言うのが信じられなかった。救いを求めるような目で華を見るがその華も特車道をやりたいと言い出したのだどうやら華道よりアクティブなことをしたいとのこと、しかし華はそれだけではなくこう言ったのだ

「西住さんもやりましょうよ」

……みほの中で疑問が生じた先程まであんなに自分の立場を理解して『嫌なら一緒に断ってあげる』と言った華がこうも言うなんて信じられなかったのだ。本人達は軽い気持ちで言ったのかもしれないがみほにとっては裏切り同然である、怒りよりも深い悲しみが湧いてきたしかし彼女はそれを表には出さず心の中で殺しとりあえず考えさせてくれと言い一人で帰路についた。

 

深夜 みほの自宅

帰ってから何にもする気がなかった、特車道の復活。そして強制、友達の裏切りに近い行為。それが合わさり彼女から行動力を奪った、ご飯も食べず風呂だけ入って思いっきり泣きそしてベットに入り考え事をして今に至る。冷静になって考えてみれば沙織はともかく華は「華道よりアクティブなことがしたい」と言い希望したのだ、彼女は自らの意思で変わろうとしてるトラウマを負い逃げた自分とは大違いだ、彼女は自分自身が情け無くなってきたそして友達が前に進みたいならそれを応援するのが友達と言うものではないかと思い目の前にある必修選択科目の紙にデカデカと書かれてある特車道に丸を付けようとする。しかしその瞬間今日見た悪夢の内容がフラッシュバックし彼女を恐怖で支配した、彼女は印をつけることが出来なかった…

 

みほの教室

重い顔でみほは沙織達に出会った机には例の紙が置いてあった。

「…ごめんね、私どうしても特車道をやりたくなくてここまで来たの」

ここで嫌われたって構わない、嫌われるのは辛いが一人でいることは慣れっこであるそう覚悟して二人の顔を見た。

すると二人は紙の方に顔を向けて特車道の印に二重線を引きみほのと同じ科目に印を付けた。

みほは自分に気を使ってやりたい科目を辞退したんだと思い堪らず二人は私に気を使わないで特車道を取りなよと言った。すると二人は微笑みながら

「みほのと一緒がいいの!」

「私達が特車道を取るとみほさんに辛い思いをさせてしまいますから」

「私、趣味は彼氏と合わせるタイプなの!」

あぁそうだった、この二人は最初からこんなにも優しかったんだ。彼女みほは彼女らの優しさに涙し大声を出して泣いた。

 

 

食堂

3人は適当な席につき食べていた、後ろにいるのは一年生だろうかテンションが高い声で特車道の事について話していた。すかさず空気を変えるために沙織達が帰りにさつまいもアイスを食べないかと誘ってきた、まるで女子高生みたいだと言ったらあんたも女子高生だと沙織に突っ込まれて笑った瞬間警報音に近い音が流れた

「普通一科2年A組 西住みほ 至急生徒会室に来ること」

恐らく必修選択科目についてだろう、覚悟を決めて3人は生徒会室までの長い道のりを勇ましく歩いた。

 

 

生徒会室

相変わらず薄暗い部屋にいつものメンバーがいた、高そうな椅子に座ってる杏が口を開く

「西住ちゃん、どうして必修選択科目特車道にしなかったの?ウチら特車道の唯一の経験者である西住ちゃんの力が必要なんだけど」

「私は特車道をやりたくなくて大洗に来ました、どうしても特車道はやりたくないんです」

「嫌がる生徒に強制してまで選ばせる権利なんていくら権力のある生徒会でもないはずです」

「そうだよ!みほはやりたくないって言ってんだから諦めてよね!」

二人が援護してくれた、言いたいことは言えた。汗が額に流れるのを感じそれを拭うことなく返答を待つ

「麗しき友情だねぇ、確かに生徒会には強制する権利はないさ、でもさぁ武部ちゃんと五十鈴ちゃっんだっけ?虚構をでっち上げてこの二人を学校から居られなくする事ぐらいする力はこっちにはあるんだよねぇ」

紛れもない脅しだ、堪らずみほは少し怒りを込めて言う

「脅すなんて、卑怯じゃありませんか?会長」

「脅しなんて人聞きが悪いなぁ、私は『お願い』してるだけだよ」

するとすかさず沙織が

「お願いにしちゃ随分無理があるでしょ」と突っ込む

華もそれに続いて

「どうしてもと言うのならば、私と沙織さんがこの船を降りて構いませんそれでお友達が救われるなら本望です」

と言う、その瞬間みほはハッとした。また「私のせいで誰かが傷つこうとしている」そんなこと再びあってたまるか、二人が犠牲になるくらいなら私が犠牲になる。もう悪夢は懲り懲りだから______

 

「私、特車道 やります!!」

 

場の空気が音を立てて凍り、そして沙織達の叫び声によって砕け散る

「んじゃ、西住ちゃん。宜しくね」

この時いつも気の抜けた杏の声が少し真剣になったのを3人は感じた。

 

 

帰り道

「本当に良かったんですか?私達に気を遣ったのでは…」

「ううん、それは違うよ華さん。華さんが私が傷つかないように…私を守りたかったように私も沙織や華さんを守りたかったんだ」

「みほ…」

「だから、これから宜しくね!沙織さん!華さん!」

3人は笑いながら、しかし力を込めて握手しあった。

 

 

 

 

そして翌朝、とうとう特車道の授業が始まった。辺りを見回すと先日食堂にいた一年生、歴史の偉人のコスプレをした集団、バレー部の格好をした集団がいた

「会長、思ったより人数が集まりませんでしたね」と少し心配した声で桃が尋ねるといつもと変わらない気の抜けた声で大丈夫大丈夫と言った。どでかい倉庫を開けると埃っぽい匂いが鼻を刺激する、中には一台の白とオレンジのカラーリングのレイバー…「イングラムエコノミー」が立って居た。みほはそのレイバーの前に行きレイバーの横にある階段を使って関節を触る。

「アクチューターもサスペンションも少し整備しなきゃいけないけど基本的には大丈夫そう、これならいけるかも」

そう言うとたちまち驚きの声で包まれた

さあ、ここから私の戦いが始まる、今度は絶対に逃げない。こうして西住みほ、第二の特車道人生が幕を開けたのである。

 




やっと始まった特車道、しかしレイバーの数が圧倒的に足りない。「んじゃお出かけしましょ」という杏会長の鶴の一声でレイバー捜索隊が創設された。そして自衛官、蝶野亜美の元模擬戦が開催された右も左も分からない大洗女学園にまともな模擬戦は出来るのか、次回「レイバー、乗ります!」ターゲット、ロックオン!


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レイバー、乗ります! part1

ドーモ 恵美=押勝デス。さてこの小説を書くに当たって久しぶりにTV版パトレイバーとレイバーの種類について調べてたら遅くなってしましやした。ノリと勢いで始めるのは良くない(戒め)
それでは、本編ドゾ!


「こんなボロボロのレイバーで何とかなるの?」と沙織がみほに尋ねてきた。見た感じではアクチューターは大丈夫そうだしサスペンションも平気そうだしバッテリーさえあれば動くことは可能だろうと言った。それに対し沙織はレイバーも男も新しい方がいいといつもの様に恋愛に絡めて答えた、すかさず華から突っ込みが入り何時ものやりとりが繰り広げられた。そうすると一年生から疑問の声が上がった

「しかし一両しかないのにどうすりゃいいんですか?」

この疑問に最低でも7機はいると桃は答えた

そうすれば当然何処にあるのだと言う疑問が湧いてくる。しかし場所は誰も知らず生徒会ですら知らなかった

「ウチの学校じゃ昔は特車道やってたみたいだしまだ残ってる筈なんだわ、

それに明後日は教官もやってくるしそれまでに見つけなきゃいけない。てな訳でみんなレイバー探しにお出かけしましょ」

呑気な声で杏が言えばたちまち困惑する声が上がる特に沙織はイメージとは違ってたらしく落胆っぷりが人一倍酷かった。見かねた杏が教官はイケメンだぞと教える、単純な沙織はそれだけでテンションが上がり一目散に表へと出た

沙織を追いかけ駐車場までみほ達は走った

 

駐車場

「何処にレイバーがあるっていうのよ〜!」

「駐車場にレイバーはないかと…」

「だってレイバーも車でしょ!?特『車』って言うぐらいなんだからさ!」

二人のやり取りに苦笑いしながら見るとふと、後ろに気配を感じた。誰かがつけて来てる。みほは決心して後ろを振り向くと同級生だろうか天パの少女が居た、天パの少女はみほに見つかった途端逃げようとしたがそうはさせまいと話しかけた

「良かったら一緒にレイバー探さない?」そう聞くと天パは顔をパァっと明るくして「いいんですか!?」と大きな声で答えた

「普通科2年3組の秋山優花里と申します、不束ものですがよろしくお願いします!」

前半は何故か顔を赤らめてたが後半は人が変わったようにキリッとした表情で優花里は自己紹介した、それに次いで沙織と華が優花里に対して自己紹介を行う。次は自分が自己紹介をする番だ、そう思い口を開こうとすると優花里が存じ上げてますとみほの名前を言ってきた。自分の名前を知ってたことに驚き少し身を引くと沙織が初めてあったみほもこんな感じだったよと耳打ちし更に驚いた。

…自分があんな感じだったとは、みほは恥ずかしさのあまり穴があったら入りたい気持ちになった。

「ところでみほ、これから何処へ探しに行くの?」

しかし肝心のみほは放心状態で話が出来ない。見かねた優花里が山の中ならどうでしょうと言い4人は山へと向かった。

 

着いたのはいいが一向にレイバーは見つからない、すると急に華が立ち止まり緑の匂いに混じって鉄の匂いがすると言った。それに感心した優花里が

「では参りましょう!レイバー・フォー!」と言う

「レイバーのアホ!?」

「『レイバー・フォー』…元はドイツ軍の戦車前進を表す「パンツァー・フォー」なんだけどいつの間にかそれがレイバー版になってそれが根づいちゃったの」

「それじゃあ改めて…」

「「「「レイバー・フォー!」」」」

一行は華の後について行き更に山の奥へと進んでいった。30分ほど歩いただろうか暗い緑色でずんぐりむっくりしてミニガンとミサイルポッドらしきものを武装したレイバーが倒れていた

「何あのデブっちょレイバー…作業用レイバーみたい」と沙織が言うと優花里が興奮した声で叫んだ

「これは『97式装甲戦闘用レイバー』通称「アトラス」ですよ!アンティークに近いレイバーがこんな身近にあるなんて…!」優花里の興奮は止まらず更に続く

若干引いた沙織がテンション上がってたよと言うと顔を真っ赤にして謝った。

その時華が戻ってきた、実はアトラス以外にもレイバーの匂いがすると言い単独で探しに行ってたのである。

「優花里さんはレイバーにお詳しいんですね、でしたらこのレイバーはご存知でしょうか?」

華はそう言い携帯を優花里に見せる

「何この蜘蛛みたいなレイバー?」

「これは98式多足戦闘指揮レイバー『ラーダー』ですね…まさかあったんですか?」

「その「まさか」なんです」

確かに華の言う通りアトラスを見つけたところから少し先に行くとラーダーが居た。

「おぉ!一度二つのレイバーを見つけるなんて五十鈴殿は凄いです!」

そう優花里が言うと華は照れて少し顔を赤らめた

「じゃあ河嶋さんに連絡するね」とみほは携帯電話を取り出して桃に電話をかけた

 

「河嶋さん、こちら捜索隊です。レイバーを二機発見しました座標は…」

「分かった、自動車部の回収班がそちらに向かう。引き継ぎ捜索を頼む以上だ」

電話はそこで切れた。この後みほ達は探したが結局それ以上の成果はなかった。

一方みほ達が捜索してる間

・歴女チームが97式改サムソンを池の近くで見つけ

・一年生チームがパイソンをウサギ小屋で体育座りしてる状態で見つけラーダーを図書館の裏側で見つけた

・バレー部チームはドーファンを崖の中腹にある洞窟で見つけた

 

ハンガー前

時間は夕方、ハンガー前に大量のレイバーが並ぶ姿は圧巻である

「やぁやぁご苦労さん」ひとまず杏が皆んなの活躍を労う、そして誰がどのレイバーに乗るのかと桃から質問を受け見つけた人が見つけたレイバーに乗ればいいんじゃないと言いそんなのでいいのかと柚子を困惑させた。結果以下のチームで決まった

・みほ達

Aチーム

使用レイバー イングラムエコノミー ラーダー

バレー部

Bチーム

使用レイバー ドーファン

歴女

Cチーム

使用レイバー サムソン

一年生

Dチーム

使用レイバー パイソン ラーダー

生徒会

Eチーム

使用レイバー アトラス

 

以上の様に決まった

各レイバーの前にそれぞれチームが立つ、皆んな物珍しそうな目で見てる

バレー部はドーファンの体型がバレーに向いてると感心し、歴女はサムソンが誇る90mmチェーンガンを象みたいと揶揄し帽子をかぶった少女に陸自隊員お墨付きのレイバーだぞと怒り他の3人にレイバーに向かって謝らせた。

一年生はパイソンがまるで機動隊員の様でカッコ良くて強そうと褒めていた

ワイワイ雑談してる中、桃が手を大きく叩いて皆んなの注目を集めた。

桃曰くレイバーを発見しチーム訳も決まり次にすること…それは洗車である。なんせ10年以上は軽く放置されたのであるありこち汚れだらけである外観は勿論内装も汚れてる筈だ、それらを掃除しないことには教官に合わせる顔がないとの事。

そう言われて沙織はエコノミーに指をツーっと当てる途端に指がベトベトし離す、みほがその間ハッチを開けてみると中のシートも埃だらけで少し水も染み込んでいた。

まずはシートを乾燥させなくては、その後モニター系統にヒビが入ってないかチェック、ペダルも踏めるかどうか確かめなくては…これはやりがいがありそうだ。

それぞれ体育着に着替え思い思いにホースから出る水をレイバーにかける、

さあ清掃開始だ

 




さて今回はレイバーを見つけ清掃した所でお開きとさせて頂きます。レイバー戦は後1話待って下さい。待たせてしまってる分気合を入れて書きます!ではここまでご視聴いただきありがとうございました!感想もらえると単純バカなので喜んで執筆が通常の3倍になりますのでどしどし感想ください!


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レイバー、乗ります!part2

どーも恵美押勝です!いやぁ〜この小説書くにあたって随分レイバーに関する勉強をしたと思いますよ、正直学校の勉強よりもしんどいっす。なんせ資料が少ないんでね…さて愚痴はこの辺にしてそれでは本編行きたいと思います。どうぞ!


ハンガー内

みほ達が乗るイングラムエコノミーのハッチは首の後ろにある、みほはまずはそこを開けてするりと入り込む。シートの水のシミはタオル&天日干しでどうにかするとしてモニターの状態やペダル、レバーなどがまず動くかどうか問題だ。錆びてるなら錆び取りをしなくてはいけないが非常に面倒くさいので、そうならない様祈りながらレバーに触れ前へと押す、幸いなことにレバーはすんなりと前へ倒れた。次はペダルだがこれもセーフだった、モニターも埃は被ってたがヒビ一つも無かった、それにしても驚くほどに保存状態がいい…倉庫の中で眠ってたとは思えない程だ。取り敢えずみほはモニターやレバーを雑巾で拭くことにした、一仕事を終えたみほはハッチから出てハンガーに隣接してある階段を使い下へと降りた。下では沙織達が長いモップを使ってエコノミーの胸の部分や腕、足を拭いていた。

「なかなか落ちないよ〜」と沙織がくたびれた様子で嘆く

「しかし頭の方はどう清掃すればいいのでしょうか?ここからだとモップ掛けは出来ませんし…」

「あぁそれなら直接頭の上に乗って磨けばいいんでありますよ」

「え、乗るの?危なくない?」

確かに頭の部分の清掃は危険だ、エコノミーは8mもある。ここは自分が行くしかないと言おうとしたみほだったがその声は優花里の声で遮られた

「じゃあ、自分がやりましょう!高い所は得意なんで!」

一同が心配する中優花里はひょいひょいとエコノミーの頭の上に乗っかり鼻歌を歌いながら磨き始めた、これには経験者であるみほも驚いた

(私も怖いのに優花里さんは平気なんだ…すごいなぁ)と感心してしまった恐らくそれは沙織達も思ったであろう

 

 

夕方になり全てのレイバーの清掃が終わった。

桃が汚れが残ってないか確認しそれが終わると後の整備は自動車部が仕上げると言う事で解散を命じた

解散を命じられ皆んなが帰る中優花里がレイバーに乗れるなんて楽しみですね西住殿と言ってきた。その言葉に少し複雑な気持ちを抱きながらもうんと答えた、この時みほは不安だったのである。理屈ではここまで来たから逃げちゃダメだと理解してるのだが、いざレイバーに乗った瞬間トラウマがフラッシュバックしないか、所謂PTSDになってないか不安だったのである。暗い顔をしてると沙織が学園艦にいい景色が見れる場所があるからそこで飲み物でも飲まないかと誘ってきた一同はこれに賛成しみほも賛同した。

 

学園艦公共休憩スペース

____夕日が綺麗だ。ここに来てから夕陽など見る余裕が無かったため随分久しく感じた、自販機で買ったジュースの甘みが疲れた体に染み渡る。この学園艦は現在何処かの港へ向かっているのだ

「あ〜あそろそろ陸に上がりたいなぁ〜買い物もしたいしさ」

「今週末には帰港する予定でしたよ」

「どこの港だっけ…?私港ごとに彼氏が居るから困っちゃうんだよね」

「沙織さんが言う『彼氏』は行きつけのカレー屋さんのことでしょう?」

相変わらず華のツッコミは辛辣でブレない、そんなことを言い合いながら笑ってると突然優花里から寄り道したい所があるから一緒に行ってもらえてもいいかと誘ってきた。本人は自信はないのか弱々しく尋ねたがここには友達の誘いを無下にするような輩はいない、皆んな優花里に案内してもらいついて行った。

10分くらい歩くと優花里が止まった、目の前を見ると「れいゔぁ〜倶楽部」と言う看板が見えた。どうやらレイバーに関する店らしい。一同は早速入店した

 

 

れいゔぁ〜倶楽部

店の中はとても不思議な雰囲気だった、レイバーのパーツが展示されていたりレイバーもプラモ、フィギュアも売っている。壁には警視庁のレイバー部隊特殊車両二課の制服が飾られていた。

「でもレイバーって皆んな同じに見えるよね、今日見つけたアトラス…とサムソンだっけ?あれも一緒に見えるんだもん」と言うと優花里は全力で否定した

「どれもこれも個性があって同じレイバーは無いんですよ、勿論乗ってる人でも変わって来ますからね!あぁ〜第二小隊の泉隊員と黒いレイバーの闘いは最高でしたね〜!と言っても私が生まれる前なんですけどね」

「華道と似たようなものですね」

すると分かったような分かってないような沙織がまた恋愛に結びつけて話した。

話が噛み合ってないのでは?とみほは突っ込もうとしたがやめた

 

みほが前を見ると優花里がレイバーが題材のゲームを遊んでいた。ゲームはあんまり知らないみほだがグラフィックから見て相当古いことが予想できた

「そういえば優花里さん、特車道って銃を使用したりするんですよね?私達が発見したレイバーにも銃が付いてましたし…」

「そうそう危なくないの?」

「大丈夫ですよ、特車道に使用する銃の弾は特車道連盟公認のカラーペイント弾ですから…

あぁっ!負けちゃいました…」

優花里がしょんぼりしてる姿が面白くて思わずクスッと笑うとみほの後ろにあるテレビが特車道についてのニュースを取り上げた、思わず後ろを振り返ると茶色の髪の毛の少女…みほの姉であるまほが映っていた。どうやら前回の大会でMVPになり国際強化選手となったことを記念してのインタビューらしい

『まほ選手、特車道の勝利の条件とは何ですか?』

『諦めないこと、そしてどんな条件でも決して

_____「逃げ出さないこと」です』

その一言はみほに深く刺さった、その言葉は自分に向けられたものではないがまるで自分が言われてるような錯覚を覚えた。「逃げ出さないこと」…それが出来るほど昔のみほは強くなかった、だが今は、少なくとも今はそうじゃない。逃げ出さず前へ進もうとしてる

そう頭では理解しても心は「それは詭弁だ」と囁く、いたたまれず思わず下を見る。

そんなみほの心情を察したのだろう。沙織がこれからみほの家へ遊びに行ってもいいかと聞いて来た

ハッとした、なに下に俯いてるんだ。こうして自分と仲良くしてくれる友達、守りたいものが居るではないか。危うく前の自分に戻る所だった。みほはもう治ったから心配しなくていいよと言うように明るい顔でうんと答えた

「あの〜…自分も付いて行って宜しいでしょうか?」

恐らく知り合ってからまだ時間がそこまで経ってないから断られると思ったのだろう優花里は恐る恐る尋ねた

「勿論、秋山さんもいいよ!」

優花里は顔を明るくして

「本当ですか西住殿!?ありがとうございます!」と言った。

 

帰路

コンビニに寄って少し物を買い自分の家へ向かう途中でみほは沙織に囁いた。

「沙織さん…いつもありがとうね」

「大丈夫だって、みほは一人で溜め込んじゃうタイプ何だから友達に頼らなきゃダメだよ?」

本当にいい人だ、そう思い首を縦へとふった

さあ、記念すべき友人を招いての初料理は肉じゃがだ

 

みほの部屋

明かりを付けて部屋に入りまずは荷物を下ろす、最初はみほが自分で作ると言ったら沙織がみんなでやろうよと言ったので華が野菜担当、優花里がご飯担当(何故か飯盒一式を持参していた)、みほが肉じゃがの調味料担当、沙織がサポート役というふうに割り振られた

…だが華がジャガイモの皮を剥くのに失敗し自分の指を切ってしまいそれに驚いたみほが絆創膏を探しに慌てるなどグダグダになったのを見かねた沙織がコンタクトを外し眼鏡をかけ本気モードと化し以降の調理は全て沙織によって行われた

「それじゃあ皆んないい?せ〜の」

「「「「いただきます!」」」」

沙織の肉じゃがは予想以上に美味しかった。沙織曰く男は胃袋から落とさなくてはいけないから料理は得意とのこと(すかさずそれでモテた試しが無いですけどねと華と突っ込む)

「でも男性って本当に肉じゃがが好きなんですかね、私の父親は別に肉じゃが好物じゃないんですよ」

「都市伝説でしょうね」

「雑誌のアンケートで書いてあったから間違いないもん!」

もはや様式美となりそうなやり取りを見て笑い華が持ってくれた花へと目をやる

「華さんが持ってきてくれたお花とっても綺麗だね、やっぱりお花が部屋にあると落ち着くよ」

「今日はこれしか持ってこれませんでしたけど次回は大きい花を持ってくるので期待してくださいね」

「楽しみにしてるね!」

そんなことや適当に雑談し夜も更けてお開きとなった。やはり友達を持つのはいいな、そう思いながら床へと着いた

 

 

まずい寝過ごした、昨日夜遅くまで起きてたのが災いし遅刻ギリギリの時間に起きてしまった。急いで家を出て走って学校へと向かう、走ればギリギリ間に合う時間だ(これならなんとかいけそう)そう思った矢先に目の前で今にもぶっ倒れそうな感じでフラフラ歩く少女がいた。余りにも体調が悪そうに見えたので思わず声をかける、すると

「…辛い。生きてるのが辛い、どうして朝はやってくるんだ…もう少し夢の世界に入り浸らせてくれても良いじゃないか…」

とよく分かんない愚痴を呟きながら地面へへたり込んだ。ただの睡眠不足だから大丈夫だとは思ったが放って置けず肩を貸してその少女と一緒に登校した、結局ついたのは遅刻確定の時刻であった。校門には風紀委員のおかっぱの少女がいた。どうやら自分が助けた少女の名前は「冷泉麻子」と言うらしく今日で245回の遅刻だということ

「仕方ないじゃないかそど子、低血圧の私に無許可でやってくる朝が悪いんだ」

「訳の分かんないこと言ってないで遅刻しないように努力しなさいよ。成績はいいのに遅刻で留年なんて馬鹿げた事になるわよ」

どうやら麻子はこの風紀委員と知り合いの様だ、そど子と呼ばれた風紀委員が自分に今度冷泉さんと会ったら無視して構わないと言った。今回は特例としてみほの遅刻は見逃してくれるそうだ。校門に入り昇降口に向かう途中で麻子がみほに話しかけた

「悪かったな…西住さんだっけか。この借りは必ずいつか返すから」

「ううん気にしなくていいよ、それにしても245回も遅刻なんて驚いたよ」

「さっきも言ったが重度の低血圧でな、朝を起きると言うのは無茶があるんだ。そど子の奴もその辺を考慮してくれたらいいんだけどな…」

流石にそれは無理があるだろう、そう思ったが言うのは野暮だと思い言わなかった

「じゃあ私グラウンドの方だから」

「グラウンド…?西住さんは特車道の履修者なのか、まぁ頑張れ。それじゃここまでの援助ありがとう」

麻子と別れみほは駆け足でグラウンドへと向かった

 

グラウンド〜ハンガー前〜

ハンガー前には既に自分以外のメンバーが集合していた。まだ教官はやって来ないようである、ふと遠くからエンジン音がしたそれはどんどん近づいていき音の正体が姿を現した、

「あ、あれは航空自衛隊のC-4輸送機です!」と優花里が興奮して叫ぶ

輸送機のハッチが開きそこから一つの人型の物体が降りてきた

「優花里さん、降りてくるあの物体…レイバーだと思うんですけど何でしょう…」と華が尋ねる

「あれは恐らく99式空挺レイバー、通称ヘルダイバーでしょうね」

ヘルダイバーはパラシュートを開き地面へと着陸、が着地地点には理事長が乗る高級外車があった。ペチャンコになる車を見て全員が絶句する中ヘルダイバーのハッチが開いた。

とそこに杏がやってきた

「やぁやぁ皆んなおはよう。さて皆んな気付いてると思うけどいまレイバーに乗ってるこの方が私達の教官を務めてくださる陸上自衛隊1等陸尉の『蝶野亜美』さんだ」

「蝶野です、皆さんは特車道は始めての方が多いでしょうが楽しみながら頑張りしょうね」

亜美が簡単な挨拶を述べ桃が号令をかける。

「さてこれから模擬戦をやる訳なんだけど…あら、西住流師範の娘さんじゃない。お姉さんは元気かしら?」

ギクっとした、まさか教官が自分の家と関わっていて尚且つ自分のことを知ってるとは、当然周囲は「何故教官がみほのことを知ってる、それに西住流とはなんだ。みほと関係があるのか」と言う話題で持ち切りになる

「西住流はね、特車道の流派の中で最も由緒あるものなのよ」

この説明に益々ざわついてきた。この空気を変えるべく沙織がお得意の恋愛の事について聞いて話を強引に変えた。またみほは助けられた

「そういえば教官、先程模擬戦と仰いましたが…」と優花里が聞く

「そうそう、早速だけど今日はみんなに模擬戦をやってもらおうと思うの。100の練習より1の実戦って言うじゃない?」

いきなりの模擬戦と言うことで一同は困惑した。そこで杏が

「まぁこう言うのはチャチャっとやって慣れた方が良いんだよ、それにみんな早くレイバー動かしてみたいでしょ?」と言い嗜めつつ士気を上げる。その言葉に呼応するように一同はハンガーへと向かった

 

ハンガー内

一年生で眼鏡がトレードマークな少女大野あやは悩んでいた、レイバーに関する知識がこれっぽっちもなく操縦方法をネットで聞いてもロクな返答が無かったのである。はてさてどうするべきか…横を見るとバレー部が円陣を組んでいた。どうやら自信があるようだ、更に隣を見ると歴女達もテンションを上げて勝どきを上げていた、どうやら露頭に迷ってるのは自分達だけみたいだ

「どうするあやちゃん?」と一年生の中で一番背が小さい阪口桂利奈が聞いてきた

「もうノリで行くしかないでしょ」と諦めた声で答える

「ノリでレイバーって動かせるの?」と長髪の山郷あゆみが聞き

「説明書があればなぁ」と澤梓が答えた。

迷ってる時間はない、一年生達はとりあえずレイバーに乗ることにした

 

「そういえばさ、レイバーって二人乗りなんだよね、余った人はどうするの?」

「そういう人は指揮車に乗ることになってます、指揮車はどうやら会長が連盟にレンタルしたらしいですよ。と言っても私達が指揮車じゃなくラーダーなんですけどね」

「それでレイバーの車長は誰が良いのでしょうか」

「それは勿論西住殿ですよ!」

「えぇ!私!?う〜ん。自信はないけど分かった。この中で経験者は私だけみたいだしやってみるよ」

そう言うと優花里はまるで犬が尻尾を振るかのように喜んだ。

「じゃあ華さんはレイバーの操縦手、優花里さんはラーダーの車長兼操縦手、沙織さんはラーダーの通信担当でお願いします。それでは皆さん頑張りましょう!レイバー・フォー!」

いよいよ模擬戦が始まろうとしていた。

 




さて、いよいよ次は模擬戦。てことでお待ちどお様でした!待ちに待ったレイバー戦!次回はガッツリ戦闘シーンを書くのでお楽しみに!それではご視聴ありがとうございました!感想など是非是非お願い致します!


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試合、やります!part1

どーもお久しぶりでございます恵美押勝です、最近どーもリアルが忙しくなってしまい執筆作業が遅れてしまいました。本当に申し訳ない
それではいよいよ本格的なレイバー戦です!本編どうぞ!


ハンガー内

沙織と秋山をラーダーに乗せたあとみほ達は階段を上りエコノミーのハッチへ向かっていた

「華さん、エコノミーのハッチは首の後ろにあってそこにあるコックを捻って入ってください」

とみほは指示してエコノミーへ搭乗した、エコノミーの座席は縦の連座席で上がみほ、下が華という配置である

席に座ると沙織が通信でラーダーが思ってた以上に狭いと苦言してきた、どうやら通信関係は問題なく使用出来るみたいだ。とそこで蝶野からスタート地点へ移動するようにと連絡が入った

「みほさん、どうやって起動すれば良いのでしょうか?」

「まずは起動用のディズケットを入れるんですがどうやらこのレイバーのは既に入ってるみたいなので座席横にあるコックをアクティブモードに捻ってください。優花里さんも同じようにして下さい、基本的な操作はエコノミーと変わりませんので」

「それで次はどうすれば?」

「あとはフットペダルを押して両手にあるレバーを前に倒してください、それで前進します」

ラーダーの方は上手くいったようだが華がペダルを踏みすぎて転びそうになりオートバランサーのおかげで未然に防いだ

『西住殿、いよいよレイバーを動かして戦えるんですね!レイバーを動かすだけじゃなく戦えるなんて…ヒャホォォォォォゥ!最高だぜぇぇぇぇ!』

妙にテンションが上がった優花里が叫びそれをみほが嗜めると弱々しい声で謝るのが聞こえた、恐らく今の彼女の顔は真っ赤であろう。さぁスタート地点である森へ向けて出発だ

 

「優花里さん、そう言えばこのラーダー…?って戦えるの?みほ達が載ってるエコノミーには警棒とか拳銃があるみたいだけど」

「いえ、ラーダーには25mmチェーンガンがありますが軍用レイバーの装甲には効かないので主に索敵、指示担当ですね。と言っても警備用レイバーや作業員レイバーに対しては有効なので相手によっては援護射撃も可能です」

そうしてる間にみほ達はスタート地点へ到着した、それと同時に通信が入る。どうやら全員到着したようだ

『全員、到着したようなので説明するわね、今回の模擬戦は殲滅戦、つまり相手のレイバーを残らず戦闘不能にしろってことよ』

随分、ざっくりした説明だねこりゃと杏が言えば会長に言われたくないですよと柚子が突っ込む

「分かってると思うけど特車道は武道なの、つまり礼儀が大切ってこと。礼に始まり、礼に終わるの。それでは一同、礼!」

そう言うと一同はレイバー、指揮車の中で一礼した

『それでは試合始め!』

______________________________________________________

『西住殿これからどうしましょうか?』

『真っ先に生徒会潰さない?私達を脅迫紛いなことで誘ったんだし教官も女だったしさ』

確かに生徒会に恨みがないと言えば嘘になる。そう思いみほは沙織達に周辺を捜索する様に依頼した

『優花里さん、万が一敵レイバーと接触したら戦闘はせず沙織さんに頼んで位置情報を私に送って逃げて下さい』

『分かりました!それでは秋山優花里出撃致します!』

そう言うと勢いよくラーダーは走り出した、沙織の悲鳴が聞こえたのは気のせいだろう。

「華さん電源を入れて下さい。私達も少し先へ行きましょうここに居ては何れ敵にバレてしまいます」

エコノミーは動き出しなるべく木の多い場所を歩こうとした次の瞬間地面を地面を抉る音がした、メインカメラで地面を見るとペイント弾の赤色に染まっており間違いなく敵レイバーによる攻撃なのは明白であった。撃ったのはBチームのドーファンである

「華さん、走って!恐らくBチームは銃の扱いに慣れてません!次弾が来る前に逃げて一旦ラーダーと合流しましょう!」

華が返事をする前に沙織から通信が入る

『みほ!ずんぐりむっくりしたどでかい銃を持ったレイバーがそっちに来てるよ!』

Cチームのサムソンだ、恐らくBチームと結託して原段階で一番手慣れてるみほを先に倒そうとしたのだろう

『沙織さん!今から合流ポイントを送るのでそこに行くようにと優花里さんに言ってください!軍用レイバー相手ではこちらは不利です!一度撒きます!』

しばらく森の中を駆け抜け明るい場所へ出た。少し遠くでレイバーの稼働音が聞こえるが一先ずは安心だ。もう少し先が合流ポイントなのでこのまま前へ行こうとすると突然ブザーが鳴った

「あら、なんでしょうこの音は?」

「華さん止まって!対人センサーです!」

なんと地面には人がいた

…あの黒い長髪ひょっとして麻子さん!?

とそこにラーダーが合流した

「どったのみほ?」

「沙織さん、地面に人が居ます。このままでは危険なのでラーダーに乗せて貰えませんか?ラーダーは3人乗りですから」

「分かった…って!麻子!?あんたこんな所で何してんのよ!」

『知り合いなの沙織さん?』

『そうなの、幼なじみでね』

やはり麻子であった。麻子曰く授業サボってここで寝ていたらしい、ここは昼寝するのに絶好の場所だと言う

「やっぱり麻子さんだったんですか?」

「あれ、麻子知ってるの?」

「西住さんには今日の朝助けてもらったんだ。まさか二度も助けられるとはな」

『皆さん聞こえますか?恐らく敵レイバーはバッテリーの節約のため指揮車を捜索に出し此方へ向かうはずです危険ですが目の前にある橋を渡って更に奥へ行きたいと思います!それと優花里さん、エコノミーが先行しますのでラーダーは後方に指揮車が見えたら相手にバレる前に撃破して下さい』

『了解です』

「華さん、エコノミー再起動。橋へと移動してください」

 

 

橋はレイバー一台乗るのがやっとだった、乗った瞬間グラグラと揺れだす

「みほさんこれ本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫、篠原のオートバランサーは一級品って有名ですから。落ち着いて一歩ずつ歩きましょう」

『みほ、熱源反応だよ、小さいの2つと…大きいの2つ!』

『レイバーと指揮車両方連れての突撃です!このままでは危険です、西住殿発砲許可を!』

橋を渡ってる暇はない、更にリスクは上がったがここで二機を叩くしかない

『許可します、ラーダーは指揮車とBチームのドーファンを狙ってください。25mmチェーンガンでもドーファンなら有効な筈です』

次の瞬間予想通りドーファンとサムソン、2台の指揮車がエコノミーが乗る橋へ向かって全力で走っていた。優花里がチェーンガンを撃ちBチーム指揮車に命中し撃墜判定が出た。が、報復と言わんばかりにサムソンの90mmチェーンガンがラーダーの足に命中する、ラーダーは命中した反動で後退しエコノミーの背中を押してしまった。流石のオートバランサーも耐えきれずエコノミーは転倒してしまう。

『みほ大丈夫!?』

『ラーダーは2本足がやられましたが幸い走行可能です』

『こっちは大丈夫… !?華さんが気絶してる!』

まずいことになった、レイバーは仮に操縦者が行動不能になっても車長が無事ならコントロールを譲渡することが可能だ。だがみほは操縦には慣れておらず自信がなかった、そうこう悩んでるうちに次弾が来る。今度はドーファンの攻撃が来るだろう。どうすればいいか…ふとみほの頭に閃光が走った

『沙織さん、麻子さんに代わってくれる?』

『え?麻子に?いいけど』

『どうしたんだ西住さん』

『麻子さん、貴方が成績優秀だと聞いて頼みがあります。レイバー動かせますか?』

『西住さん…私は確かに成績はいいがレイバーは専門外だぞ…と言いたい所だけど今マニュアルを覚えた、思ったより簡単そうだしやってみるさ。』

『ありがとうございます!ラーダーは操縦者交代までの間援護をお願いします!』

ラーダーのハッチを開けて麻子が出てくる、その間みほは華を操縦席から下ろし補助席へと乗せた

「西住さん来たぞ、下の座席に座ればいいんだな?」

みほは頷くと麻子は座席につきあっという間にエコノミーを立ち上げた

「すっごいですあの人…いとも簡単にレイバーを操縦してます」

「麻子はね学年主席なのよ…優花里あの灰色のレイバー撃とうとしてる!」

「撃たれる前に撃ちます!」

チェーンガンが火を吹きドーファンの左腕に命中した。焦ったドーファンは後ろへと移動する

「麻子さん、拳銃を用意して、あの緑色のレイバーの関節を狙ってください」

「了解だ」

見事サムソンの右足に命中しサムソンが倒れ込んだ

「次はスタンスティクでトドメを刺したいと思います。前進してください」

エコノミーは橋を渡りサムソンの元へと向かう。途中ドーファンから発砲があったが回避した。シールドからスタンスティクをだしサムソンを刺す、途端に電流がサムソンに流れ撃墜判定が出る

「このまま灰色のレイバーも倒します、足元にある指揮車に気をつけて」

慌てたドーファンが連射するがそう簡単に当たるものではない。サムソンと同じ様にやられた

「麻子さんお見事です」

「いや自分でもびっくりしてる」

『なんかまたずんぐりむっくりしたレイバーが向かってるよ!』

サムソンの後ろを見ると桃が操縦するEチームのアトラスがいた

「ぐっふふふふ、生徒会を撃墜しようなど片腹痛いわ!ここがお前らの墓場よ、往生せいや!」

と桃は20mmバルカン砲を発射したが全弾外れエコノミーに両足を撃たれて撃墜された。

「…桃ちゃんバルカン砲全部外すってどーなの…?」

「桃ちゃん言うな!」

『かーしま、何やってんのよ』と指揮車の杏が言う

この光景を目の当たりにしたDチームは当然ながら畏怖した。

「一機で3体のレイバーを倒すなんて…さすが西住流」

「こんなのに勝てっこないって!」

「逃げよ逃げよ」

と逃げ出そうとしたがラーダーは逃げ出そうとしたがぬかるみにハマり止まった瞬間スタンスティクを刺されパイソンは後ろへ振り向いた瞬間ラーダーに蜂の巣にされた

とそこで試合の終了を告げる通信が入った

『パイソン、アトラス、サムソン、ドーファンの行動不能を確認!よってAチームの勝利!』

「嘘、勝っちゃった…」

「勝っちゃっいましたね西住殿」

「信じられない…」

「相手が初心者だから助かったな」

まさか勝てるなんて思いもしなかった、状況的には圧倒的に不利だったのはこちらである。麻子の言う通り半分近くは初心者のミスにより助かった所はあるがそれを考慮してもこの結果だ、みんなが勝利の余韻に浸ってる間みほはそれとは別の思考に浸っていた。とそこで再び通信が入りみほの思考は戻る

『走行不能なレイバーは回収班を送るのでそのままレイバー内で待機、指揮者も同様にする様にね』

 

アトラス内部

『いやぁやっぱ強いね西住ちゃん、流石西住流だわ』と杏がダッシュボードに足を乗っけて言う

「何せ一人で4機を倒しちゃうもんね、桃ちゃんが外さなきゃ倒せたかもしれないのに」

「桃ちゃん言うな!…んまぁともかく会長の目に狂いは無かったと言うことだ、流石は会長だ」

そんな会話をしてると回収班のキャリアが来て桃達は運ばれた。杏はそれに続くためにエンジンを掛ける。車内で杏は改めて確信した、間違いない西住は強い。いやあのエコノミー、ラーダーに乗ってる奴らが全員強い。これは明日から西住を教師役として各自特訓が必要だ、と言ってもみんな筋は悪くない。動かせただけで花丸をあげたいぐらいだ。…あとは慣れだな、アクセルを踏みハンガーへと向かう。 時刻は夕方になろうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、今回は模擬戦が終わった所でおしまいとさせていただきます!さて初の戦闘シーンいかがでしたか?次回は日常回となります。それではご視聴ありがとうございました!感想と評価宜しくお願い致します!


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試合やります!part2

どーも恵美押勝です、光陰矢の如しと言いますが前回投稿してから結構時間経っちゃいました。本当に申し訳ない、これからもスローペースとなりますがそれでもお付き合いして下さるならば幸いです、それでは本編どうぞ


それぞれのレイバーは自動車部によってキャリアに運ばれてハンガーの中へと入りそれに続いて指揮車も入る。全員降車しハンガーから出て整列する

全員が整列終わると蝶野がやってきてそれに続いて生徒会の連中もやって来る。全員が並ぶのを確認すると蝶野が口を開く

「みんなグッジョブベリーナイス!初めてでレイバーをここまで動かせる…いやグロッキーにならずに動かせるだけでも充分凄いわ!特にAチーム、初心者とは思えない動きだったわ!みんなも毎日走行訓練と射撃訓練を怠らずにやれば直ぐに上達出来るから頑張ってね!分からないことが有ればメールで何時でも聞いて頂戴!それじゃ今日はお終い!」

初めての特車道の授業が終わりそれぞれが帰路につくなか沙織が汗だくになったから温泉に入らないかと誘ってきた。いきなりの誘いに一同は驚いたが汗の不快感が彼女らを温泉へと誘った

 

温泉内

「なんか告白された時より興奮した〜」

「沙織さん告白された経験、ありましたっけ?」

「…お父さんからはあるもん」

みほは微笑ましいがお父さんを告白にカウントして良いのかと思ったが黙っておくことにした

「みんな今日はどうだった?私は久しぶりだったけど皆んなは初めてでしょ?」

「とても充実して楽しったです!」

「自分が大好きなレイバーを動かせるだけでも幸せであります〜」

「車長はみほと優花里で正解だったよね〜」

「え!?西住殿は分かりますけど自分でありますか!?」

「だって優花里レイバーに詳しいしさ初心者の私よりなんて言ったらいいかな〜威厳があるのよね」

「威厳…ですかぁ」

「私も優花里さんが、ラーダー車長なのは賛成かな。最後パイソンを撃ったのは優花里さんの判断でしょ?とっさの判断ができる人って中々居ないですから判断が素早い優花里さんは正に適任だと思うよ」

「西住殿に褒められるなんて〜自分は幸せ者であります〜!」

そう言うと優花里は自分の頭を両手でワシャワシャかき回した

「じゃあ改めてみほ、優花里。宜しくお願いします!」

「宜しくお願い致します」

みほは心が燃えるのを感じた、車長になると言うことは当然様々なプレッシャーが重荷になる。だが不思議と今のみほはそのこれから襲いかかるプレッシャーが怖くなかった、それどころか乗り越える覚悟を決めていた。そして大きな声で「はい」と答えた

…この時勢い余って湯船から上半身を出しそれに気づき勢いよく潜ったのは内緒である

 

「さてと、車長は決まったとして他の役割はどうする?」

「沙織さんは今日の様にラーダーの通信手はどうかな、沙織さん声がハキハキしてるし話すのが得意だしね。」

「あの〜私ラーダーの火器を担当して宜しいでしょうか?実は試合の最中銃の音と振動で目が覚めて、それがとても心地よく忘れられないんです」

「え?でもそうしたら優花里の役割はどうなるの?」

「あぁ、本来ラーダーは3人で役割を分担するんですよ、今回は人数の関係上私が火器と車長と操縦手を兼任しましたが本来は『車長」『火器、操縦手』『通信手』と分かれるんですよ」

「じゃあ華さんは火器、操縦手と言うことで」

「それじゃあエコノミーの操縦手はどうするの?」

「そこは麻子さんで…って麻子さん帰ろうとしてる!」

みほが麻子の方に目をやると既に風呂場から出ようとしてた

「麻子!あんた遅刻のせいで単位足りてないんでしょ!」

すると麻子が振り返り

「…既に書道を取ってるんだが」と言った

「特車道入ると単位3倍だよ!3倍!」

「3倍…!」

3倍と言う数字には麻子も無視はできなかった様で渋々やると答えた

「沙織、勘違いするな。私は単位に連れられたのではない。西住さんに借りがあるから取るんだ」

「はいはいそう言うことにしておきますよ〜」

これで役者はそろった、このメンバーならばいけるみほはそう思った

「さて、それじゃあお風呂上がって皆んなで買い物しようか!」

と沙織が提案する。一同は意図が分からないまま温泉から出てショッピングモールへと向かった

 

ショッピングモール内

「…私てっきりレイバーに関するお店かと思ってました」

困惑する優花里に対して沙織以外肯く、沙織が連れてった場所は雑貨屋である。曰くレイバーの振動がお尻にキツイとのこと、それに鉄臭い匂いもキツイらしい

「だからクッション買いたいんだけど…ダメかな?」

「ダメじゃないけど今までレイバーにクッション敷く人見たことがないなぁ、それに前の学校じゃ私物なんて持ち込もうものならグラウンド5周やらされたよ」

「まぁダメならダメで後で外せばいいんですし、取り敢えず買いましょう」

まさか華が沙織の意見に賛同するとは思わずみほは驚く

「あとさ、スリッパ履かない?」と沙織はスリッパを購入しようとするがそこで麻子が突っ込む

「沙織、スリッパ履いてるとペダルとか押しづらいぞ、それにレイバーは車なんだ、スリッパで車運転するやつがいるか?」

そう言うと沙織は膨れっ面になりスリッパを元に戻す

この日はクッションと芳香剤、ドリンクホルダー、ゴミ箱というレイバーに必要ないものばかりを買いここでお開きとなった

帰り道に一人になったみほは今日のことを思い出した。久しぶりのレイバー戦、指示。そしてクッション…みほにとって特車道は「恐怖の存在」でしか無かった、がその恐怖の存在を面白い可笑しくしてくれる人がいる。硬いはずの特車道が急に少し柔らかいものを感じた、いい意味で沙織達はみほの調子を乱してくれたのである。みほは思わず微笑み家へ着く。今日は割り勘したとは言えお金を使いすぎたので肉なし青椒肉絲にでもしよう…そう思い鍵を開けた

 

翌日 ハンガー内

ハンガー内では凄まじい光景が広がっていた。ドーファンのシールドにどでかく「バレー部募集」書かれており指揮車にも同様の文が書かれている。サムソンは緑色から真っ赤に変わり指揮車には旗が立てられていた、パイソンはモニター以外全部ピンク色で塗られラーダーは黄色で塗られていた。アトラスはと言うとバルカン砲の部分だけを金で塗り後は手付かずであった

「会長の威厳を表すために金で塗ろうとしたのですが…」

「かーしま、そんなみっともないこと出来るわけないじゃない、百式じゃないんだよ?」

「桃ちゃん諦めなよ、というか会長百式ってなんですか…」

さて、これらの光景を目の当たりにしてみほも驚いたがそれ以上に驚いたのは優花里である

「ドーファンが!サムソンが!パイソンが!ラーダーがなんか別のものになってます!ド派手なカラーリングなんかして民間用レイバーじゃないんですよ!あんまりじゃないですか!」

そう言うと沙織がうちらもあんな風に塗れば良かったといい優花里に説教された。

「西住殿〜どうにかしてくださいよ〜…西住殿?何故笑ってらっしゃるんですか?」

そう、みほはこの個性的なレイバーを見て腹を抱えて笑っていたのである

「だって、レイバーをあんな風にするなんて想像できないんだもの!ピンクって…旗って…もう可笑しくて可笑しくて!」

するとそこへ杏がやって来た

「大笑いのとこ申し訳ないんだけど西住ちゃん、練習の指示頼める?」

「私ですか!?」

「西住ちゃん経験者だしさ、昨日の模擬戦での動きも見事だったしさ。というわけで宜しく頼むわ」

そう言うと返事する時間も与えず帰ってしまう。またしても生徒会によってみほは振り回されるのであった

 




さて今回は何時もより短くですが如何でしょうか、次回の更新は出来る限り早めに出来るよう粉骨砕身の精神で頑張ります。ここまでのご視聴ありがとうございました!


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試合、やります!part3

ど〜も恵美押勝です!リアルが忙しくて全然投稿できなくて本当に申し訳ない(メタルマン)書くこともないので本編行ってみよー!


西住みほは困っていた、自分が教える立場になったからである。確かに自分はこの中での唯一の経験者だ、しかし人に教えた経験などなかった。果てさてどうすればいいののか…(悩んでてもしょうがない、やるしかないや)そう思いみほは自分の頬を叩き気を引き締めた。目の前を見ると全員が整列している、会長に前に出て今日やる練習を伝えるようにと言われ前へと出る

「こんにちは、西住みほです。今日は初めての練習にあたり私が指示を出します、不束物ですが宜しくお願いしましゅ…」

しまった、最後の最後で噛んでしまった自分の顔が熱くなるのを感じる。が全員それに反応しておらずほっとしたようなガッカリしたような気持ちを抱いた

 

 

練習場

練習場に全てのレイバーが集まり練習が始まった、最初は基本中の基本、歩行と走行である

「まずは隊列を組んで一定の速度で歩くことを心がけてください!指揮車もそれに合わせて、1km歩いたら次は一定の速度で走ります!転けそうになってもオートバランサーがあるので大丈夫です!それでは射撃場へ向かいましょう!」

全員が動く中ドーファンが凄まじい土煙を上げてるのを確認した

「ドーファンの方は深く踏み込まず浅く踏み込む様にして下さい!土煙は相手に自分の座標を教えてしまうことになるので!」

そう言うとドーファンは浅く踏み込みこけそうになるが流石は篠原のオートバランスこける事なく立て直した

 

射撃場

「アトラスやラーダーのような軍事用レイバーは火器システムを起動して的をロックオンしてから撃ってください、ですがロックオンは確実に当たるわけではないのでまずは数発撃ち外れたら少しずらして撃つことを心がけて下さい」

アトラス、サムソンがそれぞれの武器を使い的に当てる

「私達警察用レイバーはまず座席の横にあるレバーを引いて銃を取り出してください、銃を握るまでの動作はオートなので安心して。握ったら的に向かって構えてロックオンします。軍用機とは違いこちらは六発しかないので一撃必中を心がけるように」

そう言うとパイソンの車長、澤梓から通信が入る

『西住先輩、的をしっかり狙ってるんですが何故かブレちゃいます、どうしたらいいんでしょう?』

『恐らくそれはパイソンの前の操縦者が残したデータの蓄積…つまり“クセ”だね』

『クセ…ですか?』

『そう、恐らく前の操縦者は銃をあまり使わないでいざ使うときは撃つのを躊躇ってた人かもね、じゃあ的を狙ったら外れてもいいからすぐ撃つ練習をしてみようか。これでクセの矯正が出来るはず』

『了解です、ありがとうございました』

さて、ドーファンの方はどうか…そう思い的を見ると取り敢えず当たってるだけで着弾位置がバラバラであった、この有様を見てみほはドーファンの車長磯辺典子へ連絡する

『磯部さん、連続で6発撃ってませんか?』

『確かに連続で6発撃ってます!』

『連続で撃つといかにロックオンしたとは言え反動によるズレが生じてしまいます、一発撃ったら少し間を開けて次弾を発射して下さい。』

『分かりました!ですが弾がなくなったけどどうすれば?」

『銃の収納場所に予備弾があります、ドーファンをひざまずかせて磯部さんか河西さんどちらか一人が降りて手動で装填して下さい』

通信を終え今度はみほ達のエコノミーが撃つ、一発ずつ少し間を開けて全弾撃つ。的のど真ん中に全て着弾していた

「冷泉さんすごい…まさか全弾ど真ん中なんて」

「なぁにレイバーの関節を狙うよりは楽勝だ」

改めてみほはこの冷泉麻子という人物が天才かを思い知らされた

そんなこんだで時刻は夕方になり練習が終わった。

 

ハンガー前

「皆さんお疲れ様でした!昨日の模擬戦の時よりずっといい動きをしてましたね!この調子で頑張っていきましょう!」そう言い今日の練習を締めくくろうとすると桃が口を開いた

「突然だが、明日親善試合を行うことになった。相手は“聖グロリアーナ女学院”だ。よって明日は5時にこのハンガー前に集まれ以上だ」

いきなり試合を告げられ周囲が騒めく。

「ねぇ優花里、聖グロリアーナって何?」

「聖グロリアーナ女学院は特車道の全国大会で準優勝したことがある強豪校です」

「そんな相手と私達戦うんですの…?」

みほは内心焦りを感じた。聖グロはみほがかつて居た学校のライバルでありみほ自身も戦ったことのある相手だ、勝ったとは言え楽な試合ではなかったのを覚えている。

_______今の私達が勝てる、いやまともに戦える相手なのか?

そう思い周囲を見回すと麻子が青ざめていた

「なぁ…明日5時に集まりって言ったよね?それって」

「朝の5時ですよ?それがどうしましたか冷泉殿?」

「みんなすまない、特車道やめる。短い間だが世話になったな」

いきなりの辞退宣言に沙織達が驚き悩んでいたみほも驚く。

「人間、朝の5時に起きられるわけないだろ。起きれる奴は社畜か老人ぐらいだぞ」

「いや、屁理屈こねても起きなきゃダメだから」と沙織が突っ込む

とそれに続いて沙織がこう言う

「やめてもいいけどあんた単位の当てあんの?留年したらおばぁどう言うだろうねぇ」

痛いところを突かれてギクッと麻子は震えた

「おばぁを出すとは卑怯な…それを言っちゃあお終いだぞ沙織。しょうがない留年には変えられないおばぁも怖いしな、撤回しよう。」

渋々麻子が辞めるのをやめ一同はほっと一息ついた。と、そこで電話が鳴り桃から明日の試合についての作戦会議をするので生徒会室にくるようにと連絡が入った。

 

 

生徒会室

生徒会室には既にみほ以外の車長が集まっていた。みほが到着したところで会議が始まった。

「いいか、今回相手する聖グロリアーナは連携が得意だ。使用するレイバーもサターン、AVS-98と高機能なレイバーを利用する。我々が使用する鈍足な軍用レイバーでは遠距離でない限り勝ち目がないと思え。そこでだ機動力が高い警察用レイバーを囮に使いキルゾーンに誘い込み軍用レイバーの一斉射撃で殲滅する。」

…甘い、甘すぎる。初心者なら通用する手かもしれないが相手が相手だ。そう考えると杏から考えがあるなら言って見なさいよと言われた、しかし意見を言えと言われても自分が言うなんておこがましい。そう思い断ろうとすると

「西住ちゃんはさ、こん中で唯一の経験者なワケ。私達素人としたら経験者の知恵って奴を拝借したいのよ、変に自分を蔑まないで言って頂戴よ」

そう言われては断れない、みほは自分の考えを語った

「聖グロリアーナは特車道に関してはプロ中のプロです、当然こちらが囮を使うことは予想してるでしょう。となれば裏をかかれて逆包囲される危険性が高いと思います」

そう言うと周囲は成る程、それは盲点だったと言いたいような顔をするが桃は違った

「西住、それは私の作戦が間違ってると言いたいのか?」

「いえ、間違ってるとは言いません。ただリスクが高いと言いたいんです」

「なら西住、お前が指揮をとれ!何か他にいい作戦があるのか?言ってみろ」

まずい、怒らせるつもりはないのに怒らせてしまった。謝らなくては、そう思った瞬間

「河嶋、お前少し頭冷やせ」と冷ややかな声で杏が喋った

「何も西住はお前さんの作戦を完全に否定してる訳じゃない、お前さんの作戦にはあるものが欠けてんだよ」

「”あるもの“と言うと…?』

「失敗した後の作戦さ、まさか河嶋一斉射撃が全弾相手に命中すると思ってんの?」

「いえ…それは」

「だろ?それ以降の作戦が練れない以上ここは西住の意見を採用してお前さんの作戦を完璧なものに仕上げるってわけ。分かった?」

そう言うと杏はこちらに顔を向けた

「てな訳で西住ちゃん、ど〜する?」

「そうですね…一斉射撃を行った後別の場所に退避してそこで散開、あとは各自の行動に任せるというのはどうでしょう?」

「成る程ね、それなら自主性を育てることも出来るしいいんじゃない?てか作戦の是非は西住ちゃんが決めていいんだからね。私は会長だけどここじゃ会長なんて役職は飾りに過ぎないからさ」

これで作戦は決まった。ここで解散しようとすると再び杏に呼ばれた

「西住ちゃん、やっぱり隊長頼めるかな?やっぱり経験者が指揮する立場にいるべきだと思うんだわ」

…私が隊長?自分はそんな器ではないと言おうとする間も無く賛成を求める拍手が行われそれに周囲も同調した。

「そんじゃ西住ちゃん…いや西住隊長宜しく!勝ったら豪華商品干し芋3日分あげるからね〜因みに負けたら今度のお祭りであんこう踊りやってもらうから」

有無を言わさず決定してしまいみほは不安を抱えながら生徒会室を後にするのであった

…あんこう踊りってなんだろう。薄らそう思いながら

______________________________________________________

生徒会メンバー以外が退出し部屋の電気は消され夕日の明かりのみとなった

「しかし会長、何故聖グロリアーナなのですか?」

「そりゃあ、強い相手の方が実力ってのを知れて向上心を育てられるでしょ」

「だったら黒森峰やプラウダでも良かったのでは?」

「最初はそう考えたんだけどさ、黒森峰もプラウダも地理的に遠いのよ。それにああいう強すぎる相手はうちらみたいな弱小校にはナメて本気出さないだろうしね、それじゃあダメなんだ、本気で戦ってくれる相手じゃなきゃ」

「成る程、というわけで茨城にも地理的に一番近く騎士道精神を重んじる神奈川の聖グロを選んだわけですか」

「そういうこと〜」

 

休憩所前

みほは今回の試合のことについて話謎のあんこう踊りについても話したそうするとみほ以外の全員が青ざめた

「あんこう踊りってマジなの?」

「あんな恥ずかしいことさせられるんですか…?」

「全国的に晒されて一生ネットのオモチャにされますよ〜」

「そんなにあんこう踊りって恥ずかしい踊りなんだ」

「もうこうなったら勝つしかないじゃん!?」

そうだ、勝つしかないのだ。あんこう踊りがどのようなものかは知らないが相当恐ろしいものらしい。私は守る為に戦うんだ、少し意味は違うかもしれないがそう思いみほは己を鼓舞した

「私としては麻子が起きるか不安なんだけどね…」

「それに関しては作戦があるから」

「作戦って何ですか?」

「それはね_____

さて明日は初めての他校との試合だ、このチームで勝てるのか!?

 




さて、今回はここまでとなります!次回はいよいよ聖グロとの試合…!と行きたいところですが次回は「不肖!秋山優花里のレイバー講座」と称してガールズ&レイバーの世界についての説明などを書きたいと思います。それではご視聴ありがとうございました!


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試合、やります!part4

ど〜も恵美押勝です。今回は本編です!ではどうぞ!


早朝、朝4時00分。西住みほの部屋

その日みほはいつもよりシャキッとした気持ちで起きれた、転校してからの初めての試合。相手は今の戦力ではまともに戦える相手ではない聖グロリアーナ女学院、しかしみほには勝つか負けるかは分からないが一方的に負けることはないだろうというヴィジョンが浮かんでいた。付け焼き刃のような練習だが全員の才能は確かにある、自分の通っていた学校では少なくとも初日でレイバーを動かせるような生徒は居なかった。原石としてはいい、後はどう磨くかだ。それをこの試合で探さなくては、そう思いながらみほは準備を済ませ家を出る、今回はしっかりと鍵を閉めた。学校に行く途中携帯電話が鳴った、ポケットから取り出して画面を見ると通話主は沙織であった

「もしもしみほ?今麻子の家にいるんだけどやっぱ起きないの、ど〜しよ〜!?」

「分かった、これから少し準備するから沙織さんは麻子さんを起こしてくれるのを続けてくれるかな?もう少ししたら優花里さんが来ると思うから」

「準備って何!?」

「ちょっと作戦がね…ん、学校に着いたから切るね」

「ちょ、みほ!?」

みほは電話を切りハンガーへと向かう、ハンガーの前には自動車部の部長、ナカジマがいた

「西住さん、どうしたのキャリア出すにはまだ早いよ?」

「ナカジマさん、ちょっとエコノミー動かしていいですか?」

「いいけど…何に使うの?」

「ちょっとチームメイトを起こしに」

「ふ〜んレイバー使って起こすのか、いや〜面白いね。分かった5時までにハンガーに戻ってこれるならいいよ〜」

「ありがとうございます!」

ナカジマにキャリアを起こしてもらいみほは麻子の家へと向かう。操縦は苦手だが歩かすことぐらいはみほにだってできる、5分ほど歩くと目の前にラーダーが見えた。ラーダーから優花里が降り起床用のラッパを吹かす。

『優花里さん?麻子さん起きた?』

『西住殿、それがダメでして…』

『ダメか…ならやっぱりコレしかないか』

みほはレバーを引きリボルバーカノンを取り出す、そして静寂な住宅街に空気を切り裂く派手な音が鳴る。これには近隣住民も驚き窓を開ける

「すいません!空包です!ご迷惑をお掛けしました!」

みほは外部スピーカーを使い周囲に謝罪する

『優花里さん!麻子さんは!?』

『み〜ほ〜』

通信に恨めしい声で出たのは沙織であった

『街中で銃をぶっ放すなんて何を考えてんのよ!作戦ってこれのこと!?』

『ああでしないと起きないと思って…それで麻子さんは?』

『もうバッチリ目が覚めたみたい、今着替えてる』

3分後着替えが終わった麻子が玄関を出る、それをみてみほはエコノミーを膝立ちの状態にしハッチを開ける、ハッチから縄はしごを下ろし麻子が上がってきた

「やあ西住さん」

「おはよう麻子さん、目は覚めた?」

「ああ、目が覚めた。あんな刺激的な起床は初めてだよ、どんな目覚し時計よりも効くな。もう二度とごめんだが」

「じゃあ早速学校へ戻ろうか」

エコノミーとラーダーは学校へと向かう途中で様々な人の目に触れた。久しぶりにレイバーが動いてるのを見た人、レイバー自体を見るのが初めてな人。どちらも期待の眼差しで此方を見ていた。期待してるのは会長だけじゃないんだ、この人達の為にも全力を尽くさなくては熱き思いがみほの心臓を動かす。

4時55分 ハンガー前

みほは麻子にデッキダウンを任せ、最前列の前に立つ。麻子が戻ってくるのを確認し杏が口を開く

「西住ちゃん、なんか景気づけに喋ってよ」

相変わらず自分に無茶振りする人だ、みほは内心すこし毒ついた

「会長…分かりました。皆さん、今日の相手は強豪校聖グロリアーナ女学院です。レイバーの性能、搭乗員の練度も此方より上、簡単にはいかないと思います。それでも勝てる可能性が0%ではありません。昨日各隊長から伝えてもらった作戦通りにやれば道は見えます!精一杯頑張りましょう!皆さんの実力ならいい勝負が出来るはずです!」

みほの鼓舞に全員が大きい返事で答える。静寂の後、桃が話す

「それでは全員レイバー、指揮車に乗り降り場へと向かえ!解散!」

解散の指示と共に蜘蛛の子を散らすように持ち場へと向かっていった

学園艦はまもなく大洗港へと到着する

 

6時00分 大洗港

そこには今まで見たことがない景色が広がっていた。ショッピングモールに工場、巨大なタワーがみほを出迎える。その景色に圧巻されてると沙織がみんなに話しかけた

「久しぶりの陸だね〜アウトレット行きたいな〜」

「試合が終わってからですね」

「んじゃささっと勝っちゃって買い物行こ!そういやみほは大洗は初めてなんだっけ?」

「うん。私がこの学園艦に乗ったのは他の場所だっらから」

「そっかぁ、じゃあ後であちこち案内するね。良いところだよここは〜」

たわいのない話しをしてると頭上が暗くなった

「ん?雲ってきた…?」

「おかしいですわね、今日は一日中晴れのはずなのに」

「西住殿横見てください!」

横を見ると大きな学園艦が見えた

「聖グロの学園艦!?大きすぎでしょ!?」

「あら、あちらもキャリアが走ってますよ」

「あれが聖グロのレイバーですか!…どれどれ?凄いです西住殿!サターンにAVS-98ですよ!本物を見るのは初めてです!」

「優花里それってそんなに強いの?」

「はい、警察用レイバーとしては特車道の中では最強クラスかと!なんせあの第一小隊が使ってたレイバーですからね」

ゲートが開きキャリアが試合会場へと向かって進む、みほは自分の心臓が早くなってるのを感じた。

 

午前7時15分 試合会場

一面草原で障害物が何もない場所へとキャリアは着いた、全員降車し聖グロの選手と対面するために前へと進む、集合場所には既に聖グロの選手が整列していた、その中で一際存在感を醸し出す金髪の赤いタンクジャケットを着た女性がいた。彼女の名前は「ダージリン」聖グロ特車道チームの隊長である、ダージリンといっても本名ではなく称号な様な物で聖グロでは特車道のメンバーに紅茶に関する名前を付ける風習があり中でもダージリンという名を受け継ぐことはこの上ない名誉とされているのだ。挨拶のため桃が前へ出る

「大洗女学園の河嶋桃と言う。今回は急な申し込みにも関わらず試合を受けてもらって感謝する」

「構いませんわ、受けた勝負は逃げない…これが聖グロリアーナの決まりですわ。それにしてもあなた方のレイバーは派手な塗装に旗と大変ユニークでいらっしゃるのね?でも手は抜きませんわ、サンダースやプラウダと言ったごり押ししか能がない下品な戦いとは違いますの。騎士道精神で正々堂々と全力を持ってお相手致しますわ。ではご機嫌よう」

審判による注意事項や試合形式などの説明が入り互いに礼をして各自持ち場へと戻った。

試合前特有の緊張感が全員を襲う、特にみほはこれに隊長というプレッシャーも襲う。だがみほはこの緊張感で昔の感覚を思い出しつつあった、息を整え電気系統の最終チェックを行う。

モニター異常なし、対人、対物センサー問題なし。コンディショングリーンである。確認を終えたところで通信を知らせるブザーが鳴った

『西住ちゃん、どう?久しぶりの特車道は?』

『まだ始まってないから何とも言えませんが、懐かしい感じはしますね』

『まぁ隊長だからさ頑張ってよ、西住ちゃんの指揮期待してるよあたしらも全力で従うからさ』

『ふふ…あんこう踊りをしなくても済むように頑張りますね。でも負けたら勿論会長もやってくれるんですよね』

『無論やるとも、なぁに西住ちゃん私のあんこう踊りが見たいの〜意外とスケベだな〜?』

『ス…スケベってなんですか!』

『何でもない何でもない、ほらそろそろ試合開始時刻だから無線切るよ!』

全く、会長の能天気さには呆れるものである、しかしおかげで緊張が少しほぐれた。冷たい手先に熱が篭るのを感じる。

手元の腕時計を見て試合開始時刻になったのを確認する、そして審判から試合開始を告げる通信が入った。デッキアップし5機のレイバーが立ち上がる

『皆さん、電源オンにして!それでは行きますよ!レイバー・フォー!!』

 




遂に始まった初の試合!囮になったエコノミーが大地を駆け巡りキルゾーンへと誘い込む!がそこに待っていたのは我らがトリガーハッピー河嶋桃、その人であった!「往生せいやー!」鳴り響く銃撃音。果たしてみほ達に勝機はあるのか!次回「隊長、頑張ります!」ターゲットロックオン!


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隊長、頑張ります!part1

どーも恵美押勝です、いや〜戦闘描写ってめっちゃ苦労しますわ。小説とかでいとも簡単に戦闘をイメージさせる描写を書く人は天才だなって思いますよ、それでは本編どうぞ!


電源を入れるためのコックを捻る音がする、次にコンピュータ系統が立ち上がる音が聞こえ全体的に低い音を奏だてる。キャリアが上がりきったことによる振動が起こる、いよいよエコノミーが動く時が来た。エコノミーとラーダーが歩き始めればそれに続くように指揮車や他のレイバーが歩き出す、今みほの体は心地よい緊張感が支配していた思考がクリアになるのを感じる

少し歩き始めたところで通信が入る、通信の主は一年生チームのラーダーの通信手、宇津木優希であった

『隊長、これからどうするんですか〜?』

『えぇと、試合前の説明にもあったと思うけど今回の試合形式は殲滅戦だからどちらかのレイバーを一人残らず倒せば勝ちなの。それで私達は高火力の軍用レイバーを持ってるから相手チームを誘導し引っかかった所で叩きます、それでその誘導をする為にエコノミーが偵察していくので他の人達は100m進んだ所で次の通信が入るまで待機して下さい』

『西住ちゃ〜ん、なんか作戦名ないの?こう言うのあったほうが盛り上がるでしょ』

作戦名…そんなもの前の学校では考えたこともなかった。が、今は違う

とは言えいきなり振られて出てくるものでもない、あれやこれやと浮かんでは消え葛藤すること3秒、結論が出た

『それじゃあ「こそこそ作戦」でいきましょう。こそこそ相手を探そてこそこそ隠れる作戦なので』

『何だが可愛らしい名前だね、まぁいいんじゃない?んじゃこそこそ作戦で決定』

こうして“こそこそ作戦”が発動した、100m進んだ所でみほ以外のレイバーは電力温存の為電源を切って待機して、みほ達もそこから50m進んだ見晴らしのいい崖の地点で膝立ちに状態にして電源を落とし全員に伝達する

『各チームの指揮車は索敵お願いします、ひょっとしたら相手チームの指揮車がこちらの方に向かってるかもしれませんので』

指揮車が動く音を確認しみほは降りる、ラーダーの方からも優花里が降り二人は崖付近で双眼鏡を構えて偵察する、偵察開始から3分ぐらい経った頃遠くにレイバーの隊列が見えた

「流石、聖グロですね美しい隊列です。同じスピードで音を立てずに行動出来るとは」

「うん、私達じゃまだあそこまで綺麗にはいかないもんね」

「こちらの武装じゃ余程の近距離か格闘戦に持ち込まない限り機動力でかわされてしまいますね」

「そこは戦術と腕かな」

「あとは知恵と勇気ですね!」

「よし、そろそろ行動開始しようか」

二人はそれぞれのレイバーに戻る、エコノミーの中では麻子がうたた寝していた

「麻子さん、麻子さん起きて。」

「西住さんか…もう昼寝は終わりか」

「昼寝にはまだ早いよ…今から動くから電源入れて、なるべく屈んで動いてね」

「ん、了解した」

エコノミーが動き始めた所で格レイバーに通信を入れる

『これから誘導を開始します、格チームのレイバーは電源を立ち上げて下さい、それと指揮車の皆さん。何か異常はありましたか?』

『こちらcチーム、異常なし」

「Bチーム異常ありません」

『こちらEチーム小山、前方に3台指揮車が目視できます、西住さんどうしよう?』

『小山さんはゆっくりと後退して下さい、その座標にラーダーを向かわせます。山郷ちゃん、ラーダーで小山先輩の方に向かって。あとの二人は合流して下さい』

それぞれに指示を出し通信を終えたみほは自身の行動に移る

「麻子さん、あの白いレイバー…AVS-98を狙って。」

「この位置から撃っても効かんぞ」

「構いません、相手にこちらの存在を気づかせるのが目的だからね」

『優花里さんも同様にお願い』

『了解です西住殿!』

両レイバーは崖の上から隊長車であるAVS-98に狙いを定める、張り詰めた空気を裂くような音を立てながら25mmチェーンガンと37mmリボルバーカノンが火を吹く…この場合は色を吹くと言うのが正しいかもしれないが放たれたペイント弾はダージリンが乗るAVS-98の周辺地面をかすめるだけ終わった

こちらの攻撃に気づいたダージリンは各レイバーへエコノミーを追撃するように指示を出す。エコノミーと同じく37mmリボルバーカノンがみほ達に向かって放たれる、幸運なことにこれらの弾は先ほどのみほと同じ結果に終わった、このチャンスを活かしみほ達はキルゾーンへと誘導する

『麻子さん、優花里さんはなるべくジクザグに運転してください。エコノミーの装甲は薄いので一発でも食らえばお終いだしラーダーも関節に当たったら終わりです!』

しばらくの間役4分間にわたる鬼ごっこが続く、AVS-98の攻撃はさほど脅威ではない。何故ならリボルバーカノンは撃ちつくしたら手動で排莢しリロードしなくてはならない、問題は98を取り巻くサターンである。このレイバーはオートマチック式の銃を武装してる、つまりリロードの時間が格段に速いと言うことである

とにかくみほ達は走らなくてはならない、目的地まであと3分

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その頃一年生チームが乗るラーダーはみほの指示を受け指揮車の撃破に向かいポイントに到着した、柚子が言った通り3台の指揮者がそこにいた。

「指揮車は武装持ってないしこっちの武装が一発でも当たれば撃破判定は出るはず、あや撃っちゃって」

「合点承知の助!」

この攻撃により急な来襲に対応できず聖グロの指揮車3台が成すすべなく撃破された

「よし、ほんじゃ西住隊長のところまで戻ろっか」

「あゆみ前になんか居るよ!」

そう、彼女らの前には指揮車護衛のためのサターンが居たのであった

「まずいよまずいよレイバーだよ!」

「どうすんのあゆみ!?」

「取り敢えず撃つっきゃないって」

慌ててあやはトリガーボタンを押す、だがそう簡単に当たるものではない。サターンは横に避けつつスタンスティック付きのシールド、スタンぺイルを構えてラーダーへ突進する、スタンペイルがラーダーに当たりラーダーがショートを起こし停止した

「あれ、動かなくなっちゃったよ!?」

「モニターも映んない!もう終わりだぁ!」

サターンはコンバットナイフに持ち替えラーダー目掛けて振り落とす、コンバットナイフが突き刺さりラーダーに白旗判定が出る、だがそれが出ると同時に刺した衝撃によりチェーンガンが暴発、サターンのコクピットに命中し白旗判定が出る。

「あれ…勝ったの?」

「試合に負けて勝負に勝ったって奴?」

「なんか微妙に違うと思う…」

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『こちら西住、あと3分でそちらへ到着するので準備をお願いします!』

『ん、りょーかい。んじゃかーしまお客さんが来るから丁重にもてなすようにみんなに言ってちょうだいな』

30秒後キルゾーンではみほ以外のレイバー全てが起動完了し低地に向かって各々の武装を構える。そして杏はみほに通信を入れる

『西住ちゃん、そういやDチームのラーダーやられたみたいだよ。』

『…!?山郷ちゃん達は無事ですか?』

『それに関しちゃ問題ないみたいだよ、あとやられる寸前で相手のレイバーもやったってさ。後で褒めてあげなよ〜』

これにはみほも驚いた初陣で相討ちとは言えレイバーを撃破したのだ、しかもレイバーに触って1週間も満たない初心者であるやはり最高の原石だ。自分の考えは間違っていなかった、そうみほは内心ガッツポーズをした

『了解です、あと100mで有効射程内に入ります。』

『あいよ』

通信を終え15秒歩くとキルゾーンへと着いた。アトラスが見える、そして

…20mmバルカン砲が“こちら”を向いていた

『往生せいやー!!!』

外部スピーカーから響く桃の声と共にアトラスが攻撃を行う、それをすんでの所でみほ達はかわした

「何やってんだあの先輩…!」

操縦しながら麻子が悪態をつく

『河嶋先輩落ち着いて!発砲するにはまだ早いです!』

しかしトリガーハッピーと化した桃にそんな声は届かない。いよいよ聖グロのレイバーが来た

サムソン、ドーファン、パイソンが攻撃を行うがやはりこちらが囮を使用した安直な作戦だと割れていとも簡単に回避行動を取られてしまう。じわりじわりとこちらによって来る。まずい、完全に混乱している。攻撃がもうめちゃくちゃだ

『皆さん落ち着いて!闇雲に撃っては当たるものも当たりません!落ち着いてコクピットを狙って下さい!』

とは言えこの混乱の中その様な射撃ができるかと言われれば答えはノーだ

しかし偶然にもサターン2輌に攻撃が命中し撃破する、これをチャンスだとみほは捉え全員に通信を入れる

『各員、これよりキルゾーンから離脱、山を降りて町へ行きます』

『西住ちゃん、アトラスの右足破壊判定が出ちゃったみたいだから直してから合流するわ』

『分かりました、ではEチームは小山先輩だけついてきて下さい

ではこれより“もっとふらふら作戦“を開始します!』

 

------------------------------------------------------------------------ダージリンは既に勝った気になっていた、名前も聞いたことがない高校の素人集団、そして腑抜けたレイバー。むしろ敗北することが許されない試合だった。相手には西住流の人間が居るとダージリンの同級生アッサムにより教えられており最初こそ一抹の不安を覚えたが安直な囮作戦を見て杞憂へと変わった、間違いなく勝てる、いや勝つ自信しかない西住流とは言え所詮はこの程度かと判断し前進する。途中で2輌破壊されたがこんなのはまぐれであるから何も心配は要らない、そう思った矢先にダージリンはエコノミーが他のレイバーを連れて逃げるのを目視した。“西住流に逃げると言う道はない”そう言ったまほとは雲泥の差だ、ダージリンは僅かながら怒りを覚えた西住流の看板を背負いながら逃げ出す姿勢が気に食わなかったのだ、そのほんの少しの怒りは彼女の冷静な思考を汚染し彼女は全レイバーにエコノミー達を追跡するように命令した、彼女の目には修理するために降りたアトラスが目に入らなかった…

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一心不乱にみほ達は走り神社を抜けて海岸沿いの道路へと出る、途中追跡に来た聖グロの指揮車と遭遇するも優花里のラーダーによって排除される、タワーを通過し十字路に差し掛かった所でみほはインカムに手をつけた

『これより市街戦に入ります、地形を最大限に利用して下さい。では各自散開しこれ以降の行動は任せます、皆さん先程の戦闘で弾を使い切ってると思うのでリロードを。各指揮車はリロード中の間偵察などをして援護してあげて下さい。以上です』

 

サムソンに乗ってるcチームは90mmチェーンガンが残り1500発ある、30秒もしないうちに尽きてしまうが聖グロのレイバーならばそこまで気にする必要はない、車長であるエルヴィンはそう判断した

「サムソンと言うレイバーは身長が比較的低い、このような市街戦ではうってつけだな」

「どこかで待ち伏せして引っかかってたところをコイツでスドンと言うわけだなエルヴィン」

「そうだ、後は偵察に行っている左衛門佐達の連絡待ちだな」

エルヴィンは適当な建物と建物の間に入りチェーンガンが隙間から出ないように位置と姿勢を調整してから3分後に通信が入りそっちにサターンが向かってるということ、しばらくするとセンサーが反応した、息を潜めて待つ何も気づかずサターンが歩いて通り過ぎようとした所を撃った、眩い光がサターンを照らしサターンをカラフルにする。それと同時にサターンから白旗が出た

「よし、まずは1輌撃破。あと何輌だ?」

「多分4輌だと思う」

「それじゃあこのままで残り4輌を狩りに行こうじゃないか」

そう言って前へ踏み出したところ鈍い衝撃がアトラスを襲い転倒した、そしてそのまま銃撃音が響いたと思うと撃破判定が出ていた

実はエルヴィン達の方に来ていたレイバーは1輌だけではなく2輌であった、そうとは気づかず前へ出たところサターンによるスタンペイルと射撃によるコンボでやられてしまったのである

『…左衛門佐、『ほうれんそう』は大事だぞ…』

『申し訳ないでござる…』

さてところ変わってBチームは立体駐車場にいた

「ここで待ってればいずれ来るんじゃない?」

「でもこんな小さい駐車場のどこで待つんですか?」

「まずドーファンが立体駐車場の下へ入る、そして指揮車に乗ってる妙子から接近する連絡が来たらボタンを押す、そうすると大きいブザー音がなるから相手はそれに釣られて正面に目を奪われる、そこで背後からアタックする!」

「ボタンを押すのは誰なんですか?」

「それは、私だ。忍頼んだぞ」

「キャプテンが…ですか。わかりました」

「いいか、根性だせ。そうすれば絶対に当たるから」

そう言い残し典子はドーファンから降り立体駐車場の起動ボタンを押す。ドーファンは体育座りの状態で収納された

待つこと4分後典子に連絡が入ると作戦通りにボタンを押し大きいブザー音が鳴る。それに気づいたサターンがまんまと釣られ此方へ入っていく正面に目を奪われ銃を構えるといるはずであるスペースにレイバーが居ないのを確認した、後ろを振り向こうとした瞬間足の力が抜けるのを感じた。ドーファンのリボルバーカノンがサターンの足の両関節を撃ち抜いたのだ、走行不可能となったサターンが撃破判定が出る。だがこのサターンの操縦手は伊達では無かった…後ろ向きで倒れる途中に銃で撃ちドーファンのコクピットに命中させたのだ。つまりは相討ちに終わったのである。

これで聖グロのレイバーは残り3輌

大洗のレイバーは残り4輌となった

 




今回は少し長めの話となりました、次回はみほvsダージリンを書いていきたいと思います。それではここまでのご視聴ありがとうございました!


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隊長、頑張ります!part2

ど〜も恵美押勝です、最初にお詫びと訂正があります。前回のラストで「これで聖グロのレイバーは残り3輌、大洗の残りレイバーも3輌となった」と書きましたが正しくは「大洗の残りレイバーは4輌となった」です。申し訳ありませんでした。
では本編どうぞ


みほ達はコンビニの前を通過したところでドーファンとサムソンがやられたことを聞いた。その報告を受けて優花里から通信が入る

『西住殿、これからどうしますか?』

『まずは周辺を警戒しながらDチームと合流するよう沙織さんに伝達をお願い。合流した後はお互いの背中をカバーしながら索敵、あとは出たとこ勝負って所で』

優花里が沙織に伝達してる間通信の相手が華へと変わった

『西住さん、ラーダーで人型レイバーを狙う時の注意点とかはありますか?』

『ラーダーはその形の性質上近接戦闘が出来ないから主に遠距離で撃つのを心がけて、万が一近づかれたら全力で後退して可能なら後退しながら撃っちゃって』

そう話すと今度はEチームパイソンの車長、澤梓に繋がった

『西住隊長、沙織先輩から座標を確認しました。今からそちらに向かいます』

『梓ちゃん、ラーダーは?』

『それがやられちゃったみたいです…』

『了解、リロードとかは済ませた?』

『はい、6発直ぐ撃てるようにしました』

30秒後パイソンが到着した、ペイント弾による汚れがないからどうやら無傷で今まで乗り切ったようである

---------------------------------------------------

「残り3輌」そう報告を聞いてダージリンは自分の手から力が抜けていくのを感じた、手に持っていたティーカップが重力に従い落ちていき地面に落ちて割れる。

ダージリンは己の判断に後悔した、相手が無名の素人集団とはいえ油断し己の感情に任せ無闇に市街地に突入してしまい地形の認知差を利用されこの様である。

「…おやりになるわね。腐っても西住流と言うことかしら。ですがこれもここまで、先行した指揮車のデータ転送によりこの地形は大体把握したわ。まずは敵の指揮官機であるエコノミーを叩いて差し上げましょう、指揮官機さえ倒せば後は赤子の手を捻るようなもの。」

散会していた残り2輌と合流し少し進むと30mほど先にエコノミーの姿を確認した。

「見つけた、全車追うわよ」

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合流ししばらく歩いくと、センサーに反応があった。こちらに3輌向かっているようだ。センサーに反応するなら直ぐ近くと言う事だ

『梓ちゃん、敵がどうやら近づいてるみたいここから全速力で走ってまくよ』

『了解』

インカムの電源を切りみほは麻子達にもこの事を伝える

その瞬間相手の3輌が走り出して発砲した、それは地面をかすった

みほ達は必死になって走った、振動がズシンスジンと響く。緩やかなコーナーに差し掛かったところで聖グロの側のレイバーが体勢を崩しオートバランスの限界を越えてしまい旅館に突っ込む形で倒れる、これで1輌撒くことに成功した

あと2輌を撒けばなんとか…そう思ってた矢先後方10m先にパイソンが止まってるのが見えた

『梓ちゃんどうしたの!?』

『すいませんバッテリー切れです…!』

Eチームは偵察するラーダーが居ないのでパイソンで探しまくった結果バッテリーを大量に消費してしまい更に走ったことでバッテリーが完全になくなってしまったと言う。戦場で棒立ちしてるレイバーを見過ごすわけがなくパイソンはAVS-98のスタンスティック一突きによりやられてしまった。

更に最悪なことに目の前に試合会場の端を告げる看板があった。もうこれ以上は逃げれない…聖グロはただ追いかけたんじゃない、こちらの逃げ場をなくすために追い詰めたのだ。

と、その時AVS-98からダージリンの声が聞こえた

『こんな格言を知ってる?「イギリス人は恋愛と戦争では手段を選ばない」貴方達はよくやったけどもうここまで。こんな狭い場所で2輌に手間取る程やわじゃありませんの、ですが久々にここまで緊迫した試合が出来て楽しかったですわTa-ra for now(さようなら)みほさん』

そういい聖グロの全車輌が銃を構えた、南無三ここまで来たら最早やられるのみ、そう身構えていると突然廃屋を突き破る音が聞こえ、聞き覚えのある声が響いた

『ちょっと待ったー!!真打登場!』

Dチームのアトラスである、そうあれから修理を終えたアトラスは聖グロのレイバーを追いたった今この場に現れたのである

「さっきはよくもやってくれたな、そのお礼もたっぷり返すために戻ってきた!」

そう興奮した声で桃は照準を合わせる

「袋の鼠とはこのことよ!全弾発射!」

そう言いアトラスが20mmバルカン砲と6連装ミサイルランチャーをぶっ放す、だがほぼゼロ距離にも関わらずバルカン砲は外れミサイルは1体のサターンに当たり爆発した。これにより聖グロのレイバーは残り2輌となったが先ほども言ったがほぼゼロ距離でぶっ放したのである、当然ミサイルもほぼゼロ距離で爆発したのでアトラスもその影響を受けペイントまみれになる。早い話がやられてしまったのだ

「かーしま、お前さん、ゼロ距離で爆発して無事で済むと思ったの?」

「つい興奮しちゃって…」

「かーしまアトラスの清掃一人でやってね、大変なんだよ?このペイント弾落とすの」

「…はい」

一瞬の出来事ではあったがこれにより相手の注意をみほ達から逸らすことになった。この場を脱出するには今しかない、とにかく強引にでもシールドでガードしながらここを抜けるしかないと判断した。

『優花里さん、煙幕撒いて!エコノミーが先行してここから脱出するからついて来て!』

『了解です!、五十鈴殿煙幕お願いします!』

ラーダーからスモークディスチャージャーが放たれ辺り一面が煙に包まれる、エコノミーはシールドを構えて腰を低くした

『これより表通りまで突っ走ります!』

その掛け声と共にエコノミーは走る、走り出した途端何かとぶつかりそれを押し倒す感覚がした、おそらく突然の煙幕で戸惑ったサターンであろう。

急げ、煙幕が通じるのは最初の数秒間だけ。グズグズしては赤外線センサーなどで発見されてしまう

サターンを突き飛ばした後はもう聖グロのレイバーから逃れたと判断し腰を上げる、そうこう走ってる内に大通りに繋がる十字路に出て左角で一旦停止した。

『みほ、大通りに出たけどまだ逃げるの?』

『いや、これ以上逃げてもバッテリーの無駄使いだからここで決着を付けます』

「麻子さんワイヤーを4mぐらい出してここの電柱に結んで。おそらく30秒後に敵が来るので23秒後にワイヤーを収納しながら反対側の角に飛び出てしゃがんで」

「成る程、ワイヤーで足を引っ掛けて転ばすって作戦だな、んで転ばした後はスタンスティックでとどめと、とは言えそこで1輌倒しても残り2輌全部がその手に引っかかるとは思えんが…」

「その時は1輌ずつ分担して倒しましょう、大丈夫。ラーダーは攻撃さえ当たれば絶対に倒せます」

「エコノミーは?」

「近接戦闘に持ち込めばなんとか」

そう話してる間に23秒経とうとしていた

「麻子さん!」

「おうよ」

エコノミーが走りその姿を先程吹っ飛ばされたサターンが目撃する、吹き飛ばされたことを根に持っているのか見つけた途端明らかにスピードを速くした、だがそれが余計に不味かった。見事ワイヤーに足が引っかかるどころか勢いがありすぎたので足首が切断されてしまう

「流石レイバーの体重を支えるだけのワイヤーだピアノ線みたいだな」

そう言いながら麻子はしゃがみ状態から元の体勢に戻しスタンスティックでうつ伏せ状態のサターンの背中に思いっきり刺す

これであと2輌。そう小さくみほが呟いた瞬間ラーダーの方に白い影が見えた。なんとAVS-98がワイヤーを走りながら飛んで躱したのである、そしてジャンプ中にシールドからスタンスティックを取り出し着地地点のラーダー目掛けて構える、そして何も手が出せずラーダーは上面装甲を刺されたしまった。

『西住殿すいません…まさかレイバーが走り幅跳びをするなんて…』

『みほ、後は任せたよ!』

『西住さん、冷泉さん頑張って下さい!』

1対2、こちらが不利なのには間違いない。しかしこういう時こそ慌ててはいけない。慌てて隙を見せた方が負け、…そして「勝つ」と信じて何も考えずに動くのも負けなのである

サターンがまっすぐこちらに突進してくる、こういう相手に当てるのはそう難しいことではないエコノミーのリボルバーカノンが火を吹きサターンの足に当たり破壊する、倒れ込んだ瞬間に背中に当てて白旗判定を出させる。残りの弾はあと3発、麻子は素早く照準をAVSに合わせて発砲、だが躱される。続けて2発打ち込むが全弾シールドで防がれてしまう。これで飛び道具は使えなくなった、AVSがスタンスティックを構えてこちらに突撃してくる

『これでチェックメイトですわ、みほさん』

わざわざ外部スピーカーを使いダージリンが早くも勝利宣言を行う

『ダージリンさん、まだ終わりませんよ!』

みほも負けじと声を出す、そして麻子に提案する

「麻子さん、レイバーの格闘は何も電磁警棒だけじゃないんですよ」

「ステゴロって奴か」

「いいえ、それよりもっといい方法があります。

…麻子さん柔道って出来ます?」

「試合はからっきしだが技の掛け方は授業で習ったから覚えてる」

「…まさかレイバーで一本背負いでもやろうってのか」

「そのまさかです」

「つぐつぐ西住さんはとんでもないことを考える人だな。だが面白い乗ったぞその話」

そう言い麻子は銃を放り投げ構えの体勢に入る、スタンスティックを持ってる腕を掴みこちらに引き寄せ足をかける、引き寄せたことによりスタンスティックが肩に刺さるが支障はない、むしろ投げやすくなった。引き寄せたまま相手と同じ方向に向き足はオートバランスに一任しそのままの勢いで投げる。投げたれたAVSは思いっきり頭から地面に突っ込む、と同時にオートバランスが働いてるのにも関わらずエコノミーが仰向けに倒れ込む

「すまん、西住さん。モーターがイカれたみたいだ、足も手も完全におじゃんになったよ。

…力加減をミスしたな」

「…ううん、謝らないで麻子さん。麻子さんのお陰でいい試合が出来たよ」

「ん、ありがとう。…しかしあんこう踊りかぁ。ボイコットするか」

イングラムのような高性能なレイバーならまだしもエコノミーのような廉価版レイバーではやはり柔道の技に耐えられなかったのである、四肢が壊れたエコノミーはもう動けない。

…白い旗が上がった

AVSの方も頭から突っ込んだ衝撃で脊椎系統がイカれたらしく動けなくなり白旗判定が出ていた。

しかし、エコノミーは投げた直後に白旗がAVSは投げたれた後に白旗が出たので互いに残りレイバーは0ではあるが、僅差で聖グロに勝利を告げるアナウンスが流れる

こうして、大洗女学園と聖グロリアーナ女学院の親善試合は聖グロリアーナ女学院の勝利と言う形で終わった…




いや〜戦闘描写の難しいこと(いつもの)次回は日常回なので作者のメンタルが回復しそうです。こんなテンションで完走できるか不安ですがやるからには最後までやらせて頂きます。
それではご視聴ありがとうございました!


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隊長、頑張ります!part3

ど〜も恵美押勝です、連日雨で本当嫌になりますよね。そんな気分を変えるべく横浜に新しくできた映画館でガルパン劇場版やってたんで見に行こうと思ったら夜の9時からで益々気分が落ち込みました。え?唐突な自分がたりはいらない?
では本編どうぞ!


白旗が上がったレイバーが次々にキャリアに乗せられていく、エコノミーは自力では動けないのでクレーン車で引っ張り上げてもらう形で乗せられた。キャリアが学園艦に行くのをみほは黙って見つめるしか無かった、敗北ではあったが初陣としては強豪校相手にいい勝負が出来たと自負している。試合の勝ち負けについては深刻に受け止めてはいなかった。問題は杏が敗北した際にやるといったあんこう踊りだ。どんなのかは知らないが沙織達が拒否反応を起こすぐらいだからよほど酷いものなのだろう、これから起こる事態を想定してため息をつくと目の前にダージリン達が現れた。

「今日の試合はありがとう、みほさん」

「あの…貴方は…?」

「ダージリンよ」

「ダージリンさん、お名前は姉から伺ってます」

「姉というとまほさんでして?」

「えぇ…」

そう言うとダージリンはほんの少し口角を上げた、ひょっとしたらこの人はお姉ちゃんと比べて自分のことを罵倒するのではないか。優秀な姉を持つ以上そう言った経験は少なくはなかった、そう思い少し身構えた

「随分とまほさんの試合とはと違うんですのね」

…あぁやはりこのパターンだ、身構えてはいたがやはり精神的に来るものがある。顔が自然と曇る、そんなみほの表情を察したのかダージリンが優しい声でこう言う

「違うと言っても貴方の事をまほさんと比べて馬鹿にしている訳じゃないわ、まほさんの固いセオリー通りの試合と比べてみほさんのは柔軟性があって奇想天外な作戦を立てて、おまけにレイバー使って柔道をするんですもの。とても面白かったわ」

「そんな、私が指示したのはほんの少しであとは皆んなが…」

「奇想天外な作戦ってのは優秀な指揮官がいて初めて成り立つものよ、みほさん。貴方はもっと自信を持っていいわ」

「ゆ、優秀な指揮官だなんて!私が!?」

「えぇ」

そう言うとダージリンは腕時計を見てキリッとした表情に戻してみほの方を向く

「さてと、私達はそろそろお暇しますわ。みほさん、もし夏の全国大会に出るのでしたら“Light stuff”から“Right stuff”になった貴方達と戦うことを心から願ってるわ。ではごきげんよう」

…“Right stuff”正しい人、かぁ…私達そうなれるかな、いやならなくちゃいけないんだ隊長と言う役職になった以上私にはその使命があるんだ。今日の試合で原石の磨き方は分かった、いい原石だったのは間違いなかったんだ、だからこそ私が磨ける様に導かなきゃいけない。そう心に誓った。とそこで気に抜けた声で自分を呼ぶ声がする、前を見ると生徒会達がいた

「西住ちゃん、負けちゃったね。まぁそう落ち込まないでよ」

「落ち込んでるのは例のあんこう踊りなんですけどね…」

「あ、そうなの。ふ〜ん」そう言いながら杏がみほの顔をじっと見つめる

「なんですか会長」

「いやね、いい目してるなって思ってさ。何かを決心したみたいな目してるね

…まぁそれは置いといて、はいこれあんこう踊りのスーツ」

そう言いピンク色の布を渡す

「…なんですかこのタイツスーツみたいなのは」

「これがあんこう踊りの服装。これ着て踊って貰うからね」

「こんなへ…変態な服…!」

「まぁ諦めてちょーだいな、私も文字通り一肌脱ぐからさ」

着替えた後のことは覚えてない、というか思い出したくない。沙織がお嫁にいけなくなると割と本気で泣きそうになってたのだけは何故か印象に残っている、地獄のようなあんこう踊りが終わった…

試合より疲れた気がするのは気のせいではないだろう

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服とは呼べない代物を脱ぎ制服を着ると普段着るのが面倒だと思ってた制服がこんなにも愛おしいものだったのかと言う気持ちがみほ達の頭の中でよぎる、着替え場所に貸し出されてた施設を出ると沙織が口を開いた

「ねぇねぇこれからショッピングに行かない?」

「いいですねぇ、近くにレイバーショップあるんで終わったらそこよりましょうよ」

「悪いが私はパスだ」

「え〜何で?」

「おばぁに顔を合わせなきゃ殺されるからな、そんじゃ」

目的地へと歩いてる途中沙織が声をかけてきた

「みほ、ひょっとして試合に負けた事気にしてるの?」

「…まさかあんこう踊りがあんなものだとは知らなくて、皆んなに酷い目に合わせちゃったなって思っちゃって」

「まぁ確かにあれは恥ずかしかったけど、試合に負けたのはみほのせいじゃないよ、聖グロの隊長さんも言ってたでしょ。私達がRight stuff”になればいいってあんま私にはイマイチ分からなかったけど…そうなるために私達頑張るからさ、みほも元気出してよ」

沙織らしい発言に思わず笑いがこみ上げてくる

「ありがとう沙織さん。そうだね、いつまでもクヨクヨしてはいられないもんね」

やはり沙織さんは優しい人だなと思い心なしか疲れがほぐれた気がした、そうこうしてる内にショッピングモールへと着く、沙織が綺麗な服を売ってる店を見つけそこへ入ろうとするとあるものに気づいた

…人力車?そう浅草でよく見るようなアレである、疑問に思ってると車夫がこちらを見て近付いて来た

「何あのイケメン!ひょっとして一目惚れってやつ!?やだもー!」

体をクネクネさせてる沙織を鮮やかにスルーして車夫は華の元へと駆け寄った

「お嬢、お久しぶりです!」

「新三郎…!?」

「五十鈴殿のお知り合いですか?」

「私の実家で働いてる奉公人です」

そう言うと人力車の幌がしまわれ乗っていた人物が顔を出す

「久しぶりね、華さん」

「お母様、お久しぶりです」

「元気そうでよかったわ、そちらの方々は?」

「はい、私のクラスメートの西住さんと武部さん、そしてこちらの方は…」

「秋山優花里です!五十鈴殿とはクラスは違いますが特車道で知り合いました!」

優花里が自己紹介した瞬間華の母親の眉がピクリと動いた

「特車道…?」

「はい!今日試合だったんです!」

「どういうことかしら?華さん」

空気が重くなってきた、優花里は自分が失言したと思い口を手で覆い隠す

その間華の母親が手を掴み華の手の匂いを嗅ぐ、ますます眉が動く

「鉄と油の匂い、まさか貴方本当に…」

「…ごめんなさいお母様」

「花を生ける繊細な手でこんな事をしてるなんて…信じられない」

そう言うと精神の限界が来たのか気絶して倒れ込む急いで新三郎が人力車に乗せ家へと運ぶ、当然みほ達もそれについて行った。家へ行く途中みほは華の顔を見た、母親が倒れた事を心配してるのは当たり前だがその中に後悔と恐れと言った複雑な感情が見られる表情であった

 

五十鈴家

華の家はとてつもなく大きかった、みほ達は客室に案内されそこで待機した。お通夜のような雰囲気の中優花里が口を開く

「すいません五十鈴殿、私が余計な事を言ったばかりにこんなことになってしまって…」

「謝らないでください優花里さん、元はと言えば正直に話してなかった私が悪いんですから」

みほは床の間に飾られてある生花を見た、綺麗で優しい雰囲気のする生花だ。今でも自分の部屋には初めて一緒に夕食した時に持ってきてくれた花が大切に飾ってある。生花は人の心を映すと言われてるがそれは間違えではないようだ、そう思った。

ふすまが開き新三郎が現れる

「お嬢、奥様が起きられました。…お話があるとのことです」

「私、そろそろ戻らないと…お母様には大変申し訳ありませんが」

「差し出がましい事を言いますがお嬢は奥様と真剣に話すべきです!こう言ったことを逃げてずるずるそのままにしていると必ず後悔することになります!強い心をもって真剣にお話しして下さい!お嬢!」

そう言い終わると新三郎は息を切らしながら謝罪した

「…分かりました、お母様とケジメを付けて参ります。ありがとう新三郎」

「お嬢…!」

華はしなやかにだが堂々とした勇ましく歩きながら向かった。

華が居なくなった後みほは新三郎の言葉が心の中でリピートしていた

「逃げると後悔する事になる」その言葉は特車道、母親から逃げてきた自分に突き刺さる言葉であった、逃げるのだっていつかは限界が来るんだ。再び特車道に関わった以上立ち向かわなくなるのは必然であろう。その時に自分は華みたいに前へと踏み出せるか?逃げないと誓ったが前へと踏み出す勇気はまた別である。今はまだ分からない、逃げ出した自分をお母さんはお姉ちゃんはどう言うだろうか

不安で仕方がない。あれやこれやと考えに没頭してると沙織が自分を呼ぶ声で現実に引き戻された

「みほ!ど〜したのぼーっとして」

「ちょっと考え事をね」

「あんま考えすぎると老けんのが早くなるよ、これから華の様子を見に行こうと思うんだけどどう?」

「…うん、行こうか」

みほは自分と似た境遇にある華にシンパシーを感じていた。それ故に華がそうするか気がかりであった、盗み聞きなんてはしたないと思ったが聞かずには居られなかったのだ。華が向かった部屋へと向かいほんの少しふすまを開ける、部屋の中は張り詰めた空気で支配されていた。

「申し訳ありません、お母様」

「なんで特車道なんか…花道が嫌になったの?」

「そんな訳ありません、花道は私の人生です」

「じゃあ何か不満でもあるの?」

「そのようなこともありません、ただ私生けても生けても何か違ったような違和感を感じるんです。自分が作りたいのはこれじゃないって…」

「そんな事ないわ、貴方が生ける花は可憐で繊細、五十鈴流そのものよ」

「…それじゃダメなんです。私はもっと力強い生花を生けたい…!私自身の五十鈴流を見つけたいんです!」

そう言うと再び母親が倒れ込みそうになる

「素直で優しかった貴方は何処へ行ってしまったの?これも全部特車道のせいなの?レイバーなんて不格好で時代遅れでうるさいだけじゃないの、そんなもの全部鉄屑になって滅びてしまえばいいんだわ」

鉄屑というワードを聞いてほんの少し優花里がイラッとするのが見えたがスルーする、再び隙間に目を移すと華が立っているのが見えた

「それは特車道に携わってる方々への侮辱…私の友人への侮辱ですよ!いくらお母様でも言っていい事と悪い言葉があります!…謝ってください今ここで!」

「謝りませんわ、貴方がそこまで特車道に毒されてるのはよくわかりました。自分自身の道への探究大いに結構でしょう。でしたら五十鈴流を汚さぬよう二度とこの敷居を跨がないで頂戴」

「分かりました、今までお世話になりました。失礼」

華がピシャリと言うと荒々しくふすまを開け力一杯閉める。その音にみほ達はビクッとした

「あら皆さんここにいらしてたの?さぁ帰りましょうか」

「華さん…勘当って」

「お母様は私に反論されて気が立ってあのような事を言ったのでしょう、でしたら自分の腕をもって認めてもらうまでの話です。」

「…華さんは強いんだね、私とは全然違うや」

「西住さんも十分に強いですよ、何十人を指揮するプレッシャーに耐えれるそれだけで強いと思いますよ」

「わたしも華さんみたいに頑張るよ」

でもやっぱり華さんの方が強いよ、そう言おうと思ったが言えなかった

 

家を出ると新三郎が人力車を持ち待機していた

「お嬢、先ほどのお姿立派でした」

「いいえ、笑いなさい新三郎。これは私の我がままなんだから」

「それでも、ですいつかお嬢様が自分自身の道を見つけることが出来るまでこの新三郎いつまでも待っています!」

港の入り口まで人力車で送ってもらう。学園艦の側では麻子が港にある足を乗っけるやつに足を乗っけてポーズを取りながら海を見ていた

「よう遅かったじゃないか」

「何カッコつけてんのよ麻子…」

学園艦のタラップを上るとそど子が待っていた

「出航時間ギリギリよ」

「すまんなそど子」

「そど子言うな!」

デッキへと上ると杏がいた

「やぁ西住ちゃん、これからはさ作戦立案は西住ちゃんに任せるよ。今日の作戦は見事だったしね。んでこれ聖グロからのお土産、小洒落たバスケットなんかに入れてさ、いかにもお嬢様学校って感じだよね」

バスケットの中にはティーカップと手紙が入っていた。手紙には公式戦での貴校の試合を心から応援するとともに再び試合出来ることを楽しみにしていますと書いてあった

「凄いですよ!聖グロは好敵手と認めた相手にしか試合後にティーカップを渡さないと聞いたことがあります!やっぱり西住殿は凄いです!」

「んじゃご期待に応えるべく公式戦じゃ頑張らないとね」

「ねぇさっきから公式戦って言ってるけど何?」

「公式戦って言うのは夏の全国大会のことですよ!」

 

翌日、みほ達は第63回特車道全国高校生大会のトーナメントを決めるため会場に来ていた。舞台に上がりテーブルの上にある箱から一枚の紙をめくる、そこには番号が書いてありその番号は「8」であった。夏の全国大会、大洗女学園第一回戦の相手は「サンダース大学付属高校」に決まったのである

 




試合相手が決まり益々士気高まる大洗女学園特車道チーム、日夜汗を流してるのは彼女たちではない。料理人が使う包丁に職人がいるようにレイバーにはそれを支える職人がいる、そう彼女らこそ「自動車部」である!みほ達がレイバーを発掘したあと、ぶっ壊した後彼女らは何をしてたのか今そのベールが明かされる。次回
「こちら大洗女学園自動車部」ターゲットロックオン!


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こちら大洗女学園自動車部part1

ど〜も恵美押勝です。今回は完全オリジナルストーリーです。4話でみほとナカジマが知り合ってる描写がありましたよね?気になってた方も多かったはず。あとは言わなくてもわかると思うので本編どうぞ!


 突然だけど私の名前はナカジマ、大洗女学園自動車部3年生だ。自動車部と言うからには自動車をいじる部活だと誰もが思うだろう、私だって入部する前はそう思っていたし入部してこの2年も自動車をいじってたので信じて疑わなかった。あの時までは…

西住みほが転校する2週間前、生徒会に呼ばれ生徒会室に来ていた。ノックして入室すると相変わらず薄暗い部屋に唯一の後輩であるツチヤがいた。全員が揃うのを確認した杏は椅子をこちらに向けて口を開く

「やぁやぁ自動車部の諸君、いきなり呼び出してごめんね」

「それは構いませんけど、どのようなご用件で?理事長の車を改造して欲しいとかそんなんじゃないでしょ?」とナカジマが答える

「うん、今日呼び出したのは他でもない。来週からこの学校特車道を復活させる事になったのよ」

「…特車道ですか」

「しかしそれが私達自動車部と何の関係が?」

「それが大アリなんだよね、君らには再来週から特車道に関するサポートを頼みたいんだ。」

「お言葉ですが私達は自動車が専門でレイバーの知識は多少ありますが触ったことは一度もありません」

「…斯波シゲル」

斯波シゲルと言うのは自動車部の顧問のことである

「私達の顧問が何か?」

「斯波シゲル先生はあの特車二課の整備班班長を務めた斯波シゲオの息子なんだよ、つまりレイバーの専門家ってワケ。事情はシゲル先生にはもう話してあるからさ。この2週間でレイバーの整備に関するイロハを叩き込んでもらってね、てな訳でよろしく〜」

そう言うと椅子を回転させ背中を向けた、質問などする間も無く桃に追い出されたのであった。生徒会室を追い出されしばらく歩くとツチヤが尋ねてきた

「ナカジマ先輩どうする?」

「ん〜生徒会長の命令じゃ逆らう訳にもいかないしね、それに報酬も弾むみたいだし」

ナカジマが手に持ってた紙をツチヤに見せる。そこには『特車道の物理的支援をしてる間は貴部活動の経費などは生徒会で支払う』と書かれてあった

「んじゃつまりレイバーいじってる間は車とかは弄り放題だと」

「そう言うこと、まぁまずはホシノ達にも話さなきゃいけないんだけどさ」

そして彼女達はレイバーが収納してあるハンガーの隣のハンガーに到着する、中にはホシノ、スズキがいた。

「お〜いホシノ〜」ナカジマは呼びながらホシノの元へと駆け寄る

「なんだナカジ…いや言いたいことは分かった。特車道のことでしょ」

「凄い、よく分かったね」

「既にシゲル先生から話は聞いたからな」

「んでシゲル先生は?」

「すぐ戻るってどっかに行った」

噂をすればなんとやら、ハンガーの裏口からシゲルがやってくる

「よっ!ナカジマ達!」

ナカジマはシゲルの姿を見て驚いた何時ものオレンジのつなぎではなく薄い水色のような服を着ていた。

「シゲル先生どうしたんですかその格好」

「ん、これな俺が特車二課で働いていた時の制服、いや〜久しぶりにレイバー弄れるって杏から聞いたからもう嬉しくなっちゃってさ、つい家から持ってきちゃったのよ」

「じゃあ本当にレイバーを整備するんですか?」とホシノが聞く

「そうそう、んまぁそんな心配しなさんな。レイバーなんて自動車にちょいと毛が生えた程度だからさ、2週間これから毎日みっちり教えてやる。それじゃ早速始めようか。」

こうして2週間に渡りレイバーに関する構造や整備方法果ては特車二課での経験などを叩き込まれたのであった

最終日の帰り道ナカジマ達はツチヤに誘われてファミレスに寄っていた

それぞれが注文し終わるとツチヤが口を開く

「ねぇナカジマ先輩、明日からレイバー弄る訳だけどさ自信ある?」

「んまぁそれなりの自信はあるよね、本体に関してだけどさ。コンピューター関係はイマイチ自信がないや」そうため息を吐くとホシノも続いて話す

「シゲル先生『レイバーは車に毛が生えた程度』とか言ってたけど全然違ったわ…初期のレイバーはまだ自動車の知識でなんとかなるけどイングラムとかが出始めた辺りのレイバーは理解するのにめっちゃ時間かかった…」

そう話すと注文した料理が届く。食べ終わり暫くの沈黙の後ツチヤが手を叩いた

「そういや先輩達知ってます?2年生に転校生来たんすけどどうやらその転校生あの“西住流”の妹さんらしいんすよ」

そう言うとスズキが納得したようにポンと手を叩く

「成る程、それで会長は特車道を復活させようとしたのか。ウチの学校なんもないからな〜随分前はバレー部がぶいぶい言わせてたらしいけど今じゃ廃部だしね、せめて特車道で有名になればって魂胆かな」

「何れにせよ明日からレイバーを大量に弄る事になるんだし今日は早めにお開きにするってことで」

この日はいつもより早めに解散し帰路についた

 

翌日 午後 ハンガー内

ナカジマ達がいつものようにハンガー内で自動車を整備してると桃からレイバーを発見したので回収するようにとの電話が来た。4人は手分けしてキャリアで回収に向かった。作業は夕方までかかった、キャリアからレイバーを下ろすと早速整備に入る。まずはモーターなどで動くタイプのレイバーの電源を入れる、電源が立ち上がりペダルを踏み軽く足踏みする。これでオートバランスとアクチューターがイカれてないことを確かめる、油圧式で動くレイバーは動かす前に油をさし同様に確認する。他にも火器コントロールの調整、通信系統の感度などを確認したがここでは割愛させてもらう。全ての作業が終わる頃には夜9時になっていた、最終チェックとしてシゲルが確認する。全てのレイバーの確認を終えるとシゲルは全員を集めた

「今日はご苦労、どうだ初めてレイバーを弄った感想は」

「物凄く難しかったんですけど…最初に自動車を整備した時に感じた興奮を思い出しました」とナカジマは答える

「2週間の詰め込み特訓とはいえお前らはよくやったよ、あんなボロボロだったレイバーが新品の様になってら。やっぱりお前達は天才だよ」

そう褒められると思わず口がにやける

「時代が時代なら特車二課にスカウトしたかったよ全く…さてと、可愛い教え子達が初陣でこんなにもいい仕事をしてくれたんだしこれはご褒美が必要だわな」

「え、え、ご褒美って何先生!?」

「今日は晩飯ご馳走してやる!いい中華料理の店があんだよそこに連れってやるわ!」

それを聞くと4人は飛び上がって喜んだ、こうして彼女らは遠慮なくご馳走になり後から「財布がペッラペラ」とぶつくさ言うシゲルに睨まれるのは言うまでもなかった

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翌朝、西住達が模擬戦を行うのをしっかりと彼女達は見届けた、無論整備が完璧だったか確認する為でもあるがレイバー同士の戦いを見たいと言うのが本音である。試合中ナカジマは双眼鏡でエコノミーに目をやる

「あのエコノミー動きいいね、整備した甲斐があるってもんだよ」

「先輩、あれ西住先輩が乗ってるやつです」

「やっぱ経験者は強いな〜あんな追いつめられた状況からよく立て直せるもんだわ。ん、凄いな連続で何機も倒しちゃった」

感心してるとあっという間に試合が終わった。と同時にシゲルから電話が入る

『よ〜し、今から回収するぞ。回収時に車長にデータの保存をするためにディスケットをもらうと言っておいてくれ』

『分かりました』

こうして動けなくなったレイバーを回収してハンガー内に置く。まずはペイント弾を落とす作業から入る、それからバッテリーを外し充電する。関節系統はそこまで使用してないので今回はなし。データの保存はコンピューターに比較的強いスズキに任せることにした。作業が終わりナカジマはエコノミーの前に立ち見上げていた。この巨大な機械をあんな大人しそうな子が巧みに動かしてるそのギャップを噛み締めていたのだ、整備士としてこのレイバーがあの子と一緒ならどこまでいけるかが今からでも楽しみだと思ったそこにみほがやって来る

「あの…」

「ん、西住さんか。どうしたの」

「あと、えっと…」

「あぁ自己紹介が遅れたね、私はナカジマ。自動車部の部長をやらせてもらってるよ」

「ナカジマさんですか、整備ありがとうございます」

「い〜のい〜の趣味の発展みたいなもんだし、それで何か用?」

「え〜とエコノミーの中にちょっと忘れ物しちゃって…」

そう言うとみほは駆け足で階段を上がりエコノミーのハッチへと向かう、3分すると戻ってきた。二人はハンガーから出て鍵をかける。ナカジマはみほという少女に興味があった、それ故に声をかける

「西住さんに聞きたいんだけどさ、西住さんにとって特車道ってどんな感じなの?」

このような質問をしたのには理由がある。講習中に西住流と言う名前を何回も聞きどのような流派なのか具体的に知りたくネット検索すると第62回特車道全国大会をまとめたサイトに出会った。そこでナカジマは知ったのだ黒森峰と言う強豪校の副隊長西住みほと言う選手がレイバーから川に飛び込み救助活動を行なった事を。そのサイトを見てナカジマは疑問を抱いたのだ、西住流と言う看板を背負い「試合に犠牲はつきもの」と言う西住流の教えに反した結果負けてしまう、試合の後様々な辛い目に合わされたのはナカジマでも容易に想像できた。それで特車道がないウチに転校してくるのも納得出来る、しかし分からないのは彼女が再び特車道を始めた事だ。トラウマを負いながら何故またトラウマの原因である特車道に帰ったのかがいくら考えても分からない。ひょっとして嫌々やらされてるのではないかと言う悪い予想も浮かぶ、もしそうならそのような感情で機械に触れられるのはナカジマにとっては御免被りたいことだった。負のエネルギーによって動かされる機械が不憫でならない、そう思った。故にナカジマは聞きたかったのだ西住みほと言う少女がどのような思いをしてレイバーを動かしているのかを。

 

「…難しい質問ですね私にとって特車道は人生と言うべきか、なんの取り柄もない私が唯一誇れるもの、私を私でいたらしめてるものそれが特車道なんです。でもそこから私は逃げ出した、自分と言う存在を消したかったんだと思います。」

「逃げ出したのにまた続けたのはなんで?また自分と言うものを手に入れたかったから?」

「いいえそう言うのでは無いんです…守らなきゃいけないものが出来たんです。」

「守りたいもの、その為に戦うって感じかな?なんかヒーローみたいだね」

「ヒーローと呼ばれると少し恥ずかしいですけど私は自分自身の存在価値を見せ自分を守る為にレイバーを動かしていたけど今は違うんです。守りたい人の為にレイバーを動かす、今も私にとって特車道はそう言うものなんです」

ナカジマはみほの答えを聞きハッとした、嫌々やらされてるのではないかと思った自分が恥ずかしくなったきた。嫌々だって?とんでもないこの子は自分の意思でレイバーに乗って戦っている。その小柄な身体に収まりきらないほどの熱意がそこにあるのを感じた、この子ならどんな機械でも100%の性能を出せる。機械を動かすのは本人の技術だが一番大切なのは機械自身に愛されることだ、この子は機械に愛される人間だとそう直感で見抜いた。

そう思考にふけり黙っているとみほが自分が出過ぎた事を言ったのではないかと謝ってきた。それに自分は精一杯の笑顔で答える

「謝る必要なんかないよ。西住さん、私このエコノミーを精一杯整備して100%以上の力を出せるようにするからさ西住さんはガンガン使って守りたいものの為に戦ってよ。そのための整備班なんだからさ」

「ナカジマさん…ありがとうございます!」

人の決意には決意を持って答えなければならない。ナカジマは今この場でみほが目指す特車道の為に己の持てる技術を全て使い支援する事を心の中で誓ったのであった。

 

 

 

 

 




さて、今回はここまで。この話は次回で終わりにし再び話は本編の時間軸に戻したいと思います
それではありがとうございました!


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こちら大洗女学園自動車部part2

ど〜も恵美押勝です、皆さんは東京駅でやってるガルパン最終章のポップショップには行きましたか?私は既に6000程使いました。おかげで俺の財布はボドボドだ!それでは本編どうぞ!


みほと別れた後ナカジマはシゲルにハンガーの鍵を返す為に職員室へ寄った

「お疲れ様ナカジマ、他の奴らは?」

「一足先に帰っちゃいました。いや〜若い子っていいですね仕事をチャチャって終わらすことできて」

「オメェも同い年だろ…んじゃ全員把握してると思うけど念のために聞いておく、明後日は何時集合だ?」

「明後日は聖グロの試合があるから4時集合です」

「よし、今日は解散!」

「お疲れ様でした!」

実は今日の昼休みにナカジマはシゲルに呼ばれ杏から明後日は聖グロリアーナ女学院と親善試合を行うからキャリア宜しくと頼まれた事を伝えられたのであった。ナカジマは特車道についての知識は余りないが講習でその単語は何度も聞いたから相手にしようとしてるのがどれだけ強いか理解していた。と同時に自分は裏方仕事だ。精一杯整備して役者を気持ちよく舞台へ送り出す、コレが自分の仕事だと言うことも理解している。

そう考えながらナカジマは帰路に着く、明日は特車道の練習である

翌日 8:30ハンガー内

ハンガー内には一足早くツチヤが来ていた。特車道の練習は9時からなのでそれまでにキャリアを使い表に運び出す必要がある、とはいえ動かすにはちとまだ早い。残り2人が来てからでも十分だろうと思い待つ、ボーッとしているとツチヤが話しかけてきた

「そーいや先輩知ってる?何でウチらはやたらと警察用と軍用レイバーが多いのか」

「そんなこと全然気にしなかったな、単に値段が安かったからじゃないの?」

「半分正解!元々ここはエコノミーとかドーファンを作ってる篠原重工の会社の近くなんだよね。んで20年前の大先輩方が特車道仕様に改造したもののあまり売れず廃棄処分されかけたところをコネを利用して安く買い叩いたわけ、そんでアトラス、サムソンと言った初期の軍用レイバーも余り売れず値段が比較的安くなってたわけ。」

「なるほどね、20年前から予算が足りなかったのは変わりなかったんだな。んでも特車道のルールで使用できる中では新しめのレイバー…ラーダーとかはどうして持ってんのさ」

「元々ウチらは多脚式レイバーを主力にする予定だったんだよ。高火力で整備しやすくて何より持久力があるからね」

「持久力?」

「通常のレイバーは片足を破壊されたらもう修理しない限り動けないただの鉄の塊になるけど多脚式レイバーなら1本や2本やられても全然問題ないからね」

「なら同じ多脚式レイバーでも低火力なラーダーじゃなくて高火力なドシュカを買えば良かったのに」

「それがそうはいかなかったんだよ、ドシュカはプラウダ高校によって買い占められてたんだ。だからラーダーを選ぶしかなかったんだ」

「ふ〜ん、ん?ツチヤお前そんな情報何処で聞いたんだ?」

「実は昨日シゲル先生から聞いたんだよ、『どうしてウチらのレイバーはこんな風になってるか知りたいかい』って話しかけられてさ」

「相変わらずあの人はおしゃべりが好きだね…」

そう話してると後の2人がやって来る。雑談は終わりだ、これから仕事モードに切り替える

「さて全員集まったね、今日は練習があるからまずキャリアを使いレイバーを表に出した後新しいレイバーを探し出すよ」

「新しいレイバーってまだあんの?」とホシノが尋ねる

「シゲル先生によれば20年前のレイバーは今よりもう少しあったそうだ、とはいえ売られたかもしれないしそのまま投棄された可能性もある」

「ヒントもなしに探し回るなんて砂漠から針を見つけるようなもんだよ…」

「んまぁここの学園艦は7000mしかないし、砂漠よか探すのは楽だよ

…多分」

「とにかくもう時間もないしチャチャっとレイバー運ぼう」

レイバーを運ぶのにはそう時間はかからず15分程度で終わった、運び終えてそれぞれのレイバーに乗り込みのを確認したらデッキアップをしそれが終わったらデッキダウンをする、あとは練習が終わるまでは自動車部として活動する事は無いが先程書いたようにレイバーを探さなくてはいけない。

最初に口を開いたのはスズキであった

「ねぇ地上はもうあらかた最初の捜索で調べ尽くしただろうから地下を探してみない?」

「地下って学園艦内部のこと?でもあそこはヤバいですよスズキ先輩」

「ヤバイって何が?」

「出るんですよ…サメが」

「サメぇ!?んな馬鹿なことあるわけないでしょ」

「でも事実なんすよ、探検しようと地下に行った生徒がサメを見てビビって帰ったって」

「んなホラ話喋ってる暇があるならさっさと行くよ」

とそこでナカジマが話す

「ちょっと待って!」

「な〜んだよナカジマ、あんたまでツチヤのホラ話を信じるの?」

「仮にサメが本物だろうと偽物だろうと地下への侵入を拒んでる存在がいるのは事実なんだからさ、この4人で迷宮とも呼ばれる地下を探索するのは危険じゃない?」

そう言うとホシノが口を挟む

「それじゃ、捜索しないの?ナカジマの意見は一理あるかもしれないけどそんな話で先生が許すとは思えないけど」

「んまぁその辺は上手くやるよ」

という訳で捜索を中止し練習が終わるまで彼女達は日頃の自動車弄りを楽しんだのであった

16:00 ハンガー前

ハンガー前に集合したレイバーを手早くキャリアに乗っける、パッと見た感じ問題は無さそうだが明日は親善試合だ。昨日より丁寧に整備しなくては…

前日同様に駆動系、センサー系統のチェックを行いディスクのデータ保存も行う。弾薬の補給もしなくてはならないがこれが大変なのだ、弾を何十発も運びシリンダーにこめていく。弾はそこまで重くはないが決して軽いとは言えないそんな作業を4人で手分けして行うが時間がかかる、そんな作業を終えた頃にはすっかり夜になっていた。シゲルに活動報告をし解散となる。

今日は昨日とは違い4人で帰ることにした

「ねぇ、明日聖グロと親善試合するみたいだけど勝てるかな?」そうツチヤが聞く

「ん〜どうだろ、相手のレイバーはウチらより強いし戦闘に慣れてるし難しいんじゃないか?」とホシノが答える

「ウチは軍用レイバーが多いから勝てる見込みはあんじゃない?」ホシノの意見にスズキが反論する

「立派な武装があっても当たんなきゃ意味ないよ、射撃練習今日チラッて見たけどあんま上手じゃなかったし…」

「それでも」そうナカジマが切り出す

「私らは皆んなを信じて戦いの場に出すんだよ、最高の試合が出来るように最善な行動が出来るようにさ。そのための自動車部…いや整備班だよ。絶対明日の試合は勝てるさ」

「…先輩、そうっすね明日の試合、しっかり見届けますか」

4人はそれぞれの帰路に付き明日の親善試合に備えて早めに寝たのであった

 

明朝 4:00ハンガー内

ナカジマ達はハンガーに着くなりバッテリーを充電器から取り外しエコノミー、ドーファンに接続する。キャリアに乗りこみ表へ出そうとした時見覚えのある人物が来た、みほである。しかし彼女がくるには少し早い時間なのを疑問に思いナカジマは声をかける

「おはよ〜西住さん、集合にはまだ早いよ?」

「おはようございますナカジマさん。ちょっとエコノミー動かしたいのでキャリアを表に出して欲しくて…」

「エコノミーを?それまたどうして?」

「チームメイトを起こしに使いたくて」

「起こすために!?随分派手なモーニングコールだねぇ、分かった今から動かすから少し待って」

「すいません、助かります!」

「おっとその前に…」

ナカジマはポケットからディスクを取り出してみほに渡した後にキャリアに乗り込む

キャリアを起こしエコノミーが歩き出すのを見届ける

「先輩〜!もうキャリア動かしたんすか?」

「うん、なんでもレイバーでチームメイトを起こしにいくらしいよ」

「レイバーで!?はぇ〜どうやって起こすんだろ」

「さぁねぇ想像出来ないや」

何か発砲音の様な音が聞こえたが気のせいだと思い込むことにし全てのキャリアを表に運ぶ。

学園艦が大洗港に到着し試合会場までキャリアを運転する。ナカジマはこの時わずかばかり緊張し自分が乗ってるエコノミーの中にいるみほの緊張が伝染した様な錯覚を覚えた。

会場内に付き、キャリアを起こす。ナカジマは通信機に手をつける

『西住さん、万全な状態に整備したから今日は思いっきり派手に動いて大丈夫だよ!なんだったら柔道してもいいよ』

『柔道って…クスクス ありがとうございます!おかげで少し緊張がほぐれました。それじゃあ派手に暴れてきます!』

レイバー達が全機発進するのを見届けキャリアを駐車場へと動かす。ここからは彼女達の仕事はない、ただ祈るだけだ

試合の様子は試合会場にある大型モニターで見ることが出来る、早くも試合終盤。これまでの数々の奇想天外な戦術に彼女達は舌を巻いた。しかしとうとうナカジマが整備したエコノミーと聖グロの隊長が乗るAVS-98一騎討ちとなる。エコノミーが武器を捨てた瞬間ナカジマは目を見張る。

エコノミーがAVSに投げ技をしようとしてるからだ、AVSの体がふわりと浮かび頭から地面に突っ込もうとしてるこれで決まる…!そう思った矢先何かが砕ける嫌な音が聞こえたエコノミーの駆動系が壊れ音だ。結果エコノミーはやられてしまい僅差で大洗女学園は負けてしまったのである…

破壊されたレイバーを回収し学園艦まで運ぶ、エコノミーをクレーン車であげキャリアに乗っけるまでの間ナカジマはみほと会い話をした

「…ナカジマさん、ごめんなさいせっかく整備してくれたレイバーをボロボロにしちゃって…」

「ううん、謝るのはこっちだよ。何が『柔道が出来る』だ…大見え切っておいてこの様だもんね。もっと上手く整備してれば勝てたのに…」

2人の間に沈黙が流れる、その沈黙を破るようにガラガラした大きい声が響く

「なんだナカジマ、何落ち込んでんだ!」

シゲルがナカジマに会いにきたのだ

「先生…ごめんなさい私は整備士失格です…」

「なんだオメェ、レイバーぶっ壊したにはお前が悪いと思ってんのか。確かに整備が良ければこうはならなかったらかもしれねぇ、その点はまだまだ修行だな。んでもよぉ嬢ちゃん…西住だっけ?オメェもレイバーで投げ技をかけるならちゃんと足回りの力に気をつけてやんな。モーター関係の表示をしっかり見ればちゃんと対応出来た筈なんだからよ、それでもレイバーで柔道ってのは久々に心が躍ったぜ。それにペイント弾じゃない本物の破壊されたレイバーを直すのは久々でワクワクしてしょうがねぇや、二課で働いてたころを思い出すぜ。それじゃあ俺は先に失礼するぞ、ナカジマ!シャキッとせい!」

シゲルに言われ目が覚めたナカジマは自分を鼓舞するために自身の頬を叩いた

「西住さん、次こそ柔道できる様なレイバーにしてあげるからお互い頑張ろう!」

「はい、ナカジマさん!私も精一杯頑張ります!」

元気を出したナカジマはキャリアに乗りこみ学園艦へと向かう、一足先に到着した後彼女は大洗の町へと繰り出す。そして本屋に向かった、いつもは自動車関係の本を買うのだが今日は違う、手にとった本はレイバーの設計図やスペックが載っている分厚い本である。

やはり2週間の講習だけじゃダメだ、皆んなと一緒に学んでそれを生かさなくては…!西住さんには西住さんの戦いがある。なら私は私の戦いをするまでだ!

本を買い外へ出る。眩しい光がナカジマを刺す、彼女の戦いはこうして幕を開けたのであった。




第63回特車道高校生全国大会が幕を開けた。私達大洗女学園最初の相手はまたまた強豪校「サンダース大学付属高校である」相手の編成が分からず途方に暮れてるとレイバーマニア秋山優花里が突如として消えた!何処へ消えた!優花里!西住達が帰りを待ってるぞ!
次回「強豪・エイブラハム軍団です!」
ターゲットロック・オン!


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強豪・エイブラハム軍団です!part1

東京駅でガルパンアクリルスタンドを買い推しキャラ2体を狙い撃ち成し遂げた恵美押勝です、皆さまいかがお過ごしでしょうか。んじゃ本編どうぞ!


トーナメントが決定しみほ達は優花里の進めで「特車喫茶」なるものに連れてかれた、店内はレンガ造り風で店のあちこちにレイバーのポスターやレイバーのプラモデルが飾られてる。みほ達はケーキと紅茶を頼むことにし食卓の上にあるSDサイズのイングラムの頭を押す、するとイングラムのパトランプが光り店員がやって来る。注文して暫く経つと品物が運ばれてくる

「…何これ?私達が使ってるキャリアに似てるけど」と沙織が言う

「これは『99式大型特殊運搬車』通称“特型レイバーキャリア”と呼ばれる代物ですね。』

運ばれたケーキを取り分け皆んなが食べる中みほはフォークが動かせなかった。

「どうしたのみほ?食欲ないの?」

「いや、そう言うわけじゃないんだけど初っ端から強豪校だからね…まだ3週間先の話しなのに今から作戦を立てようと頭が勝手に働いちゃってさ、悪い癖だね」

「ふ〜ん、んでサンダース大学付属高ってそんな強いの」

「日本一の金持ち高、最早一つの国と呼ばれる程のお金持ち高校でレイバーの保有数は日本一、1軍・2軍・3軍と分かれていてこの間戦った精グロ並の強さを誇る高校であります!」

「3軍までって…そんなに来られたら負けるじゃ〜ん!」

「一回戦で使えるレイバーと弾数は低めに設定されてるからそう心配しなくて大丈夫だよ沙織さん」

「え、本当!?それで何輌なの?」

「えぇ〜と15輌かな」

「ウチの倍近くじゃん…んまぁクヨクヨしてもしょうがないか、聖グロと互角に戦える今のウチらならきっと勝てるよ!」

沙織はそう笑いケーキを口に運ぶ、みほはその笑顔に何処となく安心を覚えフォークをケーキに刺し口に運ぼうとした瞬間聞き覚えのある声が自分を呼ぶ。それも今の呼び名じゃない。黒森峰にいた時の呼び方だ

「副隊長…?いや元・副隊長でしたかね?」

「貴方は…!エリカさん!?それにお姉ちゃんまで何でここに!?」

そこに居たのは黒森峰時代の戦友、逸見エリカとみほの姉西住まその人らであった。思わずみほはフォークを落とす。彼女らがここに居る事を全く想定してなかったし、そして何よりこの2人だけはまだ会いたくなかったのである。

みほの悪夢に度々出てくる金切り声で自分を呼ぶのはこのエリカである。みほは母親から、姉から逃げたが彼女からも逃げたった。あの試合が終わった後みほは彼女に一度も顔を合わせていない、何故なら嫌われるのが怖かったからだ。特車道以外取り柄がないみほの友達になってくれた唯一の友達が彼女である。そんな彼女に嫌われたら自分は耐えられないそう思ったのだ。

「…久しぶりだなみほ。まだ特車道をやってるとは思わなかった」

「お姉ちゃん…そうだよ、また始めたの」

「久しぶりね、元副隊長。貴方こんな田舎で隊長やってたのね、それで最初の相手はサンダースだって?西住流の名を汚して隊長の顔に泥を塗らないようせいぜい頑張りなさい」

その発言に優花里が思わず立ち上がる

「お言葉ですが、あの試合のみほさんの判断は間違ってるとは言えないと思います!」

「偉そうな口を聞いてこの小娘、何も知らない外野は黙ってなさいよ」

小馬鹿にする発言に思わず優花里は拳を握りしめる。しかし言ってることは正論だ、故に反論出来ず大人しく座り下を向く。

少しの沈黙が流れまほが店から出ようとし出口へ向かう、そこで今度は華と沙織が立ち上がる。

「余りにも無礼な言葉、淑女として恥ずかしくないのですか?」

「偉そうな口聞いてるのはどっちよ!?」

「…無礼なのは貴方達じゃない?無名高のくせに全国大会なんかに出ちゃって、全国大会ってのはね。無名高は試合を汚さない為に自粛するのが暗黙の了解なのよ」

暴論としか受け取れない意見に2人はたぢろぐ、勝ち誇った様な顔で店から出ようとするエリカに今まで黙っていた麻子が澄まし顔で話し始める

「おいおい、さっきから聞いてれば偉そうな事を言ってコケにしたら今度は無茶苦茶な理論か。笑いを堪えるのが大変だったぞ。お前さっき『特車道に対して失礼』と言ったよな?さっきから口を開けば一に罵倒、二に罵倒、大和撫子を育てるという特車道の理念のかけらもないな。失礼って言うのはお前みたいな事を言うんだ。何が『特車道に対して失礼』だ、笑わせんな」麻子の発言に今度はエリカがたじろぐ言い返せなくなったエリカはそのまま何も言わず帰ってしまった。

自然に麻子に視線が集中する、麻子は決まりが悪い顔し頬をポリポリとかいた

「…すまんな、ああいうタイプを見ると

腹が立ってしょうがないんだ」

「麻子があんな風に喋るのはじめて見た…ちょっと男の人ぽかったよ〜」

「いえいえ、麻子さんの啖呵実にお見事でした」

「私も冷泉殿のお陰でスカッとしました」

しかしこの澱んだ空気が戻らない、その雰囲気を察した華がケーキを追加注文しないかと提案した

「私は二個食べる、イライラしたせいで食った気がしないんだ」

「麻子、そんなに食べると太るよ?」

「おっと、それならよそう。沙織みたいにはなりたくないからな」

「何よ〜麻子!」

このやり取りでようやく雰囲気が元に戻った気がする、一同は店を出て学園艦へと戻った。

17:15分 学園艦デッキ

みほは潮風に顔を晒しながら黄昏ていた、今日の騒動で精神が疲労しそれを癒す必要があったからだ。やはり自分はエリカに嫌われいた、深い溝を感じそれが修復出来そうもない現実が重くのしかかる。今彼女の目から出る涙は決して潮風のせいではない。横をチラリと見ると優花里がそばに来ていた

「ここに居ましたか西住殿」

「優花里さん…」

「私ね、思うんですよ」

「…思う?」

「あの人は本気で西住殿の事を嫌ってないって」

「え…?」

「あの人は『西住流の名を汚さないようにがんばれ』って言ってました。本気で嫌ってるなら西住流どうこう関係なく負けて恥をかくことを望むはずなんですよ。でも彼女は頑張れと言っていた…すいませんそれこそ部外者が口を出しちゃって…」

「ううん、ありがとう優花里さん。少しホッとしたかも、そうだよね頑張らなきゃいけないもんね。必ず勝ってエリカさんと戦わなきゃ駄目なんだ」

「そうですよ!その為にもこの秋山優花里、全力で西住殿をサポートします!まずはサンダース戦ですね西住ど…」

みほがぶつぶつ言いながら作戦について考えてるのを見て優花里は呼ぶのを躊躇った。耳を立てると編成がどうのこうのと言う言葉が聞こえた、そうだ編成が分かればきっと西住殿も作戦が立てやすくなるはず。ならば有言実行するのみ、そうと決まれば早速準備だ。優花里はみほに別れを告げ自分の家へと帰っていった

 

翌日 10:30 学校内校庭

特車道の授業が終わりみほはほんの少し疲れていた。親善試合でハッパかけられたのか今日の練習はいつもより気合いが入っておりドーファンやパイソンの射撃が上達し全弾的のど真ん中に命中していた。サムソンなどの軍用レイバーも桃が乗るアトラス以外は確実に成長しているのが見えた、みほは聖グロとの試合で自分が最高質の原石であるみんなを磨かなくてはと思い今日は親善試合の前とは違い量ではなく質を問う練習をしみんながそれについて行くことが出来て驚いた。1回試合しただけでこの成長ぶりは異様としか受け取れない成長スピードが明らかに黒森峰とは違う。みほはサンダースを倒せる可能性が見えてきた

そう考えてると沙織が声をかけてくる

「ねぇみほ今日優花里さん結局練習に来なかったよね」

「うん、どうしたんだろう昨日は元気だったから病気とは思えないし、連絡とかはしてみた?」

「してみたけど全然だめ、メールは反応ないし電話しようにも電源切ってるみたい。全く何処消えたんだろうね?」

「取り敢えず学校が終わったら優花里さんの家に行ってみようか、ひょっとしたら居るかもしれないしね」

「秋山さんの家って何処でしたっけ?」

「確か理髪店だって前に優花里さんが言ってたよ」

という訳でみほ達は放課後優花里の家へ行くことにしたのであった。

 

15:00 秋山理髪店前

確かに優花里の言った様に彼女の家は理髪店であった。中をチラリと見るが優花里の姿は見えない、みほ達は意を決して中へ入ることにした中には優花里の両親であろうと思われる人物が居る

「こんにちは〜」

「いらっしゃい…いやどうやら髪を切りに来たってわけじゃなさそうだね」

「私達優花里さんの友達で…」

友達とワードを発した途端優花里の父の目が点になる

「友達ぃ!?優花里の!?」

「はい、私達特車道で知り合ったんです、優花里さん今日学校に来てないのでどうしたのかなって思って」

そう話すも父は自分の娘に友達が出来たことが信じられず慌てふためいておりこちらの話を聞いてなかった。仕方がないので代わりに母親が返事をする

「優花里のお友達ね、あの子今日の朝から居ないのよ」

「え、朝から居ないんですか!?」

「あの子がいきなり居なくなるのはしょっちゅうある事なのよ、多分もうそろそろ帰ってくると思うから優花里の部屋で待つ?」

そう言われてみほ達は二階へ行き優花里の部屋で待つことにした、部屋の中は昨日行った特車喫茶より多いレイバーに関するプラモやリボルバーカノンの空薬莢、97式指揮車に搭載してる無線装置などが所狭しと飾られていた。流石はレイバーマニアの部屋である

「流石は秋山さんですね、すごいグッズの数です」

「うん、レイバーマニアとは知ってたけどここまでとはね」

「この通信機とか絶対高いでしょ…案外優花里って金持ちなのかな?l

「いや単純にそれ以外に金を使ってないからだと思うぞ、マニアってのはそういう人間だからな」

それから10分後くらいだろうか突然窓が開き優花里が入ってくる

「おや、どうしました?皆さんお揃いで」

「どうしたもこうしたもないよ、朝から姿が見えなかったからさ…

 と言うか優花里さんその格好は?」

「あぁこれですか、コンビニの制服です」

「そう言うこと聞いてるんじゃないんだけどな…」

「何はともあれ、全員集まったから丁度いいです。実は見せたいものがあって」

そう言うと優花里はリュックサックからSDカードを取り出しそれをビデオデッキに挿入した。

暫くすると画面に「突撃!サンダース大付属高校」と出る

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『どうも秋山優花里です、ここがサンダースですか想像以上の大きさですねぇ。ではこれよりサンダースの制服に着替えて潜入任務を遂行いたします!

あ、ちなみに侵入経路としてコンビニの定期船を利用しどさくさに曲げれる形で侵入しました。いや〜両方ともザル警備で助かりました』

画面は暗転した後に制服に着替えた優花里が映る、途中バレてないか確認するため挨拶したが問題なく格納庫へと入る

『え〜とどれどれ、流石アメリカをリスペクトした学校だけあってSEUSA製のレイバー“エイブラハム”が所狭しと並べられてますね、おやあれはニューヨーク市警に配備された零式の制式タイプ“クラッシュバスター”もあります!これは非常に強力なレイバーですね…まさかこんなレアなレイバーまで持ってるとは流石お金持ち高』

格納庫を撮影し終わりそのまま作戦会議が行われるであろう大きな部屋へと辿り着く

『どうやらここで一回戦の編成や作戦を決めるようです。いよいよ敵の中枢部に侵入します、いやぁドキドキしますね、おっもうそろそろ始まるようです』

壇上には隊長と思われる金髪の女性に副隊長と思われる二名の女性が居た、副隊長の1人がマイクを握る

『ではこれより第一回戦の編成を発表する。エイブラハムスナイパー武装1輌、エイブラハム通常装備8輌、エイブラハム重装備9輌、クラッシュバスター1輌』

『それじゃ次はフラッグ車を決めるよ!OK!?』

そう隊長が言うと周囲の生徒は一斉に手を挙げた

『流石アメリカ式の高校ノリがアメリカンドラマそっくりです。ん、今フラッグ車が決まったようです』

『何か質問がある人は?』

『はい!エイブラハムは通常装備と重装備と言いましたがどのような内容ですか?』

敵の編成が分かっても武装の種類が分からなくてはお話にならない、優花里の質問に隊長が答える

『いい質問ね、通常装備はクラッシュバスターと同じくレイバー用サブマシンガン、重装備は6連層ミサイルポッド、25mmチェーンガンよ』

『フラッグ車をガードする為のレイバーは?』

『ナッシング!』

『敵はこちらの警備用レイバーとは違い軍用レイバーを使用しているとの情報が聖グロとの親善試合で明らかになってますが?』

『1輌で全滅させてあげるわ!』

凄い自信であるそれだけ実力があると言うことか、納得してると副隊長の背の高い方がこっちの顔をジロジロ見る

『…見慣れない顔だな。』

その疑いの声に周囲の視線がこちらに刺さる、不味い状況になった。「転校生なんで」と言う言い訳はここでは通用しない。何故なら転校したばかりの生徒が特車道の試合に出るなんて考えられないことだからだ、何かこの場を切り抜けられる言葉が思いつかないそうこうしてる内に疑いはどんどん強まる

『…所属と階級は?』

『えぇと…第二小隊泉野明巡査です!』

焦ってあまりにも頓珍漢な事を言ってしまった、すぐにバレて優花里は逃げることにする。ここで捕まってしまってはここまでの苦労が水の泡だ、絶対これを西住殿に渡すんだ。その一心で来た道を走り続ける

『バレてしまいましたが有力な情報を入手する事が出来ました!これより帰還致します!』

映像はここで終わった

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「…何という無茶な事を、よく帰ってこれたな秋山さん」

「つかいいの?偵察行為って」

「試合前の偵察行為はルール上全く問題ないんですよ」

そう言い優花里はみほにSDカードを渡す

「西住殿、どうかこれを西住殿の作戦に役立てて下さい、私はこんな事でしかサポート出来ませんが…」

「ううん優花里さん、本当にありがとう!優花里さんのおかげでフラッグ車も判明したし編成もわかった。これで作戦がグッと立てやすくなったよ!」

「しかし無事で良かったよね、もし捕まったら拷問とかが待ってたかもしれないよ〜」

「流石にそれは無いと思うぞ、んで怪我とは無いのか?」

「走った時に転びませんでした?」

「皆さん、心配していただき恐縮です。おかげさまで怪我する事なく帰れました」

「秋山さんの部屋も見れたし謝ることはありませんよ」

「あの実は部屋に友達が入るのって初めてなんですよ…私昔からレイバーが好きでレイバーが友達みたいなものでしたから」

そう言うと優花里は床に置いてあったアルバムを手に取りみんなに見せる

「ご覧の通り友達と写真を撮った写真が一枚もなくて…あ、この時は陸自の総合火力演習の時の写真ですね」

「何でパンチパーマ?」

「癖っ毛が嫌いで、父のパンチパーマがカッコいいって思ってしてたんです。中学はパーマ禁止なんで元に戻したんですけどね」

「…多分優花里が友達居ないのって髪型のせいなんじゃ」

「えぇ…」

「まぁまずは一回戦勝たなきゃお話しにならないな」

「偉そうなこと言ってるけどあんたが一番頑張んなきゃいけないんだよ?」

「…何で」

「明日から朝練だよ」

麻子の顔から血の気が引いてく音が聞こえたよう気がした。

 

 

 

 




次回から戦闘シーンかぁ…書けるかどうか不安ですが頑張ります!筆者のやる気がボルテージするので宜しければ感想お願いします!
ここまでの御視聴ありがとうございました!


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強豪・エイブラハム軍団です!part2

ど〜も恵美押勝です、相変わらず雨ばっかで嫌になりますねぇ。ジメジメするし汗かくしいい事が一つもない!おまけに土曜日は模試!あぁ嫌だ嫌だ…ガルパン世界に転生してぇ
さて作者のキモい願望はここまでにして本編どうぞ!


今日は一段と大変だった。空砲なしに起きれるとは言え目覚めがすこぶる悪い麻子を4人で起こしなんとか朝練したら今度はエコノミーの中で熟睡し起こすのに苦労する。今度クラッカーかなんか持ってくるべきか…みほはそう考えた。その後は無事に練習を終えることができあっという間に夕方になる。夕日を背に全員が整列してみほはその前に立つ

「それじゃあ今日の練習はここまでにします!明日も頑張りましょう!」

練習が終わりみほは沙織達と帰ろうとする、しかし沙織が「やる事がある」とのことで先に帰っていいよとの事だった。ほんの少し違和感を感じたが問い詰めるようなことでもないので帰ることにする

よくよく考えるとひとりで下校するのは久しく感じられる、転校してから殆ど毎日沙織達と登校、下校をしてたからだ。いつもは騒がしいはずの道が今日は静かだみほはほんの少しだけ胸がチクリとなる、下校して5分ぐらいが経った頃教室に夜なべして書いた作戦ノートを忘れた事を思い出す。あれが無いと大変なことになる、久々の自分のうっかりさ加減に内心ため息をつき少し小走りして引き返す。

 

人ひとりも居ない夕日が差し込める静寂な教室に靴の音がコツコツと響く、椅子を引き机の中からみほはノートを取り出す。ふとキュイーンキュイーンと機械の音が聞こえる窓から校庭を見下ろすとエコノミーとラーダーがそこに居た。みほは急いで校庭へ向かう

校庭を見るとラーダーが静止してチェーンガンを校庭を縦横無尽に走るエコノミーについて行くように動かしてるのが見える。ふとラーダーの動きが止まり沙織が顔を出す

「あれみぽりん居たの!?」

「ちょっと忘れ物をね沙織さん達は練習だよね見れば分かるや」

「うん、今ガンカメラ使ってラーダーの命中率を測ってたんだ。私達みぽりんの足引っ張りたく無いからさ」

「そっか…ありがとう。でも練習する時は私も誘っていいんだよ?何かアドバイス出来ることあるかもしれないし…そういえば麻子さんは何をしてるの?」

「麻子はね、何だったかな…あ、そうだ!足回りの練習って言ってたちょっと待って」

そう言い沙織はインカムを渡す

『麻子さん』

『西住さんか、足回りのモーター関係の確認をしててな。どんな歩き方が負担に来るかどんな動作をすればモーターに負担をかけないか少し実験してたんだ』

『それで実験の結果は?』

『この間みたいな柔道までは流石にできないが普通の戦闘に関する動きなら全然問題ない、バッテリーの消費量も今までより10%抑える事が出来るぞ』

『流石麻子さんだね』

練習を終えレイバーを仕舞いにハンガーに行きそこで全員集合する。

「それじゃあ、明日からはみぽりんも一緒に放課後練習に参加するっでことで。」

「練習をたくさんして試合に勝って勝って勝ちまくってお姉さん達を見返しましょう!」

「西住殿、頑張りましょう!」

「…うん!私頑張るよ!」

今度こそ5人で帰ることになりハンガーから出ると梓がいた

「あれ梓ちゃんどうしてここに?」

「ちょっと自習してて教室に…それで音が聞こえるから窓から校庭を見たら先輩達がいるのが見えてそれで私達1年生チームも放課後練習したいなって思ったんです。この間の親善試合も私達殆ど活躍出来てませんでしたから…西住先輩達の足を引っ張りたくないんです。でも自分1人じゃ何をすれば良いか分からなくて…私も放課後練習に参加しても良いですか!?」

梓は自分が足を引っ張ってたと言うがとんでもない経験が一切ない一年生それに始めての試合にも関わらず逃げることなくレイバー1両倒すことが出来た。それだけでも勲章モノなのだ、しかし本人が覚悟を決めた以上その事は言わない、せっかくの覚悟に水を差すことになるからだ。

「分かった、じゃあ明日から一緒にやろう梓ちゃん!宜しくね!」

「こちらこそ宜しくお願いします!西住先輩!」

それ以来放課後練習に梓が加わりそれを見た歴女であるエルヴィンが、バレー部がそして生徒会が次々と参加し全員が放課後練習に参加することになった。この頃を後に自動車部のナカジマとその顧問シゲルは語る

「あんときゃ整備にめちゃくちゃ苦労したよ、なんせ2課で働いてた時より多いレイバーが前期フル稼働して動くんだもんな。家に着く頃には夜の11時…今思えば良く生きてたなって思うぜ」

「でもその分やりがいはあったし私も勉強したことを生かせるし辛くは感じなかったかな。しかしバッテリー充電にあの時だけでいくらかかったんだろ…?あんま想像したくないなぁ」

試合までの2週間彼女達は岩にかじりつく勢いで練習した。エコノミーは動き方を改善してモーターの限界値を感覚で覚え一時的な拘束が出来るようになりパイソン、ドーファンは電磁警棒による格闘術を磨いた。ラーダー達は射撃の精密さレイバーに見つかった時のための逃走術を身につけサムソンやアトラスと言った軍用レイバーは強力な武器を最大限活かすため射撃練習に専念した結果桃の射撃能力がほんの少し改善されたのであった。

試合までの2週間の間は何も練習をしただけではない、親善試合で派手な塗装や飾りをしていたエコノミー以外のレイバーは元々のカラーリングに戻し小道具も外した。武器の類も点検し銃口やシリンダーも掃除することでジャムを防ぐ、また制服で試合に挑むのは格好がつかないのでジャケットを作る事になりその為の採寸も行う

こんな具合に試合前日へと物語は進む。

 

試合前最後の練習が終わりハンガーに戻るとキャリアの目の前にダンボールが置かれてるのが見える。もしやと思いみほが開けると中身はジャケットであった、新品のジャケットをビニール袋から取り出しいそいそと皆んなが着替える長袖に色はネイビーブルー、そして背中にはアンコウのイラストがプリントされており他校と比べると少し変わったジャケットであった。

「このジャケット可愛いじゃん〜!後ろのアンコウがすっごくいい!」

「皆さん大変お似合いですよ」

「五十鈴殿もお似合いですよ!しかしジャケットを着ると改めて明日が試合なんだって実感しますね〜!」

「西住さん明日の試合はどうだ?あれから練習したが勝てるかな?」

「今の私達の練度はサンダースと比べると悪くはないと思う、作戦をしっかり練れば勝てる勝負だと思うよ。大丈夫自信持って」

とそこで明日の試合に向けての最終作戦会議を行うというので生徒会室に来いと桃に呼ばれる。みほは明日の試合頑張ろうねといい円陣を組んで別れた

 

生徒会室

全員集合すると間髪入れず杏が口を開く

「西住ちゃん、明日の作戦は?」

「はい、今回はフラッグ戦なので相手のフラッグ車を落とせば勝ちです、幸いにして相手のフラッグ車はガードが居ません、そこで先ず指揮車を偵察に向かわせ発見しだいわざと見つかって逃げ敵レイバーを分散させます合流地点に味方レイバーを用意しこれを迎撃、その間別の指揮車がフラッグ車の偵察に向かい発見次第見つからないように後退し後は教えてもらった座標に味方レイバーを向かわせチェックメイトという訳です」

「するとそのフラッグ車を倒す役目は我々生徒会だな!」

「いえ、生徒会が乗るアトラスは今回フラッグ車なのでそれは無しです、それにフラッグ車に対してアトラスでは危険なんです」

「私の射撃が下手だと言いたいのか?」

「そうじゃないんです、相手フラッグ車はクラッシュバスターと言う警察用レイバーの中では高性能な代物でアトラスの機動力ではクラッシュバスターに勝つ事は難しいんです。」

「それじゃあ誰が倒しに行くんだ?」

「その役目はエコノミーとパイソンがやります、起動力はやはり此方が劣勢ですが軍用レイバーよりはまだ可能性があるので…」

「それじゃ西住ちゃん頼んだわ、フラッグ車は大人しく引き籠る事にするからさ」

「折角射撃練習にしたのに…」

「ま〜まかーしま落ちこむなって、勝ったら次撃つ機会あるかもしれないじゃない」

「…勝てばの話ですよね」

「勝つんだよ、絶対に勝たなければいけないんだ

 …なんかしんみりしちゃったね。よ〜し今日は解散!明日頑張ろー!」

みほは何故杏達がここまで勝利に拘るのかその理由が気になったが聞き出せず帰る事にした。明日はいよいよ試合だ、親善試合ではなく負ければ即敗退でこれまでの苦労が無駄になる。明日は朝練より1時間早く起きなくてはいけない、その為早く寝たのだがプレッシャーがのし掛かり疲れてるはずなのに寝付けない。プレッシャーを押し殺し無理に寝ようとするとまぶたの裏で去年の試合の映像が映し出される。しばらく忘れてたトラウマが蘇りベッドからガバッと起きる、嫌な汗が額を流れる。何故自分は震えている?その事はもう立ち向かうと決めただろう?そう自分を諭すが震えを止める事はなかった。去年の私とは違うんだ、守りたいもの立ち向かわなきゃいけない人がいる、あの時の弱い自分ではないんだ。震えを止めるように頬を強めに叩く、頬がひりひりし熱を持つが構わない。それが功をなし震えが止まる

あの時の自分とはもう違うんだ、その事を自分自身に証明してみせる。西住みほに戦う理由がもう一つ生まれた

 

 

翌日 10:00 試合会場

第63回特車道全国高校生大会が幕を上げた、試合会場は熱気に包まれ現地に到着したみほ達を出迎える。キャリアを現地スタッフから指示された場所に起きデッキアップを行う、客席の近くなので生で見るデッキアップの迫力に観客が歓声を上げる。一旦レイバーから降りて桃が集合をかける

「よし、試合まで後2時間だ。各自点検終わったな?」

全員威勢よく終わったと声を上げる

思い出しかのように優希が口に手を当て

「いっけな〜いラーダーの弾込め忘れてた〜」

「それ一番忘れちゃいけない奴だよ…」呆れ口調で梓が言う。

すると何処からか笑い声が聞こえてきた。サンダースの副隊長達である

「そんなんで全国大会に出るなんて笑っちゃうのよね」

「なんだお前たちは嫌味でもいいに来たのか?」

「いえいえ、試合前のささやかな交流として一緒にお昼でもどうかと」

「会長…どうします?」

「いいねぇ、腹は減っては戦はできぬって言うじゃない?折角ただ飯食わせてくれるみたいだしご相伴に預かろうや」

サンダースの集合場所は見事なものであった、飯屋は勿論簡易シャワーに散髪や、病院と言った大洗とは全く違う場所がそこにあった。ご飯を済ませるとサンダースの隊長が杏の方に駆け寄って来る。

「ハーイ、アンジー!」

「角谷杏だからアンジー?」

「安直だなオイ…というかなれなれしいな」

「やぁお久しぶりケイ、お招きどうもね」

「何でもあるから好きなの食べてってよ。オーケー?」

「オッケイオッケイ、おケイだけにね」

ここに来てまさかの親父ギャグである、誰もが滑ったと思いきやケイはゲラゲラと笑っていた。そしてある人物に目をやると笑いを止め呼びかける

「ヘイ!ノア巡査!」

ノア巡査とは勿論優花里の事である、優花里はビクッとし思わずみほの背中に隠れる

「この間逃げた時に転んだりしなかった?」

「へ…あ、ハイ大丈夫です!」

「良かった良かった、またいつでも遊びに来ていいよ。ウチはいつだってウェルカムだからね!」

「はい!試合が終わったらいつか必ず寄らせて頂きます!」

「じゃあね、ノア巡査〜」

ケイと別れると優花里はペタンと座り込む

「怖かった〜怒られるかと思いましたよ…」

「フレンドリーな隊長さんなんだね、この間みぽりんに難癖付けてきた子とは大違いだね」

「まぁそもそもルール違反はして無いんだから怒る必要は無いんだけどな」

ここで試合開始15分前となり全員元の場所に帰りレイバーに乗った。

目の前にある巨大なモニターには杏とケイが映っている。これから試合開始の握手をすると事だ

「改めて、今日はよろしくアンジー」

「こちらこそよろしくケイ」

「…また特車道を始めたのね」

「こっちもあれから色々あってね、まぁ思い出話は試合後にしましょうや」

「オーケー!それじゃあ正々堂々、スポーツマンシップに則って楽しみましょう!」

「おうよ!」

2人はガッチリ握手し観客は拍手をする。試合開始地点まで小山が運転する指揮車で送ってもらう

「(楽しむ…か、ごめんケイ。ウチらそんな余裕ないんだわ)」

「会長、どうかしましたか?」

「ん?何でもないよ。小山、索敵頑張ってね」

「はい!」

 

会長が着くまでの間みほはコクピット内で深呼吸をしていた。脳内のアドレナリンが分泌されまくり自身に心地よい緊張感を与える、震えは起きてない。ここまでの成果を見せる時が来たのだ

「西住さん、緊張してるのか?」

「ううん、一年ぶりの空気を感じててさちょっとノスタルジックになってるだけ」

「随分と余裕じゃないか、ま、隊長というものはそのぐらいが良いのかもしれんな。んじゃ宜しく頼むぞ西住隊長」

「その呼び方なんだかこそばゆいなぁ…」

照れ臭くて頭を掻くと通信が入る。

『お待たせ皆んな、今帰ってきた。西住ちゃん!』

『はい、今回は説明したように相手のフラッグ車を叩けば勝ちです。相手のレイバーな此方より攻撃力が優勢ですが機動力でカバーし敵を分散させて戦いましょう!落ち着いて臨めば必ず勝てます!それでは

…レイバー・フォー!!」

 




さていよいよ次回は試合だよ試合、戦闘描写だよ!あかん死ぬぅ!それでも頑張りますんで応援宜しくお願いします。是非是非感想お願いします。私の文章が読みやすいか読みにくいのか第三者の方の判断がすっごい気になるので…
では今回はこれにて失礼!ご視聴ありがとうございました!


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強豪・エイブラハム軍団です!part3

ど〜も恵美押勝です。ここで皆さんにお知らせが2つあります「強豪・エイブラハム軍団です!part2」にて
「エイブラハム重装備は9輌」と書きましたが正しくは「5輌」でした。申し訳ありません。2つ目は私の生活が来週からとてつもなく忙しくなるので更新が何時もより遅くなると思われます
それでは本編、どうぞ


掛け声と共に一同は全身した。しばらくするとレイバーの背丈より高い木がある森が見つかりその中に入り静止する。

『カバさんチーム(歴女)の指揮車は右方向の偵察を、アヒルさんチーム(バレー部)は左方向の偵察をお願いします。両チームのレイバーはその場にて待機を』

『了解した!』

『分かりました!』

『ウサギさんチーム(一年)と我々あんこうチームはカメさんチーム(生徒会)を守りつつ前進、先行した小山先輩からの連絡が入り次第アトラスを待機させフラッグ車の迎撃に向かいます』

『ん、りょーかい。しかし西住ちゃん面白いチーム名考えるねぇ、可愛くてそういうの好きだよ』

『それでは各員の健闘を祈ります!』

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西住達が行動してから役3分後。左衛門佐とおりょうが乗る指揮車は当てもない道をひたすら前進していた。

「…しかしもんざよ。このジャケットは熱いぜよ」

「全くだ、冷房ガンガンに効かせてるのに一向に涼しくならん」

「少なくともこんな場所で着るようなものじゃないな、それはそうと敵を発見したら即逃げると言うのはなんかこうしっくりこないぜよ…」

「敵に背を見せて逃げる、武士としてはこの上なく恥ずかしいことではあるが…車じゃあどうにもならんしなぁ」

「そんときゃ頼りになるのは運転手のもんざなんだから頼むぜよ」

「荒っぽい運転になるが…酔うなよ?」

「大丈夫…ん?もんざ一旦止まれ、変な音が聞こえるぜよ」

停止してエンジンを切ると遠くからレイバーの稼働音が聞こえる、おりょうは双眼鏡を取り出し前方を見る。

「通常装備のエイブラハムが4輌か…まぁ90mmチェーンガンの前では殲滅させるのは容易いだろうな」

『此方カバさんチーム、エイブラハム通常装備6輌を確認、これより誘き出す』

誘き寄せるためクラクションを鳴らしたその時後方から鈍い音が聞こえた。重装備エイブラハムがミサイルを撃って来たのだその数5輌

『緊急事態だ!エイブラハム重装備が後方に5輌もいる、囲まれてしまった!』

『カバさんチーム南西から援軍を送ります!』

『了解…!』

「と言ってもこんな弾の嵐の中逃げ切れるのかね…」

「無傷で帰れたら勲章物ぜよ」

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見つかったならまだ理解できる、そういう作戦なのだから。だが囲まれると言うのはどう言う事なんだ、考えられることはただ一つ“囮作戦に気づかれた“という事だ。恐らく先に指揮車を潰して連絡が入らない事を心配して見に来たアトラスを10輌でリンチする気であったのだろう、結果的には不意打ち攻撃が外れて今に到るのだが

『アヒルさんチームは指揮車諸共あんこうに付いてきて下さい!サムソンも私達が使ったルートを使って合流を!ウサギさんチームのラーダーはフラッグ車の護衛を頼みます!』

エコノミーらが指揮車の元へ向かう途中横から軽い音が聞こえ地面を削る。スナイパー装備のエイブラハムによる攻撃だとみほは直感する、さらに通常装備のエイブラハム残り3輌も目視できた。

こちらに対して容赦なく攻撃をしてくるが森の中ということもあり視認性が悪く中々当たらない、反撃しようにもこの距離でこちらの武装は当たっても有効打にはならない。しかし撃たなければ近づかれるのは明白だ、敵レイバーに対して3発ほど撃つ。勿論1発も当たりはしないがこれ以上進行させずにはすんだ

「この森にフラッグ車を除く全てのレイバーを配置か、流石は強豪校思い切った作戦をしてくる。西住さんこりゃちとキツいんじゃないか?あと私の気のせいかもしれんが通信するときなんかノイズが走ってるみたいなんだ、今までそんな事は無かったと思うんだが」

「ここで全輌相手にするのはキツいね…一旦場所を変えて仕切り直す必要があると思う。それとノイズかぁ…森の中だから多分電波が悪いんじゃないかな?レイバーより高い木が生えてる森だからきっとそうだよ」

「そうかなぁ…なんか引っかかるが今はそれどころじゃないか」

そう話した時に後にサムソンが付いてきたのをセンサーで確認するとインカムのスイッチを押す

『カバさんチーム、間もなく合流します。合流後南東に進み包囲網を突破します!』

30秒後カバさんチームの指揮車との合流に成功し南東へと進軍、しかしその先にも2輌先回りして待ち構えていた

また此方の作戦を読まれた…理由は分からないが無理矢理にでもこの2輌を突破するしかない、そこを抜ければ森から脱出し少なくともこの状況を打破することが出来る。

『皆さん一列縦隊になって!足を止めず前に進むことだけを考えてください!』

親善試合の時のようにエコノミーがシールドを構えて先行し3、4発シールドに当たったり肩をかすめる。サブマシンガンでの撃破が不可能としたエイブラハムは体当たりで止めようと此方へ走って向かう。しかし質量とスピードはエコノミーが上だったのでエイブラハムを逆に弾き飛ばした。森の出口が見え光の先には草原が広がる、みほ達は遂にこの危機的状況から1人も撃破されることなく生還を果たしたのだ。相手が逃すまいと撃つが急に発砲が止む、恐らく隊長からこれ以上の深追いは危険と判断し追跡しないよう命令をしたのだろう

ホットして息を吐き大きく吸う、額に汗が滲んでいることに気づきジャケットの袖で拭った。息を整えると喉が渇きを訴え水筒に入った麦茶を半分くらい飲む、よく冷えた麦茶が緊張した体に染み込んでくる。水筒を置きインカムの電源を点ける

『各レイバーは散開してください、ここから巻き返しの時です!』

そう言うとレイバー達は散り散りとなり姿を消した。みほは先程発砲したリボルバーカノンのリロードをするため近くにあった木陰にラーダーと共に行き行きエコノミーを膝立ちの状態にさせる。

ハッチを開けると眩しい光と共に生暖かい空気がまとわりつく、地面に降り立ち麻子にリボルバーを収納している脚部を開けてもらう、空薬莢になった3発を取り出し脚部内にある予備弾を詰めこみリロードが完了した。

敵もしばらくは追って来れないだろうからここで小休憩を取ることにし全員レイバーから降りる

「いや〜危なかったねみぽりん」

「うん、日頃の訓練がなきゃここで全滅してたよ…相手の攻撃も奇跡的に命中しなかったし本当に運が良かった」

「しかし不思議ですね、どうしてあそこまでこちらの行動を読まれたのでしょうか。おおよその作戦内容が予想したとしても誰が何処に動くなんて予想は基本的に無理なはずです、指揮車を使えば私達みたいにこっそり偵察することが可能ですがサンダースは指揮者を持ってません。何度も戦った相手、もしくは何度もこの大会に出場してるならばある程度の予想は可能ですが私達はサンダースと戦うのもこの大会に出るのも初めてです。なのに予想が的中するとはよほどカンが冴えてるんでしょうね…」

「まるでこっちの行動を見られてる感じだったよ…」

瞬間、みほの脳内に閃光が走る。華の言う通り敵はカンが冴えてると最初こそそう考えたが余りにも冴え過ぎているのだ、一回ならばただのカンとスルーすることが出来ただろう。だが2回もこちらの作戦を、行動を読まれ先回りされたのだ偶然としては出来すぎている。みほは何らかの存在が介入してると睨む、ドローンか隠しカメラだと最初は考えたが前者は目立ちすぎるし後者は試合前のレイバーは関係者以外立ち入りを禁止しているスペースに設置しており現地スタッフが警備してるので不可能だ。視覚の情報が無理なら残るは聴覚しかない、盗聴器か?いやそれもあり得ない。行き詰まったその時再び頭の中に電流が走る。無線傍受…!それしかもうあり得ないと考え空を見ると無線傍受するための飛行船型のバルーンが浮かんでるのが見えた試合中継用のドローンより遥か上空にそいつは浮かんでいた。これで通信にノイズが入ったことに合点が行く、カンなんかじゃない、イカサマだったのである

「…?どうしましたみほさん?」

黙りこくるのを不審に思った華が話しかける

「無線傍受する為のバルーンが浮遊してる、どうやらそのせいで筒抜けだったみたい」

「それって反則なのでは?」

「いえ、ルール上ではそのような事は書いてませんね…ルール上は問題ないかと」

「でも無線傍受ってのは正々堂々と戦うことが求められる特車道では恥ずべき手段と言う暗黙の了解があるの。前の学校で試合中に無許可で同じような事をした子がいるんだけど3ヶ月間雑用を命じられたんだよね…」

「つまりそれ程悪い行為って事だね、でもみぽりんここからどうするの?」

「相手がイカサマを使うならそれを利用するまでです!沙織さんの腕を見込んで頼みがあります!」

みほは沙織に自分の考えを伝えた。沙織はその提案に驚くが肯く、小休憩は終わりだ。エコノミーの手にみほと麻子と“沙織”が乗っかりコクピットへと入り電源を立ち上げる。

さあ、反撃開始だ

 

エコノミーが先程とは別の森へ入りみほは通信を入れる

『全車輌このまま南進しジャンクションまで移動、敵はジャンクションを北上してくるのでそこを挟み撃ちの形で一気に叩きます!』

だが、この指示真っ赤な嘘である。みほが沙織に提案したことそれは「虚偽の命令をでっち上げ相手をコントロールし本物の命令はメールで伝達する」と言うことである

「沙織さんは『ジャンクションを見下ろせる丘にエコノミー、サムソン、パイソンが移動。アヒルさんチームの指揮車はジャンクションにある周辺の木々をロープで束ね茂みに隠れ合図をしたらアクセル全開して土煙を出しながら走行して下さい。ドーファンは指揮車を追うように移動をお願いします。』とメールして下さい」

「分かった…よし送信終わり!私の早打ち技術が役に立つ時が来るなんて思わなかったよ」

「しかし西住さんや、試合中に選手が他のレイバーに乗り換えるってのはアリなのか?」

「試合中での移動に関してはルール上は問題なかったはずです」

丘の上に到着すると茂みに指揮車とホフク状態のドーファンが見えた、既にジャンクションの北上に囮と思われるエイブラハム(通)が5輌、本隊と思われるエイブラハム(重)が西に2輌、東に3輌が見えるのを確認した

『囲まれた、全車輌後退!』

これがアヒルさんチーム移動の合図である、合図と共に指揮車が走り派手に土煙を上げる、続いてドーファンが走り更に土煙を上げる。こんなに土煙を出して気づかない馬鹿はいない、まして強豪校なら尚更である。エイブラハム(重)2輌の視線が土煙の方角を向いたのを確認し通信を再び入れる

『見つかった!全車輌散会!アトラスはそこの茂みに隠れて下さい!』

これで敵はこの茂みにフラッグ車が居て警備するレイバーもいない、そんな美味しい状況にあると誤認するだろう。後は油断してノコノコやってきたところを後ろからズドンだ。

丘の上でサムソンが90mmチェーンガンを構えゆっくりとエイブラハムに照準を定める

「…まだよ、まだまだ… 」

そして敵がとうとう茂みの近くで立ち止まった

「今だカエサル撃てぇ!」

チェーンガンが火を吹きエイブラハムの足にあたる、破壊されたことによりバランスを崩しエイブラハムは倒れる。すかさず更に追い討ちをかけ胴体に当てていく。エイブラハムは倒れると同時に白旗判定が出た

突然の奇襲に驚いた残ったエイブラハムが25mmチェーンガンをでたらめに撃つが当たるわけがない。パイソンがリボルバーで攻撃するが地面をかするだけに終わる、このままではやられると判断したエイブラハムは背中を見せて逃げていった。追撃をしようにもすぐ攻撃可能範囲内を越えてしまったので諦めるしかない

この出来事に観客達は大いに騒ついた。誰しも無名校が一方的に蹂躙される試合を予想していたが最初にやられたのが強豪校だからだ。しかもまぐれで倒したわけではない。計算された上での撃破だ、あのサンダースに対して作戦による戦闘の勝利を果たしたのだ。観客の注目は一気に無名校…大洗女学園へと注がれる。誰もが予想できない試合が今、この瞬間から始まったのだ。

 




めでたくサンダースのレイバーを倒せたみほ達だがまだ試合は始まったばかり、みほ達は確実に勝利するために再び虚偽の命令をすることを決意する。頑張れみほ!唸れ沙織の早打ち!だがそこにスナイパーとクラッシュバスターが襲いかかる!みほ達は勝てることができるのか!?
次回
「一回戦、白熱してます!」
ターゲットロック、オン!


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一回戦、白熱してます!part1

ど〜もお久しぶりです恵美押勝です、どうも最近めちゃんこ忙しくなりましてね。更新が何時もより遅れました…恐らく来週もこんなペースになると思いますがそれでもお付き合いしていだだければ幸いです。
それでは本編どうぞ!


ケイは自分の特車道人生史上最高に興奮していた。相手はたった数週間しかやってない素人軍団、経験を積んだこちらの相手ではないと鷹をくくっていた。だが結果はどうだ、アリサの勘により試合は有利に進み追い詰めることに成功しかと思えば切り抜けられ再びチャンスが巡って来たと思ったらこちらのレイバーが1輌やられたのだ。この事実にケイは内心小さく舌打ちをするが思わずニヤリとする。素人軍団と思ったら意外と出来るチームで試合の展開が全く予想できないからだ、予想できない展開ほど面白いものはない。次はどう来る。どうやって私達を追い込むつもりだ、いずれにせよ私達は正々堂々と立ち向かうまでだ。ケイはそう自分を鼓舞しクラッシュバスターのモニターを見つめ味方の位置を確認した。

 

_______________________________________________________________

 

一体を倒したところでみほ達は一旦集合し次の作戦を行うため再び森の中に入った。

「一泡吹かせることができたのは喜ばしいことだが、フラッグ車を倒さぬことにはぬか喜びになるぞ。次はどうするんだ?」

「次は敵フラッグ車を孤立状態にします、というわけで沙織さん…」

「ん、了解またメールを打てばいいのね」

「それじゃまた頼むね」

そう言いみほはインカムをオンにする

『皆さん、私達の最終目的はフラッグ車を倒すことですがその前にスナイパーであるエイブラハムを倒さなければ撃破は困難です、危険ですが112高地に行きそこで叩きます。では全車前進!』とまず虚偽の命令を敵に聞かせる

「これで相手の殆どのレイバーが後ろを取ろうとして高地の麓に集まるはず、フラッグ車は恐らく味方から離れるため麓からそこそこ距離がある場所にいる可能性が大です。」

「となるとこの辺か」

麻子はモニターに映る地図の一点を指差す、そこは竹林であった。

「そこの周辺にアヒルさんチームは偵察をお願いします。残りの車両はその場にて待機…それじゃ沙織さんメールお願いします」

「オッケー任せて!」

 

_______________________________________________________________

 

西住に言われて私達アヒルさんチームは偵察に行くことにことになった。さっきの煙幕に続き試合に貢献出来る機会が2回も与えられて内心嬉しくて声に出したくなるがそこは我慢する。目標地点に到着するまで時間があるので私は後輩の忍に話しかける

「なぁ忍、隊長にドーファンの動かし方教えてもらったろ、あれからどうだ?」

「えぇ、バッテリーの持ちがすごく良くなりました。親善試合の時は大体今ぐらいの時間、約1時間くらいで残量バッテリーが50%以下だったんですが今回はまだ70%もあります」

「やはり動きが適切だとその分持ちが良くなるか…ちゃんとした動きをしないと直ぐにスタミナを使い切ってしまう。まるでバレーみたいだな」

「キャプテン、なんならこの子を新入部員にしません?そしたら廃部は撤回されるかもしれないですよ」

「機械の部員とか聞いたことないぞ。と言うか忍あんたそう言うジョークとか言えたのね…」

そうこう話してると竹林へと入っていた、辺りはしんとしておりレイバーがいる雰囲気は感じられない。がここから先は慎重に捜索する、ひょっとしたら目の前にひょっこり…なんてこともあり得なくはないからだ。指揮車もドーファンもなるべく走行音を出さないように歩いて5分くらい経っただろうか何も見つからず成果なしと報告しようとインカムに手をかけたその時ドーファンの対レイバー探知センサーが鳴り、周辺に潜んでいることを知らせる。

「どうやら敵さんはこの辺に居るみたいだな…竹林の出口が見えるし一旦出てそこから周囲を見渡してみよう」

そう言いドーファンは竹林と道路の境界線としてある藁で作られた塀を越えた。すると先程から鳴っているセンサーが更にけたましく鳴る、間違いないほんの近くに居るんだ。そしてふっと正面を見るとそこには真っ青なレイバー“クラッシュバスター”が居た

…お互いに目が合う、時間にして数秒だが永遠とも感じられる時間が流れる

ハッとして典子は手にかけていたインカムのスイッチをオンにし指揮車にいる妙子たちに伝える

『右に転換、急げ〜!』

その瞬間ドーファンvsクラッシュバスターの鬼ごっこが始まる

『キャプテン、敵を倒せる絶好のチャンスですよ何で逃げるんですか!?』と妙子が通信越しに声を上げる

『クラッシュバスターは私達ドーファンよりずっと強くてとてもじゃないけど一機じゃ敵わない!ここで奴と戦って負けちゃ偵察した意味がなくなる!あけびは西住隊長にこの事を伝えて!』

『了解!』

みほに敵フラッグ車を0765地点にて発見したが見つかり現在逃走中とあけびは通信を入れた

『0765地点ですね、0615地点に合流しますので全力で誘き寄せてください! 』

こう指示を受け典子にその事を伝える

「0615地点まで逃げるのかぁ…難題だがそこはもう根性で乗り切るしかないな!」

「とはいえ相手の連続スパイク並みの攻撃を避けるなんて難しいですよ。言ってる間にも攻撃は止まないし…何か相手の視界を遮るものがあれば例えばさっき使った煙幕とか」

「んなもんさっき使った木を束ねた奴以外…いや一つだけあった!」

そう言い座席の下をゴソゴソと探り赤色の筒を手にした

「非常用の発煙筒だ、コイツをお見舞いする!上手くいけばクラッシュバスターの何処かに引っかかってくれるはずだ!」

そう言って座席の横にあるレバーを引く。すると座席が上へと移動して有視界と化す、更にボタンを押す事で手前の防弾ガラスが収納され視界を遮るものは完全に無くなった。部活の時の感覚を思い浮かべ発煙筒をふわっと投げ思いっきりクラッシュバスターへと叩き飛ばす。見事胸部上部にある出っ張ったところへ引っかかり容赦なく煙がメインカメラへとかかる

煙で燻され攻撃がしにくくなったクラッシュバスターは見当違いの方向へと撃ち続けている。残り距離はわずか100mとなった、目の前にエコノミーの先っぽが見える。あともう少しだけ走ればこちらの勝利だ。そう思った矢先いきなりドーファンのバランスが崩れ倒れ込む

「どうした、石にでも躓いたか!?」

「いえ、突然右足の力がなくなって…でもどうして!バッテリーの残量もモーターにも問題はなかったのに…!」

忍はドーファンを起こそうとするが右足のペダルをいくら踏み込んでも反応しないそれでも懸命に動かそうとした瞬間連続で鈍い感触が座席を揺らす。クラッシュバスターのサブマシンガンが正確にドーファンの左足、背中を撃ち抜いていた。これによりドーファンは白旗判定が出る、残り距離5mと言う誰もが到着を信じて疑わなかった矢先の出来ごとである。うつ伏せの状態でドーファンが最後に見た光景は指揮車のタイヤを打ち抜かれスピンしている瞬間であった。

 

_______________________________________________________________

 

時間は数十分前に遡る、地図を確認してる間にケイは副隊長のアリサから伝えられたのだ。「大洗の全車輌はナオミのエコノミーを狙いに128高地に行くらしい、我々は麓へ行き後ろから奇襲をかける」と。やけに詳しい情報だ、偵察隊でも回したかと考えるがだとしてもおかしすぎる

『やけに詳しいじゃない、情報の出処は?』

『いやですね、女の勘って奴ですよ。高地に行って高低差を利用して勝負だなんてポット出の素人集団がいかにも考えそうなことじゃないですか』

『それはそうだけどそいつは全部隊を回す根拠にはならないわよ』

『信じてくださいよ、私の情報は確実です。今も…これからも』

怪しさ満点だがここで問い詰めてもしょうがない、時間の無駄である。問い詰めるのは試合後でいい

『んじゃ貴方のことを信用するわ、一気に勝負を決めようか』

『そうこなくっちゃ任せてくださいマム!』

通信を切りしばらく考える、本当に高地へ向かっているのだろうか?確かに敵は素人集団だがこちらの戦力を先に削いだ集団だ、全くのど素人と言う訳ではない。そんな集団が分かりやすいような作戦でこちらに対抗するだろうか?疑問には残るがそれを明確に肯定する根拠もなければ否定できるのもないことはまた事実である。故にフラッグ車である自分はここで待機してアリサの吉報を祈るしかない。待ってる間不思議な気分に陥る、サンダース大学付属高校特車道隊長のケイとしては勿論吉報を心から望んでいるが特車道選手としてのケイは来ないことを願ってる自分自身がいるのを感じていた。

彼女らがどういう作戦でやってくるか、今度は何を見せてくれるのかとワクワクしてしょうがない。そう考えていると対レイバー探知センサーが鳴るのが聞こえ思考は一気に隊長としてのケイの思考に戻る。

ふっと目の前を見ると大洗のレイバーが見える。お互い突然の来訪者に戸惑い暫く沈黙するが大洗の方が先に踵を返し逃げていった、当然逃すまいと追いかけて銃をぶっ放すが当たらない。ケイはインカムに手をやりアリサへと掛ける

『ちょっとアリサどういうこと!?大洗のレイバーがこっちに居るんだけど!』

『此方はもぬけの殻でした…どうやら通信傍受がバレてしまいそれを逆手にとられたかと…!』

『バカモン!戦いはフェアプレイでっていつも言ってるでしょ!?通信傍受など言語道断!』

『申し訳ありません!』

『ともかく今ポイント0615まで向かってるからそこに全機集合!ハリーアップ!』

『イエスマム!』

通信を切った直後ドーファンから赤色の筒が飛ぶのが見えたと思ったら煙が吹き出しモニターが見えなくなる、これでは当てるのは難しい。こんな状況にも関わらずつい考え事をしてしまう。

恐らくアリサは3年生になりこの大会が最後となる私を少しでも優勝に導きたくてこんなことしたんだろうけど

…イカサマをして勝ち取った勝利などそんなのは意地でもごめんだ、私はあくまでも“フェアプレイの先にもぎ取る勝利” “敵味方関係なく笑って試合を終えること”それが目的でここまでやって来たんだ。それをめちゃくちゃにされたままで終わらせるのは耐えられない、ここからはイカサマなしの真剣勝負…!ここからがサンダースの本当の試合だ…!

『お困りのようですね、マム』

考え事をしてる時に通信が入り少しビクッとする

『…ナオミ?』

『私が合図したら左35度の方に縦へなぎ払うように撃ってください』

『どういうこと?あなたも確か麓にいるはずでしょ?』

『…信じて』

『またかぁ…オーケー、こうなったら信じるしかないわ』

通信を切ると轟音が聞こえた、何か重いものが倒れたようなそんな音が

…もしやドーファン?

『今ですマム、撃って!』

合図と共にサブマシンガンによる攻撃をする、当たった手応えがある音が聞こえそれに続き白旗が上がる音が聞こえた。未だ煙で何も見えないがドーファンを倒すことに成功したのだろう。

『お見事です』

『今ドーファンを倒したのはナオミの射撃ね?』

『えぇ』

『でも早くない?集合かけてからまだ1分も経ってないわよ?』

『大洗が高地に集合してるってのがどうもきな臭いと思いましてね、こちらを出し抜くほどの相手がそんな分かりやすい手を使うとは思えない、それで抜けて偵察しに行ったんですよ』

『単独行動、命令違反は重罪よ?』

『でもそのおかげで助かった』

2人は可笑しくなり通信越しに笑い合う

________________________________________________________________

みほ達はアヒルさんチームと合流するために森の中をひたすら走っていた、暫くすると眩しい光が見え出口へと誘う。その時、脇目にドーファンが倒れ込むのをみほには見えた、そしてパシュンと言う軽い音が聞こえたのもみほは聞き逃さなかったが何の音までかはその一瞬では判断出来なかった

『すいません隊長!突然足が動かなくなってそのままやられてしまいました!』

『アヒルさんチーム、怪我はないですか!?』

『私達は平気です!それよりフラッグ車がすぐそこに到着します!あとは頼みました!』

…突然足が動かなくなった?整備不良か?いやナカジマさん達に限ってそんなことはありえない、ではどうして…瞬間、みほの頭にパズルのように先程の事象が組み合わさる。

____スナイパーによる狙撃だ、間違いない。それも正確な

しかし気づいた時には遅すぎた、既に森を抜けて遮蔽物がない草原へと出てしまったのだ。ここで足を止めることは敗北を意味する、みほは大慌てで通信を入れる

『皆さん、集合ポイントには到着しましたがここに敵スナイパーがいます!ですので各機散開してとにかく足を止めないように努めてください!ウサギさんチームのラーダーとカバさんチームはアトラスの護衛を!』

みほの指示のもと全車輌が散り散りとなるが後方から銃撃音が響く、そうクラッシュバスターがみほ達の元へと到着したのだ。追われる立場から再び追われる立場へ

『西住ちゃん〜この状況はかなりやばくない?下手に動けばスナイパーの餌食にかと言ってこのまま待てば敵の主力がやって来て袋叩き…さぁどうするよ』

『こうなったら援軍が来るまでの間…時間にしておよそ7分の間、ここで決着をつけます!』

余りにも無茶な提案に周囲からは驚きの声が上がる

『いくらなんでも7分で決着は無理ですよ西住先輩!』

『一旦体勢を立て直すべきだ、でなければ全滅だ!もう一度例の手で…!』

そうだ、この状況で勝てるなんて思うのは難しいだろう。だが勝てる確率は0%じゃない、諦めない限り…!だが今空気は諦め、焦り、悟り…そんな負の空気に包まれてる、このままでは敵ではなくこの空気に負けてしまう。ならばみほが…隊長である彼女が激励しなくてはならない、人前で話すこと大の苦手な彼女だったが深呼吸して覚悟を決めインカムの電源をつける。

『今ここで引いたら敵はフラッグ車だけ…そんな喉から手が出るほど美味しい状況はもう2度とやって来ないんです!敵も恐らくこちらの作戦を見破っているはず。ここで諦めたら終わりなんです!

逃げたら負けなんです!皆さんなら出来ます!私は皆さんを信じる!皆さんも自分自身をどうか…どうか信じてください!』

心の内を洗いざらい吐き終わると息も絶え絶えになり深呼吸をする。そして数秒ほど沈黙が続いたのだろうか、どんな反応が返ってくるか予想できず身構えているとインカムの呼び出し音が鳴る

『西住ちゃん…いい事言うじゃないの。おいみんな聞いたか!?』

『えぇ、バッチリと。こうなったら覚悟を決めてとことんやります!私もみんなを信じるし西住先輩も信じる!』

『あぁ、私も腹を括ろう、全員の力を合わせてこの試合勝とうじゃないか!』

みんなの反応にみほの顔がパァッと明るくなる、みんなが自分を信じてくれてる、みんなが戦うことを決意してくれた。ならば自分は隊長としてその信頼と決意に報いるまで。この瞬間大洗の何かが変わった。元々団結力が高かった大洗だがこの出来事で高まる、更に高く、硬く、強固なものになる。

それを今ここにいる全員が感じていた。勿論みほも例外ではない、噛み締めつつインカムに手をやる

『フラッグ車はエコノミーとパイソンで対処します!スナイパーは…

『スナイパーは私達で倒します!』そう宣言したのは優花里であった。

『優花里さん…』

『銃声が遅れて来たってことはそれは敵スナイパーが1キロ以上離れた場所での狙撃ってことを意味します、となるとその距離で対処できる武器は射程4500mのチェーンガンぐらいしかありません、ですが90mmチェーンガンを装備しているカバさんチームはアトラスの護衛をしなくちゃいけませんし…』

『分かった、スナイパーは優花里さんに任せるよ。

…気をつけて』

『お任せください西住殿!』

かくして各々がそれぞれのやるべきポジションについた。

敵本体到着まであと5分…




今回はここまで!ナオミの乗るエイブラハムスナイパー装備型相手にどう優花里達は立ち向かうのか、果たして試合はどうなるか。なるべく早く更新する様に努めます…!それではここまでのご視聴ありがとうございました!


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一回戦、白熱してます!part2

ど〜も恵美押勝です、今週も大忙しだったから投稿が遅れて申し訳ない!ちょくちょく時間を見つけて書いたけどやっぱり1週間で1話が限界でしたよ…う〜ん辛い!
では本編をどうぞ!


みほの元を離れた優花里はラーダー内でスナイパーを倒すために指揮を出していた

「五十鈴殿、あそこに見える小坂までジクザクに走ってください、その間対レイバーセンサーを最大限にしショートを防ぐためオートバランサーを切断します。」

「でも優花里さん、センサーを最大限にしても範囲外だと思うのですが…」

「センサーは言うなればルアーみたいなものです、こちらの存在を相手に気づかせるために使います。…恐らくそろそろ1発目の発砲が来ると思います。五十鈴殿、操縦お願いします!」

そう言い優花里はキューポラーから顔を出す、双眼鏡を目にやり遠くの山を舐め回すように見る。次の瞬間風を切る音がしラーダーの足元に着弾する

すかさず双眼鏡を銃声が聞こえた方向に向けて目を凝らしつつ次の指示を出す

「五十鈴殿、このまままっすぐ目標地点へと向かってください、次の発砲で更に場所を割り出します」

「分かりました!」

直進して坂の頂上に到着するや否や再び風を切る音がしてラーダーの2番脚に被弾し破壊されたことでガクッとバランスが崩れる。被弾したものの優花里は双眼鏡に煌きが見えたのを見逃さなかった。

(思った通りスコープの反射が見えましたね…目星をつけてたとはいえこの短時間で発見できたのは運がいいとしか思えません)

そう思い最後の指示を出す

「ターンして前面を山の方へ向けて3番脚に力を入れて水平状態に戻した後チェーンガンを左40°、仰角15°にして攻撃して下さい!」

指示を受け華は4番脚を軸にして回転する、回転してから攻撃出来るチャンスは僅か1回…!そこを逃せば今度こそウィークポイントに当てられて破壊されるのは間違い無く仮に外れても敵が位置を変えてしまう。オンリーワンショット、勝敗を分ける一瞬の戦いが切って落とされる。

ラーダーが旋回を終え銃口を山の方へ向ける、3番脚のペダルを踏みながら銃口を調節する。モニターには木々しか写らないが華はそこに明確な敵意を感じた。植物が放つオーラではない、普段から植物を触っている華だからこそ分かることだ。呼吸を止め精神統一を図る、トリガーを持つ指に力が入る。

(華を生ける時の様に集中して…確実に当てなくては!)

2秒ほどの沈黙が流れる…そしてトリガー上部にあるボタンを力強く押した。放たれた光が山へと吸い込まれる、その瞬間ラーダーに強い衝撃が走り思わず2人とも椅子から滑り落ちる。キュポッと言う軽い音が鳴り撃破を告げる。急いで座席に座った華はモニターを凝視する。そこにはもう敵意は感じられなかった。それと同時にキューポラから顔を出してた優花里が大声を出す!

「やりましたよ!五十鈴殿!スナイパーを撃破しました!」

双眼鏡には木々の間に白色があるのが写っていた。結果は相討ちだが彼女らは遂にスナイパーの撃破に成功したのである

車内に戻った優花里は嬉しさのあまり華に抱きつく

「五十鈴殿ぉ…!」

「優花里さん…!」

お互いこのまま勝利の余韻に浸りたかったがそうは行かない。この成果を伝えるという大切な使命が残されているのだ。優花里は震えながらインカムにやりボタンを押す

『…こちら秋山、スナイパーの撃破に成功しました!』

『優花里さん、ありがとう!本当にありがとう!』

『私達はやられちゃいましたけどね…』

『後は私に任せて、必ずフラッグ車を倒してみせる。優花里さんや華さんの頑張りは無駄には絶対にしないから…!』

『西住殿!ご武運を!』

通信が切れ今度こそやるべき事が終わった彼女らはどっと安堵の息をつく。

優花里は首筋に汗が流れてるのをようやく認識してハンカチで拭う。

華はトリガーを掴んだ指が握りしめすぎてジンジンしていたので手のひらを開いたり閉じだりしている。

そしてそれぞれ水筒を取り出して一気飲みをし再び安堵の息をつく

「…五十鈴殿、私は西住殿のお役に立てましたかね?」

そう聞いたのは彼女が自分が本当にみほの役に立ってるか気になったのもあるし自分自身の行動に漠然とした不安を感じたからだ

______独りよがりの独善的な行動になってないか、そう思っていた。

「何をおっしゃいますか優花里さん、優花里さんはみほさんや私や沙織さん、麻子さんだけじゃなくて皆んなのお役に立ててますよ。この試合、優花里さんが頑張ったからこそここまで来れたのですよ?偵察がなければ作戦は立てれなかったし勇気を出して前へと踏み込んだからスナイパーも倒せた…優花里さん貴方は一人で猪突猛進な所はありますがそれにみんな助けてもらったんです。もっと自信を持って下さい。」

「五十鈴殿…」

華からの言葉に優花里は胸が熱くなるのを感じた、これまで友達が居なかった彼女に欠けていた“自尊心”それがパズルのピースのようにハマっていくように満たされていく。

「あ、でももっと仲間を頼ってもらってもいいんですよ?貴方は一人じゃないんだから」

「そうですよね…私はもう一人じゃないんですもんね…!」

そう言うと優花里はペカっと笑顔になった。

本隊到着まで残り3分

________________________________________________________________

優花里からスナイパー撃破の通信を受け取った一同は湧き上がっていた。不可能かと思われてた7分以内の決着、それが夢物語ではなくなろうとしているのだ。信じてた仲間が難題を達成した、信頼に報いてくれた。ならば私達もそれに応えなくてはいけないそんな思いが共鳴する。もう先程まであった負のオーラはどこにも見当たらない、全員の士気が高まったのを感じてみほはインカムに手をやる

『パイソンとエコノミーでフラッグ車に対応します!サムソンとラーダーはアトラスの護衛を。可能でしたらチェーンガンで援護を頼みます!』

『了解しました!』

『了解した!弁慶の如く守り通して見せるぞ!』

『それではレイバー・フォー!!』

エコノミーとパイソンはこちらへ向かってくるクラッシュバスターに真っ正面から立ち向かうために突っ走る

『梓ちゃん、エコノミーがフラッグ車を取り押さえるからパイソンはそこをスタンスティックで攻撃して!』

『分かりました!』

通信を切るとみほは麻子に話しかけられた

「なぁ取り押さえるって言ってたがどうするんだ?」

「後ろから首に手をかけて足の関節を蹴ってバランスを崩させます」

「…まるで警察みたいだな。いや警備用レイバーだからおかしくはないか。分かった、やってみせよう。だが問題は如何にして後ろを取るかだな。そうじゃなきゃお話にならない」

「そのためのツーマンセルだよ。2体相手なら必ず何処かに隙が出るはず、いくら相手がプロでも対応に限界はあるからね。そこに一気に突き込む、一瞬で決めるよ麻子さん!」

「おうよ、任せな!」

話してる間にクラッシュバスターがサブマシンガンを撃ってきた。落ち着いてシールドでガードするがここでシールドに破壊判定が出る。これ以上ガードすることは不可能だ。パイソンがリボルバーを2発ほど撃つがシールドで防がれてしまった。2輌はクラッシュバスターから距離を取り銃で応戦するがことごとく交わされてしまう

「流石は敵の最新鋭機…機動力がこちらとはやはり段違い」

「どうする、相手がこっちに向かってくるぞ」

「格闘戦に持ち込む気…ならこちらもいきます!」

そして素早く梓に命令をする

パイソンを後ろに下がらせエコノミーはスタンスティックを構える、そして同じくスティックを構えたクラッシュバスターがエコノミーを斬ろうと振りかざす。

だがその攻撃はスティックによって防がれる、重なり合う二つの棒が眩しい閃光を放つ。

「今だよ梓ちゃん!」

そう二人が戦ってる隙を突いて横からスティックで攻撃しろとあの時命じたのだ

だがその攻撃は後ろにひらりとジャンプされ交わされる。

『かわされちゃいました!すいません!』

『大丈夫、これで倒すのが目的じゃないから』

『…?』

『一回相手を後ろに下げることで状況を最初に戻すのがこの格闘戦の目的だったの、次で取り押さえるよ。梓ちゃん!』

そして最後に再びある作戦を告げた、そのことに梓は一瞬驚くも力強く返事をする

『はい!』

再びクラッシュバスターが此方へ向かってくる、お互いの距離が残り4mくらいになった所でエコノミーが残っていた2発の内1発を撃ち防がれるもシールドの撃破に成功する。すかさず最後の1発を撃ち込んだが何と地面を削るだけに終わった、まさか外してしまったのか。誰もがそう落胆した時ヒュッと風を切り何かが飛んでくるのが見えクラッシュバスターの前をかすめるのが見えた

これがみほの第二の作戦である、わざと攻撃を外して相手に油断を与えたあとスタンスティックを投げると言う誰も考えないような行動を取ることで相手を驚かせ思考が鈍ったその隙に押さえ込むことにしたのだ。

みほの予想通りクラッシュバスターはかすめた棒に驚きほんの少しだが後ろへ下がる

「麻子さん!」

「行くぞ西住さん!」

2人はその隙を見逃さず猛ダッシュしてクラッシュバスターの後ろへ回り込む、そして右腕で首を絞め左足で関節を思いっきり蹴る。蹴った瞬間機体に鈍い振動が起こりメインモニターに背中が迫りくるのが見えた、自機の関節に負担をかけないようそのままゆっくりと膝立ちになり拘束が完了した。そしてインカムに手を取り合図する

___これで終わりだ。大洗の生徒は皆そう思った。だがその期待は無慈悲にも砕け散る

みほが望んでいたスタンスティックを当てた時に来る振動がいつまで経ってもやって来ない。代わりに近くに何かが倒れ込む音がした、全身から血がひいてく音が聞こえたような気がして恐る恐る連絡を取る

「梓ちゃん何が起きたの…?」

「…思いっきりアッパー喰らわされました」

レイバーがアッパーを?いや今はそれどころではないどうすればいい?確信してた勝利が砕けた故にみほの思考は今動いてるように見えるが止まっていた、4秒程経った頃けたましい電子音により現実世界へ引き戻される。

「西住さん腕のモーターがもう限界だ!一旦離さなきゃ親善試合の時のようになるぞ!」

「…っ!麻子さん急いで拘束解除!」

『ウサギさんチーム立てますか!?』

『どうやら思いっきり背中打ったみたいなんで思ったように動きません!…どうやら私達はここまでみたいです。西住先輩!後は…後は頼みます!』

『諦めちゃダメ!必ず助けるから!』

だが拘束解除したらパイソンがやられるのはみほだって分かっていた、分かっていたのだが彼女の精神がそれを認めることを許さなかった。諦めたら負けなんだ、勝負は最後まで何が起きるか分からないだから彼女は奇跡を信じたかった。しかしそうそう奇跡なんて起きるものではない、拘束解除したすぐにクラッシュバスターがスタンスティックをパイソンに突き刺していた。そしてパイソンから白旗が勢いよく上がる

みほは何もすることが出来なかった…

だが落ち込んでる場合じゃない、今度は自分の番なのだ。

「西住さん、どうするよ。弾切れにシールド破損、スタンスティックしかないぞ」

「仕方ありません、ひとまず格闘戦に持ち込みます!」

クラッシュバスターがこちらを振り向きスタンスティックを構えたダッシュする、再びつばせりあいとなり閃光を放つ。だが今回は先程とは違った、不意にクラッシュバスターの左手が引っ込むのが見えた。みほはそれが何を意味するのか瞬時に察し麻子に声をかける

「麻子さん後ろに下がって!」

「あいよ」

瞬間クラッシュバスターの左手の拳が伸びエコノミーの右腕に当たる。機体に強い振動が襲いかかりバランスを保つのに精一杯だ安定したところで機体状況をみると右腕がやられてることに気づいた

「…やられた!」

「西住さんありゃなんだ?」

「銃を取り出す時の手が伸びる動作を攻撃に生かしたんだよ。多分ウサギさんチームもあれを喰らったせいで倒れたんだと思う」

「意表を付いてくるのは向こうも同じってことか…!いよいよ後がないぞ。」

「まだです…まだ何か手があるはずです…!」

そしてみほの脳内に電流が走る、見える…突破口が!この危機的状況を打破する策が浮かんだ!

「麻子さん、もう一回鬼ごっこしません?」

「もう鬼ごっこはうんざりなんだがな…んまぁ今の状況じゃまた逃げるしかないか。バッテリーもまだ充分にある、しかし逃げようにもその後がないぞ」

「確かに逃げてるだけでは後がないよ…ただ逃げてるだけじゃね」

「何か策ありって感じだな。そりゃそうか西住さんが何も考えなしに動くことはあり得ないもんな、それじゃあ鬼ごっこを楽しむとするか」

敵本隊到着まで残り1分…!

エコノミーはクラッシュバスターに背を見せダッシュする、途中銃声が聞こえるがその音はすぐ止んだ。どうやら向こうも弾切れになったようだ。

「麻子さん、逃げるときはジクザクじゃなく直線的に相手に攻撃しやすくしてください

…相手の視界を遮るような感じになるように」

「…分かった」少し怪訝そうな顔をしながらうなずく。

無理もないだろう、いくら策があるからとは言え敵の攻撃を避けないようにするなんて体の防衛本能に逆らうことだ不安でしょうがない。だが麻子はみほを信じることにした、いや信じなければ体が勝手に回避運動を取ろうとしてしまうのだ

そんな麻子をよそにみほは通信を入れる

『カバさんチーム、ウサギさんチーム、カメさんチーム。今から“そちら”に向かいます合図をしたら全弾撃ち尽くす勢いで撃ってください』

『ちょい待ち!フラッグ車の方に誘き寄せるってかなりやばいこと考えてない西住ちゃん」

『現状攻撃が通用するのはもうこの3チームしかないんです、時間ももうありません。危険性は重々承知してます!ですがこの手しかないんです!お願いします!』

『…全く無茶な作戦考えるもんだね、でもそうでもしなきゃ勝てないもんな。身を危険に晒さなければ見える勝路も見えないもんだ、西住ちゃんほんじゃやるよ!』

『はい!ありがとうございます!』

エコノミーはフラッグ車の元へと走る、当たりそうで当たらないそんな微妙な速度を維持できるのは天才的な操縦センスを持つ麻子だから出来ることだ。クラッシュバスターがスタンスティックで何度も刺そうとするが当たらない、アトラスが眼前だフラッグ車までの距離まで残り30mとなった。

「西住さん、もうすぐ合流するぞ!」

「合図したらオートバランスを切って両足のモーターも切って!」

「おいおいそれじゃ転倒する…あぁ成る程わざと転倒してフラッグ車達に後ろにいる敵をやってもらうってことか、親善試合と言い西住さんはとんでもないことばかり考えるな」

「何なに何が起こるの麻子!?」

「口を閉じてろ沙織、舌噛み切るかもしれんぞ」

「噛み切るって…も〜どうにでもなれ!」

そうこうしてる間にもフラッグ車の距離は残り10mになる痺れを切らしたクラッシュバスターが確実に当てるために両手で構えて一気に間合いを詰めてきたスタンスティックの先端がエコノミーの背中に当たりかけたその時

「…今です!」

エコノミーのオートバランスと関節のモーターが切れ前屈みになる、そのまま体勢を立て直すことなく地面に寝そべる。座席がガタガタと揺れさながらミキサーのようだ、上下の揺れだけでなく転倒した際地面を滑っているから左右の揺れも発生する。衝撃に耐えるだけで精一杯だがみほは力を込めてインカムのボタンを押しこの試合の決め手となる命令を短く、大声で叫ぶ

『撃て!』

サムソンの90mmチェーンガンが

アトラスの6連装ミサイルランチャーと20mmバルカン砲が

ラーダーの25mmチェーンガンが

それぞれ光を放ち敵へと吸い込まれていく。そのうち土埃で覆われるが構わず撃つ、撃つ、撃つ。全員の弾が切れ煙が晴れた瞬間。そこにあったのは地面に伏せているクラッシュバスターだった。そこには白い旗が風になびかせ立っていた。

 

『サンダース大学付属高校フラッグ車、戦闘不能!よって大洗女子学園の勝利!』

 

揺れが収まりあちこち警報音が鳴り響く中みほ達は確かにそのアナウンスを聞いた、強豪校サンダースを破り勝ったと言う事実を。が理解するのには数秒を要した、余りにも衝撃的な内容だったので思考を放棄してしまった。理解した瞬間体の内からブワッと何かが来るのを感じた。声に出したくてしょうがない、内なる衝動が叫ばずにはいられなくさせている

「やった…!!やった!!」

「勝ったんだな…!」

「そうだよみぽりん、麻子!私達勝ったんだよ!」

通信を入れようとすると各チームの勝利の雄叫びが聞こえた。

これは今言葉をかけるのは無粋だな、そう思いみほはインカムの電源を切る。疲れがどっとやって来て眠りの世界へと誘う。回収車が来るまで寝よう…そう思いみほは目を閉じて微睡に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、今回はここまで!次回は日常会で会話メインだからもうちっと早く投稿出来るかな?なるべく善処しますので応援していただけると幸いです…!それじゃあここまでのご視聴ありがとうございました!


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一回戦、白熱してます!part3

ど〜も恵美押勝です、やっと忙しい日も少しだけマシになって執筆に時間を割く余裕が出来ました。
それでは本編をどうぞ!


カタコトカタコト揺られているのが止まりみほはゆっくりと目を開ける。10分くらいだろうか、随分久しぶりに熟睡したと感じた。あくびをしながら背伸びをし下の座席を見る。2人ともまだ寝てるようだった、起こすのが申し訳ないほど安らかな顔で眠ってるがこれから試合後の挨拶をしなきゃいけないので起こす。

「…沙織さん、沙織さん起きて」

「ん〜みぽりんもう学校〜?」

「ハハァ…これから挨拶するから降りるよ」

「分かった〜」

沙織はまだ寝足りないようでノロノロと座席を立つ沙織が降りたのを確認最難関である麻子を起こしにかかる

「麻子さん、ま〜こさん起きて!」

「…そど子あと5分ぐらい寝てもいいだろ…」

「麻子さんまで寝ぼけちゃって…」

「んぁ、西住さんか…眠たくてしょうがないんだが」

そう言いまた眠ろうとする。どうしたらいいものか分からず右往左往してると出てくるのが遅いので不思議に思った沙織が機内に入ってきた

「麻子ったらまだ寝てんの?」

「そうなの、やっぱり一度寝ると起きにくいのかな?」

「こう言う時は私に任せて…麻子、起きないとおばぁが来るよ!」

そう言うとビクッと反応して普段では信じられない速度で起き上がる

「おばぁ!?おばぁは何処だ!」

「ね、起きたでしょ?麻子はおばぁに弱いから名前出せばこうなるのよ

「沙織…騙したな」

「起きない麻子が悪いの、もうみんな並んじゃってるから早く出よう!」

慌ただしく機体から降りてみんなの元へと小走りで集合した

 

『一同、礼!』

「「「「「ありがとうございました!」」」」

挨拶を済ませ帰ろうとするとケイがみほに近づいてきた。

「貴方がキャプテン?」

「はい…そうです」

何事かと思い少し警戒してるといきなり抱きつかれた、予想外の事態に戸惑いながらアワアワしてると彼女は優しく肩を叩き口を開く

「エキサイティング!とても楽しい試合だったわ!こんなワクワクしたのは初めて!」

ダージリンに引き続き強豪校の隊長に認めてもらえたのがとても嬉しく照れ臭かったので思わず大声を出してお礼を言う。ふとみほは気になったことを思い出した、最後クラッシュバスターを倒したとき本隊が60m先に見えたのだがこれがどうも不思議で6輌しか見えなかったのだ、本隊と言うには余りに少なすぎる。ほんの些細なことだが喉に小骨が引っかかったように気になってしょうがない。そこでみほはケイに聞くことにした

「あのぉ…ケイさん。」

「どうしたの?」

「合流させたのが6輌だけなのはどうしてですか?」

「あぁあれね、うちのアリサ…副隊長が通信傍受やったのは知ってるわよね?」

「えぇ、私達はそれを利用させて頂きました」

「そうそう、通信傍受ってルール的には問題ないけどアンフェアじゃない?私はフェアプレイに則った試合をやりたかったのよ。でも起きちゃったことはしょうがない、それで罪滅ぼしと言うのかな…せめて試合のラストだけはフェアな試合をしたかったの」

彼女の答えにみほは驚いた、勝敗よりもフェアプレイを優先させるその心意気は勝利主義者が占める黒森峰時代では決して見ることができなかった。みほは一瞬お礼を言おうと思ったがケイは自分の信念に従って当たり前のことをしただけなのだ。お礼を言っては却って失礼になってしまう…そう思い口をつぐんだ。しかしどうしてもケイがここまでフェアプレイ精神を貫いたのかが分からない

「ケイさんはどうしてここまでフェアプレイ精神を重要視するんですか?」

「That's特車道!これは勝敗だけを決める戦争じゃなくて精神を鍛える武道なのよ!勝敗にこだわりすぎて道を踏み外したらレイバーが泣くでしょ?」

あぁ、あの時ケイさんみたいな人がいてこう言ってくれたらどれほど救われただろうか。思わず涙が出そうになる。そんな涙を隠すためだろうかみほは頭を下げてお礼を言う、大切なことを教えてくれたケイに対する心からのお礼だ。

顔を上げるとケイがニコニコして握手を求めてきた、しっかりとその手を握る、少しゴツゴツしてて特車道歴が長いことを伺わせるが何処となく温かみを感じた

「貴方達ならひょっとして決勝にいけるかもよ!」

「はい!頑張ります!」

ケイは自分の場所へと戻り仲間と合流する少し前こちらを振り返り大きく手を振った。こちらも負けじと大きく手を振る、実に清々しい風が吹いていた。

 

レイバーを積んだキャリアを指定の場所に移し終えて自動車部にバトンタッチして制服に着替えた頃には日は沈もうとしていた。遠くの道路にサンダースのキャリアが一列に並んで走ってるのが見えた、その中でもみほはクラッシュバスターが乗っけられたキャリアをじっと見つめる。ペイント弾まみれになったクラッシュバスターは夕日に溶け込みぼんやりとしてるが何処となく誇らしく見える。いつの日かまた戦いたい、そう思った。

見送り横を見ると沙織がこの後お祝いとして学園艦上にある店で特大パフェでも食べないかと誘ってくる。麻子はその提案に二つ返事で応じる、学園艦に戻ろうと歩こうとしたその時可愛らしい猫の鳴き声が聞こえた。どうやら麻子の携帯電話の着信音らしい

「…なんだこれ知らない番号だな」

不審に思いながらも電話に出る、気になって麻子の方をじっと見ていると見る見る顔が青ざめて手がガタガタ震えてるのが見えた。震えた手で電話を切るとそのままポトリと携帯電話を落としてしまう

「ちょっと何があったの麻子!?」

「何でもない…」

「そんなガタガタ震えて何でもない訳ないじゃない!どうしちゃったのよ!」

「おばぁが…おばぁが倒れて病院に…!」

「…っ!それで大丈夫なの!?」

「今は大丈夫らしいが…」

「病院に行こう!」

「とは言っても沙織さんどうするのですか?」

「えぇっとそれは…」

「学園艦の進路を変えると言うのはどうでしょうか五十鈴殿?」

「今変えても大洗に着くのは朝になるよ優花里さん」

あーだこーだと議論するも手段は見つからない不安に押しつぶされそうでたまらない麻子は震えが止まらない、するとおもむろに靴を脱ぎ靴下を脱ぎ始めたのだ

「泳いでいく…!行かなきゃならないんだ!」

「待ってください冷泉さん!人間の力じゃ無理です!」

「他に方法がないんだ、こうしてる間にもおばぁは…!」

確かに麻子の言う通り方法はない、だが麻子の体力で泳ぐなど自殺行為だ。普段の麻子ならそんなことは絶対しないだろうが考えもしないだろうが身内の危険と言う条件が論理的な思考を邪魔していた。とにかく行かせてはならない4人がかりで止めようとすると後ろから声をかけられた

「私達のヘリを使って」

声の主はみほの姉、まほである。予期せぬ再開に戸惑うも今はそんな場合じゃない。ヘリならば学園艦で向かうよりはずっと早く大洗に着ける、この危機を打破できる唯一の手段だ。だがまほの進言に隣にいつエリカが異を唱える

「隊長、この子たちは特車道を舐め腐ってる子達ですよ!そんな子達を助ける義理は…!」

「エリカ、義理など関係ない、目の前の状況を見ろ。困ってる人がいたら助ける…それは人として大切なことだ。私達は血も涙もない戦闘マシーンじゃないんだぞ」

「…分かりました」

渋々納得したエリカはヘリのエンジンを回しプロペラが大きな音を立てて回転し辺り一面に風をなびかせる

「…宜しく頼む」

そう言い麻子はお辞儀をしてからヘリへ入る。そこに沙織が駆け寄り沙織もヘリに入ることにした、友人の身内が危ないからと言うのが大きな理由だが今この状況で麻子とエリカを2人きりにするのはお互いの精神衛生上良くないと思ったからだ、何せ2人は例の一件で因縁がある。そんな相手と密室空間で2人きりになるのはお互いにとって好ましくないだろう。

扉が閉じられふわりとヘリが離陸し海へと進む、みほ達は祈りながら見送るのであった。

 

ヘリが見えなくなるとまほがこちらの方を向きみほの元へと近く

「…みほ」

「お姉ちゃん…」

「初陣にしてはよく頑張ったな」

「…!」

驚いた、まさかお姉ちゃんが褒めてくれるとは。別に今まで褒められなかったと言う訳じゃないがお姉ちゃんはあの一件で逃げた自分のことを快く思ったいないと思い込んでいたからだ、特車喫茶で会った時に緊張したのもこれが原因だ。今度こそ怒られるそう思った矢先にこれだ、拍子抜けしたが少し安心する

「それじゃ、私はエリカが戻るまでどこかで時間を潰すことにする」

「お姉ちゃんっ!」

まだ少ししか話せてないのに別れるのは悲しい、やっと会話できたんだ、ようやく立ち向かえるチャンスが来たんだ。

____ちょっと待って!

そう言って止めたいのに声が出ない、言いたいのに喉に蓋が出来たようにいきなり喋れなくなる。散々「立ち向かう、逃げない」と言ってこれか、自分自身の不甲斐なさに涙が出そうになる。だがその涙さえ出ない極度の緊張はみほをここまで追い込む、先程の会話で少しだけ安心したとは言え心の奥深くにある恐怖はそれを簡単に消してしまう。理性で恐怖を克服するのは困難なのだ。

別れの挨拶もできない合間にまほは去っていってしまった。思わず膝をつき悔しくて悔しくてみほは自分自身を責める。

自分の覚悟と言うのは生半可なものだったのか…?

そう思わずには居られなかった、その後華達に心配されながらも学園艦へ帰り当初の目的であるパフェを食べたがそのパフェはしょっぱかった

 

生徒会室

各方面の挨拶、試合後ジャイアントキリングに興味を持った地方紙やケーブルテレビの取材を受けたりギャラについての交渉などをしてたら学園艦に着く頃にはすっかり夕方になってしまった。とは言えこれで終わりと言うわけではなく生徒会としての本来の仕事をこなさなくてはならない、その仕事も先ほど終わり3人はひと段落していた

「しかし会長は凄いな、あんな守銭奴な記者たちからギャラを払うように約束させるなんて…」

「杏昔からそう言う交渉とか得意だったもんね、まぁギャラと言ってもほんの数千円だと思うけど」

「1円を笑うものは1円に泣くって言うよ〜」

そう言いながら杏が3人分のお茶を用意してやって来た

「会長!お茶ぐらい私が!」

「い〜のい〜の、たまには私だってお茶煎れたいんだからさ、それに河嶋に任せるととんでもないことになりそうだし」

そう言うと桃は顔を真っ赤にして反論するが2人はそれを笑いながら見ていた

「しかし勝てちゃいましたね、強豪校に私達みたいな初心者が勝てちゃうなんて」

「勝たなきゃ駄目なんだ、勝たなきゃ我が校は…!」

「かーしま勝ったんだからそんな暗い話しないの、これも西住ちゃんの賜物だねぇ。西住ちゃんがいなけりゃここまで団結することはなかっただろうし、レイバーの操縦も上手くはならなかったしね。やっぱ西住ちゃんには私にはないカリスマがあるわ」

「そんな、会長にも余りあるほどのカリスマがあります!」

「んにゃ、私が持ってるのはあくまで『生徒会長』としてのカリスマであって『特車道隊長』としてのカリスマは0に等しいんだよ。西住ちゃんとじゃキャリアが全然違う…あぁ変な空気になっちゃったね、ゴメンゴメン。小山、テレビでもつけて〜」

テレビがつけられ画面にニュース映像が流れる、どうやら今日の全国大会についての特集をしてるようだ。

画面にトーナメント表が映され明後日の試合についての説明をしている

「明後日は黒森峰とプラウダが試合ですね、どうなることやら」

「そりゃかーしま、両方とも勝つに決まってんじゃん。黒森峰が戦う知波単学園はうちらよりも古いレイバー使ってるから勝てるわけないし、プラウダの相手、ボンプル学園は練度が低いからなぁ。ウチらいずれこの両方と手合わせすることになるんだよ、いやそうならなきゃいけないんだ」

「…会長、私達は本当に勝てるのでしょうか?」

「弱気になってどうすんの、1歩だけど前に進めたんだ。ここまで来たらもう後戻りは出来ないんだよ」

その時、卓上にある電話が鳴った。柚子が出て一言言ったあと受話器を杏の方に渡した

「誰からかな…?はいお電話変わりました」

『ヤッホー!アンジー!』

『ケイか!今日はどうもね』

『こっちこそ今日の試合はありがとう!高校最後のいい思い出になったわ!』

『それはそれは、うちの西住ちゃんがだいぶ楽しませてくれたみたいだねぇ

…さて電話したのはそういう要件じゃあないだろ?』

『えぇ、そうね』

『んじゃちょっと待ってくれ』

そう言い杏は保留ボタンを押す

「かーしま、小山、悪いんだけどいつも言ってる店でカツカレーテイクアウトしてくんないかな?お金は後で払うからさ」

「会長、今ですか!?」

「うん、唐突に食べたくなったの」

突然の提案に不審がり食い下がる桃だったが察した柚子が無理矢理桃を引っ張っていった。

「それじゃあ、会長行ってきますね」

「うん、なるべくゆっくりでいいよ〜」

2人が出ていき扉が閉まるのを確認した後保留ボタンを押した

『お待たせ、これで私達2人きりだ』

『ん、そうねぇ…色々言いたいことはあるんだけど取り敢えず「お帰り」と言っておこうかな。』

 

『_______元特車道中学生選抜チームメンバー角谷杏』

 

『ハハァ、「ただいま」ケイ』

『貴方が私と同じ選抜メンバーになって中学生1年生の全国大会の後いきなりやめちゃってもう5年が経つのね、もう二度と会えないと思ってた…!ねぇあの時何があったのよ』

『汚れたものを見ちゃったんだよ…中学生の頃の純粋な私にはそれが耐えられなかった』

『汚れたもの…?それは何?』

『ケイは知らない方がいいさ、特車道が好きでいたいなら尚更聞かない方がいい』

『何よそれ、私はもうちょっとやそっとのことで落ち込むそんな子供じゃないのよ!』

『いや、ケイのことを子供だと言うつもりはないさ。ただお前さんは特車道に対しての感情が強すぎるんだ、言うならば特車道に恋をしてる…って感じかな?』

『だからその話を聞くのは私の精神状態を悪くすると?』

『そうだ、ケイはケイのままでいて欲しいんだ。世の中には知らない方が幸せなことだってあるんだよ。

…しかるべき時が来たら話すさ』

『そんな理論は大嫌いよ!そんなの死んでるようなものじゃない!今話して、話してよ!』

激しい剣幕に杏は押され覚悟を決める

『……そんなに聞きたいか、どうなっても知らないぞ』

杏は深呼吸しゆっくりと話した、話終えた後受話器からすすり泣く声が聞こえる

『だから言ったんだ、ケイ大丈夫か?』

しかしケイは答えることはなかった、すすり泣く声が止むまで杏はじっと待つ。10分後ようやく落ち着いたのかケイがしゃっくりを混じらせながら話す

『杏…そんなのってあんまりじゃないのよ』

『あぁ、私が辞めたのも納得がいくだろ?それでケイ、明後日休日だから会えないかな?サンダースの学園艦は今千葉県の銚子港にいるんだろ?私がそこに出向くからちょっとお茶でも飲みながらゆっくり話そうや、そこでどうして私がそんな特車道に復帰したか話したいと思うんだ』

『うん…分かった…』

『それじゃ』

受話器を元に戻し、杏はゆっくり椅子に座り深くため息をつく。ため息の後深い後悔の念が浮かぶ。自分のした事は正しかったのだろうか、悲しませてまで真実を喋ららなくてはいけなかったのだろうか。だがそれは本当に彼女のためになったのだろうか。杏は自問自答するが答えは見つからない

ふと外を見ると雨が降っていた、まるで杏とケイの心を表してるかのようだった。梅雨明けしたばかりなのに降った雨は日が昇るまで続いたと言う。




一回戦を制し次の試合まで少し余裕がある大洗、みほ達はおばぁのお見舞いに行くことした。帰ってきてそうそう「次のアンツィオ戦に備えて宝探ししましょ」と言う杏の一声で再びレイバー捜索が始まる。こうして迷宮とも呼ばれる学園艦内部を捜索することになったのだが通信が途絶え一人、また一人と通信が途絶える。「サメ」と言うワードを残して…
次回
「次はアンツィオ戦と迷宮船内です!」ターゲットロック、オン!


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次はアンツィオ戦と船内迷宮です!part1

ど〜も恵美押勝です、夏休みに入ってますます忙しくなりました。皆さまいかがお過ごしでしょうか
私は景気付けとして寝そべりみほを買う事にしました。
それでは本編どうぞ!


パフェを食べ終わって皆と別れ家に帰るとみほは流れるようにベッドに倒れ込む、肉体的、心理的疲労が限界に来たのだ。お姉ちゃんに言おうと思っても言えなかった、自分の覚悟が半端なものでは無いかと思ってしまった。何故あの時「待ってくれ」と言う単純なワードが出てこない、何故あの時1歩も動けなかった追いかけようとしなかったのか。その事がとても悔しく涙が出てくる。その場で泣けなかった分の涙と一緒に大量に出る、シーツが濡れようがお構いなしだ。今はとにかく自分の中にある感情を表に出したい、何も考えるこが出来ない。考える事が嫌だ、その内泣き疲れてそのまま寝てしまった。

寝落ちする瞬間みほは「明日の8時に病院で集合」と言うのを思い出し目覚し時計に手を伸ばす。こんな状況でも約束は忘れないのが西住みほと言う人間なのだ。

 

…その日彼女は夢を見た。いつもの悪夢のように川に飛び込む夢なのだが今日は違う、いざ飛び込もうとすると飛べないのだ。自分の足を見ると鍵付きの鉄の鎖で縛られているのが見える、頭上を見るとお姉ちゃんが鍵を持っていた、彼女は「それを渡してくれ」と頼もうとするが喉にも鎖が絡まってて声が出せない、その内手にも鎖が縛られる。何も出来ず川の流れを見るしか出来なかった。そこで彼女の意識は覚醒する。

 

起きたのは午前5時、ガバッと起き浅い呼吸を繰り返す。額だけじゃない背中にも汗がびっしょり付いてるのを感じる、今日の悪夢はいつもの悪夢とは違う。怖さの度合いが段違いだ、体が恐怖で震える。

“あれは夢だ、現実じゃない”そう心に言い聞かす。そう思うとだいぶ落ち着いてきた、汗をタオルで拭い今度は喉が乾いてるのを覚えた。水を飲もうとベッドから起き上がる、台所に行き水を飲むとようやく落ち着いた。

あの夢は何だったんだ…半端な覚悟をした自分への罰だとでも言うのか。考えてもキリがない、再びため息をついたところで自分の格好に気づく。制服のまま寝たせいでシワクチャだ、今日が休日で良かったとホッとする。集合時間までまだ余裕がある。昨日風呂にも入ってないからシャワーでも浴びてそれでゆっくりと朝食でも取るとしよう。

朝食を食べ終えて着替えた頃にはそろそろ家を出る時刻になっていた。財布などを入れたバッグを持ち彼女は家から出る、今日は鍵を閉め忘れなかった。

 

電車で小一時間揺れると病院へ着いた。大きく綺麗な花束が見える、おそらく華が選んだものだろう。それを目印にして集合した。病院へ入るとツンと消毒液の匂いがする、病室は沙織にメールで教えて貰ったからその通りに向かい5分も掛からずドアの前まで来た。

「ここですね」

「冷静殿のお婆さま元気にしてると良いんですが…」

いざノックして入ろうとすると部屋の中から大声が聞こえた

『いつまでも私の心配してんじゃないよ!いつまでも病人扱いするな!さっさと学校にお行き!遅刻なんかしたら許さないからね!』

『おばぁ大声出すとまた倒れるぞ』

『そんなもんじゃ倒れないよ!』

はて、この中には病人が居るはずなのでは?そう思わざるを得ないほど大きな声だった。

「………お取り込み中みたいなので帰ります」

「いえ、ここまで来たら突撃です!」

「五十鈴殿って前から思ってたんですけど結構肝が座ってますね…」

「カチコミって奴です!」

「任侠映画じゃないんだよ華さん…」

みほのツッコミを無視して華はノックして堂々と入った。病室にはベットに寝ている老婆と麻子と沙織が居た

みほ達に気づいた沙織が軽く手を振る

「お、華たちじゃん。入って入って〜」

華に続いてみほ達が入ると老婆がギロリとこちらを見る

「なんだい、この子達は?」

「特車道一緒にやってる友達」

「友達ぃ?特車道のぉ?あんたいつの間にそんなのをねぇ」

信じがたいことだが先程大声を出した主がこの老婆、つまり「おばぁ」なのである。正体に少し驚くも

「西住みほです」

「五十鈴華です」

「秋山優花里です」

と3人は軽く自己紹介をする。

「私達全国大会で1回戦勝ったんだよ〜」

「1回戦勝ったくらいで威張るんじゃないよ!それで、特車さん達が何の用だい?」

「試合が終わった後病院から連絡が来て…みんなおばぁを心配しに来たんだよ」

「何言ってんだい、あの子らあんたの友達なんだろ?あんたを心配しに来たに決まってるじゃないの!」

「…分かってるよ」

「じゃあちゃんとお礼いいな!」

「っ…わざわざ来てくれてありがとう」と麻子は少し顔を赤らめてボソリと言った。

「もっとハッキリ言いな!」

「…ありがとう」

「さっきと変わらん!」

「だから、それ以上大声出したらまた倒れるぞ」

「そんなやわな体じゃないよ!明日にゃここを出るからね!」

「いや、無理だから」

ギャースカギャースカと麻子が言い争ってる間に華と沙織は花を生ける花瓶を借りにナースセンターへと向かった。

2人が出るとおばぁはみほの方を向いた

「あんた達もこんな所で油売ってないでレイバーに油刺したらどうだい」

…レイバーは電気ですと言おうとみほは思ったがとてもそんなことは言えなかった。

「あんたも帰んな、どーせ皆さんの足を引っ張ってだろうけどさ」

その言い方にほんの少しだけカチンと来た、肉親同士のやり取りとは言え自分の友達が馬鹿にされた様な気がしたからだ。

「そんなことないです!麻子さ…冷泉さんはいつも試合の時冷静で状況判断が素早くて助かってます!」

「そうそう、冷泉殿はレイバーの操縦が得意で拘束技や柔道の技とかも出来るんですよ!」

「ふん、レイバーの操縦ができた所で飯は食えんだろ」

3人は黙りこくってしまった、丁度その時沙織達が帰ってきて花をいけた花瓶を棚の上に置いた。コトンと重い音が部屋に響く

「…じゃあおばぁまた来るから」

そう言うと麻子はトボトボと歩いて出ていく、慌てて華達が追いかけてみほもそれに続こうとする。だがそれはおばぁの声によって止められる

「みほ…とか言ったね」

「はい」

「あんな愛想のない憎たらしい子でも私の大切な孫なんだ。これからもこんな孫ですがどうか宜しくお願いします」

突然の丁寧語にみほは驚いた、だがみほは静かに頷く。

病室から出る時見えたのは暴君みたいな老婆ではなく一人の優しいおばあちゃんだった。

 

電車を乗り継ぎ学園艦への連絡船に乗れたのはもう夜だった。船内で麻子は沙織に膝枕してもらいすやすや寝ている

「麻子さんのおばあちゃん元気そうで良かったね」

「元気ありまくりって感じだったですけどね…でもこれで冷泉殿が単位というワードで青ざめるか分かった気がします」

「麻子ね、早く卒業しておばぁの隣に居たあげたいんだ。勉強を頑張ってるのもそのためなの」

「麻子さんはとてもお婆様思いなんですね」

「うん、だってたった一人の肉親だもん」

「…え?ご両親は?」

「麻子が小さい時事故でね…」

辛気臭い空気になってしまい慌てた沙織が別の話をした。30分くらい話をしてたが一人、また一人と寝てしまう。みほは外の空気が吸いたくなりそっと甲板へと出る。

…知らなかった、麻子さんにあんな過去があるだなんて。思えば皆んな苦労してるんだ、麻子さんは両親を失い華さんは自分の道を探す為勘当を、優花里さんはずっと友達が居なかった、沙織さんは…あんな明るいんだけどきっと両親を失った麻子さんを励ますのに苦労したんだと思う。恥ずかしいことに私は自分が一番苦労しているんだと思い込んでる所があった、でも現実は違う。皆んなが皆んな何かしらの苦労を抱えてるんだ、苦労しない人間なんて居ないんだ。皆んなはそれに立ち向かい乗り越えた乗り越えた人も居る、私は…私は立ち向かおうとしていた。でもあの時私は逃げてしまった、私はやっぱり逃げることしか出来ないのだろうか。逃げないとそう自分自身と約束したのに。

ふともたれかかった手すりから顔を上げる、夜の海は暗い。何も見えない正に「一寸先は闇」だ、みほにはこれが自分自身の過去、未来を暗喩してるように感じられた。思考の堂々巡りに思わずため息をつく

「み〜ぽりん」

声をかけられハッとして後ろを振り向く。目の前には飲み物を買った沙織が居た。

「沙織さん」

「喉渇いたでしょ?はいこれ」

沙織は缶ジュースをみほに渡した。

「黄昏てたけど何か考えごとしてたの?」

「うん、ちょっとね…」

「麻子のこと?」

「そうだね、私麻子さんの過去について何も知らなかったから…」

「麻子のお母さんさおばぁちゃんに似ててさしょっちゅう病院みたいに喧嘩してたんだ。それで事故が起きた朝もいつも通り喧嘩して麻子が謝らないでそのまま学校に行って帰ってたら…」

「…」

「麻子はね、謝れなかったのを凄く後悔してるんだ。親子との最後の会話が喧嘩だなんてそんなバカらしい事はないだろって。どうして自分は『ごめんなさい』とたった6文字が言えなかったんだってずっと呟いてた」

みほは沙織の言葉にギョッとした、まるで今の自分自身を見てるように思えたからだ。連絡船はもう学園艦へと着こうとしていた。

 

家に帰ったみほは風呂に入った後すぐ寝ることにした。ベットの上で蹲り彼女は1年前の事を思い出す

____

一年前、決勝戦で敗れた後彼女は自身の母親に呼び出された。だだっ広い和室にはみほとまほと母親しかいない、厳かな雰囲気の中みほは何が起こるのか気が気でなかった。心臓の鼓動が耳に聞こえて来る、スッと母親が息を吸う音がした。いよいよ始まるのだ

「貴方も西住流の名を継ぐ者なのよ、西住流はどんなことがあっても前へ進む流派、強きこと勝つことを尊ぶのが伝統」

「でも…あの時はそんな状況じゃ…」

その時ドンと机が叩く音がしてビクッと震える

「……犠牲なくして勝利など有り得ません、あの時飛び込んだのは西住流の流派に反することなのです」

それは違う、そんなの絶対におかしい。あの濁流の中飛び込まなきゃ今頃大惨事になってた筈なんだ。なのにそれを「流派に反する」だなんて…そう言おうと思ったが彼女は言えなかった。母親に逆らうと言う恐怖心もあったがなによりも命よりも流派と言うちっぽけなプライドに固執する母親に、特車道が信じられなくなったのだ。この時心の中の何かが崩れる音がしたのをみほはハッキリと覚えてる

_____

改めて思い出すと嫌な思い出だ、だけど今日の出来事と照らし合わせると思う所がある。麻子さんは言わなかった結果後悔する事になった、私はあの時「それは違う」と言ってれば何かが変わったんだろうか。また「待ってくれ」と昨日言えたら何が起こったのだろうか、このまま言わないと麻子さんみたいに“後悔”する事になるのだろうか。私にはその後悔が想像出来ない、だけど分からなくてもそんな事は避けたい。ならばやはり立ち向かうしかない。しかし私にはそんな覚悟はない…

仮に今ここで再び覚悟を決めたとしてもし昨日のようになった場合また同じ事になるのではないか、私はそれが怖い。

結論など出るはずがなくみほは考えることをやめて眠りにつく、その日は夢を見る事は無かった。

 




さて、今回はここで終わり!次回からレイバー捜索をしようと思います!ん?展開が遅い?だ〜いじょうぶ次回はサクサク展開するから!
それじゃありがとうございました!


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次はアンツィオ戦と船内迷宮です!part2

ど〜も夏休み中の恵美押勝です!まぁ夏休みと言ってもこんなご時世だったので2週間しかないんですけどね…では本編をどうぞ!


夢は見れなくても現実と言うのは嫌でもやって来る、目覚まし時計の音がみほを虚無の空間から引き摺り出した。むくりと起きたみほはいつも通りの朝食を食べ着替えて出発する、歩く最中ふと昨日の寝る前のことを思い返す。考えてもキリがない事は散々分かってるのだが結論を出せなくてはいけないと言う矛盾した思考が張り巡らす、今はそれどころじゃない次の試合に向けて切り替えなきゃと無理矢理結論付けてがどうもしっくりこない。我ながら面倒な性格をしてるなぁと思っていると後ろから声をかけられる、振り向くと麻子を背負った沙織がいた

「沙織さん…それに麻子さん」

「おはよ〜みぽりん、今日も麻子起きれなくてさ」

「朝は低血圧なんだからしょうがないだろ…」

「だからって少しは自力で歩きなさいよ!」

「手伝おうか沙織さん?」

「ありがと!それじゃみぽりんは麻子の左肩を持って」

言われるがままに左肩を持つと沙織は右肩を持った。

そんな奇妙な感じで移動する訳なのでスピードがとにかく遅い、校門が見えたのは遅刻まであと10分前と言うとこだった。校門前には風紀委員のそど子がいる、彼女を見るなり麻子は千鳥足で駆けつけて抱きつく

「うぉ〜いそど子〜起きたぞ〜」

「冷泉さん、毎回言ってるけど私の名前は「園緑子」って立派な名前があるんですからね!」

「お前はそんな硬い感じの名前が似合うやつじゃない、そど子で十分だそど子」

「…冷泉さん遅刻の回数増やされたい?」

「風紀委員の横暴だ〜」

やいのやいの言い合う姿を沙織はいつもの事だとい言いたいように見ている。ふと校舎に目をやると垂れ幕がかかっており

『特車道 全国大会 1回戦 突破!!』

と書かれていた。おまけにレイバー(多分イングラム)の形をしたバルーンが上がっていた、突然の校舎の変わりようにみほも沙織も驚いた

「すっご〜い!私達注目の的になっちゃうかな!?」

「うん、こんな大々的に公表されるなんて思ってもなかったよ」

「生徒会が勝手にやってるだけよ、風紀委員に予算は回さないで垂れ幕とか作るお金があるなんて」

「風紀委員は言うほど活動してないだろ〜そど子」

「失礼ね!この馬鹿でかい学校の治安を守ってるのは私達なのよ!」

「ほいほい、ご苦労様」

「…冷泉さん、次遅刻したら3回分遅刻したと記録するから」

時計を見るともういい時間になっていた、3人は麻子を引きずる形で教室へと急ぎギリギリ間に合った。

 

 

時間はあっという間にすぎ昼休みの時間だ。全員が和気あいあいと昼食をとっている中みほはハンガーへと歩く、彼女は彼女なりに心配してる事があるのだ

ハンガー内

ハンガーの中は人一人としておらず静かだった。みほはエコノミーの足元へ行き見上げる。誰一人としていないのでみほは独り言を言う

「2回戦、エコノミーで勝てるのかな…信用してない訳じゃないけど武装が余りにも弱すぎる、リボルバーカノンだとブロッケンやドシュカみたいな軍用レイバーには到底歯が立たないし何より一回の攻撃が致命傷になるしどうしたものかなぁ…」

悩んでるとドアが開く音が聞こえた、後ろを見ると優花里が弁当箱を抱えていた

「あれ、西住殿もレイバーと一緒にお昼ご飯ですか?」

「優花里さん!」

「いやぁ西住殿もそう言う事をするとは意外ですなぁ」

「…?」

「私ここ最近レイバーを見ながらお昼ご飯を食べてるんですよ、西住殿もそうなのでは?」

「私は、ちょっとレイバーが見たくて…」

説明しようとした矢先沙織と華がハンガーに入ってきた

「あれ、みぽりんだけだと思ったらゆかりんもいるじゃん」

「教室にも食堂いなかったのでこちらにいらしてると思ってたんですけど見事当たりましたわね」

「みぽりんパン買ってきたから一緒に食べよ!」

「ありがとう沙織さん」

4人集まってエコノミーの足元に座ろうとすると頭上から声が聴こえる

『お〜い私も混ぜてくれ』

どうやらエコノミーの外部スピーカーを利用したらしい

「なんであんたエコノミーの中にいるのよ!授業サボったの!?」

「自主休校と言ってくれ」

「おばぁに言いつけるよ」とジト目で言うと流石の麻子もビビって「分かった」と言うのであった。

 

「あれ、ゆかりんの弁当キャラ弁じゃん!」

優花里の弁当には白米の上に海苔を乗っけてイングラムを再現しておりクオリティが高かった

「はい、母がイングラムだって言い張ってて」

「流石床屋さん、手先が器用ですね」

「そう言えば西住さんはどうしてこんな所に居たんだ?」

「あ、それ私も気になってました」

「うん、2回戦このレイバーで勝てるかなって気になって」

「え!サンダースに勝てたから十分レイバーは強いんじゃないの!?」

「こっから先はそうもいかないんだ…」

みほは独り言で話した内容をそっくりそのまま話した

「西住殿、火器の類いは購入できるので生徒会に相談してみては?」

「そいつぁ無理だな」

突如男の声が聞こえる、はて、ここは女子高だから男子生徒はいないはずでは?と誰しも疑問に思ったがみほは直ぐ声の主に気付いた

「シゲル先生!」

「よっ、嬢ちゃん」

「みほさんこのお方は?」

みほは紹介しようとしたがそれより先にシゲルが話し始めた

「そうかそっちの嬢ちゃん達とはお初か」

シゲルはゴホン、と咳払いをする

「俺はこの学校の自動車部顧問をやってるシバシゲルだ、今は嬢ちゃん達のレイバーの面倒を見てる」

 

自己紹介を終え沙織達が自分達の自己紹介をしている。自己紹介が終わるとみほが尋ねる

「でもどうしてシゲル先生がここに?」

「いやなに、レイバーと一緒に飯食いたかっただけよちょいと昔のこと思い出してな」

ふと横を見ると優花里がプルプル震えているのが見えた

「あ、あの!シバってまさか特車二課の…!?」

「そうよ、俺はシバシゲオの息子よ!よく親父のことを知ってるな嬢ちゃん」

「と、という事は…!」

「あぁ特車二課に勤めててずーっとレイバー弄ってたよ」

「まさかこの学校にこんな方がいらっしゃるとは…!感動で涙が出そうです!」

ハンカチで目を拭く優花里を他所にみほが喋る

「シゲル先生、無理ってどう言う事ですか!」

「生徒会も無尽蔵に金を持ってるわけじゃないのよ、特に特車道は金がかかってしょうがない。レイバーの維持が精一杯でとてもじゃないが新武器なんて買えないんだよ」

「寄付を募ればいいんじゃないか?」

「生徒の関心度はまだ高くないからな、難しいと思うぞ。仮に集まっても装備を買うのは連盟の購入書類を提出して向こうで受理されて届くから最低1週間はかかる。試合まで4日間しかない今じゃ無理無理」

「じゃあどうすればいいんでしょうか?」

「ま、ま、そう慌てなさんなここに良いのがあるんだ」

そう言うとシゲルはポケットをゴソゴソ探り一切れの紙を出した。彼は紙を広げてみほ達に見せた

「これはな、20年前の会計書だ。角谷から貰ってきた。ここに注目してほしいんだが…」

そう言い指を刺す、その先には「モーショントレーサー」「ライオットガン×3」と書かれてた

「ライオットガン…これがあれば軍用レイバーに勝てるかも」

「そうだ、あとモーショントレーサーは嬢ちゃんのエコノミーに搭載すれば格闘戦の手助けになるはずだ。問題はな、それが何処にあんのか分からんのよ」

「と言うと?」

「何処の倉庫にも見当たんねぇんだ、かと言って売却や廃棄したならまた書類が出るはずだ」

「その書類もないと…」

「まぁ、角谷がなんか考えてるみたいだしその辺はどうにかなるだろ」

「なるもんですか?あと4日で」

「そこがお前さん、角谷杏と言う人間だよ」

シゲル先生は随分会長のことを信頼してるらしいが二人はどう言う関係なんだろう、疑問に思うが聴くと長くなりそうだから辞めといた。

「そう言えば西住殿見ました!?」

「あぁ生徒会の広報誌だっけ、私の写真とかインタビューとかが載っててちょっと恥ずかしかったな」

「何言ってんのよみぽりん、あのサンダース付属に対して勝利を導いた隊長なんだから当然でしょ?」

「そうですよ、もっと誇って良いんですよ」

「でもあの闘いは皆んなの力で勝てたから私だけ全面に推されるのはなんかおこがましいなって」

「そんな深刻に考えなくて良いだろ、あくまでも西住さんは私達の代表として書かれただけなんだから。」

「何にせよ勝ったんですからね、勝利は勝利です!」

「勝利か…そうだよね勝たなきゃダメなんだよね」

思い返せば幼い事から特車道に触れてから勝利、勝利とそれだけを求められてきた。それは黒森峰時代も変わらない、確かに勝つのは気持ちがいいし負けるのは嫌だ、でも勝つことに拘り過ぎている皆んなの事を見ると何か違和感を感じた。皆んな勝利だけを目標にしてその先のことを何も考えてないように見えた、でもそんなの言える訳がない。自分でさえこの考えが正しいか分からないんだ、勝つことを拘るのも大切だがそれだけじゃダメな気がする…そう、あくまでも気がするだけなのだ。そんなふわついた考えを皆んなに言ったらきっと怒らせてしまうだろう。だから自分はその考えを心の奥に押し込んだ。

じっと黙り込んでいるとキョトンとした様子で優花里が口を開く

「…勝利ってそんな大事ですかね?」

「…えっ?」

「だってこれまで楽しかったじゃないですか。サンダースとの試合、聖グロとの試合、どれも白熱して最後はお互い笑い合って終えれましたしね。」

「試合だけじゃくて練習も練習後の寄り道もレイバーの整備もどれも楽しかったよ!最初こそ狭くて座席が固くて大変だったけども…それでも今じゃそんなの気にしないぐらいだよ!本当ここのところレイバー乗るのが楽しみでしょうがないんだ!」

「そう言えば私も楽しいって思えるようになっていたような、前の学校は勝つことばかり求められてて楽しいなんて思えもしなかった…だからあの時、負けた時に逃げたかったんだと思う。敗者は必要ない。ましてや戦犯なんてもってのほかだって空気を感じたんだ」

実際、プラウダ戦の後彼女は露骨に避けられたり剃刀入りの手紙が送られたり陰口などを言われたと言う。だが精神的まいってた彼女はこれを母親に言い出すことは出来なかった。出来たとしても「貴方が負けたからだ」と言われそうだったから________

「私、テレビであの試合見てました!」

「ねぇゆかりん、前にも言ってたけど『あの試合』って何?」

「沙織さん…私が話すよ」

 

1年前 第62回特車道全国大会決勝戦

_____あの時私はフラッグ車で黒森峰はプラウダのフラッグ車を叩くまであともう少しだったの。あの時は珍しく大雨で地面がびしょ濡れだった、私達が動いて場所はそこそこの高さがある崖で下は川が流れてた。この大雨の影響で川は氾濫してて落ちたら危険な状態だった。

私の前を走ってたレイバーがプラウダからの攻撃を受けて回避するためにほんの少し後ろに下がった、だけどそのせいでレイバーは足を滑らせてそのまま崖を滑り落ちて川へ飛び込んだ。私は一瞬「ブロッケンは耐水加工がされてるから大丈夫」だと思ったんだけどどんどん沈んで流されてくブロッケンを見たらいてもたってもいられなくなって…気付いたらコクピットを開けて川へ飛び込んでたの。川へ飛び込んだらそこは真っ黒だった、かろうじて見えたから急いでそこにたどり着いてコクピットのコックを捻って乗ってる子達を救助したんだけど…上がって最初に見えたのは倒れていた自分の機体だった。私のせいで黒森峰は負けて10連覇を逃してしまった…

 

「…と言うのが優花里さんが言ってた『あの試合』だよ」

「私はあの時の西住殿の判断は間違ってなかったと思います!って前にも言いましたけど…でも!助けてもらった人達は西住殿に感謝してるはずです!」

「天パの嬢ちゃんの言う通り!あの時の判断は間違っちゃいねぇよ。ブロッケンは確かに防水加工はされてるがあの状況じゃ乗員がパニックを起こしてしょうがねぇ、救助なんてチンタラ待ってたら時間もかかるしもっと流されちまう。その間あの中にいる子達のストレスは計り知れないぞ、下手すりゃ一生モンのトラウマを抱えることになっちまう。でもな、俺は何よりも目先の勝利より仲間の命を選択したお前さんを褒めたいぐらいだ」

「…優花里さん、シゲル先生…私の判断は間違ってなかったんですね…!」

思わず目からポロポロと涙が出てくる、1年越しに初めて私の判断を認めてくれた人に出会えた。私は間違っちゃいなかったんだ、私は戦犯なんかじゃなかったんだ。そう思うと涙が出ると共に心の奥底で何かがホロホロ崩れる音が聞こえた、でもこの壊れ方はお母さんと話した時に聞こえた嫌な音じゃない、なんだか安心する音だ

「…本当に本当にありがとうございます…!」

「あわあわ、西住殿泣かないでくださいよ〜!」

慌てふためく優花里をよそにシゲルがそっとハンカチをみほに渡した。

「華道に色んな道があるように特車道にも色んな道があるんですよ、絶対に」

「そうそう!私が歩いた所こそ私達の特車道だよ!」

あぁ、私はなんていい友達を持ったのだろうか。本当に沙織さん達は優しい人だ。改めて友の優しさを噛み締めるのであった。

 

「「「「ありがとうございました!!!!」」」」

時間は一気に飛び夕方だ、午後から始まった練習が先程終わったのである。

皆んなが帰ろうとする中、杏から待ったの一声がかかった

「ねぇねぇ皆んな、装備新しくしたいって思わない?」

そう言うと次々と賛成の声が上がる、杏は頷きながら

「だよねぇ、じゃあ皆んなでお宝探ししよっか!」

…お宝探し?場は一気に困惑したが構わず話を続ける

「いやね、この学校の何処かに装備品とかレイバーとかが転がってる可能性が大なのよ。今から買う時間もないし皆んなで手分けして探してね、んじゃまそう言うことで」

全員がポカンとしたまんま改めて解散となった

「ねぇねぇ、みぽりんコレって…」

「うん、シゲル先生が言ってた『角谷杏と言う人間』って奴だね」

「またレイバー探すのか…疲れるな」

「でも戦力増強は大切なことですから頑張りましょうよ冷泉殿!」

そう言うと麻子は露骨に嫌な顔をして体をダランと下に向けた。みほはその光景を笑って見てると声をかけられる、後方担当の桃と副会長の柚子だ

「西住、次の試合の作成会議を行うから生徒会室に来てくれ」

「それと部品のリスト作るから手伝ってくれるかな?」

「分かりました」

そう言って生徒会室へ行こうとするとまた彼女は声をかけられる

アヒルさんチームのドーファンの操縦手河西忍が滑らかにカーブを曲がるコツを聞いてきた、かと思えば今度はカバさんチームの左衛門左から座席に座布団を敷いていいか、エルヴィンからは軍用レイバーでも格闘できるのかと尋ねられる。ここまで5つやる事が出来てしまったが流石に彼女にも限度がある、彼女の体は一つしかないのだ。何から手をつけるか迷ってるとウサギさんチームからは恋愛の相談を他にも沢山のことを質問される。隊長として頼られるのは嬉しいがこんなに相手をするのは無理だ。本格的にどうすれば良いか分からなくなり半ばパニック状態になってると優花里があの、と言いながら手を上げた

「あの、メカニカルな分野でしたら私答える事出来ますよ」

それに続いて麻子が

「操縦分野は私に聞きに来い、10分で終わらすぞ」と言い

華が

「書類関係なら私でも出来ます」と言い

沙織が

「恋愛についてなら私に任せて〜伊達に婚活雑誌定期購読してないのよ!」

「…皆んな」

「それぞれの得意分野がありますからここは私たちに任せてみほさんは自分のお仕事を」

「そうそう、みほは自分で何とかしようとしすぎなんだよ、バリバリ頼って良いんだからね!」

「沙織さん、華さん、優花里さん、麻子さん…皆んなありがとう!」

頼れる仲間が居るのは良い事だ、私は自分一人で頑張りすぎていたのかもしれない。沙織に言われてハッと気づいたのだ

「そうだよね…友達なんだから助け合いしても全然おかしくなんかないんだ!」

そう思いなから彼女は生徒会室へと足を運んだ

 

みほは生徒会室で作戦会議を行った、と言ってもまだ相手のレイバーがどう言うのか分からないので去年の大会を参考にしながら作戦を立てた。

「…こんな感じですかね」

「2回戦の相手はアンツィオ高校だ、ノリと勢いだけと言われる学校だが…」

「でもあそこはミディとか小型レイバーが主流でアレは民間用なのに1回戦突破出来てるからねぇ、油断は出来ないよ」

「それに相手も去年とは編成が違うはず、今年のデータがあればいいんですが…」

「1回戦のデータを参考にすればいいんじゃないか?」

「風の噂であそこ“超強力レイバー”を買ったって聞いたからなぁ、2回戦で出してくる可能性は高いよ」

全員が唸る中杏がポンと手を叩いて携帯電話を取り出す、そしてぽちぽち操作したと思うとすぐにしまった

「会長、今のは?」不思議に思った桃が尋ねるが

「ん、いやちょっとね」

とはぐらかされる

「話は全然変わるけどさぁ、西住ちゃん今のチームどうよ?ここんところだいぶ結束感が強まったじゃない」

「そうですね、親善試合、1回戦と実戦経験こそ少ないですがその度に結束感が強まってる気がします。この短期間でここまでなるのは正直驚きました、普通は今のような状態になるまで半年ぐらいかかるんですよ」

「初心者には酷な事ばかりさせちゃったからねぇ。でもまぁそのおかげでここまでなったんだ、柔らかい鉄を叩けば叩くほど硬くなるようなもんだな。」

「会長さんのおかげですよ」

「いやいや、私のおかげなんかじゃないさ。西住ちゃん自身のおかげだよ、私はあくまで舞台を整えるだけしか出来ないからね、いかにしてキャストを上手く動かせるのは隊長である西住ちゃんの分野さ。だから今のチームがあるのは西住ちゃんのおかげなんだよ、本当にありがとうね」

弾けるような笑顔で杏がお礼を言う

「そんな、お礼を言いたいのは私の方ですよ。そりゃ最初は嫌がる私を無理矢理参加させたんで恨みに近い感情はありましたよ、でも私この短い期間で私は色んな角度からの特車道と言うものを知ることが出来ました。だから私、特車道が昔より好きになれたんです。こんな純粋に楽しむのは本当に初めてで…会長さんはさっき『私は舞台を整えただけだ』って言いましたよね?でも舞台がなければキャストは輝けないんですよ」

「ははぁ、こりゃ一本取られたねぇ」

杏がカカカと一頻り笑うと急に真剣な顔になる

「西住ちゃん、こっから先も苦難が待ち構えてると思う。うちら全体もそうだけど西住ちゃん自身も目の当たりにする筈だ、でも足を踏み出した以上もう逃げ場ない、賽は投げられたという奴だ。だから改めてよろしくお願いします」

「こちらこそ改めて宜しくお願いします!2回戦頑張りましょう!」

みほは生徒会室から出て校舎から出た、もう日が沈もうとしている。明日は朝早くから宝探しだ、早めに寝よう。そう思いながら帰路に着くみほであった。

 




次回から宝探しに行きます!さて皆さんこの後テレビ版だとアンツィオ戦はバッサリカットされましたがこの小説ではちゃんとアンツィオ戦もしっかり書こうと思ってるので応援宜しくお願いします!
あと感想とお気に入り登録があると作者のモチベが通常の3倍になるので宜しければお願いします!
ではここまでのご視聴ありがとうございました!


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次はアンツィオと船内迷宮です!part3

どもども大変お久しぶりです、恵美押勝です。私生活がめちゃんこ忙しく亀投稿となってしまいました。
すいません!許して下さい!何でもry



茹だるような真夏の日、船内へと繋がるドアの付近で心境な顔をした少女達がいた。彼女達は船内にある部品やレイバーを探すために結成された捜索隊だ、メンバーは隊長を沙織、それ以外はウサギさんチーム全員で構成されている

「いよいよ中に入るよ、迷宮と呼ばれる船内に…!」

「どうして迷宮って呼ばれてるんですか?」と子供のような雰囲気を持つ香里奈が聞く

「うん、ここは船舶科の人間でも迷う事があってその上絶えず新しい道が発見されてるからろくな地図もないんだ。会長から貰ったこの地図がどれだけ役に立つか…」

「そう言えば先輩知ってますかぁ?船舶科の生徒達で流行ってる”噂“」そう言ったのは歳に似合わない艶っぽい雰囲気を持った宇津木だ

「噂って何?」

「何でもここ出るらしいんですよ…『サメ』が」

「「「「「サメェ!?」」」」」

「サメっていうとあの映画とかに出てくる奴?」

「そうなんですよ」

「ウッソだ〜水のない船内にサメなんか居るわけないじゃない」

「でも実際にこんな目にあった人が居るんですよ…」

______

ある船舶科の生徒がボイラー室の点検を終えて帰ろうとしたところ帽子を置き忘れてしまったしまったことに気づいた、慌てて引き返そうとすると来たはずの道が無いことに気づく。不審に思い勘に任せて道を曲がる、船内はひんやりとしていてライトがなければ何も見えないぐらい真っ黒だった。ヒタヒタと慎重に歩いてようやく見覚えのある道に出た「あぁ気味が悪いから早く取って帰ろう」そう思って前に進むと何やら奇妙な物体が見える。驚いてライトで目の前を照らすと何やら赤い物が見え、上の方にやると今度は白くギザギザしたのが見える。周辺を照らすと何やら背鰭のような物も見える。船舶科の生徒はここで恐ろしい結論に達した

「目の前にいるのはサメではないか?」と何をバカなことをと思うかもしれないが特徴から見てそうとしか思えないのだ、でもなんでこんな場所に?そう思った矢先目の前のサメらしき物がいきなりこちらに向かって突進してきた!生徒は恐怖のあまりあちらこちらを走り回り2時間後命からから助かったと言う…

-----

「て言う話が…」

宇津木が話し終えた頃には他の全員がプルプルと震えていた

「宇津木ちゃん怖すぎだよ…」と梓は言う彼女はめっぽう怖いものが嫌いなのだ

「稲○俊二みたい」とあゆみが話し

「怪談にはまだ早いよ!」とあやが文句を垂れる

香里奈に至っては恐怖のあまり気絶しかけていた

「…まぁ気を取り直して、その噂が本当かどうかは知らないけど迷宮なのは確かだから気を引きしめて行くよ!武部沙織探検隊出発!」

「「「「「「「エイエイオー!!」」」」」」

彼女達は士気を最大限に高めてからいよいよ迷宮へとその身を投じた、だがこれが彼女達にとって最悪な一日になるとはこの時誰も知る由がなかった…

 

さて打って変わってここは旧部室区画、およそ20年前に廃屋と化したのが何10棟と言う数で残っている。ここを捜索するのはアヒルさんチーム全員と麻子とみほだ。

「レイバーなんてデカブツすぐ見つかりますよね!」と典子が言う

「だと思うんだがな、何にせよしらみつぶしで当たってくしないな。必ず何処かに手がかりがあるはずだ」

「冷泉先輩刑事みたいですね!」同じ操縦者としての尊敬の念だろうか、忍が興奮気味に言う

「私は相○と科捜研の○は毎週必ず見てたんだ、大船に乗ったつもりでいろ」

「麻子さんそれはちょっと違うと思う…」

早速一同は古びた木造小屋に辿り着き中へ入る。だいぶ埃っぽく入った瞬間咳き込む

「…ここは何かありそうですかね?」ハンカチを手に当てあけびが言う

「目立った部品とか見当たんないですよ」といいながら妙子は窓を上げ開けに行く

「取り敢えずそこの棚から見るか、何か書類があるかもしれん」

「もしくは日記かもしれないですね!」と忍が言う

「…日記?」

「よくあるじゃないですかドラマだと日記から犯人の特徴とかなんかヒントみたいなの書いてあってそこから話が進むって奴!」

「あのなぁ、状況が違うしそもそもこんな所に日記が…」

と麻子が呆れまじりに一つの箱を開けてみると一つの本が見つかった。

「…なんだこれ」

パラパラとめくると日付や文章などが書かれている

「まさかこれ…」

「驚いたな言ったそばから日記があるとは…」

「冷泉先輩なんて書いてあるんです?」

「う〜ん、暗くてはっきりとは読めないな。西住さん、そっち明るいから代わりに読んでくれないか?」

「ん、分かった」

麻子から渡されペラペラめくる、どうやら今から20年前の日記らしい。大抵は下らない内容が書かれてるが少し気になる文章が目に止まった、なのでみほはそれを読むことにした

『8月17日 今日は学校の廃材置き場でとんでもないのを見つけてしまった、なんと上半身だけの骨格模型っぽいものだ。科学部が捨てたのだろうか?まぁそれはどうでも良いが、これはデッサンにぴったりではなかろうか。美術部員としてのゴーストがそう囁いていた。こんな良いものを他人に横取りされては大変だ、なので私は隠すことにした。隠し場所は…まぁ部室でいいか!今日は遅いので明日運ぶことにしよう、しかしあんな大きいのどう運ぼうか』

読み終わると麻子が顎に手を当てて考え込んでいた

「上半身だけの骨格模型?どんなんだそれ?」

「多分モーショントレーサーのことじゃないかな?あれって手の骨みたいなパーツがあるから知らない人から見たらそう思うかもしれないかも」

「とするとそのモーショントレーサーがここに?」

「でも大きい部品って言ってんのにそんなの見あらないですよ」

「可能性としては部室が移動した…と言う点だな」

「成る程、てことはやっぱりしらみつぶしかぁ」

妙子は肩を落とす

「いや、こう言うことは会長に聞いた方が早いと思う」

そう言ってみほは携帯電話を操作して耳に当てる

『ホイホイ西住ちゃんどうした〜?』

『お忙しいところすみません、一つお聞きしたいことが…』

『なになに、なんかトラブった?』

『そうじゃないんです、20年前の美術部の部室の転移先とかって分かります?』

『20年前ぇ?う〜んそう言うのは分かんないけど小山なら分かるかもしれない、ちょっとまってて今代わるから』

数秒後電話の声が変わった

『もしもし西住さん?』

『はい、小山先輩。実は…』

『20年前の美術部の部室でしょ?そうだねぇその辺の資料は探せばあると思うから見つかったら写メで送るね!』

『ありがとうございます!お手数をおかけしますが宜しくお願いします!』

『なるべく早めに見つけるね〜』

そこで電話は切れた

「メールが来るまで少しここで待とうか」と

みほは提案し全員それに賛同した

 

お次は学校の屋上だ、ここではカバさんチーム全員と優花里が捜索活動をしていた

「エルヴィン殿…カエサル殿は一体何をしてるんでありますか?」

優花里が指さした先には八画形型の奇妙な物体が置かれていた

「ん、あれか。あれは八卦羅盤って言ってな風水の道具だ」

「はぁ成る程」

「ちなみにアレはおりょうの私物だ」

「いや〜まさか役に立つ時が来るとは思わなかったぜよ」

そう言ってる間にカエサルが手に持ってた棒を離し重力に従って倒れる

倒れた先をおりょうはじっと見て

「東が吉と出たぜよ」と言った

「こんなんで分かるんですか!?」

「八卦は当たる確率が高いから安心するぜよ」

「そうそう、長い歴史を持つものだからな!まぁローマ帝国の歴史と比べれば浅いがな」

「いや、ローマ帝国関係ないと思うんですけど…」

と言いつつも優花里はしぶしぶ既に先に言ってたカバさんチームの後を追いかけるのであった

校舎から出て東へ歩き続けとうとう山の中へと入ってしまった

「山中ですか、懐かしいですな。私この中でレイバー見つけたんですよ」

「私達は池の中で見つけたな」

「今思えばよく水中にあったレイバーがちゃんと稼働できたなぁ」

「自動車部様様ぜよ」

しばらく歩くと先頭のおりょうが止まった

「どうしたんですか?」

「場所が変わったしもう一回占うぜよ、山中ではどの方角がいいのか知りたいからな」

と言い羽織ってる布の内側から八卦羅盤を取り出して地面に置くそして先程と同じ要領で行うと再び東と出た

「よし、このまま前進するぜよ」

「なぁ、おりょう少し気になったんだが…」

「?」

「その八卦羅盤ってそこそこ高いコレクションだろ?地面に置いて平気だったのか?」

「…っ!ま、まぁこう言うのは実用してからこそ価値があるものだから全然気にしてないぜよ…」

そう言う割には酷く落ち込んでるようだった

「帰ったら拭くの手伝ってやるか」と小声でエルヴィンが言いカエサルが頷く

その光景を見て優花里は苦笑いして見るのであった。

15分くらい歩くと深い木々が晴れ出口が見えた、前方に何やら大きな岩のようなものが見える

「岩みたいなのがあるがあれは…?」

「岩にしては大きすぎるだろ」

怪訝な顔をしながら一同はそれへ向かった

「あ、あれはレイバーですよ皆さん!」

そう、岩の正体はなんとレイバーだったのである

「おぉ…!八卦が当たったか!」

「これは何てレイバーぜよ?」

「灰色で全体的にずんぐりむっくりしてるこのカエルのような体型…

これは96式改ですね!」」

「流石はリチャードウォンだな」とカエサルが提案するが

「あのぉそのシャフトの犯罪者に名前はちょっと…」

「それじゃクランシーはどうかな?」とエルヴィンが代案を出す

「アメリカ警察レイバー部隊初代隊長の名前とはいいですね!」

「だろ?」優花里からの好印象にドヤ顔を決めるエルヴィンであった。

 

優花里達がレイバーを見つけたその頃沙織達は学園艦の奥深くへと進んでいた

「だいぶ暗くなってきましたね…」と梓が心配気味に言う

「船舶科の子達に聞いたらこっちの方面にあるって聞いたんだけど一向に見える気配がしないねぇ…もしかして骨折り損のくたびれ儲けってやつ!?やだもー!」

「沙織先輩まだ見つからないと決まったわけじゃないからそんなガッカリしないでくださいよ〜」そう香里奈がたしなめる

「そう言えば先輩ここらで出てきそうじゃないですか?」

「出てくるって何よ宇津木ちゃん?」

「サメですよ、サメ」

「ちょっとこんな暗い場所で言わないでよ〜!」

「いやぁ先輩の反応が見たくてつい♪」

とニヤニヤ笑う宇津木を沙織はポカポカと叩く

その時背後から沙織は何者かに肩を叩かれた感触を覚えた

「っ…!!!な、なんだ沙希ちゃんか…!驚いたなぁ」

そう言う沙織をよそに沙希は前方を指差していた

「ん?前に何か見えるの?ひょっとしてレイバーかな」

そう言うと沙希は首を横に振る

それじゃ一体何なのか、何が見えるかと隣にいた梓に尋ねようとすると青ざめているのが見えた

「せ…先輩…アレ、アレ…!」

「アレって?」

じっと目を凝らす、だいぶ目が暗闇に慣れてきたのかぼんやりとそいつが見えた。そいつは背鰭のようなものを持ち何やら牙らしきものが見えそれがどんどん近づいてくる

ここまで見えたら嫌でも分かる、分りたくはないが認めざるを得ない

「「「「「「サ、サ、サ、サメだぁ!」」」」」」

一同は全速力でダッシュし元来た道を引き返すが

「行き止まり!?何で!行きはこんなの無かったよ!?」

だが現実に目の前には壁があり彼女達を妨害してる、こうしてる間にもサメとの距離はどんどん縮まる

「もう食われてみんな終わりなんですよ!最後にニチアサの録画消化しとくんだった…!」

とあまりの恐怖に香里奈が気絶してしまう、それと同時にあやが別の道を見つけた。そこは今まで通ったことのない道だがこの際仕方がない、沙織は香里奈を背負いさらに未知なる道へ踏み込むことを決意した。

____とにかくそこからは必死だった、レイバーを探すどころじゃない時にはサメに追いつかれ噛みつかれる寸前の距離になり今度は電話を入れた瞬間転びそのままあやが気絶してあゆみが背負うことになる。

「先輩!早く引きはなさいとみんな死んじゃいますよ!」

「でももうそろそろ息が…!ハッ、こんな所に消化器が!」

とっさの判断で消化器を手にとりサメに向けて噴射!多少のためらいはあったが致し方あるまい、思わぬ反撃にサメがひるみその間を利用して思いっきり距離を伸ばすことに成功した。しかし体力の面は解決してない。沙織とあゆみは背負いながら走ってるのだ相当な体力を消費してる、助けを呼ぼうと電話を入れる、誰でもいいから繋がってくれとアドレス帳から適当に選び発信する、3回ぐらいコール音が鳴り相手が出た

『武部か、どうした?』

『あ、河嶋先輩!実は今サメに…』

と言った瞬間プツリと切れてしまう

「ゲッー!何で切れんの!?ここ圏外じゃないのに!」

不思議に思い携帯電話を触るが全く反応がない

(あっ、そうだ…!充電し忘れたんだった…!)

ここに来て痛恨のミスだ、これでは助けに来れるはずがない

「先輩、あそこにドアがありますよ!サメとの距離も結構離れてもう見えないですしここに隠れましょうよ!」と梓が提案する

「分かった!みんなもう少しだから最後の力振り絞って行くよ!」

ドアとの距離は100m、普通ならば大した距離ではないが既に数百m走り続けた彼女達の体力ではこの距離ですら苦行だ。

誰も背負ってない梓が一足先にドアへと辿り着き開けた、すかさず沙織、あゆみ、沙希と言う順番に入り最後に梓が入りドアを静かに閉めた。

とりあえずはここでじっと息を潜めてサメが通り過ぎるのを待つ、その後誰かから携帯電話を借りてメールやら電話やらしなくてはならない。だが今はじっと耐える…!叫びたくなる衝動を抑え必死に存在を消すことに努力する。今の彼女達の頭にレイバー捜索なんて文字はなかった

隠れてから3分後ドアの前を何者かが通過する大きな音が聞こえた、おそらくヤツであろう。

「…通り過ぎましたかね、先輩」

「うん、多分大丈夫だと思う」

沙織はほんの少しドアを開けて左右を見渡す、何も見えない。どうやらヤツは通り過ぎたようだ。一同は安堵のため息を吐きその場にへたり込む、取り敢えずは一安心だ、後は救助を求めるメールを入れなくては

「誰かケータイ持ってる?」

「私持ってます!」

「流石梓ちゃん、ちゃんと充電もしてあって偉いねぇ〜」

沙織は携帯を借りて麻子にメールを送ることにした。電話にしようと最初こそ思ったがまだサメが何処にいるか分らない以上電話は避けるのが無難だと判断したのだ

『麻子 遭難した サメに追われてる』

と短文を作り送信した。

「…これでよし。後はじっと待つだけだね…!」

 

彼女達が籠城を決め込んだ頃、みほ達と優花里達は校庭へと戻っていた

「結構苦労したね麻子さん」

「あぁ、あれから20回も部室が転々してることが分かって最後の部屋にもないと思ったら服を着せて保存してあったのは流石に怒りが湧いたぞ」

「まさか美術部と裁縫部が合併してたなんて想像もつきませんよ…」

と妙子がため息混じりに言う

「トレーサーをマネキン代わりにするのももっと想像つかなかったですよ…」

と同じく忍がため息混じりに言う

「おやおや結構いいの手に入ったみたいだねぇ」

突如現れた声にその場にいた全員が後ろを振り返る

「ちわー自動車部です、お宝を引き取りに来ました〜」

「お〜う、ナカジマ達かぁ。来てくれてありがとね〜」

自動車部のメンバーは96式改をジロジロ見て触っている

「しかしこれまた古い機体が出ましたなぁ」と顎に手を当てながらツチヤが言う

「96式改かぁ、池に浸かってたらしいから電撃端子の部分の整備は気をつけないとなぁ」足を叩きながらホシノが言う

「モーショントレーサーは見た目は大丈夫そうだけど一回バラして点検しなっきゃね」とスズキが言う

自動車部がキャリアを用意して運ぼうとする中、突如麻子の携帯が鳴り出した

「…誰だ?」

麻子はポチポチと数秒操作するとすぐ閉じた

「冷泉殿誰からです?」

「沙織からだ」

「沙織さんから?どうしたんだろ」

「遭難したそうだ」

「遭難…ですか?」

「しかもサメに追いかけられてるそうだ」

「サ、サメぇ?」

みほだけでなくその場にいる全員が首を傾げる

…ナカジマだけを除いて

「ひょっとして武部さん達船内に居るの?」

「そうらしいが、何故ナカジマさんが知ってる?」

「船内にサメが出るって噂を聞いてね、いやぁまさか本当に居るとは…」

「サメは置いといて遭難したのは事実だし助けに行かないと」

「ん〜西住ちゃんの言う通りだわね、武部ちゃんに目印になるような物を聞いてそっから救助に言ったら?」

「でもサメが出るらしいですし…信じがたいけど沙織さんがそんな状況で冗談を言う人には思えないんですよ」

「成る程ねぇ、それじゃあれ使うかかーしま」

「まさか本気で“あれ”を…?」

「いいじゃないどーせ防災訓練で使うけど今年はないんだし」

「…わかりました」

5分後河嶋が戻ってきた、その姿に一同はギョッとした彼女の手の中にはショットガンが握りしめられた

「…会長、何です?これ」

「これはね、護身用のライアットガン。勿論ゴム弾だけど」

「いや、護身用にしては物騒すぎません?」

「ウチって女子高だからさぁ」

「そう言う理由でいいんでしょうか…」

もっと突っ込むところはあるがこれ以上は時間の無駄だと判断して諦めた

「とにかく、これ装備して船内を捜索、万が一サメと遭遇したら遠慮なく発砲しちゃいなさい。多分効くから」

「…多分ですか」

「他に武器がないしね、てなわけで決死隊を募ろうか

誰か城に囚われたお姫様を救いたい人〜?」

と言うとあんこうチーム全員が手を上げそしてナカジマも手を上げた

「船内なら私詳しいから道案内は任せてよ西住さん」

「ありがとうございますナカジマさん!」

「メンバーも決まった所で…ほい」

杏はみほにライアットガンを渡す

「撃つときはしっかり肩に力入れなよ、威力が低いとはいえ反動はヤバいんだから」

「分かりました」

こうして決死隊は船内へと誘うドアの前へと立った。

…この中にサメがいる、馬鹿げた話だが嘘とは思えない、だから銃なんて代物を持ち出してきたんだ。

何が起こるか分からない迷宮の中へと彼女達は踏み込んだ

____待ってて沙織さん、今助けに行くから!

 




part3じゃ終わんなかったよ…という訳でpart4でこの話は終わりとなります、次回の投稿…日曜日あたりにできればいいなぁ(カレンダー見ながら遠い目)


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次はアンツィオ&船内迷宮です!part4

日曜日に投稿すると言ったな、あれは嘘だ。どうも恵美押勝です。携帯買い換えて8からxにしました(クソどうでもいい話)
では本編をどうぞ!


奴が通り過ぎてからどんだけ時間が経ったろうか、1時間?いや2時間かもしれない。そう感じるほど沙織達は籠城していた、気絶した子達も復活して取り敢えずは全員無事だ。とは言えウサギさんチームの子たちに悲観的なムードが漂ってる、無理もなかろう。ライトしか光源がなく光すら吸い込まれそうなほど真っ暗なこの中、オマケにサメの恐怖。これでは正気を保ってるのが精一杯だろう

「入ったのが5時過ぎだからそろそろ夕飯時かな、お腹減ったね…」

と腹の虫を鳴らしながらあやが言う。その言葉に香里奈だけが返事するがそれも普段の彼女とは思えない弱々しい声であった

「ねぇ…サメって食べたら美味しいのかなぁ?」

「ちょっとあゆみ落ち着きなさいよ」と梓が突っ込む

「沙織先輩、このまま全員今日はここで過ごして、明日も明後日もここで過ごすことになるんでしょうか…!?」

「宇津木ちゃん…そんなの嫌だよ〜!」

とうとう香里奈が泣きだした、それに引き続いてみんな泣き出す。ここまでチームをまとめて来た梓も例外ではない。

全員が泣くのを見て沙織は手を叩いた。奴にバレるかもしれないがこのまま泣き続けられて奴に見つかるリスクを放置するよりはマシだ

「…みんな、落ち着いて。いい?私昨日の質問会でこう言ったよね?

『恋は諦めたらそこで終わり、チャンスは二度とやって来ない』って。今の状況も同じ、ここで諦めたら救助と言うチャンスは来ないんだよ!?それにここで諦めるようじゃ恋は夢のまた夢!だから頑張ろうって!」

「沙織先輩…」

「梓ちゃん、香里奈ちゃん、優希ちゃん、あゆみちゃん、あやちゃん、沙希ちゃん。貴方達ならこの場を耐えれる!親善試合の時、一回戦の時逃げずに戦う覚悟を持った貴方達なら出来るから!」

この言葉に全員が息を呑んだ、ここまで先輩が自分達の精神を信頼してくれてるとは夢にも思わなかったからだ。そう思うとなんだか体の内側から力が湧いてくる気がして来た。

----------

沙織達が耐える中みほ達は暗闇をライトの光で掻き分けながら歩く

「何だか薄気味悪い場所だなぁ」

「私、時々ボイラー関係の整備のヘルプに呼ばれて来るけど…やっぱり慣れないわここ」

「沙織のメールだと第17予備倉庫ってとこに居るらしいが…」

その時、何処からか鉄棒が倒れたような音が聞こえ大きな音が鳴る、室内なのでその音が反響して更に恐怖を倍増させる。みほと優花里はその音に驚いて思わずお互いを抱きしめる、ナカジマと華は澄ました顔をしてるが麻子はこれまで見たことがないような青ざめ方をしてた

「冷泉殿大丈夫ですか…?」

「わ、私はなぁ、お化けとか超常現象って奴が大の苦手なんだ…!」

「大丈夫ですよ、お化けってのは亡くなった方がいる場所に出るものですから」

「そうそう、死人なんか出てないこんな場所でお化けなんかでやしないよ」

「五十鈴殿は前から肝が座ってると思ってましたけどナカジマ殿も中々…」

「私お化けとか信じないタイプの人間だからさ、え〜と確か17予備倉庫はここを左に…あれ?」

左に曲がろうとするとそこには壁しかなかった

「あれ?おっかしいな、この場所で曲がる筈なんだけど…」

「ナカジマさん、ここを右に曲がれば遠回りにはなりますが着けますよ」

会長からもらった地図をライトで照らしながら指で示す

「それじゃ行くかぁ」

一同は右を曲がり目的地へと向かう。

「そう言えば西住さん、この間の試合最後わざとコケたじゃん?」

「ハイ、といっても我ながら無茶な作戦を思いついたなって」

「その後整備した時にさほんの少しだけど関節にガタつきがあったのよ」

「あぁやっぱり…」

「それを見たシゲル先生何て言ったと思う?」

「ひょっとして怒ってましたか?」

「んにゃ、寧ろ褒めてたよ『この間は四肢全部ぶっ壊して帰って来たのに今回は関節がガタつくだけで壊さなかった。操縦してる嬢ちゃん成長したな』って」

「私はただ機体のスペックを考慮して操縦したまでだ」

「麻子さん」

「ナカジマさん、シゲル先生は西住さんに対してはなんか言ってなかったか?」

「んとね、『車長の嬢ちゃんは隊長としての貫禄が出て来たな、クセが強いメンバーを上手くまとめて着実にレベルアップしてる。light staff になる日も近いんじゃねぇか』って言ってた」

「そうなんですか、なんか嬉しいなぁ…私人から褒められた経験があまりなくて。でもlight staff …どうして先生がダージリンさんの言葉を知ってたんですか?」

「どうやら先生西住さんが聖グロの隊長さんと話す姿を偶然見てたみたい」

やっぱりシゲル先生はいい人だな、あの一件以来私は大人対して懐疑心のようなものを抱いていたけど先生はちゃんと私のことを認めて褒めてくれるしダメな所もちゃんと言ってくれる。そういえば私ってお母さんから褒められた事ってあったっけ…

そう考えながら進んでいると突然後ろからシャーっと言う音が聞こえる、空耳の様に思われたそれは急速に近づいて来て否定して来た。一番最初に後ろをフッと優花里が振り向く

「に、に、西住殿…あれって…!あれって…!」

次に麻子が振り向き

「サメだ!本当にいた…」

「ありゃ、冷泉さん気絶しちゃったよ」

「それじゃ私が背負いましょうか」

「ナカジマ殿、五十鈴殿、少しは慌ててくださいよ!」

「今からじゃライアットガンを構えて撃つ間に襲れる!このまま予備倉庫に向かいながら逃げます!」

まずは右に曲がり50mぐらい直進した。続いて左に曲がろうとするも行き止まりであった

「おかしい!こんな場所に壁なんかあるはずが無い!」

「仕方ありません!不可解ですが諦めて直進します!」

一同は左に曲がる所をそのまま直進し更に30m走る

「今度は分かれ道だけど…右は確か立ち入り禁止になっててドアがロックされてるはず今度こそ左に曲がるよ!じゃなきゃマズい!」

「皆さん…そ、そろそろ私体力が…」

「優花里さん頑張って!」

そして運命の分かれ道に出る。が、無情にも左は壁で塞がれていた

「なんてこった!こんなことって…!」

「私達これで一巻の終わりなんでしょうか!?最期が陸でサメに襲われただなんて死んでも死に切れませんよ!」

「待ってみんな!この壁…また黒いシミがついてる!」

「黒いシミ!?」

「最初の時、さっき、そして今、どの塞がれた壁にも黒いシミの様なものが付いてたのが見えたの、ひょっとしてコレはハリボテなんじゃ…!」

すると華が突然匂いを嗅ぎ出した

「確かにこの壁から木のような匂いを感じます…それにかすかに布のような匂いも…コレは制服の匂いでしょうか」

「するとハリボテを支えてる人間が居るってこと?」

「恐らくナカジマさんの言う通りだと思います」

「それじゃどうします?蹴り倒しますか?」

「いや、私達にそんな力はないから…」

みほは紐でぶら下げてたライアットガンを構えスライドさせる、カチャっと言う音が鳴り次の瞬間ハリボテ壁にぶっ放した、すると壁が倒れ道が開いた

「やっぱりあの壁はハリボテだったんだ!」

「支えてた人間は何処でしょうか?」

優花里が探すと道の奥に足が見えら

「あ、逃げていきます!」

「ほっときましょう、私達の目的は沙織さん達の救助なんですから」

道が消えるカラクリを解いてからは簡単だった、ナカジマが案内し3分ほどで目的地周辺へとたどり着いた。だが皆さまお忘れではなかろうか、彼女達は現在サメから逃げてるのである。彼女達は種明かしに夢中になりすっかりそのことを忘れていたのだ

「この道を10m進んで左のドアが14番予備倉庫だよ」

「いよいよここまで来ましたね、険しい道のりでした」

「あれ…何か忘れてるような」

耳を澄ますと再びシャーっと言う音が聞こえる

「あ、サメだ!こっちに向かって来てます!」

「ここで迎え撃つしかないと言う事ですね…」

みほは覚悟を決めサメが来る方向に体を向け銃を構えた

正直にいえば怖い、どういうわけか知らないがこの学園艦に居るサメがこちらに向かって来てるのである。だが沙織達もそれに追われて怖い思いをしたと思うと怒りが湧いてくるし彼女達が逃げ切りあの目と鼻の先の場所で頑張って耐えてると思うと自然に力が湧いて来て足の震えが止まった。音が近づいてくる、銃を構える力が強くなる。いよいよ視認できるほどの距離になって来た、大きく口を開けながらこちらにやってくる

(まだだ、遠距離で撃っても威力が下がるだけ…レイバーで使うライアットガンの様にもっと引きつけてから…)

10m、9m、8m、目の前に迫ってくるサメ。

この光景に耐えきれず後ろにいた優花里が思わず「西住殿!」と叫ぶ、その言葉で戦いの火蓋は切って落とされた。勝負は一瞬で終わる

ドシュン、ドシュンと銃口からゴム弾が飛び出してサメに全弾当たる、間髪入れずに再び発砲する。そしてとうとう弾がつきカチカチと引き金を引く音しか聞こえなくなり辺りは静寂に包まれる

そしてサメは「ギャッ」「痛てっ!」と言いながら倒れた

「…?『痛てっ』?」

「変だなぁサメが日本語喋った様に聞こえたんだけど…」

一同がサメに目をやると何だかモゾモゾうごめき体が膨れ上がっている、そしてチャックを開ける様な音が聞こえ中から3人の人物が出て来た、そしてこちらを向き

「イッテェじゃねぇか!」とパイプを咥えながら一人が言い

「銃声鳴ったから死んだと思ったぞ!」とアフロが言い

「私は一番後ろだったからセーフだったよ」とマイクを持った人物が喋った

みほ達は鳩が豆鉄砲を食らった様に黙り込んでしまったが、その沈黙をみほが破る

「ま、まさかそのサメって着ぐるみじゃ…」

「そうだよ、アタイらはこの艦内に侵入してくる不届きものをコレ使って追っ払うことにしてんのよ」

「ここの天下は私達のもんだからな」

「不届きもの…?貴方達は一体何者ですか?」

華が尋ねるとよくぞ聴いてくれたと言わんばかりに3人が得意げな顔になり横に整列する

「私は竜巻のお銀!」

「そして爆弾低気圧のラム!」

「アタイは大波のフリント!そして後ろに居るのが…」

「サルガッソーのムラカミ!」

「…生しらす丼のカトラス」

「お、あの二人はハリボテを支えてた人達です!」

「そう言えば聴いたことあるな、“大洗のヨハネスブルク”と呼ばれる学園艦地下にある『barどん底』、そこを牛耳る5人組が居るって」

戦隊物のような自己紹介を終えるとお銀がパイプを咥え直し

「んまぁ脅かして追い返すつもりが反撃されちゃったんだけどね」

「こんな代物持ち出して来るとはな」

「…ショットガンって殺意剥き出しすぎじゃない?」

「本当のサメそっくりだと聞いたので…それより沙織さん達を追いかけたのも貴方達ですか!?」

「沙織…?あぁあの1年生のガキどもを引き連れた奴の事か、確かに追いかけ回したけど途中で見失っちまってね。何処消えたんだ?」

回したけど途中で見失っちまってね。何処消えたんだ?」

「あの14番予備倉庫にいる筈です、貴方達もついて行ってください。サメの説明をしなきゃいけないので」

「おいおい、何でアタイらが付いてかなきゃいけないのさ」

「まぁまぁいいじゃないかフリント、この度胸のある子の頼み事を一つ聞いてやっても。無下にしちゃ男が廃るってもんよ。ま、私女子高生なんだけどね」

そして彼女達は遂に沙織達がいる14番予備倉庫へと、そのドアの前にたどり着いたのである

予備倉庫のドアをゆっくりと開けいよいよご対面だ、ライトで床を照らすとそこには沙織達が確かにいた

「みぽりん!」

「よかった、沙織さんもウサギさんチームのみんなも無事そうで!」

「サメに襲われて一時はどうなるかと思ったよ…あれ麻子は?」

「冷泉さんは私に背負われて寝てますよ」

「あ、華!どうして?」

「冷泉さんサメに驚かれて気絶してしまったんですよ」

「そうだ、サメ!サメはどうなったの?と言うか後ろにいる人達は…?」

「サメってこの着ぐるみのことかい?」

フリントがサメの着ぐるみを持ち上げ顔の部分を沙織達に見せる。

「それそれそれ!ん?着ぐるみ?」

「つまりね、私達はこの着ぐるみを着てた人に追いかけられたってことなんだよ」

みほの口から放たれる衝撃の事実に沙織は口をポカンと開け数秒後に叫んだ

「と言うことは私達は着ぐるみ相手に四苦八苦してたってこと!?」と悲観的に梓が言う

「あのね、そもそも陸でサメがいるわけないだろ?」

「た、確かにそこのパイプを咥えた人の言う通りだ…」

「でも物凄く早いスピードで移動してたよ!人の足とは思えないくらい!」

「…あれはローラスケート利用してやったこと」

「あっー!私達レイバー探しに来たのに着ぐるみに追っかけられて何も成果なしとか恥ずかしくて帰れない〜!」

「なんだお前らレイバー探しに来てんのか」

「知ってるんですか!?ムラカミさん」

「あぁ、あれはサメの着ぐるみを作り終えてしまう為に第15番予備倉庫に行った時だ…」

そこで彼女はまるで鞠に足が生えた様な機械と灰色な人形の機械を見たと言う、彼女は水中用レイバー以外の知識は殆ど無かったのでこの機械をレイバーだと理解するもさほど気にしなかったらしい

「…白いレイバーと鞠に足が生えたレイバーですか、優花里さん分かります?」

「うぅん、灰色なレイバーは恐らく訓練用かと。とするとドーファンですかね…でもドーファンはもう1輌あるし…」

「じゃあ鞠みたいなのは?」

「恐らく多脚レイバーですね、ラーダーか…いや待てよひょっとしたら…」

「…?」

「多分“ガネーシャ”じゃないかと」

「ガネーシャってあの軍用の?」

「多脚レイバーで鞠っぽいのはこれしか無いですからね。とは言えもし本当なら私達の戦力は大幅にアップしますよ!」

早速みほ達は第15番予備倉庫に行くことにした、ここも真っ暗なので沙織のライト、みほのライト両方を使い照らす。そこには確かに人型のレイバーが体育座りして鎮座していた。鞠の様なレイバーも確かにあった

「これは…凄いです、まさか本当にガネーシャがあるなんて…!」

「ねぇゆかりん、あの体育座りしてるのは?」

「灰色のボディに角のない頭部…こ、これは“レーア”ですよ!ヴァリアントの訓練用レイバーです!訓練用ですが十分戦力になりますよ!」

そして地面を照らすと何やら大きな物体が見える

「これは…ライアットガンです!こんな場所に無造作に保管されてるなんて危ないなぁ、警察用レイバーで一番攻撃力がある火器で特車二課でも10番ロッカーと呼ばれる場所で厳重に保管された代物です!」

「この倉庫だけでこんなにあるなんて…」

「まさに宝箱ですね」

「それじゃひとまず会長に連絡するね」

みほは携帯を取り出して電話をかける

『もしもし会長、沙織さん達を発見し、レイバー2輌ととライアットガン3丁見つかりました』

『ご苦労さん、レイバーは何が見つかったかな?』

『ガネーシャとレーアです』

『お、強そうなの出て来たねぇ。んじゃ回収は自動車部に任せるとして…いいかなナカジマ?』

みほは携帯をナカジマへと渡す

『はいはい、お電話替わりました。レーアはともかくガネーシャは形状が独特なんでレイバーを引き上げるためのレイバーが必要だと思います』

『分かった、その辺は手配しとくよ。それじゃ西住ちゃんに替わってくれるかな?』

『では会長、これから戻りますね』

『あいよ、んで急なんだけどさこの後みんなで銭湯行くことにしてるからなるべく急いで戻って来てね』

『銭湯?』

『いやぁ裸の付き合いって大事じゃん?そんじゃよろしく』

相変わらず独断先行だな、そう思いながら電話を切り小走りで戻るのであった

 

銭湯では各自思い思いにくつろいでる、特にウサギさんチームのメンバーは全員がとろけ切った様な顔をしている

「いや〜みんな今日はお疲れさん、この後は各自解散…!と言いたいところだけどかーしまから話があるからみんな聞いてくれ」

「本日は夜遅くまの捜索感謝する、今回発見したレイバーは回収や整備も考慮すると次の試合までには間に合わないがこの発見は確実に我々を強くする鍵となる。次の試合はアンツィオだ!さて西住」

みほはいきなり自分の名前を呼ばれてビクッとする、こんな場所でこの様なことになるとは思ってもいなかったからだ

「はい、何でしょう?」

「やれ」

「…?」

「締めの言葉を言えって意味だ」

突然振られたのは驚きタジダジとなる、だが試合前に言いたいことがあったのでそれを言うだけのことだ。湯船から体を出すと全員の視線が刺さる。いざ話すとなると少々怖気ついてしまう

(うう…少し緊張するなぁ、でもシゲル先生から「隊長の貫禄が出て来た」って言われたんだから頑張らないと…!)

「皆さん!次回の試合はアンツィオです。新しく使用すると思われるレイバーはまだ分かりませんし相手はノリと勢いに定評があり優位に立たれると逆転させるのが難しくなります!落ち着いて終始主導権を握れる様最後の1秒まで油断せず挑みましょう!」

「勝って兜の緒を絞めよ、と言うわけだな」

「カエサルさんの言う通りです、ここで気を緩めては次の試合に負ける可能性がグンと上がります。皆さんと一緒に力を合わせてあのサンダースに勝つことができました、ここまで来たら行けるところまで皆さんで力を合わせ突っ走りましょう。そして願わくは優勝出来ることを、私は望んでいます!そのためにも隊長として頑張ります!」

あちこちから拍手が起こる、この拍手はみんなが私を隊長として認めてくれる証拠、私が頑張らなきゃいけない理由そういう風に思えた

締めの言葉を終えてみんなが次々と湯船から出てくる、みほは一足早く着替えて外に出る。学園艦は光量が比較的少ないので綺麗に星が見える。中でも一際北極星に目を引くみほはこの北極星を見るとまほの事を思い出した、北極星は決して動かず輝いて多くの旅人に頼られる存在だ、自分は北極星になれるだろうか?今の彼女にはそれを肯定する自信はなかった。だがだからこそ、いつの日か「はい」と言えるように一つ一つの訓練、試合を精一杯やるんだ。それが肯定する自信へと繋がるんだ。そう思いみは北極星を手の中に捉え握りしめた

 




いよいよ始まりつつあるアンツィオ戦、「超凄いレイバー」とは何か、みほ達はノリと勢いを受け流すことが出来るのか。そんな中カバさんチームのカエサルが意気揚々と相手のあるレイバーと激戦を繰り広げる友との絆の為に
そして発令された「マカロニ作戦」とは?
次回「これがアンツィオ戦です!」ターゲットロック、オン!


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これがアンツィオ戦です!part1

どーも恵美押勝です、8月も終わりだと言うのにくそ暑くて死にそうです。「さよなら夏の日」って言える日はいつ…ここ…?
それでは本編どうぞ!


雲一つない晴天の日、トレビの泉を模した泉の周辺に女子高生が集まっていた。ここはアンツィオ高校

泉の近くには階段があり階段の上には3人の生徒、下には大多数の生徒がいる。ツインテールでマントを羽織った生徒が前に出てキリッとした表情で下を見下ろす、そして手に持った鞭を前に出して喋り始めた

「…きっと奴らは言ってる『アンツィオはノリと勢いだけはある、調子に乗られると手強い』とな」

「強いって、なんか照れるな」

「だけどドゥーチェ、“だけ”って何すか?引っかかるなぁ」

ドゥーチェと呼ばれた生徒の発言に様々な反応をしてくる生徒、その反応を待ってましたと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべ話を続ける

「つまりだ、裏を返せば『調子に乗ることしか能がない、そこさえ崩せばこっちのもん』と言う訳だ」

「何だって!?」

「舐めやがって!レイバーでカチコミ行きましょうよ!」

最初に笑ったと思えば今度は怒りコロコロ感情が変わる生徒たちである、いきりたった群集を上にいる二人の生徒がたしなめる

「みんな落ち着いて、これは想像の話だから」

「そうだ、あくまでもドゥーチェによる冷静な考察だ」

黄色の髪の生徒と

「ありがとうカルパッチョ、ペパロニ。そうだ、今の話は私の想像だ、だがもしそんな輩がいるのなら言わせたい奴には言わせておけばいい。何もノリは悪いことではないのだから。

お前らちょっと思い出してほしい私達はあのマジノ女学園に勝ったんだぞ」

「結構苦戦しましたどね…」

「それでも勝ちは勝ちだ」

「そう、私達は決して弱くない。次の相手は西住流がいる大洗女子学園だが一度乗ったノリを崩すのはそう容易いことではない。たが決して忘れるなよ、ノリと勢いと言うのは普段の練習に反映されると言うことを」

「そうは言っても西住流ってめちゃくちゃ強いんですよね?勝てますかねぇ?」

生徒の不安げな疑問にドゥーチェと呼ばれる生徒がドヤ顔を決めながら答える

「心配するな…いやちょっとはしろよ?何のために1日3回のおやつを一回に減らしてコツコツ貯金してきたと思う?」

「そういや何ででしたっけ?」

「レイバーと新兵器を買うためだよ!」

咳払いをし再度鞭を前に出した、それが合図なのか横のいるカルパッチョとペパロニが生徒達の後ろに行く、その動きに釣られ生徒たちが後ろを振り向くとそこには大きな物体がシーツをかけられて存在している

「ドゥーチェこれなんですか?」

「見て驚け!これがアンツィオの必殺秘密兵器だ!」

いよいよシーツが剥がされその全貌が明らかになろうとしたその時、昼休みを告げるチャイムが鳴った。それを聞いた生徒達は一斉に食堂の方へ走り出す

「おいお前ら、秘密兵器だぞ!?見ろよ!」

「今の時間食堂めっちゃ混むんで!」

「練習の時に見させて貰います!

あっという間3人だけが取り残されドゥーチェことアンチョビは途方にくれて肩を落とした

「んまぁ…自分の気持ちに素直が子が多いのはこの学校のいいところなんだけどさ。」

そして深くため息をつきこうこぼした

「…新しいレイバー見て欲しかったなぁ」

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大洗女子学園 生徒会室

いつもは人がいても薄暗いことが多い生徒会室だが今日は明かりを全部つけていた。何故ら今日はアンツィオ戦の作戦会議と言うことであんこうチームを招いたからだ

「…さて次の相手はアンツィオ高校だ」

「質問!アンツィオ高校ってどんなところですか!?」

「アンツィオはイタリア人が理事長でねぇ、イタリア一色の学校だよ。あそこの鉄板ナポリタンは美味いよ?でも鉄板ナポリタンって名古屋名物なんだけどさ」

「そんな学校だから使ってるレイバーもイタリア産のが多い、前回の試合では“ナディ”、“ガンバルギーニ”が確認されている」

「ナディですか、私大好きです。小さくてコロコロしててお花を生ける花器にしたいくらい」

「いや花器にしては大きいよ華…ラフレシアでもいけるの?」

「しかしそいつらってスポーツタイプのレイバーだろ?どう戦ったんだ?」

「どうやら購入した22mmチェーンガンを装備させたらしい、先のマジノ戦ではナディやガンバルギーニを使いフラッグ車をあぶり出しハンニバルを使用して叩いたそうだ」

「自衛隊のレイバーも所有してるのか…イタリア産のレイバーだけだど思った」

「イタリア産のレイバーは少ないからね、他の国のレイバーに頼らなきゃいけないのも仕方ないよ。聖グロだって使ってたのは国産レイバーばかりだったしね」

「そう言えば西住、あそこは新型レイバーを購入したらしいがそれについての情報はあるか?」

「まだ分からないですね…」

「一回戦では出てなかったからね」

「奴さんにとっては秘密兵器みたいなもんだからね、まぁいいや。ウチにはジェームズボンドがいるし」

「…ジェームズボンド?」

みほ達が首を傾げてるとバンと勢いよく扉が開かれる

「どうも!ただいま戻りました秋山優花里です!」

「おっ帰り〜ボンド君」

「…ボンド君ってスパイ映画じゃないんですから会長」

「…ん?ゆかりんその格好はひょっとして?」

優花里の格好は何時ぞやかのコンビニの制服を着ていた、これが意味を表すことはただ一つ

「優花里さん、ひょっとするとまた?」

「はい!偵察任務に行ってまいりました!」

「そ、私が秋山ちゃんに頼んだんだよ」

「あの時携帯を弄ってたのはそう言うことだったんですか」

「まぁね、んじゃ秋山ちゃん。ブツを出しちゃって、再生機器準備するから」

取り出したSDカードを再生機器にセットし、画面に映像が映り始めた

 

_____

「はい、私は今アンツィオ高に潜入してます。今回も安全信頼のコンビニ船を利用してやって来ました!それにしても凄く賑やかですねぇ、今日は文化祭とかの日なんでしょうか?」

当たり一面に所狭しと出店が並んでおり大洗の方では文化祭以外まず見かけない光景だった。優花里はその辺にいた生徒に話を聞くことにする

「すいません、私転校してきたばかりであんまり詳しくないのですが今日は何かの日ですか?」

「んにゃ、今日は普通の日だよ」

「普通の日でこの賑わいようですか!?」

「部活とか委員会とかが主催して出店やってんだよ、んでここで稼いだ金を予算に当てるってわけ。ここでの売り上げ結構バカにならないんだよ」

「成る程…オススメの店とかありますか?」

「あぁ、あの店だよ」

生徒が指差した先にはレイバーと思われる形をした看板がある店だった

「あそこの鉄板ナポリタンはマジで美味いよ、あれ食いに来る一般客もいるからな」

「分かりました!それじゃ食べてみますね!ありがとうございました!」

生徒と別れ店を映した後優花里はカメラを自身へと向ける

「あれの看板のモデルはガンバルギーニですね確か1回戦で出たことのあるレイバーの筈です、ひょっとしたらあそこに特車道関係の生徒が居るかもしれません!」

優花里は店へと赴き取り敢えず注文することにした

「すいません、鉄板ナポリタン並一つお願いします」

「あいよ!ん?オメェ見ない顔だな?」

「転校してきたばかりなんですよ、クランシーって言います」

クランシーと言うのは彼女がカバさんチームから付けてもらった渾名である

「ふ〜んクランシーか、アタシはペパロニってんだ。よろしくな」

そう言ってる合間に鉄板ナポリタンは出来上がってた

「何時もは300万リラだけど今日は初回と言うことでサービスしてやる!250万リラだ!」

「250万ですか!?いつの時代のレートですか…!」

「いや250円な?」

「多分そのネタ通じるの大阪の人だけなような気がします…」

「マジか、ウチらじゃ鉄板ジョークなんだけどな。鉄板ナポリタンだけに」

オヤジギャグに優花里は苦笑いする事しか出来ず商品を受け取る

「そう言えば私特車道に興味があって、最近新しいレイバーを購入したって聞いたんですけど…」

と言った瞬間急にペパロニの顔が険しくなる。しまった聞くのが早すぎたか、優花里は一瞬焦るがそれは杞憂であった

「オメェ通だねぇ!そうそう新しいレイバー買ったんだよ!警察用レイバー買ったんだよ!聞いて驚け!えぇと…イングラム…」

「イングラム買ったんですか!?あの大会仕様でも高額なレイバーを!?」

「いや確かイングラムって前になんか名前がついた気がする…プロ野球じゃなくてプロ…プロレス…」

「プロトタイプイングラムですか!」

「それだそれ!いやぁウチらそれを気が遠くなるほど貯金してさようやく買えたんだよ!アンチョビ姐さん…あぁウチの隊長が一番喜んじゃって一日中コロッセオで動き回ってんだよ、バッテリーの電気代もヤベェのにな」

「隊長さんは今日もコロッセオにいますかね?」

「多分居ると思うぜ、興味あるなら見ていけよ」

「そうしましょうかね」

聞きたい情報も聞けたと同時にナポリタンも食べ終わったので長居は無用だ、さっさとずらかりコロッセオへ向かい現物を拝むことにする

「ご馳走様でした!」

「ほいよ、んじゃ楽しんでこいよ〜!」

 

コロッセオには既に人で一杯だった、上を見上げると確かにプロトタイプイングラムが立っていた。周辺の生徒が写真を撮りまくりそれに応えるかのようにポーズを決める、一しきり終わった後外部スピーカーの電源が入る音がした

『これがアンツィオの秘密兵器プロトタイプイングラムだ!これがあれば大洗は軽く一捻りだが念には念をだ!新しい武器も手に入れた!出よガンバルギーニ!』

そして高級車に手足を付けたようなレイバー、ガンバルギーニが出てきた。だが一つだけ違うのは車体の先端に何やら砲の様なものが付属してる事だ

『新しい武器とは…それは107mmカノン砲だ!コイツは強力なビーム兵器で当たればどんなレイバーもイチコロだぞ!想像してみろ早さで負けを知らないガンバルギーニが颯爽と戦場を駆け巡りカノン砲をぶっ放しながら敵をバッタバッタと華麗に敵を撃ち抜いてく姿を!』

この啖呵に周りの生徒が一気に湧き上がる

「ドゥーチェ最高です!」

「よっ!隊長!」

そしてプロトタイプ、ガンバルギーニが決めポーズを取ると熱狂は最高点の達しドゥーチェと叫ぶコールが始まった。

「凄い熱狂ですね…!以上秋山優花里がお送りしました!」

______

映像が終わり干し芋を食べながら杏が呟く

「こりゃ2回戦も手強い相手だねぇ」

「手強いなんてもんじゃありませんよ会長!」

「プロトタイプイングラムって要はイングラムとほぼ同性能の機体って事でしょ?めっちゃ強そう…」

「それも手強いですが問題はガンバルギーニです、1回戦まではチェーンガンしか装備しておりそれもかなりの強さを誇るものでしたがそれにカノン砲が加わったことで更に脅威が増しました」

「これで分かったのは2回戦は相手は機動力を生かした戦法を取ってくる可能性が高いということ、それについての練習をしなきゃいけないけど…」

「けどどうしたんすか西住殿?」

「プロトタイプイングラムとかガンバルギーニなんかは初めて見たの、特に後者は特車道の試合で用いられるなんて思いもしなかったから…」

「こりゃもう少し作戦練らなきゃいけないなぁ…あ、そうだ。西住ちゃん」

「?」

「蛇の道は蛇って言葉知ってるかな?」

その意味自体は知ってるがここで使う意味が彼女には分からなかった。ただ分かるのは杏がまた何かを企んでそうな笑顔をしてると言うだけだ

 

翌日、みほは地図を頼るにとある場所へと向かって行った。そして目的地周辺へとたどり着いたのだが確信が持てず当たりを一面キョロキョロする

「…ここかなぁ?」

目の前に見えたのは江戸時代辺りにでもありそうな瓦屋根の家であった、表札を見ると「エルヴィン、カエサル、おりょう、左衛門佐」と書かれてる

(カバさんチームのみんなこんな所でもソウルネームなんだ)

徹底ぶりに感心し門を潜る

「こんにちは〜」

「お、西住さんか。いらっしゃい」

「こんにちはカエサルさん。…そこにあるのは?」

みほは球体の物体に目が止まった

「あぁ、これね。これはすんごい昔ゲームセンターに『パトレイバー』ってリアルシュミレーションゲームがあってね。その台さ」

「ゲームを買ったんですか?」

「う〜んと言うより練習の為だね、このゲームは物凄くレイバーの操縦席を再現しててさ、んまぁサムソン用に少し手は加えてあんだけど。操縦練習にはもってこいの代物なんだ」

「成る程、それにしてもこんな大きいの何処で…?」

「クランシー…いや秋山さんに操縦の練習にいい方法はないかって聞いたられいゔぁ〜倶楽部って店にそれがあるから使ってみたらどうだって言われてさ。やってみたらそれがよくってね、何回もやるうちに店の人から『お嬢ちゃんそんなに気に入ったんだら買ってみるかい?月3000円12ヶ月ローンでいいよ』って言われたから思い切って買うことにしたんだ」

「そんな安くて良かったんですか!?」

「うん、店の人曰く古いゲームでもうやる人も少ないし最近調子悪くてそろそろ新しい中古品を買おうかなって…さて立ち話もなんだし入って入って冷たいの何か出すから」

家に入るとおりょうが冷たいお茶を持ってこてくれた。全員がテーブルに座ったところでエルヴィンが話し出す

「会長から話は聞いてる、イタリア系レイバーの性能を知りたいんだって?」

「はい、学校の図書館にはレイバーの図鑑はあっても解説本みたいのはないけど歴史好きなカバさんチームの人達ならばうってつけの資料が持ってるって会長が」

「蛇の道は蛇かぁ、面白いこと言ってくれるなあの会長」

「てな訳でイタリア系のレイバーのカタログを持ってきた、こんぐらいしかないけどね」

とカエサルが床に置いてあった本の束を机の上に乗ってる

「こんなに沢山…でも全部イタリア語ですね、辞書でも持ってくるんだった」

「なぁに心配ない、私はラテン語とイタリア語は読めるからな」

「え、カエサルってそんな言葉喋れたんぜよ!?」

「そのくらい常識だろ」

「常識じゃないぞ…なぁエルヴィン」

「確かに私はラテン語は話せないがドイツ語ならば…!」

「張り合うとこなんですかそこ!?」

とみほのツッコミが炸裂する中カエサルは黙々とカタログを和訳していた

「…よし、とりまこんなもんかな」

「凄いもう終わっちゃったんですか」

「カタログスペックを書き抜くだけだから簡単簡単、まぁ友達がアンツィオに居るからそっちに聞いた方が早いっちゃ早いんだけどさ」

「そんな友達いたぜよ?」

「初耳だな、聞いてしまえば良かったものを」

「いや、友達だからこそこう言うのは聞かないでおきたいんだ。質問するのは容易いことだけどまるで利用してるようだしさ」

「成る程、友達は友達、ライバルはライバルということでござるか」

「そんなとこかな、試合で出来れば一戦交えたいなぁ。難しいとは思うけどさ」

「そう言えば西住隊長、プロトタイプイングラムの方は大丈夫なのか?」

「それに関しては昨日優花里さんから資料を頂いたので大丈夫です」

「クランシーからか、あいつ私達よりレイバーに詳しいからな

…じゃあ資料は明日学校で渡すよ」

「はい、それじゃお手数をお掛けしましが宜しくお願いします!」

 

 

みほが資料集めに行ってる時生徒会は生徒会でとある活動をしていた。

発見した96式改を割り振る為にとある場所に行っていた

「…それで会長さん、今日はどう言う用件ですか?」

「うん、今日から園ちゃん、金春ちゃん、後藤ちゃんには特車道に参加してもらって96式改ってレイバーに乗って欲しいんだ」

「えぇっ!私達がレイバーに!?」

「君達3人組で仲がいいから特車道にピッタリだと思ってね」

「それだけの理由で…せっかくのお話ですが私達も何かと…」

「参加してくれたら風紀委員の予算15%増やすよ」

この時一緒にいた柚子は「相変わらずこの人はお金で揺さぶりかけてる」と内心苦笑してたという

予算増額というメリットはあるとは言えいきなりの提案にそう簡単に肯けるものではない。両者の間に暫し沈黙が流れる

「んまぁそう簡単に結論は出ないよね、もし参加してくれると言うならいつでもハンガーに来てよ。レイバー磨いて待ってるからさ」

さてと、と言い杏達は部屋から出る。

次に彼女達はまたとある場所へと向かった、発見したレイバーの回収作業を確認する為である。発見した場所から少しずれた場所、搬入口へと到着するとアトラスに似た背格好の作業用レイバー“ヘラクレス21”がワイヤーらしきものを引っ張ってるのが見えた。その傍らには既に灰色のレイバー“レーア”が横たわっていた。杏達は穴を覗き回収作業中のナカジマを見つけ声をかけた

「お〜いナカジマちゃ〜ん!!」

「あ、会長!どうしたんです!?」

「いや進捗状況聞きに来たんだよ、見た感じ結構早く進んでる感じだねぇ」

「これも彼女達のおかげですよ!」

例のサメ事件の一件で脅かしたお銀達は処罰と言うことでこの回収作業に強制的に参加させられていたのだ、彼女達は船舶科の生徒、比較的操作が難しい水中用レイバーを操縦してる彼女らにとって作業用レイバーはどうってことない物だった

「でも回収しても直ぐには使えませんよ〜!めっちゃくちゃ壊れてるんで!」

「なに〜!?お前ら徹夜で修理しろ〜!」

「そりゃ無理ってもんですよ、レーアはまだ簡単そうだけどこのガネーシャはじっくり手をかけてやらないと。相当問題児ですよこの子は」

「だってさ、かーしま諦めな。自動車部がああ言ってるんだ」

「会長〜!一つお願いがあるんですけど!」

「な〜に〜!?」

「この子直したら私達を乗せてくださいよ、こりゃ私達みたいにレイバーに熟知してないと無理な代物です!」

「あいよ、分かった。んじゃ引き続き宜しくね〜」

 

するべきことを終え杏達は生徒会室に戻っていた

「…さ〜てこれで3両のレイバーの内2輌は捌けたね」

「しかし会長残り1輌はどうしますか?」

「それはもうこれから入ってくる物好きにかけるしかないね、もう頼れるツテはないしお金で揺さぶろうにももうその金もないしねぇ」

「また会長そんな事言って…私知ってるんですよ?会長がお金の話を出すのは自身が認めた人だけだって」

「小山…気付いてたのか。そりゃそうさ、金をチラつかせれば大抵の人は参加はしてくれるだろうさ。だからって誰でも良いわけじゃない、私はlight staff を求めてるんだ、自動車部は持ち前の知識、技術。風紀委員は3人のコンビーネーション力、光る原石なんだよ彼女達は」

 

 

 

 

後日 9時 校庭

校庭に置かれたテーブルの上にみほやカエサルが集めた資料が置かれている、杏はそれらを一読し話し始めた

「…という訳で西住ちゃん、相手のレイバーも分かったことだしどう練習する?」

「そうですね…私達のレイバーをプロトタイプやガンバルギーニに見立ててそれで練習したいとおもいます。」

「ふ〜ん、何使うの?」

「性能的に判断するとプロトタイプがエコノミー、ガンバルギーニがラーダー、ナディが97式指揮車と言った所でしょうか。」

「プロトタイプの相手は誰がいい?パイソンとか?」

「う〜ん、プロトタイプの装甲は基本的にどのレイバーでも貫通出来ますが…安全を考えるなら相手の射程外から攻撃可能なサムソンが良いかと」

「それじゃあんこうのエコノミー、ラーダー、アヒルさんチームの指揮車を使って練習しようか、西住ちゃん宜しくね〜」

 

ハンガーからレイバーを出し例の3輌が先行しその内ラーダーが爆速で集合ポイントと違う場所へ向かう、そして残りが後ろに付くと言う形で練習場まで向かった、道中優花里から通信が入る

『西住殿どんな作戦でいきますか?』

『エコノミーに近づいてくるレイバーを97式指揮車が妨害しラーダーのところまで誘導、そこをズドンと言う感じかな』

『成る程、1回戦のアンツィオの展開を再現すると言うわけですね』

『そうだね、あの時はハンニバルがトドメを刺したけど恐らく今回は新兵器を搭載したガンバルギーニを使って来るだろうから』

『分かりました!』

通信を切ると麻子が話しかけてくる

「私はとにかく逃げればいいってことか」

「うん、場合によっては迎撃して良いけど基本的には足だけ動かして」

「ほ〜い」

『西住殿、こちら配置完了です!』

『分かりました』

返事をしてチャンネルを沙織に変える

『じゃあ沙織さん作戦開始の合図をお願いします』

『オッケー!…じゃあこれから練習始めるからアヒルさんチームは逃げる私達を追いかけてくるレイバーを妨害宜しく〜』

『了解!』

その掛け声を合図に練習が始まった、指揮車がアトラスに向かって捜索時に使ったライオットガンを当てる、指揮車には武装がないので挑発するにはこれしか方法がないのだ

「佐々木ちゃんこんなので良いのかな?」

「乗ってるのは怒りっぽい河嶋先輩だから多分これで追っかけてくるはずだよ」

あけびの予想通りアトラスは97式指揮者目掛けて進路を変えた、その際攻撃するも当たることはなかった

「河嶋先輩指揮者の方に向かったよ!どうする梓ちゃん!?」と香里奈が聞く

「私達はそのままあんこうを追うよ、あゆみ達もそのつもりで!」

『了解!』

一同は緩やかな坂が連続して続く凸凹道ゾーンへと入る、アップダウンの繰り返しでレイバーの操縦が思ったように上手くいかない。だがあんこうはお構いないと言うようにそのままの勢いで逃げ続ける

「麻子さんこんなコースも更地と変わらずに走れるんだ、やっぱり凄いや」

「なぁに要は足の力の入れ方よ、そこさえ理解すればどんな道も簡単に走れる。これ終わったらアイツらに教えないとな…」

「麻子さん、次の下り坂の途中でしゃがんで一時停止して下さい」

「あいよ」

こう早々と先行されたからには後ろの方はたまったものではない

「エルヴィン、あんこう見失ったぞ」

「落ち着け、次の上り坂の頂上で一時停止して探せばいい」

だが、この判断は間違っていた。坂を上り切り一時停止して探そうとしたその瞬間目の前の視界がエコノミーでいっぱいになり回避する間もなく撃たれてしまった。

「まさかいきなり目の前に現れるとは…」

『カエサル、坂道の頂上で一時停止するのは狙ってくれと言うようなものだ、捜索する場合はしゃがんで出来る限り相手に見つからないようにしろ』

『分かった』

一方、指揮車を追いかけていたアトラスは見事誘導に引っかかりラーダーのチェーンガンで蜂の巣にされたと言う

『…これで模擬戦は終わりかな?西住ちゃん』

『そうですね。では、一度最初の場所に戻って射撃訓練をしましょう、カバさんチームは練習内容が違うのでこのままあんこうについて来てください』

最初のポイントにつき殆どのレイバーはいつもの射撃場で練習をする、あんこうとカバはそこからほんの少し離れた場所にいた

「サムソンはその武器の特性上待ち伏せやアウトレンジ攻撃が得意なレイバーですからそのように戦うのが一番良いですね」

「どのくらいなら安全距離なんだ?」

「1500mですね」

「1500m…ってどのくらいだ?」

「それじゃさっそく目で見て分かってもらいましょう」

そう言いエコノミーは前進する、おおよそ3分後みほは通信を入れた

『今いる場所がだいたい1500mです!』

『エコノミーが豆粒ぐらいにしか見えんぞ!』

『この距離で当ててくださ〜い!』

 

「どうだカエサル、やれそうか?」

「やってみるしかあるまい」

「だな、方向転換!目標イングラムエコノミー!」

方向転換し機体をエコノミーに向けると同時に発砲する、だが弾道は目標より大きく上に反れ当たらない

『機体を転換させるとほんの少しですがブレが生じます、ですので機体全体で転換させるのではなく足回りだけで転換する様に心がけてください』

『心得た!』

言われた通りカエサルは足回りだけで機体を転換させ発砲した、これも当たりはしなかったもののエコノミーの足元に着弾した

「やったなカエサル!」

「ほんの少しの操作でここまで変わるものなんだな、やはりレイバーの操縦は侮れない…」

二人がそう感心してると乾いた音が鳴りサムソンに衝撃を走らせる

「…当たったなこれ」

『撃った後は立ち止まらず速やかに移動してください、弾着で場所が割り出せてしまうので』

『…りょ、了解。模擬弾とは言え結構効くなぁ…」

 

その後、サムソンは10回目の射撃でとうとう当てる事ができた。模擬弾の弾が尽きるギリギリの所で成し遂げたことであった。

夕方になり練習が終わった、レイバーをハンガーに戻しコクピットから出る。土の匂いがみほの鼻腔をくすぐる。今日はいつもいる自動車部の人達は居ない、まだ回収作業を続けてるためだ。ふとエコノミーを見ると土煙を被りあちこちが汚れていた、どうやら先ほどの匂いの正体は自分のレイバーだったみたいだ。

(たまには自分で磨こうかな。いつも自動車部の人達に任せちゃ悪いしそれにこの子が居たから今の私が居るんだもの、嫌いになった特車道から逃げたのに皮肉にもその嫌いな特車道から大切な物、守りたいものが出来た。この子のおかげで私はいろんな事を学べた…ありがとうね)

そう思いながら掃除道具を取りに向かうのであった

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、次回からいよいよ試合に入りますよ〜筆者が一番死にそうになる戦闘シーンだ!どうぞご期待を!
それではここまでありがとうございました!
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これがアンツィオ戦です!part2

ど〜も恵美押勝です、さて皆さん「ガンヘッド 」と言う映画をご存知ですか?あれは戦車のロボが暴れる、AIと人間のバディものといい作品ですよ。是非ご覧になって下さい
それでは本編をお楽しみ下さい!


____まるでこの子を磨いたのが昨日ことみたいだ、みほはそう思いエコノミーを見上げる。また土汚れまみれになり爪先に泥のようなものがこびり付いてる、日は流れとうとう試合前日となった。今は最後の練習が終わったところである

(…とうとう明日は試合か、カバさん達はもう1500mから当てるのが得意になったしナディやガンバルギーニの動きも練習でみんな分かったはず。後は…試合でそれが生かせるかどうか。いけない、試合の前でそんな弱気のなっちゃダメだよね。取り敢えずまたこの子を磨こう、ナカジマさん達は例のレイバー達の修理で忙しいし…)

体を清掃道具入れの方へと向ける、そして歩こうとしたその時後ろから声をかけられた

「みーぽりん、何してんの?」

沙織達だ

「沙織さん」

「なになに何しようとしてたのよ」

「ちょっとエコノミーを磨いてあげようかなって」

「エコノミーを?何で?」

みほは初日で磨こうと思った理由を言おうと思った、だが理由が恥ずかしいものに感じられ咄嗟に嘘をつく事にした

「明日試合なのに泥だらけのレイバーで出場なんてカッコ悪いなぁって思って…」

「あっ、そう言うことだったの」

「でも私は多少の泥がついたレイバーの方がいいと思いますよ?ウェザリングは機体をカッコ良く魅せますからね」

「それはプラモの話だろ秋山さん」

「機体が綺麗だと心も綺麗になって試合の時落ち着いて試合出来そうだから私は磨くのいいと思いますよ?」

「成る程、華の意見は一理あるね。それじゃ皆んなでレイバー綺麗にしようっか!」

こうして全員でレイバーの清掃が始まった。みほと麻子はエコノミーを、優花里と沙織と華はラーダーを当たる

「こうして見るとやっぱ結構汚れてるね〜」

「それだけ私達が練習した証拠と言うことでしょうか」

「こんだけ練習したら明日の試合だっていけるでしょ!」

「慢心はいけませんよ沙織さん」

「慢心も実力のうちってね」

「そう言う事はもっと長い年月経ってから言えるセリフだと思いますよ武部殿…」

小一時間ぐらい達ようやく清掃が終わった

「やっと終わったな、…お腹すいた」

「何か食べに行きましょうか、折角だからイタリア料理でどうでしょう?」

「相手がアンツィオだから?」

「はい、いい願掛けになるかなと思いまして」

「じゃあたまにはウチで食べない?皆んなで作ってさ」

「沙織さんの家でかぁ、いいね」

「それじゃ何作ろうか、イタリア料理って言っても色々あるし…」

「確か秋山さんの映像に“ペパロニ”っていたよな」

「それじゃペパロニを使った料理…今からピザは時間がかかるからピザトーストは?」

「いいですね、確か相手の隊長は“アンチョビ”ってお方ですからそれを使った料理はどうでしょうか?」

「あ、そう言えばそんな名前だったね。う〜んそれじゃアンチョビを使ったパスタでも作ろうか」

「となれば“カルパッチョ”って名前の人も居そうですね」

「じゃカルパッチョもってことで!じゃあ早速買い物に行こう!」

「あの〜武部殿、私も付いてって言っても宜しいでしょうか?」

「ん?言いに決まってるじゃない!ゆかりんも大切な友達なんだから!」

「ありがとうございます武部殿!」

一同は買い物へと繰り出す、材料はそんな多くはないので早めに終わった。レジ袋をぶら下げ沙織の部屋へと入る

「…相変わらず沙織の部屋は綺麗だな、女の子っぽくて」

「私女だよ!…麻子何寝ようとしてんの!」

「無理に朝起きたつけが夜に回ってくるんだ、私はダメだ。ご飯が出来たら起こしてくれ…」

「今寝たら変な時間に起きて余計辛いよ、タダでさえ生活リズム狂ってんだからこれ以上狂わせないの。さあさあ起きた起きた!」

そう言いながら沙織は麻子の体を揺らす

「揺らすな沙織、分かった起きるから…!」

しぶしぶ麻子が起き上がり台所へとおぼつかない足取りで向かう、それを苦笑いしながら優花里が見ていた。

 

普段料理はあまりせず増してイタリア料理なんてしたことがないみほ達であったが沙織の指示の元で作ることによってなんとか出来上がった、部屋一面に美味しい匂いがする

「「「「「いただきます!!」」」」」

しばらく食べ進めるとみほが喋りだす

「やっぱり沙織さんが教えてくれると一味も二味も違うね」

「本当に武部殿は料理が上手で羨ましいでありますな」

「にへへ、そんなに褒められると照れるなぁ」

「そりゃ沙織は女子力上げるのに必死だからな、モテたいその一心でここまでの腕前になるなんて羨ましいもんだ」

「う、うるさいよ!」

沙織の発言に全員が笑い部屋全体が朗らかな雰囲気に包まれる、また食べ進めるとみほが急に箸の手を止めた。一同は思わずみほの方を見る

「みぽりんどうしたの?もうお腹いっぱい?」

「ううん、ちょっと明日の試合について考え事しててね」

「もしかして緊張してる?」

「…本音を言えばね、勿論皆んなことは信用してるし最初から負けるだなんて思ってないよ。でもなんとなく心の奥底で不安がってるんだ…“大丈夫”かなって…矛盾してるよね、信じてるのに疑ってるなんて」

「でも何か気持ち分かる気がする、テスト勉強必死にやって自信がついても試験前日になると不安になるってことあるよね、あんな感じ?」

「例えがチープすぎじゃないかそれ…」

「成る程みほさんの気持ちが分かったような気がします。…でもそんなに思い悩む事はないと思いますよ?」

「え…?」

「慢心と言う言葉があるように大事な日の前で己の力を過信してしまうのは良くない事なんです。ですから最後まで仲間を信じて疑いぬく、これは決して悪いことではないと私は思うんです。」

「……。」

「それで仲間や己を信じるのは土壇場で良いんです、みほさんがこの間の試合で私に狙撃手の撃退を受け入れてくれたように」

…乱暴な言い方をしてしまえば開き直りに近い華の理論ではあったが間違ったことは言ってない、みほはそれによって幾らか心が軽くなった気がした

「華さん…ありがとう、気持ちが楽になった気がするよ」

「みほさんは前に沙織さんに言われてましたが一人で背負い込みすぎなんですよ」

「そうですよ、西住殿には我々が付いてます!」

「無理に一人で壁を乗り越えようとするな、私達が足場になってやるから」

「私達友達でしょ!」

みんなの優しさが心に染みる、こう言った事はここに来て何度もある事だがやはりいいものである

「みんなありがとう…!」

そう言うと沙織達はニッコリと微笑んでくれた

「さぁさぁみぽりんじゃんじゃん食べて食べて!」

言われるがままに食べたピザトーストは何処か優しい味がした

試合当日

AM9:00 選手待機ゾーン

この日はカラッと晴れた晴天だった、日差しが容赦なく全員に襲う

選手全員がみほの前に集められ試合前最後のブリーフィングが行われている

「暑いねぇ西住ちゃん…それで何だっけ?」

「はい、今回の試合からライアットガンを使用します。大抵のレイバーに通用する武装ですが出来ればナディに対して使用して欲しいんです」

「どうしてですか隊長?」と梓が聞く

「ライアットガン…つまりショットガンは集団で攻められた時こそ本領を発揮します。ナディは単体ではこず集団で襲いかかる戦法を向こうは一回戦でやっていることが分かってます」

「成る程、つまり集団で襲いかかってきたところをこれで一網打尽と言うわけですね」

「その通りです梓ちゃん。…では次に」

と話を続けようとした矢先突然クラクションの音が響いた、何事かと思い全員が音の方に目線をやるとジープに2人乗ってこちらに向かってるのが見えた。

「あれは何ですかね会長?」

「あぁ、チョビ子だな」

「チョビ子ぉ!?」

「アンチョビだからチョビ子、言いネーミングセンスでしょ」

お世辞にもいいとは言えないあだ名にみほは苦笑いで答える

そうしてる間にジープはみほ達の手前で止まった

「たのもー!」

とアンチョビが飛び降りこちらへと向かう

「やぁやぁチョビ子、おひさ」

「チョビ子じゃないアンチョビ!…お前本当に特車道やってたんだな」

「まぁまぁその話はおいおいやるとしてだね、何の用かな?」

「試合前の挨拶に決まってるだろ!」

ゴホン、と咳払いをしてアンチョビは胸を張った

「私はアンツィオ高校のドゥーチェ“アンチョビ”だ、そっちの隊長は!?お前か杏!?」

とアンチョビは杏を指差す

「いやいやまさか、私じゃないよ。お〜い西住ちゃん」

呼ばれてみほはアンチョビの前へと誘われる、アンチョビはみほを一瞥した後得意げな顔になった

「あんたが西住流か」

「西住みほと言います」

「ほ〜ん、まぁ相手が西住流だろうが島田流だとろうが私達は負けんぞ…じゃなくて勝つ!」

そう言うとアンチョビはみほに手を差し出してきた

「今日は正々堂々と宜しく頼む、お互い楽しい試合にしような」

「こちらこそよろしくお願いします!」

この人はケイさんと同じタイプの人なんだなと思いながらみほは手を握り返す

 

さて、そんな光景をほんの少しから離れてたカエサル、握手が済んだのでいよいよレイバーに乗り込もうとした瞬間彼女は懐かしい声を聞いた

「たかちゃ〜ん!」

そう言いながら自分の方へと向かって行ってるの黄色の髪の少女、間違いない。彼女だ

「ひなちゃん!」

久しぶりの再会に思わずいつもと違うトーンの声が出る

「ひなちゃん久しぶり!」

「たかちゃんこそ!本当に特車道始めたんだね!」

「うん、まだ日は浅いけどね」

「ねぇ、どのレイバーに乗ってるの?」

「え〜?ひなちゃんが教えてくれたら教えるよ」

「それじゃ無理だね、私も秘密だもの〜」

「今日はお互い精一杯頑張ろうね」

「うん!もし交えることがあったらその時は…」

「相手がひなちゃんでも全力で挑ませてもらうよ!」

「だね、…それじゃ私もう行くね。試合が終わったらゆっくり話そう!じゃあね!」

「バイバイひなちゃん」

2人の会話をジーッと見ていたカバさんのメンバーは親友の変わりように驚きが隠せなかった

「たかちゃん…ってカエサルのことだったでござるか」

「キャラが全然違うぜよ」

「お〜いたかちゃん!」

とエルヴィンがからかって呼ぶとカエサルは照れた顔を真っ赤にしながら「カエサルだ!」と怒ってきた

3人が逃げるフリをしたその時試合開始10分前を告げるアナウンスが鳴った。全員に緊張が走る、さぁお遊びはここまでだ

「全員集合しましたね!では全員搭乗!」

___

みほが自機のキャリア前に行くと沙織達が集合していた

「みんな…」

「行くぞ西住さん」

「楽しい試合にしましょう西住殿!」

「今が土壇場ですよみほさん」

「背負いすぎず遠慮なく私達を頼ってね!」

「…ありがとう皆んな、それじゃ行こうか!」

_____真剣に、楽しく、巨大な機械を動かす場所へと

 

コクピットに入り電源のコックをひねる、ブンと音が鳴り小刻みに揺れる。インカムに手をやりキャリア担当のナカジマにデッキアップの指示をする。

ゴウンゴウンと仰向けになってた機体が垂直へとなる、その間喋る人はいない、機械の音がするだけだ。みほはデッキアップが終わるまでのこの静寂な好きだ、目を瞑って呼吸を整えると頭からアドレナリンが出てくるのを感じた思考がどんどんクリアになってくる、レバーを握る手がジワリと滲む。デッキが上がった瞬間そこにいたのは天然少女としての「西住みほ」ではない、大洗女子学園隊長としての「西住みほ」である

キャリアから降りて全機一列に並ぶ。全員がまだかまだかまだかとアナウンスを待つ、そして20秒後…待ち望んでいた声が聞こえる

『試合開始!!』

戦いが始まった、みほはすっと息を吸いインカムのボタンを押しこう言う

「レイバー・フォー!!」

 

今回の試合会場は山岳地帯、動きにくい場所ではあるが機体を隠しながら行動するのにはピッタリの場である。そんな場所を1両の指揮車が颯爽と走っていく

『先行しているアヒルさんチームの指揮車、状況を教えてください』

『十字路まで残り1kmです』

『十分注意して前進しつつ状況を逐一報告をお願いします、開けた場所に出ないようスピードは早すぎず遅すぎずで』

『了解!』

そして数分もしないうちに指揮車は十字路手前へと到着する

あけびはエンジンを切りレシーバーを手に取り報告を、索敵は妙子に任せることにした

『目標地点に到着しました、これより索敵を開始します』

と報告を終えレシーバーを切ろうとした時肩を叩かれたのに気づいた

「どうしたの妙子ちゃん?」

そう聞くと黙って双眼鏡を渡してきた、何が何やら分からないまま受け取り覗いてみるとそこには信じられない光景が広がっていた

「…!あのサムソンに似てるのと小さいのハンニバルとナディだ!」

「佐々木ちゃん隊長に報告しなきゃ!」

慌ててレシーバーを手に取り電源を入れる

『隊長、十字路の北にハンニバル2輌、ナディが4輌います!』

『それならば南から回り込んで叩けばいいだろ、勢いに乗られる前に叩け!』と桃が通信を入れた

『でも全周警戒の可能性があります、もう少し警戒した方が…』

『相手はアンツィオだぞ!?そんな高度な戦術を取るわけがない!突貫だ!』

…正直多少の不安は残るがここでああだこうだと議論してもしょうがない、リスキーだが突っ込んで仕掛けるのもまた一つの手だろう、だがこのまま馬鹿正直に全車輌を突っ込ませる気はさらさらない。可能な限りリスクは避けておきたいものだ

『分かりました、では十字路へ移動します。ただし全員は南には行かずこのままのルートで、ウサギさんチームだけ南へ先行してください。何かあったら必ず報告するように』

『了解です!』と梓が言う

そして勢いよく本隊と離れ十字路南へと向かう、みほはそれを見届けると通信機に手を伸ばした

『アヒルさんチーム、何か変化はありましたか?』

『いえ、全くないです。駆動音すら聞こえません』

『分かりました、では引き続き待機をお願いします。本隊がそちらに向かいますので』

 

一方、その頃ウサギさんチームはラーダーがかなり先行しておりパイソンがそれを追いかける形になっていた

山岳地帯と言うガタガタ地形にも関わらずラーダーは平地を走るが如く駆ける

「凄い沙希ちゃん、めちゃくちゃ操縦上手くなってるじゃん」とあゆみが褒めると沙希は何も言わずただ親指だけを立てた

「もっと飛ばして飛ばして〜」と優希が言うとそれに応えるようにアクセルを踏んだ。

『出過ぎ出過ぎ!もう街道に出るよ!』

梓の忠告に我に帰った沙希はブレーキを踏むも時すでに遅し、ラーダーは道のど真ん中で静止してしまった

「あ、あそこ敵いるじゃん!」

「マジか!沙希、後退後退!」

慌てて機体を引っ込めるが恐らくバレてしまっただろう、引っ込めると同時にパイソンがようやく追いついてきた

『何やってんのアンタ達!』

『ごめん、調子乗りすぎた…』

『私達の任務はあくまで偵察なんだからね?操縦技術が上がったのは喜ばしいことだけど…』

とぶつくさ言いながら梓が通信を入れる

『西住隊長、南に敵を発見しました。…しかし見られた可能性が』

『発砲は!?』

『今のところは…』

『くれぐれも交戦は避けてください』

通信を切るとみほは麻子に話しかけられる

「この短時間で要所を制圧か、さすが機動力重視のアンツィオだな」

「南と北を制圧か…わざと私達を中央突破させて包囲して一気に殲滅、なんて作戦かもしれないね」

「“ノリと勢い”が自慢の学校にしては随分お堅い戦法をとってくるじゃないか、私はてっきり1回戦のように挑発しておびき出す作戦かと思ったぞ」

「相手も相手でしっかりと対戦相手ごとに作戦を練ってるんだよ」

「作戦ってのはアンツィオの校風には似合わなそうだな」

「いや、寧ろノリと勢いに乗せるために作戦を組んでるんだよ、向こうの隊長…アンチョビさんか…仲間の個性を生かして戦う戦法、私も見習わなきゃな」

ケイさんと似ていたあの人は私にまた新しい道を開かせてくれるような気がした、だからなのかあの人のことが気になってつい考え事をしてしまう。思考にふけっていると

「試合中の考え事はほどほどにしとけよ」

と麻子が現実の世界へと戻してくれる

(いけない、まずはこの試合に集中しなきゃ)

とみほは自分の頬を叩く

『ウサギさん、相手の正確な編成を教えてください』

『ハンニバル3輌、ミディが7輌です』

『あれ、確かレギュレーションでは15輌じゃなかったけゆかりん?』

『ええ、これでは合計16輌、そこにいないプロトタイプ、ガンバルギーニを合わせたら18輌になっちゃいます』

『インチキなのでは?』

『いや、華さん、向こうの隊長さんに限ってそんな事はありえないと思うよ』

…そう、絶対に有り得ないのだ。握手の時にみたアンチョビさんのあの目、あれはケイさんと同じ試合自体を純粋に楽しんで人が持つ目であることを私は知っている。だけど数が合わないと言う現実、これが分からない以上アンチョビさんがインチキを使用したと認めざるを得なくなる。そんなのごめんだ、考えろ…考えるんだ私

 

ふと、みほはほんの少し前の会話を思い出す

『アヒルさんチーム、何か変化はありましたか?』

『いえ、全く。“駆動音”すら聞こえません』

みほはこの会話に違和感を覚えた

どうして電源を落としてるんだろう…?進路を塞ぎ中央突破させる作戦ならば直ちに動けるように電源を入れとく必要があるはず、車と違いレイバーは電源を入れてから稼働状態になるまで5秒程度かかる…試合では1秒が惜しいものなのに何故電源を切るんだろう?それで初動が遅れてしまったら作戦が台無しなのに…

_____その時みほはまたある出来事を思い出す、ほんの少し前…あの捜索した時のことを、その瞬間完全に分かった。この数字の謎が、そしてやはりアンチョビはインチキをしていないと言うことを

「そうか、サメだ!」みほは急いで通信を入れる

『ウサギさん、アヒルさん。退路を確保しつつウサギさんは斉射、アヒルさんはクラクションを鳴らしてこちらの存在を向こうにわざと気づかせるようにしてください、反撃されたら直ちに退却を』

『『了解しました!』』

指示通りにラーダーが後退しながらチェーンガンで斉射し相手に命中させた。するとパタン、と軽い音を立てて前方にあるレイバーが倒れる。指揮車はクラクションを鳴らすも反応は一切なくただそこに突っ立っていた

「…倒れても白旗判定は出ないし音が軽すぎし背面が木材…」

「かなり鳴らしたのに一切の反応がない…」

「「つまりあれは看板!と言うことは偽物だぁ!!」」

報告を受けてみほは内心安堵と共に心の中でガッツポーズをした

やはりアンチョビさんはインチキなどやっていなかったのだ、信じて正解だった。と、みほは試合に勝った訳では無いのにホッとしてることに気付き首を横に降り雑念を払う

「欺瞞作戦か、中々面白い作戦だったが詰めが甘かったな」

「でもそれがなきゃ私達今頃どうなってたか…」

「今頃相手はこちらを十字路の中心におびき寄せて包囲しようとしてるだろうな」

「持ち前の機動力だから出来る作戦だね…なら、回り込むならこちらも回り込みましょうか」

みほはドーファンをF20〜24地点に行かせて裏を取るように命じた、現在位置ならば指揮車よりドーファンがいる位置の方が早く回れるし本格的な戦闘をしないといけないからである、次にウサギさんをA18〜25地点へと向かわせる。

(これがどう出るか…神のみぞ知るって訳か、なんか会長が言いそうなセリフだなぁ)

 

ウサギさんチームは命令を受けて直ちに動き出す、今度はパイソンの速度に合わせて走り出した。平地を駆けていると山岳にハンニバルが居るのがあやには見えた

『またハリボテ発見!撃ちます!』

『ちょっと待ってあや!ハリボテなら撃つ必要は…!』

時すでに遅し、銃口から光が弾け光の矢がハンニバルへと向かい命中した

…ゴン、と言う重い音と共に

「ゴン…?」

音が表す意味に気づく暇もなくハリボテだと思ったものが撃ってくる、相手も同じチェーンガンだ。

「コイツは本物だ!」

「だから言ったのに…!」

梓が頭を掻きながらインカムに手をやる

『A23地点でハンニバル発見!勝手に攻撃してすみません、今交戦中です!』

『大丈夫、おかげで敵の作戦が分かりました。ハンニバルとは付かず離れず攻撃して下さい。西に移動したらそれは合流を意味し敵の作戦にハマってしまいます、なのでなんとしてでも阻止して下さい』

『分かりました、任せてください!』

『こちらもF24地点東でミディの大群を発見しました!』

『了解、ではあんこう、カバ、カメはこのまま前進し包囲される前にフラッグ車を叩きます、当然こちらのフラッグ車であるアトラスを危険に晒す事になりますが…』

『つまり私達が餌になればいい訳だね西住ちゃん』

『そういうことです』

『あいよ、んで今回の作戦名は?前回無かったしさ』

『そうですね…引き離したりくっ付けたりする磁石のような作戦なので…“マグマグ作戦”でどうでしょうか?』

『いいんじゃ無い?相変わらず可愛いネーミングだねぇ、俄然やる気が出るよ』

『それではこれよりマグマグ作戦を行います!』

 




さて、次回はバリバリ戦闘シーンです!今回はpart3で収まるかなぁ?
感想などどしどし送ってください!めちゃくちゃ作者が喜ぶので
それではご視聴ありがとうございました!


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これがアンツィオ戦です!part3

ど〜も恵美押勝です、池袋にガルパンポップストアが出来てめっちゃ嬉しいです。
それでは本編をどうぞ!


みほ達がマグマグ作戦を開始した頃アンチョビ達のレイバーはとある場所に鎮座し待機していた。その最中、彼女は何やら嫌な予感を感じていた。どうも落ち着かず隣にいるレイバーに通信を入れる

『なぁカルパッチョ』

『どうしましたドゥーチェ?』

『デコイを置いて敵を立ち往生させる“マカロニ作戦”だが…上手くいってるのかなぁ?』

『それは上手くいってるんじゃないですか?失敗する要素なんてありませんし』

『普通はそうなんだよ、でも今回の作戦ペパロニに任せてるからさ…』

『あぁ…そういうことでしたか』

ペパロニはアンチョビが特車道を始めるにあたって最初に勧誘した人物である、学園艦をミディで爆走してた所を当時完全にレストアしてなかったハンニバルを使い取り押さえ半ば強引に勧誘したのがきっかけだ、それ以外にもカルパッチョも彼女が勧誘したりと現状アンツィオの選手はほぼ勧誘された人物が中心だがそれはひとまず置いておこう。

ペパロニはレイバーの操縦に関して言えば天才的と言っても過言ではなかった、スポーツカータイプであり操縦が難しいガンバルギーニを僅か三日で己の手足のように使うことがその証明である。だからペパロニの実力は他でもないアンチョビ自身が一番信頼していた、それなのに何故不安なのかと言うと

『あいつ、抜けてる所があるから不安でしょうがないんだよ…!』

『ペパロニは作戦内容忘れたりたまに走りに夢中になって作戦区域から離脱することありましたもんね』

『よく言えば天然、悪く言えばバカだ。今でこそだいぶマシになったが…今日の作戦内容は何度も復唱させたから大丈夫だと思う…いや大丈夫!』

持ち前の上昇思考で己を鼓舞する、そうでないと不安でしょうがないからだ

故に彼女は別のことを考えることにした

____今回の相手、大洗は初めて戦う相手だ。使用してるレイバーは我々よりも強いのが気になる所だがそれ以上に気になるのは隊長である..“西住みほ”だったか、彼女を握手の際見たときとてもではないがあのサンダースを破ったチームを率いる隊長には見えなかった、おっとりとしていてパッとしない感じで隊長としての風格を感じられなかった。彼女が西住流?何故杏は自分自身を隊長とせず彼女を隊長にしたんだ?何か特別な意図があるのか

…それを知るためにもこのマカロニ作戦は絶対成功させなくては、成功させて絶対に勝ってみせる。

レバーを握る手に力が込められる、まだかまだかと気持ちが前のめりなっているのを感じる。一旦落ち着くために深呼吸をしたそして腕時計をチラッと見ると試合開始から20分が経過していた。幾らなんでも遅すぎる、何かしらの動きがあっても良いはずだがそのことを告げる通信は入ってこない。痺れを切らしアンチョビはペパロニに通信を入れることにした

『…おい、マカロニ作戦はどうなってる?』

『すいませんちょっと後にしてもらってイイっすか?』

『何でさ』

『いやぁそれがドーファンに追っかけられてるんですわ、こりゃバレましたねぇ』

どうやらペパロニの話は本当らしく会話の最中に銃声が混じって聞こえる。彼女の言う通り作戦がバレてしまったのだろう、だが能天気に状況を報告するペパロニに対してほんの少しだけカチンと来てアンチョビは思わず頭を掻きながら声を上げた

『「バレましたね」じゃない!ちゃんとデコイ設置したんだろう!?』

『置きましたよ!全部!』

『はぁ〜!?1枚は予備だってあれほど言ったじゃないか!?全備置いたら数合わなくてバレるだろ!なのにお前ときたら…!』

『あ、そっか!いや〜姐さんやっぱ賢いっすね!』

『お前がアホなだけだ!』

と言いアンチョビは通信機の電源ボタンを乱暴に押しチャンネルをカルパッチョに切り替える

『おい、ペパロニがやらかした!出るぞ!恐らく敵はこの近くまで来ている!』

『了解!』

通信を切る時アンチョビはカルパッチョのため息が聞こえた。

分かる、分かるぞその気持ち。まさか今回の試合の肝であるマカロニ作戦をドジるだなんていくらいつものドジだろうと今回はそれが物凄く痛い、試合が終わったらどうしてくれようか。

と呆れと怒りが混じった感情になりながらも彼女は冷静に操縦者に移動先を伝えた。

 

一方その頃アヒルさんチームはミディ、ガンバルギーニと追いかけっこをしていた。森林地帯とは違い遮蔽物が何もないグラウンドのような場所である

7輌のミディに1輌のガンバルギーニ対ドーファン、相手側が普通のレイバーならば絶対的な不利な状況ではあるがミディに搭載してる武器ではこちらのレイバーは倒せない、しかしこちらは1発さえ当たれば撃破できる。そんな美味しい状況なのだ。だがそう簡単には物事は進まない

「クッソー相手がグラグラ走るから照準がブレる!」

「おまけにこちらも動いてるので尚更ですねキャプテン…」

典子がダメ元でリボルバーカノンを1発撃つが見当はずれな方向へと行ってしまう、その間ミディが集結しなんと後ろ向き走行をし始めながらこちらを攻撃してきた。

8mmチェーンガンが容赦なくドーファンに当たる

「痛てててててててて!めっちゃ攻撃喰らってる!」

「当たってるのは私達じゃなくてこの子ですから!それより向こうが攻撃に夢中になってる今がチャンスです!」

「んなこと言ったって…」

と言い典子は前方の大群に注目する、残弾5発に対してミディの数は7

弾数が足らないのは明白だった。どうしたものかと思った瞬間彼女はある事を思い出した、そしてレバーをグイッと引きリボルバーを収納する

「!?キャプテンなにを!?」

「やだなぁ忍、お前まで忘れたのか?西住隊長が最初に言ってた事を!」

そしてレバーを再度引いて両腕を腰の辺りに回してある物体を掴みそれを前に回してガチャっとスライドさせた

「そうか!こう言う敵が密集してる時は!」

「ライオットガンってね!」

ズドン、と音が鳴り大量の弾が扇状に広がる。いきなりの発砲でろくな回避運動が出来なかったミディ全機に命中した、当たった衝撃でスピンしどんどんドーファンの後ろへと下がっていく

「どうだ!これでウロチョロしてるのは消えたぞ!」

「白旗判定が出てるがどうか見えなかったのでまだ分かりませんよ!」

「まともに喰らってるんだぞ?無事じゃないだろ」

残すはガンバルギーニのみだ、もう一度これを使って確実に倒す。一気に8輌ものレイバーを倒すだなんてこれはバレー部の時代来てるぞ…!復活も夢では無い!

と考えながら前方を見た瞬間目の前が真っ白になった。反射的に手で目を覆い隠す、そして警報音らしき音がコクピット中に響き物体が落ちたような鈍い音も聞こえた。何事かと思い忍は思わず機体を止める、何が起こったかモニターで確かめようとするも焼き付いたように全体が茶色になっておりその役目を果たさなかった。

「…何が起こった忍」

「キャプテン、上の方で視認で確認出来ませんか!?」

「ダメだ、目がチカチカしてぼんやりとしか見えない…!忍は目が見えるんだな?なら機体状況を確認してくれ、どんなのかは知らんが攻撃を受けたことには間違い無いからな」

指示を受けサブモニターをみると〈判定センサーに反応アリ〉との表示があった、詳細を確認するためモニターを操作すると〈左腕破損〉と書かれてある

忍は典子にその事を伝え次に何が落ちたか確認したいが典子の目が頼れない以上自分が見るしか無い、しかし前方にはまだガンバルギーニがいるかもしれない、だが状況を把握しない限りどうも動くことはできないと思い覚悟を決めコクピットを開けようとするとピピピと音がなる

「キャプテン、通信入ってます!」

「分かってる!

『はいこちらアヒルさん…妙子か!今どこにいる!」

『すいません今来ました!直ぐ後ろです!どうしたんですか道の真ん中で止まって!?』

『よく分からん攻撃を受けてな、ちょうど良かった今この周りの状況を教えてくれないか?』

『えぇと…ライオットガンが地面に落ちてます!』

…やっぱりあの音はライオットガンが落ちた音だったのか。これは痛い、例え拾っても片腕だけじゃ衝撃に耐えきれず撃ったこちらが倒れてしまう。それも問題だがもう一つ問題がある、まずはその方が優先だと思い典子は通信を続ける

『前に何かレイバーはいるか?ガンバルギーニとか』

『いや、前方には何もないですね』

『…逃げられたか、すまないが妙子達は先行してガンバルギーニを探してくれないか。まだ奴はそんな遠くには行ってないはずだ』

『分かりました、キャプテンはどうするんですか?』

『ちょいとリロードしてから追っかける、見かけたら連絡入れてくれ』

こうして指揮車は颯爽と走り出し見えなくなった

機体を膝立ちの状態にさせて忍がリロードしに降りる太もも横のハッチを開けて予備弾を一つ取り出しながら話しかける

「キャプテン、目の方は大丈夫ですか?」

「あぁなんとかな、相手が使った武器…あれはカノン砲だな」

「あの新兵器ですか…いざ食らうと痛いもんですね、左腕が壊れちゃいましたしモニターもまだ復旧には時間がかかりそうだし…」

「敵は取り逃してあと6発の銃しか使えないこんな状況だがここからがバレー部根性の発揮どころだ!忍弱気になるなよ!ラスト5秒の逆転ファイト目指していくぞ!」

「最後の言葉の意味がいまいち分かりませんでしたけど…言いたいことは大体分かりました!」

そしてリロードが終わり機体へと忍が戻ると再び通信が入る

「妙子見つかったか!?」

「えぇ、キャプテンがいる場所から70m離れた場所で発見しました!現在も走行中!」

「よし、直ぐに出るぞ!」

「忍!」

「分かってます!」

合図と共にドーファンは駆け出す、銃を固く握りしめて

 

アヒルさんチームが駆け出す数分前、ウサギさんチームもまた追いかけっこをしていた。少し違うのは前者が追いかける側に対してこちらは“追いかけられる側”であった。先程デコイだと思って発砲したハンニバルに3輌にしつこく追われていた。

『ハンニバルが持ってるチェーンガンって当たれば即死じゃん、しかもそんな奴が3輌も!逃げるしかないでしょ!』

『でも逃げてばかりじゃ…!何とか倒さないと、任せろと見栄を切った以上絶対に…!』

その間にも敵は容赦なく撃ってくる、だがデコボコ道で照準が合わないのか運良く外れてくれた

「危なかった〜!ねぇ梓ちゃんこっから先どうするの!?反撃しようにもこっちは逃げるのに精一杯だよ!」

「ちょっと待って今考えてる!」

確かに香里奈の言う通りこの状況で反撃するのは愚の骨頂だ、反撃しようと転換した瞬間蜂の巣だろう。だがこのまま逃げ続けてもキリがない、そうしてる間に敵の本隊と合流されたらお終いだ。どうすればいい

梓はピンと思いついた

___合流する時西住隊長は『西に転換する』と言ったはず、つまりこちらを追うのを諦めなくてはいけない時がやってくる。その時相手はこちらに背を向けることになるはず、そうなれば勝機が見えるがこれは危険な賭けだ。合流するまでの短い時間で確実に仕留めなくてはいけない。それも3輌!

だけどそれしか方法はない…

意を決して梓はインカムのボタンを押す

『あゆみ、私達はこのまま逃げるよ』

『逃げるったってさっき倒さないとって…!』

『うん、だけど今のままでは手も足も出ない。それは私達が追われる立場にあるから、だけど立場が変われば手が出せる!』

『立場を変える!?そんなことどうやって…あっそっか!』

『そう、逃げ続ければいずれチャンスが訪れる、今は“逃げるが勝ち”だよあゆみ!』

「香里奈、聞いてたでしょ?」

「あい!このままの距離を維持し続ければいいんだね!」

「そう、後ろの攻撃にはこれまで以上に気をつけて。今は逃げることだけ考えればいいから!」

そしてそのまま撃たれてはかわし、撃たれてはかわしを繰り返して走り続け

気づけば森林地帯からアヒルさんがいたようなグラウンド地帯に出ていた、相変わらず後ろからの攻撃が激しいがどうにかして回避する、ふと梓が前に目をやると突然ミディの集団が見えた

まずい、と思いとっさに身構えるが何故かスルーされて気がついた瞬間既に後ろを走り去っていった。あまりの突然の出来事に途方に暮れる梓だったがその思考は突然の揺れで崩される

「香里奈何があったの!?」

「ごめんいきなり前にドーファンが現れて!ほんっとぶつからないのにギリギリだった…!」

そう言われて再度後ろを見ると確かにドーファンが走っていた。一瞬の出来事であったが随分肝が冷えたが再度逃げること集中する。

逃走すること4分ぐらいだろうか、突如ハンニバル達が方向転換を始め西へと向かい始めた

ついに待ち望んでいたチャンスが来たのだ。急いでこちらも転換させて追っかける

『ついにチャンスが来たよ、あゆみ準備は?』

『やっと来たか!いつでも発砲出来るよ!』

『…よし、闇雲に撃っても当たらない、それは敵の攻撃を見て分かったでしょ?』

『うん、つまり立ち止まって落ち着いて撃つんだね』

『そう言うこと、この先の道はアップダウンが激しい坂道だからアップしたところを狙い撃つよ!』

2輌は坂道の頂上で停止させハンニバル達が次の坂道を登るのをじっと待つ。梓はゆっくりと息を吸い標準を合わせるためモニターを注視する

「…ただ当てるだけじゃダメだ、チェーンガンはともかくこっちはリボルバー、胴体に当てても弾かれるから確実に足に当てなきゃ…!」

深く吐きながらレバーを前に倒してミリ調整を行う、気持ち下向きにし弾の速さを考えてほんの少しだけ早く撃とうと考える。いわゆる「偏差射撃」と呼ばれるものだがその時の梓には知るよしも無かった、ただ「こうするべきだ」と試合経験と練習経験で培った梓の脳がそう告げていた。

息を吐き切りピタッと息を止める、そしてとうとうその時はやって来た

___ここだっ!

直感的に判断し梓は力強くトリガーボタンを押す。轟音と共に放たれた弾は線を描き吸い込まれるようにハンニバルの足に当たった。片足が壊れた機体はそのまま倒れて動かなくなった、それは梓だけではなくあゆみ達が狙ったもう一輌のレイバーにも起こっていた。

それらの光景に興奮することもなく次のターゲットを狙うが1輌が既に坂を上り切り下り始めていた

『逃げられた!』

『大丈夫、また追っかけて次のタイミングを狙うよ!』

『梓、倒したレイバーはどうするの?撃破したわけじゃないんだよ?』

『放っておいても大丈夫だと思う、修理する頃にはきっと終わってるだろうから…!それより今はあれを追うことが先決だよ』

『だね!よし、もう一息だ!』

___

ところ変わってこちらはアンツィオサイド、ペパロニのポカをどうにかするためアンチョビはレイバー達を引き連れて動いていた

さてどうしたもんか…ミディ隊が無事だといいんだが…万が一の場合今ここにある4輌だけで敵と戦わねばならんかもしれないな。いや弱音吐いてどうする私!例えそうなったとしても私は勝つぞ!

そう考え事してると前方から音が聞こえた

…ミディか?いやこの駆動音はミディじゃない!まさか…!

アンチョビの予想は的中した、アンチョビ達、みほ達のレイバーがすれ違い互いのコクピットからお互いの顔の表情まで見える距離まで接近していた。ほんの一瞬の出来事だがアンチョビは冷や汗が止まらなかった、慌てて我に帰り指示を出す

『全車停止!敵フラッグ車と隊長車発見!森へ逃げ込め!木に隠れながら応戦するぞ!』

そう言ってアンチョビ達は森へと入る

…カルパッチョのハンニバルを除いて

『サムソンの相手は私は引き受けます!ドゥーチェはフラッグ車を!』

『…分かった、頑張れよ!In bocca al lupo!(幸運を祈る)』

『si(はい)!』

アンチョビが対峙した大洗のレイバー…エコノミー、ラーダー、アトラス、サムソンの中で一番危険なのは高火力を持つサムソンである。それを引き離し少しでもドゥーチェがフラッグ車を倒しやすくするためと言うのがカルパッチョの目的だがもう一つあった

(あの機体に貼られてたカバのパーソナルマーク…間違いない、たかちゃんがチャットでアイコンにしてるものだ!)

そう、サムソンにはカエサルことたかちゃん乗っている。カルパッチョは自分と同じ特車道を選んだ親友の力を見たかったのだ。戦いたくてしょうがなかった、つまりこれは彼女なりのワガママだ。ずっとアンチョビの指示を受けてから行動する彼女は初めて自分の意思で行動を起こしたのだ。それだけ彼女にとってカエサルと言う人間は大切な人なのだ。大切だから故に手合わせしたくなる。そんな思いを載せてハンニバルはサムソン目掛けて突撃する。

そして出会い頭チェーンガンを放った、まるで挨拶をするが如く素早い動作であった

だがその射撃は掠めただけに終わる、ようやく目の前の状況に気がついたサムソンが銃を構える。ハンニバルは後退りしサムソンも後退りをする、両者の間に静寂という名の緊張が走る

そして数秒後サムソンが駆け出した

こうして親友同士の戦いと言う熱い戦いの火蓋が切って落とされたのだった。

 




3話じゃ終わらんかったよ…アンツィオ戦は情報量が多いからね、しょうがないね。part4で終わらせますんでどうか…どうかお待ちを!
それでは!


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これがアンツィオ戦です!part4

ど〜もどもども恵美押勝でございます、連続模試や池袋遠征でだいぶヘトヘトです(涙)
それでは本編をお楽しみください!


突如現れた敵にカエサル達は驚いた、森林地帯へと逃げ込んだアンツィオのレイバーを追うために同じく森林へと入り込んだみほ達の後に続こうとしたらいきなりハンニバルがこちらに向かって来たのである

「何…!?フラッグ車じゃなくて私達を狙ってるだと!?カエサル!」

「あぁ!」

相手が発砲してくることを見越してカエサルは機体の軸を少し傾ける。そして案の定発砲してきたハンニバルの攻撃を交わすことに成功した、そしてほんの数歩だけ後ろへと下がる

「危ない危ない…って落ち着いてる場合じゃないか、私が隊長に連絡してる間応戦頼む」

カエサルが頷くのを確認してエルヴィンはインカムの電源ボタンを押す

『隊長、どうやら面倒なことに巻き込まれたようだ』

『相手のレイバーと交戦中…と言うことですか』

『あぁ、どうやらこのレイバー私達が狙いらしい』

『分かりました、カバさんチームの健闘を祈ります』

『ああ、ここは任せて隊長達は先に言ってくれ』

そして通信を切ったエルヴィンはこう呟いた

「一度こんなセリフ言ってみたかったんだ」

「…状況が少し違うと思うしんなのん気なこと言ってる場合じゃないぞ」

「だな、相手はこちらと同じタイプの飛び道具しかないレイバー…接近戦には弱いはずだ。なら先に突撃してほぼ0距離から食らわすぞ、相手が行動できる前に叩く!これでどうだ」

「いいだろう…よしいくぞ!」

カエサルはレバーを前へ勢いよく倒し機体を傾けながら前進させる駆け出したサムソンの突進はハンニバルによって軽くいなされ明後日の方向へと行く、これにより戦いの場は森林地帯から木々が一切ない更地へと移る。

「ちぃ!かわされたか!」

外した勢いで倒れそうになるがオートバランサーと操縦のおかげでなんとか立て直す、その間にハンニバルもまたこちらに向かい突進してくる。だが立て直したばかりの機体にかわすのは困難だ、無情にも上半身と下半身の間に設置されてるチェーンガンがサムソンへ襲い掛かろうとする。だがカエサルには策があった。

「エルヴィン、このチェーンガン撃つ以外にも使い方があるって知ってるか?」

「…まさか!?」

「その“まさか”さ!」

サムソンは両手で持ってるチェーンガンを手全体を上に上げることで銃を上に向けさせハンニバルの方のチェーンガンに当てる、まるで鍔迫り合いの様なその動きにより車軸がずれて敵の攻撃はかすめるだけに終わる

「銃でチャンバラか…よくやるよ」

「暴発するんじゃないかとちょっと怖かっけどな」

再びお互いの機体が離れ一瞬の静寂が訪れる、だが今回は前回と違いすぐ去っていった

再び機体を接近させる。今度の鍔迫り合いもハンニバルが制しのけぞったところを狙ったが何とのけ反る途中で左足の機能を停止させガクッとさせる事で機体全体を少しだけ低くし攻撃から逃れたのである、そして避けたと思ったらいきなり立ち上がりチェーンガンをこちらの武器に当ててのけ反らされてしまう

「…!」

カエサルは右足だけを上げけんけんする様に機体を後方へと下がらせた、激しい機体の揺れに顔をしかめるが攻撃を受けずに済んだ

「…向こうのレイバーやるなぁ、避けたと思ったらそのまま反撃か、しかも一切躊躇せず勢いのままでチェーンガンで当てにきた…全く何と言うことを」

「それはお前も同じだ!レイバーでけんけんだなんて初めてだぞ!それも後方で!」

「初めてやってみたけど上手くいくもんだ、これもオートバランスの賜物かな」

「酔いしれてる場合じゃない、また来るぞ!」

今度も互いの機体は勢いよく駆け出す、しかしお互い読みが外れたのかすれ違うだけに終わる。2人の差はこれまでで一番大きく開く、これが何を意味するか分からない人はこの場にはいない。帽子をかぶり直したエルヴィンが威勢のいい声で叫ぶ

「ここの転換が勝負どころだ!カエサル!隊長の言ってたこと忘れてないだろうな!」

「あぁ、

これまでの練習の成果…それが試される時が来た。カエサルは冷静さを装う様にそっけない声で答えるが内心はドキドキしていた、練習は上手くいったが本番で上手くいくか自信がなかった。彼女は本番に弱いタイプだったのだ。だがそんな弱音なことを言ってる時じゃない、不安のドキドキは一気にピークを迎え脳にアドレナリンを大量放出させる合図と変わっていた。

不思議な心地だった、ドキドキしてて心音が聞こえるくらいなのに脳がスッキリ冴えて不安と言うネガティブな感情が一切消えている。そしてその状態のままレバーを握ると手が勝手に動いた。まるで誰かに操作されてる様な気分だ、だけど私はこの感覚を信じよう。これは誰かが操ってんじゃない「私が私を操っている」んだ

そしてバレエの回転の如くサムソンは一切の無駄なく転換が完了した、それは相手も同じであった。

やはり相手は相当な実力者…このまま今までと同じように突撃したらこの距離だ、先に撃たれてやられる。だから…

「エルヴィン、この一撃で決めるぞ」

「…あぁわかった」

息を止めて標準を合わせる、遠距離射撃での経験がカエサルを後押しする。そしてモニターのターゲットサイトが緑から赤へと変わりロックオンが完了した

____撃てっ!

その掛け声と同時にトリガーボタンを押す、光の矢が相手の胴体へと吸い込まれると同時にこちらも光の矢が見えた。次の瞬間機体が激しくシェイクされる、先程のけんけんとは比較にならない程だ、オートバランサーも対応できずそのまま倒れ衝撃が加わる

カエサル達は収まるまで目を瞑って耐えることしか出来なかった。そして揺れが治まり目を開けると最初に見えたのはモニターの〈サムソン 撃破〉と言うメッセージだった。

やられた事は悔しいがカエサルはそれより大事なことがあった、モニターを操作して外の様子を見る。そして思わず笑みが溢れた

「相打ちだが…撃破成功したぞエルヴィン」

「あぁ…接戦だったな」

安堵のため息を吐くと先程の緊張がジワジワと消えて代わりに疲労感がやって来た、ほんの数分間の戦闘だったが物凄く体力を使ったようだ。

「すまない、回収車が来るまで少し寝かせてもらっていいか?」

「構わん、ゆっくり寝てくれ」

「じゃ、お言葉に甘えて」

目を閉じるとさっきの戦闘が浮かぶ、ふとカエサルは疑問を覚えた

あのハンニバルに乗っていた人は誰なんだろうか

初手突撃で攻撃して回避するときは荒っぽい手段で行いそして反撃もまた荒っぽかった。しかし下手くそと言う訳ではない、あれは基本が出来て初めて出来る手段だ…

こんな戦い方をするのは一体何処の誰なのか、気になってしょうがない。

だがそれを知る手段は恐らくないだろう。

…さて、だいぶ眠くなってきた、ここらで考えるのをやめて寝ることに集中しよう

「でも…まさかね」

意識が落ちる前、目に浮かんだのは幼なじみの優しい微笑みだった

 

カバさんが激闘を終えた頃、アヒルさんの戦いも終盤へと差し掛かっていた。

先程まで自分達を鼓舞していた彼女達、しかし今その顔に余裕はなかった。

「後方に2輌…3輌…どんどん増えてきますよキャプテン!」

「何だこいつら!?さっき倒した筈だろ!」

そう、ライオットガンで一掃した筈のミディ軍団がガンバルギーニを追っかけてるドーファンの後ろにいきなり現れ始めたのだ

典子は予想外に来訪者に驚くもそれ以上に困惑した、武装が6発のリボルバーしかない。現時点で後ろにいるミディは5輌だ、ならば1輌1発で倒せば弾が余ることだが自信がない。

「ライアットガンが通用しかなった機体にリボルバーの弾が通用するのか…!?」

と思わず声に出てしまう。打開策を必死に考えるが何も思い浮かばない、その間にもミディはドーファンの前に出てガンバルギーニの所にはいかせんと加速している

3秒待っても思い浮かばずこれ以上の思考は時間の無駄だと考え典子はインカムをオンにする

『隊長、先程倒した筈のミディが復活してます!ありゃ不死身ですか!?』

『…恐らく、機体の軽さを利用してダメージを軽減させてるんだと思います。不死身なわけではありません』

『あの機体にそんな特徴が!』

『しかしそう何度もライアットガンの攻撃に耐えられる訳ではありません、恐らく次当てれば…』

『それが、腕が壊れて撃てないんです!』

『分かりました、ではリボルバーで落ち着いてウィークポイントを狙ってください。アヒルさんチームならば出来ます!』

『了解!』

通信を切った典子は手をレバーに戻して目をモニターに集中させる。

「忍!今の速度を保ったまま走ってくれ!敵が前に出てきたところでおっぱじるぞ!」

「はい!」

モニターを凝視したのは機体の揺れの癖を掴むためだ、揺れさえ読めれば腕を調整して撃つことが可能なので揺れによる照準のブレ問題が解決する、

時間は奴らが前に出るほんの数十秒の間だけだが驚異的な集中力さえ有ればこの時間でも読むのは可能だ。そして彼女は今いわゆる“ゾーン”の状態であった。

………よし、読めた!いけるぞコレは!バレー部の名にかけても絶対当ててみせる!

そう心得た時、ミディは機体の横を走っていた

「よし、忍!そろそろだ!気合入れていくぞ!バレー部、ファイト!」

「オーエス!」

そしてとうとう機体の前に立たれさっきと同様にバック走行をしようと転換する

確かミディは背中にエンジン冷却部があったはず、そこに当てれば確実に倒せる

レバーを強く握り締めてトリガーに指をかけようとしたその時、機体が大きく揺れた、衝撃で思わず押しそうになってしまう

「どうした!」

「すいません!いきなり前方にパイソンとラーダーが出てきてぶつかりそうになりまして…!」

「大丈夫か!?」

「えぇ、すんでの所で避けましたからお互い傷一つ付いてません」

「よくやった!」

短く褒めて再びレバーを握る手に力が込められる、そして照準を合わせトリガーを押した、ドン、と音がして1発の弾が飛び出し見事狙った場所へ命中した。被弾したレイバーはその衝撃で倒れ白旗を上げた

その光景を目にし典子はニッと笑い次の目標…バック走行しこちらを撃たんとしているミディに銃口を向ける

「今度はフロントライトを狙う!」と自分に言い聞かせ再び発砲、命中し撃破を確認した。

「よしよし、良い調子だ!次は…!」

典子は機体を挟み込みように走ってるミディに目をやりこう言う

「忍!胴体を左に曲げてくれ、私が撃ったら今度は逆方向に頼む!」

「分かりました!」

左を向き発砲、右を向き発砲、その度に的確に弱点に当て撃破していく

最後の1輌となったミディはバック走行しながら撃つことしか出来なかった

「これで…ラスト!」

轟音が鳴り放たれた弾薬は一寸の狂いなく弱点であるエンジン冷却部に当たった、白旗が出て動きが止まらせる

「よし!残りはガンバルギーニだけだ!」

「ここまで来たら絶対倒しましょう先輩!」

ドーファンは森林地帯へと入る、このまま真っ直ぐ進めば奴がいる事を妙子達は教えてくれた。典子はモニターを凝視し前方に奴が写ってないか探す、森林地帯を走る事20秒。突然対物センサーが反応して音が鳴る

「いた!距離前方15m!例の赤い奴だ!」

「今の距離ならギリギリ射程内です!キャプテン、お願いします!」

銃を構え落ち着いてガンバルギーニを狙う、目指すはミディと同じエンジン冷却部。相手はまだ気づいていない今がチャンスだ。

そう思いトリガーボタンに指をかけた瞬間、奴が右へ移動した

____気づかれたかっ…!?

再度照準を合わせるも今度は左に移動した

これで確信した

「忍、どうやって私達居るのがバレてるみたいだ…!」

「えっ!?あの機体で!?後ろに目が付いてるんでしょうか…?」

忍があの機体と言ったのはガンバルギーニはレース用レイバー、対物センサーや熱源センサーと言ったものは積んでない、レイバーが接近した事を知らせる要素が何処にもないからだ。

怪訝に思いもう一度照準を合わせるとキラッと何かが光るのが見えた。それで典子は察した

「そうか、サイドミラーだ!!」

「成る程…!レース用レイバーだから普通のレイバーとは違ってそんなものが!」

気づかれてしまったからには圧倒的にこちらが不利になった、照準を合わせる度にチマチマ動き落ち着いて狙えないからだ。

「こんな森林地帯をジクザク運転とは…!」

「よっぽどの腕に自信がないと出来ませんよ、相手の操縦士敵ながら凄いですね」

ダメ元で撃てば当たるかもしれないが弾はもう1発しか残ってないのだ。この状況が典子を撃てなくさせていた、そうしてるうちにもどんどん敵は合流しつつある、彼女は自分の勇気のなさに内心舌を打つのであった

 

 

一方、森へ入り込んだアンチョビ達を追いかけてるみほ達は木々の間を縫って激しい銃撃戦を繰り広げていた。しかしどの攻撃を掠めるか地面を抉るだけに終わる

「流石にこう遮蔽物が多いと当たらんものだな…弾をもう半分使ってしまった…」

「麻子さん、もうすぐ森林地帯を抜けて一旦林道を走るからその時に後ろを取って撃とうか」

「フラッグ車を狙うのか?」

「いえ、護衛として付いてるミディを狙って」

「分かった」

そう言ってる間に森林地帯を抜け先に出ていたアンツィオのレイバーの後ろをつくことに成功した。背後を取られたことに気がついたアンツィオは走るスピードを上げ逃走を図る、が

「ミディは弱点をよく狙ってと…」

と呟きながら撃った麻子の一撃によりあえなくミディは撃破、ハンニバルもやられた今これで護衛のレイバーは全てやられてしまった。

白旗が上がったミディを見てみほはインカムに手をかける

『これで護衛がいなくなりました、合流される前に決着をつけます!』

『前もそんな状況だったような…まぁいいや西住ちゃん、こっから先の予定は?』

『あんこうが高台の頂上に行きそこを占拠しますのでカメさんはプロトタイプを下までおびき寄せてください』

『フラッグ車が単独になるだろ!?』

『大丈夫です河嶋先輩、むしろそれが目的です』

『相手の一発逆転を狙いたい心理を利用するって訳か、西住ちゃんも中々ズルくなったんねぇ。んじゃ行ってくるから西住ちゃんも頑張ってね〜』

と再び森林地帯に入ったタイミングでアトラスは単独行動を開始した

高台へ続く道を歩いてる間みほは通信を入れる

『ウサギさん、アヒルさん、カバさん、現在の状況を教えてください』

『こちらカバ、交戦の末相討ちで終わった』

『アヒルチームはミディを倒してガンバルギーニを追跡中です!』

『ウサギさんはハンニバル小隊3輌の内2輌を撃破、現在残り1輌を追っかけてます』

『了解、アヒルさん、ウサギさんは追跡対象の撃破後そのまま直進して下さい、そうすると敵のフラッグ車を包囲出来ますので』

2人の返事を聞いて通信を切る、ふと麻子を見ると何やらニヤついていた

「どうしたの麻子さん?」

「いや、包囲戦を仕掛けられたこの試合を包囲戦で終わらせようとするのが何だか面白くてな。あんまり今回活躍出来てないから最後ぐらい美味しい所は持ってきたいもんだ」

「まぁ今回はフラッグ車の護衛が優先だからしょうがないよ」

と言いながらモニターを確認する

…もうそろそろ目標地点に到着か

『カメさんそろそろ誘導完了しそうだよ〜』

『了解、こちらももう少しで到着します。誘導が完了しても立ち止まらず機体を前後に動かして照準をブレさせるようにして下さい』

『ほいほい、んじゃね〜』

と言ってる間に高台の頂上へとたどり着いた、見下ろすとプロトタイプに追いかけられているアトラスが見えた。

麻子がレバーを動かし照準を調整する、ラーダーも同様に行う。

そして追い詰めたと確信したプロトタイプが停止しリボルバーカノンを構える。そして発砲するもアトラスが不規則に動いてるせいで当たらない。これを見てみほは再びインカムに手をやる

『次の発砲までにケリを付けます!麻子さん、華さん!』

『分かりました』

「ほ〜い」

____撃てっ!と言おうとした矢先みほは森の奥から何やら赤いものが見えた、何かは分からないが猛烈に嫌な予感がする。ここで撃てば逆にこちらがやられる…そんなビジョンが浮かぶ。

確実にこの予感が当たるのかと聞かれたらそうとは言えない。だが“土壇場の時こそ自分を信じろ”そう華に言われたことを思い出しみほは自分の予感を信じることにした

『優花里さん!ラーダーを真横にずらして!』

『りょ…了解!』

「麻子さんも!」

「このタイミングでどうしてだ!?」

「お願い!」

「…分かった」

互いの機体が横へずれたその瞬間間を通り抜ける光が通り過ぎたのをそこにいた5人は見逃さなかった

『あの光…カノン砲…!もしや!』

『優花里さんの想像通りだよ、来た…!』

『みぽりん、何が来たの!?』

『…ガンバルギーニだよ』

今の攻撃に当たっていれば今頃自分たちはやられていた…そう思うとゾッとしなかった

そして姿をはっきりと表したガンバルギーニはプロトタイプの前に密着する

そして四足走行である筈のガンバルギーニがゆっくりと立ち上がる、まるで盾になると言わんばかりのようだ。そして車体下側に設置してあるカノン砲が動きアトラスを定める

思わずみほは息を飲み込んだ

「二足…!?ガンバルギーニが!?」

「凄いことなのか?」

「四足が基本の機体を立たせるっていうのは物凄く難しいことなんだよ、いくらオートバランサーがあってもね…」

「私に引けを取らない操縦士と言う訳か…」

ドン、と音が鳴り響いたのが聞こえ続いてパイソンとラーダーが現れた

『ウサギさんチーム小隊の殲滅に成功しました…ってアレ、どうしたんですかこの状況!?』

王手と思った矢先この予想外の展開にその場にいた全員が驚愕する

…みほ以外を除いて、膠着状態が続く中遅れてドーファンが見えてきた

『隊長!すいません合流させるまで倒せませんでした!』

『大丈…

『おい、西住どうするんだ!あんな武器もう一度使われたら洒落にならんぞ!』

みほが典子に返事をしようとした瞬間桃が割り込んでくる

『大丈夫です、お二人とも。ガンバルギーニはもう撃てませんから』

確かに、最初の一撃以来あの機体が撃ってはこなかった。そんなに強力な飛び道具なら盾なんかにならずとっととフラッグ車を撃てばいいだけの話である。そうしないのは何故か、疑問は尽きないが桃はこれ以上この掘り下げるのは時間の無駄だと思いやめた

 

インカムから手を離しみほは麻子に話しかける

「麻子さん、敵フラッグ車だけを狙える?」

「無理だな、完璧にカバーされてる。ここからじゃガンバルギーニしか狙えんぞ」

「それじゃあの機体がなければ狙えるってわけだね」

「あぁあれさえ無ければこんな場所から狙うのは造作もないことだ」

「分かった」

『華さん、ガンバルギーニの足だけを狙って』

『足…だけですか?』

『そう、そうするとガクって機体が下に向くからそこを麻子さんが狙います』

『成る程…』

『撃つ時は合図するから』

「麻子さん」

「聞いてたさ、相変わらず突拍子もないことを思いつくな」

「これも麻子さんの腕を信頼してるからだよ」

「…っ!さらっと照れることを言うんじゃない」

ほんの少しだけ顔を赤らめながらも麻子はしっかりと照準を定める、その間華もチェーンガンをガンバルギーニの足へと向ける、その間にも相手は一歩も動かないでいた

『準備完了しました』

『了解…撃てっ!』

チェーンガンから大量の弾が放たれ標的へと命中する、片足をやられたことで機能が停止しガンバルギーニの足が曲がり機体が下を向く。すなわちそれはカバーする面積が減ったことを意味する。こうなってしまった以上ガラ空きになったプロトタイプを狙うことは赤子の手を捻るより簡単なことは自明である

ガンバルギーニが下を向いた瞬間麻子はトリガーボタンを押す。

銃声が山にこだまし静寂が流れる、そしてこだまが響き終わると次にポシュッ、と言う気の抜けた音が聞こえた。

みほはモニターからプロトタイプを見る、その機体のコクピットは色鮮やかに染まっており本来白旗であるはずの物も等しく染めていた。

『アンツィオ高校フラッグ車走行不能!よって大洗女子学園の勝利!!』

勝利したことを告げるアナウンスがはっきりと聞こえる。

2回戦も突破出来たことを理解するとみほは小さく息を吐く、通信機から仲間の喜びに満ち溢れた声、笑いが聞こえる。勝利した時にしか味わえないこの暖かな一時をみほは噛み締め思わず自分も釣られて笑ってしまうのであった

 

キャリアに乗せられコトコトコトコトと夕陽に照らされながら機体が揺れる、麻子はデッキダウンした瞬間に寝てしまい安らかな寝息を立てている

みほは1人にさせてあげようと思いキャリアの助手席へと移動する

「お、西住さんお疲れ様〜」

「ナカジマさんもお疲れ様です、いつもありがとうございます」

「なになに、気にしなくていいよ。これが私達が出来ることなんだからさ」

「ありがとうございます、ところでナカジマさん」

「なんだい?」

「私、試合の最後でガンバルギーニがあんな強力な武器があるのに連発しなかったのは何か事情があると思って『撃てないだろう』と思って指示を出したんですよ、でもその“事情”って何か終わった後物凄く気になっちゃって…」

「成る程ね、多分それはバッテリーの問題だと思うよ」

とナカジマは運転しながら話を続ける

「カノン砲ってのは本来ブロッケンの装備で奴のバッテリーのエネルギーを利用することで発射出来るんだ、んでもガンバルギーニにはこれを撃つだけのエネルギーを搭載したバッテリーが存在しない。ならどうするか、西住さん分かるかな?」

「バッテリーを弄ったとか?」

「その通り!バッテリーを弄って走行するとカノン砲の分のエネルギーを充電するシステムにしたんだと思うんだ」

「でもバッテリーを弄るとルールに引っかかる気がするんですけど」

「う〜んでも本来の性能以上は出してないからね、ガンバルギーニのバッテリーをブロッケンのバッテリーに変えたりなんかしたら問題だけどそうじゃないなら大丈夫だよ」

「そう言うことでしたか」

「ま、あくまでも私の仮説で本当かどうかは向こうの整備班に聞かなきゃ分かんないけど。もしそうなら向こうの整備士達はかなり優秀だと思うよ」

「会ってみたくなりました?」

とみほはいたずらっぽく聞く

「そりゃね、これでも整備士の端くれだからさ。互いの技術を教えあったり聞いたりしたいもんさ…っとほい到着」

車が集合場所へと到着し止まる、ドアを開けるとムアッとした空気が入ってくる。それに若干の気怠さを感じながらみほは麻子を起こしに行く、ハッチを開くとてっきりまだ麻子が寝てるものかと思えば起きていた。曰く最初は眠れたけど暑くてとてもじゃないが寝ていられんと環境になったとのことらしい

暑い暑いとブツブツ言いながら麻子が降りみほもそれに続く、集合場所には既に全員が集まっており沙織達もそこに居てみほ達を見つけると手を振ってきた。

 

集合してから暫く経った頃アンチョビが手を広げながらみほに近づいてきた

「いや〜今年こそいけると思ったんだけどな〜」

と言いながら手を握る

「決勝まで行けよ?私達も全力で応援するからな!!」

「はい!頑張ります!」

「そうそうその意気だ!お前らも応援するよな!?」

とアンチョビが振り返った先を見るとアンツィオの生徒が集結し手を振りながら賛同の声を上げていた。

「ほら笑って!もっと手振って!」

と激しく手を振っているアンチョビをみほはちらりと見る、その顔は輝かしい笑顔だった

あの笑顔は悔しさを隠しながら出す偽りの笑顔ではない、本心から出た純粋で綺麗な顔だ。やっぱりアンチョビさんはケイさんに似てるな、勝ちには拘ってるんだろうけど試合自体を楽しんでるんだ、それに敵味方関わらずリスペクトして自分を負かした相手を称える事もできる。だからあんなにいい笑顔が出来るんだ

去年までの試合は終わった後は虚しいものだった、感じられるものもなく学ぶものもないただ「敵を倒した」それだけのことだった。だが今年はどうだろうか戦う度に新たなことを学び糧にしていく、終わった時の空気が全然違うんだ。爽やかな空気だ、私は2回戦目を勝ってようやく確信できた

「私は特車道を楽しめてる」と言うことと「私だけの特車道の断片が見えてきたこと」を

 

そうみほが思ってるとアンチョビが咳払いをして持っていた鞭を高らかに掲げる、その瞬間アンツィオの生徒達がいそいそと動き始めトラックへ向かうと何やら調理道具のようなものを運んでくる

「何が始まるんです?」

そう聞くとアンチョビはくるりとこちらを向いた

「諸君!試合だけが特車道ではない!試合が終わればそれに関わった選手やスタッフを労う!勿論相手でも同じだ!戦いが終われば私達は等しく特車道の選手だからな!これが、アンツィオの流儀だ!」

そう言ったアンチョビの顔は誇りに満ちていてみほはその顔にまた違った魅力を感じた

あっという間に食事の支度が終わり大洗一同を驚かせる

「凄い物量と機動力…!」

「我が校は食事の為ならどんな労も惜しまない、見よ!この技前!…この子達のやる気がもう少しだけ試合とかに生かすことができりゃ万々歳なんだけどな…んまぁそれは追々やるとするさ!それじゃいいかお前ら!ちゃんと手を合わせろよ!せーの!」

「「「「「「「「いただきまーす!」」」」」」」」」」

そこからはもうドンちゃん騒ぎだった、戦った同志が肩を並べて同じ釜の飯を食らう。最初こそ変な空気が流れたがアンツィオのノリがいい性格と大洗の適応能力の高さがうまい具合に利益をもたらし数十分後にはすっかり打ち解けていた。その中には自動車部も居てパスタ片手に向こうの整備士と語り合いご飯そっちのけでガンバルギーニの整備に行こうとするぐらいだった

そんな暖かい雰囲気を遠くでカエサルが見ている、カルパッチョに呼ばれたのだ。久しぶりに会うのだから静かな場所で2人きりで話したいと言うことらしい

「たかちゃん、あの機体の操縦士だったんだね」

「あぁ、ひなちゃんがあの機体を動かしてるって言うもんだから驚いたよ」

「なぁに?意外だった?」

「う〜ん操縦士自体が意外じゃなくてひなちゃんがあんな操縦をしたことが意外だったんだ、あんな大胆で派手な動きを昔から大人しかったひなちゃんがするなんてさ」

「あら、それを言うならたかちゃんも同じよ?私と同じくらい大人しくて小さい頃スカーフを外したら「返して〜」って涙目になってたぐらいのたかちゃんが銃を使ってつば競り合いするなんてねぇ」

「昔の話を蒸し返さないでよ〜!」

と言いお互い笑い合った、一頻り笑うとカルパッチョが優しく微笑みながら話す

「私達変わったってことかな?」

「いや、変わったと言うより“成長した”と言うことだと私は思うよ。

性格の根っこの部分は変わってないんだお互い大胆な行動が出来る精神に成長した訳さ」

「成長かぁ…確かに私アンツィオに来てから色んなことがあったからなぁ」

「ひなちゃん、来年も戦おうね!」

「うん!来年はもっと成長した姿を見せてあげる!次こそは引き分けなんかで終わらせないからね!」

「こっちのセリフさ!…おや?」

「?どうしたのたかちゃん」

「お〜いお前たちいるんだろう!」

カエサルが木箱に向かって呼びかけるとひょっこりとエルヴィンらが出てきた

「生徒会が隊長達を集めてミーティングするらしくてな、んでも取り込み中みたいだし私が代理で出ようか?」

と申し訳なさそうに帽子を掛け直しながらエルヴィンが言う

カエサルは振り返りながら「今行くよ〜!」と返事をした、そして固くカルパッチョの手を握りしめる

「じゃあね」

「うん、元気でねたかちゃん」

と言うとカエサルは不敵な笑みを浮かべながらこう返事をした

「たかちゃんじゃない、私はカエサルだ!」

そうしてカエサルはエルヴィン達の元へ歩いていく

そうね…たかちゃんはもう私が思ってるたかちゃんじゃなくて成長した『カエサル』として歩いてるんだね、なら私も成長してるのだ。来年会ったらこう呼んでもらおうかしら

_____カルパッチョってね

 




試合が終わりひと時の休息が訪れる、突如我らが生徒会長角谷杏が銚子へお出かけしてくると言い出した
そして銚子で出会ったのは一回戦の相手であるサンダースのケイであった。そして明かされる杏の過去、彼女にとっては人生のターニングポイントである特車道中学生時代について
次回、「杏備忘録」ターゲットロック、オン!


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Addio Duche Benvenuto Duche (さようならドゥーチェ、ようこそドゥーチェ)

ど〜も恵美押勝です、最終章3話等々動きがありましたね!いや〜来春が待ち遠しいです、「春よ来い」って感じですね。さて、今回は「これがアンツィオ戦です!」のおまけでございます、と言うのも私がアンチョビとかの心境とかを書きたいと言うのがありまして…
今回は一切レイバーが登場しません、それでも良いと言う方はどうぞお楽しみください!


楽しかった宴も終わりアンツィオは撤収の準備をしていた、支度が早ければ片付けも早いものでものの40分程度であんなに賑やかだった場所がただの草地へと戻った。アンチョビは全選手を集合させ集まったのを確認すると咳払いし話し始めた

「よくやったお前ら!1回戦落ちが当たり前であった我らが1回戦を突破したのもこれも一重にお前たちのおかげだ!」

「いやいや!ドゥーチェのおかげですよ!私達バカだからドゥーチェの言うことホイホイ聞くことぐらいしか出来ませんでしたよ!」

と生徒の1人が言うとアンチョビは微笑んだ

「何言ってるんだ、お前たちが私の考えた作戦を私の想像通りに実行してくれたから1回戦は勝てたんだぞ、そう自分を卑下しないでくれ。それにお前たちの操縦技術はそんじょそこらの奴らより上なんだぞ?レイバー使って学園艦内を暴走できるなんて普通の腕じゃないからな。だから自信持てよ、かと言って慢心するんじゃないぞ?自信と慢心は違うからな?」

そう言いながら笑うと生徒達はつられてクスクスと笑うのであった

 

「さて、お前たちも分かってるとは思うが…私はこの大会を持ってドゥーチェから降りることになる」

驚愕の発言に生徒達は驚きの声を上げる

「えぇ〜!ドゥーチェがドゥーチェじゃ無くなるんですか!?」

「そりゃお前私こう見えても3年生だからな、夏の大会が終われば引退だよ。何十年前は冬にも大会があったらしいがな。まぁドゥーチェの座を退くってだけでOBとしてちょくちょく顔を出すつもりだけど…ってお前ら泣くな!」

何かしらのリアクションはあると思っていたが泣かれるのは予想外のことであったのでアンチョビは思わずペパロニとカルパッチョに助けを求めようと顔を見るがその2人も泣いていた

「えぇい泣くんじゃないお前ら!よく聞けよ!次のドゥーチェはカルパッチョとペパロニをドゥーチェと任命する!私がいなくなってもペパロニ達のことをよく聞くんだぞ!

…どうした、返事くらいしろよ!いつも見たいに元気な声出してさ!だからさ泣かないでくれよ…私だって…私だって泣きたいんだからなっ!」

何故だろう、喋る度に心がキュッとして視界がどんどんボヤけてくる。最後なんてもう誰の顔も見えなかった。ドゥーチェたるもの泣かないと決めていたのに、頬に冷たいのが走った

どうしてこんな感情になるんだ?試合に悔いなんてないしこの役職が辛かったわけでもない。あぁそうだ、やっぱりそうだったんだ。自分はコイツらと、バカで単純だけど素直で仲間思いで試合には全力で挑んでいたコイツらと試合が出来るのが大好きなんだ。こんな最高な奴らと一緒に戦えないのが辛いんだ、だけど泣いてばかりじゃいられない。ドゥーチェとして最後の仕事を全うしなくては、仲間達に大切な事を伝え引き継がなくちゃ…!

アンチョビは目をジャケットの袖で拭き、ドゥーチェのトレンドマークである鞭を星空に向かって突き上げる

「いいか!私がドゥーチェじゃ無くなっても練習は真面目にやれよ!ノリと勢いを大切にしろよ!そして何より特車道を全力で楽しめ!勝ちに拘るあまり楽しさを失うなんてことは絶対に止めてくれよ!…最後に一つだけ聞かせてくれ!お前たちは、私と一緒に戦って楽しかったか!?」

思ってた事を洗いざらい吐き出す、時間が停止したように感じるぐらい静寂に辺りは包まれた。だがそんなものは一瞬だった、スッと息を吸う音がしたかと思うと

「最高でしたよ!!!!アンチョビ姐さん!!!!」

「…ペパロニ!」

「私も!ドゥーチェと一緒に戦えて本当に良かったと思ってます!!!私は貴方のおかげで貴方が私を誘ってくれたおかげで成長することが出来ました!!!」

するとその声に続くように「私も」と言う声が絶えず上がってくる

「カルパッチョ…皆んな…!」

そしてペパロニが再び大声で「ドゥーチェ!」と叫ぶ、カルパッチョが生徒全員がドゥーチェと叫び続けている

「「「「「ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!ドゥーチェ!」」」」」

アンチョビは涙が止まらなかった、もう抑えようとする気力すら湧かなくなる

「お前ら…!本当に、ほんっとうにありがとうな!!!」

暫くの間、ドゥーチェコールが鳴り止むことはなかった。

 

夜道にキャリアを走らせること数十分、アンツィオの学園艦に到着した。搬入口にレイバーが次々と入れられる、アンチョビは先に降りて学園艦入り口で待機し整備班からの連絡を待った。

待つ間彼女は先ほどの出来事を思い返していた、体からあの熱気が消えない。仲間たちのことを思うと目頭が熱くなりまた皆んなの前で泣きそうになったので別のことを考えて気持ちを紛らすことにした

_____アイツ…西住みほと言う奴は確かに強かった、ペパロニがミスしたとは言え作戦を見破りすぐさまこっちの対策を講じどんどん仲間がやられてくる中まるで一発逆転したい私の心を見透かすようにフラッグ車をちらつかせた。今思えばアレは罠だったんだよな、でもあん時仮に罠だと分かったとしても多分そのまま追うことしか出来なかったと思う。そしてやられてしまった…

改めて考えると本当大した奴だよ西住ってやつはさ、最初こそこののほほんとしたのがあのサンダースを破った奴なのかと信頼出来なかったけど私の目ってのも当てにならないもんだな。すれ違ったあの時奴の表情が見えた、息を飲んだよ。何処が「のほほん」だ、あれは確かに「隊長」としての目だった。常に戦況を見極め最後まで諦めない、不屈の闘志を持つ目だった…この瞬間分かったね、アイツがなんで彼女を隊長にしたのか。あんなパッと性格が切り替わる奴は二種類しかない、まともじゃない奴か天才か、だ。彼女は勿論後者だよ。杏のことだ自分の様な凡人よか天才に任せた方がいいだろうとでも思ったんだろ。馬鹿な奴だな、お前も十分才能があるっていうのに…んまぁここに居ない奴のことをグダグダと考えてもしょうがない、私達はそんな天才と一戦交えることができたんだ。いい経験になったさ、私にとってもみんなにとってもな

 

そんなことを考えているとレイバーの収容が完了したらしく整備班から連絡が入る。解散指示を出そうとしたが既に全員客席の方へ向かったと聞いて思わずこけそうになる。

『すいませんドゥーチェ、レイバー降りるなり皆んな一目散に駆け出すんだもの止めようがなくて…』

『まぁしょうがないよな、一日中お祭り騒ぎだったんだ。疲れて寝たくなるのも頷けるな、帰っちゃったもんはしょうがない、お前達も解散していいぞ?』

『マジっすか?あぁ…でも遠慮しておきますよ、どうせ暇ですから整備でもしてます』

『分かった、程々にしとけよ?』

通信を切りアンチョビは客室へ向かおうと思ったがおそらく寝てる奴が多いだろうし起こしちゃ悪いから、と思いデッキに行くことにした。柵に両手を乗せ体を預けると夜風が心地よく思わずため息が出る、こんなに気持ちいならいっそここで寝てしまおうかと思う程だった。ボーっとして数分が経ったころ左右に自分と同じ姿勢でもたれかかる人物が見えた

「ペパロニ、カルパッチョ、お前ら寝てるんじゃ無かったのか?」

「少し姐さんと話がしたくて…デッキに行くのが見えて行こうとしたらカルパッチョもついてきたんす」

「話って何だ?」

そう聞くと2人は深妙な顔をして

「アタシよりカルパッチョの方が…

「私よりペパロニの方が…

「「ドゥーチェとして相応しいと思うんです!」」

突然の告白にアンチョビは面をくらう

「い、いきなりどうした!?理由を聞かせてくれ!まずペパロニから頼む!」

「私…馬鹿でアホで間抜けだからいつも姐さんに迷惑かけてて…今日の試合もアタシがバカやらかさなければ勝てたかもしれないのに…!私の…アタシのせいで姐さんの最後の試合が台無しにしちゃったんす!そんなバカにドゥーチェなんて出来っこないんす…!私なんかがやるくらいなら真面目で賢いカルパッチョの方が…!」

泣きながら喋ったペパロニににアンチョビはそっとハンカチを渡す

「…言いたいことはあるが、ひとまず置いておこう。次にカルパッチョ頼む」

「私は皆んなとは全然性格が違くて…正直浮いてるなって思ってるんです。ですから統率していく自信が無くて…ドゥーチェの様にいかないと思うんです、だったら私より人気が断然あってミディ小隊をまとめてるペパロニの方が向いてるんじゃないかって…」

2人の話をアンチョビは腕を組み頷きながら聞いた、そしてゆっくりと顔を上げた。彼女がどんな顔をするのか2人には予想ができなかった。怒るだろうか?呆れるだろうか?

恐る恐る顔を見ると彼女は飛びっきりの笑顔を見せていた

「そうかそうか…お前らそんな風に考えてくれてたんだな。それじゃ今度は私が喋ってもいいか?」

こくん、と首を縦に振るとアンチョビはペパロニの両肩を掴みながら話初めた

「確かにお前は馬鹿でおっちょこちょいな所はある、だが今回の試合負けたのはお前のせいじゃない。作戦が失敗したときの代替策を予め練っておかず敵の罠にまんまとハマった私のせいだからな、んで、お前はさカルパッチョも言ってたが統率力は優れてるんだぞ?荒くれ揃いのウチの生徒達をまとめて指示を飛ばせる、ドゥーチェとしての素質はあるとは思うんだけどな」

話終えると今度はカルパッチョの肩を掴んだ

「人気がないだなんて何を言ってるんだよ、ハンニバルに載ってる奴はみんな言ってるんだぞ、『カルパッチョ姐さんは走りと同じくらい楽しい射撃の世界を見せてくれた』とか『カルパッチョ姐さんは暴走しがちなウチらの面倒を見てくれる頼れる人』とか私にニコニコしながら喋るんだよ。んでな『本人にも言ってあげろよ』と言ったらそいつら口揃えて『なんかが照れくさいんですよね、私達とキャラが違うからどう話せばいいか分からなくて…』って言うんだよ。つまりだな、お前達はお互い心の壁を作ってるんだ、だから壊さなきゃならない。そこは課題だな」

「心の…壁…」

「あとペパロニも言ってたけどお前はここじゃ一番頭がいいと私は思ってるぞ?私の横でよく提案してくれたし実際作戦案が煮詰まった時には物凄く助かったんだよ」

そう言うとアンチョビは今度は2人の片肩を掴んだ

「私がなんでお前らのどちらか1人じゃなくて両方を選んだか分かるか?お前ら2人が合わされば私以上にこの学校を高みに引っ張っていけると見込んでるからだ。

…つまりだ、頭脳派のカルパッチョ、行動派のペパロニ、お前ら2人で1人のドゥーチェになるんだよ」

「「2人で1人のドゥーチェ…!」」

「初めは上手くいかない事が多々あるかもしれない、だがそんな時落ち込まず常に上を向いて歩いて欲しい。笑顔を忘れないでくれ。笑顔は明日の力への糧となりお前らの背中を、皆んなの背中を押してくれる存在だからな。私がお前達に教えたい事はそれだけだ」

「姐さん…」と呟きながらペパロニはハンカチで目を拭い息を大きく吸った

「私やってみるっす!カルパッチョと一緒に!姐さんの教えを受け継いで!」

私も、と言いカルパッチョも息を吸った

「私もドゥーチェをやります!ドゥーチェと同じくらい…いや、それ以上のドゥーチェになってみせます!ペパロニと共に!」

カルパッチョが言い終わるとアンチョビはいたずらな笑顔を浮かべた

「ほう?私を越えてみせるのか?面白いこと言ってくれるじゃないか、お前らが成長するのが楽しみだ」

と言うとアンチョビは2人の肩を掴み引き寄せ互いの顔が密着する

「頑張れよ、ドゥーチェ」

と小さく呟き吸った押し戻した、そして手をパン、と叩きくるりと背中を向ける

「さて、重い話はこれでお開きとしよう。新ドゥーチェを祝って宴会やるかぁ…私達だけでさ」

「良いっすね姐さん、確かお菓子持って来たんでそれ食いましょうよ、んじゃ取ってくるっす」

「それじゃ私は自販機で飲み物買って来ますね」

「頼んだ!金は後で払うからな〜!」

2人が駆け出すのを見てアンチョビは人知れず微笑んだ。

____さっきまで泣いてた奴とは思えないほどのテンションの変わりようだな。だがそれが良いんだよ、それがアンツィオなんだ、こんな楽しい仲間と一緒に戦えたこの3年間はとっても楽しかった…

ふとポケットに手を入れて愛用してた鞭を取り出しじっと見つめる、振り回しすぎてちょっとクセがついたそれを見ると思い出が溢れて止まらない。また涙が出そうになる、泣いた顔で宴会なんか出来ないと思った彼女は急いで目を擦り鞭をポケットに仕舞う。そしてこうポツリと呟いた

さようなら、ドゥーチェ、ようこそ、ドゥーチェ

月明かりに照らされたデッキは何時もより心なしか明るく見えたのだった

 




「Addio」と言うのは「さようなら」と言う意味なんですがニュアンス的には「もう二度と会えない、暫くの別れ」と言う感じですね。タイトルを付けるにあたって少しイタリア語を調べたのですが同じ意味の挨拶でも沢山の種類に沢山のニュアンスがあってとても興味を惹かれましたね。いつか習いたいな〜
それではご視聴ありがとうございました!


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杏備忘録part1

ど〜も恵美押勝です、めっちゃ更新が遅くなって申し訳ありません。というのもめちゃくちゃ最近忙しくなりまして…
出来る限り更新のスパンは短めにしようと善処致します、それでは本編をどうぞ!


チュンチュンと小鳥のさえずりが暖かな光と共に聴こえてくる、その音を聞いて角谷杏はゆっくりと起き上がる、彼女が寝ていたのはふかふかのベッド…ではなく使いこまれて主人を微塵も癒そうとしない生徒会室のカチコチのソファーであった。

「…痛てててて」

体を起こすと全身あちこちが痛みだしパキパキと音が鳴る、辺りを見回しここが自分の部屋でないことを知ると首を傾げる。寝起きの頭で考えること数秒、思い出し手を叩いた。

「そうだ、昨日帰ってきたらいきなり仕事が追加されて夜中までかかっちゃって終わりと同時にここで寝たんだった…理事長め、蝶野さんが車壊したことの当て付けか?」

寝ぼけ眼を擦り壁にかけてある時計を見る

「時刻は7時か…確か12時集合だからまだ大丈夫だな」

杏は今日、ケイと12時に銚子港で落ち合うことになっているのだ

…取り敢えずヨレヨレの制服を変えたり朝ご飯食べたりシャワーを浴びに部屋に帰ろう、そう思いトボトボと生徒会室を出た。

暫く歩くと何やら機械の音が聞こえる、一瞬レイバーかと気になったが今日は練習は無いはずのでそれは無いと判断し無視する事にした。そのまま校門まで進むと見覚えのある顔に出会い挨拶をする

「おはようさんツチヤ」

「あ、会長!おはようございます」

と挨拶を返すツチヤの手には何かが握られていた

「お?どうしたのビデオカメラなんて持って」

「いや〜ガネーシャの整備が大分進みまして今武器のテスト中なんですよ、で、それを記録してくれってナカジマ先輩から頼まれて」

「ガネーシャってあの丸っこいレイバーの事?噂じゃ結構いい武器積んでるらしいけど?」

「えぇ、20mm機関砲に7.62mm機銃とこれだけでも良い武器なんですがコイツの一番の目玉は“荷電粒子砲“ですよ」

「粒子砲か…この間のガンバルギーニに積んであった武器みたいな代物か」

「あれよりもっと強力ですよ、当たればどんなレイバーもイチコロっす。ただめちゃくちゃ電力を消費するからバッテリーの調整が難しくて…」

「成る程ねぇ、強力な武器はそう簡単に使えないってことか」

「でも準決勝までにはちゃんと仕上げて出場出来るようにしますよ、その心算でナカジマ先輩達めっちゃ頑張ってますから」

「そっかそっか、呼び止めて悪かったね、んじゃまぁ頑張ってね」

「ういっす!」

そう気さくに挨拶するとツチヤは駆け足でハンガーへと向かっていった

 

家に帰ってからすぐにシャワーを浴びてから適当に服を選びコンビニで買ったおにぎりを頬張りながら家を出る。大洗駅に着いたのは午前9時30分、銚子港まではおよそ2時間弱なので丁度良い時間だ。改札を通ると電車が止まる音が聞こえ慌ててプラットホームに行き発車寸前での所で乗車出来た、ベルが鳴り電車が動き出す。朝早いのもあってか乗客は杏以外いなかった

「ちょっとした貸切だねこりゃ。んまぁ水戸駅までは直ぐなんだけどさ」

と結構大きい声で独り言を言っても誰一人気にする人が居ないと言うのは奇妙な心地だな、と杏は感じた

ふと車窓を見ると広大な海が見える、思わず窓を開けるとフワッとした温かい風と共に潮の匂いが鼻腔をくすぐる。今年は海水浴とか行けてないな、去年はかーしま達と行ったんだけど今年は特車道の皆んながいるしレクリエーションと称して生徒会予算で海水浴でも行こうかね…

「なんてね、んな金ないよ」

と一人で笑ってる内に電車は水戸駅へと着き乗り換える、周りをキョロキョロすると最初乗ってた電車とは違い結構混雑している。ここから2時間弱かけて銚子まで行くのに立ちっぱなしは疲れる、そう思い座席の空きが無いかと探す。

(お、ラッキー一つだけ空いてんじゃん)

急いで背負っているリュックを前にして座席に座ると同時にベルが鳴り電車が動き出す。

リュックからタブレット端末を取り出しデジタル新聞を見る。新聞と言ってもお堅いのではなく特車道に関する情報だけを集めたものである。1面にはデカデカと「プラウダ対ヴァイキング」と書かれている、本文をつらつらと見てインタビューなどはすっ飛ばしレイバーの編成、試合会場だけを注視する

_____こりゃ準決勝はプラウダになりそうだね、ヴァイキングには悪いけどこの試合プラウダが勝つ要素しかない。まずレイバーの性能がダンチだ、プラウダのドシュカに対して旧式も旧式の95式じゃあねぇ…それに試合会場は雪が降った場所らしい。そんな場所をオートバランサーもしっかりしてない95式がまともに動けるとは思えん、仮に動けたとしてもあのポンコツで何が出来る。警棒しかないんだぞ?それに積雪地帯は青森所在の学校であるプラウダのホームグラウンドだ、この状態で勝たせる指揮官がいたらそいつは間違いなく天才だよ、この試合やる前から勝負が付いてるようなもんだ。

そう思いながらたタブレットの電源を切るも他所の試合を客観的に見ると今度は自分達の試合が気になるものでまだ先の準決勝のことについて思考を巡らせる

プラウダのレイバーとうちらのレイバー…んまぁ性能はプラウダに劣るがヴァイキングよかマシだ。そこは戦術と腕だな、確かイングラムがドシュカを倒した例があったよな…金沢辺りに。とは言え少しばかり強化しとかないといくら腕があっても無理だからなぁ、攻撃はライアットガンがあるからいいとして防御面はどうすべきか…追加装甲的なのがあったら買うか、でもそんな金はないしなぁ。寄付でも募るか、ダメ元で。連戦で少々株は上がってるだろうし出してくれるありがた〜い人も探しゃいるだろ、うん。

そんなことを考えてたらウトウトしてきた、肉体と脳を酷使した翌日の体に電車の揺れは効果抜群だ。まるでゆりかごの中にいる様な心地である

まだ2時間近くあるし寝た方が合理的だろうと判断し杏は思考を放棄して寝ることにした。

杏は夢を見た。それは走馬灯であった。幼稚園の時家にあった作業用レイバーを操縦しこっ酷く叱られたが叱られた記憶よりレイバーの方印が象に残っていた。ジンジン伝わる振動に背負われた時より高い景色、その事が彼女をレイバーに夢中にさせた。それから彼女は毎日のようにレイバーを動かし続けた。雨の日も、風の日も。そんな我が娘を見て両親は「この子にはレイバーの才能、いや特車道の才能がある」と見込み習わせた。

小学校に上がっても彼女は特車道を続けた。偶然にもこの学校は選択授業制があり迷うことなく特車道を選んだ。他の子と比べて圧倒的な操縦経験がある彼女は直ちに隊長に抜擢された。初心者だらけのチームであるので自分が持っている技術を誰にでも惜しみなく教えた。その結果友達も増えチームはまとまっていき6年生になる頃には特車道ジュニアグランプリで優勝するほどの腕前、リーダーシップを持ち密かに「神童」とも呼ばれていたがまだこの時代は特車道がマイナーであったのであまり知ってる人はいない。中学校は特車道の強豪校、高校でいえば黒森峰的な学校に入学する事にした。入学してすぐに特車道の授業が始める。そこで彼女はケイとアンチョビと知り合うのである新たな仲間と共に彼女はここでも特車道を、レイバーを楽しめる…

____そう信じて疑わなかった

金属音が鳴り電車の心地よい揺れが止まる。夢の世界も閉ざされる、ハッと目を覚まし窓の外を見た。ぼんやりした視界で目的地の名前が書かれた看板が見えた

電車を降り改札へと向かう、ICカードを改札にかざしながら見回すと見慣れた顔が見えた。向こうは彼女に気づいたらしくニコニコしながら手を振る

「お久しぶり、ケイ」

と彼女も手を振り返す

「今日はどうするの?」

「取り敢えずご飯でも食べよっか」

「じゃあウチの学園艦寄ってく?」

「いや、せっかく銚子に来たんだから何か魚食いに行こ」

「そうね、ウチの船最近肉料理ばかりだったからたまの魚も悪くないわね」

「決まりだ、んじゃ行こう」

杏は内心ホッとした、とう言うのはサンダースの船はケイが言った通り肉料理が中心である。それだけなら別にいいのだが問題はその量である。全てがアメリカンサイズなのだ。両手で掴まないと食べれないハンバーガーにこれでもか、と言う量のポテトは当たり前、とてもじゃないが杏には食べきれない量だ。

(つぐつぐ思うんだがケイはよくあんな環境に居て太らないな…)

などと若干失礼なことを考えながら彼女達は港へ向かった。

駅からほんの少し歩くと潮の匂いがしてきた、大洗の海とはまた違う感じの匂いだ。

「何食べたいケイ?」

「ん〜?寿司とか?」

「こんな場所で寿司食ったら財布がすっからかんになるぞ…」

「じゃあ海鮮丼」

「海鮮丼かぁ…いいねぇ」

「あ、港が見えてきたわよ!」

日曜日だと言うのに幸いなことにそこまで人がおらずどの店も2人ぐらいの席なら空いており2人は適当な店を選び入店した。

テーブル席に案内され店員さんがお冷やが持ってくるなり彼女達は海鮮丼を注文する

コップをチン、と鳴らし久しぶりの再開に乾杯する

「まずは2回戦突破おめでとうだね、アンジー」

「ありがとうさん、初心者の私達がここまでいけるとは思わなかったよ」

「何言ってんのよ、あなた達はそんじょそこらの初心者なんか目じゃないわよ…ところでアンチョビには会ったんでしょ?元気だった?」

「うん、相変わらず元気だったよ。アイツ、アンツィオじゃドゥーチェなんて名乗っててさ慕われてんだよ」

「そっかそっか、アンチョビがみんなから慕われる隊長かぁ」

「ケイも隊長だったんだろ、お疲れ様」

「ん、ありがとう。サンダースは特車道の人数も多くて隊長になるのも一苦労だったわ…」

「確か100人近く居るんだろ?そん中で隊長になるって凄いなぁ」

「みんないい子でさ、私の事を“マム”って言ってくれんのよ。んで、みんなフェアプレイの精神で試合に挑んでてさ。ちゃんとルールを守ってどんな相手でも手を抜かないで対等に接して勝っても負けてもお互いが笑顔になれる試合が出来た…私がやりたかった特車道はあそこにあったの。そして最後は何の因果か貴方の学校と戦う事になってさ、あの試合が私の人生の中で一番楽しい試合だったわ」

「大袈裟だなぁケイは」

「大袈裟じゃないわよ、自分で言うのもアレだけど強豪校として名が通ってるウチらを突如現れた貴方達が2回も出し抜いたのよ?それも運とかじゃなくてちゃんとした作戦でさ。おかげでそこから興奮しっぱなしだったわよ」

そう言うとケイは水をクビリ、と飲んだ

「アンジーは隊長じゃ無かったけど生徒会長になったんでしょ?あなたらしいわね、中学の時から仕切っていたもの」

「なったはいいんだけどアホみたいに忙しくてね、何せ8000人いるからさウチら。これでも小規模らしいけど。その長みたいなポジションに着く訳だからもう大変だったよ、毎日大量に出る書類にお金のことばかり…よくもまぁ2年前の私は生徒会長になろうと思ったよ、知ってりゃならなかっただろうな」

などとぼやいている内に海鮮丼が届いた、これと言った奇抜さは無い普通の海鮮丼であったがこんなもので2人にとっては丁度いい具合である。

2人は食べると時は寡黙になるタイプで黙々と食べ続ける、その間杏は中学校時代の事を思い出す

 

____入学してから2週間ぐらいが経った頃、杏は特車道の授業を受けることになる。隊長が全員集合をかけた時、彼女はその人数の多さに息を飲んだ。小学校の頃がお遊戯レベルに見えてくる程だった、そこまでの大人数なのでチーム分けが行われる。1年生を中心に2年が副隊長、3年が隊長…と言った具合である。そこで杏はケイとアンチョビ(もっともアンチョビはその時は安斎と名乗っていたが)と知り合った。実は彼女達も小学生の頃から特車道をしておりその頃から勇名を轟かせており杏と同じくらいの有名人だった。

そんな有名人が3人も揃ってるとなるとチームのあちらこちらから黄色い声が上がるが同時に不安の声も上がる

やる時はやるけどいつもは昼行灯な杏と真面目な安斎、そして底抜けに明るいケイ。この性格が全然違う彼女らが性格の違いを原因として何か揉め事にならないかと思ったのだ。

しかしそれが杞憂であったことは直ぐに分かった、と言うのも確かに性格こそ違えど指揮官としての考え方はほぼ一緒で例えば杏が提案した作戦に安斎が捕捉しケイが作戦の担当を割り振る…といった形でお互いの性格をカバーし相乗効果を図ったからだ。結果として最初こそまとまりがなかった1年生だが徐々に結束力を高め2年生にも劣らない実力を身につけつつあった。そして全員、夏の大会に向けて努力して行った。無論杏としても例外ではない、大会に出て更に実力を身につけ更に特車道を楽しむためにも彼女は出場したかったのだ

そんなある日、1年生全員と2年生全員で模擬戦を行った。と言ってもこの試合は単に1年生の実力を測りたかった訳では無い。2年生は1年ながらも自分達に近づきつつある彼女らを快く思わず実力を持って先輩と言う立場を分からせてやる…そんな下らないプライドを固辞するために行われたのだ。

試合は2年生の圧勝で終わると思われていた。だが現実は技術力でも統率力でも勝っていた1年生の圧勝であった。先輩風を吹かせてやろうと思った2年生は自分達がどれだけちょっと実力が付いていたくらいで浮かれていたか、いかに己の立場に甘えていたかを思い知らされた。

この模擬戦を境に2年生は2つの派閥に分かれた

「自分達の実力不足を認め改めて特車道に専念する」と

「負けたのは偶然だ、1年生にそんな実力などあるはずがない」と言う風にだ

だがそのような事情を1年生が知るはずもなく、模擬戦が終わった後も杏達の元練習を重ね夏の大会への道を走り続けていた。決して楽ではない道を走り続けること数ヶ月、セミが鳴き始めた頃いつもの練習が終わり全員が集合させられる。朝礼台に上がった隊長の手には何やら紙が握られていた、そして隊長はその紙を広げこう言い始めた

「各員、本日の練習もご苦労であった。さてお前たちももう分かってるだろうがいよいよ全国特車道大会中学生の部がやって来た、それに当たって本校では来週から強化合宿を行う事にする」

一気に周囲が騒めく、隊長はそれを治め話を続ける

「この合宿は全員が参加できるわけではない、今から呼ばれたものが参加できる…これが表す意味、お前たちなら分かるだろう」

1人の生徒が挙手しこう言う

「選抜チーム…つまり大会出場者、と言う訳ですね」

隊長は顔色一つ変えずその通り、と言った

「今回の選抜に当たって例年ならばテストを行いそこから選ぶのだが…今年は違う。厳しい言い方だが我々は付け焼き刃の実力は欲していない、よって今年はお前たちのこれまでの成績を以て選ばせてもらった。具体的には日頃の訓練への積極性、及び向上性、そして模擬戦での貢献度だ」

そう言い終わるといよいよ発表の時がやってきた、この時ばかりは流石の杏でも耳を立てた、50音順に発表されていくのでもし呼ばれるなら彼女の順番は少し遅い。最初に安斎の名が呼ばれ杏はチラッと彼女の方を見る、一見表情が変わってないように見えたが口元に目を凝らすとほんの少しだけ口角が上がっていた。そしていよいよカ行に入る、1人が呼ばれまた1人が呼ばれる。まだかまだかと息を凝らして待つと遂に自分の名前が隊長の口から出た

杏は喜びのあまり破顔しないように軽く自分の掌をつねって堪えようとするもほんの微かに口元が緩んでしまう。あの真面目ま安斎ですらにやける程の喜びなのだ、自分が耐えられるわけがない。そう思いながら視線はケイの方に向いた。彼女をよく見るとその手はサムズアップしていた、仲間から祝われるのが嬉しくて更に顔が緩みそうになるがどうにかして堪える、必死に耐えているとふと聴き慣れた名前が聞こえた。ケイも選ばれたのだ、その顔は背を向いてるので分からないが彼女のことだきっと自分のように堪えているのだろうと想像しさっきのお礼と同じようにサムズアップした

そして全員の名前が呼ばれ解散指示が出る、バラバラになる中ケイが真っ先に杏に近づき安斎も近づいて来た

「アンジー!おめでとう!」

「私も選ばれたんだぞ!凄いだろ!」

「この3人が選ばれたか、こりゃ大会が楽しみだ」

「そうね、私達この数ヶ月間でだいぶ腕が上がったし…互いをよく知ることもできたし私達が優勝に貢献出来るって事もなきにしもあらずって感じね」

「1年だからって舐められないようにしなきゃねぇ」

「おいおい、大それた夢を持つのは構わないがまずは合宿だからなお前ら〜!」

いつものように杏とケイがボケて安斎が突っ込む、様式美とも言える展開に杏は何処となく安心感を覚えるのであった

 

 

 

 

 

 




次回、いよいよ杏が電話でケイに語った「酷いもの」の正体が明らかになります。ご期待下さい!
それでは御視聴ありがとうございました!


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杏備忘録part2

ど〜も恵美押勝です、いやぁもう10月ですよ早いもんですね。3ヶ月たちゃもう新年…!年取ると時間の流れが凄まじく早くて腰抜かしそうです
さて、今回の話は若干重くなってます。まぁ劇重いと言う訳でもないですが雰囲気がほんの少し「プラウダ戦記」みたいになってるので苦手な方はご注意を
それでは本編をお楽しみください!
レイバー・フォー!!


そんな思い出を振り返りながら食べ続けるのも終わりが来ようとしている、丼に残ったご飯を掻きこみ味噌汁でそれを飲みこんで完食する。手を合わせた後口直しに水を飲んでる最中ケイが話しかけてくる

「ねぇ、アンジー貴方魚を食べにここまで来たわけじゃないでしょ?そろそろ何で貴方が特車道に復帰したのか教えて頂戴」

杏はコップを置き真剣な眼差しでケイを見る

「あぁ、そうだ。それじゃ今から話そうか。私が特車道をやめ、そして何故再び帰ってきたのかを…」

そう言うとリュックからファイルを取り出して一枚の写真を置いた

「…?これって五十嵐先輩じゃない、確か全国大会の後見なくなって確か引退式にも見なかったはず」

「そう、五十嵐真衣…コイツこそ私が特車道をやめた最大の原因だ」

「what!?五十嵐先輩が!?」

「そうだ、話は強化合宿の時まで遡る…」

_______

奴さんは強化合宿で最初に出会った時から嫌な奴だった、顔合わせが終わった後私はアイツに呼び出された

「五十嵐先輩、用事というのは?」

尋ねた瞬間杏の体が持ち上げられた、胸ぐらを掴まれたのだ

「な…何をするんです…!やめて下さいよ!」

「おい、1年…杏だったか?ちょいと強化合宿に参加出来たくらいでいい気になるんじゃないわよ。隊長にどんな媚売ったか知らないけど、アンタみたいな腑抜けた奴が選ばれるなんておかしいのよ」

「酷い偏見ですねぇ…!私は媚を売るとかそういうのは大嫌いなんですよ、あくまでも私は実力で選ばれただけです。隊長もそう仰ってたでしょう…?

わかったらその手、離してくださいよ…!今ならまだ黙っておきますから」

「こんのチビ…!」

乱暴に離され杏は尻餅を突く、ズゴズゴと離れていく五十嵐を見て

よくもまぁあんな乱暴な奴が選ばれたもんだ、さぞかしレイバーも乱暴に操作するんだろうな

と心の中で悪態をついた

この時点では彼女は五十嵐の事を「面倒な奴」としか思ってなかった。だがその考えは直ぐに改めなければいけない事になる

合宿2日目、この日は集団陣形の練習が早朝からあるので杏は早めに起きて更衣室に向かった。入ろうとした時に五十嵐とすれ違いあんな奴でも練習は熱心にするんだな、と思い入室する。大洗は予算がないため無いのだがこの学校には十分なお金があるため選手にはそれぞれヘッドギアが与えられている。着替えた後それを取ろうと保管スペースに向かうも奇妙な事に杏の位置にそれがない、保管スペースの周辺をくまなく探すも見つからない。こうしてる間にも集合時間はどんどん迫ってくる、焦り始めたその時頭の中で嫌な考えが浮かび上がった。

…まさか五十嵐の奴が私のヘッドギアに関係してるんじゃないか、と

まさかね、そこまでの屑では無いでしょ。しかし念のためと言うこともある、仮に恨みとか妬みを感じてる人物の持ち物に何かしらの事をしようと思ったら…

恐る恐る杏は保管スペースにあるゴミ箱を覗いてみた

「…マジかよ」

中にはヘッドギアがあった、間違いなくコレは自分のものだ。

「信じられねぇ…アイツここまでするとはな」

後で追及しようと思うも時間もないので急いで被ろうとしたその時嫌な予感が全身を襲う

ヘッドギアの内側を見るとキラリと光るものがあった、正体を察し冷や汗が出て来る

「…画鋲って、私を殺す気か!?」

杏はその辺のあった細長い棒でヘッドギアの中身を掻き回し接着されてる画鋲を引き剥がす。コロンと出てきたそれは疑いようもなく画鋲であった。

_____ここまでするか、普通。そうまでして私をチームから外したいか、隊長に相談…いや、ダメだそんなことして仮に五十嵐が除隊処分なんかされてみろ。間違いなく本気で殺しにかかって来るぞ…ここは見て見ぬ振りだ。反応さえしなければ奴だってその内諦めるだろうさ、いや諦めてくれなきゃ困る

杏は画鋲を自分のロッカーにしまい込み今度こそヘッドギアを被る。画鋲は取ったはずなのに刺さった気がしてしょうがなかった

集合場所に向かう途中彼女は五十嵐とすれ違う、こっちを見た五十嵐は杏に近づいき彼女の頭をジロジロと見た

「何だ引っかからなかったんだ」

そう言いながらニヤリとした五十嵐に杏は朝の騒ぎはコイツで間違いないと確信し

「何のことです、先輩」

としらばっくれる事にした

「あくまでも惚けるか、まぁ良いさ。今の内に荷物まとめて出て行くんだね。その内絶対後悔するから」

「だから言ったじゃないですか、私が選ばれたのは実力ですって。先輩が想像してる様な事はしてませんよ」

「2年前私達1年生は誰一人として選ばれなかったんだぞ!?それなのに今年の1年に選ばられる奴がいるなんておかしいじゃない!」

その発言に杏はもう我慢出来なかった、言ってることが道理にかなってないからだ。そんな下らない理由の為に逆恨みされていた事に腹が立って仕方がなかった。故に

「一昨年選ばれなかったのは先輩の実力不足ですよ」

と余計な一言を言ってしまう

五十嵐は顔を真っ赤にして訳の分からない事を喚きながら何処かへ走ってしまった

(ハァ~、余計なことしちまった…これじゃ益々恨まれるぞ……)

杏は若干だけ己の行動に後悔したが言いたい事を言ってやれたのでそこまで気にしてはなかった。

 

その日の練習が終わり杏はケイと安斎を自室に招き入れ今日の成果を話し合いノートにまとめた、こうする事で今後の練習や模擬戦などで役に立つからだ。

書き終ええた頃ケイが話しかけてくる

「ねぇ、皆んな合宿もう2日目だけどどうよ?」

「私はブロッケンの操縦担当になったんだけどだいぶ車長の2年の先輩と連携が取れてきた気がするぞ。今日なんか『流石1年で選ばれただけの実力があるわね』って褒められてしまった、杏はどうだ?」

「ん〜?私はねこんな小柄な体で操縦するからもうクタクタだよ、でも車長の3年の先輩はいい人だねぇ。練習終わったらスポドリ奢ってくれてさ、いやぁありがたいのなんのって、ケイはどうよ?」

「私は先輩に操縦のコツとか教えてもらったり逆に私がどんな指揮を今までしてきたかってのを聞かれたから話したりと色んな意見を交換しあって楽しかったわ」

「そ〜かそ〜か皆んな楽しそうで何よりだよ」

杏は先輩達が話の話題になったのでう五十嵐の事を話そうと思ったがその事を話して心配をかけさせ彼女達のメンタルやコンディションに影響が出たら大変だと考え辞めることにした。

時刻は午後9時に差し掛かっていた、明日も朝6時集合なのでここらで解散する事にした。2人を見送った後杏はノートを机に上に置きほんの少しだけパソコンを弄り倒れ込むようにしてベッドで就寝する

 

翌朝も更衣室にあるヘッドギア保管室のゴミ箱にこれ見よがしに杏のが捨てられておりご丁寧に画鋲の数が増えていた

「懲りない人だね〜増えてんのは昨日の当て付けだな?本当のことを言ったまでなのにさ」

そう言いながら着替えようとジャケットに手を伸ばすが万が一と言うこともあるかもしれないので内側を見る事にした

「流石に服までは細工してないか…もし鍵まで開けるぐらいのことしたら本気で病院を勧めようか」

若干大声で毒を吐きながら着替えて集合場所へと向かった、その日は初めて五十嵐に絡まれることなかった。

 

心の中では平常心を保っていてもやはり五十嵐と言う存在は杏にとって深層心理に蝕む癌の様な存在なのだ、故に今日絡まれなかったのはメンタル的にありがたいものだった。おかげでその日は安定したメンタルで練習に臨むことが出来たのだ

夕方になり練習が終わった、いつもならこの日は車長の先輩と一緒に自主練なのだが今日は一言謝り無しにさせてもらう。というのもある目的があるからだ、更衣室に到着し着替えた後ヘッドギアを脱ぐ、そしてヘッドギアの底…つまり頭頂部に小型のカメラを仕込む。これは昨夜注文した商品である

なのだが今日は一言謝り無しにさせてもらう。というのもある目的があるからだ、更衣室に到着し着替えた後ヘッドギアを脱ぐ、そしてヘッドギアの底…つまり頭頂部に小型のカメラを仕込む。これは昨夜注文した商品である

(コイツはあくまで最終手段…万が一何かがあった時のためにしかるべき場所に提出するためだ、願わくばコイツが役に立つ機会が無ければいいんだが…)

蒸れた頭を掻きながら杏は自室へと帰る、鍵を回してドアノブを捻る。だがガコン、と硬い感触が伝わるだけだ。まさか、と思いもう一度捻りドアを引くが結果は変わらない

(私…鍵は閉めたはずだぞ!?なのに一回回して開かないってのは…まさか、まさか!)

鍵をもう一度回して乱暴気味にドアを開ける、自室を見た瞬間杏は全身の血の気が引く音が聞こえた

室内では杏の部屋を荒らしに荒らし卓上にあるノートにまで手をかけようとした五十嵐がこちらをギョッとした目で見てくる

「お…お前!自主練のはずじゃあ…!」

「五十嵐…先輩…!?何してるんですか!?そこ私の部屋…鍵かけた部屋ですよ!」

私の部屋に入ってめちゃくちゃにしてあまつさえノートまで破ろうとしたのか…ピッキングしてまでコイツと言う女は…!

犯罪スレスレなんてものではなく完全に犯罪でしかない行為にもうコイツはダメだと判断し杏はポケットから携帯電話を取り出す

携帯電話を見た瞬間五十嵐の顔が見る見る青くなっていく、無理もあるまい、バレたら除名処分だなんて生温いものじゃない。よくて停学、悪くて退学処分になるからだ。そんなことになったらもう二度と特車道をする事は出来ないだろう。

「もう警察呼びますね、流石にこれはどうかしてるんで」

そう言い携帯電話の画面を五十嵐に向け見せつけるように“1”のボタンをプッシュする

「待ってくれ!警察なんか呼ばれたら私…いやお前も面倒なことになるんだぞ!?」

「関係ない、そんなこと」

再度1のボタンを押す、そして最後のボタンを押そうとしたその時、五十嵐が杏の足に擦り寄ってきた

「すいません…!すいません…!ほんの出来心なんです…!貴方が…1年生で普段おちゃらけてるのに選ばれた事が妬ましくてつい…!本当にすいません…!」

泣きながら釈明する五十嵐を杏は軽蔑の眼差しでしか見ない。もし今の杏が高3の時と同じ精神を保持していたら躊躇いなく最後のボタンを押していただろう、だがこの時の彼女は自分の足に涙を流しながらしがみつく女を見て怒りが消えてしまい寧ろ哀れとしか思えずこんな奴に構う時間が勿体ないと思ってしまったのだ

携帯電話を閉じパタン、と音がする。その音を聞いた五十嵐が顔を上げ目と目が合う

「杏…さん」

「出てけ」

「…はい」

「さっさと出て行け、二度と関わってくるな!」

そう言って掴まれた足をほんの少しだけ後ろに動かすと蜘蛛の子を散らすように自室から出て行った。服が散乱し通帳や印鑑までもが乱雑に床に置かれてるのを見てため息をつく事しか出来なかった

「取り敢えず、作戦ノートは無事だから良しとするか…今は午後6時30分、アイツらがやってくるまであと30分ってとこか、さ〜てお掃除しましょうかね」

ノートを丁寧に机の中に入れ、服などを適当に畳んでタンスの中に入れる。掃除してる間杏の心は虚無に包まれていた

 

また翌日、みたたび保管スペースを覗く、どうやら今日はヘッドギアは弄られてないらしい。流石に懲りたみたいだ。ギアからカメラを取り出してロッカーにしまう、ジャケットも確認するが異常は無かった。久しぶりに晴れやかな気分で身支度を整えることが出来杏は鼻歌を歌いながら集合場所へと向かう、珍しいことに安斎とケイが先に集合しておりこちらを見かけると手を振って来た

「おはようさん、ケイ、安斎。早いじゃないか」

「いやぁ昨日部屋のエアコンが壊れて寝付けなくってさ、早めに起きちゃったのよ」

「おかげでこっちは何時もより10分早く起こされた…いきなり部屋に来るからなケイの奴…」

目を擦りながら安斎が言った。

「も〜たかが10分じゃない〜」

「10分の睡眠は大きいんだぞ…!」

文句を言う安斎を他所にそうだ、とケイが手のひらを叩いた

「ねぇ知ってる?今日の朝、副隊長が発表されるみたいよ」

「え、そうなのか?じゃあお前たちが早起きだったのって…」

「確かいつもの練習試合とかなら副隊長って五十嵐先輩だよな、んまぁ多分このチームも五十嵐先輩なんじゃないか?」

「いやいや分かんないよ〜?私達の中から選ばれたりして!?」

「そんな訳ないだろケイ、1年で選ばれただけが凄いのにその上副隊長に抜擢なんかされちまったら天地がひっくり返るぞ」

と笑い合いながえら3人は集合時間になるまで世間話などをして時間を潰した

 

時間になり凛々しい顔をして隊長が朝礼台に上がってきた。全員が直立不動になりツン、と尖った雰囲気が場を支配する。隊長が周囲を一瞥し口を開く

「諸君、おはよう。この1週間の合宿も今日で3日目、ほぼ半分と言うところだ。さて、小耳に挟んだ人も多いかと思うが…ただ今より夏の全国大会選抜メンバーを率いるセカンドポジション、つまり副隊長を発表する。2日間で諸君ら選抜メンバーの中で私に次ぐ優秀な選手を選んだ、一度しか言わないから心して聞くように…副隊長は、『角谷杏』だ」

杏はどうせ五十嵐が選ばれると思い話半分でしか聞いてなかったが故に突如自分の名前が呼ばれ驚く

____選ばれた…!?私が副隊長に…!?これはなにかの間違いなのでは

驚く杏など目に入らぬかのように隊長が話を続ける

「1年生を副隊長に選び驚きの声もあるだろう、だが彼女には入学したばかりでバラバラだった1年生をまとめ2年生の模擬戦で圧勝する芸当を見せた、すなわち極めて優れたリーダーシップがあると言う事だ。それだけではない、彼女が立てる作戦はいつも2手3手先を読んだもので非常に優れたものであった。そう、リーダーシップだけではなく柔軟な発想を持てる人物という事だ、故にこれは申し分なく副隊長としての資格を持ってると私は考えた。賛同のものは拍手を願う!」

ポンポン、とまばらだった拍手が次第にパチパチと大きな雨音の様な音に変わってくる

杏は口をポカンとさせながらいつもの2人を見る、拍手こそしていたがその顔は正しく「驚愕」を表していた、無理もない。まさか本当にこの3人の中から選ばれるだなんて誰一人として思っていなかったからだ

ふと、我にかえって五十嵐の方を見る

彼女は拍手はしておらず下を向いておりその表情は伺えないがいい感情ではないだろう

(…副隊長に選ばれたのは本当に嬉しい事だし頑張りたい、だが五十嵐…コイツがまた逆恨みをしてこないだろうか、昨日で懲りたとは言えコイツは感情に身を任せるタイプ、妬みのあまり変なことをしなきゃ良いんだが…)

ワナワナと震える五十嵐を見てそう思わずにはいられなかった

______________________________________________________________________________________

「…とまぁこんな感じだ、私と五十嵐の出会いは」

水を飲見終えコップをテーブルに置く

「まさか五十嵐先輩がそんな人だったなんて…じゃあコレが貴方が特車道を辞めた理由なの?」

「いや、これは前座に過ぎない。本題はこっからさ」

そう言うと杏は再びファイルから写真を2枚枚取り出した

「これは…ブロッケン?しかもこの機体何処かで見た事があるような…」

「これは私が全国大会決勝戦で使ったレイバーだよ、整備班の連中が試合後撮った奴をコピーしてもらったのさ…で重要なのは次の写真だ」

もう一枚の写真はブロッケンの後方の写真である

「このレイバー何かおかしいわね…分かった!ダクトが焦げてるのね!」

「その通り、これは使い込まれた証としての焦げじゃない、このコゲにこそ私が辞めた理由があるのさ」

そう言いながら杏はピッチャーを取りコップに水を注いだ。水に反射する杏の顔はあの時の隊長の様な厳格な表情であった

 




杏さんの過去を書こうとするとどうしても重くなってしまうのなんでだろ〜なんでだろう〜
次回はほんの少しハートフル要素を足したい…!
それではここまでのご視聴ありがとうございました!


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杏備忘録part3

ど〜もどもども、恵美押勝です。めちゃくちゃ更新遅くなって申し訳ありません!プライベートの方が忙しくなり二足の草鞋もありこのようになってしまいました…今後もこのような亀更新となってしまうかもしれませんがそれでもお付き合い頂けると幸いです
では本編をお楽しみください


副隊長として就任されてからというのも杏の生活は多忙を極めていた、隊長が立てた作戦を補佐しメンバーに指示を出す。それだけでもかなりの重労働だが大変なのは練習が終わってからだ、終わった後メンバーが隊長に質問が来るのだが何せ数が多い、杏の方にも質問に来るメンバーが多数いた。一人一人の質問に答えるのは骨が折れたが2年や3年の先輩達が1年の自分に質問に来ると言う行為は副隊長として認めてくれる現れでもある、そう思うと練習の疲れも和らぐのであった。

だが安堵しているのも束の間、質問攻めが終われば今度は報告書などをまとめなければならない。今日の練習の成果、改善点を書く。この時一人一人の動きなども確認するのだが杏の目は自然に五十嵐を注目してしまうのだ

「私が副隊長になったから命令違反なんかするんじゃないかとヒヤヒヤしたが流石に命令は聞くんだな。んまぁそっか、聞かなきゃみんなから怒られるもんな。そんぐらいの損得勘定は出来るか…」

実際五十嵐の動きはお世辞ではなく本当に良い物だった、杏が思い描いた通りの動きを完璧にこなし今日の行われた選抜メンバー以外の選手と対抗した模擬戦では確実に勝利に貢献していた

「個人としちゃ微塵も信頼出来んがチームとしては十分信頼に当たる人物だな、ったく何で性格があんなのかねぇ天は二物を与えず、って奴かねぇ」

杏は報告書の最後の1行を書き終えペンを一回転させながら呟く

「んでもアイツ昨日の一件で懲りてるだろうし私が副隊長の間はコントロール出来るって訳か、やれやれこれで一安心だ」

報告書を書き終え隊長に渡すと時刻はもう10時だ、明日の朝も早いので寝支度をする。

「…合宿が終わるまで、つまり全国大会まであと4日か」

ベッドに身を預けると1日の疲れが染み出してくる様に体にまとわりくようだ、まもなく意識がまどろんでいき溶けていく…

✴︎

「副隊長に就任されてから合宿終わるまでは平和だったんだ」

と思い出話にひとまず区切りをつけ杏は水を飲んだ

「合宿までってことは全国大会はそうじゃなかったわけ?」

「いや、正確に言えば決勝戦までだな。…ただ」

「ただ?」

「今思い返せば準決勝の時から嫌な予感はしてたんだ、何か一悶着が起きそうな…そんな予感が」

「準決勝で?そんな感じはしなかったけどなぁ」

「ケイはあん時別働隊だったから知らなかっただろうね、分かったそれじゃここからは準決勝…んにゃ準決勝前夜から話しをしよう」

✴︎

全国大会が始まってから杏の学校は破竹の勢いで連戦連勝していた。強豪校故に金に糸目はつけずブロッケンやEX-13と言った強力なレイバーを購入することができそこに高い練度が加われば負ける戦いなど有るはずがなかった。だが実際練習の成果を発揮して勝利を掴むことは心地よいものだ

無論杏も例外ではない、意識してないとにやけてしまいそうになる

「いけないいけない、勝ったとはいえまだ2回戦、私達が目指すのは優勝だ。ここで気を抜いちゃダメなんだよ…そのためにもまずは明日の準決勝で勝たなきゃいけないんだ」

自室へ戻っていた報告書を作成していた杏は己の頬を叩き気を引き締めた。

そして今日の報告書を書き終え最後の行には「慢心こそ最大の敵」と書き記し隊長に提出した。

(さて、明日は何時もより早いんだ、もう寝なきゃな…でも寝れる気がしないんだよな)

そう思いながら自室へと向かうと何やら違和感を感じた。

(あれ…?私の部屋電気消したはずだよな、なのになんで明かりが?)

自室のドアがほんの少しだけ開いておりそこから明かりが差していた。

杏は自分の心がざわつくのを感じる、再び五十嵐が蛮行に及んだのではないかと思ったからだ。しかし奴としてもこのタイミングで騒ぎを起こすのは避けたい事だ、杏の軽蔑に近い慈悲によって一度は助かった我が身をそう易々と再び危険には晒したくは無いだろう。故に杏はドアの向こうにいる人物が五十嵐であると確信を持てない、だが五十嵐でなくとも誰かがそこに居るのは確かなことなのだ。ドアの前に立ち彼女はゆっくりと開ける

…そこに居たのは

「あっ、お帰りアンジ〜!」

「お疲れ様」

ケイと安斎であった、杏は安堵のため息をつく、ドアを閉め二人が座ってる床に近づき座る。床にはちゃぶ台がありそれを取り囲むようになる

「なんだお二人さんか、どうしたのよ?」

「いやぁそれが眠れなくてさ…興奮しちゃって」

「それで眠くなるまで話し相手を求めて私の部屋に来たって訳か、また安斎を起こしてやって来たのか?」

「いや、今日は私も眠れなくてなケイについて行ったんだ」

「なるほどねぇ」

そう杏がちゃぶ台に肘をのせ頰杖をして喋るから勘違したのか

「随分余裕みたいじゃな〜い?その割にはドアをロックして無かったみたいだけどさ?」

とケイに言われる。これは迂闊であった、「慢心こそ最大の敵」と書いておきながらちょっと部屋を外すだけだからと油断してドアの鍵を閉めるのを忘れてしまった。これがケイ達だったから良いものの五十嵐であったら…そう思うと表情にこそ出さないがゾッとする

「…?どうしたの?」

突然黙りこむる杏を不審がる

「…いやぁなんでも無いよ、緊張してないなんてんな訳無い無い。コッチも緊張しちゃってもう眠気なんてこれっぽちも無いよ」

「杏が緊張するなんてあるのか?いつも掴みどころが無いお前がか?」

杏はそりゃ私だって人間だよ、と苦笑いして話し始めた

「明日の準決勝、相手は私達と同じく強豪校だ、私と隊長が編み出した作戦が上手くいくかどうか不安なんだよ…」

と最後は力強く呟いた、隊長のことは勿論信頼してる。だが100%この作戦で勝てるかと言われれば首を横に振る、99.9%上手くいくと言われた作戦だとしても残りの0.1%に覆される確率があるならば不安に駆られる。中学生の時の杏はそういう人間だった。だが不安になるのも無理はないこれまでの試合は仮に作戦が上手くいかなかったとしてもレイバーの性能差でカバーが可能だった。だがここからはレイバーの性能が互角になる。つまり作戦の失敗=敗北となってもなんらおかしい事では無くなるのだ

下を俯き項垂れる杏

「大丈夫よ、アンジーなら」

そんな彼女の頬を優しく持ちケイが話す

「ケイ…」

「私はね試合前に負けることを考えるほど馬鹿らしいことは無いって思ってるんだ。負けの思考に陥ったら勝てる試合も勝てない気がしてさ、私は勝負の前から既に勝ちのビジョンしか浮かんでないわ。それが例え勝率0.1%の分が悪いギャンブルだとしてもね」

「ケイ…それは慢心って言うんじゃないか?」

「いいえ、慢心って言うのは勝つと思い込んで“油断”することよ。私のは勝つことを目的とした希望…渇望…勝ちを得るための動力源よ」

「…動力源」

「負けると思ってちゃ前には進めない、勝つと思って止まるんじゃない、勝つと信じて前に進むのよ。進まなきゃ勝利なんて夢のまた夢よ?」

そう言いながらケイは杏の頬を揉む、手の温もりは彼女の凍った氷を優しく溶かしていく

「ケイの言う通りさ」

「安斎…」

「勝つと信じて私達は練習しているんだ、負けると思って練習する馬鹿は居ないだろ?」

「そうだ…私達は勝つために練習してるんだ…前へと進むそのために…」

____そうだ、私は何を弱気になってるんだろうか。勝負する前から負けを想像するなんて私らしくないじゃないか…!

杏は己の頬を叩き喝を入れる、そして目をカッと開いた

「ありがとう、ケイ、安斎。おかげで目が覚めた!」

立ち上がり杏は礼をする

「頑張りましょ、アンジー!」

「私達も全力で頑張るからな!頼むぞ、副隊長!」

そう言って彼女らは手を差し伸べてきた

「…あぁ!頑張ろう、絶対勝つぞ!」

互いに固く熱く握手し互いを称えあった。

✴︎

夜が開けいよいよその日がやって来る

杏の目に迷いは無かった

「レイバー・フォー!!」

掛け声と共に勢いよくレイバーが前進する、杏が立てた作品はこうだ

・まず指揮車が敵本陣を見つけEX-13がそこに四方から奇襲をかける  

 

・分散したところをハンニバルが待ち構えフラッグ車を孤立させていく 

 

・最後にフラッグ車が出てきたところをスナイパーライフルで狙撃する

では誰がラストシューティングを務めるのか、それは五十嵐である。無論最後に彼女を撰んだのは彼女自身を信頼した訳ではない彼女の腕前を信じた上での判断だ。と言うのも彼女は射撃に関しての腕前は選抜メンバー1であったのだ。

指揮車を先行させ杏達はゆっくりと周囲を警戒しながら進む。そして森林地帯の数十メートル手前で一時停止し連絡を待つ

電源をカットして杏は座席にもたれそっと目を瞑る

____まずはこの一手が成功しなくてはこの後の作戦が台無しだ。頼むよ…

そう思った矢先インカムのブザーが鳴った。素早くボタンを押し応答する

『こちら副隊長車』

『副隊長、こちらは指揮車部隊です。敵は上手いこと固まってくれてます』

『よ〜しついてるな、場所は?』

『ポイントD-13です!』

『森の真ん中と言うわけか…敵さんの今の状況は?』

『現在そのまま直進中、5分もすれば副隊長の方へ到着します。それまでに次の手を』

『ほいほい、そんじゃ帰り道も気をつけてね〜くれぐれもバレないように』

『了解!』

通信を切って杏はチャンネルを切り換える

『ケイ、安斎!敵さんが見つかった。座標を送るから5分以内に包囲するようにEX-13部隊を展開!散り散りにしてやれ!』

『オッケー!任せて!全車Go ahead!!』

『散らせた後我々はどうすりゃいいんだ杏!』

『一旦本陣に戻ってくれ、万が一の場合ハンニバルを援護もしていいが…武装が45mm砲しかないから基本的には戻って頂戴』

『了解!各車Avanti!』

2人の掛け声で蜘蛛のようなレイバー、EX-13が文字通り蜘蛛の子を散らすように駆け出していく、そして一瞬で見えなくなった。杏は再びチャンネルを切り替えた

『隊長!』

『うむ、全車輌電源を点けろ!ハンニバル隊は作戦通りのポジションに展開!杏、五十嵐は私と共にポイントR-15へ移動!では行くぞ!』

続いてハンニバル隊が森林の方へ進むのを背に杏達はポイントR-15、スナイプポイントとしてはうってつけな程よい高さの崖へと進んだ

(ここまでは順調…後は敵さんが上手いことバラバラになってくれればこっちの勝ちだ!)

崖の上に到着し五十嵐の乗るブロッケンがコードを股間部に接続させスナイパーライフルを構える。杏が乗るブロッケンも同様に構えるその間フラッグ車である隊長は彼女らの後方へ回り待機する

コードを繋いだことによりメインカメラの倍率が数十倍に上がり鮮明にメインモニターに映る。拡大した先は狙撃ポイントだ、本来スナイパーとは観測役であるスポッターが必要である、特車道においてスポッターの役割は車長が果たす。つまり今回の場合スポッターは杏が務めることになるのだ、杏が座席に背中を預けながら下を見ると操縦士である先輩の体が震えていた

「先輩、緊張してますか?」

「そりゃあ緊張するよ杏ちゃん…何せこの試合は私達の射撃に掛かってるんだから」

「今緊張してもしょうがないですよ、通信が入るまでリラックスして待ちましょう。じゃなきゃ肝心なタイミングで体力が無くなっちゃいますからね〜l

「ハハハ…私は時々杏ちゃんの神経が羨ましくなることがあるよ」

「酷いな〜人を無神経みたいに言っちゃって。私だって緊張する時はするんですよ」

と、その時通信機の音が鳴る

「こんな時にね!」

『はい副隊長車』

『アンジー!マズいことになったわ!』

『どうした!?』

『敵のサターンが2輌そっちに向かっていったわ!

 他は倒したんだけどEX-13は全機弾切れ、ハンニバル隊も今からじゃ追いつかない!』

『獲物が増えたって訳か…ハンニバル隊はそのまま前進させEX隊はその場で待機。安斎にも伝えておいてくれ!』

『分かった!』

『おいマズいぞ杏!』

『今度は安斎か、何輌だ?』

『1輌…って何で分かったんだ!?』

『ケイの方もそうだったからなぁ…』

『すまない…!』

『いいのいいの、起きたことを気にしちゃしょうがない。後は私達に任せてくれ』

通信を切りチャンネルを回す

『指揮車、フラッグ車はどうなってる?』

『順調にそちらの方へと向かってますよ。1部分だけ攻撃を手薄にして正解でしたね!』

 『全くだよ、こうも上手くいってくれるとありがたいもんだね』

通信を切りメインモニターを凝視する。数100m先に左側に2輌、右側に1輌接近してるのが確認できた

(フラッグ車はもう少し後に林の中を突き抜けて真ん中に来るって訳か…)

そう考えて通信を入れる

『五十嵐先輩は右の1輌を、自分は2輌をやります』

『…分かった』

インカムを切りスゥっと息を吸い集中する

「先輩、お分かりかとは思いますが1撃で確実に仕留めるにはコクピットです。そこしかありません」

「うん、分かってる。でも緊張しちゃうなぁ…」

「その為のスポッターとしての私です、大船に乗ったつもりでいて下さいな」

「うん…!」

そうこう言ってる内に敵が射程距離に入ってきた、2輌のサターンは並列して走っている。

「左…15°に下方20°にして私が合図したら発砲をお願いします」

「了解」

「発砲後即リロード、銃の高さはそのまま右へ30°に」

ターゲットサイトにサターンのコクピットが映り表示が黒から赤へと変わる

「今です!」

トリガーから引かれ弾が飛び出す、吸い込まれるようにコクピットへと吸い込まれペイント弾の赤に染め上がる。撃破判定が出て電源が強制的にオフになったサターンが倒れる、その姿を見て隣のサターンが驚き右へ進もうとする

だがそんな行動は既に予測済みだ、リロードが終わったライフルが次弾を撃ち見事2輌目のサターンのコクピットに命中し白旗が出る

(よし、全弾命中。五十嵐の方はどうだ…?)

横を見ると五十嵐機のライフルの先に横たわっているサターンが見えた

(流石、腕は本当に信頼できる。…ここかでくれば後一息だ!)

数十秒後とうとう本命であるフラッグ車のSRX-70が出てきた

『五十嵐先輩、頼みます!』

杏はこの後銃声が聞こえ試合が終わるのを確信した。だが望んでいる音は聞こえない、それどころか調整すらしてない始末だ

『五十嵐先輩!どうしたんですか!今ですよ!』

しかし返事すら返ってこない。

____まさか、この土壇場で裏切りか。いやそんな馬鹿な、トドメを刺す大役を任された以上それをやり遂げなければどんな目に合うかは奴とて想像できるだろう。そこまでの馬鹿じゃないことはこの間で分かったはずだ…じゃあ何故?

…仕方がない、考えてる間にもチャンスは無くなるんだ

「先輩、右17°、仰角は5°でお願いします。調整と同時に発砲を」

「杏ちゃん、私達が撃つの!?」

「五十嵐先輩が撃たない以上私がやるしか無いんですよ!」

急いで調整して発砲、だがコクピットを狙った球はメインカメラへと当たってしまった。

「外れた!」

「落ち着いて下さい、3°下方に修正して再度発砲!」

そして再び弾が放たれた。今度はコクピットに命中してくれた

「やった…これで勝ちだ…!」

白旗を出し純白の機体を赤く染めた機体を見ながら杏は大きく息を吐き座席へと倒れ込んだ。

✴︎

試合の挨拶を終え自分の場所へ戻るとケイや安斎だけでなく全員が喜びの笑みを浮かべながら撤収準備を始めていた相手校のレイバーは全滅、こちらの損害は3輌だけと言う圧勝だ。喜ばないわけがない、だが杏は素直に喜べなかった

___勝ったことは勿論めでたいことだ。これで決勝戦に進めるわけなんだから、だがラスト1撃破は…五十嵐は何故撃たなかった?私達が咄嗟に撃ったから結果オーライなものの…いや仮にあそこで外したとしてもいずれあの機体はやられていたんだ、問題なのは結果じゃない、五十嵐が撃たなかったことことだ。

杏は当たりを見渡し五十嵐を見つけ声をかける

「五十嵐先輩」

「…杏か」

「何故、あの時撃たなかったんです?」

「それは…通信機の故障でな」

「そうだとしてもあのタイミングで撃たないのはおかしいですよ。射撃が上手い貴方ならばあの時撃たなければいけなかったことぐらい分かってるはずだ」

そう言うと五十嵐は沈黙した。杏はさらに深く掘り下げようと思ったが決勝戦が控えているのだ、面倒なことは極力避けたい、そう思いやめた

「…貴方が私のことをどう思おうが勝手だ、だが私怨でチームを巻き込むことだけはやめて頂きたい。そこだけは理解して下さい」

杏は後ろを向き自分のレイバーの元へと戻った

五十嵐はその間もずっと沈黙したままだった、だがその拳が小さく震えてるのを彼女が目にすることはなかった

✴︎

「…とまぁ準決勝はこんな感じだな」

本日3杯目の水を飲み切った杏がケイに話しかける

「準決勝にそんなことがあったなんて…通りで準決勝終わった時貴方の顔が暗かった訳だわ」

「後から整備班に調べてもらったんだが五十嵐の通信機は壊れてなんかいなかった。まぁ当然っちゃ当然だわな、あの試合壊れる要素なんて皆無だったし」

「…すると五十嵐先輩はやっぱり嘘をついてたって訳だ。と言うことはやっぱり裏切りだったの?」

「う〜ん、裏切りと言うとちょいと違うな。まぁその辺は決勝戦で話すとしよう。…さてと」

杏は机に伏せていた写真を表に返す

「改めてこの写真を見てもらおう、このダクト部分が焦げたブロッケン…これが私の特車道人生を大きく動かすことになったんだ。それじゃ前置きはこのくらいにして決勝戦について話そうか…」

コップに水が注がれるのを他所に杏は重々しく話し出すのであった

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、杏の過去を書くこの杏備忘録も次回でラストとなります。決勝戦で杏の身に何が起こったのか、五十嵐が撃たなかった訳とは。次回もお楽しみに


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杏備忘録part4

ど〜も恵美押勝です!今回はいよいよ最終決戦、この杏備忘録も終盤へと差し掛かってきました。
1週間に1話と言うスローペースにも関わらず読んでくださる読者に方には感謝してもしきれません。
それでは本編をお楽しみください!


 

「とうとうここまで来ちゃったなぁ」

決勝戦当日、杏はコクピットの中で深く息を吐いた

___決勝戦の相手は黒森峰…私の学校も十分に強いけどあそこはうちらより数倍は強い、現に去年いや、ここ10年黒森峰に敗れ準優勝止まりしている

「だが、それも去年までだ。今年は絶対に優勝してみせる!」

と思わず声に出たのを操縦座席の先輩がクスリと笑う

「先輩、私は大マジですよ?笑うなんて酷いな〜」

「ごめんごめん、杏ちゃんがそんな真剣な声を出すなんて滅多に無いからさ」

「私は最初から優勝を狙って、ここに入ったんです。先輩だってそうでしょう?」

「そうね、私もそのつもりで入ったわ。でも2年連続準優勝、それも凄いことだけどやっぱりガッカリしたわよね。狙うわ優勝だったもの…だけど今年はいけそうな気がするわ」

「何でです?」

「そうね…杏ちゃんがいるからかしら」

「私ですか?」

「杏ちゃんが入ってから模擬戦やったでしょ?あれからなんか空気が変わったのよね。“1年生に負けてるようじゃ私達もまだまだだ、初心に帰って頑張らねば”

ってね。そのおかげで練度も更に上がったし杏ちゃんが立てた作戦のおかげでここまで圧勝することができた」

「私は作戦を立てただけです、後は皆さんのおかげですよ」

「謙遜しなくていいのよ、舞台裏で活躍する照明がいなければ俳優は輝けないからね」

杏は自分のことを1年と見ず対等に見てくれる先輩がありがたみを感じていた。最初の出会いは五十嵐ではなくこの人であれば良かったと思うほどだ

「…先輩」

その時、インカムからノイズ音が流れた

『…諸君!ついにここまでやってきた!何度私達には黒森峰に敗れその度に辛酸を舐めてきたのだろうか!だが今年は違う!今年の我々は去年までとは一味も二味も違う!今度は奴らが辛酸を舐める…いや飲む番だ!諸君、覚悟はいいか!』

インカムから威勢の良い返事が聞こえる、勿論その中に杏も含まれている

『よし!では行くぞ!レイバー・フォー!!!』

✴︎

決勝戦の作戦はこうだ

・隊長のファントムが最大広域でジャミングをかける

・その間指揮車、EX-13部隊が捜索し発見次第攻撃を行う

・ハンニバル部隊もそれ続き突撃

・どさくさに紛れて相手のブロッケン部隊に杏のブロッケンが混ぎれこむ

・最後に杏が的のフラッグ車を見つけて撃破する

…と言う寸法である。この作戦を発表した時隊長からは「無茶だ」と言われ却下されかけた。無茶なのは百も承知、だが真正面から言って勝てないのであれば相手の虚を突く必要があるのだ、こちらの練度がいかに成長しようと相手は常に我々の1歩先を進んでいる。これが黒森峰と言う学校なのだ、それを受け入れなければならない。だが練度が高い故に定石通りの事にしか対応が出来ないと言う欠点がある、つまり想定外の事態には初動がほんの少し遅れるのだ。それがこの作戦を立てた最大の理由でる、無茶と言われようが我々が勝つためにはこれしかない。

と力強く訴えると最初は苦虫を潰したような顔をした隊長であったが徐々にその目に炎が宿り最後には杏の手を掴み

「よし、分かった。それでは杏くんの作戦で行こうじゃないか!」

と言い承諾してくれた

杏は無茶な作戦にも関わらず最終的に承諾してくれた隊長に深く礼をするのであった

✴︎

『各員へ通達、これより1分後最大広域でジャミングをかける。ジャミングをかけたら試合が終わるまでは通信は出来ない…おまけにセンサーの類も使えん、だからEX部隊がドンパチやる音が聞こえたらハンニバル部隊は出撃せよ。…さて、今のうちに話したいことがあるなら話しておけ。では一時通信を切らせてもらおう』

通信が切断されインカムの赤いランプが消える、杏は残された時間で話したいことがあるためチャンネルを素早く弄る

『やぁ、安斎、ケイ。とうとう来ちゃったね。決勝戦前だから言っておきたい事がある。何、深刻なことじゃないさ』

『どうしたのよアンジー、らしくもない真剣な声しちゃって』

『そうだぞ、急に改まって』

『私が今日まで戦えたのはお前たちのおかげだ、お前たちがいたから、私は副隊長としてやっていけたんだ』

『私達特になにもしてないわよお互い友達になったってだけで…』

『それだよ、それがありがたかったんだ。私が入ってきたばかりの時、1年生内の隊長になった時作戦を立てたらお前たちはいつも捕捉したり逆に私が考える以上の作戦も提案してくれたりした。本当これが助かった…選抜になってから私がやれるのかって不安も無い訳じゃなかった。そんな時支えてくれて、勝てたことで私は自信を持つことが出来たんだ。私1人じゃ無理でも力を合わせれば出来ない事はないって…!』

『杏…お前』

『前回の作戦も今日の作戦もお前達と推敲して出来たものだ、だがその2回ともお前達には危険な役割を背負わせてしまった…すま

『ストップ、アンジー!危険な役割だと分かってても最終的に望んで参加したのは他でもない、私自身…いえアンチョビだってそうだわ。貴方に押し付けれられたからと思って渋々参加したんじゃないわよ』

『そうだ杏、私は私の意思で役割を演じた、それまでだよ。杏がそんな変に背負い込むことはないんだからな…全くお前は生真面目だよなぁ』

『安斎…ケイ…!』

『さて、辛気臭い話はこれでお終いよ。そろそろ時間になりそうだし…最後に“エイエイエオー!”って言って締めましょうか!』

『それは…ちょっと恥ずかしいような』

『いいじゃないか杏、こう言うのはノリだノリ!』

『…分かった』

『それじゃ行くわよ』

『『『エイエイエオー!!!』』』

通信機越しの声だがまるでその場で肩を組み叫んでるような感覚を杏は覚えた。しかしそのような時間ももう終わりである。インカムのコール音が鳴った。

『時間だ!いいか皆んな!最終決戦だ!弾の出し惜しみなんかするな!では各員の健闘を祈る!特に杏!

…頼んだぞ!』

最後に自分の名前が呼ばれ返事をしようとするがもう遅い、通信機はノイズ音しか伝えない。

コクピット越しにも知覚出来る駆け出すEX-13の駆動音を聴きながらインカムを外し杏は下を俯く、勿論返事が出来なかったことを悔やんでいるのではない。最後の大役を任されたことを隊長に名前を呼ばれたことで改めて自覚したのだ。

____そうだ、この試合は私にかかっているんだ。皆を火中の栗を拾いにいかせても私がトドメを刺さなければ意味がないんだ。

この作戦を自ら立ててから分かりきったことだが改めてプレッシャーとなり体を覆う、だがこの彼女を止まらせるものではなかった。むしろ覚悟を決めさせて前へと進ませる燃料の様な役割を果たしている。

彼女は今すぐにでも前へと進みたい気持ちを押し殺し電力温存のため電源を切る、コクピット内が暗くなり気持ちを落ち着かせるため目を瞑る。そしてじっと耳を傾ける、聴覚以外全ての感覚が無くなった、そう錯覚を覚えるぐらいに耳をすませた

10分か20分くらい経ったころだろうか、静寂だった開場にドン、ドンと轟音が響く。それに引き続き何かを連射する様な音が聞こえてきた。間違いない、安斎達が奇襲に成功したのだ。その事を理解し電源を入れるよりも早く駆動音が重なり合って聞こえる

(ハンニバル部隊も動き始めたか!)

杏は目を開ける、ブロッケンのOSが立ち上がるにつれて彼女の感覚も戻ってくる、そして起動完了したと同時に口を開いた

「行きますよ先輩!音がしたのはおそらく森林地帯のポイントT-15!そこを横から侵入していきます!」

「OK!ポイントS-13、14を通ってくルートだね!それじゃ全速力で行こうか!」

ブロッケンが駆け出し大地が揺れる、今彼女らが走っている場所には彼女達しかいない。だが数分後には敵味方入り混じる戦場の真っ只中へと入り込むのだ。

*

森林地帯へ近づけば近づく程音が大きく、重なり合って聞こえる。45mm砲の音、99mmチェーンガンの音が腹の底から響くようだ。

そしてとうとう森林地帯…ポイントT-15へ到着すると凄まじい光景が広がっていた。

1輌のブロッケンにEX-13が3輌がかりで挑み内1輌が懐に飛び込んだ際足をやられるがマウントを取り0距離射撃をしてようやく1輌を倒したと思ったら残った2輌が別のブロッケンにかかっていく光景に突然の奇襲で混乱し連携が取れず孤立したブロッケンをハンニバルが容赦無く撃つ光景、こちらが有利かと思ったらブロッケンが正確な射撃でハンニバルを倒したり近づいてきたEX-13を蹴り仰向けになったところを射抜く所も見えた。まさにせめぎ合い、どちらが有利で不利などそんな単純に2分割できるような光景でない事を杏は目の当たりにした。

「杏ちゃん…凄い状況だね…!」

「想像以上の光景ですよこれは…」

「ここからどうするの?」

「必ず一輌増援を要請しに本拠地へと向かうレイバーが居るはずです、そいつに案内してもらいましょう」

「成る程、本来なら通信で済む話だけど使えないから直接話すしかないと、おまけに対レイバーセンサーの類も使えないから後をつけてもバレる心配もない…」

「そう言うわけです、ん?どうやらツアーガイドの方がいらっしゃったみたいですよ」

杏の視線の先にはこちらに背を向けて走る1輌のブロッケンがいた、そいつの後ろを取り移動する。

ついて行った道は杏ともう一輌しかいなく恐ろしいほど静かであった。あまりにも静けさに思わず杏達は会話するのを躊躇う、息をしたり唾を呑みこんだらバレる…そう神経質になるぐらいであった

数分後ようやくブロッケンが止まる、杏機は木の後ろに隠れる。メインモニターの先には15輌近くのレイバーが立っていた

(あれが敵の本拠地…フラッグ車もいると言うことか)

杏の目論見通り大量に整列しているブロッケン集団の奥にカラーリングが異なるブロッケンがいた。あれこそがフラッグ車、勝利の鍵である。

尾行したブロッケンが膝立ちになる、パイロットを降ろしているのだろう。それと同時に目の前のブロッケン集団のコクピットが開く。

正確には聞こえないが何かを叫んでいるだけは辛うじて判明出来た。

「敵の奇襲だ、こちらの戦力だけでは全滅してしまう。支援頼まれたし」おおよそそんなとこだろう

数十秒が経ちコクピットが閉じられ目の前のブロッケンも立ち上がる、そして一目散に仲間達が奮闘してる場所へと駆け出す。杏はその光景を息を殺しながらじっと見ながら操縦桿を操作してカノン砲を構える、前回のライフル同様カノン砲にはコードが付いておりそれをブロッケンに繋げることで射撃準備が完了する。

コードを股間部に接続しボタンを操作する、これでチャージ開始だ。

「先輩、チャージ完了したら飛び出して撃ってください」

「当てるのは勿論コクピットだよね」

「そうです、そうだ、お分かりかと思いますがカノン砲って言ってもSF作品に出てくる様な当たれば即撃破、の様な代物じゃありません。持続して当てることで初めて威力を発揮します」

「うん分かってる、落ち着いて、確実に当てていこう!」

持続して当てなければいけないというのは一見不便な様に思えるだろう、だがカノン砲の強みは「当て続ければどんなレイバーも撃破出来る」と言う点だ。ブロッケンの装甲は軍用レイバーの中では一番硬くイングラムの主力武装である37mmリボルバーカノンを受けても無傷であった程だ。その様な装甲に並の武装は意味をなさない、だがカノン砲であるならば問題ない

「チャージ完了まであと5…4…3…2…1…!」

0になった瞬間ランプが赤から緑へと変わりチャージ完了を告げる

「先輩!」

「うん!」

ブロッケンは木の影から出てフラッグ車と対峙する、藪方蛇に出てきたレイバーにフラッグ車が身構えるが味方だと誤認してすぐのそれを解く。今フラッグ車は完全に油断している、

この油断こそ彼女らが必死になって追い求めた瞬間だ。無茶を承知で挑んだ作戦が功を成した瞬間だ

「でも、当てなきゃ意味がないんだ…!先輩頼みます!」

「了解!」

カノン砲から閃光が走りペンキが水のように砲塔から出てくる。さじずめ水を捻り出したホースの様だ

放たれた攻撃はブロッケンのコクピットに確かに当たった、だが当たった直後片腕で胸を覆い攻撃が遮られる

「ならば、腕を壊すまで!」

フラッグ車は胸を覆いつつ左に移動しながらマシンガンを撃ってくる。杏機も片腕で防御しながらフラッグ車の動きをトレースする

こうして同じ箇所に10秒程当ててもまだ反応はない

「硬いな…流石37mmを弾く装甲なことだけはあるか」

「でも流石にそろそろ通じるでしょ杏ちゃん…!」

その時、フラッグ車の覆っていた腕が力なく垂れ下がった

「よし、ようやく通ったか!」

コクピットが露わになり勝機が見えた。しかし

「エネルギー切れか…!」

カノン砲のエネルギーが切れペンキの出が止まる

「もう一度チャージしないと」

「チャージ完了まで1分か…それまで敵の攻撃を避けなちゃ…!」

杏がチャージするためボタンを操作してる間にも敵はマシンガンを放り捨てタックルを仕掛けてきた。だがそんな単調な攻撃を受けるほど彼女らは初心者ではない。敵は攻撃を外し倒れ込む

「よし…これで数秒は攻撃が出来ない!」

「杏ちゃん、あとどれくらい!?」

「あと…45秒!」

立ち上がるブロッケン、すぐさまこちらを振り向き殴りかかる、今度は正確な攻撃だ。先ほどマシンガンを防いだ手でパンチを防ぐ。だがマシンガンの攻撃は防げてもレイバーの腕は精密機械そのものだ、ブロッケンのパワーで殴られてはひとたまりもない

「腕が!」

「このくらいは計算の範囲内ですよ!あと30秒で完了します!」

この時杏はチャージする時の特有の音が先ほどとは少し違ってた事に気がつかなかった。この見落としは数十秒後悲劇を呼ぶことになる

 

防ぐ手段がなくなった杏機はひたすら避けるしかなかった。左ジャブ、左ストレート、一つでも当れば致命的だ。万が一頭に当たればメインカメラが使用不可になりチャージが完了しても当てることができなくなる

必死になって避け続けること数十秒が経つ

「あと15秒でチャージ完了出来…!クッ…!」

敵の攻撃を受けバランスが崩れ、すぐに立て直す、弱攻撃であったので最悪の事態は免れた

「先輩どうしたんですか!」

「ブロッケンの様子がおかしい!なんか油圧関係が少し…!そのせいで動きが鈍ってる!」

「あと10秒…10秒持たせてください!そうすれば私達の勝ちですから!」

「やってやろうじゃないの!」

そう先輩が意気込みレバーを動かしたその時ボン、と言う音が聞こえた。そして突如これまで受けたことがない振動がブロッケンを襲う

「グッ…!背後からの攻撃…!?そんな事なんて…!」

「オートバランサーがなくたって…!」

先輩がレバーを引き起こし体勢を立て直そうとする、しかし再びボン、と言う音が聞こえる。今度は先程よりも数倍大きな音だ。衝撃もその分大きくなる、故にそのまま倒れ伏すかと思われたと思われた…

「なんの…!」

先程格闘戦で壊れ垂れ下がった腕を地面に突き刺す

杏はすかさずボタンを操作して腕の爆砕ボルトを起動する、爆発の衝撃がブロッケンの機体を浮かしその勢いを利用し脊椎ユニットを仰け反らせる事で無理やりではあるが体勢を元に戻すことに成功する

しかしモニターが脊椎ユニットの損傷を告げた

「何とか立て直せたけど…!腰にこれ以上の負担はかけられないか!」

コクピット中が警報音で埋め尽くされる、やかましいと悪態を吐きたくなる中、救いの音が聞こえる

「チャージ完了…!これで決めてください先輩!」

「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!」

トリガーに力が込められカノン砲から閃光が放たれペイントが…

爆音がみただび聞こえる、今度のはコクピット中の警報音をかき消す程の音量だ。そしてその衝撃も半端なものではなかった。

「…ッ!?」

後方に衝撃が来たと思ったら突如内臓が浮かんだ感覚を覚える、そして次の瞬間には前方にも衝撃が襲ってきた。杏の頭はモニターに叩きつけれる。いかにヘッドギアをしようとその衝撃は尋常なものではなかった

(ま…まずい、意識が…撃たなくては…!)

抵抗虚しく杏の目は閉じられようとしている。

目を閉じる瞬間最後に聞こえたのはボシュ、と言う気の抜けた音であった…

 




いよいよ次回杏備忘録最終回です!


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杏備忘録part5

ど〜も恵美押勝です、長かったこの話もいよいよ今回で最終回!
尚今回の話もプラウダ戦記レベル、もしくはそれ以上に重い描写があると思います
それでもいいよって方はどうぞお楽しみください!


どのくらい時間が経っただろうか、2時間、3時間ぐらいだろうか。

目が覚めた時、杏の目に飛び込んできたのは白い天井であった。ここで自分がとこかで寝かされていると自覚した、そして鉛のように重い身体を起こし辺りを見渡す。ベッド以外何も無い殺風景な部屋だ、その中で彼女は鏡を見つけた、ベットから降りて鏡へと近づく。鏡に映った己の姿は無機質な青い服を着せられいる、おまけに鼻を利かせると消毒液の香りがした

「…そうか、私意識失って病院に担ぎ込まれたのか」

彼女はポツリとそう呟き下を俯く。純白の床がみるみる滲み頬に伝う何かを感じた

「あの時鳴った音は間違いなく白旗が出る音だった…そして白旗が出たのは私の機体だ…!」

杏の機体から白旗が出たということ、それはつまりフラッグ車である彼女がやられたと言うこと、敷いては敗北を意味する

「負けたのか…!私は…!私達は…!あと一撃…!あと一撃で勝てたのに…!」

杏は部屋の中でさめざめと泣いた、涙は止まることを知らない。胃の中がむかむかしてきた、胃酸が渦を巻いてるような感覚を覚え口を押さえて必死に堪える

ムカムカが和らいだと思うと今度は胸が押さえつけられる感覚がする

____ごめん…先輩、安斎、ケイ、みんな…ごめんなさい隊長…!皆んなの頑張りを、努力を、戦いを、私が裏切ってしまった…!私は最低なことをしてしまった…!

罪悪感が胸を覆う。まるで首を絞められてるように息が出来なくなる、人間は極度のストレスに見舞われると呼吸困難を引き起こすと言われてる。今の彼女は正にそれだ。敗北の事実に罪悪感が今の彼女を支配してるのだ。いくら肝が座って数々の危機的状況を乗り越えた彼女にも限度はある

徐々に息が出来なくなって苦しくなってきた

(い…息が…出来ない…これは…本当に…!まずい…!)

必死に息を吸おうとする、しかしいくら吸っても満たされない。徐々に視界が暗くなってくる。

(…ごめん)

と最後にポツリと呟き杏の意識は途絶えた…

✴︎

「…それでその後どうなったの?先輩とかも大丈夫だったの?」

と水が入ったコップを手にケイが尋ねる

「あぁ、私が意識を失った後すぐ医者が来たらしくてね、処置してもらってどうにか助かったらしい。

先輩も同じ病院に担ぎ込まれてたみたいだけどどうやら私よりマシだったみたいで寝ている私を見て何かポツリと声をかけたらすぐ学校へと帰ったらしい」

「…声をかけたの?」

「あぁ、でもその後から一度も先輩には会えてないから結局何を言ったかは知らずじまいさ」

「…確かあの人試合の後転校したのよね」

「そうさ、あの人に一番謝りたかったのにな…」

「貴方は暫くの間私達に姿を見せなくなった、それはやっぱり罪悪感を感じてたから?」

「うん、無茶なことをさせた挙句それを不意にしてしまった、だから合わす顔なんて無いと思ったんだ。それと…」

「それと?」

「怖かったんだ、表に姿を出したら皆から責められそうで、皆から何かされるんじゃ無いかって…

それで私は自分の部屋に閉じこもった。今思えば罪悪感より恐怖が上回っていたんだろうな…」

そう言いながら杏は再び過去の話をし始めた

✴︎

学校に行かなくなり自室に引きこもってからどれくらい経っただろうか、起きれば罪悪感に悩まされ続けテレビを付けてレイバーの姿が見えようものならあの時の試合がフラッシュバックし仲間に謝罪に行こうと思って学校へ行こうとし服を着ようとしても報復を恐れまた息苦しくなってくる。寝ることで彼女は全てを忘れることが出来た。幸いにも夢にまでは影響しなかった、睡眠だけだ今の彼女にとって唯一の救いだ。

そんなことを何回も何十回もしてると何に対してもやる気が湧かなくなるもので起きて布団の上で1日を過ごすなんてのも珍しいことではなかった。そしてこの日もそんな1日を送るはずだった…

(もう朝か…もう一度寝るか、寝過ぎて頭痛いけど寝りゃどうにかなるさ。寝ることだけが救いなんだ…)

そう思って布団を被ろうとした時、ノック音が聞こえた。先生が引きこもりの生徒を訪ねにきたのかと思い無視を決め込むことにしたがノックは一向に鳴り止む気配がない。どうやらよほど熱心な先生らしい、ノック音で睡眠が妨害されたらたまったものではない、適当に応対してお帰り頂こう…

そう考えながら杏はドアを開けた。外の空気がスゥッと入ってくる、少し肌寒い。どうやら世間はもう秋のようだ。

___もっとも、私には関係ないことだけど

「はい…どちら様でしょう…か…!?」

「久しぶりだな、杏」

「た、隊長…!」

外に居たのは隊長であった。久しぶりに会ったその人は今まで見た雰囲気とは異なっており物腰柔らかい印象を受けた

「お久しぶりです…あのっ!」

謝らなくては、今この場で謝罪しなくては。隊長が来たのは私が責任を取らないから痺れを切らしてきたのだ。

…こうなってしまったらどんな罵倒も受け入れる覚悟を決めなくては。あまりにも唐突だがしなくてはいけないと先延ばしにしていたのが今日になっただけだ。

これは責任から逃げ続けた私への罰なんだ

意を決して頭を下げようとしたその時、杏の目に隊長の手が飛び込んできた

「待った」

「…?」

「お前は今夏の大会のことで謝罪をしようと思ったのかもしれないが謝るなら少し待って欲しい」

そう言って隊長はポケットからケースを取り出した

「それはDVD…?」

「そうだ、お前の部屋に再生機はあるか?」

「あるにはありますが…」

「よし、それじゃ使わせてもらう」

失礼、と言いながら隊長は部屋へとずかずか入っていく。

「すいません散らかってて…」

「構わんよ、突然来訪したのだからな。…お、あった」

ケースからDVDを取り出し再生機に挿入する、数秒後真っ黒な画面に映像が映る

「…これは、決勝戦の時のハンガーですか」

普通の試合にはハンガーなどなく、レイバーはその辺に立たせておくだけのだが決勝戦に限りキチンとしたハンガーが設けられているのだ

「そうだ、この映像は監視カメラのでな。お前が使ったブロッケンのハンガーさ」

暫くすると画面が切り替わりブロッケンの後ろ姿が見える

「あんまこの辺は関係ないからちょっと飛ばすぞ…よしここだ」

リモコンを弄り早送りにしある程度経ったところで一時停止した

「ブロッケンの背後にある階段に人が…?」

「これじゃ分かりづらいと思うから拡大するぞ」

突如画面がパソコンの編集ソフトのようなレイアウトになりマウスポインターが動いている

「改竄の余地が無い様に編集過程も記録してある。…んまぁデジタル技術の驚異ってやつだな。あんな小さかった謎の人物が…ほら」

鮮明に拡大されたその人物は

「五十嵐…先輩!?」

顔は映ってないが着てる服装は杏達の学校のジャケットに加え背格好は五十嵐のそれであった

「そうだ、コイツは間違いなく五十嵐だ」

「でもなんで、先輩のブロッケンは別のハンガーに…」

「まぁ見てろって、謎の人物が分かったところで今度はこれを見てもらいたい…整備班が試合直後に撮ったものだ」

一時停止させ隊長は一枚の写真を杏に見せた、それにはブロッケンの背面…ダクトが映ってた

「やけにすす汚れが激しいですね、普通に使っていればこうなるはずはないんだが…」

「そう、“普通に”使っていればこうはならない、かと言って試合でこうなるかと言われたらそれも違う。仮にペイント弾がそこに直撃したら煤汚れ以外の鮮やかな汚れがつくはずだ」

「攻撃でもない…と言うことはまさか、細工を…!?」

「あぁ、そこに気づいたのならこの後の展開は予測出来るだろう。…どうする、見るか?」

「…あまり気乗りはしませんが見ておかなければ後悔する事になると思うんです…続きをお願いします」

「よし、じゃいくぞ」

映像が再開される、五十嵐がダクト部位に近づきおもむろにガサゴソカバンを弄り何かを取り出した。スティック状のそれを傾けて彼女はダクトに粉状のものを入れた、そして次に布の様なものをちぎり同じくダクト内に放り込む。トボトボと階段を降りる五十嵐を映して映像は終了した。

「…やはり五十嵐が細工をしてたんですか」

「あぁ、砂糖とボロ布を入れたそうだ、ブロッケンを運用すると砂糖が熱さで溶け出し飴状になる。そいつが排熱を妨害するってわけだ。おまけにボロ布のおまけ付き、行き場をなくした熱が膨張しダクト内でドカン!…って寸法だな」

「私はこれで負けたと言うわけですか…道理で背後の衝撃が来たわけだ」

「しかしこれには欠点があってな、通常通り運用していれば砂糖が溶け出すほど熱くなるって状況にはならんのだ。かと言ってボロ布だけじゃ不十分だ…」

「それは、私がカノン砲を利用したからでしょう。カノン砲を使用するとジェネレーターの温度が急速に上昇する、当然排熱が必要になります、奴は…五十嵐先輩は私がカノン砲を使うと知ってこの細工をしたんでしょう。…恐ろしい人だ、一歩間違えていれば私も先輩も死んでましたよ」

「その通りだ、こいつは殺人未遂の何物でもない。…大袈裟に聞こえるかね?」

「いやちっとも、それで五十嵐…先輩は?」

「無理して先輩を付けなくて構わん。奴は今陸で警察に引き取らせる間留置場代わりにした

倉庫に居る。…会いにいくか?」

「お願いします」

考える余裕なんてなかった、彼女は顔にこそ出てないが怒りと失望が入り混じったどす黒い感情がうねうねとしていた。その感情を飲み込むほど今の彼女は冷静ではない

「…分かった、案内しよう」

隊長に案内されること数十分、学園艦の地下に到着する。薄暗くジメジメしたこの場所はいかにも留置場に拘束されるべき人物がいそうな場所だ。そう思ってると先輩が立ち止まりポケットから鍵を出した、重々しい扉が開けられる

「久しぶりだな、五十嵐」

「…お久しぶりです、隊長」

そこに居たのは髪が伸びていたが間違いなく五十嵐であった

「今日はお前にお客さんが居るぞ、お前がブロッケンを整備してくれた事にお礼を言いたいそうだ」

「…まさか」

コツコツとわざと大きな足音を出し杏は五十嵐の前に立つ

「五十嵐…!」

「杏…!お前か…!」

睨み合う2人、側から見れば火花が散っていたことであろう、間に隊長が入り諫める

「取り敢えず2人とも部屋を移すぞ、ここで暴れられても困るからな」

「何処に行くんですか?」

「隣の部屋だ、あそこはちょっとした会議スペースみたいなところでな話し合うのにちょうどいいんだ」

隊長は五十嵐の肩をグッと掴みながら部屋を移した。部屋の内装は成る程、机と椅子が2つ、確かに話し合うにはうってつけだろう

「それじゃ、後は2人で話し合え。私が割り込んだらややこしいことになりそうだからな、だが決して手は出すなよ。杏、お前が仮に手を出したならばお前とて警察に突き出すからな」

「分かってます」

「よろしい、…それじゃあな」

扉が閉じられ2人きりになる、ピリピリした空気の中先に口を開いたのは杏だ

「五十嵐…あんたどうしてあんなことをやったんだ。ダクトを弄るなんて…!私は前に言ったよな?『私個人を憎むのは勝手だ、だがチームを巻き込むことはやめろ』と、それを忘れたのかお前は」

優勝のためにどれだけ皆が頑張ったと思うんだ、お前がそれを踏みにじった自覚はあるのか、それともお前は私だけじゃなくチーム全員が憎かったのか感情の赴くままに杏は話す、一気にまくしたてたので息が切れてしまった。深呼吸する彼女を見ながら五十嵐が机を強く叩く

「全員が憎かった?何を言うか!私が憎んだのは杏、お前だけだ!何故お前が副隊長になれた!本来なら私が、この私が隊長の横にいるべきだったんだ!なのにお前なんぞに…!こんな1年のガキに…!私の3年間はなんだったんだ!」

「…私は私なりの努力をしてきたしあんたはあんたの努力をしてきた筈だ。その結果私の努力が僅かながらもあんたを上回り隊長もそれを認めてくれた…それだけの話だ。そんなに私が憎いなら私を越えてみせるぐらいの事をすれば良かったのにそれをこんな馬鹿らしいことで…」

「超えて見せろだ?…一々お前は癪に触る事を言う!そりゃ越えて見せたいさ、凡人の努力なんざ天才の努力の前じゃ無に等しい、例えいくら頑張っても私はお前に敵うわけがないんだ…!だからこそ余計に腹が立ってくるんだよ…お前の存在がなぁ!」

「勝手に諦めて逆恨みか!準決勝の時撃たなかったのもそんな気持ちだったからか!」

「そうだ!隊長のため、チームのためとお前に復讐をするのを我慢してきたが…あの時の私はトリガーに力が入らなかった、もう我慢の限界だったんだよ」

「…!その時お前は感じるものはなかったのか?」

「あったさ…!そりゃああったさ…!でもな、撃たなかった時お前の焦った声が聞こえた時、私はこの上ない幸福を感じたんだ…!あいつが私の行動で気持ちが揺らいだ、これはアイツに対しての復讐だと…!それがどれだけ嬉しいことかお前には分かるまい!」

「分かってたまるか、そんな下衆の心。理解するつもりもない」

「だろうなぁ…!」

人が快楽に弱いのは周知の事実であろう、五十嵐とて例外ではない。彼女が覚えた薄汚い快楽はあっという間に彼女を蝕み、僅かながらに保っていた理性を完全に断ち切った。

彼女は復讐という快楽に溺れた哀れな怪物と化したのだ

「気づいたら私は砂糖とボロ布持ってブロッケンのダクトにぶち込んでいた…!その後はお前が嫌でも知ってるだろうさ、細工が功を成した時笑いを堪えるのが大変だったぞ!?」

「この…屑が…!」

「なんとでも言え!私はお前が泣くはめになるなら悪魔にでも魂を売ってやるさ!だがよぉ…一つだけわかんねぇことがあるんだよ…!何でお前のせいで負けたのに誰1人としてお前を責めないんだよぉ!おかしいだろ!!」

「…誰も責めなかっただと?」

「そうさ!誰もお前が悪い、お前のせいで負けたんだと責める奴がいなかった!隊長ですらだ!私の復讐は全員がお前を憎めばそれで終わりだったんだ…!なのにあいつら…!いや、仮にも優勝を目指してた同志が他人の失態を責めない訳がないんだ…」

「何が言いたいんだ」

「お前が!全員に媚を売ったからだろ!だから誰も…!」

媚を売ることは嫌いだと最初にあった時私はそう言った…だがもういい、黙れ。今すぐにでもコイツの口を塞ぎたい、右手がプルプルと震えている。

駄目だ駄目だ、堪えなくては。ここで手を出したら奴と同じになる、それだけはごめんだ

だが震えは一向に止まらない、目の前にいる下衆野郎が発した言葉が頭の中でリフレインするたびに震えが強まる、頭の中、胸の中が憎悪で覆われる。そして徐々に理性がなくなっていく。

___この時五十嵐は葛藤する杏を見て内心ほくそ笑んでいた。私が警察行きになったのは確定した事だ。だがただでは行かん、コイツを手土産にしていきたい…私の正直な気持ちを話せば必ずやコイツの理性はなくなり私を殴るだろう、そうなれば私の勝ちだ。さぁ来い杏、私を殴れ!

次の瞬間彼女の目に目にバンと音が鳴る

…勝った!後は隊長を呼べば!

だが今度ばかりは彼女の思惑通りに行かなかった、杏は彼女ではなく机を殴ったのだ。残った僅かな理性が少しでも怒りを分散させるため選んだ最善の手であった

恐る恐る五十嵐が杏の顔を見るとその顔は虚無であった、怒りなんて生易しい感情ではない、怒りを超越したような言葉では言い表せない表情だ

「…五十嵐、私はお前が憎いが同時に私自身も憎い」

「…」

「お前が私に部屋に入り込んだ時、情けをかけて通報しなかったが…今思えばその情けをかけた自分が恨めしい。情けをかけるべきではない人間を判別出来なかった自分が恨めしい…!」

「杏…」

「もう私はお前に対してどんな言葉をかける気も失せた、ありとあらゆる罵倒表現を使っても私の気持ちが鎮まることはないだろう」

「ならば最後に勝ったのは私だな、お前を黙らせることに成功したのだからな」

「…下らない、お前な何にも勝ってなんかいない、自分が下衆である事を示した、それだけだよ」

「喚け喚け、私はお前に勝ったんだ!最後の最後でなぁ!」

「最後の最後まで哀れだな五十嵐…もう二度と会うことはないだろう。じゃあな」

部屋を出る最後まで何かを叫んでいて狂ったように笑ってたがわたしにはもう関係ない、おそらく奴はこの先も「私に黙らせることで勝った」と言う下らぬ事を宝石や指輪の類い見たく大事に扱いそれだけを誇りとして生きていくのだろう。だが彼女が持ってる指輪の類はガラス玉だ、それも粗悪品。もっとも奴のような子供にはお似合いだな

杏は振り返る事なく部屋を開け静かにドアを閉めた、ふと気がつくと目の前に隊長が居た、隊長は杏に気づくと場所を変えようと言い杏の部屋に戻った

「隊長…」

「よく耐えたな」

「え…?」

「その手の傷、何か固いものを殴ったのだろう?机とかな」

手の傷と言われピンとこなかったが自分の右手を見てみると確かに手の表面が所々傷がついており血が出ていた。だが不思議と痛さは感じない、多分大量のアドレナリンが頭の中で分泌され痛覚が麻痺してるのだろう。

「よくぞあの下衆野郎を殴らずにいれた。かくいう私も耐えるのが必死だったのだがね」

そういう時隊長は左手をポケットから出し杏に見せた。その手は血が出てないが傷がついた跡がしっかりと残っている

「仲裁しようと思ったがあの状況で部屋に入るのは奴をつけ上がらせることなりそうな気がしてな」

「…『奴とて隊長がいなきゃ感情のコントロールも出来まいか』って感じですかね」

「そうだな…さて杏よ、この先お前はどうする気だ?私は高校も特車道を続ける気だが…」

「私は…私はもう特車道から身を引きたいと思います」

理由は至高単純だ、もう杏はレイバーには乗れない。これから彼女がレイバーを乗るたびに決勝戦を思い出し試合をするものなら五十嵐を思い出しロクに戦えないことは容易に想像できた。言い換えれば彼女は燃え尽きたのだ、いや本来なら燃え尽きるはずがない彼女の特車道に対する情熱を消したのは五十嵐、他でもないそいつだ

杏がやめると宣言し、しばしの沈黙の後隊長は黙って彼女を抱きしめた

「…!隊長」

「杏…すまなかった…!私が奴の心中を知ってさえいればこんな事には…!」

抱きしめながら彼女は涙を流した、それは自分の失態で杏の道を閉ざしてしまった事に対する杏への心からの謝罪であった。

「そんな、隊長がどうしてご自身を責めるんですか!悪いのは五十嵐と…私なんですから」

「…お前こそどうして自分を責めるのだ、お前が責められる要因などこれっぽっちも…」

「いいえ、確かに最終的な敗因の原因は五十嵐です。ですが…あの時カノン砲は一発は撃てたんです…そこで当てれば…!ですから敗因は私自身にもあるのです」

「馬鹿を言うな…!何故お前が責任感を感じる必要などあるのだ!何度も言うがあれは五十嵐が…!」

「それでも私は本来なら1撃で決めなけらばならないところを失敗してしまったのです。やはり私にも責任の一端があるかと思います」

「そんなのはたらればの話だ!仮にお前が責任があるとしても奴は準決勝からの命令違反、細工などをしてるのだから割合から見れば五十嵐とお前で9:1!お前に責任など無きに等しいのだ!それでもお前は自分自身にも責任があると思ってるのか!」

「“それでも”です」

杏がここまで自身の責任について固守するのは自分自身でも分からなかった。だが全ての責任を五十嵐押し付けるのは間違ってるのではないか、そんな思いが彼女にはあった。

「…全くお前は本当に糞真面目な奴だよ」

「えぇ、よく言われます。…最後に一つだけ聞いても宜しいでしょうか?」

「あぁ構わんぞ」

隊長が鼻をすすりながらそう言った

「奴は私が原因で決勝戦敗退になった事を誰一人として責めていない、と言いましたそれは本当なんですか?」

「あぁ、皆負けたことは悔しかったけど黒森峰をあと一歩追い込めた事がとても嬉しかったみたいだ、これまでそんなことは一度もなかったからな…寧ろ『久しぶりに試合を全力で楽しむことが出来た』と感謝する者も居るぐらいだ」

「そう…でしたか」

____私は愚か者だったのだろうか、こんなにも私のことを評価してくれた仲間が報復すると思い込んでいたのだろうか。穴があったら入りたいぐらいだ。やはり私は…

「杏、これから戦車道の授業があるんだ、顔を出してかないか?」

やはり私は…

「ありがたいお話です…しかし私に会う資格などありはしません…!仲間を信じられず恐れた私が合わせる顔などありはしません…!」

「お前って奴はまたそう言う…いやいいだろう、嫌がるお前を仲間の前へ晒すだなんて事は不本意だからな。気持ちの整理が出来たこところにでも…」

「いえ、恐らく会う事はないでしょう」

「なんだと?」

「私…転校する事にしたんです」

「転校…だと!?お前…」

「度々私のわがままに付き合わせてしまった事は大変申し訳なく思っています。ですが最後に1つ、私のわがままを聞いてくれませんでしょうか」

「…分かった、それで?」

「これを…」

そう言いながら杏はポケットを弄り手紙を出した

「これは私がみんなに書いた手紙です、無礼を承知でお願いしたい。どうかこの手紙をみんなの前で読んでいただけないでしょうか?」

「…いいだろう、お前のことだ…どんなことを書いてるかは概ね見当がつく。みんなへの謝罪だろ。本当お前はバカ真面目だよ…だがこの手紙確かに受け取った」

「ありがとうございます!」

「して杏、お前はどこに転校するんだ?」

「大洗女子学園と言う所です。…ここよりもずっとずっと小さい学園ですが特車道がないんです」

「…そうか、お前は本気で特車道を…」

そう呟くと隊長は腕時計を見てハッとした表情になった

「いかん、もうこんな時間か。そろそろ午後の授業に出なくては…」

そう言うと隊長はガッチリと杏の手を掴んだ

「お前は転校しても恐らく何らかのトラブルに巻き込まれる事があるだろう。だがそうなったとしても決して自分一人で背負いこもうとするな、向こうで仲間が出来たら遠慮なくそれを頼れ。それが最後の隊長命令だ」

「…はい!」

二人は手を離し力強く抱き合った、お互いの服が涙で濡れることなんてお構いなしに号泣するけど

「さらば友よ!いささか早すぎるとは思うがお前の第二の人生に幸あれ!」

「隊長!短い間でしたが本当にお世話になりました!!」

杏は隊長が居なくなる気配を感じるまで頭を下げ続けるのであった

✴︎

「これが私の過去…私が特車道を辞めた理由さ」

杏はそう言い今日何杯目かの水を煽り飲んだ

「アンジー、貴方そんな事があったのね…あの時、私達に声をかけてくれればよかったのに…でも会わないことが貴方にとっての優しさだったのね」

「そうさ、だから特車道なんかに復帰してなきゃお前らと会うつもりはなかったんだ」

「…そうだ、もう一つ気になってた事があるの。どうして貴方はもう一度特車道を始めたの?消えていた炎を灯したのは誰なの?」

「…知りたい?」

「勿論、そのつもりで来たんだから」

「聞いて驚くな…?“文科省“だよ」

「文科省…?ってあの政治の?」

「そうさ、文科省が特車道を最近推してるのは知ってるか?」

「まぁね、確かそれで始めた学校が急激に増えたって聞いたわ…ひょっとして」

「そうさ、そん中に私の学校がいるんだ」

「でもそれが貴方とどう関係があるの?特車道は強制じゃ無いんだから貴方はしなければ…」

「そうはいかなかったんだよ」

杏は携帯を取り出して写真を見せた

「…高校の名前が並んでいるけどこれは何かのリスト?…あら、貴方の学校もあるじゃない」

「こいつはな、学園艦の廃校リストだ」

「…えっ?」

「私達の学校、大洗女子学園は廃校になる」

「嘘…でしょ?」

「本当だ、こいつは文科省に呼び出された時隠し撮りした代物だからな」

「そうなのね…でも貴方は何故特車道を?廃校になると言うのならば尚更…」

「ケイ、逆さ。廃校になるから私は再始動したんだ。私はね、やられても基本的にはタダでは起きない主義なんだ。よほどの事がない限りな」

「まさか廃校と特車道に関係が…!」

「ヒントをあげよう、廃校の条件になったのはこれと言った功績を挙げてない学校だ」

ケイは顎に手を当てしばらく唸っていたが分かったらしくパン、と手を叩いた

「特車道大会で優勝して功績を作るのね!」

「その通り!」

「でもアンジー、貴方がいくら経験者と言っても貴方以外は初心者よ?今は違うけど…貴方にしては無茶な作戦じゃない?」

「”勝つと信じて前に進む“そう教えてくれたのは誰だっけ?それにお前さん忘れてないか?うちの主演女優を」

「みほの事ね!確かにあの子と貴方がいればそりゃ無茶な作戦でも勝ち目はあるわね

…でもあの子転校生じゃなかったっけ?貴方転校してくることを知ってたの?」

「うん、事前に連絡が来たからね。んで私これはいけるって思って内心飛び跳ねたんだけど

すぐに我に帰った。西住流の人間が戦車道がない学校に転校してくる、これが成す意味は分かるだろ?」

「分かるけど…でも現実にあの子は参加していたわ。…無理矢理誘ったの?」

「初めはね。んで断られたから少し揺さぶりをかけたんだ、そこで断られるか気乗りしない返事だったら断るつもりだったよ。嫌がる子を無理矢理やらせても何のメリットもないからね。…しかしあの子は大きな声で『特車道、やります!』と言ってくれた。友のためにね」

「友達の…?」

「うん、悪いなとは思ってたんだけど友達と一緒に来て話にこられたから揺さぶりの出汁に使ったの」

「貴方…結局悪い人よね」

「そうするしかなかったんだよ。私だけじゃ無理だからさ…でも私安心したんだ。西住ちゃんは友達思いの良い子だって分かってさ、優しさがない人間がレイバーを操るほど怖い事はないからさ…」

そう言うと残ってた水を全部飲み話を続ける

「西住ちゃん本当に優しい子でさ、恨まれて当然の私に『舞台を設置する会長さんの様な人が居なければキャストは輝けませんから』って言ってくれるのよ。本当に良い子だわ…

そう言えばお前さんも似たような事言ってくれたよな。そう言うところじゃ西住ちゃんとケイって似てるのかな、ねぇ?」

意地悪っぽく笑いながらケイの方を見るとほんの少し顔を赤らめて黙りこくっていた。気持ちを落ち着かせるために水を一杯飲み咳払いしてからケイが話す

「…それでも良かったわ。酷い目に遭いながらも昔通りの明るいアンジーに戻れて。人間どんな目にあっても最後に笑えれば良いのよ」

「どうかな?今はこう笑えるけど心から笑えるのはまだまだ先だね」

「そうね、この大会で優勝しなきゃいけないものね」

「そうさ。負けられない、後に引けない戦いなんだ」

「次の試合はプラウダよね、正直な話私達よりも強い高校だけど…アンジー、いいえ貴方とみほと一緒ならいけるわ。絶対優勝してよ、廃校になってまた貴方が私の前から消えるにはごめんだもの」

「あぁ、絶対優勝してみせる。約束しよう」

「…じゃあ童心に帰ってこれやりましょうか」

ケイは小指を突き出し杏に差し出した

「やれやれ、私はもう高3なんだけどね。しかしこう言うのはノリと、友に教えられたからな」

杏も小指を差し出した、そして歌を歌いながら硬く結び合うのであった。

 




アメリカ、イタリアと続き次なるみほ達大洗の相手は極寒の地ソ連の申し子プラウダ高校である!
去年の黒森峰、敷いてはみほ自身の運命を狂わせた強大な相手にどう立ち向かうのか悩むみほ、学園艦が北へ向かう中みほは杏からあんこう鍋のお誘うを受ける。
生徒会がまた何かを企んでいるのだろか
次回「プラウダ戦です!」ターゲットロック、オン!


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プラウダ戦です!part1

ど〜も恵美押勝です、いや〜久しぶりにこんな短いスパンで投稿出来ました。やっぱり執筆にも波と言うものがあるんでしょうね。さて、今回からはいよいよプラウダ戦です。物語もついに終盤へと差し掛かって来ました。
最後までお付き合いいただけると幸いです
それでは本編をどうぞ!


極寒のオホーツク海に浮かぶ一つの船があった、ソ連をリスペクトした校風、北の大地の申し子ことプラウダ高校である。学園艦の規模としても5本の指に入るこの船のとある場所で3人の少女らが茶会を開いていた

✴︎

「何もかもが凍りつきそうな外とは違い、この場所は暖炉もあって天国のようですわね。紅茶も美味しいですし」

ダージリンはそう呟きながら熱い紅茶を飲む。

「こんな気温はいつものことよ、そんなんで寒がってちゃプラウダじゃ生きてけないわよ」

「あら残念、ここにいればいつでも美味しいロシアンティーが飲めると思ってたのに。私好きなのですよ?カチューシャ」

ダージリンは目の前にいる幼女に話しかける、いや彼女は立派な高校3年生であるのだが身長が小さすぎてそうとは見えないのだ。

「あら、ロシアンティーが好きと言う割には飲み方が間違ってるわね。ジャムを紅茶に入れようとしてるじゃない」

「まぁ、これは失礼な事を致しましたわ。よければご教示を願えませんこと?」

「そんな事も知らないのねダージリィン?」

ニヤニヤと笑いながらカチューシャは瓶に入ったジャムの蓋を開けようとする、しかし硬いらしくどうも空かない。顔を真っ赤にしてうんうんと唸り駄々をこねる子供のように足をジタバタさせる

「ノンナ!!これ開けて!」

そう大声を出して言うとノンナと呼ばれた少女はカチューシャとは打って変わって高身長であり女子高生の平均的な身長を優に超えていた

「はい、カチューシャ」

そうして難なく蓋を開けた彼女はそれを机に置いた

「ん、ありがとう。さてと…ロシアンティーってのはね、ジャムを紅茶の中に中に入れるんじゃないの。舐めながらその合間に飲むのよ」

言いながらジャムを匙ですくい舐め紅茶を飲む、するとジャムが彼女の口にべったりとついてしまっている

「…ついてますよ、カチューシャ」

「余計なこと言わなくていいの!恥ずかしいじゃない!」

そう言われるとノンナはクスリと笑った

__友達と言うより母親と娘ね、とダージリンは内心笑った

「しかし準決勝は残念でしたね。まさかあなた方が黒森峰に敗れてしまうなんて」

「去年カチューシャが勝った所に負けるだなんて、聖グロにしてはちょっとたるんでんじゃないの?」

「勝負は時の運と言うでしょ、そんなこと言ったら貴方もたるんでいるのではなくてカチューシャ。このお茶会、試合の前としては随分余裕ではなくて?」

「燃料がもったいないわ。相手は聞いた事もない高校だもの。たるんでるじゃなくて慢心と言う強者に与えられた特権と言って欲しいわね」

「でも、隊長は家元の娘よ。西住流のね」

そう言った瞬間カチューシャが驚愕した表情を見せた

「え!ちょっとノンナ!聞いてないわよそんな情報!」

「何度も言いましたよ」

「…ただし、妹さんの方よ」

そう言うと今度は安堵した表情を見せる

「なんだ…そっちの方ね」

「黒森峰から転校、しかも無名の学校にもかかわらずここまで引っ張り上げてきたのよ?どう、少しは興味が湧いたんじゃないの?」

「確かあの妹は去年の時仲間が川に落ちた時飛び込んだ甘い子だったわね、なら依然として興味は湧かないわ。準決勝まで進むなんて確かに家元の娘だけなことはあるけどそれもここまでよ、甘ちゃんじゃ地吹雪と呼ばれた私には勝てないわ

…というかダージリン?貴方そんなことを言いに来たわけ?」

「まさか、美味しい紅茶を飲みに来ただけですわ。でもカチューシャ」

「…何よ」

「こんな格言を知ってる?『勝利は同じ人間の上に永久に留まらず』あなた方もあまり油断してると足元をすくわれるかもしれないわよ」

「…」

「と言ってもこれはあくまでもお茶会の友人としての意見だからこの後どうするかは貴方達の自由に任せるわ」

そう言ってダージリンは紅茶を飲み切った

✴︎

北の大地とは変わってこちらは温暖な気候の場所を進んでいるここは大洗女子学園。そのハンガーの中に特車道のメンバー全員がいた

「これは一気にゴツくなりましたね西住殿」

「うん、まるで服を着てるみたい」

彼女らが見上げた先にはイングラムエコノミーがある

いつもの見慣れた外見とは随分違うそれを瞬きもせずに見つめていた。

「どうです?西住さん、リアクティブアーマーをつけたご感想は」

「もともとヘルダイバー向きの装備をエコノミーに流用するだなんて…やっぱりナカジマさん達はすごいです!」

「へへへ、まぁちょいと難しかったですけどこれもシゲオ先生の教えの賜物だね」

「ねぇねぇさっきから言ってるリアクティブアーマーって何?ゆかりんなら知ってる?」

「はい、リアクティブアーマーと言うのは爆発反応装甲と言いまして銅板2層の間に爆発性の物質を挟む事で敵の砲撃を受けた際わざと爆発する事で着弾の衝撃を分散させダメージを軽減させるものです!」

「でも特車道に使用するのはペイント弾だろ?爆発する要素がないんだが」

「そこはリアクティブアーマーについてるセンサーが攻撃を認知したら起爆する様になってるんです」

「随分と凝った仕様なんですね、でも爆発なんかして危なくないのでしょうか?」

「う〜ん、衝撃は結構来るね。試しにサンプルの一部をおしゃかになった作業レイバーに貼っつけて遠隔操作で起爆させてみたら物凄く車体が揺れてたもの。あわや倒れる寸前だったね」

「…これで倒れたらシゲオ先生始末書もんだったな」

「まぁ万一倒れても当然私も始末書を書くつもりだったよ」

得意顔になり胸を張るナカジマを他所にみほはハンガーを一面見渡す、いつもならここに何輌ものレイバーがあるのだが今日はエコノミーだけだ

「ナカジマさん、エコノミー以外のレイバーは…?」

「あぁ、他のも改造中だよ。全輌にリアクティブアーマーをつけるつもりなんだ」

「でもアーマーは結構高価だと聞いたことがありますよ、そんなお金ウチの学校には」

「寄付を募ったら思った以上にきたみたいでね、それで買えたって会長はそう言ってたね」

「寄附金だけじゃ流石に全輌は無理ですよ。やはり生徒会には裏の資金があって…」

「おやおや、随分酷い噂じゃないの秋山ちゃん」

急にここにはいない声が聞こえ、聞こえた先を凝らして見るとハンガーの奥からヌゥっと生徒会のメンバーがこちらにやって来た

「あ、生徒会の皆さん…!」

「生徒会は決してそのような裏金などない!」

と桃が迫力がある声で言うと優花里はすっかり萎縮してしまった

「いやぁね寄附金も結構集まったんだけど実はね、戦車道の予算が大幅に増えたんだよ」

「え、もう予算はとっくに確定したはずじゃ」

「急に先生達が去年の予算の余りを全部特車道に回してくれる事になってね。それだけ期待されてるって事だよ。頑張んな〜」

「いや、会長も頑張らなきゃダメだろ…」

麻子がそう突っ込むも杏はスルーした

「ところで、会長はどうしてこんな所に…?」

「あぁ、本題を忘れる所だった。実はねここに新たなキャストが来たから紹介しようと思って」

「キャスト…新メンバーですか」

「そうそう、てな訳でお〜いこっち来てくれ〜」

そう呼ぶと3人のおかっぱ娘達がやってきた

「本日付より特車道に参加させていただく

「略してそど子だ、宜しくやってくれ」

「会長、そど子っ呼ば

「そど子ちゃん達には96式改に乗ってもらう訳なんだけど…チーム名どうしようっか西住ちゃん」

「…そうですね、96式改ってずんぐりむっくりな体型がカモっぽく見えないですか?」

「ほんじゃカモさんチームで決定だな」

「操縦は冷泉さんから教わってね」

「わ、私が冷泉さんからですか!?」

そうやってそど子が麻子の方を見るといやらしい笑顔を浮かべていた

「ほい了解、そど子、普段はお前が偉くともここじゃお前は初心者だ。私の言うことをよく聞くんだぞ」

「冷泉さんから教えてもらうとはなんたる屈辱的な…!」

「なら自分でマニュアル読んでやってみろ」

「冗談じゃないわよ、貴方は私に教える義務があるんだからね!分かりやすく手短に懇切丁寧に教えなさいよ!」

「はいはい、注文が多い奴だ」

「はいは一回でしょうが」

「ほーい」

そうやってテンプレのやり取りをしていると桃が手を叩き注目を集めさせた

「次はいよいよ準決勝だ!しかも相手は去年の優勝校であるプラウダ高校だ!絶対に勝つぞ、負けたら終わりなんだからな!」

「何故負けたら終わりなんでしょうか」

「プラウダ高校は練度もレイバーの性能も桁違いです、私達はサンダースを倒せる実力はあるにせよやはり厳しいかと思われます」

「それに負けても次があるじゃないですか!」

次々とあんこうチームのメンバーが言うがそれを桃はダメだ、と言う一言で遮った

「それじゃダメだ!それでは…!」

「負けちゃいけない戦いなんだよ、この大会は」

普段とは違う会長の言い方に一同は口を閉ざした

「…西住、指揮」

桃に言われハッとしたみほは練習開始を宣言した

次々とレイバーに乗り込む中彼女は杏に呼び止められる

「西住ちゃん、終わったらさ大事な話があるんだ。

 …生徒会室に来てくれないかな」

「分かりました」

「呼び止めて悪かったね、それじゃ」

そう言って杏は走り去る、その姿をみほはじっと見つめていた

✴︎

練習も終わりすっかり冷えてしまった夜、どうやら進路が北の方へと向かってるらしく雪がしんしんと降ってきた

みほは生まれて初めて雪と言うものを見た、熊本育ちの彼女は火山灰なら沢山見てきたが雪と言うのは自分には縁のない物だと思っていたから余計にその光景が珍しくどことなく嬉しいものだった。

手に雪を乗っけると一瞬冷えるが直ぐに溶けて無くなってしまう、だがその冷たさは手に暫く残り続ける

「つめたか」

とつい方言が出てしまうぐらい冷たい。暫くすると我に帰りみほは手をさすりながら駆け足で生徒会室へと向かった

「失礼します」

中に入ると何やら煮えてる匂いがする、ついでに魚介類の匂いもプンプンしてきた。何事かと思い下を見ると会長達が半纏を来て鍋が乗っかったコタツを囲んでいた

「やぁ西住ちゃん、すっかり冷えてきちゃったねぇ」

「北緯55度を超えてきましたからね…」

「次の試合は北だからね」

「ルーレットで決めたとはいえもう少し暖かな所が良かったんだが」

___この異様な光景はなんだろう

みほは困惑しっぱなしだった、恐らく今自分の顔を鏡で見ればだらしない顔をしてることだろう

「大事な話ってのは一体」

「まぁ座りなよ、話はそっからさ」

言われるがままにコタツへと入ると柔らかい温もりが身を包む、冷えた体にはありがたいことだ

「さてと西住ちゃん、とりま鍋でも食うか」

「会長が作るあんこう鍋は絶品なのよ」

「そうそう、まずあん肝をだなよ〜く炒めてでだな、ほんで次に味噌を混ぜる…」

「会長が料理が得意なのはわかりました、…そろそろ真面目な話、しません?」

「…炬燵の温度熱くない?」

「丁度良い感じです」

「これ小山が予算やりくりして買った代物なんだよ」

「他にも色々買ったよな〜」

「電子レンジとか冷蔵庫とか、あとホットプレートもありましたね」

「体育祭とか文化祭の前日はよくここで寝たもんだよ」

「…思い出話はまた今度にしません?」

「私達1年から生徒会やっててね」

「面白い写真を見せてあげようか」

そう言って杏はアルバムを取り出した

「これは入学の時の写真だ、見ろこのかーしまの笑顔をさ。今じゃ想像出来ないだろ?」

「会長、そんな写真見せないでくださいよ!」

他にも杏は仮装大会、水かけ祭り、泥んこプロレス大会の時の写真を見せてくれた。

楽しそうに思い出話を語る彼女らにみほは知らず知らずの内にのめり込んでいた。

「楽しそう」

そう思わずポツリと呟いていた

…羨ましいな、黒森峰はこんなイベントなかったしあっても私達は参加出来なかったからね。もし黒森峰じゃなかったら私もこんな笑顔で思い出話を語れる様に慣れたんだろうか。…いやそれも今から沢山作っていけば良いや。まずはこの大会がいい思い出話が出来る様にしないとね

そんなことを考えていると、急に3人はほんの少し悲しみが混じったような声で

「楽しかったな…」

「えぇ、本当に楽しかったです」

と言うと急にお通夜の様な空気になり鍋が煮える音しか聞こえなくなった

「…鍋、煮えてますよ」

「そうだな、それじゃ食べようか」

それ以降彼女らは一言も喋らず黙々と鍋を食べ続けた、確かにあんこう鍋は絶品だったが心なしか飲み込み辛かったようにみほは感じた

食べ終わり出されたお茶を飲み終えるとみほは

「…真面目な話はまた今度の機会と言うことにしましょう」

とポツリと呟き会長らにお礼を言って生徒会室を後にした。

✴︎

「…結局、言えなかったじゃないですか」

みほが出て行ってから更に強くなった静釈を柚子の柔らかな声が破る

「これでいいんだよ、西住ちゃんは背負いやすい子だ。ここで話して変に緊張させちゃって彼女本来のパフォーマンスが出来なくなったら本末転倒も良いところだからね。仮にそれで負けたら彼女はまた自分一人で全てを抱え込むことになるだろうさ、抱え込むのは上の立場である私一人でいいんだ」

「…会長、いいえ杏。抱え込むには貴方の華奢な体じゃ重すぎるわ。その時は私も一緒に抱え込むから」

「小山…」

「同感だな、会長、貴方は一人じゃない。私達は3人で1人なんです。苦しい時も楽しい時も常に共に味わってきたじゃありませんか、それを今更抜け駆けってのはズルいんじゃないですか?」

「河嶋…」

「お茶でも入れましょうか」

出されたお茶は丁度いい暖かさで心が落ちつく

「なぁ、お前ら私はさっきあんな事言ったけど負けるつもりは微塵もないからな。罪悪感を抱え込めるのは私達3人だけだけど悲しみを抱える人はそれ以上だ。

…そうはさせたくないんだ。だからこそ勝つ。勝つことを信じて前へ進むんだ、分かりきったことだけど私達にはもうそれしかないからさ…」

✴︎

「…結局、大事な話ってなんだったんだろう」

街頭一つの明かりしかない道をみほは一人で歩いていた。先ほどより夜が深くなったと言うこともあり空気が肌に突き刺さる様な鋭さを感じるぐらい冷えていた

…あの時の一瞬悲しさが混じった声、あれは一体…?3人とも高3だから卒業するのが悲しくかったからなのかな、いやそんな訳がないか。まだ卒業シーズンはずっと先だもんね

それじゃ何故尚更あそこであんな風になる必要があったんだろう、いやそもそもの話私に急に思い出話を振ったのは単なる雑談のつもりだったのかな?にしてはアルバムをあんな手元に置いていたのが準備が良すぎる気がしてなんか違和感を感じるんだよね、小山先輩も私が「真面目な話しません?」って言ってもかなり強引に話を変えてきたし…まるで私に真面目な話を聞かせたくない様だったなぁ…

つまり私に聞かれては困る話を会長達はしようとしてたのかな?だとしたら余計に内容が気になる。…そう言えば河嶋先輩も会長も「負けられない」「負けたら終わり」って言葉をよく使うけどアレも何なんだろう、特車道初めてから数ヶ月しか経ってたない私達が準決勝にいけるだけでも十分凄いと思うんだけどな。

…まさかそのことが話そうとしていた内容と関係が…?そうだとするなら…私はどうもとんでもなく重い事態に巻き込まれてしまったな

ふと手をかざすと雪が乗っかった、先程よりも冷たく手に突き刺さる様な温度だ

…冷たい、そういえば次の試合の相手校はプラウダ高校だ。あそこにいた人はこんな雪みたいに冷たい人だったな。相手に絶好のチャンスを与えたのは他でもない私だけどその理由は向こうもよく知っているはず

タイミングを逃さず撃つのは選手として正しいことだとは思う。でも私はあの時逆に立場だったら撃ちたくなかったし命令されても撃てなかったと思う

…あの状況でトリガーを引く人間になれなかった、私は冷たい人間にはなれなかった

恐らく向こうはそんな私のことを甘く弱い人間だと思ってるだろう。そう思うなら思えばいい、私は見つけかけた道をガムシャラに歩くだけだ。試合の時甘い人間がどう成長したのかを見せてあげよう

そう心の中で彼女は決心するのだった、硬く握りしめた拳は雪の冷たさを無にした。

✴︎

一方ここは西住流のお膝元熊本県、西住邸と呼ばれたみほ達の家に家元であるしほとまほが同じ部屋に集まり向かい合っていた

「…貴方は知っていたの」

「はい…」

しほが指さした先には新聞紙がありプラウダ対大洗の内容が書かれていた。みほとカチューシャの写真もそこにあった

「西住と言う名を受けながら勝手な事ばかり、あの子が特車道が嫌だと言うからあんな辺鄙な所に転校させたのに…」

「…」

「これ以上生恥を晒すことは許さないわ。撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心 それが西住流」

「お母様、私は西住流そのものです。ですがみほは…

みほはそう言う人間ではなかったかと、西住と言う名を受け継ぐのには相応しくなかったと思います」

「…貴方、あの子のことをそう思っているの?」

「はい、お母様」

「…ともかく準決勝は私も行くわ、あの子に勘当を言い渡すためにね」

そう言ってしほは立ち上がり部屋から出て行く、残されたまほは己の拳を畳に叩きつけた

____生き恥ってどう言う意味だ、仮にも自分の娘に対してその言い方は無いだろう。みほはもう西住流は関係ない、世間がどう言おうと西住の呪縛からは解放されているんだ。何が鉄の鋼だ心だ、みほは言うなれば生命力溢れる変幻自在の水だ。無機質で冷たく硬い鉄が似合う様な子じゃないんだ、あの子がそういう人間だってことはお母様自身知っていたことだろう。あの子は西住流に生まれた子だけど西住流に関わらないほうが幸せなんだ、こんな冷たく孤独な世界を味わうのは私一人でいい。私は水にはなれない。

 

____だからこそ私は変えたい、水にはなれない私だが鉄を暖める火には慣れるはずだ。この固まった流派を私の手で変えたい。ほんの少しでいいんだほんの少しでもいいから暖めたいんだ、みほの様な子が馬鹿を見ないようにするためにも。

これが私の…あの時何もしてやれなかった、隊長としての立場を投げ捨ててまで助けにいけなかったみほへの私なりの贖罪なんだ

 

北ではみほが南ではまほが、互いに決意し合う中学園艦は着実に試合会場へと近づいて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみにダージリン様が言った格言はホメロスと言う方の格言です、次回からは試合の様子をお届け出来ると思います。
それではここまで読んでくださりありがとうございました!
宜しければ感想などをお気軽に書いていってください


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プラウダ戦です!part2

ど〜も恵美押勝です。すっかり寒くなり鍋物が恋しくなるこの頃皆様いかがお過ごしでしょうか。ガルパンで鍋といえば勿論、アンコウ鍋ですがあれ食べたことないんですよね。美味しそうなんだけど食べる機会がない…!
さて、下らないお話はこれまでにして。本編をどうぞ!


どういう訳かは分からないがいきなりみほは目が覚めた、彼女は名残惜しい布団を勢いよく剥がしベットから起き上がった。暖房などしてなかったので部屋の中が物凄く寒い

「つめたかつめたか…」

手をさすりながらタンスの中を探りパーカーを見つけた、着替えてほんの少しだけ暖かくなるとちょっとした余裕が出てくる。時計を見ると時刻はまだ6時、学校までまだ2時間以上はある

はてどうしたものか、2時間とは言え二度寝するには危険な時間だ、かと言って学校に行くのには早すぎる。どうするべきか悩んでいると腹の音が鳴った

「取り敢えずご飯にしよう」

そう思いまずカーテンを開けて部屋を明るくしようとすると眩い光が目に入ってきて思わず目を瞑ってしまう。いつもとはベクトルの違う眩しさに驚愕するが再び目を開けると理由が分かった

学園艦が雪国へと変わっていたのだ、彼方此方に雪が積もりどこを見渡しても白一色だ。

成る程、どうやらこの雪が光を反射して余計に眩しかったのか。しかしそのようなことはもうどうでもよかった。生まれて初めて見る雪景色にみほは興奮しっぱなしであった

「すっごい綺麗…」

実際に初めて見た景色、テレビの中でしか見たことがない景色。液晶の中では分からなかったリアルをみほは全身で感じていた。そうなると人間は足を踏み入れたいと言う欲求が生まれるものでみほも例外ではない。早く支度を済ませて散歩しながら登校するとしよう

そう思い、いつもより素早く彼女は身支度を整えることができた

 

冬服に着替え手袋、マフラーをしてもドアを開けた瞬間冷気が容赦なく体を襲い体を震わせる。いつもはエレベーターで降りるけど今日は景色を見ながら階段を使おうと考え寒さを堪えながらエントランスまでたどり着いた

「やっぱり凄く綺麗だなぁ」

みほは思わず声を漏らした、そして一歩前へ進むとジャク、と心地よい音が鳴る。

いつも見慣れた景色だが雪に覆われただけでも随分違って見えるなぁ…雪がこんなに綺麗だなんて思わなかった

雪を踏み締める感触を楽しみながら辺りをキョロキョロ見回して歩くといつも使っている自販機が見えた。駆け寄ってみると暖かいココアが売っている、この寒い日に暖かいココアは大変魅力的なものだ、気づけばみほは買っていた

「…まぁ、食後のお茶ってことでいいよね。ココアだけど。…ん?」

自販機が何やらブザーの様な音を鳴らしている、気になり見てみると硬貨を入れた時に出る画面が「66666」となっていた

「当たっちゃった、生まれて初めて」

みほは思わぬ幸運に唖然としてしまう、しかし直ぐにハッとして自販機に目をやる。30秒以内に選ばなくては無効になってしまうのだ。とは言えパッと買いたいのが思いつくわけではなく結局ココアを選んだ

「ココアとココアがダブっちゃった…流石にココア2杯はなぁ」

どうしたものかと悩んでいるとクラクション音が後ろから聞こえた、振り向くと特車道で使っている指揮車が近づいてくる。車はみほの隣で止めると窓を開けた

「おはよう西住さん、早いねぇ」

「あ、ナカジマさんおはようございます」

「雪景色が珍しくて散歩かい?」

「えぇ、そんなところです。ナカジマさんは何を…?」

「ん、ドライブだね」

「試運転…って新しく指揮車をレストアしたんですか?」

「んにゃ、今度の試合会場はバリバリ雪原地帯だからさ。チェーン巻いて少しでも雪に慣れておこうかなって」

「本音は?」

「雪景色の学園艦を爆走したい!」

あんまりにもキリッとした表情でものを言うものだからみほは思わず笑ってしまう

「西住さんも乗ってかない?町内回った後学校へ戻るつもりなんだけど」

確かにこの雪の中走るのは面白そうだしいろんな景色も見ることが出来る、断る理由もないのでみほは二つ返事でOKした

「よし、じゃあ乗った乗った」

ドアを開けてもらい中に入ると暖房が効いており暖かい。ホッと息をつくココアが飲みたくなってきた、みほはポケットから取り出す

「お、ココアか。いいねぇこんな日にゃぴったりだよ」

「ナカジマさんもどうですか?2杯持ってるんです」

「ん?いいの?それじゃ遠慮なく」

ナカジマに渡し自分の缶のプルタブを引っ張る。プシュッと連続で音が鳴り車内が甘い香りで満たされる

ナカジマはほんの一気に半分近くまで飲むと息を吐きプルトップホルダーに引っ掛けた

「それじゃ行こうか」

アクセルが踏まれ車が進み出す、暫く進み窓の外を見るとやはり見慣れた景色のはずが初めて見たと思うほど新鮮である。食い入る様に見ているとナカジマが声をかけてくる

「綺麗でしょ、この街はいろんな景色を見せてくれるけど雪景色が一番最高だよ」

「同感です、私もここに来てまだ1年も経ってませんがこの景色が一番好きですから」

「まぁ次の試合会場はこんなの比じゃないぐらい雪があるんだろうねぇ、いや〜怖いな初めての試合会場が雪原地帯とは」

「ナカジマさん達はこの試合が初参戦ですもんね」

そうなのだ、今から丁度1週間程前にとうとうガネーシャの修理が完了した。みほにはガネーシャが猛獣の類に見えたため彼女ら自動車部のチームは”レオポンさんチーム”と名付けられた

「ジェネレーターの類が面倒じゃなけりゃアンツィオ戦から参加できたんだけどねぇ、西住さん。やっぱり雪原地帯でレイバー動かすのって難しいですか?」

「う〜ん、私は経験ないんですけどお姉ちゃんが昔『雪原地帯は二足歩行の奴はいつもより気をつけて操縦すれば問題ない、多脚ならばいつもどおりやればいい』って言ってました」

「随分ざっくりとした説明だけどなるほどねぇ、んじゃ私達は操縦にはさほど影響が出ないってわけか。助かったなぁ、やっぱ初心者は多脚レイバーか」

「初心者って言いますけど乗り始めて30分もしないうちにレイバーでドリフト決めるのは初心者って言わないと思いますよ…」

「いやぁあれでもいつも通りのじゃないんだよ。百点満点中60点ってとこかな、それに私達操縦が出来ても射撃がね…」

「ガネーシャに積んでる荷粒子砲は断続的に出る武器なので初弾を外しても射線軸をずらせばなんとかなりますよ」

「いやぁそれがさウチの子撃てても5秒が限界なんだよね、それ以上過ぎるとエンジンがオーバーヒートしちゃう。カタログスペック通りなら7秒は撃てるんだけどな。まぁ四の五の言わずに射撃訓練をやれって話なんだけどね」

そんな事を喋っていると車はいつの間にか住宅街に入ってた

「あれ、ここって…」

「ん?この近くにコンビニあるからよってこうと思ったんだけど…この辺に知り合いでもいるの?」

「この辺りは麻子さんの家があるんですよ

…多分今頃沙織さんが起こすのに手間取ってるんだろうなぁ。特に今日みたいな日は」

「寒いと布団から出たくないからねぇ、ましてや低血圧なら余計にキツいか。…コンビニ寄った後行ってみる?」

「いいんですか、ありがとうございます!

「そんじゃチャチャっとコンビニ行くかね」

ナカジマは駐車場に車を止めるとみほを残してコンビニへと行った。

____しかし生徒会長に呼ばれて以来あれから1週間近く経つが一度も呼ばれてないな。どうやら会長は例の件については話す気がないらしい、ある程度目星はついているが憶測の域にすぎない。出来れば外れてくれると嬉しいのだが…

いや、それよりも今は明後日の試合の方が大切だな。レオポンさんとカモさんの練度は日に日に上達してきて間違いなく今の私達と同じくらいの腕はある。カモさんチームは確か会長が引っ張ってきたらしいけどあの人は原石を見つけるのが得意なんだなぁ。

でもだからと言って油断は出来ない、いくら腕が立つとは言え彼女らはまだ試合の雰囲気を知らない。故に本番の時緊張して変に体に力が入らなければいいんだけど…

一度模擬戦したいけど練習に使うペイント弾が無くなったから無理だ。アンツィオ戦の時に会長に補給を要求すべきだったなぁ

なんて事を考えているとナカジマが戻ってきた

「お待ちどうさま」

「何買ってきたんですか?」

「朝ご飯用のサンドイッチ、西住さんも食べる?」

「いえ、私はもう済ませてきたので」

「そっか、ならこれは私が全部食べようっと」

そう言い全部口に頬張るとホルダーからココアを取り出して一気に全部飲む

「…っはぁ〜!美味いねぇ朝に食うサンドイッチは特に」

みほも喉が渇いたので缶に手を触れるがもう既に冷え切っていた

よし、とナカジマは言い出しキーを回しアクセルを蒸した

あっという間に麻子の家につき「ちょっと待ってください」と断りみほは降りる

家に近づくと窓ガラス越しから沙織が悪戦苦闘してる声が聞こえた

「沙織さーん!」

みほが大きな声でそう叫ぶと窓ガラス越しでも聞こえたようでカラカラカラと窓が開く

「あれ、みぽりんなんでこんな所に!」

「色々あってここまで来たの、起こすの手伝おうか」

「ありがとう、本当に助かるよ!」

沙織に玄関を開けてもらい寝室へ進むとまるで冬眠している熊のように布団に潜り込んでいる麻子がそこにいた

「さっきから何度も起きてって言ってるけど起きないんだよ〜今まで必殺技だったおばぁの事も効かなくなったみたいだし…」

「生半可じゃ麻子さんは起こせないよ、こうなったら無理やりにでも布団を剥がさなきゃ。沙織さん、息を合わせて一気に引っ張るよ」

「分かった!」

「1…2の…3!」 

布団を勢いよく剥ぐと中には丸くなった麻子が見えた、暫くそのままでいたがやがて観念したのか丸まったのを戻し上半身だけを上げた

「……何だ沙織お前随分起こすのが乱暴になったじゃないか…ん?おい沙織、どうやら私は酷く寝ぼけてるらしい。ここに西住さんが居るぞ」

「寝ぼけてなんかいないよ麻子」

「おはよう麻子さん!」

寝ぼけ眼でジーッとみほを見つめると目を擦りもう一度見つめると麻子は大きくため息をついた

「この間の空砲と言い今回の布団剥ぎと言い西住さんが起こしに来ると酷い目に合うな、

 しかし何だってここに…大体人が早朝に起きる事自体がおか…」

ブツクサ言う麻子を沙織は猫を運ぶかのように彼女を持ち上げ食卓に座らせた。そこから先は見事な早技もので15分もしないうちに沙織が彼女にご飯を食べさせて着替えさせた。

(最早介護みたいだね…)とその光景を見てみほは苦笑いするしかなかった

そしてナカジマに頼んで彼女らも車に乗せてもらい一緒に登校することにしたおかげでこの日は珍しく時間に余裕を持って麻子は投稿することが出来た。

教室についた後

「しかし私が早く着いたからってそど子の奴あんなに驚いた顔をして、これから毎日送ってもらいたいものだな」

と言うと沙織からもっと早く起きる努力をしろ、と軽く頭にチョップを入れられるのであった。

✴︎

その日も練習が終わりいよいよ試合前日となった

いつもならば練習が終わり次第解散して各自自主練をするのだがその日は違いそれぞれのレイバーの前で何やら話し合っていた

「カイロまで用意するんですか?」

「うん、と言っても必要なのは暖房がない軍用レイバーとパイソンだけだけどね」

「とするとジャケットだけじゃ不十分だからしっかり着込まないと…」

「あんまり着込みすぎると操縦に支障をきたすかもしれませんからある程度着込んだら後は精神力で我慢するしかないですね」

「お〜怖い怖い、私寒いのが苦手だからエコノミーで良かったとこれ程までに思ったことがないな。西住さん暖房ガンガン効かせてもいいか?」

「あまり暑すぎると相手の熱源センサーに引っかかりやすくなるから程々に…ね?」

一方ウサギさんチームでも似たような事を話していた

「ねぇねぇタイツ2枚重ねにしようかみんな」

とあゆみが言うと

「レッグウォーマーもしたほうが良いよね、操縦する時に足が悴んでちゃたまらないもの」

と優希が言う

するとまた

「色付きのリップ塗ろうよ、準決勝って結構人来るって言うし!」

と香里奈が言う

そのうちチークを塗るだのアイシャドーを塗るだの服装から化粧の話へといつ間にか移っていた

装飾系の話が出ると意気揚々になったのはカバさんチームである、何処で手に入れたか分からないちょんまげや月桂樹、はたまた新撰組の羽織りなど各々の好きな時代の装飾品を付けて笑い合っていた

さてそうやってやいのやいの騒いでいると真っ先に駆け出してくるのが風紀委員のそど子である

「貴方達メイクは禁止、コスプレも禁止!全部校則違反よ!戦車道は授業の一環なんだから 

 ね!」

そう言うとあちこちからあからさまな落胆した声が聞こえてきた

「えー、じゃないの。私が来たからには規則の違反や風紀の乱れなどは出来ないと思いなさい!そのための風紀委員なんだから、大体貴方達は…」

と言ってる最中後ろからポン、と肩を叩かれる。誰だと思い振り返るとエルヴィンがそこにいた

「…自分の人生くらい、自分で決める」

とキメ顔をしながら言う彼女にそど子は肩を震わせながら

「何言ってんのよアンタ!それに変な帽子に制服でも指定のジャケットでも無いのを着てるなんて全身校則違反の塊じゃない!まずはここから正さないと…」

と手をわちゃわちゃさせながらエルヴィンに迫る

「ちょっと待ってくれせめて帽子だけは…」

「問答無用!」

と帽子に手をかけようとしたその時何処からともなくペタン、ペタンと足音が聞こえてきた。全員が音の方向に一斉に振り向くとその人物はメガホンを持っていた

「シ…シゲル先生…?」

みほが尋ねるとシゲルはメガホンをポンと叩くと息を思いっきり吸って

「たるんどるぞ貴様らー!!」

とハンガーが揺れるかと思うくらいの声で叫んだ

「えぇい!サンダース、アンツィオに勝って調子に乗るんじゃない!相手はプラウダだぞ?めちゃくちゃ強いんだぞ?サンダースやアンツィオが目じゃないぐらい強いんだぞ!油断してりゃ即お陀仏だぞ!いいかデカい相手にぶつかるならそれ相応の覚悟を持って挑め!わーったか!わからねぇ奴はオホーツク海に叩き込むぞ!返事!」

そう言うと全員返事をせずにはいられなかった。それだけが言いたかったのかシゲルはまたペタンペタンと音を鳴らしながらハンガーの奥へと戻ろうとした、ふとなにかを思い出したかの様に踵を返しみほに近寄った

「西住の嬢ちゃん」

「は、はい何でしょう?」

「支度できたら後で宿直室に来てくれ、ちょっと話したいことがある」

「分かりました」

返事をすると今度こそシゲルは奥へと姿を消した

「…確かにシゲル先生の言う通り我々は根拠なしの自信を抱いていました。明日の試合もわたしにも何処となく遊び感覚があったかもしれません…反省しなくては」

「でもビックリした〜いきなりメガホン使って叫ぶんだもん鼓膜が破れるかと思ったよ〜」

「と言うか西住さんあの先生に誘われたのか」

「デート…でしょうか?」

「え!?シゲル先生ってロリコンなの!?」

「多分違うと思う…分からないけど真面目な話なことだけは確かだよ」

「もう支度はほぼ終わってるようなものだからここは私達に任せて西住さんは宿直室に行ったらどうだ?」

「いいの麻子さん?…じゃ、お言葉に甘えて」

 

 

✴︎

宿直室の場所までは恐ろしいぐらい静かな場所だった、暗闇の中を借りてきた懐中電灯だけを頼りに進んでいくと明かりが差し込んでいる箇所が見えてきた

「あれが宿直室か…」

懐中電灯の明かりを消し光が漏れ出ている場所へと近づくと壁には確かに「宿直室」と書いてあった

ノックをすると中から入ってくれ、と低い男の声が聞こえた

中に入ると瓶ビールと急須が乗っかったちゃぶ台に座ったシゲルが見えた

「よく来たな…まぁ座れや」

何処となく既視感を感じながらみほは言われるがままに座った

「未成年が相手じゃ酒と言うわけにはいかねぇからな、茶でも飲んでくれ」

とシゲルは急須を傾けお茶を湯呑みに入れ差し出した。礼を言って飲む

一旦飲みホッと一息をつくとシゲルが聞いてきた

「なぁ嬢ちゃん、明日の試合大丈夫か?」

「大丈夫って…それは勿論、作戦はちゃんと立てましたから。あとはやれる事を本番で…」

「いや、そう言う事じゃねぇんだ。あの時お前さんの機体を撃ったのはカチューシャっちゅーガキなんだが…そいつ今はプラウダの隊長やってんだ」

「…」

「それで必ず試合前の挨拶の時会うことになるだろ?その時嬢ちゃん大丈夫かと思ってな」

「…と言いますと、私が向こうの隊長に会った時試合に支障をきたすぐらいの感情を抱くと言うことですか?」

「ま、早い話そうだな。…んでどうなんだ、そこん所は」

「先生が心配するのも最もだと思います、だけど…」

私はもう特車道にトラウマなんてない、悩みこみ塞いでいた過去とは違う。私にはやらなきゃならない事があるんだ。それに…守りたいものだってある。だから私は強くなれた。背負った使命が私を強くした。そうであるならばプラウダの隊長に、私の人生を狂わせた張本人に会うことなど大したことではない

「私はもう逃げないって決めましたから、これからはがむしゃらに進んでいくだけです」

そう告げたみほをしげしげと見つめビールをあおると

「…強くなったな嬢ちゃん」

と呟いた

「昔の手探りで進んでた自分の道を探してた自信の無い目がすっかり消えてら。今のお前さんは自分で自分の道を作るって言う自信に満ち溢れた…いや、覚悟を決めたいい目をしてる。…全く、若い奴ってのは成長が早くてつくづく感心するぜ」

目を擦りビールを飲んだその顔は真っ赤にまっていた。大の大人がそう言う顔をするといたずら心が湧くもので

「シゲル先生顔真っ赤ですよ」といじわる気味に言うと酔っ払ったんだよ、と誤魔化されたのがおかしくて思わず笑ってしまう。

「強くなれたのはシゲル先生のおかげでもあるんですよ。先生が私がした事を肯定してくれたから私は自分自身に自信を持つ事が出来たんです。本当にありがとうございます」

「なんだか照れ臭ぇな。長いことこの職をしてきたが生徒にお礼を言われたなんざ初めてだからな、こっちこそ久しぶりに整備の楽しみを味合わせてくれてありがとうよ。お前らが無茶するたびこっちもやりがいがあるってもんだ、…さてと」

そう言うと置いてあった鞄をあさり白い袋を取り出した

「…これは?」

「まぁ試合までのお楽しみだな、始まる前のミーティングの時に中身を見てくれや」

「分かりました」

「そいで明日はどんな作戦で行くつもりだ?」

「こちらは指揮者を除けば9輌、相手はその倍の18輌…その内全部のレイバーがドシュカですね」

「ドシュカか…流石ソ連モチーフの高校、レイバーまでソ連製とはご苦労なこった」

「それで普通のドシュカじゃなくてKV-2、JS-2クラスの砲塔を搭載してるのもあるそうです」

「…どちらともリアクティブアーマーがあるとしてもあまり被弾したく無いな。当たりどころが悪けりゃアーマーの意味が無くなっちまう」

「同感です、ですから短時間の内に一気に進出、フラッグ車を見つけ次第全輌で襲い、落とすってのが一つの手ですね」

「確かに良い手かもしれないがでもよ、それじゃ失敗した時襲われるのはお前さん達だぜ?数の差で言えば向こうが圧倒的に有利なんだ。戦いは数って言うぐらいだぜ」

「やっぱり慎重に行くべきですよね、とすれば相手の特徴に気をつけて戦い確実にフラッグ車に近づくって言う基本的な手が最善かぁ…」

「その方がいいと思うぜ俺は、向こうは引いてからの反撃が得意だからな。ひでぇもんだ、まるで相手のプライドをズタズタに引き裂くようなやり方さ。向こうの隊長はチビなんだがああ言う奴ほどプライドは無駄に高くて他人を馬鹿にすることしか考えてないような奴だ」

「…」

「言いすぎたな。すまねぇ…ともかくプラウダはそう言う手段で多くの高校を葬って来たのは事実だ」

「…奇抜な作戦が使えない以上普段の練習がものを言うってわけですか」

「その通りさ、…お前さん自信ねぇのか?」

「まさか、確かにこれまでの試合は定石通りの戦いとはお世辞には言えませんが少なくとも定石通りの戦いでもいけるように練習はしてきたつもりです。それに基本が出来なければ奇抜な手も使えませんから」

「成る程なぁ」

納得したように頷くとシゲルは壁時計を見てそろそろ帰るか、と言った。

「もう遅せぇし学園艦と言えでもあんま夜に女子高生が一人で帰るのもよくねぇからな。俺が家まで送ってやろう」

「え、大丈夫ですよそんな、ご迷惑でしょうし…」

「なぁに若いのが遠慮すんな」

と半ば無理やり車に乗せられ送ってもらうことになった。

数分もしないうちに寮につきみほは車から降りる。

「お嬢ちゃん明日頑張れよ!」

「はい!絶対勝ちます!シゲル先生、レイバーの整備宜しくお願いします!」

「まーかせてくれや!そんじゃ今日は早く寝るんだぞ!」

そう言うと窓を閉め車を走らせた、その光景を見ながらみほはお礼をするのであった

✴︎

一夜開け、いよいよ試合当日になった。今回はいつもとは違い夜の試合である、極寒の地に夜と来ればその寒さは殺人級だ、これだけ寒いとせっかくの防寒具もあまり役に立たないらしく

「…寒い!寒すぎる!こんなに寒いと肌が乾燥しちゃうよ、やだも〜!」

と沙織の悲痛な声が辺り一面に響いた

「レイバーの中に入ればマシだから…さてと、指揮車にチェーンは全部かかってるしアトラス、サムソンにはラジエーターに不凍液も入れたよね」

「はい!自動車部の方がそれはもうかじかむ手を堪えて準備出来ました!」

そう言うと噂の自動車部と風紀委員らが何やら緊張した顔でキャリアの前に立ち止まっていた

「あの、ナカジマさん達も園さん達もいきなり試合で大変かと思いますけど落ち着いて戦いましょう!皆さんなら落ち着いていけば勝てますから!」

「了解!ガネーシャの性能をプラウダの整備士達に拝ませてやりますよ!」

「分からないことがあったら無線で聞いてくれ、特にそど子はな」

「だ〜か〜ら〜そど子って呼ばないでよ!私には立派な名前が…」

「分かった分かったそど子」

といつものやり取りを横目で流し辺りを見回すと見慣れない雪景色に興奮してか雪合戦をする者、戦国武将の雪像を者やかまくらを作る者など試合前なのにも関わらず落ち着きった様子なので苦笑いするしかなかった

___まぁ、変に緊張してカチコチになるよりはマシかな、とは言え昨日たるんでるって言われてこれだからなぁ…シゲル先生が見たら怒りそう

なのでそろそろ集合をかけてお遊び気分を切り替えてもらおうと思ったその時何やら低いエンジン音が聞こえてきた

「あれは…レイバーキャリアかな、優花里さん?でもウチらと違って起き上がらせるためのリフトがないや」

「あれはいつぞやの喫茶店でも見た98式 特殊運搬車ですよ、向こうはドシュカをあれに積んでいるんでありますね」

車がみほ達より50mぐらい離れた所で静止して2名が降りてくるのが見えた、一人はみほよりずっと高いがもう一人は杏よりも小さい

「あの凸凹コンビは一体…?」

「漫才をしに来たってわけじゃなさそうだね、ゆかりん分かる?」

「あれはプラウダ高校の隊長と副隊長ですね。小さい方が隊長で大きい方が副隊長です。彼女らには北の大地の申し子、暴君、だの色々あだ名はありますが一番有名なのは“地吹雪のカチューシャ” “ブリザードのノンナ”ですかね」

「地吹雪…ブリザード…」

特に地吹雪は冷徹な彼女を表すにはピッタリのあだ名だとみほは思った

そんな彼女らがみほ達の陣地へつきキョロキョロすると大きな声で笑い出した

「ハハハハハ!このカチューシャを笑わせにここまで来たわけ!?こんな土木作業用に毛が生えたようなレイバーばかり集めて今まで見てきたどの高校の中でも一番面白いわ貴方達!」

と煽るものだから周辺の空気は一気に冷える、だがそんな空気も物ともせず杏がかまくらから手を擦りながら出てきてカチューシャに近寄る

「やぁカチューシャ、生徒会長の角谷だ。今日は一つ宜しくね」

と腰を落としながら手を差し出すとそれがカチューシャのプライドを傷つけたのか、明らかにイラついた声で「ノンナ!」と叫ぶ。そうするとノンナはカチューシャをヒョイと持ち上げて自身の肩に足を乗せた

そして身長が擬似的に高くなったのが彼女のプライドを癒しあんなにイラついた顔が見る見るうちに意地悪そうな顔に変わっていく

「貴方達はね、このカチューシャ達より何もかも下なの!練度も、レイバーの性能も、隊長としての能力も、統率力もそして身長もね!」

「…ナポレオンコンプレックスって本当にあるんだな」

そう一気にまくしたてた後にも関わらず杏が呟いた一言を彼女は聞き逃さなかった

「ナポレオン…?ノンナ!」

「はい、ナポレオンコンプレックスと言うのは身長が低い事に劣等感を覚え嫉妬深くなり少しでもイニシアチブを取るため高圧的、高飛車的な態度で接してしまう人のことを言います」

「…つまりカチューシャがチビだと言いたいわけ?」

「向こうから言わせればそう見たいですね」

ノンナが冷静に返事をするとカチューシャの顔が赤くなった

「よくもこのカチューシャを侮辱したわね!粛正してやる!…行くわよノンナ!」

プンスカした表情のまま肩車され立ち去ろうとするカチューシャの目にみほが映った。コロコロと表情が変わるものでまた意地が悪い顔になった

「あら、西住流の…」

「西住、西住みほです」

「去年はどうもありがとう、貴方のおかげで私達優勝出来たわ。今年も宜しくね、甘ちゃんの家元さん」

「…“身長が低い奴ほどプライドが無駄に高くて他人を馬鹿にすることしか考えてない”…先生の言った通りだ」

「またカチューシャを侮辱する気…?甘ちゃんがいい気になるんじゃないわよ」

「甘ちゃんで上等ですよ、カチューシャさん。私、それを変えるつもりはありませんので」

「バカね、それで負けたのをもう忘れたの?」

「今の私は去年貴方が知ってる西住みほと言う人間とは違います。おおよそ貴方は私を煽ることで戦意消失を狙ったのでしょうが…その逆なのが証拠です」

「やる気満々なのは結構だけどね、レイバーの差がダンチな時点で貴方に勝ち目なんてないのよ?」

「戦いは性能差で決まるものではありません、殲滅戦ならまだしも今回はフラッグ戦…レイバーの性能差など勝敗に関係するのは微々たるものだと思うのですが」

「そ〜そ〜」

と気の抜けた声が聞こえ振り向くと杏が後ろに手を組みながら立っていた

「そんなことは去年性能差では黒森峰に負けてたカチューシャが一番よく知ってるはずなんだけどねぇ?」

「会長…」

「それにさ、玉座に座り込んでる暴君が足元をすくわれるのは世の常だよ。カチューシャ」

「…いいわ、そんなに自信があるなら勝ってみせなさいよ。もっともそんなのは空っぽの中身のない空虚な自信だってこと、すぐに分からせてあげるんだから。

西住みほ…楽しみにしてるわ。成長した甘ちゃんがどんな戦いを見せてくれるのか。じゃあね、ピロシキ〜」

と別れを告げると今度こそ帰っていった

しばらくその光景を見つめていたがハッとして集合をかけた

✴︎

「とにかく、相手の車両の数に飲まれないよう徹頭徹尾落ち着いて行動してください!フラッグ車を守りながらゆっくり前進、それで相手の出方を見ましょう」

「…ゆっくりもいいが、ここは一気に攻めたらどうだろうか」

「カエサルの言う通りだな、先手必勝ぜよ」

「気持ちは分からないでもないですがリスクが高すぎるかと…」

「大丈夫ですよ!クイック勝負はバレーの基本です、猪突猛進ですよ隊長!」

「私も賛成です!」

「梓ちゃんも!?」

「何だかこの試合負ける気がしないんです!相手は私達のことを舐めてるんですよ!ならそれを利用してギャフンと言わせてやりましょうよ!」

「うむ、それがいいな。西住、ここは突撃するぞ」

波は完全にみほの考えと反対方向に乗ってきた。

この盛り上がりよう、士気があるのはいいことだが一歩間違えれば破滅への一歩になる。どうしたものか…

目を閉じ顎に手を当てみほは悩んだがやがて決心し目を見開く

「分かりました、一気に攻めましょう!」

「良いんですか西住殿!?」

「慎重に行く作戦では?」

「長時間試合をすれば降雪に慣れてるプラウダがいずれ有利になるのは明白だし…それに今のみんなのやる気を無下にするような事はしたくないからね」

___シゲル先生には申し訳ないけれど、と心の中で付け足す

「こんな天候が特別な試合は早めに終わらせるに限る。何せ雪原地帯での練習なんて私たちゃ出来てないからな、戦いの最中に慣れるって言うのもあるが…あまりそう言うことには期待しないほうが良い。結局の所試合ってのは自分がどれだけ練習してきたのか見せる場でもあるからさ。まぁ繰り返しにもなるがダラダラ試合せず集中してチャチャって決めた方が最善の手の時もあるってことだなうん。そうでしょ、西住ちゃん」

「はい、相手はこれまでとは違う強敵ですが全力を尽くして頑張りましょう!」

「「「「オー!!!」」」」

甲高い声が幾つも重なり北の大地に響く、振り上げた拳は手袋が伝える熱とはまた違った芯から燃えるような熱さであった。




いよいよ次回から戦闘シーンに突入します!
大洗の運命やいかに!?
この続きは次回の講釈で。
感想などお気軽にお願いします。めちゃくちゃ作者が喜ぶんで
それではここまで読んでくださりありがとうございました!


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プラウダ戦です!part3

ど〜も恵美押勝です、最終章3話に向けての特番は最高でしたね。私なんか鍋突っつきながら見てたんですけどもう笑いを堪えるのに必死でしたよ
さて、余計な話もほどほどに
本編をお楽しみください!


一面の雪景色、荘厳で静寂なこの場所にドスン、ドスン、と音が聞こえてきた。それも沢山だ、そして地吹雪のように雪を舞い散る光景が見える。そしてとうとうその姿を現す。そう、地吹雪を起こしたのは紛れもなくプラウダ高校のドシュカだ。

そのキューポラーからひょっこりとカチューシャが顔を出す

『いい!?あんな奴らにやられた奴、この純白の機体に色を付けてきた奴はシベリア送り25ルーブルだからね!』

『日の当たらない教室で25日間の補修ってことですね』

『ガンガンに攻めるけどあえてフラッグ車だけを生き残らせて圧倒的な力の差を目の当たりにさせながら葬ってあげなさい!

たかだがサンダースとアンツィオ倒しただけの奴がこのプラウダには到底勝てないということを嫌というほど分からせてあげるんだから…!分かったわねアンタ達!?』

Ураааааааа!!!!

___特に西住みほ、角谷杏はプライドを完膚なきまでにへし折ってあの憎ったらしい面を恐怖と絶望と悲しみで塗り替えてあげるわ。私を侮辱したことを後悔しなさい…!

『カチューシャ、各員の外部スピーカー正常に作動しました』

『Так(そう)、なら景気付けにいつものアレやるわよ!』

『分かりました、それでは…』

カチッと音が聞こえ低重音が特徴な音が流れる。

ロシア民謡の“カチューシャ”だ、この曲はただプラウダ高校の士気を上げるためじゃない。わざと大きな音を出して“これからお前達を一人残らず倒す”と言うアピールでもあるのだ。綺麗な薔薇にはトゲがあるように綺麗な歌声には闘争心が隠されてるのだ

___誰と勝負をしようとしてるのかまず耳で分かってもらうわ。その次は目で、その次は体でね…!さぁ、この歌を聞きなさい甘ちゃん共!そして震え、怯え、竦みなさい!

暴君の笑い声がフィールド中を覆うかのように響き渡った

✴︎

「…呑気に歌なんか歌ってんなあの高校」

エコノミーの中、音響センサーを最大限にして断片的に聞こえた内容に関して麻子がだるそうな声で呟いた

「それだけ向こうも余裕シャクシャクって事だね。梓ちゃんの考えはあながち間違ってなかったのかも。…麻子さん、足、震えてるけど大丈夫?』

『暖房があまり効かないだなんて聞いてないぞ…西住さん、悪いけどそこの座席横のフックに引っ掛けてる魔法瓶とってくれないか』

『ちょっと待ってね…はい』

温かな魔法瓶を麻子に手渡しすると器用なもので片手で蓋を外した

『ありがとうさん。…さてさて』

開けた瞬間最近嗅いだことのある甘い良い香りがした

「麻子さん、それココア?」

「ん?あぁそうだ、出撃前に秋山さんから貰ってな。西住さんも飲むか?」

「それじゃ、私も御相伴に預かろうかな」

麻子がお猪口みたく蓋にココアをそそぎみほに渡す、量こそ少ないがグイッと飲むと体がじんわり温まるやはり冷えた体にはありがたい。

「レイバーには不凍液を使うが、ココアが私達の不凍液だな」

「本当にね…」

防寒具を持ってしてもしっかりと冷えるこの気温は長引けば操縦や射撃などに影響が出てもおかしくない、そう言う所では短時間で一気に決めた方が最善かもしれない、加えてこの雪だ、レイバーの操縦には慣れた私達と多脚式を使ってるレオポンさん達は大丈夫かもしれないけど二足歩行の96式改に乗ってるカモさんチームは大丈夫だろうか。

そう思いながらココアを飲み干して蓋を麻子に返すと麻子の表情がいつもより少し真剣な事に気がついた。どうしたものかと思いモニターを見ると比較的急な坂道に差し掛かっている事に気がついた。成る程、それなら真剣になるのも当然だ。坂道を登ると言うのは思ってる以上に難しい。レイバーは自動車みたいにアクセル踏んではい終わり、と言うわけにはいかないのだ。バランス、両足の力加減などを考慮しないとすぐに横転してしまう。と言っても普段はオートバランサーがあるからそこまでは気にしなくては良いのだが今回はそのオートバランサーに任せっきりではいけない所に来ているのだ。

 

そして数分かけてやっと登り切ることができた

「やっとこさいけたか…」

「お疲れ様、他のみんなは大丈夫かな?」

後方を振り返ると次々と仲間のレイバーが、指揮車が登り切っている姿が見える

「…?ちょっと待て、そど子が見えないぞ」

『何やってるんだそど子!前へ進め!』

と麻子の疑問と同時に桃が無線越しに叱咤する、どんな状況かと思いエコノミーを動かすと何回足を踏み込んでも前へと進まないでずるずる滑り落ちる96式改の姿が見えた

『すいませ〜ん前へ進んでるつもりなんですけどこの子が全然言うことを聞いてくれないんです〜』

とゴモ代の悲痛な声が聞こえた後、麻子がレバーを動かしてエコノミーを膝立ち状態にさせた、そしてみほの座席がある上の方を向くと

「ちょっと手伝いに行ってくる」とだけ言い残すとハッチを開けてコクピットから出た

麻子は器用に倒れてる96式改の足を上りコクピットハッチに乗っかるとノックして開けてもらう、中に入り必死にレバーを傾けてるゴモ代に声をかけた

「ちょいと変わってみろ」

座席を代わってもらい麻子は操縦桿を握りしめる

「雪の坂を登るときはな、気持ち強めにペダルを踏まなきゃダメだ。イメージとしては坂道を自転車で登る時の力ぐらいだな」

「ありがとうございます。…でも踏み込みすぎると転んじゃいますよね…?」

「そこは慣れとしか言いようがないな、こけそうになったらレバーを奥に引っ張れ。そうすりゃこける心配はまずない。オートバランサーが無くてもこいつは重心が低いから安定しやすいんだ」

「成る程…」

「ちょっと冷泉さん、人のレイバーに勝手に乗り込んどいて何講釈始めてんのよ!」

「気にするなそど子、出張料金は後で払ってもらえれば良いからな」

「出張料金って何よ!副業は校則違反よ!」

と言ってる間にどうにか坂を上り切ることができた

「それじゃお二人さん、たっさでな」

「…ありがとう、冷泉さん」

「ん〜?」

「二度も言わないわよ!」

と言うとピシャッと閉めてしまった

「可愛げのない奴だ」

そう呟きながら麻子は自機へと戻った。

その頃みほ達は進行方向を雪の壁に阻まれていた

『これエコノミーの腰ぐらいまでありますよ、どうしますか西住殿?』

『ラーダーのスモークグレネードを雪の壁に向かって発射してください。あれには炸薬としてTNTが採用されてるのでこの壁を崩すには十分のはずです』

『了解であります、五十鈴殿お願いします!』

華がトリガーボタンを押しスモークグレネードが放たれ雪へ突き刺さる。次の瞬間爆発音がして雪が崩れる音も聞こえた

『分かってたてはいたんですけど煙幕に雪煙も加わって視界は最悪ですね…』

『まぁ真っ直ぐ進むだけだからあまり気にしなくて大丈夫だよ。それでは全車前進!』

指示通りレイバーが前進し視界が最悪の中を見事な隊列で突破した。

そしてそのまま前進し続けると少し余裕が出来たのか周りの景色を楽しみ始めるものが出て来る

『リスですよ皆さん!横の木にリスがチョロチョロって駆け上ってます!』

『おぉ本当だ、可愛いもんだねぇ』

『これが雄大な自然って奴だね先輩、私リスなんて初めて見たよ』

『リスって焼いて食べると旨いらしいぞ、特に脳みその部分が旨いらしい』

『ちょっとホシノ、何とんでもないことに言ってんのよ。純粋な1年が居るってこと忘れないでよね』

『ナカジマ殿達は面白いことを言うな、しかしどうだこの景色、この状況。雪、ロシア、戦争とくればあれを連想して仕方ないな』

『スターリングラードか…』

『縁起でもないぜよ…』

『私からすれば酒田のソ連軍人亡命事件を連想するねぇ、アレはドシュカ使ってたし。西住ちゃんはどう言うの連想する?』

『へ、私ですか?そうですね…いやいや試合に集中しましょうよ皆さん!そろそろ敵と会ってもおかしくは…』

と言いかけた所で対レイバーセンサーが作動しアラーム音を鳴らした

「噂をすればなんとやらだな」

『皆さん、11時の方向に敵レイバーを探知しました!各車警戒態勢!』

「麻子さん、数は?」

「通常仕様のドシュカ3つだ」

「たったの…?外郭防衛線かな…?」

「そうかもしれない…で、どうする隊長?」

「直進以外は出来ないからね…叩くしかないよ」

そう淡々と告げるとみほはインカムのスイッチを押した

『カバさんチーム、レオポンさんチームは射撃をお願いします』

『了解!』

『あいよ〜、んじゃ攻撃した時に光るから一応気をつけてね』

電源を切った直後、サムソンの99mmチェーンガンが発射された音とガネーシャの荷粒子砲の独特な発射音が聞こえた。どちらも正確にドシュカのコクピットと兼任している砲塔部位に着弾し赤く染め上げた

『凄いよみぽりん、一気に2両も!』

『昨年の優勝校を撃破出来たぞ!』

『あらら、当たっちゃったよ。私みたいな初心者が当てて良かったのかなぁ』

『これはいけるぞ西住!』

『ドシュカを初期の自衛隊機で撃破なんて凄いことですよ…西住殿、どうしたんですか。急に黙って…』

みほはこの時怪訝な表情をしてモニターを凝視していた

「何か引っかかることでもあるのか?」

「…上手く行きすぎてる」

周辺地域の状況をモニターで確認しながら喋ると相手の残り1輌がこちらに向かって発砲してきた

「外れたか」

「…向こうとの距離は長く見積もっても10m、そんな近距離を外すものかなぁ」

「向こうの砲手が河嶋先輩並だったんだろ」

「だといいんだけど…」

運良く外れそれを状況不利と判断したのか相手は再攻撃せずそのまま目の前から走り去ろうとしていた。怪しい匂いしかしないがここでこの機体をそのまま返すと言うわけにはいかない。見られたからには叩くしかないのだ

『全車前進!追撃します!』

警戒態勢でゆっくりと歩いていたレイバー達がその一声で瞬時に走り出す、たった一輌を相手に九輌で追いかける姿はまるでシャチやハイエナのようであった。追いかけ始めてから10秒がたった頃再びセンサーに多数の反応があった。メインモニターを拡大してみるとそこにはドシュカ(通常仕様)が3輌、86mm砲塔仕様が2輌固まって待機していた

『フラッグ車の通常仕様のドシュカまでいるじゃないか、これは千載一遇のチャンス!一気に叩くぞ!』

桃がそう言うと我先へと前進して発砲する、ショットガンやチェーンガン、荷粒子砲と言った銃火器が音を鳴らして重なり合った。そしてこちらの存在に気付いた相手も負けじと砲撃をしてくる、お互いの攻撃が地面を何度も擦りその度に雪を舞い散らせだが先に勝負を決したのはサムソンの攻撃であった。

「よし、またまた撃破だ!」

「案外プラウダというのも大したことがないんだな」

「それだけ私達が強くなったと言うことだな」

「間違いない、これは勝てるぞ!」

エルヴィン達が談笑してる中みほは後方で一人考え込んでいた

___おかしい、こうもあっさり3輌の撃破を許すほどプラウダと言う高校は弱くないはずだ。    

 黒森峰にいた時はこの数を倒すだけでも随分苦戦した、なのにこうもあっさりと…?

 私達が強くなったと素直に認めるべきなのかも知れないけどでもこれは何かがおかしい

 根拠はないけど私の…私の長年試合をやってきた私の勘がそう囁いている

そんなことを考えているとインカムの音が鳴りハッとして急ぎ気味に電源を入れた

『西住ちゃん、これって…』

『やはり会長も…?』

『あぁ上手く行きすぎてる、それに戦法が違う。数の暴力で叩くのが十八番なのに単独行動や小隊に分けてる』

『えぇ、でも何の為なんでしょう?』

『恐らくは私達を油断させるためだ、身構えてる私達をあっさりやられることで肩透かしにさせ油断を作る…そして万一怪しいと思われてもフラッグ車と言う希望の糸を垂らすことでその思考を放棄させるつもりなんだろうね』

『寄しくも私がアンツィオ戦で使った戦法を使われてるってわけですか…』

『そうじゃなきゃプラウダと言う名門がこんなトーシロー同然の戦いをする訳がない、間違いなく私達はハメられつつあるよ。西住ちゃん…!』

『えぇ、直ぐにでも!』

だが時すでに遅し、みほがインカムに手を伸ばした時には当てられて逃げた…いや正確に言えば誘いこむために動いたドシュカ軍団を大洗のレイバー達が追いかけてる最中だった

『皆さん、ちょっと待ってください!これは敵の罠です!戻って下さい!』

『西住ちゃん、もう遅い!こうなったら渦中の栗を拾うしかない!覚悟決めるしかないよ!』

『やむを得ません…!』

___一か八か敵の罠に完全にハマる前にフラッグ車を倒せれば罠は罠でなくなるんだ、これは最早皆んなの腕を信用するしかない!

「麻子さん!」

「あいよ、突っ込むぞ」

勢いよく麻子がペダルを押してエコノミーは駆け出す。みるみる内に前方との距離が縮まってくる、積雪地帯をこれほどのスピードで走れるのは麻子の驚異的な腕があってからこそである。

しばらく走ると景色は何もなかった雪畑から廃村地帯へと変貌していた。

追いつくと全員がフラッグ車に向けて撃っている姿が見える、だがそんな猛攻撃を嘲笑うかのように相手は廃家屋の死角を出たり入ったりを繰り返している

「麻子さん、射撃頼める!?」

「私がか?…分かった慣れないがやってみよう」

「ありがとう、その間私は退路の状況を見張っているから!」

その時、再びセンサーが鳴り出した。それもこれまでとは比較にならないぐらい大きな音で鳴っている

「退路の方にドシュカ2輌が…!」

素早く目視で確認するとインカムの電源を入れた

『皆さん、東へ移動して下さい。これ以上ここに居るのは危険です!一度引き返して再度…』

だが、その東からもプラウダ一高火力を誇るドシュカ(KV-2仕様)が2輌行く手を阻んだ

「南南西に方向転換…あっ!」

そう、南南西もまた塞がれたのだ

「今度はIS-2仕様…!」

「どうもこれは囲まれたな」

そして敵の無慈悲な一斉掃射が始まった、こちらは何とか避けようと固まらずほんの僅かに動いて射軸をずらそうと試みてるがそれも時間の問題であろう、そのうちドシュカの攻撃がパイソンの左腕に当たりリアクティブアーマーが反応を起こして爆発した

『隊長!左腕をやられました!』

『梓ちゃん、大丈夫!?』

『はい!私は何とか大丈夫ですけどライアットガンがもう撃てません…!』

これは痛い、やられた訳ではないがライアットガンが使えなくなった以上実質撃破されたに等しいのだ。

『周り全部敵まみれだよ!どうするみぽりん!?』

『西住殿、北に廃教会があります!ひとまずそこに逃げると言うのはどうでしょう!?』

あからさまに北にだけ敵がいない、建物がある。これも一つの罠だとみほは考えたが

「…このままここで往生してもやられるだけ、あそこに誘い込むのが敵の目的なのは確かなんだけどそれしかこの状況を打開する道はない…」

「行くしかないだろ西住さん、あそこに立て籠ればウサギさんチームの修理も可能だし形勢を立て直せるかもしれん」

よし、と決心してみほは通信機に手を伸ばす

『皆さん!あの廃教会に立てこもります!優花里さん!あゆみちゃん!私が合図をしたらスモークを!』

『了解であります!』

『分かりました!』

『…準備はいいですか、行きますよ!撃て!』

ラーダーのスモークが一気に放たれ廃教会までの道を煙で見えなくさせる、その間も相手の攻撃が続けられるがどうにか当たらずに済む。フラッグ車であるドーファンを先頭に次々と入って行く最中、運悪くサムソンの足に攻撃が命中してしまった

『隊長!左足をやられた!片足だけで何とか動けないかやってみるが…!』

『待て、エルヴィン。私にいい考えがある』

そう言ったのは指揮車に乗っている左衛門佐だ。

『もんざ、何をする気だお前?』

『隊長、10秒弱でいい。その間だけサムソンの盾になってくれないか!?』

『お前何言ってるんだ!?隊長、私のことは構わんから先に…』

『…分かりました、10秒弱ですね。左衛門佐さんの作戦を信じます』

『西住隊長…!?』

『ここでサムソンを失い火力が大幅に下がるのは勿論避けたいことですが…何よりも味方を見捨てるような真似はしたくありませんから!』

『かたじけない!では頼む!』

通信を切り麻子に指示をしようとした瞬間彼女はすでに機体をサムソンの前に設置していた

「…西住さんなら断らないだろうと思って先に動かしておいた。どうやら私の予想は正しかったようだな」

「麻子さん…」

「感傷に浸るのは後回しだ、取り敢えず赤外線センサーだけを頼りに当てていくしかないか…!」

『ちょっと待った、私らも手伝うよ〜』

『ナカジマさん!』

『装甲からすればエコノミーよかこの子の方が硬いし攻撃力も高いからね、エコノミー単体よりはいいでしょ?』

『分かりました、ではレオポンチームは荷粒子砲をなぎ払うように掃射して下さい!』

『了解、任せなって!』

視界が悪い中放たれた攻撃は1輌、2輌と撃破していった。僅かながらか絶望の中でほんの微かに希望が見える、行く行くはこのコンビネーションアタックである程度倒せるのではないかと思ったからだ。しかしそんなに現実は甘くなかった、突然ガネーシャの砲塔からインクではなく煙が吹き始めてきた

『げ!バッテリーが上がる寸前だこりゃ!ごめん西住さん、これ以上攻撃出来そうにないよ。…でもまぁ盾としてならまだまだ行けるよ!』

『いえ、レオポンさんは急いで建物の中に入ってください!万一ここでバッテリーが上がってしまったらミイラ取りがミイラになる展開です!そうなる前に引き下がってバッテリーを休ませて下さい!』

『…分かった!ごめんねカバさんチーム!』

『気にしないでくれ!こちらの準備はもう完了した!』

そう、彼女らが頑張っている中左衛門佐とおりょうもまた頑張っていたのだ。

彼女らは通信を切った直後急いで車から出てサムソンに駆け寄った

___ワイヤーを抱えながら

左衛門佐は器用に仰向けに倒れ込んでるサムソンのハッチの外側にある手すりにワイヤーをひっかけ、指揮車と繋げた

「しかしもんさにこんな才能があったとは…知らなかったぜよ。てっきり忍者は専門外かと」

「伊達に戦国史を研究してる訳じゃないからな、当然忍者にも興味があった!さておりょう、感心してないで早く引っ張ってくれ!」

そう言うと指揮車が最大限でアクセルをふかして前へ進もうとする。マフラーからはずっと煙が出っ放しである

「やっぱり無理があるぜよ。指揮車でレイバーを引っ張るなんて…!」

「んなこと言ってもこれしか方法がないからしょうがないだろ!」

懸命にアクセルを押し続けるが一向に進まない、こうしてる間にもタイムリミットである10秒が経とうとしてる

「万事休すか…!」

そう思ったその時、何といきなり指揮車が前に進み始めたのだ

「いけるぞこれは!」

そしてズルズルと金属が擦れる嫌な音を立てながらどうにかサムソン共々建物に入ることができたのだ

みほはそれを後方モニターで確認した

『隊長!収容完了だ!すまない、本当に恩に着るぞ!』

『大丈夫、気にしないでください!』

そう言いながらみほは機体を入り口の方に向けて駆け出しどうにか彼女も入ることの成功した

何とか目的を達成して安心する間もなく敵の攻撃の音は止むことはない。だがそれらの攻撃は彼女らを狙ってではない。この建物を狙ってるのだ

「建物の当てた時に響く音で萎縮させるつもりか…」

「最も、私らにはもうここで引きこもるしかないけどな」

何とかして次の作戦を考えなければ、このどうしようもなく圧倒的不利な状況を少しでもマシにするための作戦を…!

砲撃音が響く中みほは唸り続ける、そんな時いつもとは違うセンサー音がなった。はっきり聞こえたことを見るとどうやらいつの間にか攻撃が止んでいたようであった。

「…レイバー反応じゃない?」

「対人センサーに反応か、拡大してみるか」

麻子がモニターのつまみを弄り拡大すると二人ばかりの人物が白旗を持ちながらこちらに近づいてきた

「話し合いでもしようって言うのかな?何のために…」

「取り敢えず、降りるしかないだろうな」

膝立ち状態にさせ、みほはエコノミーから降りる。それに引き継いでそれぞれのレイバーのコクピットも開き続々と降りていった

プラウダから来た人物と目が合う、その表情はキリリとしており薄寒さを感じる程だった。みほはその人物らにある程度近づき止まる

「大洗女子学園隊長の西住みほです」

「…カチューシャ隊長からの伝言を持ってまいりました」

「…」

「“降伏なさい、全員土下座すれば許してやる“だそうです」

「土下座…ですか」

「隊長は心が広いので3時間回答を待ってやる。との事です、その間にどうか賢明なご判断を。ではこれで」

淡々と告げると彼女らは背中を向けて帰ってしまう

「…全員自分より身長低くないと気が済まないのか!」

桃がそう叫んだのを最初に次々と仲間からも声が上がる

「徹底抗戦あるのみだ隊長!」

「土下座だなんてする必要ありません!戦い向きましょう先輩!」

「勿論私も土下座は嫌です。いえ、正確に言えば私が土下座する分には一向に構いません。ですが皆さんが土下座をする様な事は絶対に嫌です。しかしこうも囲まれては作戦の立てようが…」

「私はみほさんの判断に従います」

「華さん…」

「私も土下座ぐらいしたって構わないよ!」

「西住殿だけが土下座なんてそんな事はごめん被ります!」

「沙織さん、優花里さん…」

「準決勝まで行けたんだ、ここらで散っても悪くはないだろう」

「麻子さん…皆んなの言う通りかもしれない。準決勝まで行けただけでも喜ばしいことだよ。でも…」

言葉を続けようとした瞬間、桃の声が遮った

「絶対に負けるわけにはいかんのだ!徹底抗戦しか我らに残された道はないのだ!」

「…河嶋さん」

「勝つんだ!絶対に勝たなきゃダメなんだ!」

「先輩、どうしてそこまで勝たなきゃいけないんだ」

熱くなった桃の言葉を麻子の一声が冷やす

「初めて出場してここまで行けたんだぞ?それだけでも十分に凄いことじゃないか。随分前から『勝て」だの『勝たなきゃダメ』だの、アンタは特車道ってのを戦争にでも思ってるのか?勝ち負けだけじゃないって事ぐらいアンタでも分かってるんじゃないのか?」

「勝つ以外の何が大事だと言うんだ!貴様だって勝たなければ単位は単位は入らないのだぞ!いや…負ければそんなこともどうでも良くなるか…」

「悪いな、今の私にとっては単位なぞどうでもいい。

 今の私に必要なのは親友を守る心だけだ」

「親友…だと?」

「そうだ、西住さんは私の親友だ。彼女は長い間勝たなゃ行けないという呪縛に縛れられ来たんだ。だが、ようやくそこから解放されたんだ、アンタはもう一度彼女を縛りつける気か!もう彼女を解放してやっていいだろ!普通の女子高生として過ごさせてやってくれ!」

「…何を言ってるんだ冷泉麻子、負けたら普通の女子高生として過ごすなんてこと無理になるんだぞ」

「…!?どう言う意味だ!」

「この大会で負ければ我が校は無くなるってことだ!」

桃の涙が混じった声が建物全体に虚しく響き渡る

「…な」

「学校が無くなる…?まさか本当に…」

みほが声にならない声を呟くと神妙な顔つきで杏が桃の隣に並んだ

「…河嶋の言う通りだ。今回の第63回特車道全国大会で優勝できなければ我が高校、大洗女子学園は廃校となる」




追い詰められた大洗女子学園、そして遂に明かされた廃校の危機!全員の士気が低下する中みほは索敵班を選抜し少しでも打開できないか考えた。そしてとある作戦を思いつくもこの作戦には全員の士気が高まってないと無理だ!
困り果てたある決断をする
次回「絶対絶命です!」ターゲットロック、オン!


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絶体絶命です!part1

ど〜も恵美押勝です。最近変に暖かくなったと思ったらいきなり冬本番並みに寒くなったりと気温の変化が激しいですね。どなた様も体調には十分気をつけてお過ごしくださいませ
それでは、本編をお楽しみください


「廃校ってどういう事ですか!」

「それと特車道とどう関係があるのですか!」

「会長!」

次々と杏に向けられた質問が来る、杏は神妙な顔をしたまま皆の方を見る

「確かに皆の疑問はもっともだ。あまりにも突拍子もない現実じみた話じゃないからな、だからこの場を借りて全てを説明しよう。あれはまだ西住ちゃんが転校するよりもっと前、去年の2月ぐらいだった…私ら生徒会は学園艦について重大な話があるということで文科省に行くことになった。重大な話とは何か、その時私はおおよその検討がついていたがそうなる事がない様に祈りつつも自分の予想が当たってしまった時のためにある資料を懐にしまって赴いたんだ」

✴︎

「文科省に呼ばれるって会長何をしたんですか?まさか学園艦予算の横領を…?」

「会長かそんなことする訳ないだろ柚子ちゃん!…そうですよね会長!?」

「いやぁ…」

「そこははっきり否定してくださいよ!」

「何はともあれ上の連中がわざわざ招いてくるなんてロクなことじゃないと思うよ。ご褒美を渡される様な事うちらはやってないからねぇ、面倒ったらありゃしないよ。折角の休日を…」

ブツクサ呟きながら杏らは文科省内へ入り受付嬢に話しかけて案内してもらうことになった。ドアを叩き「どうぞ」との声がして部屋へと入る

中に入ると30代ぐらいの男性が座席に腰掛けこちらを待っていた、男性が杏達を座るよう促し言われるがままに座る、そうするとその男性は内ポケットから名刺を取り出してこちらに渡した

 

「…“文科省学園艦教育局長“の辻さんねぇ…うちのような小さな高校にどのようなご用件でしょうか??

「その小さな高校ですから用があるのです」

「と、言いますと?」

「端的にお伝えしましょう。あなた方の学園艦、大洗女子学園は廃校と決定されました」

「廃校!?」

「学園艦は運営費も維持費も大規模な費用だから財政を圧迫してるんですよ。ですので政府の方針で学園艦の統廃合が決定したわけです」

「道理でここのところ明らかに予算を減らされたり修理要請とかを出しても中々受理されない訳だ。…選考基準ってのは聞かせてもらえるんでしょうねぇ?」

「基準といたしましては過去数十年間で学問、スポーツなどにおいて成果が見られない学校です」

「政府が無駄に使ってる費用とか抑えれば統廃合なんてしなくてもいいのにねぇ、学園艦を廃校処分にしたら解体費、艦内にいる勤労者達への新しい仕事の手配、そして艦を動かす原子力の処分…どう考えたって維持費よりも高くつくのに馬鹿なことを決定したもんですね」

「か、会長抑えてください!桃ちゃん何とかしてよ!」

「いや、私としても会長と同じ意見だ。到底納得いくものではない!」

そう熱くなる桃を辻はため息を吐きながら話し始める

「そう言う政治の議論は他所でやって頂きたい、これは既に決定した事なのでね。今年度中に納得頂ければ結構です」

「じゃあつまり来年には…」

「そう言うことになります。大洗女子学園は過去20年間にわたり目立った実績もない、おまけに生徒数も減少している…統廃合のリストに上るのは必然かと」

「…」

「大洗は昔は特車道とバレー部が活躍してたらしいですが、もし今も続けていれば少しぐらい寿命は伸びたかもしれませんね。まぁ今となっては後の祭りですが…」

「成る程、いいこと聞いちゃった私」

杏はニヤリと笑うと待ってましたと言わんばかりにポケットから書類を取り出した

「要は来年までに特車道で活躍すれば良いってわけですね」

「何が言いたいんでしょうか」

「決まってんじゃないですか。夏の大会で優勝ですよ」

「会長、本気ですか!?」

「こんな所で冗談言ってもしょうがないだろかーしま」

「何を言い出すかと思えば、夢物語は程々にしなさい。諦めてこれからの一年を有意義に過ごせば…」

「そうは問屋が卸さないんです、あなた方お上にとっては単なるリストにチェックを入れるだけの作業かもしれないがされる側はこの上なく迷惑を被るんですよ、ですから夢物語と言われようが可能性があるなら足掻きますよ。それに…どうも夢物語じゃなさそうだ。神様って奴はどうも最後の最後で手を伸ばしてくれるらしい」

杏は書類を広げ辻に見せる

「それは…転校生の書類ですか」

かけているメガネを直しながらそれを見ると彼の表情が一瞬強張ったものになった

「…西住みほ。あの黒森峰の副隊長ですか…!」

「そう、彼女を新設した特車道に誘うんですよ、彼女と一応経験者である私が組めば夢物語も夢物語ではなくなるって訳です」

「馬鹿な、特車道の名門と呼ばれる黒森峰から大洗に転校してくる時点で大体察せるはず、そんな彼女を誘うと言うのですか。何と…」

「辻さん、あんた情で統廃合を決定してますか?いいやそんな訳はないよな。無情には無情で行かなければ勝てない…彼女には大義の為の犠牲となってもらいます」

そう告げる杏の真剣な表情に辻は何も言い返す事が出来なかった。

それは彼女を権力を振りかざす自分達政治家と同じだと思い蔑んだわけではない、高校生ながらも達観した感性を持ち覚悟を決めた真剣な表情で語る彼女に一種の畏怖を感じたからであった

「では、これで失礼させて頂きます。小山、河嶋。帰って書類洗いざらい出すぞ」

✴︎

「それで特車道を復活させたと言う訳ですか。やはり…」

語り終えた杏にみほが話しかける

「復活させりゃ上から助成金が出るしねぇ、その分を運営費に回せるしな。

 ところが蓋を開けたらまぁ当然と言うか雀の涙程度のはした金だったよ」

「じゃあ世界大会って言う当初の目的は…」

「それは本当だよ、どーせ始めるなら上の方を狙いたかったしね」

「でも会長殿、いきなりで優勝は余りにも無謀ではありませんか?」

「いやぁ20年前はこの学校もそれなりに強かったって資料で見たからさ、強いレイバーもあるんじゃないかと思った訳なんだけど…どうも最後の試合の後売っ払ったらしくてな」

「じゃあ、ここにあるレイバー達は売れ残りということになる訳でありますか」

「そーゆーこと」

「ちょい待ち会長、それじゃウチらのガネーシャはなんである訳ですか?この中じゃ一番高性能ですよ」

「多分ガネーシャはレアすぎて元の持ち主が売るのを拒んだんじゃないかな、もしくは整備に手間がかかり過ぎるから業者が買い取るのを拒んだってこともあるね」

「成る程…」

「だが売れ残りのレイバーで勝てるだなんて本気で思っていたのか?」

とカエサルが話に割り込んでくる

「…会長は打算があったようだが私としてはそうは思わなかった、だが残された道はそれしかなかったのは紛れもなく事実だ。何の特色もない古臭いだけが取り柄の学校が生き残るには」

そう桃が言うと何処となく寂しい表情をしながら杏が口を開いた

「無謀なのは重々承知さ、私と西住ちゃんが加わっても優勝できる確率が上がるだけで100%じゃないからな…せいぜい40%がいい所だろうさ。でも“絶望的なギャンブルでも最初から負けを考えるな、負けの思考は敗北に繋がるだけだ”って友達から教わってね。諦めて泣いてしみじみとした1年を送るよか足掻いて足掻いて足掻きまくる方がいいのさ。その方が私の性にも合うからな」

そう語ると柚子がみんなの前に立ち

「今までずっと皆んなを騙すようなことをして本当にごめんなさい」

と頭を下げた

「この学校が仮に無くなったら私達離れ離れになってしまうのでしょうか…?」

「そんなのやだよ!折角華とも皆とも仲良くなれてこれからっていうのに…」

仲間達から悲痛な声が上がる、一年生なんかは泣き出してまうぐらいだ

____私も離れ離れになるのは嫌だ、ここで出会った仲間と別れるなんて辛過ぎることだ、せっかく見つけかけた新しい人生を、特車道をこんな所で終わらせてたまるか。短い期間のうちにどれだけ自分はここにお世話になったんだ、終わらせやしない、誰も泣かせやしない。私が…私が皆んなを守るんだ。これは私の人生だけじゃない、みんなの人生がかかった試合なんだ。

みほは固く手を握り締めて改めて決意を固める、戦う覚悟は既に完了した。みほはこの重苦しい空気を変えるため拳を握りしめてみんなの前に立った

「皆さん、まだ試合が終わったわけじゃありません!  

 負けが決まったわけじゃありません!

 会長の言う通り最後の最後まで足掻いて足掻きましょうよ!」

「…西住ちゃん」

「だって私、来年も特車道をしたいんです!いいえ、ただ特車道をしたいんじゃないんです、この場にいるみんなとやりたいんです!

だから皆さん…共に立ち上がり、戦いましょう!」

高らかに拳を振り上げて叫ぶ、そして僅かな静寂が場を包み込んだ。それを剥がしたのはやはり友の声であった

「西住殿…この秋山優花里、どこまでもご一緒します!」

「そうだよ!諦めたら何かも終わりだよ!恋も特車道も!」

「まだ私達は戦えます!」

だが、麻子は黙ったままだった

「麻子さん…」

「西住さん、本当にいいんだな?勝ちの呪縛に縛られる事になるんだぞ?」

「麻子さんの心配してくれる気持ちは凄いありがたいです…でもこれは私が決めた事です、私の意思で選んだ選択です。ですから私は喜んで呪縛にまた縛れましょう…と言ってもこの大会だけですけどね」

「そうか…分かった。アンタが決めたんだ、口を挟むのは野暮だったな。…すまなかった」

「いいんですよ、麻子さん。これからも無茶な命令をするかもしれません、今まで以上かもしれない。そんな私ですけどどうぞよろしくお願いします」

「構わん、アンタの手となり足となってみせようじゃないか。…なぁ、前から思ってたんだけど“西住さん”じゃなくて“みほ”って呼んでもいいか?やはりさん付けは他人行儀みたいでどうも落ち着かん」

「勿論良いですよ!改めてよろしくお願いします、麻子さん」

「こちらこそ宜しく頼む“みほ”」

二人は互いに歩み寄り固い握手を交わした、周囲から拍手が巻き起こりみんなの前だったと言う事に気がつくとみほの顔が見る見る赤くなってくる。

咳払いをしとにかく、と言う

「降伏はしません、最後まで戦い抜きます。ただし、誰も怪我をしないように。各員作業の続きを!カバさんチームとウサギさんチームは修理作業を、それ以外の方はリロードを!アトラス、サムソン、ラーダーと言ったガソリンを使用するレイバーはエンジンルームを温めて下さい!何せ3時間もあるんです、落ち着いて確実に作業をこなして下さい!これが逆転への一歩となりますから!」

ハイッ!と威勢の良い返事と共に全員が持ち場へと着く。私も私の持ち場へ着かなきゃと思い後ろを振り返ると杏が手をこまねいていた

✴︎

一方、観客席の特等席ではまほとしほが妹の、娘の活躍を見にきていた。試合の全貌を映し出すモニターにはみほ達が立てこもってる廃教会にプラウダらのレイバーが囲んでいる絶望的な状況が映し出されていた。

白い息を吐きながら仁王立ちするしほ、彼女は画面を一瞥すると毅然とした表情で話し始めた

「…帰るわよ、こんな恥ずかしい勝負見てられないわ。なんで逃げるだけで反撃すらしない、そんな戦い方をして西住流の名をこれ以上汚すならやはり勘当するのは正解だわ」

「待ってくださいお母様、まだ試合は終わってません、いやまだ“始まって”もいません。みほがあのような状況こそ本領を発揮するのは姉である私がお母様よりも知っています」

「…貴方は随分あの子の肩を持つのね、西住流そのものと言ったけどあれは嘘かしら?」

「私は西住流そのものです…ですがそれ以前として私はあの子の姉です。姉として妹を信じ、最後まで見守るのは当然のことかと」

あの時何もしてやれなかった私が言えた話ではありませんが、とまほは最後に小声で呟く。その事が聞こえたのかどうかは定かではないがしほは表情こそ変えないがまほの方を見つめる

「そうね…貴方がそこまで言うのならば見てあげてもいいでしょう。もしあの子が勝つのならばそれはそれで貴方にとってもいい学習になるかもしれません」

嘘だ、内心まほはそう思った。何故ならみほがこれから戦術を立てて勝ったとしてもその戦術は自分には到底出来やしないことをしほが分からないはずがないからだ。それでもあんな事を言って我が子の活躍を見ようとするとは…

___あの人にも人としての心はあると言うことか…お母様、私は私自身も憎いが貴方も憎い。みほに対して慰めや褒めもしなかった貴方が憎い。貴方が一言「貴方はよくやった」と言ってくれればあの子はどれだけ救われたことか…いや、それは私にも言えることだ。お母様だけを憎むのは筋違いと言うものだろう。

しかし何れにしてもお母様は冷血で現実主義な事に変わりない…しかしその認識を改める必要がありそうだ

だが私は…やはりあの人が憎い。心の奥深くではやはりあの人の事を憎んでいる。いつまでも憎んでいてはいけないとわかっているのだが…!

まほは自分の拳を握り締めていることに気がつきハッとした

いけない、今はこんなに一人勝手に気持ちを募らせてる時じゃないだろ…!見守らなくては、見届けなくては…!

まほは気持ちを切り替えるため自分の顎に手を当て現状をどうするべきか考える事にした。

あの状況ならみほはどうするだろうか、私なら防御力の高い軍用レイバーを先頭にして比較的包囲が薄い場所から脱出、そして撒くことに成功したら指揮車か人の足を使ってフラッグ車の捜索、そして見つけ次第火力の高いレイバーを先頭にして再び突撃、と言ったところだろうか…

しかし、その作戦は相手が普通の人間の時しか通用しない言わば型にはまった戦術だ。それが悪いとは言わないが数多の実戦を経験して来たプラウダ高と言う精鋭達にそれが通じるのだろうか?

…みほ、お前はどう挑んでくるつもりなんだ。

まほはモニターに映った廃教会の中にいる妹を透かして見るようにじっと凝視した。

 




今回はいつもより短めとさせて頂きました。感想、評価をお持ちしております
それではここまでお読み頂きありがとうございました!


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絶対絶命です!part2

ど〜もどもども、大変お久しぶりでございます。恵美押勝です!ようやく受験もひと段落し執筆活動を再開する事が出来ました!いや〜やはり執筆と言うのは楽しいものですね!
長話もアレなんで、本編をどうぞお楽しみください!


相変わらず雪がしんしんと降ってきている、傍から見れば風情のある光景かもしれないが、特車道をやっている側からみるとそうは言ってられない。レイバーの性能がダウンするとか照準が合わせ辛くなると言うのは勿論だが、何よりも怖いのは寒さによる低体温症、手がかじかみ思うように動かなくなる事だ。それ故にこう言った寒い地域で戦う場合は寒さに対するそれ相応の準備をしなくてはならない。この場合上着などの防寒具だけではなくココアやスープといった精神的にも温めてくれるものが必要なのだ。その点をプラウダは重々理解しており3時間に及ぶ待機時間中の対策は十分すぎるぐらいに用意していた

プラウダの陣営にはあちこちに焚火が設置されておりそれを囲むようにして選手たちが談笑している。彼女らにとってこの待ち時間は単純な待ち時間でしかない、別に何も悩む必要はないからだ。ただ時間が過ぎるのを待ち向こうが降伏したらそれでお終い、しなくても直ぐに全滅させることが出来る。だから悩む必要などこれっぽっちもないのだ。

そんな中選手達が集まってる場所から少し離れた静かなところでカチューシャとノンナがひっそりと暖を取っていた。

「大洗女子への通達完了しました」

「そう。ねぇ、降伏したら土下座ついでにウチの学校の草むしり3ヶ月、麦ふみとじゃがいも掘りの労働を課したらどうかしら?このカチューシャを侮辱したもの、それぐらいして当然よね」

熱い具沢山のボルシチを掻き込みなながらカチューシャはそう言った

「…また付いてますよ」

「分かってるわよ!この間もそうだけど恥ずかしいんだから…!」

差し出されたハンカチを強引に掴み取りカチューシャは口周りを拭った

ごちそうさま、と言い彼女はかご型のベットにもたれる

「やっぱり大洗の連中大したことなかったわね、所詮は甘ちゃんとアマちゃんの集まり。場数を踏んだ私達に勝とうと思うこと自体おごがましいのよ。

まぁサンダースを倒したから多少は食えるものだと思ったけど…結局は私の思った通り中身の無い空虚な自信だったわけね。今頃奴らはどんなセリフで謝れば良いのか考えて慌ててるわよ。どんな風にあの二人が土下座するのか楽しみだわ」

カチューシャはそう狡猾な笑みを浮かべながら喋った。話終えると疲れたから寝る、と言って掛け布団を被り目を瞑った

「降伏までの猶予に3時間もあげたのは疲れて仮眠をとりたかったからですか。食べてすぐ横になったら牛になるって言いますよ?」

「うるさいわね…カチューシャの心の広さを見せてあげてるだけよ…ウラル山脈より深くバイカル湖よりも広い…そう言ってくれたのはノンナ、貴女でしょう…?それじゃ時間が来たら…起こしてね…」

そうとだけ言うと寝息を立て始めた

「おやすみなさい、カチューシャ」

____あとは2時間と30分…向こうはどう出るのか。私個人としては彼女達は降伏するとはどうしても思えない、彼女らには確か廃校と言う使命がかかっている筈、そんなのを背負いながらそう簡単にはいごめんなさい、とするのか…?確かにカチューシャの言う通り空虚な自信かもしれない。でも確固たる覚悟、芯があると言うことを私のこの目で、西住みほと言う人間の目を見て分かった。一瞬の出会いとは言え私の目に狂いがなければそう見えた…

私はその目を信じたい。あんな瞳を見るのはカチューシャが入学してから1年生のリーダーを任された頃就任式で皆の前で「貴方達は万年2位で満足させないわ、私がこの学校を一位にさせてみせる。だから私についてきて。何度でも勝利の味を味合わせてあげるから」と言った時に見えた以来か…

私はその瞳に導かれるようにカチューシャと共に成長し優勝を勝ち取った。勝利の味を堪能できた

だからなんだろうか、彼女には降伏をして欲しくないのだ…カチューシャと同じ瞳を持った彼女が降伏することは私にとってもの凄く苦痛な気がするのだ。上手く言葉では言い表せないが…「裏切られた」と言うべきか。

皆には、カチューシャには…申し訳ないが私は彼女の土下座姿は見たくありません。必ずや足掻いてください。足掻いて足掻いて…私達に倒されてください。カチューシャ為にも、私のためにも…

夢の世界に入り込んだ地吹雪の女の頭を撫でロシアで古くから伝わる子守唄を歌いながら彼女はそう考えた。ブリザードと呼ばれる彼女であるがこの時ばかりはそうではなかった。

✴︎

その頃大洗陣営では刻一刻と迫るタイムリミットを前に各員がそれぞれのやるべきことをこなしていた。

「パイソンの左腕のリアクティブアーマーがペッチャンコだ…痛そう」

膝立ちの状態になっている己の愛機を見ながら香里奈はそう言った

「リアクティブアーマーが正常に作動しただけだから痛くはないと思うけど…」

「でも動かなくなっちゃったね梓ちゃん」

「そうなんだよね、普通はそんな事にはならないように出来てる筈なんだけども」

「そのためのリアクティブアーマーだもんね〜?」

声がした方を振り向くとチェーンガンのジャラジャラした弾を持ち運んでる優希がいた

「優希ちゃん、ラーダーの方は大丈夫なの?」

「うん、あの時一発も貰わなかったしね〜、ただ…」

「ただ?」

「暖房が無いから寒くてもうしょうがなくて」

その言葉に二人ともこけそうになった

「しょうもない事で悩まないでよ…」

「こっちは今左腕が動かなくて困ってるんだからね!」

「ゴメンゴメン〜でも、こう言うのって叩けば治るんじゃない?お母さんも動かなくなったレイバーは叩けば治るって言ってたもの」

「叩く…ってどこを?」

「え〜と確か壊れた箇所のレバーだったかな」

「んなアホな…」

「騙されたと思ってやってみてよ〜」

まぁ、ペイント弾の判定による破壊判定じゃなくて単に機械上のトラブルなら私にはどうしようもないからそれしかないか…

と、直れば儲け物と思いながらコクピットに梓は乗った

「それじゃあやってみるよ」

梓は思いっきり左レバーをチョップし、ブルブル揺れるのが治るのをヒヤヒヤしながら眺めた、しばらくすると治ったので電源を入れ直す

モニターにOSの起動画面が流れ訳の分からない英語が黒い背景に羅列される。そしてメインモニターに風景が映り起動が完了した。梓はコンソールを弄り苦笑しながら機体状況を把握する、だがその笑みはすぐに驚愕の表情に切り替わった

「嘘…本当に直っちゃってる…」

モニターには[機体に異常ナシ]と言う文字がデカデカと映されていた

「自動車部の人達が見たら腰抜かしそうだね梓ちゃん…」

「もうめちゃくちゃだ…」

外部スピーカーから聞こえる梓達の声を聞いて優希らはケラケラと笑いながらラーダーへと戻っていった

 

サムソンはサムソンで足の修復に追われていた。エルヴィンとカエサルが持参した布巾をこれまた持参した洗剤につけ力強く磨く

「手が悴むなぁ…霜焼けになりそうだ。カエサル」

「霜焼けなんて勲章勲章。…しっかし中々落ちないもんだな」

それなりに力を込めて磨いてるが一度へばりついたペイントはそう簡単には落ちてくれない。それでもめげずに磨き続けること5分間、ようやく大元の汚れは取り除けた

「まだうっすらと残ってはいるが…センサーを再起動させてくれ」

コクピットに座っているカエサルがエルヴィンの指示でボタンを押すと何も音がしなかった、修理が完了した合図だ。念のために機体を自己スキャンさせたがこれも異常ナシとでた

「やっと終わったか…」

「いや、まだだあとリロードが残ってる」

「あぁ、そうだな…にしても背面が傷だらけだ。これも勲章か?カエサル」

「きっとそうだろうさ、後でもんざ達にお礼を言わないとな。…おや?」

カエサルの目の先にみほが映ったどうやら何方かに用があるらしい。みほは二人の前に立つとポケットから何かを取り出した

「お疲れ様です、カエサルさん、エルヴィンさん。手の方がだいぶ悴かんだと思うので良かったらこのカイロを使ってください!」

「あぁ、ありがとう隊長。ところで私達に何用かな?」

「はい、実はエルヴィンさんに偵察をお願いしたいんです」

「私にか?」

手に持ったカイロを握りながらカエサルが反応した

「はい、詳しいことは是非こちらで…」

「分かった」

とエルヴィンは廃教会の中心に作った即席作戦室に連れてこられた。そこには生徒会、麻子、そしてそど子がいた

全員が集まったのを確認すると桃が咳払いをして話し始める。この時、全員の視線は卓上に置かれた地図に注がれていた。

「甚だ簡易的ではあるが、これが現在の状況だ。…と言っても分かってるのは入り口に4輌あると言うだけで後は分からん、ここを突破するのが私達の目的ではある。だがその為には敵の正確な位置を把握せねばならん」

「成る程、それで我らが呼ばれたと言うわけだな」

「そういうことです、偵察するときは裏口からお願いします。そこにも居るかもしれませんが馬鹿正直に入り口から出るよりはマシですから。ではチーム分けをしたいと思います」

そうしてみほの指示の結果

・優花里、エルヴィン

・麻子、そど子

と言う風に分かれた

偵察メンバー達は音もなく静かに己の責務を全うしに雪が吹き荒れる極寒の面へと出て行った

✴︎

ザッザッザッと小気味良いリズムを奏でながら歩く二人組の少女が居た。麻子とそど子だ、彼女らはプラウダの生徒に見つからないようになるべく必要なこと以外喋らず黙々とレイバーを発見して行った。というのも万一敵に発見された場合捕虜として確保される危険性があるからだ。ルール上では捕虜として扱い、尋問することは認められている。最も捕まえたところで有益な情報を持っていない彼女らを尋問もしようと思う人物はそう居ないだろう。だが捕まったら試合が終わるまでは解放はしない筈だ、そうなったら味方に痛手を与え得る事になる、それだけは絶対避けたいことだ。

「あそこにT-34、85、それから奥にモロトフ…」

「そんな砲塔のタイプはないぞ、そど子」

「ちょっと間違えただけしょ!モロトフじゃなくてスターリン2よ!」

「JS-2…と、しかしまぁここまで多種多様なドシュカがあるもんだ。その内列車砲仕様のドシュカが出てもおかしくはないな」

「列車砲…?まぁいいわ。それより大体なんであなたと一緒に偵察しなきゃならないのよ!」

「お互い視力が2.0だからに決まってるだろ、そど子」

「なんであなたそんなに視力がいいのよ…勉強ばっかしてるくせに」

「日頃の行いがいいからだろ、そど子」

「何よそれ…てかさっきからそど子そど子うるさいのよ、西住さんはみほって呼べるのに私のことは本名で呼べないわけ!?」

「そど子はそど子だろう?」

「…っ!何よ貴方なんか冷泉麻子略して“れまこ”よ!れまこ!」

そう言いながらそど子は地面の雪を丸めた雪玉を麻子に投げつけた、しかしそれは麻子に当たることなく背後にあった木に当たる。その衝撃で揺すられ枝に積もっていた雪が大きな音を出して落ちた

「敵だ!」

すると近くにいたプラウダの生徒に見つかってしまった

「逃げるぞ、…全くこんな所で雪を投げるな。どう責任を取ってもらおうかそど子」

「悪かったわよ!…あそこにKV-2!」

「よし、今ので許した。KV-2…っと」

走りながらも麻子は冷静に地図に記入していく、暫く走ると諦めたのか足音は再び2つだけに戻った

「…ココア持ってきてるんだ。帰ったら飲まないか?」

「あら、冷泉さんにしては気が利いてるじゃない」

「タダでいいぞ」

「当たり前じゃないの!やっぱり前言撤回するわ!」

静観な雪景色に二人の少女の声がこだました

✴︎

「吹雪いてきた…」

みほは廃教会の窓の景色を見てそう思った、外はいつの間にか試合開始時よりも雪が強くなっており入り口前に出来ていたはずのレイバー達の足跡はいつの間にか消えていた。とすると当然気温の方も下がってくる、ようやくこの寒さに適応しつつあった体が再び冷えようとしている

___これはまずい

みほはポツリと呟いた

戦場において「寒さ」が恐ろしいものは何も身体的な問題ではない。人間と言う生き物は寒さと空腹に見舞われると意気消沈してしまう繊細な生物なのだ、だからこそ柚子達が用意していたインスタントのスープは非常にありがたかった。こう言った暖かくて美味しいものは身体的にも精神的にも癒してくれる、この場において最適な代物と言えるだろう。みほは渡されたスープを飲みながら別のことを考え始めた

…この天気、この膠着状況…下手すると運営側が試合中止を提案するかもしれない、そうなった場合はどうなるんだろう…いや、そんな事よりも偵察に行った皆は視界が悪い中発見出来るのかな。…帰ったらまずは暖を取らせよう。話はそれからだ

そんなことを思ってると風に乗って陽気な歌声が聞こえてきた

「「どうせ生きては帰らぬつもり〜っと!」」

「優花里さん、エルヴィンさん!」

目の前に現れた二人は敬礼しながら口を開いた

「只今帰還しました!」

「雪の進軍は楽しかったな、クランシー巡査部長?」

「えぇ!こういうのってやっぱり最高ですね!」

「雪の進軍…?」

「旧陸軍の軍歌だ、八甲田山って知ってるか?高○健主演の…あれで歌われてる歌だ」

「いやぁ…私あまり映画とか見なかったから…」

「そうか、であれば今度うちに来るといい。丁度この前ブルーレイを入手したんだ」

「え!?エルヴィン殿!いつの間に入手したんですか!私にも見せてくださいよ!」

「勿論」

「それじゃ、私も見てみようかな…でもその前にはまず勝たなきゃね」

「そう…だな、勝たなければ誘う家も無くなるんだものな…」

しばしの沈黙が訪れたがそれは陽気な足音により破られる

「只今戻りました!」

「寒い…早く毛布に包まりたい…」

「お疲れ様でした!麻子さん!温かいスープがあるからその前に報告をお願いします。優花里さん達もお願いします!」

それぞれから報告を受けみほは地図に書き起こす

「凄い…あの雪の中でこんなにも正確に出来るなんて、これで作戦が立てやすくなります!」

「見つかったのが逆に功を成したな、そど子」

「何言ってんのよ!見つかるのも作戦の内よ!」

「そういうことにしといてやるから耳元で騒ぐのはやめてくれ…そろそろキーンとしてきた…」

二人の少女らが騒ぐのを他所にみほは書き起こした地図を見つめていた

地図上には教会の入り口から一歩も通さんと言わんばかりに二重の構造でレイバーが配置されていた、しかしよく見てみてると所々その陣形に薄い所が確認できた

___これは罠だ。

みほは直感でそう感じた、さっきと同じようにワザとこちらに有利な状況を作ってそれに引っかかった私達を今度こそ物量で殲滅させるつもりだ。でなければこうもあからさまに隙間を設けるはずがない、相手はエースなんだから。それなのにそうすると言うことは私達を舐めている証拠だ、無理もない、こちらは一度相手の手にはまっていたのだから…

だが逆に考えればこれはある意味チャンスではないだろうか?相手は私達の行動を予想してそれに向けた準備をしている、となれば相手の「まさか」と言う行動を取れば陣形が乱れ勝利…いや絶対絶命の状況から脱する糸口になるのではないだろうか。

…だとするならば策は見えた。早速これをみんなに発令しよう

そう思いみほは時計の方を見た

(後1時間か…寒さがさっきよりも更に増してきた。みんなは大丈夫かな…?)

辺りを見回すと何やら寒気が増したような気配がした

カバさんチームらは吹雪いてる景色を見て恐らく例の八甲田山とか言う映画の寸劇をやっていて落ち込んでるのか盛り上がっているのかよく分からない。

アヒルさんチームは全員が死んだ魚のような目をし「ビーチバレーよりスノーバレーの時代だ」とかこれまた訳の分からないことを言っている。

ウサギさんチームは全員が同じ毛布に包まり温めあってはいるが彼女らから発せられる言葉は身体的だけでなく精神的な面も負担が掛かっていることが伺えた

アヒルさんチームに至っては寝落ちしかけている

現状、元気と言えるのは熱心にガネーシャの整備をしているレオポンさんチームだけだった

周辺の確認を終えるとみほは少し空腹を覚えた、スープのおかげで胃が活性化されたのだろう。間が悪い、と彼女は内心溜息をつきながら隣にいた柚子に声をかける

「あの、食料品っていうのは…?」

「それが、こんな風になるなんて思いもしなかったからスープしかないのよ…固形物に辛うじて乾パンがあるけど…」

「乾パン…ですか」

これは実質食料が無いに等しい発言だった

(これは本格的にまずいことになってきた…)

みほが焦るのも無理はない、寒さで怖いのは身体的であることは再三も述べたが本当に恐ろしいのは精神的な面なのだ、寒さは容赦なく体力を奪うのと同時に思考力も奪っていく。これによりテンションが下がる、端的に言えば士気が大幅に低下するのだ。しかもそれに加え空腹をと言うマイナス要素もプラスされる、空腹と冷えと言うのは士気を下げるのにはこの上ない最良の組み合わせなのだ。既にその効果は現れつつある

____この作戦にはみんなの士気が十分に高まってなきゃ出来ないんだ。

気持ちがバラバラじゃこの状況を打破するための作戦なんて夢のまた夢だ。だけど士気を上げるための方法がない…上げるために必要な食事や吉報などはこの場にありはしない。一体どうすればいい…

そう考えながらみほはせめて何かないかと周囲を見渡すと窓辺に立つ沙織達の姿が目に入った。顔は見えないがその背中は物憂げていた、彼女はそれが気になりこっそりと耳を立てた。

「…プラウダの奴ら、私達の苦労も知らず呑気にコサックダンスを踊ってるな、それも焚き火に当たりながら…」

「それに美味しそうなボルシチも…私、少々お腹が…」

「やはりあれだけの軍用レイバーを備えてる学校ですしプラウダはこういう状況が一番慣れてますからね…備えが完璧なのも必然かと…」

「学校、無くなっちゃうのかな…?」

「そんなの私は嫌ですよ…この学校でいたい!ようやく私の居場所が出来たここでみんなと…!」

「私だって分かってるよゆかりん、でも…」

「どうして廃校だなんて無粋なことを…ここでしか咲けない花もあると言うのに…」

4人の背中はさらに物寂しくなり周辺の空気はお通夜さながらだった。見かねたみほは彼女らに歩み寄り声をかける

「どうしたの皆んな、元気出していきましょうよ!」

だが、反応は芳しくはない。死人のような生気のない返事が虚しく廃教会に響くだけだった、周りを見渡しても誰一人顔を上げようとしない(最も、レオポンさんチームは顔を上げたくても修理中なので上げれないのだが…)空気はさらに重たくなるばかりだ、たまらずみほはさっきよりも大きな声を出す

「さっき皆んなで決めたじゃないですか!降伏しないで最後の最後まで足掻くって!あれはその場のノリだったんですか!?」

彼女は最後にほんの少しだけ毒ついた、こうする事で発奮を促せると思ったのだが…返ってきたのは「はぁーい」「分かってまーす」と言う気の抜けた返事だった。その光景が尺に触ったのだろう、桃が声を荒げてみほの名前を読んだ

「おい、西住。もっと士気を高めろ。このままじゃ戦えんだろう?私が声をあげても無意味だろうしな。こう言うのは隊長であるお前がやれ」

「…はい」

と、なすがままに返事をしたが気の利いた言葉なんて思いつかなかった。

____何か良い言葉は…いや、言葉じゃダメだ。一度言葉で団結させようとした結果が今の現状だもの…となればプラウダみたいに何か体を動かす事をすれば、そうダンスとか。踊れば体も暖まって士気も高まるはず、でも皆んなで踊れるダンスなんてそんなの…

みほは目を瞑りこれまでの人生の中で触れた踊りについて振り返った。しかしどれも決定打に欠けるもので全員が踊れる、と言うものではなかった。悩みに悩んだその時、ふと頭の中にある光景が蘇った

「あんこう鍋…」

まったく踊りとは脈絡がないそれは瞬く間に彼女に突破口を見つけさせる切り札になった

「あんこう…それだ!」

彼女は思いつくや否や表情をキリリと変え靴音を鳴らして正面を向いた。

『アアアン アン アアアン アン』

軽快な振り付けと共に声に出したそれは大洗特車道の生徒ならば全員が知ってる赤面物の踊り…『あんこう踊り』であった




今回はここまで!次回はいよいよプラウダへの反撃です!


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秋山優花里のレイバー講座です!
不肖!秋山優花里のレイバー講座!


ど〜も恵美押勝です、今回はこの「ガールズ&レイバー」の補完としてこのような話を書きました。設定考えるの中々大変でした(小声)それではどうぞ!


 

どうも!秋山優花里です、レイバーはいいですよね〜ロボットアニメからそのまんま飛び出してきたようなロボットが現実に存在して動かせると言うんですから

ん?レイバーなんてどれも一緒だろ?そんなことはありません!似たようなレイバーは確かに存在しますがどれ一つとして同じレイバーは存在しないんです!では僭越ながらこの秋山優花里がレイバーについて及びどうして特車道は生まれいかに発展したかお教えしましょう!名付けて!「秋山優花里のレイバー講座」です!

記念すべき第一回は

「特車道の誕生、ルール、イングラムエコノミー」です

・特車道の誕生

レイバーは本来は土木作業や警備用、軍用など多種多様に渡る活躍をするロボットです。と言っても現在ではレイバー産業は衰退して新しいレイバーは早々誕生しません。なんとも悲しいことか…あぁ話がずれちゃいましたね、そもそも何故特車道は女性が多いのでしょうか。そこに誕生の秘密があります今から何十年も前1998年に警視庁は特車二課を設立、その第二小隊に今回のキーパーソン「泉野明」巡査がいました。泉巡査は当時最新の篠原製レイバー「イングラム」を自分の手足のように扱い廃棄物13号事件や黒いレイバー事件や柘植行人が起こした自衛隊クーデター事件など様々な事件を解決します。当時女性がレイバーに乗ることは大変珍しく泉巡査に憧れた女性も多くレイバーに乗る女性がぐんと増えました、レイバーに搭乗した女性はこれをスポーツ目的に利用し泉巡査の様なレイバー乗りを目指しレイバー同士の格闘戦、そして広い土地を利用してのチーム戦などが流行し今の特車道の原型が誕生したのです、とはいえいくらスポーツ感覚とは言えレイバーを縦横無尽に走らせたり戦わせるのは大きな社会問題へとなり日本政府はレイバーに関する法改正を行い許可した場所でのみレイバーをスポーツ目的で利用することに決定しました。するとこれに目をつけたのがなんと泉巡査ご本人だったのです、泉巡査は「特車倶楽部」を設立し生徒を集め直接レイバーの操縦技術などを教え国が許可した土地で試合などを行いました、操縦技術だけではなくレイバー乗りとしての精神も説きました。その内容は

・レイバーは愛情を込めて使うこと

・レイバーの操縦に己が映る

・優しい人ほどレイバーは上手く操縦できる

これを泉巡査は「レイバー3カ条」と名付け現在の特車道の精神の根本となるものでした

 

特車倶楽部は全国的に広まり今まで以上に盛んになりそしてその特車倶楽部からの卒業生が独自の技法とレイバー3カ条を新たなレイバー乗りに伝え更に発展していったのです。この頃になるとスポーツではなく武道として見なされ武道、茶道と並び特車道と呼ばれるようになり西住殿の西住流、島田流と言った様々な流派が誕生しました。文科省はここまで巨大化したレイバーという危険が伴う機械を使用する特車道なるものは国が管理しなくてはならない、と考え特車倶楽部と提携を結び今の「特車道連盟」が誕生しました

ん?どうして女性を中心に広まったかですって?特車道が女性の健やかな成長、言わば大和撫子を育む重要なものになると多くの女性に受け入れてられたのが主流であります。男性はバビロンプロジェクト後にレイバーに触れる機会が少なくなり代わりに女性がレイバーを操縦する現状を見て「レイバー=女性が操縦するもの」と言うイメージができたので特車道には男性が少ないとされています

 

・特車道のルール

 特車道には基本的には2つの種類があります

 一つは旗を立てたレイバーを倒せば勝てる「フラッグ戦」もう一つはどちらか全てのレイバーを倒すまで終わらない「殲滅戦」です、フラッグ戦は例えどんな弱小校でも強豪校に対して逆転のチャンスがあるある意味フェアな試合ですね。

 

さて特車道に使用するレイバーには決まりがあるのは第一話で触れましたがそれ以外にもルールがあり武装は連盟が公式で販売してる武装しか使用できません、逆を言えば例えばドーファンにサムソンの90mmチェーンガンやヘルダイバーのコンバットナイフを装備してもいいわけです、まぁ我が校はそう言った新しい武装を買うお金が無いんですけどね…

武装の弾薬は連盟公認の特殊カーボンで包装されたペイント弾を使用します、この特殊カーボンにセンサーが組み込まれており着弾した速度や角度でレイバーに対するダメージを計測し判定し当たった箇所が左腕でダメージが通れば左腕が使用不可となるって感じですね。

撃破の条件としては

・自立走行の不可(両足が破壊された場合)

・コクピット周辺のダメージ

・乗員の逃亡

とあります

 

今日のレイバー

さて、いよいよ秋山優花里の本領発揮する時が来ました!今回紹介するレイバーは西住殿と冷泉殿が乗る「イングラム・エコノミー」です

イングラムエコノミーは警察などの公共機関向けに篠原重工がイングラムの量産を製造するために制作した廉価版イングラムです、なんでもイングラム一機の値段でエコノミーが10機作れるとか。性能はイングラムのセンサーや足回りを簡略化したモニター以外にもキャノピーウィンドウで目視するのが本機の特徴です、またイングラム特有の劣悪な乗り心地を改善し常人が耐えられるようになっています。晴海のレイバーショウでお披露目され最終日に警視庁特車二課第二小隊の篠原遊馬巡査が試験運転をしたところグリフォンと対戦、手も足も出ずやられてしまいました…この対戦でサスペンションに問題が見つかりエコノミーはイングラムの代わりにはならないと判断されAVS-98が制作され警視庁に導入されますが「負けたのは相手がグリフォンと言うイングラムでも勝てなかったレイバーだったので警察用には使用できないが民間用には十分な性能である」と再判断されAVS-98導入後民間用に発売されました、尚民間用のエコノミーはAVSの技術が流用されており問題だったサスペンションは改善されました。武装は37mm六連装リボルバーカノン、スタンスティック、シールド、ワイヤーとなってます。

親善試合はAVS-98と戦うことになるでしょうが果たして勝てるのでしょうか…いや!西住殿が乗るレイバーならば例えレイバーXに乗ってもどんなレイバーにも勝てるはずです!明日の聖グロ戦が楽しみでもうワクワクしますね!

 

…如何でしたでしょうか?もし今回の講座でレイバーに、特車道に更に興味を持ってくれたら幸いです!それでは秋山優花里がお送りしました!

 




さて、今回は短めですがここまでとさせて頂きます、次回いよいよ聖グロと戦います。果たして投稿者は本格的な戦闘シーンを書けるのか…それではここまでのご視聴ありがとうございました!


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秋山優花里のレイバー講座ですpart2

不肖秋山優花里のレイバー講座です!

どうもレイバー大好き秋山優花里です!第63回特車道全国大会であの強豪校サンダース大学附属高校に勝つことが出来ました!次の試合までにそれなりに時間がありますので…

第二回「秋山優花里のレイバー講座」を開いちゃいます!

さて今回紹介する内容は

・特車道で用いられる弾薬

・ドーファン

・パイソン

について解説したいと思います!

特車道に用いられる弾薬

特車道に用いられる弾薬はペイント弾で仕組みについての説明は前回しましたが今回は何故親善試合の時片足を破壊されたアトラスが戦線に復帰出来たのかにお教えしましょう!

部位破壊されたのはあくまでも判定上の話だけで実際に破壊されたと言う訳ではありません、つまり被弾箇所に付着したペイントを落とし判定センサーが修復されたと判断されればその箇所は再び動くようになります。と言っても洗い落とすのは部位が部位だと相当苦労しますし何よりペイント弾は雨天時の試合でも簡単に落ちないようにと水では落ちず洗剤を使用しないと落ちないんですよ。だから親善試合の時会長達のレイバー、現亀さんチームがあの短時間で復帰出来たのは凄い事なんですよ

…んまぁそのあとミサイルの爆発に巻き込まれてペンキまみれになっちゃったんですけどね、あれ落とすの大変だったでしょうね

さて、話を元に戻しましょう。レイバーに用いられる武装は基本的には実弾ですが中にはビーム兵器を使用するレイバーがいます。例えばファントム、ブロッケンの105mmカノン砲、ガネーシャの荷電粒子砲などがあります。ではこれらのレイバーを特車道で使用した場合どうなるかと言うと…

・火器のトリガーを押し火器から特殊な電波を含んだ光を放つ

・対象に命中すると判定センサーが電波を反応し作動

・後は実弾と同様に反応した箇所が機能停止する

とこのような感じなのですがここで厄介なのはビーム兵器をその性質上修復が不可能なんです。ペイントと違って落とせませんからね、でもビーム兵器を使用する例は結構珍しいのでそこまで考える必要はないと思ってる人が多いです

 

ドーファン

さて、ここからは我が校が使用するレイバーについてご紹介しましょう。まず初めはドーファンです。これは篠原重工製の訓練機で特車二課においてイングラムに搭乗する際始めはこれを使用して訓練をします、この機体実はイングラムの試作機を流用したパーツを使用しており総合的な性能は勿論本家よりは劣りますが装甲やセンサーを取り外しているため本家イングラムが6.62tに対しこれは⒌50tと一回り軽い機体ですので運動性はこちらの方が上なんです、器用さはイングラム譲りで細かい作業などには向いてます。また市販されたこともあってかオプションで土木作業用の単純な二本爪に変えることも出来ちゃうんです。市販のレイバーの中で一番イングラムと似てると言うこともありとある刑事ドラマではドーファンをイングラムに似せて撮影、暴走したところを本物のイングラムに取り押さえられる。なんて事もありました。

武装はイングラム、エコノミーと同じく37mmリボルバーカノン、スタンスティック、シールドです

 

 

パイソン

パイソンは警察用レイバーとしてはアスカMPLの次に採用されたレイバーです、珍しいことにこれは篠原製ではなくマナベ重工製のレイバーになってます。現場での評価が高かったMPL-97サーペントを改良しマナベはこれを警視庁に売りつけることで宣伝効果を狙ったんですね、マネべはレイバー産業では後手に回るためデータ回収のための格安で売りつけられる篠原のようにはいかなかったのでしょう。しかしこれより先マナベ社のレイバーが世に出回ることは有りませんでした。初めての人型レイバーで暗い青色のボディにフェイスシールド、そして最大の特徴である大きなシールドとまるで機動隊員を思い起こさせる風貌ですね。第二小隊にイングラムが配備されるまでの間第一小隊で活躍した機体ですがイングラムが登場してからは目立った活躍はほとんど有りませんでした…その後第一小隊はAVS-98を採用、パイソンは引退となりました。その姿を昔から見てた人にとってパイソンは「パトロールレイバー中隊の顔」と呼ぶべき存在で親しまれており引退時には多数の手紙や絵などが贈られたようです。

さて、このレイバー大きいシールドに目が行きがちですが実はワイヤー制御によって大雑把ではありますが手の開閉動作が可能で銃を使用する事も可能なんです!

武装は37mmリボルバーカノンと巨大シールド、スタンスティックとなっています

…さて今回はここまで!次回は3輌のレイバーをご紹介出来ればいいなぁって思ってます!では秋山優花里がお送りしました!

 

 




すっごい久しぶりにこれ書いた…資料とか調べて書かなきゃいけないからある意味本編よりキツかったりするんですよね、それではご視聴ありがとうございました!


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