日常の中で (ひいろ@支部民)
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1.気づいたこと

コナンside

 

 

「まだ帰ってこないの?新一が待っててくれっていうから待ってるのに!」

 

「悪りぃ、蘭。まだ帰れねえんだ。」

 

「なんで帰らないのよ!」

 

「悪りぃ。じゃあ、また電話するから」

 

ガチャ

 

電話を切り、なんとなく今の蘭とは顔を合わせたくなくて

阿笠邸へと入る。

 

 

「ここはあなたの家じゃないんだけど–––珈琲いる?」

 

「ああ。」

 

オレが来たことに気づいて軽く睨んだ灰原だが、オレの表情を見ると珈琲を淹れる為キッチンに引っ込む。

 

 

「はい。」

 

灰原に差し出された珈琲を飲んで、気づいた。

 

オレは疲れてたんだ。帰れないことに苛立っているのはオレ自身なのに、

蘭に帰ってこいと何度も催促されることに。

帰らないのではなく、帰れないことを判ってくれないことに。

 

灰原は、黙ったままのオレに何があったのか問いただすこともせず、

黙って横で珈琲を飲んでいる。

蘭だったら何があったのか根掘り葉掘り訊くだろう。

灰原は、オレが何も言わなくとも、黙ってそこにいてくれる。それが心地良い。

 

そこで思考を停止させる。

 

オレは今なにを考えた?

 

灰原が横にいてくれるのが心地良い––?

 

ああ、そうか、そうなんだ。

 

少し頬を緩ませ、そっと横の灰原を盗み見る。

 

自身の気持ちに気づいた今では、赤みがかったその茶の髪も、

白磁のような肌も、珈琲をすするその唇も、全てが愛おしく、自分のものにしたいと思える。

 

「灰原」

 

オレの声にこちらを向いた灰原に、そっと唇を重ねた。

 

 

 

 

哀side

いつものように何も言わずやってきた彼に文句を言いかけたが、

彼の顔が疲弊に包まれていることに気づき、珈琲を淹れる。

 

今日は何の事件もないはずだが、どうしたのだろうか。

 

横に座り、珈琲を飲みながら考え込んでいるかのような彼の横顔を盗み見る。

 

彼の視線がこちらに向いたような気がしたので慌てて視線を前に戻すと、名前を呼ばれた。

 

「灰原」

 

なに、と言おうとした唇に、そっと何かが触れる。

 

「工藤君!?あなたには蘭さんが–––」

 

彼の顔が離れた隙に口を開くが、再び塞がれる。

 

さっきと違い咥内に入り、私の舌を絡めとる彼の舌の感触が、

先程のもキスだったことを私に自覚させる。

 

どうして?

 

工藤君には蘭さんがいるのに。

今すぐ彼を押し返して怒らなければならないのに。

 

彼とキスをしているという事実が、彼の唇と舌が、

私の脳を溶かしていき、いつしか彼の首に腕を回していた。

 

彼は私を抱きしめ直し、より深くキスをする。

 

「灰原」

 

離れた時、彼は再び私の名を呼んだ。

 

「工藤君、なんで–––第一、あなたには蘭さんが––」

 

「愛してる」

 

彼の言葉に、動き始めたばかりの思考は再び停止してしまう。

 

「な、に、言って––」

 

「気づいたんだ。電話するたびに蘭に催促されるのに、疲れていることを。

待っててくれって言ったのはオレのはずなのに、待ってると言われることを重荷に感じていることを。」

 

「でも灰原が横にいてくれるとその疲れも取れることを。

いつも横にいてほしいのは、蘭じゃなくて灰原だってことを。」 

 

「でも、そんな、私はあなたを蘭さんの元に返すために––

あなただって何かあったらすぐに蘭さんを、」

 

「わかってる。たしかに蘭のことは好きだし、笑顔でいてほしいって思う。」

 

「だったら、」

 

「灰原は、オレの手で笑顔にしたいって思うんだ。

蘭には笑顔でいてくれたら、蘭を幸せにするのはオレじゃなくてもいいって思う。

それに、横にいてくれって思うのも、お前の全てが欲しいって思うのも、灰原だけだ。」

 

「そんな、私は、今までずっと‥」

 

「解毒薬はもう作らなくていい。

灰原がオレのことを好きでいてくれるんだったら、

工藤新一と宮野志保は二人の心の中だけにしまって、

江戸川コナンと灰原哀として、ずっと生きていこう。

だから、訊くよ。」

 

「灰原は、オレのこと、好き?」

 

いつも自信たっぷりの彼が、不安そうな顔をして私を見る。

 

「いいの‥?第一、あなたをこうしたのは、私なのよ‥?」

 

「オレが、そうしたいんだ。

じゃあ、いいのか?オレで。」

 

「駄目なわけないじゃない‥ずっと、あなたを見てたんだから‥」

 

「良かった」

 

彼はほっとしたような表情を浮かべると、もう一度私に優しくキスをした。

 



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2.知ったこと

蘭side

 

夕食のあと新一に電話したのに、すぐに切られちゃった。

もう!どうして帰ってこないのよ。

 

苛立った心を落ち着かせる為風に当たろうと思い家を出ると、

近くの公衆電話からコナン君が出て行った。

 

公衆電話なんてどうしたんだろう?

それに疲れた顔してたのにうちに入らずに道を歩いていく。

 

「コナン君!そろそろ寝ないと!」

 

呼びかけるが聞こえなかったみたいで、阿笠邸へと入っていく。

 

仕方ないので後を追い、小さな声で「失礼します」と言うと

阿笠邸に入り、

コナン君を追ってリビングに入ろうとしたが、

 

「灰原」

 

と声が聞こえ、思わず入るのをためらい少し開いた扉の隙間から覗く。

 

コナン君が哀ちゃんに、キスをしていた。

 

小1でキスなんてするの!?と驚きながらも、見ているのは

悪いので立ち去ろうとした時。

 

「工藤君!?あなたには蘭さんが–––」  

 

哀ちゃんの言葉に立ち止まる。

 

どういうこと?

 

今哀ちゃんとキスをしていたのはコナン君のはず。

じゃあ、やっぱりコナン君は新一だって言うの?

 

今のは聞き間違いだ、そんなわけないと願いながら、

もう一度扉の隙間から部屋を覗く。

 

今度は二人は深いキスをしていた。

 

そして離れた時。

 

「工藤君、なんで–––第一、あなたには蘭さんが––」

 

「愛してる」

 

もう一度、放たれた哀ちゃんの言葉と、その後続いたコナン君の言葉にその場に座り込む。

 

じゃあ、本当に––? 

でもなんで?なんで私がいるのにあの子と?第一あの子は小学生じゃない。

そこまで考えた時に、気づく。きっと彼女も小学1年生では無いのだと。

コナン君の小学生離れした推理小説の話を理解していたのは彼女だけだったし、

彼女も私には理解できない難しい医学書を読んでいることが多かった。

 

「な、に、言って––」

 

哀ちゃんの声が聞こえ、もう一度確かめようと、震える身体を動かし話を聞こうとする。

 

「気づいたんだ。電話するたびに蘭に催促されるのに、疲れていることを。

待っててくれって言ったのはオレのはずなのに、待ってると言われることを重荷に感じていることを。」

 

「でも灰原が横にいてくれるとその疲れも取れることを。

いつも横にいてほしいのは、蘭じゃなくて灰原だってことを。」 

 

なんで?そんなのひどいよ、新一‥

 

 

「でも、そんな、私はあなたを蘭さんの元に返すために––

あなただって何かあったらすぐに蘭さんを、」

 

「わかってる。たしかに蘭のことは好きだし、笑顔でいてほしいって思う。」

 

「だったら、」

 

「灰原は、オレの手で笑顔にしたいって思うんだ。

蘭には笑顔でいてくれたら、蘭を幸せにするのはオレじゃなくてもいい。

それに、横にいてくれって思うのも、お前の全てが欲しいって思うのも、灰原だけだ。」

 

なんで?私は新一に幸せにしてほしいんだよ?

 

「そんな、私は、今までずっと‥」

 

「解毒薬はもう作らなくていい。

灰原がオレのことを好きでいてくれるんだったら、

工藤新一と宮野志保は二人の心の中だけにしまって、

江戸川コナンと灰原哀として、ずっと生きていこう。

だから、訊くよ。」

 

みやのしほっていうのは、きっと哀ちゃんの本名なのだろう。

 

「灰原は、オレのこと、好き?」

 

コナン君の、いや新一の、震える声が聞こえる。

 

お願い、哀ちゃん。好きじゃないといって。私に新一を返して。

 

「いいの‥?第一、あなたをこうしたのは、私なのよ‥?」

 

どういうこと?新一を小さくしたのは哀ちゃんだっていうの?

じゃあ、新一のそばにいるなんて言うわけないよね。

そんなことしておいて。

 

「オレが、そうしたいんだ。

じゃあ、いいのか?オレで。」

 

「駄目なわけないじゃない‥ずっと、あなたを見てたんだから‥」

 

「良かった」

 

なんで?なんで?なんで!!

新一は待ってた私じゃなくて、新一をそんなにしたその子を選ぶの?

なんで哀ちゃんはそんなことしておいて新一にうんて言えるの!

 



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3.壊れていくもの

コナンside

 

「なんで!」

 

灰原にOKをもらえたことに安堵しながらもう1度キスをしたとき。

 

扉を開けて、叫んだのは蘭だった。

 

怯えたような顔をした灰原を後ろに隠し、蘭の方を向く。

 

「新一、どうして?どうして?ロンドンで私のこと好きだって言ったのは新一だよ?

待っててくれって言ったのは新一だよ?なのになんで、

その子に愛してるって言うの?私のこと疲れたなんて言うの?」

 

話を聞いていたのだろう。

新一であることはもう誤魔化しようがない。

 

「蘭、」

 

「それに哀ちゃんが新一を小さくしたってどういうこと?

なんで哀ちゃんはそんなことしておいて新一のこと好きだなんて言えるの?私から新一を奪っておいて!」

 

「‥っ!」

 

「蘭!灰原にそんなこと––」

 

「そうよ、私なんかが許されるわけない、そう、思い上がってたのよ「灰原!」くど、くん?」

 

青ざめた顔をした灰原を抱きしめる。

 

「いいか、蘭の言うことは気にするな。悪いのはオレなんだから––」

 

「そうやって新一に守ってもらってたの?卑怯な「蘭、話をしよう。」‥。」

 

そこで蘭には聞こえないように灰原に囁く。

 

「オレが愛してるのは灰原なんだ。資格がないとか考えるな。オレは蘭を少し落ち着かせるから、部屋で待っててくれ。それからこれ。」

 

コクリと頷いた灰原に、機械を渡す。

オレの眼鏡が拾った音が届くようになっている。

蘭を落ち着かせるためと、蘭の言葉で灰原が傷つかないようここからは遠ざけたいが、

自分のいないところでオレが蘭に何を言っているのか、

悪い想像をしてしまうかもしれない。

だからオレの言葉のみを聴かせようと考えた。

部屋に入ったのを確認し、蘭の方に向き直る。

 

「新一、どういうことなの?

説明してよ!」

 

「蘭。まず、オレは蘭とトロピカルランドに行った帰りに、

犯罪現場を目撃し、

口封じとして毒薬で殺されかけた。

でもその薬は試験段階だったから運良くオレは助かったけど、

代わりに身体が縮んでいた。」

 

「じゃあなんで最初からそう言ってくれなかったのよ!」

 

「オレに薬を飲ませたやつらはオレが死んだと思っている。

生きていることがバレたらオレを含め、蘭や周りの人たちまで命を狙われることになる。

だから母さんと父さん、博士以外には言わないことにし、

江戸川コナンと名乗って探偵であるおっちゃんのとこに転がり込んだ。

それで帰れなかったんだ。」

 

「でも時々新一の姿で現れてたじゃない!新一の姿にもどれるんだったら帰ってきてうちとかで隠れて住んでればよかったじゃない!」

 

「オレが時々新一の姿で現れてたのは‥灰原のおかげだ。」

 

「なんでそこであの子の名前が出てくるのよ!

それにあの子が新一を小さくしたってどういうことなの!」 

 

 

「灰原には親がいなかった。

だけど優秀な頭脳を持っていたから、小さな頃からある犯罪組織で、

唯一の家族である姉を人質にとられて様々な研究をさせられていた。

そこで薬を作っていた時、たまたま毒薬が生まれてしまった。

研究を人殺しに使ってほしくない灰原は捨てたが、

組織はそれを灰原に隠して暗殺に使おうとした。

それを飲まされたのが、オレ。

灰原もまた、お姉さんを組織に殺されて抗議したら自分も殺されそうになって、

殺されるくらいならと自殺用に飲んだ薬で、幼児化した。小さくなって逃げ出せた灰原が街をさまよっていたところを、

博士が助け、ここに住むことになった。」

 

 

「じゃあやっぱりあの子のせいで新一は小さくなったんじゃない!なのになんでのうのうと。」

 

「灰原はオレの命を救ったんだ!」

 

「は‥?」

 

「犯罪現場を目撃したオレを、組織は生かしておかない。

灰原の薬が無かったら、オレは他の手段で殺されてたんだ。

それに灰原が解毒薬の試作品を作ってくれてたおかげで、

何度か新一に戻れたんだ。」

 

「だから、灰原については何も言うな。

ロンドンで告白したのに、そのあとでアイツを好きになったことは、蘭に対しては悪いと思ってる。

悪い。

でも、オレはもう蘭をそう言う意味で好きではない。

蘭は、家族みたいなものなんだ。ごめん。」

 

「なんでよ‥」

 

「このことは、誰にも言わないでくれ。

さっきも言ったように、大勢の人たちが危険にさらされる。」

 

「もう毛利探偵事務所には戻らない。

必要なものはあとで取りに行くから。ごめんな、蘭。」

 

「ひどいよ‥」

 

泣きながら、蘭は家に帰って行った。

 

「おや?新一来とったのかね?こんな時間に。

もう毛利くんのところに戻らんと。」

 

玄関の扉がしまったのを見届けてリビングに戻ると、博士が研究室から出てきていた。

 

「博士、もうあっちには住まない。どこに住むかは明日決める。

明日は土曜だよな?じゃあ必要なものは明日持ってくる。

事情も明日説明するから。」

 

「え、ええ!と、とにかく今日は泊まるんじゃな。蘭くんに連絡は?」

 

「大丈夫だから。じゃあ、おやすみ。」

 

「お、おやすみ‥」

 

首を傾げる博士は置いて、灰原の部屋に急ぐ。

 

 



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4.大切な人

博士の口調がおかしいかもしれません‥むずかしいです。


哀side

 

「灰原!」

 

部屋のドアが開けられると同時に彼は私に駆け寄り、抱きしめる。

 

「工藤君‥」

 

「オメェは余計なこと気にすんな。大丈夫だから。蘭も落ち着いたし。

その内いいやつ見つけるさ。」

 

あんなに泣いていたのに‥?

私が彼女から工藤君を奪ってしまったから‥

 

「灰原」

 

彼がキスをする。

 

優しくて、甘い。

 

「オレは、灰原が好きなんだ。それだけ。

それだけのことなんだ。灰原が悩む必要はない。」

 

「ほんとに‥?ほんとにいいの‥?」

 

「ああ。オレが灰原を好きだから。愛してるから。

灰原を幸せにしたいから。」

 

こんな幸せなことがあっていいのかな、お姉ちゃん。

 

「オレの恋人に、なってくれる?」

 

でも、彼が望んでくれるんだったら。

 

「はい。」

 

涙を拭いて、そう答えた。

 

「じゃあ、志保。」

 

「えっ」

 

「二人きりの時はそう呼んでもいいだろ?

工藤新一と宮野志保は、オレたちの中だけにいつづける。」

 

「ええ。そうね、工藤君。」

 

「どうする?博士には言うけど、あいつらには黙っとく?」

 

「吉田さんたちには‥黙っておきましょう。」

 

「んじゃ、ここで寝ていい?」

 

「駄目に決まってるでしょ。客間に戻っておとなしく自分の布団で寝なさい。」

 

「へーい」

 

「じゃあ、おやすみ、志保。」

 

「おやすみなさい、工藤君。」

 

彼は私の額にキスをし、部屋を出て行った。

 

博士side

 

朝。なぜか毛利くんちに住まないと言い出した新一は、至って普通に起きてきた。

 

「おはよー」

 

「おはよう、新一」

 

「もうご飯できてるわよ、工藤君。そこのお皿テーブルに持っていってくれる?」

 

「ん。お、うまそー」

 

「はいはい。早く運んで。」

 

新一を急かす哀くんも、今朝起きてきた時から妙に機嫌がいい。

何があったんじゃ‥?

 

朝食を食べたらまず新一に何があったのかも聞かんとな。

 

**************************************

 

「皿くらい洗うから、志保は座っとけよ。」

 

「そう?じゃあ、お願いするわ。」

 

ん?新一のやつ、今哀くんを本当の名前で、それも下の名前で呼ばんかったか?

 

しかも名前を呼ばれた哀くんは驚いてはいないものの少し嬉しそうじゃ。

 

どういうことじゃ‥?

 

「新一。昨日毛利くんのところには住まないと言っておったが何があったんじゃ?事情は明日説明すると言っておったじゃろ?」

 

後片付けを終えた新一を呼び、二人になって聞く。

 

「あーえっと、蘭にオレのことがバレちまって

「そんなのまた変装や試作品でなんとかなるじゃろ」

いやそれが、オレと志保の会話を蘭が聞いててバレたんだけど、その‥

ちょうどオレが志保に好きだって言った時だったんだ。」

 

「なんじゃと!?」

 

「それで志保のこともバレて‥

オレは新一で、でも蘭に告白したくせに他のヤツ好きになったって蘭はわかってんのに、

いまさらおっちゃんとこで暮らせるわけねーし。

だからここに住ませてくれ!博士、頼む。」

 

新一は蘭くんのことが好きじゃったんじゃないのかの?

哀くんを?

新一の言ったことを理解するのに少し掛かったが、意味がわかると

哀くんの今朝の機嫌の良さや新一が志保と呼んだことも納得がいった。

 

「‥わかった。では新一はここに住むんじゃな?

じゃったら必要なものを持ってこんと‥ああ、有希子くんたちにも言わんとな。」

 

「ありがとう。博士。あ、それと、志保オレの恋人になったから。」

 

「哀くんに何かしたら‥ただじゃおかんぞ。新一。」

 

「わ、わーってるって。じゃあ、博士ほんとにありがとう。

母さんたちにはオレから電話しとくから。」

 

リビングへと戻る新一を見送る。

そうじゃったか、新一が哀くんを‥

びっくりじゃが、哀くんが幸せなら良いことじゃ。

 



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5.嘘を真実に変えて

コナンside

 

「行くぞ、志保。」

 

「ええ、行きましょ。」

 

「行ってらっしゃい、新一、哀くん。気をつけるんじゃよ」

 

すぐそこまでだというのに気をつけろと言う博士に少し笑いながら、阿笠邸を出る。

歩きながら、昨日までの二日間のことを思い返していた。

 

あのあと、まず母さんに電話した。

蘭じゃなく志保を好きになったこと、告白したときに蘭が聞いていて正体がバレてしまったことなど、全て話した。

 

帝丹高校に行き、海外に転校することにしてくれた。

 

蘭は、園子にオレがもう帰らないこと、好きなヤツができたと言ったことは言ったらしい。

 

園子から電話がかかってきた。

 

まず、蘭を泣かせたのは許さない、一回帰ってこい、張り倒してやる、と言われた。

もちろんオレが悪いのでそれを黙って聞いてると、

けれど、と園子は言った。

その言葉を思い出す。

 

「蘭の親友として、蘭を泣かせたんだから一回張り倒してやりたい。

でも私は2人の幼馴染みで、あちこち飛び回る探偵を、

蘭が黙って待ってられるのかな、とも思ってた。

だから残念だけど、2人はもともとこうなっちゃうって決まってたのかも。

私は新一くんの幼馴染みでもあるんだから、今度その彼女紹介しなさいよ!」

 

「ああ、もう二度と日本には帰れないかもしれないけど、覚えておくよ。ありがとう、園子。」 

 

そう言って電話を切った。園子には感謝しなければならない。

蘭を慰めてくれているはずだ。

 

そして、変声機を使い、新一の声で目暮警部に電話をした。

 

「工藤です。」

 

「おお、、どうしたのかね。」

 

「ちょっと海外で大きな事件に首を突っ込んでしまって、何年も日本に帰れないと思います。

すみません。」

 

「なんと!警察が一般人に頼るのは情けないが、工藤くんは日本警察に必要だ!」

 

「そのかわりと言ってはおかしいかもしれませんが、

オレが育てたコナンを使ってください。」

 

「コナンくん‥?たしかにあの年にしては鋭いが工藤くんの代わりになるほどでは‥」

 

「コナンには、今までは目をつけられないよう、

真相が分かってもそれを言わず、警部たちを誘導したり、

博士や毛利さんに聞いて答え合わせをするのみにしておけ、

と言っていました。

そして推理が間違っていたことはありません。

コナンはオレと同程度の推理力があります。

ですからこれからは事件が起きたらコナンを使ってやってください。

あいつはオレの後継となる探偵です。」

 

「工藤くんがそう言うのであれば‥その言葉を信じよう。」

 

「ありがとうございます。では。」

 

これで、オレは今までよりも格段に捜査に参加しやすくなるだろう。

おっちゃんを眠らせずとも警部に推理を伝えることができる

 

それから、服部にも電話したが一足遅かったようで電話がつながった途端、

 

「今和葉から聞いたんやけど

空手の姉ちゃんと別れたってどういうこっちゃ!

二度と戻れないとでもわかったんか!」

 

と怒鳴られた。

 

「違う。戻れないってわかったんじゃなくて、

戻らないって決めたんだ。」

 

「あの‥ちっこい茶髪の姉ちゃんの為か?」

 

「和葉ちゃんがなんか言ってたのか?」

 

「いや、和葉は単に空手の姉ちゃんとあの金持ちの姉ちゃんから連絡があって、

海外で大きな事件があるからこのままずっと帰らんと思うし、

ほかに好きな人ができたらしいよって聞いただけや。」

 

「じゃあなんでわかったんだ?

オレ自身、志保を好きだって気づいたのもさっきなのに‥」

 

「そりゃ空手の姉ちゃんとの電話をしたがらなくなっとったし、

した時もあんな疲れた顔しよって。

んでそのあとであの茶髪の姉ちゃんとこ行って肩の力抜いとんのが見え見えやったからな。

和葉やて

『コナンくんと哀ちゃんて絶対両思いやな!2人ともわかってなさそうやけど‥』

て言っとったで。

んで、茶髪の姉ちゃん志保って言うんかいな」

 

「あ、ああ。あいつの本当の名前だ。

てかオレ、そんなわかりやすかったのかよ‥」

 

「おう、バレバレやった。」

 

「お前自分のこととなると鈍いのにな。」

 

「なんやて!」

 

思わず笑ってしまった。

変わったことが多い中で、服部との会話はいつも通りで。

 

「ほんじゃ頑張りや、コナンくん?」

 

「なんだよそれ‥

ま、ありがとな。

あ、あと新一の声で目暮警部にコナンはオレと同じくらい推理力がありますって

言っておいたからこっち来たらオレと捜査すること増えっかもよ。じゃな。」

 

「ええ!」

 

また驚いた服部の叫び声をききながら切った。

それから、降谷さんにお願いして、江戸川コナンと灰原哀の戸籍を創ってもらった。

証人保護プログラムの変則的な利用だ。

その上で、オレは父さんたちの、志保は博士の養子にした。

家族の方が何かの時に関係者になれるからだ。

その為戸籍上は工藤コナンと阿笠哀だが、小学校ではそのままにしてもらった。

 

また母さんはおっちゃんに(工藤有希子の姿のままで)江戸川文代が亡くなった為親戚である自分が養子にすることにしたと説明した。

 

おっちゃんはそのまま探偵事務所にいていいと言ってくれたが、お世話になりすぎているから、と阿笠邸に住むと言い断った。

おっちゃんには感謝しているが、この状態で蘭と暮らすわけにはいかない。

 

**************************************************

「コナンくんたち、遅いですよ!」

 

いつのまにかもう三人との合流場所まで来ていた。

 

「悪りぃな、オメェら。」

 

「もう、遅いよコナンくんたち!」

 

「おせーぞコナン。」

 

光彦が歩美ちゃんが、元太が、早くと急かしている。

そして横では灰原が微笑んでいる。

 

「ああ、行こう」

 

江戸川コナンと灰原哀。

その場しのぎで作った嘘の姿を真実にして、ただの小学生として、生きていく。

 

これにて一応完結ですが、

付き合いはじめた2人の日常もちょこちょこ書いていこうと思っています。

まだまだ連載中のもう2つのシリーズも、どうかよろしくお願いします。




これにて一応完結ですが、
付き合いはじめた2人の日常もちょこちょこ書いていこうと思っています。
まだまだ連載中のもう1つのシリーズも、どうかよろしくお願いします。


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