機動戦士ガンダムafter UC 可能性を信じた者達 (naomi)
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カズキ・アライ編
オグロスナ


「作戦開始」

 

ザビ家の遺児を語る少女が全世界に向けて発信した『ラプラスの箱』の真実。それが公になった『ラプラス事変』の後地球連邦政府と地球連邦軍に存在する特殊部隊の多くは部隊の性質に関係なく、それによって暴走しかける人々の制圧に日々駆り出されていた。

 

「フォックス1。こちらフォックス3、E7地点の制圧を確認」

 

「フォックス5。E6地点制圧完了」

 

「フォックス2。E1~4地点にターゲット確認出来ず」

 

「フォックス4。E5にてターゲットを確認。対象を追い込みました」

 

「フォックス2とフォックス4と俺で対象に接触する。フォックス3とフォックス5は制圧エリアを随時警戒。不審者を逃がすな」

 

「ラジャ」

 

3人がターゲットへ接触する。ターゲットは拳銃を構えた。

 

「なんだ。なんなんだよ」

 

「我々は地球連邦政府直轄の部隊『オグロスナ』。バニル・ターボ氏で間違いないな。連邦諜報機関より国家反逆罪で逮捕状が出ている。こちらとしては自首を勧めるが…」

 

「ふざけるな。国家反逆罪って俺が何をしたっていうんだよ」

 

「貴公はラプラス事変の放送を悪用して一般人にテロを陽動させようとした」

 

「なんでそうなるんだよ、俺は連邦政府の政策の批判をしただけだ。言論の自由すら無くなったのかこの世界は」

 

「言い訳はいいから、とっとと自首しな」

 

「なんで自首する必要があるんだよ、俺は自分の意見を世の中に…」

 

銃声が1発鳴り響く。

 

「うぁ…イテーヨ」

 

「ハクビ曹長」

 

「隊長、時間の無駄です。さっさと済ませましょう。こいつだけにかまけてる時間は僕達には無いはずです」

 

「やれやれ」

 

「…フォックス3、フォックス5作戦は完了した。急ぎ撤退する」

 

「思ったより早く終わりましたね」

 

「また、フォックス4が早まった」

 

「ったく」

 

「身柄は拘束した。撤退だ」

 

所定の手続きを終え、バニル・ターボを引き渡したオグロスナの部隊長『カズキ・アライ』は上司への報告をした。

 

「流石はカズキ大尉率いるオグロスナだ。いつも素早い成果を出してくれて助かるよ」

 

「いえ。元々我々の仕事に通ずることがあったので偶々です」

 

「ところで、バニル・ターボが右太腿を撃たれた後があるが…」

 

「すみません。メンバーの一人が早まりました」

 

「まあ、君達の働きに免じて見逃してはいるが【殺し】は後々が面倒だ。くれぐれも気をつけて任務を遂行してくれよカズキ大尉」

 

「はい。以後気をつけます。報告は以上です。失礼します『Mr.B』」

 

「終わったかい隊長」

 

後ろでは、メンバー一同がじっと立っていた。

 

「次の任務が下るまで待機だそうだ」

 

「ようやく少し休めるったくよ」

 

カズキはそのまま一人の少年の前に立ち頬を叩いた。

 

「うひょー痛そう」

 

「自分が何故叩かれたのかわかるか、ハクビ曹長」

 

「…」

 

「何度も勝手に対象に暴力を加えるなと言っているよな、何故背いた」

 

「隊長のやり方ではらちが飽かないと思ったからです」

 

「対象はまだ容疑者ではないんだ。このような一方的な暴力は…」

 

「逮捕状まで出てるのに容疑者じゃない。何故です」

 

「任務を始める前に言ったよな【容疑者として逮捕状を出してはいるがあくまでこちらの行動を正当化するための仮の逮捕状だから、過度な取り調べは禁止だ】と」

 

「…甘い。甘過ぎです隊長」

 

「なんだと」

 

「前に隊長がいらした場所ではどうだか知りませんが、諜報員の我々にとって【疑わしき者は滅せよ】は鉄則です」

 

「まあまあ、任務は達成したんだいいじゃんか。またとない空き時間なんだからリラックスしましょうや隊長さん」

 

カズキは不服そうに部屋を後にした。

 

「ありがとう。マツウィン」

 

「いいってことよ、しかしよなんで元々諜報員であるはずの俺達が、こんな軍人紛いなことしてんだろうな」

 

「本当だよ、外部から変な二人が僕達のチームに入ってきて挙げ句部隊はあいつらの物なんて、納得出来ないよ」

 

「だとしても、貴方のすぐに対象に手を出すやり方はよくないわ」

 

「アン…あいつ側につくの」

 

「そういう意味じゃないわよ。いくら諜報員でももう少し相手から情報を引き出すわ」

 

「まあ、いつもパソコンと向かい合ってたハクビ少年からしたら。諜報員の仕事のイロハわわかんねーだろうな」

 

「…ふん」

 

ハクビは黙って部屋をあとにした。

 

「もう。焚き付けるんじゃないよ」

 

「ガキなんだよあいつは。…それよりここから遊びにいかないかアン」

 

「あんたとはごめんよ」

 

「たまにはいいじゃんかよ」

 

アンは無視して部屋を後にした。一方

 

「くそ。なんだこの部隊は」

 

カズキはやりきれない感情を拳に宿し壁に打ち付けていた。

 

「まあ、元々チームで動いてたあいつらにとって俺達は邪魔者でしかないんだろうな」

 

空を見上げながらカズキの後ろをついてきたオヤジは煙草を吹かした。

 

「隊長さんはなんでこの部隊に志願したんだ」

 

「…向いてないですか」

 

「あぁ…あんたの正義感はこの仕事では不要な物だな」

 

「志願とは違いますかね。推薦による出向です。そう言う貴方は何故です。『チョウ・ライデン中佐』」

 

「…俺を知ってるのか」

 

「そりゃあ、部隊を統率する上で最低限の個別情報は得てますし、1年戦争を戦い抜いた歴戦のパイロットですからね。同じ出自の者として噂は予予聞いております」

 

「…第二次ネオ・ジオン紛争の後退役したんだがね。どうにも日常に馴染め無くて、職を探してたら知り合いの伝手でこの仕事を紹介された。お前さんは隊長さん」

 

「言ったでしょ、推薦による出向だって」

 

「軍もそこまで馬鹿じゃないからよ、こんな不適正な人員配置はしないと思うが」

 

「似たようなものです。退役をしようとしたら上に止められ、こっちに出向になりました」

 

「どこが似てるんだか…なんで軍を止めようと思ったんだ」

 

「…」

 

「…そうか、今は別にいいその気になったら話してくれれば。まぁ後輩となれば手助けはしてやるよ」

 

「ありがとうございます」

 

「まぁ、頑張れ」

 

チョウに励まされ、気分転換に町をふらついたカズキ。偶然見つけた公園のベンチで休んでいると

 

「お兄さん。どうして泣いてるの」

 

1人の少女に話しかけられた。



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出逢い

「泣いてる。俺が」

 

少女は赤の他人であるカズキの隣になんの躊躇いも無く座る。

 

「自分が正しいと思ったことと全然違うことになってて泣いてる」

 

「どうしてそう思うんだい」

 

「う~ん。なんとなく」

 

平静を装ってはいるが自分の本心を当てられている気がしたカズキは少女を警戒した。

 

「お兄さんはね、私と同じ」

 

「君と俺が同じ」

 

少女は顔をふっくらさせた。

 

「君って嫌。私は『ビア・ヴァイス』って名前がちゃんとあるの」

 

「ごめん、ごめん。ビア…ちゃんと俺が同じってどういうこと」

 

「お兄さんは【星】を信じてる。私も信じてるから、だから同じ」

 

「【星】…【星】って何」

 

「皆が観たんだよその綺麗な【星】」

 

ふとビアを見たカズキは違和感を覚えた。ビアは髪もボサボサ、身に着けている白い服もボロボロ。この町の中では明らかに異質な存在だった。

 

「ビアちゃんのお家はどこ」

 

「ビアは今お家を探してるの、前にいたお家大嫌い。一緒にいた子達とバイバイするのは寂しいけど」

 

「一緒にいた子って」

 

「ロッソ、ブラウ、エルプ…他にもいっぱい良い子がいるの。でも一緒にいる大きな人達嫌い。すぐに怒るし叩くもん」

 

「そっか…」

 

近くにいる憲兵に保護をお願いする。

 

真っ先にそのことが思い浮かんだ。だが何故かそれが出来なかった。

 

気がつくと自室にビアを連れて来ていた。

 

(何をしているんだ俺はこんなに幼い子どもを…これでは)

 

「お兄さん。ありがとう」

 

ビアの予想だにしない言葉にカズキはまた戸惑った。

 

「今あった知らない人に知らない場所へ連れられて怖くないの」

 

「うん。だってお兄さんこのまま私と離れたら危ないと思って私を連れて来てくれたもん」

 

「…約束してくれ。この部屋からはお兄さんと一緒の時以外一歩も外に出ないって」

 

少女の顔は不満げではあったが小さく頷いた。すると呼び出しのアラートがなる。

 

「どうした」

 

「隊長、アンです。Mr.Bより指令が届きました」

 

「わかった。直ぐに行く。…少し待ってくれるか」

 

「うん。いってらっしゃい」

 

急ぎ着替えブリーフィングルームに向かう。

 

「遅れて済まない」

 

「いえ。まだ皆揃ったばかりです」

 

「それで今回の任務は」

 

「こちらです」

 

「…これが今回の任務」

 

「こいつは…」

 

「本当に僕達がこんな任務を」

 

「犯罪予備軍の尾行と逮捕が主任務だった俺達が、遂に人探しだってよ。それもこんなガキの傑作だぜ」

 

指令書を確認するカズキその指令書に写っている子どもは、たった今自分が保護した少女だった。



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苦悩

恐ろしい偶然に唖然とするカズキを他所に任務の内容をアンが説明し始める。

 

「この少女はMr.Bの知り合いが経営しているとある養護施設で暮らす子どもで、今回その知り合いからMr.Bが依頼を受けて私達のもとへ回ってきたそうよ」

 

「いつから居ないんだ」

 

「居なくなって1年以上経つそうよ」

 

「1年。こんな少女になんでそんなに手を妬いてるんだ」

 

「そんなの知らないわ。色々なところに声を掛けて捜索したようだけど一向に見つけられないから、私達に声がかかったそうよ」

 

「そんな子どもをどうやって探すんだ」

 

「さぁ、取りあえず目撃情報を元に聞き回るしかないんじゃない」

 

「…おい。なんだよこれ」

 

マツウィンが指令書に書かれた支給リスト見て驚愕していた。

 

「ジムⅢ3機にネモⅢ1機。隊長機にジェガンA型ってなんでこんなガキ1人探すのになんでMS使うんだよ」

 

「なんでも反連邦勢力もこの子を追ってるって話しだ」

 

「随分気に入られてるんだなこのガキ」

 

「…ニュータイプ」

 

ハクビの一言にその場の全員が凍りついた。

 

「ニュータイプ…。広大な宇宙空間の環境に適応し人類の中に出現する進化した人類だったか」

 

「噂では、人の考えを読み取ったり。未来を先読みしたり、ニュータイプ同士だと言葉を交わさずにやり取り出来るんだよな」

 

「アン中尉。その子どもの最初の目撃場所は」

 

「ちょっと待ってね…。北米ね」

 

「一気にクサくなってきたな」

 

「どういうことだ、おっさん」

 

「俺の昔いた職場ではある程度知られているが、そこにはかつてニュータイプの研究所があったんだ」

 

「マジかよ」

 

「今はもう廃棄になったって聞いたがな」

 

「でもその近辺で少女が目撃された」

 

「これはエライ依頼に当たってしまったな」

 

「そんな面倒事に捲き込まれたたくねーんだけど」

 

「この憶測に辿り着いた以上後戻りは出来ないぞ、これは連邦の闇だ。辞退してみろすぐに消される」

 

「勘弁してくれよ」

 

「元々俺達の仕事も連邦の闇を見てるようなもんだ。事が事なだけでなんも変わりわせんよ」

 

「…3人はMSに乗れるのか」

 

「いかにも自分は乗れるって言いたげだな隊長さん」

 

「俺の出向元は連邦宇宙軍第77MS連隊だ」

 

「あっそ…バリバリの軍人な訳だ」

 

「私とマツウィンはモビルワーカーに乗ったことがある程度です。ハクビは…」

 

「元々俺達の後方支援でひたすらパソコンとにらめっこしたたんだ。乗ったことはねーよ」

 

(直ぐに戦闘が出来るのは俺とチョウさんだけか…)

 

「おっさんはどうなんだ」

 

「…昔知り合いの伝手でちょっと触ったくらいで、乗ったことなんてない」

 

「どんな伝手だよおっさん」

 

「…。それだけ重要人物となると迅速に動く必要があるな。アン中尉、Mr.Bに任務了解と打電。それとMSシュミレーターを3台大至急用意して貰ってくれ。3…いや4人には空き時間にシュミレーターでMSの訓練を受けてもらうことになる」

 

「わかりました」

 

「30分後。任務に移る各自準備を」

 

急ぎブリーフィングルームを後にしたカズキ。

 

(なんてことだ。よりによってあの子が、そんなこと)

 

カズキはこの短い間で少女とのやり取りの中にあった違和感を思い出し、ブリーフィングで出た仮説に信憑性を持った。

 

(俺はどうするべきなんだ…)

 

自室の扉を開けると

 

「お兄さんお帰りなさい。お風呂ってやっぱり気持ち良いね。何年ぶりだろう」

 

身体を濡らした少女が部屋中を走り回っていた。思わず背を向けるカズキ。

 

「なんて格好してるんだ。早く服を着ろ」

 

「お兄さんどうしたの、顔を赤くして」

 

「いいから服を着ろ」

 

「変なお兄さん」

 

ボロボロの服を着せると神妙な面持ちで腰かけるカズキ。

 

「あのなビアちゃん。実は」

 

「バレちゃったね。お兄さんに」

 

「じゃあ本当に」

 

「…昔からなんとなく相手の気持ちがわかっちゃったりして、気味悪がった両親に今のお家へ預けられたの」

 

「…」

 

「ビアがお兄さん達の言う『ニュータイプ』なのかはわからない。でもお兄さん達の言う通りビアの前のお家はあそこだよ」

 

(ということは間違いなく養護施設というのは『オーガスタ研究所』…)

 

「お兄さん…私をどうする」

 

こちらをじっと見つめるビアの視線にカズキは堪えられず目を逸らした。

 

「そんなの決まってる。…改めて約束してくれ、俺と一緒にいる時以外は勝手に動かないって」

 

「お兄さん。ありがとう」

 

「カズキ。カズキ・アライだ」

 

「ありがとう。カズキお兄さん」

 

こうしてカズキの苦悩の日々が幕を開けた。

 

 

 

 



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探索

「おい。フォックス1大丈夫か」

 

「…あぁ、すまないどうだ」

 

「手掛かりは無しですね」

 

「まぁ流石にこの近辺にいて早々に見つかる訳ないか」

 

少女の最後の目撃情報が自分達の拠点の側にある町だったためオグロスナは急ぎ目撃場所に急行していた。

 

「しかしよ、ここは最初の目撃情報から30㎞以上離れてる。1人でこの歳の子どもがここまで移動出来るかね」

 

「1年以上経っていますが、年齢的にも独力ではかなり困難ですね」

 

「協力者がいる…」

 

「そう考えるのが自然か」

 

「施設育ちで社会常識を知らないであろう子どもにコネクションなんて作れるんですか」

 

「それもそうか」

 

「どう思うフォックス1…おい隊長」

 

「あっ、すみません」

 

「…」

 

「ボーッとしてんじゃねーよさっきから」

 

「すまない。もう一度別れて捜索しよう。60分後ここに再び集合だ」

 

各々が捜索に向かいに行く。カズキはすぐに後ろを振り向き尾行を始めた。尾行の対象はさっきカズキがぶつかってしまった男。

 

「なああんた。このメモ書きはどういう意味だ」

 

人気が少なくなった脇道に入ったところで彼に声をかけた。

 

「…」

 

「さっき。ぶつかったとき俺のポケットに忍ばせたろ」

 

「そのままの意味だ。切り札は早めに捨てることをオススメする」

 

「…切り札はここぞって時に取っておくべきではないのか」

 

「そいつは『ジョーカー』。時にお前自信に牙を向く諸刃の剣だ」

 

「俺は俺の信じた道を進む」

 

「…そうか。もうすぐテロが起きる気をつけな」

 

「…確かか」

 

「直にわかる。お前に【星】の加護が在らんことを」

 

突然鳴る爆発音次第に銃撃音が八方から聞こえてくる。

 

「隊長。こちらフォックス3テロが発生。テロリストと数名交戦に入りました」

 

「他のメンバーにすぐに位置を伝達しろ、俺もすぐに向かう」

 

通信が終わると既に男は居なくなっていた。急ぎ連絡を受けた地点に向かうカズキ。

 

「…各員作戦変更。フォックス4は直ちにトレーラーに戻り後方支援。あとジェガンの発進準備を整えてくれ」

 

「どういうことです。隊長」

 

「緑色の軍服とその近くで機械らしき物を見た」

 

「それは…」

 

「各員周辺を注視。MSが出てこられては手の打ちようが無いため、即時トレーラーに撤退しろ」

 

「こちらフォックス2。ドワッジ、マラサイ、ゲルググを確認」

 

カズキはちょうどトレーラーに戻ったところであった。

 

「いつでも行けるか」

 

「発進準備は出来てます」

 

「上出来だ。メンバーが揃い次第このエリアから撤退する用意しておけ」

 

「このまま野放しにするんですか」

 

「直に連邦軍の部隊も来る。俺達裏の人間は時間稼ぎをすればいいんだ、ジェガン出るぞ」

 

バーニアをふかし急行するジェガン。発見したゲルググからすぐに攻撃された。

 

「…テロリストに慈悲を与えるつもりは無い」

 

狙いすました一撃でゲルググの左腕を撃ち落とす。

 

爆発に気づいた2機がジェガンに集中砲火を浴びせる。

 

(こっちが誘爆を気にしてるからって良い気になるなよ)

 

巧くバーニアを使い接近してゆくジェガン。

 

(地球の重力か…宇宙と違って出力と移動スピードのイメージに誤差があるな)

 

懐に入りマラサイにビームサーベルを突き刺すと即座にシールドミサイルをドワッジに発射。ドワッジがミサイルを撃ち落として生まれた爆煙を利用し近づきドワッジの四肢を切り落とした。

 

「こちらフォックス1。他にMSは」

 

「いません。連邦軍の駐留部隊があと10分程で到着する模様です」

 

「パイロットを捕獲次第撤退する。トレーラーは先に行ってくれ」

 

「了解」

 

焼けた町にたたずむジェガン。

 

「こいつらは関係あるのか」

 

メモを改めて読むカズキ。

 

 

 

【星】を背負う覚悟はあるか

 

 

その一文が意味することとはいったい…。



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訊問

「ボリス・マッカートニー。職業は機械整備士ね…あんなの乗ってその経歴で通せると思ってる。もしかして」

 

オグロスナの一同は自分達の拠点に戻り。カズキが捕らえた男を尋問していた。

 

「…」

 

「黙りですかい」

 

マツウィンの拳が男に容赦なく襲い掛かる。

 

「なぁ、あんたジオン崩れだよな。でなきゃあんなの持ってる訳ねぇもんな」

 

男はマツウィンに唾を吐く

 

「…それくらい自分達で調べろ。連邦の犬が」

 

「てめぇー」

 

「落ち着けマツウィン少尉。俺が代わろう」

 

カズキが席に着くと小さな紙を差し出した。男の表情が変わる。カズキは指で机を叩きながら問詰めた。

 

「何故今また動き出したんだ。ジオン共和国解体まで残り僅か、最後の悪足掻きか」

 

「連邦政府に不満を持つ奴なんてうじゃうじゃいるんだ。そういう人間に手引きして貰った。それだけだ」

 

「あの演説…どう思った」

 

「あの演説だ」

 

「ジオンのお姫様を名乗る少女が行った演説だよ」

 

「隊長。その質問意味ありますか」

 

「いいから、いいから」

 

「…あの演説に価値があったのかはわからない。だが少なからず、自分達の行いに正当性が持てたという希望を持った輩はいるんじゃないか」

 

「希望とは…」

 

「オリジナルの『ラプラス憲章』には最後の条文にこう書かれてたそうじゃないか【第七章。地球連邦政府は、大きな期待と希望を込めて、人類の未来のため、以下の項目を準備することとする。

第十五条

一、地球圏以外の生物学的な緊急事態に備え、地球連邦政府は研究と準備を拡充するものとする。

二、将来、宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合、その者たちを優先的に政府運営に参画させることとする。】

これは、かのジオン公国の指導者『ジオン・ズム・ダイクン』が唱えた『ジオニズム』に一致する内容だ。この内容がもしも事実ならジオン公国…今はジオン共和国か、ジオン共和国は『ニュータイプ』と呼ばれる人間をリーダーに出来れば、自治権は認められ連邦政府からの独立を正式に宣言出来る。はずだ」

 

「…しかし共和国にそのような動きは無い」

 

「だろうな。そもそもその憲章が本当にオリジナルなのか怪しい。もう宇宙世紀が始まって100年になろうとしている。そりゃあ『ラプラス事件』の数年後とかなら検証して証明出来たろうが100年も経っちゃ検証しようにも証明する物が無いんじゃないか」

 

「あのお姫様が嘘をついてると」

 

「そうじゃない。ただ実物をこの目で実際に見たことのない俺達にとって、あれは只の『可能性の産物』であってそれを利用し世界を変えようと試みたとして。自分の一生を擲ってまでやる価値があるのか考えた時。そこまでする必要は無いそう結論に達する人間の方が多いってことだろ」

 

「そもそも、あの放送で映ったジオンのお姫様自体本物か怪しいしな」

 

「…」

 

「俺は」

 

暫く続いた沈黙をカズキは神妙な面持ちで破った。

 

「あの放送が流れているとき、あの放送を止めようと動く部隊のMSに乗っていた。彼方から放たれた巨大な光を2機のMSが受け止めた。あの場にいた部隊の全員が驚いたよ。コロニーを一撃で破壊出来る光をたった2機のMSが止めたんだからな」

 

「…」

 

「直ぐに俺達は出撃した。いつまでもその事実に驚いてる訳にはいかなかった。そしたらさ、その内の1機が腕を振ると、俺達のMSが刻を遡ったかのように動きを止めバラバラに解体されたんだ。ただ眺めているしかなかったよ、2機が何処かに跳んで行くのを」

 

「何故そんな話をここで」

 

「わからない。でも必要だと思ったんだ。なんとなく」

 

「…」

 

「まあ、ここまで黙りだと今日は口を割ることは無いでしょう。また明日にしようか」

 

男は連れられ部屋を後にする。1人になりカズキは机に置いた紙を手に取る。

 

 

 

貴方に取って【星】とは

 

 

その紙には一文追加されていた。

 

 

人類の希望

 

 

カズキは笑みを浮かべ部屋を後にした。

 

 



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