白雪の夜空で・・・ ( まきパリ)
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悲しき少年と出会い
比較的落ち着いた感じの文章で書いていこうと思うので、アドバイスや意見をいただけると嬉しいです!
それでは少し短いですがお楽しみください。
音も無く真っ暗な部屋の中。
窓から差し込む月明かりが机の写真立てを照らす。
写っているのは一人の男子と二人の女子。
女の子は笑顔で写っているが、男の子は違って俯いている。
そんな写真を見て部屋にいた男は懐かしそうに微笑んだ。
その男の子は孤独だった。
幼くして事故で両親を亡くし、兄弟もいなかった彼は祖母の家で暮らしていた。
しかし、しばらくして急病により祖母がこの世を去ってしまい、彼は親戚の家に引き取られた。
だが、引き取られてからある程度時間が経つと彼は別の親戚の家に行き、またそれから時間が経つと違う親戚の家に行くように転々としていた。
もちろん彼自身が望んでこういったことになったわけではない。
彼が親戚の家をたらいまわしにされていた理由としては両親が親戚とあまり仲が良くなかったというのもあるが真の原因は彼のその容姿と性格にあった。
父親譲りの目つきの悪さと母親に影響された物静かな性格は周囲の人間を不気味がらせた。
ある者は彼を不幸を呼ぶ者や悪魔の子といい、罵倒したり陰湿な嫌がらせをしていた。
しかし当の本人はそんな状況を気にしている様子は無かった。
なぜなら彼自身の感情は両親が旅立ってしまったあの日から氷の結晶のように冷たく固まってしまったからだ。
彼にとって目の前で起こる事象はテレビで見るドラマのようにどうでもよいことだったのだ。
そして彼が高校に進学する直前のある日のこと今日は・・・何度も経験した別の家庭への引き渡しの日だった。
「あなたは今日から別の人と一緒に暮らします。」
今までこういった日には幾度となく耳にしたフレーズ。
そうか・・・また別の家に厄介払いされるのか・・・・と彼は小さなキャリーケースをタクシーのトランクから降ろしていた。
新しくお世話になるであろう家の前で親戚に礼と別れを告げると親戚はかれにこう言った。
「・・・色々ごめんなさいね。でも次はきっといい方と暮らせるからね・・・。」
親戚の顔を見る限り嘘を言っているわけではないのであろう、どこか申し訳なさそうだった。
一人になった彼は空を見上げた。
(今日は何だかいつもより寒いな。)
白い息を吐きながら彼はインターホンを押した。
ピンポーンとインターホンを鳴らしてからしばらくして目の前の扉が開いた。
「は~い」と出てきたのは優しそうな女性だった。
「はじめまして。本日からお世話になる・・・」と最後まで言う前に目の前の女性は笑顔で・・・
「
食い気味な反応に彼はほんの少したじろいだ。
「ここじゃ寒いからどうぞ家に入って!今日からここはあなたの家ですから。」
そう言って彼女は彼の手を引いて家の中に招き入れた。
「雪くん、おかえりなさい。」
「!」
彼は何年かぶりに聞いたこの言葉に驚き、どこか懐かしさを感じた。
そして彼は・・・
「・・・ただいま。」
と小さくも確かにそう言った。
彼が玄関で靴を脱いでいる時にふと横を見ると暖簾の奥に茶屋ようなつくりの広い部屋が見えた。
不思議そうに見ていると美紀さんが
「うちは古くからこの喫茶店をやってるの。ちなみに名物は抹茶とくじら汁です!後で作ってあげるから楽しみにしておいてね。」
彼女の優しさに少年はふと疑問を口にした。
「どうして僕を引き取ってくれたんですか?」
彼の質問に彼女はそのままの優しい笑顔で答えた。
「私ね、あなたのお母さんの友達だったの。それも小学校からずっと。それであなたのお母さんが亡くなった時お葬式であなたを見かけて私に何かできることがないかって色々やったんだけど、私は親戚でもないただの友人だから何もできなくて・・・。
そんなやるせなさを感じて数年が経った頃、あなたの親戚からあなたのことを聞いたの。色んなご家庭を転々としてるって。
だからその時に思ったの。この子は私の家で私の家族と一緒に暮らすべきだって。あなたのお父さんやお母さんから受けるはずだったたくさんの愛情を私達があげなきゃって。天国にいるあの子もこれで少しは安心できるんじゃないかってね。
あとは・・・男の子が子供にほしかったっていうのも少しあるかな。
そして今日あなたに会って思ったの。やっぱりあの子に似てるなって。あなたの優しそうなその雰囲気がね。」
彼女の言葉が少し彼に響いたのだろうか、彼は目を見開いてまっすぐ彼女を見ていた。
「そうですか・・・母さんの友達ですか。・・・教えてくれてありがとうございました。」
「あなたは紛れもなくあの子の息子よ。そして今日から私の息子でもあるからね♪」
彼女の持論は少し奇妙だったが彼は今まで引き取られた親戚のどこにも『家族』と言われたことがなかった。
だから彼は少し・・・ほんの少しだけ口元を緩ませた。
しばらく彼が彼女と話していると奥から二つの人影が出てきた。
「母さん、お客様ですか?」
美紀んにそう聞いたのはエプロン姿に青紫色のサイドテールが印象的な女の子。
「ちょっと待ってよ姉様。」
そして後から続いてきた、こちらもエプロンを着たツインテールの女の子。
「ちょうどいいわね・・・雪くん、紹介します。この子たちは今日からあなたの兄弟になる私の娘の鹿角聖良と鹿角理亞です。二人ともいい子だから仲良くしてあげてね!」
「今日からお世話になります、白銀雪です。よろしくお願いします。」
この瞬間から彼の心を包む氷の塊が少しづつ溶け始めたのだった。
次話がいつになるか分かりませんが、文字数はもう少し多くしていく予定です。
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少年と鹿角理亞
このSSでは鹿角家について独自の解釈をしていますのでその点はご了承ください。
前より少し文章量を増やしましたが、私の性格上恐らく話数を重ねるごとに文章量が増えていくかと思います。
それではお楽しみください。
鹿角家の次女、鹿角理亞は期待に胸を膨らませていた。
そんな彼女の様子はまるで遠足前日の小学生のようだった。
もうすぐ高校一年生として新しい学校生活が始まるというのももちろんだが、本質は別のところにあった。
やっと憧れのスクールアイドルになれると。
大好きな姉と一緒に歌い、踊ることができると。
二人で目指した夢への第一歩を踏み出すことができるんだと。
彼女は自分の姉と同じ学校に通うために得意ではない勉強も精一杯やった。
周りからは『難しい』とか『志望校のレベルを下げた方がいい』などと言われたことがあったが、それでも家族は彼女のことを信じ続け、それに応えるように彼女も最後まで諦めること無く努力した。
神様はそんな彼女の姿をしっかりと見ていたのだろうか、彼女の必死の努力は見事に花を咲かせた。
合格発表で自分の番号を見つけた時には一緒に見に来ていた母も姉も自分の事のように喜んでくれた。
その時は彼女自身できて当然と言わんばかりに喜びを顔には出さなかったが、内心嬉しくて仕方なかった。
(やっと姉様とスクールアイドル活動ができる!)
新生活に向けての準備とスクールアイドル活動について姉と色々話し合っている充実した時間の中で突然それは訪れた。
「家族会議?」
理亞は姉の聖良から告げられたその言葉を反復した。
「えぇ、今日の晩御飯の後に母さんから私達に話があるそうなのです。」
「ふーん・・・。」
鹿角家で家族会議は特段珍しいイベントではなかった。
家族でどこに旅行に行くだとか、新しい家具などの相談だとかそこまで深刻な内容のものはほとんど無かったからだ。
理亞は特に気にする様子もなく部屋に戻り新生活の準備の続きに取り掛かった。
「今夜は積もるかも・・・。」
窓の外に写る空からの白い来訪者を見て彼女は一人そう呟いた。
「んん・・・」
けだるさと共に理亞は目を覚ました。
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
コンコン
彼女の部屋のドアを叩く音が聞こえる。
「理亞ー、晩御飯の用意ができましたよー。」
姉の聖良が起こしに来てくれた。
「すぐ行くわー。」
ベッドから起き上がった理亞はあることを思い出した。
(そういえば・・・今日は家族会議があるって。一体なんだろう。もしかしたら犬でも飼うとかかな?・・・・・・なんてね。そんなわけないか。)
彼女の予想はある意味では間違ってなかったとこの後知ることになる。
晩御飯を食べ終え、食器を片付けたところで二人の母が彼女たちに切り出した。
「二人に聞いてほしいことがあるの。」
「「!」」
二人はいつものたわいもない話をする母とは違う雰囲気を感じたので思わず身構えた。
そして次に出てきた言葉は二人の想像をはるかに超えたものだった。
「この家で養子を引き取ろうと思うの。」
「「え?」」
一瞬聖良と理亞は母が何を言っているのかが分からなかった。
しかしそんな混乱した状況の中でも聖良は母にこう言った。
「どうして養子を引き取ることにしたんですか?」
「う~ん・・・どこから話せばいいのかな・・・。とりあえず引き取ろうって思ってる子の写真を見てもらおうかな。」
そう言って美紀はスマホの写真フォルダにある雪の写真を見せた。
二人は身を乗り出してスマホの画面をのぞき込んだ。
そこに写っていたのは雪のように白く透き通った肌の男の子。しかしその顔はどこか悲しそうであまり生気を感じさせない表情だった。
「綺麗・・・」
理亞は彼を見て思わずそんな言葉が漏れた。
「えぇ、とても可愛らしくて、優しそうな感じのする男の子ですね。」
聖良も彼から漂う優しそうな雰囲気を感じ取っていた。
そんな二人の感想を聞いて母はにっこりと微笑んだ。
「そうなの・・・あの子にそっくりなのよね・・・」
(母さんの顔、何だか嬉しそう・・・。)
「この子は白銀雪くんっていうの。それで私の親友の子供なの。まぁその親友は天国に行っちゃったんだけどね。」
「この子の父親はどうしたの?」
美紀は少し俯いて理亞の質問に答えた。
「その子の父親も母親と一緒に事故で・・・。」
「そんな・・・。」
この姉妹も養子の男の子と同じように父親を早くに病によって亡くしていたのだ。
父親は理亞が二歳になってからすぐに急病で倒れ、そのまま帰らぬ人となっていた。だから理亞は聖良と違って父親との思い出をほとんど覚えていない。彼女が知る父親は仏壇にある遺影に写った姿だけ。
なのでこの姉妹は幼くして父親を亡くした雪に共感するところがあったのだろう。
それから美紀は理亞と聖良に雪のことについて話した。彼の両親が亡くなってからの事、彼が親戚たちから疎ましく思われていたこと。彼には私たちが必要だということ。
「それで、どうかな?彼を養子に迎えてもいいかしら?もちろん嫌なら嫌って素直に言っても大丈夫よ。」
母の質問に聖良はすぐに返答した。
「私は良いと思います。母さんがそこまで言うのならきっと悪い人ではないのだと思いますし、母さんの言う通り彼には私たち家族からの愛情が必要だと感じました。それに新しく弟ができるのもなんだか嬉しいです。」
「理亞はどう思う?」
聖良の返答を聞いた母は続けて理亞にも答えを求めた。
「私は・・・」
彼女は混乱していた。自分がどう答えてもいいのかが分からなかったのだ。
だから・・・
「うん。私も姉様と同じ気持ち。いいと思うわ。」
その答えを聞いて母は喜んだ。
「二人ともありがとう!じゃあ彼がいるご家庭に連絡しておくわね!多分こっちに移ってくるまでそんなに時間はかからないと思うから。」
美紀は娘たちが了承してくれるのを信じて、ある程度の手続きは既に済ませていたようだった。
彼女は足取り軽く食卓を離れて雪の親戚に連絡を取るために自室へ向かった。
残された聖良と理亜は彼のことについて話していた。
「兄弟が増えるなんて楽しみですね!」
「そうね、この家には男の人はいないからきっと楽しくなると思うわ。」
「白銀雪くん・・・私たちみんなでたくさん楽しい思い出を作りましょうね!」
「えぇ・・・本当にそう思うわ・・・。」
理亞は母に雪を引き取るか聞かれた時どう答えるか迷っていた。
それは彼女の中で白銀雪という少年を怖がっていたからだ。
雪の容姿についてそのような感情を抱いたのではなく、彼女は新たに鹿角家の一員となる彼が母の美紀や姉の聖良の愛情を理亞の分まで奪ってしまうのではないかと危惧していた。
彼の境遇を聞く限り恵まれた環境で育ってきたわけではなく、むしろ彼は今まで言葉で表す以上に辛い思いをしてきたことは理亞にも想像できた。しかしその思いは聖良も同じことで人一倍面倒見のいい彼女はきっと白銀雪という少年に本当の兄弟のように愛情を注ぐということは自明の理であった。
もちろん美紀や聖良が理亞をないがしろにして雪に構うということはありえないと頭では分かっていたのだが、心のどこかでそんなことが起こってしまうのではないのかと恐れている自分がいたことも否定はできなかった。
それでも鹿角理亞はまだ中学校を卒業したばかりの少女。まだ実際に会ってもいないのに雪に嫉妬心に似た感情が沸き上がろうとしていた。
だからこそ返答に悩んだ。
でもその時の母や姉の顔を目の当たりにすれば『嫌』なんて言葉は口が裂けても言うことはできなかった。
彼女もまた家族を愛していたからだ。愛する家族の気持ちを裏切りたくなかった。
感情を上手く表に出すことができない彼女なりの愛の形だった。
(白銀雪か・・・会ってみたいけど、やっぱり少し怖いわ・・・)
彼女は雪と出会うその日まで興味と恐怖という相反する気持ちを抱きながら忙しい時間を過ごしていた。
そして今日ついに鹿角家に白銀雪が養子としてやって来た。
その日は実家で経営する茶屋の店番をしていたが時間帯的にお客さんがあまり来店しないので同じく店番をしていた聖良と一緒に客が来るまで店の奥の居住スペースで休憩していた。
インターホンと玄関の扉が開く音が聞こえたので客が来たと思い、エプロンを着なおしてから店へと向かった。
しかしそこで見たのは大きすぎない荷物を抱えた少年と彼と楽しそうに会話する母親の姿だった。
「母さん、お客様ですか?」
「ちょっと待ってよ姉様。」
母のそばに立つ少年をしっかりみると二人はあることを思い出した。雪のように白い肌、少し怖そうに見える目元、何よりどこか生気の抜けた表情。写真で見た時よりも少し成長しているがあれが今日から家族になる白銀雪という少年だということを理解した。
そして母が姉妹のことを目の前の少年に紹介する。
母が紹介を終えると少年は姉妹の方を向いてこう言った。
「今日からお世話になります、白銀雪です。よろしくお願いします。」
(やっぱり彼が白銀雪・・・写真で見るよりも綺麗。)
理亞がこんな感想を抱いていると聖良が彼に自分自身の言葉で自己紹介をしていた。
「はじめまして白銀雪くん。私は今日からあなたの姉になる鹿角聖良といいます。今年から高校三年生なのであなたより二歳上になりますね。よろしくお願いします。」
姉が簡単な自己紹介を終え、次は自分の番だと分かっているがいざ雪を目の前にすると理亞は中々声が出なかった。
そんな妹の様子に気づいた聖良は理亞の代わりに彼女の自己紹介をした。
「この子は鹿角理亞といって私の二つ下の妹です。ですから雪くんとは双子になりますね。少し人見知りなところがあるので今は緊張していますが根はいい子なので、きっとすぐに仲良くなれると思いますよ。」
二人の自己紹介を聞いた彼は少しぎこちない笑顔を二人に見せてこう言った。
「聖良さん、理亞さん僕を家族として受け入れてくれてありがとうございます。ご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願いします。」
「はい、素敵な家族になりましょうね。」
聖良はそう言ったが、結局理亞は何も言えなかった。
第三話もいつ投稿できるか不明ですが、空いた時間に頑張って執筆します。
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少年と鹿角聖良
それではどうぞ・・・。
鹿角家長女の鹿角聖良は日記をつけるのが日課だった。
彼女曰くその日の出来事を何か形に残すことは、日々を振り返るのに大切な要素であるらしい。
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○月✕日
今日は妹の理亞の高校入試の合格発表の日でした。
結果から言ってしまうとあの子は合格していました!
私と母も一緒に見に行ったのですが、私が先に理亞の番号を掲示板で見つけた時には思わず声をあげて喜んでしまいました。
想像以上に声が大きかったのか周りからの視線を受けて少し恥ずかしかったのですが、そんなのすぐ気にしなくなるくらい嬉しかったのです。
当の理亞は特に表情には出していませんでしたが、あの子もきっと嬉しくて心では喜んでるんだと思います。これでやっと二人でスクールアイドル活動ができますね!あの日誓った夢を一緒に追いかけましょう!
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〇月*日
今日は久しぶりに雪が積もりました。どうりでいつもより寒いと感じました。
あと母さんから大切な話がありました。
私たちに新しい家族が増えるみたいです。
母さんが言うにはその子は男の子で母さんの昔からの友人の息子さんとのことでした。
その男の子の名前は白銀雪くんといって、写真で少し見たんですが名前の通り雪のように白い肌で何だか不思議な感じがしました。
彼は事故でご両親を亡くしていて、親戚の家庭を転々としていたところを母さんが見かねて引き取ることにしたようです。
私たちも父さんを亡くしているので彼を他人のようには思えませんでした。
ですが・・・彼には両親も兄弟もいないので寂しさは私たちの比ではありません。
母さんも言っていましたが白銀雪くんには家族からの愛情というものが一般的な子供に比べて圧倒的に足りないのだと、彼を愛してあげる存在が必要なんだと私も思いました。
だから私は母さんからの問いに即座に答えを出すことができました。
私たちが彼と一緒にいてあげること・・・それが私たちにできる精一杯なんだと。
それに弟ができるというのも悪い気はしませんでした。
私は母さんの意見に賛成でしたが理亞は何だか迷っているように見えました。
少し考えれば当たり前のことです。急に知らない人が家族になるなんて言われたら多くの人は戸惑うに決まってます。
だから私は理亞の意見を尊重するつもりでした。いくら私や母さんが良くても理亞が嫌というなら優先されるべきは理亞の意見です。彼女も紛れもなく私の妹で鹿角家の一員ですから。
ですが意外なことに理亜は私たちの意見に賛成してくれました。
どうしてでしょうか?
てっきり私は人見知りの理亜はきっぱりと断るか答えを渋るのかと思っていましたが・・・
あの子も彼に何か思うことがあって親近感を感じたのでしょうか?
姉としてはそうであってほしいなと思うばかりです。
とにかく白銀雪くんと会うのが楽しみです!
どこに行こうか、どんな話をしようかなと想像して笑みがこぼれるばかりです。
さて明日は理亞と練習する予定なので今日はここまでにしておきます。
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〇月+日
今日は待ちに待った日が来ました!
私たちの家に白銀雪くんがやって来たのです!
私と理亜は突然のことでびっくりしましたが、どうやら母さんが今日来ることを伝え忘れていたみたいでした。
目の前で見る雪くんは写真で見たときよりも成長していましたが、雪のような白さはやはり健在でした。
それと特徴的だったのは彼の目で一般的には目つきが悪いと言われるような感じでしたが私自身そんなことは全く感じませんでした。それどころか優しそうな雰囲気から彼は良い人なんじゃないかって直感で感じました。
私は簡単に自己紹介しましたが理亞は緊張していたようだったので代わりに私が理亞の自己紹介をしました。
・・・もしかしたら余計なお世話だったかもしれませんね。
そして彼が来た後はお店を臨時休業にして歓迎会を開きました。
準備のために四人でスーパーへ買い物に行って雪くんの好きな物を作ることにしました。
道中では雪くんが自分から口を開くことはあまりありませんでしたが、私や母さんが質問すると快く答えてくれました。
彼に聞いた話では両親とは静岡の方に住んでたみたいでそれからは日本各地を転々としていたみたいです。
昔のことを話している時の彼はどこか懐かしそうで、それでいて寂しそうでした・・・
私自身昔のことを聞いてしまったのは悪手だったかもと少し反省しています。
でもいいこともありました!今日の歓迎会の献立を決めるときに彼の好きな食べ物がオムライスだということが分かりました!
これを聞いた時なんだか子供っぽくて少し可愛いなんて思ってしまいました。
ということで白銀雪くん歓迎会のメニューは彼が好きなオムライスと私たちの店自慢のくじら汁、そしてデザートに近くのケーキ屋さんで母さんが予約していたホールケーキになりました!
ご飯を食べている時の彼は顔にはハッキリと表情は出ていませんでしたが、時折口角が上がったり、『おいしい』と呟いていたので喜んでくれたみたいで私も嬉しかったです。
多分雪くんは理亞と少し性格が似てるのでしょうか?
二人が早く仲良くなると私も安心なのですが・・・まぁこれは時間が解決してくれると信じましょう。
明日は雪くんにこの町のことを紹介したり、色んなところに出かけてみるのも良いかもしれません。
弟ができたことに感謝して今日はここまでにしようと思います。
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聖良は日記帳を閉じて、スマホを起動する。
待ち受け画面には今日家の前で聖良と理亞と雪の三人で撮った写真が写っている。
聖良と理亞は笑顔だが、雪は緊張しているのか俯き加減である。
そんな画面の中の彼を見て聖良は微笑む。
(私たち家族でたくさんの思い出を作っていきましょうね。いつかあなたが笑顔になれるように・・・)
翌日、聖良は雪を外に出かけようと誘った。
雪は「いいですよ。」と快諾してくれたので聖良は嬉しかった。
母の美紀は店番があるので一緒には行けず、理亞も誘ったが「恥ずかしい。」と断られてしまった。
ということで聖良と雪の二人で出かけることになった。
聖良はまず雪を連れて自らが通う函館聖泉女子高等学院に向かった。
「雪くん、ここが私と理亞が通う学校です。どうですか?大きいでしょう?」
雪は目の前にそびえたつ校舎を興味深そうに見つめていた。
「・・・確かに大きいですね。それより女子高なのに僕は入っても大丈夫なんですか?」
彼の疑問は最もだ。なんせここは女子高であり許可なく教師や関係者以外の男性が入校するのはご法度である。
しかし聖良は「入校許可証があるから問題ない」と雪の首にぶら下げたカードを指した。
それから彼女は学校中を移動しながら彼に紹介していった。
二人は話をする中で話題はスクールアイドルのことになった。
「雪くんはスクールアイドルって知ってますか?」
「スクールアイドルですか・・・聞いたことがないですね。部活動ですか?」
「まぁそんな感じですね。各学校結成されたスクールアイドルがラブライブという大会で優勝を目指します。私と理亞は今年からそのスクールアイドルになってラブライブに出場するつもりです。」
「そうなんですね。理亞さんとね・・・。ところでアイドルだからグループ名とかあるんですか?」
「はい、決めてありますよ。私と理亞はSaint Snowという名前で活動していきます。」
「Saint Snow、聖なる雪・・・いい名前ですね。」
「ありがとうございます。昔理亞と二人でスクールアイドルになろうって誓った時に決めたんです。空から降る雪の結晶を見て。」
「頑張ってください。僕なんかが力になれるか分かりませんが応援してます。」
「雪さん・・・。」
聖良は雪が少しだけ心を開いてくれたのではないかと感じ、なんだか嬉しくなった。
何事もなく順調に終わると思っていた学校紹介。
しかし問題というものはこういう時にこそ起こりうるものだ。
新学期が始まる前だが学校の敷地内には部活動などで多くの生徒がいて、許可証を提げているとはいえ女子高に男子がいるのはかなり目立つ事態である。
しかも聖良は二年生の時に生徒会長を務めていたというのもあり、学校内でもその知名度と人気はかなり高い。
故に聖良と雪が歩いているのを他の生徒が見れば、悪意はなくとも好奇の視線が刺さるのも致し方ないものである。
そして・・・二人とすれ違ったある生徒たちが二人に聞こえる声でこう言った。
「聖良さんってあんな人が好みなんだね~。ちょっとがっかり。」
「確かに。なんか意外。しかもあの男子ちょっと怖いし。聖良さんと釣り合わないよ。」
ある程度は聖良も見過ごすことはできた。
だが、明らかに悪意のある今の言葉だけは見過ごすことはできなかった。
聖良は振り返り先程の生徒のところに駆け寄った。
そして・・・
「今の言葉取り消してもらえますか?」
「「!」」
二人組の生徒は今まで見たことのないくらい怒りに満ちた彼女を見てうろたえた。
いつもは誰に対しても敬語で接して優しい生徒会長として信頼のおける聖良が誰かに怒っているところなど校内では誰も見たことが無かった。
そんな彼女が恐ろしく低い声で告げた言葉は二人に恐怖を与えるのに十分だった。
「え・・・あの・・・。」
「私の大切な家族を侮辱するのはやめていたただけませんか?」
(大切な家族・・・)
雪は不思議な感覚に包まれた。かつて両親や祖母以外に自分のことをこれ程想ってくれる人がいただろうかと。
「もう一度言います。先程の言葉取り消してもらえますか?」
「すいませんでした・・・。まさか家族の人だったなんて・・・」
「聖良さん、僕はもういいですからこれ以上は・・・」
聖良はいつの間にか周りに人が集まっているの気づかなった。
これ以上騒ぎを大きくしたくないという彼の考えをくみ取って二人はこの場を後にした。
学校を出て聖良は雪に先程のことを謝罪した。
「雪くん、さっきはごめんなさい。あんなことが起こるとは思わなくて・・・」
聖良が謝ると雪は特に気にしていない感じで答えた。
「大丈夫ですよ。ああいうのは慣れてますから。それに悪いのは僕で、あの子たちの言う通り僕なんかが聖良さんと一緒にいるのはおかしいですから・・・」
「そんなことはありません。私にとって雪くんは大切な家族だから・・・」
(そうか・・・この人は本気で僕のことを家族って思ってくれたんだ。)
「ありがとうございます。そんなこと言われたの聖良さんの所に来たのが初めてです。」
彼の言葉を聞いて聖良は自らの行いが彼を傷つけていただけだったことを理解し、後悔した。
(私は一体何ということをしてしまったのでしょう・・・彼の気持ちも考えずに・・・)
聖良は歩みを止め雪に聞いた。
「家に帰りましょうか・・・」
その声は弱々しく雪にも聖良が自分の為に言っているのだと感じることができた。
しかし雪はその提案を否定した。
「もし聖良さんが嫌じゃなければ・・・もう少しこの街を案内してくれませんか?なんだか
彼の言葉の意味を理解して聖良は喜んだ。
「はい!では次は一緒にお昼ご飯を食べに行きましょう!近くに美味しいところがありますから楽しみにしててください!それから最近素敵な雑貨屋さんができたので新しいリボンを買いに・・・」
それから二人は日が暮れるまで服屋や雑貨店を始めとした色んなスポットへ足を運び、雪は聖良を、聖良は雪のことをもっと深く知ることができた。
聖良は今日のことを日記に書き終えると、満足した表情で眠りについた。
そして彼女の机には今日雪に選んでもらったであろう新しいリボンが大切そうに飾られていたのだった。
次回はいつだろうな・・・うーん・・・分からん。
出来るだけ早くかけるように努力します。
見切り発車で書き始めたからすぐネタ切れになってしまう。
とにかく頑張ります。
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少年と新しい一歩
まず初めに投稿が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。理由としては大学から出される数々の課題やアルバイトに時間を割かれてしまっていたために執筆の時間があまりとれませんでした。
今では少し落ち着いてきたのでゆっくりですが投稿を再開していけるかなと思います。
あと評価やお気に入りを下さってありがとうございます!作品を読んでいただけるだけでも嬉しいのに評価、お気に入りをしていただけるのは私の励みになります。重ねてお礼申し上げます。
それではどうぞ・・・。
北海道の厳しい寒さもなりを潜め、桜の木が花を咲かせるくらいには暖かくなってきた4月1日、鹿角家の子供たちは入学式や新学期を迎えていた。
雪は家からさほど離れていない公立高校に通い、理亞は聖良と同じ函館聖泉女子高等学院に入学した。
理亞は聖良と一緒に学校に向かっているとあることに気づいた。
「あれ?姉様、リボン変えたの?」
彼女は姉がいつもの白いリボンではなく真新しいターコイズブルーのリボンをつけていることを指摘した。
「そうなんです!これは先日、雪くんに選んでもらったんですよ!」
そう言って聖良は愛おしそうにリボンに触れる。
彼女はショックを受けた、なぜなら前につけていた白いリボンは理亞本人が聖良に似合うと選んだものであったからだ。
(私のじゃなくてあの人のを・・・)
理亞は
そんな彼女を見て聖良はこう告げた。
「雪くんは理亞が思っている以上にいい人ですよ。」
「・・・」
彼女だってそんなことは理解できている。
自分の姉をこんなに綺麗な笑顔にできる人が悪い人物なわけがない。
だが彼女はそのことを決して口に出さない。
「理亞が戸惑う気持ちは分かります。それでも雪くんは私たちの家族です。」
「・・・分かってる。」
とても入学式の日とは思えない空気に耐えかねた聖良は俯く理亞の手を引いてこう言った。
「さぁ行きましょう!今日はせっかくの入学式です!笑顔でいきましょう!」
「母さんも来てくれるかしら・・・。」
「はい!きっと来てくれますよ!だからそんな暗い顔では母さんを心配させてしまいます。」
「そうね!姉様の言う通り笑顔でいくわ!」
そこには先程までとは違って仲睦まじい姉妹の姿が輝いていた。
一方その頃、雪は母の美紀と新しく通う学校に来ていた。
「僕の入学式なんかに来てしまって大丈夫ですか?理亞さんの方は・・・」
雪の疑問に美紀は心配ないと答えた。
「あの子の入学式は午後からだから心配しなくても大丈夫よ。それに息子の晴れ舞台を見に行かないのは母親失格だわ。」
と少し笑いながら雪の方を見る。
「あの子たちの通う学校もここから遠くないからあなたも入学式に来る?」
雪は理亞のことが頭に浮かび、彼女のために自分は行かないほうがいいと判断した。
理亞は雪のことをあまり良く思ってはおらず、それは彼自身も自覚していた。
お互いが無口というのもあり、二人はコミュニケーションがちゃんと取れていない。
しかし雪は理亞に対して申し訳ないという感情が強かった。
いきなり家に転がり込んでおいて、家族として受け入れてくださいというのはあまりにも無理な話だ。
だから雪は理亞にどんなに素っ気なく接されても、むしろしょうがないと感じていた。
「嬉しいですが、遠慮しておきます。女子高は少し肩身が狭くて居心地が・・・」
あながち嘘ではない理由で彼女の申し出を断った。
「それもそうよね、無理言ってごめんなさい。」
「いえいえ。・・・ん?あれは何でしょうか?」
雪は目線の先にある人だかりを指す。
そこには多くの新入生とその保護者が入学式と書かれた立て看板と校舎を背景に記念撮影をしていた。
「あれは入学の思い出に記念撮影をしてるからそれの順番を待っている列ね。」
「そうなんですか・・・。」
楽しそうな他の生徒と保護者をじっと見つめる雪に美紀はこんなことを提案した。
「雪くん、一緒に写真撮ろっか!」
雪は予想もしなかった提案に言葉が出てこない。
呆気に取られている彼の手を取って美紀は列に並んだ。
しばらく並んでいると二人の順番が回ってきたのでスマホを近くの人に渡し、二人はポーズをとった。
カメラマンがお決まりのフレーズを言うとパシャっという音と共にシャッターがきられた。
「良かった!上手く撮れてるわ!雪くんも良い笑顔だし!」
もちろん彼が心からの笑顔をしたわけではないこと彼女もそれは分かっている。
だが同時に、それでも彼なりにぎこちないながらも笑顔を作ってくれたことも理解していた。
だから彼女は嬉しかった。ぎこちなくても、心からでなくても、少しずつ心を開いてくれる彼を見るのが何よりも嬉しかったのだ。
「今日この日を迎えられるのは美紀さんたちのおかげです。本当にありがとうございました。」
彼は頭を下げて改めて感謝の気持ちを述べた。
すると美紀は雪の顔を上げさせて優しく抱きしめた。
「こちらこそ私たちの家族になってくれてありがとう。あなたが素敵な学校生活を送れることを心から祈っているわ。いってらっしゃい、私はここから見守っているから。」
そう告げて彼を送り出す。
「いってきます。」
少年は無意識に微笑み、母に背中を向けて一歩を踏み出した。
それは本心からなのだろうか?
その答えは彼にも分からない。
それから時間がしばらく経ち時計の針は正午を指していた。
理亞は体育館で入学式の真っ最中だった。
保護者席には母と姉が彼女と一緒に記念すべき一日目をともに過ごしていた。
少女の目線は壇上に向けられていて、その耳には校長先生のありがたい話が入ってくるが意識は別のところにあった。
それはやはり白銀雪のことだった。
彼に向けられた感情はただ一つ。
嫉妬
鹿角家に来て間もない彼は母と姉の愛情を独占している。
姉は彼と二人で出かけた時に一緒に買ったリボンを嬉しそうに髪に結び、母はいつも彼に構ってばかりな上に自分に向ける以上に優しそうな顔を彼に向けていた。
(もしかしたら私はいらない子なのかな・・・)
そんな負の感情が彼女の頭の中を渦巻いていた。
理亞の表情はこの晴れ舞台に似つかしくない暗く落ち込んだものだった。
入学式が終わり生徒たちは各自が振り分けられた教室に向かった。
理亞も先程確認した自分のクラスに到着し、出席番号の席に着いた。
彼女の周りの女子生徒は早速近くの席の子と言葉を交わし、交友関係を築いていた。
しかし理亞の場合はそうではなかった。
人見知りで人付き合いが得意でない彼女からすれば入学初日という日は恐怖に近い緊張を胸に抱える日でもあった。それに加えて新しい家族との関係で頭を悩ませている今はとても友人を作ることができる心持ちではなかったのだ。
窓際の席に着席した彼女は誰と話すでもなく、窓から校庭の脇に咲く美しい桜の木をただ見つめるだけ。
理亞自身もこうしているうちに誰かが話しかけてくることを少しは期待していたが、結局ホームルームが始まるまで誰一人として理亞と話すことはなかった。
(誰とも話せない・・・)
と落ち込んだのもつかの間、彼女は自分がこの学校に来た本来の目的を思い出した。
(私はここに友達を作りに来たんじゃない!姉様とスクールアイドルでラブライブに優勝するために来たのよ!)
彼女の思っていることは間違いではないが、友人がほしかったのもまた事実、彼女なりに強がっていたのだ。
そんなうちに教室に担任教師が来て彼女のクラスではホームルームが始まり、クラスの自己紹介が行われた。
黒板には『名前』『趣味』『入ろうと思っている部活動』『その他なんでも』と自己紹介について四つの項目が描かれていた。
生徒たちは少し緊張の色を見せながらも簡単な自己紹介をしていた。
何人かが自己紹介を終え、理亞の番となる。
彼女は立ち上がりクラスメイトたちの方を向いた。
大勢の視線が彼女に向けられ、理亞は息をのんだ。
緊張に押しつぶされそうになりながら彼女は言葉を紡ぐ。
「はじめまして・・・。か、鹿角理亞といいます。えっと・・・しゅ、趣味はお菓子作りで・・・部活動は・・・スクールアイドル部を新しく創って姉様・・・じゃなくて姉と一緒にスクールアイドルをやろうと思ってます・・・よろしくお願いします。」
なんとか自己紹介を終えて席に座るとクラスから様々なが聞こえた。
「スクールアイドル?なにそれ?」
「なんか可愛くない?」
「姉様だって。今時ねぇ・・」
声の内容はともかくとしてクラスメイトたちに良くも悪くも鹿角理亞という生徒は印象に残った。
ホームルームが終わり、その日は解散となったので理亞は帰宅の準備をしていた。
周りではクラスメイトたちがこの後どこかに行こうと話していたが、その輪に彼女は加わることができなかった。
「はぁ・・・」
口から思わずため息が漏れる。
準備を終えた彼女はにぎやかな声を背に教室を後にした。
少年はとある男子と肩を並べて歩いていた。
「白銀は元々はどこに住んでた?」
「前は静岡に住んでた・・・。」
「静岡かぁ!それはまた遠くから。まぁ何かあったら俺に聞いてくれよ!ここら辺には子供の時からずっと住んでるからさ!」
少年は理解できなかった。なぜ横にいるこの男は自分なんかに話しかけてくるのか。
時間は少し遡り、入学式の終了後に戻る。
入学式を終えた雪は指定された教室に向かい自分の席で静かにホームルームが始まるのを待っていた。
周りには既にいくつかのグループができており、雪はその中のどのグループにも入っていなかった。
彼自身これに関しては特に気に留めず、ぼうっと前を見つめていた。
そんな時に突然彼の肩が何者かに触れられた。
雪は 驚いて振り返るとそこにいたのは茶髪の男子生徒。
「よっ!初めまして、俺は後ろの席の
急な自己紹介に首を傾げながら雪も挨拶を返した。
「白銀雪ね・・・覚えた!じゃあこの学校初めての友達は白銀だな!」
彼の見た目やその話し方に軽薄そうな印象を受けた雪だったがそれ以上にある言葉が気になった。
(友達・・・。)
これまで各地を転々とし周りから不気味がられて満足に友達を作れなかった彼にとってこんなことを言われたのは初めてだった。
(なんで僕なんかに・・・)
雪はどうせ最後には彼も自分から離れてしまうのだろうと考えていた。だから最初からこんな付き合いは無しにしたかったのだ。
しかし八神にはそんな彼の気持ちが分かるはずもなく、ホームルームが始まるまでずっと話しかけてきた。
ホームルームを終え、帰宅準備をしている雪はあることを感じていた。
(ここは・・・この学校の人達は今までとは違うのかもしれない。)
これまで彼が通ってきた学校では誰も彼に近寄ることは無く、いつも一人で過ごしていた。
だが、この学校では八神はもちろん男女問わずクラスの多くの同級生が彼に話しかけてきてくれた。
初めてのことで彼は戸惑ったが、その中の誰一人として彼に怯えている様子もなく寧ろ好意的に接してきてくれた。
(なんだろうこの気持ちは・・・)
表情は依然として変わらなかったものの、彼は胸の中で何か温かいものを感じていた。
そして同じく帰宅の準備をしていた八神が雪に言った。
「せっかく友達になったんだからさ、一緒に帰ろうぜ!」
雪は無言で頷いた。
初めての友人である八神と雑談しながらの帰り道、話題は家族の話となった。
「白銀には兄弟とかいるの?ちなみに俺は一人っ子だぜ!」
雪は返答に詰まった。本来なら彼も八神と同じ一人っ子なのだが今は違う。彼のそばには聖良や理亞がいる。
だから彼は質問に質問で返した。
「血のつながりが無くても家族って言ってもいいのかな・・・」
八神はすぐに答えた。
「何言ってんだよ!血がつながってるとかそうじゃないとかなんて関係ねぇよ!白銀が心から信頼できる人、お前の帰りを待ってくれてる人はみんなお前の大切な『家族』なんだぜ!」
彼の言葉を聞いて雪の頭には鹿角家みんなの笑顔が浮かんだ。
「八神君の言う通りだね・・・。うん、僕には二人の兄弟がいるんだ。優しい姉と可愛い妹が。」
「かぁ~!!いいなぁ兄弟がいるってのは!それに白銀がそう言うならきっと良いお姉さんと妹さんなんだろうな。」
「そうだね。二人とも僕の大切な『家族』なんだ。」
八神はそう語る雪の表情はどこか穏やかに見えたのだった。
それからしばらく歩くと交差点に差し掛かり二人は別れの挨拶をしてお互いに別々の道に進んでいった。
自宅に帰ると理亜の入学式から帰ってきていた母の美紀が出迎えてくれた。
「おかえりなさい。新しい学校はどうだった?楽しかった?」
「はい。あの学校ならきっと良い思い出が作れそうだと思いました。」
「それは良かったわね。あ、そうだわ。帰りにケーキ買ってきたから、聖良と理亞が帰ってきたら一緒に食べましょ!」
二人は足取り軽くリビングへ向かい、姉妹の帰りを待つのであった。
現時点では原作と関連を持たせられるように構成を考えているので原作突入までもう少々時間をかけていこうかなと思っております。
あとオリキャラがこれからも出てくる場合があるかもしれませんが、基本的に主人公と鹿角家、原作キャラ中心に話は進んでいきます。
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少年とファーストライブ
今回はSaint Snowのデビュー回になってます。
新しい学校生活が始まってしばらくが経ち、それぞれが環境に慣れてきた頃、Saint Snowは本格的にその活動を始めようとしていた。
そんな二人がSaint Snowの出発として計画していたのは校内でのファーストライブであり、その話は家族である雪の耳にも届いていた。
聖良「雪くん、私たちのファーストライブもちろん見に来てくれますよね?」
雪「そうですね・・・折角ですし差し支えなければお邪魔したいなと思います」
聖良「絶対に来てくださいね!楽しみにしてますから!」
元々二人の性格上相性が良かったためか聖良と雪は本当の兄弟のように仲が良くなっていた。
雪の反応は素っ気ないものではあるが、それは彼の普通であると聖良も理解している。
しかし彼と同じ歳である理亞はというと・・・
理亞「余計な事したら許さないから」
雪「気を付けます・・・」
というように理亞の雪に対する八つ当たりという理由もあるがあまり良い関係ではない。
しかし「来るな」と拒絶しないところを見れば多少なりとも理亞は雪のことを赤の他人とは見ていなかった。
そんな雪はというと、今までの出来事が嘘のように充実した学校生活を送っていた。
部活動はやっていなかったがそれでも友人と呼べる存在が増え、自然と笑みがこぼれることも増えた。
一方で理亞は一学期が始まって約1ヶ月程過ぎた今でも一人で過ごすことが多く、半ばクラスで孤立しかけていた。
だからこそ理亞は彼を羨み、時には当たってしまうのだろう。
しかし雪がそんなことを知るはずもなく、何故自分がここまで冷たくされるのかを日々悩んでいた。
そんな中で舞い込んだ二人のファーストライブの知らせ。彼は二人がどんなことに取り組んでいるのか、スクールアイドルとは何かを知る良い機会だと思い見に行くことにしたのだ。
あの後で雪は予習も兼ねてネットでスクールアイドルの動画を見ることにした。
動画サイトで一番上に出てきた動画を再生する。
(これは・・・)
画面に映っているのは制服に身を包んだ9人の女の子。
(この人たちはμ'sっていうのか。)
しばらく雪は彼女たちのパフォーマンスに見入っていた。
約5分程度の動画だったが雪はまるで映画を見終わったかのような気持ちだった。
(・・・これがスクールアイドル。聖良さんたちはこんなのをやろうとしているのか。)
気付けば彼は何時間もスクールアイドルの動画を見ていた。
何本も動画を見ている内に彼は少しだが現在のスクールアイドル事情について知ることができた。
そして彼が一番興味を惹かれたのがラブライブというスクールアイドルの大会についてだ。
毎年夏と冬の二回に大会が開かれ全国のスクールアイドルの中から頂点を決める大会だそうだ。
Saint Snowがこれを目指しているか雪には分からなかったが、二人の本気度を見る限り出場しても不思議ではないと思った。
もし二人がラブライブに出場するのであれば応援に行こうと雪は心の中で誓うのであった。
聖良と理亞は入学式の次の日から学校でスクールアイドル部を立ち上げ、それから毎日練習に励んでいた。かといってずっとスクールアイドルに関わっているわけでもなく、あくまでもプライベートとはしっかり区別して活動していく姿勢を聖良はとっていた。
彼女は今年で三年生ということもあり受験勉強の時間を確保したかったというのがひとつの理由ではあるが、それ以上に理亞に学校生活を楽しんでほしいという姉としての想いがそこにはあった。
しかしそんな聖良の想いも空しく、理亞はあまり充実した学校生活を送れてはいなかった。
一応聖良も理亞に「学校生活は楽しいですか?」や「友達はできましたか?」と声をかけてはいるが、理亞は「大丈夫」と言って嘘をつき姉に心配をかけまいとしていたのだ。
互いが互いを想うが故のすれ違いがそこにはあった。
そしてSaint Snowのファーストライブの大まかな日程が決まったこの日も学校で理亞は一人昼食を食べ昼休みを過ごしていた。
学校が始まってすぐの頃は聖良と一緒に昼休みを過ごしていたが、つい先日に「友達とコミュニケーションを取っておくのも大事なことですよ」と彼女に言われ友達と昼食を食べるようにと促されたのだ。
だがクラス内では理亞が聖良と過ごしていた一ヶ月である程度のグループが形成され、それぞれが集まって昼休みを過ごしているため、理亞は自分の机で母に作ってもらった弁当を一人寂しく食べるしかなかった。
理亞は心細く感じていたものの、つい見栄を張り一人でいることを受け入れてしまっていたのだ。
彼女が一人で友人もいないのは決してクラス内でいじめというものがあったわけではない。
昼休み以外でも彼女は休み時間になると姉のところに行ったり、放課後もクラスの誰とも遊んだりすることなどせず、真っ直ぐ練習に向かってしまうためクラスメイトは彼女と話す機会があまり無かった。
それゆえにクラスでは理亞に対していわゆる「ぼっち」のアイデンティティが確立し、誰も近づこうとはしなかった。
つまりクラスの誰もが理亞のことを気にかけていなかったのだ。もちろん理亞自身も。
昼休みの終わりを告げる鐘の音が鳴り響き、理亞は急いで机に広げていたものを片付ける。
次の授業の準備をする間も彼女はずっと無言のままだった。
理亞たち一年生の教室がある二階から二つ上がった四階に聖良たち三年生の教室がある。
聖良は友人と一緒に昼食を楽しんでいた。
「あれ?聖良ちゃん、今日は妹さんと食べないんだね」
彼女の友人がいつもと違う聖良を見てそう声をかける。
「はい、前までは一緒に食べてたんですけど、人見知りなあの子にも友人ができたらしいのでその子と一緒に食べるように言ったんです。私とは放課後になればすぐに会えますし」
「いいなぁ~妹がいるって。他に兄弟はいないの?」
「実は・・・」と言うと聖良はスマホを開き写真を友人に見せる。
「わぁ!もしかして弟さん?色白クールでかっこいい!」
友人に雪のことが褒められると聖良は誇らしげだった。
「でも・・・なんか聖良ちゃんには似てないね」
血が繋がっていないことを知らない友人はもっともな疑問を口にした。
「確かに私や妹には似ていませんが私の弟であり、大切な家族であることに変わりはありません」
「弟さん、聖良ちゃんに愛されていて幸せ者だね。私も聖良ちゃんみたいなお姉ちゃんがほしい!」
「もぉ何言ってるんですか、それより早く食べないと昼休み終わっちゃいますよ」
「そうだった。早く食べなきゃ!あ、そういえばスクールアイドル部だっけ?活動上手くいってる?」
「そうですね・・・個人的にはまだまだだと思いますが、練習の成果を見せるために二週間後にライブをやろうと思ってます」
「それ私も見に行っていい?」
「是非見に来てください!あと良かったら友達も誘ってきてくれると嬉しいです」
「ちゃっかりしてるなぁ。分かった、色んな人誘ってみるね」
「ありがとうございます」
ここでチャイムが鳴り響き生徒たちが授業の準備をし始める。
聖良はカバンから教科書を取り出しながら理亞のことを考えた。
(理亞・・・頑張りましょうね。私たちのファーストライブ)
雪がスクールアイドルの動画を見た次の日の放課後、雪は隣の席の八神にこんなことを聞いていた。
「スクールアイドルぅ?」
「はい、八神君は知っていますか?」
「いや、知ってはいるんだけどあんまり詳しくはないな。まぁ強いて言いうならμ’sっていうグループなら知ってる。妹が好きで動画見させられたから覚えてるな。それでそんなこと聞いてどうしたんだ?」
「実は・・・」
雪は八神にSaint Snowのこととファーストライブのことを伝えた。
「へぇ・・・白銀の姉ちゃんたちがスクールアイドルだったとは。ちょうど二週間後にライブがあるんだな。いいじゃねぇか、もちろん見に行くんだろ?」
「見に行くつもりなんですが・・・妹が・・・」
雪は理亞が自分のことをよく思っておらず、見に行って機嫌を損ねてしまうのではないかと悩んでいた。
「なんだそんなことか」
八神の無神経な答えに雪は顔を少し歪めた。
「白銀の妹ちゃんはツンデレだ!だから大丈夫!」
「ツンデレ?」
雪は馴染みのない単語に首をかしげた。
八神はツンデレを知らない雪に詳しく説明をし、雪はなんとか理解することができた。
「何となく理解はできました。理亞さんは恥ずかしいからあのような態度をとっているのですね」
「あぁそうだ。だから逆に見に行ってやらないと余計に悲しむぞ」
理亞がツンデレであるということはある意味正解なのだが、雪に対してのあの態度は別の理由があることに彼は気づいておらず、八神の意見に納得してしまった。
(これからは理亞さんの言動にはより注意しないといけないな)
とにかく雪はライブを見に行くのに憚られる理由が無くなったのでそれはそれで結果オーライといえるだろう。
それから一週間が過ぎてSaint Snowファーストライブ当日を迎えた。
雪は久しぶりに女子高に足を踏み入れた。そしてその手にはビデオカメラがあった。
ーーーーーーーーーー
ライブ前日、雪は聖良にあることを頼まれていた。
「雪くん、良ければ明日のライブを撮影しておいてほしいんですけど」
「大丈夫ですけれど、どうして撮影を?」
「実は今回のライブをネットで公開して知名度をあげていこうと思うんです。ある大会のために」
彼は『ある大会』という単語にピンときた。
「もしかしてラブライブに出るんですか?」
「!?」
聖良は彼からおよそ出てくるはずのない言葉を聞いて驚いた。
「どうしてそれを?」
「実はスクールアイドルのこと知りたくて色んな動画を見て、そうしているうちにラブライブを知ったんです」
「そうだったんですね・・・なら話は速いです。私と理亞はラブライブに出場して優勝を目指します。そして明日はそれに向けての第一歩目です」
雪の胸に優勝という言葉が強く響いた。
(聖良さんたちは本気でスクールアイドル活動に取り組んでる。だったら家族である僕も二人を精一杯応援することはできるはずだ)
毎日夜遅くまで学校で練習して、家に帰ってからもずっと練習を続ける二人の姿を見て彼にも思うことがあった。
彼は拳を強く握った。そしてその目には決意の光が見えた。
「聖良さん・・・僕は他人と接することが苦手でそのうえスクールアイドルについても詳しいわけではありません。ですが、僕は本気で何かに取り組む聖良さんと理亞ちゃんを本気で尊敬してますし、何か力になれたらいいなと思いました」
彼は聖良からビデオカメラを受け取りこう言った。
「だから・・・明日だけとは言いません、これからも僕はSaint Snowのために協力します」
すると聖良は顔を手で覆い彼女の肩が震えだした。
突然のことに雪は戸惑い、慌ててハンカチを差し出した。
彼女はそれを受け取り涙を拭いて彼に感謝を伝えた。
「ごめんなさい・・・まさか雪くんがそんなこと言ってくれると思わなくて・・・」
「僕も自分自身が変わり始めてるのを感じてます。みんなから見捨てられ生きることに何も感じなくなった僕に美紀さん、理亞さん、聖良さんが手を差し伸べてくれたからです。だから今度は僕が聖良さんたちを助ける番です。だから明日は一緒に頑張りましょう」
「はい!明日のライブ絶対に成功させます!」
ーーーーーーーーー
記憶を頼りに体育館へ向かい、扉の前に着くと中から多くの人の気配を感じた。
そのまま扉を開けて中に入ると並べられたパイプ椅子にぎっしりと人が座っていた。
観に来ているのはこの学校の生徒がほとんどだが中には他校の女子高生もいた。
(もしかして他校のスクールアイドルかな?初めてのライブなのにもう注目されてるなんてすごいな)
雪は体育館中央に設けられた撮影用のスペースにカメラをセットしてステージが始まるのを待った。
しばらくすると体育館の照明が消え、辺りが静寂に包まれる。
真っ暗な舞台上に二つの人影が現れたことに観客は気づいた。
すると舞台に光が差し音楽が流れだした。
曲が始まり静かだった会場に曲と二人の歌声が観客の完成と共に響き渡る。
激しい曲調に合わせたような二人のダンスはその人数の少なさを忘れさせるような圧倒的な存在感がそこにあった。
それに加えて聖良の美しい歌声と理亞のラップパートは曲の完成度が高いということの証明に他ならなかった。
いつもとは違う二人の姿に雪は見惚れていた。
(映像で見るのと全然違う・・・生で見るスクールアイドルってこんなにすごいんだ・・・)
曲が終わっても拍手と歓声が鳴り止むにはしばらく時間がかかった。
それほど見ていた人の心を二人は動かしていたのだ。
雪はライブ中に声をあげることは無かったが、それでも彼自身二人のステージに感動していた。
舞台上の聖良がマイクを持ち、観客席に向かって話し始める。
「皆さん、初めまして。私たちは函館聖泉女子高等学院スクールアイドル・・・Saint Snowです!」
再び会場が完成で包まれる。
「今日は私たちSaint Snowの初ステージでした。そしてここから私たちの物語が始まります!目標はもちろん私たち二人の夢である・・・ラブライブ優勝です!」
堂々と優勝を宣言し、より一層盛り上がる体育館。
「たとえどんな壁が待ち受けていようとも私たちはそれを乗り越えてみせます。今日観に来てくださった皆さんは始まりの目撃者で、きっと今日のことをずっと心に刻むでしょう・・・そして優勝した時はもう一度ここに戻ってきます!優勝旗と共に!その時は私たちと一緒に喜びを分かち合いましょう!だから・・・信じて待っててください!」
高々と拳を天に掲げる二人の姿はいつまでも雪の目に焼き付いていたのだった。
そして雪が聖良の指示通り今日のライブの映像をネットに投稿し、後日Saint Snowというグループがスクールアイドル界に期待の新星としてその名を轟かせるのであった。
SS何話も書いておいて今更ですがオリジナルストーリーは構成が難しいですね(笑)
さて、そろそろAqoursとも絡ませていこうかなと思ったり思わなかったりしてますが、そのうち出てきますのでご安心を。
それでは次話でまたお会いしましょう。
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