生きることは悩むこと 2 (天海つづみ)
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 「ガキィィン!!」

 

 「ってえっ!!」

 

 「迂闊ですよ!!」

 

 赤い剣士は大剣を振るが、

鋭いハサミに弾かれた

 

 青いガンナーは的確に

背中の殻を撃ち抜く。

 

 ドンドルマ管轄、上位の火山

 討伐対象は将軍ギザミ

 

 鋏を振り上げ威嚇する巨大な青い

カニ…いやヤドカリ?

 

 「粉塵粉塵粉塵!!」(回復してくれ!)

 

 「甘えたいならお断りです!!」

 

 「ブォン!」

 唸りを上げて飛んでくる鋏、と言うより鎌

 

 熱い地面を転がり

 「俺だって甘えるなら女の子に甘えたいわ!!」

 大剣を担いで走る

 

 ギザミが周囲を凪ぎ払う、

 しかし赤い剣士は溜め斬りを強行、

当然吹き飛び

 「やばいやばいやばい!!」

 

 「だからなぜ攻撃に攻撃をあわせるん

ですか?!!」

 仕方なく粉塵を使う

 

 

 

 ……………………

 

 

 

「やっぱり失敗しましたねぇ」

 メガネのギルドスタッフに無表情で

言われる、普段は誰にでも

笑い掛けるのに…

 

 しかし赤い剣士は

「今日は何時に上がる?空いてる?」

 ニコニコ子供っぽい笑顔、

 この剣士は自覚している、

 この無邪気な笑顔でコロッと…

 だが普通は大物を狩った後などに

言うものだ、

 ボロボロに負けた上に三落ちして

言うのだから図太い。

 

「お母様に報告しますよ?」

 中指で眼鏡を上げると、レンズの

奥で漆黒の眼がキラリと光る

 

 剣士は苦い顔になるとスゴスゴと

テーブルに着く

 

「懲りませんね、負けた後にナンパとは…」

 青いガンナーは侮蔑の目を向ける

 

 「ここじゃあ母ちゃんの支配下だしなぁ」

 赤い剣士はテーブルに突っ伏しながら、

 ギルドマネージャー、ベッキーの息子で

あるため行動は全部筒抜け

 「ミハエルぅ、遠征しようぜぇ?」

 

「そういう事は実力がある人が言うことです」

 ビールを飲みながら美形のガンナーは呆れる

 

 「一応下位は終わりそうじゃん!!」

 起き上がって力説するが

 

 「ソロで終わらせてないでしょう、威張って言うことですか?」

 

 バァン!とギルドの入り口、スイングドアが

乱暴に開き

 

「何で勝手に上位行ってるのよ!!」

 下位クエストから帰って来た小さなハンター、

名前はエミナ

 テーブルに走ってきた

 

「各地形と採れる物は把握できましたか?」

 美形はニコリと笑いながら聞く、金髪、

紫の瞳、背が高いモデル体型

 名前をミハエル、

無駄の少ない期待のガンナー

 

「採取しかやってねぇだろ?」

 黒髪の癖毛、黒い瞳、浅黒い肌の

ガキ大将、名前はハルキ

 無駄ばかりの期待の?剣士

 

「採取しないハルキに言われたくない!!」

 指を差し叫ぶ、周りは『いつものこと』と

スルーしている。

 

「面倒だろ、採取する位ならモンスター

多く狩った方が強くなるだろ?」

 

「それは狩れる人が言うことでは?」

 

「アッハ!やっぱり負けたか」

 教官シリーズの美人がテーブルに来た、

名前はアルト、ミハエルの母親にして

元最強ハンターの一人

 

 「母様、無理言ってすみません」

 下位なのに無理言って上位に挑戦させて

もらったのだ、

 理由はハルキの性格に灸を据えるため、

上昇指向が強いのは良いが、基礎が出来て

おらず不安定すぎる

 

 「あの…すいません…」

 ハルキは頭を掻く、

もちろん反省などしていない

 

「これで分かったでしょ?

 下位と上位で全然違うし、下位が出来て

いない奴は上でも通用しないわ」

 指を一本立てて説明するアルト

 

 こんなのは例外中の例外

 

「エミナもいるし、下位を見直す良い

チャンスじゃない?」

 

「じゃあリオレウス手伝ってよ!!」

 ツインテールを揺らしながら

 

「いまさらレウスかよ」

 ハルキは不満そうにするが

 

「ソロで安定して狩れないでしょうに」

 ミハエルはまた呆れる

 

 

 ………………

 

 

 ドンドルマ管轄下位 森と丘

 「ちょっと!ハチミツ拾いなさいよ!」

 

 「うるせぇなぁ、一個位拾わなくても

変わらねぇだろ」

 

 「採取は基本なんだよ?!」

 

 これがハルキの欠点の一つ、

 ハチミツは回復薬グレートの素材となる、

 一回 回復出来る、それはつまり

 『一回 命を繋げる』事に他ならない、

難しいクエストならばその一回が成否を

左右するそれがハルキには分からない、

生来適当な性分らしい。

 

 それともう一つ

 

 

 「そっち行ったよ!!」

 

 「任せろ!!」

 リオレウスの突進に合わせて溜め斬りの

体勢に入る、タイミングバッチリで頭に

斬り込むが

 

 「ドガッ!!」

 「どわぁっ!!!」

 

 当然吹き飛ぶ

 

「バカなのアンタは?!!」

 

「まったく…」

 仕方なく粉塵を使うミハエル

 

 我が強くて人の言うことは聞かないし、

基本的に自己中

 要するに反省が無いために成長しない、

 その上父親が元伝説レベルの最強ハンター

 

 子供の頃から(今も子供だが)当然比べられた

 

 結果ヒネクレている

 

 ……………

 

「ワシには手に余るなぁ」

 ギルドマスターは呆れる、

 ハンターは本来犯罪者や、ならず者が

多かったがハルキは違う、どちらかといえば

優れた血統のサラブレッドのはず…

 なのになぜこうなる?

 

 多くの問題児も育てたが…

 今まで見てきたハンターとは

 全くタイプが違う

 

 竜人ドンドルマはしばし考え

「兄の所に行ってみんか?」

 

「兄?」

 首を傾げるエミナ

 

「まさかココット村ですか?」

 驚くミハエル

 

「やったぜ!遠征だぁ!」

 母ちゃんの支配から逃げられる!

 




スマホが変わりアプリも変えたら
文体の修正をどうやったか忘れてしまい、
読みにくくてゴメンナサイ。


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ビールは5z

 

 気にしない

 

 ビールを頼む、しかしまた忘れられて

しまうかもしれない

 

 自分の存在感が無さすぎる

 だけどそれは無用なトラブルを無くして

来た結果だ。

 

 「これでいい…んだ」

 

 誰にともなく呟く

 

 手の中の小銭の音が寂しい

 この仕事は当たりハズレが大きい、安定した

収入を得るのは難しいから日銭を稼ぐしかない

 

 せっかく誰も自分を知らない所に来たのに…

 ここから新しく自分を始めようとしたのに…

 

 ため息ばかり

 

 今居るのは小さい村だが最初?とか伝説?

とか言われる村

 

 名前はココット村

 

 ハンターなら一度は訪れる発祥の村らしい、

まぁ自分から見れば生まれた村から近いだけ

 

 ギルドマスターは伝説の一人、ハンターの

始まりの人,そして竜人

 

 そんな凄い人が居る割には小さいギルドで、

所属しているのは30人程度

 

「ナズナや」

 

 いきなりギルドマスターに話掛けられ

ビクッとする

 

「そろそろ周りと話たり出来んもんかの?」

 杖を床にコツコツと鳴らす

 

 コミュニケーションなんて面倒くさい、

どうせバカにされるし…

 

「何も与えない者は何も得られんぞ?」

 シワに埋もれた目で見てくる

 

 そんな事言ったって今さら…

 タイミング逃していつも気が付くと一人だし…

 

 いや、寂しくはない、

 ないったらない

 

 大体さ、与えるって何よ?

 私って何か持ってる?

 

「今日はの、新しく三人がギルドに来る、

そいつらの案内をしてやれ」

 

 優しい口調だが…

 

 私に頼むか?

 

 人の案内?

 

 私は人が苦手なんだよ?

 

 しかもド素人だし

 

 案内する所なんてあるか?こんな小さい村

 

 人間は最低でも二人いるとパワーバランス

が生まれる、相手より上だと主張する。

 

 兄弟姉妹でさえも…

 

 女は特にヒドイ…

 

 私はいつも負けて来た…

 生まれた村でハンターをやってみたが

落ちこぼれだった

 

 『物覚えが悪い』

 『一度聞いたこと二度聞くな』

 『お前こんな事もできねぇの?』

 

 全部…全部嫌になった

 

 だから人と関わりたくない

 いや無駄な争いを避けて来ただけだ

 そんな私に頼むか普通?

 

 …一応引き受けなきゃ居場所なくなっても

困るしなぁ

「あ、あの、私で…」

 しどろもどろになる

 

 …………

 

 三人が来た

 一人目の名前はハルキ

 黒髪の癖毛に黒い瞳、大剣を担いで

「うっわ、女が少ねぇな」

 性格はバカそうだ

 

 二人目はエミナ

 茶髪のツインテール…まだ14才、

片手剣を持つ

「ハルキ、あんた態度悪いよ」

 …ちっちゃい女…

 

 三人目は…ミハエル

 

 スラリと背が高くて美形で顔ちっちゃ

くて目が紫でストレートの金髪で仕草が

上品で声も綺麗で指先なんかもう陶器みたい

でそれからそれから

 

 「ナズナや!」

 ギルドマスターが困る

 

 「またこれかぁ」

 エミナは首を振る、道中の村でもこうだった

 

「いつもいつもお前ばっかりモテやがって」

 ハルキは苦々しい顔

 

「仕方無いでしょう」

 ミハエルは涼しい顔だが

 ギルドの入り口には中を覗いて

キャアキャア騒ぐ村の女性達

 

 そして目がハートになったナズナ(一応女)

 

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 気が付いたら一緒にクック討伐へ

行かされていた

 (ギルドマスターから色々説明は受けた

はずだが、ミハエルに見とれていたナズナの

耳には入っていない)

 

 キャンプで準備中

「ナズナ」

 

 いきなり呼び捨てかよ!

 私の方が年上だろ、明らかに!

「な…何?エミナ…ちゃん」

 年上の余裕…そう余裕よ私

 

「エミナで良いってば」

 手をヒラヒラさせながら

 

「そうだぜ?狩りの最中にダラダラ

名前言えねぇよ」

 ハルキは親指で指し

「特にコイツとかなw」

 

「同意見です」

 キャンプで準備しながら話す

 ミハエルの本名は長いらしい

 

 呼び捨てって『お前より私が上だ』って

主張するようなモノじゃ?

 

「なぜナズナさんはハンターに?」

 弾丸を装填しながら振り返るミハエル

 

 え?…あの…名前…さん付け

 ナズナは二人の顔を見る、今呼び捨てでって…

 

 ハルキは察すると

「あー、コイツは良いんだ」

 大剣を素振りする

 

「誰にでもこうなんだよ」

 ミハエルだけは良いらしい、

 誰にでも敬語ってプライド無いとか?

 

 

「ハンターになったのは…

一人で食べて行くためで…」

 モジモジと下を向きながら、しかし三人

とも意外そうな顔をする、

 

え?何で?

 

「何でいきなりガンナぁ?」

 エミナは不思議そうに

 

「効率悪くねぇ?」

 ハルキも首を傾げる

 

「破産しませんか?」

 ニコニコと核心を突いてくるミハエル

 

 図星でうつ向くしか出来ない

 何も答えられない、

 

 ハンターなのに怖くて近づけないのだ、

理由は剣のセンスが無いと言われたから、

だからガンナー

 

「なるほど」

 ミハエルは何かに納得する

「貴女は師匠がいませんね?恐らく

ほとんど独学では?」

 

 ポカンとする、当たってるけど…

なんで分かった?

 この村に来てからガンナーに転向した

 そして誰にも教わってない、

 やってればそのうち…

 

「弾丸を買うのはたいへんでしょう?」

 

 そう、ほとんど弾丸代で報酬は消えてしまう

 

 三人の意見では下位、特に初心者は

ガンナーをやると躓くそうだ、理由は弾丸代

 

 下位とG級では報酬が桁違い、

 だけど弾丸の値段は同じ、

 大雑把に言えば100zと10000zの報酬の

中から弾丸代を出すのだ、レートが違う。

 

「よろしければガンナーの手解きをしましょうか?」

 ミハエルはニコリと笑い掛ける

 や…やだっ…ま…眩しすぎるっ!

 

 

………………

 

 帰り道、無事に討伐したが、

 自分にセンスが無いことを痛感させられた。

 ミハエルの戦いを見て理解した、間合いが遠すぎていた、

 そして弾丸の威力が落ちる事を知らなかった

「あんなに近づいて撃つんだ…」

 やばい、情けなくて悔しい、

 涙出そう、

 私ハンター向いてないかも

 

「そうですよ?私の認識では一番間合いの遠い『近接武器』です」

 歩幅を合わせてゆっくり歩いてくれるミハエル

 

 そんな認識してなかった、遠くからペチペチ撃っていた、

 クック討伐なんて丸一日掛かったのに、5分って…

 

「ねぇナズナ!明日は片手剣やってみない?」

 エミナは屈託なく笑いながら

 

「え…でも…」

 前に片手剣でセンスが無いって言われたんだけど…

 

「大剣なら教えてやっても良いぜ?」

 親指で自分を指すハルキ

 

「アンタが教えるなんて無理!」

 前で後ろ歩きしながら手を振る

 

「貴方が先ず成長しないとね」

 

「何でいっつも俺ばっかり!」

 

 それについては同意だ、

 私から見ても下手だし…

 明らかにハルキだけが三人の中で劣っている

 いや、私と同じくらい?

 

 

「そういやハルキ、ナズナはナンパしないの?」

 

「あ?だって暗そうだぜコイツ、サダ○みてぇじゃん」

 

「失礼ですよ」

 

 

 

 

 

 悪かったな!!!

 

 



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センス

この片仮名三文字は
大嫌いな単語のひとつ


 

「これでよしっと」

エミナがベルトを締めるのを手伝う

 

「あ、ありがと」

 久しぶりの剣士の装備に緊張するナズナ

 ハンターナイフは錆びていなかったが…

 少し太った…?ベルトが…

 

 気のせい…ということにする

 

 場所は森と丘のキャンプ

 

「じゃ基本の回避と抜刀納刀」

 エミナが澄ました顔で指示する、

師匠気取りらしい

 

 年下から指図されるのはムカつくが、

ここは黙って従う

 …私19なんだけど

 

 剣を振る、抜刀斬りから斬り上げ、

問題なく動ける

 

 「連携が問題なのかなぁ?」

 エミナが首を傾げる、

 どこが悪くて片手剣に向いてないんだろ?

 生き物を近くで殺す度胸が無いとか?

 

「特に問題は見受けられませんね」

 ミハエルも不思議そうに

 

「大体よ、センスなんて言う時点でおかしく

ねぇか?」

 腕組みして見ているハルキ

 

 今日はドスランポス退治

 そして私の武器の選択

 

 前の村でセンスが無いと言われ、

辞めていた片手剣を使ってみるが

「おかしいの?」

 ナズナも首を傾げる

 

 前の村で生徒を集め、訓練していた

ハンターに言われたのだ

「センスが無い」

「才能が無い」

 そして他の生徒からバカにされ続けた、

 みんな私をバカにしてた

 

「そのハンターよ、自分のランクについて

何も言ってねぇのかよ?」

 

「ランク?」

 ブロンズとかシルバーとかのアレ?

 

「下位とか上位とかよ」

 

「あー!もしかして!」

 ハルキを見るエミナ

 

「そうかもしれませんね」

 三人は納得している…

 

 何が?

 

「あくまでも可能性ですが」

 ミハエルが説明してくれた。

 一流と言われるハンターほど無駄が少なく

基本に忠実、そして毎日の積み重ねの結果

として技術がある、

 そのハンターが何のつもりでセンスなんて

言葉を使ったか知らないが、センスは努力の

先にある、駆け出しの素人に備わっている

モノであるはずがない。

 

 強いハンターであるほどそれを知っている。

 

 センスや才能なんて言葉が出る時点で、

少なくともハンターの指導には向いていない。

 

「そのハンターは下位…か…」

 ミハエルは顎に手をやりながら呟くが

 

「落ちこぼれかも知れねぇぞ?」

 真っ直ぐナズナを見る

 

「落ちこぼれ?」

 正面から見られるのがツラい、目をそらす

 ハルキの視線は強すぎる

 

「たまにいるらしいぜ?ハンターの

なりそこないが教えるってヤツ」

 

「実力のない人だったのかも知れません」

 その上謝礼など要求していたら…悪質ですね

 

 まさか…そんなこと考えなかった。

「じ、じゃあ片手剣使っても大丈夫?」

 髪の隙間から上目遣いに見る貞○

 

「お、おおう!良いんじゃね?」

 …怖ェ

 

 

 …………

 

 

 

 四人で採取しながら移動する

「ナズナはちゃんと採取するねぇ」

 エミナに褒められた、年下から褒められ

るのは複雑な気分

 

「その分なら地形も把握できてますね?」

 

 誉められ慣れてないから照れる、

 だけどそりゃあ採取もうまくなるし地形も

覚えるよ?

 だってこれで日銭を稼いでる訳で…

キャンプの跡地でペイントボール拾ったり…

 

 …恥ずかしくて言えない…

 

「ハルキ!」

「メンドクセェ!」

 ハルキはなぜこんなにいい加減なんだ?

 全部買えるほど金持ち?

 回復薬なんて買ってたらお金がいくら

あっても足りないんだけど

 

「じゃあ次だね」

 エミナが指を指すのは大型の猪、

ブルファンゴ

 

 突進を避けて追いかける、

 抜刀斬りから斬り上げ、斬り下ろし、

一歩前進してさらに斬る、

 また走るのをよけて

 最後に盾で殴るとブルファンゴは力尽きた、

 返り血が臭い、気持ち悪い、

 死んだ生き物の目が怖い

 

 …けどなんだろう、ガンナーだといっぱい

撃たないとダメだったけど、剣なら砥石一つ

使わない、…低コスト?

 

「最後に回転斬りできないの?」

 一番威力があるのに

 

「あ、あの、背中向けるのが怖くて…」

 視界が狭いんだ、前髪で…

 でも髪切れない、人の目が怖くて見れないから

 

「なるほど、モンスターの隙を理解してませんね?」

 

「隙?」

 見た目サ○コが振り返る

 

「ブルファンゴが停止から方向転換するまで何秒掛かると思います?」

 視界の外も見えてない、なのにガンナー、益々理解できなくなっていくはずですね

 

 

 

 

 

 

 …………………

 

 

 

 

 

 場所は2番 三人とも高台から見下ろす

 

 そして下でドスランポスと戦う私、

しかも一人で

 

 なにこれイジメ?

 ゼイゼイ言いながら地面を転がる

 

「ナズナ!横!」

 エミナの指示が飛ぶ

 何とか転がり回避するとドスの嘴が空を切る

 

「ヒイッ!」

 ムカつく!生臭い!

 なに考えてるか分からない生物の目が

こちらを見る!

 恐い!キモい!返り血臭い!

 じたばた四つん這いで逃げる

 

「足元抜けろ!」

 何?何の指示?!ハルキは何言ってんの?!

 理解が追い付かない、年下から指図されてムカつく、恐い、情けない!

 

 色々な感情が込み上げて戦いながら泣き出す

 私だけこんな目に合う

 いつもいつも私だけ

 私何か悪いことした?

 

 なんとか立ち上がり斬り掛かる

 

 

 私だっで…わだじだっで…

 がんばっでるのにいぃ!!

 

 いつもこうだ、いつもこんな感じだ、

思うような動きが出来ない

 悔しい悔しい悔しい!!!

 

 

 ボスっ!

 突然何かが降ってきた、

 砥石?

 

 その途端

 「ガシィッ!!」

 ドスランポスの鱗に弾かれた、切れ味落ちた?

 

「目ぇつぶって!落ち着いて!」

 エミナが閃光玉を投げ

 

「今のうちに研げ!」

 砥石はハルキが?何てタイミング!

 ハンターナイフの切れ味を計算してる??

 

 研ぎ終わるとまだ目を回しているドスランポスに

 

「でぇい!」

 泣きながら女らしくない声を出して斬り掛かる、

 回転斬りは恐いからチマチマ斬るが

 

「喉狙って!」

 

 最後に思い切り頭上を斬り上げた

 

 

 

 

 

 

 …………………

 

 

 

 

 

 

 ゼェゼェ言いながら地面に転がる、

一人で勝てた…いや、

ハルキとエミナに助けられて…

 

 

 …あれ?ミハエルは?!

 

「おい、こっちも剥ぎ取れよ」

 

 !!!

 

 3番の入り口、その前にランポスが何匹も。

 一人で勝ったんじゃない、

皆が支えてくれてた…私なんかのために

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

 ギルドに帰り精算する、

 弾丸代が掛からないから

 余裕がある!食事が出来る!

 

 久しぶりにチーズたっぷりの肉を

 

…しかし…

 

 なぜか二人がニコニコしている

 

「昨日はさぁ、ナズナがすぐに

帰っちゃうから話せなかったじゃん」

 

 「今日は色々話しましょう」

 

 何?この圧力? 

 思わず後退る

 ギルドでビールは飲んでも食事は

しない、いや…できない

 理由はお金が無くて食べられなかった、

だから明るい内にやることがあるんだ…

 

 自炊だよ!!

 

 でも今日はギルドの食事ができる…けど

 話すの苦手なんだよ私

 

「私らの事は知ってるのにナズナは

自分の事は話さないしさ」

 テーブルに着く三人、一つだけ席が空いている

 

「え…?私何か聞いた?」

 立ち尽くす

 

「昨日ギルドマスターから私達の概略を

聞いたでしょう?」

 

 …聞いてない

 

「ミハエルに見とれてたからな」

 ハルキだけは興味が無さそうで

ギルドガールのいるカウンターへ行ってしまう

 

 あの時か…!

 

 『帰さない』

 という空気が二人から、

 いやギルドから出ている

 

「ううぅっ」

 冷や汗が背中を伝う

 怖い怖い怖い怖い

 




だから私はこの単語を使って
話す人は好きになれない


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変身と心理変化

直毛だと以外とできない


 

 頭痛い、飲み過ぎて記憶が…

 起き上がるのがツライ

 

 見慣れた小屋

 自分で帰ってきたらしい

 だいぶ飲んだようだ。

 

 …私って飲めたんだ…

 一杯しか飲んだことなかった

 

 ここに来て約2ヶ月、

ようやく普通に喋れたみたい

 

 まぁ内容は覚えていないが、

 昨日はエミナ達といっぱい話せた気がする

 ビールの力は凄い

 

 とにかく顔洗って…

 のろのろと起き上がり動き出す

 

 三人とも英雄の関係者だった

 そんな奴等とは知らなかった

 私から見ればエリートじゃん

 雲の上じゃん

 

 …ミハエルは見た目からして

タダモノではないか…

 

 桶の水で顔を洗って…

 

「ん?」

 何だ?この違和感?

 頭の横に………

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

「遅いなナズナ、もうすぐ昼だぜ?」

 ギルドのテーブル

 そわそわするハルキ

 

「あんた調子に乗って飲ませすぎたんだよ」

 笑うエミナ

 

「加減を間違えたんでしょう」

 いつも通りのミハエル

 

「昨日は面白かったよな」

「ナズナって喋れたんだなぁ」

「普通の顔してんじゃねぇか」

「どんな不細工かと思ってたぜぇ」

 他のハンター達も話す

 

「飲み過ぎとったが覚えてるのかの?」

 ギルドマスターもニコニコしている

 

「ギイッッ…」

 スイングドアが風で軋む、

 誰も気に止めないが

 

「ナズナ!」

 ハルキの明るい声で全員が振り返る!

 

 怖い恥ずかしいなんでこんな事に

私何された何した恥ずかしい

恥ずかしい恥ずかしい…

 

「ヒイイッ…」

 盾で顔を隠しながら気配を出来るだけ

消して、ギルドに入ろうとしたのにハルキに

気づかれた

 なんであんな大声で呼ぶんだよ!

 注目されちゃったよ!

 

 

 

 

「…エミナちゃん」

 消え入りそうな声で

 

「何ー?、ナズナ!」

 テーブルで座ったまま

 

 こっち来てよ!

 ビクビクと盾で顔を隠しながらテーブルへ

「あの…私…わた」

 

「昨日は楽しかったね!」

 笑顔のエミナ

 

「ほらナズナ、酔い覚まし」

 ニコニコしたハルキが水を持ってきた、

 何で優しくするんだ?

 

「まったく…見た目で態度を変えるのは

どうでしょう」

 ミハエルがハルキに言っている、

察するに私の見た目が変わっている、

 ちなみに鏡は持ってない、高いんだもんアレ

 

 私どうなってるのよ?

 前髪が!顔洗うときに違和感が!!

「髪…髪が」

 盾で顔を隠しながら訴える

 

「覚えてないんですか?」

 

「普通の顔してるじゃねぇか、

何でサ○コだったんだ?」

 やたら愛想が良いハルキ

 

 人の顔見られないんだよ!

 視線が怖いんだよ!

 だから前髪切らなかったのに!

「わた…私昨日…」

 

「覚えてないのぉ?私とお揃いにして、

二人で歌ったじゃん」

 

 

 

 歌った?!!

 

 

 

 しっ…しかもっやっぱりっ!

 

 

 

 ツっ…ツインテールっ?!

 

 

 

 

 

 

 

 女の子でも一定以上の可愛さと愛嬌、

年齢制限もあるだろう

恐ろしい髪形にっ?!!

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

「大丈夫ぅ?」

 

「……死にたい」

 テーブルに突っ伏しながら、

 私って酒癖悪いのか…

 

「昨日アフロ猫さんに自分で頼んだんですよ?」

 

 覚えてない

 

「その後寝ちゃってさ、ハルキが運ぼうと

したけどコイツに任せたら何するか

分かんないし」

 

「何もしねぇよ!!なぁ、ナズナ」

 

「どうだかねぇ」

 横目て睨む

 

 え?待って…待ってよ、じゃあ

「私っ…どうなったの?」

 顔を少しだけ上げると

 

「私が運びましたよ?」

 キラキラ光るミハエルの笑顔が眩しい

 

 

 

 

 …死にたい

 

 男に触られた、しかもミハエルに、

そしてそんな大事なことをまるで覚えてない自分

「どっ…どうやって?」

 

「どう…って…こうですが?」

 ミハエルはとなりのエミナをヒョイと

お姫さま抱っこする

 

「そう…こうやってぇw」

 ミハエルの首に手を回して

 ニヤニヤ意味ありげにエミナがこっちを見る

 

 

 

 

 ぎゃああああああああ!

 

 私なんて死んでしまえ!

 

 

 

 

 

 テーブルに伏せたまま手足をジタバタさせるナズナ

 

 ギルド中が爆笑する

「だっはははは!!」

「若い内は色々あるわな!」

「覚えてねぇでやんの!」

「こんなイイ男に抱かれたのにねぇ!」

 

「良かったのぉ」

 

 私に言ってるの?

 

「な…何が?ですか?」

 顔を隠す

 

「2日でお前は変われたようだの」

 笑うギルドマスター

 

「変わった?」

 

 そーっとナズナの後ろに回り込むエミナ

 「とりゃっ!」

 

 エミナに両手を後ろに引っ張られて抑えられ

 「ひゃあう○▲◇!!!」

 じたばたもがくナズナ、

 顔を隠せない!やだ!

「やめてエミナ!やだやだやだぁ!!!」

 バタバタ揺れる黒髪のツインテール

 

「隠さなくても大丈夫だってばw」

 

「うぐうぅーっ、ひぐううぅ」

 涙を滲ませ声にならない抗議の声を上げるナズナ

 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!

 

「美人だぜぇ?!」

「俺もあと10年若かったらなぁ!」

「ナズナちゃあん!」

 中年のハンター達が冷やかす

 

 

 

 いやあああああ!

 

 

 

 …………………

 

 

 

 

 今日はクックに片手剣で挑む、

 が、今になって違和感がある

「なんで…あの…パーティー組んでるんだっけ?」

 さすがにツインテールはやめて、

後ろに纏めたが…恥ずかしい、

 まだ盾で顔を隠す

 

「へ?」

 意外な質問だったのか表情が固まるエミナ

 

「ナズナの指導してくれって頼まれたんだぜ?」

 親指で自分を指差すハルキ

 

「主に私が頼まれました」

 澄ました顔のミハエル

 

「生徒が三人になったねぇ」

 

「誰が生徒だ?」

 エミナを見下ろすハルキ

 

「一番の問題児でしょうに」

 クスクス笑うミハエル

 

「え?…待って、私聞いてない」

 思わず顔を上げる

 

「?、何て言われたんです?」

 

「三人の案内をしてくれって」

 たしかそうだったはず

 

「…あぁ、そういう事ですか」

 

「?」

 

 

 

 …………

 

 

 

「上手くいったなぁ」

 カウンターに座りキセルを吹かす

 

「ドンドルマ様からの依頼はハルキの矯正と

再教育のはず…素人の指導をさせる事では

無いはずですが?」

 ギルドガールのドリス

 事務的な口調が玉に傷

 

「ついでじゃ、ナズナも成長し始めただろう?」

 

「ハルキも成長すると?」

 そうは思えない

 

「プライドを刺激出来れば良いんじゃ」

 

 ドリスは首を傾げる

 

「自分よりも下、しかも女が追い付いて

来そうになったら…な?」

 

「否応なしに成長…ですか」

 意地…いや男のプライドを刺激か、

そういうものか

「そこまで読んで組ませたんですね?」

 

「いんやぁ」

 煙を吐き笑う竜人

 

「?!」

 

「面白そうだったからじゃ」

 

 読めない…これが老獪というやつか

…ただ適当なのか?

 

 

 

 ………………

 

 

 

「では最初はエミナと組んで下さい」

 ミハエル達は岩陰に隠れる

 

「おっしゃ!行くよ!」

 エミナが走る、速い!

 

「え、あの、ちょっと!」

 追いかけるナズナ

 

 エミナと二人でクックに挑む

 ってかデカっ!!

 生きてるクックに近付いたのは初めてだった

 

「いい?!二回斬ったら右に転がって!」

 

「は、はい!」

 クックを中心に対角線に戦う

 常に足元を転がり後ろに回り込む様に

 

「上手いよ!常に私の反対側を意識して!」

 エミナは頭側で指示する

 

「連続して斬るよりいつでも回避出来る様に!」

 

 尻尾側で斬りつける

 腕が重い、息がツラい!

 尻尾の振り回し!間に合わない!

 

「ガード!」エミナが叫ぶ

 

「バチィーン!!!」

 ナニコレ!なんて衝撃!

 ガードは間に合ったが

 体が持って行かれる!

 

「慌てないで!」

 

 立ち上がろうとすると、クックがこっちに

向いている

 

 やばい!怖い!

 産毛が逆立つ

 

「オラァァッ!!!」

 突然ハルキがクックの顔を横から斬り付ける

 

「はっ!ハルキ!?」

 いつの間に?!!!

 

 一瞬ナズナに笑い掛けるがクックの

啄みに巻き込まれる

「どわあっ!!粉塵粉塵!!」

 

「何やってんのよアンタわ!」

 エミナが怒鳴る

 

「カッコ付けたいなら最後までカッコ付けなさい!」

 ミハエルが粉塵を使う

 

 

 

 ……………

 

 

 

「ナズナさんの勉強なんですよ?」

 腕組みして仁王立ちのミハエル

 

「何でアンタが飛び出してくんのよ!」

 エミナも怒る

 

 別エリアで怒られるハルキ、

 しかし

「へいへい、もうやらねぇよ」

 反省が無い、私に良いカッコしたいから

らしいが、見た目で明らかに態度が違う

 

「あ、あの、ハルキ…は助けてくれたし…」

 アタフタするナズナ、

 どうしたら良いんだろ、

 どっちが正しいんだろう

 

「今日の行動が貴女を殺す事にもなりかねませんから」

 

 私を殺す???

 

 

 



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完璧と嫌味

「私を殺す?」

 

「そうです」

 ナズナに正面から

 

 真剣な顔もイイわ…だけど…

 顔を隠す、恥ずかしいと言うより照れで

 「どういうこと?」

 

「ナズナさんは片手剣の使用が、

今回で二度目ですね?」

 

 首を振る、訓練で使って…

 

「実戦では二度目ですね?」

 

 頷く

 そうですよ、素人ですよ?

 

「どの武器でもそうですが、重要なのは

緊急時にどんな判断ができるかです」

 

「あー、追い詰められた時だね」

 剣をクルクル振るエミナ

 

「そうです、その時の経験が多いほど

生き残ります、数少ない選択肢の中から

最善を選ばなければダメージ、

最悪死につながります」

 

「だ、だけど助けてくれた訳だし…」

 びっくりしたけど助けられた

 

「下位、それも基礎の段階で経験を

積まなければなりません、G級などは一撃で

瀕死になるそうですから」

 

 怒ってる、口調は静かだけど雰囲気で解る

 

 ナズナは俯いてしまう、

いきなりそんな事言われても

 

 でも…

 

 そうか…緊急時の判断の回数こそが

重要なんだ、ハルキはそれを

奪った事になるのか

 

「ミハエルぅそれ位にしたら?

上位がいきなり言っても分かんないよ、

それにナズナが怒られてるみたいじゃん」

 

「え?上位って…?」

 

「コイツの装備よ、

ギザミのSシリーズなんだよ」

 そっぽを向いている

 

 ???

 

「え?あの?下位じゃ?」

 

「事情があって、公式には下位ということに

していただいてます」

 一人だけ飛び抜けてる理由はこれか…

 

「ハルキ、浮わついた気持ちを狩場に

持って来てはいけません、ナズナさんの

ためを思うなら尚更です」

 

 こっちを向くと

 「ちっ、わぁーったよ真面目だな」

 ボリボリ頭を掻きながら

 「おれが悪かった」

 

 頭こそ下げないが、ハルキは詫びた、

少しナズナは驚く、

そんな素直なタイプに見えなかった

 

 

 ふぅ、とミハエルは一息つくと

いつもの笑顔に戻る

「次はハルキがペアになってみてください」

 

「行くぞナズナ!」

 こっちに笑い掛ける

 

「は、はい!」

 今アンタ怒られてたんだよ?

 切り替えが早いのか、単にバカなのか

 

 二人でクックのいるエリアへ

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

「…ミハエルさぁ、真面目なのはイイけど、

アンタのレベルでいわれても…まだ

ナズナには分かんないよ?」

 エミナがジト目で見る

 

「分かっています、言い過ぎました」

 顔に手をやる

 最初に知識を詰め込むより、

体験してから教えた方が理解が早い、

それは分かっている。

 

 だが狩場では体験の段階で死ぬ事が

ゼロではない、

 だから弱いモンスターの内に痛い思い

をさせなければ危険なんだ。

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

「いいか?!俺の攻撃範囲に入るな!」

 クックを挟むように位置を取る

 

「え?!範囲?!」

 

「正面には立つな!」

 

「ど、どうしたら」

 正面って?!ハルキの正面?

 

 クックがエミナの方に振り返り始める

 

「ナズナ!横!」

 横に回転受け身で転がると、クックの突進が

余裕で避けられた…

 突進の方向がズレてる?

 

 何言ってるか良く解らない

…けど…指事が早いのか?

 

 「今だ斬りかかれ!」

 クックはハルキに向かって走っているのに

 え?どういう事?

 

 次の瞬間

 

 ドカンと溜め斬りの音と共に

クックが横倒しになった

 

 ナズナは安全に斬り掛かるが…

 何かは分からない、けど…

ハルキは何かが見えてる?

 青い翼を斬り、更に首の辺りを斬ると出血する、

 倒れてる今のうちに試してみる

 背中を向けて回転斬り!!

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

「さっきのハルキも気になるんだけどさぁ…」

 大剣の振りかぶるマネをする

 

「昨日の砥石を投げたタイミングもですね?」

 腕組みして

 

「気付いてたんだ…私が閃光玉投げる

直前に投げたんだけどさ…」

 

「言いたいことは分かります、妙に

タイミングが合う事が何度かあるんです…」

 

「あいつ何か私らと…

何か違うモノが見えてる気がする」

 

「上手く言えませんね」

 

「何かきもちわるいよね」

 苦笑い

 

「そうなんです」

 こっちも苦笑い

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

「では好きに動いて下さい!」

 ミハエルの指事が飛ぶ

 

「え?勝手に?!」

 

「はい、こちらで合わせます!」

 構えるミハエル

 

 私が足を斬ると翼に向かって貫通弾、

翼を斬ると頭に

 凄い!私に弾が飛んで来ない

 私に当てないように攻撃してる!

 

「前転回避!」

 

 反射的に前転…!!?

 足が目の前!!

 

 ぶつかる!蹴られる!

 踏まれるううっっ!!!

 

 が、

 

 クックの尻尾側に抜けた、

 あまりの展開に地面にペタんと座り呆ける、

何が起きた?

 

「ナズナ!!」

 ミハエルの一喝

 

「は、はいいっ!!!」

 何をボケッとしてるんだ私!

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 帰り道

「どうでした?」

 

「えっ?」

 色んな事がありすぎて何を

質問されてるか分からない

 

「今日は返り血も気にしてなかったようですが?」

 

 怒られた辺りから気にする余裕も無くなったよ

「なんだか色々あったから…」

 剣でクックなんて考えても見なかった、

怖いんだもん

 

「顔も隠して無いしね!」

 

 うっ!

 思わず盾で顔を隠そうとしたが…止めた、

 

 何か…もうどうでもイイや。

 

「ミハエルにも見とれなくなったしな」

 

 あれ?

 ナズナはミハエルを見る、

 見慣れた?トキメかない、

 あれぇ?

 

「あー、やっぱり!」

 私とミハエルの顔を見る

「私も最初だけだったもん」

 手をひらひらするエミナ

 

「やっぱりって…?」

 

「ドンドルマ出る時にミハエルに聞いたんだ」

 

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 

 ドンドルマ、西

 

「ねぇ、ミハエルってさ、いつも

そんなにピシーッとしてて疲れないの?」

 

 フッと少し笑うと

「何の事だか分かりませんが?」

 

「うっわ!ムカつく!」

 ここまで来ると嫌味だわ

 

「だろぉコイツ!」

 

 

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 

 

「って事があってさぁ」

 笑う

 

 ミハエルの顔を見るとニコリと笑い

「だから何の事だか分かりませんが?」

 相変わらずキラキラした笑顔だが

 

「うわ…私もちょっと…」

 なんだろう…嫌味っていうか

 ちょっと…完璧すぎて…

 

「だろぉ?だから付き合うなら俺だぜ?」

 親指で自分を指す

 

 

 

「………ないわー…」

 自分でも解る、私いま無表情

 

 …チベットスナギツネ…

 

「だよねー!」

 

「コイツがいるから俺が

不細工にみえてるんだろ?」

 親指で指す

 

「…いや…あの…」

 それ以外の所も

 

「違うよ?アンタ馬鹿だもん」

 

 直球だな!

 

「誰がバカだ?」

「アンタですぅ」

 あれ?この二人、仲良いかも

 

 

 



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イベント

 

 ギルドに帰る、スイングドアを入る時に

ハルキが呼び止められた

 

「あの…」

 

「ん?誰だ?って!うおっ!」

 村の若い娘が立っている、

 しかも結構可愛い

 

「ちょっと…あの…」

 もじもじしている

 

 ミハエルは気付かずに入ってしまった

が、エミナと私は見てしまった。

 

 ハルキはこっちに気が付くと

 『あっち行ってろ』とばかりに

しっしっと手を振る

 

 この二人仲良いしエミナが怒るんじゃ…

と思ったら

 

「はいはいごゆっくりぃ」

 ニヤケながら私の手を引いてギルドに

入るエミナ

 

「あの…今のって」

 告白なんじゃないの?!

 

「まぁ見てなって面白いからw」

 ニッコニコ笑う

 

「どうかしたんですか?ん?ハルキ?」

 いつの間にか居ない

 

「ミハエルは気にしないで、

いつもの事だから」

 

 壁に背を付け外の様子を窺う

「よし、ナズナ!行くよ!」

 

「え、何で!?」

 まさか邪魔しに行くんじゃ…

 

「イイからイイから♪」

 私の手を掴みギルドを出る

 

 

 

 

 夕暮れの中を歩く二人の後を追跡する

 

 結構美人だったな、何でハルキに…

 二人はハンター小屋の後ろ、

英雄の墓の前に来た、

 小屋の陰からはエミナと私が覗く

 

「声聞こえれば良いんだけど」

 小声で話す

 

「こうすんのよ」

 エミナは盾を後頭部に被る、

 なるほど良く聞こえる

 

 「鼻の下伸ばしちゃってまぁ」

 にひひひと下卑た笑い

 

「あ、あの、こういう事は…」

 

「覗いちゃダメっての?」

 

「な、なんか…」

 

「大丈夫、告白じゃないから」

 手をひらひらする

 

「え?」

 

「見てなって、面白いから♪」

 

 二人が近付く、

女の子は恥ずかしそうにしている

 

 

 

 きゃあああ!

 ドキドキしながら見る

 どうなる?ハルキなら断らない、

絶対にOKする!

 

 ワクワクしながら見るエミナ

 さぁ、来るぞ来るぞ来るぞ…

 

 

 

 

 

「…これ…ミハエルさんに渡して下さい」

 手紙を手渡されるハルキ

 

 

 

 

 

 

 ブホッ!

 

 心の中で吹き出すとエミナが

手を私の前に翳す、

 まだ笑うなって事?

 

 あくまでも紳士的に平静を装って、

ハルキは手紙を持ったまま女性を見送る

 

 私とエミナは笑いをこらえてプルプル

していると、恥ずかしそうに娘が通りすぎた

 

 

 

 

「だん!!」と足を踏み鳴らし

「ぬがあああっ!!!」頭を掻く

 

 

「ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 地面を転げるエミナと

「あはははははは!」

 腹を抑えて笑う私

 

「お前ら!何覗いてんだよ!」

 ハルキが走ってくるが

 

「だって!だって!ひぃーっ!

き…期待…ひぃーっ!」

 酸欠になりそうなほど笑う

 

 私も笑いすぎて膝を着く、

 くっ、息が!

 

「毎回!…毎回きた…期待すんだもぉん!」

 ひゃひゃひゃと笑う

 

「あはははははは!」

 ダメだ止まらない!

 

「お前は毎回毎回ぃぃ!」

 毎回ってっ!?

一度や二度じゃあないって事ぉっ?!

 

 

 

 

 

 

 ようやく落ち着くと、

 あれ?…静かだ

 

 顔を上げると

 

「ナズナ初めてシラフで笑ったねぇ」

 

「普通にしてりゃ普通じゃねえか」

 二人ともニヤニヤ見てくる

 思わず顔を隠す

 

「はい!ギルドで今夜も話すよ?」

 エミナが手を引く

 

「酔い潰れたら俺が運ぶからな?」

 

「アンタが一番信用出来ないわ、

ねーっナズナ!」

 笑いながら連れて行かれる

 

 私…いつから笑ってなかったんだろう…

 

 何か頬っぺた痛い、

 あぁ、笑うとココが上がるのかぁ…

 

 

 

 

 

 …………………

 

 

「どこ行ってたんですか?」

 

「いつものイベントー」

 笑うエミナ

 い…いつもなんだコレ、

 私も吹き出す

 

「お前にだってよ」

 ハルキは手紙を渡す、

が、ミハエルは違和感を持つ、

 いつもなら愚痴を言いながら

不機嫌に渡して来るはず…

 ニヤニヤしている

「何かありました?」

 

「初めてナズナがシラフで笑ったんだぁ」

 エミナが顔を見てくる、

思わず顔を臥せる

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

「何かいやな事でもあったのかよ?」

 うっ…そうだけどさ

 

「笑えなかった…ですか」

 黄金芋酒とかいう高いヤツを飲むミハエル

 

「どうして笑えなかったんだ?」

 こっちはジョッキでビール

 

「その辺は聞いても良いんでしょうか?」

 

 …言いたくない

 笑われる

 軽蔑される

 仲間…にはまだなってない

けど仲間ハズレにされる

 

「ちょっと、止めなさいよ」

 ミルクを飲み、口の周りを白くした

エミナが止める

「大体想像出来るじゃん、察してあげなさいよ!」

 

 14歳なのに私より大人かも

 …想像できてる?

 

「察してって…お前は解るのかよ?」

 こっちは子供だな

 

 エミナがこっちを見て

「ナズナ、言っても良い?」

 

 え、バレてんの?

 

 バレる訳無い、そんなハズない…

 

「あ…今は…やめて…」

 もしも当たってたら恥ずかしいし…

 

 どうしよ…話を変えたい

 

「あ、あの…私から聞いても良いいかな?」

 三人の視線が集まる

「ミハエルは何で先生なの?

何か対等の仲間に見えるんだけど」

 

「あぁそれですか、先生に関しては

単にハンター歴です」

 

「え?ミハエルだけ長いの?」

 

「はい、13で正式にハンターとなり

今は5年目ですから」

 

 

 

 ………は?…てことは?

 

 

 

「ミハエルって…今何歳?」

 

「18ですが?」

 首をかしげる美『少年』

 

 年下っ?!!!

 こんな大人っぽくて知的で強くて

パーフェクツな完璧超人がっ?!!!

 

 

 

 

「大丈夫ぅ?」

 

「ちょっとだけ待って、

落ち着くから…年上だと思ってて…」

 やばい!やばい!やばい!

 ドキドキする胸を抑える、

 落ち着け私、深呼吸だ深呼吸

 

「良く言われますよ?」

 ニコッと笑う、欠点無しかよ!

 何かまたトキメいちゃったよ!

 背中に花まで見えてきたよ!

 

「で、俺が今3ヶ月位だけどな?」

 ミハエルに親指を向けると

「子供の頃にコイツと一緒に

基礎の訓練してたんだ」

 

 幼なじみか…だからこの態度

 

「その後学校行かされて、

俺は最近ハンター始めたからな」

 笑うハルキ

 

「学校…?」

 学校って確か頭の良い子供だけが

行ける特別な場所じゃ…

 

「以外だよねぇ、ミハエルがガチのハンター

で、ハルキが学者の卵だったらしいから」

 ケラケラ笑うエミナ

 

「何か逆な感じだわ」

 イメージが違いすぎる

 

「だよねー」

 

「どういう意味だ?」

 顔をしかめる

 

「だってアンタバカっぽいもん」

 やれやれと首を振る

 

「あ、あのさ、何でエミナはハルキに…その…」

 

「遠慮が無いってこと?」

 

「そう」

 何か馴れ馴れしいとも違う何かが…

 もしかしたらハルキが好きとか?

 

「初対面の第一声に

『お前胸無ぇな』って言われたらどう?」

 

「うわぁ…」

 言ったのかコイツ

 

「ホントの事だろ?」

 悪気が無いのか?

 やっぱりバカなのか?

 

「そんな事言うヤツに気ぃ使わないよ」

 うん、同意します

 

「エミナとナズナに対して

態度が違いすぎますよ?」

 

「エミナは女として見てネェ、

ナズナは女だ」

 腕組みして真剣に言うハルキ

 

「その違いはなんです?」

 

「胸!」ふんぞり返る

 

「「最っ低」」ハモった…

 

 

「あ、それと上位なのに下位って?」

 

「あぁ…それですか」

 器を置いて姿勢を正すと

「実は叔父から上位になったら自分の元

で働けと言われまして、断り続けているんです」

 

「叔父さん?」

 

 その時

 

「誰か外でもめてるぜ?」

 帰ったばかりのハンター

 

「む、何事かの?」

 ギルドマスターが出ていく

 

「あれぇ?なんでギルドマスター

が出ていくの?」

 気になる、ケンカ?

ドンドルマみたいに?

 エミナはワクワクする

 

「確か村長も兼任していますよ」

 

「別に村長が居るわけじゃねぇんだな」

 

「ナズナ!行くよ!」

 

「またぁ?!」

 私の手を掴み走り出す、

 また覗くのかこの娘、

 痴話喧嘩とか好きそうだわ

 

 



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復讐の権利

 

「……!」

「………!」

 確かに何か聞こえる

 ギルドマスターの後を歩き墓の方へ向かうと

 

「なに抜け駆けしてんだよ!」

「いい気になってんじゃねぇぞ!」

「何様のつもりよ!」

 女の声だがドスが効いた怒鳴り声

 

 ハルキに手紙を頼んだ娘を三人の女が

取り囲んでいる

 

 ギルドマスターは立ち止まり静観し始めた

 

 なにもしない気か?

 

「またかぁ」

 エミナが呆れる

 

「またって?」

 

「ハルキに手紙頼むのもしょっちゅうあるけど、

コレもしょっちゅうあったんだ」

 

 一人が掴み掛かる、髪を掴んで引っ張る

 

「ナメてんのかテメェ!」

 そのまま引き倒す

「ちょっと可愛いと思って!」

「テメェみてぇなブスがよ!」

 顔を踏みつける

 

「ヒッ!」

 怖い恐いコワイ!!

 いやだいやだいやだ!

 震えるナズナ、体が強張る

「た…助けないと…」

 

「何で?」

 エミナは平然と答える

 

 何言ってんのよ!

 助けるでしょ普通!

「あの、だから…あの」

 

 しかし

 

「こういうのは助けちゃダメ、

止めるだけだよ?」

 

 その言葉を待っていたように

「そこまでじゃ!」

 ギルドマスターが一喝する

 

「村長…」

「ヤバ…」

 三人の女はバツが悪そうに下を向く、

私位の歳っぽい

 

「やれやれ、下らん、みっともないマネはよせ」

 

「だってこの娘が…」

 さっきのドスが効いた声が

嘘のような可愛い声で

 

「やかましい!無用なトラブルを起こすな!」

 睨む、それで十分だった、

 三人はトボトボと帰って行く

 

「さ、私達も戻るよ?」

「え?あの…」

「いいから」

 

「気が利くのぉ」

 ギルドマスターがエミナに笑い掛ける

 

「にひひひ」

 

 何?何が起こってる?

 

 

 ……………

 

 

 ギルドに戻らずハンター小屋の影に隠れ

様子を見る、

 戻るって言ったのに、また二人で

…何で?

 

 まだあの娘は倒れたままだ

 

「どっかケガしたのかな?」

 小声で心配するが

 

「大丈夫」

 

 何でこの娘は平気なの?

 

「あのさ、ナズナってイジメられっ子でしょ」

 

 ギクッ!図星!

 さっき言われてたらどうなってたか

 

「心配しないで、見れば解るから」

 

 うつ向く、やっぱりそうなんだ、

薄々自分でも分かってた

 

「ナズナがあの娘だったらどう?

助けられたい?」

 

「?」

 

「人に見られたい?」

 

 …見られたくない、

情けなくて悲しくて悔しくてそれで…

 

 涙が出てくる

 

「でしょ?」

 真剣な顔で見てくるエミナ

 

 泥だらけになった娘が立ち上がる、

トボトボ歩いてくる

 

「場所移すよ」

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 ハンター小屋のエミナの部屋

 ベッドに二人で座る

「見ただけで解るの?」

「見たまんまだもん」

 そんな気がしてたよ

 

「何で色々…」

 馴れてるっていうか

 

「じゃあさ、私はどっちに見える?」

 

 明るくて愛嬌あって誰とでも話せる

「イジメる側」

 

「正解」

 笑う

 

「あの娘が助けて欲しくないから

助けなかったの?」

 

「んー、ちょっと違う、

解決にならないんだもん」

 

「解決?」

 

「あの娘に『どんな手を使っても状況

変えてやる!!』って覚悟がないとね」

 

「覚悟…」

 

「あの娘の場合、仲間ハズレにされたく

ないから誰にも頼らないし、反撃しない

と思うよ?」

 

 村の中で孤立したくないよなぁ、

私もそうだったし

 

「あんなことされて仲間でいたいと思って

る内はダメ、だから相手は調子に乗る、自分

は安全だと思ってるから」

 

「そうなんだ…」

 

「多分ナズナは状況変えたよね?」

 

「…村から逃げ出したんだよ…」

毎日毎日明日が来るのが苦痛だったから

 

「逃げるのが卑怯とか思ってる?」

 

「情けないじゃない…」

 涙が出てくる

 

「一人で知らない村に来て、独立してて

何で情けないの?」

 

「だって…」

 

「女一人で村を出て自活してんだよ?」

 

「…なんか…」

 

「立派に一人で生きてるじゃん!」

 

 

 ニッと笑う

 

 …この村に来て初めて褒められた

 

 

 

 久しぶりに笑った…

 

 

 

 何か色々あって…

 

 

 

「うわああああーぁぁぁ…」

 自分でもビックリするほど勝手に泣き出す

 年下の前で泣く情けなさ

 もうごちゃごちゃで

 何が何だか…

 後から後から涙が出て止まらない

 

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 久しぶりにこんなに泣いた

 

「スッキリした?」

 私が泣き止むのを待っててくれた、

 エミナは何で解るんだろう?

「あの…何で…」

 

「私はね、イジメる側だったけど

10歳位でやめたよ」

 

「なにがあったの?」

 

「今日と同じ、あんな場面見て

イジメる側に居たい?」

 

「どっちもイヤ」

 

「最低でしょ?」

 

「でもあの娘は…何とかならないの?」

 

「有利な状況だから後は本人次第なんだけどねぇ」

 

「それが分からないんだけど…」

 何が有利?

 

「だって目撃したでしょ?

ギルドマスターにまで見られたでしょ?」

 

 だからそれがどうなる?

 ギルマスは何も…

 

「誰が悪いか誰が被害者かハッキリしてる」

 

「後はどうすればいいの?」

 

「村中に言えばイイだけ、仲間ではいられ

ないけどね、何を言っても信用される、

いざとなればギルマスも口を出すしかない」

 

「そしたらどうなるの?」

 

「しばらく村八分で終わり」

 

「何か納得できない、そんなもので済むなんて」

 

「そう思うよねぇ、だから小さい内に

イジメは終わらせたほうがイイんだよ」

 

「なんで?」

 

「よくある思い出になるらしいから」

 

「あの娘位だとそうはならないってこと?」

 17~18位?

 

「そう、恨む、ずーっと恨み続ける、

多分何十年でも」

 

「私もそうかも…」

 ふとした時に思い出して気分が悪くなる

 

「あの三人は復讐されても文句言えなく

なったしね」

 ケラケラ笑う14歳

 

「復讐…か…」

 

「ナズナもその復讐の権利は持ってるん

じゃない?誰か力のある人に見せてない?」

 

 私も…いつか…

「あの娘、どうするだろう…」

 

「まぁ殺す以外なら何でも許されたり?」

 物騒だな

 

「ねぇエミナ、なんで…その…」

 

「詳しいか?」

 顔を覗き込む

 

 頷く

 

「私は村長の娘でさ、

親のやること見てたんだ、村長は明日に

村を生かす事が最重要な仕事な訳よ」

 

 それは分かるような

 

「だからイジメる側だって大事な村民、

簡単に追放なんかの処分は出来ない」

 

 だからって止めるだけって…

 納得できない

 

「だから更に処分を求めるなら証拠と

被害者の意見次第」

 

「結局そこなんだね」

 証拠…無いかも

 

「イジメがバレた時にお母さんに

メチャクチャ叩かれてさぁ、謝って謝って

許して貰った、恨みが残ってたらいつ復讐

されるか怖いもんね」

 

「そんなに恨みって残るんだ」

 私の中のコレがずっと…

 

「お父さんがさ、戦災孤児でイジメ所じゃ

ないトラウマ凄いのよ、寝てる時に飛び起き

たりすんの、で、何でか聞くと子供時代の

悪夢が出てくるんだって」

 

 伸びをすると

 

「いくら子供でも殺し合いがあったような

場所だからね、よくある思い出にはならな

かったみたい、それって今でも恨みが残っ

てるんだよ」

 

 エミナのお父さんって酷い地域の出身

なのか…何年も恨み抱えてるのか…

 

 私もそうなるの?

 

「さっ!湿っぽい話は終わり!

 ギルド行くよ!」

 

 立ち上がる

 

「え?もう遅いし…」

 

「何言ってんの!私らが居ない所で男共に

何言われてるか分かんないじゃん!」

 手を掴み

「男は基本バカなんだから!」

 

 エミナって私より大人だ…

 

 

 

 

 

 

 ……………

 

 

「やっぱり胸だろ!」

 ハルキは力説するが

 

「若ェなぁお前、女は尻で決まる」

 中年のハンターが反論する

 

「フン!脚に決まってんだろ!」

 別方向から声があがる

 

「ミハエル!お前も何か言えよ!」

 

 ミハエルは立ち上がると清んだ声で高らかに

「場所ではなくバランスです」

 

「ほう、例えば?」

 老齢のハンターが聞く

 

「まず、単純に胸が大きいよりも

重要なのはトップとアンダーの差です」

 

 おおっ!っとギルドがドヨめく

 

「そしてアンダーよりもウエストが細いこと、

最低でも7センチ以上が望ましい」

 

 なるほど!と声が上がる

 

「やはり身長、体重、各部の長さ、

そしてバランスこそが至高です」

 

「スゲェなお前!」

 ギルド中が囃し立てる

 

「だれかお前の合格ライン居るか?」

 

「ドリスさんと…ちょっと細いですが

ナズナさんでしょうか」

 

 

 オオオオッ!スゲェぜ!

 熱い激論を交わす男達

 

 

 あっ!!と声が上がる、

 全員がギルドの入り口に注目すると、

エミナとナズナか無表情で立っている

 

 

 

 

 

 

「………………」

 静まり返るギルド

 

 

 

 

 

 

 

「…ね?男ってバカばっかでしょ?」

 

 無言で頷くチベットスナギツネ




人は忘れろと言う、
そして忘れたフリで生きる、

フリだけ

恨みは決して消えない


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逆鱗

 

「本日ですが」

 

 ギルドのテーブル、

いつものようにミハエルの話を聞く

 

「私は装備のために上位に行けるか交渉

しますので、今日は抜けます」

 ナズナの方を見ない

 

「んじゃ俺も久しぶりに一人でやってみっかな」

 こっちも目を合わせない

 

 ?

 そういえばこの人達の目は怖く

無くなってる…けど…?

 

「じゃナズナ、二人で行こう」

 エミナはいつもどうり

 

 ココット管轄 旧沼地

 霧の森と寒い洞窟、湿地帯の狩場

 

今日は採取

 

「二人でって初めてだね」

 ハンターカリンガになったナズナ

 

「あいつら逃げたんだよw」

 

「逃げた?」

 

「昨夜の事、照れてるんだよ?」

 ニヤニヤ

 

「ちょっとショックだった…

体の事あんな風に…」

 まさかミハエルまで

 

「まだまだ男だらけだしねぇ、

男のコミュニケーションだよ」

 

 まさか女性が居ないとギルド

があんなこと

になるとは

「何かエミナって男の人に馴れてる感じ」

 

「そりゃ慣れるよ?オッサンばっかり

だったもん」

 生まれたジャンボ村は辺境唯一の交易

拠点、そのため船乗りのオッサン、

行商人のオッサン、ハンターのオッサンが

大勢訪れて、船着き場のギルドでチヤホヤ

されていた

「んでハンターになってドンドルマだよ?

オッサンの村からオッサンの街に行って

オッサンばっかりと話してるんだよ?」

 

 うん、大人になるわそりゃ

 オッサンがループしてる

 

 

 

 ……………

 

 

「どうでしたか?」

 

 ココットギルド、マスターの部屋、

質素な内装はハンター小屋と変わらない

 ギルドマスターとドリスが奥に居る

 

「昨夜ドリスが行ってみたらなぁ、

案の定だったようじゃ」

 

「ナズナの村の教官はハンターではない」

 男口調のドリス

 女らしいメイドシリーズが不釣り合い

 

「やはりですか…

ドリスさん、どうするんでしょう?」

 

「私は貴方の父君の部下であって、

貴方の意見など聞く道理は無い」

 

「ドリスや、そう怒るな」

 まぁまぁとなだめる

 

「このままでは半端なハンターが狩場で

喰われ、結果人間をナメたモンスターが

現れます」

 少しも動じる事もなく

ミハエルはニコッと笑う

 

「その先は言わんでもドリスも十分承知

しとるよ」

 

「命令さえあればいつでも動く」

 背中のギルドナイトセイバーに手を掛ける

 

「それを聞いて安心しました」

 ミハエルは出て行く

 

 

「やれやれ」

 

「まったく、父君といい良く口の回る…」

 ドリスの眉間にシワが入ったまま

 

「ドリスや、お前も怒りっぽくてイカンぞ?」

 

「職務を全うしているだけです」

 ビシッと姿勢を正す

 

「むう、それよりそろそろ本題に入ろうか?」

 

「了解しました、ハルキを追跡します」

 

 

 ……………

 

 

 

「でぇい!!」

 

「ナズナ!!毒に注意して!」

 

 イーオスを数匹倒す、ランポスに比べたら

頑丈だけど割りと楽

 ガンナーの時は苦戦したのに

 

「ガンナーより楽だわ…」

 何より弾丸代が

 

「ガンナーは剣士もできるけど、

剣士でガンナーできる人は少ないみたいよ?」

 剥ぎ取りながら

 

「そうなの?」

 

「だからナズナは無茶な事してたんだ」

 

「私は何にも分かって無いんだなぁ」

 

「んーん、知らなかっただけだよ?

今知ったじゃん!」

 

 剥ぎ取りを終えて移動する

 今度はブルファンゴのいるエリアへ、

三頭いる

 

「じゃ一人でやってみて」

 

「えぇ…一人ぃ?」

 不安だよぉ

 

「そんな顔しないの、

私は子供の頃にやってるよ?」

 

 今も子供じゃない?…言葉を飲み込む

 

 

 1頭目を避けて追いかけ後ろから斬る、

早く終わらせないと次が来る!

 

「ナズナ!後ろ!」

 

 まずい!横に回避すると2頭目が横を

掠めた、あぶなかったぁ

 

 しかし

 

「ナズナ!」

 振り返ると3頭目が!

「ガシィっ!」

 思わずガードして防ぐが

 

「ダメっ!ガードしちゃ!」

 

 え?

 

 1頭目が横から突っ込んできた!

立て直せない!

「ひいぃっ!」

 次々に来るブルファンゴ、

 ガードを続けるがダメだ、

 もう腕が限界

「ぐううっ…」

 

「よっ!と」

「ザシュッ!!」

 エミナが1頭を鮮やかに斬り伏せる

 

「立って!息吸って!」

 

 言われて初めて気がつく、力が入りっぱなし

で呼吸すら儘ならなかった

 何とか立ち上がり

「でぇい!」

 2頭目を斬り伏せる

 

「後は大丈夫ね?」

 無言で頷く、最後の3頭目を斬る

 ゼイゼイ言う呼吸を整える

 

「まぁ、こんなもんだね」

 笑うエミナ

 

「わ、私…弱い…」

 まだ息が

 

「それが分かればいいんじゃない?」

 剥ぎ取り終わると

「どうだった?クック1頭と比べて?」

 

 

 

 ピンと来た!今初めて分かった気がする、

話を聞くのと話を理解するって事の差が

なんとなく

 

「囲まれると何も…それにガードが…」

 

「そう、乱戦では一回ガードしちゃうと

そのまま固められて動けない」

 

「どうするの?」

 

「回避で逃げきるんだよ、思いきって前に

回避する手もあるよ?」

 

「そんな事危なくて…」

 

「あれ?一回成功したんじゃない?

ミハエルから聞いたけど?」

 

 あれか!

「エミナは最初どうやって三頭倒したの?」

 

「1頭に集中しないで、一回斬ったら周り

見て回避してたよ?」

 ケラケラ笑う

 

「時間掛かりそう」

 

「大事な事は無事に生き残る事って言われて

鍛えられたんだ、早い事なんて死んだら

自慢話にもならないじゃん」

 

 なんか…目からウロコ…

 価値観とか色々違う

「やっぱり親が強いハンターだと

何か有利なんだね」

 

「何が?」

 エミナの表情が固まる

 

「え…と、何かコツとか近道的な…」

 

「ナメないでくれる?」

 キッと睨む

 雰囲気が変わる

 

 

 え?何かマズイ事言った?

 

 私何かしちゃった?

 

 体が強張る

 

 イヤだ

 

 怖い怖い怖い

 

 

「そんな風に思われるのも仕方ないけど逆だよ?」

 正面から真っ直ぐ見上げてくる

 

「ぎ、逆?」

 おどおどするナズナ

 

「ハンターは命を落とす仕事であることは

強いハンターであるほど知ってる、

 だから子供に教えるとなったら全力で

鍛える、生きてほしいからね」

 目を逸らさない

 

「私も正式にハンターになる前に

訓練で鍛えられた」

 

 ようやく目を離して研ぐ

 

「ミハエルの前で言ってたら軽蔑されたよ?

気を付けて」

 

「軽蔑…」

 怖かった

 

「あいつの両親は全ハンターの頂点、四英雄

まで駆け上がった人だからね、ミハエルは

毎日ボコボコだったんだって」

 

 あの綺麗なお顔にそんな過去が

 「そんなに激しい訓練するの?」

 

「ちょっとやってみる?」

 

 

 

 ……………

 

 

 何なんだこの男は?

 クックとは言え油断が過ぎる

 

 ハルキはキャンプから出る事もなく

ゴロゴロしている

 

 普通は標的の探索に向かうものだ、

 親が一流故に怠けたタイプか?

これではベッキーもがっかりしただろう

 

 

 

 虫の声

 

 

 鳥の羽ばたき

 

 

 水の音

 

 

 

「さっきから誰だ?」

 ハルキは見回す

 

 バレただとっ?!!

 

 いや…場所を特定している様子もない、

ただの一人言…戯れだろう

 

 ハルキは立ち上がり見回す

「見てんだろ?」

 

 まさか本当にバレた?

 どうする…

 

 

 カサカサという葉っぱの音

 

 

 鳥の囀ずる音

 

 

 風の音

 

 

 虫の声

 

 

 魚の跳ねる水音

 

 

 

 そして

 

 

 

 無音で現れたギルドナイト

 

「失礼した」

 丁寧に一礼する

 

「ギルドナイトか…何の用だ?」

 

 向かい合うが…

 

「貴方を観察せよとの指令でな」

 普通のハンターならギルドナイトを見れば

少しは動揺なりするはず…

 

何だこの落ち着き様は?

 

 まさか母親の本業を知っているのか?

 

 

「何だ?書士隊絡みじゃねぇの?」

 

「まぁ別件だ」

 書士隊?

 

「俺なんて観察した所で何か解るのかよ?」

 いつものふざけた雰囲気は微塵もないハルキ

 

「命令である以上私の主観は関係ない」

 

「帰ってくれねェ?見られて気分悪いしよ」

 

 ギルドナイトは考える

 バレた時点で観察は失敗、任務をしくじった、

 ならば別の手を考えたほうが良いか?

「ふむ…私は引き揚げるとしよう」

 踵を返す

 

 

 

「また後でな、ドリスさん」

 

 なっ!!!

 声色を変えていたのに!!!

 

「ほらぁ、動揺しちゃダメだぜ?」

 

 くっ!!!

 

 

「なぜ分かった?」

 帽子を取ると

 

「胸!」

 

「冗談は好かない質でな」

 ドリスは睨む

 

「俺は見ただけてサイズが分かる」

 



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強制と努力

 

「ただいまぁ」

 エミナとナズナ

 

「早かったですね」

 テーブルで防具の手入れをするミハエル

 

 きゃああああ!!!

 ナズナは赤面する、両手で顔を隠すが指の

隙間から見る

 

「あれぇ、ミハエル早いじゃん」

 

「許可が降りなくて半日ギルドにいましたよ」

 インナーだけのミハエル

 

「じゃあさ、まだ明るいしナズナに

最初の訓練やってよ」

 

「私で良いんですか?」

 立ち上がる、肌白い、すっごいキレイ…

 

「だって私じゃ軽すぎるもん」

 

「ぶ、ブルファンゴ3頭に固められちゃって、

な、何かガードが上手く出来なくて…

私どうしたらイイか…」

 きゃああああ!

 お顔が見られません!

 

「じゃあ外へ行きましょう」

 防具を着け始める

 

 

 

 

 いや…うん…イイけどさ…

 もうちょっと見たかった

 

 

 

 三人で外へ、村の真ん中の開けた道へ、

え?何すんの?

 

「では構えて」

 ミハエルは素手で構える

 

「え?このまま?」

 何も分からず片手剣を構える

 

「行きますよ」

 一歩ミハエルが踏み込むと

「ドガッ!!」

 

「ぐひゃあっっ!!!」

 吹っ飛びゴロゴロ転がる!

 長い脚で盾を蹴られた

 

「…エミナ、訓練の概要は説明しましたか?」

 

「んーん、どんな反応するか見たかったw」

 

 イジメっ子だ!!

 

「ケガをしますよ?」

 とは言っても助け起こして

はくれないミハエル

 

「何言ってんのよ!最初にこれで

ボッコボコになる所からじゃん!」

 

「いったあい…」

 よろけながら起き上がる、

 泥だらけ

 口の中にまで砂粒がジャリジャリいう

 

「ほら立って!次だよ!」

 

 イジメっ子め…ならば!

「ねぇエミナ、手本やって見せてよ」

 

 フハハハ!吹き飛ぶがいい!

 

 

「いいよ!ちゃんと見てて!」

 ミハエルの蹴りに合わせて半身になり、

体を低く、盾を斜めに被るようにする

 

「ガシュッ!!」

「おっと…」

 脚を上に逸らされヨロけるミハエル

 

「こうやんの!まともに力で対抗しない、

盾の丸みで逸らすの!」

 すいません、私がバカでした

 考えてみれば過去にやってるんだよね

 

「おぉ!懐かしいの!」

 ギルドマスターが出てきた

「逸らすじゃな」

 杖で指す

 

「今は受け流すとか、

イナスってよんでるよ?」

 

「そうか、時代は変わるもんじゃなぁ」

 目がシワに埋もれる、が、チラッと

墓の方を見たあと

「だが随分弱いの?ガストンに叩き込んだ時は

もっと全力じゃった」

 

 ちょっと待って!ハードル上げないで!

 

「せいっ!」

「ドガッ!!!」

「ぐぇふうっ!!」

 掛け声まで出てるじゃん!

 さっきより強いじゃん!

 

「ほらナズナ、しっかり」

 笑ってるエミナ

 

「もう限界ぃぃ、やめようよぉ」

 泥だらけだし、恥ずかしいし…涙が…

 変な声まで出しちゃったよ

 

「そこからが鍛えると言うことじゃ」

 余計な事言うなギルマス!

 

「よう、姉ちゃん頑張れ!」

「早く立てほら!」

「ヨロけてるぜ?!」

 村の人達が輪になってワイワイ騒ぐ

 汗だくの泥まみれで転がされるナズナ

 

 

 

 ……………

 

 

 

「はっ?!」

 

「あー、気がついた」

 

 あれ?私どうした?

「ん…と、あれ?」

 ギルドの天井…

 

「気を失ったので運びました」

 

「にひひひ」

 

 この笑い…またか?またなのか?

 長椅子から起き上がろうとすると、

「いたたたた!」

 間接が!腕が!腰が!

 

「今夜は早く寝た方が良いでしょう」

 

「痛みの本番は明日の朝だしねぇ」

 

 コレよりひどいの?!

「ね、ねぇ…こんな訓練を皆やってきたの?」

 

 二人とも当然と言う顔で

「私は10歳でハルキは11歳の時には既に」

「私もそのくらい」

 

 こんな事してたんだ…

 髪から砂がパラパラ落ちる

 

「何だ?ナズナは訓練知らなかったのか」

「大体師匠がいるやつはやらされてるぜ?」

「お前は人と話さなかったからなぁ」

「俺達が話し掛けても素っ気なさすぎなんだよ」

 ワイワイ他のハンターも集まる、

ギルド中が騒ぐ

 

 私ってそうだったのか、

 そうだよね、凄い取っ付きにくい女だよね

「当然の訓練なの?」

 

「そうだよ?生き残るための」

 

「明日は30回を目標にしましょう」

 笑顔が素敵…だけど鬼!

 

「また気絶したら恥ずかしいし…

もうちょっと少な目で…」

 初めて気絶なんてしたよ…

 村の真ん中で泥だらけで…

 

「にひひひ!

何回も姫様抱っこしてもらえるよ?」

 

「もっと恥ずかしいですよ?

 頑張りましょう」

 こんな泥だらけの私を抱っこさせて

しまった…

 

 …ちょっと待て、村の真ん中で村中が

見てる中でお姫様抱っこされたんだよな?

 

 昨日の娘達に…何かされそう

 

 

 

 

 

「あれ?何だお前ら、帰ってたのかよ」

 

「あ、お帰りぃ、久しぶりのソロは

どうだった?」

 

「お帰りなさ…いつつつ!」

 振り返るだけでも腰がぁ!

 

「何だナズナ、泥だらけじゃねぇか」

 

「私達が最初にやったアレですよ」

 盾を構えるマネをする

 

「何だよ俺も蹴りたかったぜ」

 笑いながら

 コイツもイジメっ子だ!

 

「何だ俺達も蹴っていいのか?」

「いつでも言ってくれよ?」

「俺は手加減しねぇぜ?」

 

「しばらくは毎日狩りと訓練で

忙しいなぁナズナ」

 ギルマスがニコニコしている

 

 嘘でしょ?!毎日?!

 体が持たないよ?!

 

「キツイよぉ…」

 

 

 ……………

 

 

 

 

 翌朝

 

 

「あだぁあっ!!!」

 体がぁ!!ナニコレ!!

 起き上がれないじゃん!

 筋肉痛所じゃない!間接まで痛い!!

 

 これが毎日続くの?

 

 

 

 でも…イジメの毎日に比べたらマシかぁ…

 

 

 

 

 コンコン

 え?ノック?今何時?

 

「いつまで寝てるんです?狩りに出ますよ?」

 

「あ、あのー、私今日はお休みを…」

 ミハエルか…痛い痛いイタイ

 

 

「早くしないとミハエルに寝起き

見られるよぉw」

 エミナも!?ヤバい開けられる!

 

「開けようぜw」

 ハルキ!!

 

「ま!待って待って!お願いぃぃぃ!」

 身体中痛いのに!!

 

 

 ……………

 

 数日後

 この前の沼地、 討伐対象はゲリョス

 

 走って来るブルファンゴ

 斜めに受けて

「ガシュッ!」

「出来た!」

 力を逸らせば固まらない

 

「モノにしたねぇ!」

 腕組みして笑うエミナ

 

「エヘヘ」

 年下に褒められて照れる

 

「私なんて最初は次の日

起きられなかったのに」

 そうでしたか、このドSめ

 

「私も数日熱出しましたよ」

 アナタもでしたか

 

「俺は熱なんか出なかったぜ?

すぐにモノにしたしな」

 ふんぞり返る

 

「なんか意外…」

 

「ハルキは初日に出来ましたから…」

 苦笑いのミハエル

 

「はあ?ハルキがぁ?」

「何だよ?」

 なんだかこの二人、お似合いじゃない?

 

 

 

 

 

 ゲリョスを探し、見つけた、

 ぼんやりと霧の中にシルエットが浮かぶ、

視界が悪い

 

「毒消しはありますね?」

 

「さすがに持って来てるぜ」

 

「ナズナ、クックと同じように潜り込むよ?」

 

「分かった、頑張る!」

 初めてクックより強い相手だ

 

「そんじゃ行くぜぇ!」

 気が付いてないゲリョスに斬り掛かる

 走り回るゲリョス、

 紫の毒を撒き散らす

「ひいいっ!」

 

「落ち着いて!軌道を良く見て!」

 

 しかし毒に当たるナズナ

「どっ毒消しを!」

 走りながらポーチを引っ掻き回す、

あった!!

「ナズナ!」

 

 いきなり襟首を掴まれ引っ張られる、

手から滑り落ちるビン、薬が!

 

 は、ハルキ?!何を?!

「ビュオッ!!」

「ひいいっ!!」

 鼻先を尻尾が掠めた

 

「ほら」

 ハルキの毒消し

 

「あ、ありがと」

 また助けられた?

 

 エミナとミハエルは違和感を持つ

 モンスターは通常、走った後はこちらに

振り返る、もちろん尻尾の振り回しもやる

がどちらをやるのかは動き始めないと

分からない

 

 次の行動の初動を見なければ

対応出来ないはず

 

 しかし

 

 今ハルキは動き始めの前にナズナを

攻撃範囲から外へ出した

 

 反応速度の領域ではない

 予測しないと今の動きはおかしい

 

 …偶然か?それとも勘か?

 

 

 

 …………

 

 

 

 ギルドへ帰って来たナズナ達

「おぉ、良いところに帰ったのぉ」

 ひいっ!

 心の中で悲鳴を上げるナズナ

 

 カウンターにナズナが見知った人達がいる、

 その中に凝った髪型に薄化粧の女性

 

「ナズナの村から来たそうじゃ」

 

「あれぇ、ナズナじゃん、元気だったぁ?」

 馴れ馴れしくニヤニヤする女

 

 カリナ…

 

 

 

 

 

 

 




嫌な事からは逃げても良い…
とは最近聞く事が多い、
しかし何かを身に付けたいなら
とりあえず辛くても努力してから考える、

でないと何も残らない


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村人とハンター

 

「ナズナさんの友人なんですか?」

 

「結構可愛い娘だったな?カリナだっけか?」

 ニヤケるハルキ

 

 ココット管轄の狩場へ向かう四人

 管轄内の村から要請があった、

 村にランポスの群れが接近、

しかし当てにしていたハンターの教官が失踪、

 ランポスの群れを退治してくれとの依頼

 

 村の名はベルナ村

 ムーファと言われる家畜の放牧をしている

 

 カリナは村長の娘

 

 そして

 

 

 

 

「あの娘でしょ?イジメてたの」

 

「なっ?!い、言わないでよ」

 盾で顔を隠す

 

「あぁそうでしたか」

 え?バレてた?

 

「そんな感じだよな」

 こっちも

 

「体が強張って震えてましたね」

 ああああああ!!!

 恥ずかしい!

 

「なぁ、訓練受けた連中は何してんだ?

村にいるはずだろ?

 ランポス程度なら何とかなるよな?」

 

「五人いたはずだけど…」

 カリナ含めて

 

「まさかまだ実戦やってないとかw」

 手をヒラヒラする

 

「ありえますね、偽教官みたいですから…」

 

「え?!あの人偽物なの?」

 驚くナズナ

 

 おっと、口が滑りました

 

「センスなんて言うからな、

多分そうだろ?」

 

 助かりましたよハルキ

 

 森の中の街道、朝日に照らされながら

歩く四人徒歩二時間で村に到着

 

 村長に出迎えられるが

 

「あなたはっ?!」

 エミナを見て驚いている村長

 

「なに?」

 ぶっきらぼうのエミナ

 

「いや、そうか、はは…時代が違う…」

 首を振る村長

 

「私はカンナの娘だよ、名前はエミナ」

 

「なんと!娘さんでしたか!」

 聞けばエミナの母親、カンナの出身は

この辺り、そしてハンターの才能があり、

有名人だった。

 

「凄い人なの?エミナのお母さんて?」

 

「むー、腹立つから言いたくない」

 ムスっとするエミナ

 

「俺が説明してもいいぜ?

いいだろ?エミナ」

 最強の四人の一人、ハルキの父親が唯一

天才と認めたらしい

「この辺りから訓練しながら移動して、

ドンドルマで最初の一月にリオレウス

10頭だぜ?」

 

「それって2ヶ月位ってこと?」

 なにそのバケモノ

 

「しかもソロでだよ?腹立つのよ、

ウチのお母さん」

 腕組みする

 

 そりゃ有名にもなるわ

 

「それでは今回のクエストですが、

お前達!こっちへ!」

 

 村長が手招きすると、

 はじっこのほうでミハエルを見て

キャアキャア言ってた娘達と男が一人、

同年代の五人が集まってくる

「この子達を連れて行って戴きたい」

 

 ナズナは固まって震えてしまう、

カリナを中心に全員がイジメてきた

 

 ミハエルは思案する、

 さっきの話もありますし、ナズナさん

の力を見せ付ける良い機会ですねぇ、

 それに足手纏いなど必要無いですし…

 

「クエストはナズナさん一人で十分です、

ランポス程度に人数は必要ありません」

 

 五人がビックリする

「ナズナって…」

「あのナズナ…」

「無理じゃない…?」

「ホントだ、あの娘ナズナだ」

「髪型違うじゃん、なに調子に

乗ってんのよ」

「ランポスの群れよ?死ぬんじゃない?」

「絶対死んだわこれ」

 ヒソヒソ言うが聞こえてる

 

「…行ってくる…」

 居ずらい…視線が刺さる…

 うつ向いてクエストに出る

 

「では、ここに居た教官の

話をお聞きしたい」

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 順調にランポスを狩る、

イーオスに比べると弱いし毒もない

 

 (一人で不安だったけど楽勝だわ、

だけど村に帰りずらいなぁ)

 

 その時岩の影から一際大きなランポス、

ドスランポスが飛び出して来る

 「何だ、コイツもいたんだ」

 閃光玉を投げ安全に狩る

 

 

 …私強くなってる?

 

 

 ハンターとしては強くなってる

 

 

 …でも人としては?

 

 

 女としては?

 

 

 ベルナ村のナズナとしては?

 

 

 

 …………

 

「ナニコレ?」

 ナズナが村へ帰ると村中が集まっている

 

「ナズナ!」

「あんたケガは?!何ともないの?!」

 ナズナの両親が駆け寄ってくる

「あ、うん、なんともないよ?」

 どうしたんだ?

 

「心配したんだよぉ、

一人で行かされたっていうから」

 抱き締める母親

 

「急いで戻って来たんだ、

大丈夫だったか?」

 放牧から走って戻って来たんだろう、

薄い頭髪に汗が見える父親

 

「え?平気だよ?」

 あれ?何かが違う…そんなに心配?

 

「黙って村を出る事ないだろ?

母さんもずっと心配してたんだぞ?」

 

 そうか…ココット村に行くまでは

モンスターと戦う事自体が大変だった

 

 今は当然なのか…

 うん、当たり前になってる

 

 

 村中に注目される

「本当にナズナ一人で」

「凄いぜ?」

「全部倒して来たのか?」

「ケガもしてないぞ」

 村中がザワついている

 

 なんか…私って凄い?

 あれ?あの五人は?

 

「あ、おかえりー」

 ムーファをモフモフしているエミナ

 

「あいつらは?」

 小声で聞くと

 

「気絶してるw」

 

 

 ……………

 

 

 

 

 ナズナが出たあと

 

「どんな訓練をしてたんですか?」

 柔らかい物腰で話すミハエル

 

「なんかセンスがどうとか言ってた

らしいな?」

 腕組みして偉そうなハルキ

 

 二人が質問すると

 

「えっとぉ、あのぉ、素振りしたりぃ」

「回避の繰り返しとかぁ」

「あ、あと採取もしましたぁ」

「ランポスも一匹狩れますぅ」

 猫なで声で答える娘達

 

「ねぇ、ナズナなんか勝てるわけ無い

じゃん、何であんた達は行かないのよ?」

 カリナは不機嫌

 

 エミナが前に出る

「ナズナなんか?

アンタにナズナの何が解るの?」

 エミナは見上げて答える

 

「あんな弱くて才能無いヤツ」

 

「才能?それが何かアンタに解るの?」

 

「なによ!ナズナが勝てるとでも

思ってんの?!」

 顔をまっかにして激昂

 

「逆に勝てないと思う理由は何?

 ナズナを見下す理由は?」

 年下の方が落ち着いた物言い

 

 まあまあ、とミハエルが割って入る

「ではナズナさんが毎日、当然の様にやって

いる訓練をしてみましょう、

 貴女達は当然ナズナさんより

出来ますよね?」

 ニコニコと笑う

 

 ……………

 

 それでこれかぁ

 村の広場に寝かされている五人、

村長はおろおろしている

「あ、気が付いたぞ!」

「起きたぜ」

 

 カリナ達は周囲を見回す

「あれ…私…?」

 

 ミハエルが前に出ると

「どうでした?この訓練はハンターなら当然

なんです、あなた方に偽教官は教えましたか?」

 

「偽物?」

「いったぁい」

「私達がやってた訓練と違う」

 

「こんなのやってないわよ!

 嘘言わないで!」

 カリナが叫ぶ

 

「丁度良いぜ、ナズナ!こっち来いよ!」

 ハルキに手招きされる

 

 オドオドと前に出る、

 目立ちたくないのに…

 

「じゃあ構えろ」

 構えてハルキと向かい合う

 

「せいっ!」

「ガシュッ!」

「どわあっ!」

 蹴り脚を上に跳ね上げられ転ぶハルキ

 

「おおーっ!!」

 村人達が驚く

 

「見ましたか?これが貴方達が弱いと言った

ナズナさんの技術です、

 それにこの訓練を初めてやった時に、

貴方達の倍は蹴りに耐えましたよ?」

 

 まだ立ち上がれないカリナ達に更に寄ると

顔を近付け

 

「センスや才能などと言ってる間に

貴方達は遅れたんです」

 ニコッと笑う

 

「ハンターになりたいならナズナの弟子に

なるんだな、お前らにはそれが丁度良い」

 ハルキは吐き捨てる様に

 

「なんでこんなブスの弟子になるのよ!!!」

 

 そこへランポスを回収した村人達が荷車を

引いて来る

 10頭ほどのランポスと…ドスランポス

 

「………」

 カリナは青ざめ絶句する

 

「どうしました?何か言いたい事は?」

 笑顔だが…目が笑っていない…

 

 …………

 

 

 

 

 村を後にする

「あの、何か色々ありがとう」

 私のためにしてくれたよね

 

「まぁ、イジメの件もありますが、あのまま

では彼女達は結局ハンターにはなれませんから」

 

「まず世の中舐めてるしw」

 

「彼女達は自分を過大評価して、ナズナさん

を過小評価してました」

 

「まぁ、解らなくもないんだ、常に相手を

下に見ないと自分が上で居られない、

そう考えるんだ」

 手をヒラヒラする

 

 「ランポス一匹でな!」

 笑う三人

 

「仲間でもないのに色々…」

 

「は?」

 固まるエミナ

 

「心外ですね」

 ミハエルも

 

「お前そう思ってんのか?

 俺ら仲間だぜ?」

 

「え…だって…」

 いつ仲間になれたんだ?

 お荷物なのに

 

「立派にハンターをしているから

仲間になったんです」

 

 立派?

 

「ナズナってさぁ、

自分を弱いと思ってるでしょ?」

 

 弱いと思う

 

「お前弱くないんだぜ?ギルマスが用意した

クエスト一人でこなして来たんだろ?」

 

「え?だって食べていかなきゃいけないし…」

 お金が無かったんだもん

 

「指導も受けず、聞きもせずにクックまで

倒したんですよ?」

 

「ガンナーでやっちゃうんだもん」

 

「お前は強ェんだよ」

 

「困難、苦労を一人で乗り越えてきたんです、

それを努力と言います」

 

「恥ずかしいとかカッコ悪いとか思ってた

でしょ?」

 

「スゲェ事して来たんだぜ?」

 

「う、うぶぇぇえぇ…」

 勝手に涙が出てくる

 恥ずかしいと思ってた

 

「泣かなくて良いじゃんw」

 

 

 

 

「そういえばハルキ?

あの娘達にはナンパもしませんでしたね?

カリナは可愛いと思いましたが?」

 

「俺な、性格ブスは嫌いなんだよ」

 

「性格ブスってどんなのぉ?」

 

「他の女をブスって言う女だ、そんなヤツで

マトモな女は見たことネェ!」

 

 

 




誰もが認める何かを掴む

当然努力と継続する力が必要

しかし現社会は他の誘惑が多い

田舎の方が良いのかも


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真相と情

 

「なんだか似た名前ばっかりだよな」

 エミナナズナカリナカンナ

 

「私は東の生まれなのにお母さんに付けら

れたからね、この辺りに多いんだ」

 またムスっとするエミナ

 

「ねぇ、結局私の村の教官って…」

 

「ナズナさんが出ている間に村長に聞いた

話を総合すると、ナズナさんはハンターナイフ

が買えませんでしたね?」

 

「うん、家が貧乏だから教官に借りてた、買った

のは最後だった」

 恥ずかしい

 

「結局そこだったんです」

 教官は最初に生徒を募り、ハンターナイフを

売った、しかし買えない者もいる

 

 すぐに買えた者は金がある、

おだてておけば次も買う、

 買えない者はどうでもいい、

 つまりセンスや才能と言っていたのは…

 

「なんだよ、それだけの話かよ」

 

「何か詐欺っぽーい」

 

「詐欺っぽいではなく詐欺でしょう」

 

「じゃあ私がハンターに向いていないん

じゃなくて…」

 

「そうです…顧客としてどうか…

という評価ですね」

 

「村ごと詐欺に引っ掛かったのかよ?」

 

「なにしろ500zで売ったらしいですから」

 笑うミハエル

 

「ごひゃくっ!!?」

 

「嘘だろ?!ナズナ!」

 

「え?もしかして高いの?」

 

「ココット村に帰ったら加工屋さんで

見てください」

 

 森の中の街道

 新緑の香りと夕日の木漏れ日

 影が四本伸びている

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

「170z……」

 呆然とするナズナ

 

「どうした?姉ちゃん?」

 不思議そうな加工屋

 

「加工屋も専属のハンターも居ないよう

ですから……」

 

「相場を知らなかったんだね」

 

「良いカモにされた訳か」

 

「悪質ですね、報告案件です」

 

「何か…がっかり…」

 私も加工屋の商品見てなかった

 

 

 ギルドに入ろうとすると

「ハルキ君!!」

 

「え?…教授?!」

 

「ハルキくーん!!」

 少し背が低い童顔の男が走ってくる、

丸いメガネに無精髭、学者のようなカッコ

 男同士で抱き合う気か?

 

 しかし…美しくない

 ミハエルならまだ絵面が美しくなるだろうが

 

「ガシッ!」

 

 

 ハルキが頭を掴む!

「だから抱きつくなよ教授!」

 

「ハルキ君!痛い痛い!メガネ割れる…」

 

 

 

 

 …………

 

 

 

「僕は王立古生物研究書士隊所属、

マルクと申します」

 一礼する学者、ナズナと同じ160位の身長

 

 ギルドのテーブル

 飲みながら話す

 

「何でココに居んだよ!」

 ギルドの中で話を聞く

 

「なんかさ、ドンドルマのギルマスに書類を

届けてくれって頼まれたんだ」

 ニコニコ良く笑う

 

「ハルキの学校時代の先生なんですね?」

 

「教授って割には偉そうじゃないね!」

 まだ若いようだが

 

「ハルキって本当に学校行ったんだ…」

 頭良さそうには見えない

 

「ハルキ君は優秀なんだよ?」

 笑うと本当に子供っぽい

 

「どういう勉強だったんです?」

 

「そうだね、色々あるけど一番活躍したのは

調査だね」

 指を立てる

 

「調査ってなんですか?」

 私は聞いたこと無いよ?そんな単語

 

「新種のモンスターの発見とか飛竜の卵の

状態とか、ツガイの状況とかよ」

 エミナが得意気に答える

 

「そう!外にも新種の植物の採取、

調合実験とかね」

 

「なんだかハンターの基本に近いですね、

意外です」

 

「僕の班員をまとめてくれていたのがハルキ

君なんだ」

 

「アンタがホッタラかすから俺が面倒見る

しかなかったんだぜ?」

 

「ほったらかす?」

 どういうこと

 

「この人よ、モンスター見ると一目散に

走り出すんだよ」

 ハルキは呆れている

 

「モンスターに…突っ込むの?」

 

「モンスターのスケッチするために一人で

突っ走るんだよ、その間は俺が指揮してたんだ」

 

「責任を放棄してハルキにやらせたんですね?」

 

「モンスターから何度も助けて貰ったし、

班員にもケガさせなかったんだよ」

 笑ってるが

 

「それは丸投げってやつじゃ」

 イジメっこの押し付けみたい

 イヤなこと全部私に…

 

「ハルキ君!戻って来てよ!この前班員に

ケガ人出しちゃってさ、責任とって(僕が)降格に

なっちゃうよ?」

 

「俺は卒業したしあんたが責任者だろ、

当然じゃねぇの?」

 

「なんかハルキが頼りにされてるって意外だわ」

 私と同じ19才なのに

 

「ほら、良く言うよね?上司がダメだと部下が

成長するって!」

 笑う丸メガネ

 

「それは本人が言う事じゃありませんが…」

 ミハエルが珍しく苦い顔になる

 

「ああっと!飛行船待たせたままだった!

料金加算される!」

 ドタドタとギルドを出ていく

 

「何か嵐の様な人ですね…」

「でも面白そうだよね!」

「まぁ退屈はしなかったぜ?

 次の瞬間何するかわかんねぇ人だからな」

「私ならストレスで逃げたくなるよ」

 でもハルキが頼りにされてるって…?変だよね

 

 

 …………

 

 

 

 ギルマスの部屋

 

「報告は以上です」

 ミハエルは一礼する

「むう、ご苦労じゃった」

 ベルナ村の報告を終えた

 

「のうミハエル、お前はハルキをどう思う?」

 

「どう…とは?」

 

「ハンターとして、じゃ」

 

「2ヶ月で下位をほとんど終わらせた

スピードは驚異ですが…」

 

「やはり不安定かの?」

 

「妙に勘が良い時と悪い時が」

 

「うむ、分かった」

 ミハエルが出ていく

 

「ドリスや、やられたのぉ」

 

「はい、一度探りを入れただけで逃走すると

は思いませんでした」

 一礼する、今は青いメイド一式

 

「して、資料はどうじゃ?」

 数日前のハルキの対応を聞いて不審に思い、

ドンドルマのギルマスに詳しい書類を送れと

連絡、適任者に持たせると返信があり

教授が来たのだ

 

「ハルキの戦績はギルドカードと

相違ありません」

 

「やはりネコタクばかりかの」

 

「はい、三落ちもチラホラ」

 

「ヌシを一発で見抜いた勘の良さが

解らんなぁ」

 

「強いか弱いかハッキリしません」

 

「マルク教授の話では頼りになったそう

だがのぉ、そうは思えん」

 

「それにドンドルマではワガママだった

そうですが…」

 

「そんな様子も無いしのぉ」

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

「ナズナ、お前笑うようになったな?」

 中年のハンター、オリベに話し掛けられる

 

「そうですか?」

 そんな意識はしてないが

 

「前はボソボソ何言ってるか

解らなかったぜ?」

「普通に喋るようになってるぜ?」

 

「貞◯もやめたしな!」

 ギルドに笑いが出る

 

「私、明るくなってるの?」

 やだ、嬉しいかも

 

「いや、普通になっただけだろ?

地味子だぜ?」

 ハルキが笑いながら

 

 地味子ってなによ!

 

「イジメた連中に実力みせつけて

スッキリしたんじゃない?」

 ニコニコするエミナ

 

「まぁ、私達の私情も含めてでしたけどね」

 

「あ、ミハエル、報告終わったぁ?」

 ツインテールが振り返る

 

「報告?何の?」

 

「もちろんランポス討伐絡みですよ?」

 

 

 

……………

 

 

 

「そんなやつがいるんだな」

「詐欺師か、なるほど、

田舎ばっかり狙うんだな」

「ギルドが無いから相場が解らねぇのか」

 

「どこ逃げたんだろうね」

「またギルドの無い地域か…」

「田舎にだろうな」

 

「あの、今回のクエストって…四人も必要だった?」

 今考えると何かおかしくない?教官の事とか

 

 三人が注目する

「ランポス程度に四人も必要ないですよ?」

 笑う

 

「私ら見たかったんだよ、

ナズナいじめた連中と教官」

 こちらも

 

「仕返ししたくてなw」

 

「最初から私のためだったんだね、

何でそこまで…」

 

「ナズナや」

 

「ギルドマスター…」

 

「前にワシが言った事を覚えてるかの?」

 コツコツと杖をつく

 

「何も与えない者は何も得られない

…でしょうか?」

 

「それはな、恩や義理とも言われる、

人の世に必要なモノじゃ、だがこの三人は

それを越えるモノで動いたんじゃ」

 

「越えるもの?」

 

「私はナズナが気に入ったからやったんだよ?」

 

「私もです、笑わせて貰いましたし」

 

「俺は見た目だけじゃないぜ?

心からお前を思ってるぜ?」

 

「嘘ばっかり!」

 エミナの突っ込み

「嘘じゃねぇ!」

 ギルドに笑いが起こる

 

「ナズナや、コレを『人情』とか『情』と

呼ぶんじゃ」

 

「情…」

 

「いつ得られたかお前は知らんじゃろ」

 

「いつ…?」

 私何かしたっけ?

 

「さあのぉ、一緒に笑えば情が湧くんじゃが

…ヌシは記憶がないからの」

 笑うギルマス

 

 

 

 …………

 

 

 

 頭痛い、

 起き上がるのがツライ

 

 ノロノロと動き出す

 

 とりあえず顔洗って

 

「ん?」

 何だ?この違和感

 頭の横に………

 

 

 だからなぜツインテール!?

 

 

 



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夢と目標

狩りの話しも書いておかないと、
モンハンなんだし


 

「それでは行きましょう」

 ミハエル達と組んで半月、

今日は初めてのリオレウス

 森と丘のキャンプを出る

 

「凄く恐いんだけど…」

 採取の時に偶然見たことある程度、

あんなデッカイの…

 

「大丈夫だってば、ミハエルはソロで狩れるし」

 エミナは今回は太刀の斬波刀

 

「俺もだぜ?」

 大剣を振る

 

「ハルキは確実ではないでしょう?」

 

「こんなに早くリオレウスやるなんて

思わなかったよ」

 

「ナズナは遅い位だよ?」

 

「そうなの?」

 

「たった一人で、自力で進めましたからね」

 

「戦い方教わってねぇのにな!」

 

「今までこんなに早くクエストこなした

事無いし…」

 クックを狩るなら武器と防具の為に多くの

ランポスなどを狩らねばならない

 

 補助アイテムの為に多くの採取に

行かねばならない、

 

 大きな一つの目標を達成するには

膨大な下積みが必要になる

 

 丁度ピラミッドの頂点がクック、

二段目にランポス達、

 三段目に光虫や回復薬などの採取と言う具合

 

 リオレウスなら更にピラミッドが大きくなる

 

 だけど

 

 パーティーだと下積みが少なくても

大物が狩れる

 

「…なるほど、やはりナズナさんは凄い、

建設的な思考がキチンと出来てます」

 頷く

  

「その考え方まで自分で到達してんだな!」

 

「基本だよね!」

 

「これで合ってるの?」

 

「はい、その考えに到達しない者が下位には

多いんですが…」

「なのに大物を狩ろうとしてな」

「無謀だよねぇハルキ!」

 

「どういう意味だ?」

「さあねぇ!」

 

 採取が適当だからだよ

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 4番、

 リオレウスが着地する

「くうぅっ!」

 砂粒が顔に当たる!

 目が開けられない!

 

「風圧の範囲覚えて!」

 クックより断然広い

 

「咆哮するよ!」

 ガード!衝撃が来る、

 音なのに?!

 

「尻尾!」

 高速でトゲだらけの尻尾が飛んでくる!

通過したあとに

 

「でぇい!!」

 飛び込み脚を斬る

 デカい!怖い!足の爪が恐ろしい大きさと形

 

「回避っ!」

 エミナが叫ぶ

 一回斬っただけで転がって納刀

 レウスの攻撃範囲が広いからそれが

精一杯なのに

 

「よっ!ほっ!てい!」

 エミナは2~3回平気で斬る

 

「そうらっ!」

 ハルキは中心から少し外、脚以外を斬る、

 スキあらば頭に溜め斬り

  

 ミハエルは更に外から貫通弾

 翼爪を早くも破壊する

 

「ビシッ!」

 レウスの顔の甲殻が破壊され、一瞬怯む、

 

「おぉらぁっ!!」

 更にハルキの溜め斬り

 

「グオォッ!!」

 仰け反るレウス、飛び上がって

…レウスは飛んで行く

 

 

「な…なんか…全然…斬れない」

 ゼエゼエ言う息を整える、

 ついて行けてない、皆強い

 

「クックより回転半径が大きいですからね」

「逆に脚の間はスキだらけだったりするんだよ?」

 

「エミナは…三回位…斬れるのに…」

 何で皆息切れしないの?

 

「まだレウスのスキが分かってないからな、

タイミング遅ェし、無駄に走ってるぜ?」

 

 疑問を聞く前にハルキが答えを言ってる

 

 あぁ、頭良いのかも

「ね、ねぇエミナはガード出来なくて怖くないの?」

 太刀はガード出来ないはず

 

「私の身長だとレウスの攻撃当たり難いんだよ?」

 中腰になり笑う

 

「なんかズルい」

 そんなのアリか?

 

「その代わりこっちの攻撃届きにくいから」

 太刀を上段に構える

「片手よりコレ使うんだ」

 

 なるほど、相手によって武器を変えるのか

 

 

 

 

 

 10番 森と水辺

 

 

 

 飛び上がるリオレウス

「え!ど!どうし…」

 恐い!

 

「落ち着いて!良く見て!」

 

 ナズナの方に向く…瞬間!

 

「目ェつぶれ!!!」

 ハルキが閃光玉を投げる

 

「ドザアッ!!」

「ひいいっ!!」

 墜落したレウスにビックリする

 デカイ!恐い!トゲだらけ!

 

「大丈夫です!今は攻撃されません!」

 

 四人で袋叩きにする

「ナズナ!尻尾斬れ!頭は俺だ!」

「は!はいっ!!」

 溜め斬りをするハルキ

 

「よっ!ほっ!そぉい!」

 連続して翼を斬り続けるエミナ

 

 尻尾に2~3回斬ったら立ち上がってしまった、

チャンスを生かせない

 

「ナズナ!右は水だ!そっち行くなよ?!」

 

「は!はいいっ!」

 やること多い!頭が付いて行かない!

 

 またレウスは飛んで行く

 

「なんか私、邪魔してない?」

 さっきよりは息が切れないけど…

足引っ張ってるよね

 

「そうですね…役割を理解してないだけですよ」

 一番攻撃力がある武器は弱点である頭へ、

後は味方に当てないように各部を狙う

 

「そうか…それが効率的だよね…」

 パーティーの戦い方を知らないからだ

 

「お前クックはソロで狩ってたんだよな?」

 光虫と素材玉を調合しながら

 

「うん」

 ガンナーのとき

 

「もしかして空中のモンスターが閃光で墜落

すんの知らなくねェか?」

 

「初めて見たよ」

 ビックリした

 

「え!クック落とした事ないの!?」

 

「んと、普通に投げてボウガンで…」

 ペシペシと…え?普通は知ってるの?

 

「効率の良い狩りを知らなかったんですね」

 

「モンスターの視界は分かってる?」

 

「それは流石に知ってるよ、クックに何発も

無駄に閃光投げたもん」

 その上コントロールも悪かったから、

人に言えないくらい投げましたよ

 

 

 

 

 4番

 

尻尾の回転、

ギリギリの距離で避けて飛び込む!

「でぇい!」

 二回斬ったら前転回避で向こう側に抜ける

 二回斬れた!

 

「上手いですよ!」

「タイミング合って来たぜ!」

 

「ほいっと!」

 私の攻撃を避けながらエミナは斬る

 

「ご!ごめんなさい!!」

「大丈夫!好きに攻撃して!

こっちで合わせるから!」

 

 足下で斬りつける

 

「正面には行かないでください!」

「突進にやられんぜ!!」

 

 正面から横に転がり斬る

 ミハエルに向かって突進、

 全員が余裕で回避する

 

 起き上がりを狙って走りこむ

 が、

 振り返りブレス!

 ナズナの正面!

 

 やばっ!!思わず盾を構え…

 間に合わない!!

 

 

 

「バァーン!!」

 弾ける火球、

細かい火の粉が辺りに散らばる

 

「おっしゃあ!」

 横からハルキが飛び出しガードしたんだ!

助かった!

「あ、ありがと!」

 ハルキスゴくない?!

 

「足止めんな!」

 納刀して走るハルキ

 また助けられたけど、

ハルキって戦闘中は真面目なんだ…

 

 リオレウスは飛び上がる、

 ホバリングしている

 

「閃光閃光…」

 ポーチをガサゴソ、見つからない

 

「ナズナ!!」

「ひグゥッ!」

 

 襟首を捕まれ後ろに倒された

「な、何を!」

 地面に転がり見上げる、

レウスがこちらを向いている!

 

 ヤバい!!

 

 ナズナの視界に溜めに入ったハルキと

リオレウス

 (飛び掛かり!!ダメだ!)

 

 

 信じられないモノを見る

 

 ハルキが斬り始めた瞬間、レウスが飛び掛かり

「ズダァン!!!」

「ひいいっ!!!」

 墜落?!

 

「なにそれ!?スッゲー!!」

 早くも横からエミナが斬り掛かる

「凄いですよハルキ!!」

 

「あ、あう、え…」

 状況が飲み込めない

 

「ボヤッとすんな!立て!!」

 

「はいいっ!」

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

「スゴかったねぇハルキ!!」

 

「狙ったんですか?」

 

「そろそろ怯みそうな感じがしてよ」

 へらへら笑う

 

「え?狙ったんじゃ無かったの?」

 

 帰り道、無事にリオレウス討伐を終えた

 

「あんなもん狙って出来たら世話ネェよw」

 

「失敗したらどうする気だったんです?」

 

「粉塵使ってくれるイイヤツがいるだろ?」

 ミハエルに向かってニカッと笑う

 

「まったく…」

 私を回復薬だと思ってるんでしょうか

 

「でもあんな事出来るんだね、

太刀でも行けるかな?」

 エミナが溜め斬りのマネをする

 

「ね、ねぇ、失敗してたら私はどうなったの?」

 

 一瞬三人の表情が固まると

 

 

 

「巻き込まれましたね…」

「最悪は毒と気絶だよね」

「大体狙われてたのはナズナだしな」

 

「あ、危なぁ…」

 助けられた訳じゃないのか?

 

「まぁバクチみてぇな事だし、もうやらねぇよ?」

 笑ってるが…ホントかコイツ

 

「やれないの間違いじゃない?」

 手をヒラヒラして笑う

 

「あんな事を狙って出来たら

G級レベルかもしれませんよ?」

 

 居るの?そんな人達…

 でも、ハルキの方が先に斬り始めてたんだよね…

 なんで飛び掛かるタイミングが分かるんだろ

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

「おぉ!そりゃスゲェわ!」

「俺達に出来るヤツいるか?」

「危なくてそんなリスク取らねぇわな!」

 ギルドで話すと他のハンター達も感心する

 

「大剣使う人は出来るモノなの?」

 

「私は初めて見ましたよ、上位でも

見ませんでしたね」

 

「俺は見たことあるぜ?」

 中年のハンター、名前はオリベ

 ナルガ一式で精悍な見た目、のはずだが

腹が出ていて残念

 

「誰がやってたの?」

 エミナ、一番年下でしょ?

 口の利き方ってあるよね

 

「ミナガルデにいた頃だ、

G級と組んだ時に見たんだ」

 そのハンターは溜め斬りでディアブロスの

突進まで止めたという

「怯みを計算できればやれるらしいが

…バケモンだぜ?」

 

「そんな事もできるんだ」

 大剣って、ただ大きいだけじゃないんだ

 

「ハルキ、思いつきにしては出来すぎですね?」

 横目で見る

 

「実はな、教授達と実習してる時に見たんだよ、

知らねぇハンターがやってた」

 笑いながら答える

 

「それをいきなりやったんですね?」

 あ、ちょっとムカついてる

 

「当たると思わなかったぜ!」

 

 ギルマスが奥から出てきた

「さて、ナズナよ、リオレウスまで倒したが…

どうじゃ?何か思う事はないか?」

 

「は、はい、あの…何かこう…」

 胸の前で手をモジモジとする

 何か上手くいえないけど…

 一人前になったかな…

 

「上手く言えんか?」

 

「クック倒した時みたいな何かがあるんですが…」

 

「うむ、達成感はあったようじゃの」

 

「達成感…」

 これが?

 何だか胸の中に何かがあるけど

 

「その積み重ねが自信になるんじゃがの…

所で今日は歌わんのか?」

 

「え?歌う…」

 そういえば!!

「え、エミナ、私って酔うと…」

 

「ん?ツインテールにして放牧の歌、歌うんだよ?」

 

「えっ?!」

 マジか?!

 

「なかなか上手なんですよ?」

 

「北部の民謡だよな」

「アンコールに何度も答えてよ!」

「酔っぱらってるからすぐに忘れてな!」

 

 ハルキがニヤケながら

「その上脱ぐんだぜ?」

 

「うそっ!!」

 まさか!!

 

「嘘に決まってんだろ!」

 ヒャヒャヒャと笑う

 こいつはいつもいつも!

 

「私と一緒に椅子に立って歌うんだよ」

 エミナも笑う

 

 私そんなことしてたんだ…

 

「お前は酔うと自信が出るんだのぉ」

 

 

 

 

 自信…

 自信なんて無いよ

 自身ってどんな感じ?

 強くなること?

 

「ナズナはどんな夢を持っているんじゃ?」

 

「夢?」

 

「目標でも良いがの?」

 

「目標…」

 そんなの無いよ、生きて行くためにハンター

始めただけだし

「今は…何も…」

 そんなもの持つ余裕無いし

 

「うむ、そうか…」

 戻って行くギルマス、

 なんだか寂しそうな…

 

「私、何か悪いこと言ったかな?」

 

「別に悪くないんじゃない?」

 エミナも首を傾げる

 

「多分ですが…」

 ココット村はハンター発祥の地ではあるが、

この村に永住するハンターは居ない

「ナズナさんには『ココット村のハンター』に

なって欲しいのではないでしょうか?」

 

「ココット村の…」

 そうか…何となく解る、

 村が危険になった時、『依頼』という形に

しなくても、守る人がいれば……あれ?

「それってギルマスなんじゃ…」

 

「『ココットの英雄』も老齢ですから、

後継者が欲しいんでしょう」

 

 目標か…

「あのさ、皆の目標って何?」

 

 

 

 

 

 

 




将来の夢を大人は子供に聞く
そのために必要な目標を教えようとする

でも不思議なんだ、私の周りには
夢を叶えた人が居ない
私も含めて

そんな大人が何を示せる?
失敗と後悔を教えられる


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イメージ

 

「目標ですか?」

 

「私はあるよ?」

 なぜか得意げなエミナ

 

「何?」

 

「お母さんだよ」

 

「お母さんみたいなハンターになりたいって事?」

 

「うん、とりあえずあの人は越えたい」

 

 たしかバケモノじゃ?

 

「だからハンターになったんだ、お母さんは

元上位だから私はG級目指す」

 天井を指差す

 

 母親をライバル視してるのか

 反抗期?

 

「ミハエルは?」

 

「私の場合、両親共にハンターで

身を興した人ですから」

 

「ミヲオコス?」

 何の事だか理解出来ないナズナ

 顔いっぱいに?が浮かぶ

 

「つ、つまりですね…」

 父親は貴族、母親は大金持ちの出身だが、

父親は家を飛び出し、母親は孤児になった、

 つまり金もコネも無い

 しかし縁があってガストンに拾われ、

裸一貫からハンターになり、四英雄まで

駈け上がった

 

「ちょっと待って!ミハエルって貴族なの!?」

 貴族ってたしか毎日美味しいモノ食べて、

遊んでるだけで暮らせるスゴい世界じゃ?

 

「血縁はありますが、私には家を継ぐ権利など

ありません」

 

「無いの?」

 何かがっかり…いやいや

 

「叔父が家名を継ぎましたから…その代わり自由

です、両親からは好きに生きろと言われてます、

…で、とりあえずハンターを」

 

「ミハエルも目標は無いってこと?」

 

「叔父がレールを敷きたがっていますが…」

 叔父は独身、そのためか甥っ子のミハエルを

気に掛けており、上位になったら書士隊の

総責任者にしたがっている

 

「総責任者って?」

 

 黙っていたハルキが口を挟む

「この前の教授いるだろ?あの人達のもっと上だ」

 

「それって偉い人になれるんだよね?」

 

「それはコネというやつです、使ったら両親に

申し訳もできませんし、…まぁエミナのように

言い換えれば負けた事にもなりますね」

 

「親を越えたい気持ちなんだね…?」

 

「越えたい……んー、そこまでは思いません、

さすがに四英雄までは……」

 

「そうなんだ…ハルキは?」

 

 

「モテたい!!!」

 

 腕組みしてふんぞり返る

 ギルドが爆笑に包まれる

 

「あ…あー、えーと、真面目に…」

 コイツはホントに…

 

「何だよ?真面目に答えてるだろ?」

 

 何なんだ?このド直球

 

「いや、今の意見はアリだぜ?!」

「女にモテたくてハンターやるヤツはいるんだぜ?」

 他のハンター達も同意する

 

「もうちょっとこう、別な表現とか無いの?」

 

 ハルキは首を傾げ

「女から寄って来られたい!」

 また爆笑するギルド

 

 素直ではあるんだけど…

 モテたいか…

 女のハンターってどうなんだろ?

 モテる?

 

 

 次の日

 

 

「ナズナさんには一人でクックをやって

もらいます」

 

「え!一人で?!」

 不安!自信が無い

 

「不安ですか?私も行きますよ?」

 何だ…良かった…二人で…

 

 

 二人っきり!!?

 

「はい!いきますぅ!」

 やったぁ!二人っきり!

 

「ナズナぁ、ヨダレでてるよぉ?」

 ニヤニヤするエミナ

 

「えっ?」

 

「うっそーw」

 

 口元を拭う形で固まる、やったなイジメっ娘

 

 って言うか反応する私も私だよ…

 

「エミナとハルキはどうするの?」

 

「私は加工屋に防具の相談」

「俺は武器だな」

 

 

 ココット管轄 下位 森と丘

「道具類はどうですか?」

 一応装填する

 

「閃光玉は調合分も持ってきてます」

 

「私は一切攻撃しませんし、雑魚にも手を

出しません、アドバイスだけです」

 

「はい!」

 二人っきり♪

 

 

 

 

 先ずは雑魚掃除、巣穴から重点的に

ランポスを狩って行く

「剥ぎ取らない?」

「私はしません」

 真面目だよねぇ

 

 次に3番、ここもクックが良く立ち寄る、

そして9番…いた

 

 走ってペイントだけで逃げて来るナズナ

 

 

 なるほど、地形的に不利と判断しましたね、

極端にリスクを減らすタイプ、ガンナーを

手探りでやったからですね

 

 しかし…

肥やし玉も当てれば効率が良いんですが…

 

 ナズナさんが肥やし玉を作っているのは

見たことがない…

 

 重要な道具なんですが…

 

 

 3番で暫く待つ…来た!

「でぇい!」

 風圧の範囲が狭い!

 レウスより楽に斬れる

 尻尾が回るが

「ガシュッ!」

 

 逸らして潜り込み更に斬れる

 

 モノにしましたね、クック相手なら

エミナと同じ位かもしれません

 

 

 しかし

 

「きゃあっ!!」

 啄み!四回連続でガードが崩された

「ぐううっ!」

 何とか立ち上がる

 

 さぁここからです、ナズナさんの不安点は

 

 ナズナは隣のエリアへ、ミハエルも追って行く

 

「何してるんです?」

 

「え?回復と研ぎを」

 何で注意されるの?

 

「リスクを減らす意味では正しいですが、

パーティーだと嫌われますよ?」

 

「嫌われる?」

 意味が分からない

 

「戦力にならないと思われます」

 

「だけど…」

 危ないじゃん

 

「以前に質問しようと思っていたんですが、

ガンナーの時、リロードをどうやっていました?」

 

「え?…隣のエリアで…」

 

 やはり!

「エリアの境界から撃っていましたね?」

 表情が厳しくなる

 

「うん」

 安全でしょ?何がダメ?

 

 これだ、

一人で怖がるあまりリスクを極端に減らした

 

 結果長距離からダメージの無い攻撃をしたし、

視界も理解できていない

 

 ソロなら正解でも、

 パーティーなら不正解

 

「ハンターを続けるなら、これから教える事を

真面目に聞いてください」

 

 ミハエルの表情と言葉の厳しさにナズナは

ちょっと後悔する

 

 二人きりで浮わついてた

 

 そうだよ、狩りの間は真面目なんだよ

 

 

「クックの突進を想像して下さい」

 ナズナとスレ違う様に歩くミハエル

「ナズナさんは回復したい、さぁどうします?」

 

 ナズナは振り返りミハエルを見た後、

回復薬を飲むマネをする

 

「それです!」

 

「これ?」

 

「ブルファンゴの振り返りの話を覚えてますか?」

 

「何秒掛かるかの話?」

 

「そうです」

 自分の横を通り過ぎたモンスター、

その後立ち上がり、目標を定め、攻撃する

 

 自分の視界から出たら数秒はは安全

 その間に回復するし熟練すれば研ぐ事さえ出来る

 

「え?そんなに余裕なの?」

 恐くない?

 

「そうです、ナズナさんは振り返り、モンスター

が立ち上がるまで確認してから回復してます」

 

「私…そうなの?」

 

「試して見てください」

 

 

 …………

 

 

 

 クックが通り過ぎる

「グビッ」

 飲んでから振り返る

 

「あっ!!」

 クックがもう一度突進を始め、こちらに来る

 回避が間に合う!!

 皆こんなタイミングで回復してたんだ!!

 

「じゃあ今度は!」

 思い切って研いでみる

 

「な!?ナズナさん!!」

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

 あれ?…なんだ?…この懐かしい感じ…

 

 

 遠くに感じる騒音と…振動…

 

 

 

 

「ドザァ!」

「ふぎゃっ!!」

 ネコタクから放り出されるナズナ、

にゃあにゃあ走って行く

 

「いっ…たぁい」

 久しぶりの感覚、多分クックの攻撃を

後ろからマトモに受けた

 

 ミハエルが走って来た

「無茶しましたね」

 転がっているナズナの顔を膝まづいて覗き込む

 

「まだ私には早いみたい」

 やだ、顔近い…

 木漏れ日の中でキラキラするミハエル

 

 …ってダメダメ、浮わついちゃ

 

 

 

「今回の事を何度も考えて下さい」

 

「何度も?」

 

「自分の隙を減らすんです」

 

 ???

 

 

 

 ………

 

 

 

 ギルマスの部屋

「何?…なんですか?用って?」

 エミナが首を傾げる

 敬語に言い直す位には社会性が出来てきた

 

「エミナよ、率直にハルキをどう思う?」

 

「バカ」

 

 ギルマスが疲れた顔になる

 

「そうではなくてな、勘が良いとかあるだろう?」

 ドリスが厳しい口調で聞く

 

 少し考えると

「時々スゴく強いけどバカだよ?」

 

「うむ…たとえばじゃ、どんな時がバカなんじゃ?」

 

「採取が適当だったり、

変なタイミングで斬り込んだり…」

 

「しかしリオレウス戦での話を聞く限りでは、

大技をやったらしいのぉ?」

 

「あれスゴかったw私も大剣やりたくなったもん!」

 

「では質問を変えよう、ハルキはパーティーに

必要だとおもうかの?」

 

「……………?」

 考え込むエミナ

 

 

「必要…ん…?…必要」

 

「それはなぜかの?」

 

 

「あいつは…あれ?…なんでだろ?」

 

 

 なぜだ?なぜ必要なんだ?

 

 

 自分でも分からない

 

 

 あれ?

 

 

 あれ?

 

 

 …………

 

 

 

 

 無事に?狩りを終える

 初めて剣士でソロで狩れた

 私って凄い!

 

「もしかしてだけど」

 

「なんです?」

 

「皆は通り過ぎてからじゃなくて…」

 

 ミハエルが何かを待つ様な顔になる

 

「突進が始まった時には飲みはじめてる…かな?」

 

「正解です!自分の隙とモンスターの隙を

理解する事です」

 笑顔のミハエル

「正確にそれらが計算できればリオレウス相手に

肉を食べたり、凄い人は肉を焼いたりするそう

ですよ?」

 

 もう変人の領域じゃない?

 

「私の両親も出来たそうですから」

 

 あっぶなぁ、口に出すとこだった

 

「後は視界ですね」

 

「視界?」

 

「視界の外は見えてますか?」

 

 何言ってんの?見えるわけないじゃん

 

 ナズナが首を傾げる

 

 

「イメージして下さい」

 

 

 

 …………

 

 

 

 

「何だ?ナズナは見えてねぇのか?」

 オリベがジョッキを置く

 

「皆さん見えてるんですか?」

 ナズナの周りに人だかり

 

 今ギルドにはドリス、エミナ、ナズナしか

女性は居ない

 

 事務的なドリス、子供のエミナ

 

 当然ナズナにオッサン達は寄って来る、

しかしナズナ自身には自覚が無い

 

「下位は見えネェの居るらしいな?」

「全員が見えてるぜ?」

「イメージすんだよ」

 

「イメージ?」

 それが分からない

 

「せっかく基礎材料があるのに、それを

繋げられないんですね」

 ミハエルが説明する

 地形とモンスター、そして自分の位置と状態を

イメージ出来れば、レベルは飛躍的に上がる

 

「どうすればいいの?」

 

「じゃあさ、このギルドを上から見て」

 エミナが上を指す

 

「上?」

 ナズナも指差す

 

「そうじゃねぇよ、上から見下ろすイメージだ」

 ハルキも

 

 ナズナは目を閉じる

 

 見下ろす…四角い広い部屋

 

 テーブル…自分…皆

 イメージは出来る

「皆こんな事考えて狩りしてるの?」

 

「逆に考えないで狩りしてるお前が不思議だぜ?」

「挫折するヤツは大体そうだぜ?」

「俺の昔の弟子に居たなぁ」

「下位で止まるヤツは後ろが見えてねぇからな」

 ワイワイ騒ぐ

 

「課題が見えましたね、ハンターを

続けるなら必要です」

 

 イメージか…後ろのイメージ

 

そしてこれからのイメージ…

 

 




オンにいると
『後ろに目が付いてる』
ような人を見る、
何時間やったらあぁなるんだろ


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中心

 

 時々凄い

 妙に勘が良い

 バカ

 変なタイミング

 採取しない

 三落ち多数

 

 そしてあの鋭さ

 

「うむぅ…」

 書類を見るギルマス

 

「ドンドルマへ報告できませんね」

 いつも通り直立のドリス

 

「確かに解らん、こんなヤツは今までおらんのぉ」

 杖で床をコツコツと突く

「今度はナズナに聞いてみようかの?」

 まだまだ素人だし当てには出来んが

 

「でしたら…」

 

 

 

 

 …………

 

「ハルキと二人で?」

 ちょっと不安なんだけど?

 雄に比べれば弱いらしいけど

 

「そうだ」

 ドリスに依頼を伝えられる、

 討伐対象はリオレイア

 

「何だ?コイツらは参加できねぇの?」

 ハルキが親指で後ろの二人を指差す

 

「二人には別件の仕事をしてもらう」

 

「なに?別件って?」

「ギルドからの依頼…ですか?」

 

「近隣の村からモノブロス出現の報告があった」

 

「来たぁ!!」

「待ってたぜぇ!!」

「早速準備だ!!」

「クジ引きか?!」

 ギルド中が大騒ぎ

 

「静かにっ!!」

 ドリスの一喝で静まると

 

「報告が曖昧でな、はっきりとモノブロスとは

言い難い、ディアブロスである可能性がある」

 

「なんだよ…」

「空振りか…」

「ずっと待ってんのになぁ」

 今度はギルド中がガッカリしている

 

「何?どうなってるの?」

 ナズナはキョロキョロ

 

「お前…まさかモノブロス知らねぇの?」

「それはハンターとして知っておかないと

いけませんね…」

「カッコつかないよね」

 

 何の事?

 

 

 ココット管轄 下位 沼地

 北側に広い草原がある、旧沼地と違い洞窟が

大きい、泥濘を歩く

 

「モノブロスって?」

「あー、教えてやるよ」

 かつてこの大陸中を旅して歩いた四人の竜人、

四大英雄、そのリーダーがココット

 

「ギルマスね?」

「そうだ」

 ココットの妻がモノブロスに殺された、

ココットは仇を取るため一人で立ち向かった。

 現在はそれにならって一人でモノブロスに

立ち向かうのが礼儀とされている

 

「礼儀?」

 

「っつーか儀式だな、これをやれば英雄に並ぶ、

そんな意味なんだろ?」

 

「じゃあ他の人達はそのために?」

 地元出身のハンターは居ないらしい

 

「上位の人達は大体モノブロスが目的で

来てるだろ?ココットで育ったハンターは

少ねぇ…だからさ」

 意味ありげにナズナを見る

 

「だから?…何?」

 何その視線

 

「ココットでハンター始めるヤツが

少ねぇんだよ、だからナズナに期待

してんじゃねぇの?」

 

「私期待されてるの?」

 弱いよ?私

 

「『ココット出身』って言えるハンターが

久しぶりなんだろうよ」

 

 ココット…生まれはベルナだけど…

 ハンターはココットか?

 

 

 

 

 …………

 

 ココット管轄 旧砂漠

 砂混じりの風が吹く暑いエリア

 

「見つけても手を出せないのは残念です」

 

「様子見位ならいいんじゃない?」

 

 モノブロスを探す二人

 砂に足を取られる

「自分を高めるためには避けて通れないですね」

 

「私もいつか狩らなきゃならないヤツだし」

 

「ですが見つけても二人では…」

 

「あ、そうか!ソロにならない!」

 エミナはガッカリする

「なぁんだ、期待しちゃった」

 

「狩る訳には行きませんね」

 その辺も含めて二人にしたんですね…

さすがドリスさん、抜け目無い

 

 私達がソロなら確実に手を出してます

 

 

 

 

 砂漠の真ん中を砂埃が走る!

 

「エミナ!」

「オッケー!」

 二人とも地面に伏せて様子を見る

 砂が熱いが我慢する

 

 

 

 

 

 …………

 

「ガスッ!!」

「ぐうぅっ!」

 

「ナズナ!」

 

 突進を食らって転がる

 

「待て!寝てろ!」

 真上をレイアが通過する、なぜか踏まれない

 漸く起き上がる

 

 回復薬を持つと

「こっち来い!!」

 ハルキの方へ走る、明後日の方へブレスを

撃つレイア、その横で余裕を持って回復

 

 ハルキの指示通りにすると全部余裕になる

 

「三回突進するのね?!!」

 イメージ出来た!

 イメージの意味が理解出来た!

 上から見下ろす感覚

 

「だから陸の女王だ!!」

 

 三連ブレス!

「ナズナ!横!」

 回避して射線から出るが、ハルキは避けながら

前へ走る!

 

「うおらぁっ!!」

 頭に抜刀斬り!

 

「凄い!」

 横から足を斬りに行く

 

「馴れよ馴れ!!」

 こっちは更に斬り上げる

 

 

 

 ……………

 

 砂が盛り上がった次の瞬間、

現れたのは二本の角

 

「空振りですねぇ…」

「うっわぁ残念…」

 

 ディアブロスが砂から飛び出しサボテンを

食べている

 

「見たかったのになぁ…」

「私もですよ」

 立ち上がり眺める、

 任務終了だ。

 

 

「…ねぇミハエル」

 横目でミハエルを見上げるエミナ

 

「なんです?エミナ?」

 横目でエミナを見下ろすミハエル

 

 

「準備って…してきてる?」

 笑う

 

「私は常にしてますよ?」

 こっちも笑う

 

 

「……様子見だよね?」

 

「様子見ですねぇ…」

 

 

 

 

 間

 

 

 

 

 

 向かい合ってニヤリと笑う

 

 

「「そーゆー事で!!」」

 二人で飛び出す

 

 

 

 

 ……………

 

「ナズナ!!」

「ひぐぅっ!!」

 襟首を掴み後ろへ倒された

 飛び上がったレイアの尻尾から紫の毒が滴る

 

「これがサマーソルト!?」

「そうだ!レイアの大技だ!」

 ハルキは溜める

「その代わり無防備だ!」

 

 着地寸前の尻尾へ溜め斬り

「ズダァン!!」

 

「落ちたぁ!」

 尻尾に斬り掛かる、ハルキは頭に更に溜め斬り

 

 

「そろそろ切れるぜ!」

 言った瞬間、突然レイアがジャンプ、

ナズナは思わず目を瞑ってしまったが

 

「おい!切れたぜ!」

 ハルキの声で目を開ける

 遠くに着地したレイアと…

 

 何だ?これは?

 

 緑色したトゲの塊が落ちている、尻尾が斬れる

とは聞いていたが根元からじゃなく先端か…

 

 それに…

 

「ボケッとすんなっ!」

「は、はいいっっ!!」

 

 血が出てない断面が…なんだか…

美味しそうなんですけど!

 

「サマーソルトの予備動作覚えろ!!」

 予備動作って何?!

 

 

 

 

 レイアは脚を引き摺り飛んで行く

 

「ハルキ、予備動作って何?」

 

「サマーソルトの前に後ろに下がるだろ?あれだ」

 二歩下がるハルキ

 

「何かさ、陸の女王って割には…」

 

 ハルキはニヤッとすると

「空中戦もやるんだぜw」

 

「レウスはホバリングしたけどレイアは?」

 

「やる!上位やG級は

ホバリングで追いかけて来る!」

 

「こわぁ…」

 こっちの方が怖くない?

 

「けどよ、閃光使うとな?」

 

「落ちるね…あれ?!今日閃光使ってなくない?!」

 安全に狩れないじゃん

 

「あればっかしじゃ勉強にならねぇだろ?」

 へらへら笑う

 

「勉強?」

 

「お前の勉強」

 急に真面目な顔になる、

 ドキッとするぞ?

 

 

 暫く歩き、別のエリアへ

 レイアが寝ている…真ん中で

 

「何でこんなとこで…」

 無防備すぎない?

 

「巣穴がねぇし…

モンスターの考える事は解らねえよ」

 頭に溜め斬りするハルキ

 

 

 

 帰り道

 無事に討伐成功

 

「ハルキはただモテたいだけで

ハンター続けるの?」

 さすがに無理じゃない?

 

「俺のオヤジ知ってるか?」

 

「四英雄よね?」

 

「その中でも最強って言われててな?」

 30才近くからハンターになり、

たった2年で頂点まで駈け上がった

 

「2年で行けるモノなの?」

 

「バカ言うな、G級になるのさえ早くて

6、7年は掛かるって言われてんだぜ?」

 

 歩きながら頭の後ろで腕を組む

「そんなバケモノと比べられてもな、

子供の頃は目標だった」

 

「今は変わったのね?」

 無理…だよね…そんなバケモノ

 

「俺には無理だ、諦めたんだ、だからイイん

じゃね?立派な目標なんか無くてもよ?」

 

 親が有名だと色々楽なんだとばかり思ってた

 

 違う…

 皆苦労してきたんだ…

 

 

 あれ?

 

 

 いつの間にかエミナが居なくても喋ってる

 

 

 私平気で喋ってる

 

 

 いつからだろう

 こんなに平気で喋ってるのは

 

 

 そうだ、エミナ達に出会ってから人が

怖くなくなった

 

 まだ目を見て話すのは辛いけど

 

 男の人とさえ話せる…

 

 

 

「どうした?」

 顔を覗き込む

 

「う、え、なんでもない」

 ビクッとすると

 

「思った事は言えよ?意思表示しねぇから

イジメられんだぜ?」

 

「ぐっ…」

 ちょっと見直してたのに…

 コイツは私の中にズカズカ入り込む

 

「キズつくのもキズ付けられるのも当たり前

なんだよ、他人が集まってりゃあな」

 

 

 

 ぜんぶ見透かしてるように言わないでよ

 

 

 

 無言になってしまう二人

 

 

 

 ギルドに入る

 なんだか騒がしい

 

「えっ?エミナ?!」

 その姿に驚くナズナ

 

「あ…おかえり…」

 右手を上げるが…左手は包帯を巻いて

首から下げている

 

「お前どうしたんだ?!」

 ハルキは駆け寄る

 

「ヘマやっちゃったぁ…」

 力無く笑う

 

「私が付いていながら…面目ありません…」

 ミハエルも下を向く

 

「ミハエル!どうなってんだ!

お前がいながら!!」

 掴み掛かる勢い

 

「少々変則的な事態でな」

 ドリスが来た

 

「変則的だぁ?」

 ドリスに顔を向けるが…

 ハルキ凄い怒ってる、

 エミナが好きだから?

 

「報告が曖昧なはずだ、2頭いたんだ」

 ドリスは動揺する事無く事務的に答える

 

「縄張り争いに巻き込まれました」

 良く見ればミハエルも砂だらけ

 

「縄張り争い?」

 

 

 ……………

 

「それじゃ一つの狩場に?」

 

「そうです、ディアブロスとモノブロスが…」

 

「私さぁ、ディアブロス初めてだから

様子見ながら斬ってたら、下から…」

 うつ向くエミナ

 

「こいつぁ上位の2頭クエストだよな?」

「モンスターの都合だしなぁ」

「どうしたもんだ?」

 オリベ達も落ち着かないが

 

「一方が出て行き次第、クエストを確定するべき

でしょうか?」

 ドリスはギルマスに聞く

 

「うむ、皆が待っていたモノブロスだからの、

ディアが出て行けば良いが…」

 パイプを吹かす

 この『儀式』はモノブロスと一騎討ちが

慣例になっている、2頭クエストでは…

 

 

 

「私…もう休むね」

 エミナが出ていく

 

 掛ける言葉が見付からない

 

 ミハエルは座ったまま動かない

 

 何も言えない、慰めも助言も出来ない、

笑わせる事も…

 

 私ってなんだろう…役立たず?

 

 気分が沈んだら…

 

 ヘコんだ時は…

 

 どうすればいいんだ?

 

 

 …ん?

 ハルキの姿が無い

「あれ?ハルキは?」

 

「さっき外へ行きました」

 

 

 

 

「ハルキ」

 

 外のテーブルに居た

「何だ?」

 

「あ、あのさ、エミナ、腕折ったみたいだし

…明日…何て言ったら…」

 コイツなら何か空気を変える方法を…

 

「何も言えねぇよ、また目標が遠くなった

だろうしな」

 上を向く

 

「?」

 

「エミナの目標だ」

 

「もしかして…お母さん?」

 

「そうだ」

 

「何かライバル視してるよね?」

 反抗期的な

 

「そうじゃねぇよ、あれは憧れてんだ」

 

「憧れ?」

 

「母親の話聞いたろ?」

 ドンドルマでいきなりソロでレウスを10頭、

その上半年で上位になった

 

「凄い人だよね」

 

「エミナはよ、俺と違ってまだ諦めてねぇんだ、

だから叶えてやりたかったけどな」

 

 あれ?

 いつもバカっぽいけど…

 コイツって優しくない?

 なんかいつも仲間の事思ってない?

 

 遠慮無しに何でも言うけど…

 

「ナズナや」

 ギルマスに呼ばれた

「ちょっと来い」

 手招きされる

 

 

 ギルマスの部屋

 

 すっごい緊張する

 もちろん初めて入った、

 キョロキョロするが、なんだか質素…

 

「さて、お前はハルキをどう思う?」

 

 え?どうって?

 バカだしカッコ良くないし…

 

 だけどワイルドな感じか?

 

 子供っぽい人がタイプの人ならイイのかも…

 

「タイプじゃありません」

 

 ギルマスが疲れた顔になる

 

「そうではない、ハンターとして、だ」

 ドリスに注意される

 なんだかドリスも疲れた顔

 

 うわぁ!恥ずかしい!

 私何言ってんだろ

「んーと…」

 

 あれ?

 

 私っていつも助けられてない?

 

 危ない所で…

 いっつもハルキが…

 

 いつから?…クックの時から?

 

 首の後ろを擦る、

 乱暴だし言い方も荒いけど…

 

 

 

 

「どうしたんじゃ?」

 長考している

 

 

 

 

「あの…凄い頼りになると…」

 

「うむ、率直にハルキはパーティーに必要かの?」

 

「絶対に必要…ん?」

 

「どうした?」

 

「あの、…もしかしたらなんですけど…」

 

「なんじゃ?」

 

 

 

 

「ハルキがパーティーの中心な気が…」

 ミハエルだと思ってたけど…

 




今まで会った人達にこういうタイプの
人はいた、
その忠告を素直に聞けなかった過去の自分

今はそれを後悔している

後悔出来るだけ成長した


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ハルキ

 

「むうっ?!」

 

「?、どうしました?」

 

 ギルマスの部屋、何かを思い付く

 

「ドリスや、ナズナの戦歴を」

 

 言われるままに書類を出す

 

「それとこの前の書類を」

 

「はい」

 

 考えるギルマス、机に書類を並べる

 

 

 

「…これは…まさか!」

 書類を手に固まるギルマス

 

「どうしました?」

 

 

 

 

 …………

 

 どうしよう、どんな顔してギルドに

行けば良いんだろう

 

 エミナにどんな態度で…

 なんて言えば…

 

 小屋を出ると

 

「あー、やっと起きた」

「エミナ!」

 

 笑いながらエミナがソコにいる、

左腕は吊ったまま

「遅いから起こしに来たんだよ?」

 

 無言で立ち尽くすと

 

「……ふぅえぇぇ…」

「え!何で泣くの?」

 エミナの…年下の前で棒立ちで泣いてしまう

 慰めるどころかこっちが救われる、

ずっと掛ける言葉を考えてたのに

 

 背中をポンポンされる、

 エミナって…私にとってお姉ちゃんみたい

 

 

 ギルドに入ると

 

「おせーぞ」

「ようやく起きましたか」

 普段通りの二人がいる

 エミナに気を使ってる様子もない

 ちょっと戸惑うが

 

「さて、今日から狩りの方針に

変更が必要かと」

 そりゃそうだ…ってエミナは休まないの?

 

「私レウス一式出来たし、今はないかな」

 笑うエミナ

 

「誰か必要な素材あるか?」

 

「あの、エミナはケガしてるし…休むとか…」

 

「本人が休む気は無いようです」

 ニコッと笑う

 

「休まないよ?これ位で」

 こちらも

 

 いや、これ位?骨折してるよ?

 

「暗くなってるかと思ったぜ?」

 

「こんな事でヘコンでられないもん」

 笑う

 

 こっちが救われる

 

 いや、もしかして…

 

 …気を使われてる?

 

「ナズナのクエスト進めるか?」

 

「ギルマスに聞いてみますか」

 

 カウンターへ行くと

 

「ハルキ、ギルドマスターがお呼びだ」

 

 

 

 …………

 

「来たか…」

 椅子に座ったまま振り返るギルマス

 

 何かを感じ取ると

「……あー…バレた感じだな?」

 頭を掻くハルキ

 

「驚いたぞ?」

 

「失礼します」

 ドリスが入って来る

 まるで果たし合いの様な空気に身構える

「何事ですか?」

 にらみ合い…ではないが…

 

「…まったく…解らぬはずだ、

気付かぬはずだ」

 

「何が…でしょうか?」

 ハルキに視線を向けたまま聞くドリス

 

「元来ハンターは犯罪者が多かった、

自分を大きく強く見せようとする者

ばっかりじゃった」

 

 ハルキは笑っている

 

「弱いフリをするヤツは…恐らく

前例があるまいよ」

 

「弱くっ?!」

 ドリスは驚く

 

「弟も気付けんはずじゃ…なぜかの?」

 

「…理由は…いくつかあるんだけどよ…」

 腕組みすると

「一つはミハエルだ」

 

「ミハエル?」

 ギルマスは片眉を吊り上げる

 

「俺が学校行っちまった後、あいつはハンター

頑張ったんだ、5年もな」

 間を置くと

「なのに…五年もやったのに

…まだあの程度だからな」

 

「お前はミハエルをそう言えるのか!?」

 下位が上位をあの程度と?!

 

「あぁ、まだ全体が見えてねぇからな

…なんつーか出来の悪い弟だ…もう一つは…」

 舌打ちして言い辛そうにすると

「母ちゃんだ」

 ため息混じりで

 

「ベッキー…か?」

 ドリスの空気が普段に戻る

 

 強ぇハンター、それこそG級になれば困難な

クエストもやらなきゃならねぇ、

それは心配させちまう

 

 だったらよ?そこそこのハンターなら

心配させずに普通に稼げる

「だからよ、イイんじゃね?

俺はフザケたハンターで」

 笑う

 

「ベッキーは知っているのか?」

 険しい顔のドリス

 

「知らねぇ…ドリスさん、

親が泣く姿って見たことあるか?」

 

「無いが…」

 

「たまにな、一人で泣いてんだ、

父ちゃん思い出してんだろうよ」

 

「それでか…」

 

「俺はミハエルより弱くて平凡なハンター

であるべきだろ?」

 

「しかしなぁ、それほどの才能、

埋もれさせるのはなぁ、お前は四英雄さえ

目指せるだろうにのぉ」

 

「オヤジはその『四英雄』の名前に殺された

ようなもんだろ?」

 ハルキは勝手に出ていく

 

「うむぅ…」

 頭を抱えるギルマス

 

「なぜ弱いフリを見抜かれたのですか?」

 

「これを見よ」

 ドンドルマの戦歴とナズナのパーティーの戦歴

 

「これが…?」

 首を傾げる

 

「解らんよな?」

 

「はい…」

 パラパラページを捲る、

 不自然な所など見当たらない

 

「そう、一見解らん、だがな…」

 書類を捲ると

「ハルキ『以外』の記録を見ろ、

キャンプ送りになっとらん」

 

「は…?」

 ドリスも書類を捲る、ハルキがネコタクを

使った記録はあるが…唖然とする

 

「ミハエルもエミナも…その他のメンバーさえ

…ハルキとパーティーを組んだ者は…誰一人もな」

 立ち上がり杖をコツコツ鳴らす

 

「1度も落ちていない…」

 捲る手が震えるドリス

「これは…こんな事が!」

 

「父親以上のバケモノかも知れん、

ハルキはパーティー全体を守れる男じゃ、

教授の言っていた意味がようやく解ったわい」

 

「そんなハンターはG級にさえ…」

 いないぞ!そんなこと出来るヤツは!

 ソロ以上の難易度じゃないか!

 

「何とかせねばならん!」

 カンッ!と杖をならす

 

 

 

 ……………

 

 二十数年前

「あやつを四英雄にじゃと?」

 竜人ココット、現在とあまり変わらない

 

「そうだ」

 腕組みするガストン

 

「たしかに最速記録ではあるがの、

下積みが足らんぞ?」

 ソロでクシャルを倒した程度で…

 

「確かにな、でもよ、力はあるぜ?」

 

「お前よりか?」

 

「なんつーかな…上手く言えねぇが…」

 ボリボリ頭を掻くと、

 俺は攻撃だ、とにかく叩き潰すが…

ナナキはよ、最適なタイミングで

最高の一撃を入れる…

「多分天才ってヤツだろうよ」

 

「タイプは違うがそれほど強いんじゃな?

お前が認めるほどに…」

 

「モンスターの動きなんざ一回見たら

覚えるしな、ナナキが同じ攻撃食らう

ところは見たことネェよ」

 

 …………

 

 

 

「カエルの子はカエル…いや、

天才の子はバケモノかも知れん…」

 

 

 

 ………………

 

 ココット管轄 密林

 

 これがダイミョウザザミ…

 赤白のストライプで他のモンスターと比べると、

何だかカワイイ仕草…

 

 

 ザザミがジャンプする

「ナズナ!」

「影見て!」

「回避です!」

「ドカンッ!!」

 着地するザザミと

 

「ぶばらぁっ!!」

 余波で泥を被り、吐き出すナズナ

 全っ然カワイくない!!

 

「大丈夫!?」

 エミナは回避しながら器用に喋る

 

「平気!」

 ペッと泥を吐く、訓練で何度も砂噛んで

味も平気だし…

 

 私って一応年頃の女だけどこれで良いのか?

 

「爪と殻は攻撃すんなよ!弾かれるぜ!」

 ハルキが指示するが、このモンスター

前後左右に動きすぎる

 

「何か狙った所斬れない!」

 弾かれまくる!

 コイツ体の向きを変えるのが早いんだ

 

「クック系と違います!馴れて下さい!」

 その指示無茶じゃない?!

 

 器用に貫通弾を殻から頭に撃っている、

高さがあるからこっちを気にせず連続で

 

「エミナ!どうだ!?」

 

「ちょっとキツイ!」

 

「ミハエル!一旦退くぞ!」

 

 

 

 隣のエリア

「疲れましたか?」

 貫通弾を調合する

 

「右手ばっかりだからね」

 軽く右腕を振る、左腕は体に縛っている

 だから盾は持っていない

 

 そうか、回避に使う腕も右手一本…あ!

「今は右側にしか回避できないとか?」

 

「うん、正面までは何とかなるけど

左はちょっと不安だよ?」

 

「さて、と言うことは?」

 ミハエルが意味ありげに見てくる

 

「私も合わせて右に…」

 

「正解です、お互いにフォロー出来るように

やりましょう」

 

 パーティーってこういうことか

 

「エミナ、腕出せ」

 ハルキが薬草をクーラードリンクに浸けて

右腕に貼る、上から手甲で固定

 

「あ、これ楽かも!」

 腕かひんやりする

 

「なぜクーラードリンクがあるんです?」

 

「間違えて持ってきた」

 へらへら笑う

 

「こんな方法良く知ってるね」

 ちょっと見直した

 

「教授の顔に貼った事があってなw」

 

「顔に?」

 あの人懐こい丸メガネ

 

「クックの尻尾で叩かれて…

死にかけた時だった…か?…」

 指折り数える、あの人そんなに危ない目に

あってるのか…

 

「懲りない人なんですねぇ」

 

「モンスターが大好きだからな、変人だぜw」

 

 

 ……………

 

 

「ビシッ!」

 背中の殻にヒビが入る

 

「もう少しです!」

「おうよ!角いくぜ!」

「ナズナ!」

「解った!」

 ナズナは痺れ罠を仕掛ける、

 キラキラした粉が罠から出ている

 

「皆こっちへ!」

 ザザミと反対側で誘導する、

 罠を踏み、痺れた

 

「おっしゃあ!」

 殻に溜め斬り、折れる角

 

「ナズナ!頭だよ!」

「は、はい!」

 そうか、今回はハルキが殻へ、

頭は違う人が担当するのか

 

 部位破壊をやる時は威力のある武器が

ソコに行くのか

 

 罠が限界、壊れると

 

「水だ!!」

 は?何の事?

 その声の一瞬後に、水を吐きながら

横歩きするカニ

 

「ぶぇえっ!!」

 水圧に吹き飛ぶ

 今度は水かい!!

 

 ダメージは少ないけど、

 なんか隙が無いよこのカニ

 

 起き上がり斬る、斬り続ける

「ぜはぁっ!」

 思い切り息を吸う、私動けてる、

いつもより長く

 

 体力が付いてきてるんだ

 ドスランポスの時を思い出す、

思うように体が動かなかったあの時を

 

 私は強くなってる!!

 

「ナズナ!」

「影見て!」

「回避です!」

「ドカンッ!!」

「ぶばらぁっ!」

 

 

 …………

 

 でっかい爪…ナズナが撫でる

 討伐成功

 

「ナズナ、ほらよ!」

「わっ!とっ!え?!」

 角を投げられ何とか受けとる、

このデカさの割には軽い、

 爪で弾くと金属みたいなのに

 

「うまくいったね」

 右腕を軽く振る

 

「休憩を入れながらなら体力的にもいけますね?」

 エミナの腕を見る

 

「回避の練習には丁度良かったな、

ナズナにもモノブロス見せられたし」

 

「え?モノブロス?」

 

 三人がこちらを見たあと揃って指差す

「この背中の殻がモノブロスの頭殻ですよ?」

「なんだ?気付いてなかったのか?」

「頭に見えなかったの?」

 

「うわ、私って鈍い」

 ホントだ、これ頭だよ…って

 

「こんなに大きいの?」

 なんかサイズがおかしくないか?

「老衰まで生存した個体でしょうから」

「長生きしたヤツなんだよ?」

「ザザミじゃモノブロスに勝てねぇから、

死んだヤツの頭を利用すんだよ」

 

「あ、もしかして私に見せるために

ザザミのクエスト…」

 

「そうですよ」

「当たりで良かったよね!」

「ディアブロスの時もあるからな」

 

 なんだかんだ言っても優しいんだよね、

この人達は

 

 ココットに来て良かった

 

 ベルナから出なかったらずっとイジメられて、

ずっと恨んでたかも…

 

 出会えた事が嬉しい

 

 

「しかし被弾が多すぎますから…」

「動きに付いて行けてないからね」

「また訓練再開すっか?」

 

「またぁ?」

 

 優しい…よね?

 

 

 

 



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仲間?

 

「俺だ!」

「俺が行く!」

「ワシはずっと待ってたんじゃ!」

 

 ナズナ達が帰るとギルドが騒がしい

 

「…どうやらモノブロスのクエストが…」

「確定したみたいね!」

「ミハエル、お前はどうすんだ?」

 

「え?ミハエルやるの?」

 

「上位だから私にも参加権利はありますが…」

 

「何かダメなの?」

 

「叔父さんにバレちゃうもんね!」

 ニヤッと笑うエミナ

 

「そうだよな、英雄の試練の成功者に

なっちまったら、流石に隠せねぇか」

 

 

「皆、待たせたな」

 奥からギルドマスターが現れた、全員が注目する

 

「希望者が多いため、くじ引きとする!」

 ドリスの言葉に歓声が上がる

 

 

 

 ……………

 

 ギルマスの部屋

 

「ミハエルは参加しなかったなぁ」

 机でパイプを吹かす

 

「摂政に隠せなくなるとか」

 いつも通りビシッと直立

 

「ルキウス殿か…しかしミハエルが

上を目指してくれんと…」

 

「ハルキが実力を出さない…ですか」

 

「何とかならんもんかの」

 

 

 

 

 

 

 …………

 

「えっ?!村から移動?!」

 テーブルで話す四人

 

「なぜかギルマスから言われまして…

ドンドルマへ戻っても良いと」

 

「ここで上目指しても良いんじゃない?」

 エミナが天井を指差す

 

「上ってなぁ、ミハエルお前はどうすんだ?

今のままで良いのか?」

 

「上を目指すなら叔父の話を完全に断らな

ければなりませんが…」

 

「偉い人だっけ?」

 セッショウとかいう

 

「はい…難しいんですよ」

 

「権力者だもんなぁ」

 上を向くハルキ

 

「そんなに偉いの?セッショウって」

 ナズナには馴染みがない単語

 

「ナズナ、摂政って何か知ってるか?」

 首を傾げながらハルキが聞く

 

「村長みたいな…人?」

 

 三人が困った顔になる

 

「シュレイド国は知ってますよね?」

 さすがに知っている、南に1日位歩くと

セキショ?とかいう所があって、

その先の土地だ

 頷くと

 

「その国内を動かしている人なんです」

 

 話振りからすると、でっかい村の偉い人…

 

「絶対解ってねぇよコレ!」

 私の顔を見て笑う

 …バカにされてる、それだけは解るぞハルキ

 

「ねぇ、王都って行った事ある?」

 エミナが身を乗り出す

 

 ナズナはもちろん無い

 

 ミハエルは当然ある

 

 ハルキは…

「あるに決まってんだろ?

学校は王都にあるんだぜ?」

 

「私の腕治るまで時間掛かるし、

王都回っても良くない?」

 エミナが意味ありげにミハエルを見る

 

「…叔父と交渉しろと?」

 ジト目で

 

「だって私はG級行くんだよ?

ミハエルが止まってたら気ぃ使うもんw」

 

 

「そうですね…避けては通れない事ですが…」

 いつかはやらねばならない叔父との交渉…

 先延ばしは…

 

「両親に口添えしてもらうしかねぇな」

 

 

 

 

「ワシも口添えしてやろう」

 

「ギルドマスター」

 いつの間にかミハエルの後ろに来ていた

 

「ドンドルマとミナガルデにも協力の手紙

を出してやろう」

 

「…随分と乗り気のようですね…」

 珍しく眉間にシワが出来るミハエル、

少し不信感を持つ

 

 なぜこんなに乗り気なんだ…

 

 

 

 

 

 …………

 

 村はずれの森、

枯れ木が多く薪拾いに来る寂しい場所

 

 ナズナは一人で考える

 エミナ達が移動しちゃったら

 私はどうする?

 

 仲間と言ってくれたけど私には目的が無い、

目標も無い、食べて行くのが目標だし…

 

 私はどうするべきだ?

 別れるのは…なんか嫌だ

 

 

 

 

 エミナが好きだもん

 

 ミハエルも厳しいけど好き

 

 

 

 ハルキ…うん、好きだ

 

 

 どうしよう

 

 

 

 

 

「………」

「ん?」

 何か聞こえた

 

 枯れ葉や枯れ木のガサガサ言う方へ歩くと

 

 あ…ミハエル…

 

 声掛け辛い雰囲気…しばらく見る

 

 ボウガンを構える、納める、

 各方向へ回避、構える

 

 基本動作を繰り返している

 落ち葉が髪に絡まり、顔に汗をかいて

 いつものキラキラした感じはない

 

 影でキチンとやってるんだ…

 

「誰です?」

 厳しい声

 

 ビクッと動けなくなる

「あ…あの私…」

 覗くつもりは…

 

「ナズナさんでしたか…」

 ニコッと笑う

 

 

 

 

 ………

 

「そうですねぇ、私はこのままナズナさんが

居ても良いと思いますが?」

 

「……ジャマじゃない?」

 

「そんなことありませんよ」

 

「そう言って貰えると…

 なんか楽かも」

 良かった

「でもさ、この先どうしたら良いのか……」

 

 

 

 

 倒木に二人で座る

 

「仲間…チームと言うものは固定されてません、

流動的なものです」

 

「流動的って…?」

 

「ハンターは一番分かりやすいです、同じ

目的を持つから組んで、達成すれば解散です」

 

「なんかアッサリしてるっていうか…」

 

「こうして組んでいても、いつかは

離れるものです」

 

「なんか…」

 悲しいよ?それは…

 

「ギルマスがあぁ言っている以上、

私達はどこにでも移動できます」

 

「私…どうしよう…」

 

 

 ナズナの暗い顔を見ると

「ナズナさん、貴方は最初、ギルマスの

指示で私達と組みました、

…今はなぜ組んでるんです?」

 

 考える、なぜだ?

 

 

 

 

 

 

 

 …好きだからだ

 恋とかじゃなく好きだからだ

 この三人が好きだからだ

 

「自分の意思でしょう?」

 

「うん、私は仲間になりたいからなって

るんだね…でも私じゃ…」

 

「自分を足手纏いとか思ってますか?」

 

 うなずく

 

「本当に足手纏いならハルキとエミナが

ハッキリ言うかと」

 

 笑顔で言うが…

 それキツイな…

 

 

「………」

 そうか…うん、あの二人は全部直球だから

ハッキリ言うかも

 

「私も含めてナズナさんを認めていると思います」

 教えを受けず、請わず、自力で這い上がった

 

「でも私…これからの目的ないよ?」

 

「難しく考え過ぎかもしれません、私も

ハッキリした目標を持っていませんし」

 

「ミハエルも?」

 

「明確な目標を持っているのはエミナだけですから」

 

「ハルキは…あいつも無いよね」

 

「ハルキが一番解りませんし」

 笑う、そう、あいつはなに考えてるか解らない

 

「でもナズナさんが一番自由に

目標決められますよ?」

 

「私が一番?」

 

「私と違い『しがらみ』も縛るものもありません」

 

「私…」

 無い?ない、あれ?無い?

 親を越えたい?

 G級になりたい?

 しがらみ?縛るもの?

 

「どんな目標や目的も自由でしょう?」

 ニコッと笑う

 

「皆は自由じゃないの?」

 

「私は特に」

 家系が強すぎるために、過度な期待を

される上、周囲が各思惑で動き始めてしまう

 

「思惑?」

 

「簡単に言えば…」

 叔父が仕事を任せようとしている、

叔父の周囲がそれを知れば、叔父に恩を売り

たい有象無象が私に接触してくる

「どんな形で来るか解ったモノではありません」

 強引な手段も…

 

「何か…危険な感じ?」

 話振りからすると

 

「はい、敵対する派閥もありますし、最悪は

貴女達が人質に取られ、強要される可能性

まであります」

 

「人質っ!?」

 

「政争に巻き込まれる可能性です、人の悪意の

中に入るんですから…私と一緒に王都に

向かうのは危険でもあるんです」

 

「エミナは…」

 

「理解できてないでしょうね、

だから気軽に行くと言えるんです」

 

「王都って凄い所だと思ってたけど…」

 

「裏は貴族の戦争の場です」

 

「だから味方が必要なのね?」

 

「私の両親は協力してくれます」

 

「あとギルマスか」

 

 ミハエルはクスッと笑う

「知ってますか?

あの人達が一番恐いんですよ?」

 

「ギルマスが?」

 ただの竜人のジイチャンでしょ?

 

「人を掌の上で動かす老獪な人ですから」

 立ち上がると

「さて、私は続きの練習しますが、どうします?」

 

 このパーティーに居るにしても出るにしても、

強くならなきゃダメかも…

 ハンターとしても人としても

 

「私もやる」

 立ち上がる

 

 先ずは抜刀と納刀の繰り返し、

そして回避、早く、正確に

 

 …そういえば

「ミハエル、何でここ知ってるの?」

 私は自炊してたから薪拾いに来たけど

 

「ここで手紙の娘に…」

 困った顔になる

 

 あー…その先は聞きたくない

 

 

 

 

 ……………

 

 次の日

 

「じゃあ行って来ますニャ」

 頭に鳥?の帽子を被ったアイルーが、

手紙をギルマスから預かって行く

 

「何あれ!カワイイ!」

 エミナが跳ねる

 

「始まったんですね、郵便」

 

「ゆうびん?」

 私知らない単語だよ?

 

「今までの伝書鳩に変わる仕組みですよ」

 

「ねぇ、頭のアレって鳥?」

 指差すエミナ

 

「聞いたことあるぜ?」

 学校時代に船乗りの話、

隣の大陸の派手な鳥らしい

 

「隣の大陸?」

 なにそれ?

 

「そうだな、地図で書くと…」

 ハルキは紙を取り出し逆三角を描く

 

「これが今いるココットな」

 真ん中より上の方に点を打つ

 

「で、王都だろ」

 ココットの下、中央に

 

「でミナガルデとドンドルマ」

 王都の左右、端のほうに

 

 

「ねぇ、私ん家は?」

 エミナがワクワクしながら聞く

 

「ジャンボ村は…」

 ドンドルマよりさらに東の海沿いの方へ、

シュレイド大陸に沿った細長い半島

 

「で、この更に東にあるらしいぜ?」

 適当に丸を書く

 

「あんなカワイイ鳥がいるんだね!」

 

「赤い衣装も可愛らしいですね…」

 ギルマスの手紙、これ次第で私の行く末が

決まってしまうかもしれません

 

 

 

 

 …………

 

「私どうしたらいいかな?」

 一応ハルキにも聞く

 

「自分で決めりゃ良いだろ?

 誰も止めねぇし」

 

「そうじゃなくてさ…」

 何か言って欲しいんだよ

 『パーティーにナズナが居て欲しい』って

言ってくれたら…

 

 『お前は仲間だ』って言ってくれたら

少しは楽に…

 「ハルキはハンターで何を…」

 

「だからとりあえず食っていく、

そしてモテたい」

 少しイラッとしながら

 

 聞くの二度目だった、

 やっぱり具体的な部分が無い、私と同じだ

「なら これからどうするの?」

 

「ま、上位には行きてぇな、

食って行くには丁度良いし」

 

「そうなの?」

 

 エミナがジュースを飲みながら

「下位より報酬は良いし、G級程あぶなくないしね」

 

「なぁ、ナズナ…その内見つかるんじゃね?

目的なんてよ?お前は努力出来るし」

 

 努力…してる気はしないんだけど…

 

 

 怖い…けど聞きたい

 

 なんでも良い、確実な何かが欲しい

 

 『私は仲間?』

 

 

 

 

 

 だけど…もし違うって言われたら…

 

 

 

 

 

 いやだ…怖い…

 

 

「私のお母さんなんかさ、

G級あっさり諦めて結婚したし」

 

「結婚?」

 

「上位の途中でさ、お父さんが村長になる

ために帰ったら、一緒に来ちゃったんだって」

 

「そういうものなんだね」

 皆その時の流れかも知れない

 場当たり的なモノかも…

 

 流れか…

 

 

「19で私生んでから道具屋の女将だしw」

 

「19!」

 私と同じ歳!

 私なんか男と付き合ったことさえないよ?!

 

「一緒に居れば?どうなるか解んないもん」

 

 うれしい…うん、これは嬉しい

 やっぱりエミナは大好き

 

 離れたくない…

 

 だから…

 

 『仲間』でいるために強くなる!!

 

 

 

 …………

 

 約1ヶ月後

 すぐにギルマス達で手紙のやり取りが始まり、

最終的には『ココットで待て』との返信が

ギルドにあり

 暇なので各々が鍛えていた

 

 ギルド

 

「リオレウスに三落ちですか」

 でも凄い成長ですね

 

「もうちょっとだったのにぃ」

 疲れはてたナズナ、閃光玉を調合分まで

使っても勝てない

 

「ソロで安定して狩れたらハルキ抜かせるよ?」

 ハルキに向かってニヤケる

 腕は治ったが半年で上位の夢は遠退いた

 

「俺もウカウカしてらんねぇな」

 

「なによ?真面目じゃん」

「あ?俺はいつも真面目だろ?」

 

 

 

 

 リオレウス、ソロ失敗

 だけど勝てれば仲間と言える何かが掴めそう

「武器変えたら…」

 勝てるかも?

 

「今から新しい武器を練習するとなると」

 困った顔になるミハエル

 

「扱えるまでに暫く掛かるよ?」

 

「そっか…皆はどんな武器使えるの?」

 

「私は弓、ボウガン、大剣、太刀、

片手剣ですね」

 多っ!!

 

「私は太刀と片手、

大剣の基礎も教わってるけど振り回せないw」

 エミナで3種か…

 

「ハルキは?」

 

「全部」

 

「…え?」

 ナズナは一瞬何を言われたか解らない

 

「だから全部だ」

 ナズナに向き直ると真っ直ぐ答える

 

「ふざけてんの?」

 エミナが突っ込む

 

「調査に行くとよ、どうしても戦闘もあるんだ、

勝つためじゃなくて逃げるためのな」

 

 目的は逃げる事か

 

「だから基本的な武器は書士隊にあって、

色々使ってる内にな」

 

「何だか恵まれてますよ?いくら最弱武器でも、

全部揃えるのは難しいですから」

 

「そうかもな、練習にはなったかもな、

それと閃光玉は良く使ったぜ」

 

「逃げるためね?」

 

「なのに教授はスケッチに走るからな、

何度も引き摺って逃げたぜ!」

 皆で笑う

 

「ミハエル」

 ギルマスの声

 

 皆で振り返る

 

「関所へ向かえ、ルキウス殿が来るそうじゃ」

 手紙をヒラヒラさせる

 

「叔父上が直接?!」

 

 




仲間も友達もその時は意識していない
あとから思い返すもの


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難関クエスト

 

「これがセキショ…?」

 小さな門に平屋の建物が一つ、

そこから左右に柵が遠くまで続いてる

 

 私の身長程度の粗末な柵だ、

 簡単に乗り越えられそう

 

 そこに鎧を半端に着た雰囲気の悪い人達が

ウロウロしている

 門には数人の行商人が並んでいる

 

「まったく…国の要所で無いところは

緊張感がありませんね」

 

「チンピラみたいw」

 14才から出る言葉か?

 でも確かに

 

「田舎の兵士ってのはドコ行ってもこうだw」

 

 

 こちらに気が付くと

「通行税は一人10zだぜ!!」

 兵士の一人がこちらへ来る

 何だか凄い高圧的でナズナは萎縮する、

ベルナ村に居たときに近付くなと言われていた

意味が解る…

 

 

 

 いやだ…行きたくない…

 

 

 

 しかし

 

 三人は平然と歩いて行く

 

 ちょっと!恐いじゃん!

 何で皆平気なのよ!

 

 

 

 目の前まで行くと兵士のほうが怖じ気づく

「お、お前ら、通」

 

「ハンターに通行税は無いはずですね?」

「なんなら力ずくで通るよ?」

「お前らで勝てる気するか?」

 三人並んで威嚇する

 

 ひいいっ!何この展開!

 ケンカになるの?!

 

 建物からわらわらと10人程が出て来て取り囲む

「何だテメェら!」

「ここがドコだか解ってんのか!」

 

 槍を構え威嚇する兵士、その中から一人、

偉そうに最後に出てきた人がいる

 ふんぞり返り

 

「ハンターか?部下が失礼したようだな?」

 

 ザリザリと無精髭を撫でながら太って

ハゲた中年がこっちへ来る

 

「ハンターに通行税は無いはず…この様子では

適正な徴収をしてるか怪しいモノですね」

 ミハエルは平然と答える

 

「随分と突っ掛かるな…何の用だ?」

 

「突っ掛かるのは貴方の部下のようですが?」

 チラッと見る

「ここで待てと指示されてます」

 

「通る気はねぇと?」

 

「さぁ?指示した人次第ですが」

 

 

 

 

 隅っこにエミナを連れて行き小声で話す

「何でこんな…」

 

「ん?ケンカ腰って事?」

 

「そう!あんなに居るのに」

 

 エミナはクスクス笑う

「負けると思ってる?」

 

「10人位いるし恐いじゃん!」

 

「ナズナ一人でも三人位なら、

何とかなるかもよ?」

 

「?」

 

「リオレウスとヤツら、どっちが恐い?」

 顔を真正面から見ると

「ナズナは弱く無いんだよ?

 ただ気が小さいんだよw」

 

 

 

 

「通行税は5zのはずですね?」

 

「入り用でな、必要なんだ」

 

「王都まで何ヵ所関所があると思ってます?」

 

「知らねぇなぁ、

俺達みてぇな末端が知る訳ねぇ」

 ニヤニヤする

 

「国庫はひっ迫していないと思いましたが?」

 

「ハンターが考える事じゃねぇ、

文句あるか?」

 ふんぞり返ると

 

 

 ブォン!!

 

 ハルキは大剣を掲げる

 

「コイツ…」

「やる気か…」

 兵士達に動揺が走る

 

「ミハエル、メンドクセェや、

…これ以上モメんなら」

 

 

 構えると

 

 

「コイツら黙らせようぜ?」

 

 

 

「どうします?」

 ミハエルは隊長らしき中年に笑い掛ける…と

 突然日が陰る、一瞬周りが暗くなった

「おい!!」

「なんだぁ!!」

「飛行船だ!!」

 

 見上げると大きな船が浮いている

 

「なにあれっ?!!」

 エミナが叫ぶ

「見たことねぇぞ!!」

 ハルキも

「新型船です!!」

 

 

 

 

 

 

 少し開けた草原に着地する船、見慣れた

ピンクの三角推ではない、本当に船の形…上に

楕円形の気嚢があり、船尾に大きなプロペラ

 

 一体何メートルあるのか

 

 中から関所とは違うキレイな鎧の兵士が

10人程出て来ると、ビシッと整列して赤絨毯が

伸びてくる

 

 

 あまりの事にエミナとナズナはポカンとする

 

 

 

 

 なにが…おこってますか?

 

 中から緑のローブを着たメガネの男が

姿勢良く歩いてくる

 ミハエルの前まで来ると一礼して

「ミハエル様、ルキウス大臣の御成りです」

 

「マーカスさん、様は止めてください」

 

「何をおっしゃいます、

貴方が当家のお世継ぎでしょう」

 丸いメガネ、しかし教授と違い

ビシッとした姿勢と態度

 

 

 ミハエル様?さま?今さまって言った?

 

 すると今度は真っ白なローブに金の装飾の

素敵なオジサマが出てきた

 

「ご無沙汰しております、叔父上」

 ミハエルが胸に手を当てて深く一礼する

 

 背が高くプラチナブロンドの髪を蒼いリボン

でまとめ、金色の髪飾りが付いている、

 ミハエルと同じ紫の瞳で、若い頃は(今も)

相当な美形だった事が伺える

 

「ミハエル、久しいな、話を聞こうか」

 

 

 

 

 ……………

 

 逃げ出したい…

 エミナとナズナは震える

 

 何なんだこの世界は?

 

 マーカスとかいう人の号令一つで、野原に

長いテーブルと椅子が10脚ほど凄い早さで

並べられ

 真っ白いテーブルクロスに高そうな花瓶と花、

高そうな真っ白い皿に銀食器が整然と並ぶ

 

 メイドと執事が数人でテキパキと料理を

運び始める

 

 そこに三人座らされたまでは良かったが、

目の前に出されたモノが理解出来ない

 

 何?この口の空いたビンの赤い液体?

 (ただのグラスワイン、エミナとナズナは

ジョッキと木のカップしか知らない、グラスを

初めて見た)

 

 大きな皿に大きな肉、執事達が取り分け、

皿にちょこんと載せると二人の前に出す

 

 ナイフとフォーク、

それは二人とも知っている、

 しかし大問題なのが

『肉は骨を持って手掴みで食べる』

しかやった事がないのだ

 

 二人とも手が出せないで下を向く

 

 恥ずかしい、屈辱、バカにされてる、

いや、自分たちが何も知らなさすぎる…

 

 

 

「ナズナ」

「ふぇ…?」

 

 ハルキが後ろに居た、

 後ろから私の両手を持つ

「ひっ!」

 

「落ち着け、任せろ」

 私の手を上手く誘導して一口サイズに切る

 

「エミナ、マネしろ」

 一緒に見よう見まねで隣のエミナも切る

 

「わりぃなぁ、テーブルマナーなんざ馴染みが

無くてよ、俺が今教えるわ」

 周りのメイドや執事達に言うハルキ

 涙が出る、

恥ずかしいのか嬉しいのか解らないけど…

 

 でも…ありがとうハルキ

 

 

 

 

 

 

 離れた席から見る二人

 

「良い仲間に恵まれているようだ」

 大臣は見ながら微笑みワインを飲む

 

「はい、幸運です」

 こちらも

 

「上位なのを隠していた、ということは

私の仕事は拒否する…そうなんだな?」

 

「はい、ハンターを続けようと思います」

 

「どうしてもか?」

 

「両親は全て失った所から立ち上がりました、

誰かの庇護下に入っては顔向けできません」

 

 

 

 

 

「ふむ…素直だが実直で頑固…

ハインツとアルトの子だなぁ」

 目を細める

「しかし叔父としてお前が可愛いのも事実」

 

 手を組むと

「条件を出す」

 

「そう来ると思いました」

 

「隣の大陸は知ってるな?」

 指差す

 

「はい、存在位は」

 

「何度か調査隊を送ったところ、そこの住人

達は国と言う概念が無い、昔の集落の集まりだ」

 顔を見てくる

 

「まさか…入植の…」

 シュレイド国の植民地に?

 

「まぁ、本心はな…しかしだ、表向きは

モンスターから人を守るハンターを送ってくれた

『よき隣人』になれればな」

 

「それになれと?」

 眉間にシワが出来る

 

「それならハンターを続ける事は反対する

理由が無い、むしろ全力でやればよい」

 

「…しかしギルドが……まさか!

有るんですか?!」

 

「今向こうの漁港、タンジア港を交易港に

改築している」

 

「ふうっ」

 ミハエルは上を向きため息をはく

 

「有力なハンターにも声を掛けていてな、

各地のギルドマスターにも連絡した」

 

 

 

 

 

 

「…手回しが…いささか良すぎる気が…」

 

「偶然だ、私としてもお前の活躍が楽しみだ」

 ニコッと笑う

 

 

 

 ハンターは続けられる…

 

 

 書士隊の役職でもない…

 

 

 そう、デメリットが無い…

 

 

 条件?そう、条件にはならない

 

 

 隣の大陸で好きにハンターが出来る?

 

 

 これは罠では?

 

 デメリットは…シュレイドから出るだけ?

 

 

 

 

「…向こうでは連絡手段などは…?」

 どこかに穴は…

 

「今郵便を試験していてな、

それを使うつもりだ」

 ほう、探りだしたな

 

「ギルドナイトなどは?」

 監視や密告

 

「ハインツに連絡済みだ、

良くしてくれるだろう」

 スキは無いよミハエル

 

「書士隊はどうなんでしょう」

 叔父上の直属…おそらくここが本命

 

「今調査隊を送っているが、

安全が確保出来れば…」

 

 

 

 

「失礼、少々質問が」

 

 !!!

 

 周りの兵士や執事、特にマーカスが睨む!

 ハルキが突然喋り出した!

 

 三人共にビックリする、その様子を見ると

 

「あのなお前ら、

俺だって一応礼儀は知ってんだぜ?」

 

 姿勢を正すと

「お言葉を遮り失礼致しました、先ほどの

調査隊にマルク教授は参加されていますか?」

 

 (え?!やだ!ハルキが何かカッコイイ!!)

 ナズナは見とれる

 

 

 

「ナナキの息子、ハルキですね」

 大臣はゆっくり立ち上がると

 

 

 

 

 

 一礼する

 

「何をなさいます!!」

 マーカスが叫ぶ

「叔父上?!」

 周りも凍り付く

 

 

 

「皆聞きなさい、彼の父親は20年前に

この国を救った英雄です」

 周りを落ち着かせる、兵士の中には剣に

手を掛けた者までいる

 

「礼を言う機会が無く…こんなに遅くなって

しまった…許されよ」

 もう一度礼をする

 

「困ります、一国を預かるお方にそのように

されますと、立つ瀬がありません」

 ハルキも一礼

 

「…マルク教授は後から行かせる…それとハルキ、

君に限っては言葉を特に許す」

 

「何を仰いますか!!」

 マーカスが激昂するが

 

「ナナキはたった一人残って災厄を止めた、

せめてもの償いだよ、それにな…ナナキの

働きが無ければハインツとアルトも

…何よりこのミハエルさえ存在しなかったかも

しれんのだ」

 マーカスと兵士達をなだめる

 

「では…

何で後なんだ?あの才能ならモンスターの

調査が早いだろ?」

 

 ちょっと大丈夫なの?!

 皆凄い目でみてるよ?!

 ビクビクするエミナとナズナ

 

「あの才能を継げる人材が居なくてな、

彼にもしもの事があったらな」

 

「なるほどな、絵の授業で教えられたけど、

誰も出来なかったわ」

 3分もあれば正確に描いてた

 

「およそ常人には理解し難いが、あの才能は

国の宝で代えが効かないのでな、

それに子供も生まれて今は此方に居たいだろう」

 

「子供っ?!」

 

「聞いていないのか?女の子だそうだ」

 この男がハルキか…

ギルドからは期待されている、

その勘の良さは本物かもしれん

 

 ミハエルが考えるために『時間稼ぎ』に

でるとは…

 

 本能か理詰めかは判断しかねるが

…確かに逸材だ

 

 それに…やり口がナナキとまるで同じとはなぁ

 口元を隠して笑う大臣

 

 

 

 

 

「叔父上」

 

「何かな?」

 座るとワインが注がれる

 

「先程の話、僕に何の不利益もありません」

 

「そうだな」

 そこまでは当然理解する

 

「条件の本質は僕に向こうへ行かせ

『先遣隊』として『自分の目』にすること」

 

「うむ」

 常人レベルの理解度、

 さぁその先は?

 

「そして叔父上の真意は、将軍の派閥より

先に利権を奪う事」

 ミハエルはチラッと関所を見る、この場所を

指定したのはそれに気付かせるヒントだ

 

「それでこそ我が息子」

 

「僕は甥です」

 ワインを飲み干す

 

「将軍は不正な蓄財をしていてな?

少々目障りになって来た」

 マーカスに目配せすると数人の兵士が

関所へ向かう、いつの間にか関所の兵士は

建物に入ってしまっていた

 

 

「結局僕は…政争の駒なんですね」

 

「無理強いはしたくないしな、

こんな回りくどい事をやってみた、

王都まで来ていたらどうなっていたか…」

 エミナとナズナを見て笑う

 

「仲間に手を出させなかった事は

…感謝しています」

 ミハエルは頭を下げる

 だから直接来てくれた

 

「お前の大事な仲間だからな」

 立ち上がると

「隣の大陸で見聞を広めなさい、

それならハンターを続ける事を認めよう」

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 大臣達は船に乗った、出航準備をしている

 

 見送る四人

 

「すげぇ戦いだったな?」

 

「2頭同時より疲れました…」

 

「戦い?」

 

「どういう事?」

 

 二人には何の事だか…

 

 

 

「ハンターは続けられるな?」

 

「隣の大陸という条件付きですがね」

 

「どんな所だろ」

 

 

 

 

「あのさ…私は…」

 下を向くナズナ

 

「あ?行かねぇの?」

「行こうよ!ナズナ!」

 

「行っても良いの?」

 

「当然でしょう」

 笑う

 

 誘ってくれる…

 これって嬉しい

 

 

 

 

 …………

 

 船内

「当然ですが、勝ちましたね」

 笑いかけるマーカス

 

「まだまだ子供で不安定」

 こちらも

「しかしハルキは良い目隠しになってくれた」

 

 

「あとは時間との勝負ですか」

 

「さて、止めを刺すとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 



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居場所

 各地のギルマスも

ミハエルの両親も元ハンター、

 故にハルキの

『隠した才能』に目がいった。

 

 だからミハエルに本気でハンターを

やらせたい、そうすればハルキが

本気になる、

 これが彼等の思考となった。

 

 ミハエル自身も自分がハンターを

続ける事に目が行った。

 

「ミハエルは自分が見えていないな」

 国務大臣ルキウスの真意は

利権ではない、王家の分家であるのに

跡継ぎが不在という問題がある。

 

 弟のハインツは家を飛び出してしまい、

その息子ミハエルもハンターになって

しまった。

 

 しかもハインツは四英雄の称号まで

持っている、その息子ミハエルも当然

ハンターとして期待される。

 

 本人に自覚は無いが、

今までミハエルは四大英雄の

『庇護下』に居たのだ。

 今回の接見でミハエルに『自分の意思で』

隣の大陸に行かせる事に成功しそう。

 

 見方を変えれば『四大英雄の庇護下』から

『ルキウスの庇護下』に『自分の意思で』

来させる

 

 ついでにハルキも自身の指揮下に。

 

「ミハエル様から政争の話が出た時は、

内心笑っていたのでしょう?」

 マーカスが笑う

 

「関所をヒントだと勘違いしたのかな?」

 

「勘違いさせましたよね?」

 だからこの場所を指定した

 

 ミハエルに将軍派を匂わせた、

結果政争だという結論に至った

 しかし真実はミハエルの思考の誘導

 

「問題はギルマス達の思考速度だ、

数日中に気付く…」

 懐から手紙を出す

 

「それでは…急ぎましょう」

 笑うマーカス

 

「トドメと行こうか」

 

 船が浮き上がると

ルキウスはミハエル達を見おろし

「明後日ココット村に船を送る!それと!」

 手紙を落とす

 ヒラヒラ落ちてくる

 

「子供の戯れ言ではあるが

読んでおきなさい!」

 

 手紙を拾う、上を見ると手を振っている、

ミハエルも振り返す

 

 

 

 

 

 

 ………

 

 帰り道

「何の手紙だ?」

 

「何だか変です」

 白い封筒にミハエル様へ、

 と綺麗な文字…そして封蝋

 

「子供の戯れ言とは…」

 出てきたのは金細の入った

高そうな便箋に…王家の紋章!

「なっ?!」

「どうした?」

「何?」

 ナズナも見る、キラキラした紙でキレイ

 

 手紙を読むミハエル、

しかし次第に手は震え、冷や汗がダラダラ出て来る

「お前どうした?!」

「恐ろしい事が…」

「ちょっと見せて」

 エミナが手紙を取る

 

 

 

 

 

 

 内容 概略

 突然の手紙で失礼します、

 わらわの愛する未来の旦那様、

どうやってこの思いを伝えたものか

考えて居たところ、大臣が届けて下さると

仰られました。

 

 今度会いに行きます

貴方の姫からミハエル様へ

 

 

 

 

 

 

「姫ぇ?!」エミナが叫ぶ

「旦那様ぁ?!」ナズナも

「ミハエル!こいつぁまさか!!」

「急ぎますよっ!!」

 

 

 街道を早足で歩く

 

「やっぱりアノ人か?」

 恐る恐るハルキが聞く

 

「自分を『わらわ』と言うのは

第三王女に間違いありません!」

 

「ねぇ!王女って何?!」

 小走りになるナズナ

 

「あの第三王女なの!?」

 普通に走りだすエミナ

 

「おい!ミハエル!速すぎだぜ!」

 段々速度が上がる、

 走り始める

 

「ココット着くまでに力尽きるってば!」

 

「ペース落とせ!」

 

「速いぃー!!」

 第三王女?って何

 

 

 

 

 

 

 …………

 

 ギルド

 

「なんじゃとおっ?!」

 手紙を見せるとギルマスの顔色も変わる

 

「そう言う…訳で直ぐに…発ちます」

 汗を流し、息が乱れる

 

「やべぇぜ?」

「どうなるんだ?」

「目ぇ付けられてんのか!」

 ざわつくギルド

 

「あのー…」

 ナズナが手を挙げると一瞬静寂が訪れた

「第三…王女って…?」

 走り疲れた…

 

「お前知らねぇのかよ!!」

「あのワルガキ!」

「何言ってくるか解んねぇヤツだ!!」

 

「飛んでもない依頼を…

気分で出すんです…機嫌を損ねたら…」

 ミハエルが疲れた顔で

 

「ミナガルデにラージャンの討伐依頼

した事あったなぁ、しかも理由がヒデェ…」

 オリベも思い出す

 

「理由?」

 ラージャン?

 

「毛皮で……コート作りたいだけだった」

 

 え??コート?…は?

 「何か断れない感じのクエストを…?」

 出してくるの?

 

「自分が王女…であること解って…

無いんじゃない?」

 エミナも疲れた

 

「自分の権力…解っててだったら…尚悪いぜ?」

 ハルキもゼェゼェ言っている

 

「一応は『王家』の勅命だからのぉ、

ギルドとしても受けない訳にはいかんからの…」

 明らかに嫌がらせの様なクエストが

ココットに…それは避けたい

 

 ギルマスのため息など初めて見る

 

「このままではこの村に彼女自身が来て

しまいます、城からの脱走は一度や二度じゃ

ありません」

 

「うむ、それは避けねばの、ドリス!

何とか動向を探ってくれい!」

 

「了解しました!」

 

「ナズナさん、ベルナ村へ連絡を!」

 

「は、はい!」

 遠くに行くんだ、親に一言挨拶は必要だ

 

「直接行って来てもいいぜ?」

「私も付き合うよ?」

 そうか、それでも間に合う

 

 

 

 

 

 

 ……………

 

「今頃ココット村は…」

 大慌てでしょうか

 

「あのココット老から初めて一本取れそうだ、

 これでルーメル・シュレイド家は

終わらずに繋がるかも知れん」

 自分の手にミハエルが落ちる

 これからの可能性は…

 

 1 挫折して帰って来たなら家を継がせる、

向こうの経験と実績があれば、

外務大臣の下に着ける事も可能

 

 2 英雄に成る程なら知名度も利用して

家を継がせる上、

やはり外務の仕事に就きやすい

 

 3 反発するようなら第三王女を

焚き付けて結婚させる、当家の血縁を再び

王家に近付けさせる事が可能

 

 他にも不安要素はあるが、最大の壁だった

竜人を遂に出し抜ける

 

「上手く行きますか?」

 

「マーカス、国務大臣は君に継いで貰いたい、

君の手腕も期待してるよ?」

 

「一番の悪手は…」

 

「挫折してもハンターを続ける事、

まぁ何にしても…」

 自分の意思でこちらに来た事実があれば…

 

「四大英雄には渡さない…ですか、

しかし第三王女はいくらなんでも…」

 制御出来るか?

 

「ミハエルを何度か王宮に呼んで偶然

会わせていたからな、ここで役立てよう…

しかし第一王女ではなく、

第三王女が見初めるとはなぁ…」

 

「偶然ですか?」

 笑う

「偶然だ」

 こちらも笑う

 

 

 

 

 

 

 

 ……………

 

 先日 王都 王宮

 

「ルキウス、ミハエルとはいつ会えるのじゃ?」

 ドレスに着られた9歳の姫

 

「ハンターですから転々と…そうそう、

今度会う約束があります」

 

「わらわも行くぞ!!」

 

「それはいけませんなぁ、

ミハエルが姫様に会う準備ができません」

 

「準備など要らぬだろう」

 

「姫様、ミハエルの前に出る時は

何を御召しになりますか?」

 

「それは一番良い靴にドレスに…」

 

「それです、ミハエルには姫様に

会うためのローブも靴も無いのです」

 

「ならば直ぐに準備させよ!」

 

「それが今は貧しい村におります、姫の前で

ミハエルが恥ずかしい思いをしてしまう気が…」

 チラッと横目で姫を見る

 

「ぐぬぬぬ…」

 怒り顔の姫

 

「マーカス、書簡を」

 ココット村からの手紙を清ました顔で

読むルキウス…

 

 

 

 

「!、ルキウス!ミハエルに手紙を書くぞ!」

 

「それはようございます!

このルキウス必ず届けましょう!」

 

 

 

 

 

 ……………

 

「手紙まで書かせるとは…」

 メガネを直す

 

「書けとは言っていないぞ?」

 ニッコリ笑って、すっとぼける

 

「ようやく手紙の真意が解りました、

証拠ですね?」

 

「その通り、姫様が一緒に来ても意味は無い」

 ミハエルが姫に会った所で何にもならない、

 手紙という形なら竜人ココットが目にする

 これが一番良い形

 ミハエルは急ぐし、

竜人は『とばっちりは御免だ』という思考になる

 時間と余裕は与えない!

 

「こんな策謀をせずともご自身が結婚して、

お世継ぎを作られては?」

 マーカスは目頭を摘まむ

 

「私の人生に自由は無かった、せめて

恋愛位は自由にさせてくれ、それにな…」

 

 メイド達に囲まれるルキウス

「『完成品』を手に入れた方が早いだろう?」

 

「まったく…善と悪、

ルキウス様はどちらですか?」

 

「私が悪だと言いたいのかな?」

 ニコッと笑う

 

「恐ろしいとは思います」

 私が長年仕えているのは…

本当に自分の意思か?

 

「私は嘘を言った事が無い、

ただ人の『勘違い』を指摘しないだけだよ」

 

 

 

 

 

 

 ……………

 

 ナズナの家

 狭くて板と土、藁で出来た粗末な建物

 

「あんた本当に行くの?!」

「そんなに遠くにか?!」

「うん…あの…んーと…」

 ナズナは言い淀む

 

「ナズナ、挨拶はキチンとしろ」

 ハルキの真面目な声色にビックリする

 

「ハルキ、そんな怒るように言わなくても…」

 エミナも遠慮がちになる

 関所の件からハルキの知らない一面が

見える、私達の知らない別の顔

 

「あのな、ハンターは死ぬ事だってあるんだ、

これが最後かも知れねぇんだぜ?」

 

 そうか…そうだよ、

最近は緊張感に欠けていたかも

 

「エミナ、外出るぞ」

 二人は外へ、気を使ってくれたのか?

 

「ふう、お前がハンターになっただけでも

驚いたのに、今度は海を渡るのか」

 イスに座る父

 

「村の中で結婚して村で暮らすものとばっかり…」

 おろおろする母

 

「私だってそう思ってたよ、

けどさ、皆が行くし」

 

「皆はいいんだ…お前自身はどうなんだ?

行ってみたいのか?」

 

 私自身?

 

 私は……

 

 私は………?

 

 

 エミナ達と離れたくない

 

 そう、

 

 『仲間』でいたい!!!

 

「あのね、お父さん、この村にはさ、

思い出がいっぱいあるよ?」

 でも最近は悪い思い出ばっかりで…

毎日辛くて隣村に逃げたんだ

 

 そこで色々気付かされた

 

 

 お金の大切さ

 

 

 家事の大変さ

 

 

 一人で生きる事の辛さ

 

 

 誰かが側にいる嬉しさ

 

 

 ハンターの達成感

 

 

 人に教えて貰える事のありがたさ

 

 自分が取っ付きにくい無愛想な人間

だった事もベルナ村から出て知った

 

 もっと社交的にしないと

ダメそうなことも知った

 

 人と関わる事で自分を知れる事を知った

 

 ビールで酔って歌う事も、

なぜかツインテールにする事も

 

 年下が好きな事も

 

 もちろん悪意もイジメも世の中に

転がってるみたいだけど

 

 ココット村に行かなければ

解らない事ばっかりだった

 

 エミナ達に会えなかった

 仲間でいたい人達に出会えなかった

 

 

 それこそ『視界の外』が見えなかった

 

 

「だからさ、もっと色々知りたい、

世の中を見てみたい」

 

 

 

 

 

 ……………

 

 

 帰り道

「知らなかったよ、親の夢なんて」

 そんな事も知らなかった、

 私って親とさえコミュニケーションして

なかったみたい

 

「良い機会だったな」

 

「ナズナの両親も村から出たかったんだぁ」

 

 隣の大陸に行く事は許して貰えた

 

「さっき村長と話してたんだけどよ?」

 

「?」

 

「絶対に村に戻って来てだって」

 

「なんで?」

 普通戻るよ?親いるし…

 

 

 あぁ、イジメの件か…

 

 

「ギルド作るんだとよ」

「詐欺の事件が効いたみたいね」

 

 あー、って言うかベルナ村は

人の流れがないから…

 

 チーズと野菜買う行商人だけだし…

 

 だから詐欺に引っ掛かる

 

「私ギルドで何するんだろ?」

 カウンターでギルドガール?

 それはそれでイイかも…

 

 ミハエルの帰りを待つとか…

 

 

 イイ!!それいい!!

 おかえりなさい、ミハエル

 

 

 きゃあああ!

 

 

「教官じゃね?」

 

「そんなのできないよ!」

 いきなり現実に引き戻された気分

 

「でもさ、ナズナの『居場所』は

確実に出来たねぇ」

 優しい目で見てくるエミナ

 

 

 居場所か…

 

 考えてみれば…

 

 無かった…

 

 作ろうとさえしなかった

 




居場所は勝手に出来るもの
そう思っていたけど、ある時気が付く、
自分で作らないと無いんだ。

その焦りが承認欲求になるのだろう。

ネットの中にソレを求めても返ってくるのは
現実だろうか…


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叫ぶ意味とカッコ良さ

今回は、ただの繋ぎの話です


 

「さむーっ!」

「エミナ!中に入れ!」

 ハシャイだエミナもこの寒さは

辛くなってきた

 

「ナズナさんは平気なんですか?」

 

「私はベルナ生まれだから

雪も見たことあるし」

 飛行船から見下ろす、

王都の領地を掠めながら東へ飛ぶ

 

「シュレイド国って畑が一杯なんだね」

 黄金色のマダラ模様に見える

 

「国土の三割ほど…

平地のほとんどが麦畑ですからね」

 

「ビールの元ね?」

 

「どちらかと言うとパンの元です…

ナズナさんはすっかりハンターに

染まりましたね?」

 

「?」

 

「麦=ビールという考え方ですよ」

 爽やかに笑う美形

 

 うわぁ恥ずかしい

 

「オッサンっぽくなってんじゃね?」

 ドアの隙間からハルキが首だけ出す

 他に言い方無いのか?

 

 風にもよるが、早ければ五日程で

タンジアに着くらしい

 

 ナズナ達も中に入る

 

「すげぇよな!歩くとミナガルデと

ドンドルマの間は2ヶ月掛かるのにな!」

 

「それも王都を通って最短で、ですからね、

この船はその距離を四日で行けるそうです」

 

「よくこんな最新のモノに乗れたわ!

さっすが大臣の甥っ子!」

 窓から下界を見おろす、

 エミナはハシャぎっぱなし

 

「皆に出会わなかったら…

一生乗らなかったなぁ」

 ワインの味もテーブルマナーも、

摂政に会うことも

 

 それに…

 

 親の夢を聞く機会も…

 

 

 初めての飛行船にエミナとハルキは

浮かれている

 

 あ、そういえば

「皆は親に連絡は?」

 

「私は伝書鳩飛ばしてもらった!」

 

「んと、心配とか…」

 するでしょ?普通

 両親と祖父母の話しも聞いたし…

 

「ハンター始めた時点で覚悟してるってば!」

 手をヒラヒラしながら

 

 そんなもんなのか?

 

「ミハエルは…」

 

「叔父がすでに」

 だよね

 

「ハルキは?」

 

「まぁ…怒るだろうな」

 ボリボリ頭を掻く

 え?もしかして知らせてない?

 

「ハンター始めるのも反対でしたからね」

 ニコッとハルキを見る

 

「そうなの?」

 知らせてないんだ

 

「…勝手に海を渡ったとなれば」

 

「拳骨じゃ済まなかったりねぇw」

 

「お母さん恐いんだ?」

 なんだ、ハルキ可愛いトコあるじゃん

 

「ハンターにさせないために学校に

行かせましたからね」

 

「成績優秀だったから教授の下の…

なんだっけ?」

 エミナが首を傾げる

 

「教員になれって言われたけどな、

蹴ってドンドルマに帰った」

 ドカッと座り直して腕を組む

 

「なんか勿体なくない?そこからハンター?」

 キョウイン?

 

「あぁ、目の届く所で食って行くには

丁度良かった」

 

「お母さんの近く?」

 ハルキって案外親思い?

 

「母ちゃんな、ドンドルマの

ギルドマネージャーなんだよ」

 

「ギルドマネージャーって…」

 確かドリスさんが…

 ギルド全体を見る人?

 

「ギルマネは、ギルマスの次で、実質

一番偉い人だよ」

 

「そうなのっ?!」

 

「四大英雄は実質的に名誉職になって

来ましたからね」

 

「俺は父ちゃん死んだからな、

俺までハンターは嫌がってる」

 

「でもハンターやりたいんだ?」

 

「なんかな…俺も…

引きずってんのかもな…最初の目標…」

  

 

 順調に飛行する

 

 今後はこの船が量産されるらしい、

 ちなみにコレが2号機で少し小さい

 

「ドンドルマ通過する時は船員が

教えてくれるってよ」

「地図地図!」

「まだまだ書きかけですね」

 船には地図があった、今まで調査隊が

地上で書いたモノに、飛行船から書いた

モノを合わせたのか、修正が途中で

ごちゃごちゃだが

 

 テーブルに広げる

「これドンドルマの山脈ね?」

 エミナが突っつく

 

「そうだ、で、次がユクモ連山地帯」

 東の進路を指でなぞる

 

「その先の大きな川の河口が

ジャンボ村ですね」

 

「エミナの村か、こんな遠くから来たんだね」

 

「あー、川の向こうには渡れないって

言われてたのは」

 エミナが川をなぞる

 

「ユクモ連山地帯でいきなり絶壁だからだな」

 だから南に大きく迂回する

 

「直線ならもっと近くなりますね」

 

 …あれ?北部の更に北、一年中雪の地域が

描いてない

 なんで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2日後 夜

「ドンドルマです!!」

 船員の声で甲板に飛び出す

 

「うわあっ!!」

 皆で声を上げる

 高い山々の中に明るい町がある、

どれ程の篝火を炊いているのか

 空から街見るとこんなにキレイなんだ!

 

「きれーい!!」

 ハシャぐエミナ

「これが俺の生まれた街か!」

 ハルキも

 

「ナズナさん、どうしました?」

 

「うん、キレイ…」

 嬉しい、そう嬉しいし楽しい、だけど…

表現出来ないって言うか…

 

 不安なのか?…

 

 遠くに来たから…

 

 ホームシック?

 

 エミナみたいに嬉しさって表現出来ない

 多分不安の方が強いんだ

 

「ねぇ!あっちの大きい光!」

「あれがユクモじゃね?!」

 ハシャぐ二人

 

「不安ですか?」

 

「胸が一杯って言うのかな、

この2ヶ月で変わり過ぎたから」

 苦笑いするナズナ

 

 

 

 …あ、不安かも知れないのに隠しちゃった

 

 『思った事は言えよ?』

 

 これがダメなのかも…

 もっと素直に…

 

 

 

 

 自分を誤魔化す事に慣れて

自分の気持ちを素直に出せていないナズナ

 

 

 

 

 

「隠さずに思った事は言って下さい」

 隠すのが下手ですね、

 まぁ私も不安ですがエミナのテンションに

水を差したくないですし

 これから…私は上を目指す…

 

 私もどこへ向かうのか…

 

 

 

 

 しばらくすると

 

「ねえ!あれあれ!!」

 更に遠く、小さな光

 

「ジャンボ村でしょうか?」

 違うと思いますが…皆が楽しんでますからね

 

「エミナ!叫んでみろ!」

「私飛んでるよーっ!!!」

 すっかり子供に戻って大笑いする二人

 

「ナズナさんはどうです?」

 

「へ?何叫ぶの?」

 そんな気分じゃ…

 

「何でもイイから言ってみろ!」

 

「え、あ、と…」

 人前で自分を主張する、

 それが恐くて苦手…

 

 だけど…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カリナのバカぁアアアぁ!!」

 

「だっひゃっひゃっ!!」

「ぶひゃひゃひゃ!!」

 

 

 

 叫ぶとスッキリする!

 自分の気分って自分で変えられるんだ!

 

 

「ミハエルって爆笑しないね」

 ナズナは本音をブツけてみる

 

「ガキの頃は笑ってたぜ?」

 

「そうなの?」

 考えてみれば喜怒哀楽の感情を

抑えてるように見える

 

「いつも泣きべそかきながら

一緒に訓練しててよw」

 

「うそぉ!このミハエルがぁ?!」

 

「……言わなくても良いじゃないですか…」

 あ、照れてる、弱点発見w

 

 

 

 

 

 ……………

 

 

「うわぁっ!なんかすごーい!」

 エミナが跳ねる

「ひゃー、派手だね…」

 ナズナはただ見入る

 

 タンジアの港

 遠くに大きな灯台

 入江の港を多くの職人達が改装している、

 大きな生物の骨を並べ、間に布を張り

屋根にするのだろう

 

 二人が驚くのは港の色合い、

 赤と黄色、青と緑、原色が踊っている

「私って地味な世界にいたかも」

 緑と茶色の世界から…

 目がチカチカする

 

「この色合いはバルバレに近いですね」

「南部の人間が来てるんだな」

 シュレイドの南、

大砂漠周辺の村に多い色合いらしい

 

 奥に進む、

石畳もまだ全部は出来ていないが、

職人達が賑やかに作業している

 

「これは…ギルドですね…」

「すげぇ、建物じゃねぇ!この広場全体か!」

「何か良い匂いするー!」

「あれじゃない?」

 ナズナは指差す、大きな…鍋?

からカニの爪がはみ出している

 

 エミナと二人で行ってみるが

 

「これザザミなんじゃ…」

 エミナは思い出す、ザザミの爪の中身を

 

「っぽいよね…」

 見た目はともかく美味しそうなこの匂い

 

「ハルキー!見て見てー!」

 エミナが呼ぶが…ハルキはギルドガール

の一人と見つめあっている

 

「うっわ!早速ナンパ!」

「でも何か変じゃない?」

 他の娘はギルマスと話すミハエルに

見とれている、それが普通だ…

 

 なんであの娘だけ…?

 

 

「俺さ、今日ここに着いたばっかりなんだ、

案内してくれる?」

 ニコッと笑うハルキ、

 さぁ、この子供っぽい笑顔にコロッと…

 

 すると奥の銅鑼の前から白い衣装の娘が

ハンマー?を置いてハルキに近付く

 

「ちょっと!行こうナズナ!」

「うん!」

 

 カウンターを挟み顔が近付く

 

 

 きゃあああ!

 ナンパ成功?!

 

 

「あれ?あの娘…」

 エミナが目を細める

 

 

 (やったぜ!成功だ!

こっから食事に誘って…)

 ワクワクするハルキ

 

 ニコッと微笑むギルドガール

 

 マジか?!

ミハエルもいるのにハルキに?!

 

 …と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母様に報告しますよ?」

 

 

「え(濁点)……………っ!!」

 凍りつくハルキ

 

 

「あー、やっぱりエリちゃんだ!!」

 エリちゃん?

 

「お久しぶり!エミナちゃん!!」

 手を取り合う二人

「ナズナ!この娘はね、ドンドルマの

ギルドガールでエリナちゃん!」

 

「初めましてエリナです」

 ニコッと笑うと眼鏡を取り出し

知的な顔になる

 エミナと一字違いで同年代

 

「初めましてナズナです」

 一通り挨拶を済ませると

 

「ハルキさんは相変わらずですね…」

 眼鏡を上げながら漆黒の目が冷たく見る

 

 え?声のトーンが低いよ?

 

「まさかエリちゃんが解らなかったのぉ?」

 非難の目

 

「…同じだけど…まさかエリナとは…クソッ!」

 ハルキは顔を抑える

 

「同じって何ですか?」

 低い声のエリナ

 

「胸」

 

 「「「最っ低」」」

 ハモった……

 

「あなた人を顔で覚えないんですか?」

 エリナに睨まれる

 

 

 

 

 

「若いもんはいいのぅ!!」

 竜人の多分ギルドマスターが声を

掛けて来る、船乗りの格好だが、

頭の帽子には郵便屋さんと同じ鳥?

 しかし…酒臭い…

 

「取り敢えず採取に向かいましょう」

 孤島?とか言う狩り場へ行く手続きを…

 あまり手際が良くない

 

「すみません、研修は終えてますがまだ

不馴れなモノで…」

 キャシーと呼ばれた娘が頭を下げる

 

「各地から推薦された人員で

立ち上げたばかりで…」

 エリナも

 

「気にしませんよ、最初は誰でもそうです」

 ニコッと笑うミハエル

 当然ギルドガールの顔は

パアッと明るく、赤くなる

 

 

 腹立つ、なんか腹立つ…

 

「ナズナ、顔に出てるよw」

「っぐ!」

 

「お前ばっかりモテやがって…」

 

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 タンジア管轄 下位 孤島

 採取

 

 私達が第1号のハンターらしく、

他のハンターはまだギルドにいない

 

 つまりほぼ手付かずの状態の狩場、

調査隊が調べて狩場に指定されたばかり

 

「え?ハルキ?」

 

「何だ?」

 

「今日は真面目にやるんだ?」

 ハルキが虫網とピッケルを持っている

 真面目に準備してるのは初めて見る

 

 

「初めて来る所だしな」

 キャンプを出て歩く、

 前をミハエルとエミナが喋りながら行く

 

 

 

 

 

 

「!、あのさ、もしかしてだけど…」

 振り返るとハルキが居ない、

と、しゃがんでいる

 

 

 薬草を採取するハルキ…

 

 初めて見る姿…

 

 ハルキが明らかにただの薬草を取る?

 

 二人も私も『ただの薬草』とスルーした

 

 いつものフザケた感じも無い

 

 あの時クーラードリンクと薬草まで…

 

 

 

 

 

 !

 

 だから…もしかしたら…

 

 

 

 

 

「いつも…ポーチ一杯だったんじゃない?

だから採取出来なかったんじゃない?」

 

 何にでも…

どんな状況にも対応出来るように…

 

 

 

 ハルキは立ち上がると

「気のせいだ」

 ニコッと笑う、子供みたいに

 

 

 

 何だよ…カッコ良いじゃんコイツ

 

 




カラオケが無くならないのは多分これ、
ストレス発散が目的




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仲裁

 

「ホッホォ!町の酒場に行くのか?」

 ギルドマスターは酒瓶片手に

 …酒臭い

 

「はい、まだ私達だけですから」

 普通ならギルドで情報収集をするところ

 だが、他のハンターが居なければ解らない

 そこで町の酒場で聞く事に

 

「エミナとナズナさんは宿舎で

 待機してください」

 エミナは抗議の声を上げたが子供の

 行く所ではないだろう

 

 

 

 

「むー!腹立つ!」

 

「仕方ないよ、危ないかもしれないし」

 装備を脱いで片付ける二人

 

「ケンカになっても負けないよ?私ら?」

 

「それじゃ話聞けないでしょ」

 

「だって男が集まる酒場になれてるもん!」

 ふくれる子供、でもそうだったよ、

 船乗りとかは慣れてる

 

「つまんない!」

 ドサッと座ると揺れる、

 宿舎とは名ばかりの屋根付きの小舟、

 扉が無くて大きな布を被せた様なモノ…

 セキュリティはどうなってるのか

 そして男女一緒で色々問題は無いのか

 

 

 

「なんか揺れてて落ち着かないよ…」

 フワフワチャプチャプ音もするし

 

「そっかぁ、舟は初めてなんだね?」

 

 村には舟なんて無かった、

 川が小さくて必要なかった

 

 普通の船にも乗った事が無いのに

 飛行船(最新型)に乗ったナズナ

 

 エミナが動く度に揺れる、

 ドサドサと荷物が崩れると

 

「何だろ?これ?」

 紙の束?ナズナはパラパラ捲ると植物と

 モンスターの挿し絵、そして解説

 

「それハルキのだぁ!」

 筆跡がハルキの字らしい

 植物のスケッチと手に入る地域、

 エリア、薬効が細かく書いてある、

 凄い!調合書みたい!

 

「学校時代のやつかな?」

 字も上手…意外…

 

「そうみたいね」

 エミナも手に取る

 

「そういえばさ…」

 ナズナはハルキが採取したことを話す、

 すると

 

「私も気になることあるんだ」

 砥石を投げた事、時々妙に強い事

「何かハルキの方が頭良く見える時あるよ?」

  

「なんかさ、最近カッコ良く見えてきて…」

 もじもじする

 

 

「にひひひ!

 ミハエルから乗り換えますかぁ?」

 笑う、年下に冷やかされる

 

「ちょっと言い方…」

 

「何だ?まだ起きてたのか?」

「ひゃあうっ!!」

 ビックリしたぁ!

 

 突然二人が乗って来た

「寝てても良かったんですよ?」

 

「お帰りぃ、収穫あった?」

 

 

 

 ……………

 

 

「くるぺっこ?」

 酒場の地元漁師から話が聞けたそうだ、

 こちらでクックに相当するモンスター

 緑の翼、黄色い嘴、赤い胸部…

 

「ねぇ!郵便猫の帽子さ!」

 

「どうやらソレがデザインされたもの

 らしいですね」

 

「それで思い出したんだ…」

 ハルキが荷物をガサガサ、

 別の紙の束を見付ける

「コレだったのか!」

 そのページには可愛らしい鳥の

 …何だコレ?

 

「ハルキ、コレはなんです?」

 

「これな!ユクモ温泉のオモチャなんだよ!」

 ページをパシパシ

 

「何でユクモぉ?」

「知ってる人がいた…?」

 二人で?となる

 

「多分…飛んで行った個体がいたんですね」

 

「クックもリオスも居るってよ」

 

「明日はこの鳥を見にいきましょう」

 

 

 …………

 

 

 カカッ!カカッ!!

 翼を打ち鳴らし左右にステップする、

 そして

「ギョエエエ!!」

 体を揺さぶり踊る派手な鳥、

 バカにされてる?

 

 何だコイツ!

 思ってたのと違う!

 デカイ!キモい!そしてウザイ!

 

「バカにしてんのか!!」

 ハルキが走り込み斬る

 

「ガキィン!」

「でぇっ!!」

 弾かれた!

 

「何?!どうしたの?!」

 走り込むが止まるエミナ

 

「翼爪がカテェ!!」

 納刀して走る

 

「頭も高いし!」

 ナズナも攻撃しづらい

 

 変な形の嘴に軽快なステップ、

 そして踊る変な鳥

 

 

「一旦退きます!!」

 隣のエリアへ…逃げる途中

 

「グェオァ!!」

 ブレス!!

 

「うおっ!!」

「あぶっ!!」

「ふぎぃっ!」

 ナズナの背中に掛かる

 

 

 5番

 

「ゲリョス以上に芸達者です」

 装填する

 

「何なんだよ、あの硬さは!」

 翼爪の部分が爪ではなく硬い石の様、

 砥石で研ぐ

 

「頭届かないよ?」

 クックと違って立ち上がった様な姿勢、

 背伸びするエミナ

 

「これクサいぃ!!」

 ひどい顔になるナズナ

 水溜まりでバシャバシャしてみる

 ってかこの狩場は水ばっかり

 

「毒…ではないようですね…」

「じゃあこれなんだろ?」

「酸…ゲロだなw」

 

「いやあぁぁっ!!」

 

 

 2回戦

 

「頭は私が!」

 高い頭はミハエルが担当、

 貫通弾で撃つ

 

「足は任せたぜ!」

 ハルキは尻尾へ

「翼爪には攻撃すんなよ!」

 

 足はエミナとナズナが担当

 

 カカッ!カカッ!

 また踊る、そして楽しそうに

 前へステップすると

 

 ボォン!!

 

 爆発!?

「だぁっ!!」

 焼かれるハルキ

 

「何よこれ!!爆発?!」

 地面を転がるエミナ

 

 一歩毎に方向を変える鳥

 

「こっちこないでぇ!!」

 逃げ回るナズナ

 全然可愛くない!!!

 色だけじゃん!!

 

「ハルキ!」

 ミハエルが粉塵を使う

 

 

 

 また隣へ避難

 

「どうです?」

 火傷を水で冷やす

 

「あぁ、楽になった」

 回復薬を飲む

 

「あんな攻撃…クックより強くない?」

 ハルキの火傷を見るエミナ

 

「強いよね、

 私達が馴れてないのもあるけど…」

 ナズナが言うと

 

「それが最大の理由ですね、今回は馴れる

 事を優先しましょう」

 ニコッとする

 

「でも解ってきたぜ?多分翼爪が火打石だ」

 硬いはずだ、適当に翼を斬れば

 弾かれて隙を晒す

 

「なるほど、ブレスではなく道具を使う…?」

 他のモンスターとは明らかに違う…

 ブレスでさえない火…

 

「火に耐性無いのはミハエルだけだし、

 まだいけるよね?」

 エミナとハルキはレウス一式

 ナズナはレイア

 

「クックと同じ感じなら…弱点は水…かな?」

 

 

 各自が意見を述べ合う

 ハンターのキャリアの差はあるが、

 初めてのモンスターならその差は無い、

 ナズナも遠慮なく意見が言えている

 パーティーとして理想的な状態

 

 あとは…

「可能性はありますね、さて、どうします?」

 ミハエルはナズナに向く

 

「?」

 どうって?

 

「ナズナさんは続けられますか?」

 

「もちろん、だけど何で聞くの?」

 もっと見てみたいよ?

 

「いや、なんでもありません」

 以前の怯えが無い…

 それは良くも悪くもあります

 

 いや、不安より興味が

 強いだけでしょうか?

「二人はどうです?」

 

「私はやれるよ?」

「俺も行けるぜ、アレまではな」

「アレ?」

 

 …………

 

「グオォオォォーッ!!!」

「ヒッ!!」

 耳を塞ぐ、デッカイ咆哮

 

 …ってか聞いたことあるぞ?

 

「何でリオスの声出してんのよコイツ?!」

 足を斬り叫ぶエミナ

 

「全員納刀!!撤退します!」

「え!?何で!」

 斬り掛かる途中で急ブレーキ

「ナズナ!下がれ!」

 

 クルペッコの周囲から離れて様子を見る

 

「周囲を警戒してください!」

 ペッコを避けながら辺りを見る

 

「何してんのよ!」

 エミナとナズナは理解できない

 しかし二人の様子を見る限り、

 タダゴトではない

 

 

 突然空から急降下する影

 そして

「グオォオォォーッ!!!」

 

「なんでレイア?!」

「どっ!どうしたら良いの!?」

「いいから走れ!」

「リタイアします!」

 

 

 

 

 ……………

 

 ギルドへ向かう

 

「何で教えてくれなかったのよ!」

 エミナが叫ぶ、当たり前だ

 

「私も言っておいて欲しかったよ…」

 

「すみません、話は聞いたんですが、

 信じがたい内容だったんです」

 軽く頭を下げるミハエル

 

「ピンチになると他のモンスター呼ぶ

 らしいんだがよ?まさか本当になぁ…」

 ボヤく

 

「事前に言えば不安になると思いました」

 

 エミナが向き直ると

「ミハエル!!前から言おうと思ってたけど、

 アンタさぁ!距離作るのやめてくれる!?」

 

「エミナ、コイツは真面目なだけだ、

 不確定な話はしたくねぇだけだぜ?」

 フォローするが

 

「それが余計だって言ってんの!!」

 睨む子供

 

「あ、あのさ、ケンカしても…」

 

「ナズナ、アンタどっちの味方よ?」

 こっちまで睨む

 

 コレだよ、この状況だよ、

 中立の立場ってスゴく損なんだ、

 過去にもあった

 

 たけど…

 

「どっちの気持ちも解るよ?エミナは本音を

 言って欲しいし、ミハエルは不安に

 させたく無いんでしょ?」

 

 言っちゃった…

 

 損な役回りに自分からまたなった

 

 どっちからも敵視されて

 孤立するの解ってるのに…

 

「むーっ!!」

 膨れる

 

「エミナ、お前はもっと自分を信頼して

 欲しいんだろ?」

 

「信頼っていうか…」

 自分でも良く解らない

 信用?いや…何だろ

 

「ミハエル、お前はもっと本音でブツかって

 良いんだぜ?」

 

「本音…ですか…」

 

「お前の悪いクセだ、一回自分なりに

 考えて喋るだろ?」

 

 (そうだ…だから敬語だし、

 なんか距離を感じるんだ)

 

「エミナ、ミハエルはよ、貴族のイザコザも

 知ってる、言葉一つ間違えただけで

 不利になることを知ってんだ、

 お前を騙すつもりなんて無いんだぜ?」

 

「むうぅ…」

 エミナの眉間にシワが…

 

「だからよ、許してやれよ?」

 ミハエルに向き直ると

「ミハエル、エミナはよ、気ぃ使って

 欲しくねぇんだよ」

 

「余計な気遣いでしたか…」

 

「あぁ、それと俺の意見を言っておくぜ?

 クルペッコの話の出所は漁師の酔っ払いだ」

 

 エミナがピクッと反応する

 

「頭っからケツまで全部信用出来ねぇ

 …解るだろ?」

 エミナに言うと

 

 無言で頷く

 

「どういうこと?」

 適当な事を言う?

 

「あー、ナズナはすぐに記憶無くすから

 知らねぇか」

 ハルキは語る

 酒は腹割って本音で話す

 便利なモノでもある、けどな?

 初対面の人間に何でも簡単には

 教えないもんだ

 だから一杯奢った所で

 真実かどうかは分からねぇ

「だから俺らは疑ってたんだ、

 本当にモンスター呼ぶのかをよ」

 

 エミナは酔っ払いのオッサン達に

 馴れて育った、だから素直に納得したのか

 

「でも嘘教える人がいるの?」

 そんなことしたら危ないじゃん

 

「居るんだ…本人は冗談のつもりでも

 こっちはハンターだし」

 エミナはうつ向きながら話す

 冗談がハンターを殺す事もある

  

「よし、もう怒るな、

 それよりも大変だぜコレ?」

 

「多頭クエストの覚悟をしないと

 いけませんね…」

 

「どうやって情報集める?」

 エミナが普段に戻ってる

 

 

 

 明日からの対応を話ながら歩く

 ミハエルとエミナ

 少し離れて二人で歩く

 

「ハルキ凄いね、仲直りさせるなんて」

 

「別にスゴかねぇよ?」

 

「私なんて中立は損とか考えてたよ?」

 

「女はそう考えるから直ぐに派閥が

 出来るのな、でもお前はやらなかったな?」

 こっちみて笑う

 

「うん、二人とも悪いこと

 言ってない気がするし」

 

「別にそれで良いんだぜ?

 本音ブツけて険悪になっても」

 

「それじゃバラバラに…」

 

「ケンカしたならソロでも良いんだよ、

 ハンターだしな」

 

「私…それはいやだなぁ…」

 せっかく組んでるのに

 

「あー…お前イジメられたのはその辺かもな」

 

「?」

 

「どっち付かずでいたら派閥が

 仲直りして孤立したろ」

 

 図星かも

 

「女はメンドクセぇなぁ…」

 頚を振る

 

「私はどうするのが正解だったんだろ…」

 手をモジモジしながら歩く

 

「多分それが間違いだろうな」

 私を指差す

 

「何が?」

 

「お前多分ケンカしないように気ぃ使ったろ」

 

「だって…怖いもん…」

 

「正解なんかねぇんだよ、

 ケンカなんざ当たり前だと思っとけ」

 

「でもハルキは仲直りさせたじゃん」

 

「仲直りさせようと思ってねぇぞ?w」

 

 

「えっ!!」

 上手く説得した様に見えたけど??

 

「俺も本音ブツけただけだ」

 ヘラヘラ笑う

「お前は気ぃ使いすぎだ、それと…

 まぁ…経験…か?」

 

「経験…?」

 

「書士隊だ」

 

「何かあったの?」

 

「想像してみ?30人は居る班で、頭はあの

 マルク教授、で、実質のリーダーが俺」

 

「うっ…」

 想像だけでも胃が痛い

 

「だろ?」

 笑う

「毎日トラブルだったぜw」

 

 




損だから自分を通さず妥協する、
長いものには巻かれる、
自分を守る為に派閥に居る

でも本当は…ねぇ


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一歩

「リタイアか…」

「面目ありません…」

 

 ギルドに帰って報告している、と、

 

「おい?!俺達より先にハンター居るぜ?!」

 ゾロゾロとギルドに30人ほど入って来る

 

「おぉ!!第一陣の到着か!」

 ギルマスが声を上げる

 

「なんだぁ?俺達が

 一番乗りだって聞いてたぜ?」

「何で先に居るんだ?」

「話が違うな…」

 明らかに装備の違うの三人がこっちへ来る

 

 上位より…上の…

 

 

 

 怖い…

 

 思わずエミナの後ろに退がろうとすると

 

 背中を叩くエミナ

 「背筋伸ばして、胸張って」

 並んで立つ

 

「だって怖い…」

 

「怖がんなくて良いってば、ナメられるよ?」

 

「私そういうの良く分かんないんだもん…」

 

「心配無いってば、ミハエルっていう

 特別な人がいるんだから」

 

「特別…」

 

 

 G級だろうか、大柄でキズだらけの男が

 ミハエルの前に立つと

「お前…その顔…」

 睨む様に見る

 

「何でしょう?」

 涼しい顔のミハエル

 

「その目の色と顔…お前確か

 ハインツの息子の…」

 

「はい、ミハエルです、以後よろしく」

 

「おぉ!アンタの親父には

 色々教えて貰ったぜ!!」

「ミナガルデで若い頃に指導されたぜ!」

「同じ歳なのに四英雄に成りやがった!」

 笑顔で握手する

 

「今度はぜひ、私達を指導して下さい」

 こちらも笑い一礼する

 

 あんな恐そうな人達と普通に

 コミュニケーションできてる…

 

「今日から同じギルドの仲間だよ?

 仲良くしとくべきだよ?」

 ナズナに囁くように言う

 

「愛想良くして…」

 苦手だよぉ…

 

「ムスッとしてたら何にも始まらないよ?」

 笑う年下

 

 ムスッとしてた…ココットで…

 

 だから何にも始まらなかった…

 

 だから何も知らない…

 

 いつもウジウジ意味の無いこと考えてた…

 

 だから…

 

 一歩前に出るナズナ

 

 (ナズナ!いきなり大丈夫?!)

 (ナズナ、勇気出したなw)

 (これは予想外です)

 

 恐い!怖い!コワイ!こわい!

「あ…あの…あの…」

 

「なんだぁ?嬢ちゃん?」

 デカイ!コワイ!キズだらけ

 近くで見るとモンスターよりコワイ!

 

「ミ!…ハエルのパーティーしてます!

 ナズナ!です!」

 出した右手が震える!

 胃がせり上がる!

 足も震える!

 目が合わせられないし言葉使いも

 メチャクチャ

 思わず大声で叫んでしまった

 

 歯を食い縛る

 

 一瞬ギルドに静寂が訪れる…

 

「ほぉう…」

 その様子を見ると

 ニヤリとするモンスター(失礼)

 ナズナの前まで来ると握手ではなく、

 ナズナの頭に手を乗せる

 傍目からだと産まれたてのケルビの

 頭に手を乗せる…

 

 アオアシラ?

 

 

 

 重い!

 オッサン臭いぃ!

 

 …けどなんだこれ?!

 

 すっごい熱い!

 

 

「ヨロシクなぁ!ヒョロい嬢ちゃん!」

 

 

 頭をポンポンされる

 

 

 

 

 ……………

 

 

「怖かった…」

 まだドキドキする

 

「でも挨拶できたねぇw」

 内心ビックリしたエミナ

 

「まぁ大成功だわなw」

 

「勇気ありますね」

 一歩踏み出しましたね

 

 ギルマス達と話している

 さっきのパーティー、

 どうやらミナガルデから来たG級の

 三人組らしい

 見た目は山賊だが…

 

「アンタすごいねぇ!」

 こっちのテーブルに女ばかりの

 パーティーが来た、ナズナの周りに集まる

 

「私ら怖くて船で話せなかったんだよ?!」

「やっぱりアンタもG級?」

 見た目が派手な女が四人

 

「いや、あの…下位です…」

 下を向くナズナ

 こういう空気が苦手…

 こういう派手な人が苦手…

 

 と、

 

「上位目前でよ!こっち来ちまってな!」

 ハルキが口を挟む

 

「あ、そうなんだぁ!」

「私らも下位でさぁ!」

「何か知ってることあったら教えてよ?」

 同時に喋る、騒がしい

 

「もちろんです、私達も来たばかりですから

 色々教えて下さい」

「…カッコ良い…」

「美形…」

「背ぇ高い…」

 立ち上がっただけのミハエルに見とれる

 

 小声でエミナが

「ほら、ナズナ、背筋伸ばして」

 

 そうか!私がこの空気苦手な事を察して…

 二人とも間を繋いでくれてるんだ!

 

 もう一回…さっきより怖くないはず…

 立ち上がると

「よろしくお願いします」

 ナズナは右手を出すと

 

「私はリーダーやってるケイシャ、

 ヨロシク!」

 握手する、派手な赤いショートヘアーに

 ジャラジャラと良く解らない

 アクセサリーが大量

 

 地味と派手が握手している

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

「っつー事は何か?その鳥だけじゃあ

 ねぇって事か?」

 

 ナズナ達のテーブルに大量の料理と酒、

 全員が話を聞くために集まり奢る

「そう!リオスの声で吠えたんだ!

 多分呼んでるんだよ!」

 デカいカニの爪を割るエミナ、

 珍しい料理に上機嫌

 中年の男のハンターには娘に…

 見えるのだろうか?

 

 

「昨夜聞いた話では他にも

 呼ぶらしいですよ?」

 ケイシャ達女性陣に囲まれ、酒を注がれ

 ても涼しい顔のミハエル

 普通の男なら嬉しい筈だが…

 

 

 そしてそれが気に入らないだろう

 若い男達はハルキの周りに

「つまり常に合流の危険が?」

 

「あぁ、そうなる、

 それと翼爪が異常に固いぜ?」

 会話はしているがジト目でミハエル達を

 見ている、もちろんハルキも

 

 

「なるほどな、先ずはコヤシ玉の用意だな」

「レイアの対策も必要か?」

「とにかく回復系と…」

 例のG級はナズナの周りへ

 

 怖い…なんで私の所に

 

 どうやら気に入られたらしい

 

「あ、あの、名前教えてもらっても…」

 

「あ?」

 頭をポンポンした人が顔を近づける

 

 ひぃぃぃっ!

 怖い臭いキズだらけ!!

 

「俺は…あー…俺はなぁ…」

 リーダーらしき人、鼻から耳まで真横に

 キズ跡がある

 磨り減ったキズだらけの赤い装備、

 赤い大剣、

 (アグナシリーズ、ナズナは知らない)

 日焼けした大男が言い淀む…

 

 …え?もしかして…照れてる?

 

「ダッハッハァ!そいつはチックだ!」

 仲間のスキンヘッドが笑う

 

「チック…」

 え?!この見た目でそんな可愛らしい…

 

 少し照れながら

「…チックだ…でコイツは」

 スキンヘッドを指差す

 

「オレはジュウジ」

 ミハエルと良く似た装備、

 多分G級のギザミ装備?と大剣、

 ちょっと小柄

 (それでもナズナよりデカイ)

 そして何だか軽い感じ

「そんでこっちが…」

 指差す

 

「俺はロクロウだ、ヨロシクな」

 岩みたいな装備にデッカイ槍

 二人に比べて口数は少ない、

 口髭に少し白髪が混じってる

 三人とも50才位か?

 

「まだギルドに情報の蓄積がねぇな」

「こりゃ探り探りやるべきだぜ?」

「俺達が一番上のようだし…」

 

「よし、

 情報を少しでも増やす事を目標とする」

 チックが指を立てる

 

「了解だ、

 その鳥瀕死まで追い詰めて見ようぜ」

 割りと残酷な事を言うジュウジ

 

「ギルドの運営に協力するとしよう」

 ロクロウの言葉でナズナは少し知る、

 唯一のG級、だけど一番上だが威張る処か

 ギルド全体のために動こうとしている

 自分達だけのためじゃない、

 他の責任?も背負っているのか?

 

 これがG級

 

 ココットで噂に聞いた、

 一人で兵士一軍に匹敵するという…人外

 

 ってか人外って何だろ?

 モンスターみたいってこと?

 

 

 

 …………

 

 

 次の日、朝

 ナズナ達がギルドに集まると

 

「今回はこんなもんだろう」

「せいぜい呼ぶのは2匹までだな」

「調査隊は追い詰めないからな、

 知らなかったんだろう」

 チックパーティーが帰って来た、

 早朝から狩りに出たらしい

 

「ホッホォ!これは凄い!」

「リオレイア及びロアルドロスの報酬も

 用意します」

 ギルドガールが大忙し

 

 聞けばクルペッコを瀕死の状態にしてから

 長時間追い回したらしい、

 そして呼ばれたリオレイアとロアルドロス?

 とやらまで討伐して来た

 

「条件付きのクエストにするべきだぞ?」

 チックの言葉にギルドマスターが頷く、

 クエストのレベルに修正が必要だ

 

「ナズナ!こっち来い!!」

 チックが呼んでいる

 

 怖い怖い怖い怖い

 

 おずおずとチックパーティーの前へ

 

「お前達の事前情報で楽だったぜ?」

 右手を出す

 あ、握手だ…昨日してないから?

 ナズナも右手を出す

 

「昨日は正直ナメた態度を取った、詫びる」

 握手する…ナメた態度?

 もしかして頭ポンポン?

 

「詫び代だ」

 ジュウジがキレイな羽を突き出す、

 クルペッコの飾り羽

 

「え、あの、貰えませんよ…」

 注目されてるし…貰う理由が…

 

「ナズナ、貰っとけ」

 ハルキ…

 

 ちょっと怖いけど受け取る

 

「勇気のお守りにすると良い」

 ロクロウの言葉の意味が解らないが…勇気?

 

「いきなり俺達に挨拶は怖かったろう?」

 チックはニヤケる

 

「足ガクガクだったなw」

 ジュウジも

 

「それを見る度思い出せ、

 お前には度胸がある」

 ロクロウの言葉が胸に響く

 

 

 

「良かったじゃねぇか!」

「認めて貰えましたね!」

「いきなりG級に認めて貰えるなんて

 凄いよ?!」

 

「違うよ、皆の情報教えたからだよ」

 

「いいや、お前の度胸が気に入られたんだぜ?

 名前で呼んで貰えるとはな」

 

 度胸…?

 

 勇気も…

 

 それが何なのか知らなかった

 

 でも今はちょっとだけ…

 

 

 

 

 

 

 




取引先の相手、
話したこと無い先輩や上司、
苦手なヤツ、
新しい習い事、

これら全てが『新しい世界』に繋がる

現状維持っていつかは飽きる



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大事な事を二つ

 

 カカッ!カカッ!

「来るぞ!!」

 

 前へ楽しそうにステップする鳥

「誰狙い!?」

「ナズナだ!」

「ひぃぃぃっ!」

 ペッコの足元を裏に回る様に転がると、

 明後日の方へステップする、余裕がある!

 

「よし!三回やった!」

 

「今です!!」

 動きの止まった所に斬りかかる

 

 

 

 …………

 

「本当に90度以上は曲がれないんだね」

 あのステップ、ハルキの言った通りだ

 

「前回食らったからな、覚えたぜw」

 ヘラヘラ笑う

 

 討伐成功

 

「ミハエル、凄かったねぇ!」

 

「皆が足止めしてたからこそですよ?」

 クエスト開始から頭を狙い、

 早々に嘴を破壊した

 

「嘴壊すと呼べねぇのか?」

 

「おそらく…」

 

「でもコヤシ玉は持ってないとダメだね」

 

「………作るの…?」

 あからさまにイヤな顔になるナズナ

 

 コヤシ玉、それはモンスターの糞を素材

 として使う、

 つまりモンスターの糞を手で採取する…

 

 ……イヤ過ぎる…なのに…

 

「あったぜ?」

「ちょっと少ないね」

「全部採りましょう」

 皆平気で手を突っ込む

 

 ベルナ村で飼っていたムーファ、そのフンを

 集めて片付けるのは子供の仕事…

 

 ナズナは一人で仕事を押し付けられ、

 集めたフンの上に蹴り倒されたりした

 

 イジメられた事を思い出してしまう

 突っ立ってうつ向く

 涙が滲む

 

 

 

 

 その様子を見ると

 

「ナズナ、最初は私もイヤだったし、女なら

 やりたくないけどハンターなら当然だよ?」

 

 ちがう…それだけじゃないんだ

 

「あー…ナズナが持つ分は俺が作って…」

 ハルキが言いかけると

 

「ダメです」

 ビシッとミハエルが止める

 

 (甘やかす事になります)

 

 ナズナの正面に立つミハエル

 

 クックの時もそうだった、ナズナさんは

 コヤシ玉を持たない

 

 ドスランポスの乱入の可能性があるのに

 

 それに…

 

 ベルナ村は家畜で生計を立てている、

 子供の仕事は誰でも解る

 

 その中でイジメられていればどうなるか

 

 ならば…

 

 

 

 

 

「イジメられっ娘のナズナ!!」

 突然ミハエルが叫ぶ!

 

 ナズナはビクッと体を震わせ硬直する

 普段から大声出さないのに

 

 

 

「…おや?返事がありませんね…

 そんな人は居ないようですね?

 …では…」

 少し膝を折り目線を同じにすると

 

「ハンターのナズナさん…」

 

 

 

 

 うつ向く、胸に手を当てる、

 防具の下、ネックレスに付けた飾り羽、

 ロクロウが言った…勇気のお守り

 

 

 

 

「………はい…」

 涙でグシャグシャの顔を上げる

 

 

「ここに居るのは誰もがハンターと認める

 ナズナさん、貴女だけです、過去の貴女は

 いませんよ?」

 

 

 

 

 

 

 そうだ、私は今ハンターなんだ

 ベルナのナズナじゃないんだ

 だから…

 

 

 

 

 

勇気……

 

 

 

 

 意を決して手を突っ込む

 気持ち悪い!臭い!

 

 

 

 

 コヤシ玉を作ると悪臭は無くなって、

 ポーチに入れるのも抵抗が無くなった

 

 『恨む、多分何十年でも』

 エミナの言葉が思い浮かぶ

 

 でも…今はハンターなんだ

 

 

「一つ克服しましたね?」

「この狩場は水だらけだ、どこでも洗えるな」

「さっき滝あったよね?」

 

 

 

 

「…………」

 皆気を遣っているのが解る、

 私はどうする?どうすれば…

 

 エミナは腕折った時、逆に明るくなってた

 

 なら私はどうする…

 

 

 顔を上げる

 

 

 

 

 

 

「あ、…案外…平気だね…」

 手を擦る

 

 三人とも笑顔になる、と、

 

「よし、今度は効果の確認だ」

 ハルキはコヤシ玉を持つとニヤリと笑う

「まさか!」

「ヤバッ!」

 エミナとミハエルが飛び退く

 

「へ…?」

 

 私の足元にコヤシ玉をぶつける

「いやぁぁあ!クサイぃ!!」

 何でこんな事すんの?!

 私傷付けておもしろいの?!

 

 涙目でうつ向く

 なんで?!

 

 悔しい

 

 悔しい

 

 悔しい!!

 

 

 なんで、何でいつも私ばっかり…

 私がダメだから…

 トロいから…

 

 

 

 ?

 静かだ…

 

 

 

 

 

 少し顔を上げて見ると、三人が見ている、

 笑っているわけではない

 悪意のある顔でも無い…

 

 ワクワクしてる?

 何か待ってる?

 

 私が何か…

 

 

 

 

「どうした?お前も持ってるだろ?」

 ニヤケるハルキ

 

 コヤシ玉のこと?

 持ってみる…と、

 明らかに笑顔になる三人

 

 

 …勇気!

 

「てい!」

 ハルキに投げる

「うぉっとぉ!!」

 器用に避ける

 

「何で逃げんのよ!」

 

「当ててみな!」

 すっごいイイ声で

 

「一回は一回じゃん!」

 連続して投げる

 

「ひゃひゃひゃ!そうだぜ!やりかえせ!」

 ハルキも投げる

 

「うわクッサ!だけどこれは…w」

「参加しない手はありません!」

 

 四人で爆笑しながらコヤシ玉を投げ合う、

 一面黄色の煙が立ち込める

 

「てめぇミハエル!おればっかり!」

「私は女性に優しいんです!」

「ナズナ!普通私に投げる?!」

「もう皆キライ!!」

 

 

 ……………

 

 

 

 

 滝で防具を脱いで全身洗う

 インナーだけだが恥ずかしい気さえ

 起こらない

 

「私としたことが…」

 目元を押さえるミハエル、

 コヤシ玉を投げ合うとは…

 

「なぁに大人振ってんだよ!」

 

「楽しかったぁ!」

 

「何か久しぶりに大笑いした」

 

 やっていることは低学年のバカ男子

 

「ナズナ、面白かったろ?」

「でもコヤシ玉無くなったよ?」

「また採取ですね」

「もうナズナは平気だし!」

 

 

「おや、ナズナさん、そのネックレス…」

 長い髪を搾るミハエル、彫像の様

 

「それココットのギルマスに返したヤツ!」

 指差す、エミナが着けていたらしい

 

「なんでお前が持ってんだ?」

 

「え?出発する時くれたよ?」

 古いガラクタみたいで着ける気に

 ならなくて、道具の箱に入れっぱなし

 だった、しかし飾り羽をくっ付けて首に

 掛けて来た

 

「ナズナ、それの意味は聞いてる?」

 真剣な顔で聞くエミナ

 

「へ?何にも聞いてないよ?

 持って行けって言われて…」

 

「帰ったら説明しますよ?」

 

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

「アンタら、何かクサイよ?」

 ギルドでケイシャ達が顔をしかめる

 

 お互いに顔を見合わせると

「ぶはははははは!!!」

 大爆笑

 ミハエルも笑う

 

「ちょっと、何?何なのよ?」

 

「コヤシ…玉合戦した」

 ナズナは笑いを堪えながら

 

「え?何の話?何の冗談?」

 

 更に大爆笑

 

 

 …………

 

 

 

 

「子供かアンタらは…」

 ケイシャに呆れられたが、

 今日の狩りの話を聞くと

 

 

「それは貴重な情報かも知れません」

 ケイシャのパーティーが狩りに出た辺りに

 漁村があった、

 そこの住人は生活レベルが低い代わり

 勇壮で、クルペッコ程度なら普通に狩って

 しまうそうだ

 (一応叔父上に報告しておきますか)

 

「元々強い人って確かに居るよね」

 エミナの母親とか

 

「四大英雄の時なんかロクな武器も無かった

 らしいぜ?」

 

「お父さんに聞いたよ、その頃はマカライト

 の溶かし方さえ知らなかったらしいよ?」

 

「つまり産まれながらの何かが違う…?」

 頚を傾げるミハエル

 

「まぁ弱くなってるかも知れんなぁ!」

 ギルマスが酒瓶片手に

「今は装備も道具も研究されて、

 便利になりすぎたかも知れん」

 

「その分弱くなっていると?」

 

「チックが帰って来たら聞くと良い、

 『強さとは?』ってなぁ」

 

 

 ………………

 

「強さ?」

「またメンドクセェ事を…」

「どう教えたモノか…」

 

 ナズナが聞くと普通に話してくれるチック達

 G級と普通に喋るため、周りのナズナ達に

 対する評価は上昇しているが自覚は無い

 

「元々強い人…って何が強いんですか?」

 

「ナズナ、難しく考え過ぎだ」

 チックが髭を撫でながら

 

「そうだな、例を挙げれば…」

 ジュウジが考えると

「ナズナ、お前足速いか?」

 

 ナズナは首を振る

 村でいつもビリだった

 

「じゃあお前は弱いか?」

 

 ???

 

「ジュウジ、それでは解らん」

 ロクロウが口を挟む

「強い弱い、そんなものは人間の世界の話だ、

 例えばリオレイアから見ればナズナも俺達

 も同じ人間でしかない、いくら早くても

 頑丈でもモンスターから見れば差など無い」

 

 あ、この人の話は解りやすい

 うなずく

 

「では何が強さの差を生むか…

 そこを考えるんだ」

 

 

「それは…恐らく経験でしょうか?」

 ミハエルが考えながら

 

「そうだ、どれだけ多くの攻撃を

 食らったかだ、その経験が強さになる」

 ロクロウって寡黙だと思ったら以外と喋る

 

 

 思い出す、ハルキが横から突っ込んできて

 ミハエルに怒られた

 

 

「その経験があれば避けるなりガードする

 なり『対応』ができるって訳だ」

 

 

 私が『対応』できるように経験を積ませ

 たかったんだ

 

 

「ロクロウは説明が上手ぇな、

 今言ったのが『普通のヤツ』な」

 ジュウジが言う

 

「普通?」

 普通じゃない人もいる?

 

「初めて見る攻撃さえ見切るバケモノなら

 一発も食らわねぇ、

 こっちは『天才』タイプだ」

 ジョッキを置くチック

 

「そんな人っていた?…んですか?」

 言い直すエミナ

 

「一人いた、ナナキだ」

 

 ロクロウの言葉にピクッと反応するハルキ

 

「アイツは一度見た攻撃は二度と当たら

 なかったそうだ、

 『ハンターの強さの差』ってのは結局

 『全部避けながら攻撃出来るか』って事だ」

 チックは頷きながら言うが…

 そんなの何年掛かるんだ?

 

「あの、昔の…装備の無かった人達って

 強かったんですか?」

 

 

 チックはナズナ達を見渡すと

「例えばだ…」

 いまほど武器、防具、道具も無い時代を

 想像しろ、切れ味は悪い、回復は弱い、

 一発食らったら死にかける、

 その上ネコタクまで無かった

 

 そんな時代のハンターは考えて研究し続けた

 どこを斬れば良いのか、

 どう避ければ良いのか、

 どうすれば効果が強くなるのか

 今より遥かにシビアにだ

 そしてモンスターの攻撃の威力、範囲もだ

 

「攻撃の研究…怖い…」

 ナズナも考える

 

「何だナズナ?お前も、ここにいるハンター

 全員も、一度はクックの尻尾に

 吹っ飛ばされてるだろ?」

 

 皆が頷く

 

「そうやっていく内に自然と覚えて考えるんだ」

 

「ガストンさんの教えはよ、

 『全モンスターの全攻撃を食らって覚えろ』

 だからな」

 ジュウジが笑う

 

「その言葉の意味を考えるんだ」

 ロクロウが珍しくニコッとする

 

「大怪我しそうだよ?」

 エミナが首をかしげる

 

 チックは笑うと

「攻撃全部食らう頃には対応力が

 高くなってるぞ?並みの人間が相手に

 ならない程にな、覚えがねぇか?」

 

 エミナは思い出す、

 兵士の五人位なら怖いと思わない

 

「普段モンスターの攻撃に対応してるヤツに

 とって、人間の攻撃なんて遊び程度だ」

 ジュウジの顔が赤い、ビールで酔ったらしい

 

「じゃあさ、ただの漁師なのにモンスターに

 勝っちゃうヤツって…」

 横からケイシャが思いきって聞く

 

「素人でも同じだ、

 何度も挑んで考えたヤツだ」

 

「ハンターと変わらねぇよ」

 

「本質は何でも同じだ、

 仕事も狩りも変わらない」

 

「やっぱりアイツ凄いんだ…」

 ケイシャの顔が赤くなってるような…

 

 

 

 

挑む…何度も…

 

 




特に前半が一番描きたかった話なのに、
サブタイトルが思い付かなかった

じゃれ合う事でキズ付くか、やり返すか、
ここの気持ち一つが分かれ道な気が
するんだ


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女の友情と男女の機微

 

「バチャアッ!!」

「ぶふうぅえっ!!」

 

 ロアルドロスの水を食らった

「何か粘っこいぃ!」

 すっごい疲れる!

 粘液的な何かのようだ

 

「ナズナ!ブレス食らいすぎだ!」

 止まった所に斬りかかる

 

「以外にコイツ速くない?!」

 走り回るし

 

 デカくて黄色いボコボコの襟巻きした

 トカゲ、意外にも走るの速い!

 

 ハンターの回避みたいに横に転がる

「コレうぜぇ!!」

 水飛沫との戦い、襟巻きが水を含んで

 いるのか攻撃の度に水が…

 

「ああ腹立つ!止まりなさいよぉ!!」

 エミナは追いかけるが

 

「追わずに待っていれば

 勝手に来るようです!」

 貫通弾を撃つ

 

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 ロアルドロス 討伐完了

「なんだかゲリョスに近かったですね」

「体力は無ぇのな」

「腐ったバナナみたい」

 横たわる襟飾りがまるで…

 突っつくエミナ

 

 

 

「ミハエル、ほとんど動いて無くない?」

 振り返るナズナ

 

「はい、ガンナーだと的でした」

 …驚きですね!

 ナズナさんが自分以外を見ているとは!

 成長してますね、レウスのソロも

 イケるかもしれません

 

「ロアルドロスにはガンナーのが良い…?

 のかな?」

 

「ナズナ、ガンナーやるの?」

 

「ううん、自信無い」

 やっぱり弾丸代で苦労するしなぁ、

 またあの苦労をするのは…

 

「ミハエル、そりゃお前のレベルだから

 的って言える話だろ?」

 

 

 

 

 ……………

 

 ギルドで報告していると

 

「アイツ信じらんない!」

「裏切った!」

「私らはどうでも良いってこと?!」

 

 ケイシャのパーティーも

 帰って来たようだが…

 

 

「あれぇ、ケイシャいないよ?」

「なんだろ、裏切り?」

「あー…メンドクセェ事に首突っ込むなよ?」

「他のパーティーの人間関係ですよ?」

 静観する、派手な三人がぎゃあぎゃあ騒ぐ、

 ランポスが3頭…

 

「私聞いてくる!」

「おいエミナ!」

 

 そうだよ、

 エミナはこういうの好きだったよ…

 仕方ないのでテーブルで待つ

 

 戻ってくると

「ケイシャがパーティー抜けたんだって!」

「え?!何で?!」

 なんでもこの前の漁村、モガの村?

 に好みの男が居たらしく、そこに住むと

 言い出したそうだ

「そんな理由で?」

 せっかく仲良くなれそうだったのに

 

 

「あー…女の友情ってやつか」

 

 

「女の友情?」

 エミナは首をかしげる、ハルキに注目する

 

「あ、あー…なんだよ?」

 まずい…

 

「女の友情って何?」

 目をキラキラさせるエミナ

 

 何となく嫌な空気なのを知っているナズナ

 

 

 やっべぇ!地雷踏んだ!

「あー…」

 頭をボリボリ掻くと

「例えばだ、お前ら二人が同じ男を好きに

 なったらどうなるよ?」

 

「それは…」

 エミナとケンカなんてしたくない、でも…

 ミハエルをチラッと見る

 

 エミナもミハエル好きだったら…

 どうしたら…

 

 

「私は構わないけど?」

 エミナはあっさりしている

 

「エミナ、ナズナさんに譲るんですか?」

 

 

「何かさ、良く分かんないのよ」

 腕組みする

 

 三人は納得する、まだ子供だから…

 

「私お母さん二人居るし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ん?

 

 

 

 

 

 

 んんん?!

 

 

「あぁ、そうでしたね」

「ミハエル!どう言うことだ!?」

「ふたり?…え?二人?」

 

 エミナの父親には妻が二人居るらしい

 一人はエミナの母親カンナ

 もう一人はパティ

 

「なんて羨ましい…」

 ハルキはなぜか大袈裟に感心して

「ミハエル、お前知ってたのか?」

 

「母様から聞いてました」

 

「お母さん同士でケンカにならないの?」

 

「ケンカ…?仕事の事ではケンカも

 あるみたいだけどその他はなぁ…」

 ジュースを飲むと

「何でお父さんがモテたのか全然

 分かんない」

 

「何だ?イイ男なんだろ?」

 よし、このまま…

 

「んーん、普通、

 ってかボーッとしてるタイプ」

 

 

「まぁ取り敢えず話を戻しましょう」

 バッカ!せっかく脱線したのに戻すな

 ミハエル!!

 

「大体の場合、仲が良くても

 ケンカになるんですよ」

 

「私がナズナとケンカになるの?」

 首をかしげる、しかし家族がそれでは

 実感無いだろう

 

「貴族間などは階級まで絡んで

 ドロドロですし」

 

「独占欲っつってな?ケンカになんだよ」

 疲れるぜ…ヘタな事言うもんじゃない

 

「後は抜け駆けですね」

 ミハエル!話終わらせたろ!

 

「抜け駆けぇ?」

 ポカンとするエミナ

 ハルキを見る

 

「あー、…仲間の一人が男デキた途端に

 仲間はずれになるんだ」

 

「そんな事で仲間はずれぇ?」

 ナズナに向く

 

「え?わた、私は恋愛経験ないし…」

 モジモジする、片思い程度ですよ、

 その辺はエミナと変わらないですよ

 元サ○コだよ?男なんて…

 

「まぁ好きなヤツができれば解るように

 なるだろ」

 あぁメンドクセェ…

 

「女性は嫉妬が強いんですよ、

 仲間でも許せなくなる人がいますし、

 自分が気に入らない女性が付き合いだすと

 異常に嫉妬します」

 いい加減にしろミハエル!!!

 

「と、とにかく女の友情は壊れやすいんだ」

 ミハエルを睨むとキョトンとしている

 こいつは…

 

「ナズナが誰かと付き合ったら…私怒るの?」

 顔中に?が浮かぶ

 

「おい、ナズナどうした?」

 

「はっ!」

 話を聞いてる内にミハエルとの

 アレやコレを想像して真っ赤になっている

 

 

 

 ……………

 

 

 

「あー、疲れた…」

「女のその辺りの事まで知ってるんだ…」

 先に小舟に戻って来たハルキとナズナ

 

「女は訳解んねぇ事で怒ったり

 仲直りしたりで忙しいからな」

 

「書士隊ね?女もいたんだ?」

 

「やっぱりモテるヤツが居てよ、

 取り合いでな、しかも会話が頭悪すぎる」

 

「それは女をバカにしてない?

 男だって無神経な事言うよ?」

 

 

「例えばよ」

 A「あの娘ミハエルに告られたんだって!」

 B「何様のつもりよ!」

 

 って昨日まで言ってたら

 

 A「あの娘ミハエル振ったんだって!」

 B「何様のつもりよ!」

 とかな?

 

 裏声と身振り手振りで説明するハルキ

 

 

 

 

「…うん、ハルキがキモいのは解った」

 

「そーゆートコだ!!」

 

 

 

 

「何をモメてるんです?」

「クーラードリンクあったよ?」

 二人が帰って来た

「やっぱり第一陣と一緒にアイテムも来たか」

「これで砂漠もいけるね」

 

 

 そういうトコって…どこ?

 

 

 

 ……………

 

 

 

「べちゃあっ!!」

「ぶえぇっ!」

 

 砂漠で採取の途中、泥の中から何か

 出てきた、様子見程度に戦う

 

 変な頭…翼が無い…

 しかも

「何だコイツ!速えぇ!」

 もの凄い速度でダッシュする

 

 泥をまともに被った、

 しかも

 

「え!え!?ナニコレ!」

 泥が体にくっ付き、団子に…

 腕が出せない!

 

「どうしました?!ナズナさん!」

「何か取れない!」

「動くな!」

 ハルキが走って来て

 

「とう!!」

「ゴスッ!!」

「きゃあああっ!!」

 飛び蹴り!泥は取れたが吹っ飛ぶナズナ

 

「ハルキ!他にやり方あるでしょ!!

 顔にケガでもしたらどうすんのよ!」

 エミナが怒る

 

「そん時ゃ責任取ってやるよ!」

 泥だらけのデカい何かに斬り掛かる

 

 

 

 

 

 

「…………え?」

 固まるナズナ

 

 何?今の?告白?え?そーゆーノリ的な

 何か?え?責任?責任ってアレでしょ?

 ハルキって私の事を?いや私も決して嫌い

 じゃないけど心の準備的なものも必要だし

 ミハエルの方がどちらかと言えば好きと言

 うかでもハルキも最近気になって…

 

「ナズナさん!」

「ナズナ!どうしたの!」

「はっ!」

 やっば!ボケッとしてた!

 

 

 

 

 キャンプに戻る

「なんだろ?あのモンスター」

「ギルドで聞いてみましょう」

「ドスランポスみてぇな形で

 あんなにデカイとはな」

 

「…ハルキ」

「ん…何だ?」

 二人で少し離れて

 

「責任…って?」

 小声で

「あ?ケガしてねぇだろ?」

 

 怒!

 

「ケガしてたらどうしたの?」

 

 どう責任取るの?

 

 やっぱり付き合うとか?

 

 こんな地味な女だけど結婚とか?

 

 

 

 

 

 

 

 いやいやいやいやいや、話が飛躍しすぎ!

 物事には順番というものがあるでしょま

 ずは付き合うにしてもお母さんに挨拶な

 り家の両親に会うなりそういえば家の両

 親にはもう会ってるけどあんまり話してな

 いし…

 

 

 

 

 

 

「あぁ…ホラよ」

 

 回復薬を投げる…

 

 

 

 

 

「そーゆートコだよ!」

「な、何怒ってんだよ?!」

 

 

 

 

 ………………

 

 

 

 

 

 

「それはボルボロスと名付けられたぞ?」

 ギルマス…また飲んでる

 

 チックのパーティーも居ない、

 これでは聞く事も出来ない…と

 

「クエストはありますけど?」

 エリナとキャシーに勧められるが

 

「どうします?」

「私やってみたい!」

「せっかくだがよ、明日にしようぜ?」

 

「なぜです?」

 

「ほら…」

 指差す

 

「コレギルドだぁ!」

「建物じゃないね!」

「船旅って飽きるなぁ!」

 

「おぉ!また到着か!」

 登録で忙しくなるギルドガール

 

「ナズナ、挨拶だぜ?」

「うん!」

 

「ハルキ先輩?」

「あ?」

 

 ハンターの集団の中に学者風の数人

「お久しぶりです!」

 変な帽子にグルグルメガネのおかっぱ頭、

 身長は私と変わらない

 

 

 

 ……え?アレ?この人男?女?

 

「おぉ、アジムじゃねぇか!」

 名前でも分からないよ…

 

「調査に赴きまして、先行隊に合流します」

 何だか育ちの良さそうな五人

 

「先行隊の調査結果に修正も発生している

 ようです、慎重にお願いしますね?」

 ミハエルはいつも通りニコッとすると

 

 

 

「あ…ああ…はい(はぁと)」

 真っ赤でうつ向く

 

 あ、女の子だ…

 

「お前が現場に来るのかよ…」

 なぜか呆れる

 

「両親には反対されてますけど、調査隊こそ

 私の夢ですから、では失礼します」

 ギルマスに挨拶してからギルドを出て行く

 

「ハルキの後輩?」

「頭は良いんだけどな、現場向きじゃ

 ねぇんだよな…なんでだ?」

 不思議そうなハルキ

 

「あの娘の両親は知ってます、

 偏屈で有名ですね」

 

「もうちょっとカワイイカッコしたら

 イイのに…」

 エミナは自分の髪を弄る

 

「ガードばっかり教わったんだろ?」

 

「…ハルキ」

 げっ!やべぇ!!

 

「ガードって何?」

 エミナが目をキラキラさせて

 

「それは男性に対する女性の警戒心と、

 その節度の…」

 

「ミハエル!お前は一回黙れ!」

 これ以上メンドクセェのはゴメンだ!!

 

 え?聞きたい、それって何?

 

 恋愛に関してはエミナ以下のナズナ

 

 

 

 

 

 



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成長

 

 ギルドの人数が60人を越えて

 それらしくなってきた

 

 そこへ泥だらけになって

 帰って来たナズナ達

 

 ボルボロスの討伐に成功したが

 

「消散剤持った方が良くない?」

 疲れたナズナ、飛竜に比べて動きすぎる、

 攻撃しづらい

 

「いや、パーティーならミハエルに

 撃って貰えば安上がりだぜ?」

 まったく泥が付いていないハルキ

 全部避けられる様になった

 

「全員泥団子になったらどうすんのよ?」

 エミナのツインテールも泥で…

 

「ちょっと洗って来ます」

 なぜかミハエルは海岸の方へ降りて行く

 

「あれ?何で…」

 

「あぁ…洗う暇無かったしな」

 三人も着いて行き、防具と体を洗う

 

 

 

 

 ギルドで色々な人と話すミハエルとエミナ、

 ナズナはハルキとテーブルへ

「ミハエルってモテるね…」

「当然だ、あの見た目じゃな」

 また女達に囲まれている

 

「ハルキはその…なんてい」

「あ?不細工だとでも言いてぇの?」

 笑顔で食い気味

 

「違うよ、憧れない?」

「………………」

「あ、ゴメン、気にしないで」

 

「そうか、お前はミハエルの見た目しか

 見えてないんだな…」

 頷きながら

 

「見た目?」

 

「アイツはモテる、

 だけどその前の段階があんだよ」

 

「その…前?」

 

「さっき何で防具洗った?」

「え…?泥で恥ずかしいから?」

 

「そう思ってる内は理解できねぇぜ?」

 

 ?

 

「最初の考え方が違うんだ、

 お前テーブルマナーも

 『出来たら私、カッコイイ!』

 とか思ってるだろ?」

 

 それダメなの?

 

 

 

 

 …………

 

「ナズナさん、毎朝顔を

 洗うのはなぜですか?」

 ミハエルに問われる、笑っていないし

 怒ってもない、これは狩りの時の空気、

 凄い真面目になった時だ

 

 顔を洗う理由?

 …涙の跡とか色々着いてるから…

 他に理由?

 

「難しく考えなくて良いんです、私の場合

『相手を不快にさせない』

 ことが目的なんです」

 

「ギルドはよ、メシ食う場所でもあるだろ?」

 

「そうか、そこに泥だらけで来られたら…」

 想像する、自分なら…

 

「つまり、『周囲』のために

 清潔にする訳ですよ」

 

「相手を不快にさせない…」

 私は気にして無かった

 

「色々ありますよ?爪はキレイに切るとか」

 

 うっ…

 

「相手の顔を見てハッキリ喋る」

 

 ううっ…

 

「猫背にならず姿勢良くする」

 

 うううっ…

 

「髪は常にキレイにしておく」

 

 

 

 

 

 …………うー…

 

 

 

 

「挙動不審に…」

「ミハエル!」

 ナズナのメンタルは限界、

 テーブルに突っ伏す

 

 

 

 

 私って!私ってダメだぁ!!

 そんな事考えなかった!

 不快にさせない?

 相手のため?

 自分のためにやってた!

 

 うつ向いて真っ赤になる、

 恥ずかしい、私が恥ずかしい!

 

 

 

 

「ま、まぁコレが違うんだ、解ったろ?」

 

 解りました、バカな女でした

「ね、ねぇ、私の前のカッコって…」

 サダ○だった頃は…

 

 二人は顔を見合わせると

「怪しかったですね、

 ココットのギルマスの頼みじゃ

 なっかったら、ちょっと

 近付きたく無かったですよ?」

 見えない何かが胸に刺さる

 

「俺はそれでも最初無理だったw」

 見えないナイフが刺さる!

 

「まずは不快にさせない事、これが出来れば

 次に人間関係の段階だと私は思います」

 

「多分モテるってのはその後だw……?」

 

 

 

 

 

 テーブルに伏せたままのナズナ

 

 

 

 

 

 今日はビールのミハエル

 一口飲むと

「つまり立ち振舞いの…」

 

「もう追い討ちすんな!」

 ナズナのメンタルHPはとっくに0

 

 

 

 他の人達のテーブルを話ながら移動する

 エミナを眺める

「エミナは器用だよね」

 まだ頭から煙が出そうでクラクラする

 

「エミナは子供であることを最大限に

 利用してますからね」

 

「愛想良くすれば大概は上手く行くからな、

 お前はやるなよ?」

 

「私?」

 そんなの最初からできないよ?

 

「あれは子供に見えるから許されてんだ」

 

「うん、解る、陰口言われるよね…」

 カリナなんかは絶対ケンカになる

 …エミナの圧勝だろうけど

 

 ハルキは語る

 性格悪ければモチロンだが、性格が良い

 からこそ嫌われるのもあるんだ

 『八方美人』とか

 『誰にでも色目使う』とかな

 「まぁそんな事言ってると自分がモテねぇ

 事に気付けねぇのにな」

 

「あ、それって前に言ってた」

 

「性格ブスだ」

 つまりカリナ

 

 

「ただいまぁ!」

 ニコニコ帰ってくるエミナ

「バルバレの人達と

 南部の海岸の方から来たってさ」

 

「G級はいねぇの?」

「まだ来てないね」

「各ギルドも慎重ですね」

 

「どう言うこと?」

 

「G級は存在自体が大きな戦力ですから」

 

「じゃあチックさん達って…」

 

「ミナガルデは一番遠い方ですからね、

 情報収集と…」

 

「と?」

 首を傾げるナズナ

 

「なんでもありません」

 まさか権力争いは無いでしょう、

 このギルドの主導権は多分叔父上…

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 次の日 朝

 

「エミナ、私の髪おかしくない?」

「え?ナズナってそういうの気にすんの?」

 

 何とかキリンテールにしてみるが…

 

「…少しは身形に気を遣おうかと…」

 

「にひひひ!ナズナもついにそんな

 時期が来たんだねぇ!」

 ツインテールを結びながら

 年下に言われる、ちょっとムカつく

 

「襟とか袖口も気を遣えよ?」

 仕切りの幕越しにハルキに言われる

 

 

 私はハルキ以下だったのか…

 というか自覚が無かったよ、

 『女だから』キレイにするって

 考え方は知ってるけど

 (実践はしていない)

 

 『人として』は考えて無かった

 

 

「ではギルドに行きますよ?」

 小舟を降りる

 

 背筋が伸びてスラリとした姿、歩く姿勢、

 キラキラ光って見えるミハエル

 

 そう、こうしていると嫌味が無い

 って言うか、こっちの気持ちが穏やかに

 なるって言うか…

 なんか爽やかな風が吹いてるような…

 

 

 見習おう、年下だし男だけど…

 

 

 それに比べて雑な動きに見えるハルキ

「ハルキはさ、ミハエルの

 マネしようと思わないの?」

 摂政に会った時、人が変わった様な態度に

 あれはカッコ良かった

 

「想像してみろよ、ミハエルと同じ

 レベルに出来たとするだろ?」

 摂政と話すハルキを思い出す

「その上で俺とミハエル、女なら…

 どっちに行く?」

 

 

 

 

 

 

 …ミハエル

 

 

 

 

 ナズナの顔を見ると

「な?最後には持って産まれたモノが

 違うのに気が付くだろ?」

 

「それって結局顔って事に…」

 何の救いも無い…

 結局顔かよ…

 

 話を聞いていたエミナが

「なんかね、『自分に似合う』ってのが

 大事みたいよ?」

 

「俺も聞いたけど、わかんねぇんだコレが」

 

「自分に似合うモノか…」

 何だろう…

 

「ナズナさん、とりあえず鏡を買う

 ところから始めますか?」

 また爽やかに笑うんだコレが

 

 

 …そうだよ、まだ買ってない…

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 ハルキはソロでクエストへ、

 後輩の向かった先が気になるらしい、

 先行隊に追い付けるのか心配みたい

 

 こっちは三人で砂漠のガノトトスへ

 

 

「これが…ガノトトス…」

 見上げる…足の生えたでっかい魚…

 

「基本に戻って!一回で!」

 エミナが叫ぶ

 

 私だってそれなりに強くなって…

 「ッバァーン!!」

 尻尾をガードしたら意識が

 飛びそうになる!!

 

「ナズナ!!」

 今日は太刀で斬るエミナ

 

「いったぁい…」

 起き上がるが

 

 エミナは少し動揺する

 ナズナが無視した?私の指示を?

 

 今度は体当たりを食らって吹っ飛ばされる

「ちょっとナズナ!何やってんのよ!!」

 

「待って!!ちょっと待って!!

 やってみたい事が…」

 また尻尾で吹っ飛ばされる

 

 

 

 

 …いけませんね

「一旦退きます!!」

 

 

 

 隣のエリア

「ナズナ!何やってんのよ!」

「ゴメン、でも…」

 

「エミナ、そう急がずにナズナさんの

 意見も聞きましょう」

 何かしようとしてますね…

 

「あの、上手く言えないんだけど…」

 なんだろう…ストレス?

 エミナが?

 

 そんなことあるはずない…はずなのに…

 

 エミナを見ると怒っている

 当然だ…

 

 

でも

 

 

 

「ちょっとだけ…一人でやらせて貰える?」

「ナズナ!!」

 

 静かにミハエルは話す

「ナズナさん、貴女の行為はパーティー内で

 好ましくありませんよ?」

 

 あ…怒ってる…

 クックの時と同じ…

 

「とは言ってもナズナさんの思い付きにも

 興味はあります」

「ミハエル!!」

 怒るエミナ

 

「私とエミナは遠くから観察してます、

 ピンチになったら遠慮なく助けますよ?」

 

「ごめんなさい…お願いします…」

 頭を下げるナズナ

 

「ちょっと!それで良いわけ?!」

 ミハエルに食って掛かる

 

 

 

 

 …………

 

 

「あぁもう!見てらんない!!」

「落ち着きなさい」

 ギクシャクしているのが遠目にも分かる

 

「何でこんな事してんのよ?!」

 吹っ飛ばされて転がるナズナを遠くから

 地面に伏せて見る

 幸い回復は上手く出来ている

 

「この前から気になっていたんです」

 ミハエルの動きまで見えていた、

 つまり自分一人で一杯一杯になっていない

 

 視界が開けて来ている

 

「『自分でやってみたい』そんな心境に

 覚えがありませんか?」

 

「無いわよ」

 ムスッとする

 

「あるはずですよ?貴女の師匠は

 クロフさん、お父さんと一緒に狩りに

 行っていたはずです」

 

 頷く

 

 「そしてそれは突然訪れます

 『私一人で出来そう』と思える時が」

 

 

 思い出す

 

 

 

 

 

 

 

「お父さん邪魔!!」

「大丈夫か?一人で」

 クックを避けながら笑う父

 なんだろ?お父さんが居ると

 思った事が出来ないような…

  

「何か解んないけど出来そうな気がするの!」

「じゃあ危なくなったら呼ぶんだぞ?」

 啄みを避ける

 

「呼ばないわよ!バカにしないで!」

 笑いながら隣へ行く父親

 

 何だ?何かが上手く行きそうなのに!

 何かが違うって言うか、自分でも

 良く解んない!!

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「思い当たるでしょう?」

 

 頷くと

「お父さん…

 こんな寂しい気持ちになったのかな…」

 

「いえ、子供の成長なら嬉しいでしょうね」

 

「じゃあ私の中のコレは…」

 なんだろう…悔しい?

 寂しい?ムカつく?

 イライラする

 

「認めてあげましょう、成長して一人の

 ハンターになろうとしてるんです」

 

「なんでこんな…」

 嫌な気持ちになるの

 

「貴女の妹から一人の女性になって

 行くのかもしれませんね」

 ニコッと笑う

 

「妹…か…」

 いつの間にか『守る』相手ではなく、

 肩を並べる仲間になって来たんだ、

 それは…喜ぶ所なのに…

 これ嫉妬かな…

 

 

「きゃあああっ!!」

 吹っ飛ばされてる、

 そろそろ回復薬も少なくなっただろう

 

「さぁ行きますよっ!!」

「うん!」

 




思春期と反抗期、コミュニケーションが
下手だと出る時期が違うと思う、
周りの空気に合わせられなくなっていく。

私がそうだった


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自立

場面転換って難しい


 ガノトトス討伐

 何とか成功

 

「解って来たねぇ、回避のタイミング!」

 エミナは複雑な気持ちだが理解した、

 自分が村でガノトトスをソロで攻略

 しようと、もがいた時期を

 

 確かにお父さんがウザく感じた、

 今ナズナはソコに居るんだ

 

 

 

「まだ掴めない…」

 何度も吹き飛びボロボロのナズナ

 回避出来そうなのに…

 

「ソロで挑戦しても良いかもしれませんよ?」

 私も上位に行きたいですし

 

 

 そこへ

 

 

「お前らフザけんじゃねぇぞ!!!」

 ハルキが怒りながらギルドへ帰って来た、

 書士隊の後輩達を連れて

 

「どうしたんじゃ?」

 

「ギルマス!コイツら勝手に来たんだとよ!」

 何でも王都から外へ出て見たかったが

 反対された、そこで別の調査隊に紛れ

 飛行船で王都を脱出、

 一緒に南の海岸線まで出たところ、

 丁度第二陣の船があったそうだ

「おかしいと思ったんだ!

 コイツら『事務組』だしよ!」

 

 うつ向く五人

 ジャギィの群れに囲まれていたそうだ

 

「これは…

 叔父上に報告しないとマズイですね」

 ミハエルは手紙を書きにカウンターへ

 

 

 

 …………

 

 

「事務組って?」

「あー…あれだ…」

 ハルキは苦い顔

 

「あまり良い言葉ではありません、書士隊

 内部の呼び方です、蔑称…と言うか…」

 

「べっ…え?」

 

「つまりですね…」

 書士隊になるには普通は学校に入り、

 そこから素質のある者を選出する

 

「たとえば俺だ」

 親指で自分を指す

 

 書士隊は叔父上、つまり摂政の直属の組織、

 そこに入れば出世が見込める、そう思った

 貴族や金持ちの子供も入れられる

 

「コネってやつだねぇ」

 エミナは五人を見る

 

 そういった子供は危険な場所には行かせ

 られない、つまり調査隊は無理、

 そこで資料の写しや生態図鑑の編集を

 やる事になる

 

「それが事務組だ」

 

「何か変なのぉ」

 狩りに生きる とかの編集をやってるのに

 現場を知らない?

 

「親達の立場や権力を考えると、

 どうしても現場は…」

 

「あれじゃ何かしらの処分になるだろ」

 睨むハルキ

 

「アジムさんも処分されるの?」

 ナズナは複雑な気持ち、

 同じような空気を持った人に見えていた

 

 

 

「ハルキ先輩…」

 アジムがこっちに来た

「あの、助けていただいて…」

 

 

「…これで解ったろ」

 乱暴にジョッキを置くと

「お前らが何で事務組って呼ばれるか」

 

「…はい…」

 うつ向くグルグルメガネ

 

「現場知らねぇで情報書いてる、

 つまり矛盾してんだ、そんなお前でも

 親には実績がある、だから在籍させて

 貰ってるだけだぜ?」

 

「ハルキ、そこまで言わなくても」

 ミハエルが困った顔で

 

「いや、ハッキリさせておく、モンスターを

 文字だけで知っても意味がねぇんだ!」

 

「それでは…私達の仕事は……無意味で…

 意味の無い…」

 とうとう泣き出してしまった、

 しゃくり上げながら泣く

 

「ハルキ、女の子泣かさないの」

 エミナが止めるが

 

「何言ってんだ!コイツらがやったことは

 自殺行為だ!」

 

 

 

 

 ……………

 

 

 宿舎代わりの小舟

 

 

「やっべ、言い過ぎた…」

 ハルキは下を向く

 

「完全にヘコんだよアレ」

 エミナは苦笑い

 

「両親と違い、アジムさんは外へ

 出たかったんですねぇ」

 

「両親は外へ行きたくないの?」

 偏屈な人とか

 

 ミハエルの説明によれば、アジムの両親は

 研究者タイプな上、

 『賢者は歴史から学び愚者は経験から学ぶ』

 と言っていた

 

「?」

 ナズナは初耳

 

「あくまでも普通の人間には『心構え』の

 言葉なのによ、そのまま信じてんだ」

 呆れるハルキ

 

「お陰で実戦部隊…私の両親達とは

 考え方が違うと言うか…」

 苦笑いのミハエル

 

「仲悪かったんだぁ」

 ニヤリと笑うエミナ

 

「アジムさんは…

 事務組から出たいんでしょうね?」

 意味ありげにハルキを見る

 

「…なんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 次の日

 

「………マジか?」

 顔がひきつるハルキ

「よ、よろしくお願いいたします!」

 グルグルメガネが頭を下げる、

 ハルキと一緒に採取に出る

 

「ハルキよ!勉強させてやれぃ!」

 酔っ払ったギルマスに送り出される

 

「じゃ、私も行くね?」

 ナズナはソロでガノトトスへ、

 何かが掴めそう…いや、掴む!

 

 

「私はボルボロス行って来る」

 ナズナが強くなるのは良い、

 でも追い付かれるのは悔しい!

 だから前に進む!

 

「久しぶりにソロですね」

 全員ソロ、ハルキだけは

 アシスタント付きで狩りに出る

 

 実は昨日の内にアジムをハルキに

 付けるよう頼んでおいた

 

「何で俺だけ…」

「書士隊の経験が役立つでしょう?」

「ミハエル、お前の仕業か?」

「さあ?」

 

 皆を見送るミハエル

 

 

 ………

 

 タンジア管轄 下位 密林

 ナズナはガノトトスの周囲を走る

 

 クックの時を思い出す、一瞬だけど

 脚の間をすり抜けた…

 だから…

 

「ブオッ!!」体当たり!!

 周囲の木をお構い無しに吹き飛ばす!

 

「ここっ!」

 前に回避するが吹っ飛ばされるナズナ

 

 立ち上がり構える

 昨日見えたのは何だ?違和感?、

 何かこう…

 

 回転する尻尾を避けて脚の間へ

 上手く戦えてる…

 そうなんだけど何かが違う…

 

 噛みつき!

 ナズナは余裕で避ける

 

 見えてる、イメージ出来てる、

 上から自分の周囲をイメージ出来てる

 なのにこの違和感は何?

 

 何だ?何かが掴めるような…

 

 

 

 

 隣のエリアで研ぐ

 レウスに比べて攻撃の種類が少ない?

 空も飛ばないし…

 

 研ぐ手が止まる

 

「あ!」

 そうか!コイツは突進しないんだ!

 それに一人だと『他の仲間』に出した

 攻撃で『事故』にならない

 

 たまに這いずりもやるけど頻度が少ない

 

「これって…もしかして…」

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

「ギルドマスター、

 少々気になる事がありますが…」

 

「ホッホォ!何の話だ?」

 常に酔っ払ってる

 

「妙なんですよ、外を知らないあの五人が

 突然コチラまで来られるハズが

 ありません………何か聞いてますか?」

 目を細めて聞くミハエル

 

 

 

 

 

「お前に隠し事は出来んか、恐らくだが……」

 

「叔父上の意思…ですね?」

 

「うむ」

 

「何のつもりでこんな事を?」

 やはり…叔父上と通じて…

 このギルマス自身が私の監視役か…?

 

「あのお方は決して

 甘い人ではないからなぁ」

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 タンジア管轄 下位 砂漠

 

 泥を避けるエミナ

「何だ、コイツ簡単じゃん」

 脚の間に居ると泥を被らない、

 ボルボロスが体を揺する間は攻撃し放題

 ソロだと事故も起こらない

 

「後の課題は…」

 

 

 頭を低くして走るボルボロス、

 しかも曲がる!

 

 この早さでこの動き、

 だけど止まる地点が予測出来れば…

 

 納刀して走るエミナ

 

 ウザい行動…時間稼ぎが多いだけだ!

 ソロのが簡単じゃん!

 

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 タンジア管轄 下位 孤島

 採取するハルキとアジム

 

「感動です!!」

 虫網で光虫を採ったアジム、

 標本ではなく生きた虫

 

「じゃ次はアオキノコな」

 

 二人で採取する

 

「凄いんですね!これが狩場!調査組の

 報告では分からない事ばっかり!」

 多分目がキラキラ光っているだろうが

 グルグルメガネで分からない

 

「あ?俺は真面目に報告してたぜ?

 全部書いたつもりだけどよ?」

 

「風の匂いも水の色も

 書いてないじゃないですか!」

 クルクル回る、嬉しくて仕方ない

 

「まるで初めて外に出た子供だなw」

 

 

 

 

 …………

 

 

 

「ブオッ!!」

 体当たり

「ここっ!!」

 回避成功!正面より斜め前!

 脚の間で斬りまくる

 

 覚えた!…ついでに…

 

 水に戻る時の位置は大体同じ、

 痺れ罠を設置しておく

 

 突然ドタドタと走るガノトトス、

 ほとんど同じ位置!

 掛かった!

 

「やった!!」

 予想通り!息を大きく吸い込み

「やあああっ!!」

 斬りかかるナズナ

 

 解った、理解した、ガノトトスはレウスに

 比べて動き回らない!

 

 コイツはガンナーならただの的だ!

 私はガンナー少しやったから何か

 違和感を感じたんだ!

 

 

 

 

 …………

 

 

 

「むー…」

 倒れたボルボロスの体から

 泥を剥がしてみる

 

 思ったより弱い、ちょっと慣れれば

 単純じゃん、多分コレが『対応』する力

 

 リオレウスと比べるまでもない…

 

「だめだ、これじゃ弱くなる」

 

 ナズナに追い付かれる、

 それは嬉しいと同時にムカつく

 

 やっぱり最低でもリオレウスだな、

 あっちも時間稼ぎで飛ぶけど

 搦め手は少ないし

 

「次はレウスを…」

 そして…上位検定を…

 

 ナズナに負けたくない

 

 

 

 

 …………

 

 

「あのお方は賄賂などで動かないだろう?」

 ニヤケるギルマス

 

「はい、受け取りますが信用しません」

 ニコリと笑う

 

「コネを作ろうと近付いたなら…」

 

「利用されますね…」

 少し考え

「切り捨てられましたか…」

 

「王都の外へ勝手に出た時点で管理責任は

 誰にも無いし…除籍するには

 丁度良いだろうなぁ」

 

「見て見ぬふり、ってところでしょうか?」

 処分したかった…か…

 

 ありえますね…

 

「しかしアジムさんだけは他の四人と違い

 貴族でもないですし…」

 この人だけは親の実績で居る

 

 

「どうもその辺りに含みがありそうだ…

 だからな?」

 意味ありげに見る

 

「………あぁ、そうだったんですね?」

 どんな『含み』か解りませんが、

 最初からハルキに……

  

「ワシは言われんでもハルキに頼んだぞ?

 元調査隊だからな」

 ニコッと赤い顔で笑う

 

 

 

 

 …………

 

 

 

「本気で調査組に入るのか?」

 

「はい!」

 跳び跳ねながら振り返る

 

「勝手に王都から出たんだぜ?

 処分されそうな身で良く言うぜ…」

 海を見下ろす高台、

 飛竜の巣らしく骨が散乱している

 

「ですから私思ったんです!

 コッチで大きな発見をすれば良いのでは?」

 

「そんな都合の良い話が有るかよ…」

 バカかコイツ、

 王都以外知らねぇからなぁ…

 

「見たこと無いモンスター、鉱石、

 または古代文明!」

 小躍りする、崖っぷちまで来ると

「アレなんかどうでしょう!」

 下を指差す

 

「あー?」

 覗き込むハルキ

 

 青い巨大な…トカゲ?

 ロアルドロスの倍もある

 

「行きましょう!」

 飛び降りる

 

「バカ!待て!!」

 教授かよ!!

 

 




社会、学校、家庭、
その場の空気、
それらの中で自分が出来る事を考える、
自分の立場を考える

それが変化する時に軋轢と発見がある


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自立2

 

「やりましたね!」

 笑顔のミハエル

 

「…もしかしてさ、ガノトトスって

 ガンナーが楽じゃない?」

 

 ギルドへ帰って来たナズナ、ミハエルに

 クエスト成功の話をする

 

「そうなんですよ、

 近接武器は事故がありますし」

 

「やっぱり…何か違和感が凄かったんだよ」

 

 エミナに悪いことしちゃったなぁ…

 謝る…謝り方って…

 

 

 忘れた…

 

 どう切り出そう…

 

 何て言えば…

 

 タイミング逃してるし…

 

 

「剣士で一通り覚えたらガンナーも良いかも

 しれません、新しい発見がありますよ?」

 一人前になりましたね、ナズナさんは

 一人立ちしますかね

 

「でも…お金掛かるよね?」

 ジト目で

 

「はい、ガンナーは知識…素材、調合、

 金策はもちろん、回避、回復、地形の

 把握…ハンターの全てが必要になります」

 

「……やっぱ無理」

 なんか果てしない…

 萎れるナズナ

 

 結局ソコですか…

 苦笑いになるミハエル

 

 

「ただいまぁ」

 エミナも帰ってきた

 

「そっちはどうでした?」

 

「ミハエル居ないと泥がウザいんだけどさ、

 逆にそれしか強みが無いみたいw」

 

「簡単…でしたか?」

 こっちは対応が上がってますね、

 私も追い付かれそうです

 

「うん、慣れたw」

 

「あれはソロのガンナーだと苦戦しそう

 でしたが、近接だと楽そうですか?」

 

 ナズナは考える、これが武器の相性か

 

 それより謝らないと…

 

 そこへ

 

「ほら、しっかり歩け」

「あう…す、すびばせん」

 よろけるアジムがハルキに支えられながら

 帰って来た

 

「どうされました?!」

 エリナとキャシーが聞くと

 

「何かデカイ竜が出て来てよ、

 電気使いやがった、

 コイツは腰抜かすしよ」

 

「でっかいです!コワイですー!」

 腕にしがみついているアジム

 

 ギルドのハンター全員が心の中で突っ込む

 (お前書士隊だろ?

 …もっとマシな表現ないのか?)

 

 

「おう、ソロはどうだったよ?」

 二人がこっちに来るが…

 アジムがぴったりとくっついている

 

 

 

「…………」

 無言のナズナ

 腹立つ…何かムカつく…

 何?この胸の黒いモノ…

 

 (おや、これは…)

 (ナズナ、まさか嫉妬…w)

 

「どうやらラギアクルスに会ったようだな」

 奥から出て来たギルマス

 

「初めて聞く名前ですが?」

 

「うむ、全員聞けィ!このタンジアでは上位

 検定の条件にラギアクルスが入っておる!」

 ギルド中、特に下位が一斉に注目する、

 もちろんハルキとアジムに

 

「マジか?」

「ちょっと!話聞かせてよ!」

「どんなヤツだった!?」

 テーブルに走って来る下位

 自然と料理も集まる

 

 

 ………

 

「あのさ…エミナ…

 私って態度悪かったよね?」

 思いきって言ってみる

 

 怖い…

 

「んーん、私もそんな時期あったしw」

 

 宿舎の小舟

 謝るナズナ

 

 あれ?意外に簡単に謝れた

「本当にゴメン、なんだか自分でも

 解んないけど…あんな…」

 謝るって…なんか久しぶり…

 でも良かった、怒ってない

 

 謝るって簡単な事だったんだ

 

「私もそんな時期あったからさ、

 気にしないよw」

 手をヒラヒラする

 ナズナはジャンボ村に居た時の私だねぇ、

 生意気になって一人で何でも出来る気に

 なってるだけだわ

 まさか今ごろ反抗期とか?w

 

「ホントにご免なさい」

 頭を下げる

 

「解ったってば」

 素直に謝れるって凄い事だけど、

 多分解ってないよねぇw

 私なんてこんなに素直じゃ無かったよ

 

 まだまだエミナの方が姉らしい

 

 

 

「では体から離れた位置に?」

「あぁ、上手く言えねぇけどな、

 フルフルと違って本体だけ見てれば

 良いってもんじゃねぇな」

 

 明日はラギアクルスを見に行くことにした

 (討伐は狙わない)

 

「で?ハルキ、アジムさんとはどうなのよ?」

 にひひと笑いながら聞くエミナ

 

 ピクッと反応するナズナ

 

 (耳が大きくなったようです)

 内心笑うミハエル

 

「あ?アイツは女として見てネェぞ?」

 

「普通に胸あるみたいじゃん?」

 ニヤニヤするエミナ

 しかもメガネ取ったら多分…

 

「アイツはよ、学校時代から貴族も平民も

 無く接してくれてな、王都以外の出身

 だった俺にも普通に話掛けてくれてよ」

 

「尊敬してるんですね?」

 

「尊敬って大袈裟なもんじゃねぇよ?

 教授と同じでちょっとアレだけどなw」

 

「あ、分かるーw」

 

「…………」

 黙るナズナ

 

 この黒いモヤモヤしたものは何だ?

 

 

 …………

 

「でっかぁ!!」

「吠えるぞ!」

 咆哮するラギアクルス!

 体を横に向けて一瞬溜める

 

「ガード!!」

 

 ハルキの声に反応して

「ガシィッ!!」

「んぎゃっ!!」

 何とかガードしたナズナ、

 仰け反る

 

 ガノトトスの体当たりの直前と似てる!

 だけど抜ける隙間が無い!

 攻撃できる隙が少ない!

 

「無理に攻めないで下さい!」

 頭が良く動いて狙いがズレますね…

 それに体勢が低い、

 味方に当たる確率が高い…

 

 尻尾側に攻撃するエミナ

「コイツ振り回しやらないみたい!!」

 

 しかし

 

 噛みつき!後ろ足の方へ!

「ウソっ!!」

 首長っ!!

「バカ避けろ!」

 ハルキが突き飛ばす!

 

「あ、ありがと!ハルキ!」

「欲張んな!」

 

 (ちょっと調子に乗ったか)

 エミナは連続攻撃を止めて単発になる

 

 

 …………

 

 隣の滝と小川のあるエリア

 

「まだ慣れません、私のサポートは

 期待しないで下さい」

 装填する、外した数が少なからずある

 

「なんかニョロニョロ…グネグネっての?

 狙いが定まらないよね」

 表現できないエミナ

 

「骨格はロアルドロスだけどよ、

 デカイしやりずれぇ…

 放電しなかったな?」

 割と平然としているハルキ

 

「なんかさ、こっちのモンスターって

 クックとは違い過ぎるよね」

 避けられない、ガードばっかり

 飛竜と違い過ぎる

 

 

 

 ……………

 

 背中が光るラギア

「これだ!足元見ろ!!」

 ハルキの声に三人とも?となるが

 

 なんだこれ?私の足元が光ってる?

 

 じっと見てしまうナズナ

 

「バチィッ!!」

「うぎぃっ!!」

 なにこれ!全身痛い!痺れる!

 

「まさか!」

 ミハエルが駆け寄る

 

 フルフルと違う、これが聞いた攻撃か?!

 体から離れた場所に狙って電撃?!

 

 そんな魔法は古龍では?!

 

「ビックリしたぁ…」

 起き上がるナズナ

「大丈夫ですか?!」

 

「何か思ってたより平気」

 ダメージは少ないな…

 

「注意しましょう」

 なるほど、噂に聞く古龍には及びませんか

 

 滑りながら突っ込むラギア!

「速っ!!」

 反射的に回避するエミナ

「上手いぞ!!」

 突進終わりに尻尾へ縦斬り

 

 ラギアは振り返ると首と尻尾を丸めて

 …動かない

 

「…これ何してんの?」

 一応ガードしたまま聞くエミナ

「これは見てネェ!注意しろ!」

 

「不用意に近付かないで下さい!」

 

 なんだろ?力溜めてる?

 ハルキの溜め斬りの雰囲気に似てる

 

「グオオオアアアーッ!!」

 咆哮!と

「ドン!ドン!ドン!!!」

 ラギアの周囲にドーム状の電撃!!

 

「回避です!」

「何コレェ!」

 逃げるナズナ

 

 

 固まるエミナ

 (やばいやばいやばい!近い!

 ガードの方向解んない!!)

 視界は真っ白!!

 

「エミナっ!!」

 ハルキが飛び込む!!

 

 

 

 

 ………

 

「………あ?」

 骨組みに天幕の天井

 見慣れた光景

 

「気が付いた!」

 エミナが跳ねる

「ハルキ!」

「大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ」

 手を握ってみる、握力は問題無い

 上体を起こす、感覚はある

 

 三人とも顔を覗き込む

 

「エミナ、無事か?」

「うん、ありがと、おかげでなんともない!」

 

「体はどうです?ネコタクに放り出されても

 気絶してましたが」

 

「何とも…ないな…だけどよ…」

 目配せする

 

「えぇ、慣れるまで消耗が大きすぎますよね」

 威力はともかく、古龍並みの変則形

 アイテムと集中力が削られる

 

「あ、あのさ…変な事言って良い?」

 全員がナズナに向く

「ガンナー四人だったら…どう…かな?」

 

「それには大変な時間が掛かりますよ?」

「私ガンナーやったこと無いし」

「方法の一つだぜ?でも今は

 慣れる事を優先しようぜ?」

 

「ゴメン、変だった?」

 

「いえ、狩りの方法に正解はありません」

 それに恐らく…

 …一番簡単な方法かも知れません

 なんだか急にハンターらしくなりましたね、

 少しガンナーをやった経験は決して

 無駄ではありません

 

 

「みんなまだやれるか?」

「私やる!ハルキに借り作ったしね!」

 エミナは元気良く立ち上がる

 

 

 

 ……………

 

「背中光ってます!」

「回避だ!」

 難なく避ける

 

「コイツ全身に電気無いよ!!」

 尻尾を斬り続けるエミナ

 

 噛みつき、突進、体当り、

 ナズナは頭の中で攻撃の種類を数える

 

 ミハエルに向き首を持ち上げる、

 途端に走り込むナズナ!

「「「!」」」

 三人とも驚く、と

 

「ブレス!」

 ナズナは叫びながら前足を斬る

 (おぉ!飛び込んだぜ?)

 (言うじゃん!)

 (驚きですね!)

 

 青白い球体がミハエルへ飛んでいく、

 難なく避ける

 

 しかし直後!

 今度は首を振りながら…ブレス?

 着弾と同時に

「ドン!ドン!ドン!!!」

 電気のドームが複数!!?

 

「これはっ!!?」

 横に跳ぶミハエル

 しかし間に合わず青白いドームに包まれ…

 

「前にも出すのかよ!!」

「ミハエル!」

 ナズナは泣き声になる

 

「だ、大丈夫です!」

 転がり出た、煙が出ている

 

「一回隣行こう!!」

 エミナの声で走り出す

 

 ……………

 

「上位装備で助かりましたよ…」

「何種類ブレス持ってんだよ…」

「罠と閃光は持いっぱい持ってこないと」

 

「あれじゃガンナーも危ないね…」

 ナメてた、初めて見るモンスターを

 心のどこかでナメた

 

 少なからず動揺する

 今までミハエルがダメージを

 受けた事が殆ど無いし

 

 

「今日のところはココまでですね…」

 

「賛成だ、準備が必要だぜ」

 

「電気に強い装備も必要だね」

 エミナも同意、

 思ったより時間が掛かりそうだ

 

 

 初めての苦戦、

 そう、ナズナはパーティーを組んでから

 あまり苦戦した記憶が無い

 

 ペッコとかと全然違う、正直ナメてた

 ずっと連勝してると危機意識が無くなって、

 勝って当然という意識になる

 

「チックさん達に…聞いてみよう」

 三人とも頷く

 

 

 

 

 

 

 




「すいません」
日本人は使いすぎて会話の始まりに
なっているが、謝罪の言葉だ

そのせいか本気で謝るって
難しくなってる気がする


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自立3

水中戦の表現と描写が思い付かない、
なのにタンジアにしてしまった。

やらかした


 

「あぁ、アレか」

 ギルドにロクロウが居た

 

「チックさんとジュウジさんは?」

 平気で質問できるナズナ

 

「あいつらなら町の酒場に行った、

 俺はあの雰囲気が苦手でな」

 しかめっ面

 

「特に変わった雰囲気がありましたか?」

 地元の漁師や住民だけでは

 

「何でもシュレイドから人気の踊り子が

 来たらしくてな」

 一人でビールのロクロウ

 

「あの…」

「あぁ、ラギアクルスだな」

 

 予備動作や攻撃の種類、範囲を聞いたが

 

「つまりロクロウさんが攻撃の要ですか?」

 ランスでは足が遅すぎますが…

 

「そうだ、見ての通りランスにグラビモス

 装備だからな、全部ガードが可能だ」

 重そうな盾を見せる

「片手剣のガードでは仰け反るだろう?

 ランスなら脇腹に張り付き続けられる」

 

「じゃあ二人は隙を突いて攻撃してんの?」

 

「チックも最初は距離が掴めなくてな、

 まぁ溜め斬りが頭に当たったのは

 討伐間際だ、次からは当たるだろう」

 

「スゲェ…あの頭に溜め斬りかよ…」

 動きが読めなく抜刀斬りさえ何度も外した

 

「二度、三度と戦えば見えて来るだろう」

 

「あれ?ロクロウさん達は討伐…」

 ナズナは首を傾げる

 いきなり成功?

 

「あぁ、別のモンスターを狩ってたら

 乱入して来たからついでにな」

 

 …………

 

「あれが経験値の差ですね…」

「初めてのモンスターにも対応が早いってか」

「さっすがG級だわ…」

 

「あ、あのさ、ソロでやっても良い?」

 遠慮がちにナズナは聞く

 

「もちろんですよ?」

 そう来ましたか

 

「ラギアをソロかよ?!」

 

「ち!違うよ!ココットでレウスのソロが

 途中だったし!」

 そんな恐ろしい事は無理!

 

「私もソロでレウスやる!」

 エミナも同意、

 内心はナズナに追い付かれるのがイヤ

 

「となると私もソロで上位へ行きますか」

 

「各自でレベルの底上げってヤツしないとね」

 ヒラヒラ手を振る

 

「じゃあ俺はどうすっかな…」

 

「ハルキは決まってるでしょう?」

「アジムさんとペアじゃん!」

「何で固定されてんだよ!?」

 

 

 ………ムカつく

 

 

 

 ……………

 

 次の日

 タンジア管轄 下位 孤島

 高台の飛竜の巣

 

「グオオオアアアーッ」

 よし!怒った!次は必ず…

 

 バックジャンプしながら飛ぶレウス

「ここっ!」

 閃光玉を投げるナズナ

 

 ズダァン!!墜落!

 

「やあああっ!」

 翼に斬りかかる!理解出来た!

 怒ると速いし強い!けどその時間を

 閃光で削れば危険は減る!!

 

 翼爪を破壊、したがレウスの目が復活

 

 よし!逃げる!

 欲張らない!

 一目散に隣へ走る!

 

 

 隣のエリアで回復と研ぎ

 

 怒った時間には出来るだけ戦わない

 ようにする、そうすればリスクが減る

 

 そうだよ、わざわざ危ない

 事しなければ良いんだ

 

 前にミハエルに言われた、

 パーティーなら不正解

 

 だったらソロなら正解のはず

 

 

 

 匂いが移動する

 その後を追いかける…

 

 いや…

 

 追い詰める?

 

 走らずに手前で歩き、スタミナを

 温存する、エリアの境界で

 隣を伺う

 

 

 そうか、ハンターって何なのか解ってきた

 

 息を殺して気配を消す

 

 確実に倒すために全力で戦う、

 そこの意味が少し違う

 

 少しずつ削って行くんだ

 

 自分の命を守りながら、

 少しずつモンスターの命を削って行く、

 それがハンターなんだ

 

 

 

 水辺の広いエリアへ降りるレウス、

 息を整えてから入り罠を仕掛ける

 

 罠も閃光もモンスターの命を削るために

 作ってるんだ

 

 全力で戦うってのは気合や根性じゃない、

 持ってる手段を全部使うって事だ

 

 罠の近くに立ち、誘導する

 

 痺れ罠を踏むレウス

「やあっ!」

 顔を思い切り斬る、

 手応えが重い!切れ味は悪くないのに!

 このリオレイアの片手剣は毒がある

 らしいが効いてるのか?

 

「ぜはあっ!!」

 一息で斬れるだけ斬る

 分かる!一回の呼吸で斬れる回数が

 以前より増えてる!

 

 罠が壊れる、とナズナは納刀、

 閃光玉を準備

「グオオオアアアーッ!!」

 咆哮、とバックジャンプ

「てい!」

 ズダァン!!

 

 いける!

 動きが読める!

 行動が読める!

 

 脚の間で斬るナズナ

 

 パーティーで今まで見てきた事も

 ムダじゃない!私の力になってる!

 

 

 …………

 

「ただいま」

「お帰りなさい、ナズナさん」

 キャシーに出迎えられる

 

 ついに討伐成功

「皆は?」

「まだ帰ってませんよ?」

 

 テーブルでビールを頼む

 

 なんだろ?

 あんまり嬉しくない…

 リオレウスに勝ったのに、

 強くなってるはずなのに…

 達成感がない?

 

「浮かない顔だな?」

 チックがいた

 

 今日の狩りの話をすると

「そうだな…ラギアを見たからじゃないか?」

 

「それが何で…」

 嬉しくない…

 

「更に大きな目標を先に見たからかもな、

 レウスが到達点じゃあなくなっるんだろう」

 

「何かワンパターンで勝っただけだし…」

 

「下位が勝ち方に拘るかぁ?

 そんなもんは10年早いぞ!」

 笑う山賊

 

「こだわる…?」

 それなのか?

 

「俺が師匠に最初に言われた事だがな?

 『絶対生きて帰れ』だったぞ?

 勝てばいいんだ」

 ニヤリとする

 

 まだ納得できないナズナ、

 その顔を見ると

 

「悩んでるなら体を動かせ!

 答えなんざそれからだ!」

 ナズナの背中を叩くと他のテーブルへ

 行ってしまった

 

「生きて…」

 なんで納得できない?

 自分をどうしたいのか解らない

 

 私はどこに向かってる?

 とにかく体を動かす?

 それで何かが変わるの?

 何が不満なんだろ?

 

「おう、どうだったよ?」

 ハルキとアジムも帰って来た

 

 ……ムカつく…

 

「あ、うん、勝った」

 

「おぉ!良かったな!

 お前一人前だぜ!!……?」

 ……あれ?

 ナズナは何で嬉しそうじゃねぇんだ?

 俺なんか跳び跳ねたぞ?

 

 

「………」

 なんだろこの違和感

 

 ナズナは浮かない顔

 

  

「何だ?嬉しくねぇの?」

 

 自分でも解らない、

 自分の気持ちが解らない

 

 

 何か距離を感じる

 一人前…それはハンターとして一人で

 生きていける

 

 

 

 

 …そうだ

 

 私はこのパーティーから出ても良いんだ…

 

 教えて貰うだけの立場じゃ

 なくなって来たんだ…

 

 アジムを見ると

「どうされました?」

 小首を傾げて

 

 

 

 教えて貰う立場はアジムに奪われた…

 

 レウスを倒したから不安なんだ、

 寂しいんだ

 

 素人だからこのパーティーにいたんだ

 そのポジションはアジムに…

 

 私は…どうなる?

 どうする?

 

 

「ただいまぁ!」

 エミナも帰って来た

 

「おう、どうだったよ?」

 

「成功に決まってんじゃん!」

 ムスッと答えると

「ナズナ!どうだった?」

 こっちには笑顔で

 

「うん…勝った…」

 うつ向く

 

「どうしたのぉ?」

「何か様子がおかしいんだ」

 

 

 …解った、この胸の黒いモノ

 

 

 アジムに嫉妬してるんだ私

 

 

 私の居場所を…奪ったから…

 

 

 それに

 

 

 私自身がその居場所から出ちゃったんだ…

 

 

 居心地のイイ、ポカポカした

 日向から出ちゃったんだ…

 

 

 一人前になるって…

 強くなるって…

 

 

 また一人になっていくんだ

 

 

 

 

「何で泣いてんの?」

「解んねぇ」

 

 いつの間にか涙が出ていた

 

 

「おや、私が一番遅かったですね」

 ボロボロのミハエル

 

「お前どうした?!何か…」

「えぇ?!苦戦したの?!」

 立ち上がるエミナ

 

「久しぶりに上位のフルフルへ行きましたよ、

 太刀も久しぶりでしたからね」

 電気に弱いはずのギザミ装備に

 太刀のミハエル

「三人とも、どうでした?」

 

「私は勝ったけど…」

 ナズナを見る

「ナズナも勝ったみてぇだけどよ…」

 ハルキも見る

 

 うつ向くナズナ

 

「どうしました?ナズナさん?」

 

 

 

 私の居場所…

 

 

「明日はラギアクルスにいきますよ?」

「ハルキに借り返さないとね」

「おし、今度はネコタク

 使わねぇように頑張るか」

「ハルキ先輩!報告お願いしますね!」

「なんでだよ!めんどくせぇ!」

 

 

 この居心地のイイ場所が…

 いつものやり取りが遠く…

 

「ナズナ!レウスに勝ったんでしょ?

 また頼むわよ?」

 

「ふぇ?」

 

「ブレスの指示は良かったですよ?」

「二回連続とは思わなかったな!!」

 

 距離が…離れてない?

 

「何でボーッとしてるんです?」

「何か様子が変なんだぜ?」

 

 

「あー!一人で抱えてんでしょ!」

 鋭いエミナ、ニヤリと笑うと

「アジムさんに嫉妬してるの見え見えだよ?」

 

「えっ?!!」

 ビックリして顔を上げる!

 バレてた?!

 

「私も気付いてましたよ?」

 爽やかに笑う

 

 顔を両手で覆う

 恥ずかしいっ!

 見透かされてた!

 

「そうなのかよ、言ったろ?

 思った事は言えって」

 腕組みして見据えるハルキ

 

 言えるわけ無いじゃん!!

 

「俺に惚れたならハッキリ言ってくれれば」

「違うよ!!!その嫉妬じゃない!!」

 立ち上がり激昂するナズナ

 ギルドが水を打ったように静まり返る

 

 

 エミナもミハエルもどうすれば良いのか

 解らないが…

 

「あのなぁナズナ、お前の場所は

 無くなんねぇよ?俺らはお前を仲間に

 してぇから組んでんだ」

 

 

 

 

 胸が苦しい

 コイツはいつも私の心に踏み込んで来る

 

「お前は仲間だろ?」

 

 ずっと言って欲しかった言葉

 

「一人前になろうが解散しようが仲間だぜ?」

 

「そういうことかぁ!」

 笑うエミナ

 ハルキを取られた嫉妬じゃないのかw

 このパーティー内の居場所かw

 ハルキ鋭い!

 

 そういう事ですか

「なるほど、不安になってたんですね?」

 ミハエルは姿勢を正すと

「ナズナさん、貴女はこのパーティーの

 教え子ではありません、一人前のメンバー

 です、そして解散しても私達の仲間です」

 

 胸のトゲみたいなモノが取れる

 

「悩んだら言いなさいって!

 お姉さんが聞いてあげるから!」

 手をヒラヒラする

 

 嬉しさと照れと恥ずかしさで

 立ったまま顔を覆う

 

「よし、俺の胸に飛び込んで…」

 

 エミナに抱き付き泣くナズナ

 

「………」

 両腕を広げたまま固まるハルキ

 

「先輩って…」

 (なんだか雰囲気ぶち壊しでは…)

 

「ハルキ…」

 (君は鋭くて頭は決して悪くないのに…

 自意識過剰ですよ…)

 

「………」

 (あれ?こっちの嫉妬は無ぇの?

 全然?これっぽっちも?)

 

 

 




寒い日には布団から出たくない
部屋から出たくない
家から出たくない
いつまでも甘ったれていたい

ぬるま湯は居心地が良いだろう、
だけど昨日の自分より衰える



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頑固と化粧

自分が正しい、
絶対正しい、
自分の考えこそが正論

ネットの世界で毎日の様に見る人達

でも実社会でこうなると自分の成長が止まって
頑固になる。

自分に100点を着けたら終わり


 

「丸まった!」

「離れます!」

 ラギアの周囲にドーム状の電撃!

 

「行くぞナズナ!」

「はい!」

 終わったのを確認、突っ込む

 

「やあああっ!!」

 前足を斬ると突然ラギアが回転!

 

「尻尾ぉ?!」

「違うぞ!」

「危険です!」

 

 ラギアの周囲に浮遊する電気のブレス、

 ラギアを中心に回転する

 

 ナズナは走って逃げる!

「ナニコレ?!ブレス?!」

 

「何種類攻撃持ってんだよ!」

 これ見てねぇぞ!

 

「ねぇ!ミハエル!」

 走りながら指差すナズナ

 

「スキがデカそうだよ!」

 こっちは落ち着いているエミナ

 

「スキだらけです!」

 貫通弾が当て放題

 

「よし、次にアレ来たら飛び込むぜ!」

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 何とか討伐成功

 

「お帰りなさい、成功ですね」

 エリナに迎えられる

 

「エリちゃん!上位の条件って他のは何?」

 エミナは機嫌が良い、あと少しだ

 

 

 先にテーブルに着く三人、ビールで乾杯

「俺ももうすぐ上位だな」

 ニヤケる

 

「私ってどうなるの?」

 ソロじゃなくてもイイの?

 

「ナズナさんもあと少しで上位ですよ?」

 

「何か実感無いなぁ…」

 上位…このパーティーにクッツイテル

 だけで何もしてなくない?

 

「ハルキ先輩!話をお聞かせ願います!」

 ペンと分厚いノートを持ってアジムが来た

 

「あれ?お前らの処分はどうなった?」

 

「他の四人は残念ながら強制送還に

 なりました、親達もお怒りだったようで…

 書士隊も辞める事になるかと」

 眉が下がる

 

 でしょうね…

 ミハエルは納得

 

「だろうな…お前は?」

 

「はい、ここで調査しろ、

 との辞令を受けました」

 ビシッと気を付けの姿勢

 

「調査って…お前一人で何やんだよ?」

 方眉を吊り上げる

 

「はい、こうして情報収集や、ハンターに

 同行して調査しろと…」

 

「それなら安全ですね」

 昔の書士隊の形に戻す訳ですね

 あくまでもハンターの随伴で…

 

 立場的にはまた弱くなる…

 

 …これが処分?

 …アジムさんの希望通り…か?

 

 

 

「あのさ、アジムさん…」

 ナズナは思いきって話かけてみる

 

 (おっ!初めて言った!)

 (どうする気でしょう)

 男二人に緊張が走る

 

「なんでしょうか?」

 ぐるぐるメガネが首を傾げる

 

「アジムちゃん…って呼んでいいかな?」

 恥ずかしいし照れる

 

 (なんだよ、そんな事か)

 (杞憂でしたか)

 

「本名でもアジムでも構いませんよ?」

 

「え?アジムが本名じゃないの?」

 真顔になるとハルキに向くナズナ

 

「あー言って無かったな…アジムは…

 アダ名っていうか…」

 

「本名は確か…」

 ミハエルは思案顔

 

「本名はアリス・ジーナ・マルベス、

 略してアジムです」

 軽く敬礼して見せる

 

「か…カワイイ名前…」

 名前だけで負けたような気になるナズナ

 

「この見た目に対して名前が良すぎる

 からな、子供の頃に皆でアダ名付けたんだ、

 今思えばヒデェ話だ」

 しかめっ面

 

「子供故の残酷さ…ですか」

 苦笑い

 

「じゃあ…アリスちゃん」

 モジモジする

 

「はい、ナズナさん」

 口元は笑っているが…このメガネ

 どうにかならないんだろうか

 

「こ、これからよろしくね」

 今さらだけど精一杯笑う

 

「はい、よろしくお願いいたします、

 正直ナズナさんは怒ってらしたようなので、

 話し掛け辛かったんですよw」

 

 あぁ、私って態度に出てるんだ

 冷や汗が出る

 人を不快にさせないように…

 

 

 反省しよう…

 

 

「ねぇねぇ!

 グラビモスとディアブロスだってさ!」

 エミナが戻った

 

「あれ?アグナコトルじゃねぇの?」

 

「アグナコトルはタンジア管轄ではまだ

 確認されておりませんね」

 アジムがノートをパラパラ

 

「それの代わりにラギアだったんですね」

 横からミハエルが覗く、

 モンスターの情報が細かく書かれている

 

「だけど今は無いってさ、またソロやる?」

 

「そうですね…やってみますか」

 初めて見るとは言え下位に苦戦など

 恥ずかしいですよね

 

 

 

「私も…やってみたいことあるし…」

 

「何やんだナズナ?」

 

「お金少し貯まったし、他の武器をやって

 みようかなって」

 

「おや、鏡はどうしました?」

 

 

 

「あ!」

 全員爆笑

 

 

 

 

 …………

 

 

 

「強い武器だと?」

 ロクロウが居た、何を始めたら良いか

 解らないから聞いてみた

 

「そんなものあったら全員同じ武器だろう?」

 白髪混じりの髭を弄る

 

 そりゃそうだ

 

「何でも良いから持って採取で練習しろ」

 

「あの…ロクロウさんは何で

 ランスなんですか?」

 

 腕組みして怒ったような顔、

 あれ?怒らせた?

 

 

 怖い

 

 

 暫く沈黙すると

「俺はランス一本でやりすぎた、

 お前は若い、色々試した方が良いだろう」

 

「ロクロウさんは他の武器は?」

 

「一応全部触ったが…自信を持って

 戦えるのはコレだけだ」

 ランスを見る

 

「分かりました、色々やってみます」

 頭を下げて席を立つと

 

「ナズナ…その…」

 ロクロウは言い辛そうに

「まだ先の話だが…『自分は正しい』と

 思えたら自分を疑え」

 

「?、なんですか?」

 

「いや、良い、先の話だ」

 

 

 

 …………

 

 

 

 数日後

 

「あぁ?ロクロウの話か?」

 ジュウジが雑貨屋にいた、

 鏡を買おうとしたら小物を選んでいた

 

 普段着だと普通のオジサンで、髪が伸びて

 坊主頭、スキンヘッドじゃなくなってる

 …全然分からなかった

 

「丁度イイ」

 ナズナに選んでいたものを見せると

「どっちがイイと思う?」

 化粧品を見せる

 

 

 

 口紅?

 

 

 

 貴方の目の前に居る地味な女は

 化粧する人に見えますか?

 

 

 

 ちょっとムカつきながら適当に選ぶと

 なぜか喜ぶ、人気の踊り子さんに

 あげるらしい

 

 店を出ると海岸沿いを歩く

 

 普段着のオジサンとレイア一式のハンター

 

「あの、ロクロウさんの話の意味ですが」

 

「なぁ?俺らのパーティーって、

 どのくらい組んでるように見える?」

 海を見ながら話す

 

「10年…とかですか?」

 長そうだよね、

 ってかこの人の話は独特だなぁ、

 素直に答えずに突然話飛ぶんだもん

 

 ジュウジは笑うと

「一年と少しだ」

「えっ?!」

 凄いベテランパーティーっぽいのに?!

 

 アイツはよ、20代から約20年

 ずーっとソロだ、G級も全部ソロで昔は

 四英雄の候補にまでなった

 

「凄い強い人じゃないですか!

 …でもなんで四英雄にならずに…?」

 

 立ち止まるとジュウジは語る

 

 ソロで全部出来る、それは間違いなく

 強さの証明だ、どんなクエストも生きて

 帰って来る

 

 ナズナは頷く

 

 だけどな?そこで『自分が正しい』と

 思ったらしいんだ、確かに正しい

 …そうだろ?

 

 だけど同時に間違えた

 

「?」

 

 お前にはまだ解んねぇよなw

 他人の否定になって行ったんだ

 

「否定…ですか?」

 

 俺らと組むまでランス以外の武器は

 認めねぇし、弟子にもそれを強要した、

 もちろんパーティーにもだ

 

「得意な武器って色々…あとサポートとか

 役割があるし」

 ミハエルとハルキは分かりやすい

 

 そういう事を全部認めねぇんだ

 

 ただ俺達もロクロウを否定出来なかった、

 アイツの強さは確かだったしな

 

 少し白髪のある坊主頭を掻くと

「歳のせいか少し丸くなったみてぇよ?

 俺達に組んでくれって頼んだからな」

 

「何かが変わったんでしょうか?」

 それほど強い人が…

 

「強さ…それを追いかけるのは正しい

 …けどよ?仲間も弟子も無く一人に

 なったら寂しいだろ?」

 こっち見て軽く笑う

 

 村にいた頃に戻りたくはない

 居場所を無くしたくない

 

「自分と同じになってほしくねぇんだよ

 …ロクロウは」

 歩き出す

 

「俺から聞いたって言うなよ?」

 背を向けたまま手を振る

 

 そう言うと酒場の方へ歩いて行く

 

 

 

 

 自分の強さに絶対の自信があるために

 他人の否定か…

 私はそんな強さ無いよ

 

 

 

 

 でも…

 

 

 自信って欲しいな

 

 

 だからちょっとだけ

 

 

 

 ほんのちょっとだけ冒険してみたくて…

 

 

 

 宿舎の小舟

 買って来た鏡を細い柱に取り付けて

 

 

 実はもう一つ買って来た

 

 

 フェイスペイントの赤

 

 

 これで自信が持てるかな…

 

 

 目尻に少し…睫毛の上にも少し…

 ケイシャの仲間はこんな風だったよなぁ

 

 

 

 …勇気…

 

 

 

 

 上手く出来てるんだろうか、

 こんな時エミナが居れば聞けるんだけど…

 

 

 ギルドに歩いて向かう

 

 皆変な目では見ない

 注目されてはいない

 ドキドキする

 

 

 多分オカシくはないはず…

 

 

 ギルドに入ると

「ナズナ!どうしたの?!」

 エミナが高い声で叫ぶ

 すぐに気付いたようだ

 

 ちょっと注目されるからやめて

「あ…変かな?」

 

「にひひひ、

 化粧してみたくなる年頃ですかぁ?」

 口に手を当て下卑た笑い

 

「え?似合わないかな?」

 生意気だったか?

 私19だし、これくらいは…

 

「んーん、色白いから似合うよ?

 赤で正解っぽいw」

 

「私って色白いの?ミハエル…」

 

「ミハエルは例外だよ!特別!アレは反則!」

 手をヒラヒラする

 

 

 凄いドキドキしたけど受け入れて貰えた

 

 

「呼びましたか?」

 別のテーブルからミハエルも

 

「…ん?ナズナさん、何だか顔が

 明るくなってますよ?」

 

 

 

 嬉しいっ!!

 これが化粧の効果?!

 

 

「何騒いでんだ?」

 ハルキも別のテーブルから

 

「ハルキ!ナズナ見て何か気付かない?!」

 

 

 ハルキは…

 

 

 ハルキは…

 

 

「あ?何か変わったか?」

 首を傾げる

 

 

 

 

 

 あんたはホントにアレだよ…

 

 

 

 アレだよ…

 

 

 

 

「その化粧なら前髪上げても似合うぞ?」

 素っ気無く

 

 

 アンタはさ、いっつもさ…

 

「男でも髪形とかアクセサリー

 一つで自信出たりするからな」

 逆立った髪を掻く

 

「やっぱりそうなんだ」

 そんな気がしたんだよ

 

「あとは笑顔ですよ?」

 ニコッと笑う

 

「せっかく化粧したんだからさ、

 背中丸めないで」

 背中を叩く

 

「誰もバカにはしねぇよ?オカシかったら

 真っ先に俺がバカにしてやるぜ?」

 ニヤケる

 

 

 

 

 

 …今解った

 

 

 

 ハルキは私を傷付ける訳でも

 バカにしてもいない

 

 

 

 

 

 意見してるんだ

 

 それも私を思って言ってくれてる

 

 

 

 

 

 それに居場所って人に認められる事なんだ

 

 

 

 

 人の中に自分の居場所が出来るんだ

 




化粧や髪形が変わった事に気付いて貰えると
嬉しいんだよ、
そんな小さな事が自信になったり
気分が変わったりするんだ。


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自由とは?

 

「なんだか最近美人になったねぇ」

 洗濯物を干すケイシャ

 派手な化粧もアクセサリーも無く、

 普通の人になっている

 パーティーを離脱して3ヶ月になる

 

「やっと化粧して人前に出ても平気になったよ」

 苦笑いのナズナ、

 目元に赤い色が似合う様になった

 一緒に手伝う

 

 モガ と名付けられた村

 上位になってからよく来る様になった

 この高台は小さな農場があり、

 海からの心地よい風が吹く

 

「ねぇ、ハンターは完全に辞めちゃうの?」

 

「見ての通りだよ?もう無理だって」

 腹を撫でる、子供がいるらしいが

 まだ見た目は普通だ

 

 険悪になった元のメンバー達も今では

 喜んでくれているそうだ、

 他愛無い話をする

 

「ケイシャは実家に一回位は帰らないの?」

 

「あー…、あの砂漠の家か…」

 大砂漠の周辺にあるらしいが、ケイシャは

 両親が嫌いだそうで家を飛び出した

 そして食っていくためハンターになり、

 境遇が似ていたメンバーと出会った

 

「アンタは『帰る場所』があるんだなぁ」

 空になった洗濯カゴを持ち、ゆっくり歩く

 

 そう、私にはあの村が…

 

「アタシはそんなの無いからさ、

 アンタが羨ましいよ?」

 

 粗末なベンチに二人で座る、

 下の村と海が良く見える

 

「羨ましい?」

 何にも無い私が?

 旦那もいるし子供もできる人が?

 何で?

 

 少し間を置くと

「エミナから前に聞いたけど、アンタは

 イジメられてたんだって?」

 

「うぐっ、突然なに?」

 エミナ、何で言うのよ…

 

「でも帰る場所はソコなんだよね?」

 

「そう…思ってる」

 

 

 

 

「強いなぁアンタ」

 

 

「強い?」

 なんで?普通じゃない?

 

「嫌な事があった場所なのに…

 そう思えるんだからさ」

 ケイシャの両親は所謂『ろくでなし』

 だったそうだ、そこから飛び出して来た

「アタシはこの子の『帰る場所』に

 なりたいなぁ」

 腹を撫でる

 

「ケイシャは弱いんじゃ無いくて

 …何か自由って言うか…」

 知らない土地でいきなり結婚てなぁ…

 

 

「自由かぁ…自由ほど怖い物も無いけどね」

 

 怖い?

 

 ケイシャはニヤリと笑うと

「本当の自由ってのは『無法』の事だよ、

 簡単に言えば人を殺すのも自由」

 

「ちょっと…怖すぎだよ」

 

 笑うと

「それに殺されるのも自由、

 自分の行動の責任は全部自分だ」

 

「何かハンターに似てる」

 

「はぁ?似てないよ?」

 手を振る

「ハンターはギルドのルールを守る、

 その代わりギルドに保護されてんだよ?」

 

「あ、そうか、ネコタクとか支給品とか…

 それに…あと何か…」

 守られてる

 

「そう、自分の自由を少し制限される

 代わりに、組織に保護して貰える」

 村を見下ろすと

「村だってそうだよ」

 立ち上がり伸びをする

「『村の規律』の中で自由なだけだ」

 

「規律か…」

 

「ギルドのルール、村のルール、

 個人のルール」

 指折り数える

「自分を守ってくれるルールなら自由を

 制限されても仕方ない訳よ…

 この子の為にもね」

 

 価値観ってやつか…?

「ねぇ…ケイシャは今、幸せだよね?」

 

「さあねぇ!忙しくて考えてる暇ないよ!」

 笑いながら手を振るが…

 幸せだよね

 

「自由…か…」

 誰かと組むのも

 他のギルドに行くのも自由…

 ハンターとしての自由…

 人としての自由…

 

「で?アンタはどっちと付き合うの?」

 村長達と話す二人を指差す

 

「え?!!」

 

「誰と付き合っても自由だよ?

 制限されてないし」

 笑いながら坂道を降りていく

 

 

 自由って人によって考え方が全然違う

 …これが価値観か…

 

「ナズナぁ!レウス狩り行くぞ!」

 下からハルキが呼んでいる

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

「うおらぁっ!!」

 溜め斬り!翼爪が破壊される

 

「なんか早い!」

 一つ一つのスキが少ない!

 これが上位のレウス!下位とは次元が

 違う!!

 ナズナは足元を転がる

 

「単発で回避です!基本に戻って!」

 顔に一太刀入れて回避

 

「うっわ!これ面白い!」

 初めてライトボウガンを持ったエミナ、

 貫通弾を撃つ

 

「エミナ!連射せずに

 いつでも回避出来るように!」

 

「りょーかぁーい!」

 笑いながら撃つ、

 明らかにハシャいでいる

 

 

 

 

 

 ………

 

 

 

 

 

 無事に討伐成功したが

 初の上位リオレウス、消耗も大きい

 

「ですから貫通弾の調合は…」

「面白けどこれがなぁ…」

 ミハエルとエミナは調合している

 

「買うと高いしなぁ」

 ナズナの言葉には実感がこもる、

 疲れてレウスの頭に寄り掛かり座る

 

 久しぶりに苦戦した

 

「まぁ何使おうが自由だしな、

 多少の不便は仕方ねぇわ」

 

 大剣を研ぐハルキ

 レウスの頭を撫でるナズナ

 

「あのさ、私達このままG級いくのかな?」

 

「あー…あのな」

 ナズナを見ると

「俺も何となくやってんだぜ?

 ハッキリ目標なんて無いからな?」

 

「私…何がしたいんだろ」

 

「俺もソレを探してんだ、お前は

 考え過ぎじゃね?」

 

「?」

 

「皆が皆目標持って生きてねぇよ、毎日

 食って行くために働いてるだけだぜ?」

 

「なんかソレって…

 ココットにいた頃の私じゃ…」

 

「それも一つの在り方だろ?」

 

 

 

 

「出来た!貫通弾!」

「掴みましたね!さぁ次は

 これを30回ほどやりましょう!」

「うえぇ…」

 

 

 

 

 二人を眺めながら

 

「一生目標探す人のが多いんだぜ?

 探して迷ってジタバタするそうだ」

 

「見たことあるの?」

 

「この世の人間の殆どだぜ?」

 ニヤリと笑うと

 

「私もその一人か」

 ジタバタ迷うか

 思えばベルナから出た後は、ずっと

 ジタバタしてる

 

 

 

「誰かにレールを敷かれて

 自由の無い人もいますよ?」

 ミハエルがこっちへ来た

「偉くなる人は偉くなるために

 教育を強制されますし」

 

「摂政か?」

 

「子供の頃から自由が無かったそうですよ」

 

「それ嫌だな!」

 ハルキは苦笑い

 

「私達は目の前の仕事を

 こなしていくだけです」

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 「討伐成功ですね!」

 キャシーが依頼書にスタンプする

 

 と

 

「おー?居やがった」

 

 その声に四人振り返ると

 

 …中年のハンターが居る

 髪が赤いだけの普通のオジサン、

 目尻の皺が深くててニコニコしている

 

 「「「イシズキさん!」」」

 

 え?誰?

 

 

 ……………

 

 

 

 

「まったくオメェはよ!

 あんまり心配掛けんじゃねぇよ!」

 ハルキの頭をグリグリ

 

「すんません…」

 されるがままテーブルで怒られるハルキ

 

「ベッキーがどんな思いか想像しろ!

 今すぐ手紙送れ!」

 顎でカウンターを指す

 

「はい…」

 立ち上がりカウンターへ

 

 素直に言うことを聞くハルキに

 違和感を覚える

 

「あの…」

 怖い感じはしないけど何者?

 

「オメェが報告にあったナズナだな?」

 片方の眉が上がる

 

「イシズキさん、お弟子さんは

 置いて来られたんですか?」

 

「あ?それはよ…」

 ナズナを置いてきぼりに話をする

 

 

 

 

 「………」

 何なのよ?

 

「この人はね、お父さんの仲間だった

 イシズキさん」

 こっちも二人で話始める

 

「どんな人なの?」

 言葉が汚い人だなぁ…

 

「今は40歳位だったかな、

 四英雄の称号蹴って弟子育ててる」

 

「蹴って…?」

 

「断ったんだよ」

 

「ソレって凄い強いんじゃ?」

 普通断る?

 

「最強の一人だよ?」

 

「そんな感じに見えない…」

 チックの様に顔に傷もないし

 ロクロウみたいに立派な髭もない

 何より空気が何か…柔らかい?

 

「そうなんだよw」

 手をヒラヒラ

 

 

 

「ムダに威嚇しても意味ネェよ?」

 突然こっちの話に入って来る

 

「ムダかなぁ」

 エミナは首を傾げる、無用なイザコザ

 避けるのに効果的に思えるけど

 

「オメェらが本物の怖さを知らねぇだけだ、

 昔のロクスさんやガストンさんは

 笑ってても怖かった、

 俺は若い時にあの二人の殺気ブツけられ

 てよ、動けなくなったぜ?

 ソレが『本物』ってやつだ」

 

 

「あの…ナズナです」

 右手を出すと

 

「おう、イシズキだ、

 俺の自己紹介は終わったようだな」

 ニコニコ握手する

「ココットのギルマスから聞いてるぜ?」

 

 

「ではその為に?」

 横からミハエルが入ってくる

 こんな事は珍しい

 

「あー、このギルドの治安維持頼まれてな、

 表向きは俺がやってくれだとよ、

 人数増えたしチック達だけじゃあな」

 

「治安維持って何ですか?」

 ナズナは首を傾げる

 

 その様子をマジマジ見ると

 イシズキは間を置く

 

 じっとナズナの顔を見る

 

 

 

 ちょっと怖いんですけど?

 

 

「…なるほどなぁ、ギルマスが気に入る

 はずだ、オメェは裏表が無ぇ」

 エミナを見ると

「オメェのオヤジと同じだ、

 悪意ってモノが無ぇわ」

 ビールを飲む

「ハンターになって力が付くとな?

 偉くなったと勘違いして犯罪に走る

 ヤツがいるんだ」

 

「そんな事起こるんだ…」

 怖い…

 

「そういうヤツが出ないように全体を

 仕切れだとよ、面倒くせぇけどな、

 こっちは四大英雄の影響も薄いだろ?

 危ねぇんだよ」

 

「そーゆーのはギルドナイトの仕事

 じゃないんですか?」

 エミナが口を挟む

 

「ギルドナイトはとっくに来てるぜ?」

 

「気付きませんでしたよ」

 父様の事だからギルドガールに

 偽装するはず…まだ見抜けないですが…

 

「まぁ気付かれちゃ仕事になんねぇだろw」

 

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

「イシズキさんが来るとはなぁ…」

 チック達と話すイシズキを眺める

 

「ハルキ、あの人苦手なの?」

 ため口しないし

 

「あ?弟子連れてG級クエスト出来る

 人だぜ?弟子のフォローしながら」

 

「…そうなんだ…」

 桁違いに強いのか

 

「ハンターとしても人としてもデカイ

 人なんだ、逆らう気にならねぇよw」

 

「ドンドルマにいたハンターなら怖さも

 知ってる訳よw …

 ミハエル、さっきから何で黙ってんの?」

 

「…いえ…」

 ギルドナイト…

 何でしょう…

 何かを見落としている気が…

 

 「観光気分だったかもな、

 ぶん殴られないように気を付けようぜ?」

 

「あの人殴るの?」

 やだよ怖い

 

「ナズナ、ハンターって元々犯罪者

 ばっかりだったの知らないの?」

 首を傾げる

 

「そうなのっ?!」

 私犯罪者の仲間?!

 

 え?あれ?何かおかしくない?

 貴族までいるし…

 

 ミハエルが口を開く

「元々は犯罪者…ならず者ばかりだった

 集団を暴力で矯正して現在に至ります、

 現在は立派に職業の一つですが」

 

「みんな四大英雄と昔の先輩達を尊敬

 してるけど、怖くもあるのよ」

 

「暴力による統制では無くなり…」

 

「何だ?」

 

「いえ…」

 新体制に成りつつある…のか?

 

 

 

 

 

 

 




昔は近所の子供を怒る大人が
大勢いたそうだ、
言葉で諭された


今は公園のルールを見ても、
アレしちゃダメ、コレしちゃダメって
文章の注意



子供にとってどちらが役に立つだろう、
どちらが自由について考えるだろうか


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繋ぐ

今回は会話のみ


 

 ジュウジとイシズキがドアを抜ける

 

 薄暗い明かりのなかに派手な衣装が並ぶ

 

「あら?いらっしゃい」

 酒場の踊り子の控え部屋

 目の覚める美人が振り返る

 

「じゃ、俺は戻るぜ」

 ジュウジは踵を返す

 

「ありがとよ、ジュウジさん」

「よせよ、お前が俺に敬語なんざ」

 

 

 

「一応到着の挨拶に来たぜ?」

 イシズキは笑い掛ける

 

「お疲れ様です」

 踊り子は立ち上がり敬礼、

 普段着は地味なようだ

 

「まさかゼニスさんが派遣されてるとはな」

 

「誰にでもなれるのが私ですからね、

 感情の無い能面女ですから」

 どう見ても二十歳位の美魔女は微笑む

 

「自分でそう言えるのはスゲェ強いぜ?」

 

「ふふっ、告白する勇気も

 持てなかった弱腰ですよ」

 

「やっぱり強ぇよw…で、本題だがよ、

 摂政側のヤツが誰か…」

 

 

 

 イシズキに椅子を勧めると

「手紙を全てチェックしたところ、

 おおよそ…」

 

「やっぱりギルマスか?ナズナって女は

 そんな事出来そうに無かったしな」

 

「いえ、それが…

 ギルマスは割りと自由な気質で摂政側に

 とらわれて無い様でして…」

 ゼニスも座ると

 

 

 

「書士隊のアリスですね」

 

「あの事務組か?!俺ら(四大英雄側)も

 真っ先に疑ったが何も考えて

 なさそうな天然だぜ?!」

 

「そこを利用しているようです、ハルキの

 話を自然に聞き出せるわけですし…

 その為にコチラに送り込まれたんでしょう」

 

「………自然とミハエルの動向は筒抜け

 …か……?」

 

「摂政が使いそうな手です、

 おそらく本人達は…」

 

 

「監視してるつもりも…」

 

「監視されてる意識も出来ていないかと」

 

 

 

 

「まったく…ミハエルもまだ子供だなぁ」

 ため息

 

「本人達は楽しくハンターやってる

 だけですね」

 笑う

 

「そういえばよ、どうやって手紙全部

 チェックしたんだ?」

 

「アイルーが運ぶ訳ですからw」

 

「…マタタビ次第か…ってことは」

 

 

「摂政もこの手を使って情報収集

 してるでしょうね」

 

「四大英雄と渡り合って来ただけあるな」

 頭の良さだけじゃない、

 目的のためなら心理の裏までか…

 

「ミハエルを取り返すのは骨が折れますよ、

 ミハエル自身が摂政の手に落ちた事を

 理解してません」

 

「ハルキもか…」

 

「ハルキがミハエルから離れない以上、

 監視されます」

 

「幼馴染だしな、突然離れたら…」

 

「警戒されますね」

 

 

 

 

「ミハエルに事実を伝えた場合は…」

 

「シュレイド大陸に…四大英雄の庇護下に

 戻ろうとするでしょうが…」

 

「邪魔してくる…か?」

 眉間に皺

 

「おそらく…」

 目を細める

 

「摂政…

 シュレイド対ギルドになっちまうな、

 荒立てたくねぇなぁ…」

 

「出来ればコチラでミハエルに四大英雄側

 である自覚を持たせたい所ですが…」

 

 

 

 

「俺が来た所で…できるかぁ?」

 頭を掻く

 

「責任重大ですね」

 

「そっちの上からは何て指示が来てんだ?」

 

「現状通りです」

 衣装に目をやる

 

「助けてくんねぇ?」

 苦笑い

 

「新しいダンス作らないとなりませんし」

 ニッコリ笑うと子供っぽい

「それにこの事案自体に意味があるかと」

 

「?」

 

「ミハエルも貴方自身も

 成長させたいのでは?」

 

 

 

 

 

「あの人達が…」

 

「考えそうな事ですw」

 

「まさか…俺を将来ギルドマスターに

 する気じゃねぇよな…」

 

 

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 数日後

 

「お前らココットにいたんだろ?

 モノブロスはよ?」

 イシズキに聞かれる

 

 みんな首を振る

 

「かぁーっ!!もったいねぇ!!」

 立ち上がると

「いいか!ハンターは全員が

 四大英雄の弟子なんだぜ?!」

 ギルド中に聞こえるように話す

 (こうやって刷り込んで行くしかねぇな)

 

「こっちで羽伸ばしてるつもりか?!

 弱くなるぜ?!」

 

 全員が『弱く』にピクッと反応する

 

「マジか?」

「そうだよな、先輩達が居ないし」

「怖い人が少ないからな」

 ザワつくギルド

 

「うを、さすがイシズキさんだ、

 ギルドの空気がビシッとしたぜ」

 

「なんか皆ピリピリしてない?」

 怖い、のんびりした空気が消えた

 

「あそこまで言われちゃ黙ってらんない、

 何かデカイの狩りに行こ」

 ムスッとする

 

「田舎のギルドの空気だったんですが…」

 なるほど、人数も増えてますし

 此処は大きくなる…

 主要ギルドになりつつある…

 と見込まれたんですね、

 それで統制役が必要な訳ですね

 

 

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 

 

 シュレイド大陸 ココット村

「摂政殿、今回はヤられましたわい」

 

「初めて一本取れましたよ」

 

 向かい合って座り笑う二人

 

 

 そしてその後ろで直立で睨み合う

 ドリスとマーカス

 

 

「で?敗者の顔を見に来たのかの?」

 目がシワに埋もれる

 

「まさか♪、反撃が来ないので、

 ご機嫌伺いにきただけですよ?」

 まるでイタズラっ子の様に笑う

 

「次の一手を探りに来たと?」

 コチラも目が笑う

 

「そんな所です」

 

 

 

 と、真剣な顔に変わり

「前置きはコレくらいで…

 貴方らしくありません、まさか

 ミハエルをコチラに…?」

 

「摂政どの、ワシらは歳をとった…

 そろそろ次に渡さねばの」

 

「…引退すると?」

 

「隠居だなぁ」

 笑うとキセルを吹かし

「思えば長い道程だったが…もう

 ハンターはワシらがいなくても…

 人の手だけで歩いて行けよう…」

 

 

 

 

 

「ハンターは巨大な戦闘集団でもある、

 それをコントロールしていたのは

 他ならぬ貴殿方だ、そのカリスマ無しで

 規律を維持出来るとお考えか?」

 

 ならず者の集団に戻れば国の脅威にも

 なりかねない

 

「カリスマ…伝説…そんなものは

 もう必要ない、ワシらの意思は…

 思いは多くの者に伝わった、

 もう人の手だけでやっていける」

 

 

 

 

「…まさか…四英雄の制度まで…」

 

「そこなんじゃ、称号を断るヤツが

 出たし、ハルキに至っては称号を

 嫌っておるようじゃ…

 もう無くなっても問題あるまいよ」

 煙を吐く

「ハンターは自然とワシらのバランスを

 保つのが最大の目的…

 ガストンのヤツがワシらから人へ全部

 繋いだ、これからは自由にすれば良い」

 

 

 

 

「私がミハエルとハルキを奪っても良い…

 と?あの子達はハンター組織の中心に

 なるでしょう?」

 

「ミハエルは生まれながら特別過ぎた、

 両親は四英雄、ガストンの孫弟子…」

 

「ギルドナイト本部長の子にして

 摂政の甥っ子ですし」

 

「ハルキにもいらん期待を掛けるのは…

 もう自由にさせてやるべきじゃ…」

 

「それでは…私は勝手にしますが…

 干渉しないと?」

 

「うむ、じゃがソチラもギルドの

 『規律』には干渉せん方が良い、

 手を出せば黙っておらん連中が大勢居る」

 

 

 

「次の世代…」

 後ろのマーカスを見たあとドリスを見る

「睨み合いながら食事をする関係が続く

 …かな?」

 

「どう変化しようが干渉せん、

 引退じゃ…

 後は若い者が勝手に時代を創る…

 それで良いわい」

 振り返ると

「ドリスや、ワシは明日から置物じゃ」

 

「了解しました!」

 敬礼する

 

「マーカス、手強いですよ?」

 

「お任せ下さい」

 鋭い目でメガネを直す

 

 

 

 

 立ち上がると

「英雄に頼る時代は終わったのですね」

 少し憂いを持った顔で竜人を見ると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今まで人族を導いて頂いた、

道標として多くの知識を与えて下さった、

及ばずながら人類を代表し

感謝申し上げます」

 深く一礼する

 

「ワシらの時代は終わる、

 新しい世代が時代を創る、

 口煩い年寄りになれば良いのじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

 時は流れ

 

「ちょっと!ミハエル!」

「何です?エミナ」

 大きな部屋に大きな鏡、元摂政の

 屋敷でメイド達にドレスを着せられる

 

「何でこんなカッコすんのよ!」

 白いドレスのエミナ、

 髪を解かれ髪飾りが付けられる、

 相変わらず態度はデカイ

 

「一応はそれなりの装いをしないとね」

 白いローブで絵画のようなミハエル

 

「ドレスはともかく…

 この変な靴は何なのよ!」

 踵が高い靴に悪戦苦闘するが、

 ミハエルが支えながら

 なんとか長い廊下を歩く

 

「先ずは笑顔ですよ?」

 大きな扉の前に立つ

 

「うー、緊張するー…」

 苦い顔

 

「叔父上も母様も知ってるじゃないですか」

 

「そりゃ会ってたけど…」

 状況が違いすぎるじゃん!

 

 執事が扉を開けると

 

「ルーメル家の皆様!

 大切な報告に参りました!」

 一礼するミハエル

 ドレスのスカートを少し持ち上げ

 礼をするエミナ

 

 

 ………

 

 

 

 

 

 

「ハルキさん?ハルキさん!」

「あぁ?」

 学者の姿が振り返る

 

 王都 学術院、石畳と芝生の中庭

 大きな建物が集まる

 

 8歳くらいの女子二人が話掛ける

 

 

「お久しぶりです!」

 キチンと礼をするメガネの娘

 

 

「おぉ!ソフィアじゃねぇか!

 でっかくなったなあ!」

 

「あの、父が見当たらないのですが…」

 

「またか…こんな日まで自由過ぎんだよ

 マルク主任は…」

 娘が初等部に入学したってのに…

 いい加減に降格じゃ済まなくなるぞ

 

「んでそっちは…」

 

 ちょっと地味な三つ編みの娘

「あ、あの、初めまして、

 アイシャと申します」

 モジモジと答える

 

「今日友達になりました、モガの村

 という所から来たそうです」

 

 まじまじと見るハルキ

 

「おぉ?!母ちゃん元気か?

 前は良く行ったぜ!」

 

「あれ?ご存知なんですか?」

 ハルキとアイシャの顔を見る

 

「お前ケイシャの娘だろ?似てるぜ?」

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

「これでよしっと!」

 ココット村

 一人の生徒の首にネックレスを掛ける

 教官

 

「教官、なにコレ?」

 地味な生徒の女ハンター

 人と関わるのが苦手でいつも孤立する、

 他の生徒と話せないしまだ防具も無い

 

 長い前髪が鬱陶しい15歳

 

「勇気が持てるお守りだよ?」

 指を立てる

 

「えー、何か古くない?」

 デザインというモノが感じられないし、

 ガラクタじゃない?

 

「村長が昔造って、色んな人が受け

 継いだ由緒ある物なんだからね?」

 

「……えー…」

 不満そう

 

「ソレがあれば誰にでも話掛けられるし、

 友達もできるよ?

 先ずは誰とでも話せる様にね」

 笑う教官

 

「教官友達いるの?どんな人なの?」

 明らかに不審な目

 教官だって人付き合い苦手そうなのに

 

「あれ?私だって友達くらいいるよ、

 大臣補佐とその奥さんとか」

 威張りながら言うナズナ

 

 

 

 

 

「冗談下手すぎ、別世界の人じゃん」

 

「ホントだってばパーティー組んでた

 内の二人だもん」

 

「あれ?もう一人は?居ないの?」

 

「そいつは学術院の教授になったけどね」

 

 

 

 

「…仲が悪いとか?」

 

 

 

 

 

「んー、んふふふ…」

 ニヤケるナズナ

 

「…なにその笑い」

ジト目で

 

 

 

 

 

 

 

「私を幸せにする人になったんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

「……!!まさか!

 教官って結婚してんの?!!」

 

「んふー、まだだけどね」

 

「何で人と関われるの?」

 他人が嫌いなんだけど

 傷つくし面倒だし…

 

 

 

 

「人との出会いが無いと何も

 始まらないんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ライズのPVが公開された直後から
気持ちがそっちに行ってしまい
発売前に終わらせようかと。

今度は全く違う設定と世界観で
モンハン描いてみたいです



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