エヴァの記憶だけ吹っ飛ばされた人がエヴァ世界に飛ばされた話 (フィアネン)
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全12使徒殲滅の章
St.1:まず、ここは何処なんだ?


お読みになる前に必ず説明文を確認してください。執筆者自身の感情、感性が多分に含まれており、場合によっては全方位レーザーになる場合がございます。
それでもよろしい方のみお読みください。


俺自身が、カテゴリの時点で読むのを憚れる「転生」ってものの犠牲になったとは。正直、チートも前世の知識もあったところで面白くないんだな、これが。正直書きやすいしそれが蔓延るのも納得がいくけどね。最近はオリジナルキャラ・設定をだいぶ都合よく設定できるRTA形式ってのもあるし、形態は変わってても内容は基本的に変わってないのがよくわかる。しかも、とりあえず殺す手段として交通事故がめちゃ書きやすいってのも実体験でよ~くわかりましたとさ。めでた死めでた死。

 

正直、生前は「この世界に神などいない!(STN並感)」というスタンスをとっていた。正直進級をする度、年齢を重ねる度につまらない世界だと思っていくようになった。いついなくなっても構わないと、20近くになってからずっと、そう思っていた。でも、自分からやろうと思ったところで絶対に勝てない「恐怖」がつきまとう。そんなとき、突発的に突っ込んできた車に轢き殺された時なんて何か考える間もなかった。

その後「ここ」で思ったことなんて、

 

「ああ、カエルがチャリなんかで轢かれる時ってこういうことなのかな。」

 

程度だった。それに、こういう状況ってさ、神も何も出てこない。一瞬画面が暗くなったと思った瞬間、俺は電車の中で座っていた。全員が全員こうなのかはわからないけど、そんな前例、普通に喋ったところで最近のテレビなんてネタにもしてくれない。ネットで喋ったところで「まーた頭のおかしい奴が出てきたよ」程度だ。結局、裏のとれない話なんて誰も気にしちゃいない訳だ。それも一般市民のだしね、俺もしょうもないと思う。

 

 

さて、ここは何の電車だ?って、こんな高い位置に電車なんて通ってたか?窓から見ると、このタイプは…え、モノレール?一時期流行ったモノレールってのも結局普及はしてなかったし、俺の記憶にあるそれってのは吊られてるタイプだ。ここら辺は明るくないからマジでよくわからない。

 

にしても、窓から見える風景、何か見覚えがあるんだよね。でも、それが全く記憶から出てこない。ガンダムとか9nineとかサブカルって言えばいいんかな?はほぼほぼ覚えてるんだけど、この風景だけが全く思い出せない。ずっとモヤモヤが頭ん中に残ってる。

 

顎に右手を当て、中指以下で顎を擦りながら考えていると、ふと違和感に気付く。あれ、そこそこ好きな短く生えた髭の感覚がない?窓に両手をつき、反射で顔を確認する。こいつは…ちょうど数年前の、中学の頃あたりの顔に戻っている?何でこんな中途半端な年に?

 

髪は少し記憶より伸ばしている感じだけど、間違いなく幼い俺の顔。それにいつも通り度が滅茶苦茶強いメガネにYシャツ、黒スラックス、それにこれは、学生鞄かなこれは。中はだいぶ軽いけど、最低限のものは揃ってる。ノート、筆記具、あと俺らしく紙が雑多に入っているクリアファイルに、これだけはだいぶ綺麗なままの紙封筒。うー、下向いてるとやっぱ首痛くなるな。首を軽く回していると、頭上にえーと、名前がすぐに思い出せねぇ。えーと…ああ、キャリーケースか。普段使わなかったからすぐ名前が出てこねぇんだこれが。状況とすると、ここの近くに泊まり込みの移動をしてるところか?んでも、保護者もいないとは…どういうことだろう。というか、周囲に人がほとんどいねぇ。この太陽の位置とか、外の明るさとしては始発あたりかな?俺今までこんな時間に電車使ったことあったっけ。コミケにすら行く事がなかったのにさ。

 

封筒から紙を取り出す。書いている内容は…はー相変わらず堅い文章ってのはなかなか読む気が失せる。内容としては、

 

「あなたは第三新東京市(?)のNERV(?)って機関に来い。仕事内容はそこで全部話す」

 

って感じだ。滅茶苦茶要約したから抜けがあるかもしれないけど、とりあえず公的機関がこんな内容の無い文書で多分ここに呼びつけるってどういう神経してんだ…。他に入ってたのは、路線図と乗り換え駅を示したメモに、迎えの人間らしい“葛城ミサト”という名の人の写真。わざわざ胸に強調するかの如く矢印を引っ張り、「ここに注目」とか勘弁してくれよ。んでも美人ってのはわかるけど。

 

それにしても、今が“2015年”ってのはどういうことだ?今は俺が生きてきた中で恐らく2番目にデカい実害を受けた災害、パンデミック真っ只中の2020年だ。その5年前つったら…ちょうど進学した直後あたりかな?もうそのときの記憶なんてマトモに覚えちゃいないけどさ。あ、今の駅アナウンス…

 

やっべぇ!!!!!!!

乗り過ごした!!!!!!!!!

 

すげぇ恐怖にかられる。とりあえずこの駅で降りるけど、どうすんだこれ…(悪寒)。路線図…つーか時刻表はねぇのかよ!アレ現在時刻の把握すらできるからだいぶ有能なんだが!?鞄を漁れ漁れ…って、その前に対岸のホーム行かなきゃ!走れ走れ!マナー違反?知るか!割と死活問題だぞこれ!こんなしょうもねぇことで遅刻とか勘弁してくれ!

 

着いた瞬間に電車が来た。せーーーーーーふ。相変わらず顔は青いままだが、とりあえず座って路線確認。あと2駅か。とりあえず携帯どこ?ズボンのポケットに手を押し付け、携帯を探る。は?こいつケツポケットに入れてやがるのか。こんなことしてるから液晶割れんだぞ。あいや、これガラケーだったわ。2015年なのにだいぶ前時代的なもの使ってるんすね。

 

葛城さんの写真の裏に電話番号が記載されていたから、それをとりあえず打ち込む。この感覚、親父のガラケーで遊んだ時以来だ。打ち込み終わり、通話のボタンを押そうとした瞬間、また唐突に恐怖が沸いて出てきた。これでキレた声がしたらたまったもんじゃない。やっぱり、この被害妄想ってのはどの年齢になっても変わらないようだ。あー怖ぇ。こういう年齢で精神成長が止まってるっつー自虐するくらいだし、相変わらずだ。んでも、掛けなきゃそれはそれで報連相ができてない印になってしまう。ここは、勇気を出―あ、ちょっとまてスリープすんな!あ、押しちゃった…。

 

[プルルルルルル プルルルルルル…]

 

この待たされる間はマジで嫌いだ。あーマジで怖くなってきた。あ、もう次の駅だ。荷物もって立っとかないとまた乗り過ごすわこれ。荷物を下ろしながら。左手で携帯は耳元にホールドしたまま。

 

『はぁい、葛城ですぅ…。』

 

「あ、もしもし、影嶋エイジです。えーと、ねるふ?の件で―」

 

『うわやっば!今どこ!?』

 

「えーと、もうすぐ指定の駅に着きます。」

 

『おっけー!ちょーっち待ってててね!』

 

「はい、わか―切りやがった。」

 

はぁー、さすがに勘弁してくれ。こんな大人って実在するんすね。この感じ、今起きてこれから駅に着くんだろうか。あ、これ開くドア逆だわ。

 

 

駅を出ると、そこそこ広いターミナルが顔を見せる。やっぱこういうのはいつ見ても面白いし、2階程度の高さから見るとそれはもう絶景。何でかって?動きがあって見てて飽きないからだよ。それに、本当に東京…いや、それ以上の高層ビルに、何かの日光を使ったシステムだろうか。反射光が目に痛いほど主張してくる。それに、現代ではあまり見ない、真っ白な高層ビル。何なんだろうか。視界に入るどれもが新しいものでそれらに心動かされている中、下のターミナルから声をかけられる。

 

「エイジく~ん、ここここ~。」

 

車から降り、手を振っている葛城さんから声をかけられる。車の場所と色、形を覚える。近くにエレベータないかな。…おっ、あったあった。そこから降りて、道を素早く渡ると目的のお方に出会う。

 

「ごめんね~、待たせた?」

 

「いえ、さっき着いたばかりですね。それより、予定より遅れてしまいごめんなさい。実は、2駅ほど寝過ごしちゃって…。」

 

「あら、気にしないでいいのよ。ささ、乗った乗った。」

 

言われるがまま青い車の助手席に乗り、葛城さんは車を飛ばす。

 

 

 

「えーと、まずこの呼び出しって、何なんですか?」

 

「あら、そこの書類に書いてなかった?」

 

「あー、読み飛ばしてたからどうですかね。も一度確認します。」

 

鞄から紙封筒を取り出し、もう一度目を通す。んー、やっぱわかんねぇや。

 

「とりあえず何かの仕事ってことですよね?んで、NERVって機関の人間になる。あとは同封の臨時ID。やっぱ、これだけだと何やるかわかりませんよ?」

 

「あー、そっか。それじゃ、こいつを読んで!」

 

一冊の分厚い冊子を渡されるタイトルは“[極秘]ようこそ、NERV江”。極秘なのにこんな冊子が印刷されてんのかよ。いや、極秘だからかな?

 

「ありがとうございます。」

 

内容に目を通す。とりあえず、こういうのは目次を見て読み飛ばすところを決めるのが鉄板かな。さて、内容は…なんか、物騒な言葉が多すぎる、武装したビルだとか、対使徒迎撃要塞都市だとか、使徒とか、ジオフロントとかいう地下都市の存在だとか、さすがにファンタジーが過ぎない?夢見てんのかな。

 

「失礼ながら、ここに書いている内容って本当ですか?」

 

「そ・れ・は、着いてからのお楽しみよ。」

 

本当らしい。車が止まり、ゲートが開く。そこに車を止めると、コンベア?のようなもので地下に送られる。てか、ずっと下向いてたせいで気持ち悪くなってきた…。冊子を抱え、座席の背もたれに全体重を預け、目を閉じる。

 

「あらエイジくん、大丈夫?」

 

「あー、ええ。昔から下向いてるとよく、あるんですよね。」

 

「もうそろそろ見えてくるわよ。」

 

ジオフロントのことかな。暫く気分を落ち着けるために深く呼吸をしていると、唐突に瞼に光が入ってくる。目を開けると、そこには日光が差し込まれた綺麗な地下空洞が見えてくる。

 

「美しい光景ですね。」

 

「そうね。ここがジオフロント、人類最後の砦よ。」

 

 

 

車を降り、まるで近未来の基地のような通路を延々と移動する。いや、基地ってのは正しいか。あれ、このA-3って文字、さっきも見たような…もしかして、迷ってる?いや、この施設の人間に限ってんなことが…

 

「あれ~、たしかこっちだったと思うんだけどな~。」

 

「え。」

 

「あ、そ、そんな、迷ってるとか~、そんなことは無いわよ~。」

 

「思いっっっきり動揺してますね…。」

 

「あ、あはは…可愛くないやつ!」

 

「聞こえてますよ。」

 

大丈夫なんですかねこの機関。エレベータに乗ると、指定した階より下で先に止まる。

 

 

扉が開くと、金髪白衣の美人が出てきた。この機関顔だけで人選してない?

 

「予定時刻、15分オーバーね、葛城一尉。」

 

「うっ、リツコ…ごめんね。」

 

一尉というと、ここも軍隊のような階級があるのか。あ、たしかに冊子に書いてあったな。

リツコと呼ばれた人はこちらを向く。

 

「例の男の子?」

 

「そ、チルドレンのバックアップ。」

 

「そう。赤木リツコよ、よろしくね。」

 

「はい。知っているとは思いますが、影嶋エイジです。よろしくお願いします。」

 

またコンベアで、今度は上へ移動する。途中に訳のわからないものが目に写る。

というか、さっきから話を流し聞きしてたけど起動確率が0.000000001%(オーナイン)とか、1.0×10^-9って言った方がわかるんじゃないかな、こういう界隈ならさ。

 

「んだ?あの壁突き破ってるデカい腕…」

 

「ここを上がればわかるわ。」

 

「それはどういう…」

 

赤木さんはこれ以上喋ることはなかった。

今度はボートで赤い水の上を移動する。なんか、さっきも見たような、バカでかい腕が見える。どうなってんだこれ…。

暗い部屋のドアが閉じられた数秒後に明かりがつき、バカでかい紫色の、顔…?が見える。ガンダムと違って、この感じ口がついているようだ。

 

「わぁ…なんですか?これ。」

 

「人が造りし究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン初号機。」

 

「初号機?(しょ)ってことはこれが1号機ということですか?」

 

「そう。他には凍結中の零号機もあるわ。」

 

「…まさか、これに乗れなんて言うことはないですよね?さっき起動確率が1.0×10^-9%って言ってましたよね?」

 

「残念ながら、そのまさかよ。」

 

「たしかに、こんなものに乗る機会なんてそうそうないですけど…。」

 

「どうするの?」

 

「急かすんですね。…わかりました。乗らせていただきます。」

 

「あ~ら、男の子らしく、目を輝かせてるわねぇ。」

 

「そりゃあ、ガンダムとかを見ていれば一度は思うことですよ。憧れでしょう?こういうスカウトだって。だから、やらせてもらいます。」

 

「わかったわ。それじゃあついてきて。」

 

 

 

その後、赤木博士によって、エヴァンゲリオンのいろはを叩き込まれた。にしても、こういうアニメがあったら面白かったのにな、とずっと思ってる。考えるだけで動かせるってのはファフナー感があるし。でも内部電源は5分しか保たないってのと、武装がナイフとライフルだけってのは少々頼りない気がする。

 

「も少し、何か長い近接武器は無いんですか?例えば…剣とか。」

 

「それはまだ無いわ。でも、あなたのテスト次第では製造することも検討するわ。」

 

「あと、このA.T.フィールドって、通常兵器は受け付けないって言ってましたよね?」

 

「ええ、そうね。」

 

「この中和作業と攻撃って同時にできるんですか?」

 

「中和距離に入ればできるわ。」

 

「つまり、近づけばいいんですね?」

 

「端的に言えば、そうね。」

 

「難しい戦い方ですね。」

 

「まずはシンクロできなければ始まらないわ。それじゃ、次はこっちに付いてきなさい。」

 

 

次は更衣室に導かれ、ぶかぶかのスーツを渡される。とりあえず言われた通り全部脱いで、このスーツを着た。うっ、この生えかけというか、まだ短い感じが年齢が下がってるということを痛感させられる。顔が赤くなる気がする。あーやだやだ。

着たスーツを鏡で見てみる。白の装甲のようなものが上半身を覆い、胸の部分には赤い円のようなものが入っている。腕や体の側面は黒だが、メインはグレーカラーになっている。胸には英語で[TEST]と。ほんとにバックアップらしいが、同時に初号機のテスターもさせられてるってのがよくわかるわ。

 

お次はエントリープラグって円筒形のものに搭乗する。座席は座るというより、跨がるような感じ。レバーはトリガーと、指を伸ばすようにして押すタイプのスイッチ。少しガチャガチャ動かすと、案外自由度は高いようだ。この施設は、エヴァとのシンクロ率を計測する施設で、ここで行っていることはこれに慣れるための実験らしい。

 

[エントリープラグ、注水。]

 

ひぃ~、呼吸できることを知っていてもやっぱ密閉空間に水が迫ってくるとか恐怖もんだぜこれ。3拍かけて息を吐き、ゆっくりL.C.L.を吸い込む。…わりと普通に呼吸できるんだなこれ。液体呼吸ってのはSFネタでしか知らないからよくわからない。

 

[落ち着いて、意識を集中させてみて。]

 

頷いて、思考をやめる。少し心拍が高くなってるが、それも意識から追いやる。

 

どれくらい経ったのだろうか。唐突に赤木博士から通信が来る。

 

[お疲れさま、上がっていいわよ。]

 

「あの、どれくらいでしたか?その、シンクロ率ってのは。」

 

[28.90%よ。初めてにしては破格な数値ね。]

 

「へえ、有効数字って4桁なんですね。」

 

[あら、そんなところに興味をもつなんて、中学生なのに珍しいわね。]

 

まあ、一応高校の数学と物理はあらかたやったしね。それやっときゃ知識はめっちゃ広がる。

 

「そうですか?じゃ、上がります。」

 

プラグが上がり、ハッチが開く。

 

ふ~、LCLってなかなか浸かりたいものじゃないな。なんか臭ぇし。スーツを脱ぎ、シャワーを浴びて、服を着る。は~、さっぱりした。

 

 

この後は、赤木博士んとこでめ~~っちゃ入念に精密検査を受けた。そこでの話は、エヴァに本当に乗れるのは5日後くらいだとか、体に違和感は無かったか、とか。本当になにもなかったから、真面目に適当に答えた。そのあと、俺の居住場所に関しての話になったのだが―

 

「ええ!?この施設に住むの!?」

 

「そうだ。この先の居住区、IDと番号は渡しているから、問題は無いだろう。」

 

「それでいいの!?」

 

「そんなもんじゃないですか?それに、一人ってのは楽ですよ?」

 

「あなたねぇ…わかったわ。」

 

 

 

「リツコ?エイジ君、うちに住まわせることにするから。…え?だいじょーぶ、この子に手を出すことなんてしないわヨ。」

 

『当たり前でしょ!!!!!だいたいあなt―』

 

「ちっ、冗談のわからないヤツ。」

 

「ええ…。」

 

 

「今日はパーーーッと!やらないとね!!」

 

「歓迎会でもしてくれるんですか?」

 

「そうよ。折角の同居人だしね。」

 

 

コンビニに着く。だからってコンビニ弁ですかい。まあ忙しそうだし、わからなくはないけど。昼とか作るのダルい時なんてだいたいがインスタントだとか冷凍食品だしね。

コンビニ弁を漁る俺ら。あ、この焼肉弁当美味そう。あと焼きプリンとサイダー。うん、完璧だな!

 

「そんだけでいいの?」

 

「あー、慣れない環境だと、俺は胃が縮むようでしてね…。」

 

「あらー、それは仕方ないわね。」

 

 

 

コンビニを出て、マンションに向かう。荷物は既に届いているようで、扉の前に幾つかの段ボールが置いてある。全部NERVのロゴ入りとは。

 

「実は、私もこの街に引っ越してきたばかりなのよ。さ、入って。」

 

「それでは、お邪魔します。」

 

「エイジ君、ここはあなたの家になるのよ。そういうときは、どう言うかはわかるわよね。」

 

「あー、はい。…ただいま。」

 

「おかえりなさい、エイジ君。さー入った入った、部屋はちょーっち散らかってるけどね。」

 

「は、はあ。」

 

 

…おい。これが「ちょっち」かい。俺の方がまだ整頓されてっぞこれ。冷蔵庫も水ビール氷って、葛城さんアル中ですか?こうういうのでどうしても引いちゃうから俺は生きてる間数回しか酒飲めなかったんよなぁ。とりあえず、間取りの確認を…え、ペンギン?

 

「この…ペンギン、は?プレートのPEN²(ペン2乗)って、どう読むんですか?」

 

「ああ、この子は温泉ペンギンのペンペンよ。」

 

「あ、ああ…なんだ、普通に読むんですねこれ…。」

 

2乗で×2と同じ読み方をするのって他にあったかぁ?俺知らねぇんだけど。

 

「ま、そんな話はともかく、まずは食べましょ?」

 

「少し待ってください。」

 

キャリーケースを空いている部屋の中に入れ、開いて歯を磨く道具を一式出す。石鹸は住居だから好きに使わせてもらおう。まあ、鉄則ですよね、手洗いうがいは。このリアルご時世なら尚更よ。あ、今2015年だっけか。

 

「はい、お待たせしました。食べましょ。」

 

「「いただきます。」」

 

葛城さんは話題を振ってくる。どうやら、俺と打ち解けたい…のだろう。多分。

 

「ねえ、今日の実験どうだったー?」

 

「まあ、案外どうにかなるんじゃないかな、って思ってます。今のとことは。」

 

「そう、それはよかった。あ、そうだ。あなた、学校にはちゃんと行ってもらうわよ。」

 

「はい?俺は今14ですよね?それは当然なんじゃないですか?」

 

「あら、実験ばっかりを求めてるのかと思ってた。案外大人なのね。」

 

「んな事はないですよ。礼儀ただしさと精神が大人かは別問題じゃないです?」

 

「あらー、そんな難しいこと柄にもなく言っちゃって~。やっぱエイちゃんは大人よ。」

 

「エイちゃんー?やめてくださいよ葛城さん。」

 

「ふふふー、ミサトでいいわよ、エイちゃん。」

 

「あー、多分暫くは葛城さんでしょうねこれ。そんなすぐ馴れ馴れしくなんて接せませんよ。」

 

「あら、お堅いこと。」

 

「あ、そうだ明日の実験、いつごろから始まります?」

 

「明日?今日とやることは変わらないから、だいたい1400くらいからね。」

 

「というと、14時ですか。なら、明日は学校休む…というか、明後日くらいからの登校に調整してくれませんか?」

 

「あら、どうして?荷物整理とか?」

 

「それもですけど、まずは掃除からしたいですね。やってこなかったなりに、俺も努力しますから。」

 

「うっ…ありがと!」

 

「因みに、明日の朝食って…」

 

「あ、それは…」

 

目が泳ぎまくってる。あーあ、しゃーねぇなこりゃ。

 

「わかりました、これから買いに行きましょ。」

 

「ありがとう~。」

 

 

 

荷物を軽く整理して、風呂入って、ベッドに横になる。なんか想像以上に濃い、疲れた一日だった。NERVとかいう公的機関、エヴァ、パイロット。マジで夢物語のようだ。こんなことを自分ができるとは思ってもいなかった。やっぱ、これは「男のロマン」だよねぇ。

目を瞑りながら少し笑っていると、葛城さんが声をかけにきた。

 

「あら、起こしちゃった?」

 

「いえ、どうも寝れなくて。興奮してるようです。」

 

「そうなの。…ありがとう、エイジ君。君も数少ないパイロット適正の子の一人だから、この仕事を受けてくれたのは本当に嬉しい。ありがとうね。」

 

「いいえ、まだ感謝してもらうようなことは何もやっちゃないですよ。俺はこれからです。」

 

「それでも、言いたかったの。ありがとう、おやすみ。」

 

「おやすみなさい。」

 

その日は、夢も見ない深い眠りだった。

 




好き勝手やらせてもらいます。


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St.2:学校と訓練の無限ループ

まだ1話にはつながりません。


起きたら、まずは掃除からだ。まずはごみ出しの曜日を調べて、ゴミの分類。これだけで2時間くらい使った。やべぇよこの量。流石に俺でもここまではしない。終わったのは9時。とりあえず手洗ってから昨日買ったパンをかじる。次は…掃除機かけよう。一通りぬぐい終わったら回りの消耗品を調べる。足りないものとか無くなりそうなものを調べて、落書き帳と化しているノートにメモを殴り書きし、そのページを折って強調しておく。後は…あ、そうだ洗濯物干しとかねぇと。これやってるとやっぱ母親は偉大ってのがよくわかる。結局終わったのは12時半だ。これならNERVで昼食した方がいいかな。もう一度荷物と路線図を確認して本部へ向かう。ついでに駅で時刻表買ってきた。

 

 

「あ、じゃあ定食2で。」

 

「はい、お待ちどうさま。」

 

「ありがとうございます。」

 

定食を受けとり、飯にする。やっぱ、静かに一人で食欲を満たすのは至福の時だ。

 

「隣、いいかな。」

 

「どうぞ?」

 

「ありがとう。君は噂の3人目のパイロットだね?」

 

「3人目…というと?」

 

「失礼、まだ自己紹介してなかったね。僕は日向マコト。ここでオペレーターをやっているんだ。」

 

「影嶋エイジです。それで、パイロットって他にいるんですか?零号機が凍結されているってのは知ってるんですけど。」

 

「ああ、君の他に2人。綾波レイという子がここに、もう一人はユーロのドイツ支部にいるんだ。」

 

「へえ、流石予備(バックアップ)と言われるだけはありますね俺。」

 

「でもね、ここのレイ君は実験中に大ケガをして、動ける状態じゃないんだ。」

 

「零号機の実験と何か関係が?」

 

「ああ。彼女は、零号機起動実験中に怪我をしたんだ。…もしかして、君はまだ起動実験はしていなかったかい?」

 

「あー、まあ、あの突き破ってる腕を見れば何かあったなってのはわかります。んでも、流石に動けなくなるほどの大ケガって、何があったんですか?」

 

「…本当に聞きたい?」

 

「俺がどこまでできるかはわかりませんけど、参考までに。」

 

「わかった。彼女は起動実験中の零号機から射出されたエントリープラグが地面に落下して、その衝撃で怪我をしたんだ。」

 

「というと、エヴァの身長くらいの高さから落下したってことです?」

 

「そうだな。ごめんね、昼食の最中なのにこんな話題を出しちゃって。」

 

「いえいえ、自分が聞きたかったから訊いたんですよ。ありがとうございます。」

 

味噌汁を流し込み、食器を返すと更衣室へ向かった。エヴァの身長って実際どれくらいなのだろうか。ファーストガンダムですら18mであのコクピットの大きさだから、それの倍以上あるのか。逆によく死ななかったなぁそれ。LCLは偉大。

 

 

[お疲れさま。上がっていいわよ。]

 

今日の実験も終わる。特別何かがあるわけでもなく、また終わった後は精密検査と質問責めだ。まあ、5日の辛抱だろう。帰りは何か買い物でもして帰ろう。久々に夕食に朝食を作りたい。

 

 

監視員に手伝ってもらって、中学生にしては異常な量の買い物をし、車で家まで送ってもらった。

 

「なんか、すみません。都合のいいパシリみたいなことさせてしまって。」

 

「子供を助けるのも大人の仕事だ。」

 

「ありがとうございます。」

 

結局食料なんかも運んでもらってしまった。はい、これからこういうことがあれば有効活用させてもらいますね。別れ際に葛城さんの帰りを訊くと、残業があるらしい。やっぱ、こういう仕事は大変なんだろう。

 

さて、久々の飯は…とりあえず肉野菜炒めでいくか。一番スタンダードだし、作りやすい。米もとりあえず2合くらいは炊いておく。どちらもいざとなりゃレンジ使って食えばいい。

 

 

久々に料理した気がするが、だいぶよくできたんじゃない?正直味噌汁はうまく行く気がしなかったから飯が炊けるまでの間に作り方を検索しなおしていた。まあ、これなら及第点なものが作れただろう。

とりあえず留守電だけでも入れとくか。葛城さんの携帯に電話する。応答するまで食いながらのんびり待ってるか。

 

『はい、こちら葛城。』

 

飲み込んでから返事をする。

 

「もしもし、影嶋です。こんばんは葛城さん。」

 

『あらエイちゃん、どうしたの?』

 

「夕食作ったんですけど、今夜どうします?」

 

『あー、そうだな。それなら、もうそろそろ切り上げて帰るから。楽しみ!』

 

「わかりました。それじゃ、失礼します。」

 

『ばいばい、エイちゃん。楽しみにしてるわ。』

 

「はい。んじゃ、切ります。」

 

まあ、あんな感じじゃあマトモな夕食なんて久々なんだろう。とりあえず自分の分の食器だけは洗っとくか。葛城さんの帰りを待つ間、洗濯物を取り込んで、風呂洗って沸かして、後は明日の学校の支度をした。これであとは帰りを待つだけだ。

 

ソファで座ってゆっくりしていると、眠気が襲ってくる。やっべ、気を抜いたらすぐ寝ちまいそうだ。うとうとしていると、扉が開く音。

 

「たっだいま~」

 

「お帰り~。」

 

「あら、まだ起きてたの?もうそろそろ寝なきゃダメよ。」

 

「まだ23時ですよ?24時までに寝ときゃ大丈夫ですよ~。」

 

「無理はしないでね。あ、この肉野菜炒め美味しそ~う!案外、料理上手かったり!?」

 

「久々にやってみただけですよ。ずっとインスタントってのも体によくないですしね。好評ならワンパターンにならないように勉強しますよ?」

 

「そうだとしたら、私とっても喜んじゃう!あ、美味しい!!」

 

葛城さん、本当に美味しそうな声出しながら夕食食べてるな。こうしてくれると作ったこっちも嬉しくなるもんだ。

 

「そいつぁ嬉しいですね。ありがとうございます。」

 

「ごちそーさまでした!!」

 

「お粗末様でした。皿は洗っときますよ。風呂は沸いてるんでどうぞ。」

 

「ありがとー、エイちゃん。」

 

皿を洗って片付けると、急速に眠気が来た。あ、これやべぇわ。葛城さんごめん、俺は寝るわ。おやすみ。

 

「おやすみ~。」

 

「おやすみ、エイちゃん。」

 

ベッドにダイブ。もう疲労感しかねぇ…。

 

 

 

「影嶋エイジです。よろしくお願いします。」

 

「それではエイジ君は…窓際の、空いてる席の後ろに座ってください。」

 

授業ははっきり言って退屈だった。毎回毎回セカンドインパクトの身の上話を聞かされる。んなもんどっちでもいいし、今日の夕食を考えなきゃならない。昼食?作る余裕がまだできない。暫くは購買の弁当でいいかな。

 

屋上で、腕立てを20回に腹筋20回をしてから昼食をとる。一応体は鍛えておかないと。近くに足を固定できる手頃なパイプがあってよかった。あと5回。やっぱあまりやってねぇとキツいものがあるなァ。

 

「ん?誰かおるんか?」

 

「トウジ、あそこ。」

 

「お、よォ、転校生。」

 

「うっす!…じゅーきゅ…う、にじゅ…う。はーやっぱ体なまってるわこれ。」

 

「何や、こんな昼間から筋トレか?ご苦労なこって。」

 

「夜にその時間がとれなくなったんだよ。夕食に洗濯に掃除に…。マジで体力無限に消費されるって感じ。」

 

「影嶋の家、そんな大変なの?」

 

「ああ、保護者がずっと働き詰めだから仕方ないね。」

 

「そっか。」

 

「大変やのぉ、転校生。」

 

「俺は影嶋エイジだよ。えーと、お二人は…」

 

「俺は相田ケンスケ。んでこっちが」

 

「鈴原トウジや。よろしゅうな、エイジ。」

 

「話せてよかった。あ、俺仕事行かないとだから、早退するわ。そういえば教員には伝わるはずだから、んじゃ、よろしく!」

 

もう12時40分ってのに気づくのがも少し遅かったら色々時間が間に合わなかったかも。余裕は持つに越したことはないからね。

 

 

 

 

次の日の昼休みまた筋トレを終え、ケンスケとトウジと少し話す。

 

「へえ、俺の前の席の子ってもうしばらく出席してねぇんだ。」

 

「そうなんや。ほんま、綾波どうしとるのかのぉ?」

 

「綾波?ということは、彼女は綾波レイ?」

 

「お、よくわかったね、そうだよ。」

 

「ああ、同じ仕事してる人間だからね。じゃ、俺は行くわ。」

 

「おう、頑張ってな。」

 

「応援してるぜ。」

 

「ありがと。じゃ!」

 

 

 

[今日のシンクロテスト終了。お疲れさま。]

 

「お疲れさまです。あ、少し聞きたいことあるんですけどここでもいいです?」

 

[構わないわよ。どうしたの?]

 

「綾波レイに、会えます?」

 

[レイに?…今日は無理ね。明日以降なら会えるわ。]

 

「どこ行けばいいです?」

 

[画像を送ったわ。ここに行ってちょうだい。唐突にどうしたの?]

 

「いンや、同じ学校なのに顔を知らないってのはね、って思っただけですよ。その程度です。」

 

[そう。]

 

なんかあんのかな、彼女。

 

 

 

 

ここに来て5日目。また同じように屋上で筋トレをしてからパンを頬張る。

 

「なあ、そういえば綾波と同じ仕事してるんだって?」

 

「ん?ああ、そうだけど。」

 

「なあ、綾波の様子どうだった?」

 

「俺も今日初めて会うんだよ。」

 

「なんや、エイジは面識なかったんか。」

 

「むしろなーんも知らされてねぇんだな。NERVはだいぶ秘密主義っぽいよ。…あ」

 

「何!?お前ネルフ所属なんか!?」

 

「ねえ、ネルフのどんな仕事やってんの?ねぇ!」

 

やった。二人から滅茶苦茶輝いた目で迫られる。少しづつ後ずさりして、逃走。口滑らせた、最悪。

 

「あ、待てよ!」

 

「逃げんなエイジ!」

 

 

 

今までと変わらない実験が終わったら、すぐに病棟へと向かう。

たしか、この病室だ。静かにドアをあけ、神経質なほどにゆっくり閉じる。昔からの癖で、どうにもこうしないとどんな種類でも勢いよく閉じそうで嫌な感じになる。奥のベッドへ向かうと、病院特有のゆったりとした服を着て、右目、右腕、左肘…見えていない所にも恐らく多くの包帯を巻かれている少女が寝ていた。

 

「美しい…」

 

思わず口にしてしまった。心拍数が上がるのがわかる。一目惚れってのはこのことを言うんかな。

 

「誰?」

 

「あ、こいつは失礼。パイロットのバックアップ、同じ学校、同じクラスの影嶋エイジ。よろしく、綾波レイさん。」

 

「名前、知っているのね。」

 

「同級生とか日向さんから聞いたから。」

 

「そう。…あなたもパイロット?」

 

「あー、一応は。」

 

「そう。」

 

やば、言葉が続かねぇ。だいたい、何を話せばいいんだマジで。んでも、長居も禁物ってのを感じる。

 

「んじゃ、また見舞いに来るよ。じゃあね。」

 

「さよなら。」

 

入ってきたときと同じようにして病室から出る。すると、毎日よ~く見ている顔がニヤニヤしてやがる。勘弁。

 

「ふふ。レイはどうだった?」

 

「え?…なんか、だいぶ静かでしたね彼女。」

 

「そうね。彼女はなかなか他人に心を開かないのよ。」

 

「へえ。まあ時々いますよね、そういうの。」

 

「彼女はだいぶキマってる方だと思うわ。に・し・て・も、」

 

う゛っ、この悪い笑顔は…間違いない、聞かれた。おお神よ!どうか私を許してくれ!(キリシタンもどき)

 

「あなたー、初対面の女の子への一言目が『美しい』だなんて~。私、エイちゃんがそんな子だとは思わなかったワ。」

 

「勘弁してくださいよ、葛城さん。意地が悪いですよ?」

 

「あらー、私には何の事だかさっぱり。」

 

帰ったら酒を隠してやる、覚悟しとけよほんと。

 

 

今日はとりあえずしょうが焼きにしようと思い、食材を買ってから帰った。美味いもんは食ってもらうけど、酒は慎んでもらうからな。だいたい朝ビールってのがおかしいんだよほんと。

 

 

 

次の朝、鏡を見ると油性ペンで顔に落書きされてた。子供かよあんた。入~~~~~~念に顔を洗い、葛城さんにカチコミをかける。

 

「ちょっと!幾らなんでも子供過ぎるが!!!どういうことです!!!」

 

「そんなマジギレしないでよ~~!!」

 

「決めた!1週間ビール禁止!覚悟しとけ!」

 

「そんな~~!!!!!!」

 

頭痛する。こりゃ生活破綻するわ。

 

 

朝はこんなんだったが、今日は午前中から初号機を使ってのシンクロテストが行われる。自分は既にプラグ内でインテリアに座り、呼吸を整える。

 

[準備はよろしくて?]

 

「いつでも。」

 

[第一次接続、開始。]

[主電源コンタクト。]

[稼働電圧、臨界点を突破!]

[フォーマットをPhase2に移行。]

[パイロット、初号機と接続開始。]

[パルス及び、ハーモニクス…若干の揺らぎがあります。]

[エイジ君、大丈夫?]

 

この不快感、いや頭痛は誰か別の存在が自分の中に入ってくるものだろうか。でも、たしかファフナーではこんなことを言っていた。

「拒絶するのも力だが、受け入れるのもまた力のひとつだ」と。

受け入れろ。拒絶するな―

少しづつ、痛みが引いていく。

 

[パルス、ハーモニクス共に正常に回復。シンクロ問題ありません。]

[オールナーブ、リンク終了。]

[中枢神経素子に異常無し。]

[1-2590のリストクリア。]

[絶対境界線まであと2.3]

[1.8]

[1.1]

[0.7]

[0.5]

[0.4]

[0.3]

[0.2]

[0.1]

[ボーダーラインクリア!]

[初号機、起動!引き続き、連動実験に移行。]

 

 

目を開くと、普段のシンクロ実験では見れない外の光景がプラグ内壁に映っている。

 

「この感覚…起動できたんですか?」

 

[ええ、そうよ。あなた、なかなかの逸材ね。]

 

「そいつぁどーも。因みにシンクロ率はどうでした?」

 

[23.95よ。やっぱり少しだけ落ちるけど、なかなかの好成績ね。]

 

「そうですか。」

 

[あらー、いい成績が出たのに嬉しくないの?]

 

「これを動かせただけですよ?実戦ができなきゃ意味ないんじゃないんです?」

 

[でも、今はこれを起動できる人が増えただけでも大きいのよ。]

 

「そんなもんですかねぇ。」

 

[それじゃあ、このままインダクションモードに移行。碇指令、お疲れさまでした。]

 

[ああ。]

 

「え?指令いるんです?」

 

[…何だ。]

 

「改めて、よろしくお願いします。こう自分の口から言うのは初めてでしょう。」

 

[ああ。]

 

なんだぁこの人。やべぇほど拒絶されてる感じだ。

 

「愛想わりぃなあの指令。そっち系だったか。」

 

[どうしたの?]

 

「いいえ、失礼しました。このモードの説明お願いします。」

 

[このモードは銃火器のトリガー操作を優先させるモードです。シンクロは優先されないので安心してね。]

 

「それは安心することなんですか?わかりました。」

 

[それでは、ターゲットを仮想空間に表示します。エイジ君は、出現したターゲットに対して射撃で応戦、これを破壊してください。]

 

「わかりました。少し好きにやらせてください。」

 

円形の的が出現する。とりあえず最初は適当に動かしながら撃ち、その後は落ち着いて狙い撃つ。その他にもタップ撃ちとかもやってみた。銃の構えとか、手に取る動作なんかはある程度モーションが組み込まれているらしい。たしかF91でも「ライフルを取るときは手を近づけてから、後はオートで」なんて言ってたっけ。

 

「案外、弾ってバラけるんですね。」

 

[ゲームのように、全部の弾がまっすぐ進むことはあり得ないわ。ターゲットに近づけば精度は高くなり、逆に遠くなれば精度は低くなります。]

 

「弾の集弾率ってやつですよね。」

 

[そーよ。どうやらゲームとかで指切りは知っているようだし、これなら大丈夫そーネ。]

 

指切り?ああ、タップ撃ちのことか。その後ガチャガチャやっている内に、ある程度の操作は理解できた。ゲーム感覚でできてしまうのが困る。

 

「これじゃあまるでゲームですね。」

 

[あら、これは訓練よ?]

 

「そりゃそうですけど、やっぱ現実に『これが敵だ!』ってのが未だに無いですから。」

 

[エイちゃんの言うこともわかるけど、常に正確に撃てることも重要よ。頑張ってね。]

 

「はい。」

 

暫くこのシステムで訓練…いや、遊んでいたという表現の方が正しいかもしれない。どうしてもやっていることはFPSの射撃練習場だ。使徒というワードは知っていても、それが自分の中でも明確な敵に未だなっていない。だからゲームにしか感じないのだろう。パイロットとしてはしてはいけない考え方ではあるが、そこの踏ん切りがどうしてもつかなかった。

 




サブカルとかをリアルに合わせるか、それとも劇中描写を遵守するかはまだ決まってません。


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St.3:初出撃なのにこんなザマで大丈夫なのか?

やっと1話の時間に入ります。


その後、順調に訓練は進められ、シンクロ率も26%くらいで安定した。その間もライフルの射撃訓練とシンクロテストを同時にやっていたため、常に疲労続きだった。訓練スケジュールの増加に伴い学校も休みがちになり始めるし、本当に大丈夫なのか?俺の14才の時間。返してくれよォ、俺の中学生活ゥ!!(KGYM)

 

あの日以来、俺は綾波の病室へと通うようになった。顔を合わせて、少しだけ喋って、出ていく。うひ~、こんなことリアルじゃまずありえねぇなァ。

ある日、綾波は俺に問いかけてきた。

 

「何で会いに来るの?」

 

「レイの顔を見たいから。」

 

「そう。」

 

「そ、それだけ。」

 

この後、葛城さんに無限に冷やかされた。あ、でも

「何でレイは下の名前なのに私は同居してながらずっと上の名前なのよ!」

って妬いてたのは面白かったわ。

 

 

2週間後くらいだったかな。初号機とのシンクロ、射撃訓練、兵装ビルや射出位置、予備電源コードの位置を頭に叩き込み終わった時期くらいに、「使徒」はやってきた。しかもその日は、新しいパイロットが来る日に丸被りしてやがる。まるでアニメのような展開だけど、俺も指を咥えて黙ってるような真似はしない。にしても、あいつの体型なかなかエヴァっぽいよねぇ。違う点といえば、腕に伸縮できるビームサーベルみたいなのがついてるとこと、ジャミラのような胴体してるってとこかな。

 

エントリープラグ内で、出撃を待つ。というか、催促した。

 

「初号機、出しますか?」

 

[ああ。エヴァンゲリオン初号機、発進準備。]

 

「了解。」

 

[ポイント233にエヴァは射出される。そうしたら、すぐそばにパレットライフルを送るから、それを使ってくれ。]

 

「了解。」

 

[発進!]

 

上からの強烈なGを感じる。地上に出ると、慣性で更にGを一瞬感じる。これは実践で慣れるしかないかな。ライフルを受けとり、影に身を潜める。今は国連の航空機が攻撃をしかけているが、A.T.フィールドと素の堅牢さも相まって傷ひとつつけることができていない。まあ、よくゲームやらアニメやらである光景だよね。通常兵器じゃあ傷をつけれないってやつ。

 

「国連はいつになったらどいてくれます?」

 

[もう暫く時間がかかりそうだ。それまでは待機し―]

 

「ヤバい、葛城さんの車が!」

 

爆発か何かの衝撃で中身まで飛んでいってやがる!無事パイロットは保護できたようだけど、このままじゃあ使徒に踏み潰されて二人とも一巻の終わりだ。

 

「んなことさせっかよ!」

 

使徒にタックルし、車から遠ざける。右手で使徒に向かってライフルを乱射しつつ、葛城さんの車を元に戻し、二人が離れるのを確認。少しづつ、少しづつ近づいてATフィールドを中和していく。ん、待て、何かおかしい!?

 

「赤木博士、聞こえてます!?」

 

[エイジ君どうしたの!?]

 

「訓練のときより、いや出撃直後よりこいつの動きが重い!なんか異常ある!?」

 

[マヤ!]

 

[これは、シンクロ率が急激に低下していってます!起動圏内ギリギリです!]

 

[どういうこと!?]

 

「は!?こんな時に、ふざけ!!」

 

これはダブルミーニングってやつだ。赤木博士の言葉と同時にライフルが弾切れしたんだよ。こんな偶然ってあるか?

弾切れのライフルを使徒に投げつけ、後ろに跳んで回避しようとする。しかし、使徒が攻撃に使っていた腕サーベルはライフルごと初号機の左肩を貫いた。フィードバックされる痛みはマジでヤバい。意識が飛ぶがこんなん。使徒はお返しと言わんばかりに俺を猛追する。

敵はライザップ(パンプアップ)してきて、純粋な殴りにサーベル刺突を俺に食らわせてくる。未だに俺は中和距離にいるから、何としても離れなければならない。でなきゃ死ぬ。

にしたって初号機とのシンクロが弱くなっていっているのが体感できる。防御姿勢も数テンポ遅い。でもそれ以上に、左肩と頭が痛ぇ。しかもこれ額切ったかもしれない。血液の色がLCLに広がる。

どうにか使徒を振り払い、撤収の指示を仰ぐ。

 

「ごめん、やられた!動きが重すぎる、一時撤収したい!」

 

[ルート192で高速回収。]

 

[NN作戦まで、あと160秒!]

 

指定ポイントまで何とか撤収すると、地面のロックが解除され、初号機と共に落下していく。地面が落ちていく感覚に安心感を覚えることが来るなんて思ってもいなかった。流石に意識が朦朧としてくる。ヤバい、気ぃ失いそうだ…。

 

 

 

目を覚ましたところは、病棟のベッドだった。訓練中も、起動実験でもベッドのお世話になってねぇっつーのに、ほんとしょうもないな、俺。起き上がらないと二度寝しそうだから体を起こす。

 

「あつつつ…」

 

額は軽いようだけど、左肩は砕けたのかもしれないな、これ。完全に固定されてるわ。でも、行かないと。幾らあの子が初号機の選抜者といっても、何も教えて貰っちゃいないのに戦えなんて無理だ。俺が行かなくちゃならない。

 

時折来る激痛に顔をしかめながら、ゆっくり、でも急いで初号機のケージへ向かう。途中、ストレッチャーで運ばれるレイを見つけてしまった。まさか、彼女に比べれば俺の方が軽傷なのに、何で彼女なんだ?怒りというより、困惑が出てくる。

 

「ちょっと、彼女をどこへ運ぶつもりですか?」

 

「指令の命令でね。初号機ケージへと…」

 

「ふざけんな!俺の方がまだ戦えるんだぞ!立つことすらできねぇ子がどうやって戦うんだ!?」

 

「私らにそんなこと言われても…」

 

「お前ら、クズだ!畜生、このままじゃあ…!」

 

もっと急がねぇと。重症の怪我人に何ができんだ?

 

 

 

「もう一度初号機のシステムをレイに書き換えて再起動!」

 

「いや、システムは俺のに書き換えろ!」

 

「エイジ君!?」

 

「そんな、あなた、まだ左腕が!」

 

「利き手が使えりゃ戦える!おい指令、どういうことだ!俺も初号機にシンクロできるってのに何でレイなんだよ!?あいつの方が俺より重症じゃねぇか!」

 

[お前にはもう無理だ。]

 

「いいや、指令の言葉は信用できねぇな!」

 

[何?]

 

「エイジ君やめなさい。こんなところで口論しても無駄よ。」

 

「自分でわからねぇのか!?こんな大ケガしてる子がどうやってあの振動とフィードバックの中で戦うんだ!」

 

[……]

 

「チッ、初号機は俺で出る。赤木博士、頼みます。」

 

そう言っていると、後ろから右手首を掴まれる。振り返ると、レイが何とか起き上がってこちらを向いている。

 

「やめて。」

 

「レイ?」

 

「私が出るわ。」

 

「なあレイ、それ本気で言ってんのか?怪我が酷くなるんだぞ?」

 

「あなただって怪我してるわ。」

 

目線を同じ高さにして説得する。

 

「俺は自力で立てるし右腕が完全に使えるんだ。レイみたく立つことすらままならないって状態とは比較できないんだよ。頼む、わかってくれよレイ。」

 

「いいの。私が死んでも、代わりはいるもの。」

 

「何言ってんだ?あー兎も角、レイは大人しく寝といてくれ。ほんと、頼むよ。」

 

必死の説得の中放たれる使徒の攻撃。その衝撃はここまで届き、振動で天井が崩れる。

 

「くっ、あうっ…!」

 

「レイ!あ…がっ!」

 

ストレッチャーから落ちるレイをかばうが、左肩で着地してしまった。二人分の体重がかかればそりゃ固定だって意味をなさない。滅茶苦茶痛ぇ。これフィードバックよりヤバい痛みだな。最早悲鳴にすらならねぇけど。学生服の男の子が俺らに向かってくる。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「君…さっきぶりだね。」

 

「え?」

 

右腕でレイを抱えながら、手は同い年くらいの子の左肩をがっちり掴んで言う。

 

「今から言うことをよく聞いてくれ。これから君が乗らされる機体ってのは、俺やこいつみたく大怪我、最悪死ぬ可能性もある。でも、あの黒い奴に勝つにはアレに乗って戦うしかない。」

 

「そんな…。」

 

「だから、選んでくれ。俺やレイの代わりに、こいつに乗って戦うか、それとも何も見なかったと全て忘れてここを出ていくか。」

 

「君も…父さんみたいなことを押し付けるんだね。」

 

「悪ぃね。話を聞く限り、俺らより君のほうが適正は高いようだから。」

 

「…わかった、乗るよ。」

 

「ありがとう。」

 

「ありがとう、シンジ君。それじゃあ、こっちに来て頂戴。簡単な説明をするわ。」

 

「“ちゃんと”説明してくださいよ?赤木博士。」

 

「あら失礼ね。もちろん、そうするわ。」

 

はあー、ここにいる偉い人たち全員頭おかしいよ。どうなってんだこれ。今日来たばかりで何もやってねぇ子にパイロットをやらせるとか、俺より重症の子を代わりにパイロットにしようとするとか。この時点で上の人間はだいぶ狂ってるのがわかる。

 

「大丈夫か?レイ。」

 

「平気…うっ…。」

 

「ダメだなこりゃ。葛城さーん!せめてストレッチャーにのせるのぐらい手伝ってくれよ!」

 

「わかったわ!…ごめんね、二人とも。」

 

「ここの大人、頭のネジ100本くらい飛んでません?」

 

「ノーコメントで。それじゃ、発令所行くわよ。救護班、レイをよろしく!」

 

「はい。」

 

さっき一瞬見ちゃったけど、俺とレイがコケて痛い思いしてるときあの指令笑ってやがったな。最低な大人だ。

 

 

発令所に着くまでに碇君のことはだいたい教えて貰った。とりあえず、俺が彼のエスコートをすることになった。

 

「よーし碇君どこまで聞いた!?」

 

[あ、えっと、基本的なところは全部。]

 

「よし。LCLに関しては思った以上に普通に呼吸できるから安心してな。」

 

[うっ…ごぼっ…あ、本当だ。]

 

「んじゃ、発進!ポイントはA-66。その間、兵装ビルは全力で使徒の防衛。ワイヤー発射!足止めで十分!」

 

「了解!第1、第2ワイヤー射出!」

 

「碇、いいのか?」

 

「構わん、好きにさせろ。」

 

「リフトオフ。んじゃ、まずは歩いてみっか。」

 

[あ、歩く…。]

 

少しごこちないが、ちゃんと歩けている。いい感じじゃん?流石シンクロ率4割越えを出すだけある。しかもプラグスーツ無しってんだからまた凄い。

 

「お、いい感じ。それじゃ暫く落ち着いて歩き回ってみよっか。」

マイクをオフにして、葛城さんに問う。

 

「にしても、ここにいる人の中でまっさか動かせるだけでいいって言ったバカはいませんよね?シンクロ率4割の彼ですらあの動きしかできてませんよ?」

 

「あ…」

 

少し考えりゃわかることなんだよな。動くことすらままならない状態で使徒とやりあうことになってたって、アニメの主人公みたいなことさせられてるな碇君。現実じゃあNTの天パとか、背中に外部ユニットを接続する強化人間とかは存在することはない。現実は思った以上に非情なんだよな。

冷ややかな空気が周囲を襲う。なるほど、だいぶ上の人間が言ったようだ。さて、誰なのかな。俺にはまるで皆目見当もつきませーん。(すっとぼけ)

 

[影嶋くん?]

 

「失礼。どう?動きには慣れた?」

 

[少しはね。]

 

「第9兵装ビル群、突破されます!」

 

「了解!碇君聞こえるか?これから直近の兵装ビルにパレットライフルを射出する。それを持って、使徒と交戦!だいじょうぶ、ある程度ダメージが入ることは確認できてる!落ち着いて、胸の赤い球体を狙って撃て!」

 

[わ、わかった!]

 

これだけ言っておけば大丈夫だろう。彼は俺より俊敏に初号機を動かせている。それなら、俺は彼が持っていない知識面でサポートするべきだ。マイクをオフにすると、赤城博士が口を挟んでくる。

 

「そう上手くいくかしら。」

 

「上手く行くかどうかなんて考えていませんよ。動かしているのは彼なんですからね。俺はサポートしかできません。俺らは、ここで見守ることしかできないんですから。

あ、碇君?その様子だと着弾煙がヤバいからFA(フルオート)でいいけど指切り、いやタップ撃ちしてね。」

 

[た、タップ撃ち?指切り?]

 

「そいつは失礼、トリガー引きっぱにするんじゃなくて、ちょくちょく指を離すんだよ。」

 

[こ、こう?]

 

「そうそう!やるわ碇君!」

 

でも、彼の筋はいい。何だかんだいって攻撃は避けているし、ちゃんと中和距離で射撃している。飲み込みは早い。残弾がもうそろそろヤバい?なら…マイクをつけて呼び掛ける。

 

「聞こえる?」

 

[はい!]

 

「残弾がもうそろそろヤバいから、指定したポイントまで下がって、新しいライフルを受け取ってくれ。今持ってるのは撃ちきったら投げ捨てていいよ。」

 

[わかりました。]

 

マジで投げ捨てる奴がいるかよ。にしても、確実にライフルの弾はコアにダメージを与えていっているようだ。この調子なら、無事に倒すことが…

 

「使徒が突然暴れだしました!初号機に向かって突っ込んでいきます!」

 

[な、なんだこいつ、来るな、来るなあああああああああ!!!!!!]

 

「落ち着いて!まずはライフルを取ってそのまま敵に向かって乱射しろ!」

 

[あああああああああ!!!!!!!!]

 

辛うじて掴んだパレットライフルを乱射する初号機。使徒はそれに構わず初号機にとりつき―

 

「使徒内部に、高エネルギー反応!」

 

「ふりほどけ!」

 

そんなことをする間もなく、自爆した。爆発位置から十字架が上がる。

 

「自爆は俺も管轄外ですよ全く。碇君?生きてる?…伊吹さん、生体反応はありますよね?」

 

「ええ、パイロットは生きてるわ。ちょっと気を失ってるだけみたい。」

 

「そいつはよかった。あ、そうだエヴァの破損はどうですか、青葉さん?」

 

「エヴァに目立った外傷、ありません!だいぶ少ない損害で済んだようだよ。」

 

「はーよかったよかった。皆様お疲れさまでした。」

 

「エイちゃん、ものを教えるセンス抜群ね。」

 

「そうですか?すみません、俺はしばらく病院通いだし、腕がこんなんなんで…」

 

「いいのよ。あなたもお疲れさま、エイジ君。」

 

「はい、病院行ってから帰ります。」

 

 

病院では医者から滅茶苦茶怒られた。まあ当たり前だよね。

 

「レイ、どうでしたか?あつつ…」

 

「レイ君の怪我は酷くなっていなかったよ。これなら回復も早いだろうし、暫く安静にしていれば大丈夫だ。」

 

「そうですか、ありがとうございます。」

 

「君には痛み止を処方しておくから、辛いときはこれを飲みなさい。今日はお疲れさま。」

 

「有難うございます、先生。」

 

 

 

何とか帰れた。全てが終わってから疲労が一気に来て、監視員に甘えて車で送ってもらった。

 

「ただいま。」

 

「おかえり~エイちゃん。」

 

「あれ、もう帰ってたんですか?仕事大丈夫なんです?」

 

「保護者としての務めを果たしてんのよ。あなた、左腕使えないでしょ?だから。」

 

「そいつはありがとうございます。」

 

 

この後、正直今まで生きてきた全てを見てもクッッッッッソ恥ずかしい数時間だった。風呂に、飯に…俺にだって一応14なりのプライドってもんがあるんだよ~!!!

 




一番最後のとこって需要ありますか?


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St.4:同居人がどうにも情緒不安定だ

まだ発売すらされてねぇRGエヴァ零号機・弐号機の高額販売を許すな(全ギレ)
5/30:行間詰めと軽微な誤字修正


「ミサトさん!?俺の次は碇君ですか!?」

 

「あー!!!やーっと下の名前で呼んでくれたー!!私幸せ~!!」

 

「はァ!?俺の負担がデカくなること前提ですよね!?勘弁してくださいよほんと…。」

 

「え?負担?」

 

「ミサトさん家事できねぇからさ、俺が全部やってんだよ。」

 

「あ、なら僕が手伝うよ。家事、それなりにできるし。」

 

「マジ?ほんと助かる。あ、じゃあさ、俺は夕食とかそのあたりをやるから、碇は昼食と朝食頼めない?」

 

「え、別にいいけど…どうして?」

 

「体力毎日毎日使いきっちゃって、なかなかね…。」

 

「そっか、わかったよ。」

 

「ありがとう碇君マジ天使」

 

「え…。」

 

「え?これ通じないの?ただの暗喩だよ?やめてくれ引くなよちょっと」

 

 

 

 

「転校生の碇シンジ君だ。みんな、仲良くするように。」

 

碇君の席は真ん中あたりになった。にしても、教室はいつも以上に騒がしい。まァ昨日の使徒騒ぎがあれば当然かな。いつも通り今日の夕飯を考えて―やっぱ、前にレイが座ってることが正直不自然でしょうがない。どうしても気になってしまう。

頭を振り、画面に向き直る。今日は…肉じゃがってのはどうだ?とりあえず調べてっと…ん?ローカルのメッセージ?何だよ一体。

 

 

[あなたもあのロボットのパイロットって本当ですか?Y/N]

 

はァ~、テレビの報道と裏腹にエヴァの存在が筒抜けじゃねぇかよ。な~にが「原因不明の爆発」だァ抜かしやがって、諜報部仕事しろ。てかさ、あなた“も”って確実に碇君がパイロットだってこと割れてるだろ。どーなってんだよ情報セキュリティはよ。

 

 

[このメッセージを削除しますか? はい(Y)|いいえ(N)]

[削除しました]

 

 

[碇君、今日の夕食肉じゃがにしようと思うけどどう?]

 

[いいね、でも左腕がそれで平気?]

 

[俺は俺のできる範囲で手伝うよ。]

 

 

キーボードの片手打ちってのはだいぶ不便だ。普段のスピードの半分以下しかでない。あー、早く固定具が外れないかな。調べて、メモして、ぼーっとしてると昼休みになった。まだ調べないといけないのがあるからまだ屋上には行かない。

あーあ、案の定碇君絡まれてるわ。

 

「ねェ碇くん、噂は本当なの?」

 

「噂?」

 

「とぼけないでよ、君があのロボットのパイロットだって噂。」

 

「え、ええ?」

 

此方を向いて助けを求めてくる。ジェスチャーで答える。

 

(いやいや、俺に振らないでくれよ)

 

(そんな~)

 

「そうだ!エイジくんも何か知ってるでしょ?ネルフで働いてるって言ってたって噂よ?」

 

「噂だろ?俺は何も知らないよ。」

 

「じゃあ、その怪我は何よ?こないだまでなかったじゃない。」

 

「職場での怪我だよ。んなくらい、どこでもあるだろ?」

 

「ちぇ~。」

 

「で、碇くんはどうなの?」

 

ちっと可哀想だけど、仕方ないね。俺らにも守秘義務ってのがあるし。

 

「ほんと…だけど。」

 

あ、言っちゃうのね。これは余計なこと言わないように見張っとくか。

碇君の周囲に人だかりが形成され、質問責めにされる。

正直、俺に飛び火しないでよかった。こないだみたくうっかり口を滑らせることだってあるだろうし。よし、メモはこれくらいでいいかな。送信っと…

碇君がたどたどしく答える中、外野からの刺のある言葉が飛んでくる。

 

「偉そうにっしとってもなーんも知らへんのやな!パーちゃうか!?」

 

「トウジよせ。」

 

「黙っといてくれエイジ。これは俺とこいつの問題や。」

 

エヴァ絡みで何かあったのだろう。碇君がパイロットだとわかって突っかかってきてるわけだし。

 

「なら尚更黙ってられねぇな、トウジ。もう一度言う、やめろ。」

 

「何やと!?こいつとお前に何の関係がある言うんや!」

 

「同業者だ。」

 

「な…」

 

どうせ隠し遠そうつったって近い内に割れることだ。

 

「俺も予備だがパイロットだ。昨日アレには俺も乗っていたときがある。」

 

「…お前ら!ちと顔貸せや。」

 

 

 

 

チャリ置き場近くで俺らはトウジと対面する。でも、何でケンスケも居んだ? まあ何も考えずついてきたのかな。

 

「ええか転校生、よう聞いけよ!」

 

「ワシの妹はなぁ、今怪我して入院してんねんぞ!誰のせいやと思う?」

 

トウジは碇君を睨む。

 

「お前のせいや!お前が無茶苦茶暴れたせいでビルの破片の下敷きになったんや!

チヤホヤされていい気になっとるんちゃうぞ!」

 

トウジには申し訳ないが、割りとありそうなな状況だ。

言いたいことはごもっともなんだけど、怒りの対象を間違えてる。避難をしているはずなのに取り残されたか、はたまた引き返してしまったか。その場の監督官とNERVの監視の方がよっぽど問題だろそれ。

 

「ごめん。」

 

「舐めとんのかワレ!『ごめん』で済む話か!!」

「トウジやめろよ!」

 

「じゃ、どうして欲しいの?土下座しろって言うんならするけど。」

 

「やめろ碇君、煽るな。...それはいつだ?」

 

「いつって、上でドンパチやっとる時決まっとるやろ!」

 

「違う、日が出ているかどうかだよ。」

 

「日ィ?確か、出とったらしいで。その後デカい爆弾が爆発しとったらしいしな。」

 

NN爆雷攻撃前...!

 

「それなら俺が原因だ。」

 

「何!?」

「エイジくん!?」

 

「トウジ、君の妹に怪我をさせてしまったのは申し訳ないと思う。でも、そこに人が居るかすら完璧に把握できないのに、戦ってる最中に足元を気にしてる余裕なんて無いんだ。これにキレるのなら妹さんらを監督していた人にキレてくれ。...ごめん。」

 

「っ!!」

 

トウジに殴られた。そこそこ威力があって、よろけた俺はそのまま倒れる。まァ残念でもないし当然だろう。こんな返しをされても俺か碇君が殴られるか、その違いしかないし。当たりたくなる気持ちはとてもよくわかるけど。

にしても痛ぇわ。何とか左肩から落ちることはなかったけど衝撃が響いてジンジン来る。

ぼーっと考えながら寝転んでると、碇君から声をかけられる。

 

「ねえ、エイジ君大丈夫?」

 

「え?まあ大丈夫よ。痛いけど、ね。」

 

手を差し出して来たから、それを掴んで引き上げてもらう。

 

「さっきはありがとう、庇ってくれて。」

 

「いンや、アレは俺のケジメだからね。結果的にそうなっただけだよ。」

 

「それでもだよ。ありがとう。」

 

「どーいたしまして。」

 

 

 

 

「それでは、インダクションモードで始めるわよ。」

 

「兵装ビルの位置は頭に叩き込んであるわね?」

 

[はい、多分。]

 

「それじゃあ始めて。」

 

初号機がバーチャル空間で射撃訓練をしている。俺も一緒に見ていると、これ見よがしにマイクを切ったミサトさんから唐突に会話を振ってきた。

 

「ねえエイちゃん。シンジ君、学校どんな感じ?」

 

「監視つけておきながらわざわざ口で聞くんです?」

 

「やーねー、身近な人から聞くってのが重要なのよ。」

 

「んー、まあ相変わらず暗めって感じですよ。ずっと音楽聴いてますし。あと無自覚かはわかりませんけど時折煽るような言い方するんすよね、彼。」

 

「そっか。ところでその頬の傷、大丈夫?」

 

「一発殴られた程度なら大丈夫ですよ。傷狙って攻撃されたらたまりませんけどね。」

 

「よかった、シンジ君、転校してすぐ喧嘩なんてしたら、どーしたらいいんだろうって思って。」

 

「まァ似たようなもんですよ。よし碇君、それじゃ今度は着弾煙の再現ありでやろう。いいね?」

 

[わかった。]

 

「んじゃ、赤木博士お願いします。」

 

「わかったわ。...あなた、ミサトより腕があるんじゃない?シンジ君がこれに乗り続けてるのも、あなたの影響が大きいかもしれないわよ。」

 

「そうですかね?そこはやっぱよくわかりませんよ。」

 

「そうかしら?実は自分でもわかってるんじゃないの?」

 

「んな事は無いですよ。他人の考えることなんて"想像"以上に知ることなんて出来ませんし。それより、昨日言ってたガトリングってもう出来たんです?」

 

「もうそろそろね。あなたの要望通り、着弾煙が少ない弾にさせたわよ。」

 

「ありがとうございます。それじゃ、彼の後試用してみますか。」

 

「やる気十分ね。この後会議があるから、そこからはマヤが監督をしてちょうだい。」

 

「わかりました、先輩。」

 

「私もエイちゃんに立場を取られないように頑張らないとね。」

 

「俺にそれはできませんよ。俺は同級生であって保護者にはなり得ません。それに、作戦立案ってのは素人の俺にはできませんよ。現場指示はできても、それ以上のことはできません。」

 

「やっぱ、エイちゃんは大人ねぇ。」

 

「俺にはその『大人』って言葉が理解できませんね。あ、そうだ。少し赤木博士と話があるから後で連絡よこしてください。向こうの時間に合わせる、と言っといてくださいね。」

 

「わかったわよ。ちなみに、それはどんなヤツなの?」

 

「シンクロを使った、サポートですね。正直どこまでできるかはわかりませんけど。」

 

「わかったわ。それ込みでリツコに伝えるわね。」

 

「わかりました。…お疲れさま、碇君。」

 

[エイジ君もお疲れ。この後はどうするの?]

 

「俺は少しだけ訓練してから帰るよ。初号機借りるわ。」

 

[わかったよ。頑張ってね?]

 

「おう。あ、そーだ。リスト作っといたから確認しといて。…着替えに行くんで、後は頼みますわ伊吹さん。」

 

「わかったわ。」

 

 

相変わらず起動ギリギリだけど、何とか動かすことはできた。

ガトリングの試験はバーチャル空間と、弾を抜いての動作確認を行ったが、概ね良好な結果だった。ちっとだけ着弾煙が強い、重量も相まって持ち上げ、構えの動作が重い。これは仕方がないかな、純粋にライフルより重いし。でも、破壊力は前回の第3使徒でのシミュレーションならだいぶ良好な結果だった。

 

「概ねいいっすね。それじゃ、俺は上がります。お疲れさまでした。」

 

[お疲れさま、エイジ君。葛城一尉から連絡が届いてるわ。この後30分後に赤木博士と面談できるわ。あと、先に帰らせてもらう、と言ってたわよ。]

 

「ありがとうございます、伊吹さん。お疲れさまでした。」

 

 

赤木博士の研究室に入る。

 

「さて、私に話があると言っていたわね。何かしら?」

 

「コーヒーありがとうございます。…突拍子もないことを言ってもよろしいでしょうか?」

 

「構わないわ。この頃の子供っていうのは創造力が豊かですもの、大人よりいいアイデアが出ることもあるわ。」

 

「ありがとうございます。それでは…エヴァと外部からシンクロして、内部パイロットのアシストってのはできないでしょうか?例えば、任意のエヴァの視覚情報をこちらも外部で共有して、さらに動きのアシストやパイロットへのアドバイスをするとか。MAGIのサポートもつければ磐石だと思います。…どうでしょう?」

 

「確かに、完全に素人のパイロットと、病み上がりの女の子をサポートするのは重要ね。でも、それは難しいと思うわ。

エヴァというのは、人ひとりとシンクロすることで動いているのは知っているわよね。」

 

「はい。それが起動の基本ですからね。」

 

「そう。でも人の思考…例えば言語でもいいわね。例えば、日本語と英語とか。それが違うだけで複数人が入っているエントリープラグでは起動できないわ。起動中でも他人がプラグ内に侵入すると、神経系統に異常が発生することがわかってる。」

 

「なるほど。それじゃあ理論上であれば、まったく同じ思考であれば、同じエヴァに同時にシンクロできるということですか?」

 

「そうね。でも、それは現実としてはありえない。だいぶ難しいわね、その要求は。」

 

「ん~、そうですか。せっかくエヴァに乗れるのに、前に立たずに後ろでサポートだけっていうのも自分は嫌なんですよね。それなら、エヴァって初号機以降のナンバリングってあるんですか?どうせ使徒はここに来るのでしょう?」

 

「ナンバリングは、今のところ四号機まであるわ。弐号機はドイツ支部で、三、四号機はアメリカ支部にある。…そうね、エイジ君がいれば。3人、いや4人での作戦展開ができるわね。でも、そうしたら他の国が黙っているとは思えないわ。」

 

「利権ですか。ダルいですよね、やっぱ。」

 

「仕方ないわ、それが国家というものよ。」

 

「やっぱり『大人』ってのは嫌な世界ですね。今日はありがとうございました。しょうもないこと喋りに来ちゃって。」

 

「いいえ、そんなことはないわ。あなたが必死になって他のパイロットをサポートしようという意思を感じる。それだけで十分だわ。私もいいアイデアを貰ったし。今日はお疲れさま、エイジ君。」

 

「ありがとうございました、赤木博士。失礼します。」

 

 

外はもうすっかり暗い。ガトリングの試験が終わった時は夕暮れだったのに、だいぶ長い間喋ったようだ。

まあ、言ってみたことはファフナーのジークフリードシステムのようなもの、というかほぼまんまかな?実現したら、恐らくファフナー本編でも言っていたようなデメリットも同時に背負うことになったが、後ろでずっと喋ってるだけよりかは自分の気が晴れる、そう思った。んでもやっぱ現実ってのは厳しいわ、ほんと。

 

「ただいま。」

 

「おかえり、エイジ君。遅かったね。」

 

「ちっと赤木博士とね。よーペンペン。お土産だぞー?」

 

ビーフジャーキーの袋をちらつかせると、ペンペンは物凄い勢いでそれを掻っ払い、ミサトさんの部屋に帰っていった。

 

「扱い、なれてるんだね…。あ、そうだ、夕飯は作っておいたよ。温めるから、少しまってね。」

 

「ありがとう。」

 

「あらー、エイちゃんお帰り。ごめんね、先にご飯食べさせてもらったワ。」

 

「それはお構い無く。」

 

「シンジ君の料理、美味しいわよ~?」

 

「本当ですか?そりゃ楽しみだ。」

 

「て、照れるな…。お待たせ、エイジ君。」

 

「碇君ありがとう。いただきます。」

 

凄い勢いで完食した。端から見たら一気食いにも見えたかもしれない。んでもな、これでもちゃんと噛んでんだからな。リスみたいにずっと頬張ってるだけじゃあない。二人とも呆気に取られてた。ミサトさんなんてビールの缶を落としかけてたし。

 

「ごちそうさま。美味かったよ、碇君。」

 

「あ、ありがとう。」

 

「す、凄い勢いだったわね、エイちゃん…。」

 

「別に、美味いもんは箸が進みますからね。何も喋ってなきゃこれくらいですよ?」

 

「そ、そうなの。それじゃ、3人でゆっくり話しましょ?」

 

 

「どう?シンジくんと、エイちゃんも。」

 

ミサトさんはビールを俺ら未成年に勧めてくる。俺もよく親父に似たようなこと言われてたなァ。

 

「未成年飲酒を勧めるとか(わっる)い大人ですねぇ。」

 

「ダメに決まってるでしょ、未成年なんだから!」

 

「相変わらずミもフタもないわねぇ。」

 

ミサトさんは渋い顔をするけど、お構いなしに話を進める。

 

「それでも、だいぶエヴァには慣れてきたみたいだけど…ま、注文つけるとすりゃ命令聞いてから操作に移るのがも少し早ければネ…。」

 

「いうほど遅いですかね?」

 

「その数秒が、命取りになることだってあるのよ。」

 

「しょうがないですよ。僕には向いてないんですから。…それに、乗りたくて乗ってる訳じゃないんだし。」

 

「ちょっとぉ、あなたがそんな気持ちでどうすんのよ。あなたは全人類の命を背負っているのよ?少しはエイちゃんを見習って、自覚持ちなさい!」

 

「やめてくださいよミサトさん。俺はそんなんでエヴァに乗ってるんじゃないです。」

 

「自覚って…そんな大層なこと。できませんよ、僕に。」

 

「そんないい加減な気持ちで乗ってたら、あっという間にあの世行きよ!」

 

「いいですよ、別に。僕はいつ死んだって…。」

 

ミサトさんはその言葉を聞き、缶をテーブルに叩きつけて怒鳴る。うわ怖ぇ。

 

「なに寝ぼけたこと言ってんの!あんたはそれでいいかもしれないけどね、そんなに簡単に死んでもらっちゃ困るのよ!」

 

言い方きっつ。つーか、こんな時期の子供に言う言葉かよこれ。

 

「あなたは大切なパイロットなのよ!?もう自分ひとりの体じゃないんだからね!」

 

流石に碇君もキレたかもしれねぇなこりゃ。黙って立ち、部屋に行こうとする。俺?俺は臆病だからなかなかこういう時に口出しする勇気はでない。自分のケジメならともかく。

 

「ちょっと、どこ行くのよ!」

 

「わかりましたよ、もう。要は、敵に勝てばいいんでしょう?それに…それなら、エイジ君にやらせればいいじゃないですか。僕はもう寝ます。」

 

「ちょっと、シンジ君!もう、エイちゃんからも何か言ってよ!あなた、それでも先輩パイロットなの!?」

 

「先輩だなんて…俺は所詮予備(バックアップ)でしょう?んなこと言われたって、子供にパイロットさせるのが悪いとしか…ねぇ。」

 

「仕方ないじゃない、パイロットは子供にしかできないんだから。」

 

「なかなか厳しい現実ですね。でも、あの言い方は流石にキツ過ぎますよ。…少し聞きたいんですけど、何故彼はここに呼ばれたんです?」

 

「シンジ君のお父さん…碇指令が呼び出したのよ。ただ一言、『来い』とだけ書かれた手紙と共にね。」

 

「へえ、指令ってヤバいヤツだなとは思ってましたけど想像以上ですね。そうだ、あの時なに喋ってたんです?途中から来たんでなにも知らないんですよね。」

 

「あー、あの時かぁ。あの時はー、

指令が、シンジ君が来て早々、『久しぶり』とだけ言って出撃させようとするのよ。それでシンジくんは最初は拒否して、指令はレイを呼んだのよね。でも、その前にエイちゃんが来て、後は知っての通りよー。

指令、『乗るなら早くしろ、でなきゃ帰れ!』なんて言うのよー?ほんと、ひっどい父親ねぇ。それに―」

 

「『座ってるだけでいい』ですか?負けたらどーする気だったんでしょうね、ほんとに。」

 

「こっちが訊きたいぐらいよ。まーともかく、学校でのシンジ君のこと、お願いね。」

 

「結局俺も監視役ですかい、わかりましたよ。あ、そうだ。それなら暇な人で対人訓練できる人っています?仮にそういういざこざが悪い方向に進んだときに制圧できるのは強いんで。」

 

「あー、暇そうな人に掛け合って見るわ。明日には連絡できると思う。」

 

「ありがとうございます。それじゃ、俺も寝るんで。おやすみなさい。」

 

「おやすみ。」

 

 

 

 

子供がパイロットをするだとか、子供しかパイロットになれないなんて創作はごまんとある。それも、大概が成り行きだったり、仕組まれてたりしている。そうするのが都合がいいからね。でも、やっぱり子供をパイロットにするのは俺は反対派だ。

 

なんでかって?精神が不安定だからだよ。いくつか見てきた中には、「あーあ、大人をパイロットにしないからこういう面倒なことになるー。」って露骨に思ったのも多い。

 

まるで、そんなアニメを見ているようだった。やっぱ、ストッパーとして動くためにもジークフリードとか、トライアルシステムみたいなものがほしいよね。だいぶ冷めた見方かもしれないけど、加齢ってこういうことを言うんじゃないかなって思う。




アニメや漫画より進行ペースくっそ遅くて草


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St.5:自分のことで悩むのはマジで大事よ?

無理矢理全部捩じ込んだら9k近くの文字数になってました。


それから数日。やーっと肩の固定が取れた俺は、ミサトさんが手引きした教官に放課後訓練をしてもらっている。当の教官は「子供に殺しを教えるなんて…」なんて溢していたが、正直テレビを見ていても情勢が不安定っていうことが伝わってくる。何が起こっても不思議ではない、そう思っていた。それに、こういう機会でもないと銃やナイフ術なんて教われないしね!(本音)

本音としては好奇心8割、不安2割って感じ。訓練はつらいけど、前世のような平和()な時勢じゃあ知る由もなかったものに触れることができて、とても楽しい。

 

んで今日。いつも通り、屋上で筋トレをする。だいぶ楽になってきたから、明日から両方を+10回にしてみようかな。

立ち上がって飯にしようとすると、柵によっかかってぼーっとしている碇君に、後ろから声をかけるトウジとケンスケ。またお前か。一発殴ってやるか?

 

「また君たちか…。何か用?」

 

「ドアホ!誰がお前に用があるっちゅーねん!」

 

「へぇ、よほど暇してるんだね。」

 

碇君にも一発殴るか。いちいち人を煽るなよマジで。これで酷い怪我させられたらしょうもないぞ?

 

「用はあらへんけどなァ、ワシはなー、お前がど~~~しても気に入らへんのや!その偉そうな態度といいすっとぼけた態度といい~」

 

「僕の態度が気に入らないなら謝るよ。でも悪いけど、今はいちいち君のこと気に掛ける余裕なんてないんだ。じゃ。」

 

「おい、待てや!」

 

「なに?今度は僕を殴ろうとする気?それじゃ、本気でやってよ!殺す気で!」

 

「バッカ何いってんだお前!」

 

「エイジ!?」

「おっしゃ、やってやろうやないか!後悔す アだぁ!!!!!」

 

トウジは歯止めが利かなそうだったから殴らせてもらった。悪く思うなよ。

ついでに碇君にも平手で頬をぶつ。不服そうな顔をしてるけど、流石に今までの動きが悪すぎるから、これくらいは受けてもらうからな。

 

「碇君、お前人を煽ってないと気が済まねぇのか!?怪我すりゃ乗らずに済むなんて思ってんならこの仕事はやめろ!」

 

やべぇ、どストレートに言いすぎた。俺もアツくなると短絡的になる悪い傾向があるのは自覚してるんだが、例によっておさえ込めれた記憶が一切無い。悲しいなぁ…

 

「そう言うのも、僕をずっと見てるのも、ミサトさんから言われた仕事なの?」

 

「いいや、そういう体ではあるけど基本的には俺の『お節介』だ。悪ぃね。」

 

「やっぱり、君も―」

 

「二人とも。」

 

外野からの声。その方向を向くと、レイが立っている。

 

「非常召集。先、行くから。」

 

「あいよ。行くぞ、碇君。」

 

「う、うん。」

 

俺らが走り去る中、トウジとケンスケはぼけーっと突っ立ってるだけだった。

 

 

 

「目標を光学で捕捉!領海内に侵入しました!」

 

「総員、第一種戦闘用意!」

 

発令所は慌ただしくなっている。第四の使徒。前回の黒い奴と違って、体は赤いし、なんかカブトガニっぽいなァ。俺は発令所でもう一度日向さん、ミサトさんと作戦、配置を確認している。結局、俺は現場指揮の真似事をすることになった。大まかな作戦はミサトさん、現場の判断は俺って感じ。いつでも交代できるように、プラグスーツとインターフェースを装着している。

 

「碇君、用意はいいか?」

 

[……]

 

「はァ、まだ拗ねてんのか?アレは悪かったよほんと。終わったらちゃんと謝るし、殴られるからさ。」

 

「え?エイジ君、シンジ君と学校で何かあったの?」

 

「失礼ミサトさん、その報告は終わったらで。んで、大丈夫?」

 

[そんな大きな声出さなくても、ちゃんと聞こえてるよ。]

 

「そいつはよかった。碇君は別命あるまで待機。」

 

「にしても、碇指令の留守中に使徒の襲来…」

 

「それに、前回は15年前、今回は3週間ですか。」

 

「こっちの都合はお構いなし。女性に嫌われるタイプだわ。」

 

オペの面々のしょうもない愚痴を聞き流しながら、敵の動きを見る。外では国連の兵器が弾をばら撒いてるけど、ダメージ以前に足止めにすらなってねぇ。

 

「しょうもないですねこの光景。総火演の真似事以下じゃないですか?」

 

「税金の無駄遣いだとしても、世の中には弾を消費しないと困る人たちがいるのよ。」

 

「葛城一尉、日本政府からエヴァンゲリオンの出動要請が来ています!」

 

「うるさい奴らね。言われなくても出撃させるわよ。エイジ君、よろしく。」

 

「あい了解。…碇君、これからエヴァを出撃させる。作戦通り、拘束ワイヤの兵装ビル群付近に君を射出させる。出たらそこでガトリングを受領してほしい。そのあと、そこへ使徒をおびき寄せる。ルートはこちらで随時指定するから気にしないでいいよ。ワイヤに敵が引っかかったら攻撃開始。弾切れしたらガトリングを捨てて一時退避。指定ポイントでライフル受領。あとはアドリブかな。」

 

[多分、わかった。]

 

「オーケー、その場でも指示はするから、落ち着いて行動してね。それじゃ、発進!」

 

エヴァが射出される。ガトリングを受領し、敵に姿を晒す。さて、敵は喰いつくか…?

敵が初号機に気付き、体勢を変化させ、両腕のような場所から光る鞭を出す。モンテーロのジャベリンかな?そんなことを考えていると、敵はゆっくり初号機へと向かってくる。

 

「ミサトさん、あの鞭どう見ますか?」

 

「どこまでの攻撃力があるかわからない以上、無暗に近づくのは危ないわね。元の作戦通りにいきましょう。」

 

「俺も同意です。碇君聞こえる?」

 

[何?]

 

「作戦通りワイヤまで誘導して。絶対走らないように。」

 

[わかった。]

 

初号機は敵に銃口を向けたままゆっくり誘導している。第四使徒は鞭を動かして威嚇しながら初号機へ向かう。ポイントまで、あと少し…

 

 

「目標、指定ポイントに到達!」

「了解!兵装ビル起動!初号機、攻撃開始!」

 

俺の合図と共にビルからワイヤが射出され、敵が拘束される。次の瞬間、初号機はガトリングを敵に向けて射撃し、数十秒後に撃ち切った。

 

「よし、ガトリングを捨てて後退!」

 

その瞬間、着弾煙の中から敵の鞭が飛んできて、ガトリングと周囲のビルをなぎ倒す。

今の攻撃によって、初号機は倒れ込んでしまった。

 

「大丈夫か!?作戦通り後退!全力でポイントまで移動、ライフルを受領してくれ!」

 

初号機は引け腰になりながら初号機は指定ポイントまで逃げる。その後を敵の鞭が襲い、次々にビルがなぎ倒される。思った以上の破壊力だなこれ。呑気にみていると、初号機の背面ケーブルを切断される。ついでに来た攻撃で初号機はコケて尻餅をつく。正直、こういうデカいのが人間っぽい行動するのって可愛いかったりみっともなかったりするよね。あ、これ人造人間だったわ。

 

「アンビリカルケーブル断線!エヴァ、内臓電源に切り替わりました!」

 

「何ですって!?」

 

「ルート221でB-05電源を使ってケーブル復帰だ!ルート転送!碇君、一回撤収!分が悪い!」

 

[わ、わか―うわぁ!!!]

 

「碇君!!」

「シンジ君!!」

 

初号機の足に鞭が絡み、投げ飛ばされる。落下地点は近くに神社がある山。まだ土地には明るくないから名前がわからないけど。敵の鞭が飛んでくるが、初号機は上体だけを起こし、それを掴むだけで他にアクションを起こさない。

 

「碇君、そいつを遠ざけてA-13電源、ポイント062の兵装ビルで戦線復帰!ルート転送!」

 

「シンジ君、残り時間3分50秒よ!早く倒さないと!」

「初号機、接触面融解!」

「ミサトさん急かすな!碇君、何で動かないんだ!」

 

「トウジと、ケンスケが…!」

 

「「は!?」」

 

この瞬間だけミサトさんとのシンクロ率が100%だったと思う。

ディスプレイにトウジとケンスケのIDが表示される。マジで近くにいるらしい。

 

「あっのバカ共が!シンジ君、プラグ内に二人を収容して離脱しろ!」

 

「バカ、私の指示無しに民間人をプラグに―」

「現場指揮は俺だ!碇君、絶対にその二人を殺すなよ!」

 

[わ、わかったよ!]

 

ここで見捨てたら一生後悔するハメになりそうだ。どんな違反であっても、絶対に殺させる訳にゃいかねぇ!

 

「神経系統に異常発生!2つも異物が入ったから、ノイズが混じってるんだわ!」

 

「エイジ君、何で勝手にそんなことを!」

 

口論の中、初号機はやっと動けると言わんばかりに足蹴りをし、敵を遠ざける。初号機の手は、人造人間の名の通り生身の手が露出している。

 

「この状況ならエヴァの中が一番安全だ!んな事くらいわかってんだろ!ルート162でジオフロントに撤収!最短距離だ、取りつかれるなよ!」

 

[……]

 

「碇君!?大丈夫か!?」

 

[……]

 

「碇君!!」

 

「初号機、プログレッシブナイフ装備!」

 

「な!?碇君!この状況での戦闘は危ない!自分の命を投げ捨てる気か!二人まで殺すことになるぞ!」

 

「シンジ君!?エイジ君の命令を聞きなさい!!」

 

[うわあああああああ!!!!!!!!]

 

初号機は絶叫する碇君と共に敵に突撃する。稚拙な突撃だったため、使徒の鞭で腹2ヶ所を突き刺される。

 

「こんの野郎…!帰ったら今度は一発グーだ…!」

「初号機、活動限界まであと60秒!」

[くそおおおおおおおおお!!!!!!!]

 

腹に鞭を刺されたまま、初号機は敵のコアにナイフを差し、更に押し込む。

 

「活動限界まであと30秒!」

 

「碇君…?」

 

[うおおおおおおお!!!!!!!]

「活動限界まで、あと10秒!」

「9、8、7、6、5、4、3、2、1、0!」

 

活動停止と共に、敵のコアに亀裂が走り、敵も活動を停止した。

 

「初号機、活動停止!目標、完全に沈黙しました!」

 

俺はというと、無い髭を触るように、右手を口付近にかざし、指を動かしていた。ミサトさんも隣で苦い顔をしていた。ふと思い立ったのだが、流石にケアをサボり過ぎたかもしれない。

 

 

 

 

「どうしてエイジ君の命令を無視したの?」

 

相変わらず怒るのは大人だ。俺は黙っている。正直、この臆病さは克服しなければならないとは思っている。だが、人間そんなに急激に変われるもんでもない。

 

「もしあそこで使徒を倒せなかったらどうするつもりだったの?」

 

「すみません…。」

 

「『すみません』で済む問題じゃないわ!私はあなたの作戦責任者なのよ!それで、エイジ君は私との同意の上で作戦指揮をやってる。あなたは、私たちの命令に従う“義務”があるの!わかる!?」

 

「これは碇君の責任だ。ミサトさんが言っていることは筋が通ってる。」

 

「わかります。ミサトさんたちにとって、僕はただの部下で、ただのパイロットですものね。」

 

「何ですって!?」

「……」

 

「最初はただ同情されてるだけだと思ってたけど…。」

 

「ちょっと、シンジ君!?」

「もういいじゃないですか!勝ったんですから!」

 

その言葉と共に、ミサトさんからの強烈な平手打ち。なかなかいい音が鳴ったな。

 

「あなた、自分の任務を何だと思って―」

 

ミサトさんは言葉を止める。

 

「もういいわ。家に帰って休みなさい。」

 

「はい。」

 

俺の横を通り抜けていこうとするが、俺が肩を掴んで引き留める。碇君は無視して振りほどこうとする。それに更に抵抗して、俺は強引に彼を振り向かせる。

 

「何だよ、エイジ君…。」

 

「碇君がどう思おうが、んなもん俺にはわからない。でもな、お前はひとつ誤解してるから言っておく。

俺は君を道具だと思ったことは一度もない。ましてや、都合のいい駒ともね。俺も一度パイロットをやったから、その恐怖はよくわかる。だから、君を生かしたい、殺したくないと思い続けてる。これは俺の本心だ。誰からの命令も受けていない、純粋な心。」

 

碇君は決して自分と目を合わせようとしない。

 

「そう。でも君がやったほうが、みんなにとって都合がいいよ。それなのに何で僕を引き留めるの?」

 

「昼言った通り、これも俺の『お節介』だ。昼はごめん、シンジ君。」

 

言い終わると、シンジ君は肩に置いた手を振り払い、部屋を出ていった。

それを見届けると、今度はミサトさんと対面する。

 

「幾らなんでもキツ過ぎますよ、言い方が。」

 

「エイジ君?」

 

「今のビンタだって、パイロットの有用性が無くなりそうだから、引き留めようとしたんじゃないんですか?」

 

「え、エイジ君?どうしたのいきなり。」

 

これだけは押さえられねぇ。一発グーで行かせてもらうからな。

スッと近づき、左頬をグーパンする。

 

「わからないんですか!!彼はミサトさんの、手駒にするために引き込もうとするような言葉が嫌なんですよ!」

 

「え…」

 

ミサトさんは座りこんだままこちらを見つめる。

無自覚だったらしい、動揺した目をしている。

 

「ミサトさんが言ってることは、それらしい言葉を並べて俺らのとこに引き込もうとしているだけにしか伝わりません!わかりやすく言えば、ミサトさんの思いを強要させてるんですよ!もっとも、俺も彼のケアをサボったから、そのツケが回ってきてるんですけどね。彼は俺がどうにかします。それじゃ、俺も上がらせてもらいます。今日はお疲れさまでした。」

 

 

 

「どうも、赤木博士。」

 

「あら、エイジ君じゃない。どうしたの?」

 

「俺らの監視って、どこに行っても問題なく機能しますか?」

 

「ええ。それがどうかしたの?」

 

「俺がシンジ君の位置を把握できるように、15分毎くらいに俺の携帯に彼の位置を送ってほしいんです。」

 

「わかった、上に交渉するわ。でもなんでミサトに言わないの?」

 

「ミサトさんにはあの態度を自分で改めてもらわないといけませんからね。それじゃ、明日18時からお願いします。」

 

「すぐでなくていいのかしら?」

 

「彼も考える時間が必要だと思います。あと、シンジ君と俺の動向はミサトさんには絶対に漏らさないようにとお願いしといてください。」

 

「用意周到ね。わかったわ。それと、こないだ言ってたことなんだけど、もしかしたらできるかもしれないわよ。」

 

「え、本当ですか?」

 

「ええ。今新しく研究しているモノがあるの。それを応用すれば、外部からのシンクロとサポートが期待できるわ。また伝えられるようになったら教えてあげる。」

 

「ありがとうございます。それでは、失礼します。」

 

 

 

 

家に帰ると、案の定シンジくんは居なかった。机の上には置き手紙があり、内容は

 

「もう僕はあんな怖い思いをしてまでエヴァに乗りたくない。」

 

ぶっちゃけこんな程度だった。甘く考えれば苦痛に耐えれない。厳しく考えればうわべだけの感情でここから逃げているだけだ。でも、彼にはこの問題は悩み抜いて、自分で結論をだしてもらわなければならない。そのためには、誰からも邪魔されない時間ってのも必要だ。

悪ぃミサトさん、今日はコンビニ弁にさせてくれ。色々疲れきった。

 

 

 

次の日。

 

「な、なあエイジ。転校生知らんか?」

 

近くを通ると、窓を開いて座っているトウジから訊かれる。

 

「え、シンジ君?知らないね。」

 

「そんなバッサリ切らなくてもいいじゃん。」

「それとも、まだ俺に怒っとるんか?」

 

俺は近くの机に座り、答える。

 

「いンや?知らないから知らないつっただけよ?」

 

「そ、そうか。悪かったな。」

 

「俺にも動向はわからないからね。心配だよ。」

 

横から視線がずっと来ていた。

 

 

 

昼。いつも通り筋トレをしていると、近くにレイが来る。

 

「お、ようレイ。怪我、だいぶよくなってきたんだね。よかったよかった。」

 

「何で嘘を言ったの?」

 

「何のことだ?シンジ君の動向は俺も知らねぇよ?」

 

「いいえ。博士から聞いたわ。」

 

「ああ…シンジ君には時間が必要なんだよ。一人で、静かに考える時間が。だからシラを切った。」

 

「よく…わからない。」

 

「ま、レイもそのうちわかるんじゃないかな。」

 

レイはキョトンとしていた。

 

「あ、今日は飯買い忘れてたな。レイ、一緒に買いに行かない?たまにゃ何か食わないと持たないぞ?」

 

「いい。平気。」

 

「そっか。んじゃ、失礼させてもらうよ。」

 

 

 

いつもの対人訓練を終え、ちょうど18時になる。

 

「どうも、影嶋です。赤木博士から連絡ありましたよね?」

 

『連絡は受けています。サードは現在、郊外の草原を進んでいます。場所を転送するので、確認してください。』

 

「ありがとうございます。えーと、名前は…」

 

『剣崎です。』

 

「ありがとうございます。それでは、これからよろしくお願いします、剣崎さん。」

 

諜報部との連絡終わり。地図を確認して、経路を調べる。うっわ、これは終電ギリギリでなんとかレベルか。遅くなるのは確定だから、次はミサトさんに電話。

 

『あらエイちゃん、どうしたの?』

 

「ミサトさん、今日は遅くなります。二日連続コンビニ弁で申し訳ありません。」

 

『いいのよエイちゃん。あの後、私なりに色々考えたんだけどね、やっぱ、面と向かってシンジ君に謝りたいの。私の…態度のせいで、シンジ君を追い詰めてしまったから。』

 

「そうですか。わかりました、もし会ったら、彼にそう伝えます。それでは、失礼します。」

 

メールを確認すると、シンジ君はまだそこから動いていないようだ。至急向かわねぇと。

駅に向かおうとすると、黒い車が近くで停車し、扉が開く。

 

「剣崎です。今からならこちらの方が早いですよ。」

 

「わざわざありがとうございます。」

 

剣崎さんの車に乗り込み、目的地まで向かう。

 

 

 

 

「俺、すっげー羨ましいよ。なんてったって、あんな格好いいロボットを操縦できるんだもんな。俺も一度でいいからさ、思いのままにエヴァンゲリオンを操ってみたいよ。」

 

「僕も、そんなふうに思えたらいいんだけどな。」

 

「思えないの?」

 

「まあ、ね…。」

 

 

ケンスケ、あんな思いをしてもまだあんなこと言えるとはなァ。まるで二次大戦で戦車戦を経験したヤツに対して、「一度でいいから戦車に乗ってみたい!」って言ってるようだ。もちろん経験者役は俺ら。そういうことを言われる側の気持ちがよく分かる。

 

「いいです?大人しい内は絶対に手を出さないでください。万一ヒス起こして逃走を図った場合に取り押さえてくださいね。」

 

「わかった、チームで情報を共有しよう。」

 

「ありがとうございます、剣崎さん。」

 

さて、意を決して…3、2、1、GO!

 

 

「やあ、ケンスケにシンジ君。近くに立ち木が一本だけってとこにキャンプは雷が危ないよ?」

 

「え、エイジ!?」

「エイジ君、どうしてここが…。」

 

「んまァ、裏技使ってね。」

 

そう言って、シンジ君の横にある石の上に座る。

ケンスケが不機嫌そうに言ってくる。

 

「飯ならもう無いぞ。」

 

「ひつよーないね。」

 

ウ○ダーの容器を前にかざし、軽く振る。ケンスケはケッて感じをしてる、これを言語化するの難しいんだって。まあ、案の定シンジ君は俺が来た瞬間また(くっら)い顔した。まー残当。

 

「どう?シンジ君。あの後考えはまとまった?」

 

「まだ、わからない。」

 

「そっか。…ねえ、聞かせてよ、シンジ君の本心。」

 

「え?」

 

「聞きたいんだよ。言ったろ?他人(ひと)の考えはわからないって。でもさ、どうにかして、自分の言葉で、自分の考えを言ってくれれば、俺に伝わる。ミサトさんに伝わる。もっと多くの人に伝わる。そうすれば、自分をすこしだけ理解ってくれる人が増えるのよ。ね?」

 

シンジ君は目を少し開き、俺を見つめる。またすぐ俯いて、少し経つとぽつりぽつりと喋り始める。

 

「…僕ってさ、どこ行ったって中途半端でなにも出来ないんだよ。だから、こんな僕を必要としてる人なんて誰も居ない。父さんも、ミサトさんも、必要なのはパイロットとしての僕で、僕自身じゃないんだ。」

 

「へぇ。だから自分は必要ない、と。んー、そいつは少し違うんじゃないかなァ。」

 

「え?それはどういう…」

 

「まずさ、中途半端って…逃げてること?」

 

「え?そ、そうだけど。」

 

「だったら君は逃げてはいないよ。」

 

「何で?僕はこの状況から逃げ出してる。その最中なのに…」

 

「2回も使徒と戦って、両方とも逃げずに立ち向かった。戦いを放棄しようとしなかった。それは逃げてるとは言わないよ。

それにさ、今は使徒、つまり戦うべき相手に遭遇してない。そんな時くらい、息が詰まるところから離れてもいいんだよ。ずっと息を詰めてると、そのうち酸欠になって息切れしちゃうからさ。」

 

シンジ君は考え込んでしまった。まだ納得がいかないようだ。

 

「んー、それじゃもう一個。どして『パイロットの自分』と『自分自身』を切り分けてンの?」

 

「え、どういうこと?」

 

「これは俺の勝手な考えなんだけど、肩書きってのは全部自分自身からの派生だと思うんだよね。

 

わかりやすいかはわからないけど、人ってのは球みたいなもんなんだよ。

正確には、ほぼ球に近い正多面体。

例えば俺なら、一面一面が、

『エヴァパイロットの予備としての俺』

『ミサトさん、シンジ君と同棲してる俺』

『現場指揮官』

『料理ができる』

『ミサトさんの部下』

『ケンスケやシンジ君とか、学校の友人』

とか、まあ列挙すればキリがないかな。これらが組み合って構成されてる多面体そのものが俺自身。

 

これらを、人や状況によって見せる面と組み合わせを選択するってのが人付き合いだと思うんだよ。でも、見せてもらう面ってのがたった1つだけってのは、その人を理解したとは到底言えないよな。だから、多くの面を見なければならない。そのためにはどうするか?コミュニケーションだ。会話で、多くの面を見る。

 

これは逆も一緒で、自分を理解してほしいのなら、他人に自分の面を見てもらわなければならない。そのためのコミュニケーションつーのも重要。

 

そういうやつのが積み重ねが大事なんじゃないかな。」

 

「難しいね。僕にはわからないや。」

 

「もっと悩み抜けば、その先で理解できるようになるよ。それでさ、重要なことを訊きたい。

これから先、使徒と戦うか、それとも戦いをやめるのか。」

 

「逃げるとは、言わないんだね。」

 

「そりゃあね。自分の確固たる意思で決めたのなら、誰も文句は言えないからさ。」

 

「…まだちゃんとは決めてない。」

 

「そっか。時間もだいぶ遅いしさ、シンジ君行こうか。」

 

「え、どこに…」

「いいからいいから。んじゃ、じゃーなケンスケ。」

 

「お、おーう。」

 

 

 

人の気持ちというのは、外部からの圧力で一時的に屈服させることはできても、本心まではねじ曲げることはできない。だが、彼はそもそも外の要因を通して自分を成立させるような立ち回りをしている。うーん、言い方は難しいけど、求められているからやっているだけで、自分の意思じゃやってないと言えばいいのかな。悪く言えば、言いなりになることで自分の存在を確立している。

俺は、彼がそんな思考から抜け出して、自分の意思でものを決めれる人になってほしいと、そう思う。

 




非常に疲れました。


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St.6:無知な子が色々吹き込まれるとめちゃくちゃ可愛い生物に進化することがよくわかった

自分の欲望を余すことなくつぎ込みました。


俺らは剣崎さんの車で、中心部付近―つまりNERVにいつでも行ける場所のホテルへと向かう。その間はまあもう本っ当に静かだった。俺は言いたいこと言い切ったし、シンジ君はあの後ずっと自分について考えてるっぽいし、剣崎さんは必要以上の会話をしないからね。

 

ホテルに着き、適当な部屋を取る。鍵を渡し、俺はシンジ君にもう一度言う。

 

「んじゃ、明日…いや、もう今日か。今日まるまる使って考えてみて。ま、覚悟が決まったらいつでも連絡よこしてちょうだい。そうそう、ミサトさんが会えたら話がしたいってさ。」

 

「ミサトさんが?」

 

「そ。まー会えたら話してみてよ。んじゃ、俺はこれで。念は押しておくけど、今度は都市の外へ逃げれないからね?」

 

「もう逃げないよ。ありがとう、エイジ君。」

 

「おう、おやすみ。」

 

シンジ君はエレベータに乗る。さて、俺も帰りますか。

 

「剣崎さん、今日はありがとうございました。」

 

「いえ、仕事なので。よろしかったら、家までお送りしましょうか?ここからだとマンションまでやや距離があります。」

 

「それじゃ、お言葉に甘えて。」

 

 

例によって、会話はほとんど無いまま家についた。現在時刻、24:30。中学生の体にはなかなか堪える時間だ。

 

「ふぁあ~、今日はこき使ってしまってごめんなさい。ありがとうございました。」

 

「礼には及びません、これも仕事なので。」

 

 

扉を開くと、まだ電気が付いている。もしやミサトさん、まだ起きて…いや、酔い潰れてるだけだこりゃ。この缶の量、シンジ君が居なくなってヤケ酒でもしたんか?ほんと酒癖だけは治らねぇなァマジで。せめて掛け布団くらいはと思って近づくと、寝言が聞こえる。

 

「…ンジ君…ごめ……たし、ずっと……」

 

やっぱ監視とかそれ以前に保護者として心配だよなぁ。明日はちゃんと教えてあげよう。

 

 

 

「あ…おはようエイちゃん…。」

 

「おはようございます。次の日が平日なのに酔い潰れてテーブルで寝るとはなかなかですね?」

 

「やめてよ…意地悪。」

 

「それはそうと、シンジ君に会いたくないですか?」

 

「え…?シンジ君に!?どこにいるの?」

 

「まずは朝食から。いつも通りトーストとハムエッグですが。」

 

「ありがとう。あなた昨日も遅かったわよね。それなのに…ほんとごめんね。」

 

「やだなぁミサトさんらしくない。そんでもって場所ですけど、NERV本部近くのホテルに泊まってます。諜報部の方に聞けば一発ですよ。」

 

「ありがとう。それじゃ、朝イチで行くわね。」

 

「あと、俺経由で彼がどうするかは連絡します。それまではお待ちください。彼にも、それなりに考える時間ってのが必要ですからね。ミサトさんみたいに。」

 

 

 

ミサトさんが家を出た後、俺も追って登校した。ちと出るのが早かったかな、ま、それならそれで寝れてない分教室で寝たいけど…お?あそこにいるのは

 

「よ、レイ。おはよう。」

 

「おはよう。」

 

「いつもこれくらいの時間なん?」

 

「そうよ。」

 

こいつぁいい情報を聞いた。ラッキー。

 

「碇君、どうしたの?」

 

「え、シンジ君?今は――考えてるんじゃないかなァ。」

 

「何を?」

 

「NERVに残るか否か。」

 

「そう。」

 

「何だ?同僚だってのにやけにあっさりしてるじゃんか。」

 

「私かあなたでも、初号機は動かせるわ。」

 

「そらそうだけどさ、人ってのはそんな論理だけで動けるもんじゃないよ。」

 

「…やっぱり、わからない。」

 

「レイってさ、実は他人に全く興味が無かったり?」

 

「いいえ。」

 

「俺はレイの考えてることがわからねぇや。それはそうとさ、レイは何でここで働いてんの?」

 

「絆。」

 

「誰との?」

 

「エヴァと、関わっている人との。私には、他に何も無いもの―」

 

シンジ君より重症患者を引き当ててしまった感じだ。地雷では無さそうなのがこれまたね。

 

「あなたは?」

 

「へぇ?」

 

「あなたは、どうしてエヴァに乗っているの?」

 

「最近俺はあんま乗れてないけどね。そうだなァ、何て言ったらいいんだろう。実はね、そんな大層な理由なんてないんだよ。最初は好奇心。使徒が来てからは、本当に人を守りたい、って思った。能力があるのに、遠くで黙って指を咥えてるだけってのは性に合わないし。」

 

本当に、今まで生きてた中でこんな、夢のような体験ができるという喜びと好奇心が大きなウェイトを占めていた。そして、現実に起こっている使徒の襲来。それが来てからは、俺自身がより前線で戦いたいと強く願っていた。

 

「…わからないわ。」

 

「これはわからなくてもいいさ。理由なんて人それぞれなんだからさ。」

 

パシャッ。パシャッ。

 

…え?嫌~な音が聞こえた。足を止め、ぎこちなく振り返る。

 

「おお、これは大スクープ!いつも寡黙な綾波レイと、大人びた性格の影嶋エイジの楽しそうな会話!」

「何や、お前らそういう関係やったのか?知らんかったわ。な~エイジ?デキてんなら教えてくれてもよかったんちゃうか?」

 

俺、今顔がクッソ赤くなってる。血の動きがそうだって訴えてるもん、間違いない。

 

「も…申し訳ないが、これが始めてだ…っ!!!」

 

「どうしたの影嶋君。顔、赤いわ―

 

「頼むレイ、解説しないでくれ!」

 

「やっぱデキとるんやないかい。エイジ、そんな頑なになることやないで?なぁケンスケ。」

「そうそう!楽しんでね~」

 

顔を真っ赤にした俺と隣でキョトンとしているレイをそのままにして、トウジとケンスケは学校に向かった。俺は立ち止まったまま、額に両手を当ててしゃがみ込み、レイも俺の顔を覗き込むようにして一緒にしゃがんだ。ああ、こんな、たとえ友人でも、そんな非道が許されるはずがねぇ~!!!!!!!!

 

今日は教室でも一生冷やかされた。休み時間も、屋上で筋トレしに行っただけなのに何故か出入り口にめちゃくちゃ人が集まっている。“耳をすませば”かな?俺、この先学校生活やっていけるか不安になってきたよほんと。

いつも以上に疲労がたまった筋トレだった。柄にもなく寝転んで空を見つめる。あ、また飯買い忘れてやんの。なーにやってんだ。起き上がって、飯を買いにいこうとする。

 

「お、ようレイ。…さっき、ぶりだな。」

 

「影嶋君、これ。」

 

差し出された手には、購買の弁当が2つ。

 

「え?2つって、どうしたの?」

 

(え~、性格は大人っぽいのにニブいんだ~。)

(お、これもまた意外な一面!撮ってやろ。)パシャ

 

「るせぇぞ外野!もっと聞こえないようにする努力とかしねぇのか!!」

 

右手を額に当て、髪をぐしゃぐしゃ揺らす。そういうことかよ。お前らの差し金か。

 

「お弁当、食べましょ。次の授業になってしまうわ。」

 

「あー、ああ、そうだね。食うか。」

 

今日の飯は購買の弁当。うわ、肉あんま入ってない。野菜ばっかなのはそれはそれで味気ないというかなんと言うか。まあ、美味いんだけどさ。

 

「んでさ、どーゆう風の吹き回し?綾波が俺に弁当買って、んで一緒に食お?だなんて。」

 

「クラスの女子が、そうするのがいいって。」

 

「あいつら調子乗りやがって~。」

 

「でも、何だか楽しい…ような気がする。」

 

「え?」

 

「私、今までこんなことしたことなかったから。」

 

「それはどういう…」

 

「いつも食事は錠剤で済ませてた。だから、食事っていうのが、こんなに楽しいものだとは知らなかった。」

 

どんな環境で育ってきたんだ?それってネグレクトじゃねぇの?レイのことが無茶苦茶心配になってきた。そんなことを考えてると、“それ”は唐突に起こった。

 

「影嶋君。」

 

「え?むぐっ!?」

 

と、唐突に半開きの口に弁当の肉を突っ込まれた。え?何吹き込んだんだあいつら?飲み込んでから返事する。

 

「れ、レイ今のは一体…。」

 

「女子が、『男子はあーんをしてもらうと喜ぶ』って言ってた。どう、…美味しい?」

 

こ、これは…!多少強引だけど、かっ、可愛い過ぎるっ…!アッ、また顔が真っ赤になる感触っ…!

 

「ごちそうさまでした。もうそろそろ時間よ。行きましょ?」

 

「は、はひ…。ごちそうさまでした…。」

 

ま、まあ聞いてくれよ。ごく一般的なオタク趣味を持つ一般ピーポー(だった人間)がこんなことをされてさ、正常でいられる方がおかしいと思う。そうだよね?(同調圧力)

 

まあ、案の定今日の俺らの一連の写真がクラスにバラまかれた。俺なんてのはずっと冷やかされてばっかだから一日中顔が赤いままだった。

というか放課後も続いた。もう疲れたよ。机に突っ伏して、話を適当に流す。

 

「なんならさエイジ、綾波のために弁当でも作ってやったら?料理できるんでしょ?」

 

「ゲぇ!昨日の聞いてやがったな!?」

 

「おーおー、エイジってほんま何でも出来るんやなぁ。勉強に家事、料理に、エヴァの操縦!あー、こんな完璧超人なら、多くの女子に人気なんやろなぁ~」

 

「56すぞマジで」

 

「そうカッカすんなよ。お前だって綾波一本だろー?」

 

「バラ撒いたヤツが喋るなァー!!!!!」

 

「やっべ、トウジ逃げるぞ、今度はマジで殺りに来るかも知れないぞ?」

「そうやな。んじゃ、またなエイジ~。」

 

「覚えてやがれ!!!!!」

 

彼らを睨みながら中指を立てていた。F**K!!!!!

 

 

 

 

「…どうも。」

 

「あ、あれ、今日は遅かったじゃないか…。なにかあったか?」

 

「それはもう、散々でしたよ…。」

 

「き、今日は休むか。いいよ、いつも頑張ってるし。ね?」

 

「大変申し訳ございません…。」

 

対人訓練もこの有り様だ。気を遣ってもらってしまった。あーあ、これから先俺はどうなるんだ…。ん?これもしかして、俺ハメられてね?これで明日レイに弁当持って行かなかったらそれはそれでよくない方のネタに…。ああ、終わった。本当なら人と触れ合いながらゆっくり育む、健全な恋をしたかったのに…。とぼとぼスーパーへ向かう途中、携帯が鳴る。この着メロにしたETERNAL WIND、今日は呪いの曲に聴こえる…って、シンジ君からか。よかったよかった。こんなところでもテロされたらたまったもんじゃない。

 

「よぉ、シンジ君…はぁー。」

 

『え、エイジ君ごめん、後でかけ直すよ。』

 

「いや、大丈夫、大丈夫だから。それで、覚悟はできた?」

 

『…うん、残ることにした。ミサトさんとも話したんだ。みんな、必死になって人類を守ろうとしている。そんな中、真っ向から立ち向かえる僕が逃げちゃダメだ、って思った。だから僕はエヴァに乗る。みんなを、守るために。』

 

「そうか。よかったなシンジ君、自分で理由を見つけれて。それだけで大きな成長だよ。」

 

『エイジ君も、こんな僕と向き合ってくれてありがとう。』

 

「どういたしまして。…ところで話は全く変わるんだけどさ、うちの弁当箱って一箱余ってたりしない?」

 

『え?弁当箱?あー、たしか2箱くらい余ってたと思うよ。どうしたの?』

 

「明日学校来ればわかるよ…。それじゃ、帰るのを待ってる。」

 

はァー、何にしようか…。

 

 

 

次の日は、はい、もう言わなくてもわかるでしょう。もうそれはそれは教室が一丸となって俺を冷やかしに来ました。ヤバかったです、ほんと。レイはわかってないようだから、結果的にダメージは俺だけに来るんですね。どーすんだこれほんと。

でも、レイが弁当を受け取ったときの笑顔の「ありがとう。」はマジで効いた。クッソ可愛いんだもん。

 

まあでも午後は先日倒した使徒をバラして卸してるとこの見学ができるらしいから、俺はそれに学校から逃げるように向かった。

 

 

「これが、僕が倒した使徒…」

 

「思ったより腐食って感じはしないな。あくまでも劣化って言うのがよくわ…シンジ君?」

 

「え、どうしたのエイジ君。」

 

「メットつけてるのに顎ヒモをちゃんと付けないのは感心しないな。」

 

「え?でもミサトさんも外してたよ?」

 

「あのアル中が…いいかシンジ君。メットってのはアクセサリーじゃないんだよ。ちゃんと顎ヒモをつけとかないと正常にメットとしての機能を果たしてくれない。だからつけるんだ。怪我はしたくないだろ?」

 

「わ、わかったよ…。」

 

渋々顎ヒモをつけ直す。それでいい。君も危険な状態で「ヨシ!(現場猫)」はしたくないだろう?

そうだ、あのアル中も叱ってやらねぇと。年長者でこういうとこにも行きそうな人が一番ガサツってのが許せねぇ。

 

 

 

「何これ?」

 

「解析不能を示すコードナンバー…。」

 

「つまり、ワケわかんないものってこと?」

 

「そう。でも、1つだけわかったわ。『使徒』の固有波形パターンが、構成素材の違いはあっても人間の遺伝子と酷似していることが。99.89%ね。」

 

「へぇ、それじゃ僅かな遺伝子の違いでこんな差があるんですか。ほんと、どうなってんですかねこいつら。」

 

「エイちゃん!?」

 

「あら、エイジ君もこういうのに興味があるの?」

 

「専攻するかは別としてでなら。にしてもミサトさん?メットの被り方すら知らないとは言わせませんよ?」

 

「え?何のこと?」

 

「顎ヒモつけることくらいわかっとけ!!!」

 

「ごめんなさい!!!!!!」

 

 

 

シンジ君は影から指令らを見ている。恐らく、彼は自分の親父を見ているのだろう。何も言わない父親を。俺も一緒に覗いてみる。にしても、指令の手、火傷をしている。

 

「お二人さん、何見てんの?」

 

「わぁっ!!」

「指令の手、火傷あるんですね。何かあったんです?」

 

「指令の火傷?ねぇリツコ、何か知らない?」

 

「零号機の起動実験のこと、聞いたことあるでしょ。そのとき指令が、レイを助けたのよ。過熱したハッチを素手でこじ開けてね。」

 

「へぇ、指令ってそんなことするんすね。」

 

俺には、あの人付き合いがクッソ悪そうなあの指令がそんなことをするとは思ってもいなかった。ちょくちょくレイといるとこも見るし、なんかありそうな気がする。

 

 

 

次の日、体育の時間。男子と女子で分けられてるとか、これまた前時代的だ。俺が生きてきた一生の中で、そんなことは全くなかった記憶がある。俺らというと、コンクリの階段で休んでいる。多くの男子は、高さがあるプールをぼーっと見上げてる。俺?興味ないね。(変態魔晄中毒者) そもそも俺は暑さに弱い方だ。近くに水筒を置き、帽子を被って横に寝そべってる。だいたい、こんな日陰もねぇとこに居たら熱中症で死ぬけど。

帽子を目元に深く被り、目を閉じて静かにしてるとバカ二人が近づいてくる。今度は何だよ。

 

「何やエイジ?お前はプールにいる女子に興味わかへんのか?」

「トウジ、こいつには綾波が居るだろ?他の女子を見ないようにしてんじゃない?」

 

「は?何言ってんだお前ら…。」

 

「何が『は?』やこのムッツリが。欲望には忠実になった方がええで?」

「そうそう、お、あの子のおっぱい大きいなぁ。」

 

「俺はお前らのようなエロガキじゃねぇんだよ。一緒にすんな。」

 

「かーっ、エイジお前ほんと愛想悪いなァ。」

「ねえ、ほんとに興味ないの?」

 

「だいたい2015年なのにこんな前時代的なことやってる方がおかしいんだよ。何で分ける必要がある?」

 

「え!?」

「な!?」

「うん?」

 

「な!?お、お前そういう考えだったんか!?こ、これは知らんかったわ…。」

「あ、ああ…。時代を先取りしてるよこいつ…。」

 

「え?何言ってんだお前ら。そんな90年代のような考えしてるのかよ。」

 

「こ、これは失礼したわ。ほな…。行こう、ケンスケ。」

「う、うん。」

 

そう言って今度はシンジ君に絡みに行った。あっのエロガキ…。

 

 

「ぎゃはははははははは!!!!!!」

「やだ~、見てぇ~鈴原のあの顔~!!!」

「サルよサル!!」

「碇君たら意外とお茶目~!!!」

 

水筒に口をつけて、また寝ようとすると女子のバカ騒ぎが聞こえる。何だ何だ?

起き上がって見て見ると、トウジがシンジ君に変なポーズさせられてた。

 

「ぶっ、あはははははははは!!!!!いいザマだなトウジ!こっ、このっ、はははははは!!!!!よくやったシンジ君!!!!!!!」

 

ほほえてやはれへひひ(覚えてやがれエイジ)!!!!!」

 

「ぐっ、くくくく!!!!!最っ高だわ!!」

 

んでも、碇君はあんまり満足な顔をしてなかった。何したかったんだ?俺にはわからねぇや。

 

 

 

 

午後はシンクロテストと、俺だけまた別の実験があるらしい、もしかして…。

 

例によって、いつも通りプラグだけの訓練を挟んでから、今日はエヴァとのシンクロテストもした。そういえば、俺はまだ零号機には乗ったことなかったな。どんなもんなんだろうか。

 

レイの後、俺も交換されたプラグに入り零号機とのテストを始める。初号機と違って、思ったよりエヴァからの抵抗がなかった。この差は何なんだろう。しかも初号機と違って、シンクロ率は30%くらいをキープしていた。どういうこっちゃ。

 

その後、赤木博士に呼ばれた。しかもプラグスーツのままでいいって、何があるんだ?指定の場所へ行くと、その部屋には半分埋まったプラグと、コードが大量に繋がれている機器。もしかして…。しかも、この場所ってさらに外側に水か何かが入るのか?ここの壁だけ異様に厚い。

 

「赤木博士、これってまさか…」

 

「こないだ言っていた、外部とのシンクロによってサポートするシステム、『アークシステム』。それの試作機よ。」

 

「まさか本当に造っちゃうとは思いもしませんでしたよ…。」

 

「私にも科学者としての好奇心があるのよ。

それでは、システム概要を説明します。エイジ君はこのプラグ内に入り、エヴァとクロッシングしてもらいます。クロッシングとシンクロとの違いは、完全にエヴァとの波長を合わせるのではなく、その名の通りエヴァとパイロットの思考の中を横切って情報を引き抜き、擬似的なシンクロをすることにあります。直接シンクロと違ってフィードバックが少ない代わり、若干のラグが生じる可能性もあります。基本的なところはこのくらいね。」

 

まんまファフナーじゃねぇか。ただ、ダメージフィードバックが小さい代わりにラグがある。なんか、扱いがだいぶ難しいものになっていそうだ。あとは、本当に求めている機能があるかを訊く。

 

「ここから、エヴァに直接シンクロすることってできます?パイロット暴走の保険として欲しい機能なのですが。」

 

「理論上はすることができるわ。それをこれから確認するのよ。さ、入ってちょうだい。」

 

「わかりました。」

 

なるほど、ここで人柱になれと。まァ上等だ。やってやろうじゃねぇか!

 

 

 

[これより、アークシステムと新型エントリープラグの運用テストを開始します。シンジ君、エイジ君、用意はよろしくて?]

 

[はい。]

 

「いつでもどうぞ。」

 

とりあえず、シンクロする時と同じように集中する。

 

[アークシステム起動!]

[LCL電荷!]

[初号機、起動確認!]

[クロッシングスタート!]

[MAGI・メルキオールとシステム直結!リンクスタート!]

[システム、オールグリーン!クロッシング成功!]

 

前ほどの初号機からの抵抗は無い。でも、何か雑音が聴こえるような、そんな感じがある。エヴァから直接送られるのではなく、MAGI経由でデータを見ているからだろうか。ゆっくり目を開けると、初号機の視点、武装情報が表示される。パレットライフルとは、ど安定な武装での試験。流石に新規武装の試験も同時にやることはないか。

 

[どう?シンジ君、エイジ君。違和感とか、そういうのはない?]

 

[特に、何も。]

 

「俺は少しノイズが走るような感覚があります。今のところは許容範囲かと。」

 

[結構。それでは、アークシステムによる操縦権の移行をテストします。シンジ君、これが成功すると、あなたは一時的に初号機を動かせなくなるわ。心配しないでね。]

 

[わかりました。]

 

[コントロールジャック開始!]

[初号機、シンクロカット!]

 

げぇ!?ま、まんま過ぎる名前だ。不吉ぅ…。

 

[アークシステムとのシンクロ開始!]

[初号機、アークシステムと接続!]

[MAGI・カスパーと接続!]

[カスパー、アーク経由でヘルムスマンとシンクロ!]

[コントロールジャック!]

 

これは、初めてシンクロしたときと同じ不快感。恐らく、シンクロできた。目を開けると、画面には変わらず初号機の目が捉えた映像が見える。左手を持ち上げ、軽くグーパーする。俺の動作とほぼ同じタイミングだ。その後、操縦桿を握り、初号機は銃を構える。

 

[シンクロ率、29.4%!]

[MAGIのサポートのお陰でシンクロ率も高くなっているわね。どう?違和感はない?]

 

「いいえ、特に何もありません。初めてシンクロしたときと同じ不快感があったので、ほぼ完璧にトレースできていると思います。」

 

[そう。他に要望はある?]

 

「インダクションモードお願いします。」

 

[了解。モードチェンジ。]

 

画面が初号機の視覚情報からバーチャル空間へと変化する。トリガーを引くと、銃を構えた初号機は発砲。思った以上にタイムラグはない。

さらにプログナイフを装備し、バーチャル使徒に格闘戦を仕掛ける。対人訓練で覚えた極め技なんかを試してみても、そこまでラグを感じることはない。思った以上の性能だ。

 

「凄いですね、このシステム。MAGI経由だからかシンクロ、動作もほぼ完璧じゃないですか?」

 

[これでもコンマ01秒くらいのラグがあるのよ。そこまでやっと短くした、とも言えるわね。]

 

「そりゃあ遠回りしてるから0にもっと近づけるのは大変でしょう。お疲れさまでした。」

 

[科学者冥利に尽きるわね。そうそうエイジ君。]

 

「はい?うわぁ!?!?!?」

 

バーチャル空間が解けると同時に、眼前に鉄球が飛んでくる。驚いたが、ATフィールドで弾くことができた。え?外部シンクロでATフィールド!?

 

「赤木博士、流石の技術力ですね…。」

 

[これで全てのテストは終了よ。二人とも、お疲れさま。]

 

[はい、お疲れさまでした。]

 

「お疲れさまでした。」

 

 

 

 

家に帰ると、シンジ君が夕食の準備をしている。

 

「へぇ、今日はカレーなの。」

 

「うわぁ!?なんだエイジ君、帰ってたのか。お帰り。」

 

「あ、こいつは失礼、ただいま。今日はお疲れさま、シンジ君。」

 

「エイジ君こそ。凄いや、エヴァで格闘戦するなんて。」

 

「俺は結局、後ろでサポートすることしかできないからね。そのために、リアルでの露払いくらいはしたいのよ。」

 

「やっぱ強いなぁ、エイジ君は。」

 

「あらエイちゃん、お帰り。今日はお疲れさま。」

 

「ただいま、ミサトさん。これでやっと戦闘に直接関われますよ、ほんと。」

 

「ずっと言ってたものね、『参号機寄越せー!』って。」

 

「ええ、ほんと。アークシステムをこんな短期間で造っちゃうとか、赤木博士ほんと凄いですよ。あ、テーブルくらいは拭くよ。」

 

「え、参号機なんてあったんですか?どうぞミサトさん。」

 

「ありがと、シンジ君」

「エヴァは今ん所四号機まであってさ、零・初号機が日本、弐号機はドイツ、参・四号機がアメリカにあるんだってさ。ありがとシンジ君。」

 

「へぇ~、知らなかった。」

 

「「「いただきます。」」」

 

「国の利権ってのはほんと迷惑だよねぇ。創作なんかでの統一国家ができねぇのも納得だわ。」

 

「そ、そうだね…。」

 

「世の中、そんな単純なモンでもないのヨ。あ、そうだ2人にこれ渡しとくね。」

 

「これは?」

「正式なIDですか。」

 

「そ、やっと発行されたのよ。最近は使徒の攻撃で忙しかったしね。あと、レイのIDよろしくね、エイちゃん。」

 

「え?俺なんです?」

 

「にひひ~、私も学校で起きたことは知ってんのヨ。」

 

そう言って一枚の写真を見せる。う゛っ゛!!それは

 

「まさか…」

 

シンジ君の方を見る。

 

「し、仕方ないじゃん。凄い剣幕で迫られたら、ね…。」

 

「ミサトさん!!!!!!!またビール禁止にしてやろうか!!!」

 

「あっら~、そんなこと言っていいのかしら~?そんな事言っちゃうと、シンジ君に届けさせちゃうわよ~!」

 

「ひっ、卑怯な手を…!ぐぐぐ…!」

 

「いいじゃないの~。まっさか、エイちゃんがレイのコレだとは思わなかったし。」

 

ミサトさんが写真をピラピラ揺らしてると、ナチュラルにそれをぶん取ったシンジ君がまじまじと写真を見る。

 

「にしてもさ。僕、この写真で初めて綾波が笑ってる顔見たよ…。」

 

「わかる。あのとき俺も初めて見た。」

 

「というわけで、よろしくね、エイちゃん。頑張ってね?」

 

「…はい。」

 

 

 

 

アークシステム。赤木博士が何の意図をもって方舟の名前をつけたのかはわからない。でも、これによってシンジ君らのサポートとブレーキ役になることができる。文字通りhelmsman(操舵手)のように。それだけで少しだけ、彼らとより近い位置での仕事ができると、そう感じていた。

あと、綾波との関係は頑張って維持しようと思う。これも確固たる意思をもって、そう思っていた。

 




いつになったら完結するんだろう…。


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St.7:肝心な時に傍に居てやれないのは非常に苦痛だ

序盤一番の盛り上がりポイントを上手く書けたかが不安だ。


朝。いつもどおり起きて、顔洗って、ゴミをまとめる。今日はゴミ出しの日だからね。そんでもって手を洗って、シンジ君に作ってもらった朝食を食う。やっぱうめぇなぁ。朝食をシンジ君と食いながら、今日の昼だとか、夕食の話題。これ中学生がする話題なのかよ。そんで食ってる途中でだいたいミサトさんが起きてくる。

んで、俺はこの後更にやることがある。…レイへの弁当作りだ。シンジ君が気を遣って、ある程度朝食と食材被せてくれるのがマジで有り難い。あの後毎日弁当を渡し続けて、どうやらベジタリアンっぽいことがわかった。いや、肉を食う回数が極端に少なすぎて、味を知らないって言った方が正しいのかなァ。

ミサトさん、今日はほぼ入れ替わりだったな。俺は色々用事があるから、着替えてすぐ家を出る。

 

「あれ、今日は妙に早いじゃん。」

 

「昨日のアレもあるからさ…。先に行かせてもらうよ。」

 

「ああ、そっか。いってらっしゃい。」

「いってらー」

 

「行ってきます。」

 

 

 

レイの家…というか住んでいる団地は、都市の外れにあった。まるで廃マンションのような、人の気配が全く無い静かな空間。402号室に着く。なんか、不自然なんだよなァ。この時間帯なら、だれかしら人間と会っていいはず。何で誰とも会わねぇんだろ?

インターホンを押す。…音が鳴らねぇタイプか?少し待ってから、もう一度押す。……こいつぁ、壊れてるな?それなら、ドアを2回ノックして呼び掛ける。どうせ誰も住んでねぇんだろ。バカでかい声だしていいはずだ。

 

「レイいるか?影嶋だ。」

 

…もう一度。

 

「レイ?」

 

ドアノブに手を掛け、ゆっくり回す。げぇ、鍵がかかってねぇ!これ、レイが危ない目に遭ってないといいけど。姿勢を低くして、静かに入る。土足のまま上がったが、床に足跡が多くあるということはそれでいいのだろう。静かに、部屋へと進む。横でシャワーの音がするということは、レイはそこにいると踏んだ。まさかとは思うが、殺されてるとか気絶してるってのは無いと信じたい。

奥へと行き、隠れてそうな部屋の角を調べ、ベッドの下にも敵がいないことを確認する。はァ、杞憂だった。しょうもない心配したなこれ。なんか逆に俺が不審者じゃね?これさ。

にしても、部屋に何も無さすぎる。ベッド、椅子。引き出し、小さい冷蔵庫とその上にあるビーカー、錠剤。こいつはこないだ言ってたやつか。後は何があるかわからない台所。最低限生きるための道具セットだなこりゃ。レイの親の顔を見てみたい。10発くらいフルパワーで殴れる自信がある。

ん?引き出しの上にある眼鏡って何だ?この変形の仕方、踏み潰したんじゃ再現できないよな。何か熱が加わったような…眼鏡を外してそれのレンズを覗き込む。あ、この気持ち悪い感じ、老眼鏡だな?老眼鏡、熱、レイ…指令のものか。助けて貰ったから、大事にしてるとかかな。

 

「影嶋君?」

 

「あ、ごめんレイ、勝手にあがっ!?!?あっ、あがらせて、もらってるわ。」

 

「そう。」

 

「じゃあ俺は、着替え終わるまで外で待ってる。」

 

「わかった。」

 

もう必死に顔を背けた。何てったって裸で突っ立ってたんだからさ。顔は赤くなるというより、青くなった。だって、だってさぁ。この年頃の子がさ、無抵抗に男子に対して裸を晒すってどう考えても異常だよ。やっぱ親を殴る回数は100回にしよう。そいつが死ぬ?関係ないね。

部屋を出て扉を閉めると、一体どうしたものかと考えざるを得ない。

レイの家が想像以上だったからね。アレを「健康で文化的な最低限度の生活」とは到底思えねぇよ。レイもこの国の人間な以上、その権利はあるはずだ。仮にそれを必要ないって言う奴は同罪だから100発殴る。俺は一応家事全部できるし、これなら実質保護者になってもいいんじゃないかな?んでも住むところの問題がある。ミサトさんとこに一緒に住もうとしても、これで計4人だ。キャパ限界じゃないか?仮にそこから増えたらキャパオーバーする。ミサトさんとこにゃシンジ君もいるし、彼にミサトさんを押し付けてもいいかも。そんなこんな考えていると、レイが部屋から出てきた。

 

「お待たせ。」

 

「いンや、そこまででも。んじゃ行くか。」

 

 

 

通学路。

 

「レイ、これだけは頼みたいんだけど、部屋の鍵くらいは閉めてくれ。マジでおっかなかったんだぞ?」

 

「どうして?」

 

「いくらNERVの監視があったとしてもさ、いつ誰が入ってくるかもわからない。誰に何をされるかわからねぇんだよ。だから、その自衛。」

 

「…わかったわ。」

 

「ありがと。ところでさ、レイがいいならその…家に言って料理作ってやろうか?」

 

「え?」

 

「だってさ、レイっていつも昼以外まともなもん食ってないだろ?それなら俺が作ってやるよ。台所は使えそうだしさ。」

 

「どうして?」

 

「うん?」

 

「どうしてそこまでしてくれるの?」

 

「俺は『お節介』が好きだから、ってことにしといてくれ。」

 

「…ありがとう。」

 

「何や、朝から惚気話か~?ほんまいい夫婦やなぁ。」

「そうそう、最近はお前らの惚気写真、人気なんだぞ?」

 

「はァ、お前ら今の話どこまで聞いてた?」

 

「え?」

「そりゃあ、『俺が綾波の料理作ったる!』言うたとこやな。」

 

「そこしか聞いてねぇのか?」

 

「何が言いたいんだよ、エイジ。」

「せやせや、もっと分かりやすぅ言え!」

 

「いいよ。お前らバカ二人にはこの深刻さはわからねぇだろうからな。」

 

「んだとエイジお前!」

「よせよ、またぶっとばされるぞ?」

 

流石に数日同じことされ続けると慣れるってもんだ。扱い方がわかればこんなもん。

 

 

 

時間は飛んで昼。例によって屋上で筋トレと昼食。最近は最初からレイがついてくるようになった。前より裏手引きする奴らも減ったし、レイが自分の意思で来てるんだろな。ケンスケだけはずっといるのがわかる、シャッター音駄々漏れだし。

 

「そいやレイ、今日は零号機の再起動実験だっけか。」

 

「そうよ。」

 

「頑張ってな。俺は零号機とのアークシステム連動試験があるから直接には見てあげれない。でも、システムを通じて会いには行けるから。」

 

「何だか、少し…寂しい。」

 

「大丈夫。上手く行くよ。」

 

「ありがとう、影嶋君。」

 

 

 

 

 

[これより、零号機再起動実験及びアークシステム連動試験を行う。]

 

[レイ、準備はいいな?]

 

[はい。]

 

[エイジ君もいいわね?]

 

[俺はいつでも。]

 

[第一次接続開始]

[主電源コンタクト]

 

俺が初号機の起動実験をやったときと同じ流れだ。違うところといえば、シンクロが一発で上手く行っていること。ま、大丈夫。今度は上手くいくよ、レイ。

 

 

[0.3、0.2、0.1、ボーダーラインクリア!]

[零号機起動!]

[引き続きアークシステムとの連動試験開始!]

[LCL電荷!]

 

来た。リラックスさせていた意識を今度は集中させる。

 

[クロッシングスタート!]

[MAGI・メルキオールとシステム直結!リンクスタート!]

[システム、オールグリーン!クロッシング成功!]

 

目を開くと、零号機の視覚情報がプラグ内に映し出される。監視塔には指令、副指令、赤木博士、シンジ君ほかオペレーターがいる。

このままジャック試験かと思いきや、指令が突然叫ぶ。

 

[総員、第一種警戒体制!初号機を出撃させろ。]

 

使徒か。

 

「待った、すぐにエヴァを出すのは危険ですよ。」

 

[何?]

 

「指令は、前回の作戦の失敗原因が何かをご存じですか?」

 

[初号機パイロットの命令違反だろう。]

 

「いいえ、それはアドリブの範囲です。彼は初期の作戦は忠実に従っていました。」

 

[私らはお喋りをするためにここに居るのではない。]

 

「黙って聞けよ。んなんだから毎回毎回施設をむやみやたらにぶっ壊されんだぞ。」

 

[言い方を考えなさい、エイジ君。]

 

「これは失礼、赤木博士。じゃあ結論だけ言います。敵のスペックがわからないのに盲目にエヴァを上に出すのは危険です。通常兵器で動向を見るべきですよ。」

 

[ふむ、彼の言葉にも一理ある。どうかね碇。]

[…たまたま2回上手くいっただけの子供に何がわかる。]

 

「それで出して初号機壊されても知りませんよ?その責任を俺に擦り付けないでくださいね?」

 

零号機を通して指令を見る。「初号機」というワードを出したとき、指令の眉が動いた。初号機には何かあるらしい。

 

[…わかった、好きにしろ。]

 

「ありがとうございます。それじゃ、全体の指揮は俺じゃなくてミサトさんに頼んでください。そういう組み立てはミサトさんの管轄なので。」

 

[わかった。君も作戦発動したら、前線指揮を頼む。]

 

「了解。赤木博士、とりあえずコントロールジャックだけ確かめておきましょ。」

 

[あんなことを言っておきながら呑気ねぇ。すぐ終わらせるわよ。]

 

「あい了解。」

 

事実、前回の作戦に関しては冷静に分析をしたことがある。え?いつやってたかって?授業中だよ。ダルいんだもんあの人の隙自語。それで第四使徒戦を客観的に見たときの感想でも言っておくか。

まず、大まかな作戦は合っていたと思う。ある程度リーチがある攻撃方法ってのは第三使徒にもあったし、それを見越してのガトリング掃射からの退避は正解。民間人二人を回収するためにも、地面落としでの回収も正解だった。

逆に、ガトリングが効いていないことを瞬時に判断できずに、ライフルを持たせようとしたのは悪手。更に、ヤツは敵…つまり初号機が出現してから鞭を出してきた。これも攻撃能力を隠されていたことになる。

体型が人間とかの生物から遠ざかるほど、攻撃方法はわからなくなっていく。そのためにも、スペックを調べるための通常兵器というのは重要だ。

 

さて、尺稼ぎできたかな。ジャックテストも問題なく終わった。そんでもって、俺はシャワーを浴びて、一度着替えてから発令所へ向かう。

 

 

「あら~、有能な前線指揮官様は重役出勤ですの?ご苦労様です。」

 

「こういうときにふざけるのはよくないですよミサトさん。んで、状況はどうです?」

 

「今色々やって、あいつのことが結構わかってきたわよ。」

 

話を要約すると、

 1.敵は本部直上で静止、ドリルを出して穴堀り中。10時間後に全装甲板を破られる。

 2.敵の主要な攻撃方法は荷粒子砲。

 3.敵は攻撃意思をもったものに対して極めて正確な当て返しをする。

 

「こいつはなかなか強敵ですね。荷粒子砲の精密射撃とは、近づくことは不可能ですねこりゃ。フィールド中和の攻撃方法はまず無くなる。ドリル側に攻撃方法があるかが不明だから真下からの狙撃も危険。うーん、今NERVにある武装じゃ無理じゃないですか?」

 

「ええ。状況はかなりこちらが不利ね。零号機はどう?」

 

「クロッシング、コントロールジャック共に問題なし。命令があれば、いつでもアークに入れますよ。」

 

「実戦は何とかできそうね。問題は攻撃方法…。」

 

「どうします?白旗でもあげますか?」

 

「意志疎通が出来ない相手に白旗たぁ面白いっすね。」

「ナイスアイデア。でもその前に、やれることはやっとかなきゃね。戦自行くわよ。」

 

「戦自ですか?何があるんです?」

 

「うちの諜報部のリークでね、面白いモン開発してんのよ。」

 

戦自…正確に言えば戦自研で見たものは好奇心をそそられたが、思った以上にゴリ押しな作戦だった。正直、俺のアシストがあっても一発で成功するかどうか。でも、日本全体を巻き込んで行うこの作戦は、使徒に勝つための唯一の作戦だった。

名称は"ヤシマ作戦"。シンジ君に那須与一になれって言ってんのかこれ。

 

 

 

本部に戻り、控え室に入る。中では、プラグスーツ姿のレイとシンジ君が白い机の前に座っている。

 

「よォ、レイにシンジ君。待機してるのも疲れるだろ。これは俺の奢りだ、受け取ってくれ。」

 

「エイジ君!?今までどうしてたの!?」

 

「ちっとミサトさんに連れられてね。外をほっつき歩いてた。」

 

そう言ってホットココア2本をそれぞれレイとシンジ君に渡す。

 

「ありがとう。」

「ありがと、エイジ君。」

 

シンジ君は軽く振って飲むが、レイは飲もうとしない。

 

「ん?もしかして飲めなかったか?」

 

「いいえ、開け方がわからないの。」

 

「そっか。こうして開けるんだよ。爪気を付けてね。」

 

レイの横に座り、缶をよく振ってから、プルタブを開ける。レイもそれを真似て缶を開き、ココアを飲む。

 

「…おいしい。」

 

「そいつはよかった。」

 

俺はココアを一気飲みし、立ち上がって作戦内容を伝える。

 

「よし、それじゃあヤシマ作戦の作戦説明だ!今回の作戦概要は、あの青い半透明の正八面体を超遠距離から狙撃すること。敵の当て返しが想定されるため、狙撃、防御の役割分担がある。狙撃役はシンジ君、防御役はレイだ。」

 

「根拠は?」

「ぼ、僕今まで狙撃なんて一度もやったことないよ?できるかな…。」

 

「まずは根拠からだ。シンジ君は初号機とのシンクロ率が高く、機体操作に不安定が無いことが狙撃役の理由。レイに関しては、零号機がそもそも起動したてでまともに調整をしていないというのが理由だ。両者とも、必要なタイミングでアークシステムの補助をつける。

そんでもってシンジ君、ここからは君の重要な立ち回りだ。」

 

シンジ君の顔が険しくなる。

 

「今回使う武器ってのは陽電子ライフル。こいつが曲者で、敵の攻撃の干渉や地球の自転や重力なんかでこちらの弾がまっすぐ飛ばないことがある。それだから、確実に一撃で仕留めるっつーのはだいぶ難しい。照準後の誤差修正とかはMAGIに全投げして、チャージと照準が終わったらトリガーを引けばいい。弾は暫く銃口から出続けるらしいから、照射が終わったらすぐ移動してくれ。ポイントは逐次こちらで知らせる。」

 

「何となくわかったよ。要は準備できたら撃って、撃ち終わったらすぐ移動すればいいんだね。」

 

「そんだけわかりゃ十分だね。お次はレイ!」

 

彼女の顔が少し強ばる。

 

「防御に使うシールドなんだが、理論上は敵の攻撃に対して17秒間もちこたえられる。だけど陽電子ライフルはチャージに最短で20秒かかる。仮にチャージと同時に防御する場合、3秒間だけ無防備な時間が発生しちゃうんだ。そのリスクを知っておいてくれ。」

 

「わかったわ。」

 

「よし、お次はスケジュールだ!一度しか言わねぇからよく記録させとけよ?

作戦開始時間は、明日午前0時から。

本日17時30分に両パイロットはケイジに集合。

18時00分にエヴァ零号機、初号機起動。

同5分に二子山仮設基地に向かい、30分に到着。以降は待機だ。

んで、明朝日付変更と同時に作戦開始。

二人ともオーケー?」

 

「わかった。」

「了解。」

 

「俺はシステムの都合上、ここに残らなきゃならない。戦場からは遠くにいるけど、エヴァの中ならいつでも傍にいる。頑張れよ。」

 

「うん。」

「ええ。」

 

「それじゃ、行ってらっしゃい。」

 

 

 

現在時刻18:45。アークシステムに搭乗、起動させミサトさんと連絡を取る。

 

「ミサトさん、設営どうです?」

 

『だいぶ順調よ。ありがとうね、作戦概要の説明までエイちゃんに投げちゃって。』

 

「これも前線指揮官の仕事ですからね。彼らとの位置はだいぶ遠いですけど。」

 

『上手いわよ、エイちゃん。エイジ君、あなたのお陰でだいぶ指揮もスムーズに行ってるわ。本当にありがとう。それじゃ、こちら側の作戦も説明するわ。

これから冷却装置と送電システムの最終チェックを行うわ。その後、作戦開始と同時にMAGIによる照準修正を開始。仮に敵がこちらを察知できても、先に撃てれば問題ないわ。それで確実に仕留める。』

 

「作戦というか狙撃の手順まんまですね。それなら、なるべく気づかれないよう時間稼ぎが必要ですね。…アークシステムに周囲の山中にある兵装ビルの操作権限を寄越してもらえませんか?後は俺が導きます。」

 

『なるほど、多くの弾をバラまいて、敵の気を引こうって作戦ね。いいわ、指令と交渉する。』

 

「ありがとうございます。なるべく”万一”ってのは減らしたいですしね。」

 

『そうね。』

 

「それじゃ、こちらとの通信終わり。そちらも頑張ってください。」

 

『エイジ君も、サポートよろしく。』

 

通信終わり。お次は…お二人と少し会話していくか。あんまりイタズラはしたくないけどね。

零号機をジャックして、

「よっ」

って感じにジェスチャーさせる。レイもシンジ君も驚いてこちらを向いている。はは、面白。

 

「二人と話したいからさ。悪いね。」

 

[め、めっちゃ驚いた…。]

[……。]

 

「ごめんて。これで少しは緊張は和らいだ?」

 

[え?うーん、どうだろう。]

[わからない。]

 

「ま、考える余裕があるのなら平気だな。…今回の作戦、俺のサポートがどこまで効くかは正直未知数だ。それにそもそもがゴリ押しのような作戦。こんなものでも付き合ってくれて…本当にありがとう。」

 

[やだな、エイジ君らしくない。]

[それほど厳しいってこと?]

 

「残念ながらそうだ。でも、俺は絶対に諦めない。…もうそろそろ時間だ。ジャックを切るよ。」

 

[エイジ君も頑張って。僕らも頑張るから。]

[誰も死なせないわ。]

 

通信終了。

 

「ありがとう。」

 

 

 

[時間です。]

[ヤシマ作戦開始。]

[第一次接続開始!]

 

「兵装ビル、ミサイル7番から20番、解放次第発射!」

 

ディスプレイに表示される地形図と、ライブ映像を確認しながらこちらも時間稼ぎの指揮を執る。結局、操作は発令所に残ったオペさん経由になった。

 

「砲台6番から25番まで展開、射撃開始!」

 

指示を飛ばした所から順番に撃墜され、兵装ビルが破壊されていく。お構い無しに間髪入れずに次々に指示を飛ばす。狙撃ポイントが勘づかれたら終わりだ。

 

[撃鉄起こせ!]

 

「よし、このまま絶対に攻撃間隔を空けるなよ!アーク、初号機とクロッシング開始!」

 

画面が移り、今度は初号機…正確には初号機が覗いているスコープの画面が投影される。

 

「シンジ君、準備はいい?」

 

[大丈夫だよ。]

 

次の狙撃ポイントはここから1.3km東に移動したポイントだ。MAGIに位置座標を転送する。これで誤差修正もある程度早くなるだろう。こうしている間にもカウントは進められていく。

 

[5、4、3、2、1]

[撃てッ!!]

 

ミサトさんの号令と共に放たれた初号機の射撃は、正確に敵のコアを貫いた―ように見えた。

 

[やったかッ!?]

 

バカ!ミサトさんそれはフラグってもんだ!

 

[砲身冷却、再チャージ開始!]

 

「初号機、零号機!次の狙撃ポイントを転送する、各自指定座標へ移動!敵がやられたかの確認ができない以上油断するなよ!零号機とクロッシング開始!」

 

[了解!]

[了解。]

 

第一射は恐らくハズレだ。ということは、ここに弾が飛んでくる可能性が極めて高い。素早く移動できたが、果たして―

 

[目標内部に、高エネルギー反応!!]

 

マズい、移動が間に合わない!!!!

 

「レイ!」

[わかってる。]

 

零号機は盾で初号機を庇う。こちらにもそこそこフィードバックが来ており、体表が熱くなっている感覚がある。

 

[綾波!]

 

[碇君、行って!]

「シンジ君行け!今なら狙撃ポイントに行ける!」

 

[わ、わかった!]

 

「再チャージまでどれくらいだ!」

 

[残り10秒!]

 

まずい、既にこの盾で10秒は受けた。間違いなく間に合わない。…レイを殺すわけにはいかない!

 

「零号機にコントロールジャック開始!」

 

[え!?]

[影嶋君!?]

 

「オペさんやってくれ!」

 

[…了解!]

[待って!]

 

数秒後、俺は零号機とシンクロした。

 

突如としてプラグ内を照らす青白い閃光。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああっ!!!!!」

「AT…フィールド…全開ぃい!!!!」

 

物凄いフィードバックが来る。体全体が焼き尽くされそうだ。それでも、この痛みを、レイに受けさせるわけには…ッ!!

 

[…まよ、撃っ…]

 

何か聴こえたが、理解できなかった。この苦しみに耐えることしか、今はできない。数秒後、閃光から解放されたようだが、よくわからない。でも、これはわかる。作戦は、成功…だ…。

 

 

 

 

ここは…?朦朧とする意識。なんか近くで規則的な音を鳴らしてるものがある。あと、口の周りに何かを当てられている。手を何とか動かして見ると、呼吸器のようだ。ああ、病院か。手にも管が…こいつは点滴か。

まだ意識がはっきりとせず、眼鏡もないから周囲の輪郭しか把握ができない。ん?誰か座ってる?青い髪…。

 

「…れい?」

 

掠れた声しか出ない。それでも、俺の声に反応して起きたレイは、こちらを見ている…ようだ。顔がわからねぇや。

 

「影嶋…君…?」

 

「ごめん、目が、わるくてさ…。レイのかおが、よく…。」

 

言い切る前にレイが凄い勢いで俺に顔を近づけてくる。うん、これならはっきり見える。

 

「影嶋君…私、泣いてるの?どうして…?」

 

「俺が生きてたよろこびか、むちゃくちゃをした俺にたいする怒り…そのどっちかだ。」

 

「私、私は…」

 

顔を背けて泣き続けるレイを優しく抱く。彼女の体は一瞬ビクっとしていた。

 

「ありがとう、レイ。」

 

 

 

見舞いに来てくれたシンジ君は、これを見てしまい入室できなかったようだ。俺は結局、戦線復帰するまで3週間はかかるとか。

その間に色んな人から怒られたな。ミサトさんからは泣きながら怒られたよ。「無茶すんな!!」ってさ。学校復帰してからは、トウジからも「幾ら綾波を庇った言うても死んだら終わりやぞ!」って言われたよ。

でも、こんな終わった世界でも俺のことを心配してくれる人がこんなにもいる。その人たちを守ることができた。それが一番の喜びだった。

 




序、終劇。


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幕間1:階級が上の人間との格闘戦は死ぬほど疲れる

次からアスカ登場です。期待していた方はもう少しお待ちください。


「できたよ。あつつ…。」

 

「無理、しないで。まだ治り切ってないのよ。」

 

「だからつってサボると下手になっちゃうからね。じゃ、食うか。」

 

「ええ。」

 

「「いただきます。」」

 

「どう?今日は豆腐ハンバーグをメインに周りを合わせてみたんだけど、美味い?」

 

「…おいしい。」

 

「そいつぁよかった。」

 

 

俺らは今、ミサトさん宅の横の部屋に住んでいる。何でかって?もともとレイが住んでた部屋ってのは2人目がキツそうだったからね。にしてもだいぶ面倒なごたごたがあってレイに移住してもらった。ほんと、その期間は地獄のような数日だった…。

 

 

 

 

まず、俺は立てるようになってすぐ、指令の部屋に向かった。

 

「指令、レイを葛城一尉の住居の近く、同じマンションに住まわせるべきではないのですか?その方が監視もやりやすいでしょうし、何よりレイが最低限以下の生活をすることが無くなります。どうでしょう?」

 

「必要ない。」

 

「何で即答できるんですかね。人間を何だと思ってるんですかあなたは。」

 

「必要ないと言っただろう。」

 

「るせぇ!パイロットを生体パーツ扱いすんな!んなんだから息子からも愛想つかされんだぞ!!」

 

「……」

 

ダメだこりゃ。ここまで頭の固いご老人だとは思わなかったよ。徐に携帯を手に取り、虎の子の録音データを使う。

 

「本当はこのカードは使いたくなかったんですけどね…。」

[碇指令。私…影嶋君と、みんなと生きたい。だから、お願い。一緒に住まわせてください。]

 

あーあー。明らかに動揺してるわ指令。そらそうだろなァ、指令ですらレイのこと人間扱いしたことねぇってレイ本人が言ってたもん。向こうからしたら人形が自分の意志を持ったようなもんだろなぁ。しかも、強要されてこんなことを言う子じゃねぇってのは俺も、指令も知ってることだ。だから余計に動揺しんてんだろう。

 

「レイが…そこまで言うのか。ならば仕方あるまい…。」

 

「ありがとうございます。家具とか服とか揃えたいんで、そこの金もよろしくお願いしますね。それじゃ失礼します。」

 

「ああ。」

 

 

(いいのか、碇。計画に支障が…アークだって元は造る気が無かったんだぞ?)

(この程度ならどうにか修正できる。)

(だが…)

 

最後までは聞こえなかったが、レイが感情を持つと何か問題があるのだろうか。部屋を出る間際、不穏な会話が聞こえてきた。でも、そんな話を人前でやるくらい狼狽しているのが見て取れて、クッソ面白かったなァ。

 

 

 

「というわけで、話が通ったんで連絡しました。住所は葛城一尉の部屋の真隣ですよ。あ、あとすぐやれ言ったから2日くらいで移住できるんで、そこはパイロット監督官としてよろしくお願いしますね。」

 

『え、エイジ君?私に話を通さずに指令と話つけてきたっていうの?』

 

「不服ですか?俺は一尉と違って子供に手を出したりはしませんよ?」

 

『あんたも子供だろがい!それに「私と違って」て何よ!だいたいあんたはそういう生意気な…』

 

うっるせぇ。耳を離してもよく聞こえてくる。

 

「冗談の通じねぇ人だ…。」

 

 

 

「…というわけでさ、話つけてきたよ。よかったな、レイ。」

 

「ありがとう。」

 

「住居変更である程度荷物とか移動できるけど…この感じ持ってくもんなんて全然なさそうだよなぁ…。」

 

「こっちで選ぶ。」

 

「あいよ。んじゃ、外出しよっか。」

 

「え?」

 

「服ほどんど持ってないでしょ。買いに行こう?」

 

「…うん。」

 

んじゃ、ショッピングモールに出掛けつつ電話で便利屋に連絡するか。

 

「どうも、剣崎さんですか?はい、影嶋です。今ファーストと同行中でしてね、今回は用途外使用させてもらおうと思って。…あ、ちょっと切らないでくださいよ。今暇な女性NERV職員を一人寄越して欲しいんです。え?忙しい?そんな程度くらいお願いしますって。…はい、こんな使い方はたぶんしませんから。…ありがとうございます。それじゃ、中央にあるショッピングモールに30分後集合って伝えといてください。じゃ、お願いします。…はい、失礼します。」

 

「影嶋君?」

 

「ここは俺だけじゃなくて、大人の女性の方も参加してもらわないとね。」

 

「?」

 

 

 

「それなら、こういう組み合わせもいいんじゃないんですか?」

 

「あ、それいい!エイジ君、隠れた才能ね!」

 

「そうですかね?」

 

「…どう?」

 

「可愛い~!そうよねエイジ君!」

「ええ。とっても似合ってるよ。」

 

寄越されたのは伊吹さんだった。当人はどうにか時間作って来たと言っていたが、この感じ本当に暇してたんだろなァ。3人でレイの服を物色する。つっても、ほとんどは俺と伊吹さんが選んでたけどね。ここに来てからかれこれ2時間くらい、こんな感じでずっと服を選んでる。…ん?あいや、嘘言ったわ。入ってすぐ、俺の眼鏡を買った。先の戦闘で眼鏡がイカれちゃってて、今まで何とか無理矢理使ってたからね。それだけは申し訳ないけど優先させてもらった。眼鏡がねぇと生活できねぇんだわ俺。

 

 

そんなこんなで昼過ぎ、というか結局14時まで探して、だいぶ買い込んだ。こんなんでいいかな、ついでに俺も好きなジャケット買えたし。

今は各々が注文した昼を食いながら会話してる。ペッパーランチ美味いよね。

 

「今日は楽しかったね、レイ!」

 

「楽しい…これが、楽しい。」

 

「そ。俺も楽しかったよ。」

 

「そう、嬉しい。」

 

「そいつはよかった。…失礼、電話が。

はい影嶋ですが。…赤木博士?何です?……は?今からアークの稼働試験?明日にしてください。…いや、ほんと頼みますって。明日は俺が手出しできないことしか発生しないんで、ほんと。」

「貸して!」

「伊吹さん?」

 

「先輩、伊吹です。ちょっと、酷いですよ!?子供達が楽しそうにしてるとこに水を差すなんて!…はい、エイジ君に呼ばれて同行してます。…そりゃ、勿論ですよ!……ありがとうございます!失礼します!…先輩、明日にしてくれるって。」

 

「伊吹さんが同行してくれて助かりましたよ。ありがとうございます。」

 

「ありがとう、伊吹二尉。」

 

 

 

その後っつーと…一回荷物置きにレイの家に帰ってから、夕食の食材を買いに二人で街をぶらぶらしてたかな。特に何も起きなかったし。

 

レイの家に帰ると、押し入れの奥で眠っていたテーブルを出し、食器を置く。床はある程度清掃したし、土足で上がらないように注意したからだいぶきれいになった。

正直、何度かレイの家に上がって押し入れを物色したときに割と生活できる道具が揃ってたのは驚きだった。んでも当のレイが使い方をわかっちゃいなかったし、実質無かったってことでもいいだろ。

小さな台所で2人分の夕食を作る。今日のメインは唐揚げとキャベツの千切り。レイが肉を食ってみたいなんて言ったときは驚いたけど、俺が美味そうにしてるのを見て食いたくなったとかかな。

 

「「いただきます。」」

 

正直、レイがどんな反応をするかが気になって、自分の食事に手をつけるのも忘れてレイを見ていた。彼女は唐揚げを取り、少しだけ、でも肉の部分もちゃんと一緒にかじる。

レイが飲み込んでから、感想を訊いてみる。

 

「…どう?」

 

「美味しい。」

 

「はァ~、そりゃよかった。少しづつ慣れてこうな。」

 

「ええ。…影嶋君、食べないの?」

 

「あ、これは失礼、ちゃんと食べるよ。」

 

正直、ここでの生活も悪いもんじゃないかな、って思ってしまった。

 

 

 

「私も食器、洗うわ。」

 

「え?いいよ、こんだけしかないしさ。」

 

「やらせて?」

 

「…わかった。」

 

にしても、ここ数ヵ月で見違えるほどの変化が起きたなァ、レイ。最初はマジで人形って揶揄するのが正しいくらいに何もなかった子が、まさかあんなワケわからねぇからかいを切欠にこんなになるとは。やっぱ人生何度目でも、何が起こるかわかりゃしねぇんだよなァ。

 

「どうして、笑っているの?」

 

「レイが成長してくれたから、かな?」

 

「そう?」

 

「そうよ?ちょい前のレイだったら自分から話しかけることなんて無かったろ。」

 

「…そう。」

 

レイは少し顔を赤らめて、微笑んでいた。

 

 

 

「んじゃ、俺はこれで。明日の学校からは復帰できると思うよ。」

 

「わかったわ。」

 

「じゃ、おやすみ、レイ。」

 

「待って。」

 

「え――!?!?」

 

突然抱きつかれた。俺も体力が落ちてたからか、外の手すりまで豪快によろけてしまう。

 

「…どうした?レイ。」

 

「行って欲しくない。」

 

「不安、なんだな。俺がどっか行っちゃいそうで。…大丈夫だよ。俺はどこにも行かないからさ。ちゃんとレイのとこに帰ってくるから、ね?」

 

「うん…。」

 

レイを離し、彼女の目を見て言う。

 

「だから、それまで少し我慢して。ね?」

 

「わかった…。」

 

「じゃ、今度こそおやすみ。」

 

「おやすみなさい。」

 

 

 

 

葛城宅。

 

「ただいま。」

 

「あ、お、お帰り。」

 

「ん?シンジ君どした?」

 

「ねえ、聞いたんだけどさ。綾波と住むって…本当?」

 

「え?本当だけど。何想像してんだ?住む言ったってここの真隣だぞ?」

 

「い、いやそうじゃなくてさ!て、抵抗とか…ないの?」

 

「うーん、無いかなァ。ほんとどしたん?何想像してんだ?」

 

「あ~らお帰りエイちゃん。レイとの関係が進んで、私嬉しいわ~。」

 

「シンジ君にあらぬこと吹き込んだのミサトさんですか?何やってんです。」

 

「さーって、私にはさっぱり。私はまた話のネタが増えて嬉しいのヨ。」

 

そう言ってまた盗撮写真を見せてくる、またこの手法かよ…ってこれさっきのか!!!

しかもこんなバッチリ全体が撮れてやがる!どうなってんだ!?!?

おい、シンジ君。何顔を赤くしてんだ。誤解だ誤解!!

 

「おぉいミサトさん!?!?!?」

 

「諜報部をこき使うのはあなただけじゃないのよ。」

 

「あーあ、明日から学校行きたくねぇわ…。」

 

 

 

学校は、レイと登校するまでは平和だった。いや、静かすぎたのを不穏に感じるべきだったんだけど、いつものバカ二人に絡まれないってのが安心を誘ってしまったのよ。

教室に着いて、俺らが席に着くと、それの数分後に事件が起きた。

 

「おォいエイジィ!!!!!!!!綾波と同棲ってどういうこっちゃ!!!!!!!!!!!」

 

「「「「「えぇえええええええ!?!?!?!?!?」」」」」

 

教室の視線が俺ら二人に集中する。綾波ななにも言わず、俯いて顔を赤らめてる。てか少し笑ってるよね?え、俺?顔真っ青だよ。こんな簡単にバラされるとは思っても見なかったし。

大バカの後ろには天を仰いでるケンスケと明らかに狼狽しているシンジ君がいる。

 

「シンジてめぇ!!!!!!裏切り者ォ!!!!!!!!」

 

「ミサトさんなんだよ元凶は!!」

 

「あのバカアル中女が!!!」

 

言い終わる直前くらいに女子に男子まで俺らの周囲にたかって来やがる。自主休校すればよかったと激しく後悔してる。あ、いや時期がズレるだけだわ。

 

「本当なの!?」

「ねぇどっちから言い寄ったの!?」

「綾波さん、幸せ者だわ~!」

「本当に夫婦になっちまったなwwwwww」

「なあ、綾波とはどこまでヤったんだ!?」

「俺がそんなことする訳ねーだろ!?」

「またまた、ご冗談を~」

「こんな写真まであるんだ、ネタは上がってんだぞ!」

「な!?それはミサトさんの盗撮写真!?」

「え~見せて~!!」

「エイジ君イケメ~ン!」

「委員長もエイジ君とか綾波さんを見習ったら~?」

「な、何で私がそんなこと…!」

 

しゅ、収集がつかねぇ…。じゃ、俺ら逃げるから…(恐怖)。綾波の手を引いて、ついでに俺らの鞄も回収して教室から強引に飛び出る。

 

「あ、逃げた!」

「男子!追え追え!」

「待てやエイジィ!ちゃんと説明しろや!」

 

「学校、どうするの?」

「すまんが自主休講だ!許せシンジ!NERV行こう!」

 

「え!?僕!?」

 

今度はシンジに人だかりが発生する。まァ俺と同居してたこと、つまりミサトさんを恨むんだな。走り去る中、担任とすれ違う。

 

「あれ、君たち、これから授業が…」

 

「すみません早退です!行こうレイ!」

「ええ。」

 

「待ちやがれエイジィ!!!」

しつこいなお前。…でも何か、こんなファンタジーなのも楽しいなァ。

 

 

 

幸せの享受ってのは誰であれ妨害されるべきものでは無いと思う。俺はレイを通じてそれをより一層強く感じた。こんな幸せを受け取ったのだから、俺は死んでも絶対に手放さない、そう胸に誓った。

 




レイって心を許した相手にはめっちゃ甘えてきそう、そう思いました。


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St.8:高飛車な女の子ってのは滅茶苦茶苦手だ

アスカ来日。破、開幕。
なんか凄い伸び方をしていて驚いています。読んでくださる方々へ。ありがとうございます。


新横須賀沖での対使徒戦闘記録。水中を移動する使徒に対し、真っ赤なエヴァが空母を使って見事な八艘飛びを披露し、使徒の体表をプログナイフで深く切りつける。その後、戦艦2隻がその傷目掛けて主砲の接射を行い、使徒は殲滅された。

 

「見事な八艘飛びですね。対応能力も素晴らしいです。でもこれじゃ生き残る方が逆じゃないですか?」

 

「え?どういうこと?」

 

「シンジお前、日本史の授業聞いてねぇのか?八艘飛びは源平合戦での伝説で、その合戦の勝者は白旗の源氏、敗者は紅旗の平家だ。使徒とエヴァの色を掛けた比喩だよ。」

 

「エイちゃん縁起でもないことサラッと言うわね~ほんと。」

 

「八艘飛びを知っていれば、かなりわかりやすい比喩ね。それにしても、本当に噂以上の実力ね、セカンドは。」

 

「でも何故使徒があんなところに…?」

「確かに不自然ですね。それにアレの体型、ここに来ることを想定したつくりになってませんよね。どう見ても魚ですし。」

 

「輸送中で無防備だと思われる弐号機を狙ったとも考えられるわね。」

 

「その弐号機は今どうしてんの?」

 

「第5ケージに冷却保管中。アスカはホテルで休ませているわ。」

 

「アスカって名前なんですね。」

 

「そうよ。惣流・アスカ・ラングレー。セカンドチルドレンの名前よ。」

 

「へぇ。」

 

「どんな人なんですか?惣流さんて。」

 

「あら、エイちゃんとは違ってシンちゃんは気になるのね。」

 

「そりゃあ、仲間としてこれから一緒に戦うワケですし。」

 

「エイジ君に似て、とても聡明な子よ。14歳でもうドイツの大学出てるしね。」

 

「え!?大学!?」

「へぇ~そういう天才系の子って実在してるんですね。漫画だけの世界かと思いましたよ。」

 

「あんたたちの中じゃ一番マトモかもね。」

 

「どういう意図で言ってるんです?」

「どういう意味です?それ。」

 

「ま、明日正式に手続きが終わったら紹介するわ。楽しみにしててね。学校終わったら、すぐ本部来るのよ?」

 

「はい。」

「はい。」

「あい了解。」

 

俺ら子供は外に出ようとするが、俺だけ赤木博士に引き留められる。

 

「どうしました?」

 

「アスカ、クロッシングとジャックに強い抵抗をするかもしれないわ。くれぐれも気を付けてね。」

 

「ああ、もしかしてそういう…わかりました。俺も無理強いする気は無いんで。ジャック以外はね。」

 

「よろしく頼むわ。」

 

「影嶋君?」

 

「あ、ごめんレイ。終わったから向かうよ。悪ィね。」

 

 

 

 

エレベータ。

 

「ねぇ、エイジ君は気にならないの?惣流さんのこと。」

 

「え?どうだかなァ。人聞きの前情報ってのは信頼に欠けるとだけ言っとくわ。」

 

 

 

次の日の放課後。

 

だいぶ冷やかしも沈静化した。んでも未だに数名が絡んでくる。例えば―

 

「おーおー、お前らは相も変わらず仲良しよのォ、エイジに綾波。」

 

「お前ら、ほんっと飽きないな。もういい加減僻むのもやめたらどうだ?」

 

「誰が僻んどるんや!!!」

 

「いい加減にしなよトウジ。」

 

「なあ、シンジは悔しゅうないんか?」

 

「え?何が?」

 

「何がって、綾波とエイジがくっついとることや。シンジも綾波に惚れとったんやろ?」

 

「そんなんじゃないよ。それにエイジ君らはずっとくっついてた…っぽい…し。」

 

「「え。」」

 

「初見の時ならアレは誤解だぞ?」

「ええ。」

 

「は?何やお前、そない昔から綾波と…」

 

「ちくしょ~~~~~~!いいなー碇とエイジは。ミサトさんや綾波のような美人と一緒に暮らしてんだからさ~~~~~~!」

 

「今の聞いたらワシまで悔しゅうなってきたわ!シンジ!何か奢れ!」

「んでそーなるんだよ!?」

 

「あ!おい、見ろよトウジ!」

 

ケンスケの視線の先には、俺らと同じくらいの年齢の子がゲーセンでクレーンゲームをやっている。彼女の服装は丈の短いワンピ。つまりそういうことだ。

 

「うっお~、激マブ!」

「ちょー好み!」

 

「あ、ほんとアイドルみたい。」

「碇、お前は見んな!」

「あああ、何でだよ!」

 

「けっ、どーせ作った顔だろ。あんな絵に描いたような美女が実在するかっつーの。行こうぜレイ。」

「ええ。」

 

歩き去る俺ら。ってあのエロガキ共、覗きなんてしようとしてんのか。

 

「ごめん待ってて、一発殴ってくる。」

 

レイは首肯だけすると、電柱近くで待つ。

だらしねぇ顔してるバカの頭頂に一発かませば大人しくなるだろう。

近くまで行くと、どうやら女子は景品を落としたことに悲鳴を上げ、何かの言語と共に筐体を蹴り飛ばす。あーあー、し~らね。それを見てか、覗こうとしてた二人もさすがに絶句してしまったようだ。

 

「あかん、ごっつ性格悪そーや。」

「ミサトさんよりヤバそう…。」

 

まあ、現行犯ということでトウジ・ケンスケの頭を殴り、撤収しようとする。

 

「エロガキ共が、行くぞ。」

 

「相変わらずお前のゲンコツは加減ちゅうもんを知らんのか?」

「ああ、一度でいいからあんな子に命令されてみてぇ~~!」

 

ええ…。あ、んな事言うから俺らが捕捉されちったじゃねぇかよ。

 

「ちょっとォ、あんたたちさっきから何見てんのよ!?」

 

「「「え」」」

 

女子が俺らに詰め寄ってくる。

 

「100円ちょーだい。」

 

「へ?100円?」

「カツアゲとかしょうもねぇ…。」

 

「見物料よ!あたしのパンツ見たでしょ!?」

 

「まっ、まだ見てへんわい!」

 

よく観察してたな、さっきまでクレーンゲームに夢中だったのに。

 

「あ~ら、だっさい格好して100円も持ってないの~?使えないわねぇ~。」

 

「お前、ちょっとカワイイからっチョーシこいてんやないぞ!」

「ちょっと、気安く触らないでよ!」

 

「バカトウジがマジで!」

 

鉄拳制裁。トウジを殴り飛ばし、女子を客の迷惑にならないように引き剥がす。

 

「あだァーッ!!!!!」

「あんたもあんたよ!ほんと、気安く!」

 

やっぱ口より手が先に出るタイプだよな。パンチを回避し、トウジを回収してゲーセンから離れる。みんな、少し離れていたレイのところに集結する。

 

「みんな、撤収するぞ。あんなヤバいのに絡まれたら命がいくつあっても足りねぇや。」

 

全員が同時に首肯すると、一斉に走って逃げる。

 

「あ、こら待て眼鏡ヤロー!!」

 

「あっ!!罵倒もいい!!」

 

「ケンスケ、アレは俺に対する言葉だよ…。」

 

 

 

全員、息が上がりながらも何とかあのおっかねぇ女を撒くことができた。全員、顔が真っ青だ。あいや、レイはいつも通りだったけど。

 

「こ、ここまで来れば大丈夫だろ…。」

「酷い目に遭った…。」

「ああ、もう一度会ってみたい…!」

「やめとけケンスケ、殺されても知らねぇぞ。」

 

とりあえず、ケンスケとトウジはここで離脱。俺らは本部へ向かう。全員疲れきってか、一っ言も喋らない。ゲート近くに来ると、何かを足蹴りするような音が聞こえる。まさか、まさかとは思うけどさ…。

 

「何よこの機械、壊れてんじゃない!?」

 

ジーザス!!!どうしてこんなことになるんだ!!!!!

 

「おっ前…!」

 

「ちょっと、どうなってんのよこの機械、作ったばっかのカードなのに…って、あんたは!!!」

 

あの後レイから聞いたとこによると、俺と惣流さんの目線が合ってバチバチ火花をあげる幻視が見えたそうだ。どういうことだよ…。

 

 

 

「紹介するわ。惣流・アスカ・ラングレーさん。今日から弐号機で参戦してくれます。」

 

「よろしく。」

「よろしく。」

「よ、よろしく。」

「凄まじい顔の使い分けだ…。」

 

「何だってんのよあんた!」

 

「よろしくお願いいたします、惣流・アスカ・ラングレーさん。」

 

「かーっ、ムカつく奴ねあんた!」

 

 

 

一行は食堂に向かう。

 

「何でも好きなもん頼んじゃって。」

 

俺は軽めでいいからサンドイッチとジュースでいっか。シンジも同じようなもん、アスカはジュースのみ、レイはカレーを選んでた。なら夜は軽めでいっかな。

 

「ミサトさん、朝ビール昼ビールですか?太りますよ?」

 

「一本なんて飲んだうちに入らないのヨ。」

 

「ええ…。」

 

全員が席に着くと、ミサトさんから話を切り出す。

 

「第六使徒との戦いぶり、録画で観させてもらったわよ。流石、噂に聞く”セカンドチルドレン”ね。新米のシンちゃんとは実力が違うわ。エイジ君より腕あるんじゃない?」

 

「そんなァ、それほどでもないですぅ。あたしなんかまだまだで~、」

 

「そうだな、特に、口より先に手が出るところとかな。」

 

「何なのよあんた!さっきから横槍ばっかしてきちゃって!」

 

「俺にグーパン避けられた奴の言うことかァ?」

 

「むっかつく~!!だいたいパイロットでもないあんたがどうしてここに居んのよ!」

 

「アークシステム聞いてない?それに乗ってんの。」

 

「かーっ、エヴァにすら乗ってないのによく自慢できるわねぇ!」

 

「俺だって『どうせ使わねぇんだから参号機寄越せ』って無限に言ってるよ。それにまるで戦いを遊びみたいな言い方しやがって。」

 

「そんなこと―!」

 

「はいはい、ケンカはもうおしまいよ。もう、この後クロッシングとジャックのテストがあるのにいっ!?!?」

 

突如として現れ、ミサトさんに後ろから抱きつく無精髭を生やした男。

 

「なっ、誰よ、やめて!」

 

「加持さん!」

 

「え!?」

 

「相変わらず昼間っからビールか…。腹、出っ張るぜ?」

 

イケメンだ。イケボで顔が整ってて、長髪を後ろで束ねてる。その顔に生えている無精髭がちょうどいい感じに雰囲気を出してるんだよね。格好いい~。

 

「ななななな、なんであんたがここにいんのよっ!」

 

「ごあいさつだな、久しぶりに会ったのにさ。アスカの随伴だよ。」

 

「それははるばる遠くからご苦労様!用が済んだんならさっさと帰りなさいよ!」

 

「残念でした、当分帰る予定はないよ。」

 

「あっそ…」

 

なんかミサトさん、クッソ不機嫌だな。加持さんて昔の男だったり?

加持さんはシンジの方をみつめる。

 

「碇シンジ君って、君かい?」

 

「え?はい。どうして、僕の名前を?」

 

「そら知ってるさ。この世界じゃあ有名だからね。『何の訓練もなしにエヴァを実戦で動かし、これまでに3体もの使徒を倒しているサードチルドレン』てね。」

 

「へぇ~、すごいわねぇ。でも、4体目は私が倒したけどね。」

 

「そんな、僕なんてまだ…ただの、偶然ですよ。」

 

加持さんは、今度はこちらを見る。

 

「偶然も実力の内さ。君の才能なんだよ。それにその才能を引き出す、影の功労者。戦闘の現場指揮、零・初号機ともシンクロ可能で、パイロットたちのブレーキ役。いざとなれば自分の身を呈してパイロットを守る、アークシステムの搭乗者。影嶋エイジ君も、俺らの中じゃだいぶ有名だ。」

 

「それはどうも。」

 

「え!?指揮ぃ!?ミサトがやってるんじゃないの!?」

 

「エイジ君の指揮、凄いわよ~?私の作戦の穴を見つけて、それを埋めてくれるもの。」

 

「たしか、第5使徒でやった兵装ビルの飽和攻撃に狙撃ポイント指定なんかも、君の指揮だったな。」

 

「そうですね。あのときはそれが一番妥当だと思ったので。」

 

「へェ~…」

 

レイは自分だけ話に入れないのが不服なのか、少しムッとした顔をして加持さんを見ている。

 

「おっと、もちろんレイも知ってるよ。何せこの写真が有名だからね。」

 

そう言って一枚の写真を見せる。あ゛あ~!!ミサトさんが俺らを盗撮しやがった写真!!!!!

 

「は、はァ~!?!?何で加持さんまで持ってるんですかそれ!」

 

「にしし、ザマみろエイちゃん。」

 

惣流さんは加持さんの手から写真を奪い、まじまじと見る。

 

「何ぃ?予備にファーストの写真…こいつら付き合ってんの!?」

 

「最近同棲までしちゃってさ~。」

 

「ミサトさん!?!?!?」

 

「へぇ。あんた、なかなかやるじゃない。」

 

「ところでシンジ君、君は葛城と同居してるんだって?」

 

「ええ、ちょっと前まではエイジ君も一緒でした。」

 

「こいつ寝相悪いだろ?」

 

加持さんの笑顔から発せられる爆弾発言。レイはわからなかったようで無反応だったが、俺はもう笑うしかなかった。他の女二人は真っ青だったけどね。

 

「ええ、毎朝僕かエイジ君が起こしてんですけどそりゃもう…。」

「ぶっははははははははははは!!!!!!!!ザマぁみろミサトさん!!!!」

 

「なななな何言ってんのよ~~~~~!!!!!子供の前でェ~~~!!!!!」

 

「え?どうして子供の前だとダメなんですか?」

 

シンジのナチュラルな質問にミサトさんの顔がさらに険しくなる。面白すぎる。

 

「もう、あっちへ行きやがれ!」

「じゃ、またな。」

 

「影嶋君、今の話、何が面白いの?」

「ああレイ、それはね…」

 

「おいエイジ!あぁあ~、悪夢だわ~…」

 

ダメだ、面白すぎるけど説明ができねぇ…あはははは!

 

 

 

 

[ちょっと~、何でこいつに私の弐号機を明け渡さないといけないのよ~。私一人が居れば十分よ~?]

 

「いや、3人での作戦行動ってのは重要だよ。それだけで被害も減らせるし、時間短縮にもなる。敵のスペック予測ができない以上、敵の能力を割るためにもこれはマジで重要だ。」

 

[だーかーらー、そんなことしなくたって私がいればいいのよ!それに今のは私の弐号機を使わせたくないってことよ、バ影嶋!]

 

「ひっでぇ、なんだそりゃ。」

 

[そう言わないの、アスカ。これも作戦行動に必要なことよ。アーク、弐号機とのクロッシング開始!]

 

今回は不快感を感じない。かと言って強い拒絶もない。なんか、零号機とのシンクロに近いものを感じる。問題なくクロッシングができてしまった。

 

[どう?エイジ君。]

 

「何か、幾らなんでもエヴァ側の抵抗が無さすぎるように感じるんですよね。それがとても違和感に感じます。動作に問題は感じません。」

 

[アスカはどう?]

 

[特に何も感じないわ。]

 

[わかったわ。次はコントロールジャックね。接続実験開始!]

 

弐号機とシンクロしようとすると、今度は滅茶苦茶強い抵抗を感じる。とにかく俺は受け入れようとするが、どうしても不快感が消えてくれない。どうなってんだ?尚も受け入れようとするが、それ以上に弐号機からの抵抗が大きい。これ以上は無理だ。

 

「あ゛あっ!ダメだ、弐号機が俺を拒絶する!!」

 

[実験中止、アスカのシンクロを復活させてちょうだい。]

 

またクロッシング状態に戻る。

 

[ふんっ、何が有能な前線指揮官よ。弐号機とはシンクロできないじゃない。]

 

「いや、たぶん弐号機が受け入れてくれんのは惣流さんだけって話だと思うよこれ。俺めっちゃ抵抗されたもん。」

 

「はァ?あんた何言ってんの?弐号機が受け入れる?バカねぇ、エヴァに心なんてないわよ?」

 

「じゃあ何で惣流さんは弐号機とシンクロできてんだ?それが不思議でしょうがないけど。」

 

[そりゃあ、私がこの弐号機に選ばれたエヴァパイロットだからよ。]

 

「それだと俺が零号機と初号機にシンクロできる理由がわからない。本当にどうなってんだ?このシンクロってシステムは…。」

 

[エイジ君大丈夫?落ち着いた?]

 

「ええ、もう大丈夫です。クロッシングは抵抗されないのにどういうことなんですかね。」

 

[こちらでも調べてみるわ。今日はお疲れさま。]

 

 

 

学校。

 

「ぬぁにいいいいいいいい!?!?!?!?」

「あの女がエヴァのパイロットやと~!?」

 

うるせぇよトウジ。まァ俺も嘘だろって思ったけどさ。レイに向き直って話の続きをする。

 

「んでさ、今日の夕飯何にする?」

「…ハンバーグがいい。」

「普通の?それとも豆腐?」

「普通の、食べてみたい。」

「あいよ。今日はそれを軸にするわ。」

 

話をしてると扉が開く音と同時に、トウジがまた悲鳴をあげる。おいおい、今度は何だ…

 

「え。」

 

「あら、あなたたち3人とも同じクラスだったの?(サイテー!)」

 

小声だったが、しっかり聞こえた。ジーザス…。

 

「あ~ら、バカップルも一緒のクラスなの。やだやだ。」

 

「勝手なことを…」

 

とりあえず中指立てて抗議した。

 

 

「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしくお願いします。」

 

相変わらず二面性がやべぇな。クラス中がざわめく。そらうわべだけ見たら美人だから人気は出るだろな。内面知ったらここの男子泣くぜ?

 

 

 

本部通路。

 

「はあ…眠…」

 

「ねえ、アスカのこと、どう思うの?」

 

「へ?どしたんだ藪から棒に。」

 

「いつも絡んでるから。」

 

「ああ…アレはただのイヤミだよ。ああいうの俺苦手でさ。俺はああいうのと仲良くする方法がわからねぇんだわ。」

 

「そう。」

 

「そういえばさ、話全く変わるし今更なんだけどセカンドインパクトって何?南極で何かあったってのはわかるんだけど、そんな都合よく隕石が落ちるもんかな?」

 

「セカンドインパクトは、南極の使徒が起こしたものよ。」

 

「使徒?俺らが戦ってる奴らの親玉って感じ?」

 

「……」

 

これ以上の詮索はやめよう。目の前では惣流さんとシンジが話をしている。てか通路のど真ん中で突っ立ってんじゃねぇ。

 

「悪いけど、そこ通してくれる?」

「え…悪ぃな、レイ。」

 

「ちょっと、待ちなさいよファースト!」

 

レイは惣流さんの方を向く。

 

「何か用?」

 

「あなた、碇指令のお気に入りなんですってねぇ。大した実績もないくせにどうしてかしらぁ。」

 

「そんなことを聞いてどうするの?行きましょ、影嶋君。」

「おう。」

 

惣流さんはレイの肩をつかみ、引き留める。

 

「待ちなさい!ひいきにされてっからって舐めんじゃないわよ!」

 

「やめろ。」

 

レイをつかまえている惣流さんの手首を掴み、それを引き剥がす。

 

「何なのアンタ!?カノジョの前だからカッコいいとこ見せようっての!?」

 

「表層だけ見てレイをわかった気になってんじゃないよ。」

 

「なんですって!?」

 

「お前、レイの何かを知ろうとしたか?」

 

完全にブーメランだ。俺も惣流さんのことを最初から嫌って理解しようとはしちゃいない。つきあい方を知らないってのが正確な評論だろう。

俺の手を無理矢理振り払い、捨て台詞を吐く。

 

「ミサトといい、あんたたちといい…やってらんないわ!サイテー!!」

 

惣流さんは走り去ってしまった。苦い顔をしているのが自分でもよくわかる。

 

「僕ら、あの子とうまくやっていけるのかな…。」

 

「互いをわかれば、今よりかはマシになるよ。俺はそう信じる。」

 

「そんな上手くいくかな…。」

 

「んなワケないじゃん。俺とレイだってそうだった。」

 

「え?」

「そうね。」

 

唐突に警告音が鳴り響く。使徒か。

 

「行こう。」

 

「うん。」

「ええ。」

 

 

 

アークに搭乗してまず連絡を取るのは、必ずミサトさんとだ。

ミサトさんの作戦立案能力は本当に優秀だからなァ。

 

「現在の迎撃システムの復旧率はどんなもんです?」

 

[今送ったとおりよ。復旧率26%、ほとんど使い物にならないわ。したがって、今回の作戦が上陸直前の目標を水際で迎え撃ち、一気に叩く!]

 

「初号機と弐号機での近接戦闘…。フォーメーションもクソもないと思いますけどねぇ、今の訓練状況じゃ。」

 

[そこはあなたの腕にかかってるわ。]

 

「責任重大、か。ミサイル車とかは大丈夫ですか?」

 

[ええ、計10両が向かっているわ。お好きなように使ってちょうだい。]

 

「それなら、使徒迎撃予定ポイントを中心に半径1km範囲に等間隔に車を配備してください。タイミングはこちらが指示します。時間が惜しいから通信終わり!

シンジ、惣流さん、聞こえる?」

 

[大丈夫!]

[”アスカ”でいいわよ、バ影嶋!]

 

「相変わらずひっでぇなぁ。まあ、それでもお言葉に甘えさせていただく。

まず両機体共、地上に出たら電源ケーブルを接続。その後はアスカを前衛、シンジを後衛に戦闘開始。アスカは敵との近接戦をしつつ背後をとり、コアを無防備にさせる。その状態でシンジはパレットライフルの射撃若しくはナイフでコアを攻撃、敵を撃破する。近接に関してはアスカの方が上手いから現場判断は任せる。初期クロッシングは弐号機だ。」

 

[了解。]

[あら、思ったより真面目な作戦ね。それに、私に華を持たせようっての?]

 

「あー、そうとも見えちゃうか。二人のスタイルと能力を考えて適当に作っただけなんだけどね。」

 

[…聞かなきゃよかった。]

 

「そう不機嫌になるなよ。あと10秒で地上だ。ケーブルを両機がつなぎ、武器を装備した瞬間作戦開始。」

 

[わかったわ。お手並み拝見ね。]

[了解。]

 

[碇君、聞きなさい?ほんとは私ひとりで十分なのよ。くれぐれも足引っ張るなよボケナス。]

[何なんだほんと…]

 

「弐号機とクロッシングしてるの忘れたか?秘密回線を使うくらいならさっさと武器持ってくれ。」

 

[はいはい、わかってますよ~。]

 

 

軽口は言っているものの、緊張が伝わってくる。俺も画面と地形図を確認しながら行動予想をする。とにかく、安全且つ確実にだ。

 

初号機、弐号機共に武装を構え、配置につく。

 

「作戦開始。初号機、海面にライフルを撃ってあぶり出せ。ポイントは送る。」

 

[了解。]

 

初号機が指定ポイントに射撃する。すると、海面から突然水柱が上がり、敵が浮上してきた。

 

「弐号機。」

[わかってる!]

「背後をとってくれればどんな動きしてくれても構わない。初号機にクロッシング変更。」

 

弐号機が大きく跳躍した瞬間、初号機の視点に切り替わる。コアが…二つ!?

 

「初号機前進!ライフルとナイフ同時装備!アスカ、コアの位置を転送するから裏から貫け!シンジは下側のコアをナイフで刺せ!」

 

[[了解!]]

 

弐号機には上側のコアの位置だけを送る。初号機はライフルを捨て、両手で下側のコアを貫く。どうだ…?

いや、敵はまだ動いている。死んじゃいない!

 

「まさか!」

[効いてないのォ!?]

[そんな!!]

 

「全機退避!ミサイル部隊攻撃開始!」

 

弐号機、初号機はその場から退避する。その数秒後、大量のミサイルが使徒に着弾する。これは足止めだ。

 

「弐号機、武装の状態を報告!初号機、パレットライフル受領!」

 

[これはまだ使えるわ!]

[わかった!]

 

「弐号機了解!初号機は後衛を続行!」

 

さて、敵はどう出てくる…?煙が晴れると、そこには敵が「2体」いた。あんのインチキやろ~!!コア二つってそういうことかよ!…いや待て、俺はさっき二個ともコアを壊したよな?じゃあ何で敵は生きてるんだ!?

 

[何あのインチキ~!]

[ど、どうなってんだ!?]

 

「落ち着け!常に2on1を意識しろ!弐号機、攻撃する個体の指定は任せる、初号機は必ず隙をつかれないように動け!アスカの動きに合わせて行動を決める!」

 

[わかってるわよ!やってみなさい!]

[わかった!]

 

「ミサイル発射準備!爆撃範囲を指定するからそこに照準、以降命令あるまで待機!

初号機!弐号機の位置に合わせて初号機を動かす、しっかりついてこい!」

 

[やってみる!]

 

弐号機は敵の片方をコアごと切り裂くが、瞬く間に再生される。今度は斬撃に合わせてライフル射撃を加えるが、これも尚再生され、全く歯が立たない。各個撃破は許してくれないようだ。

…完璧に同時にコアを破壊しなければならないのなら、この戦闘方法は無意味だ。なら、やることは一つしかない。

 

「弐号機、初号機、撤退だ!ミサイル発射!!」

 

[はァ!?私はそんなん認めないわよ!]

[アスカ、爆撃に巻き込まれる!]

 

初号機、弐号機が後退すると、さっきより広範囲にミサイルが着弾し、使徒の動きを止める。

 

「ミサトさん、NN爆雷投下を要請してください!」

 

[本気なの!?]

 

「このままじゃあ足止めすらできません!」

 

[…わかったわ。作戦中止!撤退よ。]

 

[ミサトまで!!]

 

「アスカ!このままじゃあ使徒は倒せない!今は我慢してくれ!」

 

[く…くそぉーっ!!]

 

 

 

 

シャワーを浴び、着替え終えた後、持ち込んだラップトップでさっきの戦闘記録を確認する。

やはり、「コアを2個とも破壊した後に」敵は動き始め、分離した。

そして、その後コア一つの敵に攻撃しても、すぐ再生されてしまい、各個撃破をさせてくれなかった。やはり、2つのコアを同時に破壊するしかないのだろうか。だが、コンマ1秒もズレずに攻撃をする方法を思い付かない。どうすればいいんだろうか…。

 

「指令から呼ばれたの、聞こえなかったの?」

 

「ふうっ!?なんだ、ミサトさんか。どーせ老人の小言ですよ?行く価値がありませんね。そんなことより、今回の敗北原因と対策を考える方がよっぽど有意義な時間ですよ。」

.

「それでも規則だから、来てちょうだい。」

 

 

 

 

「どうも、お二方。」

 

「エイジ君、あのねぇ…」

 

「まあ座りたまえ。」

 

「いえ、どうせしょうもない内容なんで結構です。」

 

俺らは撤退後の映像を見せられる。新型NN爆雷攻撃により、表面を少しだけ焼いたものの撃破には当然至らない。敵の足止めは成功したが、その間に対策を見つけなければならない。

 

「終わりました?とりあえず、目論み通り足止めはできましたね。それでは今度はこちらの報告です。指令もご覧になっていってください。俺が『きちんと仕事をしている』ということがよく分かると思うので。」

 

ラップトップを投影機に接続し、先ほどのエヴァによる戦闘映像を流す。

 

「これは先程の使徒の初期形態の全体像です。体の中央にコアが2個埋まっていることが確認できます。そして、俺は今までの撃破方法と同様に、コアを両方破壊することをパイロット両名に命令しました。」

 

動画を進める。

 

「ここで問題が発生します。ただコアを両方破壊するだけでは使徒に対して効果を得れませんでした。そして、これが分離形態。この形態では、各個撃破ができないことが記録によりわかると思います。現状のままでは殲滅できないと判断し、撤退しました。」

 

「では打つ手は無いと、そう言いに来たのか?」

 

「はァ~、よく指令になれましたね。ここからが本題ですよ。

これらの情報から推測される殲滅方法は、「2つのコアを同時に破壊すること」だと思われます。しかし、現状どこまでの誤差を許されるかどうかが不明です。そのため、パイロットには完璧に同時攻撃をしてもらわなければなりません。ですが、そこの訓練方法はまだ決めかねております。以上、報告終了。」

 

「ほお、一回の戦闘でこれほど…」

「前線指揮官。」

 

「はい。」

 

「次はない。」

 

「でしょうね。」

 

それだけ言うと指令は出ていった。

 

 

 

 

完璧な連携。極めて難しい問題だ。しかも、どうやらギスギスしているアスカとシンジ。この二人の動きを完璧にリンクさせるのは困難と言わざるを得ない。何か、いいアイデアは無いだろうか?…まずはコミュニケーションから始めよう。

 




アスカのムーブがキツい…(小声)


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St.9:コミュニケーションの手段ってのは色々ある

加持さんって純粋に格好いいよね


「ふん!何が優秀な前線指揮官よ!一回で勝てなきゃ意味がないのよ!」

 

「そうでもないさ。今回の戦闘は日本の地形がまた変わったこと以外はほぼ損害無しだぞ? 国連も手を出してこなかったし、次で確実にやればいいよ。」

 

「簡単に言うけどさ、僕と惣流の完璧な同時攻撃なんて無理だよ。こんなんだし。」

 

(なぁん)ですってぇ!?だいたいあんたもあんたよ!最初の攻撃で決めればよかったのにさ!」

 

「アスカ、お前俺の話を聞いてなかったのか?今回の敵はスタンドプレーでどうにかなる相手じゃねぇんだよ。それをわかってくれ。」

 

「うるさい!使徒なんて私ひとりで殲滅できるわよ!」

 

頭を抱える。あ゛あ゛~ほんとどうすんだよこんなん!

 

「お困りのようだね、指揮官殿。」

 

「はい?」

 

「あ~、加持さぁん!」

 

後ろを振り向くと加持さんが立っている。

 

「どうだ?ここのメンツで食事でも。夕食、まだだろ?」

 

「え?俺はレイの食事つくってやんないといけないんで…」

「まぁまぁ、そう言わずにさ。どうだい?たまにはレイを忘れてさ―」

「男を口説くなんて卑怯じゃないです?あ゛あっ、しょうがないですねぇ。絡み付かないでくださいよ。」

 

加持さんをふりほどき、レイに電話をかける。すぐ応答してくれた。

 

『影嶋君、どうしたの?』

 

「加持さんに半ば強引に食事誘われてんだよ。レイも来てくれ、奢りだってよ。」

 

『…わかった。』

 

「場所は昨日の食堂だ、んじゃまた後で。…レイ、乗り気じゃねぇなァ?さては。」

 

「俺にエイジ君を取られてるのが気にくわないんだろう。まま、行こうぜ?」

 

そう言って加持さんは俺らを押すように食堂へ向かう。シンジは疑問を言う。

 

「あの…加持さん、ミサトさんは?」

 

「あいつは今日はメシ抜きだろ。責任者は責任取らないとだからな。」

 

 

 

食堂に5人が集まる。やっぱレイは機嫌悪そうにしてる。

ついでに食事はというと、俺とレイはハンバーグ、シンジはカレー、アスカはステーキ、加持さんはラーメンを頼んだ。

 

「レイ、悪かったよほんと…。」

 

「(プイ)」

 

「あ゛ー…ドウシテコウナッタノ…。」

 

「今日は頭を抱えっぱなしだな、エイジ君。」

 

「笑えない笑えない。」

 

「そんなことより!加持さんはわかってくれますよね!?あれはあたしの本当の実力じゃないってことを!碇君はどうだか知らないですけど。」

 

「はいはいはい、どーせ僕は実力ないですよ。」

 

「まあ二人とも、そう気を落とすなよ。エイジ君の言ったとおり、勝負はまだついてない。この次頑張ればいいじゃないか。だろ?」

 

「はい、そうですね…。」

 

「それに、初めてエイジ君の指揮を間近に見たが、ありゃほんと凄かったな。特に2体に分裂した後。アスカの動きに合わせてるのに、シンジ君が問題なくついていっている。」

 

「えー、あの時の指揮でも傍受したんですかぁー?」

 

「いいや?動きを見るだけでわかる。君は本当にパイロットの能力を引き出す力があるらしい。」

 

「そいつぁどーも。」

 

「でも、そいつのせいで使徒に勝てなかったんでしょ?もうクビかもしれないわねェ?」

 

「アスカはまず人の話を聞くとこからだな。」

 

「むっかつく~!」

 

「そうカッカすんなよアスカ。それに、もうそろそろじゃないか?」

 

「もうそろそろって、何がですか?」

 

シンジが疑問を言うのとほぼ同時にアナウンスが流れる。

 

[エヴァ初号機パイロット及び弐号機パイロット、アークシステムパイロットは至急第2作戦会議室に集合してください。繰り返します―]

 

「ほぉら、早速お呼びだ。頑張っておいで。」

 

パイロット二人はごちそうさまとだけ言うと、さっさと行ってしまう。

 

「加持さん、今日はご馳走さまでした。行こう、レイ。」

 

「おっと待った、エイジ君は残れ。」

 

「はい?わっ、ちょっと!」

 

「すまんねレイ。エイジ君借りるよ。」

 

「…そう。」

 

「あっあっ加持さん!?待ってくれレイ、これこそ完璧な誤解だろ!」

 

「おーおー、まるで不倫がバレた夫のようだな。」

 

「加持さぁん!?そんな揶揄やめてくれ!てかどこに連れてく気なんです!?」

 

「君は中学2年、つまり14歳だっていうのに妙に精神がしっかりしている。しかも、そんな年齢で冷静な判断をし、他の子を纏め上げるという素晴らしい能力。だからこそ見せておきたいものがあるんだ。」

 

まァ、中身は20代だしね。んでも今までこれをこんな真面目に見る人なんていなかった。加持さんて何者なんだ?

 

「見せたい?何をです?」

 

「NERVが隠し持っているモノだ。」

 

「隠し持っている…それはどういう?」

 

「着けばわかるさ。ターミナルドグマにね。」

 

「教義…?」

 

「やはり、ドグマの意味を知っているか。」

 

それ以降、加持さんは一言も喋らずにある扉の前に立つ。加持さんが持っていたカードキーを通すと、重々しい音と共に扉が開き、巨大な空間が見えた。

 

 

真っ白な磔巨人。下半身が無く、切断面とおぼしき場所には小さな足が大量に生えている。うわグロ。そして、顔面には逆三角に7つの目を描いた紫色の仮面。背面からはLCLのような色をした体液を垂れ流している。

 

「これって…使徒、なんです?なんで本部地下に…。まさか、今まで倒した使徒って、こいつを狙って…!」

 

「そう。人類補完計画、そしてE計画の要であり、全ての始まりでもある。『アダム』だよ。」

 

「アダム…最初の人間の男の名前ですか。」

 

「そう、第一使徒だ。」

 

「こいつに使徒が接触すると、セカンドインパクトがまた起きる…?」

 

「鋭いな。」

 

「簡単な連想ゲームです。セカンドインパクトは使徒によって引き起こされた。そして、使徒は共通して人類の敵。使徒が人類を滅ぼすのならちまちま攻撃するより、一気に殲滅するのが効率的です。なら、セカンドインパクトをもう一度起こせばいい。順番としては、次はサードですかね。合理的ですね、クソっ。」

 

「今日、俺が伝えられることはここまでだ。また機会があったら、続きを話そう。さ、葛城の所に行ってこい。」

 

「何故、俺なんですか?」

 

「さっきも言ったとおり、君は14歳にしては精神が成熟しすぎている。まァ少し子供っぽいところもあるが、君なら安心して見せられる、そう思ったのさ。」

 

「…そうですか。それでは、俺は失礼します。」

 

加持さん、俺と少し話しただけでここまで俺の性格を見抜いてる。凄い人だ。

 

 

 

 

「ちょっとエイジ君、どこほっつき歩いてたのよ!もう会議は終わったわよ!?」

 

「すみませんね、加持さんに捕まっちゃって…。」

 

「あんの野郎…!まあいいわ。そんなことより、今後の予定について連絡したかったの。」

 

「それに関しては非常に興味がありますね。どうなりました?」

 

「基本的には使徒はエイジ君の推測通りの弱点を持ってるわ。ヤツの行動再開は約5日後。それまでにシンジ君とアスカの協調、完璧なユニゾンを完成させる必要がある。そのための計画書よ。」

 

「どうも。…これはまた、ミサトさんらしい大胆な作戦ですね。それの指揮者が俺ということですか?」

 

「そうね。…ついでに言っとくと、これは加持の原案よ。」

 

「へぇ。…でも、音楽とダンスを使うとは考えましたね。音楽ってのはリズムさえ知ってれば、やろうと思えば指揮無しでも動けますしやってる内に体がリズムを覚えます。それを体で表現できるようにダンスで更にアプローチをかける…なかなかいいじゃないですか。」

 

「というわけで、あなたも曲を知ってないとダメでしょ?これを渡しておくわ。」

 

「このUSB、中身は音楽ですね、わかりました。」

 

「大変なことをまた押し付けちゃうけど、よろしくね。」

 

「これも仕事ですよ。わかりました、やってみましょう。」

 

 

 

 

次の日から、ダンスの訓練が始まった。

 

「ダンスですかぁ?」

「こんな格好までして?」

 

「も~~~~~いちいち文句言うんじゃない!こーゆーもんはね、形から入って気分を大切にするモンなのよ!敵は二心一体だから、こっちが同じ動きをすればあっちも同じ動きをするはずよ。4日間でユニゾンを完璧にマスターするには、曲に合わせた攻撃パターンを覚えるのが一番てっとり早いのよ。」

 

合理的な判断だが、言い方が身も蓋もないなこりゃ。

 

「ちなみに、選曲と振り付けはオレだから。」

 

「加持さぁん!」

 

「あたし一人で大丈夫だってのに。」

「いーからいーから。」

 

「じゃ、振り付けどおり、最初のところやってみるわよ。音楽をよく聴いてね。」

 

二人のダンスが始まる。お?割とよさげじゃ―気のせいだった。3小節目くらいには各々がよくわからない動きを始め、シンジはコケる始末。

 

「うーん、こういうのって出だしが重要ですよ?いくら時間が無くてもさ。」

「題して鶴と猿の小踊り…」

「思ったより、時間かかりそうねー…」

 

この後3時間ぶっ通しで練習した。うーん、今日でどこまで二人が覚えられるか…

本当ならこういう「体で覚える」ものってのは、ある程度期間を分け、その間で狭い範囲を確実に覚えていき、少しづつ繋げて慣らしていくというのが定石だが、時間がそれを許さない。どうしたものか…。

 

「あれ、エイジ君はメシに行かないのか?」

 

「彼らが帰ってきたら、入れ替わりに出てくんで練習風景を録画しといてください。」

 

「何するんだ?」

 

「音楽はだいたい覚えました。やってみるんですよ、俺も。」

 

「へぇ、随分と熱心じゃないか。こういうのは乗り気にならないと思っていたよ。」

 

「形振り構ってられない、ってのが正確な表現でしょうね。…音楽お願いします。」

 

見よう見まねでダンスをやってみる。少しオーバーに動くくらいが丁度いいかな?

……今半テンポ遅れたな。

 

「15秒戻してください。」

 

入れるとこからもう一度動く…やっぱり半テンポ遅れてしまう。俺の弱点はここだ。リズムを覚えていても、体が追い付かないタイミングがある。

 

「え?予備が何でやってんのよ。」

 

「俺も音楽は聴いておかなきゃ指揮はできないからな。それに、戦闘の時、俺は完全に通信を切っておくつもりだ。音楽だけで指揮するには、攻撃タイミングなんかも覚えておきたくてな。」

 

「へぇ、随分勉強熱心ですこと。」

 

「俺はもう飯にするから抜けるよ。頑張れ、二人とも。」

 

 

 

通路。腹減ったな…

 

「あ、レイ!」

 

「影嶋君…。」

 

「あ、ちょっと行かないでくれよ!ほんと、昨日は悪かったよ。ごめん。」

 

「…楽しみだったの。」

 

「え?」

 

「影嶋君の料理、楽しみだった。」

 

「…そっか。ごめん。」

 

思ってるより、14歳ってのは繊細なのかもしれない。俺はもう忘れてしまっていたが、レイがそれを思い出させてくれた。

 

「レイ、ちょっと付き合ってほしいものがあるんだ。」

 

「何?」

 

 

 

家に帰ると、二人でダンスをやってみる。互いに動きを見合い、弱点を見つけ合う。

凄いな、数時間だけでこんな上手くなった…。

 

「これ、何?」

 

「ああ、こういうことなのよね。」

 

ラップトップに計画書を表示させる。

 

「…そう。」

 

「そういうこと。俺も実戦はアークで援護しないとだから。それに今回はなるべくノイズをなくすために、クロッシング無しで行う。完全に音ゲーになるんだよ。」

 

「私も入る。」

 

「え?アークにか?」

 

「二人ならやれるわ。」

 

「…そうだな。んじゃ、飯にするか。昨日のレイの要望どおりのモノを作るよ。

 

「ありがとう、エイジ、君。」

 

「やっと下の名前で呼んでくれたかァ。嬉しいよ、レイ。」

 

はじめてレイが俺のことを下の名前で呼んでくれた。今、とても嬉しい。

 

 

 

 

3日目。

 

昨日、ミサトさんには絶対に途中で止めるなと釘を差しておいた。あの人は練習の仕方ってのを知らねぇんか?途中で止めていちいち最初から始めると、やっていない場所の弱点が見えなくなる。余程うるさかったのか、途中から俺に丸投げしてきやがった。そういうとこだぞミサト。

 

「だいぶよくなってきたな。それじゃ講評だ。

まずはシンジ。6小節目のこうなって…こーうなるとこ。ここで半テンポくらいのズレが発生する。シンジの動きから多分自分でもわかってるとは思うけど、ここは要確認だな。あと、ズレたからって露骨に焦ると全体が崩れる原因になる。常に落ち着いてやるんだ。

次はアスカ。アスカはちょうどシンジが遅れ始めるあたりから自分で勝手に飛ばす癖が直ってないな。個人の動きは流石なんだけど、これはユニゾンだ。シンジ君にもっと合わせた方がいい。どっちかがミスをしたとき、どうにか合わせるってのも協調性ってもんだ。

以上、講評終わり。」

 

「碇君に合わせて自分のレベルを下げるなんてないわ~。合わせるのは碇君の方なんじゃないの~?」

 

「それはシンジがトロいんじゃあなくて、アスカが飛ばせるってのが強すぎるんだな。」

 

「まるで僕がトロいみたいな言い方…」

「強すぎるぅ?それにさ…なーんで昨日からずっと綾波さんまで見てんの?なんだか気が散るわ?」

 

「気が散るってのは見たくないっつー言い訳だろ。レイ、来てくれ。アスカとシンジは一回休憩。」

「わかったわ、エイジ君。」

 

「わ、わかったよ。にしても、綾波が下の名前を呼ぶなんて…。」

「ったく、何をしようってのよ。」

 

「加持さん、音楽お願いします。」

「はいよ。」

 

音楽が始まる。

はじめて人前で見せるということで、若干緊張もするが…レイが隣に立ってるからどうにかなるだろう。

…今俺が若干遅れた。でも、レイは必ず合わせてくれる。……うん、すぐリカバリできた。

ラスト…レイも若干緊張してるらしい。最後の最後で足がもつれ、倒れかける。

「っ!」

「っと。」

アドリブで何とかレイを抱き上げ、互いにそれっぽく見せて音楽は終わった。

 

「ははは、ぶっつけだったけど何となく上手くいっちゃったなァ。」

「そうね。楽しかった。」

 

「凄いな、レイにエイジ君。ぶっ通しでやってる二人よりいい感じじゃないか。」

「スゴ、あの二人いつのまに…」

 

「ふん!何、最後の最後でファーストがミスってたじゃないの!」

 

「ああ、でもそれ以上に途中で互いに1回ずつくらいミスはしてたぞ。」

 

「全然気づかなかった…。」

「そりゃアンタの目が節穴なのよォ、碇君。」

 

「そいつぁ違うな。見も蓋もない言い方をすると、俺らは互いにミスった時、もう片方が合わせて上手くいってるように見せ掛けてるだけだ。だから、全体が上手く行ってるように見えてる。

要は『信頼』の問題なんだよ。シンジ、お前は自分だけで何とかリカバリしなきゃならないって思ってる。アスカはシンジが動けないからつって独走しようとしてる。

…二人とも、そういうとこだぞ。」

 

「……」

「何…?それだったら綾波さんが弐号機に、バ影嶋が初号機に乗ってやればいいじゃない!」

 

「それは無理だ。俺は初号機に乗っても起動ギリギリだし、この作戦でアークのコントロールジャックは使えない。君ら二人がやるしかないんだ。」

 

「私は…私は特別なのよ!こんな奴らに、遅れをとるなんて!」

 

「特別ってのは、自分で言うもんじゃない。それは他人からの評価だ。シンジ君のように過剰に自己評価を下げるのも、アスカのように過剰に自己評価を上げるのも、もうやめろ。」

 

「っ!!!」

 

アスカは走り去る。

 

「惣流!?」

 

…二人同時に攻撃をするのは失敗だったかもしれない。

シンジはただ呆然と見ているだけだ。そんな彼に、加持さんは呼び掛ける。。

 

「あちゃ~。参ったわねぇ、時間がないってのに…。」

 

「シンジ君、何してるんだ?早くアスカを追いかけろ。」

 

「え?でも…」

 

「これも君の仕事だよ。」

 

加持さんは笑顔でシンジに答える。

シンジが部屋を出ていったところを見届けると、俺は座り込み、額に手を当て項垂れる。

 

「流石にやりすぎたかもしれねぇな…。」

「いいえ、エイジ君は正しいわ。」

「そうか?これじゃあまるで無用にアスカとシンジを否定しただけだ。これじゃあ逆効果だったかもしれない。」

 

「エイジ君はせっかちな所があるな。気持ちの特効薬は”時間”だ。大丈夫。君がシンジ君とアスカを信じないでどうする。」

 

流石、今まで会ってきた中で一番のまともな大人だ。格が違う。

 

「そう…でしたね。ありがとうございます、加持さん。」

 

「にしても、あなた達どれだけ練習したの?最後にアドリブまでやっちゃってさ。」

 

「俺が色々終わってからなんで、だいたい1日3時間くらいですかね。」

 

「嘘!その時間でこれだけやれるようになるの!?」

 

「互いに見せ合って、弱点を確認して克服してましたからね。さっきも言ったとおり、信頼が必要なんですよ。まァ、アレが彼らの発破になるといいですけどね。」

 

 

 

4日目。

 

サボってた対人訓練を終え、加持さんに彼らの動向を聞いてみる。もう俺らは練習には付き合っていない。

 

「シンジ君とアスカは、昨日より遥かにいい感じに仕上がってたぞ。これも君の力だな。」

 

「いいえ、レイが居てくれたからですよ。俺一人だったらここまでうまく行ってません。」

 

「そうか。レイを大切にしろよ。それはそうと、格好いいジャケットじゃないか。どうしたんだ?」

 

「ああ、こういうのを持ってましてね。やっと全部の講習が終わったんですよ。」

 

ジャケットを開き、左側を広げて見せる。ホルスターに銃が入っている。

 

「なるほどね。学生服じゃあ隠す場所無いしな。」

 

「ええ、全くですよほんと。」

 

「ところで…シンジ君とアスカを見に行かないか?」

 

「え?」

 

 

「ちがう!もっと高く足を上げて!ここももっと高く跳ぶのよ!あ、また遅れた!キィーっ、なんでいちいちそんなにドンクサいのよ!許せないっ!」

 

(おっ、やってるな。)

(これがアスカの素か…。でも、やっぱ力抜いてるってのはデカいですね。)

(だろ?これもエイジ君のお陰だ。)

 

「いい、シンジ!何がなんでも明日までにユニゾンを完璧に仕上げるのよ!そんでもってファーストやバ影嶋を見返してやるんだからね!」

 

(もうアスカの中じゃお前の愛称はアレになっちゃったな。)

(ひっでぇなぁ。でも、俺のやったことが良い方向に行ってくれたのがわかりました。ありがとうございます、加持さん。)

(こんなくらいならお安いご用さ。)

 

 

 

決戦当日。

 

[目標は強羅絶対防衛線を突破!現在、山間部を第3新東京市に向かい侵攻中!]

[目標、0地点に侵入!]

 

[MAGIの予想より3時間も早いじゃない!エヴァは!?]

 

[いつでも出れます!]

 

[エイジ君聞いたわね!?後はよろしく!]

 

「了解。やるよ、レイ。」

「ええ。」

 

アークシステムのプラグ内には、俺とレイが入っている。互いに補い合い、エヴァ両機をサポートする。大丈夫、俺らならやれる。

 

 

[エヴァ両機、発信準備完了!]

 

「了解。アスカ、シンジ、これから作戦概要を説明する。発進し、地上に出たタイミングで音楽スタート。そこから先は全ての通信をカットし、クロッシングも行わない。完全な音ゲーになる。…二人とも、頑張れ!」

 

[もちろん!]

[ああ!]

 

[いいわね碇君、最初からATフィールド全開、フル稼働最大戦速でいくわよ。]

[わかってる。内部電源が切れるまでの62秒でケリをつけるよ。]

 

「作戦開始。」

 

エヴァがケージから射出され、地上に飛び出る。

 

「音楽スタート!」

 

空中に飛び出た初号機、弐号機は完璧なタイミング合致でランスを投げ、敵を分離状態にする。分離したところを落下しながら膝蹴りし、同時に着地。同時にライフルを受領、射撃をする。

敵は仮面からビームを放つが、両機とも後ろに回転飛びをしつつ後退、シールドで防御。

 

「今よ!」

「援護射撃開始!!ミサイル発射!!」

 

ビームを放ち、静止している二体の使徒めがけてミサイルが着弾、敵の動きを更に長く止める。その隙にエヴァ両機は前進、ミサイル攻撃が止むと同時に各個体に対してアッパー、踵落とし。後ろに敵が吹き飛んだ瞬間、初号機と弐号機は跳躍、完璧な飛び蹴り(ダブルライダーキック)で使徒のコアを完璧に同時に破壊。同時に爆発。使徒を殲滅した。

 

「いよっしゃあ!!!レイ!」

「うん。」

 

柄にもなく俺はガッツポーズをし、レイと片手でハイタッチ。互いにクッソいい笑顔をしてた。え?また盗撮されたんだよ。

 

「あーあー、着地失敗してやんの。でも、なんか彼ららしいと言えばらしいよなァ。だろ?レイ。」

「ええ。」

 

[なんか、二人とも中で寝ちゃったみたいなんですけど…。]

 

「二人とも、極度の緊張だったんでしょう。そのまま起こさないように回収してあげてください。俺たちも出るか。」

「そうね、エイジ君。」

 

 

 

初動は最悪だったけど、何だかんだいって俺らは新しいパイロット:惣流・アスカ・ラングレーとの親交を深めることができたような気がする。コミュニケーションってのは、別に会話だけじゃない。ダンスとか、戦闘を通してもできるもんだ。

シンジとアスカが、まさにそのいい例だろう。

俺は、彼らを最後まで導く。

 




主人公はホモじゃないです(再確認)


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St.10:こんな形で銃を使いたくなかった

ノリで書いてたら自分でも考えてなかった状況になってて困惑してます。
正直な話、今回は読み飛ばしてもいいと思います。


もうすぐ中間試験。はっきり言ってどの学校に行っても試験ってのはゲロだ。んでもやらにゃならんから、今はレイと勉強してる。

 

「んだァ?隣がドタバタうるせぇな…ちっとミサトに文句言ってくる。」

 

「いってらっしゃい。」

 

「あいやこの声、まさか…レイも一緒に行こう。聞こえたろ?アスカの声。」

 

「聞こえたわ。いいわよ、行きましょ。」

 

俺らは前にも言ったとおり、ミサトの家の隣に住んでいる。俺がちっと裏技を使ったらすーぐ指令がOK出したからね。問題なし!

 

「おいミサト!もう少し静かにできねぇのか!」

 

「ちょっとエイちゃん、私のせいじゃないわよ!」

「何や何や、若夫婦の参上ってか?」

「いや、もう一組できたばっかだろ?なぁシンジ。」

「は!?どうしてそうなるんだよ!」

 

「やっぱアスカがここに来てるんか。て(こた)ぁこの段ボールはもしかしなくても…」

 

「勿論、全部あたしのよ!バ影嶋夫婦!」

 

「ひっでぇ、俺の悪口にバリエーション作るなよ。」

「悪くないわね。」

「レイ??????」

 

「ふん、相変わらずのバカップルですこと!」

 

こんなしょうもない会話をしていると、ケンスケが何かに気づいたらしく、大声を上げる。

 

「あ!ミサトさん、昇進されたんですか!?おめでとうございます!」

 

「あ、ありがとう…。」

 

なんか引き気味に返事してるけど、どーにも嬉しそうにない。

 

「え?なに昇進て。」

「何すかぁ?」

「君達気がつかないのかね!?葛城さんの襟章の線が二本になっていることを!一尉から三佐に昇進されたんですよっ!ねっ!?」

 

「ええ、まあ…。」

 

軍事オタクおっかねぇ~…。いつもジャケットで完全に隠しといてよかった…。

 

「そうと決まれば祝賀会だ!勿論みんな来るよな!?」

 

「悪ぃ、レイと俺はパスだ。これから外せない用事がある。」

「そうなの。ごめんなさい。」

 

「何や、相変わらずつれないやっちゃなァ。」

 

「悪ィな。余程遅くならなきゃ帰りに何か買って帰るからさ。」

「それじゃ。」

 

「なんかレイ、随分変わったわねぇ。」

 

 

 

 

 

[どう?レイ。久々に初号機に乗った感想は。]

 

[碇君のにおいがする…。]

 

恐らく感覚的にシンジを感じているのだろう。俺がエヴァ由来の感情をシンクロ時に感じることができるのと多分同じだ。俺はアークの中で腕を組み、目を閉じて静かにしている。

 

[クロッシング開始。]

 

エヴァからの抵抗もだいぶ慣れてきた。初号機の視界がプラグに投影され、無事にクロッシングは終了。その後のコントロールジャックも問題は無かった。だが…

 

[どう、エイジ君。何か違和感はあった?]

 

「感覚的に、シンジが乗ってる初号機、レイの乗ってる初号機は何かが違います。言語化は難しいです。」

 

[そう、ありがとう。]

 

ケージ内で何かを喋っているが、マイクは切られており、会話の内容はわからない。まあ、何でもかんでも知ろうとするのは命知らずがすることだ。漫画でもアニメでも、どんな創作物でもそうだが、中盤くらいに話の真実を知った人物というのは高確率で転パートで消される。主人公達に真実を伝えぬまま、ひっそりと。

 

[お疲れさま。二人とも、上がっていいわよ。]

 

「お疲れさまでした。」

 

 

 

着替え、薄暗い廊下に出ると、レイが更衣室の前で待っていた。

 

「お待たせ。」

 

「……」

 

「レイ?どうした?」

 

人の気配はレイの他に感じない。頭に銃を突きつけられてるとか、そういうことではないようだ。

 

「…レイ?」

 

「エイジ君。」

 

「何だ?」

 

「私のこと、すき?」

 

何だ、このレイの目。俺の知らない目だ。

 

「…ああ、勿論好きだ。」

 

「来て。」

 

レイについていく。ここは、ターミナルドグマ…。レイ、俺に何を見せようってんだ?

二人の足音だけが静かに響く。

嫌な予感がした。ジャケットの前を開け、銃を取り出す。左手には飛びだしタイプのナイフを逆手に持ち、神経を尖らせる。銃の安全装置は外すが、刃はまだ出さない。追跡されてることも念頭に動こう。

 

レイが自分のカードキーを通すと、閑散とした空間に出る。ベッドと、仕切りと、大型の機械がある。ここは、まるで―

 

「昔のレイの部屋みたいだ…。」

 

「そう、私が生まれた場所。」

 

「生まれた?こんな、何もないような場所で…?」

 

「行きましょう。」

 

レイはさっさと行ってしまう。慌ててついていく。次の部屋は、中心に大きな管が配置され、天井へ機器が伸ばされている。

 

「ここは、ダミープラグを製造している場所。」

 

「ダミープラグ?どういうことだ?」

 

「私がコアになっているから。」

 

「レイが、コア?」

 

「行きましょう、赤木博士のところへ。」

 

赤木博士?何故今になって博士の名が出てくるんだ?…わからないことが多すぎる。

 

 

 

「あら、レイ。どうしたの?エイジ君と一緒でなくて?」

 

「先に帰ってもらいました。」

 

「…レイ。あなた、最近急激に変わったわね。エイジ君と毎日楽しそうに生活して、表情が人間らしくなったじゃない。」

 

(人間らしくなったってどういうことだ?確かにあったばっかりのレイは表情が無いようにも感じたけど…。)

 

「…いけない、事ですか?」

 

「まさか、いけないだなんて。ただ…少し驚いてるのよ。今まで碇指令しか眼中になかったようなのに…。エイジ君のアプローチがそんなに良かったの?」

 

「……」

 

「たいしたものね。ただの人形かと思っていたら、人間らしく恋人なんて作るなんて。」

 

「私、人形じゃないわ。昔、碇指令ばかり見ていたのは本当。でも、それは赤木博士もおな―」

 

突然言葉が止まった!?レイの苦しむ声…!

 

(レイ!)

 

扉を開け、銃とナイフを構える。驚いた表情の赤木博士と、苦しむレイの顔。

 

「嘘!エイジ君!?」

「エイ、ジ…君…」

 

「っっ!!!」

 

レイがチューブか何かで首を絞められている。言葉にすらならなかった。走りながらわざと2発外れるように発砲。手が緩んだ!赤木博士の右腕を切りつけ、流れのまま右肩でタックルし、博士を突き飛ばす。後ろで道具が散乱する音、赤木博士の苦しむ声、レイの咳き込み。

赤木博士に対し、改めて両腕を構え直し、頭部に銃を突きつける。

 

「……そういうこと。」

 

「2発は情けだ。殺人未遂よりも、もっと色々聞かなきゃならんことがあるんでね、赤木博士。」

 

「レイ、あなたもやるようになったわね。嘘を言うなんて。」

 

「ケホ、ケホ…言ったでしょう?私はもう、人形じゃないわ。」

 

「ダミー、レイの出自、『代わりはいる』…洗いざらい喋ってもらいますよ。レイ、腕は治療してやって。失血で死なれたら困る。」

「わかったわ。」

 

「降参よ…。私も銃には勝てないわ。」

 

 

俺は銃を突きつけたまま背もたれを前にして椅子に座り、赤木博士に対面する。地べたに座り込み俺に銃をつきつけられたまま、赤木博士は喋り始める。横ではレイが腕の止血処置をしている。

 

「レイは、碇ユイ…シンジ君のお母さんの遺伝子から造られたクローンよ。その生体パーツを使ってダミープラグ…人を乗せずともエヴァとシンクロできるプラグを開発しているわ。」

 

「代わりはいるっつーのはレイがクローン体の一人だからですか。」

 

「そう。レイには魂が宿っている。だからエヴァを操縦できるのよ。でも、大量のクローンを造っても、魂が宿るのは1つだけ。それが『現在の』綾波レイよ。」

 

「レイを製造しているのなら、そのプラントが必ずありますよね。案内してください。」

 

「いいの?あなたがそれを見て正気でいられるかしら。」

 

「今の魂のレイはここにしか居ません。他は全て偽物です。平気ですよ。」

 

「…そう。来てちょうだい。」

 

 

赤木博士の案内で、俺らはプラントに移動する。勿論俺は銃をつきつけたままだ。

扉が開くと、広い空間が顔を見せる。真正面には大きな水槽があり、その中にはレイの「器」とでも言うべきものが大量に浮いている。

 

「これが…」

 

「そう、レイの魂の器。」

 

レイはなにも言わない。自分がそうだと知っていたようだし、特段驚くことでもないか。

 

「レイ。レイはどうしたい?」

 

「エイジ君?」

 

「レイは今の肉体で、寿命で死ぬまで生きたいか?それとも、代わりがある容器のまま生きていくか…自分自身で選んでくれ。」

 

「私は…エイジ君!!」

 

唐突に赤木博士が肘鉄をしてくる。不意打ちだったがレイのお陰で回避できた。

 

「死ね。」

 

赤木リツコはレイに対し発砲しようとするが、俺の体当たりでまた不発にさせる。

 

「伏せろレイ!」

 

発砲し合いながら転がり、俺が赤木に跨がるような体勢になった。左手の銃を銃床で弾き飛ばす。尚も左手で抵抗してくる赤木の右肩に2発撃つ。

 

「ああああっ!!」

 

「怪我してた方の肩で済んでよかったですね。…こいつが調整用のスイッチですか。レイ、改めて聞かせてくれ。どう生きたい!?」

 

「私は、このからだで生きたい…!代わりなんて、いらない!」

 

「やめなさいエイジ君!!」

「ありがとう。」

 

スイッチを押すと、水槽に入っていたレイの体は崩れていく。彼女の意思だ。誰も文句はいえまい。―警報アラーム!

 

「逃げるぞレイ!」

「ついてきて!」

 

俺らは手を繋ぎ、レイの案内で地上に出る。こんな裏道があったとは。俺は、この施設に関して知らないことだらけなのだろう。

 

 

 

「けーっきょく、あんのバカップル、何にも寄越してこなかったわね。」

 

「実験が遅くなって、まだ寝てるんじゃない?綾波、低血圧っぽいし。」

 

「それだったらバ影嶋が出てきてるわよ。あ~っ、そんな事言ってたら例の方々が登場してき…たわ…よ…。」

 

「っ!?…な、何だ。アスカとシンジか…。」

 

「レイ!?それにエイジ君!?一体どうしたのさその格好!!」

 

「あんたまさか、人を殺してきたなんて言わないわよね!?」

 

「どうしたんだよ、アスカらしくない表情(カオ)しやがって。何そんな怯えてんだ。」

 

「バッカ、自分の格好見てみなさいよ!あとその物騒なものをしまいなさい!おっかないわ!」

 

「え?何を言って―」

 

右手にはまだ銃が握られていた。安全装置をつけて銃をしまい、アスカに言う。

 

「悪い…俺ら今日は学校休む。訓練も休むと、ミサトに言っといてくれ…。」

 

「ねえ、ほんとどうしちゃったのよ!そんな物騒なものを出したり、いつものよゆーぶっこいてそうな態度じゃないの、おかしいわよ!?」

 

何か言おうとしたが、うまく頭が回らず、気のきいた言葉が出てこない。

 

「ねえ、綾波…何があったの?」

 

「ごめん、話したくない。」

 

「そっか、ごめん。」

 

「行こう、レイ…。」

「ええ…。」

 

「何なのよ、あいつら、どうしちゃったのよ…。」

 

 

何とかアパートの部屋に帰れた。扉を閉め、鍵をかけると疲労で倒れそうになる、レイに支えてもらって、何とかソファで横になることができた。

 

「悪ぃレイ、俺は寝る…。」

 

「おやすみなさい。」

 

 

 

 

何かに追われている。周囲の人間がどうしても信用できない。怖い。怖い…

 

襲ってくる人型のモノ。恐怖で、手当たり次第に頭部へ撃つ。

倒れたモノから順番にカオが見える。

シンジ。

ミサト。

日向さん。

伊吹さん。

アスカ。

 

最後に見たカオは…レイ。

 

取り返しのつかないことをしてしまった。俺は、そんな…!

 

 

 

 

「レイ!!!!!!!」

 

夕日…18時くらいか?夢の内容が思い出せない。でも、めちゃくちゃ怖い夢だった。あれ、掛け布団が…レイ、ありがとう。

レイが近づいてくる。

 

「エイジ君、これ。」

 

ゼリー型食料…?

 

「何か食べないと、本当に倒れてしまうわ。」

 

「ありがとう、レイ。」

 

「随分うなされていたわ。悪い夢だったの?」

 

「よく、思い出せない。恐怖だけが出てくるんだ。」

 

「怖かったのね。」

 

「俺はあの時はじめて、『大切な人が殺されそうな瞬間』ってのと『自分が殺されそうになる瞬間』ってのを体験した。銃だって、撃ち方を知ってるのと人を撃つのじゃ訳が違う。

…とても怖いんだ。あの時、死にそうになったのと、平気で赤木リツコを殺しそうになった俺が。いつか、皆が離れていきそうな、そんな根拠の無い不安が―」

 

話し終わる前に、レイが優しく抱きついてくる。

 

「私は、もうどこにも行かない。エイジ君が、私たちの親しい人を殺しそうになったときは、私が必ず止めるわ。だから、安心して。」

 

「レイ…ありがとう…。」

 

安心からか涙があふれてくる。独りだったら押し潰されていたかもしれない。

チャイムが鳴る。俺が体を起こそうとすると、レイがそれを制止する。

 

「私が出るわ。…はい。」

『エイジ君大丈夫!?!?!?』

「ええ。今起きました。」

『よかった~、色々買ってきてあげたから上がらせて。』

「わかりました。」

 

ミサトか、安心した。レイが俺を止めたのもわかる。今、俺は外に対して過敏だ。これで錯乱したら全員に迷惑がかかるし。

 

 

「エイちゃん、お邪魔するわよ。」

 

「あ、どうも、ミサト…。」

 

「エイジ君、どうしたのそれ!?どこか怪我したの!?」

 

「いいえ、全部返り血よ。」

 

「レイ…?」

 

「私を、庇ってくれたの。」

 

「何があったか…教えてくれる?」

 

 

事の顛末を全て言った。レイのこと、ダミープラグ、赤木リツコとの殺し合い。そのときに感じた恐怖も、洗いざらい告白した。

 

「そう…。リツコが事故で入院するほどの怪我をしたって、そういうことなのね…。」

 

「失望しました?」

 

「ええ、リツコにね。エイジ君、あなたは大切な人を守るっていう、立派なことをしたわ。それに誇りをもって、今は休みなさい。」

 

「ありがとう、みさと…。」

 

「安心したのね。寝ちゃった。」

 

「ありがとうございます、葛城さん。」

 

「レイ、エイジ君をよろしく。」

 

「はい。」

 

 

命のやりとりってものを初めて学んだ。それはとても恐怖するもので、逆に快感も知ってしまった。これを理性的に押さえ込めてはじめて、本当に銃を持つに値する人間となるのだろう。俺はそう思う。

 




ゲーム作品からもう一人だけ出演させてから本編に戻ります。


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幕間2-1:転校生と謎のロボットの襲来とかベタベタ設定じゃないか

『新世紀エヴァンゲリオン 鋼鉄のガールフレンド』のネタバレの塊です。エヴァ本編には直接関わりは無いので、幕間ということにしました。ネタバレに拒否反応を示す方は今回、次回は飛ばしてください。
あと、いろいろ暴走しました。


「ねぇ、もう学校行ってもいいの?ほんとに大丈夫?」

 

「え?どしたんだアスカ、熱でもある?」

 

「かーっ!!人がせっっっかく心配してやってんのにそれは無いでしょ!?ある意味元通りになって安心したわこのバ影嶋!!PTSDになったのかと思ってヒヤヒヤしてたのに…。」

 

「何だお前、そんなに俺が心配だったのか?お前にゃシンジがいるっつーのに贅沢言いやがって。」

 

「むっかつくー!!!!!そんなんじゃないわよ!!!!!」

 

「私はそう簡単にエイジ君を渡さないわよ?」

 

「綾波は逆にめっちゃ変わったね…。そうそう、昨日の爆発云々って知ってる?」

 

「ああ、俺も見たよ。国連が出動してんのに爆発とか謎の移動物体で済ますとか、ほんと下手な情報操作だよなァ。」

 

「ほんとよね~。そうだ!ジャンケンして負けた人が、次の電柱まで荷物持ちね!」

 

「えぇ~?やだよぉ。」

「面白そうね。」

「俺はパス。俺のなんてそんな重くないから面白くないぞ?」

 

「じゃ影嶋くんが荷物持ち~」

「逃げないで。」

 

「卑っ怯だなァ…」

 

「「「「ジャンケンポン!」」」」」

 

俺はグー、女子はチョキ、シンジはパー。つまり引き分けだ。

 

「「「「あいこでしょ!!」」」」

 

また引き分け。

 

「「「「しょ!」」」」

 

引き分け。

 

「おいバ影嶋!あんたわざと引き分けてるでしょ!?」

 

「ふざけ、確率論でわざとなんてできるかよ。全部偶数のサイコロ2個じゃねぇんだからさ。」

 

「エイジ君、丁半なんて誰もわからないわ。」

 

「なんで毎回毎回そんなわっかりづらい例えをするのよ!」

 

「それはアスカが日本の文化を知らないからよ。」

 

「ぐぬぬ…あっ、そーだ!今日、転校生が来るらしいわよ!こんな物騒なとこに越してくるなんて、よっぽどの物好きねぇ。」

 

「随分露骨な話題転換じゃねぇか。んでもそれは俺ら全員同じこと言われたんだろなぁ。」

 

「僕らには関係ないよ。」

 

「あんた、怖いんでしょ~?友達つくるの下手だもんねぇ。」

 

「シンジにはトウジとケンスケがいるっしょ。へーきへーき。それに、友人も多けりゃいいってもんでもないよ?」

 

「そうね。私もエイジ君と同意見だわ。」

 

「あんたらねぇ…」

 

「ま、俺はレイがいるし野郎でも女でもどっちでもいいかな。」

「やだエイジ君、照れる…。」

 

「こんな朝っぱらからイチャついてんじゃねぇわよ!」

 

「アスカ、言葉がおかしいよ…。」

 

 

 

教室に入る。案の定、クラスメートの話題は昨日の騒ぎのことばっかだ。ま、俺らが呼ばれねぇってのはそういうことなんだろけどさ。1限目に転校生が挨拶をする。

 

「霧島マナです、よろしくお願いします!」

 

「はいよろしく。霧島さんの席は…碇くんの横の席へ座ってください。」

 

霧島さんは席へ向かう。なんか、久々に”まとも”な同級生が増えたって感じだ。

 

「いかりくん…ね?」

 

「え…」

 

「カワイイ。よろしくね、碇君。」

 

周囲の男子から冷やかされる。ここは俺も追撃させてもらおう。

 

「なァ~に顔赤くしてんだ!お前にゃアスカがいるだろ!」

 

「え、エイジ君!?」

 

「一時期冷やかしが酷かった俺の身にもなりやがれ!」

 

教室に広がる笑い声。あーめっちゃすっきりした。

 

 

昼休み。なんか久々の登校な気がする。普段通りジャケットとホルスターを外し、筋トレをする。あ、これ完全に体なまってるわ。20回ですらこんなキツい。

 

「頑張って。あと10回よ?」

 

「ムリムリ、今の衰えた体力じゃ30もできねぇよ。」

 

「じゃ、弁当お預け。」

 

そう言うと、レイは俺の弁当箱を取り上げ、俺の腕が届かないようにする。

 

「随分卑怯な手を使うようになったじゃねーか、レイ。」

 

「ふふ、あと10回、頑張って。」

 

「しょうがねぇなぁ…。」

 

 

 

「はい、お疲れさま。お弁当にしましょ?」

 

「ああ…めっちゃ疲れた…。」

 

二人で弁当を食ってると、シンジと霧島さんが並んで風景を見ているのが見える。

 

(シンジ君、エヴァのパイロットだもんね。)

 

え?何で知ってるんだ?

 

「レイ、聞いたか?ケンスケ、何かしゃべってやがったっけ。」

 

「いいえ、何も聞いてないわ。」

 

「やーだ、せっかくまともな転校生が来たと思ってたのに…。」

 

「シンジ!それにバ影嶋とファースト!召集よ!」

 

「わかった!行こう。」

「ええ。」

 

二人して弁当の残りをかきこんでから、走って本部へ向かう。

 

(失礼ですけど、あたし達大ッ事な仕事が御座いますの!)

 

あーあーまーたやってるよ。ほんと、女の嫉妬って怖いねぇ…。

 

 

 

本部直通電車。

吊革を持って立ち、ミサトに電話する。他の3人は座っている。

 

「葛城三佐、状況報告!」

 

『え?アスカから聞いてない?これから模擬体実験よ。』

 

「はァ?アスカがすっげー焦ったような言い方してたのはどういうことです?」

 

『え!?えーと。その…』

 

「まーた連絡忘れです?勘弁してくださいよほんと…。ミサト、毎回言ってるでしょ?忘れる前にメールをコピペして転送してくれって。」

 

『ほんと、ごめん!』

 

「失礼します!はーしょーもな。」

 

電話を終えると、レイの左隣に座った。アスカの隣とか勘弁してくれ。何されっかわかったもんじゃない。

 

「よかったじゃない、使徒じゃなくて。」

 

「ま、それはそうか。」

 

「あんたらはほんと手柄に無欲よねぇ…。シンジもシンジで新しい子にデレデレしちゃってさ~。」

 

「……」

 

「いーわよねー、モテる人は~。」

 

「……」

 

「シンジー、俺もう知らねぇからな。」

 

「え?」

 

「一人で歌ばっか聴いてないで、人の話を聞きなさいよ!!!」

 

そういってアスカはシンジの手からS-DATをぶん取り、床に叩きつける。

 

「ああっ、僕のS-DATが…」

 

「こんなもん!!」

 

更に踏みつけられる。あーあ、こりゃ破壊というより粉砕だな。

 

「ああっ、僕の内田有紀が…。」

 

「ふんっ!あの霧島って子も嫌らしいわね!来た早々男にちょっかい出してさ!」

 

「そう言うアスカは学校に来る前から俺らにちょっかいかけてきたじゃねぇかよ?」

「怖かった。」

 

「あれはバカトウジとケンスケがいけないのよ!」

 

「百理ある。」「そうね。」「うん…。」

 

「こんにちは!」

 

突如として聞き覚えのある部外者の声。全員が声のする方向へ向くと、霧島さんが車内でたっていた。アスカなんて絶句してるよ。

 

「……」

 

「霧島さん…」

 

「来ちゃった。」

 

「『来ちゃった』じゃないわ。これは部外者以外の利用は禁止されているはずよ。」

 

「まずどうやって入ってきたんだ?」

 

「いや、だって、授業は?」

 

「学校、退屈なんだもん。私もNERVへ連れてって。」

 

(((そういう問題じゃないんだよ!)))

 

諜報部?????あんたらのセキュリティをまた疑いたくなったぞ??????

アヤシイ…。まるでNERVとエヴァの関係性を知ってるような言い方…怪しすぎる…。

 

「悪い、一度席離す。」

 

「わかった。」

「どこ行くのよ?」

 

「”仕事”の電話。」

 

そういうと彼らから離れ、扉を挟んで電話をかける。

 

「もしもし、剣崎さんですか?…はい、影嶋です。…いや、今回は極めて真面目な仕事依頼ですよ。

『霧島マナ』という、うちの転校生が本部に入りたがってます。…あいや、ひとまず監視だけでお願いします。報告先は俺で。…はァ?俺は葛城三佐と違って犯罪だけに諜報部は使いませんよ。…はい、それでお願いします。何か大きい動きがあったら報告お願いします。では、失礼します。」

 

はァ、本当は疑いたくはないが、最近は謎の移動物体とかいう物騒なものもある。警戒するに越したことはない。杞憂で済んだんなら万々歳だよ。

 

 

 

 

本部ゲート。

 

俺、レイ、アスカ、シンジの順で本部に入っていく。もっとも、シンジが最後だったのは霧島さんにつかまってしまってるのが原因だったが。

 

「いいの?霧島さんを放置しておいて。」

 

「もう仕事は手配したよ。報告先は俺。シンジに漏らさないよう、なるべく穏便に済ませたい。協力よろしく。」

 

「わかったわ。アスカはどうする?」

 

「あいつのことだ。どーせ大事にしやがるから黙っといた方がいいな。」

 

「わかったわ。」

 

 

 

 

スーツに着替えると、入れ替わりでシンジが来た。シンジの腕にはぴったり霧島がくっついている。

 

「あーあー、アスカに怒られても知らねぇぞー?」

 

「き、霧島さんとはそんなんじゃないって!」

 

「ま、殺されない程度に頑張れよっ。」

 

俺はアークシステムへと向かう。これを警告と取ってくれるかは微妙だけど…。

 

 

 

 

模擬体を使った実験つーのはアークの影響をあんまり受けない。強いて言えばコントロールジャックのテストにはなるが、それだったら本物を使った方が正確なデータが取れるから、今日は俺だけ蚊帳の外。あーつまんねぇ。どれ、あいつらのシンクロ率でも見てみるか。

…妙にシンジだけ数値が低い。

 

「おいシンジ。気持ちはわかるが集中しろ。」

 

[えっ!そ、その…]

 

[シンジ君?起きてるわよね?]

 

[お、起きてますよ!]

 

[あの子のこと想像してんでしょ、イヤらしい。]

 

[違うってば!]

 

[愛は人類を救うってか?]

 

「おいおい、まーた秘密回線で罵倒合戦か?やめろよ?」

 

[所詮、シンジはあたしに勝てるような相手じゃないもんね。]

 

[言い過ぎだよアスカ。]

 

「こんなテストに勝ち負けなんてあるかっつーの。静かにしてたらどうだ?」

 

[ねぇ、ジャンケンしようか。]

 

[はァ?]

 

「何言ってんだアスカ。」

 

[エヴァも受領できない雑魚は黙ってなさい!ジャンケンに勝ったら、新型のWウォークマン買ってあげる。いくよー?ジャンケン…]

 

[待ってよ、今はダメだってば!]

 

[ちょっとだけ!テストの一環だと思えば。]

 

滅茶苦茶嫌な予感がする。

 

「ミサト、シンジの模擬体のジャック用意!」

 

[え?どしたのエイジ君?]

 

「とても嫌な予感がするのよ。」

 

[えぇ…?わ、わかったわ。]

 

やっぱり、急激にシンクロ率が伸びている。

 

[ジャンケン]

 

「ジャック開始!」

 

[ポーン!]

 

シンジの掛け声と共に模擬体が動き出す。すんでのところでジャックが終わったため、腕はケージギリギリで静止した。あっぶねーなマジで。

 

「危なかったですねぇお二方。ふざけるのも大概にしたらどうでしょうか?シンジ君にアスカ君?」

 

[[……]]

 

「ちゃんと怒られろよ。」

 

 

 

 

右腕を固定した赤木博士がシンジとアスカに滅茶苦茶怒ってる。俺とレイというと、数日前のアレがあったから赤木博士に対し絶対に目を合せちゃない。まーた殺し合いをするのだけは勘弁してくれよ?

 

「シンジ君、アスカ、エヴァも実験も遊びじゃないのよ!こういうことを疎かにして、もしもエヴァに不具合が出たらどうするつもりなの!」

 

技術者として至極当然な意見だ。そこにミサトの追撃が出る。

 

「そうよ二人とも。遊び感覚でやらないでちょうだい。」

 

「あーしょーもねー奴ら。テスト中に遊ぶからこうなるってことを学習しろ!」

「同感。」

 

「いい?これ以上私らとエイジ君の手を煩わせないでちょうだい!よろしくて?」

 

「「はい…。」」

 

にしても、赤木博士の猫の被りようがスゴいなこりゃ。つい先日俺と殺し合った人とは思えねぇわ。

 

「もういいわ、全員上がっていいわよ。お疲れ様。」

 

 

 

 

ロッカールーム。

 

「シンジ、どうしたんだあのシンクロ率。やっぱ霧島のことか?」

 

「え?あ…うん。ちょっと…。」

 

「で、そいつはどうした?」

 

シンジはロッカーに貼られていた紙を俺に見せる。

 

「先に帰ったってさ。」

 

「へぇ…それは残念だったな。」

 

「うん…。」

 

 

 

 

自宅。

 

「にしても、レイが肉こんな食えるようになるとはなァ。俺は嬉しいよ。」

 

「ほんと、私もこんな美味しいのが食べれなかったんだ、って思えるわ。」

 

今日の夕食は回鍋肉。レイが肉を普通に食えるようになって、できる料理のバリエーションが一気に増えた。やっぱ食事ってのは重要だ。それだけで生活が楽しくなる。

 

「それにしても、あの霧島って子、怪しいんだよなァ。まァロッカールームで待ってろ言って待ってるわけないんだけどさ。」

 

「え?まさか碇君、あの子中に入れちゃったの?」

 

「ああ。仮にあの子がスパイで、エヴァはともかくアークの技術まで盗まれたら面倒なんだよ。アレ実質遠隔操作技術だし。」

 

「碇君、あの子のこと好きそう。早期解決したいわね。」

 

「ああ、俺だって杞憂で済んでほしいよ。」

 

 

 

 

次の日。学校の授業で調理実習が行われる。

 

「お、レイだいぶ上手くなったな。」

 

「エイジ君、教えるのが上手いのよ。」

 

「そいつぁ嬉しいねぇ。」

 

(なあ、アレが本当に今まで静かーだった綾波なんか?)

(ほんと、別人のように明るくなったよねー…。)

 

「そういう話は聞こえないように上手くやれよー。」

 

「何や、この地獄耳!!」

 

トウジには適当に返すけど、耳はシンジと霧島の会話に集中する。

あーあー、またトウジがアスカを刺激する。こんなことされると乱されるんだよなァ。

 

「シンジ、あんたもエヴァのパイロットなんだから女とデレデレするの禁止!」

 

「あほくせー…。」

「そうよね、エイジ君。」

「だからつってレイもピッタリくっつき過ぎだよ。」

 

「せやシンジ!AもBもCも禁止じゃあ!」

 

今時それがわかる人がどれだけいるか…。

 

「ねぇエイジ君?」

「何?」

「ABCって何?」

「……ここで話すのを憚れるような内容を直接的に言わないようにするためのモン。」

 

「もっともぉ、キスくらいはしてるでしょうけど。」

 

俺らですらしてねぇよ。え、レイ?何期待の目してるの?少なくともここじゃ絶対やらないよ?

 

「やめてください!私そんなんじゃありません!」

 

「じゃあ何でいつもシンジにベタベタなのよ!」

 

聞いてた全員が冷やかす。俺?爆弾発言されて青くなってるからそんな余裕ない。

 

「私…帰る!」

「霧島さん!?」

 

「シンジ、責任もって行ってこい!俺が適当に話つけとく!」

「エイジ君、碇君のこといいの?」

「シンジが狙いなら手っ取り早く動いてくれた方が都合いいっしょ。”仕事”もしてくれてるしね。」

 

「あ、うん、ありがとう。待ってよ霧島さん!」

 

「バ影嶋!放課後、家に来なさい!」

 

「はいはい、わかりましたよっと。…あ、うめぇなこれ。」

「よかった。」

 

 

 

夜、葛城宅。

 

「霧島マナはスパイよ!」

 

「随分単刀直入にいうなァ、アスカ。」

 

「そんなの嘘だ!」

 

「霧島さんって、シンちゃんの『コレ』でしょ?」

 

「や、ま、まだ彼女と決まったわけでは…。」

 

「まー話が都合よすぎるってのは認めるけどね。」

 

「エイジ君まで!」

 

「そうよ!あの謎の移動物体が暴れた翌日に転校してきた。シンジに『私をあなたの女にしてぇ~』とか言って接近して、エヴァの機密を抜き取ろうとしてんのよ!操縦方法を執拗に聞き出そうとしてたのが、その証拠よ!」

 

「面白そうねぇ、今度うちに連れてきなさいよ。おねーさんが見てあげるワ。」

 

「『おねーさん』ねぇ。」

「それ以上言わない方がいいわ、殺されるわよ。」

「え゛っ。」

 

「殺されるわよ」が迫真過ぎて怖い。やめよ。

 

「ぼ、僕は別にそんなつもりじゃあ…。」

 

「シンちゃん、テレてんの。」

 

「甘いわよミサト!そんな呑気なこと言って、大事になっても知らないわよ!」

 

「ハニトラにしちゃあ露骨すぎるような感じもあるけどね。まだ情報が少なすぎるから、まだそこまで大事にしないでもいいんじゃない?」

 

「あんたもあんたよ。こーいうのはいち早く行動しなきゃならないのよ!」

 

「アスカ、どうしてそんな…」

 

「アスカはね、シンジ君が心配なのよ。だからこんなに―」

 

「ファースト、余計な事言うな!あっかんべ!!」

 

それだけ言うと、アスカは自分の部屋に行ってしまう。やっぱり嫉妬なんすねぇ(再確認)。

 

「そいやシンジ、何か霧島から貰ったか?」

 

「え?ああ、このブローチを。」

 

シンジは首から下げていたブローチを取り出し、俺に見せる。

 

「シンジ、余計な心配だとは思うけど、それを今晩だけ貸してくれない?」

 

「え!?何でさ!?」

 

「コレに発信機とか面倒なのが入ってないってのが確認できるだけでアスカを黙らせる一つの材料になるんだ。だからさ、杞憂が杞憂で済むようにお願い。」

 

「……わかったよ。一晩だけね。」

 

「ありがとう。ミサト、お願いできます?」

 

「わかったわ。お留守番よろしくね?」

 

「わかりました。」

 

俺らは外に出ると、シンジに聞かれない程度の声量で話す。

 

「二人も霧島さんを疑ってるの?」

 

「まァそうですね。何度も言ってますけど、勘違いで終わりゃそれではいおしまい、霧島は無罪放免、シンジも交際を続けれるんですよ?大事にしたくないんですよ俺らは。」

 

「なるほどねェ。」

 

「アスカには霧島に対して”仕事”させてる事とか黙っといてくださいね。アイツ間違いなく話を大きくしますから。」

 

「わかったわよ。」

 

 

 

 

 

また次の昼休み。

 

「…はい。ありがとうございます。引き続き監視お願いします。にしても、仕事頼んでもアスカとかが聞いたような会話しか出てこねぇな。やり手なのか本当に知りすぎてるだけの一般人なのかの区別がつかねぇ。」

 

「おそらくやり手よ。そういう中途半端を演じれるというのは下手な演技力じゃできないわ。」

 

「その線で行ってみるかァ。これが早々にバレたら、一生シンジに嫌われそうだナ。…シンジに召集がかかってんのか。行ってくる。」

 

「碇君は図書室に行ったたわよ。」

 

「ありがとレイ。」

 

 

「…待ち合わせ場所とか僕が調べておくから。」

「私は、二人分のお弁当を作って持ってくるね!」

 

「楽しそうに話してるとこ悪ィな。シンジ、召集だ。」

 

「使徒?」

 

「いンや、野暮用っぽいよ。続きは向かいながらでも。悪ィな霧島、シンジ借りるよ。」

 

「うん。行ってらっしゃい、シンジ君!」

 

 

 

 

[謎の移動物体は、湖の中に逃げ込んでいっているらしいわ。]

 

[潜りますか?]

 

「潜ったところで捕まえるのは厳しいだろなァ。」

 

[その必要はないわ。ここから先は日本政府の管轄になるから、私たちNERVとは無関係になるの。]

 

[わかりました。]

「……」

 

[ん?エイジ君?大丈夫?]

 

「え、ああ失礼、聞いてましたよ。」

 

初号機とクロッシング状態で被害状況を確認する中、霧島マナを発見してしまった。

バレないように、諜報部との秘密回線を開く。

 

「こちらアーク、初号機付近のトレーラー影で霧島マナを発見。そちらでも確認していますか?」

 

[こちらでも確認した。どうする?]

 

「追い払ってください。黒服の存在を知らせるだけで逃げると思います。」

 

[了解。]

 

[スパイですよ!]

 

何!?どういうことだ!?

 

[上空1万mに偵察機がいます!]

 

[ゆっくりしてられないわねぇ。シンジ君ご苦労様、帰るわよ。]

 

[…はい。]

 

クロッシングが終了し、俺もプラグから出る。そう都合よくいくモンじゃないなァ。

 

 

 

 

家に帰ると、もう夕飯ができていた。オムライス?めちゃくちゃ上手じゃん。

 

「レイ、また一層腕を上げたなァ。こんな綺麗に乗せるなんて、スゴいよ。」

 

「ありがとう。練習したかいがあったわ。じゃ、食べましょ?」

 

「ああ。」

 

「「いただきます。」」

 

それじゃ、一口…おお!

 

「めっちゃ美味ぇなこれ!」

 

「ありがとう。嬉しい。」

 

「こりゃ、俺も料理サボってるとレイに腕抜かれそうだなァ。ん?失礼、剣崎さんからだ。ちと席を外すよ。」

 

「仕事の件ね、わかったわ。」

 

席を立ち、少し離れて電話に応答する。

 

「お疲れさまです、剣崎さん。わざわざ電話とは………はい、……それは本当ですか?……はい、まだ上には報告しない方がいいと思います、というかそれは戦自とかそっちの方面じゃないです?……ですよね。…なるべく穏便に済ませたかったんですけどね…。わかりました、ありがとうございます。後で会話を書き出してメールにでも送ってください。…よろしくお願いします。失礼します。」

 

携帯を閉じる。最悪だ。何でこう、物事が最悪の方向へ向くのだろうか…。

 

「どうしたの?」

 

「…あの子、もっとヤバいのだったよ。スパイだけど脱走兵だ。他に仲間が2人いるっぽい。」

 

レイの手からスプーンが滑り落ちる。

 

「予想以上だったわ。」

 

「俺の考えが甘かった。こんな面倒なことに巻き込まれるなんて…。」

 

「こんな爆弾、誰も予想できないわ。これからの被害を小さくすることを考えましょう?」

 

「ああ…。」

 

 

結局、その後はめぼしい情報は入ってこなかった。獣っぽい有人ロボット―名前は「トライデント」と言うらしい―の回収をしていた際も弐号機にクロッシングして周囲を警戒していたが、収穫無し。その後のシンジとマナのデートだって、そういうおっかない話題は終始一切出てこなかった。

 

戦自病院の子も、脱走兵の一人であれば納得がいく。にしても最新兵器2機を強奪して脱走とは、なかなか肝がすわっているなァ。このまま国外逃亡すれば国際問題にもなるし、はっきり言ってハタ迷惑な連中だ。例によって加持さんは色々知ってるようだが、それは最後の最後まで待っておこう。

 

 

 

昼、俺らはいつも通り校舎の屋上へ行こうとするが、シンジに引き留められた。

 

「え?ミサトん家でみんなで夕食にしようって?」

 

「うん。霧島さんも誘ったんだ。もしよければ、二人も…どう?」

 

「いいじゃない。行くわ。」

「ああ、こんな風に俺らが集結して食事とか1回やったかどうかだし。喜んで参加するよ。」

 

「ありがとう!」

 

 

 

 

ミサト宅。

 

「…にしても、おっそいわねぇミサトのやつ。」

 

「どうせ100回くらい作り直してるんしょ。あの人料理そんな上手くねぇし。」

 

「でもさ、インスタントまみれの時よりかはマシになったんだよ。そうそう、アスカ最近調子どう?」

 

「あらァ、急に改まっちゃって~。あたしとあんたの仲じゃな~い?」

 

「変なこと言わないでよ、マナが誤解するから…」

 

「だってぇ、あなたとはお風呂も一緒、寝るのも一緒だもーん。」

 

「ち、違うよ!お風呂も寝るのも別々じゃないか!」

 

「ところで…」

 

「何よファースト?」

「どうしたの?綾波。」

 

「惣流さんにも、霧島さんにも聞きたいんだけど…碇君と”A”まではやったのよね?」

 

「「「???」」」

 

3人はキョトンとしているが、俺だけは額に手を当てて天を仰いでる。ああ、俺はレイに余計なことを教えてしまった。

 

「爆弾投下やめろ!」

「キスよ。わからないの?」

 

その瞬間、俺とレイを除く全員が真っ赤になった。…レイにはこれを機に「節度」ってもんを学んでいただこう。

 

「ななななななななになになになに言ってるのファースト!!!!」

「「ずっと言ってるじゃない(か)、私(僕)たちははそういう関係じゃありません(ない)って!!!!」」

 

「そそそそこまで言うならファーストはどうなのよ!バ影嶋の態度からわかるわよ!どーせまだやってないんでしょ!」

 

レイは少しムッとした表情をすると、俺と目を合わせる。あ、この目、覚悟決めちゃってるよ。ジーザス…

 

「エイジ君…。」

「れ、レイ…?」

 

レイは俺に顔を近付ける。この距離、俺が大怪我して初めて目覚めたときと同じくらいだ…。心臓の音が大きくなる。そのまま流れで、レイは俺の唇に自分の唇を軽くつけ、そのまま抱き付いてきて俺らは倒れ込んだ。やっべ、まだドキドキしてる…。当のレイというと、凄く満足げな顔をしている。やだ、大胆…(他人事)。

 

「なんてことだ…俺のはじめてがこんなタイミングで…。」

「やだ、エイジ君たら。ハレンチ。」

「そらレイのことだろ…。」

 

「「「………」」」

(お~~、話聞いててよかった!今度のも高く売れそうね~!)

 

そらこんなの見せられたら絶句するに決まってる。ミサトだけは平常運転だったけど。しかもご丁寧に連写までしやがって、いい加減逮捕されろ。

 

「ちなみにレートはどれくらいなんです?」

 

「3~8くらいよ?って聞こえてたの!?」

 

「おいレイ、俺らの関係ってあんな安っちィものらしいぜ?逮捕されちまえ!」

「サイテー!」

 

「や、やだ!誤解よ誤解!それより、ご飯にしましょ!」

 

「ご、ゴホン!さ、さあ今日のメインイベント、お毒味の時間でーす!」

 

「3回作り直したからね。」

 

「100回の間違いじゃないんですかァ?」

「三度目の…正直ですね。」

「二度あることは三度ある、ってね。」

 

ボロカスに言う俺らを無視して、ミサトは配膳する。んでも、そんなゲテモノって感じじゃないな。普通にカレーしてるカレーだ。

ちょ、レイ、いい加減どいてくれ。いや、「いーや。」じゃなくてさ。おいアスカもそんな目をしてくんな。

 

「それじゃあ、いただきましょうか!」

 

「「「「「「いただきます!!!」」」」」」

 

今ので体力使っちゃったから先に食わせてもらうわね。いやレイ、「あーんしたい」ってやめろやめろ。

 

「来賓の方からどうぞ~。っておいバ影嶋!何最初に食ってんのよ!」

 

「お、ミサトにしては美味いじゃん!も少し練習すればもっと美味くなりますよ!」

「本当ね。美味しいわ。」

 

「本当!?よかったぁ~。」

 

「人の話を聞け!」

 

「あ、本当だ。」

 

「美味しい~!」

 

「わ、私だけ乗り遅れた…。この惚気バ影嶋夫妻め!」

 

 

飯を食いながら談笑する中、ミサトが話を切り出す。おいレイ。何度も言ってるけどここではナシだ。いや、そんな露骨に残念がらないでくれよ。帰ったら何度でも付き合ってやるからさ。

 

「ところで霧島さんは、シンジ君のどういうところが好き?」

 

「…目、かな。」

 

「目?」

 

「何か、奥に輝きを秘めているっていうか…シンジ君って、目が綺麗でしょ?」

 

「シンジのこと、なにもわかってないねェ。」

「やめなさい、惣流さん。」

「霧島さん、本当の目的は何?」

「アスカやめろ!」

 

「アスカさん、私はシンジ君のこと、愛してます!」

 

アスカはこの言葉に耐えかねたのか、勢いよく立ち上がって怒鳴る。

 

(あぁい)とか恋とか、軽々しく口にしないで欲しいわ!!!それで泣いてる人の方が多いんだからね!!!」

 

また自分の部屋に駆け込んでしまう。

 

「アスカ!!…ごめんね、せっかく来てくれたのに。学校では、仲良くしてあげてね。」

 

「マナ…ごめん。」

 

「いいの。言いたいこと言ったら、気持ちよかった。」

 

「そこまで送ってくよ。」

「ううん、ここにいて。また学校で逢えるじゃない。今日はご馳走さまでした。」

 

「はぁい、またいつでも来てよ。」

 

「いいなァ、シンジと霧島。俺もあんな風に健全な恋を楽しみたかった…。」

「私じゃ不満?」

「んな事ぁないよ。んでも過程をもっと楽しみたかった…」

 

「あらー、そんな事は無いんじゃない?そもそもが言い寄ったのはエイちゃんでしょ?」

 

「これに至るまでの黒幕は基本ミサトだろ!!!」

 

 

 

その後、数日間マナは姿を見せなかった。諜報部すらロストしており、動向を探るのは不可能になってしまった。

また、再度発生するトライデントの移動。こんな状況でもエヴァを出すわけにもいかず、俺はアークの中でひとり対応を考えていた。

 




という訳で、霧島マナがゲスト出演します。


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幕間2-2:全部が全部ハッピーエンドじゃなくてもいいんじゃないかな

前回同様、『新世紀エヴァンゲリオン 鋼鉄のガールフレンド』のネタバレを多分に含んでいます。ネタバレアレルギーの方は飛ばしてください。


俺らは、今日真実を言う予定であった。だが、彼女は突然姿を現した。

 

「シンジ君。」

 

「マナ!?どこ行ってたの、ずっと学校休みで―」

「いないの。」

「誰が?」

「集中治療室のケイタが!」

 

ケイタ…戦自病院に搬送されたパイロットか。にしても、居なくなったか。戦自に引き戻されたか、或いは抹殺されたか。こんな短期間で病室に移れるとは考えづらい。それに、霧島の話の中の"記録からも消されてる"ってのがその嫌な予感を加速させる。

 

「待ちなさいよ!」

 

「アスカ!?…喧嘩はダメだよ。」

 

「あたしも行くわ。シンジ一人だけじゃ、何されるかわからないから。」

 

「でも…」

「いいのよ。一緒に来てくれるのなら心強いわ。」

 

「バ影嶋夫妻!あんたらも行くわよ!」

 

「レイは残ってくれ。」

「いいえ、私も行くわ。ちゃんとストッパーになってあげる。」

「…ありがとう。」

 

「…わかったよ。5人で戦自病院へ行こう。」

 

 

 

 

俺らは初めて来たが、シンジらの案内で難なくここまで来ることができた。話を聞き流しながら、状況を確認する。にしても、あからさまに藻抜けの殻だな。…やっぱ嫌な予感しかしない。銃だって、別に撃つだけのモンでもない。懐から取り出し、安全装置を確認する。ついでにマガジンも外す。

 

「ちょ、ちょっとバ影嶋!またそんな物騒なもんを取り出しちゃって!」

 

「弾抜いたし安全装置つけてるから大丈夫よ。にしても『ヤツらに引き戻される』とはどういう…」

 

「後ろ!!」

 

「キャア、シンジ!」

 

「こんの!」

「畜生!」

 

マナが黒服に連れて行かれそうになる。銃床で相手の頭を殴りつけ、シンジが更にタックル。俺らは一目散に走り、女子トイレの個室に隠れる。

 

「ちょっと、ここは女子トイレよ!」

「形振り構ってられないよ!」

 

「私が出ていきます!みんなを巻き添えにするわけには…!」

 

言いきる前に外から聞こえる悲鳴と騒音、銃声。あいつら容赦ねぇな。

 

(そっちにはいないか!)

(見つかりません!)

 

外の様子を音で想像しながら、銃を本来の使い方ができるようにしていく。

 

「出ていったら、殺されちゃうよ!」

「そいつぁ間違いないな。相手の黒服もプロだろうしね。…もう5発だけか。レイ、ミサトに連絡頼む。」

「わかった。」

 

マガジンを交換する。マガジンにフルで入っていることを確認して装填、リリースの動作確認、コッキング。…安全装置も外れ、いつでも撃てる。

 

「ちょ、ちょっと影嶋君!?それ本気なんですか!?殺されちゃいますよ!?」

 

「対人戦闘の経験者はこのメンツの中で俺だけじゃない?大丈夫、むやみやたらに殺すようなマネはしないよ。」

 

「そういう問題じゃないのよバ影嶋!こないだみたいになったらどうするつもりなのよ!」

 

「俺はもう大丈夫、だから全員で生きてこっから逃げるんだ。

いいか、俺がまず出入り口から確認し、そこから少しづつロビーへ進むぞ。殿は俺がやる、先頭はアスカが頼む。」

 

「あんた本気ィ!?」

 

「こういうときに冗談を言えるほどの余裕はないよ。行くぞ。」

 

 

 

俺はトイレの出入り口から頭を覗かせ、黒服がいるかを確認する。…クリア。

 

「今のうちに行け!」

 

アスカを先頭に走りながら一行はロビーへ向かう。しばらく進むと、まあ案の定見つかるわけで。

 

「いたぞ、こっちだ!」

「敵は銃を所持しています!」

 

「しつこい!」

 

壁際、足元に向けて撃つ。当てることじゃなく、牽制ができればいい。それだけで敵は出れなくなる。…やっとロビーが見えてきた。

 

「エイジ君、早く!」

 

レイが車から手を伸ばしてくる。俺も左手を伸ばし、レイの手を握ると一気に車内へ引き込まれ、車は発車する。

 

 

 

 

「追いかけてくるわ!」

「は!?」

「何で追ってくるのよ!!」

 

レイの発言と共に後ろを向くと、黒塗りの高級車が追ってくる。てかそんな余計なこと言ってる暇ねぇ!あいつらARみたいなの持ち出してきたが!?やべぇよこの状況!

 

「全員姿勢を低くしろ!」

それと同時にリアのガラスが割れ、フロントまで弾が届く。アスカの悲鳴。

「何で撃ってくるのよ!!!!」

 

「しょうがねぇ奴らだ!ミサト、車揺らさないでくれ!!」

「できるだけやってみるわ!!」

 

俺は振り向き、敵の車のタイヤとドライバーに照準、発砲する。

5発くらい撃つと破裂音と共に敵の車がスリップ、停車する。その隙に車を飛ばし、大きく突き放す。

 

「はァ~、これで足止めできたろ。」

「エイジ君、まさかと思うけど、あなたたちからは攻撃してないわよね?」

「敵がやたらに撃ちまくるのが悪いですよ。これは正当防衛です。」

 

車はトンネルに入る。全員落ち着いたのか、シンジが霧島に疑問をぶつける。

 

「どうして追われてるの?」

 

「私が、あいつらの裏切り者だから。」

 

「マナは…奴らの仲間だったんだ。転校した日、僕に声をかけてくれたこと、嘘だったんだ。」

「違うわ!」

 

「だって…僕やミサトさんを騙そうとしたんじゃないか!」

「仕方なかったのよ!」

 

「シンジ!追い詰めるな。…霧島、あの2機の『トライデント』について、知ってることを話せ。ミサト、この先で一回休憩しよう。コーヒー奢る。」

「エイジ君は相変わらずね。わかったわ。」

 

「何、『トライデント』って…。」

「まっさか、あんた…!」

 

「言ったろ?

『”仕事”の電話』、『殺されない程度に頑張れ』、最初に初号機で芦ノ湖に行ったときの黒服。

つまり、手を引けなかったんだな?」

 

「…ええ。」

 

「ちょっと、どういうことよ!ちゃんと説明しなさい!」

 

「もうすぐ着くわ。そこでエイジ君の話を聞きなさい。」

 

 

 

ミサトさんは赤木博士に電話をしている最中だ。コーヒーを渡すと、ジェスチャーで感謝を述べる。展望台には俺ら子供が集結していた。

 

「とりあえずお前らの分。俺の奢りだ。」

 

一人一人にコーヒーを渡す。

 

「さて、どっから話すかな…」

 

「全部、お願い。」

 

「わかったよシンジ。

俺は最初に本部直通の電車に乗ったとき、霧島のNERVとエヴァのワードに引っ掛かって、諜報部を使って監視をさせた。最初はアスカとかから聞いた程度の話しか掴めなくて、この段階ではまだ容疑者に留まってたんだ。ケンスケと同じ、ちょっち知りすぎてる一般人枠だと思ってたんだよ。

でも、シンジがデートに行く前…とんでもねぇ爆弾を抱えてるってのがわかった。『ムサシ』と『ケイタ』って脱走仲間がいることがわかったんだ。脱走に使ったのはさっきから出てきてる『トライデント』って大型のロボット。件の『謎の移動物体』様だよ。内一機は着陸に失敗し機能停止、パイロットも大怪我をした。もう一機は未だに芦ノ湖の底で眠ってる。これ以降は霧島が行方をくらましたお陰で追っかけられていない。諜報部でロストするんだからな。…これで全部だ。じゃあ、今度は俺の質問に―」

 

「ちょっと!何でそういうことしてんのにシンジやあたしには何も教えてくれなかったのよ!」

 

「…気を遣いすぎたんだ、シンジに。」

 

「え?僕に?」

 

「ええ。私たちは最後の最後まで霧島さんを被疑者にはしなかったわ。なるべく穏便にすませようとしてたのよ。」

 

「ファーストまで…!何であたしだけハブにされなきゃならないの!?」

 

「アスカはいちいち大事にしたがるからだよ。無用に人を攻撃して…だからだ。」

 

「あんた、私を何だと思って…!」

 

「自覚はあるはずだ。」

 

「っ…!」

 

「みんな、葛城さんが呼んでいるわ。行きましょ。」

 

「レイ、わかった。…後の事はNERVで要相談だな。」

 

 

 

 

「霧島さんの身柄に関する会議が長引いてるんだって!どうせみんなでピザでも食ってんのよ!」

 

「保護は厳しいだろうな。」

 

「エイジ君!」

 

「考えてもみろ?シンジの親父、人を道具にしか見ちゃいない。レイがその体現だろ。そんな人間が、敵を保護するたぁ考えづらいな。」

 

「そんな!父さんに言えばどうにかしてくれるはずだ!」

 

「気休めだとしてもいいんです。ありがとう、シンジ。」

 

 

 

「私はNERVの葛城三佐です!そこを通しなさい!」

 

「何をしている。」

 

「碇指令…。」

 

「シンジ、学校はどうした。」

 

「こういう時ばっか保護者ヅラしやがってあいつ…!それに俺らが反逆者みてぇな扱いだなこりゃ…。」

 

「父さん、霧島さんを助けてよ!」

 

「嫌ぁ!」

 

霧島が連行される!?銃を抜き、敵の車のタイヤに照準をする。対して敵も俺に対して銃を突きつける。まさに一触即発って感じだ。既に互いの指がトリガーにかかっている。

 

「アークのパイロット。やめろ。」

 

「父さん!あの子殺されちゃうよ!NERVに連れていっていいでしょ!?」

 

「葛城三佐、後で第12会議室まで来るんだ。」

 

「…はい。エイジ君、銃を下ろして。」

 

「そんな、ミサトさん!父さん、お願いだよ!」

 

「銃を下ろせ。」

 

「エイジ君、まさか君まで裏切ることはないよね!?お願いだよ!」

 

俺だって、撃ちたい。撃ちたいが、ここで攻撃をすれば不利なのはNERVだ。既に子供のいざこざでどうにかなる域を逸脱している。

 

「……っ」

 

指をトリガーから離し、銃を下ろす。理性がある内に安全装置をつけ、撃てないようにした。ホルスターに差し込み、完全に手放す。

 

「そんな!!」

 

「シンジー!!!」

 

「みんな、酷すぎるよ…!」

 

何とか押さえることができた。あそこで撃っていたら…いや、考えたくない。

 

 

 

 

家に帰る。隣じゃ加持さんとミサトの口論が聞こえてくる。中学生を見殺しに…俺も、同罪だろう。機関の利害が先に頭の中に出てきたんだから。だが、俺も他のパイロットも既にただの中学生ではない。それなりの地位にあるということは、それに伴って責任も大きくなっていく。

机に置いた銃を見つめ、自責する。

俺は―俺はどうすればよかったんだ。チャイムが鳴る。ソファでくつろいでいたレイが出ようとするが、制止した。

 

「いいよ、俺が出る。どうせ加持さんだしね。…はい。」

 

『俺だ。少し付き合ってくれないか?』

 

レイの方を向くと、「私はいい」と返ってくる。たぶん、気を遣ってくれてんだろう。

 

「わかりました。」

 

 

 

 

「ここは都市の夜景が美しくてね。葛城もお気に入りの場所なんだよ。」

 

「確かに機械的な光が美しいですね。…本題は何ですか?」

 

「君の判断についてだ。エイジ君はどうして撃つのをやめた?」

 

「戦自とNERVの利害が頭をよぎったんですよ。俺自身も本当は撃ちたかった。でも、あそこで撃ってしまうとNERVが不利になるどころか、戦自とNERV両方を敵に回してしまうんですよ?どうしても、自分自身の我儘を押し通せなかった。それだけです。」

 

「君は子供だというのに、広い視野で物事を見るんだな。この頃の子供というのは我儘を優先させそうなもんだが。」

 

「俺は既にただの中学生じゃないんですよ。公的機関に所属して、それなりの責任がある。俺一人の体じゃないんですよ。他のパイロットの事も気に掛けないといけない。握ってる情報だって、ただの知っていることでは済まされなくなってしまった。

到底、子供がやれていいことの範疇を越えてますけどね。こんなん、普通の子供にやらせるなんて非効率なくらいですし。」

 

「『大人』な考え方だな。だが、君もまた14歳の子供だ。もっとやんちゃしてもいいんじゃないか?」

 

「その仕方はもう忘れちゃいましたよ。生きる意味がわからなくなるほどに。でも、”やんちゃすべき時とそうでない時”の区別は今でもつきます。そこは、信頼してくれますね?」

 

「…ああ。それじゃあこれだけは言っておこう。

霧島マナは生きている。トライデントの囮に遣われる予定だ。トライデントのスペックと囮のポイントは後で携帯に送る。…作戦指揮、頑張れよ。」

 

「ありがとうございます、加持さん!」

 

 

 

 

「何であの時撃ってくれなかったの!!エイジ君も父さんの考えを優先したの!?」

 

俺は学校の屋上でシンジに胸ぐらを掴みかかられていた。レイが心配そうにこちらを見ている。

 

「あそこで攻撃してみろ、俺らは戦自どころかNERVからも敵認定されていたぞ。この世界ってのは上下関係が激しすぎるんだよ。我儘を通そうとするのもいいけど、もう少し押さえることも学習してくれ。」

 

「なんだって!?…この!!!」

 

シンジが俺に殴りかかる。これは受けないからな。パンチを避けて手首を掴む。

 

「なっ…」

 

「まだチャンスはある。…霧島マナはまだ生きている。今後、彼女を使ったトライデントを誘き出す作戦が実行される。その際俺の、エヴァを使った作戦で彼女を奪還するんだ。この作戦が失敗したとき、その時俺はシンジに殴られる。だから―」

 

手首を握る手が強くなる。

 

「俺に任せてくれ。」

 

「エイジ君…。」

 

「わかったか?」

 

俺が手を緩めると、シンジも手を引く。

 

「わかった。」

 

 

 

 

 

数日後、作戦予定日当日。

 

「エヴァの出動要請は出ましたか?」

 

[ええ、やーっと出してきたわ!今までのお返しよ、やっちゃって!!]

 

「了解。各パイロット、今回の作戦について説明する。

このポイントが囮、そしてトライデントの迎撃ポイントだ。今回の配置は、シンジ・初号機がリベロ、アスカ・弐号機が前衛、レイ・零号機が後衛となっている。

敵の予想侵攻ルートは今画像に出したとおり。内陸部への逃走が一番確率が高いため、第3新東京市内での早期決着を目的としている配置だ。

 

ここからが重要だ。各パイロットの役割の説明をする。

弐号機はATフィールドにより敵機首の機関砲を防御しつつ、近接して敵の動きを止める。その際に機関砲を無力化できれば120点だ。その後、初号機が囮を回収次第ソニックグレイブ装備で機関砲等外側の武装の無力化。アスカの近接センスに全てをかける。

 

零号機はトライデント背面の推進システムをスナイパーライフルで狙撃、高速移動を妨害しろ。目的を達成次第、弐号機の援護。後はアドリブで指示を出す。

 

初号機はトライデントの囮、霧島マナを保護後にトライデント無力化に参戦。これも現場指示とする。

質問は?」

 

[はーい!何で私だけ体を張ってるんですか?不公平ですよォ?]

 

「他の二人の格闘センスがお世辞にもよくないからだ。近接を安心して任せられるのはアスカしかいない。絶対に両方とも殺すなよ。」

 

[わ、わかってるわよ!]

 

[僕は何で最初から攻撃しないの!?今すぐにでも助けに行きたいのに!!]

 

「あの檻をかっさらうのには、アスカとは別方向から奇襲をかけるのが効率的だ。それだから、迎撃ポイント周囲を見回してもすぐエヴァが出てきたことはわからないような配置になってる。シンジ、アスカが作るチャンスを無駄にするなよ。他にあるか?」

 

[仮に失敗したらどうなるの?]

[ファースト、あんたねぇ…!]

 

「失敗したら山岳部でNN爆雷を投下、そんでもってトライデント周辺の広範囲が全部蒸発だ。この最終手段は絶対に使わせない。いいな!」

 

[了解!]

[了解。]

[わかったわよ!]

 

「エヴァ射出。タイマーをマイナス0120からカウントスタート、0000より作戦開始。葛城三佐、それまでに国連軍を戦場からどかしといてください。」

 

[わかったわ。国連軍に撤退命令!]

 

俺の作戦で絶対に取り戻す…!

各エヴァが各々の配置周辺から射出され、弐号機と零号機は武装を受領する。

既に地上ではトライデントが通常兵器に対し、無差別攻撃を行っていた。これだからパイロットに子供を使うのは…。

 

[零号機、配置完了。]

[弐号機、いつでもいいわ!]

[初号機、こっちも地上に出た。]

 

「了解。残り10……3、2、1、作戦開始!ワイヤートラップ作動!!」

 

トライデント周辺の兵装ビルから無数のワイヤーが射出され、トライデントの足と下半身を絡めとる。

 

「エヴァ2機、攻撃開始!弐号機、クロッシングスタート!」

 

[了解!]

[行くわよ~!!!]

 

零号機は山岳部から背面を狙撃する。やはりATフィールドが無いってのは楽だ。簡単に攻撃が通じる。たまらずトライデントはミサイルを発射、零号機に向けて攻撃する。

 

「零号機、次の狙撃ポイントを指定する、移動完了と同時に攻撃再開!ミサイルは無視しろ!アンビリカルケーブルだけ守れ!」

 

弐号機も機首の機関砲を撃たれ続けるが、そもそもエヴァの装甲に対して効いちゃない。

そのまま動けないトライデントに対して首に絡み付き、プログナイフで機関砲を破壊する。

 

「今だシンジ!クロッシングで援護する、やるぞ!!」

 

[わかった!!]

 

影に潜んでいた初号機が飛び出すのと同時に視点が初号機のものに変わる。初号機の意識に集中し、擬似的にシンクロをする。首もとに滑り込み、両腕で檻を抱え込む。そのままトライデントの腕を逆方向にねじ曲げ、右手にプログナイフを持ち、これを切断。霧島を安全な場所まで移送し、トライデントに振り向く。右肩のラックを破壊されてしまったが、動作には問題ないため戦闘続行は可能だ。

…霧島はNERVの職員に救出されたようだ。

 

[霧島マナの救出・保護を確認!]

 

「了解、作戦第一段階終了!続いて第二段階、トライデントの無力化及びパイロットの拘束開始!

弐号機、直近のコンテナにソニックグレイブを射出する、受領しろ!」

 

[わかったわ!!]

 

「零号機、撃ち切りと同時に前進、短砲身陽電子砲(9巻P64)受領と同時に指定ポイントへ移動、攻撃!

初号機、パレットライフル受領と同時に攻撃開始!

攻撃ポイントは指定したとおり、脚部及び背面スラスタを中心に攻撃、絶対に機関部とコクピットは撃つなよ!」

 

[[了解!]]

 

 

 

その後は10分程度で制圧、パイロットも拘束された。

 

「作戦終了…。みんな、ありがとう、お疲れさま…。」

 

今日は外食だな。俺の疲労がマッハだよ…。

 

 

 

 

「え…、もうマナとは会えないんですか!?」

 

「ああ。彼女はこれからは違う街、違う名前で生活をすることになる。これ以降、もう会うことはないだろう。…だが、最後に会いたくないか?」

 

「会えるんですか!?」

 

「ああ、ついてこい。…エイジ君にレイも一緒にどうだ?」

 

「俺らはいいです。彼女と親密な関わりがあったわけでもないので。」

 

「サバサバしてるな。そうそう、エイジ君宛に、霧島マナからの伝言がある。

『私を見捨てずに助けてくれてありがとう』

だそうだ。」

 

「こう返しといてください。『俺はただケジメをつけただけだ』ってね。」

 

「わかったよ。それじゃ、葛城には黙っててくれよ。」

 

加持さんとシンジ君は車で行ってしまう。

 

「本当に、会わないでよかったの?」

 

「ああ。もう既にあいつと俺は赤の他人だ。会いに行く理由がない。」

 

「カッコつけちゃって。」

 

俺は一枚の写真を見ながら言う。

 

「んなことはないよレイ。彼女はこれから新しい幸せを見つけに行くんだ。それなのに俺らが行くのは野暮ってもんだよ。」

 

「その写真、持ってたのね。」

 

「これも思い出だからな。…たまにはミサトも役立つじゃん。」

 

俺の手には一枚の写真―全員で夕食をしたときの写真が握られていた。

 

 

 

一連の騒動の責任は戦自がとったそうだ。力関係は尚NERVの方が大きくなるだろう。

だが、極めて不穏な言葉、「E計画」と「人類補完計画」が俺の中で突然湧き出てきた。

総司令に対する不信感が、尚も高まる。




とりあえずゲーム作品からのゲストキャラはこれで終わりです。地球防衛バンドは出すタイミングがもう…
どこかでねじ込めたらねじ込みます。


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St.11:真実ってのは時に残酷だ

カヲルをどう生かすか迷いもんです。
今回はR-15要素あり。


アークから衛星映像で捉えられた使徒を見る。

 

「このデカい目玉が使徒本体ですか。こいつ、一発で確実にここに来れるようにわざわざ誤差修正までやってる。随分利口なヤツですね。」

 

[新型NN航空爆雷も、まるで効果がありません。その後の消息は使徒による電波撹乱のため不明です。]

 

[来るわね、たぶん。]

 

[次はここに、本体ごとね。]

 

[南極の碇指令は?]

 

[使徒の放つ強力なジャミングのため、依然連絡不能です。]

 

[エイジ君、エヴァはどう?]

 

「配置完了、待機状態で充電中。今回は現場判断できるようなレベルじゃないんで、俺は黙って見てますよ。葛城三佐とMAGIに全投げさせてもらいます。」

 

[了解。]

 

[どうしましたァ?有能な指揮官様。そんな臆病になってしまってェ。]

 

「俺がミサトの原案に対して何も文句も代案も思い付かなかったんだよ。あーゆう規格外のヤツに対しては俺もなかなか素人だからね。」

 

[左様で御座いますか!ふん!]

 

アスカもまだまだ子供だな。自分の期待した答えがこなかっただけで不機嫌になりやがって。

 

「シンジ、大丈夫か?シンクロ率が不安定だけど。」

 

[な、何でもないよ。]

 

「どうせまた悩みごとだろ。終わったら俺にでも相談しろ。まーたそうやって一人で抱え込もうとすんのはシンジの悪い癖だぞ。も少し俺らを信頼してくれ。」

 

[わかってるよ!わかってるけど…]

 

「まァ今は使徒を倒すことが先決だ、3人とも、頑張れよ。今日の俺は完全に蚊帳の外だからな。」

 

 

[エヴァ全機、スタート!!]

 

エヴァが全力でポイントに走り出す。これは、初号機が一番乗りだな。

初号機が途方もない大きさの使徒をATフィールドで受け止める。あの質量をあの一点から発せられるフィールドで防げるとは、斥力はフィールド全範囲に発生しているのだろうか。巨大で厚さほぼ0の剛体板を持ち上げているような状態かな?

レイ、アスカの順で使徒にたどり着き、使徒を押し上げる。

アスカが敵のフィールドを裂き、レイがそれを広げ、締めはアスカのナイフの一突きで使徒は殲滅された。

 

 

 

 

アークから降り、パイロットを迎えに行こうとすると、突然電気が切れる。…おかしい、復旧しない?こんな地下にある巨大な基地が、予備電源を持っていないなんてありえない。異常だ。

発令所に…あれ、また視力落ちたかな…何も見えねぇや。

 

 

かれこれ20分経ったが、未だに復旧しそうにない。空調も全部止まっており、暑い。スーツの上を脱いでもあんま変わらない。視力最悪の状態だと非常に危険だから、アークの部屋の扉近くで座っている。

スーツが妙に暑いのは、俺だけプラグスーツが変更されたからだ。配色は今まで通りグレーで、素体は今までと同じなんだが、胸部の装甲のような場所が少し大型になっている。また、左脇には防水仕様のホルスターがつき、非常時も銃を持ち歩けるようになった。頭部のインターフェースは、ファフナーのシナジェティックスーツのヘッドセットのようなものに変更。シンクロ安定化の他に、精神汚染を抑制する効果があるらしい。デザインは俺が提出した。胸の文字も[TEST]から[ARK]に変わり、背面も[T]から[A]へと変更。よりアーク専属パイロットらしさが出たデザインになっている。

足音がする…工作員かもしれない。銃を取り出し、コッキングする。

 

「そんな物騒な人じゃないわよ。」

 

「何だ、レイか。驚かせないでくれよほんと。」

 

「エイジ君が過敏なのよ、最近物騒なことばかり起きてるから。メガネ、無くしてるわよ。」

 

「え?あ、ほんとだ。にしても過敏かァ。そうだな…確かに、そうかもしれない。」

 

「ねぇ、エイジ君。」

 

「なんだ?レイ。」

 

「この間の続き、しない?」

 

「こないだって、いつだっけ…。」

 

「もう。また疲れて脳が止まってるの?」

 

「そうかもしれ―」

 

突然、レイが唇を重ねてくる。俺もレイの肩を抱き、目を閉じた。

 

幸せだ。この時間が、永遠に続けばいいのに―

 

 

 

電源が復旧する。目を開け、唇を離すとレイも目を開ける。俺はプラグ内を漁り、やっとのことで眼鏡を見つけた。

 

「落とし物も見つけたし、シャワー浴びてくるよ。」

「私も一緒に行きたい。」

「えぇ?それこそ誤解されっぞ?」

「いーの。」

 

 

互いに背を向きながらシャワーを浴びている。俺にはレイに手を出す勇気は無い。幾ら14の体であっても、それだけは、最速でも中学が終わるまでは絶対にしないと誓っている。んでも、やっぱレイが真後ろにいるのが音で伝わってくる。あ~、頼むからさっさと終わってくれよ…?ひっ、な、何だぁ?せ、背中から抱きつかれてんのかこれ…。む、胸の感触が…。レイの手が、俺の心臓のあたりに…。

 

「エイジ君、ドキドキしてる。」

 

「レイだって…ドキドキしてるじゃないか。」

 

「暖かい。」

 

「レイも。」

 

ちっと積極的なところがあるけど、素を見れば普通の女の子だ。こんな子が以前はプラントで身体だけ製造され、魂を移し替えていた道具にされていたとは最早誰もわからないだろう。あの機械のような冷たかった目がこれほど変わったんだ。アスカやシンジも、変われるはず。

そういった希望の他にも、疑問も浮かぶ。E計画、人類補完計画とは何なんだ?ダミーを作って、裏で何をしようってんだ?

 

「出よっか。」

「うん。」

 

聞くしかない。

 

 

 

シャワールームを出ると、アスカにばったり会った。何で俺はこう運がねぇんだ?

俺らが同時に出てきたのを見て、口を鯉みたくパクパクしている。俺らが無視してどっか行こうとしても、手を伸ばすだけで何も言ってこなかった。余程ショックだったんかな。

 

 

 

自宅。聞きたいことをレイから全て聞こう。俺は何が起きているのかを知りたい。

 

「レイ、今いいか?」

 

「いつでもいいわよ。何?」

 

「ドグマの巨人について知りたい。」

 

「……本当にいいの?」

 

「聞かせてくれ。何が起こってるのか、知りたい。」

 

「わかった。地下の巨人はリリス。第二の使徒。碇指令は、リリス、私、初号機を使って、碇ユイに会おうとしている。」

 

「どうやって…?」

 

「リリスとアダムを融合させて、人類の魂をひとつにまとめる。その中で指令は、初号機と融合して碇ユイに会おうとしているの。」

 

「人類の魂をまとめるつっても、そんなことができるのか?人間には個性っていうデカい壁があると思うんだけど。」

 

「アダムとリリスが融合し、サードインパクトを起こせばその個性の壁…”A.T.フィールド”が人類から無くなる。そうすれば個体の生物はL.C.L.になり、魂が肉体から解放される。あとは1つにまとめれば、完全な生命体…”神”になれるのよ。」

 

「待て、それだと何でレイが必要なんだ?レイを介さなきゃならない理由って?」

 

「私の魂は、リリス。」

 

「な…」

 

「実質的な使徒なの、私。」

 

「………」

 

「怖く…なった?」

 

「いいや、これは恐怖じゃなくて困惑だよ。ただ、なんて表現をすればいいのかがわからない…。」

 

「そう…。」

 

「でも…でも魂が使徒であっても、俺の目の前にいるのは人間のレイだ。それに間違いはないよ。」

 

「嬉しい!」

 

「あっちょっテーブル越しに飛び付いてくるなアだぁっ!!」

「あ、ごめん!大丈夫!?」

 

「はは、やっぱレイはレイだね。それを再確認できた、それでよかったよ。」

「ありがとう、エイジ。」

 

話題には上がらないがわかったことがある。今まで、シンクロ、クロッシング時に感じたエヴァ側からの抵抗は、エヴァの中にいる人の魂が影響している。だからエヴァによって個性があるし、搭乗できるパイロットも限られているんだろう。零号機はわからないが、初号機にはシンジの母親:碇ユイが入っており、弐号機にはアスカの母親が入っているのだろう。…でも、だとすれば何故俺はそんなエヴァとシンクロ”できてしまっている”んだ?

 

 

 

指令に”駄々をこねて”、アークからレイの作業を見守る。南極から持ち出したと言われる「ロンギヌスの槍」。この槍、嫌な感じがする。見た目は好みなんだが、実物の雰囲気が言葉で表現しづらいオーラみたいなものを放っている。レイは器用に槍をあつかい、リリスに突き刺す。

たったこれだけの作業なのに、とても不穏な感じがするのは何故だろうか…。だいたいこんな物騒な機体にEVANGELION(福音)なんて名前をつけるとかどういう神経をしてんだろうか?あ…なるほど、利用するヤツにとっての福音ね。それなら筋が通ってる。

 

 

 

 

 

 

-碇ゲンドウの目-

 

試作型のダミープラグが天井から吊るされており、それを1組の男女が見上げる。

 

「試作のダミーはどうだ。」

 

「やっとデータが復元でき、もう少し調整すれば最終段階です。しかし、量産は難しいかと思われます。これとアークの基礎理論を融合させれば、更に高精度な無人コントロールが期待できます。しかし、アークに関してはMAGIシステムを使わなければならないので作戦展開範囲に支障が出てしまいます。これからはダミー単体の更なる研究が必要になると思われます。」

 

「構わん、エヴァが動けばそれでいい。…肩の具合はどうだ?」

 

「問題ありません。完治しました。」

 

「そうか。…レイとアークの子供にしてやられるとはな。」

 

「親離れするとは思ってもいなかったのですか?」

 

「レイの真実を知れば、自ずと彼から離れていくと思っていた。人間は現実から目を背けることで生きている。だが、現実を直視しないと前には進めない。次の手は打つ。

ところで参号機だが、週末には届くだろう。あとは君の方でやってくれ。」

 

「はい。調整ならびに起動実験は松代で行います。」

(…レイ自身が、指令から離れていくとは思ってなかった癖に。)

 

最早誰も入ることの無い空っぽの管を碇ゲンドウはみつめる。

 

 

 

 

「こいつは…」

 

俺も大人たちと共に、アメリカ第2支部が消滅する映像を確認する。

 

「手がかりは静止衛星からの映像のみで、後は形跡も残っていません。」

 

「エヴァンゲリオン四号機並びに半径49km以内の関連研究施設は全て消滅しました。タイムスケジュールから推測して、ドイツで修復していたS²機関の搭載実験中の事故と思われます。」

 

「予想する原因は材質の強度不足から設計初期段階のミスまで32768通り。妨害工作の線も考えられます。」

 

「でも、爆発じゃなくて消滅なんでしょ?つまり消えたと…。」

 

「S²機関の搭載実験中の”ただの事故”ならここまで大規模なものになるんかな。こないだの使徒爆弾ですら、コアの破壊時にあの程度の爆発で済んでたのに…。明らかに質量に対して釣り合わない規模だ。」

 

「よくわからないモノを無理して使うからよ。」

 

 

 

俺、ミサト、赤木博士の3人でエスカレータを降りる。

 

「これで折角直したS²機関もパーね。」

「そうね、夢は潰えたわ。」

「基地一ヶ所もそうだけど、エヴァ一機に予備パーツがまるまる消えたのもだいぶ痛いですね。敵はこっちの都合なんてお構い無しだっつーのに。」

 

ミサトが溜め息混じりに頷く。

 

「ホントよ。で?残った参号機はどうすんの?」

「ここで引き取ることになったわ。米国政府も、第一支部までは失いたくないみたいね。」

 

「まるで忌み子のような扱いだ。んなくらいならさっさと俺に寄越してくれりゃよかったのにさ。2機より3機。3機より4機でしょう?」

「今更危ないとこだけうちに押し付けるだなんてムシのいい話ね。」

「あの惨劇の後じゃ誰だって弱気になるわ。数千の人間が巻き添えになったのよ?」

 

「…で、参号機の起動実験はどうすんの?エイジ君?それともダミー?」

「エイジ君は最早エヴァパイロットの予備じゃなくなったわ。アークを動かしてもらわなくてはならないもの。」

「その件で。赤木博士、これからいいですか?」

「…いいわよ。ついてらっしゃい。」

 

(気を付けてね。)

(はい。)

 

 

 

 

「…それで、話とは何かしら?今度は私の頭部に弾丸を埋め込もうっていうの?」

 

「んな物騒な話はもうしたくありませんね。『E計画』の話、レイから聞きましたよ。随分おっかないモノを福音(エヴァンゲリオン)に託してるそうじゃないですか。」

 

「…そう、聞いたのね。それはE計画ではなく、碇指令の計画よ。それをどうする気なの?」

 

「あんなことさせませんよ。それ目的で話に来たんですから。」

 

「どういうことかしら?」

 

「エントリープラグ周辺及び、エヴァの素体の構造を知りたいんですよ。今後、エヴァが何かしらの手段でジャックされた場合を想定して。」

 

「それなら簡単よ。人間と同じ所を狙えばエヴァも活動を停止するわ。ヒトが乗っている場合、エヴァはプラグを引き抜けば活動を停止する。ダミーも同様。肉体そのものを操られている場合はその肉体を殺すしかないわね。」

 

「後者の場合、シンクロが継続していることも有り得ますか?」

 

「残念ながら有り得るわ。」

 

「…そうですか。ありがとうございました。」

 

「待って。これからのあなたの予定を伝えるわ。」

 

「え?」

 

 

 

 

学校。今は図書室に本を借りてきた。カミュの「異邦人」。久々に読むと、また面白いんだなこれが。階段を上ろうとすると、洞木さんの声が聞こえる。

 

「ス ズ ハ ラ~~~~~!!!」

 

階段で騒がないでくれ、おっかない…。

 

「今日という今日は許さないんだから!!!」

 

「わーーっ!!よりによって一番危険なパンツ見てもうた!助けろシンジ!」

「待ちなさいコラッ!!」

「わっ、ちょっと!!!」

 

トウジがシンジを盾にしようとするが、その時勢い余って足を踏み外してしまう。

 

「危ねぇ!」

 

シンジとトウジが階段から落ちそうになった。俺は右手で手すりをしっかり掴み、迷わずシンジを助ける。トウジは階段から転げ落ちていた。あー痛そう。

 

「いてっ!!え、エイジ君!」

「あだだだだ…何やエイジ、そないなったらワシも助けてくれよ!」

 

シンジを引き上げる。

 

「危なかったな。トウジ、それはお前の勉強代だ!しっかり痛がっとけ!」

 

「だ、大丈夫?」

 

「全身打撲やないかなぁ。」

 

「そ、そう!じゃああんたはさっさと掃除しなさい!」

 

ほんと、洞木さんはトウジのこと好きなんだなぁ、よくわかるよ。

 

 

 

 

屋上で独りで本を読んでいる。今日は訓練も休みだから、たまには独りで過ごしたい。数ページ読み進めると、ミサトから電話がかかってくる。

 

「ミサト、どうしたん?わざわざ電話してくるって事ァ、参号機の…」

 

四人目(フォース)が決まったわ。鈴原トウジ君よ。』

 

「え…?よりによって、トウジなんですか…?」

 

無言の時間。突然の強風で、左手に持っている本のページが勢いよく捲られる。あんなバカやってるヤツがどうして…。

 

「決定事項…なんですか?」

 

『残念ながらそうよ。スケジュールはリツコから聞いてるわよね。』

 

「はい、聞きました。起動実験に関しては松代のアーク2号機で俺も参加することになってます。」

 

『聞いてるのならいいわ。明日、正式に彼にパイロット依頼をすることになってる。よろしく頼むわよ。』

 

「……はい。」

 

本を閉じ、空を見上げる。

 

よくない方向に向かってる気がする。

 

 

 

 

 

「センセ!頼む、数学の宿題見せてんか!!」

 

「…またやってこなかったの?最近、僕の宿題アテにしてない?」

 

「堅いこと言わんと早ぉ見せてえや。…こうこう、たまには間違った答え書いとかんとな。」

 

アレ以降、自分のなかで整理がつかず、レイ以外の誰にも話せてない。レイにも口止めさせてる。こういう平和なやりとりを見ていると、どうしても「お前はエヴァパイロットになって使徒と戦え!」なんて言い出せる訳がない。俺が乗れればそれでよかったのに…。

 

あ、まーたトウジが洞木さんに喧嘩売ってる。お前ら一生そうやってろ。その方がこれからより何万倍も幸せだ。

 

「エイジ、まだ整理つかないの?」

「レイ…、俺はあーゆうのを見てると、どうしても踏ん切りがつかなくてさ…。洞木さんまで巻き込むんだぜ?俺にそんな…」

 

「鈴原!鈴原トウジはいるか?影嶋君と一緒に、至急校長室まで来なさい。」

 

「アンタ、なんかやったの?それにエイジ君とって?」

「アホ、心当たりないわ。エイジ!行こう…や。…どした?」

 

動揺が顔に出ていたようだ。頭を振り、いつもの顔で向き直す。

 

「おう、さっさと行ってこよーぜ。」

 

 

 

「お前、この話知っとるんやろ?教えてくれや。」

 

「…エヴァンゲリオン参号機のパイロット推薦だ…。」

 

「ワシがか?」

 

「ああ。…この仕事は厚待遇だが、つまりそれは危険と隣り合わせということに等しい。それに、今NERVは人材を欲している。言い方は悪いが、お前の妹をダシにしてでも引き入れようとすると思う。…自分の意思で、答えてくれ。これ以上俺は口出しはしない。」

 

 

「失礼します。」

「失礼します、パイロット候補生を連れてきました。」

 

「ありがとうエイジ君。下がっていいわ。」

 

「…はい。失礼します。」

 

校長室を出る。あとはトウジの判断が全てだ。

 

 

 

ふらふらと屋上に行くと、シンジ、アスカ、洞木さんの3人が何やら喋っている。俺は運が最高に悪いのかな。こんな時にこのメンツと出会ってしまうなんて。

 

「あ、バ影嶋!ちょうどいいとこに来た、アンタも考えなさい!」

 

「もっと説明してくれ。来たばっかで何もわからねぇよ。」

 

「どうしたらヒカリとあの熱血バカがラブラブになれるかよ!シンジは手作り弁当がいいって言ってるけど、アンタはどう?」

 

「熱血バカって、まさか…」

 

嫌だ、本当に聞きたくない、こんな現実があってたまるか…。

 

「あんたバカァ?鈴原の事に決まってんじゃん。」

 

固まってしまった。いや、思考を放棄しかけた。…でも、ここでしか言えないことなのかもしれない。覚悟を求められるなんて。

 

「ちょっと、どうしたのよ。」

「いえ、いいんです。私…」

「ダメよそんなん!今のうちに伝えておかなきゃ、何が起こるかわからないんだから。」

 

「今のうちに」か。自分の両頬を叩き、覚悟を決める。言おう。

 

「真面目に聞いてくれ。」

 

「なに、やーっと決まったのね?言ってみなさい!」

 

「いい夜景が見られる所がある。少し遠いけど、第3新東京市の美しい夜景が見れる場所。今夜、加持さんに連絡とって明日の夜に二人を送迎させる。待ち合わせ場所は適当に決めてほしい、俺から加持さんに連絡する。」

 

「あら、意外とロマンチックなのを知ってるじゃない。」

「でも、明日の夜ですか?そんなすぐに…」

「いいじゃない、『善は急げ』よ、ヒカリ。」

 

「いいや、どうしてもその日じゃないといけないんだ。俺らは明後日から4日ほど、松代に行く。」

 

「『俺ら』ってどういうことよ影嶋。」

「それに松代って…」

 

「トウジが、エヴァンゲリオン参号機のパイロットに推薦された。恐らく彼は妹のこともあるから引き受けるだろう。」

 

 

沈黙。だが、いずれ言わなければならない真実であった。

俺は洞木さんの所へ行き、両肩に手を置いて、目線を合わせて言う。

 

「今、彼に必要なのは心の支えだ。それは俺らじゃなくて、洞木さんにしかできない。…トウジに会って、笑顔で松代に送ってくれ。互いに後悔のないように、な。」

 

「そんな、まるで鈴原が死にに行くような…」

 

「絶対に死なせはしない!絶対にだ…!そのために俺がサポートをするんだから…!」

 

洞木さんから離れ、俺はそのまま立ち去ろうとする。

 

「待てバ影嶋!どうして引き留めなかったのよ!パイロットの神聖さが…」

「そうだ、トウジにまで、こんな思いを…!」

 

「あいつが決めたんだ!自分で!」

 

振り向き直し、尚も言う。

 

「あいつが、お前らのように『自分の意思で』エヴァに乗ると言ったのなら、俺が何かを言えるわけがない!俺はちゃんとリスクと裏話もした!それでもアイツが乗るって言うなら、誰が止められるんだよ…。」

 

この場にいる誰もが反論できなかった。俺は踵を返し、その場から立ち去る。扉を閉めると、レイが立っていた。

 

「意地が悪いな、立ち聞きなんて。」

「エイジの覚悟を聞きに来たの。」

「…そうか。」

「泣いてるの?」

「え?…ほんとだ、何でだろうな…。」

 

 

 

「加持さん、明日の夜暇ですよね?」

 

『最近は忙しい方だが、なんとか時間作れるぞ。どうした?』

 

「そいつは失礼しました。友人二人を、こないだの夜景が見れる場所へ送ってほしいんですよ。待ち合わせ場所は鈴原トウジが住んでいるマンションの前、といえばわかりますか?」

 

『何だ、今日の君はやけに強引じゃないか。どうしたんだ?』

 

「トウジを好きな子が、想いを伝えたいと。」

 

『へえ、それで君が恋のキューピットになるっていうのか。君もやるようになったな。』

 

「そんな御大層なものじゃないんですよ。ただ、ずっと嫌な予感がしてるんですよ。参号機の起動実験に。」

 

『どうした、何か情報でも掴んだのか?』

 

「いいえ、『指揮官の勘』とでも言うべきものですかね。」

 

『…そうか。松代の起動実験、気を付けろよ。

(加・持・さん!)

悪い、アスカだ。また連絡するよ。

(誰としゃ―)』

 

「切られたというより、切らざるを得なかった、の方が正しいか…。」

 

 

 

 

起動実験の日。俺は今日までトウジと何も喋っていない。

 

[MAGI2号機とアーク2号機、接続]

[LCL電荷]

[各戦闘指揮システム、アークにリンク完了]

 

「ようトウジ、これからだな、頑張れよ。」

 

[ああ。……ありがとうな。]

 

「うまく行ったんだな。これからも上手くやってけよ。」

 

[言われんともそうするつもりや。]

 

[二人とも、いいかしら?]

 

[はい。]

「俺ならいつでも。」

 

[エントリープラグ、固定完了]

[第一次接続開始]

[パルス正常]

[グラフ正常位置]

[リスト1350までクリア]

[初期コンタクト問題なし]

 

[了解、作業をPhase2へ移行!]

 

[オールナーブリンク問題なし]

[リスト2550までクリア]

[ハーモニクス、全て正常位置]

[絶対境界線、突破します]

 

今回も問題なさそうだ、杞憂だった―

アラート!?何故!?

 

[どうしたの!?]

 

[中枢神経に異常発生!]

 

[実験中止、回路切断!]

 

「参号機のコントロールジャック用意!」

 

[無茶よ!]

 

「誰かが止めにゃならんでしょう!」

 

[体内に高エネルギー反応!]

 

[まさか!]

[使徒!?]

「何でこんな時に!!!」

 

[コントロールジャック!]

 

その瞬間、使徒の意思に晒された。

 



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St.12:命

どこかでS2機関を取り込んだエヴァが発生するか初号機が覚醒しないと計画が…(ゼーレ並感)


強い悪意。頭が内側から吹き飛びそうな痛みが俺を襲う。何が起きてんだ!?それを考える間もなく、俺はそれに押し潰されて意識を失った。

ああ、これだったらレイを連れて―

 

 

 

 

-碇シンジの目-

 

珍しくケンスケと屋上で昼食をした。四号機の消滅…僕はミサトさんからも、エイジ君からも一切聞いていない。僕が知る必要はないのか、それとも…。多分、エイジ君は気をつかって伝えなかったんだろう。エイジ君って僕らよりとても『大人』だし、僕らと同じ年とは思えないことを言ってきたりするから。

 

「トウジとエイジ君、上手くいったかな…。」

 

「え?あいつら何かやってるの?」

 

「え?ち、ちょっとね。」

 

適当にごまかそうとすると、電話が鳴る。誰からだろう?

 

「はい?」

 

『シンジ君!?今すぐレイとアスカと一緒に本部へ戻って!!大変なことが起こったの!!!』

 

「え、どうしたんですか!?」

 

『松代での起動実験中、爆発事故が…』

 

「松代で事故!?じゃあ、ミサトさん達は!?」

 

『まだ連絡は取れてないわ。とにかくすぐに来て!事故現場に未確認移動物体を発見したわ、恐らく使徒よ!!』

 

「ごめんケンスケ、行かなきゃ!!」

 

ミサトさん!リツコさん!エイジ君!トウジ!!

 

 

 

[エヴァ全機発進!!]

 

上に押し付けられる感覚。発進の声がエイジ君じゃないことが、とても違和感に感じる。

 

「ねえ、僕らエイジ君がいなくて大丈夫かな…?」

 

[シンジ、そんな事言ってられないのよ!?そ・れ・に、アイツ不在でも、私だけでやってやれるってアピールできるチャンスじゃない!]

 

[アスカ、余裕ね。]

 

[あったり前じゃない!いつものうるさい声聞かずにすんでせいせいしてるわ!]

 

嘘だ。エイジ君の指揮にいち早く行動してるのは、いつもアスカな癖に。

 

[エヴァ各機は迎撃地点にて待機!]

 

どうか、誰も死なないでくれ…!

 

 

敵の足音が聞こえてくる。来る…!

 

[目標接近!!全機、地上戦用意!]

 

な、目標って…!

 

「目標…目標ってこれなのか!?だってこれは…エヴァじゃないか!!」

 

[シンジ、これはもうエヴァじゃない。『使徒』だ。]

 

[そんな、使徒に乗っ取られるなんて…!]

 

トウジは!?トウジはどうなんだ!?

 

「パイロットは乗ってるのか!?アスカ!!」

 

[ここからじゃわからないわ…。でも、乗ってたらなんとか助けなきゃ…!]

 

足音が止まった!?

 

[キャアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!]

 

「アスカ!?」

 

[エヴァ弐号機、完全に沈黙!!パイロットは脱出、回収班向かいます!!]

[目標移動!!零号機に接近!!]

 

綾波の所に行かなきゃ!!

 

「綾波!!足止めしてくれ!!僕がプラグを…!」

[了解!足を狙えば…!]

 

零号機は足に向けてライフルを撃つが、効果がない。

零号機に気付いた参号機は上半身を曲げ、大きく跳躍する。そして、零号機の上にのしかかり、その装甲から滴るものが零号機の腕へ侵食する。

 

[あっ!?あ…ああううう…!]

 

[零号機左腕に使徒侵入!神経節が侵されていきます!!]

[零号機、左腕部を切断!]

[しかし、神経接続を解除しないと!]

[構わん、切断だ!]

 

零号機の左腕が根本から弾け飛ぶ。

 

[きゃああああああああ!!!!!]

 

「綾波!!!!!」

 

[零号機中破!パイロット負傷!]

 

[回収班急いで!]

[シンジ、聞こえるか。もう残っているのはお前だけだ。お前が倒せ!]

 

動けない。トウジとの思い出が頭をよぎる。目の前に暴走している参号機がいるのに、攻撃できない。エイジ君…エイジ君だったら、こんなときどうするの!?教えてよ…!

 

[どうした、何を突っ立っている!]

 

ハッとしたとき、既に参号機は動いていた。大きく跳躍し、僕にドロップキックをしてくる。ライフルで防ごうとするけど、それは簡単に突破され、僕は倒れこむ。

なんとか上半身を起こすと、参号機は獣のように両手を地面について構える。その時。背面に『まだ刺さっているエントリープラグ』を見てしまった。

 

「トウジ!トウジ答えてよ!無事だったら返事してくれ!何とかして助けるから!!」

 

それに参号機は答えることなく、地面に右腕を突き刺す。何をしてくるんだ!?考える間もなく、地面から突き出てきた右腕に、首を絞められる。

 

「ぐぐ…と、トウジ…!」

 

参号機は埋めた腕を引き摺りあげ、両手で首を絞めてくる。苦しい…助けて、エイジ君…

 

[シンジ!何故戦わない!]

 

「僕には、できない…!僕には戦えない!友達が乗ってるんだ!戦えるわけないじゃないか!」

 

そうだ、僕にはアスカのような運動神経も、エイジ君のような頭のよさもない。助ける手段を思い付けない。だったら、僕が死んだ方が、よっぽど…

 

[お前が死ぬぞ!]

 

「友達を殺すよりはいい!!」

 

このまま死ぬのか…そう思った瞬間、エヴァとの接続が切れる。咳き込む自分。何が起こっているんだ…?

うわっ、勝手に動いてる!?何を…

 

「何をしたんだよ父さん!!!」

 

[……役立たずのパイロットは座って見てろ。]

 

そんな、これじゃトウジが…!

 

 

 

 

―暗い……。

―何の音もない……。

―………。

 

人の気配がする。

 

―レイ?

 

-うふふ。-

 

違う。

 

―誰だ?

 

-私と、ひとつにならない?-

 

―何だと?どこにいる?

 

-ここ、ここ。-

 

ある一点にコアが浮かんでいる。それと対峙し、訊ねる。

 

―誰だ、お前は。

 

-『使徒』と呼ばれているもの。-

 

そう言うと、『使徒』はトウジの形を投影してくる。

 

―トウジ?どうしてお前が…

 

-今、私はこの肉体を依り代に、アダムを動かしている。-

 

―アダム?エヴァの間違いだろう?

 

-いいえ。これはアダムよ。正確にはアダムのコピー。-

 

―…なるほどね。こっちがE計画っつーことか。何故、お前らは俺らを攻撃してくる?

 

-生き残るため。-

 

―その感じ、共存はできねぇな?

 

-ええ、そうよ。-

 

「じゃあお前らが消えろ!勝手な都合を押し付けにくるな!!お前らの命を犠牲に、俺らは生き残る!!!」

 

目を見開くと、参号機の視界が投影される。周囲の確認をしなければ…!?何だ!?俺の首を、初号機が…!初号機の目が赤い!?どうなって―

 

「まさか、ダミー…!」

 

あのマッドサイエンティスト(赤木博士)、造ってやがったのか。試作機か?いや、それよりまずはこの状況を打破しなければ。参号機にはトウジがまだ乗ってるんだぞ!?

初号機の手を剥ぎ取り、引き倒して関節を極める。

 

「ゼエ、ゼエ…おいシンジ!どうなってんだこれは!」

 

[エイジ君!?よくわからないんだ!勝手に初号機が…!]

 

やはりダミーか!

 

「本部、使徒反応は!?まだ残ってんのか!?」

 

[現在、参号機が使徒に汚染させられて―]

 

「馬鹿野郎、んなもんコレに乗ってんだから知ってんだよ!反応があるのかどうかだけ教えやがれ!」

 

[な、エイジ君が参号機を動かしているのか!?]

 

「ああそうだよ、素人の子供がこんな極め技できるか!!!さっさと教えろ時間が無いんだ!!!!」

 

[ああ、まだパターン青は残っている!]

[アークパイロット。参号機との接続を―]

 

「黙れボンクラ!人ひとり助けられずに何指揮官気取ってやがる!おい、他に動けるエヴァは無いのか!?」

 

[零号機、弐号機共に戦線を離脱、残ってるのは初号機だけです!]

 

「使えねぇ奴らだ!誰が最初にやられた!」

 

[弐号機です!]

 

「俺が初号機をそのポイントに投げつけるからダミーを解除しろ!シンジ!お前はそこで追加バッテリーを換装、戦線復帰だ!暴れんなよユ、初号機!」

 

[な…おい、何をしている。]

[人命が優先です!ダミーシステム、解除!]

 

[コントロールが…!あだだだだ!!!!]

 

「よし戻ったな!弐号機の座標は!?」

 

[転送完了!]

 

「シンジ、電源が切れない内にさっさと換装しろよ、時間がねぇんだ!!!」

 

[う、うわああああ!!!!!!!]

 

シンジを弐号機の所へ投げつける。ひっどい格好だが、何とか届いたようだ。

再度、使徒からの精神汚染が始まる。頭痛がヤバい。既に操縦桿を握っていられないレベルだ。多分、外から見たら参号機が頭を押さえて苦しんでもがいてる様子が映っているだろう。俺がそうなってるからな。

 

[換装やったよ!]

「わかった、ここまで来い!とりあえず汚染部分を避けてプラグを引き抜け!」

 

まだだ、気を失うわけにはいかない。プログナイフを引き抜き、参号機自身の手の甲に突き刺す。柄が地面にまで貫通し、めり込む程に。

 

「があああああああっ!!!!!!!!!」

 

[エイジ君!!今引き抜くよ!]

 

「頼む!!」

 

突如としてシンクロが切断される。この感じ、プラグを引き抜いてくれたようだ。負傷はしてるが、まだ居眠りするには時間が早い。

 

「MAGI2号機、本部のMAGIとリンクして初号機のクロッシング開始!」

 

[了解!MAGI2号機、本部MAGIとの双方向通信開始!]

[システムリンク、5%、20、35、50、78、93、100%!システムリンク!]

[クロッシング開始!]

 

精神汚染から解放される。この不快感は、間違いなく初号機のものだ。

 

「…シンジ、俺がわかるか?」

[うん、大丈夫。]

「これからプラグにこびりついた使徒の削り取りを行う。俺がイメージを送るから、その通りにやってくれ。俺側からも援護する。」

「…もし、失敗したら?」

[トウジは原型を留めずにズタズタにされる。極めて慎重にやるぞ。]

「わかった。」

 

プログナイフを引き抜き、そっとプラグ表面に当てる。そのまま全く力をかけずに真横にスライドさせる。金属が擦れる耳障りな音が聞こえるが、こうでもしないと中身を残したまま使徒を剥がすのは厳しいだろう。

 

「このまま全部の面を時間内に削り取るぞ。」

[わかった。]

 

まっさか前世でプラモ造ってたときにやった”かんながけ”がこんなことで役に立つとは思ってもいなかった。ほんと、人生何があるかわからねぇもんだ。最後の面を削り取る。安全のためプラグナイフをしまい、連絡する。

 

「表層部は削りましたが…どうです?」

 

[し、使徒の反応、消滅!]

 

既に精神が限界まできてる。今の集中でだいぶもってかれた。

 

「彼の精神汚染が心配だ…。救護班を、送って―」

[エイジ君、参号機が!!!!ぐあああああっ!!!]

「うぐぅ、し、シンジ!初号機をジャックしろ!!」

 

[ですが、2号機経由だとタイムラグが!それに、あなたの負傷も…]

 

「やれ!!!」

 

[了解!]

 

数秒経ち、再度首を絞められる感覚。右手だけだっつーのに、滅茶苦茶な握力だ。

 

「大人しくゥ、しやがれェ!!!」

 

参号機の顔面を殴りつけ、顔面から地面にキスをさせる。プログナイフを取り出し、参号機を仰向けに引き摺りあげてからもう一度顔面を、今度はナイフの柄で殴り付ける。

右手のナイフを逆手に持ち、参号機の首もとに突き刺そうとするが、当然敵の右腕が妨害をしてくる。左手を右手に添え、一気に力をかけ、首を貫く。ここまでしてやっと使徒は完全に殲滅された。

最早声が出てこない、でも、必死に声を絞り出す。

 

「パイロット救出、使徒殲滅……皆様、お疲れさまでし………」

 

 

 

 

 

ここは、セントラルドグマ?リリスの前に、レイが立っている。リリスにはロンギヌスの槍が刺さっておらず、足も生えている。

 

「レイ?こんなところで何やってるんだ?」

 

「行かなきゃ。」

 

「何処にだ?」

 

「エヴァで悲しむ人の元へ。」

 

そう言うと、レイは浮遊しリリスの元へ行く。手を伸ばし止めようとするが、それは叶わない。レイがリリスの胸元へ行くと、リリスはレイを取り込み、磔状態から自由になる。

仮面が剥がれ落ち、その顔は―

 

「レイの、顔……」

 

そのまま天井等の物理的な障害をすり抜け、上昇していく。俺は呆然と見ていることしかできなかった。

 

「レイ…」

 

そう言うのと同時に、俺の体が崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

目を見開き、荒く息をする。…この感じ、また悪い夢を見ていたようだ。やっぱり思い出せない。

過呼吸なまま、目だけを動かしてどこかを確認したい…が、やっぱり何もはっきり見えない。だが、音とかぼやけた輪郭で病室にいることはわかる。頭を少し右にズラすと、レイらしき輪郭がこちらを向いている。わざとらしく笑いながら、声を出す。

 

「よォ、レイ。久しぶりだな…、何ヵ月ぶりだろう?」

 

「エ…エイジ~!!!!!」

 

レイが泣きながら俺に抱きついてくる。腕をなんとか動かし、レイの背中に回す。

 

「レイ、苦しい。」

「よかった…、生きてて…!よかった…!あ、痛い痛い!!そんな強く抱かないで!」

「え、わ、悪いな…。」

 

 

レイにベッドの角度を調整してもらい、近況報告をしてもらう。使徒殲滅から5日。参号機の汚染は解決し、零号機よりも早く戦線復帰できるそうだ。んでも、パイロット―トウジは精神汚染が激しく、エヴァにはもう乗れないとのこと。実生活に支障がないってのが本当に幸いだったが、NERVとしては戦力外通告に等しい。他、ミサトと赤木博士は無事のようだ。加持さんが教えてくれた。

他、シンジとアスカは無傷、レイは左腕負傷の状態。

 

「というと、俺が一番の重傷者か。なんか、笑えるなァ。」

「こっちは笑い事じゃなかったのよ!」

「ごめんごめん。…いや、本当に傷を負ってるのはトウジかもしれねぇな。」

 

「いいえ、そんなことはないわ。これは伝言よ。

『また助けられてもうたな。迷惑かけてばっかでスマン、エイジ。』

だそうよ。」

 

「はは、ホントだよ…。ホント、生きててよかった…。」

 

 

 

今回、仮に俺が指揮をしていたらどうなっていたのだろうか、と思うことがある。でも、そういうたられば話ってのは無意味だ。だって、既に起きてしまったことなのだから。

そんなことより、俺がやらなければならないのは戦闘記録を見直し、良かったところは誉め、悪かったところは叱るという単純なもの。

彼らはまだ14歳。そんな年齢で難しい話を聞け、という方が酷というものだ。例えば、昔のミサトがシンジに叱ってたときのような言い方とか。

 

次のケア対象は、アスカだ。彼女、ここ最近戦績が奮ってないのは事実だが、それが大きなコンプレックスになっている、そんな気がする。

 




ゼルエル君にはとあるエヴァで無惨な敗北を味わってもらいます。


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St.13:子供の心って複雑だ

多分初めてアスカのことをここまで考えた気がする。


「甘えたこと抜かしてんじゃねぇ!!!」

 

唐突だが俺はシンジを思いっきり殴らなければならない。

(なぁ~に)

「友達を殺すくらいなら自分が死んだ方がいい」

だぁ抜かしやがって、これこそ逃げてるつってんだろ!!!!

って感情の元殴ったら、部屋の外にまで飛んでいってた。ギャグ漫画か何か?

シンジの胸ぐらを掴んで怒鳴る。

 

「いいか、そうやって思考放棄をしてる内は昔のお前のように拒否したい現実から逃げてるだけだってことを忘れんなよ。本気でトウジを助けたかったのなら、もっと足掻け!何かできないかって考えたら即実行しろ!もし俺が参号機をジャックできてなかったら、お前はトウジを殺してたんだからな。」

 

「な…!ダミーを指示したのは父さんじゃないか!どうして僕が―」

 

「シンジ、お前ほんとそういうとこだぞ!自分でトウジを殺さないように行動すらしてねぇ奴が『アイツが悪い』なんて文句は言えねぇんだよ!わかったか!」

 

「だって…だって僕はアスカやエイジ君みたいな力がないから…!」

 

「またお前はそう言って、『自分は他の人間より能力が無いから』つって自分の行動を棚に上げようとする。俺は言ったよな?『自分の意思で考えろ』ってさ。それの意味はこれだ。お前はトウジを見殺しにしようとしたんだよ。」

 

「………」

 

シンジは俺に対して何も言えない。口を開けたま、目を揺らがせている。

 

「本気でトウジを助けようとしたのなら、お前は本気で参号機と戦ったはずだ。戦うってのは、ただ敵を殲滅するってことじゃない。『殲滅』ってのはただの1つの手段だ。戦い方ってのは選択の余地がある。でも、お前はそれを放棄した。…このことを、自分でよく考えるんだな。」

 

突き放すように胸ぐらを掴んでいた手を外し、わざとらしく溜め息を吐く。

 

「俺に依存するのもよせ。」

 

その言葉のあと、シンジは走り去ってしまった。

 

「フン、無敵初号機のシンジ様も、こうなっちゃ見る影もないわね。」

 

「アスカか。この後暇か?」

 

「は?…まあ、時間はあるけど。」

 

「話がある。」

 

「何?急に改まっちゃって。」

 

「いいから来い。コーヒー奢ってやるから。」

 

「あんた、二言目にはすぐそれね。加持さんの真似?」

 

「…いいや、素でやってるだけだよ。」

 

 

 

 

「はいよ。」

 

俺はアスカに缶コーヒーを投げ渡す。

 

「いっつもあたしには雑ねぇ。」

 

「投げても受け取ってくれるっつー信頼があるからな。」

 

「あっそ。で?話って何よ。」

 

「…どうしてそこまで『独りで成し遂げた成果』に拘りを持つんだ?」

 

「決まってるじゃない、あたしのパイロットとしての意地よ!あたしは特別な、選ばれたパイロットなんだから…!」

 

「なあ、その『特別な、選ばれた』ってどういう意味だ?俺らの存在がそれの具現化みたいなモンなのに、それをわざわざ強調してることに興味がある。」

 

「あたしは、天才科学者の精子と、一流のママの卵子が出会って生まれたのよ。」

 

「へぇ、デザインベイビーもどきと。14で大学出てんのなら確かに”アタリ”だわな。」

 

「何その言い方。」

 

「結局、お前の努力のお陰だろ?そういう功績ってのはさ。…『天才は99%の努力と1%の才能で成り立ってる』たぁよく言うわ。」

 

「…でも、こっちに、エヴァに乗ってから、完全に一人で倒せた使徒なんて一体もいないじゃない。どれも太平洋艦隊、ファーストやシンジとの協力ばっか…果てには何もできずにやられたわ。これじゃあ、誰も私を見てなんてくれなくなる…!」

 

「んな事ぁないさ。アスカをちゃんと見てる人だっているよ。」

 

「居ないわ!加持さんだって、ホントはミサトのことを…」

 

「俺が見てる。」

 

「…はァ?」

 

「なあ、アスカの戦いの思いって何なんだ?」

 

「何よ、唐突に。」

 

「教えてくれよ。」

 

「…大勢の中からパイロットに選ばれて、それで戦って使徒を倒して、それで認めてほしいのよ。」

 

「何だ、んな程度なのね。」

 

「ちょっと、それどういう意味!?流石のあたしでも傷つくわよ!?」

 

「言ったろ?俺が見てるって。」

 

「え…?」

 

「アスカってさ、何でいっつも高飛車で戦いに執着するのかがわかった気がするよ。

自己評価が異常に高いってのは表層しか見れてなかったんだな。ホントは逆で、極端に自己評価が低いんだ。」

 

「待って、そんなこと」

「あるよ。だって、『独りで倒してなければ自分の功績にはならない』んだろ?つまり、誰の手も借りずに、使徒を殲滅することが目標なわけだ。でもさ、アスカはそれにばっかり執着して、チームプレーでの戦闘関与とか、自分の功績とかを見れてないわけだ。」

 

一口飲んでから、再度喋り始める。

 

「例えばそうだな、あの分裂する使徒での戦いなんて、素人同然のシンジをあの完成度まで引っ張りあげた。最後に練習した日なんて、俺ら居なかったしな。

他には…あのバカでかい使徒爆弾でも、フィールドを削って、その後トドメを刺したのはアスカだ。3人で押し返せたのも、2人じゃ無理だったかもしれない。

トライデント戦でも、動きを止めた上に邪魔だった機関砲をその初動だけで潰した、作戦説明のときに言った120点の動きをしてくれた。その後の無力化でも10分程度で終わったのはアスカの功績がめちゃくちゃ大きい。

な?これだけでもすごい戦果だと思わないか?だって、アスカが居なきゃ成功しなかった作戦しかないんだぞ?」

 

「そうやって、私を(おだ)てるためだけにここに呼んだワケ?あり得ない。」

 

「まさか。今の話は前座だよ。」

 

「は?こんだけ喋って前座ってどういうこと?」

 

「今アスカ、『俺の素直な誉め』に対して拒絶したろ。『煽てる』って言葉使ってさ。」

 

アスカははっとしたように手で口を覆う。アタリだな。

 

「やっぱり。アスカはもっと素直になるべきだよ。そうすれば、エヴァの中の母親も喜ぶよ?」

 

「ママ…?ママがエヴァの中にいるって、どういうことよ!!」

 

「言ったことがあるよな。『弐号機に拒絶された』ってさ。アレ、実は弐号機に限った話じゃないんだよ。初号機にも、零号機にも拒絶された。正しい言い方をすれば、”何故か動かせちゃってる”ってのがいいのかな。そんな感じ。」

 

「え?どういう事なのよ?そりゃあ、人造人間ってくらいだから、エヴァにも個性はあるでしょうけど…。」

 

「初号機の中には、碇ユイ―シンジの母親が入ってるらしい。アスカのはそこから推測した。だって、同じ年頃の女子の家に、男子がのこのこ勝手にお邪魔しますってのは流石に母親が黙っちゃないでしょ。」

 

「何よ、その例え。」

 

「笑うなよアスカ。正直俺にはこんな比喩しか思い付かなくてさ。

多分、アスカの母親って同じ母親のユイさんに比べてさ、めぇーっちゃアスカを想ってくれてんだよ。そうでなきゃ、シンクロできないくらい拒絶するなんて有り得ねぇわ。」

 

「そうなの…。ねえ、聞いていい?」

 

「どうしたん?」

 

「どうしてそこまで…あたしに優しくしてくれるの?」

 

「優しくゥ?これは俺特有の『お節介』だよ。シンジとかレイによくやってるのと変わらないよ。だって、同じパイロット仲間だろ?気になるんだよね、そういうのさ。」

 

「…嘘。」

 

「え?」

 

「こんなに私を見てくれたの、影嶋が初めてよ。加持さんだって、私を子供扱いしかしてくれなかった。」

 

「これは言い方が悪意しかないけど、NERVにゃ上の人間にマトモな大人がほとんどいないからね。加持さんなんてのはそんな中で唯一、まともと言える大人だと思うよ?加持さんは加持さんで、アスカのことはちゃんと見てるさ。『大人の視点』からね。」

 

「私はバカシンジとかあんたみたいな…あんたみたいな子供とは違うのよ!」

 

「そんな激昂してか?」

 

「うるさい!!やっぱ前言撤回!あんた、あたしのこと何もわかっちゃいないわ!」

 

「拗ねるなよ、面倒(めんど)いなァ。そういうとこ見られてっから加持さんから子供って言われんだろ?」

 

「ムカつく~!!」

 

「こーゆうところは可愛いんだけどなァ、アスカって。照れ隠しに相手に攻撃しかできないとことかさ。」

 

「なァッ…!?」

 

顔真っ赤にしてやんの。面白ェ~。

 

「話せてよかったよ。じゃな。」

 

「あっコラ待ちなさいバ影嶋!!!」

 

こんな程度で「責任とれ!」なんて言いそうなのがアスカだ。さっさと逃げよ。

 

 

 

 

 

赤木博士の研究室。最近は関係もだいぶ穏やかになったから、システム周りの話をするときなんかはよく入り浸ってる。「昨日の敵は今日の友」なんつって。

 

「ども、参号機の件についてお話があるんですけど~。」

 

「あら、それならあなたは乗れないわよ?」

 

「…何で??????????」

 

「あなた、アークで結局使えるじゃない。プラグ差し込んでおけばいいんでしょう?その気になればエヴァ全機をジャックして世界に対して宣戦布告を…」

 

「いやいやいや、おかしくないですか?俺の指揮なんて、ミサトのにアドリブを足しただけですよ?」

 

「そう、その”付け足しただけ”でどれだけの成果が出たか。戦自との揉め事の時だって、あなたが結局総指揮をやっていたじゃない。それにこないだの参号機の時も、指揮を指令から奪い取ってたと聞いたわ。そんなんだからミサト、さっきここに来て泣きながら

『エイちゃんが不倫してる写真バラまいてやる!』

って言ってたわよ?」

 

「あー…なるほど…?」

 

携帯を取り出す。

 

「もしもし諜報部?葛城三佐を至急赤木博士の研究室に連行してください。どんな手段をとっても構いません。では、お願いします。」

 

「あなたもミサトのようになってきたわね…。」

 

「あなたとまた殺り合うより遥かにマシですよ?…話を戻しますけど、やっぱ参号機ってレイが乗るんです?」

 

「零号機が直るまでの代用品ね。ところで、どうしてそこまでエヴァに乗りたがるのかしら?指揮官ってのは前線にいたらいけないわよ?」

 

「いえ、ただ折角パイロット適正があるってのに前に出れないってのが性に合わないってだけですね。他意はありませんよ?

まァ、この年頃特有の我儘、とでも言っておきましょうかね。赤木博士向けにもう少し合理的な考えを述べるとすれば、参号機にアークの戦術システムを組み込んで、所謂『指揮官仕様』って感じのものを作って欲しいんですよね。んでもって俺がスナイプ役してりゃ安全でしょう。正直、本部内よりエヴァの中の方が安全説ありません?」

 

「エイジ君、根っこが男の子って以外は本当に大人ね。…件の人が来たみたいよ。」

 

扉が開くと、剣崎さんに猫のように首根っこを掴まれて暴れてるミサトが放り込まれた。

 

「ちょっと剣崎君、何で私がこんな扱いを…!あ、あれエイちゃん、ども。」

「私らは便利屋じゃないんですからね…。」

 

「ども剣崎さん、お疲れさまでした。ミサト、あんたパイロットのメンタルケアすらまともに出来ねぇのによく監督官名乗り出てくれやがりましたね。」

 

「え?どゆこと?」

 

「はァー。アスカ、だいぶ参ってましたよ。自分を誰も見ちゃくれないとか、自分で撃破したスコアが全然ないとか…それの発破かけにいってただけですよ。これも俺の仕事ですからね。同級生が万全の状態で戦えるようにするのって大事じゃないんです?」

 

「だからって、シンジ君をあそこまで追い詰める必要はあったのかしら?」

 

「ありましたね。彼、酷い自虐で目の前から逃げようとするんで。ちゃんと自分の意思を持ってもらわないと。アスカのとシンジのじゃあ性質が違うんですよ。」

 

「…やだ、私、どうして気付けなかったの…?」

 

「それはコミュ不足なんですよ、シンジとアスカとのね。」

 

「そうね…最近、留守にすることも多かったし…。」

 

「これからでも遅くはないですよ。人を知ればいいだけなんですからね。」

 

「やっぱり大人ね、エイちゃんは。」

 

突如鳴るアラート。

 

「ずいぶん短いスパンですね?」

「しゃーないわ、敵はこっちの都合なんて知ったこっちゃないのよ。」

「参号機とのクロッシングとコントロールジャックはまだ未調整の状態よ。くれぐれも気を付けてね。」

 

「あい了解。んじゃ、全体指揮はお願いしますね、葛城三佐。」

 

 

 

[総員、第一種戦闘配置!地対空戦用意!]

[目標は!?]

[現在、侵攻中です!駒ヶ岳防衛線突破されました!]

 

自分も映像を確認する。肉眼で確認できるほどのATフィールドを発している。

ヤバいなあれ。中和したところで攻撃が通じるのか?

使徒のビームも、今までとは桁が違う火力だ。…今までで一番の強さだろう。

 

[第1から18番装甲まで損壊!18もある特殊装甲を一瞬で…!?]

 

[エヴァの地上迎撃は間に合わないわ!弐号機、参号機をジオフロント内に配置!本部施設の直援に回して!エイジ君。任せたわ。]

 

「了解!弐号機が前衛、零号機が後衛でスタンバイ。」

 

[私、参号機よ。いつもの癖?]

 

「あっ、やべぇこれは失礼した。参号機にはポイント005の試作ポジトロンライフル(9巻P84-)を装備、MAGIに誤差修正をさせて待機!降下しきるまでは絶対に撃つなよ!

アスカは参号機のスナイプがバレないよう、目標降下ポイント付近で待機、攻撃にて陽動!付近にバズーカやライフル、グレイブ等の武装を配置させる、手当たり次第に使え!

葛城三佐、サードはまだ帰ってきませんか?」

 

[シンジ君はまだ外をほっつき歩いてるようね。仕方ないわ、初号機は待機!いつでも出せるようにしといて。]

 

[その必要はない。初号機はダミーで起動させろ。]

 

「ダミーは戦闘指揮に対応してないんでやめて欲しいのですが。」

 

[問題ない。見ただろう、この間の戦闘を。]

 

「人間にあっさり極められてたのが強いとは到底思えないですけどね。初号機はサードが来るまで待機だ!

弐号機、参号機聞いてたな?俺らだけで片付けるぞ。初期クロッシングは弐号機だ。」

 

[了解!]

[わかったわ!…導いて、ママ…!]

 

[あと一撃で全ての装甲は突破されます!!]

 

「了解。アスカ、やるぞ。」

[ええ…!]

 

その掛け声と同時に、ジオフロントの天井が崩れ、使徒が姿を現す。

 

「攻撃開始!」

[やってやらああああ!!!!]

 

弐号機はライフル、マシンガン、バズーカを代わる代わる持ち替え、敵に対して猛攻をする。敵は着弾煙に包まれるが、ダメージをほぼ受けていないようだ。…やはり強い。

 

[ATフィールドは中和してるのに、どうして平気なのよ!!!!こんのォおおおおおおおおおお!!!!!]

 

敵を注意深く観察する。敵の腕部が展開する!?マズい!!

 

「避けろ!!!!」

[っ!!!!!]

 

直前で回避イメージを送ったため、何とか敵の攻撃を回避することができた。しっかし、持っていたライフルがここまで綺麗な切断面になるとは…。喰らってたら間違いなく両腕を持ってかれていた。青ざめながらも、指示を飛ばす。

 

「アスカ、ソニックグレイブ装備!レイ、ライフルは!?」

 

[わかったわよ!]

[いつでも撃てるわ!]

 

「了解!スナイプポイントを送る!」

 

照準点は左腕を通して、そのままコアごとぶち抜く点。コレでダメだったらどうする…?敵のATフィールドは尋常じゃないほど硬い。これを陽電子砲以外でどうぶち抜くかが問題だ。

 

「アスカ、前に出ろ!俺がクロッシングで援護する、絶対にあのカッターに当たるなよ!!」

[わかってるわ!あんなの、一回見れば避けれるわよ!!!]

 

アスカはソニックグレイブを持ち、敵に接近する。すげぇよアスカは。2回目の攻撃はちゃんと避けてる、流石のセンスだ。使徒に向かいソニックグレイブを降り下ろすが、使徒の腕カッターの面部を使われて防御される。てか弐号機のATフィールド、さっきより強くなってないか?…いける!!!

 

「レイ、今だ!!」

 

[了解!]

 

その刹那、青白い閃光が敵に襲いかかる。アスカは寸前でこれを避け、敵はATフィールドで防御するが、陽電子はこれを突破、左腕部ごとコアを貫く…ハズだった。

 

[ダメ、効いてない!]

[そんな!!ATフィールドごと破れる、唯一の攻撃が…!]

 

「レイ、さっさと移動しろ!当て返しされるぞ!!」

 

参号機が慌てて移動すると、さっきまでの射点に敵のビームが飛ぶ。あっぶねー、あんなの喰らったら幾らエヴァでも半身持ってかれっぞ…。その隙を狙って、再度弐号機へのクロッシングで敵の状態を確認する。

 

「…いや、まだ勝機はある!アスカ、もう一度アタックだ!今のアスカならできる!!行け!!!」

 

[…っ、わかったわ!行くわよォオオオオオオオオオオオ!!!!!]

 

敵はコア着弾寸前でシールドを展開したが、シールド自体はこの攻撃に耐えれなかったようだ。シールドが焼け落ち、コアが再度むき出しになる。ついでに左腕も焼けたため、もう右腕しか残っていない。

アスカは使徒に向かい突進する。敵は再度腕カッターを飛ばすが、今度はこれを足場に弐号機は跳躍、そのままソニックグレイブをコアめがけて突き下ろす。弐号機、使徒のATフィールドが干渉し、巨大なオレンジ色の八角形が視覚化される。

 

[でぇりゃあああああああああああああ!!!!!!!]

 

「レイ、もう一射いけるか!?」

 

[チャージは終わってるわ!でもこの状態じゃあ…!]

 

[いらない!あたしがっ、倒すんだぁあああああああああ!!!]

 

その宣言と共に、弐号機の薙刀はATフィールドを突破、敵のコアを貫く。ダメ押しにコアへ更にねじ込む中、敵は最後のビームを天井に放ち、爆発した。

 

 

「ふぅー…使徒殲滅…。お疲れさま、アスカ、レイ。」

 

シンクロ率132%。瞬間的ではあるが、これまで一度も見たことがない数字だ。やっぱすげぇよアスカは。

 

 

 

 

誰もいない夜のラウンジ。俺らは身内だけで勝利パーティーをやっていた。シンジもシンジで、改めて俺らの敵に対して立ち向かう決意をしてくれたようだし。アスカも自信を取り戻してくれた。

それでも、まだ不安は残る。『人類補完計画』…。これは一体何なんだ?人間の何を補完するんだ?人間の魂と『神』、これと関係がありそうなんだが、どうしても考えがまとまらない。

誰もいなくなったラウンジで一人考えていると、アスカが突然姿を現す。

 

「まだここに居たのね。ねえ、アンタ途中からクロッシング切ってたでしょ。どうして?」

 

「うわ、バレるとは思ってなかったな。…アスカのシンクロ率上昇を見て、なるべくノイズを入れないようにしたんだよ。結果、自力で上手くいったろ?そういうことだ。」

 

「…影嶋。」

 

「どうし―おわっ!?ど、どうしたんだよアスカ。」

 

アスカは泣きそうな顔をしながら俺に抱きついてくる。え?え?ど、どういうことなんだ?

 

「あたし、今まで生きてきて、こんな…こんなにあたしのことを想ってくれる人、ママ以外ではじめてで…!」

 

「な、何言ってんだアスカ!?」

 

「寂しかったのよ!ずっと、だれもあたしのこと、ちゃんと見てくれなくて…!」

 

ああ…あーゆう性格ってのは本当に、誰かに自分を見て欲しいっていう主張だったんだな。

左手を背中に回し、アスカの頭を撫でる。

 

「弐号機で戦ってるとき、本当にママが側にいてくれるってことを感じたわ!でも、でもそれ以上に、あんたの言葉が、頭から離れなくて…!」

 

え…。ヤバい、反射で反応しちゃうと殺される気がする。最後まで黙ってなければ。

 

「あたし、あんたの『行け』って声に、凄く安心した。だから、使徒にも躊躇いなく突っ込めれたのよ。」

 

「それはどういう…」

 

「ここまで言ってもわからないの!?好き…好きなのよ!アンタが…!エイジが!!!」

 

な…本当にそうなっちゃうのか…。目線が下に落ち、唇を噛む感覚。かなり苦い顔をしているんだろう。

 

「どうして…!?あたしはファーストより、レイよりアンタを慕ってるのよ!?どうしてそんな顔をするのよ!」

 

突き放さなければならないというのが、非常に心にクる。でも、言わなければ彼女は本当に変われないだろう。アスカを俺の体から離し、きっぱりと言う。

 

「アスカ、それは『好意』じゃない。…『依存』だよ。」

 

「え…」

 

「他人に依存すると、その人がいなくなったとき立ち直れなくなる。もっと心が脆くなっちゃうんだよ。今のお前が加持さんや俺に向けてるのは依存だ。本当の好意じゃない。

加持さんにも言われたんじゃないか?『お前はまだ子供だ』って。そういうことなんだよ。」

 

「あ……」

 

「俺や、加持さんの思いやりをわかってくれ。…ごめん、アスカ。」

 

平手打ちが飛んでくる。これは避けれなかった。いや、これも避けてしまったら…

 

「バカ!!!」

 

アスカは目に涙を浮かべながら走り去る。また一人になってしまったラウンジで、左頬に手を当て、ぼそりと呟く。

 

「みんな…やっぱり、子供なんだな。」

 




アラエル君どうしよう…。


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St.14:今までにどれほどの後悔をしてきただろうか

急、開幕。

どれだけしょうもないと言われようと、自分はこの結論が一番だと思った。


学校なんて行くのはいつぶりだろうか。ここ最近の使徒ラッシュのせいで、家にいる時間も、学校にいる時間も殆ど取れなかった。最近は赤木博士と色々やってるせいで、レイにも構ってやれていない。なんか、一度に3人の子供を抱えたシングルファーザーのような感覚になる。保護者って立場もなかなか辛いんすね、ミサト。状況によって、普通の中学生だったり、指揮官だったり、パイロットの背中を押す役だったり。自分が何者なのかがわからなくなる。

 

「あ、アスカ。おはよ。」

 

「……っ」

 

いつも通りの挨拶をする。アスカは俺と目が合うと、顔を暗くして走っていってしまう。まあ、無理もないよな。あんな突き放された後じゃあ…。

 

「ねえ、アスカどうしたの?元気無さそうだったけど。」

 

「今日の昼、屋上に誰も居なかったら話すよ。」

 

「エイジも大丈夫?なんか浮かない顔をして…」

 

「え?レイ、俺今そんな顔してる?」

 

「うん、してる。気づかなかったの?」

 

「多分、心の余裕が無くなってるんだろね。」

 

 

 

 

「で、どうしたの?エイジ。」

 

「アスカの俺への好意を…突き放したんだよ。」

 

「え?どういう―」

 

「俺は……っ。アスカがな、こないだの戦いのあと俺に『好きだ』って言ってきたんだ。俺のことを、レイよりも慕ってるって。俺はアスカの脆い部分を知ってるのに、大きなウェイトを占めてる依存って感情の前で、彼女にもあった、小さな本当の好意ってのを踏みにじったんだ。俺は正しい、正しかったんだって言い聞かせてさ。…臆病者だよ、俺は。」

 

「エイジ…。」

 

「上っ面は普段通りでも、たった今でも後悔し続けてる。どうしてあのとき、その小さな好意に気付いてやれなかったんだろうってさ。」

 

Yシャツの心臓あたりをつかみ、握りしめる。

 

「多分、俺は怖いんだよ。こないだので、今までの関係が壊れてしまうんじゃないかってさ。だって…ずっと、胸が痛むんだよ。不思議だよな…。」

 

「何?エイジ、アスカ振ったの?」

 

「ケンスケ…?」

 

いつからそこに―

 

「勿体ないというか、贅沢というか。あ、そうだ!ならさ、惣流を俺に―」

「てめぇ!!!」

 

ケンスケを殴り飛ばし、胸ぐらを掴んで押し倒す。

 

「馬鹿野郎!何でそんなこと軽々しく言える!言ってみろよ!言え!何でだ!!」

 

「エイジやめて!」

 

「アスカの気持ちもわからねぇ奴が…!」

 

「な、何だよ…。何でそんな怖い顔すんだよ…。」

 

言ってみろよ…言えよ……着信音?ケンスケを突き放し、目元を拭ってから電話に出る。

 

「…はい、影嶋です。」

 

『俺だ。今すぐ会いたい。』

 

「今学校ですけど?」

 

『ならそちらに向かうから早退しろ。話がある。』

 

「…わかりました。」

 

「誰から?」

 

「加持さん。急用っぽい、行ってくる。」

 

ケンスケへの怒りが再発する前に、俺は屋上からいなくなる。後ろの方では、なかなかいい音が鳴っていた。

 

 

 

 

「待たせたな。」

 

「いいえ、たった今ここに来たばかりですよ。」

 

「そうか、じゃ、行こう。」

 

加持さんは車を勢いよく飛ばす。焦りが垣間見えるようだ。

 

「なあ、何かあったのか?目元が赤いぞ?」

 

「ちっと…アスカのことで。」

 

「アスカ?お前がアスカのことで何かあるとは珍しいな。」

 

「アスカの好意を踏みにじって、今更後悔してるとこですよ。」

 

「何だ、それなら君から言い直せばいいじゃないか。『俺が悪かった、お前が好きだ』ってさ。」

 

「俺は、今、自分の感情がわからないんですよ。色んな顔を使ってるうちに、だんだんわからなくなるんです。全部利害や今後に繋げるって言って、たった今の感情が無くなっていくような…そんな気がしてるんです。」

 

「流石の君でも、そこの踏ん切りがつかないってか?君らしくもない。」

 

外には積乱雲がすぐ近くまで迫っている。何か、嫌な予感がする。銃を取り出し、安全装置を外しコッキングしてから、もう一度しまう。

 

「加持さん、俺、最近思ったことがあるんですよ。『大人』ってのは精神の成熟度合いを言うんじゃなくて、多くのことを経験して、その上で合理的判断ができたり、気をきかせることのできる人間のことを指すんじゃないかって。その点じゃ、俺もまだ子供ですね。」

 

「そういうことを自分で言えることができるのは、子供じゃなかなか難しいさ。…着いた、ここだ。」

 

俺らは廃工場に着く。加持さんと一緒に降り、奥へとついていく。

 

「俺が君を呼んだのは、これを渡したくてね。」

 

「何です?このケース。」

 

「葛城が辿り着く真実と、君が辿り着く真実は違うかもしれない。だが、迷わず進め。真実は君と共にある。」

 

「それはどういう…」

 

銃声が2回。加持さんが倒れる。俺も殺される…!?

 

「てめぇ!!!」

 

銃を取り出し、3発。逃げようとした敵は倒れ、二度と動くことはなかった。

 

「加持さん!!!」

 

加持さんの側に寄る。脇に1発、胸に1発…このままじゃ助からない…!

 

「すぐ救急車を―」

 

「よお、お前ら…迎えに来てくれたのか…。」

 

俺の方を向いて、何かを言おうとする。いや、目線はこっちでも、これは既に俺を捉えていない…。

 

「加持さん?ダメだ!死なないでくれよ!」

 

「はは……。これで…ジ・エンドか…。」

 

「加持さん!!」

 

思えば、タダで重要な情報を渡してくれたって時点で気付くべきだった。危険な仕事をしているのは想像に易かったのに。

 

「……わかりました。どこまでできるかやってみますよ、加持さん。」

 

加持さんの目を閉ざし、俺は廃工場の外を出た。右手に持った、加持リョウジの名が刻まれたIDと共に。

 

「雨か…。」

 

 

 

 

 

雨。常夏の日本にとって、スコールは特段珍しいものではない。だが、今の俺の心境を表しているようなこの静かに降る雨が、嫌いだった。

加持さんを…守れなかった。ミサトやアスカにどう説明すればいいんだ、こんな話……。

 

「影嶋…?」

 

「よ…、アスカ…か。」

 

目の前には傘をさしているアスカが立っている。相変わらずらしくない表情(カオ)をしているが、まァ、今日の俺も似たようなもんだろう。

 

「どうしたの…?風邪、引いちゃうわよ?」

 

何も言えなかった。目を合わせてしまい、硬直してしまった。さっきの光景が頭をよぎり、自然と涙が出てくる。雨と一緒になったそれは、俺の頬を伝い、滴り落ちていく。眼鏡のレンズについた雨水と涙で視界がぼやける。

 

「どうしたの?」

 

「………俺は」

 

「あーもう!いいからこっち来なさい!アンタが倒れたら作戦指揮はどうなるのよ!」

 

「え、あ、ちょっと……」

 

状況に流されるまま、俺はアスカに手を引かれて屋根のあるバス停に向かった。

 

 

 

アスカがベンチに座る俺に対面して、タオルで俺の頭を拭く。

 

「もう、アンタらしくもない。また何かあったのね?言ってみなさいよ。」

 

俺は、ただ俯くことしかできない。あれだけ加持さんを慕っていたアスカに、とてもじゃないけど、言えるわけが…。

 

「………」

 

「ねえ影嶋。あの後ね、あたし……考えたんだ。『好き』ってことを。確かに、加持さんやアンタの言った通りだった。あたし、ずっと振り向いて、構ってくれる加持さんや、キレのある返しをしてくれるアンタに、ずっと依存していたみたいね。でもね―

でも、あたしはエイジのことが本当に好きみたい。変につっかかってたのも、レイを妬いてたからだと思う。」

 

「アスカ…?」

 

「あたし、やっと素直になれた。こないだはあり―ちょ、ちょっとエイジ!急に抱きついてこないでよ!」

「ごめん、アスカ……ごめん……」

「どうしたのよ!?急に泣き出して、アンタらしくないわ!」

「加持さんを、守れなかった…!俺は…!」

「どういうことよ!…え、加持さんのID?何でアンタが!?…まさか、嘘でしょ!?嘘って言ってよ!」

「ごめん……ごめんね……!」

 

アスカは何も言わず、俺を強く抱き締めてくれた。アスカも、声を殺して泣いていた。

 

 

「バス、乗ろっか。」

「…うん。」

 

 

 

バスに乗ってマンション最寄まで移動する中、アスカが俺に問いかけてくる。

 

「そういえば、何でアンタは戦ってるの?あたしはまだエイジのを聞いてなかったのよね。」

 

「守りたいんだ。レイ、アスカ、シンジ、学校のみんな、NERVの人たち―俺に関わってくれた、全ての人を。だから俺は指揮官をやり続けてる。前で戦ってくれるアスカたちを、絶対に死なせたくないから。」

 

「…そう。凄いわね。誰からも助けてくれないのに、今まで指揮をしてくれてたなんて。」

 

「ミサトがいたからやれた仕事だよ。俺一人じゃ何もできない。」

 

「それでも凄いわ。今までありがとう、エイジ。」

 

「この感じ、明日は雷雨かな?」

 

「ひどーい、こんな心配してあげたのに。」

 

「はは、悪ィね。俺の方が、今まで素直じゃなかったんかもしれねェな……。」

 

自覚してる以上に、俺はアスカのことが好きなのかもしれない。

 

 

 

マンション・玄関前。

 

「今日は色々、迷惑かけたな。」

 

「いいのよ。…ねえエイジ。」

 

「何だ?」

 

「あたし…」

 

それだけ言うと、アスカは俺にキスをする。不思議と、悪い感じはなかった。

 

「じゃあね、エイジ。」

 

アスカは自分の家に入っていく。俺は何も言わずに微笑み、自分の家に帰った。

 

「ただいま。」

 

 

 

 

「ねえ、アスカとはどういう関係なの?まさか二股?」

 

「レイ、開口初っぱなからそれか?勘弁してくれ。…確かに好意を持ってるってのは事実だけどさ。昔、あんな感じに優しいけどしっかりしてる姉貴が欲しいって思ったことがある。アスカの素って、なんか、そんな感じがするんだよ。」

 

「え~、何それ~。それじゃ私とエイジの関係はどうなるのよ。」

 

「今まで通りだよ。俺は大切な人をそこまで蔑ろにできるほど上手く立ち回れない。」

 

「む~~~!」

 

「何だ、アスカに俺が取られそうだって、妬いてんのかァ?」

 

「エイジが悪いんでしょ!!!!」

 

「あだだだだ!!!ゲンコツで頭をグリグリするとか随分古いのを…!」

 

 

 

 

 

午前零時、ターミナルドグマ。俺は赤木博士と共にロンギヌスの槍を見物しに来た。加持さんのカードを通すと、磔にされたリリスとそれに突き刺さっている槍が顔を見せる。

 

「実物は久々に見たわね。」

 

「ええ。…どうですか?ここなら”AATFS(アンチA.T.フィールド弾)”の開発に必要なデータも取れると思います。但し、NERV本部外にデータを一切漏らさないようにお願いします。」

 

「…わかったわ。最近の使徒は常軌を逸しているものが多いものね。準備するに越したことはないわ。」

 

「ありがとうございます。これで3回目ですね、赤木博士に無茶振りをするのも。」

 

「私だって、エイジ君に借りを作りっぱなしって訳にもいかないわ。」

 

「ありがとうございます。あと、もうひとつ頼まれてくれませんか?」

 

「何かしら?」

 

「それは――」

 

 

 

学校、始業前。

段々と人数が減っていくこのクラス。最初に来たときより半分の人口になってしまった。でも、トウジと洞木さん、シンジとケンスケ、俺、レイ、アスカ他クラスメートは普段と変わらない学校生活を送っていた。

最近は使徒もめっきり顔を出さなくなってきたし、俺も前のような生活に戻っていった。くだらない隙自語が入る授業は聞き流し、加持さんから貰ったデータを見ながら夕食を考える。これだけのために、オフライン専用のラップトップを買った。警戒するに越したことはない。そうそう、最近は同居者が一人増えたから、そいつの我儘も込みで飯は考えてる。

昼休みは俺らとシンジを合わせた4人で、屋上で昼食をする。俺はいつも通り筋トレをしてから昼食にしてるが、最近はシンジも自分からやるようになった。

 

「この4人での昼食ってさ、何気に初めてじゃね?それより前にあったっけ。」

 

「ほら、アスカが最初に日本に来たときなんかそうだったじゃない?」

 

「確かにそうね。シンジ、よく覚えてたじゃない。」

 

「私、あのとき会話に全然入れなくてイヤな感じだった。」

 

「つーかあからさまに不機嫌になってたしな。加持さんに俺が絡まれて持ってかれた時なんかもさ。」

 

「えぇ!?レイ、あんた思った以上に嫉妬深いのねぇ…。」

 

「やだアスカ、そんなことないわ!」

 

「へぇ~、綾波って、どっちかっていうと凄く積極的なところがあるなーって思ってたけど、そんなとこもあるんだ。」

 

「積極的といえば、あんたら停電騒ぎのときシャワールームで何やってたの!まっさか先に進んだわけじゃないわよね…!?あたしだってまだキスしかしてないのに…

 

「やーねー、そんなハレンチなことしないわよ。」

「アスカお前なァ、俺がそんな度胸のある人間かと思うかァ?そういうあらぬ話を振り撒くのやめてくれよ。」

 

「なな、なんで3人ともそんな平気なカオでこんな会話できるの…?」

 

「やだ、碇君たら、ウブなのね?」

「レイ、そろそろそれも死語に片足突っ込んでんだからな…。」

 

こんな他愛もない話をして、放課後はNERVで実験、訓練、調整。何だか、アスカが来たばっかりの時みたいな、いや、それよりも平和な時間が過ぎていく。…俺を除いては。

 

 

 

 

「赤木博士、進捗はどうですか?」

 

「エイジ君のお陰でだいぶ順調よ。本体自体は今までの武装のスペアを流用して3本確実に調達できるわ。ただ、この弾はこの1-2ヶ月で100発作れるかどうかといったところね。性能を求める分、だいぶ高コストになってしまったもの。」

 

「5発マガジン換算で20程度ですか。どうせ使徒は1体ずつしか来ませんから平気ですよ。これで今までの使徒10体が同時に来たとなったら、その時はもう人類滅亡ですね。」

 

「嫌な冗談ねぇ。そうだ、ミサトが呼んでたわよ。執務室に来て欲しいって。」

 

「ミサトが?…ああ、何となく察しがつきました、そういうことですか。」

 

「留守電のこと、知らない?」

 

「まあ、向こう行ったら訊きますよ。それじゃ、引き続きよろしくお願いしますね。」

 

 

 

 

「失礼します、葛城三佐…え、剣崎さんも一緒なんですか?どうしてです?」

 

「剣崎君、私と一緒で加持君と同期だから。リツコもなのよ。それでね、今日はこれを渡しに来たの。」

 

そう言ってミサトは俺に新しいIDを渡す。このデザイン…!加持さんのIDを取り出し、両手を並べて見比べる。

 

「同じデザイン…。てことは、もしかしなくても…」

 

「ええ。あなたには加持君と同じレベルの権限が与えられたわ。これで正式に好き放題できるわよ。」

 

「はは、子供が持っていいモンじゃないでしょこれ。」

 

「それだけあなたの功績が大きいのよ。……加持君のID、見せてくれる?」

 

「…どうぞ。」

 

ミサトに加持さんのIDを渡すと、何も言わずじっと見つめる。

 

「……バカ。」

 

「訊いていいですか?『留守電』について。」

 

「ええ。でも多分、加持君のことだから言ったことは同じよ。」

 

 

「「真実は君と共にある」」

 

 

「…やっぱりですか。」

 

「最後の最後までカッコつけちゃって、あのバカ。」

 

「加持が残した情報ならまだありますよ。」

 

「剣崎さん?」

 

「各国が、エヴァ5-13号機の建造を開始したそうです。上海経由の情報で裏も取れているので、信憑性はあります。」

 

「何故?本部にいる4機の時点で戦力過多なのに、今更どうして…。」

 

「もしかしたら、対エヴァ戦も考えていかないといけないかもしれねぇな。」

 

「どういうこと?ダミーはもう量産できないんじゃあ…」

 

「レイっていうイレギュラーが存在してる時点で、二例目って線を考えないといけないと思う。忘れない内に言っておくと、レイは使徒の魂が入ったクローンだった。つまり、外見は人間でも中身は使徒ってのが考えられるわけだ。」

 

「だとしたら、どこから警戒すればいいの?魂を調べるなんて不可能よ。」

 

「レイは、全てのエヴァとシンクロできる。この時点で、普通の人間にはできない所業をしてる。つまり、その敵もシンクロに対するイレギュラーが発生する可能性があるわけだ。MAGI側でも、俺側でもそれは警戒しといたほうがいいな。特に、都合よく5番目(フィフス)が来たときとかは。」

 

「しかし、エヴァ4機に対して、現在のパイロットは4名ですよ。それでは数が合いません。」

 

「剣崎さん、あなたは俺がアークに乗ってることを忘れてる。この時点でパイロットを捏造して送るのは正当な理由があります。まあ、俺はアーク経由だとしても参号機を譲る気はありませんけどね。

アークの情報は恐らく漏れてる。それ前提でかんがえていけば、一番確率が高いのは参号機パイロットの座を狙って来るパターンだろう。二人とも、気を付けて。」

 

「もちろんよ。」

「わかりました。」

 

 

人類補完計画のやりたいことが、少しづつわかってきた。俺らはそれが当たり前だと思っていたから何も感じなかったが、人同士にある壁が気にくわない連中もいるようだな。まァでも、「これだから人間は…」って思うことはよくあるけどね、例えば使徒が来てんのに平気で人同士で戦ってるのとか。世界史でやったヴァレンタイン休戦臨時条約とか正にその体現でしょ。

こういう問題てのは、それこそ本当に、純粋種のイノベイターが出てきたとかの天地がひっくり返るような事象が発生しないとなしえないものだろうけど、これに関しては本当に「それでも!」って言い続けなきゃならないんだろね。

…この世界に生きる子供には苦痛過ぎる未来だけど、それでも彼らは自分の意思で生き続けるのだろう。




もっと穏便に話を進めようとしてたのに、何故か本編レベルの話になりつつあるんですがそれは…


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St.15:誰にだって知られたくない、忘れたい過去の一つ二つあるもんだろ?

自分は官能小説は書けません(半ギレ)
アンケートありがとうございました。


あのあと、結局シンジもこっちに来たいと言い出したから、マンションの二部屋使って贅沢な住居が完成した。保護者含めて全員が自室に合鍵を持っており、玄関を介してだが自由な移動をしていた。んでも俺が昨日の夕食で、

 

「こんなくらいならマンション二部屋じゃなくてさ、もっと大きい部屋とか一軒家に住みたいよなァ。」

 

なんて溢したから、ミサトがものすごい勢いで手配してくれてた。今日、俺らがNERVの実験から帰ってくるくらいには終わってるとも言ってるし、正直俺らはその手際のよさにドン引いてた。

 

少し寄り道をし、ボロボロになった都市を進んで俺ら4人は学校へ向かう。この荒廃の原因は間違いなく第9、10使徒のせいだろう。あの時はマジで形振り構ってられなかったってのもそうだが、俺らも完璧に対応しきれなかった。

ふと、足元から猫の鳴き声が聞こえる。

 

「あら、可愛い~。」

「うわ、ちっちゃいなーお前。」

「この感じ子猫かァ。どうしたもんかなぁ……」

「下手なことはしたくないものね。」

「つれていっちゃおーよ、ミサトも許してくれるわよ!」

「動物飼うのってすげー大変なんだからな…?」

 

そんな会話をしていると、ふとピアノの音が聞こえる。うっわ、この曲…

 

「どうしたのエイジ?そんな嫌そうな顔して。」

「この曲、ショパンの”別れの曲”だ。曲自体は美しいんだけど、如何せんタイトルがね…。」

「あっちから聴こえる。行ってみよう!」

「あ、ちょっとみんな!…ごめんね、猫ちゃん。待ってよー!」

 

 

 

曲が聴こえてくる方向へ全員で行くと、崩れた教会らしき場所にポツンとピアノが置いてあり、そこには銀髪の少年がピアノを弾いていた。へえ、これスタインウェイじゃん。弾き終わると、俺らに訊ねてくる。

 

「知ってる?この曲。」

 

「え?」

 

「さっき街歩いてるときに聞いたんだ。何て曲か知ってる?」

 

「エイジ君はさっき、”別れの曲”って言ってたけど…。」

 

「ふーん。…その制服、第一中学校のだね?連れてって。」

 

「はァ?何言ってんのよアンタ。」

 

「道に迷った。こんなところに来るはずじゃなかったのに。」

 

「転校生か?」

 

「まぁね。君らこそなんでこんなとこにいんの?道に迷ったとか?」

 

「いいえ、ただの寄り道よ。」

 

俺らが行こうとすると、また背後から猫の鳴き声が。アスカについてきてしまったようだ。

 

「あら、ついてきちゃったのね。ごめんね、私ら、あなたの面倒を見てやれないの。」

 

アスカも変わったよなァ…そんなこと思いながら横の銀髪を見ると、凄く冷たい目をしていた。あれ、この目をどっかで見た気が…

俺らがまた去ろうとしても、猫は未だについてくる。俺らが困った顔をしていると、彼は猫を持ち上げる。そして首を絞め、首の骨を折って殺した。

 

「ちょっとアンタ、何やってんの!?」

 

「もう死んだよ。」

 

言うのと共に亡骸を投げ捨てる。この感じ…

 

「ちょっと…!」

「シンジ、抑えろ。…何故殺した?殺さない手もあったはずだ。」

 

「君ら、ついてこられて困ってたんだろ?それにこの猫、ほっといてもどうせ死んだよ?」

 

ナチュラルに繰り出されるその言葉に俺らは絶句した。

 

「親もいないし食べ物もない。こんなとこ、僕と君ら以外に誰も来るはずもない。飢えて苦しんで徐々に死ぬんだよ?だから今殺してやった方がいいんだよ。」

 

「それは随分独善的な考え方だな。生き死にを決めるのはお前じゃない。…お前は一体何者だ?」

 

「僕は渚カヲル。5人目の適格者(フィフス・チルドレン)だよ。聞いてない?影嶋エイジ君。」

 

「俺の名前を…!」

 

「みんな知ってるさ。碇シンジ、綾波レイ、惣流・アスカ・ラングレー。みんな、エヴァに関わっているからね。」

 

「初めて会うっつーのに別れの曲たァ随分なご挨拶だな。」

 

「本当に知らなかったんだよ。それじゃあさ、僕を学校につれてってよ。」

 

 

 

 

「渚カヲルです、よろしく。」

 

(なんか、不気味なやっちゃな~。)

(本当に人間かよあれ?)

 

ひでぇ言われようだが、正直俺も同意したい。猫を殺す前にしていたあの目、間違いなく見覚えがある何だ…?なかなか思い出せない。

 

 

昼休み、俺らは弁当を食いながら渚君の話をしていた。

 

「あのバカ二人が不気味だとか人間かよつってたけどさ、正直俺同意しそうだわ。」

「ええ、あっの冷たい目、イヤな感じだわ。」

「なんだか、昔の私を見てるみたいで嫌。」

「ああ、そういうことか。どっかで見覚えがあると思ったら…そういう。」

「みんなボロカスに言うね…。」

 

「君らこそ随分な言い様じゃないか。」

 

「「「「「わあっ!!!!」」」」

 

「全く気付かなかった…?」

「脅かさないでよね…。」

「びっくりしたぁ…。」

「やだ怖い。」

 

「怖い?僕と同じ君にそういうこと言われるとはねぇ、綾波レイ。」

 

「もう同じじゃないわ。昔ならよく似ていたかもしれない。でも、今は違うわ。」

 

「…君がリリンに惹かれるとは思ってなかったよ。じゃあね。」

 

「何だったワケ?アイツ。」

 

「レイが渚君と同じ…使徒?アイツがか?」

 

「ええ、そんなことってあるのかな…?」

 

「確かめる方法はいくらでもあるさ。んでも、暫くはどうせNERVに配属されないから、された後に確かめたい。今潰しても得がないからね。これじゃただの殺人犯になっちまうよ。」

 

「殺す前提で話すとかおっかないわねぇ。」

 

「使徒は敵だ。サード起こそうとして人類が消されたらたまったもんじゃない。」

 

 

 

 

 

放課後、久々に俺も含めてのプラグテストを行った。結果は…何故か一番相性の良いはずの参号機でさえ39.75で打ち止めになってしまう。嫌われてんのかな、参号機に。相変わらず弐号機は俺を拒否するし、ほーんとどうしようもねぇ。

 

「久々のプラグテストなのに何でこう奮わないのかなァ……。」

 

「何、まだシンクロ率5割行ってないの?エイジ、あんた真面目にやってる?」

 

「真面目にやってこれだ、悪いかよ?毎回体を明け渡すレベルで受け入れてんのにさァ、もしかしたらエヴァからの第一印象がよくなかったのかもなァ。」

 

「それって、使徒に乗っ取られた上から更に乗っ取ったからじゃない?ほら、コントロールジャックをぶっつけでやったって聞いたし。」

 

「ありうるわね。私だってある程度シンクロできるのに、エイジだけできないのっておかしいじゃない?」

 

「「「いや、[レイ/綾波]は特殊すぎるから!」」」

 

 

 

こんなしょうもない会話をしてると、突然警報が鳴る。

 

[総員、第一種先頭配置!対空迎撃戦用意!]

 

「使徒!?まだ来るの!?」

 

「対空ってことは空から来るのか。俺はアークに行く、各員プラグ内で待機!」

 

「「「了解!」」」

 

俺だけが反対側のアークへ、他パイロットたちはケイジへと走る。

 

 

「状況報告!」

 

[現在、目標は衛星軌道上に停滞中。映像で確認、最大望遠にします!]

 

「何だこりゃ、鳥か?」

 

鳥…トリ…出し得覚醒技のオーラを飛ばしてきそう。でもそれじゃあ金ピカじゃないとダメか。にしても、あんな位置に居られても射程があるのなんて陽電子砲しか思いつかない。でもそこを狙って当て返しの狙撃なんてされたらたまったもんじゃない。どうする…?

 

[衛星軌道から離れませんね。ここから一定距離を保っています。]

 

[降下接近の機会をうかがってるのかしら。それとも、その必要なくここを破壊できるのか…。]

 

「恐らく後者でしょうね。どうせ航空攻撃は効きませんし、最初は敵に見つからないように狙撃してみますか。MAGIに、敵のポイントから完全に死角になる狙撃ポイントを探らせてください。武装は陽電子砲。秘蔵の虎の子は確実に届きませんね。いや、”アレ"を使えばもしくは…。」

 

[エイジ君、"アレ"はまだ使ってはいけないわ。"アレ"は最終手段よ。]

[ちょっと、さっきから言ってる"アレ"って何よ?]

 

「槍ですよ。ロンギヌスの槍。アレにはアンチATフィールドがある。その気になれば、一撃で使徒を粉砕できますよ。でもこれは本当に最終手段です。いいですね?」

 

[わかったわ。]

 

「零号機がスナイプ担当。弐号機がバックアップに回ってくれ。」

 

[了解!]

[ええ~?あたしがバックアップ~?]

 

「アスカが一番瞬発力があるんだよ!!敵の当て返しが来たとき、レイごと回避できるのはアスカが一番なんだ!頼む、毎回毎回ゴネないでちったぁ俺を信用してくれ!」

 

[わ、悪かったわよ。]

 

「失礼。というわけで、配置はこんなもんだ。MAGIによる狙撃ポイントの割り出しは終わりましたか?」

 

[今送ったわ。頑張ってね。]

 

「ありがとうございます。エヴァ発進、300秒後に作戦開始。カウントスタート。」

 

また雨だ。ほんと、雨ってのは不吉な予感がする。クロッシングによって投影された零号機の視界から、そんな感覚をもつ。

 

「カウント、3、2、1、作戦開始。最大出力で照準。」

 

[了解!出力最大でセット!地球の自転及び動誤差修正0.05、薬室内圧力最大!全て発射位置!]

 

「了解。…発射。」

 

銃口より閃光が放たれる。それは雲を、空を突き破り、敵の使徒へと向かう。しかし、陽電子は敵のATフィールドによって阻止される。無理もない、この距離に天候だ。減衰しきっているのだろう。

 

「退避!」

 

退避しようと動いた瞬間、敵の謎の光に零号機が晒される。

 

[何!?]

[危ない!!!]

 

咄嗟に弐号機が零号機を庇い、今度は弐号機が敵の光に包まれる。

 

「[アスカ!!!]」

[敵の指向性兵器!?]

[いいえ、熱エネルギー反応無し!]

[心理グラフが乱れていきます!精神汚染が始まりました!]

 

「マズい!弐号機のコントロールジャック開始!ぶっつけでもやってみるぞ!」

 

[了解!アスカと弐号機のシンクロ…!?ダメです、コントロールを受け付けません!]

 

「何だって!?それならクロッシングだ!アスカの負担を減らさねぇと!」

 

[エイジ君!敵は精神攻撃をしてきているわ!二人そろって戻れなくなる!]

 

「一気に持ってかれるよりマシだ!それに撤退しても次はレイが巻き添え食らう!レイ、槍を使え!俺らが時間を稼ぐ!」

 

[わかったわ!死なないでね!]

 

「もとよりそのつも…り…だ!こいつァたしかにキツいな…!」

 

[光線の分析終わった!?]

[可視波長のエネルギー波です!ATフィールドに近いものですが詳細は不明!]

[アスカとエイジ君は!?]

[これは…!エイジ君がアスカをなんとか持たせてます!精神汚染、βで維持!依然危険な状態です!]

 

[いやああああ!!!あたしの中に入ってこないで!!!]

「アスカ!しっかりしろ!アスカ!!!」

 

えェい、こんな時くらい俺を受け入れやがれ、弐号機ィ!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 突如として、モノクロの世界が眼前に広がる。これは…?

 

{アスカちゃん―私の可愛い娘―}

 

{あなたは特別よ。特別に作られた、特別な子なのよ。だからママの期待を裏切らないで―}

 

 な―!?

 

{因果なモノだな。提唱した本人が実験台となり、精神崩壊とは―}

 

{しかし、あんな小さな子を残して自殺とは残酷な―}

 

 やめろ―

 

{みんなで相談して、私があなたを引き取ることになったから。}

 

 こんな、こんな残酷な現実が―

 

{好き嫌いしてるとあそこのお姉さんに笑われますよ?}

 

{毎日あの様子なんです。人形を娘さんだと思って話しかけています。}

 

 わざわざ解説をして追撃をしないでくれ―

 必死に目を逸らそうとしても、魂に直接見せられているから回避のしようがない。直視を強要されている。

 

{今の彼女にとってはあの人形の方が―}

 

{高い金で精子を買って無理矢理子供を作っても、心の穴は埋められなかったワケだ。}

 

 もう、こんなビジョンを見せないでくれよ―

 

[ママ!]

 

 アスカの母親がこちらを向く。そして、その両手をアスカの首に―

 

「いい加減にしやがれェえええええええええ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

突如、弐号機が顎部の拘束具を引き千切り、咆哮をあげる。

 

[に、弐号機のコントロールがアーク…いえ、エイジ君に強制移行!アスカとのシンクロがカットされました!]

[どういう事!?]

[弐号機、シンクロ率203%!敵の可視光を遮断するほどの強力なATフィールドが展開されています!計測不能!]

 

弐号機はその装甲の下に隠した2対の双眼を光らせ、計測すらできない規模のATフィールドを展開し、我が子を守る。だが、それは母親のみの力ではなく、恋人の力も合わさったものであった。付近に放置されていた陽電子砲を掴み、敵に照準する。最早MAGIの誤差修正など関係なく、まるで成層圏にいる悪意を感じ取るかのようにその銃口を向ける。銃口の先にはATフィールドによる三角形、八角形の枠が交互に5枚、その先端部周囲を3つの正方形が等間隔に円運動をしている。

弐度目の咆哮と共に、弐号機はチャージも何もされていない陽電子砲のトリガーを引き、エネルギー体を射出する。それは人間からしたら目視すら困難なスピードで敵に襲い掛かる。しかし―

 

[ダメです!敵のATフィールドは破壊しましたが、本体に届いていません!]

 

[零号機、投擲体勢!目標確認、誤差修正よし!カウントスタート!]

[10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0!]

 

零号機は助走をつけ、二又から直槍へと変化したロンギヌスの槍を敵に向けて投擲する。成層圏まで届いたソレは、一瞬はATフィールドによって防がれるが、槍自身のアンチATフィールドによってそれをかき消す。使徒は槍に貫かれ、消滅した。

 

[目標、消失!]

[弐号機、活動停止!機体回収は2番ケイジへ!]

 

[ロンギヌスの槍は!?]

[第一宇宙速度を突破。現在、月軌道に移行しています。]

[回収は、不可能というわけだな。]

 

 

 

 

どこだ、ここ―

 

体を認識できないけど、俺がここにいるって認識ができる。これは…これが、俺自身の魂ってことか―

 

向こうで泣き声と、それをあやす声が聴こえる―

 

[ママ…ママ…会いたかったよぉ…!]

[アスカ、今までよく頑張ったわね。]

 

これは、アスカと、母親の魂…!

 

[あなたは?]

 

え、俺を認識しているのか?―

 

[当然よ。ここは私の中ですもの。]

 

ああ、なるほど。弐号機に意識だけ取り込まれたのか。しかもアスカまで巻き添えにして。―

 

[いいじゃない、エイジ。もう、辛いことを忘れて、ここで生きよ?]

 

アスカ…?―

 

[あなたも一緒に居ましょう?]

 

キョウコさん?何を…

 

[あなた、アスカのボーイフレンドでしょ?なら、もう拒むことはないわ。さあ、こちらへいらっしゃい?]

 

…申し訳ありませんが、俺はここに留まる気は無いですよ。

 

[え?どうしてなの?]

[エイジ、もう私…]

 

アスカ!お前はそんな弱かァ無いだろ!いつものように強がって見せろよ!

 

[私、もう疲れたわ。だから、もう―何!?]

[これは…アスカが、無理矢理引っ張られていくの!?]

 

な!?無理矢理は絶対ダメだ!アスカが壊される!!

 

やめろ!!!!!

 

[……え?止まった…の?]

[一体、何が…?]

 

「アスカ。こっちへ帰ろう。みんなが待ってる。」

 

[みんなって…?]

 

「知ってるだろ?シンジ。レイ。ミサト。赤木博士。伊吹二尉。洞木さん。んで俺だ。他にも大勢いるだろ?アスカだけ引き籠るなんて許さねェからな?」

 

「エイジ…!ごめん、私、弱気になって…!」

 

「いいですか?キョウコさん。」

 

―ええ。影嶋エイジさん、アスカを…お願いします。

 

「わかりました。さ、帰ろうぜ、アスカ。」

 

「うん。」

 

手を繋いで、弐号機から帰還する―

 

 

 

 

 

「はっ!?ごぼっ、ごぼっ……な、何とか帰ってこれた…じ、状況報告お願いします…。」

 

[エイジ君!?意識が戻ったんかい!?]

 

「日向さんですか?ええ、何とか戻ってこれましたよ…。ちなみに、戦闘開始から何時間経ってますか…?」

 

[戦闘開始から既に50時間経過している。ついさっき、一回目のサルベージが失敗してしまったところなんだが―]

 

「アスカは無事でしょう?俺にはわかりますよ。」

 

[そ、そうなんだ。ついさっき、プラグ内にアスカが戻ってきたんだよ。]

 

「それまでの間、俺はどうなってました?」

 

[それが…生命活動はしていたんだが、意識だけが無かったんだ。救出しようにも、アークがそれを拒んで…サルベージが始まる数分前くらいから、何かを呟いてはいたんだけど―]

 

なるほど…。本当に魂だけが弐号機(キョウコさん)に引っ張られていったんだな。このシステム(アーク)が、俺を繋ぎとめてくれたのか。今日、この瞬間ほど赤木博士に感謝したことはない。

 

「何か…食い(モン)ください。今の状態じゃ、この中漂う事しかできねぇんで。」

 

 

 

病院じゃあ俺は寝て、点滴受けてるだけだった。アスカは適当な検査を受けて、すぐ帰れたっつーのに不平等だなァ。え?衰弱してる状態は危険?…ごもっともでございます。

数日後、退院にはアスカが迎えに来てくれた。あーあ、これじゃあまたレイに何かされるわね。最早受け入れるしかないんかなァ。

 

にしても、家に着くまで目を閉じてろとかどういうことだ?まさか、俺の言ったことを真に受けて―

アスカの手を取り、コケないように慎重に車から降り、少し歩くとアスカが声をかける。

 

「もう開けていいわよ。」

 

目を開けると、そこにゃそこそこ大きめの一軒家があった。しかもここ芦ノ湖の夜景がいいってポイントに近かったはず。

 

「へぇ、ミサトも粋なところ選ぶじゃん。」

 

「帰りましょう?私たちの家に。」

 

「そーだな。」

 

「「ただいま。」」

 

 

 

 

夕食も終え、自分の部屋と言われたとこに行く。結局、レイには泣きつかれただけだった。まァ、あんなんじゃあシステムに囚われてるようにしか見えなかったろうしね。あ、この夜景好きだ。いいなァ、これ。

ふとドアをノックする音。

 

「開いてるよ。」

 

「え?開かないんだけど。」

 

「えェ?どうなってんだ?」

 

ドアに行き、こちらから開ける。

 

「アスカ、いった―」

 

突然飛び付かれ、何も喋れなくなった。っておいおいおい、舌使ってんの(ディープ)かよアスカ!やば、何も考えれなくなるわこれ。ああ、ダレン君の気持ちがやっと今になってわかった気がするよ…。俺らはそのままベッドに倒れ込む。アスカのヤツ、ついでに足でドア蹴って閉じてたし、部屋の照明まで落としてる。完全に狙ってやがったな?

 

「エイジ…ありがとう。あたしを守ってくれて。」

 

「当然だろ?キョウコさんも認めてくれた男だからな。」

 

「でも、手は出してくれないんでしょ?」

 

「そらそうだよ。だいたい何もないだろ?」

 

「いいわよ…なくたって。」

 

「随分強引な手を使ってくるんだなァ、アスカ。」

 

「イヤ?」

 

「俺は苦手だ。」

 

「そう。」

 

「拗ねるなよ。これなら幾らでも付き合ってやるからさ。」

 

もう一度ディープキス。舌が絡み合うこの感覚はとても不思議な感じがした。

 

 

 

 

ううん…なんか、胸あたりが苦し―

目を覚ますと、アスカが安心し切った顔で寝ている。まァ、昨日のアレあったしね…うん?何だこの腕?後ろを振り返ると、レイが何も着ずに俺の後ろで寝ていた。これまたすっっっっっっっっっっっごく可愛い寝顔でさ。

 

え?

 

何だこの状況?

 

てか俺の上着はどこいったのさ?いや下は履いてるからいいけどさ。

 

「何だこの状態……」

 

 

ハーレムって本当に男子の憧れなのか?俺には2人いるだけでこんな気ィ使ってんのに?

 

これから寿命まで生きていけるのか?俺。てかこれR-15で本当にいいの?大丈夫?

 




弐号機の攻撃はヱヴァンゲリヲン新劇場版:破の覚醒初号機のオマージュです。


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St.16:自分の中の無自覚な恐怖

これを書いている最中にアークシステムの全貌の設定を思い付きました。



優柔不断というか何というか、正直疲れる。最近なんかシンジに距離置かれてる感じあるし、彼の初号機も活躍する場面がない。本当に他意はないんだけど、いつも狙撃はレイがしてるし、アスカが前衛をしてるからそれで完結しちゃうんだよ。そんでもって二人は俺が贔屓にしてるって感じて張り切ってるわ初号機は毎回留守番だわ参号機も使いどころが無いわで、ほんと戦力を余らせてしまっている。不安があるとすれば対エヴァ戦だが、本気でそんなことをしてくるのだろうか?幾ら人類補完計画と碇指令の計画が違うからって、完璧に叩き潰しに来るのか?…いや、それは来るか。

 

使徒だって、寄生型が来たと思ったらゴリ押し火力ガン振りマンになったり、その次は精神攻撃をしてくる鳥が出てきた。挙げ句の果てに「渚カヲル」の存在だ。次の使徒の予想もクソもねぇ。こんなてんでばらばらな形で出てくるとなると対策なんてできたもんじゃない。第3使徒とか、初期の頃はだいぶ戦いやすかったのに……敵も学習してんだろなこれ。

てか、常に何か考えて、脳を動かしてないと倒れそうだ……。

 

 

 

最近、2時間くらいしか寝れていない。最近はアスカだけでなく、レイからも求められるようになった。俺はどうにかこうにか上手く言いくるめて逃げてきたけど、もうそろそろ彼女らも限界だろう。いつ本気で襲ってくるかわかったもんじゃない。

 

彼女らが寝てるベッドを背にして、俺は机で両手を額に押し当てて、毎日のように全く整理のつかない自分の気持ちの整理をつけようとしていた。 彼女らと体を重ねることに最初から抵抗があったのは知ってたけど、自分にはその理由がわからなかった。この、自分の中に沸き上がるよくわからない「抵抗感」がずっと燻り続け、ある日から”それ”が始まった。

 

(こんな、こんなので!!!)

 

銃を取り出し、安全装置を外して机に叩きつけた左手の甲に撃とうとする。…もちろんそれより前に自制がきき、今度は銃を逆に持って銃床で同じところを殴り付けようとする。結局

それも出来ずじまいに、両手を握り締め、右拳を机に叩きつける。

 

(また、今日もだ…!何で…何でこんな気持ちになるんだ…!何でなんだよ……!)

 

衝動的な自傷欲が襲ってくるんだよ。最近になって、多分こうだろうって結論が出た。多分、俺は「彼女らを穢したくない」と思ってるんじゃないかな。そういう恐怖が根底にあるんだと思う。トウジらの品のない言動に強い嫌悪感を感じたのもそれが元だろうね。それは当然自分に対しても向いてる。独善的な考えってのはわかってる。でも、そんなことを言われても―

 

「どう整理をつけりゃいいんだよ…。」

 

「ふふふ…」なんかみたくネタにするのとじゃあワケが違いすぎる。ずっと歯を食い縛っていた。また、気付けば外が薄ら明るくなっている。…また寝れなかったか。

 

 

 

[ねえエイちゃん、最近どうしたの?あまり眠れてないようだけど。]

 

「……え?そうですかね……?」

 

[その感覚が無くなっていくのは危険信号よ。くれぐれも気を付けて。]

 

[そうですね………。]

 

[シンクロ率もだいぶ落ちちゃったわね。大丈夫かしら、エイジ君。]

[彼、たまーにあるのよね。]

[何が?ミサト。]

[自分一人で全部抱え込もうとするとこ。他の子にはそういうことするなって言ってるのにさ。]

[多分、彼自身も無自覚なのよ。この年であれだけの重責を任されてしまったら無理もないわ。]

 

「でも、そんなことは言ってられないんですよ。俺だって、やらにゃならん仕事がありますからね…。」

 

[エイジ君、たまには休息も必要よ。シンジ君から聞いたことがあるの。あなた、『戦うべき相手がいないときは、そこから離れてもいい』って言ったらしいじゃない。その言葉、今のあなたにそっくり返すわ。]

 

「それは俺がそうだと思ったから言ったんですよ。実践するかどうかは本人次第です。そうじゃないですか?」

 

[それはへ―]

「”屁理屈だ”―そう言いたいんですか?俺の言葉に強制力がないっていうのに、よく筋が通ってないって言いきれますね。俺の言い方は筋が通ってますよ。葛城三佐、もうこの話は終わりに―」

 

[総員、第一種戦闘配置!]

 

「こんなときに使徒……。」

 

[エイジ君、今日は休みなさい。私が指揮を執るわ。]

 

「いいえ、自分も参加します。俺一人だけ後ろで構えてるっつーのに、休めるわけないですよ。」

 

 

 

 

「状況報告。」

 

[目標は現在大涌谷上空まで接近。定点回転を続けています。]

 

「了解。エヴァ初号機を前衛、参号機を後衛でスタンバイ。虎の子の試用をしてみますよ。」

 

[わかったわ。何マガジン欲しい?]

 

「とりあえず2個で。そこまでバカスカ撃つもんじゃないですしね。他2マガジン分はAPでお願いします。」

 

[ねえ、エイジ君本当に大丈夫?なんか最近つか―]

 

「……エヴァ発進。」

 

 

 

目標がいる森林地帯にたどり着く。そいつの形状はまるでDNAの二重螺旋だ。

 

「作戦を説明する。これより俺は後方1km地点での狙撃をする。初号機はこの間、敵の撹乱を頼む。攻撃を当てる必要も、傷をつける必要もない。参号機の時のような侵食タイプだと厄介だからな。いいか?」

 

[…わかった。でも、これだけは言わせて。]

 

「なんだ?」

 

[死にに行くようなことだけはやめてね。]

 

「そらそうだ。俺は死なない。絶対に死ねない…!」

 

エヴァがそれぞれ配置につく。敵は未だ攻撃を仕掛けてこない。

 

[膠着状態ですね。まず、敵の攻撃手段が読めないことには…。]

[青からオレンジへ、パターンが周期的に変化しています。]

[どういうこと?]

[MAGIは回答不能を提示しています。]

[答えを導くにはデータ不足というわけね。ただ、あの形が固定形でないことは確かだわ。]

[先に手は出せない…か。]

 

「シンジ、敵が仕掛けてからが本番だ。気を緩めるなよ。」

 

[わかった。…来る!]

 

それと同時に、二重螺旋をしていた使徒の体が一本の紐になり、初号機を襲う。

初号機はパレットライフルを先端部に射撃しながら、敵を引き付ける。

俺はそれを注意深く観察しながら、照準をする。先端部より少しだけ後ろに当たるように…

 

「ファイア。」

 

試製長距離狙撃用ライフルが火を吹く。発射された虎の子―AATFS(アンチA.T.フィールド弾)―が使徒の体を貫き、悲鳴と共に血飛沫をあげる。この弾、革命だ。遠距離からATフィールドを中和せずにぶち抜ける。

続いて2発目……。これも先ほどの傷の少し後ろに直撃する。今度は先端部が千切れ、その部分は消滅した。

倒せはするが、このままでは非効率だ。

 

[敵、初号機に攻撃集中!両端を使っての攻撃へと移行しました!]

 

「させるか…!片方はこっちを見やがれ!」

 

わざと体を晒し、敵に向けて2発発砲。両方とも命中し、更に長さを削ることができた。残り1発。だが、これは結果的に悪手だった。敵が唐突にこちらにタゲ変更してきたんだ。

 

「な!?」

 

イレギュラーと思考能力の低下でまともに避けれず、先端部を複数の触手へと変貌させた敵は参号機の四肢を、胴体を侵食し始める。

 

「があっ…シンジ!これだけ受け取って撤退だ!」

 

そう言って、俺は初号機に虎の子の未使用マガジン1つを投げ渡す。初号機はこれを掴んだが、俺のライフルを取り返そうとしていた。

 

「シンジ、バカなことを考えるのはよせ!撤退だ!」

 

[そんな、それじゃエイジ君が!]

 

「エヴァを一度に二機失う方がよっぽど損害が出るんだ!行け!」

 

この感覚…またお前らかよ。

 

 

 

 

{またお前らか、とは随分なご挨拶じゃないか、君。}

 

「また使徒と会話するハメになるとは思っちゃないからな。今度は俺に化けて何の用だ?」

 

{君の存在が消えようとしている。心が痛むだろう?}

 

「…へえ。そうなのか。」

 

{どうした?人間というのは、自分の存在が消滅するときは恐怖にかられるんじゃないのか?}

 

「それなら、俺はもう人間をやめてるな。」

 

突如として意識空間に表示される真っ赤なタイマー。30秒のカウントが始まる。

 

{そんなことしても、あたしらが悲しむだけよ。}

{そうよ。}

 

今度はアスカとレイの姿に化ける。また精神攻撃か。

 

「お前らほんと懲りないな。また精神攻撃を―」

 

{アンタ、あたしたちと一つになりたいんでしょう?知ってるのよ?}

{でも、あなたの心の奥底にある恐怖…そのせいで、自分自身を傷つけてしまっているのね。}

 

二人はゆっくり近づいてくる。

 

{ねえ、あたし達には心を開いてよ。}

{そうすれば、あなたの恐怖もなくなるわ。}

{{いいでしょ?エイジ。}}

 

「な…!?違う!これは俺の願望だ!彼女らの心じゃない!」

 

{いいえ。アンタも、もうわかってるはずよ。}

{そうよね、エイジ。}

 

「やめろ、来ないでくれ、くるな…。」

 

{もう、怯えることはないのよ。ずっと前から、アンタはあたしたちの心も、自分の心も知ってたくせに。}

{嬉しかったのよ?初めて碇指令以外に心を開けて。}

 

残り10秒のタイマーをアスカが止める。

 

「違う…これは現実じゃない…敵の見せてる幻覚…幻なのに―」

 

{もう、たった一人で頑張るのも、疲れたでしょ?あたしみたいな脆い心を持っているのね。}

{私らと一つになれば、もう疲れることはないのよ。}

 

二人はそれぞれ俺の半身に抱きつき、耳元で囁く。

 

{{そうでしょ?影嶋エイジ君。}}

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

俺の心を穢すなあああああああああああああああああ!!!!!!!

DNA野郎お前ええええええええ!!!!!」

 

必死で二人の影を振りほどく。再び俺の姿に戻った敵は、尚も俺を追い詰めていく。

 

{憎しみの心だけで戦ってっと、心身がもたねぇぞ。それは俺自身がよく知ってる癖にさァ。}

 

「俺を真似るな!俺は俺自身だけだ!人の中に土足で入ってきやがって!!」

 

俺はタイマーに手を伸ばす。

 

{いいンか?んな事したら、あの二人を悲しませることになっぞ。}

 

一瞬躊躇ってしまう。敵の言ってることはもっともだ。だけど、この感じ、多分…。

 

「悲しむ?いいや、俺は死なない。俺の魂も、肉体も消えない。かかったな?正確には"俺はここには居ない"からな。いつでも俺は逃げれるんだよ。」

 

躊躇いなくタイマーをスタートさせる。

 

{な…!?お前、何故そんなことができる!?ここから逃げれる確証も、魂が残るとは限らないんだぞ!?他の人間のことを考えはしないのか!?}

 

「ああ、しない。残念だったな。そんな心理攻撃、もう無意味だ。相手を考えるべきだったな。」

 

{キサマ、そんな事を…何!?俺の体がアダムに引っ張られる!?何をしている!!}

 

「俺は拒絶するのもそうだけど、受け入れるってのもできるんでね。道連れさ。相手が悪かったな、お前。」

 

{殺される!?俺が!?い、嫌だ!}

 

「人間の心を知って恐怖したか。…憐れよなァ。」

 

突如として敵の感覚が完全に無くなり、俺はタイマーを止めた。0.005秒…これ以上遅かったら自爆していたのか。

相手を恐怖させる作戦だった。途中からトレースするのは余りにも出来すぎてる感情を敵が発してきていた。つまり、感情を学習していたんだ。俺の心をつかって。それに、使徒は追い詰められると自死を選ぶことにも例があった。

……完全に運ゲーのみで渡った、作戦もクソもない危険極まりない綱渡りだった。

 

「……使徒の反応は?」

 

[しょ、消滅しました……。]

 

「戦闘終了。お疲れさまでした。……え?零号機に弐号機?何でお前らが…?」

 

[[エイジ~~~!!!!!]]

 

「おわっ!?エヴァで人間の真似事しないでくれ!ちょ、ちょ、このライフル高級品なんだぞ!?壊れる壊れる!!!葛城三佐、こいつらのコントロール権俺に寄越してくれ!活動限界までこんなことすっ気かよ!?」

 

[あら、いいじゃない?影嶋指揮官殿。彼女ら、本気であなたを心配してたのよ?これくらいさ、大目に見てやりなさいよ。]

 

「そんなんでいいのかミサト!自分が見たいだけじゃ―」

 

[ごめんねエイジ、私、エイジのこと何も…!]

「……まさか視たのか?俺の心を―」

[視たわ!アンタこそ、もっとあたしたちを信用してよ…!話してよ…!わからないじゃない…このバカ……!]

 

そっか…ずっと、自分自身のことを後回しにしてたんだな、俺。

 

「ごめんな、二人とも。」

 

 

 

 

俺だけ先に帰って寝た。正直もう心身共に限界だったし、横になった瞬間意識がなくなってく感覚があった。ここまで安心するのもいつぶりだろう……。

 

 

 

 

……う…うん?なんか重いし、口が濡れてる感覚が…?何だ?ボヤける目を開けると、目の前には真っ赤な瞳がある。

 

「はあっ…レイか。俺の上着脱がせてたのもお前だな?」

「エイジの体温、また感じたかったから。にしても~、アスカと先に舌使ったでしょ?」

「そらアスカが迫って来たんだって…。」

「む~、アスカズルい。…でも、エイジのこと、私ら知っちゃったから。」

「え?」

 

「ねえ、私と一つにならない?」

 

それを耳元で囁かれた瞬間、背筋がゾクゾクした。

 

「ひっ…ひ、卑怯だぞそれ。使徒の攻撃まんまじゃねぇかよ。」

「ねえ、エイジの言葉で聞かせて。」

「明日平日だぞ?」

「もー、そーいうところはいつも通り真面目なんだから。いいじゃん、仕事した次の日くらい。」

 

横目で机の方を見ると、近くに椅子が寄ってるし、その上にゃ箱が置いてある。用意いいなほんと。

 

「たまにはハメを外すのも悪かァないかな…。」

「やった、エイジ好き。」

 

 

 

 

携帯が鳴ってる。回らない頭を動かし、手でベッドの上をまさぐって、携帯を手に取る。もう12時過ぎか…。

 

「はい、影嶋ですが……」

 

『あー!やーっと電話に出てくれた!どうしたのエイジ君!?どこか具合でも悪い?』

 

「どうしたのさミサト、そんな慌てた声だして…。」

 

『エイちゃんが朝起きないのを不思議がってシンジ君が見に行っても、それ以降顔赤くしてなにも言ってくれないのよ?心配にもなるわ!』

 

「俺は平気ですよ?だいた―っ!?!?」

 

『どうしたの?やっぱどこか悪い?』

 

「……はい、今日は全部休みます。赤木博士との会議も明日の同じ時間にお願いと言っといてください。んじゃ。」

 

強引に電話を切る。目の前にアスカの体があったらビビるよそりゃ。わざわざレイとの間に滑り込んできてるっぽい。あんたらほんと仲いいな?

ん?右腕にサインペンか何かで殴り書きされてる。何だろ?

 

“Ich werde dich nicht alleine lassen.”

 

…これドイツ語だよな?読めねぇよアスカ。せめて英語にしてくれ―

 

疲労からか、二度寝してしまった。

 




機械翻訳ドイツ語ユルシテ…ユルシテ…


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St.17:自分の意思

シンジ君の心情は後で補完します。


「はァー。」

 

「どうしたんだい?少し前に見たような飄々とした雰囲気が全くないじゃないか。」

 

「カヲルにゃ関係ねぇよ。」

 

「そうかい、無愛想だねぇ。ねぇ、シンジ君は何か知らないのかい?」

 

「悪かったな。」

「ええ!?えっと、その…」

 

ミサトからの電話かなり流し聞きしてたけどコレ、シンジに見られたっつーことだよな、色々…。あーあ、俺もうオシマイだな。

 

「そんな言えないことなのかい?それじゃあさ、屋上で聞かせてよ。そこなら誰もいないだろう?」

「あ、ちょっと、カヲル君!?」

 

あ、連行された。頑張れ、シンジ。はァー、にしても一昨日の夜のこと、アレ犯罪でしょ。ミサトに前にイジった「子供には手を出さない」がシャレになっちゃない。コレがミサトに知られたらマジでイジりで留まってくれるかどうか…。

 

「エーイジ!どうしたのよ今朝からさ。」

「アスカ?あいや、別に何でも…」

「知ってるのよ、あたしは。戦いの後の夜のこと。

「あーあ、やっぱりか。俺はもう終わりだぁ…」

「そんなこと無いわよ。あんた達、やっと男と女になったんじゃない。後で私にも付き合ってもらうわよ。

「そう言うと思ったよ。もうどうにでもなれ…」

 

 

 

音楽室。誰も居ないと思って入ったと思ったら、シンジとカヲルが話していた。

 

「あ、こいつは失礼―」

 

「いや、いいさ。だろ?シンジ君。」

「え?あ、うん。エイジ君は何しに来たの?」

 

「ピアノ弾きに来た。もう10年近く触ってないから弾けるかどうか…って感じだけどね。」

 

「へぇー、エイジ君、ほんと何でもできるんだね。」

「音楽か。いいよね。」

 

「俺もそう思う。それじゃ―」

 

 

昔のように、椅子を調節してカバーを開く。昔、何かで聴いて弾きたいって憧れた曲。

まずは指を慣らして―Cメジャーで2オクターブ分、流れるように…え?何でこんなに弾けるんだ?終えて、自分の指を見つめる。

 

「どうしたんだい?」

 

「あいや、失礼。それじゃ…」

 

勢いよく弾き始める。この曲は静と動のコントラストが好きなんだよな。最初はバーンって始まってから、軽快なリズムが人の心を掴む。んでその次は流れるような、でも力強い旋律。今度は静止しながらまた軽やかなステップを踏むような感触。また最初のリズムに戻り、最後は盛り上がり切って終わる。やっぱこの曲は好きだ。でも、何に使われていたのかが全く思い出せない。そんな昔の曲じゃなかったはずだけど―

 

「すごい、あんなに指が動いて絡まらないなんて―」

「いい曲だったね。何て曲なの?」

 

「”Quatre Mains”。何の曲かは忘れちゃったけどね。」

 

「4本の腕か。凄いね、君。」

 

「いや、俺がやってたような感触が―」

 

「いいや、この曲は君が弾いてるさ。君の感情があふれでてきている。」

 

「え?」

 

「迷ってるのかい?」

 

「…それはそうかもしれない。俺はカヲルが使徒だとほぼ確信してる。でも、これには先例があるから、普通の人間としても接していけるんじゃないか―そう思うんだよ。」

 

「それは無理だ。君も聴いただろう?僕の同類の声を。」

 

「ああ。あいつら、生意気にも俺を取り込んで学習しようとしてたからな。…にしても、カヲルは幾らなんでも感情がありすぎる。それは既に人間じゃないんかな?それはどう思う、カヲル。」

 

「最早、そんなことはどうでもいいんだよ。本部の地下にある巨人に僕が接触すれば、サードインパクトが起こるらしいよ。接触した生命、全ての種、勿論君たち人間(リリン)を巻き添えにしてね。」

 

「…だろうな。」

「そんな―」

 

「だけど、俺のケジメとして、お前の正体は確認せにゃならん。…シンジ、絶対にパニックになるなよ。」

「え?何を言ってるんだよ?さっきから話が難しすぎて、何がなんだか―」

 

俺はシンジの言葉を無視して、銃とサプレッサーを取り出す。組み立て、カヲルに対して向ける。

 

「え、エイジ君!?何をしてるのさ!」

「これは俺の意思表明だ。邪魔しないでくれ、シンジ。」

 

「ふぅん。君、だいぶ強引なところがあるね。面白いよ。」

 

「よく言われる。…正体を晒しやがれ、使徒。」

「エイジ君やめて!」

「ちょっとあんた達、音楽室で何をやってんの!」

「アスカ!?来ちゃダメだ!」

「シンジ?何を言って―」

 

 

5発、カヲルに向けて発砲。俺の予想通り、カヲルのATフィールドに弾かれた。

 

「…ありがとう、カヲル。これで俺はお前を受け入れることができそうだ。」

「君らは不思議な生物だ。よくわからないよ。」

「それは、もっと生きればわかるさ。もっとも、この先で生きていけりゃ、だけどな。」

 

指先を舐めてサプレッサーを外し、何もなかったかのように振る舞う。

 

「よォ、アスカにレイ。この感じ、ピアノの音に惹かれて来たんか?」

 

「「エイジ、相変わらず滅茶苦茶なことをするんじゃない!!!!!」」

 

 

 

 

NERV・赤木研究室

 

「どうも、先日は失礼しました。」

 

「仕方ないわ、あの時はだいぶ体調崩してたようだし。もう平気なの?」

 

「ええ。20時間くらい寝たらだいぶよくなりましたよ。んで、先日のデータ、どうでしたか?」

 

「最高ね。やはり、ロンギヌスの槍のデータを使うのは当たりだったわ。それより、もっと重要な話があるの。」

 

「もっと重要?それは一体―」

「参号機が使徒を、S2機関を取り込んだわ。」

 

「な!?え、あいつは自死をしたんじゃあ…!?」

 

「それが、死の間際に敵のATフィールドが消失したようなの。その際、参号機のコアが使徒を取り込んだようね。」

 

「なーんでこんなことに…。」

 

「エヴァには、私ですらまだわからないことがあるわ。パイロットが取り込まれることだって…」

 

「ほんと、滅茶苦茶なものを作ってくれましたね。」

 

貰ったコーヒーを飲みながら、どうしたもんかと考える。でも、俺としては都合がいい。指揮をしてるのに稼働時間やケーブルを心配しなきゃならんのはホント、気が散る要因だ。嬉しい誤算だった。

 

 

 

 

また学校。今日もカヲルはシンジに、ちっとばかし近すぎるくらいに接近して色々話している。だが、昨日のことで、まだ踏ん切りがつかないようだ。そらそうか。俺だって、最後の最後まで信じたくはなかったけど―

 

「ねえ。」

 

でも人型の使徒なら、どうやってリリスに接触するんだ?まだ部外者の彼が、どうやって本部に侵入し、ドグマまで入り込むんだろう?それがわからない。

 

「ちょっと!」

 

もしかしたら、ロックを外せる?まさか、流石にファンタジーが…いや、あり得ない話じゃない。最近の敵は、心理攻撃をしてきた。特に鳥なんて、成層圏から攻撃をしてくるとかいう、訳のわからないことをしてきた。セキュリティを突破するなんて、造作もないのか―

 

「エーイージー!!!!」

「おわっ!?!?!?れ、レイ?何だ一体?」

「酷いよ!?最近私を避けてるでしょ!」

「い、いやー、俺には何のことかさっぱりね…じゃ!」

「あ、逃げた!待てエイジ!」

 

こんな時くらい逃げさせてくれ。

 

 

 

最近、俺たちの間では有事に備えて機体の乗り換え実験を多くやってほしい、と赤木博士に頼み込もうという話題になっている。俺が話を通したら、すぐやってくれた。

俺の成績はというと、

 

  零号機:32.8%

  初号機:22.2%

  弐号機:63.9%

  参号機:54.1%

 

となった。俺は初号機(ユイさん)に嫌われてるらしい、余程息子思いなんすねぇ。逆に弐号機(キョウコさん)は俺のことを滅茶苦茶気に入ってくれたようだ。参号機(相棒)より高いっておかしいだろさコレ…。それより、初期からほぼ変わっていない零号機の方が気になる。これこそどうなっているんだ?正直、零号機には中身が無いような感じがずっとしてる。エヴァの自我すら感じづらい。一体誰が入ってるんだ?

アークでの連動試験を終え、目を閉じて考えていたら、突然警報が鳴る。

 

[エヴァ参号機、起動!]

[どういうこと!?]

[参号機にプラグは挿入されていません!無人です!]

[そんなバカな…!?]

[セントラルドグマにATフィールドの発生を確認!]

[参号機!?]

[いえ、パターン青!間違いありません、使徒です!]

 

つまり、カヲルが動き始めた、か…。

 

「初号機を先行させろ!本部、俺は弐号機で出る。」

 

[え、僕!?]

[えぇー!?あんたが弐号機!?]

 

「二人とも、そうだ!シンジ、お前カヲルと仲よかったろ、お前が先に行け!弐号機借りるからな!…アーク、ここは頼むぞ。」

 

ーわかったわー

 

…?気のせいか。行かなければ。アークから降り、弐号機のケイジへと走る。

 

 

 

 

[目標は第4層を通過、尚も降下中!]

[ダメです、リニアの電源は切れません!]

[目標は第5層を通過!]

[セントラルドグマへ続く全隔壁を緊急閉鎖!少しでもいい、時間を稼げ!]

 

思ってたよりかは降下速度が低い。まだ余裕で間に合うな。

 

「本部、弐号機ケイジに虎の子を準備してくれ、後は直接移動する!」

 

[了解!]

 

初号機との秘匿回線を開く。

 

「シンジ、聞こえるか!?」

[聞こえる!どういうことだよ、カヲル君がこれと何の関係が…!]

「昨日見ただろう、あいつは使徒だ!サードだけは起こさせんなよ!」

[そんなこと言ったって、僕に彼は殺せないよ!友達なんだ!]

「俺は過去にお前に言った!『殲滅するだけが戦いじゃない』って!それを実践してみせろ!」

[そ、そんな簡単に…]

「いいや、思いは伝わる!行け!俺だって最終手段を使いたかァねぇんだ…!」

[…やってみる。]

「頑張れ、シンジ。」

 

 

 

[エヴァ初号機、ルート2を降下。目標を追撃中!]

[第9層に到達、目標と接触します!]

[続いて弐号機、上方500mを移動中!]

 

「ここからは目標との相対速度0にしてくれ!」

[了解!]

 

アーク、初号機の通信を傍受しろ。

 

-わかったわ-

 

[待って、カヲル君!]

[遅いよ、来ないかと思ったよ。]

[どうして!使徒なのに、敵なのに、どうして僕と友達になってくれたんだ!]

 

初号機と参号機が組み合う。

互いに力は拮抗しているが、参号機の方が若干強い。S2機関の有無もあるだろう。

 

[どうせ戦うことになるのに、どうしてこんな事を!]

 

互いにナイフで組み合う。まずい、ナイフ術は俺が参号機で散々シミュレーションをした。シンジが不利だ!

 

(キョウコさん、この後しばらく一人で頼みますよ。ライフルを向けとくだけでいいです。)

(わかったわ。アスカから聞いたとおり、ほんとに無茶をする人ね。)

 

ライフルを構え、参号機の左手に照準する。カヲルのATフィールドはだいぶ強い。腕カッター以来の強さじゃないか?AATFSを出し惜しみはできない。発射された弾は、カヲルが発したATフィールドを貫き、参号機の手からナイフを離させる。

 

「初号機にコントロールジャック!」

 

-わかった-

 

さっきから聴こえるこの相槌は何だ?弐号機のプラグ内から初号機を手振りだけで操り、参号機をなるべく傷つけずに無力化する。

 

「シンジ!この隙に対話しろ!」

 

[わ、わかった!…カヲル君、君はどうしてATフィールドを発生することができるの?]

 

[何故?君だって持ってるくせに。何人にも侵されない聖なる領域。心の光。君にもわかってるはずだ。]

 

拒絶する心?

 

「ATフィールドとは、誰もが持ってる心の壁だということを。」

[そんなの、わからないよ!ATフィールドを持ってるのは、エヴァと使徒だけだ!]

 

前にレイから聞いたな。アンチATフィールドはATフィールドを消滅させ、結果として個体の生命がLCLになる…それは魂の解放と言っていた。ATフィールド、つまり他者と自分の境界線があるから人は個々で存在できるってことか?だいぶ哲学的な話だが、それを理論として動かせるのがエヴァとS2機関…つまり使徒ってことか。

 

[エヴァ3機、最下層に到達!目標、ターミナルドグマまであと20!]

 

[エイジ君聞いて。あなたたちの反応が万一消えて、もう一度変化があったときはここを自爆させるわ。よろしくね。]

 

「よろしくじゃあないでしょ!?よくも軽々しくンな事を―」

 

[ごめ―]

 

「葛城三佐?…おいミサト!!何?アーク!本部へ繋げろ!」

 

-………-

 

何だ?通信ができなくなった!?初号機のコントロール権がシンジに戻り、俺も弐号機に戻ってきた。何が起こった?

 

 

俺らは最下層にたどり着く。シンジは未だ暴れる参号機にたいして実力行使をした。これは仕方ねぇな。許せ参号機、毎回毎回乗っ取られんのが悪い。

 

[待ってカヲル君!クソ、離せ!]

「大人しくしろ参号機!」

 

ライフルのストックで参号機の頭を殴りつける。あーあ、またシンクロ率低下の原因を作ってしまった。まだ暴れてるからもう2発。やっと大人しくなってくれた。

俺らは初号機を先頭に、リリスの間の外壁を破壊して侵入する。

 

[カヲル君…それ以上少しでも進んだら、容赦…しない。]

 

[たとえ僕が使徒でも、人の形をしたものに君が手をかけられるの?前にも言ったとおり、僕がこれに接触すればサードインパクトで全て滅びる。]

 

[僕は…僕らは、君と一緒に生きていくって選択をしたいんだよ!だから、もうやめてよ!]

 

[“一緒に生きていきたい”、か―

そうだ、もうひとついいことを教えてあげるよ。サードが起こっても、人はただ滅びるんじゃない。新しい形で生まれ変わるんだ。一つに結合して単体の生命としてね。そうすれば、君が望んだ世界が訪れる。ATフィールドも必要ない。戦いや争い、人との繋がりから起きる苦しみや悲しみ。君はその全てから解放されるんだ。

それでも君は、僕を止めるの?]

 

[僕は…!]

 

シンジ…!

 

[サードも起こさせないし、カヲル君も失わせはしない!]

 

「それがシンジの答えか?」

 

[…うん。]

 

「本気で考え抜いた末の答えか?」

 

[……そうだよ。]

 

わかった。キョウコさん。

(わかっているわ。)

 

弐号機はカヲルに近づき、プラグを自ら排出し、俺を手に乗せる。そのまま俺を彼の目の前まで運ぶ。

 

「よォ、久方ぶりだな、渚カヲル君。」

 

「正直、君までくるとは思ってなかったよ、影嶋エイジ君。」

 

「お前の”自由意思”ってのはねぇのか?」

 

「あるさ。でも、このまま引き下がっても老人達が黙ってない。あいつら、速攻で僕を消すだろうね。もともと僕の命はあいつらが握ってるのと同然だ。」

 

「だから、死んでもいいと?」

 

「僕に残された絶対的自由は、自らの意思で自らの死の形を選べるってところだけだ。だから、君たちの手で消してほしい。」

 

「……俺の回答はコレだ。」

 

カヲルの左頬を殴る。意外な俺の回答に、カヲルも驚いている。

 

「俺が買いかぶり過ぎてたようだなこりゃ。お前、人間のこと何もわかっちゃねぇな。」

「何を言って―」

「お前の言ってることは生きる意思の喪失だ。そんな状態の人間なんて、脱け殻でしかない。お前自身の意思は、そこにはないからな。

お前っつーのは人間の体をしてるのに全く…。」

 

「なるほど、『足掻け』というのか、君は。それは茨の道だというのにかい?」

 

「それが人間だ。」

 

「…それも面白そうだ。ありがとう、君のお陰で少しだけ人間というものがわかった気がするよ。」

 

「そうだ、これからも生きてもっと人間のことを知るんだ。君の存在はまだ使徒として確定してない。『渚カヲルって人間』に関してはね。」

 

「随分楽観的な考え方じゃないか?それが毎回使徒に対して勝利してきた指揮官の考え方か?」

 

「そんなもんなんだよ。ATフィールドさえ出さなきゃいいんだ。それだけで解決するんだぜ?驚くほど簡単なモノさ。…シンジに送ってもらえ。」

 

「わかったよ、エイジ君。」

 

 

 

 

上には使徒は自滅したと報告した。ついでに、まるで最初から保護してたかの如く言い方でカヲルをNERVに保護してもらった。言ってることはだいぶ危ういが、俺の権限でどうにかなった。階級社会のよくない面だなほんと。

にしても、さっきの声が頭のなかで響き続けている。

 

-わかった-

 

どこかか細い、昔のレイのような声。アークの意思ってやつなのかな。俺にはまだわからない。

 

ゼーレの奴ら、カヲルが裏切ったことは容易に判断できるだろう。だとすれば、次の敵は…同じ人間だろうな。

 



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ルート1:ニアANIMA世界
St.18-1:真実 [分岐1]


パイロット控え室。昨日の騒動からだいぶ時間が経ったというのに、警戒体制が解除されない。パイロット全員は、プラグスーツで待機を命じられている。

 

「…はい、わかりました。パイロット各員にも伝えます。

みんな、本部施設の出入りが全面禁止になった。恐らく、これからゼーレからの攻撃が始まるだろうな。」

 

「ゼーレって、アレでしょ?世界を裏から操ってるとかいう組織!アタシもエイジのパソコンで見たわ!」

 

「それって、補完計画の発動ってことよね?」

 

「恐らくな。ここを制圧するってことはMAGIとエヴァ、アークが目的だろう。相手は最悪なことに人間だ。というわけで、俺はこれからこれを渡さにゃならん。」

 

「これって…そんな!」

 

控え室のテーブルに、4丁の俺と同じモデルの拳銃を置く。正直、こんなモノを出したくはなかった。

 

「使い方は安全装置を外して、スライドを動かせばいつでも撃てる。至って簡単だ。」

「そんな、僕らに人殺しを…」

「俺だってこんな物騒なモン渡したかァねぇよ。でもここの直接制圧なら、十中八九戦自が投入される。持ってるに越したことはないんだ。エヴァを使っての補完なら、パイロットは邪魔になるはず。特に俺の参号機にはS2機関が入ってる。これと初号機が一番の邪魔だ。それから排除にかかる危険がある。ま、俺もちっとしたことをやろうと思ってるから、とりあえずここで話は終わり。俺は一回抜ける。後はお前らの自由意思に任せる。…どう動いても、絶対に死ぬなよ?」

 

「わかってる。」

「勿論よ!」

「誰も死なせはしないわ。」

 

俺はそれらにジェスチャーで返事し、部屋を出た。

 

 

 

 

「赤木博士。ここを制圧するのにはまずMAGIを無力化する必要がありますよね?」

 

「というか、MAGIを押さえられたらもうここは終わりね。どうしたの?」

 

「このデータを、ハッキングされた時に相手に返して、世界に拡散してほしいんです。」

 

そう言ってUSBを差し出す。

 

「これは何かしら?」

 

「補完計画、ゼーレ、セカンドインパクトの裏情報ですね。これを全世界のインターネットの海にバラまけば、幾らゼーレであっても収拾がつかなくなる。世界を味方にできる確率が上がります。」

 

「確かにインターネットの底の底まで情報を送り込めば、奴らも手出しは難しいでしょうね。だけど、ゼーレを侮ってはいけないわ。」

 

「それは承知の上です。…始まりましたね。」

「ええ。私はMAGIに行くわ。」

「よろしくお願いします。」

 

 

 

[通信機能に異常発生!外部との全ネット情報回線が一方的に遮断されています!]

 

MAGIの防衛指揮が聴こえてくる。現在はメルキオールとバルタザールが制圧されている。残っているのはカスパーのみ。この感じ、暫くは使え―

 

-きて-

 

え、何故扉が開くんだ!?

導かれるままに搭乗すると、システムが起動する。だが、機能としては弱い、本部で何を言ってるのか等は傍受できないようだ。でも、外の状況は把握できる。外は至って静かだ。…赤木博士はMAGIの回復に成功したようだ。これのカウンターがどれほどの成果が出るかは、神のみぞ知ると言ったところか。

ん?地上の兵装ビルが減っていっている?随分手早い直接制圧じゃねぇか。

 

「アーク、全館のアナウンスをジャックしてくれ。できるだろ?」

 

-わかったわ。-

 

「現在残っているNERV職員に通達します。現在、地上での攻撃が開始されています。職員の安全確保のため、下層への退避を開始してください。また、主要通路、他移動可能区域は特殊ベークライトで全て封鎖します。各方角を一本道にし、そこで敵を迎撃してください。300秒後に表層部から開始します。パイロットは全員速やかにエヴァに搭乗、ケイジにて待機。参号機はプラグのみ挿入、待機。」

 

ここまでは初期抵抗だ。こっから先、どんな風に敵が来るかがわからない。どうする?

 

俺のとれる手段は二つ。

 

あくまでNERVの保護に走り、全体指揮を執るか―

 

それとも、ドグマに行き指令の計画を阻止するか―

 

俺は………

 

 

 

 

 

 

「アーク、戦自の通信を傍受しろ。」

 

-できない。-

 

「了解。俺はドグマに行く、ここは頼むぜ。」

 

-わかった。-

 

銃を取り出し、ターミナルドグマへと向かう。

 

 

 

 

 

[第1層、突破されました!]

 

「了解、これより間隔を300秒から180秒へ短縮。アーク、聞いてたな?」

 

-ええ。-

 

思ったより長く持ちこたえている。ベークライトであらかた通路を塞いだのは正解だったか。だが、それ以上にゴリ押しされたらヤバい。まずは戦自の動きを探らなければ。

通路の死角で敵を待つ。3人程度で動いているようだ。ナイフを取り出す。最後尾を狙って…

口を塞ぎながら角へ引き込み、喉を掻っ切る。

 

「ん?おい、どうした!」

「こっちです。」

 

次は銃。角に照準を合わせ、構えて待つ。…来た!2発発砲、ダウン。

「こちら第5小隊、アークパイロ―」

 

言わせねぇからな。こちらから飛び出し、頭に2発。こっちもダウン。装備を漁りながら、通信機をかっさらう。

 

[おい、どうした、おい!]

「こちら第5小隊、問題は解決した。どうぞ。」

[こちら本部、了解。]

 

んなバカな話があるか?通信機とマシンガンを持って移動する。ベークライトで通路を遮断してるにも関わらず滅茶苦茶な強さだ。流石、世界最強の軍隊とはよく言う。

 

[エヴァンゲリオン格納ケイジ侵入!ベークライト注入開始!]

 

「アーク、エヴァ零号機、初号機、弐号機をジオフロント外縁部に射出。」

 

-わかった。参号機は?-

 

「別命あるまで待機。」

 

-わかった。-

 

[な、エヴァ3機が射出されました!こちらからの操作を受け付けません!]

[何!?黒い奴はどうなってる?]

[黒に関してはベークライトで固めてあります、問題ありません!]

[了解!]

[現在、本部発令所入り口まで制圧!]

 

 

もう発令所まで来やがったのか。にしてもこいつら、エヴァの腕力をナメてやがるな。ちょっとやそっとの石膏固めしたところで内側からブチ破れんのにさ。

唐突に起きる激しい振動に照明すら点滅する。NN爆雷?都市をまるまる潰してまで俺らを潰しに来たのか?なんて非効率な…

 

「エヴァ全機、聞こえるか?これから本部への直接攻撃が始まる、銃火器にて応戦!ケーブルを守りつつ戦え!」

 

[了解!]

[了解。]

[人殺しを…]

 

「シンジ!後悔なら終わってからしろ!今は生き残れ!」

 

早く、ドグマに行かなければ…!

 

 

 

ターミナルドグマ。

 

「母さん、娘からの最後の頼みよ。一緒に死んでちょうだい。」

 

「そいつはまだ早計ですよ?」

 

俺は指令に銃を向けながら喋りかける。

 

「な、エイジ君!?どうしてここに!?」

 

「そら、こっちも止めないといけませんからね。」

 

「…英雄にでもなるつもりか?影嶋エイジ。」

 

「まさか?英雄つーのは他の人からの評価ですよ。んなもん知ったことじゃないですね。…レイ?いや、レイじゃない…何だ、君は…?」

 

碇ゲンドウのそばにいる少女を見て俺は驚いた。

レイに外見は酷似してるが、髪は銀髪になっており、若干幼さが出ている。レイのクローンなのだろうが、根本が何か違う。

 

「私はアークのコア。アヤナミレイ。」

 

「いや、お前はレイじゃない。だいたい、これじゃあレイのクローンの法則が壊れてる。何をしたんだ?あんたら。」

 

「アークは、搭乗者の魂をデータコピーしてエヴァのコアに擬似的にシンクロするシステム。クロッシングとコントロールジャックは基本的にやっていることは同じ。シンクロ率の違いだけ。それのデータ蓄積はあなたによって行われたのよ、エイジ君。そして、ユニゾン作戦の際、レイのデータも手に入った。これでその子の魂が完成したのよ。」

 

「そうだ。そして、今や魂を宿したこれは、最早レイそのものだよ。」

 

「全人類を巻き込んで、自分だけ神になろうなんて、あんたも大概なエゴイストですね。」

 

「何もないお前にはわからないだろうな。失われる悲しみを。人類の歴史に幕が下ろされるとき、NERVの司令官としてこの私が課せられている使命は神への贖罪だ。

だが、私は神には贖罪しない。復讐する。自分自身が神になり、もう決して、何も奪われぬようにな。」

 

「言ってることが無茶苦茶だ…。あんたが最初にやるべきことはこの機関の人間全員を、あんたのエゴに巻き込んだことに対する贖罪だろ?何を言って…」

 

碇ゲンドウが俺に向かって撃つ。だが、それはATフィールドによって阻止される。

 

「なに―」

「どうして―」

 

「アヤナミレイ、それがお前の意思なんだな?」

 

掌を俺に向けてるアヤナミレイに問う。

 

「ええ。私はアークによって多くの魂との接触をした。喜び、悲しみ、怒り、愛情…。私はそれらの感情に密接して、学習したわ。…私も、もう人形じゃない。」

 

「な…!?お前まで私を裏切るのか、レイ!?」

 

「アーク、参号機のコントロールジャックだ。近くの壁に隠したライフル、AATFS等弾丸を全てを回収後、ここまで連れてきてくれ。」

「わかったわ。」

 

 

刹那、振動……そして、落下の衝撃。参号機がリリスの間の天井を突き破り、豪快に水飛沫をあげて着地した。参号機は手を差し出し、搭乗を促す。

 

「行くぞ、アヤナミレイ。」

「ええ。」

 

「待て、レイ!」

 

アヤナミレイと俺はプラグに入る。…全てを終わらせる。

 

 

 

参号機はS2機関によって増強されたATフィールドによってジオフロントへと上昇していく。俺らがくっちゃべってる間の戦闘が何もわからない。

 

[MAGI-アーク戦術システム間接続。全機体、状況、地形データダウンロード完了。参号機プラグ内に視覚化。施設内エヴァ専用武装データ取得。80%が使用不能。]

 

「だいぶ滅茶苦茶にされてんな…こっからが反撃の時間だ。敵情報が欲しい。」

 

こういうことを想定して、赤木博士に完成した試製スナイパーライフルとAATFS弾、通常AP弾を付近の壁内部に隠してもらっていた。

 

[現在、エヴァンゲリオン零号機、初号機、弐号機はエヴァンゲリオン5~13号機と戦闘中。5、6、9、10号機活動停止、弐号機中破、零号機大破。両機とも、パイロットの生命反応あり。]

 

「初号機が頼りか…初号機はどうなってる?」

 

[現在、残り5機と戦闘中。]

 

「了解。もう出し惜しみする必要もない、AATFSだけで戦うか…?」

 

[敵武装、ATフィールドを無効化するとの報告あり。]

 

「何?ロンギヌスの槍か?」

 

[否定、柄両端に刃がある巨大な剣とのこと。]

 

「了解。…地上に出たのと同時に戦闘開始。アーク、参号機とシステムリンク。」

 

[了解。参号機戦術システム、アーク戦術システム連動開始。]

 

地上に出る。地上では、右腕を残してダルマにされかけた零号機に、右腕をもがれ、右胸に刺し傷を負った弐号機、それらを必死になって諸刃の剣で守る初号機がいた。

目の前には5体の、白いウナギ頭が諸刃の剣を持っている。お前らか…!

 

「てめえらああああああああああああ!!!!!!!!!!

アーク、敵のコアの位置を割り出せ!!!!!」

[了解。戦闘記録よりコアの割り出し…完了。視覚情報として投影。]

 

AATFSを躊躇いなく連射し、確実に量産機のコアを粉砕していく。敵も一応ATフィールドを発生させているが、弾がアンチATフィールドを纏っているため意味をなしていない。初号機も諸刃の剣を振り、量産型をなぎ倒していく。俺は行動不能になった敵のコアに対しても、容赦なく2発ブチ込む。…これで起動しているのは3機。この後も、初号機が前衛、俺が後衛で戦う。シンジが諸刃の剣で腕や足を斬り飛ばし、無力化したところをAATFSでコアを破壊する…動いていた5機は潰せた。

 

「ハア、ハア…シンジ…大丈夫か…?」

[ありがとう、エイジ君…。そうだ、綾波とアスカが!]

「わかってる、救出…の前に、機体を戦線から下げるぞ。手伝ってくれ。」

[う、うん。]

 

[弐号機パイロット、意識回復。]

「アスカ!?」

[エイ…ジ…?]

「喋るな、体力使うぞ?」

[あたしは…平気。それより、レイを、早く…!]

「…わかった。シンジ、頼む。」

 

俺はレイの元へ行く。無惨な姿になってしまったが、それでも最後まで抵抗していたのがわかる。俺のライフルを持ち出して、AATFSまで使って抵抗してくれていた。

 

「レイ?大丈夫か?」

 

[エイジ君…?こんな優しい声、はじめて…]

 

「…生きててよかった。」

 

零号機を抱き抱え、戦線から離脱させる。俺にはまだ仕事がある。俺はライフルを、初号機は諸刃の剣を構え直し、最初に倒れた4機に向かう。5機のS2機関は確実に破壊したが、それまでの4機はそれを確認できていない。もうあと500mといったところで、4機が再起動する。斬られた四肢を、頭部を、胴体を再生していき、ほぼ無傷になるまで回復した。

 

「こいつらもインチキか?」

[や、やるしか…待って、何かおかしくない?]

「たしかに、俺らに興味を…な!?これは…!?」

 

リリス!?何故出てくる!?もう接触しようとする使徒は存在しないはずだ!!誰なんだ!?

 

[第3射出口より、エヴァンゲリオン四号機が射出。高速移動物体が大気圏外より接近中。]

 

「四号機!?バカな!そいつはアメリカ第2支部と共に消滅したはずだ!何故ここにいるんだ!!」

 

[エントリープラグ、未挿入。付近にパターン青のATフィールドを検知。]

 

「カヲルか!?」

 

[否定。付近に、”剣崎キョウヤ”のIDを検知。]

 

「な…!?」

 

剣崎さんが、使徒もどき…!?反応の方向を見ると、確かにエヴァがそこにいた。デザインは参号機に酷似し、カラーが銀色になったような容姿をしている。その手には、ロンギヌスの槍が握られていた。

 

「まさか…!」

 

四号機の右肩に照準、発砲。驚いた四号機はATフィールドを発するが、AATFSには無意味だ。投擲体勢を崩され、こちらを睨む四号機。

俺は走って四号機へと向かう。確かに、付近には剣崎さんが浮いている。このムーブ、カヲルもやっていた。ライフルの長い銃身を槍に見立てて突き立てようとするが、二股の赤い槍によってそれは阻止され、俺らは鍔迫り合いとなる。

 

「四号機が何故ここにある!何故あんたがここにいる!答えろ!剣崎キョウヤ!!!」

 

[サードが止めれない事象であるのなら、ヒトがヒトである内にその生命を源たる存在に委ね、新たなる時の流れに託すべきです。そのために私は使徒であることを受け入れ、今ここにいます。]

 

「随分合理的な考えじゃねーかよ?でもな…そういうのは『要らないお節介』っつーんだ!ヒトはヒトの意思の力でその存亡が決まるべきだ!将来滅ぶのなら今ここでそれを起こそうなんざ、ゼーレと何ら変わらねぇじゃねぇか!生きようとする力を否定するな!」

 

[それでも私は、私に課せられた使命を全うするまで。]

 

「あんたらしい回答だ。でもな、この状況はお前が不利だ!アーク、四号機をコントロールジャック!」

[了解。コアへの直接シンクロ開始。]

 

[な…!?無理矢理操作権が剥奪された!?何をしているんですか、影嶋さん!]

 

「俺は加持さんに言われたことがある…『もっとやんちゃをしてもいい』ってさ。これがその時だ!」

 

参号機を俺から離し、ロンギヌスの槍を逆手に持つ。槍はこれから起きる事象がわかっているかの如く、直槍へと変化する。全く気にしちゃなかったが、初号機は敵認定されたようだ。量産型に攻撃をされている。

 

[バカなことはやめるんだ影嶋君!自分まで死ぬつもりか!]

 

「死ぬ?…俺は絶対に死なない。例え致命傷を負おうとも、死ぬわけにゃならねぇんだ!!!!」

 

躊躇いなく、自らのコアに槍を突き立てる。

 

「あがっ…がっ…ぐっ…アーク、戻せ!!!」

[了解。]

 

参号機に魂が戻ってくる。だいぶ吐血してる。でも、倒れちゃならない…俺が、俺として生きていく為にも、未来の為にも…

 

「こんな所で、終わらせちゃならねぇんだよぉおおおおおおお!!!!!!!!!」

 

残り1発を四号機のコアにブチ込むと、四号機は目の輝きを失った。

そして、俺は剣崎さんをその手に握る。

 

「色々我儘を聞いてくださり、ありがとうございました。」

 

[これが、私の運命だったのでしょうか。]

 

「さあね。それは俺にも知りませんよ。たまたまスレ違っただけでしょう。その存在、その意思の違いによって。」

 

[…そうですか。]

 

「さようなら。」

 

俺は両手で剣崎さんを包み、その手を握りしめた。

 

 

後は、後は量産機とリリスの肉体…。意識が朦朧としてきた。ヤバイ、このままじゃあ―

だけど、シンジの声が頭に響いてくる。

 

[……イジ君、エイジ君!!援護して!]

「了…解!」

 

マガジンを交換し、量産機をスナイプしていく。シンジが敵に切り込み撹乱、その中で俺が遠距離から量産型のコアを狙撃する。俺とシンジのコンビもなかなかなもんだ。こんなに素早く、4機を撃破することができるなんて。

もう、全てを終わらせる。俺は、そのためにここに来た。未来は、誰にも穢させはしない。ヒトはヒトの意思で、歩いていくべきだ。神の手なんざ借りるまでもなく、ヒトは生きていける。

リリスの目前まで浮遊する。これじゃ、俺も使徒のようなモンか…。同じ穴の狢、ミイラ取りがミイラになるとはよく言ったもんだ。でもな…?

 

「この世界にゃお前はもう不要だ!!!!!」

 

仮面に向け、残り全てのAATFSを撃つ。リリスの仮面は砕け、頭部が破壊されていく。頭部が最早形をなさなくなったとき、その体は砕け、世界中に散っていった。日本にはもう失くなった、雪を降らせるかの如く…

 

 

 

 

 

―3年後―

 

 

「起きて、エイ君。」「おにーちゃん!」

 

「んえ?ああ…レイたちか…。悪ィ、二度寝する…」

 

「バカ言ってんじゃないの!ソファなんかで寝っ転がってたら風邪引くわよ!?」

 

「最近、色々仕事がヤバいんだよ。学校すら行けてねぇってのに、俺の体力に対してキャパオーバーし続けてる…昨日1週間の休暇貰ったし、せめて静かに寝させてくれ…。」

 

「ぐだぐだ言わないで起きなさい!ほら、肩貸してあげるから!」

 

「ぐえぇ~気持ち悪ィ…。酒もエナドリも一滴も飲んじゃねぇのに…。」

 

「お酒はダメよ、まだ未成年じゃない。」「ほーりついはんよ!!」

 

「まさか、俺は捕まってまであんなんを飲もうなんざ思わねぇよ…。」

 

「んなこと言ってないで、まずは風呂入るわよ!」

 

「わかって―

はい、影嶋です。……あ、どもキョウコさん。これから一週間は仕事の電話絶対やめて……あ、これは失礼しました。余裕なくなってますね、俺。……わざわざありがとうございます。アスカに代わります?…あい分かりました。

アスカ、キョウコさんが話したいってさ。俺は風呂に行くわ…。」

 

「ほんと!?ママ!どうしたの?…え?こんど家に来てく―」

 

シャワー浴びて、着替えて何か食って寝りゃ頭痛もおさまるかな…。

 

 

 

俺は3年間、サードを止めた人間として持て囃されていた。だが、それが精神的苦痛になって、1年ほど一線から離れていた。外は相変わらず灼熱地獄だ。雪が降ったのはこれまでで一回、ゼーレの補完未遂の時だけだ。アレ以降、雪が嫌いになった。二度と実物は見たくない。

 

綾波レイとアヤナミレイ(銀髪の子)―現在は綾波ナギという名前になった―は、とりあえず双子の姉妹ということにした。レイが姉、ナギが妹で登録。当時の俺の権限なら捏造なんて造作もなかった。

 

アスカは相変わらずだ。結局、美人さに磨きがかかった以外は性格も何も変わっちゃない。

 

シンジは、カヲルと何だかんだ上手くやりながら普通の学生として生きているそうだ。最近、顔を合わせちゃないからよくわからないけど。

 

NERVという全体の組織像は崩れ、各々が独立した機関となった。そして、各機関が連携し、未だ息を潜めているゼーレの連中を監視している。基本的には、人材はそのまま旧NERVからの引き継ぎである。

 

俺はというと、NERV JAPANの戦術作戦部作戦局の最高責任者になった。どうやら、旧NERVでの制圧作戦の抵抗時、人的被害を激減させた功績がデカいらしい。

 

ミサトはNERV JAPAN指令になった。ミサトはミサトで忙しいらしく、こっちも仕事以外で会話がほぼできちゃない。

 

赤木博士はダミーという許されないことはしたが、NERV JAPANにそのまま引き継き参加した。自分なりの贖罪らしい。

 

過去の上層部は全員が追放された。その後は不明。

 

エヴァンゲリオンは、各国4機―地上4機まで。特例措置により、日本、アメリカ、ドイツは宇宙に1機づつ―までの保持が認められている。操縦システムの改善により、子供を巻き込むことはなくなった。赤木博士を生かしといて本当によかったと思う。

また、初号機と弐号機コア内にいた魂はサルベージされ、肉体をもって二人は復活した。

 

死海文書も全て公開され、最早戦う相手は人間だけとなった。もう、こんな子供を巻き込んだ戦いは二度と、絶対にしたくない。

 

 

この、僅かでもいい、平和な時間を今は享受したいと思う。俺ら4人―俺、レイ、ナギ、アスカ―で。

 



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ルート2:世界再構築
St.18-2:応戦、そして― [分岐2]


唯一エイジ君の素が少しだけ見れる回です。


「現在残っているNERV職員に通達します。現在、地上での攻撃が開始されています。職員の安全確保のため、下層への退避を開始してください。また、主要通路、他移動可能区域は特殊ベークライトで全て封鎖します。各方角を一本道にし、そこで敵を迎撃してください。300秒後に表層部から開始します。パイロットは全員速やかにエヴァに搭乗、ケイジにて待機。参号機はプラグのみ挿入、待機。」

 

ここまでは初期抵抗だ。こっから先、どんな風に敵が来るかがわからない。どうする?

 

俺のとれる手段は二つ。

 

あくまでNERVの保護に走り、全体指揮を執るか―

 

それとも、ドグマに行き指令の計画を阻止するか―

 

俺は………

 

 

 

 

 

 

「アーク、基地内の制圧状況及び職員ID情報を視覚化できるか?」

 

-これでいい?-

 

画面には基地内の経路図、ベークライト注入状況、職員のID、制圧状況が表示される。

 

「ありがとう。これより抵抗作戦を開始する。この部屋周囲にもベークライト注入。」

 

この部屋周囲が赤く表示される。恐らく問題なく機能した。にしても、ベークライトを注入し経路を絞っているっつーのに防衛より侵攻の方が早いとは。流石、世界最強の軍隊を謳っているだけはある。既に第2層を突破された。

 

「第3層まで後退、応戦。ベークライト注入スピードを300秒から160秒へセット。」

 

[今指揮をしているのはエイジ君なの!?]

 

「そうですよ。どうしました葛城三佐?」

 

[どうしましたじゃないわ!もうこのブロックは破棄されるのよ!?]

 

「部屋の周囲はベークライトで固めてあります。エヴァで無理矢理脱出すれば問題ないですよ。それより俺はここで指揮しなきゃならないんで。じゃ!」

 

[あ、待ち―]

 

もうケイジにまで敵が侵攻してきてる。ここを押さえられたらコントロールジャックをいちいちしなきゃならない、そんな悠長なことはしてられない。

 

「格納ケイジの職員は速やかに退避!エヴァ零号機・初号機・弐号機はジオフロント外縁部へ射出!」

 

-参号機は?-

 

「待機だ。俺を助けるのが居なくなっちゃ困るからな。」

 

突如、激しい振動。

 

「何だ!?状況報告!」

 

-NN兵器。第3新東京市ごとジオフロント外壁を破壊されたわ。-

 

滅茶苦茶しやがって戦自の奴ら…。それに続いて連鎖的な爆発音。これはミサイルの飽和攻撃だろう。やることがハードすぎるな、ほんと。

 

「エヴァ全機、聞こえるか?これから天井の穴から敵がわらわら来ることが予想される。各員、ライフル等銃火器で応戦!ケーブルを守りながら戦え!零号機、付近の生きてる兵装ビルに俺が使ったライフルを出す、それで応戦してくれ。弾はHEに設定してある、虎の子はしばらくは使わないでいいからな。」

 

[それよりもこのミサイルの雨の方がよっぽど厄介よ!]

[了解。まだ来ない…]

[こ、怖い…。]

 

「誰だって人間同士で殺り合うのは怖いさ。後悔するのは終わってからだ。…来た!攻撃開始!初号機にクロッシング!」

 

シンジらは所持したライフルを使って応戦している。通常兵器ならば、ケーブルさえ守れば後はどうにでもなる。問題はエヴァを投入してきた際…。あいつらはダミーですらATフィールドを使える。ダミーの試作は完成していた。もし、それが敵の手に渡っていたら…?可能性は否定できない。常に最悪の方向へ考えろ。

 

ある程度戦車に航空機が撃破された頃、妙に静かになる。この嫌な感覚、間違いなく来る。

 

「零号機、虎の子を受け取れ。多分来る。」

 

[来るって…何が?]

 

「もう来やがったか。空を見ろ。」

 

[何、あいつら…!]

[エヴァシリーズ…?]

[完成していたのね…。]

 

9体の真っ白なエヴァが翼を広げ、本部上空を旋回している。その手には諸刃の剣が装備され、いかにも「殺しに来ました」と言わんばかりの出で立ち。奴らは着地すると、その巨大な翼を背中に格納する。うわ何だこのウナギ頭、グロ過ぎるだろ…。

 

「AATFSは受領したか?」

 

[受領したわ。]

[戦力差はちょうど3倍…。]

[逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ…!]

 

「アスカ、付近のコンテナにソニックグレイブを出しとく、余裕があったら拾ってくれ。シンジ、アスカを守ってやれ。シンジはいつも通りリベロだ。レイ、味方にだけは絶対に当てるなよ?…戦闘開始!」

 

[[[了解!]]]

 

俺もうかうかしちゃいられねぇな。

 

「アーク、参号機をコントロールジャック!」

 

-わかった。-

 

ここに来い、参号機。

激しい振動、壁が崩れる音。アークのプラグから出ると、参号機の腕が目にはいる。…ありがとう、アーク。参号機の掌に乗り、そのまま搭乗する。

 

「ケイジを経由してから地上へ出るぞ。」

 

ケイジの壁内部には試製ライフルとAATFS等の弾丸が埋められている。有事に備えて、赤木博士に頼んでおいた。壁を破壊し、装備一式を取り出す。

 

「このままリニアレールで射出させる。アーク、頼むぜ。」

 

-わかった。-

 

久しぶりに感じる上昇によるG。初出撃以来か?地上に出ると、劣勢になった味方3機がいる。

 

[こいつら、どれだけ倒してもすぐ復活するけど!]

[何なんだこいつら!?]

[もーインチキよインチキ!]

 

「狼狽えるな!コアをちゃんと破壊しろ!」

 

その言葉と同時に、一番近くの敵コアを狙い撃つ。きちんと2発叩き込み、敵の活動は止まった。その瞬間、まるで「待ってました」と言わんばかりに量産型全てがこちらに対して視線を向ける。あいや、目がねぇのにどうやって視線を送るんだよ。6体の敵が剣を一斉にこちらに投げてくる。俺は参号機のATフィールドによって防御する…が、それは意外な形で裏切られた。

敵の剣が槍へと変化する。この形状、まさか

 

「ロンギヌスの槍!?何故!!!」

 

参号機のATフィールドを突き破り、俺の四肢と胸二ヶ所を貫かれ、地面に固定される。

 

「があああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

[[[エイジ(君)!!!]]]

 

「が…く…!しょ、初号機にコント…ロール、ジャックしろ…アーク!」

 

-わかった。-

 

 

 

 

―があっ、はー、はー…やっと何とかシンクロできた…。ここは?戦闘はどうなった?

 

[ふぇ?あなた…たしか綾波レイさんの次に、私の中に入ってきた…。]

 

―あ、どうも碇ユイさん。またお邪魔してますよ。

 

[影嶋エイジ君よね。よくシンジが意識してた友達だもの、知ってるわ。]

 

―それはどうも。にしても、こんな状況ではありますが始めて私に接触してきてくれましたね。ありがとうございます。

 

[あ、それは…シンジが来るまでは眠ってたようなものだし、その後も戦いが無いと、眠くなっちゃって…。ごめんね。]

 

―そ、そうだったんですか。

 

ええ……な、なんつーマイペース。まァ嫌われてる訳じゃなかったからいいや。

 

―それより、今、ユイさんの力をお借りしたいと思うんです。いいですか?

 

[ゼーレの、補完計画ですか?]

 

―残念ながら。止めきることができませんでした。

 

[そう…。でも大丈夫。シンジは正しい判断をするわ。]

 

―ええ、私もそう思いますよ。アイツ、割と度胸ありますしね。

 

[そうね。それじゃあ、私はゲンドウ君の所に行ってくるから。]

 

―…はい。

 

 

 

一面が、LCLの海の世界。俺以外の、何も存在を感じれない。…いや、俺自身もこの空間―ヒトの魂の渦の中に溶け込みかかってるようだな。俺の魂のイメージは、普段はあまり着れてない私服のようだ。どうやらこの世界、「自分自身」を認識できないと形がなくなるようだ。…にしても、たまに俺の中に侵入しようとするバカが多いな。何なんだよ一体。

ん?あそこにいるのは―

 

「レイ?それにシンジ?」

 

いや、レイじゃないのか?髪の色が色が違うし、何より幼い。もしかして…

 

「アークか?」

 

「そう。私はアークのコアだった存在。碇シンジの願いを叶えるためにここに来た。」

 

「ヘェ。これがシンジの求めた世界か。例によって、ATフィールドがない世界か?」

 

「え…どうしてそれを…?」

 

「カヲルが言ってたろ?シンジの考えそうなことだ。」

 

「……でもね、今はそうは思ってないんだ。今まで色々な人と出会って、色んなことを知った。ここには誰もいない、そんなところに幸せなんてないよ。」

 

「……」

 

「悪いこともないけど、いいこともない。これじゃ、死んでるのと同じだ。」

 

「また、傷つけ合いが発生するぞ?他人っつー恐怖が始まる。それでもいいのか?」

「そうよ。ここなら、それは発生しないのよ?」

 

「いいんだ。父さんは、前にこう言ってたんだ。『人と人が完全に解り合うことなんてできない』って。でも、僕はそれを確かめていない。確かめたいんだ、この体で。例えそれで、結局ダメだったって解ったとしてもね。」

 

「だいぶ成長したな、シンジ。そう思うだろ?アスカ、レイ。」

 

「ええ、ホントよ。最初に会った頃のナヨナヨしてたのとは大違いだわ。」

「エイジ君と会って、自分を見つめることができたのね。」

 

「うん。だからさ、みんな、手を繋ごうよ。」

「繋ぐというより、こっちの方がいいんじゃないか?」

 

俺は手を前に差し出す。意図をわかってくれたのか、レイ、アスカ、シンジの順で手を重ねていく。

 

「な?他人っつーのも悪かァないだろ。今のシンジなら、俺が前に話したことも理解できるんじゃないか?」

「『人ってのは正多面体でできてて、色んな面の見せ合いがコミュニケーション』だっけ?」

「アンタ、随分数学的な見方をするのね。」

「私も、この言葉は今は理解できる。」

「だろ?じゃ、帰ろ…って、そうそう、カヲル!」

 

「やあ、呼ばれたから来たよ。君は不思議な存在だ。リリンだというのに、この世界で形を保っている。」

 

「そら、俺って個が強いってことだろうな。お前も一緒に来い。知りたいんだろ?色々さ。」

 

「そうだね、僕もお供させてもらおう。」

 

「んじゃ、今度こそ、この世界にも用はなくなったかな。じゃあな、頑張れよ、みんな。」

 

 

 

 

 

 

京都大学校内。

 

「ねえ、昨日発表された新しいブランド知ってる?」

 

「ええ。少し高いけど、私アレ好き。」

 

「あ、おはよ二人とも。今日は早いね?」

 

「おはよ。そうね、少し早く出たから。」

「おはよう、碇君。」

 

「あれ?そういえばエイジ君は?」

 

「アイツならどうせまだ寝てるわよ。」

「エイ君昨日、徹夜で何かやってたみたいだしね。」

 

「そいつは随分なご挨拶じゃねぇか、一緒に住んでるってのによ?」

 

アスカとレイの間に割って入り、二人の肩に手を回して寄せるエイジ。

 

「ゲ!もう追ってきたよこのバカ。」

「おはよう、エイ君。よく寝た?」

「エイジ君おはよう。どうしたのさ一体。」

「皆様、おはようございます。昨日の夜は明後日の遺跡探索の工程の復習と、近くの美味いモン探し、あとはレポートしてたんだよ。やっとまともに完成しそうだったから寝るの忘れててさ。」

 

「もっと計画的にやろーよ、エイジ君。」

「あーら、いつも計画的にやってる癖に今回に限ってギリギリなのね?エイジ。」

「エイ君、そういうところいつもルーズなんだから。」

「いーだろ?落単してねぇんだからさ。それより、この近くのラーメンめっちゃ美味いらしいぜ?探索終わったら食いに行かねぇか?」

 

そう言って右手に持ったスマホの画面を開き、アスカに見せる。

 

「あ、ここ知ってる!だいぶ有名になったわよね~。」

「ここのニンニクラーメン美味しいって評判なのよ。」

「へぇー、こんな店あったんだ。」

「シンジ、ラーメンなんてこーゆうときにしか食えねぇんだからちゃんと調べとけ?」

 

「お早う、みんな。今日も仲がいいねぇ。」

「ようカヲル。今さ、明後日の遺跡探索が終わったらラーメン食いに行こうって話してたんだけどさ、お前もどうだ?」

「いいねぇ、僕も付き合わせて貰うよ。」

 

 

 

「にしても、あの遺跡って結局何なんだろなァ。」

「1万年以上前のものなんでしょ?何の目的があってあんなモノを作ったのかしら。」

「モアイとかストーンヘンジとかもそうだけど、よくわからないわよねぇ。あーんなバカでかいのを石で作っちゃうなんて。」

「古代人の不可思議を解くのもまた面白いものさ。それが謎に包まれていればいるほどね。」

「カヲル君って、なんか哲学的だよね…。」

 

「それよりもさ!最近、ネットで話題になってるオカルトって知ってる?」

「あー、あれ?割と読んでみるとなかなか上手くできてて面白いんだよなァ。」

「知らないわね。」

「ああ、アレでしょ?社会を裏から操ってる…名前なんだっけ。ぜ、ぜ…」

「ゼーレの噂かい?あんなものがあったところで、今までに何かが起こったわけじゃないからね。」

「まァでも、古代の超文明が起こした、人類の存続をかけた強大な敵との生存競争~ってのはロマンがある。ンでもロマン以上にはならないけどね。」

 

 

 

 

自宅。

 

「ねえアスカ。たまには甘えてもいーい?」

 

「何?どうしたのよ。」

 

「膝枕して。」

 

「もう、しょうがないわね。…どうぞ。」

 

「わぁい、アスカ好き。今日はけっこうキツかったからね、このまま寝れそうな…」

 

「ただいま。あれ、エイ君は?」

 

「寝ちゃった。」

 

「あら、ホントだ。…寝顔、カワイイ。」




これからはシンジ君らの補完に入ります。


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ルート3:補完計画完全阻止
St.14A:俺はもう、二度と後悔したくない[分岐3]


流石に両方とも「これがエヴァのハッピーエンドか?」ってなったので再構築です
こっから更に分岐させねぇと大団円が絶対に達成できないことに気づいてしまいました
過去書いたものを改編して投稿しているので一部まんまだったりしてます


学校なんて行くのはいつぶりだろうか。ここ最近の使徒ラッシュのせいで、家にいる時間も、学校にいる時間も殆ど取れなかった。最近は赤木博士と色々やってるせいで、レイにも構ってやれていない。最近、レイが不機嫌なのはそのせいだろう。

それよりも、アスカのことが頭から離れてくれない。あの日以降ずっと、心がすっきりしないでいる。「本当にアレでよかったのか」って、内面の自分が無限に訴えかけてくる。

 

「あ、アスカ。おはよ。その、こないだは悪かっー」

 

「いいの。じゃ、先行くから。」

 

アスカの笑顔、ありゃ無理してるのがバレバレだ。…こんな謝罪じゃ意味はないってことくらいわかってるけど、どうしても早とちりしてしまう。頭で考えるより先に体で動いてしまう。

 

「はァー、やっちったなこりゃ。」

 

「ねえどうしたの?アスカと何かあった?」

 

「今日の昼、屋上に誰も居なかったら話すよ。」

 

「なにー?そんないかがわしいことなの?」

 

「半分当たりかもね。俺らも行くか。」

 

「何それー。って待ってよエイジー!」

 

 

 

 

学校、昼の屋上。

 

「で、何があったのさ。」

 

「アスカの俺への好意を、詭弁を使って突き放したんだよ。」

 

「え?それじゃわからないよ、ちゃんと説明して。」

 

「腕カッターの使徒とやりあう前、俺はアスカに励ましと発破かけするためにちっとばかし話をしたんだよ。んで戦闘が終わったあと、アスカが俺に告白してきた。『アンタが好きだ、レイよりも慕ってる』ってね。」

 

「それはまた唐突ね…どう答えたの?」

 

「多分俺は、アスカの内面を見すぎたんだと思う。アスカにとっちゃ、初めて自分のことを正しく理解してくれる人ってのに出会ったんだろな。それだから一気に引き込まれたとか、んな所だろね。んでも俺は、『それは好意じゃなくて依存だ』って突き放した。実際、加持さんとの繋がりを見ててもそう思ったし、アスカには変わってほしかった。でも、それ以上に俺は怖かったんだと思う。」

 

「何が?」

 

「アスカとレイ、二人との関係。この関係が、壊れちゃうんじゃないかって。」

 

「エイジ、そんなことないよ。」

 

「え?」

 

「いいんじゃない?アスカとも付き合ってさ、それからどっちにするか決めても。エイジってさ、加持さんの言ってたとおりせっかちな所があるんだね。」

 

「そうかな?俺にはよくわからないよ。」

 

「だってさ、この話だってその場で決めようとしちゃってたじゃん。もっと柔軟になろ?」

 

「そっ…か。ありがとう、レイ。お陰で少しだけスッキリしたよ。…ん?電話か、失礼。はい、影嶋です。」

 

『俺だ。今すぐ会いたい。』

 

「今学校ですけど、それはいいんですか?」

 

『ならそちらに向かうから早退しろ。話がある。』

 

「わかりました、失礼します。どうしたんだ?んな急いで…。」

 

「誰から?」

 

「加持さん。急用っぽいから行ってくるよ。早退つっといて。」

 

あの加持さんがここまでの急ぎようって事は、絶対何かある。気を付けるべきかもしれない。

 

 

 

「待たせたな。」

 

「んな事はないですよ。」

 

「そうか、じゃ、行こう。」

 

加持さんは車を勢いよく飛ばす。焦りが垣間見えるようだ。

 

「どうしたんですか?こんな急いで。加持さんらしくないですよ?」

 

「ちっとばかし厄介な事が起きてね。」

 

「ああ…もしかしなくても、ヤバい情報掴んだとかです?」

 

「半分当たりだな。…ここだ、降りてくれ。」

 

俺らは廃工場に着く。もうヤバいだろこれ。銃を抜き、加持さんの後ろについて奥に行く。

 

「俺が君を呼んだのは、これを渡したくてね。」

 

「ケース…?何ですかそれ。」

 

「葛城が辿り着く真実と、君が辿り着く真実は違うかもしれない。だがーどうした?」

 

何も答えない。殺気が来てる。閉めたドアに静かに近づき、ドア越しに5発撃つ。ドアから離れ、未だ開かないドアを注視する。……勢いよく開くと同時に黒服が飛び出してくる。再度5発発砲。敵は動かないが、念のため頭部に更に2発撃つ。これで確実に死んだだろう。

 

「おお…君も随分おっかなくなったな…。」

 

「相手の殺気がダダもれってのがよくないんすよこりゃ。こういうのは確実に殺しとかないと、後が面倒ですからね。」

 

「あーあー、ゼーレの奴らも中学生に負けたとなったら激怒するだろなぁ。」

 

「でしょうね。それで、話の続きしますか。十中八九、その中身はアブナイデータが大量に入ってるんでしょう?」

 

「ご推察の通りだ。君は、君なりの真実に向かって進め。じゃあな。」

 

「わかりました。加持さんも、くれぐれも気を付けて。ミサトを泣かせたらダメですよ?」

 

「君にはかなわないな。それじゃ、またな。」

 

加持さんは廃工場から立ち去る。後はこの情報の中身が頼りだ。信頼してますよ、加持さん。

 

「ん?雨か。」

 

 

 

 

土砂降り。常夏の日本にとって、スコールは特段珍しいものではない。

 

「だからつってこんな時にこれはねぇだろ!あーあー、びしょ濡れだ…」

 

どうにかこうにか、建物の下に入りこんでスコールをやり過ごす。…やっと弱くなってきたけど、俺今傘の持ち合わせが…

 

「影嶋?」

 

「ん?よォ、アスカか。」

 

隣には傘を開こうとしていたアスカが立ってた。相変わらずらしくない表情(カオ)をしている。てか、全く気づかなかった。

 

「どうしたの?傘は?」

 

「ああ、ちっと今持ち合わせが無くてさ。」

 

「そう。…はい。」

 

アスカは俺にタオルを投げ渡す。意外、こんなことするんだね。

 

「ありがと。」

 

「影嶋が倒れたら、作戦指揮してくれる人が居なくなるじゃない。」

 

「ったく、素直じゃねぇなァ。」

 

「まだ雨降ってるし、ちょっと小さいけど…一緒に入って帰りましょ?」

 

「おう。」

 

 

雨はだいぶ収まったが、まだ降り続けている。俺らはマンションへと1つの傘に入って帰っている。

 

「悪かったな。あの時、有無を言わせずに拒絶して。」

 

「それはもういいの。…ねえ影嶋。あの後ね、あたし、考えたんだ。『好き』ってことを。確かに、加持さんやアンタの言った通りだった。あたし、ずっと振り向いて構ってくれる加持さんや、キレのある返しをしてくれるアンタに、ずっと依存していたみたいね。でもね―

でも、あたしはエイジのことが本当に好きみたい。変につっかかってたのも、レイを妬いてたからだと思う。」

 

「そっか。アスカ、気づけたんだな。」

 

「うん。あたし、やっと素直になれた。こないだはありがとう。」

 

「お、やっといつもの顔になってくれたな。俺は嬉しいよ。」

 

「これもエイジのお陰よ。」

 

「そいつはどうも。」

 

 

マンション・玄関前。

 

「今日はありがとな、アスカ。」

 

「いいのよ。…ねえエイジ、改めて言わせて?」

 

「何だ?」

 

「あたし…エイジのこと好き。」

 

それだけ言うと、アスカは俺にキスをする。

 

「それだけ。じゃあね。」

 

「じゃあな。」

 

アスカは自分の家に入っていく。俺も帰るか。

 

「ただいま。」

 

 

 

「ねえ、アスカとはどうだった?上手く行った?」

 

「ああ、上手く行ったよ。…昼はありがとう、レイ。俺に発破かけてくれてさ。」

 

「私だってさ、ずっとモヤモヤしてるエイジ見るのつらいから。それで!?私とアスカどっちと付き合うの!?」

 

「んなすぐに決めれるわけないだろ?せめて明日の昼にしてくれよな。」

 

「む~、こういうことは即決しないと嫌われるわよ?」

 

「何だ、アスカに俺が取られそうだって、不安なのかァ?」

 

「そーゆう弄りしないでよ!!!!」

 

「悪ィ悪ィ、ちゃんと決めるよ。」

 

 

 

 

午前零時、ターミナルドグマ。俺は赤木博士と共にロンギヌスの槍を見物しに来た。俺のカードを通すと、磔にされたリリスとそれに突き刺さっている槍が顔を見せる。カードが更新され、加持さんと同じレベルのセキュリティの扉に出入りすることができるようになった。

とても子供が持っていいモンじゃないと思うんだけどなァ…

 

「実物は久々に見たわね。」

 

「ええ。…どうですか?ここなら” AATFS(アンチA.T.フィールド弾)”の開発に必要なデータも取れると思います。但し、NERV本部外にデータを一切漏らさないようにお願いします。ゼーレにバレると面倒ですからね。」

 

「わかったわ。最近の使徒は常軌を逸しているものが多いものね。準備するに越したことはないわ。」

 

「ありがとうございます。これで3回目ですね、赤木博士に無茶振りをするのも。」

 

「私だって、エイジ君に借りを作りっぱなしって訳にもいかないわ。」

 

「ありがとうございます。あと、もうひとつ頼まれてくれませんか?」

 

「何かしら?」

 

「それは――」

 

 

 

学校、始業前。

段々と人数が減っていくこのクラス。最初に来たときより半分の人口になってしまった。でも、トウジと洞木さん、シンジとケンスケ、俺、レイ、アスカは普段と変わらない学校生活を送っていた。

最近は使徒もめっきり顔を出さなくなってきたし、俺も前のような生活に戻っていった。くだらない隙自語が入る授業は聞き流し、加持さんから貰ったデータを見ながら夕食を考える。これだけのために、オフライン専用のラップトップを買った。警戒するに越したことはない。

そして、昼休み。どっから話が漏れたのか、扉の裏には俺とレイが初めて屋上で昼食をしたときのような人だかりが発生している。あーあー、勘弁してくれよほんと。

 

「だからって、何で僕まで巻き込まれなきゃならないんだ…。」

 

「アンタ、バカァ?こーゆうのには、第三者による公平な目ってのも必要なのよ!」

 

「ええー…。」

 

「それでそれで、エイ君はどっちに決めたの?」

 

「レイ、もう俺に聞くのか?そうだなァ、俺は…」

 

全員が静かになる。俺なりに出した結論はあった。受け入れられるかはともかく、ね。

俺はレイとアスカの間に入り、二人の肩を抱き寄せながら言う。

 

「決めかねちった!だから、二人とも平等に愛する!いーでしょ?」

 

「「「「「えええええええええええええええええええええ!?!?!?!?」」」」」

 

「何だァ?お前らズッコケ音がしそうな格好しやがって、不服かよ?いーじゃん、学生の時くらいやんちゃしたってさぁ。だろ?レイ、アスカ。」

 

「あ、あたしに振らないでよね!」

「やだ、エイ君大胆じゃない…。」

 

「あ、そーだ!ケンスケ!写真撮れ写真!」

 

「え?いいけど?」

 

「ほらシンジもこっち来てはい3、2、1撮れ!」

「うわぁあちょっと!?」

 

シンジのYシャツの襟を握って無理矢理引き寄せる。それの少し後にシャッター音。全員入ったな、完璧。

 

「後で現像して送ってくれ!あと他の盗撮写真焼かないと56すからな。」

 

「ひぃぇ~…わかったよおっかねぇ…。」

 

「うむ、よろしい。」

 

 

 

 

赤木博士の研究室。

 

「赤木博士、進捗はどうですか?」

 

「エイジ君のお陰でだいぶ順調よ。本体自体は今までの武装のスペアを流用して3本確実に調達できるわ。ただ、この弾はこの1-2ヶ月で100発作れるかどうかといったところね。性能を求める分、だいぶ高コストになってしまったもの。」

 

「5発マガジン換算で20程度ですか。どうせ使徒は1体ずつしか来ませんから平気ですよ。これで今までの使徒10体が同時に来たとなったら、その時はもう人類滅亡ですね。」

 

「嫌な冗談ねぇ。そうだ、ミサトが呼んでたわよ。執務室に来て欲しいって。」

 

「ミサトが?…ああ、何となく察しがつきました。そういうことですか。」

 

「留守電のこと、知らない?」

 

「まあ、向こう行ったら訊きますよ。それじゃ、引き続きお願いしますね。」

 

 

 

 

「失礼します、葛城三佐…え、剣崎さんも一緒なんですか?どうしてです?」

 

「剣崎君、私と一緒で加持君と同期だから。リツコもなのよ。…加持君のこと、知ってる?」

 

「加持さんならちゃんと守りましたよ。多分しばらくは身を隠すんじゃないんですかね。」

 

「そう。…よかった。」

 

「それより、こいつは見ましたか?」

 

オフライン用のラップトップを開き、データを見せる。

 

「こいつァヤバい情報しか入ってませんよ。セカンドインパクト、ゼーレの裏手引き…ほんと、よくこんなのを引き抜いてきましたね。」

 

「加持君は危ないアルバイトばっかやってたからねぇ…。でも、これでゼーレの首魁がわかったわね。」

「『キール・ローレンツ』…こいつら委員会、ほんと頭のおかしい奴ばっかですね。でも、こいつらを殺れば補完計画が根本から無くなる…。」

 

「でも、こんな居場所がわからない奴、どうやって探すのよ。ウチの諜報部もそこまでは…」

 

「加持ならもう目星がついているんじゃないでしょうか。そこへ突入部隊を送り込めば、間違いなく消すことができると思います。」

 

「そうですね、それなら自分が加持さんとのコネクションを作りますか。恐らく、敵も補完計画を実行するには複数のエヴァが必要なはずです。つまり、揃わない数を俺らのところで補う可能性がある。」

 

NERV本部(ここ)が襲撃される可能性が高い、か…。」

 

「たしかに、今になってエヴァ5~13号機の建造を開始したという話が上がっています。ソースも裏が取れているので信憑性は高いでしょう。」

 

「もしそれが本当なら、ここに9体のエヴァが同時に襲ってくる訳ですか。…今のうちに訓練でもしておきます?」

 

「それはアリかもね。剣崎君、このことは独自で調査をお願い。」

 

「わかりました。」

 

「イヤですねぇ。結局、使徒の後に相手するのは人間だなんて。」

 

「その前に、使徒を全て殲滅することが先ね。こうなることは指令も承知のはず。」

 

「ええ、相手が動いてからでも遅くはないでしょう。それまで、こちらも全力で調査します。」

 

「よろしくお願いします。それじゃあ、お互いに頑張りますか。」

 

 

 

 

自宅、自室。

 

家に帰り、夕食後にこのデータのことはパイロット全員に共有した。全員驚いていたようだが、加持さんがまだ無事ということを聞いて、アスカはホッとしていた。

にしても、こいつらの補完計画はどういう発想をしたら思い付くのかがわからない。自分だけ神になって、他の人類を導くだとか、創作でよくあることだ。「互いがわからないから争う」ってのは同意するとして、「だから人類の魂をひとまとめにして俺らだけ生き残って統治するわ」は同意できるわけがない。ほんとしょうもねぇなぁ、こいつら。

 

椅子に座って画面とにらめっこしてると、唐突にレイが後ろから抱きついてくる。

 

「レイ、どうした?」

 

「いや、なんかさ、最後に戦う相手が人間なのがなーって。」

 

「俺も全く同じに思ったさ。でも、俺らが戦わなきゃならないってのがね。ほんと面倒だよ。」

 

「ねぇ…どうしてあーいう返事をしたの?」

 

「昼のことか?本当にやんちゃしたくなっただけよ。それに、そんなことで後悔なんてしたくないしね。」

 

「やっぱ真面目だねぇ、エイ君。」

 

「そうかなァ、よくわからねぇや。」




St.15は特別どこか改編するところがなかったので次は16Aになります。


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St.16A:怖いもんは何があっても怖い

詰め込みすぎたので休憩しながら投稿します。これだけは確実に完結させたいです。
下 ネ タ ば っ か り
多分主人公のメンタル改善で一番変わったポイントだと思います。これの前の話は使徒殲滅編のSt.15をお読みになってください。



「ねぇエイジ~、今日はいいでしょ~?あたしだって溜まってるのよ~。」

 

「アスカ頼む、何度も言ってるだろ?ダメだ。」

 

「えー?エイジがダメだって言ったから買ってきたのにぃ~。」

 

「用意がよすぎるけど絶対にやらないからな。だいたい俺を犯罪者にするつもりかよ…。」

 

(なぁに)その言い方!そもそも同い年なんだから犯罪も何もないでしょ!?だいたい、アンタも似たようなこと起きてないのぉ?その年の癖してさー。」

 

「ええ、俺ェ?…うーん、最近全然感じたことなかったなァ。」

 

(うっそ)でしょ?そんなに感じないほど仕事ばっかやってると早死にするわよ?」

「エイ君なら無駄よー。私のこと襲ってくれなかったもん。」

 

「レイ、んなん当たり前だろ?平然とそんなこと言わないでくれ。」

 

「意気地無しねぇ。」

「意気地無しってより、バカ真面目。」

 

「なんで俺がボロカスに言われにゃならねぇんだ????????」

 

話の内容から察する通り、「ふふふ…セ」の話だよ全く。頼むからもう勘弁してくれって感じだ。こんな話ばっかを数週間もされると疲れるんだよ。もっと大人になったら好きなだけ付き合ってやるから我慢してくれ。

 

 

 

今日はアークを介さない、弐号機との直接シンクロの実験を行っている。…正直間が悪すぎる、最悪だ。

 

[ねえエイちゃん、最近どうしたの?なんか疲れた顔してない?]

 

「ああ……秘匿回線にしたら話しますよ?」

 

[回線切り替えたわ。どうしたの?]

 

「アスカとレイがCを迫ってくるんですよ。ほんと勘弁してくれって感じです。」

 

[Cって…もしかして”あの”ABCのC?]

[ぶっ!!!!!!]

(影嶋さん?)

 

案の定この暗喩は貫通しちゃったか…。あーあー、赤木博士コーヒー吹いてる。綺麗すぎてギャグ漫画かと見間違えるわこりゃ。

てかキョウコさん?娘のことだからって反応してこないでくださいよ。

 

[ミサト!?あなた監督官としてどうなのよ!!]

[まァいいんじゃない?こんな年頃よー、無理もないわ。]

[あなたねぇ…!]

(あら影嶋さん、もうアスカちゃんとそこまで進展したんですか?私は嬉しいですよ。)

 

赤木博士以外の身勝手な発言に俺は青くなる。またあらぬことを振り撒かれる前に言っておかなければ。

 

「俺 は や っ て な い!!!!みんなして勝手なこと言わないでください全く。」

 

[エイジ君、我慢すると体に毒よ?溜まってるんなら発散した方が…]

 

「葛城三佐!不純異性交遊を認める発言をあなたがしちゃあイカンでしょう!?」

[そうよミサト!あなたの大学時代じゃないのよ!?]

 

なんか今凄まじい無自覚暴露をしていた気がするが、気のせいだろうね、うん。

 

[エイジ君、ほんと大人というか真面目ねぇ。そんだけ冷静ならヤっても問題ないんじゃない?ちゃんとゴム要求してそうだしさ。]

「何を根拠に大丈夫なんて…」

 

頭を抱える。最悪だ…。

 

(影嶋さん?)

 

…はい、何でしょうかキョウコさん。

 

(アスカちゃんには優しくしてあげてね?)

 

…………はい…。

 

[総員、第一種戦闘配置!]

 

「あーもう!!!俺はアークに行くんでさっさと出してください!」

 

[はいはい、わかったわよ。]

 

 

 

 

 

「状況報告!」

 

[目標は現在大涌谷上空まで接近。定点回転を続けています。]

 

「了解。エヴァ初号機を前衛、参号機を後衛でスタンバイ。虎の子の試用をしてみますよ。」

 

[わかったわ。何マガジン欲しい?]

 

「とりあえず2個で。そこまでバカスカ撃つもんじゃないですしね。他2マガジン分はAPでお願いします。」

 

[ねえエイジ君、なんで僕と君のコンビなの?いつも通りアスカと綾波の―]

「悪い、今その二人の顔を見たくないんだ。エヴァ発進。」

 

こんなエゴ丸出しの編成なんて初めてだ。それくらい今俺は頭にキてる。

エヴァ2機は目標がいる森林地帯付近にたどり着く。そいつの形状はまるでDNAの二重螺旋だ。

 

「作戦を説明する。これより俺は、敵に対し後方1km地点での狙撃をする。初号機はこの間、敵を撹乱。攻撃を当てる必要も、傷をつける必要もない。とにかく俺から注意をそらしてくれ。参号機の時のような侵食タイプだと厄介だからな。いいか?」

 

[わかった。]

 

エヴァがそれぞれ配置につく。敵は未だ攻撃を仕掛けてこない。

 

[膠着状態ですね。まず、敵の攻撃手段が読めないことには…。]

[青からオレンジへ、パターンが周期的に変化しています。]

[どういうこと?]

[MAGIは回答不能を提示しています。]

[答えを導くにはデータ不足というわけね。ただ、あの形が固定形でないことは確かだわ。]

[先に手は出せない…か。]

 

「シンジ、敵が仕掛けてからが本番だ。気を緩めるなよ。」

 

[わかった。…来る!]

 

それと同時に、二重螺旋をしていた使徒の体が一本の紐になり、初号機を襲う。

初号機はパレットライフルを先端部に射撃しながら、敵を引き付ける。

俺はそれを注意深く観察しながら、照準をする。先端部より少しだけ後ろに当たるように…

 

「ファイア。」

 

試製長距離狙撃用ライフルが火を吹く。発射された虎の子―AATFS(アンチA.T.フィールド弾)―が使徒の体を貫き、悲鳴と共に血飛沫をあげる。この弾、革命だ。遠距離からATフィールドを中和せずにぶち抜ける。

続いて2発目……。これも先ほどの傷の少し後ろに直撃する。今度は先端部が千切れ、その部分は消滅した。

倒せはするが、このままでは非効率だ。

 

[敵、初号機に攻撃集中!両端を使っての攻撃へと移行しました!]

 

「させるか…!」

 

冷静に連射し、敵の長さを更に削る。もう弾が無くなったか。空のマガジンをリリースし、新しいマガジンを装填する。

 

[ごめんエイジ君、そっち行った!]

「了解。」

 

尚も攻撃を集中させる。流石に真正面だと当てづらい。カスって傷をつけることはできるのだが、致命傷にどうしてもならない。…もう弾が尽きる。ライフルを捨て、ATフィールドで防御しようとするが、敵はそれをスルーして、俺の胴体へと侵食を開始する。

 

「な!?があっ…シンジ、頼む!」

 

そう言って、俺は初号機にライフルとAP弾マガジンを投げ渡す。初号機はこれを掴み、使徒に対して発砲するがまるで効果がない。

 

[そんな、効かないなんて!]

 

「シンジ、撤退だ!俺はアーク経由で動かしてるから最悪自爆ができる!」

 

[でも!]

 

「エヴァを一度に二機失う方がよっぽど損害が出るんだ!行け!」

 

この感覚…またお前らかよ。

 

 

 

 

{またお前らか、とは随分なご挨拶じゃないか、君。}

 

「また使徒と会話するハメになるとは思っちゃないからな。今度は俺に化けて何の用だ?」

 

{君の存在が消えようとしている。心が痛むだろう?}

 

「…へえ。そうなのか。」

 

{どうした?人間というのは、自分の存在が消滅するときは恐怖にかられるんじゃないのか?}

 

「それなら、俺はもう人間をやめてるな。」

 

突如として意識空間に表示される真っ赤なタイマー。30秒のカウントが始まる。

 

{そんなことしても、あたしらが悲しむだけよ。}

{そうよ。}

 

今度はアスカとレイの姿に化ける。また精神攻撃か。

 

「お前らほんと懲りないな。また精神攻撃を―」

 

{アンタ、あたしたちと一つになりたいんでしょう?知ってるのよ?}

{でも、あなたの心の奥底にある恐怖…そのせいで、自分自身を傷つけてしまっているのね。}

 

二人はゆっくり近づいてくる。

 

{ねえ、あたし達には心を開いてよ。}

{そうすれば、あなたの恐怖もなくなるわ。}

{{いいでしょ?エイジ。}}

 

「弱った心にならそれは通じただろうけど、俺には効かないぞ?」

 

{いいえ。アンタも、もうわかってるはずよ。}

{そうよね、エイジ。}

 

「何をだ?思い当たる節があんまり…」

 

{もう、怯えることはないのよ。ずっと前から、アンタはあたしたちの心も、自分の心も知ってたくせに。}

{嬉しかったのよ?初めて碇指令以外に心を開けて。}

 

残り10秒のタイマーをアスカが止める。

 

「な、自爆タイマーが強制停止された!?んなバカな!」

 

{もう、たった一人で頑張るのも、疲れたでしょ?あたしみたいな脆い心を持っているのね。}

{私らと一つになれば、もう疲れることはないのよ。}

 

二人はそれぞれ俺の半身に抱きつき、耳元で囁く。

 

{{そうでしょ?影嶋エイジ君。}}

 

「お前ら…人の中に、土足で入ってくるなァ!!!!!!」

 

心の壁(ATフィールド)で防御する。ハマーンの気持ちがよくわかったよ。

 

{そんな我慢しないでもいいんだぞ?たまには欲望のまま動くのも悪くはないっていうのに。}

 

「お前なァ…!」

 

俺はタイマーに手を伸ばす。

 

{いいンか?んな事したら、あの二人を悲しませることになっぞ。}

 

こいつ、俺の口調までコピーしてきやがった。でも、俺の存在はよくわかってないらしい。

 

「悲しむ?何言ってんだお前。"俺はここには居ない"のがわからないのか?」

 

躊躇いなくタイマーをスタートさせる。

 

{な…!?お前、それではどうやってアダムの体を…!}

 

NERV(うち)には赤木博士(優秀な科学者)がいてね。瞬時に理解できなかったお前が悪い。」

 

{キサマ、そんな事を…何!?俺の体がアダムに引っ張られる!?何をしている!!}

 

「俺は拒絶するのもそうだけど、受け入れるってのもできるんだよ。道連れさ。相手が悪かったな、お前。」

 

{殺される!?俺が!?い、嫌だ!}

 

「人間の心を知って恐怖したか。憐れだなァ。」

 

突如として敵の感覚が完全に無くなり、俺はタイマーを止めた。1.036秒…これ以上遅かったら自爆していたのか。

相手を恐怖させる作戦だった。途中からトレースするのは余りにも出来すぎてる感情を敵が発してきていた。つまり、感情を学習していたんだ。俺の心をつかって。それに、使徒は追い詰められると自死を選ぶことにも例があった。

……完全に運ゲーのみで渡った、作戦もクソもない危険極まりない綱渡りだったけど、なんとか上手く行ってくれたようだ。

 

 

 

 

「……戻ってこれたか。使徒の反応は?」

 

[しょ、消滅しました……。]

 

「戦闘終了。お疲れさまでした。」

 

 

 

 

戦闘記録を見直してたら、まーた頭を抱えるモノが見えてしまった。

最初はヒモ状態のまま侵食していたんだが、途中―恐らく、敵がレイとアスカに化けたころ―に、敵はアスカとレイを足したような姿になって、下半身から参号機を侵食し始めるわ首も絞めながら侵食してくるわ、色々見てらんなかった。最悪。ただ、最後の方に、参号機に一気に取り込まれて、そのままパターン青が消失したのは一体何だ?こればかりは俺の理解を越えていた。

 

 

色々ありすぎたから、俺だけ先に帰って寝させてもらった。久々に一人っきりの家で、誰にも邪魔されずに寝れる。最高だ……。

 

 

 

……う…うん?なんか重いし、口が濡れてる感覚が…?何だ?ボヤける目を開けると、目の前には真っ赤な瞳がある。

 

「はあっ…レイか。前から俺の上着脱がせてたのもお前だな?」

「エイジの体温、また感じたかったから。にしても~、あの攻撃何よ?私よりアスカの方を気に掛けてるわけ?」

「は、はァ!?んなバカな、どっちかっつーと二人のミックスに近くなかったか!?」

 

半分嘘が入った。最近の鳥騒動があったからアスカに気が行ってたのは確かだろうね。

 

「ほんとぉ~?私、アスカがエイ君と舌使ってたの知ってるんだからね。」

「そりゃアスカから迫ってきたんだ!もうい―」

 

レイは起き上がろうとした俺の肩を押さえつけ、人差し指でその先を止められる。レイは俺の耳元に口を近づけ、こう囁いた。

 

「ねえ、私と一つにならない?」

 

それを耳元で囁かれた瞬間、背筋がゾクゾクした。やべぇぞこの破壊力。

 

「ひっ…ひ、卑怯だぞそれ。使徒の攻撃まんまじゃねぇかよ。」

「ねえ、エイジの言葉で聞かせて。一つにならない?」

「やりません。だいたい、明日平日だぞ?俺だって赤木博士との会議が―」

「もー、そーいうところはいつも通り真面目なんだから。いいじゃん、大仕事した次の日くらい。それに、アスカに先越されたくないのー。」

「レイにできないつってアスカにいいって言うヤツがいるかよ。もっとこう、健全なものをだな…あだだ!頬つねんな!」

「いーじーわーるー!もうし…キャッ!!」

「うわっ!」

 

手を引き剥がそうと思ったら力をかけすぎて、二人してベッドから落ちてしまった。

 

「いたた…エイ君、だいじょう…エイ君?」

 

俺がレイを押し倒したような体勢になっていた。そこで初めて、レイの身体をしっかり見ることになってしまった。エロ絵にあるような気持ち悪くなるような極端な体型ではなく、全体のバランスがとれた美しい肢体と白い肌。見とれてしまう。心臓の鼓動が、今までに無いほど早く脈打つ。息が荒くなる。その胸に手を…え?今俺は手を伸ばしたのか?自分から?

 

目を閉じて頭を振り、その場から逃げ出すように机へ向かう。近くに転がってたシャーペンを逆手に持ち、左手の甲に突き刺す。けっこうな痛みがくるけど、今の感情を頭から追い出すことはできた。

 

「ううっ!」

「エイ君!?」

「レイ、頼む。…部屋から出てってくれ。」

「ごめん……。」

 

ドアが閉まる音。レイの顔なんて見れるはずもなかった。

自分がしようとしたことが怖くてしょうがない。

 

 

 

 

 

「…意気地無し。」




もっと設定やらを煮詰めて最初から書き直したい


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St.17A:未だに複雑な心情

どうにかこうにかしてこれだけは書きました。


今日は一睡もできなかった代わりに、朝食と弁当だけ先に作って逃げるようにして家を出た。ほんと、どんな顔をしてレイと接すればいいのかが全くわからず、顔を合わせたくもなかった。

ずっと、「俺がレイを穢そうとした」って事実が頭から離れない。そんなことをしようとした自分が嫌いだ。教室も、レイの真後ろの席ってのが、今日ばかりはどうしてもつらすぎた。教室の扉を開こうとする手まで止まる。ここにいれば、嫌でもレイと、みんなと顔を合わせてしまう。手が震えてくるようだ。急速に来る不安の感情の中立ち尽くしていると、唐突に目の前のドアが開く。いつもの俺なら反応できただろうけど、今日は何も気が回らずに出てきた人に派手にぶつかってしまう。

 

「うわっ!?」

「きゃっ!?ちょっと、どこみて―影嶋君。ごめん、大丈夫?」

「え?ああ、大丈夫だけど。」

「そう、よかった。あ!あのさ、こないだは…ありがとう。」

「…そう。」

「どうしたの影嶋君、どこか具合でも悪い?」

「いや…特に。失礼するよ。」

「あ、ちょっと…。」

 

早々に話を切り上げて洞木さんと教室から離れた。屋上行こう、そこなら誰もいないはず。

 

 

 

屋上のドアの真裏は日陰で涼しいんだが、風景は微妙だし面積も狭いから人気はない。それに、ここにわざわざ来る物好きってのもいないはずだ。

昼過ぎまでそこで空を見ていたが、一向に考えがまとまることはなかった。

 

「やあ、エイジ君。」

 

「…カヲルか?どうしたんだ?こんな辺鄙な場所にさ。」

 

「今朝のが気になってね。いつもの飄々とした態度がどこにも見当たらなかったけどさ。」

 

「…何でわざわざ俺に会いに来たんだ?」

 

「君に興味が湧いてね。話、聞かせてよ。」

 

「……自分の恋人に、初めて激しく拒絶をしたんだ。しかもレイの反応が怖くて今日は一切顔を合わせれてない。」

 

「なら、綾波レイに素直に謝ればいいじゃないか。何をそんなに怯えているんだい?」

 

「は、そんな単純ならどれだけよかったか。…俺はレイを穢そうとしたんだぜ?そんなヤツが、どんな顔をして会えばいいんだよ。」

 

「穢す、ねぇ…。別に性欲ってのは人間誰しもが持っているものなんじゃないのかい?その欲求をわざわざ自分自身で押さえつけているってのが、僕には理解できないよ。」

 

「んな単純なモンじゃないんだよ。俺にはその欲求ってのが怖くて仕方ないね。」

 

「何故だい?」

 

「……まだ、わからない。ただ、漠然とした恐怖が俺を遅い続けるんだ。多分、潜在的な恐怖なんだろうね、この嫌悪感の元ってのは。」

 

「リリンは不思議だ。どうして他人のために怒ったり、慌てたり、思い詰めたりするのかな。」

 

「それが人間だからだな。自分の存在ってのは他人にも入り込んでんのさ。」

 

「ふーん…。」

 

「あーもう、アンタって本当に戦闘以外は意気地無しねぇ!これが自爆しようとしてたヤツとは思えないわ!」

 

「へぁ!?何だお前ら、立ち聞きたぁ御大層なことをしてくれるじゃないかよ。」

 

影からアスカ、レイ、シンジが出てくる。こいつら、カヲルをダシにして盗み聞きしてやがったな?

 

「アンタがあたしらを避けるからでしょ!?」

「エイ君、その、昨日はごめん。無理に迫ったりしちゃって…。」

 

「いや、レイは悪くな―」

 

立ち上がり、その場から逃走しようと―あれ、立ち眩みが…

 

(エイジ君!?大丈夫!?)

(保……つへ……、シン…、手を……)

 

急速に意識が無くなっていく感覚が俺を襲っていった。

 

 

 

 

目が覚めると、また俺はベッドの上だった。でも、周囲にゃ幕があるし、これは保健室か?はぁー、一度も世話になったことのないとこに来ちったのか。この感じ、睡眠不足で体力限界でぶっ倒れたか、はたまた脳がキャパオーバーしたか。なんか、大学入って深夜まで遊んでた時を思い出すような思い出さないような…。上半身を起き上がらせると、やっぱ頭痛がする。何か飲みたい…あ、近くに鞄置いてくれてる。

ん?今何時だ?15時過ぎ……

 

赤木博士すみませんね。毎度毎度迷惑かけて。とりあえず電話だけはしとくか…。

 

「もしもし、影嶋です。」

 

『あら、エイジ君?その話ならもう聞いたわよ。最近疲れてたらしいし、今日くらいゆっくりしたらどうかしら。』

 

「……大変申し訳ございません。」

 

『いいのよ。誰でも休息というものは必要よ。それじゃ、明日の同じ時間ということで。じゃあね。』

 

はァ~、赤木博士優しい…。とりあえず水筒の中身を二口ほど飲むと、少しだけ頭痛が落ち着いたような気がした。ラップトップを取り出し、予定を少し書き換えていると幕を避けてレイが顔を出してくる。

 

「あ…起きてたんだ。てか、起きて早々もう仕事?赤木博士の話聞いてたの?」

 

「おはようレイ、今度は何か月ぶりかな、もしかして年単位?」

 

「その感じ、いつも通りのエイ君だ。」

 

「ぶっ倒れて寝て、少しはすっきりしたからかな。」

 

「よかった。…昨日の夜はごめんね。」

 

「俺もちゃんと言うべきだったよ、ごめんレイ。

とにかくさ、アレに関してはもっと大人になったらいっくらでも付き合ってやるから、今は我慢してくれよ。」

 

「わかった。もうしつこくは言わない。でも聞かせて。あのとき…何であんなに怖がってたの?」

 

「そいつは…俺が手を出す側に回りかけたからって言う他ないかな。それ以上は何も言えない。」

 

「そっか…わかった。」

 

正直、これは大嘘だ。そりゃあ、大人が子供に手を出すなんて憚れるに決まってるだろ。んでも今の体じゃあそれを言うには説得力が欠ける。とりあえず表面のことを言っとくしかない。他の伝え方が俺にはわからねぇな。

 

「落ち着いてきたし、帰るか…おっとと…」

「もう、無理して立とうとしないの。」

「悪ィね、レイ。」

 

 

 

 

「今日からパイロットに加わる、渚カヲル君です。みんな、仲良くしてね。」

「皆はもう知ってるよね。よろしく。」

 

「「「何で[お前/君/あんた/あなた]がパイロットになってるの????」」」

 

「やだなぁ、前にいったじゃないか。僕はフィフスだって。」

 

「面識はあるようだから、これ以上は自己紹介は無くてもいいわよね。それじゃ。」

 

ミサトはこのまま仕事に戻ろうとする。流石に納得がいかないから、後を追って追求をする。

 

「待ってくださいよ、何で今さらフィフスが?参号機なら俺が操作できるじゃないですか。」

 

「エイジ君、あなたの負担を減らすためでもあるのよ。たとえ委員会が直に送り込んできた子だとしても、ね。この後の訓練、彼のことちゃんと見といて。」

 

「……わかりました。」

 

 

 

今日も定期のシンクロテストが行われる。

俺は例によってアーク内でそれを見守っていたのだが、カヲルの成績は妙なものだった。

最初は8割まで上がったと思ったら、その次は6割台にまで落ち込んでいる。瞬間的なものだったらまだしも、それらの数値が持続していることが異常だ。

 

「伊吹さん。見ましたね、彼のシンクロ率。」

 

[ええ、でもこんなこと…システム上あり得ないわ。コアの書き換えなしに参号機とシンクロするなんて…。]

[でも事実よ。まず事実を受け止めてから、原因を探ってみて。]

 

無茶苦茶な事実だ。やっぱまともな人間じゃないな、カヲルって。

 

 

 

 

シャワーを浴びながら、俺は一人で考える。委員会…つまりゼーレの差し金ってことだろう。…やはりレイに似てる。コアの書き換えこそあっても、レイは全てのエヴァとシンクロが可能だ。カヲルも同じタイプであるなら辻褄が合う。でも、このセキュリティをどうやって突破する気だ?幾らエヴァを動かせたとしても、無理矢理をするには限度がある。稼働時間は5分という限界がある。それをどうする気だ?

 

「ねえ。」

 

「ふっ!?!?びっくりした。どした?」

 

「石鹸貸して。こっちの小さくて使えないんだよ。」

 

「はいよ。…なあ、ちっとばかし近すぎないか?もう2歩くらい後ろに下がってくれ。」

 

「君らって妙だ。掴みかかってくることがあるくせに、一定距離に他人が入るのを嫌う。矛盾してないかい?」

 

「ここ出たら話すよ。裸で立ち話ってのもアレだろ?」

 

 

 

俺らはロッカーで着替えた後、そのままそこで話している。

 

「で?結局アレはどういう意味なんだい?」

 

「人っつーのはパーソナルスペースってのがあるんだよ。そこに他人が入り込むってのは拒絶反応を起こす。

んでも他人を攻撃するのには、それに侵攻して近付くわけだ。

一見矛盾してるこれは、実は矛盾してない。要はどの視点から見ているか、ってわけだからな。ATフィールドに似たようなものだね。」

 

「ATフィールドか…。君はそれを正しく理解しているようだね。」

 

「正しく?それはどういう…。」

 

「君らだって持ってるじゃないか。心の壁…ATフィールドを。」

 

「…なあ、何で使徒はここのリリスを求めるんだ?何のためにサードを起こそうとする?」

 

「生存競争だよ。僕ら使徒はアダムより生まれしもの、君ら人間(リリン)はリリスより生まれしもの。ひとつの星に、二つの起源の生命は同時に存在できない。単純な話だ。」

 

「なるほどねぇ…。そりゃあ、対立するわけだ。でも、99.89%同じ遺伝子で構成されてるのが共存できないとも思えないけどなァ。」

 

「君、真面目に聞いてたのかい?」

 

「もち。だって、カヲルは最早人間じゃん。俺らときちんと対話して、自分の考えってのをもってる。端から見りゃさ、ちっとだけ特殊な人間にしか見えねぇよ。」

 

「そんな単純なものじゃないんだけどねぇ…。」

 

 

(ねぇ、さっきから二人は何の話してるの?)

(あーダメ、全然わからない…。)

(あんたらバカぁ?使徒と人間の話をしてんのよ!こんな程度もわからないなんて、あんたらちゃんとあの資料読んだの?)

((全然。))

「信っじられない…。」

 

 

「何だー、盗み聞きか~?んなことするくらいなら普通に聞きに来りゃいいたろ?」

 

「「「げ、聞こえてた?」」」

 

「アスカがでかい声出すんが悪い。」

「やっぱ、リリンはよくわからないよ…。失礼。」

 

カヲルは俺らを置いてこの部屋から出ていく。なんか結局、掴み所がないような感じがした。

俺が彼のことを理解できる日は来るのかな…。

 




正直な話をしますと、完全に詰まりました。
なんか、今までノリで書けてたのが唐突に情景もキャラも、何も動かなくなっちゃいました、はい。
今までどうにかこうにかライブ感もどきでどうにかやってきたんですが、こっちはもう完全にストップします。
というわけで、全ての決着は再編版の『ヱヴァンゲリヲン RE:LIVE』でつけさせてください。ユーザーページから飛べます。
勝手な休止の仕方ですが、お許しください。

全てはゼーレのシナリオ通りに…。


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