二度目の人生とフェーダの姫 (プライムハーツ)
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プロローグと設定

初執筆初投稿です。
自粛期間暇過ぎてギャラクシーのゲーム久しぶりやったらハマってイナイレ熱が再点火して勢い余って始めた次第です。
放送当時から好きだったメイアちゃんで書いてみたくなりました。
ギリメイ好きな人とギリスには申し訳ないことをしました、、、
ギリス、イイやつだよね!


ある少年は一度死に、新しい人生を歩みだした世界が楽しみに満ち溢れていた。以前住んでいた世界とは全てが異なる、驚きと感動に満ち溢れた世界での生活が、その世界で出来た親友との日々が、目の前に現れるライバルたちとの日々が楽しくて仕方がなかった。

 

ある少女は暇を持て余していた。優れた容姿、明晰な頭脳、そして人間を超越した特別な能力。多くのものを持つがゆえに少女は日々が、周囲の古い人間たちが退屈で仕方が無かった。

 

これはそんな二人が時空を超えた出会いの物語である。

 

 

 

 

設定

 

赤峰 翼  ポジション DF 火

前世では幼い頃から高校3年生までサッカーをやっていた事以外は平凡な高校生だったが事故で亡くなった。一度死んだ身であり偶然得た二度目の人生を全力で楽しもうと思っているため楽天的でまっすぐな性格。外見は黒に近い赤髪。

天馬たちと同い年の雷門中一年生で入学前の時間軸に転生してきて雷門の一員としてフィフスセクターと戦った。木枯らし荘に住んでおり、天馬とは信介と並ぶくらいに仲がいい。化身は出せるが少し問題あり。

身体能力はイナズマ世界では平均より上。サッカー歴は前世の貯金もあるため戦略面では優れている。頭脳の方は元は高校生だったのに元々がお馬鹿だったためテストの点数は割とひどい。ただし人生二週目なだけあって人生経験自体は豊富なため知識や周囲への配慮、他人の感情の機微には割と敏感。

ポジションはディフェンダー。FWの剣城、MFの天馬、DFの翼、GKの信介の一年生組のラインは息が合う。

必殺技

アスタリスクロック

 

化身 ???????

 

メイア

200年後の未来に生まれた進化した子供たち、セカンドステージチルドレンの組織であるフェーダの一員の女の子。フェーダ随一の美貌と頭脳を誇り、SARUに次ぐ実質的なフェーダのNo.2。原作とは異なりギリスとは恋仲ではなく幼馴染の関係。

普通の人間より遥かに秀でた力を持っているため日々が退屈だと感じていたがSARUに頼まれ雷門の監視とフェイのサポートを依頼された。周囲とは何かが違う翼に興味を抱き、さまざまな時代で接触する。

セカンドステージチルドレンだけありSARUには及ばないものの身体能力は常人よりかなり優れている。ギリスとは幼い頃から仲がよく、サッカーでの連携も原作同様良い。

ただ幼い頃からそばに居たせいで異性としては意識していない。

恋愛やおしゃれなどは至って普通の年頃の女の子と同じ感性を持っている。

必殺技や化身などは基本的に原作同様。

 




とりあえずプロローグと本作での二人の設定を。メイアは基本的には変わらないかなと思います。ゲームのEDの写真などからパーソナリティの部分は補完しました。未来組のあの一枚絵、年頃の少年少女らしくていいですよね。
少し書き溜めたものがあるので1話はすぐ投稿します。
ご指摘、感想などあればお願いします。励みになります
あと本編は天馬が円堂とオメガ1.0と戦った後から始まります。
主人公のミキシ相手どうしよ…


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二度目の人生

目標 週一ペースでの更新。皆様の自粛期間の暇つぶしのほんの一部になること。感想貰うこと。
緊急事態宣言は解除されましたが前後で生活に変化は見られません。(ゲッソリ)


俺、赤峰翼は二度目の人生を送っている。いきなり何を言っているんだと思うかもしれないが本当である。俺には前世の記憶が残っている。前世の俺はサッカーが好きで幼い頃からやっていたこと以外はごくごく平凡な人生を送っていた。朝起きて学校に行き授業を受け、放課後は部活動のサッカー部で練習し、家に帰り寝る。そんな普通の生活を送っていた。そんな日々がこれからも続いていくんだろうなと思っていたがそんな日常はなんの脈絡もない交通事故死という形で突然終わりを迎えた。部活帰りのオレに向かって居眠り運転の車が猛スピードで突っ込んでくる光景を見ながら走馬灯のようにそれまでの人生が駆け巡った俺が最後にこうつぶやいた。

「ああ、もし生まれ変わったらもっとハチャメチャな人生を送りたいな。」

そうして俺の一度目の人生は終わった。

 

「で、気づいたらこんな世界に生まれ変わってたんだよな~」

と、ガラガラの電車のなかで声を漏らした。

そう、次に目が覚めた時には雷門中学の入学式の朝だった。

初めは夢かと思ったが過ごしていくうちにここが夢ではなく現実なんだと理解した。

それと同時にここがイナズマイレブンの世界だと気づいたのは入学式が始まった時だった。

イナズマイレブン 前世の世界で一世を風靡した超次元サッカーアニメ。必殺技だの侵略者だのの何でもありなサッカーアニメの世界である。俺はサッカーに明け暮れていたこともありあまり詳しくはなかったが円堂守や有名な必殺技などは目にしたことがあった。

そんな世界に俺は生まれ変わったがそこは俺が知っている物語の十年後の世界、いわゆる続編であるイナズマイレブンGOの世界だった。

生まれ変わった当初は本当に困惑したものだ。

「だって同世代の奴らが人をシュートをぶっ飛ばすはとんでもない身体能力だは挙句の果てにスタンドまで出すんだもんな」とまた呟く。

 

「しっかし人間の適応力というものはなんと偉大なことか、すぐ慣れたし必殺技は使えるようになるんだもんな。それもこれも天馬やみんながいてくれたおかげだな。」とここにはいない親友とチームメイトの顔を思い出す。

 

生まれ変わって数ヶ月、本当にいろんなことがあった。

せっかく得た二度目の人生、楽しまないと損だと思いとりあえず前世と同じくサッカー部に入部した。初めは周りの身体能力や必殺技に苦戦はしたもののそれも時間が解決してくれ周囲と遜色ないプレーをできるようにもなった。

 

「フィフスセクターとの戦いも何とかなったし、この世界はほんと毎日が驚きに溢れてるな~」

とこの数ヶ月のことを思い返しているうちに目的の駅についた。

 

「やっと帰ってきたぜ稲妻町!天馬と秋ねえ元気にしてっかな~」

翼はこの世界での両親の知人である木野秋が運営する木枯らし荘に住んでいる。

久しぶりの長い休みということもあり両親のもとに帰っていたが明日からまた練習が始まるためこうしてに帰ってきたのである。

 

同じ木枯らし荘に住む松風天馬はこの世界に来て初めて出来た、翼の親友だ。そよ風のように人の心を動かし前を向かせてくれる。そんな天馬の存在は生まれ分かって困惑していた翼にとってかけがえない存在だった。

フィフスセクターとの戦いも天馬がいてくれたからこそ乗り越えられた。

 

そんな天馬との再会を楽しみにし木枯らし荘についた翼の目に飛び込んできたのは

 

 

 

 

 

 

 

空飛ぶバスから出てきた天馬と緑の髪の少年としゃべる青い熊のぬいぐるみだった。

 

「あ、おかえり翼!」

 

「何この状況?」

 

またまた何かとんでもないことが始まるんだなと予感した翼であった。

 




以上になります。
実質的な初投稿になりますが自分で執筆してみて、このサイトやあらゆる媒体で執筆、創作活動を行っている人たちの偉大さを実感しました。
地の文多いかな?言葉遣いおかしくないかな?このキャラはこんなこと言うかな?など書いてて不安は耐えませんでしたが同時に楽しくもありました。
個人的には地の文が多すぎてもう少しセリフ増やしたほうがいいかなとか思ったり。
ダメな点など数多くあると思いますが感想の方でご指摘いただけえると幸いです。
ん?ヒロインはどこだって?次回には出ます...少し...


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未来の少年と兄弟の絆

こんにちは。今のところいいペースで執筆で来ているのかなと思います。
本当はもう少しサクサク行くかなと思ってたのですが書き出すとキャラクターたちが勝手に喋りだすので振り回されちゃいます。
今回は一部アニメとは異なる部分がありますが大筋は変わりません。
あとヒロインがやっと出てきて自分も嬉しいです。
それでは


前回のあらすじ 久しぶりに帰ってきたら友人が空飛ぶバスと緑髪の美少年と喋る熊のぬいぐるみと一緒にいた。

 

「これ、どういう状況?」

帰宅早々飛び込んできた光景に思わず口をついてでた。

 

「あ、おかえり翼!」

「うん、ただいま。で、これはどういう状況?隣の彼とこのぬいぐるみはどちら様?」

改めて問う。

「君が赤峰翼君だね。僕はフェイ、フェイ・ルーン。今から200年後の未来から来たんだ!こっちはワンダバ。」

「クラーク・ワンダバットだ。ぬいぐるみではないぞ!」

と自己紹介されても混乱しているとバスの中からもうひとり青年が出てきた。

その人は俺も知っている人物だった。

「やあ、俺は剣城優一。こっちの世界でははじめましてだね。いつも京介がお世話になってるね。」

入院中のはずの剣城のお兄さん、優一さんだった。

どうしよう…全く理解が追いつかない。

「とりあえず、中に入って初めから説明してくれるか?何が何だかわけがわからん。」

 

 

で、現在は天馬の部屋でこれまでとこれからのことを説明されている。

彼ら(特にワンダバ)を見たときの秋ねえ、すごい顔してたな…そりゃそうだ。

「つまり200年後の偉い人たちがサッカーを消すために歴史を改変しようとしてきて、それを止めるためにフェイたちが時空を超えてきた。で、過去に行って円堂さんと一緒にサッカーをしてたら優一さんが助けに来てくれたと。」

と、天馬たちに説明されたことを咀嚼してみる。

うん、無茶苦茶だな!

けど、この世界ではこういうことがあってもおかしくないのかもしれない。

 

「なるほど、大体は理解したぞ。分かった、俺も一緒に戦うよ!」

「やったー!翼なら一緒に闘ってくれると思ったよ!」

この世界からサッカーが消えるなんて、それも未来のお偉いさんの勝手な都合でなんて許せるはずがない。

それに、未来人とのサッカーなんて楽しそうでワクワクするしな!!

「翼くん、これからよろしく。一緒にサッカーを守ろう!」

とフェイが手を差し出してくる。

「翼でいいよ。こっちこそ、力を貸してくれてありがとう。あと天馬を助けてくれてありがとう。」

俺たちの力だけでは時空を超えることなんて出来ない。フェイが助けに来てくれて本当に良かった。

「じゃあ、とりあえず明日学校に行ってサッカー部の皆が元に戻っているか確かめてみよう!」

 

 

翌日

 

結論から言うとほぼ全員元通りになっていたらしい。(俺はおかしくなっていたときのことを知らないためよくわからないが。)

そう、剣城一人を除いては。

どうやら優一さんが健康な状態でこの世界に存在していることで剣城の歴史だけが歪んだままになっているようだ。

そして優一さんは剣城にサッカーを返すために、自分の元いた世界に戻ることになっても歴史を元に戻すと決めたらしい。

「その前に一つやり残したことがあるんだ。少し時間をもらってもいいかな?アーティファクトも用意しないといけないしな。」

と優一さんが言ってきた。

「やり残したこと?」

 

そう言われて優一さんに連れられてきたのは商店街のゲームセンターだった。

「こんなところにどうしたんですか?」

「俺の勘が間違っていなければ京介はここにいるはずなんだが……いたぞ!少し待っていてくれ」

と優一さんは剣城に話しかけに行った。それにしても剣城ってゲーセンに居るの似合ってるな。

「優一さん、やり残したことってなんだろ。」

「あの兄弟がやり残したことなんてひとつに決まってるだろ。」

「え?」

天馬ってほんと鈍感だよなとよく思う。

「サッカーだよ。優一さんは最後に兄弟二人でサッカーがしたいんだよ。」

どちらの世界でも出来なかった兄弟のサッカー。それをするチャンスがこの世界にはあるんだ、やりたいに決まってるさ。

 

「あ、剣城くんがどっか行っちゃったよ。」とフェイが声を挙げた。

どうやら話し合いは上手くいかなかったらしい。

「追いかけよう!」と走り出す天馬の手を引き止める。

「どうしたの翼?早く剣城を追いかけなきゃ、」

「あの兄弟のことに、他人の俺たちが口を出すことじゃないよ。」

「でも…」

「それにあの剣城が完全にサッカーを諦められるはずがないだろ!」

と確信をもって天馬に笑いかける。

「翼…うん、そうだよね!なんたって剣城はサッカーがあんなにも大好きなんだもん!!」

と天馬も納得したようだ。

「それじゃあ優一さん、俺たちは先に木枯し荘に帰ってます。」

「分かった。ありがとう、天馬くん、翼くん、フェイくん。あとワンダバも」

「私をおまけみたいに言うんじゃなーーい!!!」

 

 

優一さんと別れて木枯らし荘に帰ってしばらくしたら秋ねえに呼び出された。

「ごめーん天馬、翼。ちょっと買い忘れたものがあるからここに書いてあるもの買ってきてちょうだい。」

「え~めんどくs」

「もし断ったら二人は晩ごはん抜きですからね!」

「「行って来まーーーーす」」

木枯らし荘では誰にも秋ねえには逆らえないのである。

 

「それにしても優一さんたち、大丈夫かな?」

夕暮れどき、買い出しの帰り道、河川敷を歩きながらそう天馬が言う。

「ま、なんとかなるさ!兄弟の絆ってのは偉大なもんなんだぜ!」

「そんなものなのかな~…って、あれは…見てよ翼!!」

と急に天馬に腕を引かれ指差す先を見るとそこには

「流石だな、京介!」

「兄さんこそ!」

と、二人して本当に楽しそうに一緒にサッカーをする剣城兄弟の姿があった。

「あはは!二人共本当に楽しそう!!」

「な、言ったとおりだろ」

「うん!」

この瞬間が二人にとって最高の思い出になりますように。そう願った。

 

翌日

 

「皆おまたせ、これが俺たちふたりが幼いころ一緒に使っていたサッカーボールだ。これならアーティファクトになるはずだ。

一夜明けて、優一さんは晴れやかな表情でTMキャラバンに現れた。

「うむ、これなら問題ないだろう!」

とワンダバが力強く答える。

なんだかんだで俺にとってはこれが初めてのタイムスリップだ。内心すごくワクワクしている。

「それじゃあ後は他の皆を待つだけd」

「ぬぬ!まずいぞ、時空の振幅が小さくなっている!急がなければ歴史が定着してしまうぞ!今すぐに出発だ!!」

「って、えええええええええ!?人数足りてないけど!?」

「大丈夫だって!早く乗り込もう、翼!」

ちょっと天馬さん、あなた慣れてるかもしれないけどこっちは心の準備とかあるんですけど!?

「人数のことは僕に任せて!」

いや、フェイくん、任せてって言われても!?

「3、2、1、タイムジャンプ!!!」

「ちょっとまってえええええ」

ドタバタの中、俺にとって初めてのタイムスリップが行われたのだった。

 

 

 

所変わって、どころか時代も変わって200年後

 

「はぁ~」

「どうしたんだいメイア、ため息なんてついて」

「今日も退屈だし、周りの古い人間たちはつまらないなと思って」

一人の女の子はそう愚痴をこぼした。

「何か面白いことでも起きないかしら。」

 




いかがでしたでしょうか。
前回より会話文を多めにしてみました。どっちのほうが読みやすいかな・
個人的に剣城兄弟のエピソードは切なくも暖かくて好きなのですが、このエピソードは一歩引いた視点から見てみるのも良いなと思い今回は天馬ともども側から見守る展開にしてみました。
で、次回はプロトコル・オメガ戦の前に一度未来でのメイア視点をはさみます。
オリジナル描写なので不安ですが頑張ります。
感想、ご指摘あればコメントにてお願いします。


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メイア、過去へ

こんにちは。
今回でようやくヒロインがちゃんと登場します。

そういえば、主人公の名前なのですが特に由来などはありません。
ゲーム作品の話にはなりますが、天馬とメイアが風属性のため、この二人と対等な相性がいいなぁと思い火属性、そこから連想されたのが赤という色であとはそれっぽい苗字をつけました。下の名前の翼は天馬と仲がいい→羽→翼だ!って感じです。
結果的にサッカー漫画の金字塔である「あの」漫画の主人公と同じ名前だっていうのには昨日気づきました。(だからこんなことを書いてます。)一応もう一つ考えてることもあるのですがこれは今後のストーリーとの兼ね合いもあるのとその展開にするかも迷っているのでいずれ…

長くなりましたがそれでは本編をどうぞ


200年後の未来

 

「よし、完成!」

「やっと出来たね、メイア」

「ええ、みんなもお疲れ様。」

どこかのラボのようなところで少年少女たちが互いに労い合う。

「あとはこれを量産すればいつでも攻撃を仕掛けられるわね。」

「ああ。にしてもSARUから急に僕たちの力を弾として射出できるアンプルバズーカを作ってくれるなんて無茶言ってくれるよな。」

「本当だよ。俺たちギルの苦労も知らずにさ~。でもまあなんとかしちゃうあたり流石だね、メイアとギリスは」

とある二人に会話の矛先が向く。

「そんなことないさ、ギルの皆がいてくれたからだよ。」

とベージュのパーマがかかったメガネの少年、ギリスが答える。

そして

「そうね。今回は大変だったけど皆がいてくれて助かったわ。SARUには後で文句の一つでも言っておくわ。」

もうひとりの少女メイアも頷く。

 

彼らは未来の世界に生まれた人を超えた力を持って生まれた子供たち、セカンドステージチルドレンである。セカンドステージチルドレンが徒党を組んだ組織「フェーダ」のチームの一つ「ギル」の面々である。

ギルの面々フェーダの中でも頭脳、開発に優れた子供たちで構成されており兵器の開発も彼らの担当であった。

その中でもキャプテンのメイアと副キャプテンギリスの幼馴染の二人はより優れた頭脳を持っていた。

 

「それじゃあ私はSARUに報告に行ってくるわ。みんな本当にお疲れ様。」

と言い残しメイアはラボを出てフェーダの皇帝SARUに開発が終わったことを報告に出た。

(今回は急な頼みだったけど何とかなって良かったわね。SARUはどこにいるのかしら。)

とフェーダのアジト内を探しながら歩いていると向かいからある女の子が歩いてきた。

「あら、メイアじゃない。仕事終わりかしら?」

「ニケ、ちょうど良かった。例の兵器の開発が終わったからSARUに報告に行くところだったんだけどSARUがどこにいるか知らない?」

と向かいから歩いてきたニケに問う。

彼女はSARUのチーム、ザ・ラグーンの一員なので居所を知らないかと思い訪ねてみた。

「SARUならさっき街に出かけたわよ。さっき出かけたばっかだから追いかければすぐに会えるんじゃないかしら。」

「はぁ…ほんとあの皇帝サマは勝手なんだから。分かったわ、ありがとう。」

礼を言い別れる。

 

(ほんと男って勝手なんだから!面倒だけど早く終わらせたいし探しに行くしかないかな)と心の中で奔放なリーダーに毒付きながらメイアは街に繰り出した。

 

200年後の未来は天馬たちの時代に比べると考えられないくらいに発展している。

しかしそこに暮らすメイアには何の目新しさもないものだった。

どころか

(ほんと、退屈な街ね。エルドラドが敷いた機械的な法整備、周りの人間は馬鹿な古い人間たちばかりだし。つまんないな~)

と冷めた感情で街を歩いていた。

 

多くのものをメイアは持って生まれた。

極めて明晰な頭脳、優れた身体能力。セカンドステージチルドレン特有の超能力。

容姿に関してもフェーダ内でも随一の美貌だった。整った顔立ちに透き通るようなエメラルド色の瞳、羽のように広がった長いラベンダー色の髪。プロポーションこそ年相応のそれ(本人談)だがどれも見る人の目を引きつける。

故に周囲の人間が退屈な存在にしか思えなかった。

 

「どこかに面白い人はいないのかしら」

と呟きながら歩いていると前方に探していた男の姿が見えた。

「あ、やっと見つけた。SARU~」

と呼びかけると少年は振り向いた。

「ん?ああ、メイアどうしたんだい?」

SARUと呼ばれた白髪の少年、どことなく誰かに似た用紙を持つ彼は自分が頼んでいたことも忘れメイアに問いかける。

「どうしたじゃないわよ!あなたに頼まれたアンプルバズーカが完成したから報告しようと思ったらこんなところにいるんだもの!急にあんなことを頼まれたこっちの気も知らずに、のうのうとほっつき歩いてばっかいて~!」

「あ、あはは。いや、忘れてたわけじゃないんだよ、その~そう!いろいろあったんだよ!いろいろ!」

と誤魔化そうとするSARUだったがご立腹のメイアには逆効果だった。

「ふ~ん、いろいろって何があったのかしら?いきなり兵器の開発を押し付けた仲間のことを置いて街に繰り出すほどなんだもの。さぞ大層な理由なんでしょうね?」

と追求をやめない。

「それはその~~……ごめんなさい、僕が悪かったです…ただ散歩してただけです…。」

あっさり折れた。

「まったく、最初から正直に言いなさいよね!」

メイアはフェーダの実質的なNo.2である。だからこそ皇帝のSARUにもこのように気兼ねなく接し、奔放な彼をたしなめる役目も担っている。

 

「ごめんよ。お詫びと言ってはなんだけどしばらく休暇をあげるよ。例のものも完成したし、しばらくは暇だろうしね!」

とメイアのご機嫌取りとばかりに提案する。

「あら、いいの!それじゃあ遠慮なくいただくわ。といっても、特にやりたいことも面白いこともないしな~」

「あ、じゃあタイムジャンプしてきたらどうだい?ちょうどフェイが過去に行って雷門と接触しているし、観光も兼ねていいんじゃない?」

「200年前か~。ん~…ま、この時代にいても退屈なだけだしそれもいいかもね!」

「ついでにフェイの様子も見てきてよ!セカンドステージチルドレンの力を封じてるからもしかしたらエルドラドに苦戦するかもしれないし。大変そうだったらこっそりサポートしてあげてよ。あ、くれぐれもフェイにはバレないようにね。君の姿を見て万が一記憶を取り戻しても困るしね。」

「もう、休暇っていいながらまた仕事押し付けてくるじゃない!…まぁいいわ。」

「あはは、ありがとう。」

「それじゃ、明日には出るからあとはよろしくね。気が向いたら帰ってくるわ。」

と言い残し明日に備えるためメイアはアジトに帰って行った。

 

翌日

 

「え~と、ジャンプ目標座標はフェイのいる座標でいいわよね。」

メイアはタイムジャンプのための機器に目標の時間軸と座標を設定した。

「よし、これで準備OKね。それじゃ、行きますか。何か面白い人がいるといいな~」

と少し期待を抱きながらメイアはタイムジャンプした。

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
原作を見るにギルの面々は結構仲が良さそうだなと思います。
開発部って上のむちゃぶりに振り回されてるイメージが…

メイアとSARUの会話に関しては何も考えてなかったのですが書き出したら彼女らが勝手に話め進めてくれました。みなさんのイメージと合っていれば幸いです・
少しでもメイアの可愛さとかSARUとの関係性も描写できてたらいいなと思います。
次回はようやくプロトコルオメガとの試合です。初めての試合描写ですごく不安です。
メイアも観戦に来るよ!

指摘、感想あればお願いします。今後の参考と励みになります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
それでは


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vsプロトコル・オメガ

序盤からラスボスレベルのキャラを出すと扱いが難しい。

ということで初の試合描写です。


6年前

 

ワープホールのような空間を抜け見慣れた町並みにTMキャラバンが着陸する。

「ここが6年前の世界か。本当にタイムスリップしたんだな。」

いつも見る稲妻町の景色だけどどこか雰囲気が違う。

 

そこから6年前の剣城兄弟を探して歩いていると河川敷でともにサッカーをしている剣城兄弟を見つけた。

「あれがこの時代の剣城と優一さんか~。なんか年下の二人って新鮮だなぁ」

現代の少し斜に構えた剣城を思い出すと思わず笑みがこぼれる。

「うん、6年前のこの日に本来の歴史であれば事故が起きて優一さんは…」

これから起きる運命を思い言い淀むフェイ。彼は本当に純粋でいいやつなんだろう。

「気にしなくていいさ、フェイ君。本来歴史はそうあるべきだった。俺は京介にサッカーを返すって決めたんだ。」

そんなフェイに固い決意を持って答える優一さん。

「それに最後に京介と一緒にサッカーをするっていう最高の贈り物までもらったんだ。思い残すことはないさ。」

「優一さん…うん、そうだね。 そろそろプロトコルオメガが干渉してくるはずだ。隠れて様子を見よう。」

 

草の陰に隠れて様子を見ていると突然周囲の時間が止まった。

「来た!」

そして時間が止まった剣城兄弟の前に黒と灰色の戦闘服のようなものをまとった表情の薄い男が現れた。

「アルファだ。行こう!歴史改変を阻止するんだ!」

とフェイが飛び出していきそれに続く。

 

「YESマスター。これより任務を開始します。」

「そうはさせないよ!」

歴史に介入に介入しようとするアルファと呼ばれた男の前に立ちはだかる。

するとアルファは耳元の機械でおそらく未来にいるであろうお偉いさんと連絡を取るような仕草を見せた。

「了解、インタラプト修正の障害の排除を優先する。」

そう言い放つと手に持っていたサッカーボールのようなものをこちらに向け蹴ってきた。

すると周囲が眩い光に包まれた。

あまりの眩しさに目をつむり、次に目を開けるとそこは

 

「雷門のサッカー棟!?」

見慣れたグラウンドにワープしていた。

 

「どうやらサッカーで決着を付けるみたいだな。」

「ああ、この試合に勝って絶対に歴史改変を阻止しよう!」

そういって意気込むフェイ。

 

「つってもどうするんだよ。敵さんは準備万端みたいだけどこっちは11人揃ってないぞ!?」

そう。俺たちは急な出発だったため11人揃っていないのだった。

するとフェイが

「ああ、そういえば翼は初めてだったね。足りない分は僕のデュプリが穴を埋めえるよ。」

とフェイが指を鳴らすと5人のユニフォームをまとった男女が現れた。

「うわああああ、どっから現れた!?」

「彼らはデュプリといって人の形をした僕の化身みたいなものだよ。彼らには足りない5人分選手として出場してもらうんだ!」

と当たり前かのように説明するフェイと受け入れている天馬。

そういえば天馬は一緒に戦ったことがあるんだったな。

 

「さぁ、こっちも準備は整ったよ!試合を始めようよ!」

そうフェイは意気揚々とアルファに告げる。

「了解した。これよりミッションを開始する。」

アルファは平坦な声で答えた。

 

「よーし、久しぶりのサッカーだ!気合入れていくぞ!」

昨日から怒涛の展開で忘れがちだがサッカーをやるのは久しぶりだったりする。

久しぶりの試合、それも未来から来た未知の敵が相手で新しい仲間との試合だ。テンション上がらないはずがない。

「天馬、信介!いつもどおり行こうぜ!神童先輩もゲームメイクお願いしますね!」

「うん。翼とのサッカーも久しぶりだね!俺もワクワクするよ!」

「僕も!」

「ああ、ディフェンスは任せたぞ。信介、翼!」

そんな俺の声にみんな口々に返してくる。

「翼はDFなんだね!なら攻撃は僕らに任せて!」

「おう!任せた!そっちも後ろは任せろ!」

フェイとは初めて一緒にチームを組むが頼りになりそうだ。それになんだか元気が沸いてくる。

「俺が必ず点を取ってみせる。いこう、皆!」

そんな中でも優一さんは年長者である優一さんは落ち着いていて安心感を与えてくれる。

「はい!優一さんとのプレーも楽しみです!」

 

ちなみにどこからともなくおっちゃんが呼び出されて実況をしてくれるみたいだ。

あの人も大変だろうなぁ

 

そうして試合が始まった。

まず驚いたのがプロトコル・オメガの動きの速さ。

流石に未来から重要な任務のために送り込まれただけのことはある。本当に一人一人の動きの質が高い。最初はついていくのに一苦労だったが徐々になれていった。

やはり強い奴らを相手にするサッカーは大変だが楽しいもんだ。

それにこういう状況に放り出されるのは初めてじゃない。この世界に生まれ変わったときも同じようなもんだった。

 

「行かせるか!」

攻め込んできた相手の女性FWからボールを奪うことに成功する。

「天馬!」

前線の天馬にパスを出す

「ナイス!翼!」

次に驚いたのが天馬の動きだった。

少し見ないうちに見違えるほど成長していた。

「行くぞ!アグレッシブビート!」

新必殺技か!?おそらく俺がいない間にもタイムスリップをして奴らと戦っていたんだろう。その中でみるみる成長したのか。親友の成長を喜ぶのと同時に

「ちょっと置いてかれたみたいで悔しい!!!!」

これでも負けず嫌いなんだ!。離されていくなんて我慢できん!

「優一さん!」

そんなことを思ってるうちに天馬から優一さんにパスがつながった。

「来い!魔戦士ペンドラゴン!!」

あれが優一さんの化身か!?

と驚いているとさらに

「アームド!!」

アームド!?そう叫んだ優一さんの身にペンドラゴンが鎧のようにまとわれていく。

「化身を身にまとった!?」

「そんなことが出来るの!?」

俺と同じように化身アームドというものを初めて目にする神童さんと信介も驚きの声を上げる。

そのまま敵陣ゴールを目指す優一さんの前にアルファが立ちふさがり

「天空の支配者鳳凰、アームド」

アルファも同じように化身アームドし優一さんとぶつかりあった。

その衝撃でボールが外に出て一旦試合が止まる。

 

「おいおい、なんだよ化身アームドって!?初めて見たぞ!」

当然の質問を俺はフェイたちに投げかけた。

「化身アームドっていうのは化身の力を完全にコントロールすることで自分の身に化身を身にまとい、化身の力を増幅させることができるんだ。」

「なんだよそれ、こっちはただの化身でさえ完全には制御できてないってのに。」

化身の力にまだ先があったなんて…俺はまだ自分の化身を完全には制御できていないのに…できれば俺は化身を出したくない。完全に制御ができておらずどうなってしまうか分からない…もし試合中に暴走したら無茶苦茶になってしまう。

制御する特訓はしているが俺の化身はどうやら暴れん坊のようでなかなか言うことを聞いてくれない。

だがいまは目の前のことを考えよう。さっきから思っていることだが

「それにしても、何か変ですよね。」

「ああ。あれだけの力を持っているのに奴らのプレーには違和感を感じる。」

そう、試合展開があまりにも静かすぎる。DFとして後方から試合を見ている俺にはそれがはっきりと感じられた。一体何を…

そのまま違和感を感じたまま前半戦は終えた。

 

前半終了の少し前、サッカー棟グラウンド観客席に一人の女の子が現れた。

「ふう。どうやらタイムジャンプは成功したみたいね。」

200年後の未来からフェイの反応を元にタイムジャンプしてきたメイアだった。

「さてフェイはどこかしら…あら、もう試合が始まってるじゃない!」

フェイの姿を探して周囲を見渡すと眼下では既に試合が行われていた。

「ふ~ん、エルドラドはアルファを送り込んでたのね。フェイはデュプリを出しているのね。」

と現状を把握するメイア。

「流石に力を封じた状態のフェイだけじゃ、エルドラドのエージェントを一人で相手するのは大変そうね。」

本来のフェイの力を知るメイアにとっては今のフェイの動きにはいささかの不安があるようだ。

「それじゃ、ひとまずこの時代の人たちのおてなみ拝見といったところかしら♪」

そういってメイアはグラウンドからは見えない位置の席に座り優雅に観戦を始めた。

 

試合を見始めてすぐは流石にプロトコル・オメガの動きに振り回されている雷門の面々に少し呆れていた。

「流石に200年前の人たちじゃあの動きについていくのは苦労するみたいねぇ~」

そうして見ていると翼に目が引き寄せられた。

「あら?」

翼は信介と神童がまだ苦戦している中、既にプロトコル・オメガの動きに適応し始めていた。

元の世界からこの世界に放り出された時の経験が活きているようだ。

「へ~彼はちょっと違うみたいね♪」と少し興味がわいたようだ。

「それにしてもエルドラドのあの動き…なるほどね。」

フィールドの雷門たちが感じている違和感にメイアは早くも気がついたようだ。

「ま、彼らからしたらそれが一番合理的といったところかしらね。」

フェーダ1の頭脳は伊達ではないらしく、狙いも看破したようだった。

といったところで前半終了のホイッスルが鳴り響いた。

「ふふ、さぁ後半はどうなるかしら、面白くなるといいけど♪」

 

 

「なぁああるほどぉぉぉぉ!!!!」

突如ワンダバが何かに気づいたかのように声をあげた。

「どうしたの?ワンダバ。」

「うむ、彼らにはパラレルワールドでの戦闘データがインプットされたようだ.。」

「つまり、俺たちの動きが読まれてるってこと?」

「うむ、そうしてディフェンスで時間を使い最後に点を取り、こちらに隙を与えないつもりだろう。」

「なるほどね、こっちから攻めさせて体力を奪い、最後に畳み掛けるということか。」

「奴らにしてみれば最後に一点でも勝っていればいい、それだけで歴史を改変できるんだ。それまでの過程はどうでもいいってことだ。」

確かに合理的だ。向こうにとって大事なのは歴史を変えることでサッカーはその手段に過ぎない。

 

「だがどうする?向こうがそれを徹底してきたら攻め崩すのは難しいぞ?こちらも様子見に回るか?」

勝負事において基本的に攻めと待ちどちらかに徹底するなら待ち側が有利だ。攻め側は消費する一方になる。

「いや、攻め続けよう。といってもがむしゃらに突っ込むわけじゃない。ボールをキープしてこちらに有利な状況を維持し、相手の隙を伺うんだ。」

優一さんがそう提案してきた。

「なるほど、でも前半と同じじゃ苦しくないですか?何かもう一つ決め手があれば…」

「ならば、ミキシマックスだ!」

突如ワンダバが銃のようなものを構え言い出した。

「「「ミキシマックス?」」」

聞きなれない単語に首をかしげる俺、信介、神童さん。

ちょっとそこの天馬くん、その手があったかみたいな表情しないでくれるかな?ちょっと腹立つ。

「説明しよう!ミキシマックスとはこのミキシマックスガンを使い異なる二人のオーラを融合させパワーアップさせることが出来るのだ!」

要するに一人の力をもうひとりに与えるということか。

「優一くん、私は京介くんのオーラをとってきた。兄弟なら相性は抜群のはずだ。」

「分かりました。やります!」

「でも大丈夫なの?この世界の京介はサッカーを辞めちゃってたんでしょ?本来の京介の力が引き出せるのかな?」

「大丈夫だよ、フェイ!剣城はサッカーが大好きなんだ!捨てきることなんてできないよ!俺は剣城を信じる!!」

天馬はそう言い切る。

「ああ、昨日一緒にサッカーをやって分かった。京介の力は衰えてなんていない。」

優一さんも天馬に同意する。

「分かった、ではタイミングは私から指示する」

そして後半戦が始まった。

 

後半戦もプロトコル・オメガの動きに大きな変化はなかった。

俺たちは出来るだけ中盤でボールをキープして隙を伺っていたが相手もなかなか綻びを見せてくれない。

 

「あら?へ~向こうの狙いに気づいたんだ。結構やるじゃない。」

観客席で引き続き試合を見ていたメイアは雷門陣営の動きが前半と少し変わったのに気がついた。

「けど、試合は膠着したままだし終了目前までは動きはなさそうね。」

と少し不満げに漏らした。

 

メイアの言葉通り試合は膠着状態が続いた。

(ボールをキープできているのはいいがおかげでこっちは体力が有り余ってしょうがないぜ)

そんな中試合時間が残り3分を切ったところでそれまでディフェンスに回っていたFWのアルファが隙を見てパスをカットした。

「しまった!?皆戻れ!」

「仕上げに入る。」

「イエス」

オフェンスに人数を回していた雷門のディフェンスは手薄になっていた。

オフェンス組が急いでもどるが間に合わない。

「天空の支配者鳳凰、アームド!」

前半一度見せた化身アームドをもう一度発動するアルファ。

「行かせるもんかーー!うわああああ」

アルファを止めようと前に出た信介も弾き飛ばされる。

「決める。」

そのままアルファは強烈なシュートを放った。

「止めてやる!」

残すは俺とキーパーのマッチョスしか残っていない。シュートブロックするしかねえ!!

 

「さあ、どうなるかしらね」

楽しげな声がメイアの口からこぼれた。

 

「うおおおおお!!!アスタリスク、ロック!!!!」

これまで体力が有り余っていた分、渾身の力を込めて6つの岩を呼び出し必殺技を放つ。

「うおおおおおおお!くっっ!」

化身アームドのシュートはやはり強力だった。だが何とかシュートの大半の力を削ぐことには成功したようでマッチョスが難なく止めてくれた。

 

「化身も使わずに化身アームドを止めるなんて!?…ふふ、面白いじゃない♪」

目の前で起こった思いもよらない出来事に思わず驚きの声と笑みがメイアに浮かぶ。

彼女は久しぶりに面白いものを見た気がした。

 

「止めたぞ!!あとは任せたぞ!天馬、優一さん!」

最大の壁だったアルファがゴール前に出てきた今しかない!

そういい天馬にボールを託す。

「いまだ、優一くん!!!!ミキシ、マックス!!!!」

このチャンスをワンダバは逃さず優一に声をかけミキシマックスガンを優一さんめがけて放った。

「うおおおおおおお!!!」

光が弾けたそこにはかなり筋肉質な体つきになり、どこか京介の面影を併せ持った優一さんが立っていた。

「ミキシマックス。コンプリィーーート!!!!」

「あれがミキシマックス…」

 

「天馬くん、オレが決める!」

「はい!うおおおおおお魔人ペガサスアーク!!アームド!!!」

「天馬も化身アームドを!?」

「はああああ!!優一さん!!!」

化身アームドした天馬から優一さんへ最後のパスが挙げられた。

「決めるぞ!京介!」

天馬から受け取ったラストパスに俺たちもよく知るあの技で優一さんは応えてみせた。

「デスドロップ!!!」

「キーパーコマンド03!うわあああ」

相手のキーパーが放った必殺技を突き破りゴールに突き刺さった。

 

「ゴール!!!そしてここで試合終了!雷門の勝利だぁぁ」

と実況のおっちゃんが試合終了を告げる。

 

「よおおおし、勝ったぞ!!!」

「やったね天馬!」

勝利を告げられ大喜びする一同。当然その中には翼の姿もあった。

苦しい戦いだった。けど、試合が終わった今だから言える。いい試合だったと。

そう思いプロトコル・オメガの方に目をやるとアルファの姿が目に入った。

試合中も常にクールだった男。今もあまり表情に変化は見られない。だが…

 

「なんだこの湧き上がる、胸を刺すような痛みは…」

そんなアルファを見て翼は無性に声をかけたくなった翼は、

「アルファだっけ?その…なんだ、楽しかった!またやろうな!」

そう声をかけ雷門の輪に帰っていった。

「……撤退する。」

胸に残る謎の痛みと翼の言葉を抱きながら、アルファとプロトコル・オメガは撤退していった。

 

歓喜の輪が収まりしばらく。

 

「優一さん、ありがとうございました!」

「礼を言うのはこちらさ。これで元の歴史通り、京介にサッカーを返すことができる。」

皆、なんとなく気づいている。別れの時が近いことを…

そして優一さんの体が光に包まれ始める。

「お別れだな…」

「歴史が元に戻り、彼は元いた世界に戻り、この歴史からは今の彼は消える。」

そうワンダバが告げる。分かっている、これは変えられないことだ。

でも

「優一さん、本当にありがとうございました!!俺たち絶対にサッカーを守ってみせます!!剣城と一緒に!!!」

消えゆく優一さんに天馬は大きな声で宣言する。

天馬のこういうところが俺は大好きだ。強くて真っ直ぐなこの親友と出会えて本当に良かったと思う。

「優一さん、こっちの世界でも、優一さんの世界でもまた一緒にサッカーしましょう!今度は京介も一緒に!!」

俺もそう続く。未来から人が来れるんだ。そんなこともきっと出来るさ!

「フッ…ありがとう、また一緒にサッカーしよう。」

そうほほ笑みかけて優一さんは彼の世界に帰っていった。

 

「さ、僕たちも元の時代に帰ろう!ちゃんと元の歴史に戻っているか確かめないと!さ、TMキャラバンに乗り込んで!」

しんみりした空気を払うようにフェイが切り出す。

「うん、そうだな!…ていうか天馬!いつの間にあんな必殺技や化身アームドなんて身につけたんだよ!ずるいぞ、俺をおいてけぼりにしやがって!」

「えええええ!?俺もよく分からないけどできたんだよ。ま、まあ翼ならその内できるようになるさ。なんとかなるさ!」

「お前、それ言っとけばいいと思ってるなこの野郎!」

ギャーギャー騒ぎながらTMキャラバンに乗り込もうとしていると

 

「あの程度で苦戦しているのは少し不安だけど…ふふ♪久しぶりに良いものが見れたわね。特にDFのあの彼、面白そう♪」

 

そんな透き通るような声がどこからか聞こえた気がした。

 

翌日

「も、戻ってるかな?」

「た、多分…」

「けど、誰もいないよ?」

俺、天馬、信介はサッカー部部室に来ていた。歴史が元通りになっているかを確かめに。

「う、ううう」

三人で不安そうにしていると後ろのドアが開き

「ん?何してるんだ?お前ら」

雷門のユニフォームを身にまとった剣城京介の姿があった。

「「「も、戻ってる~~~~~~~~」」」

「何言ってんだ?」

 

 

更に翌日

 

「よーし剣城も帰ってきたし、今日からまたサッカーやるぞォォォ!」

意気揚々と準備をしているといきなり火来校長が入ってきた。

「みんな、大変です!!!サッカー禁止令が発令されました!!」

 

「「「「「サッカー禁止令!!!!」」」」

 

まだまだ戦いは終わらなさそうだ。

 




いかがでしたでしょうか?自分でも驚く程長くなり2話に分けようかとも思いましたがあまり引き伸ばしても自分のモチベも下がると思い書ききりました。
主人公、ちょっと強めですね。
メイアからすればこの時点の戦いは見世物くらいに映るかもしれませんがその中でも主人公が興味を引く存在になればいいなと思います。
あと頭いい描写って難しい…
次回は理論の解説が主なエピソードになるのでカット多めでサクサク進めようと思います。ストーリーの本筋にあん/まり影響がない覇者の聖典を盗むエピとかA51戦目などのミニゲームなどはサクサク行くつもりです。
感想、ご指摘あればお願いします。


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サッカー禁止令

今回は現状や時空理論の説明回になります。
前回のあとがきでも申し上げたように、正直理論の話しとかはざっくりで十分かと思いますので必殺技かくかくしかじかを使います。



 

 

「「「サッカー禁止令」」」

火来校長によって告げられたニュースに思わず声を上げてしまう。

「はい、法律によってサッカーが禁止されてしまいました。よって今日をもって雷門中サッカー部は廃部です…」

あまりのことについていけない。

「一体何で…」

「おそらくこの間の日米親善試合のせいね…」

日米親善試合?何のことだ、俺は見てなかったけど…

「あ、その試合俺も沖縄で見てました。いい試合だったな~」

「うん、僕も手に汗握ったよ。」

天馬と信介は見ていたらしく楽しそうに感想を語り合っているが

「あの試合がいい試合?あなたたち別の試合と勘違いしてるんじゃない?」

「ああ、あんな試合日本のサッカーの恥さらしだド。」

音無先生と天城さんは全く真逆の感想を述べている。

「え?」

「あの試合、日本代表の暴力行為でアメリカ代表選手が皆大怪我をおったのよ。

「俺も会場で見てたド!」

「そんな、俺が見た試合は3対2で…」

この噛み合わない感じ、まさか…

 

「間違いなくエルドラドの仕業だ!!」

急に現れたワンダバが声を上げる。

「「「うわあああ」

いきなりのことにみんな驚く。

「おそらくやつらがその親善試合に介入し歴史改変を行ったのだ。あ、私の名はクラークワンダバット、ワンダバと呼んでくれたまえ。こっちはフェイ。」

前回タイムジャンプした俺たち以外をおいてけぼりにして話を進める。

「ワンダバ、みんな何が何だか全く理解できていないから最初から説明しよう。あ、僕はフェイ・ルーン。200年後の未来からきました。」

「「「未来???」

うん、やっぱそういう反応になるよね。

 

その後ワンダバがエルドラドのこと、フェイのこと、これまでの俺たちのことを説明してくれた。

「そんなことがあったのか、お前らも大変だったんだな。」

「思い出した、俺の過去も変えられかけたんだ!」

円堂監督が思い出したかのように言う。おそらく俺がこの街に帰ってくる前のことだろう。

 

「けど、なんで僕たちには影響がないんだろう?」

確かに俺たちタイムスリップ組だけに影響が出ないのはなんでだ?

 

「歴史干渉の中にいたからじゃな!」

突如発せられた言葉に全員が声の方向に注目すると知らない老人が立っていた。

「アルノ博士!?」

「どうしてここに?」

「エルドラドの追っ手が迫っての。時空をこえてrun awayしてきたんじゃよ。」

どうやらこのファンキーなじいさんはフェイたちの知り合いらしい。

「紹介しよう!このお方こそ、多重時間理論の提唱者にして、タイムマシンの発明者、クロスワード・アルノ博士である!!!!!」

「ほっほっほ。」

ワンダバは声高らかに紹介してくれた。

「この際だ、パラレルワールドに関してアルノ博士に解説していただこう。」

「ほっほっほ、任せなさい。」

そこからパラレルワールドと歴史干渉などの詳しい解説が始まった。

 

 

「と、いうわけじゃな。つまり、エルドラドを倒せば全て元通りになるということじゃ。」

正直、途中のことは何を言っているかさっぱり分からんかったが最後の一番大事なことは分かった。あと、茜さんが異様に物分りがよく楽しそうだった。あの人、未だによくわからないんだよな…

そして、このままいくとサッカー禁止令が固定化されてしまうということも…

 

「そう!我々がアメリカ代表と入れ替わり歴史改変を阻止するのだ!!」

「行きましょう!俺、サッカーがなくなるなんて絶対に嫌だ!」

「そうだ、俺たちの未来は俺たちで取り戻すんだ!」

ワンダバに天馬と神童さんが続く。

「よし、なら早速親善試合の日にタイムスリップしよう!」

「でも、アーティファクトはどうするんだい?」

確かにアーティファクトがないとタイムジャンプができないが…

「それならこれはどうだド?あの試合のチケットの半券だド。」

そんな時天城先輩がちょうどいいものを持っていた。そういえば現地で見てたって言ってたな。俺も行きたかったなぁ~

「うむ、これなら問題ない!ですよね、アルノ博士!って…あれ?」

ワンダバが同意を求めて振り向いたがそこには既に博士の姿はなかった。

本当になんだったんだ?あの博士。

「よし、それじゃあ行くぞみんな!フェイ、お前にもメンバーに加わってもらうぞ!」

「はい、もちろんです!」

出発が決まり、円堂監督がみんなにそう声をかける。

やっぱり円堂監督がいると勇気が沸いてくる。この人が一緒ならなんだってできそうな気がしてくる。天性のリーダーってやつなんだろうな。

 

そして全員でTMキャラバンに乗り込みいざ、親善試合の日へのタイムジャンプが始まった。

「うわあ、本当にタイムスリップするんだ~ワクワクしてきちゃった!」

「本当に大丈夫かよこのバス…」

口々にハンスメンバーを見るとなんだか遠足気分になる。

「では行くぞ、3,、2、1、タイムジャーーンプ!!!」

 

 

親善試合の日

 

「ついたぞ!むむ、どうやら試合はもう始まってしまっているみたいだぞ!」

無事、親善試合の日にタイムスリップできたがどうやら時間が少しずれてしまったらしい。

「試合はまだ終わってない!急ぐぞ!」

 

それから急いでスタジアムに忍び込んだ。けど、なんだ?やけに静かだし警備もザルだ。

そしてスタジアム内に入った俺たちの目に入ってきたのはひどいものだった。

既に大差が付いたにも関わらず、以前見たことある面々と少し変わっているがプロトコル・オメガによるルール無用のラフプレーの嵐。

フェイが言うには観客や実況は例のサッカーボールの機械で洗脳されているらしい。

「やめるんだ!!」

たまらずフェイが飛び出すと女の子の声が聞こえてきた。

「やっぱり現れちゃいましたね。」

そこには薄い水色のような髪色の女の子が立っていた。

「誰だ!」

「私はベータ。」

フェイが問うと女の子はそう名乗った。

「アルファはどうした。」

「さあ?お払い箱とでも言うんでしょうか?こういうの」

事も無げにベータは答える。

お払い箱…どうやらアルファは任務失敗の罰でチームから外されたようだ。こんなことをする組織だそういうこともあるだろう。一度は戦い言葉を交わしたやつがこう言われるのはあまりいい気はしないな。

「私達、プロトコル・オメガ2.0。バージョンアップしちゃいました♪」

どうやら強化されたらしい。

「どっちでもいい!勝負だ!」

「俺たちはサッカーを取り戻す!」

雷門のなかでも好戦的な車田先輩に天馬が続く。

「いいですよ~。でもぉ~あなたたちじゃ私たちには勝てないと思いますよ?」

ちなみに俺たちのことはあのデバイスの力で周りの人間はアメリカ代表だと認識し、角田さんには俺たちのデータがインプットされたらしい。便利だね、あれ。

 

「改めてお聞きしちゃいますが、本当に私たちと勝負しちゃいますか?」

試合再開前、もう一度ベータが確認してくる。

「当たり前だ!」

「絶対に勝つ!」

そう意気込む天馬と神童さん。そんな二人に対してベータは余裕な様子で

「やってみるまでもないと思いますが、まぁいいでしょう。」

いつのまにやら日本代表のユニフォームから以前のようなユニフォームに変わっていた。

それにしても何だろう?あのベータって子、話し方がいちいちわざとらしいというか、裏の顔がありそうというか…

俺の勘が何かを訴えかけてくる。前世もあんま女の子にいい思い出無いんだよなぁ…

 

 

そして、試合が再開した。

 

 

「……あら?…もしもし、どうしたの?…え、今?今は彼らの時代でいろいろ見て回ってるわよ。技術力はやっぱり発展してないけど、私たちの時代には無いものが沢山あって意外と楽しいわよ♪……え~またぁ?私が休暇中だってこと忘れたんじゃないでしょうね!……はぁ、まあいいわ。ちょっと気になる子もいるし。それじゃあ時間と座標を私のデバイスに送っておいてちょうだい。言っておくけど、嫌な時は行かないわよ!気が向いたらなんだからね!それじゃ。」

「全くこっちの気も知らないで!でもま、彼のことは少し楽しみではあるけど♪」

 




今回は原作の展開ほぼそのままかつ、長い話は端折ったのですごく楽でした。(結論書いとけば原作知らない人も分かるよね…)
次回はプロトコル・オメガ2.0戦になります。
やっと翼の化身が出ます。ただちょこちょこ言っているように問題を抱えています。
何の化身か予想つく人もいるかな?
ちなみにこの小説ではオリジナル必殺技やオリジナル化身は基本出さないつもりです。
なぜならその辺を考案する発想力が私にはないので。オリジナル技考えれる人尊敬します。


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vsプロトコル・オメガ2.0

というわけで試合です。
最近一話の文字数が多くなってきているのですがなん文字くらいが読みやすいんだろう。
多くて読むのがしんどいなら2話に分けるのも考えて方がいいのかなと思いながら書いてます。


 

試合再開

 

「ふん!」

「ぐあ!」

再開のホイッスルと同時に相手のグラサンのMFが剣城にラリアットをかました。

はなからまともなサッカーをする気はないらしい。

その後も殴る蹴るの応酬。こんなのただの格闘技だ。

それに前回の試合にいたメンバーも強くなっている。前回とは見違えるような動きになっている。

「いい加減にしろ!天馬!」

相手のレイザからボールを奪うことに成功し天馬に回す。

「ナイス、翼!錦先輩!」

「任せるぜよ!戦国武神ムサシ!!」

錦先輩にボールが渡り化身が姿を表す。

「武神連斬!!」

そして錦先輩の化身シュートが放たれる。だが…

「ザノウ、お願い」

「うおらあああああ」

キーパーのザノウに体で受け止められてしまった。

「そんな!?」

「前回より遥かに強くなってる!?」

「シュート出来ただけでも褒めてあげます。けど、それまでかなぁ~」

ザノウからベータにボールが渡り、ベータが上がっていく。

そこに天馬が立ちはだかる。

「行かせるか!魔神ペガサスアーク!!アームド!!」

よし、こっちにも化身アームドがある!やられっぱなしでたまるか!

ところが

「え!?」

天馬の化身アームドは失敗した…

 

「やっぱり、そうなのか…」

 

 

化身アームドが失敗し動揺する天馬の隙を見逃さず、ベータは天馬を抜き去っていた。

そのままパスを絡めて上がっていくプロトコル・オメガ。それを止めようと立ちはだかるがみんなラフプレーの前に倒れていく。そしてベータに再度ボールが渡る。

「させない!もう一度だ!魔神ペガサスアーク、アームド!!」

なんとかゴール前に戻ってきてくれた天馬が再度化身アームドを試みるも

「くっ…」

やはり失敗する。

「こうなったら、魔神ペガサスアーク!」

「ふふっ、化身なんて軽く抜いちゃいます。」

化身単身でベータに突っ込むも軽くあしらわれる。

「止める!」

残された最後のDFである俺も立ちはだかるが

「止められるもんなら止めて見やがれ!来い!虚空の女神アテナ!アームド!!」

突如ベータが豹変したかのように荒々しい口調で二丁の拳銃を持った女性型の化身を呼び出し化身アームドした。

「シュートコマンド07!」

凄まじい威力のシュートが放たれた。

「アスタリスクロック!!うあああああ」

必殺技でシュートブロックを試みるもあまりの威力に会えなく吹っ飛ばされる。

「無頼ハンド!があああああ」

そのまま三国先輩もろともゴールに突き刺さった。

 

「決まったああああ!ここで前半終了!!」

ベータのシュートが決まったタイミングでちょうど前半が終了した。

重苦しい空気のままみんなベンチに下がっていく

特にひどいプレイをうけた倉間先輩たちはかなり怪我がひどそうだった。

そんななか天馬は化身アームドがなぜできないのか困惑しているようだ。

そこにフェイが声をかけに行く。

「これは推測なんだけど、パラレルワールド間の共鳴現象がなくなったからじゃないかな。」

「共鳴現象?」

「前回は異なる世界に複数の天馬が存在していてその天馬同士が共鳴し合い、大きな力を発揮していたんだ。」

「そのパラレルワールドがアルノ博士の行っていたように一つの世界に収束したことで共鳴現象がなくなり力を発揮できなかったと?」

神童さん先輩がやってきてそう尋ねる。

「うん、だから化身アームドをするには天馬自身の力を身につけて真に自分のものにするしかないんだ。」

「なるほどね、今は無いものねだりをしてもしょうがない。切り替えていこうぜ、天馬!」

「翼…うん、そうだね!後半巻き返していこう!!」

こんな時でも前を向けるのが天馬らしい。

負けられないんだ、俺も化身を出さないといけないかもしれない。けど制御できるか…

 

 

ちょうど雷門がそんな会話をしているころにメイアが観客席にタイムジャンプしてきた。

「ふぅ、ほんとSARUったら勝手なんだから~。さてと、試合はどうなってるかしら。どうやらハーフタイムみたいだけど…ってボロボロじゃない!せっかく見に来たっていうのに~。」

タイムジャンプしてきて状況を確認したメイアは思わず声をあげた。前回の試合を見たこともあり少し予想外の結果だったのだろう。

「あれは…なるほど、今度はベータを送り込んできたのね。」

プロトコル・オメガのメンバーが変わっているのを確認し大まかな状況を把握したメイア。

「赤峰翼だったかしら、彼のほうはどんな感じかしら?」

前回の試合、メイアの目に留まった翼のほうを見やると仲間と言葉を交わしたのち考え込み少し不安そうな表情をしていた。

「浮かない顔してるわね。周りに比べるとケガやスタミナは心配なさそうだけど…」

何か不安なことでもあるのだろうか。そんなことを考えていると後半戦が始まろうとしていた。

「あ、後半戦が始まるわね。さぁ今回も楽しませてくれるかしら♪?」

 

後半戦、負傷が激しい三国先輩たちに代わり信介がキーパーにつき狩屋と影山が先輩たちの代わりに入る。

後半に入ってもやはりラフプレーが収まることはなかった。

あまりのプレーについに審判がレッドカードを出したが…

「うるさいよーだ!」

プロトコル・オメガの面々は審判すら無視してプレーを続行した。

「こんなのサッカーじゃない!」

「奴らは端からマトモにサッカーをする気なんてないんだ!」

「このままじゃサッカーが野蛮で危険なスポーツにされてしまう。

「奴らを止めるぞ!」

だが向かっていくもみんな返り討ちにされていく。

今度は速水先輩や交代で入った影山、狩屋も傷ついていく。

そんな三人の代わりに入った一乃先輩、青山先輩、浜野先輩もすぐに痛めつけられてしまう。いよいよ控えメンバーがいなくなってしまった。

「大丈夫、僕がデュプリを出すよ。」

フェイがデュプリを出してくれてその場は凌げたがこれじゃフェイの負担が大きくなってしまう。

「長くは続くまい。」

「捕まえた♪やっとお話できます。」

そしてついにフェイがベータたちに囲まれてしまった。

「フェイさん、あなたはエルドラドのデータベースにも情報がありませんでした。あなた一体何者?何のために私たちに逆らうんですか?」

どうやらエルドラドは正体不明のフェイを不穏分子として認識しているらしい。確かに味方である俺たちもフェイの素性についてはよく知らない。

「答えてください。」

「僕は、、フェイ。フェイ・ルーン!!僕はただ、サッカーを守りたいだけだ!!」

そういってフェイは包囲網を突破し、ゴールに向かっていく。

「そうだ、フェイが何者かなんて関係ない!一緒に闘ってくれる仲間!行こう、天馬!!」

「ああ!」

みんな傷つき、満足に動ける人数も少ない今、俺も攻撃に参加するしかない。

フェイ、天馬、俺の3人でゴールまで進んでいく。

「天馬!」

「そうだ、俺たちが勝たなきゃサッカーを守れないんだ!絶対に決めてみせる!!」

天馬にボールが渡り化身を呼び出す。

「魔神ペガサスアーク!!ジャスティスウィング!!」

そして天馬の化身必殺技がゴールに向かって放たれたその時、その間にベータが飛び出してきて

胸トラップで、シュートを止めてしまった。

「エルドラドの決めた歴史こそ、正しい歴史。それに歯向かっちゃうなんて、許されませんわ。」

「そんな、魔神ペガサスアークの必殺シュートが…」

「あらやだ、ごめんなさい、取っちゃった♪(ゝω・)」

馬鹿にするようにベータは舌を出してポーズを取ってくる。

 

「ふん、なによ。あれくらい私だって…あざとい女。それにしても今のままの彼らじゃ厳しいかしら。」

 

「それじゃあ~。見せてやるぜ、真の絶望ってやつをな!!」

再び豹変したベータはあっという間に俺たち三人を抜き去っていく。

「しまった!」

俺がオーバーラップしたことで後ろが手薄になってしまっている。

「行かせない。」

「デュプリごときに止められるものか!」

とめようとするデュプリのマントたちも弾き飛ばされる。

「アトランティスウォール!!」

「ディープミスト。」

「邪魔だぁ!!」

天城先輩が、霧野先輩が次々に抜かれていく。

「止めるぞ!奏者マエストロ!!」

「剣聖ランスロット!!」

「戦国武神ムサシ!!」

「護星神タイタニアス!!」なんとか戻ってくれていた化身使いのみんなが立ちはだかってくれる。だが

「あらら、まだ抵抗しちゃうんですか~仕方ありませんね。来い、虚空の女神アテナ!アームド!!」

ベータは再び化身アームドを発動し

「シュートコマンド07」

前半に見せたあのシュートを放つ。

あまりの威力にみんな吹き飛ばされ、シュートが突き刺さった。

「さあ、こっからは痛めつけてやれ。」

 

そこからはひどいものだった。

試合もなにもあったものじゃない。ただ傷つけるためだけの時間。

俺もみんなも傷ついていく。そしてベータにボールが渡り

「止めだ!シュートコマンド07!」

止めとばかりにまたあのシュートを放とうとする。

キーパーの信介はボロボロになりながらもゴールを守ろうと立ち上がるが満身創痍だ。

 

(このままじゃ本当に立ち上がれなくなってしまう!もう躊躇ってなんていられない!)

今の今まで化身が制御できるか不安でずっと化身を出さずに戦っていた。ホーリーロード決勝で目覚めた時以外、発動する度に暴走し周りに迷惑をかけてきた。けど、仲間が再起不能になるのなんて見てられない。

そう決心した翼はゴールとベータの間に飛び出し

「はあああああ!破壊神、デスロス!!」

「何!?」

拳銃を携えた凶暴さを前面に出したような赤と黒の化身を呼び出した。

 

「へえ~あれが彼の化身か~。けど、あの様子じゃ…

メイアは初めて目にする翼の化身と感じる力に目を輝かせた。それと同時に彼がこれまで化身を出さなかった理由をなんとなく悟った。

 

「破壊弾幕!!!」

デスロスがその手の拳銃から目もくらむほどの弾幕をはりシュートの威力を殺そうとする。

やがてベータのシュートの勢いが衰えていき、完全に0になると同時に大きく弾き飛ばす。

「何だと!?」

自分の必殺シュートが止められ驚くベータだったが次に翼に目をやったとたん異常に気づく。

「ぐ、やめろ…言うことを訊け…」

自分のシュートを止めた男は自分のうちから湧き出る力に苦しめられていた。

「みんな、離れろ!!」

翼がそう言い放つと同時にデスロスが無差別に攻撃を始めた。

「まずい、やはり翼はまだあの化身をコントロールできていないんだ!しかもこの激しい試合で体力を消耗したせいで暴走している!?」

敵も味方も全て巻き込んだ攻撃は体力が尽きるまで続き、それが収まると同時に審判団が試合中止を宣言した。

 

「なんということだぁぁぁぁ!日米親善試合はとんでもない結末になってしまったぁぁぁ!!」

体力を使い切ってしまった俺は錦先輩に支えてもらっていた。

「ふう、最後はなんだか大変なことになっちゃいましたがこれで任務完了ですね。これ以上反抗されても面倒ですし、あなたたちのサッカーへの情熱、全部奪っちゃいます。」

ベータがスフィアデバイスに手をかざすと不思議な光が発せられた。

「フェイさんあなたはエルドラドにとって危険な存在です。だから、封印しちゃいますね。」

そういうと同時にスフィアデバイスがフェイを引き寄せ始めた。

封印…まさかあの中に閉じ込めるつもりか。

どんどん吸い寄せられていくフェイ。みんなどうしようもできず見ているしかなかったそんな時円堂監督がフェイのまえに飛び出してきた。

「ゴッドハンド、V!!」

円堂監督が必殺技でスフィアデバイスの光を食い止めている。

「みんな、ここは一旦引くぞ!今の俺たちじゃこいつらには勝てない。一旦退却して体制を立て直すぞ!」

「みんな、こっちじゃ!」

上空から声がして見上げるとそこにはTMキャラバンを操縦するアルノ博士がいた。

「みんな、急いで乗り込め!フェイ、お前もだ!」

「はい!」

円堂監督の指示に従いみんなキャラバンに乗り込む。

 

「どうするの、逃げられちゃうよ~」

「むぅ~」

「ベータ、作戦変更だ。円堂守を封印せよ。」

「イエス、マスター」

 

「監督、全員乗りました!早く監督も」

「よし、」

こちらの呼びかけに応じた円堂監督はほんの少し、力を弱めた。

その時吸い寄せる力が強くなり、

「しまった!うあ、」

円堂監督は、スフィアデバイスに取り込まれてしまった。

「円堂監督!!」

たまらず飛び出そうとする天馬。しかしワンダバに止められる・

「やめろ、もう間に合わん!」

「でも円堂監督が!」

「円堂監督の犠牲を無駄にするな!」

天馬に気持ちはみんな分かってる。でも円堂監督の意思を無駄にすることはできない。

無常にもタイムジャンプが始まった。

その後フェイによれば円堂監督は圧縮した時の中に封印されたらしい。

それ以降誰も話さない重い空気が流れた。

 

「まさかここまでこっぴどくやられるとはね。それにあの光…おそらく彼らの大部分はもう脱落かしら。このままサッカーが消されると私たちも困るし…仕方ないわね、少し手助けしてあげようかしら。…それにしても彼のあの化身の力、制御できていないにしても凄いパワーだったわね。もしかすると…」

 

 

現代

 

現代に帰ってきても重い空気は変わらなかった。

「僕たち、歴史を元に戻すことはできなかったんですね。」

「円堂監督…」

信介と天馬が肩を落として呟く。

「落ち込んでる場合ではないぞ!今はこれからどうするかを考えるべきだ!」

暗いムードを打ち破るかのようにワンダバが発破をかける。

「このクマの言うとおりじゃきに。落ち込むのはワシの性に、何より雷門魂にあわん!」

「だれがクマじゃ!」

クマだろ。

「錦先輩!」

「奪われたのなら取り戻せばいい!」

「そうだよ、俺たちで取り戻そう!サッカーを、円堂監督を!」

そうだ、前を向いて進むしかない。

暗いムードが吹っ切れまた歩みだそうとしていると

 

「やるならあなたたちだけでやってください…僕はもう、協力しません。」

「なんでサッカーなんてやってたんだド?」

「サッカーなんてもう二度とやりたくないよ。」

そう口々に告げこの場を去っていくみんな。

残ったのは俺、天馬、信介、剣城、神童さん、錦先輩、フェイだけだった。

 

「そうか!あの光はマインドコントロール波だったのか!?」

どうやら試合後に浴びさせられたあの光には人の心を変えてしまう効果があったようだ。

平常時ならなんともないものもあれだけの仕打ちを受け、心が弱っている時に受けてしまったせいでサッカーへの情熱を奪われてしまったようだ。

「でも、なんで僕たちには効果が無かったんだろう?」

確かにあの光なら俺たちも浴びたが

「それはおそらく化身の影響じゃろう。」

「アルノ博士!?」

「化身とは本来そのものの気と心の力が高まった時に生まれるもの。その化身が心の障壁となりマインドコントロールの影響を受けなかったのじゃろう。」

なるほど、だから化身使いのこのメンバーは無事だったのか。

「みんなを取り戻すにはどうすればいいんですか?」

「これを仕掛けたのはプロトコル・オメガのスフィアデバイスじゃ。奴らを倒せばなんとかなるかもしれん。じゃが早くせねばマインドコントロールが定着してしまうかもしれん。急ぐのじゃ。」

「急ぐつったってあんな奴らに勝てるの…」

葵が不安げに呟く。

「そんなこと言ってもやるしかないだろ!」

水鳥先輩が力強く声をかける。なんかあの人は化身がなくても効かなさそうだなぁ。

「そうだ!やるしかないんだ!」そうとなったらやることは一つ!」

「やること?」

決心した天馬に信介が聞き返す。

「特訓だ!円堂監督がいたらきっとそう言うよ!」

「よく言ったぜ、天馬!」

「確かに、天馬の言うとおりだ。今のまま勝てないなら力をつけるしかない。」

「そうと決まったら早速特訓だ!」

「ああ、今日は傷ついた体を休めてまた明日サッカー棟に集合しよう。」

そうして今日は解散になった。

 

天馬と二人で木枯らし荘への帰り道

「まさか。あいつらがあんなに強くなってくるとはな。」

「うん、前回とは比べ物にならなかった。それに化身アームどもできなくなっちゃったし…」

「そんなに気に病むことじゃないさ。一度出来たんだ、力をつければまたできるようになるさ!」

「翼…うん、そうだね!なんとかなるさ!」

「そうこなくっちゃ。俺なんて未だに化身をコントロールできてないんだぞ、贅沢言ってもらっちゃ困るぜ。」

「あ、あはは。それにしても相変わらずすごいパワーだよね、翼の化身は。」

「制御できないんじゃダメだよ。味方も巻き込みかねないし。」

「翼ならすぐに制御できるようになるさ!」

「だといいけどな。ま、あいつらと戦う上では化身を制御して化身アームドも身につけないといけないしな。」

「うん、一緒に頑張ろう!」

「ああ。天馬には本当にいつも助けてもらってるよ。キャプテンらしくなってきたんじゃないか?」

「そ、そうかな~。でもまだまだ神童さんみたいに上手くはいかないよ。」

「別に神童さんと同じようにする必要はないと思うけどな。」

「え?」

「天馬には天馬にあったキャプテンってのがあるんじゃないか?」

「俺には俺の…」

「ま、しらんけど」

「ええ…」

そんな会話をしながら歩いていると木枯らし荘についた。

「それじゃ、また明日!おやすみ。」

「また明日。」

 




いかがでいたでしょうか。
翼くんの化身はデスロスでした。
デスロスにした理由は単純で火属性のDF化身で一番強いってのといかにも制御効かなさそうな見た目してること。そして何よりかっこいいからですね(笑)正直、主人公の化身にしては禍々しすぎる気もしますが。
アニメしか見てなくてどんなのか分からないよって方はゲームの方の動画がそのへんに転がってると思うので是非確認してみてください。
次回からゴッドエデン編になります。ゴッドエデン編にてようやく翼君とメイアちゃんが出会います。それもあってオリジナル展開が増え、天馬のアームド習得の試合描写が少し減ります。どうかお許し下さい。


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ゴッドエデン

今回からゴッドエデン編です。

どうでもいいことではありますが、「音無先生」を何度か打っていると「オチ無し先生」という最悪の誤変換をしてしまうことが割とあります。

はい。


 

翌朝

 

残ったメンバーはサッカー棟に集合していた。

しかし、部室への立ち入りが禁止されていた。

「サッカー禁止令のせいだよね…」

「ああ、俺たちが歴史を戻せなかったから…」

そこに音無先生がやってきた。

「音無先生」

「こんなことになってしまって、円堂監督が生きていたら何て言うでしょうね…」

「え」

円堂監督が生きていたら?何を言っているんだ。

 

「そんな!?円堂監督が亡くなった!?」

「どういうことですか?」

「どういうことって、みんなでお葬式にも言ったじゃない。」

そういって音無先生は一つのネットニュースをビジョンに映し出した。

そこには円堂監督があのサッカー親善試合の日に交通事故でなくなったと書かれていた。

「こんなの嘘です!円堂監督は生きています!」

天馬は言い切って見せる。

「円堂監督が…生きてる…」

信じられないといった表情の音無先生だったが俺たちの確信を持った顔を見ると

「…分かったわ。天馬くんが言うなら信じる!」

どうやら信じてくれたようだ。

 

「音無先生、僕のことは分かりますか?」

「ええ。フェイくんにワンダバよね、未来からやってきた。」

どうやらフェイたちの記憶は残っているようだ。つまり

「円堂監督に関する歴史だけが書き換えられてるようだね。」

そう結論づけたるフェイ。

ワンダバ曰く、どうやら円堂監督が封印されたことで円堂監督がこの世に存在しないかつ、ほかに影響が出ないよう歴史がつじつま合わせをしているらしい。

俺や、水鳥先輩、錦先輩のお馬鹿組にはなんのことやらといった感じだ。

しかし、うかうかもしていられないらしく、早く何とかしないと歴史が定着してしまうらしい。そのためには早く奴らを倒すしかない。

 

「倒しましょう。プロトコル・オメガを倒してみんなを取り戻しましょう!」

「そのためには、やはり化身アームドを身につけねばなるまい。それと翼の化身の制御もだ。」

ワンダバが力強く言う。

「僕たちにも化身アームドできるのかな?」

「分からない。それでも君たちの内の一人でも多く化身アームドを身につけられれば、可能性は大きく上がるはずさ。」

「とにかくやるしかない。」

「その通りです。サッカーを取り戻せるのは、この歴史が間違ってると知ってる俺たちだけなんです!そのためにも力をつけるために特訓だ!

「うん!」

 

しかし、問題があった。

サッカーの練習が出来る場所がどこにもないのだ。

部室も閉鎖。学校のグラウンドも、河川敷も、町内のグラウンドすらもサッカー禁止の立札がされていた。

「予想はしていたけど…

「サッカーできる場所がないよ。」

「強くなるならにゃならんのに!」

「これでは特訓どころではない。サッカー禁止令の影響がこんなにも大きいなんて…」

「サッカーを取り戻すには強くならなきゃいけない。けど強くなるために特訓するにはサッカーを取り戻さないといけない。堂々巡りだな。」

みんなして途方にくれていると音無先生の携帯が鳴った。

「メール…豪炎寺さんから?」

 

メールで豪炎寺さんに鉄塔に呼び出された。

「久しぶりだな。」

豪炎寺さん。元イナズマジャパンのメンバーにして円堂監督の親友。フィフスセクターの聖帝として潜り込み人生を賭けてサッカーを守ろうとした人。

豪炎寺さんがフェイたちに目を向ける。そうか、豪炎寺さんはフェイたちを知らないんだ。

フェイが慌ててワンダバを隠し音無先生とヒソヒソ話をしている。どうやら豪炎寺さんに事情を話して協力してもらうかどうかの話をしているらしい。だがフェイは自分たちと違う時間に生きている豪炎寺さんには難しいと言っている。

 

すると、豪炎寺さんが口を開き

「ここに来てもらったのは他でもない。……円堂を、円堂を助ける手助けをしたい。」

俺たちが思いもよらなかったことを言い放った。

「「「え!?」」」

「これ以上、エルドラドによる、歴史介入を許すわけには行かない!」

「エルドラドを知っているんですか!?」

思わずフェイが問うと豪炎寺さんは頷いた。

「どうしてあなたには歴史への介入の影響が出ていないんですか?」

「おそらくこれのせいだろう。」

「それは、タイムブレスレット!?」

「タイムブレスレットって優一さんも持っていたものと同じだ。」

豪炎寺さんの腕には優一さんが持っていたものと同じブレスレットがあった。

 

「確かに、タイムブレスレットのようじゃな。」

いつの間にかアルノ博士がいた。

「アルノ博士ですね。」

どうやらアルノ博士のことも知っているようだ。

「タイムブレスレットには時間を越える力があるから、タイムパラドックスの影響を防御できるんじゃ。」

「どうしてそれを?」

「支援者Xが直接送りつけてきた。メッセージとともに。」

「支援者X?」

みんな聞きなれない名前に一様に首をかしげる。

「俺がフィフスセクターの聖帝だったころ、千宮寺大吾は支援者Xに莫大な支援を受けていた。新世代の子供たち、セカンドステージチルドレンの発掘のために。天馬や翼もその候補の一人だった。」

「俺たちも?」

セカンドステージチルドレン?なんだそれは。

 

豪炎寺さん曰く、支援者Xは謎に包まれた存在らしい。だが、豪炎寺さんに俺たちとプロトコル・オメガとの戦いを送りつけ、タイムブレスレットも用意してきた。豪炎寺さんは円堂監督を救うために支援者Xを信じることにしたらしい。

「なるほどの。タイムブレスレットは我々の時代でも限られたものしか手に入れられない物。その支援者Xとやらはわしらと同じ時代の人間と見て間違いないじゃろう。」

アルノ博士が断言する。確かにそう考えるのが妥当か。

「とにかく今はプロトコル・オメガを倒し、円堂を救う。そしてサッカーを取り戻すんだ。」

「そうなんですけど…」

天馬が所在なさげに言う。そう、サッカーができるところがないんじゃ。

「大丈夫だ。世界で唯一サッカーができるところがある!」

そんな俺たちに豪炎寺さんは驚きの言葉をかけてきた。

「嘘!?どこですか!?」

「ゴッドエデンを使うといい。」

「ゴッドエデン!?」

思いもよらない場所の名前が出てきた。

「どういうところなんだ?」

今度はワンダバたちにとって知らない言葉が出てきたことでワンダバが質問する。

「フィフスセクターが優れた才能を持つ子供たちを集め鍛えていた施設だ。セカンドステージチルドレンを生み出すために。」

 

どうやら俺たちとゼロとの戦いのあと、ゴッドエデンを閉鎖したらしい。

外部に一切知られておらず、外界とは隔絶したあの島ならサッカーができるという。

サッカーができる。そんな希望が出てきたことで俺たちの顔がほころぶ。

 

 

「何かあればいつでも連絡してきてくれ。力になれるかも知れない。」

「ありがとうございます。豪炎寺さん。」

「それでは出発するぞ!」

「「「「おう!!」」」」

こうして俺たちはゴッドエデンに向かった。

懐かしいな…

 

「頼んだぞ、みんな。」

天馬たちを見送った豪炎寺は音無と別れ、帰路に着いていた。

(これからも何があるかわからない。できる限りの準備をしてかなければ…)

今後のことについて思案しながら歩いていると

「豪炎寺修也ね。聞きたいことがあるのだけど。」

突如、背後から声をかけられ慌てて振り向く。

そこには一人の少女が立っていた。

「誰だ?」(気配を感じなかった。一体…)

「そんなに警戒しないでもいいわよ。…そうね、セカンドステージチルドレンといえば分かるかしら?」

「何?」

 

 

ゴッドエデン

 

「ついたぞ!」

「ここがゴッドエデンスタジアム…」

「うわぁ、懐かしい~」

「変わってないな!」

あの時と全く変わっていないゴッドエデンスタジアムの空気に思わず気分が高ぶる。

「天馬~ボールあったよ~!」

 

そして特訓が始まった。

そうすれば化身アームドできるのか。アルノ博士に聞いてみたが

「ワシにも分からん!ワシは時空の理論には強いがサッカーのことはてんで分からんのじゃ。」

とだけ言い残しまた姿を消してしまった。

ワンダバ曰く、化身アームドは化身を身にまとうことで化身の力をより効率よく使うことが出来るらしい。理屈は分かるがどうすれば出来るようになるかの答えは持ち合わせていないようだ。

するとフェイがやってきた。

「化身の声を聞くんだ。」

「「化身の声?」」

 

「魔神ペガサスアーク!!」

「集中して、心の耳を澄ませ。」

そういわれ天馬は目を閉じ集中する。

「そして一気に力を解放する!」

「アームド!!」

フェイの合図で天馬がアームドを試みる。しかし、やはり上手くいかない。

「やっぱり難しいな…」

「もう少し分かりやすく説明するぜよ。」

「こればっかりは感覚の問題だからね…けど、僕が言えることは化身を感じ、声を聞き、気持ちを一つにすること。」

「化身の声…分かったやってみるよ!」

そして各々特訓を始めた。

 

気を高める剣城。精神を研ぎ澄ます神童さん。化身に飛び込む信介。直接語りかける錦先輩。みんなそれぞれ自分なりのアプローチで化身と向き合っていく。

 

そんなみんなと少し離れたところで俺は化身の制御と向きあう。

「破壊神デスロス!」

暴走しないよう、化身の力を押さえ込み操る感覚をイメージする。

「あ。クソッ、ダメか…」

しかし発現し、暴走した前回とは逆に化身の発現に失敗する。

「このままじゃダメだ。暴走するか出せないかじゃ。ちゃんとコントロールできるようにならないと…」

この二つのちょうど間の感覚が必要なのだろうか。化身使いの仲間に聞いても初めて発現して以降はずっとコントロールできていたらしくアドバイスらしいアドバイスはもらえなかった。

「けっ!天才どもめ!」

思わず毒づく。

「苦戦しているみたいだね、翼。」

「フェイか。ああ、俺も早く制御できるようになってみんなの力になりたいぜ。」

「翼の化身は通常の状態でもすごいパワーだよね。それこそ普通の化身とは比べ物にもならないくらい。完全にコントロールすれば化身アームドにも対抗できるくらいさ!」

フェイは明るく元気づけてくれる。

「ああ。けど、俺の力が化身に追いついていないのかもしれない…。」

「けど、初めて化身を出せたときは制御できたんでしょ?」

「うん。あの時はなぜか出来たんだ。けど、その時は夢中だったし試合後もいろいろあってあまり感覚を覚えてないんだ。」

ホーリーロード決勝のドラゴンリンク戦で俺は初めて化身を出すことに成功した。

あの時は化身を思い通りに操ることができた。まぁ、初めてだったこともありすぐにガス欠になってしまったが。

「僕もあそこまでのパワーの化身はあまり見たことがないからなぁ。けど、君なら自分にハマる感覚を掴めれば必ず出来るさ!」

「フェイ…ああ!ありがとう!」

フェイは天馬とは違った暖かさがある。正直、正体は未だによく分かっていないが本当に良いやつだってことは分かる。だからこそ、一緒に闘っていける。

そんなことを思いながら特訓に打ち込んでいた。

 

特訓も一段落付き休憩していると上空からUFOのようなものが飛来した。

そこから出てきたのは

「プロトコル・オメガ2,0!?」

「ではない。」

プロトコル・オメガのメンバー5人が現れた。

「エイナム」「レイザ」「クォース」「ザノウ」「ガウラ」

「我らアルファに従う、チームA5。」

「チームA5?」

「精鋭5人というわけか。」

「この島で化身アームドを身に付けようとしているらしいが…笑わせる。その前に仲間と同じようにしてやる。」

仲間と同じように。洗脳するということか。

「サッカーバトルということか」

「俺たちが勝ったらみんなを元に戻してもらうぞ」

「いいだろう。」

そう言いはしたが果たしてどうだろうか。奴らからは誠実さを感じない。

 

そしてサッカーバトルが始まった。

バトル前、フェイが化身アームドを身につけるためには実践が一番だと提案したことで俺とフェイがメンバーから外れた。

 

「行くぞ!」

「ふん、この島での戦いはパラレルワールドによる共鳴現象は起きない。よって化身アームドが起きることもない。シュートコマンド06!」

「護星神タイタニアス!!」

エイナムの必殺シュートが放たれ信介が化身で受け止めるが、

「うわあああ」

ゴールに突き刺さる。

「クソ、まだ今のままでは厳しいか…」

「お前たちとの戦いでリーダーのアルファは去った。その怒りを知るがいい。」

 

そこからもA5の猛攻が続く。

エイナムとレイザが軸に攻め込む。

先に2点取ったほうが勝ちのこのバトル。

なんとか持ちこたえるがこちらも相手のキーパーのザノウを突破できない。

「シュートコマンド06」

そしてまたもエイナムのシュートが放たれこれまでかと思った瞬間

 

フィールドに巨大な斧を携えた黒い人型の化身がそのシュートを止めた。

「「「何だあの化身は!?」」」

「ダークエクソダス!?」

「ということは」

 

 

そして突如現れた化身が放った凄まじい衝撃波で俺たちの意識は途切れた。

 

 

「ん~…ハッ!?」

どうやらみんな気を失っていたようだ。

「信介!これ!」

「このお地蔵さん!」

「このお地蔵さんって?」

「この島の神様だよ!前来たとき見つけたんだ!」

気がついたみんなが思い思いに口を開く。

するとフェイが気配を感じたらしく、その方向を向くと黒い服を着た黒髪の褐色の少年が心地よさそうに風を受け佇んでいた。

 

「やあ」

「シュウ!やっぱりシュウだったんだね!久しぶり、さっきはありがとう!」

「間に合ってよかったよ。またサッカーが大変なことになってるね。だからじっとしてられなくてさ。」

シュウ。以前ゴッドエデンに来たときに本気の思いをぶつけ合った不思議な少年。

「その言い方、君はサッカー禁止令の影響が出ていないのか?」

「もちろんだよ!」

当然とばかりに答えるシュウ。

「天馬の知り合いなの?」

シュウとは初対面のフェイがシュウのことを聞いてくる。

「うん、前に来た時に会ったサッカー仲間のシュウだよ。」

「なるほど、よろしく、フェイ・ルーンだ!」

「うん、よろしく。」

気のいい二人はすぐに打ち解けたようだ。

 

シュウとの久しぶりの再会にあの時のことを思い出し、思い出話に花を咲かせる。

「あの試合は本当に熱くて最高だった。あの試合を通して俺はまた一つ強くなれた気がする。シュウはあれからどうしてたの?」

そんな天馬の問いかけにシュウは笑みを浮かべるだけだった。

「それより天馬、僕は君たちに伝えたいことがあって来たんだ。」

少しの沈黙を打ち破るようにシュウが言う。

「伝えたいこと?」

「化身アームドのことだよ。」

なんとシュウは化身アームドのことを知っていた。

「もちろんさ。今回の敵と戦うには化身アームドが絶対に必要だ。幸い君たちは全員化身使いだ。約一名、まだ困っている人がいるけどね。この島で化身アームドを掴んで欲しい。この島のサッカーの神様が力を貸してくれるはずだよ。」

「すごい!シュウは何でも知ってるんだね!シュウがサッカーの神様みたいだよ!」

信介が感嘆の声をあげ、シュウはそれに謙遜の言葉を返す。

「ふん、悪かったな。困りもんで。」

少しチクッとする言葉をかけられた俺は少しむくれる。

「あはは。その分パワーも凄いじゃないか。この島でなら何か掴めるはずだよ。」

シュウは本当に掴みどころがないと思う。けど、シュウの言葉は信じてみようとさせる何かがある。

 

「よーし!みんなやりましょう!」

「燃えてきたぜよ!」

「ここでまた合宿ということだな。」

「それじゃ早速「ちょっと待った!」

早速特訓に入ろうとする天馬を葵が止める。

さっきのバトルで受けたダメージを心配し、今日はゆっくり休めとのマネージャー陣からのお達しが出たのだった。

 

その夜

 

「翼、ちょっといいかい?」

俺はシュウに呼ばれ、寝床の外に出た・

「どうしたんだ?」

「明日のことなんだけど君だけ別行動にしようと思うんだけどいいかな?」

「別行動?」

シュウからの提案に思わず質問で返してしまう。

「うん。あの5人には化身アームドのための特訓をしてもらおうと思ってるんだけど、君はまだ化身を制御できていないだろ?」

「まぁ、そうだな。」

「だから異なる特訓を同じ場所でするより、場所を分けてひとつのことに集中したほうがいいと思うんだ。」

「なるほどな、確かにそうだ。それに俺が一緒にいると巻き込んでしまうかもしれないしな。」

「僕たちは明日、島の北の滝あたりで修行しようと思うんだ。翼の特訓にはだれもいない場所がいいと思うからこの島の東の森を使うといいよ。」

「分かった。ありがとうシュウ。それじゃあ先に終わったほうがもう片方に合流しに行くってことでいいか?」

「うん、そうしよう。それじゃあ健闘を祈ってるよ。君ならできるさ。」

「ああ、シュウこそみんなを頼んだ!」

明日についての話を終え、俺とシュウは寝床に戻った。

途中、上を見上げるとフェイとワンダバが星空に目を輝かせているのが見えた。

 

 

「ここがゴッドエデン。セカンドステージチルドレンを生み出そうとしていた施設ね。」

 

 




前回、やっと翼とメイアが絡むと言ったな?あれは嘘だ。 いやほんとすいません。ゴッドエデン編が思ったより長くなってしまったので分けるところを変えた結果あ次回になりました。

「暗黒神ダークエクソダス」名前もデザインもあまりにもかっこよくて好きです。


ということで次回こそやっと二人が絡みます。

感想、ご指摘あれば是非お願いします。今後の参考及び励みになります。


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邂逅

この小説を書き出して細部や忘れてるとこも多々あるのでクロノストーン見返してるんですがやっぱり面白いですね。

はい、ということでやっとです。

今回の誤変換ネタ 化身アームドの→化身アーム殿。
主にシュウとフェイのセリフでおきます。別にシリーズ化するつもりはありません。

はい。


 

翌日

 

「それじゃあ、始めようか。」

シュウに連れられ特訓の場所に連れられていくみんな。

「俺はこっちだからまた後でな。」

「あれ?翼は一緒に特訓しないの?」

「うん。彼には一人で集中して化身の制御に取り組んでもらおうと思うんだ。」

「なるほど。お互い頑張ろう!」

「ああ!」

 

 

みんなと別れシュウに教えられた場所につく。

「なるほど。確かにここなら誰もいないし、プロトコル・オメガの連中の目にも止まらなさそうだ。」

森の中に少しだけ開けた場所で人目に付きにくく自然も感じられる心地いい場所だった。

ここなら集中して特訓ができそうだ。

「よし、やるか。」

まずは化身を制御できるような力加減を体に覚えこませる。

「破壊神デスロス!」

化身を自分の手で動かすイメージを持ちながら化身を呼びだそうとする。

だが

「くそ、加減しすぎたか。」

化身の呼び出しそのものに失敗する。

「もっと力を高まる必要があるか…」

今度はもっと力を高める。

「うおおおおおお!」

再度化身を呼び出す。

「破壊神デスロス!!」

今度は化身を呼び出すことに成功する。

「よし、このまま……ぐっ…」

しかし今度は化身に意識を持っていかれるような感覚に陥る。

まずいと感じ慌てて解除する。

「危なかった、あのままいくと間違いなく暴走していた…」

先日のプロトコル・オメガ2.0との戦いが頭によぎる。

「やっぱり俺自身の実力が足りてないのかな…けど、なんであの時はコントロール出来たんだ?」

初めて化身を呼び出した時のことを思い返し、一度思考に耽る。

そんな翼を木陰から見つめる人影があった。

 

「やっぱり、まだ化身を制御できていないみたいね。ただ、彼のあのプレーを見たところ実力自体は問題なさそうだしあとは力の出し方といったところかしら。」

翼が化身をコントロールしようと試行錯誤している様を見ていたメイアは、以前からの翼のプレーを思い返していた。

メイアは豪炎寺が天馬たちと別れた後、彼に接触した。

目的は彼らの目的地を聞き出すこと。詳しくは素性は明かさなかったが、彼らに敵対しているわけではないと判断した豪炎寺はメイアに彼らの目的地とゴッドエデンについてを話した。

その話を聞き、自分たちのルーツに関係ある場所ということもあり足を運んだのだった。

今朝ゴッドエデンについてからは遠目から雷門の様子を伺っていた。

すると翼一人が別行動を始めたのを見てこうして見に来たというわけだ。(それにしてもあの黒服の男の子。彼はなんとなくだけど私の存在に気づいていた気もするわね。…彼は一体何ものなのかしら…)

そんなことを考えていると翼が化身を呼び出すのをやめ思考の海に沈み始めたことに気づく。

(まあ、私の邪魔をしてこなかったしとりあえず問題はないわね。それより、いいタイミングだし、彼に接触しようかしら♪)

 

 

(思い出すんだ、初めてデスロスを出した時の感覚を)

唯一化身をコントロールできた、あのホーリーロード決勝のことを思い返す。

(あの時、俺は天馬たちとのドラゴンリンクとの戦いで初めて化身を呼び出した。あの時は自分の意志でデスロスを動かすことができていた。けど、)

「けど、いろいろありすぎてあの感覚を思い出せねえよ~~!」

どうしても感覚がつかめず声をあげた。

 

「何が思い出せないのかしら?」

「誰だ!?っっ!」

突如として背後から声をかけられ驚いてそちらを向くと一人の少女がいた。

「なかなか苦労してるみたいね。」

少女が笑いながら話しかけてくるが翼はから返答の言葉は出なかった。

外部の人間は知らないこの島に自分たちともA5とも違う存在がいる。

そんなありえないはずの状況にも関わらず、翼は思わず少女に目を奪われていた。

長いラベンダー色の髪に整った顔立ち。透き通るような綺麗な緑の瞳。貴族の着るような服にもなにかのユニフォームのようにも見える少女に見惚れ固まってしまう。

 

「て、あら?聞いてる?」

反応がない翼に少女が目の前で手を振り呼びかける。

「あ、ああ。ごめん、つい見惚れてて…じゃなくて!君は?」

何を言っているんだ俺は!

「ふふ、嬉しいこと言ってくれるわね♪初めまして、私はメイア。」

「メイアさんか。俺は赤峰翼だ。」

「メイアでいいわよ。それにしても、随分苦戦しているようね。化身の制御。」

「!? メイア、君は一体何者なんだ?なぜ俺の化身のことを知っている?」

初対面のはずの女の子がなぜ俺のことを知っている。この子は一体何者だ。

 

「私は200年後の未来からやってきたの。あなたの仲間の子やエルドラドのようにね。」

「エルドラドのことを知っているのか!?」

思いもよらぬ答えが帰ってきて驚く翼。

「ええ。これまでのあなたたちとエルドラドの戦いも見させてもらっていたわ。結構厳しい状況ね。」

どうやらメイアはこれまでの俺たちの戦いを見ていたらしい。

「あなたの化身、すごい力を持っているようだけど全然制御ができていない。暴走しないように加減すると呼び出せず、加減を間違えると暴走する。といったところかしら?」

「っっ!?」

自分の現状を言い当てられ思わず息を呑む。

「ああ。初めて化身を呼び出して以降、思うようにコントロール出来ないんだ。次に呼び出した時に暴走してからどうしたらいいか分からないんだ…」

初対面の女の子相手に不思議と悩みを打ち明けてしまう。

「なるほどね。つまり、化身を呼び出す時の力加減が分からないのね。…二度目に呼び出したときは全力で呼び出したの?」

そんな自分の話をメイアも真剣に話を聞いてくれているのが分かる。

「いや、そのときはちゃんと制御できるように加減したつもりだったんだ。だけど…」

「暴走してしまったのね…。ねえ、一回全力で化身を出してみてくれる?」

少し考える素振りを見せたメイアはそんな提案をしてきた。

「え?けど、力を抑えても暴走するのにそんなことしたら…」

「化身は人の心と気が極限にまで高まった時に現れる力が具現化した存在。無理に押さえ込むより、一度全力で呼び出したほうが良いかもしれない。幸い、ここなら誰にも迷惑をかけることも無いわ。」

「けど、それじゃあもしもの時に君が巻き込まれるかも…」

そんな不安をこぼす翼にメイアは不敵に微笑んでみせ、

「ふっ!!」

足元に転がっていたサッカーボールで凄まじい威力のシュートを背後の木に放った。

 

「もし暴走するようなことがあったら私が押さえ込んであげる。」

そういったメイアの背に化身の影が湧き出る。

「メイア、君は本当に何者なんだ?なんで俺に協力してくれる?」

今のシュート…もしかしてあのベータより…

「私はあなたたちと同じでエルドラドからサッカーを守りたいだけよ。あなたたちとは少し理由は違うかも知れないけどね。それに…」

「?」

「あなたの戦いを見てたら興味がわいたの♪」

「?なんだそりゃ。」

「いいから。さ、やってみて。」

なんだかはぐらかされた。けど、確かにさっきのシュート…おそらく彼女は俺より遥かに強い。なら・・・

「やってみるか!」

 

 

一旦メイアと距離を取り、集中力を高める。

「うおおおおおおお!」

これまでで一番気を高める。

「破壊神デスロス!!」

まず、化身を呼び出すことには成功する。

「まだよ!まだ力を抜いちゃダメ!力を込めながら精神を落ち着かせて。」

メイア言うように力は維持しつつ心と呼吸を落ち着けていく。そして、

「出来た…出来た!」

デスロスを呼び出したまま安定させることが出来た。

メイアの方を向くと少し誇らしげに微笑みかけていた。

「ね、言ったとおりでしょ?」

デスロスを解除し彼女に歩み寄る。

「うん。けどどうして…」

どうして彼女はこんなにもあっさりと…

「あなたは化身は制御するには自分の力で抑え込まないといけないと思い込んでたのよ。さっきも言ったように化身は本来力を極限まで高めるもの。中途半端な力で操ろうとするのは逆効果ってこと。特にあなたの化身は強力だし尚更ってことね。それと」

「それと?」

「一度暴走してしまったことでまた暴走するのを恐れて余計に力が出せなくなっていたのよ。」

「なるほど。確かに俺はこいつを押さえ込むことばかり考えていて力を解放することは考えてなかったかもしれない。」

「ええ。あなた自身の力は化身を操るには十分だった。あとは力の使い方と気持ちの問題だったのよ。」

「そしてここなら誰にも迷惑をかけず、何かあっても君が止めてくれることで安心して力を発揮できたってことか。」

言葉にしてみればシンプルなことだった。

「ええ。おめでとう、これでエルドラドとも戦えるわね。」

「ああ!本当にありがとう。君のおかげだよ。」

けど、きっかけを与えてくれたのはあって間もないメイアだった。不思議な子だと思った。

 

 

「その…良かったら俺たちと一緒に闘ってくれないか?君がいれば…」

メイアが居てくれればとても心強い。そう思いチームに誘うが

「ごめんなさい、それは出来ないの。私はあまり表立って行動はできないの。」

メイアは首を横に振る。

「そうか。分かった。」

無理をいうわけには行かない。未来から来ているんだ。いろいろ事情があるだろう。

「大丈夫。あなたたちならきっと大丈夫よ。今戦っているお仲間さんたちも少しずつ強くなってる。」

「…ああ!…って今戦ってる!?」

聞き捨てならないことが聞こえた。

「ええ、彼らは今、エルドラドと戦ってるわよ。」

気づいてなかったの?とばかりに返してくるメイア。

「なんで早く言ってくれないんだよ!まずい、早く行かなくちゃ!!」

大急ぎで天馬たちの元に向かおうとする翼。

「もう間に合わない気もするけど…」

「分からん!けど、とにかく急がなきゃ!」

「あ、ちょっと待って!」

「何だ?」

「あなたは怖いと思わないの?自分の知らない力をもった未知の敵が相手で。」

「思わないね。未知の出来事なんてこの世界じゃ当たり前だ!それに自分の知らない強いやつとサッカーできるなんてワクワクするだろ?エルドラドのやってることは許せないけど、この気持ちは変わらない!」

そうあっけらかんと言い切る翼。彼からしてみれば、この世界の人の必殺技や身体能力も未知のものばかりだった。今更おじけづくこともがないのは当たり前なのかもしれない。

だが翼の事情を知る由も無いメイアはあっけらかんとした反応に初めて驚いたような顔をする。そんな表情もすぐに笑顔に変わる。

「ありがとう。もう行っていいわよ。バイバイ、また会いましょう、翼♪」

そういってメイアは別れを告げる。

「おう!またな、メイア!」

「あ、お仲間には私のことは内緒にしておいてね!約束よ!」

「了解!本当にありがとう!」

そう言い残して翼は走り去っていった。

 

「ふふ♪本当に面白い人ね♪これからも楽しみだわ。」

彼は果たして自分のこの力を知った時も同じ反応をするだろうか。自分たちの時代で化物や悪魔と言われるこの力を。

「けど、彼ならもしかすると… ふふっ♪」

 

「いた!お~いみんな!」

大急ぎで島の北側に戻ってきた翼はフェイたちの姿を見つけ叫んだ。

「翼、こっちこっち!」

翼に気がついたフェイが手を振り呼ぶ。

「ごめん、特訓に夢中になってて気がつかなかった。」

「ううん、こっちもいきなり始まったから呼びに行けなかったんだ。」

「なるほどな。で、状況は?」

「今のところ厳しいね。みんな化身アームドに意識を割かれて流れを取りきれていないんだ。」

そう言われ試合を見る。確かに攻めに転じたいところで前にできれていない。

徐々にジリ貧になっていく中シュウが立ち上がった。

「ワンダバ!僕と天馬を一つにしてくれ。」

「何!?それはミキシマックスのことか!?」

「君はミキシマックスも知っているの?」

シュウは天馬と自分のミキシマックスを申し出た。化身アームドといいシュウは本当になんで知っている。

「うん。みんなの高まった気持ちを押し上げてやりたいんだ!」

「分かった!!」

そういってワンダバがミキシマックスガンを構える。

 

「天馬!ミキシマックスだ!!」

「え~!お、俺~!?」

ワンダバが叫ぶと同時にシュウのオーラを天馬に注ぎ込む。

「ミキシマックス、コンプリート!!」

ミキシマックスが成功し、そこには髪が黒くなり、シュウの前髪がついた天馬の姿があった。

「シュウ、大丈夫か?」

力を吸い出され、少しふらつき膝をついたシュウに手を貸す。

「うん、大丈夫だよ。」

 

「すごい。力が溢れてくる。行くぞ!」

そういって天馬は動き出しあっというまにレイザを抜き去る。

「僕の力が天馬を引き上げる。守りたいものへの天馬の思いに僕の思いを重ねる。そしてそれが化身アームドの力を呼び起こす。」

続けて天馬はエイナム達も抜き去り、残すはキーパーのみとなった。

「シュウ。俺はこの力に応える!」

「今だ天馬!君自身の力を解放するんだ!」

シュウの言葉に応じ、ミキシマックスを解除する天馬。そして

「魔神ペガサスアーク!アームド!!」

ペガサスアークが天馬の身にまとわれていく。

「ついに出来た!」

ついに化身アームドを成功させた。

「行っけぇぇぇ!!」

そして天馬のシュートがゴールに突き刺さる。

「やったああああ!」

サッカーバトルは俺たちの勝利で終わりA5は速やかに撤退していったのだった。

 

「ありがとう!シュウ!」

「僕は背中を押しただけだよ。」

勝利を喜ぶみんな。

「これで君はまた一つ強くなった!これからの戦いで大きな戦力になるね。

「うん。次はみんなの番です!」

俺が一歩進んだと思ったら天馬は更に先に進んだ。親友として嬉しくもあり、悲しくもある。

「そういえば、翼の方はどうなったの?」

「俺か?俺の方もついに化身を制御できたぜ!」

「ほんとに!?やったーー!」

「どうやって制御できるようになったんだい?」

フェイが訪ねてくる。

「それはその~~…そう!この島の不思議な力のおかげで感覚がつかめたって感じかな!」

メイアとのことは口止めされているのでなんとかはぐらかす。

「なんだそれ?」

「この島の神様のおかげかもな。うん。」

みんなに疑惑の眼差しを向けられるがなんとか押し切る

そんなやり取りをしていると葵の電話に音無先生からの着信が入り、早く戻ってきて欲しいとのことだった。

 

「シュウ!一緒に来てくれないか?俺たちのチームに入って一緒にサッカーを守ってほしい。」

去り際、天馬はシュウに力を貸して欲しいと頼み込む。

「…ごめん。僕は行けない。僕はこの島を守らないといけないんだ。それは、とても大事なことなんだ。」

しかし、シュウは首を縦には振らなかった。何か事情がありそうな雰囲気を醸し出しながら。

「…分かった。」

「ごめんね、天馬。特訓したければいつでもここに来ればいい。そのときは協力するよ」

「うん!」

 

そうして俺たちはゴッドエデンを後にした。

シュウ。あいかわらず不思議なやつだった。

天馬も窓の外を見やりながら物思いにふけっていた。

「いい仲間がいるんだね。」

フェイがそんな天馬に声をかける。

「ああ!」

シュウとの、これまでの皆との出会いや戦いは俺たちの力になっている。

この世界に生まれ変わって、彼らと出会えて本当に良かった。

そして、今回出会った不思議な女の子、メイアとも。

翼の脳裏からは彼女のことが離れずにいた。

 




いかがでしたでしょうか。
ようやく二人を絡ませることが出来た…
ラグナロクの試合を見るにメイアはパーフェクトカスケイドとの戦いを経てミキシマックスしたみんなやムゲン牢獄で修行後のアルファたちよりもワンランクは上の力はあると思う(そもそもラスボスチームのNo.2だし)ので、雷門やプロトコル・オメガよりかなり強いんだろうなと思います。

化身の制御に関してですが、なにごとも一度失敗すると思うように力をだせないということはよくある事でそれは意識の問題ということが多いです。その手の問題はきっかけさえあれば案外簡単に解決したりもするものですがそのきっかけを与えるのが難しいことが多いですね。

それにしてもメイア可愛いし勝手に話し出してくれて助かります。もっと絡ませたいよ~。

次回からは覇者の聖典編ですがその後からが本番なのでさっくり目に行きたいですね。
あと日常パートも挟みたいな。

感想、ご指摘あれば是非お願いします。


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覇者の聖典と円堂大介

こんにちは。
少し私生活の方に少し変化がありストレスな日々と格闘しています。投稿頻度は維持したいと思いますが時間の関係と展開を考えるのに戦国編以降の構想で苦戦しそうでもしかすると頻度が落ちるかもしれません。落とさないよう頑張りたいと思います。

今回から覇者の聖典編ですがここはさっくり目に行くつもりです。ロボットとの試合などはあってもなくても大筋には影響はないですしね。

それでは。


 

突然だが、俺たちは200年後の未来に来ている。

「ハッキング完了!みんな準備はいいか?」

「うん!」

「よしそれでは突入!覇者の聖典は第三展示室だ!」

 

なぜこうなったかというと少し時間は戻る。

俺たちが雷門中に戻るとサッカー棟の取り壊し工事が始まろうとしていた。

サッカー禁止令の影響が徐々に大きくなっている。早く何とかしないと歴史が定着してしまう。

けど、化身アームドが使えるのは天馬だけの現状、プロトコル・オメガ2.0に対抗するにはまだ足りない。

そんな状況を打破するために未来の世界に伝説のサッカープレイヤーとして伝えられるマスターDという人物が残した最強のサッカーチームが書かれているとされる覇者の聖典を手に入れようという事になった。

 

そうして覇者の聖典が展示されている200年後のサッカー記念博物館に潜入しようとしているのだった。

『そこを左に進んで真っ直ぐだ。』

「了解。」

ワンダバの誘導に従い進んでいく俺たち。途中、ロックされた扉がいくつかあるもフェイが解除してくれた。

「あれ?ダメだ。ここはセキュリティコードが違うみたいだ。どうするワンダバ?」

しかし、第三展示室に続く扉がセキュリティコードがほかとは違うらしい。

『その上のダクトを使って進むんだ。進んだ先に非常用のスイッチがあるはずだ。』

「了解。」

指示に従いダクトを通った先には吹き抜けになっており落ちたらひとたまりもなさそうだ。

「これはやばそうぜよ。」

「けど、ここを通るしかない。」

「けど、どうしたら…」

「あそこのはしごを使おう。みんなの力を合わせれば届くはずだ。」

神童先輩が少し高いところにあるはしごを指差す。確かにうまくやれば届きそうだ。

ガタイのいい錦先輩、剣城、俺が土台になりその上に神童先輩、フェイ、天馬が乗り、一番軽くジャンプ力のある信介がはしごを掴み引き下ろす。

肝を冷やしながらも難所をくぐり抜け無事第三展示室にたどり着く。

 

「あった!あれが覇者の祭典だ!」

部屋の最奥部に赤外線センサーとバリアに覆われた覇者の聖典があった。

「よし、バリアを解除するよ。」

フェイが手元のデバイスを操作し、バリアを解除する。

しかし赤外線センサーは解除されなかった。

「そんな、センサーは別なのか!?どうする、早くしないと警備が…」

早くしないと警備に気づかれるとめんどくさい事になる。

みんなが焦っている中、天馬が

「これなら行ける。俺がとってきます!」

センサーに向かって走り出した。

「無茶だ!」

神童先輩が止めようとするも天馬は突っ込む。

すると天馬はセンサーの間を縫うようにどんどん進んでいく。まるでセンサーを敵に見立ててドリブルで抜いていくように。

そして、そのまま覇者の祭典を手にし折り返してくる。

「しまった!」

しかしもう少しで戻って来れるというところで天馬がバランスを崩し覇者の聖典を手放してしまう。

「おっと!危なかった~」

聖典にセンサーが触れるギリギリのところなんとか俺がキャッチすることに成功した。

「ナイス翼!助かったよ!」

「天馬こそ流石だな!」

「早く脱出しよう!」

 

そのまま警備に気づかれず脱出することに成功した。

「みんなご苦労!騒ぎになる前に早く撤退するぞ!」

そして俺たちの時代に帰還した。

 

 

雷門が200年後の未来から帰還するその少し前。

メイアも200年後の未来に帰ってきていた。

「ただいま。SARU、ギリス。」

「あれ、休暇はもういいのかいメイア?行動を起こすにはまだまだ時間があるけど。」

思ったより早く帰ってきたメイアに思わずSARUが聞く。

「いいえ、またすぐに過去に飛ぶわ。ただ彼らもこの時代に来たみたいだから、ちょうど良いタイミングだし一回戻ってきたの。」

メイアは翼たちが200年後の未来にタイムジャンプしたのを知り、一度フェーダのアジトに帰ってきたのだった。

「なるほど。それで?どうだったんだい?200年前の時代と人たちは。」

ギリスが土産話は無いのかとばかりに催促する。

「なかなか面白かったわよ。この時代にはないものも沢山あったし、私達のルーツになるような施設もあったわ。」

「へえ~それは面白いね。」

「ええ。それに200年前の服とかはこの時代には無い可愛いものも結構あったし見てて楽しかったわ♪」

メイアはとても楽しそうに話す。

「土産話もいいけど、お願いしていたフェイの様子はどうだったんだい?」

そんな中SARUが話題を放り込む。

「やっぱり、力を封じている今の状態じゃ苦戦してるわね。エルドラド側の介入で人数も足りてないからデュプリも出しているし。」

過去で見たそのままの感想を報告するメイア。

「なるほどね。雷門の方はどうだい?」

「正直今のままでは厳しいわね。化身アームドを使えるのが松風天馬一人の現状、まだまだプロトコル・オメガを倒すには足りないわね。」

「やっぱりそうか…しっかりしてもらいたいものだね。僕たちのためにも。」

「あ、でも面白い子はいたわよ♪」

「面白い子?」

メイアの口から楽しそうに200年前の人間のことを話し、怪訝に思うギリス。

「ええ。化身アームドどころか化身もコントロールできていないのに、松風天馬と並んで実力はエルドラドにも匹敵するの。それに彼の化身は化身アームドにも劣らないパワーを秘めていたわ。それにとても面白そうな人なの♪」

「へえ、そんな人がいたんだ。」

「ええ。ただ、このままじゃ厳しそうだったから少し接触して化身のコントロールのきっかけを作ってあげたわ。」

「メイアがそんなにも興味を持つなんて珍しいね。」

「そうかしら?ま、興味深い存在だしこれからも接触するつもりよ。」

「ま、どんな人だろうと僕たちのためになるならそれでいいよ。じゃあ、フェイと雷門の監視とサポートは引き続きお願いしていいかい?」

「ええ。あ、言っておくけど休暇がメインなんだから。そこのとこ忘れないでよね!」

念押しするようにメイアが言う。

「分かってるよ。」

「それじゃ、今夜休んだらまた過去に飛ぶわ。」

そう言い残しメイアは自室へ向かうのだった。

 

現代 木枯らし荘 天馬の部屋

 

「う~ん……」

「これは…」

「全く読めんぜよ…」

なんとか覇者の聖典を盗み出すことに成功した俺たちは天馬の部屋で解読を試みている。

「そもそもこれは本当に字なのか?」

しかしそこに書かれていたのは文字かどうかすら分からない暗号のようなものだった。

かれこれ1時間ほど経過しているが解読の糸口すら掴めないでいる。

「ここには最強の11人に関することが書かれているはずなんだ。サッカーを取り戻すためにもなんとか解読しないと…」

 

「けど、マスターDって一体どんな人なんだろう?」

信介がふと呟く。確かに、未来にもマスターDの正体は伝わってないのだろうか。

「いつの時代の人なんだろう?」

「このノート、今の時代のもの。」

「そうじゃ!読めんのなら本人に読んでもらえばいいんじゃ!」

「だから、それが誰か分からないと話にならないだろ!」

ごもっともである。

 

「解読できた?」

「差し入れよ。」

そんなやり取りをしていると秋ねえと音無先生が部屋に入ってきた。

「ありがとう秋ねえ。」

天馬がノートを閉じ答える。するとその表紙を見た音無先生が何かに気づいた。

「え、それは…」

「どうしたんですか?」

「この字、円堂監督が昔持ってたノートと同じ字よ。」

「え!?ていうことはこれは円堂監督の字?」

「いいえ、これは円堂監督のおじいさんの字よ。」

「円堂くんはおじいさんの残したノートを大切に持っていたの。そこに書かれた教えを基に特訓していたの。」

思わぬところから答えがもたらされた。

「それじゃあこれも円堂監督のおじいさんが…」

「うん。大介さんのものだと思うわ。」

「てことはフェイたちの言うマスターDのDって」

「円堂大介のD…」

「それがサッカーの神様、マスターDの正体…」

「大介さんのノートかぁ。懐かしいな~」

秋ねえが当時のことを思い浮かべ懐かしそうに言う。

「大介さんの字を読めるのは円堂監督だけよ。」

「それじゃあ円堂監督に読んでもらえば!」

そうだ、いずれかの時代の円堂監督のもとに行けば読んでもらえるじゃないか!

「円堂監督に会うのは厳しいと思うよ。」

しかし、その希望はフェイの一言で絶たれる。

「円堂監督が封印された今、どの時代の円堂監督も厳重に監視されているはずだ。接触するのは困難だと思う。」

「そんな…」

また振り出しか。

 

「なら大介さん本人のもとに行けばいいんじゃないか?」

神童先輩が提案するも今度は音無先生が

「大介さんはもう亡くなってるわ…」

クソ。これじゃ八方塞がりか。みんなにそんな暗い空気が流れ始めたときワンダバが口を開いた。

「いや、行ける!円堂大介が無くなる前の時間にタイムジャンプするんだ!」

「その手があった!…あ、でもアーティファクトはどうしよう…」

「それならこの覇者の聖典があるじゃないか。」

剣城が言う。

「うむ、問題ないだろう。」

「よーし!それじゃあ早速行こう!」

 

急いでしたくを済ませ木枯らし荘をでると鬼道さんがやってきた。

「鬼道さん?」

「豪炎寺から話は聞いた。円堂を蘇らせるために、俺にも協力させてくれ」

「豪炎寺さんもいろいろ動いてくれてるんだ!鬼道さんよろしくお願いします!」

これまで俺たちだけで動いていたが、鬼道さんが加わってくれるのは心強い。

鬼道さんを加え俺たちは大介さんの元へと向かった。

 

 

「ついたぞ!みんな。」

時間を超え、たどり着いたそこはどこかの南国だった。

「ここはどうやらトンガットル共和国というところらしいな。円堂大介はここの病院に入院しているらしい。」

「あ、見てよ!サッカーやってるよ!」

信介が指さしたそこには島の子供たちが楽しそうにサッカーをしていた。

「久しぶりに見るな。あんなにも楽しそうにサッカーをする子供たちは…」

「ええ。だから、早くサッカーを取り戻さないと。」

楽しそうにサッカーをする子供たちを見て、改めてサッカーを取り戻さなきゃならないと再確認した。

 

 

「待たせたな。大介さんは2階の病室らしい。ここは唯一面識のある俺が行こう。」

「分かりました。お願いします。」

そういって鬼道さんに大介さんとのコンタクトをお願いした。

 

「円堂監督のおじいさん、最強の11人のこと教えてくれるかな?

「分からない。けど、ノートにしてまで残したんだ。大介さんもその11人を夢見て実現させてみたいはずだ。」

天馬とそんな話をしていると鬼道さんが戻ってきた。

 

「鬼道さん!どうでしたか?」

そう問うも鬼道さんは首を横に振る。

「内容は教えてもらえなかった。サッカーにおける強さとは結果にすぎず、過程こそが大事だと。円堂のことも信じてもらえなかった。」

「そんな…」

「ここまで来て教えてもらえないとは思わなかったぜよ。」

「どうする、このままじゃ手詰まりだぞ…」

ここまで来て教えてもらえないとは。どうすれば…

「ん?葵?」

みんながこれからどうするか考えていると葵が病院に戻っていくのが見え、追いかける。

 

 

大介さんの病室の前につくと葵は大介さんと話していた。

「信じてもらえないかもしれないですけど、私たちは今から少しだけ未来からやってきたんです!」

「未来?何をバカなことを言っておる。」

「嘘じゃないんです!円堂監督は言ってました。監督にとって一番大事なことはチームを守ることだって。」

「なんじゃと?なんでそれを…」

葵は大介さんに自分たちのことを打ち明け、必死に説得していた。

「円堂監督は私達がゼロっていうすごく強いチームと戦った時も必死に私たちを守ってくれたんです!そんな円堂監督の意思を継いで雷門のみんなはチームを守ろうとしてます!」

「葵…」

大介さんに真正面から必死に思いをぶつける葵を見て俺は部屋に入っていくことが出来なかった。

「お願いします!このノートの内容を教えてください!私たち、円堂監督もサッカーも失いたくないんです!」

 

 

「……はっはっはっは!葵と言ったな、いいだろう教えてやろう!わしがこのノートに書いた最強の11人について。」

「本当ですか!」

「ああ!だが、この11人が集まることは絶対にない。なぜならこれはわしが思い描いた、最後の夢なのだから。行こう!まずはみんなと話がしたい。」

葵の真っ直ぐな想いが大介さんの心を動かしたのだった。

 

 

「あ、翼。どうしてここに?」

「葵がこっちに来るのを見て追ってきたんだ。それにしても葵、お手柄だな。」

「そんなことないよ。私は素直に気持ちをぶつけただけだもん。さ、みんなのとこに戻ろう。大介さんは後から来るって。」

「ああ。」

 

病院からグラウンドに戻ってきたらそこにはなんとプロトコル・オメガ2.0がいた。

「みんな!」

「翼!」

「くそ、気づかれていたのか…」

「やっぱり、やるしかないか。鬼道さん、監督をお願いします。」

「分かった。」

 

 

そして試合が始まった。

プロトコル・オメガのキックオフで試合が始まる。

「レイザ!」

「エイナム!」

前回も来たA5の面々を中心に上がっていくプロトコル・オメガ

「シュートコマンド06!」

「エクセレントブレスト!うあああ」

あっというまにゴールを決められてしまった。

前回勝ったとはいえやはり強い。けど、今のあいつらの連携…

 

「やられっぱなしでたまるか!今度はこっちの番だ!」

「ああ!フェイ!」

「ナイスパス!こっちも化身アームドだ、天馬!」

「魔神ペガサスアーク!」

反撃とばかりにこちらも天馬にボールを回す。

だが化身アームドを身につけた天馬はやはり向こうも警戒していることもありダブルチームを受けて思うように動けない。

「くそっ。アームド!!」

それでも無理やり化身アームドを試みる天馬だったっが

「あ…」

やはり無理な状況でやるにはまだ練習が足りないらしく化身アームドに失敗する。

 

「クォース!」

そして、プロトコル・オメガのカウンターが始まった。

「エイナム!」

エイナムにボールが渡る。

「させるか!」

やっぱり、あいつらA5とベータの関係性はあまりよくないらしい。俺はすぐにエイナムにプレッシャーをかけるために飛ぶ。

だがその後ろからベータが走り込んできた。

「私もシュートしたいの。いいでしょ?」

ベータは仲間のはずのエイナムからなかば無理やりボールを奪っていった。

「しまった!」

結果的にベータをフリーにさせてしまった。

 

「化身アームドはこうやるの。来い!虚空の女神アテナ、アームド!!」

「シュートコマンド07!!」

そしてベータの必殺シュートが放たれゴールに突き刺さる。

 

「そんな…」

「ここで前半終了!」

前半だけで2点差。

「このままじゃノートを解読する前にやられちゃうよ…」

みんな今度も勝てないのか?そんな暗い気持ちに支配されかける。

 

「なにをそんな暗い顔をしておる!顔を上げんか!」

輪の外から声が聞こえそちらを向くと大介さんがいた。

 

「おじいちゃん!」

「みんないい目をしておる…。よし!この試合、儂が監督をする!」

「「「ええええ!?」」

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
アニメの2話分をぎゅっと圧縮した形になりました。
ここで浮いた分はオリジナルエピソードとか挟みたいなと思ってます。

葵、ええ子や

感想、ご指摘あればお願いします。


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クロノストーン

今回でトンガットル編は終わりです。
かなり圧縮したけど試合描写はやっぱり長くなりがちですね。

それでは。


 

「この試合、儂が監督になる!!」

「えええええ!?」

大介さんの突然の申し出にみんなして声をあげる。

 

「最強の11人のことを教えに来てくれたんじゃないの?

「今その話は後じゃ。まずはこの試合に勝つぞ。勝利への鍵は…3Dじゃ!!」

大介さんが大きな声で発した。

 

試合再開

 

「3D、普通に考えれば三次元のことだけど…」

各々大介さんのアドバイスの意味を自分なりに考えている。

「地上だけじゃなく空も使うということか…?」

「ドリブルのことかも」

「三人でディフェンスをしろってことかな?」

しかし、その意味に気をとられプレーに集中しきれていない。

 

そんななか剣城にボールが渡る。

「3D…飛び出すもの…まさか化身のことか?」

剣城は化身が鍵と思ったのか自分の考えを行動に移そうとする。

「剣聖ランスロット!アームド!!」

そして剣城は化身アームドを試みた。

しかし

「くそっ、ダメか。」

化身アームドは失敗に終わる。

 

「ほう、化身と一つになるつもりか。ハハ、面白い。」

大介は初めて見る試みに笑みをこぼす。

 

「早く3Dの答えを見つけないと。」

フェイがドリブルで上がって行くもやはり天馬には厳しいマークがついていてパスが出せない。それを見た錦先輩がフォローに上がる。

「ワシに任せるぜよ!大胆に!ドーンと!出たとこ勝負!!頭文字にDが三つで3Dじゃ!」

そんなまさか…錦先輩らしいっちゃらしいが…

「おろ?」

しかし錦先輩が珍しくトラップミスをしあらぬ方向にボールが飛んでいく。

その時、エルドラドのDF陣の動きが固まる。

「今だ!天馬!」

「おう!」

それに気づいた天馬ととっさに連携をとる。しかしアドリブのプレーだったため失敗に終わる。けど

 

「今の…」

「ああ。奴らの反応が遅れた…ボールが想定外の動きをしたからか…もしかして!」

「ああ!みんな!バラバラの点と点を繋ぐんだ!」

鬼道さんも大介さんの真意に気づいたらしく指示をくれる。

 

試合再開

 

「レイザ!」

プロトコル・オメガのリスタートで試合が始まり、レイザが切り込んでくる。

俺たちは中央にあえてスペースを空ける。レイザもこちらが何かを狙っていることには気づいたらしく攻めあぐねている。

「もらった!」

隙をついて神童さんがボールを奪った。

 

「行くぞ!」

神童さんがボールを高く上げ、ジャンプ力に優れる信介を中心に立体的にパスを回す。

初めて見る変則的なパスワークにプロトコル・オメガの守備が乱れ始める。

「今だ!天馬!」

そしてついに天馬のマークに決定的な隙が生まれた。

「魔神ペガサスアーク!アームド!!うおりゃああ!!」

今度こそ化身アームドが成功しシュートが決まった。

「やったー!!」

大介さんは天馬なら奴らから点をとれると見抜いていてその天馬を活かすためにあの指示を出したのか。

ついに点が入りみんなの間にいけるという雰囲気が流れる。

 

「新たな必殺タクティクスへのヒントだったんですね。」

「お前さんたちが見つけたものが答えだ。あやつらは強敵を前に萎縮し思うように力を出せずにいた。助言なんぞなんでもいい。自信を持って突き進む、その勢いをもたらせればな!」

 

そこから雷門は勢いに乗り、プロトコル・オメガには動揺が現れていた。

「しまった!」

エイナムがパスミスし、フェイにボールが渡る。

「ミキシトランス、ティラノ!」

すかさずフェイがミキシマックスし攻め上がる。

「古代の牙!!」

フェイの必殺シュートが決まり追いついた。デュプリを出しながらでは負担が大きいが短時間ならフェイもミキシマックスの力で点を狙えるんだ!

 

 

そこから試合が更に白熱していく。プロトコル・オメガは天馬とフェイの二人を重点的にマークしてきた。やはり攻め手があの二人だけだと少し苦しいか。

だがその分向こうの攻撃に参加できる人数も少なくなっている。

(なら、最後はおそらく…)

 

「リーダー!」

エイナムがベータにクロスをあげる。

「よし!虚空の女神アテナ!アームド!!」

「読み通りだ!シュートは打たせるか!」

やはり最後は確実性が高いベータに回してきた。読んでいた俺は早めにマークに付き、

「破壊神デスロス!!破壊弾幕!!」

「何!?」

ベータが必殺シュートに入る前に止めることに成功した。

あのシュートは一度打たれたら止めることはまだ難しいかもしれないがその前なら化身を制御できるようになった今なら止められる。

 

「ナイス翼!完全に化身を制御出来るようになったんだね!」

「よし!ベータを止めたぞ!」

「剣城!」

その勢いのまま中盤から前線の剣城にボールが渡る。

天馬とフェイがマークされている今、剣城に任せるしかない。

 

「おい!そこのトンガリ!どうにもならんのなら化身を食ってしまえ!」

大介さんから剣城に声がかけられる。

 

「剣聖ランスロット」

(そうか、俺はこれまで化身を鎧として纏うことばかり意識していた。そうじゃなく、化身と内側から一つになればいいんだ!)

「アームド!!」

何かに気づいた剣城は見事化身アームドに成功した。

「剣城も化身アームドを!」

「うおおりゃ!!」

そして化身アームドした剣城のシュートが決まりついに勝ち越した。

「やったーー!!」

この終盤についに勝ち越しに成功した。、

 

「ふざけんじゃねえ!エイナム、ここからは俺に任せな。」

ベータがブチギレた。何か嫌な予感がする。

 

 

「プロトコル・オメガ2.0のキックオフで試合再開!」

「ゴーストミキシマックス!!!」

試合再開と同時にベータの体から他のメンバーにオーラが飛び散る。

「ぶっつぶせ!」

ベータの合図と同時に奴らが攻め上がってくる。

しかし、その力はこれまでの比じゃなかった。

 

「これはまさか!?」

「ベータの力を分け与えたのか」

そこからは強化されたメンバーが雷門の守備を次々に崩してきた。

「くそっ、これじゃあ誰を止めたらいいんだ!?」

 

「リーダー!」

「来い、虚空の女神アテナ!アームド!!

「しまった!」

あまりの攻め手の激しさにベータをフリーにしてしまった。

「シュートコマンド07!!」

「護星神タイタニアス…うわああああああ」

信介がブロックに入るも吹き飛ばされゴールを決められてしまう。

「俺たちに勝てるはずないだろ」

 

そこからも奴らの攻撃は止まらず、逆転を許してしまった。

「ここで試合終了!!」

またしても俺たちは勝てなかった…

 

 

「自分たちの無力さを思い知ったか。」

「くそっ…」

うなだれる俺たちを尻目にベータはスフィアデバイスを取り出す。

「マスター!あんたは、消えな!」

そして円堂監督を封印したあの光が大介さんを襲う。

「ぬおっ!なんじゃこれは!?」

「まずい、このままじゃマスターDが封印されてしまう!」

クソっ、まだ最強の11人のことを聞いていないのに!

 

「なんの!はああああああ!」

しかし大介さんは封印の光に抵抗する。

大介さんの周りにオーラが出現し封印の光とせめぎ合う。

「ぬううううううう…むおっ!?」

互いに拮抗した力比べが続き突如強い光が発せられ、そこにいた全員の目がくらむ。

目を開けたそこには

 

 

石になった大介さんの姿があった。

 

「大介さんが石に…」

「ふん。これでサッカーも終わりだな。」

衝撃で弾かれた覇者の聖典をベータが回収し奴らは撤退してしまった。

 

「これは…クロノストーン現象…」

「クロノストーン現象?」

フェイがまた聞きなれない単語を口にし、聞き返す。

「有無!極めて珍しいがの!」

「アルノ博士!!」

またいきなり現れたぞこの博士。

「封印しようとする力と封印されまいとする円堂大介の精神力が激しくぶつかりあい、弾きあったことで時空の矛盾点となった彼の存在は圧縮され、クロノストーンという石になったのじゃ!!」

「人が石に!?早く戻さなきゃ!アルノ博士、ってあれ?」

またもや忽然と消えたアルノ博士。

「また肝心な時に消えやがって!」

水鳥先輩が腹立たしげに声を上げると

 

「まったくじゃな。無責任な博士じゃ!」

「うわああああ!?」

「これ、年寄りは丁重に扱わんか!」

石が喋りだし、宙に浮く。

「喋れるんですか!?」

「うむ。変な感じじゃがな。」

「これもマスターDの精神力の成せる技か…」

おもわず唸るワンダバ。確かにとんでもない人だな。

 

「とりあえず、元に戻すにはプロトコル・オメガを倒さなきゃ。」

「うん。だからお願いします。教えてください、最強の11人のことを!」

やはりプロトコル・オメガを倒すしかない。再認識した俺たちは大介さんに最強の11人のことを聞く。

「ああ、教えてもいいがこれは儂がサッカーに描いた究極の夢だ。なにしろこの11人が集めるのは絶対に不可能なメンバーだからな。それでも聞きたいか?」

「「「はい。」」」

俺たちの希望はこれしかないんだ。例え不可能だとしても聞きたかった。

 

「よかろう。まず」

「1の力!人を見抜き大局を見抜く、静と動を併せ持つ「真実のゲームメーカー」

2の力!仲間の勇気を奮い立たせ、鉄壁の守りに変える「カリスマディフェンダー」

3の力!未来をも見通す状況推理能力で敵の急所を突く、「正確無比のミッドフィルダー」

4の力!大国を治める力、強靭な行動力と実行力を持つ、「鉄壁のキーパー」

5の力!海のように広い心で攻守を繋ぐ架け橋となる、「スーパートリッキーミッドフィルダー」

6の力!稲妻のように素早く斬り込む速さ、「電光石火のスピードストライカー」

7の力!自由自在に空間を活かし空を制する、「フライングディフェンダー」

8の力!太古の力を宿し、その牙の力は海をも割る「ダイナミックミッドフィルダー」

9の力!野獣の獰猛さと賢者の頭脳を持つ、「ファンタジックリベロ」

10の力!絶対的な勇気と揺るぎない実行力で、大地をも味方にする「キングオブミッドフィルダー」

11の力!灼熱の熱風と激震する雷鳴の力で全てを貫く、「オールラウンドプレイヤー」

以上が儂が思い描いた最強の11人じゃ」

 

 

「まるで内容そのものが暗号のようだ」

確かにこれにあてはまるプレイヤーなんているのか?

「なにかヒントになるような物はないんですか?」

「そうじゃの~・・・1の力は、そう!信長じゃ!織田信長なら1の力にふさわしい!」

「「「織田信長!?」」」

想像もしなかった名前に一同驚きの声をあげる。

 

「織田信長ってあの戦国時代の武将の?」

「確かに織田信長は大胆かつ繊細な戦略を操った最強の武将だ。」

「うむ、信長の能力をサッカーに注げば間違いなく最強の11人の一人になる。」

「信長を過去から連れてきてサッカーやらせろってのか!?そんなの無理だろ!」

水鳥先輩が至極まっとうなツッコミを入れる。

「だから言ったじゃろう。この11人が集まることは絶対にないと。」

「そんな…」

ここに来てまた暗礁に乗り上げ暗くなるみんな。

 

「できるよ。」

そんな空気のなかフェイが切り出す。

「え?」

「ミキシマックスガンがあればできる。本人たちに直接会いに行って力をもらうんだ!」

「何!?本当にできるのか!?」

「そうか!彼らとミキシマックスすれば俺たち自身が時空最強の11人になれる!」

「行けますよ!なんとかなります!」

「久しぶりに聞いたな、天馬のそのセリフ。」

天馬の代名詞が飛び出しみんなの表情にまた明るさが戻った。

「よーし!時空をこえて、絶対に集められない11人を集めてやろうじゃないか!」 

「なるほどの。確かにお前さんたちならそれができる。時空最強が実現するのか。くぅ~ワクワクしてきたの!」

大介さんが長年の夢が叶うと知り嬉しそうに声をあげる。

確かに、絶対にありえない最強の偉人たちの力を借り、時空最強の11人を目指すなんてワクワクしないはずがない。俺だってその11人の中に加わってみせる!

 

 

「よし、やろう!みんな!」

「うむ、まずは1の力、信長の時代に行くぞ!」

「そうと決まれば信長にまつわるアーティファクトを探すのだ!!」

 

 

こうして時空最強を目指す俺たちの旅が始まった。

 

 




はい、というわけでここからようやくクロノストーンの本筋とも言える時空最強イレブン探しが始まります。
翼のミキシマックスに関しては一応それっぽいことは考えていますが今後の展開や気分で変わるかもしれません。
どこかでアンケートで決めるかも?




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戦国時代編
翼とメイア、現代の稲妻町にて


今回は翼とメイアがデートっぽいことになります。といってもこれまでとこれからのことを話したりしているだけですがそれっぽい雰囲気が出せたらいいなぁ。

おかげさまでお気に入り登録が100件に到達いたしました。正直なんとなくで始めたことなのでこの短期間でここまで評価されるとは思っても見ませんでした。
今後もこれをモチベーションに頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。


 

現代 稲妻町

 

「ふぅ、戻ってきたわね。やっぱり私たちの時代に比べて空が綺麗ね。」

メイアは自分の時代で一日休んだ後、天馬たちの時代に戻ってきていた。

「彼らは私たちの時代に来てたみたいだけど、あれからどうしてたのかしら。この時代に戻って来てるようだけど。」

メイアは彼女が休んでいた間のことは知らず、その間に雷門が何をしていたのか気になる様子だった。

「ま、次に見かけたときの楽しみにしておきましょう。さ~て、今日は何して過ごそうかしら♪」

雷門のことは頭の片隅にやりつつ、メイアはまた過去の時代を満喫しようと町に繰り出していくのだった。

 

 

一方、雷門のメンバーは各々織田信長にまつわるアーティファクトを手分けして探していた。

全員で探すより、誰かひとりでも見つかればいいと考えた結果だった。

天馬、信介、葵は学校の図書室を、神童は自宅の書斎など、それぞれが思い思いのところを探していた。

 

そんな中、翼は町内の書店や図書館をはしごしていた。

「織田信長本人にまつわるものったってそんなもん簡単に見つかるわけないよなぁ。」

織田信長の時代の古書などが置いてないかと古書店などにも足を運ぶも全て空振り。

「織田信長 尾張の国に生まれ、幼少の頃より破天荒なさまからうつけ者と呼ばれ、天下統一を目指すも1582年、本能寺の変にて討たれる。…ねぇ」

翼は前世から勉学の方はあまり良くなく、歴史の授業で学ぶぐらいの知識がギリギリあるかないかといった具合だ。

「こんなんなら誰かと一緒に探したほうが良かったかなぁ~。一体どこを探せばいいのやら。」

自分のお馬鹿さを嘆きながら町を歩いていると背後から声がかかった。

「おーい翼!どうしたの?こんなところで。」

名前を呼ばれ振り向いた先にはゴッドエデンで出会い、自分の化身を制御するきっかけをくれた少女、メイアがいた。

 

 

翼と出会う少し前、メイアは稲妻町の町並みを気の向くままに歩いていた。

河川敷では子供たちが駆け回り、遊んでいた。あいにくサッカーはサッカー禁止令の影響ですることは出来ないがそれでも河川敷は小学生たちの遊び場にはうってつけだった。

「こんな河川敷なんて私たちの時代ではもう殆ど見かけないわね。」

技術の進化が進んだ200年後の未来ではこのような自然を感じるような遊び場はあまり見られない。ましてやメイアはセカンドステージチルドレンである。友人とあんな風に駆け回った経験などほとんど無かった。

「昔はギリスと遊んだりもしたけど、フェーダに入ってからはそんなことも無くなったわね。」

数少ない幼少期の記憶を思い出しながら懐かしげに呟く。

 

そのまま河川敷を抜け、商店街に入る。

「車は地面を走っているし、町並みも全然違う。不便なことも多いけどここではそれが普通なのよね。」

ここでも自分たちの時代との違いを比べる。

「車は少ないけど人は多い。こういうのもたまにはいいわね。って、あら?あれは…」

都会に暮らす人間が田舎に来た時に感じるような感覚を抱きながら歩いているとなにやら見覚えのある赤い髪の少年の姿が見えた。その後ろ姿は普段とは違いなにやら途方にくれたような雰囲気を醸し出していた。

「間違いないわ。どうやら一人らしいし丁度いいわ♪」

この時代でも特に自分の興味をそそる男の姿を見つけ、声をかける。

「おーい翼!どうしたの?こんなところで。」

 

声をかけられ振り向いた先には思いもよらぬ少女が立っていておもわず固まる翼。

「メイア…!?」

「あの時以来ね。今日はどうしたの?」

「どうしたのって…それはこっちのセリフだよ。なんでこの時代に?」

「うーん、仕事を兼ねての観光といったところかしら♪」

「ええ…エルドラドにバレるとまずいんじゃないのか?」

以前あった時、あまり表立って行動することが出来ないと言ってたが…

「歴史に介入しなければ早々感づかれることは無いと思うから大丈夫よ。」

そんなものなのだろうか。

「それより、あれからどうしていたのか聞かせて欲しいわ。どこか喫茶店にでも入ってお話しましょ♪」

「ちょ、ちょっと俺は今やることが…」

「いいからいいから!」

そういって翼の腕を引き近くの喫茶店に向かうメイアだった。

(てか、やっぱり力強いな!?)

 

 

稲妻町内のとある喫茶店

 

「このセットを2つください。」

メイアに連れられて喫茶店に入った翼は何か注文しないわけにもいかずケーキのセットメニューを注文する。

「で、こんなところに連れ込んで何の用だい?」

一息ついたところで言う。

「言ったでしょ?あの島で私と別れてから今に至るまでに何があったのか聞きたいの。」

「何で?」

「前にも言ったように、エルドラドのやろうとしてることは私にとっても無関係じゃないの。だから、エルドラドと戦ってるあなたたちの動向は気になるのよ。あ、あと翼個人のこともね♪」

面と向かってそんなこと言われ少し顔を赤くする翼。そういう意味ではないと分かっていてもメイアに言われるとなぜかむず痒くなる。

 

「まあいいけど。どこから話したもんかな。」

「まず、メイアと別れてすぐにみんなの所に駆けつけたんだが、その時にはもうバトルは終盤だったんだ。それでシュウ…え~と、あの島にいた以前戦ったことがあるサッカー仲間と俺の仲間の天馬がミキシマックス、合体したんだ。」

メイアと分かれてすぐのところから話始める翼。メイアはそれを相槌を打ちながら聞いている。

「シュウの力を借りた天馬は化身アームドを身に付けることが出来たんだ。」

「へ~、彼、出来たんだ。」

「ああ。そのおかげでA5…島に来ていたエルドラドの五人を退けることが出来たんだ。けど、顧問の音無先生って人からサッカー棟が壊されそうだって連絡が来て急いで島に戻ったんだ。」

 

 

ここで注文していたケーキセットが来た。メイアは花が咲いたような笑顔で店員さんから受け取る。やはり女の子は甘いものが好きらしい。

「それから、エルドラドを倒すために君たちの時代にある覇者の聖典ってやつを手に入れるために君たちの時代に行ったんだ。」

お互いケーキをつまみながら話を進める。

「へ~私たちの時代に来てたんだ。覇者の聖典ってあのマスターDが残したっていうあれのこと?」

200年後の未来に生きるメイアも当然、覇者の聖典のことは耳にしたことがあった。

自分たちの時代に来たことは知っていたがあの日はすぐに休んだため、彼らの目的が覇者の聖典だったことは初めて知った。

「うん。覇者の聖典には最強のイレブンについて書かれているらしいってことでエルドラドを倒すのに役立つかもと思ってね。」

「たしか、サッカー記念博物館にあるんだったかしら?」

ここからはメイアの知らない話になるため少し前のめりに話を聞き出す。

「ああ。だから、俺たちは夜の博物館に潜入して盗み出すことにしたんだ。」

「あはは、貴方たちらしいわね!」

大胆な行動に思わず笑うメイア。

 

「…続けるよ。いろいろあったけど無事盗み出すことに成功して俺たちはこの時代に帰ってきて覇者の聖典を解読しようとしたんだ。けど、何を書いてるか全く分からなかくて困ってたんだ。けど、音無先生と俺の住んでる木枯らし荘の管理人の秋ねえが入ってきて。そしたらその文字に心当たりがあったらしかったんだ。」

「へ~、あの誰にも解読出来ないと言われたあの覇者の聖典に?」

「うん。二人は俺たちの監督の円堂監督と中学からの付き合いなんだけど、どうやらその文字は監督のおじいさんの円堂大介さんのものらしいんだ。監督が俺たちくらいのときもそのノートを頼りに特訓してたらしいんだ。」

「へ~すごい偶然もあるものね。なるほど、円堂大介のDでマスターDか。」

「ああ。誰にも解読出来ない暗号の正体はただ滅茶苦茶汚い字だったてわけ。笑っちゃうだろ?」

「あはは♪確かに、それじゃあ頭の固いエルドラドの連中が解読できないわけね。」

「助かり半分、困り半分って感じだな。けど、その文字を読めるのは円堂監督だけらしいんだけど円堂監督は封印されているし、ほかの時代の円堂監督も監視が厳しそうだから接触できそうになかったんだ。だから、大介さんが生きていた時代にとんで本人に読んでもらうことにしたんだ。」

「なるほど。確かにそれしか方法はないわね。」

「ああ。そしてすぐに大介さんが生きていた時間にタイムジャンプしたんだ。」

 

 

 

ここで一旦小休止、ケーキと飲み物に口を付ける。俺はジュース、メイアは紅茶だった。

「ふふ、結構美味しいわね♪」

どうやらお口にあったようだ。

「そういえば未来の食事ってどんなのなんだ?やっぱり一日分の栄養を詰め込んだサプリとかなのか?」

自分の中の未来の食事のイメージを述べる翼。

「まさか、普通に料理が出てくるわよ。一応そういうものもあるけど、やっぱり食事っていうのは娯楽の一つでもあるもの。」

「へ~、なんか意外だな。どんなのなんだろ。この時代のものとは結構違うのか?」

自分の中のイメージを否定され少し残念だが興味はある。

「そこまで大きな違いがあるわけじゃないけど、やっぱり200年の間に新しく生まれたものもあれば、無くなったものはあるみたいね。この時代にきて初めて目にするものも結構あるから新鮮で楽しいわよ!」

メイアは楽しそうに言う。そう言われると興味が沸いてくる。

「いつか食べてみたいな。」

「ええ、そんな時が来たら今度は私がご馳走するわ。」

「楽しみにしてるよ。」

そんな約束をしれっと放り込んでくる。女の子とこうして話ながら食事をするなんて前世でもあまりなかった翼にとってはついつい身構えてしまうも喜ばしいことだった。

「それじゃ、続きを聞かせてくれる?」

「ああ。」

 

 

「大介さんの元にタイムジャンプしたらそこはトンガットル共和国っていう南国の国でそこの病院に入院していたんだ。で、その大介さんに覇者の聖典の内容を教えてくれって頼んだんだけど断られてさ。そしたらマネージャーの葵って子が病室の方に行くからついて行ったら必死に説得してたんだよ。」

「ふーん…」

「どうしたんだ?ムスっとして。」

「別に、何でもないわ。続けて。」

そう、別に何でもない。別に他の女の子の名前が出て来て二人で行動してたことが面白くないわけじゃない。

「?まあいいや。で、葵の説得のおかげで大介さんは俺たちに覇者の聖典の内容を教えてくれることになったんだけど、病室を抜け出そうとしているのが看護師さんにバレたから後から合流することになったから先にみんなのところに戻ったんだ。そしたらプロトコル・オメガの連中が追ってきてたんだ。」

 

「ま、私たちの時代ではエルドラドが意思決定機関だし、覇者の聖典が盗み出されたなんて情報はすぐ伝わるでしょうね。」

「ああ。それで試合になったんだけど…」

「負けちゃったのね。」

「ああ…」

メイアの見立て通り、今の雷門ではプロトコル・オメガ2.0に勝つには足りなかった。

「まあ、勝つにはまだ足りないとは思ってたわ。それより、どんな展開になったの?話してみて。」

「お見通しってことか。うん、それじゃ。」

「ゴッドエデンで天馬は化身アームドを身に付けることが出来たんだけど、その情報は伝わっていてやっぱり天馬は重点的にマークされて思うようにプレーできずに化身アームドも失敗したんだ。その間に失点してしまって前半は2-0で折り返したんだ。けど、向こうもあまりチーム内の関係は良くなさそうだった。」

「なるほど。ま、彼らにも彼らの事情があるんでしょうね。」

 

 

「ああ。それで後半戦の前に大介さんがグラウンドにやってきて監督になるって言い出したんだ。そして再開前に良く分からないアドバイスをくれたんだ。最初はみんなその意味が分からなくて混乱してたんだけど、ふとした瞬間にアドバイスの意味に気づいたんだ。必殺タクティクスのな。」

「松風天馬にボールを回す必殺タクティクスかしら?」

「ああ。それが決まって一点返してそこから勢いに乗って同点まで追いついたんだ。相手の連携がうまくいっていなかったのもあって俺の化身でベータを止めたりもしたんだぜ!」

少し誇らしげに語る翼だった。そんな翼の口ぶりに思わずメイアも笑みをこぼす。

「化身、完全にコントロールできるようになったのね。良かったじゃない。」

「メイアのおかげだよ、本当にありがとう。」

「ふふ、どういたしまして♪」

 

 

「話を戻すね。その勢いのまま今度は剣城が化身アームドに成功したんだ。あいつは化身を出せるようになって長いし、さすがのセンスだよ。そして剣城のシュートで勝ち越したんだけど…」

「そのままは終わらなかったのね。」

「ああ。そこからベータが自分の力をチームメイトに分け与えて強化したんだ。これまでは連携ができていなかったのもあって相手の行動を読めたからベータを止めることができたんだけど、全員が強化されてしまったせいでどうしてもマークが追いつかなくなってそのまま逆転負けしてしまったんだ。」

 

 

「なるほど。それで、そこから何でさっきみたいに町を彷徨っていたの?」

大体の経緯を説明されたメイアが問う。

「試合が終わったあと、あいつらは大介さんを封印しようとしたんだけど大介さんも抵抗したんだ。その結果大介さんが石になってしまったんだ。」

「それってクロノストーン現象?」

「知ってるのか!?…大介さんが石になったのを確認して覇者の聖典を回収して帰っていったんだけど、大介さんは石の状態でも話せたんだよ。」

「クロノストーンになった人間が話せるなんて初めて聞いたわ。流石マスターDってところかしら。」

さすがのメイアもこれには驚いていた。大介さん、本当にすごい人である。

 

 

「それで、覇者の聖典にはなんて記されていたの?本人から聞いたんでしょ?」

「ああ。覇者の聖典には大介さんが考えた時空最強のサッカーチームに必要な力が書かれてたんだ。その内容は良く分からなかったけど、その力を持つのは歴史上の英雄たちらしいんだ。」

「へ~流石マスターD、とんでもないことを考えるわね。」

「本当だよ。それで本人たちにサッカーをやらせる訳にも行かないから直接会いに行って、彼らと俺たちでミキシマックスをすることで俺たち自身が時空最強になろうってなったんだ。」

「なるほど。確かにあなたたちならそれが出来るわね。」

「ああ。俺もワクワクしてるんだ!それで最初のターゲットである織田信長に繋がるアーティファクトを探して町を歩いていたんだ。」

「そういうことだったのね。織田信長か、私も詳しくは知らないけど私たちの時代にも名前は伝わってるわ。よほど凄い人だったのね。」

ようやくここに至るまでの話を語り終えた二人。手元のケーキは全てなくなり、

飲み物もあと少しといったところだ。

 

「それで、アーティファクトは見つかりそうなの?」

「それが全然なんだよ~。みんなで手分けして探すことになったんだけど、俺って馬鹿だから信長のこと全然知らくてどこを探せばいいのやらって感じだ。…っと天馬から電話?」

メイアに目で問いかけ、許しを得て電話に出る。

「もしもし。…いや、俺は全くだ…うん…え、見つかった!?…うん…うん…分かった、すぐに合流する。じゃあまた後で。」

電話の様子から察するにどうやらアーティファクトが手に入ったらしい。

 

「ごめん、メイア。俺、もう行かなきゃ…」

「気にしないで。私が無理やり誘ったんだし、それに聞きたいことも聞けたしね♪」

「ならよかった。それじゃ、また。」

「ちょっと待って。これを渡しておくわ。」

そういってメイアはなにやらフェイが持っているデバイスのようなものを渡してきた。

「これは?」

「それは私たちの時代の携帯電話のような物よ。それがあれば私とメールや電話で連絡を取れるわ。」

「どうしてこれを俺に?」

「それがあれば状況を連絡できるでしょ?それに前にも言ったでしょ、あなたに興味があるからよ♪今日こうして二人で話して楽しかったし、また会いましょう♪」

見惚れるような笑顔でそう言ってくるメイア。

「なるほど、分かった。何かあったらこっちからも連絡させてもらうよ。」

「ええ、待ってるわ♪ちなみにそれを持ってれば私もあなたの居る時代にタイムジャンプしやすくなるの。あと、前と同じで他の皆には内緒にしててね。」

「分かった、約束する。それじゃ!」

そういって二人分の支払いを済ませ翼はみんなの元に向かった。

 

「どうやら化身のコントロールは完璧みたいだし、彼はこれからの戦いもしばらくは心配なさそうね。…それにしても時空最強イレブンか…。私たちには敵わないだろうけど、少しは楽しめるかも知れないわね♪」

最強は自分たちフェーダ。そんな確信めいた自信を抱きながらも、もしかしたら面白い相手になるかもしれない。そんな未来を思い浮かべたメイアは笑みを浮かべながら店を出たのだった。

 

 

「行くぞ!5、4、3、2、1、タイムジャンプ!!」

 

恒例のワンダバの掛け声とともに発進したTMキャラバンがワームホールをでたそこは

 

 

 

「着いたぞ!ここが尾張の国!信長の町だ!!」

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
なんかアニメとかによくある登場人物たちによる総集編みたいになってしまいましたね。いかがなものか…
今度は普通のデートみたいなのも書いてみたいですね。
次回からようやく信長編です。基本は原作沿いでオリジナル要素挟むのが難しそうですがどこかに挟みたいですね。
あと、時空最強イレブン探しの各章でほんの少しずつですが書きたいこともあるので頑張りたいですね。
それでは。


あぁ、俺も女の子と二人で喫茶店に入れるような日常送りてえなぁ


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戦国時代に来たぞ!

一度投稿したのですがとんでもないミスを犯していたため修正し投稿し直しました。
私の脳内ではなぜか秀吉が信長を殺したことになっていました。教養がないなんてもんじゃない・・・
幸い本編に影響が有るほどのものではなかったのですが、一日本人としてあるまじきミスでしたので削除し再投稿させていただきました。
ご指摘いただいた方、本当にありがとうございます。
なんでもするので許してください。


 

「ついたぞ!ここが1554年、尾張国、信長の町だ!!」

 

ワームホールを出たそこは時代劇などで見るような景色そのものだった。

 

「う~ん、なんか空気美味しい~!」

「ねえ!早く町の方に行こうよ!」

信介が我慢できないといった様子で言う。

「けど、この格好じゃ目立つんじゃないか?」

俺たちの格好はあまりにもこの時代にそぐわない。こんな格好で町を歩いたら間違いなく怪しまれる。

「それもそうだ。ならば!ワンダバスイッチ、オン!!」

そういってワンダバが取り出したボタンを押すと俺たちのジャージが着物へと変化する。

「わあ、素敵~」

「錦先輩似合いすぎ~」

「微妙に江戸時代と混同している気もするが…」

口々に感想を漏らすみんな。確かに江戸時代が混じってる気もするがまあ大丈夫だろ。

「フェイも似合ってるな。なんかかわいいぞ。」

「もう、やめてよ翼~」

個人的に俺のお気に入りはフェイだ。フェイのあどけない見た目とうさぎみたいな髪型に垂れた烏帽子がやけに可愛らしい。

「それじゃあ、キャラバンも隠したところで、いざ町へ!」

 

 

「ふわあ~、ここが昔の日本の町か~」

「本当に僕たち戦国時代に来ちゃったんだね!」

町に出るとそこはテレビで見たことがあるような町並みが本当に広がっていた。

木造建築、着物を来た人たち。そんな時代に来たことを実感し皆のテンションが上がる。

特に水鳥先輩は時代劇ファンらしく一番楽しんでいた。

 

「それにしてもどうしたら信長に会えるんだろう?」

「それじゃあ、ここからはそれぞれで情報を集めてみようか。」

フェイの提案にみんな賛成し、それぞれ行動を始める。

俺は天馬、信介、葵と一緒に行く。

 

 

「信長は城下町によく出てきていた人だという。町を歩いていれば何か手がかりが掴めるかも知れない。」

神童は一人で町を歩き、信長の情報を集めていた。

手元の紙に目を向け信長のきそうな場所を考えながら歩いてると

 

パシャッ!

家の前に水まきをしていた女の子に気づかず、着物に水がかかってしまった。

「あ」

「ご、ごめんなさい!すぐに乾かしますので!」

「いえ、自分がよそ見をしてたのが悪いんです。急いでいますので、それでは」

神童は気にせず立ち去ろうとする。しかし、女の子に手を引き止められる。

「ダメです!風邪ひいちゃいます!さ、こちらへ!」

その勢いに押され家の中に引き込まれる。

「あらお勝、友達かい?」

少女の名はお勝と言うらしい。

 

「ごめんなさい、少しだけこれで我慢してください。」

神童の着物を乾かす間、弟のものだという服を着せられた神童だったが、その庶民的かつ丈のあっていないそれは普段の神童を知る人間からすると非常にシュールに映る。親友の霧野や同級生の倉間が見れば爆笑していたことだろう。

 

 

俺たちは信長の手がかりを探しながら歩いていると開けた場所に出た。

するとそこには5人の子供たちがいてボールを蹴って遊んでいた。

「あれってサッカー?」

「この時代にもサッカーがあるんだ!」

天馬が彼らの方に寄っていくので俺たちもついていく。

 

「ねえ、それってサッカー?」

天馬に声をかけられ、子供たちの内の一人が振り向く。

「サッカー?なんだそれ?」

「サッカーのことは知らないみたいだね。」

「これがボールみたいだな。」

「これは俺たちが考えた遊びさ。よその国には蹴鞠っていう似たような遊びがあるらしいぜ。玉も自分たちで作ったんだぜ!」

誇らしげに考える男の子。

すると後ろの他の子供たちから早く続きをやろうという催促の言葉がかかる。

「やりたいんなら混ぜてやってもいいぜ!どうだ?」

「いいの!ありがとう!」

子供たちからお誘いを受け喜んで答える俺たち。

「俺は太助、よろしくな!」

「俺は松風天馬!」「西園信助!」「赤峰翼だ!」

「ちょっと!」

お互い自己紹介を終え、サッカーを始める俺たち。

葵は早く信長を探さないといけないのにのんきにサッカーをしようとする俺たちに少しお怒りの様子だった。

 

 

「お豆腐屋さんなんですね。」

「はい!うちのお豆腐は美味しいんですよ。白くて繊細で、ほんのり甘くて。私もお豆腐作れるんですよ!」

神童とお勝は神童の着物が乾くのを待つ間、家の近くの丘でお互いのことを話していた。

 

「拓人様はこの国の人じゃないんですよね?」

「え?」

おもむろに尋ねられ驚く神童。まさか自分がこの時代の人間じゃないと気づかれたかと不安になる。

「髪の色も違いますし、この国のこともあまり知らない様子だったので。」

「ああ、なるほど。うん、俺たちはこことは全然違うところから来たんだ。」

お勝の疑問は神童の思っていたものとは違い一安心する。

 

「拓人様が以前いた場所はどんな所なんですか?」

「俺の居たところはこれほど綺麗な景色は無かったな。けど、そこには色んな人がいて、大切なものがあったんだ。」

神童は自分たちの時代のあの日々を思い返しながら言う。

親友の霧野や頼りになるサッカー部のみんな。そして、今は奪われてしまった大切なサッカー。

「今は奪われてしまったけど、俺たちはその大切なものを取り戻すためにこの国に来たんだ。」

「大切なもの…そ、その大切なものって、恋人のことですか!?」

「ええ!?」

思っても見なかったことを聞かれ思わず声をあげる神童だった。

 

 

「それ!」

「まかせろ!」

「させるか!」

俺たちはあれから太助たちとサッカーを楽しんでいた。

エルドラドとの戦いやそのための特訓。それらが介在しないただ純粋なサッカーをしたのは本当に久しぶりで楽しかった。天馬と信介も弾けるような笑顔でボールを追いかける。

 

「あ、ごめん。」

信介が加減を誤り、川の方に蹴ってしまう。一番近くにいたおかっぱ頭の少し太った少年、五郎太が取りに行ってくれる。

「全く、何やってんだよ。」

「えへへ、ごめんごめん。」

信介をいじりながら五郎太が帰ってくるのを待つがやけに遅い。

「どうしたんだろ?」

気になりみんなで見に行くと

 

「んんんんんんんん」

なんと五郎太が簀巻きにされて男達に攫われようとしていた・

「人さらいだ!」

太助が言う。この時代にはこんなことがザラにあるのか!?

「助けなきゃ!」

天馬が即座に駆け出す。こんな時でも揺るがず直ぐに行動に移せる実行力。天馬は初めて会った時からそうだった。

しかし、最初から距離をつけられたせいで中々追いつけない。

ふと足元を見やるとボールがあった。

「天馬、これを!」

俺は天馬にボールを渡す。

「分かった!いっけぇぇ!」

天馬は男たちに向かって思い切りボールを蹴り、そのボールを背後から受けた連中は倒れ五郎太は解放された。

 

「ナイス天馬!」

五郎太が俺たちの方に駆け寄ってきて一息ついていると

「おめーら、大人を怒らせるとどうなるか教えてやるぞ。」

「おめーら全員まとめて攫ってやるよ!」

なんと男たちが刃物を構えてきた。

おい、流石に刃物はやばいだろ!!

全員刃物を出され思わず体が固まってしまう。

 

「お役人さん!こっちです!早く!」

もうダメかと思ったその時川原の上から役人を連れてきたような男の声が聞こえる。

「な、何!?ずらかるぞ!」

役人の名を聞きまずいと思い男たちは退散していった。

「危なかったの~。全く、お前たち無茶じゃぞ。」

上から声がかけられそちらを向くと一人の青年がいた。どうやら彼が助けてくれたらしい。

「ありがとうございます。」

「おう!あいつらは白鹿組じゃ。子供をさらって他所の国に売り飛ばしてるという噂も聞く。気をつけろよ。」

「ひどい!なんでそんなことを…」

「今はどこの国も戦で人手不足じゃからのう。子供を兵士に育て上げようとしとるんじゃろう。」

俺たちの時代では考えられないようなこともここではよくあることなのかも知れない。これが戦国時代…

「天馬!何があったんだ!」

そんな話をしていると神童さんと剣城が走ってきた。

「人さらいにあったんです。危ないところをこの人に助けてもらったんです。

え~と…」

事情を説明し彼を紹介しようとしてまだ名前を聞いていないことに気がつく。

「ワシは木下藤吉郎じゃ!」

「え?」

「木下藤吉郎ってどこかで…」

なにやらこの名前にみんな心当たりがあるようだが俺にはさっぱりである。ふん。

「あ!木下藤吉郎って、豊臣秀吉ぃぃ!!!!!??????」

答えにたどり着いた天馬がこぼした名前は流石に俺にもわかった。その人はまさかの、後に信長に仕え天下統一を果たす、豊臣秀吉その人であった。

 

 

「なるほどのぅ。」

「ややこしくてごめんなさい。」

「なぁに、気にするな。お前さんたちにとってそのサッカーちゅうんは好きなもんなんじゃろ。」

「はい!」

俺たちは藤吉郎さんに全てを話した。俺たちが未来から来たこと。サッカーを取り戻すために戦っていること。そのためにこの時代に来たこと。

藤吉郎さんは普通信じられないようなことを多少戸惑いつつも信じてくれた。やはり後に天下を取る人は器が大きいのだろうか。

「好きなもののそばにいるのが一番じゃ。わしも今、好きなもののそばに行くために頑張ってるところじゃ。」

「藤吉郎さんの好きなものってなんなんですか?」

「わしの好きなもの。それは、織田信長様じゃ!」

「え!?」

「信長様は一度お見かけしたことがあるんじゃが、それはもうこの世のものとは思えないほどの覇気を持ったお方じゃった。信長様は世の常識や仕組みを覆し、必ず天下を取られるお方じゃ!わしはそんなの信長様にお仕えし、偉くなるんじゃ!」

藤吉郎さんは信長への憧れと自分の夢を高らかに宣言する。

 

 

藤吉郎さんたちと別れた俺たちはみんなと合流し、ワンダバが見つけてきた根城にいた。

人目につきにくく歴史への影響も少なそうで中も広い、いい家だった。

「そういえば今日、木下藤吉郎って人に会いましたよ。フェイは知ってる?」

「うん。後に豊臣秀吉となる人だよね。」

「未来人のフェイや天馬でさえ知ってたのに俺は…」

「あはは、翼って勉強はからっきしだもんね」

フォローになってない。

「豊臣秀吉といえば信長ですら達成できんかった天下統一を果たした男じゃろう!このさい信長じゃのうて秀吉でもいいんじゃ…」

「馬鹿もん!!!」

錦先輩がそんなことを言ってると大介さんが葵の袖から飛び出してきて叱責する。

「お前たちわかっとらんのう。チーム個人能力ではなく、選手同士の能力が共鳴しあい、高め合ってこそ最高のパフォーマンスが発揮されるものなのじゃ!!個人の力が優れているだけでは意味がない!11人全員の相性が大事なのじゃ。だから儂のいう組み合わせじゃないと絶対、ダメじゃ!!!!」

「わ、分かったぜよ…」

確かに大介さんの言うとおりかも知れない。

 

「そして信長の力を受け取るのは神童拓人、お前じゃ!」

「お、俺ですか!?」

大介さんに指名された神童先輩が言う。

「この姿になってから儂には人の持つ力が手に取るように分かるようになった。ゲームメーカーとして類まれなる能力を持つお前こそがふさわしい。」

「そうですよ。俺たちのゲームメーカーは神童先輩しかいませんよ!」

俺も大介さんに続く。俺たち雷門は天馬がみんなを引っ張り、神童先輩が指揮することで戦ってきた。信長の力を受け取るのは神童先輩しかいないと思う。

「うむ。神童拓人、お前がなるのだ。人を見抜き大局を見抜く、静と動を併せ持つ、真実のゲームメーカー。時空最強イレブンの一人に。」

「…分かりました。やってみます!」

神童先輩が力強く答える。

そしてみんな、明日に備えて眠りに就いた。

 

 

翌日

昨日に引き続きみんなで信長を探していると太助と一人の女の人と遭遇した。

「お勝さん。」

どうやら神童先輩の知り合いらしい。

「よ、天馬。姉ちゃんがお弁当作ってきたぜ!」

「二人は姉弟なんだね。」

こんな偶然もあるんだな。別々に行動して交流を深めた二人が兄弟なんて。

「人探し、頑張ってくださいね。」

「ありがとう。」

ちょっといい感じの雰囲気を醸し出す二人。おやおや、これは~

同じことを感じ取った錦先輩と水鳥先輩がはやし立てる。そういう貴方たちも息ぴったりだけどね。

 

「ん。あれは?」

お勝さんが気配を感じ振り向くと向こうから大人数が馬に乗った男を中心に「信長」の文字が入った旗を掲げながら歩いてきていた。

「あ、あれは…」

「お、織田…」

「信長だ!」

なんと俺たちが探し続けていた織田信長だった。

信長が来たのに気づいた人々は道の脇で頭を下げていた。

「拓人様!」

お勝さんに声をかけられ俺たちも急いで同じことをする。

 

織田信長。確かに藤吉郎さんの言うように、遠目から見ているだけなのに凄い迫力だ。

信長は道の半ばで馬を止めると住民の献上品を受け取り口にした。

「うまい。貴様、面を上げよ。このもち米は良い物だ。今後共精進せよ!

「はい!」

お気に召したらしく住民に賞賛と激励の言葉をかける信長。

 

「甘いものが好きなのかな?なんか意外だな。」

と小声で笑い声を漏らす信介。このお馬鹿!

 

「なんだ貴様たちは。貴様達、この国のものではないようだな。」

信介の笑い声を聞き取った信長が俺たちの方に来る。

「そ。それは…」

「まさか、今川の手のものではあるまいな。」

全員に緊張が走り答えに窮する。すると神童先輩が前に出た。

「そんなことはありません!私たちはただの旅人です!」

信長の目を真っ直ぐに見据え答える神童先輩。

信長はそんな神童先輩の全てを見抜くかのような目で見据える。

「我ながら愚問であった。自ら敵だと名乗る者などおらんか。まあ良い、今日のところは信じよう。その目、曇ってはおらぬようだしな。」

どうやら一応は信じてくれたらしい。危なかった…

 

「ヒヒーーーーン!!!」

その時遠くからけたたましい鳴き声とともに取り乱した馬がこちらに向かって走ってきた。

「このまま突っ込まれると大変なことになるぞ!」

あわてて避難しようとする俺たち。

信長の家臣たちが信長の前に出て守ろうとする。すると信長は馬から降り、家臣たちの前に出る。

「はああああああ!!!!」

なんと信長は気合だけで暴れ馬を止めてしまったのだった。

「暴れ馬ごとき、この織田信長の前では造作もないわ!」

そういって豪快に笑う信長。

「確かに、只者じゃない…」

みんな信長の力に言葉を失っていた。

 

「は!今だ!」

我に帰ったワンダバがここぞとばかりにミキシマックスガンを構え、信長と神童先輩のミキシマックスを試みる。

「なぬ!?」

しかし、信長からオーラを吸い出そうとしたミキシマックスガンの光がはじかれてしまった。

「ん?貴様、なんだそれは?鉄砲のように見えるが。」

信長に向けて鉄砲のようなものを構えていれば当然怪しまれる。

「こ、これは、花火鉄砲というもので、是非信長様に見てもらおうと思いまして!」

なんとか誤魔化そうとするワンダバ。

「ほう、それは面白いな。祭りでの余興、、楽しみにしておるぞ。」

「は、ははーーー」

なんとか信じてもらえたらしい。

そうして信長は去っていった。

 

 

「それにしても、なんでミキシマックスが失敗したんだろう。こんなことは初めてだ。」

フェイが言う。せっかくミキシマックスのチャンスだったのになぜ失敗したんだろう。

「それは器の問題じゃな!」

「アルノ博士!?」

未だにこの人の登場には慣れない。

「器の問題?」

「うむ。神童拓人という器には織田信長というオーラは入りきらなかったということじゃな。ミキシマックスとは二人の波長がシンクロし、一致しておかなければならんのじゃ。

「けど、ワンダバが採取してきた恐竜のオーラとはミキシマックスできたよ?」

「それはつまり、恐竜よりも織田信長の力の方が大きいということじゃ。ミキシマックスガンのメモリに収まりきらんほどにの。だから、この場での信長のオーラを直接注ぎ込むしかないというわけじゃ。」

恐竜よりも強大な力…それほどまでに歴史上の英雄たちの力は凄いのか…

「信長のオーラを受け取るにはどうすればいいんですか?」

「器の許容量を増やす。つまり、特訓しかないの!」

「…分かりました。必ず信長のオーラを受け取ってみせます!」

 

 

「それにしても、また信長にもう一度会うにはどうすれば…」

俺たちはもう一度信長に会う方法を考えていた。

するとお勝さんがやってきた。

「拓人様!私、信長様にもう一度会えるかもしれません!」

お勝さんが言うには信長が開く花見の宴の料理を運ぶ役に選ばれたらしい。

それを聞いたワンダバは花見の宴に乗じて信長に近づく作戦を立てていた。

当日の配置や信長の座る場所から作戦を組み立てていると今度はお勝さんのお母さんが走ってきた。

 

「勝!太助がいなくなっちまった!」

「太助が!?」

「ああ。男達にさらわれたのを見た人たちがいるらしい。」

それってまさか…

「白鹿組の奴らだ!」

やはりそれしかないよな。

「早く助けに行こう!」

迷わず助けに行こうと走り出す天馬を俺は止める。

「けど、奴らがどこにいるか分からないんじゃ助けにもいけないぞ。」

「た、確かに…」

「藤吉郎さんに頼ろう。藤吉郎さんなら何か知っているかも知れない。」

神童さんの提案に俺たちは藤吉郎さんの元へと向かった。

 

 

藤吉郎さんと合流し、連れられて俺たちは白鹿組のアジトに来ていた。

いかにも悪役たちの根城って感じの場所だった。

 

「太助たちを返せ!」

天馬が勢いよく扉を開け中に入っていくと中には11人の男たち。そして

「ん~。私たちに勝てたら返してあげちゃおっかな~」

「お、お前は!?」

なんと着物に身を包んだベータがいたのだった。

 

 

 




いかがだったでしょうか。
本当に信じられないミスをしてしまい恥ずかしくてしょうがありません。今後はこういったことが内容努めてまいります。

本編について。今回はほぼ原作そのままの流れでした。もう少しオリジナル要素を挟みたいなと思いつつ、その章の主役メンバーと偉人たちの絡みの大切にしたいなと思います。
各時代どこかでメイアさんと翼君も絡ませたいなと思ってますがあまり無理のある展開にならないようには気をつけたいと思います。

感想、ご指摘あればお願いいたします。
私としてもミスが無いように努めて行きたいと思います。


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vs白鹿組と踊り子大作戦

今回は白鹿組と花見の宴への潜入をギュッと詰め込みました。
白鹿組の妖鬼カマイタチ、ゲームでは大変お世話になりました。


 

「お前はベータ!?」

太助たちを助けに白鹿組のアジトに乗り込んだ俺たちを待っていたのはベータだった。

「私たちに勝てたら、返してあげちゃおっかなぁ~。もちろん、サッカーでね。」

 

 

ということで俺たちと白鹿組のサッカーの試合が始まろうとしていた。

白鹿組はベータにマインドコントロールされているようで、ベータを姉御と呼んでいる。なんか似合うな、ベータ(裏)が姉御って呼ばれるの。

俺たち側は4人足りないところに藤吉郎さんの勧めで太助たちが入ることになった。

フェイはベンチスタートになった

 

「それでは試合開始~~!!」

いつものおっちゃんの笛で試合が始まる。

太助のキックオフで試合が動き出し剣城と天馬たちが上がっていくが太助はその場にとどまったままだ。

「太助、上がるよ!」

「上がるってどこに?」

「え?敵のゴールにだよ。」

「もらった!」

太助たちはどうやらサッカーのルールを理解していないらしく、困惑していた。そういえば試合形式のルールは説明してなかった気がする。その隙をついて白鹿組にボールを奪われる。

「まずい!みんな守るぞ!」

「守るって何を?」

「ゴールをだよ!あいつらからボールを取るんだ!」

DFに入っていた五郎太たちも自分が何をすれば理解しておらず俺が指示を出しながらプレーするもさすがに一人では止められず、ゴール前に切り込まれてしまった。

 

「火縄バレット!」

そして白鹿組の必殺シュートが放たれた。

「な!?しまった!?」

まさか必殺シュートが打たれるとは思ってなかった信介の反応が遅れゴールを決められてしまった。

 

「今のあいつらの動き・・・」

「ああ。おそらくベータに力を与えられたんだろう。」

「敵ながら見事なもんだったぜよ。」

白鹿組はサッカーを理解してベータの力を借りており、しっかりサッカーをやってくる。

 

「いいぞ!おめえら、そのままぶっつぶせ!」

あなた、ほんとに似合いますね。こいつらの親玉。

 

「このままじゃまずい。まず、太助たちにサッカーを理解してもらおう。」

「俺たちでサポートしながらってことですね!」

 

そして試合再開。

「太助!まずボールを小刻みに蹴りながら前に進むんだ!」

「お、おう。やってみる!」

神童さんの指示に従ってドリブルで進んでいく太助。

「いいぞ!次はパスだ。相手の足元に向けてボールを蹴るんだ!」

「こうか?」

「いいパスだ。太助。」

「俺たちも太助に負けてられないぞ!」

太助に触発され獅子丸たちも動きが良くなってくる。

 

「よし、魔神ペガサスアーク!」

天馬がゴールを決めるため化身アームドを試みる。

「「させるか!」」

「うああああ!」

しかし白鹿組は二人がかりで早めに天馬をラフプレーで止める。

「化身を出させないつもりか!」

 

弾かれたボールが獅子丸の元に転がる。

「獅子丸、周りの動きをよく見てパスを出すんだ!」

逆サイドの獅子丸に指示を出す。

「お、おう」

「なんだそのへっぴり腰は。オケハザマウォール!!」

しかし、初めてボールを持ったことで気後れしてる間に白鹿組にボールを奪われる。

 

「守りを固めるんだ!奏者マエストロ、アームド!!」

追加点を防ぐために神童先輩が化身アームドを試みるが、

「うあ!」

失敗に終わる。

「行かせるか!」

すぐさま俺がフォローに入る。

「ふん。妖鬼カマイタチ!旋風の刃!」

「何!?」

しかし、相手のFWがなんと化身を出してきて抜かれてしまった。

まさか化身まで与えられてるとは。

「何をしようと無駄だ。」

「「火縄バレット!」」

「うわああああ!」

そして1点目を決めた火縄銃を模した必殺シュートで追加点を決められてしまう。

「ここで前半終了!!」

 

 

「ごめん、ゴールを守れなくて…」

信介が肩を落としてベンチに戻ってくる。

「気にするな。ゴールはみんなで守るもんだ。俺だってあんな奴らに易々と抜かせちまった。俺にも責任はある。」

「翼…」

キーパーはどうしても点を決められると一人で抱え込みがちだ。けど、シュートを打たせないために俺たちDFがいるんだ。

霧野先輩が居ない今、俺が中心になって守らなきゃ。

 

「天馬、ごめん。俺たちが足引っ張っちゃって…」

太助たちが申し訳なさそうに言う。

「そんなことないさ。」

天馬が優しくフォローしようとすると藤吉郎さんが口を挟む。

「いや、そいつらが足を引っ張っとる。」

「元はといえばお前が入れるといったからだろうが!」

「後半から僕が入ろうか?」

フェイがそう申し出るが藤吉郎さんは首を横に振る。

「いや、わしに考えがある。」

そういって藤吉郎さんは後半戦の作戦を話し始める。

 

 

「さあ、後半戦開始だ!おっと、雷門はフォーメーションを変えてきたぞ!」

俺たちは太助たちをFWからDFまでまんべんなく配置した前半戦と打って変わって守備に固めて配置した布陣をとっていた。

 

「これで上手くいくのか?」

「わしが見たところ白鹿組は攻めに長けておるが、守りは苦手そうじゃ。わしの作戦が上手くはまればいけるはずじゃ。」

 

「いくぞ!」

白鹿組が前半同様勢いよく攻め上がってくる。

しかし、俺たちはあえてプレッシャーをかけに行かない。

「ふん、恐れを成したか!」

俺たちがボールを取りに来ないのを見て白鹿組は更に深くまで攻め込んでくる。

「よし、作戦に乗ってきたぞ。今だ!」

「「「おう!」」」

神童先輩の合図で太助たちが動く。

「「おりゃあああ」」

獅子丸と市正がスライディングで挟み撃ちを仕掛ける。

「くっ!?」

白鹿組のFW前林はなんとかジャンプで二人を交わす。

「もらった!」

その浮いたところを透かさず太助がボールを奪った。

「よし、いいぞ太助!天馬にパスだ!」

「おう!」

普段から仲良く蹴鞠をしているだけあって連携はばっちりだった。俺は太助に天馬にパスを出すよう指示する。

「よし。カウンターだ!剣城!」

白鹿組がバカ正直に攻めてきたおかげで剣城のマークが甘くなる。

「剣聖ランスロット!アームド!!」

厳しいマークがなけりゃあいつらに剣城が止められるはずが無い。

「おらあああ!」

前半戦のフラストレーションを発散するように豪快にシュートを決める剣城。

これで一点差。

 

「見事な作戦だったな。」

「あいつらは攻めるより守る方が得意なように見えたんでのう。守るのが得意な奴らを組み合わせただけじゃ。それに、白鹿組の守りを崩すのにそんなに力は必要ない。」

藤吉郎は前半を見ただけで太助たちの資質と白鹿組の性格を見抜いていた。

さすがは後に天下を取る男といったところだろうか。

 

「友達を守りたい。皆のそんな強い気持ちがボールを止めたんだ。僕も負けてられない!」

 

試合再開

「二度と歯向かえぬよう、叩き潰してやる!」

白鹿組がまた攻め上がってくる。

「させるか!」

前半は抜かれたが今度は抜かせない。俺が止めに入ろうとするが後ろの信介から声がかかった。

「待って翼!ここは僕に任せて!」

「信介…分かった。その代わり絶対止めろよ!」

信介が強い眼差しで行ってきたためここは引き下がる。

「決めろ、野郎ども!」

白鹿組のキャプテンからセンタリングが上がる。

「「火縄バレット!」」

 

「僕だって守りたいものがあるんだ!!大切なサッカーを守るために!」

「護星神タイタニアス!アームド!!」

信介が化身にその体で飛び込むように化身を身にまとう。

「「「信介も化身アームドを!」」」

化身アームドを成功させた信介がシュートを止めた。

 

「錦先輩!」

信介から錦先輩にボールが渡る。

「任せろ!戦国武神ムサシ!武神連斬!!」

そのまま錦先輩のシュートが決まり追いつく。

 

「くそ!このまま負けられねえ!」

白鹿組が諦めず攻め込んでくる。

「信介!今度は止めちゃっても良いんだろ!」

「なめやがって!妖鬼カマイタチ!旋風の刃!!」

「舐めてんのはそっちだ!アスタリスクロック!!」

「ぐあああ!」

さっきは油断したがそう何度も抜かれてたまるか。俺も溜まってたストレスを発散するように思いっきり必殺技をお見舞いしてやった。

「そんな…」

 

頼みの綱の化身も止められ戦意喪失する白鹿組。それを見たベータにも見捨てられてからはもう一方的だった。

「試合終了!雷門の勝利だあ~~!!」

 

「よっしゃ~!」

「信介、化身アームドできたじゃないか!」

「うん!」

みんなが勝利を喜んでいる。

そんな輪に隠れて白鹿組がこっそり逃げようとするが

「どこへ行く気じゃ?子供たちをどこにやったか話してもらうぞ。」

 

 

「今川義元!?」

白鹿組が言うには攫った子供たちは今川義元に献上したという。近いうちに京に上るための人手として。

 

その夜

「まさか白鹿組の背後に今川義元がいたなんて…」

「この時代では最も天下取りに近い人物だ。」

俺たちは宿で今後について話していた。

「何を言う!天下を取るのは信長様以外おらん!今川など敵では無いわ。」

藤吉郎さんはそう言うがフェイ曰く、プロトコル・オメガが介入してくる以上、歴史通りにはいかない可能性もあるらしい。

「なんにせよ、どうやって花見の宴に忍び込むかだな。」

もう一度信長に会ってミキシマックスしなくては。

そんな課題を残してその夜は眠りについた。

 

みんなが寝静まった頃

「んがあああああああああ!」

「錦先輩、すげーいびき…」

一度眠りにいついたものの錦先輩のいびきで起きてしまった。

「あれ?神童先輩?」

ふと見渡すと神童先輩の姿が見当たらなかった。ついでに茜先輩も。

少し外の様子を見に出ると神童先輩は特訓しており、それをお勝さんと茜先輩が見守っていた。

「これは、俺が出る幕じゃないな。」

このひと時はあの三人のものだと思った俺は気づかれないように寝床に戻った。

錦先輩のいびきは少しマシになっていたのでなんとか眠れた。

 

 

翌日

「「「踊り子大作戦!?」」」

「うん、完璧。」

茜先輩が自信満々にそんな作戦を打ち出した。

「花見の宴では何組かが信長の前で踊りを披露することになっている。確かに踊り子なら信長に近づけるかもしれん。」

「素晴らしい作戦ぜよ!」

ワンダバと錦先輩が言う。

「本当にやるの~~」

 

 

踊り子作戦が決まったことで早速踊りの特訓が始まった。

錦先輩やワンダバが自分流の踊りを披露したが見るに耐えなかったので盆踊りを知っている葵を見本にみんな練習する。

しかしみんな踊りなんてやってこなかったため苦戦している。葵も振り付けをしているだけで人に教えられるほどのものではないらしい。

 

「おーい、天馬―!」

そんな時太助が俺たちの宿にやってきた。

「ん?みんな何やってるんだ?」

「それが…」

太助にこうなった経緯を説明する天馬。

 

「なるほどな!なら姉ちゃんに頼んでやろうか?姉ちゃん、踊りうまいんだぜ!」

「良いの!頼むよ!」

太助からまさかの助け舟が出され飛びつく俺たち。

「その代わり、また一緒にサッカーやらせてくれよ!」

「うん!やろう!」

お勝さんに踊りを教わるために太助の家に向かうことになった。

ちなみに神童先輩は信長のオーラを受け取るための特訓のため別行動だ。

 

 

「あまり上手くないんですけど、私でよければ。」

太助の家に到着し、早速お勝さんに踊りを教えてもらう。

お勝さんの教え方はとても上手でみんなかなり上達した。錦先輩以外。

ちなみに剣城はいつの間にか居なくなっていた。逃げやがった。

「あれ、拓人様は?」

「神童なら向こうでサッカーの練習だってさ。」

お勝さんの問いかけに太助が答える。

「シン様、今応援に。」

「お前はまだ覚えてないだろ。」

抜け出そうとする茜先輩を水鳥先輩が捕まえる。

本当に大丈夫か…

 

 

「どうすれば信長のオーラを受け入れられる。俺に出来るのか?」

神童は未だに信長のオーラを受け取る糸口を見いだせず悩んでいた。

「俺はまだ化身アームドを身につけていない。」

化身アームドを身につけなければ、信長のオーラを受け取ることは出来ないのか。そんな焦燥を覚える。

「拓人様。」

考え込んでいると不意に背後から声をかけられる。

「お勝さん…」

 

「頑張ってらっしゃるんですね。」

「いや、まだまだだよ。」

二人は一度休憩のためお勝が持ってきたお弁当を食べていた。

「お勝さんを見ていると豆腐屋さんて大変だなと思う。」

「そんなことないですよ。」

「でも、水は冷たいし、豆腐もあれだけあれば重いだろうし…」

自分とそう変わらない年頃のお勝が懸命に働いてる姿を神童は見ていた。

「確かに大変ですけど私は楽しいんです。うちのお豆腐を食べるとみんな美味しいって言ってくれるんです。私はそう言ってもらえると胸の中に温かいものが広がるんです。だから私はお豆腐屋が好きなんです。拓人様もサッカー、好きなんですよね?」

「サッカーが、好き…」

神童はお勝にそう言われ思い出す。

「そうだ、俺はサッカーが好きだ。それを忘れていたのかもしれない。」

「ふふ、元気出たみたいですね。私、お店に戻りますね。」

 

 

お勝と別れ神童は再び練習を再開していた。その動きは先程より軽やかなものになっていた。

「何か掴んだみたいだね。」

「フェイ…」

踊りの練習が順調に行っているため、フェイが抜け出して合流してきた。

「付き合うよ!」

「ああ。頼む!」

 

「フェイ、君がサッカーを取り戻すために俺たちと戦っているのも、サッカーが好きだからなのか?」

「そうだけど、少し違うよ。僕にとってサッカーは好きだからだけでは言い表せない。なぜならサッカーは僕にとって全てだからだ。」

神童の目を真っ直ぐに見据えて言うフェイ。

「全て…それほどまでに…」

神童もフェイの言葉に確かな重みを感じていた。

 

 

花見の宴当日

 

「いよいよ花見の宴当日だ!この作戦は神童が信長のオーラを受け取れるかにかかっている!頼むぞ!」

「大丈夫、神童くんならきっとできるよ!さあ、行こう!」

そうして俺たちは花見の宴の会場に向かった。

ちなみにどうしても上達が見られなかった錦先輩は太鼓担当になり、練習しなかった剣城と神童先輩の二人は笛担当になった。まあワンダバが機械から音楽を流すのでフリだけだけど。

なのだが、、、

 

 

花見の宴会場横

「まずい、このままでは会場に入れんぜよ!!」

「お前のせいだろうが!!」

俺たちは絶賛立ち往生中だった。

詳しいことは省くが入場審査で錦先輩がやらかして締め出されてしまったのである。

「どうしよう。これじゃ信長に会えないよ…」

「せっかく練習したのに…」

「誰かさんのせいで」

横目で錦先輩をみやり責める。

「ぐっ…」

反論の余地もないらしい。

 

「ん?お前らこんなところで何しとる?」

そんな困り果てている俺たちに藤吉郎さんが話しかけてきた。

「藤吉郎さん、どうしてここに?」

「せっかくじゃから信長様を一目見ようと思っての。お前たちはどうしたんじゃ?」

「それが…」

俺たちは藤吉郎さんに事情を話した。

 

 

「なるほどの。ふむ、ならわしに任せろ!」

「え?」

「ここを使うんじゃよ」といって頭を指差す藤吉郎さん。

 

その後藤吉郎さんが天馬を踊りの名家の人間だと騒ぎ立てて審査員を騙して入り込むことに成功した。

毎度毎度、こんな作戦をよく思いつくものだ。さすがは後の豊臣秀吉。

 

そして、ついに俺たちの出番が回ってきた。

「後は頼んだぞ。」

そう言い残しワンダバが信長を狙いやすい位置に潜む。

 

そして俺達の出番が始まる。

だが俺含めみんな緊張に加え付け焼刃の踊りでてんで信長を魅了できていない。

このままではまずいと思っていると足元にサッカーボールが転がってきた。

「え?」

舞台袖を見やると藤吉郎さんがこちらに指を立ててみていた。まるでサッカーをやれというように。

 

「天馬!俺達の一番の踊りを見せてやろうぜ!」

そう天馬に投げかける。

「翼…うん、やろう!」

そういい、俺と天馬は普段の練習のように息を合わせボールを回し合う。

「さあ、みんなも!」

「そういうことか。」

「ああ、俺たちがやるべきは付け焼刃の踊りじゃなく、最も得意とするサッカーってことか!」

そういって全員でボールを回し合う。時には試合では使わないような見栄え重視のテクニックなども披露する。

そうしていると徐々に会場の雰囲気が変わり始めた。

信長の方を見やると食い入るように俺たちを見ていた。

「よし、うまくいってるぞ」

 

「今だ!」

そして信長が俺たちに見入っているのを確信したワンダバが信長と神童先輩のミキシマックスを試みる。

しかし

「うわっ!?」

またしてもミキシマックスは失敗に終わる。

「そんな!?」

まだ、器が足りないというのか!?

 

 

その光景を見て役人たちが俺たちを捕らえる。

それを見てワンダバが逃げようとするも

「曲者です~!」

役人に扮したベータが現れワンダバも捕らえられてしまう。

 

「あやつはたしか…あの者たちといた。」

信長はワンダバのことを思い出した様子で見る。

「こやつらは信長様の命を狙う不届きものです~!ほら、これが証拠です。」

そういってベータがミキシマックスガンを信長に見せる。

「ぬう…」

それを見た信長の顔色が変わる。

 

このままじゃまずい!どうすれば!?

 

 

 




はい、ということでアニメ2話分くらいを詰め込んみました。その割にはコンパクトにまとまったかなと思います。
錦さんには悪いことをしたと思います。絶対いびきうるさいと思うんです。あと、とりあえず事態を混乱させるのに使いやすいというか…

ちなみに最初は普通に雷門の面々に太助たちを加えて試合をしていたのですが12人になっているというとんでもない事実に試合を書き終わったあとに気づきました。
前回に引き続きとんでもないミスを犯しかけました。危なかった…

プロトコル・オメガとの決戦、どうする?


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詮議と特訓

ということで特訓回です。
こういった回でも少しづつでもオリジナル展開やメイアの出番とかも作りたいなという今日この頃。無理ない程度に考えていきたいと思います。

それでは本編へ。



 

前回までのあらすじ  俺たち死ぬかもしれん…

 

「これより詮議を始める。面をあげよ!」

俺たちは役人に取り押さえられ審問にかけられていた。

 

「貴様ら、やはり今川の手の者だったか。儂を暗殺に来たのか。」

織田信長が問いただしてくる。

俺たちはどう答えるべきかわからず皆口をつぐむ。

「言い訳も出来ぬか。」

「違います。暗殺だなんて。」

「ほう。では、なぜうたげに忍び込んだ。一度目は花火職人を装い我に近づき、二度目は踊り子を装い宴に忍び込む。これでも他意は無いと申すか。」

「そ、それは…」

思わず否定した天馬だが信長に俺たちの行動を指摘され返答に困る。

「答えられぬということはやはり…」

信長が俺たちを今川の刺客だと断じようとした時、神童先輩が立ち上がった。

 

「信長様、俺たちは時を越えてやってきました!」

「「「「な!?」」」」

神童先輩はなんと俺たちが時を越えてやってきたと明かした。

「時を越えて…だと。」

これには流石の信長も直ぐには理解できなかったようで問い返してくる。

「はい。ずっとずっと先の未来から。この時代よりももっと先の世から来たのです。」

神童先輩は淀みなく言い切る。

 

「馬鹿馬鹿しい!もっとマシな言い訳をするんだな。お館様、こやつら皆死罪に致しましょう!」

信長の側近がそう断じ、周りの役人が俺たちを取り囲む。

「まあ待て。面白いではないか。」

しかし、信長は神童先輩の話に興味を示したらしく、役人を制する。

 

「貴様、今の説明では納得できぬ。もっと分かるように説明せよ。」

「分かるように、ですか…」

信長にそう命じられ神童先輩は少し考え込む。

「先の世とは、今から数百年もの時が流れた、今よりずっと進歩した日本のことです。」

神童先輩は俺たちの時代のことを話し、それを聞いた信長は少し驚いた様子だ。

「俺たちは船で海を渡るように、時の流れを渡ってこの時代に来たのです。」

「そんなことできるはずがなかろう!」

信長の忠臣が口を挟もうとするも信長が制する。

「それで、どうなっておる?未来の日本は。」

「戦がなく、豊かで平和な世です。」

「ほう、日本は良くなっているのか。それはいいことだ。」

そういった信長の顔は少しほころんでいた。やはり、天下統一を目指すものとして日本がいい方向に進んでいることは喜ばしいことなのか。それとも、日本を良くするために天下を取ろうとしているのだろうか。

 

「貴様達が未来から来たということはこれから起こることも分かるというのか?」

「この時代の大きな出来事なら。」

信長の問いかけに神童先輩が答える。

「では聞く。儂は…織田信長は天下を取れるのか?」

信長は本人としてどうしても気になる、俺たちが一番答えに窮する質問を投げかけてきた。

歴史では織田信長は天下を取れずに亡くなる。しかし、それを正直に言っていいものか。全員が同じ考えで黙り込む。

「どうした?答えてみよ。」

信長が答えを催促する。

「…残念ながら、信長様が天下を取られることはありません。」

「「「!?」」」

神童先輩は正直に事実を伝えた。

「そんな...信長様が天下を取れないなんて...」

藤吉郎さんも信じられないといった様子で声を漏らす。

 

「この不届きものが!!」

神童先輩の言葉に当然忠臣は激怒し、刀に手をかける。

「そうか。それは残念である。」

しかし、当の信長はうっすらと笑みすら浮かべて言う。

 

「どういうこと?」

「俺たち助かったのか?」

信長の予想外の反応に俺たちは助かったのかどうか分からず戸惑う。

 

「な、何だ貴様ら!?」

すると人混みが騒ぎ始め、奥から数人の男女が人混みをかき分け詮議の場に出てきた。

 

「我らは今川義元様の家臣、決闘を申し込みに来た!」

そいつらは今川義元の家臣に扮したプロトコル・オメガの面々だった。

「何!?」

 

今川軍の書状は蹴鞠戦、つまりサッカーでの決闘を申し込むとのことだった。

「蹴鞠戦?」

「信長様、俺たちにやらせてください!蹴鞠戦なら俺たちが得意とするものです!」

「指揮は私めにお任せを!必ずや勝って今川の軍を討ってみせます。」

「よかろう。貴様、名は?」

「木下、木下藤吉郎にございまする!!」

信長は俺たちと藤吉郎さんに任せてくれるようだ。

この瞬間が織田信長と木下藤吉郎の運命の出会いになるのか。

 

「試合は一週間後、七日の後。」

そう言い残し奴らは去っていった。

「うつけ祭りの日か。」

ワンダバ曰くうつけ祭りとは信長が年に一度開く大きな祭りでけが人も出るほどのものらしい。

その混乱に乗じて俺たちを潰すつもりなのだろう。

 

 

その夜、俺たちは宿にてお勝さんの湯豆腐に舌鼓を打ちながら今日のこととこれからのことを話していた。

「お豆腐ならいっぱいありますからね。」

そう言って笑うお勝さんだったがどこか元気がなかった。

「それにしても天下を取れないと言ったときはビックリしたぜよ。」

「まさか正直に言っちまうとはな。」

錦先輩と水鳥先輩が言う。

「確かに、正直死を覚悟しましたよ。」

俺も乗っかる。いやほんと。

「小手先の嘘が通じる相手ではないからな。」

神童先輩がそう答える。

「お、信長の理解が深まってきたんじゃないか?これなら次は成功ぜよ!」

「いや。知れば知るほど自分との器の大きさの違いを痛感する。」

たしかに、自分が天下を取れないと言われたのにも関わらずあの反応。器が大きいなんてものじゃない。

 

「そういえば天馬たちが先の世から来たって本当なの?あの役人も白鹿組の時にいた時の奴だし、今川の家臣たちも関係あるの?」

不意に太助が切り出す。

「話しておいたほうがいいかもしれないね。プロトコル・オメガとの試合は白鹿組との試合よりも激しいものになるだろうし。」

フェイの言うようにもう話してしまったほうが言いのかもしれない。

そう思い天馬が俺たちがこの時代にきた理由を話す。

お勝さんは話が始まる前に何か思うところがあったのか席を外した。おそらくお勝さんは神童先輩のことが…

 

 

「すごーい!天馬たちって本当に先の世から来たんだ!俺、先の世から来た人なんて初めて見たよ!」

「そりゃそうだろうな。」

俺たちの話を聞いた太助の反応はあっけらかんとしたものだった。驚きはするものの疑いはせずすんなりと受け入れた。

「よし!俺もやるよ!サッカーの大事さは俺にも分かる、良いよね!」

そして太助は協力を申し出てくれた。

「うん、もちろんさ!」

断る理由もなくフェイが快諾する。

「よーし!サッカー!!」

明日からの特訓に向けて湯豆腐を掻き込む太助を見てみんなが笑顔になり、明るい食卓が形成されていた。

 

 

「ん?何だ?」

みんなが寝静まったころ、懐に持っていたメイアから渡されたデバイスが震えた。

みんなを起こさないように外に出て確認するとメイアからメッセージが入っていた。

 

『今、戦国時代にいるのよね?調子はどうかしら、信長のオーラは手に入れられそう?』

どうやらメイアは俺たちの様子を気にしているらしく連絡をくれたようだ。

『順調とは言い難いかな。神童先輩がオーラを受け取ることになったんだけど、信長の力が大きすぎて今のままでは器に入りきらないみたいなんだ。』

俺も返事を返すと直ぐに返事が帰ってきたため、向こうも今は手が空いているのだろう。

『へ~戦国時代の人間なのにそれほどの力を持ってるなんて只者じゃないわね。』

『うん。それに俺たちが未来から来たってことを伝えてもすぐに理解してた。本当にすごい人物だよ。』

『エルドラドに動きはあったの?』

『ああ。案の定介入してきたよ。歴史の出来事に紛れて俺たちを排除しようとしてきたよ。』

『なるほど。その方がタイムパラドックスも生じにくいしね。』

『最初はこの時代人を洗脳してけしかけてきたけど、今度は今川義元っていう敵軍の部下になりすまして直接仕掛けてくるみたいだ。』

『たしかにその時代なら今川に潜り込むのが一番いいでしょうね。エルドラドとの試合はいつなの?』

今川義元のことも知っているらしい。彼女と話すたびに賢い子だなと思わされる。

『一週間後に開かれるうつけ祭りの日だ。祭りの騒ぐに乗じて俺たちを潰すつもりなんだろう。』

『勝てる算段はあるの?』

『分からない。けど、勝たなきゃいけないなら勝つだけさ。そのために明日からまた特訓だ。』

プロトコル・オメガに勝たなきゃ雷門のみんなも、円堂監督も、そしてサッカーも帰ってこない。何が何でも勝つしかない。

『頼もしい。私も応援してるから頑張ってね!』

『ああ。それじゃ明日も早いから寝るよ。おやすみ。』

『ええ、おやすみなさい。』

 

メイアとのメッセージのやり取りを終え、家に戻り眠りに就いた。

 

 

 

翌日

 

「よし!うつけ祭りの決戦に向けて、特訓開始だ!太助、ビシバシしごいてやるからな!覚悟しろ!」

「はい!」

本番の日に向け特訓を始める俺たちと太助。ワンダバは藤吉郎さんが居ないのでようやく監督らしいことが出来そうでテンションが高かった。

「おーい!」

特訓を始めようとしたところで藤吉郎さんがやってきた。

「藤吉郎さん!」

「サッカーは11人でやるもんじゃろ。連れてきてやったぞ。」

そう言って藤吉郎さんは獅子丸たちを連れて来てくれた。

「それと、信長様が天下を取れんなどとわしは信じておらんからな。信長様が天下を取らんのなら誰が取るというのじゃ。今川か?武田か?ほら、答えられまい。」

そんな藤吉郎さんに皆苦笑いする。

 

そして太助たちを交えた特訓が始まった。

「太助、ボールをよく見ろ!獅子丸、もっと思い切っていけ!」

太助たちの動きはまだまだ拙い。けれど、一生懸命上手くなろうとしているのが伝わってくる。

「奏者マエストロ、アームド!!」

神童先輩は化身アームドの特訓に明け暮れていた。信長のオーラを受け取るためにも化身アームドの力が必要だと判断したのだろう。

「もう一回だ。アームド!!」

何度失敗しても諦めずトライする。

みんなが自分に出来ることを磨いていく。

俺だって同じだ。何度もプロトコル・オメガに抜かれる訳にはいかない。

太助たちと一緒に守ることになるだろう。俺が引っ張っていかなくちゃ。

「市正、敵を恐れるな!仁悟、体を張ってでも止めるんだ!」

俺も少しでも太助たちの力になるためにフェイ達と一緒に特訓に付き合う。

 

特訓は翌日も続く。

「五郎太!行ったぞ!」

「お、おう!」

初日はボールにおっかなびっくり触れていたみんなもどんどん上手くなってきていた。

「そうはさせないよ。」

しかし五郎太からすぐさまフェイがボールを奪う。

上手くなっているとはいえ、流石にまだまだ厳しいものもある。

「よし、今日の練習はここまでじゃ!」

 

その次の日も同じく特訓は続く。朝から夕方まで特訓に明け暮れ夜はお勝さんが振舞ってくれる鍋をともに囲う。

お勝さんは練習で疲れた俺たちをいたわってくれる。けど、その笑顔はどこか気持ちを押し殺したようにも見える。

 

五日目の夜。

食後でみんなが休んでいる中、太助が外に出ていくのを見た。

「天馬。」

「うん、行こう。」

なんとなく察した俺は天馬を誘って後を追うと太助は一人でもくもくと練習していた。

 

「太助!」

「天馬、翼。」

「練習付き合うぜ!」

 

「ボールに意識が行き過ぎだぞ!」

「ほら、右、次は左だ!」

「相手の動きをよく見るんだ!」

俺と天馬がオフェンスとディフェンスそれぞれアドバイスを送る。

太助は懸命についてこようとする。

 

「今日はここまでにしよう。明日もあるし。」

「うん、結局天馬からはボールを取れなかったし翼は抜けなかったな~」

「でも、どんどん上手くなってるぞ!」

「まだまだダメだよ。もっともっと上手くならなくちゃ。皆の足を引張ったらどうしよう…」

太助が不安そうに言う。

「太助なら大丈夫だよ。だって太助の蹴るボール、笑ってるもん!」

「でも…」

「太助、サッカー好きだろ?」

「うん!それは好き。」

天馬の問いかけに即答する太助。

「だったら大丈夫さ!サッカーはきっと応えてくれるさ!」

「サッカーが、答えてくれる?」

「また天馬のいつものが始まったな。けど、同感だ。サッカーが好きで、上手くなりたくて、これだけ努力して、サッカーと向き合ってるんだ。太助の努力は絶対に裏切らないよ。」

「二人共…」

「なんとかなるさ!」

「なんとかなる、か…うん!そうだな!」

 

 

六日目

 

「「「「合体必殺技!?」」」」

いよいよ試合前日、藤吉郎さんはみんなの前で太助たちに合体必殺技を編み出すよう命じた。

「ああ。太助たちは今日までに随分と腕をあげた。白鹿組との時とは雲泥の差じゃ。それでも今川の攻撃を食い止めるにはまだ足りんじゃろう。」

確かに、太助たちは白鹿組の時よりもずっと強くなった。けど今度の相手はあのプロトコル・オメガ2,0だ。同じように行くとは思えない。けど

「合体必殺技って、試合は明日ですよ?」

天馬が言う。みんな同感のようだ。俺も合体必殺技を一日で編み出すなんて無茶だと思う。

「それがどうした!戦に必要なら、一晩で城でも作ってみせる!それくらいの気概が無けりゃ奴らには勝てん!太助、獅子丸、五郎太、お前らがやるんじゃ!一夜で作り上げる城、名づけて一夜城じゃ!」

「「「一夜城!?」」」

「それって秀吉が実際に建てた城のことだよね。」

らしい。

「こっちが先」

らしい。

 

 

そして一夜城を編み出すための特訓は夕暮れまで続いた。

「「「一夜城!」」」

フェイのシュートを三人が止めようとするが

「「「うわああああ」」」

やはり上手くいかない。

「やっぱりダメだったか…」

みんなが一日で合体必殺技を編み出すなんて無理だったかと思っていた。

「太助。」

「天馬…」

しかし、天馬と太助は諦めてなかった。

(そうだ、サッカーはきっと答えてくれる。)

「獅子丸、五郎太!俺が前に出て受け止める!支えてくれ!」

「「おう!」」

「そうだ。守りの必殺技は絶対に敵やボールを食い止めるっていう気持ちと勢いに負けない足腰の力が大切だ!絶対に止めるって気持ちで踏ん張るんだ!」

俺も自分が必殺技の時意識していることを伝える。

「ありがとう翼!もう一回だ!」

 

「もう一度行くよ!はあっ!!」

フェイのシュートが放たれる。

「今度こそ!」

太助たちの息と力がピタリと合うのを感じる。

「「「一夜城!」」」

そして

 

 

その日の夜

 

『いよいよ明日ね。勝てそう?』

『分からない。けど、やれるだけのことはやったよ。それにこっちの時代で仲良くなって一緒に闘ってくれる子達も力をつけた。勝ってみせるよ。』

『そう、それは楽しみね♪私も見に行くから、期待してるわよ♪』

前のように外でメイアと明日のことについてメッセージのやり取りをしていた。

どうやら試合を見届けに来るらしくハードルを上げられる。

『期待にそえるよう精々頑張るよ。』

『ええ。私は試合の前のうつけ祭りも楽しみよ。』

『こっちは試合でそれどころじゃないのに楽しそうでいいな!』

俺だって試合さえ無かったら戦国時代のお祭りを楽しみたかったのに…

『そんなに拗ねないで。あなたたちの時代に帰ったら今回の話も聞きたいし、またお出かけしましょう♪』

こんなことをサラッと言ってくるからドキッとさせられてしまう。

色々な意味で彼女にはプロトコル・オメガより勝てる気がしない。

『メイアと出かけられるなら喜んでご一緒するよ。』

やられっぱなしも癪なので精一杯の返しをしてみる。

「?」

これまでよどみなく返事が帰ってきていたが今回は少し間をおいてから返ってきた。

『もう!調子いいこと言ってくれるんだから!それじゃ、明日に備えて早く寝なさい。今の言葉、忘れたなんて言わせないわよ!』

う~ん、これはどう受け取ればいいのだろうか…

『うん。おやすみ。勝ってみせるよ。』

少し悶々とした気持ちを抱きつつ眠りに就いた。

 

 

そしてうつけ祭り当日。

 

「あ~ら、ちゃんと来ましたのね。そのことを褒めてあげますわ。でもよりによってそんな子達を連れてきちゃうなんて♪」

試合開始前の整列の時、向かい合うベータが余裕の様子で言ってくる。

「言いやがったな!」

「この前の俺たちだと思ったら大間違いだ!」

「お前らなんてこてんぱんにやっつけてやる!」

煽られた獅子丸たちが負けじと言い返す。

「なめんじゃねえ!また一撃で潰してやる!二度とサッカーできなくしてやらぁ!」

「うえっ!?」

しかし裏の顔を出したベータの迫力に気圧される5人。気持ちは分かる。

「そうはさせない!絶対に勝つ!」

「みんな行くぞ!!」

「「「「おう!」」」」

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
太助の純粋で頑張りやな所やお勝さんの健気なところなど各時代の人間ドラマもクロノストーンの魅力かなと思います。

メイアとのメッセージのやり取りはLI〇Eのようなものだと思ってもらえれば大丈夫です。時空を越えてやり取りが出来るだけで。
お互いまだ恋愛感情は持ってないものの特別な意識は持ってるくらいの距離感、書いてて難しいけど楽しいです。
メイアもSScとはいえ年頃の女の子なのでたまには慌てるのがあってもいいかなと思いました。

自分も女の子と寝る前にこんなやりとりしたかったなぁ・・・


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うつけ祭りの決戦、始まる

はい。ということでいよいよ試合開始です。
試合展開は結構悩みました。少し不安だな~。
あと戦国時代の祭りって夜店とかどんなのがあったんだろうと思い、アニメを見返したりしましたが団子しか映ってませんでした・・・
自分の中での祭りはカステラとか玉せんとかミルクせんべいなんですがこの時代にあるかは疑問ですね。

それでは本編をどうぞ。


 

雷門とプロトコル・オメガの試合が始まろうとしていたその少し前

 

「ここが戦国時代、織田信長の時代ね。」

メイアは雷門とプロトコル・オメガの試合を見届けるべく、うつけ祭りの会場にタイムジャンプして来ていた。

「ふ~ん、イメージ通りといえばイメージ通りね。それにしてもこの格好じゃ目立つわね。周りの認識をいじってもいいけど折角だし真似させてもらおうかしら♪」

セカンドステージチルドレンの力を使えば周囲に違和感を感じさせないことも可能ではあるが折角戦国時代に来たのもあり、手元のデバイスを操作し服の色合いをベースにした着物に変化させた。

「ふふ♪私たちの時代にはこういう格好も中々無いし新鮮でいいわね~。試合開始までにはまだ時間があるみたいだし、少し見て回ろっと♪」

前日から結構楽しみにしていた祭りを楽しむことにしたメイア。

彼女の時代にも大きな祭典はあるがこのような祭りは無いため胸を躍らせていた。

 

「へ~これがこの時代のお祭りか~。今日のためだけに開いてるお店もあるのね。」

気の向くまま歩みを進めていたメイアはこの時代の祭りを楽しんでいた。太古の音色に踊りを楽しむ人々。風情あふれる光景に目を輝かせていた。中でも興味をそそられたのは様々な夜店であった。現代ほど種類があるわけでは無いが飴細工や団子屋など、この日のために開かれる店というものは目新しかった。

いろんな店に目をやっていると不意に声をかけられた。

「お、そこの嬢ちゃん!この国の子じゃないね!今日のためにわざわざ来たのかい?」

そちらを見やると気の良さそうなイカ焼き屋の店主がいた。この時代の格好はしているものの目立つ外見をしているのもあり、違う国の者だと思われたらしい。

「ええ。年に一度の祭りと聞いて遠出して来たんです。」

声をかけられたため社交的な笑みを浮かべて答える。別に嘘はついていない。かなり遠いところから来てはいるが。

「そうかい。年に一度の祭りだ、楽しんで行きな!これ、俺からの奢りだ!」

そういってイカ焼きをひとつ包んでくれる。

「いいんですか?ありがとうございます。」

礼を言いまた見て回る。他国から来たと思われる美少女がひとりでいるのである。祭りで浮かれている雰囲気もあり、その後も団子屋などいくつかの店で同じように店主がサービスしてくれることがあった。

本人も鼻にかけはしないものの自分の容姿が周囲より優れている自覚はあるためそれなりに気分は良かった。

「ふふ♪結構楽しいわね。時間があれば彼とも回ってみたかったけど、それはまた今度の機会にするとしましょ。」

昨夜のやり取りを思い返す。彼女自身は特に意識していない言動が彼をドギマギさせているとは露知らずといった様子ではある。

「まったく、翼ったら急にあんなこと言うんだから!自分がどういうこと言ってるか分かってるのかしら!」

自分が同じような思いをさせているとは全く考えもしない発言である。

セカンドステージチルドレンとはいえ彼女も年頃の少女である。

“そういう対象”としてはまだ見ていないものの周囲に比べると特別視している男の子にあのようなことを言われると照れるものは照れる。

「おおお」

そんなことを考えていると遠くからなにやらどよめきが聞こえた。

「そろそろ始まる頃合かしら。それじゃ、向かうとしましょうか。」

そういって試合会場の方に向かった。

 

 

雷門とプロトコル・オメガが対峙していると観客たちが声をあげた。

「「「おおお」」」

「信長だ。」

観客たちに釣られ見やると信長が試合会場に現れた

「僕たちの試合を見届けに来たんだ。」

「こいつは負けられんぜよ。」

 

「とくと見せてもらうぞ。蹴鞠戦とやらを。」

信長がこちらを指し言う。

「信長様!必ずや勝利に導いてみせます!」

すかさず藤吉郎さんが前に出る。藤吉郎さんにとっても信長に近づくために絶好の機会。負けられない気持ちも強いだろう。

「うむ、楽しみにしておるぞ。」

 

すると逆側に観客の視線が集まる。

そちらには今川軍が神輿を担いで現れ、その神輿には白塗りの貴族のような人間が乗っていた。

「あれが、今川義元…」

「武士というより貴族だな。」

「麻呂とかおじゃるとか言いそう…」

ステレオタイプな印象を思わずこぼす。

「楽しみにいるでおじゃるぞ。我が今川軍が勝鬨を上げ、信長殿が麻呂にひれ伏す様をの。」

いや本当に言うんかい!?

「僕たちは織田軍として戦うんだ。」

「うん。気を引き締めなくちゃ。」

 

 

そして試合が始まろうとしていた。

いつものおっちゃんが召喚され各々ポジションに就く。

「なんで俺がベンチスタートなんだよ!?」

なぜか俺はベンチにいた。

「落ち着け翼。これも作戦じゃ。」

「作戦って何ですか?太助たちが腕を上げたとは言えプロ…今川の攻撃を止めるのは厳しいですよ!」

太助たちは確かに力を上げた。白鹿組くらいなら太助たちだけでも十分止められると思う。

けど今回はプロトコル・オメガが相手だ。流石に分が悪いと思う。

「だからじゃ。奴らとの前回の戦いのことは聞いた。途中まで優勢だったが最後にひっくり返されたこともの。」

どうやら藤吉郎さんは前回の奴らとの試合をワンダバから聞いたらしい。

「敵は個々の能力が高く、試合最後まで力を発揮してくる。しかも切り札のようなもので底上げも出来ると聞く。最初から全員で戦えばジリ貧じゃ。」

確かに、奴らは基礎スペック自体が全員高い。しかもベータのゴーストミキシマックスもある。

「だからこそ試合終盤の守りが大事になってくる。翼、お主の力は敵にも全く引けをとらん。瞬間的な力ならこちらの中でも一番かもしれん。だからこそ、前半は太助たちに任せ、勝負所で最大限の力を発揮するんじゃ!太助たちを信じろ!」

藤吉郎さんは力強く言い切る。

確かに言うとおりかも知れない。それに太助たちもあれだけ特訓したんだ。力を発揮できれば分が悪いかもしれないけど、太刀打ちできるはずだ。

「分かりました。」

「うむ。」

 

「なんか、緊張するな…」

「うん…」

「大丈夫だって、あれだけ特訓したんだ!」

緊張している五郎太や仁悟を太助が元気づけている。

「絶対勝つぞ!」

「「「おう!」」」

みんなの士気も悪くない。

 

 

「そろそろ始まりそうね。って、あら?翼はベンチスタートなんだ。せっかく見に来たのに…あの子達が言っていた一緒に戦うこの時代の子供たちね。大丈夫かしら?」

メイアも観戦席についた。翼がベンチスタートなのには少し不服そうだった。

 

 

「さあ試合開始ぃ!」

そしてついに試合が始まった。

 

剣城とフェイのツートップがまず上がっていく。

「そこまでだ、ディフェンスコマンド06。」

しかしDFのメダムがボールを奪う。

「決めるぞお前ら!」

ベータの号令でプロトコル・オメガが攻め上がっていく。

「市正、止めるよ。」

「ああ!」

FWのドリムを太助と市正が止めに行く。しかし

「「うわああああ」」

強引に突破され市正は吹っ飛ばされる。太助はなんとか持ちこたえた。

「な、何?今の動き…」

 

「クォース!」

「仁悟、五郎太!俺たちで止めるぞ!」

「邪魔だ!」

獅子丸たちが止めに入ろうとするも五郎太と仁悟は怯んでしまって前に出れていない。

そのまま抜き去られ、獅子丸と五郎太は持ちこたえるものの仁悟は倒される。

 

「エイナム!」

「シュートコマンド06!」

そしてエイナムにボールが渡り、必殺シュートが放たれる。

「やらせるもんか!護星神タイタニアス!」

信介が化身で対抗し、なんとかボールを弾き外に出たことで一旦試合が止まる。

 

 

「これが蹴鞠戦か、実に面白きものよ!」

「彼らはサッカーと呼んでいるようです。」

「サッカー、か。」

信長は初めて目にするサッカーの競技性や戦略性をすぐに気に入り、見入っていた。

 

 

「みんな大丈夫?」

太助が獅子丸たちのもとに声をかけに行くが

「なんなんだよこれ…」

「俺たち、やれると思ったのに…」

「力の差がありすぎる…」

白鹿組との戦いとの違いに4人は完全に萎縮してしまっていた。

「くじけちゃダメだって!あんなに練習したんだ!」

太助が鼓舞するも4人の顔は暗いままだった。

「あいつら…」

 

それからも4人の動きは縮こまったままだった。

「あ!?」

獅子丸がレイザにあっさりボールを奪われる。

「させんきに!」

しかし錦先輩がすぐさまフォローに入る。

「すいません、錦さん…」

「気にするな!」

 

その後もプロトコル・オメガは4人を威圧するように激しいプレーをし、雷門のみんなは太助たちのフォローのためにフィールドを走り回っていた。

「敵を恐れるな!練習通りにやれば大丈夫じゃ!」

藤吉郎さんが声を掛けるも五郎太たちは足がすくんでしまっている。

 

「リーダー!」

エイナムからベータにボールが渡る。

「決めるぜ!虚空の女神アテナ!」

「化身アームドさせんきに!戦国武神ムサシ!!」

ベータに化身アームドさせないために錦先輩がプレッシャーをかける。

「そんなんじゃ俺は倒せないぜ!シュートコマンドK02!」

「何!?」

しかしベータはアームドせず化身必殺技を放ってきた。

「護星神タイタニアス!アームド!」

信介がアームドで対抗しようとするが

「うわあああ」

錦先輩とともに破られゴールを決められてしまう

 

 

「どうします?やっぱり俺も出たほうが…」

このままでは天馬たちに負担が大きくなってしまう。早いが俺も出たほうがいいと提案するが

「いや、まだじゃ。」

「でも…」

「みんな!集まれ!」

藤吉郎さんがみんなを呼び寄せる。

 

「ごめん、天馬・・・俺たち足引っ張っちゃって・・・」

太助が申し訳なさそうに言う。

「気にすることないよ。みんなで支えあってこそのチームだ!」

「そのとおりじゃ。まだまだ巻き返せる。」

天馬に続いて藤吉郎さんが鼓舞する。

「良いか。ここからの作戦を伝える。・・・攻めるな。」

藤吉郎さんの作戦にみんな驚く。

「かあ~これだから素人は!!」

負けている現状で攻めるなという藤吉郎さんの指示にワンダバが噛み付く。

「まあ聞け。全く攻めないということじゃない。敵に攻めさせ隙を作らせるんじゃ。そのためには太助、獅子丸、五郎太!お前たちが鍵じゃ。」

「え!?」

「俺たち?」

藤吉郎さんに名指しされた太助たちは呆気にとられる。

「でも、俺、自信ない…」

五郎太が弱々しくつぶやく。

まずい。この精神状態じゃ思い切ってプレーできないぞ。

 

 

「諦めちゃダメだ!」

そんな弱気な空気を吹き飛ばすように天馬が声を上げた。

「太助たちはまだ全力を出し切っていない。なのに、ここで諦めてしまったら絶対後悔するよ!」

「後悔…」

「思い出してよ!これまで頑張ってきたことを!みんなあんなに頑張ったじゃないか!」

天馬に言われこれまで頑張ってきたことを思い出す太助たち。

「自分の力を信じるんだ!信じて全力を出せば、きっとなんとかなる!」

「なんとかなる…」

俯いていた太助たちの顔が徐々に前を向いてくる。

「後からもっと全力でやれば良かった、あの時ああすれば、なんて後悔しても取り返しようがないこともあるんだ。なら、出来る時に悔いが残らないように全力でやったほうがいいだろ?」

「翼…」

俺も一度死んだときもっと楽しく生きれば良かった、やりたいことがあったのに…そんな後悔をした。けど、それはもうどうやっても取り戻しようがないまま俺は死んだ。

後悔は本当に虚しいものだ。だからこそ、なにごとも全力でぶつかるべきだと思う。

「分かった、俺たちやってみるよ。全力、見せてやる!」

どうやら気持ちは固まったようだ。

「よし、それじゃあ作戦を説明するぞ!」

 

 

試合再開

ベータが剣城からすぐさまボールを奪う。

そして攻め上がってくるプロトコル・オメガ。

「なんだ?織田軍がボールから距離をとったぞ!?」

相手が攻め上がってきたところでみんなが一旦距離を取る。

「パスカットでも狙うおつもり?浅知恵ですわね~」

ベータは気にせず早いパス回しでゴール前のボールを運び、ネイラにボールが渡る。

残ったDFは太助たち3人だけだった。

「狙いどきね。シュートコマンド08!」

そしてシュートを放った。

「天馬たちは俺たちを信じてくれたんだ!俺たちが答えなくてどうする!獅子丸、五郎太行くよ!」

「「おう!」」

 

「「「一夜城!」」」

昨日、一日にして完成させた合体必殺技がついに発動しブロックに成功した。

「止めたよ!みんな!」

「よくやった!」

一夜城成功で空気が一変する。

「錦さん!」

「剣城!」

そしてこちらのカウンターが決まりフリーの剣城にボールが渡る。

「必ず決める!剣聖ランスロット!アームド!!」

剣城が化身アームドでシュートを放ちゴールを決めた。

 

「ゴール!同点!」

 

「やったー!追いついたよ!」

追いつき盛り上がるみんな。

「にしてもよくうまくいったな。」

「敵は太助たちには止められんと思い込んでおった。そこに必ず甘い攻撃で隙が生じると思ったんじゃ。これも一夜城なしには成し得ない作戦じゃ。」

「なるほど!!」

 

 

同点に追いつき雷門は勢いに乗り攻め上がっていた。

太助たちにつられ市正や仁悟の動きも良くなっていた。

そして前線で神童先輩にボールが渡る。

「この流れ。必ず決めて見せる!奏者マエストロ、アームド!!」

「神童先輩!」

チームが勢いに乗っている今、更に加速させるために神童先輩が化身アームドを試みる。

フィールドの全員が注目するなか、

「な!?うわあああ!」

化身アームドは失敗に終わった。

「そんな…」

「ベータ!」

そして今度はプロトコル・オメガのカウンターでベータにボールが渡る。

「虚空の女神アテナ!アームド!!」

「まずい!?」

カウンターが決まったことでベータにプレッシャーをかけられず化身アームドを許してしまう。

「シュートコマンド07!」

「護星神タイタニアス!アームド!!」

信介が化身アームドで対抗するも

「うわああああ」

流石の威力に弾き飛ばされ2点目を決められてしまう。

 

「僕の化身アームドが通用しない…」

ゴールを守れず落ち込む信介。

「化身アームドは、その日のコンディションや練度によってパワーが大きく変わるんだ。気にすることはないよ。」

フェイがすかさずフォローに入っていた。

 

 

そして前半終了まで残り数分に差し掛かったところでまたも神童先輩が上がっていく。

「このままじゃダメだ…化身アームドを身につけて信長のオーラを受け入れられるようにならないと…」

「神童先輩、危ない!」

「もらった!」

「しまった!?」

しかし化身アームドに気をとられ意識が散漫になったせいでオルカにボールを奪われる。

 

 

「あの者、名は何といったか?」

信長はそんな神童を見て家臣に名を尋ねる。

「たしか、神童拓人と名乗っておりました。」

「神童拓人、か・・・」

 

 

「ベータ!」

オルカからベータにセンタリングが上がる!

「まずい!?」

ここでベータにボールが渡ったらまずい。

化身使いのみんなはマークにつけていない。一夜城組もすぐに連携できる位置にはいない。

誰もがベータにボールが渡り失点を覚悟した時。

「させるかぁぁぁ!!」

「何!?」

仁悟が決死の大ジャンプでカットに成功した。

「ちっ、余計なことを…」

 

「ここで前半終了!!」

ボールが外に出たタイミングでちょうど前半が終了した。

 

「ナイス仁悟!」

「よく止めたぜよ!」

みんな最後の仁悟のファインプレーのおかげでビハインドのまま前半戦を折り返したものの雰囲気は良かった。

「俺、みんなに比べてあんまり活躍できてなかったから、痛っ!」

「大丈夫?」

足を痛めた素振りを見せた仁悟をマネージャーの三人が駆け寄る。

「そこまで酷いわけじゃないが、すぐに走り回るのは厳しいかもしれねえな。」

水鳥先輩が説明してくれる。

「藤吉郎さん!」

「うむ。仁悟、交代じゃ。よく頑張ってくれた!翼、待たせたのう!」

やっと出番が回ってきた。太助や仁悟たちが前半あれだけ頑張ってくれたんだ。

後半戦、全開で行くぜ。

 

 

「みんな、後半戦ディフェンスは俺と太助たちに任せてください!絶対に止めてみせるから、みんなは攻撃に集中して点を取ってください!」

そのために体力を温存していたんだ。相手の攻撃全部止めてやる!

「分かった。DFは全て任せる。その代わり、必ず点を取ってみせるよ。藤吉郎さん、いいですよね?」

「うむ。元々後半戦はそのつもりじゃった。おもいっきりやってこい!」

藤吉郎さんも納得の様子だった。

そんな中神童先輩だけは浮かない顔をしていた。

 

 

「さあ、いよいよ後半戦が始まるぞ~!おっとここで織田軍は仁悟に変わって赤峰を投入してきたぞ!」

 

「あ、やっと出てきたわね。さあ、どんなプレーを見せてくれるのかしら♪」

 

試合再開前、ふと声が聞こえた気がして観覧席に目を向けるとそこには着物を身に纏ったメイアの姿があった。

「やっぱり見に来てたのか。」

メイアの姿を見つけ、見ていると向こうも視線に気付いたらしく目が合う。

メイアは周囲にバレない程度に手を振り不敵な笑みを向けてくる。

まるで、楽しませてくれと言っているのが伝わって来るかのようだった。

「これは情けないところは見せられないな。…よし!」

ようやくの出番、負けられない戦い、与えられた仕事。彼女の笑みにそれらにも負けないプレッシャーを感じると同時になぜか力が漲ってくる気がした。

 

 

そして後半戦開始のほら貝の音が鳴り響いた。

 

 




いかがだったでしょうか。
どうしても一人溢れてしまうのですが太助たちを最初から外すのはやはりナンセンスと思いこのような展開とさせていただきました。ゴーストミキシマックスの存在とかで温存する意味もありそうだとも思いましたし。
これからも似たような状況ありそうだけどほんとどうしよ。特にラグナロクとか・・・
まぁそれはその時頑張りましょう。
次回で信長編は終わりの予定です。文字数次第ですが・・・

感想などあればお待ちしています。


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うつけ祭りの決戦、決着。ありがとう戦国時代

なんか過去最長になりました。
今回で信長編は完結です。


 

後半戦開始

 

プロトコル・オメガのキックオフで後半戦の幕が上がる。

「行くぞお前ら!」

早速ベータが裏の顔を出しエイナムやレイザとともに攻め上がってくる。

しかし天馬やフェイ達もインターセプトは狙うものの積極的にプレッシャーをかけることはしない。

「ふん。前半動きすぎてバテちまったか?それとももう諦めたか。」

天馬たちの動きが少ないのを見て攻撃の手を更に強めるプロトコル・オメガ。

「このまま決めるぜ!」

シュート体勢に入るベータ。

「そうはさせるか!」

「何!?」

しかしシュートを放つ前に俺がボールを奪うことに成功する。

「誰がバテたって?生憎こっちは元気いっぱいだぜ。天馬!」

やっと出番が回ってきたんだ。前半戦休んだ分、みんなの倍は働かないとな。

 

すかさず天馬にボールを出し、オフェンス組が上がっていく。

「錦先輩!」

「任せるぜよ!来い、戦国武神ムサシ!」

錦先輩にボールが受け化身を呼び出す。

「武神連斬!!」

「キーパーコマンド03!」

しかしキーパーのザノウに止められる。

流石にそう簡単に点はもらえない。

「クォース!」

ザノウからクォースにボールが渡りドリブルで切り込んでくる。

「市正、プレッシャーをかけろ!五郎太と獅子丸はパスコースをカバーだ!」

自分もプレーしながら太助たちにも指示を出す。

前半まるまるベンチから見ていたこともあり、やけに視野が広く見える。

普段こういう役割は霧野先輩やキーパーがやってくれていたが霧野先輩はいないし信介は化身アームドのために体力を温存して欲しいので俺がこなす。

 

「これはしばらく動きそうにないわね。雷門は翼が入ったことで前半よりも守りが硬くなったし、向こうもリードしているから無理に攻めてカウンターは受けないようにしてくるだろうし。だとしたら試合が動くのは…」

メイアは観戦席から試合を見つめながら今後の展開について思考を巡らせていた。

 

彼女の想定通り両チーム攻めきれず膠着状態に陥る。

後半戦が半分を過ぎようとしたところでエイナムにボールが渡った。

「決める!シュートコマンド06!」

「そうはいくか!アスタリスクロック!!」

しかし引いて守っていた分、余裕を持ってシュートブロックに入れる。

「こっちだ!」

神童先輩がボールを要求してくる。俺も信じパスを出す。

「神童先輩!」

「このままでは時間切れになる。なら!奏者マエストロ!」

「アームド!!」

そして化身アームドを試みるが、

「うあ…」

前半同様失敗に終わる。

「もう一度だ!アームド!!」

しかし同じく失敗に終わり、ボールを奪われる。

 

そして攻守逆転、今度はプロトコル・オメガの攻撃。

「レイザ!」

「太助、獅子丸!」

「「おう!」」

太助と獅子丸がスライディングでボールを奪うことに成功する。

「えっと…」

ボールを奪った太助が誰にパスコースを探す。

「太助!」

そうしていると神童先輩がまたもボールを要求する。

「神童さん!」

ボールを受け取った神童先輩がドリブルで上がっていく。

けどあれじゃ…

 

「神童!ひとりで突っ走るな!一旦戻せ!」

ベンチの藤吉郎さんから指示が飛ぶ。

「行けえ!そのまま攻め込め!」

しかし真逆の指示をワンダバが出す。

「なぜ煽る!?あやつは頭に血が上っておる。一度落ち着いて…」

「訳があるのだ!神童は信長の力を受け継がねばならんのだ。」

 

その頃信長も目の前で起きている試合を穏やかではない気持ちで見ていた。

「お、押されておりますね…」

「神童拓人…か…」

これまで自分に見せてきた強い目と冷静な姿とは大違いの神童。

信長は立ち上がった。

 

 

「くそっ!どうして化身アームド出来ないんだ!!」

その後も神童は焦燥に駆られ冷静さを失っていた。

「貰ってくよ。」

冷静を書いた神童はオルカにボールを奪われてしまった。

「よし!行くぞ、お前ら!」

ベータがメンバーに向け合図を出す。

「まさか!?」

「来るぞ!」

雷門の面々も相手の思惑に気づき前回のことを思い出す。

 

「ゴーストミキシマックス!!」

 

そしてついに奴らの切り札が発動した。

 

「ここが勝負どころね。さあ、見せてちょうだい。」

 

ベータの力を分け与えられた面々が猛烈なパワーを発揮し攻め上がってくる。

あまりのパワーに天馬たちも近づけずにいる。

「決めろ!」

そしてベータ、エイナム、レイザの三人がゴール前に切り込んできた。

「まずい!頼む翼!」

「お前一人に何ができる!」

三人が俺を強引に潰そうと突っ込んでくる。

 

「絶対に守るって約束したんだ、何人だろうが止めてみせる!破壊神デスロス!!」

ここで決めれる訳にはいかない。

「パワー全開だ!破壊弾幕!!!

これまで以上に全開で化身必殺技を発動し3人まとめて吹き飛ばす。

「「「何!?」」」

3人まとめて弾き飛ばされボールが外に出て試合が止まる。

「ふぅ~」

「ナイス翼!すごい威力だったよ!」

天馬が笑顔で駆け寄ってくる。

「前半、みんなが頑張ってくれたおかげだよ!それに、これが俺の役目だって言ったろ?」

「うん!」

危機を一旦脱し一息つく。

ふとメイアの方を見やると満足げな笑顔を浮かべていた。

どうやら合格点をいただけたようだ。みんなにバレないようにグーサインを出しておく。

 

メイアの方を見ていると観客席の方から声が聞こえた。

「お、親方さま、お待ちください。」

人ごみをかき分け現れたのは信長だった。

 

「神童拓人!此れへ参れ!!!」

信長が神童先輩を自分のもとに呼び寄せる。凄まじい迫力である。

 

「神童!貴様の戦ぶりはなんじゃ!我が方が押されておるのは貴様のせいじゃ!!」

信長は先程からの神童先輩のプレーを咎める。

「このまま軍勢の足を引っ張るなら、控えに下がるが良い!!」

信長の迫力にみんな口を挟めずにいた。信長の言っていること間違いではなかった。先程から神童先輩が起点になって攻め込まれる展開が続いている。しかし、ここで下がるわけにはいかないことも事実だった。

 

お怒りの信長をなだめるべく藤吉郎さんが口を開こうとしたとき

「お待ちください、信長様!」

お勝さんが飛び出してきた。

「お願いでございます、拓人様に試合を続けさせてあげてください。」

お勝さんは信長に膝を付き頭を下げて懇願する。

「娘、無礼であるぞ!」

「拓人様は一生懸命サッカーの修練に励んでおいでです。勝つために、昼も夜も。だから、拓人様に試合を続けさせて上げてくださいませ!!」

「お勝さん…」

お勝さんはまるで自分のことのように、いや、それ以上に必死になって信長を説得している。

 

「…ふん、案ずるな娘。」

「え?」

そんなお勝さんに信長は穏やかに応えた。

「神童、お前はなぜ動く必要のないところで動く?貴様は動きすぎじゃ。静と動の使い分けこそ戦術の極意!!」

「静と動…」

「貴様の役目は攻めと守りの間で用兵の要を担うことではないのか?」

信長は雷門のサッカーにおける神童先輩の役割、ゲームメーカーの本質を言い当ててみせた。たった一度の試合を見ただけで。

「お前のしていることは誤りではない。が、敵に読まれやすいのだ。」

そして神童先輩が陥っている状況も。これが織田信長、最強の戦国武将。時空最強イレブンの一の力を持つ人…

「お言葉、しかと承りました。」

神童先輩は自分が何をすべきかを悟った様子で答えた。

 

 

そして試合再開。

試合再開前に藤吉郎さんに伝えられた作戦通りに攻め込む。

 

「それでは、これからの作戦を伝えるぞ。神童、お前はボールに触れるな。」

藤吉郎さんの作戦はここに来て神童先輩を攻撃から外すことだった。

「藤吉郎さん、それじゃダメなんです!」

信長のオーラを受け継ぐ必要があることを知る俺たちは当然意義を唱える。

「分かっておる。この試合、勝つだけでは足りんこともな。だからこそボールに触れるな。時が来るまでは。」

 

時が来るまで。その時が来るまでは神童先輩にボールを回さずに試合を組み立てる。

「今じゃ!炎のごとく攻め込め!」

藤吉郎さんの号令で天馬やフェイたちが一気に攻め上がる。

「五郎太、市正。お前たちも上がれ!後ろは俺たちで何とかするからみんなをフォローしてやってくれ。」

「「はい!」」

 

「お前ら、ぶっつぶせ!」

そしてプロトコル・オメガの全力でこちらを潰しに来る。

全力で攻撃と守備がぶつかり合い、試合の熱量は最高潮に達していた。

 

そんな白熱するグラウンドのなかで神童だけが一歩引いたところで全体を見ていた。

試合再開後、一度たりともボールに触れていない神童の存在はプロトコル・オメガの脳裏から完全に消えていた。

 

そして、天馬たちが完全に包囲された。

「進退極まったな。」

「くっ…」

 

「天馬こっちだ!」

その時ついに神童先輩が静寂を破り動き出した。

「神童君!」

フェイから完全にフリーになっていた神童先輩にボールが渡る。

「させるか!」

急いでDFが神童先輩に突っ込むが神童先輩は今度は急に動きを止める。勢い余ったウォードをそれだけで躱す。

 

「奏者マエストロ、アームド!!」

最後のDFを躱した神童先輩が化身アームドを試みる。そして

 

「出来た!」

「やったぜよ!」

ついに化身アームドが成功した。

「行くぞ!はああああああ!!」

「来い!キーパーコマンド03!」

化身アームドした神童先輩がシュートを放ち

「ぐあああああ」

そのシュートがザノウを破りゴールに突き刺さり同点に追いついた。

 

「見事なり!」

神童のプレーに信長も賞賛の声をあげる。

興奮したワンダバも体がピンクに染まる。

「ぬああああああ!今なら行ける!信長様、お願いがあります。」

「申してみよ。」

「はっ!信長様の力を神童に分け与えていただきたい。日本の未来のために。」

「儂の力を、神童に?」

 

ワンダバがミキシマックスのことを信長に説明する。

「ふむ、儂と神童をこの鉄砲で撃つと。」

「お館様を鉄砲で撃つなどと!やはりこやつらは不届きものです!って、うわわわ」

忠臣たちがワンダバの提案を却下しようとするもミキシマックスガンを向けられビビる。

「面白いではないか、やってみせろ!」

「お館様!?」

「この者たちの誠、目を見れば分かる。」

「感謝致します!神童、いいな!」

「はい!」

 

 

そして試合再開、残り時間もわずか。

 

「このまま終わるものか!」

残り時間もわずかというところで同点に追いつかれプロトコル・オメガももうなりふり構っていられない。FW3人が怒涛のごとく攻め上がってくる。

「リーダー!」

そしてついにベータにボールが渡る。

「来い!虚空の女神アテナ!アームド!!」

「信介、太助、獅子丸、五郎太!なんとしても止めるぞ!」

「「「「おう!」」」」

「まとめてたたきつぶす!シュートコマンド07!」

これまで何度もゴールを許してきたベータの必殺シュートが放たれる。

「止める!行くよ、獅子丸、五郎太!」

「「「一夜城!」」」

太助たちがシュートブロックに入る。しかし

「「「うわあああああ!」」」

流石に止めきることは出来ず吹き飛ばされる三人。だがこれなら俺が止められる。

そう思っているとシュートコース上にレイザが飛び出してきた。

「シュートコマンド03!」

「シュートチェイン!?」

ここにきてまさかのシュートチェインを挟んできた。

「うおおおお!アスタリスクロック!」

なんとか俺もシュートブロックに入る。

「ぐぬぬぬん…うああああ!?」

しかしベータの化身アームドの必殺技にシュートチェインが乗った威力を殺しきることは出来なかった。

「頼む、信介!」

最後の砦の信介に全てを託す。

「任せて!護星神タイタニアス、アームド!!」

信介が化身アームドでシュートを受け止める。

「絶対に止める!はああああ!」

そしてシュートの威力が弱まっていき完全に回転を止めた。

 

「そんな馬鹿な!?」

ベータとレイザは信じられないといった様子だった。

「神童先輩!」

その隙をつき、神童先輩にパスを出す信介。

 

 

「よし、今だ!神童!!」

そして神童先輩がボールを受け取ったところでベンチのワンダバが叫び信長と神童をミキシマックスガンで打つ。

 

「ぬううううう!!」

「はあああああ!!」

二人に放たれた光は今度こそ弾かれることはなく神童先輩の体に収まった。

「ミキシマックス、コンプリーーート!!!」

信長とミキシマックスした神童先輩は髪色が少し赤みがかり、信長のまげと神童先輩のパーマが合わさった髪型に信長のような鋭い眼差しをした姿だった。

 

「ついに出来た!」

「シン様、ワイルド。」

「拓人様!」

「うむ、良き面構えだ。」

「かっこええ~」

俺含めみんなそれぞれ神童先輩の変貌に声を漏らす。

 

 

「行くぞ」

そうつぶやくと同時にドリブルで攻め上がる神童先輩。瞬時に四人を抜き去る。

「「早い!?」

敵陣に侵入するとDF陣が止めに来るが歯牙にもかけず吹っ飛ばしシュートモーションに入る。

「刹那ブースト!!」

一瞬で三度のけりを浴びせた強力なシュートが相手ゴールを襲う。

「俺が止める!」

そのシュートコースに化身アームドしたベータが飛び出してくる。

「まさか化身アームドのままゴール前まで戻ったのか!?」

そしてそのままベータが刹那ブーストを止めようとする。しかし

「うわあああああ!?」

シュートの勢いは止まることなくベータとキーパーともどもゴールに突き刺さった。

 

「ゴール!織田軍、ついに逆転!!そしてここで試合終了!!織田軍の勝利ぃぃ!」

 

「やったーーー!ついに勝ったーーー!!」

みんなついにプロトコル・オメガ2,0を倒し歓喜に震える。

「太助たちもありがとう!みんながいてくれたからだよ!」

 

「さあ、みんなを元に戻してもらうぞ!」

ひとしきり喜んだあと、プロトコル・オメガが退散する前に捕まえ、雷門のみんなの洗脳を解かせる。

スフィアデバイスにあの時発せられた光が収まっていく。

「全部戻しました~これでいいでしょ?」

ふくれっ面で拗ねたようにベータが言う。

「円堂監督も返せ!」

そうだ、洗脳は解かれたようだが封印された円堂監督の解放とサッカー禁止令の解除はまだだった。

「ここには居ないわ。別のところに移したの。調べてみれば?」

そう言ってスフィアデバイスをこちらに渡してくるベータ。フェイがデバイスを調べてくれる。

「確かにもうこの中に円堂さんの反応はないみたいだ。」

「そんな…」

せっかくプロトコル・オメガ2,0を倒したのに。

 

みんな円堂監督を取り戻せないとしり落胆していると奴らのUFOみたいなものが飛んできてその中から銀髪の男が現れた。

「やれやれ、情けないなベータ。それでもエルドラドに選ばれた管理者なのかい?」

「ガンマ…」

「マスターがお呼びだよ。行こうか。」

ガンマと呼ばれた少々ナルシストっぽい男に言われプロトコル・オメガは撤退していった。

奴らが撤退したあと俺たちは織田信長に自分の城に招待されたため祭りをあとにした。

ちなみに今川義元は悔しそうな表情を浮かべ去っていった。

 

「やっとベータを倒したと思ったのに次はガンマか。まだまだ戦いは続きそうね。」

両陣営が去ったのを見届けたメイアはまだ続きそうなエルドラドの介入にため息をついていた。

「まあでも、あの織田信長の力、あれは確かに中々のものだったわね。あんな力がこれからも集まっていくなら、プロトコル・オメガくらいならなんとかなりそうね。問題はあのアンドロイドたちかしら。」

織田信長の力はメイアの目から見てもかなりの戦力に映ったらしく、今後の戦いもなんとかなりそうという評価だった。

「それに、翼の力も以前よりも更に高まっていたわね。もし彼がこれから強くなっていって信長のような力を受け継いだら……ふふっ、また楽しみが増えたわね♪」

ゴッドエデンで見たときよりも増していた翼の力、そして彼らの言う時空最強イレブンの力はメイアの興味を引いた。

まだ見ぬ10人の力を集めたときどれほどの力を彼らが得るのか、その力が自分たちフェーダにどれほど通用するのか、また少し楽しみになった。

「さて、一度今回のことをSARUに報告しに帰ろっと♪」

そう言う彼女の言葉尻は少し明るかった。

 

 

名古屋城 

 

「此度の戦、見事であった。

「「「ありがとうございます!」」」

俺たちは信長に宴の席に招かれていた。

「それにしても、今川義元のあの悔しそうな顔ときたら。」

「胸のあたりがスゥーっとし申した!」

信長の家臣たちが笑いながら言う。

確かにあれは見ていてすごく気持ちが良かった。

「『覚えているでおじゃる!』なんて言ってな!」

「ははは!似ている似ている!」

去り際の今川義元のモノマネを披露してみると結構受けた。割とモノマネは好きだ。

 

「神童拓人!貴様には我が力を分け与えたのだ。蹴鞠戦、いや貴様達の時代ではサッカーと呼ぶのだったな。心して精進せよ!」

「はい!信長様から受けた御恩、忘れません。」

宴の折、信長が激励の言葉をかけてくれた。あの織田信長に精進しろと言われたんだ。しないわけがない。

「うむ。時に神童、お主は儂には天下は取れんと言ったな。」

信長が詮議の時のあのやり取りを掘り返してきた。

「親方様はこの者の言うことは信じるのですか?」

「おそらくこの者たちの言っていることは全て事実であろう。もしあの時言い逃れるつもりであれば、儂が天下を取れるというはずだ。この者の目は恐れを抱きながらも真実を伝えようとしていた。」

あの時のことを信長は思い返しながら言う。

あの時、既に信長は俺たちの言っていることを見抜いていたのか。

まさに人を見抜く力ってとこか。

「それにしてもこの信長に天下は取れぬと言い切るとは、大胆不敵な男よ。」

信長も今回の戦いを通じて神童先輩を評価しているようだ。

「・・・最後に一つだけ聞かせて欲しい。」

「はい。」

信長が改まって神童の目を見据える。

 

「歴史は変えられるのか?」

信長から出た言葉は意外ともやはりとも取れるものだった。

「俺には、わかりません。」

「分からぬ、か…」

「申し訳ありません。」

神童先輩は今度も正直に答える。神童先輩の言葉を受け、信長は遠くを見つめ話し出す。

「天下は儂の夢…儂はその夢を失う事になるのか。」

なんとも言えぬ様子で言葉を漏らす信長。

「ですが、信長様は歴史を大きく動かした…いや、動かすお方です。俺たちの時代に生きる日本人なら誰もが信長様の名と成されることを知っているほどに。信長様なら、人の運命すらも変えてしまわれるのかもしれません。」

「儂にはあるか?運命を変える力が。」

「はい。俺たちのような未熟者でも運命に立ち向かう力があるのです。信長様にも必ずあります。」

「ふっ…天下の夢しばし見るとしよう!貴様達の決して最後まで諦めぬ姿、しかと見せてもらった!」

そう言った信長は威風堂々とした、それこそ運命を自力で変えてしまうかもしれない、そう思わせる程だった。

 

「不思議な少年たちであった。」

「未だに信じられませぬ。」

宴を終え、神童たちが帰路についた後、信長は忠臣と月を見上げながら、不思議な出会いに思いを馳せていた。

そんな影に一人の男の姿。

「藤吉郎!」

「はっ!」

「貴様の采配、見事であった。」

「ははっ!」

「貴様を試してみたくなった。以後、儂に仕えるが良い。」

憧れの信長に仕えるよう言われた藤吉郎は感動に震える。

「信長様!」

織田信長と木下藤吉郎、後の豊臣秀吉。後世に名を残す二人の、運命を変えるかも知れない主従関係がここから始まった。

 

 

翌朝

 

「お別れだね。」

俺たちは太助たちと最後の別れの挨拶をしていた。

「俺、天馬達とサッカー出来て良かった。」

「俺たちもだよ!」

「俺、旅に出る!」

そう切り出す太助。

「俺、この国には知らない世界がいっぱいある。俺、尾張国しか知らないから、そんな知らない世界をいっぱい見て歩きたいって思ったんだ。天馬たちのおかげでこの世界にはドキドキすることがいっぱいあるって知った。いろいろ見て帰ってきてそれでも豆腐屋を継ぎたいと思ったら世界一の豆腐屋になれる気がするんだ!」

「太助…」

俺たちよりも年下なのに太助はこんなにもこれからのことを考えている。一生懸命に生きようとしている。そんな姿が、俺には眩しく映る。

「それに、他の国の奴らともサッカーやりたいし!」

「その時は俺たちも一緒だぜ!」

獅子丸たちも続く。

「そうだ、俺たちと一緒に戦ったんだ!他の奴らなんかに負けるなよ!」

俺も五人に激励の言葉を返す。俺たちは時代は違えど一緒に戦った仲間だ。

「はい!翼さんに教わった守りでどんな奴らでも止めてみせます!」

「この時代最強のサッカーチームとしてそっちの時代にも伝わるくらい頑張ります!」

「お前ら…」

「その意気ぜよ!」

「うん、絶対にまた一緒にサッカーをしよう!」

サッカーが繋いでくれた歴史を超えた絆がここはあった。

 

「もう、会えないんですね…」

天馬たちとは離れた、桜の木の下で神童とお勝さんは話していた。

「ああ。俺はこの時代の人間じゃないからな。」

「はい。思いが決して届かぬことも分かっていました。」

寂しげに言うお勝さんの言葉に驚く神童。

「・・・ごめん。」

彼女になんと返していいか分からずただ謝る神童。

「これ、受け取ってください。」

選別とばかりにあの時のようにお弁当を渡す。

「ありがとう。…それじゃあ、行こうか。」

「私も!…」

気まずい空気が流れ二人で皆の所に戻ろうとする神童を引き止めるようにお勝さんが声をかけるが

「何でもありません。」

告げようとした言葉を飲み込みなんとか笑顔を浮かべる。

「お勝さん。俺、絶対に取り戻してみせるよ。失ってはならない、大切なものを。」

「はい!・・・」

神童の言葉にうっすらと涙を浮かべて答える。

「そして、取り戻したら必ず報告しにこの時代に戻ってくるよ。その時は今度は一緒にサッカーをしたり踊りを踊ったりお豆腐を一緒に作ろう。」

「はい、はい!あの、これを持って行ってください。」

お勝さんは髪を結んでいた組紐を神童に渡す。

「ああ。必ずこれを返しに戻ってくる。だからその時まで待っていてください。」

そして二人はみんなの元に戻っていた。

 

 

「本当にありがとう!また会おうね!みんなバイバイ!」

天馬が最後に別れを告げTMキャラバンは発進した。

窓の外を見渡すと獅子丸たちが笑顔で手をふり見送ってくれていた。お勝さんは涙を堪えきれず太助に支えられながら泣いていた。

「神童先輩、負けられませんね。」

通路を挟んだ席の神童先輩に話しかける

「ああ。彼らに報いるためにももっともっと強くならないとな。」

「はい。」

ありがとう尾張国のみんな。

この時代に生きる人たちへの感謝を胸に現代へ戻った。

 

 




いかがだったでしょうか。
今回はところどころ試合展開を変えてオリジナル要素を増やしてみました。
最後の神童とお勝さんのやりとりは原作でも切なすぎて泣きそうになりました。少しでも希望を持てるようなのがあってもいいかなと思いました。
次はジャンヌ編ですがその前に日常パートでも少し挟むかも。

あのキャラとかも出るし楽しみ~

感想、ご指摘あればお待ちしています。


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幕間
みんなが帰ってきた!


どうも。少し間が空いてしまい申し訳ありません。書き上げてはいたのですがチェックと投稿を素で忘れていました。年かな。
今回から黄名子が登場しますが書いてて喋らせるのがとても楽しいですね。
フェイとの絡みとか増やしたいなぁとか思ってます。
それでは。


現代

 

「帰ってきたな。」

「うん。」

「みんな元に戻っていると良いんだけど。」

俺たちは現代の雷門中に帰ってきていた。

うつけ祭りの決戦でプロトコル・オメガを倒したことでみんなのマインドコントロールは解かれたはず。

けど、やっぱり自分達の目で確認しないと不安なものである。

みんな期待と不安を抱えながら部室の扉を開くと

 

 

「お、来たな。」

「遅いぞ。後輩が先輩より遅れてどうするんだ。」

「だド!」

「遅かったじゃないか、神童。」

そこには準備運動やリフティングをしているみんな、いつもの光景が広がっていた。

「戻ってる~!」

「みんな思い出したんですね!」

天馬と信介がすかさず声をかける。

「ああ、胸に引っかかってたものが取れたって感じだ。」

「ほんと、なんであんな暗い気分になってたんだろうな。」

「ちゅーか早く練習したいっしょ!」

「ですね!

どうやらマインドコントロールの影響は完全になくなっているようだ。

「良かった、みんなが帰ってきたんだ。」

今まで奪われていた当たり前の日常と仲間が帰ってきたことを実感していると部室の扉が開いた。部員の皆は揃ってるから音無先生かなと扉の方を見やると

 

 

「遅くなったやんね~。みなさんチーッス!」

見慣れない茶髪の元気そうな女の子が立っていた。

「誰だ?」

「さあ?」

神童先輩や信介たち戦国時代に行っていた組は俺と同じように初めて見る女の子に困惑していた。

「お、遅かったじゃないか菜花!」

「黄名子ちゃんまた補習?」

「懲りないな~」

「えへへ、恥ずかしいやんね~」

しかし他の皆は彼女のことを知っているらしく彼女も輪に溶け込んでいる。

すると彼女はこちらを見やると花が咲いたような笑顔を浮かべて駆け寄ってきた。

「キャプテン~!天馬キャプテン!お久しぶりやんね~」

そういって天馬の腕をぶんぶん振りながら挨拶をしており、やけに懐いている様子。

だが天馬の方は見ず知らずの女の子のスキンシップに困惑している。

 

「あ、あの~ごめん。君、誰だっけ?」

俺たちが気になっていたことを天馬が言ってくれた。

「ええ~キャプテンったら~冗談やめてよ~。ウチ、エースストライカーやんね?」

「そうだぞ天馬。いくら戦国時代に行ってたからって部員を忘れるなんて。」

彼女に続いて三国先輩からも声が飛ぶ。

 

「え~と…ごめん…」

そう言われても記憶にないものはない。

「もう~しょうがないな~。じゃ、改めて自己紹介するやんね!」

 

「チーッス!ウチ、菜花黄名子!よろしくないと!やんね。」

人懐っこそうな笑みと決めポーズで彼女、菜花黄名子は名乗りを上げた。

 

 

「フェイ、あの子って…」

「うん。タイムパラドックスの影響で生まれたんだと思う。」

やっぱりそうか。俺たちだけが黄名子を知らないこの感じ、サッカー禁止令の時と同じだ。

 

「このまえ剣城にストライカー勝負で勝ったから今のところウチがエースストライカーやんね。あ、でも流石に背番号はまずかったかも。返すやんね!」

「ってうわあああ」

そう言って男の前で遠慮なくユニフォームを脱ごうとする黄名子をマネージャー陣が止める。

なんか、凄い子だな。けど、剣城に勝ったというなら実力派折り紙つきだろう。

「よく分からんけど頼りにはなりそう。…多分。」

マネージャーに止められえへへと笑う黄名子を見て何とも言えなかった。

 

 

「よし、来い!」

「ミキシトランス、信長!」

ひと段落つき俺たちはみんなに神童先輩の、信長の力をお披露目していた。

キーパーに三国先輩、その前に霧野先輩、天城先輩、狩屋が守りを固めたゴール前を想定した形式だった。

「行くぞ!」

神童先輩がドリブルで瞬く間に狩屋と天城先輩を抜き去る。

「行かせない!」

最後に霧野先輩が止めに入るが

「何!?」

神童先輩は霧野先輩も躱した。

「刹那ブースト!!」

「うわああ」

そして必殺シュートで三国先輩も破った。

やっぱり信長の力は凄まじいの一言だった。

 

 

「すごい力だな神童!」

「これが織田信長の力か~」

「この力があればこれからの戦いもなんとかなるかもしれないですね。」

信長の力を目の当たりにしたメンバーは神童先輩を中心に輪を作り盛り上がっていた。

「ん?霧野先輩?」

しかしその輪の外で、普段なら最も神童先輩のそばにいそうな霧野先輩は暗い顔をしていた。

 

 

「あれ?」

葵のポケットが光り大介さんが出てきた。

「よ~しお前ら。そろそろ次の時空最強イレブンの力を発表するぞ~!」

「「「おおおおお」」」

大介さんの言葉にみんな期待の声をあげる。信長の力を見た直後だとやはり期待は大きくなる。

「時空最強イレブン二の力!仲間の勇気を奮い立たせ、鉄壁の守りに変えるカリスマディフェンダー!!」

 

「「「おおおおお」」」

ディフェンダー。俺もディフェンダーとしてこの力を授かりたい。けど、この力を聞いて俺の脳裏にはあの人が浮かんでいた。

 

「・・・・」

「・・・・・」

大介さんの次の言葉を待ち、沈黙が流れる。

「あの~・・・・」

「なんじゃ?ワシか?」

みんながコントみたいにずっこける。

「だから!例えるなら誰~みたいなのないんですか!?」

天馬が勢いよくツッコミを入れる。

「ああ~すまんすまん。そうじゃな二の力、例えるならそう・・・」

 

「ジャンヌ・ダルクだ!」

「「「ジャンヌ・ダルク!?」」」

 

恒例のごとく一同驚愕。

ジャンヌ・ダルク。名前は聞いたことある。女の人だっけ?

 

「ジャンヌ・ダルクは中世フランスにおいてイングランドとの戦争の中、仲間を導きイングランド軍を撃退した戦場のカリスマじゃ!ジャンヌなら儂の考える二の力にふさわしい。」

「ジャンヌには神の声を聞く力があったと言われている。」

はえ~神の声ね~。それにしても女性が戦争を勝利に導くなんてすげーな。

また一つ賢くなりました!

 

「はいは~い!女の子ならここはやっぱウチが適任やんね~」

黄名子が力を受け継ぐのに立候補する。

「うむ。では、菜花に任せる。」

「そんなんでいいんですか?」

あまりの雑な決め方に天馬が突っ込む。

「まあ大丈夫じゃろう!」

対する大介さんはあっけらかんとしていた。

 

 

「アーティファクトは既に手配しておる。手に入るのは2日後。明日は思い思いに過ごし英気を養っておくといい。以上!」

大介さんが〆たことで今日は解散ということになった。

ちなみにフェイの提案で今回からのタイムジャンプは歴史への影響を抑えるために11人ともしもの時のための一人を加えた12人で行くことになった。

 

「霧野先輩、どうしたんですか?」

「狩屋…何でもない。」

視界の端でじゃ霧野先輩と狩屋がなにやら話していた。

 

 

「う~ん明日は休みか~なにして過ごそっかな~」

俺は天馬とともに木枯らし荘への帰り道を歩いていた。

「久しぶりの休みだな。ここんところずっと戦い続きだったから助かるな。」

「うん。翼は明日何して過ごすの?」

「う~ん。まだ考えてないな~」

「そっか~。あ、葵からメールだ。」

明日のことを考えていると天馬の携帯に葵から連絡が入ったらしい。

「葵が二人で買い物に行かないかだって。」

「へ~いいじゃないか。行ってこいよ。たまには良いんじゃないか?」

「たしかに、スパイクとかも見たかったし。それにしても葵と二人で出かけるのなんて久しぶりだな~。」

幼馴染の二人はたまに二人で出かけることがあったらしい。羨ましいものである。

「それじゃあ天馬は明日一日お出かけか~。俺はどうしよっかな~。…あっ」

「どうしたの?」

「いや、何でもない。俺も明日の予定を思いついただけ。」

「何して過ごすの?」

「それは内緒だ。」

「え~教えてよ~」

「やーだよ。ほら、着いたぞ。」

そんな会話を交わしながら歩いていると木枯らし荘についた。

 

 

200年後の未来 フェーダのアジト

 

「ただいま~」

「お帰り、メイア。」

「お帰り。」

メイアは自分の時代に帰ってきていた。そんなメイアをSARUとギリスが出迎える。

「今回は少し長めのタイムジャンプだったね。」

「ええ。彼らの時代で遊んでたのもあるし、あと彼らにも動きがあったからそっちにもついて行ってたからね。おかげで随分と楽しめたわよ♪」

「それは良かった。土産話でも聞かせえてくれるかい?彼らの時代のこととか、彼らのこととか。」

「ええ。その前にお茶の準備でもしましょう。少し落ち着きたいわ。」

帰ってきてすぐに催促されて流石に一息つきたいメイアが言う。

 

会議室のような場所に移動した三人はギリスの入れた紅茶を飲みながら話しを再開していた。

「それで、過去の時代はどうだい?前にも聞いた気もするけどゆっくりは聞けなかったからね。」

「そうね。やっぱり文明は進んでないから不便なこともあるけど、それはそれで楽しめてるわね。あと、景色とかも今とは全然違って見てて飽きないわよ。」

「不便なことが良いなんて僕には考えられないなぁ。人も文明も進化してこそだよ。」

SARUはあまり共感できていないらしい。彼は進化した人類、セカンドステージチルドレンの皇帝とてはあまり古い時代のものには関心がないようだ。

「ま、SARUはそう言うかもとは思ってたわ。けど、河川敷で小さい子達が駆け回ってるのとか、今では全然見られないから、そういうのを見ると昔のことを思い出すわ。」

「僕とメイアもよく遊んだよね。あの頃は。」

「ええ。」

まだ彼らが親の元にいた頃、無邪気に過ごしていた頃を思い出す。

「ふん。僕はその中にはいないけどね。」

そんな二人だけの思い出を聞かされ少し拗ねるSARU。

「ごめんごめん。他にもこの時代と彼らの時代で過去の人物の認知度とかにも差があったわね。そのへんは時代の流れを感じたなぁ。」

「たしかに、時代が変われば評価される人物や歴史も変わるだろうね。」

 

 

「で、フェイたちの調子はどうだい?」

過去の話に花を咲かせているとSARUが本題とばかりに切り出した。

「もう!まだ話したいことがあるのに…まあいいわ。」

そういって彼女が過去に飛んだ時に翼から聞いた話の内容を話す。

「へ~時空最強イレブンね。よくそんなこと考えるね。」

「本当よね。それで彼らは織田信長の力を求めて戦国時代に飛んだってわけ。」

「織田信長といえば昔の日本という国を収めようとした人だよね。」

「そんな昔の人間がそんなすごい力を持ってるとは思えないな。」

SARUは半信半疑といった様子だった。

「それがそうでもないのよ。フェイは恐竜とミキシマックスしているんだけど信長の力はこの時代のミキシマックスガンに収まらないほどだったみたい。」

「あのミキシマックスガンに?それは確かにすごいね。」

「ええ。雷門の神童って人がオーラを受け取るつもりだったんだけど彼の器に収まりきらなかったらしいわ。まぁ最後は成功したけど。」

「その口ぶりだと見ていたのかい?」

ギリスが言葉尻を捕らえる。

「ええ。エルドラドと戦国時代で決着を付けるみたいだったから見に行ったの。中々の力だったわよ。」

「それは僕らにとってはありがたいね。」

 

 

「そういえば、どうして彼らの動向をそんな詳しく知っているんだい?」

ふいにギリスが疑問を投げかけてきた。

「確かに、やけに彼らの事情に詳しいね。ずっと見ていたわけじゃないんだろう?」

「あら、言ってなかったかしら?翼に連絡用のデバイスをあげたからそれでやり取りをしてたの。」

「ツバサ?って以前言っていたすごい力のを秘めてる人だっけ?」

「ええ。一回彼の時代に戻ったときに町で出会ったからその時に渡したの。あのデバイスを持っていればその反応を辿ってタイムジャンプしやすいし。それに彼と連絡取れるのは私にとっても嬉しいし。」

「おいおい、あんまり僕らの技術を流さないでくれるかな?フェイやエルドラドにバレたら面倒なことになるんだから…」

勘弁してくれといった様子のSARU。

「口止めしてるから大丈夫よ。それに、あれを作ったのも私なんだから文句言われる筋合いは無いわ。」

「よっぽどその翼って人を気に入ってるんだね、メイア。」

「もしかして好きになっちゃったとか?」

ギリスとSARUが茶化すように言う。

「別にそういうのじゃないわよ、彼の力は興味深いし見てて面白いだけよ。…まぁ他の人たちに比べたら話してても楽しいし魅力的だと思うけど…」

茶化されたメイアは否定する。彼女自身、他の人間に比べると魅力的ではあるが‘そういう’対象としては意識していない。フェーダ内でもガロなどのザンのメンバーよりはよっぽど好感は持てるが単純に気になる人間というだけ。多分。

「ふふ、今日のところは君の言い分を信じるよ。ね、ギリス。」

「ああ。それでその彼の力はどうなんだい?以前は化身を使いこなせてなかったって言ってたけど。」

ふと気になったギリスが翼の話題をメイアに振る。

「そうね。彼はプロトコル・オメガとの戦いは作戦の関係で後半戦からの出場だったの。前半体力温存してた分、後半は凄かったわよ!ベータの力を分け与えた3、4人まとめて吹き飛ばしたり、化身アームドとシュートチェインをシュートブロックしたりで彼が入った後半は1点も与えなかったの!それでね……」

話題を振られたメイアは生き生きと話し始める。そんなメイアに呆れと困りが混ざったように笑うSARUとギリスであった。

 

 

「~~~~~~・・・あら?」

話し込んでいると不意にメイアのポケットの中でデバイスが震えた。

「誰かから連絡かい?」

「今ってギルの誰か出かけてたっけ?」

二人には連絡の相手が全く検討もつかずメイアの方を見やると

「ふふ♪あの時の約束、ちゃんと守ってくれるんだ♪」

そこにはとても嬉しそうな可愛らしい笑顔を浮かべたメイアがいた。

「あ、二人共、また明日から過去に飛ぶことにしたわ。フェイたちのことは引き続き任せてちょうだい。それじゃ♪」

そう言い残してメイアは去っていった。

「ねえ、ギリス。」

「なんだいSARU。」

「すごく楽しみそうな顔してたね、メイア。」

「うん。あんなメイアなかなか見れないね。」

「あの連絡、多分そういうことだよね。」

「だろうね…」

「「はぁ…」」

 

『俺たちの時代で、明日会えないかな?』

 

 

翼は自室でデバイスと一時間ほどにらめっこした末にメッセージを送信した。

不意に訪れた丸一日の休み。どう過ごすか考えていると戦国時代でのメイアとのやり取りを思い出した。

「けどメイアがどの時代にいるかも分かんないし、そもそもOKしてくれるかな…からかってるだけだったりして…」

前世でも女性を誘ったことなどなかった翼にとって女性に出かけようと誘う、それもメイアのような魅力的で不思議な子を誘うなどかなりの勇気が必要なことだった。

なんとかメッセージは送ったものの返信が帰ってくるまで不安と悶々とした気持ちに飲まれながら待っているとデバイスが震えた。

 

『もちろんOKよ。それじゃ明日の10時にこの前あったところの駅前に集合しましょ。楽しみにしてるわね♪』

 

「まじか…どうしよ」

 

 




いかがでしたでしょうか。
ということで少し日常回という名のほぼデート回を少しはさみます。
デートしたこともないような人間がどうやってデートを描くんだといった感じですが頑張ります。
二人の距離感、むずい。


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初めてのおでかけ

はい。今回はお出かけ回です。
田舎者には東京のこと分からないよ~


 

駅前

 

「ちょっと早いけどついたな。」

翼は約束の10分前に待ち合わせ場所の駅前の噴水についていた。

「正直、あんなにあっさりOKされるとは思わなかったな。一応考えては来たけどメイアのことをあんまり知らないんだよな、よく考えると。」

翼としては戦国時代での約束を果たそうと考えなしに誘ったはいいがプランが無いことに寝る前に気づいて軽く寝れなくなった。

 

 

「おはよう翼。待たせちゃってごめんなさい。」

そんなことを考えながら待っているとメイアがやってきた。

「そんなことないよ。俺もさっき着いたとこだ。それにタイムジャンプや慣れない時代なんだし仕方ないよ。」

「ふふ、そう言ってくれるとありがたいわ。」

「今日はいつもとは違う格好なんだな。その…とても似合ってるよ。」

メイアはいつものユニフォームにも見える服ではなくカジュアルでありつつも普段のように上品さを感じさせるあまりこの時代では見ないような服装だった。

「ありがと。いつものあの格好はユニフォームも兼ねてるの。だから出かける時はこうして自分の服なの。あなたも素敵よ。」

「そうかな?俺はあんまりおしゃれとかよく分からないんだけど…」

 

 

「それで、今日はどうしたの?何も聞かされてないんだけど。」

「ああ。この前また二人で出かけようって言ってただろ?明日からまたタイムジャンプするんだけど今日一日休みだったから誘ってみたんだ。」

「ちゃんと覚えてたのね、あの約束。」

「元はといえばそっちから言ってきたんだけどね。」

「あはは、そうだったわね♪それで、なにして過ごすの?」

メイアはこれからのプランを聞いてくる。

「そのことなんだけど、俺たちってなんだかんだでお互いのことあまり知らないだろ?だから今日はお互い好きなこととか休みの時に行くところとかに行くのはどうかなって。ついでに戦国時代でのこととかも話すよ。」

昨晩、誘ってみたはいいがプランもなにも考えていなかった翼は寝る前に必死で考えたが彼女のことをなにも知らないということに気づいた。だから、今日で少しでもお互いのことを知りたいと思ったというわけだ。

「それは良いわね。私も翼のこともっと知りたいと思っていたしね♪」

「うぐっ///」

面と向かって言われると気恥ずかしくなる。

「それじゃ、早く街に行きましょ。ほらほら!」

「ちょ、ちょっと待った。まずは電車だからこっちだって!」

「もう!なら先に言ってよ!

そういって翼の手を引き駅構内に入るメイア。

こういう時、男が引っ張っていくものだと思っていたのに気がついたら彼女のペースに乗せられているのがいつも通りの光景になりつつあることに少し複雑な心境の翼であった。

 

 

二人はとりあえず何でも揃っている都市部に来ていた。

「メイアは最近この時代に来たみたいだけど何して過ごしてるんだ?」

「そうね~この時代は私からしたら目新しいものばかりだからとりあえずブラブラしているだけでも楽しいわね。お洋服屋さんとかこの時代の本屋さんとかも見たりしてるわね。」

そう言いながら街を歩く二人。

「へ~それじゃ午前中はその類のお店に入ってみようか。」

「そうね。翼のおすすめのお店とか教えてもらえる?」

「いいけど服屋とかは期待しないでくれよ。」

 

「ここは色んなお店が入ってるし規模も大きいしよくくるんだ。」

翼とメイアは大型の商業施設に来ていた。ここならメイアも好きそうな本屋や洋服屋、昼食にも不便はなさそうということで連れてきた。

「200年後もこういうところはあるのか?」

「そうね、私はあまり行かないけどあるわよ。」

メイアはセカンドステージチルドレンとして大量の人が集まる場所は避けるようにしていたためこのような施設は知っていても来るのは初めてだった。

「そうか。4階に大きな本屋があるから行ってみよう。」

「ええ。」

 

 

「翼は本とか読むの?」

「俺は漫画しか読まないかな~。なんか真面目な本とか読むと眠くなるんだよ。難しい漢字多いし。」

「ふふ、なんとなく想像はつくわ♪そんなので勉強は大丈夫なの?これから色んな時代に行くんでしょ?」

「うぐっ…な、何とかなってるよ?」

嘘である。この男、二度目の中学生なのに天馬と同じかそれよりひどい点数を取ったりしている。

 

「そういうメイアはすごく頭良さそうだけど本とかよく読むのか?」

「そうね。自分で言うのもなんだけど頭はとても良い方ね。本はよく読むけど暇な時にいろいろ読むの。」

常人よりも優れた知能を持つセカンドステージチルドレンの中でも随一の頭脳を誇るメイアである。ここは謙遜するでもなく答える。

 

「ふん。どうせ俺は漫画しか読めない馬鹿ですよ…」

「別に漫画は私も読むわよ。同じような本ばかり読んでいてもつまらないしね。」

「へえ。この時代の漫画で200年後も伝わってるようなのとかある?」

「あるにはあるわよ。そうね…あ、この作品とか私たちの時代でも売られてるわよ。作者は漫画の神様みたいな扱いになってるわ。」

メイアが手に取った作品は30年も前に連載していた少年漫画である。

「それはすごいな。確かにこの作品なら語り継がれていてもおかしくないかも知れないな!」

「ええ。だからこの時代の人たちの中にも凄い人達はいるのよ。あなたみたいに。」

「俺?俺はそんなことないよ。」

急に褒められた翼はどうせお世辞だろうと軽く流す。

「どうかしらね♪ねえ、何かこの時代のおすすめの作品を教えてよ。」

「う~んそうだな。この作品とかは最近すごく人気みたいだぜ。頭の良い男女がお互いに告白させようとするラブコメなんだけど恋愛のことになると馬鹿になるんだ。」

「聞いたことない作品ね。それじゃ、これ買ってこようかしら。」

「そういえばお金ってどうしてるんだ?この時代とは通貨も違うんじゃないか?」

「それなら大丈夫よ。タイムジャンプする時にその時代のものに合わせられるようになってるの。それじゃ、これ買ってくるから待っててちょうだい。」

そういって足取り軽くレジに向かうメイア。

 

 

「お待たせ。混んでてちょっと時間かかっちゃった。」

「気にすることないよ。時間も時間だし人も多くなってきたな。」

時間はお昼時となりモールの人も増えてきていた。

「いい時間だしそろそろお昼にしない?」

「そうだな。どこか行ってみたい店とかあるか?」

「そうね。戦国時代の話とかも聞きたいし落ち着いて話せるところがいいわね。」

「なら3階にあるこの店でいいか。」

メイアの要望もありある喫茶店に入っていた。この店は名古屋発祥の有名チェーン店で、デニッシュパンの上にソフトクリームを乗せた名物メニューが有名だがランチにちょうどいいメニューも多い。

 

「ふふっ、こういうお店もいいわね♪」

「もっと良い店紹介できたら格好も付いたんだけど、確かに200年後にはこういう雰囲気の店はなさそうだな。」

「そんなことないわよ。私たちもまだまだ子供なんだし。」

「そう言ってもらえると助かるよ。」

メイアの金銭事情は謎だが俺は中学生にしては仕送りなどもあり、割と余裕があるが大人が行きそうな店には流石に手を出せない。

「とりあえず注文してしまいましょ。何かおすすめはある?」

「そうだな、やっぱりこの辺のサンドイッチメニューはどれもオススメだから好きなのを頼んだらいいんじゃないかな。あとデザート系も結構おいしいよ。」

「それじゃ、これにして後でデザートも頼もうかな。」

メイアが決めたところで店員さんを呼び注文を終える。

 

 

「それじゃ、私がいなかった時のことも含めてこの前のタイムジャンプの話を聞かせて。」

「ああ。といってもこの前結構話したからそのへんは割愛しつつ話すよ。」

メイアに促され戦国時代での出来事を順に話していく。太助たちとの出会い、白鹿組との戦い。そして藤吉郎さんと信長との出会い。

途中で持ってこられたメニューを食べつつ花見の宴くらいまでのことを話す。

 

 

「いろいろあったのね。それにしても一歩間違えたら処刑されてたんじゃない?危なかったわね。」

メイアは俺たちが花見の宴でかなり危なかったことを笑いながら言ってきた。

「笑い事じゃないよ!あの時は正直ほんとに死んだかもって思ったよ。」

いや、ほんと。生まれ変わって数ヶ月。また死にましたなんて洒落にならん。

「まぁまぁ、こうして無事に帰ってきたんだからいいじゃない。」

「そうだけど…この年にしてまた死ぬなんて嫌だよ。」

「え?また?」

「あ、いやまだって言ったんだよ!?聞き間違い聞き間違い!!」

やばい、うっかり口走ってしまった。

「?…ま、そうよね。」

どうやらなんとか誤魔化せたみたいだ。

「そうそう!それで試合が決まって特訓してあの日を向かえたって訳!そういえばうつけ祭りはどうだったんだ?!」

話を振ってもみ消そうとする。

「お祭りも結構楽しかったわよ。あの時代にもいろんなお店があったし、違う国から来たと思った店の人がご馳走してくれたりもしたの。」

「へ~。まぁメイアみたいな女の子がよそから一人で来たと思ったら俺もおごっちゃうかもな。」

こんな美少女が一人でお祭りに来てるんだ。気の大きくなったおっちゃん達は財布の紐も緩くなるだろう。ここに来るまでも道行く男たちの視線を感じた。

「もう!調子いいこと言うんだから!」

一方のメイアは唐突に褒められて照れてる。

「?ま、楽しめてたんなら良かったよ。こっちはそれどころじゃ無かったけどな。」

俺も戦国時代の祭り、楽しみたかったな~

 

 

「それは今度また一緒に行きましょ♪それに、お祭りも楽しかったけど、試合の方も

見てて楽しかったわよ。」

「俺は半分しか出てないけどな。」

「その分後半は凄かったじゃない!前見た時より化身の力も上がってたし!」

「前半体力温存出来たからだよ。まぁ確かに以前よりも力はついた気もするよ。」

エルドラドとの戦いやみんなとの特訓をへて自分自身の力が増して来ている実感はある。

「けど、化身アームドにはまだ足りないし、いつか俺の番が来た時、ミキシマックスも出来るのかなぁ。」

みんな着々と化身アームドを身に付けつつあるが最近になってようやく化身をコントロール出来るようになった俺じゃ化身アームドはまだ先の話かな。

「翼ならきっとどっちも出来るわ。私の目に狂いは無い!」

そう自信満々に言うメイア。

「はは、期待を裏切らないよう頑張るよ。」

 

「それにしても織田信長と豊臣秀吉は大した人たちよね。」

「ああ。ああいう優れた人たち世をいい方向に導いてきたから今があるんだろうな。」

「・・・ねぇ、やっぱり優れた人間が上に立って世界を動かしていくべきだと思う?」

不意に神妙な面持ちでメイアが聞いてきた。

「え?う~ん、優れた人がいい方向に導くとは限らないけど、やっぱそういう人の方が上に立ったほうがいいことが多いんじゃないか?」

あまり意図が分からずなんとなくそう答える。

「そう・・・そうよね・・・うん、ありがと。」

そう呟く彼女の表情は普段とは見ないような、強い決意のようなものを感じ、やけに頭に残った。

 

 

「そういえば次のタイムジャンプは誰に会いにいくの?」

後から注文したパフェを食べながら聞いてくるメイア。

前も思ったがやっぱり女の子って甘いものが好きなんだな。美味しそうに食べ進めていて見てるこちらとしては暖かい気持ちになる。

「ああ。次は中世フランスに飛ぶらしい。2の力のカリスマディフェンダーの力を取りに行くみたいだ。」

「へ~ディフェンダーかぁ。もしかしたら翼が選ばれるかもね。相手は誰なの?」

「ジャンヌ・ダルクだってさ。」

「ジャンヌ・ダルクって戦争を勝利に導いたっていう女性の?」

「多分、その人だ。」

「・・・他に適任そうなメンバーはいないの?」

急に少ししかめっ面でメイアは聞いてくる。

「どうしたんだ急に?」

「別に」

メイア自身も胸のうちのモヤモヤの正体は分からない。

「ま、いいか。正直ディフェンダーとしては選ばれたい気持ちが無いわけじゃないけど、俺としてはこの役目は霧野先輩が良いと思ってるんだ。雷門の守りの要はあの人だし。」

「ならその人が良いんじゃない!うん!」

一転して明るくなるメイアだった。

「?」

 

「それにしてもフランスか~。今回は私も早い段階から行こうかしら♪」

「ええ!?大丈夫?エルドラドとかみんなにバレないか?」

「安心して。観光がメインだしバレないようには気をつけるから。」

そういう問題か?

「そういう問題よ。」

「ナチュラルに心を読まないでくれるか!?」

「ふふ。それじゃデザートも食べ終わったし、次に行きましょ。今度は翼が行きたい所に連れてってよ♪」

「いいのか?それじゃあ食後の運動と行くか。」

俺たちは支払いを済ませ店を出て、目的地へ向かった。

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
一部、特定の店や作品がちらついた方もいるかも知れません。おそらくその想像は正しいです。
デートもしたことないやつがどうやって書くんだと思ってましたが、これはデートではないと主張することで解決とさせていただきます。

感想、ご指摘あればお待ちしています。


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お出かけ後半戦

はい。お出かけ後編です。
自分の身の回りで中学生男子が行きそうなところあまり浮かばなかった。自分が中学生の頃何してたっけ?という少し悲しい気持ちになりました。


200年後 エルドラド本部

 

「では、抜かりないようにな、ガンマよ。」

「イエス、マスター。」

エルドラド本部では壮年の男達と銀髪の少年が話していた。

「ガンマ、お前のスペックはベータを上回っていると聞く。期待しているぞ。」

「スマート!」

そう言い残しガンマ率いるプロトコル・オメガ3.0は姿を消した。

 

200年後の未来における最高意思決定機関の議長、トウドウ・ヘイキチは恐るべき子供たちから世界を守るべく進めているミッションに僅かな陰りが出ているのを感じていた。

「このまま順調に進めばいいが・・・」

思慮に耽ろうとしたその時会議室に緊急の通信が入った。

「議長!あのザナーク・アバロニクが脱獄しました!?」

「何?」

 

 

同じ時代のどこかの地下道のようなところで脱獄者ザナーク・アバロニクと警官のチェイス劇が繰り広げられていた。

「む?」

先を走るザナークが曲がった先は行き止まりであった。

「もう逃げられんぞ!」

「おとなしく投降しろ!」

追いかけてきた警官に退路を塞がれた男に逃げ場はなかった。

しかし、ザナークは至って余裕そうな雰囲気を醸し出していた。

 

「ふん。かあああああっ!!!」

「「「うわあああああ」」」

ザナークの口から光線のようなものが警官たちに放たれ、衝撃で警官達全員の意識を刈り取った。

意識を失った警官たちの持つ機械を手に取り内部データにアクセスする。

「ほう、これがエルドラドのじじい共が遂行しているミッションか。」

そう言い残しザナークは自分のバイク型タイムクラフトに乗り込んだ。

タイムクラフトが加速し光に包まれた次の瞬間、この時代から姿を消していた。

 

 

現代

 

翼とメイアはボウリングのピンがトレードマークのとある大手アミューズメントパークに来ていた。ここはトレードマークであるボウリングの他にもゲームセンターやその他のスポーツも遊べるプランもあり遊び盛りの中学生にとっては絶好の遊び場であった。

「休みの日とかはサッカー部のみんなやクラスの友達とこうして来たりするんだ。」

「確かに男の子ってこういうとこ好きそうよね。」

「お気に召さなかったか?」

やっぱり女の子はこういうところはあんまり来ないのかと少し不安になる。

「そんなことないわ。私もサッカー含め体を動かすのは嫌いじゃないし。それに今日はお互いのことをもっと知るのが一番の目的だしね。」

しかしメイアはウィンクしながら言ってくる。

「なら良かったよ。それじゃあ最初はどこから回る?一応サッカー…というかフットサルとかもあるけど今は多分使えないと思うけど。」

「そうね。たまには違う競技もやってみましょうよ。」

「オッケー。それじゃ6階に行こう。あそこなら結構な数の種目があるし。」

 

 

二人はテニスやバスケのコートが固まったフロアに来ていた。

「メイアはサッカー以外にスポーツするの?」

「ん~サッカー以外は競技は知っててもやったことないわね。翼は?」

「俺は友達とたまにここに来て色々やってはいるな。流石にその部活の奴らほどじゃないけど。」

前世含め、こういった所にはよく来ていたこともありそれなりに自信はある。

「なら、手とり足とり教えてもらおうかしら♪」

メイアはからかうような目で言ってくる。

「そ、そういう事いきなり言うなよ///」

手とり足とりって…

「ふふ、照れちゃって♪あ、バドミントンのコートが空いてるみたいだから入りましょう。」

ちょうどバドミントンとバレーのコートが空いていたので入る。

 

「ルールは分かる?」

「ええ。ノーバウンドでこの羽を返せばいいんでしょ?」

「ま、大体そんな感じだ。じゃ、行くぞ~ほい!」

「オッケーそれ!ってあら?」

俺からサーブを打つも初めてのメイアはラケットのリーチの感覚がつかめておらず見事に空振りする。

「むぅ…」

少しふくれっつらなメイア。

「はは、最初はそんなもんだって。徐々に慣れてくるよ。」

やれやれ、サッカーの方は凄まじそうだけど流石に他の競技は負けないな。

そう思いながらしばらくラリーを続けていた。

のだが

 

「ふっ!」

「それ!」

「んがっ!」

「次はこっち!」

「ちょ、ちょっと!?」

「ほら、足が止まってるわよ。」

「ま、待って、あっ!?」

「えい!!」

どうしてこうなった。

開始15分ほど、いつの間にか立場が逆転していた。

「もう、だらしないわね!そんなので1試合走りきれるの?」

「メ、メイアの返しが・・・スパルタなんですけど!?」

最初は拙い動きだったメイアだったがコツを掴むのが異常に早く途中からは完全に左右に振り回され遊ばれていた。

「一度つかめばこんなものよ。」

ふふんと言いたげなドヤ顔でこちらを見てくる。

「つ、次行こうぜ!」

いたたまれず別の種目に向かう。

 

しかし

「ああ!?」

 

「うわっと!?」

 

「ちょ、助けて!!」

どの種目も最初は翼がリードするのだがすぐにメイアが身につけて逆転するというやりとりの繰り返しであった。

「運動神経どうなってんだよ・・・」

「ふふ、女子だからって甘く見るからよ。」

進化した人類、セカンドステージチルドレン。彼ら彼女らは常人より遥かに優れた身体能力を誇る。多少経験があるとはいえ所詮はサッカー以外はかじった程度の翼の実力ではセカンドステージチルドレンの身体能力には叶わなかったという話である。

「これじゃ、全然格好つかないじゃん…」

翼もやはり男の子である。女の子に良い所を見せたいという気持ちはある。

「そんなことないわよ。試合中の翼は結構かっこいいわよ。」

「ありがとう…って他はダメってことのは変わりないじゃん!?」

「あら、バレた♪」

楽しそうに笑うメイアに思わずため息をつく。

 

 

その後も各フロアやゲームセンターを三時間ほどかけて回ったところで制限時間が来た。

「は~楽しかった~」

伸びをしながら満足そうに言うメイア。

「楽しんでもらええて良かったよ。」

「ええ。サッカーができなかったのは少し残念だけど今はしょうがないわね。」

「そうだな…」

サッカー禁止令の影響でサッカースペースは閉鎖されていた。

「早く取り戻してよね。」

「ああ。必ず取り戻してみせるよ。」

サッカーのある日常。奪われたものは必ず取り返す。

「期待してるわ。ねえ、まだ時間は大丈夫?」

「ん?ああ。まだ4時くらいだしまだまだ大丈夫だ。」

「なら行きたいとこがあるの。ついて来てくれる?」

「ああ、勿論!」

メイアの希望で次の目的地に向かう二人。

 

 

「やっぱりこの時代にも結構かわいいのがあるわね!ねぇ次はあっちに行きましょ!」

俺はメイアに連れられ朝のところとは違うアパレル店やアクセサリーショップが多く入ったショッピングモールに来ていた。

やはり、女子は甘いものとファッションには目がないらしく目を輝かせ練り歩いている。

「俺、あんま服とか分かんないんだけどなぁ…」

「ね、早く早く!」

メイアに手を引かれ着いて行く。

ファッションにはあまり関心は無い翼だが楽しそうにしているメイアを見れるならこういうのも悪くはないかなという思いになっていた。

 

「ね、この二着ならどっちのほうが良いと思う?」

二着の服を持ってこちらに意見を求めてくるメイア。片方は可愛い系でもう片方は清楚というか綺麗系な服だった。

「う~ん、どっちも似合うと思うけどこういうの着てるとこも見てみたいからこっちかな。」

俺はかわいい系の方を指差す。普段着ているユニフォームや今日の服が上品な印象を受けるものだったのでこういうタイプの服を着ている彼女も見てみたいと思ってのことだった。

「そ、そう///じゃあ、こっちにしようかしら///ちょっと待ってて。」

ど直球に答えられ思わず赤面するメイアはそそくさとレジの方にかけていく。

 

 

会計を終え、また二人でモール内を歩いている。

「あら?SARUから?・・・ごめんなさい、ちょっと待っててくれる?」

なにやら彼女のデバイスに着信が入ったらしい。

「ああ。ここで待ってるよ。」

「ありがとう。できるだけ早く戻るわ。」

そういって人気の少ない方に向かうメイア。

「未来の友達からかな?電話なら少しかかるかな。」

思わぬ形で手持ち無沙汰な時間ができ、なんとなく辺りを見渡す。

「ん?たしかあの店は・・・」

 

 

「もしもし、メイア。今少し時間あるかい?」

「いきなりかけてこないでよ。びっくりするじゃない!一応今は周りに人はいないけど何の用?」

「ごめんごめん。いや、ザンのメンバーがエルドラドに動きがあったって報告してきてね。多分その時代にまたエージェントを送り込んだと思うから伝えておこうかなって。」

「もう、そんなこと?別にそのくらいわざわざ報告してこなくても大丈夫よ。雷門だけでも十分対処できるだろうし。」

「いや、勿論それだけじゃないさ。どうやらエルドラドの管理するムゲン牢獄から脱走者が出たらしいんだ。」

「それがどうかしたの?」

「どうやらその脱獄犯は警官のデバイスからエルドラドが遂行してるミッションのことを知ったらしいんだ。もしかしたら、彼らの前に現れるかもと思ってね。イレギュラーは早めに報告しておいたほうがいいだろ?」

「なるほど、分かったわ。一応頭に入れておくわ。」

「ああ、もしものことがあったら頼むよ。・・・で、噂の彼とのデートはどうだい?」

電話越しにSARUがからかうように聞いてくる。

「べ、、別にそういうのじゃないわよ!」

「本当かい?電話に出たとき少し怒ってたから邪魔になっちゃったかなと思ったんだけど。」

「怒ってません!いや、急にかけてきたことは怒ってるけど!」

そこからも少しSARUからの詮索は続いた。

「もう切るわよ!じゃあね!」

メイアは翼を待たせてることもあり強引に通話を切った。

「ほんとにSARUったら。早く戻らなきゃ。」

こっちが楽しんでる時に限ってかけてくるんだから!

 

 

「ごめんなさい。思ったより長引いちゃって…」

「いや、気にしなくていいよ。大事な用だったんだろ?」

「う~ん、そうとも言えるのかしら。」

「なんだそりゃ。まぁでも、そろそろいい時間だし、稲妻町に戻ろうか。」

「それもそうね。それじゃ、行きましょう。」

時刻は17時を少し過ぎ、夕暮れに差し掛かっていた。

 

ショッピングモールを出た二人は駅に向かい電車にゆられながら稲妻町へと戻ってきた

 

「メイアはこれからどうするんだ?元の時代に戻るのか?」

「いえ、しばらくは元の時代には戻らないわ。この時代やあなたたちのタイムジャンプ先で羽を伸ばすつもりよ。」

「なるほど。そういえばこの時代で寝泊りとかどうしてるんだ?」

「あら?女の子にそういう事聞く?」

「うっ...ごめん、無かったことにしてくれ。」

「よろしい♪」

メイアはこの時代に居る間とあるホテルに身を置いていた。ちなみに宿泊費などはセカンドステージチルドレンの能力でスタッフの認識や記録をちょちょちょいとイジっているのであった。

 

 

その後も他愛ない話をしながら分かれるのにちょうどいい地点に向かっていた。

「それじゃ、ここでお別れかな。」

「ええ、今日は楽しかったわ。明日からのタイムジャンプ、頑張ってね。」

「ああ!その、実は…!?」

翼が何か切り出そうとしたとき二人の間に突如サッカーボールが蹴り込まれてきた。

 

「誰だ!?」

「へへっ」

ボールの飛んできた方を見やるとゴロツキのような五人組がいた。

「なあ、サッカー、やろうぜ。」

「ぶっ潰してやるよ」

「何?」

サッカー禁止令が出ている現状なのにサッカーバトルを挑まれたことに違和感を覚える。

「まさか…」

「エルドラドの仕業でしょうね。」

隣のメイアが口を開く。

「やっぱりか。でも、サッカーバトルって言ったって人数が…」

「んなもん知らねえよ。なら1vs5でやればいい話だろ。」

「ふざけんな!そんなの「いいわよ。ただし、私も入れた2vs5でやりましょう。」メイア!?」

突っぱねようとしたときメイアが割り込んできた。

「いいのか?エルドラドに見つかったらまずいんじゃ…」

「彼らは洗脳された一般人よ。エルドラドも追跡してはいないわよ。」

「けど・・・」

「大丈夫よ。あんな5人、私たち二人で十分よ。だって翼と私よ?」

そういって余裕の笑みを浮かべている。

確かに洗脳されて強化されているとはいえ所詮一般人。それにメイアの実力は身を持って知っている。

「・・・そうだな。軽くひねってやるか。」

「ええ♪」

 

 

河川敷

 

「そっちのボールでいいわよ。」

「なめやがって、すぐに後悔させてやる。」

うわぁ噛ませっぽいセリフ。

「それじゃ、お願いね♪」

「ええ・・・まぁいいけど。」

相変わらず無茶ぶりしてくるメイアである。

そういえば、彼女のプレーをちゃんと見るのは初めてだなとふと思う。

ゴッドエデンでの特訓や話の合間に垣間見えるものと今日目にした身体能力から間違いなく俺よりも強いんだろうなという想像はついていたが実際に目にするのは初めてで楽しみな気持ちが隠せない。

 

 

7人全員がポジションにつき相手のキックオフでサッカーバトルが始まった。

こっちは二人なので相手のロングシュートだけは警戒する。

「行くぞ!」

ゴロツキたちの前衛二人が攻め込んでくる。

「あら?全員で来ないなんて、甘く見られたものね。」

「来られたら来られたで困るけど、それもそうだな・・・っと!」

「「何!?」」

あっさりとパスカットに成功する。

「メイア。」

「ええ。」

俺からパスを受けたメイアが上がって行き、俺も一応続く。

「止めろ!二人がかりで潰せ!」

キーパーの指示で後衛の2人が止めに行くが、

「遅いわね。」

あっという間に2人を1人で抜き去る。

「もらった!」

二人を抜いた後隙を狙いキーパーが突っ込んで来るも

「ふふっ、翼!」

躱しこちらにノールックパスをどんぴしゃで送ってきた。

「お、おう。」

ゴールはガラ空きなので軽く蹴ってゴールを決め、サッカーバトルは幕を閉じた。

 

 

「最後、自分で決めれたんじゃないか?」

「まぁね。けどそれじゃつまらないし、サッカーはチームプレー、でしょ♪」

「そうだけど・・・」

正直、彼女一人でも軽く勝てたんじゃないかと思う。

「さてと、ちょっと待っててね。」

そういいゴロツキどもの方に向かっていくメイア。

そんな彼女の後ろ姿を眺めていると何やら5人に手をかざす。

すると何やら光が見えたような見えてないような気がした後、ゴロツキたちは気を失った。

「何をしたんだ?」

「彼らの洗脳を解いておいたの。あと、今のサッカーバトルの記憶も消しておいたから安心してちょうだい。」

「安心してって…本当に何者だよ。」

「ふふっ、それは秘密♪それにしても、結構息合ってたんじゃない?私たち。」

「ん~あっという間だったけど、まぁ受けたパスはどんぴしゃだったよ。」

正直ほとんど連携というものをするまもなく終わったが彼女から受けたパスはチームのみんなから受ける時でもなかなか無いほどピッタリと足元に来た。

息が合っていたのか、それともメイアの技量なのか。

「メイアはポジションはMFなのか?」

「一応そうね。チームではシュートを打つことも多いけどポジションはMFよ。」

「なるほど、どおりで。いつかメイアのチームともサッカーしてみたいな。」

「もしかしたらそんな時も来るかもしれないわね。ま、勝つのは私たちでしょうけど。」

そう言ってこちらを煽るような笑みを浮かべてくる。

「ふん、その時は絶対に勝つし、メイアも止めてみせるさ。」

負けず嫌いが発動してしまう。正直、自信ないけど。

「あら、言ってくれるわね。楽しみにしておくわ♪。」

 

 

「それじゃ、今度こそお別れにしましょうか。」

改めてメイアが切り出す。

「そうだな。あ、あと最後にちょっといいかな。」

「どうしたの?」

「これ、受け取ってもらえないか?」

そう言ってカバンからあるものを取り出す。

「これは、ペンダント?凄く綺麗~!」

「うん。よく考えたら俺ってメイアに世話になりっぱなしだから、何かお礼がしたくてさ。今はこういう形でしかお返しできないけど…その、いつもありがとう///」

特訓に付き合ってもらたり、連絡用のデバイスをくれたり、話を聞いてもらったりで与えられてばかりだった。何かお返しができないかと思ってたのでメイアが電話で席を外した時に近くのアクセサリーショップで選んだ。

きぼうのペンダントというらしく煌びやかな光を放っているペンダントだ。普通なら目立ちすぎるかと思うが彼女になら似合うと思い購入した。ちなみに結構ないいお値段だった。

今月の仕送りと秋ねえからのお小遣いで支えられてる財布が悲鳴をあげかけている。

 

「私のためでもあるからやってるだけだから気にしなくていいのに・・・けど、嬉しいわ、ありがとう!」

そう言いつつとても嬉しそうな表情でペンダントを付けるメイア。

「どうかしら?」

「自分で言うのもなんだけど似合ってるよ。」

「そう、良かった♪それに不思議となんだか力が溢れてくる気がする。大切にするわ。」

「気に入って貰えて良かったよ。・・・それじゃ、今度こそ…」

「ええ。今日は楽しかったわ。またいつか今日みたいにお出かけしましょう。」

「ああ!俺も楽しかったよ!次も楽しみにしてるよ。じゃあ、バイバイ。」

「ええ、さよなら。」

そうして俺たちはそれぞれ帰路についた。

 

 

夜 木枯らし荘

「そういえば翼は今日は何してたの?」

天馬の部屋で少し話していた時に天馬が今日のことを聞いてきた。

「内緒って言ったろ。」

メイアのことは内緒なので拒否する。

「ええ~教えてくれたっていいだろ~」

「内緒は内緒だ。ほら、明日に備えて寝るぞ。」

「ちぇ~。まぁいいや、おやすみ。また明日!」

やっと折れてくれたらしくあすに備え寝るために自室に戻るとデバイスに連絡が入っていた。

 

『今日は本当に楽しかったわ。ペンダントありがとう。明日からのタイムジャンプも頑張ってね!私も行くからどこからか見てるかもね!それじゃ、おやすみなさい。』

『こっちこそありがとう。期待に答えるよう頑張るよ。おやすみ。』

 

そう書き残し、今日のことを思い返しながら心地よい眠りに就いた翼であった。

 




いかがだったでしょうか?
2話に渡ってできるだけキャッキャウフフな雰囲気を書いてみました。
ラスボス級ヒロインの扱い難しいけどSSCの力ってことにすれば大抵何とかなる感。
きぼうのペンダントはゲームにおける効果とデザインで選びました。流石に女の子に破壊神ペンダントは贈らんだろ。

次回からジャンヌ編になります。
あと、翼くんにもドリブル技とシュート技が欲しくなった今日この頃。何かマッチしそうな技あれば感想などで提案してもらえれば参考にさせていただきたいので良ければお願いします。


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フランス編
中世フランスへ


更新が遅くなってしまい申し訳ありません。今回からジャンヌ編です。



翌日 サッカー棟

 

「よーし!それでは今回のタイムジャンプに向かうメンバーを発表する!」

タイムジャンプ当日の朝、部室に集合していた。ちなみに他のみんなも昨日サッカーバトルを仕掛けられたらしい。プロトコル・オメガの仕業だろう。

雷門の面々を前に今回タイムジャンプするメンバーが大介さんから発表される。みんな固唾を飲む。そんな中、霧野先輩と狩屋は二人で何やら話していた。

「まずは松風、赤峰、剣城、神童、西園、錦、フェイ、黄名子!」

まず前回から参加していた俺たち7人と大介さんから指名された黄名子が呼ばれる。内心選ばれるとは思いつつもこうして呼ばれるとホッとする。

「わ~い!ウチ、頑張るやんね~」

黄名子はワクワクを隠しきれないといった様子だ。

「そして影山、速水、浜野、狩屋、以上だ!」

「え!?」

選ばれるだろうと思っていた霧野先輩の名前が無く思わず声を上げてしまう。

「ん?どうした?」

「あ、あの「待ってください!!」

俺が口を挟もうとした時、当の霧野先輩が大介さんの元に駆け寄る。

「俺も連れて行ってください!俺も行きたいんです!」

霧野先輩がここまで自分の意見を主張することを見たことがない。けど

「俺も霧野先輩がいてくれると助かると思います。」

「翼・・・」

俺たち雷門のDFのリーダーは霧野先輩だ。黄名子が候補とは言え、選択肢は大いに越したことはない。

「けどこれは決定で…」

しかし大介さんの反応は芳しくない。

「あの~」

そんな中、狩屋が手を上げた。

「実は俺、朝から体調悪くって。霧野先輩が変わってくれるなら助かるんですけど。」

「う~む。分かった。では狩屋と交代だ!」

大介さんは狩屋の申し出を受け霧野先輩の同行を承諾した。

「ありがとう、ございます!!」

「では、出発は一時間後だ!各自準備を頼む。」

 

大介さんがみんなに指示を出している中、狩屋の隣に立つ。

「いいとこあるじゃん。」

「なんの事?俺、体調悪いんだけど。」

「ま、そういうことでいいや。けど、良かったのか?もしかしたら狩屋が力を受け取るかもしれなかったのに。」

「いいんだよ。俺、カリスマってガラじゃないし。…それに、こうみえて感謝してるんだ、あの人に。」

軽い調子で言う狩屋だが霧野先輩を見るその目は柔らかかった。この2人、初めはいろいろあったけど今となってはいい先輩と後輩って感じだ。

「そうか。」

「うん。それに、俺たちのリーダーはあの人だろ。向こうでは頼むぜ。色々悩んでるみたいだからさ。」

「…ああ、任せろ。」

 

 

「よし、みんな乗り込んだか?」

一時間後、俺たちはTMキャラバンに乗り込みタイムジャンプの瞬間を待っていた、

「う~ん、ウチ、楽しみやんね~ジャンヌさん、どんな人なんだろ~。ね、翼、どう思う?」

「俺に聞くなよ、詳しくないし。まぁ勇ましい人なんじゃないか?」

ほっぺたをツンツンしながら聞いてくる黄名子。

「むう、なんか適当やんね。もしかして翼っておバカやんね?」

「人が気にしてることを言うのはこの口かな~?」

「いひゃいいひゃい~ほへんなふぁひひゃんね~」

気にしてることを抉られた仕返しに黄名子の頬をつまんでやる。てか、餅みたいに柔らかいなおい。クセになりそうだ。

「分かればよろしい。ほら、もうすぐうごくから早く座れ。」

「む~女の子に対してひどいやんね。フェイ~一緒に座るやんね~」

少し頬を晴らしながらフェイの方へかけていく黄名子。

「ちょ、ちょっとくっつきすぎだよ///」

「気にしない気にしない!」

なんかやけにフェイに対して距離感が近い黄名子であった。いや、ほかの人にも人懐っこいんだけどね。

 

「では行くぞ。タイムジャーーーーンプ!!!」

いつもどおりワンダバの合図でタイムジャンプが始まった。

 

 

中世フランス ある森の中

 

「では、これよりミッションを開始する。」

「「「はっ!」」」

ガンマ率いるプロトコル・オメガ3,0は先回りしてタイムジャンプし、雷門の妨害任務を開始しようとしていた。

「!?」

その時森の中からサッカーボールが蹴り込まれガンマがなんとかガードする。

「誰だ!?」

「誰だ?そう言うと思ったぜ。お前は誰だ、なぜこんなことをする?そう言いたいんだろ?」

そう言いながら森の中から褐色の男が姿を現した。

「俺はザナーク・アバロニク。名も無き小市民だ。名前はあるが名も無き小市民。ククッ、いいだろ?」

独特な言い回しを交えながら名乗るザナーク。

「聞いたことがあります。S級の危険人物としてエルドラドに監視されているとか。」

ガンマの脇に控えるエイナムが言う。

「ふん。犯罪者か。いいだろう、僕が倒す!」

「僕が倒す、そう言うと思ったぜ。いいだろう、だが…全員で来い!」

ザナークは全員を一斉に相手すると豪語する。

傲岸不遜なザナークにプライドの高いガンマは激怒する。

「堕ちろ!!」

ザナークを中心に囲んだプロトコル・オメガの面々がザナークにボールをおもいっきり蹴り込み続ける。しかし、ザナークには全く答えた様子がない。

 

「これで、終わりだ!」

ガンマが止めとばかりに渾身の力で蹴り込むが

「ふん。かああああああ!!」

「なっ!?」

ザナークが口からビームのようなものを吐き出しボールごと周囲を吹き飛ばす。

衝撃でプロトコル・オメガの面々は気を失った。

 

 

「ふん。エルドラドのジジイども、俺を監視しているんだろ?」

プロトコル・オメガをなぎ倒したザナークは未来から自分を監視しているであろうエルドラドの首脳陣に語りかける。

「提案がある。お前たちが手を焼いている奴らを俺が片付けてやる。そうすれば俺の罪は帳消し。どうだ?」

『議長!この者の話に乗る必要はありません!』

議員の一人が拒否するように言うが

『よかろう。交渉に応じよう。』

議長のトウドウ・ヘイキチは承諾した。

彼にとってはサッカーを消し、セカンドステージチルドレンの驚異を退けることが最優先である。そのために利用できるならば危険人物でも利用しようという考えだ。

「そう言うと思ったぜ。」

トウドウの返答を受けたザナークはもう話すつもりは無いとばかりに眼下に伏すプロトコル・オメガを見下ろす。

「さぁ、お目覚めの時間だ!」

先ほどのように口からビームのように自身の力を吐き出しプロトコル・オメガの面々に注ぐ。その光を浴びた面々はゆっくりと立ち上がる。その姿は髪や肌がザナークの影響を受け、ミキシマックスした状態となっていた。

「まずはお前たちに働いてもらう。」

「かしこまりました、ザナーク様。」

 

 

「着いたぞ!」

俺たちはワームホールを抜け、ジャンヌ・ダルクの世界に来ていた。

「ここがジャンヌ・ダルクの世界…」

「1427年、ヴォークルール付近だ。」

「ここがフランスか。」

「あれってワイン畑かな?」

「飲んでみたいやんね!」

「俺たちまだ未成年だろ!」

みんな遠足のような気分でワイワイとしている。

「あれは…」

ふと天馬が遠くに火の手が上がっているのを見つけた。

「もしかして、戦場!?」

「ジャンヌ・ダルクがいるかもしれん。行ってみよう。」

ワンダバがキャラバンを操縦し、戦場に向かう。

 

 

天馬たちがこの時代に姿を現したとき山奥で一人の少女が空に光を見た。

「あれは…」

一団を率いて山を進んでいると遠くから火の手が上がる。

「敵が、来る・・・!」

 

 

「本物の戦場だ…」

俺たちは火の手が上がっていたところの近くの森から戦場の惨状を見ていた。

「本物の剣に鎧だ。」

「ちゅーか、HPはいくつな訳?」

戦争とは無縁の現代の日本に生きる俺たちは完全に圧倒されていた。

「これ、ジャンヌ・ダルクに会えるのか?」

「会う前に巻き込まれそう…」

信長の時代でも危ない時はあったけど、これはやばい…

「弱気になっちゃダメだ!必ずジャンヌを探し当てるんだ!」

霧野先輩がビビっているみんなを鼓舞するように言う。

「ジャンヌはヴォークルールという街に居るらしい。まずはそこを目指そう。」

「分かった、それじゃあ」

ワンダバの情報を頼りにヴォークルールを目指そうと動き出そうとした瞬間

「ん?貴様達何者だ!」

森の中から鎧を着た兵士が出てきた。

「ま、まずいっすよ…」

な、何とかして切り抜けないと。

「戦いから逃げてきたら道が分からなくなってしまったんです。ヴォークルールに行きたいのですが。」

神童先輩があの時と同じように咄嗟にごまかす。

「何?ヴォークルールに?お前たち、異国の者か!」

しかし疑いは晴れず、兵士の声に呼ばれ、他の兵士たちも寄ってきて囲まれてしまった。

「この者らは?」

「道に迷ったと言っていますが、どうも怪しい。ヴォークルールに行きたいそうですが…」

「まさか、ジャンヌを狙って。」

完全に怪しまれてしまい、剣を構えられる。

 

「え~っと、それはどうでしょうね。」

そんな緊張が走る中、草の影からおっとりとした女性の声が聞こえる。

「ジャンヌ!」

声の方を向くと鎧を纏い、メガネをかけた少しくすんだ金髪の少女が立っていた。

「こ、この人が!?」

「ジャンヌ・ダルク!?」

まさかこんなに早く会えるなんて。

「へ?なんで私の名前を?」

俺たちが驚いているのに対して当の本人は自分が知られていることに困惑している。

なんというか

「イメージと違うね。」

「メガネっ子。」

「ちゅーか、戦う乙女って感じじゃないね。」

うん。バリバリのカリスマってイメージだったけど、なんかホワホワしてて天然みたいな雰囲気が出てる。

「ふわあ!?」

「チーッス!ウチ、黄名子、よろしく!」

みんながギャップに少し呆気に取られているなか、黄名子がひょこっとジャンヌに挨拶し握手の手を差し出す。

「な!ジャンヌから離れろ!」

「な、なんか大袈裟やんね。」

そりゃこの状況でいきなりあれはそうなるだろ。

「ジャンヌ、やはりこいつらイングランドのスパイだ。」

「ち、違います!」

「俺たちは未来からやってきたんです。あなたの力を借りに。」

慌てて天馬と神童先輩が弁明する。

 

「未来?未来とはどういうことです?」

兵士たちの制止をよそにジャンヌは霧野先輩の方に歩み寄りながら聞いてくる。

今、発言したの天馬と神童先輩なんだけど…霧野先輩も困惑してるし。

「メガネの度が合ってないみたいだね。」

「答えてください!」

メガネを調整しながら詰め寄るジャンヌ。

「あの…その…」

「何とか言ってみろ!」

「タイムジャンプしてきたこと正直に言うやんね?」

「いや、不思議なことは悪魔の仕業と信じられていた時代だ。信じてもらえないと思うよ。」

霧野先輩が混乱して答えれずにいると痺れを切らした兵士たちがスパイだと断定しようとする。

 

 

「ま、待ってください!…そうだ。」

そんな兵士たちを止めジャンヌが腰に下げた巾着から何かを取り出す。

「これは?」

「キャンディです。どうぞ。」

「どうぞって…」

「ん。」

「い、いただきます。」

ジャンヌの押しに負けた霧野先輩がキャンディを受け取り口に含む。

「ん、美味しい!」

どうやら美味しかったようだ。ちなみに霧野先輩はキャンディは噛む派だった。

「良かった~。みなさんもどうぞ!」

「は、はい!」

「おれもおれも」

霧野先輩に続いてみんなもジャンヌからキャンディを受け取り、明るい空気に包まれる。

 

「ジャンヌ、とにかくこいつらをどうするか決めてくれ。」

ワイワイしている俺たちを見かねた兵士がジャンヌに判断を仰ぐ。

「とにかくこのままにする訳には行きません。連れて行きましょう、ヴォークルールへ。」

 

 

「ふぅ、着いたわね。ここが中世フランスかぁ。」

翼たちがジャンヌと出会った頃、メイアも同じ時代に来ていた。メイアはヴォークルールやオルレアンと違い戦場から離れた栄えた街にやってきていた。

「やっぱり本で見たみたいに綺麗な国ね。私たちの時代や戦国時代とは違った良さがあるわね。」

フランスといえばフランス料理や絵画、城など絢爛としたイメージがあったがそれに違わない町並みに心が弾むメイアだった。

「流石に戦時中というのもあって多少は苦しそうではあるけど、このあたりはあまり影響は出てなさそうね。」

ジャンヌ・ダルクの拠点はヴォークルールだったわよね。ここからは少し距離がありそうだけどどうしようかしら。

「ま、彼らがジャンヌと合流してからでいいか!あ、すいません!これとこれ一つください♪」

「はいよ。」

雷門とジャンヌの状況も気になるが後回しにしつつ街を歩きながら見かけた果物屋でいくつか果物を買う。

ちなみに戦国時代とは違い、この時代ではメイアの外見は周囲に溶け込んでいるため、特に偽装などはしていなかった。

「ん~美味しい!本場の味って感じ♪」

この新鮮さと自然な味は私たちの時代には無いわね。

「ワ〇ンとかも飲んでみたいけど、流石にまずいかしら…でも、この時代にそういった法律とか無さそうだし…う~ん…」

元の時代じゃ未成年は飲めないし。それに私は成人は迎えられないでしょうし…

少し先のことに思いを馳せ、少し暗い気持ちになるメイアだったが

「ならこういう時くらいいいわよね。すいません、試飲したいんですけど…」

今更自分の寿命を嘆くのに意味はないと割り切り引き続きフランスを満喫するメイアだった。

 

 




いかがでしたでしょうか。
黄名子とザナークが、喋らせるの楽しすぎる。ザナークは難しいけど。
日本人と女子、とりあえずフランスに憧れがち説。あると思います。
最後にメイアが飲んだ飲み物、何なんやろなぁ。多分ある果物から出来た美味しくて気分が良くなるジュースじゃないですかね。


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聖女

更新が遅くなってしまい申し訳ありません。ここのところ私生活で少し問題というかストレスになることが多く執筆する精神的余裕がありませんでした。
できるだけ更新頻度を上げていけるよう頑張りたいと思います。


 

ヴォークルール 拠点

 

「何だか変なことになっちゃったね。」

俺たちはヴォークルールの拠点に連れてこられはしたものの見張りはついており自由には動けない、半分捕虜のようになっていた。

「せっかくジャンヌ・ダルクに会えたのに…」

「なんとかミキシマックスするチャンスを見つけてみせるよ。」

「でも、あのジャンヌさんとミキシマックスして強くなれるのかな?」

「確かに、あんまり力強さは感じなかったな…」

みんなの言うように大介さんの言うような力強さやカリスマ性は感じなかった。

 

「とりあえず、練習しませんか?なんとかなりますよ!」

「なんとかなる、か。」

「確かに悩んでるだけじゃ時間が勿体無い、やろうぜ天馬!」

考えてばっかってのは苦手だし、体動かしたいし天馬の提案に乗る。

「よし!では、ゴール前1vs1の想定だ!信介、準備はいいか?」

「うん!」

ワンダバがシチュエーションを設定する。

最初に剣城と黄名子の1vs1が始まった。

黄名子のプレーは初めて見るが攻撃も守備もどちらもハイレベルにこなしていた。

「黄名子って器用なんだな。」

「ウチ、ポジションいろいろできるやんね!」

最初はエースストライカーって言ってたし、今の動きを見ても人数が限られる今後の戦いではとても頼りになりそうだ。

 

 

「ん?何をされているんですか?」

しばらく続けていると塔の上からジャンヌが姿を現し聞いてきた。

「サッカーです!」

「サッカー?」

天馬の口から出た知らない単語にジャンヌは訪ね返す。

「サッカーは俺たちにとって一番大切なもので、それを守るためにここに来たんです。」

「大切なもの‥」

「はい!そうだ、こういうの知ってますか?」

そういって戦国時代で信長の前で見せたように。サッカーのさまざまな技を披露する俺たち。

「サッカーって、おもしろそう!」

ジャンヌさんもサッカーに興味を持ったらしく、俺たちの元に降りてくる。

 

 

ジャンヌさんが降りてきてから、攻守に分かれてより試合的な練習に移行する。

「行かせないぞ天馬!」

「負けるもんか!」

「天馬、こっちだ!」

「はい、神童先輩。」

「あ、逃げたな!」

天馬が神童先輩にパスをだし、神童先輩には霧野先輩がマークにつく。

「あっ!?」

マークについた霧野先輩が抜かれる。霧野先輩はどうしても浮かない表情だ。狩屋の言っていたことを思い出す。

あの二人は特に仲が良かった。けど、いつの間にか差が開いてしまったことを気にしてるのかもしれないな。

 

 

「みなさん、どうぞ。」

練習がひと段落つき、ジャンヌさんがキャンディを差し入れてくれた。

「いや~疲れた時は甘いもんが染み渡るぜよ!」

「あんた気が効くじゃん!」

「い、いえ。そんなことは・・・」

水鳥先輩に絡まれたじろぐジャンヌさん。

「ジャンヌさんの心配り、すっごくいいと思います。私たち、いい友達になれる気がしません?」

「友達、そうですね!」

葵につられジャンヌさんの表情も柔らかくなり、距離が縮まった気がする。

 

 

「今だ!」

話が盛り上がってる中、ワンダバがミキシマックスを試みる。

「あれ?」

「「うわああああああ」」

「バレたらどうするんだ!」

慌ててワンダバを組み伏せる。

「オ、オーラが取れない・・・」

「今のは一体・・・」

「彼女は儂らの知るジャンヌとは違うのかもしれん。」

大介さんが出てきて言う。

「彼女はまだ力が目覚める前のジャンヌなのだ。」

「信長の時と逆のパターンか・・・」

受け取る力が目覚めていないからか。

 

 

「サッカー好きになれた?」

サッカーボールを見つめていたジャンヌに黄名子が話しかける。

「その、まだよくわかりません・。」

「そうだな~言ってみれば、サッカーは戦いやんね!みんながひとつになってゴールっていう城を守ったり、相手の守りを攻め崩すの!」

「戦い?」

「そう!実際にやってみるやんね!」

そう言って黄名子とジャンヌがパスを出し合う。

黄名子の人懐っこさは凄いと思う。

 

「あ、ごめん。強すぎたやんね。」

「いえいえ。」

黄名子が少し力加減を間違えジャンヌさんの頭を超え、霧野先輩の方にボールが転がっていき、拾いに行く。

「どう?サッカーは?」

霧野先輩がボールを拾い上げジャンヌさんに聞く。

「はい。とても楽しいです!」

「そう、それは良かった。」

明るく話す二人だがお互いにかすかに暗い表情が見え隠れする。

 

「なぁ天馬、ちょっといいか?」

天馬を呼び霧野先輩とジャンヌさんから離れた位置に移動する。

「霧野先輩の事なんだけど…」

「ああ、この間から少し様子が変だよね。」

「なんだ気づいてたのか。」

どうやら天馬も霧野先輩の変化には気づいていたらしい。

なんだかんだでチームメイトのことをよく見ているなと思う。

俺だって同じポジションでよく一緒にいることが他のメンバーより多いから気づけたところはあるのに。

「ううん。何だか悩んでるなってのは分かってたんだけど、理由が分からなくて…」

「多分、神童先輩のことじゃないかな。」

「神童先輩の?」

「うん。正確に言うと神童先輩のことではないんだけど、あの二人って親友だろ?霧野先輩が知らない間に神童先輩が凄く強くなってて焦ってるんだと思う。…って狩屋が言ってた。」

「なるほど…」

「ああ。てことで、頼んだぜ、キャプテン!」

そういって天馬の背中を強くたたく。

「ええ!?丸投げはずるいよ!」

「同じポジションの俺から何か言うのも難しいだろ?まぁ、俺からも出来ることはするけどキャプテンとして、頼むぜ!」

「ええ~…まぁ、チームメイトが悩んでるなら何とかしないとね。」

「そうそう!なんとかしてくれよ!んじゃ、戻ろうぜ!」

話を無理やり切り上げてみんなの元に戻る。

「あ、待ってよ翼!」

 

 

「この人たちを自由にさせてあげてください。」

みんなの元に戻るとジャンヌさんが見張りの人たちに俺たちの解放を申し出てくれた。

「いいのか?」

「はい。彼らと交流して分かりました。それに、あの時私は空に不思議な光を見ました。そして彼らが現れた…きっと彼らは神が遣わされたんです。フランスを救うために。」

「…分かった。」

見張りの人はジャンヌさんの言葉に完全には納得はしていないもののジャンヌさんを信じ、俺たちを自由にしてくれた。

 

 

自由になったとは言っても別に他の町に出かけるということはない。

戦争中に俺たちみたいな何の武器も持たない子供が出歩くのは死ににいくのもいいとこだ。

ただ拠点に居るだけっていうのも勿体無いなぁと思ってるとポケットの中のデバイスが震えた。

「ん?え…」

画面を見るとメイアから連絡が来ていたが今回はなんと着信が入っていた。

「どうしたの?」

「い、いや何でもない!ちょっと散歩に出てくる!」

近くにいたフェイに聞かれ慌てて誤魔化し拠点の外に出る。フェイには自分たちの時代のものを俺が持ってることに気づかれるとまずそうなので誤魔化せてると良いんだが…

 

「このボタンだよな...もしもし。」

拠点の外にある茂みの中で着信に出る。

『あ~やっと出た~も~遅いわよ~』

向こうから少し間延びしたようなメイアの声が聞こえてくる。

「ごめんごめん。みんなが居る前だったから人目につかないとこまで出てきたんだよ。それで、どうしたんだ?」

普段ならメッセージなのになぜ今日は電話なのかと思い聞いてみる。

『ん~なんだか声が聞きたくなったからかけちゃった~』

「うぇええ!?いきなり何言ってんだ!」

『えへへ~照れてる~かわいい~』

一体どうしたと。なんだか今日のメイアはおかしい。声もなんだかうわずってるしもしかして体調でも悪いのか?ただこの感じどこかで…

「ちょっと、大丈夫か!?なんか声がうわずってるけど、今何してるんだ?」

『そんなことないわよ~。え~とね~今はね~フランスの原っぱを歩いてる~。この時代のフランスも綺麗だし、美味しいものもいっぱいあるわね~』

なるほど、メイアもこの時代に来ているんだな。

「こっちに来て何してたんだ?」

『ん~とね~ちょっと前にこっちに来て~それから町並み眺めて~店先で果物とか食べて~あっそうだ!あのね~果物から作ったあの飲み物を飲んだの!この時代って大人じゃなくても飲めるのね。美味しくて気分良くなっちゃった~』

それだ。絶対にそれだ。完全に酔ってる。

そんなもの飲んでまともでいられるはずがない。ソースは前世の俺。

「メイア、よく聞いてくれ。絶対に近づいてくる男とかに着いて行ったらダメだぞ!出来るだけ早くどこかの宿の一人部屋に入るんだ!」

『どうしたの~急に?』

「良いから!メイアのために言ってるんだぞ!」

『えへへ、私のためだなんて照れちゃうじゃない。』

これ、酔いが覚めたとき大丈夫か?

「分かった?」

『分かったわよも~』

「それじゃ、宿に入ったら早く横になって寝るんだぞ!」

『分かったわ~』

「よし、それじゃ切るからな。また連絡するから。」

『は~い。あ、翼。」

通話を切ろうとした時メイアに呼ばれる

「どうした?」

『声聞けて嬉しかったわ。またこうやって話したいな~♪』

「んなっ!?もう、切るからな!バイバイ!」

普段から手玉に取られてるけどこれはこれで大変だったな…

まぁ、寝て目が覚めた時に悶えればいいさ。

その時の反応を見れないのを少し残念に思う翼だった。

ただ、彼は失念していた。酒は時に本人すら無自覚な本音を引き出すことを。

 

 

「ん?霧野先輩たちとジャンヌさん?」

通話を終え、拠点に戻る途中霧野先輩と神童先輩とジャンヌさんを見かける。

「本当に聞いたんです!神の声を!…信じてくれないんですか…」

「…信じるよ。君のことを。俺たちも君を信じるから、君も俺たちを信じて力を貸してくれ。大切なものを守るために。」

 

「霧野先輩…」

 

 

その夜

俺たちに与えられた寝床にジャンヌさんがやってきた。

「私は明日、シャルル王子に援軍を頼みにシノン城に行かなければいけないんです。」

「援軍を?」

「はい。イングランド軍に包囲されたオルレアンを解放するために。それで、その…一緒に来てもらえませんか?護衛として。」

「え!?」

「護衛!?」

ジャンヌさんからの思わぬお願いに一同面食らう。

「はい。あなたたちのサッカーの戦術が敵中横断の役に立つはずです。」

「敵中横断!?」

「危険すぎるんじゃ…」

一歩間違えば戦争に巻き込まれる。なんの訓練も受けない子供の俺たちが。

「援軍を連れ帰り、オルレアンが無事に解放されれば、私はあなたたちの為に力を尽くしましょう。」

ジャンヌさんは芯の通った声でそういう。

けど、俺たちはいきなりの提案、それもかなりの危険を伴うことにみんな答えに窮する。

その時

「分かった。」

霧野先輩が立ち上がった。

「俺たちはジャンヌの力を必要としている。なら、俺たちもジャンヌのために力を尽くすべきだ。」

「霧野先輩!」

「そうだな。」

「助け合い、ですね。」

俺も天馬と神童先輩に続く。俺たちだけが協力してもらおうなんて虫が良すぎる。

「やりましょう!」

「ほいじゃあ、全員で行くぜよ!」

「剣とか鎧とか着ちゃうんですかね~」

みんな霧野先輩の言葉で踏ん切りがついたらしく、打って変わってワクワクしている。

「あ、すいません。馬車に乗れるのが7人までなんです。だから私を除いて、6人になるので全員という訳にはいかないんです。私としても出来るだけ大勢のほうが頼もしいんですけど…」

「分かった。それじゃあメンバーを選ばないとな。」

「それでは、明日の明け方にまた迎えにあがります。なのでそれまでに6人を選んでおいてください。それでは…」

そう言い残しジャンヌさんは帰っていった。

 

 

その後護衛としてついて行く6人を決める流れとなった。

ミキシマックスの機会を伺うためにフェイ、オーラを受け取る候補の黄名子がまず決まった。そこからキャプテンの天馬、仲のいい信介が決まり、オーラを受け取る候補は多いほうがいいということで俺、そして本人の強い意向もあり霧野先輩の6人に決まった。

 

 

次の日 早朝

 

「これをこうして…」

「んぐぐぐ・・・」

「お、重い・・・」

俺たちは

ジャンヌさんに手伝ってもらいながら鎧を着込んでいた。鎧ってこんなに動きにくいのか・・・

「前が見えないよ~」

信介に至っては鎧に着られているといった様子だ。

「それはサイズが合ってないだろ・・・

「よくこんなものが振り回せますね。」

「えっと、実は私もうまく使いこなせてないんです。」

「え、そうなんですか?」

剣と鎧を使いこなせないのに戦場に立っているなんて思いもしなかった。

「はい。それでも、必要とあれば剣を振るわなければなりません。どれだけ怖くても…」

そういうジャンヌさんは強い意思を持ちながらも、自信を持てていないように見えた。

そんなジャンヌさんを霧野先輩が見つめていた。

 

 

「あなたが一緒に来てくれるんですね。えっと…」

「名前か、霧野蘭丸だ。」

「蘭丸。よろしくお願いします!」

 

「それじゃ行こうか。」

準備が整い外に集合の時間になった。

「ああ。…あ、そうだ。」

あることを思い出し。

「どうしたの翼?」

「すまん。ちょっとやっときたいことを思い出した。先に出ててくれ。」

「分かった。待ってるね。」

天馬に先に出ておくよう頼む。支度部屋には俺一人になる。

「さてと、まだ寝てるかな?」

だれもいないのを確認し、デバイスでメッセージを送信する。

「記憶残るタイプかな?起きて覚えてたらどんな反応するだろう。」

 

 

「みんな、ジャンヌを守るんだ。いつもの試合のように気を引き締めていこう!」

「「「はい!」」」

外に集合し、霧野先輩が俺たちのやるべきことを改めて確認する。

「霧野先輩、頼りにしてますよ!DF陣のリーダーなんですから。」

「こら、茶化すな翼!」

「茶化してませんって。」

「全く…」

そうしているとちょうどジャンヌさんが出てきた。

「お待たせしました。それでは、行きましょう。」

そして俺たちは馬車に乗り込みヴォークルールを後にし、シノン城に向かった。

 

「シャルル王子が援軍を出してくれるといいな。」

「はい。それが神のご意志なのですから。」

 

 

その頃ある街の宿屋

 

「う~ん・・・・」

朝日が差し込みメイアが目を覚ます。

「ん~あれ?私、何してたんだっけ?」

見慣れない部屋で目を覚まし、寝起きということもありなぜ自分がここにいるか思い出せない。

「ん~・・・あ、そうか。昨日あれを飲んでから・・・」

徐々に頭が動き出し、昨日のことを思い出す。

「あんまり覚えてないけど、セカンドステージチルドレンでもあれには勝てないのね。」

かすかに残っている記憶から自分が陥っていた状態をおぼろげに思い出し、軽く落ち込む。

「けど、なにか大事なことを忘れているような・・・あら?」

ふと机の上に置かれているデバイスが光っているのを確認する。

「翼から?」

差出人を確認し、内容に目を通すが

 

『おはよう。昨日の記憶は残ってるか?急に電話を寄越すから驚いたよ。それに、あんなことを言われてびっくりしたよ。まさかメイアの口からあんなことが聞けるとはね。

俺はシャルル王子に援軍を要請してオルレアンの解放に向かうことになった。もしかしたらどこかで会うかもしれないな。』

 

「・・・は?」

文面、特に前半部分の意味が理解できず通話履歴を確認すると確かにそこには翼との通話履歴があった。

「え・・・そういえば、あの時なんだかフワフワしてて・・・それに翼の声が聞こえてたような・・・はっ!」

急速に記憶が蘇ってくる。

たしかデバイスをいじってると名前が目に着いて無性にかけてみたくなって。それから…

「あ…あああ…はあああああ!!??」

思い出してしまった。

なんてことを言ってしまったんだ、あの時の自分。

自分の発してしまった顔が赤くなるような発言の数々を思い出した彼女がしばらく悶えたのは言うまでもない。

 




いかがでしたでしょうか。
フランスと聞いて真っ先にあのくだろをやろうと決心しました。
ふわふわした女の子はかわいい。
ちなみに私は弱いので飲んだことありません。
赤面する女の子、良い。
感想、ご指摘などあればお待ちしています。


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それぞれの苦悩

どうも。前回よりは早めに投稿できました。
これまでこの作品は翼視点、メイア視点、三人称(神)視点で主に描いてきましたが今回は他のキャラの視点も挟んでみました。うまくやれているといいのですが


「ひどい…」

俺たちは馬車でシノン城を目指す道中、戦場の跡を通っていた。

「戦争に巻き込まれたんだ…」

建物は壊れ、人々は傷ついている。

「早く戦争を終わらせないと…」

ジャンヌさんは十字架を握り締め祈る。

「…シャルル王子に援軍を出してもらえるといいな。」

「はい。それが神の御意志なのですから。」

霧野先輩がジャンヌさんを元気づけようと声をかける。

「歴史ではジャンヌはシャルル王子に援軍を出してもらえるんだよね?ならきっと大丈夫だよ!」

「そうとも限らないよ。歴史は不安定になってるからね。門前払いを喰らうことだってありえるかも知れない。」

信介の楽観的な考えにフェイが答える。

「とにもかくにもまずはシノン城についてからだ。まだつかないのか?」

「もうすぐだと思います。…あっ見えてきました!」

遠目に大きな建物が見え始めた。あれがシノン城か。

 

 

「少し待っててください。シャルル王子との謁見をお願いしてきます。」

シノン城につき、城門をくぐった広場に通されたあと、ジャンヌさんがシャルル王子に会わせてもらうよう交渉する間俺たちは待機していた。

「とりあえず城の中には入れてもらえたけど、王子に会えるのかな?」

「会えなかったら援軍を貰うどころじゃないやんね。」

「てか、シャルル王子ってどんな人なんだ?」

信介や黄名子と話していると少し離れたところで考え込む霧野先輩が見えた。

「霧野せ…天馬…」

霧野先輩に声を掛けようとすると天馬が霧野先輩のそばに行った。

「任せたぞ、キャプテン。」

 

 

俺たちが戻ってきてから霧野先輩の様子が少しおかしい。

いつも神童先輩と一緒にいて、練習の時もディフェンス陣をまとめあげていたのになんだか元気がない。

翼も言ってたけど何か悩みがあるんだと思う。キャプテンとしてなんとかしなきゃ。

「霧野先輩!」

「天馬か。どうかしたのか?」

「ジャンヌさん、大丈夫ですかね。」

「分からない。けど、俺はジャンヌを信じるよ。」

霧野先輩はこの時代に来てジャンヌさんと出会ってからよく話してるし、ずっと元気づけてる。自分にも悩みがあるのに、自信を持てないジャンヌさんを必死に励ましてる。

「あの…大丈夫ですか?」

「え?どうしたんだ急に。」

「いや、最近霧野先輩少し元気ないなって思って。それで何か悩みでもあるのかなと思って。」

「そうか…別にそんなつもりはなかったんだけどな。」

バツの悪そうに霧野先輩は言う。

「俺で良かったら聞きますよ。」

「いや、悩みってほどじゃないんだ。お前たちがエルドラドと戦ってる間、俺はなにも出来なかった。天馬や神童が成長してる間、俺はサッカーから逃げてた。そんな自分が情けなくて…」

「霧野先輩…」

あれはマインドコントロールのせいだ。けど、それえを理由に励ますのは違うと思う。

「そんなことないですよ!確かにあの時は一緒には居ませんでしたけど、それでも俺たちは雷門として霧野先輩やみんなと一緒に戦ってると思ってました!それに、普段どれだけみんなや先輩たちに支えられてるか改めて実感しました。」

みんながいなくなってから、チームっていうのは互いが互いを支え合ってるんだと思った。

一人一人の役割があって、長所があって、短所は補い合う。それが仲間なんだって。

「天馬…」

「大丈夫ですよ!霧野先輩には霧野先輩にしか出来ないことがありますよ。翼や狩屋や俺たちも頼りにしてます!だから霧野先輩も俺たちを頼ってください!一人で抱え込まないでください。」

「…そうかもしれないな。ありがとう、天馬。少し気持ちが楽になったよ。」

そういって霧野先輩はさっきより少し表情が明るくなった気がする・

「良かった~」

「それにしても俺のほうが先輩なのに悪いな。天馬はいつもみんなと肩を並べてるよな。」

「そんなことないですよ、まだまだです。」

俺はキャプテンなんだ。みんなを引っ張っていかなきゃ。

 

 

「ジャンヌ・ダルクが謁見を求めてるだと?追い返しますか?」

「待て、余に考えがある。」

 

 

「あ、ジャンヌさん帰ってきたよ。」

しばらくするとジャンヌさんが戻ってきた。

「どうでした?」

「少し待てと言われました。」

用意でもするのか?なら会ってもらえるかもしれないな。

少し待っていると一人の騎士がやってきた。

「ジャンヌ・ダルク、シャルル王子がお会いになられるそうだ。来い。」

「は、はい!ありがとうございます。」

「良かった~それじゃあ」

ジャンヌさんに付いて行こうとすると騎士に遮られる。

「待て。王子に会うのはジャンヌ一人だ。」

「そんな・・・」

「俺たちはジャンヌの護衛としてきたんです。お願いします!」

霧野先輩が食い下がる

「・・・分かった。一人だけ許可する。」

なんとか一人だけ同行が許可された。

本人の申し出により霧野先輩が同行することになった。

 

 

「霧野先輩とジャンヌさん、ちゃんと援軍を出してもらえるかな?」

「今は信じて待つしかないさ。」

「援軍を出してもらえないとオルレアンの解放が難しくなるからね。」

俺たちは中庭で二人が戻って来るのを待っていた。

「シャルル王子ってどんな人やんね?」

「シャルル王子は疑り深い人だったらしいよ。」

「フェイは物知りやんね~」

「ちょ、黄名子やめてよ~」

なんか黄名子がフェイをなでなでしてる。

あの二人、というか黄名子のスキンシップ激しくない?あとなでなでされてるフェイがウサギみたいでなんか和む。

 

「とりあえず、待ってるだけってのもあれだから練習しておかない?」

「いいね」

天馬が袋からサッカーボールを取り出す。

「この鎧着ながらならいい訓練になるかもな。」

この重くて動きにくい鎧を着ながらなら普通の練習よりも負荷が掛かって良さそうだ。バトル漫画の修行でありそう。

 

 

そして俺たち5人はパス回しなど中庭でできることをこなしていた。

「ねえねえ、どうせなら試合しよ!」

「それじゃあ、あっちとこっちの壁をゴールにしよう。」

黄名子が切り出しフェイがルールを決める。

「いいけど、ひとり足りないぞ。」

5人ではバランスが悪い。

「確かに。それじゃあ一人足せばいいやんね!え~と…あっ!」

黄名子が辺りを見渡し一人の男性に目をつけ駆けていく。

「ねえねえ、お城の人?」

「うむ。余は一介の兵士である。」

きなこに話しかけられた銀髪の兵士が答えるがやけに偉そうである。

「ね、サッカーやろう!」

「サッカー?」

「大丈夫、サッカーは時代を越えて万国共通!やってみればわかるやんね!」

「ひ、暇だからやってやってもよいぞ。」

男は興味津々なのを隠しきれていない。

 

「サッカーは足だけでボールを操って相手のゴールを目指すスポーツやんね。」

「なるほど。ゴールとは敵の城のようなものだな。」

「そうそう、頭良いやんね。」

男はざっくりとした説明ではあるがサッカーのルールを理解したようだ。

チーム分けは俺、黄名子、兵士。向こうが天馬、信介、フェイになった。

「初めてだし最初は後ろで見てるといいやんね。」

「ならん!騎士として、遅れを取るなどあってはならん!」

「じゃあ、俺が後ろで守っとくよ。ディフェンスが本職だし。」

「ならウチも一緒に前に出るやんね。ポジションどこでもできるし。」

 

 

「それじゃあ、行くやんね。」

黄名子のキックオフでミニゲームが始まった。

「おりゃあああああ」

「っておーい!」

いきなりシュートしやがった。もちろん止められる。

「いきなりシュート打ってもダメだ。もっと相手の陣地に攻め込んでから打つんだ。」

「む、そういうものなのか?」

「一緒にボール運ぶやんね。」

「うむ。」

それからもしっちゃかめっちゃかながらも男も一生懸命プレーし、時には攻め、時にはみんなで守る楽しいミニゲームが繰り広げられていた。

そんな俺たちの姿に惹かれたのか徐々に他の兵士たちも観戦に集まっていた。

 

「余が決める!」

「無茶やんね!こっちこっち!」

「余に不可能は無い!おりゃあああああ!」

「へぶっ!?」

「あ」

兵士が思いっきり蹴ったボールは観戦していた他の兵士にあたって跳ね返った結果

「入っちゃった。」

相手ゴールに入ったのだった。

「えっへん。狙い通り。」

「あ、あはは…」

「面白い、面白いぞ!これがサッカーか!」

兵士の人は盛り上がってるが俺たちは何とも言えない状態だった。

 

 

「気に入ったぞ、サッカー。」

「それは良かったやんね。」

俺たちはさっきの人に連れられ城の中を歩いていた。

「あの人、他の兵士に比べて随分偉そうだね。」

「ああ。ってそっちはまずいんじゃ…」

兵士は謁見の間に入ろうとして慌てて止めようとするが

「構わん。余が許す。」

構わず扉を開けてしまった。

 

「あ」

扉を開けた先には偉そうな人たちと一緒に霧野先輩とジャンヌさんがいた。

「ジャンヌさん?」

俺たちを見たジャンヌさんはこちらに駆け寄ってきて跪いた。

「お会いできて光栄です。シャルル様。」

「長旅ご苦労であったな、ジャンヌ・ダルクよ。」

「「「ええええええええ!?」」」

 

 

ことの顛末としてはシャルル皇太子の顔を知らないジャンヌを試すために替え玉を用意していたということだったらしい。

そして今俺たちは今回の旅の目的を説明していた。

「ふむ。この戦争に勝利した暁には余を即位させると。」

「はい。シャルル様は必ずや王になるお方です。」

「それも、神の声か?」

「はい。」

「だが、今我らはイングランド軍の前に手も足も出ない状態だ。この状況をどう打開する?」

「それは…」

自信がないのか言いよどむジャンヌさん。

「ジャンヌ、自分の思ってることを言うんだ。」

そんなジャンヌさんに霧野先輩が背中を押す。

「蘭丸…うん。敵は今、本体とオルレアンで兵力が分断されています。そこで援軍を含めた兵力をオルレアンに集めれば必ずオルレアンを奪還できます。そうすればこの戦争にも勝てるはずです!」

「ふむ…」

ジャンヌさんの言葉を受け考えるシャルル王子、まだ皇太子だけど。

「ライール、ジルドレ。」

「「はっ!」」

「手勢を率いてオルレアンへ迎え!」

「「はっ!!」」

シャルル王子の言葉に側近の二人が凛として答える。どうやら援軍を出してもらえるみたいだ。

「良かったな、ジャンヌ。」

「はい!これでオルレアンは救われます。」

 

 

それから俺たちは援軍を引き連れオルレアンを目指した。

他の皆にはフェイが連絡してくれ現地で合流することになった。

帰りの道のりは先行きの分からない往路と違い、援軍を得られたという好材料もあり、体感ではあっという間だった。

 

 

そしてオルレアンに到着した。

「ジャンヌだ!」

「これで我らは救われるぞ!」

ジャンヌを目にしたオルレアンの人たちは歓喜に震えていた。

「敵はこちらに援軍が来たことに気づいていません。今のうちに総攻撃を仕掛けましょう!」

ジャンヌさんは味方を鼓舞するように言う。

「待て、旅の疲れを癒すのが先だ。」

「ですが!?」

「戦いのことは我ら騎士たちの領分だ。我らに任せておけばいい。」

しかしライールたちはジャンヌさんの言葉を意にも介さず拠点に入っていった。

兵が出ないのではさすがに俺たちも動けないのでいったん休むことになった。

 

 

俺たちはジャンヌとオルレアンに到着し、他のみんなと合流した。

「お疲れ、霧野。」

拠点に入ると神童が迎えてくれた。

「援軍、連れてきてくれると信じてたよ。」

神童が労いの言葉をかけてくれる。

「俺は護衛として着いていっただけで何もしてないさ。ジャンヌがシャルル王子を説得してくれたおかげだよ。」

「それでもだよ。」

俺は本当に何もしていない。ジャンヌに寄り添っていただけだ。

そんな俺を肯定している神童の言葉に胸が少し締め付けられる。

「これからの予定は?」

「ジャンヌはこのまま攻撃を仕掛けようと行っていたんだが、援軍の騎士長がな…」

「なるほど。だが騎士長の言うことにも一理はある。今は少し体を休めよう。」

ジャンヌの言葉を意にも介さなかった騎士に思うところはあるが体を休める必要があるのもわかる。

「確かにそうかもしれないな。」

「ああ、それじゃあゆっくりするといい。」

そういって神童は去っていった。

 

「ジャンヌ、どこに行ったんだ。」

一人になった俺はジャンヌを探していた。

ジャンヌを探して歩いていると塔の上に上る階段を見つけた。

階段を上がっていくとそこには膝を抱えているジャンヌがいた。

「ここにいたんだね。」

「蘭丸…」

声をかけるとビクッとして顔を上げた。

「今攻め込まないとチャンスを失ってしまう…けど、私ではあの人たちを動かせない…」

「怖くないのかい?」

「私が逃げ出したらフランスの人々の苦しみは終わらない。私は、選ばれたんだから…」

ジャンヌはいつも自分に言い聞かせるように言う。

カリスマとしての力が目覚める前の少女だったはずなのに、神の声を聞く力を持っているから自分が導かないといけない。そんな使命感を持っている。

「私なんかにできるんでしょうか…」

「ジャンヌはすごいよ。」

「え?」

「苦しむ人たちを救うためにたった一人で立ち上がり、王太子の心を動かしたんだから。」

ただの女の子がこんなこと出来るはずがない。ジャンヌだからこそ出来た、そう思う。

「大丈夫、君には君にしか出来ないことがある筈だよ。」

城で天馬に言われたことを思い出す。

「俺にも俺にしか出来ないことが有ると良いんだけど…」

自分のことすら見いだせてないのにこんなこと言うなんておかしいのは分かってる。けど、彼女にそう言わずにはいられなかった。

「蘭丸…」

俺にしか出来ないこと、か。

 

 

霧野とジャンヌが話しているころ翼はオルレアンの街を歩いていた。

「せっかくフランスまで来たんだし、待機中くらいいいよな。それにしても…」

暇だからということで繰り出してきたがオルレアンの人たちはジャンヌさんが援軍を連れてきたおかげで活気づいているものの、みんな窶れている。長い間孤立していたんだ。無理もない。

「翼。」

そんなことを考えていると後ろから声をかけられた。

「よう、メイア。」

不思議と驚きは無かった。なんとなくそろそろ来るだろうなと思っていたし、彼女を待っている自分がいた気がする。

「無事に援軍を連れ帰れたみたいね。」

「俺はただ着いていっただけだけどな。」

「歴史に歪みが出ていないのはいいことね。今、時間あるの?」

「ああ。ジャンヌさんは攻勢に出ようとしたけど、お偉いさんの命令で待機中。」

「そう、じゃあ少し歩きましょうよ。」

「いいぜ。どうせやることないし。」

 

それから他愛ない世間話や俺がこの時代に来てからのことを話しながら歩いているとふとあることを思い出す。

「そういえばあれから大丈夫だった?」

言った途端メイアの体がビクッと強張る。

「…何のことかしら。」

「いや、ふらふらになって俺に電話かけ「何のことかしら。」」

言葉を遮られる。

「いや、結構やばそうだったし、あんなこと「な・ん・の・こ・と・か・し・ら」ヒェッ!?」

メイアの顔を見ると笑顔なのに目は笑って無く、凄い圧力を感じた。

これはあのことには触れるなということか。

「い、いや、何でもないです。俺の記憶違いでした。」

「そうよね。全く翼ったら~しっかりしてよね~」

そう言って俺の肩に手を置くメイア。

絶対怒らせないようにしよう、うん。

 

 

全く、翼ったら。せっかく触れないようにしてたのに。男の子ってデリカシーってものが無いのかしら!

「それにしても…」

隣の翼が口を開く。

「この時代ってシノン城みたいに華やかなところもあるけどやっぱり市民の人たちは戦争のせいで傷ついて、苦しんでるんだよな…」

周囲の人達を見て翼は言う。

ここに来る前に戦争に巻き込まれた町を見た。

私が最初に降り立った街は戦争とは離れたところでそんなことはあまり感じなかったけど、巻き込まれた町はひどい有様だった。

「ええ。これが長く続いてるのね。優雅な暮らしをしている人もいれば、生きていくのに必死な人も。」

「戦い、戦争、か。」

彼の言葉を聞いて少し胸が締め付けられる。

私たちフェーダも近いうちにエルドラドに、古い人類に攻撃を開始する。私たちセカンドステージチルドレンがいかに優れた存在かを知らしめるために。私たちの存在を世界に認めさせるために。

SARUはエルドラドのような古い人類は淘汰されるべきだと日頃から言ってる。私たちセカンドステージチルドレンが自由に生きられる世界を作るためならそれも必要なことだと私も思ってた。

けどこの時代に来て、戦争が生むものをみて少し、心に引っかかるものが出来た気がする。

「酷いものよね、戦いも、人間も。」

誰に向けた言葉だろうか。

「ああ。けど、お互いに自分たちのゆずれないものや正義のために戦ってるって誰かが言ってた。だから、戦いが始まればどちらも正義だし、どちらも悪だって。なら、自分たちを信じるしかないのかもな。」

「自分たちを信じる、正義…」

翼は時々別人のように思える時がある。基本的に馬鹿だし、彼の時代で教わるようなことなのに私の方が詳しかったりする。まぁ、私が賢いのもあるけど。

けど、ふとしたときに私と同じくらいの年の男の子とは思えないことがある。

今だって、戦争とは縁遠い時代と国の中学生なのに随分と大人びた、私も考えもしなかったことを言う。

そんな彼の言葉は不思議と私の背中を押してくれる。

迷いは無いはず。けど彼の言葉を聞くと思いが強くなる気がする。あの時もそう。

メイアはこの間のお出かけの時の昼食の会話を思い返していた。

 

 

前世で聞いたことがあった。戦いに善も悪もない、互いの正義のために戦うんだって。

フランスの人々が傷ついているようにイングランドにも傷ついている人々がいるんだろう。

俺たちは今、フランス側についているからこうしてフランスの人たちに寄り添っているが逆も有り得たかもしれない。

「自分たちを信じる、正義…」

隣にいるメイアが言葉を漏らす。

メイアは時々、決意を秘めたような、そして少し悲しい顔をする。

以前出かけたときにも見た顔だ。

俺は彼女について知らないことばかりだ。

未来から来た、みんなには内緒で力を貸してくれる、すごく強い、不思議な女の子。

彼女について分かることはこのくらいで彼女がどうやって生きてきて、なぜ力を貸してくれるのか、彼女の力も何も分からない。そんなメイアのことをもっと知りたいと思う自分がいる。

「メイア。」

「あ、あはは。少し暗くなっちゃったわね。そろそろ戻りましょう。」

「…そうだな。…ってあれはジャンヌさん?」

視界の端にジャンヌさんとその後ろに続く兵士たちが見えた。まさか。

「ごめん、メイア。急いで戻らなきゃ。」

「…分かったわ。頑張ってね。あと、エルドラドがそろそろ介入してくるかもしれない。気をつけて。」

「ああ。絶対歴史は守ってみせるよ。それとミキシマックスも。」

「今回は翼の番じゃないんでしょう。」

「多分な。けど、時空最強イレブンを目指すために、必ず力を手に入れてみせるよ。それじゃあ、またそのうち!」

「ええ!」

別れを済ませ急いでみんなの元に戻る。

 

「あ、脱獄犯のこと伝えるの忘れちゃった。…まぁなんとかなるわよね。さて、私も見に行こうかしら。」

 

 

拠点に戻るとみんなジャンヌさんが兵士たちを連れ飛び出したことを知らされていた。

すぐに応援に向かうことになった。

 

「いた!ジャンヌだ!」

急いで駆けつけると橋の上でイングランド軍との戦いが既に始まっていた。

「ジャンヌを助けるんだ!」

「おっと待ちな。」

そこに色黒の男が立ちはだかる。

「誰だ!」

「そういうと思ったぜ。俺はザナーク・アバロニク、名も無き小市民だ。」

名前あるじゃん。

「どけ!俺たちはジャンヌを助けなきゃいけないんだ!」

霧野先輩が声を荒らげ言う。

「そうつれないことを言うな。俺のおもちゃたちと遊んでくれよ。」

ザナークがそういうとザナークの後ろに11人の男女が現れた。

「あれはプロトコル・オメガ!?」

そこに現れたのはプロトコル・オメガの面々だったが少し雰囲気が違う。まるで洗脳されているような。

「お前たちには二つの選択肢がある。こいつらとサッカーで戦うって勝つか。それとも向こうまで泳いでいくかだ。ま、泳いだら邪魔するがな。そらそら、早くしないと歴史が変わっちまうぜ。」

一択じゃねえか。

「やるしかないか。」

「ふん、そういうと思ったぜ。」

 

「皆の者、ジャンヌに続け!騎士の誇りを見せるのだ。」

ザナークとひと悶着挟んでいると後ろから援軍が来た。てか、シャルル王子来てたのか。

『フィールドメイクモード』

しかしザナークのもつスフィアデバイスが結界のようなものでサッカーコートを作ったことで向こうに行けなくなってしまった。ついでにシャルル王子だけ中に入ってきてしまった。

「さぁ、始めようぜ。」

「いいだろうザナークとやら!この大監督、クラーク・ワンダバット様が相手だ!」

「監督とは何だ?」

「みんなに指示を出す人。」

「つまり王のようなものか。ならば!この余が務める!」

「だああああああああ!!??」

 

 

そうしてシャルル王子監督の元、試合が始まった。

早く勝ってジャンヌさんに加勢しないと。

 




いかがでしたでしょうか。
今回は天馬と霧野視点を挟んでみました。
章の主役の霧野の悩み、そしてキャプテンとしての天馬の悩みや思いを描けていれば幸いです。
今後こういった描写を増やすなら視点切り替えの時に〇〇視点みたいに挟んだほうがいいかな?ご意見待ってます。
メイン章が終わった神童さんには申し訳ないと思ってます…

翼は絶対にメイアに尻に敷かれると思います(断言)


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誓いはこの旗のもとに

今回でフランス編は終わりです。
今回のタイトルは原作と同じなのですが個人的にこのタイトルとエピソードがすごく好きなのでそのまま使わせていただきました。
フランス編はラグナロクを除くとアーサー編の次に好きな章です。
それではどうぞ。


 

オルレアン大橋上にて二つの戦いが始まっていた。

「さあ、オルレアン解放戦を背後に雷門対プロトコル・オメガ3.0の戦いの火蓋が切って落とされたぞ!」

いつものおっちゃんがいつのごとく召喚されいつものごとく実況をしてくれる。

 

「あいつら…」

「うん、様子が違うね。」

以前見た時とは見た目と雰囲気が別人だ。まるで

「ザナーク様とミキシマックスした我々の敵ではない。」

「何!?」

「全員がミキシマックスしているだと!?」

やはりあのザナークの力を分け与えられているらしい。

「関係ない。絶対に勝つんだ!いこう、みんな!」

「うん!」

天馬の合図で攻め上がっていくオフェンス陣。

「全員で王の城を守れい!」

「ええ!?」

しかしベンチのシャルル王子の指示にみんなの足が止まる。

「あの人、サッカーのこと分かってんの?」

シャルル王子の指示に困惑していると

「もらった。」

隙をつかれボールを奪われる。

「バハムス、スマート。予想通りのパスだ。」

奪われたボールがガンマに渡る。

「止めろ!」

「行かせるか!」

「ふん。予想通りの動きだな。」

ガンマを止めに神童先輩につくも動きが読まれているかのように抜かれてしまい、ガンマのゴール前侵入を許してしまう。

「止めるぞ!」

霧野先輩と浜野先輩が立ちふさがる。

「迅狼リュカオン!はあああああ!」

「うわあああああ」

しかし、ガンマの化身シュートに信介もろとも破られゴールを決められてしまった。

「俺たちの動きが読まれてる…」

「どうすれば…」

 

 

一方ジャンヌは自身の目の前で起こっている戦いに足がすくんでしまっていた。

「私、どうすれば…」

 

「ジャンヌ…」

遠目にジャンヌが震えているのを見えてしまった。

「霧野!今は試合に集中するんだ!」

「・・・ああ」

そうだ。早くこの試合に勝ってジャンヌを助けないと。

そのために俺ができることをしないと。

 

 

「ふう。少し遅れちゃったけど、ここならゆっくり試合が見れそうね。って、もう先制されてるじゃない。」

メイアは戦いが起きてる橋から少し離れた塔から試合を見ていた。少々遠いがセカンドステージチルドレンの視力であれば問題ない距離である。

「今回は元の雷門のメンバーのようだから翼の負担も減ると良いんだけど、彼らで大丈夫かしら?あの人が翼の言ってた霧野って人よね。」

メイアがは天馬や翼たち化身使いのメンバー以外のプレーを見たのは最初のプロトコル・オメガ2.0との試合だけだったので少々不安であった。

「それにしても、エルドラドのメンバーの様子が変ね。それに、ベンチのあの男・・・」

ベンチのザナークに目を向ける。

「なるほど。彼がSARUが言っていた脱獄犯ね。それで、連中を洗脳して力を分け与えたってところかしら。もしかして・・・」

大体の状況を把握したメイアだったが少し気になることがある様子。

「ま、とりあえず今は試合のほうを見ることにしましょ♪」

 

 

「まだまだ始まったばかりじゃないか!」

「キャプテンの言うとおりやんね。気合入れていくんよ~」

天馬が声を出し、黄名子もそれに続く。

「そうだ!お前たちが頑張ればジャンヌの力も目覚めるかもしれん!」

そうだ。ジャンヌさんの力が目覚めてオーラを受け取ることができればこの劣勢もひっくり返せるかも知れない。

ジャンヌさんはまだ震えて立てないでいる。

「ジャンヌ・・・」

「霧野先輩、俺たちも気合入れていきましょう!」

ジャンヌさんを心配そうに見ていた霧野先輩に声をかける。

「翼・・・ああ、これ以上点をやられっぱなしではいられないぞ!」

 

試合再開

「取り返す。」

剣城が点を取り返すべく上がっていくが

「右だ。」

「くっ!?」

やはり動きが読まれていてボールを奪われてしまう。

これまでの俺たちとの戦闘データにあのザナークから与えられた力が加わった結果か。

「クォース!」

「させるか!」

やられっぱなしではいられないと言った手前ちゃんと働かないとな。

「天馬!」

「ナイスカット、翼!よーしみんな攻めるぞ!」

すぐさま天馬にパスし、ボールを受け取った天馬が上がっていく。

「行かせない!」

相手の女性MFのダーナが天馬のマークに付こうとしたところで

「待て。ドリブルで戻ってこい。」

「ええ!?」

ベンチのシャルル王子から指示が飛ぶ。

「いいからもどれ。」

「は、はい・・・」

戸惑いながらも渋々戻ってくる天馬。

「お前、なんのつもりだ!」

こっちのセリフである。

 

その後もこちらがボールを取り攻めようとするたびにシャルル王子から同じ指示が飛んだ。

「いい加減にしてください!こんなの無駄に体力を消耗してるだけじゃないですか!」

堪忍できず霧野先輩が言う。

「なんだ不満か。なら攻めろ。」

「くっ…天馬。」

「はい!」

霧野先輩からボールを受け取った天馬が攻め上がる。

「いい加減にしろ!!」

こちらの行動に相手もイラついていたらしくガンマがまっすぐ突っ込む。

「うわっとと!」

急に前に出てきたガンマに虚をつかれた天馬が蹈鞴をふむ。

「何!?」すると前のめりに突っ込んできたガンマは天馬の思わぬ緩急にバランスを崩し倒れた。

「抜けた…」

「偶然か?」

しかしその後も次々にパスが繋がりフェイと天馬がゴール前に侵入していく。

「もしかしてあいつら頭に血が昇ってこっちの動きを読めてないんじゃないか?」

それくらいしか考えられない。

「ちゅーか本当に狙ってたの?」

「まぁ、結果よければ全て良し!天馬、フェイ頼む!」

天馬とフェイがゴール目前まで切り込む。

 

「ここで前半終了!」

しかし良い所で前半終了のホイッスがなった。

「クソ、あとちょっとだったのに。」

 

 

「みんな大丈夫か?」

ハーフタイム、水鳥先輩たちが声をかけてくれる。

「大丈夫、まだまだやれます。」

「俺たちDFはあんまり走ってないからまだまだ余裕ですよ。」

DF陣はオフェンス陣に比べて前半の運動量は少なかったので体力に余裕はある。

「けど、このままじゃ後半持たないぞ。」

「うむ。こうなったら私が指揮を」

ワンダバが指揮を取ろうとする。

「いや、待ってワンダバ。前半最後、作戦がハマってあいつらの動きに乱れがあった。ジャンヌの力が目覚めて無い今、ここはシャルル王子にかけてみよう。」

しかしフェイが止める。正直不安だらけなんだが。

「案ずるな、次の策は考えてある。」

そしてシャルル王子が話す次の作戦はこれまたびっくりするものだった。

 

 

「前半はあまり動きはなかったわね。それにしても、あの王太子は何を考えてるんだか。」

前半を振り返るメイア。さすがの彼女にもシャルルの考えは理解できなかったようだ。まぁほぼ考えなしの考えを理解しろという方が無茶な話である。

「それに、ジャンヌ・ダルクもあの様子だし。」

ジャンヌの方を見やる。

ジャンヌは今だうずくまっており、そこに一人の兵士が声をかけまた去っていく。

 

「お前を信じて・・・良かったのか・・・」

「・・・本当に聞いたんです。神の声を、民を導きフランスを救えと。だから、私が先頭にたたなくちゃ。」

 

「本当に大丈夫なのかしら。ねぇ、翼。」

 

「ん?」

「どうしたの翼?」

不意に声を上げ、明後日の方向を向く翼に天馬が声をかける。

「いや、何でもない。どこかから圧を感じたけど多分気のせいだ。」

「何それ~」

どこかからとある少女から期待というかプレッシャーをかけられた気がする。おそらくどこからか見てるのだろう。情けない姿は見せられない。見せられないが

「それよりどうしよ~天馬~俺自信ねぇよ~」

シャルル王子から告げられた作戦を聞いてから不安に押しつぶされそうだ。

「あ、あはは。でも翼なら大丈夫さ。」

「まぁサッカープレイヤーとしてそれなりにはこなせるけどさ~。やっぱあいつら相手は不安なんだよ!」

前世も含めたキャリアの貯金があるけど。

「もうやるしかないよ。なんとかなるさ!」

こいつ、他人事だと思いよってからに。

 

 

「さあ、後半戦開始!おっと、なんと雷門はFWとDFを入れ替えてきたぞ!これはどういう作戦だ!?」

「本当にやるんですか霧野先輩。」

「指示なんだ、やるしかない。」

そう。シャルル王子の作戦は俺たちをFWに配置することだった。

やっべーFWってこんな緊張するもんだっけ?こいつら全員抜いてかないといけないの?

前に立つ11人を見る。こいつらを止めれる気はしても抜ける気がしない。オフェンスのみんないっつもこんなことやってたの?

「こうなったらやるしかないやんね!ウチに任せるやんね!」

黄名子がよくやる非常口のマークみたいなポーズで励ましてくれる。

「頼りにしてるぞ、黄名子先輩。」

黄名子の肩を弱々しく握る

「もう何言ってるの!ウチら同い年でしょ!しゃきっとするやんね!」

「痛いなもう!」

どこぞの母ちゃんみたいにバシっと背中を叩いてくる黄名子。

黄名子に一瞬偉大な母を見た気がした。いや誰だよ。

 

母ちゃんか・・・

少し思考に沈みかけるが試合再開直前だ切り替えていこう。

 

 

そして試合再開。

相手ボールからのスタートだが俺たちが前にいるから早めに止めなきゃいけない。

「ほっ!」

「ナイス黄名子!行くぞ!」

黄名子がボールを奪うことに成功する。

「ウチにお任せやんね!これでも元FWなんよ。」

一番頼りになる(DFの中では)黄名子がボールを奪ってくれたので攻め込もうとする。

「待て待て待て~い。前半通りにするのだ。」

「え~・・・」

しかしシャルル王子から指示が飛び外にボールを出す。

それからも前半のようにクリアを繰り返す。

「小賢しいやつらめ!」

うわぁ…めっちゃ怒ってるよ。

ガンマを筆頭にプロトコル・オメガの面々がイライラしてるのが伝わってくる。

徐々にライン押上げてきているのが見て取れる。

 

「霧野先輩!」

ボールを奪うが近くのサイドラインを固められていたため霧野先輩に回す。

「…チャンスだ。」

「うえええ先輩!?」

ところが霧野先輩はドリブルで上がっていく。

慌てて後に続く。

守りが手薄になっていた分、ゴール前に切り込んでいく霧野先輩。

「行かせるか。ディフェンスコマンド06!」

「うわああああ」

しかし相手のダーナに止められる。

急いでボールを取り返しに行くが

「クォース!」

「しまった!」

早めのパスに頭をこされカウンターが決まる。

急いで戻るが霧野先輩の方を見ると膝を痛めたのかまだ立ち上がれていない。

「まずい、俺たちが上がった分人数的にも不利。」

 

「戻らなきゃ…ぐっ…」

カウンターが決まり俺たちが逆にピンチを背負ってしまった。

「俺の、せいで…」

俺が勝手に突っ走ったせいでみんなをピンチに陥れてしまった。

翼や黄名子が必死にゴール前に戻ってる。なのに当の俺が立ち上がれないでいる。

思わず目をつぶりうつむきたくなる。

「霧野!」

「!」

そんな時神童の声にハッとする。

神童がなんとかパスカットしてくれた。

「行けると思ったから攻めたんだろ!俺はその判断を信じる!」

そこから神童や天馬たちが必死になってゴールを守ってくれている。

俺のミスをカバーしようと。

「とう!」

黄名子がなんとかクリアし一旦プレーが止まり神童が駆け寄ってくる。

「霧野、ミスを一人で抱え込むな。一人のミスはみんなでカバーする。それがチームだろう。」

「神童…」

「霧野先輩。」

「翼…」

「後ろに仲間がいるって、こんなに頼もしいもんなんですね」

「え?」

「普段俺たちはゴールを守るために絶対に相手を止めるのが役目で前の皆が点を取ってくれて助けられてるなって思ってましたけど、こうやってオフェンスの立場に立ってみると後ろに仲間がいてくれるのってこんなに勇気が出るんだって思って。俺たちがミスしてもみんなが何とかしてくれるんだって思うとさっきまでビビってたのが吹き飛んだ気がするんですよ。」

そう言われみんなを見る。みんなミスした俺を責めるなんてことは全く無く、むしろ元気づけてくれる。

「そうぜよ、霧野。おまんらが後ろに居るからワシらは安心して攻められるんぜよ。」

「錦…」

「言っただろ。頼りにしてるって。」

「神童…」

神童に言われ狩屋の言葉を思い出す。

『神童先輩は化身が使えて、ミキシマックスもできて。随分差が付いちゃったなとか思ってるんでしょ。』

そうだ。俺は焦っていた。これまで一緒にやってきた神童に差を付けられたと思って。勝手に自分が何もできないと思い込んで。神童に嫉妬していたんだ。

スローインで試合が再開する。

「神童!やっと分かったよ。俺の役目は前に出ることじゃない!みんなが安心して攻められるように後ろで支えることだ!」

「お前らしい答えだな。」

「ああ!」

背中から力が湧き出てきて相手との競り合いに勝てた。

 

 

「今のは…」

何か吹っ切れたような霧野先輩の背中から黒い影が湧き出た。

「霧野先輩!」

「翼、ありがとう。お前のおかげで俺がやるべきことが分かったよ。今なら出来る気がする。シャルル王子、みんなを元のポジションに戻してください!」

「む?よかろう。」

「ジャンヌ!!」

霧野先輩がジャンヌさんを呼ぶ。

「俺はやっと分かった!俺がやるべきこと、俺にしか出来ないことが!だから君にだってあるさ!君にしか出来ないことが!」

「蘭丸・・・でも私がいたってどうにもなりません・・・神の声だって本当かどうか・・・」

ジャンヌさんはまだ自信がなさそう。

「自分を信じるんだ!俺は信じる!君の言葉を!だから君も自分と神の声を信じて勝利に向かって突き進むんだ!」

霧野先輩の信じるという言葉にハッとした表情のジャンヌさん。

彼女は自分のことをみんなが信じてくれず自信を持てないでいた。けど霧野先輩の言葉に背中を押されたのかもしれない。

 

「翼、黄名子!ここから一点もやらないぞ!」

「もちろんやんね!」

「はい!霧野先輩も思いっきりぶちかましてやりましょう!そしたらできるはずです。」

あの影…俺がメイアに送られたアドバイスをそのまま送る。

何か視線を感じた気がするが気のせいということにしておこう。

 

「全く翼ったら。私のアドバイスそのまま使うんだから!」

メイアは少しご立腹だった。

 

 

「さぁ試合再開!ボールはエイナムからレイザへ!」

スローインでレイザにボールが渡り霧野がすぐさまマークにつく。

「うおおおおお!戦旗士ブリュンヒルデ!!!」

「霧野先輩が化身を!」

霧野がついに化身を出すことに成功した。旗を持ったピンクの髪の女性の姿をした綺麗な化身だ。

「くっ、オフェンスコマンド04!」

「ぐっ・・・でりゃ!」

レイザの必殺技を正面から受け止め弾き飛ばす。

「これが化身の力!」

 

ジャンヌはその光景を見ていた。

「ジャンヌ、君は信じていないのか!自分の力を!自分が聞いた言葉を!」

「私、不安になっていた。自分のことですら信じられなくなっていた。」

神の声を聞き、民を導かなければならないのに自信が無いまま進んできた。

「そんな君にどうして仲間がついて来てくれる!」

後ろを見れば私について来てくれたみんなが戦っている。

こんな私のことを信じて。

だから

 

「信じなきゃ。私が私自身を。」

蘭丸を見ていて、蘭丸に言われてやっと分かった気がする。

「私の役目。それは剣を持って戦うことじゃない。神の言葉を伝え、仲間を鼓舞すること!」

足元に落ちていた私たちフランス軍の軍旗を手にして振るう。もう迷わない。

「聞け!!同士たちよ!!」

私の叫びにみんながこちらを見ている。

「勝利を信じ、その命を燃やし尽くすのだ!そうすれば神は必ずその勇気に答えてくださる!」

あの日聞いた神の声。

「私はこの旗に、我らの勝利を約束しよう!」

「「「おおおおおおおお」」」

 

 

「ジャンヌ。」

ジャンヌさんはさきほどまでとは見違えるように強く、凛々しかった。

「あれこそジャンヌ・ダルクって感じだな。」

「うおおおおお!これならいける!!」

ワンダバがピンクになりジャンヌさんのいる方向に走り、ミキシマックスガンをジャンヌと黄名子に向ける。

「行くぞ!「違う違う!あっち!」あっ打っちゃった!」

しかし直前で黄名子が霧野先輩を指差し釣られて打つ。

「ウチ、分かったやんね!ミキシマックスするのは霧野先輩やんね!」

「うおおお!ミキシマックスコンプリーーート!!」

ミキシマックスが成功したそこには髪が伸びジャンヌさんの髪色とメガネを身につけた霧野先輩が立っていた。

「調子に乗るな!」

ガンマが突っ込んで行く。

「ふっ!」

だが霧野先輩はあっという間にボールを奪ってしまう。

「行くんだ、剣城!」

そして前線の剣城にボールが渡る。

「剣聖ランスロット!アームド!!おらああああ!」

「うわああ」

剣城の化身アームドのシュートが決まり同点に追いつく。

 

「流れは俺たちにある!攻めまくるんだ!」

「「「おう!!」」」

「小賢しい奴らめ!迅狼リュカオン!」

「翼!止めるんだ!」

「は、はい!」

霧野先輩の指示でガンマを止めにかかる。なんかこれまでより厳しくなってない?

 

「うむ。これぞまさしく二の力、仲間の勇気を奮い立たせ、鉄壁の守りに変えるカリスマディフェンダー。霧野蘭丸にふさわしい力だ。」

 

「破壊神デスロス!!おりゃああああああ!」

「何!?」

俺も化身を出し、正面からガンマを吹っ飛ばす。

「霧野先輩!」

「神童!」

霧野先輩からのパスは相手DFを吹き飛ばしながら神童先輩に渡った。

「ミキシトランス、信長!!」

ボールを受け取った神童先輩がミキシマックスで信長の力を呼び起こす。

「刹那ブースト!!」

完全に勢いにのった雷門の攻撃を止められるはずもなくシュートが決まった。

 

「ゴール!雷門逆転!そしてここで試合終了!雷門の勝利だー!」

「やったーーーー!」

俺たちは勝利を喜び、一方プロトコル・オメガの面々は呆然といった様子だった。

「チッ、役立たずが。」

「ザナッ・・・」

ガンマが何か言おうとしたが言い切る前にどこかに強制送還された・

 

「続け!皆の者!」

フィールドが解除されたことでフランス軍が橋を渡れるようになったことで援軍が到着する。

「進め!フランスのために!神は我らを救いたもうた!神に感謝するのだ!この勝利を!」

 

「最初はどうなるかと思ったけど、なんとかなったわね。それにしてもジャンヌ・ダルク・・・あんなに気弱そうだったのが力に目覚めた途端あれほどの力を発揮するとはね。これからも楽しみね。」

試合を見届けたメイアは目の前で起こったこととジャンヌの力に感心していた。ミキシマックスしたのが霧野で少し安堵していることに彼女が自覚しているかは定かではない。

「けど、これからエルドラドはどう出るかしらね。あの連中送り込んでくるか、それとも彼に好きにさせるか。…どちらにしてももう少し様子見が必要そうね。」

 

 

「此度の活躍見事であった。」

「お褒めに預かり光栄です。」

オルレアン解放戦は歴史通りフランスの勝利に終わり、俺たちはシノン城に来ていた。

「シャルル王子もありがとうございました。」

代表して天馬がお礼の言葉を述べる。

「うむ。余の采配あってこそだからな。えっへん。」

無茶苦茶ではあったけど、あながち間違いではないから困る。

「時に、また旅立つと聞いたが。」

シャルル王子が一拍間をおいて切り出す。

「はい。俺たちはこの時代の人間じゃありませんから。」

「そなたたちとの出会い、一生忘れぬぞ。次に会うときは余が率いるチームとサッカー対決だ。度肝を抜く作戦を用意しておくからな。」

たしかに、この人の考えることならありえそうだ。

「そのときはジャンヌも一緒にサッカーしような。」

霧野先輩がジャンヌさんに言う。

「蘭丸。うん!」

「俺たちだって負けません!」

「言ったな。覚悟しておくが良い。」

違う時代の人達とサッカー対決か。信長やこれから出会う人たちみんなでサッカーしてみたいな。なんてことありえないか?

 

 

そして別れの時

「言ってしまうのですね。」

「ああ。君からもらった力、未来でも必ず役立ててみせるよ。だから、君もこれからもみんなを導いてフランスの英雄になるんだ。」

霧野とジャンヌは最後の別れの挨拶をしていた。

「私の力は蘭丸に貰ったようなものですから。蘭丸は自分のことを信じることの大切さを教えてくれた。蘭丸がいたから私は自分の力を活かすことが出来た。だから、蘭丸は私にとってに英雄です。」

「そんな、言いすぎだよ。」

「私にとってはそうなの。だから、あなたにこれを。」

そういってジャンヌは首にかけていたペンダントを差し出す。

このペンダントは彼女がずっと身に付け、神に祈っていたものだ。

「そんな!それは受け取れないよ。君にとって大切なものなんだろ?」

「でも…」

霧野に遠慮され、どうしたものかと迷うジャンヌに霧野が切り出す。

「そうだ、あれをくれないか。」

「あれ?ああ。」

そういってジャンヌはポケットからキャンディを取り出した。初めて会った時のように。

「これには君の優しさが、心が詰まってる。」

「蘭丸。」

「これからの戦い、君がくれた力を使うたびに君のことを思い出すよ。君がそばにいれば、どんな敵が相手でも戦い続けられる。」

「蘭丸…うん!私も、これから迷うことがあるかもしれない。その度にあなたとの、あなたたちとの出会いを思い出す。それが私を奮い立たせてくれる。前を向いて進み続ける!」

「ああ!・・・それじゃあ、またね。今度会ったときは一緒にサッカーをしよう。」

「はい。絶対にまた会いましょう。」

二人は互いの額を重ね合い、再会を誓った。

 

 

「お前たち、本当によくやった。これでまた一歩、時空最強イレブンに近づいたぞ!」

「天馬、翼。」

帰りのタイムジャンプ、大介さんの言葉を聞いていると霧野が二人に声をかける。

「今回、お前たちには本当に助けられた。ありがとう。」

「俺はキャプテンとしてなんとかしようとしただけです。」

「俺だって、悩んでる先輩の力になりたかっただけですよ。」

「そう言ってもらえると助かるよ。」

「あ、元の時代に戻ったら狩屋にもお礼、言ってやってくださいよ。あいつ、ああ見えてめちゃくちゃ心配してましたから。」

「全く、あいつは素直じゃないな。けど、そうだな。あいつのおかげなところも大きいな。」

素直じゃない後輩に面と向かって礼を言ったらどんな反応をするだろうか。想像しクスクスと笑う霧野。

そして握っていた包み紙を剥がし、キャンディを口に含んだ。

それはとても優しい味だった。

 

 




ということでフランス編が終了し、次は三国志編なのですが三国志編は少し難しそうで今から不安ですがなんとか頑張りたいと思います。
ミキシ蘭丸、あまりにも見た目がいい。
ちょこちょこ翼とメイアそれぞれが抱えてるものとかも出していけたらいいなとかも思ってます。

感想、ご指摘あればお待ちしています。


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三国志編
三国志の英雄と天才軍師に会いに行こう


はい。というわけで今回から三国志編です。



「次!お願いします!」

「行くぞ!」

雷門サッカー棟グラウンドでは信介のキーパー練習が行われていた。

FW陣から次々にシュートを受け続ける信介。

「どうした信介、勢いが足りないぞ。」

そばで見ている三国先輩から厳しい言葉が飛ぶ。

この特訓は信介たっての希望であった。

「三国先輩…僕にキーパーが務まるんでしょうか…敵はドンドン強くなってるのに、それについていけるほど強くなれてない気がして…」

信介が弱音をこぼす。

たしかに敵のシュートはどんどん強力になっているし、ゴールを許すことも多くなっている。

「たしかに今のままでは厳しいだろう。けど、それでも雷門の守護神は信介、お前なんだ。俺は今年で卒業だ。来年以降はお前しかいない。」

三国先輩が信介に言うがやはり浮かない信介。

「大丈夫だ。何も全て一人で背負う必要はない。失敗してもいい。俺が居るうちは後ろから見ててやる。みんなもそうだ。だから顔を上げろ。さぁ特訓の続きだ。」

「…はい!」

 

「信介、大丈夫かな?」

隣にいる天馬が問うてくる。

「キーパーにはキーパーにしか分からない悩みも多いだろうしな。だから俺たちもなんとか力になってやりたいな。」

「うん!ずっと一緒にやってきたんだ。俺たちが力になってあげないと。」

天馬と信介。この二人がいてくれて本当に良かったと思う。

何も分からない、両親のことすら分からない状態でいきなりこの世界に放り出された俺が今こうして二度目の人生を満喫できているのは同年代の親友とも言えるこの二人がいてくれたことが大きい。剣城たちはって?ほら、彼は最初あんなだったし狩屋や輝は後からだし、うん!。

「「ん?うわっ!?」」

よくわからない言い訳を心の中でしていると突如ボールが飛んできた。

 

「やっぱりボールを蹴るって気持ちいいね、天馬!」

「太陽!?」

飛んできた先にはかつて俺たちと全力でぶつかりあった男、雨宮太陽がいた。

 

 

「もう体はいいの?」

「ああ。もう大丈夫だよ。また天馬たちとサッカーができるよ!」

太陽は10年に一人の天才と言われるほどの実力だったが体が弱く病院での生活を余儀なくされていたがどうやらもう心配はないらしい。

「チーッス!久しぶりやんね、太陽!」

「久しぶりだね黄名子ちゃん。」

どうやら太陽と黄名子はお互いを知っているらしい。

「フェイ、これも・・・」

「うん。タイムパラドックスの影響だろうね。」

フェイと確認していると天馬と話していた太陽が寄ってきた。

「フェイ・ルーン君だね。」

「フェイのことを知ってるのか!?」

「うん。豪炎寺さんから話は聞いているよ。だから僕も天馬や翼君たちの力になりたいんだ。チームに入れてもらえないかな?」

「本当!太陽が仲間になってくれるなんて心強いよ!ね、翼、信介!」

「うん!よろしく雨宮くん!」

「ああ。太陽には散々苦しめられたしな。こちらこそよろしく。」

ホーリーロードでは終始圧倒された太陽が仲間になってくれるなんて

ありがたいことこの上ない。それに一緒にプレーするのも楽しみだ。

 

 

「どうやら話はもう済んでるみたいだな。」

話がひと段落したところでちょうど豪炎寺さんがやってきた。

「今回のアーティファクトは孔明の書だ。」

「孔明の書?」

「うむ。今回は三国志の時代に飛ぶ!」

「三国志?」

「なんだなんだ狩屋。知らないのか~?」

「むっ。」

三国志といえば昔の中国のことだよな。朝の読書タイムの時に図書室で借りた三国志の本(漫画)を読んでたから今回は分かるぞ!

「三国志!!僕、三国志大好きなんですよ!!」

「うわぁ!?」

速水先輩が急に声を上げ思わずびっくりする。

「3の力、未来をも見通す状況推理能力で敵の急所を突く正確無比のミッドフィールダーには天才軍師、諸葛孔明が、そして4の力、大国を治める力、強靭な行動力と実行力を持つ鉄壁のキーパーには劉玄徳がふさわしい。」

おお、どっちも知ってる人だ。

「劉玄徳!!僕、大ファンなんです!劉玄徳に会えるなんて感激だ~。」

いつになくテンションの高い速水先輩。

分かっていない人のためにも速水先輩が二人について説明してくれた。

曰く、劉玄徳は義の人であり、自分についてきた民衆を見捨てることが無かった人である。その劉玄徳を支えた歴史上で最高の頭脳とも呼ばれる男が諸葛孔明であると。

俺が読んだ本でもだいたいこんな感じだったな。

 

 

「では、今回のタイムジャンプのメンバーを発表する。まず、松風、赤峰、剣城、神童、霧野、フェイ、菜花。それから錦、狩屋、倉間。そして雨宮と西園。以上だ!」

「ええええ!?僕、居残りですか~!?」

「アイドルに会いにいくわけじゃないんじゃ。ミキシマックスの成功率と戦力を考慮した結果じゃ。」

「そんな~~」

速水先輩、ガチ凹みである。

「まぁまぁ。劉備のサインもらってきてあげますから。」

「翼君、本当ですか!?ぜひお願いします!」

流石にかわいそうなので助け舟を出しておく。もらえるかどうかは分からんけど。

 

 

「それでは出発するぞ。みんなキャラバンに乗り込めい!」

「へ~これでタイムスリップするんだね。実際見てみると信じられないな。」

初ジャンプの太陽が興味深そうに言う。

「初めての人はみんなそう言うよ。太陽、今回はよろしくな。頼りにしてるぞ。」

「うん。こっちこそ後ろに翼君がいるのは頼もしいよ。よろしく。」

「あ、ウチらもいるやんね!ね、フェイ!」

前の席の太陽と言葉を交わしていると通路を隔てた隣の席の黄名子とフェイが入ってきた。

「うん。お互い頑張ろうね、太陽くん。」

「後ろはウチらと信介がいるやんね!」

「だから思い切ってプレーしなよ。久しぶりのサッカーだろ?」

「ありがとうみんな!絶対に力になってみせるよ!」

そう言う太陽の言葉は力強かった。

 

「翼、今回の三国志のことはちゃんと分かってるやんね?ジャンヌさんの時みたいによく分かってなかったりして。」

黄名子がにししと言った表情で聞いてくる。

「ふふん、舐めるなよ。俺は朝の読書タイムに三国志の本を読んでいた男だぞ。もちろん孔明も劉備も知ってるぞ!」

「それ絶対漫画やんね。」

「漫画を舐めるなよ!そんな黄名子こそどうなんだ?」

「ウ、ウチは大丈夫やんね!?」

「怪しい・・・じゃあ魏の国の将は?」

俺が知ってる範囲でクイズを出してみる。

「え、え~と・・・・・・あ、フェイ、そのアメ、ウチも欲しいやんね!ちょうだい!」

「あ、逃げた!」

黄名子め、覚えてろ

 

 

「ええ・・・ええ。彼らは順調につけているわ。プロトコル・オメガはもう敵じゃなさそうね。ただパーフェクト・カスケイドにはまだ歯が立たないかもしれないけど。」

『なるほどね。そういえばこの間伝えた脱獄犯の方はどうだい?何か動きはあったかい?』

「ザナークのことね。そのことなんだけどもしかしたら彼は私たちと同じ力を持ってるかもしれないわ。エルドラドの部隊を一人で制圧して洗脳した上で力を分け与えてたわ。まだ完全には目覚めてないけれどゆくゆくはそうなるかもしれないわ。」

『へ~それは面白いね。なら、こっちでもそのザナークの方は観察しておくよ。一応メイアの方でも頼むよ。」

「彼らのついでよ。まぁ分かったわ。それじゃ、私も彼らの行き先に向かうわ。」

『はいはい、それじゃよろしく頼むよ。お気に入りの彼ともね。』

「べ、別に行き先について行ってるだけでずっと一緒にいるわけじゃないのよ!そ、それじゃまたそっちでも何かあったら連絡してちょうだい!」

 

 

「ここが三国志の時代か~」

「さぁ、早く諸葛孔明と劉玄徳を探そう。」

俺たちはついてそうそう目当ての二人を探し始めた。

「ん?なにか向こうから声がするぜ。」

水鳥先輩が何かを聞きつけみんなに言う。

耳を澄ますとたしかに男性が歌ってるような声が聞こえてきた。

「とりあえず行ってみよう。」

天馬の言葉にみんな従い声の方向を目指す。

 

「いた!あそこだ!」

竹藪の中を声を頼りに進み向けると声の主を発見した。

「すいませ~ん。」

男性に声を掛けようと竹藪から出ると

「危なーーーーい!!!」

「「「うわああああああ」」」

声に釣られそちらを向くとなんと大砲がこちらを向いていた。

「ハハハ、びっくりしたか?」

「い、いきなりびっくりするだろ!!」

ひっくり返る俺たちを笑い飛ばす男に水鳥先輩が食ってかかる。

「すまんすまん、冗談だよ!驚かせて悪かったな。」

「まったく・・・」

「すまんついでにひとつ頼まれてはくれんか?こいつが引っかかってしまってな。」

言われて大砲の足元を見ると泥濘に車輪が引っかかってしまっていた。

「いいですけど・・・」

お人好しの天馬が承諾する。

「おお、感謝するぞ。それじゃあお前とお前はそっちを、そしてお前はワシとこっちを押すぞ。」

そういわれ指さされた俺と天馬が大砲の前を、信介が男の人と後ろから押すことになった。

 

「「せ~~~~の!」」

「お、重い。」

「ふぬぬぬぬ!」

想像していたよりもかなり重く全然動かない。

「ん?すいません。こっちの車輪は引っかかってないみたいなので押すのではなく一度引いてみてはどうでしょうか?」

苦戦している俺たちを見て神童先輩が気づいたらしく提案する。

「いや、儂はこいつを押すと決めた。決めたからには必ず押し出す!!」

しかし神童先輩の提案を男は却下した。

「こっちの身にもなってくれ・・・」

思わず弱音をこぼしてしまう。

「いや、必ず出来る!行くぞ、せ~の!」

「もうしょうがないな。」」

「「「せ~の!!」」」

頑固な人だな。どっかで見たことあるぞ。

「ふんんんん!うおっ!?」

それから思いっきり押し出し続けているとなんと押し出せてしまった。

「やったぞ!!ハハハハハ!!」

「本当に押し出しちゃったよ・・・」

「すげえ・・・」

 

 

「改めて礼を言うぞ。助かった。」

「いえ。それにしてもこれは一体何に使うんですか?こんな大きな大砲。」

天馬が問う。

「こいつか?こいつは亀を捕まえるんだ!」

「か、亀!?」

どんなでかい亀だよ!?

「ハハハ!冗談だ!」

このおっさん・・・

「ハハハ、本当は龍を捕まえるんだ。」

「また冗談でしょ?」

「いや、今度は本当だ。」

「え?」

 

「「兄者~!!」」

男の人と話し込んでいると遠くから二人の男が走ってきた。

「兄者、こやつらは?」

「怪しい奴らめ、叩き切ってくれる!」

「うええええちょっと待ってください!?」

縦に大きい男と横に大きい男の内横に大きい方がいきなり剣を向けてくる。

「待て待て、張飛。」

それを制してくれる。ん?張飛?

「俺たちは劉玄徳と諸葛孔明を探しているんです。」

「儂を?」

「「え?」」

「劉玄徳は儂だが。」

「「「ええええええ!?」」」

俺たちが探していた劉玄徳その人だった。

 

 

神童先輩が劉備さんたちに事情を説明してくれる。

「ハハハハ、なるほどな未来から来たとはな!これまで聞いた中で一番面白い冗談だ。」

「そんなことが信じられるか!叩き切ってくれる!」

「待て、面白いではないか。儂は信じる。こいつを押し出してもらった恩もあるしな。」

「おお!俺もそう言おうと思ってたんだ!」

張飛さんはすごく単純なのがよくわかる。

「それじゃあ、すぐに孔明に会いに行こう。儂たちもこれから孔明に会いに行くところだったんだ。」

「これから、孔明に?」

「ああ。この国を良くするためには孔明の力が必要だ。孔明の力を借りると決めたら借りるんだ!」

劉備さんはさっきのように一度決めたら絶対に譲らない。そう感じさせられる。

「かっこいい~」

そんな劉備さんを信介はキラキラとした目で見ていた。

 

 

「では、行くぞ。」

「その大砲を持っていくんですか?」

「ああ。」

「けどそれって龍を捕まえるためじゃ・・・」

「いかにも。孔明は龍に化けられると言われている。龍に化けて空に逃げようとしてもこれで引っ捕えてやるのだ!」

龍に?そんなことあり得るのか?

疑問に思うも劉備さんたちは既に出発していたためあとに続く。

 

「今だ!」

ワンダバが前を行く劉備さんと信介にミキシマックスガンを放つ。

「あ・・・やはりまだダメか・・・」

信長の時のようにオーラを受け取ることが出来なかった。

「やっぱり、僕の力がまだ足りてないから・・・」

信介が落ち込んで言う。

「大丈夫さ信介!まだ駄目ならこれから力を身につければいいじゃないか!」

「そうそう。神童先輩も霧野先輩もすぐにはオーラを受け取れなかったんだ。焦る必要ないよ。」

「天馬、翼・・・うん、そうだよね。ありがと二人とも!」

「その粋だ。」

そう言って劉備さんの近くまで駆けていく信介。

「天馬。」

「うん、分かってる。」

やはり天馬も信介の悩みには気づいていたようだ。

「力になってやろうな。」

「うん!」

天馬も同じ気持ちだったようで少し安心した。

 

 

「着いたぞ、ここが孔明の屋敷。通称孔明要塞だ。」

「孔明要塞・・・」

劉備さんらに連れられ俺たちは孔明の屋敷についた。

いや、屋敷というか城か何かだろこれ。

「お~い孔明!開けてくれ~!儂にはお前の力が必要なんだ!」

・・・・・・

扉が開く気配はない

「無視か。こうなったら力づくだ。張飛!」

「おう!開け!ふんんん!」

張飛さんが力尽くで扉を押したり引いたりして開けようとするがびくともしない。

「兄者、少しいいか。孔明ほどの天才軍師がこのような分かりやすい所から出入りするだろうか?」

関羽さんが口を挟む。確かにこういうのってどっかに抜け穴があったりするのが漫画とかでは定番な気がするけど。

「あれ?あのくぼみなんだろう?」

どこかにそれっぽいものはないかと探していると信介が扉の下を指差していう。そこには手を引っ掛けられるくらいの窪みがあった。

「もしかして・・・張飛さん。」

「おう!」

張飛さんがその窪みに手をかけ持ち上げると

「「「開いた!!」」」

扉が上に開いた。

「まさか横でも奥行でもなく縦に開くとはな。」

「この感じじゃこの中も仕掛けだらけかもしれませんね。」

「うむ。だが孔明に合うには進むしかない。行くったら行くんだ!」

劉備さんが先人を切って屋敷の中に入っていく。

ゴシャアアアアアアン

「「「へ?」」」

劉備さんが大砲を引いてなかに入った途端天井から巨大な鉄球が降ってきて大砲をぺしゃんこにしたのだった。

「儂の大砲があぁぁぁぁぁ!!」

劉備さんの悲痛な叫びがあたりにこだました。

 

 

ぺしゃんこになった大砲を供養したあと引き続き要塞の奥を目指して進む。南無。

建物内は灯篭の明かりのみで外からの光が差し込まないため薄暗い。

「お、俺こういう暗いとこ苦手なんだよなぁ…」

「へいへい狩屋くんよ~ビビってんのか~」

「そういう翼くんだって何をそんなキョロキョロしてんじゃん。」

「お、俺はどんな仕掛けがあるか分からないから警戒してるだけど!?」

「ふ、ふ~ん。」

「危な~い!!!!」

「「うわああああああああああああ」」

いきなり劉備さんが大声を出すので思いっきり叫んでしまった。

「ハハハ、冗談だ!」

「「こんな時にやめてください!」」

あんな仕掛け見せられた後にこんなことされたら心臓止まってまうわ。

 

 

「ん?みんな、開けた場所に出たぞ。」

先頭に出ていた劉備さんが制しつつ言う。見ると特に何もなさそうな広い部屋にでた。

「どんな仕掛けがあるか分からん。気は抜くなよ。」

「「「はい。」」」

「よし、行くぞ…っとどうした、張飛、関羽。」

いざ踏み込もうとしたとき後方を守ってくれていた関羽さんと張飛さんが前に出てきた。

「・・・・・・」

「ここから先は我らを倒してから行け。」

「何を言っている二人とも。」

「そうですよ。関羽さんも張飛さんも悪ふざけはやめてください。」

劉備さんと葵がたしなめるように言う。しかし二人に反応はない。

この雰囲気を俺たちは知っている。

「待て。様子がおかしい。まるで・・・」

「まるで洗脳されてるみたいだ。エルドラドに洗脳された人たちのように。」

「洗脳?妖術のようなものか?」

「はい。そんなところです。」

すると二人の前に3人の男が現れた。

紫の髪の目つきが悪い男、不気味なガスマスクみたいな仮面をつけた男、寡黙そうな長身の男。

「へっへっへ。そういう事。」

「こいつらを元に戻したかったら俺たちと遊んでくれよ。」

そういって赤いスフィアデバイスを取りだす。

「サッカーバトルってことか。」

「お前ら、エルドラドか!?」

「ま、似たようなとこだ。」

 

 

あいつらのスフィアデバイスでサッカーフィールドが作られ、準備が完了する。

「メンバーはどうする?」

天馬と神童先輩に聞く。

「とりあえず相手のことが分からない以上バランスの良いメンバーがいいと思う。」

「ああ。あいつらは俺たちを排除しようとしてるのは間違いない。この勝負負けられない。」

「儂も出るぞ!」

3人で話していると劉備さんが言う。

「え!?でも・・・」

サッカーを知らない劉備さんにいきなりって言うのは難しいんじゃ・・・

「儂の義兄弟が操られているのだ。儂の手で救わねばならん!」

「でも・・・」

「天馬、劉備さんは言いだしたら聞かないよ。ここは劉備さんに出てもらおう。」

この人は一度言いだしたら絶対曲げないだろうしここは俺たちが折れたほうがいいだろう。

「それじゃあ劉備さんはキーパーをお願いします。信介もそれでいいかな?」

天馬がキーパーの信介に確認を取る。

「え?・・・分かった。」

少し不服そうではあるものの引き下がる信介。

信介は自分が雷門のキーパーという自覚がある。はいそうですか、とは行かないだろうがここは譲るようだ。

「天馬、僕も出るよ。」

そこに太陽が割って入ってくる。

「太陽!・・・いや、ここは一旦見ていてくれないかな?俺たちがどんな相手と戦ってるかを。」

太陽が出場を申し出てくれるが天馬が事情を説明する。

「俺もその方がいいと思う。どんな相手か知ってるかどうかは大きいと思うし。それにここから先にも大事な戦いがあるだろうし、ここは見ててくれ。」

「・・・うん、分かった!」

どうやらわかってくれたようだ。

 

協議の結果残りの4人は剣城、天馬、神童先輩、黄名子になった。あんだけ言っといて俺も観戦である。とほほ・・・

「準備は出来たか?それじゃあ、1点取ったほうが勝ちだ。行くぜ!」

相手ボールでキックオフ。

紫の髪の男がドリブルで上がっていく。

天馬が止めに入るが抜かれてしまう。

新手の2人の動きはこれまで戦ってきたプロトコル・オメガより明らかに優れてる。

「天馬があんなにあっさり抜かれるなんて・・・あれが君たちが戦ってた相手なんだね。」

「太陽・・・ああ、けど俺たちだってやられっぱなしじゃないぜ。ほら。」

張飛さんに出されたパスを黄名子がカットする。

 

「キャプテン!」

「ナイスカット、黄名子!」

黄名子はどのポジションもこなせるのもすごいけどDFとしてもとても上手いなとつくづく思うし見習うべき点も多い。他のポジションをこなせるからこそ相手の動きを読むのに長けているのかもしれない。

こうしてみんなの動きを外から見るのはうつけ祭りの時の前半戦以来か。外から見ると皆成長してるのがよく分かるし、あの時にいなかった黄名子のこともよく見える。

むしろ自分はみんなについて行けてるのかな不安になったりする。

「こうして少し引いた場所から見るといろんなものが見えてくるでしょ!」

そんなことを考えてると足元から信介が話しかけてくる。

「信介…たしかにな。信介はいつもこんな風にフィールドが見えてるんだな。ゴールを守って、みんなにコーチングしたりでキーパーも大変だよな。」

「あ、あはは…ちゃんとこなせてたら良いんだけどね。僕なんてまだまだだよ。」

そう言いながら信介は自嘲するように笑う。やっぱり自分がゴールを守れるのか、守れないことを気にしているようだ。

確かにキーパーはチームのゴールを守る上で一番重責があるポジションだ。けど、もう少し楽に考えてくれてもいいのになぁ。

「なぁ信s「えええええ!!??」って何だぁ!?・・・ってええええ!?」

フィールドに視線を戻すとなんとキーパーの劉備さんがオーバーラップしていた。

 

 

「天馬、こっちだ!」

ゴールをガラ空きにして上がってきた劉備に戸惑う天馬。

「へっ、貰ったぜ。」

しかし動揺した隙をつかれボールを奪われる天馬。

そのままガラ空きのゴールにシュートを打ち込むラセツ。

しかし間一髪の所で神童がブロックに成功する。

「あ、危なかった~」

「さすが神童、劉備さんが前に出たのを見て戻ってたのか。」

「天馬、剣城!決めてくれ!」

カットしたボールをすかさず前線に回す神童。後衛には関羽しか残っていなかったため天馬と剣城の二人のコンビネーションを止めることは不可能だった。

「「ファイアトルネードDD!!」」

このメンバーで放てるうちの最大火力のシュート技を放つ。

キーパーのシュテンが素手でキャッチを試みるが

「いっけーーーー!!」

シュテンの腕を弾きゴールに突き刺さった。

 




いかがだったでしょうか。
三人称視点は情景を描写しやすくてこれからも試合ではちょこちょこ使っていきたいですね。
ちなみに自分はゲームはネップウだったのでアニメと両方太陽だったので本作でも太陽にさせていただきました。白竜も好きなんだけどね。
三国志編は孔明要塞という閉ざされた場所での集団行動になりますので難しいですが頑張りたいと思います。

感想、ご指摘あればお願いします。今後の参考及び励みになります。


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仰天!孔明要塞

今回は孔明要塞の話です。
孔明要塞って絶対もっとやばい仕掛けとかあったよなと思います。それこそ命が危ういレベル。
それでは本編をどうぞ


 

「すまなかった。兄者、それにお前たちも。」

「義兄弟の契りを結んでおきながら、兄者に牙を剥いてしまうとは!」

「何、気にするな。もう済んだことだ。」

サッカーバトルに無事勝利した俺たちは孔明要塞の中を上に向かって進んでいた。

関羽さんと張飛さんの洗脳が解け、俺たちは劉備さんたちにさっきのやつらのこととエルドラドのことを一通り説明し理解してもらった。

「あれが天馬たちが戦ってる相手なんだね。今度は僕も力になってみせるよ。」

太陽も早くサッカーがしたいといった様子で明るい雰囲気が流れてる。

一人を除いて。

「劉備さん、ちょっといいですか。」

「ん?どうした信介。」

「さっきの劉備さんはキーパー失格です!」

「失格?」

「はい。サッカーはそれぞれの役目を守ることが大事なんです!特にキーパーは。キーパーはちゃんとゴールを守らないといけないんです!」

「ふむ。守る、か。・・・よし分かった、任せろ!」

信介の言葉に納得したのかは分からないがとりあえず劉備さんはあっけらかんと言い切った。

ただ信介はまだなにか言いたいことがあるのか、それとも他のなにかなのか口ごもっていた。

「信介・・・」

 

劉備さんがゴールをガラ空きにした時はびっくりした。

キーパーとして考えられない行動だった。キーパーは絶対にゴールを守らなきゃいけないのに。キーパーは絶対に負けられないのに。

「そうだあ。エルドラドとの試合でゴールを守れなきゃサッカーが消されちゃうんだ・・・」

ボクがゴールを守らなきゃいけないんだ。

 

 

岩山にとぐろを巻く龍のように作られた孔明要塞は大部屋と大部屋を螺旋階段のような通路で繋ぐように作られている。

俺たちは二個目の大部屋にたどり着いていた。

「ここが次の間か。」

「ちょっと怖いですね。」

入った部屋は区分けされたようなブロック状の足場の間にそこが見えない溝があり恐怖心をそそられる。

「これが次の仕掛けだね。」

「なんかこれぞ孔明って感じだな。」

次の仕掛けを解明しようとしていると後ろから重低音が響く・

「うわっ、扉が!?」

振り返ると扉が閉まり、道もなくなっており退路が絶たれていた。

どちらにせよこの仕掛けを解かないといけないということか

部屋の中央には火が点った台、その奥には燭台、そして俺たちの足元には縄でできたボールのようなものがあった。

「火が点っているなら、消せばいいだけのことだ。」

「俺も消すんだと思ってたんだ。」

「待ってください!それじゃあボールと燭台は何のために・・・」

「試してみれば分かる!張飛!」

「おう!」

神童先輩の静止をよそに劉備さんと張飛さんが行動に移す。

張飛さんが持ち前のパワーで大鉈をふるい風を起こし火を消す。

「「よっしゃ~~~あああああああ!?」」

火を消した途端俺たちの立っていた足場が抜け

 

「「「どわああああああ」」」

入口に戻されていた。

 

「おいおい、入口まで戻されちまったじゃねえか。」

「みたいだな。ハッハッハ!!」

自分のせいで戻されておきながら笑う劉備さんであった。

「笑い事じゃありません!遠回りすることになったじゃないですか!」

悪びれない劉備さんに信介が噛み付く。

「だからどうした?またやり直せばいいだけのことだろう?」

「キーパーはそれじゃダメなんです!!」

「またその話か。」

「・・・キーパーは最後の砦なんです。だから、慎重にならないといけないんです・・・」

軽く流そうとする劉備さんに信介がキーパーとしての責任を語る。

それとこれとは微妙に違う気はするが。

「慎重になりすぎるあまり行動を起こせないのでは意味がない。」

「ボクが言いたいのは・・「分かった分かった。」・・・っっ!」

ふたりの間には解釈の違いか、もしくは考え方の違いがあるのか。どちらも譲れないと言った様子だ。

 

 

そんなこんなで元の部屋まで戻ってきた。

「今度は僕たちでやりますから!天馬、僕たちで早くやろう。」

「う、うん。」

「このボールに仕掛けが有ると思うんだけど。」

「まぁ確かにそうだよね。剣城はどう思う?」

フェイの言うようにボールがあるんだから何かしら意味があるとは思う。とりあえず剣城に回してみる。

「・・・・・・もしかして。ちょっと貸してみてくれ」

何かに気づいた剣城がボールを火に向かってまっすぐ蹴り込む。火が付いたボールは対岸の壁にあたり燭台に落ちる。すると

「おお、開いたぞ!」

「なるほど、このためのボールを火と燭台か。」

剣城のお手柄で扉が開き先に進む。

 

 

「なぁ信介。」

「ん?どうしたの翼。」

次に進む回廊の途中、隣にいる信介に話しかける。

「いや、なんか思いつめたような顔してるからさ。何か悩みでもあるのか?」

十中八九キーパーとしてのことだろうけどやんわりと聞いてみる。

こういうのは自分から言い出してもらうのが一番だろうし。

「…うん。ボクに雷門のキーパーが務まるのかなって。」

まぁやっぱりそのことだよな。

「エルドラドとの戦いが始まってからずっとシュート決められっぱなしだし、敵はどんどん強くなってるのにボクはそれについて行けてないんだ・・・」

「誰だってゴールを許すときはあるさ。それに俺だってまだまだ力が足りてないぞ?化身アームドも出来ないし。」

そう。俺だって化身をコントロールできるようになったけど、相手の化身アームドに対抗するには足りてない。敵も強くなってきてる以上、化身だけじゃた有りない時も必ずくる。

「翼の化身はすごいパワーだもん。それにボクはキーパーなんだ。エルドラドとの戦いには絶対に負けられないんだ。キーパーのボクがゴールを守らないといけないのに・・・」

なるほどな。信介は自分がどうにかしなきゃいけないと思い込んでしまってるんだ。

「・・・信介。お前、一人で守ろうとしてないか?」

「え?」

「あのさ、「よ~し、次の部屋に着いたぞ!」っと。この話はまた後でだ。ま、そう一人で抱え込むなよ。」

「あっ・・・」

 

 

次の大部屋に到着し扉を開ける。

「うわっ、なんだこれ!?」

扉を開けると暗い部屋の中には人間サイズの模型のようなものが大量に並んでいた。

「これは兵馬俑だ。」

「兵馬俑?」

「まぁ日本の歴史で言う土偶やかかしみたいなものじゃない?」

「まぁそんなものだ。」

「他に仕掛けのようなものはなさそうだ。先へ進むぞ。」

他に何もないと判断した劉備さんが先へ進むよう声をかける。

不気味なのでみんなそそくさと後に続く。

「でも、よく見るとなんとなく可愛いやんね。」

「え~そうか?」

「なんだかゆるキャラみたいやんね。この表情とか!」

どうやら黄名子は割と気に入ったらしくベタベタ触ってる。

「あんまり触るなよ。なにが起きるか分かったもんじゃないし。」

「そうそう。さっきの劉備さんみたいになるかもしれないぜ、黄名子ちゃん。」

「む~翼も狩屋もいけず・・・もしかして怖いやんね?」

「「怖くない!!」」

「あははは、二人とも息ピッタリ~やっぱり怖いんやんね~」

「だから誰が「フェイ~待ってやんね~」って待てい!?」「黄名子!いきなりはやめてよ!」

言い返そうとするも黄名子は前方のフェイに背中からダイブして聞いていない。

なんともフリーダムなやつである。まぁ見てて面白いからいいけど少しはこっちの話も聞いて欲しいもんだ。

「まったく、誰がこんな模型にビビるかっての。」

「ほんとほんと。」

ガタッ

「「・・・・・・・」」

「今、何か音しなかった?」

「・・・気のせいじゃない?」

「・・・だよな。」

気のせい気のせい。そうに決まってる。気にせず進もうとまた歩き出す。

ガタッ

「・・・何かこいつら、近づいてない?」

「・・・気のせいでしょ。」

「・・・だよな。」

兵馬俑が勝手に動くはずがない。さっきの音も近づいてるように見えるのも気のせいに決まってる。

ガタッガタッ

「「!?」」

気のせいに決まってるよなぁ!!!!

狩屋と一斉に勢いよく振り向くと

ガタッガタッガタッ

「「やっぱ動いてるぅぅぅ!!!!!!」」

兵馬俑さんたちがそれはもう元気に動いてたのでした。

俺たち二人は脱兎のごとくみんなをごぼう抜きにし部屋を抜けた大広間に飛び出した。

「「ってこっちにもおおおお!!!!」」

しかし抜けた先にも大量の兵馬俑がおり、進路を塞がれてしまった。

「からくり兵馬俑か。」

「囲まれたぞ!?」

前も後ろもからくり兵馬俑に囲まれて逃げ場が完全になくなってしまった。

するとどこからともなく何かが飛んできた。それを見てみると

「これは、サッカーボール!?」

「おい、あれ見ろ!」

部屋の中を見渡すとなんとそこにはゴールとサッカーフィールドがあった。

「おいおい、兵馬俑とサッカーしろってことかぜよ。」

「むぅ。もしかするとさっきの試合を孔明はどこかから見てたのかもしれん。やるしかあるまい。」

どこからか見てた、って一体どこから・・・

それにこのからくり兵馬俑や屋敷の仕掛けといい、孔明って一体・・・

 

 

やるしかないということで試合の準備をする。兵馬俑たちは既にポジションにつき微動だにしない。

「やっと試合に出られる!今度はみんなの役にたってみせるよ!」

「ああ!頼むぜ、太陽。」

先ほどのサッカーバトルに出られなかった太陽は気合十分すぎるといってもいいくらい気合が入っていた。

俺もこっちに来て初めてのサッカーでテンションが上がる。・・・相手がアレなことを除けば・・・

メンバーは剣城、倉間先輩、天馬、神童先輩、フェイ、錦先輩、太陽、俺、霧野先輩、黄名子に加えキーパーはさっきに引き続き劉備さんが務める。

ちなみに信介は自分がキーパーで出るとごねたが関羽さんと張飛さんに取り押さえられた。

 

 

「よし、行くぞ!」

「人形ごときに負けんきに!」

試合開始すぐに錦先輩がドリブルで上がっていく。

錦先輩を1体の兵馬俑が止めに入る。錦先輩は体でぶつかりに行く。

「ぐあっ!?」

しかし吹っ飛ばされたのは錦先輩の方だった。

「結構やるじゃねえか、人形!」

ボールを奪われたのですぐに取り返すため体でぶつかっていく。

体でぶつかって初めて分かったがこの兵馬俑、体?がかなり固く重い。ぶつかり合いでは体重的にかなり厳しいかもしれん。それになにか違和感を感じると言うかやりにくい。

俺と兵馬俑のぶつかり合いで弾かれたボールがFWの兵馬俑のもとに落ちる。

そのままFW兵馬俑が必殺シュート(ギアドライブ)を放った。

「あいつら必殺技を使えるのか!?」

歯車にボールを乱反射させた不規則な軌道ながら確かな威力を持ったシュートがゴールを襲う。

「劉備さん!」

「任せろ!ぬおおおおおおお!!」

必殺シュートに対して正面から受け止めにかかる劉備さんだが勢いを完全に消しきれていない。

「まだまだ!!」

押し込まれそうになるも両手で無理やり押さえ込むことに成功した。

「どうだ!」

「ナイスです、劉備さん!」

「おう!よし、反撃だ!」

劉備さんから霧野先輩、黄名子、剣城にボールが渡る

 

「雨宮!」

「任せて。はああああ!太陽神アポロ!!」

太陽にボールが渡り太陽が化身を召喚する。

太陽の化身、太陽神アポロにはホーリーロードで散々苦しめられた。当時化身を使えなかったとはいえ俺も抜かれるはシュートブロックを破られるはで嫌な思い出だが味方になると頼もしく見えるんだからずるい。

「はあああああ!」

化身の力を使ったシュートを太陽が放ちキーパーの兵馬俑が必殺技(ビームこぶし)で対抗するが勢いが衰えることなくゴールに突き刺さった。

「ナイスシュート、太陽!」

「さすがだな。」

「ありがとう、天馬、翼。」

「劉備さんもナイスセーブです!・・・劉備さん?」

「ん?ああ、ゴールは任せろ!」

劉備さんの方を見ると手首を気にするような素振りを見せていたのが少し気になる。

ちなみに点数掲示も兵馬俑がやってくれてるけどなんかシュールである。

 

試合再開

兵馬俑たちが攻め上がってくる。先ほどはパスワーク主体のサッカーだったためパスカット重視の守備陣形を展開する。

しかし今度はドリブルで直接切り込んできた。裏をかかれた俺たちはゴール前への侵入を許してしまった。

「劉備さんお願いします!」

「任せろ!」

「同じ手が兄者に通じるものか。」

劉備さんが先ほどと同様に必殺シュートを正面から受け止める。

さっきと同じ展開だ。これなら

「そんな!?」

さっき止められたハズのシュートを止めきれず弾いてしまう。

「劉備さん、さっきのシュートで手首を痛めたんだ!」

サイドラインから信介の声が飛ぶ。

そういえばさっき右腕を気にしてた。

「ほんとですか劉備さん!?」

「なに、問題ない。儂に任せておけ。」

脂汗をかきながらも劉備さんは試合続行を訴える。

みんな劉備さんのその言葉にだれも異を唱えられなかった。

兵馬俑のコーナーキックで試合再開

コーナーから直接センタリングが上がる。

また兵馬俑の必殺シュートが放たれる。

「腕が使えなくとも、盾にはなる!!」

劉備さんは力が入らない腕を交差させシュートを受け止める。

「おおおおおお!!!」

「すげぇ・・・」

必殺シュートを三度その身一つで止めた劉備さん。

今日サッカーを知り、孔明と出会うために初対面の俺たちの戦いに力を貸してくれ、ケガをして尚ゴールを守る。その姿に思わず賞賛の声が出てしまった。これが4の力、鉄壁のキーパーの力を持つ人、劉玄徳。

 

劉備さんがシュートを弾いたところでちょうど前半戦終了。

マネージャー陣が劉備さんの腕をアイシングしているがかなり傷んでいるようだ。

「どうする天馬、あの調子だと後半は厳しいぞ。」

「うん。けど劉備さんは譲らないんじゃ・・・」

一度決めた劉備さんがそうそう退くとは思えない。

こうなったらシュートを打たさないようにするしか・・・

「信介!後半はお前が出るんだ。」

「えっ!?」

しかしそんな俺たちの予想とは裏腹に劉備さん自身から交代を申し出る。

「いいんですか?」

「ああ。守れるものが守る。そっちのほうがいいに決まっているだろう。」

「でも孔明に会いに来たんじゃ・・・」

「ここで敗れれば孔明には会えんだろう。目的を履き違えてはならん。」

そうか。劉備さんが一度決めたら退かない。けどそれはあくまで目的を達成するため。そのために最善を尽くすための一面にしか過ぎないんだ。

「信介、いけるか?」

「・・・はい。ゴールはボクが守ってみせます!」

 

 

後半戦

 

兵馬俑チームのキックオフ。

MF兵馬俑がドリブルで攻め込んでくる。

「止めるぜよ!」

錦先輩が1VS1を仕掛けに行く。

それに反応して兵馬俑が必殺技(トランスムーブ)を発動する。

「のあっ!そんなのありかぜよ!」

すると錦先輩と兵馬俑の位置が入れ替わり抜かれてしまう。

「これ以上は進ません。」

すぐにフォローに入る。今度もドリブルか、それともパスか。

相手をじっくり見て動きを読もうとする。

「あ、しまった!?」

しかしまったく動きが読めず抜かれてしまい信介と1vs1の状況が出来上がってしまった。

こいつら動きが機械的すぎて止めにくい。前半から感じてた違和感の正体がやっとわかった。

「信介!」

「任せて、絶対止める!」

しかし信介は兵馬俑が放った必殺シュートに飛びつくことが出来ずゴールを許してしまった。信介は実際にあのシュートを目にするのは初めてで複雑な軌道に反応が出来なかった。

「ごめん・・・守れなかった・・・」

「気にすることないさ。取られたんなら取り返すだけさ!」

「すぐに勝ち越してやるきに!」

「天馬、錦先輩・・・」

 

 

同点に追いつかれすぐに取り返そうとみんな前に前に出る。

「伝来宝刀!」

意気込んでいた錦先輩が必殺シュートを放つ。

しかし兵馬俑の必殺技に弾き返される。

「人形のくせにやるぜよ。」

弾かれたボールが一気に頭を超えFWに繋がる

そしてまたあの必殺シュートが放たれる。

打つたびに軌道が不規則に変わる、それもシュートコースの癖もつけないシュートに信介の反応がまた一歩遅れる。

なんとか飛びつくもタイミングが遅れた信介の手は弾かれボールは無常にもゴールに吸い込まれていく。勝ち越しを許したかと覚悟したその時黄名子が飛び出してきた。

「もちもち~きなこ餅~!」

どっかから出てきた餅っぽいものがボールを絡めとり止めた。

「クリアやんね。」

「ナイス黄名子!」「今のが黄名子の必殺技か。すごいじゃん。」

「ふふ~ん、キャプテンも翼もウチのこと見直したやんね?」

「元からすごいと思ってたよ。」

「えへへ~」

黄名子の活躍でひとまずピンチを脱する。

「霧野先輩。」

「ああ、信介のようすがおかしい。俺たちでなんとかフォローしよう。」

先輩も気づいていたようでシュートを出来るだけ打たせないように動くことになった。

そもそもシュートを打たせすぎた俺たちの責任でもあるし。

 

 

「神童、そっちの方のマークを頼む、黄名子はロングパスをケアしながら動いてくれ!」

「はい!中央は霧野先輩と俺に任せてくれ。狩屋、サイドラインを締めてくれ。天馬とフェイはチャンスがあればすぐにボール上げるから準備はしといてくれ。」

「みんな・・・」

試合が再開してからみんなが必死になって動いてる。ボクが相手のシュートを止められないからシュートを打たせないように守りを固めてる。本来ならポジショニングの支持もキーパーのボクがやらなくちゃいけないのにボクが不甲斐ないからみんなに迷惑をかけちゃってる。

劉備さんにキーパー失格だなんて言っておいて、てんでゴールを守れちゃいない。

「くそ、こいつら疲れないのかよ。」

けどみんないつも以上に動いて体力を消耗してる。それに引き換え相手は兵馬俑だから体力が落ちないから徐々に動きに差がつき始めてる。

「しまった!?」

「信介!頼む!」

とうとう一体の兵馬俑がフリーなる。

来る!あのシュートが。

どっちに飛べばいいのか全然分からない。もしイチかバチかで飛んで逆を疲れたら今度こそ

「信介ーーー!迷ったら飛べーーーー!」

 

 

「信介ーーー!迷ったら飛べーーーー!」

あの必殺シュートが放たれようとして信介がまた踏み出せないでいる時、サイドラインの劉備から声が飛んだ。

「そんな、飛べってどっちにボールが来るかも分からないのに」

「迷っていて動かなければ全てを失うぞ!」

劉備の言葉にハッとする信介。

前半戦、サイドラインで関羽に言われたことを思い出す。

劉備は国を、民を守るために政府が立ち上がるのを待っていては間に合わぬと判断し自分が立ち上がったからこそ今があり、民がついてきたと。

何かを変えたい、守りたいと決めたのなら実行に移さなければならない。

「守りたいものがあるんだろう?なら動け、飛ぶんだ!」

「・・・そうだ、ボクはゴールを、サッカーを守るんだ!!」

覚悟を決めた信介の姿がゴール前から直線上に横に移動する。

「ぶっとびパンチ~!!」

そして信介持ち前のジャンプ力を活かし直線上全てをカバーするように勢いの乗ったパンチングを繰り出す。これなら左右に揺さぶられようと関係ない、信介の必殺キーパー技の完成だった。

「ナイス信介。天馬!」

「太陽、決めてくれ!」

信介が止めたボールを翼がカバーし即天馬に、天馬から太陽へとボールが繋がる1年生4人の連携だった。

「太陽神アポロ!」

最後にボールを受けた太陽が化身を呼び出す。

「はあああああ、サンシャインフォース!!」

太陽の化身必殺シュート技が相手ゴールに突き刺さった。

そしてゴールとともに試合終了が告げられたのだった。

 

 

「無事に勝てたね。」

試合が終わりフェイ、俺、天馬、太陽が集まっていた。その後ろでは紳助と劉備さんが言葉を交わしていた。

「それにしても全得点を挙げるなんて、流石だね太陽くん。」

「みんなの力になれて嬉しいよ。」

フェイの言葉に太陽は満足げだった。

そうしていると劉備さんがからの号令がかかる。

「よーし、孔明の所に行くぞ!」

 

 

そしてみんなで最上部に向かう。道中には仕掛けのようなものは見当たらずすんなりと最上階に到着した。

劉備さんが扉を開けるとそこは岩山の頂上であり、あたりには美しく芳しい花畑が広がっていた。

「孔明!!来たぞ!さぁ姿を現せ!さもないと誰もが赤面するようなことを叫ぶぞ!」

「やめてくださいよ!女の子もいるんですから。」

この人一体何を叫ぶつもりだったんだ。

ちなみにマネージャー陣と黄名子は劉備さんを蔑むような目で見ていた。

うん、君たち、この人凄い人だからね。一応。

「あ、あそこに人が」

天馬が指さした先には舞い散る花びらの中に人がいた。

この場所に居るということは

「あれが孔明か。」

十中八九俺たちの目的の人物、諸葛孔明に違いない。

俺たちの存在に気づいたのか、はたまたとうに気づいていたのか定かではないが孔明がこちらに振り向く。

その孔明の姿は

「え?」

「諸葛孔明って・・・」

「「「「女の人~~~~~~!!!???」」」」

妖艶な麗人だった。

 

 

 




いかがだったでしょうか。
孔明が女性だったという展開は放送当時自分もとても驚いたのを覚えています。
サッカーバトルから兵馬俑との試合の間に全ての準備を整えたことからどこかから満ちたのでしょうがどんな仕掛けだったのか考えてみても思い浮かびませんでした。
まぁ孔明だしで納得させる風格があるってことで。
メイアの出番少なくて申し訳ありません。自分も登場させたい気持ちはあるのですが・・・

感想、ご指摘あればお待ちしています。


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天才と天災

三国志編の誤変換ネタ
張飛さん→超悲惨
ごめんな、張飛・・・

ということでvsザナーク・ドメイン戦です。


 

「よくぞたどり着きましたね。」

これまでのあらすじ 諸葛孔明は女性だった。

 

 

「孔明って女の人だったんだ。」

「歴史は100%真実とは限らない・・・ってことか。」

俺たちの時代では孔明は男性だっていう認識がおそらく世界中で持たれてるし、女性だったんて説聞いたことも無かった。

 

「儂は民のための国を作ると決めた。そのためには孔明、お前の力が必要だ。頼む、儂に力を貸してくれ!」

花園の脇にある休憩所みたいな場所で劉備さんは孔明さんに自分とともに国を導いてくれと説得していた。

「曹操に付いても国は良くならんぞ。むしろ民を蔑ろにした国に成ってしまうかもしれん。」

劉備さんが必死に説得しているのを見ているが孔明さんの方はどこ吹く風といった様子。

むしろ孔明さんの興味は俺たち雷門の方にあるのかこちらを観察するような目で見てくる。

「うえっ!?」

俺たちを順に見渡していた孔明さんの視線が俺で少し止まった。目と目が合うと自分の全てを見透かされるような感覚を覚える。

しばらくすると孔明さんの視線が外れる。

気にはなるがそれとは別に

「あのさ、翼くん」

隣の狩屋が小声で話しかけてくる。

「うん、なんというかその・・・」

「「ドキドキする///」」

なんというか俺たちの周りには無い大人の色気みたいのが凄いんですけど・・・

二度目とは言え中学生の男の子なのでなんかドキドキしちゃうのには変わりないんです。

少し、少しだけ悶々とした気持ちになる。

 

「今何か凄く不愉快なことが起きてる気が…気のせいかしら…」

 

 

「っっ!?」

「うわぁ、いきなり何?」

「い、いや。何でもない。」

そんな男の子の感情を抱いた途端、なにかものすごい視線というか感情の塊みたいなものを叩きつけられた気がして寒気が走った。

 

「あなたならこの国を善き方向に導けると。では、そのためにあなたは私の力をどのように使うおつもりですか?」

孔明さんのほうから劉備さんに問が投げかける。

まるで面接みたいだな。うっ、嫌な思い出が。

「そ、それはこれから考える。だが、儂は民のための国を作ると決めたのだ。そのためにはお前の力が必要なのだ。」

「はぁ…」

劉備さんの答えを聞き呆れたようにため息をつく。

もしかしたら多くの人間がこれまで孔明さんの力を求めてやってきて、その度に自分が力を貸すに値しない人間ばかりで失望を重ねてきたのかもしれない。

「どうする?これじゃミキシマックスするどころか話を聞いてもらうことすらできないんじゃ…」

フェイの言うとおり、今のところ取り付くしまもない。

このままだと追い返されるのがオチだ。

「いえ、聞かずとも分かっています。」

「え?・・・あ」

孔明さんに言われそちらを見るとミキシマックスガンを向けるワンダバの姿が。

それにしてもこれだけでこっちの目的を察するなんて流石諸葛孔明って感じか。

話は終わりと言わんばかりに離席し池の方に向かう。

 

「兄者、あんなやつあてにすることはないぞ!」

「…いや、儂は孔明の力を借りる止めた。顔は見せ、伝えることは伝えた。あとはもう押すのみ!押して押して押しまくる!」

「おお、俺もそう言おうと思ってたんだ!」

「よし、行くぞ!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ~」

孔明さんのもとに走っていく劉備さんに急いでついて行く。

 

それからも劉備さんはなんとか交渉を続けるが孔明さんに響く様子は無い。

「貴方方が何を思おうと私には関係のないことです。…おや?」

話の中、孔明さんが何かに気づく。

それに続いてフェイも。

「来る。」

「来るって何が・・・」

するとどこかから何かが近づいてくる音が聞こえてきた。

バイクのエンジン音に似た何かが風を切る音。

その音はどんどん近づいて来てそして外壁からバイクのようなものが飛び出してきた。

「よう。」

現れたのはやはりというべきか、フランスで俺たちの前に現れたザナーク・アバロニクだった。

「今日は俺の友達を連れてきた。さぁ俺たちとサッカーしようぜ。」

ザナーク言葉に続いてザナークのチームメイトが現れた。

「お前たちは」

「ザナークの仲間だったのか!」

その中には道中で俺たちの前に現れた3人組もいた。

「ま、そういうことだ。」

「さぁ、もう逃がさねぇぜ。」

そう言いザナークは自前のスフィアデバイスでフィールドを作り出した。

「やるしかないってことか。」

「そうみたいだね。」

「なら、勝つだけさ。」

天馬とフェイに同意。

 

 

「信介、キーパーはゴールを守る要なのだろう。しっかりとな。」

「はい!」

劉備さんが試合開始前、信介に声をかけている。

劉備さんには監督をお願いした。ワンダバはズッコケてた。哀れ。

孔明さんは先ほどの休憩所に腰をかけてこちらを見ている。

兵馬俑を用意していたしサッカーのことは既に把握済みなのだろう。

「今回の敵はこれまでの敵とは比べ物にならなさそうだね。」

「ああ。気を引き締めていこう。」

「後ろは任せろ。天馬、太陽、フェイ、点を取ってくれよ。

「うん、任せて。」

あのプロトコル・オメガ3.0をまるごと支配するザナークのチームだ。

相当手ごわいのは間違いない。気張って守らないとな。

 

「ザナーク。この試合、どうするんだ?」

「ふっ、遊んでやるさ。」

「ヒヒヒ、了解。」

 

 

「さあ!いよいよ登場ザナーク・アバロニク!そしてザナーク・ドメイン!この強敵相手に雷門はどう立ち向かうのか!」

いつものおっちゃんが呼び出され実況してくれる。いつもお疲れ様です。

そして試合開始

 

 

「よし、行くぞ。」

倉間先輩と剣城のキックオフで試合開始。

今回は狩屋がベンチスタート。

「二人。」

しかし試合が始まってもザナークが動かない。

「あいつ、何してるんだ。」

「動いてこないならありがたい話だ。俺たちは俺たちのサッカーをすればいい。」

「・・・はい、そうですね。霧野先輩。」

たしかに気にはなるが今は集中だ。

倉間先輩から太陽へ、太陽から天馬、天馬からフェイへとパスが回っていく。

「はっ!」

フェイがミドルシュートを放つが相手のDFにブロックされる。

流石にそう甘くはないといった感じだが今のところ圧倒的ってほどではない

 

「五人」

「っと、霧野先輩。」

ブロックしたDFが一気に前線にボールを上げてきたが空中の競り合いを制して霧野先輩に託す。昔から空中の競り合いとか結構得意なんだよな。

「ナイスだ翼。錦!」

「任せるぜよ!ってしまった。」

「とう!」

霧野先輩から錦先輩にパスがつながるがすぐに弾かれ、弾かれたボールは黄名子の方へ。

 

「九人。」

 

「神童先輩!」

そして黄名子から神童先輩へ。

 

「10人!ふっ。」

 

「! 神童先輩後ろ!」

「え? うわあああ!」

神童先輩にボールが渡ったところでついにザナークが動き神童先輩を吹っ飛ばしボールを容易く奪い取った。

「こいつは挨拶がわりだ。お前ら全員にボールを触らせてやったんだ。ありがたく思えよ。」

「へへ。」

「そういうことだ。」

ザナーク・ドメインの連中がこちらを見て嫌な笑みを浮かべている。

「ちっ、手を抜いていたってことか。」

「舐められたもんぜよ。」

俺たちが渡り合えてると思ってたがあ向こうは手を抜いていたってか。ムカつく。

 

「おっと、あと一人残っていたな。さぁ全員でサッカーを楽しもうぜ!」

ザナークが獰猛な笑みを浮かべシュート体勢に入る。

「ディザスターブレイク!!」

高所から黒いオーラを纏った凄まじい威力の必殺シュートが信介を襲う。

「護星神タイタニアス、アームド!」

信介が化身アームドで正面から立ち向かうが

「うわああああ!」

ザナークのシュートのあまりの威力にあっさりとゴールを決められてしまった。

「おいおい、なんて威力だよ・・・」

今までの敵のシュートも凄かったけど今度のは段違いだ。

「ザナーク・ドメイン、本気を出さずにこの力か。」

 

 

「さぁ試合再開!雷門が攻め上がって行くぞ!」

「雨宮!」

神童先輩からフリーの太陽に長めのパスが出される。

あの距離でも太陽なら追いつけるはず。

「あ・・・」

しかし太陽はボールに追いつけずボールはラインを割る。

「パスミス?いや、太陽ならあれくらい・・・」

普段なら追いつけていたはずだし、今の最後なぜか減速したようにも見えた。

「まさか・・・」

 

 

ザナーク・ドメインのボールで試合再開。女MFのシンジャミがドリブルで上がってくる。

俺たちのプランとしてはとりあえずゴール前でザナークにボールを回さないこと。

ほかのメンバーも強いが中盤でのザナークやザナーク以外のシュートはある程度許してもいい。

「ミキシトランス、ジャンヌ!」

霧野先輩がミキシマックスの力を発動する。

「ラ・フラム!!」

ジャンヌさんの力を受け継いだ炎の壁の必殺技でボールを奪うことに成功する。

「なかなかやるじゃない。」

「剣城、攻め込め!」

霧野先輩が剣城にボールを回す。

しかしザナークが立ちはだかる。

「面白いものを見せてやる。ミキシトランス、曹操!!」

「ミキシトランス!?」

「曹操だと!?」

ザナークの体から黒いオーラが吹き出し姿が変化する。

髪色が白っぽくなり髪型は刺々しく、元々悪か・・・鋭かった目つきは更に鋭くなり周囲を圧倒する雰囲気を醸し出している。

「剣聖ランスロット、アームド!!」

ミキシトランスしたザナークに剣城が化身アームドで対抗する。

剣城が化身アームド状態でシュートを放つ。

「武神曹操の化身を見るがいい!剛力の玄武!!」

「曹操の化身だって!?」

ザナークの背後から亀の甲羅を背負い4体の蛇を従えた化身が現れた。

曹操の化身ということは曹操はこの時代の人間ながら化身使いってことか。

ザナークが呼び出した化身はいとも簡単に剣城の化身アームドシュートを受け止めてしまった。

「どうだ、圧倒されたか?圧倒されたな?」

おいおい、どうすんだよこいつ。ただでさえ強いのにミキシマックスの力まで…

 

 

そこからしばらく試合は膠着状態に入った。

そんななかフェイがボールを持ち込み太陽にパスを出す。

相手のDFが追いつけないギリギリの位置へのパスだった。

「よし、これで同点だ!」

太陽のボレーシュートで同点に追いつける。そう確信した雷門の面々。

「あ・・・」

しかし太陽はボールに追いつくことが出来なかった。先程と同じようにギリギリで失速したように映る。

「ドンマイドンマイ!」

「次決めればいいって。」

「うん・・・」

天馬と翼がフォローするも太陽自身も違和感を感じている。

そんな太陽の様子をザナークは目ざとく観察していた。

「あいつ、やはり面白い遊び相手になりそうだ。おい!あいつと遊んでやれ!」

ザナークが他のメンバーに指示を飛ばす。

 

その後ザナーク・ドメインの面々は積極的に太陽に1vs1の際どい競り合いを仕掛けだした。

ハイボールの奪い合いやコンタクトを伴うプレー。それら全てで太陽は破れた。

ボールに対して一歩踏み込めなかったりコンタクトを避けて抜かれてしまうといったプレーが頻発してしまっていた。

「10年に一人の天才はどうしたんだよ!」

「どうしたの?らしくないやんね太陽!」

太陽のフォローに奔走する雷門のメンバーだが徐々に劣勢に立たされていく。

それでも太陽を信じ、太陽自身もなんとかすべく懸命にプレーを続ける。

「太陽神アポロ!」

化身を呼び出しドリブルで攻め込む太陽。

「うわっ!?」

しかしどうしても力を振り絞りきれずDFに阻まれボールがラインを割り試合が一度止まる。

「やはり恐れているんだ。再び自分の体が壊れてしまうことを。」

 

「あの子・・・力強さの中に危うさがある。・・・面白い子。」

 

「どうして力が出せないんだ・・・」

自分でも分かる。力が出しきれていない。

いつもなら追いつけるボールに追いつけない。コンタクトにいけない。あと一歩が踏み込めない。

後ろを見ると息の上がった雷門のみんながいた。

「僕のせいでみんなまで・・・」

みんなの力になるために、ホーリロードで全力でぶつかってきてくれて、最高に楽しい試合をしてくれた雷門のみんなに恩返しがしたくて一緒に戦うって決めてチームに入れてもらったのに、これじゃ・・・

 

 

試合が止まって一旦みんなで太陽の元に集まる。

「天馬、みんな・・・すまない。みんなの力になるために来たのに、逆に迷惑かけちゃって・・・」

太陽が申し訳なさそうに弱々しくこぼす。

自分は全力を出そうとしているのに深層心理がプレーにリミッターをかけてしまってるんだ。

その噛み合わない歯がゆさもまた気持ちを沈ませてしまってるんだろう。

そんな太陽に天馬が声をかける。

「誰だって調子悪いときやミスするときだってあるさ。」

「え?」

「大丈夫、太陽なら必ず乗り越えられるさ。」

「太陽が本調子になるまではワシ全員でフォローするきに!」

「ウチらがついてるやんね!」

「神童さん、錦さん、黄名子ちゃん・・・」

「そうそう。それにあの状態からここまで回復したんだ、もしもう一度ぶっ倒れてもまた元通り元気になれるって!」

「翼、不吉なこと言わないやんね!」

「うっ、ごめん・・・けど、人間一回死ぬくらい無茶しても案外大丈夫なもんだって!だから、思い切っていこうぜ!」

一度死んだ俺がこうして呑気にサッカーやってんだ。太陽なら大丈夫大丈夫

「翼くん・・・みんな・・・」

「勝負はこれからだ!ザナーク・ドメインの攻撃を跳ね返していこう!」

「フェイ君・・・うん!」

少し吹っ切れたのかやっといつもの太陽らしい顔になった。

 

 

「松風のスローインで試合再開!ボールはまたしても雨宮に!」

「今度こそ!」

太陽を先頭に天馬とフェイが後ろからフォローする形で攻め上がっていく。ゴール前には剣と倉間先輩。中央を神童先輩と錦先輩が固める攻撃。

「行かさないよ。」

「・・・ここだ!」

女DFのヤシャがボールを奪いにくるが太陽はボールにスピンをかけ一人ワンツーの形で抜きさる。

しかしその後隙を大柄のDFオーグが逃さずボールをクリアする。

「まだだ!」

今度は後ろについていた天馬が確保する。

「ミキシトランス、ティラノ!」

フリーになっていたフェイがミキシマックスを発動する。

ミキシマックスしたフェイを放置するわけにもいかずDFがフェイに集中する。

「今だ、太陽!!」

その隙をついて逆にマークが外れ太陽にパスが通る。

「今度こそ、決めてみせる!太陽神アポロ!」

「ハハハッ!いい作戦だ!さぁ、打ってこい!」

「サンシャインフォーーース!!!」

「「「いっけえぇぇ!!」」」

太陽の全力の化身必殺シュートが放たれ、みんながそのシュートに望みを託す。

「ふんっ!サンドカッター!」

ザナーク・ドメインのキーパー、シュテンが必殺技で対抗してくる。

頼む、こんどこそ決まってくれ。

サンシャインフォースと砂鉄で形成された刃がぶつかり合いそして

 

ボールはゴールに突き刺さることなく、弾かれた。

 

 

「くそっ、あれでもダメか・・・」

流石にあのシュートが決まらないとかなりダメージが大きい。

剣城も太陽も止められてしまうとかなり厳しい。

「まだだ、太陽神アポロ!」

太陽が諦めず化身を呼び出そうとするが

「うっ・・・!?」

化身は呼び出せなかった。

序盤から化身を使いすぎたツケがもう回ってきたか。

これじゃもう太陽は・・・

「さて、それじゃパス回しと行くか。」

太陽が化身が出せないと分かり、遊びは終わりとばかりにザナーク・ドメインの反撃が始まった。

「うっ!」

「くそっ!」

「これがパスかよ。」

ザナーク・ドメインのパスは一発一発がそこらの必殺シュート並みの威力で吹っ飛ばされる。

「いい加減にしろ!!」

「おっと。危ない危ない。そら!」

「ぐあっ!」

パスの出だしを潰しに行くも躱されてしまう。

みんな次々に倒されていく。

「たあっ!」

「黄名子!」

黄名子が両足でパスを受け止めなんとか弾く。

弾かれたボールは体力の尽きた太陽の元に転がっていった。

「太陽!」

ここでクリアして一旦流れを断ち切ってくれ。

けど太陽は満身創痍といった様子。

ここまでか・・・

 

 

「ここで・・・ここで負けるわけには行かないんだ~~~!!!」

満身創痍の太陽が虚空に叫ぶ。

その時、園全体を揺るがす振動が巻き起こった。

「何だ!?」

「あそこ!」

「・・・龍?」

突然のことに全員動きを止め振動の発生源に目を向けるとそこには巨大な龍が現れた。

「やはり孔明が龍に化けるというのは本当だったのか。」

「いえ、違います。見てください。」

葵が指さした龍が現れた場所を見るとそこには孔明がいた。孔明の背から龍が現れていた。それはまるで

「孔明さん、化身使いだったんだ。」

突如姿を現した龍はなんと孔明の化身だった。

「曹操も化身使いだった・・・孔明さんが化身使いでも不思議じゃない、か。」

化身とは人の強い心が形となって現れたもの。孔明が化身を使えてもおかしくない。

「え?」

そして孔明の化身が動き出し

「うわあああああああ!!!!」

太陽を喰らうかのように太陽の身に降り注いだ。

フィールドが激しい光に包まれ晴れるとそこには

「この力は・・・」

淡い紫に髪を染め少し髪が伸びた太陽の姿があった。

 

 

「あの姿って・・・」

オーラを身にまとって姿が変わるなんてまるで

「強制ミキシマックス。まさかそんなことも出来るなんて・・・」

やっぱりか。孔明さんは自分の化身を介して太陽に自分の力を注ぎ込んだんだ。

結果、ミキシマックスが完了した。

「あれが太陽のミキシマックスの姿か。」

「凄い、体の底から力が溢れてくる!」

先程まで体力が尽きていた太陽だが今は孔明さんの力を受け取ったことで完全に息を吹き返している。

そうしていると孔明さんがこちらに歩み寄ってきた。

「その力をどのように扱うか。それはあなた次第です。」

「はい!この力、サッカーのため、未来のため、そして僕たちの勝利のために使わせていただきます!」

宣言した太陽がドリブルで上がって行き始めたことで試合が再び動き始める。

「面白い!諸葛孔明の力、見せてみろ!ミキシトランス、曹操!」

すぐさまザナークが回り込み太陽の力を試そうとする。

「ぬううう、剛力の玄武!!」

先程から俺たちに立ちはだかる曹操の化身が姿を表す。

「はああああ!蒼天の覇者 玉竜!!」

「あれは孔明さんの化身!」

先ほど太陽の身に飛び込んだ孔明さんの化身を呼び出す太陽。

孔明さんの力を受け取ったことで体力が回復し化身を再度呼び出せるようになったのか。

「「おおおおおお!」」

二つの化身がぶつかり合う。そして

「何!?」

「「抜いた!」」

化身同士のぶつかり合いは太陽に軍配があがりザナークを抜き去った。

そのままキーパーと1vs1

「くらえ~~!!!」

太陽が化身の力を乗せたシュートを放つ。

キーパーもさっきの必殺技で止めようとするが

「ぬあっ!?」

 

「決まった~~~!!ミキシマックスした雨宮のシュートで雷門同点!!」

砂鉄の刃を打ち砕きゴールに突き刺さった。

そして同点に追いついたところで前半終了を告げる銅羅が鳴り響いた。

 

 




いかがだったでしょうか
スポーツ選手で一度ケガしたら思い切ったプレーができなくなるというのはよくある話ですが、それが太陽の苦悩に説得力を与えてる気がします。

次回は後半戦になります。ストーリーが動く予感。

メイアのあれはSSCの力うんぬんではなく俗に言う女の勘ってやつなのだろうか。
怖いね、女の子って

感想、ご指摘等あればお待ちしております。
今後の励みおよび改善に活かしたいと思います。


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水魚の交わり

ザナーク・ドメイン後半戦です。


 

「見事な活躍だったぞ、太陽。それに孔明も感謝するぞ。」

前半戦最後に同点に追いつき、いい雰囲気でハーフタイムを迎えられたチームを盛り立てる劉備さん。その中に孔明さんも入ってはいるが

「別にあなたのためにやった訳ではありません。私はあくまで降りかかる火の粉を払ったに過ぎません。」

「何を!」

「彼に力を授けたのも私の力を一番効率よく扱えると思ったからです。」

この調子である。

張飛さんとは馬が合わなそうだなぁ、孔明さん。

「まぁ結果的に助かったんだから良いではないか!」

「おう!俺もそう言おうと思ってたんだ!」

「さぁ、このまま勢いに乗って逆転と行くぞ!」

「「「はい!」」」

ふと目を向けると劉備さんに羨望のまなざしを向ける信介と天馬が話していた。

「どうしたの信介?」

「なんか不思議だなって。劉備さんの言葉を聞いてると勇気が湧いてくるんだ!」

劉備さんの言葉が信介の気持ちを高めさせてる。信介の心が劉備さんに開かれていってるのかもしれない。

 

 

「さぁまもなく試合再開ぃ!後半も目が離せない試合になりそうだ!」

「まずはしっかりディフェンスからだ。」

「みんな、僕に任せて!」

後半はザナーク・ドメインボールから、神童先輩が全員の気を引き締めたところで太陽が言う。

「太陽?」

「何か策があるんだね。」

「よし、乗った!」

孔明さんの力を受け継いだ太陽の策だ、信じてみよう。

 

そして後半戦開始

「ミキシトランス、曹操!」

開始早々、ミキシトランスしたザナークがドリブルで攻め上がってくる。

試合開始早々曹操ってか。何でもない、忘れてくれ。

「ミキシトランス、孔明!」

ザナークに対抗して太陽もミキシトランスする。孔明さんの力を完全にものにしたみたいだ。

「天馬、剣城くん、倉間さん、ボールを囲んで右回転!」

「オッケー。」

「錦さんとフェイ君は僕と一緒に三人の外側を左回転!」

太陽がみんなに指示を出し、ボールとザナークを取り囲んで回転する。

「残りのみんなで外側を右回転!」

「りょ、了解!」

よく分からんがとりあえず太陽の指示に従っとく。

信介を覗いた10人に包囲されたザナークはボールをキープしつつ様子を見ている。

「馬鹿め、ガラ空きだ!」

「や、やべっ!?」

全員の回転のタイミングが噛み合ってしまい穴が出来てしまいシュートを許してしまう。

ガンッ!!

「何!?」

しかしザナークのシュートは枠を外しゴールポストにあたりラインを割った。

「た、助かった。」

「ラッキー、外してくれた。」

「いや、外させたんだよ。」

「え?」

運が良かったと胸をなでおろしている皆に太陽が言う。

 

「やはり、あれは奇門遁甲の陣。」

「きもんとん・・・何だ?」

「流石関羽様、ご存知でしたか。追い詰められた敵は必死になって牙を剥きます。しかし、あえて一箇所だけ穴を開けることで敵の力を逃がすことができるのです。」

孔明さん、解説ありがとうございます!

「ザナークのシュートコースを誘導したってことか。」

「必殺タクティクス奇門遁甲の陣か。」

「これが歴史上最高の頭脳と言われる諸葛孔明の戦略、そしてそれを実現させた10年に一人の天才、雨宮太陽。」

フェイの言うとおり、このミキシマックス、この組み合わせしかないくらい相性ぴったりって感じだ。

 

 

信介のゴールキックで試合再開。

ザナークを止めたことで俄然勢いに乗り攻撃に転じる雷門をザナークは観察していた。

「諸葛孔明、曹操が恐れたという天才軍師。そしてその力を活かす天才か。ならば・・・」

おもむろにミキシマックスを解除するザナーク。

「何するつもりやんね。」

ザナークの不可解な行動に雷門の面々が一様に注目する。

「千年に一度の恐怖を、味あわせてくれるわ!!来い、魔界王ゾディアク!!」

ザナークが天を指差し、黒と赤に体を染めた刺々しいシルエットの化身を呼び出した。

「二体目の化身だって!?」

「そんなことが・・・」

ザナークが新しい化身を呼び出したことに驚愕する雷門の面々。

「これが俺本来の化身だぁ!アームド!!」

化身アームドしたザナークはフェイを弾き飛ばし雷門陣地に切り込んでいく。

「始まったな。」

「こいつはもう止まらないぜ。」

ザナーク・ドメインのメンバーはザナークが存分に暴れ出したのを見てザナークに好きにさせていた。

「もう一度、奇門遁甲の陣だ!」

太陽の指示で先ほどのように奇門遁甲の陣のフォーメーションに入ろうとする雷門。

「邪魔だぁぁ!!」

「「「うわああああ」」」

しかし取り囲むまもなく力ずくで正面突破されてしまう。

「好き勝手させてたまるか!破壊神デスロス!!」

残されたDFたちの中真っ先に翼が化身を呼び出しザナークを止めに突っ込む。

「俺を前に破壊神だと?笑わせてくれるぜ!!」

「うわああああ!?」

だが化身アームドしたザナークには歯が立たなかった。

「黄名子!」

「はい!」

残った霧野と黄名子がふたりがかりで挑む。

「無駄だァ!」

やはり止められず完全にフリーになるザナークはアームドを解除し必殺シュートの体制に入る。

「ディザスターブレイク!!」

前半に見せた必殺シュートが放たれる。

信介が化身を呼び出し立ち向かおうとするも為すすべもなく破れ勝ち越しのゴールを許した。

 

 

「信介、大丈夫か!」

フェイと天馬と一緒に信介の元に駆け寄る。

「な、何あのシュート・・・あんなシュート、初めてだ・・・」

「信介!?」

信介の声と手は、いや体は震えていた。

今のシュートで恐怖を刻み込まれたかのように。

そんな信介と俺たちの元にザナークがやってきた。

「見たか!全てをなぎ払い破壊する、これが俺の力だ!お前らなどバラバラにふきとばしてやるぜ。」

「くっ・・・」

言い残して戻っていくザナークに何も言い返せなかった。

けど今はこっちの方が問題だ。

 

 

「ふん。・・・ぐっ!?・・・何だ今のは・・・」

 

 

「くよくよしててもしょうがないぞ。」

目に見えて落ち込んてる信介に翼が声をかけてる。

俺も何とかして元気づけてあげなきゃ。キャプテンとして、何より親友として。

「そうだよ。取られたら取り返せばいい。決められたら次は止めればいいじゃないか!」

「天馬と翼には分からないよ・・・あのシュートを受けたら・・・」

こんな信介、初めて見る。入学式の日に出会って俺と翼と3人でずっと一緒にやってきた時、いつも明るくて、キーパーを任されてから凄いシュートに真っ向から立ち向かって来た信介がこんなにも怖がるなんて・・・

「天馬、信介は完全にビビってしまってる。ザナークにシュートを打たせないためにも後ろは俺たちに任せて出来るだけ攻めてくれ。」

「翼・・・」

「もしもの場合、体張ってでもブロックするさ。」

「・・・分かった。こういう時こそ、俺たちが何とかしなきゃ!」

「ああ。俺たちでカバーして上げるんだ。俺たち2人が。」

そうだ。くじけそうになってる時に支えるのが仲間、友達なんだ。

 

 

「攻撃は最大の防御!みんな、弱気にならずどんどん攻めていきましょう!」

「「「おう!」」」

天馬がみんなを鼓舞する。

出来るだけ守りの時間を減らしたいが。

「さあ、試合再開!」

錦先輩にボールが渡り天馬たちが攻め込んでいく。

「ふん、攻撃は最大の防御だと?攻撃とはこういうことを言うんだ!」

「ぬあっ!?」

しかしザナークが錦先輩に激しいコンタクトを仕掛けボールを奪う。

「俺が止める!戦旗士ブリュンヒルデ!!」

「魔界王ゾディアク!アームド!!」

霧野先輩が化身を出したのを確認しザナークは再び化身アームドを発動する。

「うわあああ!?」

やはり化身アームドしたザナークを止めることは叶わず霧野先輩も突破されてしまう。

 

霧野先輩を突破したザナークは化身アームドを解除し必殺シュートの体制に入る。

「ディザスターブレイク!!」

「う、うわああぁ」

キーパーの信介は先ほどの恐怖から完全に腰が引けてしまってる。ゴール前には信介以外俺しかいないがやるしかない!

「翼!!」

「天馬、フェイ!?」

そう思った時、天馬とフェイがなんとか戻ってきてくれたのが見えた。

「はあああぁ!魔神ペガサスアーク、アームド!」

「ミキシトランス、ティラノ!」

「破壊神デスロス!」

それぞれのフルパワーでザナークの必殺シュートのブロックを試みる。

「「「うおおおおお!!うわっ!?」」」

三人ともはじかれながらもなんとかシュートブロックが成功しボールがラインを割った。

「あ、危なかった~」

「ふん。・・・ぐっ!?・・・」

 

 

「ごめん、みんな・・・ボクが止めないといけないのに・・・」

「信介・・・」

「でも、怖いんだ・・あのシュートが。あんなの、どうすればいいか・・・」

信介は今、ゴールを守らなきゃいけないというのは分かっていても刻まれてしまった恐怖に勝てないでいる。この調子だと

「難しい状況になりましたね。」

そんな信介と俺たちを見て孔明さんが割って入ってきた。

「皆さん、ここは逃げましょう。」

「「「ええ!?」」」

孔明さんの口から出たのは思いもしなかった案だった。

「逃げるって・・・」

「今のままなら最善の策は逃げることです。」

「待て、儂は何も成し遂げずに逃げる事などできん!」

孔明さんの逃亡の案に劉備さんが異を唱える。

「私は今のままならと言いました。逃げないというなら状況を打開する策が必要です。ですが、皆は満身創痍、彼もザナークの力に怯えてしまい最早立ち向かう力は残されていないでしょう。既に勝敗は見えています。それでも続けると言うのですか?」

孔明さんが淡々と現状を分析する。確かに孔明さんの言うとおり、俺たちの体力もかなり厳しく、何より信介がこの様子では。みんな孔明さんに反論することが出来ず口を噤むしかなかった。

「確かにお前の言うとおりだ。」

さすがの劉備さんも頷くしかない。

「だが、儂は好かん!!」

「え?」

劉備さんの答えは理屈どうこうではなく、孔明さんもあっけにとられる。

「信介、まだ戦いは終わっておらんぞ!諦めていいのか!?」

「劉備さん・・でもボクの力じゃあのシュートは・・・」

「確実に無理だろうな!」

「「うえぇ~?!」」

信介の弱音をあっけらかんと肯定してしまう。おいおい

「儂も一人では曹操に太刀打ち出来ん!だから皆が、仲間がいるんじゃないか!儂も張飛に関羽、そして多くの仲間が居てくれたからここにおる。」

 

「どれだけ無様に敗れようと諦めずに立ち上がれるのは、ともに力を合わせ守りたい民がいるからだ。儂を信じ、着いてきてくれた民たち。儂は民たちがいつものびのびと笑っていられる国が作りたい!その笑顔がなければ儂は死んでしまう。水がなくては生きられん魚のようにな!ともに支え合い一人では敵わん相手にも立ち向かう力をくれる、それが仲間だろう!さっきのザナークのシュート、お前が立ち向かえなかったとき前に立ち、守ってくれた仲間を見なかったのか?」

「あっ・・・」

劉備さんの言葉にハッと顔を上げ俺たちに目を向ける信介。

「お前にも守りたいものがあるんだろう?そのために儂らの時代までやってきたんだろう?」

「そうだ・・・サッカーを守るためにここまで来たんだ。ザナーク・ドメイン。凄く怖くて強い相手だったけど、これまでもみんなと一緒に乗り越えてきたんだ。」

「そうだよ!一人で勝てないなら皆で立ち向かえばいい!」

「ゴールだってキーパーの信介だけが守ってるわけじゃないんだ。一人で抱え込む必要なんてないんだ。」

「そうそう、ウチらが前にいるやんね!」

「天馬、翼、黄名子・・・うん!」

ここ最近、ずっと信介は自分がゴールを守らないといけないと言っていた。

けど違うんだ。キーパーの前には10人の仲間が居る。11人全員でゴールを守って、全員でゴールを目指す。それがサッカーだ。

「劉備さん!ボク、もう一度やってみます!サッカーを守るために!みんなと一緒に!」

「その意気だ!」

信介の震えが止まり、もう一度闘志に火が点いた。

劉備さんと信介のやり取りを孔明さんが信じられないといった表情で見ていた。

そしてその表情はやがてずっと探し求めていたものを見つけたようなものへと変わっていった。

 

「劉備さんの言葉で目が覚めた!どんな敵だってどんなシュートだってボクはもう逃げない!ゴールはボクが守る!」

さっきまでとは別人のように堂々と宣言する信介。

劉備さんの言葉に奮い立てられ繋がりが強くなった気がする。

そんな信介を見てフェイがワンダバに声をかける。

「ワンダバ!今ならミキシマックスできるかもしれない!」

「よぉーし!行くぞ!」

劉備さんと信介にミキシマックスガンを放つ。

劉備さんから吸い出されたオーラが信介に入っていき

「やあああああ!」

「ミキシマックス、コンプリーーート!!!」

髪が青く染まり、髪型が少し変わった信介が現れミキシマックスが遂に成功した。

「よし!絶対に守ってみせる!」

 

 

ミキシマックスが完成し、ザナーク・ドメインボールで試合再開。

すぐさまザナークにボールが渡る。

「劉備とのミキシマックスの力、見せてみろ。吹き飛べ!ディザスターブレイク!!」

「うおおおおお!」

ザナークの放った必殺シュートを信介が正面から受け止め衝撃で砂煙が舞う。

砂煙が晴れた先には

「止めたぁぁぁ!!!」

「何!?」

信介ががっちりとボールを抑えていた。

「信介!」

「遂に止めたな!」

 

「フェイ!」

喜びに浸る間もなく信介がフェイにボールを出す。

「ミキシトランス、ティラノ!」

「図に乗るな!」

シュートを止められ少し同様を見せるも流石といったところですぐさまフェイからボールを奪いにいくザナーク。

「ぐっ!?・・・クソッ。」

しかし先ほど同様に胸をさす苦しみに動きが止まり抜き去られるザナーク。

「太陽!」

「西園くんが止めたこのボール、必ず決めてみせる!ミキシトランス、孔明!」

ボールを受け取った太陽がミキシトランスの力を解放する。

「はあああああ!」

「決まったぁ~~!雷門同点!」

孔明の力を乗せたシュートがゴールに突き刺さった。

信介、フェイ、太陽のミキシマックス3人の力での同点ゴールだった。

 

 

「同点だと!?・・・俺をここまで楽しませてくれるとは。面白い、面白いぞ雷門!!」

同点に追いつかれたザナークは自分をここまで楽しませる相手に久し振りに巡り会えたことに歓喜していた。

「全力で叩き潰してやるぜぇ!!」

「「うわあああ!」」

全開で雷門の面々をなぎ倒しながら攻め上がり始めるザナーク。

「ぐあっ!!」

「何だ!?」

しかし先程から続く苦しみがザナークの脚を遂に止める。それだけでなく

「何だ、この力は!!??」

「何が起きてるんだ!?」

ザナークの体から力がにじみ出、溢れ出す。

その力をザナーク自身完全に制御できていない。

「あの者の力が暴走しているのです。」

「暴走?」

孔明が瞬時に自体を把握する。

「ここにいては危険です。早く逃げましょう。」

「けど、まだ試合が」

「あれはただ破壊するだけの力の塊。これは最早、試合ですらありません。それでもまだ続けますか。」

「それは・・・」

「ここは孔明の言うとおりだ。撤退するぞ。」

「劉備さん・・・はい!」

劉備も賛同したこともあり雷門の面々も続く。

「おい、ザナーク・ドメイン!お前らも早く逃げたほうがいい!この決着はまた次の時につけようぜ!」

脱出寸前、翼がザナーク・ドメインの面々に言う。

こんな時にも関わらずこんな約束を取り付けるのは潜ってきた死線・・・というか死の経験がなせる度胸か、はたまた馬鹿なだけか。

「翼、早く!」

「ぐわあああああああああ!!!」

孔明の園に轟音とともに力の大爆発が起こった。

 

 

「あ、危なかったぜよ。」

「間一髪だったね。」

孔明さんに導かれた隠し通路からギリギリ脱出し、入口で爆発を見届けた。

「命あってこそだな、何もかも。うん。」

あれに巻き込まれてたらと思うとぞっとする。

「ちょっと翼!何あの最後の!」

「そうだよ!本当に危なかったよ!」

葵と天馬が詰め寄ってくる。

「い、いやだって決着付いてなかったしさ・・・再戦したいじゃん。」

「そういう問題じゃなくて!」

 

 

天馬と葵との話を終えみんなの方に向かうと孔明さんと劉備さんが話をしていた。

「孔明、儂とともに戦ってくれ。」

「いいでしょう。」

「やはりダメか。・・・っていいのか?」

「ええ、そう言いましたが?ただし、ひとつ条件があります。」

「条件?」

「私を部下としてではなくパートナーとすること。」

「ぱ、ぱーと?なんだって?」

「パートナーです。同じ目的のために思ったことを言い合える、対等でありなくてはならない存在。そう、水と魚のような。それがパートナーです。」

この時代の中国にあるはずのない言葉を出す孔明さん。

聞きならない言葉に困惑する劉備さんだったが答えはシンプルだった。

「分かった!だがなぜ考えを変えたのだ?」

「見てみたくなったのです。あなたが作る国の行くすえを。それに、私が居なくてはあなたはすぐ死んでしまうでしょう。」

「何?」

「あなたの長所と短所はどちらも同じ。その意思を曲げないところ。その強靭な意志で多くのことを成し遂げるでしょう。ですがそれが戦場では時として致命傷になりうる。だから意思を曲げるべき時を私が見極め助言致しましょう。そうすればあなたに敗北はありません。」

「なるほど。言ってくれるな。それじゃあ今日から儂とお前は・・・なんだっけ?」

「パートナーです。」

「それだ!」

 

 

「はぁ~何か憧れるな~あの二人。」

「どうしたの葵?」

「もう!分からないの?あんな男女ふたりのパートナーなんてまるでカップルや夫婦みたいじゃない!」

「?そうなのかな?」

天馬はイマイチピンときてないみたいだ。

けどまぁ葵の言うことも分かる。あの二人に関係、それはまさに水と魚というかなんというかだ。

隣に立ちたい、隣に居てほしい女の子かぁ。前世でも彼女いなかった俺には縁遠い話かなぁ。

けど、もしそんなことが許されるなら。

脳裏にラベンダー色の綺麗な髪の女の子の姿がよぎった。

 

 

そして別れの時が近づいてきた。

「信介、これからも挫けそうになることもあるだろう。敵わないと思うような敵も現れるだろう。だが、諦めず仲間とともに戦ってることを忘れるな!そうすれば必ず勝機はある!守りたいもののために自分を強く持て!儂とお前の力を合わせればどんな困難だろうと受け止められる!」

「はい、劉備さん!ボク、劉備さんのおかげで強くなれました!仲間の大切さや諦めないこと、必ず成し遂げるんだって強い気持ち、絶対に忘れません!」

 

「孔明さん。・・・ありがとうございました。」

「あの時申し上げたように私は私のためにあなたに力を授けたに過ぎません。その力をどのように扱うかはあなた次第です。・・・軍勢には先を見据え、敵を見据え、機を逃さず敵勢の急所を突くよう仲間を導く者が必要です。あなたならそうなれるでしょう。」

「・・・はい!」

 

この時代で培った絆、力を継承した者同士が語り合っていた。

時空最強イレブンを探す旅で行く先々で見るこの光景。いつか俺もそこに入りたい。自分にその素質があるかは分からない。けど、その思いは日に日に強くなる。ザナークに俺の化身は通用しなかった。もっともっと強くならなきゃ。

「よし、みんなキャラバンに乗り込め!」

「おう!」

出発の時間が近づきワンダバに言われゾロゾロと乗り込む。

「少しよろしいですか?」

「孔明さん?」

俺も乗り込もうとしたが不意に孔明さんに呼び止められた。

「どうしたんですか?」

「いえ、旅立つ前に一つ申し上げておきたいことがありまして。」

「?」

なんのことだ?これといって接する機会はなかったはずだけど

「あなたは皆とは少し違う存在ですね?私たちの時代の人間とも、ザナークやあの緑の髪の少年の時代の人間とも、そしてあなたと仲間が生きる時代の人間とも。」

「!?」

何を・・・言ってるんだ。

「あなたと彼らは絆を紡いでいる。隣に立つ仲間や親友が居る。それは間違いありません。しかし、あなた自身はほんの僅かに一歩引いたところから周囲を見ている。自分の中でぬぐい去れていない何かがあなたをそうさせている。・・・その何かが取り払われたとき、あなた方は真の絆を紡ぐことができるでしょう。」

「お、俺は・・・」

「翼、早く早く!もう出発するよ~」

「あっ・・・」

天馬に呼ばれ我に返る。

「お行きなさい。」

「はい・・・」

言われるがままキャラバンに乗り込む。

キャラバンが出発し皆が今回の旅のことで盛り上がっている。

しかし、俺は孔明さんの言葉が脳裏から離れなかった。

 

 

「この力の残滓・・・間違いないわね。」

雷門がこの時代を出発して少しした頃メイアは孔明の園にいた。

ザナークの力の奔流の残滓から一つの確信を得ていた。

彼が自分たちと同じ力に目覚め始めていることを。

「これは報告しておいたほうがいいわね。」

「おや。今日は随分と来客が多い日ですね。」

「・・・諸葛孔明ね。」

「ええ。それにしてもまた、迷いの渦の中にいる方がやってきたものですね。」

「迷ってる・・・ですって?」

歴史上最高の頭脳が進化した人類が誇る頭脳に語りかけた。

 

 




不穏な空気を醸し出しながら今回はここまでです。
次回は主人公とヒロインそれぞれの幕間エピソードにしようかなとは思ってます。

その次に控える幕末編は原作では2グループに分かれての行動でしたがこの作品でどうするかは迷っています。
両視点とも描くかテンポ重視で行くか・・・

やっとメイアちゃんの出番が書けそうで嬉しい。


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変化

今回は幕間エピソードになります。



 

雷門の面々が時代を去った後、メイアと諸葛孔明が孔明の園で対峙していた。

 

諸葛孔明。歴史上最高の頭脳と言われる人間。まさか女性だったのは驚いたわ。あの時感じた不快な感覚。まさか翼に色目使ってたんじゃないでしょうね。

それより

「私が迷ってる?どういうことかしら?」

私に迷いなんてあるはずも無い。私が、私たちフェーダが為すべきことは決まっている。

私たちセカンドステージチルドレンと並ぶと言われる。

「あなたは自分が進んでいる道が正しいのか信じきれていない。」

「・・・たった今会ったばかりのあなたに何故そんなことが分かるの?」

「これまで私の力を求めてやってきた人間を数多見てきました。その中には迷いや引け目を感じている人間もいました。そのような人間は皆共通する雰囲気や仕草、そして同じような目をしていました。今のあなたからは彼らと同じものを感じます。先ほどの彼と同じように。」

「彼?」

「私と劉備様を訪ねてきた先の世の者たち、その中にいた赤い髪の少年。」

赤い髪・・・翼のことね。

「彼もまた内に秘めたものを抱えていました。彼とあなたはとても似たものを感じます。」

「・・・私にそんなもの無い。」

彼との出会いとここ最近のタイムジャンプを通しても気持ちは固まってる。

この全てを見透かしたような目、気に入らない。

「彼もあなたも心の奥底では気づいている。ですがそれを自覚してしまえば自分自身の根底を揺るがしかねないが故に目を背けている。」

「あなたに何が分かるのよ!私のことも、彼のことも!・・・!?」

自然と声を荒らげて食いかかってしまう。その時ポケットの中でデバイスが震えた。

「SARUから?」

画面を見るとSARUからの着信だった。こんな時に。

「もしもし、なんの用?今ちょっと『ごめんごめん。ただ急ぎの連絡なんだ、落ち着いて聞いてほしい。』もう、何?」

『ギリスが倒れた。すぐに戻ってきて欲しい。』

「・・・え?」

 

 

現代

 

「え~~~!?諸葛孔明って女の人だったんですか~~!?」

俺たち三国志時代から帰ってきたのを出迎えてくれた居残り組に向こうで会った出来事を説明していた。三国志ファンの速水先輩は大興奮といった感じだ。

「俺たちも流石にびっくりしましたよ。しかも孔明さんは化身使いだったんですよ!あ、あと曹操も。」

「化身使いぃ!?さすが諸葛孔明!あ、劉玄徳はどうでした?どんな方だったんですか?」

「あ~劉備さんはその・・・とても面白い人でしたよ。」

劉備さんのことを聞かれた天馬は返答に困る。まぁ、あれはね。

「劉備さんは一度決めたら絶対に自分の意思を曲げなくて、絶対に諦めずにやり抜く、本当にすごい人でした!ボク、劉備さんに出会えて強くなれたと思います。」

そんななか実際に一番深く劉備さんと触れ合い、ミキシマックスを果たした信介が言う。

「やっぱりそうだったんですね!良いなぁ僕も会いたかったな~・・・あっ、翼くん劉備のサインもらってきてくれましたか?」

「あ・・・忘れてました・・・」

「そんなぁ~~~!?」

試合から別れまでにいろいろありすぎたから完全に忘れてた。

そう、いろいろ・・・

 

そんなこんなであらかた話し終えると今日は解散になった。

また明日タイムジャンプするようだ。

「それじゃ帰ろっか、翼。」

「あ、すまん。ちょっと寄るところがあるから先に帰っててくれ。」

いつも一緒に帰ってる天馬がいつもどおり誘ってくるが断りを入れる。

「え?寄るところって?俺は着いていってもいいけど。」

「いやいいよ。できれば一人で行きたいし。秋ねぇには夕飯までには戻るって言っといてくれ。」

「翼がそういうなら・・・うん、分かった!それじゃあまた後で!」

「おう。」

 

 

天馬と別れた俺は河川敷のグラウンドに来ていた。

「この時間帯なら誰もいないし大丈夫だろ。・・・よし。」

周囲に人がいないのを確認しユニフォームの上から来ていたジャージを脱ぐ。

「はああああ!破壊神デスロス!」

誰もいないグラウンドで化身を呼び出す。

目立つかもしれないけど何とかなってくれ。

ここからだ。

「アームド!!」

デスロスを身にまとうイメージを浮かべながら力を高め化身アームドを試みる。

デスロスが光に姿を変え俺の体に集まっていく。が

「んがっ!?・・・くそっ、やっぱダメか。」

これまで皆が失敗してきたときのように光が弾けアームドは失敗に終わる。

メイアのおかげでデスロスをコントロール出来るようになってから化身の力が高まっているのも分かる。これまでのエルドラドのエージェントたちにも太刀打ち出来ていた。

「けど、ザナークには全く通じなかった。」

あいつには歯が立たなかった。これからどんな強敵が現れるかも分からない。

みんなはミキシマックスや化身アームドをどんどん身につけていってる。

「俺ももっと強くならなきゃいけんだ・・・」

俺だけ立ち止まってばっかいられない。時空最強イレブンに選ばれるかもまだ分からない。でも、今やれることをやっていかなきゃ。

「ってもうこんな時間か。遅くなったら秋ねぇ怖いし、そろそろ帰るか。」

荷物をまとめて帰路につく。

 

木枯らし荘に向かって歩いていると別れ際孔明さんに言われたことを思い出す。

「俺がみんなから引いたところから見てる、か・・・」

そんなことはない。天馬や雷門のみんなとはこの世界に生まれ変わってずっと一緒に戦ってきて、フェイや黄名子、太陽たちとだって・・・

そう思ってるはずなのにどうしても孔明さんの言葉が頭から離れない。心のどこかに引っ掛かりを覚えている。

 

「おかあさ~ん!」

「こら、ちゃんと前向いて歩かなきゃ危ないわよ。」

 

「昨日のイナレンジャー見た?」

「見た見た!」

木枯らし荘の近くの公園では親子や子供たちが笑顔で戯れている。

そんな光景がなぜかとても眩しく見えてしまった。

そこから目をそらし歩いていると木枯らし荘に着いた。

 

 

200年後の未来

フェーダのアジト

 

「ギリス!!大丈夫!?」

SARUからの連絡を受けたメイアは大急ぎで元の時代に戻ってきてアジトのギリスの部屋の扉を勢いよく開き入ってきた。

「あ、メイア。おかえり。」

「早かったね。」

そこにはSARUとギルのメンバー数人、そしてその中心にはベッドに腰掛けるギリスがいた。

ギリスは見たところ特に苦しそうな様子は見られない。

「ギリス、倒れたって聞いたけどもう大丈夫なの?」

「うん、今はもう大丈夫さ。心配かけてごめんね。」

「さっき目を覚ましたところだよ。」

メイアが戻ってくる少し前に意識を取り戻したことをギリスとSARUから説明を受ける。

「そう・・・なら良かったけど。」

とりあえずの無事を確認し胸をなでおろす。

「けど、何があったの?まさかエルドラドに・・・」

ギリスがエルドラドの連中に遅れを取るとは思えない。

「いや違うよ。ただ・・・」

少し言いよどむギリス。他のみんなの表情もどこか暗く見える。

「ただ・・・突然僕たちセカンドステージの力を抑えきれなくなったんだ。・・・それで気を失ったんだ。」

「そんな!?今までそんなこと・・・」

力が目覚め始めてる段階のザナークと違い力をコントロール出来るようになってからは一度も無かった。けどそれが急に起きた。

「みんなと話したんだけど、寿命が近づいてる予兆かもしれない。」

「・・・!?20歳まではまだ時間は残ってるわ!」

「うん。今すぐってことは無いはずだよ。けど、こういうことがこれから起きる子も出てくるかもしれない。」

「そんな・・・」

 

 

ギリスの言葉が遠くに聞こえる。頭に入ってこない。いや、理解するのを拒否してる。

私たちセカンドステージチルドレンが大人になれないことは知っていて受け入れていた。

なのに、ギリスの言葉を受け入れたくない。

この力に目覚める前から一緒に遊んでて、力に目覚めて親に捨てられ世間に迫害されて、SARUと出会ってフェーダを立ち上げて今までずっと一緒に過ごしてきた親友。そんなギリスが倒れたことが、私の心を強制的に揺さぶる。

 

「おいおい、どうしたギルの軟弱モノが雁首そろえて。」

俯いて固まっていると廊下から無粋な男の声が聞こえてきた。

「ガロ、何か用かしら?」

そこにいたのはザンのリーダーのガロだった。

ガロとは当初からソリが合わない。粗暴だし、暴力と破壊しか頭にない。あくまで私たちの目的は私たちがどれだけ優れた存在かを知らしめること。戦闘はあくまでそのための手段に過ぎない。なのにガロを含めザンのメンバーは破壊を楽しんでいる。

「作戦から帰ってきたらギリスが力を暴走させてぶっ倒れたって聞いたからよ。へへっ。」

「何がおかしい。」

輪の中にいたザットが食ってかかる。

「別に。ただ自分の力も制御できないような奴がいるとは思いもしなかったからよ。つい笑っちまった。」

普段なら聞き流せるようなことも今日は何故かいちいち癪に障る。

「何だと?ギリスはな「ザット!もういいわ。」・メイア?」

「相手にするだけ無駄よ。それで、今回の作戦の首尾はどうだったの?」

これ以上この話をしても不快なだけ。なら私たちにとって必要な話をしたほうがマシ。

「チッ・・・。別にいつもどおりだよ。建物破壊して、邪魔してくる雑魚どもを掃除して終わりだ。ま、そのあとは好きに暴れさせてもらったがな。」

「その破壊活動に意味はあったの?あくまで私たちの標的は世界意思決定機関のエルドラドとその関連組織よ。一般人を巻き込む必要はないはずよ。」

ザンはいつも任務が終わったあと周囲の人や建物を気ままに破壊する。

その行動に日頃から嫌悪感を抱いていた私はつい言ってしまった。

「はっ!いずれ俺たちによって淘汰されるんだ、早いか遅いかの話だろ?それともなんだ、あいつらに情でも沸いたか?」

「なんですって?」

「最近よく過去の時代に飛んでるらしいじゃねえか。そこで古い人類を見すぎたんじゃねぇか?」

「・・・そんなことないわ。」

「どうだか。まぁどちらにせよ古い人類なんざ何の力も持たない奴らばっかだろうが。お前が監視してるやつらもよ。」

「・・・!!」

ガロの言葉を聞いた瞬間、これまでにないくらいの怒りがこみ上げガロを睨みつける。

「っ!?なんだよ。」

確かに殆どの人間は私たちより劣った存在。けど、これまでのタイムジャンプで見てきた織田信長やジャンヌ・ダルク、諸葛孔明。彼らはあエルドラドから派遣されたエージェントやこの時代の道具のミキシマックスガン以上の力を持っていた。そんな彼らの力を得た雷門のメンバー。そして何よりも翼、初めて出会ったときから目が離せない、今ではギリスやSARU達と同じくらい心を許せる不思議な子。セカンドステージチルドレンでは無くとも目を見張る力を持つ人間はいることを知った。そんな彼らを馬鹿にされたことが自分でも驚く程に腹立たしかった。

 

「はいはい。二人ともそこまでにしときなよ。僕たちは同志なんだから。」

一触即発な私とガロの間にSARUが割って入ってきた。

SARUの一声で血が上りかけていた頭が冷静になっていく。

「ガロにザンのみんな、ご苦労さま。次の作戦までゆっくり休むといい。」

「チッ・・・分かったよ。」

「ギルのみんなも、というか次は遂にエルドラド本部への攻撃だ。それまではゆっくり準備を進めておいてくれ。ギリスはしばらく安静にね。」

テキパキとみんなに有無を言わせず指示を出すSARU。普段はあんな調子だけどこういうところは頼りになる皇帝といったところかしら。

「メイアも、しばらくはこっちに身をおいておいてもいいと思うけどどうする?」

「私は・・・」

確かにザナークが私たちと同じ力に目覚めている確証も得られた。雷門も力をつけてきているしフェイの方も大丈夫そう。本部襲撃が近いならわざわざ過去に飛ぶ意味は無いかもしれない。けれど

「私はまたフェイたちと同じ時代に飛ぶわ。」

私の中の何かがそうさせる。諸葛孔明に乱されたものが、こっちに戻ってきてから渦巻いているこの焦燥感を取り除く答えがそこにある気がしたからか。

「・・・そう。それじゃあよろしく頼むよ。決行の日までには戻ってきてね。」

「ええ。分かってる。それとザナークの件だけど、私たちの同族と見て間違いないわ。」

「そうかい、ありがとう。それじゃあ機を見て勧誘しておいて。あのおじさんにも言っておくから。」

「了解。それじゃあ私はもう戻るわ。彼らも動き始めたみたいだし。ギリス、体には気をつけてね。また何かあったらすぐに戻ってくるわ。」

「分かったよ。メイアも気をつけて。」

ギリスが笑顔で送り出してくれる。その笑顔をみて少し安心した。

「メイア。」

ギルのみんなにも一声かけ終えて部屋を出ようとしたとき背後から声がかけられた。

「くれぐれも彼らに入れ込み過ぎないようにね。あくまで利用してるだけ。・・・僕たちはセカンドステージチルドレンなんだから。」

「・・・言われなくても分かってるわ。」

言い残し部屋を出た。そう、分かってる。

 

 

現代

サッカー棟

次なる時代へのタイムジャンプのために俺たちはいつもどおり部室に集合していた。

「よし、全員集まったな。では次なるターゲットを発表する!5の力、海のように広い心で攻守をつなぐ架け橋となる、スーパートリッキーミッドフィールダー!そして6の力、稲妻のように素早く切り込む速さ、電光石火のスピードストライカーだ!」

「MFにストライカーか。」

今回も俺の番は回ってこなさそうだな~

「それで、誰なんですか?その力を持つのは?」

「うむ。5の力は坂本龍馬じゃ!」

坂本龍馬といえば幕末の人だよな。ぜよの人。

ん?龍馬?ぜよ?

「何!?龍馬じゃと!それならこのワシ、錦龍馬に任せるぜよ!!」

やっぱりね。錦先輩、好きそうだもんね。

「よし。ならば5の力は錦、お前に任せる!」

「うおおおお!燃えてきたぜよ!!」

「で、もうひとりの6の力の方は?」

「そうじゃった。6の力は沖田総司じゃ!」

「沖田だって!?」

今度は水鳥先輩が声を張り上げる。

「沖田といえば新選組一の剣の使い手じゃねえか!」

「そんなにすごい人なんですか?」

名前は聞いたことあるけど・・・

「ああ。沖田は剣の腕は新選組でも最強と言われてたんだが、沖田は胸の病を抱えてて短命だったらしい。けど、命尽きるその時まで幕府に仕え、人々を守ろうとした男の中の男だぜ!ちなみにイケメン。」

絶対最後のが重要なんでしょ、あなた。けど大体のことは分かったぞ!

短命だった、か・・・

「ふん!新選組なんぞ龍馬たちの邪魔ばかりしておった卑怯者じゃろうが。」

「何を!?命尽きるまで幕府に尽くし、時代の終わりとともに姿を消した新選組の男気が分からねえのか!?」

「「ギャーギャー!!」」

話そっちのけで錦先輩と水鳥先輩が龍馬と新撰組を巡り喧嘩を始めた。あまりにも不毛なり。

「あの二人はほっておいて、沖田総司の力は誰が受け取るんですか?」

天馬、君たまに辛辣だよね。

「「ん~」」

「剣・・・ストライカー・・・」

「「「あっ!」」」

全員が同じ人間に思い至りそちらを向く。

「ん?」

「「よし!では6の力は剣城に任せる!」

ま、雷門のエースストライカーは剣城だし妥当だよな。

 

 

「よ~しみんな乗り込んだか?」

力を受け取る役目も決まりいざタイムジャンプの準備。

今回のメンバーは俺、天馬、信介、フェイ、黄名子、剣城、錦先輩、神童先輩、霧野先輩、太陽、狩屋、輝になった。

「それでは行くぞ!3、2、1、タイムジャーンプ!!」

 

 




いかがでしたでしょうか。
ふたりの葛藤を描けているといいのですが・・・
翼に関しては置いておきます。

メイアは大前提としてSSCの方が優れた存在という認識は原作と同じく持っています。ただタイムジャンプや翼との触れ合いを経て価値観が少し変わってきていて自分自身も気づいてなかったけどガロとのやり取りで自覚したという感じでしょう。
アニメの方でもザンの不必要な戦闘や破壊を咎めていたので本質のところで良い子なんだろうなぁ。

孔明さん使い易すぎるし、ガロ含めザンのメンバーには悪いことをしたな。
次回から幕末編になります。幕末編以降は展開の関係で翼視点に加えて天馬視点と三人称視点が増えてくると思います。


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幕末編
幕末の世


今回から幕末編です。
幕末編は2サイドに分かれての行動なので描写が大変そうだしそこに翼やメイアも入ってきてで本当に大丈夫かと。


 

 

「着いたぞ!ここが幕末、坂本龍馬と沖田総司のいる時代だ!」

俺たちは1867年、幕末の京都に到着した。

山の上にキャラバンが着陸し外に出る。

ちなみに服装は戦国時代の時と同じ着物である。

「ここが幕末の京都、新選組の街か!燃えてきたぜ!」

「うおおお!龍馬の時代にやってきたぜよ!」

「「ああん!?」」

到着早々いがみ合う錦先輩と水鳥先輩である。まぁ喧嘩するほどなんとやらってやつでしょ。

「時間も限られているなかこの広い京の町を探して歩くのは大変だ。二手に別れよう。」

「勿論ワシは坂本龍馬じゃ!」

「ならあたしは沖田だ!沖田なら新選組の屯所にいるはずだ!」

ワンダバの提案に龍馬派と沖田派の二人が早速名乗りを上げる。

「よし、なら坂本龍馬組は私、天馬、信介、神童、錦、影山、葵、茜で探そう。」

「それじゃあ沖田総司の方は僕、翼、太陽、霧野さん、黄名子、狩屋、剣城、水鳥さんでいいかな。」

ワンダバとフェイの指名で二組に分かれる。今回は天馬とは別行動か。

「天馬、そっちは頼んだぞ。」

「うん、任せて!翼の方も任せたよ。

「おう!」

まぁ、水鳥先輩とフェイに任せれば大丈夫だろ、たぶん。

天馬の方も天馬と神童先輩がいれば大丈夫のはず。

「落ち合うときはフェイと私の端末で連絡を取る。それでは、健闘を祈る。」

 

 

「それじゃ、僕らも行こうか。」

「まずは新選組の屯所だ!」

天馬たちとは別方向に別れ新選組の屯所を目指して歩き始める。

「フェーイ!一緒に行こうやんね!」

「もう黄名子、急に抱きつくのはやめてよ。」

相変わらず仲いいなぁ(一方的に)

「黄名子ちゃんとフェイ君って仲いいよね。」

「そういえば太陽はこの前からだからあまり知らないんだったな。まぁ仲いいというか、黄名子が一方的に絡んでるというか。」

「あはは。でもフェイ君も嫌がってるわけでは無さそうだし良いんじゃないかな。微笑ましくって。」

まぁ確かに口ではやめてと言いつつも無理やり振り払わないところを見るとフェイも受け入れてるんじゃね、知らんけど。

「それにしても新選組の屯所ってどこに向かえばいいんだ?」

本題そっちのけで喋ってる俺たちを制しながら剣城が切り出す。

確かに向かう場所は決まっててもその目的地が分からないんじゃどうしようもない。

「とりあえず人に聞いてみればいいやんね!すいませ~ん!」

「あ、ちょっと黄名子!?」

道行く人の方に駆けていく黄名子。

もう!あの子には警戒心ってもんがないのか。

「新選組の屯所ってどっちに行けばありますか?」

「し、新選組!?やめとけやめとけ!疑われたら切られちまうぞ!」

新選組の名前を出したとたん逃げるように男たちは去っていった。

「どうやら新選組は恐れられてるみたいだな。」

 

その後もしばらく市中を探索するもなかなか手がかりは見つからない。

「う~んどうしたもんか・・・ん?あれは・・・ねぇ水鳥先輩。」

周囲を見回してみると他の人とは違う格好をした人たちがいたので水鳥先輩を呼ぶ。

「どうした?ってありゃぁ新選組の羽織じゃねぇか!ってことはあいつら新選組か!」

「本当に!?すいませ~ん!」

「ちょっと待て~い、って・・・」

手遅れであった。

「あなたたち新選組やんね?ウチら沖田総司さんに会いたいやんね!」

「何?沖田さんに?怪しいやつらめ!」

ど直球な黄名子を案の定怪しんだ新選組の二人。

「うえええ!?本物の刀!?」

「や、やばいってどうする翼くん!?」

「お、押すなよ狩屋」

新選組が取り出したマジモンの刀にびびって俺を前に押し出そうとする狩屋。

俺だってこええよ!

 

「待てい!!」

「「きょ、局長!?」」

そんな大ピンチに目をつむってお祈りしようかと思った時、男の声が響いた。

「女子供に刀を向けるなど武士の名折れだ!屯所に戻って頭を冷やせ。」

「「は、はい!」」

現れた白い羽織を羽織ったいかつい顔をした男の一声で新選組の二人は去っていた。

二人が去ったのを確認しこちらに向き直る男。

「うちの者が怖がらせて悪かったな。儂は近藤勇、新選組局長だ。」

「「「近藤勇!?」」」

なんと目の前に現れたのは新選組のボスの近藤勇だった。

「あ、あの!あたし新選組のファンなんです!握手してもらってもいいですか?」

「その、ふぁんとやらが何かは分からんがいいぞ。」

本物の近藤勇を前にしてテンション爆上がりの水鳥先輩であった。

「それで屯所だったな。それならあそこの十字路を東に向かうといい。では、儂はまだ見回りがあるのでこれで。」

「ありがとうございます。」

俺たちに屯所の場所を伝えた近藤勇はまた歩いて去っていった。

「す、すげえ迫力だったな。」

「うん。怖かった。」

あの風格はやばいよ。

「それじゃあ行き先も分かったし、向かおう。」

近藤が教えてくれた情報を元にフェイの後に屯所に向かった

 

 

「お前が近藤勇だな。」

「何者だ?」

「名も無き小市民、いや新撰組局長、近藤勇。」

「何?」

 

 

龍馬を探す天馬たちは町から少し離れた田園を歩いていた。

 

「それにしても龍馬はどこにいるんだろう?」

「ん~、こっちじゃ!」

「知ってるんですか?」

「分からん!儂の勘じゃ!」

さっきからこんな感じで錦先輩の直感で進んできてるけど一向に手がかりはつかめない。

翼たち沖田さんグループは新選組の屯所を探すって言ってたけど俺たちはどこを探せばいいんだろう。

「どわああああああ!!どいてくれ~~!」

「待て!逃がさんぞ!」

途方にくれてると前方の坂の上から声が聞こえてきて目を向けると

「に、人間!?」

3人くらいに追いかけられながらすごい勢いで男の人が転がり落ちてきていた。

「う、うわあああ!?」

「ワシが受け止めちゃるぜよ」

慌てて道の脇に逃げようとしたけど錦先輩は転がってくる人を受け止めようとしてる。

「「だあああああ!?」」

けどやっぱりすごい勢いは止まらずボウリングみたいにみんな吹っ飛ばされちゃった。

「い、痛ててて。これでは話に聞くメリケンの遊びのぼうりんぐではないか。」

土煙が晴れると錦先輩を下敷きにした太って・・・豊満な体の男の人がいた。

「お、重い・・・いいから早くどくぜよ・・・」

「あ、すまんすまん。」

「才谷屋!大丈夫か!」

「おう、中岡。」

すぐに後ろからこの人の知り合いらしい男の人がやってきた。

才谷屋っていうのがこの人の名前なのかな?

 

「悪かったな!怪我はないか?・・・ん?」

「もう逃がさんぞ!」

才谷屋さんは俺たちを気遣ってくれたけどすぐに追っ手の人たちが追いついてきた。

「ほ、本物の刀だ。」

「あの人たちって新選組だよね・・・」

才谷屋さんを取り囲んだ4人組は躊躇なく刀を抜いてる。

とんでもないとこに巻き込まれたんじゃない?これ。

「へっ、そんな刀じゃおれっちのこの腹の弾力には勝てねえぜ。」

「問答無用!」

才谷屋さんに新撰組の4人が一斉に斬りかかる。

「ホッ!」

「うおっ!?」

「そらよ!」

「どあああ!?」

けど才谷屋さんは凄いトリッキーな動きでお腹の力で2人を返り討ちにした・

「お、お腹が武器・・・」

「すごい。」

俺たちは呆れるというか呆気にとられてしまった。

 

「おのれ!」

「待て!」

残った新撰組の2人が諦めず食いかかろうとしたとき横から聞いたことのある声が聞こえてきた。そっちを見ると

「お、おまんらは!?」

「ザナーク・ドメイン!?」

この間の三国志時代で戦ったザナーク・ドメインのメンバー5人がいた。

やっぱりこの時代にも追いかけてきてたんだ。

「刀で決着をつけるなんて古いことはやめないか。」

「お、お前ら話が分かるじゃねえか。」

5人が新撰組と才谷屋さんの間に割って入ってくる。

「何?・・・うわああ!」

林の中からスフィアデバイスが飛んできて新撰組を吹き飛ばして気絶させてしまった。

「これで邪魔者は居なくなった。さぁ、サッカーバトルだ!」

 

 

「ここが新選組の屯所か。やっと見つけたな。」

ザナーク・ドメインと天馬たちがサッカーバトルをしているころ翼たちはようやく新撰組屯所前に来ていた。

 

「どうします?」

「下手に入るのは危険じゃないかな。」

「けどここで待ってるだけってのも・・・」

屯所まで来たはいいがさっきの件があるからどうするべきか決まらず動くに動けない。

「近藤さんも良い人だったしきっと大丈夫やんね!」

「そうだな!当たって砕けろだ!」

「やばかったら全速力で逃げましょう!」

という訳で屯所に入ろうと踏みだす。

「待って、誰か来る。隠れて。」

しかしそのすんでの所でフェイが誰かが来る気配を察知して皆を草陰に誘導する。

草陰から様子を見ていると

(あれはザナーク!?)

角から姿を現したのはザナークだった。

(この時代に来てたんだ)

(あの格好、近藤さんのやつじゃないか?)

(一体何を?)

近藤さんの格好をしたザナークは屯所の中に入っていった。

 

 

「ふっ!」

新選組屯所内ではひとりの青年が剣の稽古をしていた。

厚く纏めた藁を容易く両断する素晴らしい剣筋だった。

「ゴホッゴホッ!!」

しかしその青年は急に咳き込み苦しげに胸を押さえうずくまった。

「大丈夫ですか沖田さん。」

「す、すまない。もう大丈夫だ。」

この青年こそ雷門が狙う男の一人、沖田総司だった。

「無理はなさらない方が・・・」

「いや、俺には時間がない。それに坂本龍馬が何やら怪しい動きをしていると聞く。幕府を揺るがしかねないほどの。」

「坂本龍馬。あのような一介の浪人にそんなことが・・・」

「あの男ならやる。あいつはそういう男だ。」

一度あいまみえた沖田には確信めいたものがあった。

 

 

「んがんがんがんが」「もぐもぐもぐもぐ」

とある食事処では天馬たちと才谷屋と中岡が昼食をとっていた。

「す、すごい食べっぷり・・・」

「見てるだけでお腹いっぱいになりそう。」

体型を裏切らない食いっぷりに圧倒される天馬たち。

天馬たちはザナーク・ドメインとのサッカーバトルに何とか勝利を収めた。

その後腹が減ったのといいものを見せてもらったお礼ということで才谷屋のおごりでここに来ていた。

 

さっきのサッカーバトル、何とか勝つことはできた。けど相手はキーパーもいなかったし全然ベストメンバーじゃなかった。もし本職のキーパーがいたら勝てたか分からない。

ザナークがこの時代に来てるのは間違いないだろうし。

翼たちの方は大丈夫かな?

「にしてもこんな鞠ひとつであそこまで熱くなれるとはな!サッカー、だっけか?あれはどこの国の遊びだ?どこで習ったんだ?」

「あ、あはは」

まさか未来で習いましたとは言えないよなぁ。

「それにしてもなんで新選組に追われてたんですか?」

気になってたことを才谷屋さんに聞く。

なんだか因縁がありそうだったけど。

「あいつらとは意見があわんのだ。」

「そんな。意見が合わないだけで命を狙われるなんて・・・」

「はっ!命が惜しくて世直しができるか!おれっちの天命を果たせたなら命なんぞ幾らでもくれてやるぜ!」

俺たちの時代なら意見が合わなくても精々けんかになるくらいだ。なのにここでは命懸けなんだ。これが幕末。

「才谷屋さんの天命って何なんですか?」

「日本をもっと開けた国にすることだ!外国に比べれば日本なんてちっぽけなもんだ。鎖国をやめてもっと開けた国にする、そうすれば日本は強い国になる!」

才谷屋さんは手を広げながら言う。

あれ?これどこかで聞いたような・・・

「動くな!!」

「うわっ!って新撰組!?」

なんとか思い出そうとしてるといきなり扉が開かれて新選組が入ってきた。

「ここにいるのは分かってる!姿を現せ、坂本龍馬!」

「「「え!?」」」

新選組の口から出たのは俺たちが探している人の名前だった。

けどここには俺たちと才谷屋さんと中岡さんしか

「おれっちならここにいるぜ。」

「え?」

俺の後ろから声がした。さっきまで話していた声。

俺の後ろから才谷屋さんが前に出てきた。

「おれっちが坂本龍馬だ。」

頭が真っ白になる。

この人が、この丸い人が、今まで一緒にいた人が

「「「坂本龍馬!!!???」」」

みんな同時に叫ぶ。

探していた人はすぐそばにいた。

 




いかがだったでしょうか。
今回は幕末編の触りの部分になるのでさくっとした展開にさせていただきました。
最初のザナーク・ドメインとのサッカーバトルは話の本筋に影響があまりないのと今後の展開を考えると冗長的になりそうなのでガッツリカットさせていただきました。
楽しみにしていた方がいれば申し訳ありません。
次回からはいろいろ物語を動かしていきたいですね。


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坂本龍馬と沖田総司

どうも。更新が遅くなってしまい申し訳ありません。
先週、私生活の方でいろいろありまして精神的にもスケジュール的にもあまり余裕がなく執筆速度が遅くなっていました。あと単純にここから先は大事な章になってくるので丁寧に構成を練りたいですね。
実は先週すこしの間だけ評価バーが赤色になっててめちゃくちゃ嬉しかったです。
それでは本編へ。


 

天馬Side

 

「はぁ…はぁ…」

「ふぅ、なんとか撒いたな。」

俺たちは新選組の追っ手をなんとか撒いて人気の少ないところまで逃げてきた。

「それにしても新選組の連中をなぎ倒すとは、サッカーってのはすげえもんだな!」

「あ、あはは・・・」

新選組が部屋に乗り込んできたとき、逃げ出す隙を作るためにマッハウィンドを打ち込んだ。あの人たちとお店の人には申し訳ないことしちゃったな。

それにしても

「本当に坂本龍馬さんなんですか?」

「ああ。こいつが坂本龍馬だ。」

俺の質問に中岡さんが答えてくれる。

この人が坂本龍馬。

「写真と全然違うじゃん!」

「イメージが台無しぜよ・・・」

「ん?なんだそれは。」

俺たちの写真を見て聞いてくる龍馬さん。

「これは、その・・・龍馬さんです!」

「おれっち?これが?」

「はい、実は・・・」

いい機会だし、龍馬さんならなんとなく信じてくれる気がすると思って全てを話した。

未来から来たこと、サッカーのこと、ミキシマックスのこと。

 

「なるほどな、大体のことは分かった。それにしても未来とはな。」

「お願いします龍馬さん、あなたの力が必要なんです。」

「ワシらに協力して欲しいぜよ。」

みんなで頭を下げて協力をお願いする。

「いいぜ!」

「本当ですか!」

龍馬さんはあっさりと了承してくれた。

「ただし、おれっちの頼みも聞いてもらうぜ?」

「頼み?」

喜ぶ俺たちに龍馬さんが真剣な表情で言う。

もしかして幕府を倒すための手伝いをさせられたりするのかな?

他のみんなも同じようにかたずを飲んで龍馬さんの言葉の続きを待ってる。

「おれっちにもサッカー教えてくれ!」

全員でずっこけた。

 

 

翼たち新撰組屯所の前で沖田総司が出てくるのを待ち伏せしていた。

 

「さっきからこうして出てくるの待ってますけど、どれが沖田だって見分けるんですか?」

間に耐え切れないといった感じで狩屋が口を開く。

「そんなもん、イケメンかどうかに決まってるだろ。」

「そんなんでいいんですか・・・」

「もちろん!イケメンじゃない沖田なんてありえない!」

それもう水鳥先輩の願望じゃん。

「剣城はどう思う?」

「・・・さぁな。」

「どうしたんだ?なんか気になることでもあるのか?」

剣城は普段からこんな感じではあるものの何か違和感があるような。

「・・・いや、何でもない。」

「?まぁ「あ、あそこ!」何だ何だ?」

水鳥先輩が急に声を上げる。指差す方を見ると屯所の中からイケメンが出てきた。けっ!

「あの人が沖田さんなのかな?」

「聞いてみるやんね!すいませーん。」

イケメンに声を掛けに行く黄名子。もう何も言うまい。

「どうしたんだい?」

「あなた、沖田総司やんね?」

「沖田さん?すまないが人違いだ。沖田さんなら容態が良くないみたいで安静にしてるよ。」

イケメン隊士が教えてくれる。

どうする。もう中に入るしかないか?

 

 

その頃屯所内、沖田の部屋にて沖田とザナークが対峙していた。

「貴様、何者だ!」

「俺はザナーク・アバロニク・・・いや今は近藤勇か。どうやら強靭な精神力の持ち主らしいな。名は?」

部屋にはスフィアデバイスからマインドコントロール波が放たれていたが沖田は精神力で抵抗していた。

「新撰組一番隊隊長、沖田総司!」

「ほう、お前が沖田か。面白くなってきた。だが・・・」

「ぐっ・・・ゴホッゴホッ!!?」

「その体では満足に戦えまい。どうだ力が欲しいか?」

「何?」

そういうザナークの目から中世フランスでプロトコル・オメガに力を与えたときのような光が沖田に降り注ぐ。

「胸の苦しみが消えていく?」

「俺の力を分け与えてやった。さぁ、その力で坂本龍馬を倒せ。」

 

 

「お、またイケメンが出てきたぞ。」

しばらく待ってると色黒のイケメンが屯所から出てきた。

ちょうど同じタイミングで隊士2人が見回りから帰ってきた。

「沖田さん!?体は大丈夫なんですか?」

「「沖田!?」」

隊士たちの口から出たのは俺たちが求めていた名前だった。

「ああ。それより坂本は?」

「は、はい。どうやら向こうの開けた場所で目撃情報があったみたいです。」

「分かった。」

隊士と引き継ぎを済ませた沖田さんは走り出した。

「おい、追いかけるぞ!」

「おう。」

急いで俺たちも走って追いかける。しかし

「おいおい何だあの速さ!病気じゃなかったのか?」

沖田さんは病人とは思えない速さで走って行き徐々に離されていく。

「・・・」

「先に行ってます。」

身体能力には自信がある方の俺と剣城は沖田さんを見失わないようにスピードを上げる。

水鳥先輩たちとは後で合流すればいい。とりあえず今は追いつかないと。

 

 

「行きますよ~」

「おう!ほっ、とっとっと」

「上手上手!」

天馬たちは龍馬の頼みでサッカーを教えていた。

「坂本さん、筋がいいぜよ。」

「初めてでここまで出来るなんて。」

「へへっ、そうか?」

龍馬は新撰組を倒した時のように体型の割に機敏かつ柔軟な動きでサッカーに順応していた。

 

 

「ふぅ~~。にしてもサッカーってのは面白いもんだな!」

「はい!俺たちの時代では世界中で愛されてるんです!」

「世界中とはすごいな!他の多くの国の連中ともやるのか?」

龍馬さんはサッカーが気に入ったみたいで俺たちの時代のことを聞いてくる。

「はい。世界大会も開かれてるぜよ。」

「そいつは見てみたいもんだな。」

錦先輩と龍馬さんはもう完全に打ち解けてるみたいだ。

ふたりの性格的にも相性は良さそうだ。

 

「気心も知れたところで、そろそろやってみるか。」

休憩を終わろうとするとワンダバが切り出した。

ミキシマックスか。

確かにだいぶ龍馬さんのことをしれてきたしいけるかも。

「おお。みきしまくんとやらか。いいぜ!」

「ミキシマックです。」

「かたじけないぜよ。」

「では行くぞ!ミキシマックス!」

ワンダバが錦先輩と龍馬さんにミキシマックスガンを打つ。

「ぬぅぅぅ!・・・のあっ!」

けどミキシマックスは失敗しちゃった。

大介さん曰く神童先輩と信長の時のように器に収まりきらなかったらしい。

「ワシの心の広さが足りんちゅうことか・・・」

「錦先輩は十分広いと思いますけど。」

雷門で一番広いと思うんだけどなぁ。

 

「坂本龍馬!!」

 

「「「「なんだ!?」」」」

話し込んでると坂の上から男の人の声が聞こえてそっちを見ると刀を抜いてすごい勢いでこっちに向かってきていた。

「新撰組一番隊隊長沖田総司、参る!!」

 

 

「いた、あそこだ!」

水鳥先輩を霧野先輩たちに任せて剣城とで沖田さんを追いかけてるとようやく沖田さんの後ろ姿を捉えた。

「あれは・・・天馬たちと誰かも一緒だ。って思い切り剣振り回してるし!?」

「・・・!」

沖田さんと天馬たちの姿を確認した剣城がスピードを上げて天馬たちの元に駆け込む。

なんとか間に合った剣城は地面に転がってたサッカーボールで沖田さんの手を弾いて剣を落とさせた。

沖田さんが剣を落としたことで場の流れが一旦止まる。

「天馬、大丈夫か?」

「翼。うん、大丈夫だよ。」

「「お~い」」

数時間ぶりの再会を惜しむ間もなく霧野先輩たちが追いついてきた。

 

「天馬、この人たちは?」

沖田さんに気を配りながら天馬に見知らぬ人たちについての説明を求める。

「この人たちは坂本龍馬さんと中岡さん。一緒にサッカーしてたんだ。

「「「坂本龍馬!?!?」」」

この太った人が!?知ってる写真と全然違うんだが?

 

「翼、この人が沖田総司なの?」

「ああ。病気で満足には動けないはずなんだが・・・」

俺たちでなんとか追いつけるかくらいのスピード、これが沖田総司か。

結果的に俺たちはどちらも目的の人を見つけることが出来ていたらしい。

天馬たちは坂本龍馬と結構親しくしてるみたいで何も出来ていないこちらとしては申し訳ないな。

「約束を忘れてもらっちゃ困るぜ、沖田総司。」

「ザナーク!」

天馬と話してると声が聞こえた方に目を向けると新選組の格好をしたザナークとザナーク・ドメインの面々がいた。

「お前にはサッカーで坂本龍馬を始末してもらう約束だ。そのために力を与えたんだからな。」

どうやらというかやはりというか、ザナークの差金だったらしい。

 

「聞きたいことがある。」

唐突にフェイがザナークに問いかける。

「あの時のあの力は・・・あれは一体何があったんだ!」

フェイの口から出たのは俺たち全員が気になっていたことだった。

それにしてもフェイの口調は何か心当たりがあるのか、少し強いものだった。

「ふん、そう言うと思ったぜ。・・・お前らに教えることなんて無ぇよ!。」

「くっ・・・」

「さぁ、サッカーバトルだ。」

 

「ザナークのあの力がどうかしたのかフェイ?何か気になることでもあるの?」

「翼。・・・分からない。  けどあの力はセカンドステージチルドレンの・・・」

「セカンドステージチルドレン?」

フェイが独り言のように呟いた言葉に以前どこかで聞いた覚えがあるような気がする言葉が混じっていた。あれはいつ誰が言ってたんだっけか。

「あ、いや何でもないよ。忘れて今は試合の方が集中しよう。」

「あ、ああ。」

何かごまかされた気がするが今はいいや。

「天馬、頼んだぞ~」

「うん、任せて!龍馬さんもよろしくお願いします!」

「おう!」

こちらのメンバーは天馬、信介、剣城、錦先輩に加えて龍馬さんだ。

沖田さんとザナーク狙いが自分である以上自分が出ない訳には行かないという龍馬さんからの申し出だった。

残りの4人は天馬とキーパーの信介、ストライカーの剣城の鉄板の3人に加えミキシマックスの成功率を少しでも高めるために錦先輩となった。

それに対して向こうはザナーク・ドメインの面々に沖田さんがFWとして加わってる。

サッカーは初めてのはずだけど大丈夫なのか?まぁこっちも龍馬さんいるけど。

ちなみにザナークは高みの見物である。

 

「ちぇ、今回も見学か~。なんか俺サッカーバトルにあんま混ぜてもらえてなくない?」

「まぁまぁ。こうして外で見てるのも楽しいのがサッカーのいいところやんね。」

「そうそう。ザナーク・ドメインの動きを見るいい機会でもあるしね。」

「まぁそうだけどさ。黄名子~フェイ~。俺もサッカーしてぇよ~」

フェイに寄りかかりながら愚痴る。こういう時だいたいハブられてる気がする。

「ほら、もうすぐ始まるやんね。シャキっとする!フェイも翼を甘やかさない。」

「「はい!」」

黄名子に言われ背筋をピンと張る俺たち二人。な、何だ今の逆らえない感じ。

 

 

そしてサッカーバトルが始まった。

ザナーク・ドメインのキックオフ、沖田さんがドリブルで上がっていく。

「行かせない!」

「ふっ!・・・これは・」

「天馬が抜かれた!?サッカーは初めてのはずだろ?」

いくら沖田総司とは言え初心者に天馬があんなにあっさり抜かれるなんて考えにくい。

それに体が自然と動いたことに本人も驚いてるみたいだ。

おそらくザナークが沖田さんの体に力と一緒にサッカーの動きを注ぎ込んだんだ。

「沖田!」

「うおおおお!」

ザナーク・ドメインの攻撃は続きオーグからパスを受けた沖田さんがシュート体勢に入る。

「とりゃああああ!」

「何!?」

しかし寸前のところで龍馬さんがスライディングでクリアした。

龍馬さんも攻守バランスよく動けてる。

「へへへ、そう簡単にはいかないぜ。」

「くっ・・・」

 

 

「坂本さん、こっちぜよ!」

「おう!」

龍馬さんから錦先輩にボールが渡りシュートを放つ。

しかしそのシュートはキーパーのシュテンにがっちりキャッチされた。

「錦先輩気合入ってますね。」

「憧れの坂本龍馬とサッカーしてるんだからな。」

 

その後も一進一退の攻防が続く。

「坂本さん!」

今度は錦先輩から龍馬さんにパスが出される。

「させるか!」

しかし沖田さんが素早く走り込んできてカットされる。

「おめえなかなかやるな。」

「貴様に負けるわけには行かないんだ。」

その後も龍馬さんは沖田さんの執拗なマークにあい思うようにプレーをさせてもらえない。

 

「フェイ、沖田さんのあの動き、どう思う?」

「うん。間違いなくザナーク力を与えられてるんだと思う。けどそれはあくまで体力とサッカーに関するものだけで、あの動きは彼本来のものだと思う。」

「ってことは体力さえ万全なら・・・いや今でも短時間ならあの動きができるってことか。」

スピードに関しては龍馬さんどころか今フィールドにいる選手の中でも一番だ。

これが沖田総司。電光石火のスピードか。

「けど、龍馬さんへの執着がすごいな。」

「うん。・・・そうだ!みんなちょっといい?」

フェイが何か閃いたようで5人を呼びつける。

 

 

「なるほど!いけるぜそりゃ!」

「ああ。」

「よし、これで行こう!」

フェイの作戦を聞いた天馬たちは二つ返事で頷いた。

「フェイ、お前もしかして性格悪い?」

「あはは!そんなことないよ。ただああすれば上手くいくんじゃないかなって思っただけさ!」

「そうそう!フェイは優しくていい子やんね!」

「お前は何目線だよ・・・」

 

そして試合再開

「龍馬さん!」

天馬が龍馬さんにパスを出す。

するとやはりすぐに沖田さんがマークについた。

さて、作戦通りなら

「へへへ。そんなに欲しけりゃやるよ。」

「何!?」

「見せてもらおうか。新撰組一番隊隊長のお手並み、いや足並みかな?」

龍馬さんは沖田さんにボールを渡した。

それだけでなく沖田さんを挑発する。

「くっ・・・いいだろう。」

宿敵の龍馬さんに挑発されて黙っていられるはずもなく沖田さんが龍馬さんに1vs1を仕掛けた。

よし、ひとまずここまでは作戦通り。問題はここから。

 

「おおあああ!」

「ちっ。」

龍馬さんと沖田さんの1vs1は互角でお互い抜きも抜かれもしないまま膠着状態が続く。

そんな中ザナーク・ドメインのエンギルとオーグが前に出てきた。

「沖田、パスだ。」

「これは俺と坂本龍馬の勝負だ!手出し無用!」

「何?」

よし、狙い通りだ!

「いい気合だな。だが・・・」

「龍馬は一人じゃないぜよ!」

「なっ・・・!」

龍馬さんを意識するあまり視界が狭まった沖田さんの隙をついて錦先輩がボールを奪うことに成功した。

やっぱこれずるくね?いや、勝負だからしょうがないけどね?

「天馬!」

「「しまった!!」」

錦先輩が素早く天馬にパス。

沖田さんに加え二人が前に出たザナーク・ドメインのゴール前には一人しか残っていない。

それに対してこっちは天馬と剣城の二人で数的有利がとれた。

「・・・今だ、剣城!決めろ!」

天馬のドリブルとパスを一人でケアし切ることはやはり出来ず剣城にパスが通りフリーになる。

「剣聖ランスロット!アームド!!」

フリーの剣城が余裕を持って化身アームドする。

そして化身アームドで放ったシュートはゴールに突き刺さった。

 

 

「やったーー!勝ったぞ!」

「ナイスシュート剣城。」

「龍馬さんに錦先輩も!」

「そうじゃろそうじゃろ!」

サッカーバトルが終わり5人をみんなで労う。

作戦がこうもうまくいくとはね。

ザナーク・ドメインの連中はサッカーバトルが終わったらさっさと姿を消した。

残された沖田さんは放心状態といった感じだ。

しかし

「うっ・・ゴホッゴホッ!!」

「!大丈夫ですか!」

沖田さんはいきなり咳き込んで膝をつく。

あわててみんなで駆け寄る。

「どうだ、少しはサッカーってもんが分かっただろ?」

坂の上から自前のバイク型のマシンに乗り、去ろうとしているザナークの声が飛んできた。

「貴様、俺を試したのか・・・ぐっ・・・」

「ま、そんなとこだ。楽しかったぜ。」

「ふざけちょる!サッカーを何だと思っとるぜよ!!」

錦先輩が声を荒らげザナークに食ってかかる。

だがザナークはどこ吹く風と行った様子で去っていった。

 

 

「じゃあ、俺もここらで失礼するぜ。またな。」

気まずい雰囲気になり今のうちといった様子で龍馬さんもどこかへ去っていった。

「あ、龍馬さん。」

ミキシマックスが出来ていないのに分かれるわけにはいかないため神童先輩が引きとめようとする。

「まあ待て。ここは一旦俺に任せてくれ。」

しかし中岡さんがその手を制する。

確かに中岡さんがいればまた合流できる可能性は高いし今ここで沖田さんと龍馬さんを一緒に居させるのはまずいか。

それにしても

 

「沖田さん、大丈夫ですか?」

試合中とは打って変わって沖田さんの体は弱々しく震えていた。

まるでフルマラソンを走りきったあとのように。

「しっかり。」

天馬と葵が支える。

「あ・・・ありがとう・・・だいぶ、落ち着いたよ。」

なんとか少し息が整いつつある沖田さんは二人に礼を言い一人で立ち上がろうとする。

「こんな体でサッカーをしていたなんて・・・」

「ザナークの力で無理に体を動かしてたのじゃろう。その反動で急激に体力を奪われたのだろう。」

「なんちゅうことを・・・」

錦先輩はさっきといいザナークへの憤りが収まらないといった様子だ。

「あ、剣城。」

なんとか立ち上がろうとする沖田さんの前に剣城がたち声をかける。

「・・・沖田さん、あなたはどうしてそこまでするんですか?」」

みんな剣城の問いかけに対する沖田さんの答えを待つ。

「・・・・・・俺は、もう長くは生きられない。」

「「「!?そんな・・・」」」

沖田さんの口から出た言葉にみんな息を呑む。

もう長くは生きられない。その言葉の持つ意味と重みに。

「坂本龍馬の企てが実現すれば幕府は消滅する。・・・幕府を守ることこそが我ら新選組の使命。ならばこの命尽きる前に、坂本龍馬を討つ!」

ここにいる全員が何も言えなかった。沖田さんの言葉の持つ重さに返す言葉が見つからなかった。

立ち上がり去ろうとする沖田さんが剣城の前を横切ったとき

「!・・・兄さん。」

剣城が小さくそう漏らした。

 

 

「ひとまず、町の中心から少し外れた所にある俺たちの隠れ家に向かおう。そこならいずれ才谷屋とも落ち合えるはずだ。」

「はい、お願いします。」

沖田さんが去りしばしの沈黙が流れたあと中岡さんが切り出した。

中岡さんの言うように二人のアジトなら龍馬さんが帰ってくるだろうということでそこに向かうことになった。

隠れ家に向かう最中隣を歩く剣城に声をかける。

「剣城、大丈夫か?ちょっと変だぞ。」

「・・・ああ、何でもない。」

「・・・そうか。」

剣城、もしかして・・・ん?

足を止め皆から離れる。そんな俺に気づいて天馬が寄ってきた。

「どうしたの?翼。」

「ごめん、みんなと先に帰っててくれ。」

「え、ちょっと!?」

「すまん!そのうち追いつくから。」

そう言い残し曲がり角を曲がり天馬たちと分かれる。

 

 

「お待たせ、メイア。」

やっぱりだ。角を曲がった先には着物を身に纏ったメイアが立っていた。

彼女の髪の色に近い淡い紫がかった着物が彼女によく似合ってる。

「気づくとは思わなかったわ。」

「俺もだ。ただなんとなく近くにいる気がしたんだ。着物似合ってるな。」

「ふふっ、ありがとう。」

いつものように笑うメイア。

ただ

「・・・どうかしたのか?」

「え?」

「いつもと違うというか、元気がないというか・・・何かあったのか?」

違和感が有る。少し不安でうつむきながら思うがままに口にし、顔を上げると

驚いたような、何とも言えない表情のメイア。だがすぐにその顔を伏せ

「うぇええ!?」

俺の胸元に顔をうずめてきた。

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
錦と坂本の「りょうま」どっちがどっちか分からなくなりがち。
この作品では坂本龍馬が影が薄くなりがちになっていますね。龍馬ファンには申し訳ないです。
そして最後にキャッキャウフフな展開に見えてシリアスな雰囲気が
次回はほぼオリジナルになりますが正直不安でいっぱいです。解釈違いが多くなって叩かれそうで怖い・・・

感想、ご指摘あればお待ちしています。今後の参考および励みになります。



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赤峰翼のお悩み相談室 in幕末

前回おもむろに抱きついたメイア。果たして一体何が!

ということで今回はメイアの悩み相談回です。
今回に関しては正直不安でいっぱいです。
どうか優しい目で見てください。
それでは


 

前回までのあらすじ 抱きつかれた。

 

どうも、赤峰翼です。いや~今日は天気もよろしくいい日ですね。

こんな日は女の子に抱きつかれるなんてこともあるかもしれませんね。

・・・はい。トリップ終わり。

「ちょ、ちょっとメイア、何してんの!?」

軽く現実逃避していた脳がやっと動き出し現実に戻ってくる。

メイアと話しているといきなり抱きつかれてそれからえーとえーと何かめっちゃいい匂いするしそれからうわ体細いし肌キレイだし柔らかいしのあばばばば!

「あ、あの一旦離れ・・・・あっ。」

少し強引に引き剥がそうと肩に触れて初めて、彼女の体が少し震えてることに気づいた。

体調によるものか、精神的なものか、どちらにせよ普段からは考えられないほど弱々しい彼女を突っぱねることなんてできるわけがない。気休めにでもなればとそっと肩に手を回し軽く抱きしめ返す。

「・・・ありがとう。」

 

 

「落ち着いた?」

「ええ。ごめんなさい、みっともないところ見せちゃって。」

しばらくして落ち着いたのかメイアが離れて正面に立つ。

ふぅ、危なかった。

「気にすることはないよ。誰でもそういう時もあるよ。」

「・・・うん、ありがとう。」

そういって微笑んでみせるメイアだがやはりどこか浮かないように見える。

思えば前回のタイムジャンプではずっとみんなと一緒にいて彼女の姿を見なかった。

別に天馬たちのようにいつでも一緒にいるわけじゃないんだから会わないことはおかしいことじゃない。のはずなのに凄く久し振りに感じるし心が安らいでるのを感じる。

「会ってない間に何かあったの?その、俺で良かったら話聞くからさ。」

「え?・・・その・・・うん。少し歩きましょう。」

「ああ。」

どうやら話してくれるみたいだが場所を移したいらしい。

並んで歩いて桜の木が望める茶店の店先の席に座る。

ここなら落ち着いて話せそうだ。

 

 

「ふぅ、流石本場というか、お茶がうまいな。」

お店の人が出してくれた茶はこの時代ならではの美味しさがある。

「それでさ、聞いてもいいかな?」

一息ついて本題を切り出す。

「ええ。といっても何て言ったらいいのかしら。」

話の切り出しと言葉に迷うメイア。

こういうところも普段の利発な彼女には見られない気がする。

 

 

「あのね、なんだか自分のことが分からなくなっちゃったの。」

「・・・それはどういうこと?」

「気づいてるかもしれなけど、私って生まれつき人より優れてたり、人には出来ないことも出来てたの。」

ぽつりぽつりと語り始めるメイア。

言われてみて思い返されるのは初めて彼女と出かけたとき、いや初めて出会った時から垣間見られていた身体能力、それからエルドラドに洗脳された奴らの洗脳を解除したときの光景。

彼女から直接聞くことは無かったけれど、それらを見ていて俺が知らない力を持ってるんだろうなとは薄々感じてはいた。

「それで、今まで私と似たような子たちと一緒に過ごしてきたの。みんな仲間どうし仲良くしてきたわ。私たちは他の人とは違う、周りより優秀な存在なんだって。みんなそう思ってたし私もそう信じてた。」

彼女の語りに口を挟むことなく耳を傾ける。

メイアもこっちの様子を察して語り続ける。

「けど、最近少し仲間の子と揉めて、その子が翼たちやジャンヌ・ダルクたち過去の人のことをその・・・見下したようなことを言ったの。・・・気を悪くしたならごめんなさい・・・」

「いや、別に気にしないけど・・・実感ないし。」

「優しいのね、翼は。それでそいつの言葉を聞いたときに。自分でも信じられないくらい腹が立ったの。これまで何とも思ってなかったはずの人のことに、何故か。それから自分がどうしたいのか、どうしちゃったのか分からなくなったの。こんな事初めてでどうしたらいいか分からないの。」

その言葉を最後にメイアは口を閉じた。

 

 

正直ピンとは来ていない。けど、なんとなくどういうことか分かる。

メイアはきっとこれまでのタイムジャンプを通していろんな人たちを見てきて少しずつ認識が変わってきたんだろう。人間、考え方なんてちょっとした経験で変わるものだ。俺だって、前世の経験が無かったらこんなに能天気にはいられなかったかもしれない。

けど、メイアはこれまでずっと信じてたことがいつの間にか変化して・・・しかも同じ考えを共有してた周りの子たちのなかで自分だけが変わり始めてることに戸惑ってるのだろう。

だから自分のことが分からなくなってるんだ。

・・・ハハッどの口が言うんだか。

けど、目の前のこの女の子が悩んでる、迷ってる。

思えば俺はこれまでメイアについて殆ど何も知らなかったし、メイア自身あまり自分の事を話してこなかった。

そんな彼女がこんな俺に弱音を吐き出してくれた。

なんとか力になりたい。

俺がかけるべき言葉は

 

 

私の話を聞いた翼は考え込んでるように見える。

こんな事聞かされても困っちゃうわよね。何が言いたいんだか私自身でも分からないんだし。

けど、何故か止まらなかった。これまで目的に支障が出てはいけないと思って私たちの力のことは伏せてきてたのに、部分的にとはいえ明かしてしまった。

自分でもびっくり。こんなにも彼に心を許してしまってたのかしら、私って。

「あのさ・・・」

ずっと黙りこくっていた翼が不意に口を開く。

自然と次の言葉に意識を集中する。

「別にいいんじゃない、それで。」

「え?」

彼の口から出た答えはあっけらかんとしたものだった。

「俺はメイアじゃないから全部は分からないけど、たぶん今のメイアは自分の中に二人の自分がいるんじゃないかな。」

「自分が、二人?」

「うん。今までの自分と、タイムジャンプを通じて出会った俺たちや過去の時代の人たちと触れ合った自分。この二つがそれぞれ違う考えを持ってる。他の人より自分たちは優れてるんだっていうのと、他の人たちにもすごい人たちはいるんだっていう考え。」

彼はジェスチャーを加えながら語り始める。

彼が言う二つの考え、それは確かに私の中にあるもののような気がする。

ガロの言葉を聞いたときに私の頭の中に浮かんだものはまさしく翼が言った通りのものだった。

「でも、そうはいったって・・・私の本心はどっちなの・・・どっちが本当の私なの・・・分からない・・・」

言われたことは理解しても、答えは出ない。自分のことが分からないまま。

「ん~なんていうかさ、どっちか一つを選ぶ必要なんてないんじゃない?」

自然と口をついて出た言葉にまたも翼はあっさりと言ってのける。

「別に違う二つの気持ちや考えを抱くなんてよくあることじゃん。ピーマンは嫌いだけどピーマンの肉詰めは好き!とかさ。」

「・・・?」

絶妙に分かりにくい例えを出されてコメントに困ってしまう。

「ん~ダイエットしたいけどお腹いっぱいご飯食べたいみたいな?」

「・・・まぁ、それなら。」

思い当たる節があるのでなんとなく理解してしまう。女の子の前でその手の話題を出すなんてデリカシー無いんだから!

「そ。それと一緒で自分の力に誇りを持ってるメイアも、俺たちのことを認めてくれてるメイアもどっちもメイアじゃん。両方まるっと受け入れちゃえば良いんだって!」

「どっちの私も、私・・・」

翼の言葉が私の中にすんなり入ってくる。

胸につっかえてたものが軽くなっていくのを感じる。

孔明との問答から今まで続いてたモヤモヤが取れていく。

「そう、楽に考えようぜ!」

言葉にしてみればこんなに簡単なことのように思える。

「・・・みんながみんな翼みたいにおバカじゃないのよ。」

「ちょ、この流れでひどくない!?」

私はセカンドステージチルドレン。頭脳だって古い人類より優秀。

けど

 

顔を伏せながら唐突に俺を貶してくるメイア。良い事言ったのに・・・

落ち込みかけていると隣にいる彼女の顔が上がる。

「けど、たまにはバカみたいになってみるのも良いのかもしれないわね。」

顔を上げたメイアの表情はさっきまでとは大違いな、なにか吹っ切れたようなとても綺麗で晴れ晴れとした笑顔だった。

「あ・・・///」

今まで見てきたいろんなメイアの中でも一番と言っていいくらい綺麗な笑顔に思わず見蕩れて声が出てしまう。

「あ~あ、なんだかこんなことで悩んでた自分がバカらしくなっちゃった!そ・れ・に、翼なんかに言われて気づいちゃうなんてね~」

「むっ、もうちょっと感謝してくれてもいいんだぜ?」

「ふふっ♪さぁ、どうかしら♪」

すっかりいつもの調子に戻ったみたい・・・いやむしろ元気過ぎるまである。

こうなったら

「いや~でもま、メイアが俺たちのことでそんなに怒ってくれるくらい大事に尊敬してくれてるとはね。いや~照れちゃうな~。」

「なっ///べ、別にそういうわけじゃ///」

「信長様や孔明さんくらい認めてくれてるとはね~~」

「そうじゃなくて、、そうだ!翼ったら諸葛孔明相手に鼻の下のばして失礼なこと考えてたでしょ!」

「うぇええ!?べ、別にそんなことないぞ!」

あの時のあの寒気、やっぱりメイアだったの!?

「嘘ね、分かってるんだから!白状するなら今のうちよ!」

言い逃れできる雰囲気ではない。

「・・・ちょっとだけ、孔明さんの身の回りにいないような大人な雰囲気に、その・・・ドキッとしました・・・」

白状しました。いや、あれはしょうがなくない?

「全く、失礼しちゃう!・・・・・・私は別に小さくないわよね。年相応のはずよね・・・。」

最後の方はなんて言ったか聞こえなかったが許してもらえたのだろうか。

でもとりあえずメイアの元気が戻って良かったってところかな。

 

 

「それで、旅の首尾はどうなの?今回のターゲットは?」

ひとしきりいつもみたいな他愛もないやり取りをした後にメイアが切り出す。

「ん?まぁまぁかな。今回は坂本龍馬と沖田総司。」

「ミキシマックスは上手くいきそう?」

「う~んどうかなぁ。龍馬さんの方はいい感じに距離は縮まってるからいけそうな気もしてるけど沖田さんの方がなぁ・・・」

「苦労してそうね。」

「ああ。・・・ってん?あれは・・・」

「どうかしたの?」

ふと通りに目を向けるとそこには新選組の隊士が。というか

「沖田さんじゃん!」

話題に出ていた沖田さん本人がいた。

俺たちと別れたて屯所に戻る最中なのか。その割には遅い気もするが。

「あの人が沖田総司なの?」

「ああ。けどなんでまだここに。・・・って危ない!」

メイアの質問に答えてると目線の先にいる沖田さんがふらふらして今にも倒れそうという様子で思わず駆け寄る。

「大丈夫ですか、沖田さん。」

倒れる前になんとか体を支えることに成功する。

「君はさっき坂本たちと一緒にいた・・・」

「赤峰です。メイア、ちょっと手伝ってもらっていいか?」

「ええ。とりあえずこっちに。」

メイアにも手を借りて俺たちが使ってた席に誘導する。

 

 

「ふぅ。ありがとう、だいぶ落ち着いた。ところでそちらの子は?」

だいぶ回復した沖田さんがさっきの俺たちの中にはいなかったメイアに気づいて聞いてくる。

「え~と、まぁ俺の知り合いです。気にしないでください。」

横目でこれで良かったのか確認を取る。メイアの反応としてはまぁ及第点といった感じだがどこか不服そうだった。何がだめだったんだ?まぁ今はおいておこう。

「それにしてもどうしてまだこんなところに?屯所に戻ってたはずじゃ。」

「ああ。屯所に戻る途中だったんだが念のため市中の見回りをして帰ろうと思ってな。その帰りだったんだ。」

「そんな・・その体でそんな無茶するなんて。他の隊士の人に任せておけば・・・」

「坂本龍馬が動き出してる、それに他にも幕府を脅かす可能性があるやつは他にも潜んでいるかもしれない。俺だけ休んでいるわけにはいかないんだ。」

どうしてこんないつ壊れてしまうか分からない体でこんなに・・・

 

「なぜそこまで・・・」

「さっきも言っただろう。俺の命はもう長くない。だからこの命が尽きるまでは。」

だからってこんな無茶なことするなんて・・・

「けど!・・・えっ?」

食い下がろうとする俺を制してこれまで無言を貫いていたメイアが前に出た。

「ひとつ聞いていいかしら?」

「メイ「翼は黙ってて!」あ、はい」

ごめんなさい、大人しくしてます。

やだ、俺ったらもしかして言いなり?

「あなたは、あなたの目的のためだけに本当に全てを賭けられるの?」

そんな俺をよそにメイアは沖田さんに言葉をぶつける。

「どういうことだ?」

「あなたが命懸けで幕府を守ったとしても時代の流れは止められないかもしれない。亡くなった後にあなたが守ったものが結局無駄になるかもしれない。それでもあなたは命を懸けられるの?」

沖田さんに問いかけるメイア。けど何故だかその言葉は彼一人にだけ向けられているような気はしなかった。まるで他の誰かにも投げかけるように。

メイアの言葉に少し言葉に窮する沖田さん。だが彼女の迫力というか言葉には重さがあった。それでも沖田さんの目は鋭かった。

「・・・ああ。俺の命はこの幕府を守るために燃やすと決めた。それが俺が生きている意味、そして生きた証だから。」

「・・・そう。分かったわ。ありがとう。」

沖田さんの言葉を咀嚼し自分の中に落とし込んだようなメイアが沖田さんの胸に触れ、彼女の手が淡く光った。

「胸が、軽くなった・・・これはあの男と同じ・」

「これで少しの間だけなら十分に動けるはずよ。それじゃ、行きましょ、翼。」

「あ、ちょっと待ってって!」

用は済んだとばかりに立ち去る彼女を慌てて追いかける。

 

 

「ちょっと待って。今のまさかザナークみたいに無理やり苦しみを感じなくさせたんじゃ!」

後ろから追いかけて翼が手を引いて聞いてくる。

「少し違うわ。」

「それじゃ何を・・・」

「私がしたのは私の力を分け与えて彼の心臓の状態、寿命を少しだけ回復させただけ。」

「それって・・・」

「ザナークのしたことは麻酔で痛みを忘れさせたようなもの。それに対して私がしたのは彼の病状がほんの少し前に戻したようなもの。」

「そんなことが・・・」

言ってしまえば私の体力を糧に彼の寿命をほんの少し回復、戻したようなもの。

それにしても、あの人なんかのために私がわざわざこんなことするなんてね。

自分でも意外。

気まぐれか、それともあまりにも翼が必死だったから・

いえ、これはそんなのじゃない。きっとこれは共感、ちょっとした同族意識みたいなものかしら。

長くは生きられないから、命が尽きる前に何としてでも事をなそうとする沖田総司の姿が他人事には思えなかったからかしら。

これじゃガロの言ったとおりかも知れないわね。笑えないわ。

それにしても、翼の前では出来るだけセカンドステージチルドレンとしての力を使うのは控えるようにしてたのに。

「こんな力、気味悪い?」

さっき打ち明けたことといいこれじゃ気味悪がられちゃったかしら。あぁ、化物扱いなんてとうの昔に慣れっこのはず。なのに胸のあたりが何故かズキズキする。

 

 

「別に。むしろすごいじゃん!それに、すごい優しい力だと思う。」

メイアが振り向いた先には目を輝かせる翼がいた。

「・・・どうして?」

「どうしてって・・・普通の人には出来ないし凄いことじゃん。」

「・・・驚かないの?」

今まで見てきた人たちは一様にこの自分には無い超能力を恐れた。

「あいにく、もう大概のことには驚かないよ。信じられないようなことは散々味わってきたし。」

このタイムジャンプの旅が始まってから、いやこの世界に生まれ変わってからは翼にとっては信じられないようなことばかりだった。とんでもない身体能力や必殺技や化身。どれも本来の彼からしたらありえないものばかりだ。今更超能力の一つや二つどうということはない。

「それにメイアはその力、誇りを持ってるんだろ?なら気にする必要ないって!」

「・・・ふふっ♪」

「のわぁっ!?」

またしてもいきなり翼の胸に顔をうずめるメイア。

「ほんと、あなたって面白い人ね♪」「なんだそりゃ」

だが、その表情は先ほどとは真逆、とても明るく微笑ましいものだった。

 

 

「お~~~い翼~~~どこ~~~」

遠くの方から俺を探す天馬の声が聞こえてくる。

みんなと別れてからどれくらいたったのだろうか。

「どうやらお迎えが来たみたいね。」

「ああ。あんまり待たせるわけにもいかないしな。」

「おそらくザナークたちとぶつかることになるでしょうけど勝算のほどは?」

ザナークのことだろうから間違いなくまたちょっかいかけてくるだろう。

「どうかな。この前の試合では正直ザナークには必殺技も化身も歯が立たなかった。チームもいろいろあってあいまいな結果で終わったし・・・」

俺の力はザナークには通じなかった。化身を真っ向から完全に破られたのも初めてだった。

他の連中も正直本気じゃなかっただろう。たぶん厳しい戦いになる。

「・・・大丈夫よ。」

自身が持てず俯いているとメイアが俺の頬に手を当て顔を上げさせる。

「確かに今のままじゃ敵わないかもしれない。けど、翼は、あなたたちはまだまだ強くなれる。そのためにこうしていろんな時代に来てるんでしょう?」

諭すように俺の目をまっすぐ見つめてくる。その目に吸い込まれそうになる。

「私もどこかで応援してるわ。だから良い所見せてよね♪」

そう言ってウィンクしてみせるメイア。

・・・まるでさっきとは立場が逆だな。

彼女の言葉で勇気が湧いてくる。

「・・・ああ。絶対に勝ってみせる。見ててくれ!」

「ええ、期待してるわ。それじゃ、また会いましょう。」

そう言い残しすぐ近くの角を曲がりメイアは姿を消した。

「やっと見つけた。探したよ。何してたの?」

振り返るとちょうど天馬がいた。

「ごめんごめん。まぁ内緒かな。それでどうしたんだ?」

「どうしたんじゃないよ!もう、詳しくは戻りながら説明するから早くみんなと合流しよう!」

そう言って強引に俺の手を引いて駆けていく天馬だった。

 

 

俺が翼を見つけたときに一緒にいたあの女の子は誰なんだろう?

この時代の人には見えなかったけど。

最近翼はたまにふらっとどこかに行くことが多い。

それにこの間の休みの時や三国志の時代から帰ってきたときや今といい俺になにか隠し事をしている気がする。

別に誰にでも隠し事くらいある。けど、話してくれないのは少し寂しい。

いつか話してくれるのかな。

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか?
当初の構想とはかなり形が変わり不安だらけです・
ただ、やはり人というものは自己の中に矛盾を抱えながら生きているものだと思う、かつメイアのような聡明な子ほど苦しむのではないかなと思います。
けどもっと上手くやれなかったかなぁ。
あと沖田と絡ませるのは決めてました。
二人の思いのぶつかりを描けてると嬉しいなぁ。

次回はザナーク・ドメイン戦です。

メイアは絶対いい匂いする、あとそこまで大きくはない。(断言)


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4限目 科目 日本史

今回はザナーク・ドメイン戦です。
間が空いてしまい申し訳ありません。


 

 

皆さんこんにちは、赤峰翼です。皆さんは日本史はお好きですか?覚える出来事や年号が多くて大変ですよね。僕も苦手です。

ここで問題です。1867年に江戸幕府が行ったことはなんでしょう。

答えは・・・そう大政奉還ですね。

なんでこんなことを聞くかって?それは・・・

 

「私がお願いしたいこと、それは・・・大政奉還であります!!」

「「「大政奉還~~!!??」」」

今、その場に居合わせているからです。

「歴史の授業で習ったやつだ!」

「俺たち、とんでもない瞬間に居合わせてしまったようだな。」

なんでこうしているかざっくり説明するとメイアと別れたあと天馬たちと合流したら龍馬さんも合流していた。で龍馬さんが何やら将軍に直談判したいことがあるみたいだけど警備が厳重で困っているとフェイがTMキャラバンで警備をまるごとスキップしてしまおうと提案した結果がこれである。

いざとなったらまたすぐに逃げられるし、逃げたあとは幕府が龍馬さんの直談判を蹴ったと言いふらせばいいという二段構えだ。

ちょくちょく思うけどフェイって賢いけどちょっと腹黒いよね。

「痛てっ!」

そんなことを考えると隣の黄名子に脇腹をつねられた。なんで?

 

 

こうして回想してる俺をよそに龍馬さんと将軍のやりとりは進んでたわけだけどやはりそう簡単に受け入れてはくれない。

「!?来たっ!」

そんな中フェイが何かに気づき後ろを見やると遅れて聞き覚えのあるエンジン音が聞こえてきた。

そして壁を飛び越えてバイクのようなものがこの場に姿を表す。

「ザナーク、やっぱり来たか。」

「よう、お前ら。」

「何者だ貴さっ・・・」

お偉いさんがザナーク食ってかかろうとするがスフィアデバイスのマインドコントロール波で黙らされる。

「近藤、何用じゃ?」

そういえば今は近藤勇でしたね。

「な~に、こいつらは俺に任せてもらおうと思ってな。なぁ、沖田!」

これまで将軍の脇に控えていた沖田さんにザナークが振る。

「・・・はい。坂本龍馬らは我々にお任せ下さい!」

将軍に頭を下げ言う沖田さん。

「・・・良かろう。貴様らがこやつらに勝てば大政奉還を認めてやろう。」

「大政奉還をかけてサッカーってことか。」

なんだかある意味俺らの都合のいいように進んでもいる気がする。

ま、この方が分かりやすくていいか。

 

 

「へへっ、大政奉還を賭けてサッカーとはな。腕が、いや足がなるぜ!」

「またワシらのコンビネーションを見せてやるぜよ!」

試合前、自分が申し出たことだからとまたもスタメンに名乗り出た龍馬さんと錦さんがワイワイしていた。

こっちのスタメンは俺、天馬、信介、剣城、フェイ、太陽、神童先輩、錦先輩、龍馬さん、黄名子、霧野先輩になった。

それに対して向こうはFWのシュラの代わりに沖田さんが入るようだ。

そんなザナーク・ドメインサイドを剣城が見つめていた。

「剣城、大丈夫か?」

「・・・ああ。」

きっと剣城にも思うところはあるだろうが表には出さない。

けど

「沖田さん、あんな体で・・・」

メイアの言葉を信じるのであればさっきよりはマシになってるはずだけど何時倒れてもおかしくない。

本人もそれを分かってるはず。それでも出てくるのか。

 

 

「そろそろね。」

グラウンドと将軍たちからは死角になっている屋根の上からメイアは試合が始まるのを待っていた。

そんな彼女の後ろに人影が現れた。

「ふぅ。やっと見つけたよ、メイア。」

「SARU・・・来てたのね。」

「ああ。ザナーク、彼が僕たちの同志足り得るかどうか。それに君のお気に入りの人を見にね。あ、あのおじさんも一緒に来てるよ。どこにいるかは知らないけど」

「別に私一人で十分なのに。ま、SARUらしいけど。」

奔放なリーダーに呆れつつも笑いながら返すメイア。

「へぇ、何か良い事あったのかい?アジトを出た時と随分顔つきが違うけど。」

「あら、そうかしら。でも・・・ふふっ♪内緒♪さ、始まるわよ。」

アジトを出たときの思いつめたような様子とは打って変わったメイアの様子に頭の上にハテナマークを浮かべるSARUだったが眼下で試合が始まろうとしていたのでそちらに意識を向けることにした。

 

 

「さ~大政奉還をかけた雷門VSザナーク・ドメインの試合が間もなく始まろうとしています!」

いつものごとくおっちゃん以下省略

監督は中岡さんにお願いしたのでワンダバは以下省略

 

そしてザナーク・ドメインのキックオフで試合開始

「沖田!」

「この身に賭けて、必ず幕府を守る!」

「速い!」

ボールを持った沖田さんがさっきのサッカーバトルで見せた。いやそれ以上のスピードで切り込んでくる。

「さっきよりスピードが上がってる!」

「また、ザナークが力を与えたのか。」

いや、それもあるだろうけど別に理由が有る気もする。

 

「あ、あはは。ちょっとやりすぎたかしら・・・」

 

「ザナーク!」

沖田さんからザナークへパスがつながる。まずい。

「ディザスターブレイク!!」

「やらせるか!アスタリスクロック!!」

なんとかシュートコースに入ってブロックを試みるが

「うわあああ!」

やっぱりザナークのシュートの威力は凄まじく破られてしまった。

「ミキシトランス、劉備!」

信介がミキシトランスしてザナークのシュートを受け止める。

「わあああああ!?」

しかし止めきれずゴールを許してしまった。

「この前よりパワーが上がってる・・・」

この前は信介が止めたシュートが今回は俺も

シュートブロックに加わっても止められなかった。明らかにあの時より強くなってる。

「まだ1点だ、取り返していこう!」

「ああ、天馬の言うとおりだ。」

天馬と神童先輩がみんなに声をかける。失点したDF側としては申し訳ないが取り返してくれるのを願うしかない。

 

 

「さぁ雷門ボールで試合再開ぃ!フェイがドリブルで上がって行くぞ!」

「はっ!お前らの動き止まって見えるぜ!」

ザナークがフェイから簡単にボールを奪った。

「メイズ、ラセツ、ゴブリス、沖田!お前らで遊んでやれ!」

ザナークがパスをメイズに出す。

ザナークの指示を受けた4人が、4人だけで攻め上がってくる。

完全になめられてる。

「あっ!」

「クソッ!」

しかしそれでも4人に俺たちは翻弄されてしまう。

ザナーク・ドメインの連中だけじゃなく沖田さんもスピードで翻弄してくる。

「いつまでもやられっぱなしだと思うなよ!フェイ!」

なんとかパスカットに成功しフェイにパスを出す。

「ミキシトランス、ティラノ!」

ボールを受け取ったフェイがミキシトランスしてドリブルで上がっていく。

ゴール前に切り込んだところでDFの女のヤシャが突っ込んでいく。

「スクリュードライバー!」

「うあああああ!!」

ヤシャの必殺技にフェイが吹っ飛ばされてしまう。

「そんな!ティラノでもダメなんて・・」

これまで化身アームドと並んでずっと雷門の頼れる攻撃のカードだったティラノが通じないなんて。

みんなフェイの力が通じなかったことにかなり動揺してる。

そんな中こぼれ球を剣城が抑えた。

ゴール前で拾ったのでそのままシュート体勢に入る剣城。

「デビルバースト!!」

「はああああ!サンドカッター!」

互いの必殺技が拮抗し火花が散り

「ああぁ・・・」

「くそ・・・」

ボールの勢いが完全に死に上空に軽く飛んだ後シュテンの手に収まった。

 

 

「さぁ、次は全員で遊んでやる。沖田!」

シュテンからザナークへ、ザナークから沖田にボールが繋がる。

「行かせんぞ!」

その沖田には坂本龍馬がマークにつく。

サッカーバトルの時の再現のように攻防を繰り広げる二人。

「ぐっ・・・ゴホッゴホッ!?」

しかし沖田がまた咳こみ体勢を崩しかける。

その好きを見て龍馬がボールを奪おうとする。

「くっ、させるか!」

しかし沖田はなんとかメイズへとパスを出し、また自分も走り出す。

そんな沖田を剣城が後ろから見つめていた。

「あんな体であんな動きを。それほどまでに幕府を守る意思は強いのか。やっぱり似ている、兄さんと。なら・・・」

 

 

「みんな、沖田さんのマークは俺に任せてくれ。」

「剣城。・・・分かった。任せたぞ。」

霧野先輩が剣城の目を見て沖田さんのマークを一任した。

そこから剣城と沖田さんの一騎打ちが始まった。

「沖田さん。あなたが幕府を守るために戦っているように、俺たちも大切なものを守るために戦ってるんです!全力で行かせてもらいます!」

「望むところだ。俺は絶対に負けない!」

「俺はあなたのように自分の身を捧げてでも大切なものを守ろうとした人を知っています!俺はその人を尊敬している!」

一進一退の攻防をを繰り広げる二人

「こっちだ!」

「しまった!?」

逆サイドのラセツがフリーになってしまってた。

ノーマークのラセツに沖田さんがパスを出した。

「ぬうううう!オーガブレード!!」

ノーマークから放たれたラセツ必殺シュートがゴールに突き刺さった。

「ゴール!!これで2vs0!そしてここで前半終了!!」

 

 

 




いかがだったでしょうか。
当初は剣城のミキシマックスらへんで分けようかと思ったのですが中途半端だったので全後半で分けました。
それと諸事情で話数のストックを作りたいなという思いもありました。
いただいたコメントへの返信でも申し上げましたが投稿頻度が週一になってしまい申し訳ありません。構想は頭にあるのですがいざ文字にするとなると・・・
出来るだけペースを上げるよう頑張ります。


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日本の夜明け

今回で幕末編完結です。
あと今回から行間を開けてみました。
自分のと他の作者様方のものを見比べるともう文字がギュッとなってて読みにくいかなと。
よろしければ今までと今回、どちらが読みやすいか感想いただけると嬉しいです。

では。


 

「クソッ!奴らの力がここまでとはな。」

 

「分かっていたことではあるが手ごわいな。」

 

やられっぱなしで前半を終えて思わず吐き捨ててしまった俺の言葉に神童先輩が続く。

 

「はい。それでも勝たなきゃいけないんです。円堂監督やサッカーを取り戻すために。そのためにもなんとかミキシマックスを成功させないと。」

 

天馬の言うとおりこの試合、負けられない。そのためにも沖田さんと龍馬さんの力が必要になってくる。

錦先輩と龍馬さんは気もあってはいそうであとは錦先輩次第ってとこか。

問題は剣城と沖田さんなんだが

 

「ゴホッゴホッ!!はぁ・・・はぁ・・・」

 

「ここまでだな。沖田、交代だ。」

 

「そんな、俺はまだやれ・・・ぐっ・・・ごほっ!?」

 

向こうの様子を見るに前半から飛ばしすぎた沖田さんは最早体力の限界のようで交代になりそうだ。それは別に良い。だが

 

「やれやれ。新撰組の隊長ともあろう者が情けないものだ。」

 

「あのやろう・・・」

 

自分たち幕府のために命懸けで戦ってる沖田さんに対してのお偉いさんたちの態度を見てるとブチギレそうになる。

 

「翼、落ち着いて。」

 

「そうだ、今は試合に集中だ。」

 

「・・・ああ。」

 

天馬たちに諫められとりあえず落ち着く。

沖田さんは葵たちが肩を貸してこちらのベンチで看病することになった。

その沖田さんの前に剣が立つ。

「沖田さん・・・あなたの力を貸してください。あなたの力があれば俺たちの大切な、大きなものを救えるんです。」

剣城が懸命に沖田さんを説得しようと頭を下げる。

そんな剣城に沖田さんは板挟みのような表情を浮かべてる。

「俺は新選組、幕府を守らなきゃいけないんだ!だから君たちには・・・」

 

 

「やれやれ、かなり苦戦してるみたいだよ、君のお気に入りと雷門は。本当に大丈夫なの?」

前半を終えてSARUは雷門がザナーク・ドメインに翻弄されてるのを見て些か不安を覚えたようだった。

 

「そうみたいね。」

 

一方のメイアはいたって平然といった様子。慌てるような素振りは全くない。

そんなメイアの反応が解せないSARU

 

「そうみたいって・・・分かってる?もしこのまま負けたら」

 

「心配ないわ。彼らなら最後には必ず勝つわ。見てなさい。」

 

「見てろって、その自信は一体どこから・・・分かったよ。」

SARUから見れば根拠の欠片もないのに自信満々のメイアに小言の一つでも挟もうとするも彼女の揺るぎない目を見て言葉を飲み込んだ。

 

(こんなもので終わるはずないでしょう。さぁ見せてちょうだい、翼。)

 

後半戦。二点差。前半戦は翼たちディフェンスのみんなに負担をかけちゃった。

後半はなんとしても俺たちが点を取らないと。

 

「さぁ、どこからでもかかってこい。後半も軽く遊んでやるぜ。」

 

「サッカーを舐めおって!ワシが本当のサッカーちゅうもんを教えてやるぜよ!!」

 

「ふん、そういうと思ったぜ。」

 

まずい。ザナークに乗せられて錦先輩が熱くなってる。

 

「錦先輩、落ち着いてください。まずは一本取り返して行きましょう。」

 

錦先輩はカッとなりやすいからザナークとは相性が悪いかも知れない。

なんとかフォローしないと。

剣城は・・・

さっきとの沖田さんとのやりとり。それに多分優一さんと・・・大丈夫かな。

ダメだ、今は試合に集中するんだ。

 

 

そして後半戦開始

 

「龍馬さん!」

 

「大政奉還、必ず勝ち取ってみせる!」

 

大政奉還をかけた試合。龍馬さんが意気込んでドリブルで上がっていく。

 

「甘いんだよ!」

 

「ういぃっ!」

 

けど相手にボールを奪われてしまった。

 

「ゴブリス、メイズ、エンギル!」

 

「まずい、みんな戻って!」

 

三人のパス回しで攻め込んでくるザナーク・ドメイン。

中盤でなんとかカットしなきゃいけないのにみんなスピードについていけない。」

 

「どうしたどうした。サッカーを教えてくれるんじゃなかったのか?」

 

「何を!!」

 

「シュートは」

 

「打たせないやんね!」

 

ザナークに翼と黄名子がマークについてくれる。

 

「ふん、ラセツ!これで止めだ!」

 

「しまった!」

 

ザナークにマークが集まったせいでまたフリーになってしまってる。

 

「信介!」

 

もう信介に任せるしかない。

けど

 

「ダメだ、体に力が入りすぎてる!」

 

3点差になると厳しくなるのを信介も分かってるせいで体が強ばってる。

あれじゃ思うように力が出せそうにない。

もうダメかと思ったときボールに飛びつく影が見えた。

 

「剣城!?」

 

 

「剣城!?」

頭上を越されもうだめかと思ったとき剣城がゴール前まで戻ってきてカットしてくれた。

 

「ここまで戻ってたのか・・・」

 

くそっ、情けない。

ゴールを守れないばかりかストライカーの剣城にここまでさせてしまうなんて。

 

「気にするな。」

 

そう言い残して上がっていく剣城。

そんな剣城をシンジャミが止めにかかるが抜き去る剣城。

 

「サッカーは守ってみせる!」

 

「ちっ・・・ふん、そう言うと思ったぜ。ヤシャ、オーグ!」

 

「ぐあっ!」

 

今度はふたりがかりでそれもラフ気味のプレーで止められてしまう。

 

「剣城!」

 

「剣城くん!くっ・・・」

 

剣城のフォローに天馬と太陽が入ろうとするが他のメンバーが邪魔する。

誰も助けに行けず剣城が痛めつけられ続ける。

それでも何度も立ち上がろうとする剣城。

 

 

そんな剣城を沖田はベンチから見つめていた。

 

(力の全てを賭けてぶつかっていく。それが君の大切なものを救いたいという思いなのか。)

 

沖田はハーフタイムに剣城に言われたことを思い返していた。

 

(彼は言っていた。自分たちも俺と同じだと。)

 

前半戦に剣城に言われた言葉。

ふと将軍たちに目をやる。

徳川慶喜と役人は剣城が痛めつけられるのを見て下衆な笑みを浮かべていた。

 

(く・・・彼を見てなぜ笑ってられるんだ。俺が守ろうとしているものはこんなものなのか・・・)

 

目の前の少年たちと自分が守ろうとしているものの落差に疑念が膨らむ。

 

「ぐあっ!!」

 

目を伏せると一際重い一撃を浴びた剣城の声に顔を上げる。

 

「まずい、このままじゃ剣城が持たねえぞ!」

 

「・・・沖田さん、力を、あなたの力を貸してください。稲妻のように切り込む。電光石火のスピードを。大切なものを、守るために!!」

 

(!?・・・本当に大切なもの・・・それは)

 

 

「俺の力を使え!それで君の大切なものが救えるなら!」

 

思い立った時には既に沖田の足は踏み出されていた。

 

「今だ!剣城と沖田をミキシマックスだ!」

 

「よ~し!ミキシ、マーックス!!!」

 

「はああああああ!!」

 

ミキシマックスガンから放たれた光が剣城と沖田を結ぶ。

そして光が弾けた後には少し肌黒くなり沖田の髪型を思わせる剣城が立っていた。

 

「ありがとうございます。沖田さん。この力、サッカーのために使わせてもらいます!」

剣城はあっという間に3人を抜き去りキーパーとの1vs1を作り出した。

 

「ふっ!菊一文字!!

 

「何!?」

 

あまりのスピードに完全に立ち遅れたシュテンは飛びつくことも出来ずゴールを許した。

 

「ゴール!2vs1!雷門詰め寄ったぞ!」

 

シュートを決めた剣城を見て沖田は完全に心を決めた。

 

(本当に大切なもの。それは堕落した幕府の平和という仮初のものではない。これからの、日本の行くすえを強く明るいものにすることだ。なら、そのためにこの残された命を燃やそう。)

 

 

「これが新撰組隊長、沖田総司の力か。だが、所詮悪あがき。俺の敵じゃないぜ!ゴブリス!」

 

ザナーク・ドメインボールで試合再開。

 

「いつまでもやられっぱなしだと思うなよ!霧野先輩!」

 

「おう!」

 

「何だと!?」

 

霧野先輩と連携してボールを奪うことに成功。

 

「いけ、天馬!」

 

「剣城と沖田さんの思い、無駄にはしない!太陽!」

 

剣城のゴールから流れが完全にこちらに向き始めた。

 

「フェイくん!」

 

「調子に乗るんじゃないよ!ラセツ!」

 

しかし流石にそう簡単にはいかずパスカットされラセツにボールが渡る。

 

「オーガブレード!」

 

「信介!」

「任せて!雷門のゴールはボクが守る!護星神タイタニアス、アームド!!」

 

先ほど決められた必殺シュートにもう一度ぶつかっていく信介。

しかし今度はガッチリとキャッチしてみせた。

 

「俺たちのシュートが止められただと!?ぐっ!・・・まただ。」

 

ザナークを筆頭に相手が動揺してるのが伝わってくる。

攻め込むなら今しかない。

 

「それ!」

 

信介がロングスローで前線につなごうとする。

しかしそのボールをザナークが空中でトラップした。

 

「認めねえぞ!俺たちが押されるなど!」

 

「ミキシトランス、ティラノ!」

 

ザナークにすぐさまミキシトランスしたフェイが突っ込む。

 

「邪魔だぁ!!」

「うああああ!」

 

しかしティラノでも歯が立たず吹っ飛ばされるフェイ。

 

「翼、止めるぞ!」

「はい。」

 

霧野先輩と俺で止める。

 

「戦旗士」「破壊神」

「どけぇぇぇ!!」

「「うわああああ!」」

 

二人で化身を呼び出そうとするもその暇もなくザナークに弾き飛ばされてしまう。

これまでとは違う、本気でぶつかってきてる、あれがザナークの本気かよ。

 

「力と力の勝負、嫌いじゃないぜよ!」

 

「貴様ごときに止められるものか!」

 

残った錦先輩も歯が立たず残すは信介だけ。

 

「俺様の力を思い知れぇ!・・・がっ!?っずあああああ!」

 

しかしフリーで渾身のシュートを打とうとしたとき、ザナークが苦しみ、力ないシュートが放たれ信介が余裕を持って止めた。

ピンチを乗り切ったが

 

 

「ぐ、ぐああああああ!!」

 

ザナークが苦しそうに叫びを上げる。

 

「これは、あの時と同じ!?」

 

三国志時代、孔明の園での試合中に起こったあの暴走がまた起きている。

 

「あああああああああああああああ!!!!」

 

尚も暴走を続けるザナーク。ザナーク・ドメインも含めた全員が呆然と見つめるしかない。

 

「ま、待て。あれは・・・」

 

そんなザナークの身に更に変化が起こった。

 

「化身!?」

 

ザナークの体からゾディアクが現れた。

だがそのゾディアクは様子がおかしい。

体を鎖のようなもので拘束され身動きが出来ないように。

 

「うおああああああ!」

 

「ザナーク!まっちょれ、今助けてやるぜよ!」

「何だって!?」

「ちょ、錦先輩!?」

 

苦しみ続けるザナークに錦先輩が駆け寄る。

 

「戦国武神ムサシ!どりゃああ!」

 

ムサシの刀で体を縛っていた鎖が断ち切られたゾディアクが姿を消し、それと同時にザナークの力の噴出が収まった。

暴走が収まったザナーク息も絶え絶えといった様子。

 

「ハァ・・・ハァ・・・なぜ俺を助けた?」

忌々しげとも理解できないともとれる口調で錦先輩に言うザナーク。

 

「そんなもん決まってるぜよ!おまんとサッカーで決着をつけるためぜよ!」

 

「お前・・・」

 

錦先輩の答えはなんとも錦先輩らしいというか単純なものだった。

 

 

「あいつ、そのために敵を助けたのか・・・なんてやつだ!」

 

けど、龍馬さんはとんでもないものを見たように驚き、錦先輩に感心してた。

この時代、命をかけた戦いをしてる龍馬さんには敵を助けるという行動は信じられないものなのかも知れない。

 

「今だ!龍馬が認めた錦の心の広さがあれば必ず成功するはずだ!」

「よぉ~し!ミキシ、マックス!!」

 

そのチャンスを逃さず大介さんの合図でワンダバがミキシマックスを敢行した。

 

 

「「ぬおおおおおお!!」」

 

 

ミキシマックスが無事成功し、龍馬さんの髪のようにワカメっぽい藍色の髪の錦先輩が誕生した。

 

 

「それがお前の新たな力か。面白い、受けて立つぜ!ミキシトランス、曹操!」

 

錦先輩のミキシマックスを受けてザナークがこれまでとは明らかに違う、ただ全力の勝負を楽しむ笑顔でミキシトランスした。

 

「おおお!クロシオライドォ!!」

 

そんなザナークに錦先輩が新しい必殺技、でかい水のドラゴンを呼び出した技で真っ向から破ってみせた。

 

「よっしゃ~~!行っけ~錦先輩!」

 

ザナークを抜いた錦先輩がドリブルで上がっていく。

それを見たザナーク・ドメインの面々が襲いかかる。

しかし、今度は龍馬さんのようなトリッキーな動きで次々に躱していく。

 

「神童!」

「ミキシトランス、信長!」

 

今度は錦先輩からのパスを受けた神童先輩がミキシトランス。

 

「刹那ブースト!」

 

 

「ゴーール!雷門追いついたぁぁぁ!」

 

神童先輩のシュートが決まりついに同点に追いついた。

 

 

「ちっ、同点か・・・だが、このままじゃ終わらねえ。この試合必ず勝つ!エルドラドのジジイどものためじゃねえ。俺のプライドが許さねぇんだ!」

 

「「「おう!」」」

 

ザナーク・ドメインが今までにないくらい真剣に、こちらを見下した素振りもなく真っ直ぐに見返してくる。

 

「こっちだって負けないぞ!絶対に勝つ!」

 

こちらも天馬に続く。

こっからが本当の勝負だ。

 

 

「行くぞぉ!」

「やらせない!ワンダートラップ!」

ドリブルで上がってくるザナークに天馬が必殺技を仕掛ける。

 

「あっ!」

しかしジャンプで交わされる。

 

「シュラ!」

「ラセツ!」

 

ザナークからシュラにシュラからラセツへとボールが繋がる。

「オーガブレード!!」

 

「もちもちぃ~きな粉餅~~」

「ナイス黄名子!」

 

「フェイ!」

 

シュートを止めた黄名子がすぐさまフェイにパス。

「ミキシトランス、ティラノ!古代の牙!!」

そのままフェイが必殺シュート。

 

今度はキーパーのシュテンが必殺技を繰り出した。

「サンドカッター。」

 

前半にも起きた対決。

シュートと砂鉄のカッターが拮抗する。

 

「そんなっ、また止められた!?」

今度もシュテンの勝ち。

 

そこからも一進一退の展開が続く。

試合終盤でみんな苦しいはず。

なのに全員がボールを必死になって追いかけてる。

歴史改変だとか任務だとかそんなこと全て抜きにした純粋なサッカー。

絶対に負けたくないっていう意地と意地のぶつかり合い。

これまでのエルドラドとの戦いでは無かった久しぶりのこの感覚。

ああ、やっぱりサッカーは楽しいな。俺は今、サッカーをしてるんだ。夢中になってボールを追いかけてると力が湧いてくる。

 

「ザナーク!」

 

ゴブリスからザナークへのセンタリングが上がる。

 

「これで決めるぜ!ディザスターブレイク!!」

 

膠着状態からついにザナークのシュートが放たれた。

今まで散々苦しめられた。けど、今度こそ!

 

 

「うおおおお!アスタリスク、ロック!!」

全力でシュートにぶつかっていく。

自分の必殺技が今までよりもずっと力が出てるのを感じる。

前半は破られた岩の壁が今度はシュートの威力を完全に殺した。

 

「何だと!?」

 

 

「よっしゃぁぁ!ついに止めたぞ!!」

 

自分でもびっくりだけどようやく良いとこ見せられたかな。

チームメイトだけじゃなくどこからか見てるだろうあの子にもガッツポーズ。

 

 

「ふふっ翼ったら♪ね、言ったでしょ?」

「はいはい。君の言うとおりだったよ。」

 

 

「太陽!」

 

太陽にボールを出し、天馬たちが上がっていく。

残り時間もうない。

 

「追加点はやらないよ!」

 

天馬、剣城、神童先輩の得点源となりそうな3人は完全にマークされてる。

フェイもボールを持つのは厳しそう。

 

「錦さん!」

 

太陽から唯一前線でフリーになっている錦先輩にボールが渡る。

キーパーが完全に警戒しておらず逆をついた。

 

「させん!」

「あそこから戻ったのか!?」

さっきまでこちらのゴール前にいたはずのザナークがゴール前まで戻っていた。

 

 

「魔界王ゾディアク!!アームド!!!」

 

最後の勝負とばかりにザナークが化身アームドする。

 

「戦国武神ムサシ!・・・アーームドォ!!」

 

錦先輩の化身がまさに甲冑のように錦先輩を包み込んでいく。

 

「錦先輩も化身アームドを!」

 

 

「ぬおおおおおおぁぁ!!」

「ぬううぅぅ!」

 

化身アームドした錦先輩のシュートをザナークが正面から蹴り返そうとする。

お互いの全力がぶつかり合い、そして

 

 

「う、があああああ!?」

 

 

シュートがザナークを破りそしてゴールに突き刺さった。

「ゴーーール!!雷門逆転!そして試合終了!!」

 

 

試合が終わりみんなが勝利の喜びを噛み締めるのも束の間

 

「約束通り、円堂監督を返してもらうぞ。」

 

「ふん。こいつのことか。」

 

そういってザナークがクロノストーンを見せてくる。

 

「ほらよ。俺は別にこれに興味はねえ。」

 

 

ぞんざいに円堂監督のクロノストーンを放り投げてくる。

ちょ、丁寧に扱えよ。天馬がキャッチしようと手を伸ばしたとき

 

 

「これはまだ返すわけにはいかない。」

 

 

「「「!?」」」

 

いきなりフードを目深に被った男が現れクロノストーンを回収した。

 

「お、おい・」

 

奪い返そうと動こうとした次の瞬間には男は姿を消していた。

それと同時にザナークもバイクに乗りどこかへ去っていった。

残された俺たちは呆然とする他なかったのだった。

 

 

「おう、もう行くんだな。」

「はい、俺たちはこの時代の人間じゃありませんから。」

 

ついに別れの時間がやってきた。

あれから徳川慶喜は大政奉還を認めるとだけ言い残して消えた。

何やら嫌な笑顔だったが大政奉還が認められたんだし良しとしよう。

 

「お前らとの出会い、絶対忘れないぜよ。」

 

変化といえば龍馬さんの口調が変わった。いや戻ったというべきか。

江戸に出てきて小っ恥ずかしくて方言を隠していたが錦先輩を見てまた使うことにしたらしい。

 

「お、それからもう一つ。毎日サッカーすることにした!」

 

「あ、そのポーズ!」

 

そういって龍馬さんがとったポーズは俺たちがよく知るあのポーズだった。

 

「おめえらに見せてもらった写真を見て痩せようと思ってな。」

 

なるほど、あれはダイエットしたあとの写真だったってことか。

 

「錦、天馬。おめえらなら絶対にサッカーを取り戻せる。まぁなんかあってもどうにかなるぜよ!」

「はい。坂本さん、お世話になったぜよ。」

「おう!またいつかリョウマコンビでサッカーするぜよ!」

 

「・・・行くんだね。」

「・・・はい。」

 

「君に出会って、俺は本当に守るべきものが何か分かった。ありがとう。」

 

「いえ、俺のほうこそ。」

 

剣城と沖田の方は静かな別れだった。

 

「君は本当に大切なものを見失うなよ。」

 

「はい。あなたからいただいたこの力、大切なもののために使わせていただきます。」

 

 

「お前らのためにもおれっちたちが強い日本を作ってみせるぜよ!」

 

「はい!未来から応援してます!」

 

「もしこいつがふざけたことをしたら俺が責任を持って叩き斬るさ。」

「へっ、お前におれっちが斬れるかな?」

 

なんとも不思議な光景だ。坂本龍馬と沖田総司がこうして肩を並べてるなんて。

 

「それじゃ、俺たちはもう行きます。ありがとうございました。」

 

天馬が代表して頭を下げる。

 

「あ、君。」

 

ゾロゾロとキャラバンに乗り込む中、沖田さんに呼び止められ耳打ちされる。

 

「あの時一緒にいた女の子のこと、仲間には内緒なんだろ?」

「・・・はい。」

 

「他にも君は何かと隠し事が多そうだ。そうそう言い出せないこともあるだろうが、もう少し打ち明けてみてもいいんじゃないか?そうしてこそ本当に共に戦う仲間だ。」

 

孔明さんといい痛いところをついてくる。

一度意識すると止まらなくなる。

 

「・・・もしそのときがくれば、そうします。」

 

今はこれしか答えられなかった。

 

 

「どういうつもりだ!俺たちの戦いの結果に介入しやがって!!」

 

どこかのヤブのなか、ザナークの怒号が響く。

その対象は先ほど現れたフードの男。

 

「君は何も分かっていない。これの価値も、そして君自身の力のことも。」

「俺自身の力だと?」

 

男の言葉に怪訝な顔のザナーク。

 

「そう、それは僕たちフェーダの一員たりうる才能さ。

「!?」

 

背後の木から聞こえてきた声にザナークが振り返ると一人の少年、SARUが木から飛び降りてきた。

 

「フェーダだと?」

「人間を超えた新たな人類、セカンドステージチルドレンの集い。それが私たちフェーダ。そしてザナーク、あなたも私たちと同じ存在。」

 

また別の木の影からメイアが姿を現した。

 

「ぞろぞろと・・・」

「どうだい、僕たちと共に来ないかい?僕たちセカンドステージチルドレンが世界を導くんだ。」

「・・・興味ねえな。」

 

SARUが差し出した手をザナークは取らない。

 

「そう。私たちと一緒にくれば彼ら、雷門とまた戦うことが出来るかも知れないわよ?」

「何?」

 

「僕たちは間もなくエルドラドに、古い人類に世界をかけたサッカーによる最終戦争、ラグナロクを仕掛ける。」

「・・・それがどうした。」

 

「もし彼らがエルドラドを倒せば、エルドラドも彼らを放っておかないだろうね。」

 

SARUとメイアの言葉に逡巡するザナーク。

 

「ふん。面白ぇ、口車に乗ってやる。だが、俺は俺のやりたいようにやらせてもらう。」

「そうこなくっちゃ。」

 

自分の手をとったザナークにニヤリと笑うSARUだった。

 

「さて、それじゃあそろそろアジトに戻るとしようか。こうして新入りも入ったしね。」

ザナークを連れ元の時代に戻ろうと切り出すSARU。

 

「エルドラドの方は?」

 

「ああ、ガルのみんなの情報によればあの連中が動き出したらしいよ。」

 

「パーフェクト・カスケイドね。それじゃあ・・・」

「うん。もうすぐにエルドラド本部への攻撃を決行するよ。別に負けることはないけど、あのチームは少し面倒だからね。だからメイア、君の休暇ももうおしまいだよ。さぁ帰ろう。」

 

そういってSARUは手を差し出す。

メイアもその手を取ろうとし、したところで手を引く。

 

「どうしたんだい?」

「ごめんなさい。一足先に帰ってて。戻る前に寄りたいところがあるの。必ずすぐに戻るから。」

 

「・・・分かったよ。ただし、猶予は2日だけだよ。」

「ええ、分かってる。」

 

「それじゃ、先に戻ってるよ。」

そう言い残しメイア以外の3人は幕末の時代から姿を消したのだった。

 

 

 

 




いかがでしたでしょうか。
ザナーク・ドメインって結局どういう立ち位置のチームなのか原作でも語られなかったし、チームとしては地味(ザナークを除く)な印象なのですがこの幕末での最後の攻防はかなり好きです。エルドラドのチームじゃないからこその試合という感じがして。

次回から恐竜編なのですがここ数回は執筆が思うように進まず投稿間隔が空くことが多くなってしまっているので一度落ち着いて書き溜めしてある程度一気に投稿してみようと思います。
更新を楽しみにしていただいてる方々にはご迷惑をおかけいたしますがご了承ください。
構想もモチベーションもあるので消えることは無いのでご安心ください。
それではまた。


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恐竜編
錯綜する想い


お久しぶりです。本当にお久しぶりです。
一年以上もお待たせして誠に申し訳ありません。
環境が突如激変というか社会の黒い荒波に押しつぶされていて執筆の時間がほとんど取れずに時間だけが過ぎてしまいました。
正直自分でも半ばモチベーションが維持できなかったりあきらめかけた時期もありましたが、こんなにも更新が止まってしまった作品を待っているという本当にありがたい言葉を見てこのまま消えるなんてしたくないと思いました。
今後もペースは以前のようにはいきませんが少しづつでも投稿を続けていきたいと思います。
それでは長らくお待たせしましたが本編をどうぞ。


 

現代 サッカー部部室

 

「折角ザナーク・ドメインを倒したのに円堂監督もサッカーも取り返せなかったな。」

「ザナーク・ドメインはエルドラドの正式なチームじゃなかったからね。こうなったらもう、エルドラドを倒すしかないよ。」

現代に帰還した俺たちは部室で幕末でのこととこれからのことについて話し合っていた。

ミキシマックスの力は手に入れたけど、本来の目的の円堂監督とサッカーは帰ってこなかった。言ってしまえば何も進展がなかった。

「エルドラドを倒すったっていつになったら戦いは終わるんだよ。」

「エルドラドの最強チームを倒すこと、それしかない。」

「最強チーム?」

フェイの言葉にみんな食いつく。

「うん。これまでの敵、プロトコル・オメガよりも、ザナーク・ドメインよりもはるかに強い相手。」

散々苦労したプロトコル・オメガややっとの思いで勝ったザナークたちより強いチーム。

そんなチームがいるのかよ。

「その名も「パーフェクト・カスケイドじゃ!!」アルノ博士!?」

いきなりアルノ博士が現れた。この感じ久しぶりだな、おい。

にしても

「パーフェクト・カスケイド?」

「うむ。エルドラドが誇る最強のエージェントたち。サカマキ・トグロウという優秀な指揮官が率いる全てにおいてパーフェクトな部隊。それがパーフェクト・カスケイドじゃ。してフェイ、まずいことになったぞ。」

「まずいこと?」

「エルドラドがサッカー禁止令のインタラプト地点にパーフェクト・カスケイドを配置したらしい。いよいよ奴らが動き出すということじゃな。」

「ということは、サッカーを取り戻すにはパーフェクト・カスケイドを倒すしかないってことか・・・って居ないし!」

あのじじい、大事なとこでいなくなるのほんとやめろ!

にしてもいよいよラスボスのご登場ってとこか。

 

タイムジャンプのためのアーティファクトが明日到着するということで今日は解散となった。

 

 

「今回のタイムジャンプも大変だったな。まさか大政奉還の場に出くわすなんてな!」

「ほんとほんと!俺たちもう歴史のテストで間違えられないよ。」

「確かに、申し訳ないどころじゃないな。」

他のメンバーと別れた天馬と翼は木枯らし荘への帰り道、今回のタイムジャンプについて話に花を咲かせていた。明日からに控える戦いから気を紛らわす意味もあったのだろう。二人とも努めて明るく見える。

今回は別行動も多かったため分かれていた時の事を含め話すことはいろいろあった。

坂本龍馬との出会いや近藤勇の顔が怖かっただの。

そんな話題をとりとめなく話しているとふと天馬が間をおいた。

「あ、あのさ翼・・・」

「ん?どうした?」

「俺たちと離れた時に会ってた女の「あ、おかえり。天馬、翼。」あ・・・」

「ただいま~秋ねぇ。」

「・・・ただいま。

意を決して切り出そうとしたがちょうど木枯らし荘に到着し、門前を掃除していた秋のお帰りの声に遮られてしまったのだった。

「で、何言おうとしてたんだ?天馬。」

「あ、ううん。やっぱり何でもない。」

「?ならいいけど。」

「もうすぐご飯の時間だから荷物置いたら居間に来てね。」

「「は~い。」」

 

 

「「ごちそうさまでした!」」

「はい、お粗末さまでした。」

「やっぱ秋ねぇのご飯は最高だな~」

「もう翼ったら!そんなこと言ってもお小遣いは増えないわよ。」

「いやでも秋ねぇのご飯はほんとに美味しいよ。」

天馬の脳裏に円堂監督の家で食べた奥さんの夏美の料理がよぎる。

育ち盛りの男子中学生、食生活は大切である。

「もう、天馬まで。ほら、今ならお風呂空いてるはずだから早く入っちゃいなさい。」

「は~い。」

秋に言われ風呂に入るため居間から出て行く天馬。

居間に残ったのは翼と秋だけ。

「それじゃ俺も」

夕食も終え天馬も風呂に行ったため自分の番が来るまで自室で過ごそうと部屋に向かおうとしたとき

prrrr・・・prrrrr

居間の固定電話が着信を知らせる。

「あら、こんな時間に電話?誰からかしら?」

近くにいた秋が電話の子機をとり電話に出る。

 

「もしもし、木枯らし荘管理人の木野です。・・・あ!はい、お世話になってます。・・・はい、いつも元気ですよ。・・・はい、はい・・・あ、ちょうど今そこにいるので変わりますね。翼~。」

「ん?誰?」

「あなたのお母さんよ。」

秋の口から出た名前を聞いた瞬間、翼の体が固まり思考は停止した。

 

 

どうして急に。

秋ねぇから子機を受け取り急いで外に出た。

「もしもし、・・・さん。・・・はい。」

「はい。元気です。・・・はい、今は部活は禁じられてるけど基礎体力のための運動はちゃんと欠かしてないですよ。・・・あ~テストの方はその、ぼちぼち・・・」

電話の向こうの母親が近況のことを聞いてくる。サッカー禁止令が出てる以上サッカーしてるとは言えないしタイムジャンプについてなどもってのほかだ。学校の成績の方も気にかけてくれてる。この間帰省したとき、成績について叱られたばかりだ。

普通の親子がする普通の会話が続く。なのに息苦しさを感じる。

「はい、次のテストは大丈夫です。・・・多分。」

「・・・はい・・はい。・・・それじゃそろそろ切りますね。・・さんも体には気をつけて。・・さんにもよろしく。また次の長い休みには戻ります。・・・はい、それじゃあおやすみなさい。」

別れの言葉を最後に電話を切り中に戻る。

「ふぅ・・・上手く出来たかな・・・」

「はい、秋ねぇ。」

「どうだった?久しぶりのお母さんとの電話。」

「まぁ、普通かな。・・さんも元気そうだったよ。」

「そっか、なら良かった。・・・そういえば翼ってお母さんとお父さんのこと名前で呼ぶよね。どうして?」

「・・・なんとなくかな。」

秋ねぇが悪気なく痛いところをついてくる。

なんとか取り繕って答える。

「あ、翼。お風呂上がったよ~」

そうしてるとちょうど風呂から上がった天馬が呼びに来た。

「分かった。すぐ入る。」

そそくさと居間から出て入浴セットを取りに自室に向かう。

けどその途中もどうしても顔が下を向く。足が進まない。

「ねぇ、翼・・・」

「どうした?」

「いや、その・・・最近、悩みでもあるの?」

「・・・!」

天馬の言葉に思わず息を呑む。

「最近の翼、たまに暗いときあるからさ。その・・・俺で良かったら聞くよ?」

天馬は普段はあんな感じなのに時々驚く程鋭い。いや、人のことを、仲間のことをよく見てるんだろう。

「・・・いや、天馬に世話かけるほどのことじゃないさ。だから、大丈夫だ。」

そう。人に相談するようなことじゃない。

これは自分の問題。

「・・・そっか。もし何かあったらいつでも相談してよ。」

「ああ・・・。それじゃ。」

天馬と別れ自室に向かった。

 

俺が風呂から上がって居間に翼を呼びに行ったとき、翼の表情がさっきまでと全然違っていた。

なにかこう、もやもやしてるような、余裕がないような、そんな表情だった。

最近の翼はたまにああいう顔をする。

悩みなら聞くといったときも一瞬考えて、すぐ無理やり笑ってごまかしてきた。

翼はなんで俺に話してくれないんだろう。俺は翼が悩んでるなら力になりたい。キャプテンとして・・・いや、親友として。

 

 

ここはどこだ?雷門中じゃない。でも見覚えがある。

『○○!早く部活行こうぜ!』

『今度の日曜お前んち行っていいか?』

なんだ?誰かが俺のことを呼んでるような気がする。

『○、学校の課題はもう終わったの?サッカーも良いけど、ちゃんと勉強もしないとお母さん怒るわよ!』

この女の人は誰だ?見たことがある、とても長い時間一緒に過ごした気がする。

この人は俺に話しかけてるのか?

いや、そもそもこの人が呼んでる名前は俺なのか?

『そんじゃ、また明日な!』

これは部活からの帰り道か?

この光景にデジャヴを感じる。

なんか疲れでめまいがするな。

なんだ?向こうから光が・・・トラックが。

おい、運転手、おい、おっさん、おいおい

 

 

「うわあああああああ!!!!」

 

「ハァ・・・ハァ・・・夢か。」

目覚めるとそこは見慣れたいたって普通の木枯らし荘の俺の部屋だった。

けど今の夢、あの人たちの顔や道、そして最後の。やっぱり

「なんちゅう夢を見てんだよ・・・最近は見て無かったのに。」

こっちに生まれ変わって最初の方に見たことはあった。

それもしばらく収まっていたのに。なんでまた・・・

「・・・目、覚めちまったな。早めに出るか。」

予定より1時間くらい早く起きてしまった。

二度寝なんて出来るはずもなく朝の支度をする。

 

「おはよう翼。どうしたの?こんなに早く。」

歯磨きなどを済ませ共同スペースに顔を出すと秋ねぇがいた。

いつもよりかなり早く起きてきた俺に怪訝そうに聞いてくる。

「いや、なんか目覚めちゃってさ。今日は出発の日だし早めに行こうと思ってさ。」

「そう。天馬ならまだ寝てるけど起こしたら?」

「う~ん、いやいいよ。どうせ気持ちよさそうに寝てるだろうし悪いよ。それじゃ先に行くから天馬が起きたら伝えといて。」

「はいはいって、待って。これ、朝ごはんのおにぎり。持って行きなさい。」

「ありがとう秋ねぇ。それじゃ行ってきます。」

「はい、行ってらっしゃい。気をつけてね。」

そうして木枯らし荘を後にした。

 

 

木枯らし荘を出て学校に向かう途中の河川敷、おにぎりを食べながら考える。

(どうして今になってあんな夢を・・・)

最初の頃に見たことはあった。けど雷門サッカー部に入ってみんなと過ごしてるうちに見なくなった。今日まで。

(・・・まだどこかで未練があるのかな。それとも・・・)

頭の中をいろんなことがグルグル渦巻いてる。

朝方ということで周りに人はいない。

「・・・みんな、今頃どうしてるんだろうな。申し訳ないこと、しちゃったな。」

同じサッカー部の同期や友達、それに父さん母さん。

お別れの言葉も言えずじまい。それどころか・・・

どうしても気が滅入り俯いてしまう。

 

「あれ?」

地面とにらめっこしながら歩いていると不意に鼻にラベンダーの花のような香りが入ってくる。この香りは

つられるように顔を上げると

「おはよう、翼。」

メイアがそこにはいた。

 

 

「ってあら?お~い聞こえてる?」

「あ、ああ。おはよう。」

思いもよらぬ登場に思わず放心してたらしい俺の顔の前で手を振るメイア。

「どうしてここに?」

タイムジャンプ先でもなければ会う約束もしてない。

それなのに現れたメイアに思わずハテナマークが浮かぶ。

「う~んまぁ色々理由はあるけど・・・一番はやっぱり、翼と話したかったからかな。」

「話したかった?」

「そう。・・・ね、あそこで少し話しましょう。時間はあるでしょ?」

河川敷のグラウンドを指し、サッカーボールを手に持って言うメイア。

ボールを蹴りながらということだろうか。

「いや、サッカー禁止令が・・・」

サッカー禁止令がまだ発令されてる今、サッカーしてるのを見られたりしたら。

「この時間なら全然人はいないし大丈夫よ。それに、見つかったら逃げればいいだけよ。さ、行きましょ!」

「あ、ちょ、ちょっと待って。」

俺の手を引いて坂道を駆け下りるメイア。手、柔らかい。

 

 

「それで、話しって?」

軽くパスを出しあいながら本題に入る。

「まぁいくつかあるけど、そうね。まずはタイムジャンプのことかしら。今度はどの時代に行くの?」

いくつか思い浮かべてるだろう中からまず切り出してくるメイア。

「ん~実はまだ聞いてないんだよ。」

「え~何それ。じゃあだれとミキシマックスするかも分かってないってこと?」

呆れたように行ってくるメイア。

しょうがないじゃん。

「ま、そうなるな。あぁでも取りに行く力?みたいなのは言ってたよ。」

「それって1の力~みたいなあれ?」

「そうそう。今回は7と8の力のダイナミックミッドフィールダーとフライングディフェンダーだってさ。」

「へ~。ディフェンダーなら今回こそ翼が選ばれるんじゃない?」

「さぁ、どうだか。正直自信ないね。」

正直俺が時空最強イレブンに選ばれるような器なのかな。

もちろん目指しはしてる、けど他にもっと適任はいるんじゃないかと思う。

「翼の実力なら大丈夫よ。自信持ちなさい。」

「だといいけど。」

 

「それで、メイアはまた俺たちの行き先に来るのか?」

気になってたことを聞く。

なんだかんだ毎回俺たちの行き先に来てくれてるメイアである。

行き先がまだ分からないけど今回も来るのだろうか。

「そうそう、2つ目はそのこと。今回は私はあなたたちとは一緒に行けないの。」

しかし帰ってきた答えは予想に反してNOだった。

「どうして?」

「それは・・・その・・・元の時代でやらなきゃいけないことがあるの・・・」

何の気になしに聞き返した俺の言葉に何故かとても答えにくそうにするメイア。

やらなきゃいけないこと・・・

まぁ彼女には彼女の事情があるか。

「・・・そっか。まぁ暇があれば連絡してよ。」

少し、いや結構寂しいなと思う。

なんだかんだ旅先で彼女の顔を見るたびに元気をもらっていた。

そんな彼女が来ないことに物足りなさを感じてしまう。

「ええ。・・・けど、とても大事なことで、もしかしたらそんな暇もないかも知れないわ。」

「・・・そうか。それは残念だ。ま、こっちも頑張るからメイアも頑張って。」

「ええ。」

 

 

「そう、それと、いよいよエルドラドの奥の手が動きだしたわ。」

「パーフェクト・カスケイドってやつらか。」

どうやらメイアはパーフェクト・カスケイドのことも知っているらしい。

アルノ博士と同じく忠告してくれる。

「なんだ、知ってたのね。・・・彼らはザナーク以上の力を持ってるわ。気をつけて。」

「やっぱりか・・・一体どれほどの・・・勝てるのかな・・・」

ザナーク・ドメインにやっとの思いで勝てたばっかだってのにすぐに更に強い奴らなんて。

「いつになく弱気じゃない、翼らしくもない。」

昨日からどうしてもネガティブになってしまう。

そんな俺にメイアも気づいたらしい。

「・・・何かあったの?」

何かあった。パーフェクト・カスケイドのこと、昨日のこと、今朝のこと。

いろいろあった。けど、こんなこと

「この間、翼は私のことを救ってくれたわ。もし今抱えてるものがあるなら話してみてくれない?」

「・・・・ごめん。今はまだ、話せない。」

「・・・そう。分かったわ。」

こんなこと彼女には、いや誰に話しても分からない。

だって、こんなこと誰も経験したこと無いに決まってるんだから。

「今はエルドラドとの戦いとミキシマックスのほうが先決だ。でも・・・」

最強のチーム、それに時空最強イレブンの力。

本当に上手くいくのか?今の俺じゃ・・・

「・・・ねぇ翼。」

「?」

しばらく沈黙の後、メイアが口を開いた。

「私と勝負しましょ。」

「へ?」

 

 

「私がオフェンスで翼がディフェンス、私が翼を抜いてシュートを決めたら私の勝ち。私からボールを奪うか私がシュートを外したら翼の勝ち。これでいいかしら?」

「いいかしらって」

俺が口を挟むまもなく話を進めるメイア。

急にどうしたってんだよ。

パス回しならともかく1vs1やってるのなんて見られたりしたら

「それじゃ行くわよ。」

「ちょっとは話聞いてくれませんかね!?」

俺の心の叫びを意に介さずおっぱじめるメイア。

そういえばメイアとサッカーで勝負するのは初めてだな。

前にスポーツ施設に行った時は周りの目があって出来なかったしその後のサッカーバトルは味方だったし。

 

そんなことを考えてると既に目の前まで迫って来た。

およそ一歩分の間合いを取って見合う。

流石に隙が無い。むしろこっちが動くのを待たれてる気分になる。なら

「・・・そこ!」

こっちから隙を作るために仕掛ける。

「ふっ!」

最初の俺の仕掛けは躱される。まぁこれでいけるとは思ってない。

「これなら、どうだ!」

右に仕掛けた俺を左から抜こうとしたメイアに、右手を軸に回転し方向転換してスライディング。位置的に想定外のはず。これなら

「ふふっ、甘いわ。」

「んなっ!?」

しかしそれは余裕を持ってジャンプで躱されてしまった。

完全に躱され地べたに寝転がる俺を尻目にボールをチョンとゴールに蹴り入れる。

「私の勝ちね♪」

そんな俺を勝ち誇った顔で見下ろして言うメイア。あ、やばいちょっと何かが目覚めそう。

「くそっもう一回だ!」

負けっぱなしで終われるか!

「ええ、いいわよ。」

笑顔で賽銭の要求に答えてくれる。

その顔は分かってましたよというような表情だった。

 

「このっ!・・・ああっ!?」

 

「フンッ!・・・んがっ!」

 

「もう一回!」

けどその後も何回挑んでもボールに触れることも出来ずやられっぱなし。

何度も転んだし、転ばされた。

いいようにされ息も上がってきた。

「はぁっ・・・はぁっ・・・勝てない・・・」

「どうする?まだ続ける?」

なのに目の前の女の子は涼しい顔をしてる。

正直全然本気じゃないのだろう。

「あ、当たり前だ!」

「ふふっ♪そう来なくちゃ♪」

絶対に一本取ってやる!

 

それから何度目の勝負か最早数えるのも辞めたころ。

「でりゃっ!!」

「あっ・・・!」

夢中でボールを、彼女を追い続けやっとの思いでボールを奪うことに成功した。

「よっしゃーー!」

「ふふふっ、やられちゃったわね。」

バカみたいに喜ぶ俺に優しく微笑むメイア。

その笑顔を見て冷静になる。

「・・・いや、何回中の一回だよ。結局全然敵わなかったし・・・」

正直ここまで差があるとは思わなかった。

今もこっちはヘトヘトなのに向こうは平然としてる。

こんなの勝ったなんて言えない。

「そうね、途中から数えるのもやめちゃった♪」

「うぐっ!・・・」

分かっていても面と向かって言われると傷つく。

「けど、それでいいじゃない。」

「え?」

「何回負けても、何回転んでも、諦めずに向かっていく。そうでしょ?」

俺の目を見て、でも彼女の目はここではないどこか、まるで過去のことを見つめるように言う。

その言葉に思わず聞き入る。

「これまでのエルドラドとの戦いだってそう。最初は全然敵わなかったけど、負けるたびに強くなって最後には打ち勝ってきたじゃない。」

「そうだけど・・・」

「だから今度も大丈夫。最初は打ちのめされると思う。けど、あなたたちなら・・・翼なら必ず乗り越えられるはずよ。」

彼女の手が俺の頬に触れ前を向かせる。

メイアの綺麗な目と俺の目が合う。

吸い込まれるような、それと同時に俺の中に飛び込んでくるような、そんな不思議な感覚。

「・・・そうだよな。勝てないなら、強くなればいいだけだよな。」

こんな当たり前のことを忘れてたなんて。どうかしてたんじゃないか?俺。

 

 

「元気出たみたいね。」

「ああ、体の方はへとへとだけど。・・・ありがとう。」

「気にしなくていいわ。私の為でもあるし、それにこの間のお返しよ。」

この間、幕末のことか。それこそ俺は何もしてないのに。

「それじゃ、そろそろ人も増えてきたしお開きにしましょうか。」

言われて周囲を見てみると徐々に人の数が増え始めてきていた。

道行く人がこちらを見ているのも見受けられる。

「そうだな。サッカーしてたってバレたらめんどくさいし。・・・それじゃ、俺は学校に向かうよ。」

「ええ。その前に、ちょっと待ってね。」

「え、もう行かなきゃ「いいから!」あ、はい。」

そういい俺の右手をとり手首に手をかざすメイア。

それから彼女の手から優しい紫の光のようなものが俺の手首の周りで輪の形を作っていく

「これは?」

やがてそれは彼女の髪の色と同じ色のミサンガのように俺の手首にまとわれた。

「お守りみたいなものよ。一緒に行けないけど、応援してるから。どうしても苦しい時があったら心の中で私を思い出してみて。きっと力になるわ。」

ミサンガに手をやると何だか力が湧いてくるような気がする。

「ありがとう、もしもの時はそうするよ!・・・それじゃ。」

「ええ。しばらくの間、さよなら。頑張ってね。」

「ああ、頑張る!メイアの方も頑張って!」

「ええ。・・・あ、最後に」

「ん?何?」

「リベンジはいつか試合で受けてあげる♪」

「んなっ!!その言葉忘れるなよ!絶対に勝ってやるからな!!」

「楽しみにしてるわ♪」

いつか絶対見返す!

負け犬っぽいセリフを残して俺は雷門中に向かって走り出したのだった 丸

 

 

「ふふっ♪・・・ラグナロクで待ってるわよ、翼。さ、そろそろ戻らなきゃね。」

 

 




いかがでしたでしょうか?
帰ってきてそうそうなんだか思い空気が流れていますが・・・
各キャラの抱えている心情をかけているとうれしいのですが・・・

投稿頻度がどうなるかはわかりませんが今後ともよろしくお願いいたします。


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