そらのオルガもの (ウルトラネオン)
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オルガ・イツカの転生

異世界オルガを作ってる兄貴達に触発されて書きました
悔いはない。
仕方ないじゃん!PCねぇんだよ!


「なんか静かっすね」

 

地球から遠く離れた星――火星に存在する最も大きな都市クリュセのとある一角のビル。

そこで鉄華団のメンバー、ライド・マッスはクリュセの現状に素直な感想を言った。

鉄華団は今、危機的状況に陥っている。ギャラルホルンの圧倒的な戦力によって何人もの団員やマクギリス率いる兵士達が死に、遂には火星まで追い込まれてしまい孤軍奮闘という状況に陥った。そこでオルガ・イツカ率いる鉄華団はマクギリス自身が提案し、行動に移している囮作戦によってギャラルホルンから逃げ延びるため打開策を探していた。

 

そして―――これまで鉄華団が積み上げてきた物とも言うべきか、今は離れているテイワズの中でも特に関係が深かったタービンズや、蒔苗東護ノ介の助力を得た事により脱出方法が見つかりそれを鉄華団のメンバーに知らせる為ライドとオルガは外に止めている車に向かっているとこだった。

 

「街の中にはギャラルホルンもいないし本部とはえらい違いだ」

 

「ああ。火星の戦力は軒並み向こうに回してんのかもな」

 

「ま、そんなのもう関係ないですけどね!」

 

ライドは嬉しそうにオルガにそう告げた。

 

「上機嫌だな?」

 

「そりゃそうですよ!皆助かるし、タカキも頑張ってたし!俺も頑張らないと!」

 

かつての鉄華団の団員だったタカキは蒔苗東護ノ介の元で懸命に働いていた事をモニター越しで分かっていたライドは自身も負けてられない、そう思っていた。

 

「(……そうだ。俺達が積み上げてきたもんは全部無駄じゃなかった。これからも俺達が立ち止まらない限り、道は続く)」

 

いつからだろうか。初めの頃はただ皆が馬鹿みたいに笑い合ったり時には喧嘩をしたりしてただ普通の生き方をしたかった俺達はいつからか火星の王、なんて物を目指していたのか。そんな生き方を突っ走ってここまで来てしまっていた。あの時の判断は間違っていたかもしれねえ。団員の皆を死なす事もなかったかもしれねえ。

だが、そんな状況でも俺達が貫いた道は無駄に終わった訳じゃなかった。俺達のとった行動でタービンズの皆や蒔苗東護ノ介が今度は俺達鉄華団を助けると、そう言ってくれた。そう、無駄じゃなかったんだ。

 

ならもう一度、今度は間違えないように一から始めようじゃねえか。

 

 

そう思った時だった。

 

突如横から車のブレーキ音が大きく鳴り響いた。音が鳴った方向を見たときは既に遅かった。車から黒いスーツを着た男三人がこちらに銃を向けて発砲し見張りをさせていたチャドに銃弾が当たる。当然近くにいたライドも命中すると思われたがそんなことはなかった。

オルガが庇ったのだから。

 

「団長…?何やってんだよ!団長!!」

 

「グゥッ…!うおああああああああっ!!!」

 

悲鳴とも思える叫び声と共に懐から銃を取り出し男達に向けて一発、二発と発砲する。その二発はヒットマン達に当たり内一人は車の中に倒れていった。するとヒットマン達は早々に車に身を隠してそのまま逃げていった。オルガは見事撃退することに成功したのだが……

 

「ハァ…ハァ…なんだよ…結構当たんじゃねえか…ヘヘッ」

 

嫌な汗と血を大量に流しながら弱々しくオルガはそう呟いた。

 

「団長……?」

 

「なんて声…出してやがる…ライドォ!!」

 

「だって…だって…!」

 

「俺は…鉄華団団長…オルガ・イツカだぞ…!こんくれぇなんてことはねぇ!」

 

「そんな…!俺なんかの為に!」

 

「団員を守るのは俺の仕事だ!」

 

「でも!」

 

「いいから行くぞ…!皆が待ってんだ!それに…」

 

ミカ、やっと分かったんだ。俺たちにはたどりつく場所なんていらねぇ。ただ進み続けるだけでいい。止まんねぇかぎり、道は続く。ふと、俺の頭ん中でミカのやり取りを思い出した。「謝ったら許さない」と。ああ、分かってる。団長である俺が皆の前で弱くて情けねぇ姿を見せる訳にはいかねえもんな。だろ?ミカ…

 

「俺は止まんねぇからよ…!お前らが止まんねぇ限り!その先に俺はいるぞっ!」

 

血が流れすぎてんのかもう立って歩くのがやっとだ。俺の後ろから声が聞こえてくるがもう頭に入りやがらねぇ。

だが…死ぬ寸前でも伝えなきゃならねえ事がある。お前らがこの先どんな地獄が会おうともその歩みを…生きてる事をやめないで欲しい。道は必ずある。今生きてるこの瞬間を必死に生きてりゃあ…それだけでいいんだ。

 

「だからよ…!止まるんじゃねえぞ…」

 

そう言って立つ力を失くした俺は皆が道を…先に進めるように指を前に出し倒れた。俺の意識が段々と薄れていく。俺は…鉄華団の団長としてうまくやれてたか?そうだと信じてえ。心残りがあるとすりゃミカだが…アイツはうまくやるだろきっと。

何せミカは…スゲェ奴なんだからよ…

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

オルガが死んだ後、鉄華団は悲しみにくれていた。中にはオルガの敵討ちをしようとする物も現れた。これはひとえにオルガには人望があり…何より鉄華団の皆はオルガを尊敬すらしていたのだ。が…オルガと家族以上の関係を築いていた三日月・オーガスはそれをよしとしなかった。

 

それはオルガが…団長が最後に残した命令ではないから。

 

「オルガの命令を邪魔する奴は誰であろうと潰す。…誰であろうともだ」

 

それは団長命令に背く団員も、という意味を含まれていたのだろう。団員達は息を飲む。

 

「いい?分かったなら…命令を果たせ」

 

そして…三日月は団員を逃がすため大軍のギャラルホルン相手に囮を買って出た。無論MSを扱える者も随伴していったが、やがてガンダムグシオンリベイクフルシティを駆る昭弘・アルトランドと三日月の駆るガンダムバルバトスルプスレスクのみとなった。

たった二人でギャラルホルン相手に大立回りするが火星の空より遥か上空…宇宙からダインスレイブが放たれ、グシオンとバルバトスは大破してしまった。

かろうじてまだ動く程度。が、三日月は最後の力を振り絞りバルバトスのリミッターを外しツインアイが赤く染まる。

 

「こんな所じゃまだ終われない…そうだろ?バルバトス…」

 

三日月の声に呼応するかのように狼のような鳴き声を上げた気がした。

 

「それじゃあ…行くかぁ!!」

 

バルバトスは目の前に写るMS全てをMSとは思えない程のスピードで次々と敵を薙ぎ倒して行く。あるものは腕で、あるものはテイルブレードで。がそこにジュリエッタの駆るレギンレイズが妨害に入った。

 

「さがれ!貴方達ではこいつには勝てない!」

 

とは言ったもののジュリエッタが後ろに向くと既にバルバトスによって破壊されたMSがあるのみ。

 

「何故!?何故貴方達は戦うんです!?こんな…大義や意味もないと言うのに!」

 

「……大義?何それ。意味…?それなら…」

 

意味はある。俺にはオルガがくれた意味がある。なんにも持っていなかった俺のこの手の中に、こんなにも多くのものが溢れている。アトラやクーデリア、鉄華団の皆。

そうだ。俺たちはもう辿り着いていた。俺たちの本当の居場所、それはきっと鉄華団なんだ。

 

だろ?オルガ…

 

 

「………っ!」

 

バルバトスがボロボロになりながらもレギンレイズに向かってテイルブレードを動かす。迎撃するためライフルを打つが既に力尽きたのかレギンレイズに届くことはなくバルバトスもただ体当たりをするのみだった。

 

「もう…意識が…っ」

 

ジュリエッタはブレードでバルバトスのコックピットのハッチを切り取るも中にいる三日月は既に意識がなかった。

最後にバルバトスの首をブレードで突き刺し高らかに掲げた。

 

そして三日月は―――

 

「(あぁ…また汚しちゃった。アトラに怒られる…クーデリア、一緒に謝ってくれるかな…)」

 

そんな何気ない事を思いながら静かに息を引き取った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…………い」

 

暗闇の中で遠くから声が聞こえてくる。俺は…死んじまったんじゃねえのか?それに…団長である俺、オルガ・イツカが団員の声なんて忘れる筈がねぇ。つまり知らねぇ奴の声だ。

 

「…た……か!」

 

あ?なんだ?聞こえねえよ。ったく。死んだと思えば今度は幻聴かなんかが聞こえてきやがる。しかも真っ暗だ。

あー、これはあれか。死んだ後の世界ってやつか?そんで迎えが来たとかなんとかじゃねえのか?

 

「おいあんた!大丈夫か!?」

 

「なんだよ…。出迎えにしてはえらく騒々しいな」

 

「は!?何言ってんだお前!?」

 

「そりゃあ俺が死ん……は?」

 

気がつくとずっと真っ暗だった筈の空間が自然に囲まれた川沿いに俺と男1人が写しだされていた。その状況に多少困惑したがそれより目の前の奴が大分焦っている様子だ。何かあったのか?

 

「いやお前の体、一体どうなってんだよ!?」

 

「どういうことだ?」

 

俺の体?別に特に変わった所は……………ん?なんだ?よく体を見てみると手があり得ない方向に曲がっている。手だけじゃねえ、足や色んなとこが180度回転してやがる!?

 

「どうやったらそんな体になるんだよ!?」

 

自分の体の状態を認識した瞬間、これまで味わった事もない激痛が全身を駆け巡り、激痛のせいでショック死した。

 

「グゥッ!!」

 

《キボウノハナー》

 

「だからよ…止まるんじゃねえぞ…」

 

オルタの死と共に希望の花が咲き、団長命令が頭に響いた。

 

 

 

 

「グッ……はっ!?」

 

気がつくと今度は目の前奴がかなり困惑した顔で俺を見ていた。なんだ!?何がどうなってやがる!?

 

「なんなんだよ今のは!?」

 

「俺が知るかよ!ていうか、お前確実に死んだ筈なのにどうやったら生き返るんだ!体もいつの間にか治ってるし!後希望の花ってなんだよ!」

 

「俺が知るかぁっ!」

 

 

こうして俺と目の前の奴…桜井智樹の出会いだった。

 



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キボウノハナーとチョップと未確認生物

タイトル落ち


とりあえず、俺の事情を聞くために家まで連れてこられたんだが…火星にはねぇ家の造りだった。二階立ての屋根を瓦にしたその家は前になんかの本で見た日本って国の家によく似ているな。

 

「取り敢えず自己紹介からだな。俺は桜井智樹」

 

「俺は…鉄華団団長…オルガ・イツカだぞ」

 

俺が自己紹介しようとした瞬間、何故か急に体の気だるさが出てきやがった。体を動かすだけでもかなりヤバイぞ…

 

「何で死にかけた状態なんだよ」

 

「よく分かんねえ」

 

自己紹介を終えると体の不調はなくなった。なんなんだよこりゃ!?一体なんでこうなるんだよ!?

 

「まあいいか。で、鉄華団ってなんだよ?」

 

「ああ?そりゃあ…」

 

丸っこいテーブルを挟んで俺は智樹にここまでの経緯を詳細に話した。死んだと思っていた筈がいつの間にかここに来てしまっていた事。火星の事。ギャラルホルンの事。

そして……鉄華団の皆の事。

初めは理解してくれてたのか、うんうんと智樹は頷いていたが段々と険しい顔になっていった。

 

「………これで終わりだ。どうだ、納得してくれたか?」

 

「ああ分かった」

 

「ホントか!?」

 

「ああ、怖い夢でも見てたんだな。俺も怖いって訳じゃないけど変な夢みるんだ。おかしな話だよな」

 

智樹がなんか腕を組みながら哀れんでる目で俺の事見やがる。こいつ理解してねえな!?俺はテーブルを叩いて身を乗り出した。

 

「夢じゃねえって!」

 

「夢じゃなきゃなんだ!火星どころか月に行くのがやっとだってのにMSだぁ!?そんなロボットアニメ今時流行らんわ!!」

 

「月に行くのがやっと?どういう事だ?」

 

「生まれてこのかたMSなんて聞いたことねえしそもそも月に行ったのだってごく最近の事なの!火星なんて精々衛星飛ばすのがやっとだよ!」

 

「なんだと!?」

 

俺をからかってるのかとも思えたが智樹の顔を見る限り冗談言ってるとは思えねえ。俺達の生きた時とはまるで違う。だとすりゃ此処は一体何処なんだよ?

 

「まあ言えない事情があるなら言わなくてもいいけどさ」

 

そういうわけじゃねえんだけどな。くそ、拉致があかねぇ。乗り出した体を引っ込ませると懐から何か落ちた。見たところ何かの手帳みてえなもんだが…

 

「それ、うちの学校の生徒手帳じゃん。何で持ってんだ?」

 

「いや、俺にもサッパリだな」

 

「ふーん」

 

生徒手帳?の中を見てみると俺のプロフィールが書いてあった。特に怪しいもんは書いてねえみてえだが、あえて言うなら俺の出身地の欄の所に馬鹿でかく「火星」って書いてやがるくらいか。

 

「オルガってさ、家何処なの?」

 

「火星…って言いてえとこだが正直な話智樹の話を聞く限りじゃそれもわかんねえな」

 

火星に行けない、じゃなくそもそも人類は火星に行った事がないって話なら別だ。現状行く手段がないだけじゃなく仮に行けたとしても鉄華団の基地があるのかも怪しい所だからな。

 

「てことは家がなくて無一文なのか?」

 

「………あっ」

 

そうだ!冷静に考えりゃ、智樹の話を聞いた限りじゃ恐らくここは地球の日本って所であってるだろう。だが、正確な位置もわかんねえし正直分かっても鉄華団の皆が居ないんじゃ話にならねぇ。

それどころか金もねえから今日明日の飯すら食えねえじゃねえか!

 

「行く宛ないんなら俺の家使うか?」

 

色々困惑した俺に智樹が提案してくれた。だが…

 

「けどよ、迷惑かかっちまうし何より親御さんとか…」

 

「あぁ、うちの両親遠くで仕事してるから当分帰ってこないのさ。金は仕送りしてもらってるし、特に問題はないぞ?」

 

「いいのか?ホントに?」

 

智樹はうん、と頷いた。出会って数十分だってのになんだよ、結構優しいじゃねえか…ヘッ

なら、鉄華団の団長としてしっかりけじめはつけなきゃならねえな!俺は智樹に頭を深く下げ誠意を見せた。

 

「すまねえ!感謝する!」

 

「お、おう」

 

まあ、智樹はちょっと引いてたがこんくらいなんてことはねぇ!恩を貰ったってことはしっかりとしなきゃなんねえし恩を仇で返すようなダセェことは出来ねえ。

智樹は家を案内すると言い出しそのまま案内されるままに歩いた。キッチン、トイレ、俺達が茶の間や個室等それなりにいい家だった。

最後に智樹の部屋を案内され、部屋に入ると本が散らばっていた。

 

「あぁん?なんだこりゃ?」

 

1つ手に持って中身を見ると雑誌だった。女の水着姿がプリントされた1つの雑誌、だが題名とかそういうのは書いてなかった。

 

「ほほう。オルガ君、それを手に取るとは…中々いい目を持ってらっしゃる」

 

智樹がニヤニヤしながら俺の手に持ってる雑誌を凝視していた。なんだ?これに何かあんのかよ?いざ、雑誌を開いてみるとそこにはとんでもねえものが写っていた。

 

「こ、これは…これは!?」

 

俗に言うヌード写真って奴だ。しかも下着とか着てやがらねえマジの裸だ。自分でも分かるくらい俺の顔がみるみる赤くなる。そして限界に達し、鼻血を盛大に吹いて倒れた。

 

「ウ゛ッ!」

 

オルガの死亡と共に希望の花が咲き団長命令が頭に響いた。

 

「だからよ…止まるんじゃねえぞ…」

 

「ああっ!?俺の本がぁっ!?」

 

俺の死亡をよそに床に染み込むくらいの鼻血を噴出したことで智樹の本は血まみれとなった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

俺の鼻血を綺麗に拭き取った後、もう見れなくなった本を泣きながらゴミ捨て場に持っていった智樹。

俺は妙に智樹の背中が寂しさを物語っているのが分かった。しくじったな。まさか俺があそこまで耐性がないなんてな。

……まあ女性の経験なんてこれっぽっちもねえがよ。

 

すると家のインターホンが鳴り響いた。なんだ?智樹の知り合いか誰かか?取り敢えず玄関まで向かいドアを開けると1人の女性が立っていた。

 

「あぁ、すまねえが智樹は今…」

 

「だ、誰ですか!?」

 

「ああ、いや実は…」

 

「ど、泥棒!!」

 

「は?」

 

泥棒と勘違いされたのか目の前の女性がいきなり俺にチョップをしてきた。まあ、流石に女のチョップなんざぁ痛くも痒くもねえだろうしひとまずチョップを受けてからでも事情を話せばなんとかなるだろ。

 

そう思っていた時期が俺にもあった。

 

 

チョップを振りかぶったまではいい。だが、途端にチョップの速度が速くなり文字通り目にも止まらないスピードと女性の割にはとんでもないパワーで俺を壁にめり込ませた。

 

「ガハッ……」

 

《キボウノハナー》

 

そのまま倒れ死亡したオルガは希望の花を咲かしたがあまりの強さに団長命令は響く事はなかった。

 

 

 

 

「ああっ!?そはら!?何してんだ!?」

 

オルガが希望の花を咲かせたとき、愛しのエロ本をゴミ捨て場に捨てに行った智樹が丁度戻ってきた。家の玄関の惨状を見ると原因はどうあがいても智樹の幼馴染こと、見月そはらにあると智樹は察した。

 

「と、智ちゃん!泥棒が…」

 

「こいつは泥棒じゃねえよ!」

 

「そ、そうなの?」

 

「事情を話すと長いけど取り敢えず泥棒じゃない!オルガ!?しっかりしろオルガ!」

 

「ウッ………グッ……はっ!」

 

智樹がオルガを全力で揺さぶることでなんとか目を覚ました。

 

「と、智樹…」

 

「大丈夫かオルガ!?すまねえ、俺の幼馴染が」

 

「俺ァ…鉄華団団長…オルガ・イツカだぞ…!こんくらいなんてこ………ウッ」

 

《キボウノハナー》

 

復活したオルガだったがそはらのチョップがオルガのダメージ許容量をオーバーし、再び死亡してしまった。

 

「無闇に人にチョップするんじゃねえぞ…」

 

またもや希望の花を咲かせ、団長命令が響いたのであった。

 

 

 

オルガが蘇生するとそはらに今までの経緯を話す為、再びテーブルについた智樹達。智樹はこれまでの経緯を全て話した。

……そはらって言ったか。どうやったらあんな馬鹿げた威力のチョップが放てるんだよ。やられた所を触るとまだ痛え…

 

「あ、あのごめんなさい。大丈夫ですか?」

 

俺が痛そうに傷を触ってるとそはらが謝ってきた。普通人を殺せるチョップを受けて大丈夫だと思うか?幸い俺だったから大丈夫だったがよ…

 

「まあ、なんとかな」

 

「やばいだろ?そはらのチョップ。幼い頃からあの威力だぜ?」

 

「そうなのか?」

 

「あはは…」

 

マジかよ。あの威力、下手するとミカに匹敵するぞ?てか、幼い頃から知ってるって事は智樹もあのチョップ喰らってるって事だよな。俺も大概だが、智樹も智樹でやばいな。

 

「にしても、火星ですか…」

 

哀れみを含んだ声を発しながらそはらは目を反らした。

 

「反省してんのかおちょくってるのかどっちだ?」

 

「いえいえっ!そんなことは!」

 

慌てて否定するそはら。…………まあ、いいか。これからしばらくの付き合いになる。終わった事は水に流して先に進もうか。

 

「まあいい。それより自己紹介だ」

 

そう言った瞬間、再び体の気だるさが出てきやがった。なんだよこの現象。もうよくわかんねえ。

 

「俺は…鉄華団団長…オルガ・イツカだぞ」

 

「見月そはらです。よろしくお願いします、オルガさん」

 

体の気だるさに負けず一礼をするオルガ。それに対してそはらも一礼を返した。

 

「なぁ、オルガ。なんでいつも死にかけなんだ?」

 

「分かったら苦労しねえよ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それで、オルガさんは学校に通うんですか?」

 

「ああ。一応そうなるな」

 

にしても学校か…生まれてこのかた行ったこともねえな。

クーデリアのアドモス商会が建てた学校なら知ってるがそれ以外はてんでわかんねえ。

 

「ねえ智ちゃん、守形先輩が言ってたやつオルガさんも誘ったらどうかな?」

 

「あー…そうだなぁ…」

 

「誰なんだよそいつは?」

 

先輩っていうからには年上の人間なんだろうが智樹の反応が妙におかしいな。年上には(人によるが)敬意とかそんなもんがあるだろうに若干、拒絶しているように見えるな。

 

「年上の先輩で新大陸部の部長でもあるんだよ」

 

「新大陸部ぅ?」

 

「そう。オルガさんは知らないと思うけど智ちゃん、ちょっと変な夢を見るのよ。だから守形先輩なら何か分かるかなーって想って相談したところ「それは新大陸だ!」って言ってるのよ」

 

?智樹の夢となんでその新大陸とやらが結び付くんだ?訳がわからねえ。

 

「守形先輩が言ってたんだけどな。今日の深夜12時に学会の人ですらわからない謎の物体がこの町の上空を通るらしいからもしかしたらそれと俺の不思議な夢は何か関係があるんじゃないか、とのことらしい」

 

「よく分んねえ」

 

「即答かよ…」

 

学会だかなんだか知らねえが、お偉いさん方にもわかんねえもんに俺が分かるわけねえ。そもそも新大陸ってのが分からねえ。なんだよ新大陸って。

 

「ともかく!その守形先輩に誘われてるからオルガさんも一緒にどうかなって」

 

「特に何かあるわけでもねえしなぁ…よっしゃあ!いっちょ行ってみるかぁ!」

 

あまり良く分からねえがどっちにしろ夜中に外に出歩く事は危険だからよ。団長である俺が守らなきゃならねぇしな!ついでに謎の物体とやらも俺らで暴いてやろうじゃねえか!

 

 

 

 

 

そして深夜12時………

 

『ごめんね、智ちゃん。お母さんがそんな夜中に外に出歩くなって言われてね…行けなくなっちゃった…』

 

『すまん、智樹。朝の一件のせいで教頭につかまってな…そちらには行けん。何かあったら報告するように』

 

 

俺と智樹を除いて誰も来ることはなかった。

 

 

 

「なぁ、オルガ」

 

「なんだよ、智樹」

 

「俺達ここにいる意味ある?」

 

「ああ、これっぽっちもねえな」

 

「もう知るかぁ!俺達は帰る!」

 

「ああわかったよ!連れてかえってやるよ!どのみち夜道は危険なんだ!俺が…お前を連れて帰ってやるよ!」

 

誰もこねぇこの場所でテンションが可笑しくなってるが此処にもう一時間近くは座ってる。なんで一時間近くかというと特にやることもなかったので早いうちに集合場所である大きな桜の木の下に来ていた。現在の時間は11時58分。この町の上空を通るのは12時ちょうどらしいが…それらしいものも見当たらねえ。

 

そして12時になるとピリリリリリリリと電話の音が鳴り響いた。

 

「誰からだ?」

 

「守形先輩からだな。もしもし先輩?……え?何?よく聞こえないっすよ?え、上空?上空がどうしたんです?」

 

「おい智樹!あれ!」

 

空を見上げると星空の中心に馬鹿デカい黒丸が出てきやがった。あれが…守形って奴が言ってた新大陸なのか!?

 

「なんだあれ…」

 

「智樹!危ねえから少し離れとけ!団員を守んのは俺の仕事だ!」

 

「俺いつから団員になったんだよ!?」

 

そうは言いつつも智樹は少し距離を開けた。しかしなんだありゃ!?あんな馬鹿でけえもんが地上にでも落ちてきたら洒落になんねえぞ!

すると、俺の予感が当たったのか1つの光が落ちてきた。

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「うおああああああああ!?」

 

 

俺が希望の花を咲かせる前に見た光景は…羽の生えた女が落ちてくる光景だった。




きゃーそはらさんつよーい


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希望の花も不協和音になる

団長!?なんでそんなに死ぬんだよ!?団長!?


《キボウノハナー》

 

空から飛来してきた羽の生えた女性がオルガに当たり死亡したことで希望の花を咲かせ団長命令を響かせた。

 

「だからよ…止まるんじゃねえぞ…」

 

「オルガ!?」

 

落ちてきた光はオルガに当たり小さなクレーターを作っていた。慌てた智樹はオルガの元に行くとあるものが2つ写っていた。1つは左手の指を指しながら死んでいるオルガ。もう1つは羽が生えた女の子。

ピンク色のショートヘアでかなり露出度の高い服を着た女の子だった。

 

「(いやいやなんで空からこんな得体の知れないものが落ちて来るんだよ!?これ絶対未確認生物だろ!?しかもオルガが下敷きになって羨ま……死んでるし)」

 

取り敢えずオルガを起こす事にし、全力でオルガを揺さぶった。

 

「オルガ!起きろオルガ!」

 

「うっ………グッ……はっ!」

 

苦しそうにオルガが起き上がると辺り一面を見回し、落ちてきたら女の子を見た。すると、智樹の方に向き直り

 

「一体なにがどうなってやがる!?」

 

「いや、俺にもサッパリ…」

 

すると空からとても大きな轟音が鳴り響く。その音と共に巨大な瓦礫が広範囲で大量に落ちてきた。

が…その落ちてきた瓦礫達は通常ではあり得ない角度に曲がりだし一ヶ所に集中的に落ちてくるようになった。その一ヶ所というのは………

 

「まさか!智樹逃げろ!」

 

「うぇ!?」

 

オルガは横に倒れていた女の子と智樹を担いで遠くに投げ飛ばしたと共に集中的にオルガに瓦礫が飛来してきた。

 

「うおあああああああああ!!!???」

 

当選、飛来してきた瓦礫がオルガを幾度となく殺した。例え希望の花を咲かせようが団長命令を響かせようが蘇生する度に毎度毎度殺されていた。キボウノハナーもオルガの死にすぎで段々原型がなくなり不協和音となっていた。

 

「オルガっ!…ちくしょう!どうしたらっ!」

 

智樹は、殺られているオルガを目前になす術もなくただ立って見るだけしかできなかった。が…ふいに左手に鎖を握ってるようなような感覚が現れた。智樹は左手を見ると何やら手に鎖が巻かれてある。この先を見ると……なんと女の子が目を覚ましていたのだ。

 

「私は愛玩用エンジェロイドタイプαイカロス。マスターご命令を」

 

エンジェロイド?なんだそれ?

智樹はイカロスと呼ばれる女の子に対して様々な疑問を浮かべていた。が、そんな思考は瓦礫がオルガに集中的に飛来したくる音でかき消された。なりふり構わず智樹はイカロスにしがみついた。

 

「頼むっ!オルガを助けてくれ!」

 

「分かりました、マイマスター」

 

イカロスが頷くと智樹を担ぎだし翼を大きく広げてオルガの元に飛び立った。

 

「おおおおおい!?死ぬっ!死ぬぅぅぅ!!!」

 

瓦礫の雨に飛び込むイカロスだが、決して飛来してくる瓦礫に当たること等なく、スピードを落とさないままオルガを抱え大きく空に飛んでいった。

やがて瓦礫の雨は止まり、安全を確認した上でイカロスは智樹とオルガを地上に降ろした。

 

 

 

こうして智樹とイカロス、そしてオルガを交えた生活が始まったのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ウッ………グッ……はっ!?」

 

ここは…智樹の部屋か?あれから俺はどうなった?確か…瓦礫の山が俺目掛けて降って来やがったから智樹と変な羽の生えた奴を投げて…その後が思い出せねえ。何が起こったのかすら覚えてねえな。

俺の体を見ても左手に鎖が巻かれてるくれぇだし横には布団で寝てる智樹と羽の生えた嬢ちゃんがパタパタと羽を動かしてるくらいで特におかしいとこはねえな。

…………ん?

 

「何やってんだぁぁぁぁぁぁ!」

 

「どわっ!?なんだなんだ!?」

 

昨日から今日にかけてまでわけのわかんねえ事ばっかりだ。極めつけは今の状況だ。つい魂の叫び声を挙げちまって智樹を起こしちまったのは悪いとは思うが…

 

「おはようございますマスターとマスター(小)」

 

「マスター(小)ってなんだよそりゃあ!?」

 

「はい、昨日マスターである桜井智樹様にインプリディングをしたのですが何故かバグを起こしてしまいマスターが9.5、マスター(小)が0.5という割合で私の主と定めました」

 

「………正直ピンと来ませんね」

 

マスターってのはわかったが何故智樹と俺がそうなってるのかサッパリだ。割合もかなり低いし。それにインプリディングってなんだよ。

 

「智樹!何がどうなってやがる!」

 

「あー…えーとな…」

 

昨日の事をあらかた智樹が説明してくれたが…このイカロスって嬢ちゃんの事以上に驚いたのがあんだけの瓦礫が俺に目掛けて降ってきたってのに生きてるってどういうわけだよ?俺の体なのによくわかんねえよ。

 

「まあ、俺も細かい所はよく分かんねーけどな」

 

「そうか…サンキューな」

 

と、そこで家のインターホンが鳴りそれと同時にそはらの声も聞こえてきた。

 

「智ちゃん、オルガさん起きてるー?入るよー?」

 

ドアが開いた音がすると足音が段々と俺達のいる部屋に近づいてくる事が分かった。

 

「智樹…これやべえんじゃねえか?」

 

「同感だ。この露出度高い未確認生物をそはらが見たら間違いなく朝一番のチョップが炸裂するな」

 

嫌な汗をかいてる智樹と俺が同時に頷くと俺は急いで押し入れを開け、智樹がイカロスに「押し入れに隠れなさい」と囁いて誘導した。が、そこでアクシデントが発生した。

誘導してるところを智樹が布団に足を絡ませてしまい転けちまったんだ。それもイカロスに倒れこむような形で。

大きな音が家中に響き、そはらが「智ちゃんどうしたの!?」と足音が速まり階段をかけ上がってくる音がする。

しかもこんな時に智樹は倒れたイカロスの胸に顔を埋めてやがる。うらやま………じゃねえ。こんな状況をそはらに見られたら確実に殺されるぞ!急いで智樹を起き上がらさせようとしたが――――

 

「……何やってるの智ちゃん?オルガさん?」

 

「「あ…」」

 

この状況、端からみたら女性に男2人で襲ってる構図にしか見えねえ。やべえ、そはらの顔が段々黒くなってきたしヤベェオーラをビシビシ発してやがる!?何か弁解しねえと!!

 

「ま、ま、待ってくれそはら!これには深い訳があ」

 

「そそそそそうだぞそはら!オルガの言うとおり!深い訳が」

 

あるんだ、という前にそはらの豪速球チョップが近くにいた俺に炸裂した。

 

「ウ゛ッ!」

 

《キボウノハナー》

 

これまたとんでもない威力で俺を床にめり込ませた。そはらが死亡を確認すると今度は智樹に向かってチョップを素早く繰り出した。

 

「い゛っ゛て゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!」

 

「あれ?」

 

が、オルガと全く同じ威力とスピードでチョップしたのにも関わらず智樹は痛みは感じるが死ぬまではいかなかった。まあ、精々たんこぶが2つできてるくらいか。

 

「智ちゃんを殺す気でしたのになんでかな?」

 

「いや人を殺すようなチョップしないでもらえます?」

 

頭を抑えながら言うものの智樹は気絶すらしてなかった。どうして殺人チョップのダメージが下がったのか。その理由はただ1つ。

 

「俺は…鉄華団団長…オルガ・イツカだぞ…!こんくれえなんてことはウ゛ッ!」

 

《キボウノハナー》

 

オルガが智樹のダメージを肩代わりしていたからだ。そはらのチョップから蘇生したオルガは今度は智樹のダメージがオルガに流れ込み再び死亡し、希望の花を咲かせる。

 

「だからよ…理由も聞かずチョップするんじゃねえぞ…」

 

団長命令が頭に響いたのであった。

 

 

 

 

あれから蘇生するとそはらに今までの経緯と事情を話した。時々顔色が怖くなったがチョップが出てくることはなかった。

で、今から学校に行くわけだが……

 

「この鎖どーすんだ…?」

 

智樹が言っている通り、俺達の手に付いてる鎖をどうにかしねえとイカロスが付いてくるはめになる。そうなったら学校に羽の生えた嬢ちゃんを鎖で引っ張ってくるっていう結構ヤバい状況になりやがる。

 

「それでしたら鎖は伸縮自在ですし、透明化することもできます」

 

「なんだよ…結構問題ねえじゃねぇか…ヘッ」

 

それなら話が早い。イカロスの説明通りならこんくらいなんてことはねぇ!一通り身仕度を終えた後、そはらが「早く行かないと遅刻しちゃうよー!」と声をかけてきた。

学校初日に遅刻なんてだせぇ真似はできねえ。ならとっとと景気よく行くかぁ!

 

「オルガ!早く来ねえと置いてくぞ!それとイカロス!家でしっかり留守番してろよ!」

 

「待てって言ってるだろうが!」

 

「はい、分かりました。いってらっしゃいませマスター。マスター(小)」

 

マスター(小)ってのがちっと気になるが…。智樹が先に家を出たため、俺も後に続いた。

ったく、団長である俺より先に出るとは中々いい根性してるじゃねえか智樹!俺も負けてらんねーな!

 

俺達は全速力で走った。田んぼを越え、民家を抜け商店街をくぐっていった。校門に入った瞬間学校のチャイムが鳴りなんとかギリギリセーフみてえだった。

ちなみに、学校での俺の事については事前に先についていたそはらが説明してくれてたらしく転校生という形で入る事ができた。智樹といい学校といい怪しむという事はしねえのか?まあ、ありがたい話だがよ。

 

教室に入室した俺は担任の先生とやらにクラスの皆に自己紹介してくれと頼まれた。まあ、初めての学校だ。舐められねえようにビシッと元気よく挨拶といこうじゃねえか!

 

「俺は…鉄華団団長のオルガ・イツカだ。皆ァ!よろしく頼むぜぇ!」

 

今度の挨拶は死にかけではなく団長としてビシッと言えたそうな。



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カードは世界を破壊する(前編)

オルガはどうしてそんなに耐性がないの…?


「ただいまー」

 

「帰って来たぜぇ」

 

「お帰りなさいませ、マスター。マスター(小)」

 

学校から帰って来た俺達を出迎えてくれたのはイカロスだった。心温かく出迎えた…かは分からねえ。何せ無表情だからな。

初めての学校はまあまあよかった。授業もいいし、クラスの奴らは皆フレンドリーだった。幸先がよかったが、昼飯を用意できてなかったのは痛かった。

幸い、智樹とそはらが飯を分けてくれたから午後の授業はなんとか凌いだがな…。

んで、守形って奴にも会ってきたが…ある意味すげえ奴だったな。思わず兄貴呼びしちまったよ。

智樹がべちゃくちゃと俺の事を(ほぼ巻き込むような形で)喋りやがったせいか「火星もまた新大陸の1つ」なんて言われたな。

まあ、変な奴って思われるよりかマシか。

 

「イカロス、しっかり留守番してたか?」

 

「はいマスター。ご命令通りしっかり留守番していました」

 

「そっかぁ!サンキューなイカロス」

 

「はい、ありがとうございます。マスター(小)。―――ではマスターとマスター(小)、楽しめる事を何なりとご命令下さい」

 

「命令?」

 

「はいマスター。私は愛玩用エンジェロイドです。主を楽しませる事が私の喜び。何なりと」

 

………智樹の事はマスターって言うがなんで俺は(小)なんだ?確か0.5割くらいしか命令権ないだったか?それなら確かに(小)だが……いかんせんむず痒いな。

 

「なぁ、イカロス。智樹の事はともかく、俺の事はマスター(小)なんかじゃなくてオルガでいいぞ?」

 

「それはご命令ですか?」

 

「え…あ、いや命令じゃねえな」

 

「では、お断りします。マスター(小)はマスター(小)のままでよろしいですね?」

 

「まっ、待ってくれ。その…なんで(小)なんて俺に付くんだ?」

 

「それはご命令ですか?」

 

「は?いや…別に命令ってわけじゃ…」

 

「なら問題はありません。マスター(小)はマスター(小)でよろしいですね?」

 

「ちっともよくねぇよ!」

 

なんだよこの嬢ちゃん!?なんか当たりきつくねえか!?智樹に対しては従順な所ありそうだが俺の場合妙にキツい気がするぜ…。後(小)ってなんだよ(小)って。

おいこら智樹。見せもんじゃねえんだぞ。腹を抱えながらゲラゲラ笑うな。お前のおかげで少しイラッてきたぞ?

 

「イカロス。オルガもそう言ってんだからそうしてもいいんだぞ?」

 

「はい分かりましたマスター。では、これからマスター(小)からオルガさんに呼び方を変更します」

 

負に落ちねえ。俺の事は聞かねえのに智樹の言うことはすぐ聞くってかなり贔屓してんじゃねえか?

 

「オルガさんはあくまで0.5割です。絶対的な命令権さございません」

 

「…ああ、そうか」

 

「でもさ、イカロスって具体的には何できるの?」

 

「はいマスター。大体事は何でもできます。ご命令をくだされば今すぐ実行するようにできているので」

 

「じゃ、じゃあさ!その…か…からっ…金かな…!」

 

智樹ちょっとチキッたな。しかし金か…。イカロスといえども今すぐ金を持ってくるなんてそんな大層な事はできねえだろ。

 

「1000億ほどあればよろしいですか?」

 

何処から取り出したのか、いつの間にかイカロスの手には一枚のカードが握られていた。

 

「確かにそれだけあれば困らないよねー。……いやいや、冗談!冗談だからな?」

 

転送(トランスポート)

 

イカロスの持っていたカードがキューブ状に分解されると光だしちょこんと小さな羽とアンテナがついた電卓みてーなもんが現れた。イカロスがそれを操作しチーンと軽快な音を出すと―――

 

「どわっ!?」

 

大量の札束が降って来やがった。そして……

 

「ウ゛ッ゛!」

 

札束に直撃した俺はそのまま死亡した。

 

《キボウノハナー》

 

「だからよ…上から物降らせるんじゃねえぞ…」

 

また希望の花を咲かせ団長命令が響いた。

 

 

 

「うーん、オルガって薄ペラ耐久なのな」

 

「はい。オルガさんは薄ペラ耐久ですね」

 

「うるせぇ!こっちだって好きでやってるわけじゃねえよ!」

 

札束に埋もれながら智樹がそう言うとイカロスも便乗してきやがった。札束に埋もれて死ぬなんて何処の国行っても1人もいねよ!

 

「ていうかさ、イカロス。そのカードなんなの?」

 

「これはこっちで言うところの転送装置というものです。マスターが望んだ物をこのカードを媒介にしてシナプスから取り寄せてくる物で…」

 

「んん?シナプスってなんだよ?」

 

「すみません。それはお答えできません」

 

お?とうとう智樹にも反抗期か?

 

「私達エンジェロイドはシナプスに関する事全てに一種のプロテクトを掛けられています。ですので喋ろうとしても喋る事ができません」

 

………正直ピンと来ませんね。チラッと横目で智樹を見ると頭に花咲かせてやがる。恐らく智樹も何のこっちゃわかってねえんだろ。…………頭に希望の花咲かせてやがる。ヘヘッ。

 

「オルガさん。何故だかよく分かりませんが面白くないという感想を持ちました。………何故でしょう?」

 

「………すみませんでした」

 

ああ、これっぽっちも面白くなかったな。てかサラッと俺の心を読んで来やがったなイカロス?

 

「じゃあさイカロスこんなことできるか?」

 

智樹が何やらイカロスの耳にゴニョゴニョ伝えると「可能です」と言って再びカードを取り出し、装置を取り出した。その装置はというと―――

 

 

 

 

「グフッ…!グフフフッ…!」

 

ゲス顔で笑っている智樹と俺、イカロスはとある部屋に来ていた。そのとある部屋ってのはそはらの部屋なんだが………

 

「あの、マスター。これには何の意味が…」

 

「いいかねイカロス君!これは全国男子が望んで止まない願望の1つなのだよ!」

 

「ヘヘッ…」

 

()()()()()()()()()()()()。どうやら智樹が出してくれって言った装置は透明化する装置だったようだ。

 

「とうっ!」

 

「きゃぁっ!?」

 

智樹がそはらの胸を揉んでいきやがった。見事なたわわなそれはプルンと震えていた。

 

「ウ゛ッ゛!」

 

堪えきれなかった俺は大量の鼻血をそはらの部屋に放出し大量出血で死亡した。

 

《キボウノハナー》

 

「え!?何!?血!?」

 

「まずい!イカロス、オルガ連れて撤収だー!」

 

「了解しましたマイマスター」

 

智樹が急いでそはらの部屋を出ると、イカロスはオルガの頭を鷲掴みしてズルズルと引きずりながら部屋を出た

。そんなことも知らない部屋に1人残されたそはらは幽霊の仕業と勘違いし、目をグルグル回しながら絶叫するハメになった。

 

 

 

「オルガ!何でお前はそんなに耐性ねぇんだよ!」

 

「うるせぇ!エロい経験なんて今まで一度もねえよ!耐性なんかあるかぁ!」

 

前じゃ、女性と話した事は少なからずあるがそこまで行った思い出なんてこれっぽっちもねえよ!昭弘とミカがいい線いってたんじゃねえかぐらいかねえよ!

あ、でもおやっさんとメリビットさんはできてるって聞いた事はあるが…実際どうなったんだろな?

 

「え……?ないの……?」

 

「ああ、一度もな!」

 

「そうなんだなっ……グスッ……よく頑張ってきたなっ…!」

 

なんか智樹が泣き出したぞ。改めて考えてみりゃそはらにあんなこと(意味深)する当たり智樹は経験豊富なのか?

妙に手つきが慣れてたから恐らく……駄目だ。考えただけで虚しくなってきたな。

 

「よぉし!俺が一肌脱いでやるよ!」

 

「あ?どういうことだ?」

 

「俺がお前を男にするって言う事だぁっ!」

 

大声で智樹が叫ぶと智樹の背後にまるでザバーンと大きな波が立ったかのようなエフェクトが見えた気がする。

しかも…なんだこの感覚は!?智樹のオーラみてえなものが見えてく気もするし特に股関部分が強烈に強い気がするぞ!?

それだけじゃねえ、背後に変な帽子被った巨大なじいさんが見えやがる。一体何モンなんだ智樹は!?

 

「イカロス!俺の言いたい事は分かるな!?」

 

「イエス、マイマスター」

 

イすかさず数枚のカードをイカロスが取り出す。それからはかなり酷かった。透明化してるとはいえ裸にさせられるわ、ちっこくなって女性の谷間に入るわスカートは平気でめくるわ、ありとあらゆるエロすを智樹に見せつけられた。まあその度に毎度《キボウノハナー》が鳴ってたけどな!

夜中になり飯時の時間だから智樹の家に戻ってきたがかなりクタクタになっていた。家に戻ってくる途中、イカロスに担がれながら帰って来たのは正直恥ずかったがよ。

 

「はぁぁぁ……結局一度も慣れることなかったなオルガ」

 

大きくため息をつきながらテーブルに肘を付いてる智樹。

なんか呆れた顔をしてるが仕方ねえだろ経験ねえんだから。

 

「マスター、オルガさん。ご飯できました」

 

厨房で飯作ってたイカロスが飯を持ってきた。テーブルに出された物はそれこそ絵本とかで出てくるような豪華な物だ。一言いただきますを言うとすぐさま飯にありついた。

 

「これめっちゃ美味ぇ!イカロス料理できたのか!?」

 

「はいマスター。食材は量子食材変換装置で…」

 

「ああ、細かい事はいいよ。にしても凄く美味いぞイカロス!ありがとな!」

 

「はい…」

 

飯がっつきながら智樹とイカロスを聞いてたが…なんなんだよありゃ。あれじゃまるで夫婦かなんかだぞ?しかも、イカロスは顔がほんの僅かだが顔が赤くなってやがる。

……ここは何も言わずそっとしとくのがいかもな。

 

 

 

「はぁ〜一杯食った〜」

 

「もう腹ん中になんも入らねえなこりゃ…」

 

腹をかなり膨らませたから茶の間で寝転ぶ俺と智樹。正直あんまし動きたくねえなこりゃ。

 

「あの、マスター。次のご命令はいかがしますか?」

 

「ん〜?そうだな〜…ここまでしてきたら後は世界征服くらいしかねえな!」

 

「世界征服…ですか」

 

世界征服…か。そう言えば、前じゃ俺は火星の王なんてもんを目指して……いや、正確には早く皆を楽にしてやりてぇって気持ちで目指してたが結果は言わずもがな、団員を死なせてしまった事もあったな…。あいつら、元気にしてっかな…。

 

「智樹、冗談に済ませる内はいいが世界征服とか…王とかになるのはあんまし勧めねえぞ?」

 

「何でだ?」

 

「王ってのは大きく視野を見る必要がある。だから…身近にある大切なもんを失う事になっちまう」

 

仲間の想いを無駄にしねえと言ったとはいえ王なるって急かしすぎたせいで多くの団員を失った。仲間を失えばその想いを無駄にしねえと息巻いてさらに戦う。そうする事で更に仲間を失う。

それを、死ぬギリギリまで気づく事ができなかった。そういう意味ではタカキの取った行動こそが正解だったのかもな。火星の王なんて身の丈にあわねえ、なんて事は言わねえがそれこそ家族とも言える仲間達を失うよりか遥かにマシだったがな。

 

「な、何だよ急に真面目になって。冗談だよ冗談!」

 

「ハハッ。まあ、死なねえ限り俺達はずっと歩み続けるんだ。後悔のねえ、自分が決めた事を心に刻んで歩めば…きっと悪くねえ人生になるんじゃねえか?」

 

「……かもな。だけどなオルガ、死にまくってるお前に説得力なくねえか?」

 

「かもな。じゃ、俺もう寝るぜ」

 

「おう、おやすみ〜」

 

「おやすみなさいませ、オルガさん」

 

 

次の日……

 

 

「智ちゃーん、オルガさーん早く起きないと遅刻しちゃうよ〜」

 

外からそはらの声が聞こえてくる。相変わらず大きな声だな。智樹と俺は布団から目覚めると家の玄関まで向かった。あ〜、寝癖で頭が変なことなってるな…こりゃ急いで髪整えねえとな。

玄関に着くと智樹が扉を開けそはらを出迎えた――が

 

「あれ?そはら」

 

そこは誰もいなかった。下を見ると何か服が落ちてやがる。

 

「なんだこりゃ?」

 

俺が落ちていた服を持ち上げるとスカートもあったんで恐らく女性がつける服だろう。しかもこの服は…

 

「それ、学校の制服じゃね?女が着るタイプの」

 

智樹の言うとおりこりゃ学校の制服だな。なんでこんな所に?と、そこで後ろからイカロスが出てきた。

 

「おっ、イカロスじゃねーか。おはようさん」

 

「イカロスおはよう」

 

「おはようございますマスター。オルガさん。後、数時間でこの世界の征服が完了します」

 

それは、早朝に聞くにはあまりにもデカ過ぎてぶっとんただ話だった。

 



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カードは世界を破壊する(後編)

続きです。ちょっと短いです


「ま、待ってくれ!そいつは一体どういう…」

 

「マスターがおっしゃったように世界征服を実行しています。ですが、マスター、オルガさんの命令を忠実にこなす人間がいないため()()()()()()()()()し、世界を作り変えます」

 

「まさか征服って昨日俺が言った…!」

 

マジかよ!?イカロスの持ってるカードはそんな事も出来るのか!?

 

「おいイカロス!早く止めてくれ!」

 

智樹が懇願するようにイカロスの肩を掴むがイカロスの答えは非常だった。

 

「できませんマスター。私はそういう風に作られていないので…」

 

「………くっ!」

 

「あ、おい!智樹!」

 

イカロスの肩を放すとパジャマ姿で何処かへ駆け出す智樹。それを追いかけるように俺は走り、イカロスは空を飛んだ。

 

田んぼを通った。人はいない。

 

民家を通った。人はいない。

 

商店街に行った。人はいない。

 

公園、公共施設に行った。人はいない。

 

学校…も人はいなかった。

 

そうして町を走り回っても誰1人としていなかった。

あるのは居たという痕跡のみ。町を全て回っていくうちの夕方になる。昨日見た夕日は綺麗だったが何故か不気味に見えやがった。

 

「はは…誰もいない…」

 

「智樹…」

 

ベンチに座った智樹は顔を上げる事もなくずっと下を向いていた。

 

「申し訳ありませんマスター。てっきりご命令かと……。お望みとあれば私を廃棄処分になさいますか?」

 

「…………そう、だな…そうできたらどれだけい―――」

 

「分かりました」

 

イカロスがカードを取り出すと一丁の銃を呼びだした。

引き金に指をかけ銃口を頭に持っていく。

 

「待てイカロス!早とちりすんじゃねえっ!」

 

俺がイカロスを静止させる前にイカロスは引き金を引くと

パンッと重たい音が辺りを響いた。流石に智樹も驚愕した顔だった。が―――

 

「ウ゛ッ゛!」

 

至近距離で向けていたにも関わらず銃の弾丸はイカロスに当たることなく俺に当たりやがった。

 

「え……?」

 

「なんて声…出してやがる…!イカロス…!」

 

イカロスは困惑していた。それもそうだ。本来ならあり得ないことなんだからな。が…この力、なんとなく分かってきたぞ。

 

「智樹っ!イカロスを…押さえてくれ…!」

 

「っ!分かってる!」

 

こちとら瀕死の状態だからな、流石に動けねえ。しかもイカロスは一度命令を受けると中止しねえってんなら何回でも自分で自殺に走るだろうから智樹に止めてもらうっきゃねえな。智樹が走りだし、イカロスが困惑しているうちに取り押さえ急いで銃を取り上げた。

 

「マスター…どうして…」

 

「お前は早とちりしすぎだ!お前はただ俺の命令を聞いただけじゃねえか!俺は!お前の事を攻めてる訳でもなんでもねえよ!悪いのはお前にきっちり説明しなかった俺が原因だ!だから…!自殺なんてするなよ…!せめて…俺達と一緒にいろよ…!」

 

涙声で智樹はイカロスにそう言った。イカロスはその声に答えるように智樹を柔らかく抱きしめた。なんだよ…結構涙ぐましいじゃねえか、ヘヘッ…。

 

「オルガさんあれは一体…」

 

ん?あれ?ああ…さっきの銃弾の事か…。

 

「俺は…鉄華団団長…オルガ・イツカだぞ…!団員を守んのは俺の仕事だ!こんくらいなんてことはねぇ…!」

 

「オルガさん…」

 

とまあ、強がってみたが…やべえなそろそろ意識が飛びそうだ。でもまあ、強がって意気がってカッコよく決めるのが団長だ。こんくらいやっても…大丈夫だろ。

 

《キボウノハナー》

 

「だからよ…早とちりすんじゃねえぞ…」

 

今回はカッコよく希望の花を咲かせたオルガだった。

 

 

 

「ウッ…グッ…はっ!」

 

気がついた頃には夕方だった筈が朝になっていた。今回は復活すんのにやけに時間がかかったな。しかも起きた場所は智樹の部屋ときた。智樹は……横でまだ寝てるな。

 

「おはようございますオルガさん」

 

「おおっ、イカロスか。おはようございます」

 

寝てる智樹の横で正座していたイカロス。多分運んでくれたのもイカロスだろうな。智樹じゃ多分運べねえだろうし。

 

「あの…オルガさん」

 

「ん?どうした?」

 

「何故オルガさんはあの様な力があるのですか?」

 

あの様な力?ああ、キボウノハナーか。

 

「そりゃ俺にもサッパリだ。前はこんなもんなかったしな。だがな、1つだけわかった事がある。この力は、きっと団員を…それこそ命張ってでも守る力じゃねえのかなってな」

 

「団員…ですか?」

 

「ああ。お前も智樹も、俺からしたら鉄華団……家族みてーなもんだ。ならその団員を、家族を守んのは団長の俺が守んなきゃならねえ。……今度こそ」

 

「つまり、家族を守るという使命を持った力という認識でよろしいのでしょうか?」

 

「まあ、そんなもんだ」

 

思い返せばそはらのチョップしかりイカロスの件についてもそうだ。どんな形であれ、必ず死んじまうものだった。それを俺が受け止め変わりに俺が死ぬ。まあ、死んでもキボウノハナーで蘇生するから結局万々歳って事だ。

 

「そう、ですか。私には家族というものが分かりません。ですが…何故かマスターと一緒に居たいという事が頭の中で浮かびました」

 

「それもまた家族の有り方、なのかも知れねえな」

 

「さっきから人が寝てるってのに横でメチャクチャ恥ずかしい話するなー!」

 

ガバッと布団から飛び起きた智樹。なんだよ、起きてたのかよ。さっきの話聞いてたからか智樹の顔が若干赤くなってやがる。なんだ、恥ずかしいのか?

 

「おはようございます、マスター」

 

「ああ、うんおはよう。じゃなくてっ!」

 

普通に朝の挨拶をした智樹だったがすぐさま豹変し、俺に指を指して来やがった。

 

「オルガ!俺は鉄華団なんて訳のわからん物に入った覚えはないからな!」

 

「なんだよ智樹。つれねぇな」

 

「うるさい!」

 

「だがよ、智樹。これからどうする?世界中の人間が消えちまったんだからよ」

 

俺が昨日起こった事を思い出させるように伝えると智樹は思い出したかのようにハッとした顔になり、そして再び顔が沈んでいった。

 

「だよな…。俺のせいでそはらや守形先輩が―――」

 

「智ちゃーん!オルガさーん!いい加減に起きないと遅刻しちゃうよー!」

 

……………え?どういう事だ?イカロスのカードが俺達の言うことを忠実に聞く人間に変えたって話なのに恐らく言うことを聞いてくれないであろうそはらの声がなんで聞こえる?

 

「それでしたら昨日オルガさんが死亡した後、マスターが「全部夢であったらいいな」と仰ってたのでカードで全て夢になりました」

 

「「…………は?」」

 

マジかよ。イカロスのカードって現実を夢に変える事だって出来るのかよ…?

 

「あの、もしかして間違え――」

 

「いやいや!間違ってないぞイカロス!よくやった!」

 

「ファインプレイだったぞイカロス!」

 

「はあ…ありがとうございます」

 

そっかぁ!全部夢になったんだな!なら、何はともあれって奴だな。正直な話、ヒヤヒヤしたぜ…。

 

「あ、なんか大丈夫だって思った瞬間なんかどっと疲れがきた」

 

「奇遇だな智樹。それは俺もだ」

 

俺達2人は二度とこんな経験はしたくないと心の底から思った。



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無限の可能性のパンツ

パンツは飾りから爆弾まで無限の可能性を持つ――


by智樹


「……おい智樹、どうすんだよこれ」

 

「………行くしかないだろ。お前も昨日ノリノリだったろ?一緒に行こうぜ?」

 

「ああ、しっかり落とし前つけに行かなきゃならねえな…」

 

俺と智樹が起きた朝、黒焦げた智樹の部屋で嫌な汗をかきながら喋っていた。天国だった筈の家がいつの間にか爆弾(下着)だらけになったら誰だって嫌な汗かく。

こんな事になったのは昨日まで遡ることになる―――

 

 

 

 

 

事件を終えた次の日、この時は学校が休みなんでそはらに朝起こされる事もなくはなかった。しっかりと朝早く起こしに来たようで俺はともかく智樹は若干ウトウトしてたな。部屋を出ると茶の間辺りからすげぇいい匂いがきた。

恐らくイカロスが朝食でも作ってくれたのだろう。階段を降りて茶の間に入ると―――

 

「すまんイカロス、醤油取ってくれるか?」

 

「はい、分かりました」

 

守形の兄貴がいやがった。しかも朝食を食べながら。ちゃっかりそはらも朝食食ってやがる。

「って!守形先輩がなんでここにいんだよ!それとそはら!お前も一緒なって食うんじゃねえ!」

 

ぼべんばざーい(ごめんなさーい)

 

「食べ終わってから喋れ!」

 

そんな漫才コントを気にも掛けず黙々と飯を食べる守形の兄貴。

 

「で、守形の兄貴はなんでここにいるんだ?」

 

「ふむ、まあいい匂いがしたのでな。寄ってみたらたまたま智樹の家、だったということだ」

 

「つまりただ飯食いにきただけかよ…」

 

結構いい性格してんな守形の兄貴。まあでも、少人数で食べるよりか大勢で食べた方が楽しくていいがよ。取り敢えず、智樹をなだめて飯食おうじゃねえか。漫才してる智樹をなだめるとテーブルについて飯を食べ始めた。

 

「しっかしイカロス。こんな食材家になかった筈だけど一体どこから持ってきたんだ?」

 

「はいマスター。以前使ったカードを使って呼び出しました」

 

「あー…あのカードね…」

 

「ですが、これはあくまで旧式です。昨日使ったような新型のカードはマスターが夢にしてくれとおっしゃったので使えませんが旧式なら何枚かあります」

 

ピッとイカロスが数枚のカードを取り出した。そはらが横で「何それ私も欲しい」と智樹に言っていたがどうどうと智樹になだめられていた。

 

「旧式と新型になんか意味あんのか?」

 

「はいオルガさん。新型は何でも取り寄せますが、旧式は中身がわからないまま1つだけしか取り寄せる事ができます」

 

「中身が解らねえんじゃな…」

 

話終わる頃には全員飯を食い終わっており、そはらは家に守形の兄貴も何処かに消えていった。ホントに飯食いに来ただけだったのかあの先輩…。イカロスと共に食器類を洗っていると何やら茶の間から光が放たれていた。

 

「おわっ!?なんだぁ!?」

 

「どうした智樹!?」

 

食器類を壊さず置いてすぐに智樹の元に駆けつけた。駆けつけた頃には光はなくなっており、智樹にもこれといった変化は見られなかった。

 

「いやさ、このカードがエロい事できる奴ならいいな〜って考えてたら突然光出してさ」

 

「朝からなんて事考えてやがんだ…」

 

はぁ…。まあ、智樹になんもなけりゃそれはそれでいいんだけどよ。と、すると開けていた窓から一羽の鳥が茶の間に入ってきた。随分物好きな鳥だなと思ったがよく見てみると、足はねえわ頭もねえわな妙な鳥だった。

 

「って智樹!それ鳥じゃねえぞ!?」

 

「ん!?これは…まさか!?」

 

「それは下着ですねマスター。どうやらさっきのカードは無機物に命を与えるカードだったみたいですね」

 

「おお…これが…」

 

何感心してんだ智樹。まあ、気持ちは分からんでもない。下着ってのはある種、男のロマンみてーなもんだし気になるのも仕方ねぇ。流石に裸は勘弁してもらいてーが…。

 

「マスター。大規模の飛行物体がこちらに向かってきます」

 

「飛行物体…?」

 

「え?なんだそれ――」

 

智樹がそう呟くと同時にとんでもねえ量の下着が家に入って来やがった。

 

「ぶほっ!?」

 

「うおあっ!?」

 

どんどん命を宿した下着が入り混んでくる。しかもなんだか妙に温かい。これは…!?

 

「おいオルガ!これ多分脱ぎたてだぞ!」

 

「ウ゛ッ゛!」

 

スケベ親父の顔をしながら脱ぎたてホヤホヤの下着に埋もれた智樹がそう言うと意識したのかオルガは鼻血を再び吹き出した。

 

《キボウノハナー》

 

大量出血で死亡したオルガは希望の花を咲かせたが特に団長命令は響かなかった。

 

 

「で、これどうすんだよ智樹」

 

死から甦った俺は腕を組みながら智樹に聞く。どうやら俺が甦る頃にはカードの効果は切れていたみてーだが、いくら命を宿したとはいえ元々人の物だろ?こんなに大量に下着があったら何言われるか分かったもんじゃねえ。

具体的にはそはらに話し合いって名の殺人チョップが炸裂するかもしれねえから正直怖え。

 

「取り敢えずダイブしてみろよオルガ」

 

「は?何言ってんだお前?」

 

「とっても…とっても気持ちいいぞ」

 

「お前な…懲りるって言葉知らねえのか?」

 

「うるせー!黙ってダイブしやがれ!師匠命令だ!」

 

突然の逆ギレを起こした智樹は下着の山から飛び出てくると俺の服の襟を掴んで下着の山に投げ飛ばした。

ボフンと山の中にに沈み込んだがこれが絶妙に心地よかった。下着がほんのり温かいせいか何故か温かい何かに包まれていく感覚を覚える。まるでいるべき場所に帰って来たかのように、優しく包んでいく。ああ、そうか。ここが俺の辿り着くべき場所――

 

「何してるのオルガさん」

 

なんて事はなかった。気配どころか足音すら立てていなかった、だが殺気はこれ以上ないくらい放っていたそはらが右腕を上げて茶の間の入り口の前に立っていた。

 

「ま、待ってくれ!智樹に言われてやった事なんだ!智樹なら殺してくれ!何度でも殺してくれ!首を跳ねてそこら辺に転がしちまってもいい!だから、俺だけは!」

 

「オルガ!?お前卑怯だぞ!?」

 

「へぇ〜…智ちゃんがねぇ…」

 

ゆらぁ〜っと近づいてくるそはら。あのチョップを喰らうなんて正気の沙汰じゃねぇ!悪いが智樹には囮になってもらうとするか。

 

「ところでオルガさん、その手に持ってる下着誰のか分かる?」

 

「ん?これか?」

 

右手を見てみると確かに下着はあったが…真っ白な奴にミニキャラ?みてーな犬が描かれている下着だった。普通に考えるとこりゃ小さい子どもが好むような下着だな。

 

「多分だが…子どもが着てた下着じゃねえのか?今時俺らくらいの年で付ける下着の柄じゃねえだろうな」

 

「へぇ…子ども…」

 

「だがよ、それが何か関係あんのか?」

 

「それ、私の下着」

 

「…………え゛っ!?」

 

そう言った瞬間そはらは真っ先に超スピードで俺に近づき殺人チョップを繰り出す。脳天からチョップされたお陰で俺の頭はチョップされた所だけ凹んだ形になり床にめり込むように叩き潰された。

 

《キボウノハナー》

 

希望の花を咲かせたオルガを気にも掛けず次は智樹の方に振り返った。その右手をオルガの血で染めながら。

 

「ま、待ってくれそはら!この通りだ!勘弁して――」

 

言い切る前に智樹の脳天にチョップが炸裂し智樹の頭も変形した。どうやらオルガの「仲間のダメージを肩代わりする」能力はキボウノハナーで死んでから蘇生するまでの間は効果が適用されないらしく、智樹はそのままそはらのチョップのダメージをモロに喰らったのであった。

 

 

「しっかりとその下着は捨ててよね、智ちゃん!オルガさん!後、私の下着は持って帰りますから!」

 

「あ、見送りします」

 

そはらが下着を持って帰ろうとするとイカロスが自ら見送りを申し出る。特に断る理由もなかったのでそはらは快く受け入れてくれた。が、問題は智樹とオルガである。

 

「だから…言ったじゃねえか…懲りろって…」

 

「オルガもそれなりにノリノリだったろ…?」

 

そはらのチョップのダメージがまだ抜けてないらしく床に倒れ伏せながら震え声で話す2人。結局、チョップのダメージが回復するのは晩御飯ができた時でありそれまでの間はイカロスに介抱されていたそうな。

 

「で、振り出しに戻った訳だが…どうすんだよこの下着類」

 

こんなもんあったらまたそはらのチョップが炸裂するかもしれねえ。早々に処分してえ所だが智樹は…駄目だコイツ、全く懲りてねえみてえだ。その証拠にいかにもよからぬ考えをしている顔だ。

 

「そうだな…これを部屋に飾るか」

 

「なんでそんな考えに至るんだよ!」

 

「何言ってんだオルガ。下着は飾るもんだろ?」

 

「お前のその思考が、俺にはわからねえよ…」

 

下着を飾るだぁ?大体下着は着るもんであって飾るもんだとは間違ってもねえぞ?煩悩だらけで頭おかしくなったんじゃねえか?

 

「はぁ〜…。ガッカリだよオルガ。そんなんで団長名乗ってたんだな」

 

「な、なんだよ急に」

 

「団長ならば!踏み入れた領域を極限まで突っ走り!皆を先導していくのが団長だ!その団長がたかだかそはらのチョップ如きに屈し!逃げるような真似をして団長なんて名乗れると思うかぁ!」

 

「っ!」

 

再び、智樹の後ろにザバーンと波が立ち帽子をかぶった老人が見えた気がした。確かにそうだ。俺は…いや俺達はすでにエロスって名の領域に足を突っ込んでいる。なら!団長なら団員の手本を見せねえと示しがつかねえのも通りだ。

 

「ようやく目覚めたか、オルガ」

 

「ああ、すまねえ智樹。団長である俺がそはらのチョップにビビり過ぎてたな」

 

互いに手を差し出し熱い握手をする俺達。見てるかミカ?俺は止まんねえぞ。生きてる限り俺達の道は続いていくんだ。智樹の言うとおりこんな所じゃ終われねえ。

 

「俺が言うのもなんだがこの道は険しい道になる。決して人には理解されない道だからな。だがそれでも、俺を導いてくれるか、()()?」

 

「当然だ智樹!俺達の道は止まらねえ!生きてる限り終わりじゃねえ!例えどんな道でやべえ道だろうと、俺が連れてってやるよ!」

 

「ああ!その領域まで連れてってくれオルガ!」

 

「よっしゃ!なら、鉄華団初の大仕事だ!景気よく前に行こうじゃねえか!」

 

それからというもの俺達は下着であらゆる事を試した。

初めは部屋中に下着という下着を飾り付け、壁に張り付けたりもした。うOこの形した下着を作ってみたり下着版希望の花を何個も制作、庭を下着で芸術に仕上げたり色んなもんに下着を被せた。果てはパンツロボ1号やパンツオルガ・イツカ像なんてものを作り玄関前に飾った。

ひとしきり楽しんだ俺達は満足し布団に篭って眠った。

 

そして次の日――

 

ボンッ!

 

「うおあ!?」

 

「うああああああああ!?」

 

深い眠りについていた俺達を起こしたのは爆発だった。

 

「グフッ…一体なにが…」

 

「智樹!隣の家にいるそはらがカード持ってるぞ!」

 

智樹の部屋の窓からそはらの家がすぐ横なので見えるのだがなんと手には一枚のカードが握られていて、しかも光っている。

 

「そんな事だろうと思った。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()よかった〜」

 

「そ、そはら!一体何をした!?」

 

「あ、オルガさん。智ちゃんの事だからきっと下着捨ててないだろうと思ったから、カードの力で智ちゃんやオルガさんが下着をみたら爆発するようにしたんだよ。範囲は智ちゃんの家限定だけど下着捨てたなら特に問題ないよね〜。あ、イカロスさんは既にこっちに来てるから大丈夫だよ〜」

 

「な、なんて奴だ…。ここまでしやがるのか智樹の幼馴染は…!」

 

「くそっ、そはらの奴…!………あ、そーだ。そはら!お前の後ろにデカイ虫いるぞ!」

 

「え!?どこどこ!?」

 

俺が見ても何処にも虫なかんかいねえのに何言ってんだ智樹?と、思ったがそはらが窓から離れるとなんとパンツ一丁だった。まさか、智樹はこれを予測してたのか?

すると、そはらの下着からカチッカチッとタイマーの音が発せられた。

 

「っ!と、智ちゃん!」

 

「ハッハッハッハッ!幼馴染であるお前の事なぞ手に取るように分かっておるわぁ!」

 

瞬間、そはら下着が爆発を起こした。今さら俺が言うのもなんだがあれ大丈夫か?

 

これでようやく冒頭に戻る訳だが…

 

 

「オルガ…俺はどうすればいい?」

 

智樹が俺に聞いてくる。まるでかつてのミカのように。

 

「…………突っ走る」

 

「へ?」

 

「男なら貫かなきゃならねえ時がある。それをお前は昨日教えてくれたよな?なら例え下着が爆弾に変えられようとも俺達は止まる訳にはいかねえ。だろ?智樹」

 

「ああ…そうだなオルガ。俺達はもう引き返せない所まで来た。なら突っ走るしかねえよな」

 

「俺が先に行く。智樹は後ろから付いてきてくれ」

 

「いや、共に行こうぜオルガ。俺達は…家族みたいなものなんだろ?なら一緒に行かないなんて家族名乗る資格はねえ」

 

「智樹…。分かった、俺はお前の案に乗る!」

 

俺達は突っ走った。部屋中の…脱出するなら行かなくていいところまで隅々と。そして爆発した。飾ってるやつもうOこの奴も壁についてる奴もパンツロボもパンツオルガ・イツカ像も庭の芸術も全て。そして…町全体に響くくらいの爆発が続き俺が家から脱出すると共に音は鳴りやんだ。

途中、俺と智樹は何回死んだのだろうか?

 

でも、脱出した俺達が感じた事は―――

 

「「やべえ。このままじゃ死ぬ」」

 

その思いだけだった。



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再開する2人

ほぼというか全部オリジナル展開です。どうやら時間差で三日月は転生してたみたいですね


「ん…」

 

気がつくと見知らぬ場所にいた。さっきまで皆を逃がすためにギャラルホルンと戦って……そして……

 

「あの後どうしたんだっけ?」

 

よく思い出せない。戦ってる途中に意識が持たなくなり気がつくとこの場にいたのだ。

 

「そうだ……俺、死んだんだな…」

 

そうとしか思えない。何故ならここは火星とはまるで環境も景色違うからだ。ということは、ここは死んだ後の世界か?そう考えてる内に1人の老婆に話しかけられた。

 

「あんた、大丈夫かい?」

 

「……俺の事?」

 

「あんた以外、誰がおる?」

 

キョロキョロと周りを見渡して見るが誰もいない。

 

「確かにそうだね。………ありがと。大丈夫だよ」

 

「散歩がてらこの道を歩いてたらあんたが倒れてるもんだから少し焦ったもんじゃ」

 

顔や手足を見るとかなりシワがでているが、それでも老人とは思えないほど元気そうな事が分かった。俺はその場から立ち上がろうとしようとした瞬間、グゥと腹の音が鳴った。

 

「…そういや俺何も食べてないや…」

 

ギャラルホルンに追われ、鉄華団の皆を逃がすために少しでも時間が惜しかった為飯すら食べてなかった俺は今更の空腹に困惑していた。すると、おばあちゃんが笑いだし

 

「ホッホッホッ、腹の音が鳴る事は元気の証拠じゃ。どれ、ワシの家に来て飯でも食ってくか?」

 

「いいの?」

 

「ああ、いいとも。ここら辺はあまり人が寄らなくてな、別に寂しくはないんじゃがアンタみたいなのは珍しい。それに、腹が減ってる子供を見捨てるのはワシの生に合わんのでな」

 

このおばあちゃんから特に悪意やこれと言った感情は見受けられなかった。初めて会った自分に飯を食べさせてくれるのは正直怪しい気もするけどどっちにしろ行くあてもないので感謝の礼をした。

 

「そういやアンタ、名前は?ワシは桜っていう名じゃ」

 

「三日月。三日月・オーガス」

 

 

 

桜っていうおばあちゃんの案内を受けて道なりに進んで行くと、1つの家にたどり着いた。家自体は何の変哲もない、おばあちゃん1人で住むには少し大きい程度の家だったけど、それでも驚いたことがあった。この家の後ろには一目みても分かるくらい広大な畑が広がっていた事だ。

 

「凄い…これ全部桜ちゃんの?」

 

「いきなりちゃんづけか…。まあ、いいが。そうじゃよ、かなり向こうまで広がっているがワシの畑じゃよ。主に野菜を栽培しておる。さ、家に入るといい」

 

玄関に案内されて家に入ったがやはり何の変哲もない普通の家だった。テーブルにキッチン、畑に行くための入り口なんかがあった。桜ちゃんに「ここで待っておれ。すぐに用意してやるからの」と言われテーブルの席についた。

それから間もなく桜ちゃんがやって来ると料理が運ばれてきた。主に野菜を炒めたものがおかずで米と野菜の具が入ったスープだった。一言「いただきます」と言って口に料理を運ぶと一気に目を見開いた。

 

「美味しい…」

 

「そうか、そうか。口に合って良かったわい」

 

それからは早めペースで料理を食べた。なんせ、美味しいものだから食べても食べても次々と口に運んで行ってしまう。それを見てる桜ちゃんはニコニコしながら俺の事を眺めていた。

 

「ごちそうさま。これ、台所に持っていけばいいの?」

 

「お、偉いねぇ。そうさね、台所にでも置いておくれ。ワシゃ畑の仕事でもするんでゆっくりしとけばいいさね」

 

「じゃあ、俺も手伝う」

 

そう言うと桜ちゃんは驚いたようにこっちに振り返った。

 

「別にいいんじゃよ?」

 

「いや、飯まで食べさせて貰って何もしないってのは駄目だ。恩を仇で返すなってオルガ…俺の家族に言われてるから」

 

「…それじゃ頼むとするかね」

 

「うん、任せて」

 

 

 

 

それからというもの、俺は桜ちゃんの畑仕事を予定より多くした。本来なら今日しなくても良いところまでしてしまい桜ちゃんが「若いのは元気があるねぇ」なんて呟いていた。

桜ちゃんが持ってる畑はそれこそかなり大きな規模なんだけど半分近くは触れられてすらなかった。桜ちゃんが言うには1人だとどうしても負担が掛かる事と奥の畑に行くと森があってその森から猪が畑を荒らしに来るんだとか。今度そいつが来たら追い払うって桜ちゃんに言うと「無茶せんでおくれよ」と言われた。

それからというもの行く宛もなかったのでどうしたものかと困っていた所、なんと桜ちゃんからこの家に住んでもいいと言ってくれた。流石に迷惑はかけられないと言ったが

 

「なぁに、人が1人増えた所でワシは困らんよ。それに三日月が居ることで畑仕事が捗るからの。まあ、ワシの家で良ければの話じゃが」

 

「……ありがとう、桜ちゃん。あまり迷惑はかけないようにする」

 

こうして、俺は桜ちゃんの家に住まわせて貰う事にした。

しばらくしてある日の事……

 

「ブモォォォォォ!!」

 

森の方からドスンドスンと大きな足音が響くとかなり大きな猪が鼻息を荒くして現れた。

畑の端から端まで距離はあるはずなのにここからでも猪の鳴き声が届き今にも畑を荒そうとしている。

 

「ああ、あの猪が来てもうた…また畑が荒らされる…。すまんの三日月。アンタが一生懸命耕してくれた畑が無茶苦茶にされるのを見てワシはどうする事もできんのじゃ…」

 

桜ちゃんが弱々しくそう言った。()()()()()()()()()()

 

「大丈夫、桜ちゃん。俺ちょっとアイツ追い返してくる」

 

俺はそう言うと猪の方に振り向き駆け出す。駆け出した後ろの方から桜ちゃんの声が聞こえて来る。駆け出した後ろから無茶じゃ!とかやめるんじゃ!とか聞こえてくるけど今はそんな事関係ない。ここに来てからある程度分かった事がある。

まず、ここは死んだ後の世界じゃないこと。俺達のいた所とここは似てるようで全然違う所、そして――

 

「(()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

感覚が研ぎ澄まされる。すると、俺の体に変化があった。

まるで金属に包まれるような感覚が起き、体も顔も全て金属に覆われていく。そして右手からあるものが虚空から現れた。それはかつて自身が使っていた武器、メイスでありそれを握ると三日月は完全に別の物に変わっていた。

 

「じゃぁ…また行くか。バルバトス」

 

駆け出していた足がスラスターを備えたバルバトスの足となりスラスターを吹かせて猪に急速に接近していた。

 

「ブモッ!?」

 

そのとてつもないスピードに猪は驚愕していた。そして遂にの目の前に立ち持っていたメイスを振り上げ猪の真横に振り下ろすとことで猪の横に小さなクレーターを作った。

 

「今度畑荒らしにきたら叩き潰す」

 

とドスの効いた声で猪に言うと青ざめて森に猛ダッシュで逃げていった。桜ちゃんの所に戻るとかなりポカーンとしていたけど、正気に戻ると桜ちゃんはかなり驚いていた。

 

「三日月…アンタ一体…」

 

「何かできると思ってやってみたらできた」

 

あまり言い訳になってない言い訳を言うと桜ちゃんは呆れた顔でため息をついた。

また、ある日の事――

 

「ブ…ブモッ…」

 

あの猪がまた現れた。が、今度はかなり弱々しくやつれていた。恐らくこの間の一件以来、何も食べてないんだろう。バルバトスになってメイスでつついてみてもあまり反応を示さなかった。

 

「ちょっと待ってて」

 

「ブ、ブモ?」

 

俺は急いで野菜や作物を貯蓄している倉庫に入るとある程度野菜を持ち出しそれを猪の目の前に置いた。

 

「食べていいよ。桜ちゃんもきっと良いって言う筈だよ」

 

俺の言葉を理解したのか分からないけど、そう言うと猪はモグモグと野菜を食べだした。食べてる姿を見てると後ろから桜ちゃんが近づいてきた。

 

「腹が減ったならこっちに来れば…なんて動物には言えないねぇ」

 

「桜ちゃん、ごめん。勝手に持って行っちゃって」

 

「いいさ、いいさ。……三日月、アンタ優しいんだね」

 

「別にそうでもないよ」

 

猪が野菜を食べ終わると今度は俺に頭をこすり付けて来た。

 

「………何これ」

 

「おやおや、三日月アンタ好かれたみたいだね」

 

……正直困る。別に好かれたくて野菜とか無断で持ってきた訳じゃないし。

 

「どれ、三日月。この猪、飼ってみるかい?」

 

「……飼えるのこれ?」

 

「まぁ…餌を与えておけばなんとかなるじゃろ」

 

桜ちゃんも流石に猪の飼い方なんて分からないから曖昧な返事だった。

 

「…一緒に住む?」

 

「ブモッ!」

 

……多分これは了承してるんだろう。

 

 

 

 

そして桜ちゃんの家に新たに猪が増え、名前は「プギー」にする事にした。プギーは俺や桜ちゃんがやってる畑仕事を見ている内にプギーから畑仕事の手伝いをしに来るようになった。まあ、手伝いといっても道具とかまだまだ元気とはいえ、老人である桜ちゃんをおぶって移動したりとかだけどね。回数を重ねる事にいつの間にか俺や桜ちゃんが言わなくても勝手に行動して色んな事を手伝ってくれた。

そんな、桜ちゃんとプギーで畑を耕しているある日の事、突如大きな爆発音がなり響いた。

 

「三日月、今の聞こえたかい?」

 

「うん、それなりの距離から聞こえてきたね」

 

更に、爆発音が鳴った。今度はまるで爆弾が連続して爆発するかのような音が数分鳴り響いた。

 

「桜ちゃん、ちょっと俺見てくる」

 

「待ちな。それならプギーも連れてお行き」

 

「でも…」

 

「ワシは大丈夫じゃ。三日月に万が一の事があったら敵わんからの。プギー。三日月に付いてやっておくれ」

 

「ブモッ!」

 

まるで任せとけ!って言っているかのような声を出したプギー。

 

「分かった。すぐ帰って来るから」

 

「気をつけてな三日月や」

 

「うん。プギー、行こう」

 

「ブモッ!」

 

俺はプギーの背中にまたがるとプギーは走りだした。畑や田んぼを越えて民家や商店街をくぐり抜けてプギーは全速力で走る。途中で人に見られてかなり騒いでたけど特に気にすることなくそのまま走り続けた。

やがて、爆発音が鳴ったであろう場所にたどり着いた。

 

「プギー、そのままここで待機」

 

「ブモッ」

 

場所は一軒の家。少し離れた所でプギーを待機させ、ゆっくりと近づく。家の門前まで近づくと声が聞こえてきた。

 

「智樹ィ…これはちょっとキツイぞ…」

 

「うん…俺もそう思う…」

 

俺は耳を疑った。男2人の内、片方は聞いた事があるからだ。忘れる筈もない、もう会うことも喋ったりする事も出来ないと思っていた俺の大切な人――

 

「オル…ガ…?」

 

「ああ?誰だ俺の名前呼んだのは…………え?」

 

俺が姿を表すとオルガともう1人ボロボロの状態で寝転がっていた。そのオルガはと言うと信じられない物でも見たような顔をしていた。

 

「み…ミカァ!?」

 

どうやら、俺達はまた会える事が出来たみたいだった。




因みにこのプギー、2m半はあるんですが現実でこんなのいたら大問題ですね


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よからぬ夢

智樹とミカが遂に対面します


這いずりながら家から出てきた俺達はしばらく動けなかった。普段なら回復するも流石に俺のキボウノハナーでも一瞬かつとんでもなく蓄積された疲れは回復できなかったみてーだ。

 

「智樹ィ…これはちょっとキツイぞ…」

 

「うん…俺もそう思う…」

 

ったく、そはらの奴何もここまでしなくてもいいんじゃねえか?そりゃ、智樹もやすぎじゃねえか?と思うところは幾らかあるが下着全部爆弾はやべえよ。俺と智樹じゃなきゃ死んでるぜ。…まあ、俺は死んでるがよ。

 

「オル…ガ?」

 

ふと、前から声がした。男の声だな。

 

「ああ?誰だ俺の名前呼んだのは…………え?」

 

声がした方向を見ると人が立っていた。深緑のジャケットを着ていてショートヘア、それに身長は低い。横の智樹は誰だ?って顔してるが、アイツは…!

 

「み、ミカァ!?」

 

「オルガ…」

 

忘れる筈もねえし、見間違える事もねえ!アイツは…俺の相棒で生涯最高の友達であり家族でもある三日月・オーガスだった。

 

「お前なんで此処に!?」

 

「オルガこそ。何してんの?」

 

ミカが俺の事をジィーッと見つめてくる。一見、見てみれば表情が分からねえが長年の付き合いだったからミカの言いてえ事はなんとなく分かる。

 

「ま、まあ色々だな。見ての通りボロボロだが」

 

「相変わらず、オルガはいつもボロボロだね」

 

ミカが少し表情を崩した。確かにボロボロっちゃボロボロだがいつもじゃねえからな?

 

「そっちの方は?」

 

「ああ…喜べミカ!新しい団員の智樹だ!……まあ、今は智樹の家に居候の身だがな」

 

「俺は団員になった覚えはねーからな?」

 

「は?」

 

「……違うの?」

 

「いやいや!?お前、俺の事団長って言ってたじゃねえか!?」

 

「ああ。確かに団長とは言った。だからっていつ俺が団員になるって言った?」

 

ちくしょう!あれは俺をおだてる為の言葉だったか!なんて奴だ俺を出し抜きやがったな!?

 

「ふーん…」

 

「な、なんだよ」

 

ミカが智樹の方に近づきしゃがんで智樹の事をジィッと見つめている。よしミカァ!智樹に言ってやれ!

 

「いつもオルガが世話になってる。これからよろしくね」

 

「お、おう。ご丁寧にどうも…」

 

少し微笑みながらミカはそう言った。なんだよ…なんか言ってくれるんじゃなかったのかよ…。

 

「で、オルガ。こんな状況だけどどうすればいい?」

 

「ああ…取り敢えず智樹の家に入れてくれると助かるな…」

 

「分かった」

 

そう言ってミカは片手で俺を担ぎ上げ、もう片方の腕で担いだ。

 

「お前…いつの間にこんなに筋力上げたんだ?」

 

「別に普通でしょ。あっ、そうだ。プギー、ちょっとここで待ってて」

 

「ブモッ!」

 

プギーって誰なんだよって思っていると堀の外から馬鹿みたいにデケェ猪がひょこっと顔を出してきた。流石の俺も唖然とするしかなく、智樹に至っては信じられないって顔をしてやがった。

やっぱすげよミカは。

 

 

 

取り敢えず茶の間まで連れてってくれたミカのここまでの経緯を聞いた。鉄華団の事やミカがこの世界に来てたこと、それに今は外で蝶々と戯れて遊んでいる外にいるプギーの事についてとかな。

まあ、鉄華団の皆が俺の最後の団長命令を聞いて今も進み続けてるってことはいいことだった。ただ、その過程でミカや昭弘が死んじまったことがやるせねえがな…。

ミカが出会った桜ちゃんって人もミカの世話をしてくれてるみてえだし、近いうちに菓子かなんかでも持ってって団長として礼を言わなきゃな。

プギーは…まあ…鉄華団に新しく団員が増えたって捉え方でもいいだろ。()()と言っていいのかは置いといて。

 

俺も今までの経緯をミカに話した。最初は普通に聞いてたんだが途中から俺の事をジト目でみてやがった。

…理由は分かるが、俺からすれば悔いのねえ事をやっただけだ。だから後悔はねえ。話が終わるとミカの口の口角が上がり

 

「オルガがいつもみたいに元気そうでよかったよ」

 

と、笑ってそう言った。

 

「お前もなミカ」

 

こっちも笑って返すと互いに拳を出し、拳と拳を合わせた。死んじまってからもう会うことは確実にねぇとおもっていたがミカともこうして拳を合わせられる事がホントに嬉しかった。そしてもしかしたら…ミカがここにいるって事は昭弘や死んじまった奴等もここに来てるのかもな。そうだったら…また会えるといいな。

 

「きゃぁぁぁ!?大きい猪!?」

 

外でそはらが大きな悲鳴を上げているのが聞こえた。

確かに結構高身長な俺よりもっと大きかった。そりゃ悲鳴くらいあげるよな。しゃあねえ、智樹連れてそはらの所に行くか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そはらの所に行くとやっぱりというか腰抜かしてた。そはらの隣にいたイカロスはプギーの頭を撫でていたが特に反応を示さなかったのかイカロスが膝をついて落ち込んでたのは流石に笑ったな。

ちなみに、俺が撫でると頭をこすりつけてきたんだがこれは懐いてる証拠だとミカが言ってたんでイカロスがミカと同じくらいのジト目で見てたんで若干怖かったがな。

智樹が「よ〜しいい子だぞ〜」って言って頭撫でようとしたら触れられる前に蹴飛ばされたのは流石に同情したが。

 

「じゃあ桜ちゃんの所に戻るよ。心配してるだろうし」

 

「ああ!たまにはこっちにも来いよミカ!」

 

「出来ればその猪は来ないで貰いたい…」

 

吹き飛ばされて帰って来た智樹がボロボロの状態で言ってたがミカはニッコリ笑って帰っていった。

ありゃあまた連れてくるな。確実に。

その後はこれと言ったことはなく、緩やかな日を、送った。飯食った後俺と智樹に眠気が襲ってきたので時間的にはまだ早いが寝る事にした。

 

「じゃあイカロスおやすみ~」

 

「はい、おやすみなさいませマスター。オルガさん」

 

「ああ、おやすみ」

 

まあ、明日は学校だしなちゃんと早く寝てしっかり起きねえとだな。俺達は布団に籠ると数分もしない内に深く眠りについた。

 

 

 

「んっ…くっ…」

 

気がつくと見知らねえ場所にいた。野原と青空意外なんもねえ、しかしどこか神秘的な場所だ。

 

「ここは…何処だ?」

 

確か俺は智樹の部屋で寝てた筈なんだがな。横を見てみると智樹も寝てるみてえだ。

 

「おい智樹、起きろよ」

 

「ん〜…あれ?オルガ?それにここ…夢の中か?」

 

あ?何言ってやがる。夢の割にはかなり現実感があるぞ。

この野原も空も空気も何もかも現実に思える。これが夢だったら相当てレベルの夢じゃねえか。

 

「いやさ、前に言ったじゃん。俺も変な夢見るって」

 

「これが…その変な夢か?」

 

仮に夢だったらとしたらどうして智樹の夢に俺がいる?訳の分からねえ事だらけだが、取り敢えず此処に居ても仕方ないから立って歩いて見るか。

そう思った矢先にある1人の人物が()()()()()()()()。見た目は水色の髪の色にロングヘアだが、背中に翼が生えていた。マクギリスが言ってた天使って奴だったか?

 

「……貴方」

 

「あ?俺か?」

 

なんだ俺をご指名か?顔は隠れてよく見えねえが女性って事ぐらいしか分からねえ。

 

「どうか、この子とこの世界を守って―――」

 

「は?それはどういう――」

 

聞き返そうとした瞬間、こんな何もないのどかな場所に似合わないとてつもないくらい巨大な何かが現れた。黒いシルエットになってよく分からねえが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()馬鹿デケェもんが鼓膜を破りそうなくらい大きな声を上げた。

 

「な、なんだあれ!?あんなの今まで夢で見たことねえ!」

 

智樹も驚愕していた。しかも今まで見たことねえって話だ。だか、()()()()()()()。あんな馬鹿デケェ図体した鳥みてえな奴1つ心辺りがある。バルバトスを…ミカをボロボロにした()()()()()()()…!

 

そこで俺は夢から目を覚ました。

 

 

 

「ハッ!?」

 

「うわっ!?」

 

なんだ今の夢は!?なんでモビルアーマーの夢なんて見るんだ!?それに…どうやら智樹も見たっぽいな。

 

「なんだあれ…今までなら目が覚めるときほぼ忘れている筈なのに今回は鮮明に覚える…」

 

「大丈夫か智樹?」

 

「ああ…。ってかオルガ、お前も…?」

 

「ああ、見た。バッチリな」

 

変な夢だとは聞いてたがまさかモビルアーマーなんて出てくるなんてな。

 

「あれは一体…」

 

「あれはモビルアーマーだ」

 

「モビル…アーマー?」

 

「ああ、前に俺がいた火星について話したよな?…その火星で鉄華団で一番強かったミカがほぼギリギリで勝てた相手だ。しかし、なんでアイツが…」

 

「マスター、オルガさんおはようございます。既に朝食は出来てますよ」

 

俺と智樹が考え込んでいるとイカロスが既に目の前にいた。わざわざ起こしに来てくれたみたいだな。

 

「…まあ、考えてもなんだ。智樹、飯行こうぜ飯」

 

「あ、ああ、そうだな」

 

それからは特に問題もなくそはらも迎えに来たので学校に向かったんだが…

 

「今日から、皆に新しい仲間が増えまーす」

 

なんて、朝から担任の先生が言っていた。智樹がもうトラブルは勘弁してくれよ、なんて顔の表情で訴えていたが…問題ねえだろうよ。

先生が「入ってきて」と言うと1人の男性が入ってきた。

 

「三日月・オーガス…です。これからよろしく」

 

「ミカァ!?」

 

なんと、ミカがこの学校に来やがった。




モビルアーマー…一体何マルなんだ…?


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河原で釣りしてチョップして

最近タイトルにチョップ入れすぎ問題


ミカが学校に入学してきてから数ヶ月、これと言った問題(智樹によるエロ目的の問題は除く)はなく平穏な日々を過ごしていた。こんなに平穏だったのはいつぶりだっただろうな。火星にいた時はギャラルホルンやら落ち着ける日なんてなかったもんだからな。

そういや、最近ミカが風紀委員に就任した。ある日突然ミカが呼び出されたもんなんで心配だから一緒に着いていったがなんと生徒会長が呼び出し、そして直々に任命したんだ。

何でも、ミカの授業態度や節度、その他色々が素晴らしいから風紀委員にピッタリだとか。ミカもすんなりと受け入れたが、俺は負に落ちねえと思った。生徒会長なんて面識すらなかったもんだから何処からそんな話聞いたんだと問い詰めると

 

「あら〜貴方達の活躍は英ちゃんから聞いてるわよ〜。何でもイツカ君は何度死んでも大丈夫とか、オーガス君は割りと容赦ないとかね〜」

 

…かなり偏った話だな。ていうか英ちゃん?英ちゃんって誰なんだよそれは。

 

「英ちゃんって人、もしかして守形先輩の事?」

 

「勘がいいわね〜オーガス君。英ちゃんとは幼馴染でね〜昔からそう呼んでるからついね〜」

 

あの守形の兄貴の幼馴染か。こりゃこの生徒会長もある意味大物かもしれねえな。なんたってあの守形の兄貴の幼馴染なんだぜ?普通じゃねえのは確かな筈だ。

 

「あらイツカ君?ちょっと失礼な事考えてないかしら〜?」

 

「あ、いえ、そんなことは」

 

「あ、そうだ。イツカ君、ちょっと死んでみてくれないかしら?」

 

あ!?いきなり何言うんだこの人!?

 

「ほら〜会長ってイツカ君が死んで蘇る所観たことないのよ〜。それに作者が無駄に話を長引かせるせいで出番もなかったし後でお仕置きね

 

「いいよー」

 

「何言ってんだミカァ!?」

 

すると鉄華団のロゴ入りジャケットから一丁の拳銃を取り出し俺に構え、3発も撃ちやがった。全部即死レベルの箇所を狙って。

 

「ウ゛ッ!」

 

《キボウノハナー》

 

「だからよ…止まるんじゃねえぞ…」

 

希望の花を咲かせ団長命令を響かせたオルガ。そして素早く蘇生し、ヨロヨロになりながら立ち上がると

 

「何やってんだミカァァァァァァァ!!」

 

と、魂の叫び声を上げたオルガだった。

 

それからというもの、俺のキボウノハナーを大層気に入ったもんなんでまた見せてほしいと言われたが丁重に断った。

駄目だ。会長もやっぱ守形の兄貴と同じでヤバい奴だった。そしてミカが風紀委員になって更に月日が経ち、学校は夏休みっていう長期休暇に入った所だった。

 

「なあ、智樹なんでこんなに数学は難しいのばっかなんだ?」

 

「あの先生は難しい問題出すの好きだからな…」

 

「う〜頭痛いよ智ちゃん…」

 

夏休みに入れば当然その分の宿題がどっさり来るわけだ。特に数学の宿題が涙目でとにかく難しい問題だった。途中、イカロスがやってきてスイカを切り分けて持ってきてくれた。

 

「皆さん、どうぞ」

 

「ありがとイカロスさん!」

 

そはらが感謝の言葉を言うと俺と智樹も続いてお礼する。

それと、何故だか智樹がイカロスにお礼を言うと微妙に顔が赤くなっていた。こりゃいい線いってんじゃねえか?って思った所で何処からともなく切り分けてない丸々一個のスイカを取り出し抱えて撫でていた。

…スイカ気に入ったのか?

そんな事を他所に智樹が頭抱えながら、

 

「これ俺達だけで解ける問題か…?」

 

なんて、呟いた時だった。

 

「あ、そうだ!智ちゃん、オルガさん!守形先輩に教えて貰えばいいんじゃない?」

 

「守形の兄貴に?」

 

「そう!守形先輩って学校内ではかなり頭がいいって評判だし聞いてみた方がいいよ!」

 

なんだ、あの人結構頭いいのかよ。それなら話が早い。さっそく守形の兄貴の家に行こうと4人全員(智樹は渋々だが)行くことにした。が――

 

「うちに英四郎という息子はいません。お引き取りください」

 

「あれ?守形って名前の家ならここくらいしかないと思ったんだけどな?」

 

智樹が守形って名字の家ならここだって言ったんで来たものの留守どころかそんな奴なんていないときた。取り敢えず守形の兄貴の家を探すためブラブラ歩いてると生徒会長に出くわした。犬を引き連れてるあたり散歩みてーだな。

 

「あら〜4人とも元気ねぇ〜。デートかしら?」

 

「「そんなんじゃありません!」」

 

智樹とそはらが夫婦漫才をさらけ出す。イカロスは特に表情を出すこともなかったが…。それを見て会長はニヤニヤしていたが拉致があかねえんで俺から切り出すことにした。

 

「会長。守形の兄貴の家って何処にあるか分かりますか?ちょっとばかし宿題の問題が分からねえんで兄貴に聞こうと思ってたんだが…」

 

「それなら河原に行ってみるといいわよ〜。英ちゃん、そこにいると思うから〜」

 

河原?俺が智樹と初めて会ったあの場所か?まあ、会長の言ってる事だし俺達は河原に行くことにした。河原に付くと確かに守形の兄貴はいたが、1つのテントが建っていた。黄色のテントで焚き火やら、なんやら揃っていたがテントに1つの看板が取り付けられていた。それも「守形」って文字の看板が。

 

「先輩!これ家なのかよ!?」

 

「ん?ああ、智樹達かどうした?」

 

智樹の疑問に特に気にする事もなく、なんで此処に来た?とでも言いそうな顔で俺達を迎えた。

 

「ああ、実は兄貴に宿題の問題を教えて貰いたいんだが大丈夫か?」

 

「なるほど。ちょうどいいタイミングだ。いいだろう、ただし条件がある」

「ちょうどいいタイミング?条件?」

 

「オルガ?」

 

「ミカ!?どうしてこんな所に?」

 

テントの中からミカが出てきた。しかもキャベツを持って。

 

「桜ちゃんが「私に習うよりも守形先輩から農業の勉強を聞いたほうが早い」って言ってたから教えて貰う変わりに|野菜持ってきたんだよ」

 

「あのおばあちゃんは古い知り合いでな。こうして来て貰ってるわけだが…」

 

守形の兄貴が奥に行ってゴソゴソしだすと釣竿を5つ取り出して俺達に放り投げた。

 

「今日の晩飯を頼む。それが条件だ」

 

…なんというか、ホントにすげよ守形の兄貴は。

 

それからというもの俺達は川の魚を取るため釣りをした。俺と智樹は順調に取れていった。一匹、また一匹と魚が釣れる釣れる。ミカは「ちょっと行ってくる」っていうとミカの体が光だし、バルバトスになりやがった。俺も大概だがミカも大概だ。それを見て智樹はまるで子供のように目をキラキラ光らせてたが。

ミカは川に潜りだしバルバトスの武装の1つ、太刀を使ってフェイシング染みた事をしていた。

やっぱりすげよ、ミカは。

んで、そはらはと言うと…

 

「うむぅぅぅぅぅ〜…」

 

一匹も釣れてなかった。しかも俺達が調子よく釣れてるせいか顔を膨らませてやがる。魚の…なんだけっな。フグだったか。まさしくそんな状態だった。

 

「どうだ、そはら見ろ!俺とオルガはジャンジャン釣れてるぞ〜!」

 

ゲス顔で智樹がそはらを煽った。あー…智樹知らねえぞ?ほれ、見ろ。そはらがもっと顔膨らませて涙目までなってやがる。それでも智樹は魚を手に取りながらそはらに煽るもんだからそはらのチョップが炸裂した。が…

 

「ウ゛ッ!」

 

《キボウノハナー》

 

ダメージは全てオルガ持ちとなり希望の花を咲かせた。

そして、そはらもいい加減分かってきたのか顔を膨らました状態でもう一度無言でチョップを振るう。

 

「あっ…」

 

智樹も体が真っ二つになったみたいだった。

 

 

 

「あの…マスター、私はどうすれば…」

 

イカロスが釣竿を持ってオロオロしながら智樹に聞いてきた。当の本人は倒れながらもイカロスに向いたのは流石だったな。俺?そはらのチョップにも耐性が付いてきたのか早い内に蘇った。

 

「うう…それで大きな魚を取ってきなさい……ガクッ」

 

最後の力を振り絞って智樹はイカロスにそう伝えると意識が途絶えたみてえだな…。

 

「了解しましたマスター」

 

そう言ってイカロスは翼を広げると大きく空に飛んだ。

横を見るとミカは特に気にすることもなく魚を取っていた。

 

「ミカ…お前なんとも思わねえのか?」

 

「別に、普通でしょ。それに…

 

「ん?なんか言ったかミカ?」

 

「何も」

 

そう言うと再びバルバトスの姿で川に潜って行った。

まあ、いいか。それより智樹起こさねえとだな。

 

「おい智樹?寝てねーで起きろ」

 

「う…ううん…」

 

ったく、しょうがねえ奴だなホント。今までの中で一番手のかかる奴だな。

 

「そはらも、あんましチョップするんじゃねえぞ?智樹の体が持たねえぞ?」

 

「うむぅぅぅぅぅ…」

 

駄目だありゃ。釣りに集中して話聞いてねえな。すると、突然空に1つの光が出る。

 

「なんだありゃ?」

 

その光は段々と近づいていく。よりによって俺達のいる場所まで。光は川に落下しとても大きな水飛沫を上げ、俺達に降ってきた。

 

「うおあああああ!?」

 

「きゃっ!?」

 

「うおっ!?」

 

《キボウノハナー》

 

智樹とそはらは水がかかる程度で済むがオルガの場合、死亡し、既に希望の花を咲かせていた。ちなみに光の正体がイカロスで5mはあるだろう巨大な魚を担いでいた。

 

「だからよ…止まるんじゃねえぞ…」

 

紙耐久のオルガは団長命令を響かせた。

 

 

そして、守形の兄貴の晩飯を収穫した俺達は絶賛宿題中だった。思いのほか守形の兄貴の教え方が良く、すぐに頭に入っていった。次の日には忘れてそうだがな。

 

「イカロス、ちょっとこっちに。オルガも」

 

「はい…」

 

「あん?どうした守形の兄貴?」

 

突然、守形の兄貴に呼び出された。なんの事かはさっぱり分からねえが兄貴の事だ。また変な事考えてんだろ。

智樹達が宿題をしてる間、俺とイカロスはテントの裏側まで来た。

「イカロス、お前が持ってるカードの中に生体検査を行えるカードはあるか?」

 

「カードはありませんが一応私にその機能があります」

 

「ふむ、ならいい。それをオルガにやってみてくれないか?」

 

「何言ってんだ守形の兄貴?」

 

「ちょっとな」

 

うん?なんで俺なんかにするんだ?別にいたって健康ではあるし死んで蘇る以外は普通だぞ?そう思っていたがイカロスは実行した為一応受ける事にした。検査は数秒で終わり検査結果をイカロスが目から投影して見せた。

すると、俺の心臓辺りが妙におかしかった。

おそらくレントゲンみてえなもんだから色なんてつかない筈なのに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「こりゃぁ一体…」

 

「さあな、俺にもわからん。イカロス、お前にはどう見える?」

 

「……検査したときは異常なしでした。ですが検査結果は何故かこうなります」

 

「つまり、イカロスにも分からねえって事か?」

 

「はい」

 

そうか…てさ俺の体まじでどうなってんだよ?特に何もしてねえがよ…。

 

「オルガ」

 

「なんだ、守形の兄貴?」

 

「これについての理由を明日レポートにして提出することだ」

 

「しねぇよ!」

 

駄目だこの人完全にマイペースだな…。

やがて夕方になると宿題もほぼ終わったので帰る事にした。途中、守形の兄貴は魚をバリバリ食ってたがな。

 




因みにこのオルガにある三色はあまり物語に関わらないです。その内もう1つ増えます


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幸運は周りにも及ぶ

海に行こうよ!
金ないわどうしよ………せや!


夏休みの宿題も全て終わらせ、残りの休みが約半月になった頃、いつも通りの日常を送っていた。

最近イカロスがほぼ毎日スイカを撫でてるもんだから試しになんで撫でてるのかと聞いたら「何故か撫でたいと思って撫でてます」なんて言ってたな。

後、こけしの首をスポスポ抜いたり刺したりして遊んでいた事もあったな。……何故か真顔でこっち見ながらしてたのは謎だがよ。

 

「智ちゃん!海行こっ!」

 

そう言ったのは家に遊びに来ていたそはらだった。智樹は寝転がり、イカロスはこけしで遊び俺はテレビを見てる時だった。

 

「海ぃ〜?行くのはいいけどここから遠いし行くのにだってお金もかかるからな〜…」

 

「そこはほらっ!イカロスさんのカードでバッと!」

 

「そはら、最近考え方が脳筋になってきてないか?」

 

それは同感だな。最近なんか智樹にチョップが効かないならあらかじめ俺を先に殺ってから智樹にチョップする、なんて事しまくってるからな。とばっちりで受ける俺の身も考えて欲しいが…「オルガさんなら大丈夫だよ!」なんて言った時は本気で頭痛くなったな。

 

「そう…だよね…」

 

そはらが珍しくシュンとしていた。そんなに行きたかったのか?……なら、海じゃねえけどちょっとくらい智樹と一緒にさせてやるか。

 

「なぁ、智樹。最近食料やらなんやらが不足気味なんだ。ちょっとそはらと一緒に買いに行ってくれねえか?」

 

シュンとしていたそはらと寝転がっていた智樹が同時に俺の方に向いた。

 

「なぁ?そはらもそう思うよな?」

 

一瞬呆け気味だったそはらは俺の言葉で即座に気を取り戻しコクコクと一生懸命に頷いていた。それを見た智樹は面倒くさそうな顔でケツをボリボリかきながら…

 

「え〜…やだよ。それならオルガが行けば―――」

 

「頼んだぜ。そはら!連れてってやってくれ!」

 

言わせる前にかばんと財布を智樹に渡しそはらに促した。

パァッと喜んだ顔で智樹にしがみつき腕を引っ張って行った。

 

「智ちゃん!行こっ!」

 

「え〜〜…」

 

乗り気じゃねえが引っ張られていく智樹も特に抵抗はしなかったのは御の字だ。あそこで抵抗されてたらどうした物かと考える事だったが…あっ、そうだ。

 

「そはら!これ持っていっとけ!」

 

イカロスから貰った一枚のカードをピッと投げてそはらに渡す。そはらは辛うじてカードをキャッチすると俺を不思議そうに見つめてきやがった。言いたい事は大体分かるが…取り敢えず俺はサムズアップして「頑張れよ」と口パクで言った。

それに気づいたのかニッコリと笑い「ありがとう!オルガさん!」と口パクで言って手を振って買い物に出掛けに行った。

 

「ったく、智樹も手が掛かるがそはらも大概だな」

 

頭をかきながらため息ついてそう呟いた。

 

「どうなされたのですか?」

 

こけしをスポスポさせながらジーッと見ていたイカロスがそう言ってきた。

 

「…まあ、人の恋路ってやつか。それをちょっとばかし応援をな」

 

「恋…ですか。よく分かりませんがマスターの事を考えると何故か動力炉が騒がしくなる事があるのですが…何故でしょう?」

 

動力炉?……もしかしたらイカロスもなのか?確かイカロスはエンジェロイドとかいうもんだからどっちかと言うとロボットやAIに近い存在だと思っていだが…もしかするともしかしてかもな。

 

「そこら辺も俺達鉄華団と暮らしてたらその内分かるもんさ」

 

「そういうものでしょうか…」

 

「ああ!団長である俺が言うんだ。信じてみろよ」

 

「はい…分かりました。こういう時のオルガさんの言ってる事は大体当たってると思うので信じてみます」

 

「そっか」

 

なんだか段々とフレンドリーになってきたな。試しにイカロスの頭を撫でようとするとイカロスの頭に触れた瞬間パシッと真顔で叩かれジーッと睨まれた。

なんか、すんませんでした。

 

 

そして、そはらと智樹が帰ってきたのだがなんと守形の兄貴も来やがった。どうして守形の兄貴が?と思っていたが

その前にそはらが俺の所にくると小声で

 

「オルガさん…駄目だった…」

 

って言ってきやがった。何があったのか聞いてみると買い物自体は上手くデートみたいな感じ睨まれた持って行けたそうだ。そはらに渡したカード……幸運を上げるって内容のカードのおかげか順調だったらしい。そこで商店街の福引きで1等賞の「3名海無料旅行チケット」が当選したらしい。なんだそこまではよかったじゃねえか。あとは俺が海には行かねえと俺が宣言すればそはらもイカロスも万々歳と思っていたが話はまだ続いた。

なんと、偶然守形の兄貴に会い偶々福引きを引くと兄貴自身も1等賞を当てたのだと。

あ〜…それは駄目だったな。

 

「ごめんなさいオルガさん…あそこまでしてもらっておいて…」

 

落ち込んでいるそはらが謝ってきたが、「別に気にすることはねえ」と声をかけた。

 

「確かに守形の兄貴は予想外だったがそれでも当初の海に行くって目的は達成されたんだ。ならまだまだチャンスはあるって事だ。そうだろ?」

 

「オルガさん…」

 

「俺達はまだ始まったばかりだ。そう気を落とさねえで前向けよ。な?」

 

そう言うとそはらはコクッと頷いて「ありがとうオルガさん…」なんて言った。

だがな、そはら。これは言えない事だがまだ気づいてねえがイカロスもそはらと同じ想いを恐らく持っている。俺はイカロスも応援するからな?どっちか片方だけ手伝ってやるのはフェアじゃねえしな。

 

「それはそうと、守形の兄貴はなんで此処に来たんだ?」

 

「ああ、実は福引き1等の旅行券が当たってな。どうだ?来るか?三日月も誘おうと思うのだが」

 

「誘ってくれるのはありがてーが、その…会長さんに声かけなくて大丈夫か?」

 

確か会長と守形の兄貴って幼馴染だろ?あんな性格の会長だ。きっと誘わないと後で凄くなんか言われそうな気がしてならねえ。守形の兄貴が眼鏡をクイッと上げると

 

「……………多分大丈夫だろう」

 

と、かなり間をあけてそう言った。大丈夫か?ホントに?

後でなんか言われたらそん時はそん時だ。一緒に会長の愚痴でも聞いてやるとするか…。

そんな時だった。突然家に設置されている電話が鳴り渡った。

 

「ん?電話?」

 

智樹が電話がある方に向かい、受話器を取るとある人物からだった。

 

「うぇ!?会長!?なんで俺ん家の番号知って……え?守形先輩に?どうして居ることが……はい分かりましたすぐ変わります」

 

そう言って智樹は不安な顔で守形の兄貴に受話器を渡した。守形の兄貴は受話器を耳に当てると、顔から汗が流れた。そして、守形の兄貴が「ああ、分かった」と言って智樹に受話器を渡し電話を終えた。

 

「すまんオルガ。一枠埋まってしまった」

 

「あの会長さん、勘が良すぎねえか?」

 

なんでピンポイントで此処にいるって事が分かるんだよ。それに会長に海の旅行なんて話の欠片もしてねえのに…。

 

「まあ今に始まったことじゃねえか…。じゃあすまねえ兄貴。もう一枠はミカにやって――」

 

「どうしたのオルガ?」

 

玄関の外からミカが顔を出していた。ついでにプギーも顔を出していた。

 

「ミカ!どうして此処に?」

 

「桜ちゃんから野菜のおすそわけでプギーと運んで来たんだ」

 

「ブモッ!」

 

と言うと、プギーが背中の野菜を入れた段ボールを見せびらかした。……すっかりミカになついてんだなプギー。

 

「それはありがてえ、後で桜さんにお礼に行かねえとな。と、そうだミカ。お前、海に行かねえか?」

 

「海?」

 

ミカに今までの事情を話すと「なら」とミカが言い出す。

 

「オルガが一緒に行ったらいいと思う。俺はプギーと一緒に単独で行って後で合流する形で会えばいいんじゃない?」

 

「確かに、俺とそはらが当てた旅行券はあくまで運賃が無料と言う話だ。確かに理に叶っているが…かなり遠いぞ?」

 

守形の兄貴の言うとおりこっから海はそれなりに遠い。果たしてプギーはそこまでたどり着けるのか…?

 

「大丈夫。ね?プギー」

 

「ブモッ!」

 

…プギーの顔を見ると任せとけ!なんて顔をしてるがホントに大丈夫か?多少の不安はあるが…ミカが言うからきっと大丈夫なんだろうな。

 

「決まりだな。よっしゃ!全員で海行くぞ!」

 

俺がそう言うと全員「おー!」っとかけ声をしてくれた。皆かなりノリノリだったが。あることに気付いた。かけ声をしたのは5人なんだが、イカロスはかけ声を知らなかったのか無言だった。だから、本来なら兄貴、そはら、智樹、ミカの4人しか聞こえない筈なのに何故か1人多かった。

 

「会長?」

 

それもその筈、いつの間にか会長が家に来ていたのだから。それに真っ先に気付いたのは声を上げたミカだった。

 

「あら〜皆仲良しでいいわね〜」

 

…ホントなんだこの人。気配とか消すのが得意なのか?ミカも結構勘のいい方なんだが目を見開いていたから直前まで気付かなかったんだろうか、かなり驚いてやがる。

 

こうして俺達は全員で海に旅行することになったが…まあ中々愉快な事になりそうじゃねえか。心から楽しいと思えたのは久々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜シナプス〜

 

 

「ウラヌスクイーンの封印が解けて下界に落ちていった時はさぞ愉快な事が起こると思っていたが、まさかここまでつまらんとはな」

 

シナプスにある宮殿にて大広間の玉座に座る1人の男が心底つまらなさそうにそう言った。その男の周りには複数のエンジェロイドが男に群がっていた。

 

「まあいいさ。そうだ、面白い事を考えたぞ。ニンフよ!ここに来るがよい!」

 

「お呼びいたしましたか?マイマスター」

 

青髪のツインテールに透き通った羽を持った小柄なエンジェロイド、ニンフが男の前に現れる。

 

「よい余興を思いついた。ニンフよウラヌスクイーンを破壊しに行ってこい」

 

「は…しかしマスター。ウラヌスクイーンの戦闘力と私の戦闘力とでは力の差が…」

 

「だから、行かせるのだ。お前が何処まで足掻いてウラヌスクイーンに対抗するのか見たくてな」

 

無論、男はそんな事これっぽっちも思ってない。ニンフがどうやって足掻いて潰されていくのか見たいという気紛れな理由だった。

 

「しかし…」

 

「命令に従わないのなら廃棄処分だな」

 

「っ!……分かりました」

 

()()()()()()()()()()()。今の記憶が失った状態のウラヌスクイーンならお前でも倒せるかも知れないぞ?」

 

期待しているぞ、そう言っただけで落ち込んでいた顔が明るくなった。自分は期待されている、そう思うと俄然やる気が沸いてきたのだ。

 

「は、はい!分かりました!必ずやウラヌスクイーンを仕留めてみせます!」

 

絶望していた顔から希望が見えた、そうとも取れる表情をしていたニンフは翼を広げシナプスの宮殿から下界へと降り去っていった。

 

「よかったのですか?」

 

「なに、気紛れで思い付いた事を言っただけだ。どのみちニンフはウラヌスクイーンに勝とうと負けようと廃棄処分する。その時のニンフの顔はさぞかし愉快だろうな!」

 

ハッハッハッハッと高らかに笑う男。それを聞いたエンジェロイド達もニンフに哀れみと嘲笑を交えて笑った。

 

「あの()使()の技術を解明し作り出すまでまだ時間は掛かるが…我らが過ごしてきた虚無の時間に比べればもはやなんとも思わん!ああ、早くあの()使()を見てみたい!」

 

男は大広間に写し出された1つの残骸を見て、それこそ恋い焦がれた恋人を見るような目でその残骸を見ていた。

 

 

 

 

 

 

その残骸は決してこの世界にあってはならないものだった。




因みにニンフはまだ出てきません


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競争と遭難

そはらが大活躍するよ!やったねたえちゃん!


電車で揺らされること30分、俺達のいた町はいつの間にか遠くなり山ばかりだった筈の景色が見渡す限りの海となっていた。

 

「おい、オルガ。あれ三日月のプギーじゃね?」

 

智樹が俺の肩を叩いて電車の窓の方に指を指す方向を見ると確かにプギーがミカを乗せて走っていた。俺より一回りデカイのにも関わらず電車と同等のスピードで走り続けていた。しかも、プギーの顔を見る限り疲れた顔なんて一切見受けられねえ。

 

「ホントにどうなってんだあの猪?」

 

「俺も長年山の中で住んでいるがあんな猪は見たことがない。ましてや空見町にあんな猪がいるとは気付きもしなかった」

 

「守形の兄貴でも知らねえのか…。でもそんな猪を手懐けるなんてやっぱすげよミカは」

 

「オーガス君を風紀委員にしたのはやっぱり正解だったわね〜」

 

会長が一安心といった様子でそう呟いた。…あれはほぼ強制だったような気もするが言うだけ野暮だな。すると、そはらが窓から身を乗り出し

 

「お〜い三日月く〜ん、プギーちゃーん!」

 

とニッコリ笑ってミカとプギーに手を振った。プギーは走る事に集中して反応してなかったがミカはどうやら聞こえたようで手を振り返していた。まだそんなに日数は経ってねえのにもう打ち解けてるみてえだなミカも。

 

「そはら、そんな身を乗り出すと危ないぞ」

 

「あれ?智ちゃん心配してくれるんだ?」

 

「当たり前だろ?幼馴染なんだしな。ほら、引っ張ってやるからじっとしてろよ?」

 

そう言って智樹は手をワキワキしながら窓から身を乗り出してるそはらに近づいた。しかもやべえ笑い方してやがる。そはらも本能的に気づいたのか素早く乗り出していた体を引っ込めた。

 

「と、智ちゃん?今いやらしい目で見てたよね?」

 

「いやぁ?そんな事ないぞぉ?俺は幼馴染として心配してだな?」

 

そはらが体を引っ込めたって言うのに智樹はまだ近づいていた。しかも言ってる事と顔の表情がまるで逆な為そはらも信じていないみてえだ。やべえな、ここら辺で智樹を止めねえとチョップが炸裂する。智樹が食らう分には良いが俺までダメージが来るなら話が違う。

 

「智樹、その辺で止めと―――」

 

「智ちゃんのエッチ!」

 

俺が止めるよりも早くそはらのチョップが放たれ智樹の脇腹にクリーンヒットした。そのダメージはそのまま俺に来るわけであって…ああ、この流れだな。

 

「ウ゛ッ!」

 

「痛っ!」

 

智樹のダメージの大半はオルガが肩代わりしたことで智樹は蹲るだけですんだがオルガはやはりそうはいかなかった。

 

《キボウノハナー》

 

「だからよ…素早くチョップするんじゃねえぞ…」

 

団長命令を響かせ希望の花が咲いた。のだが…

 

「フフッ、面白いわね〜イツカ君は」

 

それを見た会長は心底愉快そうに笑っていた事はオルガの知る由もなかった。

 

 

 

 

そして―――

 

「着いたぞ海ぃ!!」

 

なんだかんだ海に着いたオルガ達。

 

「結構長かったわね〜」

 

「空見町からここまでかなり距離があるからな。…ところでいつまでオルガはいつまで死んでいるんだ?」

 

そう、オルガは電車で希望の花を咲かせてからここに到着してなお蘇っていなかった。余程そはらのダメージが大きかったのかピクリとも動いていない。それを見ていたそはらはどこか申し訳なさそうな顔をしていて智樹も若干後ろめたそうな顔をしていた。

 

「ブモッ」

 

「皆どうしたの?」

 

と、そこでプギーと三日月が到着した。守形先輩が今までの経緯を三日月に話すとチラッとそはらと智樹の方を見た。それに気づいた2人はビクッとしたが三日月は特に何も言わなかった。

 

「んじゃ、俺が起こしてみるよ」

 

「ん?三日月、出来るのか?」

 

「分からない。けど、やらないと皆海に来たのに楽しめないだろ?」

 

そう言って三日月はオルガの所に向かった。倒れてるオルガを揺さぶると

 

「オルガ、起きて。起きないから皆困ってるよ」

 

と言った。元々起きないのはそはらのチョップのダメージのせいであってオルガは決して悪くないのだがそれでも三日月はオルガを揺さぶった。すると、三日月はオルガを揺さぶるのを止めて立ち上がった。

 

「オルガと長い付き合いだと聞いているが、やはり三日月でも駄目か――」

 

と守形先輩がそう言ったとき三日月が光出した。

 

「な、なんだ!?」

 

「三日月君!?」

 

その場にいたイカロスを除く全員が驚愕した。だが、三日月は気にすることなくバルバトスに変身し――

 

「オルガ、起きないなら…キツイのいくね」

 

両手にメイスを顕現させ、しっかりと握りメイスをオルガに力一杯振り下ろした。ドンと鈍く重たい音が鳴りどう見ても死体蹴りどころかオーバーキルですらあった。

だが……

 

「うっ…ぐっ……はっ!?」

 

ピクリともしなかったオルガは見事蘇った。

 

「オルガ起きた?」

 

「おお…ミカ。ていうか、ここ海か?」

 

「そうだよ。皆、オルガが起きないから困ってたよ」

 

「何!?そいつはすまねえ。心配かけちまったな……ん?お前らどうした?」

 

オルガの起こされ方や三日月がバルバトスに変身した事やらで頭の情報処理が追い付かなくなった一同はイカロスを除いてポカーンと口を開けっ放しだった。

 

〜数分後〜

 

さっきの事で困惑してた奴らには「俺は、鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ!こんくらいなんて事はねえ!」って言ったら全員納得した顔になったのでそのまま海で遊ぶ事にした。んで、俺はと言うと……

 

「どうした兄貴ぃ!そんなんじゃ俺が先にゴールするぞぉ!」

 

「中々やるなオルガ」

 

守形の兄貴と共に水泳の競争をしていた。砂浜から往復で50メートル泳いでどちらが先にゴールするかがルールだ。

で、俺はというと既に往復し後10メートルもしない内に砂浜に着く頃だった。それに比べ守形の兄貴は俺の後ろに追随するしかできていなかった。このまま行けば守形の兄貴に勝てるな!そう思っていた。

 

一方砂浜では―――

 

「あら、イツカ君頑張るわね〜」

 

会長と三日月が2人の勝負の行方を見ていた。

 

「会長はオルガが勝つと思う?」

 

「んー、確かにイツカ君は英ちゃん相手によく頑張っていると思うけどあれは英ちゃんが勝つわね〜」

 

「ふーん、俺も同じだ」

 

「あら、てっきりイツカ君を応援してるものだと思っていたのだけれど?」

 

「守形先輩はまだ全力じゃない。だからオルガは勝てる見込みがない」

 

「ふふ、よくわかっているわね〜」

 

 

 

もうちょいだ!もうちょいでゴールだ!悪いが守形の兄貴、この勝負頂くぜ!そう思っていた時だった。

 

「ふむ、ではオルガ。俺も本気を出すとしよう」

 

「は?」

 

後ろから守形の兄貴の声がすると急にスピードが上がりだした。嘘だろ!?今まで本気じゃなかったのかよ!?

後少しという所で追い抜かれ、先にゴールしたのは守形の兄貴だった。

 

「……負けちまったな」

 

全力全開で勝負したから後悔とかはねえが、少し悔しかった。後少しって所だったんだけどな、まさかまだ全力じゃねえってのは予想外だぜ。勝負に負けた俺は泳いでゆっくり砂浜に上がろうとすると上から手を差しのべられた。

 

「いい勝負だった。またやろう」

 

「正直悔しいが…また相手頼むぜ守形の兄貴」

 

守形の兄貴の手を掴んで砂浜に上がった。しっかしすげよ守形の兄貴は。まだまだ勝てるきがしねえな。

 

「よし、オルガ。次は早食い対決はどうだ?」

 

と、守形の兄貴が後ろに指を指すとそこには「夏盛り!ドタバタ早食い対決!」って書かれた旗が立てられていた。

どうやったらあんなネーミングになるのは疑問だが。

 

「すまねえ兄貴。ちょっとばかし気になる奴らがどうなってるか見に行きてえんだ。俺はパスするが早食いなら俺よりミカの方が強ぇぞ?」

 

「………女か?」

 

「いや、そうじゃねえ。どっちかって言うと恋愛に発展しそうでしない奴らの恋のキューピッドみたいなかんじだ」

 

「オルガがキューピッドなのか?あまり似合わなさそうだが…」

 

「そりゃねえぜ兄貴」

 

確かに俺が翼生えて弓矢構え、ほぼ全裸状態だったら自分でも吐きたくなるが別にそんな姿にならなくとも恋愛に発展させることには可能だしな。今回はそはらの背中を後押ししたが今頃うまくやれてるかな?

 

「なら、早食い対決は三日月とする事にしよう。オルガはキューピッドとやらに専念するといい」

 

「サンキューな兄貴」

 

そう言うと守形の兄貴はミカの所に、俺は智樹達の所に向かったんだ。

 

 

 

 

で、気になって智樹達の所を岩場に隠れて様子を見に来たんだが………

 

「ほらイカロス!もっと足を動かして!」

 

「こう…ですか?」

 

「まだだ!もっと早く!」

 

「はいマスター」

 

ちょっと待てぇ!?なんでそはらじゃなくイカロスと泳いでんだよ!?いや、泳いでるじゃなくて泳ぎを教えている、という方が正しいが今はそんな事関係ねぇ!そはら!何処行ったそはらぁ!

辺たりを見回して見るがそはらの影が見当たらねえ。何処行ったんだそはらの奴?これじゃお膳立てした俺の努力が意味ねぇ…。

 

「あら〜桜井君とイカロスちゃん仲が良いわね〜」

 

と、後ろから声が聞こえてきた。

 

「会長!?」

 

「覗き見とはいい趣味してるわねイツカ君?」

 

「覗き見っちゃ覗き見ですけど、どちらかと言うと影で応援する側です。ていうか、どうして此処に?守形の兄貴とミカの対決でも見てたんじゃ?」

 

「途中まで見てたのだけれどイツカ君がこそこそ何かしてたから弱みを握っ………何してるのか気になってね〜」

 

「アンタホントにすげえよ…。色んな意味で」

 

「それほどでも〜」

 

「誉めてねぇ」

 

何考えてるのかさっぱりわからねえ会長を他所に引き続きそはらを探す事にした。会長も何故か付いてきてるが気にせず、智樹達には気づかれないよう辺りを見回ってきたがマジで何処にも居ない。

 

「そはらの奴、ホントに何処行ったんだ?」

 

「そはらちゃんを探してるのかしら?」

 

「そうですよ…。ってか知らないで付いてきてるんですか?」

 

「そうねぇ。もしかするとあの向こう側にいるボートにそはらちゃんがいるかも知れないわねぇ」

 

俺のツッコミを他所に会長が海の方に指を指すと確かにオレンジ色のボートがかなり小さいが見えた。あの小ささを見る限りかなり遠くにいる見てえだが……まさか!?

 

「会長!智樹にそはらが泳げるかどうか聞いて来てくれねぇか!?俺はボート屋の所にそはらが来たかどうか聞いてくる!」

 

「分かったわ」

 

そう言うと俺は走って近くにあるボート屋に赴く。

 

「おっちゃん!此処にポニーテールでオレンジ色の水着来てかなり大きい胸をした女の子来なかったか!?」

 

「ああ、その子ならちょっと前にオレンジ色のボートを借りに来ていたよ。彼女かい?」

 

「いやそうじゃねえが…。サンキューおっちゃん!」

 

聞きたい事を聞くと急いで智樹達の所に向かう。そはらが泳げないなんて事ないように頼むしかねぇ。そして、智樹達の所に着くと最悪の報せを聞くのだった。

 

「会長、どうだった!?」

 

「やっぱり、そはらちゃん泳げないみたいわね。イツカ君の方は?」

 

「こっちも当たりだ。そはらがボートオレンジ色のボートを借りたのは間違いないねぇ。とすりゃ、あの遠くにいるボートが…」

 

そはら、と言うことになる。ここからだとかなり距離があるしあんなに遠いとなると潮の流れも早くなってる筈だ。

 

「そはら!」

 

「智樹!?」

 

智樹が海に飛び込みそはらの方に泳いで行った。

馬鹿野郎!何の準備もなしに泳いでいったら智樹も潮にながされるぞ!くそっ、どうしたら…

 

「どうしたのオルガ?」

 

気がつくと後ろにミカと守形の兄貴がいた。恐らく早食い対決が終わった後だろう。2人とも何故かトウモロコシをかじってやがる。

 

「ミカ頼む!そはらが遭難して智樹がそれを助けに行ったんだがそれじゃ智樹も危ねえ!力を貸してくれ!」

 

「わかった。ちょっと待って」

 

ミカが自分の右手を見つめると光だし、右手にあるものが現れた。それはバルバトスの武装の1つ、ナノラミネートソードだった。

 

「これを」

 

「あん?これでどうするん――」

 

すると、突然ミカが俺をうつ伏せの形で押し倒した。そして右手に握られたナノラミネートソードを俺の背中に刺す。

 

「ぐっ!?」

 

「我慢してねオルガ」

 

ミカがソードで刺した俺をそのまま引きずり海に出た。何考えてんだ!?って思ったのもつかの間。何故か俺は浮いた。それもミカが俺の背中に立った状態でも。

 

「ボゴボゴボゴッ!?(どうなってんだこれ!?)」

 

これサーフィンって言うのか?そうしてる内に泳いでる智樹に追い付いた。

 

「智樹!オルガに乗って!」

 

「!?……わかった!」

 

ミカに言われて智樹も俺に乗ったが2人乗っても沈む事はなかった。ホントにどうなってんだこれ?

そうして俺達はそはらの方に向かって行った。

 



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外道サーフィンと化したオルガ

初めはそはら視点です!


〜inそはら〜

 

ちょっとした運もあるが、オルガさんに後押しされるような形で海に来た私達だったが現実は非情だった。

私は生まれついて泳げないのだったのだが今日智ちゃんに教えてもらうという形で海を一緒泳ごうと思っていたのだが私が水着に着替えた時は既に智ちゃんはまたエッチな事考えて海を泳いでいた。

そこまではいつもの普段通り(後でチョップはしておく)なのだが急に智ちゃんは泳いでる途中で止まった。何かな、と思っていると海に潜りだす。そして、いつの間にか海に潜っていたイカロスさんに担がれて海から飛び出てきた。

どうやら智ちゃんは何故か溺れていて、それでイカロスさんに助けてもらったらしい。

 

「と、智ちゃん?大丈夫?」

 

私は智ちゃんに近づき安否を確認した。すると、気を失っていた智ちゃんは目を覚まし「大丈夫だ」と返事してくれた。すると―――

 

「イカロス!ちゃんと人間らしく泳いでないと怪しまれるだろ!」

 

とイカロスさんを説教した。

 

「はい、ですがマスター。私は海に浸かると羽が水分を吸って重くなるんです」

 

「あ…そうなの…。よし、なら俺が泳ぎ方を教えてやるからそこに直りなさい!」

 

ズキン。

 

なんだろうこの気持ち。智ちゃんはイカロスさんに教えてあげてるだけなのにどうしても胸がモヤモヤする。智ちゃんとイカロスさんが仲良くしてると何故か心が痛む。この痛みはなんだろ…。そうして私はこの気持ちを紛らわそうとその場から離れ、海に入っても泳げないのでボートを借りたのだ。

 

「……智ちゃんのばーか」

 

こんな事を言っても気が紛れるわけでも解決するわけでもない。ただ、口からポロッと出てきてしまったのだ。ボートに乗ってからずっと、ずっと智ちゃんの事を考えていた。そして……ふと、オルガさんの言っていた事を思い出した。

 

『気を落とさず前を向けよ?』

 

そうだ。私は何の為に此処に来たのか。オルガさんも応援してくれている。なら、行動に移さないと!

落ち込んで下を向いていた顔を上げる。よし!智ちゃんの所に行って「泳ごう」と一言伝えに行こうとした……が

 

「あれ?」

 

周りを見ると海だらけで陸なんてなかった。いや、正確には辛うじて向こう側に私がいた砂浜が見える。

 

「っ!しまった!急いで戻らないと!」

 

ここまで来るともう潮の流れも早くなり最悪砂浜に戻れなくなる。その前にオールドで漕いで戻らなければならないのだが―――

 

「きゃっ!?」

 

海にちょっとした波が立った事でボートが振動し、手が滑ってオールを2つとも落としてしまった。拾おうと手を伸ばすも波に流され最早手の届く距離から離れてしまった。

 

「あ…」

 

もう戻れない。そう思った瞬間、ひどく心寂しくなり孤独感を覚えた。海に入って泳ごうとしても潮に流されるしそもそも泳げない。私はなす術もなくボートに座り込むだけだった。

 

「智ちゃん…」

 

涙が零れた。このまま智ちゃんに私自身の気持ちも伝えられずこのまま遭難してしまうのか。そう思うと段々と涙が一粒、また一粒と流れ落ちる。

 

「助けて…智ちゃん…」

 

来る筈もないのに私はそう呟いた。すると、何処から何かが聞こえた。

 

「……え?」

 

もう一度耳を澄まして聞いてみると、誰かが叫んでいるようだった。しかも、その叫んでいる声は―――

 

「そはらー!無事かー!」

 

智ちゃんだった。それだけじゃない。三日月君と一緒に何かに乗ってこっちに向かってきている。

 

「智ちゃん!」

 

「そはら!」

 

やがて距離は縮まり智ちゃんと三日月君が私の乗っているボートに並び立った。

 

「こんの馬鹿そはら!なんでこんな所までボートで行くんだよ!遭難したらどうするんだ!?」

 

「だ、だって…」

 

「お前昔から泳げないんだからさ…。もうこんな危ない所まで来るんじゃないぞ。……心配するから」

 

智ちゃんが来てくれたという喜びと、それと心配させたという気持ちで私は大粒の涙を流した。

 

「グスッ…ありがとう智ちゃん、三日月君。……来てくれて」

 

涙声で震えながら私はそう答えた。そんな姿の私に智ちゃんは頭を撫でてくれた。

 

「礼ならオルガに行って。今もこうして頑張ってくれてるから」

 

「え…?オルガさん…?」

 

私は少し困惑した。だって、目の前には三日月君と智ちゃんしかいないというのに何処にオルガさんがいるのだろうかと。よく見てみると三日月君が右手に握っている刀?らしき物に視線を合わせるとなんとオルガさんがいた。

ていうか、オルガさんに三日月君と智ちゃんが乗っているようだった。

 

「オルガさん!?」

 

「ゴボゴボゴボゴボゴボッ!ゴボゴボゴボゴボッ!(俺は鉄華団団長オルガ・イツカだぞ!こんくらいなんてことはねえ!)」

 

「何言ってるのかさっぱり分からないよ!?」

 

「じゃあそはらは俺と交代だ。これをしっかり持ってね。じゃないと落ちるから」

 

「え?でも三日月君は……」

 

「俺は大丈夫。早く乗らないとオルガ死んじゃうよ?」

 

「わ、わかった」

 

取り敢えず私はオルガさんに乗った。そして三日月君が「行っていいよオルガ」と一言言うとオルガさんが勝手に動きだし砂浜の方に向かって行ったんだ。三日月君は…バルバトスっていう姿に変わってボートを押しながら私達と一緒に戻っていったんだ。

途中、オルガさんの回りが赤くなってたのはなんでだろう?智ちゃんに言っても「くそっ!出来る物なら俺が変わりたいくらいだぜ!」って言ってたんだけど…よく分からなかった。

 

一方、そはらと智樹を背中に乗せて海を進行しているオルガは―――

 

「(やべえやべえ!背中に乗ってるそはらの感触がっ!こうムニムニしてて…って何考えてやがんだ俺は!?……あっ、やべえ鼻血が出てきた。このままだと大量出血で死ぬ!達する達する!なんとしても砂浜にたどり着かねえと!)」

 

ラッキースケベ的な事で大量の鼻血を出しながら海を進行していた。そして、砂浜にたどり着きそはらはと智樹は無事だったがオルガだけは大量出血で死んでいた。

 

《キボウノハナー》

 

「だからよ…無闇にどっかに行くんじゃねえぞ…」

 

希望の花が咲き、団長命令を響かせたオルガだった。

 

 

 

その日の夕方―――

 

「ったく、もうあんな真似すんじゃねえぞそはら?」

 

「ごめんなさい、オルガさん…」

 

俺が気づいたから良いものの、分からなかったら最悪そはらが遭難するとこだった。ちょっとどうなってるかなって見に来て正解だったぜ。

智樹がイカロスに海で泳ぎ方を教えてる一方、俺とそはらは砂浜に座って夕日を見ながら喋っていた。

会長と守形の兄貴は……何処かに居るだろ。

 

「まあ、まだまだ先は長いんだ。チャンスは幾らでもある筈だ。それを活かすのも殺すのもそはら次第だ」

 

「えと…どうして私にそこまで…」

 

「あん?当たり前だろ?俺達は鉄華団だ。仲間が前に進めない時は先頭に立って皆を引っ張ったり、時には背中を後押しするのが団長の仕事だからな。気にして当然だ」

 

「私、鉄華団?に入ってないんだけど…?」

 

「ハハハッ、智樹もそはらもつれねえな?」

 

俺は笑いながらそう言った。まさかそはらが一歩勇気出すのにここまで掛かるとはな。まあ、そういう奴もいるだろ。諦めない限り道はあるんだから気を落とす事はねぇ筈だ。だが、智樹がイカロスを選んじまった時は……そん時はそん時だが。

 

「でも…ありがとう。智ちゃんから聞いたんだよ?オルガさんが真っ先に気づいてくれたって」

 

「お前はちょい暴走気味な所があるからな心配で仕方ねえ」

 

「……それ馬鹿にしてる?」

 

そはらの顔がほんのり赤く、そして少し膨らませてそう言った。俺は笑って誤魔化したがそはらはなんとなく察したのだろうかプイッと顔をそらした。

それから少しの間、特に喋る事なく夕日を眺めていた。そういや、こんなにゆっくりして海を見るのも地球の夕日を見るのも初めてだな。俺やミカ、鉄華団の皆と地球に降りた時は結構バタバタしてたからこうやってゆっくりしてる間もなかったしな。改めて見てみると綺麗なもんだ。

そう感傷に浸っていると智樹達が泳いでいる所がまた騒がしくなっていた。

あー…ありゃ智樹が足つって溺れてるな。行ってやるとするか。

 

「あ、あのねオルガさん。もし良ければ泳ぎ方教えて――」

 

と、オルガの方に振り向いたが既にオルガはいなかった。

 

「何してんだよ智樹。こんな浅瀬で溺れてたら洒落にならねえぞ?」

 

「うるせー!パンツに溺れて死んだオルガなんかに言われたくねえわ!」

 

オルガは既に溺れていた智樹を救出し、笑っていた。それを見たそはらはまたもやプクーッと顔を膨らませてオルガ達のいる方に近づいた。

 

「どうしたそはら?こんな所いたら溺れちまう――」

 

オルガが言い掛けた瞬間、そはらのチョップがオルガに向けて放たれていた。

 

「ぶべっ!?」

 

「今日泊まってく!ここで皆で泊まってくの!」

 

「いやまてそはら!?泊まるも何もそんな準備も予約もしてな―――」

 

「嫌なの!泊まってくのー!」

 

ぶべらっと何処から出てきたのかオルガの悲痛な叫びが響き渡る。

 

「うわー…、オルガの奴そはらが感情鈍ってる時に放たれるチョップ喰らってるな…痛そ…」

 

「お、おい智樹ぃ!そはらを止めぶふっ!?」

 

チョップなのにも関わらず鈍い音しか出ないチョップはそはらの感情が高まったりブレブレだったりするとでる「鈍いチョップ」である。中途半端な威力の為、オルガが死なないのはこの「鈍いチョップ」が放たれているからである。

 

「…………どういう状況?」

 

混沌とした状況の中で三日月や守形先輩、会長がこちらの方に来たのだがそはらがオルガに向けてチョップしているためジト目だった。

 

「あ、三日月。いやぁそれがさ…」

 

オルガがチョップを受け続けている中、智樹が三日月にここまでの経緯を話す。だが、あくまで智樹から見た視点であって全部を知っているわけではなかった為、所々曖昧な部分があったものの三日月は瞬時に理解し手に持っていた一枚の紙を見せた。

 

「泊まりたいっていうならこれ使えると思うけど」

 

三日月の手に握られていたのは「団体様、無料宿泊券」と書かれた券だった。これはオルガと守形先輩が勝負したあと、三日月との早食い対決で引き分けになった為優勝商品は取り敢えずは三日月に渡された物だった。

それを見るや否や、そはらはすぐに「行く!」と言い出し、オルガはボコボコになった顔を砂浜に突っ込む形で倒れた。

 

「まあ…ドンマイ…」

 

「早く止めろよ智樹…」

 

肩をポンと軽く叩いて同情する智樹だった。




※そはらのチョップの威力は極端です。


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どうして蚊にレーザーを撃ったの?

海の一件からその後。ミカと守形の兄貴が取ってきた優勝賞品の無料宿泊券を使い、俺達は1日だけ寝泊まった。

後から聞いた話なんだが、どうやらイカロスは眠らないという事が判明した。()()()()()()()()()()()()()()()()()

その日の俺は色々ありすぎたせいですぐに寝たんだが智樹は途中で目を覚ましたらしい。んで、イカロスも起きてたみてえだから(というか、俺と智樹とミカと兄貴という男しか居ねえ部屋にイカロスが居ること事態やべえ気もするが)なんで起きてるって智樹が質問したらさっき言った眠る事を知らないという返事が返ってきたわけだ。

眠る事を知らねえ、ってのは少し引っかかるがそれでも智樹は夜が明けるまで一緒に外に出て夜の海を見てたとか。

なんだよ…結構優しいじゃねえか…ヘッ。

ともかく、イカロスの事が1つ分かったって事は良かった。で、海から家に帰ってきた訳だが……

 

「あー!!ちくしょう蚊がうぜぇ!!」

 

智樹がイラつきながら大声で叫ぶ。その理由は、もう少しで夏も終わりだってのに蚊っていう虫がわんさか家に湧いて出てきていた。地球の虫についてあまり詳しくねえ俺だが、智樹の話によると蚊に刺されるとその刺された所が痒くなるらしいが俺はそうじゃなかった。

 

「オルガッ!お前の肩に蚊が!」

 

「何ッ!?」

 

気づいた時には既に遅かった。俺の肩に乗った蚊が俺の血を吸うため口をぶっ刺す。

 

「ウ゛ッ゛!」

 

《キボウノハナー》

 

ここの所、まるでペラペラの紙みたいな耐久力だったのオルガは遂に蚊に刺されただけで死亡し希望の花を咲かせる。因みに、蚊に刺されて死んだ回数はこれで1()5()()()であり、幾らなんでも死にすぎである。

 

「オルガ…お前どうやったら蚊に殺されるんだ?俺はそれが知りたい…」

 

「うっせぇ!そんな事俺に聞かれてもしるかぁっ!」

 

蚊に刺されて死んだものの、ダメージはそはらのチョップとは比べ物にならねえくらい弱いからすぐに蘇りはするが何回もこんなくだらねえ事で死んでたらたまったもんじゃねえ。

 

「智樹、イカロスのカードでどうにかならねえか!?」

 

「そうだ!その手があった!おいイカロスー!」

 

「お呼びいたしましたかマスター?」

 

智樹が呼ぶと部屋の祖とから姿を現すイカロス。イカロスはエンジェロイドだからか俺と智樹みたいに蚊が寄ってくることはなかった。

 

「イカロス!お前の力でどうにかして蚊を殺してくれ!」

 

「どう、とは?」

 

「こう…手でパンッて叩いてだな…」

 

智樹が曖昧な説明でイカロスに頼みこむ。すると蚊が一匹現れた。

 

「イカロスそいつだ!その小っさいのをパンッて叩いて殺すんだ!」

 

「分かりましたマスター」

 

イカロスがゆっくりとその蚊に向かって叩こうとするもイカロス自身の叩くスピードが遅すぎてパンッと叩く頃には既に逃げられていた後だった。

 

「イカロス!もっと!もっと叩くスピードを早く!」

 

「はいマスター」

 

そうしてイカロスは逃した蚊を見つめてジリジリと詰め寄る。そしてその蚊は俺の顔に止まろうとし―――

 

「そこ」

 

「え゛っ゛?」

 

イカロスのとんでもなく速い平手が俺の顔にダイレクトアタックした。お陰で蚊は死んだがその平手のせいで俺も吹き飛び壁にめり込んだ。

 

「かはっ……」

 

《キボウノハナー》

 

「すみませんオルガさん。蚊が止まりそうだったので」

 

……そういう事はせめて先に言ってくれねえと困るぞイカロス。そうして俺は本日16回目の死を遂げたのだった。

 

 

 

「イカロス!なんかのカードでどうにかしてくれ!」

 

限界だった。蚊のせいで死ぬのも嫌だしイカロスの平手で死ぬのもゴメンだ。俺はイカロスにカードでどうにかするよう言うと嬉しい返事が返ってきた。

 

「はい、カードでどうにかします」

 

イカロスがピッと一枚のカードを取り出し、光った。何が起こるのか分からなかったが少なくとも俺が死ぬことはない筈だ。が…

 

「何も…起きないぞ…?」

 

智樹の言うとおり何も起きなかった。あのカード、さては不良品か?そう思っているとまたもや一匹の蚊が現れる。

それと同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「……え?」」

 

あまりの出来事に俺と智樹は言葉を詰まらせた。上を見ると家の屋根が貫通し1つの穴が出来上がっていた。今度は部屋の至る場所に蚊が出現しその度に光の柱が蚊に落ちてきた。

つまり、智樹の家はそこら中穴だらけになり、俺達にも光の柱が落ちてきてしまうわけだが……

 

「うおああああああ!!??」

 

智樹に命中するはずの光の柱は全て俺に命中してきた。まるで俺がガイドビーコンになるように。

 

《キボウノハナー》

 

希望の花を咲かせても光の柱が止むことはなくオルガに命中し、途中智樹がイカロスに「ストップ!ストップ!」と言っても光の柱のせいかレーザーの音のせいで智樹の声は届く事なく欠き消され智樹の家は崩壊するのだった。

 

 

「やりすぎだ」

 

ポカンとグーで殴る智樹と夏休み前からずっとずっと持っているスイカを撫でながら殴られるイカロス。正直な話、家が崩壊するまでやるとは思ってもみなかった。

 

「すみませんマスター」

 

「……もういいよイカロス。お前は言われた事をしただけだしな。それよりオルガ。これからどうする?」

 

「どうするって言ってもな……そうだ。他の奴の家に泊めて貰うってのはどうだ?」

 

「いいじゃん!オルガにしてはよく考えたな!」

 

「お前馬鹿にしてんのか?」

 

智樹が俺の事おちょくってるように見えるが…今はそんな事どうでもいい。ともかく、知人友人に頼んで見るとするか…。

 

 

「駄目。ぜーったい駄目!」

 

手始めにそはらに聞いて見たがやはりというか駄目だった。

 

「そこをなんとか!」

 

智樹が土下座しながらそはらの家の前で頼みこむが決してYESとは言わなかった。

 

「そう言っても智ちゃんが私の下着盗んだりするから絶対駄目!」

 

普段の智樹の信用の無さが裏目に出たなこりゃ。ともかく、そはらが駄目なら次は――

 

「別にいいぞ?」

 

河原に行って守形の兄貴に頼み込んだが、すぐに了承してくれた。ついでに何故かそはらが着いてきたが今はそんな事言ってる場合ではなかった。

 

「本当か兄貴!?」

 

「ああ、別に構わない。但し、気を付ける事がある」

 

「あん?なんだそりゃ?」

 

「ここは夜になると親子連れの熊や猪がわんさか来る。野性動物に対抗する術がなければ……死ぬぞ?」

 

前言撤回。兄貴の所で住める事なんてミカでも居ない限り不可能に近かった。

 

「困ったもんだな…」

 

あれからしらみつぶしに色んな奴の所に行ったが誰1人として快く受け入れてくれる奴はいなかった。ついでにそはらに続いて守形の兄貴も着いてきてるが…。まあ、家の事情だとか親御さんが駄目と言ってるからだとかいう理由だから仕方ねえが三割くらいは智樹のエロス行動が原因で泊めてくれないっていう理由もあったからホントに困ったもんだ。

着いてきてくれているそはらがミカの所はどうなの?って聞いてきたがミカも世話になっいる都合上迷惑をかけれないという理由で行くことはなかった。

そして気がつくと夕方になり途方に暮れてた所で前から声がした。

 

「あら、皆してどうしてのかしら〜」

 

声を掛けて来たのは会長だった。また犬を連れてるから散歩かなんかだろう。

 

「あっ!会長!実はかくかくじかじかで…」

 

智樹がこれまでの経緯を会長に話す。すると会長はニッコリとした顔で

 

「桜井君、イツカ君。なら、ウチに来る?」

 

と提案してきたのだ。

 

「会長、頑張っておもてなししちゃうわ〜」

 

「マジすか会長」

 

あの会長が?あの会長がか!?かなり不安な気もするが…。

 

「ちょ、智ちゃん!オルガさん!会長の家って凄くセレブって噂だよ!?」

 

「「マジか!?」」

 

どおりで普段の私服姿が綺麗だと思ったらセレブだったのか…。さっき抱いた不安もなくなってきたぜ。

 

「よかったら見月ちゃんも英ちゃんも来ていいわよ〜」

 

「え!?いいんですか!?」

 

なんと、そはらや守形の兄貴まで来ていいって言いやがった。すげえよ、会長は。

 

「………俺は、これで失礼する」

 

と言って、守形の兄貴はそそくさと帰ろうとしていたがそれを俺が兄貴の襟元を掴む事で阻止した。

 

「なんだよ兄貴?ここまで来たなら一緒に行こうぜ?」

 

そう言うと俺は兄貴を引きずる形で無理やり同行させる事に成功した。なんか、若干諦めた顔してだがなんかあったのか?

そうして俺達が会長に案内されて来た所は―――

 

「せ……セレブ?」

 

大広間に少々顔つきの悪い奴等が綺麗に整列し、黒いスーツを着た奴ばかりだった。どうやら会長の家はセレブって名のヤクザの屋敷だったみてえだな。

おそらく奥に堂々と座っているじいちゃんがトップみてえだな。そのじいちゃんの後ろには高そうな壺や掛けじく、仁義って大きく書かれた額縁が飾られていた。

 

「あー…ここ五月田根家はな…江戸の宿場町だった頃からこの空見町を仕切っていて…その…まあ、なんというかセレブというのは間違ってないが…色々とな…」

 

守形の兄貴が解説してくれたが、あまり聞こえがよくなかったのか横にいる智樹とそはらはかなりブルブル震えていた。イカロスは相変わらずスイカ持ちながら撫でてるが。

ま、ここは俺が出るしかねえな。

 

「本日はご招き頂き、そして俺達の家が復旧するまでの間屋敷に泊めてくださるという言葉感謝します」

 

奥にいるこの屋敷のトップに正座をしながら頭を下げる。こういうのは、ひとまず礼を言わなきゃな。相手に失礼ってもんだ。

 

「あら〜桜井君と見月ちゃんは仕方ないとしてイツカ君はビビらないのね〜」

 

会長が手を頬に着けながら喋ってくる。

 

「まあ、こういうのは慣れてるんで」

 

実際、名瀬の兄貴にこういうのを教え込まれたしなにより俺は踏んできた場数が違う。こんな所でビビってちゃ鉄華団団長なんて名乗れねえしな。

 

「ほぅ…若僧にしては度胸があるの!」

 

「ありがとうございます」

 

チラッと見ると智樹とそはらは幾分か落ち着いたみてえだな。だがよ、()()()()()()()()()()()()()()

 

「イカロス!?」

 

智樹が叫ぶと俺はあのじいちゃんの方に向くとイカロスはそのじいちゃんの隣にいた。何してんだアイツ!?

 

「………」

 

イカロスは無言でじいちゃんの禿げた頭を撫でだした。そうするとイカロス自身の手に持っていたスイカをイカロスが眺めるともう一度じいちゃんの頭を撫でたした。やべえなんて事しやがるんだイカロス!?

 

「すんませんでしたー!ウチのイカロスが失礼な事を!」

 

俺が動くよりも先に智樹がイカロスを捕らえ、イカロス共々土下座した。恐る恐るじいちゃんの方に向くと意外な顔をしていた。

 

「アリじゃよ!」

 

あのじいちゃんニッコリしてやがる!?

 

「今日は実に面白い。度胸のある若僧も見れた事だし美香子の友人じゃ。盛大にもてなさんか〜」

 

……どうやらあのじいちゃん、懐がデカイみてえだな。

それからというもの、あのじいちゃんの言うとおり盛大にもてなされた。かなり豪華な飯に躍りの姉ちゃん、他の奴らも結構気さくな奴ばかりだった。ちょっと時間が経つ頃には智樹もそはらも緊張感がほぐれ、楽しんでいた。

俺はまあ、うまい飯なもんなんで狂ったように飯を食っていた。すると向こうから歩いてきた守形の兄貴が俺の隣に座った。

 

「にしてもオルガ。よく堂々とあの人の前で言えたな。普通なら智樹やそはらみたいに震える所だが…」

 

「まあ、俺もああいう世界で生きてきたもんだからな。あの程度なら問題ねえさ」

 

「そうか…そういうものか」

 

そんな会話をしていると酒を飲んでない筈なのにベロンベロンに酔ったそはらが近づいてきた。

 

「オルガさん凄いね〜。私あんな真似できないよ〜」

 

……酒臭くはねえんだがどうやったら酔えるんだよ。

そんな事を他所に俺はある事に気がついた。

 

「……なあ、智樹は何処行った?」

 

「智ちゃんならお風呂に行くって言ってたよ〜」

 

「……風呂か」

 

悩ましい顔をしながら守形の兄貴が呟いた。

 

「どうしたんだ兄貴?」

 

「いや…智樹が間違えてなければいいんだが…五月田根家には五月田根一族専用風呂があってな、江戸時代に間違えて入った客人が打ち首にされたらしい」

 

「なんだそりゃ…」

 

「ついたあだ名が¨獄門湯¨だ。智樹が間違えて入らなければいいが…」

 

守形の兄貴がそう言った瞬間、屋敷に警報音がなり響いた。

 

「神聖なる一族の獄門湯にぃ!!不埒者が侵入ぅ!!」

 

館内放送でそんな言葉が響き渡った。すると、周りの奴等が表情を一気に変え、あわただしく風呂のある方向に向かって「殺せぇ!」と殺気を立てながら風呂場に向かっていった。

 

「まさか智樹が!?」

 

「不味いな…オルガ、そはら行くぞ」

 

俺達は急いで智樹の元に向かっていきたどり着く頃には既に智樹は包囲されてる状態どころか捕まり首筋に刀を当てられている状態だった。智樹の目の前にはあのじいちゃんもいやがる。

 

「智樹!」

 

「オルガ!?」

 

俺は兄貴の制止を振り切り否応なく智樹の所に駆け出し、智樹とじいちゃんの間に入り込む。

 

「智樹が無礼を働いたなら詫びる!だが殺す事はねえだろ!?」

 

「若僧…お前は知らんじゃろうがウチにある獄門湯は元々天女がはいる風呂での。天女がいなくなった後、客人に獄門湯を解放するとこの地に天罰が落ちてのう。地震や飢餓、竜の形をした竜巻など起こったので、客人の首をはねる事でようやく収まったのじゃ。それ以来、ワシらは獄門湯を祀っとる。この空見の地を守る為にな」

 

「なら!俺の首をはねろ!首をはねてそこら辺に転がしてもいい!だから、智樹だけは!」

 

「オルガ…」

 

殺しちゃならねえ!殺させねえ!例えどんな理由があろうと俺は智樹に助けてもらった!なら!ここで智樹の命がやべえ時に俺が命張らねえでどうする!

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

突然、悲鳴が鳴った。俺は智樹の身になにかあったのかと思い振り替えるが智樹はなんともなかった。変わりに()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「マスターとオルガさんに何をしているんです?」

 

イカロスがその言葉を呟くと目が赤く輝いていた。

 

「何をしているのかと……聞いているんですっ!」

 

瞬間、イカロスからとてつもない衝撃波が発生した。

 

「うわっ!?」

 

「なんだ!?」

 

俺と智樹はかろうじて耐えているが他の奴らはほぼ吹き飛ばされていた。そしてイカロスの生えている羽はかなり大きくなっていた。不味いぞ!?このままじゃこの場所が壊れちまう!!

 

「やめろーっ!」

 

智樹が叫んだ瞬間、イカロスの衝撃波は止まった。

 

「………お前、そんなんじゃないだろ!」

 

「智樹…」

 

智樹はイカロスの手を握りると「オルガ、一緒に帰るぞ」

と言って歩きだした。と、その前に俺はじいちゃんに迷惑かけた事を謝罪してから智樹を追いかけた。

 

 

 

 

「はぁー…やっぱ屋根がなくとも家が一番だなオルガ」

 

「屋敷どころか壁も何もねえけどな」

 

何とかして焚き火をたいた俺達は冗談交じりの話をしていた。イカロスは相変わらず持っているスイカを撫でていたが智樹が、

 

「イカロス、お前それ大事そうに持ってるけど中身グチャグチャだぞそれ」

 

なんて言うと表情は変わらないがイカロスはかなり落ち込んだ様子だった。それを見た俺達は目を合わせると笑いが込み上げてきた。

 

「はははっ、やっぱイカロスはその方がいいや。な、オルガ?」

 

「……だな。そっちの方がよっぽど可愛らしいな」

 

「?」

 

イカロスは首を傾げていたが、まあ理解されなくても大丈夫だろ。すると、智樹がイカロスに向かってあることを言った。

 

「ごめんな、さっきは怒って。なんか、イカロスがアニメとかで出てくる人型の兵器に見えてさ…そんなんは…なんかイヤだなーって思えて…さ」

 

どこまでも優しいな、智樹は。

 

「私は愛玩用エンジェロイド…」

 

「わかってるわかってるって!あー…冬までに家なんとかしねえとな…。なあ、オルガなんかある?」

 

「ねえな。ま、俺はこのままでもいいがな」

 

「冗談キツイぞそれ…よし、俺はもう寝る。おやすみ」

 

「ああ、おやすみ」

 

智樹は布団に籠り眠りについた。

 

「オルガさん、私は…」

 

「気にすんなイカロス。いざとなりゃ俺や智樹、ミカや皆がいる。お前がそんな心配することはねえよ。な?」

 

「はい…」

 

「なら、俺も寝るとするかぁ!おやすみだなイカロス」

 

「はい、おやすみなさいませ」

 

 

 

 

翌日、起きると智樹の家が元に戻ってたどころか、ヤクザの奴らがイカロスに挨拶してたのはまた別の話

 



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過去の記憶

ニンフ…ようやく出番だね…


夏が終わり、学校が始まってから秋を越えて冬の季節になったこの頃。家の中にいるイカロスは智樹からある命令が下されていた。

 

「おつかいに行ってきなさい」

 

「おつかい…ですか?」

 

イカロスが首を傾げる。どうやら智樹は、エンジェロイドであるイカロスに人間らしく振る舞わせるため手始めにおつかいという簡単な事を任せる事にした。

 

「なぁ…智樹?イカロスにはまだ早いんじゃ…」

 

「かと言ってこのまま何もしなきゃイカロスが不振に思われちまうだろ?やらないよりよっぽどマシだ」

 

確かに智樹の言ってる事は分かる。この前の一件でイカロスにはとんでもねえ力があることが分かった。それを他の奴に知られたら最悪ここに住み辛くなる。それよりか町の奴らと仲良くなった方が不振がられるよりかよっぽどマシって事だが…。

 

「ただな、智樹。今やるよりかもう少し後でもよくねえか?」

 

「オルガ…なんでそんなに弱気なんだ?らしくないぞ?」

 

「なんだかな…虫の知らせっていうのか?悪い予感がしてな…」

 

「そんなもん気のせいだっての!ほら、イカロスこれ」

 

智樹がイカロスに一枚のメモを渡した。そのメモにはカレーを作る為の材料が載ってある。

 

「これは…?」

 

「そこに書いてある物を買ってきなさい。それがおつかいだ」

 

「分かりました。では行ってきます」

 

イカロスが立ち上がり玄関に向かおうとすると智樹があることを思いだしイカロスを一旦留めた。

 

「イカロス、別に空を飛ぶなとは言わないけどあまり人目のない所で飛ぶんだぞ」

 

「分かりました。なるべく人目のない所で飛ぶようにします」

 

「よし!じゃあ行ってきなさい!」

 

「はい。行ってきます」

 

イカロスが玄関に向かいドアをバタンと閉まる音がした。果たしてうまく行くのか…というか、さっきから変な胸騒ぎがする。……やっぱり心配だな。

 

「なぁ智樹?やっぱ俺心配だからイカロスにバレないように着いて行くぜ」

 

「オルガ…少しは信頼ってもんをだな」

 

「いや、いつもなら信頼するんだが今回はちょっとな」

 

「はぁ…。まあ、そんなに心配なら行けば?俺はやることあるから行けないけど」

 

「すまねえ、恩に着る!」

 

玄関に向かい家の外に出た俺はすぐにイカロスの尾行を開始したんだ。さっきからくどいくらい言ってるが胸騒ぎがする。それも、イカロスが問題を起こすんじゃなく別の何かがイカロスに何か起こすっていう確信みてえなもんが俺の心の何処かにあったんだ。なんでかは知らねえが、そんな事起きないといいが。

 

 

 

どうやらイカロスは智樹の言っていた事を忠実に守ってるみたいで無闇に空を飛ぶ事なく歩いて商店街に来てたみてえだ。イカロスに追い付くのにちょっとばかし時間が掛かった為、既にイカロスは買い物を始めていた。因みに今イカロスがいる店はというと…

 

「(なんで豆腐屋にいるんだよ!?)」

 

そう、イカロスはメモには書いてない筈の豆腐屋にいた。ここからだと遠目だがイカロスは興味深そうに豆腐を眺めている。豆腐屋のおっちゃんも困り顔になってたが少しするとイカロスはその場を離れた。

 

「(次は何処に行くんだ?)」

 

イカロスにバレないようにコソコソと動く。時には電柱に、時には客を装って紛れたり等隠れながら尾行した。

と、次にイカロスが止まった場所は野菜屋だった。

 

「(お、遂にカレーの材料を買うか?)」

 

だが、俺の思った事とイカロスが取った行動は全く別だった。イカロスが手に取った野菜はじゃがいもでも人参でも玉ねぎでもなく、スイカだった。

 

「(スイカ…?イカロスが大事そうにスイカを持ってたのは覚えてるが流石にスイカを買うなんざしないだろ…)」

 

と思っていたがなんとイカロスはスイカを買いやがった。

 

「なんでスイカなんだよ!?」

 

あまりの衝撃につい声を出しちまった。お陰でイカロスに振り向かれたがとっさに近くにあった俺でも入るような大きな段ボールがあった為、その中に入った。イカロスも不思議に思ったのかこっちに来たが、少しキョロキョロすると何もなかったかのように戻っていった。

 

「(あ、危ねえ…)」

 

俺はすぐに段ボールから出ると、イカロスの様子を引き続き見ることにした。今の所問題は……あるにはあるが大した事はない。スイカを買ったくらいで大した事ねえ。

 

「(お、次は……本屋?何故だ?)」

 

出来る限りイカロスに近づき何をやっているのか見てみた。考えるとしたカレーのレシピ本か。まあ、それ買っても一応はカレーに類いする物だしレシピ本一冊あるだけでそれを見りゃ誰でも作れるしな。が、イカロスは違う本を持っていた。

 

「(エロ本じゃねえか!?なんでエロ本なんざ持ってんだよ!?)」

 

智樹の奴がいつもエロ本見ているからそれでか!?エンジェロイドとはいえ外見は女性だから目がつくし、何より本屋のおばちゃんも困惑してやがる。ま、まあ流石に買うなんて事は―――

 

「これ下さい」

 

「(いや買うのかよ!?)」

 

あ、ありえねえ…。イカロスがそういうのは疎いから大丈夫だろと思っていたが駄目だった。いや、待てよ?もしかしたら智樹の為に買ってるのかもしれねえ。そうだと信じてえ…。けどそんな事情本屋のおばちゃんが知るわけねえからおばちゃんも困惑から苦笑いに変わってんじゃねえか。もう段々とカレーとかけ離れてるが今度おつかい行かせるときはそはらにでも頼んで一緒に行ってもらおう、そう決意した俺だった。

結局イカロスが買ったものはスイカとエロ本っていう訳のわからねえ物だったが特にこれと言った問題はなかった為一安心した。が…

 

「(ん?イカロス?)」

 

そう思ったのもつかの間、イカロスが突如裏路地に入った。裏路地なんて特に用はねえ筈だが…?そしてイカロスは翼を広げ空に飛び立った。だが、飛んだ先は智樹の家ではなく山の方角だった。

 

「アイツ何処に行くんだ?」

 

どちらにしろここに居ても仕方がないため、俺は飛んでいったイカロスに着いて行くのであった。

 

 

 

〜一方、山では〜

 

「ウフフフ、さあ来なさいアルファ…」

 

山に生えている木の枝にちょこんと座る1人の人間。いや、その外見は人間であるもののイカロスと同じく翼が生えた者だった。綺麗な水色の髪をツインテールに纏め、露出した白い服を着こなし背中の翼は透き通った透明の翼。

空高くにあるシナプスから下界に降りてきたニンフだった。

 

「私から発せられる特殊な電波はエンジェロイドにしか感知できない。それを不思議に思ったアルファは必ずこっちに来るわ」

 

まるで森の妖精かのように美しく、可愛らしい声で笑うニンフ。けれども、アルファ―――イカロスをここに呼ぶ理由はイカロスの破壊だった。

 

「ああ、早く見てみたいわ。貴方の絶望するその顔をね…」

 

静かにクスクスと笑うニンフ。だが、ニンフは気づいていなかった。イカロスを追いかける者が1人いること、そしてニンフから発した特殊な電波はイカロスと他にもう1人いた事を。

 

 

 

「なんだ?この感覚…」

 

ニンフが電波を放ったとき、それなりに距離がある所でニンフの電波を感じ取った者がいた。それは、畑の作業を桜とプギーでやっていた三日月だった。

 

「河原に行った時にイカロスって子から感じた奴と同じ…いや、少し違う…」

 

そう、三日月は河原に住む守形先輩の元に野菜を届けに行った時、丁度オルガや智樹、そはらとイカロスが来ていた時があった。その時、三日月はイカロスから言葉には表せれない何かを感じとっていたが今回の事でその感覚はより明確となった。

 

「どうしたんだい三日月や?」

 

「あ、桜ちゃん。…なんか山の方から変な感覚があってさ」

 

「変な感覚?」

 

「うん。どうやって言ったらいいかわからないけど、取り敢えず変な感覚なんだ」

 

「そんなに気になるなら行ってきてもええよ?」

 

「……いいの?」

 

桜ちゃんはニッコリと笑い俺の肩を叩いた。

 

「ここしばらく学校や畑仕事で疲れているじゃろ?気分転換にでも行ってくるとええよ」

 

「ありがと、桜ちゃん。プギーは置いてくから俺1人で行ってくる」

 

「ブモッ!?」

 

留守番なの!?と言いたそうなプギーを他所に三日月は変な感覚がした山の方に向かっていった。

 

 

 

「確かこの辺りに…」

 

商店街から飛んできて山の中にある神社に降りたイカロス。この辺りから電波を感じ取った為、辺りを見回すが誰1人としていなかった。

 

「気のせいかな…」

 

普通ならば、まず自分と同じ…即ちエンジェロイドでもない限りあのような電波を感じとるどころか電波を発することもできない。だが、もしかしするとレーダーの誤りだったのかもしれない。

神社の回りをよく見回し、レーダーでも確認するがやはりエンジェロイドはいなかった。やはりレーダーの間違いだったのだろう、そう結論付けて再び商店街に戻ろうと翼を広げた時―――

 

「あら、もう帰るのかしら?」

 

と、後ろから声がした。振り返ると1人の女の子が立っていた。

 

「久しぶりね、アルファーまさかホントに来るなんてね」

 

「だ…れ…?」

 

「あぁ、そういえばプロテクトがかかってるんだったわね。だったら一応自己紹介しておくべきかしら――」

 

そう言った瞬間、超スピード迫りイカロスの顔を掴みを地面に叩きつける。

 

「破壊する前にね?」

 

そう、目の前の女の子はニコッと笑ってそう言った。

 

「スキャン開始」

 

イカロスの顔を掴んでいる手が光る。すると、自身にあるシステムや記憶等見られているような感覚に陥った。

 

「機能プロテクト99%正常、可変ウイングプロテクト72%正常、記憶域プロテクト100%に思考制御プロテクト100%…?

ああ…そうなんだ。まるで……人形ね!」

 

押さえ付けられていた手の圧がさらに強くなり一層地面にめり込む。するとイカロスを軽々と持ち上げると速さと力強さの乗った蹴りをイカロスの腹に叩き込み神社の更に奥まで蹴飛ばした。

 

「元々貴方を壊せって命令だけど、壊れるギリギリまで痛めつけてそれからシナプスに連れて帰ってあげようか?同じエンジェロイド同士だしそれくらいは持ち主(マスター)も許してくれるかもよ?ウラヌスクイーン?」

 

吹き飛ばされたイカロスに近づいてくるニンフ。その言葉には若干の同情が入ってるようにも見えるがイカロスはそんな事は気づけない。

 

「ウラヌス…クイーン…?……私は…愛玩用エンジェロイドタイプα――」

 

「貴方が愛玩用?笑い話もいいとこだわ!」

 

イカロスを次々と痛めつけるニンフ。

 

「わた…し…はあいが…よう…」

 

「ふぅん、あくまで愛玩用って言いはるのね…なら」

 

再びニンフに頭を捕まれ手のひらから電波がイカロスに送られる。その電波はイカロスのレーダーにも反応があり、一種のハッキング電波だった。

 

「私は電子戦用エンジェロイドタイプβニンフ。私のハッキングシステムで貴方の記憶域のプロテクトだけ解いて上げるわ。貴方は愛玩用なんてチャチなもんじゃないってこと思い出させて上げる」

 

その時イカロスの(メモリー)にあるものが浮かび上がる。

 

 

 

 

 

 

空に浮かび上がる私を見上げる人達。

 

その人達を――撃ち殺す私の姿。

 

感情もなく、涙もなく、ただマスターに命令された事を実行する。

 

人が建てた物を潰し、人の命を蹂躙し、文明という文明を全て滅ぼした。

 

この記憶は――私の過去の記憶。

 

ふと、マスター(智樹)の言葉が甦る。

 

『兵器はなんか嫌だなーって』

 

これじゃ、これじゃ私はまるで―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこら辺にしといてくれねえか?お嬢ちゃん」

 

私が記憶を取り戻し私は愛玩用なんかではなく兵器だと知った時、いつもマスターの隣にいたあの人(オルガさん)の声が聞こえた。




団長!?何間に合ってんだよ!?団長!?


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イカロスの涙

少し短いよ!


「誰よアンタ?もしかしてアルファーのマスター?」

 

ポケットに手を突っ込み仁王立ちしている目の前の地蟲(ダウナー)に問いかける。するとフッと不敵に笑い

 

「俺は…鉄華団団長…オルガ・イツカだぞ…!」

 

死にかけの状態で自己紹介してきた。

 

「……なんで死にかけなのよ?」

 

呆れと困惑の表情で地蟲(ダウナー)に聞いて見るが「さあな、よくわかんねえ」と次に話した時は既に元通りに戻っていった。目の前地蟲(ダウナー)――オルガ・イツカは片目を閉じジッと睨むような目で私を見ていた。掴んでいたアルファーを離し改めて向き直る。

 

地蟲(ダウナー)の癖に腹立つ目をするじゃない」

 

「そりゃ家族を傷つけられりゃ誰だってこんな目するさ」

 

「アルファーが?家族?…クスクス、面白い事言うねアンタ!」

 

こんな面白おかしい話しはない。私の足元で這いつくばってる大量破壊兵器が家族?アルファーの本当の姿を見てないからそんな事言える。目の前の地蟲(ダウナー)の頭はお花畑か何か?

 

「嬢ちゃんが何に笑おうがどうだっていいが…ここいらで引いてくれねえか?見たところイカロスと同じエンジェロイドみてえだからイカロスと同じ奴を殺したくねえ」

 

そう言うと地蟲(ダウナー)は来ていた服から一丁の銃を取り出し私に銃口を合わせた。ふぅん?たかだか地蟲(ダウナー)如きがが頭を回して作ったチンケな物で私に勝てると思ってるんだ?アルファーみたいに攻撃しないとでも思ってるのかしら?

 

「フフフッ、アンタってホント面白いわね。そんな物で私を倒せると思ってるんだ?」

 

「オルガ…さん…逃げ…て…」

 

「あら?まだ喋れる力は残ってるのねアルファー」

 

あれだけ痛め付けたというのに喋れるくらいはできるのね。私はアルファーの頭を足で踏みつけようとした瞬間、パンッと銃声が響き私の頬を掠めた。驚いて横を見ると地蟲(ダウナー)の銃口が煙を吹いていた。

 

「どうしてもイカロスをやるってなら俺が相手になってやるよ」

 

「へえ…死にたいんだアンタ?じゃあ…殺してあげるわっ!」

 

私は大きく息を吸い込む。そして、普通の地蟲(ダウナー)なら掠めるだけでも即死に至らしめる私の声を発射した。

 

「や…やめ…」

 

「【超々超音波振動子(パラダイス=ソング)】!!!」

 

放たれた声は音速のスピードでオルガを吸い込むように走っていく。当然、音速のスピードを出す攻撃をオルガは避ける事が出来ず命中してしまう。パラダイス=ソングが通った道は地面を抉り取り、それこそ消滅したかのように見えた。

 

「アッハハハハッ!弱いのに虚勢を張るからそうなるのよ!」

 

頭にノイズが走る。マスター(智樹)の次に色んな事を教えて貰い大事にしてくれた人が消滅した。幾らなんでも体が消滅したら蘇る事も不可能だと――そう感じられた。

 

「クスクス…さあアルファー。次は貴方よ」

 

目の前のニンフがそう告げる。普通ならば誰もが絶望する所だがそうはならなかった。むしろ―――私は涙を流した。

 

「あら?涙?アッハハハッ!アルファーも涙を流す……なんで涙を流せるの?私が解いたのは記憶域のプロテクトだけよ!?」

 

平常から戦闘モードへと切り替わる。私の目は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。全てのプロテクトを解除し、完全に相手を殲滅するための思考プログラム、感情、エネルギー転換し膨大なエネルギーの衝撃波を流す。その衝撃波にニンフも吹き飛ばされかける。

 

「まさか…貴方!?」

 

己の力全て解放した時――

 

「イカロス、そんな力使う必要ねえよ」

 

と声が聞こえた。するとニンフのパラダイス=ソングで抉り取られた地面からコンテニューとカタカナで書かれた土管がパンパカパンパンパ〜ンと軽快な音と共に現れ、その中からオルガさんが現れた。

 

「オルガ…さん?」

 

「はぁ!?どうして生きてるの!?アンタ私のパラダイス=ソングで消滅した筈じゃ!?」

 

放っていた衝撃波は既に収まり驚愕したニンフと信じられない物を見た目でオルガを見つめたイカロス。

 

「俺は鉄華団団長のオルガ・イツカだぜ?こんくらい、そはらのチョップに比べたらなんて事はねえよ」

 

鉄華団の団長だとかそんな理由でどうなる事でもないし、ましてやエンジェロイドの攻撃よりも人間であるそはらのチョップのほうが余程痛いと言うオルガ。その表情はかなり余裕がある顔だった。

 

「ば、馬鹿にしてっ!」

 

「おっと、そうだ嬢ちゃん。これはほんのお返しだ」

 

と言って銃口をニンフを向けずかなりずらして銃を片手で構える。オルガが銃のトリガーを引くと普通ならば銃弾が発射されるものだがオルガの持っている銃からはニンフの放ったパラダイス=ソングの2回りも大きなレーザーが放たれた。そのレーザーは地面を削り取る所か奥に生えている草木までも消滅させた。

 

「なっ……」

 

「どうする嬢ちゃん?このまま続けるってんなら痛い目見る事になるぜ?」

 

「ぐっ……調子に乗るなぁ!」

 

叫びと共にパラダイス=ソングを放とうするニンフ。が、それを見た俺ははため息をついた。ここにはもう1人来てる奴がいる。そいつに任せるとするか。

 

「やっちまえ!ミカァ!」

 

そう――叫んだ瞬間、ミカが地面から這い出て今にも放とうとしていたニンフを()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()握られていたメイスを叩きつける。

が…ニンフは直前で気づいたのかパラダイス=ソングを撃つ前にとっさにシールドを張った為何とかして防いだ。それでもダメージは免れなかった。

 

「かはっ…!?」

 

シールド越しとはいえ物理的な力で押さえつけられたニンフはシールドごと地面に突っ込む形で倒れクレーターが作られる。等身大のバルバドスにもなるとミカはバルバドスのコックピットでバルバドスを操縦していた。叩きつけたメイスをもう一度振り上げ、叩きつけようとしたが…

 

「やめろミカ」

 

と、オルガが静かに言ったその一言で三日月はメイスを叩きつける事はしなかった。

 

「どうする嬢ちゃん?まだやるか?」

 

片やニンフ自身の唯一とも言える武器を使っても復活してくるオルガと、巨大な体躯を持った三日月が操縦する三日月に攻撃してこないとはいえウラヌスクイーンに目覚めたイカロス。どう考えても圧倒的にニンフが不利だった。

 

「ぐっ…覚えてなさい…!」

 

捨て台詞を吐くとニンフは翼を広げると空に飛び、遥か向こうに飛び立っていった。逃げていったニンフを確認するとオルガはイカロスに振り向く。

 

「大丈夫かイカロス?」

 

「………はい」

 

元々かなりのダメージを喰らっていたイカロスは小声でしか喋れなかった。それを察したオルガはイカロスに近づき一旦座らせようとするが……

 

「オルガさん…近づかないで下さい…私は…兵器なんです…」

 

と、弱々しく俯きながらオルガを拒絶した。

 

「かつて私は…沢山の人を殺しました。助けを求めてた人も逃げる人も全て…。私は、マスターが嫌いな兵器なんです。だから…」

 

「だからなんだ?」

 

頭に感触が伝わる。オルガの手がイカロスの頭に乗せたのだ。

 

「俺もミカもそはらも守形の兄貴も…そしてお前の智樹(マスター)もお前の事を嫌ったり、ましてや拒絶する事もしねえ」

 

「ですが…」

 

「そんなに不安なら内緒にしちまえばいい。イカロス、お前が兵器である事を隠して智樹とずっと一緒するってのもアリだ。な?ミカ」

 

オルガが後ろに振り返るとバルバドスから元の姿――三日月自身に戻ってオルガ達に近づいていた。

 

「俺もオルガも、イカロスが兵器だってことは誰にも言わない、約束する。でも、本当に決めなきゃいけないのはイカロス自身だよ。智樹にイカロスの事話すにしろ話さないにしろイカロス自身がこの先の事を決めなきゃいけない。だから、俺達はアドバイスぐらいしかできない」

 

「私は…」

 

赤くなったイカロスの目はやがてエメラルドグリーンに変わり涙が溢れる。

 

「マスターに…嫌われたくありません…」

 

震えた声でイカロスはそう言った。それを聞いたオルガは「そっか」と呟く。

 

「智樹に限ってそんな事ねえけど…イカロスがそう言うなら俺とミカはお前の秘密を内緒にする。約束だ」

 

ニコリと笑いイカロスの頭を撫でる。なんとなく、空を見上げた俺は空が曇ってる事、そしてあるものが降り注いでいる事に気づいた。

 

「雪…って奴か?タイミングがいいのか悪いのかな…」

 

火星じゃまず見かける事はなかった雪をまじまじと見つめる。ミカも気づいたのか物珍しそうに空を見上げた。

頬に当たるその白い粒は、何故かどこか悲しいようにも思えた。



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お風呂に行こう!(前編)

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「最近エロ成分が足りないと思うんだよな」

 

真剣な口調で真面目な顔をしていた智樹は俺にそう言ってきた。学校の昼休みの時間帯。俺と智樹とそはらとミカ4人で机をくっ付けながら昼飯を食べていた頃だ。

ミカは特に反応していなかったが俺とそはらは違った。

 

「智ちゃん?お昼ご飯食べてるときにいきなり何いってるのかな?」

 

「そうだぞ智樹。そういうのはせめて帰ってからにしろよ?じゃねえとまたそはらからえげつないチョップ貰うぞ?」

 

茶化しながらな俺は昼飯を食べる。今日は鉄火丼っていう実に鉄華団に似た名前の飯だ。それを箸で掴み口に運んでいくんだがこれまたイカロスが作ったもんだからかなり旨かった。思わず旨い旨いって連呼しながら食べそうになったくらいだぜ。

 

「オルガさん私の事馬鹿にしてる?」

 

「いや馬鹿にしてねえ。馬鹿にしてねえからその殺気立ったチョップをしまってください頼みます」

 

目を光らせ、殺気立ったオーラを放ちながら俺にジリジリと俺に近寄るが何とかして弁解した。

 

「うるさい…」

 

そんな光景を、ミカはうるさいと言いつつどこか面白そうな顔をしている気がした。そんなにこの状況が面白いかミカ?

 

「オルガ!再び修行の時だ!お前のその童貞丸出しチキンの有り様を俺が直してやる!」

 

「うるせえ!誰が童貞丸出しだこの野郎!」

 

「いや〜?だってそはらが背中に乗ったくらいで鼻血大量に吹かせて死んだのはどこの誰かな〜?」

 

グサッと目には見えない弓矢が体に刺さる。結構痛い所突いてくるじゃねえか…。

 

「それにたかだか脱ぎたてパンツに埋もれたくらいで鼻血吹いてたし、なんだったら初めて会ったときなんか本で鼻血吹いてたしな!」

 

グサッ、グサッ。

 

智樹の精神的に来る言葉が弓矢となり俺の心に追加で2本ぶっ刺さる。そはらの目が獰猛な獣のそれと変わらない目になり再びチョップの手が現れる。ミカはジト目になった。

 

「………オルガ、俺がいない間にそんな事やってたの?」

 

ミカのその一言で体が光だしバルバトスに変身する。当然右手には巨大なメイスが握られており、今にも俺に向かって叩きつけそうな雰囲気だった。

 

「いや待てミカ!?これには深い事情が――」

 

「いや三日月。オルガは俺と一緒に下着でパンツオルガ・イツカ像なんて作ってたぞ?」

 

おい智樹ぃ!?今それ言うことじゃねえだろ!?それを聞いた瞬間、バルバトスの目が光る。俺の悲痛な思いは声を出す前にミカがメイスを叩きつけた。

 

「うおああああああ!!??」

 

《キボウノハナー》

 

ミカの身長よりも大きく作られたメイスは、その物量で俺の頭からおもいっきりぶつけられる。そして床に倒れさせられたんだが床が抜ける事はなかった。

 

「風紀を乱す行為は駄目だ」

 

メイスを叩きつけた事で煙が舞い上がっていたがその煙に隠れて目を光らせてるもんだからバルバトスが妙に悪魔っぽく見えた気がした。

 

「だからよ…止まるんじゃねえぞ…」

 

希望の花を咲かせ団長命令を響かせた。

 

 

 

 

俺が蘇って気がつく頃、教室から守形の兄貴のいる学校の内にあるちょっとした田んぼの場所に来ていた。俺が復活するまでかなり時間が立っていたらしく学校は既に終わり智樹は俺を引きずってここまで来ていたみてえだ。

 

「守形の兄貴…」

 

「ようやく目覚めたかオルガ。智樹が死んでるお前を引きずって来たものだからすこし驚いたぞ」

 

そんな話をしながら守形の兄貴はなにやら種を蒔いていた。

 

「守形先輩、頼みがあります」

 

「どうした智樹?」

 

「俺を…俺達を女湯に入る事が可能な方法を教えて下さい!」

 

綺麗な角度で頭を下げる智樹。見た感じはまさしく紳士と思えるような姿だったが言ってることは最悪に等しいものだった。

 

「……興味ないな」

 

「守形先輩!そこを何とか!」

 

「おい智樹。お前自分の言ってること分かってんのか?」

 

なんで俺までカウントされてんだよ?大体行くなら智樹1人で行けばいいと思う。俺はまだ死にたくねえ。

 

「……何故女湯に向かう?行くのなら智樹だけでいいだろう?」

 

「オルガは!童貞丸出しのチキンなんです!それを俺が直して一刻も早く女の子を慣れさせないと!」

 

「お前馬鹿にしてるよな?してるよな?」

 

「なるほど…」

 

そう言うと守形の兄貴は懐から一枚のカードを取り出す。そのカードとはイカロスが持っているカードと同じものだった。

 

「個人的にイカロスから一枚拝借してな、これを使えば恐らく女湯に入る事が可能だ。ただし、イカロスの手助けは必要不可欠だ」

 

「先輩…!分かってくれるんですね!」

 

智樹がそう言うと守形の兄貴はグッと親指を立てる。それを聞いていた俺はポカーンとするほかなく、止める事を忘れていた。なんで守形の兄貴もノリノリなんだ?そういうのあまり興味なさそうな顔してるよな?そんな思いも虚しく一旦イカロスを呼ぶために智樹の家に引きずられていくのであった。

 

 

〜女湯にて〜

 

「全てのシステム、及び体細胞組織変換率は良好です。マスター、オルガさん、いかがでしょうか?」

 

風呂屋の壁に隠れながら1つの端末のキーボードをカタカタと動かし状況確認するイカロス。この端末は先程、守形先輩がカードから呼び出したものだった。マイク付きヘッドホンでイカロスは智樹達に聞くと――

 

「おう!バッチリだよイカロス!」

 

女体化した智樹――もとい智子と何の服も着ることなくかなり際どい水着をつけただけの俺が既に女湯に入ろうとしていた状態だった。なんで智樹は女体化してるのかというと今まさにイカロスが端末を動かし理屈は分からねえが男から女に変えたのだ。

変えたのだが何故か俺は女性らしく変わることなく男の体格で女性物の際どい水着、しかも下も付いてるといった誰がどう見ても吐きそうになる姿だった。俺だって今吐きそうだ。

が…イカロスが言うには「姿はそれでも効果は出てるので大丈夫かと」なんてふざけた事言ってやがった。

智樹と守形の兄貴にどんなもんか見てもらったが確かに効果があるとか。智樹は若干面白そうな顔してたから信憑性が低いが守形の兄貴が言うんだから恐らくそう見えるんだろう。

 

「さあオルガ!今から俺達が行く場所は何処だ!」

 

「知らねえよ。こちとらこんな格好だからそれどころじゃねえんだよ」

 

「甘ったれるなぁ!!」

 

助走をつけた智子が俺の顔にビンタする。流石に死ぬことはなかったがそれでも痛かった。

 

「俺達は女の子になったんだ!なら行くところと言えば1つだろ!」

 

「こんな姿で女って言い張れる訳ねえだろうが!!」

 

ビンタの仕返しに智子の腹に拳を叩き込む。グホッと智樹が小さな悲鳴を上げるとその場でうずくまり腹を押さえていた。

 

「流石オルガ…いいセンスだ…俺はお前の成長を快く思う…」

 

「お前は俺の親か何かか?」

 

「さあオルガ――いやオル子。俺と一緒に新大陸に向かおうぜ?」

 

「誰がオル子だ」

 

と、女湯の前で騒いでると外から声がした。

 

「あら〜可愛らしい子達ね〜」

 

風呂屋の入り口からなんと会長とそはらが現れた。

 

「か、会長!?」

 

「あら?私の事知ってるのかしら〜?うちの学校の生徒かしら?でも貴方みたいにガタイが良くて男前な女の子見たことないのだけれど…?」

 

「(あっやべえ!?)」

 

そうだ!今は女の子……って言っていい良く分からねえがとにかくそんな状態だ。だから会長も俺だとは気づいてない…よな?そはらもキョトンとしてるからきっと大丈夫だろう。

 

「それに隣でうずくまってる娘は大丈夫かしら?」

 

「え!?あ、いやちょっとお腹壊したみたいでして…」

 

「あら、それなら介抱してあげましょうか?」

 

「い、いえ!大丈夫なんで!」

 

ここまで来たなら仕方ねえ!覚悟決めて風呂に入るしか…死にに行くしかねえ!どうせ会長やそはらに出会った時点で行く先は地獄なんだ。だったら横でうずくまってる智樹……もとい智子を天国とも地獄とも言える場所に連れてってやるっきゃねえ。それが団長としての仕事だ!

 

こうしてオルガは智子共に女風呂に入って行くのだった。

 

 

 

 

〜一方イカロスは〜

 

「マスター…」

 

ニンフとの一件以降、記憶を取り戻した私は胸の中にある違和感が拭えない気がしていた。私は兵器。愛玩用などではなく下界の…かつてこの世界で住んでいた人達を殺した張本人。マスターが、最も嫌う物。

カタカタと端末を動かしながらオルガさんの言っていた事を思い出す。内緒にして兵器であることを隠してしまえばいいと。それは確かに一理ある事だった。自分が兵器である事を隠し続ければマスターとずっと居る事ができる。

けれど、けれどもそれはつまる所マスターを騙す事になる。

 

「私はどうすれば…」

 

マスターには嫌われたくない。けれども嫌われたくないからと言ってずっと隠したままでいいのか。どちらがいいのかまだ私の中には分からないままだった。オルガさんはマスターはそんなんで私を嫌わない、と言っていたが人の心が分からない私には到底理解できない物だった。人は自分が嫌いな物は側に置きたくないだろう。それはマスターとて同じな筈。どうしてオルガさんはあんな事を言えるのだろう…。

すると、端末からアラート音が鳴った。これは…オルガさんの感情がとても興奮してる様子だった。

 

「オルガさん聞こえますか?感情を高め過ぎるとこの変換装置の機能が解除されてしまいます。できる限りの抑制を」

 

『わ、わかった…』

 

考えても仕方がないので、取り敢えずはマスターの命令を実行する事を優先する事にした。



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お風呂に行こう!(後編)

うずくまっていた智子も復活し、無事に女湯に入る事ができた俺達。この風呂屋自体はそれほど大きい場所でもなかった。備え付けられたシャワーがかなり有るが湯船自体は2、3個程度の物だった。ここが女湯じゃなければさぞゆっくりできたんだがな…。

 

「なあオル…鉄子?なんで水着姿なんだ?」

 

そう聞いてきた智子は俺の姿に疑問を抱いていた。ちなみに鉄子ってのは流石オルガって名前のままじゃヤバいって思ったんでついさっき思いついた名前だ。鉄華団の「鉄」から取ったんだ。いいネーミングセンスと思わねえか?なあ?

話が逸れた。なんで水着姿なのかって言うとこの水着を取ったが最後、もう二度と(オルガ)に戻れねえと確信を抱いたからだ。特に下だけは死んでも外さねえ。

 

「こっちにだって色々あんだよ」

 

「そ、そうか…。それより!見ろよこの絶景!」

 

智子が指し示すその光景は確かに絶景ではあった。男じゃまず見れないであろう光景。普段なら服を着たりして決して見えない部分が全て見えるこの場所で俺は―――

 

「って、なんで目を閉じてんだよ!?」

 

智子にも言われた通り、俺は目を閉じていた。

 

「うるせえ!今目を開けちまったら、それこそ何回死ななきゃならねえのか分かったもんじゃねえ!」

 

「はあ…。この手は出来るだけ使いたくなかったんだが…、聞こえるかイカロス?」

 

『はい、いかがされましたかマスター?』

 

「オルガの目を強制的に開け続けるように装置で書き換えてやりなさい」

 

『分かりました』

 

おい!?なにふざけた事イカロスに頼んでんだコイツ!?

や、やべえ、閉じていた目が段々と開かれていく。自らの意思で開けてる訳じゃねえから余計質が悪い。そうして、完全に目を開けた俺は…見てしまった。女の子の裸という裸を。しかも生で。俺の意識は飛ぶ……事はなかった。

 

「あ、あれ?」

 

「やったな鉄子!遂に慣れたんだな!」

 

女の子の裸を見ても死ぬ所か気絶すらしなかった。でも興奮してるのは確かだった。

 

「お、俺は…遂に…」

 

「よし!早速鉄子に命令だ!そはらの背中を流してこい!」

 

「お前は俺に死ねって言ってるのか?」

 

「よく考えろよ鉄子。今の内に女の子の肌とか慣れとかないと何か緊急時の時に偶然女の子の肌に触って動けなくなった時どうする?それにこの前海に行った時だってなんとかそはらを砂浜まで連れてくことができたけど万が一にも沈む可能性あったろ?」

 

「うっ…ぐっ…」

 

智子の言うことは一理あった。確かに女の子の肌を見るだけならまだしも触った事で舞い上がりキボウノハナールート直行は免れない。そはらの件に関しても死ぬ間際なのに死ぬ気で耐えるなんてわけのわからねえ事をしたくらいだ。

 

「……わかった。俺は智子の案に乗る」

 

「よしよし。なら俺は会長の所にでも行きましょうかね〜」

 

手をワキワキさせながらゲス顔で智子は会長の方に向かっていった。………よし、俺も根性だしてやらねえとな。せめてそはらに失礼のないようにしねえと。

俺は歩いていき出来るだけ冷静を保ちながらそはらのいる所に向かう。すると、何処から視線を感じた。まるで俺を見守ってるかのような…そんな視線だった。辺りを見回すがこれといって俺に視線を向けてる奴なんざいなかったので気のせいかと思い足を動かした。

これはオルガの知る由ではないがオルガが感じた視線は確かにあった。それは風呂の壁に大きく描かれている歌舞伎の絵――に化けている守形先輩の視線だった。

 

「(ファイトだオルガ)」

 

そう、守形先輩は智樹とオルガの勇姿を見届けるためわざわざこんな絵に化けていたのであった。

そんなことはさておき、遂にシャワーで体を流してるそはらの元にたどり着いたオルガ。

 

「あ、あのそはらさん」

 

「へ?……あ、さっきの!えっと…」

 

「鉄子です」

 

「鉄子さん!私に何か用?」

 

「あの…背中流させて貰えませんか?」

 

特に隠す事もなく率直に言ったオルガ。まあいきなり初対面の人間に背中流させてくれってどう考えてもおかしい気もするが…。

 

「いいよ。ありがとう〜」

 

と言って背中を見せるそはら。俺が言うのもなんだが少しは疑うってこと知らねえのかそはらは?ともかく、お許しが出たので体を洗う用のタオルを手に取りゆっくりとそはらの背中を流した。

 

「鉄子さんの手って大きいんだね」

 

「あ、あはは」

 

ゆっくりと丁寧に丁寧に背中を流す。スベスベしたその素肌はなんとも言えない肌触りとなっており変な気分を抱かせた。決してやましい気持ちなどではなく奇妙な感覚だった。そして、背中のほぼ全体を洗った俺はシャワーでそはらの背中を流す事にした。

 

「そはらさん、背中流しますね」

 

「うん、おねがい〜」

 

シャワーの栓を開けてお湯を流す。そはらの背中についている石鹸の泡を隅々まで流し綺麗にした。

 

「ありがとう鉄子さん。今度は私がしてあげるね♪」

 

「え!?いや、その…」

 

「大丈夫大丈夫!私こう見えても人の背中洗うの得意だから!」

 

いやそういう問題じゃねえんだが…。そはらに促されるがままに小さめの椅子に座らされそはらが俺の背中を洗い始めた。

 

「うわぁ〜ホントに凄いね鉄子さんの体。まるで男の子みたい」

 

「ど、どうも」

 

適当な会話をしつつ背中を洗って貰う。と、そこで思わぬアクシデントが起こった。

 

「きゃっ!?」

 

すぐ近くから悲鳴にも似た声がした。声がした方に振り向くとなんと智子が会長の胸を触っていた。

 

「 YES!!」

 

「なにやってんだアイツ!?」

 

智子が暴走していた。最早ゲス顔のスケベジジイと化していた智子は会長の胸をこれでもかというくらい触りまくっていた。そして、飽きたと言わんばかりに会長から離れ次は近くにいた違う女性の胸を触りだしていた。しかも何故かは知らんが股間が光っていた。

 

「アイツ止めねえと…おっ!?」

 

「あ、ちょ!?鉄子さん!?」

 

そはらに背中を洗ってもらってる最中だったが智子の暴走を止めねえと俺達の事がバレてしまうかもしれねえから急に椅子から立ったのが悪かった。なんせ背中を洗ってたもんだから床下は泡だらけになっていて運悪く足を滑らした。しかもそはらの方に向かって。

 

「痛って……ん?」

 

そはらに向かって倒れる形になった俺だがここである事に気づいた。顔が何かに挟まれているかのような感覚と手がずっしりと柔らかい何かに触ってる事に気がつくと悪い予感がしてすぐに顔を上げた。

 

「痛ったた…もう気を付けてよ鉄子さん…」

 

そはらは俺が女になってるから特に気にすることもなかったが俺はそれどころじゃなかった。俺はそはらの胸を触っていた。それどころか胸と胸の間に挟まれていたみてえだった。それを意識した途端すぐさま手を離しそはらの元からダッシュで離れ風呂に暴走した智子を置き去りにして風呂から出た。

瞬間、俺の体が光だし際どい水着姿から元の姿に戻っていた。

 

「あ、危ねえ…」

 

間一髪だった。後もう少し反応が遅れたらそはらの目の前で元の姿に戻っていたら確実に殺されるとこだ。流石に死にたくはないんで智樹をここに置いて囮にするとするか。

俺はバレないようにコソコソ女湯から出て風呂屋から出た。その時、後ろから光が出ていたので恐らく智子から智樹に戻ったのだろう。智樹には悪いが今回は俺は逃げるぜ。逃げて俺は素知らぬ顔でいるんだ。そうして俺は風呂屋から駆け出し家に帰ったんだ。

 

「逃がすと思う?オルガ」

 

駆け出した瞬間、凄い力で俺の肩を掴んだ奴がいた。聞いた事がある声だったんで恐る恐る後ろを振り向くとそこには満面の微笑みをしたミカがいた。

 

「み、ミカ?どうしてここに――」

 

「ごちゃごちゃうるさいよ」

 

今まで見たことがないくらい笑顔なミカだがそれとは裏腹に声は物凄くドスがきいていた。

 

「たまたまさ、ここに通りすがったらイカロスがいたから何してるのって聞いたらオルガと智樹が変な事してるって聞いたんだ」

 

よく見ると後ろの方でイカロスが後ろの方で悲しそうな目をしながら少し頭を下げていた。

 

「もう、分かってるよね?」

 

「ああ…わかってる…」

 

この流れはあれだな。確実に死ぬ流れの奴だな。俺は意を決してミカに向けてるいい放つ。

 

「俺は止まらねえからよ!俺がすすみ―――」

 

言い終わる前にミカが既にメイスを振り下ろし鈍い音と共に叩きつけられた。その頃智樹はそはらにチョップされオルガは何回もキボウノハナーが流れたそうな。

 

 

 

 

 

ようやく外堀が冷めた頃、2人は女湯に入った罰として風呂屋の掃除をさせられていた。智樹はともかく、オルガは一応バレてはいないが三日月が監視していた為言い逃れができなかった。

そして、側にいたイカロスも何故か掃除しており、男女別々で掃除していた。

 

「オルガ…逃げたこと許さねえからな?」

 

「その分ミカから色々やられたんだ。勘弁してくれよ…」

 

「そ、そうか…」

 

掃除をしながら話していた2人だがそれを見ていた三日月の目が光る。

 

「ごちゃごちゃ言ってないでさっさと掃除して」

 

「「すんません」」

 

風呂掃除用のモップをゴシゴシと動かしながらせっせと掃除する智樹とオルガ。ふと、智樹はオルガと三日月にある事を聞き出した。

 

「なあオルガ、三日月。この前さイカロスがボロボロになって帰って来た時の話なんだけどさ、あの時はオルガがヘマしてイカロスにも迷惑かかったって言ってたけどさ……ホントは違うんだろ?」

 

あの一件の後、ボロボロになって帰って来たイカロスを見た智樹はかなり驚いていた。それを一緒になって帰って来た俺は「俺がヘマしたからこうなった」って言ってなんとか収まったが…やはり智樹も嘘だってこと薄々感じてたか。すると、女湯からコーンと物が落ちる音が響いた。………恐らくイカロスが動揺してんだろうな。

 

「なあ智樹?前にも言ったがそれは――」

 

「よくやったなイカロス!」

 

俺の返答も聞かず智樹は女湯の方に振り返るとそう言い放った。

 

「よくやく人間らしくすることができて俺は嬉しいぞ。人間にも隠し事の1つや2つ、あるもんだしな」

 

「智樹…」

 

「分かってるよオルガ。だってさマッハで空飛んだりするイカロスがちょっとヘマしたくらいであそこまでボロボロになることもあり得ないしな」

 

少し微笑みながら語る智樹。いくらエロに対して執念じみた物があったとしてもそこはしっかり気づいてる様子だった。流石にイカロスが兵器だってことまでは分かってはいねえと思うが…。そして智樹はイカロスがいるであろう女湯の方に再び振り向く。

 

「……俺達家族だろ?言いたくない事があれば言わなくてもいい。そんな事で嫌ったりしないしな。でも、いつかは話してくれると嬉しいかな」

 

優しい声でイカロスに語りかける智樹。すると、女湯から「はい、マスター」と震えた声でイカロスが返事をしていた。

だから言ったろ?智樹はそんな事で嫌わないって。なあ?イカロス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜シナプス〜

 

「無様だなニンフ」

 

玉座に座るその男はボロボロになっているニンフを見下ろし呆れ果てた口調でそう言った。ニンフの周りには他のエンジェロイド達がこぞってニンフを痛めつけていた。

 

「ウラヌスクイーンに負けるならまだしもただの地蟲(ダウナー)に負けておめおめと帰ってくるとはな。呆れを通り越して笑いもでんわ」

 

「で、ですがマスター。あの地蟲(ダウナー)は普通じゃ…」

 

「言い訳するなこの廃品め」

 

ニンフの意見など到底通るものではなかった。ニンフのイカロスとオルガとミカの戦闘を見ていればそんな事はなかったのだが生憎、玉座に座る男はニンフの戦闘などこれっぽっちも見ていなかった。それ故にニンフが本当の事だとしても男には言い訳にしか聞こえていなかった。

 

「なぁニンフ?チャンスが欲しいか?」

 

「チャンス…ですか?」

 

「ああ、お前が廃棄処分にならないチャンスだ。まあ、受けなければそのまま廃棄処分だが――」

 

「やります!やらせてください!」

 

藁にもすがるような思いで懇願するニンフ。その姿をみた男は大きく高笑いをした。

 

「では、ニンフよ。もう一度行ってくるがいい。今度は仕損じないようにな」

 

「は、はいマスター…」

 

トボトボと痛々しい体を手で押さえながらニンフはこの広間から姿を消した。

 

「では、私はこれから天使の元に行く。適当にニンフをウラヌスクイーンの近くで自爆させるといい」

 

そう、冷たく他のエンジェロイドに言い放つと玉座から離れ何処かに消え去った。それを聞いていた他のエンジェロイド達は口にはしないものの、同情と哀れみを抱かざるを得なかった。

 



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花見大会だっ!

描きたかった所の1つを描けてたので投稿しました


季節は冬を過ぎて春になった頃。行く道には桜が綺麗に咲き新しい出会いを感じさせるような、そんな気分だった。だったのだが…

 

「そこにあるコーラ取って〜」

 

「は、はい」

 

智樹が近くにあったペットボトルに入ってる飲みかけのコーラをある人物に渡す。渡し終えると智樹は俺を引っ張って部屋の隅っこに引っ張って行った。

 

「なあ、オルガ?あれ誰だ?」

 

変な汗をかいてそう聞いてきた智樹に対し俺はこう答えた。

 

「なんでもイカロスの後継機らしいが…」

 

「つまりエンジェロイド?」

 

「そうなるな」

 

「即刻帰ってもらえ!!」

 

智樹は初対面だが、前にイカロスを襲ったエンジェロイド(ニンフ)がいつの間にか智樹の家に居座っていた。

本当に突然だった。朝俺と智樹が起きるとなにやら茶の間の前でイカロスがオロオロとスイカ持ちながら歩き回ってたんで何をしてるのか気になって見てみたらこの有り様だった。水色のの髪をツインテールにしたそのエンジェロイドはテレビを見ながらポテチを食べていた。しかも目があったら「あ、おはよう」って言ってきやがる。その時はつい返事を返したんだが…。

 

「何よ、地蟲の癖にうるさいわね」

 

「地蟲?俺の事?」

 

「アンタとその横にいる変な髪型したアンタもよ」

 

どうやら地蟲ってのは俺と智樹に言ってるみたいだった。前にも言われたんで俺は対して気にしてねえが智樹は別だった。

 

「これ以上俺の日常壊すなぁぁぁぁ!!」

 

「智樹から壊しに行ってる気もするがな」

 

俺が小声でボソッと言うと何処からか取り出してきたハリセンでしばかれた。すると、ピンポーンと家のインターホンが鳴った。誰だ?って思うと俺と智樹が玄関に行く前に否応なく扉が開いた。「智ちゃーん!」って声がしたんでどうやらそはらが勝手に開けたみたいだった。

俺と智樹とイカロスはそはらのいる玄関向かうと、そはらだけでなく会長やミカ、守形の兄貴まで居た。ついでに後ろに「ブモッ!」て鳴き声したから恐らくプギーもいるな。

 

「おお、皆そろってどうした?」

 

「あのねオルガさん、皆で花見しようかなーって」

 

「花見?なんだそりゃ?」

 

「花見って言うのは桜の木を見て飲んだり食べたりする事だよオルガ」

 

俺の疑問にミカが答えた。成る程、だから皆来てたんだな。

 

「面白そうじゃねえか、なあ智樹?」

 

「花見…花見ねぇ。まあ、予定もないし行くか!」

 

よっしゃ、そうと決まれば話が早い。さっさとパジャマから着替えて花見ってやつに行こうじゃねえか!そんな事を思ってると

 

「何話してるのー?」

 

って茶の間からひょっこりと顔を出したニンフが声を掛けてきた。

 

「智ちゃんあの人は…?」

 

少しばかり殺気立てたそはらだったがそんな事気にすることもなく智樹は説明していった。

 

「俺にもさっぱりだが、なんかイカロスの後継機みたいらしい。名前は確か――」

 

「ニンフよ。アルファと同じエンジェロイドの1人よ」

 

茶の間から出るとペコッと頭を下げたニンフ。それを見たそはらは可愛いって言って抱きついていた。そんなキャラだったかアイツ?

横にいた会長が怪しげな笑いかたしてたから若干不気味だったが。

 

「今から花見しに行くんだ。お前もどうだ?」

 

「んー、行くわ」

 

そはらに抱きつかれて少々嫌がってるニンフだったが、俺達と花見をする事には同意した。また面白そうな事になりそうなそんな予感をしていたオルガだった。

 

 

 

 

「改めて見ると綺麗なもんだな桜ってのは」

 

そんな感想を呟いた俺は現在、桜の木を見ていた。桜が最も咲いていると言われている公園に来ていた俺達は丁度桜の木の下が空いていたのでそこにシートを広げて花見をしていた。まあ、花見ってよりほぼ宴会じみた事になってるがな。そはらや会長が持ってきてくれた食い物や飲み物、ミカん所の桜のばあちゃんが作ってくれた物等が広げられてそれはそれはとても豪華なもんだった。

あ、さっき桜の木下にシート広げたとは言ったが俺は離れて1人で桜を見ていた。何でかって言うと……

 

「ボカァね!イカロスが成長してくれて嬉しいんですよぉ!!」

 

「ひぐっ、えぐっ、イカロスさんがいつの間にこんなにおっきく…グスッ」

 

と、智樹とそはらが何故か酔っていた。しかも両方めんどくさい方の酔い方で泣き上戸だった。俺達は未成年だったから酒なんて持ってきてなかったし何より何回か確認したが酒らしき物は全くなかった。今もなお、あの2人がグビグビと飲んでいるのはコーラだった。コーラで酔えるなんて聞いたことねえし見たこともねえがあの2人は特別なんだろな。

 

「イカロスはね!すっごい優しくてね!」

 

「ひぐっ…そうだよ…イカロスさん優しいよ…ひぐっ」

 

智樹がイカロスの頭を撫でて、そはらはイカロスに抱きつきながら泣いてそう言っていた。俺のいる桜の木と智樹達がいる桜の木はちょっと距離があるがかなり大声で話してるのかここからでもよく聞こえる。相手している守形の兄貴と会長も頷きながら促していたが目だけはしっかりと俺の方を向いていた。こっちにこいっていう圧力が感じられるが俺は目を逸らして木の下で寝転んだ。

で、木の後ろにいるであろう人物に声を掛ける。

 

「いつまでもそうしてないで楽しんだらどうだ嬢ちゃん」

 

「へぇ、気づいてたのね」

 

ひょこっと木の後ろから顔を出したのはニンフだった。よく顔を見ていると意外だ、って顔をしていた。

 

「そりゃ俺とお前はちょっとした因縁みてえなもんがあるからな。意識はするさ」

 

「あら、告白?」

 

「茶化すな」

 

起き上がるとニンフは俺の隣に座るや否や、俺をジロジロ見てきやがった。なんだ?俺の顔になんか付いてんのか?

 

「アンタってホント不思議よね〜」

 

「何がだ?」

 

「とぼけないで。ただの人間であるアンタがまさか人間離れした事するなんてね。私のパラダイス=ソングを避けれるなんてアルファーならまだしも貴方もできるなんてね」

 

「いや、避けてねえよ。しっかり喰らってしっかり死んだ」

 

「え?」

 

驚いた顔でニンフは俺の方を見つめる。まあ、知らねえのも無理ねえか。

 

「俺はな、幾ら死んでも蘇るんだよ。銃で撃たれようが何されようがな」

 

「あの威力が高そうなレーザーは?」

 

「あれはあの時できただけだ。今までできなかったんだがあの時何故かできるって確信を持ったからしたまでだ」

 

「えぇ…」

 

呆れた顔でニンフはそう言った。なんだよ、仕方ねえだろできたもんはよ。

 

「アンタって不思議な人間ね」

 

「まあ、あとはトラブルが起こらなければ万々歳なんだがな…」

 

「トラブル?」

 

「ああ、幾ら死なねえって言ってもちょっとした事で死ぬ事もある。一番酷かったのは下着で埋もれて死んだ事だな」

 

「えぇ…」

 

今度はドン引きしたニンフ。その顔は不思議な顔、と言うより信じられないと言った顔だった。仕方ねえだろそんな風になっちまうんだから。大体下着の中に埋もれて死ぬだけじゃなく鼻血の大量出血で死ぬなんて事も大概だしな。

 

「だから、あまり不幸な目に合いたくはえねな」

 

「ふーん…」

 

すると、ニンフが俺の頭に手を置いた。その手の平から小さな光が出ると俺の体に浸透していった。とっさの事だったんで成されるままだったがすぐにニンフから離れた。

 

「何しやがる!?」

 

「何って私のハッキングシステムで貴方のバイタリティを…あ、難しい話わからないよね?要するに幸運になったってことよ」

 

「そりゃ一体どういう――」

 

俺が言いきる前に空から何か落ちてくる気配があった。その気配がなんなのだろうかと上を見るとなんと空から札束が1つ落ちてきた。落ちてきたんだが……

 

「う゛っ゛!」

 

《キボウノハナー》

 

そこ落ちてきたたった1つの札束が頭にヒットした事で死亡し希望の花を咲かせたオルガ。その光景を目の当たりにしたニンフは髪を逆立てるくらい驚く。

 

「だからよ…止まるんじゃ…」

 

「きゃっ!?」

 

と、そこでたまたま通りかかった女性のスカートがオルガの目の前でめくれ上がった。一応オルガの名誉の為に言っておくがオルガはまだ蘇ってはいなかったためスカートの中を見ることはなかった。

が…オルガが目の前で寝転がっているものだから女性はオルガがめくったのだと勘違いした。

 

「何すんのよこの変態!」

 

「う゛っ゛!?」

 

ゴスッ

 

と倒れていたオルガを無理やり起こし左頬に強烈なパンチを叩き込んだ事でオルガは後ろにぶっ飛んだ。

 

「かはっ…」

 

《キボウノハナー》

 

オーバーキルのオルガは再び死亡し希望の花を咲かせると団長命令を響かせた。

 

「だからよ…止まるんじゃねえぞ…」

 

 

 

 

 

「さっきからろくな目にあってねえぞ…」

 

蘇ったオルガは開口一番にその言葉を言った。それを見ていたニンフも流石にオロオロしていた。

 

「あ、あの…ごめんなさい…」

 

本当に申し訳なさそうに謝るニンフ。がその顔を見たオルガはフッと笑うと

 

「別に気にすることねえよ。お前は俺の為に幸運を上げてくれたんだろ?まあ、あんまし効果はなかったが…それでも嬉しかったぜ?サンキューな」

 

その言葉と共にニンフの頭を撫でるオルガ。ニンフは「えへへ」と少し笑顔になったがすぐさまハッと気がつきすぐオルガから離れた。

 

「べ、別に勘違いしないでよね!別にアンタの事思ってやった訳じゃないし!ていうか、私達敵同士でしょ!?」

 

「別にお前の事を敵だなんて思ってねえよ」

 

「へ?」

 

キョトンとするニンフ。そんな姿のニンフに気にせずオルガは続けて言った。

 

「ニンフはイカロスの後継機なんだろ?ならニンフはイカロスの妹、いわば家族みたいなもんだろ?ならその家族を敵だなんて思わねえよ」

 

「……ホント、頭お花畑ね…」

 

そう呟いたニンフは、少し顔を赤らめてプイッと顔を逸らした。するとオルガはニンフに近づき肩をポンと叩いた。

 

「俺達は鉄華団だ。俺達はニンフの事も歓迎するぜ?」

 

そう、今日一番いい笑顔でニンフに語りかけた。ニンフは目を丸くし、顔を緩ませると

 

「なら…お言葉に甘えさせてもらおうかな」

 

と、笑顔でオルガにそう返した。

一方、その光景を遠目で見ていた人物がいた。1人はイカロス、もう1人はプギーの世話をしていた三日月だった。その光景を見ていたイカロスはホッと胸を撫で下ろし、安心していた。

 

「……頑張ってね、オルガ」

 

プギーの巨体に隠れていた三日月は少し笑ってオルガとニンフの姿を見ていた。オルガならばきっとニンフを救えるだろうとそう思いながら。




ついでにタグも追加しておきました


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オルガとニンフの日常

ほのぼのしてます


花見はあの人間…オルガのお陰で私も楽しむ事ができた。初めはあまり気が乗らなかったけどオルガの誘いで何故か私自身も楽しく感じていた。アルファーのマスターが変な事をする度にオルガが死んでしまうという変な事が起き続けていたせいでいつの間にか私も一緒になって笑っていた。

……本当はアルファーを破壊しようとする為、手始めにアルファーのマスターを捕らえて有利を取ろうとしたのだけれどアルファーのマスター…智樹だっけ。その智樹がアルファーの事ずっと撫でて褒めていたものだからそんな光景を見ていた私はいつの間にか毒気が抜けたような気分だった。そうして、オルガと話をしていたのだけれど…

 

『俺達鉄華団はニンフの事も歓迎するぜ?』

 

なんて事を言っていた。あの後、アルファーが私の笑顔を久しぶりにみたって言っていたけど…。その時の私はちょっと取り乱して「そんな事ないわよ!」なんて返したけど私自信も薄々感じてはいた。シナプスに居た時と今じゃ感じるものがあった。

 

「楽しい…か」

 

シナプスに居た時はそんな風に感じられていたのはほぼ最初の頃くらいだった。

あの花見が終わってた次の日、私は智樹の家にある鏡の前に立っていた。自分についている首輪を見る為に。

 

「(やっぱり…ね)」

 

首輪の左にあるラインが点滅している。これは私が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これが点滅してるってことは私は廃棄処分確定だった。時間はまだあるがあまり私に残されてる時間はなかった。点滅している首輪を見て不愉快な気分になりながらハァとため息をつく。

 

「どうしたんだため息なんかついて」

 

後ろから聞こえた声の方に振り返るとそこにはオルガが立っていた。

 

「あら、起きてたの?」

 

「そりゃ起きる時間だからな。朝飯できてるぞ、早く食わねえと冷めちまうぜ?」

 

「はいはい」

 

私は洗面所から離れると朝食が置いてある部屋に到着し、座って食べだした。箸を使っておかずの焼き鮭を摘まんで口に運ぶと、その鮭はいい塩加減でとても美味しかった。

 

「美味しい…」

 

「だろ?鉄華団団長の特製焼き魚ってやつだ。初めてにしちゃ結構上出来だろ?」

 

横にいた智樹も怪しそうにしながら食べてみると目を見開き「確かに美味い」って口にしていた。

 

「でもさオルガ、どうやって作ったんだこんなの?」

 

「イカロスに教えてもらって自分なりにアレンジしただけさ。大した事はしてねえよ」

 

「ふむ、確かにこの鮭は美味いな」

 

オルガの横に座って黙々と食べていた眼鏡……確か守形だったかしら?その守形がオルガの作った焼き魚を評価しながら目にも止まらぬ早さで魚を食べていた。

 

「今更驚きやしねえがいつの間に居たんだよ兄貴…」

 

「まあ、美味しそうな匂いがしてな。再びここに来たわけだ」

 

「それ前も言ってなかったか?」

 

そんなこんなで朝食を食べ終えると私は部屋のテーブルでくつろぎながらテレビを見ていた。横で智樹とアルファがなにかしているのだけれど特に気にすることもなくくつろいでいた。

 

「ちょっくら出掛けてくる」

 

使った食器を洗っていたオルガが唐突にそう告げた。

 

「どこいくの?」

 

「ん?ああ、ちょっと買い物にな。ニンフも来るか?」

 

「んー…」

 

チラッとアルファーの方に向くとまだ智樹と何かやってるみたいだった。せっかくだし買い物っていうのもよく分かっていなかったから行ってみるのもありね。

 

「うん、付いて行く」

 

それからというもの、流石にいつも着ている服だと危ないと言われたので白いワンピースを着る事にした。この服は私に抱きついてきた子…そはらが着ていた物らしく私が家に出る前に智樹が借りてきたんだとか。それを着た私は背中に変なマークを着けたコートを着たオルガと一緒に外に出て歩く。

 

「その背中のやつなんなの?」

 

「これか?これは鉄華団のマークだ。決して散る事のない鉄の華、って意味で鉄華団の皆で考えたマークだ」

 

「鉄華団の皆って智樹やアルファーとかと?」

 

「いや…このマークはな、ミカや今は遠く離れている場所で前に進み続けている仲間達と一緒に考えたんだ。智樹やイカロスと会う前の話だ」

 

そう言うとオルガはどこか懐かしむような顔で空を見上げていた。ミカ…っていうのはあの馬鹿みたいにでかいロボで私の張ったシールドごと鈍器で叩きつけたヤツの事ね。

智樹やアルファーと会う前の話という事は何かあったのかしら?

 

「ちょこっとだけ興味あるわねその話」

 

「いつか話してやるよ」

 

そんな他愛のない話をしているといつの間にか商店街に来ていた。ここに来て初めて色んな人間を見たけどこれが中々面白かった。シナプスで作られた物よりかなり劣化してる機械とか見たことない食べ物、色んな物がそこにあった。けれども、何よりここの人間達は凄く楽しそうだった。

 

「ねえオルガ。ここの人間ってなんでこんなに楽しそうなの?」

 

「なんでって…そりゃ皆が自分が心の底から楽しいと思える事をしてるから…か?」

 

「そうなんだ…」

 

それこそ、あの変な残骸を研究していたあのマスターとほぼ同じ表情をしている人間達。けれどもマスターとは違いここの人間達は狂気じみた感情を見受けられなかった。

下界の人間達はこういうものなのかと思い初めた時、あるものが目に移った。

 

「お、そこの可愛いお嬢ちゃんリンゴ飴1つどうだい?」

 

このリンゴ飴と呼ばれる物をジーッと見ていたら前にいた人間にそう声を掛けられた。見るからに恐らく食べ物なのだがどういった物なのか全くわからなかった。

 

「欲しいのか?」

 

後ろからオルガがそう聞くと私はコクコクと小さく頷いた。すると、オルガが「おっちゃん、このリンゴ飴1つくれ!」と言うと下界で使われている貨幣を差し出しリンゴ飴を1つ手に取った。そしてそれを私にくれたんだ。

 

「いいの?」

 

「ああ、ついでだしな。それに俺が買いたいやつも見つかったしな」

 

「何買うの?」

 

「ああ、それはだな――」

 

 

 

商店街で買い物してから歩くこと数十分。私とオルガはある1つの家に来ていた。オルガがインターホンを鳴らすと

「はいはい」と1人の老婆が現れた。

 

「こんな所にどちら様だい?」

 

「初めまして、オルガ・イツカって言います。ミカ…三日月・オーガスが世話になってるって聞いてて遅くなりましたがお礼に来ました」

 

「ああ、三日月の言っていたオルガ君ね。三日月や〜、オルガ君が来てくれたよ」

 

とこのお婆ちゃんが大声で言うと中から三日月・オーガスが紺色のワイシャツ姿でタオルで頭を拭きながら現れた。

 

「オルガ、来てくれたんだね。それに…」

 

ジッと私の方を見つめてくる。数秒間その状態が続くと三日月の口が開いた。

 

「アンタ名前なんだっけ?」

 

…そう言えば私名前名乗ってなかったっけ?初対面で会ったときは敵対してたし花見の時もあまり喋ってないし……確かに名乗ってないわね。

 

「…ニンフよ」

 

「よろしくニンフ。俺は三日月。三日月・オーガス」

 

少し笑って自己紹介してきた三日月。けれど…あの目なんか怖いわね。私はオルガに後ろに隠れるとオルガは少し驚いていた。それを見た三日月はオルガの方に向いて、

 

「懐かれてるねオルガ」

 

なんて言っていた。べ、別に懐いてるわけじゃないけど!

 

「どうかな。そうだ、持ってきたこれ桜さんとミカで食ってくれ。口に合うかはわからねえがな」

 

と言って、先程商店街で買ってきたちょっと高そうなお菓子の詰め物を三日月に渡した。

 

「おやおや、こんな律儀に」

 

「いえ、ミカがいつも世話になってるんです。これくらいしないと示しがつかないもんなんで」

 

「世話になりっぱなしなのは私の方だけど…そう言ってくれるとありがたいねえ」

 

ホントに嬉しそうにお婆ちゃんは笑っていた。すると、後ろにある畑の方から何やらドスンドスンと大きな足音が響き渡ると「ブモォォッ!」と私よりもかなり大きな猪が飛んでやってきた。

 

「プギーじゃねえか!元気にしてるか?」

 

その猪は花見でもチラッとは見ていたけど、その猪…プギーはオルガに懐いていた。確か三日月のペット?だけど何故かオルガにも懐いてるとか。智樹は蹴飛ばされたらしいけど…。

「ブモッ、ブモッ」と嬉しそうに体をオルガに擦り付けてて見た感じだとフワフワそうなその毛皮はとても心地よさそうでちょっと羨ましかった。

 

「ニンフも触ってみたら?」

 

気づかれたのか三日月にそう促された私は少しずつ近寄った。それに気づいたプギーは私を見るやいなや、近づいてきて私にも体をスリスリと擦り付けていた。

 

「モフモフしてる…」

 

「良かったなニンフ。お前もプギーに懐かれてるじゃねえか」

 

プギーの毛皮はとても心地よくしばらく体をプギーに預けていた。

 

 

空は既に夕暮れになっていてそろそろご飯もできる時間だから三日月やお婆ちゃんと別れの挨拶をして家に戻ってきた私達。少し疲れたものだからテーブルにうつ伏せになっているとアルファーから声を掛けられた。

 

「どうしたのアルファー?」

 

「実は…」

 

どうやら智樹に笑いなさいって言われて練習していたもののニヤリと擬音しか出てこなさそうな笑顔しかできなかった為悩んでいたとの事。

 

「確かアルファーってプロテクトとか全部解除してたから……ああ、アルファーって戦闘に特化しているから感情の方が駄目だったわね」

 

そう言うとコクコクと頷くアルファー。うーん…笑顔ねぇ…。

 

「シナプスにいる時より今の方がニンフは笑ってるから分かるかと思って…」

 

「……そう」

 

ホントに、ここに来て初めての事が沢山あった。今日だってそうだ。ここで住む人間達の、不自由な癖に何一つ不満げがなく一生懸命に生きている姿を見て驚かされる事ばかりだった。その中でも特に驚いたのはオルガなんだけどね。

 

「うーん…あっ、そうだ!」

 

「?」

 

アルファーを笑顔にさせる名案が唐突に閃いたのでそれをすぐに実行する事にした。

 

 

 

 

〜翌日〜

 

「おはよう〜…」

 

頭をかきむしりながら部屋から降りてきた智樹。トントンと刃物がまな板にぶつかる音がしていたのでキッチンでイカロスが朝ごはんを作っている事がすぐに分かった。

 

「おはようございます、マスター」

 

「おはようイカ…ロス…」

 

智樹の言葉が詰まる。あれほど笑顔を作るのが難しかったイカロスがとてもいい笑顔で出迎えてくれた事に驚きが生じた。そして――

 

「(あ、あれ!?めっちゃ可愛い!?)」

 

その笑顔を見た智樹はかなり赤面になっていた。

 

「どうかされましたか?」

 

グイグイと近寄ってくるイカロスに更に顔が真っ赤になる智樹。

 

「(あ、よくみるとおっぱいでけえ。…じゃなくて!)」

 

「おはようございます。どうした智樹?何かあったの…」

 

「おはようございますオルガさん」

 

イカロスの笑顔を見たオルガもかなり驚いた顔をしていた。すると、後ろからニンフが近づいてくると成功したと言わんばかりのドヤ顔をしていた。

 

「やはり成功したわね!」

 

「ニンフがなんかやったのか?」

 

「これよ!」

 

バッと勢いよく出てきたのは接着剤だった。少し疑問になったオルガはイカロスの顔を注意深くみるとイカロスの顔が妙にてかっている事に気がついた。

 

「って、接着剤で固めたのかよ!?」

 

我ながら上手くいった、と思っているニンフとは裏腹にオルガの言葉を聞いた智樹は急いでイカロスの顔についた接着剤を取ろうとするのだった。



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オルガとニンフの日常・2

前編後編などではなくシリーズです


好きっ!(挨拶)


何の変哲もない、ある日の事。

この俺、桜井智樹は今由々しき事態に陥っていた。

 

「皆紹介するね、転校生のイカロスさんです。さぁイカロスさんも挨拶して」

 

「よろしくお願いします」

 

先生に誘導されて一礼をしたイカロス。挨拶をしたイカロスは無表情だったが、しかしクラスメイトの反応は凄かった。

 

「え、あの転校生の子可愛い!」

 

「ヒャッハー!女だ!女がいるぞぉ!」

 

「しかもスタイル良くて綺麗…」

 

等、一部世紀末染みた発言をしている奴もいるがイカロスは好印象を持たれていた。それはこの際よかった。朝、朝食を取ってから(相変わらず守形先輩はいた)イカロスに「行ってきます」を言った筈なのに学校の朝礼が終わってからすぐさまイカロスが転校生として学校に来ていた事は色々問題もあるが百歩譲っていいとしよう。問題はそこからだった。

 

「あれ…名字が桜井だ」

 

「桜井!?」

 

「桜井だと!?智樹の彼女かなんかか!!??」

 

そう、まさかイカロスが俺の「桜井」の名字を使って学校に来るとは思ってもみなかった。お陰であらぬ疑いやその他もろもろが掛けられていた。クラスメイトが怪しい目や疑いの目、そして何故か嫉妬の目も向けられていた。

そんな視線にも負けず俺はすぐ近くの席に座っているオルガをチラッと見てみた。

するとオルガはまるで「よかったじゃねえか」とでも言いそうな顔をして俺の方をニヤニヤとみてやがった。

あの野郎、自分の事じゃねえ事をいいことに…!すると再び担任の先生がパンパンと手を叩き、クラスを静かにするともう1つ大きな爆弾を落としていった。

 

「実はもう1人転校生がいます。さあ入ってきて」

 

先生が教室の入り口に声を掛けるともう1人現れる。現れたのはなんと―――

 

「イツカ・ニンフよ。よろしくね」

 

ニンフが学校に転校してきた。()()()()()()()()()()()()()()。それに反応してかクラスメイトはイカロスと同じような反応をしていた。

「ちっちゃくて可愛い!」

 

とか

 

「綺麗な髪の毛で顔も可愛い!」

 

とか

 

「ホホォーウ!!女だ!女が2人だ!」

 

とか

 

「我が生涯に一片の悔いなしぃぃ!!」

 

と、同じように反応をし…

 

「イツカ!?イツカだと!?」

 

「イツカってオルガ意外いねえじゃねえか!桜井と同じでまた彼女かなんかか!?」

 

「しかも智樹とオルガは一緒に暮らしてるとか聞いた事あるぞ!まさか…両方ともお嫁さんか!?」

 

「ちくしょう!焼き殺せ!焼き殺してつるし上げろ!!」

 

等、俺の時よりもさらに過激な言葉がオルガに浴びせられていた。ハッ、ざまあないぜ!!オルガ自身も「ま、待ってくれ」とか色々弁解していたがここでニンフから更に爆弾発言が降りかかった。

 

「え…オルガ…私の事散々メチャクチャにしたのに覚えてないの…?」

 

「待てぇニンフ!そんな事した覚えねえしやろうとも思ったことねえぞぉ!!」

 

因みにこのニンフの発言のせいでクラスの大半は俺からオルガにヘイトが溜まっていた。幸いというかなんと言うか

、三日月は事前にオルガとニンフの関係を知っているから別に気にもせず火星ヤシだったか?それをモグモグ食べていた。

 

「こんないたいけな私の体にあんな事やこんな事…オルガが望んでたからしてあげたのに…」

 

と一見見てみると悲しそうな顔に、しかしその本音は面白可笑しそうにしてオルガを弄っていた。

 

「嘘言うんじゃねえ嘘を!……あれ、皆どうしたんだよ?そんなやべえ目で見てきてよ…?ま、待ってくれ頼む!俺だけの命は助けてくれ!だから―――」

 

言い切る前にオルガはクラスの総攻撃を喰らった。

 

「うおああああああああ!!!??」

 

《キボウノハナー》

 

死亡し、希望の花を咲かせたオルガは団長命令を響きわさらせる。

 

「だからよ…誤解するんじゃねえぞ…」

 

 

 

 

「痛って…」

 

「随分やられたねオルガ」

 

持ってきてくれた救急箱の中にある薬や絆創膏を使ってオルガの応急処置をしていくミカ。いつも死んで蘇ってた俺だが今日のは格段に心身共に傷ついた気がするな。まあ、クラスの奴ら俺を殴ってストレスが発散したのか誤解だと分かった途端皆謝ってきたんで今回だけだと割りきり許す事にした。

すると、そこにニンフがやって来て

 

「何やってるの?」

 

と声を掛けてくる。

 

「お前のせいで体中傷だらけだから直してもらってんだよ」

 

「ああ〜…ごめんね」

 

テヘッ、と舌を少し出してウインクするニンフ。それを見た俺はため息をつくほかなかった。

 

「ねえねえ三日月。私も手伝っていい?」

 

「いいよー。はいこれ」

 

といって渡されたのは皆よく知るピンセットと脱脂綿、そして塗り薬だった。それを手に取ったニンフはまずピンセットで脱脂綿をつまみ、塗り薬にひたす。塗り薬をひたした脱脂綿をそのままオルガに向けて――

 

「えい」

 

傷口にぶっ刺した。読者諸君ならよく知るであろうヒロインが傷口にポンポンと突っつくあれ。それをニンフは突っつくではなく突き刺すにしたのだ。

 

「う゛っ゛!」

 

《キボウノハナー》

 

既に咲かせていた希望の華。刺された時点でオルガは死亡したのだ。

 

「って、何しやがるニンフ!」

 

ダメージや衝撃が少なかったため比較的に早く蘇った俺はいの一番にニンフにそう言った。ニンフはキョトンとしていたがすぐに気がつくとニコリと笑う。

 

「な、何だよその笑顔」

 

「もっとしてあげるね♪」

 

「ヒエッ」

 

オルガが普段、というか緊急時でも出さないような声を出すと座っていた椅子から急いで飛び上がる。それに対しニンフはピンセットと脱脂綿を持ちながらオルガにジリジリと詰め寄った。

 

「オルガ、逃げちゃヤだよ?」

 

「お前キャラ変わってねえか!?」

 

そんなオルガの嘆きは虚しく、ニンフはオルガに素早く近寄った。が、それをすぐに察知したオルガはすぐに駆け出しニンフから逃げるために教室から飛び出した。

 

「あっ!?待ちなさいよ!」

 

勝ち取りたい!物もない!とでも曲が流れそうな、そんな走り方で逃げるオルガ。そんな光景を見ていた一部除くクラスメイトは「やっぱり付き合ってるか何かしらあるんじゃね?」と感じていた。

 

 

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

何とかニンフから逃げ切った俺は校舎裏の木の下で少し休憩を取っていた。アイツはなんでそんなに俺を死なせてえんだ?面白いからか?それともホントに心配だから……いやそれはねえな。じゃなきゃあんな笑顔する筈がねえ。

 

「あら、よく逃げ切ったわね」

 

「え゛っ゛!?」

 

何処からかニンフの声がした。辺りを見回してみるがニンフの姿は見当たらない。

 

「上よオルガ!」

 

「何だと!?」

 

上を見上げると木の枝に仁王立ちで立っていたニンフがいた。どうやら逃げ切ったと思っていたが全く逃げ切れてなかった。俺は木から離れ距離を取った。

 

「フフフ、さあ大人しく私の処置を受けなさい」

 

満面の微笑みでニンフはそう言ったが、脱脂綿をピンセット事ぶっ刺すとか処置でもなんでもなく最早殺人でしかなかった。まあ、常人ならば刺されても決して死ぬことはないがオルガの場合は別である。

 

すると、突然風が吹き出した。

 

「きゃっ!?」

 

その風は突風ともいえる風で回りにある木の葉や草、花でさえも揺られていた。当然そんな物が揺らされるという事はオルガの来ている服や髪の毛、そしてニンフの髪や()()()()もなびかせる事になった。

 

「ん?」

 

その風はニンフのスカートをめくり上げスカートの中があらわになった。その状況を目の当たりにしてオルガもは呆然と立ち、ニンフはそれに気づいたのかすぐにスカートを押さえた。するとニンフはプルプルと顔を赤らめながら

 

「見た?」

 

と言った。そして、俺はフッと笑うと――

 

「やったあああぁぁぁぁぁ!!!」

 

と両腕を空高く上げて盛大に喜んだ。そして――

 

「どこ見てるのよこのバカァ!!」

 

とニンフが木の枝から飛び立ちオルガの脳天にカカト落としを叩きこんだ。そのカカト落としはオルガの頭蓋骨をも砕き一瞬で即死させたのだ。

 

《キボウノハナー》

 

頭蓋骨は割れても原型を保っているオルガは何を発することもなく希望の華だけを咲かせていた。その後、ニンフはオルガをそのまま放置し、偶々通りすがる守形先輩に気づかれるまでは蘇る事はなかったという。

 

 

 

 

余談だが、ニンフはオルガを本当に心配しており応急処置をしようとしていたのは本心だった。

 



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イカロスが嘘つくよ!

ある日の事。智樹がオルガを引きずり回し、エロスという名の「修行」をオルガにつけさせようとして朝早くから外に出ていた。流石にイカロスがわざわざ作ってくれた朝食を食べないのは悪いので食べてからすぐに飛び出していった。そして、家に残ったのはイカロスとニンフだけだった。

 

「ふ〜んふ〜ん♪」

 

鼻歌を歌いながらテーブルに置いてある先輩を食べているニンフ。その視線の先にはテレビに移っているドラマを見ていた。一方イカロスはというと…

 

「…………(ニヤリ)」

 

前に智樹に言われて以降、ずっと笑顔の練習をしていたが、相変わらず擬音しか出ていない笑顔でなんとも言えなかった。やはり感情部分の機能が他よりも下回っているためやはり笑った顔を作るのは難しいのだろうか?

イカロスは考える。何故人間は笑顔を作れるのだろうか?マスターやオルガさんを含め、人間とは一体どういうものなのか。マスターはいつも人間らしく振る舞いなさいと言っているが…。そうしていると、テレビに映っているドラマのセリフがイカロスの耳に入ってくる。

 

『あ、アナタ!?嘘ついてたのね!?』

 

『フッ、人間とは嘘をつく生き物なのさ。人間は本心を嘘で誤魔化すもんなんだぜ?』

 

「人間は嘘つくもの…本心を嘘で誤魔化す…」

 

それが…それが人間というものなんですねマスター。オルガさん。私は早速実行することにした。

 

「ニンフ」

 

「ん?何アルファー?」

 

呼ばれて振り替えるニンフ。が、イカロスが次に言うことは悲惨なものだった。

 

「貴方は身長が高いわりには可愛くないわ」

 

「………へ?」

 

「それにあまり綺麗じゃない翼も頭が悪そうな所も全然可愛くないわ」

 

「へ?……え?」

 

ニンフの顔が驚いた顔から一気に涙を含んだ顔になる。だがその事を気にすることもなく、続けて言葉を言い放った。

 

「ここに来てから笑顔がそんなに増えてないけど大丈夫じゃないわね」

 

その最後の一言でニンフはノックダウンした。手足をついて涙を流しながら「私最近何かした…?」と呟いていた。

そしてイカロスは人間らしくできたと思っていたので余計に達が悪かった。

すると家の玄関のドアが大きな音を立てて開いた。

 

「オルガッ!いつまで死んでるんだよ!?早く起きろ!ここまで引きずるのツラいんだぞ!?」

 

玄関が騒がしくなるとイカロスは茶の間から顔を出すと智樹が既に死んでいたオルガを引きずって家に帰って来た事がわかった。

 

「智ちゃ〜ん?何処に行くのかな〜?」

 

「ひぃ!?オルガァァ!!起きてくれぇぇ!!」

 

どうやらまた智樹が何かやらかしてそはらに追いかけられていたようだ。

 

「マスター、そはらさん」

 

「あっ、イカロスさんこんにちわ〜」

 

「そはらさん!?イカロスに挨拶しながら俺にチョップしようとするのやめてもらえません!?」

 

今まさに智樹の胸ぐらを掴んで殺気を纏ったそはらのチョップを繰り出される寸前でまたもやイカロスは言葉を告げた。

 

「私はそはらさんが大っ嫌いです」

 

「…え?」

 

一瞬キョトンとするそはら。しかしイカロスは言葉を続ける。

 

「胸は小さいですし暴力的で短絡思考、後ちょっと痩せぎみな所とか。とにかくそはらさんが大っ嫌いです」

 

その言葉に硬直したそはらは遂に智樹を掴んでいた手は力が抜け、そはらの拘束を免れた智樹。だがイカロスが言った言葉にかなりの驚きがあった事でその場からは離れる事ができず、イカロスは続けて智樹にも言ってしまった。

 

「マスター、私はここにずっと居たくありませんしそばに居たくもありません」

 

智樹の場合、たったその一言で硬直してしまった。そしてイカロスはそのまま人間らしく振る舞おうと外に出ることにして、あまりのショックに動けずにいたそはらと智樹を置いていったのであった。

そして蘇ったオルガがいつの間にか手足をついて涙を流しているそはら、智樹、ニンフを見たオルガはかなり驚愕した。

 

「お、おいお前ら!?一体何があったんだよ!?」

 

事情を聞こうにも何一つ言葉が届いてなかったので3人の呟いていた事を聞き、ある程度は察したオルガはとりあえずイカロスを追いかける事にした。

 

 

 

そしてイカロスは町を歩き、商店街やら民家やら出会った人に対し片っ端から人間らしく振る舞うという名の暴言を吐くエンジェロイドと化していた。道行く少年も、杖をついた老婆も商店街のおっちゃんでさえもその暴言に手足をついて泣いてしまう事態になった。

そして、学校によると偶々守形先輩が花壇で栽培をしていたので出会い頭に

 

「新大陸はありません」

 

と言いきってその場を離れた。幸い守形先輩は特に気にすることもなく学校の花壇で大根の栽培を行っていたという。

次に、偶々出会った会長には

 

「会長は…優しい人ですね」

 

「あら〜ありがとうイカロスちゃん」

 

と、褒めていた。勘違いをしていけないのはイカロスは現在嘘をついてる真っ最中なので会長に言った事は真逆の意味である。会長はうっとりと頬に手を当てて嬉しそうにしてるが知らぬが仏とはこの事であろうか。

しばらく歩いてると後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。その足音に振り替えるとオルガがイカロスに向かって走ってくる事がわかった。

 

「オルガさん」

 

「ハァ…ハァ…やっと追い付いた…ハァ…」

 

イカロスに追い付くと膝に手を置いてかなり疲れた様子だった。なにせ、智樹の家からここまでノンストップで走っていたので疲れるのは当然の事だった。

 

「いいかイカロス?智樹に何言ったかは知らねえがとりあえず―――」

 

「オルガさん、私は鉄華団ではありません」

 

「え?」

 

「私はマスターと同じくらいに侮蔑を感じています。これからも人間の事について教えて貰いたくありませんしマスターと同様側にいて欲しくないと思います」

 

「え゛っ゛!?」

 

「それと、どうかニンフと関わらないでください。あの子を笑顔にできないのはオルガさんくらいなものです」

 

「う゛っ゛」

 

《キボウノハナー》

 

あまりの罵倒と暴言にオルガの精神が耐えきれずショック死してしまい、希望の華を咲かせた。けれどもショック過ぎてろくに団長命令も響かせられなかったのか、無言のままだった。

 

「……何してんのイカロス」

 

今度は横から声がしたのでその方向に向くと今度は三日月が隣に立っていた。どうやら今のイカロスとオルガのやり取りをジーッと見ていたらしくオルガが死んだタイミングで声を掛けてきたのだ。

 

「三日月さん、私は――」

 

「待って」

 

三日月はイカロスが人間らしくするという暴言を吐く前に三日月は手の平をだしてイカロスの言葉を制止させる。

 

「なんでオルガが死んだか分かる?」

 

「……?」

 

三日月の質問に首を傾げるイカロス。すると三日月は死亡していたオルガを一瞥するとため息をついた。

 

「オルガはイカロスが言った事に対してショックを受けて死んだ」

 

「何故…ショックを受けるのですか?私はただ人間らしくしようと…」

 

「それは駄目だ」

 

強く言葉を発する三日月。だがその言葉には何処か呆れた事と優しさがあった。

 

「イカロスがしてること。それは人を傷つける事だ」

 

「傷つける…ですか?」

 

「うん。確かに人間は嘘をつく。でも嘘をつくって事は自分の本心を伝えないという事だからその人の事を信頼していないのと同じだし、本当の事を真逆に言ってしまうと言われた側は嫌な気分になる。それにさっきオルガに言ったことはイカロスに一番言われたくない言葉だった。だからオルガはショックで死んでしまった」

 

「私は…」

 

三日月の言葉に思う所があったのか少し申し訳なさそうな顔をする。改めて三日月にそう言われてると確かに他の人が嫌がるような事をした、という自覚を持った。なら、なら私はどうすれば――

 

「イカロスの思ったことは素直に言うといいよ。人間らしくするっていうならまずそこからだ」

 

「素直に…ですか?」

 

「イカロスが思ってること、決して悪いことじゃないと思う。だから、それをオルガや智樹、皆に言ったらいいと思う。皆はイカロスの言葉に応えてくれる筈だよ」

 

「はい…分かりました」

 

三日月の言葉で幾分か顔に自信が灯ったイカロスだったが「でも」と三日月は1つ言葉を付け加えた。

 

「なんであれ、イカロスがしたことは悪い事だ。だから謝らないと。謝るのも人間らしい所の1つだよ」

 

「はい、分かりました」

 

「んじゃ……オルガ、さっさと起きて」

 

希望の華を咲かせていてまだ蘇ってないオルガの片を揺さぶる三日月。だが、オルガの反応はなかった。

すると、三日月が立ち上がると体中が光だしバルバトスに変身を完了させた。右手に持っているメイスを大きく振りかぶってゴンッと鈍く重い音と共にオルガに叩きつけた。

 

「オルガ起きて」

 

「うっ…ぐっ…ハッ!み、ミカ?こりゃどういう…」

 

雑な起こされ方をしたオルガは目の前で自分にメイスが叩きつけられている事実に困惑していた。すると、イカロスがオルガに近づき頭を下げた。

 

「オルガさんごめんなさい」

 

「いや状況がよくわからねえよ」

 

そして、イカロスは事の顛末を話したのだった。

 

 

 

 

「しかしアルファーが嘘をねぇ…」

 

「ああ、あれは多分イカロスが言うから精神的なダメージがあるだけで他の奴が言っても多分ああはならねえだろうな」

 

イカロスの事情を聞いた俺はすぐに他の奴らの所に謝りにいった。つまる所イカロスが勘違いを起こしただけの話で別に悪気はなかったみてえだし皆もすぐに許してくれた。

だが会長は何故か妙に怒ってた気がするがなんでだろな?

そして全員に謝り終わって今は家の茶の間でニンフと一緒にテレビを見てるわけだが…。

 

「まあいいんじゃない?アルファーも人間らしく振る舞うっていうのをちゃんとしてるわけだし」

 

「まだ荒削りみてえなもんだがな」

 

「それは言えてるかも」

 

ニンフと俺は少し笑った。これからのイカロスを考えると智樹も苦労しそうだとどこか思えてしまいその苦労してる智樹を想像すると笑えてくる。ニンフも恐らくそう思ってるだろうな。そして俺はあることに気がついた。

 

「おいニンフ?その首輪の点滅どうした?壊れたのか?」

 

首輪の右側辺りが一定の規則で赤色に点滅している事がわかった。そしてニンフは左手でそっと点滅してる部分を隠し少し笑って「なんでもないわ」と言った。なんでもないならいいけどよ。そしてニンフは再び口を開いた。

 

「別に爆弾でもなんでもないわよ。……そうだ。私ちょっと用事を思い出したわ。ちょっと外に出掛けてくるわ」

 

そう言うとニンフは立ち上がり玄関へ向かおうとするがオルガの声で一旦足を止めた。

 

「おい?どうした急に」

 

「別にいいでしょ?永遠の別れになるわけじゃないんだし。あ、晩御飯オルガの鮭が食べたいから作っておいてね」

 

少し顔を振り返ってオルガを見つめると少し微笑んで玄関へ向かった。ニンフの言葉に「お、おう」としか言えずそのままその場でニンフを見送った。

 

「まあいいか」

 

特に気にすることもなかったのでオルガは夕飯の下準備をすることにした。本来今日はイカロスが当番する筈だったがたまにはこういうのもありだろ、という理由とニンフに焼き鮭作ろうとするためだ。

 

 

 

 

 

だが、夕方になろうが1日経とうがニンフが帰ってくる事はなかった。




捕捉
イカロスの嘘→本当の事

「貴方は身長が高いわりには可愛くないわ」

「貴方は小さくて可愛いわ」


「それにあまり綺麗じゃない翼も頭が悪そうな所も全然可愛くないわ」

「それに綺麗な翼も頭が良い所も凄く可愛いわ」


「ここに来てから笑顔がそんなに増えてないけど大丈夫じゃないわ」

「ここに来てから笑顔が増えて安心したわ」


「胸は小さいですし暴力的で短絡思考、後ちょっと痩せぎみな所とか。とにかくそはらさんが大っ嫌いです」

「胸は大きいですし静かで冷静な思考、後ちょっと太りぎみな所とか。私はそはらさんが大好きです」


「私はマスターと同じくらいに侮蔑を感じています。これからも人間の事について教えて貰いたくありませんしマスターと同様側にいて欲しくないと思います」

「私はマスターと同じくらい敬意を感じています。これからも人間の事について教えて貰いたいですしマスターと同様に側にいてほしいと思います」


「それと、どうかニンフと関わらないでください。あの子を笑顔にできないのはオルガさんくらいなものです」

「どうかニンフの事を見ていてください。あの子を笑顔にできるのはオルガさんくらいなものです」

といった感じです。






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初の大仕事

アルファーからとんでもない暴言を吐かれてから直後の事だった。

 

「ニンフ?聞こえるかしらニンフ?」

 

「っ!ガンマ!?」

 

シナプスからでも通信可能な機能を搭載した耳からガンマ―――ハーピーが通信を掛けてきた。ハーピーと私はあまり仲が良くなく、事あるごとに罵倒や暴言を繰り返してきたエンジェロイド。それも姉と妹の2対1だから不公平もあったもんじゃない。…話がそれたがそんなハーピー…の姉の方が私に通信を入れるなんて珍しかった。

 

「何よガンマ?アンタが私連絡を入れるなんて珍しいじゃない」

 

「マスターの命令よ。貴方は廃棄処分確定、ウラヌス・クイーンの側で自爆しろってさ」

 

「…ああ、やっぱりね」

 

首輪のタイマーが鳴っているのは前から知っていた。つまり自爆することは確定ということ。

 

「けど貴方が私達を手伝うっていうなら話は別になる」

 

「どういう…ことよ?」

 

「私達が今からウラヌス・クイーンを破壊しに行くわ。マスターがあの天使から解析した一部の技術で作られた人形を2機随伴させてね」

 

ハーピー達が言っている天使、かつて何故その場にあったのか何が目的で作られたのかまるでわからなかった残骸。それを解析し終えたってことは――

 

「あれが作られたっていうの!?」

 

「いや、まだほんの一部しか分かってないみたい。でもいずれ全て分かる事よ」

 

「私に…どうしろと?」

 

「もぉちろん、ウラヌス・クイーンを破壊する為に手伝って欲しいのよ。未知の技術とはいえ流石にウラヌス・クイーン相手じゃ勝てるかどうか分からないからね。あ、別に断ってもいいわよ?そんなに廃棄処分されたいならね」

 

「っ……!」

 

「明日、太陽が昇る時に近くの山に来るわ。それまでに決断しておいてね〜。じゃあね♪」

 

と言って、ハーピーは通信を切った。私はハーピー達の言葉に何も返せなかったのだ。

 

 

 

 

アルファーやオルガが帰ってきてどうやら私に言った事は嘘だったみたい。あー…そういえば朝やってたドラマでそんな事言ってたわね。多分それをみてアルファーは嘘ついたんだと私は分かった。

アルファーに謝られたけど「少し傷ついた」って言ってみるとしょんぼりとした顔になっていたのでそらがたまらなく面白おかしく思えて思わず笑っちゃったわ。

かつてのアルファーだったらこんな顔しなかったと思う。これも多分智樹やオルガがアルファーを変えたんだなと私は思った。

 

「(大切にされてるのねアルファー)」

 

すると、オルガが私に話しかけてきた。今回の騒動で少し疲れたのだとか。……まあ、私もアルファーに言われた時は凄いショックを受けたから気持ちは分かるわ。

でもアルファーも人間らしくするという点ではいいんじゃないの?とオルガに聞くと

 

「まだまだ荒削りだな」

 

なんて言ってたけどその言葉に私も同意した。オルガはアルファーが兵器だって事は知ってるから恐らくそう言う点でもやっぱり荒削りなんだと思えた。

ここに来て、色んな事を知った。シナプスにしかないもの、逆にシナプスにはないもの。そして此処は―――シナプスにはないものだった。

 

「(そんな場所を壊される訳にはいかない)」

 

どうせもうすぐ自爆する運命にある。此処に来ていつしか此処を大切な場所と認識し始めていた私はハーピー達を食い止める決意をした。ハーピー達の他にあの天使の技術から作られた人形は本当に未知の存在。勝てるかどうか分からないけど、例え私が壊れたとしてもオルガや智樹アルファーをやらせはしない。

 

そして私はオルガに嘘で固めた別れを告げた。

 

 

ただ、オルガの作ったあの魚。もう一度食べてみたかったな

 

 

 

 

 

 

ニンフが帰ってこない。その事実に嫌な感じを持った俺はいの一番に智樹に相談することにした。

 

「う〜ん…ニンフがねえ…」

 

「ああ、智樹も薄々感じてたとは思うがニンフは別に俺達の事を嫌ってるわけじゃねえ。だから、突然消えるなんてまずありえねえしなにより俺にあんな事言って帰ってこねえなんてねえ筈だ」

 

「確かに。ニンフはオルガに懐いてたしな…」

 

「どうかされましたか?」

 

智樹がうーんと頭を捻らせているとイカロスが茶の間に入ってきた。俺はニンフの事についてイカロスに話した。ニンフが変な遠回しの言い方で家を出たこと、それから帰ってきてないこと、そして俺が持っている違和感を。するとイカロスはスッと目を閉じ再び開けるとこう口にした。

 

「恐らく、ニンフのが戦いに巻き込ませない為にこの家から出たのだと思います」

 

「戦い…!?なんなんだよそりゃ!?一体どういう事だ!?」

 

焦った俺はテーブルに身を乗り出してイカロスの片を強く掴む。智樹に制止されたものの、それでも落ち着く事は出来なかった。何故、何故アイツが戦いなんか――

 

「あの子が『私を破壊する』という命令を失敗に終わらせたため恐らくは別のエンジェロイドが私の所へ向かってくるでしょう。シナプスにいるニンフのマスターはそういう人です。そして――ニンフは一人でそのエンジェロイド達を食い止めに行ったのだと思います」

 

「ま、待てイカロス!その話は――」

 

「破壊って…どういう事だよ…?」

 

イカロスが言った事に智樹は困惑せざるを得なかった。なんせ、智樹から見たら突然やって来たエンジェロイドだが、例え期間が短くとも楽しく暮らしてきたと思っていたのが智樹の所感だからだ。そんな智樹の気持ちを他所に更にイカロスは言葉を続けた。

 

「マスター、私は()()()エンジェロイドタイプα、イカロス。シナプスで最も恐れられ…マスターの……嫌いな兵器…です」

 

おどおどしく、しかし悲しげな目で智樹を見つめる。その言葉にキョトンとした智樹だがイカロスは続けて言った。

 

「長らく黙っていて申し訳ありませんマスター。ですが…ですが、今だけは側にいることを許してください。あの子は…ニンフはやっと本当の意味で笑うようになりました。私はあの子を助けたいのです。マスターが望むのならいつでも目の前から消えます。ですが…今だけは」

 

「ようやく…本当の事話してくれたなイカロス」

 

「え…?」

 

イカロスがずっと胸の内に秘めていた秘密。状況が状況だった為話さざるを得なかったイカロスだったが、返ってきた反応は拒絶や恐怖等ではなく笑顔だった。

 

「薄々だけどそうだろうと思ってたよ。まあ、オルガとイカロス間に秘密があるってのは少し思うところがあったけどな」

 

「マスター…」

 

「けど、俺が断言してやる。お前は兵器なんかじゃない。お前はこの家で俺達と一緒に暮らしてる家族だ。だから…目の前からいなくなるなんて言うな」

 

智樹がそう言うとイカロスは涙を一粒また一粒と流した。とても小さく、けれどもよく聞き取れるような声で「はい…マスター」と震えた口調でそう呟いた。そんなか弱い姿を見た智樹は小さく微笑んで俺に視線を向けた。

 

「オルガ、イカロスの為にサンキューな」

 

「別に俺はなんもしてねえよ。全部イカロスが決めた事だ」

 

「そっか。……じゃ、早いとこニンフを探しに行こうぜ。アイツ、オルガの作った鮭食べたいって言ってたんだろ?なら食べさせてやらないとな?」

 

「あぁ、その通りだ。ニンフの事も、イカロスを壊しに来るエンジェロイドの事も全部ひっくるめて俺が…いや、俺達がなんとかしてやろうじゃねか!」

 

「それじゃ、連れてきてよかったね」

 

突然、智樹でもイカロスでもない声が聞こえてきたに俺は少し驚いて、そして安心めいた物を感じた。なんせ、聞こえてきたのはミカの声だったからだ。

 

「なんだよ、結構早いじゃねえかミカ」

 

「俺だけじゃない。皆もいるよ」

 

「そはらに会長!?それに兄貴もじゃねか!」

 

ミカの後ろに立っていたのはそはら、会長、守形の兄貴だった。全員かなり真剣な目でこちらを見ていた。

 

「ニンフさんが大変な事になってるって本当?オルガさん」

 

「ああ、本当だ。ニンフの奴が1人で俺達を助けようと無茶な事をしてる。最悪死ぬかもしれねえ」

 

俺がそう言うとミカを除いた3人は驚くが、すぐに真剣な顔で俺達を見つめた。

 

「だったら助けないと。ニンフさんが死んじゃうかもしれないなんて絶対にさせない」

 

「俺もそはらと同意見だ。顔馴染みが死ぬなんてのはオルガだけで十分だ」

 

「イツカ君が死ぬのは面白そうだけど流石にニンフちゃんは可哀想だわ〜」

 

一部俺への風評被害が混じってはいるが皆ニンフを助けるという気持ちは同じだった。そしてミカは俺を、かつて俺に期待して見ていたあの目をしていたが口元は少し口角を上げていた。

 

「ねぇオルガ。次は何をすればいい…ってのは聞かない。今は俺達皆でニンフを助けたい。連れてってくれるよねオルガ?」

 

俺は回りを見渡す。ここにはニンフの事を大切に思っている奴が集まっている。なら!団長である俺が先陣切らなくてどうするってんだ!

 

「ああもちろんだ!ニンフは俺達の家族だ!なら俺達が家族を守んのが当たり前の話だ!」

 

俺の言葉に皆が頷く。そして俺は宣言する――

 

「最短で行く!ニンフを助けるぞ!」

 



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エンジェロイドとMS

ハーピー達の名前どうしたらええんや…


空見町から少し離れた山の頂上。そこはどこにでもありそうな一般的な山で多少の人の手が加えられているがほぼ自然で緑豊かな山だった。その頂上には少し大きな神社があった。長らく人が来てないのか辺りは雑草が沢山生えていた。普通ならばちょっとした秘境的な物に見えるその場所もある存在によって台無しだった。

 

「さてと…地上に降りてきたのはいいものの少し疲れるわね」

 

「そうかしら姉さん。私はあまり疲れてないわよ?」

 

「それは貴方がこの人形を誘導して連れてきてないから言えるのよ可愛い妹よ」

 

山の頂上に降りてきた2人の天使。足は爬虫類のような形で右手は尖った指、左手は大砲を模したかのような砲塔を装着した天使とは言いがたいフォルムをした2人。ハーピー姉妹だった。だが、()()()()()()()()()()

ハーピーの姉が親指をクイッとそらに指すと2体の巨人が地上に降り立った。

その巨人はゆうに18mはありそうな巨人だが、その巨人は決して生命体と呼ばれる物ではなかった。

全身がモスグリーンの色をした装甲で覆われ顔は決して人の顔ではなく四角形で黄色いランプが光っているセンサーだった。

右手にはその巨人に見合ったアサルトライフルに似た銃を装備しており左の腰部分にはこれまた巨人のサイズに見合った斧が装着されていた。

 

「これ、なんて言うんだっけ?えーと…」

 

()()()()よ、妹。いい加減覚えなさい」

 

()()()()。それは決してこの世界にあってはならないオルガや三日月、鉄華団がいた世界で量産されていたMSだった。

 

「ねえ〜姉さん。ニンフ来るのかな?」

 

「アイツは来るわよ。きっとね」

 

「あら、お呼びかしら?」

 

ハーピー姉妹の真っ正面にある森から声がした。その森から歩いて現れたのはシナプスにいるときに着ていた服装をしたニンフだった。

 

「ね?やっぱりニンフは来るわよ妹」

 

「うーわ、本当に来た。やっぱり馬鹿だわ」

 

「誰が馬鹿よ!この鳥頭!」

 

突然の罵倒に大声を貼るニンフ。それはとても戦いが起こりそうな雰囲気ではなく、かつてシナプスでもしていたようなそんな他愛のないやり取りだった。ハーピーの姉がハァとため息をつくと姉はニンフに向けて言葉を放った。

 

「アンタがここに来るってことは協力…してくれるわけじゃないわよね?」

 

「当然でしょ?なんでアンタ達の協力をしないといけないの?」

 

さも当然のように返すニンフ。それを見た姉は更に深いため息をついた。

 

「アンタも災難だね」

 

「心配してくれるの?だったらとっととシナプスに帰ってくれると助かるのだけど」

 

「でもニンフ、アンタの自爆装置は作動してる。どっちにせよ死ぬ未来しかないのよ?」

 

「確かに未来なんてない。けど、このまま私が何もせずアンタ達を見逃したらオルガや智樹の所に行くでしょ?だったら―――ここで私が止める!!

 

言い終わると即座に名一杯息を吸い込むニンフ。その口から吐き出されるのはパラダイス=ソングだった。

パラダイス=ソングはハーピー姉妹に放たれるもののそれをあらかじめ予測してたかの如く翼で上昇して避けるハーピー姉妹。

 

「ホント馬鹿ねニンフ!アンタ如きが私達姉妹と()()()に勝てるかしら!」

 

ハーピー姉妹の後ろからニンフに迫る2機グレイズ。手には斧が握られていてそのままニンフに振り下ろされるが、シールドを貼って斧の攻撃を防ぐ事でニンフは無傷ですんだ。

 

「フン!こんなの、三日月に比べれば全く怖くないわ!」

 

「真っ正面だけじゃないってことを覚えておく事ねニンフ?」

 

グレイズの攻撃を防いだニンフだったが、その隙にニンフの背後に回り込んで喋りかけるハーピー妹。ハーピー妹は即座に左手に装着されている超高熱体圧縮発射砲プロメテウスをニンフの背中に乱射する。

 

「があっ!?」

 

幾ら強固なシールドとはいえグレイズ2機の攻撃を防いでいた為、背後に回すシールドのエネルギーはあまりなく、ほぼ直撃したような物だった。ハーピー妹の左手から放たれた火炎弾はニンフを襲ったが、エンジェロイドの皮膚はそう簡単に燃える事はないため焼ける事はないがそれでもダメージは大きかった。

火炎弾を直撃したニンフは上空から地面に叩きつけられ、だめ押しと言わんばかりにハーピー姉妹とグレイズの遠距離攻撃がニンフを襲った。

 

「こん…なもの!」

 

なんとかしてシールドで防ぐニンフ。その防いだ状態からもう一度息を吸い込み反撃のパラダイス=ソングをグレイズの1機に向けて放つ。

ニンフが吐き出したパラダイス=ソングはグレイズのコックピット部分に吸い込まれるように命中させてグレイズ1機をボロボロになるまで破壊することに成功した。

 

「へぇ〜、やるじゃんニンフにしては」

 

「ほざきなさい!」

 

グレイズ1機を落とした事でライフル弾と火炎弾の雨が弱まりその隙にニンフは翼を開いてボバリングするかのように逃げるとすぐ近くにあった森に逃げ込んだ。

 

「鬼ごっこ?いいわよ、付き合ってあげる」

 

空にグレイズを待機させてハーピー姉妹は森に降り立つ。太陽が差し掛かっているのにも関わらず森の木や葉が日光を遮り、とても薄暗い森だった。

だが、エンジェロイド達にはそんな物関係なかった。

 

「それで隠れてるつもり?ニンフ?」

 

ハーピー妹が自身に搭載されているセンサーを動かし森の辺り一帯をくまなく探す。すると、この森の中で1つの反応がたった。

 

「そこね!」

 

反応があった場所に間髪入れずに火炎弾を叩き込むハーピー姉妹。数秒間の間、その反応があった場所は焼け落ちて

何も残っていなかった。

 

「あっはっはっはっ、マスター逆らうからこうなるんだよ!」

 

「そう、よく覚えとくわ!」

 

「え?」

 

ハーピー姉が声がした方向に向く前に全く別の方向から現れたニンフの足がハーピー姉の顔にねじ込んで吹き飛ばす。吹き飛ばされたハーピー姉は地面を削って転がるように倒れる。

 

「姉さん!?」

 

「フン、どんなもんよ!」

 

驚きを隠せないハーピー妹と勝ち誇るニンフ。だが、それは次の瞬間に塗り替えれられる物だった。

ドン、と轟音と共に今までとはまるで違うくらい大きな火炎弾がハーピー姉が吹き飛ばされた方向から飛んで来る。

 

「ちっ!」

 

忌々しく思いながら火炎弾を避けようとするニンフ。だが―――それは叶わなかった。

 

「あぐっ!?」

 

なんせ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

強い衝撃と共に倒れたニンフは目の前に迫り来る巨大な火炎弾をよける事ができず……直撃してしまった。

悲鳴すら上げる事なく今度はニンフが吹き飛ばされる。

そして、奥からハーピー姉が歩いて現れる。

 

「あまり調子にのるなよチビ」

 

現れたハーピー姉は多少の傷が顔に付いてたものの動くには問題のないレベルのダメージだった。発せられた声から先程のような余裕の声はなくなり、怒気を含んだ口調になっていた。

ハーピー姉は吹き飛ばして体中に傷を負って倒れているニンフに近づき頭を掴み取ると地面に何度も叩きつけた。

 

「こっちが下手てに出てればいい気になってさぁ?もういいわ、お前をぐちゃぐちゃにしてからウラヌス・クイーンを始末しに行くわ」

 

言い終わると共に地面にニンフを落とすとうつ伏せにさせる。そして――背中の翼をもぎ取った。それも強引に。

 

「あああぁぁぁぁぁ!?」

 

「あっはっはっはっ!いい悲鳴出すじゃない!そらもっと出しなさいよ!」

 

もぎ取った翼をゴミのように捨て、ニンフの体を持ち上げると腹に拳を入れ込む。

 

「かはっ!?」

 

「あはっ!スッゴい楽しい!やっぱり弱虫をなぶるのは気持ちいいわ!」

 

怒りの沸点を突破し最早狂人と化したハーピー姉。その光景を見ていたハーピー妹は姉の狂った姿をみて少し引いていた。

頭から血が流れ、翼をもがれて体中ボロボロのニンフ。けれどもその目はまだ力尽きて等いなかった。

 

「何よその目。腹立つな」

 

ハーピー妹に言われてももう言葉を発する力もないのか声すらかすれていた。それを見たハーピー姉はつまらなさそうに空を見上げる。

 

「グレイズ!この弱虫エンジェロイドを粉々にしてやりさい!」

 

グレイズに指示を出すハーピー姉。その巨体は空から森に降り立ち、右手に持っているライフルを倒れているニンフに銃口を向けて構える。ニンフは立ち上がる力もなくただグレイズを見上げる事しか出来なかった。グレイズは指示された命令を忠実に実行する。

そしてライフルのトリガーを引き絞り銃弾が放たれた―――かに思われた。

 

 

 

 

グレイズはどこから飛んで来たのかそれこそグレイズよりもその全長が長い()()()がとてつもないスピードでグレイズに命中し、グレイズを吹き飛ばしたからだ。

 

「何!?」

 

ハーピー姉が驚いたのもつかの間、今度は銃声が鳴った。そしてその銃弾は……ハーピー姉に当たっていた。

 

「何を…やっている?」

 

「てめえら…俺達の家族に一体何してやがんだ」

 

ニンフの有り様を見て本気の怒りを露にしたオルガや三日月、続いて智樹達が現れたのだった。

 

「オル…ガ…?」

 

そして、ニンフにとって忘れがたい光景を目の当たりさるのだった。



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団長として当たり前の

明けましておめでとうございます!
すっごいエタりましたが元気です!


ニンフは今、目の前で起きたことが理解出来なかった。オルガに対して「家を出る」と言ったぐらいで間違ってもこの場所に来ることなんて微塵も思っていなかったからだ。

 

「なんで・・・来たの・・・?」

 

「決まってんだろ。家族を守るために来たからだ」

 

オルガは真っ直ぐとニンフを見つめる。その表情は固く決心をつけた顔だった。ハーピー達に向けていた銃口をゆっくりと下ろすとオルガが一歩前に出る。

 

「俺たちの団員に手ぇ出したこと、お前らわかってんだろな?」

 

「ふん!たかが人間の癖に生意気ね!」

 

「今なら泣いて土下座して謝るなら許してやっても構わないわよ?」

 

「あ?お前ら状況わかってんのか?そのセリフを吐けんのは俺らかお前ら、どっちだ?」

 

見下した相手に対しての上から目線の言葉で挑発するオルガ。ハーピー姉妹はオルガの挑発に完全に乗り、オルガを焼き殺そうとプロメテウスを発射させる。人間一人を殺すのには余りあるその熱量と威力はオルガに当たるどころか目の前で掻き消された。

いや、正確には叩き潰されたと言ったほうがいいのだろうか。ハーピー姉妹から放たれた超高熱体圧縮砲(プロメテウス)は三日月の操るバルバトスのメイスによって遮られたからだ。

 

「オルガに何しようとしてんの?」

 

ドスの効いた声で答える三日月。完全に防ぎきられるとは思ってもみなかったのかハーピー姉妹は少し狼狽える。が、姉の方のハーピーが空を見上げると上空に待機しているグレイズ2機に指示を出した。

 

「グレイズ!あの図体のデカい奴を叩き潰しなさい!」

 

すると、先程まで待機していたグレイズ達はスラスターを吹かし空いていた左手にバトルブレードを装備してバルバトスにスラスターの勢いに任せてブレードを振り下ろす。

だが三日月は躱す動作をする事はなく、メイスを横にして構えるとグレイズの攻撃を難なく防いだ。ガキンと金属と金属がぶつかる音が響くが、特に気にすることはなかった三日月はオルガに向けてある事を聞いた。

 

「オルガ、大丈夫?」

 

そう、ミカは聞いてきやがった。アイツが俺に聞いてきたのはミカがドンパチやって俺に危険が及ぶとか、そういう事を聞いてるんじゃねえ。ようは覚悟の問題だ。

俺があのエンジェロイド2人相手にケジメをつけれるか、バルバトス越しとはいえ俺に期待するあの目がヒシヒシと浮かび上がる。勿論俺が言う事は決まっている。

 

「ああっ!こっちは俺に任せろ、そっちは任せたぜミカァ!」

 

「ああ、任され・・・たっ!!」

 

俺が大声で返すとミカはそれがさも当然かのように答え、そして勢いよくグレイズ2機を押し返すとそれに追従するかのようにスラスターを吹かせた。

さて…ミカの方は大丈夫としてこっちだな。

 

「てなわけだ。お嬢さん方には覚悟決めてもらうぜ」

 

「ふ、ふん!さっきは少し驚いたけど、所詮はただの人間。あのでっかいロボがいなきゃ何も出来ない癖に!」

 

あー・・・こりゃ埒があかねぇな。

 

「仕方ねえ・・・智樹!皆!ニンフに繋がってる鎖の事は任せた!こっちの2人は俺に任せてくれ!」

 

「え!?オルガ大丈夫なのか!?」

 

「俺を誰だと思ってやがる!俺は鉄華団団長のオルガ・イツカだぜ?こんくらいなんてことはねぇ!」

 

その俺の言葉を聞いた姉妹エンジェロイドは感に触ったのか俺に向けて再びあのバカでけえレーザーを撃ってきやがった。しかも2人同時に。

一瞬の判断が遅れた俺は避ける事が出来なかった。まあ、判断が遅れてなからうが避けねえがな。なんせ、避けようが何しようが俺の能力かどうかまでは分からねえがまるで吸い込むかのように俺に追尾してくるもんだから避ける必要がねえ。当たって死んでも蘇るしな。

だが、レーザーは俺に当たる事はなく突然目の前に現れたバリアによって防がれた。

 

「大丈夫ですか、オルガさん」

 

バリアを貼ったのはイカロスだった。智樹の近くに居た筈のイカロスは既に俺の横に立ち並び、姉妹エンジェロイドに相対したんだ。

 

「ああ、大丈夫だ。それよりどうしたイカロス?手伝ってくれんのか?」

 

「はい、オルガさん1人だと負ける事はなくても勝てる見込みはありません。ニンフを助けたいという気持ちは同じです。それに――」

 

イカロスの顔を見ると目の色が()()()()()()()()()()()

 

「私は、オルガさんのやろうとしている事を手伝いたいんです」

 

・・・・・・フッ。そっか、あの感情の乏しい嬢ちゃんがここまで言ってくれるってのは光栄だな。なら、それに応えるのが団長ってもんだ。

 

「こっからは大仕事だ。付いて来れるよなイカロス?」

 

「勿論です。寧ろ、オルガさんが付いて来れるか心配です」

 

「生意気言いやがって・・・。んじゃ、行くかぁ!」

 

―――――――――――――――――――――――

 

「オルガ・・・」

 

どうして助けに来てくれたのかまるで分かっていなかった。正直な話、そこまで長い付き合いでもなければ寧ろ最初に出会った時は敵対していた間柄だ。

アルファの後継機…いわば妹みたいな物だから?

それとも別の理由があるから?

何を根拠に助けに来てくれたのか全く分からなかった。

 

「今、どうして来たのって顔してるなニンフ」

 

そう言ったのは智樹だった。

だってそうでしょう?私とアンタ達の間になんの関係もなかったんだから。

智樹は少し笑うと、こう告げたのだ。

 

「お前自身がどう思ってるのか分からねえけど、少なくとも俺達全員はニンフの事大事な仲間だと思ってるぞ?」

 

「どうしてよ!?何がどうなったらそう思えるのか分からないわよ!」

 

「理屈で答えられるわけ無いだろ馬鹿か?」

 

「何ですって!?私が馬鹿ならアンタ達の方がもっと馬鹿よ!」

 

そう答えると守形やそはら、会長が次々と私に近寄った。

 

「ならばニンフ、何故オルガや智樹に黙ってあのエンジェロイド達と戦っていた?」

 

口を開いたのは守形だった。それに付け加えるかのようにそはらと会長が語っていく。

 

「貴方の本来の目的の為なら、寧ろあの場所に居続けて奇襲とか色々したほうが効率良かったのにね〜?どうしてこんな事になったのかしら〜?」

 

会長が言った言葉に口を塞いだ。その反応を見たそはらがとどめ一撃かのように私の心の内を暴くかのように語った。

 

「ニンフちゃんはきっと・・・オルガさんや皆を危険に晒したくないから1人で行ったんじゃないかな?そうじゃなきゃ・・・ここまでボロボロになんてなれないよ」

 

ええ・・・ええ!そうよ!短かったけどあのバカバカしくともおかしな時間はシナプスに居た時よりもずっと楽しく思えた!けど、私に繋がれたこの鎖と首輪のタイマーがそれを許してくれなかった。なら、せめて危険に晒されないようにするって思えたのは短くともその思い出があったからだ。

そこで、ハッと気付かされた。

 

「やっと気づいたか。理屈じゃ語れないって事が」

 

智樹に言われてオルガや皆がどうして助けに来てくれたのかようやく理解できた。私が思ったように…オルガ達も同じ思いだったのだ。

理解すると自分でも分かるくらい顔が真っ赤になり、それを気づかれまいと顔を俯かせた。

 

「さて・・・この鎖どうするかね・・・」

 

「取り敢えず持ってきた斧で斬っちゃえばいいんじゃないかな智ちゃん?」

 

「ふむ・・・とすれば、鎖を捻らせてからの方がより斬りやすいな」

 

「それじゃ英ちゃんと私で鎖を持つから、桜井君と見月ちゃんで斬っちゃえばどうかしら〜?」

 

皆が私を助けようとする、それだけで少し動力炉が暖かくなったかのような気がした。そして私は、何よりも一番最初に助けてくれたオルガの戦っている姿をずっと見続けたのだった。

 

――――――――――――――――――――――――

 

何よ!あの人間!!ただの人間じゃないの!?

ウラヌスクイーンの戦闘力は予め聞かされていたからまだ分かるものの、あの人間だけは訳が分からなかった。私たち姉妹の遠距離武装はウラヌスクイーンに撃つとうが何処に撃とうが必ずあの人間に吸い込まれるかのように向っていく。そして死ぬのだ。

死んだ筈なのにすぐに蘇り私達が放った倍の威力のレーザーを何の変哲もない銃で放ってくるのだ。

それならばと、近接攻撃を仕掛けるとあの人間の前髪?みたいなのをぶち切って腕に付けると私達エンジェロイドでも見切れないくらいの速さで切ってくるものだから侮れなっかった。

その上に、ウラヌスクイーンが攻めてくるものだからたまったものではなかったのだ。

 

「どうしたお前ら!!そんなんじゃ俺を殺すことはできないぜっ!」

 

「ちっ!」

 

大声を挙げながらも上空を飛んでいる私に銃弾を当ててくる人間に対して苛立ちを覚えた。さっきから何度も何度も死んでいる癖に。ウラヌスクイーンと対峙している妹の方を見てみるもまだ倒れてないとはいえ、劣勢な事には変わらなかった。

このままでは不味い。かなりの賭けになるが、あの人間の仲間であろうロボと戦っているグレイズ1機だけでもこちらに呼び込んで数の有利でも取らないといずれジリ貧でこちらが負けてしまう。そう思った時の事だった。火を噴いたグレイズ2機が落ちてきたのだ。

 

「ちょ、グレイズ!?」

 

外見だけでも深くダメージを負っていることが分かるくらいに潰されているグレイズ。見上げるとグレイズと戦っていたあのロボは全くダメージを負っていなかったのだ。

 

「そ、そんな・・・」

 

「隙だらけだぜ?」

 

瞬間、私の真横にあの人間が放ったレーザーが通ってきた。後数センチ、ズレていれば私はとんでもないダメージを受けていただろうと思うと背筋が凍ったかのように思えた。妹の方も既にボロボロの状態でありとても戦える状態などではなくウラヌスクイーンに見逃されているくらいだった。

そしてすぐ近くで大きな光が輝いていた。

見てみると人間たちがニンフのインプリティングの鎖を切っていたのだ。

 

「あっちも終わったみてえだな。で、どうする?」

 

あの人間は銃を構えて私達にそう言った。

グレイズは大破、私達はボロボロ。向こうはまだやりあえるだけの力はあるしウラヌスクイーンには見える損傷はない。どう考えても勝機がある状況ではなかった。

 

「くっ・・・覚えてなさい・・・」

 

私はそうセリフを吐き捨ててボロボロな状態の妹を抱え、シナプスに帰還していくほかなかったのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「大丈夫かニンフ?」

 

戦いを終えた俺たちは、すぐニンフの所に戻ったんだが思ったよりもニンフの怪我の具合が悪そうだった。

だが、流石はイカロスと同じエンジェロイドといったどころだろうか思ったよりも元気そうな返事が返ってきた。

 

「大丈夫、私は平気。それよりもオルガ、あなたこそ大丈夫なの?」

 

「あん?俺を誰だと思ってやがる。鉄華団団長、オルガ・イツカだぜ?こんくらいなんてことねえよ」

 

「フフッ、何それ」

 

クスクス笑いながらニンフはそう返してきやがった。笑う元気があるくらいならもう大丈夫みてえだな。

すると、笑っていたニンフは少し恥ずかしそうにしながら「皆、ありがとう」って言葉を伝えてきた。

その言葉を聞いた俺達はやっと一息をついたんだ。

 

「しっかし一時はどうなるかと思ったぜ。なんせオルガがこっちは任せてくれー、なんて言うからよ」

 

「けどイツカ君頑張ってたわね~。イカロスちゃんと一緒に大立ち回りしていたし」

 

「それは皆がいてくれたから出来たことだ。俺1人じゃ無理だった」

 

流石の俺でもニンフを見ながら戦うことは不可能だ。ましてや、相手はMSまで引き連れていたからな。

 

「それでもニンフちゃんの為に果敢に立ち向かっていったのは凄いよ!」

 

今までがアレだったおかげか、褒められている事にむずかゆい気持ちになり自分でも分かるくらい顔が赤くなっている事が分かった。

 

「ほ、褒めても何も出ねえぞ!さっさとニンフ連れて帰るぞ!」

 

「照れて話を逸らしたな、オルガ」

 

守形の兄貴が図星をついてきたが聞かなかったことにしてそそくさ帰ることにした。が、そこで1つ問題が起きやがった。もう既にある程度は回復しているはずのニンフが立ち上がらなかったんだ。

しかも、両手を広げながら俺をじっと見てきやがる。

 

「・・・まさかおぶれって言うんじゃねだろうな」

 

「私まだ動けなさそう」

 

絶対に嘘だろ。だがニンフはあの目を見るにてこでも動かねえ様子だった。他の皆を見ると誰一人として目を合わせるやつがいねえ。ミカはミカで「頑張って」だけ言ってどっかに行くしイカロスに至っては皆の行動にオロオロしてるだけだった。俺は仕方がなくニンフをおぶってやるとぎゅうっと少し力を込めて抱きついた。

 

「…オルガ、ありがと」

 

「ああ、どういたしまして」

 

その様子を見ていた皆は(イカロス除いて)ニヤニヤしていたのは言うまでもなかった。

 



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