提督がブラック鎮守府を変えるだけの話 (えーぬ)
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異動命令

どうも!初投稿です!基本的に僕の妄想上で書いているので「あれ?この子こんな事言うの?」とか「なんか喋り方違くない?」みたいな部分が多いと思います。小説経験はない初心者なので暖かい目で見てくれると嬉しいです!何か意見(ダメ出しでも全然おっけーです!)を頂けると嬉しいです。それではどうぞ!


「…突然だが君は〇〇鎮守府へ異動する事となった」

 

「……はい?」

 

突然すぎる出来事に思考が固まってしまった。〇〇鎮守府と言えば前提督がいろいろやりたい放題していたと噂のブラック鎮守府だったはずだ。少し前にとある艦娘が憲兵に命をかけて内部告発をして前提督は捕まったと聞いていたが…元帥直々に呼び出しされて何かあるかと思ったらこれか…

 

「えっ…あ…その……」

 

「何だ?何か不都合があるのか?」

 

唐突すぎて言葉が上手く回らなかった。元帥がじろりと圧のある視線を提督へと向ける。あまりの気迫に緊張感が高まる。自分でも少しだが震えているという自覚を感じる。

 

「いえ…特にありませんが異動まで少し時間を頂ければと思いまして…俺の鎮守府の今後等もいろいろ考える事が必要なので最低でも一週間は時間を貰えたら…」

 

「そうか、わかった。あまり〇〇鎮守府を野放しにしておく訳にもいかないんだ。あそこでは前提督によって心に傷を負った艦娘が沢山いるからな。君にはその子達のメンタルケアをしてあげて欲しい。わかったな?」

 

「了解しました」

 

この後元帥からいろいろ説明等を受けたが、全く頭に入って来なかった。立場が上だというだけで何も言い返せなかった自分が情けない。そう思いながら大本営を後にした。

 

「提督…何かあったのか?目が死んでいるぞ」

 

外で待っていた秘書艦の長門が心配そうな目で尋ねてきた。長門とはかなりの古参で俺が新米の頃からずっと一緒に秘書艦として支えてくれているのだが秘書艦と言うよりはもはや相棒という表現の方が適切であろう。

 

「あぁ実はな………」

 

先程の出来事を全て長門に伝えた。すると長門は目を見開いて

 

「馬鹿な!そんな事あっていいわけ無いだろう!第一、我々の鎮守府はどうするって言うんだ!私は認めんぞ!絶対にだ!」

 

今まで見た事のない剣幕で怒鳴られて正直驚いてしまった。だが長門が何と言おうとこれは既に決定事項で俺にはどうする事も出来ないのだ。

 

「お、落ち着け長門。その辺りは時間を貰っているから後々じっくり考えるさ。それに、あそこで俺が元帥に逆らっていたら間違いなく首が飛んでいた。そうしたら海軍関係者でもなくなって二度とみんなと会えなくなってしまうんだぞ!」

 

「それはそうだが…提督は何とも思っていないのか?」

 

「勿論俺だって思う所はあるさ。俺の鎮守府のみんなも大切だし正直離れたくもない。だが〇〇鎮守府で傷ついている艦娘がいるのも事実だ。そんな娘を放っておいて自分の鎮守府を優先しろと言うのが長門の考えか?」

 

「それは…その…」

 

とうとう俯いて黙ってしまった。それからどれだけ時間が経過したのかはわからない。

 

「…帰るか」

 

その一言に長門は頷いてくれた。帰りの車の中でも長門は何一つ話そうとはせずずっと悩んでいるような顔をしていた。長い沈黙の後ようやく自分の鎮守府が見えて来た。

 

「あー長かったー」

 

「提督、この事は鎮守府のみんなにはいつ話すんだ?流石にずっと秘密にしておく訳にもいかないだろう?」

 

長門が唐突に口を開いた。

 

「うーん…〇〇に向かう三日前位にしようかな。あんまり早すぎると離れるのが辛くなっちゃうしあんまり急だとみんな混乱しちゃうだろうしね」

 

「そうか…わかった。私も手続き等は手伝おう」

 

「いつもありがとな、長門。」

 

そうして執務室へ戻り、今後について長門と話し合う事にした。

 

「さーてどうした物かね…」

 

俺は目の前の書類の山を見て完全に萎えてしまっていた。と、いうのも俺がいなくなった後の鎮守府の運営方針の報告書や異動手続きの書類等の数があまりにも多すぎるのだ。その時、長門が一枚の書類を手にこちらへ近付いて来た。

 

「提督、私も提督と一緒に〇〇へ行ってもいいか?」

 

「へ?そんな事出来るのか?」

 

そう返すと長門は手に持っていた書類を見せてきた。その手は僅かに震えていた。そして書類を見るとそこには『護衛について』というタイトルと共に『〇〇鎮守府への異動の際には護衛を目的として艦娘を同行させる事を許可する。但し、人数は多くて三人までとする。』と書いてあったのだ。

 

「…なぁ、これって三人までなら〇〇へ一緒に行けるって事だよな?」

 

「それ以外何があると言うんだ…それと提督は元帥から説明を受けていたんじゃなかったのか?」

 

「ごめん、頭真っ白になっちゃってあんまりよく覚えていなかったんだよね…」

 

「まぁいい。それで、私は提督と〇〇に行ってもよいのか?」

 

長門目は真剣な目でそう言った。それはまるで何かを決心したかのような強い目でもあった。

 

「勿論、これからも迷惑かけるかもだけどよろしく頼むよ。」

 

「あぁ」

 

そう言って長門は微笑んだ。普段は凛としている長門でもこの時ばかりは凄く優しそうな表情をしていた。ふと時計を見るとかなり夜が更けていた。

 

「さて、もう遅いし長門は先寝てもらっていいよ。俺ももう少ししたら寝るからさ。」

 

「わかった。提督もしっかりと休養を取るんだぞ?」

 

「わかってる。おやすみ長門」

 

「あぁ。おやすみ提督」

 

そして長門は自室へと戻っていった。執務室に残された大量の書類を見てふと昔を思い出した。

 

「…夏休みの宿題もこんな感じで追い詰めてたなぁ俺」

 

とりあえず書類の整理だけして今日は寝床に着いた。

 

 

(次の日の朝)

 

 

(やべぇ…全然眠れなかった…)

 

当たり前と言えば当たり前だが昨日は一晩中モヤモヤしていてほとんど眠れなかったのだ。まぁいいかと思いつつ顔を洗って歯を磨いて軍服に着替えるといういつものルーティンを行って食堂に行った。食堂の前に着くとふんわりといい匂いが漂っていた。我慢できずに食堂の中へ入ると、そこでは既に何人もの艦娘達が食事を楽しんでいた。厨房の方へ行くと割烹着に身を包んだ二人の艦娘が出てきた。間宮と伊良湖である。

 

「あら提督、おはようございます」

 

「おはようございます。提督」

 

「おはよう間宮さん、伊良湖ちゃん。今日のオススメは何ですか?」

 

「今日は鯵の干物が美味しいですよ。今朝近所の漁師さんがいつもありがとうって分けてくれたんです。」

 

「いいね。じゃあ鯵の干物定食一つで」

 

『はーい』

 

二人が同時に返事をしたその瞬間背後から

 

「私も司令官と同じのお願いします!」

 

元気な声でそう言ったのは吹雪だった。彼女は初期艦であり、同時にこの鎮守府で最も練度の高い艦娘だ。見た目こそ中学生っぽいが実は鎮守府で一二を争う程の権力の持ち主…らしい

 

「司令官!一緒に朝食食べてもいいですか?」

 

「あぁもちろんだ。先に席を確保しておいてくれないか?吹雪の分の食事は運んでおくからさ。」

 

「了解です!」

 

そんなこんなで間宮から二人分の朝食を受け取ると同時に俺は吹雪の座っている席についた。

 

「司令官大分お疲れの様ですね…昨日はあまり眠れなかったのですか?」

 

この質問に正直に答えようとしたが、やめておいた。

 

(こんなに人が多い所で昨日の事がバレたら混乱を招くだけだ!何とかごまかそう!うん!)

 

「いやーわかるかー?実は昨日寝る前に濃いめのコーヒー飲んじゃっt…」

 

「嘘なんかつかなくてもわかりますよ。大本営でなんかあったんですよね?」

 

「あっいやっ…えーっと…」

 

(完璧な演技だったのになんでバレたんだー!?)

 

(司令官の嘘をつくと後頭部をかく癖ってまだ治らないんですね…)

 

吹雪はそう思いながらも何となく察してはいた。なぜなら昨日執務室に向かう提督を見ていたからだ。その時の司令官の目には光が無かった。吹雪はそう思い、話を聞く為にわざわざ提督と朝食の時間を合わせたのだ。

 

「ここで話せないような話なら後で執務室に行きますよ?」

 

「…そうしてくれ」

 

そして二人は無言で鯵の干物を平らげて執務室へ向かった。無駄に大きな重い扉を開けたら、そこには既に長門の姿があった。

 

 

 




閲覧してくれてありがとうございます!これからもこんな感じの小説をゆっくり不定期に上げていこうと思いますので、応援してくださると嬉しいです!それではまた次回お会いしましょう!


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集結

どうも!前回に続いて二話目を出してみました!小説を書くのって難しいですね!読んで下さる人がいたら応援よろしくお願いします!では二話目をどうぞ!


「おはよう長門」

 

「おはよう提督。と、そして吹雪か。どうした?吹雪が執務室に来るのは珍しいな」

 

「おはようございます長門さん!今朝はいい天気ですねー!早速ですが昨日の大本営への出張で何があったか教えて欲しいんです!」

 

その言葉に長門はチラリとこちらを見て目で合図を送ってきた。ここまで来て吹雪に隠し通すのも無理があるし、吹雪なら練度も十分なので護衛として連れて行くとしたら吹雪は〇〇へ同行する艦娘に相応しいと言える。だから俺は連れて行くもう一人の艦娘を吹雪にする事に決めた。俺は静かに頷いた。

 

「あぁ実はだな…」

 

「長門、その話は俺から話す事にするよ。俺が決めた事だしね。」

 

「わかった」

 

「吹雪、じつはかくかくしかじかでな…」

 

吹雪は黙って俺の話を聞いてくれていた。吹雪の握られた拳が震えている事にその時の俺は気が付かなかった。

 

「で、俺の鎮守府の中から護衛として三人までなら〇〇に連れて行けるらしいからその中の一人として吹雪を連れて行きたいなーと思ってさ」

 

「……司令官」

 

「もちろん吹雪がいいならの話だから」

 

「………司令官」

 

「嫌なら無理してまで付いて来なくていいからさ」

 

「司令官!!!」

 

「!?」

 

吹雪は怒鳴り声に近い声で叫び、俺の目をしっかりと見ていた。その目にはうっすら涙が浮かんでいた。

 

「何を言っているんですか!この鎮守府には!どれほど貴方の事を大切に思っている子がいて!中には慕っている程思いの強い子もいるというのに!そんな貴方が別の鎮守府へ異動なんて!!無責任すぎますよ!!!」

 

「吹雪…」

 

吹雪は泣きながら、更に大きな声で叫んでいた。それはただ感情に任せて自分の胸の内をさらけ出しているようにも見えた。それから吹雪は我に返ったようにハッとなって落ち着いて話始めた。

 

「私の事なんかどうだっていいんです…司令官がいなくなってしまったらここの艦娘達はみんな悲しむと思います。それだけ司令官はみんなに大事にされているんです。それでも…それでも司令官は〇〇に異動するんですか?」

 

吹雪は視線を逸らす事なく真っ直ぐと俺を見ていた。だがもう全てが遅いのだ。あの時の俺が弱いせいで吹雪を泣かせてしまった。みんなに迷惑もかけてしまっている。どこまで自分は情けないのだろうと悔しさで胸がはちきれそうになる。

 

「吹雪、俺はもう決めたんだ。〇〇に異動するよ。だから吹雪にこの事を話した。いずれみんなにも話すよ。これを知ってみんなは悲しんでしまうかもしれない。それでも俺は〇〇に行って艦娘を救いたいんだ。俺に任された事だし、俺にしか出来ない事だと思ってる。だから吹雪…俺と一緒に来てくれないか?」

 

俺は吹雪から一切視線を逸らさずに目を見て話した。すると吹雪はゆっくりと震えた声で

 

「わかりました…司令官は本気なんですね…すいません生意気言ってしまって…私は司令官の艦娘なのでどこまでも司令官に付いて行きますよ!」

 

吹雪が涙を拭いながらそっと右手を差し出してきた

 

「ありがとう吹雪」

 

俺も右手を差し出す

 

その瞬間時が止まったように思えた。小さくても温かいその手はきっと言葉以上の何かが詰まっているのだろう。そして長門が口を開く

 

「さて提督、二人目は吹雪に決まった事だがもう一人は一体どうするんだ?」

 

「あぁ実はあと一人はもう決めてあるんだ」

 

「誰だ?」

 

「明石だよ」

 

「明石だと?提督、そんな事をしたらここの鎮守府の工廠機能が麻痺してしまうではないか?〇〇の工廠施設の充実も必要だが、ここの鎮守府の事も少しは考えるんだ」

 

「大丈夫だ。夕張がいてくれてるし、妖精さんの数も大分増えたからね。明石がそれを了承してくれるかが問題なんだけど…まぁそれは今から聞きに行くけどね。」

 

長門にはそう言ったが実は相当不安である。確かに夕張が着任してくれて妖精さんの数も増えた。が、だからといって明石がついてきてくれるかはまた別の問題である。

 

「工廠…行くかぁ」

 

そうして俺は一人で工廠まで向かった。工廠は艤装やらなんやらがたくさん置いてあってあまり大人数で行くのは却って迷惑だろうと判断したからだ。

 

(相変わらず凄い匂いだなここは…)

 

油の匂いと灰色の煙が立ちこめる工廠の中を進んでいくと一人の緑色の髪の女の子が出てきた。

 

「あら提督、こんにちは。今日はどういったご用件で?」

 

「こんにちは夕張、今日は明石に用があってな。呼んでくれるか?」

 

「はーい、ちょーっと待ってて下さいね!」

 

すると夕張はトランシーバーの様な物を使って何かを話し始めた。多分明石を呼んでいるのだろう。

 

「じゃあ提督、もう少しでここに来ると思うんで待ってて下さい。私はまだやる事があるので先に失礼しますね。」

 

「うん。ありがとう夕張」

 

そうすると夕張は何か大量の工具を持って工廠の奥へ消えて行った。それからしばらくその場でうろうろしていると右から声が聞こえた。

 

「提督ー!お待たせしました!」

 

元気な声で声をかけてきたのが明石だ。体のあちこちが煤にまみれている。さっきまで作業をしていたのだろうか。

 

「悪いな明石、忙しかったか?」

 

「いえいえ!夕張ちゃんも手伝ってくれてるし、初期の頃と比べたらかなり楽になったもんですよ!それで?今日は何の用ですか?」

 

「突然だが落ち着いて聞いて欲しい。実はかくかくしかじかで…」

 

やっぱり明石にも反対されるのかなと思っていたのだが明石の反応は思ってもいない物だった。

 

「いいですよ!」

 

「…え?」

 

「……え?」

 

「いや、いいのか?〇〇へ一緒に来て欲しいって言っているんだが…」

 

「そうですよ?」

 

「なんか反対したりとかはないのか?」

 

「いや、まぁ最近あんまり開発とかしてなかったので暇を持て余していたと言いますか…ここの工廠は私がいなくても夕張ちゃんと妖精さん達で回りそうですしね。それに困っている艦娘がいるのに放っておくのは工作艦として見逃せませんしね」

 

「えっじゃあ…」

 

「はい!明石は提督と〇〇へ行きますよ!」

 

なんともあっさりと終わってしまった。どうやら明石も自身刺激が欲しかったらしい。まぁ結果オーライか。それから俺は執務室に戻った。

 

「おかえり提督、早かったな。」

 

「おかえりなさい司令官!それで、明石さんはどうなんですか?」

 

「付いて来てくれるってさ。」

 

二人はどこか安堵したような表情を見せた。

 

(何はともあれ、これで三人揃ったな。さて、後は鎮守府のみんなに俺が異動する事の報告か…胃薬買っておこ)

 

自分の髪と胃腸の心配をしていると吹雪が口を開いた。

 

「そういえば司令官、司令官がいなくなったらここの鎮守府は誰が運営していくんですか?まさか二つの鎮守府を同時に運営していくとか言いませんよね?」

 

「あ」

 

思わず間抜けな声が出てしまった。

 

(やっべ完全に盲点だったー)

 

「提督?流石に考えていないとは言わないだろうな?」

 

長門の冷たい視線が刺さる

 

「も、もちろん考えてあるさ!」

 

「聞かせてもらおうか」

 

「私も聞きたいです。司令官」

 

(くっそ考えろ…今日本の提督の数が不足しているから新しく着任させる事はできない…ん?待てよ?無理に新しい提督を着任させるよりも…うん!よし!)

 

「まずはだな…」

 




よかったら感想と評価よろしくお願いします!まだ全然初心者なので本当に些細な事でもいいのでアドバイス等もあったら嬉しいです!また次回もよろしくお願いします!


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提督代理

どーもです!3話目書いてみました!思ってたよりも皆さん読んでくれて感謝です!では3話目をどうぞ!


「まずはだな、今日本では提督の数が不足しているだろ?だから新しい提督を着任させる事はできない。それは知っているか?」

 

「もちろん知っているが…だとしたら一体誰が提督の代わりをやるんだ?」

 

「簡単さ、要はみんなに信頼されていて、どんな事にも真っ直ぐであり、みんなに優しくて時には厳しく、作戦を考えるのが上手い奴がここのリーダーに向いている。極端な話だがそういうもんだろ?」

 

最も、自分とは正反対なのだが…

 

「間違ってはいないが…それに該当するような人間なんて今から見つかる物なのか?」

 

「おいおい長門、誰も人間なんて言っていないぞ?」

 

吹雪が何か察したように聞いてきた。

 

「…司令官まさか艦娘を提督に?」

 

「当たりだ。だが提督というより提督代理の方が正しいかな。でも俺が戻って来るまでの間ここをまとめるんだから事実上提督という事になるな。」

 

「だが提督、艦娘が運営する鎮守府なんて聞いたことが無いぞ。それに、その条件に合う艦娘なんて…」

 

「一人じゃ難しいだろうから、何人かで分けて動いてもらおうかなと思ってる。いるだろ?さっき話した条件に合う艦娘達が」

 

『…あ!』

 

しばらくの沈黙の後二人は何か思い出したかのように顔を上げた。

 

「そうだ、彼女達ならそれができる。」

 

その日の夜、俺は早速その艦娘達を呼び出した。

 

(さてさて…受け入れてくれるかな…?)

 

今更の不安を感じていたその時、扉をノックする音が聞こえた。

 

「入ってくれ」

 

そう言うと四人の巫女装束の艦娘が執務室に入ってきた

 

「テートクゥ!失礼しマース!」

 

「司令!お呼びですか?」

 

「提督、失礼します」

 

「司令、失礼しますね」

 

そう、俺はこの四人、通称金剛型四姉妹に提督代理を任せる事にしたのだ。金剛はその明るい性格からほとんどの艦娘と交流があるし、比叡は真っ直ぐで真面目なとてもいい子だ。榛名は普段から艦娘を優しくも厳しく指導していて尊敬されているし、霧島はその頭脳から俺よりも優れた作戦を練ってくれている。俺はこの四人なら絶対に間違いないと思った。

 

「四人共よく来てくれた。今から四人に伝えなきゃいけない事があるんだが、どうか落ち着いて聞いて欲しい。いいか?」

 

普段とは違う真面目(?)な俺の雰囲気を察したのか、四人は黙って頷いた。

 

「実は昨日大本営に呼び出されて…」

 

俺はあと少しでここから出ていく事、長門と吹雪と明石を連れて〇〇へ異動する事、俺がいない間四人に提督代理としてこの鎮守府を支えて欲しい事など全て彼女達に伝えた。

 

「そんな事があったんデスネ…」

 

金剛達は始めは驚いた表情を見せていたものの、ちゃんと落ち着いて俺の話を聞いてくれた。

 

「司令!質問してもいいですか?」

 

「いいぞ比叡、遠慮なしに聞いてくれ」

 

「司令は〇〇へ行ってからいつこっちに戻って来るんですか?」

 

ストレートな比叡の質問に若干焦りながらも平静を保ちつつ正直に話した。

 

「そうだな…わからないというのが答えかな。俺自身〇〇がどんな所なのかあまりよくわかってないし、俺の役目はあくまでメンタルケアだ。時間はかなりかかるだろうね。が、〇〇の艦娘を全員もとに戻す事が出来たらまたこっちに戻ってくるよ。それだけは絶対だ。約束しよう」

 

「…提督、今絶対って言いましたね?」

 

「あぁ。男に二言はn…って榛名?」

 

「あ…あれ?私…何で…こんな…ひぐっ」

 

榛名の目は真っ赤になっていて、そこからはボロボロと大粒の涙が溢れていた。まるで少女のように泣きじゃくる榛名を前にして俺は言葉を失った。するとおもむろに金剛が近づいて来て耳打ちをして来た。

 

「テートク、榛名はテートクの事をとっても慕っていたネ…意外かもしれまセンが私と同じくらい…いや、もしかしたら私以上にテートクに恋心を抱いていたと思いマース…」

 

「そんな…」

 

言葉が出なかった。まさか榛名がそんな風に俺の事を思ってくれていたなんて思いもしなかった。俺はそんなみんなの気持ちも考えずに自分勝手に物事を進めていたのかと思うと急に自分に怒りが湧いた。自分でも感情がグチャグチャになっていくのがわかる。呆然と立ち尽くしていると金剛が

 

「これは私からのお願いデース…一回だけでいいカラ…榛名に…ハグしてあげて欲しいネ…」

 

「ハグ…?」

 

「そうデース……ハグすると相手も自分も幸せな気持ちになれるネ…だからテートク、榛名を…抱きしめてあげてくだサイ…」

 

金剛の目は真剣そのものだった。きっと姉として妹の事を心の底から思っているのだろう。その目を見て俺は決心した

 

「わかった。いろいろごめんな、金剛」

 

「私は大丈夫デース。それより、榛名を頼むネ…」

 

「おうよ」

 

俺は…もう一度榛名に向き合った。榛名は霧島と比叡が慰めていたが、それでも泣き止む様子はない。俺が榛名に近寄って声をかける。

 

「榛名」

 

「………」

 

「お、おい?榛名?」

 

「…………………」

 

「榛名!!!」

 

次の瞬間、俺の体無意識に榛名を抱きしめていた。榛名はとても驚いている様子であったが、それに負けないくらい自分でも驚いている。俺は榛名抱きしめたまま俺なりの気持ちを伝えた。

 

「俺はまた…鎮守府のみんなに会う為に帰ってくる事を誓うよ。どんな事があっても俺は絶対に戻って来るから。それがいつになるかはわからない…それでも…待っててくれ…頼む」

 

その言葉に榛名の体は小さく震えながら泣いていたが、次第に落ち着いてきてやっと口を開いてくれた。

 

「約束ですからね…絶対…絶対ですからね…!!」

 

そういうと今度は榛名が俺を強く抱きしめて来た。俺は何も言わずにただ榛名を抱きしめていた。それからどれくらいの時間が経っただろうか。ゆっくりと榛名が俺から離れた。

 

「提督、ありがとうございました。すいません。お見苦しい所を見せてしまって。」

 

「むしろ謝るのは俺の方だ。俺の身勝手で榛名を…いや、ここの鎮守府のみんなを悲しませてしまって本当に申し訳ない。俺がいない時…金剛達と鎮守府の運営を任せてもいいか?」

 

すると榛名はとびっきりの眩しい笑顔で

 

「はい!榛名は大丈夫です!」

 

と言ってくれた。

 

(Oh…榛名のあんな顔見た事ないネ…)

(榛名…可愛すぎます!)

(お姉様…よかったです。本当に)

 

「よし、そういう事で今後の鎮守府運営は金剛型四姉妹に任せる!いいな!」

 

『はいっ!』

 

四人で元気一杯の返事を返してくれた。彼女達ならきっと困難があっても乗り越えてくれるだろう。金剛達がドアを開けて自室へと帰って行く。

 

「まさか提督にそんな考えがあったとはな…見直したぞ」

 

「そうですよ司令官!私なら思い付きもしませんでした!」

 

「だろー?最初から全部決めてあったっての」

 

咄嗟の判断だったが、どうやら上手くいったようd…?

 

「な、なんで二人ともそんな呆れたような目で見てくるんだ?」

 

「なんでもないぞ」

 

「そうですよ!なんでもありません!」

 

「………?」

 

(司令官はわかりやすすぎです…結果オーライといえ即興で考えたんですね…)

 

(提督は案外ちょろいんだな…)

 

その時、俺の右手が後頭部をかいていた事に俺は気がついていなかった。

 

「ま、今日はもう解散しようか。ゆっくりお風呂にでも入って疲れを取ってくれ」

 

「そうだな、では私は先に失礼するぞ。提督、また明日な」

 

「それでは司令官、おやすみなさい!」

 

「あぁ、おやすみ二人共」

 

二人とも自室に帰っていく。そして執務室で一人になったのを確認して

 

「……………クソッ」

 

バァン!と机を勢いよく叩いた。わかっている。悪いのは自分であると。いくら元帥に押し付けられたとはいえ反論の一つも出来ずに自分の保身の為に受け入れた上、ここの艦娘の気持ちも考えずに勝手に行動している。そう思うと自分自身に嫌気が差してくる。

 

「…俺はどこまでダメな提督なんだろうか」

 

その一言が虚しく執務室に響いた。情けなく、弱々しいその声は誰にも聞こえる事無くただただ空気の中へ消えていくだけであった。

 

その後、いつも通りお風呂に入って歯を磨き、布団に入った。

 

「明日はみんなの前で言うってのに…全然眠れないや…」

 

何て言ったらみんな納得してくれるだろうか…そんな事を考えていたら自然と眠りに落ちていった。

 

「…朝か」

 

そう、一日は平等にやって来る。朝のルーティンを終えたその時。館内放送が流れた。

 

『おはようございます。鎮守府内の全艦娘及び提督は第一ホールへと至急集まって下さい。繰り返します。鎮守府内の全艦娘及び提督は第一ホールに至急集まって下さい。』

 

「ついにこの時が来たか…」

 

俺は重い足取りで第一ホールへと向かった

 




さて、3話目も終わりました!次回作も妄想に任せてしっかりと書いていくので、応援よろしくお願いします!辛口でも大歓迎なので感想と評価、お願いしますー!ではまた次回でお会いしましょう!


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二つの告白

どもどもっ!四話目に突入しちゃいました!小説書くのって結構楽しくてどんどん書けちゃいますね!お待たせしました!では四話目をどうぞ!


「…ついに着いてしまったか」

 

(早いとこ入ってみんなに伝えなきゃな…)

 

「…あれ?」

 

第一ホールの威厳のある扉を前にして俺はまだその扉を開けるかどうかを躊躇っていた。いや、”開けられなかった”の方が正しいのかもしれない。頭では扉を開けろと言っているが、体が言う事を聞いてくれない。

 

「何で入れないんだよ…くそっ」

 

中では元気な艦娘達の声が聞こえる。きっと俺の事を待っているのだろう。

 

「どこまで情けねぇんだよ俺は…」

 

その時、後ろからポンと肩を叩かれた。

 

「提督、私が提督の背中を押してやろう」

 

「長門…」

 

長門はそう言うと第一ホールの扉を開けた。俺は呼吸を乱しながら一歩、また一歩と第一ホールの中へ足を踏み入れる。途端にホール内が静まり返り、艦娘達は一斉に敬礼をした。心臓の鼓動がうるさい。元帥に呼び出された時以上の動揺をしている。自分が一番よくわかる。そうして俺は艦娘達の前に出た。

 

「本日は提督から重大な発表があります。皆さん、落ち着いて聞いてください。それでは提督、どうぞ」

 

大淀からマイクを渡される。

 

「みんなおはよう。えーっと…その…」

 

艦娘達が不思議そうな目で俺を見る。

 

『……?』

 

「突然で本当に申し訳ないんだが…あの…」

 

『…………???』

 

俺は言葉がでなかったが、勇気振り絞って話始めた。

 

「実は…実は俺、明後日から〇〇鎮守府へ異動する事になったんだ…護衛として吹雪と長門、そして明石が同行する事になっている。その間の提督代理及び鎮守府の運営は金剛型四姉妹に任せる。今後は彼女達の言う事を聞くように…」

 

俺が説明をしていると…

 

「えっ?」「は?」「嘘…」「聞き間違いか?」「…え?え?」「何で…?」「嫌…嫌だよ…」「そ、そんなぁ…」「俺は認めねぇぞ!」「司令官…いなくなっちゃうの?」「……」

 

一瞬のうちに混乱の渦に飲み込まれるホール内。大淀もしばらく呆然としていたが、我に返ったように

 

「せ、静粛に!静粛に!」

 

とみんなをなだめ始めた。しかしその声は艦娘達に届く事はなかった。もはやホール内は泣き声などが響く阿鼻叫喚の地獄になっていた。ホール内はもはや収拾がつかなくなっていた。

 

(やっぱりこうなっちゃうか…)

 

と、収拾を半ば諦めかけていたその時、

 

パァン!

 

吹雪が大きく手を叩いた。一瞬で会場が静まり返ったのを確認して吹雪が低い声で話始めた。

 

「まだ司令官の話の途中ですよ…?誰ですか喋ってるのは…後でお仕置きしちゃいますよ?」

 

その瞬間その場にいた全員の背筋が凍った。とんでもない圧力だ。こっちまで怯んでしまいそうな何かが伝わってくる。静かになったのを確認して

 

「さ!司令官!続きを話して下さい!」

 

と言いながら吹雪が笑顔でこちらを振り向いて来た。

 

「あ、ありがとう吹雪」

 

(こ、こえー吹雪だけは絶対に怒らせないようにしよっと)

 

そんな事を思いながら俺は落ち着いて説明を再開した。

 

「いいか、異動する。といってもあくまで一時的にだ。俺は〇〇の艦娘達のメンタルケア等を任されているからそれらが片付き次第またこっちに帰って来れると思う。それがいつになるかはわからないが、必ず戻って来る事は約束しよう。」

 

ふと艦娘達の方を見てみると、下唇を噛み締めている者やすすり泣いている者、下を向いて静かに話を聞いている者など、艦娘達の反応は様々だったが、みんな悲しんでいるのは同じのようだ。

 

「…以上で俺からの発表を終わる」

 

「…総員提督に…敬礼!」

 

大淀の振り絞るかのような掛け声で艦娘達はビシッと綺麗な敬礼をした。

 

「では提督、執務室に戻って異動手続き等を済ませてしまおう」

 

「あぁ」

 

みんなの悲しそうな顔がまぶたに焼き付いて離れないがが、提督としてけじめを付けないといけないので長門はと共にホールから出る事にした。

 

「ごめん…みんな」

 

側にいる長門にも聞こえないような声でそう呟いた。

 

提督が第一ホールから出るのを確認した金剛が

 

(………よし、長門が上手く帰してくれたネ。異動の書類を今日までという事にしておくのは正解だったようデース。)

 

待ってましたと言わんばかりに金剛は前に出て大淀からマイクを受け取って話し始めた。

 

「みなサーン!このままただテートクを見送るだけでいいんデスカー?」

 

艦娘達はただただぽかーんと金剛を見ていた。

 

「見ましたカ?ホールから出ていく時のテートクの顔!この世の終わりみたいな顔ネ!テートクには笑顔で〇〇に行って貰いたいデース!みなサンもそう思いませんカー?」

 

突然の金剛の問いに反射的に頷く艦娘達。金剛がそれを確認すると

 

「いい返事デース!実は私達金剛型四姉妹がテートクの為に最高のサプラーイズを考えて来たネ!」

 

急すぎる展開に艦娘全員がまだ困惑の表情を浮かべている。

 

「え、えっと…金剛さん。具体的にはどういう…」

 

大淀が若干申し訳無さそうな口調で尋ねた。

 

「私に任せるデース!比叡!榛名!霧島!」

 

金剛が三人の名前を呼ぶと三人が【提督サプライズ大作戦】と書かれたホワイトボードを運んで来た。ホール内の艦娘の視線がホワイトボードに注がれる。

 

『おおー』

 

感嘆の声を上げる艦娘達

 

「なる程…これなら…」「いいね!こういうの!」「提督、喜んでくれるかなぁ」「素敵なのです!」「頑張るぞー!」

 

ホール内はすざまじい団結力で満ちていた。

 

「みなサーン!大規模作戦発令デース!絶対に成功させますヨー!」

 

 

『『オー!!!』』

 

艦娘達全員の気持ちが提督の為に一つになる瞬間であった。

 

 

 

 

 

(執務室)

 

 

 

 

(金剛達は上手くいったのだろうか…)

 

長門は金剛達のサプライズを成功させる為の時間稼ぎを頼まれていた。長門自身も提督には悔いを残したままこの鎮守府を離れて欲しく無かったから迷うことなくサプライズに賛同した。

 

(きっと素敵なサプライズになるな…)

 

そう思っていた矢先、提督が

 

「なぁ長門…」

 

今にも消えてしまいそうな声で提督が話し始めた。

 

「俺って…提督に向いていないのかな」

 

その言葉に長門の顔が険しくなる。そんな長門の様子に気がつく事もなく提督は話を続ける。

 

「みんなの気持ちも考えずに一人で自分勝手に決めちゃってさ…最低な提督だよな…俺って」

 

「………」

 

長門は黙って提督の話を聞いていた。

 

「さっきだってそうだ、長門がいてくれなきゃ俺はホールの扉すら開けられなかった…吹雪がいてくれなかったらみんなを落ち着かせる事も出来なかった…所詮俺は誰かがいなければ動けないような弱い奴なんだよ…」

 

「………………」

 

「こんな奴が提督なんて向いているはずがないんだ…!!長門もそう思うだろ!?どうせ〇〇なんて行っても何も出来ない!!……そうだ!!それならいっその事提督を辞めてしm…」

 

「…………!!」

 

『パシン!』

 

乾いた音が執務室に鳴り響いた。長門が提督の頬を叩いたのだ。提督には一瞬何が起こったのか分からなかった。

 

「言っていい事と悪い事があるぞ提督」

 

長門の目は怒りと心配が交差しているような目だった。

 

「長門…」

 

「急にぶってすまなかった…提督はそこまで思い詰めていたのだな…気がついてやれなかったのも私の注意不足だった…」

 

「………」

 

長門は呆然としている俺に突然ハグをして来た。

 

「なっ…」

 

「提督…たまには……泣いてもいいのだぞ」

 

「いや、いいって…」

 

「………………」

 

「本当に…大丈夫…だがら…っ」

 

「……………………………」

 

「あ…うあ…」

 

優しく抱きしめてくれる長門に金剛の言っていた言葉がフラッシュバックする。

 

(ハグすると自分も相手も幸せな気持ちになれるネ…)

 

俺の心の不安がどんどん消えていくのが分かる。グチャグチャした物が全部溶けていく。俺は長門に抱きしめられたまま心の全てをぶちまけた。

 

「俺っ…どでも…不安で…グスッ……なざげなぐっでっ…ヒッグ…誰にも゙…ウグゥッ…」

 

「うん…そうだな…」

 

長門は俺の気持ちを静かに全て聞いてくれた。俺は時の流れも忘れて長門にずっと泣きついていた。その間も長門はずっと相槌をうちながら俺の話を聞いていた。

 

「どうだ?提督、少しは落ち着いたか?」

 

「ありがとう…また長門に助けられちゃったな」

 

「気にするな、提督の背中を押すと言っただろ?これからも共に歩んでいこうではないか」

 

「……あぁ」

 

二人はガッチリとした握手を交した。吹雪とは違う大きな手は見た目以上に更に大きく、頼もしく見えた。と、その時長門に無線が入って来た。声の主は金剛のようだ。

 

(長門!準備オッケーネ!テートクを食堂まで連れてきて下サーイ!)

 

「了解だ、今から向かう」

 

「ん?長門?なんか言ったか?」

 

「提督!ほら行くぞ!」

 

「え、えぇ!?」

 

訳がわからないまま長門に連れられて俺は執務室を出て食堂に向かった。

 

 




ここまで読んでくれてありがとうございます!よかったら感想と評価の方もよろしくお願いします!次回もまた妄想に任せて書いていきたいと思いますので応援よろしくお願いします!それではまた次回作で会いましょー!


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最後の夜と新たなる旅立ち

どもっ!早くも五話目です!お気に入りもじわじわ増えてきていてとっても嬉しいです!お待たせしました!五話目をどうぞ!


「ちょ、どこ行くんだよ、長門!?」

 

「いいから付いて来い!」

 

長門が腕を引っ張って何処かへ連れて行こうとしている。その表情は嬉しそうだった。広い鎮守府内を歩き回った後、提督は食堂の前に着いた。

 

「ここは…食堂か?何でこんな所に…」

 

「さぁ、入るぞ!提督!」

 

「お、おう?」

 

ちらりと腕時計を見ると夕飯の時間だった。

 

(こ、こんなに時間が経っていたのか…なるほど、長門は飯が食いたかったのかな…?)

 

俺はふと長門の顔を見てある事に気がついた。

 

「何で長門はそんなにニヤニヤしてるんだ?」

 

「む、別にニヤニヤなど…」

 

(な、なんか…いつもと違うな)

 

どこか楽しそうな長門を若干不思議に思いながらも俺は食堂の中へ入った。

 

「あら提督。こんばんは」

 

間宮さんのその言葉に食堂内が少しざわついた。

 

「こんばんは間宮さん。今晩のオススメは何ですか?」

 

いつも通りそう言うと間宮さんはぱぁっと笑顔になり、若干興奮気味に言った。

 

「カレーです!!」

 

俺は珍しくテンション高めな間宮さんからカレーを受け取って近くの席に着いた。長門は金剛達の方へ向かって行ったのできっと金剛達と食べるのだろう。どこからか視線を感じるような気もするが…

 

「ま、いいや。いただきまーす……ん?」

 

(な、なんだ…?この野菜の切り方は…)

 

そのカレーの中の野菜はかなり不揃いに切られていた。じゃがいもは皮が若干残っているし、人参は大きすぎるくらいだ。玉ねぎに至っては小さすぎて少し溶けてしまっている。

 

(あの間宮さんがこんな単純なミスをしたのか…?)

 

どこか引っかかるが、空腹は待ってくれなかった。スプーンでカレーをすくって口に運ぶ。

 

(なんだこれ…いつものカレーのはずなのにすっげぇうまいぞ!)

 

その瞬間、周りからぞろぞろと艦娘達が集まって来た。展開が読めないでいると吹雪が突然話しかけてきた。

 

「司令官!美味しいですか?」

 

「あ、あぁ。いつものカレーのはずなんだけどなんか今日のはいつも以上に美味しく感じるな」

 

 

 

『『どわぁっ!』』

 

 

 

俺の言葉に周りの艦娘達が一斉に声を上げた。その表情はとっても嬉しそうである。

 

「ど、どうしたんだよ一体…」

 

「司令官!実はですね、司令官にみんなで恩返しがしたいと金剛さんが言って下さってですね!みんなでカレーを作ってみたんですよ!私達駆逐艦のほとんどが料理するのが初めてだったんですけど、戦艦や重巡の皆さんに教えて貰いながら頑張って作ったんですよ!」

 

よく見ると指に所々絆創膏をしている子や火の様子を見ていたであろう煤のついた子などがいた。

 

(だからあんなに切り方が不揃いだったのか…)

 

「みんなが…俺の為に…作ってくれたのか…?」

 

『『はいっ!』』

 

艦娘達は純粋な返事と笑顔を返してきた。途端に目頭が熱くなる。自分の為に誰かに何かをやってもらうというのは、自分の親以外からでは初めての事だった。

 

(俺は…こんなにいい艦娘の提督になれてよかった…)

 

「あー!しれーかん笑ってるー!」

 

「…えっ?」

 

提督は自分でも驚いていた。どうやら気が付かないうちに笑っていたようだ。それは出張の時のような作り笑顔ではなく、純粋な心からの笑顔だった。

 

(提督…いい笑顔だ…胸が熱いな…)

 

「ヘーイテートクー!みんなからテートクに渡す物があるデース!」

 

金剛が一つの冊子のような物を持って近付いてきた。

 

「みなサーン!行きますヨー!セーーノッ!」

 

 

 

『『提督(司令官)!今までお世話になりました!!』』

 

 

 

みんなの言葉と共に金剛から差し出されたそれは一人一人のメッセージカードが束になっている物だった。その中にはありがとうや頑張ってねなどありきたりではあるが気持ちのこもった温かい文字が並べられていた。

 

「みんな…みんなありがとう!俺すっげぇ嬉しいよ!」

 

(俺はこんなにもみんなから愛されていたんだな…)

 

メッセージカードを一枚一枚めくる度に視界がぼやけてくる。

 

「テ、テートク!?一体どうしたデース!?」

 

俺は泣いていた。その涙は冷たい涙ではなく、とてもあったかい、心地のいい涙だった。

 

「みんな…ありがとう…ありがとう…」

 

(oh…こっちまでもらい泣きしちゃいそうデース…)

 

その後はいろんな艦娘達と話して回った。消灯時間はとっくに過ぎているが、今日ばかりは誰も注意する者はいなかった。

 

「では提督、明日も早いからそろそろ寝るとするか」

 

「あぁ、すごく素敵な時間だった。みんなもありがとう!」

 

 

『『提督(司令官)!おやすみなさい!』』

 

 

「うん、おやすみ!」

 

そうして俺は自室に戻り、いつものように歯磨きを済ませ、布団に入った。まだ心がぽかぽかしているような気がした。

 

(今日はよく眠れそうだな…)

 

いろいろと疲れた事もあってその日はすぐに眠れた。

 

 

 

(次の日)

 

 

 

「司令官!こっちです!」

 

遠くの駐車スペースで吹雪がこちらに手を振ってきた。側には長門と明石の姿もある。

 

「おーう!今行くぞー!」

 

大きなスーツケースを持ちながら俺も駐車スペースへ向かった。中身は衣類等なので見た目より少し軽いくらいだ。

 

『提督(司令官!)』

 

後ろで艦娘達の声が聞こえた。思わず振り返る。

 

『〇〇でもお元気で!私達はいつまでも帰りを待ってますから!』

 

「ばっか大袈裟なんだよまったく…」

 

口ではそう言っていても内心はとても嬉しかった。俺が艦娘達に手を振ると艦娘達も一斉に手を振り返してくれた。

 

「提督!早くカギ開けちゃって下さい!」

 

「あぁ今から…っておい明石まさかその妖精さん達全員連れて行くのか!?」

 

遠くからはあまり見えなかったが明石の周りには二十人ちょっとの妖精がふよふよ浮いていた。

 

「これでも最低限まで減らしたんですよ?中には泣きついて来る子とかもいて大変だったんですから!」

 

「まぁいい。いいよ。百歩譲って妖精さんはいいとしよう。でもその後ろのバカでかいリュックはもう少し何とかならなかったのか?」

 

「こっこれも全部必要なんです!私使い慣れた工具じゃないといまいち調子出ないといいますか…とにかく絶対にいるんです!」

 

「わかった、わかったから!」

 

俺は全員分の荷物をなんとか車の中に詰め込み終わった…明石の分は自分でやってもらったけど

 

(しゃ、車体が傾いている…どんだけ重いんだよあれ…てかあれを軽々と背負う明石って…考えないようにしよう)

 

そんなこんなで俺は明石と長門と吹雪の三人と共に〇〇鎮守府へ出発した。運転はかなり久しぶりだったがまだなんとか車は動いてくれるようだった。

 

「所で提督、〇〇へはあとどれくらいで着くんだ?」

 

「こっから反対側の日本海の辺りだがアクセスはまぁまぁいいから5〜6時間くらいで着くかな」

 

「な、長いですね…提督、安全運転でお願いします」

 

「……三人共途中でトイレ行きたくなったら言えよ?」

 

「司令官その発言はちょっと…」

 

「え?今の言葉どっかまずかったか?」

 

「提督…少しはデリカシー持って下さい…」

 

そんな他愛のない話を続けながら俺達はやっと〇〇鎮守府に着いたのだが…?

 

「おい提督、本当にここで合っているのか?我々は肝試しをしに来たのでは無いんだぞ」

 

「いや長門、間違いなくここが〇〇鎮守府だ」

 

「鎮守府って…これが…」

 

俺達は絶句した。かつて写真で見たような立派な門は錆がひどく、門として機能していないかったし、外の雑草は伸び放題で手入れされている様子が一切なく、肝心の建物に至っては外壁がボロボロになっており、いつ崩れてもおかしくないような状態だった。

 

「と、とにかく入るぞ!話はそれからだ!」

 

俺達は生い茂る雑草に足を取られながらも何とか入り口のような所に辿り着いた。

 

「よし、ここから中に入れそうだ…」

 

鎮守府内に足を踏み入れようとしたその瞬間

 

「…今更人間が何しに来やがった?」

 

「遠くからわざわざ来てもらって悪いけど、ここから先には入らせないわ〜」

 

中から二人の艦娘が姿を見せた。その目には明確な殺意が浮かんでいた。

 

 




さてさて、五話目も無事書き終わりました!主の諸事象により若干投稿頻度が落ちますが変わらずに応援して下さると嬉しいです!モチベが上がりますので感想と評価の方もよろしくお願いしますー!ではまた六話でお会いしましょー!


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双龍の覚悟

どーもです!六話目を書きました!先に言っておきますが、タイトルにある双龍はニ航戦の方の蒼龍とは一切関係がございません!何言ってんだこいつと思った方は話を読んで頂けたらきっと分かると思います!では六話目をどうぞ!


二人の艦娘は俺達に向かって躊躇うことなく刃を突きつけてきた。片方は大きな剣のような形で左目に眼帯をつけている。もう片方は薙刀のような形で不気味な笑顔を浮かべていた。突然の出来事に驚いていると、眼帯を付けた艦娘が低い声で話し始めた。

 

「おい人間共、俺達の気が変わらないうちにとっとと失せろ」

 

「君達は…天龍に龍田か。もしかして俺達がここに来る事を知らなかったか…?」

 

「あら〜聞こえなかったかしら〜?さっさと消え失せてちょ〜だい?ここにあなた達の居場所はないわよ〜?」

 

「…悪いが帰る訳にはいかない。俺はこの鎮守府を変える為に来た」

 

「変える…だと?ハハハッ前に来たあいつも同じ様な事を言ってたなぁ…」

 

(前…だと?ここに来ていたのは俺達だけじゃなかったと言う事か…?)

 

「前?俺達よりも前に誰かがここを尋ねてきたのか?」

 

その瞬間天龍の目が変わった。剣を持つ手が更に強く握られる。

 

「そうだ…!前来たあいつも最初はお前等みたいに鎮守府を変えるだの幸せに暮らそうだの綺麗事ばかり吐きやがった!最初は優しかったあいつは次第に俺の仲間を…みんなを襲いやがった!」

 

天龍が吐き捨てるように怒鳴る。

 

「その時俺は確信した!人間なんか一切当てにならねぇって…クズばっかりだって!」

 

「司令官は…そんな人じゃありません!」

 

「黙れ!俺達はもう同じ過ちを繰り返すのはごめんなんだよ!俺と龍田で〇〇鎮守府を守るって決めたんだ!」

 

「先に言っておくけど、私は天龍ちゃんのサポートをしてるだけよ〜?」

 

(まずいな…完全にヒートアップしてしている。このままだといつ手を出して来るかわからんぞ…)

 

ここでふと提督にある疑問が浮かんだ。

 

「なぁ天龍…お前達はなぜそこまでしてこの鎮守府を守ろうとしてるんだ…?」

 

その言葉に天龍が一瞬で静まり返る。そして恨みのこもったかすれた声でゆっくりと語り始めた。天龍が握っている拳からは力を込めすぎたのかうっすら血が滲んでいた。

 

「…俺と龍田は一昔前にここ、〇〇鎮守府で建造艦として生まれた」

 

 

 

 

(かつての〇〇鎮守府)

 

 

 

 

(ここは…)

 

天龍は小さな建造ドックの中で建造された。まだ意識が朦朧としているが、目の前に人影が見える。艦娘としての本能のせいか挨拶をする。

 

「俺の名は天龍…」

 

「チッ軽巡かよ…使えねぇな…」

 

天龍に向かってあからさまに嫌な顔を向けたこの男はここの鎮守府の提督である。

 

「おい妖精共!戦艦を作れってあれ程言っただろうが!軽巡なんて作りやがって!この無能が!」

 

提督が妖精達に怒鳴りつける。数人程度しかいない妖精達は酷く怯えている様子だった。

 

「何だ…この鎮守府は…」

 

ようやく意識がはっきりしてきた頃、天龍は恐ろしい物を目にして背筋が凍った。

 

「なっ…」

 

何とそこには【解体】と書かれた札を付けられた大破した艦娘達が沢山寝転んでいた。いや、転がっていたという方が表現的には正しいだろう。そのほとんどが軽巡洋艦か駆逐艦で、みんな衰弱しきっている様子だった。天龍はその現場を見て察した。察しざるを得なかったのだ。

 

「異常だ…ここ…」

 

力のない声で呟きながら呆然見つめていると、一人の駆逐艦が口を動かしている事に気がついた。必死に何かを伝えようとしている。

 

「………て…」

 

「……?」

 

その駆逐艦は狂ったように何度も同じ言葉を話していたが、天龍にその声が届かなかった。唇の動きを読んでようやくその駆逐艦が何を言っているのか分かった。

 

「に……げ…て………」

 

「…………!!」

 

天龍は工廠を飛び出して一目散に走り出した。行く宛などない。ただこの異常な鎮守府を一刻も早く抜け出したい。その一心だけで無我夢中に走った。幸いにも追手は来なかったようだ。

 

「ちくしょう…何なんだよあそこは…」

 

「君は…艦娘かい?こんな所で一体どうしたんだというんだ?」

 

(誰だ…?)

 

走り回って足が動かなくなっている時にとある男に声をかけられる。

 

「この辺りだと〇〇鎮守府の艦娘か?迷子ならば送らなければ…」

 

(またあの鎮守府に戻る…?冗談じゃねぇ!!)

 

「頼む!それだけはやめてくれ!俺はもう二度と〇〇には戻りたくねぇんだ!」

 

必死で訴える天龍の異常さを感じ取ったのか、男は一度考える素振りをしてから再び話し始めた。

 

「ふむ…実は僕、これから大本営に提督になる為の最終試験を受けに行くんだ。何か言えないような事情があるならそこで話を聞いて貰うといい。どうだ?一緒に来ないか?」

 

「…あぁ!勿論だ!」

 

そして天龍はその男と一緒に大本営まで向かった。途中の交通費はその男が全て負担してくれた。

 

「ほら、もうすぐ着くぞ」

 

「サンキューな!お前には感謝してるぜ!」

 

「いいんだ、また縁があったら会おうな!」

 

「おう!」

 

そこで天龍は元帥に自分が見た事を全て詳細に伝えた。元々〇〇鎮守府は報告書と実際の艦娘の数が合わなかった事かなどから目をつけられていたらしい。訴えが通るのはすぐだった。数日経って〇〇の提督が捕まったという報告が耳に入った。と、同時に新しい提督と共に〇〇へ戻るように命令された。

 

「…もしかしてあの時の艦娘か?」

 

「お!新しい提督ってお前の事だったのか!よかったな!提督になれて!」

 

真新しい真っ白な軍服を身にまといながら少し恥ずかしそうに話す男はまぎれもなくあの時一緒に来てくれた男だった。

 

「大変だったんだな天龍…でも大丈夫だ。俺が〇〇鎮守府を変えてやるさ」

 

それからの毎日はとても楽しかった。戦闘は少なくはなかったがそれなりにやりがいを持てた。妹である龍田もそれからすぐに着任した。

 

(このままずっとこいつと一緒にいれたらな…)

 

そう思っていた矢先、鎮守府内でとある事件が起こる。

 

「あーあー!何やってんだよクソが!」

 

鈍い音が執務室に響く。もろにお腹にグーを食らった艦娘はあまりの痛みに倒れ込む。

 

「お前が大破さえしなかったら俺は大将になれたんだよ!お前それわかってんのか!?」

 

更にうずくまる艦娘にむかって容赦なく蹴りを入れる。

 

「ゲボッ…ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

「チッ使えねぇなまじで」

 

この時から提督は変わっていった。変わってしまった。最初は大破した艦娘を殴る事から始まり、経費削減と言う建前で鎮守府の工事等を放棄して最低限の補給しかしなかったり、挙げ句の果てには建造した艦娘を襲ってすぐに解体するという狂気の沙汰としか思えない行為まで行った。まともに数えればきりがない。

 

「なぁ龍田…この地獄はどうやったら終わるんだろうな…俺はもう仲間が傷つきながら泣く所をみるのはうんざりだ…」

 

「そうね〜私もいい加減嫌気がさしてきたわ〜天龍ちゃんの気持ちもわかるわよ〜」

 

「龍田…一緒に終わらせようぜ。この地獄をよ…」

 

「わかったわ〜一番手っ取り早いのは彼を…殺す事ね」

 

龍田が不気味な笑みを浮かべながら薙刀の刃の部分を撫でる。

 

「思い立ったが吉日、早速実行しましょ〜?」

 

天龍達はその日の夜、音も立てずに提督の自室の中に侵入した。提督はその様子に気がつく様子もなくいびきをかいていた。

 

「あばよ提督、もう会う事はねぇな」

 

龍田が体を抑え込み、天龍が首を絞める。あっという間だった。提督の心臓の鼓動は聞こえなくなり、その亡骸は海に捨てられた。次の日の朝、提督がいなくなった事は鎮守府内にすぐに広まった。誰一人として悲しむ者はなく、みんな笑顔で満ち満ちていた。だがそんな日は長くは続かなかった。提督からの定期通信が無くなった事を不審に思った元帥が提督の安否を確認しに来たのだ。何とか失踪という形にごまかせたが、しばらくしてまた新しい提督が着任する事になった。

 

「龍田…どうせ次の提督、いや、人間もろくな奴じゃねぇ…俺と一緒にこの〇〇鎮守府を…みんなを守ろうぜ」

 

「私もみんなの辛そうな顔はもう見たくないしね〜いいわよ〜」

 

…そうして現在に至る

 

「だから!もう人間なんかいらねぇ!ここは…みんなの思い出の場所だか……」

 

ドサッ

 

「………!!」

 

再び興奮気味になっていた天龍が突然地面に倒れた。

 

「おい!天龍!大丈夫か!?」

 

俺達が天龍の方に駆け寄る。

 

「天龍ちゃんに…触るなああああ!!!!!」

 

龍田が手に持っていた薙刀を提督に向ける。そこにはさっきまでの不気味な笑顔は消え、醜く歪んだ顔の龍田がいた。

 

 




さてさて、六話目も終わりました!ここまで読んで頂いてありがとうございます!これからも頑張るのでよかったら感想と評価の方もよろしくお願いします!ではまた七話で会いましょう!


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リスタート

どーもっ!七話目を書きました!こんな妄想の殴り書きを待ってくださる方がいたら嬉しいなーと思いながら小説を書いてます!お待たせしました!七話目をどーぞ!


「おっおい!落ち着け龍田!とにかく薙刀を仕舞ってくれ!手荒な真似はしたくないんだ!」

 

「うるさい…!うるさいうるさいうるさい!!」

 

龍田は完全にパニック状態になっている。大切なたった一人の姉が突然倒れたのだ。無理もないだろう。提督は獣をなだめるかの様にゆっくりと話し始めた。

 

「いいか龍田、落ち着いて聞いてくれ。天龍はうちの明石が診たらまだ何とかなるかもしれない。本業は装備の改修等だが、実は衛生兵としてもとても優秀なんだ」

 

「天龍ちゃん……助かるの…?」

 

龍田が目を見開いた。

 

「とりあえず状態を診なければ何とも言えません。ですが、診る為にはとりあえずその物騒な物を下ろして下さい。それが条件です。どうですか?私としては天龍さんを救いたいです。」

 

明石の目は真剣そのものだった。”天龍を救いたい”という気持ちは龍田も明石も同じようだ。

 

「………分かりました。天龍ちゃんを…お願いします。」

 

龍田は薙刀を地面に置いて深々と頭を下げた。その言葉を聞いた明石が背中のリュックを下ろして何やらいろんな物を取り出した。

 

「お任せ下さい!と、提督はあっち向いてて下さい!」

 

「ん?何で俺が向こうを向く必要が」

 

「いいからはやく向いて」

 

「…はい」

 

俺は言われるがまま後ろを向いた。後ろが凄く気になるが危険を感じたので大人しく待ってる事にした。

 

「さてと、ちょっと失礼しますよー」

 

明石は天龍の服を脱がし、体の隅々まで調べ始めた。

 

「古傷が凄いですね……うーんっと…あーはいはいなるほど」

 

「天龍ちゃんは…大丈夫なの?」

 

龍田はまるで子供の心配をする親のようだった。明石は落ち着いた声で話し始める。

 

「はい。おそらく栄養失調でしょう。命に別状はありません。点滴をして安静にすれば大丈夫ですよ」

 

明石は手際よく天龍に点滴を始める。

 

「よかった…」

 

明石の言葉を聞いた龍田は震えながらそう繰り返し呟いていた。

 

「ちょっと待て、本当に天龍は栄養失調なのか?そこまで体型に異常は見られなかったが…」

 

提督は後ろを向いているので若干大きめな声で話す必要があった。

 

「艦娘は見た目が変化しません。歳を取っても老いる事はありませんし、痩せる、太るという概念もありません。もしあるとしたら赤城さんは間違いなく凄い事になってます」

 

「確かにそうだな…と、おい明石、天龍が栄養失調ならここの艦娘はほぼ全員天龍と同じ状態じゃないのか?」

 

「もし天龍さんと同じ様な生活をしていたらその可能性も十分にありえますね。尤も、実際に診てみないとわかりませんが…」

 

「わかった。長門、取りあえず天龍を運んでくれ。龍田、天龍の部屋を案内してあげてくれるか…?」

 

「……わかりました〜長門ちゃん…だっけ?こっちよ〜」

 

「服を戻して…よいしょっ…と、龍田、すまないが点滴を持ってくれないか?」

 

「お安い御用よ〜」

 

天龍を背負った長門と龍田が何やら話しながら廊下を歩いていった。

 

「さて、提督!私は工廠施設と入渠施設の確認に行ってきますね!」

 

「おう、さっきはありがとな明石!おかげで助かった。それで、俺はもう振り返ってもいいのか?」

 

「あ、すいません!提督の事すっかり忘れてました!もう大丈夫ですよ!」

 

「…まぁいいさ、頼んだぞ明石」

 

「了解です!」

 

明石はリュックを背負って鎮守府の周辺を歩き始めた。

 

「司令官!私は何をしたらよいですか?」

 

「そうだな…吹雪は俺と一緒に町に出て貰おうかな」

 

「わかりました!でも何で町に行くんですか?」

 

「みんながみんなが天龍みたいではないと思うが…明らかに栄養状態がいいとは言えない。だから食材を買って俺達で料理を振る舞ってやろうぜ」

 

「それはいい考えですね!では行きましょう!」

 

俺と吹雪は買い出しの為に町に向かった。

 

 

 

(天龍と龍田の部屋)

 

 

 

「ここでいいのか?」

 

「そうよ〜入って入って〜」

 

天龍を担いだ長門は天龍と龍田の部屋についた。

 

「失礼す……!?」

 

(何だここ…部屋……なのか?)

 

そこにはささくれまみれの畳の上にボロボロの布団が二つあるだけの部屋というにはあまりにも殺風景すぎる場所だった。

 

「こっちが天龍ちゃんの布団よ〜寝かせてあげて〜」

 

天龍を布団に寝かせた後、長門が真剣な目で龍田に聞いた。

 

「龍田、もしかしてここ以外の部屋もこんな感じなのか?」

 

「ここはまだましな方よ〜中には布団すらなくて床で寝ている様な子もいるわ〜それも狭い部屋に似合わない大人数でね〜」

 

「なっ……酷すぎる…」

 

長門が衝撃的な鎮守府の実態に唖然としていると、龍田が唐突に話し始めた。

 

「……長門ちゃん、質問してもいいかしら〜?」

 

「あっあぁ…答えられる範囲なら私が答えよう」

 

「あなた達は何でここに来たのかしら〜?」

 

「……提督がここの鎮守府のみんなを救いたいと言ったから来た」

 

「そう…じゃあ長門ちゃんにとってあの人の事はどう思ってるのかしら〜?」

 

龍田がまるで心を読むかのように長門の顔を覗き込む。

 

(提督の事を…か…)

 

長門は迷う事なく龍田の目を見て話し始めた。

 

「提督は一人ではほとんど無力に等しいような奴だが、誰よりも優しい心と行動力、そして信頼を持っている。我々はそんな提督を心から尊敬している。仮に提督が誤った道に進もうものなら我々が必ず止めるし、立場が逆でもきっと提督は体を捨ててでも我々を止めてくれるだろう。それに…側にいるとなぜか妙に安心できるんだ」

 

「フフッ長門ちゃんは本当にあの人の事が好きなのね〜」

 

龍田が微笑んだ。それはあの時の不気味な笑顔ではなく、自然な笑顔だった。

 

「む、別に好きという訳では…」

 

「あら〜?長門ちゃん〜?さっきより顔が赤いわよ〜?」

 

「なっ…そそっそんなことは…」

 

「そんなに焦っちゃって〜図星だったかしら〜?」

 

「とっととっとにかく!龍田よ!ここの鎮守府の執務室に行きたいから案内してくれないか?」

 

「あらあら〜長門ちゃんかわいいわ〜執務室ならここを出て右に曲がった突き当りよ〜」

 

「そっそうか…では失礼する!」

 

龍田は動揺しまくりながら部屋を出る長門を見送った。

 

(私も…いつか当たり前にさっきのように笑えるようになれたら…)

 

そう思っていた矢先、天龍が目を覚ます。

 

「う……ん…」

 

「天龍ちゃん!?よかったわ〜急に倒れちゃうんですもの〜」

 

「ん…?あぁ龍田か、わりぃわりぃ……ってあいつはどうなった!?クソッ絶対に認めねぇからな!」

 

天龍が空っぽの点滴を外して立ち上がろうとする。

 

「天龍ちゃん」

 

「あぁ!?何だよ龍田!!」

 

「私ね〜あの人を信じてみようと思うのよ〜」

 

「は…はぁ?何言ってんだ?」

 

「最初に見たときは人間なんてって思ったけど〜あの人と一緒にいた艦娘と話をして考えが変わったのよ〜」

 

「いーや!俺は人間なんて…」

 

「天龍ちゃん!!!」

 

龍田が天龍を真っ直ぐ見つめる。

 

「天龍ちゃんも本当は気がついているんでしょ…?今のままじゃ何も変わらないって。確かにここを一緒に守る事には賛成したわ、だけどいつまでも逃げてはいられないの」

 

「龍田…」

 

龍田はいつもののんびりとした口調ではなく真剣な口調で天龍に話す。

 

「彼は天龍ちゃんが倒れた時、真っ先に天龍ちゃんを診る事を提案してくれたの。それに、一緒にいた子たちもみんな提督の事を信頼しきっている様子だったわ。」

 

「でも…」

 

「私にはわかる。彼は本当にここの鎮守府を変えようとしてくれているわ。だから…一緒に彼の事、信じてみないかしら?それでまた一緒にこの〇〇鎮守府を作り直しましょ…?」

 

「………………」

 

天龍は黙って頷いた。

 

「ありがと〜天龍ちゃん〜」

 

「わかった!わかったから抱きつくな!」

 

龍田はとても楽しそうに笑っていた。天龍の方も口ではやめろと言っているものの、満更でもなさそうな表情だった。二人のその目にはかつての殺意はなく、純粋な光が戻っていた。

 

 

 

(〇〇鎮守府から最寄りの町)

 

 

 

「ふむ、アクセスとしては悪くないかな」

 

提督と吹雪は鎮守府みんなの食材を持ち帰る為に車で町まで来ていた。鎮守府の近くとはいえ田舎の方なので商店街が主な食料の調達場になりそうだ。

 

「司令官!今日は何の料理を作るんですか?」

 

「特には決めていないが…十分に食べれてない事を考えると消化のいい物がよさそうだな」

 

「なるほど!お粥とかですか?」

 

「まぁその辺りだな。とりあえず食材を見に行こうか」

 

「はい!」

 

俺と吹雪が商店街の中に入ると、急に商店街がざわざわし始めた。あちこちから刺さるような視線とヒソヒソ話が聞こえる。

 

(な…なんだ!?何が起こってるんだ!?)

 

提督はこの時知る由もなかった。かつてこの商店街で何が起こったのかを…

 




第七話!終わりました!お気に入り50件突破、本当に嬉しいです!よかったら感想と評価の方もぜひお願いしますー!ではまた八話で会いましょう!


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過去の過ち

どうもー八話目を書きましたー!ここまで見てくださってる方、本当にありがとうございます!辛口でも大丈夫ですのでコメントや評価の方もよろしくお願いします!では八話目をどうぞ!


(と、とりあえずお米から探さないと…)

 

辺りをキョロキョロと見回していると、客と思われる人達がどんどんと商店街から離れていった。

 

「司令官…なんか私達あまり歓迎されてないようですね…」

 

「そうだな…っと、あそこならお米が売ってそうだ」

 

二人は少しの不安感を覚えながらも、米の売っている店に向かった。

 

「すいませーんお米を売って欲しいんですけど」

 

「…………」

 

すると店長と思われるガタイのいい男性が奥から無言で大量の米を持ってきた。

 

「…早く持ってけよ」

 

「えっあの…お代は…?」

 

店長は提督達から目を逸らしながら呟いた。

 

「どうせお前ら軍の奴らは金なんて払わねぇだろうが…」

 

「いや、払います!」

 

「そういうのいいからさ、早くどっか行ってくれねぇか?商売が出来ないんだが」

 

「……わかりました。吹雪、お米を運んでくれ」

 

「はい…」

 

吹雪は悲しそうな顔をしつつも、大量の米を軽々と担いだ。

 

「では今後ともよろしくお願いします!それじゃ!」

 

その瞬間提督は米の代金を置いて逃げるように走って行った。万引きではない。きちんとお金は払っている。

 

「なっ…」

 

突然の出来事すぎて店長は驚いてしまった。それは吹雪も同じの様だ。

 

「あ、お釣りは結構ですのでー!!」

 

「えっちょっ司令官!?待って下さーい!」

 

吹雪も急いで提督の後を追いかける。

 

「なんだあいつ…」

 

店長は昔起きた出来事をふと思い出した。

 

「あいつは…前の奴とは違うのかな…」

 

 

 

(一昔前の商店街)

 

 

 

「おら!さっさと食い物をよこせ!お前らが商売出来るのは俺がこの海を守ってやってるからなんだぞ!」

 

(ん?誰だあいつは…)

 

複数の艦娘を連れていきなり商店街に入って来たこの男は前任の提督である。艦娘達は皆何かに怯えているようだった。

 

「今日は肉が食いてぇな…おい肉屋!一番高い肉を出せ!」

 

「はっはい…こちらになりますが…」

 

「お、そうか。ありがとなー」

 

「こちら合計で25000円になります」

 

「は?金なんか払わねぇよ」

 

当たり前の様な顔をしてさらっと提督は言った。

 

「い、いえ…払って頂かないと…」

 

「……チッ面倒くせぇ」

 

その時提督は艦娘達を睨みつけて、目で合図をした。ビクッとして怯える艦娘達はやがて震えながら一斉に肉屋に主砲を向けた。

 

「………この意味が分かるよな?」

 

「ど…どうか命だけは…」

 

「最初からそうしてりゃいいんだよクソが」

 

この後提督は同じ方法で色んな店のありとあらゆる高級食材を根こそぎ奪い取っていった。勿論荷物は全部艦娘達が持っている。

 

「じゃあな!これは俺が美味しく頂いてやるよ!」

 

商店街のみんなは下品に笑いながら去っていく提督の後ろ姿をただ見つめるしかなかった。提督はそれからというもの、定期的に商店街に来ては商品を強奪するという行為を当たり前かのように行った。

 

「よぉ!今日も来てやったぜ!」

 

その日も提督は数人の艦娘を連れて商店街にやって来た。

 

『またか…』

 

商店街のみんなが高い品物の用意をしている時に、一人の老人が提督に声をかけた。

 

「お前さん、頼むからもうやめてくれんかの…?隣のお嬢さん達も可哀想じゃ…」

 

(なっ…喫茶店のじいさんじゃねぇか!何やってんだよあんなとこで!)

 

「あ?何だジジイ。目障りだからどけよ」

 

「わしはどかん…もう一度言う。もうやめてくれ…」

 

「あーうぜぇ」

 

提督はみるみるうちに不機嫌になっていく。その日は特に機嫌が悪かったのか、提督は最悪の命令を出した。

 

「……やれ。やらなかったら解体だ」

 

その一言で艦娘達は自分達に何をさせようとしているのかが一瞬でわかった。ガタガタと震える手で一斉に主砲を老人に向ける。だが構えただけで引き金を引こうとする者は誰一人としていなかった。引けなかったのだ。

 

「おい、何してんだ。さっさとやれ。提督命令だ」

 

「………………できません」

 

一人の艦娘が今にも消えてしまいそうな声で言った。

 

「あ?てめぇ何言ってんだ?優しい俺はラストチャンスをやろう。さっさと撃て」

 

「……できません!」

 

その艦娘は振り絞るかのような大声で叫んだ。と、その瞬間商店街に物凄く鈍い音が響いた。提督が逆らった艦娘の腹部に強烈な膝蹴りを入れたのだ。

 

「カハッ…ゴエェ……ゲホッゲホッ…」

 

提督はその後倒れ込み、必死でお腹を抑えながら痙攣する艦娘の髪を掴み、引きずりながら車の中に投げるように放り込んだ。商店街の子供達が泣き叫ぶ。そんな子供達に対して「大丈夫だから」と優しく微笑みかける艦娘の髪をも掴んで車に放り込んだ。

 

「この無能共は全員解体だ。また新しい奴を連れて来るから次までにもっと高い物を用意しとけよ」

 

そう言い残して去っていく提督の姿は商店街のみんなの脳裏にしっかりと焼き付けられてしまった。しかし、この日以来提督と思われる人物は一切来なくなった。理由は分からなかったが、特に気にする様子もなく、商店街の人達は商売を始めた。それからしばらくしてみんなが事件を忘れかけていた頃、また軍服を着た青年がセーラー服を着た艦娘と一緒にやって来た。商店街がざわざわと騒がしくなる。

 

(なっ…また新しい奴が来たのか…どうせ隣の艦娘に脅されるんだろ…わかってるよ…)

 

商店街のみんながそう思ったが、実際は違った。新しい提督は代金よりもお釣りのが多いんじゃないかという額のお金を置いて逃げていくし、それを追いかける艦娘の表情もどこか楽しそうだった。

 

(あいつは…前の奴とは違うのかな…艦娘の嬢ちゃんも幸せそうだったし…もしかしたら悪い奴じゃねぇのかもな…)

 

「……もし次ここに来たら少しは歓迎してやるか」

 

店長はそう決めてまた普段の営業に戻った。

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…俺…めっちゃ運動不足だな…」

 

「し…司令官…急に…走り出さないで下さいよ…」

 

提督と吹雪は息を切らしながら車の前まで戻って来た。

 

「わりーわりー…お金は払うべきだし…あそこでちゃんと渡しても…返されるだけだって…」

 

「確かに…そうですね…」

 

「あ、吹雪…お米…ここに積んでくれ…」

 

「はい…よいしょっと…積み終わりましたー…」

 

「よっしゃ…じゃあ…帰るか…」

 

提督が車を走らせる。

 

「司令官!帰りにアイス買って下さい!」

 

「しゃーねーな…内緒だぞ?」

 

「やった!約束ですよ!」

 

「はいはい」

 

(俺もまじで運動しないとな…長門におすすめの筋トレ方法でも教えてもらうか…)

 

そんな事を考えながら二人は鎮守府に戻った。

 

 

 

 

(〇〇鎮守府工廠)

 

 

 

 

「んーっと…それらしき建物は…っとあれかな?」

 

明石は大量の妖精を連れて鎮守府の敷地内をグルッと回っていた。広い敷地内を半分くらい進んだ所でぽつんと一軒だけ立つ古びた小屋を見つけた。

 

「お、おじゃましまーす…」

 

明石はそっと扉を開けた。

 

「んー?もっとほこりまみれかと思いましたが結構きれいなもんですね…」

 

工廠の中は長い間放置されているにしてはそこそこ綺麗だった。そこで明石はある物を見つける。

 

「おっとこれは…少し用心したほうがいいかもしれませんね……妖精さんもリュックに戻って」

 

妖精達は一斉に明石のリュックの中に入った。

 

(床に若干積もってるほこりが足跡型に途切れていますね…しかも結構新しいです…)

 

それはまぎれもなく誰かが近いうちに出入りしていた事を示していた。それから明石は工廠の奥の方の作業スペースらしき場所にたどり着いた。そこにはいろんなノートやメモなどが大量に散乱していた。

 

「工廠施設としては何とか運用出来そうですが…片付けだけで今日は終わってしまいそうですね」

 

明石が苦笑しながら整理を始めたその時、後ろから何者かに声をかけられた。

 

「……君は誰だい?」

 

明石が振り返るとそこには小学生程の銀髪の少女が立っていた。態度こそ毅然としている物の、彼女の目はまるで何かに怯える子犬のようにうっすらと涙を浮かべていた。

 

 




はい!という事で八話目も終わりましたー!応援して下さっている方、いつもありがとうございます!重ねてになりますが、感想と評価の方もモチベが上がるのでぜひお願いします!ではまた九話で会いましょう!


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工作艦の実力

どうもです!九話目に突入しましたー!皆さんここまで読んでくれているのかな…?と少し不安になりながらも頑張って投稿してます!ではお待たせしました!九話です!どうぞ!


「えーっと?あなたは響ちゃん…かな?どうしたの?こんな所で」

 

「それはこっちのセリフだよ。君はあの人間と一緒にここに来たんだよね?悪いけど私達は君を受け入れるつもりはないよ」

 

「私”達”?」

 

明石がそう聞き返すと響はしまったと言わんばかりに口を抑えた。

 

「……何でもないよ。ここには私一人だけさ」

 

「ふーん…そう……」

 

と、明石は軽く流したが、実は明石はこの時既にとある事実に薄々気がついていた。

 

「それで?君は遠くからわざわざ何しに来たんだい?」

 

「そうねぇ…私はこの鎮守府の工廠担当兼衛生兵として来たから…」

 

「君は衛生兵なのかい?」

 

食い気味に響が尋ねる。

 

(やっぱり…そういう事なのかな…)

 

「そうよ!大体の艦娘なら治せちゃうんだから!」

 

「……なら力を貸してほしい、だめかな?」

 

「もちろん!私はその為にここに来たんだから!」

 

口調こそ冷静だが、響は希望を見つけたかのように目を輝かせている。

 

「こっちだよ。なるべく急いで欲しい」

 

響は工廠の奥の方にあるハシゴを登り、屋根裏の中に入った。明石もその後を追う。

 

「ゲホッゲホッ…すっごいほこり…」

 

もわっと立ち込めるほこりに一瞬怯んだが、次の瞬間目に飛び込んで来た衝撃的な光景にほこりの事なんかどうでもよくなった。

 

「何よ…これ……」

 

明石は両手で口を抑えて絶句した。そこにはぐったりと倒れてしまって動かない艦娘が沢山いた。ざっと10人くらいだろうか。明石はその艦娘達に近寄って手を触れる。

 

「ヒッ…」

 

明石は目を疑った。触れた手には生温かい血がべっとりと付いていたのだ。それはつまりその艦娘は未だに出血しているという事を意味していた。

 

(あの本の山の内容がやけに救護に片寄っていたから傷ついた艦娘がいるのかと思ってましたが…まさかここまでとはね…)

 

そして明石は急いで艦娘達の状態を確認した。

 

「結構傷が深い…よく今まで持ちこたえられましたね……何にせよ私の処置だけではこの損傷は治せません。早く入渠させないと命が危ないです」

 

すると響が残念そうな顔をして呟いた。

 

「入渠は…させられないかな…」

 

「な、何を言ってるんですか!?このままだとみんな死んじゃいますよ!?」

 

「そんな事…私が一番わかっている!」

 

響が叫んだ。その目には絶望の色と冷たい涙が浮かんでいる。

 

「ここの入渠施設は最悪なんだ!もしあんな水にみんなを入れたら………入れたら…」

 

響はそれ以上は何も言わなかった。明石はそんな響に対して強気で話しかける。

 

「泣き言は後!とりあえずここの入渠施設に案内して!早く!」

 

「わ、わかったよ!こっちだ!」

 

響は明石の切羽詰まった声に驚きながらも、明石を入渠ドックへ案内した。入渠ドッグまでの距離はそこまで遠くは無かったが、雑草に足を取られてしまう。

 

「………ここだよ」

 

「ありがとう!早速入らせてもらうわよ!」

 

明石は工廠と同じくらいの広さのドックに案内してもらった。扉を壊れんばかりの勢いで開ける。

 

「ここが…入渠ドック……?」

 

そこには衛生観念も無いような酷く汚れた入渠ドックの姿があった。もはや入渠ドックとすら呼べないかもしれない。中は全体的に物凄くカビくさいし、垢のような汚れがあちこちにこびりつき、肝心の水は真っ黒に淀んでいて、上には白い泡のような物がびっしりと浮いていた。

 

(……驚いている暇なんか…ない!)

 

「響ちゃん!とりあえずこの修復材を全部抜くわ!向こうから順に栓を抜いて!」

 

明石は考えるより先に体が動いていた。

 

「無茶だ!いくら入渠ドックだとしても水道から出てくる水はただの水道水なんだ!この修復材を抜いてしまったら…私達はもう入渠すら出来なくなるかもしれない!」

 

「大丈夫よ!修復材の原液ぐらいなら作れるわ!とにかく今はスピードが大事よ!事態は一刻を争うわ!」

 

「…………!!」

 

響は目を見開いて驚いている。今まで作る事すら不可能だと思われていた修復材をあっさり作れると言われてしまったのだ。

 

「……わかった。君は修復材を作ってくれるかな?」

 

「了解しました!あ、あと水を抜いたらこれもお願いします!」

 

明石がそう言うと一人の妖精が大きなモップを持ってきた。

 

「そのモップは私と妖精さんが開発した特殊モップです!ひと拭きで大体の菌は死滅します!多少は残りますが誤差の範囲内なので大丈夫です!今回は時間がないので浴槽の中だけでお願いします!では!」

 

明石は早口で説明しながら工廠まで走って行った。誰が見ても明らかな焦りが出ている。

 

(彼女は…こんな私達の事を全力で助けようとしてくれているのかな…)

 

その後響は黒ずんだ修復材を全部抜き、浴槽を次々と掃除していった。

 

(これはいいな…本当にひと拭きで汚れが落ちていく…)

 

響に渡されたモップは想像以上に綺麗に浴槽の汚れを落としている。最後の浴槽を掃除していると、明石が耳にペンを挟みながら息を切らして戻ってきた。その両手には濃い緑色の液体の入ったペットボトルが7〜8本握られている。

 

「ハァ…ハァ…で…出来ました…!多分…これで全員分…足りると思います…」

 

「こっちももうそろそろ終わるよ」

 

「じゃあ…私は…お湯を張っていきますね…」

 

響が最後の浴槽の掃除を終えた後、明石はそこにお湯を張って響と工廠に戻った。

 

「響ちゃん!みんなをドックまで運びますよ!」

 

そう言って明石はリュックから担架を取り出すと、響と一緒に屋根裏から素早く艦娘達を運び出した。暗くてあまりよくわからなかった部分まで、陽の光を浴びてはっきりと見えてしまう。

 

(これは……酷すぎる……傷が深いのはわかってたけどこれ程までなんて…)

 

痣、火傷、切り傷、打撲など、数えれば切りのない程の種類の傷を負っていた艦娘達は1時間くらいかけて全員入渠ドックの中に運び込まれた。

 

「それじゃ、響ちゃんは向こうからこの原液を入れてくれる?一つの浴槽につき2本分くらいね」

 

「わかったよ」

 

二人は浴槽に原液を入れ始めた。辺りに薬草のいいにおいが立ち込める。透明だったお湯がみるみるうちに黄緑色になっていく。

 

「よし!そろそろみんなを入れるよ!顔はまだ浸けちゃ駄目だからね!溺れちゃうから!」

 

二人は一人づつ丁寧に修復材の中に傷ついた艦娘達を入れた。明石の作った修復材は物凄い効き目のようで、みるみるうちに傷が治っていく。それからしばらくすると徐々に艦娘達の意識が戻り始めた。

 

「う…ん……?ここは……?」

 

「私達…生きているの……?」

 

「暁!!!雷!!!」

 

二人の艦娘の意識が戻った途端に響が側に駆け寄って二人に抱きついた。

 

「よかった………二人共……生きていてくれて……本当に……よかった……グスッ」

 

「もう!響ったら大袈裟なんだから!でも……ありがとう」

 

「もっとお姉ちゃんらしく扱ってよね……ううっ…会いたかったよぉ……」

 

三人は抱き合ったままずっと泣いていた。その涙はさっきまでの冷たい涙ではなく、温かい涙が浮かんでいた。他の艦娘達もどうやら姉妹艦だったらしく、みんな抱き合って泣いていた。

 

(やれやれ…一時はどうなる事かと思いましたよ…)

 

明石も安堵した表情で艦娘達を眺めていた。すると暁と雷と響が近寄って来た。

 

「あなたが私達を助けてくれたのね!心から感謝するわ!」

 

「ありがとう……お礼はちゃんと言えるし…」

 

「本当にありがとう。君は私達の命の恩人だな」

 

「いえいえ!私もあなた達を助ける事が出来て本当によかったです!ちゃんと肩まで浸かるのよ?」

 

『はい!』

 

三人は再び浴槽に戻り、話し始めた。それは雑談などではなく、何かを相談をしているように見える。

 

「みなさーん!ちゃんと傷を全部治すまでお湯に浸かってて下さいねー!」

 

 

『はーい!』

 

 

元気のいい艦娘達の返事を聞いた明石は提督に今回の出来事を報告すべく、執務室に向かった。

 




はい九話目が終わりました!響の一人称はいろいろ探してみたんですけど結局わからなかったのでとりあえず一番違和感のなさそうな”私”を採用しています!次はいよいよ十話ですね!よかったら感想と評価もお願いします!ではまた次回で会いましょう!


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頼もしき仲間

どうもー!ついに十話まできました!前回までの回でドック→ドッグと表記してしまいました…にわかでごめんなさい!報告して下さった方、本当にありがとうございました!では記念すべき十話目です!どうぞ!


(〇〇鎮守府執務室)

 

「…入るぞ」

 

長門は無駄に大きな扉を押して執務室の中に入った。誰もいないと分かっていなくても自然とノックをしてしまう辺り、癖として身にしみているのだろう。

 

(……やはりか)

 

執務室の中はかなり荒れていた。いや、荒らされていた。窓ガラスは一枚残らず粉々に割れているし、壁や床には何度も殴ったかのような大小の拳の跡があり、ベコベコに凹んでしまっている上、前提督であっただろう壁に飾ってある写真はみな燃えてしまっていて顔の区別がつかなくなっている程である。

 

「前提督に相当な恨みがあったのだな…」

 

そう呟くとふと長門に疑問が生じた。

 

(待てよ…?我々艦娘は比較的人間よりも力が強い…鍛えあげられた軍人ですら楽にねじ伏せられるはずだが……ここの艦娘はなぜ前提督に反抗しなかったんだ…?それに天龍が逃げ出す前にも誰かしら逃げ出せたと思うが…)

 

しばらくそんな疑問の答えを考えてる時、唐突にドアが開く。

 

「お、ここで当たりのようですね!」

 

明石が汗を垂らしながら執務室に入って来た。明石は執務室をぐるっと見回して

 

「うわぁ…これは何というか…すざまじいですね…」

 

「…明石、とりあえず一緒に床に散らばっているガラス片等を片付けよう」

 

明石と長門が執務室の掃除を始めてしばらく経った頃、またもや執務室の扉が開いた。

 

「いやー大変だったなーはっはっは」

 

「はっはっはじゃないですよ!司令官どれだけ方向音痴なんですか!?同じ道三回くらい通ってましたよね!?」

 

提督とお米を担いだ吹雪がにぎやかに入ってきた。

 

「ごめんごめん…ってこれは……」

 

吹雪から執務室に目を移した瞬間提督の表情が引き締まる。すると明石が近くまで駆け寄って来た。

 

「提督、さっき工廠の方を見てきたんですけど…」

 

明石はさっきまでの出来事を提督に話した。

 

「…という事がありまして、駆逐艦響、同雷、同暁、軽巡洋艦川内、同神通、重巡洋艦妙高、同那智、同足柄を現在入渠ドックにて治療をしています。いずれも酷い損傷でした…もしもう少し入渠が遅かったら……最悪の結果は避けられなかったでしょう…」

 

いつになく明石が真剣に話す。その明石に対して提督も真剣な表情になる。

 

「わかった。明石、よくやったな」

 

提督が明石に対して労いの言葉をかけていると、執務室の扉からノックの音が聞こえた。その音に長門と吹雪が反射的に動く。

 

「提督…下がってくれ」

 

「早く私達の後ろに、明石さんも」

 

「お、おう…」

 

吹雪は担いでいた米を執務室の隅に置いた。提督の鎮守府のメンバーは全員執務室に揃っているので、このノックの主は〇〇鎮守府の艦娘という事になる。提督と明石が後ろに来たのを確認して、長門と吹雪が鋭い視線と主砲を扉に向けた。執務室の中にピリピリとした緊張感がほとばしる。

 

「……入れ」

 

提督がそう言うとその扉がゆっくりと開かれる。その場の全員が思わず息を呑む。

 

「失礼す…っておい!タンマタンマ!」

 

「お邪魔するわよ〜ってあら〜随分熱烈な歓迎ね〜」

 

ノックの主は天龍と龍田だったようだ。突然の出来事に天龍はとても慌てている様子だったが、龍田は微塵も動揺していない様子だった。

 

「と、とりあえず俺達も武器は置くから!な!?落ち着け!話し合おう!うん!それがいい!そうしよう!そうしてくれ!」

 

天龍は動揺しすぎて目をグルグルさせて焦っている。

 

『ぷっ』

 

その瞬間天龍以外のみんなが一斉に笑い始めた。

 

「ちょっ…何笑ってんだよ!おい龍田まで!」

 

「あはははっ…ごめんねぇ〜焦ってる天龍ちゃんったら本当に可愛いんだもの〜」

 

龍田は笑いすぎて涙がでてしまっている。そんな龍田を天龍がポカポカ叩いている。二人はまるで本当の姉妹の様にじゃれあっていた。

 

「…どうやら敵意はないようだな」

 

「そうみたいですね…」

 

長門と吹雪が主砲を下げる。それを見た天龍は心底ホッとしたような表情を見せた。

 

「…で、二人は結局ここまで何しに来たんだ?」

 

提督が尋ねると天龍は提督の目を見て話し始めた。

 

「…俺と龍田はあんたらの味方をする事に決めた」

 

「え?まだ俺達まだここに来てほとんど経ってないけど…」

 

「私にはわかるのよ〜あなた達はいい人だってね〜それにもし道を外そう物ならそこの長門ちゃんが黙ってないようだしね〜」

 

「そ、そうなのか?長門」

 

「当たり前だ…って龍田、ニヤニヤするな」

 

長門は態度にこそ出ていないが、顔は若干赤くなっていた。

 

「ま、そういう事だから、」

 

「私もまだまだ未熟だけど、」

 

その声と一緒に天龍は右手、龍田は左手を差し出す。

 

「おう!よろしくな!天龍!龍田!」

 

俺も右手を差し出す。三人の手が重なる。

 

 

『よろしく(ね)(な)!”提督”!』

 

 

二人はくしゃっとした眩しい笑顔でそう言った。それからしばらく経って吹雪が思い出したかのように話し始めた。

 

「あ、そうだ司令官!早くお粥作っちゃいましょう!」

 

「それもそうだな…っと悪いけど二人共、ここの食堂に案内してくれないか?まだ不慣れでな…」

 

「おう!まかせとけ!」

 

「ありがとう。明石は引き続き工廠の方をよろしく。長門は執務室の片付けを頼む。吹雪はお米を持って俺と一緒に食堂まで来てくれ。いいな?」

 

 

『了解!』

 

 

「食堂はこっちよ〜」

 

天龍と龍田に連れられて、提督と吹雪は食堂に向かった。しばらく歩いた後、古めかしい雰囲気の場所に辿り着く。

 

「着いたぜ!ここだ!」

 

「おぉ…ここか…」

 

そこには食堂と縦に大きく書かれた看板があり、その横にある入り口の扉は大きく外れてしまっている。

 

「ほしょさーん!いるかー?」

 

天龍が食堂の中に入り、大声で誰かを呼んだ。すると袴を履いた艦娘が厨房と思わしき場所から出てきた。

 

「はいはいいますよ……ってどちら様ですか?」

 

その艦娘は提督の顔を見て若干後ずさりしながらそう尋ねた。それでも提督はなるべく刺激しない様に優しく話しかける。

 

「鳳翔さん…ですね?俺はここの鎮守府で提督をやらせてもらうようになった者です。今日は用事があって来ました」

 

「用事…ですか…?それに提督…?ごめんなさい。私はあなたの話を聞くつもりはありません」

 

鳳翔がきっぱりとそう言った。よっぽど提督を警戒しているようだ。そんな様子を見かねた天龍が鳳翔に話しかける。

 

「なぁほしょさん、この人はいい人だぜ。せめて話だけでも聞いてあげてくれ…」

 

「天龍さん……わかりました。とりあえず話だけ聞きましょう。……聞くだけですからね」

 

「ありがとうございます。実はここの艦娘達にお粥を振る舞いたくてですね…」

 

提督は自分のやろうとしている事を全て鳳翔に話した。すると鳳翔は眉をひそめて非常に悩んでいる素振りを見せた。

 

「なる程……それは嬉しいですけど…」

 

「鳳翔さん!お願いします!」

 

「俺からも頼むぜ…ほしょさん」

 

その場の全員が鳳翔に頭を下げる。すると鳳翔は呆れたようにため息をついた。

 

「わかりました。そこまで言うなら認めましょう。ただし、私も手伝いますからね」

 

「ありがとうございます。助かります」

 

こうしてみんなでお粥作りを始めるのだが…??

 

「司令官!お米洗いすぎです!これだとみんな擦り切れてなくなっちゃいますよ!」

 

「何でそこで強火なんですか!?焦げちゃいますって!!あなたお粥も作れないんですか!?」

 

「……天龍ちゃ〜ん?何を入れようとしているのかしら〜?」

 

最初の方はみんなでお粥を作っていたはずなのだが、いつの間にか鳳翔と吹雪と龍田の三人でお粥を作っていた。

 

「…なぁ提督、俺達料理に向いてねぇのかもな……」

 

「…大人しくお皿でも出そうぜ」

 

「…そうすっか」

 

提督と天龍がお皿をちょうど運び終えた頃、お粥の方も作り終わったようだ。

 

「うん!おいしい!この温度だと火傷の心配もないわ!」

 

「すごい!お粥って薄味であんまり美味しくないイメージでしたけど…これはとっても美味しいです!」

 

三人はわいわいとお粥作りに夢中になっていたようだ。鳳翔も自然体になって笑っている。その様子を見て天龍が寂しそうな表情で話し始めた。

 

「なぁ提督、ほしょさんって最近ほとんど笑わなかったんだぜ。いつもみんなの為に食べられる野草とかを探したりして何とか俺達を食いつないでくれたんだ…この鎮守府の給仕担当としては本当に辛かっただろうな…」

 

提督は黙って天龍の話を聞いていた。それから天龍は笑顔になって話を続けた。

 

「でも…そんなほしょさんも今こうやって笑っている。その事実だけでも俺は嬉しいぜ!」

 

「天龍…」

 

そんな会話をしていた頃、厨房の方から声が聞こえた。

 

「司令官ー!お粥出来ましたよー!館内放送でみんなをここに集めてくださーい!!」

 

「あいよー!行ってくるー!…天龍も来るか?」

 

「おう!ついていくぜ!」

 

こうして二人は館内放送をすべく放送室へ向かった。

 

 




大台(?)の十話目が終わりました!いきあたりばったりですが感想と評価の方もよろしくお願いしますー!ダメ出し等も大歓迎なので気軽に書いて下さいね!ではまた次回の十一話でお会いしましょう!では!


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奇跡の駆逐艦

どーも!11話目を書きました!お気に入り100件突破、本当にありがとうございます!これからも頑張って投稿しますので、応援よろしくお願いします!よかったら感想と評価の方もよろしくお願いしますー!では11話です!どうぞ!


「えっと…これがマイクで…」

 

「そうそう、そこのボタンを押して…」

 

二人は放送室で館内放送の準備を進めていた。

 

「よっし、これで後はこのボタンを押せば館内放送が出来るぜ!」

 

「ありがとな、天龍」

 

「いいっていいって、ほら早く」

 

提督は早速マイクを手に取り、スイッチを入れる。

 

「あーあーテステス…よし。初めまして〇〇鎮守府のみんな。俺はこの鎮守府に配属される事になった者だ。突然だが食料を用意したから全員食堂まで来て欲しい。ちゃんと十分な量を確保したから急がずに来るように。以上!」

 

ブツンという音を立てて館内放送が終わった。

 

「そういえば天龍、ここの鎮守府の人数ってどれくらいいるんだ?」

 

「俺は基本的に遠征ばっかりだったから正確な人数はよくわかんねぇけど…あまり大人数ではなかったな」

 

「そうか…在籍人数はそこまでいな…」

 

その時、提督の頭の中では明石のある言葉がフラッシュバックしていた。

 

(駆逐艦響、同雷、同暁、軽巡洋艦川内、同神通、重巡洋艦妙高、同那智、同足柄を現在入渠ドックにて治療をしています)

 

(……姉妹艦が一人だけ欠けている?明石が見落としたのか…?いや、その可能性はないだろう…轟沈してしまったか…あるいは…)

 

「……提督!………提督!!」

 

考えこんでいると突然目の前に天龍の顔が現れた。

 

「うおっ!?何だ天龍」

 

「何だじゃねぇよ…どうしたんだ?いきなりボーッとしちまって」

 

「いや…ちょっと考え事をしていてな…」

 

「はぁ…とりあえず食堂まで戻ろうぜ。俺も腹減ってきたしな!」

 

「おう…」

 

提督はモヤモヤしながらも食堂まで戻る事にした。

 

「ただいまー」

 

「遅いぞ、提督」

 

「お先にいただいてます!」

 

提督と天龍が食堂に戻ると、そこには長門と明石の姿があった。

 

「何でお前らの方が早いんだよ…」

 

「細かい事言わずに提督も一緒にお粥食べましょうよ!」

 

長門と明石は放送を聞いて真っ先に飛んできたらしい。もう既にお粥をお皿に盛り、食べ始めていた。

 

「……先に言っておくけど食堂に来た艦娘達にさっきみたいに突然主砲向けるのだけはやめろよ?」

 

「すみません…あの時は天龍さんみたいな鎮守府の艦娘を説得できるような方もいなかった上に、もし話の通じない艦娘だったらと考えると妥当だったかと…」

 

「言い訳するな。俺達は信用されるべき立場だろ?天龍と龍田だったから難を逃れた物の、もし勇気を出して接しに来てくれた艦娘だったらどうなっていた」

 

「それは…その…」

 

「…まぁ過ぎた事を責めても仕方ない。次からは武力行使は最低限無しだ。わかったな?」

 

「はい…」

 

吹雪達に忠告をした後、提督はお粥をよそって席についた。お粥をスプーンですくって口に運ぶ。

 

「うお…お粥ってこんな美味いのか…」

 

思わず声に出してしまった。風邪の時にしか食べなかったお粥はあまり味がしなかったが、この三人の作ったお粥はお米の甘さが引き立てられていてとても美味しかった。もう一口、もう一口と手が止まらなくなる。

 

「司令官…そんなにがっつかなくてもまだまだおかわりありますから…」

 

「…鳳翔さん、もう一杯貰えますか?」

 

気がつくと提督はお粥をぺろりと平らげていた。

 

「うふふっもちろんですよ」

 

鳳翔が嬉しそうに答える。もう提督を警戒している様な素振りは全く見られなかった。

 

「提督、すまないが私が先だ」

 

「いーや、俺の方が早かったね」

 

「まだおかわりありますからそんなに焦らないで下さい」

 

「…はい」

 

提督は結局3杯のお粥を食べてしまった。

 

「お粥が美味しかったのはいいけど…」

 

提督が唐突に呟いた。館内放送をかけたので一応この鎮守府の全艦娘に食べ物を用意したという事実は伝わっているはずなのだが、肝心の艦娘達は一向に姿を見せる気配がなかった。

 

「入渠も時間的には全員終わっているはずですし…ドックにもスピーカーはあったのでちゃんと響ちゃん達も確認していると思いますが…」

 

「まだ警戒されているという事か…」

 

「…まぁ最悪俺と龍田で全員分の部屋にお粥を持っていくから大丈夫だぜ」

 

「そうしてもらおうか…」

 

そう言いかけた時、食堂に誰かが入って来た。見た目からして駆逐艦だろうか…小学生くらいの艦娘が元気よく入って来た。

 

「こんにちは!ご飯ありますか?」

 

その艦娘はにぱっとした眩しい笑顔を向けて入ってきた。

 

「えっと…君は…?」

 

「申し遅れました!陽炎型駆逐艦8番艦の雪風です!」

 

「あら雪風ちゃん!こちらの提督さんがお米を用意して下さったの。美味しく出来たから食べてってね」

 

「ありがとうございます!鳳翔さん!あなたが新しいしれぇですね!お米ありがとうございます!これからよろしくお願いします!」

 

「おう!よろしく!」

 

雪風はビシッと敬礼をして鳳翔さんの方へ走って行った。

 

「提督…」

 

「あぁ、分かっている」

 

長門が声を潜めて何かを言おうとしていたが、提督には何と言おうとしているのかがすぐに分かった。

 

(何だあの笑顔…物凄くドス黒い物を感じる…龍田の笑顔も不気味だったがそれ以上に不気味…いや、言葉では言い表せない何かがあるみたいだ…)

 

「わぁ〜美味しいですね!このお粥!」

 

雪風はよっぽどお腹を空かせていたのか、ガツガツとお粥を食べていた。そう…文字通りガツガツと…

 

「…………おかわりください!………………おかわりです!……………もう一杯お願いします!」

 

(お、おい…どれだけ食べるんだ…?)

 

最初の方はよく食べるなと思いながら見ていた提督も雪風を心配そうな目で見つめる。それは鳳翔達も同じのようだ。

 

「………………おかわりです」

 

何杯目かわからなくなった程の量を雪風が平らげた時、ついに鳳翔が口を開く。

 

「ゆ、雪風ちゃん?もうそれくらいにしないと…」

 

「大丈夫…です……まだ…食べられます……」

 

雪風は明らかに苦しそうにしていた。それでもなお、お粥を食べようとしている。

 

「おっおい雪風…?」

 

「大丈夫でs………ヴッ」

 

『ヴォエエエ……ゲホッゲホッ…ヴォエッ……』

 

雪風は食べたお粥を全て床に吐きだしてしまった。

 

「ちょっと雪風ちゃん大丈夫!?」

 

鳳翔が雪風に近寄り、背中を優しくさする。

 

「ハァ…ハァ…まだ…食べられます…ヴッ」

 

それでもまだ雪風はお粥を食べようとしている。誰が見ても思う。完全に異常だ。

 

「雪風、もうよそうぜ、な?」

 

「天龍さん…駄目です…雪風は…みんなの分も…」

 

息を切らしながらも必死にお粥を食べようとする雪風に対して提督が優しい口調で尋ねる。

 

「…なぁ雪風、どうしてお前はそこまでして食べようとしているんだ?確か雪風は奇跡の駆逐艦として…」

 

 

「奇跡なんか…ないです!!!」

 

 

提督のその言葉に雪風が突然声を張り上げた。

 

「奇跡なんかありません…!雪風が幸運なんか持ってるせいで…みんなが…みんなが……」

 

「ゆ、雪風?とりあえず落ち着いて話せ」

 

それから雪風は膝まずき、肩を震えさせながらすすり泣きはじめた。その間も鳳翔はずっと何も言わず、優しく雪風の背中を撫で続けていた。それからしばらくして雪風が泣き止むと、雪風はゆっくりと自分の身に何があったのかを語り始めた。

 

「…雪風はずっと前のしれぇの時からここの鎮守府の水雷戦隊の一員でした」

 

 

 

(かつての〇〇鎮守府)

 

 

 

「まーだキス島沖を攻略できないのか!?あ゙!?」

 

前提督が旗艦の軽巡洋艦に怒鳴りつける。

 

「何で撤退なんかしてんだよ!!あと少しで敵主力と交戦出来ただろうがこの無能が!!」

 

「ですが大破した艦娘が多く、撤退しざるを得ない状況でした…あのままただ闇雲に進撃したら轟沈艦が出てしまいます…せめて練度だけでも上げさせて下さい…」

 

「知るか!!いいか?次回の出撃で必ず勝て。損害が出ようが関係ない。もし失敗したら…わかってるな?」

 

「はい…」

 

こうして無謀とも言える出撃が決まってしまった。

 




はい!11話目が終わりました!結構長い間待たせてしまいました…これからも応援してくれたら嬉しいですー!感想と評価の方もモチベが上がりますのでよろしくお願いしますー!ではまた次回でお会いしましょう!


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作戦開始

どーもです!12話目を書いてみました!投稿頻度が若干落ちてきていてごめんなさい…見てくださる方、いつも感謝です!では12話目をどうぞ!


「それでは…キス島沖攻略部隊の編成を発表します…呼ばれた艦娘は返事をして下さい…今回の作戦は何としても成功させなければならない作戦です…よって、我が鎮守府の精鋭水雷戦隊を派遣します」

 

司会の艦娘が震える声で話す。その目にはうっすら涙が浮かんでいた。それは他の艦娘も同じ様で、みんな下を向いて黙り込んでいた。提督は戦艦の練度ばかりを優先していたので精鋭と言えど水雷戦隊の練度などたかが知れていた。その為、今回のキス島沖への出撃…いや、もはや特攻と言っても過言ではない今回の作戦は完全なる捨て艦戦法であると誰もが理解していた。長い沈黙の後、司会の艦娘が口を開く。

 

「…旗艦、軽巡洋艦長良」

 

「えっ……嘘…私なの…??」

 

「随伴艦、駆逐艦夕立」

 

「……腹くくるっぽい」

 

「同、駆逐艦島風」

 

「連装砲ちゃん…頑張ろうね…」

 

「キュー…」

 

「同、駆逐艦時雨」

 

「選ばれたからには…やるしかないね」

 

「同、駆逐艦浜風」

 

「……………」

 

「そして…」

 

いよいよ最後の艦娘の発表になった。場に緊張が走る。

 

「…同、駆逐艦雪風、以上の艦娘は後ほど詳しい作戦概要を説明しますのでここに残って…」

 

(………えっ?)

 

今なんて言った?呼ばれたのは本当に自分なのか?練度も装備も経験も何もかもが圧倒的に周りに劣る自分がなぜ?なんで?どうして?そんな疑問ばかりが浮かんで止まらない。時間は無情にも過ぎ去り、気がついた時には作戦概要の説明に入っていた。

 

「………という作戦です…」

 

長々と難しい言葉を並べて遠回しに作戦の説明をしてきたが、その内容は実に簡単だった。比較的幼い駆逐艦でも容易に理解できる。要は

 

 

『”最悪の場合爆弾を抱えて敵主力に体当たりしてこい”』

 

 

と言っているのだ。どうやら生きて帰すつもりはないらしい。

 

「…必ず成功させようね!みんなの…姉妹の為にも」

 

長良が絞り出すかのような掠れた声で言う。溢れ出る感情を無理やりねじ伏せながら話しているのがわかる。

 

「時雨ぇ…時雨ぇ……」

 

「大丈夫だよ、夕立。僕も側にいるからさ」

 

夕立は時雨に抱きつきながら泣いており、時雨もまた夕立を優しく抱き返していた。時雨の表情は穏やかな物の、その目尻には小さな涙が浮かんでいる。

 

「……………」

 

浜風は静かに俯いたまま目を閉じていた。きっと彼女なりの覚悟を決めようとしているのだろう。

 

「磯風……浦風……谷風……行ってくるわ………」

 

淋しげにボソっと呟いたその声は誰にも聞こえる事もなく空気の中に消えていった。

 

(雪風は……雪風はどうしたら…………)

 

雪風は自分の役割を未だ呑み込めずにいた。認めたくない。出撃したら自分はもう二度とここに戻って来られないかもしれない。そう考えるだけで吐き気がする。

 

「雪風ちゃん…」

 

そんな中、島風が呟くように雪風に話し掛けて来た。

 

「私ね……今まで雪風ちゃんと過ごせて楽しかったよ…もし…もし海の底に沈んじゃっても……また雪風ちゃんに会えるのかな…?」

 

島風は若干涙混じりの笑顔で雪風に向き合っていた。

 

「島風ちゃん……」

 

姉妹艦のいない島風にとって、いつも当たり前の様に一緒にいた雪風は大切な親友…いや、もはや姉妹のような存在だった。次第に嗚咽を漏らし始める島風。

 

「きっと……きっと大丈夫です!雪風には幸運の女神がついてますから…沈む訳にはいきません!」

 

島風の手を雪風は優しく握った。

 

 

『ぜったい!大丈夫!』

 

 

雪風はぱぁっとした笑顔で島風に微笑んだ。その笑顔は島風だけでなく、作戦メンバー全員の心に響いた。

 

「そうだね!頑張ろう!」

 

「止まない雨はないさ」

 

「突撃するっぽい!」

 

「そうですね…全力を尽くしましょう」

 

「うん……そうだよね…!きっと大丈夫だよね!だって速いもん!」

 

雪風の言葉と笑顔で作戦メンバー全員が勇気づけられた。

 

「よし!みんな!頑張ろうね!」

 

長良が号令をかけ、全員で円陣を組む。小さな手が何重にも重なり合った。

 

 

『おー!!!』

 

 

 

(作戦当日)

 

 

 

「よーし、みんな……出撃するよ!」

 

6人は険しい顔でキス島沖へと向かった。港では多くの艦娘達が手をで振って見送ってくれていた。その後は羅針盤妖精の誘導に従い、何とか目標の近くにまで辿り着く事が出来た。

 

「この辺りのはずなんだけど…」

 

目標である敵主力艦隊の付近まで来ているはずなのだが、一向に姿が見えない。

 

「もう少し奥の方にいるっぽい?」

 

「そうかもしれないね…電探に反応もな…」

 

 

『『ゴッ…パアアアアン』』

 

 

刹那、轟音と共に時雨の声と姿が消える。紅い鮮血が陽の光を浴びて輝く。その血は海面に広がり、粉々の艤装と共に浮いていた。

 

「……時雨っ!!!」

 

「夕立ちゃん!!駄目!!!」

 

長良の必死の叫びも夕立には届かず、夕立は肉片と化した時雨の方へと踵を返す。その瞬間を狙ったかのように二度目の轟音が鳴り響く。

 

 

「しぐ……『ゴパアアアアン』

 

 

「ヒッ……!」

 

雪風の顔にビチャビチャと夕立の生温かい血が降り注ぐ。夕立の艤装と思われる鋼鉄の塊はボコボコと泡を吹きながら沈んでいった。

 

「南の方角!elite級戦艦です!今の我々の装備では太刀打できません!それに…主力とは別の艦隊であると予測されます!」

 

浜風が声を張り上げる。現場での指揮権は旗艦である長良に一任されている。長良は迷う事なく迅速に判断を下した。

 

「…総員、全速力で北東に逃げるよ!私達が戦うべき相手はあいつらじゃない!」

 

そう言うと長良は限界に近いスピードで北東の方角へ走り出した。浜風と島風と雪風もそれに続く。艤装は唸りを上げ、物凄い熱を持っていた。幸いにも戦艦の速力は低速だったのか、長良達を追って来る事はなかった。

 

「はぁ…はぁ…ここまで来れば……」

 

何とか逃げ切れた4人は夕立と時雨の轟沈という事実を未だ受け入れられずにいた。時刻は2000を過ぎ、辺りはすっかり暗くなっていた。

 

「ごめん…私のせいで…夕立ちゃんと……ひぐっ…時雨ちゃんが……ううっ…」

 

長良が謝り倒す。だがその言葉に反応する者はいなく、ただ俯くしかなかった。それからどのくらいの時間が経ったのだろうか。浜風がとある異変に気が付く。

 

「………!!波の向きが変わりました!風向きは変わっていないので…」

 

恐らく敵が近いです…そう言おうとした時、少し離れた場所でチカっと光が見えた。

 

「全艦回避運動!早く!」

 

長良の叫びに4人は単縦陣のまま一斉にジグザグ航行を始めた。さっきまでいた場所に水柱が上がる。水柱の大きさからして軽巡洋艦か駆逐艦だろう。

 

「それっ!」

 

島風が照明弾を打ち上げる。そのまばゆい光によって5つの黒い影が照らし出される。

 

「軽巡1駆逐4!恐らく敵主力艦隊です!」

 

首元の双眼鏡を覗いた雪風が声を張り上げる。

 

「よし来た!任せといて!」

 

長良は流れるように水面を滑り、主砲を向けて鮮やかに敵駆逐艦を一隻沈めた。しかし、砲撃をした時の光が目印となってしまったのか、敵の砲撃が一斉に長良に集中する。

 

 

『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!』

 

 

駆逐艦の砲撃といえど、過剰なまでの集中砲火と至近弾で長良は轟沈寸前の状態にまで追いやられた。

 

(このまま……ゆっくり沈んでいくのかな……)

 

長良が瀕死の状態で死を覚悟した時、突然辺りが明るくなった。

 

「敵の注意は私が引きます!雪風さんと島風さんは雷撃を!早く!」

 

浜風が探照灯で敵を照らし始めたのだ。敵の位置を視認できた雪風と島風は一斉に魚雷を海面に放出させる。

 

「お願い…!当たって!」

 

島風が祈るように叫ぶ。二人の魚雷が水面を滑っている間も、敵の砲撃は浜風に集中していた。浜風はジグザグ航行でかろうじて致命傷は免れているものの、少しづつ小さなダメージがじわじわと蓄積されていった。

 

「…………がああっ!!!」

 

砲撃の一つが足に命中した。バランスを崩す浜風。海面に転倒し、へたり込んでしまう。

 

「………!!」

 

次の瞬間浜風の目に映ったのは、自分に向いて飛んでくる砲弾の雨だった。

 

「後は……頼みまし『ドガアアアアン』

 

所持していた爆弾に引火、大爆発を引き起こし、メラメラと音を立てながら浜風はゆっくりと海底に沈んでいった。

 

 




はい12話目が終わりました!回想長くてすいません!もう少しだけお付き合い下さいね!もしよかったら感想と評価の方のよろしくお願いしますー!ではまた次回、会いましよー!


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幸運という名の不幸

どうもですー!13話目です!最近リアルが忙しすぎてあまり執筆出来てませんが何とか頑張ってます!ゆっくりと気長に待っててくれたら嬉しいです!では13話目をどうぞっ!


敵駆逐艦は沈んでいく浜風を見てにやりと口元を歪めていたが、接近して来る多数の雷跡を確認すると途端に焦り始めた。浜風に意識を向けすぎた敵駆逐艦に魚雷を避ける術はなかった。

 

 

『ズガアアアアアンン』

 

 

「………やった!」

 

大きな水柱が上がる。魚雷は敵艦隊のど真ん中に当たったように見えた。言葉にならない断末魔の雄叫びを上げながら、多数の駆逐艦が沈んでいく。その後ろにはゆらゆらと揺れる一つの影があった。

 

「嘘……」

 

そこにはほぼ無傷と言っていい程の敵軽巡の姿があった。恐らく駆逐艦が庇ったのだろう。そんな事を考える暇もなく、再び光が見えた。

 

「……!!次発装填…『バシャアアン』

 

すぐ近くに水柱が上がった。再び敵軽巡の主砲が唸る。

 

「……雪風ちゃん!危ない!」

 

雪風にはその一瞬がスローモーションに見えた。自分に向かってくる弾、横から物凄い速さで飛び込んでくる島風、何もかもがゆっくりに見えた。

 

『…ゴハァッ……』

 

ほんの数十センチ先で爆発する島風。その轟音と共にまた時間が元通りになる。

 

 

「島風ぢゃあ゙あ゙あ゙あ゙ん゙!!!」

 

 

雪風が声にならない叫びを上げる。

 

 

「……だい…じょう………ぶ……だよ……ゲボッ」

 

 

血を吐きながらも何とか答える島風。轟沈だけは免れたが、酷い損害だった。自力での航行はまず無理だろう。その時、消え入るかのようなノイズまみれの無線が入って来た。声の主は長良のようだ。

 

『……げ……は…く………』

 

「……!何ですか?長良さん?長良さん!?」

 

 

『に……げ…て………は…や………く………こ……まま………と………み…な……し………む……わ……し……じ………く……す…る……』

 

 

「なっ…何言ってるんですか!?よく聞こえませ『ギイイイイイイ!!!』

 

突然敵軽巡が暴れだす。激しく体を動かし、必死に何かを振りほどこうとする。敵軽巡の顔は真っ青になっており、かなり焦っている様子だった。その背中には瀕死だったはずの長良が全身を血に染めながらもしがみついていた。

 

 

『ゆ……ちゃ………い……き…て………』

 

 

長良はそう無線で伝えると、何かから開放されたような穏やかな笑顔を見せ、その笑顔と共に大爆発を起こした。しばらくして煙が落ち着いてくると、さっきまで長良がいた位置には何もなく、ただ水面がゆれているだけだった。

 

「雪風…ちゃん…私達……勝ったんだね………」

 

島風がぐったりとした状態で振り絞るかのように話しかける。

 

「……はい、勝ちまし…………!!」

 

雪風は海中からかすかに聞こえる音を聞き逃さなかった。潜水艦だ。じっと目を凝らして見てみると、海中から一本の白い線のような物がこちらに接近してきていた。魚雷である。その魚雷はまっすぐに、そして的確に島風の事を狙っていた。

 

「島風ちゃん!危ないです!」

 

雪風が全速力で島風の方へ駆けつける。

 

(…よし!このスピードなら何とか島風ちゃんを庇える…!!)

 

間一髪で雪風は向かってくる魚雷と島風の隙間に入り込んだ。目を力強く閉じ、歯を食いしばる。

 

 

『ドオオオオン』

 

 

(……………あれ?痛くない…?でも音が……???)

 

その瞬間、雪風は自分でもサーッと顔が青ざめていくのがわかった。雪風は震えながら恐る恐る後ろを振り返る。雪風はその光景を見て喉が潰れる程の声で悲鳴を上げた。

 

 

『あ…ああ……あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!』

 

 

流れ出した大粒の涙を拭う間もなく雪風は島風を抱きかかえた。島風はもう目を開ける事すら出来ないのか、ぐったりとしたままピクリとも動かなかった。潜水艦の放った魚雷は角度が深かったのか雪風の足元をすり抜けて瀕死の島風に命中してしまった。

 

「何で……何で何で何で何で何で!!!雪風の!!運が!!!よかったからですか!?…だから”雪風に”命中しなかったとでも言うんですか!?」

 

どんどんと重くなっていく島風。膝の辺りはもう既に海の中に沈みかけている。雪風はそんな島風を必死に助けようとしているが、その努力のかいも虚しく、腰の辺りまで沈んでしまう。

 

「嫌だ!嫌だ!!嫌だ!!!お゙ね゙がいだがらっ……」

 

雪風が泣きながら叫んでいたその時、かすかに島風の声が聞こえたような気がした。目を見開いて島風の口を見ると、わずかにだがまだ動いていた。

 

「島風ぢゃん゙!!!」

 

雪風は島風の口の前に耳を持ってきて、耳打ちのような姿勢になった。そして島風は掠れた声で雪風に伝えた。

 

 

『雪風…ちゃん………幸せに……生きて……ね……』

 

 

その一言を言い終わると、島風は雪風に向かって微笑みかけ、力が抜けたようにグダっとなった。雪風はその重みに耐え切れず、手を離してしまう。

 

「やだやだやだやだやだ!!!島風ぢゃあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ん!!」

 

断末魔に近い声を上げながらバシャバシャと必死に水をかき分けて海中に手を伸ばすが、もう何もかも手遅れだった。それから島風はゆっくりと、暗い海の底へと消えていってしまった。その場に一人残された雪風の心の中はぐちゃぐちゃになってしまっていた。

 

「……あは…あはははははははは!!!!もういい!!もういいです!!!本当の幸運何てありはしない!!!持ってたってどうせ何の役にも立たない!!!何が奇跡の駆逐艦ですか!!!こんな奇跡なんかいらないです!!!!」

 

一人呆然と空を見上げながら自分に言い聞かせるように喚く。

 

「そうですよね!?ねぇ!?ねぇ!?ねぇってばああああああ!!!!」

 

雪風が自分のお腹を何回も殴る。と、その瞬間に島風の言葉がフラッシュバックする。

 

『幸せに……生きて……ね……』

 

雪風はハッとしたように手を止める。そして力なく独り言を話し始めた。

 

「……幸せ?幸せって何ですか?どうしたらいいんですか?雪風にはもう幸せなんて分かりません……誰か………誰か教えて下さい………」

 

すすり泣きながら答えを求める雪風に、一つの案が思いついた。

 

(……そうだ!幸せがないなら作ればいいんです!いっぱい食べて、いっぱい寝て、いっぱい笑顔になればいいんです!そしたらそのうちきっと幸せになれるはずです!)

 

それからの毎日、無理やり笑顔を作っては、雑草などを大量に食べて誰も見ていない所で吐く。その繰り返しだった。たまに出撃して他の艦娘が沈んでも自分は何も感じない。笑顔でいなきゃ。幸せでいなきゃ。ほら、笑わなきゃ。頭の中はそれだけで一杯だった。前任がいなくなってもそれは変わらなかった。そんなある時、また誰かが鎮守府にやって来たらしい。

 

(食べ物があるみたい…笑顔にならなきゃ…幸せに…)

 

 

 

 

 

「…そんな事が……」

 

鳳翔は絶句していた。何せ今まで雪風がそんな風になっていたなんて思いもしなかったからだ。それは天龍と龍田も同じようだった。

 

「…なぁ雪風」

 

「……なんですか?」

 

「雪風が食堂に入って来る時さ…その……やっぱり怖かったりしたのか?」

 

雪風は黙って頷いた。その目は泣きすぎて赤くなっている。

 

(……やはり反抗してくる艦娘もいれば近寄ってきてくれる艦娘もいるのか…)

 

提督がそんな事を考えていると鳳翔が優しい口調で雪風に対して話しかけた。

 

「雪風ちゃん。今度はみんなでお粥を食べましょうね。その後にお掃除しましょう?」

 

「はい…」

 

「私もお掃除手伝います!」「俺も手伝うぜ!」「私も!」「私も手伝おうかしら〜」「当然、俺もな」

 

「皆さん…」

 

鳳翔が再び雪風の皿にお粥を盛る。雪風はお粥をスプーンで一口すくい、口元へと持っていく。

 

「…あったかい……です……とても……どでもっ…」

 

泣きじゃくりながら再びお粥を食べる雪風の顔はとても晴れやかだった。提督達はそんな雪風をずっと優しく見守っていた。

 

「ごちそうさまでした!」

 

一杯のお粥を食べ終わった雪風はにぱっとした笑顔でそう言った。その笑顔にはかつてのような違和感はなく、純粋な感情が浮かんでいた。

 

「さーてっと掃除を始めますか!悪いけど天龍と龍田と雪風はここに来なかった艦娘達にお粥を届けてくれないかな?俺達が行っても受け取ってもらえないだろうし」

 

「おう!任せとけって!二人共、行くぞ!」

 

三人はわいわいと話しながらお粥を届けに回った。提督達も少し時間はかかったものの、綺麗に雪風の吐瀉物の掃除を終わらせた。

 

「じゃあ私はまた工廠に戻りますね!」

 

「おう!頼んだぞ、明石」

 

明石は提督に敬礼をして工廠へと戻っていった。

 

「さて、俺達も執務室に戻るか…と、鳳翔さんはどうしますか?」

 

「そうですね…私はもう少しここに残って洗い物とかしなきゃいけないので…」

 

「そうですか!頑張ってくださいね!」

 

鳳翔を食堂に残し、長門と吹雪と提督は再び執務室へと戻った。

 




はい!13話目が終わりました!よかったら感想と評価の方もよろしくお願いします!暖かい言葉でもダメ出しでも全然大丈夫なんで気軽にお願いしますね!では次もまた14話目で会いましょー!


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こうしょうしせつ

ふぁああああ遅くなって申し訳ありません!ちびちび書いてたらめっちゃ遅れてしまいました!待ってて下さった方、本当にお待たせしました!では14話目です!どうぞ!


(工廠)

 

「さて、大分片付いてきましたねー」

 

明石はお粥を食べ終わった後、工廠の片付けに追われていた。

 

「ん?なになに?」

 

沢山の妖精が明石の周りに群がり、口をパクパクさせていた。何かを伝えようとしているのだろうか。

 

「……えーっと………??」

 

明石は簡単なジェスチャー等を用いてかろうじて妖精とコミュニケーションを取れる物の、完全なる意思疎通は出来ないでいた。

 

「お腹……引っ込めて……?あ!お腹空いたのね!」

 

その言葉に妖精の顔がぱあぁっと晴れやかになる。どうやら妖精達は明石の言葉を理解しているようだ。

 

「ごめんねー私だけ先に食べちゃってて…っとはい、どうぞ!一人3つまでですよ!」

 

明石がリュックから取り出した金平糖の入った大きな瓶を前にしてピシッと一列に並ぶ妖精達。みんな目をキラキラと輝かせて今か今かと待ちわびている。争いをしない辺り、妖精同士のコミュニケーションは取れているように思える。

 

「はいどうぞ!ゆっくり食べてねー」

 

明石はそんな妖精達に対してひとりひとり丁寧に金平糖を渡していく。

 

「はい次の子……ん?あなた達は……??」

 

そこには見慣れない妖精達が数人程度いた。挙動はオドオドとしており、何かに怯えているようにも見える。確かに新しい妖精がいつの間にか増えている様な事は決して珍しい事ではないのだが、その妖精達の服はみんなボロボロになっており、目の下の隈も深かった。明らかに新しい妖精ではない。

 

「えーっと……とりあえずこれ食べます?」

 

ボロボロの妖精達は明石のその言葉に首をブンブンと縦に振った。明石から金平糖を三粒づつ貰うと、目を星の様にキラキラさせてからお辞儀をしてどこかへ走っていった。

 

「ふぅ……じゃあそろそろ作業しますかー」

 

軽く伸びをした明石はおもむろに何かの設計図を書き始めた。

 

 

 

(工廠深部)

 

 

 

「ふしぎなたべもの…きれいでおいしいです…」

 

「あまくてげんきのでるあじですね」

 

ボロボロの服を着た妖精達は初めて食べる金平糖を味わっていた。

 

 

『ここのちんじゅふのようせいですか?』

 

 

「!?」

 

妖精達はバッと声のした方を向き、警戒し始めた。

 

「おっとしつれい。おどろかせるつもりはなかったんだ」

 

そこにふよふよと浮いていたのは明石の連れてきた妖精だった。その妖精はにこっと微笑むとスーッと下に降りた。

 

「はじめまして、わたしはあかしさんとともにここにやってきたものです。いご、おみしりおきを」

 

ぺこりとお辞儀をする明石妖精に反射的にお辞儀を返してしまう。

 

「…なにしにきたんですか?」

 

「わたしたちはここのこうしょうについてもうすこしくわしくしりたい。ただそれだけです。あなたたちならよくしっているとおもいましてね」

 

「……べつになにもありませんよ」

 

「…うそですね。ちゃんとめをみてはなしてください」

 

さっきまでの笑顔ではなく強い目つきで目を見る明石妖精。

 

「そんなこわいかおされてもいわない…いや、いえないですよ」

 

悲しそうに目線を外す妖精を見て明石妖精は何かを察したのか、これ以上掘り下げる事はしなかった。

 

「……わかりました。あ、ごはんのじかんは7じと13じと19じにあかしさんのところです。たまにおやつがでるときもあるので15じにもいくことをおすすめします。では」

 

そう言い残すと明石妖精はふよふよとどこかへと飛んでいってしまった。それからしばらくして一人の妖精が口を開く。

 

「わるいかたではなさそうでしたけど…」

 

「いや、まだわからない。またまえみたいにひどいことをされるかもしれないぜ」

 

「とりあえずはようすみですね…ごはんはたべたいですけど」

 

「あかしさん……??はわたしたちのことをたいせつにしてくれるんでしょうか…」

 

「…かんがえるな。またおなじめにあうだけだ」

 

(そう…あのときのように…)

 

 

 

(かつての〇〇鎮守府工廠)

 

 

 

「おいおいおい!何回失敗したら気が済むんだよこの無能共がよぉ!」

 

今日も提督が吠える。その目は怒りの感情で燃え上がっていた。妖精達は必死に失敗理由を伝えようとしているが、その声が提督に届くことはなかった。

 

「ごめんなさい……せめて…せめてもうすこしだけしざいを…」

 

「あ?何言ってるかわかんねーよ。言い訳してる暇あんならさっさと装備作れチビ共」

 

「かいはつしざいもこうざいもようせいもなにもかもがたりてないのにむちゃです…」

 

「そーかそーか!作ってくれるか!そういう事だよな!出来なかったら……どうなっても知らねぇぞ?」

 

そう言い残して提督はしわしわの軍服のポケットに手を突っ込みながら工廠を去っていった。

 

「がんばるしかないです…」

 

「でもぜつぼうてきなじょうきょうです…」

 

「どうしたらいいですか…」

 

妖精たちは何もできないまま次の日を迎えてしまった。

 

「よぉ妖精共!…もちろん、もう既に完成してるよな?」

 

提督が鋭い目つきで妖精たちを見下す。今日の提督の機嫌が一層悪いのは誰が見てもわかる程表情に出ていた。そんな提督を前に、妖精たちはただブルブルと震えているだけだった。

 

「は?何やってんの無能共が」

 

提督の冷たい声が静かに響く。

 

「…チッもういいわ。やる気ないんだろお前ら」

 

「ち…ちがいます!しざいさえあれば…!!」

 

一人の妖精が前に出て必死に提督に説得をしようとする。しかしやはり提督には一切の言葉が通じない。

 

「あ?なんだお前目障りだわ」

 

「……!!」

 

提督は必死に説得している妖精を鷲掴みにした。妖精は息が出来ないのか、苦しそうに提督の手の中でもがいている。すると提督は何かを思いついたのか醜く唇を歪ませ、工廠のとある場所へと向かった。そこにはとても大きな錆びついた鉄の箱がいくつもあった。その箱には汚いマジックの字でこう書かれていた。【解体,廃棄】と。提督はその箱の中に妖精を叩きつけるように投げ入れ、重い鉄の蓋を閉めた。中からはゴンゴンと鉄を叩く音が聞こえる。

 

「…もし失敗したらこれから一人づつこうだからな」

 

そう言うと提督は鉄の箱をベルトコンベアーに乗せ、重いレバーを引いた。その瞬間警報のような音が鳴り響き、鉄の箱が大きな機械の中に吸い込まれていく。

 

「…………!!!!!!」

 

妖精の悲痛な叫びも箱の外には全く聞こえなかった。そこからは実に単純で、ベルトコンベアーに乗せられた鉄の箱が大きな機械の中に入り、しばらくして機械から出てきた箱の中にはさっきまでいた妖精の姿はなく、変わりに少量の鉄が入っているだけだった。機械の中で何が起こっているのかなんて誰も知らない。知りたくもない。

 

「なんだこれ、ゴミみたいな量しか出ねぇじゃねぇか。ま、いいや。この鉄を足しにしてまた何か作れよな」

 

提督がそう吐き捨てると、妖精だったはずの鉄を床に捨てた。それからというもの、この地獄の無限ループが延々と続いていき、気がついた頃には妖精は両手で数えられるくらいの人数になっていた。

 

(きょうもまたひとり、だれかが……)

 

だがある日を境に提督が来る事はパッタリと無くなった。再び着任したという提督も最初は好印象であったが、数年が経つと前任のように人の形をした動物に変わってしまった。それと同時に工廠も悲鳴と断末魔しか聞こえない生き地獄へと姿を変えた。

 

(われわれようせいはなんのためにそんざいしているのだろうか…)

 

妖精達はそんな事を考えながら時間も忘れ、ただただ生きるだけの毎日を過ごしていった。そんな時、明石という妖精を連れた艦娘と出会った。

 

(あかしさんといっしょにいたようせいさんはみんなしあわせそうでしたね…)

 

そんな事を思っていると、奥から声が聞こえてきた。しかもその声はだんだんと近付いて来ている。

 

「ちょ、ちょっとー服引っ張らないでくださいよー」

 

明石が服の袖を妖精に掴まれて引っ張られて来た。その妖精は紛れもなくさっき話しかけてきた妖精だった。

 

「もう…伸びちゃいますって…あら、さっきの……」

 

明石がこちらに気が付く。何かされるのだろうか…そう考えるだけで自然と体が震え出した。

 

「そんなに怯えなくても大丈夫よ。私達は何もしないから」

 

明石が優しい笑顔で妖精達に話しかける。そんな明石の様子を見て少し震えが収まる妖精達。少しの無言の後、妖精がぎこちなくも明石にジェスチャーを送った。

 

「お!んーっと……なになに………」

 




いやー梅雨イベ楽しみですね!さて、主の諸事情(もうお分かりかと思いますが)によりまたしばらく投稿頻度が落ちてしまいます!温かい目で見守ってくれたら嬉しいです!感想と評価もモチベが上がりますんでそちらの方もよろしくお願いします!ではまた15話でお会いしましょう!


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妖精の仕事

投稿遅れてすいません!これからもゆっくりと投稿していくので応援よろしくお願いします!では15話目?かな?をどうぞ!


「ん……んー?えっと……ごめんね。もう一回お願い出来るかな?」

 

明石は妖精のジェスチャーに苦戦し続けていた。前から一緒にいる妖精のジェスチャーは何となくわかるのだが、〇〇鎮守府の妖精のジェスチャーはさっぱりだった。

 

「片手……?上下…んーっと………あ!」

 

突然声を上げる明石。どうやら妖精達のジェスチャーの意味が分かったようだ。

 

「分かりましたよー!開発がしたいんですね!!」

 

その言葉に妖精達はぱあぁっと笑顔になる。どうやら当たりのようだ。

 

「そうですねー…あ、ならこれお願いします!」

 

明石がちょうど近くにあった設計図を妖精達に渡す。妖精達は久々にまともな開発が出来て心底嬉しそうな表情だった。

 

「さぁ、やりますよ!」

 

「うでがなります!」

 

「がんばるぞー!」

 

思い思いの意気込みを口にする妖精達。明石にはその言葉こそ聞こえないが、やる気があるという事はしっかりと伝わっているようだった。

 

「はじめますよー!!!」

 

「おおおおおおおおお!!」

 

数人程度しかいなかった〇〇鎮守府側の妖精達が一斉に作業に取り掛かる。作業の中盤までは何の問題もなく順調に進んでいた。しかし一人の妖精にとある異変が起きた。

 

「ここをこうして…よしです」

 

『…またゴミを作ってんのか無能が』

 

「……!?」

 

その時突然前提督の声が聞こえた。辺りをキョロキョロと見回しても当然前提督の姿はない。明石や他の妖精達にも声が聞こえているような素振りはない。それでもなお、その声が止むことはなかった。

 

『おいおい、クソみてぇな装備だな』

 

「…うるさいです」

 

一人でぼそっと呟く。

 

『ほら、お前等のゴミ装備よりこの煙草の吸い殻の方がよっぽど役にたつぜ』

 

「……うるさい」

 

さっきよりもやや大きい声で言った。周りの機械音が大きいせいで、その言葉が他の妖精達に聞かれることは無かった。更に声が続く。

 

『まじで無能なんじゃねぇの?逆にどうやったらそんなゴミが「…ゔる゙さあ゙あ゙あ゙あ゙い゙!!」

 

その妖精は半ば発狂に近い感じで叫んだ。その叫び声を聞いた周囲の妖精達がその妖精に群がる。

 

「どうしました!?」

 

「だいじょうぶですか?」

 

「ぐすっ…ひっく……」

 

とうとう妖精は泣きだしてしまった。誇りを持って仕事に取り組んでいた妖精にとって、その仕事を侮辱されるという行為は何よりも辛いものであった。

 

「うえぇ!?一体どうしちゃったんですか!?」

 

妖精達が一箇所に集まっている事に気がついた明石は泣いている妖精を見て戸惑いを隠せないでいた。

 

「どこか怪我しちゃいましたか…?外傷は特には見当たらないようですけど……ん?」

 

明石は妖精の横にある作業中の装備が目に入った。

 

「おお…これは……」

 

「……!!」

 

妖精はビクッとして明石の方を見た。明石がまじまじと妖精の作った装備品を見ている。この人にも何か暴言を吐かれるのか?やっぱり自分は仕事は向いていないのか?何も出来ない自分になんか存在価値がないのか?妖精はそんな疑問ばかりが頭の中でぐるぐると回っていた。しかし明石が発した言葉は妖精の予想とは全く異なる物だった。

 

「へー…よく出来てますねこれ!」

 

「……へ?」

 

褒められた?毎回毎回頑張って作ってもゴミだと罵られ、鉄屑の様に捨てられていた装備を?唖然としている妖精を気にする様子もなく、明石は更に言葉を続ける。

 

「うん……すごく上手です!いい腕してますね!」

 

明石はそう言って妖精に笑いかけた。

 

「……!!!」

 

その瞬間妖精は胸の奥から何やら温かい物が溢れ出て来た。それは妖精にとって初めての感情だった。

 

「……うれしい…です……とっても………!!」

 

にっこりと笑いながら嬉しそうな表情をする妖精を見て周りの妖精達もつられて嬉しそうにはにかんだ。やがてその妖精は気がついたかのようにハッとしてから元気な声で呼びかけた。

 

「さぁ!もうひとがんばりです!」

 

「おう!おれたちでもできることをみせつけてやろうぜ!」

 

「やるぞー!」

 

「きあいじゅうぶんです!」

 

妖精達は再び作業に取り掛かる。その目はやる気に満ち満ちていた。どの妖精も楽しそうに、そして真剣に作業に取り組んでいる。それからしばらくして作業は終わりを迎えた。

 

「これで…さいごです!」

 

最後のネジをはめ終わったその時、何とも言えない高揚感に全身が包まれた。〇〇鎮守府妖精全員で作った物を明石の所まで持っていく。その目はきらきらとしており、非常に充実している様子だった。

 

「お!完成しましたか?どれどれ……」

 

息を呑む妖精達。明石はしばらくいろいろなチェックを手際よく済ませ、妖精達の前に立った。

 

「……うん!丁寧でいい仕事してますね!お疲れ様でした!…よかったらこれからも一緒に手伝ってくれませんか?」

 

妖精達は全員で顔を見合わせた後、明石に向かってペコリとお辞儀をした。

 

「よろしくおねがいします!」

 

「うん!どうやら肯定的なようですね!これからよろしくお願いします!」

 

明石も妖精達もお互いの目を見ながら朗らかに笑っていた。それから程なくして、明石の妖精達が〇〇鎮守府の妖精達に群がる。

 

「しんいりさんですね!よろしくおねがいします!」

 

「よろしくねー!」

 

「だれかしゅほうにくわしいかたいますかー?」

 

「しゅほうならおれにまかせろー!」

 

わいわいと楽しそうに工廠の奥に消えていく妖精達を見て明石はほっとしていた。

 

(どうやら仲良くやっていけそうですね…)

 

「さて、そろそろ私もお仕事に戻らなきゃ…」

 

軽く伸びをして、ふと下を向いてみると、栗色の髪の毛をした妖精が細かく震えながら明石のスカートに顔を埋めるようにぎゅっと抱きついていた。その服装はお世辞にも綺麗とは言えない。きっと〇〇鎮守府側の妖精なのだろう。そんな妖精を見かねた明石が話しかける。

 

「ん?あなたはあの子達と一緒に行かないんですか?」

 

その妖精は小さく首を縦に振った。明石にしがみついたまま、離れようとしない。

 

「うーん…どうしましょうか……」

 

「いっしょに…いさせて……ください………」

 

「…え?」

 

明石はゆっくりと視線を妖精に移した。

 

「わたし……さみしいです………」

 

「…えーっと……今話してるのはあなた…ですよね?」

 

「そうですけど……ってわたしのこえがきこえるんですか?」

 

「よ、よ、妖精さんって喋れたんですかぁ!?」

 

「い、いえ!なんというかわたし…なぜかほかのようせいさんとおしゃべりができないんです……だからいままでずっとひとりでいたんですよ……ってきいてます?」

 

「…あ!はい!もちろんです!それでそれで?」

 

明石にとって喋れる妖精というものはイレギュラーそのものだった。普段はあまり動じない性格の明石も、今回の件に関しては流石に動揺を隠しきれなかった。

 

「もう…ちゃんときいていてください」

 

「ごめんなさい…」

 

この後もしばらくこの妖精と話し合ったが、どうやら妖精相手だとろくにコミュニケーションが取れないが、明石とはコミュニケーションが取れる様だった。最初はどこか緊張していたような表情で話していた妖精だったが、明石と話していくうちに、少しだけだが笑顔を見せるようにまでなった。

 

 

 

 

(執務室)

 

 

 

 

「よーし、こんなもんでいいだろ」

 

長門と吹雪と提督は執務室の掃除の続きをしていた。執務室はなかなかの広さがあった為に思ってたよりも時間がかかってしまっていた。

 

「提督、この辺の壁はこのままでいいのか?」

 

長門が凹んだ壁をさすりながら聞いてきた。

 

「んー…取り敢えずもう少し時間経ってからかな。壁よりも先に優先すべきものがあるしね」

 

そんな会話をしていると、執務室の扉からノックの音がした。

 

「……提督、後ろに」

 

「…おう」

 

長門達は今度は艤装は出さず、提督の前に立ちふさがるようにして守っている。一呼吸あってから提督が言葉を発した。

 

「……入ってくれ」

 

その言葉の後、ゆっくりと執務室の扉が開いた。

 

 




はい15話目終わりました!お気に入り150件突破ありがとうございます!これからも見てくださったら嬉しいです!感想と評価の方もよかったらお願いしますー!ではまた次回でお会いしましょう!


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午後に

おっくれましたー!!リアルや梅雨イベが忙しくてなかなか執筆できませんでした!待ってて下さった方、本当に申し訳ないです!それとお気に入り200人突破ありがとうございます!これからもこんな駄文をどうぞよろしくお願いします!さて16話です!どうぞ!


「失礼します」

 

ゆっくりと開いた扉から既視感のある袴を履いた艦娘が表れた。

 

「鳳翔さんでしたか。どうかしましたか?」

 

「実はちょっとご相談がありまして…」

 

鳳翔は若干申し訳なさそうな表情をしている。

 

「何でしょうか?俺に出来る事なら協力しますよ」

 

「……!!ありがとうございます!」

 

鳳翔は提督に向かってペコリとお辞儀をした後、ゆっくりと話し始めた。

 

「……実は私、商店街へ行きたいんです」

 

「しょ、商店街ですか?」

 

思わず聞き返してしまった。この近くにある商店街といったら吹雪と一緒に行ったあそこの商店街しかないので多分そこの事を指しているんだろう…そんな事を考えながら提督は続く鳳翔の話を聞いていた。

 

「はい。実は私前の提督が居なくなってから一度だけ商店街の方へ向かってみたんです。そこには美味しそうなお肉やお野菜が沢山並んでいたんですけど…」

 

鳳翔の言葉が詰まる。

 

「それを貰う為にはどうもお金…?という紙や円形の金属片がどうしても必要らしくて……だから私達は鎮守府に生えてる野草等で何とか食いつないでいましたが…やっぱり限界があるので……だから商店街に行って栄養たっぷりの食べ物が欲しいんです」

 

『……え?』

 

その場にいた鳳翔以外の全員が驚きと戸惑いを感じていた。

 

「ほ、鳳翔さん。商店街の件は勿論大丈夫です。問題はそこではなくてですね…」

 

「お金……貰った事ないんですか?」

 

吹雪が心配そうな顔で鳳翔に尋ねた。

 

「お恥ずかしい話なのですが……」

 

鳳翔が俯きながら更に申し訳なさそうに聞いてきた。

 

 

 

『お金って……何なんですか?』

 

 

 

「なっ……」

 

鳳翔のその言葉に提督はただ絶句するしかなかった。長門と吹雪も目を見開いて驚いている。提督は戸惑いつつも冷静にお金の説明を始めた。

 

「鳳翔さん、お金というのはですね……」

 

「……なるほど!お金は商品と交換する為に必要な物だったんですね!」

 

「そういう解釈で大体合ってます。しかし……給料とかは支給されてなかったんですか?」

 

「きゅう……りょう…??」

 

鳳翔は首を傾げながら聞き返してきた。頭の上に?マークが浮いているように見える。

 

「私達艦娘でもきちんとお金を受け取れるようになっているはずなんですが…」

 

「おそらく、前の提督が横領なりなんなりしていたんだろうな……」

 

一気に執務室内の空気が重くなる。そんな空気を察した提督が少し明るめに話し始めた。

 

「ま、まぁ今回の食費は俺が建て替えますよ!後で大本営にもその辺の費用の件を問い合わせるのでとりあえず商店街に急ぎましょう!」

 

「は、はい!それじゃあ私はお出かけの準備をしてきますね!」

 

「了解です。準備が出来たら駐車場まで来てくださいね」

 

「はい、ではまた後で」

 

ガチャンと静かな音を立てて扉が閉まった。一瞬の沈黙があった後、長門が話し始める。

 

「提督…もし深海棲艦との戦いが終わった後彼女達は…」

 

「…あぁ、社会復帰は難しいだろうな。あの様子じゃ人間の一般常識のほとんどが分かってないかもしれない。その為の対策も後々練っていかないとな…」

 

するべき事が雪だるま式にどんどん増えていく。そんな先の見えない〇〇鎮守府の現状を受け止めつつ、提督は前向きに対処すると決めた。

 

「さ、司令官!私達も準備しましょ!」

 

「おっけー…って言っても準備する事無いんだけどな…」

 

 

(まさか一日に二回も商店街に行く事になるとは…)

 

 

 

 

(商店街)

 

 

 

 

「着いたぞー……っておい…」

 

車を商店街近くの駐車場に停めて後部座席を振り返るとそこには気持ちよさそうにすやすやと寝息をたてる長門と吹雪がいた。

 

「あらあら…二人ともお疲れのようですね…」

 

助手席の鳳翔がくすくすと笑いながら呟いた。

 

「まったく…気持ちよさそうに寝てんな……鳳翔さん、俺達だけで行きましょうか」

 

「はい…って置いて行っちゃうんですか?」

 

「二人共今日はよくやってくれましたからね…なーに!荷物は俺が持ちますよ!」

 

艦娘が熱中症になるのかは定かではないが念の為に車のエアコンは付けたままにして二人は車を降りた。それから二人は他愛もない話をしながら商店街へと向かった。

 

「鳳翔さん、どんな物を買うんですか?」

 

「そうですね…とりあえず今欲しい物はこれくらいですね」

 

そう言うと鳳翔はポケットから一枚の紙切れを取り出した。提督はその紙を受け取り、さっと目を通した。

 

「追加のお米に野菜に魚…新しい包丁……結構ありますね…」

 

「お粥だけだとどうしても補えない栄養もありますし、道具も大分使い込んでいまして……」

 

「なるほど…っとそうだ、これを渡しておかないと」

 

提督は数枚のお札を鳳翔に渡した。

 

「これがお金です。これだけあれば大体の物は買えると思いますが…足りない場合はまた呼んでくださいね」

 

「本当に…何から何までありがとうございます…」

 

「いえいえ、上の立場の者として当然の事をしたまでですよ!」

 

少し恥ずかしそうにはにかむ提督を見て鳳翔はとある異変を感じていた。

 

(何でしょう…胸が締め付けられてるみたいです…)

 

「鳳翔さん?」

 

「ひゃ、ひゃい!?」

 

提督が鳳翔の顔を覗き込んだその時、鳳翔は思わず変な声が出てしまった。

 

「大丈夫ですか?なんか心なしか顔が赤いような…」

 

「だ、大丈夫です!大丈夫ですから!!」

 

(かっ顔が近いですって……)

 

「そうですか…何かあったら遠慮なく言ってくださいね」

 

「どうしちゃったんでしょう私ったら…」

 

胸に手を当て考えてみるが、この感情が何なのか鳳翔にはわからなかった。それから少し無言の時間が続き、二人は商店街の入り口にたどり着いた。

 

「よし!じゃあ俺は野菜や魚を買ってくるんで!鳳翔さんは包丁などの器具を買って下さい!」

 

「はい!ではまた後で」

 

提督は食料品、鳳翔は調理器具と二手に別れて行動を始めた。

 

 

 

(提督side)

 

 

 

「えっと…とりあえずお米か…」

 

米屋を目指して商店街を歩くが、周囲の視線が冷たく提督に刺さる。すれ違う人も明らかに提督から距離を置き、目を合わせようともしない。

 

(うーん…どうも俺は歓迎にされていないようだな…)

 

そんな事を思いながらゆっくりと歩いていると、どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「おーい兄ちゃん、さっきぶりだな」

 

その声の方を向くと米屋の店主が大きな手を振っていた。どうやら考え込みながら歩いていたらいつの間にか米屋までたどり着いていたらしい。

 

「ど、どうも!すいません一日に何度も…」

 

「全然大丈夫だ。それで?あの大量にあった米がもう足りなくなったのか?」

 

「実はそうでして…また沢山買わせて頂けたらなと」

 

「そーかそーか!んじゃこれ持ってけ!」

 

そう言うと店主は笑いながら店の奥から大きめの米俵を一つ運んできた。

 

「これくらいでどうだ?」

 

「ありがとうございます!えーと…サイフは…っと」

 

「お代はいい、サービスって奴だ」

 

「えっ!?いや…そういう訳には…」

 

申し訳なさそうにする提督に向かって店主は少しだけ真面目な表情で話す。

 

「いいんだ、最初来た時ろくに兄ちゃんの話も聞かずに追い返しちまっただろ?それにその時貰った金のお釣りでもあるんだ。あいにく俺は借りた物はきちんと返す主義なもんでな…だからこの米を貰ってくれやしないか」

 

提督は少しだけ考える素振りを見せ、口を開いた。

 

「……分かりました!ありがたく頂きますね!」

 

「おう!美味しく食べてやってくれ!」

 

「ありがとうございます!…えーっと…」

 

「…テツでいいぞ、みんなそう呼んでる」

 

「……!!はい!テツさん!」

 

その後提督はテツと色んな事を話した。過去にここで何が起きたか、基本店はいつ頃閉まるか、八百屋の娘が美人だとか、たまに来る黒猫がかわいいとか、真面目な話から笑い話まで、二人は時間を忘れる程話に夢中になって話し込んでいた。

 




はい16話目が終わりました!これからはもう少し投稿頻度戻そうかなとも思っているのでこの先の話も暖かい目で見守って下さい!ではまた次回で会いましょー!


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二人の少女との出会い

どーもです!17話を書きましたー!あまりに長い期間を開けていたので構成等一部忘れている部分もあるかもしれません!ん?って思ったら遠慮なく言って下さいね!では17話目をどうぞ!


「で、その時に金剛の奴がですね…」

 

「わっはっは!そいつぁ傑作だなぁ!」

 

「おうおうおう!楽しそうだなーテツさん!」

 

楽しげに話す二人の間に一人の少女が若干割り込む様な形で話に入ってきた。

 

「テツさんがこんなに笑ってるのは久々に見たなぁ。ねぇ、その話あたしにも聞かせてくれよ!」

 

「お、おう!まずな…」

 

「あっはっは!何だそりゃ!面白いなぁおい!」

 

豪快に笑う少女に呆気に取られていると少女が提督の方を向いて話しかけてきた。

 

「自己紹介が遅れたな!私はそこの八百屋の娘のナミってんだ!よろしくな!」

 

「お、おう!よろしく!」

 

にぱっとした笑顔で右手を差し出され、若干困惑しながらも提督も右手を差し出した。ナミはふわふわとした黒いロングヘアーに笑った時に見える八重歯が印象的な元気いっぱいな子であった。

 

「その服…あそこの鎮守府の人だよなぁ?うちに来てみろよ!ちょっとくらいならまけるから…な?」

 

「えっ…えええ!?」

 

「兄ちゃん、すっかり懐かれちまったなぁ!」

 

「テツさんも見てないで助けて下さいよー!」

 

「ほらほらー早く早く!」

 

腕を掴まれてナミに引っ張られる提督。突然の出来事に慌てふためいていると、また別の方向から声が聞こえてきた。

 

「な、ナミちゃん…その人…」

 

「おーハル!ハルも来いよ!面白いぞーこの人!」

 

提督の腕を掴みながらぶんぶんと手を振るナミの視線の先にはナミより少し幼いくらいの少女が立っていた。ナミがハルと呼んでいたので名前はハルというのだろう。

 

「あいつはあたしの幼馴染のハルっていうんだ。あたしの店の隣の…ほら、あそこの魚屋!あそこがハルの店で…」

 

「ナミちゃん!」

 

ハルはナミの名前を呼んだ後、ナミの腕を掴んで半ば強引に提督から引き剥がした。

 

「ふぅ…ありがとうハルちゃん。お陰で助かったよ」

 

「勘違いしないでください…私はナミが危険だと思っただけです…」

 

ナミの腕を掴みながら軽く提督の方を睨むハルは、全体的に茶色がかったストレートなロングヘアーで、横に結んだ髪が彼女の可愛らしさを引き立てている。幼馴染だというナミとは真逆な性格の様で、落ち着いた雰囲気を漂わせていた。

 

「ナミ…あっち行こ?」

 

「ええっ!?まだあたし話し足りないん」

 

「いいから」

 

「わかったから!おいハル引っ張んなって!あぁっ!?……」

 

ハルは提督から視線を外し、ふいっと背を向けてナミの腕を引っ張ってどこかへ行ってしまった。ふいに見えたハルの横顔にはどこか悲しげな、そして静かな怒りが浮かび上がっていたようにも見えた。

 

「ハルの奴…どうしちまったんだろうな…普段はナミと一緒に話に入ってくるんだが…兄ちゃんなんかしたか?」

 

「いや、彼女達とは初対面ですし…」

 

「だよなぁ…」

 

「そういえばテツさん、例の八百屋の娘って…」

 

「おう!ナミの事だぞ!何というかこう…元気を貰える感じがしないか?ハルとナミはこの商店街のアイドルみたいな立ち位置で地元じゃちょっとした有名人なんだぜ!」

 

「へぇーそうなんですか!」

 

「ハルも可愛いとは思うんだが俺はやっぱりナミのあのサバサバとした性格がいいよなー何と言ってもあの八重歯が素敵だぜ…笑った時に一瞬だけ見え」

 

(あっ…謎のスイッチ入っちゃった)

 

それからテツは留まる事無しにナミについてを提督に熱く語るのであった。それからテツは一通りナミを語り終えると、笑顔で手を降って提督と別れた。

 

「ありがとなー兄ちゃん!また来てくれよ!」

 

「はい!その時はまたよろしくお願いします!」

 

(さてさて…あとは魚と野菜だが…ってやばい!!)

 

ふと腕時計を見ると店が閉店するまで二十分を切っていた。焦りながらポケットに突っこんでいたメモを取り出そうとするが…

 

「…!?え!?うっそだろ!?」

 

ない。確かに入れたはずなのにない。軍服についているポケット全てを裏返しにして確認してみるがやはりない。

 

(落とした…?とりあえず覚えている物だけでも…!)

 

「えーっと確か…あれと…それと……」

 

ぶつぶつと独り言を呟きながら必死に思い出そうとしていると誰かに背中をトントンと叩かれた。振り返るとそこには一枚の紙切れを持ったナミが立っていた。

 

「探してるのはこれか?」

 

「そうそれ…ってどうしてナミちゃんが…?」

 

「ハルに引っ張られたはずみで落としちゃってな…何とか紙は無くさずにいられたけどハルがなかなか放してくれなくてねぇ…時間かかっちゃってごめんな…」

 

「そっか…大丈夫、正直に言ってくれてありがとね」

 

紙を受け取ろうとして手を差し伸べると、ナミが少し俯きながら話してきた。

 

「…なぁ、あたしもその買い物手伝うよ!もう閉店まで時間ないだろ?それにあたしのせいみたいな所もあるからさ…」

 

少し俯きながら話すナミを見て提督は優しく答える。

 

「ありがとう。それじゃあ俺は野菜を買ってくるからナミちゃんは魚をお願い。俺は買う物覚えたからこの紙はナミちゃんが持ってて」

 

「…!!あぁ!任せろって!!」

 

胸をドンと叩いて八重歯を光らせるナミは提督からはとても眩しく見えた。

 

「それと…はいお金、買ったらまたここに集合ね」

 

「おう!また後でな!」

 

ナミと提督はささっと買い物を済ませて、何とか閉店時間ギリギリに買う事が出来た。そして二人は合流する。

 

「危なかったー…在庫も丁度残ってたからよかったよ…」

 

「ナミちゃんがいなかったら間に合わなかったな…本当に助かった…」

 

「いや、元はといえば私が悪いんだからな…」

 

 

『提督ー!』

 

 

ふいに横の方向から声が聞こえた。声のする方を向くと鳳翔が片手に大きなビニール袋を持って手を振りながらこちらに向かってきていた。

 

「お待たせして申し訳ありません…ってその子は…?」

 

「あたしはそこの八百屋の娘のナミ、よろしくな!」

 

「ナミちゃん…?よろしくね!」

 

その言葉の後、鳳翔とナミが握手を交わす。二人は温かい笑みを浮かべていた。

 

「それじゃああたしはそろそろご飯だから帰るよ!またうちの店にも来てくれよな!」

 

「うん!今日はありがとう!」

 

ぶんぶんと手を振りながら元気よく駆け足で去っていくナミに、提督と鳳翔も手を振り返した。

 

「さて提督…そろそろ帰りましょ…あっ」

 

「どうしました?鳳翔さん」

 

「お米…どうやって運びましょうか」

 

「あっ」

 

完全に盲点であった。あの時自信満々に”荷物は俺が持ちますよ!”と言っていた自分は何だったのか。提督は野菜と魚で完全に両手がふさがっており、鳳翔は片手なら空いているが、いくら艦娘でもこの量の米俵を片手で持つのは厳しかった。

 

「どうしようか…」

 

途方に暮れていたその時、一人の大柄の女性が近づいてきた。

 

「ふっ提督、この長門の出番のようだな」

 

そう、車で睡眠を取っていた長門だ。

 

「長門!ナイスタイミングだ!あれ吹雪は…?」

 

「吹雪には車の番をしてもらっている。盗まれたりしたら洒落にならないからな」

 

「あぁなるほど。じゃあ長門、早速で悪いけどこれ車まで運んでくれないか?」

 

「お安い御用だ」

 

長門は大きな米俵をひょいっと担ぐと、涼しい顔をして歩き始めた。

 

「それで鳳翔さん、今夜は何を作るんですか?」

 

「今夜もまだお粥ですね。でもちょっと具だくさんにするのできっとお昼のよりも美味しいと思いますよ!」

 

「何?これは絶対美味しいぞ提督!」

 

「わかったからちゃんと前を向いて歩け長門」

 

 

 

3人が楽しそうに笑いながら歩いていく様子をナミは店の影から眺めていた。

 

(うん!思った通りいい人そうじゃんか!やっぱり軍の奴全員が悪い奴じゃなさそうだなぁ…あたしがまだ小さい時には軍の奴にいろいろ悪さされてたらしいから近づくなって言われてたけど…)

 

「もう少しだけ……」

 

 

……ゾクッ…

 

 

『…!?』

 

(何だろ…?この感じ…物凄く嫌な予感がする…?)

 

その時ナミは感じた事もない不快感に襲われた。この不快感の正体が何なのか、この時のナミは知る由もなかった。

 




はい!17話目が終わりましたー!いやーやっぱり小説を書くのは楽しいですね!よかったら感想と評価の方もよろしくお願いしますー!ではまた次回でお会いしましょう!


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夕食の時間

どもどもー!18話目です!お気に入り250件突破ありがとうございます!これからも頑張って更新して行きますんでよろしくお願いしますね!では18話目です!どうぞ!


「あ!司令官!待ってましたよ!」

 

車に着くと吹雪が車の窓から笑顔で手を振っていた。

 

「おう吹雪!見張りありがと!悪いけど後ろのトランク開けてくれないか?」

 

「はい!もちろんです!」

 

みんながそれぞれ持っていた荷物を全部積み終わり、車体が若干後ろに傾いた車を発進させた。

 

「提督、帰りに冷たいアイスでもどうだ?」

 

「あ!いいですね!私もまた司令官のおごりで食べたいです!」

 

「また…?おごり……だと?」

 

「ばっか吹雪…」

 

吹雪はしまったと言わんばかりに口を手で塞いだ。長門は圧のある笑顔で提督に話しかける。

 

「提督?もちろんこの長門にもおごってもらえるんだろうな?まさか吹雪だけなんて言わないよな?」

 

「えっえーっと…あ!ほら!もうすぐ晩御飯だから!ね!そうですよね!鳳翔さん!」

 

「ふふふっ私はいちごのでお願いしますね」

 

「ほ、鳳翔さーん!」

 

結局提督は三人分のアイスを買って鎮守府に戻るのであった。

 

 

(○○鎮守府食堂)

 

 

「お!きたきた!まってたぜ!」

 

食堂に戻るとそこには既に天龍と龍田がいた。

 

「洗い物も全部済ませておいたわよ〜なんだかんだみんな全部食べてくれてたわ〜ほら見て、鍋も空っぽよ〜」

 

洗い終わった鍋を見た鳳翔はにっこりと心底嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「ふふっなら晩御飯は更に美味しく作らないといけませんね。皆さん、また私に協力してくださいませんか?」

 

鳳翔の問いに全員で互いに目配せをし、小さく頷いてから同時に返事をする。

 

 

『もちろん(です)!』

 

 

「みなさん…ありがとうございます!それじゃ私はお魚を捌きますから吹雪ちゃんは…」

 

鳳翔はそれぞれに料理の的確な指示を出していった。吹雪、龍田、長門、そして次は提督と天龍の番だが…

 

「提督と天龍さんは……」

 

鳳翔は少し考える素振りを見せてから提督と天龍に内容を伝えた。

 

「提督は今日買ったこのピーラーでお野菜の皮むきとお皿の用意をお願いします」

 

「分かりました!」

 

「天龍さんは部屋にいるみんなを呼んで来て下さい。嫌がるようでしたらまたみんなでお粥を運びましょう」

 

「お、おう!任せとけって!」

 

「それじゃあ行動開始!」

 

 

『おー!』

 

 

提督の掛け声に元気よく返事をする艦娘達。それぞれが与えられた作業を順調にこなしていき、あっという間にお粥が完成した。完成したのは人参やネギなどの野菜に白身魚も入ったとても具だくさんなお粥だった。今回のお粥は体によさそうだし、何よりとっても美味しそうだ。そんな事を考えていた時、天龍が複数の艦娘を連れて食堂まで戻ってきた。

 

 

「戻ったぜ!っておお!いい匂いだなーおい!」

 

「本当ね!お腹ぺこぺこだわ!」

 

「雷、もう少し落ち着くんだ」

 

「二人ともちょっと待ってよぉ」

 

天龍を先頭に三人の小学生くらいの女の子が入ってきた。

 

「ん?君たちは…?」

 

三人の女の子と提督の目が合った。

 

「私は雷よ!かみなりじゃないわ!あなたが司令官ね!よろしく頼むわ!」

 

「響だよ。その活躍から不死鳥の通り名もあるよ」

 

「暁よ!一人前のレディーとして扱ってよね!」

 

「雷ちゃんに響ちゃんに暁ちゃんか、三人共よろしくね」

 

 

『よろしく(ね!)』

 

 

三人共一見明るく振る舞っている様に見えたが、提督は三人の弱々しく握られた拳が震えている事と若干潤んでいた瞳を見逃さなかった。今はまだ軽い挨拶程度でいい。この調子で慣れてくれればいいと提督は判断した。

 

「それとあと…」

 

天龍が入り口の方を振り向いた時、丁度二人の女の子が入ってきた。

 

「早く!北上さん!」

 

「もーなんなのさー…」

 

ぱぁっとした笑顔で入ってくる雪風に手を引かれてきたのは中学生くらいのおさげの少女だった。どこかのんびりとした雰囲気がある彼女は、提督を見て若干顔を歪めた。そんな北上の様子に気がつかずに雪風が更に話しかける。

 

「北上さん!一緒に食べましょうよ!」

 

「あ、あー…ごめんゆっきー。ちょっとね…」

 

北上は食堂に入りかけたその足を止めた。その後俯いたかと思うと、回れ右をして食堂から無言で出ていこうとした。雪風が掴んでいた北上の左手を引く。

 

「待って下さい北上さん!」

 

「だから無理なんだって…私は部屋に…」

 

「何を言ってるんですかっ…行きますよっ…」

 

少しの間北上と雪風の引っ張り合いが続いたあと、北上が雪風に冷たく言い放つ。

 

「…放して」

 

「北上さん…」

 

バッと雪風を振り払い、長い廊下の先へ歩み始めた時、雪風が北上に向かってぼそっとつぶやく。

 

「そうやって…また自分から逃げるんですか」

 

その言葉を聞いてグッと下唇を噛む北上の表情を見る者はいなかった。震える右拳を握りしめながら北上は廊下の先へと消えていった。

 

「雪風…北上は…?」

 

天龍の問いに何も言わず雪風は首を横に振る。その表情はとても複雑で、言葉にし難い感情が現れていた。

 

「そっか…」

 

「だ、大丈夫です!雪風が北上さんの部屋に運びますから!」

 

雪風はいつも通りにぱっと笑うが、その笑顔にはどこか違和感がある。龍田の時の様な不気味な笑顔ではなく、何かを抑圧しているような無理をしている笑い方だった。

 

『作り笑顔だ』

 

あの時の笑顔とは明らかに雰囲気が違うと提督達は思った。そんな雪風を見かねた雷が雪風に話しかける。

 

「雪風ちゃん、私達と一緒に食べない?」

 

「えっでも…響ちゃんと暁ちゃんはそれでいいんですか?」

 

突然の事に困惑している雪風の問いに響と暁は考える事も無く答える。

 

「私はいいよ。みんなで食べる方が楽しいからね」

 

「もちろんいいわよ!さっ早く行きましょ!」

 

四人は一斉に鳳翔の所へ向かい、わいわいとお粥を盛り付けて貰った。その様子を見ていると、長門が耳打ちをしてきた。

 

「提督、雪風に北上の事を掘り下げないのか?」

 

「それはしない。いや、正確には”無理には”しないだな。おそらくだが雪風ちゃんはまだ俺達に話してくれない何かがある。まだ信頼関係もあまり築けていない今、掘り下げたら逆に雪風ちゃんを追い込む事になってしまうかもしれない。今はまだ向こうから話してくれるのを待つ事しか俺達には出来ない」

 

「なるほど…確かにその通りだが…」

 

そんな話し合いをしていた時、吹雪がお盆にお粥を乗せて近付いて来た。

 

「長門さん!一緒にお粥食べましょう!司令官もどうですか?」

 

そうだな…そう言おうとした時入り口からまた元気のいい声が聞こえてきた。

 

「わぁー!いい匂いですねー!お腹空いてきましたよ!」

 

「すげぇな明石…タイミングピッタリだぞ…」

 

若干引き気味の提督に明石はドヤ顔で答えた。

 

「ふっふーん、私のご飯センサーにビビッときましたからねー!」

 

「明石さん…凄すぎますよ…」

 

(さっき俺が呼びに行ったんだけどな…)

 

龍田と一緒にお粥を持って席につく天龍は苦笑いをしつつ心の中でそう呟いていた。提督と明石と長門と吹雪の四人は一つのテーブルを囲み、わいわいとお粥を食べ始めた。…提督ただ一人を除いて

 

「うーんやっぱり鳳翔さんのお料理は美味しいですね!司令官!」

 

「え?あ、あーうんそうだな」

 

曖昧な返事をする提督に吹雪は少しムッとした表情になった。

 

「……司令官、今私が聞いた事をそのまま言ってみて下さい」

 

「…すまん、考え事してて聞いてなかった」

 

「もう、ちゃんと聞いてて下さい!」

 

「珍しいですね…何かあったんですか?」

 

もぐもぐとお粥を頬張っている事情を知らない明石がキョトンとした顔で聞いてきた。

 

「何、ちょっと悩み事があってな…大丈夫、一人でもなんとかするさ」

 

はにかみながらスプーンを持つ手と逆の手で後頭部をポリポリとかく提督。その仕草が何を意味しているか、提督以外の三人は分かりきっていた。

 

(提督…)

 

長門が心の中で提督に問いかける。

 

(追い込まれているのは…提督も同じなのだろう?)

 




はい!18話目が終わりました!モチベにも繋がるので感想と評価の方もよろしくお願いします!ではまた次回、19話で会いましょう!


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悲痛な思い

どーもっ!19話目です!最近ほのぼのばっかだったのでシリアス要素を入れてみました!やっぱり妄想とはいえ文章で書くのは難しいですね…では19話目です!どうぞ!


『そうやって…また逃げるんですか』

 

その言葉が北上の頭の中でぐるぐると駆け回っていた。

 

「別に…あたしは逃げてなんか…」

 

か細い声を漏らしながら部屋に飾ってある一枚の写真を手に取る。色あせてしまっているが折れ曲がったりなどは一切なく、とても大事にされている様だった。

 

「ごめんね…大井っち……あたしのせいで…」

 

胸に写真を当て、目を閉じる。一筋の涙が頬を伝う。やがてそれは小さな嗚咽へと変わっていった。

 

「バカだよねあたし…親友の一人も守れないくせにさ…」

 

北上が再び写真に向き直る。目に入ってくるのは楽しかった過去、茶色いロングヘアーの艦娘”大井”と海を背景に満面の笑みでピースをしている写真。北上と大井、二人の一番のお気に入りの写真であり、唯一残っている二人の写真でもあった。そんな写真に向かって北上はまた話しかける。

 

「わかってる…わかってるよ大井っち……ちゃんと受け入れなきゃいけないのに…でも……でもどうしても………」

 

そこから先は無言で、一つしか埋まらないボロボロのベッドの上で写真を眺めながらただただ時間だけが静かに過ぎ去っていった。

 

 

(食堂)

 

 

「鳳翔さん、ごちそうさまです!」

 

「はい提督、今日はありがとうございました」

 

「あれ提督?もう行っちゃうんですか?」

 

「あぁ、ちょっとな…」

 

提督は一足先にお粥を食べ終わり、部屋から出ていこうとした。

 

「あ、司令官、ちょっと待ってくれるかな」

 

その時、入り口付近の席に座っていた響に呼び止められた。

 

「悪いね、もう少しで食べ終わるから…」

 

残っていたお粥をすぐに流し込み、食器を返却してから提督に近寄った。

 

「響ちゃん、どうかしたの?」

 

「何、ちょっと鎮守府の案内をしてあげたくてね」

 

どうやら鎮守府の案内をしてくれるようだ。

 

「そっか…うん、この鎮守府の状態も把握しておきたいし…頼めるかな?」

 

「もちろんだよ…あ、それと間接的とはいえ司令官は私達の命の恩人だから変なマネはしないよ。だからそんなに険しい顔をしないでくれるかな」

 

話を聞きながら響の方をチラチラ見ていた吹雪と響の目が合う。数秒間目があった状態が続いたが、吹雪は力の抜けた様な表情になって、静かに頷いた。

 

(どうやら嘘は言っていないようですね…司令官が納得しているなら私が止める理由もありません)

 

 

「おっけーが出たみたいだし、行こうか」

 

 

それから提督は工廠の位置や入渠ドック、演習場などの施設を次々と案内された。工廠や入渠ドッグは明石のお陰でまぁまぁ綺麗な状態になっていた。その他の施設もお世辞にも綺麗とは言えないが、何よりダントツで艦娘寮が酷かった。

 

 

(艦娘寮)

 

 

案内された場所はギリギリ寮と呼べるかわからないくらいのボロボロの小さなアパートみたいな建物だった。駆逐艦寮に案内されたが、もはや寮というより刑務所の様な雰囲気だった。

 

「ここが私達の寮だよ。かつては戦艦、空母、重巡、軽巡、駆逐、それぞれで二部屋ずつ用意されていたけど今の私達の人数なら丁度いいかな」

 

「今の…?」

 

提督からの問い返しに響は若干声のトーンを下げて話す。

 

「…かつてはこの寮も艦娘で溢れていたんだ。前の司令官…いや、あいつは毎日狂ったように建造をしていたからね。この小さな寮はいつもパンク状態だったのさ。ほら、想像できるかい?こんな小さな部屋に何十人の艦娘が住んでいたんだ。住んでいた…?いや、その後に泣き叫びながら引きずられていったから実質待機場みたいな役割だったね」

 

「……………」

 

提督は黙って響の話を聞いていた。

 

「今でも思い出すよ…新しく入ってきては異様な雰囲気に怯える駆逐艦。助けてと嘆きながら戦艦や空母のみんなに引きずられながらどこかへ連れていかれていたな…その後戻って来る事はなかったけどね。何回目かわからない初めましてに精神がおかしくなりそうになったりした事もあったね」

 

「…………………………」

 

更に響の話は続く。

 

「暁も雷も電も…もう何人目か覚えていない。建造ドックから飛び出してきて『響!』って笑顔で手を振る姉妹の顔が絶望に染まっていくんだ。…立場が逆だったとしたら酷く心が痛むね」

 

帽子を深く被り、歯を食いしばりながら必死に涙を堪えながらも尚、話を止めない。

 

「…どちらにせよ、過ぎた話さ。今は暁と雷……電の三人がいてくれている。何度も失って…決して慣れたという訳ではないが今の三人を失ってもどこかで『またか』と思ってしまいそうな自分がいるんだ。それが怖い…怖いんだ……とても」

 

いつの間にか溢れだした涙を拭う事もなく真っ直ぐと提督を見つめる。

 

「司令官…私は……辛いんだ…だからいっそ……」

 

「おっと響、それ以上は駄目だ」

 

「でも…」

 

「でもじゃない」

 

いつになく低く、強い口調で話す提督。その声に響は若干怯む様子を見せた。

 

「さっき自分で言ってただろ。響がいなくなったら残されたあの子たちはどうなる。…少なくともいい反応はしないと思うぞ」

 

「司令官…」

 

「無論辛かった過去をさっぱり忘れろなんて言わない。不可能だからだ。それはあの子達も同じだろうな。響の事をさっぱり忘れる事は出来ないだろう」

 

「……………」

 

「だけど心配するな。あの子達も、そして響も、この鎮守府のみんなも大切な仲間だ。簡単に失ったりはしない。いや、させないから」

 

提督はきっぱりと断言した。その目には決意と信念の思いがはっきりと表れていた。その目を見た響は俯いたかと思うと提督の背中にゆっくりと回って抱きしめてきた。

 

……ぽすっ…

 

「…ごめん司令官…もう少し…このままでいいかな」

 

「……響が満足するまでいいぞ」

 

「…うん」

 

響の乾いた涙は月の光に照らされて輝いていた。その表情はどこか安心したような、何かから開放されたような穏やかな顔をしていた。

 

(司令官の背中…大きくて温かいな…)

 

「なぁ響ちゃん、一つだけ聞いてもいいかな?」

 

「なんだい?」

 

響がそのままの姿勢で話す。

 

「何で響ちゃんは前提督の時の戦艦や空母に連れて行かれなかったんだ?」

 

「……さぁね、運がよかったんじゃないかな」

 

一瞬の間のあと、軽く流されてしまった。この後会話する事なく同じ時間が続いていた。しばらくこの時間が続いた後、寮の入り口の方から足音が聞こえた。

 

「おっと…戻ってきたようだね」

 

響はぱっと手を離し、帽子を整える。

 

「もういいのか?」

 

「流石にあんな姿を見られる訳にはいかないからね…それにもう充分さ」

 

「…そうか」

 

「司令官、今日はありがとう」

 

その言葉と共に響はにへらっと屈託のない笑顔を提督に向ける。

 

「いーや、元気になってくれたようで何よりだよ」

 

「またお願いしてもいいかな」

 

「…程々にな?」

 

そんな会話をしていると元気よく雷と暁が入ってきた。

 

「響!戻ったわ!って司令官も!」

 

「あ、ごめんね!勝手にお邪魔しちゃって」

 

「全然大丈夫よ!むしろ歓迎するわ!」

 

「ははっありがと…しかし改めて見ると……」

 

響との会話に夢中になっていたのであまり気にしていなかったが、いざ部屋を見てみると本当に殺風景である。…殺風景どころか生活必需品すらない。

 

「…ねぇ雷ちゃん、ちょっと聞いてもいいかな?」

 

「いいのよ!何でも聞いてちょうだい!」

 

どんとこい!と言わんばかりに胸を張る雷。

 

「えっと…寝具とかは?」

 

「そんな高価な物使えないわ!床があるじゃない!」

 

「床って…このコンクリの上でかい?」

 

「そうよ!夏はちょっと暑いけど…冬はみんなで固まって寝るから寒くはないのよ!」

 

まるで当然かのように話してくる。どうやらこの環境に慣れてしまっているらしい。文句を言わない辺り、雷にとっての”当たり前”として定着しているのだろう。

 

「そっか…ありがとね。じゃあ俺はもう行くから」

 

そう言い残し、艦娘寮から去る提督。その時寮の二階、軽巡洋艦寮からその背中を睨む視線があった事を提督は知らない。

 




はい!19話目が終わりました!モチベ上がるんで感想と評価の方もよろしくお願いしますー!次は記念すべき?20話目ですー!ではまた次回で会いましょう!


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初夜

どもどもっ!20話目です!正直ここまで続くとは思ってませんでした!これからも読んで下さったら嬉しいです!では20話目です!どうぞー!


(工廠)

 

「はぁー!鳳翔さんのお粥美味しかったー!」

 

お腹をさすり、満足気な表情を浮かべて明石が工廠に戻ってきた。そこから明石は例の大きなリュックから大きな瓶を取り出した。

 

「それはそうと…みんなー!ご飯ですよー!」

 

そう言ってパンパンと手を叩いた瞬間、どこからともなく妖精達がわらわらと出てきた。そこにはすっかり馴染んだであろう○○鎮守府妖精の姿もあった。きっちりと一列に並んで目を輝かせている。

 

「お!もうすっかり仲良しじゃないですか!…っと、はい、今日もお疲れ様でした。また明日もよろしくお願いしますね!」

 

妖精達一人一人に声をかけながら金平糖を渡していき、ついに最後の一人にも渡し終わった。

 

「ゆっくり食べてくださいねー!ってそういえばあの子はどこに…?」

 

きょろきょろと辺りを見渡しながら探しているのはあの喋れる妖精だった。だがいくら探しても姿が見えない。

 

「どこ行っちゃったんでしょうか…」

 

「こ、ここですよー!」

 

「え?ど、どこですか?」

 

声は聞こえるがやはりその姿を確認する事が出来ない。

 

「ぷはっ…ずっといたんですけど…」

 

明石の髪の毛の間からスルッとその妖精が出てきた。

 

「……流石にわかりませんよそこは……はい!今日はおつ…」

 

「どうかしました?」

 

金平糖を渡そうとしてフリーズした明石を妖精が不思議そうな表情を浮かべてじっと見つめる。

 

「唐突ですが名前を付けたいなと思いまして……うーん…話せる妖精さんだから”はな”とかどうですか?」

 

「はな……??はな…ふふふっはな!!」

 

どこか照れ臭そうに、そして嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。どうやらはなという名前が気に入ったらしい。

 

「これからもよろしくお願いしますね、はな」

 

「こちらこそです!」

 

そんな会話があった後、はなは金平糖を受け取って食べ始めたかと思ったら、思い出したかの様に明石に話しかけた。

 

「あ、そういえばあかしさん」

 

「んー?どうしたのはな」

 

明石ははなに背を向けてリュックの中から取り出したハンモックを抱えながら、きょろきょろと設置出来そうな場所を探していた。

 

「……わたしのかんちがいかもしれないですが、あのていとくさんからよわいしんかいのにおいがしまして…」

 

「…え?それって…どういうこと?」

 

明石はピタッと止まってはなの方を振り返った。その表情は真剣その物だった。

 

「そのまんまのいみです…どこかでついたのでしょうか…あるいは…その……ていとくさんが…」

 

「……やめてください」

 

「でも…」

 

「悪い冗談は嫌いですよ」

 

「あかしさん……」

 

「…提督が?そんな訳ないじゃないですか。いや、あるはずがありません」

 

自分に言い聞かせるように言った。妖精の目に嘘はない。きっと事実なのだろう。頭ではわかっているが、心が”そんな訳ない”と拒絶してしまう。

 

(…そうですよね?提督)

 

 

(執務室)

 

 

「ん…んー……ハッ!あっぶねー…」

 

「提督…もう休んだらどうだ?」

 

響との会話を終えた提督は再び執務室に戻り、長門と一緒に大量の執務に追われていた。時刻は0100、今日一日で色んな出来事があり、提督が心身共に少なからず疲労している事は誰が見ても明らかであった。そんな中睡魔に襲われるのは当然の事である。

 

「いんや…長門だけに…任せた…ら……悪いって…」

 

「…提督は充分やってくれたぞ。それに私は昼に一度寝てしまっているからな。あまり眠くない。残りは私が片付けておくから提督はもう寝るんだ」

 

「あーそっか…悪い、じゃあお言葉に甘えて…寝させて貰うよ。おやすみ長門…寝袋は…あぁここか」

 

「あぁ、おやすみ提督」

 

眠い目を擦りながら鎮守府から持ってきた寝袋を抱えて執務室から出ていく提督を見送った後、長門は少しながめの伸びをした。

 

「ふぅーっ…さて、もう一頑張りしてから寝るとしよう。それと…」

 

その言葉と共に長門はキッと天井を睨む。

 

「いつまでそこにいるつもりだ?まさか気がついてないとでも思っているのか?」

 

「あちゃー…隠密行動には結構自信あったのになぁ…」

 

そう聞こえたかと思うとガタンと天井の一部が落ちてきた。もうもうとホコリが立ち込める。その中から一人の少女のシルエットが浮かび上がった。

 

「君すごいねー!今までほんの数人しか、それも姉妹じゃないとバレる事なんてなかったのに!ねぇねぇ!名前!教えてよ!」

 

周囲のホコリが落ちついてきた頃、ようやくその少女の姿がはっきりと見えてきた。短めのツインテに弾けるような笑顔、そして忍者を連想させるようなその服装はかなり特徴的であった。

 

「…私は戦艦長門だ。して、なぜこの時間帯…そして天井裏にいた?返答次第ではこのまま帰す訳にはいかないぞ」

 

「そっかー!長門って言うんだ!私は軽巡川内。そんな怖い顔しないでよって…うーんとね…これこれ、これを渡しに来たんだ」

 

そう言うと川内はポケットから折りたたまれた一枚の紙を取り出した。その表情は先程とは打って変わって真剣である。

 

「この手紙、あの提督に届けてくれるかな?文字を書くのは少し苦手だからちゃんと伝わるか自信ないけど…聞いて欲しい事を書いたから」

 

「…なるほど、事情はわかった。だがそれなら昼に、それに口頭でもよかったはずだ」

 

「確かにそうだけど…これにはちょっと深い事情があってね…」

 

川内は困ったように頬をかきながらはにかんだ。

 

「私には妹の神通…そして那珂がいる。私は全然大丈夫なんだけど神通が”提督”に対して強烈なトラウマを持っているからか提督に会わせてくれなくてね…神通が寝静まった深夜にこっそりこの手紙を執務室に置いときたかったの。この時間だから提督が起きているかも分からなかったし万が一神通に気が付かれてもいなかった時間が短かったらトイレに行ってたとか言い訳できるしね。だから私は手紙という方法を取ったの。それに天井裏なら誰かと鉢合わせて面倒事ってことにもならないからさ」

 

「……いろいろ大変なのだな。よしわかった。手紙はこの長門が責任を持って明日提督へ届けよう」

 

「ありがとう長門!はいこれ。…ところで、夜は好き?」

 

長門は手紙を渡された後の唐突な質問に戸惑っていた。そんな長門の様子を見て川内は何かを想うような視線を窓の外にうつした。

 

「私は好きだよ…この静かな空気が。何も見えないような闇の中の優しい月の光が。何というか…すごく落ち着くんだ」

 

「ふむ、わかるぞ。私も昼よりも夜の方が静かで集中出来るような気がするからな。昼よりかは夜の方が好きだ」

 

「あ、やっぱり?そうだよねー!やっぱり夜だよねー!ってやば!そろそろ戻らないと…じゃあね!長門!また!」

 

そう言って手を振ったかと思うと、慣れた手つきで天井裏に戻り、あっという間に部屋へ戻っていってしまった。

 

(……軽巡川内か…あの艤装と雰囲気…もしや改二か?それに…)

 

その時ふっと渡された手紙の事を思い出した。ポケットから取り出したその紙には『提督へ』とだけ書かれていた。

 

「これだけか…?ん、あぁ。折りたたまれているのか…」

 

折り目が強かったせいで気が付かなかったが、その中にはぎこちない文字がずらっと並んでいた。

 

「これは”提督宛”の手紙だから私が読んでしまうのは違うな。うーむ…とりあえず提督用のファイルに挟んでおこう」

 

長門は山のように積まれたファイルの中から一つを取り出し、大事そうにしまった。

 

「さて、私もいい時間だし寝るとしよう。寝袋を持ってきたのは正解だったな」

 

長門も少し疲労が溜まっていたのか、割とすんなりと寝る事が出来た。静かな執務室にはスースーと長門の寝息だけが響いていた。

 




はい!20話目が終わりました!モチベが上がるので良かったら感想と評価の方もぜひぜひよろしくお願いしますー!ではまた次回でお会いしましょう!


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失ったはずの物

どーもですー!21話目に入りました!お気に入り350件突破、本当にありがとうございます!今後共この小説をよろしくお願いいたしますー!では21話目です!どうぞ!


「ん…んぁ…あーそっか…寝ちゃってたのかあたし…」

 

眩しい光と共に北上はボロボロのベッドから起床した。元々朝に弱いタイプの北上はボケーッとした焦点の定まらない目でしばらくベッドの上で座っていた。

 

「…北上さん!もう!やっと起きたんですね!」

 

聞こえるはずのない懐かしい声が部屋の隅から聞こえる。寝起きで理解が追いついていない北上は反射的にその声に答えた。

 

「んー…ごめん大井っち……え…ええ!?大井っち!?何で!?」

 

突然の出来事に戸惑いを隠せない北上。そこには見覚えのありすぎる茶色いロングヘアーの艦娘、大井が立っていた。

 

「何で!?あの時確かに大井っちは…」

 

「何寝ぼけてるんですか?縁起でもない事言わないで下さい…ほーら!寝癖直して!しゃきっとして下さい!全く…大体北上さんは朝になるといつもいつも……」

 

「大井っち…」

 

記憶にある大井と全く変わらない様子にどこか嬉しく感じてしまう北上がいた。

 

「あは…あははっ大井っちだ!大井っち!大井っち……うぅっ……ひぐっ…うあああああああっ…」

 

感情を抑えきれなくなり、北上は大井に抱きつくようにして泣き始めた。

 

「ちょっと北上さん!?話聞いてました!?…もう!本当に今日はどうしちゃったんですか!?」

 

うろたえる大井の様子を見る事もなくただ無我夢中で泣いていた。それからしばらくして北上はようやく落ち着きを取り戻した。

 

「へへっごめんね大井っち急に取り乱して」

 

「今日の北上さん変ですよ…ってもうこんな時間!?北上さん!早く行きますよ!」

 

「え!?ちょ、ちょっとどこへ行くのさー!」

 

大井は慌てた様子で北上の手を取り走り出した。その表情には焦りと恐怖の色がはっきりと映し出されていた。しばらく大井に引っ張られた後に着いたのは執務室の前だった。その瞬間、北上の全身に悪寒が走る。足がガクガクと震えだし、本能的に危険を感じ取っているようにも見える。

 

「あ…お…大井っち……」

 

「……失礼します」

 

大井はそんな北上の様子を見る事もなく執務室の重たい扉を開く。きしむ音を立てながら空いた扉の先には忘れる事のない憎い顔があった。

 

 

『おせーぞノロマ共。さっさと出撃してこい』

 

 

その顔、その体型、その声、その髪型、その仕草、その喋り方、あらゆる行為が北上の心の奥の物を抉り返す。覚えている。覚えてしまっているのだ。気だるそうに書類を持ちながら目の前に立っている若い男の事を。

 

他の誰でもない。前提督だった。

 

「……!!ねぇ大井っち!?今日って何にt…ゲボォッ」

 

「俺が喋ってる時に喋んじゃねぇよ」

 

腹部に強烈な膝蹴りが入った。あまりの痛さに一瞬呼吸が止まり、倒れ込んでしまう。大井はちらりと北上の方を向き、歯を食いしばりながらも前提督に正対して敬礼をした。

 

「……ッ…提督、重雷装艦大井、出撃します!…ほら、北上さんも」

 

「あぐ…ぐ……嫌…だ……」

 

「あ?」

 

再び鈍い音が響く。脇腹を思い切り蹴られたのだ。北上は声にならない叫びを上げ、再び丸まってしまう。前提督はそんな北上の髪を容赦なく掴み、顔を上げさせる。

 

「よく聞け、これがラストチャンスだ。お前はこれからこいつと二人で遠征に行くんだよ。わかったらさっさと返事をしてこっから出てけ。目障りだ」

 

前提督はそう吐き捨てると、北上から手を離して珈琲を淹れ始めた。その間にも北上は悶え続けていた。

 

「あ゙ぁ…ぐぞぉ…」

 

「お前いつまで寝てんだようっせぇな…おい茶髪!早くそいつ連れて遠征に行けよ!」

 

「はっはい!ただいま!」

 

そう言って大井は北上に肩を貸し、執務室から出ていった。ゆらゆらとおぼつかない足取りで大井と歩いていたその時、ザザッとノイズのような音が北上の脳内を掛け巡った。

 

「……!?」

 

すると先程までの痛みは全くなく、大量のドラム缶と艤装を付けた状態で海上を滑っていた。先程までは体の自由が効いていたのだが、自分の意志に反して体が勝手に動いている不思議な感覚に北上は陥っていた

 

(何……これ…)

 

言葉を口に出す事も出来ない。まるで一人称の映像を見ているようだった。

 

(ここは……どこ?……くそっ動けって…)

 

バタバタともがいているつもりだったが、その状況が変わる事は一切無かった。

 

 

『北上さん、あと2時間ちょっとで母港です。頑張りましょうね!』

 

 

(………!!)

 

忘れない。忘れる事なく耳に残り続けていた大井からの無線。この時、北上は確信した。

 

(やっぱり…”今日”だったんだ……!ならこの後!!)

 

そう思った瞬間、目の前を航行している大井の周りに突如として大きな水柱が上がった。この自分の身長の何倍もある水柱に、北上は強烈なデジャヴを感じていた。

 

『北上さん!南西の方向に未知の深海棲艦を発見!』

 

突然大井が無線越しに叫んだ。

 

(あいつ…あの時の……!!)

 

ふいっと振り向いた南西の方向にはフードを被ったような人型の禍々しい深海棲艦がニヤつきながらこちらを見ていた。北上は分かっていた。こいつがどれ程凶悪な奴なのかを。そしてこの後何が起こるかも全て…

 

『一隻…北上さんと私の魚雷を叩き込めば中破には持っていけそうですね…持っていけなかったら隙をついて全力で逃げましょう』

 

(駄目だよ大井っち!早く…早く逃げなきゃ!!!)

 

そんな声も虚しく、大井と一緒にどんどんとその個体に距離をつめていく。最悪の記憶が脳裏をよぎる。

 

「ハハッ…イイネェ…タノシマセテクレヨォ…?」

 

未知の個体はその見た目とは裏腹に物凄いスピードで航行を始めた。こちらの様子を伺っているのかニヤニヤしたまま滑っていて攻撃して来る気配が全く感じられなかった。

 

「中々すばしっこいわね…そこよ!!」

 

大井は進路を読んで大量の魚雷を放った。北上もそれに続くように魚雷を放つ。その魚雷は一直線に未知個体まで白線を引いていき、直撃した…直撃したのだ。普通なら中破はおろか大破まで持っていけるような手応えであったが、その未知個体はキョトンとした顔で何事もなかったかの様に海上を滑っていた。

 

「…アレ?モウオワリ?ナンダァ…ツマンナイナ……」

 

先程からのニヤニヤから一転、明らかに残念そうな顔をした後に、後ろについている尻尾のような物が唸りを上げ、砲弾が飛ばされた。

 

「モウキミタチイラナイヤ!バイバイ!」

 

ケラケラと笑いながらポンポンと重たい砲撃を放ってくる。大井と北上はそれを避けるのに必死だった。

 

「ハハハッ…オドレヨォ…ホラ…モットオドレェッ!!」

 

必死に避けている様を見るのが面白いのか、わざと少し外れた位置を狙っているようにも感じる。

 

(くそっ…あいつ……ぎやっ!?)

 

一発の重い砲弾が北上の左腕に命中した。バキンと骨の折れる音が自分でもよく分かった。左腕はダランと垂れ下がり、動かす事すらできなくなってしまった。

 

『北上さん!大丈夫…きゃああっ』

 

北上の方を振り向いて無線を飛ばしてきた大井が突如として爆発し、メラメラと燃え盛る炎の中にのみこまれていった。かろうじて沈んではいないものの大破は確実。たったの一撃で大井はそんなダメージを負ってしまった。

 

「ア、アタッチャッタカ…マァイイヤ。アイツハジキニシズム…ツギハオマエダ。コンドハジックリト…アソンデアゲナキャネェ!!」

 

尻尾の主砲が北上の方へと向く。その未知個体の目はハイライトを失い、口角だけがつり上がっているという何とも不気味な物だった。そんな未知個体を前にしても尚、北上は心の灯を燃やし続けていた。

 

(今度は…今度こそ…)

 

 

「今度こそ!!大井っちと二人で生き抜いてやる!!こんなクソッタレな結末なんてあたしが…あたしがねじ曲げてやる!!!」

 

 

全力で叫んだ。まるで糸が切れたかの様に北上の体に自由が戻る。フルスピードで水面を滑って未知個体の砲撃を回避しながらタイミングを見計らい、渾身の魚雷を放った。

 

「……ここだ!!くたばれ…”戦艦レ級”!!!」

 




はい!21話目が終わりましたー!”レ級は喋る”という設定なので把握よろしくお願いします!ではまた次回22話でお会いしましょう!


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悪夢

どうもですっ!22話目を書きました!頻度上げたいけど中々忙しくて上げられないのです…超不定期更新ですがこれからもよかったら見て下さいね!では22話です!どうぞ!


北上の放った魚雷は先程と同じ様に航行するレ級へ吸い込まれるかのように白線を引いていった。

 

「ツマンナイナァ…ホントニ…」

 

レ級がそうぼそっと呟いた瞬間、大きな水柱が登った。間違いなく直撃していたはず。無傷ではいられないだろう。心の中でそんな淡い期待を抱いていたが、そんな思いは次の瞬間、完全に砕け散った。

 

「あ…あぁ……嘘…」

 

さぁっと落ちてくる水しぶきの隙間から見えたのは退屈そうな表情をしながらピンピンとしているレ級の姿だった。

 

「ハァ…オマエモモウヨウズミダ……キエロ」

 

北上は膝を震わせながらただ呆然と立ち尽くす事しかできなかった。あの時と全く同じ、何も出来ない自分が心底憎い。そんな北上の絶望を楽しむかのようにレ級はゆっくりと北上に主砲を向ける。

 

「アァ……イイヒョウジョウダネェ…タマラナイ…タマラナイナァ!アハハハハハハ!!」

 

(何か…何か何か何か何か何か何か…何か!!)

 

「ホラホラァ…ジュウ…キュウ…ハチ…」

 

(嫌だ!またあの時みたいに大井っちを見捨てるなんて…!!)

 

「ナナ…ロク…ゴ…」

 

レ級は広角を不気味につりあげながら北上にゆっくりと近づき、主砲を額に突きつけた。一方の北上は全身がガクガクと震わせていて立っているのがやっとという状態だった。

 

「ヨン…サン…二………ギャアアアァァ!!」

 

北上には一瞬何が起きたのかが分からなかった。目の前で歪んだ笑顔を浮かべていたレ級はいつの間にか左目を抑えながら酷く苦しそうにもがいていた。

 

「テメェ…ゼッタイユルサネェカラナァ!!」

 

レ級が右目でギロリと鋭く睨んだ先を追って見てみると、ボロボロになりながらも曲がった主砲を構える大井の姿があった。レ級は大井の方へと素早く近寄っていき、大井の首を右手で掴んで持ち上げた。レ級の右目には片目ながらもはっきりとした怒りが表れていた。大井は重力に従ってだらんと持ち上げられているだけだった。その時、北上の無線に途切れ途切れの弱々しい無線が入ってきた。

 

相手はまさに目の前で瀕死になっている大井だった。

 

北上は震える手を耳に当てて無線を聞いた。

 

 

『……き………て……き……たか……み…さん……』

 

 

次の瞬間レ級は大井に対してゼロ距離で砲撃を行った。大井の頭部が弾け飛び、周辺の海が一瞬で赤黒く染まる。返り血を浴びながらゲラゲラと笑うレ級は大井の胴体を軽々しくぽいっと投げ捨てて北上の方を向いた。呆然と立ち尽くす北上はもはや言葉を放つことすら出来ずに目を見開いてただ口をパクパクさせているだけだった。

 

(また……あの時と同じ様に…守れなかった……)

 

「サーテ…マタセタネェ…ダイジョウブ、スグニオマエモアイツノトコロへオクッテヤルカラサァ…」

 

レ級がニタニタした笑顔で北上の頭に主砲を突きつけた。

 

「キエロ」

 

レ級がそう言葉を発した瞬間、またあのノイズが脳内をかけ巡った。今度は酷い頭痛も伴っていた。北上はあまりの痛みに目を閉じてしまう。しばらく頭痛は続き、ぐわんぐわんと回る感覚もあった。頭痛が軽くなり恐る恐る目を開くとそこにはまた見覚えのある扉が目の前に表れた。

 

(……!?)

 

もう何が何だかわからなかった。あの時確かに額に当てられたレ級の主砲の感覚も生々しく残っている。左腕も力なく垂れ下がり、動かない。どうやってここまで戻って来たかも分からず、ただただ執務室の扉の前に立っているという事実だけが存在していた。

 

「………失礼します…」

 

頭では入ってはいけないと言っているが、体はそうもいかないようだ。手足を震わせながら重たい扉を押すと相変わらず気だるそうに書類を眺める前提督の姿があった。

 

「……戦果報告、早くしろ」

 

「あっ…え……えっと……」

 

親友の大井が轟沈したなど口が裂けても言えなかった。いや、ただその事実を認めたく無かっただけかもしれない。とにかく言葉が詰まり、口から何も出てこなかった。

 

「はっきり言え、こいつがどうなってもいいのならな」

 

(……!!それは!!)

 

大切に大切にしまっておいた大井との思い出の写真が入ったしわしわの封筒をなぜか前提督が持っていた。

 

「……なぜそれをあんたが持ってんのさ」

 

「どうでもいいだろそんな事。お前ら艦娘はただの鉄屑だろうが。こんなくっだらねぇ友情ごっこなんか必要ねぇんだよ。あ、この写真撮った青葉とかいう奴は後で解体しとかねぇとな」

 

そう言うと提督はポケットをごそごそと漁ったかと思うと、残りオイルの少ないライターを取り出した。

 

「……!!まさか!!」

 

考えるより先に体が動いていた。前提督に向かって一直線に走り出し、写真を取り返そうと走り出した。しかし、もう少しで手が届くという所で何者かに羽交い締めにされてしまった。艦娘だろうか。自分より体格は小柄だが、力は北上同様…いや、それ以上に強かった。

 

「あっ……くそっ!!離せ!!!離せよ!!!!」

 

「…そのまま抑えてろ」

 

「はい!司令官!なんなりとご命令を!」

 

必死で振り切ろうともがくが、この状況が変わる事は無かった。

 

「……いいか?お前ら艦娘はただの鉄屑だ。兵器だ。人間の見た目してるからって思い上がるなよ」

 

前提督は北上にそう吐き捨てると封筒ごとライターで火を付けて床へと放り投げた。まず最初に封筒の表面だけ全て焼け焦げ、中から少ないながらも思い出の詰まった写真が剥き出しになった。

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」

 

北上は言葉にならない叫びを上げた。初めて二人で出撃した時の写真やいつ撮られたかわからない二人の寝顔の写真等、前提督に隠れて撮られたであろう様々な写真が次々に消し炭へと姿を変えていく。全ての写真が灰になった頃には、北上の喉は叫び続けて潰れてしまっていた。

 

「あぁ…ぐぞぉ……」

 

それでも尚、北上は前提督に対して反抗しようとしていた。

 

「……チッ…おい、そいつ早く連れていけ」

 

「……はっはい!ただいま!」

 

北上は小柄な艦娘に羽交い締めにされながら執務室の外へと引きずられそうになるが、全体重をかけて踏ん張っている為、しばらくの間しぶとく耐えていた。その様子を見た提督がうんざりした様な顔をして話しかける。

 

「はぁ…いい加減諦めろって。あの茶髪が一隻沈んだ所で何も変わんねぇだろ?消耗品だからまたいつか建造でもされるだろ。何でそこまであの茶髪に拘るんだよ」

 

 

(……あ?こいつ今何て言った?)

 

 

「……消耗品…?大井っちが…?あたしの大切な大切な親友が消耗品だって…?ふざけんなよ…」

 

北上の中で何かがプツンと切れた。

 

 

『訂正しろよ!!今の言葉あああああ!!!』

 

 

ガラガラの絞り出すかの様な声で叫んだ。しかし体力も限界に近付いているのか、北上は羽交い締めを外す事が出来ずに感情に任せた叫びだけが虚しく響くだけだった。

 

「……あーまじでうるせぇ。いいから黙れよ、ほら」

 

提督はそう言って机の中からハンカチのような布を取り出し、北上の口と鼻に被せた。むぐぐと必死の抵抗を試みるが、みるみるうちに視界が狭くなっていった。提督のニヤニヤした不快な笑みを見たのを最後に、北上の視界は真っ黒に染まった。

 

 

 

(……!!)

 

気がつくと見慣れた天井がそこにはあった。怪我をしていたはずの左腕は何事も無かったかのように動き、汗をかいているのか服からは湿気を感じた。

 

「夢……」

 

放心状態でポツリとそう呟いた時、何かが外れたかのように心の中のドス黒い物が溢れ出て来た。悲しみ、怒り、憎悪、ありとあらゆる負の感情が北上の心をえぐった。

 

「あ…あぁ……あ…」

 

北上は目を見開き、ただ震える事しかできなかった。そんな北上に話しかけるかの様にどこからか大井の声が聞こえた。

 

 

『き…て……北上…さん……』

 

 

(……あーそっか…)

 

その声を聞いた北上はむくりとベッドから起き上がり、生気の無い目でゆっくりと歩き始めた。

 

(始めから…こうすればよかったんだ…)

 

北上は何かを思いついた様な表情になり、ニヤッとしながら空気に話しかけた。

 

 

「大井っち…今からそっち行くね」

 

 

北上はドアを開け、先程と同じ生気の無い目で廊下をひたひたとゆっくり歩き、何処かへと向かい始めた。その口角は脳裏に焼き付いたレ級と同じく、つり上がっていた。

 




はい!22話目が終わりましたー!モチベにも繋がるのでよかったら感想と評価の方もよろしくお願いしますー!ではまた次回でお会いしましょう!


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月明かり

お久しぶりです!モチベが…という事であまり投稿できていませんでした!久々に執筆するとやっぱり楽しいですね!待ってて下さった方、本当にお待たせしました!23話目です!どうぞ!


「……眠れん」

 

提督は執務室から出た後、前提督の私室とされていた部屋で睡眠を取ろうとしていたのだが…

 

「こんな趣味悪い家具一体何処で売ってるんだ全く…」

 

いかにも高そうなきらびやかに装飾された天井を眺めながら一人そう呟いた。再び目を閉じて眠りを誘うが、一向に寝付ける気配がない。

 

「……あーくそっ!だめだ落ち着かん!」

 

寝袋からガバッと起き上がり、頭をかきむしる。

 

「しっかしここも荒れてるなぁ…」

 

入って来た時は部屋の見た目のインパクトが強烈だったので気にならなかったが、目を凝らして見てみると、執務室同様前提督の私室は至る所が荒れていた。

 

「……まぁ明日辺り明石にでも相談するか。教えてくれた響には悪いがこの部屋はどうも好きになれん。……にしても…」

 

ふと部屋の窓の外の景色が目に入った。前にいた鎮守府よりも田舎だからか、星がより一層綺麗に見えた。

 

「綺麗な空だな…お、今夜は満月か」

 

まんまると強く輝く月に提督はまるで心が吸い込まれるかのように見入ってしまった。しばらくの時間が過ぎたような気がした後、ゆっくりと立ちあがって寝間着を脱ぎはじめた。

 

「うーん…ちょっとその辺を散歩でもして気分を変えるしかないか…」

 

そう独り言を呟いた後、いつもの軍服に着替えて外に出た。

 

「おぉ…これはすごい…」

 

そこには窓で見たよりもずっと綺麗な夜空が広がっていた。真っ暗な闇の中、まるで宝石かの様にキラキラと星が散りばめられていた。月明かりが無かったらきっと足元すら見えないのだろう。そんな事を考えながら海沿いの道をゆっくりと歩いていった。

 

「む、これ以上は進めないのか…仕方が無い、引き返そう」

 

空を眺めながら夢中になって歩いているといつの間にか舗装のされていない道に出てしまっていた。自然が多く、月明かりが差し込まないせいかとても不気味に見える。

 

(……何か出そうだな…なーんて、そんな訳ないよな)

 

子供じゃあるまいし、と一人で乾いた笑いをした。

 

「さーて、いい気分転換になったし…戻るか」

 

ぐいーっと深く伸びをした後、深呼吸をして来た道を引き返した。行きとはまた違う星空を見上げながら歩くスピードを上げていく。実は少し怖くなった事は内緒である。

 

しばらくの間テンポよく早歩きをしていたその時、提督は少し先にある堤防の上にぼんやりだが人が立っているのが見えた。

 

(……!!で、出たあああああああ!?!?)

 

心臓が激しく波うっているのが分かる。しかし○○鎮守府に戻る為にはその道を通らなければならない。提督は恐る恐る気配を消しながら道を歩いていった。

 

 

 

 

 

『北上さん……きて………』

 

 

「もー大井っちー。そんなに急かさないでよー。すぐにそっちに行くからさー」

 

大井っちが呼んでいる。こっちだ。

 

 

『きて…北上さん…』

 

 

「何回も言わなくてもわかるってー。こっちでしょー?」

 

北上は大井の声の聞こえる方向だけを頼りにふらふらと足を動かしていた。こっちで大井っちが呼んでる。ただそんな気がする訳ではない。はっきりと声が聞こえるのだ。

 

(ここは…潮風が当たる…波の音…僅かな虫の声…外……あたしは今外にいる……あれ?大井っち?何処にいるの?声を…声を聞かせてよ…ねぇ……ねぇってば…)

 

ふとつぅーと右頬に温かい感触を感じた。北上は薄々気がついていたのだ。大好きだった大井はもうこの世界に存在していない事、そんな大井が消えたという現実を受け入れられずに逃げている自分がいる事。この大井の声も単なる幻聴だという事も全て。だがどうしようもない。例え受け入れたとしてその重い現実は自身の心を押し潰してしまうだろう。かといって逃げれば酷い自己嫌悪に陥ってしまう。

 

「ねぇ大井っち…あたしは一体どうしたら……」

 

今度は右頬だけでなく左頬にも温かい感触が伝った。その時北上は大井の言葉をふと思い出す。

 

「きて………来て……なぁんだ…そういう意味かー」

 

そして自分が大井になぜこの場所に呼ばれたかも分かった。固いコンクリートの感触、潮風の心地よい美しい満月の夜。そして何よりここはあの一番お気に入りの写真を撮った思い出の場所。これ以上の条件は無かった。北上の中で重い鎖が外れたような気がした。

 

 

「あははっ!待たせてごめんね!大井っち!」

 

 

北上はそう叫ぶと爽やかな笑顔をして力なく堤防から身を投げた。落下した時に頬から流れていた涙は月明かりを受けてキラキラと輝いていた。

 

 

 

 

「………落ちた!?」

 

提督は目の前の人が落下したのを見るなり一目散に走り出した。考えるより先に体が動いていた。人が困っていたり危険な目に会っていたら助けろという昔からのおばあちゃんの教えを提督は走りながら頭の隅で思い出していた。

 

「ハァ…ハァ……どこだ!?どこに落ちた!?」

 

落下したと思われる場所から海を見下ろして人影が無いかを確認する。落ちてからそこまで時間は経っていないのでまだ間に合うはずだとキョロキョロと海上を見渡す。しかしいくら月明かりがあるとはいえこの時間帯だと流石に見つけるのに苦労してしまう。

 

「えーっと…えーっと……あ!あそこか!」

 

しばらく見渡していると視線の先にはゆらゆらと浮いている人影を見つけた。提督はその人影に向かって軍服の上だけを脱ぎ捨てて海へと飛び込んだ。泳ぎにはそこそこの自信があったので、すんなりと人影の場所まで辿り着く事が出来た。

 

「おい!大丈夫か!!って君は……いや、それよりも…」

 

提督はぐったりとしている北上を運んで堤防沿いを泳いで行き、何とか陸に上がれそうな階段を見つけた。

 

「よし!ここからなら…!」

 

水を吸って重くなった軍服と相変わらずぐったりとしている北上を背負い、一段一段階段を登っていった。

 

「息は無し…心臓は……駄目か」

 

助けるのが少し遅かったのか、北上は心肺停止の状態に陥っていた。

 

「いや、諦めるかよ!確か軍学校時代に…」

 

提督は軍学校時代に習った事を思い出し、手際よく北上の気道を確保して心肺蘇生法を行った。

 

(頼む…頑張ってくれ北上……)

 

無心で人工呼吸と心臓マッサージのループを何度も繰り返した。提督の頬からは汗が滴っていたが、そんな事も気にならないくらい集中していた。

 

 

『……ゲボッ…ゲホゲホッ…ゲホッ』

 

 

「!!」

 

何回目かわからないくらいの心臓マッサージの時、北上は突然むせこんで海水を吐き出した。

 

「おい北上!!大丈夫か!!っと確か頭を横に向けるんだったな」

 

提督が北上に問いかけるが、北上はぐったりとして動かない。が、頭を横に向けた時、腕にかすかにだが感触を感じた。もしやと思い北上の口に手をかざすとわずかではあるが風の当たっているのを感じた。

 

(……よかった…ひとまず呼吸は戻ったか…)

 

スースーと呼吸をしている事を確認した提督は脱ぎ捨ててあった軍服の上を優しく北上のにかけた。

 

「俺よりも明石に診てもらった方がいいよな…」

 

そうぼそっと呟くと、提督はよいしょと北上を背負い、鎮守府へと歩き出した。

 

「お、重い…明日は筋肉痛確定だな…」

 

提督は足を震わせながら一歩ずつ確実に鎮守府へと向かおうとしていたその時だった。

 

「う…うぅ…ここは…?」

 

「よかった!目を覚したか!」

 

 

北上の意識が戻った。ひとまずは安心…そう思っていたのもつかの間、北上が低い声で提督に話しかける。

 

「……下ろして」

 

「は、はぁ?もう少しで死んじゃうかもしれなかったんだぞ?無理なんかしなくていいから…」

 

「下ろしてって言ってるでしょ」

 

先程よりも更に低く、まるで提督を威圧するかの様に吐き捨てた。その言葉を聞いた提督は戸惑いながらもゆっくりと北上を地面へと下ろした。下ろされた北上はおぼつかない足取りで立っているのがやっとという状態だった。しかし目だけは鋭く提督を睨みつけていた。

 

「…どうした?」

 

心配する提督に対して北上は予想外の言葉を放った。

 

 

「……助けてなんて頼んだ覚えないんだけど」

 

 




はいという事で23話目が終わりました!最初の頃とかの細かい設定等忘れているかもしれないのでん?感じたら遠慮なく指摘してください!感想と評価の方も良かったらよろしくお願いしますー!ではまた次回でお会いしましょー!


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提督にはわからない…?

えー……いや…その…と り あ え ず 生 き て ま す
お待たせして申し訳ないです!!待ってて下さった方、どうぞ!24話目です!


「なっ……」

 

提督が言葉を発すると、北上の睨みがより一層強くなったような気がした。目の前にいるこの男が不快で仕方がない。目は口ほどに物を言うとはこの事だろう。

 

「死なせてよ…何で止めるのさ……」

 

北上は睨んでる鋭い目線とは対象的に弱々しい声を発した。心なしか声色は震えている様に感じる。

 

「もう嫌なんだって……大井っちのいないこの世界なんか…何もない……空っぽなんだよ……」

 

「……………」

 

提督はただ北上の話を聞く事しか出来なかった。

 

「私が死んでも誰も傷つかない……気にも留めない…大井っちだって待ってるから……そして何より目の前で沈んでいく大井っちに何も出来なかったあたしが嫌になったんだよ…」

 

その様な言葉を延々と並べる北上に対して提督は一度深呼吸をし、その口を開いた。

 

「…北上」

 

低く重々しい声で北上の名を呼んだ。続けて提督は同じ様な口調で話し出す。

 

「大井…艦娘の名か…?ふむ…俺にはその子の事はわからないが、今の北上の様子を見たら彼女は一体どう思うんだろうな」

 

「は?何?説教?うざいんですけどそういうの」

 

北上の顔には嫌悪の色がハッキリと浮かんでいた。それでも提督は話を止めない。

 

「俺が大井の立場だったら間違い無く後悔に押しつぶされるだろう。自分のせいであの子を苦しめている…とな。そう思わないか」

 

「……黙って」

 

「大切な人との決別は辛い…それはよくわかる…だから前を向い……うおっ!?」

 

次の瞬間、北上が提督の胸ぐらを掴んで、怒鳴った。

 

 

『あんたが知ったような口聞くなよ!!!』

 

 

少し弱ってはいるものの、艦娘の力を一切の容赦もなく使われた提督は、足が地面から離れるくらいまで軽々と引き上げられた。

 

 

『あんたに何がわかるんだよ!!後ろの安全な場所で指示だけだしているあんたが!!あたしと大井っちの何が分かるってんだよ!!』

 

 

目には殺意の色が浮かび、呼吸が徐々に激しくなっていく。

 

 

『あんたなんかにわかるわけないでしょ!!ずっと側にいてくれた大切な人を失った絶望感を!孤独を!虚無感を!胸が張り裂けるような悲しみを!分かりもしない癖に知ったような口聞くなよ!!』

 

 

ビリビリと辺りの空気が震えるかのようなお腹の底からの叫びだった。一方的に興奮している北上だったが次の瞬間、胸ぐらを掴んでる手が緩んだ。

 

「えぇ…ちょ……何で泣いてんの?」

 

北上は激しく動揺していた。提督の目は潤み、とても悲しそうな表情をしている。この時の北上にはその表情の意味がさっぱりわからなかった。

 

「え……あぁ…ちょっと昔の事をな……」

 

そう言うと提督は顔を一旦北上から背け、袖でぐしぐしと目元を拭った。それからまた真剣な顔つきで、それとどこか優しさのある眼差しで北上に向き直った。

 

「……北上の気持ちがわかるなんて軽々しく言ってすまなかった。さっきの発言は北上に対してあまりにも配慮に欠けていた」

 

そう言うと提督はペコリと頭を下げた。少しの時間の後、提督は頭を上げ、海の方を見ながらボソッと呟いた。

 

 

「俺も…職業柄北上と似たような経験があるからさ…」

 

 

そう言う提督の顔はどこか寂しげな、まるで思い出を振り返っているかの様などこかさっぱりとしたような表情だった。

 

「…ただ後ろであたし達を指示するだけなのに?」

 

「…だからこそだよ」

 

「……………………」

 

そこから二人の会話は止まり、なんとも言えない空気が流れていた。長い沈黙の後、空気を先に破ったのは提督だった。

 

「なぁ北上……その…よかったらなんだが……何があったかとか聞かせてくれないかな…?」

 

「……………」

 

提督の問いに無言で答える北上。やっぱり無理かと提督が諦めかけたその時、北上が口を開いた。

 

「…あんたが先なら」

 

「へ?」

 

質問意味がわからず、困惑していると更に北上が言葉を続けた。

 

「あんたが先に話して。さっきの目…あんたも何かあったんでしょ…?」

 

まるで心の内を見透かされているかの様な発言に驚きつつも提督はため息をつき、覚悟を決めたかのような表情になった。

 

「……長くなるぞ。立ち話もなんだし…こっちで話そうか」

 

そう言うと提督は無言で堤防に座り、北上もその隣に座った。

 

「さて…どこから話したものかな…」

 

そう言ってぐいーっと伸びをした後、夜空に輝く星を見上げながら提督は語り始めた。

 

「……あれは俺が提督になったばかりの頃でな…」

 

 

 

 

 

(ここが今日から俺が配属される鎮守府……)

 

提督の目に映ったのは写真やテレビで見たような大規模な鎮守府とはかけ離れている小さなものだった。それはかつて通っていた地元の小学校といい勝負なのではないかという大きさだった。

 

 

「……まさかあんたが司令官?」

 

 

まじまじと鎮守府を見ているとふいに横から声が聞こえた。声質からして子供だろうかと思いながら声のする方向へ首を向けると案の定一人の子供が腰に手を当ててこちらを見ていた。中学生くらいだろうか。何やら睨まれているようだった。

 

(え…えぇ……何この子…怖いんですけど…)

 

上から下まで一通りジッと見られた後、その子はスッと右手を差し出してきた。

 

「ま、いいわ。霞よ。よろしく」

 

「あ、えっと…よろしく」

 

反射的に提督も右手を差し出し、二人は軽く握手を交した。その手はとても小さく、温かった。それから二人は話をしながら鎮守府へと歩き始める。

 

「霞ちゃんって本当に艦娘なんだよね?」

 

「そうよ。事前に説明受けてたでしょ?まさか聞いてなかったとか?」

 

「……いや、あんまり人間と変わらないなって」

 

その言葉を聞いた霞はピタッと歩みを止めて深刻そうな顔つきになって改めて話し始めた。

 

「…司令官、悪い事は言わないわ。私達を人間と同じなんて思わない方がいい」

 

「え…どうして…」

 

「簡単な事よ。ここは戦場。そして私達は作戦に従順な人型の兵器。情でも移されたら深海棲艦の様な化け物との戦争なんかできっこないのよ」

 

確かにそうだ。これから自分がしていく事は深海棲艦からの防衛という戦争であり、時には犠牲を覚悟しなければいけないという事も大いに分かる。それはこれから上に立つものとして当然の事である。霞の言い分は正しい。だが提督の心の中では何かが引っかかっていた。

 

「……わかってる」

 

「口だと何とでも言えるものよ。ま、徐々に慣れていくと思うわ」

 

さらりと言ってのける霞に対して提督は心の中で呟く。

 

(この子は…俺よりもずっと強いんだろうな)

 

その後も提督は霞と話を続けた。霞の毅然とした態度に少し怯みつつあったが、ふとある事に気づく。

 

 

「ところで、さっきから霞ちゃん以外の艦娘が一人も見当たらないのだが…??」

 

「ここには私と明石さんの二人しかいないから当然じゃない」

 

「……えっ?」

 

「えっ?」

 

あまりにも間抜けな声が出てしまった。霞も信じられないという目でこちらを見てくる。

 

「あんたほんとに司令官?自覚無さすぎじゃないの?」

 

「いやいや!新設だけどある程度の戦力として艦娘が複数人いるって説明をだな…」

 

「言い訳しない!普通は調べておくものでしょ!?」

 

「……はい。すいませんでした」

 

「まったく…」

 

やれやれと言わんばかりに深くため息をつく霞に提督はどこかデジャヴを感じていた。

 

(この子には敵わないな…性格が母さんそっくりだ……あれ?俺立場的に上のはずなんだが…?)

 

しみじみと実家を思い出していると霞の声が再び耳に入り、現実に戻された。

 

「何ぼさっとしてるのよ。ほら、こっちが執務室よ」

 

3階の一際大きなドアを開くと威厳のある執務机が提督達を迎え………る事は無かった。実際提督達を迎えたのは部屋に置いてある沢山のダンボールだけだった。

 

「……ダンボール?」

 

「ダンボールね」

 

「……中は全部空なんだが?」

 

「書類がぎっしり入ってたわ」

 

「……みかんと書いてあるんだが?」

 

「美味しそうね」

 

「最近食べてないな………ってええ!?これだけ!?家具は!?食料は!?着替えは!?確かに発送したはずだぞ!?」

 

「騒ぐんじゃないわよ…臨機応変に動きなさいな」

 

「いや明らかにおかしいだろこれ!?」

 

 

『落ち着きなさいったら!!』

 

 

その瞬間、霞が怒鳴った。

 




モチベとリアルが絶望的だったのであまり書けませんでした…言い訳ですはい。また次話も書いていく予定ですのでよかったら感想と評価もお願いします!ではまた次回でお会いしましょー!


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別れは突然に

僕です!!かなーーーり久々に投稿してみました!正直話の内容をあまり覚えてないかもなので矛盾があったりしたら教えてください!待っててくれた方がいたら嬉しいなぁ…なんて思ってます。それでは本編をどうぞ!


「落ち着き無さすぎよ!これからあんたはこういった理不尽な状況に何度も直面するの!上に立つべき人間がこんなでどうするのよ!?……ハッキリ言って司令官としてはクズね」

 

「なっ…」

 

霞から思わぬ叱責を受けてしまった。確かに少し落ち着きが無かったとは思うがクズ呼ばわりされてしまっては提督も黙ってはいない。

 

「は…初めての場所なんだ!多少なりとも気持ちの整理が出来ていなくてもいいだろ!」

 

「何開き直ってんのよ。ほんと馬鹿みたいね」

 

霞が冷ややかな眼差しを提督へと向ける。もはや呆れているのであろう。それ以上は何も言わなかった。

 

(どうやらハズレのようね…)

 

ふぅと一度だけため息をつき、その足を執務室の扉に向けた。

 

『待って!』

 

半歩踏み出した所で提督が呼び止めた。

 

「何?私これから行く所があるんだけど」

 

唐突に呼び止められた霞は反射的に振り向いてしまう。

 

「その…さっきは取り乱してすまなかった。俺自身少し浮かれていた部分もあった。頼りない奴かもしれないけど精一杯努力して一日でも早く一人前になれるようになるよ。霞、よろしくな」

 

提督が少しだけ目をそらしながらそう言うと霞は一瞬驚いた様な顔をしてから優しい表情になった。

 

「そういう大事な事は目を見て言いなさいな」

 

その時の霞の顔は一生忘れられない。まるで写真のように頭の中に鮮明に残っていった。

 

「厳しくいくわよ…ついてこれるかしら?」

 

「言っただろ?男に二言は無い。ついていくさ」

 

霞と提督は力強くがっちりと握手を交わした。

 

 

……これが俺と霞の出会いだった。

 

 

それから日々は流れるように過ぎ、霞の宣言どおりとても厳しい毎日ではあったが、とても充実していた。そのかいあってか鎮守府としてうまく軌道に乗り、規模もそこそこなものになってきていた。そんなある日、霞が今日の分の演習と遠征の資料を見ながらボソッと呟いた。

 

「今日は私が遠征当番なのね…」

 

少し寂しげに言い放った霞のその言葉に提督は書類を忙しく捌きながら返事をした。

 

「そういえばそうだったな。今日もよろしく頼むぞ」

 

「えっ…それだけなの?」

 

霞が少し驚いたような怒ったような顔をしながら提督の方を向く。

 

「えっと……最近冷えてきたから体調崩すなよ」

 

「そういう事じゃないわよ!」

 

なにやら霞を怒らせてしまったらしい。そっぽを向いてツカツカと執務室を出ていってしまった。

 

(な…何だったんだ一体……)

 

あまりに突然すぎる出来事に少し固まってしまった提督ではあったが、ちらりと目に映ったカレンダーによってその原因を知ることになる。

 

(なるほど、今日でここに来て丁度1年か…早いものだな)

 

提督は窓の外の水平線を見ながらしみじみとたそがれていた。霞が遠征から帰ってきたら甘いものでもごちそうしようと考えながら提督は少しぬるくなったブラックコーヒーを啜った。

 

 

 

時間はあっという間に過ぎていき、今日の業務が終わろうかというタイミングで突然、提督に切羽詰まった無線が飛ぶ。

 

「…司令官!!こちら遠征部t……きゃあぁっ」

 

霞からの無線の合間合間に聞こえる悲鳴と重い砲撃音の数々。襲撃されているのは報告を聞かなくても明らかだった。

 

「未知の深海棲艦と遭遇したわ…!索敵した限り単体だけど砲撃も装甲もレベルが違いすぎる!私達じゃ太刀打ち出来ない!」

 

一刻を争う事態だった。提督は酷く動揺しつつも深呼吸をし、冷静に指示を出した。

 

「遠征で手に入れた資材は捨てても構わない!1人も轟沈しないように最善を尽くして鎮守府まで帰港しろ!応援も今すぐに向かわせる!だからがんb…」

 

ブツンと音を立てて無線が切れる。提督は焦らずにすぐに主力艦隊を編成し、艦娘達の位置情報を頼りに応援に向かわせた。

 

(頼むから全員無事でいてくれ……)

 

提督はもう、祈ることしか出来なかった。

 

 

それからとても長い時間が経ったように感じた。日は既に沈んでおり、辺りはすっかり暗くなっている。提督は不安な気持ちをぐっと堪えながら執務室の窓とにらめっこをしていた。側にはいつ連絡が入ってきてもいいように無線が待機している。

 

そんな状態の中、報告は突然に、そして一瞬で行われた。

 

「提督、報告いたします。我が艦隊は遠征部隊と合流完了。敵艦隊の撤退を確認。これより帰港します」

 

ほっとしたのもつかの間、次の報告で提督は絶望に落とされることになる。

 

 

「……なお、駆逐艦霞が轟沈。他の子の被害も甚大です。報告は以上になります」

 

 

その報告を聴き終わった後、提督は絵に書いたように膝から崩れ落ちた。頭が真っ白になって何も考えられないまま呆然としている。しばらくして窓の外の水平線からわずかな光が見えた。何かの間違いかもしれない。報告を聞き間違えたかもしれない。そんな一縷の望みを持って執務室の外へと飛び出した。机の上にある高級なケーキを残したまま。

 

 

 

しかし現実は無情だった。

 

 

 

提督が目にしたのは慌ただしく担架でドックへ運ばれる遠征部隊の艦娘達。そこに霞の姿は無い。受け入れなければいけないが頭がそれを拒絶していた。その時、大破した艦娘が提督を呼んでいると聞き、その場所へと向かった。そこには霞と一緒に遠征に行っていた吹雪がいた。出血が酷く、意識は朦朧としている様に見える。

 

「しれ…かん……これ…を……」

 

担架の上で瀕死になりながらも右手でしっかりと握りしめた吹雪の小さな手の中にはボロボロの布切れがあった。

 

「霞さん…が……これだけ…しか………ゲホッ」

 

内臓に相当なダメージがあるのか、激しく吐血をしている。そんな中で力を振り絞るかのように提督に布切れを渡す。その布切れには見覚えがあった。毎日のように見ていた淡い青色のリボン。間違いなく霞が頭につけていたお気に入りのリボンだった。

 

「あ…ああ……ああぁ………」

 

提督は吹雪からリボンを受け取った瞬間、一気に現実を叩きつけられたような気がした。クラクラとする視界の中で霞との記憶が脳裏に蘇っていた。その後の事はよく覚えていない。気がつけば執務室に戻って残りの業務を淡々とこなしていた。何も考えず、何事も無かったかのように落ち着いている。夜はさらに更け、本来はまだやるべきでは無い業務にですら死んだ目で取り掛かっている。ふと静かな執務室にコンコンとノックの音が響き渡る。

 

 

「司令官…今お時間よろしいですか……?」

 

 

ガチャリと音を立てて吹雪が執務室に入ってきた。全身包帯だらけで松葉杖をついているが、治療のおかげかかなり回復しているように見えた。

 

「吹雪か……大丈夫…ではなさそうだな」

 

その言葉に吹雪はふぅとため息をつく。

 

「司令官の方は思ったよりも大丈夫そうですね。もっと悲しんでいるものかと思ってました」

 

霞の事を何とも思ってなさそうという提督に冷ややかな視線を送る吹雪。そんな吹雪に対して提督は珍しく声を荒らげた。

 

「霞が轟沈するその瞬間を見てすらいないのに……受け入れられる訳がないだろ!!」

 

「私がこの目で見ました!霞さんは……私を庇って………うぁ…」

 

吹雪は目に涙をうかべながら当時の記憶を思い出してしまった。

 

 

(遠征もあと半分くらいで終わりですね!)

 

 

吹雪はもう少しで遠征が終わると思い、少し浮き足立っていた。そんな吹雪を霞は見逃さなかった。

 

「ほらそこ!気を抜かない!何があるか分からないんだから!」

 

「すっ…すみません!」

 

「しゃんとしなさいな!帰ったら甘いもの用意してあるからもう少し頑張りなさい!」

 

「ほんとですか!?やった〜!!」

 

「気を抜かないったらーー!!」

 

ぴょんぴょんと飛び跳ねながら嬉しそうな仕草をする吹雪と、怒りながらも喜んでもらえて満更でもなさそうな表情の霞。そんな2人の様子をクスクスと笑いながら他の艦娘達は暖かく見守っていた。この一時は大きな爆発音と同時に終わりを迎えてしまった。爆発音の数秒後、部隊の周りに巨大な水柱が数本上がった。

 

(奇襲!?電探には何も……)

 

霞はふるふると首を横に振る電探の妖精を見た後に、爆発音の鳴った方向をキッと睨みつけた。霞が電探の索敵範囲外から襲撃されていると気がづくのに時間はいらなかった。通常ではありえない、規格外な深海棲艦が遠征部隊を狙っていたのだ。

 

「ミーツケタ……タノシイジカンガハジマルナァ!!」

 

ニヤリと口角を上げながらその深海棲艦はゆっくりと照準を合わせた。

 




次回作も頑張って書きます!というか書いてる途中です!楽しみに待っててくださいね〜!応援コメントとかあったら泣いて喜ぶのでぜひ!!


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