ドラゴンクエストΩ 〜アルテマこそ至高だ!〜 (灰猫ジジ)
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序章 仮冒険者アキラ
第一話


本日から新しくドラクエの二次小説を書き始めます。
こちらは週1更新を基本として書いていきます。
気分が乗れば更新頻度は上がると思います。

今日はこの後、12:00と17:00にも投稿しますので、よろしければご覧くださいませ。



「あー!ようやく仕事が終わった!」

 

 佐々木晃(ささきあきら)33歳。独身で社畜の彼は、毎日仕事を深夜まで行い、いつも終電で家に帰っていた。

 今日は華の金曜日。だが、お店に飲みに行く気力など初めから無いのである。

 さっさと家に帰って夜ご飯を食べて、ゲームをするのが日課になっていた。

 

「ただいま〜」

 

 誰も返事をすることがない1LDKのマンション。

 彼にとってはとても居心地は良いが、少し寂しい気持ちになるときもある部屋だ。

 スーツを脱いでシャワーを浴び、夕食を簡単に作り、リビングでビールを片手にゲームを開始するのだ。

 

「ようやくドラクエ11が終わったからなぁ。今度はFF7のリメイクでもやるか」

 

 独り言が激しくなるのも無理はない。ずっと1人だとそういう気分になる人もいるのだ。

 しかしゲームを起動したところで、突然強い眠気に襲われる。

 

(あれ……? 今日ってそんなに……疲れていたっけ……? ご飯も……まだ……食べていないの……に……)

 

 そのままソファーに倒れ込む(あきら)

 そして彼の意識が戻ることはないのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

『あれ?今回の生贄(いけにえ)……じゃなかった。実験……でもなかった。えっと、対象者は彼で良いのかな?』

『そうだね〜。彼で良いと思うよ!』

『今回はどこの世界に連れて行ってあげようかな?』

『そうだなぁ……そういえばさっき彼ドラクエをやり終えたって言ってたし、そこで良いんじゃない?』

『じゃあそこで決定! あとは適当に能力くっつければいいか!』

『そうそう! どうせなら彼も喜ぶようにしてあげよっか!』

『いいねいいね! 具体的にはどうするの?』

『えっとねー……』

 

 すべてが白い空間で話している光が2つあった。

 それは神々しくて、まさに”神”と呼ぶにふさわしい輝きであった。

 しかしその悪戯好きそうな話し方は”悪魔”と言ってもおかしくはない。

 

 自分たちが面白いと思えるなら全力で何でもするのである。

 そして、どうやら詳細が決まったようである。

 

『よし! これで決定だね!』

『うん! 決定決定!』

『彼、喜んでくれるかな?』

『彼、驚いてくれるかな?』

『『どっちにしても僕達には面白くなりそうだけどね!!』』

 

 子供のように笑いながら、それでも威厳を保っている2つの光。

 その傍らには、”彼”と呼ばれている(あきら)の姿があった。

 (あきら)は倒れ込んだまま意識がない状態のため、何も反応をしていない。

 

『じゃあ……これで契約書が出来たよ!』

『彼、起きないね!』

『彼、起きないよ!』

『『勝手にサインしちゃえばいっか!』』

 

 光の1つが(あきら)の腕を回ると、右腕が勝手に持ち上がる。

 そして右手に羽ペンが現れると、宙に浮いた1枚の用紙に右手が勝手にサインをしだす。

 “佐々木晃”と名前が書かれたところで、羽ペンは消え、右腕は力を失ったかのように(あきら)の身体に落ちた。

 

『サイン完了!』

『サイン完了!』

『これで僕らにとって』

『楽しい世界が始まるね!』

 

 笑いながら(あきら)の周りを回る2つの光。

 飛び回りながら、(あきら)に雫のような光を振りまいていく。

 (あきら)の身体が淡く光り出し、薄っすらと消えていく。

 

 (あきら)が完全に消えたとき、そこには2つの光だけが残っていた。

 




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第二話

本日から新しくドラクエの二次小説を書き始めます。
こちらは週1更新を基本として書いていきます。
気分が乗れば更新頻度は上がると思います。

第一話が8:00に、そして17:00にも投稿しますので、よろしければご覧くださいませ。



「ん……」

 

 爽やかな風に目を覚ました(あきら)

 目を開けると、そこには青空が見えたため、一瞬で目を覚ました。

 

(え……!? 俺って……家で寝てたよな……?)

 

 寝る直前の記憶を呼び起こす。

 夕食を作り、お酒を飲みながらゲームをやろうとしたところで力尽きたことをはっきりと思い出す。

 

(なんでこんなところにいるんだ? もしかして……連れ去れられたとか……?)

 

 意識が無くなったタイミングにも明らかに違和感があったので、誘拐の可能性はあり得た。

 しかし(あきら)を誘拐してもメリットが殆どないのは(あきら)自身が分かっているので、考えた後に少し悲しい気持ちになっていた。

 

「でも……じゃあここはどこなんだろう?」

 

 起き上がって周りを見渡す。

 周りには草原があり、街道と見られる道もある。

 そしてすぐそばに街のようなものも見えたのだ。

 

 ここにずっといても解決しないので、街に向かってみることにした(あきら)

 歩きながら、いつもよりも空気が澄んでいることに気付いた。

 

「めっちゃ空気がきれいだな! こんなところ日本にあったんだなぁ」

 

 日本にいるとずっと勘違いしている(あきら)

 そして歩いていくと、街の門に到着する。

 

「アリアハンの街へようこそ! 冒険者……には見えないね」

「え……今なんて言いました!?」

「冒険者じゃないよね?って──」

「──その前です!」

「ああ、アリアハンの街へようこそって……」

 

 突然食い気味によく分からないことを聞かれた兵士は困惑していた。

 しかし(あきら)は更に困惑していたのであった。

 

(アリアハン……ってあのアリアハンだよね? ドラクエ3で出てきた”はじまりの街”の。

え……もしかして俺ってドラクエの世界に転移しちゃったってことなの!?)

 

 信じられないことが起こったので、(あきら)は混乱してしまっていた。

とにもかくにも情報が大切だと判断し、アリアハンの街に入ることにした。

 そして進もうとしたところ、兵士に慌てて止められたのであった。

 

「ちょ、ちょっと! 勝手に入らないでよ!」

「え……入っちゃいけないんですか?」

「大きな街に入るときは、”賞罰の水晶玉”に触れる決まりがあるのを知らないの? 君、どんな田舎から来たんだよ」

 

 そう言って入り口の脇にある水晶玉のところまで連れて行ってくれた兵士。

 (あきら)は素直についていき、言われるがままに水晶に手を触れる。

 すると、水晶が光り、目の前に四角い画面が現れた。

 

 

【賞罰ステータス】

・名前:アキラ

・年齢:16歳

・賞罰:なし

 

 

 名前、年齢、賞罰が表示され、特に問題がなかったため街へ入ることを許可された。

 その際に「16歳だったのか! もっと幼いと思っていたよ」と兵士に言われたのが、頭の中で繰り返し再生されていた。

 

(ま、待て待て。俺って16歳になっているの!? そんなに幼くなっているなんて、鏡が見たいよ……)

 

 少し衝撃を受けながらも道を歩いていく。

 ただし、目的もなく歩いているのではなく、兵士に向かうように言われた場所があったため、そこに向かっていた。

 兵士は田舎者だと判断してくれたため、この世界の常識を知らなくても簡単に受け入れてくれていたようであった。

 

「それにしても確かに町並みは記憶にあるアリアハンに似ている気がするな……っとここか」

 

 目の前に目的の建物を発見する。

 そこはドラクエ3をやったことがある人であれば、ほぼ全ての人が立ち寄るであろう場所。

 

「ルイーダの……酒場」

 

 建物は木造で出来ており、昔ながらの酒場のような雰囲気をしていた。

 中からは少し騒がしい声がしており、時刻は分からないが明るいうちから酒を飲んでいる人がいるのであろうことは予測が出来た。

 

 意を決して建物の扉を開けると、騒がしい音量が更に増し、店内のテーブルは半分以上が人で埋まっていた。

 ほぼ全員がお酒を飲み、美味しそうな匂いのする食べ物を食べていた。

 不意にお腹がなる(あきら)

 

(そりゃそうだよな。昨日の夜は作ったのに食べずに寝ちゃったからなぁ……それにしてもめちゃくちゃ美味しそうな匂いだなぁ)

 

 そこに両手に料理の乗った皿を持った店員さんと思しき女性が話しかけてくる。

 

「いらっしゃいませ! 1名様ですか?」

「あ、いや、俺……じゃなくて僕、兵士さんに冒険者になるならここに行けと言われて来たのですが……」

「あ、冒険者志望の方ですね! それでしたら、奥のカウンターテーブルにいる人に話してくださいね!」

 

 そう言って、すぐに料理を運ぶためにその場から離れていった。

 (あきら)は周りの邪魔にならないようにカウンターに行き、その場にいた男性に話しかける。

 

「あの! すみません!」

「あ、いらっしゃいませ! なにか御用ですか?」

「えっと、冒険者になるのであればここに行くように兵士さんに言われたので来たのですが……」

「あ、そういうことですね! じゃあちょっと待っててください」

 

 そう言って男性はカウンターから出て、(あきら)についてくるように言って、別室へと入っていった。

 (あきら)も遅れないようについていき、部屋に入って扉を閉めると先程の騒々しさが嘘のように静かになったのであった。

 

「冒険者になりたいということでしたね」

「はい」

「私はここの責任者のカナブンと申します。それではこの用紙に書けるところを書いていってください」

 

 カナブンと名乗った男性は1枚の用紙と羽ペンを取り出す。

 その用紙を見ると、驚くべきことに文字は日本語になっていたのであった。

 

「あ、もしかして文字が書けないとか……?」

「い、いえ! 大丈夫です!」

 

 そう言って羽ペンを持ち、名前と年齢を書いてペンを止めた。

 名前に関しては、フルネームではなく()()()とカタカナで書いていた。

 変にファミリーネームを書いて、貴族と誤解されても面倒だからである。

 

(出身地とか得意なこと……? 出身地なんて書けないし、特技もドラクエの世界で役に立つものなんて特に無いんだけど……)

 

 悩んでいるアキラをみたカナブンは、名前と年齢が書いてあることを確認し用紙を回収した。

 後々分かることなのだが、冒険者になりたいという人達は出身地や特技などを書かない人も多いのである。

 アキラもそういう(たぐい)の人だと判断したカナブンは、早々に用紙の回収をしたのであった。

 

「それでは次に冒険者について簡単な説明をしますが、必要でしょうか?」

 

 アキラは右も左もわからない状態でこの世界に来ているので、少しでも情報がもらえるチャンスを逃したくないと思い、説明をお願いした。

 カナブンは頷き、ゆっくりと説明を始めた。

 

「分かりました。ではまず、冒険者が出来た理由から始めますね。

冒険者とは()()()()()()()()()という役割を持っています。

話の始まりは100年ほど前にさかのぼります──」

 

 約100年前。この世界に突如多数の城や街が出現した。そして、各国の城の王宛に()からの神託が下りたのであった。

 内容は、色々な世界がすべて混ざってしまったこと。元の世界に戻すためには世界樹の地下迷宮を攻略すれば解放されるであろうということ。

 今回の仕業は各世界の大魔王や魔王などによって引き起こされたということなどである。

 

 そして、世界樹の地下迷宮に入るためには試練を乗り越え、心技体すべてが認められた者だけに道が開かれるであろうということであった。

 最初は混乱していた各世界の国々も協力する必要性を感じ、()()()()()()で同盟を結び、”冒険者制度”というものを作った。

 冒険者は試練を突破し、世界樹の地下迷宮を攻略することが義務付けられており、他にもモンスターの間引きや依頼などもこなす()()()()のようなこともしていた。

 

 元々は試練などなかったのだが、最近は冒険者の質が落ちてきていたせいもあり、冒険者になるための試練が出来た。

 もし突破できなかった場合は、一定期間試練を受けることが出来ないが、もし試練に合格すれば各種色々な優遇措置があるとのことだった。

 

(なるほど……ということは、ここはドラクエ3だけの世界ではないということなのか……? あとで世界地図とかを見て国を確かめてみよう)

 

「以上で簡単な説明は終わりますが、何かご質問はありますか?」

「いえ、大丈夫です」

「それでは冒険者になるための試練に参加されますか?」

 

 

 アキラは少し考えた後に、「はい」と力強く答えたのであった。

 




33歳の晃の一人称は「俺」か「私」でしたが、16歳当時は「僕」と言っていたため、一人称も戻りました。

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第三話

本日から新しくドラクエの二次小説を書き始めます。
こちらは週1更新を基本として書いていきます。
気分が乗れば更新頻度は上がると思います。

8:00と12:00にも投稿していますのでよろしければご覧くださいませ。


「はい、冒険者になるための試練を受けます」

「……わかりました。では試練についての説明をしますね」

 

 冒険者の試練は単純だった。

 初心者用に作られた迷宮を攻略すること。ただそれだけである。

 アキラはワクワクしているのもあったが、世界樹の迷宮を攻略すれば元の世界に戻れるのではないかという気持ちもあったため、冒険者の試練を受けることにしたのだった。

 

「それではこれを」

「……これは?」

「はい、これは初心者用の迷宮に入るための通行証になります。

もし攻略できた場合、これがそのまま身分証になりますので失くさないように気を付けてください」

 

 カナブンから渡された者は細長い水晶で出来たペンダントだった。

 失くさないように首にかけて服の中にしまう。

 そして、袋を1つ渡された。そこには金貨が入っていた。

 

「こちらは支度金です。初心者迷宮を攻略できた場合は返還不要ですが、もし諦めてしまった場合は返していただくことになります。

また、1ヶ月経っても攻略できなかった場合は、今回の挑戦は失敗となりますので支度金を返していただきます。

もし返せなかった場合は借金となり、最悪()()()()になりますのでお気を付けくださいませ」

 

 ()()()()という言葉を聞いて、アキラは身震いをした。

 現代日本において、そういったことを身近に感じたことがなかったからだ。

 それでも身分証も持たない人間が暮らしていくのには冒険者になるのが手っ取り早いというのもあり、断る選択肢はなかったのであった。

 

 単位はドラクエ世界と同じG(ゴールド)で、支度金として150Gが入っていた。

 これが多いと取るか、少ないと取るかは本人次第である。

 カナブンからは「今日は宿で部屋を取って、装備を整え、明日から攻略を開始したほうが良い」とアドバイスを貰ったので、一旦宿に向かう。

 

 アリアハンの街並みを見ながら歩いていて、とても魔王によって何かが起こったようには見えないなとアキラは思った。

 観光気分で歩きながら宿に到着したので、受付の人に話しかける。

 

「すみません。部屋って空いていますか?」

「いらっしゃいませ。1泊2Gの部屋が空いてますよ」

「じゃあ……5日間お願いします」

 

 アキラは10Gを渡すと、部屋に案内される。

 扉を開けて中に入ると、そこはベッドと机と椅子が置いてあるだけの簡素な部屋だった。

 元の世界のビジネスホテルの部屋を思い出して、軽く笑ってしまったのは仕方がないのであろう。

 

 姿見鏡も置いてあったので、自身の姿を確認したところ驚いてしまった。

 16歳当時のアキラ自身の見た目だったからである。

 なぜそうなったかは分からないが、新しい世界を乗り越えていくには身体が動ける年齢の方が良いと判断し、一旦考えるのをやめることにした。

 

 そして休憩もそこそこに宿を出て、今度は武具屋に向かう。

 残りが140Gのため、購入できる装備は限られており、やくそうなどの道具や日用品も購入予定のため、あまり無駄遣いが出来る状況ではなかった。

 武具屋と道具屋で売っている商品を見てみる。

 

 

【武具屋】

ひのきのぼう 5G

こんぼう 30G

どうのつるぎ 100G

ぬののふく 10G

たびびとのふく 70G

かわのよろい 150G

かわのたて 90G

 

【道具屋】

やくそう 8G

どくけしそう 10G

キメラのつばさ 25G

おなべのフタ 50G

 

 

(むむむ……日用品は5Gあれば購入出来ると聞いたから、残り135Gでどうするか考えるのが難しいな……)

 

 アキラは攻撃力重視にするか、防御力重視にするか、それともバランスを考えるかを悩む。

 計算をすると、どのパターンにしても少しだけお金が足りないのだ。

 そして、少し悩んだ結果。購入する商品を決めた。

 

「すみません。これとこれとこれをください」

「おお、良いぞ! 全部で126Gだ」

「はい。これでちょうどです」

「……確かに。まいどあり!」

 

 アキラは、店員のおじさんに見送られて店を出る。

 そして宿に日用品も購入し、宿に戻って購入したものを確認する。

 

「えっと……まずは武具屋でどうのつるぎとぬののふくを買ったでしょ。そんで道具屋でやくそうを2つ買ったと……」

 

 悩んだ結果、攻撃力重視の装備にしたアキラ。

 理由は、初心者迷宮には出てきてもスライムとかそのレベルだと予測したからだ。

 それであれば、なるべく攻撃回数が少なく倒せることを考えたのだ。

 

 どうのつるぎで防御が出来そうだというのも攻撃力重視にした理由でもある。

 ただ、お金の関係で防具はぬののふくしか買えなかったので、代わりにやくそうを2つ買い、万が一のときの備えとしていた。

 

 日用品は思った以上にお金が掛かり、8G使った。普段着の着替えや歯磨きなどの他に、荷物を持ち運ぶかばんも買ったためである。

 これに関しても悩んだが、後悔しない買い物だったとアキラは感じていた。

 

「さて……と。じゃあとりあえず着替えないとね。いつまでもこんな格好でいるのは流石に違和感があるからね」

 

 アキラはこの世界に来たとき、部屋で着ていた服のままで来ていたのだ。

 靴は愛用していたスニーカーを履いていた。あとはソーラー電池の腕時計をしていたのは、彼にとって不幸中の幸いであった。

 そして本人はまだ気付いていないのだが、実は元々身長が180cmほどあったのだが、16歳に若返ったため身長も168cmと縮んでいた。

 なぜか服と靴もそれに合わせて小さくなっていたのである。

 

 服を着替え、少し早めに宿の食堂で夕食を食べることにした。

 買い物に行っていたときは忘れていたのだが、ほぼ丸一日何も食べていなかったからである。

 お腹が空きすぎて、出てきたパンと玉ねぎのスープと肉野菜炒めをペロリと食べた(あきら)は、部屋に戻るとベッドに倒れ込むようにして寝てしまった。

 

「あ……歯を、磨かない……と……」

 

 買ってきたばかりの歯ブラシで歯を磨こうと思っていたのだが、その言葉はすでに寝言になっており、夢の世界に旅立ってしまっていた。

 突然知らない世界に来て、色々と行動していれば疲れも一気に来るのは誰しもあるだろう。

 彼は夢の中でも、明日に備えて準備をしていたのであった。

 




鏡では自分の身長まで見る余裕がなかったんですね。
それでも目線の高さで気付きそうなものですが、そこは急に異世界に来てしまった動揺で気付いていません。

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第四話

少し早いですが、何話かはこの頻度で更新していこうと思います。

も、もうお気に入りが100件超えたのですね。
ありがとうございます!



第四話

 

「……ん。朝、か……」

 

 目を覚ましたアキラはいつも目覚めている自宅と違うことに気付く。

 寝返りを打ちつつ、仰向けになり右手の甲を額に乗せた。

 

(そうだった。僕は……この世界(ドラクエ)に来たんだった)

 

 昨日のあまりに急な出来事に夢だと思いたかったが、すぐに現実だと実感させられる。

 だがいつまでも寝ているわけにもいかないと、粗末なベッドから起き上がり、身体の調子を確かめる。

 

(昨日早く寝たからかな? そこまで疲れはなさそうだ)

 

 アキラは部屋から出て、外にある井戸の水を使って顔を洗う。

 井戸の水は冷たく、目を覚まさせるには十分だった。

 昨日のうちに買っておいた手ぬぐいで顔を拭き、朝食を食べに食堂へ行く。

 

 朝食は卵とベーコンのような物を焼いたものと、玉ねぎのスープにパンである。

 食べ物が日本で食べるものとそこまで違いがないことに感謝をしつつ、全て平らげるのであった。

 

 朝食を食べた後、どうのつるぎとぬののふくを装備したアキラはルイーダの酒場に向かう。

 初心者迷宮はルイーダの酒場から旅の扉で向かうことが出来るからである。

 そして事前に地図や出現モンスターなどの情報をカナブンに聞こうとも思っていた。

 

「ああ、アキラさん。おはようございます」

「カナブンさん、おはようございます」

 

 挨拶をした後、初心者迷宮についての情報をカナブンに聞いた。

 カナブンは事前に用意してあったかのように資料を取り出してアキラに渡す。

 「情報を求めてきた方だけに渡している」とカナブンから伝えられ、ここでも冒険者としての選別をしているのだと納得した。

 

(さて……と。初心者迷宮は全部で3階層なんだな)

 

 初心者迷宮。全3階層からなり、出現モンスターはスライム、ドラキー、スライムベス、いたずらもぐら、おおなめくじ、ももんじゃの6種類。

 そして迷宮の最下層の奥にボスとしておおきづちがいる。

 ボスを倒して、最下層の魔法陣に乗れば試練のクリアとなる。

 

「あの……挑戦する人は大体どれくらいの期間でクリアできるのですか?」

「そうですね。平均だと10日間くらいですかね。ちなみに今まで一番早い人だと4日間くらいでクリアしていました」

 

 アキラは地図を見る限り、ゆっくり攻略しても10日は掛からない印象だったのだが、何かあるのかもれないと思う。

 罠は一切ないため、まずは戦うことに慣れることが必要だと思っていた。

 

(……あれ? なんでこんなに簡単に受け入れられているんだろう……?)

 

 今までほとんど喧嘩をしたことがなかったアキラは()()()()に関して、あまり恐怖を覚えていないことに気付く。

 だが今考えても仕方ないことなので、まずは初心者迷宮をクリアすることに専念しようと思うことにする。

 

「資料、ありがとうございました」

「はい。それでは早速初心者迷宮に行きますか?」

「はい。お願いします」

 

 迷宮の地図は借りることが出来たので、その他の資料をカナブンに渡したアキラは、初心者迷宮への入り口に案内される。

 部屋に入ると、そこには青い渦の光があった。

 

「これは”旅の扉”というもので、指定の場所まで移動が出来るようになっています」

「旅の……扉……」

 

 アキラは旅の扉の実物を見て、黙ってしまった。

 吸い込まれそうな雰囲気の旅の扉に対して、入ることへの不安があったのだ。

 それに気付いたカナブンがさり気なくフォローする。

 

「皆さん、初めは旅の扉(ここ)に入るのを躊躇されるんですよ。まぁ勇気出して入ってみればなんてことないので、気軽な気持ちで入ってみてください」

 

 「それでは」と言うと、部屋から出ていってしまった。

 アキラは数分悩んだが、行くしかないと勇気を出して旅の扉に飛び込んだ。

 すると目の前がぐにゃりと歪み、上下左右の意識が混ざったような感覚のまま、気が付いたら先程の部屋とは違った場所に移動していた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「うえ……気持ち悪い……」

 

 旅の扉で移動したときの感覚で酔ってしまったアキラ。

 吐きそうになりながらもなんとか我慢する。

 一旦座り、気持ち悪いのが治るまで休憩することにした。

 

(旅の扉で移動した部屋は安全地帯(セーフティーゾーン)で、モンスターが来ないと書いてあったからね)

 

 警戒をしなくて良いので助かると思いながら周りを見渡す。

 部屋一面が石で出来ているようで、床も石床になっていた。

 30分ほど休憩すると体調も戻り、動きも特に問題なさそうであった。

 

(じゃあ早速行ってみようかな)

 

 アキラは立ち上がり、部屋から出る。

 通路は幅4〜5mくらいあり、戦闘するのには一切支障がない広さである。

 左右の壁には一定の距離に松明の明かりがあるため、先も問題なく見ることが出来る。

 

 少し歩くと、青い塊がジャンプしながら向かってくるのが見えた。

 アキラはその段階で、武器を持っていないことに気付き、慌ててどうのつるぎを抜く。

 

(まずいところだった……急に襲われていたら混乱してやられていたかもしれない……)

 

 青い塊がすぐにスライムだと認識したアキラ。

 ゆっくりと近付きつつも、スライムが来るのを待ち構える。

 スライムとアキラが3mくらいの距離でお互いに止まる。

 

 サッカーボールほどの大きさのスライムは、特有のニヤけた顔を保ちつつ様子を見ている。

 

(……先手必勝でいくしかないな。こういうのは消極的になるのは絶対に駄目だ)

 

 社会人経験があるアキラは、初心者は消極的に行動して失敗するよりも積極的に行動したほうが良いと思っていた。

 決断したアキラはどうのつるぎを構えて、スライムに斬りかかる。

 右上から袈裟斬りをして、すぐにスライムから距離を取る。

 

 スライムはぷるぷる震えたかと思うと、そのまま消えてしまった。

 そして目の前には1枚の金貨が落ちていたのであった。

 




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第五話

第五話です。
よろしくお願いいたします。


(思ったよりも簡単に倒せたな。……どうのつるぎのおかげかな?)

 

 スライムを一撃で倒すことが出来たアキラは、金貨(ゴールド)を拾いつつほうっと息をつく。

 剣道を習っていたのもあり、少し勝手は違うがどうのつるぎの扱いもある程度出来ていた。

 この調子であれば初心者迷宮の攻略も出来そうだと思いつつ、先を進んでいく。

 

 先を進んでいくと、またスライムが来るのが見える。

 今度も一撃で倒そうと向かっていくと、その大きさに驚く。

 

(え……すごいでかいんだけど。同じモンスターでも大きさに差があるってこと?)

 

 初めに出てきたスライムはサッカーボールくらいの大きさだったのに対し、今目の前にいるスライムは膝くらいまでの大きさもあったのだ。

 さすがの大きさに攻撃しようか悩んでいると、スライムが軽く震えながらジャンプして向かってきた。

 

「うわっ!」

 

 アキラは必死になって右に避ける。

 避けた際の勢いが強すぎて、壁にぶつかる。

 右肩を軽く打ったが、痛がっている場合ではないとすぐに後ろを向く。

 

 スライムは上手く着地をするが、動きが緩慢なため、ゆっくりとアキラの方を振り向こうとしている。

 アキラは今しかないと、まだ振り向いていないスライムの背後にどうのつるぎで斬りかかる。

 

『ぴきーー!!』

 

 スライムは攻撃を受けて鳴き声をあげるが、気にせずに今度は左上から斬りかかる。

 そこでスライムは震えて先程と同じように金貨(ゴールド)を残し消えていった。

 

(今のは危なかった……。スライム相手でも油断はしてはいけないね)

 

 ゴールドを拾って、反省と考察を続けるアキラ。

 まず、スライムは大きさが一定ではなく、普段の動きがあまり速くはないが、ジャンプ攻撃になると勢いが出るため油断すると避けられない可能性がある。

 大きさに関係するのか、一撃で倒せる場合とそうでない場合があるが、スライムから手に入るお金は一律で1Gだということ。

 

(今分かるのはこれくらいだな。あとは追々考えるとして、今は警戒しつつ先に進もう)

 

 防御に関してはぬののふくという最低限の装備しかなかったのだが、ようやく今回のことで危機感が出てきたのであった。

 それからのアキラは慎重に攻略を進めていく。

 すべての部屋を回らず、階段を目指しつつ進むことにしていた。

 

 途中でスライムを8匹倒し、オレンジ色のスライムベスも5匹倒すことに成功していた。

 スライムは基本1〜2発で倒すことができ、スライムベスは2発攻撃することで倒すことが出来ていた。

 一旦休憩することにしたアキラは地図を広げる。

 

「今いるところがここだから、階段まではあと少しってところか」

 

 今のペースのまま行けば、あと1時間掛からずに到着できると予測を立てた。

 腕時計を見ると、時刻は14時を回っていた。

 お腹も空いてきたため、宿で作ってもらったパンに野菜とお肉を挟んだものを頬張る。

 

 いつモンスターが来るか分からないため、本当であれば休憩するのはあまり良くないと分かっていたが、アキラとしては疲労で集中力が切れてしまう方が良くないと判断したのであった。

 そして30分ほど休憩をしてから攻略を再開する。

 

 立ち上がったところで、ふらふらと飛び回る黒いコウモリのようなものが見えた。

 地下1階層で出現する最後のモンスターのドラキーである。

 飛び回りながら進んでくるドラキーを相手にするかどうか悩むアキラ。

 

(攻撃当たるかな……?)

 

 迷っていると、アキラと目が合ったドラキーが攻撃しようと突撃してきた。

 アキラはどうのつるぎを横向きにして、ドラキーの攻撃を防御しようとする。

 しかし、ドラキーの攻撃の勢いが強く、後ろに飛ばされる。

 

 2mほど飛ばされて尻もちをついたアキラは、まずいと思い、立ち上がると後ろを向いて走って逃げていく。

 息が続かなくなるほど全力疾走で逃げ続け、後ろを振り返るとドラキーは追いかけて来ていなかった。

 

「はぁ……はぁ……や、やばかった!」

 

 息を切らしながら、アキラは地図を確認する。

 幸いにも先程通ってきた道を戻っただけなので、すぐに道はわかった。

 

(それでも……この先には行けないな)

 

 某不思議のダンジョンでもふらふらとして読めない攻撃をしてくるドラキー相手に、今の装備では難しいと判断したアキラは、対策できるまではドラキーとは戦わないと決めた。

 次の階層までの道は他にもあるので、少し回り道をしてでも確実に行こうと決めたのであった。

 

 それからはドラキーに会えば逃げる、それ以外とは戦うというのを繰り返し、1時間半後、次の階層への階段部屋を見つけることに成功した。

 迷宮は階層ごとに地上に帰れる旅の扉が設置してあり、次回からは最後に到達した階層までであれば好きなところから始められる。

 アキラがドラキーに襲われたときに諦めて帰ろうとしなかったのは、これも1つの理由であった。

 

 そして地下2階層に下りたアキラは、そのまま旅の扉で帰るのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 旅の扉のワープの感覚にまだ慣れず、帰ってきたあと部屋を出て30分ほど椅子に座っていると、カナブンが通りかかる。

 

「アキラさん! 戻られたのですね! ……体調悪そうですが、大丈夫でしょうか?」

「ええ……ちょっと、ワープの感覚が…………慣れなくて」

「ああ、初めは苦労しますよね」

 

 カナブンも経験があるらしく、苦笑いをしていた。

 少し雑談をした後、「無理はしないでくださいね」と言って、カナブンは自分の仕事に戻っていく。

 アキラも体調が戻ってきたので宿に帰ることにしたのであった。

 

 宿に戻り、部屋に入ったアキラは今日の出来事について1人反省会をしていた。

 

「今日は初めてにしては悪くなかったと思うんだけど……問題はドラキーだよなぁ」

 

 ドラキーを何とかする方法を考えないといけないと思っていた際に、あることに気付いた。

 

(あ!!! カナブンさんにさっき聞いてみればよかったんじゃん! ……気持ち悪くてそこまでの余裕がなかった!)

 

 明日は迷宮に入る前にカナブンにドラキーの対処法を聞こうと思いつつ、夕食をとって早めに寝るのであった。

 

 

 

 

 

【本日の成果】

・アリアハン 初心者迷宮

討伐数:スライム18匹、スライムベス11匹

獲得G:40G

所持金:46G

 




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第六話

 次の日。ドラクエの世界に転移してから3日目の朝。

 アキラは顔を洗って、朝食を食べたあと、部屋に戻って支度をする。

 ぬののふくを着て、どうのつるぎを腰に差す。

 

「それにしても……やっぱり違和感あるな」

 

 ぬののふくとは一般の町民や農民が来ていてもおかしくない簡素な服なのに、ショートソードよりすこし短いサイズとはいえ、どうのつるぎが腰に差してあるのはとても違和感があった。

 それでも初期装備としての攻撃力は破格のため、お金が貯まるまでは我慢しようと思いながら宿の外に出る。

 そしてルイーダの酒場に行くと、ちょうどカナブンがいたためドラキー攻略法について聞く。

 

「ドラキーですか? ああ、初めは苦戦しますよね」

 

 そう言って、対策法を教えてくれる。

 対策はシンプルで、攻撃して地面に叩き落とすことに注力したほうが良いと話す。

 さらに向こうが攻撃をしてくるようであれば慣れないうちはすぐに走って逃げる。そして逃げるのを決して怖がったりしないことと話していた。

 あまりにシンプルだが、たしかにドラキーは逃げたときに高確率で追ってこないため、一旦逃げた後に再度挑戦する方法もあるなとアキラは考えた。

 

「カナブンさん、ありがとうございます」

「いえいえ、今日は地下2階層ですか?」

「はい。ちょっと様子を見てみたいと思います。無理そうなら地下1階層でお金を貯めて装備を整えようかなと」

「ええ、それも大事ですね。決して無理だけはしないでください」

 

 カナブンと別れ、アキラは旅の扉から初心者迷宮に向かう。

 まだ迷宮2日目だったが、ワープの感覚に少し慣れたのか、昨日よりは体調の悪さ加減が少なくなっていた。

 少し休み、迷宮を進んでいく。

 

 アキラはスライムやスライムベスはもうそこまで苦戦することなく、倒すことが出来ている。

 ドラクエ特有のレベルアップしたという感覚がないことに不思議さは覚えたが、現実はそこまで甘くないのだと気を引き締めて進む。

 そして、早々に昨日のリベンジを果たす相手が出てきたのであった。

 

(出てきたか、ドラキー……次は負けないぞ!)

 

 幸いにもドラキーはアキラの後ろを向いており、ふらふらと飛んでいた。

 そこで不意打ちとばかりに、ドラキーにジャンプしながら斬りつける。

 ドラキーは攻撃を受けて地面に落ちていく。

 

「これでとどめだ!」

 

 アキラはすかさず追撃でドラキーに突き攻撃をする。

 ドラキーはそのまま消えていった。

 

(よ、よし! リベンジを果たしたぞ! 不意打ちだったけど、カナブンさんの言う通りやったら意外と簡単だった)

 

 息を乱しつつもドラキーから手に入れた3Gを仕舞う。

 そこからは地下2階層をてこずることはなかった。

 

 いたずらもぐらは、スコップを持った二足歩行のもぐらである。

 スコップによる縦の振り下ろし攻撃か横のなぎ払い攻撃しかしてこなく、どちらの攻撃になるかの動作も分かりやすいので、簡単に避けられる。

 そのため避けた後に攻撃を加えるスタイルで簡単に倒すことが出来た。

 

 おおなめくじはその名の通り、なめくじのサイズが尋常ではないくらい大きくなったモンスターである。

 全長がアキラの胸元くらいまでの大きさもいたため、少し引いてしまっていた。

 しかし体当たり攻撃しかしてこないのと、攻撃までの動きが緩慢なため先制攻撃で簡単に倒すことが可能であった。

 

 そしてモンスターを倒しつつ進んでいると、地下1階層よりも早く下の階への階段を見つけることが出来た。

 アキラは下の階に早速降りていき、セーフティゾーンで遅めの昼食を取ることにした。

 今日は卵とベーコンのサンドイッチで、思っていたよりも量が入っていたためアキラとしても満足した昼食となった。

 

(さて……地下3階層が一番下だったよな)

 

 アキラは座りながら地下3階層の地図を確認する。

 今いるところが地図の左下であり、ボス部屋は地図の真ん中と書いてある。

 通常通り歩いていけば、1時間くらいで到着出来る距離ではある。

 

 アキラはこのままボスに挑戦するか、様子だけを見て帰るかを悩んでいた。

 初心者迷宮のボスであるおおきづちは、ドラクエをやっていたときからどんなモンスターかを分かっていたため、おそらく負けないと感じていた。

 カナブンに聞いたときにも、原作と同じで力は強いが大振りをしてくるため当たらなければ問題なさそうなモンスターである。

 

(様子を見て、負けそうなら逃げるって感じにしようかな)

 

 初心者迷宮のボス部屋は少し広めの部屋なだけなので、簡単に出入りができるとカナブンから説明を受けていた。

 なのでもし負けそうになっても、最悪逃げれば良いという考えも持っていたので、アキラはボス部屋に行くことにした。

 

 地下3階層のモンスターは地下2階層のモンスターに加え、ももんじゃが出てくる。

 ももんじゃは白い体毛に覆われた身体にトサカが付いており、アヒルのような嘴と足に、サルのような尻尾を持つモンスターである。

 カモノハシをまんまるに太らせて二足歩行にしたモンスターと言えばイメージはしやすいであろう。

 

 ももんじゃの攻撃は、体当たり攻撃と爪でのひっかき攻撃が主な方法である。

 アキラは体当たりを避けつつ、ひっかき攻撃はどうのつるぎで防ぐようにしてダメージを受けないようにしていた。

 どうのつるぎで3回ほど攻撃すると倒せるため、油断さえしなければ問題なく倒せるモンスターだった。

 

 ドラキーも倒し方さえ分かってしまえば、恐れることは何もなく、攻撃もよく見て躱すかそのままカウンター攻撃で倒すことも出来るようになっていた。

 そして慎重に進み、1時間ちょっと経ったところで通路の奥にボス部屋への入り口が見えてきた。

 

(ここでとりあえず終点だな。一旦休憩して、おおきづちに備えるとしよう)

 

 アキラは装備と道具を確認しつつ、座って休憩をする。

 ボスはボス部屋からは出てこないため、警戒するべきは今まで歩いてきた道だけなので、比較的安心して休むことが出来ていた。

 

(やくそうは2個……最悪1個使ってヤバそうなら逃げようか)

 

 自分自身での引き際を確認する。

 ここを間違えると死に繋がる世界だということは嫌というほど分かっている。

 だからこそ油断大敵で慎重に進む必要があった。

 

 慎重に進むために一旦帰って装備を整える選択肢も頭によぎったが、どうせ攻撃は避けるしか手段がないため身軽な方が良いと判断した。

 相手がおおきづちとはいえ、この世界来て初めてのボス戦である。

 アキラは緊張する自分をなだめるように深呼吸をする。

 

 そして覚悟が出来たので、立ち上がってボス部屋へと入っていく。

 

 

 

 

 

 

 そこには自身の身体よりも大きなサイズの木槌を持ったモンスターが立っていたのであった。

 




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第七話

 ボス部屋に足を踏み入れたアキラ。

 部屋の真ん中には二頭身で紫の目出し頭巾のような形のフサフサのたてがみをしたモンスターが自身よりも大きなサイズの木槌を持って立っていた。

 

(あれがおおきづちか……あの木槌が当たったら痛いどころの騒ぎじゃない気がする……)

 

 アキラはいつ戦ってもいいようにどうのつるぎを構えながら、慎重に部屋の中心に歩いていく。

 だが、おおきづちはまるで決闘をこれから行うかのように、アキラが部屋の中心に来るのを待っていた。

 そしてアキラが2mほどの距離で立ち止まったとき、おおきづちもようやく戦闘態勢に入る。

 

 様子を見ているのか15秒ほどそのままどちらも動かずにいたが、我慢しきれなくなったおおきづちが左上から木槌を振り下ろしてきた。

 アキラは咄嗟に右に避ける。そして体勢の崩れたおおきづちの左腕にどうのつるぎで斬りつけてすぐにバックステップで離れる。

 おおきづちは少し痛がるそぶりを見せるが、アキラの方に振り向くと木槌を大きく上に構えて突進してくる。

 

 そのままおおきづちはジャンプをして、空中で一回転したかと思うと、その勢いのままアキラ目掛けて木槌を振り下ろしてきた。

 しかし、この攻撃パターンはアキラもゲームで見たことがあったため、かなりの恐怖感はあったものの左へと飛び避ける。

 アキラがいたところは木槌が刺さり、地面の石床が割れてしまっていた。

 

(い、いやいや! ()()は無理でしょ! 食らったら確実に死ぬって! ……って……あれ?)

 

 一瞬で逃げることで頭が一杯になるアキラだったが、そこからおおきづちが動かずにまごまごしているのに気付く。

 おおきづちは石床に刺さった木槌が抜けずに焦っていた。

 アキラは恐怖心を抑えて、後ろからおおきづちに襲いかかった。

 

 背中を何回も攻撃しつつ、執拗に左腕を狙うアキラ。

 あれだけ大きなサイズの木槌を持つとなると絶対に両腕がないとダメだろうと思い、片腕を攻撃し続ける。

 そしておおきづちが木槌を抜いたとき、左腕はもう上がらなくなっており、右腕で木槌を持っていたが、持ち上げることができなくなっていた。

 

 満身創痍のおおきづちに少し悪い気持ちがしたが、そのまま何回か攻撃を加えたところで倒れて消えていった。

 そして8枚の金貨(ゴールド)が置いてあった。

 

 

 

 

 

(ふぅ……なんとか倒せたね)

 

 アキラはゴールドを拾い辺りを見回す。

 そして部屋の入口の反対側の奥の地面が何か光っているのが見えた。

 事前に聞いていたとおりの魔法陣が出ていたのであった。

 

「よし! じゃあ帰るか……ってあれはなんだ?」

 

 魔法陣の先に何か箱のような物が置いてあるのを見つけたアキラは近付いてみる。

 間違って魔法陣を踏まないように気を付けながら到着すると、そこには鉄で出来た宝箱のようなものがあった。

 

(これ……さっきまではなかったよね?もしかしておおきづちを倒したときのボス撃破報酬(ボーナス)みたいなものかな?)

 

 少しわくわく気分で宝箱を開けるアキラ。

 そこには短い棒のような物が入っていた。

 

「なんだこれ? 剣の……柄……のようなもの?」

 

 剣の柄に似た棒があったが、刀身がないため、剣ではなく別の用途で使うものだろうと判断し、道具袋に仕舞うアキラ。

 そして特にやることも無くなったので、喜びもそこそこに魔法陣に乗る。

 すると魔法陣が強く輝き始める。

 アキラは不思議と眩しいと感じることなくそのまま立っていると、光がアキラを包み込み、そのままアキラごと消えてしまうのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

初心者迷宮の最深部にいたはずのアキラが、気が付くと見覚えがある場所に立っていた。

 

(あれ……? ここってたしかルイーダの酒場だよね?)

 

 初心者迷宮に入る部屋の前にいたアキラは、初心者迷宮を攻略して戻ってきたのだと実感した。

 とりあえずカナブンに報告をしなくてはと思い、カナブンがいるところを探して回る。

 幸いにも酒場のいつものカウンターにいたため、すぐに見つけることが出来た。

 

「おお、アキラさん! 戻られたのですね!」

「はい…なんとか」

「怪我がなく良かったです。今日はどこらへんまで行くことが出来たのですか?」

「えっと……攻略できました」

「…………え?」

「初心者迷宮をクリアしてきました」

 

 さすがのカナブンもその言葉に驚き、疑いの目を一瞬見せる。

 だが、アキラが嘘を付くようなタイプには見えなかったため、初めに冒険者について説明した部屋につれていき確認をすることにした。

 

「アキラさん。正直にまだあなたが初心者迷宮を攻略できたということをにわかに信じることは出来ません。

ただ、それを確認する方法がありますので……恐れ入りますが、私が渡した通行証を見せてもらえますか?」

 

 アキラは首に掛けて服の中にしまっていた水晶のペンダントを取り出してカナブンに渡す。

 ペンダントは微かに青く光っており、攻略前とは雰囲気が変わっていた。

 

「おおおお……これは確かに初心者迷宮を攻略した証です。それにしても2日間で攻略するとは……一体どうやって……?」

「えっと……最後は少し無理したとは思うのですが、地図を見て、普通に階段を目指して進んでいただけです」

「進んでいただけって……アリアハン初心者迷宮の最短攻略記録ですよ!」

「あ、あはは……」

 

 少し興奮するカナブンに対して、アキラは苦笑いをするしかなかった。

 ふと思い出したアキラは宝箱に入っていた()()についてカナブンに聞いてみることにした。

 

「そういえばカナブンさん……ボスのおおきづちを倒した後に宝箱が出てきて開けたらこれが入っていたんですけど、何か分かりますか?」

「え、宝箱ですか? ……これは……なんでしょうか?」

 

 アキラはカナブンに宝箱から手に入れた20cmほどの短い棒を渡すが、カナブンは見たことが無いようで「申し訳ございません。私には分かりかねます」と返されてしまった。 

 仕方がないと袋にしまったアキラは、カナブンから宝箱について質問を受けた。

 素直に答えると、「これは攻略時間の最短記録を更新したため、ボーナスとして出たものですね」ということだった。

 

 過去にも似た事例はいくつかあったということだ。

 初心者迷宮には基本宝箱もモンスターからのドロップもない。だが、ある条件を達成したときのみ貰えるアイテムがある。

 アリアハンの初心者迷宮では、その条件が”攻略時間”ということだった。

 

 ただ、このことを周知してしまうと初心者(ルーキー)が無茶をしてやられてしまう可能性も高くなるため、ルイーダの酒場内の一部の従業員と最短攻略者本人、そして上位貴族の人しか知らないと教えてもらう。

 このルールを破って誰かに教えてしまった場合、厳罰があるので決して口外しないようにとカナブンはアキラに強く伝えた。

 

「それはそうとして。アキラさん、初心者迷宮の攻略おめでとうございます」

「あ……ありがとうございます」

「アキラさんは初心者迷宮の攻略が出来たので、明日正式に冒険者登録の儀式をしたいと思いますがよろしいでしょうか?」

 

 アキラは断る理由もないので、素直に頷く。

 「明日の朝にルイーダの酒場に来てください」と伝えられ、アキラはルイーダの酒場を出た。

 宿に戻ったアキラは、夕食に追加料金を払って少し豪勢にして1人でお祝いをするのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「あれ? カナブンさん。どうしたのですか?」

「いやね……今日初心者迷宮の攻略最短記録を更新した子が出てね」

「え!? あの4日間を更新したんですか!? たしか4日間でクリアした人って無謀に突っ込んでクリアはしたけど、その時の怪我が元でそのまま冒険者を辞めてしまった方でしたよね?」

「……ええ。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「うわ……それはまさに人外ですね……」

 

 カナブンとルイーダの酒場の従業員はアキラについての評価を話していた。

 “人外”といっても、一般人レベルの話だ。冒険者を生業にしているものからすれば、初心者迷宮など1日で攻略も可能なのである。

 だが、それは()()に就いて、ダーマ神の加護を受けてステータスが上昇し、特技や呪文を使えるからである。

 まだその加護を受けていない人が2日間でクリアすることなど、通常では不可能なのである。

 

「でも嬉しいですね。その期待の新人君が入ってくれれば、うち(アリアハン支部)から世界樹迷宮の攻略者が出るかもしれませんからね!」

「ええ。そうなれば私としても嬉しいですが……一応無茶をしないようにうちのスタッフで様子を見てあげましょうか」

「はい、カナブン()()()!」

 

 アキラがどんな職業に就くことが出来るのか。それを楽しみにしながら事務作業をこなしていくカナブンであった。

 

 

 

 

【本日の成果】

・アリアハン 初心者迷宮 “攻略済み”

討伐数:スライム16匹、スライムベス13匹、ドラキー9匹、いたずらもぐら7匹、おおなめくじ8匹、ももんじゃ3匹、おおきづち1匹

獲得G:142G

所持金:187G(夕食追加分-1G)

 




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第八話※

ステータスが入っている回の題名に※を付けます。
次回で序章が終了です。



 初心者迷宮を攻略した翌日。アキラはウキウキしながらルイーダの店に向かっていた。

 なぜなら冒険者登録の儀式を行うと言われていたからだ。

 何をやるかは一切分かっていないが、儀式というからには何かしら特殊なことをするのであろうと予想していた。

 

(あれかな? この儀式とかで呪文とか使えるようになるのかな? メラとかホイミとか!)

 

 気持ちを弾ませながらルイーダの酒場に入り、奥のカウンターに居るカナブンに話しかける。

 

「カナブンさん! おはようございます!」

「ああ、アキラさん。おはようございます。……随分と張り切ってらっしゃいますね」

「ええ! これで冒険者になれると思うとわくわくしてしまって……」

 

 カナブンの言葉に素直に応えるアキラ。

 その様子を見てカナブンは軽く笑うと、「それではこちらに来てください」と言って、カウンターの中にある扉に入っていく。

 アキラは慌ててカナブンについていき、扉の奥に入る。

 

 扉の先には通路が1本だけあり、カナブンの後ろを歩きながらこれから何が起こるのか少しだけ緊張する。

 通路を歩くと、その先には鉄の扉があった。

 

「それではこの先で冒険者登録の儀式を行います。先に冒険者になった特典と義務についてお話しますね」

 

 カナブンが冒険者の特典と義務について話し始める。

 冒険者にはランク(F〜S)に応じて特典がある。

 武具や道具を安く購入出来る、ルイーダの酒場から得ることが出来る情報量が増える、入れる迷宮の数が増えるなど。

 それは迷宮の攻略数やモンスターの討伐数、依頼の達成数などに応じて判断される。

 いくら実力があっても、人間性が悪い場合はランクが上がらないこともある。

 

 義務については納税と強制依頼、迷宮踏破である。

 ランクが上がるごとに年に支払う税金額が上がっていき、もし支払えなかった場合は冒険者としての資格を一定期間失うなどの罰則がある。

 強制依頼はモンスターの襲来などの緊急事態のときにその場にいる冒険者全員に出される依頼のことで、もし断ったり逃げたりした場合は冒険者資格の永久剥奪もあり得るとのこと。

 あと、迷宮を攻略するために動いてほしいということ。これは義務よりもそれが冒険者として当たり前の行動だといった内容に近い。

 

 その他に関しては、冒険者同士で揉めた場合は自己責任だが、あまりにも理不尽な場合はルイーダの酒場が仲裁に入ることもある。

 他人に迷惑を掛けない、犯罪を犯さないなど、およそ日本で暮らしていたアキラにとっては当たり前のことであった。

 

「以上ですが、何か質問はありますか?」

「いいえ、大丈夫です」

「そうですか……それではこれから冒険者登録の儀式を行いたいと思います。この中に1人で入り、冒険者証を首にかけてから魔法陣の上で祈りを捧げてください」

「祈り……ですか?」

「はい、そこでダーマ神より()()()()()()()()()()()を授けられることになります。それで儀式は終了ですので、部屋から出てきてください」

 

(おおおお! 職業!! ……初めは基本職とかなのかな?)

 

 カナブンの言葉に頷きながらも興奮する。

 ドラクエの世界ではシリーズによって、”職業”というものが存在する。

 基本職の戦士、魔法使い、武闘家、僧侶などから、上級職のバトルマスター、賢者、パラディン、魔法戦士など。

 最上級職として勇者といったものまであった。

 

 ただ、あくまでこれはアキラが知っているゲームの知識でのことなので、どの世界(シリーズ)の職業が基準になっているのかをあとでちゃんと調べようとアキラは思っていた。

 兎にも角にもまずは冒険者としての儀式を済ませて、職業を得ることから始めようと”儀式部屋”へと足を踏み入れる。

 

 中を見渡すと、先程の通路までは木造で出来ていたのに、”儀式部屋”は石で出来ていた。

 明かりがないにも関わらず、不思議と部屋の中は暗さをさほど感じないことにアキラは不思議に思っていた。

 

(こう……なんていうんだろうか……清らかというか……神秘的?)

 

 アキラは”儀式部屋”が清められた空間だということに薄っすらと気付いていた。

 部屋の中は5m四方の正方形で出来た部屋で、真ん中に魔法陣が描かれている。

 それは初心者迷宮の最奥で見た魔法陣とは形が微妙に異なっていた。

 

(と、とりあえずどうするんだったっけか? ……あ、冒険者証を首にかけて……)

 

 アキラは水晶が付いたペンダントが首にかけられているのを確認して、魔法陣の中に入る。

 そして跪く(ひざまずく)と、両手を合わせて神社でお祈りするように目を瞑る。

 

(これでいいのかな? ……お祈り、お祈り……神様! 僕にすごい職業をください! お願いします!)

 

 ただ願望を心の中で話しているだけなのに気付いていないアキラだが、徐々に気持ちが落ち着いていく。

 次第に何も考えることなく、自然と()()()()()()()()に近い状態になっていった。

 すると、魔法陣が淡く光りだす。ホタルのような光が現れ、数が少しずつ増えていく。

 

 無数の光がアキラを包んでいる様子をもし誰かが見ていたとしたら、その幻想的な姿に言葉を失っていただろう。

 光はアキラを包みつつ、周りをゆっくりと回転していく。

 そして、少しアキラから離れ上の方に上がっていったかと思うと、ゆっくりと雪のようにアキラに向かって舞い降りていった。

 

 その一粒一粒が、アキラに当たるたびに吸収されていき、アキラ自身が微かに光り輝いていく。

 光がアキラに全て吸い込まれたあと、アキラの光も徐々に消えていった。

 そして、その場にはアキラが祈りを捧げる前と同じ静寂だけが残されていたのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 アキラはゆっくりと目を開けて、儀式が終わったと自然と理解していた。

 何かが変わったような、何かが宿ったような。そんな感覚に包まれたまま、立ち上がって部屋を出ていく。

 そこではカナブンが待っていた。

 

「終わりましたか?」

「はい。多分ですけど」

「どうやら”職業”を無事に得ることが出来たみたいですね。それでは今度は冒険者としての誓約書を書いていただきますので、ついてきてください」

 

 カナブンはアキラを初日に冒険者について説明した部屋へと案内する。

 そして1枚の紙を取り出して、説明を始める。

 

「これは”契約の魔法紙”といいます。ここに書いてある内容を守りますというものなので、きちんと読んでからサインをしてください」

 

 アキラは内容をゆっくりと読み始める。

 それは冒険者としての心得が書いてあるだけで、先程カナブンがその他事項で説明した内容と同じであった。

 端的に、他人に迷惑を掛けない。犯罪を犯さないといった内容である。

 

 アキラは何も文句がなかったので、すぐにサインをしてカナブンに渡す。

 カナブンはアキラから契約書を受け取り、サインを確認してテーブルの内側に入れる。

 

「はい、ではこれで冒険者としての登録は終わりとなります。最後にアキラさんに冒険者証の使い方について説明しますね。

まず、冒険者証は身分証以外に自身の()()()()()を表示することが出来るのです。

水晶を持ちながら『ステータス』と唱えてみてください」

 

 カナブンに言われたとおり、『ステータス』と唱えると、アキラの目の前に四角いウインドウ画面のようなものが現れだした。

 

「これでアキラさんの強さや職業などが表示されます。任意で他人に見せることも出来るのですが、よほど信頼している方でない限り全ては見せないほうが良いでしょうね」

「分かりまし……えっ!?」

「ん? どうしましたか?」

「い、いえ、何でもないです!」

「そうですか。これでアキラさんの説明等は全て終わりです。これからのあなたの活躍を期待します」

「あ、ありがとうございます」

 

 そしてアキラは不審にならない程度に急いでルイーダの酒場から出ていくのであった。

 宿に着いたアキラは、早々に部屋に籠り改めてステータス画面を確認して考え出すのであった。

 

「『ステータス』」

 

【ステータス】

・名前:アキラ

・称号:

・冒険者ランク:F

・ジョブ:ものまね士

・レベル:1

・所持金:186G

・各種能力:

HP:22

MP:0

ちから:8

みのまもり:6

すばやさ:6

きようさ:5

こうげきまりょく:5

かいふくまりょく:3

みりょく:4

うん:12

 

【スキル】

・ものまね士スキル:1 【熟練度:0】

・剣スキル:1 【熟練度:26】 (剣装備時攻撃力+5)

・武術スキル:1【熟練度:2】 (身体能力UP)

・ユニークアビリティ:ものまね

 




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第九話※

本話で序章が終了となります。
次回からは大体週に1度のペースになります。
ただ、気分が乗ったら早めに出すかもしれません。

これからもよろしくお願いします!



(ものまね士って……()()()()()()()()よなぁ……)

 

 アキラは自分の部屋でステータスを確認していた。

 ただ、何度見ても()()()()()()()()()となっており、そこには”ものまね士”と記載されていた。

 アキラの知る限り、ものまね士はファイナルファンタジーという作品に出てきたジョブであり、そのアビリティの特徴は”前に行動した人のモノマネをすること”であった。

 

 スキルの項目にはものまね士スキル、剣スキル、武術スキル、ユニークアビリティがあり、ユニークアビリティ以外には熟練度が記載されていた。

 そして、()()()()()()()()()には熟練度がなく、『ものまね』とだけ書いてあった。

 この項目を見たとき、アキラは正直に不安になってしまった。

 

(まさかのモシャス劣化版とかにならないよね……?)

 

 ドラクエの世界には『モシャス』という呪文がある。

 それは対象者の姿や能力を真似て変化出来るというものであった。

 下手すると、モシャスの方が使い勝手が良くなる可能性もあるため、劣化版になってしまう不安を抱いていたのであった。

 ただ、ものまね士には、自分以外のアビリティをセットして使えるようになるという能力もあったので、アキラは試してみることにした。

 

(……で、出来ない。スキル項目とかをいじれば白魔法とか召喚魔法とか選べると思っていたのに……。

で、でも! ものまねって能力を上手く使えばきっと役に立つはず……)

 

 アキラはファイナルファンタジーのものまねの特性を思い出す。

 前の戦闘行動を真似ることができ、その際にM()P()()()()()()という能力がある。

 しかしこれもどのシリーズかによってかなり能力が変わってくるため、一旦考えを保留にする。

 そして検証してみないと分からないので、迷宮に入って確かめてみることにした。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 カナブンに許可を取り、初心者迷宮を探索しようとしたところ、「仮冒険者にしか使えない迷宮のため、アキラさんは入れないんです」と断られてしまった。

 代わりに、初級者迷宮というFランク冒険者が入れる迷宮へ案内されたので、資料を確認したあとに旅の扉から入っていく。

 

(今日は様子見だから、ちょっと確かめたら帰ろう)

 

地下1階にはスライム、ドラキー、ホイミスライム、いっかくうさぎ、まほうつかいが出現する。

 ホイミスライムとまほうつかいの呪文だけが怖いが、それ以外に関しては特に問題なさそうに見えた。

 旅の扉を使って移動したあとは、少し休憩後に探索を開始する。

 少し歩くと、スライムとドラキーが出てきたが、なぜかドラキーも一撃で倒すことが出来ていた。

 

(あれ? なんでだろう? まだレベル1ってことは初心者迷宮にいたときと同じステータスじゃないの?)

 

 不思議と身体が軽くなり、力強くなって、初心者迷宮にいたときよりも戦いやすくなっていると感じたアキラだが、それがなぜかは分かっていない。

 あとでカナブンから職業に就くことでステータスに補正が入るという説明を受けるのだが、今現在はそれが分かっていなかったのである。

 

 アキラが探索を続けているといっかくうさぎに出会う。

 かなりでかい兎の頭に一本の角が生えているのが特徴で、突撃して角を使って攻撃してくる。

 攻撃が直線的なので、ひらりと躱したアキラは振り向きざまにどうのつるぎで攻撃をして倒す。

 初心者迷宮も地下1階であれば問題なく対応できるのだと理解して、先に進む。

 

(あの姿は……まほうつかいか!)

 

 少し歩いていると人型でローブを被ったモンスターを発見する。

 ここでアキラはユニークアビリティを試してみることにした。

 

 背後からそっと近付いて、まほうつかいを攻撃すると、そのまま立ち上がれないくらいに攻撃を加える。

 急に攻撃されたまほうつかいは驚き怯んでいるが、途中でアキラが攻撃を止めて離れたのがチャンスだと思い、詠唱を始める。

 するとまほうつかいの左手から小さな火球が出現し、アキラに迫ってくる。

 

 アキラは避けようとするが、追尾型なのか避けることが出来ず当たってしまう。

 一応防御をしたが、その火球の熱さと衝撃に少しだけ顔を歪める。

 

(あっっっつ! 今のが多分『メラ』だよな? よし! じゃあこれを……)

 

「『ものまね』!」

 

 アキラが『ものまね』を発動させると、まほうつかいに炎が舞い上がり、そのまま消えてしまった。

 明らかに『メラ』とは違う威力に引いていると、自身が光りだした。

 すぐに光が消えたので、もしかしてと思い、周りに敵がいないのを確認してステータスを開いてみる。

 

「あ、レベルが2に上がってる!」

 

 思わず声を出してしまったアキラだったが、すぐに別の項目に目をやり驚く。

 

 

【スキル】

・ものまね士スキル:1 【熟練度:3】

・剣スキル:1 【熟練度:26】 (剣装備時攻撃力+5)

・武術スキル:1【熟練度:2】 (身体能力UP)

・特殊技能:ファイア

・ユニークアビリティ:ものまね

 

 

(……いやいやいや! なんで『メラ』じゃないの!? 『ファイア』ってドラクエじゃないじゃん!)

 

 特殊技能という項目が増えており、そこには()()()()と記載されていたのだ。

 そして、アキラはファイアを覚えたことに対して、思わずツッコミを入れていた。

 そして今の混乱状態だと戦闘に支障が出ると判断し、すぐに迷宮から出るのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 アキラはカナブンへの挨拶もそこそこに、再度宿に戻り今起こったことを考えてみることにした。

 

(まず、まほうつかいから『メラ』を喰らって、『ものまね』をしたところ、明らかに見た目が『メラ』ではなかったんだよな……。

それで見てみたらスキルに火炎魔法(ファイア)という項目が増えていたと)

 

 攻撃を受けるか、『ものまね』をすることで、その能力(スキル)真似(コピー)出来るのが、ものまね士の特徴なのかもしれないと推測する。

 そして、それはドラクエの世界の()()ではなく、ファイナルファンタジーの世界の()()を覚える可能性が高いということ。

 これは恐らく自分自身にとってプラスになることが多いと納得する。

 

(せっかくこの能力を手に入れたんだから…きちんと活かしていこう!

どうせファイナルファンタジーの魔法が使えるなら、究極魔法『アルテマ』だって覚えるかもしれない!)

 

 アキラは淡い期待を抱きながら、夢の世界に旅立っていくのであった。

 

 

 

 

〜序章 仮冒険者アキラ 完〜

 

 

 

 

【序章最終ステータス】

・名前:アキラ

・称号:

・冒険者ランク:F

・ジョブ:ものまね士

・レベル:2

・所持金:202G

・各種能力:

HP:24

MP:5

ちから:9

みのまもり:7

すばやさ:9

きようさ:7

こうげきまりょく:8

かいふくまりょく:7

みりょく:6

うん:14

 

【スキル】

・ものまね士スキル:1 【熟練度:3】

・剣スキル:1 【熟練度:26】 (剣装備時攻撃力+5)

・武術スキル:1【熟練度:2】 (身体能力UP)

・特殊技能:ファイア

・ユニークアビリティ:ものまね

 

【装備品】

頭:なし

身体 上:ぬののふく 上

身体 下:ぬののふく 下

手:なし

足:スニーカー

武器:どうのつるぎ

盾:なし

 

【所持アイテム】

やくそう:2個

 

【予備の装備品】

なし

 




ファイナルファンタジーの話が出ると、FF派とファイファン派で分かれるって話題がほぼ確実に出ますよね。
皆さんはどちらでしたか?

あと、あえてものまね"士"にしています。

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第一章 冒険者アキラ
第十話※


今日から新章に入っていきます。



 アキラが初心者迷宮を攻略してから数日が経っていた。

 現在全5階層からなる初級者迷宮を攻略中である。

 地下4階層まで攻略し、明日ボス部屋を覗きに行こうと考えていた。

 

 装備を新しくしたアキラは、自身のステータスを確認する。

 

【ステータス】

・名前:アキラ

・称号:

・冒険者ランク:F

・ジョブ:ものまね士

・レベル:4

・所持金:401G

・各種能力:

HP:29

MP:14

ちから:10

みのまもり:7

すばやさ:14

きようさ:10

こうげきまりょく:12

かいふくまりょく:12

みりょく:11

うん:18

 

【スキル】

・ものまね士スキル:2 【熟練度:3】

・剣スキル:1 【熟練度:71】 (剣装備時攻撃力+5)

・武術スキル:1 【熟練度:16】 (身体能力UP)

・特殊技能:ファイア、ケアル

・ユニークアビリティ:ものまね

 

【装備品】

頭:なし

身体 上:かわのよろい 上

身体 下:かわのよろい 下

手:なし

足:かわのブーツ

武器:どうのつるぎ

盾:かわのたて

 

【所持アイテム】

やくそう:5個、どくけしそう:5個、キメラのつばさ:1個

 

【予備の装備品】

ぬののふく

 

 

 レベルが4に上がり、各種ステータスも上がっている。

 力があまり上がらなく、魔法寄りのステータスになっているのはジョブである”ものまね士”が影響していると予測していた。

 スキルもホイミスライムから『ケアル』を覚えることに成功し、戦闘面でも色々と出来ることが増えてきていた。

 

 装備も()()()で揃えることで、アリアハンで購入できる最強装備にしている。

 かわのブーツは武具屋で運良く1点だけ仕入れたところを購入でき、足元の防御力も問題なくなっていた。

 

(さて……明日から行く地下5階層なんだけど、確か”毒”を扱うモンスターが多いんだよね)

 

 地下5階層はフロッガー、さそりばち、バブルスライムで、ボスがポイズントードである。

 なので、ボスに挑む場合はどくけしそうか『キアリー』の呪文が必須なのである。

 アキラもどくけしそうを購入しており、万一の備えとしていた。

 

 他にも本日分かったことがある。

 それは教会の存在である。ドラクエの世界では教会は必須の場所であり、アキラもどのシリーズでもお世話になっていた。

 この世界での教会は、毒や呪いの解除と蘇生が可能となる『お祈り』というものがあった。

 

 迷宮に入る前にお祈りをしておくことで、万が一のことがあっても高い確率で蘇生が可能になる。

 ただし、それは確実ではなく、あくまで()()()()であることと、最低でも死亡した本人の身体が一部でも無いと蘇生は無理なのである。

 身体が全て揃っていればいるほど、さらに確率も上がるということであった。

 

 アキラはそのことを本日聞き、今まで利用していなかったことの恐ろしさと、ソロで潜ることの危険性を改めて感じてしまった。

 『お祈り』で教会を利用しておけば万が一に死亡しても、もしかしたら他の冒険者が生き返らせてくれる可能性もあるし、毒や呪いの解除呪文も『ものまね』を使うことで覚えられる可能性があったからだ。

 それにパーティーを組んでいれば、他の冒険者に偶然見つけてもらうなどといった運に頼る必要もなくなるため、どうしようか悩んでいたのであった。

 

(明日の朝は絶対に教会に行こう……。あと、早めにパーティーメンバーを探さないとな)

 

 兎にも角にも明日に備えてゆっくりと休むアキラであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 次の日の朝、用意を終えたアキラは教会で『お祈り』をしたあと、無理を言って毒の解除をお願いした。

 毒にかかっていないアキラに呪文を唱えても意味がないと散々言われたのだが、なんとかゴリ押しで『キアリー』を唱えてもらう。

 そして『ものまね』を発動し、毒の解除魔法である『ポイゾナ』を覚えたのであった。

 

(よし。これでどくけしそうが無くなっても魔法で毒の回復ができる!)

 

 朝からわがままに付き合わされて不機嫌な神父を背にして、ほくほく顔でルイーダの酒場に向かったアキラ。

 さすがに呪いの解除もやってくれと言ったら怒鳴られそうだったので、それはまたの機会にしようと思っていた。

 

「カナブンさん、おはようございます」

「ああ、アキラさん。おはようございます」

「これから行ってきますね」

「はい、無理しないように気を付けてくださいね」

 

 アキラとカナブンはいつもどおりの朝の挨拶を交わす。

 そのままアキラは初級者迷宮への旅の扉の部屋に向かい、警備員に冒険者証を見せて旅の扉に入る。

 そして地下迷宮5階層の探索を始めるのであった。

 




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第十一話

大変お待たせしました。
活動報告には詳しく書かせていただいたのですが、今後も少しの間だけ更新が遅れますのでよろしくお願いいたします。



 アリアハン初級者迷宮地下5階層。

 アキラは今日で攻略を目指すために探索をしていた。

 

 地下5階層で出てくるモンスターは、フロッガー、さそりばち、バブルスライム。

 毒攻撃を持ったモンスターもいるため、何かしらの回復手段を持っていないと苦戦は確実であった。

 アキラはその上で丁寧に探索していく。

 

 フロッガーはカエルを大きくしたモンスターであり、後列の仲間を狙ってくる特徴があるのだが、アキラはソロで探索しているため特に問題はなかった。

 

 さそりばちは蠍と蜂を合成したようなモンスターで、仲間を呼んでくるのと攻撃力が高いことで警戒するべきモンスターである。

 もし複数で出てきた場合は真っ先に倒さないと、気が付いたら囲まれていてタコ殴りにあっているという可能性もあるため、アキラは出てきた際にすぐに倒すようにしていた。

 

 バブルスライムは緑色のスライムが溶けて広がったような見た目のモンスターである。

 毒攻撃を持っているため、油断していると徐々に体力を削られていき倒される可能性もあった。

 アキラは何回か毒攻撃を受けたが、『ポイゾナ』を使ってすぐに回復することで対処することで問題なく倒すことが出来ていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 探索もそこそこに、数時間でボス部屋の前に着いたアキラは休憩がてら装備の確認をしていた。

 MPもまだそこまで減っていないのと、体力も問題ないのでこのままボス戦に突入しても構わないと思っていた。

 

(ボスはポイズントードだったな)

 

 アリアハン初級者迷宮のボスはポイズントード。

 フロッガーの上位種のモンスターで、色が青色になったところと毒攻撃が追加されたくらいなので、今までのように戦うのであれば問題はないと感じていた。

 そして意を決してボス部屋に入っていく。

 

 目の前にはフロッガーのふた回りも大きなポイズントードが跳ねながらアキラを待っていたのであった。

 

 

 

 

 アキラが身構える前にポイズントードは長い舌を使ってアキラに鞭のような横薙ぎ攻撃を仕掛けてきた。

 咄嗟にしゃがむことで攻撃を上手く躱す。

 しかし、その隙を突いて高く飛び上がり、アキラに向かって落ちてくる。

 後ろに飛ぶことで衝撃を逃がすが、アキラは少なくないダメージを受けていた。

 

「くそ! ……『ケアル』!」

 

 すぐに回復魔法を唱えて傷を癒やす。

 そこにポイズントードは再度舌を出して、アキラが持っていたどうのつるぎを掴み取り上げてしまう。

 

「……しまった!!」

 

 ポイズントードはどうのつるぎを部屋の端っこに投げ捨ててしまったため、アキラは丸腰で戦うことになってしまった。

 

(やばいな……『ファイア』で戦うことも出来るが、あいつがどれくらいで倒せるかも分からないと無駄打ちは出来ないし……)

 

 相手の武器を奪ったことで余裕が出てきていたポイズントードは、跳ねながらアキラを挑発していた。

 アキラはどうにかしてどうのつるぎを取りに行かないと話にならないと思い、隙を伺うがどうのつるぎまでの距離がありすぎるため、すぐに追いつかれてしまうことは明白であった。

 

「これを喰らえ! ……『ファイア』!」

 

 アキラは苦し紛れに『ファイア』を唱えてダメージを与えようとしたとき、ポイズントードが突進をしてきて『ファイア』を突き破り、アキラに体当たりをして思い切り吹き飛ばした。

 壁に激突したアキラは、『ケアル』を唱えようとするが上手く集中が出来ず、詠唱に時間が掛かっていた。

 その間に目の前にはポイズントードが迫っていたのであった。

 

(『ケアル』を唱えるのはキツい……やくそうを使うしかないか……)

 

 やくそうを使おうと道具袋を漁るが、焦りから間違ってどくけしそうを取り出してしまう。

 間違いに気付き、再度道具袋に手を入れたとき、ポイズントードの舌によって道具袋を弾き飛ばされてしまう。

 

(く……! やくそうを掴めなかった……ってこれは……)

 

 やくそうを掴めなかったが、咄嗟に掴んだものは()()()()()()()()()()()()()()()()()()であった。

 何に使うかが未だに謎であったのだが、なりふり構っている場合ではない。

 剣の柄くらいの長さしかないが、無いよりもマシだと思い、そのままポイズントードに突っ込んでいく。

 

 ポイズントードもカウンターでアキラに止めを刺そうと舌を振り回してきたところで──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────大きな振動とともに、ポイズントードの舌が地面に落ちたのであった。

 

 

 

(な、何があったんだ……?)

 

 アキラは短い棒を振り回しただけであり、そんな物がポイズントードの舌に当たったところで逆に吹き飛ばされてしまうのがオチである。

 ふと自身が握っていた棒を見ると、そこには赤く光る剣のようなものが棒から伸びていたのであった。

 

(こ、これは……ビームサーベル……? いや、どちらかというとフォトンソードとかライトセーバーのような形状だ…)

 

 ポイズントードは舌を切られたせいでバランスを崩し倒れていたが、切られた舌の断面を見ると、煙が出て()()()()()()ような状態になっていた。

 動きを止めて考察をしたくなる衝動を抑え、アキラはポイズントードに斬りかかった。

 斬る際に何の引っ掛かりもなく、ポイズントードを真っ二つにしたアキラは、光る剣を離して床に座り込む。

 

 

 アキラの手から離れた光る剣は、赤い光を無くし、元のただの棒に戻ってしまうのであった。

 




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第十二話

大変遅くなりました。
詳細は活動報告に載せましたので、今後ともよろしくお願いいたします。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=245460&uid=302379

〜前回までのあらすじ〜

ドラクエシリーズがくっついてしまった世界に転移したアキラ。
ルイーダの酒場で冒険者となり、アリアハン初級者迷宮で迷宮主のポイズントードを赤く光る剣でなんとか倒すことに成功した。



「お、終わったぁ〜!!」

 

 アキラはポイズントードを倒したあと、動けずに地面に大の字になって寝ていた。

 体全体が汗まみれになっており、着ていた服も汗で濡れてしまっていた。

 

 ボス部屋は雑魚モンスターが入れない特殊な空間になっているため、ボス撃破後に休憩をしてから帰るパーティーも珍しくない。

 そう聞いていたアキラは安心して横になり、疲れもあってか、そのまま意識を飛ばすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 少しの時間が経ち、目を覚ましたアキラは上半身を起こして体の具合を確かめる。

 攻撃を食らったダメージも『ケアル』で回復しているため、特に問題ないと判断して辺りを見渡す。

 アキラのすぐそばには、ポイズントードを真っ二つにした棒が落ちていた。

 

(そうだ……この棒から()()()が出てきて、ポイズントードをいとも簡単に切り裂いたんだったな……)

 

 棒を持ったアキラは、また光の剣を出そうとしてみるが、一切反応がなく、ただの棒のままだった。

 10分ほど色々と試してみるが何の成果もないため、諦めて棒を道具袋に仕舞う。

 そして立ち上がって部屋全体を見渡すと、奥には魔法陣が浮かび上がっており、光を放っていた。

 

(あの魔法陣は初心者迷宮のときと同じやつだな。……ん? あの奥にあるのはもしかして……)

 

 魔法陣の奥に何かを発見したアキラは、間違って魔法陣を踏まないように気を付けながら回り込んで奥に向かう。

 そこには初心者迷宮のときと同じ宝箱が置いてあったのであった。

 

「おおおお……! これは初級者迷宮を攻略した特別報酬(ボーナス)ってやつかな?」

 

 わくわくしながら、宝箱をそっと開ける。

 初心者迷宮のときでさえ、ポイズントードを倒せるだけの光の剣を手に入れることができたのだから、初級者迷宮だと何が貰えるのか楽しみだった。

 そしてそこから出てきたのは──

 

「……指輪?」

 

 そこには銀色のシンプルな指輪が置いてあった。

 中には他に何も入っていないのは外から見ても分かるため、指輪がボーナスアイテムだということに気付く。

 宝箱から指輪を取り出して調べるが、何の変哲もない指輪でしかなかった。

 

(これって何だろ? ……呪われていないよね?)

 

 ドラゴンクエストシリーズには、()()()()()()()()という不思議のダンジョンシリーズがある。

 そこでは指輪をはめると呪われていて外せないということがよくあった。

 その可能性に至ったアキラは、自身の指にはめようとして────やめたのであった。

 

(いや、今はやめておこう。何かあったら今の僕だと対応できない可能性がある。それならカナブンさんに見てもらったほうがいいかもしれないからね)

 

 困ったときのカナブンと言わんばかりに、カナブンを頼ってしまっているアキラであったが──この世界に来た時点で──1人で生きていくのは難しいと思っている。

 だからこそ頼れる人には全力で頼ろうと人任せな考えに至ってしまっていたのであった。

 そして他にやることもないと思い、ポイズントードに吹き飛ばされたどうのつるぎを拾ってから、魔法陣に乗って帰還するのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 ルイーダの酒場に戻ってきたアキラ。

 目を開けると戻ってきたことを実感して、安心した気持ちになってしまうのは仕方ないのであろう。

 命を賭けて戦っているので、モンスターがいない空間では力が抜けてしまうのであった。

 

 アキラはそのままカナブンを探すが、見つけることが出来ない。

 今日は仕方ないと帰ろうとするアキラを1人の女性が呼び止めた。

 

「あら? アキラさん、戻られたのですね。カナブンさんなら出掛けていて、今日は遅くまで戻らないと言っていましたよ」

「ああ、そうだったのですね。初級者迷宮を攻略したので、その報告をしたかったのですが……」

「……え? 今、()()()()()()()()()()と……仰いました?」

「え、あ、はい」

「えぇぇぇええ!? もうですか!?」

 

 職員の女性がアキラの言葉に思わず大きな声を上げてしまう。

 しかしそれも仕方がない。初級者迷宮は初心者迷宮をクリアした冒険者がパーティーを組んで10日以上掛けてようやくクリアできるレベルなのである。

 

「アキラさんって……初級者迷宮に入って何日目でしたっけ?」

「えっと……冒険者登録をしたのが4日前で、その日に入ったので今日で5日目ですね」

「………パーティーを組まずに……ですよね?」

「まぁ……そうなりますね」

 

(こ、この人……単独(ソロ)で初級者迷宮を最短攻略するって何を考えてるの!?)

 

 職員の女性はアキラの無謀さに引いていたが、すぐに冷静な顔に戻り笑顔で祝福する。

 

「しょ、初心者迷宮の最短攻略、おめでとうございます」

「あ、どうもありがとうございます」

「最短攻略されたということは……ボーナスアイテムは何か貰えましたか?」

「あ、はい……って職員さんもボーナスアイテムのことはご存知なのですね?」

「ええ、私もそのことに関しては、知る権限を持っているレベルの職員なので」

 

 ボーナスアイテムのことはルイーダの酒場でも一部の従業員しか知らないため、カナブン以外の人には相談出来ていなかったのであった。

 丁度良いと思ったアキラは、手に入れた指輪を取り出して見せてみる。

 

「指輪……ですか?」

「指輪……ですね」

 

 職員は丁寧に観察してみるが何のアイテムか分からないため、アキラに提案をすることにした。

 

「アキラさん、良かったら()()をしてみませんか?」

()()……ですか?」

「はい。アイテムの鑑定ができる呪文がありまして、ルイーダの酒場でも常時何名かが常駐しています。

お金は掛かりますが、もちろん守秘義務はきちんと守りますので安心していただいて大丈夫です」

「え!? そんなことが出来るんですか!? ぜひお願いしたいです!」

 

 アキラは即答していた。ユニークスキルである『ものまね』を十全に発揮するには、どんな呪文や特技でもたくさん見て真似るのが一番だと感じていたためである。

 食い気味でお願いをされた職員は少し引いていたが、咳払いを一回すると話し出す。

 

「実は私もその呪文を使えますので、今回は私が鑑定を行いますね。それではこちらの部屋に来てください」

 

 アキラは女性の職員──歩きながら、名前をルナと自己紹介されていた──についていく。

 カナブンに地図などを見せてもらった部屋を通って奥の一室にたどり着くと、ルナは部屋を開けてアキラに中に入るように促す。

 素直に部屋に入ると、そこはテーブルと椅子が置いてあるだけの6畳ほどの部屋であった。

 

「ではそちらにお掛けください。そして指輪をテーブルの上に置いてもらえますか?」

「はい」

 

 アキラが袋から指輪を出してテーブルに置く。

 その指輪を受取り、指輪に手をかざすと、呪文の詠唱を始める。

 

「……『インパス』」

 

 ルナが『インパス』を唱えると、指輪が青く淡い光を放ったあと、ルナの目の前に四角いウインドウのようなものが現れた。

 そこに書かれているであろう文字をルナは読み、驚いた顔をする。

 

「これは……凄いですね」

「ど、どんな指輪なのですか?」

「えっと、名前が『収納の指輪』ですね。効力は『任意のアイテムを自動で出し入れが出来る。装飾品の効果重複可能』となっています」

「お、おお……」

 

 アキラは自分が手に入れた指輪をまじまじと見つめる。

 そんな効力があるとは思っていなかったので驚いたが、ふとあることに思い至り、ルナにさりげなく尋ねる。

 

「そういえば同じ効果がある道具袋のようなものはあるんでしたっけ?」

「ええ、ありますよ。ただ、それはかなり希少(レア)なものでして、初心者迷宮をクリアするレベルの冒険者が持っているアイテムではないんですよ。

しかも袋は手を入れて出し入れをしなくてはいけないのですが、指輪は身に着けていれば取り出しが簡単にできるので更に希少価値はありますね」

 

 ただし、指から外されて持っていかれないように注意してくださいねとルナは追加で注意を促していた。

 効果がある程度わかったので、アキラは次に自分が試したいことをしてみることにした。

 




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第十三話

 ルナにアリアハン初心者迷宮で手に入れたボーナスアイテムの指輪を鑑定(インパス)してもらい、『収納の指輪』というレアアイテムだと分かったアキラ。

 そこで次に自分自身で試したいことを行おうと、ルナに聞こえないように小さな声で『ものまね』と呟く。

 すると、目の前にルナと同じように四角いウインドウが現れた。

 

---------------------------------------------

 

・アイテム名:収納の指輪

・特徴:任意のアイテムを自動で出し入れが出来る。装飾品の効果重複可能

 

---------------------------------------------

 

(おおお、ものまね出来た! ……でもFFに()()()()()()()()()()()ってあったっけ?)

 

 アキラはそう疑問に思い、宿に戻ったらステータス画面を確認しようと心で決めていると、ルナが不思議そうな顔をして尋ねてきた。

 

「アキラさん……ボーッとしてますけど、どうされたのですか?」

「あ、いや……ちょっと考え事をしていて……なんでもないです!」

 

 慌ててルナに対して誤魔化すような口調になっていたのだが、そこでも1つ疑問に思うことが出来ていた。

 

 

 

 

 ──『インパス』を『ものまね』したときに出てきたウインドウは、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 アキラはそのことを聞こうとして、口に出す瞬間に思いとどまった。

 現状、アキラの能力を他の人に気軽に話して良いものなのかという不安と、それを話すことで自身に不利な出来事が起こる可能性があったためだ。

 そして、疑ったような目をして見ているルナを気にしないようにして、アキラは鑑定料の50Gを支払い、そそくさとルイーダの酒場から出て宿に戻ったのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ふう……さすがにちょっと疲れたな……」

 

 宿に戻り、荷物をおいて椅子に腰掛けたアキラは、早速ステータス画面を確認してみることにした。

 

【ステータス】

・名前:アキラ

・称号:

・冒険者ランク:F

・ジョブ:ものまね士

・レベル:5

・所持金:621G

・各種能力:

HP:31

MP:19

ちから:12

みのまもり:8

すばやさ:18

きようさ:12

こうげきまりょく:15

かいふくまりょく:15

みりょく:19

うん:22

 

【スキル】

火炎魔法(ファイア)

回復魔法(ケアル)

ステータス異常回復魔法(ポイゾナ)

ライブラ

 

【ユニークアビリティ】

ものまね

 

 

 まず、レベルが5に上がっていることに少しだけ嬉しい気持ちになったアキラ。

 そしてスキルの欄を確認したところ、追加されている魔法を見つける。

 

(……『ライブラ』? これってそんな効果あったっけ?)

 

 『インパス』を『ものまね』して覚えたスキルは『ライブラ』だった。

 『ライブラ』は元々相手のHPや弱点などを調べる魔法なのだが、それがアイテムにまで適用されているこの世界(ドラクエ)に、アキラは少し違和感を覚えながらも無理やり納得することにしていた。

 今はそれよりも気になることが出来たため、アキラは道具袋を漁って、1つのアイテムを取り出す。

 

「これって結局何だったのか気になるよな……」

 

 袋から取り出したのは、ポイズントード戦でアキラの命を助けた2()0()c()m()()()()()だった。

 アキラは早速『ライブラ』を唱えて、棒の鑑定をしてみた。すると、

 

---------------------------------------------

 

・武器名:アルテマウェポン[劣化]

・特徴:アルテマウェポンの劣化品。使用者のMPを消費することにより、威力が変化する。

    魔法の上乗せにより、見た目の色と属性が変化する。使いすぎると壊れる。

 

---------------------------------------------

 

(ア、アルテマウェポン……!?)

 

 アキラは思わず持っていた棒──アルテマウェポン[劣化]だが──を落としそうになり、慌てて両手で掴む。

 そして深呼吸をして落ち着いたあと、もう一度詳しく見て原作との違いに首を(かし)げる。

 そこには使用者のM()P()()()()()()ことにより、威力が変化すると書かれてあったのだ。そして魔法の上乗せにより、見た目の色と属性が変化するという追加能力もあった。

 

(おかしいな………アルテマウェポンはH()P()()()()によって威力が変化する武器だったはず。しかも魔法を上乗せできる能力はなかったはずだ)

 

 疑問は尽きないアキラであったが、これはアルテマウェポンの劣化品だからこその能力であることにはまだ気付いていなかった。

 そして、アキラは一晩中アルテマウェポン[劣化]の刀身を出そうと試行錯誤していたが、結局出ることはなかった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「あ、支部長! 戻りましたか!」

「ええ、今戻ってきたところです。……どうしましたか?」

「じつは……」

 

 ルナは仕事から戻ってきたカナブンにアキラについての詳細を報告する。

 カナブン自身、アキラの到達階についてはある程度把握していたが、まさかこんなに早く初心者迷宮を攻略してしまうとは思っていなかったため、驚きの表情を隠すことが出来なかった。

 しかしそこは支部長であるカナブン、すぐに冷静になり一回咳をしたあと、報告内容を反芻する。

 

「さすがに驚きましたね。攻略日数の早さもそうなのですが、単独(ソロ)での攻略しきってしまうとは……」

 

 カナブンは地下5階層でアキラが(つまづ)くと考えていたのだ。

 ()()()迷宮とはいえ、そこまで甘くない迷宮だとカナブン自身も分かっていたからである。

 そこでアキラにパーティーを組むことを勧めて、より安全に成長してもらおうと筋道(ルート)を用意していた。

 

「有望な冒険者が増えてくるのは良いことなのですが……。なんにせよ明日アキラさんを呼んで話をしてみましょうか。

初心者迷宮を攻略したということは、Eランクの昇格通知をしなくてはいけませんからね」

「あ、それと、初心者迷宮を攻略したので、先に鑑定について行ってしまったのですが……」

「ああ、それは気にしないでください。Eランクになった際に通知して使えるようになる特典でもありますし、初心者迷宮を攻略した以上、順番が前後したところで何も変わりませんので」

「ありがとうございます」

「それに……あなたもボーナスアイテムの効力を知りたかったのでしょうからね」

 

 軽く笑いながらルナに話しかけるカナブン。それに対して、自身の思惑を当てられて舌を出して笑うルナ。

 上司と部下の関係ではあるのだが、アリアハンのルイーダの酒場はそこまで上下関係が厳しくない職場なのであった。

 




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第十四話

ごめんなさい。
昨日の夜に間違って修正前の内容を投稿してしまいました。
こちらが正しい内容です。

次回の投稿は3〜4日後の予定です。



 アルテマウェポン[劣化]の刀身を出すために試行錯誤していたアキラは、朝の鳥の鳴き声でようやく一睡もせずに集中していたことに気付いた。

 あくびを噛み殺し、顔を洗おうと思い外に出る。そして、朝食を平らげたあとは、部屋に戻って昼過ぎまで爆睡するのであった。

 前日にポイズントードと死闘を行ったのにも関わらず、一晩中起きて集中していればそうなるのも無理はない。

 アキラが寝ている間に訪問があったことにすら気付かないほどに疲労が溜まっていたのであった。

 

「……ん、何時だ?」

 

 目を覚ましたアキラが腕時計を見ると、時刻は13時を回っていた。

上半身だけ起こし、伸びをしながらもまだ眠そうな仕草をする。

 もう一眠りしようか微睡(まどろ)んでいるところで、部屋のドアを叩く音がする。

 

「はい」

「あ、アキラさん起きてますか? 宿の受付の者ですけど、実はルイーダの酒場のカナブンさんの使いの方が午前中に来まして、いつでもいいのでルイーダの酒場に来てほしいとのことです」

「あ、わかりました。ありがとうございます」

「いえ、それでは」

 

 宿のスタッフの人がカナブンの伝言を届けに来てくれたため、その声で完全に目を覚ます。

 とりあえずまた顔を洗おうと外に出て、昼食を食べたあと、準備をしてルイーダの酒場に向かうのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 ルイーダの酒場に着いたアキラは、いつものテーブルにいたカナブンに話しかける。

 

「カナブンさん、こんにちは」

「おお、アキラさん! 来てくださってありがとうございます! 実は昨日スタッフからアキラさんが初級者迷宮を攻略したとお聞きしまして」

「あ、はい。結構ギリギリでしたけど……」

「まぁそのへんの話は後にするとして、冒険者証を貸してもらえますか?」

「え、あ、はい」

 

 アキラは首に掛けられている冒険者証をカナブンに渡すと、カナブンは裏に行き、数分ののち戻ってきてアキラに冒険者証を返す。

 冒険者証を受け取ったアキラはカナブンに促されて【ステータス】を開く。

 そこには冒険者ランク:Eと書かれていた。

 

「初級者迷宮の攻略はEランクへ昇格条件となります。アキラさんは昇格条件を満たしたので、本日からEランク冒険者です。おめでとうございます」

「おお! ありがとうございます!」

「それで、Eランク冒険者の特典の説明をしますね」

 

 アキラはカナブンからEランクの冒険者の特典として、ルイーダの酒場で鑑定のサービスを使うことが出来ることを聞く。

 

「あれ? でも昨日の時点で使ってもらっていたのですが……」

「それは初級者迷宮を攻略しているので、気にしなくて大丈夫ですよ」

「そうでしたか。わかりました」

「それと、もう1つあります。中級者迷宮へ入るために()()があります」

 

 カナブンから中級者迷宮に入るための条件が伝えられる。それは初級者迷宮を5()()()()()()()()()()ということ。

 それには理由があり、国として冒険者が簡単に死んでしまわないようにという配慮である。

 アキラもそのことには納得した顔をし、カナブンに質問をぶつける。

 

「わかりました。他の初級者迷宮はどの街にあるのですか?」

「えっと、この地図をお渡ししますので、参考になさってください。これもEランク冒険者への特典となります」

 

 そう言ってカナブンはアキラに地図を渡す。地図を見るとドラクエシリーズで見たことがある街や城の名前をたくさん確認して、少し嬉しそうな顔をする。

 カナブンはその様子を見て、冒険者に憧れる少年達の姿を重ねて微笑んでいた。

 他に特に用事もないため、アキラはそのままルイーダの酒場を出ようとカナブンと店側に移動していると、なにやら騒がしい声が聞こえた。

 

「──そう言われましても……」

「──緊急なの! 誰かいないの!?」

 

 アキラとカナブンは顔を合わせたあと、騒ぎのするところへ向かった。

 そこには赤い頭巾を被った金髪の少女が従業員のルナに詰め寄っていたのであった。

 

「どうされたのですか?」

「あ、支部長。実は──」

「あなた、ルイーダの酒場(ここ)の支部長なの!? ちょうどよかった! 私の妹が──」

「ちょっと落ち着きましょうか。私はルイーダの酒場(ここ)の支部長をしているカナブンと申します」

 

 カナブンは赤ずきんの少女がまくしたてようとしたところにストップを掛ける。

 自己紹介された少女は自身の名前も言っていなかったことに気付き、少し顔を赤くしたが、深呼吸をして自分の名前を名乗る。

 

「失礼したわ。私の名前はベロニカと申します」

「はい、ベロニカさん。それでどうされたのでしょうか?」

 

 カナブン、ルナはベロニカと名乗った少女の話を聞いていく。

 アキラもその場にいたが、話を聞いてしまっていいのか考えつつも、もはや移動できる空気ではなかったので黙ってカナブンの後ろに立っていることにした。

 ベロニカの話によると、目を離した隙に妹がガラの悪い男たちに連れ去られてしまったということだった。

 

「……それは困りましたね」

「そうなの。だから助っ人で誰か腕の立つ冒険者はいないのかって聞いていたんだけど……」

「今の時間はどの冒険者も迷宮に潜っているか、依頼中なので誰もいないんですとお伝えしていたところだったのです」

「でも早くしないと──」

「事情は分かりました。それではこうしましょう」

 

 カナブンはそう言って、後ろを振り返り、アキラに話しかける。

 

「アキラさん、ルイーダの酒場からの緊急依頼です。『ベロニカさんの妹さんの行方を探して、救出してください』」

「……え?」

 

 急に言われてアキラは驚きと戸惑いを含んだ顔をした。まさか後ろで立っていただけの自分が巻き込まれるとは思っていなかったからだ。

 そして、まさかこんなところで突然原作のキャラクターに会えるとも思っていなかったからというのもあった。

 そこでようやくアキラの存在に気付いたベロニカは、アキラの顔を見て不安そうな顔をする。

 

「え、この人……大丈夫なの?」

「ええ、問題ないと思います。初級者迷宮を単独(ソロ)で最短攻略するくらいの強さはありますので」

 

 カナブンの言葉を聞いて、ベロニカは驚きの表情をする。

 初級者迷宮とはいえ、単独(ソロ)で最短攻略が出来る人などほとんどいないからである。

 ベロニカでさえも、初級者迷宮を妹と攻略経験がある助っ人の3人でようやく攻略したくらいのレベルであった。

 

単独(ソロ)で最短攻略!? で、でもそれなら大丈夫そう! お願いします! 妹を助けるのを手伝ってください!」

「……分かりました。まずはどこに連れて行かれたのかを探さないとですね」

「ありがとうございます! 場所については私が探しておいたわ」

 

 ベロニカは聞き込みをして、大きな背負袋を担いだガラの悪い連中が少し前にアリアハンのすぐ近くにある塔に向かって行くのを見たという目撃情報を得ていた。

 カナブンは場所に心当たりがあるのか、そこについて話をする。

 

「そこは……”ナジミの塔”ですね。少し前に調査したときは最上階に老人がいるだけで、そんな怪しい連中はいなかったのですが……」

 

 首をかしげるカナブンからナジミの塔への行き方を教えてもらったアキラとベロニカは、妹を助けるためにナジミの塔へ向かうこととなった。

 

「……ここからは行くのが難しそうね」

「ええ、たしかに」

 

 ベロニカとアキラは準備もそこそこに、町の外で聖水を振りまいた後、ナジミの塔に向けて出発した。

 そして岬の洞窟の近くに到着して様子を伺っていると、見張りと思われる男が数人ほど入り口を見張っていた。

 アキラ達はここからの侵入は難しいと判断したが、次善策をどうするか頭を悩ませていた。

 

「このままだとあの子がどんな目に遭うかわからないのに……どうしよう……」

「……もしかしてですが、別の入口があるかもしれません」

「え!? 本当!?」

 

 アキラは妹を心配するベロニカを見て、少し考えた後、自分の考えを話すのであった。

 




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第十五話

もうすぐお気に入りが450人になります!
本当にいつもありがとうございます!



 アキラは偶然に居合わせたことから、ルイーダの酒場のアリアハン支部長のカナブンからベロニカの妹を救出する緊急依頼を受けることになる。

 場所はアリアハンの西の小島ある塔──通称、ナジミの塔。

 原作では、地下1階、地上4階の構成になっており、最上階には【とうぞくのかぎ】を持っている【老人】がいた。

 

 ベロニカとアキラは準備もそこそこに、町の外で聖水を振りまいた後、ナジミの塔に向けて出発した。

 ただ、カナブンから聞いたナジミの塔へのルートには、途中に通る”岬の洞窟”の入り口にごろつきの見張りが複数おり、侵入はかなり難しかった。

 そこで、アキラがベロニカに別の方法を提案するのであった。

 

 アキラはナジミの塔への行き方には複数あるのを知っている。

 それは、ナジミの塔の更に西にある洞窟──岬の洞窟──から入るか、アリアハンの北にあるレーベ南の草原にある地下道から入るかである。

 岬の洞窟に玉砕で行ってもやられてしまう可能性がかなり高いので、アキラは──原作知識を使うかどうかを──悩んだ挙げ句にレーベ南の草原にあるルートを教えて向かうことにした。そこは人命優先である。

 

「本当にこんなところに地下道に続く道があるの?」

「ええ、多分ですけど……っと、()()じゃないですか?」

 

 アキラが指を指した方向には地下道に入る階段があり、地下道の存在を怪しんでいたベロニカもその言葉を聞いて期待を膨らませたような顔をした。

 

「こ、ここね……」

「はい。ここを通っていけば見張りを掻い潜って妹さんのところまで行けるかもしれません」

「さっさと行きましょ!」

 

 ベロニカは階段の先が真っ暗なのにも関わらず、我先にとどんどん降りていく。

 妹がそれだけ心配なのだなと妹想いのベロニカに対し、嬉しそうな顔をしてその後ろについていく。

 そして階段を降りたところでベロニカが急に立ち止まった。

 

(モンスター)よ!」

 

 ベロニカがそう言った瞬間に、アキラは反射的にどうのつるぎを抜く。

 目の前にはいっかくうさぎが身構えていた。

 

「ここは私に任せて。…………『メラ』!」

 

 ベロニカが詠唱を終えて『メラ』を放つ。

 小さな火球が現れ、いっかくうさぎに飛んで行く。

 『メラ』はいっかくうさぎに当たると衝撃音が鳴り──洞窟内なので外よりも大きく響く──その息の根を止めた。

 

「ま、こんなもんね!」

 

 ベロニカは自身の身長よりも大きな杖をくるくる回して地面に突き立てたあと、左手でアキラに向かってピースサインをする。

 その様子を見て、アキラは思わずベロニカの頭に手が伸びてしまい、子供のように撫でてしまう。

 

「な、な、なにすんのよ!?」

 

 不意に撫でられたベロニカはその手を振り払う。

 振り払われた痛みで正気に戻ったアキラは自分のやってしまったことに慌ててしまう。

 

「え! あ! ご、ごめんなさい! つ、つい……」

「レディの頭を気軽に撫でていいと思っているの!? それに子供扱いしないでよね!」

 

 顔を若干赤らめながらも早口でまくし立てている、見た目は完全に赤ずきんちゃんなベロニカ。

 それに対してひたすら頭を下げ続けているアキラというなんともシュールな姿が数分続くのであった。

 

「はぁ、はぁ。も、もうこんなところで時間を無駄にしている場合じゃないのよ。早く助けに行かないといけないんだから、行くわよ」

「……はい」

 

 ずっと叫んでいたのはベロニカだったのではないかと思っていたアキラだったが、それを口に出すほど空気が読めない人ではないので、素直についていくことにしていた。

 そして見張りのごろつきに出会うこともなく、ナジミの塔へ侵入することに成功するのであった。

 

 

 

「ここがナジミの塔ね」

 

 ナジミの塔へ入ったアキラ達は早速どこに行こうか悩んでいた。

 ベロニカの妹がどこに連れて行かれたのかが分かっていなかったためだ。

 

「たくさん部屋があるけど、1つずつ見ていったらどれだけ時間が掛かるか分からないし、それだけ敵に見つかる可能性が増えてしまうわ」

「どうしようかな……」

 

 悩みながらも警戒しつつ進んでいくアキラはあることを思い出す。

 

(そういえばここって、確か宿屋があったよな。その店主に聞けば、何か教えてもらえるかもしれない)

 

 ナジミの塔にはお客さんが全く来ない(さび)れた宿屋があった。

 そこに行って話を聞いてみる価値があると判断したアキラはベロニカに提案をして──他に手も思いつかないため──了承をしてもらったのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「多分……この辺のはずなんですけど」

 

 アキラは懸命にナジミの塔のマップを思い出していた。

 やり込んでいたとはいえ、全てを完璧に覚えているわけではなかったので自信はなかったのだが、周辺を少し探しているとすぐに宿屋らしき看板を発見したのであった。

 

「あ! あそこですね!」

「……ちょっと待って。もしかしたらごろつき達のたまり場になっているかもしれないから、慎重に行くわよ」

 

 ベロニカの言うとおりで、こんな目立つところに宿屋があってごろつき達に見つかっていないはずがない。

 それであれば宿や自体がごろつきのたまり場、もしくは乗っ取られてしまっていてもおかしくはなかったのである。

 アキラ達は息を殺して慎重に宿屋の入り口までたどり着く。そして小声で話し合う。

 

「中で騒いでいるような声はしないですね」

「そうね。気配も2人……くらいかしら?」

 

 今であれば入っても問題ないと判断したアキラ達は──武器を構えつつ──宿屋に入っていくのであった。

 そこには恰幅のいい男性とボロボロになってベッドで寝ている老人がいた。

 恰幅のいい男性はアキラ達を見て、怯えたような声を上げる。

 

「ひっ! な、なんですか、あなた達!? もうごろつき達に食料なども全て持っていかれているので、何もないですよ!」

 

 アキラ達は中にいたのがごろつきではないことに安心して、武器をしまった後に男性に話しかける。

 

「驚かせてごめんなさいね。ちょっと聞きたいことがあって来たのだけれど……」

「ああ、僕は冒険者のアキラ。彼女はベロニカです」

「……そうでしたか。私はここの店主をしている者です。ここで寝ているじいさんは屋上に住んでいた方なのですが──」

 

 店主の話を聞くと、少し前にごろつきが現れてナジミの塔を占拠したのだという。

 老人は痛めつけられたあと、放置されていたため宿屋で看病をしていたとのこと。店主はごろつきの代わりに食料や酒を調達するという条件で怪我もせずに過ごせているのだということだった。

 

「だからもうここには何も無いんですよ。じいさんに薬草を使おうにも連中にバレたら何をされるか分からないので、何も出来ないんです……」

 

 店主は悔しそうな顔をして老人を見ていたが、そこには優しい目がたしかにあった。

 ベロニカもその話を聞いてなんとかしてあげたいと思うが──

 

「多分だけど……もう薬草レベルでは厳しいわね。おじいさんの体力を考えると、多分効き目がほぼないと思うわ。『ホイミ』とかの呪文であれば、まだ効果はあるのだけれど、回復呪文が使えるのは妹なの……」

「そうだったのですか。ですが今から回復呪文を使える人をアリアハンで探すのも難しいですし、ごろつきがいるこんなところまで来てくれる人もいないでしょうし──」

「僕、回復呪文使えますよ」

「──どうすれば……って、え!? アキラさん、本当ですか!?」

「はい。まだ初級レベルしか使えないので、助かるかどうかが心配ですが……やらないよりマシなので使ってみましょう」

「ぜ、ぜひお願いします!!」

 

 店主が深く頭を下げてアキラにお願いをする。

 アキラとしてもボロボロになっている老人を目の前にして助けようとしないほど人でなしではないため、すぐに了承をする。

 

「じゃあいきますね……『ケアル』」

 

 『ケアル』の部分は小声でつぶやいていたが、現れた光のエフェクトを見てベロニカが一瞬驚いたような表情をする。

 光に包まれた老人は、傷が徐々に癒えていき、光が収まる頃には頬に赤みが差して落ち着いたような表情をしていた。

 

「ふう。これで多分大丈夫だと思いますよ」

「おおおお! ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」

 

 店主はアキラの手を取り、何度も頭を下げてお礼を言う。

 実は店主にとって老人は恩人であったのだ。以前、旅の商人をしていた店主は、盗賊に襲われ身ぐるみを剥がされて路頭に迷っていた。

 空腹でもう駄目だと思ったその時、たまたま通りかかった老人に助けてもらい、その後ナジミの塔で宿屋を経営する出資などもしてもらっていた。

 

 その恩人がこのまま亡くなってしまうことだけは絶対に嫌だったのである。

 そして、ある程度店主が落ち着いたところで、アキラはナジミの塔に来た理由を店主に話す。

 

「そうでしたか。ごろつき達は基本的に最上階のじいさんが住んでいた場所をねぐらにしています。もし誰かを連れ去ってきているのであれば、同じように最上階に連れて行くでしょう」

 

 店主からごろつき達が住処にしているところと、ベロニカの妹がいるであろう場所を聞くことが出来たアキラ達は、このあとどこに行けばいいのかが分かり、少し安心する。

 

「じゃあ、これから助けに行きましょう。まずは妹さんが捕らえられている場所を確実に見つけてからですね」

「ええ。店主さんもありがとね」

「こちらこそありがとうございます。アキラさん、ベロニカさんもお気をつけて」

 




この世界での薬草はホイミと同じくらい回復する効果はあるのですが、使われる側に一定以上の体力(生存度)がないと使っても効果が薄い設定です。
逆にホイミなどの回復呪文はその設定がないので、薬草との差別化としています。

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第十六話

お気に入りが450件超えました!
それもこれも皆様のお陰です!本当にありがとうございます!



 宿屋の店主と別れたアキラ達は、最上階を目指して慎重に進んでいく。

 幸いにも迷うことなく上に行くことが出来た──アキラが誘導していたため、道に迷わなかった──ため、後はモンスターとごろつきに出会わないように隠れながら進んでいく。

 3階までに見張りの姿は全く無かった。侵入できるところが岬の洞窟からだけしかないという認識から、無駄な見張りを置こうとしていなかったのである。

 

「ここまで誰にも会わなかったわね」

「ええ、たしかナジミの塔は4階が最上階なので、この上にごろつきと妹さんもいるのか……も?」

「どうしたの──」

「──今、女性の声が聞こえませんでした?」

 

 ナジミの塔の3階は階段を登ったあと、最初の部屋に最上階へ続く階段がある。

 しかし、アキラが聞いたのは()()()()()()()からであった。

 

「もしかして妹さんかもしれ──」

「セーニャ!!!」

 

 ベロニカは我慢出来ずに(セーニャ)の名前を叫びながら走っていってしまう。

 アキラは今の声をごろつきに聞かれてやしないかと内心ヒヤヒヤしながらもベロニカの後を追う。

 そして、一番奥の部屋をアキラがそっと覗くと、そこには緑を基調とした服を身にまとった金髪の女性が、ベロニカに抱きしめられながら座っていたのであった。

 

「セーニャ! 心配したのよ!」

「ごめんなさい、お姉様。アリアハンの城下町で子供相手に暴力を振るおうとしているのを(いさ)めようとしたら、気絶させられて連れて行かれてしまったのです」

「もう……私がいないところであんまり無茶はしないでよ……」

「…………あの〜」

 

 ベロニカとセーニャが話しているところに、少し気まずそうな表情で話しかけるアキラ。

 アキラとしても感動の再会の邪魔をしたくない。だが、今いる場所はごろつきのたまり場である。

 いつセーニャの様子を見に来てもおかしくない状況のため、まずは一刻も早く脱出をしたかったのである。

 

「あら? この方は……?」

「ああ、ごめんね。セーニャを助けるのを手伝ってくれた人なの」

「申し遅れました。アキラといいます」

「ご丁寧にありがとうございます。私はベロニカお姉様の妹のセーニャと申します」

「とりあえず脱出しませんか? ごろつきに見つかると相当厄介だと思うので」

「そ、そうね! さっさとこんな場所からはオサラバしましょ!」

 

 セーニャは手足を縄で縛られているだけだったため、どうのつるぎを使って縄を断ち切る。

 見た目も怪我も特になかったのと、セーニャの落ち着き具合からも()()()()()は無かったであろうと安堵するアキラ。

 そして3人は来たルートをそのまま引き返して、アリアハンへと戻ることが出来たのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 日が落ちるかどうかの時刻にアリアハンに到着した3人は、まずルイーダの酒場へと向かった。

 セーニャも疲労が溜まっているはずだが、色々と報告もしなくてはいけないため先にやるべきことを終わらせようと話し合って決めていた。

 酒場へと到着すると、すでに戻ってきていた冒険者達で酒場内は賑わっていた。そこを構わず突き進み、カナブンがいるであろういつものカウンターへと向かい、事務作業をしているカナブンを発見する。

 

「カナブンさん、ただいま戻りました」

「……おお! おかえりなさい、アキラさん!! 依頼はどうでしたか!?」

「無事救出できましたよ」

 

 アキラがセーニャを救出した報告をすると、カナブンは嬉しそうな笑顔で出迎え、3人の無事を喜んだ。

 

「妹を助け出すのに協力してくださって、本当にありがとうございました」

「いえいえ。私はアキラさんに依頼しただけですからね……と、そちらが…………()……さん……?」

「はい、ベロニカお姉様の双子の妹のセーニャと申します。この度はありがとうございました」

 

 カナブンの様子がおかしいことに2人(ベロニカとセーニャ)は気付いていたが、()()()()()()()なので気にしていなかった。

 むしろベロニカは、()()()()()()()()()()()()のである。それもナジミの塔を脱出するあたりからずっと。

 

「それと、ごろつき関連で報告があるのですが──」

 

 話が一区切りしたところで、アキラはカナブンにセーニャを誘拐したごろつきやナジミの塔にいる宿屋の店主と最上階に住んでいた老人についての報告をした。

 そしてこのままでは更に被害が拡大するのではないかという懸念があったためである。

 

「……そうですね。ごろつき共に関しては、私達も調査等を進めていました。

明日にでも兵士が動くのか、冒険者達で一気に一網打尽にするのかの最終決定をする予定です」

 

 そして全ての報告が終わったアキラ達は、一旦宿屋に戻って休むことにした。

 セーニャの疲労──精神的、肉体的の両方──が目に見えてきたので、今日はこれ以上の無理をさせられないとベロニカとアキラが強引に決めたのであった。

 その後の話などは明日になってから話そうとなり──同じ宿屋に部屋を取っていたため──そのままそれぞれの部屋に入っていったのであった。

 

 

 

 セーニャは部屋に入ると、安心して緊張が解けたのか、そのままベッドに倒れ込むようにして寝てしまった。

 その様子を見たベロニカは苦笑いしつつ、布団を被せてあげる。見た目は明らかに姉と妹が逆なのだが、こういうところでベロニカが姉である部分が垣間見えるのである。

 

「もう……セーニャったら。でも本当に無事で良かったわ」

 

 ベロニカはもう1つあるベッドに座ると、安心したように息を吐く。

 普段はベロニカが自由奔放に動いているように見えて、なんだかんだでトラブルに巻き込まれやすいのはセーニャなのである。

 

 その1番の原因は、()()()()()()()()にあった。誰かが困っているところを見ると見過ごせないため、そこから揉め事に発展することもしばしば。

 最終的にはベロニカが攻撃魔法でぶっ飛ばすという解決方法を取るため、ベロニカは周りから乱暴なわがままな人という印象を持たれてしまうのである。

 しかし、ベロニカはそれでも良いと思っていた。セーニャがやっていることは間違ってはいないし、それならば姉としてセーニャのことを支えてあげたいという気持ちを持っているからである。

 

(あーあ、それにしても……()()()……)

 

 ベロニカはまたしてもアキラのことを考えており、しかし解決方法が見つからないまま眠気に負けてしまい、そのまま寝てしまうのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 次の日、アキラはまたしても遅くまでアルテマウェポン[劣化]の刀身が出せないかを試行錯誤していたため、あまり眠ることが出来ていなかった。

 

(昼夜逆転しちゃいそうだな……)

 

 生活リズムが狂ってしまうのはあまり好ましくないため、アキラは眠いのを我慢して朝に起きることにした。

 それに朝からベロニカ達と話す約束もしていたためでもあった。1人で朝食を食べていると、後ろから話しかけられる。

 

「あら? もう起きてたの?」

「おはようございます」

 

 挨拶を交わし、ベロニカはアキラの座っているテーブルで一緒に朝食を取ることにした。

 しかしセーニャを見かけなかったため、ベロニカに尋ねる。

 

「あれ? セーニャさんはいないんですか?」

「まだ昨日の疲れが残っていたのかぐっすり寝てるわよ。……あと敬語は使わなくてもいいわよ。私もそうしてるし」

「ああ、分かったよ。敬語は癖みたいなものなんだよね」

「そうそう。その方が話しやすいわ」

 

 そう言って、ベロニカは満面の笑みを浮かべながらパンを頬張(ほおば)る。

 まるでリスみたいだなと微笑むアキラに対して、ベロニカは少しムッとした表情をする。

 

「なんか子供扱いされている感じがするんですけど!」

「……え、いやいや。リスみたいに頬張るなって思っただけだよ」

「それはそれでひどいんですけど!」

 

 からかうように話すアキラに対して、ベロニカはプリプリした様子で怒るが、急に真剣な表情になった。

 アキラもその様子を見て、少しだけ緊張する。

 

「あのさ、聞きたいことがあるんだけど」

「……うん」

「あなた…………()()()()()()()()()()()()()

 




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第十七話※

お気に入りが450件超えました!
まだまだ序盤も序盤の話なので、ぜひこれからもよろしくお願いします!

第十七話は少し長くなりました。



「あなた…………()()()()()()()()()()()()()

 

 ベロニカにそう告げられて戸惑うアキラ。

 ()()()()()。そう、確かに()()()()()のだ。だが、それはあくまで一方的にであって、ここで気付かれることではない。

 アキラは戸惑いながらも質問に質問で返すことをしていた。

 

「なんで……そう思うの?」

「だっておかしいじゃない。()()()()()()()()()と言われたら、もちろん全員が納得するわ。でもね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のよ。

……あなたを除いてね。一体どういうことかしら?」

 

 アキラはナジミの塔での自己紹介のときを思い出していた。

 セーニャに()()()()()()だと自己紹介されていた。そして、それを当然のように受け入れていたのだ。

 なぜなら2人はドラゴンクエスト11のキャラクターであり、2人が双子の姉妹だということは()()()()()()ことだったからだ。

 

 その様子をベロニカに見られており、反応が無かったアキラをベロニカは不思議に思っていた。

 アリアハンに戻り、カナブン達に自己紹介したときにも、カナブン達は驚いていたのに、アキラはその場でも表情1つ変えることなくその場にいた。

 そこで確信したのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

 それでもセーニャの救出を手伝ってくれた人を無闇に疑いたくないという意識があったベロニカは、朝の2人きりになれるタイミングを見計らって質問したのであった。

 アキラは事情を悟ると、目を瞑り、一呼吸置いてからベロニカに話し出した。

 

「そうだね。()()()()()()()

「え……!?」

「でもそれは君達のことじゃなく、ベロニカに起こっているであろう現象のことをだけどね」

「私に起こっている……現象?」

「そう。君は恐らくだけど……()()()()()()()()()……もしくは、()()()()()()()のかな?」

「──ど、どうして!?」

 

 ベロニカは大きく目を見開いてアキラを見る。アキラは落ち着いて話の続きをしようとする。

 アキラは()()ついていない。本当のことを全て話していないだけだった。

 全てを正直に話すことが出来ないアキラにとって出来る唯一の方法であった。

 

「初めて会ったときから、見た目と話し方や仕草にギャップが有るなと感じていたんだ。

まるで、()()()()()()()()()()()()であるかのような感覚かな。そして、大人が子供になってしまう可能性は、考えられるだけでもいくつかしかない」

「…………」

「あとは簡単だよ。()()()()()()()()()()()()()()? セーニャさんを見たときに確信しただけだよ」

 

 アキラは「ごめんね、誤解させちゃって」と頭を掻きながらベロニカに謝る。そして心の中では全て話せないことに対して、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。

 その話を聞いて、ベロニカは驚いて口を開けたまま、ぽかんとした表情をしていた。

 

「べ、ベロニカ……?」

「え、あ、そ、そうだったの! ご、ごめんなさい。私、なんか疑い深くなってしまっているみたいで……せっかく善意でセーニャを助けてくれたあなたに問い詰めるようなことをしてしまって……」

「ああ、別にそれは大丈夫だよ。ベロニカの話を聞いて、疑問に思うのも当然だなって僕も思ったし。でも、これで誤解は解けたかな?」

 

 アキラの言葉にベロニカは首を縦に振り、改めてアキラに謝罪をする。

 しかし、アキラの方が内心罪悪感を持っていたことにベロニカは気付かない。

 

(いや、謝りたいのはむしろ僕の方なんだけどね……。というか本当に気を付けなきゃいけないな)

 

 少し気まずくなってしまったが、アキラから色々と話を振ったりすることで、朝食後には昨日までの雰囲気に戻ることが出来た。

 そして朝食を終えて、少し話をしていたときにセーニャが部屋から下りてきたのであった。

 

「おはようございます」

「あ!セーニャ、おはよ!」

「セーニャさん、おはようございます。身体は大丈夫ですか?」

「ええ、早めに寝たので疲れも取れたみたいです」

 

 セーニャはまだ寝起きといった様子ではあったが、昨日よりも顔色が良くなっており、精神的にも安定している様子であった。

 挨拶もそこそこにセーニャは身だしなみを整えに出ていく。とりあえず起きたということを伝えに来ただけだったようだ。

 

「セーニャさん、元気になったみたいで良かったね」

「ええ、本当に良かったわ。あの子は色んなトラブルに巻き込まれやすいから……」

 

 セーニャが準備を整え、朝食を食べた後にルイーダの酒場へと向かうことにした3人。

 ナジミの塔にいるごろつきへの対応がどうなったのかを聞きに行くためであった。

 

 

 

 ルイーダの酒場に着いた3人は、受付に案内されカナブンのいる支部長室へと向かう。

 部屋に入ると、そこにはルナもいた。

 

「おはようございます、カナブンさん」

「アキラさん、おはようございます。昨日の件でいらっしゃったんですよね?」

 

 カナブンの問いかけに頷きながら、言われるがままにソファーに座るアキラ達。

 肯定と受け取ったカナブンは続けて話す。

 

「今朝、正式に兵士による討伐が決まりました。セーニャさんの誘拐とナジミの塔の老人への殺人未遂の暴行が決め手になりましたね。

逃げられる前になんとかしないといけないので、あと1時間後には出発する予定です」

 

 その言葉を聞いて安心した様子のアキラ達。

 国が今回の件を重く受け止めてくれたこともそうだが、迅速に動いてくれることに対して、アリアハンという国自体が正常なのであるという証でもある。

 

「それで昨日はお話できなかったのですが、アキラさんが達成した緊急依頼の報酬についてです」

 

 カナブンが言うには緊急依頼の場合、報酬も上乗せされるというのが通常である。

 ただ、今回は事前に話をしていなかったので、解決後に報酬の話となったのだ。

 

「通常であれば、依頼者のベロニカさんが所定の手続きを踏み、依頼発行をします。

ただ、今回は緊急依頼ということだったので、()()()()()()()()()()()のですが……」

「ほ、報酬ですか……」

 

 ベロニカは冷や汗をかく。言われてみれば依頼に対して報酬が発生するのは当然である。

 しかし、ベロニカは完全に報酬のことを忘れていた。

 

「あの、えっと、その……」

「通常であれば、誘拐の救出なので、場所の難易度から考えても1万から3万ゴールドが相場でしょう。

しかし、緊急依頼であれば1.5倍から2倍は掛かりますね」

 

 カナブンが冷静に相場の話をした途端、誰の目から見ても尋常じゃないくらいの汗をかきはじめるベロニカ。

 その様子を見て、「あ、コイツ報酬払えないな……」とアキラ、カナブン、ルナの3人は理解した。

 泣きそうな顔になっている幼女(ベロニカ)を囲む男女3人。(はた)から見なくても異様な光景であった。

 ベロニカの横では、セーニャは何のことか分かっていない様子であった。

 

「お金が支払えないとすると、それに相当する物品を出すことになりますね。

それも出すことが出来ないとなると……」

「で、出来ないとなると……?」

()()()()となって、お2人自身をお金にするしかなくなりますね」

 

 カナブンの追い打ちに、絶望的な顔をしたあと、下を向いてしまうベロニカ。

 膝の上に置いてある両手で赤いスカートを握りしめながら──誰にも見えていないが──その目には涙を浮かべていた。

 そして、ここでようやく事態が飲み込めたセーニャは焦った顔をし始める。

 

(これは……さすがに可哀想だなぁ)

 

 アキラはセーニャを救うために動いたにも関わらず、その報酬でベロニカとセーニャが奴隷となってしまうことを良しとしていなかった。

 そこで代替案(助け舟)を出すことにするアキラ。

 

「カナブンさん、報酬は()()()()()()()のであれば、物でなくても大丈夫なのですか?」

「え、ええ。大丈夫です」

 

 幼女(ベロニカ)の泣いている姿を見て、流石にバツが悪くなったカナブンは気まずそうにアキラに答える。

 

「それは依頼を受けた側が()()()()()()()と納得すれば良いのですかね?」

「ま、まぁそうなりますが、それでも基本的に私達ルイーダの酒場側も納得できるレベルでないとですね。

そうしなければ依頼を受ける側が不利になる場合もあるので」

 

 カナブンの話によると、依頼者が被依頼者に対して事前に脅しを掛けるなどをして、報酬を安くする問題も可能性としてあり得るため、ルイーダの酒場側の審査も必要になるとのことだった。

 なので、基本的に緊急依頼でも事前に報酬を決めるし、そもそもトラブルを避けるため国や貴族、ルイーダの酒場側から以外は緊急依頼が出されないというのが常であった。

 

 実は今回に関しては、ごろつきにセーニャが誘拐されていたことの緊急性の高さと、依頼を引き受ける側がアキラだったためカナブンは大きなトラブルにならないと判断して報酬を後回しにしていたのだ。

 それでも説明しなくてはいけないことはきちんと説明するのがルイーダの酒場側の決まりであり、最悪のこと──アキラがベロニカ達を奴隷にする決断をすること──があった場合は、カナブンの権限でアキラに対して納得できる報酬を用意するつもりであった。

 その代わり、アキラに対してのカナブンの評価は著しく下がったであろうが、数日とはいえアキラの人柄に触れていたカナブンはそのようなことにはならないと信じていた。

 そして目の前にある現実として、カナブンの予想通りにアキラが代替案を出そうとしていることに気付き、胸を撫で下ろしつつも言葉の続きを待つのであった。

 

「ベロニカ、セーニャさん。お2人の職業は〈魔法使い〉と〈僧侶〉ですよね?」

「え?ええ……そうよ」

「はい、私の職業は僧侶です」

 

 アキラの急な質問に戸惑いながらもベロニカとセーニャはその通りだと答える。

 その答えを聞いてアキラは軽く笑いながら提案をする。

 

「それじゃあ報酬なんだけど、お金の代わりに2()()()()()()()()()()()()()()()?」

「「呪文を……?」」

 

 呪文を教えて欲しいと言い出すアキラにどういうことか分からずに聞き返す2人。

 カナブンとルナもこの提案がよく分かっていなかった。なぜなら呪文とは教えられて覚えられることは()()()()()()()()である。

 しかし、アキラにとってこの提案はベストなものだと思っていた。

 

「うん、それを今回の報酬にしようと思っているんだ」

「それは良いんだけど……呪文って教えられても覚えられる人はほとんどいないわよ?」

「も、もしかして……アキラさんの職業って〈賢者〉なのでしょうか?」

 

 〈賢者〉。回復と攻撃の両方の呪文を使いこなせる上級職である。この世界の〈賢者〉は、〈魔法使い〉と〈僧侶〉の職業をマスターした人がなれる職業であり、通常であればその両方の職業の呪文は既に覚えているのである。

 ただし、”悟りの書”という魔法道具(マジックアイテム)を使うなどの例外から就いた場合は、〈魔法使い〉と〈僧侶〉の呪文を覚えていないため、熟練度を上げるか、教えてもらうことで両方の職業で覚えるはずだった呪文を覚えることが出来る。

セーニャはそう思い至り、アキラに質問するのであったが、アキラはすぐに否定する。

 

「いや、僕は〈賢者〉じゃないですよ。ただ、覚えられたら良いなってだけなので」

「……分かったわ。アキラも詳しくは教えたくないでしょうし。他には?」

「え? これで十分だと思ったんだけど……まだ足りないですか?」

 

 アキラとしてはそれで十分だと思い、カナブンの方を向くと「ええ、それだけだとまだ足りないです」と言われてしまう。

 ベロニカ達が上級職などに就いていた場合などであれば、その報酬で問題ないのだが、基本職では今回の報酬には釣り合いが合わないようであった。

 

「んー、じゃあ()()()()()()()で」

「「「「出世払い?」」」」

 

 その言葉の意味が分かっていない4人は、首を傾げてアキラの言葉を繰り返す。

 

「ええ。今後呪文を覚えるたびに僕に教えるというのはどうでしょうか? 僕としてはそれが魅力的な条件ですし、もちろんずっとではなくて今回の報酬分までで構いません。

つまり、今後成長してから支払う(出世払い)ということです」

「ああ、そういうことですか。それなら十分問題ないですね。ベロニカさん達はどうでしょうか?」

「わ、私達からすると破格の申し出ですけど……アキラはそれでいいの?」

「うん、むしろこっちからお願いしたいくらいだからね」

 

 お互いに納得したのを確認したカナブンは、今回の緊急依頼についての契約書の報酬項目に書き込む。

 そしてベロニカとアキラのサインを貰うと、支部長のサインをして話を纏めるのであった。

 カナブンとしてもベロニカ達が奴隷にならないようにある程度の誘導はしていたが、ここまで上手くいくとは思っていなかったので、ほっと胸を撫で下ろした。

 

「それでは今回の依頼に関しては以上となります。アキラさん、本当にありがとうございました」

 

 カナブンとルナはアキラに頭を下げる。その様子を見てアキラは「こちらこそありがとうございました」と返事を返す。

 そして、ルイーダの酒場を出た3人。そこでベロニカとセーニャがアキラに対して振り返る。

 

「「アキラ様、この度は本当にありがとうございました。私達、聖地ラムダの者として、このご恩を決して忘れません」」

 

 声を揃えて、綺麗なカーテシーでお辞儀をする。

 アキラはその姿を見て、2人の手伝いが出来てよかったと感じるのであった。

 

 

 

〜第一章 冒険者アキラ 完〜

 

 

【ステータス】

・名前:アキラ

・称号:

・冒険者ランク:E

・ジョブ:ものまね士

・レベル:5

・所持金:621G

・各種能力:

HP:31

MP:19

ちから:12

みのまもり:8

すばやさ:18

きようさ:12

こうげきまりょく:15

かいふくまりょく:15

みりょく:19

うん:22

 

【スキル】

・ものまね士スキル:2 【熟練度:3】

・剣スキル:2 【熟練度:12】 (剣装備時攻撃力+5)

・武術スキル:1 【熟練度:41】 (身体能力UP)

・特殊技能:ファイア、ケアル、ポイゾナ、ライブラ

・ユニークアビリティ:ものまね

 

【装備品】

頭:なし

身体 上:かわのよろい 上

身体 下:かわのよろい 下

手:なし

足:かわのブーツ

武器:どうのつるぎ

盾:かわのたて

装飾品①:収納の指輪

 

【所持アイテム】

やくそう:5個、どくけしそう:5個、キメラのつばさ:1個、

 

【予備の装備品】

ぬののふく、アルテマウェポン[劣化]

 




これで第一章が終了となります。
次回は1回休んで、その次から投稿を始めます。
ここからアキラの本格的な冒険がスタートする……はずです。
補足ですが、通常の依頼だとルイーダの酒場では仲介手数料が発生します。
ただし、今回のような緊急依頼となった場合、例外として仲介手数料が発生しない場合があります。
そこら辺は支部長に決裁権がある感じですね。

あと、ステータスのスキル表記を変えました。
ドラクエ8寄りのスキル表記になっています。

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間話 もう1人の……

「ん? ここは……?」

 

 男は目を覚ます。周囲には森が広がっていた。

 そして、目が覚める前の出来事を思い出していた。

 

(たしかドラクエやっていて、俺もドラクエの世界に行きたいなーって思っていたら、気が付いたら真っ白い空間にいたんだよな

 

 男はその時のことを思い出していた。

 2つの光に成仏させられるところをなんとか説得して、この(ドラクエ)世界へ転生させてもらったのだった。

 詳細は頭の中に入れておくと言われたのを思い出したところで、この世界についての知識があることに気付く。

 

(へぇ……この世界は色んなドラクエが混ざっているのか

 

 昔からドラクエをずっとやってきた男にとっては、非常に好ましい世界であり、わくわくしていた。

 

「とりあえず……ここから町か村を見つけないとな」

 

 そう思い、辺りを見渡すが先程と同じく木しか見えなかった。

 どうしようかと思い、上を向くと白い煙のようなものを発見した。

 

(おお! これはもしかして……!)

 

 男は急いで煙のする方向へと行き、10分ほど進んだところで開けた広場のようなところに小屋を発見するのであった。

 喜びながらもその小屋へと向かって、ドアにノックをしようとしたとき──

 

「おい、お前。何をやっている?」

 

 突然男は後ろから話しかけられる。

 背後から誰かに話しかけられるとは思っていなかった男は、突然のことに驚き、混乱してしまっていた。

 

「え、あ、その……」

 

 後ろを向くと、話しかけてきたのはひげがびっしりと生えているガッシリとした体格の初老の男性。

 その手には、斧が握られていた。その様子を見て恐ろしくなってしまったのか、男は震え上がってしまい何も言えなくなってしまった。

 

「お前、ここに何か用なのか? ……もしかして迷子か?」

 

 声を出せない男は、その質問に対し小刻みに何回も頷く。

 男の様子を見た初老の男性は、表情を変えないまま「そうか、道に迷ったのか」と答えるとそのまま小屋の中に入っていってしまった。

 その出来事に拍子抜けしてしまい、地面に座り込もうとしたところで小屋の中から怒鳴り声が聞こえてくる。

 

「辛気臭いガキは嫌いだ! さっさと入ってこい!」

「は、はい!!!」

 

 男は急いで小屋のドアを開ける。

 しかし、ドアを開けた瞬間、目の前に大きな塊があり、男を押しつぶす。

 後ろに倒れ込んだ男は、痛みと顔にザラザラとした感触を感じつつも(うめ)くのであった。

 

「いってぇ! ……ってな、なんだ!?」

 

 男の上に乗っていたのは大型の犬であり、男の顔を舐めていたのであった。

 いくらやめろと言っても聞かない犬に対して、諦めたかのように舐められていると、「そろそろやめてやれ。俺の客だ」という声に素直に従って離れていく。

 

「珍しいな。あいつが人に懐くなんてソロ以来だ…」

 

 ボソッと呟きながら男に濡れたタオルを渡す。

 タオルを受け取った男は顔を拭くと、立ち上がる。

 

「あ、ありがとうございます」

「ああ。ところでお前の名前は?」

「俺は……」

「なんだ? 名前を言いたくないのか?」

「い、いえ……カケルといいます」

 

 カケルは自分の名前を答える。名前を聞いた初老の男性は、「そうか」とだけ話すと黙ってしまう。

 その場にはなんともいえない空気だけが流れていた。

 

「あ、あの……」

「なんだ?」

「近くに町や村などはありますか? 道に迷ってしまったので困っていて……」

「ああ。ここから南に行けば、ブランカがある」

「ブランカ……」

 

 カケルはブランカの名前を聞くと黙ってしまう。その様子を怪しげに見ていた初老の男性だったが、全く反応がないので席を立ち上がり食事の準備を始める。

 そして準備が終わった後、「飯を食ったらさっさと寝ろ!」とだけ伝えて寝てしまう。

 

(ブランカの北にある森の中の小屋。この人もしかして……木こりの人か?)

 

 ドラゴンクエスト4には、ブランカの北に木こりの家というのがあった。

 口は悪いが、とても優しい心の持ち主で犬と暮らしているというところも同じだったため、カケルは同一人物の可能性が高いと考えていた。

 

(それにしても……まさか本当に来ることが出来るなんてなぁ……

 

 カケルは年上の従兄弟の影響でゲームが好きになっていた。

 それは高校生になっても変わらずだった。RPGはそれこそ色んなものをやっていたのである。

 藁の上で明日からどうしようかなと悩んでいたが、急な環境の変化で疲れもあったのか、いつの間にか眠りに落ちていた。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 朝、カケルが起きると木こりの老人がちょうど家を出ていくところだった。

 そして、カケルが起きたのを確認した木こりの老人は、

 

「お前、その格好で行くつもりか?」

「……え?」

「そんな格好で道を歩いていたら簡単に死んじまうだろうが。……そこの箱の中の荷物を好きに使え」

 

 そう言って、そのまま出ていってしまった。

 少し早口なのと、乱暴に扉を閉めていったのは木こりの老人なりの照れであろうと勝手に解釈をして起き上がったカケルは、用意されていた朝食を食べる。

 そして朝食後に、先程話にあった箱の中身を見るのであった。

 

【箱の中身】

・やくそう:2個

・せいすい:1個

・銅のつるぎ

・皮のよろい 上

・あつでのズボン

・皮のくつ

・50G

・小さな袋

 

 箱の中には思っていたものよりも良い装備と道具があり、カケルは木こりの老人の優しさに感謝をしつつ、装備をする。

 カケルの格好は冒険者に憧れた少年にしか見えなかったが、本人としてはドラクエの世界でよく知る武器防具を装備できた感動の方が大きかった。

 少しの間だけ余韻に浸ったカケルは、準備をし終えると仕事に出てしまったであろう木こりの老人に心の中でお礼を言って、小屋を出ていくのであった。

 

 

 

 小屋を出たカケルは、まずせいすいを振りまく。

 これで弱いモンスターなら寄って来なくなったのもあり、ブランカへの道のりは問題ないだろうと少し安心して森から出る。

 そして木こりに言われたとおりの方角に30分ほど歩くと、建物が見えてくるのであった。

 

(おおお! あれがブランカかな?)

 

 ブランカへの道中、せいすいの効果もあったのかモンスターに遭うことはなかった。

 どうのつるぎは持っているが、剣の使い方すら知らないカケルにとって、モンスターとの闘いは更に未知の領域である。

 安全に経験を積むまではモンスターと遭遇することはなるべく避けたかったため、木こりの老人とせいすいに感謝していた。

 

(よし! ブランカに着いた! これから頑張るぞ!!)

 

 

 

 新たな旅の始まりに、カケルは気持ちを高揚させつつ、彼にとっての始まりの国ブランカへと足を踏み入れるのであった。

 




間話です。この話は今後ある程度関わってきます。
基本アキラがメインなのですが、続きを見たいって人がいたら間話で話を書いてもいいかもですね。

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第二章 王族との関わり
第十八話※


本話から第二章に入ります。
ぜひこれからもよろしくお願いいたします。

※本話で変更点が1つございました。
ルカニに相当する魔法が無いと勘違いしていたのですが、デプロテという魔法があったため採用しました。
それにより、『ものまね』でドラクエの呪文でFFの魔法に相当しないものがあった場合に覚えられるかどうかという内容については、要検証という文章に変更しました。
大変申し訳ございませんでした。
設定集は作成・更新していますので、ご希望があれば公開しようと思います。

今後ともよろしくお願いいたします。



 セーニャを救出してから3週間ほどが経過していた。

 アキラはベロニカとセーニャから呪文を教えてもらうという名目で、『ものまね』を繰り返していた。

 そこで新しい魔法を覚えつつも、いくつか分かったことや、まだ疑問に思っていることなどが出てきていた。

 

 まず、『ものまね』をしたときは全ての呪文に対して『ものまね』の発動が可能であった。

 これは今のところ例外が無かったため、ほぼ間違いないという結論に至っていた。

 

 疑問点としては、全ての呪文を覚えることが可能なのかということである。

 ドラクエとFFはお互いに相当する呪文と魔法は数多い。しかし、()()()()()()()()場合は覚えられるのかというのは今後も検証していこうということでアキラの中で落ち着いていた。

 

 そして、『ものまね』は()()()()()()()という事実を知った際には、アキラだけでなくその様子を見ていたベロニカ達も驚いていた。

 同じ行動を真似ることが出来るため、呪文を使えるメンバーがいれば誰かが別の行動をするまで、半永久的に使用できるということだ。

 ちなみにアキラは、『ものまね』の本来の仕様について驚いていたが、ベロニカ達は『ヒャド』を無詠唱で連続して唱えていたということに対しての驚きであったことにアキラは気付いていなかった。

 

 そのアキラの有能さに気付いたベロニカ達が、彼をパーティーメンバーとして誘うのは自然の流れだった。

 ベロニカとセーニャの2人に対して嫌な気持ちが一切無く、むしろ好印象を持っていたアキラはとりあえず一時的なものとしてパーティーを組むことを了承。

 そこから別の場所の初級者迷宮を攻略するためにアリアハンを出発したのは、全員が出会ってから5日目のことだった。

 

 その後の彼らはアリアハン以外に3つの初級者迷宮を攻略し、現在はグランエスタード国にある初級者迷宮の最下層に来ていた。

 グランエスタードにある初級者迷宮は他の場所に比べ難易度が高く、中級者迷宮の下位と遜色ないレベルの迷宮であった。

 その理由は、ボスのゴーレムにあった。ゴーレムはその攻撃力と防御力の高さゆえに、何の準備もなしに正面から戦闘を行うと、まず初級者レベルの冒険者では勝つことが出来ない。

 そのため、アキラ達も事前に入念な準備を重ねていたのであった。

 

「ようやく5つめの初級者迷宮の攻略直前まで来たわね」

「そうですわね。それにしても……」

 

 ベロニカとセーニャは、アキラをジッと見つめてため息をつく。

 

「え、な、なに?」

「あんたがアリアハンの初級者迷宮でどうやって()()()()()()()()のか、ようやく分かったわ」

「ええ。こんな無茶な探索の仕方をしていたなんて……」

 

 通常の迷宮攻略は、4人〜5人ほどのパーティーを組んで2〜3日で1階層クリアを目指すのが常識であった。

 しかし、アキラは早いときには1日で2階層分の突破をしていたため、それがどれだけ異常なことをしているかは比べればすぐに分かるであろう。

 それも彼のドラクエに対する知識の豊富さから来ている。

 

 もちろんあくまで知識でしかないため、間違った対処をしてしまうことや、その固定観念のせいで思わぬ失敗をしてしまうこともあったが、ほとんど知識とズレは無かったために他の冒険者よりも効率よく進むことが出来ていた。

 初めは戸惑っていたベロニカ達も、アキラの指示に従うことで攻略ペースが早いにも関わらず、今まで以上に無理なく進めていたため文句も出なかった。

 

「とりあえずこの先のボスが問題だね」

「えっと、ゴーレムだったかしら?」

「そう。動き自体は遅いんだけど、攻撃の速度だけは速いから注意が必要なんだ」

「アキラさんの情報だと、たしか……デバフ系の呪文や風属性の呪文に弱いんでしたよね?」

「だね。だから僕とセーニャの攻撃がより効きやすいとは思う。作戦としては──」

 

 アキラが考えた作戦とは、シンプルに遠距離からの攻撃である。

 戦闘開始直後にベロニカとアキラで『ボミオ』と『スロウ』を唱えてスピードを下げつつ、その間にセーニャが『ピオラ』を唱えてパーティーメンバーのスピードを上げる。

 その後、ベロニカはゴーレムの足元に呪文を唱えて牽制をし続け、セーニャとアキラが動き回りながら『バギ』と『エアロ』で集中攻撃をするというものだった。

 

 初めは2人から「動きながら呪文を唱えるなんてことは出来ない」と言われたが、()()()()()()アキラが試しにやってみたところ、コツを掴めば1週間程度の訓練で出来るようになっていた。

 ベロニカ達はその光景を見て驚いていたが、アキラのコツを聞いてから同じように練習したら3日間で出来てしまい、その才能の高さで逆にアキラを落ち込ませてしまったというのは余談である。

 

「じゃあ……行こうか!」

「ええ!」

「はい!」

 

 アキラ達は気合を入れて、ゴーレムの待つボス部屋へと突入していくのであった。

 

 

 

 

 

 ボス部屋は400m四方に囲まれた広い部屋だった。

 その中心には、オレンジ色のレンガで作られた体を持つ巨人(ゴーレム)が鎮座していた。

 アキラ達が部屋に入った途端、目の部分が白く光り、ゆっくりと動き出す。

 

『UGAAAAAAAAAA!!!』

 

 声にならない叫びが聞こえ、全員が身震いして(すく)み上がりそうになるが、アキラの声で全員が動き出す。

 

「みんな! 作戦通り行くよ! ……『スロウ』」

「え、ええ! ……『ボミオ』!!」

「はい! ……『ピオラ』!」

 

 ゴーレムはアキラ達の呪文により、元々遅かった動きが更に鈍くなる。

 そして、スピードが上がったアキラ達が散開し、3人による遠距離攻撃が始まった。

 

「……『エアロ』」

「……『バギ』!!」

 

『GHAUUUUUU!!』

 

 アキラのアドバイス(原作知識)の通り、風属性の呪文が効果的なのか、『メラ』や『ヒャド』では(ひる)むことすらなかったゴーレムは『バギ』や『エアロ』により足を止めるどころか、徐々に身体が削られていく。

 身体が削られていった効果もあり、更に動きが鈍くなり、スピードが上がった3人に追いつくことは出来なくなっていた。

 

『GU…………GA……』

 

 そして、アキラ達に文字通り()()()()()()()()()()、ゴーレムは倒れてそのまま消えていった。

 

「「「やったぁぁぁぁ!!!」」」

 

 ゴーレムが消えたのを確認した3人は喜びあった。

 アキラ自身もまさかここまで上手くいくとは思っていなかったため、心の中で安堵していた。

 

(よ、良かった……。でももし初めの雄叫びで全員が動けなくなっていたら、全滅もありえたね)

 

 アキラのパーティーは防御の低い魔法使い系が中心となっているメンバー構成のため、ゴーレムの一撃で戦闘不能になる可能性もあった。

 そのため、接近戦に持ち込まれることだけは絶対に避けなければならなかったのだ。

 彼なりに慎重に作戦を考えたつもりであったが、その作戦にも穴があったことを密かに反省するアキラだった。

 

「よし、じゃあ帰ろうか」

「そうね! 帰ったらお祝いよ!」

「ええ! 楽しみですわ!」

 

 アキラ達は部屋の中心に浮かび上がった魔法陣を踏んで、グランエスタードのルイーダの酒場へと戻るのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「ただいま戻りました」

「アキラさん、お帰りなさい! ……も、もしかして?」

「ええ、初級者迷宮を攻略してきました」

「…………やっぱりですか。アリアハンのカナブン支部長や他の町の支部長からも情報を聞いていたとはいえ、尋常じゃないくらいの早さですね……」

「あ、あはは」

 

 グランエスタード支部長であるルドウィグは、世界にある初級者迷宮の中でも最も難関とされる場所を4日間で攻略されたことに引き気味に答えていた。

 その空気を感じ取ったアキラも苦笑いで返しつつ、その場はなんとも言えない雰囲気になっていた。

 ルドウィグはその雰囲気を誤魔化すように咳払いをすると、支部長としての顔に戻り、アキラ達へ今後のことを話し始める。

 

「で、ではアキラさん達は初級者迷宮を5つ攻略しましたので、冒険者ランクDへのランクアップとなります。

手続き中にDランクについての説明をしますので、冒険者証を出してください」

 

 3人は冒険者証をルドウィグに渡すと、手続きをするために職員へと預ける。

 そしてDランクで出来るようになったことについて話し始める。

 

「それではDランクになったことで、アキラさん達は銀行へお金を預けることが出来るようになります。

他にも中級者迷宮への探索許可と指名依頼が来るようになります」

 

 Dランクではルイーダの酒場が運営する銀行へお金を預けるようになる。

 お金は世界各地にあるルイーダの酒場で下ろすことができ、両替も手数料なしで利用することが出来る。

 これは、Dランクから入ることが出来る()()()()()()()()()が影響していた。

 

 Dランクになると中級者迷宮に入ることが出来る。そこは初級者迷宮とはレベルが違う難易度になり、気軽に攻略出来るようなものではない。

 その代わり、迷宮内でたまに宝箱を発見出来ることや、ボスを倒すと必ず宝箱が出現するため、見返りは大きかった。

 宝箱の中身によっては高額で売ることも出来るため、その際には全て持ち運ぶよりも銀行のシステムを使う方が楽なのだ。

 

 指名依頼に関しては、Dランクでは名前が売れていればたまに来ることもある。

 それは護衛依頼であったり、中級者迷宮からのドロップ品の収集依頼であったりと様々である。

 もちろん指名依頼ということもあり、相手は貴族や大手の商会、ルイーダの酒場自体などからも来るので報酬は通常よりもかなり多いため、同じく銀行の活用が必須となってくるのであった。

 

「こんなところですね。あと、なるべくなら中級者迷宮は、()()()()()()()()()で攻略しないでもらえると助かるのですが……」

「わ、分かりました。本当に気を付けていこうと思います」

 

 アキラの言葉を聞いたルドウィグは、ホッとしたような顔をしていた。

 実はアリアハン支部のカナブンから無茶をさせないように言われていたため、やんわりと指摘をしたのだ。

 

「そういえば、アキラさんは今後どうされる予定なのですか?」

「う〜ん。とりあえずDランクに上がるのを目標にしていたので、少し休んだら中級者迷宮を見てみようかなとは思っています」

「そうですか……グランエスタード(うち)の中級者迷宮はそれなりに難易度が高いので、行くのであれば他の街をオススメしますよ」

 

 ルドウィグにそう言われたアキラは、比較的難易度が低い中級者迷宮がある街を聞いたあと、Dランク昇格祝いを行うために併設してある酒場に向かうのであった。

 

 

 

「それでは……Dランク昇格を祝って──」

「「「かんぱーい!!!」」」

 

 3人は各々の木のコップを当てて、乾杯をする。

 この世界ではお酒を飲む年齢は15歳以上と決まっており、その年齢を超えているアキラ達は()()()()()()を飲んでいた。

 初めは生ぬるいエールしかないのかと思っていたアキラだったが、色んな部分で彼の思っている以上の()()()()があり、冷えたビールだけでなくハイボールやその他のお酒も安価に飲めるようになっていた。

 

(この世界でも()()()()()()()()って名称なんだよな……まぁ細かいことは気にしたら負けか)

 

「アキラー! ちゃんと飲んでるー?」

「はいはい、飲んでるよ。……てかベロニカはお酒飲んで本当に大丈夫なの?」

「毎回うるさいわねー! 私はあなたと同じ16歳なんだから、飲んで何が悪いのよ!」

 

 アキラが2人とパーティーを組んで分かったことがあった。

 ベロニカは酒癖が悪く、飲みだすと絡んでくるようになる。そして一定以上飲むと、プツンと糸が切れたかのように寝てしまう。

 セーニャは終始ニコニコとお酒を飲み、どれだけ飲んでも潰れるのを見たことがなかった。

 

「どうせあんただって、私よりもセーニャが良いって思ってるんでしょー?」

「はいはい、そうですね」

「なによー! 私だって元の身体に戻れば、スタイル良いんだからー!!」

「はいはい、そうですね」

 

(同じ双子でこんなに違うとは……)

 

 ブツブツ言いながら絡んでくるベロニカを軽くあしらい、アキラ自身もお酒を飲み進める。

 そしてベロニカが潰れたあと、セーニャと飲みながらゆっくりと話すのが恒例であった。

 

「……ようやく寝たか」

「お姉様も嬉しかったんですよ」

「ん? ベロニカってお酒飲むといつもこうでしょ?」

「いいえ。実は今まではお酒を飲んでも、私以外の誰かにここまで絡むことはなかったですわ。多分、アキラさんを本当に信頼しているんでしょう。

それか…………ふふふ。なんでもありません」

 

 何かを言おうとしたセーニャだったが、途中で止める。彼女はベロニカを見て笑っているだけで一切答えることは無かったため、アキラも気にはなったが聞くのを諦める。

 その日は結局深夜にお開きとなり、お互いの部屋に戻って休むことになった。

 アキラも自室に戻って、ベッドの上に倒れ込む。

 

(んー、久々にこんなに飲んだなぁ。やっぱりベロニカ達とDランクに昇格出来たのは本当に嬉しかったんだな)

 

 お酒で酔ったときのふわふわとした感覚を心地良く感じつつ、ゆっくりと目を瞑る。

 そのまま夢の世界に旅立ったアキラだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時、まさか次の日にベロニカ達と別れることになってしまうとは、露程(つゆほど)も思っていなかったのであった。

 

 

【ステータス】

・名前:アキラ

・称号:

・冒険者ランク:D

・ジョブ:ものまね士

・レベル:9

・所持金:1,613G

・各種能力:

HP:52

MP:30

ちから:19

みのまもり:10

すばやさ:32

きようさ:19

こうげきまりょく:28

かいふくまりょく:28

みりょく:29

うん:28

 

【スキル】

・ものまね士スキル:3 【熟練度:58】

・剣スキル:3 【熟練度:48】 (剣装備時攻撃力+5、剣装備時会心率上昇)

・武術スキル:2 【熟練度:69】 (身体能力UP)

・特殊技能:

白魔法(ケアル、ポイゾナ、ライブラ、プロテス、シェル)

黒魔法(ファイア、ブリザド、エアロ)

時魔法(ヘイスト、スロウ、デプロテ)

 

・ユニークアビリティ:ものまね

 

【装備品】

頭:騎士団の帽子

身体 上:騎士団の服 上

身体 下:騎士団の服 下

手:騎士団の手ぶくろ

足:騎士団のブーツ

武器:てつのつるぎ

盾:かわのたて

装飾品①:収納の指輪

 

【所持アイテム】

やくそう:10個、どくけしそう:10個、キメラのつばさ:10個、おもいでのすず:3個

 

【予備の装備品】

アルテマウェポン[劣化]、どうのつるぎ、かわのよろい上下、ぬののふく、かわのブーツ

 




ドラクエを"呪文"、FFを"魔法"と区別した言い方をしています。
混ざらないように気を付けます!

あと、パーティーを組んでからセーニャにもベロニカと同じように話すようになりました。

面白い!また続きが見たいと思ったら、ぜひ高評価、お気に入り登録、感想をお願いします!

◆パーティー解散時点でのステータス

【ベロニカ ステータス】
・名前:ベロニカ
・称号:ラムダの里の巫女
・冒険者ランク:D
・職業:魔法使い
・レベル:9
・各種能力:
HP:43
MP:45+20
ちから:14
みのまもり:7
すばやさ:29
きようさ:27
こうげきまりょく:45+15
かいふくまりょく:0
みりょく:26
うん:21

【スキル】
・魔法使いスキル:3 【熟練度:16】
(ギラ、ヒャド、ルカニ)
・杖スキル:3 【熟練度:40】
(杖装備時こうげき魔力+5、戦闘勝利時MP小回復、杖装備時最大MP+20)
・魔導書スキル:2 【熟練度:11】
(魔結界、常時こうげき魔力+10)
・巫女スキル:2 【熟練度:31】
(メラ、マジックバリア、ボミエ)



【セーニャ ステータス】
・名前:セーニャ
・称号:ラムダの里の巫女
・冒険者ランク:D
・職業:僧侶
・レベル:9
・各種能力:
HP:48
MP:43+20
ちから:19
みのまもり:9
すばやさ:20
きようさ:24
こうげきまりょく:0
かいふくまりょく:37+15
みりょく:27
うん:23

【スキル】
・僧侶スキル:3 【熟練度:21】
(ピオラ、バギ、スカラ)
・杖スキル:3 【熟練度:23】
(杖装備時かいふく魔力+5、デビルンチャーム、杖装備時最大MP+20)
・たてごとスキル:2 【熟練度:19】
(炎の旋律、常時かいふく魔力+10)
・巫女スキル:2 【熟練度:36】
(ホイミ、マヌーサ、キアリー)


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第十九話

申し訳ございません!
投稿予約日を間違えてました!
先程気付いたため、本日は12:00投稿しています!



 次の日、早朝に起きたアキラはトレーニングをしてから朝食を食べていた。

 しかし、いつもはこの時間に起きてくるベロニカとセーニャの姿がなかった。

 

(昨日、結構飲んだからなぁ。まだ寝てるのかな?)

 

 そう思い、朝食を食べ終えたアキラは彼女たちを特に起こすこともなく、のんびりと過ごしていた。

 初級者迷宮を攻略した次の日なので、休みにしようと伝えていたのもあり、各々の時間も大切だと思っているアキラはこの場にいなくても違和感を覚えていない。

 少しすると、頭を抑えながら歩いているベロニカとまだ眠そうな顔をしているセーニャが食堂に現れた。

 

「おはよ〜」

「おはようございます」

「おはよ。ベロニカ大丈夫? 昨日結構飲んでたもんね」

 

 ベロニカは二日酔いになっているようであり、ふらふらしながらアキラの前へと座る。

 それでも食欲はあるようで、朝食をペロリと平らげたあとにデザートも食べるほどであった。

 

「よ、よく食べるね……」

「これくらい淑女にとっては当然よ! 食べれば二日酔いも少しはマシになるし!」

 

 自身の言葉通り、彼女は食堂に入ってきたよりもかなり調子が戻ってきていた。

 セーニャは軽い食事を取って、アキラと一緒にコーヒーを飲んでいた。

 

「そういえば今日は休みなんだけど、アキラは何かするの?」

「んー……武器を見に行こうかなって思ってるんだよね。Dランクに上がったし」

 

 店売りの武器防具は、冒険者ランクに応じて購入できる装備に制限があり、昨日Dランクに上がったアキラは武器を新調しようと考えていた。

 アルテマウェポン[劣化]はまだ自在に使いこなすことが出来ておらず、刀身が出せたのもポイズントード戦だけであった。

 

「あ! それなら私達も──」

 

 ベロニカが私達も見に行きたいと言おうとしたとき、食堂に1人の男性が入ってくる。

 あまりに慌てた様子だったので、ベロニカ達が話を中断するとその男性はアキラ達の方を見て近付いてくるのであった。

 

「あの……ラムダの里のベロニカさんでしょうか?」

「ええ、そうだけど?」

「よかった! 実は聖地ラムダの長老から緊急通信があったので急ぎお知らせに来ました!」

「……緊急通信?」

 

 急に現れた男性はルイーダの酒場の従業員で、先程ベロニカ達の故郷である聖地ラムダの里から緊急通信があったため報告に来たのだった。

 ルイーダの酒場は──支部ごとはもちろんのこと──国や重要な場所とのリアルタイムでの通信が出来るようになっており、何かがあったときにすぐに情報共有が可能であった。

 ベロニカは手紙で現在の拠点にしているところを定期的にラムダの里へ送っているため、タイムラグはあるが大体の位置は長老たちには伝わっていた。

 

「内容としては、『世界樹について重要な問題が発生したため、今すぐ里へと戻れ』とのことです」

「「え!? 世界樹!?」」

 

 ベロニカとセーニャはその内容に思わず立ち上がるが、アキラには何が重要かは分かっていなかった。

 もちろん世界樹の存在は知っている。ただ、それにどんな問題があって、どのような弊害が起きているなど詳細が分からないため、反応が出来ないのだ。

 

「ベロニカ、世界樹に問題があるってどうい──」

「大変だわ。とりあえず急いで里に戻らないと!」

「ええ。今から準備をしましょう!」

 

 アキラの話が耳に入っていないのか、すぐにラムダの里に戻らないといけないとベロニカはセーニャと話す。

 事態が飲み込めていないが、彼女達が困っていることは理解出来たので、アキラは手伝おうとベロニカ達に伝える。

 

「じゃあ僕も宿を出る準備をしてくるよ。入り口で待ち合わせでもいい?」

「「…………」」

 

 アキラの言葉にベロニカとセーニャは目を合わせたあと、気まずそうな顔をする。

 なぜそのような顔をするのか分かっていない彼は、どうしたのかを尋ねる。

 

「あのね……実は……」

「私達の里は、里の者か特別な許可を得た方しか入れない場所になっているのです」

「それに里の場所も気軽に教えてはいけない掟もあって……その……」

「……僕は()()()()()()()()()()()()ということだね?」

 

 アキラの言葉に彼女たちは頷く。そして自分がついていけないことをアキラは悟った。

 

(そうか……せっかくパーティーを組めたのになぁ……)

 

「分かったよ。ついていけないことは残念だけど、掟なら仕方ないよね」

「……ごめんなさい」

 

 ベロニカ達は申し訳無さそうな顔をして、黙ってしまった。

 場の雰囲気が最悪な状況になっていたが、アキラはにこやかに笑いながら彼女たちに話しかける。

 

「ううん、大丈夫だよ。むしろ今までパーティーを組んでくれて本当にありがとう」

「……アキラ」

「アキラさん……」

「湿っぽいのは良くないね! というか、もう二度と会えないってわけじゃないんだし」

 

 アキラはDランクに上がった次の日にまさかベロニカ達と別れることになるとは思っていなかった。

 だが、目の前で起こっていることは事実であるし、それであればきちんと受け入れて笑顔で別れようと思うことにしていた。

 彼女たちもそれに気付き、笑顔で「ええ! 解決したらまた会いに行くからパーティー組んでよね!」と応えるのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 ベロニカ達とパーティーを解散したアキラは、心にモヤモヤとした気持ちを抱いていた。

 それが寂しいという感情であることは気付いている。

 それも当然だ。この世界に来てから一番長く一緒にいた彼女たちと急に別れることになれば、誰しも抱く感情であろう。

 

(はぁ……これからは1人で旅に出ることになるのかぁ……)

 

 これからどうしようか悩みながら歩いていると、何かにぶつかってしまい、尻餅をついてしまう。

 

「いってぇ……」

「いたた……ってすまない! 急いでて! 怪我はないか?」

 

 アキラとぶつかった相手も同じく尻餅をついていて、頭を掻きながら謝罪をしていた。

 立ち上がって見てみると、肩ほどまで伸びた金髪で赤を基調とした服を着た男であった。

 おそらくアキラと同世代であろうと予測は出来るが、着ている服は明らかに上等な質であり、高貴な身分の人間であると分かった。

 

「そこにいたぞ! 全員集まれ!」

「……やべ、見つかったか! じゃあな!」

 

 赤い服の少年はそのまま走っていった。

 アキラは何事かと思いつつも服に付いたホコリを払っていると、少年を追ってきたであろう兵士に囲まれていた。

 その中で少し豪華な鎧に身を包んだ兵士がアキラの前に立つ。

 

「え? 何か用ですか?」

「貴様! 先程王子と話していただろう! 王子はどこにいる!?」

「王子って……さっきの人ですか? あっちに向かっていったこと以外は僕にも分からないですけど……」

 

 アキラは王子と呼ばれた少年が向かった先を指差すが、数人がその方向に向かい、アキラはさらに詰め寄られていた。

 

「それで貴様は王子とどういう関係なんだ?」

「どういうと言われても……今さっきぶつかったのは初対面ですけど」

「嘘を付くな! じゃあなぜあんなに親しげに話していたんだ!?」

「親しげも何も……ぶつかっただけですよ」

「……ほう。じゃあ質問を変えよう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 その質問に対し、アキラは背中に一筋の汗をかき、何も答えられなかった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「沙汰が下るまで、この中に入って待っていろ」

「……はい」

 

 アキラはグランエスタード城の地下牢に連れて行かれていた。

 縦横3mほどの牢屋の真ん中に腰を下ろしたアキラは、取り上げられなかった収納の指輪を触りながら考え事をしていた。

 

(やっちゃったなぁ……なんで()()()()()しちゃったんだろう……)

 

 アキラは兵士に聞かれた際、王子と呼ばれた人物が向かった先と逆の方向を指差していた。

 それは理屈ではなく、本当に()()()()()という言葉が相応しかった。

 グランエスタード、王子、金髪、赤い貴族服──これを思い浮かべたときに彼の中では1人の人物が思い浮かんでいたことは否定出来まい。

 

(キーファ・グラン……多分だけど、彼のことだよね……)

 

 ドラゴンクエスト7に登場したグランエスタード王国の王太子である。

 原作でもよく城を抜け出しては、主人公やマリベル達と一緒に行動していたが、そのお陰で世界を元に戻すきっかけに貢献することが出来た人物。

 そして、アキラにとっても印象が強い人物の1人でもあった。

 

(種……返してくれないよね……?)

 

 頭の中で変なことを考えながら、ふふふっと笑う。

 まだこの世界に来て1ヶ月ほどしか経っていないのだが、彼にとっては懐かしい出来事の1つであったように思えた。

 

(どうしようかな、これから……)

 

 牢屋に入れられた初めての体験に少し落ち込みながらも、床に寝転んだアキラはこれからについて改めて考えていた。

 ベロニカ達と別れて、彼としても何をして良いのか分からなくなっていたのである。

 それだけ彼の中でベロニカ達を──一緒にいた期間が短いとはいえ──大切な仲間だと思っていたのであった。

 

 心の中が空っぽになった感覚になっている自身を軽く笑っていると、足音が聞こえてくる。

 その足音は近くまで進んできており、アキラの牢屋の前で止まる。

 

「おい、起きろ」

 

 声を掛けられたのが自分だと気付いたアキラは身体を起こし、目の前にいる人物を観察する。

 一般兵と思しき人物と──先程アキラを捕まえた少し身なり良い兵士であった。

 

「今から貴様を連れて行く。牢屋を開けるから、黙ってついてこい」

「…………」

 

 アキラは牢屋に閉じ込められるよりかはマシかと思い、黙って兵士についていく。

 しかし、歩いている途中でふとしたことに気付く。

 

(あれ? これでもし王子誘拐か何かの容疑で処刑とかになったら……ヤバい?)

 

 そのことに気付いた途端に焦り始めるアキラ。

 歩き方がぎこちなくなっているのを見た兵士が「さっさと歩け!」とアキラを急かす。

 城の大広間のような場所まで連れて行かれたアキラは、目の前の豪華な階段を登り、さらに階段を登って3階まで来たところで大きい扉が現れた。

 

「これから陛下が直々にお会いになられる。貴様の処遇はそこで決まると思え」

 

 少し身なりの良い兵士はアキラを脅すように話すと、扉の前にいた兵士にアキラを引き渡して立ち去る。

 そして、扉が開けられるとそこには玉座に座った人物、その左右に1人ずつ立っている人がおり、その周囲を守るように近衛兵と思われる兵士が立っていた。

 アキラは前に行くように急かされたが、目を閉じて一度深呼吸をするとゆっくりと歩き出す。そして、途中の場所で片膝を立てて座ると頭を下げる。

 

「…………面を上げよ」

 

 声が聞こえたため、アキラは頭を上げ、そして玉座にいる王と思われる人物の顔を見ないように気を付けつつまっすぐ見つめた。

 その横にいる人物が一歩前に出ると、書状を読み始める。

 

「それではこれよりキーファ王子誘拐事件について陛下直々に取り調べを始める。まず、お主の名前を述べよ」

「はい。アキラと申します」

「調べによると、ルイーダの酒場でDランクの冒険者ということであったが、相違無いか?」

「はい」

 

 アキラは質問に淡々と答えていく。中には彼を引っ掛けるような質問もいくつかあったのだが、無難に答えることで上手く躱していった。

 

「……それでキーファ王子との関わりは一切ないと申すか?」

「はい。御座いません」

「ふむ……陛下、どうやら()()()()()()()()ようです」

「そうか」

「だから言ったでしょう。彼は私とぶつかっただけですと」

 

 グランエスタード王の横にいたもう1人の人物──それはアキラが牢屋にぶち込まれるきっかけとなったキーファであった。

 すべての調べが終わり、ようやく口を開くことを許されているようであった。

 

「だがな、お主がいつまでもフラフラとしておるから──」

「──ええ。だから巻き込んでしまったことを反省して、()()()()を引き受けたでしょう?」

「う、うむ。そうであったな」

 

 アキラは玉座の3人の話を失礼にならない程度に観察していた。

 原作のキーファはもう少し態度に幼さが見られていたのだが、この世界では凛とした雰囲気を纏っており、王子と名乗るに相応しいだけの品格を持ち合わせているようであった。

 無実であることが立証されたと判断したアキラは、この場からすぐに立ち去りたい気持ちでいっぱいになっていたが、何も話さずに次にどうなるのかを待っていた。

 

「陛下、この者の()()についてですが……」

「おお、そうであった」

 

(……え? 今の話で無罪じゃないの?)

 

 処罰という言葉に焦りを感じるアキラ。キーファもその言葉を聞いて流石に焦ったのか、「陛下!」と声を少しだけ荒げていた。

 

「キーファよ、落ち着け。処罰という言葉を使ったが、罰しようとは考えておらん。むしろお主にとっても良いことかもしれんぞ」

「良いこと……?」

「冒険者アキラよ。大臣がアリアハン支部長のカナブンより”期待の新人”であると聞いておる。そこで、そなたに依頼をしたいのだ」

「陛下……!? も、もしかして……」

「そうだ。この者をパプニカへ赴くお主の護衛として依頼をする」

 




物語だから仕方ないとはいえ、こういう話の主人公って次から次へとイベントが発生しますよね?
そしてキーファ君(種泥棒)との出会いです。


面白い!また続きが見たいと思ったら、ぜひ高評価、お気に入り登録、感想をお願いします!

『MAJORで吾郎の兄になる』という作品も掲載しておりますので、下記から併せてご覧いただけますと幸いです。
https://syosetu.org/novel/216811/

『MAJORで寿也の兄になる』という作品も掲載しておりますので、下記から併せてご覧いただけますと幸いです。
https://syosetu.org/novel/216813/

『テイルズ オブ デスティニー〜7人目のソーディアンマスター〜』という作品も掲載しておりますので、下記から併せてご覧いただけますと幸いです。
https://syosetu.org/novel/218961/


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第二十話

先日、投稿日を間違えてしまったお詫びに少し早めに投稿します。
感想もいつもありがとうございます!かなり励みになるので、とても嬉しいのです!

徐々に寒くなってきましたので、気温差で体調を崩さないようにお気を付けくださいませ。

これからもぜひよろしくお願いします!



 グランエスタード王はキーファの護衛をアキラに依頼すると話す。

 それに対し、アキラは「え!?」と口に出しそうになるのを抑えるので精一杯であった。

 

「護衛は確かまだ1人足りなかったであろう?」

「そうですが……」

「それであればちょうどよいではないか? お主はどうだ?」

 

 急にアキラに話を振られ、アキラは戸惑いながらも「大変光栄でございます」としか答えられない。

 

「……親父、卑怯だぞ。この場ではそう答えるしか選択肢はないじゃねえか」

「おやおや、ようやく口調を戻してくれたかな? 最近父としても寂しくてのう」

「ぐっ……陛下」

「冗談はともかく、この者──アキラに依頼しようと決めたのは他にも理由があるぞ」

「……理由?」

「そうだ。ルイーダの酒場の支部長から信頼を得ることは大切だが、この者は冒険者登録してから1ヶ月でDランクに上がったという強者(つわもの)だ。

そのようなスピードで昇格する者を余は聞いたことがない。それにこの場での作法についても完璧だった。()()()()()()()()ようだからの。

以上の理由から、今回の件を依頼するのには妥当であると判断したのだよ」

 

 グランエスタード王は「まあ他にもあるがのう」とぼそっと話していたが、その声はキーファには届いておらず、彼は腕を組んで考え事をしていた。

 そして、アキラを見ると「本当にいいのか?」と不安そうな顔をして尋ねる。

 アキラとしても今後やることが見えていない状況だったため、黙って頭を下げて了承の意を告げる。

 

「というわけだ。ルイーダの酒場への指名依頼はこちらで出して受理させておくのでな。早速準備をしておいてくれ」

「かしこまりました」

 

 下がってよいと伝えられたアキラは謁見の間を後にして、城から出ようとしたところで1階の広間でキーファに呼び止められる。

 アキラが振り返ると、キーファは申し訳無さそうな顔をして謝罪する。

 

「いきなり巻き込んでしまって本当にすまない」

「いいえ、大丈夫です。私もやることがなく、どうしようか悩んでいたところだったので」

「そうか。そう言ってもらえると私としても助かる」

 

 依頼の詳細については後で宿に使いの者を送ると伝えられ、キーファと別れる。

 宿に戻ったアキラは休みつつ、城からの使いが来るのを待つのであった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 数日後、アキラ達はパプニカへ向けて出発準備中の船の甲板にいた。

 出発までの数日間、アキラは装備を整え、初級者迷宮の浅い階層を探索することでレベルを10にまで上げていた。

攻略難易度が高いグランエスタードの初級者迷宮でも、浅い階層であれば今のアキラのレベルでも安全マージンを十分に確保した状態で探索が可能なため、レベル上げに(いそ)しんでいたのであった。

 

「アキラ!」

 

 後ろを向くとキーファが手を上げながら船に乗り込んで来るところであった。

 アキラは頭を下げてキーファに挨拶をする。彼の後ろには緑色の服に包まれた少年と緑と赤のワンピースにオレンジのストールを頭に着けた女の子もいた。

 

「数日ぶりだな。今回は急な依頼を引き受けてくれて本当に助かった」

「いえ、大丈夫です」

「あー、一応紹介しておくな。セブンとマリベルだ。お前と同じDランク冒険者で、俺とは腐れ縁の仲だ。そんで、こっちがアキラな」

「セブンです」

「マリベルよ。よろしくね!」

「アキラです。こちらこそよろしくお願いします」

 

 お互いに自己紹介が終わったところで、キーファ達は荷物を部屋に置きに行く。

 そして船の出発直前にキーファの部屋で今回の依頼についてのおさらいをするのであった。

 

「じゃあ今回の依頼について改めて話す。今回はパプニカ王国の王女と……その、なんだ」

「お見合いでしょ? いい加減照れるのやめたら?」

「だぁぁぁ! 別にいいじゃないか、照れたって!」

「とりあえずそのお姫様とお見合いをして結婚するんだっけ?」

「違う! それでお互いに了承すればだ! 俺はまだ結婚とか考えてないから、そもそも会う気すらなかったんだ。

だが親父──陛下がどうしてもとうるさいからな。それにアキラを巻き込んじまったし、今回だけ受けることにしたんだ」

 

 キーファとマリベル、セブンの掛け合いは息が合っており、その様子を見たアキラは微笑んでいた。

 

「ところでアキラ……だったかしら? あなたは何歳(いくつ)なの?」

「僕は16歳ですよ」

「あら、結構下かと思ってたら、同い年じゃない。だったら敬語は使わなくていいわよ。ちなみにセブンも同い年で、キーファは1歳上よ。」

「俺は年上だけど、公式の場じゃなければ敬語はいらないぞ。セブンもマリベルもそうだし、その方が俺も気楽だからな」

「そう? じゃあそうさせてもらうよ。それで話の続きだけど──」

「ああ、そうだったな。一応王女とのお見合いに関しては、うちの兵士がいるからそこまで気にしなくていい。()()()()()()()だ。」

 

 キーファは今回パプニカ側から”王族の洗礼”を一緒に行いたいという打診があったと告げる。

 王族の洗礼とは、15歳から20歳の間に王族全員が()()()()()()()()()()というもので、これはほぼ全ての国で行われるものであった。

 決まり事はいくつかあるが、メインとしては国の兵士や冒険者ランクC以上の者を同行者として連れて行ってはいけないなどがある。

 

 今回はお見合いも兼ねて2カ国合同で行うことで親睦をより深めるという思惑もあった。

 ただ、グランエスタード側でセブンとマリベルしか信用できる人物を用意できず、最低でもあと1人は欲しいと思っていたところにアキラが現れたため、今回依頼されることとなったのだ。

 ルイーダの酒場のアリアハン支部長カナブンとグランエスタード支部長ルドウィグの推薦があったのだが、支部長クラスからの推薦というのは、それだけで一定以上の信頼を得ることが出来る。

 

 各々の責任が重くなるため、支部長達もうかつに推薦することはしないが、アキラの人柄と実力を見た2人は信頼に足る人物であると判断していた。

 アキラの背後関係は分からないのだが、冒険者になろうとする者はそういった人物も多い。

 だからこそ支部長クラスには()()()()()が確かな者でないとなることは出来ないし、その判断が間違っていた場合は相応の責任を取らされるためより慎重になるのだ。

 

「それで問題がなぁ……」

「問題?」

「パプニカの王女なんだけど、かなりのおてんば姫ってことで有名なんだよ。もし中級者迷宮に行ったときに暴走とかしたら……と思うとな」

「マリベルよりもおてんばなのかなぁ?」

「……セブン? それは冗談だってことでいいのよね?」

「うわぁ! 冗談、冗談だってば!」

 

 中級者迷宮は宝箱などが出てくる。そこには極稀にレアアイテムなどもあったりするのだが、もちろん罠も仕掛けられていることもある。

 罠は道中や宝箱自体に仕掛けられているので、もし宝箱を不用意に開けに行って罠が発動すると、それだけで中級者迷宮の攻略が出来なくなったりすることもあるのだ。

 

 そんな危険なところにも関わらず、”王族の洗礼”を厳しいルールで行うのには理由がある。

 兵士や高ランクの冒険者がいれば確かに安全に攻略することが出来る。しかし、王族として民のために一定以上の力があることを示すことと、そのことでさらに冒険者を増やすための宣伝も兼ねているのだ。

 そして、自身の力で攻略することで自立を促し、困難な出来事にも冷静に対処出来るだけの器を身に付けるという思惑もあった。

 

「……つまりその王女様は宝箱を不用意に開けに行ったりする可能性があるということ?」

「親父からはそう聞いている。パプニカ国王がその可能性がかなり高いと言っていたみたいだし、王女1人では不安だったんだろうな。

俺としては、今回のお見合いも王族の洗礼を合同で行うための()()だと思っているよ」

 

(パプニカの王女かぁ……まぁ確実に()()()だよね)

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 パプニカまでの数日間の船旅は特に問題が起こることはなく、無事到着した。

 船酔いが心配だったアキラだが、父親が漁師であるセブンが対策を事前に教えてくれていたこともあり、船酔いになることはなかった。

 海のモンスターを見たのは初めてだったのだが、同船していた兵士達がすぐに始末していたためアキラ達の出番は一切なかったのであった。

 

「おおおお、キーファ王子! この度はわざわざお越し下さり、誠にありがとうございます。私はパプニカ王国の大臣テムジンと申します」

「ああ。わざわざ港までの迎え、ご苦労だった」

「いえいえ、お疲れのところ恐縮ですが、王都までの馬車を用意しておりますのでどうぞ」

 

 キーファ達はパプニカからの迎えについて馬車に乗る。

 港から王都までは数時間の距離のため、アキラは自然豊かな景色を眺めつつ到着まで時間を潰していた。

 そして王都に到着したキーファ達は長旅の疲れを癒やす前にパプニカ城で国王への謁見が待っていた。

 

「ええええ! 国王への謁見なんてあんた(キーファ)だけで行ってきなさいよ!」

「そうもいかないんだよ。パプニカ国王は、今回の洗礼に同行するメンバーにも会っておきたいということだったからな」

「ちぇ〜、私は堅っ苦しいのが苦手なのよね! セブンもそうでしょ?」

「まぁね。でも今回は行かないといけないなら仕方ないよ」

「もうセブンはいっつもそう! アキラだって嫌よね!?」

「確かに緊張するよね。得意ではないかも……」

「その割にはうちの親父との謁見の時は手慣れた感じだったけどな」

 

 グランエスタード国王との謁見の際に、アキラが堂々とした振る舞いを見せていたと語るキーファ。

 マリベルは「得意じゃないって嘘じゃない!」とアキラを責めていたが、本気で言っていないことが分かったため苦笑いで返していた。

 これは彼女なりに全員の緊張──マリベル本人も含む──をほぐすための言動であり、キーファやセブンもパプニカ城の応接室に入ったときよりも随分柔らかい表情になっていた。

 

(マリベルって良いお姉さんって感じだね)

 

 アキラはマリベル達の関係を羨ましく思いつつ、同時に彼自身も緊張がほぐれていることに気付いていた。

 上手く全員が落ち着いたところで謁見の準備ができたと知らせが来たため、謁見の間へと向かうこととなった。

 

 

 

「グランエスタード王国王太子、キーファ・グラン様とその御一行がご入場されます!」

 

 謁見の間の前にいた兵士が大きな声で到着を告げると同時に、目の前の大きな扉が開いていく。

 キーファは手慣れたように謁見の間へと入っていき、部屋の途中で(ひざまず)く。

 アキラ達も続いて(ひざまず)くと、テムジンが話し出す。

 

「キーファ王子。この度はパプニカへのご来訪、誠にありがたく存じます」

「キーファ王子よ。私がパプニカ王だ。わざわざ来てもらって悪いな。面を上げて楽にしてくれ」

「はっ! この度は陛下への拝謁、誠に嬉しく思います」

 

 キーファは立ち上がり、頭を下げながら挨拶をする。

 アキラ達は基本的に話すことはないので、キーファの行動を真似するだけで問題はなかった。

 パプニカ国王とキーファの王族としての話が続く。王族や貴族とはすぐに本題に入ることはない。

 それは王族・貴族たるもの、常に余裕を持つべしという暗黙のルールのためなのだが、まずはお互いの国の簡単な話や時事についての話をある程度する。そうしてようやく本題に入るのである。

 

「おお、そうだ。キーファ王子よ、今回はレオナとの見合い話を受けてくれて助かったぞ。ここだけの話、噂のせいでなかなか受けてくれる国がなかったからな」

「こちらこそレオナ王女にお会いできるのを楽しみにしておりました」

「そうかそうか。その後の”王族の洗礼”にも付き合わせてしまってすまないな。そこにいる者達が今回の同行者か?」

「はい。私も信頼している強者(つわもの)達です」

「ふむ……それだけ信頼している者達なら、我が国の兵達と模擬戦をしてもらっても大丈夫かな?」

「模擬戦……ですか?」

「ああ。今回は同行者をそちらに任せたのだが、大臣がうるさくてな。」

 

 パプニカ国王は、テムジンがグランエスタード王国側だけで同行者を選定することに反対をしていたと話す。

 そして、それを納得させるために来た際に模擬戦を行い、大臣を納得させるだけの力を示してほしいということだった。

 アキラはその話を聞きながら、テムジンをちらりと見る。

 

(もし力を示せなかった場合、同行者を交代させようってことか……()()()()()()()()()()を)

 

 キーファは数瞬の間のあと、「かしこまりました」と了承した。

 このとき、国王とキーファの間で周りには気付かれないやり取りがされていたのだが、そのことに全員が気付くのはもう少し経ってからだった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 結果から言うと、模擬戦はアキラ達の圧勝であった。

 キーファを除いた3人とテムジンが選んだ兵士3人との団体戦での模擬戦。

 普段の役割は、前衛のセブンと後衛のアキラとマリベル。今回のアキラは中衛役となり、マリベルを守りつつセブンの援護に徹していた。

 

 冒険者風情と舐めて連携もせずに最初から全員で突撃してきた兵士達は、アキラの殺傷力のない『エアロ』で足止めをされ、その隙をついたセブンによって1人が叩き伏せられる。

 『エアロ』の効果が切れてチャンスだと思ったところにマリベルの容赦ない『イオ』により、残りの2人も吹き飛ばされて模擬戦は終了した。

 

(え……わざわざ怪我させないように『エアロ』の威力を調整したのに、マリベルって容赦なさすぎ……)

 

 これにはアキラだけでなくセブンも引いており、キーファは額に手を置いて呆れていた。

 周りの空気に気付いていないマリベルは1人で「大勝利!!」と叫びながら右手を伸ばしてピースサインをしていたのであった。

 

「と、とにかくこれで文句はないな、テムジンよ」

「は、はっ!」

 

(ちっ。このままではわしの計画に支障が出てきてしまうではないか! バロンに言って()()の改造を急がせるしかないか……)

 




ドラクエ7の主人公の公式名はアルス?だったと思いますが、諸事情からセブンと変えました。

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第二十一話

2日間でお気に入りが100人増えたのに驚きでした……。
ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!



 模擬戦を終えたアキラ達は応接室にて休みつつも、待機をしていた。

 キーファとレオナのお見合いを待ちながら、テーブルの上に並べられたフルーツやお菓子に手を伸ばしていた。

 

「キーファったら、大丈夫かしらね?」

「んぐんぐ……大丈夫じゃない? なんだかんだでキーファってやる時はしっかりやるし」

 

 セブンはキーファよりも目の前のお菓子が気になるようで、口の中に頬張ってはリスのようにもぐもぐさせていた。

 その様子を見たマリベルは「ガキねぇ〜」とセブンに呆れていたが、先程からお菓子へ伸ばす手が止まっていないところからすると、マリベルも甘いものに目がないようであった。

 

 ふと思い出したかのように、手についたクッキーの粉を舐めながらマリベルがアキラへ先程の模擬戦についての質問をする。

 

「そういえばさ、さっきの模擬戦でのアキラの呪文っておかしくなかった?」

「…………え? そ、そうだっけ?」

「『バギ』を使ったときに、威力調整みたいなのをしていた気がしたんだけど……」

 

 マリベルが聞きたかったのは、アキラが使った『バギ』──正確には『エアロ』だが──を殺傷力のない威力で発動したことに疑問を持ったようであった。

 『エアロ』と小声で唱えていたのが聞こえてしまっていたのかとアキラは動揺したが、どうやらそのことではなかったので安心して返事をする。

 

「ああ、あれね。魔力を調整すると誰でも出来るよ」

()()()調()()?」

「うん。練習は必要なんだけど、呪文に込める魔力を少なくして威力を減らしたり、あとは特定の部分だけ発動させたりね。

そうすれば無駄にMPを消費しなくて済むから、僕らみたいな魔法使い系統の職業は継戦能力が上がるんだよ」

 

 アキラは心の中で()()()()()()()()()()()()()()()()とも思っていたが、発言後の身の危険を考えて口に出すことはしなかった。

 そんなことを彼が思っているとは知らずにマリベルは感心したような声を出し、あとでアキラに教えてもらおうとその場で勝手に決めてしまう。

 マリベルのその発言に、先程までお菓子に夢中になっていたセブンが口を挟む。

 

「マリベル、それって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「うっ…………い、いいじゃない! 私達だってパーティーなんだから!」

「一時的なパーティー、でしょ? これが終わったらアキラにもやることあるんだろうし、冒険者にとって自分の飯の種を簡単に人に教えるってどうなのさ?」

「ううっ……ア、アキラぁ〜」

 

 的確な指摘をされたマリベルは助けを求めるようにアキラを上目遣いで見る。

 

 セブンの言うとおり、冒険者にとって自身の技術は命と同じくらい大切である。

 その技術で飯が食えていると言っても過言ではないためだ。しかし、アキラはドラクエ(ここ)の世界の住人ではないため、そのことに対しての意識は薄かった。

 実際にベロニカやセーニャにも同じようにその技術を教えていたというのもあり、これくらいであれば問題はないという軽い認識であった。

 決してマリベルの上目遣いにドキッとしてしまったからではないとアキラは心に言い聞かせて返事をする。

 

「ん……んー、まぁこれくらいなら大丈夫だよ。少し前までパーティーを組んでいた人たちにも教えていたし。

……それか交換条件でマリベルの使える呪文を僕に教えてもらうってのはどう?」

「私の呪文?」

「うん。僕も色々と呪文を覚えたいんだけど、事前に見ておくだけでもかなり違ってくるからさ」

「そ、そのくらいでいいなら私は全然構わないんだけど……」

 

 そう言いながらセブンをちらりと見るマリベル。セブンはため息をついて、「アキラがそれでいいなら大丈夫じゃない?」と言うと、彼女は嬉しそうな顔をしていた。

 

(まったく……マリベルはいつも強引なんだよね。まぁアキラも嫌そうな顔をしてないし、これからマリベルが強くなるっていうなら僕としても反対はないんだけど)

 

「あれ? 他人事みたいな顔してるけど、セブンも一緒に訓練しようよ」

「……え? 僕にも教えてもらえるの?」

「もちろん! セブンも簡単な呪文なら使えるんでしょ? それなら覚えておくと楽になるよ」

 

 アキラはセブンが『ホイミ』などの簡単な呪文を使えるのを事前に聞いていたため、それならば一緒に覚えてもらおうと思っていた。

 魔力コントロールの技術は『ホイミ』などの呪文であっても、習熟度や本人の魔力、費やすMP量によっては、『ベホイミ』以上の効力が出る場合もある。

 もちろんMP効率でいうと『ベホイミ』の方が良いのだが、『ホイミ』しか使えない者がそれ以上の回復力を持つというだけで万が一の保険にも繋がる。

 

 実はこの技術は、本当であればこの世界の大魔道士や大賢者と呼ばれるレベルの者が極めたその先で発見する(たぐい)のものであった。

 そんな技術をなぜアキラが使えるようになったか、それは彼の()()()()()()()()が作用している。

 こういったものは知っているか、想像できるか、そしてそれを可能だと思えるかで実行した際の結果も変わる。

 

 大魔道士や大賢者は自身の力を極めた先に更なる効率を求め、想像し、時間を掛けて試行錯誤続けた末に修得する。

 そういった人達は同時に呪文を使うことが出来たり、呪文の合体すら可能になる。

 

 アキラは元の世界で威力を調整する漫画やゲームなども見ていたので、知識として頭の中にあった。

 可能ではないかと思えるのであれば、あとは知っている知識を使ってやり方を試していくだけだった。

 結果として、アキラは短期間で習得ができ、ベロニカ達に教えると彼女達も簡単なレベルであればすぐに習得できたため、そこまで難易度が高い技術ではないと勘違いしていた。

 

(これを教えるくらいで、セブンやマリベルから呪文を教えてもらえるなら安いもんだよ。僕も強くなるし、セブン達も強くなればこれから一緒に行く中級者迷宮の攻略も楽になるだろうからね)

 

 その場で出来る簡単なやり方をセブン達に教えながら、キーファが戻ってくるのを待つのであった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 数時間後に戻ってきたキーファの顔を見て、全員がお見合いが大変であったということを察した。

 苦笑いをしたセブンがキーファに声を掛ける。

 

「キーファ、お疲れ様。……その様子だと、相当大変だったみたいだね」

「……本当だよ。あの王女、この見合いを初めから潰す気だったんじゃないかと思ったし」

 

 キーファがレオナを初めて見たとき、一国の王女というだけの気品や美しさを持ち合わせているという印象を持った。

 噂が嘘だったのではと思えるほどだったため、王族として丁寧に挨拶をしたのだが、彼女からの第一声は「その服装、ダサいわね」だった。

 周りにいた国王や大臣もその発言に血の気を引いていたが、構わずにレオナはキーファへフランクに話し続けた。

 

 その態度は昼食や2人で庭を歩いているときも同じだったようで、彼女は終始大臣などへの愚痴をしていた。

 最後には「王族の洗礼が終わるまでの間だけど、よろしくね」とあっけらかんとした態度で言ったため、一瞬で周りの空気が凍っていたとキーファはセブン達に話した。

 

「そ、それはさすがにヤバいわね……」

「あはは。噂に違わぬ破天荒さだね」

「キーファ、よく耐えられたね……」

 

 マリベル、セブン、アキラは口々に感想を述べる。

 キーファも「怒りを通り越して、何も言えなくなったわ!」と言いつつ、目の前にあった果実にかぶりつく。

 その空気を変えるため、セブンがキーファに別の話を振る。

 

「そういえばさ、”王族の洗礼”はいつやることになったの?」

「ああ、一応向こうの準備もあるから、一週間後ってことになったよ」

「じゃあそれまでは私達フリーでいいの?」

「構わないよ。こっちはもう探索の準備は終えているし、なんだったら肩慣らしで初級者迷宮を探索してもいいかもな」

 

 全員で今後の予定を話し合った結果、アキラ達はパプニカ王国の初級者迷宮を探索することとなった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 パプニカ王国大臣テムジンの執務室。

 そこにはテムジンと他に呼び出された数名の人間がいた。

 

「バロン、()()の調整はどうなっている?」

「はっ。ほぼ完了しています」

「よし。レオドールはどうだ」

「はっ。こちらも準備は終えています。いつでも包囲可能です」

「分かった。動くのはもう少ししてからだ。まずはレオナ王女を中級者迷宮内で()()する。同時に()()()()()して一気に制圧するぞ」

 

 テムジン達は反乱を企て、その機を伺っていた。

 反乱は周囲にバレないように行うのが当たり前のことである。そのためテムジンは慎重を期して物事に当たっていた。

 同じ思想を持ちつつも自身を裏切らない仲間を集め、王族側にスパイを送り込み情報を収集する。

 

 その反面、彼自身は大臣としての職務をきちんと全うすることで、信頼を得る。

 そして、時にはテムジンにとって邪魔になるであろう者を陰で排除する。暗殺、証拠をでっち上げての追放など使える手はなんでも行っていた。

 ここで彼が大切だと考えていたことは、()()()()()()()()()()()()()()である。そうすることで万が一バレそうになったとしても、言い逃れ出来るようにするためだ。

 

「ここまでの準備で5年という年月を費やした。決して楽な道のりではなかったかもしれん。だがようやく我々の悲願が達成できるときが来たのだ」

 

 テムジンは喜びに打ち震えつつも、すぐに気を引き締める。

 全てが終わるまでは油断してはいけないと作戦の最終確認をするのであった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 パプニカ王国初級者迷宮。

 ここではキーファ達4人が腕試しがてら探索を行っていた。

 

「はぁぁぁ! 『かえん斬り』!!」

 

 キーファの『かえん斬り』によって、くさった死体が切り裂かれると同時に傷口ごと燃える。

 ある程度燃えきったところで、くさった死体はゴールドとどくけしそうに変わるのであった。

 

「……ふう。話には聞いていたけど、ここはゾンビ系のモンスターばかり出てくるな」

「そうだね。呪文以外に、キーファの『かえん斬り』が効果的だったのが助かったね」

「本当ね。さっきのくさった死体なんて、無駄にタフだから厄介なのよね……(くさ)いし」

 

 パプニカの初級者迷宮は全5階層。彼らは現在地下3階層を探索していた。

 迷宮には土地や国ごとの特色があるようで、パプニカの迷宮はゾンビ系のモンスターが中心に出現する。

 そして、この迷宮はゾンビ系のモンスターのせいで、難易度がそこまで高くない割に冒険者にとって人気がない。

 

 くさった死体などのせいで、とにかく(くさ)いのだ。

 (にお)いが服に染み付くことはないため、迷宮の外に出れば大丈夫なのだが、それでも迷宮内はどこにいても(にお)う。

 人気がないため、国が専属で雇っている冒険者以外でほとんど迷宮探索をしている者はいなかった。

 

「これは早めに攻略したほうがいいかもね……」

「そうだな。だが、これだけは言っておく。アキラの探索ペースはおかしいぞ」

「ええ、確かにおかしいわね」

「うん、絶対に変だよ」

 

 アキラが早めに攻略をしようと提案するも、ベロニカ達に続いてキーファ達にもアキラの攻略ペースが異常だと言われてしまう。

 2日目の途中で地下3階層に到達するといったことは冒険者の常識ではありえないからである。

 

「……ほ、ほら! でも安全に探索出来てはいるでしょ?」

「そうなんだけどなぁ。実際にアキラの言うとおりに戦うと楽だし」

「確かにそれには私も驚いたわね。MPの消費もいつも探索するよりも少ないし」

 

 アキラはモンスターの弱点や立ち回りなどをキーファ達に伝えていた。

 そのお陰もあり、全員の連携を確認した後からは戦闘効率が格段に上がったという評価を貰っていた。

 だが、それでも探索ペースが早いことに関してはまだ受け止めきれないようであった。

 

 結局この日は地下4階層に到達したところで探索を終えた。

 ルイーダの酒場に戻ってきたアキラ達は夕方になる前だったため、王都の外で魔力コントロールの訓練をすることにした。

 

「そうそう! いい感じに集中できているから、あとは呪文に込める魔力を調整するだけだよ」

「むむむ…………『メラ』!!」

 

 マリベルが『メラ』を唱えると、指先からは通常の『メラ』よりも一回り大きい火の玉が現れ、岩に当たる。

 

「出来た! 今の出来てたわよね!?」

「うん、ちゃんとコントロール出来てたよ。あとは訓練を重ねていけば、形を変えたりも出来るから頑張ろう」

 

 マリベルは初めての成功を喜び、はしゃいでいた。

 呪文にそこまで詳しくないキーファは、これがどれだけ凄いのかをいまいちピンときていないようであったが、マリベルが喜んでいることとパーティーの戦力が上がるであろうということは理解できていたので、周囲を警戒しつつも微笑ましく見ていた。

 初級者迷宮を攻略した後にはなったが、セブンも魔力の基礎コントロールを出来るようになり、これで”王族の洗礼”に挑むための準備は整った。

 

 

 

 

 

 

 そして”王族の洗礼”の当日を迎えるのであった。

 




ドラクエΩ以外の私の作品も読んでくださっている方に向けて、活動報告にて今後の更新について載せています。

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第二十二話

更新がすごい遅くなって申し訳ございません!
実は結構先まで作っていたのですが、話の内容が気に入らなくなってしまい、第二十二話以降の書き溜め分は全て削除して書き直しました。
最低でも自分が面白いと思えない作品は作りたくないので、どうかご容赦頂けますと幸いです。

お詫びも込めて、本日は9,000字弱と少し長めです。

よろしくお願いいたします。



 〝王族の洗礼〟の日。

 朝早くからキーファ達はルイーダの酒場の前で待っていた。

 〝王族の洗礼〟で向かう中級者ダンジョンは冒険者が向かう場所と同じであり、その際に冒険者達よりも王族が優遇されることはない。

 

「待ち合わせ時間って……合ってるよね?」

「そうだな」

「それにしちゃ遅くない?」

 

 朝早くからキーファ達はルイーダの酒場の前で待っていた。

 そう、待っていたのだ。しかし予定時刻よりも二時間ほど過ぎてもレオナが現れることはなかった。

 彼女が現れたのは、そこから更に一時間後。通常の冒険者なら依頼を受けたり、迷宮攻略を開始している時間である。

 豪華な馬車から薄手のドレスに身を纏った少女が出てくる。

 迷宮攻略ではなく、貴族の茶会の方が場に適しているであろう服装で現れた少女だったが、雰囲気は王族のそれであった。

 そして、キーファが一国の王女に相応しい美しさを兼ね備えているということが理解できるくらいの美少女だったため、セブンとアキラは思わず見とれてしまっていた。

 

「おはようございます……レオナ王女」

「ふああ……」

 

 キーファが挨拶をするも、意に介さずあくびをするだけで返事をしない美少女(レオナ)

 その様子を見て、レオナを慌てて諌める者がいた。

 

「ひ、姫様! キーファ王子がご挨拶くださっていますのに、その態度はなんですか!」

「……うるさいわねぇ、アポロは。分かっているわよ! キーファ王子、おはよう」

 

 パプニカの賢者の一人であるアポロの諫言(かんげん)にようやく反応したレオナに対して、キーファは苦笑いを浮かべるだけしか出来なかった。

 そして、後ろにいるアキラ達など気にせず、レオナは話を進める。

 

「それで、今日からここの中級者迷宮をするのよね?」

「ええ。私と……ご挨拶が遅れましたが、今回の護衛になった者達です」

 

 キーファはレオナにセブン達の紹介をする。

 

「セブンです」

「マリベルです」

「……アキラ、です」

「えっ……」

 

 レオナがセブン達を見るなり、明らかに不機嫌そうな顔つきとなる。

 何か粗相をしてしまったのかとキーファ含めて四人は不安になったのだが、レオナの口から出てきたのは、驚くべき内容だった。

 

「ちょっと……こんなに弱そうな人達で大丈夫ー? 途中で死んじゃうとかシャレにならないからやめてよね!」

 

 絶句。この場にいる()()()()が、その言葉に相応しい表情をしていた。

 アポロがレオナを再度(いさ)めようと口を開くが、別の者によってその行動を止められる。

 

「まぁ所詮は冒険者。姫様の護衛には物足りないでしょうが、これも王族の務めゆえ。上に立つ者として、下々を導くのも必要なことかと」

「……それもそうね。なんとかなるかしら」

「バロン殿!! それは──」

「大丈夫ですよ、アポロ殿。姫様には私が教えた『ヒャド』があります。魔物だけではなく、この者達も守ることすら容易でしょう」

 

 アポロは的外れなことを話すバロンと、その言葉に頷くレオナに対して頭を抱えていた。

 キーファに対してだけでなく、グランエスタード王国が選んだ冒険者に対して下に見るような発言、更に貴族階級ではない者に対しての発言。

 その内容は国際問題に発展してもおかしくないものである。そして、パプニカの王族のレベルの低さを露呈してしまっていることに対してもアポロの頭を悩ませてしまった要因の一つであった。

 

「……もういいじゃないの。早く行きましょ」

 

 レオナはこの場にいることすら退屈になったのか、さっさと行くように求める。

 キーファはそれでも王族としてなんとか表情を崩さず、「そ、それでは行きましょう」と言ってレオナとセブン達と共にルイーダの酒場に入っていくのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 パプニカ王国中級者迷宮。

 そこは初級者迷宮とは違った造りをしていた。初心者迷宮は床や壁が石で出来ており、それがきちんと整地されていた。

 しかし、中級者迷宮はまるで火山洞窟の地下のようであり、床も壁もデコボコしているため、かなり歩きづらい場所であった。

 何よりもマグマが出ていたりもするため、かなりの気温の高さである。

 

「暑いわねぇ……」

「ええ。パプニカ王国の中級者迷宮は気温の高さにかなり苦労するとのことでしたからね」

 

 レオナの言葉にキーファが丁寧に答える。初級者迷宮と中級者迷宮の違いはモンスターの強さだけではなく、こういった()()()()の厳しさもあった。

 パプニカのような火山洞窟の地下のようなところもあれば、真冬の山のような吹雪のところもある。

 こういった環境の変化にも適応できる者が次のステップへと進むことが出来るが、ここである程度の人間が脱落してしまうのだ。

 

「さっさと行くわよ」

「ちょっ、レオナ王女お待ちください!」

 

 キーファがレオナを呼び止める。

 

「なによ?」

「一人で行くと危ないです! 罠もあるので私達が前に──」

「うるさいわね。先に行くわよ」

 

 キーファの制止も聞かず、レオナはどんどん先に進んでいく。それをキーファ達は走って追いかけるのだった。

 幸いにも罠に掛かることもなく五分ほど進んでいると、目の前からゴーストが一体現れる。

 

「ゴーストね。この程度なら……『メラ』!」

 

 メラの炎がゴーストに襲いかかる。そしてゴーストを吹き飛ばすが、その一撃ではやられずにゆっくりと起き上がる。

 すぐにレオナがヒャドを唱え、氷の塊がゴーストを貫くとそのまま消えていった。

 

「ふう。楽勝だったわね」

「レオナ王女! 大丈夫ですか!?」

 

 キーファ達が後ろから遅れて来るが、レオナは冷めた目でキーファ達に振り返る。

 

「もう終わったわよ。あなた達なんていなくても大丈夫じゃないの?」

「ですが一人では──」

「だからうるさいわね! 一人で大丈夫だって言ってるで……えっ!?」

 

 レオナが話している途中でアキラが剣を抜き、レオナに向かって突撃してくる。

 突然アキラから攻撃されるとは思っていなかったレオナは、反応出来ず目を瞑ってしまう。しかし、少し経っても痛みを感じないため、おそるおそる目を開くと、アキラの顔が目の前にあった。

 

「……油断大敵ですね」

 

 アキラの言葉にレオナが後ろを振り返ると、そこにはアキラによって顔を貫かれたアンデッドマンの姿があった。

 アンデッドマンとは青系統の盾と剣、そして鎧と兜を身に着けた()()()が特徴のがいこつのモンスターである。

 後ろから気配を殺してレオナを襲おうとしていたところにアキラが気付いて、アンデッドマンを倒していたのであった。

 

「よ、余計なことしないでよね!」

「……え、あ、はい」

 

 男性の顔が目の前にあった経験がないレオナは、少し顔を赤らめながらもアキラに対し辛辣な言葉を投げかける。

 アキラが返事をしつつ苦笑いで返すと、レオナは休むことなくそのまま先に進んでいった。

 

「ちょっと、なにあれ?」

 

 マリベルは眉間にシワを寄せて、セブンに小さな声で話しかける。

 

「噂に聞いていた以上に大変そうだね……」

 

 セブンも苦笑いで返すと、マリベルと一緒に肩をすくめながらレオナ達の後を追っていく。

 そしてついにキーファの心配していたことが起こる。ある程度進んだところで、警報アラームと思われる大きな音がけたたましく鳴り響いたのだ。

 

「な、なに!?」

「モンスター呼び寄せの罠だ! すぐにモンスターがやってくるぞ!」

 

 マリベルが動揺するが、近くにいたキーファはすぐに罠だと言い、レオナの向かった方に走りつつ、周囲の警戒をする。

 アキラとセブンは十mほど先にいたレオナに走って追いつき、周囲を固める。

 

「ウガァァァ!」

「キイャァァァァ!」

 

 周りからはくさった死体、ゴースト、マドハンド、がいこつ、アンデッドマンといった地下一階層に出現する全種類モンスターが──合計で十体以上──集まってくるのであった。

 

「ちょっと……こ、これはキツいんじゃないか?」

 

 レオナ達に合流したキーファが呟く。

 

「けど……それでもなんとかしないとだよね。レオナ王女とマリベルを囲むように……って、レオナ王女?」

 

 セブンが返事をしたところで、レオナが顔を青くして震えながら座り込んでいた。

 

「わ、私は悪くないわよ……わ、私じゃ……」

「……レオナ王女は今戦力に入れないほうがいい。とりあえず強化魔法(バフ)を掛けるから、マリベルはレオナ王女を守りつつ余裕があったら魔法で援護お願いできる?」

「分かったわ」

 

 アキラはマリベルにレオナを守るように指示を出すと、『ヘイスト』と『プロテス』を全員に唱える。

 

「よし、じゃあ一旦はこれで大丈夫だけど、〝マドハンド〟だけは仲間を呼ぶから先になんとかしよう!」

「よっしゃ! じゃあ俺が──」

「キーファ! ストップ!」

 

 キーファがマドハンドに突撃しそうになったので、アキラはそれを止める。

 

「どうしたんだよ!? 仲間呼ばれちまうぞ!」

「キーファがいなくなったら、モンスターの攻勢をセブン一人で受けないといけないでしょ! こういうときは僕に任せて!」

 

 アキラがそう言うと、詠唱を始める。

 

「……『スリプル』。よし、今のでマドハンド達が全員寝た! 今のうちに他のモンスターを倒すよ!」

「うん!」

「おっしゃああ!」

 

 アキラのスリプルで三体いたマドハンドが全員寝ると、そこから徐々にモンスターを減らしていく。

 その中で一番弱いゴーストは、ハロウィンみたいな紫の三角帽子を被り、明るい場所でも平気で現れる幽霊型のモンスターである。

 キーファ達が他のモンスターを抑えているうちに、アキラが弱点の炎属性(ファイア)で数体のゴーストを燃やし尽くす。

 

 次に狙ったのはがいこつである。アンデッドマンと同じ左利きのモンスターだが、違いとしては鎧装備ではなく通常の服を着ているので分かりやすい。

 同じく炎属性に弱いので、先程使った『ファイア』を『ものまね』することで詠唱なしで連発して二体のがいこつを倒した。

 

「次は!?」

 

 アキラがキーファとセブンの受け持っているモンスターのどちらを優先して倒そうかと両方を見ると、キーファがくさった死体の攻撃を盾で受けながら返事をする。

 

「こっちは大丈夫だから、セブンのとこのモンスターを倒してくれ!」

「分かった!」

 

 アキラはすぐにセブンが戦っているアンデッドマン達目がけて『ファイア』──もちろん『ものまね』を使っている──を放つと、剣を握り締めたまま突撃していく。

 『ファイア』でよろめいていたアンデッドマン達の一体にセブンが剣を突き刺し、その衝撃で落ちたアンデッドマンの顔を思い切り蹴り飛ばす。

 壁に当たり、その衝撃で粉砕されたアンデッドマンの顔。その攻撃が致命傷となり、そのまま消えていく。

 なんとか体勢を立て直したもう一体のアンデッドマンが、セブンに向かって斬りかかろうとしたところにアキラが割って入り、その攻撃を剣でなんとか受け止める。

 

「……ぐっ! セブン!」

「任せて! おりゃぁぁ!」

 

 アキラは攻撃を受け止めるので精一杯だったため、セブンが隙をついてアンデッドマンの後ろに回り込んで『ぶんまわし』を行い、左の肋骨から真横にアンデッドマンを断ち切る。

 バラバラと地面に崩れていったアンデッドマンの上半身から頭だけを狙って剣を突き刺し、アキラが止めを刺したのであった。

 

「……ふう。キーファは!?」

 

 一息つきながらアキラがキーファを見ると、くさった死体をちょうど倒しきっていたところであった。

 そして横から大きな爆発音が鳴り響く。驚いて音の方を見ると、マリベルのイオによってマドハンドが吹き飛ばされていた。

 

「よっし! これで終わりね!」

 

 マリベルはマドハンドが消えるのを確認した後、笑顔で全員に笑いかける。

 キーファ達は剣を仕舞って、マリベルのところに戻っていった。

 

 

 

     ◇

 

「……レオナ王女は大丈夫?」

 

 アキラがマリベルに様子を聞くと、一斉にレオナの方を向く。

 そこには先程まで震えていたレオナがまだ少しだけ顔を青くさせていた。

 

「僕見てたんだけど……レオナ王女が罠を踏んじゃったみたいだね」

「……!」

 

 セブンはレオナがモンスター呼び寄せの罠を踏んだのを見たと言うと、レオナはびくっと身体を震わせる。

 その様子で確信したマリベルは腰に手を当てつつも、呆れて何も言わずにいた。キーファも肩をすくめるだけで何も言うことはなかった。

 

「わ、私は……」

 

 大勢のモンスターに囲まれた経験がなかったのであろうレオナは、まだ恐怖状態に陥っているのか上手く言葉を話せないようであった。

 それを見てこれからどうしようかという雰囲気になっていると、アキラがレオナの目の前に座り話しかける。

 

「……今日はもう帰りましょうか」

「え……?」

 

 責められると思っていたレオナはアキラの言葉に驚き、彼の方を見る。そこには怒りも呆れもない、優しい笑顔だけがあった。

 

(まあ仕方ないよね。そりゃあパーティーが全滅しかねない罠を踏んだり、これだけ大勢のモンスターに囲まれることなんてお姫様ならないだろうし)

 

 アキラとしてはそこまで負の感情をレオナに対して持ってはいなかった。それは彼が実年齢三十歳以上ということもあり、若いときは男の子でも女の子でもそういうミスをするものだという認識を持っていたためだった。

 

「とりあえずこれでレオナ王女も罠が危険だと分かってくれたと思います。どうせなら皆で攻略出来るといいですね」

 

 優しくアキラがレオナに向かって話す。

 

「う、うん……」

 

 レオナはアキラの言葉を聞いて、目を逸らして頷くしか出来なかった。

 

「というわけで、皆も今日のところは帰っても大丈夫?」

 

 アキラがキーファ達に聞くと、全員が了承したため、マリベルの『リレミト』で迷宮から脱出するのであった。

 

 

 

     ◇

 

 ルイーダの酒場に戻ると、レオナはそそくさと迎えに来ていた兵士達──朝からずっと待っていたとも言う──の馬車に乗って先に帰ってしまう。

 

 その帰るスピードがあまりにも速かったので、残った四人は呆気にとられていた。

「姫様、本日はいかがでしたか?」

 

 兵士と同じく朝から残っていたアポロが、レオナに本日の結果について聞く。

 

「う、うん……き、今日は地下一階層の半分くらいは行ったんじゃないかな……?」

「おお! それは素晴らしい!」

「…………」

 

 アポロは速い攻略スピードのレオナを褒め称えたのだが、反応が悪いため不思議に思う。

 

「……どうされたのですか? も、もしかして迷宮内で何かされたとか……!?」

「え……そ、そうじゃないの! 実はね……」

 

 レオナがアポロに迷宮内で起こったことを正直に話す。一人で勝手に先に進んでいったこと、初めは調子が良かったのだが、途中で罠を踏んでしまい大量のモンスターに囲まれて死ぬような思いをしていたこと。

 だが、キーファ達は難なくモンスターの群れを撃退する。さらに勝手な行動を取ったレオナに対し、その中の一人の冒険者(アキラ)はレオナを責めるどころか心配をして、本当ならまだ先に進めるのに今日は帰ろうと言ってくれたことなど。

 話は纏まりがなかったが、アポロは辛抱強くレオナの話を聞いていた。

 

「そういうことでしたか。それで姫様はどうお考えなのですか?」

「えっ?」

 

 アポロの質問に対して、良い返答が浮かばず言葉に詰まる。

 

「そこで姫様がどう思ったかが大切だと思うのですが、どうお感じになって、どう考えたのでしょうか?」

「……まず、バロンが言っていた()()()()()というのは本当なの? と疑問に思ったわ。あと、なんであんなに冷たくしていたのに、あのアキラとかいう冒険者は怒らずに私のことを気遣ったのかが分からないの……」

 

 レオナはその時に思った言葉をそのまま話す。

 

「そうですね……彼らが弱いというのはないでしょう。彼らは一週間前に陛下に謁見した際に、パプニカ(うち)の兵士との模擬戦で圧勝していますからね」

「そ、そうなの!? そんなことテムジンもバロンも教えてくれなかったわ!」

「……なぜお二人が姫様にお伝えしなかったかは分かりませんが、それは事実です。そして、アキラ殿が怒らなかったのは、彼が単純に()()なのでしょうね」

 

 アポロは驚くレオナに正しく情報を伝える。アキラのことに対しても推測ではあるが、可能性が一番高い理由を話していた。

 

「大人……?」

「はい。誰でも失敗はするものです。ですがそれを許せる人間は、人として成長している証だと私は思っています。まぁなんでもかんでも許すのはまた違ってくると思いますけれど」

 

 アポロは優しく笑いながらレオナに諭すように話す。

 

「で、でも彼は私と同じくらいの年齢よ!」

「生きている年月は関係ないのでしょう。大切なのは()()()()()()()()です」

「どう……生きて、きたか」

 

 レオナは俯いて考え出す。

 

「はい。もし、気になるのでしたらアキラ殿に直接聞いてみるのもいいかもしれません」

 アポロにアキラに直接聞くのも良いと言われた途端、顔を上げて驚きの表情をする。

 

「ちょ、直接!?」

「もし姫様が悪いと思っている気持ちがあるのであれば、そのときに謝罪をするのも悪くないと思います」

 

 アポロはレオナの顔が若干赤らんでいることにも気付かず、久しぶりに話を聞いてくれるレオナに気分を良くして、そこから城に戻るまでずっと話し続けるのであった。

 

「…………直接かぁ」

 

 

 

     ◇

 

 パプニカ城。夕食も終わり、深夜になりかけの時間帯。アキラ達は各自に用意された部屋で思い思いの時間を過ごしていた。

 アキラはベッドで横になりながら、今日の迷宮探索について考えていた。

 

(今日は大変だったなぁ。明日って探索出来るのかな? ……って誰だ、こんな時間に?)

 

 急にアキラの部屋のドアがノックされる。こんな時間に訪問してくる人間はあまりいないので、やや警戒しつつもドアの前で返事をする。

 

「はい。」

「あの……私」

 

 小声で〝私〟と言われても誰だか分からないのだがとアキラは思いつつ、彼はその声の主に心当たりがあった。

 

「もしかして……レオナ王女ですか?」

「そ、そうよ! 早く開けて!」

 

 扉を早く開けるように急かされたため、鍵を外して扉を開けるとレオナがアキラの目の前にいた。

 

「……聞きたいことがあるんだけど。入ってもいい?」

「え、あ、は──」

 

 アキラの返事を待たずにレオナは部屋の中に入る。アキラはバレないようにため息をついて扉を閉じると、レオナに立たせたままなのはまずいと思い、椅子に座るように促す。

 

「どうぞ、こちらにお座りください」

「…………」

 レオナは黙って座り、アキラもテーブルを挟んで椅子に座る。

「…………」

「…………」

 

 そこからは用事があるはずのレオナが話をしないため、気まずい空気だけが流れていく。

 一分か二分、それ以上にも感じる時間に我慢できずにアキラが話しかける。

 

「えっと、何かありましたか?」

 

 しかし、レオナは俯いたまま何も言わない。正確には何かを言おうとしては口を閉ざして俯くを繰り返していた。

 それにアキラは困ってしまい、後頭部を掻いていると。

 

「どうして……」

「……え?」

「どうして、今日は私のことを責めなかったの?」

「どうしてって……今日の罠のことですかね?」

 

 レオナは黙って頷く。

 

「あー、えっとですね。まぁ誰にでも過ちというか、失敗ってあるものじゃないですか? 僕らはパーティーなので、それをフォローし合うのが当然だと思うんです。だから別に一回や二回の失敗で責めても仕方ないし、他のみんなでフォロー出来たから良かったのかなって思いまして」

 

「で、でも私はその前から自分勝手に動いていたじゃない! あなた達のことを弱いって決めつけたり……」

 

 アキラの言葉にレオナは反論する。しかしアキラは言葉を選びつつも柔らかい口調でレオナに話しかける。

 

「まぁそのことをレオナ王女が自覚されたのであれば、次から気を付ければいいのだと思います。僕らのことを弱いって思うのも、きっと誰かに話を聞いたのでしょうけれど、次からは()()()()()()()を信頼して判断するというのも大切だと学んでいただければと」

「自分で見たもの……」

 

 レオナはアキラの言葉を繰り返す。

 

「ええ。誰でもあることだと思うのですが、人って周りからの言葉を鵜呑みにしてしまうことが多いんですよ。だから僕は、例えば初対面で人と会うときに周りの言葉を参考にはしたとしても、実際の判断はその人を直接見たり、直接話したりしてから決めるようにしていますね」

「…………」

 

 アキラの言葉を聞いたレオナは、俯いてまた黙ってしまう。しかし今度はそう長くはなかった。

 

「レ、レオナ王女……?」

 

 レオナの目から涙が溢れているのがアキラにはすぐに分かった。そして、その雫はレオナの膝の上に置かれたこぶしに落ちていく。

 アキラが慌てて立ち上がると、レオナが小さな声で謝罪を口にする。

 

「……ご……さい」

「……え?」

「……ごめん……なさい……。ぐすっ……私、あのとき……死んでしまうかと……」

 

 アキラは嗚咽混じりで話すレオナの言葉を黙って聞く。

 

「モンスター……を、倒した後は……みんなに、責められるって思って……」

 

 レオナは彼女なりに勇気を振り絞ってアキラの部屋に来ていた。反抗していた部分もあったが、それはどうしても納得がしたかったから、そしてアキラの考えを聞きたかったからだ。

 アキラもそのことに気付くとレオナのところまで歩いていき、しゃがんでレオナの握りしめられた手に自分の手を乗せる。

 

「そうでしたか。よく勇気出してくださいましたね。ありがとうございます」

「……ぐすっ……うぅ……」

「それなら次からは気を付けてもいいかもしれないですね。あと、よかったら()()()()()()()()()()()()()()()()()()です」

「……うん……でもキー、ファ王子に、他の、二人は……」

「キーファ王子達なら大丈夫ですよ。彼らはとても優しいので、反省しているならきっと許してくれます」

 

 アキラは収納の指輪からハンカチを取り出してレオナに渡すと、彼女が泣き止むまで付き添い、部屋の入り口で待機していたアポロ──なんとなくいる気がしていた──にレオナを預けて明日に備えて寝ることにした。

 ベッドで横になるアキラには、先程までの明日への不安は一切なかったのであった。

 




書き直ししてるとき、めちゃくちゃ悩みました。
書いては消して、書いては消してを繰り返して、途中でもう書くのをやめてしまおうかと何回悩んだことか。
何かを書くって本当に難しいですね。

そういえば先週の土曜日にやったダイ大のアニメを録画していたので見たのですが、感動シーンのあとにアバン先生=爆弾岩説の記事がネットで話題になっていて吹きました(笑)

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第二十三話※

前話の投稿がかなり遅れてしまったので、お詫びとして本日も投稿します。
後書きに現パーティーのステータスも記載するので、よかったら参考にしてくださいませ。



 攻略二日目、早朝。

 ルイーダの酒場前でキーファ達はレオナを待っていた。

 

「お姫様は今日も遅刻するんじゃないの?」

 

 マリベルは昨日の件をまだ引きずっているのか、やや不機嫌そうな声で話す。

 城に戻ってからのマリベルはセブンに相当愚痴を言っていたらしく、アキラは苦笑いをしたセブン本人からそのことを聞いていた。

 

「も、もう来てるわよ」

「……レ、レオナ王女!?」

 

 近くから急に声がしたので全員が声の方向を向くと、そこにはレオナが気まずそうな顔をして立っていた。

 マリベルも馬車でもっと後の時間に大勢で来ると思っていたため、失言を聞かれたことに焦りの声を出す。

 

「今日はアポロにだけ送ってもらったの。……昨日かなり遅れてしまったから」

「い、いや……その……」

 

 マリベルだけでなく、全員が気まずそうな顔をしていると、レオナから謝罪の言葉が出る。

 

「あの……昨日は本当にごめんなさい……」

「……え?」

 

 キーファが聞き間違えたのかと、聞き直そうとするがレオナは再度謝罪を口にする。

 

「〝王族の洗礼〟初日で遅れて皆を待たせてしまったことと、迷宮内で勝手に行動して皆を危険に晒してしまって……ごめんなさい!」

 

 今度はキーファも含め全員に聞こえるくらい大きな声で謝るレオナ。

 

「い、いやいや! 分かっていただけたのであれば大丈夫ですよ! なぁみんな!」

 

 キーファは両手を横に振りながら大丈夫だと全員に話を振るが、マリベルとセブンは黙ったままだった。

 なんとかして欲しいという気持ちを乗せてつつキーファがアキラを見ると、アキラは助け船を出すつもりで話し出す。

 

「……そうですね。大事なのはきちんと学んで次に活かすことです。マリベルもセブンもこの程度で怒る人達じゃないから問題ないですよ。ね、二人とも?」

 

 その言葉を聞いたマリベルとセブンはお互いに目を合わせ、マリベルがため息をつくと諦めたかのようにレオナの謝罪を受け入れた。

 

「まぁ……キーファとアキラにここまで言われてまだ怒っているのも大人げないし。セブンもいいよね?」

「え? 僕は初めからなんとも思ってないよ? 怒っていたのはマリベルだけじゃな──」

「……なんですって?」

「わわわっ! ごめんごめん!」

 

 セブンがマリベルに指摘をすると、彼女はセブンに怒りの矛先を向けて追いかけ始めた。

 レオナはその様子を見て、ポカンとした表情をしていた。

 

「ほら、もう大丈夫みたいですよ。それよりもセブンは今日生きて迷宮に入れるのかな……?」

 

 アキラはレオナに安心するように伝えると、セブンが助けるように大声を上げる。

 

「ちょっ、キーファとアキラ! 黙って見てないで助けてよ!」

「待ちなさい、セブン!」

 

 キーファとアキラはあまりにも必死に逃げるセブンがおかしかったのか、笑い出してしまう。

 

「……ぷっ」

 

 すると横で吹き出すような声が聞こえる。

 

「……あ、ごめんなさい。でもあまりにもおかしくて……」

 

 キーファ達と目が合ったレオナは一瞬だけ真面目な顔をするが、すぐにおかしくなったのか再度三人で一緒に笑い出すのであった。

 

 

 

     ◇

 

「あー、酷い目にあった……」

「何言ってんのよ。命があるだけ良かったと思いなさい」

 

 ルイーダの酒場に入った一行。そこではセブンが未だに先程の件について文句を言い、マリベルに窘められていた。

 

「……ふふっ」

「あ、レオナ王女まで酷いですよ!」

「いえ、ごめんなさい。あまりにも仲が良さそうなので、つい……」

 

 レオナは今のやり取りを見て、先程の思い出し笑いをしたところ、セブンから酷いと言われていた。

 すぐに謝罪をするが、その雰囲気は今朝会ったときとは全く違っていた。

 

「じゃあ迷宮に入る前に改めてお互いの能力を確認しておこうか……ってその前にレオナ王女は今日動きやすい恰好されていますね」

「ええ。アポロからドレスで迷宮探索するのはおかしいと言われて用意してもらったのだけれど……変かしら?」

 

 レオナは昨日まで着ていたドレスではなく、〝みかわしの服〟というとても軽く動きやすい服を着ていた。

 アキラはそれに対し、素直に褒める。

 

「いえ、とても良いと思いますよ」

「そ、そうかしら?」

 

 レオナは照れながら、服を少しいじっていた。

 

「ええ。やはり迷宮探索は、冒険者らしく動きやすい服が一番ですよね」

「……はあ。少しでも期待した私が馬鹿だったわ」

 

 レオナがため息をつくが、アキラはそこまで気にせずに話を先に進めることにした。

 

「ま、まあとりあえず自己紹介兼ねて連携を確認したいので、各自で使える特技や呪文について共有しましょう」

「じゃあ俺から話しますね!」

 

 キーファが我先にと自分の職業や持っている特技などについて話す。

 職業は戦士。呪文は使えないが、かえん斬りやしっぷう突きなどが使える前衛特化のスキル構成。

 

「じゃあ次は僕だね」

 

 そしてセブン、マリベル、レオナと話す。

 セブンの職業はふなのり。剣と盾スキルを持っているので前衛もこなせるが、ホイミやスカラなどの簡単な呪文も使える。

 

 マリベルの職業は魔法使い。メラ、ギラ、イオのような初級攻撃呪文だけでなく、ラリホーやルカニ、ホイミなども使える後衛特化の構成。

 

 レオナの職業は僧侶。賢者の卵なのでヒャド、メラ、ギラなどの呪文も独自に覚えているが、ホイミやキアリーなどの回復呪文の方が得意である。

 

「じゃあ、最後は僕だね。」

 

 アキラは自身の職業については言えない──特殊職の場合は言わない人間もいる──としながらも、基本は色々な呪文を使える中衛から後衛の役割だと伝える。

 

「あ、あなた何者よ……」

 

 レオナから初級呪文とは言え、あまりにも多彩な呪文を使えることを驚かれていた。

 アキラはそれを苦笑いで返す。

 

「まぁアキラは、アリアハンとグランエスタードのルイーダの酒場支部長からのお墨付きで今回の依頼に参加していますからね」

「そうだったよね。たしか最短攻略した初級者迷宮をいくつも持ってるんでしょ?」

「へぇ……そうなんだ?」

 

 キーファとセブンの話を聞いて、レオナが興味深そうに薄目でアキラを見る。

 

「と、とりあえず自己紹介とかも終わったので、迷宮に行って探索を開始しましょう!」

 

 誤魔化すようにアキラが攻略を始めようと言い、キーファ達もそれに続くように歩き出す。

 レオナだけが最後までアキラを見ていたのであった。

 

 

 

     ◇

 

 パプニカ王国中級者迷宮。

 そこは昨日と同じくマグマのせいで厳しい環境のままだった。

 

「やっぱり暑いわね」

「そうですね……っと、モンスターです!」

 

 迷宮に入り、すぐにがいこつが二体現れる。キーファが剣を抜き、セブンと前に出るとアキラが声を上げる。

 

「じゃあまずは連携を確かめよう! キーファとセブンはそれぞれの相手を抑えて!」

「おう!」

「わかった!」

 

 キーファとセブンはがいこつの攻撃を盾や剣で受け流しながら、アキラの指示に返事をする。

 

「まずはキーファ王子のがいこつを仕留めます! レオナ王女とマリベルは『メラ』を使ってください!」

「分かったわ!」

「了解!」

 

 今度は後衛のレオナとマリベルに指示を出し、『メラ』を使ってがいこつに攻撃を加える。

 二発の『メラ』でよろめいたところで、キーファが上段から縦真一文字にがいこつを切り裂き、とどめを刺す。

 

「よし! じゃあ、あとはセブンのモンスターだけだ!」

 

 キーファもフォローに入ったため、セブンが受け持っていたがいこつはあっけなく倒されて戦闘が終了した。

 レオナが加わったパーティーでの初めての連携による勝利にホッと安心する一同。

 

「今の感じでやっていけば、中級者迷宮もかなり楽に進んでいけそうですね」

「ええ、そうね……」

 

 アキラの言葉に返事をしたレオナだったが、何か言いたそうな顔をしていた。

 

「えっと……どうかされました?」

 

 そのことに気付いたアキラは、レオナに質問する。

 

「あのさ、これからは私もパーティーの一員なんだし、敬語を止めて〝レオナ〟って呼んで欲しいんだけど……」

「えっ……?」

 

 レオナからの突然の提案に男性陣の全員が驚きの声を上げる。もちろんマリベルも驚いていた。

 

「なんか皆を見ていて……いいなぁって思って。今まで私に対してそういう感じに話す人って家族くらいしかいなかったし、バロンやアポロ達はもちろん敬語だから……」

 

 少し恥ずかしそうに話すレオナに対し、アキラですらも反応が出来ていなかった。

 

「……うん、別にいいよ」

 

 レオナの背後から声がしたので、振り向くとマリベルが了承の言葉を出していた。

 

「昨日のは正直気に入らなかったけど、ちゃんと謝ってくれたし。いつまでもズルズル引きずるのはおかしいからね」

 

 マリベルはレオナにウインクしながら笑うと、それに応じてレオナも笑う。

 

「そっか! マリベルがそう言うなら問題なさそうだな!」

「そうだね! 一番の心配の種はマリベルだったからね!」

「……ちょっと、それどういう意味よ!!」

 

 キーファとセブンの言葉に、マリベルは腰に手を当てて怒りの表情に変わる。

 

「やべっ! セブン、逃げるぞ!」

「そうだね!」

「こらっ! 待ちなさい!」

 

 マリベルはキーファとセブンを追いかけて走り回っていた。

 迷宮内というのもあるので、マリベル達も本気ではなくきちんと周りを警戒していたのだが、その姿を見てアキラは苦笑いをする。

 

「アキラ君も……大丈夫?」

 

 レオナが恐る恐るアキラに聞く。

 

「え? ……ああ、大丈夫だよ。キーファも王子だけど敬語はやめてくれって言われてたからね……レオナ」

 

 レオナとアキラは目を合わせながら笑顔で頷きあうのだった。

 そして、アキラはいつまでもふざけあっているキーファ達にさっさと進むように伝え、一行は先に進むこととなった。

 

「行くわよ……『メラ』!」

「……『ヒャド』!」

 

 キーファとセブンが足止めと削りをして、マリベルとレオナが魔法でとどめを刺すといった方法で進んでいく。

 初級者迷宮と同じモンスターが出るのだが、その強さ(レベル)は初級者迷宮よりもかなり上がっている。それでも今のメンバーからすると、少し余裕を持って探索出来ていたのだった。

 

 前衛のキーファ、セブンと後衛のマリベル、レオナが明確に分かれているのも余裕が出ている要因の一つだが、一番の理由はアキラの存在だ。

 普段は後衛にいてレオナとマリベルの護衛をしつつ、強化魔法(バフ)弱体魔法(デバフ)で支援をしているが、複数体現れてキーファとセブンの手が追いつかなくなった時は壁役(タンク)もこなす。

 

 もちろんキーファ達と違ってモンスターの攻撃を受け切るのは難しいため、自身のすばやさの高さに『ヘイスト』を重ねがけし、攻撃を避けてカウンターをするといった方法でモンスターのヘイトを稼いでいた。

 

(アキラ君って何者……? パプニカ(うち)の兵士と初級者迷宮を回ったときでもあんな立ち回りをしている人いなかったわよ)

 

 少し考えれば思いつきそうな方法ではあるが、それでもアキラのような魔法の取得構成をしつつ、前衛もある程度こなせるくらいのステータスをしていないといけないため、ランクCやBの冒険者でもこういった立ち回りをする者は少なかった。

 そして二日目の探索では地下一階層を攻略し、二階層の様子見をしたところで終了となった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「じゃあ明日は地下二階層の続きから探索を始めよう」

 

 ルイーダの酒場の食堂で本日の探索の反省をし終え、キーファの言葉に全員が(うなず)く。

 

「そういえばレオナ。城に帰らなくて大丈夫だったの?」

「ん〜? 平気よ〜! アポロがきっとなんとかするわよ〜!」

 

 ビールを片手にすでに酔いが回っているレオナは、笑いながらマリベルの質問に答える。

 迷宮から戻ってきたとき、レオナはそのまま城に戻らずにルイーダの酒場に併設されている食堂でキーファ達と食事をすることにしていた。

 城の兵士などにも許可を取っていないため、心配そうにしていたが問題ないと一蹴した。

 

「それよりもマリベルに聞きたいことがあったのよ!」

「ん、なに?」

 

 レオナは今日の戦闘中の出来事についてマリベルに質問をする。

 

「私の見間違いじゃなかったら、マリベルの『メラ』って私よりも少し大きくなかった?」

「あ……あ、あれね……えっと……」

 

 レオナの質問に答えるべきかどうか悩んだマリベルはアキラの方を向く。

 元々はアキラから教えてもらった技術のため、一国の王女とはいえ簡単に教えて良いものか迷ったのだ。

 

「ん? アキラ君がどうしたの?」

 

 レオナはビールジョッキを片手にアキラを見る。

 アキラは苦笑いをしながらレオナの質問に答えた。

 

「あれは僕が教えたからね。マリベルも多分言っていいか悩んだんじゃないかな?」

 

 そう言うと、アキラは特に隠すこともなく魔力のコントロールについて詳しく説明する。

 初めて聞いた内容にレオナは信じられないような表情をしていたのだが、つい先程まで見せられていた出来事を思い出すと信じざるを得なかった。

 

「……魔力のコントロールなんて、今まで考えたこともなかったわ。バロンやアポロも()()()()()()()()()()()()()()って話していたし」

「レオナも結構簡単に出来るようになるとは思うよ。〝王族の洗礼〟が終わったら、練習してみる?」

 

 アキラの魅力的な言葉に、レオナは考える素振りも見せずに了承する。

 

「ぜひお願いしたいわ! ……って〝王族の洗礼〟が終わってもアキラ君はパプニカ(うち)に残っててくれるの?」

「んー、元々グランエスタードに定住していたわけでもないし、今回の依頼もなんとなくの流れで受けただけだしね」

 

 レオナが期待を込めた目でアキラを見るが、そのこと(レオナの目線)を気にせずにレオナの期待の通りの返事をするアキラだった。

 

「出来たら〝王族の洗礼〟が終わった後はグランエスタード(うち)に戻って、一緒にパーティー組んで欲しいけどなぁ」

 

 小さな声でキーファは呟くが、隣にいるセブンにしか聞こえておらず、当のセブンも苦笑いをするだけだった。

 そのあとも二日目探索後の反省会(飲み会)で楽しく飲んでいると、急に何か硬いものを壁にぶつけたような大きな音が鳴る。

 その方向を全員が見ると、レオナがテーブルに頭を打ち付けて寝てしまっていた。

 

「レ、レオナ!?」

 

 慌てて隣に座っていたマリベルがレオナの身体を揺するが、レオナからは寝息が聞こえており、起きる様子はなかった。

 

「ね、寝てる……」

「……なんだよ! びっくりしたじゃんか!」

 

 マリベルが寝ていると言うと、立ち上がっていたキーファ達は安心して椅子に座る。そしてレオナが酔い潰れたのをきっかけに帰ろうという流れとなる。

 

「じゃあレオナ王女はアキラが運んでいってな」

 

 キーファが酔っ払いを運ぶという、とても面倒なことをアキラにお願いする。だが、さすがのアキラも急だったので反論をしようとした。

 

「……え? なんで僕が──」

「昨日の探索のとき、アキラ君って『メラ』を連発していたよね〜? それも無詠唱で。あれはどういうことなのかなぁ? マリベルもセブンも気になるよね?」

「そうね。私も聞かないようにしていたんだけど、これから()()()()()話してもらってもいいかもしれないわね」

「うん、それを話してくれるんだったら、僕らでレオナを運ぶのも構わないよ?」

「よ、喜んで運ばせていただきます……」

 

 緊急事態だったとはいえ、罠に掛かってモンスターに囲まれた際、アキラは『ものまね』を使って『メラ(ファイア)』を連発していた。戦闘後に何も聞かれなかったため、気付かれていないと思っていたが、実はキーファ達は気を遣ってアキラに聞いていなかっただけだった。

 そして、そのことについて答えたくないアキラは、ニヤついた顔をするキーファとマリベル、セブンの言葉に従うしかなかった。

 一国の王女──しかも世間的には他国の王子(キーファ)とお見合い中──を平民がおぶっていいものかどうかを不安に覚えながらもレオナを背負う。

 アキラは背中に女性特有の柔らかさを感じながら、城に向かって歩いていくのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 深夜。テムジン大臣執務室。

 そこではテムジンにレオナの監視役を務めていた兵士が本日の報告をしていた。

 

「それでレオナ王女達の探索はどうだったのじゃ?」

「はっ……そ、それが……」

 

 兵士は言いよどむ。その様子にテムジンは顔をしかめて報告を促す。

 

「なんじゃ? なにか問題でもあったのか?」

「いえ、その……本日は、地下一階層を攻略されておりました……」

「な……なんじゃとぉ!? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのか……!」

 

 テムジンは兵士の報告を聞いて思わず立ち上がる。

 兵士は事実を報告しただけなのだが、テムジンの剣幕に対し「ひっ!」と恐怖の声をあげた。

 

「レオナ王女だけの実力ではそうはならないはずじゃ。原因は分かっておるのか?」

「はっ。キーファ王子含むグランエスタード王国の四人が思っている以上の手練でして……」

「……ちっ。あいつらか。王都制圧とレオナ王女を暗殺する日が迫っているというのに、厄介な奴らじゃ!」

 

 この場にはテムジンと子飼いの兵士しかいないため、感情を抑えずに怒鳴る。

 息を乱していたテムジンだったが、少し呼吸を整えると冷静に話し出す。

 

「……まあいい。人数が少し増えたからといって、王都制圧に何か影響が出るわけでもない。こちらも暗殺時の人数を増やして、キーファ王子ごと始末してくれるわ。最悪は()()もあるしな」

 

 テムジンが高笑いをしているそばで、兵士は空気のように立っていることしか出来なかった。

 




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◆中級者迷宮探索開始時の各自のステータス
【キーファ ステータス】
・名前:キーファ
・称号:グランエスタード王国王子
・冒険者ランク:D
・職業:戦士
・レベル:10
・各種能力:
HP:80+10
MP:0
ちから:35+5
みのまもり:18
すばやさ:15
きようさ:20
こうげきまりょく:0
かいふくまりょく:0
みりょく:20
うん:19

【スキル】
・戦士スキル:3 【熟練度:45】
(気合いため、しっぷう突き、最大HP+10)
・剣スキル:2 【熟練度:46】
(剣装備時攻撃力+5、ドラゴン斬り)
・盾スキル:2 【熟練度:65】
(ぼうぎょ、盾装備時ガード率+2%)
・プリンススキル:3 【熟練度:45】
(ためる、かえん斬り、常時ちから+5)
・特殊スキル:カリスマ


【セブン ステータス】
・名前:セブン
・称号:船乗りの息子
・冒険者ランク:D
・職業:ふなのり
・レベル:10
・各種能力:
HP:74
MP:29
ちから:28
みのまもり:11
すばやさ:18
きようさ:22
こうげきまりょく:0
かいふくまりょく:28
みりょく:14
うん:14

【スキル】
・ふなのりスキル:2 【熟練度:81】
(あみなわ、たいあたり)
・剣スキル:3 【熟練度:46】
(剣装備時攻撃力+5、ドラゴン斬り、ぶんまわし)
・盾スキル:2 【熟練度:35】
(ぼうぎょ、盾装備時ガード率+2%)
・ヒーロースキル:3 【熟練度:13】
(ホイミ、スカラ、ルーラ)


【マリベル ステータス】
・名前:マリベル
・称号:網元の娘
・冒険者ランク:D
・職業:魔法使い
・レベル:10
・各種能力:
HP:50
MP:35+5
ちから:13
みのまもり:10
すばやさ:30
きようさ:26
こうげきまりょく:48+5
かいふくまりょく:32
みりょく:22
うん:18

【スキル】
・魔法使いスキル:3 【熟練度:16】
(ギラ、イオ、リレミト)
・ムチスキル:3 【熟練度:40】
(ムチ装備時攻撃力+5、しびれ打ち、ムチ装備時攻撃力+10)
・盾スキル:2 【熟練度:11】
(ぼうぎょ、盾装備時ガード率+1.5%)
・おてんばスキル:2 【熟練度:31】
(メラ、ルカニ、ラリホー、ホイミ)



【レオナ ステータス】
・名前:レオナ
・称号:パプニカ王国王女、賢者の卵
・冒険者ランク:D
・職業:僧侶
・レベル:10
・各種能力:
HP:42
MP:41+20
ちから:22
みのまもり:15
すばやさ:24
きようさ:25
こうげきまりょく:33
かいふくまりょく:38+5
みりょく:29
うん:23

【スキル】
・僧侶スキル:3 【熟練度:33】
(ホイミ、キアリー、インテ)
・魔法指輪スキル:3 【熟練度:51】
(指輪装備時かいふく魔力+5、ルカナン、指輪装備時最大MP+20)
・短剣スキル:2 【熟練度:67】
(短剣装備時攻撃力+5、ポイズンダガー)
・プリンセススキル:2 【熟練度:67】
(呪文発動速度+10%、聖なる祈り)
・特殊技能:ヒャド、メラ、ギラ
・特殊スキル:カリスマ



【ステータス】
・名前:アキラ
・称号:
・冒険者ランク:D
・ジョブ:ものまね士
・レベル:10
・所持金:3,411G
・各種能力:
HP:53
MP:32
ちから:20
みのまもり:10
すばやさ:35
きようさ:20
こうげきまりょく:31
かいふくまりょく:31
みりょく:31
うん:32

【スキル】
・ものまね士スキル:3 【熟練度:61】
・剣スキル:3 【熟練度:53】 (剣装備時攻撃力+5、剣装備時会心率上昇)
・武術スキル:2 【熟練度:76】 (身体能力UP)
・特殊アビリティ:
白魔法(ケアル、ポイゾナ、ライブラ、プロテス、シェル)
黒魔法(ファイア、ブリザド、エアロ、スリプル)
時魔法(ヘイスト、スロウ、デプロテ、テレポ)
魔法剣(ファイア)
・ユニークアビリティ:ものまね

【装備品】
頭:騎士団の帽子
身体 上:騎士団の服 上
身体 下:騎士団の服 下
手:騎士団の手ぶくろ
足:騎士団のブーツ
武器:騎士団のレイピア
盾:かわのたて
装飾品①:収納の指輪

【所持アイテム】
やくそう:10個、どくけしそう:10個、キメラのつばさ:10個、おもいでのすず:3個

【予備の装備品】
アルテマウェポン[劣化]、てつのつるぎ、どうのつるぎ、かわのよろい上下、ぬののふく、かわのブーツ


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第二十四話





 二日目の攻略を終えてから、更に数日が経過していた。アキラ達は順調に攻略を進め、現在地下五階層の奥まで進んでいた。

 

「……ねぇ。グランエスタードの冒険者達って、こんなスピードで迷宮を攻略していくの?」

 

 レオナの質問に対し、キーファ達は苦笑いでアキラを見つめる。

 アキラと他のメンバーの実力差はほぼ同じである。むしろ一対一での対決ならば、同じ後衛職のレオナやマリベルならともかく、前衛のキーファやセブンの方が強い可能性が高い。

 彼らとアキラの一番の違いは、圧倒的な知識量の差である。これに関しては()()()()()()()というだけではない。

 RPG(ロールプレイングゲーム)を実年齢三十三歳までやり込んでいたが故に蓄積された、RPGに関する知識や経験というものもあったりする。

 

「……またアキラ(あなた)なの?」

 

 この数日でアキラの異常さ──本人(アキラ)も分かっている──に気付いたレオナはため息をつく。

 ただ、彼は毎日レオナがアキラの秘密を探ろうとしてくることに関しては辟易としていた。

 

「とりあえず、パプニカが遅れているというわけではないことが分かっただけでいいわ。どうせあなたは教えてくれないんでしょ?」

「いやぁ……あはは」

 

 アキラは後頭部を手で掻きながら、半笑いでその場を取り繕っていた。

 この数日、レオナに問い詰められるたびにこれで躱してきたのだが、そろそろ限界だろうとアキラ自身も感じていた。

 

「あ! この先が五階層の最奥みたいだね!」

「ちょ、待ちなさいよ!」

 

 アキラがレオナから逃げるようにして先に進み、その先の階段がある広い部屋に入る。そして、入ってすぐに立ち止まってしまう。レオナは何かあったのかとアキラ越しに部屋の中を覗くと。

 

「おっと。ここから先は行き止まりだぜ」

 

 そこには十人ほどの兵士の格好をした人間が、武器を構えて待っていたのであった。

 

 

 

     ◇

 

「王都からの合図があり次第、包囲を開始するぞ。」

 

 パプニカ王国の貴族であるレオドールは、王都の周辺の森などに反乱兵をバレないように配置し、テムジンからの合図を待っていた。

 合図があるのは王女の暗殺が成功したという報告があったと同時のタイミングにしており、王宮内が混乱状態になっているところを包囲し、対策を立てられる前に王都全体をそのまま掌握する計画である。

 

「レオドール殿。首尾はいかがかな?」

「おお! そなたは……!」

 

 レオドールに話し掛けてきたのは、中年太りを絵に書いたように腹が出ている体格の良い男だった。

 その男はニヤついた顔のままレオドールに近付き、反乱の準備が整ったか確認をしていた。

 

「準備は完了しておりますぞ! あとはテムジン様の合図を待つのみです!」

 

 レオドールが男へ自信満々に返事をする。

 

「そうでしたか。それはよかった。私はやることがあるので、最後はレオドール殿に全てお任せしてしまうのが心苦しいのですが……」

「それは構いませぬぞ! ここまで入念な準備が出来たのも、そなたのお陰です。あとはこのレオドールに全てお任せあれ!」

 

 レオドールは王都包囲についていくことが出来ないと申し訳なさそうに言う男に対して、気にするなと機嫌良く笑う。しかしそれは、レオドールにとっては手柄が増えるので、むしろ大変喜ばしいことであった。

 

「それでは私はこれで……。後はお任せしましたぞ!」

 

 そう言って男が森の奥地へと姿を消す。そして、レオドールや兵士が見えなくなった辺りで、男の様子が少しずつ変わっていく。

 体の色が青く変わっていき、背中には小さな羽が生える。そして耳は先が尖り、頭からはツノが二本生えるのであった。

 

「ぐふふふ。人間はなんと愚かなことか。俺様の策略にまんまと嵌まりおって。このままパプニカが制圧されれば、あの国は俺様のモノになる。これで俺様の幹部昇格も間違いないな」

 

 モンスターに姿を変えたその男は、高笑いをしながら宙へと消えていった。

 

 

 

     ◇

 

「な……! あんた達、パプニカ王国(うち)の兵士ね! 一体何のつもりよ!」

 

 レオナの言葉に対して、ニヤニヤと薄笑いを浮かべたまま何も答えない兵士達。その兵士達は何人か見覚えがあるどころではなく、バロンと一緒に()()()()()()()()()()()()()()であった。

 

(げっ……テムジンって名前を聞いたときから嫌な予感がしていたんだけど……)

 

 アキラはテムジンとバロンという名前に聞き覚えがあった。パプニカという国自体が、ドラクエを題材にした漫画に出てきた国である。そして、その二人はその物語でレオナを暗殺しようと企てた者達なのだ。

 今回も恐らくそうなのであろうと推測するが、証拠がないため実際にどうなのか分からない。それよりも目の前をどうやって乗り切るかを考えていた。

 

「あ、あんた達! パプニカの王女とグランエスタードの王子がいるのよ! こんなことしてただで済むとでも思っているの!?」

 

 マリベルが叫ぶが、兵士達は先程と同じようにニヤついたまま答えようとしない。キーファが冷や汗をかきながら、小さな声でセブンとアキラに話しかける。

 

「おい……どうする?」

「んー、これって絶体絶命ってやつだね」

「なんにしても、なんとかしないと──」

 

 アキラがキーファに返事をしていたところで、地下六階層に繋がる階段から一人の男が現れた。

 

「──おやおや、姫様。こんなところで何をなさっているのですか?」

「…………バロン!」

 

 パプニカ王国の賢者にして、レオナに魔法の指導をしていた男。バロンが兵士側から現れたことに、状況を理解した全員は更に警戒をする。

 

「あなたも……なの?」

「おやおや、よくお気付きで。愚鈍な姫にも理解する頭はあったということですか」

 

 バロンはレオナを馬鹿にしたような口調で話す。

 

「くっ……なぜこんなことをするのよ!」

 

 レオナはバロンに目的を聞く。バロンは目を見開いた後、真面目な表情を崩し、いやらしい笑みを浮かべながら口を開く。

 

「……まぁ姫はどうせここで死ぬ運命。少し位は話してもいいでしょう。私達の目的は国家転覆(クーデター)ですよ」

国家(クー)……転覆(デター)……!?」

 

 バロンの目的を聞き、理解が出来ないのか言葉を復唱するレオナ。

 

「ええ。ここで間抜けなレオナ姫を暗殺し、そしてその騒ぎに乗じて王都を包囲し、制圧するのですよ!」

 

 バロンは嬉々として自分の計画を語っていく。その計画を聞いたアキラ以外の全員が驚きの顔をし、その顔を見たバロンは満足そうに笑った。

 

「というわけで、姫様にはここで死んでもらいますよ。あ、そうそう。万が一もないように、この人数差の他に私もいますからね。反抗をしようなどとは思わないようにしたほうが良いかと思いますよ。死ぬまでの痛みが増すだけですからねぇ!」

 

 レオナは動揺して、どうすればよいか分からずおろおろとしているだけだった。そこにキーファが前に出ながら剣を抜き、切っ先をバロンに向ける。

 

「……言いたいことはそれだけか?」

「なんだと?」

「そんなこと俺達がさせるわけがないだろう! レオナの暗殺も! パプニカへのクーデターも!」

 

 キーファの言葉に、武器を構えて前に出てきたマリベルとセブンが同意する。

 

「そうよ! そんなことさせないわ!」

「まぁ……これも依頼だしね」

「キーファ王子……マリベル……セブン君……」

 

 レオナは泣きそうになりながら三人を見つめる。

 

「威勢がいいのは結構。しかし、この人数差はどう埋めるつもりだ? いくらお前達が強くても──」

「ぐわっ!!」

 

 バロンが数の利を説いていると、彼の横にいた兵士の一人が炎の魔法によって吹き飛ばされる。キーファやレオナ達の間から抜けてきたその攻撃に、全員が振り返ると、アキラがバロン達に右手を向けていたのであった。

 

「き……貴様ぁぁぁ!!」

 

 バロンが怒りの表情になり、アキラを睨む。腕を下ろしたアキラは、キーファ達に話しかける。

 

「キーファ、レオナ……四人は今すぐ『リレミト』で脱出してくれ。ここは僕に任せて、王様にこの事態を伝えるんだ」

「でもアキラ一人じゃ……!」

 

 キーファがアキラのことを心配して、その提案を却下しようとする。

 

「……大丈夫。このレベルなら、()だけでも問題ない」

 

 口調が急に変わったアキラに気付いたキーファは、その雰囲気に押されて黙ってしまう。

 

「任せて……良いのか?」

「ああ」

 

 キーファの問いかけに一言だけアキラが答えると、「分かった」とだけ返事をしたキーファが、マリベルに『リレミト』を使うように言う。

 しかし、マリベルはそれで良いのか分からずにおろおろしていた。

 

「アキラなら大丈夫。俺達に出来るのは、この場を脱出して緊急事態を陛下に伝えることだけだ」

「……でも──」

「マリベル、私からもお願い。アキラ君の意思を尊重してあげてほしいの」

 

 キーファの言葉に反論をしようとしたマリベルを、レオナが真剣な目で見つめて自身の考えを伝える。それでマリベルもようやく決心がついたのか、呪文の詠唱を始める。

 

「何を言っている! ここから逃がすわけがないだろう! 全員で止めるんだ!」

「はっ!」

 

 バロンの指示で兵士達がキーファ達に突撃するが、すぐに身体が思うように動かないことに気付く。実は既にアキラによって、『スロウ』の弱体魔法(デバフ)が掛けられており、進行速度がゆっくりになっていた。

 

「まだまだあるよ……『エアロ』」

 

 アキラの『エアロ』によって、兵士達が向かい風に押し返されながらも少しずつ切り刻まれていく。バロンがレオナ達に逃げられそうだと気付き、呪文の詠唱を始めるが、既に遅かった。

 

「アキラ君……絶対に死んじゃだめよ……」

「……あとは任せてください」

 

 レオナの言葉にYESと答えないアキラ。その瞬間、マリベルの『リレミト』によって、アキラを除く四人はその場から消えていった。

 

「……クソがぁぁ! 貴様のせいでレオナ姫を逃してしまったではないかぁぁ! 下等な平民の分際で俺様に逆らうとは……ただで済むと思うなよぉ!!」

 

 バロンはレオナに逃げられたことをアキラのせいにし、怒りを(あらわ)にする。

 

「ふふっ……」

「な、何が可笑しい!?」

 

 アキラが急に笑い出すのを不審に思ったバロンが、動揺を隠さずにアキラに問いかける。

 

「いやぁ……俺もこの場で死ぬつもりなんてないからね。全力でやらせてもらうよ。あなたも()()()()()で攻めてきたほうがいいじゃないの? ……ねぇ、裏切り者のバロンさん?」

 

 肩をすくめながら、アキラはバロンを挑発する。その言葉にバロンは青筋を立てながら、アキラに向かって叫ぶ。

 

「……いい度胸だ。俺様がパプニカ王国の賢者である実力を見せてやろうではないか!!」

 こうしてバロン達とアキラの戦いが始まるのであった。

 




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第二十五話

▼前回までのあらすじ
グランエスタード国王から依頼を受け、キーファ達とともにパプニカ王国へと向かうアキラ。
しかし中級者迷宮の地下五階層にて、大臣のテムジンの指示でパプニカ王国賢者の一人であるバロンにより暗殺されそうになるレオナ姫。
アキラはレオナ姫やキーファ達にパプニカ国王へクーデターのことを伝えるよう言い、自身はバロンの足止めを行うのであった。



「この人数に囲まれて、どこまで保つかが見ものだなぁ」

 バロンはいやらしい笑みを浮かべながらアキラに話しかける。しかし、アキラとしては今の状況を作り出すためにあえて挑発したというのが正しかった。

 

(一番の問題は、バロンがレオナを追いかけて行ってしまうことだったからね。それを防げたのが収穫だ)

 

 挑発することで相手の思考力を奪い、選択肢を狭めるように誘導したことによって、レオナ達がすぐにピンチに陥ることはなくなったが、これからどうやって倒すかをアキラは考えていた。

 不意打ちで一人倒したため、残りは兵士九人とバロンの合計十人。幸いにも『スロウ』の効果がまだ残っているため、数を減らしつつ優勢を保つ作戦を考えていた。

 

「お前達……行け!」

 バロンの指示で兵士達がアキラに突撃する。アキラは自身に『ヘイスト』を掛けると、攻撃を躱しつつ反撃を仕掛ける。

 

「ぐっ!」

「ぐわっ!!」

 最初に突撃してきた三人をカウンターで戦闘不能にすると、相手が怯んだ隙に『ファイア』で二人を吹き飛ばす。これで残りは四人。

 

「ちぃ! 何をやっている!! ……『メラミ』」

 バロンがアキラに対し『メラミ』を唱える。咄嗟に『シェル』を唱えて魔法攻撃の威力を抑えるが、それでもアキラは少なくないダメージを受けていた。

 

「はっはっは! 今だ! やってしまえ!」

 アキラが剣を杖代わりに膝を付いたところを、兵士達がとどめを刺そうと突っ込んでくる。

 

「これで終わりだぁぁぁ──ぎゃ、ぎゃあああ!!」

 兵士がとどめを刺そうと剣を振り上げたとき、大きな火炎球が複数現れて兵士達に襲いかかる。火だるまになった兵士達は命に別状はなさそうだったが、炎が消えたときにはぐったりとした状態で倒れていた。

 

「い、今のは『メラミ』の炎!? なぜ貴様の様な冒険者風情が中級呪文を……それも()()()使()()()のだッ!!」

 バロンはアキラが『メラミ』を唱えたこともだが、同じ呪文を複数出現させたことに驚いていた。実際は『ものまね』を連発していただけだったのだが、バロンにはそれが分からないため、アキラが脅威に思えていた。

 

「……ふう。さすがに今のはヤバかったね。でも腐ってもお前も賢者なんだな。()()()()()()()()()使()()()()()()?」

 アキラは『ケアル』を自身に唱えながら立ち上がる。そして『メラミ』を『ものまね』することで、新たな魔法を習得できたことを実感していた。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 同時刻。ルイーダの酒場のパプニカ支部にて。

 

「早くお父様にバロン達のことを伝えないと!」

 

 レオナは『リレミト』で戻ってくるとすぐに王宮へと向かおうとする。キーファ達も特に反対意見がないため、それに続く。

 キーファは城へ向かう道中で敵と戦う可能性が高いと考えていたが、城門までは戦闘が起こることもなく到着することが出来ていた。これはテムジンがレオナを始末するのに十人の兵士とバロンだけで大丈夫だと考えていたのもあったため、残りは自身の周りと王都を包囲する兵士に組み込んでしまっていたからだった。

 

「レオナ様、お帰りなさいませ」

 門番の兵士に出迎えられるが、挨拶を返さずにそのまま城内へと入っていく。しかし、謁見の間へと向かう途中でテムジンが道を塞ぐ。

 

「おやおや、姫様。そんなに急がれてどうなされたのですか?」

「テムジン……!」

 

 レオナはテムジンの様子がいつもと違うことに気が付いていた。バロンが裏切っていた以上、他にも裏切り者がいる。それはバロンと普段から一緒にいたテムジンが有力候補に入っていてもおかしくはないとレオナが考えていた。

 

「大臣……実はこの国で──」

「ちょっとお父様に用事があるのだけれど、今は謁見の間かしら?」

 キーファが説明しようとしたところで、レオナが言葉を被せて説明を遮る。

 

「陛下は謁見の間にて、他国の大臣とお会いなされているところですよ。もし急用であれば私がお聞きしますが?」

 テムジンが話の内容を聞こうとするが、レオナは彼を一瞥すると何も言わずに謁見の間へと早足で歩いていく。

 

「ひ、姫様……!?」

「おいおい、大丈夫なのか?」

 

 テムジンの声を無視して先に進むレオナに、キーファが大丈夫なのかと問いかける。

 

「今は一刻の猶予もないわ! 早くしないとこの国が……アキラ君が危ないのっ!」

 

 レオナの言葉を聞いて、キーファ達は黙って従うことにした。今はアキラを助けつつ、パプニカを救う方法は国王に会うのが最短である。

 パプニカ王国へのクーデターを伝え、その足でアキラを助けに行かなくてはいけないと考えているため焦るレオナ。

 

「お父様!」

 謁見の間の扉を守護する兵士を振り切り、扉を開けるレオナ。

 いきなり扉の方から大きな声が聞こえたパプニカ国王と他国の大臣は驚いて扉の方を見る。

 

「レ、レオナ……! 何をしに来たのだ! 今はラインハット王国の大臣と大事な話しているところだ! お主は下が──」

「──パプニカでクーデターが起ころうとしています! 早く対策を!」

「な、なんだと!?」

 

 レオナの報告を聞いたパプニカ国王はラインハット王国の大臣と顔を見合わせる。

 そして「ま、まさか……」と呟くが、真剣な顔に戻り、レオナに問いかける。

 

「レオナ……お主の報告は本当のことだろうな? なにか証拠でも──」

「──バロンが裏切りました」

「な、なんだと!?」

「それだけではありません。私のことを暗殺しようと地下五階層で兵士とともに囲まれました」

 

 あまりの衝撃なことに言葉を失うパプニカ国王。ラインハット王国の大臣もまさかこのタイミングで起こるとは想像していなかったため、驚きのあまり声を失っていた。

 

「し、しかし、それならばなぜお主達は大した怪我もせずに無事なのだ? ……ぬ、一人姿が見えぬが……」

「……アキラ君が残ってバロン達を引き受けてくれました。このことをお父様に早く伝えるようにと……」

「……そうか。大臣よ、わざわざ来てもらったというのに申し訳ない。これから我々も準備をしなくてはいけなくなった」

「ええ、心中お察しします。私もこの場に残り、出来る限りのことをお手伝いいたしましょう」

「……助かる」

 

 そして将軍を呼び、兵を集めるように指示をしたパプニカ国王は、レオナ達に自室で待機するように伝えると謁見の間を出ていってしまう。

 後を追ってきたテムジンも予想よりも早く事態が動き出してしまったことに、一瞬だけ焦りの表情を見せるがなんとか隠し、パプニカ国王の後を追うのであった。

 

「と、とりあえず報告は終わったな。陛下は部屋で待機してろって言われたけど、これからどうする?」

「もちろんアキラ君を助けに行くに決まってるでしょ!」

 

 キーファの言葉に対し、レオナは当然のことだとばかりにパプニカ国王(父親)の指示を無視すると言い放つ。

 マリベルとセブンは苦笑いをしていたが、同じ気持ちだったため、お互いに目を合わせて頷く。

 

「だったら早く行きましょ。陛下にバレたら大目玉よ?」

「そうだね。僕もアキラが心配だから──って、ちょっと待って……」

 

 セブンも当然アキラを助けに行こうとマリベルの意見に同調しようとしたが、何か引っ掛かることがあったため、途中で言葉を途切れさせる。

 レオナは早くアキラのことを助けに行きたいため、かなり焦っていたのだが、セブンの態度が気になるようで言葉の続きを待つ。

 

「これさ、もしかしたら──」

 

 

 

     ◇

 

 

 

「え、まさかこれでおしまいじゃないよね?」

「き、貴様ァァァァ!!!」

 

 バロンはアキラの言葉に激高していた。連れてきた兵士がやられてしまっただけでなく、自身の使った呪文でアキラが倒れないためだ。

 『シェル』の効果により、ダメージをある程度防ぎ、『ケアル』で回復するという方法を取っていた。

 激昂していた理由はもう一つある。バロンは『イオラ』、『ヒャダルコ』、『ベギラマ』、『ドルマ』、『ドルクマ』、『ジバリア』、『ジバリカ』など、実に多彩な攻撃呪文を放ち、アキラを追い込もうとしていたのだが、その直後に同じ呪文が返ってくるというある意味舐められていると取られてもおかしくない行動をされたからだ。

 

 ()()()使()()()()()()()()()使()()()と言わんばかりの挑発をされていると受け取ったバロンは、怒りが頂点に達していた。

 実際にはアキラが呪文を習得するために『ものまね』を使っているだけなのだが、そんなことは知る由もない。

 

「この……パプニカ大賢者のバロン様を舐めやがってぇぇぇ! 貴様は絶対に殺す!」

 

 殺気を放つバロンに内心冷や汗をかきながらも、余裕の笑みを浮かべるアキラ。

 そのことが更にバロンの冷静さを失わせていくのであった。ただ、いつまでも時間を取られているわけにはいかないため、そろそろ決着をつけようとアキラは動き出す。

 

(そろそろかな? 万が一()()を持っていた場合、正直勝ち目がないからね……)

 

 バロンといえば、殺人機械人形(キラーマシン)が有名である。呪文耐性がかなり高いキラーマシンが出てきた場合、魔法使い系であるアキラにはかなり不利になることは間違いない。

 その装甲を打ち破るだけの物理攻撃力もなく、習得した魔法だけでは太刀打ちできないであろうということは分かっていたからである。

 それでもこの状況を使って自身の攻撃の幅──『ものまね』による習得──を広げるチャンスを無駄にはしたくないとアキラは考えていたため、挑発することでバロンの呪文を引き出していたのであった。

 

「じゃあそろそろこれで終わりにするか…………『ファイラ』」

「う、うおおおおおおおおお!!!! な、なぜ呪文を連発で……」

 

 右手をバロンに伸ばしたアキラは、『ファイラ』を唱え、『ものまね』で連発するという先ほど兵士に使ったのと同じ戦法を取る。

 『ファイラ』の炎が幾重にも現れ、バロンに襲いかかる。そして、『ファイラ』が消えたときには倒れたバロンから肉が焦げるような臭いがしていたのだった。

 

「よし、あとは……レオナ達に追いつくだけだ……」

 

 バロンや兵士達とともにテレポで帰ったアキラは、ルイーダの酒場でバロンを拘束し、パプニカ支部の支部長──困惑どころか泡を吹いて倒れそうになっていた──に預けて、ルイーダの酒場を出るのであった。

 




遅くなりまして、大変申し訳ございません。
昨年の投稿再開のすぐ後にPCのデータが全て消えてしまい、ずっとヘコんでいました。
ストックも消えてしまったので、今後の投稿はストックを作りながらゆるゆると行っていきます。
きちんと完結まで書いていきます。


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第二十六話

 アキラがバロン達をルイーダの酒場のパプニカ支部長に預けていた頃、レオナ達はまだパプニカ城内に留まっていた。

 それはセブンの一言が気に掛かったからである。

 

「これさ、もしかしたらだけど、アキラを助けに行かないほうが良いんじゃないかな?」

「なっ! 何言ってんのよ!!」

 

 セブンの言葉にレオナが反応する。今この場にレオナ達が無事でいられるのもアキラが殿(しんがり)を引き受けてくれたからだ。

 そのアキラを助けに行かない選択肢がどうして取れようかと思っているレオナは、セブンの言葉に納得はできていなかった。

 しかし、セブンは努めて冷静にレオナに答える。

 

「だってさ、よく考えてもみなよ。今、アキラを助けに行くとして、中級者迷宮の地下五階層までまた行くことになるでしょ?

それって何時間掛かるのさ? アキラがいるならともかく、僕らだけで行くのは時間が掛かりすぎると思う」

「じゃあどうするのよ! アキラ君がもしバロン達にやられてしまってもいいっていうの!?」

 

 セブンは現実的な話をしているつもりだった。実際、地下五階層にアキラを欠いた今のメンバーで行くとして、数時間単位で消費してしまうだろう。

 しかも急いでいくとなると、モンスターとの戦いを全力で行うか、逃げ続けることになる。そうすると体力とMPの消費はかなり早くなる。

 万が一、到着するまでアキラが持ちこたえられていたとしても、レオナ達が満身創痍だった場合、ただの足手まといになりかねない。

 

 最悪なのはアキラがやられてしまっているところに遭遇することだ。そうなると、バロン達にレオナがやられてしまう可能性が高くなり、結果的にクーデターが成功する可能性を大幅に上げることにも繋がりかねない。

 では、レオナを置いてキーファ達三人で向かうと仮定した場合だが、これも考えられない。アキラがいないだけでなく、レオナもいなくなると更に戦力ダウンをしてしまうし、何よりも暗殺対象のレオナを一人残して行くことなど出来ないのである。

 そう考えると、レオナを守るために全員でパプニカ城に留まるのがベターであり、アキラには自力でなんとかしてもらうしかないのである。

 

「アキラなら大丈夫だよ……やられそうならその前に逃げるだけの頭はあるし」

「……そう……ね。私もそう思うわ。あいつなら無事だと思う」

「俺もそうだな。今はレオナがパプニカの王族として出来ることをやるのが良いと思うよ」

「そ、そんな……」

 

 セブンだけでなく、先程までアキラを助けに行こうとしていたマリベルやキーファもこの場に留まることを勧めたため、レオナはショックを受けてしまう。

 そしてキーファの()()()()()という言葉も、彼女の胸に重くのしかかってきてしまう。

 今、レオナが王族としてやらなくてはならないことは、民とともに生き残ること、そしてクーデターの阻止である。

 

(そんなこと……分かってるのよ……でも、アキラ君が……)

 

 頭では理解出来ていても、心が納得できない。

 しかし、レオナが迷っている分だけ、状況は悪化していってしまう。

 

「報告します! パプニカ城下町周辺に多数の兵士が出現! 数はおよそ二万! 指揮官はまだ不明です!」

「なんだって!? ……レオナ、どうする?」

 

 キーファが報告を聞き、レオナに指示を仰ぐ。ここはグランエスタードではないため、この場はレオナが一番偉い立場にある。

 意見は言うことは出来るが、勝手に指示を出すことも出来ないので、レオナの判断を待つしかないのだ。

 

「…………お父様は迎え撃つ準備をしているはず。兵の準備で空いている警備兵やルイーダの酒場にいる冒険者を使って民の避難をしましょう! パニックにならないように、でも出来る限り急がせて!」

「ははっ!」

 

 拳を握りしめながら俯いていたレオナは、顔を上げると報告に来た兵士に指示を出す。

 そして、キーファ達の方を見たレオナ。

 

「みんなも……手伝ってもらえないかしら……?」

「……ええ! 喜んで!」

「もちろん!」

「当たり前さ!」

 

 民を守るために、レオナは王族としての務めを優先することに決めたのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 一方、ルイーダの酒場を出たアキラはパプニカ城に向かっていた。

 向かっている最中に民衆の動きが慌ただしくなっているのに気付くアキラ。

 

(なんか……様子がおかしいな……?)

 

 周辺に二万もの軍隊が来ているなどとは思ってもいないアキラは、不安な気持ちを抱いたまま歩を進めていた。

 途中、警備兵に誘導されて避難をしている市民を見て、ある程度の予測を立てる。

 

(これは……もしかしてクーデターに関して大きな騒ぎになっているのかな?)

 

 自分が戻ってくるまでに少なくない時間が経っているため、早くレオナ達に合流したいと考えている。

 事態を把握しないとどうやって動けば良いのかが分からないため、騒然として増えてきた民衆の波をかき分けて進んでいく。

 城門まで差し掛かったとき、アキラは一人の男に話し掛けられる。

 

「アキラ殿! 戻られましたか! 城内でレオナ姫がお待ちです!」

「あ……アポロさん!」

 

 パプニカ賢者の一人であるアポロであった。彼はレオナからアキラが殿(しんがり)を務めて彼女達を逃したことを聞いていた。

 そして魔法師団への指示を行っている際に偶然戻ってきたアキラを見かけて話し掛けていたのであった。

 アポロは現状の、アキラはバロンの件をお互いに情報共有する。するとアポロは一転、苦々しい顔をしてアキラに謝罪をする。

 

「アキラ殿、今回は誠に申し訳ございませんでした。まさかこんな暴挙に出るとは……」

「いえ、なんとかなったので大丈夫です。……それよりもレオナ姫とテムジン大臣はどこに?」

「レオナ姫は城内で民衆の避難に対して指示を行っています。テムジン大臣は陛下と一緒に作戦会議室にいらっしゃるかと……?」

 

 レオナのことはともかく、なぜテムジンのことを聞くのか不思議に思っているアポロ。

 しかしその説明をしている余裕はないため、少し焦りながらもアポロにお願いをする。

 

「アポロさん! 今すぐその作戦会議室に案内してください!」

「え……一体どういうこ──」

「──説明は後でします! 陛下の命も危ないかもしれないんです!」

「わ、分かりました」

 

 アキラの剣幕に押され、アポロはアキラを作戦会議室に案内する。

 道すがらアキラは予測ではあるが、アポロにテムジンのことについて説明する。

 

「テムジン大臣が……な、なんということだ……」

 

 初めは半信半疑のまま聞いていたのだが、アポロはテムジンとバロンがいつも一緒にいるのを知っていた。

 そして二人の考え方なども似通っているため、アキラの話を聞いているとテムジンが今回の首謀者のようだと思えてくるのであった。

 

「……ですが、すぐに捕まえるということは出来ないと思います。だからここは──」

 

 アキラはアポロにパプニカ国王の命を守りつつ、テムジンを捕まえる方法を伝えるのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「────以上です。」

「分かったわ。お年寄りや女性と子供、病人は優先して城内へ避難させて。男性は家に鍵を掛けて待機。ただし、家族と一緒にいたいという希望があればそこは柔軟に対応してあげて」

「かしこまりました」

 

 レオナはアキラが戻ってきているのも知らず、避難指示を継続していた。

 キーファ、マリベル、セブンはレオナの護衛をしている。もちろんキーファも王子なので、レオナの(そば)にいて極力セブンとマリベルで対応できるような布陣にしていた。

 キーファは初めその対応に不服そうであったが、レオナから「王族として考えなさい」と先ほどとは逆に諭されてしまい、文句を言いながらも渋々納得せざるを得なかった。

 

「それにしても二万の軍勢か……今ここにはどれくらいの軍がいるんだっけ?」

「えっと、すぐに動けるのは大体八千くらいよ」

「攻めてきている数の半分以下か……なかなか厳しいな」

 

 キーファは苦々しい顔をしながら、兵力の差を実感していた。

 この世界では呪文という力もあるため、一概にそれで勝負がつくわけでも無いが、数の暴力は大きい。

 通常城攻めには三倍の兵力差が必要と言われているが、敵側が精鋭の魔法使いを揃えていた場合、攻城戦といえども三倍の兵力差がなくても良いのだ。

 

「……今回は綿密な計画を立ててクーデターを起こしているな」

「綿密な計画?」

 

 兵力差を二倍以上揃えているのに、それを悟らせなかった点。そしてレオナを暗殺し、パプニカ国王を動揺させようとしていた点。

 パプニカ国王を暗殺しても良かったのだが、国王は護衛が誰よりも厳しいため、その際は捨て身の方法を取らざるを得ない。

 それであれば比較的暗殺しやすいターゲット(レオナ)を、暗殺しやすいタイミング(王族の試練)で行うほうが難易度はかなり下がる。

 

 そして溺愛している一人娘が暗殺されたときの動揺は計り知れなく、それだけでパプニカ国王にわずかでも隙を作ることが出来るのだ。

 その隙が今回のクーデターが成功する決め手となってもおかしくない。

 

「────というわけさ。ま、バロンが地下五階層でレオナを暗殺できなかったのはかなり大きいからな。あとは国王とレオナ(王族)を守りつつ、二万の兵力を跳ね返すだけ…………だと思うんだけど……」

 

 キーファは意気揚々と自分の考えを述べる。その説明はほとんど間違ってはいないのであろう。

 しかし、心のどこかで何かがおかしいと感じ、それが最後の言葉の尻窄み(しりすぼみ)に繋がっていた。

 

「え、なによその微妙に自信なさそうな言い方!」

「いや、その……何か妙な違和感があって……」

「妙な違和感ってなによ?」

「え、あ、いや……」

 

 マリベルがキーファにツッコミを入れるが、キーファとしても感覚としてのことなので、明確な理由を話すことが出来なかった。

 

「まぁ今の僕らに出来ることは、レオナを守っておくことだけだってことだね」

「……そ、そうだな!」

 

(アキラ君……生きていてよね……)

 

 レオナはルイーダの酒場がある方向に目線をやりながら、アキラの無事を祈っていた。

 




次回投稿は少し空くと思います。


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第二十七話

いつもお読みくださってありがとうございます!
毎回感想をくださる方も、初めて感想を書いてくださる方も読んでいてとても嬉しい気持ちになります。

これからもよろしくお願いします!



「陛下、アポロです。」

「む……入れ」

「失礼します」

 

 パプニカ国王は作戦会議室で反乱軍をどうやって撃退するかを話し合っていた。

 そこには将軍や近衛兵、テムジン、そしてアポロと同じような格好をした女性がいた。

 

「マリン……君もいたのか」

「ええ、陛下の側には賢者が必ず一人付いている決まりですからね」

 

 マリンと呼ばれた女性はアポロと同じパプニカ賢者の一人であった。パプニカには数名の賢者がいるが、必ず一人はパプニカ国王の警護に就くことが決まっている。

 それはバロンも例外ではなかったのだが、テムジンがいつもそばに置いているため、彼だけは例外的にほとんど国王の警護に就くことはなかった。

 そのことが罷り通るくらいに、今のテムジンの権力は強くなっていたのである。

 

「アポロ……お主には魔法部隊の編成を任せていたはずだが、どうしたのだ?」

「はい、恐れながらこちらの冒険者アキラ殿が裏切り者のバロンを捕まえたとのことでしたので、その報告に参りました」

「おお! そうだったのか! して、バロンはどこにいるのだ?」

 

 パプニカ国王は喜びの声を上げる。二万の軍勢に囲まれている中、裏切り者を捕まえたという朗報はこの不利な状況を覆す可能性があったからだ。

 アポロはテムジンのいる位置をさり気なく確認しながら、パプニカ国王の問いに答える。

 

「はっ。バロンは現在ルイーダの酒場にて拘束されており、支部長自らが監視に当たっております」

「そうか! それではバロンを城に連れてきて尋問を──」

「──お待ちください、陛下」

 

 バロンを尋問すると言おうとしたところで、テムジンによって遮られる。

 

「む、どうしたテムジン?」

「恐れながら……これは推測ですがバロンは捨て駒にされている可能性がございます」

「なんだと?」

「そもそもこんな簡単に捕まるということは、大した情報など持っておりますまい。それよりもこの状況を覆す戦略を練らねば、いつ反乱軍が王都に攻め入ってくるか分かりませぬぞ!」

 

 テムジンの言葉に「む、むむう」と唸るパプニカ国王。テムジンとしてももしバロンに情報を吐かれでもした場合、自らの立場が危うくなる。

 それであればバロンを切り捨て、とりあえずこの場を乗り切る選択肢を取るしかなかったのである。

 しかし、アポロはそこでテムジンに追撃を仕掛けることにした。

 

「……おかしいですね、テムジン大臣」

「な、なにがじゃ!」

「アキラ殿がバロンから聞いた話によると、首謀者はあなただということだったが?」

「な……! な、何を根拠にそんなことを言っておるんじゃ! そんなことはバロンのでまかせに決まっておる!」

 

 アポロの言葉にテムジンは動揺するが、すぐにバロンが嘘を言っていると反論する。

 裏切り者が城内を混乱させようと味方を裏切り者だと言うケースもあり得た。バロンは城内の者によって尋問されたわけではないため、誤魔化すことが出来ないわけではない。

 実際にテムジンは大臣にのし上がるだけの頭の回転の速さがあるため、すぐに言い訳を思い付いていた。

 

「バロンは私を追い詰めたと思ったときに笑いながら話していたので、あながち嘘とも言えないと思うんですよね。

だって……これから死ぬかもしれない人間にわざわざ嘘の内容を話したりします? それも優越感たっぷりでしたよ」

 

 アキラはアポロの演技に乗っかるように嘘をついた。

 実際バロンはそのようなことは一切言っていない。カマかけのつもりで話し、テムジンの様子を伺うつもりだったのだ。

 そしてそれは周りにいたアポロ以外の人間──もちろんテムジンにとっても──に効果的な言葉だったようで、すぐにテムジンに対しての警戒が(あらわ)となった。

 

 マリンと近衛兵はパプニカ国王を囲むようにして立ち、文官はその後ろに隠れるようにして逃げる。

 将軍とアポロがテムジンの前に立ち塞がった。

 

「テムジン、これは一体どういうことか説明してもらおうか?」

「ぬ……ぬぬう……」

 

 パプニカ国王がテムジンに問う。悔しそうな顔をして唸るテムジンだったが、数瞬のあと態度を一変させ、低い声で笑い出す。

 

「ふふふ……やはりあのバロン(愚か者)を使ったのが間違いであったか」

「……それは自白と判断して良いな? 大人しく縄についてもらおう」

 

 将軍が剣の柄に手を置きながら、ゆっくりとテムジンの方に歩いていく。

 アポロやマリン、近衛兵達もまだ油断はしていないが、アキラだけは違っていた。

 

(ふう……これでこの場はなんとかなりそうだな)

 

 それは戦いに身を置いてまだ日が浅い転生者だからこその油断であった。

 

『ぐふふふ……大臣よ、少々手こずっているようだな』

「そ、その声は!」

 

 部屋に響き渡るような声がしたため、全員が周りを見渡すが何も見つけることが出来ない。

 

「な、何者だ! 姿を現せ!!」

 

 将軍が声を荒らげるが、特に何かが出てくる雰囲気もない。しかし、()()に明らかに異質な何かがいる気配だけは全員が確かに感じることが出来ていたのだった。

 

大臣(お主)にはまだいなくなってもらっては困るのでな。ここは一旦引くとしよう』

「はっ! ありがたき幸せ!」

 テムジンが姿見えぬ何者かに対して優雅に頭を下げたとき、足元に魔法陣が描かれ、光り出す。

 

「に、逃がすかっ!」

 しかし全員が気付いたときには遅かった。アポロや将軍がテムジンを逃さないように取り押さえに走るが、あと少しというところでテムジンは消えてしまう。

 

「く、くそっ!!」

 将軍が悪態をつくが、そのときは何もかもが遅かった。そしてそのすぐあとに作戦会議室の扉が乱暴に開けられ、叫ぶように声を荒らげる兵士が入ってくる。

 

 

 

 

 

「ほ、報告します! レオナ様が魔族と思しき者に……さ、攫われました!!」

 

 

 

     ◇

 

 

 

 キーファ達は王城にある医務室にて治療を受けていた。回復呪文を唱えてもらい、身体の傷は癒えていたがボロボロになった装備を見れば激戦だったことが伺える。

 三人が落ち込み項垂れているところに扉をノックをする音が聞こえる。

 

「……キーファ、マリベル、セブン。入るよ」

 

 キーファ達が顔を上げて開け放たれた扉から入ってくる人物を見る。

 そこには中級者迷宮で殿(しんがり)を務めてくれたアキラの姿があった。

 

「アキラ……無事だったのか」

「うん、お陰様でね」

 

 キーファがアキラの無事に安心するような声を出す。マリベルやセブンも安堵の表情を見せるが、なにか陰があるような様子であった。

 それにはもちろん理由があり、アキラも分かっていた。

 

「アキラ……ごめん。レオナが攫われちゃったの……」

「僕達の力が足りないばかりに……」

「マリベル……セブン……」

 

 アキラへ謝罪をするマリベルとセブン。本来謝罪をするべき相手はアキラではないのだが、中級者迷宮でレオナを助けるために真っ先に前に出たアキラに対して、自分達がレオナを守りきれなかったという事実に謝罪の言葉しか見つからなかったのだ。

 

「三人の姿を見れば分かるよ。必死にレオナを救おうと戦ってくれてたんでしょ? 僕だってテムジンを逃してしまったのだし、三人を責めることなんて出来ないさ」

 

 アキラの慰めるような言葉が三人の胸を(えぐ)る。しかし、どこかで少しだけ心が軽くなったような気がしたキーファ達だった。

 

「それよりも魔族が出たって聞いたんだけど、どんな特徴だったの?」

「えっと──」

 

 アキラが話を変えてレオナを攫った魔族の特徴を聞く。それにキーファが思い出しながら答えていく。

 

「全体的に太っていて、体の色が青かったな。背中には小さな羽が生えていて、頭からはツノが二本生えていたよ。あ、あと丸い目玉みたいな物をいくつも持っていたな」

 

(全体的に太っていて……青い? 丸い目玉みたいな物をいくつも……ってもしかして……!)

 

 アキラは魔族の正体がなんとなく分かってきていた。この世界がドラクエの世界ということと、魔物もそれに準じていたということでアタリをつけることが出来ていたのだ。

 しかし、今その正体を知ったところでレオナがすぐに助かるわけではないので、話の続きを聞くことにする。

 

「そっか。その魔族は他に何か言っていたりはしていた? レオナを攫うということは、何か要求があるとか?」

 

 元々暗殺しようとしていたレオナを攫うということは、何かの目的があるはずだとアキラは考えていた。

 キーファ達を戦闘不能にしたあと、いくらでも殺すチャンスがあったにも関わらず攫うだけで留めたということからも、すぐにレオナの命が危うくなるということはないであろうという推測していたのだった。

 

「ごめん……俺達はすぐに気を失ってしまったから、何も聞けなかったんだ……」

「そっか。じゃあ()()()なら知っているかもしれないな……」

 

 キーファ達が申し訳無さそうにアキラに謝るが、アキラはそれを特に気にしていなかった。

 それならば現在情報を持っていそうな者から聞き出せばいいと判断する。

 

「ちょっと! アイツ……って誰のことよ?」

 

 マリベルが質問したときには、アキラは医務室から出ようとしているところであった。

 しかしアキラはそのまま出ていかず、後ろを振り向いて答える。

 

 

 

「もちろん────()()()だよ」

 




これくらいのペースで投稿しつつ、ストックを溜めていけたら嬉しいです。


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第二十八話

大変遅くなり、申し訳ございません!
少し短いのですが、投稿します!



 パプニカ城の地下への階段を降りるアキラ。

 その先には地下牢があり、ルイーダの酒場から移送されたバロンが囚われていた。

 バロンが閉じ込められている牢屋の前に来ると、彼は手枷と足枷を付けられた状態であった。

 

「……何しに来た?」

「ちょっと聞きたいことがあってね」

 

 バロンは不機嫌さを隠さずにアキラを睨みつける。

 それも仕方がない。自分を捕えた人間が目の前にいるのである。

 呪文の一発でもお見舞いしてやりたいところではあるが、マホトーンの魔法陣のせいで呪文を封じられているため、口で文句を言うしか出来なかった。

 

「レオナ姫が攫われた。敵の本拠地はどこだ?」

「…………貴様に答えることなど何もない」

 

 レオナが攫われたことは意外であったが、アキラに答えることは何もないと答える素振りを見せないバロン。

 それに対し、アキラはため息をつく。

 

(そりゃあそうだよね……んー、どうしようかな──)

 

「ちょっと! あんたレオナがどこにいるか知ってるんでしょ!? 早く答えなさいよ!」

「ちょっ、マリベル……!」

 

 どうしようか考えていたアキラの後ろからマリベルが現れ、バロンの胸ぐらを掴んで知っていることを言えと詰める。

 セブンは慌ててそれを止めようとするが、そもそも彼女はセブンに止められるような存在ではなかった。

 

「セブン、うっさいわね! 私は今忙しいのよ! コイツからなんとしてでも情報を吐かせないと──」

 

 マリベルとセブンが言い合いをしているとき、バロンは足をジタバタとさせていた。

 

「でもマリベルっていつもやりすぎちゃうじゃんか。ここはアキラに任せたほうが──」

 

 胸ぐらを掴まれているバロンは足をジタバタさせている。

 

「じゃあなに!? 私じゃそれが出来ないっていうの!?」

 

 バロンは苦しそうに足をジタバタさせていた。

 

「そういうことじゃな──」

「おい、マリベル」

「なによキーファまで!」

「いや……()()。いい加減にしないと死んじまうぞ?」

 

 キーファがマリベルの手元を指差す。マリベルがイライラしながら自身の手元を見ると、胸ぐらを掴まれていたバロンは首が絞まっており、もはや抵抗ができないくらいぐったりとしていた。

 その様子を見たマリベルは慌てて、「ちょっとキーファ! 早く言いなさいよ!」と言ってすぐに手を離す。

 幸い呼吸は止まっていなかったようで、すぐにバロンは復活するが、何度も咳き込んでいた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

「あ、あんたが悪いのよ。さっさとレオナの居場所を吐かないから……」

 

 まだ苦しそうにしているバロンに言い訳をするマリベル。それに文句を言える人間は誰もいなかった。

 しかし、アキラはそれに対しニヤリと笑みを浮かべる。

 

「なぁバロン。こちらのマリベルお嬢様はな、人の命なんぞ屁とも思っていないお方だぞ。早く吐かないと今以上の目に合うことになるが、それでもいいんだな?」

「ちょっとアキラ! 私をそんなごくあ──むぐぅ!!」

 

 アキラの言葉に反発しようとしたマリベルを、キーファが手で口を押さえて何も言えないようにする。

 バロンはアキラの言葉に対し、更に顔を青くしてしまう。

 

「……どうせ今助けに来ないということは見捨てられたんだろう? 今さら義理立てする必要もないはずだろ?」

 

 アキラの最後の説得により、バロンは閉じていた口を開くのであった。

 

「…………〝()()()()〟だ」

「〝地底魔城〟!?」

 

 地底魔城──パプニカ王国の領土内にある、かつて()()()()()()()()()だった場所。魔王ハドラーが勇者により倒されたあとは厳重に封印がされていたはずであった。

 

「テムジン大臣が魔族と契約をしてな。その封印を解いたのだよ」

 

 バロンの情報だと魔族は地底魔城を本拠地とし、パプニカに攻め入る準備をしていたとのことだった。

 アキラは地底魔城かバルジの塔が候補だと思っていたため、本当にその場所があると知って納得する。

 

「だが貴様らでは魔族相手に手も足も出まい! その前に囲まれている軍勢にやられてしまうがな! はーっはっはっは──」

「…………『スリプル』」

 

 バロンの高笑いを不愉快に思ったアキラは『スリプル』でバロンを寝かせると、キーファ達と一緒にパプニカ国王のいる作戦会議室へと向かうのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「ぬ、ぬうう。〝地底魔城〟か……しかし我らは動くことはできん」

「もはや一刻の猶予もございません。私達でレオナ姫を救出に向かいます!」

 

 パプニカ国王として国を守る義務があるため、レオナの救出には行けないというが、そのことを予測していたキーファが自分達が助けに行くと言う。

 

「…………すまない。私はパプニカ国王として動くわけにはいかないのだ……」

「ええ、心中お察しいたします。むしろ一国の王として当然の行動かと」

「娘を……レオナを任せてもよいのか?」

「はっ! 必ずや無事に救出してまいります!」

 

 パプニカ国王はキーファにレオナ救出を依頼する。

 地底魔城への場所と行き方に関しては、場所を知っている者がキメラのつばさで連れて行ってくれるとのことだったので、その者を呼ぶ。

 少しの時間の後、現れたのは白髪に髭を生やした護衛兵士であった。

 

「陛下、バダックが馳せ参じました!」

「うむ、バダックよ。キーファ王子と御一行を〝地底魔城〟まで連れて行ってくれ」

「はっ! ワシの命に代えましても!」

 

 その言葉にその場にいた誰もが「いや、ただ連れて行くだけで命を代えられても……」と思っていたが、何も言う人はいなかった。

 作戦会議室を出たキーファ達とバダックは、アイテム補充などの準備に三十分ほど使い、城の中庭に集まるのであった。

 

「ではこれからキメラのつばさを使って、〝地底魔城〟へと向かうぞ! ワシに掴まってくれ!」

 

 全員が自分に掴まったのを確認し、キメラのつばさを上に放り投げるバダック。

 するとバダック含む五人が光りに包まれて、飛んでいくのであった。

 




次回以降は早めに投稿出来るように頑張ります!


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第二十九話

「ここが……」

「うむ! 地底魔城じゃ!」

 

 キメラのつばさを使って近くまで飛んできた一行。

 キーファの声にバダックが答える。魔王ハドラーの居城だった場所であり、その後は封印されていた地。

 そしてレオナが捕えられていると思われる場所であった。

 

「確かに封印が解かれているね」

「中からモンスターの気配もするわ」

 

 地底魔城の入り口は真ん中がポッカリと空き、螺旋階段が続いている。

 周辺には見張りが一切いなかったが、中からは明らかに邪悪な気配が漂っていた。

 

「じゃあ……行くぞい!」

 

 バダックが場を仕切り、地底魔城へと行こうとする。

 

「いやいや、バダックさん! あなたは残ってください!」

「なぜじゃ! ワシはパプニカ一の剣豪じゃぞ! そのために陛下が行けと仰ったのじゃ!」

 

 この場にいるバダック以外の全員が、「地底魔城へ連れて行ってくれ」言っていただけだろと思っていたが、剣を抜いてやる気満々なバダックにそのことは言えないのであった。

 アキラは小さく息を吐いて、バダックの説得を始める。

 

「バダックさん、良かったらここで見張りをしていてくれませんか?」

「見張りじゃと?」

「ええ、今はモンスターがいないので大丈夫なのですが、もしレオナ姫を救出した際にここでモンスターと挟み撃ちになったら、僕達は絶体絶命です。

そのときにバダックさんがここで見張りをしていてくれたら、そういったこともなくなるのですごい安心なのです。レオナ姫を救出するのにバダックさんにしか任せられない重要な仕事なのですが……お任せできないでしょうか?」

 

 アキラの提案に「むむう……」と唸っていたバダックだったが、最終的に()()()()()()()()()()()()()()()()()()という言葉が決定打となり、地底魔城の入り口の見張りを請け負うこととなった。

 

「じゃあお主達は気を付けて行ってくるのじゃぞ! 何かあればワシを呼ぶのじゃ!」

 

 剣を振り回しながら任せろというバダックを背にし、アキラ、キーファ、マリベル、セブンの四人は地底魔城へと足を踏み入れるのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「た……たっかいわね〜!」

「ここでモンスターに襲われて、落ちたりしたらひとたまりもないよね」

 

 マリベルとセブンは壁に手を付きながらゆっくりと螺旋階段を降りていく。中心側には壁も何も無いため、なるべく壁側に身体を寄せていた。

 キーファやアキラも同様で、高所恐怖症でない人でもこれには恐怖を覚えるくらいの高さであった。

 

「それにしてもバダックさんにはあそこで見張りをしてもらってて正解だったよな」

「うん、万が一強敵が出てきたときは庇いきれないもんね」

 

 バダックには地底魔城の入り口──正確には近くの森の中──で待機してもらっていた。

 護衛騎士とはいえ、正直にあまり強いとは思えず、戦闘に参加してもらうのは厳しいと感じたための判断だった。

 実はパプニカ国王も王都が囲まれている状況で、一人突撃しそうな雰囲気だったためキーファ達に押し付けていたのであった。

 そのためアキラの提案は正しく、バダックは人知れず命拾いしていたことに気付くことはなかった。

 

「ようやく一番下まで下りてきたわね」

「もしかして帰りはこの階段を上るの……?」

「『ルーラ』と『リレミト』があるから大丈夫じゃないかな?」

 

 セブンがうんざりしたような顔で帰りの話をしたが、アキラはすぐに否定する。

 その事に気づいたセブンは嬉しそうな顔になり、「早く行こう!」とやる気になっていた。

 

「GUAAAA〜!」

「モンスターだ!」

 

 少し歩くとそこはモンスターが徘徊するダンジョンとなっていた。

 まるで()()()()()()()()()()()()になっていたが、今は目の前に現れたミイラ男を倒すために思考を切り替えるアキラ。

 

「……『ギラ』! ようやく倒したわね」

 

 マリベルの『ギラ』で出てきたモンスターを一層する。

 

「ここはアンデッド系のモンスターが出るんだな」

「というかここってさ……」

「うん……多分だけど……」

 

 全員が同じ感覚を持っており、しかしそれを口に出すのは(はばか)られていた。

 

「とりあえず今はレオナを救出するのが優先だ! ここのことはまた後で考えればいい」

「ええ、そうね! ……ってここも行き止まり?」

「アキラがマッピング用の紙を持ってきてくれなかったら、完全に迷ってたね……」

「まぁこんな事もあろうかと思ってね」

 

 アキラは万が一のことを考えて、マッピング用の紙を持ち込んでいた。

 原作でも地底魔城は入り組んでおり、主人公達は迷っているようであったからだ。

 一行はマッピングをしつつ、途中に出てくるモンスターを倒しつつ奥へと進んでいくのであった。

 

「…………この奥だな」

「ええ……そうね」

()()()()()()が……するね」

 

 キーファ達は目の前の階段を上った先にレオナを(さら)った魔族がいると感じていた。

 アキラ以外の三人は前回やられてしまっていたため、緊張からか汗をかいていた。

 

「三人とも大丈夫?」

 

 心配したアキラが声を掛ける。明らかに大丈夫ではないのだが、ここを乗り越えないとレオナの救出は出来ない。

 それを分かっている三人はぎこちないながらも頷く。

 アキラはそれを察して、それ以上聞かなかった。

 

「じゃあ……行こう!」

 

 アキラの号令で四人は階段を上っていくのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「こ、ここは……?」

「空が見えているわね」

 

 階段を上ったアキラ達は空が開けた場所に到着する。

 周囲を見ると、それはまさに()()()()()のようであった。

 

「ここは元々魔王ハドラー様が捕まえた人間達を奴隷にして戦わせていた場所だ」

「お前は……!」

 

 声がした先から現れたのは、キーファ達が話していた特徴そのままの魔族だった。

 太った体の色は青く、背中には小さな羽が生えており、頭からはツノが二本生えていた。

 

「レオナ!」

「アキラ君!」

 

 魔族の後ろには結界檻に囚われたレオナがおり、青い顔をして座り込んでいた。

 

(やっぱり()()だったか!)

 

 アキラは予想が確信に変わる。キーファ達に聞いた特徴から当たりをつけていたが、ドラゴンクエストの世界が全て混ざった世界と認識していたため、確信には至らなかった。

 そして、ゲームと現実は()()のだと改めて思い知らされた瞬間であった。

 

「やはり来たか! しかし、パプニカ王女を攫えば強者が来ると思っていたが、貴様らとはな。ここでパプニカの精鋭を始末しておけば、あとは烏合の衆。今王都を包囲している()()()()()()()だけで問題ないはずだったのだが……まぁ仕方がない」

「モンスター軍団ですって!?」

 

 魔族の言葉にマリベルが反応する。いや、正確には全員が驚いていたが、マリベルだけが声に出したのだった。

 その驚きの声を聞いて嬉しかったのか、醜悪そうな笑みを浮かべて魔族は話し出す。

 

「ああ、そうだ! あれはモンスターを人間に変身させているだけなのだよ! こうしておけば表向きには人間族によるただの反乱にしか見えんからな!

そのために包囲している指揮官は人間族の貴族を使っているのだよ!」

「…………くっ!」

 

 魔族の言葉を聞いたキーファは焦りの表情を見せる。それも仕方がない。人間族同士の戦いであれば、ある程度のところで話し合いの余地も見いだせるが、対魔物であれば話が違ってくるからだ。

 

「しかし貴様らにはもう関係のない話か……なぜならここで死ぬのだからな!」

「────ッ!」

 

 魔族は手から目玉のようなものをいくつも取り出し、お手玉のように回しだす。

 

「光栄に思え……未来の魔王軍幹部である〝デス・アミーゴ〟様の手に掛かって死ぬことが出来るのだからな!」

 



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第三十話

「総員戦闘態勢! 事前に話していたとおりの布陣でいくぞ!」

「おうっ!」

 

 デス・アミーゴが身構えたため、アキラは戦闘開始と判断し全員に指示を出す。

 事前に彼はキーファ達と対デス・アミーゴ戦での対策を話し合っていた。

 キーファとセブンが前に出てデス・アミーゴの攻撃が後ろにいかないように受け持ち、マリベルが『ルカニ』でデス・アミーゴの防御力を下げながら適度に『ホイミ』を唱える。そして、アキラは────

 

「…………『スリプル』。……『ものまね』、『ものまね』、『ものまね』、『ものまね』」

 

 『スリプル』を唱えたあと、ひたすら『ものまね』を連発していた。

 デス・アミーゴは()()()()()()がよく効くというのが弱点である。そのためこの方法であればMP消費も少なく、ほぼ封殺できるのであった。

 実際にデス・アミーゴは眠りに落ちてキーファ達に攻撃されて、起きてはまた寝るといったことを繰り返しており、何も出来ていなかった。

 

 このことを客観的に見ると、アキラの『ものまね』はかなり強いように見えるが、『スリプル』と『ものまね』の間に他の特技か呪文が唱えられてしまうとそれを真似してしまうというデメリットが有る。

 アキラはそれを悟られないようにしているため、どの戦闘中でも余裕そうに見えて内心ではかなり冷や汗をかいていた。

 『ものまね』を封じるには、例えば『ものまね』が入る前に『ザメハ』などの周りに影響がない呪文で割り込みをする、爆弾岩に『メガンテ』などを唱えさせるなどといった強引な手段もあり得る。

 

(『ものまね』はリターンが大きいけど、その分リスクも高いから使い所を間違えないようにしないとね……)

 

「よし! 喰らえぇぇ!」

「ぐ、ぐおお……!」

 

 キーファの一撃でデス・アミーゴは致命傷を負う。マリベルは『ルカニ』を唱え終わったあとは特に何もすることはなく、キーファとセブンが地道に攻撃をするだけで終わるという単純作業であった。

 

「ぐ……ぐぞぉ……パプニカを……乗っ取ることが出来れば……俺様も……か、幹部にな……」

 

 デス・アミーゴは今にも死ぬ直前状態であった。何も出来ず、ボロボロの状態で倒れ伏していた。

 

「だ……だれか……たすけ……」

 

 その様子を見て、全員がいたたまれない気持ちになったが、相手は魔族である。

 心を鬼にして、キーファがとどめを刺そうとしたとき────

 

「うおっ! な、なんだ!?」

 

 キーファの剣が弾かれ、その勢いで数歩後退する。

 デス・アミーゴには黒い膜のようなものが掛かっていた。

 

『キ〜ヒッヒッヒ!』

「だ、誰だ!?」

 

 突如、甲高い笑い声が聞こえる。キーファ達は周りを見渡してみるが、そこには誰もいない。

 しかしアキラだけは聞き覚えのある笑い声に対し、眉間にシワを寄せていた。

 

『デス・アミーゴよ、随分と情けないではないか。幹部になると息巻いていたのはどうしたのじゃ〜?』

「ザ、ザ……様……? お、お助け……を……」

『ふむぅ。確かにこのまま我々が舐められてしまうのも良くないのう……そうじゃ! ()()()が力を授けてやるから、それで魔物兵団とパプニカ王都を落としてくるのはどうじゃ?』

「お……仰せのままに……だから助け……」

 

 デス・アミーゴは謎の声に従うと伝えると、彼を包んでいた黒い膜が内側に入り込んでいく。

 

「ぎゃぁぁぁあああ!!」

『キ〜〜ヒッヒッヒッヒ! これでパプニカ程度を落とせないようならそれまでということじゃな!』

『グブブブブッ……』

 

 苦しむような悲鳴をあげていたデス・アミーゴであったが、急に大人しくなり、何も言わずに立ち上がる。

 見た目の色が青から黒に変わり、黒い煙のようなものも彼から出ていた。

 

「…………」

『おお! 終わったか! ではパプニカを落としてくるのじゃ!』

「パプニカ……オトス……」

 

 片言で喋るデス・アミーゴはそのまま消えてしまい、正体不明の声の主もいなくなってしまう。

 突然のことにキーファ達は戸惑っていた。

 

「な、なにが起こったんだ……?」

「それもそうだけど……まずはレオナだよ!」

「そうね! レオナ、無事!?」

 

 全員でレオナのところに向かい、キーファとセブン、アキラの三人で結界檻を破壊する。

 

「レオナひ──」

「アキラ君!!」

 

 キーファがレオナに手を差し伸べて声を掛けようとした瞬間、彼女はアキラに抱きつく。

 あまりの突然のことにアキラは何も出来ずに固まる。

 

(や、柔らか──じゃ、じゃなくて……)

 

 自分の気持ちに素直になりそうな寸前で留まり、レオナに声を掛ける。

 

「れ、レオナ……無事で良かった。で、でも……あ、あなたはキーファの婚約者なので……」

 

 アキラが暗に離れるように言うが、レオナは離れない。

 どうしていいか分からないアキラは顔を真っ赤にしてあわあわしていた。

 

「ちょっとアキラ! 何やってるの!?」

「え!? いや、僕は何も……」

「そうじゃなくて! レオナが!」

「え? ……レ、レオナ!」

 

 あまりに不意の出来事に頭が真っ白になっていたアキラだったが、マリベルに言われてレオナをきちんと見ると抱きついていたのではなく、ぐったりとしてアキラにもたれかかっていただけだった。

 デス・アミーゴがレオナを閉じ込めていた結界檻は彼女の体力と魔力を消費して維持されていたため、賢者の卵のレオナからすると魔力はともかく体力の消費が著しかったのだ。

 すぐにマリベルが『ホイミ』、アキラが『ケアル』を掛けて、ようやく青白かったレオナの顔に赤みがさすのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「ん……」

「おお……姫様!」

 

 三十分後、レオナがようやく目を覚ます。

 アキラ達は地底魔城を『リレミト』で抜け出し、入り口でバダックと合流していた。

 

「バダック……ここ……は?」

「ここは地底魔城の入り口ですぞ! 姫様、ご無事でなによりです!」

 

 レオナはバダックにここが地底魔城の入り口だと言われて、何が起きていたかを思い出して周りを見渡す。

 そこにはキーファ、マリベル、セブン。そしてアキラの姿があった。

 

「みんな……助けに……来てくれたの?」

「あったりまえでしょ! 大切な仲間なんだから!」

「仲間……私が……?」

 

 マリベルの仲間という発言に言葉が詰まるレオナ。

 地下迷宮を一緒に行き、初めは迷惑を掛け、そのことを謝罪して受け入れてもらえた。

 そのあとも探索を続けていたが、レオナの中ではまだ他人として思われていると思っていた。

 

「え……! な、なんで泣くの!?」

「うわ、マリベルが笑顔で女の子を泣かしたよ……」

「……アレは恐怖だからな」

「ノーコメント」

「ちょっとあんた達ぃぃ〜!!!」

 

 マリベルが自身をからかう男性陣に怒りの表情を向ける。

 すぐにキーファ達が逃げようとしたとき、涙を流していたレオナが笑い出す。

 

「……ふふふっ」

「レ、レオナまで笑うなんて酷いよ……」

「ご、ごめんね。あなた達のやり取りを見ていたら、おかしくなってしまって……あははっ!」

 

 謝罪の言葉を口にしながらも笑いが止まらないレオナ。

 その様子にキーファ達だけでなく、バダックもつられて笑ってしまうのであった。

 

 

 

「……もう! 酷いんだからね!」

 

 ひとしきりマリベル以外の全員が笑ったあと、彼女はすこしだけむくれていた。

 そろそろ動く必要があると判断したアキラは、ある程度体力と魔力が戻ったレオナに状況を説明する。

 

「あの魔族がパプニカを……! それなら早くお父様に伝えなきゃ!」

「そうですな! 姫様もお元気になられたようなので、一刻も早くパプニカに戻りましょう!」

 

 レオナが立ち上がれることを確認し、一行はセブンの『ルーラ』でパプニカ城へと戻るのであった。

 




【小話:テムジンの行方】

テムジン
「デス・アミーゴ様! お助けいただき、ありがとうございます!」

デス・アミーゴ
「うむ。お前にはまだ死んでもらっては困るのでな」

テムジン
「ははぁ! ありがたき幸せ!」

デス・アミーゴ
「ではレオナ王女を結界檻に閉じ込めてくるから、お前はそこでおとなしくしていろ」

テムジン
「ははぁ! ………………行ったか。パプニカを落とすと息巻いていたから様子を見に来たのじゃが、きちんと監視はしていたか?」

悪魔の目玉
「…………」

????
「そうか、監視が大丈夫なら良いのじゃ……これから面白くなりそうじゃのう。キ〜ヒッヒッヒッヒ!!」


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第三十一話

かなり遅くなってしまい、申し訳ございません。
更新頻度をなるべく上げられるようにしていきます。

〜前回までのあらすじ〜
パプニカ王国の依頼で王族の洗礼を受けていたレオナ、キーファ達一行。
しかしそこではレオナ王女暗殺をきっかけとしたクーデターが巻き起ころうとしていた。
地下迷宮から逃げ延びたレオナだったが、デス・アミーゴによって地底魔城へと連れ去られてしまう。
アキラ達はレオナを助けるために地底魔城へと潜入、見事救出に成功したのだった。

しかし、倒したはずのデス・アミーゴはある魔族によってより醜悪な姿へと変わり、パプニカ王都を落とすために消えていってしまった。
救出されたレオナ一行はパプニカ王都を救うために『ルーラ』で戻るのだが……。



「まだか!? まだテムジン様からの合図はないのか!?」

 

 レオドールは焦っていた。なぜならとっくにあってもよい、パプニカ王都を攻め込むための合図が無かったからだ。

 彼を守護する兵士達が宥ようと声を掛けるが、それが更にレオドールの神経を逆撫でる。

 

「レオドール様、落ち着いてください」

「これが落ち着いていられるか! 我々はいつまで待てばよいのだ!」

 

 このまま勢いに任せて進軍してしまえばよいのではないかとレオドールが考えたとき、後ろから悲鳴が聞こえてくる。

 

「な、何事だ!? 何があった!?」

「い、いえ、我々にもなにがなんだか……」

「ええい、様子を見てくるのだ! さっさとしろ──」

 

 レオドールの怒りの声が()()をおびき寄せてしまっていることに、彼らは気付いていなかった。

 

「パプニカ……オトス……パプニカ……」

 

 そこにはアキラ達と戦い、負けた後、謎の声によって無理やり変化させられたデス・アミーゴが立っていた。

 目はうつろに、そして身体からは黒い煙のようなものが出ていた。

 

「な、なんだこの化け物は!? モンスターなのか!?」

「ひ、ひいいぃぃぃぃ〜! お助けを〜!!」

「待て、貴様! 逃げずに戦え!」

 

 レオドールは逃げ出す兵士を捕まえようとするが、追い付くことは出来ずに転んでしまう。

 その後ろにはデス・アミーゴが迫っているのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「お父様!」

「レ、レオナ! 無事だったのか!?」

 

 パプニカ城へルーラで戻り、作戦会議室への扉を乱暴に開けて入ってきたレオナに嬉しそうな顔もしつつ、おてんば娘な部分に悲しそうな表情を浮かべるパプニカ国王。

 心配そうな声を出すパプニカ国王の声を無視して、レオナは自分の言いたいことを叫ぶ。

 

「今からモンスターの大群が攻めてくるわ! 早く迎撃の準備をしないと!」

「な、なんだと!? し、しかし今はクーデターの対応で手一杯になってしまっているのに……!」

 

 頭を抱えるパプニカ国王。そこに兵士が報告にやってくる。

 

「報告! お、王都が──」

 

 (ひざまず)いた兵士が、言葉を一瞬切る。

 

「どうしたというのだ!」

「王都が、黒い煙を纏った兵士達によって囲まれてしまいました! その中にはゾンビ系のモンスターも多数混じっていると報告ありです!」

「ま、まさか……」

 

 兵士の言葉に全員が絶句する。クーデターによって使われるはずだった約二万の兵士。

 実はデス・アミーゴの発する黒い煙のせいでモンスターと化してしまったということに、この場にいるほぼ全員がまだ気付いていなかった。

 

「クーデターの兵士達が、モンスターと手を組んでいた……というのか」

 

 絶望の声を出すパプニカ国王。まさかそのようなことがあり得るのかと、あっていいのかと側近の者たちも床に膝をついてしまっていた。

 どうすればよいのか。兵士達は二万以上。こちらはそこまでの戦力を用意できたわけではなかったのだ。

 そんな中、アキラは冷静に物事を分析していた。

 

(恐らく、黒い煙を出している兵士というのはデス・アミーゴによって変えられてしまったんだな。あの()()め、厄介なことをしたもんだな)

 

 地底魔城に現れた()()の声の主にアキラは予測を立てていた。

 あそこまで分かりやすい笑い声など、他には一切いないからであろう。

 

(でもどうする? 二万……いくらパプニカの兵士達でも体力も魔法力も保たないだろうし……)

 

 アキラの中では()()は一つしかなかった。

 しかしそれをしてしまうことで、自分にとっては確実に不利益なことになってしまうであろうことが予想ついていた。

 

(それでも、やるしかない……よな……)

 

「あ、あの──」

「少しよろしいですかな?」

 

 アキラが提案するために声を掛けようとしたそのとき、後ろからの声が彼の言葉を遮った。

 

「ラインハット王国大臣殿……い、いかがなされたのかな?」

「つかぬことをお伺いしますが、今パプニカ王都ですぐに出せる兵士はどれくらいですかな?」

「……およそ七千。無理しても追加で一千というところでしょう」

 

 ラインハット大臣の言葉に対し、パプニカ国王は絶望的な数字を伝える。

 いくら王都が強固な守りをしていても、七千で二万以上の兵士とモンスターを相手に勝てる可能性は低い。

 しかし、それを聞いたラインハット大臣は笑みを浮かべた。

 

「ふむ。それならなんとかなりそうですな。今、我が国の()()から許可が出ましてな、援軍を一万ほど。そして友好国のグランバニア王国から一万の計二万の援軍がやってきますぞ!」

 

 ラインハット大臣の言葉を聞いたパプニカ国王を初めとした全員の目から、希望の光が灯っていく。

 

「そ、それは本当なのか……!」

「ええ、ちょうど我が国も()()()()()()()ので、こちらに援軍を出すことが出来るようになったのですよ」

 

 絶望しか感じ取れなかった現状。しかし、全員が大臣の言葉に対し、歓声を上げて喜ぶのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 パプニカ王都を囲むようにしてその場に留まっている黒い煙を纏った兵士とモンスター達。

 囲んでいるのだが動くことはなく、不自然なほど直立不動の状態を保っていた。

 

「パプニカ……オトス……パプニカ……ホロボス」

 

 ただ、デス・アミーゴの声に揃ってボソボソと同じ言葉を話す光景は数が二万も揃っていると王都まで届く音量となっており、それは王都に住む民の不安を煽る結果となっていたのだった。

 そして遂に、モンスター達が動き出す。デス・アミーゴが右腕を掲げて、前に振り下ろすと兵士達が少しずつ動き始める。

 その歩みはゆっくりではあるが、確実にパプニカ王都へと迫っているのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「パプニカ魔法兵団、構え!!」

 

 モンスター達に囲まれた王都城壁の内外で七千のパプニカ兵達が守っていた。

 正確には魔法兵が五百、騎兵が千五百、弓兵が千、そして歩兵が四千の内訳となっていた。

 他にも王都内で国民の避難や治安維持に携わっている兵士達が千人いるのだが、こちらはすぐに戦力として出すことは難しかった。

 

(ラインハットとグランバニアの救援が来るまで数日。これを持ちこたえることさえできれば、パプニカ(我々)の勝利は見えてくるぞ!)

 

 アポロは魔法兵団に「放て!」と指示を出す。

 詠唱を終えた兵士達は次々に呪文を唱えていく。

 

「──『メラミ』!」

「──『ヒャダルコ』!」

「──『イオラ』!」

「──『ベギラマ』!」

「──『バギマ』!」

 

 各隊の得意な属性魔法を唱えていく。ゆっくりと歩みを続ける兵士達は呪文によって燃え尽き、凍り、吹き飛び、焼け焦げ、切り刻まれていく。

 パプニカ魔法兵団は優秀な兵士が揃っているため、必ず最低でも一つの属性で中級呪文を覚えていた。

 

「や、やったか……?」

 

 誰かがぼそっと口にする。呪文によって巻き上げられた土煙によって前が見えなくなっていたため、どうなっているかが分かっていなかった。

 しかし。

 

「そ、そんな……」

「嘘……だろ……?」

 

 土煙が晴れたとき、そこには先程の呪文でやられた者達を踏み潰しながら進んでいく兵士やモンスターの姿があった。

 アポロはひるまずに声を荒らげる。

 

「ええい、次だ! 魔法兵団、次の詠唱を始めよ!」

 

 すぐに詠唱を始める魔法兵達。それに合わせて、騎兵、弓兵、歩兵の将軍達が合わせるように攻撃の準備を始める。

 

「次の呪文が放たれたら、騎兵団は突撃するぞ!」

「歩兵団は騎兵団に続け!」

「弓兵団は討ち漏らした者を優先的に始末しろ! そして他の兵達の援護に回るのだ!」

 

 兵士達は、突撃する瞬間を今かと待ち望んでいた。

 

 

 

「放てっ!!」

 

 その声に魔法兵達が先程と同じく呪文を唱えていく。

 呪文が放たれていくのを見届けた各隊の将軍が大声で叫ぶ。

 

「今だ! 全軍突撃だーーーっ!!」

「うおおおぉぉぉぉぉおおお!!」

 

 

 

 

 ここに歴史に残る大戦──《パプニカ王都防衛戦》が火蓋を切ったのであった。

 




なるべく週一くらいのペースで書くことが出来れば良いのですが……。
まだ新規業務が落ち着かずの状態です。できるだけ頑張ります。


新作を投稿しました。良かったらぜひご覧くださいませ!
英雄伝説 青薔薇の軌跡
https://syosetu.org/novel/261919/


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第三十二話

早くて週一(土日のどちらか)での更新になると思います。
毎日更新できるようになりたいと切に願っています。



「俺達も行くぞ!」

「そうね! 負けていられないわ!」

 

 キーファの号令でマリベル、セブン、アキラ、レオナも飛び出していく。

 初めは王族であるキーファとレオナが前線に出ることに、誰もが良い顔をしなかった。

 しかし、彼らはパプニカ王国民が危険に晒されている状況で、自分達だけが隠れていることなど出来ないと突っぱねる。

 

 それに対し、マリベル、セブン、アキラは初めから止めることはしていなかった。

 二人がどういう性格なのかを分かっているし、ここで止めても勝手に前線に行ってしまうのだ。

 それならば近くで守っていられる位置にいてくれたほうがまだマシというものだ。

 

 結果、遊撃隊として戦場を動くことで、少しでも戦況を有利な状況へと持っていくための働きをするということで落ち着く。

 パプニカ王からはレオナを絶対に怪我をさせるなという厳命が出ていたのを彼女本人は知らない。

 

「まずは全員に補助呪文を掛けるよ! ──『ヘイスト』、『プロテス』、『シェル』」

 

 アキラは全員に補助魔法を掛け、少しでも戦いが有利になるようにしていく。

 だが、相手も非常に厄介であった。

 

「なにこいつら! 倒しても倒してもすぐに立ち上がってくるんだけど!」

「モンスターはいなくなるが、後方からすぐに増援がやってくるのか!」

 

 デス・アミーゴに支配されている兵士達は単純に戦うという動作しか出来ないのだが、倒しても傷が塞がってしまい、すぐ立ち上がってくる。

 モンスターは倒すことが出来るが、倒しても後方から増援部隊がやってくる。

 

「一旦引こう! このままだと無駄に体力と魔法力を失うだけだ!」

「でも引いてどうするのよ!?」

「……下がって、対策を考えるんだ! パプニカ兵達の実力なら、まだ保つはずだから!」

 

 アキラの提案にレオナが抗議するが、このままではジリ貧になることは目に見えている。

 それであればまだ消耗していない状態のときに、一旦下がって対策を練るという方が良いと話すアキラにレオナも渋々同意して、全員で後方へと下がっていく。

 そして、一旦王都の中へと入ったアキラ達は避難して誰もいなくなった民家を借りて、対策を練ることにした。

 

「……まずは現状を把握しよう」

「黒い霧を発している兵士達は、弱いけど倒してもすぐに立ち上がってくるわね」

「モンスターなら倒せるけど……でもすぐに増援が来るんだよね」

「アキラくん、あなたならどうするの?」

 

 レオナの言葉に全員がアキラを見る。アキラは目を瞑り、腕を組んで座っていた。

 

「ちょっと、アキラくん聞いてる?」

「……うん、聞いてるよ。今の状況を考えると、僕達は()()()()()()()()()()()()()()

「どういうこと?」

 

 レオナが詰めるようにアキラに返事を急かし、ようやくアキラが自分の考えを述べる。

 しかし、その言っていることが分からずセブンが率直にアキラへと問いかける。

 

「兵士を倒してもジリ貧。モンスターを倒してもジリ貧。それならどうすればいいと思う?」

「だからそれに対してみんなが悩んでるんでしょ──」

「そうか……! そういうことか!」

 

 煮え切らない意見を話し続けるアキラに、イライラしたマリベルが口を挟む。

 しかし、キーファがそこで何かに気付いたようだった。

 アキラはそれに対して静かに微笑みかける。

 

「キーファは分かったの?」

 

 セブンがキーファに問い掛け、キーファはアキラの顔を見て「俺が話しても大丈夫か?」と聞くような顔をする。

 アキラが頷くと、キーファが彼の代わりに口を開く。

 

「ああ、多分だけどな。そもそもの話を考えればいいんだ。兵士を操っているのは誰だ? モンスターを操っているのは誰だ?」

「そんなのデス・アミーゴに決まってるじゃ……ああ! そういうことね!」

 

 マリベルもようやく気付いた様子だった。そしてここまでくればセブンもレオナも同じく気付いていた。

 

「そうだ。雑魚を倒してもキリがないなら、()()()()()()()()()()()()()。つまりデス・アミーゴをな」

 

 キーファの答えに対し、全員のたどり着いた答えが同じだったのか頷いて答える。

 これで希望が見えてきたと思ったところで更に口を挟むのがアキラだった。

 

「まぁ問題もあるんだけどね」

「……問題ってなによ?」

「あの状況でデス・アミーゴがどこにいるか分かるのか?」

 

 アキラのシンプルな言葉に全員が「あ……」っと言葉を発して、それ以上の言葉を出すことが出来なかった。

 

「あと、恐らくデス・アミーゴは敵陣の後ろの方にいるんだろうけど、そこまでどうやって行くの?」

「……た、たしかに……」

 

 先程まで煮え切らない言葉ばかり出していたアキラにイライラしていたマリベルも、真っ当な指摘に対して何も言えなくなっていた。

 せっかく解決する方法を見つけたにも関わらず、新たに出てきた問題に対して更に頭を抱えるキーファ達であった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「くそ、キリがない!」

「援軍はまだなのか!?」

 

 《パプニカ王都防衛戦》が始まってからすでに一週間が経っていた。

 しかし、援軍が来る雰囲気が一切なく、パプニカ兵は少しずつ追い詰められていた。

 それも仕方がない。なぜなら倒れてもすぐに蘇る二万の兵に、倒してもすぐに後方からやってくるゾンビ系のモンスターに対して、為す術がないからである。

 

 幸いなのは相手の強さが大したことがないことではあるが、疲れを知らない敵軍は日中夜、所構わず攻めてくる。

 そのため七千の兵を常に出撃しているわけにもいかず、二交代で当たっていた。これがギリギリ数の暴力で押しつぶされないラインであった。

 だが、体力が持ったとしても、いつ来るかわからない援軍を待ち続けるのは精神的に堪えるものがある。

 

「右翼が押し込められて、徐々に下がってきています!」

「ええい! 少し早いが交代の兵に援軍を出させろ! 防衛ラインにまで押し上げたのち、交代をするのだ!」

「ははっ!」

 

 精神的に追い詰められることも重なり、パプニカ軍側は徐々に戦況が悪くなってきていた。

 こちらのほうが質は高いにせよ、それでも一人ひとりに出来ることは限られてくるのが戦争の常である。

 

「くそ……このままでは……」

 

 このままでは負けてしまう。そう思わざるを得ない状況に対し、どうすればいいか分からず、ただただ待ち続けるしかないパプニカ軍なのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「パプニカ……オトス……オトス……」

 

 後方でデス・アミーゴがブツブツと呟いていた。

 その横には他の兵と違い、すでに死体となっていたレオドールが控えていた。

 

「…………」

「パプニカ……オトセ……オトセ……」

 

 デス・アミーゴの言葉が変わる。その言葉に従い、レオドールが動き出す。

 彼が何かの詠唱を唱えたかと思うと、足元から六芒星の魔法陣が現れる。

 そして一筋の光が上空に舞い上がった。

 

「…………」

 

 レオドールが剣を掲げて、振り下ろした瞬間──上空に舞い上がっていた光が分裂して一斉に自軍の兵士達へと降り注ぐ。

 パプニカ兵の何人かがそれに触れてしまい、消滅していたが黒い霧を纏った兵士は消えること無く、その光を浴び続けていた。

 

「…………イ、ケ!」

「ウ……ウォォォォォオオ!!」

 

 レオドールが「行け」という言葉を発した途端に、光を浴びていた兵士達がそれまで一言も声を出すこともなかったのに、急に大声を出してパプニカ兵へと襲いかかってくる。

 

「な、なんだこの強さは!?」

「こっちを助けてくれ! もう保たない!」

「こっちも……ごはっ!」

 

 先程まで前進するのと、単純な〝戦う〟という行動しかできなかった黒い霧を纏った兵士が、その強さを一変させてパプニカ兵を倒していく。

 

「将軍! まずいです! 相手の練度が急に上がっています! このままでは前線部隊が全滅してしまいます!」

「分かっている! 一旦前線を下げて撤退するのだ! あと王都内の治安維持部隊を集めろ! 今は少しでも戦力が欲しい!」

 

 将軍は指示を出すと、自ら味方兵を助けるために前線へと馬を走らせる。

 

「魔法兵! 休んでいる者たちも今だけは前線部隊を助けるために動いてくれ!」

「弓兵部隊もだ! 矢を使い切るつもりで騎兵と歩兵の部隊を助けるのだ!」

 

 アポロと弓兵部隊の将軍は即座に指示を出して、前線部隊へのサポートを開始する。

 温存は必要だが、今この場をなんとかしないと全滅必至である。

 それならば出し惜しみをしている暇はないのだった。

 

「は、早く来てくれ……もう保たない……!」

 

誰かが呟いたこの言葉は、争いの音にかき消され、他の者の耳に入ることはなかった。

 




新作を投稿しました。良かったらぜひご覧くださいませ!
英雄伝説 青薔薇の軌跡
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第三十三話

 パプニカ軍が苦戦して追い詰められている間、アキラ達はなんとかデス・アミーゴのところまで辿り着けないかを模索していた。

 

「くそっ! 周りは黒い霧を出している兵士ばかりじゃないか!」

 

 キーファは王都を囲んでいる兵士達を見張り用の高台から見つめて悪態をつく。

 デス・アミーゴがいるであろう後方まで辿り着くためには、二万の兵士とゾンビ系モンスターを倒さないと行けないため、その前に体力と魔法力が尽きてしまうのは目に見えていた。

 パプニカの兵士を前衛に出して一点突破をすることも考えられるが、多大な犠牲を強いてしまうこととそれでも辿り着けるかは分からない。

 

 そして、デス・アミーゴを倒す前にパプニカ王都が確実に落とされてしまうため、その案はすぐに却下されたのだった。

 

「もう! どうにかならないの!? なにか()()()とかあればいいのに!」

「…………()()()?」

 

 マリベルの焦った言葉に対し、レオナが反応を示す。

 

「……そうよ、それがあったわ! なんで気付かなかったのよ!」

「レ、レオナ、どうしたのよ?」

「抜け道よ! 抜け道があるの!」

 

 唇に指を付けて考え事していたレオナが、何かを思い出したかのように叫び出す。

 マリベルは隣で急に叫びだしたレオナを見て驚くが、彼女はそんなことは気にする素振りもなく話し続ける。

 

「それは本当か!?」

「ええ、昔お父様に教えてもらった王族だけが知っている秘密の抜け道があるの。方向もちょうど()()()()()()()だったと思うわ!」

 

 そう言いながら、兵士達がいる方向を指す。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()! さすがレオナ! 伊達にただの我儘姫じゃないわね!」

「……なんかその言い方には物申したいけど、まぁいいわ。今はそんな事言ってる場合じゃないもの」

 

 マリベルの悪気のない言葉に対し、レオナは彼女をジト目で見るが、優先度は低いと判断して話を流す。

 そこでセブンが口を挟む。

 

「その秘密の抜け道はどこにあるの?」

「……入り口はいくつかあるんだけど、本当に丁度良かったわ。()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 

     ◇

 

 

 

 アキラ達が地下の抜け道の探索を開始したのと同時刻のことである。

 

「そろそろ僕達も動くかな」

「お、ようやくか! このまま手を出さずにパプニカが滅ぶのを待っているのかと思ったぜ」

「そんなわけないでしょ。こっちも対策を立てたり、準備に忙しかったんだから」

 

 紫色のターバンを被った青年と緑色のおかっぱヘアーをしている青年が、ふざけながら仲良さそうに話をしていた。

 彼らの周りにはモンスターが複数おり、更にその後方には大人数の兵士が待機していた。

 

「で、どういう作戦でいくんだよ?」

「そうだね。…………なんてのはどうかな?」

「おまっ! それまじかよ……もしパプニカ(あっち)が気付かなかったらどうするんだよ……」

「そのときはこっちで()()を断てば良いのさ。……まぁ気付いていると思うけどね」

 

 紫色のターバンを被った青年は、爽やかな風に吹かれ、数歩前に歩きながらにこやかに笑っていた。

 緑色のおかっぱヘアーの青年は訝しげに彼を見る。

 

「なんで気付いているって分かるんだよ?」

「……風だよ」

「……風?」

 

 紫色のターバンを被った青年の言葉が理解できず、緑色のおかっぱヘアーの青年は首をかしげる。

 

()()()()()()()。風がそう教えてくれるんだ」

 

 振り返った彼は、ただそう答えて次の指示を出す。

 

「だからさ、そのフォローをしてもらってもいいかな?」

「……承知した。()()()とやらを阻むものは、俺が全て吹き飛ばしてやろう」

 

 紫色のターバンの青年の言葉に答えた者は、武器を携えて歩いていってしまった。

 

「お、おい! いいのかよ! 勝手に行かせちまって!?」

「彼なら大丈夫だよ。とりあえずうちの兵も預けるから、すべて終わるまでの()()()()をお願いしてもいい?」

「……え、お、おい!」

 

 緑色のおかっぱの青年は心配そうな顔をしていたが、紫色のターバンの青年は何も気にせずどころか、兵を預けるからあとは頼むと言ってテントへと入っていってしまった。

 

「たくっ! あいつは相変わらず自由人だな!」

 

 ぶつくさと文句を言っているおかっぱの青年だったが、その顔には笑みが浮かんでいるのであった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「この先か……?」

「ええ、この先に行けば出口のはずよ」

 

 アキラ達はレオナの案内で地下の抜け道を歩いていた。

 急がなくてはいけないのは分かっているが、ここで急いで体力を失っては元も子もないのである。

 そのため体力温存を優先することにしていた。

 

「ほら、あの扉よ!」

「あ、一人は危ないって!」

 

 レオナが指し示した先には扉があり、そこから地上へと上がれるようであった。

 出口を見つけて、我先に扉へと走っていくレオナを追いかける一同。

 アキラ達が来るのを待たずにレオナが扉を開けると、そこは森の中であった。

 

「ちょっと待ってって……森?」

「ええ、ちょうど彼らの後ろ側に出ることが出来たと思うわ」

 

 扉から出た一同は周囲を見回す。

 それはレオナの言う通り、デス・アミーゴ達の後ろ側まで回り込めたようであった。

 その証拠に王都側から戦いの音や声が聞こえてくる。

 

「それじゃあさっさと行くわよ!」

「ええ、ささっと倒しちゃうわよ!」

 

 今がチャンスと見たレオナとマリベルは、口を揃えてデス・アミーゴをすぐにでも倒しに行こうと言い出す。

 

「えっ……念の為偵察とかしたほうが……せめて戦う準備だけはしていかない……?」

 

 アキラは油断しないほうがいいと分かっているので、今にも走り出しそうなレオナとマリベルをやんわりと制止する。

 

「……じゃあアキラ君が偵察行ってきてよ」

「そうよそうよ! アキラが行ってきなさいよ!」

「……そう言われると思った。はぁ、まぁ良いんだけどさ」

 

 嫌そうな口調で偵察に行く準備をするアキラ。

 そして全員に見送られてたった一人で戦闘音がする方へと向かっていく。

 

(ま、僕もこれを狙ってたんだけど、ね。上手くいって良かった)

 

 アキラは自分の思惑通りに事が運び、少し嬉しそうな顔をする。

 

(さすがに王子(キーファ)王女(レオナ)をここまでの前線で戦わせるわけにはいかないもんね。マリベルは気付いていないと思うけど、()()()()()()()()()()()()()だし、あとの護衛は二人に任せておけば大丈夫でしょ)

 

 キーファとレオナは確かにレベルも上がっており、戦い慣れてきているとは思うが、あくまで一国の王族なのである。

 《王族の洗礼》のようなものであるならばまだしも、ここまで命の危険がある戦いに出させるわけにはいかないというのがアキラの判断だった。

 

「ま、僕も死ぬつもりはないけどね。でもこれ以上、()()()()()()()()()の思う通りにはさせたくないでしょ」

 

 ()()()()()()()()()。アキラはその特徴的な笑い方から、地底魔城でデス・アミーゴをあの状態にしたのは、二人であると予測していた。

 ドラゴンクエストのオリジナル漫画である『ダイの大冒険』と『ロトの紋章』に出てくる魔王軍の幹部クラスであり、正確は残忍かつ卑劣である。

 

(今の実力だと、あいつらには絶対に勝てないからなぁ。上手く退散してくれると嬉しいんだけど……)

 

「……やっぱり。そうは問屋が卸さないってやつだね」

 

 アキラはおかしいと思っていた。

 七千の兵で二万の兵やモンスターを相手に持ちこたえることがここまで出来るのかと。

 数の暴力には勝つのは難しい。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(だよね。俺でもそうするもんな)

 

 今、彼の目の前には大量の兵士とモンスターが待ち構えていた。

 そう、後ろ側に回って襲撃する作戦は読まれていたのだった。

 

「キ〜ヒッヒッヒッヒ! 馬鹿じゃのう! 誰でも思いつく作戦なら、対策を立てるのは当たり前じゃろうに!」

「グブブブブブ……」

 

 どこからともなく聞こえる声にイラッとした表情を見せるアキラ。

 しかし、今の彼に出来ることは()()()()()()()()()()()と思わせることである。

 

「……万が一でも気付かれたら危ないからね。()()()()()()()()()()()!」

 

 そう言いながら、アキラは自身に強化魔法(バフ)を掛けて、無数の敵を相手に突撃していくのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「アキラ君、遅いわね」

「まったく偵察にいつまで掛かっているのかしら?」

 

 待っているのに飽きてしまった女性陣にキーファとセブンは目を合わせて肩をすくめる。

 

(アキラ、大丈夫かな?)

 

 セブンはアキラのやろうとしていることをなんとなくだが勘付いていた。

 キーファとレオナを戦いに巻き込ませないために、一人で片を付けようと偵察と称して戦いに行ってしまった。

 もし彼がいなかったら、その役割は自分が担っていたかもしれないとセブンは心配そうな顔をする。

 

 後ろにはデス・アミーゴのみで、彼を倒せば全てが終わるならば、危険だが一人で行って不意打ち作戦で終わらせるのも悪くはない。

 だが、セブンは言いようのない不安に襲われていた。

 

(どうか無事に帰ってきてね)

 

 セブンは()()()()()()()()()()()()()に気付くことはなく、上を見上げてアキラの無事を祈るのだった。

 




ゴルゴナの存在に気付いた方っていました?

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英雄伝説 青薔薇の軌跡
https://syosetu.org/novel/261919/


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第三十四話

「はぁ、はぁ……はぁ」

 

 アキラは肩で息をしながら、目の前のモンスターを『ものまね』を使って倒していく。

 しかし、モンスター達は一向に減る気配がなかった。

 

(MPは『ものまね』のお陰でほとんど減ってないけど、このままだと本当にジリ貧だぞ……どうしよう……)

 

 『ものまね』は前に使った特技や呪文、魔法をHPやMPを消費することなく、無詠唱で真似することが出来るアビリティである。

 そして、覚えることが出来るものであれば、自身用の特技や魔法として習得することが出来る。

 もちろんデメリットもあるため、ちゃんと使い分けていく必要はあるが、それでも今の彼には方法を選んでいる余裕はなかった。

 

「『ものまね』、『ものまね』、『ものまね』、『ものまね』」

 

 事前に使っていた『ファイラ』をものまねし続け、モンスターを焼き払っていくアキラ。

 それでも倒しても倒してもデス・アミーゴのところに辿り着くことが出来ず、一度倒したモンスターもすぐに復活するという地獄のマラソンが続いていたのだった。

 

「…………一人で来たの、失敗だったかな?」

 

 ボソッと格好つけた自分に対して、後悔を口にしていた。

 でも来てしまった以上、なんとかしなきゃいけない。その方法を考えていたため、背後から迫るモンスターに気付いていなかった。

 

「ぐあっ!!」

 

 背後から攻撃されたアキラは、そのまま前のめりに倒れる。

 それを好機と思ったのか、モンスター達が一斉にアキラに対して襲いかかってくる。

 

「や、やべっ!」

 

 アキラはすぐに体勢を立て直そうとするが、先程の痛みですぐに動くことが出来なくなっていた。

 もうダメだと思ったその時────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『獣王会心撃』っ!!!」

 

 聞き覚えのある声と特技。そして、目の前に襲いかかってきていたモンスターが次々と吹き飛ばされていく。

 それを呆然と眺めていたアキラだったが、彼のすぐそばに現れたのは一体の()()()()()()()()()だった。

 

(え、え、え……? う、嘘……でしょ?)

 

 信じがたい光景だった。確かに彼は初期で()()()()()()()()()()()はずだ。

 だが、このタイミングで助けに来てくれるはずがないと思っていた。

 

「じゅ……獣王、クロコ……ダイン……?」

「……ん? なぜ俺のことを知っている?」

 

 クロコダインと呼ばれたリザードマンは鎧を着込み、斧を持ち、その存在だけでその場にいるモンスター達とは格が違うということが分かるほどであった。

 アキラが彼を知っていたことに対して不思議そうに見ていた。

 

「い、いや、それよりも僕を、助けてくれたのですか?」

「……ああ。さるお方の願いもあってな。乗り気ではなかったが、手助けに参上したというわけだ」

「さる……お方?」

「ああ、高貴な身分ゆえ名は明かせぬが、心配せずとも良い。俺が来たからにはもう大丈夫だ」

 

 そう言うと、回復魔法(ケアル)を掛け終えたアキラに手を差し伸べ、立ち上がらせる。

 そして、ある方角を指差す。

 

「あっちだ」

「……え?」

「邪悪な親玉はあっちにいる。俺が先程の技で道を切り開く。ここらの雑魚もすべて引き受けよう。お前はその隙にその親玉とやらを倒してこい」

 

 道を切り開くまでが俺の仕事だと言わんばかりに、アキラに命令をするクロコダイン。

 むしろ周りの敵を引き受けてやるのだから、これ以上文句を言うなという威圧さえ感じていた。

 

「準備はいいか?」

「ちょ、ちょっと待ってください! 親玉を倒すのを手伝ってはくれないのですか?」

「ああ。俺が出来るのはフォローまでだ。それ以上に関してはお前の仕事だ」

 

 真剣な目でアキラに話しかけるクロコダイン。

 その本気度を受け取ったアキラは、少し考えたが自分を無理やり納得させて頷く。

 それを見て、クロコダインは先程指を指した方角を向いて、右腕全体に闘気を込めて、手のひらに集中させる。

 

「ぬぅぅぅぅぅ! 行くぞ! 『獣王会心撃』!!」

 

 クロコダインから放たれた闘気の渦。

 その渦は目の前にいた敵を吹き飛ばし続ける。そして、ある地点で上に弾かれていった。

 そこにはデス・アミーゴが左腕を上に上げながら、アキラ達を睨み続けていた。

 

「……あいつか?」

「ええ、そうです」

「相当強いな。俺も戦いたくなってきたぞ」

「ぜひお願いします!!!」

「……いや、やめておこう。我が主はお前のサポートをしろと言っただけだからな」

「なんで!?」

 

 これだけ強いのだから少しは手伝ってほしいと懇願するアキラに、「早く行け」と冷たくあしらうクロコダイン。

 このやり取りをしている間に、デス・アミーゴへの道はモンスター達によって閉ざされ始めようとしていた。

 

「……ちっ。もう一発くらわ──」

「『ものまね』」

 

 クロコダインがもう一発『獣王会心撃』を放とうと準備をしたところで、右手を前に突き出して小さな声で『ものまね』を使うアキラ。

 するとクロコダインほどではないが、たしかにアキラの右手からは闘気の渦が放たれ、先程の『獣王会心撃』と同じく敵を吹き飛ばしていくのだった。

 

「お、お前……一体何者だ……?」

「じゃ、じゃあ行ってくるので、ここらの雑魚は任せますよ!」

 

 アキラは誤魔化すようにデス・アミーゴの方へ走り出す。

 道が塞がれそうになったら、再度『獣王会心撃』をものまねして放ち続ける。

 

(こ、これ、めちゃくちゃ便利じゃん!! 当時、めちゃくちゃ弱い技だと思っててごめんなさい……!)

 

 心の中でクロコダインに謝罪をするアキラ。だが、思っている以上に『獣王会心撃』が便利な技であることが分かったアキラは周囲にも放ち、なるべく自分の身の安全が保たれるようにしながら走り続けていた。

 

 

 

 

 そして、アキラが足を止めたとき、目の前にはデス・アミーゴが待ち構えていたのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「そろそろ始まったかな?」

「いや、戦争はもうとっくに始まってるだろ?」

 

 緑髪の青年は紫色のターバンを被った青年にツッコミを入れる。

 だが、彼は動じずに話を続ける。

 

「いや、そうじゃなくて……まぁいいや」

 

 説明をしようとしたのだが、根拠がないことなので説明するのを諦める。

 緑髪の青年は、紫色のターバンを被った青年がこういうときは根拠なく感覚で物事を話しているというのが分かっている。

 だから決して突っ込んで聞いたりはしない。

 

「あとは()が教えてくれるよ。おいでスラリン」

『ピキー!!』

 

 小さなスライムを自らの手のひらに乗せた紫色のターバンを被った青年。

 優しくスライムを撫でると、スライムは気持ちよさそうに目を瞑って寝息を立て始める。

 

「その風とやらは、どっちが勝つって言ってるんだ?」

「それはもちろん────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の言葉は一陣の風の中に消え、戦場へとその舞台を戻していくのだった。

 




遅くなりまして、申し訳ございませんでした。


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第三十五話

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。



 アキラはデス・アミーゴと対峙していた。

 

「パプニカ……オトス……オトス……」

 

 見た目が黒くなっていて、より禍々しさに溢れたデス・アミーゴの見た目にアキラは冷や汗をかくが、ここまで来た以上やるしかないと気合を入れ直す。

 

(幸いにも周りのモンスターに関してはクロコダインがなんとかしてくれているから、安心してデス・アミーゴに集中が出来る!)

 

 デス・アミーゴから視線を動かしていないが、耳から聞こえる音からクロコダインが周りのモンスターを蹂躙しているのが分かっていた。

 すぐに蘇ってきてしまうのだが、クロコダインからすれば何匹いようがあの程度のモンスターのレベルならデス・アミーゴを倒すまでの時間を稼ぐのは問題無さそうだと判断する。

 ただ、デス・アミーゴは『獣王会心撃』を弾くほど強くなっているので、倒すための別の方法が無いかを考える。

 

(『スリプル』を唱えてみるか……?)

 

 デス・アミーゴは眠り系の呪文が効くので、地底魔城で戦ったときと同じように『スリプル』を唱えてみるアキラ。

 

「パプニカ……オトス……オトス……」

 

 しかし、今のデス・アミーゴには『スリプル』は一切効くことはなかった。

 ザボエラによって改造されているデス・アミーゴは眠り系の呪文や魔法に対しての耐性を持ってしまっていたのだった。

 

(……くそっ! やっぱり効かないか! それなら正攻法で戦うしかないのか……)

 

 アキラはある程度予測していたとはいえ、気持ちが落ちてしまうのも仕方がなかった。

 だが、すぐに気持ちを切り替えて次の手を考える。

 

(とりあえずデス・アミーゴの防御力を下げてから、攻撃を与えていこう!)

 

 ダメ元で『デプロテ』を放ってみると、デス・アミーゴには問題なく効いたので、『ものまね』を繰り返してデス・アミーゴの防御力を限界まで下げ続ける。

 そしてブツブツと呟いているだけのデス・アミーゴに向かって騎士団のレイピアを抜いて斬りかかる。

 

「喰らえ! 魔法剣『ファイア』!!」

「アガガ……!」

「よし! いけるぞ!!」

 

 アキラは自分の攻撃が効くことが分かり、続けて攻撃を与えていく。

 デス・アミーゴも反撃をしようと試みるが、スピードが地底魔城のときよりも落ちてしまっているのと『ヘイスト』が掛かっているアキラのスピードに対して攻撃が当たることはなかった。

 

「これでトドメだっ!」

 

 アキラが右からの切り上げをしたとき、デス・アミーゴによって刀身を掴まれてしまう。

 

「なっ!?」

「ガアアアッ!!」

 

 そのままレイピアごとアキラを引き寄せると、右腕をアキラに向かって叩きつける。

 アキラは咄嗟にレイピアを離し、両腕を使って防御をするが、デス・アミーゴの重い一撃に数メートルほど吹き飛ばされてしまう。

 

「がはっ!」

 

 受け身が取れず背中を強く打ってしまったアキラは息が一瞬止まってしまう。

 そのまま起き上がろうとするが、身体を上手く動かすことが出来ない。

 

(か、身体が……最後だと思って油断した……!)

 

 デス・アミーゴは動きこそ緩慢になったが、一撃の強さはザボエラ達によって大幅に強化されていた。

 それをデプロテによって防御力を下げ、炎属性の攻撃が通じると分かったアキラは、攻撃時に反撃されることを失念していた。

 

(は、早く起き上がらなくちゃ……)

 

 デス・アミーゴが近付いてくるのが分かっていたので、早く起き上がって臨戦態勢を取らないと絶体絶命となってしまう。

 そして上半身を起こしたところで、アキラ自身が大きな影に隠れていることに気付く。

 アキラが顔を上げると、デス・アミーゴが先程と同じく右腕を振り上げていた。

 

(く、くそっ! や、やられる……!)

 

 死を覚悟し、目を瞑る。デス・アミーゴが右腕を振り下ろして、アキラへトドメの一撃を放つ────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は何をやっているんだ?」

「…………え?」

 

 瞑った目を開けてみると、アキラとデス・アミーゴの間にピンク色の巨体が立ち塞がっていた。

 

「クロコダイン……さん?」

「本当ならここまでやるつもりはなかったんだ、がな!」

 

 デス・アミーゴの一撃をクロコダインは片腕で防いでいた。

 そして反撃とばかりにデス・アミーゴを蹴り飛ばす。

 

「グググッ……」

「お前の相手は俺がしてやろう」

 

 クロコダインは倒れたデス・アミーゴに向かって持っていた斧を向ける。

 ちらりとアキラに目線を向けて口を開く。

 

「下がっていろ。後ろで回復をしているがいい」

「……はい」

 

 アキラはゆっくりと立ち上がって後ろに下がると、自身に『ケアル』を掛け始める。

 

(両腕……多分折れてるな。『ケアル』じゃ治らないかもしれない……)

 

 それでもやらないよりはマシだと、『ケアル』を『ものまね』し続けることで、痛みを少しでも紛らわせる。

 その間に立ち上がったデス・アミーゴはクロコダインと対峙していた。

 

「ふん、すでに満身創痍か。本来ならトドメだけを貰うのは俺のプライドが許さないのだがな。主の命を違えるわけにも行かぬ」

「ガブ……ニガ……オド……」

「いくぞ! 唸れ、真空の斧!!」

 

 アキラの攻撃だけでなく、先程のクロコダインの一撃も効いていたのか、もはや立っているのも精一杯のデス・アミーゴ。

 そんなデス・アミーゴに対して、クロコダインは油断をしないように真空の斧を掲げて聖句を唱える。

 すると刃の中央部に嵌め込まれた魔法玉がキラリと光り、激しい風が巻き起こってデス・アミーゴに襲いかかる。

 

「ガアア……」

 

 激しい風のせいで、デス・アミーゴは動くことが出来なくなっていた。

 そこにクロコダインが真空の斧を構えながら突撃していく。

 

「これで終わりだ!」

 

 クロコダインが真空の斧を振り下ろすと、デス・アミーゴは左肩から斜めに真っ二つとなる。

 そしてそのまま大きな音を立てて倒れ込んでしまうのだった。

 

「ガ……ア…………」

「デス・アミーゴが、消えて、いく……」

 

 常に黒い煙を放っていたデス・アミーゴだったが、本体自体が黒い灰となり、風に流されてゆっくりと消えていく。

 クロコダインとアキラはその様子を静かに眺めていたのだった。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 パプニカ王都周辺では、ラインハット・グランバニアの両国による援軍もあり、かなりの余裕を持って対処できるようになっていた。

 もちろん黒い霧を纏った兵士はやられても復活し、モンスターもどんどん発生してくるのだが、兵士の数が増えたことによる数の暴力のほうが上だった。

 そして──

 

「ん? 黒い霧を纏った兵士達が灰になって消えていくぞ?」

「モンスター達もだ!」

 

 デス・アミーゴが倒されたことにより、周囲にいた兵士やモンスター達は消滅しだしていた。

 

「俺達は勝ったのか……?」

「そうだ! そうに違いない!」

「ああ、俺達の勝ちだ!!」

 

 周りにモンスター達がいなくなったあと、口々に勝利を確信していくパプニカ、ラインハット、グランバニア連合軍。

 今まで気の抜けない状態であったアポロも、その様子を見て安心したような顔つきになっていた。

 

(姫様達の姿が見えないのだが……まさか……)

 

 彼の予想は半分当たりで半分外れなのだが、それが分かるのはレオナ達が戻ってきてからのことである。

 

 

 

     ◇

 

 

 

(お……終わったのか……?)

 

 アキラはデス・アミーゴや周りのモンスター達が消滅したのを確認していたが、本当にこれで終わりであるかが半信半疑のような顔をしていた。

 そこに大きな手を差し伸べられる。

 

「立てるか?」

「は、はい……」

 

 手を差し伸べたのはクロコダイン。アキラは腕の痛みを堪えながらもクロコダインに起こしてもらう。

 

「これで一旦は終わったはずだ。俺は主の元に帰るぞ」

「…………」

 

 クロコダインの言葉に黙ったままのアキラ。

 それを訝しそうにしていたクロコダインが尋ねる。

 

「どうした?」

「……いえ、その。あなたの主というのは……?」

 

 アキラはクロコダインの主が誰であるのかが気になっていた。

 原作では何人かいたが、まさか魔王側ではないはずだとも確信していたための確認であった。

 

「……それは俺の口からは言えぬ。もし何かの縁があればまた会うこともあるであろう。そのときに主が認めれば、分かることもあるはずだ」

 

 クロコダインはそう言葉を残して去っていってしまう。

 アキラも後を追うことも出来たのだが、両腕を負傷している満身創痍の状態であったため、それ以上追求出来なかった。

 そしてクロコダインが去ったあと、そのまま立ち尽くすアキラのもとに怒りの表情をした二人の少女と、呆れた顔をした少年達が現れる。

 

「ア〜キ〜ラ〜く〜ん〜?」

「────ッ!?」

 

 恐る恐る後ろを向くと、そこには両腕を組んだマリベルと腰に手を当てて怒りのポーズを取っているレオナがいた。

 

「レ、レオナ、姫……」

「ちょっと! 様子を見に行ってくるだけって言ったじゃないの! なんでそんなボロボロの状態なの!? 周りにいたモンスターは一体どうなったの!?」

 

 レオナはボロボロ状態になったアキラに詰め寄る。

 アキラはその迫力に「え、あ、その……」としどろもどろの状態になってしまい、レオナ達の後ろにいたキーファとセブンに笑われていた。

 

「まぁそのくらいで許してあげなよ、レオナ」

「何言ってんのよ! 私達に嘘をついて一人で戦いに行っていたのよ!? もしアキラ君に何かあったらどうするのよ!」

 

 セブンが宥めるも、レオナは取り付く島もない状態である。

 そこに何かを察したキーファが口を開く。

 

()()()()()()()()()()()()()()()……そういうことだよな?」

「──それってどういう……」

 

 キーファの言葉にレオナは言葉を詰まらせる。

 だが、すぐに理解をしたようでアキラの方へと向き直る。

 そして、何も言おうとしないアキラに代わってセブンが説明を始める。

 

「これに関しては僕も分かっていて黙っていたことだから、ね。キーファやマリベルも気付いていないと思うよ」

「ああ、俺もさっき気付いたところだ」

「あの危険な状況で、パプニカの王女とグランエスタードの王子の命を危険に晒すようなことは出来なかったんだよ。それは二人を仲間として信頼していないということではなく、現実問題の話として()()なんだよ」

 

 ここまで話すと、流石にレオナも理解したような表情を見せた。

 何かあってからでは遅いし、仲間として以上に今後のパプニカとグランエスタードを治めていく二人を死の確率が高い場所に向かわせるわけにはいかないというのはアキラとセブンの判断だったのだ。

 だからこそ、後方の森でアキラのみ単身で突撃するという行動に出たのであった。

 

「──それでも! それでも、それならなんで言ってくれなかったのよ……」

「……アキラがそれを言ったら、二人は賛成してくれていたと思う?」

「それは……」

「……少なくとも俺は無理だな。アキラだけをそんなところに行かせるなんて、仲間としてもグランエスタード王国王子としても出来なかった」

 

 セブンの質問にレオナは答えることが出来なかったため、キーファが自身の気持ちも含めて代弁する。

 

「だからアキラは一人で行ったんだよ。何かあったときのために僕とマリベルを二人の護衛に残してね。多分アキラがいなかったら、僕がアキラと同じ行動を取っていたと思うよ」

「セブン……」

 

 アキラがこれ以上責められないようにセブンは自身も同じ行動を取っていたとはっきりと口にする。

 

「みんな……心配掛けてごめん。セブンが言ってくれていたとおり、みんなを信頼していなかったというわけではないんだ。あの場で気が付いたらセブンと目が合っていて、どちらがともなく行動をしていたってだけなんだよ」

 

 アキラはようやく口を開き、全員に謝罪の言葉を口にする。

 そう言われてしまえば、これ以上何も言えなくなるのがレオナ達の優しいところでもある。

 

「まぁとりあえずなんとか生き延びたしさ! これで一件落ちゃ──」

「アキラ君!?」

 

 言葉の途中でアキラが倒れて、そのまま意識を失ってしまう。

 デス・アミーゴとの戦いの怪我だけでなく、その前の雑魚戦も含めて体力やMPもかなり使っていたため、限界が来ていたのだ。

 レオナ達に名前を呼ばれているのを頭の片隅に残しながら、気を失っていくのを自覚したアキラであった。

 




遅くなり、本当に申し訳ございません。
前回の投稿で日間1位を頂いたのですが、そのときに出たマイナスなコメントでかなりモチベが下がってしまっていました。
全体の5%にも満たないのは分かっているのですけど、結構きますね。

なるべく気にしないようにして書いていくようにします!
嬉しいコメントや評価を何回も読み返したおかげで書こうという気持ちになれたので、皆様のお声が力になっているんだなと改めて実感しました!
本当にありがとうございます!


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第三十六話※

本当に更新遅くなりまして申し訳ございません!
なるべく更新頻度を上げていけるようにします!


「ん…………」

 

 アキラが目を開けると、目の前には天井が広がっていた。

 「ここは……?」と呟くアキラは、右手に重みという違和感を覚え、目線を右下に下ろすとそこにはベッドに頭を乗せながら眠っているレオナを見つける。

 

(たしか……僕はデス・アミーゴにやられて、そしてクロコダインが代わりにトドメを刺してくれたんだったな……)

 

 気を失うまでのことを思い出していくアキラ。

 自身の油断からデス・アミーゴに殺されかけ、クロコダインに助けられた。そして黒い霧を纏った兵士やモンスター達はパプニカ兵達に駆逐され、人間側の完全勝利となったこと。

 その後、戻ってきたレオナとマリベルに説教されかけたところで事情を察したキーファと、ほぼ共犯と言ってもよいセブンのフォローを貰ったところで安心からかそのまま気を失ってしまっていた。

 

(そうだ……みんなに心配掛けてしまったんだよな。でも……)

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()────

 アキラはレオナやキーファ、セブン、マリベル達が漫画やゲームのキャラクターだということは知っている。

 知ってはいるが、彼女らをもうその目線で見ることなど出来なかった。目の前にいる彼女らを作られた存在だとは思いたくなかった。

 中級者迷宮で、地底魔城でお互いに命を預けて戦ったことがその気持ちを更に加速させていたのだ。

 

 レオナに握られていた右手をそっと解いて、寝ているであろう彼女の髪を優しく撫でる。

 サラサラとライトブラウンの細い髪を指が通っていく。

 

「んっ……あれ、私寝てしまってた──」

 

 そこでタイミングが良く──良いと言っていいのかは分からないが──レオナが目を覚まし、目を擦ったところでアキラと目が合う。

 アキラはしまったという顔をしていたが、それはもう遅い。

 レオナは自分が何をされているのかを、彼の右手が自分の頭に乗っていることで察する。

 

「え、アキラくん、目が覚めて……で、でも私の髪……え……?」

「あ、えっと、その……!」

 

 起きたばかりで頭がきちんと働いていなかったとはいえ、寝ている女性(レオナ)の髪を撫でてしまうという愚行を犯したアキラは慌てて手を離そうとする。

 

「ご、ごめ──」

「──待って!」

 

 謝罪とともに手を離そうとするアキラを遮るレオナ。

 

「もう少し……このままじゃ、だめ……?」

 

 そんなことを言われてしまったら、アキラとしては手を離すわけにはいかなくなり、「あ、はい」とそのまま受け入れる。

 目が覚めたばかりの二人は、真っ赤な顔のまま目を合わせることが出来ずにいた。

 

 

 

「なになになに〜? あの二人、良い感じじゃない!」

「そうだな! これはあのおてんば姫にもついに春がやってきたのかな?」

「……もう二人ともやめなよ。良くないよ、こういうの」

 

 アキラが目を覚ましたことを聞いたキーファ達は、アキラに顔見せしようとしたところで面白い場面に遭遇し、部屋の扉を少しだけ開けてアキラ達のやり取りを覗いていた。

 面白がるマリベルとキーファ。それを(たしな)めて止めるセブンという構図ではあったが、セブンも興味がないわけではないので目線だけはずっとアキラ達の方を向いていた。

 もちろんアキラの部屋には、レオナだけがいるわけはない。一国の王女が一人で男の寝ている部屋に滞在するなどあってはならないことなのだ。

 そのため、部屋の中には複数名の侍女がいたため、アキラが目を覚ましたときに侍女の一人がキーファ達に知らせに行き、残りの侍女は部屋の中で空気と化しながらアキラ達の甘い空間で必死に無表情を貫いていた。

 

 決して「姫様にもついにお相手が……!」とか「これで姫様もお淑やかになってくれれば」とか「私もあの子(アキラ)が可愛いと思っていたのに」などと、心の中で思っていたはずはない。

 この甘い空間はレオナが満足する小一時間──実際は一時間超えている──ほど続いたとだけ記しておく。

 

 

     ◇

 

 

「ようアキラ、ようやくお目覚めか?」

「キーファ……うん、心配掛けてごめん」

 

 キーファ達は空気を読んで、少し時間を潰してからアキラの部屋に入ってきた。

 アキラはレオナとの時間をまさか覗かれているとは思わず、少しニヤニヤしているキーファ達に疑問を抱きつつも心配させたことを素直に謝罪する。

 彼が気を失ったあと、すぐさま城に運ばれて回復呪文で折れた両腕を治療され、そのまま次の日の昼まで起きることはなかった。

 レオナは少し取り乱していたが、命に別条はないという医師の判断により落ち着くも、目が覚めるまでできるだけ一緒にいると譲らず、途中で力尽きて眠ってしまったというのがここまでの話である。

 

「まぁ俺も言いたいことはあるけど、まずは全員が無事だったんだ。それを喜ぼうぜ」

「だね。もう駄目かなって何回か思ったけど、グランバニアとラインハットが援軍で来てくれたのも大きかったよね」

「そうね! あの二国の王子は親友同士でとても仲が良いって有名よね」

「グランバニア……と、ラインハットか」

 

 アキラは自分の知っているグランバニアとラインハットの王子と聞いて複数名を思い浮かべる。

 まずリュカとヘンリーの二人。そして、その息子達のことだ。

 どちらのことを言っているのかが分からないが、概ねどちらかで合っているだろうと予測する。

 

「二国には後ほどお父様からお礼をすると思うわ。もちろんあなた達にもね」

「あ、そうだ。今回の件でパプニカ国王から呼ばれてるんだよ。お前が寝ていたから、目が覚めてからでいいってよ」

「そうなんだ……」

 

 今回のパプニカ王国防衛戦の論功行賞も兼ねて、感謝の言葉を述べたいとのことである。

 しかも今回はアキラが目を覚ましてから行うという、破格の優遇っぷりに「辞退したい」とは決して言えない空気にされてしまっていた。

 それを理解してしまったせいで、顔をひきつらせながら「そうなんだ……」と呟くだけだった。

 

「まぁ体調も悪くなさそうだし、明日には始まると思うから今のうちに心の準備をしとけよ」

「そうそう! 今日は私達ももう部屋に戻るけど、イチャイチャの続きをするのは明日が終わってからにしなさいよね」

「「なっ……!?」」

 

 ()()()()()()。すぐに否定しようとするも、三人は笑いながら早々に部屋を出ていってしまったため、何も言うことが出来ずに終わる。

 その後には若干気まずい空気だけが取り残されてしまっていた。

 

「じゃ、じゃあ私も明日の準備があるから戻るわね」

「う、うん。そうだね」

「アキラくんもゆっくり休んで」

「あ、ありがとう……」

 

 レオナも空気を察して、早々に自室へと戻ってしまう。

 部屋にいた侍女達もレオナに付いて出ていったため、部屋にはアキラ一人だけが取り残されている。

 

(まぁとりあえず……生きててよかった……)

 

 ベッドに寝転がりながら、なんとか生き残れたことに安堵するアキラ。

 改めて考えてみると、今回の防衛戦は生き残れる可能性が低かった。

 この世界にある程度慣れてきており、いくつか迷宮を攻略できていたとはいえ、まだまだ初級者から抜け出たばかりというレベルである。

 そんなアキラがドラクエの知識やものまね士の能力があるとはいえ、生き残ることが出来たのはかなり運が良かった。

 

 今回の戦いを振り返りながら、次第にまぶたが重くなっていき、その誘惑に流されるように夢の世界へと落ちていくのだった。

 

 

     ◇

 

 

「じゃあアキラとはここでお別れか」

「そうだね。短い間だったけど、キーファ達と会えてよかったよ」

 

 キーファ達と握手を交わしながら、別れの挨拶をするアキラ。パプニカ王国防衛戦から一ヶ月が過ぎていた。

 この一ヶ月で何があったのかを簡単にまとめると、論功行賞を行いつつ、戦後の後処理。そして途中になっていた〝王族の洗礼〟も無事に終えて、アキラの仕事はこれで終わった。

 あと、パプニカ国王以外ではアキラのみしか知らない話なのだが、論功行賞後に彼はある人達と秘密裏に会っていた。

 

 

────────────

 

「やあ、初めまして……で良いんだよね?」

「そりゃそうだろ、お前が別で会ったことがあったらいつなのか逆に聞きたいわ!」

「だよねぇ。でもなんだろう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな気がしちゃったんだよね」

 

 アキラは図星を付かれて、一瞬心臓がキュッとなったが、すぐに冷静さを取り戻して誰だか分からないような顔をした。

 

「えっと、初めましてですね。アキラと申します」

「ほらな! 俺はヘンリー。ラインハット王国の王子といえば分かるか?」

「ううん……そっかぁ。あ、僕はリュカ! グランバニア王国の王子だよ! よろしくね!」

 

 少し腑に落ちない顔をしたリュカであったが、すぐに屈託のない笑顔で自分の名前を告げる。

 アキラさんはすぐに跪こうとしたのだが、リュカとヘンリー二人に止められて用意されたソファーに座る。

 もちろん彼らの見た目の特徴で正体は分かっていたのだが、いきなり跪くとなぜ分かったのかと言われてしまうため、名乗られるまで待っていた。

 

「えっと、それで私に何か御用でしたでしょうか?」

「あ、そうそう。君に会っておきたくてさ」

「……私に、ですか?」

「そうだよ、()()()()()()が君のことすごい褒めてたから興味持っちゃって」

 

 クロコダインが話していた〝主〟とはリュカのことであり、珍しく人のことを褒めていたのが気になって、パプニカ国王にお願いをして一席設けてもらったということだった。

 つまり、ヘンリーは付添い兼リュカのお守りである。幼馴染である二人は、昔はわがままなヘンリーと無邪気なリュカというわんぱく王子で周りを困らせていたのだが、成長するにつれて大人になっていくヘンリーと違い、リュカはそのまま──いや、むしろもっと──無邪気に育っていった。

 そのため必然的にヘンリーがリュカのお守りをするという関係が出来上がっていた。

 

「は、はあ……」

 

 としか最初は返事が出来ないアキラだったが、リュカの無邪気な笑顔や話し方にどんどん引き込まれていく。

 

(そうか、リュカがなんでモンスターにすら好かれているのかって、()()()()()()なのか)

 

 話で聞くだけでは理解出来ないリュカの魅力。会えば誰しも彼のことが好きになるだろう。

 雰囲気や笑顔、話し方もだが、彼の一番の魅力は()()()()()()である。

 その目で見られてしまうと、不思議と彼のことを受け入れてしまいたい気持ちになる。

 それがリュカの強みであり、その強みをきちんとは理解していないことにアキラはある種の恐怖を覚えていた。

 

(もし彼がこの強みを自覚したら、この世界が彼に支配されてもおかしくなさそうだね……)

 

 そんなことを考えながら話していると、気が付けばかなりの時間が経っていた。

 

「おい、もう帰る時間だぞ」

「あれ? もうそんな時間? じゃあ行かないとだね」

 

 ヘンリーに促されて、二人は立ち上がる。

 アキラも慌てて立ち上がり、リュカ達が退室するのを見送る。

 

「あ、そうそう。今日は会えて良かったよ。よかったらグランバニアに立ち寄ったときは顔出してね〜。アキラくんのことはグランバニア(うちの者)には伝えておくから」

ラインハット(うち)にもいつでも来いよ! リュカがここまで気に入るなんて珍しいから、俺も覚えとくわ」

「は、はい!」

 

 思い掛けず気に入られてしまったアキラだが、グランバニア・ラインハットという二大国の王子と顔見知りになれたことは喜ぶべきことだとポジティブに考えることにしていた。

 とはいえ、グランエスタードやパプニカとも懇意にしている時点でありえないことなのだが、それにはまだ気が付いていないアキラである。

 

────────────

 

 

 こうしてパプニカでキーファ達と別れたアキラはレオナにパプニカに留まるように引き止められていたのだが、今回のデス・アミーゴ戦やザボエラとゴルゴナが現れたことを考えて、今は少しでもレベルを上げていかないといけないと感じていた。

 そのため、アキラは別の国へ行って迷宮を探索しつつレベルを上げ、魔王軍に襲われている国を少しでも救う手助けをしようとも思っていた。

 

(情報を聞いている限り、魔王軍はかなり喰い込んできているんだよね。でも、人間側もドラクエの勇者やそのパーティーメンバーがいるお陰でなんとかなっているみたいだね)

 

 パプニカに入ってきている情報では、今回のように魔王軍側が人間側の国の重役以上に成り代わっていることがいくつかあった。

 まずはラインハット、サマンオサ、ジパング、キングレオ、デルカダールなど、ここに挙げられていない国もある。

 幸なことに今のところ全て撃退できているが、いつ滅ぼされる、もしくは乗っ取られてもおかしくない状況なので、油断をしてはいけない。

 

 こうしてアキラはレオナに何度も引き止められながらもパプニカから違う国へと向かうのであった。

 

 

〜第二章 王族との関わり 完〜

 




【ステータス】
・名前:アキラ
・称号:
・冒険者ランク:D
・ジョブ:ものまね士
・レベル:11
・所持金:1,613G
・各種能力:
HP:67
MP:41
ちから:22
みのまもり:12
すばやさ:39
きようさ:24
こうげきまりょく:36
かいふくまりょく:36
みりょく:35
うん:37
【スキル】
・ものまね士スキル:3 【熟練度:86】
・剣スキル:3 【熟練度:89】 (剣装備時攻撃力+5、剣装備時会心率上昇)
・武術スキル:2 【熟練度:97】 (身体能力UP)
・特殊アビリティ:
白魔法(ケアル、ケアルラ、ポイゾナ、ライブラ、プロテス、シェル)
黒魔法(ファイア、ファイラ、ブリザド、ブリザラ、エアロ、エアロラ、ダーク、ダーラ、ルイン、ルインラ、スリプル)
時魔法(ヘイスト、スロウ、デプロテ、テレポ、コメット)
魔法剣(ファイア)
・ユニークアビリティ:ものまね
【装備品】
頭:騎士団の帽子
身体 上:騎士団の服 上
身体 下:騎士団の服 下
手:騎士団の手ぶくろ
足:騎士団のブーツ
武器:騎士団のレイピア
盾:かわのたて
装飾品①:収納の指輪
【所持アイテム】
やくそう:10個、どくけしそう:10個、キメラのつばさ:10個、おもいでのすず:3個
【予備の装備品】
アルテマウェポン[劣化]、てつのつるぎ、どうのつるぎ、かわのよろい上下、ぬののふく、かわのブーツ


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第三章 三つの青と魔王ムドー
第三十七話※


本日から第三章が始まります!
また色々なキャラクターが出てきますので、よろしくお願いいたします!



 デモンズタワー。全十階の構造で、東西の塔が隣り合いながらそびえ立っている。

 その塔の一階でアキラは()()()()()()()()と対峙していた。

 

「なんで君がここに……」

「仕方ないんだ……俺には守らなくてはならない人がいる……!」

 

 アキラは青髪の男が武器を構えて行く手を阻んでいる理由を理解した。

 それでも彼にも譲れない理由がある。

 

「今、ここらの国がどうなっているか分かっているんだよね?」

「……ああ」

「それでも通してくれないということか」

「……」

 

 アキラの言葉に答えるつもりがない男はうつむきながらも覚悟を決めた目をする。

 

「……行くぞ、アキラ!」

 

 

 

     ◇

 

時は少し遡る。

アキラは少し疲れた様子で街を見上げていた。

 

「ここがレイドック王国……」

 

 パプニカ王国でキーファやレオナ達と別れたアキラは船を渡り、レイドック地方へと降り立っていた。

 港から乗合馬車に乗り、半日ほどで王都レイドックへと到着していた。

 

「む、旅人……冒険者か。”賞罰の水晶玉”に触れてもらうぞ」

「あ、はい」

 

 アキラは門番の指示通り、”賞罰の水晶玉”に触れて特に問題がないことを確認され、城下町へと入ることを許可された。

 

「うむ、問題ないな。ようこそレイドックへ。ここは賑やかで治安も良いところだぞ」

「ありがとうございます。あ、ルイーダの酒場はどこにありますか?」

 

 門番にルイーダの酒場の場所を聞いたアキラは、宿を取る前に酒場へと直行した。

 レイドックでは初心者迷宮から最上級者迷宮まで様々な迷宮があり、冒険者を始めた者からベテラン冒険者まで様々いる。

 そのお陰か、冒険者の質も悪くなく他の地方からわざわざレイドックを目指して来る冒険者がいるくらいである。

 

「はい、アキラさんですね。少々お待ちくださ……あ、冒険者ランクをCに上げられることが出来ますね。Cランクアップへの試験も国からの推薦があるので免除で大丈夫です。パプニカ王国とグランエスタード王国、ラインハット王国に……グランバニア王国まで!?」

「……あの、そのままランクアップをお願いできますか?」

「……ごほん。大変失礼いたしました。ではランクアップの手続きを行いますので、少々お待ちください」

 

 そのまま受付の女性は裏へ行ってしまい、アキラは手持ち無沙汰になってしまう。

 彼女が大きな声で驚いたせいで、アキラが四カ国と繋がりがある人物だと周りに知られてしまったのだが、存外周りは何も反応を示すこともなかったため、アキラとしてはほっと息を撫で下ろしていた。

 実際は三つの理由から周りの冒険者はアキラに反応を示すことをしていなかったのだ。

 

 まず、四カ国と繋がりがあるというだけで、無理に関わろうとした際のリスクが大きすぎること。

 その繋がりのせいでレイドック王家まで出てくることがあったら、この辺りで冒険者など出来なくなってしまうのだ。

 そのリスクを取ろうとする愚か者はいなかった。

 

 次にレイドック王国の冒険者の質が良いという点。

 初心者からベテラン冒険者までいるのだが、ベテラン冒険者はリスクとリターンをきちんと分かっているため、気軽に関わって良い人物かの判断が驚くほど早い。

 初心者から中級者あたりまではそういったことを知らないものが多いため、別の地域であればアキラに絡んでくる冒険者もいたであろう。

 しかし、ベテラン冒険者からの指導が行き届いているため、いきなり声を掛けて絡むということなどしないのである。

 

「よう、あんた随分と大物みたいだな」

「…………」

 

 しないのである。そして三つ目の理由は様子を伺っているということである。

 気軽に絡んだりしないが、それだけの後ろ盾を持っているものは相当な実力者の可能性がある。

 しかもCランク冒険者になるための試験を免除されているということは、少なくともCランク冒険者には負けないだけの戦闘力を有している証拠になる。

 

 だからこそ時間を掛けて仲良くなり、そこから距離を縮めていきパーティーに参加してもらうなどの恩恵を与ろうと考えていた。

 そのため今ルイーダの酒場にいる冒険者パーティーはアキラに興味がない素振りを見せつつ、お互いに牽制をしているため気軽に話しかける者などいるはずがなかった。

 

「なんだ、そんな警戒するなよ。ちょっと世間話で話しかけただけだからよ」

「…………!」

 

 空気を読まずにアキラに話しかけた男は「じゃあな」と手を振り、そのまま酒場から出ていった。

 アキラは後ろ姿を見て、ある人物を思い浮かべていた。

 

(あの逆立った青髪の男……服装といい、もしかして……!)

 

 後ろを追いかけようとしたところで、「アキラさんお待たせいたしました」と受付の女性が戻ってきてしまう。

 そこからCランク冒険者の特典などを聞いているうちに、アキラに話しかけた男は酒場付近から姿を消していた。

 

 

 

     ◇

 

 

 

 宿に着いたアキラは先程のことを思い出す。

 

(()はなんで……いや、この世界なんだから誰がいてもおかしくはない……か)

 

 それよりもCランク冒険者になったことで、上級者迷宮への入場を()()()()で許可されたことを考えていた。

 その条件とは“Cランク冒険者以上のパーティー”であること。

 Cランクだけであれば三人以上。Bランク以上がいれば二人で上級者迷宮に入ることが可能であった。

 

 ただ、それはあくまで最低人数であり、大体のパーティーは四人から五人で入るようにしている。

 そもそも初心者の段階でパーティーを組むことがほとんどであり、もしなにかの理由で途中パーティーの人数が減る、ないし解散となったとしても別のパーティーとくっつくなどして人数を保つようにするのが常識である。

 Cランクになってもソロで動こうと考える冒険者のほうが珍しく、現にアキラも暫定的ではあるがキーファなどとパーティーを組んでいたりなどもしていた。

 

 (これからBランクを目指すに当たって、臨時じゃなくて正式にパーティーを組むことも考えなくちゃかな……)

 

 アキラは簡易ベッドで横になりながら考え事をして、そのまま意識が遠のくのを自然と受け入れていた。

 次の日、アキラは中級者迷宮を探索しようとルイーダの酒場に向かっていた。

 諸々の手続きを終えて中級者迷宮内に入ったアキラは、事前に得ていた情報を思い出す。

 

(レイドック王国中級者迷宮──通称〝月鏡の塔〟。ここの最上階にある鏡に触れることで、中級者迷宮走破ができるんだったよね)

 

 事前に配布されている地図を確認しながらゆっくりと進み出すアキラ。

 月鏡の塔はドラゴンクエストⅥ作品において、下の世界のレイドックの近くにあるラーの鏡が祀られていたダンジョンである。

 出現モンスターも変わらずと思いきや、ボスはポイズンゾンビだが、出てくる雑魚はストーンビーストなど少し厄介なモンスターも増えていた。

 そして、その強さも原作よりもやや強くなっていた。

 

(ちょっと面倒くさいモンスターが多い気がするね。状態異常系付与のモンスターやグループ攻撃してくるモンスターが多くてパーティー組んでいると大変だったかも)

 

 とはいえ、一人でいることが有利に働くかというとそういうわけでもなく、いつも油断出来ないというのは変わらないのである。

 だが、今の彼にはそれすらも苦戦する要因にはなっていなかった。

 危なげなく月鏡の塔五階へとたどり着いたアキラはそこで待ち構える三体のポイズンゾンビに対し、レイドックで買ったはじゃのレイピアを抜いて応戦体制を取る。

 

 ポイズンゾンビが開幕緑色の霧を吐いてくる。

 とっさに口元を塞いだアキラであったが、この霧は皮膚からも吸収するようで、彼は気持ち悪さと共に身体の不調を認識する。

 

「…………くっ、『ポイゾナ』!」

 

 すぐに解毒魔法を唱えると、続いて向かってくる二体のポイズンゾンビに対して『ファイラ』を唱えて焼き払う。

 

「…………『ホイミ』」

「回復呪文か!」

 

 はじめに毒の霧を吐いてきたポイズンゾンビが『ファイラ』で焼かれた一体を回復させて体制を整えようとしてくる。

 しかしアキラはまだ倒れている残った一体に魔法剣『ファイア』で右上から袈裟斬りをして、そのまま顔面にはじゃのレイピアを突き刺してとどめを刺す。

 

(よし、あと二体!)

 

 一体を倒し切る頃には、『ファイラ』で焼かれていたもう一体も回復を終えており、こちらを威嚇するように叫んでいた。

 

「fgaeraキdfghゴ;kljoi!」

「…………『ファイラ』!!」

 

 威嚇をしたまま動かないポイズンゾンビ二体に、魔力を十分に込めた『ファイラ』を放つ。

 先程とっさに出した『ファイラ』とは威力が段違いであり、ポイズンゾンビがそれに気付いたときには二体とも四肢の半分以上が灰になっていた。

 そして動くことが出来なくなったポイズンゾンビ達にトドメとばかりに『ファイラ』を唱えて、二体が消えていなくなったのを確認したアキラはほうっと息をついてはじゃのレイピアを仕舞う。

 

(よし、これで月鏡の塔は制覇したね。奥に行ってみよう)

 

 最奥に着いたアキラは、月鏡の最奥の間──鏡の祭壇に宝箱が一つ置いてあることに気付く。

 そして頬を緩ませて笑みを隠すことが出来ていなかった。

 

(もしかして久しぶりのボーナスアイテム!?)

 

 迷宮には基本宝箱もモンスターからのドロップもない。だが、ある条件を達成したときのみ貰えるアイテムがある。

 それが各迷宮でクリア条件を達成できた場合の報酬である。

 貴重なアイテムの場合が多く、アキラは初期にアルテマウェポン[劣化]と収納の指輪を手に入れてからは一度も達成できていなかったため、満面の笑みで宝箱を開ける。

 

「これは…………鍵?」

 

 

 

【第三章月鏡の塔クリア時ステータス】

・名前:アキラ

・称号:

・冒険者ランク:C

・ジョブ:ものまね士

・レベル:16

・所持金:7,125G

 

・各種能力:

HP:108

MP:68

ちから:36

みのまもり:19

すばやさ:48

きようさ:32

こうげきまりょく:47

かいふくまりょく:46

みりょく:41

うん:49

 

【スキル】

・ものまね士スキル:4 【熟練度:53】

・剣スキル:4 【熟練度:11】 (剣装備時攻撃力+5、剣装備時会心率上昇、剣装備時攻撃力+7)

・武術スキル:3 【熟練度:8】 (身体能力UP、身のこなしUP)

・特殊アビリティ:

白魔法(ケアル、ケアルラ、ポイゾナ、ライブラ、プロテス、シェル)

黒魔法(ファイア、ファイラ、ブリザド、ブリザラ、エアロ、エアロラ、ダーク、ダーラ、ルイン、ルインラ、スリプル、ポイズン、バイオ)

時魔法(ヘイスト、スロウ、デプロテ、テレポ、コメット)

魔法剣(ファイア)

・ユニークアビリティ:ものまね

 

【装備品】

頭:きんのサークレット

身体 上:プリンスコート 上

身体 下:プリンスコート 下

手:プリンスグローブ

足:プリンスブーツ

武器:はじゃのレイピア

盾:まほうの盾

装飾品①:収納の指輪

 

【所持アイテム】

やくそう:10個、どくけしそう:10個、キメラのつばさ:10個、おもいでのすず:3個

 

【予備の装備品】

アルテマウェポン[劣化]、てつのつるぎ、どうのつるぎ、かわのよろい上下、ぬののふく、かわのブーツ、騎士団のレイピア、騎士団の服上下、騎士団の手ぶくろ、騎士団のブーツ、騎士団の帽子、かわのたて

 




皆さんはどんなキャラクターが出てくると嬉しいとかありますか?


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