魔法少女リリカルなのはStrikerS protect one wish. (イツキ)
しおりを挟む

第一話 あの日、あの場所であったこと

初めましての方は始めまして、知っている方はお久しぶりです。

何とか設定がまとまったので恥ずかしながら戻ってまいりました。


「ギ……姉ぇ……助け……」

 

 

 

 本来なら周囲の物が炎に包み込まれて燃えていく音や、燃えたことによってその形を維持することが出来ずに崩れ落ちていく物がたてる音。普通ならそれらの音ににかき消されそうな筈のとても小さく、弱々しくも助けを求める女の子の声。その声を認識した瞬間、一人の少年は反射的にその声が聞こえてきた方向へと走り出していた。

 

 少し前までは沢山の人で賑わっていた空港のロビーも何回かの爆音が鳴り響き、直後の衝撃で様々なものがひび割れ崩れ落ちた今では見える範囲で人の姿を見つけることができない場所となっていた。だけどそんな中で聞こえてきた小さな声を、確かに少年の耳は拾っていた。

 

 

 

 --今の僕になにができるの?

 

 

 

 --今からだと間に合わないかもしれないのに、向かうのには意味があるの?

 

 

 

 --もう何も気にしないんじゃなかったの?

 

 

 

 

 周囲の炎の熱を受けてか身体のあちこちからヒリヒリとした痛みを感じつつも、少年は数多くの障害物を避けながら走り続けた。その一方で頭の中ではその行動を止めようとするかのように何度も問いかけの言葉が浮かび上がる。

 

だけどそんな問いかけが自身の中で繰り返されながらも、少年ははその足を止めることなく、先ほど声が聞こえてきた方向へと急ぐことをやめなかった。

 

 正直どうしてそうしているのか、その少年自身にも分からないでいた。問いかけの言葉に対する答えも用意することが出来ず、仮にその場へとたどり着くことが出来たとして、実際何をすることが出来るのか具体的に思いつくこともできないでいた。

 

それであっても少年は先ほど僅かにだが聞こえてきた声を、誰かに助けを求める声を発した女の子の元へと行かないといけないと思うその気持ちに身を任せてその場へと足を急がせていた。

 

 

 

「見つけたっ!」

 

 

 

 少しして少年が視界の先に見つけたのは、少し開けた場所に座り込んでいる一人の女の子の姿だった。その女の子を見つけたことで少年は一瞬安堵の表情を見せたが、その直後それを打ち砕くかのように鈍く何かが崩れる音が周りへと響いた。

 

 

 

「えっ……」

 

 

 

 その音の発信源は女の子の側に立っていた太く大きな柱の根元だった。既に天井との繋がりを失っていた上に、音と共に根元が大きく崩れた柱はそのままバランスを失い、ゆっくりと女の子の方へと倒れ始める。

 

女の子も柱が倒れこもうとしようとしている事には気がついているようで一度立ち上がろうとしていたが、それまでに疲れきってしまっていたのか、立ち上がって歩こうとする前に力が抜けたように倒れてしまった。

 

 

 

--このまま見殺しにするの?

 

 

 

「っ、そんな事はしないっ!」

 

 

 

 再度頭に浮かんだ問いかけに対して、少年は明確に否定の言葉を口にした。そして自分の身体に対して今出来る限りの(魔力)を込めて走り、柱が倒れる前に女の子の元へと駆け寄る。だけどそれでも女の子の元へとたどり着くのは本当にギリギリのタイミングであり、女の子を助け起こした上で柱が届かないところまで逃げることは出来そうになかった。

 

 

 

「だったらこれでっ!」

 

 

 

 柱から逃げることが出来ないのであれば、その柱を何とかするしかない。少年はその答えが浮かぶと同時に走る勢いのまま、右手を振りかぶり迫ってくる柱を力の限り殴りつけた。最も、渾身の(魔力)を込めても子供の力では自分の身体の倍以上の質量を持つ柱をどうにか出来る訳もなく、逆に柱を殴った拳を起点に右手全体に激しい痛みが走った。

 

 

 

 

 

「ぐああああああぁっ!」

 

 

 

 

 

 その痛みの強さに少年は一瞬意識が途切れそうになりながらも何とか踏み止まり、そのまま柱に密着する拳を介して今まで身体全体へと込めていた力を柱へと一気に流し込んだ。その結果柱は一瞬波打ったように見えた後、音もたてずに粉微塵に砕け散る。

 

 

「な、何とかやれた……」

 

 

「……助けて、くれたの?」

 

 

 

 少年が振り返ると、身体を起こした女の子が両目に涙を浮かべながら僕のことをじっと見つめていた。その姿は周囲で燃え続ける炎の煤や先の柱の粉とかで汚れてしまっていたが、幸いにも見える範囲での怪我はしていないようだった。

 

 

 

「……良かった、間に合った……」

 

 

「えっ!?」

 

 

 女の子が無事だったことを認識して安心してしまったのか、今度は少年の方が先程の女の子のようにその場に倒れこんでしまう。倒れこんだ少年は先程の行動で痛めてしまったのか右腕を抑えながら苦しそうな表情を見せていると、少年の側まで歩み寄っていた女の子がその少年をゆっくりと抱き起した。

 

 

「だ、大丈夫?」

 

「一応はね……ごめんね、本当ならここから助けられたら思っていたのに、こんな中途半端で」

 

 

 過程はどうあれ、助ける側と助けられる側が入れ替わってしまっている状況に罪悪感を感じてしまった少年は申し訳なさで表情を暗くする。だが女の子はその謝罪の言葉に対して首を横に振った。

 

 

「そ、そんなことないよ。もしさっき来てくれなかったら私……ごほっごほっ」

 

 

 倒れてくる柱という脅威は取り除かれたがまだ周囲の火災が収まったわけではないため、煙を吸い込んでしまったのか女の子が息苦しそうにせき込む。それを見た少年は一度目を閉じた後に何かを決めたような表情で話しかけた。

 

 

 

「ちょっと待ってて、すぐに楽にしてあげるから」

 

 

 

 少年はまだ鈍い痛みを発し続ける右手の代わりに左手を一度服のポケットに入れる。そしてそこから少年の瞳の色に似た淡い銀色光を発する何かが入った透明な球体を取り出すとそれを強く握りしめた。

 

すると少しして少年と女の子の周囲を先程の球体が発していたものと同じ色の光が包みこむと、状況の変化に女の子が気がついた。

 

 

 

「えっ、息苦しく……なくなった?」

 

「保護結界だよ。これで少しの間は大丈夫なはずだから……とりあえず今はお休み」

 

「お休みって……あれ……」

 

 光に包み込まれたことで驚いた様子を見せていた女の子だったが、一変して眠たげな表情へと変わると間もなくして瞼を閉じた。

 

その後、大きな魔力反応をもとにその場へ一人の魔導士が駆けつけると、そこには銀色の光に包みこまれながら安全を確保された場所で眠る女の子の姿だけがあった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話 合格発表と二人の少年

「ソウル。毎回でごめんだけど、チェックお願いできるかな?」

 

『Roger that.--There are no problem.』

 

 

 雲一つない青空の下。バリアジャケット姿でビルの屋上からまだ顔つきに僅かに幼さが残る栗毛の少年が周囲を見渡していた。そして少年の頼み事を受け、その両腕に装着されている籠手の右腕側からインテリジェントデバイス特有の機械音声が発せられた後、少年の視線の高さに対して幾つかの空間モニターが表示される。

 

少年はその表示されたモニターの情報に目を通し始め、必要としていた幾つかの情報に問題がないことを確認すると満足そうにうなずいた。

 

 

「うん、これなら問題なくいけそうだね」

 

「いやコルト、そうじゃないと困るっての」

 

「ブルズ? もう用意はできたの?」

 

 

 自らの呟きに対して自分にとっては聞きなれた声から返事を返された少年――コルト・リバティが振り返ると、そこには金髪を短めにまとめた少年――ブルズ・アルフィードがコルトと同じデザインのバリアジャケットを身にまとった状態でで歩み寄ってきていた。ブルズはコルトの問いかけに頷くことで回答を返すと、自らのアームドデバイスであるバックラーを付けた側の腕を軽く回しながらコルトの隣に立ち、先のコルトが見ていた方向を同じように軽く見渡しながら言葉を続けた。

 

 

「なんせ今日は大事な本番だからな俺とお前のペアなら落ちることはそうそうないと思うけどよ、やる事には常に万全の状況で最大の結果を出さないとな」

 

「……だね。半年に一回のチャンス、しっかりと決めていこう」

 

「おう、勿論だ」

 

『おはようございます。お二人が今回陸戦ランクB昇格試験を受けるお二人ですね?』

 

「「はいっ! 今日はよろしくお願いします!」」

 

 二人が互いの拳を軽くぶつけあった直後、空中に大型の空間モニターが表示されて時空管理局の制服姿の女性の姿が表示される。それを見てすぐ表情を引き締めた後、二人はそろって返事を返した。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「うん、確かに合格したこと確認したよ。スバル、ティアナ。陸戦Bランク試験、改めて合格おめでとうな」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

「これも八神二佐や皆さんに再試験の場を用意していただいたおかげです。本当にありがとうございます」

 

 

 目の前に提示された二種類の電子書類にそれぞれ記された合格印を見て嬉しそうに祝福の言葉を述べる女性――八神はやてに対して、対面の椅子に座っていた青髪の少女――スバル・ナカジマと、橙髪をツインテールにまとめた少女――ティアナ・ランスターは頭を下げながら感謝の言葉を口にした。

 

数日前に実施した陸戦ランクBへの昇格試験において、自身達の安全を考慮せずに目的達成を優先したことを指摘されてしまい一度は不合格となってしまった二人だったが、その試験にて自身の設立する部隊へスカウトを行うかの最後の見極めをしていたはやてや、試験官補佐としてモニタリングを行っていた高町なのは教導官の推薦により特別教習を受けた上での再試験を認められていた。

 

そして、時空管理局本局の武装隊で四日間の教習を受けた後に受けることができた再試験において見事二人は合格を果たし、再びその結果を確認するため足を運んでくれていたはやての下に合格したことを報告するため足を運んでいた。

 

 

「やっぱり私やなのはちゃんの目に間違いはなかったみたいやね……それでや」

 

 

 はやての雰囲気が先程までの優しいものから引き締まった真剣なものと切り替わるのを感じ、顔を上げたスバルとティアナは再度姿勢を直してじっとはやての方をみつめる。

 

 

「ここに真っ先に来てくれたってことはスカウトに対する答えをしてくれるって思ってるけど、その認識で間違いないかな? ティアナ・ランスター二等陸士、同じくスバル・ナカジマ二等陸士」

 

「もちろんそのつもりでした。私達二名、共に機動六課への異動をお受けしたいと思います」

 

「まだまだ半人前かもしれませんが、八神二佐の期待に応えられるよう頑張ります!」

 

「その言葉、機動六課部隊長として確かに聞き受け取りました。これから宜しくお願いな?」

 

「「はいっ!」」

 

「……それじゃあ真面目な話はここで一区切りや。頑張った二人には色々とお祝いしてあげんとね」

 

 

 それぞれの口からしっかりとした返事を聞いたうえで少しの間を置いた後に再度はやての物が優しいものへと切り替わり、一度仕切り直しとするかのようにポンと軽く手をたたく。その動作を受けて対面の二人も張っていた気を緩めて机に置かれていたお茶へと手をのばしはじめた。

 

 

「えっと、こういう時は……」

 

「もしもーし?」

 

「ひゃうっ!?」

 

 

 空間モニタを使用して今いる場所の近くにある施設情報を調べていたはやてに対して、いつの間にか背後に立っていた眼鏡をかけている黒髪の男性が耳元に顔を近づけるとそっと耳元で声を発する。それに対して突然の刺激にはやては思わず驚きの声を発してしまった。

 

 

「なっ、なっ……いきなり何するん!? 驚いて変な声出してしもうたやん!」

 

 

 意図せぬ大声を発してしまった恥ずかしさからか顔を僅かに赤くしたはやてが椅子から立ち上がり、件の男性の服の袖をつかみ強めの言葉で対応するが、男性の方はそんな羞恥心からか軽く体を震わせているはやてに対して特に悪びれたり動揺することもなくはやての手を袖から外すと、引っ張られたことでずれた修道服の襟を直した後に再度口を開いた。

 

 

「お言葉ですが八神二等陸佐。貴女はこの後聖王協会本部で行われる会議に参加する予定をお忘れですか? もっと言ってしまえば、会議自体も元々はすでに始めている予定だったのを都合がつかないからと開始時間を遅らせていることにもっと自覚を……」

 

「えっ、そうだったんですか?」

 

「もしかしてそれって私達のせいじゃ……」

 

「おっと、この件についてはお二人の責任じゃないから変に重たく考えなくて大丈夫ですからね。極論悪いのはこの直感で動いた二佐本人の責任なので」

 

「うぅ、ほんまのことだけどそこまで言わんでもええやん……」

 

 

 急に目の前で行われることになったやり取りに口をはさむこともできずに見守るしかなかったスバルとティアナだったが、男性から明かされた内容に自分達が再試験となった事で迷惑をかけてしまったのではないかと表情を暗くする。だがそれはその様子にすぐに気がついた男性によって否定され、その言葉に逆にやはての表情に曇りが見えた。

 

 

「愚痴なら後でしっかりと聞いてあげますから、とりあえず今は教会へ。そろそろ表にシャッハが車で迎えに来ている筈です。残りは私が説明しますので、しっかりと二人のお祝いしてあげたいなら会議終わらせてちゃんと憂いを取り除いてからの方がいいでしょう?」

 

 

「確かにそうやね。それじゃあ二人とも、お祝いについては終わり次第また連絡するからすまんけどいったんここで……あとはよろしゅうね」

 

 

 男性の言葉に少し考えるようなしぐさを見せた後にはやてはスバルとティアナに軽く手を振るとその場を後にする。その姿を少しの間見届けた後に再度男性は二人の方へと視線を向けて話し始める。

 

 

「それじゃあ改めて自分の方から今後についてのお話を……っとここまで騒がせてしまいましたがまだ自己紹介していませんでしたね。自分は聖王教会所属のアルク・チェイサーと申します。普段は教会で指導官みたいなことをしていまして、今日は元々八神二佐の代理でお二人からの回答やこの後の説明を任されていたのですが……結果あわただしくなってしまって申し訳ございません」

 

「いえ、こちらこそお手数をおかけしてすいませんでした」

 

「お忙しいところありがとうございます!」

 

「とりあえずお二人にはこちらで用意させてもらった宿泊施設で今日は身体を休めてもらいたいと思ってます。この事にはちゃんと陸士部隊の隊長さんには許可を取ってるので気にしなくて大丈夫ですからね」

 

「良かった。正直ここから帰るとなるとちょっと遅くなっちゃうもんね」

 

 

 スバル達二人が所属する部隊はミッドチルダの中でも南部に位置する場所が担当地域となっているため、

試験場所からそれなりに遠い場所となってしまっており、この後少なからず疲れた身体で帰らないといけないと考えていた二人は顔を見合わせて笑みを見せる。

 

 

「その代わりと言ってはなんですが、明日からはすぐに異動の為の処理とかをお願いしてもらうことになるので大変かもしれませんがよろしくお願いいたしますね。後は……」

 

 

 元々予定していたこともあってか、アルクは順序立ててスバル達に今後についての予定と必要となる手続きについて空間モニターを扱いながら丁寧かつテンポよく説明を行っていく。そして最後に疑問点についての確認を行い、二人からの質問がなくなった時点で先のはやてと同じように手をうった。

 

 

「それじゃあ説明も一通り終わったので施設の方へ移動を……っと」

 

 

 突然アルクの方からアラーム音のようなものが聞こえてきたかと思うと小さめの空間モニタが表示されて何かしらの表示が行われる。それを見たアルクは一瞬表情を引き締めたがすぐに元の表情へと戻ると席を立ちあがった。

 

 

「すいません、ちょっと至急の連絡が必要になってしまったので少し待っていてください。あと少し時間がかかるかもしれないので良ければ後学の為にこんなのでも」

 

 

 そういうとアルクはポケットに手を入れ、一般的な一つの小型端末を取り出すと机の上へと置く。

 

 

「えっと……これは?」

 

「資料用にいただいた、とある陸戦ランクB昇格試験の映像記録です。お二人は既にランクBに合格しているので試験対策にとかにはならないですが、自分とは違うタイプの人の動きを見ることも自身の動きの見直しになったりして、結構有効なんですよ。もちろん本人含めた関係者の許可を得ているので、これを見る事での問題はないので安心してください。それではすいませんが少し失礼します」

 

 

 そう言い残すとアルクは一度頭を下げた後に出口の方へと歩いていく。少しの間その後姿を見ていたスバルとティアナだったが、一度顔を見合わせた後に今度はアルクの置いていった端末へと視線を移す。

 

 

「と言われた訳だけど……どうしようか、ティア」

 

「確かにアルクさんの言う通り、勉強になるかもしれないし折角だから見てみましょうか」

 

 

 スバルの問いかけに答えたティアナは小型端末を手元に持ってくるとそれを操作して幾つかのモニターを表示させる。

 

少しして表示された中でも一番大きいモニターには、ビルの屋上で空中に表示されたモニターを見上げる二人の少年の姿が映し出された。

 

 

「この映像、撮影対象は私達みたいに二人で受けたやつみたいね。正確には分からないけどたぶん年代的にも同じくらいでしかも二人とも一般デバイスじゃなくて自前のデバイスを使って……スバル、どうかしたの?」

 

 

 現状音声がなく、試験官の説明を受けているところなのかあまり動きのない状態の映像を見ながらティアナは映し出された二人の少年についてできる範囲の考察をしていたが、ふと隣のスバルがただ静かに映像を見ていることに違和感を覚えて声をかける。

 

 

「…………」

 

 

 だがスバルはその声にこたえる事なく、じっと二人の少年の内背が低い栗毛の少年のことをじっと見つめていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話 観戦、ランクB試験

「♪~~♪~~」

 

 

 ミッドチルダ首都クラナガン中央に建つ時空管理局のミッドチルダ地上本部――そこから市街地へと続く大通りの一つを少年が一人、ゆっくりとした足取りで歩いていた。

 

その少年の顔は大きめのパーカーのフードを深めに被っているために見えにくくなっていたが、小さくだが周囲にも聞こえる鼻歌と、左手に持つ銀色の淡い光を放つ小さな球体2つをその手の中で手際よく回している様子からは、何かしら良いことがあったかのように感じられた。

 

 

 時折すれ違う人からの視線を受けながらも市街地に向けて歩いていた少年だったが、ポケットに入れていた通信用の小型端末が振動を始めたことに気がつくと歌うのをやめて右手でそれを取り出だす。

 

 

「いつっ……」

 

 ポケットから手を抜いたタイミングで少年の口から短く痛みを訴える言葉が漏れると、小型端末は少年の手からこぼれ落ちて地面へと転がる。

 

少年は一度視線を自らの右手に向けて何回か軽く拳を握り直すような動作を行った後、端末を拾いそれのボタンを押してそれの振動を止めた後に耳へとあてて話し始める。

 

 

「はい、面談は先程問題なく終えてきました。これで状況の把握はしてもらえた筈……まだ万事問題なくとまでは言えなくても、経過は問題ない……」

 

 

 その後も少年は端末越しにやり取りを続けるが、その途中でふと何かに気がついたようなそぶりを見せると、端末を再度ボタンを押した後にすぐに大通りから人気の少ない横道へと入っていった。

 

 

「少し気がつくのが遅れた? それとも偶然……まぁ何にしてもここは……」

 

 

 少年は端末をしまうと、先程まで左手で回していた球体の一つを取り出し躊躇なく握りしめる。そして少ししてその足元が銀色に光った次には少年の姿はそこから消えていた。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ちょっとスバル、一体どうしちゃったのよ?」

 

「あっ、ごめんティア。つい映像に集中しちゃって……」

 

 

 一度映像を停止させて再度声をかけるティアナに対して、スバルは今度はその声に気がつきしっかりと反応を返す。

 

 

「うっ……まぁそういう意味では映像見始めた矢先に話しかけたったのもあるし、別にいいわ」

 

 

 申し訳なさそうな表情を見せる相方の様子に、逆に自分も申し訳なさそうな表情になったティアナだったが、気持ちを切り替えるように軽く咳払いをした後に視線をモニター群の方へと戻す。

 

 

「教材用って言ってたけど、サブモニターの方に試験対象者についての情報も載せてあるのね。えっと、こっちの背の高い方の名前はブルズ・アルフィード……って、あれ? アルフィードって姓、前にどこかで……」

 

 

 背の高い少年の名前を確認したティアナが見覚えのある姓に首をかしげているのを横目にスバルはもう一人の少年の情報へと目を向けた。

 

 

「えっと、名前はコルト・リバティ。私達と同じように陸士部隊で災害担当として活動実績もあるんだ」

 

「確かあれは……っと、陸士部隊でってのはこっちも同じみたいね。やっぱりこの二人も私達と同じくペア組んで活動してるんでしょうね。訓練学校出てから同世代の人の動きを見る機会もなかったし、アルクさんには感謝しないとね」

 

「だね」

 

 

 簡単に二人の情報を確認し終えたことで、ティアナが一時停止させていた映像の再生を再開し、それに伴って今回の試験内容が追加で表示される。

 

ランク試験は幾つか存在する試験内容から毎回ランダムに選別される為、今回使用されるのはスバル達が行ったそれとは似てはいたが詳細が異なっていた。

 

 

「制限時間内での指定ポイントへの到着。条件自体は私達の一回目の試験と同じみたいだけど……」

 

「こっちの条件だと固定の中間ポイントがあるのと、小粒のターゲットの破壊義務がない代わりにルートの難解さと攻撃の密度が濃い場所があるって感じみたいだね」

 

「私達だと防御呪文系に長けている訳じゃないからちょっとキツイかもしれないわね。幻術を使おうにも、コース見てみると結構開けた場所を通る必要もあるみたいだし」

 

「そこは私のウイングロードで行けばいいんじゃないかな?あとビルとかもある程度あるから、ティアのアンカーガンでの移動も……」

 

 

 実際に試験が始まるまでの時間を利用してティアナとスバルは自分達が実際に試験を受けた場合の対応方法について話し合う。そしてそうしている間に画面側の準備も完了したようで、先程までは試験官を映し出していた空間モニターの表示が試験開始へのスタートシグナルへと変わった後に二人の少年が屋上を走り出した。

 

 

「まずは屋上を降りてから中間ポイントへの移動……」

 

 

「高低差を効率よく移動できる方法が無いとこの時点でタイムロスすることになるけど……問題ないみたいね」

 

 

 映像ではブルズが屋上の柵の外へと左腕に着けていた円形の(バックラー)を取り外して投げると、それが大型のサーフボードのような形へと形を変えていく様子が映し出されていた。そしてそれを確認した少年達は揃ってそのボードに向けて跳躍し、その上へと着地するとそのまま風に乗るように距離を稼ぎながら降下を行い、地面間近となったところでその形を盾へと戻していた。

 

 

「あのブルズって方のデバイス、あそこまで形を変えれるなんてハンドメイドだとしても結構な技術使ってそうね。だけどてっきりなのまま波乗りみたいに行くと思ったけど、そのまま降りたってことはあの形状での推進力はそこまでなのか、またはある程度の使用限度があって節約の為か……」

 

「次は砲台型が複数設置されてる中間ポイントの通過だね。ここは一体どうするんだろう?」

 

 

 道中のフィールドアスレチック要素のある道を協力して進んでいった二人に対して、試験用砲台型オートスフィアの射程距離に入ったのか、中間ポイントが設定されているビルの方からの魔力弾による射撃が開始される。

 

それに対してブルズが前の方に出ると再度腕のバックラーを前面へと構える。するとそれを合図とするかのようにビルへと走っていく二人の前に四角形の魔法壁が展開されると、そのまま二人を先導するかのように飛んでくる魔力弾を弾きながら同じ速度で前進を始めた。

 

 

「うわぁ……デバイスを盾にしているから防御魔法は得意なのかなって思ったけど、思った以上に固いね」

 

「あれだけの防御魔法が使えるなら、中間ポイントは問題なく通過できそうね」

 

 

 程なくして防御壁によって守られていた二人はそのままビル内へと入っていき、直後に防御魔法を解除したかと思うとそれぞれ盾と籠手から拳を被うように展開されたナックルガード越しに砲台型オートスフィアを殴り壊していった。

 

そして周囲からの妨害がなくなったのを確認した後に中間地点通過を示す旗を模した端末を確保し、試験の合格条件の半分を達成した。

 

 

「これで後は私達と同じ、大型狙撃スフィアの攻略だね」

 

「先の砲台型の攻撃を受けてた防御魔法でもあの狙撃型の攻撃を受け続けるのは難しそうだし、接近できても防御フィールドを突破できる攻撃方法があるのか……そこは相方のコルトって方の見せ場なのかもね」

 

 試験映像の二人も最後を前に再度の打ち合わせをしているのか、小型のモニタを表示した上で何やらやり取りを繰り返す。そして流れを決めたのか互いに頷いた後にビルの階層を登り始めた。

 

 

「ビルを登り始めた……あの時の私達程じゃないとしても、もうそこまで時間に余裕がない中で一体何を?」

 

「上から攻撃しようにもこれを見る限りオートスフィアは立体駐車場の屋上の一つ下だから、そう簡単にはいかない筈だよね?」

 

 

 少ししてある程度の高さまで登った後に狙撃型オートスフィアと直線上となるガラス張りの廊下に到着したところで再度ブルズがバックラーを腕から外し、ボード状態へと形を変えたのを確認してその上へと乗る。

 

そして魔力によってそのボードがある程度の高さまで浮かんだ後、今度は共に上へ乗っていなかったコルトが後方からそのボードを両手でつかむと、ボードを押すように走り出してそのままガラスを突き破った。

 

更に外へと飛び出した後にボードと籠手からそれぞれカートリッジが排出されたかと思うと、ボードが加速してコルトが掴まっている状態のままオートスフィアが配置された立体駐車場の方へと飛んで行く。

 

 

「位置の高さを利用したボードでの突撃をするつもり? だけど今のままだと狙撃されちゃうよ!」

 

 

 二人が接近してきていることは勿論オートスフィアからも感知できたようで、その動作を始めて砲口から高出力の魔力弾を打ち出し、駐車場の柱の間を縫うような軌道で飛翔するボードを打ち落とそうとする。

 

 

「「危ないっ!」」

 

 

 その光景に思わずティアナ達がそろって声を上げてしまうが、直撃すると思った次の瞬間、ボードの軌道が一気に上向きに変わったかと思うとその攻撃を回避し、一気に駐車場のはるか上空までその高度を上げていくと、ちょうど真上まで到達したところでコルトがボードから手をはなした。

 

その後、コルトは今度は真下への降下を始めると同時に目の前で組んだ両手を立体駐車場の方へと向けて魔力を集中させる。

 

 

「あの体制……まさかっ!?」

 

「壁抜き!?」

 

 

 その光景に安堵する暇もなく今からコルトが行おうとしていることに一つの仮定が頭に浮かんだ二人が見逃さないように画面を注視する中、コルトの前面で組まれている両手の前に集中された魔力で大型の杭が形作られる。

 

そしてコルトが勢いよく打ち出す動作をするとその杭はそれに合わせて立体駐車場の屋上へと突き刺さり、そのままコンクリートを貫通してオートスフィアの防御フィールドと衝突した。

 

 

「やったっ!?」

 

「いえ、まだフィールドを抜けてない」

 

 

 その様子にスバルはオートスフィアの撃破を確信したが、直後に行われたティアナの指摘通りオートスフィアはその巨体を大きく揺らすが撃破には至っていなかった。しかし攻撃をしかけた当のコルトもそれは承知の上だったのか、杭の射出で崩れた体制を整えながら今度はその勢いを利用した上空からの拳の一撃をオートスフィアの頭部へと叩き込む。

 

だがその攻撃もオートスフィアの防御フィールドによって頭部に届く直前で受け止められてしまい、次はこちらの番と主張するかのようにオートスフィアの頭部の小型発射口がコルトの方へと向けられるが、直後コルトの右腕側のナックルガードが左右に割れると同時にその形状を僅かに変えたかと思うとオートスフィア本体を含めて防御フィールドが一度大きく波打つかのように振動する。

 

そしてそれを確認したコルトが拳を引いて距離を取ると、全体をボロボロにしたオートスフィアは数回火花を散らした後に爆散し、直後コルトは上空から遅れて降下してきたブルズと合流してそのまま指定ポイントへと向かっていった。

 

 

「ここまで正直目立ったことしてなかったけど、相方が防御に長けてた分攻撃力に長けてたってことね……」

 

「そうだね……しかも最後のって私と同じ……」

 

「すいません、大変お待たせしてしまいました。思った以上に通信が長引いてしまって……」

 

 

 最後に行われた攻防について話していたティアナとスバルのいる席に向けて、申し訳なさそうな表情のアルクが歩み寄ってくる。その言葉にティアナが時計で時間を確認してみると、アルクの言う通りそれなりの時間がたっていた。

 

 

「あっいえ、大丈夫ですよ。こちらこそ展開いただけた試験映像、大変参考になりました」

 

「はい、本当にすごくて時間が経つのも忘れて集中しちゃってました」

 

「それならよかったです。それでは改めて移動の方を。先程八神二佐からショートメールで連絡があって、無事お祝いをしてあげることができそうとのですので、楽しみにしていてください」

 

「「あ、ありがとうございます!」」

 

 

 アルクの言葉に感謝の言葉を返しながらスバルとティアナの二人は立ち上がり敬礼のポーズをとった。

 

そしてその後車へ向かう途中、実は観戦中のやり取りが周囲に聞こえてしまっていたことを説明されると今度はそろって恥ずかしさから顔を赤くしていた。




話の展開上、戦闘描写を第三者視点且つ当人たちの台詞なしで書くことになりましたが……思った以上に難産でした。

今回の話について、テストを兼ねてアンケートを用意したので良ければ回答をお願いしたく思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話-別視点 実施、ランクB試験

遅くなり申し訳ございません。
アンケート結果を元に書いた、スバル達の見た記録の本人視点となります。

アンケートに答えていただいた方にはこの場でお礼申し上げます。

しかし久しぶりの戦闘描写……やはり難しいですね。


「以上で今回の試験についての説明を終了したいと思いますが、何か確認しておきたいことはありますか?」

 

「えっと……」

 

 

 試験官さんからの最終確認に対して今回の試験内容についてもう一度思い出してみる。

 

今回僕とブルズが受ける陸戦ランクB昇格試験は基本複数の試験内容が用意されていて、その中の一つがランダムに選ばれる。

 

そして今回はその中から制限時間内での指定ポイントへの到着が条件となる試験が選ばれていて、その道中に用意されている妨害要素を突破しつつ中間ポイントを通過することと、それ以降は指定された一定の区域をつうかして最終ポイントへと向かうことが必要条件となっていた。

 

 またこういった試験の時に気になる周囲への被害への考慮については今回の試験については特に大きな減点にはならないということも事前の説明に含まれていたため、特に改めての確認は必要なさそうだった。

 

 

「はい、僕は問題ありません」

 

「同じく、問題ないっす。ここまで説明ありがとうございました」

 

 

 僕に続く形で、隣に立つブルズからも質問についての答えが返る。そんな僕達の回答に試験官さんは満足そうにうなずいてから表情を引き締めた。

 

 

「はい、それではこの通信が切れると同時にカウントダウンが始まります。お二人とも、無理のない範囲で頑張ってくださいね」

 

 

「「はいっ!」」

 

 

 返事を合図とするかのように、試験官さんを映していた空間モニターの表示がスタートシグナルへと変わった。

 

 それに合わせて次の合図に素早く反応できるよう身構え、気持ちを落ち着かせるために一度大きく息をはく。

 

 

「3……2……1……」

 

「「GO!」」

 

 

 1つずつ消えていった3つのシグナルが赤から緑へと色を変えて再度表示されたのを確認して、ブルズとそろって走り出す。

 

今回の試験のスタート位置はビルの屋上だけど、中間ポイントへ向かうには一度ビルから降りてかつてはこの廃棄都市地区でも大通りと言えただろう場所を進んでいく必要がある。

 

 そのため、本来なら一度ビルの中へと入って階段を下りていくことになるけど、それでは開始早々時間をロスする形となってしまう。

 

 だから僕達が進むのは入り口がある背後じゃなくてそのまま柵がある正面。

 

 

「コルト、当初の手筈通り正面に行く……落ちるなよ?」

 

「了解っ!」

 

 

 ブルズが手に持ったバックラー型のデバイスを柵の向こう側へと投げると、その形を短距離移動用の大型ボード形態へとその形状を変化させる。それをしっかりと確認した後に僕達も屋上からそのボードへと飛び降り、そのままバランス制御はブルズに任せて最初のルートを空中から風を切って進んでいく。

 

ブルズのデバイスは一部技術協力を受けてはいるけど基本は自作のもので、陸士として苦手としている空中移動をバックラーをこのボード形態へと切り替える事で短時間だけなら最大二人乗りの状態でおこなえるようにしている。

 

 そのため、このまま中間ポイントまで直接飛んでいくことも選択肢としてはあったけど、事前の相談でこういった移動系の試験となった際には飛行用の魔力を後半に温存するために最低限のものにしておくことを決めてあって、その高度はゆっくりとだけど下がってきていた。

 

ここから中間ポイントまでの道筋は、ここが廃棄地区となっているのと今回のような試験に使うようになっているためか、舗装されていた道路は所々大きな穴が開いていたり瓦礫が積まれた状態になっていて、素直に走るだけでは最短距離を進むことは出来ないのが分かる。だけど--

 

 

「ブルズ、降りてからまずは僕が先に行くよ。進むルートは……」

 

「最短距離を真っすぐ正面突破だな。これくらいなら問題ない!」

 

 

 ボードが地面へと着地する直前でボードから降りてブルズに対して先行する形でルートを進み始める。

 

途中で大きな瓦礫を乗り越える必要が出来た際にはブルズをリフトして先に登ってもらい、僕は上から引き揚げてもらう形で進む。

 

こういった地形を進んでいくことは、普段の訓練や現場で経験していることもあってそこまで苦に感じることもなく、障害物のないストレートに入ったタイミングでモニターを表示させて残り時間を確認するが、目立ったロスをしてないこともあってそれなりのタイムで進めていた。

 

 

「まもなく中間ポイントだ。ここまでは特に妨害とかはなかったが……」

 

「ここからがオートスフィアからの妨害ポイント。気を引き締めないとね」

 

Check the enemy reaction. Will be attacked.(敵性反応を確認。攻撃されます)

 

 

右腕側の籠手に埋め込まれる形となっている結晶部分を点滅させながら相棒(ワイルドソウル)が警告の言葉を発した直後、正面に建っている中間ポイントとして設定されているビルの一階部分から複数の魔力弾がこちらへと飛んでくる。

 

僕達は咄嗟にその攻撃を回避したけど、今まで妨害がなかった分と言うかのように断続的にこちらへと魔力弾が発射されてくる。

 

 

「コルト、前衛交代だ。ここは壁役の出番っ!」

 

 

 何回か攻撃を回避した後に並びをブルズが前に出る形へと変える。そして前に出たブルズは正面にバックラーを構えると、そこを起点に前方へと魔力壁を展開した。

 

フォースシールド――ブルズが得意としている防御魔法のバリエーションの一つで、バックラーを始点として前方に攻撃を弾くことに特化した魔力壁を展開することでオートスフィアからの攻撃を弾くことが出来るのを確認した上で僕達はその壁から身体を出さないようにしながらビルへの道を走り続ける。

 

 

「中間ポイント付近のスキャン完了した。砲台型が中間ポイントから見て左右と手前に各1つずつ!」

 

 

 ビルへ向かう足を止めずにブルズから送られてきたビル内部のスキャン結果をデバイスで展開可能な小型モニタに映し出す。

 

それによるとビルの一階は入り口からは広めのホールになっていて、その中央にある中間ポイントを示すために旗を表示している端末の周囲を三台の砲台型オートスフィアで固めているようだった。

 

 

「この配置なら下手に守り固めていくより、勢い任せて突っ込んだ方がいい筈だ。コルト、なんとか俺で左やるから、残り二ヶ所は任せた!」

 

 

「了解! だけどブルズ、無茶はダメだからね!」

 

 

 ビルの中へと飛び込んだタイミングでブルズが魔力壁の展開を止めて左側のオートスフィアの方に進路を変えるのに合わせて僕も右側に配置されたオートスフィアへと進路を変える。

 

 

「まずは一つ!」

 

『Knuckle guard installed.』

 

 僕の声に反応するようにの、両手に装着している籠手の装甲の一部が駆動して拳の前にナックルガードを形成される。

 

そしてそのまま正面のオートスフィアめがけて左手を振り被り、走る勢いのままその砲口を正面から殴りつけると、オートスフィアに共通して展開されている防御フィールドによって一瞬抵抗を感じたけど、そのまま破壊することに成功する。

 

 

Sense energy from the target!(ターゲットからエネルギーを感知)

 

「カートリッジ!」

 

log!(了解)

 

 

 踏み込んだ足をそのまま軸足としてこちらを狙ってきている奥のオートスフィアの方へと体を向けると同時に、デバイス内に装填されている魔力ブーストを目的とした圧縮魔力が込められているカートリッジを一つロードする。

 

それによって瞬間的に体内を駆けめぐった魔力に対して、僕は即座に右腕と脚にそれぞれ流し込むように流れをイメージする。

 

 

『Boost Dash!』

 

 

 相棒の補助詠唱で発動した魔力循環と放出による身体強化と短距離移動効果を持つ補助魔法の助けを受けた結果、一回の踏み込みでこちらへと攻撃しようとしていたオートスフィアの面前まで一気に距離を詰め、今度は右手の拳でオートスフィアを捉える。

 

 ブーストされた一撃はさっきよりも簡単にオートスフィアの防御フィールドを貫通したようで、その衝撃でオートスフィアは爆発前に中間ポイントの旗を掠めるように吹き飛んだ後に壁へと衝突していた。

 

 

「オートスフィア、二基無力化に成功……ブルズの方はーー「こんのぉっ!」

 

 

 残り一基のオートスフィアの方に視線を向けると、その射撃を振り上げるような形でバックラーで弾いたブルズがそのバックラーを思いっきり振り下ろしてスクラップへと変えていた。

 

 

「っつ~っ!」

 

 

ただし、その衝撃に手が痺れてしまったのか、バックラーを元の場所に装着しなおすとその痺れを払うように右手をブンフンと振った。

 

 

「だ、大丈夫?」

 

「お、おう。大丈夫だ……まぁとりあえずこれで無事中間ポイントに到着だ。幸い時間にはまだ余裕がある、一度情報整理するぞ」

 

「だね」

 

 

 中間ポイントの端末を拾い上げた後にブルズの表示するモニターを見るために側へと近寄る。そのモニターには周辺の地図と試験の進路を重ねたものが表示されていて、更にその道中に大きな魔力反応を示す円形の反応が点滅していた。

 

 

「ここの大型反応はおそらく、悪い意味で有名な陸戦B級試験名物の大型狙撃スフィアだ。この複合地図で見る限り、このビルの先にある立体駐車場に陣取ってるみたいだな」

 

「本当は射程外を通るルートで迂回したほうが確実なんだろうけど……確か今回の試験では、中間ポイントを通過した後のルートには一定範囲外に出ちゃいけないルールがあるんだよね?」

 

 

 出発前の試験官さんの説明を思い出しながら確認の言葉を口にすると、ブルズは頷いて再度モニタの操作を行る。すると表示されていた地図に新たに色違いの区域が表示され、それはこのビルから立体駐車場の周辺を通り、最終ポイントまで繋がっていた。

 

 

「これが中間ポイント以降の移動指定区域だ。これ見る限り、スフィアからは射程範囲外には絶対逃がさないぞって意思を感じる……全くいやらしい設定だ」

 

 

 過去に一度、同型のスフィアが使用された試験映像を見た際の記憶を掘り返して思い出してみる限り、あの高威力の砲撃はブルズでも防御するのは困難な筈。

 

だけど、モニターを見ながら説明するブルズの表情からはその攻略方法に悩んでいるような様子は見えず、僕にはむしろ絶対の自信があるように見えた。

 

 

「そんなこと言ってるけどさ、多分ブルズってこのスフィアの攻略法について案あるんだよね? 顔に出てるよ?」

 

「まぁな。幸い、区域指定については高度について指定はされていなかった。だから……」

 

 

 ブルズの説明する大型狙撃スフィアの攻略方法を聞いていくと、その内容につい笑みが浮かんでしまう。最も、その笑みは面白いからじゃなくて、思っていたより単純かつ力押しな内容に清々しさから来たものだった。

 

 

「ブルズ、地味にそれ僕に苦労しろって言ってるよね? 何気にひどくない?」

 

「安心しろ。俺はあくまでお前ならできるって分かってるからこの提案をしたんだ。ちと危ない橋を渡ることになるが、やれるよな?」

 

「もう。そう言われちゃったらやるしかないよね。いざという時のフォローは頼んだよ?」

 

「うっし、決定だ。それじゃあ改めて……」

 

「「Go!」」

 

 

 再度声をそろえて再スタートの言葉を口にした後に、再び僕達は走り始め、先の作戦の為の行動を始める。今度僕達が目指すのはこのビルの階段――幸い見えやすい場所にあったそれを僕達二人は急ぎ足で駆け上がっていく。

 

 そして少し離れたところに建っている立体駐車場の屋上から少し上の階まで上がってきたところで階段を離れ、その駐車場から直線位置上となる広めの廊下まで来たところで一度足を止める。

 

 

「それじゃあ手筈通り、スタートダッシュから頼むからな」

 

 

 写真の構図を決めるように指で形作ったフレームからガラス張りの先から見える立体駐車場を覗き込んだ後にブルズが再度装着していたバックラーを腕から取り外してボード形態へと形を変える。

 

そしてそれにブルズが飛び乗り、ゆっくりと高度を上げて僕の胸元あたりまで浮かび上がったところで僕がその後ろ部分を板を掴むようにして保持すると、一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 

 

「行くよ、ブルズ!」

 

「おう、保護は俺に任せてドンと行け!」

 

 

 ブルズの返事を合図に僕はブルズの乗ったボードを押しながら走り始め、そのまま廊下の先に張られたガラスを突き破ってビルの外へと飛び出していく。

 

ガラスを突き破った瞬間、大きな破裂音と共に僕らの周りに大量のガラスの破片が飛び散っていくが、それらは全てブルズの防御魔法によって僕達には突き刺さることなく重力に引かれて地面へと落下していく。

 

 

「「カートリッジ・ロード!」」

 

 

 それに対して僕達二人は同時にデバイスにカートリッジをロードするとブルズはそれをボードの下方からボードへの浮力へと変換し、更に僕は腕からボードに向けて流すことでボードの後ろに僕がぶら下がる形になりながらもあまり高度を落とすことなく先にある立体駐車場に向けて飛行を始める。

 

 

『|High energy reaction. Estimated timing is 8 seconds later.《高エネルギー反応。推定タイミングは8秒後。》』

 

「来るぞコルト! 下手なことならないよう、力込めとけよ!」

 

「分かってる! ブルズもタイミング宜しくね!」

 

 

 立体駐車場への飛行を続けて警告通り8秒が経とうとしたタイミングで、立体駐車場の方から曲線を描きながら先の砲台型のと比べて明らかに高火力だとわかる魔力弾が僕達の方へと飛んでくる。その射撃は僕が想像していたよりもずっと早く、一気に迫ってくるように感じた。

 

 

「ブ、ブルズ!?」

 

「上がれええぇぇぇぇっ!」

 

 

 あと少しで命中しそうなタイミングでブルズがボードのノーズへと右手をかけると、再度のカートリッジロードと同時に一気にボードの軌道を上へと向けて一気にその高度を上げることでギリギリのタイミングで魔力弾を回避することに成功する。

 

こうなる事は予め分かっていたことだけど、ボードの後ろにぶら下がっている僕からすると上昇する瞬間に急制動の衝撃に手を外しかけたり、本当に間一髪での回避となった事に胸の鼓動が激しくなったのを感じた。

 

 

「あ、危なかった……」

 

「悪い、思ってたより弾速が早かったから少し強引になった……そんな調子で悪いけど、そろそろ最後の仕上げだ」

 

 

 ブルズの言葉に視線を下へと向けると、既にボードは先の話し合いで目標地点としていた立体駐車場の直上へと到着していた。

 

大型狙撃スフィアの対策としてあの型のスフィアはその巨体故に主兵装を真上へと向けることが出来ず、それ故に真上から防御壁を抜ける攻撃を仕掛けることが出来ればさほど抵抗されることなく撃破できるということだった。

 

 もちろんそれは設置する管理局の試験官も知っていることで、大体の試験では今回のように厚い壁や天井でその欠点をフォローしていることから下級……特に陸戦魔導士には突破が難しいとされている。だけどこの条件下でなら――

 

 

「ここからはお前の独壇場だ。一発キツイところかましてやれ!」

 

「了解! 行ってくる!」

 

 

 ブルズが僕の方に向けてサムズアップしている事への返事と一度大きくうなずく。その後、まだ上昇を続けるボードから両手を離したことで僕の身体は今までとは逆に、立体駐車場へ向けて降下を始める。

 

 

『|Attitude control is in progress. Maintain the status quo and continue the descent.《姿勢制御を実施中。現状を維持し、降下を継続》』

 

「いくよ、中距離攻撃バリエーションの一つ!」

 

『Cartridge load!』

 

 

 一度空中で一回転した後、両手を体の前で組み合わせて立体駐車場の屋上――正しくはその先にいる筈の大型狙撃スフィアへと向ける。

 

それに合わせるように籠手から魔力を解放したカートリッジが排出されると、少しの間の後に僕の両手の周りに明るい緑色に輝く魔力が集まり始め。そしてその魔力は大きな杭を形成しドリルのように回転を始めた。

 

 

「いっけぇっ! ハウリング・スマッシャーッ!」

 

 

 詠唱と同時に撃ち出した杭は勢いよく屋上へと突き刺さり、そのまま周囲にコンクリートの粉砕音を響かせながら下の階へと貫通し、その先に座していた大型スフィアへと命中した。その衝撃で大型スフィアはその名に違わない大きな球体のボディを激しく揺らしていたが……

 

 

《油断するなコルト! まだソイツは倒れてない!》

 

 

 ブルズからの念話に降下を続けながらスフィアのことを注視すると、ブルズの言う通り僕の攻撃が命中した部分については大きな凹みを確認できたけど、想定以上の衝撃を防御フィールドに阻まれたのかまだ撃破には至らず頭部のセンサーが点滅しているのが確認できた。

 

 

「それならこれで!」

 

 

 すぐに体勢を可能な限り整えつつ右手を振り被り、その点滅を続ける頭部に向けて右の拳を降下の勢いを乗せるように振り下ろす。

 

だがそれに対して大型スフィアは再度防御フィールドを展開したのか、僕の拳はスフィアの頭部へと届く直前で見えない壁のようなものに受け止められてしまった。しかも先の攻撃の衝撃から立ち直ってきているのか、意味ありげにセンサーを何度か点滅させた後に小型の銃口を僕の方へと向けてくる。

 

 

――ここまで来て負ける訳にはいかない!

 

 

「ソウル、ナックルガード展開!」

 

『Break mode!』

 

 

 再度籠手の装甲が駆動し、先程までナックルガードとなっていた装甲が左右に展開して拳の正面から横を覆う形へと形を変える。

 

 

『Vibration crushing!』

 

「砕けろぉっ!」

 

 

 再度右手の拳に魔力を集中させた上で残っていたカートリッジからも上乗せとして魔力を流し込むと、直後に大きな衝撃音と同時に目の前の巨体が大きくボディを振動させる。

 

そしてほぼゼロ距離からの衝撃はさすがに耐えきることができなかったようで、その全身にできた無数のひび割れから回路を覗かせる様になった大型スフィアの頭部のセンサーから光が消える。

 

 

Checked the goal to stop working. Leave.(目標の機能停止を確認。離脱を。)

 

 

 拳を引き、一度地面へと着地した後に距離をとると、大型スフィアは僕の引いた側とは逆の方に半回転程転がった後に全身から火花を散らして爆散した。

 

 

「な、何とかなった……ふぅ」

 

 

 周囲から敵意がなくなったことを確認したことで緊張の糸が途切れてしまい、全身からにじみ出てきた疲労感からつい大きく息をはいてその場へと座り込んでしまう。

そして視線を上空へと向けると、視線の先にこちらへと降りてくるボードが見えた。

 

 

「やったなコルト。後はゴールまで向かうだけだ」

 

「っと、そうだった。気を抜くのはまだ早い、休むのはゴールして試験をゴールしてからじゃないとね」

 

The remaining time of the exam is 5 minutes.(試験の残り時間は5分です)

 

 

 まだ休んでいたいと主張を続ける身体に再度活を入れるよう、ふっと短く息をはいた後に立ち上がる。

 

そして僕に合わせる為か駐車場へと降りてきたブルズと共にゴール地点への道を急いだ。

 

 

「はい、制限時間内での指定ポイントへの到着を確認しました。これから試験の詳細を確認したうえで結果を発表しますが、きっと良い結果をお伝えできると思いますよ」

 

 

 結果、僕達は無事制限時間内に指定ポイントへと到着することに成功し、いつの間にか試験会場に来ていた試験官さんに笑顔で出迎えられた。

 

その様子に試験結果に対して好感触を抱きながら試験結果の発表を待つことになった僕達だったけど、その後試験官さんと共に現れたとある人物からのスカウトに試験合格の喜び以上の驚きを受けることになった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話 迷子探しの中で

「ん~っ! やっと着いた~っ!」

 

「もう、スバル。恥ずかしいからそんなに大きな声を出すのは止めなさいよ」

 

 移動手段として用いたバスから降りた後、ぐっと背筋を伸ばしながら大きな声を発することで周囲から多少なりとも注目されることになったスバルに対してティアナが注意の言葉を口にする。

 

ランクB昇格試験から数日が経ち、はやてが設立する機動六課への配属を間近に控え部隊長から最後の準備時間として本来のシフトは別に二日間の休暇をもらう事となったスバルとティアナの二人は、初日に新たな生活の場となる宿舎への引っ越しを済まし、息抜きを兼ねた最後の買い出しを目的として中央地区のクラナガン近くにある商業地区へと訪れていた。

 

 今日は世間一般的にも休日であるということもあって商業地区は賑わいを見せており、周囲を見回せば結構な数の人や車が周囲を行き来しているのが見える。そんな街の中を二人は色々な物へと視線を奪われながら進むスバルが結果的に先導する形で歩き始めた。

 

そしていくつか店舗を回った後一度休憩を取ろうという話になり、それに適したスペースが確保されている大型の広場の方へと足を向けていた。

 

 

「結構お店を回ったけど、もうティアは欲しいものは全部買えた?」

 

「そうね。一応予定してたものは買えたと思う。やっぱり一度実際の場所を見てからじゃないと分から「リカーっ! どこにいるのーっ!」

 

 

 スバルの問いかけに対して予め用意していたリストを見ながら話していたティアナだったが、少し離れたところで周囲を見回しながら歩く女性の大きな声が耳に入ってきたことでそれを中断する。

 

先程の大声と一見して分かり焦った様子からある程度の予測ができた二人は一度互いの顔を見合わせて意見を一致させた後にその女性の方へと走り寄った。

 

 

「あの、急に話しかけてすいません」

 

「さっき誰かに呼び掛けているような声を出していたと思うんですけど、もしかしてお子さんが迷子に?」

 

「そ、そうなんです。さっきまでは一緒にいたんですけど、遠くのところで何かしら大きな音が鳴った際に娘が手に持っていたお菓子を落としてしまったので、それの処理をしていたらいつの間にかリカがどこかに行ってしまったのか何処にもいなくて……初めて来た場所で一瞬でも目を離してしまった私が悪いんです……」

 

 

 その時の自分の行動を思い出して後悔しているのか、落ち込んだ様子の女性を心配そうに見ていたスバルは少し考えるような仕草を見せた後にティアナの方へと視線を向ける。

 

少ししてその視線に気がついたティアナはすぐにその視線の意味を察したのか、首を縦に振る。そしてそれを確認したスバルは声こそ発しなかったが「ありがと」を口を動かした後に女性の方へと向き直って改めて口を開いた。

 

 

「リカちゃんのお母さん、良ければ私達にもリカちゃんを探すのを手伝わせてください。そうすればきっとすぐにリカちゃんを見つけることが出来ると思います」

 

「ここに来たのは初めてっておっしゃっていましたね? 一応この広場、大きいだけあって管理会社の待機所があるんです。もしかするとそこに行けば何かしらわかるかもしれませんし、宜しければ私が案内します」

 

「……本当ですか! とても助かります、本当に、本当にありがとうございます!」

 

 

どうするべきか悩んでいたところでの助けとなったスバル達の言葉に感極まってしまったのか、少し間を置いた後に女性は目元に涙を見せながら感謝の言葉を口にした。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「ちょっとだけ煩くしちゃったけど、あれで今日の目的は達成っと」

 

 

 数日前にクラナガンからの道を歩いていた少年が、その日と同じようにパーカーを深めに被りながら多目的広場の一角をゆっくりと歩いていた。

 

ただ、先日と異なるのはそのパーカーが軽く埃をかぶっているのか暗めの色ながらも白く見える部分がある事と、頬には小さくだが煤のような黒いものがついている事だった。

 

 

「この後は特に急ぐ用事も無いし、少しぐらいは寄り道しても……ん?」

 

「うえぇぇぇん! お母さん、どこぉぉぉっ!」

 

 

 パタパタと軽くパーカーの頭頂部を払いながら少年が周囲を見渡していると、少し離れた場所に大粒の涙を流しながら泣いている一人の女の子の姿を見つけた。

 

動きやすそうながらも少し着飾ったかのように見える服装の女の子はその場に一人座り込んで泣いていて、先の言葉と状況からおそらく母親と逸れてしまったのであろうことが容易に想像することが出来た。

 

 

「………………」

 

 

 今少年と女の子が居るところは広場の中でも人が来ることが少ない箇所に位置しており、こうして女の子が泣いていても周囲に人の気配を感じる事は出来ず、少年は少しの間その場に佇んでいたが口元に僅かに笑みを浮かべた後にゆっくりと女の子の方へと歩み寄っていった。

 

そして女の子の目の前まで到着すると同じように腰を下ろし、極力女の子が自分のことを見上げる必要がないように目線を合わせた後に声をかけた。

 

 

「急に話しかけてごめんね? お母さんのこと呼んでたけど、もしかしてお母さんと逸れちゃったのかな?」

 

「ふぇ?」

 

 

 少年に声をかけられた女の子は泣くのを止めて視線を少年の方へと向ける。ただ反応こそしたが、女の子からすると初対面の人から突然声をかけられたせいか不安そうな表情でどうするべきか悩むような仕草を見せる。

 

だが少しして少なくともその場から離れるという選択肢は取らなかったようで、少年の問いかけにゆっくりと首を縦にふった。

 

 

「あのね、お母さんとここまで一緒に来たんだけど、途中でリカのお菓子がこぼれちゃってお母さんがそれを見てリカの手を放しちゃったの。だけどリカ、歩くのやめないでずっと歩いちゃってて、気がつくとお母さんと離れちゃった……」

 

「そっか……多分、落ちたお菓子を片付けようとしてたのかな? そうなるとこの後どうするべきか……安易に管理局に通報する訳にもいかないし……」

 

 

 女の子の言葉からこのような状況になった理由に何となく目星をつけた少年は迷子となっているこの女の子をどうするべきか考えるようにポリポリと頭を人差し指で軽くかき始める。

 

こういう時、本来ならすぐにこういった広いところで迷子を見つけた際には管理局に連絡を入れて保護してもらうことが一番なのは少年も分かっていたが、その行動は選択肢から外していた。

 

 そうなると妥当そうなのはこの女の子を連れて母親を探すことだったが、それは下手な動き方をしてしまうとその母親とすれ違いになってしまい、本来見つけてもらえる筈だった機会を逃してしまった結果会えない可能性も生まれてきてしまう。

 

 

「……それじゃあ誰かがリカちゃんを見つけてくれるまで、お兄ちゃんが一緒に居てあげるね。そうすれば少しは寂しくなるなるかな?」

 

 

 考えた結果、少年はこの場に留まることを選択して女の子へこのまま一緒に居てよいか確認の言葉をかける。その問いかけに女の子は先程と同じように少し悩むような仕草を見せた後に先程と同じようにうなずいた。

 

 

「……うん、お兄ちゃんが一緒だったら、リカきっと寂しくないよ」

 

「そっか、それなら良かった……お母さん、早く見つけてくれると良いね」

 

 

 女の子から一緒に居ることに許可をもらえた少年はとりあえずこれからの事が決まったことに満足したのか、一度安堵の表情を見せた後に女の子の頭をあやすように何度か優しくなではじめた。

 

その優しい手つきに最初は驚きからか少し強張っていた女の子だったが、じきに警戒心を解いて嬉しそうに目を細めるようになっていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

「リカちゃーん! 何処にいるのー! 聞こえたら返事してー!」

 

 

 待機場の方へと向かうティアナとリカの母親と別行動をとって先行してリカを探すことにしたスバルは、一人声を張りながらその姿を見つけるべく周囲を見回しながら走っていた。途中で人とすれ違った際にはリカのことを見かけなかったか母親から預かったリカの写真を見せながら聞き込みも行っていたが、運の悪いことに人通りの多い場所には行っていないのか、特に有力な情報を得ることが出来ずにいたため、広い敷地内でも人通りが少なそうな範囲まで足を運んでいた。

 

 

「こんなに探してもいないなんて……こういう時、広域用の探知魔法とか使えれば良いんだけど私そういうの苦手なんだよね。こんな事ならティアにコツとか教えてもらうんだったよ……ん?」

 

 

 訓練学校や部隊での訓練で学ぶ機会のあった探知魔法だったが、あいにくスバルはそこまで得意としてなく現状で有効に活用できるレベルではなかった。

 

その為、現在進行形で行っている地道な捜索になってしまっていることに一度足を止めて後悔の言葉を口にしたスバルだったが、僅かに乱れていた呼吸が整ってきたところで今居る場所から更に奥の方から僅かに子供が笑うような声が聞こえてきたように感じた。

 

 

「もしかしてこの声っ!」

 

 

 こういった人が来ることが少ない筈の場所で子供の声が聞こえてきたことに一つの希望を感じたスバルは、すぐにその声が聞こえてきた方向へと再度走り、少し開けた場所へと到着すると同時に周囲を見回すことでちょうどスバルの居る位置からは少し木の陰に隠れるようになっていたベンチに座るリカだと思われる女の子の姿を見つけることが出来た。

 

また更に目を凝らして見てみると、ベンチの前にはパーカーを来た誰かが立っていて何かしらジャグリングのような事をしてベンチに座る女の子の興味を引いているようで、スバルは万が一その女の子がリカでない可能性を考えて逸る気持ちを抑えながらその二人の方へと歩み寄っていった。

 

 

「あの、すいません。もしかしてその女の子は……っ!?」

 

 

 そしてベンチの側まで歩いてきたところで、スバルはまずパーカーを着た人物に向けて女の子が自分の探している子ではないか確認の言葉を口にしようとしたが、それは近づいたことで視認できるようになったその手に持ったジャグリングに使用していた物を認識した際の驚きで口が動かなくなり、言い切られることがなかった。

 

 

「え? お姉ちゃん、リカのことを知ってるの?」

 

「……そっか。無事お迎えが来たんだね。それじゃあリカちゃん、サヨナラだ」

 

 

 彼女の立場からすると初対面であるスバルから自分の名前が出てきた事に不思議そうな反応を見せる女の子ーーリカに対して、状況を察したのか対面に立っていた誰かは近くに来たことでスバルからも見えるようになった口元に軽く笑みを浮かべた後にリカへと小さく手を降りながら振り替えることなく後退り始める。

 

それに対して先程の驚きからまるで人形のように動きを止めていたスバルが気がつき、改めて口を開くがその言葉は先の物は異なるものになっていた。

 

 

「あっ、あの! ちょっと待って! 私、貴方に聞きたいことが!」

 

「申し訳ないけど、多分僕は君の問いかけに答えることが出来ない」

 

 

 スバルの問いかけの言葉に回答を返すつもりがないことを示したパーカーの少年はその足を止め、ジャグリングに使用していた銀色に光る球体から一つを改めて手に取る。

 

 

「それじゃあリカちゃんの後の事は君に任せるよ。じゃあね」

 

 

 そしてそれを強く握りしめたと思うと、少年の足元に銀色の魔方陣が描かれたのを見たスバルは改めて呼び止めようと動いたが、それより先に少年の姿はその場から消えてしまっていた。




なかなか六課設立までたどり着かないですが、ペースとしては六課が設立されれば多少は早くなるかもです。

また、今後の活動の参考にしたくアンケートを用意させていただきました。良ければ回答いただけると幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。