血界戦線〜GlaciesEdge〜 (蒼穹の命(ミコト))
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異界都市の氷血刃

最初に言っておく、これは衝動的に書いた作品だ!!



 ヘルサレムズ・ロット

 元・紐育(ニューヨーク)

 一夜にして崩落・再構成され、異次元の租界となったこの都市は今、異界を臨む境界点でとなり、地球上最も剣呑な危険地帯となった。

 霧烟る街に蠢くは、奇怪生物・神秘現象・魔道犯罪・超常科学……一歩間違えれば人界は瞬く間に浸食され、不可逆の混沌へと呑まれていってしまう。

 そんな街で世界の均衡を守る為日夜暗躍するのは超人秘密結社『ライブラ』。

 これはその構成員たちの戦いと日常の記録である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一言で表すなら、それは異常だった。

 重力に逆らい大量の瓦礫が下から上へと上昇したり、さらにその上ではビル群が観覧車のように回り続けているものが複数浮かんでおり、加えて宙に浮かんでいない大量の瓦礫の山があちこちで大量に築かれている街中には堕落王の暇つぶしの副産物のグールの群れが闊歩しており、さながら悪夢のような遊園地であった。そんな悪夢の真っ只中で迷わずまっすぐに向かって走っている少年──レオナルド・ウォッチがいた。

 レオが目前に存在するグールの群れに眼を向けて開いた瞬間、両眼の幾何学模様──神々の義眼が蒼く輝いた。

 その瞬間、レオに向かってくるグールたちの視界にも幾何学模様が輝いた。それはレオの眼によってこの場にいるグールたちの視界は、自らの支配下に置かれた証拠である。後はただ一言放つのみ。

 

 

視界混交(シャッフル)!!

 

 

 レオが言い放つと同時にグールたちの視界がめちゃくちゃに入れ替えられた。視覚に頼る以上、見える景色と意識と感覚、それらをすべて乱雑に混ぜ返されてしまえば、まともに立っていられるはずもなく、グールたちは一斉にバタバタと倒れていく。

 

「悪いけど急いでるんだ、通らせてもらうよ!」

 

 レオは倒れてるグールたちにはもう目もくれず全速力でこの場を走りきろうしたその時、

 

 

「ブモァァァァ!!」

 

「なっ!?」

 

 

 突如レオの真上から、倒れてるのとは別のグールが襲い掛かってきた。

 

 

「(やばい……!)」

 

 

 このままでは死体の仲間入りになる。少年は再び両眼を輝かせて視界を奪おうするが、僅か1、2秒程足りない。だが

 

 

「それでも……僕は! まだ!!」

 

「伏せて先輩(せんぱい)

 

 

 あきらめないレオに聞き覚えのある声が耳に入った瞬間、迷わず頭を抱えながらその場に伏せる。今そんなことをすれば即座に少年は頭からガブリと喰われてしまうがそんな事は起きないと確信していた。何故なら、

 

 

エスメラルダ式血凍道(しきけっとうどう)

絶対零度の剣(エスパーダデルセロアブソルート)

 

 

 そんな不安を吹き飛ばしてくれる、頼もしい後輩が助けてくれるのだから。

 襲い掛かろうとしたグールは、空中で横腹辺りに強烈な打撃を叩き込まれるのと同時に、身体の内側から青白い氷が生えるように出現し、瞬く間に氷のオブジェと化しながら落下してそのまま地面に激突してあっけなく砕け散った。

 グールだったモノを踏み砕きながら、癖っ毛のある黒髪に第一ボタンを開けた白Yシャツに黒ジャケットを腰に巻きつけている少年──神薙夕夜(かんなぎゆうや)は、まだしゃがんでいるレオに手を差し伸べる。

 

 

「俺、参上! ってね。ケガはない、先輩?」

 

「うん、おかげさまで。ありがとう夕夜君」

 

 

 差し伸べられた手をとって立ち上がりながらレオは助けてくれた後輩に感謝の言葉を告げた。

 

 

「お礼を言うのは全部終わった後で! ほら、ホワイトさん待ってるよ。大切な人でかつそれが女の人だったら尚更急がなきゃですよ」

 

「それは、チェインさんとの経験談?」

 

「ちょっ、こんな時に茶化さないでくださいよ先輩……てか今の本人に聞かれてたら問答無用で心臓発作の刑待ったなしじゃないですかねー」

 

「うわ、それはマジで勘弁! 心筋を直に撫でられる感触なんて感じたくない知りたくない味わいたくない!」

 

「デスヨネー。と、雑談してる場合じゃなかったですね、ほら」

 

 

 夕夜は後ろを振り返りながら言い、続いてレオも視線を同じ方向へと向けると先程とは別のグールの群れがこちらに向かっていた。

 

 

「あの団体様のお相手は俺に任せて、先に行ってください! ……うーん、ここは俺に任せて的なセリフ一度言って見たかったんですよねー」

 

「最後の一言がなかったら素直に感動してたよ僕」

 

「まあまあ、とにかくこの一件終わったらダイナーで打ち上げしましょう! もちろんライブラメンバーだけじゃなくてブラックさんたちも一緒に」

 

「それはいいね。なら、それを少しでも早く実現できるようにしなくちゃね……いってくる!!」

 

「うん。行ってらっしゃい、先輩」

 

 

 そう言ってレオは迷いを感じぬ足取りで行くべき場所へと走っていった。

 そんなレオの背中を見ながら夕夜は小さく呟いた。

 

 

「うーん、前から思ってたけど真っ直ぐ向かって進んでるところやっぱり似てるなあ、だから先輩って呼びたくなっちゃうのかなぁ……さて、と。そういうわけでお前らの相手は俺だ。今日はハロウィンだから大はしゃぎしてトリックオアトリートしたくなるのはわかるぜ? そんなにいたずらしたきゃ俺にしていきな。まあ……」

 

 

 再び群れの方へ振り返りながら先輩を慕う後輩から戦うものへと銃の弾を新しく装填するかのように意識を切り替え、引き金を引くように自分の中にある戦う力を顕現させる。

 

 

ブラッドエッジ ドライブオン

 

 

「できるならの話だけどな」

 

 

 わずか一瞬で彼の容姿が変貌した。夜と同化してしまいそうな黒髪は雪のように白く、青空のように蒼い瞳は鮮血を浴びたかのように赤く染まっていた。そして、銀の十字架の装飾の入った赤と黒のグローブを付けた右手の周囲には大量の血を固めて作り出されたかのような不透明な赤い(かたまり)が漂っていた。

 

 

抜血(ばっけつ)

 

 

 さらに彼の口より紡がれし言霊(ことだま)に答えるかのように血の塊は次第に形を変えていき、(あか)く鋭さを持った(あや)しい刀となった。血の刀は意思があるかのように独りでに動き出し、彼の右手へと収まる。それを黒いオープンフィンガーグローブをつけた左手も持ってきて両手で強く握りしめ、構えをとりながらグールの群れと向かい合う。

 

 

「お菓子代わりに血と氷の輪舞をくれてやるよ。そんじゃあ……いくぞいくぞいくぞぉ!!」

 

 

 勢いよく刀を振りかざしながら迷いなく敵の群れへと突っ込んでいった。

 

 なぜこんな状況になっているのか。少し時を遡ることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──数か月前

 

 ふと、突然目が覚めた。薄暗い寝室のベットへ横になっていた夕夜は目をパチクリしながら近くにある時計で時間を確認するとまだ深夜2時過ぎであった。何か忘れてる気がするが、睡魔には抗えず再び眠りにつこうとした時、廊下の方から固い何かが落ちる音と、着崩れする音がした。そして、

 

 

おえ〜

 

 

 盛大に嘔吐してる音が耳に入り、睡魔は一瞬にして消え去ったのと同時に忘れかけていたことも思い出しながら意識を覚醒していく。完全に目が覚めた夕夜の動きは迅速で、すぐさまベットから起き上がり、寝室から廊下へと向かった。

 床には黒いジャケットとズボンに女性特有の上に着ける下着などの衣類や革靴一式が散乱していた。それらを回収して衣類はリビングに持っていきシワにならないように畳んでからテーブルの上に、靴は玄関に揃えて置いてから、汚い音が発せられている洗面所に向かった。

 そこにはYシャツ一枚のみの姿で顔をトイレの中に向けてオロオロと吐き続けている黒髪のボブカットの女性──チェイン・(スメラギ)がいた。

 色々と話さなければならないことがあるが、今はそれが出来るような状態ではないので夕夜は気づかれないように彼女へ近づき、そっと背中をさすってあげた。少し楽になったのか、嘔吐の勢いが弱まった気がする。

 次第に音は小さくなっていき、漸く音がやみ、トイレの中から頭が上がった。出すものあらかた出せたからなのかとてもいい顔をしていた。

 

 

「楽になった?」

 

「うん、全部出たと思うー」

 

「どの位飲んできたの?」

 

「人狼局のみんなでお店にあったのはあらかた飲んじゃったかなー」

 

「お代は?」

 

「足りない分はツケてきたーもちろん割り勘でー」

 

「へー。暫く飲みすぎないよう控えるって約束を破った上にツケまでしたと」

 

「だってしかたないじゃーん……おつまみも美味しかったし飲めば飲むほどお酒が出てくるんだ、から……?」

 

 

 チェインは一体誰と会話していたのに気づいたか、ギギギと錆びた歯車が回るような音を出すように顔を話し相手の夕夜の方へと向けて、先程まですっきりしていた顔が急激に真っ青となっていた。

 

「あ、その、夕夜……これには……」

 

「よっぽど美味しかったんだろうね、お酒とおつまみ。夜一緒に家で夕飯食べる約束を忘れるくらい」

 

「ご、ごめんなさい……っ!!」

 

 

 本気でまずいと感じたのか、顔だけではなく身体もこちらの方へ向けながら謝ってきたため、前ボタン全開のYシャツとそこから見える豊満な胸部(なぜか中の下着も外されていたため少しでもシャツがずれたら見えてしまいそうでいろんな意味で危ない)に、セクシーな黒い下着と、すらりとした綺麗な生足が目に入ってしまった。

 約束をすっぽぬかされた事によって生じた怒りは、チェインから漂う女性の色気と最近お酒関連に関して少々制限をかけ過ぎてしまった自分にも非があったかなと思ってしまった自身の甘さにいとも簡単に大敗した。扇情的な姿を見せれば許してくれるかもとこちらに振り向いた可能性もなくはないが、顔の蒼白さから見るとそのような考えに至ってない様子だったので余計にたちが悪い。これも惚れた弱みを持った男の悲しい(さが)かな。気が付けば夕夜はそんなチェインを強く抱きしめていた。

 普段立っている時にこれをやると、身長差で彼女の胸に顔が埋まってしまう人前では見せられない嬉し恥ずかしな図になってしまうが、今はしゃがんでいるので彼女の肩に上手く顎を乗せながら背中に手を回せることができた。

 結構力を入れて抱きしめたので、彼女のぬくもりと女性特有の甘い香り、そして豊満な胸部が自身の胸板で潰れるように当たっているため、感触がほぼダイレクトに伝わってきてしまい、理性が空気が抜けた風船のように飛びそうになったが、本能に負けてそんなことをすれば、どこぞの救いようがない銀髪糞猿の仲間入りしそうな気がするから(ここ重要)そういうこと(・・・・・・)は絶対に!!互いが了承してからやるようにする、と決めていたので今は何とか自制はできているが危ないことには変わりない。

 そしてこの行為でやばくなっているのは彼女の方もである。熱があるかどうか測る時に異性の手を額に当てられるだけで動揺して顔を真っ赤に染めてしまう彼女にこんな事をすれば、蒸気が出そうになるくらいに紅潮してしまうのは確定事項であった。

 

「へっ!? ちょ、夕夜!?」

 

「ごめん、最近お酒関連に関して制限かけすぎたよね」

 

「あ、いや今回は私がちゃんとしていればよかったことだし……約束破って本当にごめんなさい」

 

 

 急に抱きしめてきた年下の彼氏の方から謝ってきたからなのか、少しばかり羞恥心が治まったチェインも改めて謝罪しながら抱きしめ返し、そのまま2人はお互いの体温と感触に浸っていた。

 そんなささやかな幸せな時間を楽しみたいところだが、このままだと本能を抑えている理性の枷が外れてしまいそうなので、そうなる前に夕夜は少し惜しみながら本題に入るために言葉を紡いだ。

 

「とりあえず、ご飯食べよっか。実は夕飯の支度し終わったあとからさっきまでずっと寝てたもんだから俺もまだ食べてないんだ」

 

「あっ、そうだったの?」

 

「うん、もしまだ起きてられるなら……一緒に食べない?」

 

 抱きしめたままなので彼女が今どんな顔をしているかはわからない。だがそこに不安はなかった。なぜなら、きっと今の彼女は赤みが入ったまま幸せそうな表情を浮かべながら、

 

 

「うん、いいよ……一緒に食べよ」

 

 

 嬉しそうに返事を返してくれている筈なのだから。

 

 

 

 

 




とある血界戦線関連のssを読んでハマったのがきっかけで自粛中で時間あるからアニメ血界戦線一期まとめ借りして一から視聴して最終回にガチ泣きしました。Hello,World!最高だった……こうして見事に沼落ちしてそのまま原作のコミックとノベライズも買って履修しながらそのまま勢いで借りてきた一期を再履修しながらコレを書きましたー。自粛に見てた他作品のネタもちょいちょいいれてますが(笑)
久々に執筆したのもあったのか上手い下手関係なく楽しくかけた気がする……


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氷血刃と不可視の人狼

 あの後、一緒にご飯を食べた後、チェインがシャワーを軽く浴びて汗を洗い流している間に食器洗いを済ませ、寝巻きに着替えて寝室へと向かった。一方シャワーから上がったチェインは既に寝室のベットの上で寝っ転がって夕夜を待っていた。

 寝室は明かりがついていないので薄暗くてよく見えないが、普段の仕事場に舞い込んでくる世界を揺るがすトラブル解決の為、夜の町中を駆け巡る事も多々あったので、多少は夜目が利くようになっていたのと、窓から漏れている街の夜景と月の二つの光で僅かながらに明るかった。

 そんな人工と自然がミックスした光に照らされている中にいたチェインは黒いネグリジェを着ていた。見たところだいぶ丈が長そうであるが、長身の彼女とはベストマッチな組み合わせであったため、仰向けになると、ネグリジェがぴったりと美しい肌に吸い付いて身体のラインがハッキリと見えてしまっていた。しかも下着をつけていないので意識してしまうと色々見えそうで、先程のYシャツ1枚とはまた違った色気に魅せられてしまった夕夜の中にある収まりかけていた本能がまた唸りを上げ始めてしまい、再び理性が危うくなっていた。

 そんな彼の中の本能と理性の葛藤にはチェインは気づかずに上半身だけ身体を起こしながら、夕夜をベッドに来るよう手招きしながら呼んでくる。

 

 

「ほら、早く一緒に寝よ?」

 

「あ、うん……」

 

「なーに顔赤くしてるのさ。別に一緒に寝るのはこれが初めてって訳じゃないんだから」

 

「それでも慣れないっての! しかもそんな格好してさ!!」 

 

「あれーもしかして恥ずかしいの?」

 

 

 ニヤニヤと笑いながらからかってくる彼女にカチンと来た夕夜はお返しとばかりに反撃する。

 

 

「そっちこそ人の事言えるのかー? さっき抱きしめた時に顔がトマトみたいに真っ赤になって恥ずかしがってたのは誰かなー?」

 

「なっ!? そ、それはそっちが何も言わずに急に抱きしめてきたからでしょ!? あんなのいきなりやられたら恥ずかしくなるに決まってるじゃん!!」

 

「今の俺もそれと同じだっての。そんな恰好で一緒にベッドで寝よって誘われたら恥ずかしくなるに決まってるだろ? それに……」

 

「それに、なに……? ってキャア!?」

 

 急に黙り込んだ夕夜は、不思議がって自分に何を言おうとしていたのか聞いてくるチェインに向かって走り出しそのまま勢いで彼女の両肩をつかんでベッドに押し倒した。

 

 

「なっ、なななななにを!?」

 

「ベッドに押し倒した」

 

「そんなのは見れば分かってるって! 私が聞きたいのはなんで押し倒したのかってこと!!」

 

 さっきから何度やっているんだと言いたくなるくらいまた赤面しながら叫ぶように聞いてくる彼女に顔を近づけて、耳元で囁いた。

 

「さっきからお前が俺のこと誘ってくるからだろうが……俺にだって欲求あるんだ……洗面所の時も抑えきれなかったらあそこでお前の事確実に襲ってたぞ……例えばこんな風に」

 

「え、ちょ、なにをすつもりひゃんッ!?」

 

 

 ほぼゼロ距離まで近づかれてからの耳元で囁かれたせいなのか、興奮して息が少し荒くなってきてる彼女を見て更に情欲が湧いてまった夕夜は、遂にチェインの身体をまさぐりはじめた。

 夕夜の手に触られて狼狽た声を出しかけたチェインは、何とか口を閉じて年下の彼氏の方に視線を向けると、そこには目の前の食事に涎を垂らしている獣のごとく目がぎらつかせている夕夜が映った。

 それを見たチェインは、最近お互い忙しくてご無沙汰だったから仕方ないし、自分も夕夜とそういうことしたくないと言ったら嘘になるので、このままいくところまで行っても構わないと彼に伝えようとしたその時、肢体をいやらしく触っていた手の動きが急に止まり、そのまま夕夜は体を起こしてチェインから離れた。

 さっきまで顔を見せていた夕夜の中にある男の本能が嘘のように静まり、今は怒りと罪悪感が混ざったかのような表情を浮かべていた。

 

 

「ごめん、断りもせずにお前の身体触っちゃって……今日は別々に寝よ? そっちも飲みに行く前は泊まり込みの諜報活動の任務してたんだし疲れてるでしょ? だからまた落ち着いた時にってうわっ!?」

 

 

 本能に負けて、疲れている筈の彼女に手を出して無理矢理情事を仕掛けかけようとしていた自分に憤り、罪悪感が生まれた夕夜は、押し倒してしまった彼女に謝罪して今夜は別々の場所で寝ようと提案したその時、急に彼女が上半身だけ身体を起こして夕夜の腕を掴んだ。

 急なことで一瞬思考が止まった夕夜はそのまま勢いよくひっぱられてしまい、お互いの顔の距離はどんどん縮まっていき、そしてゼロ距離となって互いの唇が重ねられた。恋人からの突然の接吻に夕夜は困惑し一旦離れようとしたが、掴んでいる腕の力が強まっていた為に離れることは出来ず、困惑は唇の柔らかい感触によってかき消された。

 荒々しく押し付けてきた唇は何度も短いキスをし、されるたびに夕夜から酸素と思考が奪われ、次第にキスに抗おうとする力と気力がなくなり口元が緩んできたところをすかさず彼女の舌が彼の口の中を侵略し、口の中を這いまわしてゆく。頭の芯がじんと痺れ、彼女にされるがまま浅く深いキスが続いてゆく。約1、2分程たって漸く、逃げられないために掴んでいた手と重ねられていた唇が離れた。

 キスから解放された夕夜は、奪われた分の酸素を肺に取り入れようと何度も深呼吸をするが、そうしている間に今度は頭部を胸元に抱き寄せられてしまい、彼女の大きな胸部に顔をうずめる格好になってしまった。

 夕夜は慌てて胸から顔を上げようとするが、チェインに頭を更にギュッと抱きしめられてしまい、深く彼女の胸の谷間へ顔が埋まり、左右からくる双丘の柔らかさと鼻孔に流れ込んでくる甘い香りによって思考が麻痺していき、意識はも覚束なくなっていた。

 そんな夕夜の頭を胸元で抱きしめていたチェインは、赤子をあやすかのように愛しい彼氏の頭を優しく撫でながら囁いた。

 

 

「ここまで手を出して置いて生殺し? それこそ、なしでしょ。でも、貴方のそうゆう気遣いと優しさは好きだし嬉しかったよ、ありがと。だから、今夜はもう無理して抑えなくていいんだよ夕夜……私のこと、あなたの好きにして……いいよ……」

 

 

 彼女の甘美な誘いの言葉を聞き、おぼろげな意識の中で言葉の意味を理解し瞬間、夕夜の理性はじけ飛んだ。

 おぼろげだった意識は覚醒し、怒りと後悔の念によって消えかけていた情欲が蘇った。夕夜は再びチェインを押し倒し、息を整えたのちに、復活した欲望に従い、本能の獣を躊躇いなく解き放った。そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後は己の獣性を爆発させ、容赦なく年上で愛しい彼女の身体を貪り、チェインはそれを全て受け入れた。夜が明けるまでお互いほとんど眠らないまま。

 朝になった時には疲弊しながらも抱きしめながら互いの多幸感を感じながら暫し眠りについた。

 次に目を覚ました時は時刻は午前11時過ぎ。既に昼近くの時間になっていた。

 

 

「……もうこんな時間か。まああれだけやっちゃったらこんな時間になるよなぁ……お腹すいたな……」

 

 

 ほぼ休まずに飛ばしたのと、数時間前に彼女と一緒に食べた夜食はそんなに量があった訳ではないので、腹の虫が盛大に唸っていた。

 熟睡している彼女の頬を優しく撫でてからベッドから起き上がり、部屋の設置されている棚から衣服を適当に見繕って着替え、そのまま部屋から出ていく。

 洗面所で顔洗いと歯磨きを終わらせた後はキッチンへと向かい、食事の準備をする。

 もうお昼時なのと朝ごはんは済ましていないの事を考えると、昼食にだす量は多めでいいかなと考えていると、廊下から足音が聞こえてきた。

 

「おはよう夕夜……」

 

 深夜で激しくしてしまい腰が痛いせいかふらふらとした足取りでこちらに向かって歩き、そのまま覆い被さるかのように倒れながら夕夜の背中を抱きしめる。

 

 

「うん、おはようチェイン。今ご飯作るから座って待ってて」

 

「……わかった」

 

 

 名残惜しそうにしながらチェインは夕夜から離れてゆっくりとリビングへ向かっていった。リビングに向かったのを確認した夕夜は彼女を長く待たせないように手早く食事の準備に取り掛かった。

 

 メニューはチャーハン、中華スープ、サラダの三品。チャーハンとサラダの二品は前から再現したかったものなので、うまく作れた夕夜は鼻歌まじりで彼女が待っている食事をお盆に載せてリビングへと持っていく。お腹がすいているのか、もしくはまだ疲れが残っているのは定かではないが元気がなさそうな雰囲気でチェインはテーブルに突っ伏していた。

 こちらに気が付いたのか、チェインは顔を上げて不機嫌な表情をしていた。

 

「遅い」

 

「ごめん、ごめん。だけどご飯中々いい感じにできたからそれで許してよ」

 

 そう謝りながら夕夜は、お昼ご飯を彼女の前へと差し出す。

 昼ご飯から漂っている美味しそうな香りが彼女に食欲を刺激したのか、少し機嫌がよくなってるのが見えたて、内心ちょっと嬉しくなった夕夜は彼女と対面になるように座った。

 

「「いただきます」」

 

 そうして一緒に食べ始める。美味しそうに口元に作った料理を運んでいる彼女を見られるのを幸せだなと感じながら自分もどんどん食べていく。

 

 

「ねえ、この料理、前に一緒に見た日本の映画に出た奴と似てない?」

 

 チャーハンの真ん中に落としてある卵の黄身を潰し、豆苗とポテチが混ざったご飯と一緒に口に入れながらチェインが聞いてきた。

 

「お、よく気が付いたね。正確に言うと似てるより再現の方が正しいかな。前にネットで映画の公式サイト見てた時に再現レシピと動画見つけてさ、前から作ってみたかったんだよねー」

 

「へー、確かにチャーハンにポテトチップス、サラダにはインスタントラーメンの麺使ってるね」

 

「最初はまさかポテチとインスタント麺をあんな風に使うとは思わなかったし、食べてるとこ見た時は美味しそうに見えたけど、こうして実際に作って食べたら予想以上の出来と美味しさでちょっと感動してる。作ってよかった……」

 

 

 以前とある用事で日本へ里帰りしていた時に皆へのお土産を買うときに見つけた映像作品のディスクを何本か購入し、薄暗くした部屋で肩を寄せ合って二人だけの映画鑑賞会で視聴してたうちの一つに美味しそうな料理を見て、気になってネットにある公式サイトを調べたらまさかレシピと動画があるとは思わなかったからよく覚えていた。とはいえレシピと参考映像があっても料理を作るのが特別上手いわけではないので一回で上手く作れるわけではなく、何度か失敗したが、その積み重ねがあってこそ今こうして恋人と一緒に食べれてるので

 表には出していないが内心ちょっとどころではなく心から感動していた。

 

 

「チャーハンの豆苗とサラダのミニトマトは前に温室で作ってるって言ってた?」

 

「うん、クラウスさんに許可貰って温室の一角でやってる家庭菜園から採ってきた。騒動に巻き込まれて面倒見れなかったり枯れそうになったりとか色々あったけど、ギルベルトさんが手伝ってくれたおかげでうまく育ってたから昨日収穫してきたんだ」

 

 そんな他愛のない話をしながら楽しい食事のひと時を過ごしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼食を終えて一緒に後片付けをしている中、夕夜はチェインに今日の予定を聞いた。

 

 

「そっちは午後に新しくライブラに入る人迎えに行くんだっけ?」

 

「そ、ジョニーランディス。来て早々殺されてなければいいけど」

 

「そういうの物騒なのが普段から起こるからなあ……新参者には容赦ないよなあこの街……」

 

 

 洗い終わった食器を水切りにカゴ入れながら改めて自分たちがいるこの街の異常さを再認識した。

 

 

「この街でライブラ設立した時からいる貴方が今更それを言う? そっちこそこの後どうするの?」

 

「うーん、冷蔵庫の中身が心許ない感じだから買い出ししてからオフィスにいくつもり」

 

「ならまたあとで、だね」

 

「ん、またあとで、だな」

 

 後片付けを終わらせた2人は、手早く身支度を整えて家から出ようとした時。

 

「夕夜、ちょっとこっち来て」

 

「ん、何ってうわ!?」

 

 

 手招きしてくるチェインの元に行った夕夜は目にもとまらぬ速さで彼女に抱きしめられた。

 

 

「ちょっ、ちょっとなにすんのさ!!」

 

「さっきはあんまり抱きしめれなかったからこうして今してるの。ああ、やっぱり抱き心地いい……」

 

「はあ、仕方ないな……」

 

 

 玄関なので誰も見てないからすこしくらい構わないかと思いながら抱きしめ返す。数分たって満足したのかいい顔をしながら夕夜を解放した。

 

 

「ふう、満足した……それじゃあまたね」

 

「ああ、またあとで」

 

 

 そうしてチェインは笑顔で一足先に外へと出て行った。

 

 

「それじゃあさっさと買い出し終わらせてオフィスに行きますかね」

 

 

 続いて夕夜も家を出て、人と異界人と正体不明の者たちが混ざりあった見慣れた景色の中へと入って消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後、稀代の怪人が起こしたゲームでひと騒動が起き、その混乱の最中でライブラに入った新人を先輩と呼び慕う事になるのは夕夜はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハロー、今後も余裕あって続く限りは週一更新目標に執筆する予定の命(ミコト)です。最初は前半チェインとイチャイチャ、後半戦闘ぶち込む予定だったんですが、終始チェインとのイチャイチャしながらの日常回になってしまった……しかも前半ギリギリ感がががが
次回こそ戦闘回と夕夜君の簡単なプロフィールぶち込みます。他のライブラメンバーも出していきますんで、予定通りいけば来週辺りにまたよろしくお願いします~


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氷血刃とライブラと

 世界の終わりが始まるのはいつも唐突である。特にこの街ではなおのこと。

 特に問題なく買い出しが終わり、冷蔵庫を整理し終わって軽く一休みした後、私服からライブラ用の仕事着Yシャツと黒スーツを棚から引っ張り出して着替えている途中、着替える前にポケットから出してテーブルに置いてたスマホから着信音が鳴っていた。

 

「チェインからだ。なんかあったのか? はいもしもし、こちら『夕夜! 堕落王が動いた! 警戒態せ……』おいチェイン! 何があった!?」

 

 異界屈指のはた迷惑の魔人が今度は何をやらかしたのか聞こうとしたが、電話越しから大きな斬撃音が響いたのを最後に通話が途切れた。

 

「チッ! あのクソ堕落野郎今度は何したんだよ!!」

 

 事の発端に悪態をつきながら夕夜はすぐさま着替えを終わらせて(面倒だったので上に着る黒スーツは腰に巻いた)すぐさま家から飛び出した。それと同時に再びスマホから着信音が鳴り響いたのですぐさまポケットから取り出して電話に出た。

 

「チェインか! さっき馬鹿でかい斬撃音が聞こえたけど大丈夫なのか!?」

「なんとかね。時間がないから簡単に説明するね。堕落王の術式で生かされてる二分割された邪神たちが合体して元に戻ったらこの街の結界を切りさける怪物になる。そうなる前に止めるには邪神を召喚してるゲートを見つけて破壊すること。片方はもう召喚されて街中で暴れ中だから、もう片方のゲートを破壊するしかない。今あたしとSS(シルバー̪̪シット)と新人君でそれを追ってるって所」

 

「新人ってさっき言ってたジョニーランディスか? 来て早々世界の危機に巻き込まれた上に戦闘以外はアレなカテゴリ人型の屑と組まされるとか災難にも程があるな……」

 

「いや、ジョニーランディスじゃない。でも、今回は肉眼では認識できない邪神を捉えるために彼の力……目が頼りなの」

 

 話の中に気になる単語がチラホラと混ざっていて色々と聞きたいことがあるが、今はこの事態の収束させることが最優先事項だと認識している夕夜は口から出かけた疑問を飲み込んだ。

 

 

「なら俺は暴れてる半身の方に行って足止めか?」

 

「いや、夕夜にはスターフェイズさんから指示が来てる。この混乱を機にやらかそうとしているバカどもの相手を頼みたいとのことよ。HLPDとライブラの構成員たちでそれぞれ当たってるけど、今ブリゲイドとサトウの二人が大群に遭遇して孤立状態になってかなり危険みたい。いまギルベルトさんがそっちに向かってるから合流したらすぐに二人の所まで向かって」

 

「了解!! んじゃ、またあとでな」

 

「うん、またあとでね」

 

 

 そちらの援護に行くべきなのかと聞いたが、どうやら自分には別の役目があるとのことを知って夕夜はチェインとの通話を切り、なすべきことを果たすためにこちらに向かってきてくれている人物を探そうとしたその時、自分の目前に全身に包帯巻いている老執事──ギルベルト・F・アルシュタインが運転している銀色のオープンカーが滑り込んできた。

 

 

「ギルベルトさん!!」

 

「すれ違いならずに済んで良かったです。さあ、乗ってください夕夜様。これより最速、最短距離でお二方の所までお連れ致します」

 

「すいません、お願いします!」

 

 

 夕夜はすぐさま後方座席に乗り込んだのを確認したギルベルトは、目的地までオープンカーを全速力で発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕夜たちが向かっている大通りにて、横転しているHL特注の戦車に耐えられる強度を持つ大型自動車を盾にしながら人間と異界人の二つの種族が混ざったマフィアたちの襲撃に応戦している二人組──ブリゲイドとサトウが僅かな重火器を駆使して奮闘していた。

 

 

「おい、そっちはあと何発残ってる!?」

 

「次のマガジンで最後だ! くそっ! なんで俺たちの方ばっかり群がってきてんだよ!!」

 

「そんなこと、俺が知るか! 今は口よりも手を動かせ!! がっ!?」

 

 

 自分たちに置かれている状況に対してぼやくサトウを怒鳴りながら応戦しているブリゲイドの肩に敵の弾丸が命中し、鮮血をまき散らしながら倒れた。

 

 

「ブリゲイド!くそったれ!!このままじゃ……」

 

 

相方が撃たれたことにサトウが着を取らられてしまい、わずか二人で踏ん張っていた戦線は瓦解した。

その隙を彼らが見逃すはずもなく、一気に進軍しようとしたその時だった。

ブリゲイドとサトウのいる横転した車の横を通り越し、減速せずまっすぐに異界人マフィアたちの方へと突撃していくオープンカーが現れた。

 

 

ブラッドエッジ ドライブオン

 

 

 会敵する直前に夕夜は自身の異能の力を顕現させて戦闘態勢に入り、座席の横に取り付けられている管のような装置を引っ張りだして管の先にある蓋を開けた。そして能力発動時に出現した、右手付近に漂う大量の血が管の中へと吸い込まれるように入っていき、外へと踊り出た瞬間、

 

 

「抜血」

 

 

 続けて発せられた言霊によって巨大な血の刀が瞬時に形成された。そしてマフィアたちにぶつかる直前にギルベルトがハンドルを切ったことによりオープンカーは勢いよくスピンし、血の刀は周囲にあるモノたちを切り刻む赤き回転のこぎりと化した。

 瞬く間にマフィアたちは赤い刃の餌食となってスライスにされ、それらから飛び散る色とりどりの体液に大量の臓物と肉片が大通りを彩っていき、瞬く間に気色の悪い即席アートがその場に出来上がった。

その光景を啞然として見ている二人の元に、オープンカーから降りた夕夜が駆けつけてきた。

 

 

「間一髪、ギリギリ間に合ったってところですかね」

 

「神薙!!」

 

「来てくれたか……グッ」

 

「ブリゲイドさん!?撃たれたんですか!?」 

 

「大丈夫だ。こいつが着てるのは最近届いたばっかの最新の超攻殻コートだからな。出血こそ派手だが、見た目程酷くはねえ筈だ。ほんと運がいいぜ「よくねえよ、すげえいてえっての!!」……この通り叫ぶ元気があるから大丈夫だ。それよりもタイミング良すぎだろ……まさか狙ってたとかじゃないよな」

 

「んなわけないでしょう。何を言ってるんですかまったく。せっかく駆け付けたのに……っと。話してる場合じゃなかった。第一波はこれで終わりだと思いますが、そろそろ第二波が来るはずです。ここは俺が引き受けますので、2人はここから退避してください。ギルベルトさん、2人をお願いします」

 

「かしこまりました。夕夜様、どうかお気を付けて。さあお二人とも、こちらの方へ」

 

「すまない、助かる! いくぞ」

 

「おう! いつつ…… 死ぬんじゃないぞ神薙!!」

 

「誰にモノ言ってるんですか? こんなのはもう慣れっこですよ」

 

 

 見送った夕夜はもう間近に迫ってきている第二波を眺めながら呟く。

 

 

「まあ、少しでも油断したら簡単に死んじゃうのがこの街なんだよなぁ……とはいえ」

 

 

エスメラルダ式血凍道

絶対零度の盾(エスクードデルセロアブソルート)

 

 

「そう簡単に俺の首は取らせねえぞ」

 

 

 夕夜の靴底から零れ落ちた血が空気中に漂う水分を巻き込み、一瞬にして巨大な蒼白い強固な氷の壁が完成した。飛来してきた鉛玉の大群と、襲い掛かろうとした異界人マフィアたちは、巨大な氷壁に飲み込まれていった。そんな中、壁の一部になるのを免れた一人の人間の男が視界に入ったので、口からほけ*1を出しながら音を出さずに彼の目前へと踏み込み、即座に抜血して形成した血の刀で容赦なく頸動脈目掛けて振り下ろし、赤い生命の証をまき散らしながら男が倒れるのを尻目に視界からすぐ外し、その場で勢いよく跳躍して自ら作って壁を乗り越えながら呟いた。

 

 

「こんなところで死ねわけにいかないんでな。彼女残していくとか男としてやっちゃいけないと思うし、何よりも……あいつに譲って貰った人生(・・・・・・・・・・・・)なんでな。そんじゃあこいつで……」

 

飛んでくる弾丸を体をひねって上手くかわしながら着地した瞬間、再び靴底から数滴の血を地面に垂らす。そして、

 

 

エスメラルダ式血凍道

絶対零度の地平(アヴィオンデルセロアブソルート)

 

 

一瞬にして銃を撃っていたマフィアたちごと辺り一面を氷に覆い、蒼く冷たい世界が誕生した。

 

 

「おしまいっと。にしても、ここにはかなりの数が来てるって聞いた筈なんだけど……どう見ても数が少ないな……」

 

 

自分が来る前にあの二人が大半をやった?ありえない。彼らの猛攻を凌ぐのに手一杯で、やれたとしてもそこそこな数だけだろう。何か彼ら自身にトラブルが生じて後退したか、それとも……

その答えは背後から砕かれた音にとともに現れた。慌てて背後を振り返ると、そこには氷壁に空いた大きな穴か先程切り捨てたはずの男が何事もないように立ち、両手と頭が人間とはかけ離れた異形と化していた。だが、彼の体からなにかがボロボロ零れ落ちていた。

 

 

「(まさか、自壊してるのか……?もしかして大部分が来ているはずなのに数が少なかったのはこいつと同じ現象が起こって多数が自滅したからか?だとしても自滅するのを待つのは論外。何かされる前に今度こそ終わらせる)」

 

 

 夕夜は血の刀を鞘へ納刀するかのように右腰へと下ろし、腰を低く落とした後に半身を引いて居合の構えを取った。余計な力を抜くために息を大きく吸ってから吐き出して余計な力を抜いて後、視線を怪物へと合わせて、来たるべきタイミングに備える。そんな彼に対し、怪物は真正面から突撃し、彼の間合い入った瞬間にそれは放たれた。

 

 

一の型 紅魔一閃(こうまいっせん)

 

 

 夕夜から放たれた(くれない)の斬撃は吸い込まれるかのように首元目掛けて振るい、その勢いで首を跳ね飛ばしたかと思いきや、驚異的な反応速度で動いた手に刃を掴まれたことにより首には一歩届かなかった。だがそんなことで一々驚かず、止められる可能性を考えていた夕夜は既に次のモーションを起こしていた。

 すぐさま血を纏わせて鋼の如く硬化した右腕を刃の峰に向かって叩き込み、掴まれている手ごと無理やり首を斬り飛ばした。首を斬り落とした所で終わらない可能性を考慮して、夕夜は間髪いれず追撃に入った。振り終えて切っ先を地面に向けていた刀を心臓辺りに目掛けて突き立てて、バックステップで距離を取ったのち、

 

 

爆氷牙(ばくひょうが)

 

 

 言霊に告げられた瞬間、突き立てた刀を中心にとして獲物に牙を突き立てるかのように全身から鋭利な蒼氷が内側から外へと食い破り、数秒経たずに蒼き氷の針山となった。

 白く輝く息を吐きながら針山へとゆっくり歩み寄り、たどり着いた瞬間にソレを容赦なく蹴り砕いた。

砕いた破片に何か変化がないか暫く観察したが、特に何も起こらなかったので今度こそ仕留めたの確認した夕夜はため息を吐きながらその場で大の字になりながら転がった。ちょうどいい感じにひんやりとした空気と地面の冷気に心地よさを感じながらほとんど晴れることがない霧に包まれた空を眺めながら呟く。

 

 

「今日もこの街のイザコザとこの空は最悪だわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
白い息の呼び方。本来は湯気を指す言葉




日曜日中に上げれなかった上に難産……もっと精進しなければ……
今回は戦闘&ギルベルトさん、ブリゲイド、サトウ登場回。アニメのビヨンド1話のあの二人見てていいなと思ってたんで出してみたが、次こそもっと活躍させたい……

とある執事の電撃作戦にてザップが座席の横に付いてる管っぽいところから血の刃だしてるのめっちゃ好きなので、あの管みたいなのなんて言うだろって思いながら書きましたー。ここももう少し上手く書きたかった。

今回出た紅魔一閃ですが、モデルは鬼滅の刃の善逸君の霹靂一閃、命名はfgoの紅閻魔の女将の名前を見て思いつきました。刀使うキャラ良き良き
爆氷牙は絶対零度の小針の刀版?かな。小針であそこまでいけるなら刀や剣でやればもっとド派手にいけるかなと思い出してみましたー

後は前回予告した通り、アニメでのキャラが出たときの紹介文っぽいのを参考に夕夜のを下に上げました。よろしければそちらも見てください。あれも好きだわ……てかたくさんの好きがありすぎるな血界戦線……

次回も日曜、間に合わなければ月曜日更新予定なのでどうかよろしくお願いします~





神薙夕夜(Kan'nagi yuuya)

後輩
構成員最年少(18歳)
ブラッドエッジ/エスメラルダ式血凍道



最近ネットで購入した公式ガイドブックに年齢も載っていたんでそれを参考にレオ君の一つ下にしましたー。にしてもニーカ、君二十歳超えてたのね……知らんかったわ……
そしてチェインは21だから夕夜とは3歳の差のあるカップルという訳っすね。







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氷血刃と神々の義眼

 僕にはかつて大切な人が2人いました

 

 1人は僕の妹。好奇心旺盛で、亡くなった母さんにつけられた名前に恥じない夜明けを照らす朝日のように美しい笑顔を浮かべながらこんな僕を慕ってくれてました

 

 もう1人は、学校で会った同性の親友。小学一年の入学式の後に一年間過ごす教室での席決めで二人が僕の席の隣りになったのがきっかけで、よく話したり妹も交えて一緒に遊んだりしとかして、とても楽しい時間を過ごせることが出来ました

 

 みんなから出来損ないと言われ、何もなかった僕に初めてできた繋がりだった

 

 この2人と楽しく過ごせるなら、どんなに辛くても大丈夫だと信じてた

 

 だからこそあの日の僕は、この美しくて残酷な世界に絶望して心の底から呪ったのだろう

 

 なんで僕がいまだにここにいるのだろうと不思議に思った

 

 早く自分の命が尽きて欲しい、楽になりたいと毎晩寝る度にそう願っていた

 

 そんなどうしようもない僕を助けてくれた人たちと出会うまでは

 

 いまでも、ふと思い返せばすぐに思い出せるだろう

 

 出会いに関しては本当に恵まれていると思った

 

 だからこそ、自分が何のためにここにいるのか。その答えを自分で見つけたいと思った

 

 何年たってもその答えはいまだ見つからない。もしかしたら、死ぬまで一生見つからないかもしれない

 

 だとしても、それは探さない理由にはならない

 

 だから僕は/俺は

 

 今はこの霧に包まれた混沌の街で

 

 答えと言う名の光を、ずっと探し続けている

 

 でも、最近そんな自分自身を疑い始めていた

 

 今まで自分のやってきたことは、答え探しではなく

 

 あの日からただ逃げているだけなんじゃないかって

 

 探していると錯覚してるんじゃないかと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空を眺めているうちにいつの間にか寝落ちしていた夕夜は目を大きく見開いてから冷たい地面から立ち上がり、スマホで現在の時刻を確認した。最後に時間を確認したのがチェインとの通話を切った時にチラッと見た時なのでそこから今の時間まで脳内で簡単に計算すると一分程度だったのでそんなに寝ていたわけではなさそうだった。にもかかわらず長時間寝ていたような気がするのはなぜなんだろうか。

 内容はよく覚えていないが、自分にとって何か大切な、それでいて欠けた夢を見ていたような気がした。

 

 

「さて、と。この辺りにはもう残敵はいないみたいだし、他の地区を軽く見回りながらチェインたちと合流かな。っとその前に」

 

 

 夢の事は置いておいて、夕夜は周囲を探索して先程交戦した人であった怪物と酷似した肉片と体液をを見つけた。それを冷凍保存して解析班に連絡して先程の現象を調べてもらうよう保存したサンプル回収と調査を依頼するために連絡を行なってから移動を開始する。

 ブラッドエッジを発動して血の塊を出し、それを形状変化させてそれなりの長さのある縄になり、それをぶんぶんと勢い良く振り回してビルの方へ投げる。

 うまく屋上にある広告の看板の支え棒に絡まったので後は体内に血を戻すことで血の縄の長さが縮まり上の方へと引き上げられていくような構図になった。

 

 上手く屋上に上がった後はパルクールの要領でビルから別のビルへと飛びながら移動し、ある程度地区を見回ったがどの地区でもHLPDとライブラのメンバーたちの奮闘で徐々に鎮圧されていた。

 中で一番容赦ない鎮圧をしてたのは、ギルベルトのオープンカーとパトリックとニーカが乗る車による挟み撃ちからの両車の全武装一斉掃射によるえげつない殲滅と黒こげアートが出来上がった大通りの惨状は見てドン引きしたが。

 このぐらいやらなければいけなかったのかもしれないが、それでも無慈悲すぎることには変わりなかった。

 次あった時にこれを思い出して変な表情を当人たちの前で顔に出さないようにしようと思いながら地区の見回りからザックリ切られているビルや道路を頼りにチェインたちを探す方針へと切り替えた。

 派手に辺りが切られまくっているが故にどっちにむかっていったのかある程度絞れたので邪神の攻撃によってオープンカフェになってしまっているところのテーブルに見慣れた姿を無事見つけたのでそちらへ向かう。

 

「おお、夕夜君か。暴動鎮圧ご苦労だった」

 

 夕夜の接近に気づき声をかけたのは、鋭い三白眼と眼鏡に、下顎の犬歯を覗かせている側から見ると恐ろしい顔と外見をしていながらも繊細で良識人かつ紳士であるライブラのリーダー──クラウス・V・ラインヘルツであった。

 

「いえいえ、こっちはそんなに苦戦したわけではなかったんで。そちらこそお疲れ様です。チェインもお疲れ様」

 

「ありがとー夕夜。はあ、疲れたぁ……」

 

 座っていたチェインは立ち上がって夕夜の方へと向かい、倒れるように抱き着いてくる。そんな彼女を受け止めながら肉ではないうごめいてるナニカを挟んだバーガーを食べている白ジャケットを銀髪褐色の男──ザップ・レンフロにも一応労いの言葉をかけた。

 

「あとついでにそこの銀色の人型のなにかさんもお疲れ様でした」

 

「ついでとはなんだこの赤パンダ!!」

 

「そのふざけた呼び方やめてくれませんかカテゴリ人間の恥」

 

「髪がパンダの身体の色みたいに黒と白になったり目が赤くなってんだからてめえは赤パンダなんだよバーカ」

 

「うわあ、バカにバカ言われた上にあだ名の由来もなんかむかつく」

 

「ちょっとそこのSS、いい加減あたしの彼氏をそんなふざけたあだ名で呼ぶのやめてくれない?」

 

 

 呆れた目をした夕夜と抱き着いていたチェインがゴミ見るような目をザップへと向けながら負の感情が籠った発言をぶつける。

 

 

「てめえら揃いも揃って俺に喧嘩売りやがって!! 文句でもあんのかぁこの動物夫婦!! そのカラチェンする髪とデカ乳毟り取ってやろうかアアン? ──どわぁ!?」

 

 

 侮辱とセクハラ発言をしたザップに二つの拳が飛んだが、間一髪の所で回避した。当たっていたら顔面が言葉にならないほど歪められた筈なのにと残念がりこういう時の勘は良いのが本当にムカつくなーと夕夜とチェインは同時に思った。

 

 

「なにすんだてめえら!?」

 

「世界の歪みの修正」

 

「存在していること自体が罪な糞猿を裁こうと」

 

「よーし、俺怒っていいよな、怒っていいよな……目の前のクソリア充動物カップル叩き潰していいよな!?」

 

「落ち着きたまえザップ。夕夜君とチェインもそこまでにしたまえ。今回ザップがレオナルド君と一緒に行動して邪神と戦ってくれなければ今回の一件は解決できなかった。ここは今日の彼の功績に免じて許してあげたまえ」

 

 

 乱闘しかけた3人の間に割って入り仲裁したクラウスに免じて夕夜とチェインはすごすごと引き下がる。

 

 

「……わかりました。今日の所はこれまでにしておきます」

 

「あなたみたいなのでもこうして助け船してくれるんですから、これを機に常日頃クラウスさん襲うの控えた方がいいと思いますよ」

 

「うるせえ! それとこれとは別だ! 旦那を襲うのは俺にとっては欠かせない習慣なんだよ!! やめる訳ねえだろうが!!」

 

「最低の習慣を堂々と胸張って言うとかホントあり得ないわー」

 

「諦めなさい夕夜。そのクソモンキーが何言っても手遅れなんて今に始まったことじゃないでしょ」

 

「てめえら息吐くように俺を蔑まなきゃ気が済まねえのかよ、あぁ!?」

 

 

 収束したかと思いきや、再び3人の間に険悪な空気が漂い始めていた。クラウスは無事止められたかと思ってホッとした途端にまた不毛な争いが勃発しかけてしまっている光景を見てしまい、一体どうすれば止めれるのか胃に穴が開きそうな位にキリキリさせながら表情をこわばらせ、頭の中で必死に考えを巡らせていたその時だった。

 

 

「クラウスさん、どうかしたんですか?」

 

 

 暗闇の中に一筋の光が差し込むかのように、破壊されたお店の手伝いをしていたレオが声をかけてきた。

 

 

「レオナルド君、店の手伝いはもういいのかね?」

 

「はい、後はこっちでやっておくからって言われていしまいまして……あのーあちらが何か不穏な空気が流れてるんですけど大丈夫なんですか? てゆうかチェインさんが抱き着いてる人誰ですか?」

 

「そうか君はまだ彼とは会っていなかった紹介しよう。夕夜君、こちらにきたまえ」

 

 

 嫌な空気を流している3人に指を指しているレオに、夕夜を紹介しようとこちらに呼び寄せた。

 クラウスに呼ばれた夕夜はザップを視界から外し、チェインを椅子に座るよう促してから2人の元へ向かった。抱き着いていた恋人が離れた原因の新入りに鋭い視線を向けながらチェインは再びテーブルに突っ伏した。自分から視線を外した2人に何かを言いかけたがバーガーに挟まっているナニカが再び動き出したことによりそれと格闘に入り結果的にレオの登場により不穏な空気は払拭されてクラウスの胃とメンタルの危機は消え去った。

 

 

「彼が今回の事件解決に貢献してくれた我々の新しい同士、レオナルド君だ」

 

「どーも、僕はレオ、レオナルド・ウォッチ。色々あって今日からライブラに入ることになりました」

 

「こちらこそどーも初めまして、神薙夕夜だ。年は今年で18になる。ようこそ、このくそったれな街とライブラへ」

 

「えっ嘘!? 年下なの君!?」

 

「あ、年上だったんですか!? すいません、同い年かなと思ってちょっと砕けた感じで話しちゃって」

 

 

 お互いなんとなく同じ歳だと思っていたため一つ違いだった事に驚いた。

 

 

「(一つ違いとはいえまだハイスクール通ってるくらいの年でこの街に、しかもライブラ所属なのか……)大丈夫、気にしないで。僕は今年で19だから一つ上だね、よろしく夕夜君」

 

「改めて、こちらこそよろしくお願いします。…………」

 

 

 一通り簡単な挨拶を済ませた後、夕夜は観察するかのように無言でレオを(主に彼の両目を)ジッと見始めた。視線に気づいたレオは少しビビッて後退りながら夕夜に質問する。

 

 

「えっと、急に僕の事そんなにジロジロ見てどうしたの?」

 

「え、ああすいません。見たところ一般人にしか見えなかったんでなんでこの物騒な街に来たのかなーとか、どうやって邪神騒ぎ解決に貢献したのかなって思いまして。さっきチェインとの通話で目がどうのこうのって言ってたんですが、その両目に何かあるんですか?」

 

「ああ、僕の眼は……色々と見えすぎちゃうんだ」

 

 

 そう言いながらレオは糸目だった両目を開くと、そこには幾何学模様がされている蒼く輝く眼があった。

 

 

「その眼……」

 

「これのおかげで邪神を捉えることが出来たんだ。神々の義眼って言ってさ、これを押し付けてきた奴と僕の不甲斐なさの所為で、妹が視力を失ったんだ……」

 

「え……」

 

『兄様』

 

 

 妹と聞いた瞬間、あの日が来る前の彼女の笑顔と自分を呼ぶ声が脳裏に掠めたのと同時に、辛い事を言わせてしまったような気がして申し訳なく思った夕夜はレオに謝罪した。

 

 

「この街なら、妹の視力を治せるんじゃないかなって思ってさ……」

 

「すいません……嫌な事、言わせちゃって……」

 

「ううん、気にしないで。まだ来て間もないけど、ここでなら妹の眼を治せる手掛かりかもって思ってるからさ」

 

 

 そんな笑いながら話す彼がどこか無理しているように夕夜には見えた。そんな妹の為にここに来たレオを出来る限り手助けしたいと思った。

 

 

「俺にできることがあるなら手を貸します! 絶対に妹さんの眼を治せる方法見つけましょうレオ先輩!!」

 

 

 夕夜は後にこう語った。妹に何にもしてやれず■■■にしてしまった自分とは違い、目の前で妹を救えなかった悲しみと苦しみを抱えながらもここに訪れたレオの強さに尊敬したのがキッカケで先輩と呼ぶようになったと。

 そして、自分のように妹を失う悲しみを味合わせたくない思いから彼を全力で助けたいと望んだのだと。

 

 

 

 ハロー、ミシェーラ

 

 元気ですか? 

 

 けっこう大変な事件に巻き込まれたけど、兄ちゃんは元気です。

 

 突然ですが僕に後輩が出来ました。

 

 僕の一つ下で、この街では希少なまともで優しくていい子です

 

 そんな彼をこの目で見た時、一瞬妙なものが映りました

 

 本来1つしか見えないはずのオーラがその子からもう2つ見えたんだ

 

 1つは、彼を今でも喰らいそうな怪しげな黒紫のオーラ

 

 もう1つは、そのオーラと彼を纏めて優しく包みこむ蒼いオーラ

 

 蒼いオーラを見た時、ミシェーラ、なぜか君の事が頭に浮かんだ

 

 だからかな、僕がこの街に来た目的を自分から直ぐに打ち明けたのは

 

 




日曜に投稿予定だったんですが、メンタル面にちょい色々来たのと執筆難航のため本日投稿しました……申し訳ない。リアルも少しずつ忙しくなってきたので今後は週一、または週二に一回投稿になるかもしれません。まだ出ていない他のライブラメンバーと夕夜君との絡みはめちゃ書きたいのでこれからも是非本作を読み続けてくれると嬉しいです。
今回でレオ君ライブラ加入編が終わったので本格的に本編を交わせていきます。
では次回もまたよろしくお願いします


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