公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい。 (和鷹聖)
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Number.01 ~お嬢様はファイナル・フュージョンしたいとお悩みです~

二次創作は初めてです。

初めはガガガ要素のみで突っ走るハズだったのに、どうしてこうなった? みたいなノリで行きたいと思います。


基本はオリジナル+ガガガですが、所々版権モノ含めます。
また、ガガガの説明、他版権の説明は基本、Wikipediaから引いています。ご容赦を。


それでも興味のあるかたそれではどうぞ!








 

 

 

「……ファイナル・フュージョンしたい。」

 

「……お嬢様?」

 

「……え?あ、ごめんなさい、何でもないわ。」

 

 

 とある日、私の主人こと、カルディナ・ヴァン・アースガルズお嬢様は、いつもと変わらない、優雅なティータイムをお過ごしになられていましたが、ティーカップをソーサーに静かに置かれになった後、ぼそりとその言葉を呟き、すぐに訂正いたしました。

 しかし、お嬢様はその後も、何とも憂いたお顔をしていらっしゃっているのです。

 

 ファイナル・フュージョン?

 

最後の融合(ファイナル・フュージョン)

 

 ……何ぞや? 首を傾げる言葉ですね。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 カルディナ・ヴァン・アースガルズは、アースガルズ公爵家の令嬢である。

 

 

 魔法が根付くこの世界に生まれながらに天才、稀代の存在、果てには聖女、等と呼ばれるようになったのがカルディナお嬢様。

 

 何故なら、生後一か月で万人に一人と言われる程の強大な魔力を持ち、12歳を迎えるころにはあらゆる属性魔法、付与魔法、そして理解、習得が困難と言われる法則魔法(あるいは根源魔法)とも呼ばれる空間、次元等を操る魔法を使える、稀代の魔法使いにお成りになった。

 

 また、武術にも長けており、幼少から剣や槍は当然のように操り、昨年には徒手空拳ですら並みの騎士、果てには騎士団長すら負かしてしまう実力を持つにまで至った実力者。

 

 更には、アースガルズ公爵家が抱える商業部門を現当主(お父上様)以上に盛り立て、「事あらばアースガルズの商いへ」と言わしめる程にまで成長させたお方。現在ではその商業部門の一部を任される程になり、遂にはその手腕から『商業人が恐れる商業人』となった。

 

 そして極めつけは現・当主様と、その奥方様の血が織り成す造形の美。

 白く美しい、奥方譲りの長くなびく御髪。

 老若男女問わず惹き付け、魅了する御顔。

 そして、それだけに留まらず、その御容姿すらも美しい。

 聖女にも劣らない……いえ、それ以上の美しさを持つお方ッ!

 奥方様譲りのサラリとした銀髪を長く伸ばし、麗しい瞳はキラキラに輝き、社交会で老若男女問わず瞳に映すモノ全てを魅了する。

 

 まさに文武両道、商業無常(誤引)の完全無欠、パーフェクトなお方なのが、アースガルズ公爵令嬢たるカルディナお嬢様なのです。(キリッ!)

 

 そんなパーフェクトなお嬢様にお仕えするのが、私ことフミタン・アドモス。

 お嬢様達に10歳の頃に拾われ、以後アースガルズ家のメイドとして雇われ、お嬢様の御寵愛(ラヴ)を分け与えて頂いている、お嬢様の専属メイドなのです。

 

 そんなお嬢様が憂いているとは、いったい何を憂いているのでしょうか?

 

 ……まあ、おそらくはお嬢様の『ご病気』が原因かと思われますが。

 

 

 

 


 

 

 

 

 ……(ワタクシ)のボヤいた独り言に、専属メイドが静かに、かつ冷静に『何を言っているのでございますか』と云わんばかりの視線を、辛うじて当たり障りの無いコメントと共に送ってきたのは、存じております。

 

 ……こほん。いや、まあそうでしょう。

 いきなり『最後の融合(ファイナル・フュージョン)』等と言えば、長年付き添って来たメイドであろうとも、気でも触れたか、とも思うでしょう。

 

 ……というか、フミタン?

 御寵愛(ラヴ)は流石にないでしょう?

 せめて親愛ではなくて?!

 

 ……コホン。失礼しました。

 ……えっと、何のお話でしたっけ?

 

 

 そもそも、何故『最後の融合(ファイナル・フュージョン)』なのか?

 

 これは……いえ、只の発作みたいなものです。

 フミタンも言ってましたよね? 『ご病気』と。

 

 私こと、カルディナ・ヴァン・アースガルズは、アースガルズ公爵家の、現在15才のお嬢様である。

 

 感応性量子力法則術……つまりは、魔法が根付くこの世界に生まれ、今では天才、稀代の存在、果てには聖女、等と呼ばれるようになりました。

 

 万人に一人と言われる程の強大な魔力を持ち、あらゆる属性魔法、付与魔法、そして法則魔法と呼ばれる空間、次元等を操る魔法を使える、稀代の魔法使い。

 また、武術にも長けており、剣や槍は元より、徒手空拳ですら並の騎士は敵わない実力を持つ、天武の才を持つ実力者。

 

 更にはアースガルズ公爵家が抱える商業部門を現当主(要は父上)以上に盛り立てた、商業人が最も恐れる商業人。

 

 それが私の『世間からの評価』である。

 では何故、私がこんなにも優れているのか?

 

 

 

 

 ……察しの良い方ならすぐ判るでしょうが、私は『転生者』です。

 

 正確に言うなら転生者の記憶を受け継いだ、現住人。魂の優先者は、あくまでもこの私ですが。

 

 魔法については、赤ちゃんの時点で意識がはっきりしており、転生記憶から読み起こしたゴリ押し魔力増加方式を実践。更には科学法則を当て嵌めた魔力コントロールを実践することにより、10歳で稀代の魔法使いへ、ステップアップ。

 

 武術は、先天的に才能があったのでしょうが、『とある方』との出会いにより、今では向かうところ、ほぼ敵なしに。

 昨年、癇癪起こして騎士団長をフルボッコにしたのは、いい思い出ですわ……(猛省+遠い目)

 

 商業は記憶の知識をフル活用する事で、商品、販売ルート、商売方法を確立させ、億万長者へ成り上がり。お父様の信頼も得て、今では一部とはいえ、商業を任せて頂ける程に成長いたしましたわ。

 

 ちなみに聖女呼ばわりは、見てくれが良かったから、と思いたい。

私はそう思われたくないのですが……

 まあ、フミタンが褒めちぎっていたように、現・父上、現・母上のDNAが良かったことに、深く、深く感謝です。

 

 以上の事から、転生者のテンプレを見事当てまくったのが私なのです。

 

 この記憶が誰の記憶かは存じませんが、ありとあらゆる分野の記憶が、整理整頓、理路整然とされておりました、この膨大な記憶の集まり……私は『記憶書庫(B・ライブラリー)』と呼んでおりますが、私は大切に使わせて頂いております。とっても感謝ですわ……

 

 

 ───で、最初に戻るのですが、何故『最後の融合(ファイナル・フュージョン)』なのか?

 

 ……いや、字面から察しましょう。

 特に当時ガチで見た人やスパロボプレイヤーなる方々なら察しがつくでしょう。

 

 

───『勇者王ガオガイガー』の事です。

 

 

 1997年2月初めから、1998年1月末まで放映された『勇者シリーズ』といわれるアニメ番組。勇者シリーズの8作目にして、シリーズにおけるテレビ作品最終作であり、通称は「ガガガ」「GGG」などとも言われます。

 その主人公機たるのが、(くろがね)の巨神、勇者王ガオガイガー。

 

 そしてガオガイガーになるため、中心となるメカライオンのギャレオンが獅子王凱と一体となり、人型ロボットの『ガイガー』になる行程が『フュージョン』。

さらに、ガイガーが4機の支援メカ『ガオーマシン』と合体するのが『ファイナル・フュージョン』ですの。 

 ちなみにガオガイガーのスペックは以下の通り。

 

 全高 31.5m

 重量 630.0t

 動力源 Gドライブを4基接続、搭載

 最大出力 20,000,000馬力 (15,000,000 kW)以上

 推力 5,500t×2

 最高走行速度 195km/h

 ちなみにファイナル・フュージョン完了時間は62.318秒(以降毎回更新)

 

 ……以上の情報から、中世ヨーロッパのような、いえ、今の国ではまず在りえない存在ですわ。

 存在いたしましたら、文字通り神話(マイソロジー)の存在です。

 

 単純に記憶を受け継いだ、とはいえ、私はその記憶の影響は非常に強く受け、その結果『前世』での知識のみならず、嗜好をも半ば受け継いでしまったのです。

 その中で特に影響が強かったのが、サブカルチャーというもの。

 

 

 ……いえ、だって、ねぇ?

 

 

 『前世』と『今』の文明を比べたらそれはもう……

 

 例えるなら、抵抗出来ない甘美な毒の蜜。

 一度受け入れてしまったら抗えない、甘い甘い魔性の味。

 それはもう……どっぷりと。

 

 

 幼少の頃、短い間でしたが、部屋に独り引きこもっていた期間がありましたの。

 脳内記憶にあるアニメーション映像が、PCに綺麗にファイリングされているように見えていれば、それが自分の意思でポインタを自由自在に動かし、再生出来れば、嫌でも気になるではないですか?

 しかもそれが、より鮮明に映像が動き、壮大な音楽を奏でれば……

 

 

 ───これは神の思し召しッ!?

 ───それとも天啓ッ!?

 

 

 と、中世ヨーロッパの民のような思考を持つ者なら思うでしょう。

 ……しかし聞こえは良いのですが、(はた)から見れば妄想で笑う、不気味な子供、悪魔憑きと思われるでしょう。

 それでも、それら全てを見て笑い、時に泣き、苦悩し、同情し、果てに否定し、最後に共感する日々……

 

 例えるなら、人生に絶望した無垢な少年が、夜中にふと見たテレビに映る深夜アニメに、それはもうどっぷりハマった……

 

 

 ───そして、悟りましたわ。

 

 

 嗚呼……素晴らしい、ガオガイガーはッ!

 

 

 異星文明の結晶たるメカライオン、ギャレオン。

 ギャレオンのもたらした、Gストーンを始めとする様々な技術、知識は正に究極。

 

 主人公の一人、獅子王凱の人柄は熱血漢、そして正義感溢れ、正に私の理想のお人そのもの。

 物語の冒頭で深く傷付いた身体を救うため、サイボーグという鋼の身体になった獅子王凱の存在は、鎧騎士の存在が当たり前とする私にとって、この作品にのめり込むきっかけになりました。

 

 そしてもう一人の主人公、緑の星の主導者カインの息子たるラティオ=天海護は、幼いとはいえ、敵である機界生命体ゾンダーの核より人々を救い出す『浄解』の力を持ち、直接戦闘に関われないものの、ゾンダー戦には欠かせない存在です。

 当時『英雄は大人』との固定観念が強い、幼かった私には『子供でも能力と信念、そして勇気さえあればッ!』と思わせる程でしたわ。

 

 後、主人公以外の方々も、緻密なバックボーンを持つ、多種多様な存在ばかり……

 個人的には、やはり『ガッツと勇気』を体現する大河長官と、頼れる忍者ロボ・ボルフォッグがイチオシ、ですわね。

 

 ちなみに、文官と諜報の長として欲しいのは、猿頭寺さんだったりします。え、何?あの超有能……いたら絶対ヘッドハンティングしないと……

 

 ……まあ、そんなこんなで、様々な想いを抱きつつ最後まで見ましたわ。

 もちろん『Final』まで、途中ストーリー確認のために見直しを含めて、一週間貫徹で。

 

 

 ……お陰で周りから、特にお母様には、こっ酷く怒られ、雷を落とされましたわ。半日のお説教と雷魔法込みで。

 

 そして、お説教が終わり、最後に残ったのが、『ファイナル・フュージョン』したい!という、その当時としては極度の衝動、今となっては強い願望となった出来事でした。

 

 故に、時折『ファイナル・フュージョン』したい、等と呟く時がございますの。

 

 

 

 

 

 ……しかし、その夢は今も尚、叶えられておりません。

 

 

嗚呼……ファイナル・フュージョンしたい~!

 

 

 

 




《次回予告》

遂に始まった『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい。』

開幕早々に語られるカルディナお嬢様のガオガイガーへの愛。

しかし、叶えられない『ファイナル・フュージョン』の理由とは?

次回、『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい。』第二話『ギャレオンがいない』に、君もファイナル・フュージョンせよ!









……次回予告が盛大なるネタバレって、良いのかこれ?。




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Number.02 ~ギャレオンがいない~

今更、ガオガイガーとか需要が無いとは思いますが、そこは趣味と妄想が暴走した結果と捉えて下さい。


後、更新ペースは一週間に一度くらいでしょうか?
環境上、メインがスマホでの文字打ちなので、まあ遅い遅い……



それではどうぞ!


 ……そう、最大の理由は『ギャレオンがいない』ため、でしょうか?

 

 そもそも、ギャレオンの生まれ(製造場所とも云う)は太陽系より別の星系である『三重連太陽系』と呼ばれる、太陽系とは別次元にかつて存在した惑星系で、その一つである『緑の星』の指導者である『カイン』の下で創られましたわ。

 

 ちなみに『三重連太陽系』は3つの恒星が天に浮かぶ星系で、緑の星組のギャレオンと護(ラティオ)、赤の星組の戒道(アルマ)とソルダートJ、トモロの故郷でもあります。緑の星、赤の星、紫の星を含む11の星々で構成されておりましたが、後に科学文明が高度に発展した、紫の星で暴走した機界生命体『ゾンダー』により『三重連太陽系』は滅びました。

 

 その際に『ゾンダー』に対する抗体である『浄解』の能力を持って生まれた、緑の星指導者である『カイン』の息子、護(ラティオ)の力を分析、その能力を基に、Gクリスタルから作られた物こそ、無限情報サーキットであり、『勇気』の感情を糧に莫大なエネルギー『Gパワー』を生み出す、緑の結晶体『Gストーン』ですの。

 

 そのエネルギーは『ゾンダー』が発する『素粒子ZO』と対消滅する関係で、機界昇華されゾンダー化した者の侵された肉体が触れると肉体が消滅する程です。

 

(ちなみに、Gストーンではなく、元となったGクリスタルの方が出力は高いのですが、Gクリスタルの力でゾンダーを倒すと、ゾンダーの核、そして核となった人間諸共『滅ぼす』事になるため、デチューン+対ゾンダー耐性がなされる事になったのが、Gストーンなのです。)

 

 持つ者の勇気に反応し莫大なエネルギーを放出する反面、勇気無き者には手にした途端に石ころ同然と化しその力を発揮する事はないデメリットこそありますが、それを差し引いたとしても、エネルギー源としては究極、の一言に尽きます。

 

 そして護(ラティオ)を伴い、ゾンダーによって滅ぼされた『三重連太陽系』から脱出したギャレオンによってGストーンが地球人類にもたらされ、サイボーグ・ガイ、ガオガイガー、そして最強勇者ロボ軍団など多くのGGGの装備の動力源となったのです。

 

 

 

 

 

 

 ……そう、なったのです。

 

 ……まあ、ここまで言えば何を言いたいかは解るかと。

 

 ……しかし、敢えてここは申しましょう。

 

 

 

 

 

 はい、せーの……!

 

 

 

 

 

 

 

『ーーーギャレオンがいないと、物語が全く始まらないッッッ!!!』

 

 

 

 そもそもギャレオンがいないと云う事は、Gストーンが無いのです。護君も存在しません。

 Gストーンが無ければ、キングジェイダーに使われる『Jジュエル』も存在せず(緑の星から赤の星にGストーンの技術提供があり、それを元にJジュエルが出来た経緯があります。)ろくな抵抗も出来ずに『三重連太陽系』はゾンダーの襲撃にて、皆全滅。ソール11遊星主も生き残ることなく文字通り全員・終了。

 ついでに、EI-01(パスダー)によって、地球は知らぬまに、抵抗成す術なく機界昇華まっしぐら!

 獅子王凱様もスペースシャトルとEI-01との物理的接触で致命傷を負っても、ギャレオンに救助されることなく、宇宙で散る運命に。仮になんとか生存していても、Gストーン無しでは、鋼のサイボーグは誕生せず……

 

 

 ……ギャレオン()がなければ

勇者王ガオガイガー(主役)』は存在しませんのよ、おほほほ……(絶望)

 

 その事に絶望した、5歳の春、初めてのアニメ(脳内)連続鑑賞一週間貫徹後の夜明け。

 

 ベッドの上で布団を被り、目の下に色濃く隈を作って、独りで笑って泣いて、感動して怯えて、応援して。

 

 地上波放送の分まで(この時点で『Final』はまだ見てません)を見た後に『わたくしもガオガイガーになって、せかいをすくいたいですわ~』と子供の英雄願望を想った瞬間、今、自分が住む世界に、ギャレオン(始まり)がいない事を知った時……

 

 そしてそんな環境なぞ、この世界には未だに一切ない事を頭の中で整理出来た時……

 

 『ゾンダーメタル』なんてなくても、悲しみのストレスだけで『ゾンダー』になれそうなぐらい泣きましたわ。

 

 ちなみにその時の台詞が

 

 

 

 

「おにょれ、ぞんだーーー!!!」

 

 

 ……全く意味不明ですわね。

おまけにゾンダー関係ありません。

 ですがその瞬間、部屋の外で待機していたと思われる、お母様がドアを粉微塵に破壊、突入。

 

 

 

「───カルディナァァーーーーー!!!!」

「ぴあああああァァァーーーー!!!」

「何やってるの、いい加減になさァァァーーーーいッ!!!」

 

 

 文字通りオーガ()の形相で突入してきたお母様は手加減無しの雷を落としましたわ。(雷魔法で)

 

 そして真っ黒焦げになって倒れた私は

 

 

「……たすけてたすけて、ぎゃれおんさん。かるでぃなにさいぼーぐになるちからをあたえてください……」

 

 

 

 と、天に助けを求めるように手を伸ばし、そして没しました。

後に駆けつけてきたお父様に、「悪魔憑きだー!!」と誤解。

寝る暇もなく半日、エクソシストにお祓いを受けました。

 

 

 後に『カルディナ様の悪魔憑き事件』と呼ばれた、周囲から今でも誤解されたお話ですわ。

 

 まあ、当然ながらギャレオンなんて来る訳でもなく、包帯ぐるぐる巻の姿でベッドに拘束。その中で現実を思い知った私は……

 

 

 

 ───せめて、ファイナル・フュージョンが出来たら……

 

 

 

 と、思うように。

 ええ、全く懲りておりませんでした。

しかも包帯ぐるぐる状態でファイナル・フュージョンしても意味がないというのに。

……むしろ、悪化したとも言えます。

 

 何しろ、5歳の女の子、しかもフリルドレスを好んで着る子供が、お姫様でもヒロイン役の女性にも憧れず、むしろギャレオンからもたらされる技術を求め、獅子王凱の存在を無視して、ガオガイガーの搭乗者になるにはどうしたら良いかを夢想する『ガオガイガー馬鹿』になったのです。

 

 しかし女の子は、質の悪い事に現実知らずではありませんでした。

 

 まず、両親に心底怒られた後『何故怒られたか』でなく『自分がどう行動すれば怒られずに済むか』を考えました。

 

 今回の一週間貫徹をする前に、この女の子は『記憶書庫(B・ライブラリー)』の中にあった『な◯う小◯』の悪役令嬢モノや、性格悪の貴族がプギャーされる話、ネットサーフィンをしたら広告によく出てくる◯◯令嬢漫画等を散々読んでいたのです。

 なので、将来自分が我が儘勝手に振る舞えばどうなるか、ある程度理解がありますの。オソロシヤ……

 

 ……まあ、今回は明らかに不摂生と怪しい行動で、両親や周りの従者達を心配させたのが原因なのですが。

 

 ならば、自分はどう動くか?

 ギャレオンが来るなんて期待は出来ません。

 来ないなら存在しないと同じ。

 居ない、無いなら造るしか、創るしかない。

 

 

 そうして『私の私による私の為のガオガイガーづくり』が始まりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そして10年の歳月が流れ、未だにファイナル・フュージョンどころか、ガオガイガーの鱗片ですら出来ていないのが現状です。

 

 いや、何て無理ゲーですの?

 文明を考えて下さい。機械文明の『機』の字すらない時代に、機械を誕生させろと?

 

 いえ、そう意味ではなく……

 後一つ、後一つのピースが足りなくて躊躇してるんですの。

 はぁ~、いったい何処にあるのでしょうか?

 

 

 

 

 ……き~せき、し~んぴ、しんじ~つ、ゆ~め、たんじょう、む~てき~の……はぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「……き~せき、し~んぴ、しんじ~つ、ゆ~め、たんじょう、む~てき~の……はぁ……」

 

 

 ……また、歌っていらっしゃいますね。

 

 お嬢様が辛い時には必ず歌う、とある歌のワンフレーズ。

 そして最後にため息。

 私はこのワンフレーズを、この方に仕えてから、何度聞いた事か。

 そして、あるであろう次のフレーズは一度も聞いた事がない。

 カルディナお嬢様はいつもそれを繰り返している。

 

 こう言ってはどうかと思われますが、カルディナお嬢様は奇才であり、鬼才である。

 

 例えば、わたし達が主食としているパン。

 とある朝食の際に、幼いカルディナお嬢様はこう申されたそうです。

 

 

「……このパンは、固いのですね。」

 

 

 当然です。

 この時代に食べられているパンは特に保存に重きを置いているためか、とにかく硬い。小麦粉を水で練って焼く。しかも保存のため焼き固める。それだけです。

 それは平民もさる事ながら、当時の貴族も多少柔らかいながらも似たようなパンを食べていました。

 それこそスープにパンを浸してから柔らかく食べる事すら一般的だったのです。

 それをこのお嬢様は───

 

 

「でしたら、料理長にワイン用意して、と伝えて下さいな。あ、お父様のワインも。」

 

 

 ……私が拾われる前の話だったので、詳しくは存じませんが、当時はその場にいた方々は相当ショックを受けたそうです。

 

 

『いったい何を言っている!?』と。パンが固いからワイン!?

 しかも公爵様のワインも!?

 

 

 その後、お嬢様は料理長を呼び出し、あれこれと注文を付けたとの事。

ちなみに公爵様の説得は、お嬢様が上目遣いの「お願い」で陥落、承諾させたとか。

 

 

 当然、お嬢様はワインを飲む訳でなく、料理長に『発酵』がどうのこうの、と説き伏せてしまったようで。

 それが一週間経過した頃には、我々ですら驚愕する程に、料理長のパンが風味豊かに、かつ今までにないくらいに柔らかいパンが出来上がりました。

 ちなみに公爵様は、その後秘蔵のワインの保存場所を変えたそうで。

 

 そして、これは凄い、と皆が思っていた矢先……

 

 

「やっと少し柔らかくなりましたね。でもまだまだこれからですわ。」

 

 

 朝食を平らげて、その後、放った一言がそれだったとか。

 そして更に……

 

 

「やはりお父様のワインで作るのが具合が宜しかったようですね。料理長、わたくしが許可します。お父様のワインを使ってパンを作ってください。あ、ワインの場所はですね……」

 

 

 お嬢様の鶴の一言で、後のパンは、お嬢様発案の『ワイン・パン』になり、数年後にはアースガルズ公爵領においてメジャーなパンになった。

 ちなみに公爵様は「私が嫌いなのか……」と泣き崩れたそうで。

 後にお嬢様が

 

 

「これも食事が、ゆたかになるため、ですわ。」

 

 

 と公爵様を諭したそうです。

 そして、公爵様のワインの追加注文の増量を促したとか。

 公爵様は違う意味でもお泣きました。

 

 

 ……御愁傷様です。

 

 

 ただ、この『ワイン・パン』。今までのパンとは違い、焼き固めがされていない為か、保存があまり利かないのが難点。

 しかし、お嬢様もその点は判っていたようで、後に日持ちする『ワイン・パン』の開発に尽力され、見事成功されました。

 

 後に、白ワインを使ったこのパンは『白パン』と言われるように。

 更に今までのパンは色味から『黒パン』と言われるようになり、カルディナお嬢様の働きかけで別の名物になりましたが、それは別の話に……

 

 

 まあ、話がパンに傾いてしまいましたが、何が言いたいかと云うと、カルディナお嬢様は『初めから、一を知った後、いきなり十を行う』方だと事です。

 

 お嬢様に『問題』をお渡しすると、大概予想を越えた解決策が返ってきます。

 

 ……5歳の子供が、大人も知らない事を知って、しかも実現できる。

 

 事情を知り、少し考えたら恐ろしい。

 その知識はいったい何処から知り得たのか?

 以前さりげなく『白パン』の知識について伺うと

 

 

「以前、お父様にわがまま言って酒蔵に付いていった時、ワインの作り方を教えて頂いたのよ。その時、ワインの酒精(アルコール)が出来る過程で小さな気泡を生み出すのを見たから、応用問題出来ないかしら、と。含む気泡が多いと物って柔らかいですのよ。」

 

 

 と書類を精査しながら語られました。

 酒蔵見学は『悪魔憑き事件』が起きる前、『白パン作り』はその後の話だそうで、辻褄は一応合っているものの、やはり解せません。

 

 

 ───何が彼女をそうさせるのか。

 

 

 その後、お嬢様は勉学に励むのですが、そこでも異才と奇才、そして鬼才を放つ事に。

 

 

 もし、カルディナお嬢様の中に、悪魔が憑いているのであれば、何を企んでいるのか?

 もし憑いているなら、街も経済も、人も、そしてこのアースガルズ公爵領も、(ことごと)く豊かにする理由が何処にあるのか?

 もしあるならどんな理由か?

貴族として振る舞い、この地を豊かにせんとするカルディナお嬢様(悪魔)は、今後何を望むのか?

 

 

 ……それを傍らで拝見出来る事が、楽しみで楽しみで仕方ない、そう思う私の口角が自然と上がっていたのは……ええ、少々お恥ずかしいですね。

 

 さて、楽しい思考はここまでとしましょう。

 私はお嬢様のメイドとして、憂鬱とされているお顔を和らげるため、紅茶を新たに淹れる事に。

 この時の紅茶は基本の作法たる温度より僅かにぬるめに、そして普段は入れない砂糖をティースプーン一杯分入れ、お嬢様の前にお出しする。

 それから……

 

 

「お嬢様、もうそろそろお時間です。」

 

「……ああ、もうそんな時間なのですね。判りましたわ。」

 

 

 忙しいお嬢様のタイムスケジュールを管理する事。

 気分直しの紅茶に、憂いたお顔が少しほころぶのを見て安堵しつつ、私はこれからの準備を始めたのだった。

 

 




《次回予告》

君達に、最新情報を伝えよう。



己の夢を叶えられず、憂鬱とするカルディナ。
それでも彼女の日常は続く。

夢に近づくために足りない『あと一歩の何か』

しかしカルディナは出会った。
赴いた街で、彼女が見たものとは!?
遂に物語は始動するッ!



次回『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい。』

第3話『糸と、ドワーフ』


次回もこの物語に、ファイナル・フュージョン承認ッ!!




これが勝利の鍵だ! 『◯◯の糸』







はい、ようやく2話目更新できました。
次からやっと話が動きます。


ちなみに、ワインを使ったパンは実際に作れます。
しかし、パンだけでここまで話を膨らませるつもりはなかったのです……

プロットぶち抜いて話が暴走したせいです……

※7月1日 誤字報告ありましたので、一部変更しています。


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Number.03 ~糸と、ドワーフ~(1)

第2話投稿直後、小説の情報を見たら


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……なん、だとッ!?

誰も見てないと思ったのに!

どうもありがとうございます!




気を取り直して、どうぞ!
(この話から、ナレーションが少し変わります。)



 

 

 

 

 

 一言で云うと、カルディナ・ヴァン・アースガルズは非常に多忙である。

 

 

「店主、お伺いに来ましたわ。」

「おお、カルディナ様。 本日もよろしくお願い致します。」

「ええ、良しなに。」

 

 

 メイドのフミタンを伴い、やって来たのは公爵領にある、カルディナが父親たる、公爵より任されている商会『アースガルズ商会』。

 カルディナは品が良く、かつ機能的、着やすさを重視したような、街の娘が着る服よりも多少優雅なデザインの服を着ていた。ただ、その服は白で清楚さを主張したものではなく、逆に色はオークルベージュや薄いブラウンを主とした、公爵令嬢としては地味な色合いのものだった。

 ちなみに、テーマは『作業着とドレスを品良く合体させてみた』である。

 これは、カルディナ自身が、汚しても、汚されても問題ない物を望んだ為である。

 それは、カルディナが計算高い人物だから、である。

 

 『アースガルズ商会』とは、本店を基点とし、数ヶ所存在する支店、そして商店に加盟、傘下とする各工房、各農家の集合体の総称である。

なので、正確には『アースガルズ商会グループ』である。

 

 やり方としては加盟、傘下の各工房、各農家から仕入れた商品を販売する───以上。

 

 ……言っている事は簡単であるが、要は『自社ブランド販売』の構想である。

 現代で言えば、コンビニ……セブ◯イレ◯ンや、ロー◯ン、セ◯コー◯ート等で売られている自社マークの入った商品の事。(コンビニ以外でもありますが、ここでは割愛。ただしセ◯コー◯ートはほぼ自社製造。)

 商品の裏のパッケージをご覧下さい、必ず何処の会社が作った物か、記載されているはず。

 大体は別のメーカーが作っているハズ。

 

 ……閑話休題。

 製造と小売店の間に『卸売り』が入らないので、利益はその分上がる為、カルディナは採用している。

 また、遠方への村へは商店では基本していないが、契約、提携した行商人に対し、卸売りの立場を取ることもある。

 基本的には、地産地消である。

 店の経営の特徴には、この時代でまずお目にかかれない『マニュアル』が存在する。

 当然、店主との協議の末、完成させたもので、接客から品物の陳列、値段交渉目安等、事細かにあるが、週一日、視察程度しか来る事が出来ないカルディナであっても、それさえ見て、2~3日の研修を経るだけで、新人であってもある程度店を廻すことが出来る。

 もちろん不都合、改善点があれば要望によって変更出来るようにした。

 それは商品を製造する各工房の親方衆達にも、同様の事を働きかけた。

 自身の仕事を省みせ、弱点をハッキリさせ、すぐに利益を出せるもの、逆にこだわりを持って作って欲しいものを出し、工房の生産性を上げた。

 職人のこだわりと、消費者のニーズにズレがある事もハッキリさせ、利益に繋がるようにした。

 職人の育成も、すぐに任せられる事、時間をかけて覚えさせる事を親方衆、職人達に判って貰えるよう尽力した。特に職人の育成は、その工房によってまちまちであり、互いに不満が募る、危ういすれ違いが多いのも回避出来たのは大きかった。

 特に『文章化、図面化出来る及第点』はギリギリのところまでハッキリさせ、常に判りやすい環境を作るようにした。

 何故『現代的』な処置を実践したか、それは『ハッキリさせるため』と『無駄を極力減らすため』の2点にある。

 『現代』の知識を知っているカルディナにとって、今までの商売形態は、あまりにも無駄、損が多い。

 商人は個人はともかく、商店を持つところの接客、ノウハウは質がまばらだ。場所によっては店が傾きかけている所も多々あった。店主以外の能力も低いのも商品となる品物も同様だった。

 工房によっては質がまばら。個性となるならまだ解るが、品質のレベルで差がありすぎた。

 貴族用と呼ばれるものはまだいい。品質もそこそこ(カルディナ基準)。

 しかし平民用は、貧雑の一言。もう少し改良しても良くありません?(カルディナ基準)

 しかも使えればいい、これでいい、と言うのだから世も末。(現代物資が比較基準の、カルディナの弊害)

 であれば、まずは改良点はそこから、であろうか?

 カルディナはそう考え、自身の関わる商店、工房、農家に自ら足を運んだ。

 そしてそこから始まったのは、皆さんよくご存じの現代チート。

 現状の物資、品質のもので、あらゆる手を、あらゆる技術を『記憶書庫(B・ライブラリー)』より抽出し、放出した。

 

 当然、衝突もあった。

現状のやり方を、品物を否定されるのだから。

 しかしカルディナもそこは判っていた。

 故に、まずは親方衆の現状を否定せず、しかし欠点をチクチク、チクチク指摘。

 そして僅かに出来た隙に捻じ込むように、新しい技術、方法を提供する。

 

 まず一つ。

 出来たらもう一つ。

 出来たら更にもう一つ。

 一つ一つ平たい石を積み重ねるように、成功の実体験を相手に積み上げさせるのだ。

それは不安を和らげ、意欲を刺激し、向上心を高める。

 

 するとどうだろうか?

 それが成功し、利益が少しずつ上がり始め、形になると、親方衆も店主達もカルディナの言っている事を認めざるを得ない。

 自身の今までのやり方を省みる意識を持たせ、今までの考えでは、やり方では駄目だと自ずと気付き始める。

 そして、自然とカルディナを頼り始めるのだ。

 

 そうなると話が早い。

 カルディナを慕う、もしくは頼り始める者には更なる知識と技術の付与を。

 逆に騙そう、陥れようとする者には制裁を。しかもカルディナが手をかけた者達にも害を為そうものなら貴族権力すら使い徹底的に。

 ただ、見込みのある者であるなら救いの手を差し伸べた。

 

 そうする事でカルディナは一人、また一人と商売に関わる者達を味方に付け、信頼を得て、何時しかそれが大勢になった頃、現在の『アースガルズ商店グループ』の構想を打ち出し、手塩に掛け育てた者達を囲い、更にその力を伸ばしていった。

 

 そして各工房や商店同士を協力させ、単独では生み出せない、更なる商品の開発に力を入れ、いつしか『カルディナ・クォリティー』なるブランド、品質に特化した商品も開発されていった。

 ただし、命名は本人ではない。

 その間、2年。

 そんなカルディナである。

 現状のカルディナ個人の資産は、王国での個人資産所持の五指に余裕で入る、超お金持ちである。

 しかし、当の本人を見ると、衣服、容姿こそ整っているものの、お金持ちになんて見えない。アクセサリーもまた必要最低限でシンプル。

 

 何故か?

 

 

 当然、ガオガイガーの為であるッ!!

 

 『創造!ガオガイガー!』を謳う彼女は、時には、自らも汗水垂らして働く覚悟が(そして実行した経緯、これも多数)ある。

 

 

 自ら手を貸して得られる商機を逃しては、資金は貯められない。

 服の汚れを一々気にしては、お金は貯まらない。

 希少金属の買い付けも、職人の給料もお金がないと始まらないッ!

 

 つまり、

勇気だけじゃ(お金もないと)、ガオガイガーは創造出来ないッ!」

 

 

 ギャレオンが咆哮するが如く、カルディナの心もまた燃えていた。

 

 まあ、それだけではない。

 実際カルディナには、3つの狙いとリスク回避のため、現状の経済状況を生み出す必要があった。

 

 一つ目は、資金調達。

 二つ目は、技術の進歩。

 三つ目は、世論の緩和。

 

 

 一つ目の資金調達は、先程の通り。

 

 二つ目の技術の進歩。

 これはいざガオガイガーを鋳造する時に、確かな技術を持つ、熟練の技術者が、しかも多数人必要になる事は間違いないと予想されるからだ。創造相手はオーバーテクノロジーで造られた『架空の』鉄の巨神である。しかも『記憶書庫(B・ライブラリー)』にも現実に創造された記録はないのだ。設定資料集もあるが、それはあくまで『架空設定』である事をカルディナは知っている。

 実際に『現代』にある技術も含まれているが(ドリルとか)、どちらの世界であっても、存在自体がオーバーテクノロジーである故に、生半可な技術では太刀打ちすら出来ない。下準備は絶対だ。

 ボディを造るにあたり鍛治師は絶対として、細かなギミック、変形機構、内部部品を製造するにあたり、金属細工師も必要になる。

 そのため、技術者同士を協力させ、技術を高め合う場を、あえて作り出していた。

 

 三つ目の世論の緩和。

 これは『世論が自分の行いの妨げ、もしくは敵にならない為の予防策』とする為。

 

「間違いなく、自分の趣味(=ガオガイガー)は異端ですわねぇ……」

 

 

 カルディナ自身、たまにそう思う事もある。

 

 ……え?自覚あったの?と思った方、お嬢様がヘルアンドヘブンをして差し上げるそうです。どうぞ前に。

 最後に「ウィーータァーーッ!!」が付く方ですが。

 

 

 

……閑話休題。

 

 それはもう自覚あります。

 もし世間に知られれば、まず非難は確実に来るのは判りきっている。

 特に煩いのは『教会』である。

 清廉潔白をモットーとする、この国で主流派の『カイエル教』は悪魔的要素を極端に嫌う性質がある。

 もし完成させたガオガイガーの容姿を見ようものなら、アナフィラキシーショックを起こす患者の様にヒステリックを起こし、非難するだろう。(実体験あり)

 

 ただ、魔法を主とするこの国での信者はおよそ半数以下。他は無宗教か、マイナーな土着神、もしくは他国の宗教をひっそり。

 

 

 それでもある程度の衝突があるかもしれないが、極力は避けたい。

 それがカルディナの願いだ。

 

 

 ……じゃあ、止めれば?と思うがそれは無理。

 

 

 だって好きなんですものッ!!!

 

 

 そして狙いとは別の、リスクについて。

 これが厄介だ。

 何故なら、これは確定事項だ。

 それは『国』が介入してくる事。

 

 カルディナ住む、アースガルズ公爵領を含んだ、24の貴族領と1つの特別区域を纏め上げる存在が『王国』、正式には『アルド・レイア王国』という。

 

 この『王国』にはとある法律がある。それは……

 

 

『武器、鎧、他発明品の『新』開発、製造を行う際には、国に届けよ。』

 

 

 つまり『何か新しい物を作る時は、必ず国に言ってから作るように。』である。当然、製作場所も明らかにしないと駄目である。

 設計図に機密事項を設けても良いが、後で聴取が来るのである意味無駄と言ってもいい。

 理由として、一つ目は販売による税収対策、二つ目は国家反逆防止対策、三つ目は王国による新技術の発掘がある。

 特に三つ目に関して『王国』、特に『国王』は技術収集に貪欲である。王国自前の技術者集団が日夜、あらゆる分野の技術を模索しているが、当然限界もある。

 そこで各地方、各領地で研鑽し培われた優秀な技術を収集、吸収し、発展させよう、という訳だ。

 オノレ、オウコクキタナイ……

 また『技術採用』という、現代における特許に似た制度があり、特別な技術は一定年月独占、そして独占販売が出来る。

 しかし、特別な技術はそう簡単に生まれる訳でもなく『技術採用』を認められる者は少ない。

 

 ただ、とある商会が、連日『技術採用』可能な品々を納めてくる為、審査機関がマヒしているとか……

 ナニソレ、シーラナイ

 

 そして一番厄介なのは、軍事関係の開発で『技術採用』を取ると、必ずと言っていい程、量産するようお達しが来る。

 当然、ガオガイガーのスペックを見たら『技術採用』から量産の話まで一直線だろう。

 そうなれば……

 

 

 

 ……え?? ガオガイガーを量産?? ナニソレコワイ……

 

 それはいけない。

 ガオガイガーはたった一つ(ワンオフ)こそ望ましいのだ。

 制式量産でズラリと並べ立てられた光景を見たら……

 カルディナが号泣しそうだし、やられメカ的存在に成り下がりそうで嫌だ。

 しかし、ここの『国王』はそれを本気でやらかしそうなのを、カルディナは知っている。(多数実例あり)

 

 

 なので、目下生け贄(スケープゴート)となる存在を別に設計中なのだが……

 『あと一歩』がない現状は、残念ながらガオガイガーの事を含め、絵に描いた餅、でしかない。

 

 それに誤算もある。

 まず、勢い良すぎて父親が関わるところまで手を出し(出さないとヤバいレベルまで酷い現状だった為もある。後は連鎖的に。)結果的に食い尽くした為、カルディナは意図せずアースガルズ公爵領の経済界を牛耳ってしまった事。

 勢い余ってやった事を報告したカルディナに対し、自分が関わって来た頃より格段に上がった税収を見て何も言えなくなった公爵は、その夜、妻に泣き付いたという。

 その翌月から公爵からのお小遣いが全額カットされたカルディナは「何故ですのー!?」と泣いたという。(自業自得)

 

 

 次にカルディナ信者が増えた事。

 初めは公爵の小娘というレッテルを貼られていたカルディナだったが、丁寧で親身に話を聞くその姿勢と、救済にも似た卓逸した手腕、その人柄に、コロリと堕ちる人々が続出していった。

 何しろ容姿は、『聖女』と呼ばれる程に整い、『それ』とした誤解もまた多い。

 また、プライドの高い親方、住民に対しては

 

 

「いくら私が貴族だとしても、所詮はただの小娘に過ぎません。ですので、真面目な話でなくても、愚痴程度でも仰ってください。それで抱える問題が解決するなら、安くありませんか?」

 

 

 と、愚痴すらも聞くカルディナに、心を許す者も次第に多くなっていた。

 ただし、個人的信者を増やすのはカルディナにとっては不本意、教会の『聖女』の様な扱いは嫌いなのだが、当の本人が自覚していないため、自業自得と言えようか。

 

 また、赴いた街で、そこに住む住民が食べる物と同じものを食べていた事も大きい。正確には出店の食べ物であるが、共に食べ、席を共にした者の話を聞き、時には同調して、口論もして、謝り、謝られたり、商売以外でも住人とも気兼ね無く交流していた。

 その時にはカルディナの人となりがよく現れ、この公爵領の令嬢とはどんな人か、ありのままを見せていた。

 また、その時に得た情報を元に問題解決に奔走した事も……

 その結果『公爵より貴族してる。』と謎の評価を受け、カルディナは困惑。現公爵は娘の存在に恐怖した。

 

 最近では、カルディナの恩恵を受けた住民からは、この頃には「おんぶに抱っこじゃ申し訳ない!」という自立心が芽生え始めて来た。

 何しろカルディナは公爵令嬢。いずれは何処かに嫁ぐ身だ。そんな時、何時までもカルディナに甘えては今度こそ駄目になる!と一部の住民達は思い始め、今以上の頑張りを見せていた。

 

 ちなみに、公爵が「これで公共事業にまで手を出してきたら……」と不安に思っていた時に、カルディナが「お父様、ちょっとご相談が……」と不安混じりに頼って来た事に、父心が復活し、意気揚々と相談に乗ったら、よりによって公共事業レベルのライフライン整備の計画立案書を持って来られ、しかも新技術と実現出来るプランを提示された時、公爵が家出したという話もあったという……

 

 最近、父親には何かしら恐れられる始末。

 本人は解せぬ、といった様子だが、自分の行動をどうか振り返って頂きたい。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 

 とまあ、散々なが~く説明させて頂いたが、誤算幾つか出ているが、現状の流れ、環境のほとんどが、彼女の、カルディナ・ヴァン・アースガルズ公爵令嬢が計算して作り出したものだ。

 ほとんどが私利私欲のため、と言っても過言ではない。

 

 民の為? 違う。

 皆が幸せを享受する為? 違う。

 経済を発展させる為? それだけではない。

 

 過去に、一人の民に「カルディナ様はどうして、みんなに優しいのですか?」と尋ねられた事があった。

 そしてカルディナは、こう答えた。

 

 

「優しいというのはどうでしょう?私にも夢があります。その為には、お金は必要ですよ?なので、商会の長という立場の私で出来る事は、皆の頑張りによってお金を世間に廻す手助けをする事。そうする事で、皆に富が廻り、私にも富は巡る。またその富で皆を手助けし、また廻す。その繰り返しですわ。」

 

 そう話し、聞いた民は感動したという。

 しっかりオブラートに包んだ、良いお話でした。

 で、本音は?

 

「民に恩恵を与えるのです。ならば私も儲けさせて頂いても、バチは当たりませんわよね?製作費用、きっちり稼がせて頂きますわッ!」

 

 

 と、本人談。ありがとうございます。

 やはり貴族である。

 

 

 

「……さて、これで以上でしょうか?」

 

「はい。新作ドレスの件は、変更したデザインでお任せください。ご提案の通り出来ます故。平民向けの新作の服も順次、期限内に出来次第、各支店に送り届けます。どちらも好評ですから、販売しても、またすぐに売り切れるでしょう。」

 

「それは重畳。ですが売り切れても直ぐには生産はしないように。職人には充分な休みを与えてから、ですわ。今回の納期の為、少し無理をさせてしまいましたし……無理はしないように。」

 

「わかりました、仰せの通りに。」

 

「では、次がありますので、これで失礼致します。」

 

 

 

 そして、フミタンを伴い、店を去るカルディナ。

 馬車に乗り、通りから見えなくなるまで店主はその場を動かず、見送り、そしてようやく安堵のため息を吐く事が出来た。

 

 

「本当に、毎度思うが不思議な方だ。公爵の令嬢と言えば、大概ワガママなんだが、カルディナ様は私達に随分と良くしてくださる。お陰で毎度毎度、取り越し苦労ばかりだ。もう少し、他領のお貴族様もカルディナ様のようであればなぁ……」

 

 

 店の品物が良いため、他領の貴族も買いに来る現状、カルディナに対しても同じように対応してしまうが、彼女にはその気遣いが無駄になる。(経営に不備があれば、雷が落ちるが。)

 そして、店主も店に戻りつつ、今回出るであろう儲けに対し、職人の給与にどれくらい色を付けるか、考えるのであった。

 

 

 そして、カルディナが次に向かったのは、孤児院だった。

 

 

「うふふ、まちなさーいっ!」

 

「うわー!! カルディナ姉ちゃん、来たー!」

 

「逃げろー!」

 

「今日こそ逃げ切って、追加のお菓子、ゲットしてやるー!」

 

 

 孤児院で、カルディナは何故か子供達と『オーガごっこ(鬼ごっこ)』をしていた。

 

 ちなみに、オーガ()役はカルディナだ。

 逃げ切ったら、カルディナが持ってきた、お土産のお菓子が追加されるシステムらしい。

 しかし……

 

 

「くッそー! カルディナ姉ちゃん、いつも容赦ねぇぞー!」

 

「当然、ですわ! 苦労せずにお菓子(報酬)を得られる等、思わない事です!」

 

「この(オーガ)悪魔(デーモン)!!」

 

「幾らでもおっしゃい!」

 

「ケチんぼ! お金儲け主義!」

 

「お褒めの言葉、感謝ですわ!」

 

 

「ケツデカ! メスぶ……!?」

 

 

 

 ――――ガシィッ!!!

 

 

「……誰ですの? そんなお下品な言葉を教えた、輩の存在は。」

 

 

 汚い言葉を言った子供に、風をも超えた踏み込みで、一切容赦ないアイアンクロウを繰り出すお嬢様。

 悪口は良くても、教育上良くない言葉は赦しません!

 痛過ぎて、男の子が変な動きをして悶絶していようが容赦ありません!

 そして、子供達はその言葉を教えたであろう、一人の男の子を一斉に指差す。

 悪事の通報は大切な義務です。(カルディナの教え)

 

 

「げぇ!!みんな、何でバラす……!?」

 

 

 ――――ガシィッ!!!

 

 

「……クリム、また貴方ですの? 」

「ご……ごめんなさ……」

天誅(エロイム・エッサイム)ッ!!!」

「くぁwせdrftgyふじこlpッ!!!」

 

 

 そして完成したアイアンクロウ・対面キッチンッ!(解らない人は検索を)

 そしてカルディナ様、それは意味が違いますッ!

 ちなみに犠牲となったクリム、どうやって発語した、その言葉ッ!

 

 

「……何をやっていらっしゃるのですか。」

 

 

 そんな光景を遠くから見て、孤児院の院長と相対するフミタンは、ただ呆れた。

 

 

「すみません!子供達が迷惑を……」

「いえ、お嬢様も解っていらっしゃいますので、特に問題ないかと。それよりも、お嬢様に代わって、子供達の最近の様子を伺いたいのですが……」

「あ、はい!最近は……」

 

 

 この孤児院への訪問も、週に1回、カルディナは訪れている。

 目的は子供達の様子を確認する事と……

 

 

「……で、最近は算術を覚える子も多くて。ケルン先生も教えるのが楽しいって仰ってました。」

「そうですか、順調で何よりです。ご不便はありませんか?」

「いえ、みんな今は生活に困る事なく過ごしてます。」

「そうですか。」

 

 

 笑顔で近況を伝える院長に、特に感情の起伏もなく聞き入るフミタン。

 いつも通りのやり取りだった。

 ちなみに、何故こんな事をしているかと云うと、将来への投資、のためである。

 カルディナ曰く、

 

 

「我が商会の人材を将来的に確保するためですわ! 特に算術の出来る人材は超・貴重! 今の内に教育を図っても損はありません。でしたら、孤児院の子供達を使っても問題ありません。むしろ、自由に育てる事も可能ですわ!」

 

 

 との事。そうして始まった孤児院の子供達育成計画。始動したのは一年前程である。

 ちなみに、先生である、ケルン・ウォルマート・アストニアは、元・カルディナの家庭教師だった人物。

 そんな人物を孤児院の子供達に当てがったのだ、気合の入り方が違った。

 

 そして散々遊び、子供達にお菓子を与え(追加報酬は数人有)、現状把握をしたカルディナは、満足して再び馬車に乗って、次の目的地に向かった。

 

 その姿を見えなくなるまで見送っていた孤児院の院長、若いシスターはぽつりとつぶやき始める。

 

 

「……カルディナ様が孤児院に寄付され始めて、もう一年。教会の本部すら、その2~3か月前に補助を打ち切ったのに、いち早く、しかも毎月寄付を下さって……週に1度だけど、子供達の相手も欠かさず来て下さる。相談にも乗っていただけて、しかも子供達が将来困らない様に、ご自身の家庭教師を遣わさって下さる……赴任して来た時の絶望的な状況が、こうも変わるなんて……本当にありがとうございます。」

 

 

 子供達がやつれ、死にかけていた赴任当日の絶望的なあの日。

 懸命に頑張ったけれど、報われず、どうしようもないと諦めたあの日、差し伸べられた一筋の光と言葉。

 

 

 

 ―――本当に頑張りましたわね、後はお任せなさい。

 

 そしてあの頃が嘘と思える程の、幸せな今を一緒に作ってくれたあの人には、感謝しかない。

 自身の曖昧になりつつある信仰を捨て、あの方に祈りを捧げたい、そう思う院長だった。

 

 

 

「──フミタ~ン、次はどこですの?」

「喫茶店『アンジェラ』で、次回のお茶会で提供予定の新作スイーツの試食です。お疲れの様ですので、1時間程休憩なさいましょう。」

「……そうしましょう。」

 

 

 馬車の中でぐったりとするカルディナ。

 カルディナが現在の状況を作り出して、2年が経過した。

 しかし、まだ作り出した環境が完全とは言えず、カルディナは日々各店、各セクションに週一で通い、フォローと相談を受ける日々を続けていた。

 

 全ては、自身の夢の為に。

 しかし、自身の思惑とは別に、彼女は関わる人々の運命も無意識の内に変えていっていたのだった。

 

 

 

 


 

 

 

「カルディナ様、フミタンさん、いらっしゃいませ~! あ、新作のスイーツ、完成していますよ。」

「じゃあ、席に運んで下さるかしら。私とフミタンの2人分。」

「わかりました~。席にご案内致します~!」

 

 

 威勢良くカルディナに話しかける、喫茶店『アンジェラ』の店員、アシュリーは軽快に2人を特別席に案内する。

 その道中、カルディナは気丈に歩きながらも、やはり疲労の色を見せていた。

 

 

「お嬢様、私もよろしかったので?」

「……今は冷静に判断出来る人物が一人でも多くいると助かりますわ。」

「今日はこれで最後ですが、流石に49件の訪問は無理がありましたね。わかりました、仰せの通りに。」

 

 

 そしてようやく休憩出来る、と思った時だった。

 

 

「馬鹿野郎――――――!!」

 

「ふざけんな!コノヤロ―――――!!!」

 

 

 

 

 近くの店から、いきなり怒声が響く。

 問題発生である。

 

 

「な……なんですの??」

「……さあ?」

 

 

 

 流石に見逃す訳にも行かず、2人は店の外に出た。

 そこで見た光景とは……

 

 

 

「手っ前ェ―――!! もう容赦しねえぞ!!」

「そっちこそ!! 言い掛かりは止めてもらおうじゃねえか!! ふざけんな!!」

 

 

 襟を掴み合い、一触即発になっていた、2人のドワーフだった。

 

 

 




……あるぅえ~~~~??


書いていたら、何か先触れ程度がわんさか、10000字に迫る勢いで書いてしまった。
自分でも何が起きたかわからない。

しかまだ話が途中。


すいませんが、話を2つに分けます。


……これも王国が悪いんや。


オノレ、オウコクキタナイ……









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Number.03 ~糸と、ドワーフ~(2)

すいませんが、第3話はまだ続きます。

それでは、どうぞ!


――――ドワーフ。

 

 

 身体は小さいながらも、筋肉質で、鍛冶を得意とし、酒が大好きで顔に立派な顎髭を蓄える、あのドワーフである。

 

 作品によっては、女性も含め全員がひげを生やしている事が特徴である。他種族に対して頑固。

 ホビットはまだマシだが、エルフに対しては昔から特に仲が悪い。

 ちなみに、この世界での女性ドワーフは、ロリ顔で、髭はない。安心したまへ!(誰に対し?)

 

 そんなドワーフだ。

 そしてドワーフ2人が往来の真ん中、正確には店の前で口論をしていた。

 

 ちなみに、一人は典型的なドワーフ。昨年までは鍛冶屋の親方だったが、筋を痛めてしまったためか、今年引退したところを、カルディナが鍛治物を扱う販売業を勧め、現在店先に立つ、ドワーフの親方だった。

 

 しかし、もう一人は少し風貌が違った。

 髪はドレッドヘアーで、ガラスレンズを使用したゴーグルを頭に、顎髭は無精髭程度の長さしかない。

 

 まずドワーフがしない風貌であり、そのドワーフにカルディナに心当たりはなかった。

 

 

(アースガルズ公爵領の外から来た方かしら?)

 

 

 そう思うも、心当たりの無いものは仕方ない。

 それに、時間の経過と共に、二人の口喧嘩は次第に苛烈になりつつあった。

 周りは萎縮し、止める者も現れず、これ以上は殴り合いになりそうな空気に、やれやれといった面倒くささを抱きつつ、カルディナは二人の間に仲裁に入った。

 

 

 

「―――往来の真ん中で、何をしてますの!!!」

 

「何だと!?部外者は黙ってろッ!!!」

 

 

 と、ドレッドヘアのドワーフ。

 しかし、カルディナは

 

 

「部外者に非ずッ!!! 店の元締めですわッ!!!」

 

 

 キッパリ言い切った。

 その言葉に二人共押し黙る結果に。

 それもそうだろう。今のカルディナは、非常に機嫌が悪い。

 疲れている事に加え、やっと休憩出来る環境の最中に喧嘩の仲裁だ。

 更に、魔法が堪能なカルディナは、魔力(マナ)で相手を威圧する事が出来る。加えて武術的にもだ。

 

 そんなカルディナを前にするとどうだろうか?

 目の前に超大型の猛獣が、凶悪な眼光を光らせ「黙る?死ぬ?」の二択を迫るような状況に。

 

 ちなみに、ここで暴れたら「ダァ――クネスッ!!!」な指がアイアンクロウしてきて、地面に何度も叩き付けた挙句「爆発ッ!!」と殺し文句(文字通り)を残して無残に相手は死ぬ。

 あえて「ゴ――ッドッ!!!」でないのが、カルディナ・セレクト。

 

 

 ……まあ、例えではあるが。

 

 

 

 さすがに、そんなカルディナを前に恐れをなしたか、ドワーフの2人は……

 

 

「「……すいませんでした。」」

 

 

 頭を下げた。

 特に親方の方は自身の雇い主だという事に、威圧段階から気付いたので、非常に萎縮している。

 もう一人も、逆らったらヤヴァい、とビクビク。

 落ち着いたのでカルディナも威圧を止める。

 

 

「……で?いったい何が原因ですの?」

 

 

 と言って、まずは親方を見る。

 事件が起きたら、まず被害者から、である。

 

 

「……と言ってもなあ、俺も正直よく解らねえんだ。その男がいきなり「これを買い取ってくれッ!!!」って息巻いて来やがって。ここじゃ買い取りは出来ねえ、って何度も言ったのに、全然聞いちゃくれない。んで、口論に……」

 

 

 しかし、親方もどこか釈然としない様子で事のあらましを話し始めた。

 そしてドレッドヘアのドワーフは……

 

 

「そうだよ、俺は買い取ってくれって頼んでるだけなのによ、全然聞いちゃくれねえ。ここの……アースガルズ商会は買い取りもしてくれるって聞いて来たのによ。」

 

 

 との事。

 要約すると、買い取りで揉めていた内容だった。

 

 

「なるほど……話は解りました。まあ、どちらが悪いかと言われましたら……ドレッドヘアの貴方、ですわねぇ……」

 

「何ィ!?どういう事だ!?」

 

「理由はこちらの店主の仰る通り、この店では買い取り業務を『していない』のです。」

 

「……は?」

 

「先月まで、アースガルズ商会では同じ種類の物は買い取りを受け付けてましたが、件数が膨大になり、ここの様な規模の店舗では対応が困難になったので、新たに買い取り専門の部門を創設しまして……今月からですが。」

 

 

「マジかよ……」

 

「ですので、今後買い取りについては、そちらにして頂きたいのです。ちなみに、買い取りの店舗はあちらの通りにありますわ。」

 

「何だと!?通り過ぎてた!!」

 

「そして、貴方はこの領の者ではないでしょう?」

 

「あ、ああ、そうだが……」

 

「その通知は、関所の看板の広告にもしていたのですが、通る人には必ず見るようにと促していましたが……」

 

「……あ~、うん。確かに書いてあったな。地図もあった。」

 

「……お解り、頂けました?」

 

「……はい」

 

 

 ……何と言うか、非常に誤解と確認不足が重なった出来事だった。

 説明をしていたカルディナも、途中でこのドレッドヘアのドワーフが可哀そうに見えたが、とりあえず最後まで説明する事に。

 最後は素直に納得した後、ドレッドヘアのドワーフは店主の親方に素直に謝ったので、とりあえず二人の件は解決したといえよう。

 ただ、もう一つ問題がある。

 

 

「では……店主、貴方はもう宜しいですわ。この方はこちらで預かります。」

 

「え?いいのか?」

 

「ええ。むしろ私が預かる案件のようですから。」

 

 

 

 と、言って、ドレッドヘアのドワーフを見る。

 

 

 

「さて、貴方は買い取りの品があるのですわね?」

 

「え?ああ、そうだが……」

 

 

「私は、アースガルズ公爵家の娘、カルディナ・ヴァン・アースガルズ。ですが、今は『アースガルズ商会』の長としてお相手致します。貴方のお名前は?」

 

「……ダーヴィズ・ダンプソンだ。」

 

 

「ダーヴィズさん、商品を見ましょう。少なくとも、私が気に入れば、その品は買い取りを認めます。」

 

「本当か!?」

 

「ええ、二言はありません。ただし、こちらの要望にも一つ、お応えしていただければ、ですが。」

 

「お、おう……」

 

「では、こちらに。」

 

 

 まさかのカルディナからの要望に、少したじろぐダーヴィズだったが、自身の生活が懸かっている以上、引くに引けず、カルディナの招くまま付いて行くのだった。

 

 

 ただ、平静を装いはしていたが、カルディナは正直、疲れていたが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「お待たせしました~! 本日の新作はケーキ三種セットが二種類です。」

 

「待ちかねましたわ。」

 

「では、いただきましょう。」

 

「……」

 

 

 目の前に置かれた、新作のケーキ。

 一皿目はスポンジ系のケーキが二種類。シンプルなプレーン生地にあっさりとした甘さの生クリームを添えたシフォンケーキと、甘酸っぱい味わいのベリージャムを加えた生クリームを巻いた、ロールケーキである。

 もう一皿は、チーズケーキ三種。ご存じ、レアチーズ、ベイクドチーズ、スフレチーズの日本ではよく目にする、『現代』では、ありふれたケーキだった。

 

 これらのレパートリーの提案者は当然、カルディナだ。

 『記憶書庫(B・ライブラリー)』より、前々から食べたいと思っていた一覧の一部をこれを機に再現しようと、菓子職人を専属で雇い、出来た菓子達だった。

 ただし、再現までに努力し過ぎて、血が滲んだのは、いい思い出である。

 

 ちなみに、カルディナ達が生きる現状の世界においても、甘味・砂糖は非常に貴重であり、また贅沢品である。貴族間ではようやく手に入り始めた品でもある。

 特に、砂糖の原料であるサトウキビは土地柄、生育には不向き。

 養蜂はされておらず、また養蜂におけるメカニズムが解明されていない現状では蜂を駆除し、蜂の巣を壊して蜂蜜を入手するという手段を取っている。

 

 参考までに、お菓子というと甘いものを指すが、中世ヨーロッパでは甘いとは限らず、小麦粉などの粉で作ったものを指す事が多い。

 小麦粉をベースにして、卵や牛乳、蜂蜜等を加える事もあり、生地の材料は同じだが、火の通し方に違いがあり、窯で焼いたり、茹でたり、油で揚げたりと様々な方法がある。

 一つ例を挙げるなら、ワッフルであろうか。作りだされた頃より、ほとんど形が変わっていないお菓子である。

 この世界であれば、一般的に甘いパンがケーキの始まりだとされ、ドライフルーツを生地に練り込んだり、蜂蜜をかけたりとバリエーションを増やしていった経緯がある。

 

 とにかく、甘いものは非常に貴重だといえる。

 そこで、カルディナは麦に目を付けた。

 といっても、パンの原料である小麦ではなく、実際に使用したのは当時、馬の餌の一部や、オートミールで使われていた大麦である。そして、大麦から麦芽糖、つまり水飴を作り出したのだ。

 小麦を使用しても水飴は作れるが、その性質上、出来る量は少なく、量を確保出来ない。故に水飴を作るのには適さず、大麦を使う事に。

(これによって、とある農家が大歓喜したが、それは別の話。)

 

 

 そして苦労して作った水飴を使い、今回ケーキを作ったのだ。(ただし、生クリームを作る上で、非常に絶望したのは、別の話。そしてレアチーズに使うクリームチーズを作り出すのに死にそうになったのも別の話。そして菓子職人は吐血した。)

 

 ゲンダイギジュツハ、ゴウガフカイ……

 

 じゃあ、辛いのに何で作ったの?

 

 

 

 

 

 女の子だもん、甘いものは食べたいじゃない!!

 

 

 

 に、尽きる。

 

 それに、甘いものは貴族のステータスをも表す。

 希少材料を手に入れられる財力、人脈はもちろん、例え財がなくても、調理に工夫を凝らせれば、それだけ将来性も見込める力がある。

 美味しければ有力な商品にも、交渉材料にも使える。

 

 

 

 

 

「……で、何で俺があんたらと一緒にケーキを食う流れに?」

 

 

 

 そんな苦労と血の滲む努力の結晶たるケーキが、そのような経緯で作られた事を知らず、ダーヴィズは疑問を投げ掛ける。

 というより、先程の条件がコレ、とはいささか待遇が良すぎでは?と思う。

 

 

 

「冷静に味を判断できる方が1人でも欲しいからです。私とフミタンは元から疲れていますから、もしかすると、美味しいだけの評価で終わるかも知れませんし。まあ、難しい感想は要りませんが、美味しい、不味いの評価ぐらいはして下さいませ。それとも、甘いものはお嫌いで?」

 

「いや、好物だ。ただ、こんな待遇を受けて困惑してるのは確かでな……」

 

 

 職業柄、消耗する体力を補うため、何かしらよく食べる必要がある。

 特に酒以外では、甘いものは好物であるダーヴィズには、目の前にある、見た事もない菓子達を見て、心が躍らない訳がないが、自身の立場を考え、とりあえず騒ぎ立てるのは我慢しているだけなのだ。

 

 それに、普段のカルディナやフミタンなら、ケーキの品評に赤の他人は介入させない。

 扱う商品を見定める時、自身の決定に、他人の贔屓(ひいき)意見を入れたくないからだ。

 

 なので、今回は異例中の異例と言える。

 それが「まあ、いいですわ。」と思う程、カルディナは疲れていた。

 

 

 

「まあ、これは商品を見る条件でもありますから、あまり固く考えないでください。」

 

「お、おう。そういう事なら……いただくとするか。」

 

「そうですね、いただきましょう。」

 

 

 

 そして三人はケーキを食べ始める。

 初めは黙々と食べていたが、二口、三口進めるにつれ、段々と表情が和らいでいった。

 

 

「……これは、何と表現したらいいか。」

 

 

 目を大きく見開き、喜々と驚くフミタン。

 

 

「んん~!これは成功ですわね。」

 

 

 口に含んだケーキの味を堪能し、身悶えするカルディナ。

 

 

「これは組み合わせがいいな。シフォンってやつは、さっぱりとした甘さのフワフワ生地に、クリームで甘さを加減出来るのがたまらねえ。逆にロールケーキってのは、生地こそ似てるが、クリームに入っているジャムの甘酸っぱさで、いくらでも食える。それに更に驚くのがこのチーズを使ったケーキ……スフレチーズはフワフワ加減に嫌みのない適度なチーズの味と風味がいい。レアチーズはさっぱり甘酸っぱい、チーズとは思えない味にびっくりだ。しかも冷たく、あっさりと食えて、添えられたベリーソースが、またいい。そしてベイクドチーズはどっしりとした甘みと、適度な塩加減で満足度が半端ない。女子供もそうだが、大の大人が食べても満足出来るな。」

 

 

 ケーキ全てに的確で饒舌な評価を下すダーヴィズ。

 

 

 

「「…………」」

 

 

「ん?どした?」 

 

「……評価が的確過ぎて、びっくりですわ。」

 

「確かに私も、同じような評価を感じましたが、ダーヴィズさん。初めて食べたにしては饒舌ですね。」

 

「そうか?」

 

「「そうです(わ)。」」

 

 

 そしてそれに驚くカルディナとフミタンだった。

 評価能力、半端ない。

 何このドワーフ。

 

 

「ちなみにどれが一番良かったですの?」

 

「ん?そうだな……俺はベイクドチーズ、だな。まあ、一番満足出来たのが理由だな。」

 

「私はシフォンケーキか、レアチーズですね。あっさりした味わいはお茶とも合うと思います。お嬢様は?」

 

「私もベイクドチーズを推したいところですが……今回はお茶会に出すケーキの選定ですから、やはりフミタンの意見に同調しますわ。ただ、ロールケーキの味も捨てがたいのですが……」

 

「確かに……甘さ、酸味でいえばロールケーキもありでしょう。お茶にもよく合うかと。」

 

「ああ、そうだな。このベイクドチーズは塩気が強い。どっちかというと男向けって言えるかもな。酒に合いそうなぐらいだから、お茶に合わせるのは、ちぃとキツいかも。」

 

「そうですわね。ではシフォンケーキとレアチーズ、それとロールケーキの三種を選びましょう。」

 

 

 と、言うことで決定した。

 しかし……

 

 

「ダーヴィズさん、貴方本当にドワーフですか?」

 

「鍛冶師、でしょう? 辞めて料理人か菓子職人目指しません?」

 

「どうしてそうなる……」

 

 

 二人の評価に頭を抱えるダーヴィズさん。

 いや、そりゃそうでしょう。

 ちなみに本人曰く

 

 

「こちとら貧乏で、日頃から薄味のものばっか食べてたからな。味の分析ってのは、日頃からやってるのよ。」

 

 

 との事。

 それはさておき。

 

 

「え~、こほん。多大なご協力、どうもありがとうございます。お陰で無事、品評を終えることが出来ました。」

 

 

「って事は、ようやく買い取りをしてくれるってか。」

 

「正確には品定め、ですが。もちろん査定いたします。品物をお願い出来ますか?」

 

「何かここまで来るのに、やたら遠回りだった気が……まあいい。それじゃあ、宜しく頼むぜ。」

 

 

 それは誰に対しての嫌味か(超絶ブーメラン)。

 それはさておき、ようやく本来の目的を果たせる事にダーヴィズは気合いを入れ直す。(気力+10)

 そして持っていた皮の鞄から、『それ』を取り出す。

 

 

「俺が売りてえモノは……これだ!」

 

 

 片付けられたテーブルの上に、遂に置かれる『それ』。

 そして『それ』目にしたカルディナとフミタンは、驚愕するも、更に観察せんと声を押し殺し、目を凝らす。

 

 何故ならそれは……

 

 

「あの、これは……『糸』、ですか?」

 

「そうだ、『糸』だ。」

 

「……『意図』が解りませんわ。『糸』だけに。」

 

 

 取り出したのは、光沢がある『白い糸』を大きめの糸駒(糸を巻き付ける軸のようなもの)に巻き付けたもの。

 ダーヴィズの売りたい物とは、糸だった。ドラムケーブル程の糸駒に、髪の毛程の太さの白い糸が、目一杯巻き付けてあった。

 しかも、その糸がまた問題だった。

 カルディナはその糸駒の糸をじっと見て、一つの疑問を感じたのだった。

 それは……

 

 

「この糸、植物性でも動物性でもありませんわね。これは……白いので解りにくいですが、この白さは金属の光沢、ですか?」

 

「お、気付いたか。この糸はな、実は『軟鉄』で出来てんだ。」

 

「『軟鉄』……ですか。」

 

 

 

 『軟鉄』。

 字の如く、軟らかい鉄である。

 色は基本的に白い。

 採掘所によってはグレーがかっていたり、青みがかっていたりする等、暗色系の色が目立つが、基本的には白く、どれも独特の金属光沢を放つ。

 ただ、その軟らかさは青銅や、銅、果ては純金よりも軟らかく、スライムよりも硬いが、ポヨンっと弾力があり、非常に軟らかい鉄……のような物体だ。

 

 何を言っている、とな?

 

 

 そう、その通りだ。

 厳密に言うなら、これは金属に属さない。つまり鉄に分類されていない、訳の解らない物体だ。

 炉に焼き入れしても、熱を持つが溶けず、冷やしても固まらず、型に入れても形は定まらない、ハンマーで叩こうものなら、四方八方に飛び散る、鍛治師泣かせの物体。

 また、過去に魔力を流しても何の反応も示さず、攻撃魔法にも何の反応を示さず、分析には魔法使いも匙を投げた。

 

 ただ、金属の光沢がある以上、鉄に分類されるのでは? と結論(妥協ともいう)が出されたため、一応『鉄』に分類した、と言うのが実状。

 基本的に白いので、存在を知らない者だと、まず金属とは思わない。よく『鉄』に分類したものだ。

 

 上記の特性(?)を持つが故に、大多数の職人からは見向きもされない、不遇の物質だ。

 

 ちなみに、アルド・レイア王国の全土の地中には、集中的に分布し、希少金属が採れる箇所では、同じ位の量が採れる、採掘師泣かせの『お邪魔虫』と認識されている。

 ただ、軟らかい癖に、不思議と未発掘地域での土砂の滑落等は報告されていないが……

 

 一部のマニアが存在するものの、市場では取引対象とされる事はないため、無くても良い存在である。

 

 それ故に、いても、いなくても問題ない者、役に立たない者に対し『軟鉄野郎』と揶揄する言葉もある程だ。

 

 

 そんな『軟鉄』を『糸』に加工して持ってきたダーヴィズ。

 

 過去にも『軟鉄』を加工して売りに来た職人は、ある程度いたが、どれも商品価値はない。需要がないのだ。

 しかし、『糸』に加工して来た実例はない。形を変えてある、珍しい品といえようか。

 おそらくダーヴィズ自身が加工したに違いないだろう。

 丹念に見て、触って、切って、カルディナは品定めをする。

 どんなものであれ、どんな物も正当に評価する、それがカルディナ・ジャッジ。

 しかし、カルディナが下した評価は、良いものではなかった。

 

 

 

「……加工品としては、珍しい物ですわね。糸に加工出来ているのも評価出来ましょう。ですが、それ以上の商品価値がある、とは言えませんわ。」

 

「……どうしてだ?」

 

「残念ながら、需要が思い当たりませんの。『軟鉄』を使って、この様な加工をされるのは良いのですが、問題は、これが何に使えるのか、ですわ。ただの糸扱いでしたら、既に市場に需要・供給は満たされています。ちなみに、どの様な使用想定を?」

 

「いや、それは……縫物に使ってもらえれば、とか。」

 

「……でしたら、無理ですわね。まあ、言った手前、買取は約束しますわ。ただ『軟鉄』の市場で一応設定されている価格が、キロ単位で銅貨5枚(約500円)程度ですから、この糸駒の量でしたら、銅貨5~6枚、でしょうか?」

 

「ま、待った!技術料も込みで、銀貨5枚(約5000円)!」

 

「ずいぶん、ボッたくりますわね。ケーキの評価に対するお礼として、銀貨3枚。」

 

「よ……4枚、で……」

 

「……判りましたわ。銀貨4枚で交渉成立ですの。」

 

「……ちなみに、あと2つあるの、ですが。」

 

「……はぁ。そちらもお出しなさい。」

 

「恩に着ます!!」

 

 

 立ち上がって直角になるぐらいに頭を下げるダーヴィズ。最後には敬語になっていた程だ。余程お金に困っていたのか。金貨1枚と銀貨2枚。

 それに対し、やれやれと思いつつ、フミタンにお金の用意を促すカルディナは、感涙を流すダーヴィズを横目に、有効利用出来るか解らない、『軟鉄の糸』を指でつまんで、ぷらぷらと遊ばせていた。

 

 

 

「しかし、糸の強度も他の糸とさほど変わりなし。これが鉄の様に丈夫で、かつ、しなやかであれば、まだ使用範囲が広がりますのに……」

 

 

 つい口にしたのは、ワイヤーの事だ。

 単純に言うと鉄を細長く加工し、糸状にする。

 ただ、加工するにあたり、現状の技術で鉄は細く加工出来るが、使用する薬品、研磨技術等が未熟で『現代』の様な物は作れない。

 付与魔法(バフ)を使っても、多少軟らかくなるのが限界だ。カルディナなら膨大な魔力を用いて相当軟らかく出来るだろうが、そういうのは一部とはいえ、職人が出来て意味がある。

 ましてや、ワイヤーカッターみたいな物は望めない。

 工業用の編み上げたワイヤーも、いつ出来るか……

 

 

 

 

「何?それでいいのか?それなら出来んぞ。」

 

「……え??」

 

 

 カルディナの呟きに対し、出来ると返したダーヴィズは、彼女が遊んでいた『軟鉄の糸』を失礼、と一言断り、左手の指で糸をつまんで垂らし、念じるように右手の指先でつまみ、ゆっくりと下に指を滑らす。

 その際に指先から魔力(マナ)が滲み出ていた。

 それの行為が何をもたらすのか……

 

 

「……魔力(マナ)を『糸』に流してますの?」

 

「染み込ませてるって感じかな? 塊だと『軟鉄』の芯っつーか、中心まで魔力(マナ)が馴染まねえ。糸状だから、俺の少ない魔力(マナ)でも充分『染み込む』のよ……っと、出来たぜ。」

 

 

 そして軽い調子で手の平に置かれた『糸』。

 それを恐る恐るながら引っ張って見た。

 

 

 

 ……全く、切れない。

 

 

 

 普通の『糸』であれば、難なく引きちぎる事は、カルディナでも容易だ。先程も出来たのだ、間違いない。

 しかし『身体強化』の魔法も使って、同じく引っ張ったが、ダーヴィズが手掛けたばかりの、この『糸』は全く切れる気配は、ない。

 

 

 

 

 ……ナニ、コレ ?

 

 

 

 自身の目の前で、何が起きたか解らず……いや、解っているが、信じられず、混乱するカルディナ。

 だが、そこにダーヴィズが(本人は何も考えていない)追い討ちを掛けてきた。

 

 

 

「後なぁ、魔力(マナ)を直接通すと、こんな風にも『動く』んだ。」

 

 

 そう言って糸駒からある程度『糸』を引っ張り出したダーヴィズは、『糸』を30センチ程垂らして、残りの糸をギュッと握った。

 そして先程と同じ様に、念じるように魔力(マナ)を『糸』に通す。

 一般的に『魔力操作(マナ・コントロール)』と言われる、魔力(マナ)を動かす、魔法使いにとって基本的な技術の一つだ。

 ただ、別に魔法使いでもなくても、魔力(マナ)が廻るこの世界において、生きている生物であれば、精度に優劣、強弱あれども、大概は出来る事だ。

 ちなみに、ダーヴィズは魔法使いではない。せいぜい一般人より僅かに『出来る』ぐらいだ。

 カルディナも商談中に、その辺りは感じ取ってはいたが、大抵の人と同じ様な魔力(マナ)の強さであり、ダーヴィズの魔力(マナ)も特に気にしてなかった。

 

 しかし……

 

 

 

 

 

 ……むくり、くい、くいっ あ、どうもこんにちは

 

 くにゃ、くにゃくにゃ、くにゃり

 

 ぐる、ぐるぐるぐる、あらよっと

 

 くたぁ……

 

 

 

「………」

 

「……っと、まあ、こんな感じだ。当初はガキの玩具にでもしようかと思ったんだが、魔力(マナ)を結構食うから、実現出来なくてよ。」

 

 

 『糸』の先が、動いて一芸までした。

 時間こそ短いが、確かに『動いた』のだ。

 

 魔力(マナ)が少なくなったようで、少し疲れたダーヴィズ。「さすがにこんなの役に立たないよなぁ~。」と苦笑いしいていると

 

 

 

 

「ーーー貸しなさいッ!!!!」

 

 

 今まで固まっていたカルディナが、吼えた。

 店内どころか、その吼えた声は、店外にすら響き、周辺の喧騒が一喝された子供の様に、一斉に静めさせた。

 同時に、ダーヴィズの持っていた『糸』を、略奪の言葉が似合うぐらいの勢いで奪い取るカルディナ。

 

 

 真正面にいたダーヴィズは、何が起きたか全く解らず、ようやく糸が奪い取られた、と把握した瞬間……

 

 

「(こ……こ、こ怖ェ……ッ!!!)」

 

「………、…………、………、……、…………、…、……」

 

 

 ただ一点、奪い取った『糸』を、眼を見開いて凝視するカルディナを見て、恐怖した。

 しかもブツブツ、何かを呟く……

 ……否、超・高速の魔術詠唱並みに何かを話す、そんなカルディナを真正面から見たのだ。

 

 ……想像して欲しい。

 感情が欠落しながらも、眼だけは見開き、何を喋っているか解らない美女が、いきなり間近にフェードインして来たシーンを……

 大の大人でも大概は怖がるだろう。

 

 今のカルディナはそんな表情(かお)をしていた。

 

 

 ここが個室で良かった。

 間違っても外で見せていけない表情(かお)をしている。

 

 

「………伝導……、……金銀より……、…………収縮性………、…………率……………、未だ……、………なら………検証………、……証明………、……………いる…、全交換………、魔導……術式………、………実証………、………して………」

 

 

 

 そして何を喋っているかが未だに解らない。

 途切れ途切れ辛うじて解る単語があるが、超・高速詠唱並みの独唱(?)は未だに治まらない。

 

 

 それどころか、今度はカルディナが持っている『糸』の元……糸駒に巻かれた大量の『糸』が、独りでに動き始め、カルディナの周りを囲い始めた。

 ドラムロール並みの大きさの糸駒だ、その糸の量と長さは想像を絶し……

 

 

 

「お嬢様、いったい何事……ッ!?!?」

 

 

 

 異変を感じ取り、急いで戻って来たフミタンは、個室にたどり着いた時、その光景に驚愕する。

 

 

 

「な……何事ですか!? ダーヴィズさん!?」

 

「……し、しし、知らねえよ!!!」

 

 

 

 ドラムロールいっぱいの大量の白い『糸』が、サナギの繭の如くカルディナに巻き付く光景が突如出現ッ!

 しかも表面は絶えず『糸』が蠢き続ける、凄まじい光景だ。

 

 例えるなら、『風の谷のナウシカ』で物語の中盤にアシベルの襲撃で腐海に落ちた後、ナウシカが王蟲の触手に絡められるシーン、あれを想像して欲しい。

アシベルの襲撃で腐海に落ちた後、ナウシカが王蟲の触手に絡められるシーン、あれを想像して欲しい。

 

 

 ……本当に何が起きたか、さっぱり解らない。

 

 

 2人が困惑するのも無理はない。

 しかしフミタンは立ち尽くす訳にもいかず、懐からナイフを抜き、構える。

 

 

「お嬢様は……まさか、この中ですか!?」

 

「あ、ああ。何かブツブツ言い始めたと思ったら、『糸』がいきなり嬢ちゃんを覆い始めて……!」

 

「――――疾ィッッ!!!」

 

 

 

 ――――――キィィンッ!!!

 

 

 ダーヴィズが言いきる前に、ナイフを白い繭に向け、いきなりノーモーションで振り抜くフミタン。

 しかし、まさかの金属音を立てて、弾かれてしまい、素早く後退する。

 しかも、フミタンのナイフの刃が欠けたオマケ付き。

 まさかの事態に、普段はクールなフミタンも、怒りの感情を滲ませ、ダーヴィズを睨む。

 

 

「……お嬢様に万が一があれば、絶対に赦しませんよ、ダーヴィズさん。」

 

「うぐ……」

 

 

 さすがにダーヴィズには何も言い返せない。

 どうしてこんな事態になった、と。

 自分はいったい何を作ったのか、と。

 

 目の前に現れた、自分の作った『糸』の集合体である、白い繭を恨めしげに睨むダーヴィズだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……しかし、それは盛大に裏切られた。

 

 

 

 ―――シュルルルルル……

 

 

 

「「 え? 」」

 

 

 2人の警戒を他所に、蠢く白い繭が、みるみる収縮……『糸』が自ら解かれていった。

 しかも『糸』は行儀良く、元あった糸駒に綺麗に巻き戻って行く。

 その中心には、全く何事もなく、佇むカルディナの姿があった。先程の怖い表情なんて無かったように、目を瞑り、まるで祈る聖女の様に、その手には『糸』を持って。

 

 いきなりの事態の推移に、全く付いて行けない2人は、糸駒に全ての『糸』が納まるまで、傍観するしか出来なかった。

 

 そして、全ての『糸』が納まった後……

 

 

 

 

 ……ッフフフフ、ウフフフフ……

 

 フフフフ、フハハハハハ……!!

 

 オーーーッホッホッホッホッホッ!!!

 

 

 聖女の優しい笑い→某ギアスのシスコン王子のドスの効いた笑い→悪役令嬢の勝利の高飛車笑い、という、謎の三段活用が発動し、カルディナ・ヴァン・アースガルズは何事もない様子で、高々と笑っていた。

 そして、気が済んだと思われた後、フミタンの存在に気付いたカルディナは……

 

 

 

「あら、フミタン。お金、持って来てくれましたか?」

 

 

「は、はい。しかし、お嬢様……何とも無いのですか?」

 

「?? ああ、ご免なさい。ちょ~っと、興奮して、はしゃいでしまったみたいね。」

 

「は、はあ……」

 

 

 全く何でもないカルディナの様子に、安堵こそするも、「あれがちょっと……?」といまいち釈然としないフミタン。

 まあ、仕方ないと思うしかないが、非常にニコニコと不自然な程の笑顔なカルディナに不信感が否めない。

 

 そんなフミタンをさておき、お金の入った袋を受け取り、再びテーブルを挟んで、「これ以上何があるってんだよ~!」と心労困憊となっているダーヴィズの前に立った。

 

 そして、袋から金貨1枚と銀貨2枚を取り出し、更にその隣に自身の懐から金貨5枚を取り出し、ダーヴィズの前に積み上げた。

 その行動にダーヴィズ、そしてフミタンも再び驚く。

 これは何を意味しているのか……

 

 驚く2人を余所に、カルディナは意気揚々とダーヴィズに対し、話し始めた。

 

 

「この度は、大変良いものをご紹介して頂き、(まこと)に御礼を申し上げます。金貨1枚と銀貨2枚(こちら)は、現時点で商会の長(わたくし)が付けられる金額となります。そして金貨5枚(こちら)は、私個人(・・・)がこれからする依頼(お願い)に対しての前金(・・)になります。どうかご理解を。」

 

「お、おう……」

 

「そして、ダーヴィズ・ダンプソンさんにご依頼致します。一週間以内に軟鉄の糸を木箱一杯……最低でもこの糸駒10個分を私にお売り下さい。」

 

「な……! 本当かよ?! しかも、10個以上って……」

 

 

「ただ、現時点でこの『糸』は未知数です。ですので、『私達』の検証が終わり、その能力の評価次第で値段を付けさせて頂くので、残りはその後に。納入は早くても問題ありません。お支払は……最低でも前金の2倍以上のお値段は約束させて頂きます。」

 

 

最低でも金貨10枚以上の仕事である。

今回ダーヴィズが売った分よりも高額だ。

どう考えても破格である。

 

 

「よし!まかせろ!一週間と言わず、数日で持っていってやるぜ!」

 

「では、契約成立ですわね。」

 

 

 そして、紙に注文の品、納入場所を明記した依頼書にサインをするカルディナとダーヴィズ。

 しかし、こうなった以上気になる事もまたあり……

 

 

「だがよ……前金貰って注文を受けた手前、こう言うのも何だが……」

 

「何ですか?」

 

「こいつを何に使う気だ? さっき『とんでもねえもの』を見たし、俺が『糸』にやった事……製作者の俺が言うのも何だか、あんたが考えてる、その使い道がさっぱり解からん。」

 

 

 

 ダーヴィズの疑問は最もだ。

 そもそもダーヴィズは『糸』をその希少性と量で多少でも高く買い取って貰いたかっただけだった。

 しかし、カルディナと出会ったがために、自分でも予想を遥かに超えた事態になっていた。

 おそらくカルディナと出会わず、指定された窓口に行って買い取りをしてもらっても、こんな事にはならなかった筈……いや、なる訳がない。

 きっと、『軟鉄』の市場価格程度の値を付けられるだけで、悔しい思いをして、それで終わりなんだろう。

 

 しかし、今は悔しいどころか、嬉しいを超えて、自分でも予想だにしない事が起きている。

 そして、自分(ダーヴィズ)も知らない、カルディナが見出した『糸』の使い道……

 

 

「……それは、お答え出来ません。」

 

「……そうか。」

 

「まずは色々試さねばなりません。なんせ、十や二十ではきかない程、応用案がありますし、具体的にどう使う、とはこの場で正確に明言出来ませんわ。」

 

「……は?!」

 

 

 明言こそないものの、今までに見た事もない程、嬉々として答えるカルディナに、更に驚くダーヴィズ。

 何を考えているか解らないが、既にそこまで考えを巡らせているとは……

 

 

「う~ん!もういてもたってもいられません!私は早速家に帰らせて色々試してきます! 納入の日、楽しみにしてますわ。では、ダーヴィズさん、御機嫌よう。」

 

 

 糸駒の入った袋を両手に、カルディナは意気揚々と店を出ていく。

 その後を、フミタンは申し訳なさげに頭を下げ、主の後を追うのであった。

 そして後に残されたダーヴィズは、力が抜けたのか、糸が切れた人形のように、ストンと椅子に座った。

 

 

「……何だったんだ、いったい。」

 

 

 まるで嵐の様だ、とは思わない。嵐はあそこまで酷くない。

 しかし、唖然としているような言葉とは裏腹に、ダーヴィズの口元は笑っていた。

 自分は運がいい。

 自分の作品をここまで評価してくれたのは他にいない。

 しかも自分の想定を遥かに超えた使い方を考え、実践しようとしている。自身の種族(ドワーフ)として、これ程嬉しい事は他にない。

 まずは、自身に課せられた依頼をやってやろう、そう熱く胸に決めるダーヴィズだった。

 

 

 

 ……そうして、また自身の運命を悉く変えられた人物が、また一人増えた。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「……あの、お嬢様?」

 

「ん~、なにかしら~。」

 

 

 揺れる馬車の帰路、フミタンの心配を余所に、空返事で答えるカルディナは買った『糸』で遊んでいた。

 しかも不気味なぐらいに笑顔で。

 うねうね、生き物の様に動き回る、大量の『糸』は揺れる馬車の中を半ば占拠しつつ、不気味に蠢いている。それら全てはカルディナの仕業だったりするが……

 真正面から見ていたら、それは誰でも不気味がるのは明白だった。

 しかもそれを「フミタンも試してみて~、楽しいわよ~。」と勧められたら、どうだろうか?

 

 

 ……クールフェイスも青冷めよう。

 

 それでも尋ねなければならないと思うフミタンは、恐る恐る『糸』を手に取りつつ、カルディナに尋ねた。

 

 

「結局、この『糸』は何なのですか? 私には素材が『軟鉄』だという以外は、皆目見当がつかなくて……」

 

「私も知りませんわ。フミタンと同じく『軟鉄』で出来た『糸』ぐらいの認識ですわ。」 

 

「……え?」

 

「ただ、この『糸』が今も、私の思い通りに動くのは見ての通り。それに伴って『特性』はある程度掴め始めていますわ。後は帰ってから残りの検証です。もし、私の予想通りの『特性』を持つのであれば……」

 

「あれば??」

 

(わたくし)の『夢』の、第一歩を飾る事が出来るでしょう。ウフフ、フフフ……ウフフフフフッ!」

 

(…………まさか、本当に悪魔でも憑いたのでは?)

 

 

 そう思う程、カルディナ様は上機嫌で、美しく笑っていらっしゃっていました。

 

 後にそう語るフミタンは、その笑みをこの上なく不気味がっていた。

 

 同時に、フミタンはカルディナが初めて、自身の『夢の可能性』を語った事について、今日何度繰り返したかわからない驚きより、更に強い驚きを感じたのだった。

 

 

——―そう、遂にカルディナ・ヴァン・アースガルズの『夢』に必要な『後、一歩』、ガオガイガー創造への『夢のピース』が今、ここに揃ったのだった。

 

 

 

 

 

 

《NEXT》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




《次回予告》


 遂に、『後、一歩』である『軟鉄の糸』を手に入れたカルディナ。

 そして始まる『勇者王』創造の刻。

 失敗と創造の彼方に、カルディナはいったい何を創るのか?

 新たなる瞬間の一ページを刻む時、カルディナは衝撃の告白を放つ!!


 次回『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい。』

 第4話『勇者王を創る決意。』


 次回もこの物語に、ファイナル・フュージョン、承認ッ!!


これが勝利の鍵だ! 『ガオガイガー』






 ……はい。遅くなってすいません。

 書き始めてようやく物語がスタートを切れました。今まではプロローグみたいなものです。(オイ)
 というか、この話だけで14000文字弱……
 一話創作における自己記録、余裕で突破しました。
 しかも前の話と合わせると、2万文字越え……


 話、脱線多すぎでは??

 と書いている時、自己反省です。
 だって、描写を書く時、納得出来ずに訂正してたら、予定していたのと、かなり違うものが出来たという罠(チガウ)


 とりあえず、次回からようやくガオガイガー成分が出てきます。
 今までを見て、タイトル詐欺と思った方、申し訳ありません。
 だいたいこんなノリです。(コラ)

 まあ、そのお陰で、勇者ロボあたりの設定が固まってきました。
 何より……ガオガイガーの扱いをどうするかも、ね。(意味浅)


 では、また。


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Number.04 ~『勇者王』を創る決意~(1)

第3話執筆中に、白糸酒造株式会社のHPにサンライズとのコラボ商品として、ガオガイガーの日本酒の商品がアップされてて、びっくりしました。

〇大吟醸『勇者王』
〇超竜神(氷竜・炎竜 合体セット)
〇ガオガイガー 乾杯杯


ほしいなぁ……


ちなみに、今回のタイトルは正式には~『○○○勇者王』を創る決意~です。
何が入るでしょうか?
予想しながら読んでみてください。
正解は(2)辺りで。


「―――遅いですわッ!!」

 

「……すいません。」

 

「全く……大失敗ですわッ!」

 

 

 アースガルズ領の中心に位置する、アースガルズ家の門前にて、お嬢様こと、カルディナ・ヴァン・アースガルズは腕を組んでご立腹だった。

 そして開口一番に、ダーヴィズ・ダンプソンに怒りを露にしていた。

 

 

 ……何で、怒られにゃならんのだ。

 

 

 やって来たダーヴィズは、あまりの迫力に、訳の解らない不条理を感じつつ、つい謝ってしまった。

 しかし、誤解しないで頂きたい。

 ダーヴィズ今回、何も(・・)悪くない。

 

 実は、彼は3日前……あの時(前金もらって)から、4日後には、ちゃんと納品を済ませていた。

 門番には多少怪しまれた経緯はあったものの、カルディナ本人が納品に立ち会い、量・品質にもご満悦、残りの金額も当初の3倍の金額で受け取っている。

 

 お互い納得し、ウハウハだったにも関わらず、昨日メイド(フミタン)がいきなり工房(住居)にやって来て、来るように告知を受け、やって来たのだ。

 

 そして、翌日やって来たら、カルディナが何故か怒り心頭のご様子。

 

 

 ……何があった?

 

 

 全くもって、さっぱり解らない。

 心当たりの無いダーヴィズは、混乱の真っ最中であり、伺うや否や最初の冒頭の会話となる。

 しかし、ここで助け船もあった。

 まずは、カルディナの傍らにいる我らがメイド(フミタン)

 

 

「……お嬢様、それは誤解です。正確には『大失敗』ではなく『大失態』の間違いではありませんか? しかもお嬢様ご自身の。待ちきれなかったのは判りますが、八つ当たりはどうかと……」

 

「う……ッ!」

 

 

 鋭い指摘に、カルディナお嬢様、ダメージ10。

 そしてもう1人、反対にいる人物……カルディナよりも長身で、耳の長い男性……エルフである。

 

 

 

 エルフ。

 ゲルマン神話に起源を持つ、北ヨーロッパの民間伝承に登場する種族。日本語では妖精あるいは小妖精と訳されることも多い。北欧神話における彼らは本来、自然と豊かさを司る小神族であった。エルフはしばしば、とても美しく若々しい外見を持ち、森や泉、井戸や地下などに住むとされる。また彼らは不死あるいは長命であり、魔法の力を持っている。

 特徴の1つである、長い耳はトールキン作『指輪物語』より生まれたイメージが定着したもの。

(Wikipediaより抜粋)

 

 この世界においても、森に住まうのがポピュラーな人種であり、人間種よりも長寿で、耳が長く、どの種族よりも魔力(マナ)は多い。

 ちなみに、癖が強い食べ物は苦手であるが、菜食主義者(ベジタリアン)ではない。

 ちなみに、やはりと言うか、美意識が高く、プライドも高く、背も高い。嫌味でよく『三高(さんだか)』と言われる種族、それが長耳種(エルフ)である。

 

 尚、上記の理由から、剛胆さを求めるドワーフとは違い、エルフは繊細さを求めるが故、一般的に仲が悪かったりする。

 

 そんな、魔法使いの法衣(マジックユーザー・コート)を羽織るエルフの男は、特に表情を崩す事はしないが、フミタンの後に淡々と話し始めた。

 

 

「その通りです。『あれ』は確かに、お嬢様御自身の失態です。貴方がダーヴィズ・ダンプソンさん、ですね。私は、フェルネス・オルト・フェーダー。アースガルズ家の顧問魔法使いとして、雇われている者です。貴方の仕事は見事なものでした。」

 

「ああ、どうも。」

 

「しかし『その先』は明らかにお嬢様が原因、と結論付けたはずです。それをダーヴィズさん(他者)のせいにするのは、如何なものかと……」

 

「う……ッ!」

 

 

 更なる鋭い指摘に、カルディナお嬢様、ダメージ15。

 ちなみに残りのHPは1万越え。性悪貴族の世界で揉まれた精神力を甘く見るなかれ。

 しかし、今回はカルディナが悪いため、カルディナは素直に謝った。

 

 

「……ごめんなしゃい。」

 

「いや、まあ、それはもういいんだが……結局、俺は何で呼ばれたんだ?」

 

「そうですわ! 本題を早く! こちらですわ!」

 

 

 そうしてカルディナに手を引かれ、何処へと連れて行かれたダーヴィズ。

 フミタンとフェルネスはやれやれといった表情で後を追う。

 立派な建築用式で立てられた、見事な造りのアースガルズ家の本邸……を横切り、少し歩いた林の奥にある建物に着いた。

 

 造りは堅牢、2階から3階程の大きさの高さで、奥行きを含め、大きな屋敷と言って謙遜ない大きさの四角張った無機質な建物だった。

 本邸との造りの質は見事に違い、こちらは工房だった。

 

 

「我々は『御嬢様のアトリエ』と呼んでいます。此処では『アースガルズ商会』で扱う商品の半数……特に重要度の高い商品を主に生産する場所です。また、カルディナお嬢様のアイディア商品(思い付き)を試作する場所でもあります。」

 

「ほぉ……『アースガルズ商会』の商品といったら、貴賓問わず、名品・良品ばかりと有名だからな。それがここでとは……」

 

 

 『アースガルズ商会』の商品には、他領に住んでいるとはいえ、行商の都度お世話になっているので、ある程度は知っていたダーヴィズは、関心していた。

 

 本当は、表向きは、と付くが、説明したフェルネスはあえてダーヴィズ(招いた客)には必要ない、と言わなかった。

 ただ、その微妙な空気を感じ取ったダーヴィズは、目線だけをフェルネス(案内役)に送り、また戻した。

 やはり、ドワーフとエルフ(仲が悪い者同士)である。

 その辺りの空気はお互い、読める。

 しかし、そんな事はお構い無しに、早く早くと皆を促し、工房の中に招くカルディナ。

 

 

「さあ、此方です。」

 

 

 そして通されたのは、中央に大人が1人寝れる程の大きな作業台がある部屋だった。

 布を織るためか、機織り機があり、マネキンと思われる人形もあった。棚には各種様々な布の反物がいくつもあった。

 また、その傍らには作業用エプロンを纏い、長いであろう金髪を後ろで留めた、1人の女性(エルフ)がいた。

 

 

「初めまして、シレーナ・オルト・フェーダーです。どうぞ、宜しくお願いします。」

 

「ど、どうも。ダーヴィズ・ダンプソンだ。」

 

 

 エルフとはいえ、美人であるシレーナ。

 その彼女が嬉々とした表情で、しかも喰い気味で来たのは、ダーヴィズにとっては初めての経験だったので、少々驚いてしまった。

 しかも初対面であるが故に、身に覚えがない。

 

 

「シレーナさんは、フェルネスさんの奥様です。今回、ダーヴィズさんが此方に来られるのを、私の次に待ち望んでいましたの。」

 

「はい!それはもう!」

 

「な、何でだ?」

 

「あの『軟鉄の糸』です。」

 

 ダーヴィズの疑問に答えたのは、意外にも夫であるフェルネスだった。

 ただ、表情を特に変えること無く、淡々と続ける。

 

 

「貴方がお嬢様にお売りした『軟鉄の糸』を(シレーナ)が一目見て、とても気に入ったのです。(シレーナ)は、アースガルズ家ではメイドの1人として働いていますが、時折お嬢様の特注品の衣服(オーダーメイド)を仰せつかる事がありまして……」

 

「誰よりも糸の特質を熟知しておりまして。糸から布を織り上げて、貴族が好む上質のドレスから、摩擦に強く、汚れにも強い作業着まで何でもこなす、正に衣服のプロですの。そのシレーナさんが『軟鉄の糸』に一目惚れしまして……」

 

「―――そうですッ!!! 今まで見た事のない美しい糸の光沢ッ!羊毛(ウール)絹糸(シルク)ですら脱帽の滑らかな乳白色(ミルキー)の色ッ!! 服を愛す者なら、一度でも手にしたい、魅惑の素材ッ!!! それを作る方に、是非ともお会いしたいとーーーうぐっ!?」

 

「シレーナ、そこまでです。お嬢様が本題に入れません。」

 

「……す、すみません。つい……でも貴方だって、楽しみだったのでしょう!?」

 

「私は糸の評価もそうですが、『軟鉄』の特性の再発見……そちらを評価しています。貴女ほどでは……」

 

「『魔力操作(マナ・コントロール)』研究に行き詰まっていましたよね?表情筋動かすの苦手なのに、昨日まではしゃいで、今日は顔が筋肉痛なんでーーーむぐぅ!」

 

「シレーナ……」

 

 

 おっとり系かと思いきや、別のベクトルで職人気質の方だったシレーナに、実は表情筋が弱くて表情が乏しいだけのフェルネス。

 

 

(何か、凄い所に来ちまったなぁ……)

 

 

 カルディナお嬢様関連の関係者は全員こう(・・)か、と思うダーヴィズ。

 唯一まともと思わしき人物(フミタン)も実は、と思うが……

 

 

「お二方。本題が進みませんから、お静かにお願いします。」

 

「「……はい。」」

 

 

 フミタンに注意され、しょんぼりするフェーダー夫婦。

 まとも枠(フミタン)はやはり違った。

 

 

「……では、お嬢様。」

 

「そうですわね。ではダーヴィズさん、本題に入ります。どうぞこちらに……」

 

 

 やっとか、と思いつつ案内されたのは作業台。

 実は、この部屋に案内された時からダーヴィズの関心は作業台に向けられていた。

 何故なら、自身に馴染みのある『軟鉄』で出来た作品と思わしき物が拡げられていた。

 見間違えではない。その光沢は製糸作業中に何度となく見てきたものだから。

 

 ただし、形状が違う。

 

 それは『糸』でなく『布状』であり、しかも何かしら『服』に仕立てたようだが、所々激しく破けていた。場所によっては細切れに近いまでに散り散りに破けていた。

 

 

「……ひでぇ損傷だ。普通の服ですらここまでにゃならんぞ。」

 

「ええ、恥ずかしい話ですが、その通りです。」

 

「いったい何をしでかしたやら……」

 

 

 職人として、自分の商品が、しかも未知の使い道を示した注文主(カルディナ)には、一目置くダーヴィズだが、まさかこんな事をする(糸から服まで仕立てる)とは予想外だ、とダーヴィズは思った。

 

 ただ、ダーヴィズには『この状態の軟鉄』に見覚えがあった。

 1枚の布片をよく見ると、格子状に編まれている筈の繊維の一本一本が幾つか、くっついていた。

 ひどい物だと編まれている筈の糸が、最初から『編み目のない、紙のようなもの』になっているものすらある。

 例えるなら、煮立ってないお湯に乾麺を放った後、そのまま放置し、麺同士がグルテンの糊で互いにくっついた様な……それを均一に潰して、火の通った麺の生地にした……

 

 それが破けていた服には、ほぼ全て同じ『現象』が起きていた。

 

 

(……そもそも『コレ』は自然になるようなもんじゃねぇ。しかしなぁ……)

 

 

 自身ですら多少はあった『現象』が、こうも出ているとは……

 そして、一番気になったのは『元の服の形状』について。

 これは明らかに……

 

 

(もはや、突っ込みどころが満載過ぎて、何をどうしたら……)

 

 

 そしてしばし熟考し、半ば諦めた様に一息吐いたダーヴィズは、改めてカルディナに尋ねる事にした。

 

 

「……あんたらが何で俺を呼んだかは、多少読めたが……その前に聞かせてくれ。そもそもこれは何だ?それが解らねえと、何を言えばいいか困る。」

 

「そうですわね……」

 

 

 カルディナは悩んだ。

 これが何?でなく、どう言えば伝わるかを。

 この『服』の概念はこの世界には無いのだ。

 そして、とある言葉を出した。

 

 

「これは……『着れば、物凄い力を発揮する服』、と言えば解りますでしょうか。」

 

 

 それは遡る事、一週間前より始まった……

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「これは……!」

 

「どうです?良いと思いません?」

 

「まあ……!」

 

 

 ダーヴィズより『軟鉄の糸』を買った後、帰路に就いたカルディナとフミタンが、まず向かったのはフェルネスの所だった。

 丁度、妻のシレーナと一緒だったので、カルディナは2人に『糸』の演舞を見せた。

 

 初めこそ乗り気でなかったフェルネスは、『糸』の動く様を目の当たりにした瞬間、食い付く様に見ていた。

 何せ、部屋中にドラムロール並みの糸駒に巻かれた大量の『糸』が、部屋中を規則正しく動き回っていたのだ。

 カルディナの力量をよく知っているが故に、正確に動かせる(・・・・・・・)『糸』は魅力的だった。

 

 シレーナは、動く様にも驚いていたが、何より『糸』そのものに注目していた。

 使用しているのは、白糸。シレーナにとっては金属光沢を放つ白糸は、今まで見た事もない魅力的な素材に見える。

 

 そして、糸駒に綺麗に巻き付けるまでを見せた後、冒頭のやり取りとなった。

 

 

「素晴らしいです。『魔力操作(マナ・コントロール)』でここまで動かせる物体があるとは。しかも、それが『軟鉄』とは……何という発見でしょう。」

 

「そうですわね。私も初めは何かと思いましたが、衝動買いで少し高く付きましたが、行商に来たダーヴィズさんには感謝ですわ。」

 

「……凄いです。羊毛(ウール)とも絹糸とも違う、丈夫で綺麗で均一です。しかもつるつるしてますが、織れば布地になりそうです。」

 

魔力(マナ)のロスが極端に少なく、かつ正確な操作が可能な『感応性』がここまで高い物質は他に例がありません。もしや『伝導性』も高いのでは……」

 

「それだけではなくてよ。魔力(マナ)の強さ次第では、収縮性や硬度も、弾力性すら増すのですわ。イメージ次第という条件は付きますが……」

 

「綺麗で均一という事は、糸の太さも一定……という事は良い服が作れますね。ドレスが良いでしょうか、シャツも良いですね。ですが、まずは小物から……」

 

「細い糸状でありながら、姿勢保持が出来るところも素晴らしいです。一見弱々しく見えますが、物を持ち上げる力もありそうですね。となると、応用可能なものが幾つか……」

 

「形状記憶にも優れておりますわ。くしゃくしゃにしても折り目一つ付かず、きゅっと縮んでもまた元に戻ります。きっと糸の形を保ちながらも収縮時には……」

 

魔力(マナ)で丈夫に出来るなら、冒険者仕様も可能でしょうか?もしくは暗殺者(アサシン)対策に防刃加工を施したドレスでも良いかもしれません。あ、収縮出来るなら、理想のフリーサイズな服も作れるかも……」

 

 

 ……と、話はエキサイトしていた。

 ちなみに、これで三人とも、話がしっかり通じているという、いつもの光景。

 場合によっては、フミタンも参加する事もあったり。

 今回は傍観に徹していた。

 そして話はまとまりを見せてきたところで……

 

 

「……その様な訳で、今回は『特性』を活かして、『軟鉄』を使った新作第1号には『服』を作りたいと思いますわ。シレーナさん、お願いします。」

 

「お嬢様ッ!ありがとうございますッ!!」

 

「ただ……ゴニョゴニョ……、そして……ゴニョゴニョ……」

 

「……えぇ?!その様なもので宜しいのですか?それでは……」

 

「「??」」

 

「ええ、むしろそうでなくては、実験になりません。その様にお願いします。」

 

「……判りました。」

 

 

 カルディナの耳打ちに、驚きと動揺が隠せないシレーナ。最後は承諾したが、どうも腑に落ちない、といった様子だ。

 しかし、カルディナ()の頼みとあらば仕方なし。

 ましてや、気になる素材を使えるとあっては、しない訳がない。

 とりあえずカルディナより、糸駒2個を受け取り、自身の仕事場へ向かう。

 その際に……

 

 

「糸、余ったらドレス作っていいですか?」

 

「……常識の範囲内(デザイン)で、なら。」

 

「はいッ!」

 

 

 真顔で迫るシレーナに、つい答えるカルディナ。

 そんな(シレーナ)の浮かれて部屋を出て行く姿に、頭を押さえる旦那(フェルネス)

 

 

「……申し訳ありません、お嬢様。」

 

「いいですわ。新素材に浮かれているのは私達も同じ。『軟鉄の糸(あれ)』が生け贄になるのであれば、安いものです。それに、シレーナさんのセンスは高く買ってますのよ。思いがけない物を作った前例もありますので、今は応用可能な試験対象は、一つでも多い方が良いですから。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

 

 その4日後、目に隈を作りつつも、カルディナの希望したものを完成させたシレーナは、彼女にその服を手渡す事が出来た。

 

 

「……大丈夫、ですの?」

 

「……少々あの糸を侮っていました。繊維の一本一本が細く、繊細なのは良いのですが、髪の毛よりも細い為に、布にするのに時間が掛かってしまって。」

 

「お陰で「あともう少し……」と寝るのを先延ばしするシレーナを睡眠魔法で無理矢理寝かせる羽目に……しかも次の日には、時限発動式の解呪魔法(ディスペル)まで使って対応され、3日寝ておらず……」

 

「アナタが私の作業時間を削るからです!それに徹夜は、まだ2日(初日眠らされたから)ですッ!!」

 

「それ、徹夜の理由になりません。あと、高等魔法の無駄遣いしない。」

 

 

 『お嬢様のアトリエ』はブラック企業ではありません。

 しかし月の内、職人の数人は必ず、二徹、三徹をやらかすという不思議。

 やらかす職人は誰もが「最新技術は悪魔的だぜ~!」とか訳の解らない事をいう始末。

 工房主としてどうしようか、と考え込んでしまうカルディナだが、当の工房主(カルディナ)も幼少で前科・一週間徹(途中寝落ち有)をやらかしているので、何とも強く言えない。

 お陰で違法スレスレの睡眠魔法が、やたら上達する始末……

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

「お嬢様、ご指示通りの形状に仕上げました。あと、後で指示がありました『追加』も付けてあります。」

 

「ありがとうございます。では、試着と致しましょう。」

 

 

 そして、試着に移る訳だが……

 

 

「お、お嬢様、やっぱり止めた方がいいのでは……」

 

「仕様上、仕方ありませんわ。多少恥を忍んでも纏うしかありません……と。では『起動』させますわ。」

 

 

 試着するのは当然ながら、カルディナお嬢様、ご本人。

 現在纏っているのは『軟鉄』で出来た服……とは言えない、首から下全てがサイズが大きい、全くピッタリとしていない『全身タイツ』である。

 そして左腕に付けた腕輪『起動輪(スイッチ・リング)』と言われる、使用者の魔力(マナ)を一瞬、外部に流し出させるという『魔道具(アーティファクト)』である。

 

 ……本来であれば『魔道具(アーティファクト)』は年単位で作られる物であるが、『お嬢様のアトリエ』では新規物が週単位で、絶賛開発されているのが現状だったりする。

 

 それを『魔力操作(マナ・コントロール)』をしながら『起動輪(スイッチ・リング)』を入れると、音を発する事無く瞬時に収縮し、カルディナの身体は乳白色のコーティングがされた様に、その艶めく肢体を現した。

 

 

「んん!成功ですわ。フィット感も文句無し。適度な締め付けもあり。これは期待出来そうですわね。」

 

「そ……そうですね。ですがやはり……」

 

 

 想像して欲しい。

 適度に締め付けられた豊満な肢体。

 乳白色に輝く白い肌。

 カルディナは試着の為に、ブラとショーツ(インナー)しか着けていない。

 極限までに薄い、白い『軟鉄』のスキンフィット(極限までに密着)した全身スーツ。

 そして15歳とは思えない、約3歳先取りしたメリハリのある女性特有の肢体……

 

 ……ご馳走様です。

 

 

「……予想の範囲内ですわ。実用化の際には、鎧やオプションパーツで隠せば、問題ありません。」

 

 

 羞恥心で身悶えしそうなのを我慢して、あくまで試験者(テスター)のコメントを残すカルディナだった。

 ちなみにその光景を無言+傍らで傍観していたフミタンは……

 

 

(……最高です、お嬢様。)

 

 

 ……訂正。やっぱりまとも枠(常識人)はいなかった。

 なお、今回記録係のフェルネスは試着部屋の外で、常識的待機。

 奥様以外の裸にはあまり興味がないご様子で、後に

 

 

「被膜のように薄く仕上がったようですね。」

 

 

 と、感想を述べるだけだった。

 それから訓練用の服(ジャージ風味の服)を纏ったカルディナは、三人を伴い、工房近くの空き地に来た。

 出来上がった試作品を試すための空き地で、周りより荒れて、一部は土が見えている箇所もあったり。

 何があったかは秘密。

 

 

「さて、ここからが本番ですわ。フェルネスさん、観察(モニター)お願いします。」

 

「畏まりました。」

 

「……では、参ります。」

 

 

 自身に告げるように呟いた言葉の後、カルディナは目を瞑り、ゆっくりと息を吸い、そしてゆっくりと吐き出す。

 それから両手を伸ばしながら脚を肩幅に開く。そして舞うのではなく、それより緩やかに動く。

 手先から指先までが一定の緩やかさで動く。

 それは中国拳法の一つ、太極拳にも似た、柔らかい動きだった。

 

 己が師である者から教わった、体術の一つで、体の重心、動作一つであり、師曰く「その気になれば何の力も入れず相手を吹っ飛ばせる」との事。今行っているのは、型の一つ。

 事実、15歳のカルディナが今まであったであろう荒事に、積極的に介入出来た理由が、これにある。

 片腕一本で、大の大人を軽々鎮圧。誘拐現場にて無双したのは数知れず……

 噂は多々あるが、被害者が一同にして「二度と関わりたくない」と言わせる程だ。

 

 ……公爵令嬢の嗜み、と本人は言っていたが、過去に大規模な山賊を1時間足らずで殲滅したのを嗜み言っていいのだろうか。

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 ただ体術の型を行うだけでなく、カルディナは同時に『魔力操作(マナ・コントロール)』も実践していた。

 内包する膨大な魔力(マナ)を少しずつ『軟鉄』に流し、その身を包むスーツに循環させる。

 魔力(マナ)の余波が、白金の様な光を発し、カルディナの身体の魔力(マナ)の流れに沿って、周りに流れる気流の様な循環を発していた。

 同時に『軟鉄』の繊維に沿って魔力(マナ)が流れ、使用者(カルディナ)の筋肉の動きに合わせ、『軟鉄』の繊維も収縮・拡張を繰り返す。

 そして魔力(マナ)の量を増やす事で、物理的な力を増す。

 それがカルディナが『軟鉄』の特性の一つより見出した『魔力稼働式(マナ・ドライブ)パワードスーツ』である。

 その光景を観察していたフェルネスの頬に汗が一滴垂れていた。

 

 

「……相乗効果、と言えば宜しいのでしょうか。流れる魔力(マナ)の量が、膨大に見えます。」

 

「そうですの?普段と同じように型をしながら『魔力操作(マナ・コントロール)』を行っておりますが。まあ、スーツの効果のせいでしょうが、普段よりも挙動が軽いです。アシストされているのが良くわかりますわ。スーツに魔力(マナ)を流しているので、そのせいでは?」

 

「そうですか。見ているこちらは、何の大規模魔法を展開しているのかと錯覚します。」

 

「そうですね。事情を知らない者が見たら、逃げ出しますよ。」

 

「あわわ……見ていて恐ろしいです。」

 

「……せいぜい、1割も出してませんわよ? これが想定している使い方ですのに。」

 

 

 魔力(マナ)が見える者であれば、その光景(エフェクト)が、如何にヤバいかが判る。

 

 

 

「ちなみに、この状態で石を握り潰したら……」

 

 

 ――ゴシャッ!!

 

 

「まあ!普段の半分以下の力で砕けましたわ。」

 

「普段も砕いているのですね。」

 

「ええ、お嬢様ですので。」

 

「次に大岩を持ったらどうでしょう?」

 

 

 ――ヒョイ

 

 

「……お嬢様の倍近い大きさの岩が軽々と。」

 

「凄いですわ!半分どころか、大した力も掛けずに持ち上がりましたわ。普段はもっと力を込めてますのに……」

 

「普段も持ち上げているのですね……」

 

「ええ、お嬢様ですので。」

 

「『彼』が知ったら悔しがる結果ですわ。まあ、それはさておき……次は少し走って来ますわ!」

 

 

 と、言って風の如く走り去るカルディナだった。

 その走り去る姿は、文字通りその場から『消え去る』と言えるレベルだった。

 

 

 

「……ふむ。何という加速度。お嬢様の話では『魔力(マナ)の使用量は一割も満たない』と。体に纏うだけで凄まじい効果を発揮するとは。『軟鉄』、改めて研究し甲斐があるな。」

 

「あら、何だか楽しそうですね、アナタ。」

 

「……そうか?」

 

「そ・う・で・す。」

 

「私がいるのをお忘れなく。」

 

「「――――――!?」」

 

 

 お嬢様の目が無くなったのを良い事に、いちゃつくフェーダー夫婦だが、フミタンが間髪入れず突っ込みを入れる程度には順調な試験経過だった。

 

 

 

 

 

 ――――――しかし、問題はここからだった。

 

 

 

 林の中を軽々と、かつハイペースで走るカルディナ。

 人型の生物が地を走るより、更に速く駆けていたカルディナは、非常に現状を愉しんでいた。

 身体が軽くて軽くて、力を入れずとも高く跳ぶ事が出来、枝木を掴んで廻っても手が痛くない。

 何より走り込んでも、『軟鉄』の特性によるアシストで疲れる事を知らない。

 気分は正に、ガオガイガーのOPにある、獅子王凱がライナーガオーと並走している時の光景のよう、とカルディナは錯覚出来る程だった。

 気分は正に有頂天。

 

 ただ、行っているのが試験である事を忘れかけていたカルディナ。

 この時のカルディナは、自身の纏うスーツの異常に気付いていなかった。

 

 

「フフフッ!!何て素晴らしいのかしら!! これならもっと魔力(マナ)を上げていいかもしれません!! 後は私の動きがスーツのアシストに、どこまで追い付くか、試してみなくては!!」

 

 

 今までは『一割未満』の魔力(マナ)で稼働させていたスーツに、更に負荷をかけようとするカルディナ。

 そこに落とし穴があった。

 

 

「―――行きますわよ!!」

 

 

――――――パァンッ!!

 

 

 盛大な破裂音が辺りに響いた。

 と、同時にカルディナの纏っていた衣服『全て』が弾け飛んだのだ。

 

 

「……はい?」

 

 

 呆けるカルディナであったが、身に起こった自身の現状を着地して、一拍置いた後、瞬時に理解した。

 見事に一糸纏わぬ姿になっていたのだった。

 

 

「い……いゃああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーー!!!!!」

 

 

 いくら敏腕商会主であろうが、無敵の女傑であろうが、年頃の女の子である。

 流石に全裸はないだろう。

 

 お陰で、悲鳴を聞いて駆け付けたフミタン達には羽織る物を持って来てもらうまでは、その場に伏しているばかりのカルディナだった。

 

 

 


 

 

 

 

 

「……という事がありましたの。」

 

 

 身に起きた出来事を一部省略し、ダーヴィズに堂々と語ったカルディナだった。

 そして、そのダーヴィズは頭を抑えて何とも言い難い表情をしていた。

 

 

「……まあ、何をしてたのかは判ったが、何とも信じがたい……もとい滅茶苦茶な話だな。」

 

「で、今の話を聞いて、何か判りましたか?」

 

「まあ、予想してたけどよ、魔力(マナ)の過負荷、だな。魔力(マナ)を『軟鉄』に通し過ぎて収縮限界超えて、耐え切れなくなった繊維が切れた、って話だ。しかも弾け飛ぶ程によ。ちなみに、繊維がくっついていたのは『軟鉄』の特性によるものだ。魔力(マナ)を流し過ぎると、過負荷に耐えるべく『軟鉄』自体がくっつく現象だ。ただ、ここまで大規模になっているのは初めて見たがな……全く、夢でも見てるようだぜ。」

 

「やはり、ですか。ちなみに対策はありますか?」

 

「安直だが、繊維を太くするってのが手っ取り早いな。今回納品しちまったのは裁縫用の細いものばかりだ。束ねるって手もあるが、こんな使い方をするなら、太くする方がいい。太くすれば、繊維がくっついても過負荷にも耐えれる体積は確保出来、強い繊維が出来る……それが俺の見解だが。」

 

 

 ちなみに、糸を編み込む方法もあるが、裁縫用の糸を使った綱型(ストランドタイプ)……否、紐型(ロープタイプ)に現状、需要はない。

 

 

「ちなみに、どれ位の太さまで可能で?」

 

「ご注文とあらば、どのようにも出来るぜ。」

 

「実に頼もしい。でしたら直径2ミリで注文したいですわ。感触からして、それぐらいでしたら問題ありませんので。」

 

「おう。じゃあ早速帰って……」

 

「ああ、もし宜しければ、場所と機材をお貸ししますので、工房(ここ)で作って頂けません?」

 

「……良いのか?」

 

「それとも、特別な物が必要で?」

 

「いや、俺自身と糸巻き機、デカい糸駒、あと充分な『軟鉄』がありゃ出来るが……」

 

「良かったです。宜しくお願い致しますわ。」

 

 

 それからダーヴィズは用意された部屋で、『糸』作りに取り掛かった。

 一言で言うなら、『魔力操作(マナ・コントロール)』にて『軟鉄』に『魔力(マナ)』を充分に浸透させながら、引っ張り、伸ばす。これに尽きた。

 途中でカルディナやフェルネスが見よう見まねでチャレンジしてみたが、見事玉砕。

 均一に伸ばし続ける、という行程が難し過ぎるとの事だった。

 ダーヴィズ曰く「勘で」との事だが、明らかに職人芸だ。

 

 充分な量が出来上がったのが暮れだったため、ダーヴィズには寝床と食事が用意され、その日はアースガルズ家の客間に泊まった。

 そして『糸』を受け取ったシレーナと、今日こそはと息巻くフェルネスの睡眠魔法とカウンターの応酬が続く、仁義無き戦いが夜通し続いたのは、言うまでもなかった。

 ちなみに、勝者は(シレーナ)

 旦那(フェルネス)は寝かされ、(シレーナ)は欲望のままに作業に没頭した。

 

 ……そして翌日。

 

 

「ウフフッ!!!凄いッ!!凄いですわッ!!」

 

 

 「やりきりました~」と貫徹で眠たい顔をしたシレーナから受け取った『魔力可動式(マナ・ドライブ)パワードスーツ』試作2号を受け取ったカルディナは、早速纏い、『魔力操作(マナ・コントロール)』で自身の魔力(マナ)が1割、そして2割を超えた瞬間、歓喜の声をあげた。

 

 自身に流れる魔力(マナ)を高めれば高める程、動きのキレが増す。昨日のガオガイガーOP再現など朝飯前だ。

 纏う魔力(マナ)が多ければ多い程に、振るう拳や脚の威力が高まる。可能な限りの負荷を掛けても、スーツは弾けず、スーツのアシストもあり、地面にクレーターを作る事も容易い。

放つ魔法も、スーツの影響なのか、普段以上の威力を誇り、側溝を築くのも一瞬だ。

 

 カルディナ自身の予想を遥かに超えた、素晴らしい出来なのだ。

 その光景を呆然として、ダーヴィズはフェルネス、フミタンと共に見ていた。

 

 

「……す、凄ェ。」

 

「素晴らしいです。現状の性能で既存の騎士達では、相手にならないレベルです。後は鎧やオプションを付加をして……」

 

「まあ、お嬢様ですから。おや、此方にお戻りになられるようです。」

 

 辛うじて見える山の峰より、人影……カルディナが文字通り、ひとっ飛びに越えて来て、目の前に着地する。

 

 

「はぁ~~……!、もう最高ッ!ですわ。見事な仕上がりです、ダーヴィズさん。」

 

「ま、まあ俺は『糸』作っただけだが……」

 

「充分です。これなら、やはり……ええ、決めましたわ。ダーヴィズ・ダンプソンさん。」

 

「何だ?改まって……」

 

「私に雇われて、この工房で働いて頂けませんか?」

 

 

 それはスカウトである。

 今回の結果がある程度達成された暁には、カルディナはダーヴィズを雇うと決めていた。

もちろん待遇は惜しまない。

 必要があるものがあれば、金に糸目をつけず……

 

 

「……悪いが、そいつは断りてぇ。」

 

 

 ……断った。

 公爵令嬢のスカウトを、だ。普通なら斬首ものである。

 しかし、カルディナは感情を露にせず、表情を変えず、言葉を返した。

 

 

「……理由を、お聞かせ下さいませんか?」

 

「ここまでやってくれりゃ、アンタの目的は判る。俺の作る『糸』だ。それに価値を見出だしてくれたのは、ありがてぇ。だがな……俺は『それだけ』で終わりたくねぇ。俺はドワーフだ。鎚を持ち、鋼を鍛えたいのよ。」

 

「……」

 

「アンタに雇われたら、おそらく『糸』ばかり作らされて、それで終わりそうで怖ぇんだ。俺はな……昔から英雄が振るう『(つるぎ)』や『鎧・兜』を造った鍛冶職人になる、それが夢なんだ。でも、アンタの所にいちゃ、それが叶うかどうかも解らねぇ。前いた工房もそれが理由で解雇(クビ)になったしな。だから……」

 

「……それで?」

 

「そ、それでって……」

 

 

 カルディナの返しに、ダーヴィズは言葉を詰まらせる。要は、自身の理想の為に、という事らしいが……

 

 

「そういうのは、自分でしっかり稼げるようになってから言える事ですわ。食い扶持すり減らして、夢など、烏滸(おこ)がましいですのよ。」

 

「うぐ……!」

 

「……それに、居もしない英雄の為に武具を造る等と、無駄ですわ。造るなら……私の為に造りなさい(・・・・・・・・・)ッ!」

 

「――!?」

 

 

 ―――私の為に造りなさい。

 

 かつて、そう言った者は居ただろうか?

 否、そう言った者はいない。

 しかし、目の前の令嬢(カルディナ)は確かに言った。

 それが、ダーヴィズの胸に刺さった。

 

 

「英雄とは所詮『結果』でしかありません。英雄の武器は、それこそ木の棒でも良いのです。成せば、それがその時『英雄の武器』に成り得るからです。つまり英雄が持つ武器とは、何だってよい、という結論になります。」

 

「いや、そりゃ暴論だろうに……」

 

「ええ、その通りです。ですが、ある程度は合ってませんか?それに、英雄とて、いつ出てくるかなんて解りませんし、判りやすい看板など背負ってません。待ち続けるのはナンセンスですわ。それよりも望まれて造る武器こそ、鍛冶職人の誉れではありません?」

 

「それは……」

 

 

 確かにそうだ。

 本当なら英雄に望まれて武器を造りたい。

 しかし、現実にそんな事は起こり得る可能性は限り無く低い。

 本当にままならない。

 であれば、本当に望まれる者に、渾身の武器を造った方が……

 

 

「俺は……」

 

「……とはいえ、これ以上言葉説得出来る舌は私にはありません。ですので……フェルネスさん。」

 

「はい、お嬢様。」

 

「『アレ』は出来てます?」

 

「はい、最終調整が昨日終わった、との事で。本日より『試験』可能です。」

 

「それは重畳。でしたら、御見せしましょう。私の『本気』、その一端を。」

 

「……本気?何なんだ?」

 

 

 

 

 戸惑うダーヴィズを連れ、カルディナ達は、工房へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後半に続く!

話はポンポン浮かぶ反面、文章が膨らみ過ぎているのが悩み。

もう少ししましたら、文章の整理でもしてみようと思います。
というか、フェーダー夫婦は本来ここまで目立たせるつもりはなかったんだ……


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Number.04 ~『勇者王』を創る決意~(2)

だいぶ遅れて申し訳ありません。
世間は大雨だ、コロナがぶり返しただの、不安な事が多々ありますが、お嬢様はいつも通りです。

後半を読んで、まったり出来る材料になればと思います。(確実に無理)


※4/28 文章中の「ホビット」の表記について、アドバイスがありましたので「ハーフリング」に変更しています。


 荒れ地の試験場より工房に戻ったカルディナ達は、工房の中心へと向かっていた。

 ちなみに、カルディナは着替えはしていないが、膝まであるマントで体を隠していた。

 流石にそのままでは羞恥プレイでしかない。

 その途中、一仕事終えて安堵していた人物が、カルディナを見つけ、声を掛けてきた。

 

 

「あ、お嬢~。丁度よかった。」

 

「あら、ヴィトー。どうしましたの?」

 

「ん?ビト坊か?」

 

「あれ?ダーヴィズのおっちゃん!どうしてここに?」

 

 

 どうやら、ヴィトーとダーヴィズは顔見知りの様だった。

 ちなみに、ヴィトー……ヴィトー・バギンズは『ハーフリング』である。

 

 ハーフリング。

 身長60~121cmで、わずかに尖った耳をもつ。足裏の皮が厚く、毛に覆われているので、靴をはくことはない。彼らは、冒険的でない牧歌的な暮らし、すなわち農耕・食事・社会生活を好む。ハーフリングは人間より若干長い寿命を持ち、しばしば120歳まで生きた(平均寿命100歳)。33歳で成人し、50歳で中年となる。また、酒場でエールを飲むことを好む。

 平和と食事を何よりも愛し、たいてい太っている。贈り物をするのもされるのも喜び、食べ物を例えに出すことを好む。しかしいざとなると驚くべき芯の強さを見せる。目が良いので石投げと弓矢の扱いが上手い。髭を生やしているものは一部の氏族を除いて殆どいない。

(Wikipedia参照)

 

 この世界でのハーフリングは、人間の背の低いバージョンの様な外見で多少小太り。エルフよりは短いが、多少尖った耳を持ち、そしてやたら手先が器用だ。

 金属細工師と呼ばれる職業があるが、その三分の二以上は彼らで、その技術はどの種族をしても彼らには敵わない程、卓越している。

 ちなみに、成人年齢は33歳であり、法が許しても、ハーフリングの種族間の決まりで飲酒も禁止されている。

 

 そんなハーフリングの一人である赤髪の少年、ヴィトー(25歳)は、ダーヴィズに歩み寄り、そして互いに握手する。

 

 

「それは俺も言いてえよ。お前、確か『向こう』に居たろう?最近見ないと思ったら、何でここにいる?」

 

「そりゃ、引き抜かれたからね。『向こう』で散々酷い目に遭ったのは知ってるでしょ?先月こっちに半ば避難がてら作品持って、アースガルズ領に来たんだけど、その先でお嬢に会って……」

 

「……まさか、作品見せたのか? あのやたら細かいのを。」

 

「偶然ね。そしたら『是非!ウチの工房にいらっしゃいな!』的にスカウトされたんだ。」

 

「……まぢ、か。」

 

「でも、今は楽しいよ。ある意味、畑違いの仕事もさせられるけど、それが、自分の『お得意』と合致した時は、すっげぇ快感でさぁー! 世界広がったよ~。」

 

「何?それってどういう……」

 

「――あの、宜しいかしら?」

 

「あ、ごめんお嬢。つい話し込んで……」

 

「それはいいですの。それより、2人は知り合い、という事で間違いないかしら?」

 

「うん、『向こう』で一緒に働いてた事があってさ。おっちゃんには良くしてもらってたよ。」

 

「……『あちらの工房』、随分業が深いですわね。ヴィトーといい、ダーヴィズさんといい……ちなみに、ヴィトーから見て、ダーヴィズさんの鍛冶師としての腕はどうですか?」

 

「?? 凄いよ。超に近いぐらい。精密で、スキがないって感じ。ただね、デザインの方向性でさ、『カクカク』とか『バリッ』したのが大好きで、よく工房長とか依頼主とトラブってた。」

 

「こら、ヴィト坊!」

 

「有名な話だよ。」

 

 

 どうやら、腕はいいのに一癖あって、注文にはそぐわないタイプの職人らしい。

 

 

「まあ。ですが腕は一流、ですのね。」

 

「それは間違いないよ。」

 

「それは重畳。ならば、尚更『アレ』を見せる必要が出来ましたわ。もしかすると趣味が合うかも。」

 

「『アレ』? もしかしてお嬢が来たのって、試験するため!?」

 

「ええ。出来たからには是非に。ダーヴィズさんも一緒ですわよ。」

 

「じゃあ、俺も一緒に行く! って事はダーヴィズのおっちゃんがここいるのは、引き抜き?」

 

「ええ、『糸』作成の張本人で、是非にと思ったら、フラれてしまって……」

 

「マジで!?あれ作ったの、おっちゃんだったんだ!でも納得。あの仕事は金属細工師にも厳しいしなぁ……なら、おっちゃんにはいいかも。」

 

「何がだ?」

 

「『アレ』のデザイン、おっちゃんなら、凄い喜びそうだし。」

 

「……ヴィト坊。そら、どう云う事だ?」

 

「「見れば判る」のですわ。」

 

 

 カルディナとヴィトーのハモりに、首を傾げるダーヴィズだが、それは工房の大広間に着いた時、明らかになった。

 

 

 

 


 

 

 

「皆さ~ん!ご機嫌よう、ですわ。」

 

「お、お嬢じゃねえか! 待ってたぜ!」

 

「お嬢、おはようございます!」

 

 

 意気揚々と大広間の扉(重量級の重いタイプ)を開け放ったカルディナは、中にいた職人達に挨拶した。

 その後に続くヴィトー、フミタン、フェルネス、そしてダーヴィズ。

 だが、ダーヴィズはまず、その中の光景に驚いた。

 

 

「な、何だ、ここは……」

 

 

 まず、目に飛び込んできたのは、ドワーフの男性が鎚を振るう傍らで、エルフの女性が鎚を打った鉄に魔法を掛けている光景。

 次に、ハーフリングの女性が小さい金槌とタガネで金属に細かい溝を彫っている真正面に、ドワーフの女性が彫り終わった金属盤を丹念に目の細かいヤスリで、バリを落とす作業をしている光景。

 更に奥には、人間の鍛冶職人と思われる男が、狼系の獣人と一緒に、妖精が付与魔法(エンチャント)を掛け続けているハンマーで、長い鉄骨を交互に叩き上げていた。

 他には、エルフの男性の前で、一回り大きい『鋼鉄の手』が台座の上で、右回り左回りを繰り返しながら回転し、止まったかと思えば、滑らかに動く。

 また他には鋼鉄で出来た帯が、一抱えもある円柱より伸びた棒につけられた車輪、それが二つに張られ、淀みなく無限の軌道を綴って(回り続けて)いた。

 一番目を引いたのは、同じく円柱から伸びた棒に付けられた円錐形の物体が、高速回転していたもの。

 

 どれも、今まで見た事のない、技法、そして技術で造られたものばかりだ。

 驚くダーヴィズを見て、カルディナはニンマリと笑い、説明し始めた。

 

 

「ここは工房の重要区画です。見ての通り、世間には卸していない技術、創作物ばかりありますわ。まあ、『国』には報告してますが……」

 

「何か独りでに動いている物もあるんだが……」

 

「正確には魔力(マナ)で動いておりますわ。目の前の職人(エルフの方)が持っている『集束縄(ケーブル)』で操作してますわ。貴方より買いました『軟鉄の糸』を用いて造りましてよ。円柱型の名称は『魔導回転発動機(マナ・モーター)』、これも内部に『軟鉄の糸』を仕込んでおります。」

 

「『魔導回転発動機(マナ・モーター)』……これにも『軟鉄』が……」

 

「他にも小型の『魔導回転発動機(マナ・モーター)』を多用して、手の形に造り上げた『鋼の手(マニュピレータ)』や、車輪と覆帯、『魔導回転発動機(マナ・モーター)』を用いた『無限軌道(キャタピラ)』、『魔導回転発動機(マナ・モーター)』を応用して造った『回転衝角(ドリル)』……どれも『糸』無くしては出来なかったものです。」

 

「凄ぇな。しかし、これが見せたかったものか?何だか想像していたのとは違うんだが……」

 

「いいえ、これらではありません。ですが、ここにあるのは間違いなくダーヴィズさんがいなければ造れなかった物ばかりです。」

 

「……そうか。」

 

「それに、本命はあちらですわ。」

 

 

 そして更に歩みを進める一同。

 作業区画を抜け、その先に人だかりがある以外はポツンと、拓けた場所に着いた。

 

 

「整備長、来ましたわ。」

 

「おお、お嬢。待ってたぜ。『コイツ』が遂に完成したんだ……ん?そこにいるのは、ダーヴィズか?」

 

「お……おう。」

 

 

 髭面のドワーフ(整備長)を始め、何人かの職人達が出迎えてきた。

 その中にはダーヴィズを知る者がちらほらいた。

 

 

 しかし、ダーヴィズには、今はどうでも良かった。

 その人だかりの『中心に立つ存在』が、猛烈な存在感を以って、視界に飛び込んで来たからだ。

 驚くダーヴィズの横に、カルディナはゆっくりと立ち、同じくその『存在』を目にしていた。

 

 

 その『存在』は一見、堅剛な鎧にも見えたが、そうではない。

 これはただの鎧ではない、断じて違う。

 

 

 

 全長 約2.3メートル、重量 約0.9トンの巨体。

 

 両脚は黒をベースに赤の塗装が混じり、ガッシリと、かつカクカクと角張った装甲に、膝にあたる部分には先程見た『回転衝角(ドリル)』。

 両腕も黒をベースに赤の塗装を交えた、円柱型に近い、剛胆な造りの左右非対称の手甲。

 特徴的な両肩の鎧は、この世界には存在しいない、500系新幹線をモデルにした肩当て。

 兜は黒をベースに、金の2本角の真ん中に翡翠にも似た宝石をはめ込んだもので、面当ては白い(オーガ)にも似た牙をあしらった、迫力を放つデザイン。

 背中には赤いラインが入った、背面全てを覆う程大きい黒い翼。

 そして、胸には赤い(たてがみ)を生やした、金色のライオン(ギャレオン)の顔が、その存在感を大いに示していた。

 

 

 これは、いったい何か?

 

 

 

 

 

 

 ……いや、最早語るまい。

 

 両脚には『ドリルガオー』。

 両肩には『ライナーガオー』。

 背面には『ステルスガオー』。

 そして姿は見えずとも、中心となるのは『ガイガー』。

 

 姿形は小さくとも、これは間違いなく『勇者王』。

 

 間違いなく『ガオガイガー』。

 

 カルディナは、いつの間にか『ガオガイガー』を建造していたのだった。

 

 

「こ、こいつは……! 何ていい面構えしてやがるッ! それにこの形状(デザイン)、何て理想的だ!」

 

「あら、お気に召しましたか?」

 

「気に入るも何も……あんた、判って見せてんな?」

 

「あら、何の事でしょう? 私はただ、自身の傑作をお見せしているだけですが?」

 

 

 戦慄を覚える位の武者震いをしながらも、ニヤリと嗤うダーヴィズに、あくまでもお嬢様スマイルを崩さないカルディナ。

 

 

「しかし、こいつはいったい……」

 

「この工房で創ったものです。職人の皆にはコードネームとして『GGG』と呼んで頂いていますわ。」

 

「……『GGG』。」

 

 

 名称の由来については、いまいちピンと来ないが、その勇姿と存在感は、まさに『英雄』と言っても過言ではない。

 いや、英雄……『勇者(ブレイヴ)』と言い換えても差し支えない。

 そう自然と思えたダーヴィズは、歓喜に震えたのだった。

 その嬉しそうな表情を横目で見て、カルディナは内心「やりましたわ!」と喜ぶ。

 しかし、まだ説明が終わって無いため、タイミングを見計らい、話を続けた。

 

 

「話を続けますが……一応、こちらは鎧であり……ついでに『ゴーレム』でもありますわ。」

 

「ゴ、ゴーレム!?一大戦力じゃねぇか!?」

 

「ええ。ただ、ご存じの通り世間一般(この世界)のゴーレムは、魔法で岩や土を用いて生成される、高さ3~4メートル程の、即事創作型(その場で造るもの)ですわ。ですがこれは、一から鋼を用いて建造した(みっちり造った)ものです。」

 

 

 ここで補足をいれるが、この世界において、魔法により創られた存在であるゴーレムは、一大戦力である。

 

 平均3~4メートル、熟練者であれば、10メートルにも及ぶ高さの無機物(岩、土、鉄等)を媒体に生成される巨体を持つ。

 ただしユダヤ教に記されている様な、『真理(emeth)』の魔術符(アルカナ)を使うことはなく、あくまで魔力(マナ)と媒体を用いた動く塊と覚えていて欲しい。

 基本的な形は二足歩行型、四足歩行型、変わり種には多足型等、術者の用途や好みによって様々である。

 術者はゴーレムの背面に台座を造り、そこから多大な魔力(マナ)を送り込みながら戦う。

 

 そしてゴーレムに用いられる『強化魔法(ブースト・エンチャント)』や『障壁魔法(マナ・バリア)』は、その魔力(マナ)故に、一般の魔法使いが使うそれとは違い、隔絶とした出力、強度を誇る。

 更に、ゴーレムを操る術者が放つ魔法も、また強力。

 

 堅牢で鉄壁の『障壁魔法(マナ・バリア)』という『盾』を持ち、その巨体と質量を伴った近接攻撃()や強大な魔法という『矛』を振るうが故に、ゴーレムは人馬もものともしない、一大戦力の位置付けをされているのだ。

 当然、それだけの魔法使いであるため、その実力は半端なものではない。

 

 また、ゴーレムの現状のほぼ全てが『即事創作型(クリエイション・モデル)』と呼ばれる仕様だ。

 この仕様は、有事に即対応出来る戦力を用意出来、媒体さえあれば魔力(マナ)が続く限り再生可能であるのが利点を持つ。

 

 当然、我等がカルディナお嬢様も、その利点は充分に理解している、のだが……

 

 

「だがよ、ゴーレムを建造して何の意味があるんだ?現状ある『即事創作型(クリエイション・モデル)』でもいいと思うんだが……」

 

「……」

 

「??」

 

「その疑問には私からお答えします。」

 

 

 その質問に対し、顔を背ける……というより、珍しく答えたくない、という態度をとるカルディナ。

 疑問に思うダーヴィズの横に、さりげなく陣取ってフォローしたのはフェルネスだった。

 

 

「実は2年ほど前、『王城』の訓練場にて、近衛騎士団の団長をお嬢様が倒した、という出来事が御座いまして……」

 

「す、凄ぇ……とは思うが、何の関係が……?」

 

「実はその後に、王国直属の魔法師団ともやり合ったのです……その、ゴーレム戦で。」

 

「何ッ!? つー事は、このお嬢様もゴーレムを創れるって事に……!?」

 

「はい。その戦闘で、カルディナお嬢様は勝ちました。ですが、その……『勝ち方』に問題がありまして、それに絶望しました。」

 

「勝ったのに、絶望……?」

 

「……相手の『障壁魔法(マナ・バリア)』の完全展開と『強化魔法(ブースト・エンチャント)』の完成を待った後、万を持したお嬢様はご自身のゴーレムの拳を相手のゴーレムに叩き込み……『一撃で葬りました』。」

 

「はぁ!? ちょ……待った……いや、成る程、な。」

 

 

 ダーヴィズは理解した。

 

 相手を一撃で葬った。

 相手を屠る言葉の表現としては、この上無い最上の言葉だ。

 しかし、カルディナの立場としては、どうか?

 

 カルディナは『ガオガイガー』を創りたいのだ。

 当然、強いに超した事はない。

 しかしダーヴィズは、『目の前のゴーレム(ガオガイガー)』の事は知らないが、カルディナの事だ、昨日今日、考えたモノではないのは明白。

 

 なら、2年よりずっと前からでも不思議ではない。

 

 『目の前のゴーレム(ガオガイガー)』を創るため、国直属の魔法師団に対し『分析』と『力試し』を試みたとしても不思議ではない。

 

 その結果が、自身の圧勝。

 

 ……カルディナは思っただろう。『弱い』と。

 

 王国直属の近衛騎士もそうだが、魔法師団に成人にもなっていない13歳の子供が圧勝してしまったのだ。

 

 きっとカルディナは「手加減は一切無しッ!!全力でお願い致しますッ!!」と懇願したに違いない。

 そして、言う通り『全力を以て相手をした』師団長は一撃で仕留めてしまった後も、再勝負を何度も申し入れられ、それでも尚、一撃で沈められてしまうのだ。

 挙げ句に他の師団員も複数同時に相手にし始めたのだろう。

 だが勝ってしまう現実は非情だ。

 誰も相手にならないのだ。

 一切手加減をしていない筈なのに、師団員は逆に軽くあしらわれ、「どうしてそんなに弱いのですか!?もしかしてこの期に及んで手加減ですか!? ちゃんと全力でお相手して下さァーーいッ!!!」とカルディナより、とばっちりの様な泣き言を聞かされ、涙を流されたに違いない。

 

 最後には『orz』と師団員達より絶望しただろう。

 

 敗者の山の上に立つ、絶望する勝者(お嬢様)……

 何とも嫌な光景だ。

 

 その時、思ったのだろう。

 

 

 ゴーレムの『即事創作型(クリエイション・モデル)』の仕様が悪いのですわッ!!

 こんな事なら、最初から建造してしまえばいいのですわッ!!!

 

 

 ……そして、無敵のゴーレムを創るために、最高の素材を求めてエトセトラ……な時期が続き、ダーヴィズ()に偶然出会った、のだろう。

ダーヴィズはそんな想像していた。

 

 そして、大方合っている。

 

 違うのは、「近衛に続いて魔法師団すら温いとは片腹痛いですわッ!!動きが鈍い、魔力(マナ)も練れてない、師団の連携も疎かッ!!聞いてますか師団長ッ!!! 操作だけでなく、もっと質を上げて……!!」等、泣き言を言うのではなく、完全にお説教モードになっていたぐらいか。

 

 元々、現行の『即事創作型(クリエイション・モデル)』の弱点は判りきっていた。

 媒体の質によっては『障壁魔法(マナ・バリア)』があっても弱い事。

 ゴーレム構成後の魔力(マナ)維持と操作等、同時行程が多過ぎて、長期運用には適さない。

 または短期であっても技量によっては、意識が操作に行き過ぎて、連携が疎かになる。

 

 ならば全ての負担を軽減出来るよう『元から創ればいい』と結論に達した。

 

 だが、元より建造しない一番の理由は『ゴーレムを建造して維持する技術』が無い事だ。

 

 

「……ならば自身で証明するしかない。そういう訳で、お嬢様は元より造られたゴーレム、『建造型(ビルドタイプ)』を造ることしたのです。」

 

「……説明の代行、感謝しますわ、フェルネスさん。」

 

「……凄ぇ納得した。つまり、アンタはこの『建造型(ビルドタイプ)』を造りたい訳だ。」

 

「半分はそうですわ。」

 

「半分?」

 

「私の目的の一つに、この『GGG』を元の形に再現する事にあります。」

 

「……元の形?」

 

「この『GGG』は本来もっと大きいのです」

 

「大きい??」

 

「……って事は、お嬢。本気でやるんだな?」

 

 

 2人の会話に割り込んで来たのは髭面のドワーフ(整備長)だった。

 自慢の髭を手櫛でわしゃわしゃとしながら、ニヤリと笑っている。

 

 

「前に言ってたよな?『GGGは本来、23メートルを経て、31メートルもの巨大なゴーレムになる』って。それを本気で造る、と。」

 

「ええ、その通りです。」

 

 

 そして、カルディナは自信を以て、ニヤリと笑う。

 

 

「23メートルを……31メートルって、どう云うことだ?」

 

「そうですね、見て頂いた方が判りやすいですので、お見せしましょうか。すみません、『GGG』の『集束縄』(ケーブル)を私に。」

 

「こちらです。」

 

 

 そして『GGG』……ガオガイガーの背中より延びている集束縄(ケーブル)を職人より受け取るカルディナは、周りの職人達が周りから離れたのを確認した後、少々苦笑いを浮かべつつ、集束縄(ケーブル)魔力(マナ)を込めた。

 

 

「……最初にする動作が『これ』なのは少々アレですが、行きますわ。『フュージョン・アウト』ッ!」

 

 

 フュージョン・アウト。

 ガオガイガーが、ファイナル・フュージョンを解く際の行程である。

 アニメでは、第2話にてその様子が放映されていた。

 ベイタワー基地に接続されているエリアIV 『水陸両用整備装甲車』内部にて、ガオガイガーから各ガオーマシンを専用施設で『分離』させ、ガイガーに戻り、最後にはギャレオンに戻るのだ。

 合体を解く行程がよく判るシーンで、一見の価値はある。

 

 ここではそんな専用施設はないが、専用の移動可能な収納整備枠(ハンガー)が存在する(当然、職人達が造りました。)。それが『フュージョン・アウト』専用機である。

 そして、カルディナの魔力(マナ)に呼応し、収納整備枠(ハンガー)のギミックは、直立状態の『GGG』をアームで固定し、空中で水平に寝かせ、次々にガオーマシンを外して行く。

 その動きは収納整備枠(ハンガー)のレールに沿ってアームが精密機械さながらの動きで稼働し、カルディナが操作しているとはいえ『この世界』のレベルとしては隔絶していた。

 そして最後には、額に緑の宝石を付け、胸に金のライオンの顔を携えた白い鋼の躯体『ガイガー』が、そこに残った。

 

 

「……まずは、この形態が本来、23.5メートルの巨神の素体……名を『ガイガー』と申します。よし、『フュージョン・アウト』成功ですわ。」

 

「「やったァァァ――――!!!」」

 

 

 その瞬間、何人かの職人かが、歓喜の声を挙げ、喜んでいた。

 所々に「あのアーム、苦労したんだよな。」とか「ここまで動くのに何百回修正したか……」等、余程きつかったのだろう。涙ぐむ者もいた。

 しかし、見せ場はこれからである。

 

 

「そして4つの鎧たる『ガオーマシン』を身に纏った形態が、先程見ました状態です……行きますわ『ファイナル・フュージョン』ッ!!」

 

 

 そして今度は先程の逆再生とも言える動きで、『ガイガー』に『ガオーマシン』4機が『ファイナル・フュージョン』を果たす。

 ドリルガオーが両脚、ライナーガオーが両肩にそれぞれ収まる。

 そしてステルスガオーが背中に装着され、ギャレオンの顔に赤い(たてがみ)が装着され、眼が光る。

 左腕にプロテクトアーム、右腕にブロウクンアームが金属摩擦の唸りを挙げて連結し、鋼鉄の掌が回転して現れる。

 更にガイガーの頭部の後ろ、ステルスガオーのフィルターシャッターが解放、赤いアームに固定された黒いヘルメットが、ガイガーの頭に被さり、牙を模した面当てが装着、金色の角飾りの窪みから翡翠に似た宝石が迫り出る。

 

 『ファイナル・フュージョン』……それは、白き戦士(ガイガー)勇者(ガオガイガー)へと至らせる為の行程であり、その行為自体が至高の儀式である。

 

 

 そしてこの瞬間、遂に『鉄の勇者王』が、異世界に降臨した。

 

 

「これこそが本来、全長31.5メートルを誇る、鉄の巨神『GGG』こと、その名を『ガオガイガー』と申します。」

 

「……ガオガイガー。」

 

 

 

 

 ブロウクンアームの放熱器より蒸気が迸る。

 無限軌道(キャタピラ)が廻る。

 プロテクトアームのフィールド発生器が光る。

 金色のドリルが回転し、唸る。

 

 

 

 これこそ、我等が待ち望んでいた勇者王。

 

 

 

 その名は勇者王・ガオ ガイ ガーッ!!

 

 

 

 そしてカルディナの意識の元、ガオガイガーはその重厚な躯体に魔力(マナ)を漲らせ、その双眼に光を点し……

 

 一歩、そしてまた一歩、足を踏み出した。

 

 重厚な足取りを二歩、三歩と繰り返した後、身を屈め、拳を突き出し、構える。

 所謂ファイティング・ポーズである。

 傍らのカルディナも同じ構えをしているところから、これは、お嬢様のデモンストレーションである。

 

 

「ハァアァァ―――ッ!!」

 

 

 気合が充分に乗ったお嬢様の声と共に、始めに正拳、低姿勢からの足払い、そして下段から突き上げ、槍の如く鋭い蹴り上げを繰り出す。

 そして間を空けずに身を半身にして防御力姿勢、からの後方への鋭い裏拳、転進して『ドリルニー』を使った膝蹴り、そして正拳突き……を終えた後、これでもかと、ゆっくりと身を屈め、低姿勢の構えをした。

 

 

 そして、カルディナも同じ動きを……全く同じ動きをしている。

 

 

 そんな光景に、職人達は驚いていた。

 ガオガイガーの一連の動きは、謙遜なく鋭く、そして正確で一切の重さを感じさせない、カルディナの動きだった。

 

 それはどう云うことか?

 重量約0.9トンという質量は、とてもマトモに動けるモノではない。

 そんな重量を纏えば、まず姿勢が崩れる。軽快な動き等、望める訳がない。

 それはゴーレムも一緒だ。

 中心となるガイガーは細身だ。使った金属の固さと耐久性は自分達が一番よく知っている。

 稼働範囲や関節の癖の一つ一つに至るまで。

 完成させた、と言っても技術不足故に、そして初めての試み故に、至らない箇所は多々ある。

 

 

 なのに、それら不安要素を一切感じさせない、キレのある挙動は、職人達の不安を払拭するに値するものだった。

 

 

 ……そして、ガオガイガーが、カルディナが構えを解き、直立姿勢に戻った。

 魔力(マナ)の輝きが消え失せ、その双眼の光が消失した後、静寂が一拍―――

 

 

「……皆さん。有難う御座います。遂に、第一目標の『GGG建造』は、完了ですわッ!!」

 

「「「「やったぜェェェ——!!!」」」」

 

 

 そして巻き起こる喝采の嵐。

 職員達は互いに、互いを誉め合っていた。

 普段であれば、厳しいだけの職人も、今に限っては涙を流す者もいた。

 時代背景を省みれば、在り得る訳のない、ブラックボックスの様な存在を、先導者(カルディナ)がいるとは言え、見事造り上げたのだ。

 その功績は歴史に名を残すだろう。

 

 そして、その光景をダーヴィズは見ていた。

 何かを考え、何かを想い、皆が喜ぶ輪の中を避けつつ、そして意を決してカルディナに声を掛けた。

 

 

「本当に凄ェな、お嬢さんよ。ちなみに、こいつは『何と』戦う想定してんだ?」

 

「そうですわね……今のところ(・・・・・)は『隣国』でしょうか。現状、仮想敵国扱いであり、この国よりゴーレムの配備数が非常に多い国ですからね。ゴーレムの発展は日進月歩。であれば、こちらがアドバンテージを取るのには突飛した存在が必要かと……」

 

「……今のところは、か。」

 

 

 『隣国』のゴーレム事情は、ダーヴィズも知っている。宗教国家であり、魔法に秀でている『隣国』は、この近辺では最大の権力、そして魔法使い=ゴーレムの配備数が抜きん出ている。

 そんな『隣国』に対し、全長約32.1メートルのガオガイガーが現れ、今見た通りの性能を発揮したらどうなるか……

 軍事バランスが引っくり返るのは明白。

 

 しかし、ダーヴィズは感じた。

 目の前にいるお嬢様(カルディナ)は、隣国とのパワーバランス(判りきった建前)等、判りきった上で、遥か先を見据えている事を。

 

 いったい、何を見据えているのか?

 本当の目的とは……

 

 

「……なあ、カルディナお嬢様よ。本当に、俺の力が必要とされるのか? 本当に、俺の鍛冶師のしての腕が必要なのか?」

 

「勿論です。」

 

 

 カルディナは真摯な顔で、不安な気持ちに揺れるダーヴィズの問いに答える。

 

 

「今、ご覧になった通り、今ここには世間では有り得ない存在が誕生しました。しかし、ここからは完全に未知数です。全長31.5メートルの人造の(・・・)巨神を創るのですから。故に、私はその要となる『軟鉄の糸』を貴方に求めています。ですが、私は貴方に『鍛冶師としての全て』を求めますわ。」

 

「鍛冶師としての、全て?」

 

「ええ。鋼を鍛え上げる槌を振るう腕も、『糸』を紡ぎ出す技量も、デザインセンスも……何もかもを出し切って頂きます。完全燃焼?自身の持てる技術の粋? その程度では、全然足りませんわ。燃えるモノ等無くても燃え滾り、その身が朽ち果てようとも、全力を超えた『ありったけ』を込めた、一世一代、渾身の、足りなければ勇気で補ってでも全力全開で、自分に誇れる力を振り絞る『力』……そんなモノを貴方は創りたいのではなくて?」

 

 

 拳を強く握り締め、熱を込めてカルディナは語る。

 そうだ、言葉こそ無茶苦茶乱暴な表現ではある、確かにそんな武器を作品を造り出したい。

 ダーヴィズの心は昔から、そして今も変わらない。

 

 

「私の求める英雄……いえ、『勇者王』にはそれだけの価値が有ると自負しています。そして、見たくありませんか?自身で造り出した『巨神』が、世の危機(・・・・)にその力を振るう光景を。迫り来る軍勢を鎧袖一触にて打ち砕く光景を。少なくとも、私は『私自身の為に』その力を求めています。」

 

 

 思い描くのは終焉かと、ダーヴィズは心の中で笑ってしまう。

 しかし、不謹慎ではあるが、それこそ、自分が望んだシチュエーション。

 英雄の……勇者の戦いだ。

 

 

「私は歓迎します。貴方に『勇気(己が力を示したい心)』があるなら、是非とも私の元で、貴方の持てる技術以上の力を振るって下さいませんか?」

 

 

 そう言って手を差し伸ばす。

 まるで「共に戦いましょう」と言わんばかりに。

 

 それに対する、ダーヴィズの返答は……もう既に決まっていた。

 

 

「……全くよぉ。こんだけお膳立てされて、断る職人はいないだろうに。勿論……いや、此方からも頼みたい。俺を……ダーヴィズ・ダンプソンをここで使ってくれ。期待以上の仕事をしようじゃねえか。」

 

 

 そして、カルディナの手を握り返す。

 

 

「宜しくお願い致しますわ。」

 

「おうッ!カルディナお嬢様!」

 

「ああ。公的な場でなければ、お嬢、で結構ですわ。職人の皆様にもそう言われてますので。」

 

 

 

 ニッコリと笑うカルディナ。

 そしてその一連のやり取りを見ていた職人達は、歓迎の意をダーヴィズに表した。

 元より顔馴染みも多いようで、特に人間関係にフォローを入れる事も無いだろう。

 

 

 こうして、カルディナはガオガイガー創造という難関に対し、ダーヴィズ・ダンプソンという心強い鍛冶職人を一人、得たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――パンッ、パンッ、パンッ

 

 

 

「さて、皆さん。程よく滾って来たようですので、私から一つ、お見せしたいものがあります。」

 

 

 突然、カルディナからの申し入れが出た。

 ダーヴィズは何か、と期待したが、ふと周りを見た瞬間、驚愕した。

 

 

「……おい、何でみんな警戒してるような面してんだよ?」

 

 

 正に、その通りだった。

 ダーヴィズ以外の職人連中は全員警戒、もしくは戦慄に晒されるような面持ちだった。

 

 

「……いや、だってよぅ。」

 

「お嬢がああ言う時は、大概衝撃的な事が起きんのよ。ここにいる全員、ある意味被害者。」

 

 

 隣にいた、黒い肌の軽装の職人……ダークエルフの女性は頬を引きつらせて語った。

 それに対してカルディナは反論した。

 

 

「失敬ですわ。実害はありませんわ。せいぜい破壊するのは『常識』と『価値観』ですわ。」

 

「毎回、やられて心臓に悪いから言ってんのよ!」

 

「な……何をする気だ??」

 

 

 職人達の不安など知ってか知らずか。

 または、わざとか。

 カルディナは、悪戯を企む小悪魔のように、笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

《…NEXT》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

君達に、最新情報を公開しよう!

 

遂に完成したガオガイガー(ミニ)。

 

新たなる職人、ダーヴィズを迎え入れる職人達。

 

しかし、カルディナの企みが更なるステージへと職人達を突き動かす。

 

いったい何を見せようというのか?

 

そしてカルディナが駆る、ガオガイガーの実力とは?

 

迫り来る魔獣の脅威に立ち向かい、独り佇むカルディナは何を視るのか?

 

それを知るのはカルディナ、ただ1人。

 

今、衝撃の事実が明かされる!

 

 

 

次回『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

Number.05『ガオガイガー、上演&実戦』

 

 

次回もこの物語に、ファイナル・フュージョン、承認ッ!!

 

 

 

これが勝利の鍵だ! 『魔術式投映機』

 

 

 




そういえば、執筆中に『勇者娘ガオガイガールズ』を発見しました。
遂に、ガオガイガーもここまでやってしまったんだな~と思う始末。
『破界王』では、シルバリオン◯◯◯◯ャーが……!
ああああーーー!!の瞬間、地球の御偉いさん方の臆病印の兵器が◯✕△■~!

次回が楽しみです。



当作品の感想、評価、ないしはガオガイガー漫談等、ある方は、どうぞよろしくお願い致します。


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Number.05 ~ガオガイガー、上演&実戦~(1)

お待たせしました。
今回も話が長くなりましたので、分けます。

(1)は『上演』が主になりそうです。


『ガイガーから、ファイナル・フュージョン要請のシグナルが出ていますッ!!』

 

『───博士ッ!!』

 

『しかしなぁ、ファイナルの成功率は、限り無くゼロに近いんじゃがなぁ……』

 

『……成功率なんて単なる目安だ。後は勇気で補えばいい! ファイナル・フュージョンッ、承認ッ!!』

 

『了解ッ!!ファイナル・フュージョン、プログラム……ドラァーイブッ!!!』

 

 

 ───ガシャンッ!!!

 

 

『よっしゃあァァァーーッ!!!』

 

 

 自らを拘束している電流の流れる触手を『ガイガークロー』で切り裂き、腰のスラスターを吹かし、離脱する、全長23.5メートルを誇る白獅子の戦士、ガイガー。

 子供達が驚くのを横に、ガイガーは勝機の機会を得る。

 それは……

 

 

ファイナル・フューーージョーーーンッ!!!

 

 

 荘厳な音楽……『ファイナル・フュージョン』の曲と共に、ガイガーはクロスさせた両腕を真横に伸ばし、高速回転をしながら電磁乱雲嵐(EMトルネード)を腰から発生させ、周囲に展開させた。

 

 その電磁乱雲嵐(EMトルネード)の壁を勢いよく突破し、現れたのは……

 

 地面より、金色の回転衝角(ドリル)に、黒きボディの無限軌道(キャタピラ)を持つ戦車、ドリルガオー。

 低空より、白き流線型のボディに青のラインを走らせた500系型の新幹線、ライナーガオー。

 上空より、黒い翼を持つ、ステルス爆撃機を模した飛行機、ステルスガオー。

 

 3機のガオーマシンである。

 

 ギャレオンの口より光が発し、各機は合体フェイズに入った。

 

 十字ポーズのガイガーの下半身が丸ごと反転し、表に黒いスカートパーツが現れる。

 それを「待ってました!」と言わんばかりに、ドリルガオーが機体ごと上方に向き、ドリル基部ごと前方に倒れ、基部の下に『穴』が現れる。

 そこに、足先を尖足型に変形させたガイガーの両脚が挿入、機器によって完全固定(パーフェクトロック)される。

 

 次にガイガーの肩関節ごと、両腕が背面に折り畳まれ、その胸部側面には貫かれたような、大きな四角い『穴』が現れた。

 そこに「此処こそ俺の居場所!」と言わんばかりに、その『穴』に高速で突入するライナーガオー。

 貫き通り、車体の中央ブロックが胸部に隠れるで止まる。

 

 そしてステルスガオーが「これこそ我が生き様!」と言わんばかりに、高速で垂直落下しながら背中に侵入、ブレーキとクッションを活かしつつ減速、背部に複雑な完全固定(パーフェクトロック)で装着される。

 

 ライナーガオーが若干上に上がるのと同時に、ギャレオンの顔に、ステルスガオーから、アームで赤い(たてがみ)が両側に装着され、両眼が光る。

 

 胸部両側面より延び出たライナーガオーの下部より、白いユニットが下方に伸びた。

 それに呼応して、ステルスガオーの左右の黒いエンジンユニット……左側・プロテクトアーム、右側・ブロウクンアームが金属摩擦の唸りを挙げてレールを伝い上昇、内部で連結し、ジェットフィルターが解放、鋼鉄の掌が高速回転して、衝突音にも似た静止音を響かせ、現れる。

 

 そして、ガイガーの頭部の後ろ、ステルスガオーのフィルターシャッターが解放、赤いアームに固定された黒いヘルメットが、ガイガーの頭に被さり、牙を模した面当てが装着、金色の角飾りの窪みから翡翠に似た宝石が迫り出る。

 

 そして光る双眼。

 

 全ての行程(フェイズ)が完了した。

 

 ()の拳を胸の前で突き合わせ、気合を入れるが如く、両腕を勢いよく引き、そしてその名を叫ぶッ!!!

 

 

「ガオ・ガイ・ガーッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……という、ところで『映像』が止まった。

 

 

「……途中ですが、如何でしょう? ガオガイガーのファイナル・フュージョンの行程は、お分かり頂けましたか?」

 

「な……何じゃこりゃ……」

 

 

 普段着(ドレス兼作業着)に着替え、後ろの席より質問するカルディナに、ダーヴィズは思わず言葉を漏らす。

 いや、ダーヴィズに限らず、他の職人達も同じ様な反応だった。

 

 ある者は、ただ唖然と。

 ある者は、「これは、何と……」と感嘆する。

 ある者は、両手を組んで「……おお、神よ」と神頼み。

 

 三者三様……いや、15人いる職人達は、十五者十五様の反応を見せていた。

 かろうじて、フミタンやフェルネスは冷静に、かつ興味津々に見ていた。

 その中で、ダークエルフの女性……イザリア・フランベルは、表情筋を引き攣らせていた。

 

 ちなみにダークエルフとは……

 ファンタジー小説に登場する架空の種族。エルフの近縁種とされ、エルフが気位は高いものの人間に対し友好的(あるいは無関心)であるのに対し、人間に害を成す存在として描かれる。また、エルフとも敵対していることが多い。

 ダークエルフの設定は、歴史的な伝承はもちろんのこと『指輪物語』にも登場してこない。前史である『シルマリルの物語』では、古代に浄福の国の光に接する機会のなかったエルフたちが「暗闇のエルフ」と呼ばれるが、上記とは全く別の意味である。同作には闇の陣営に唆されて一族を裏切ったエルフも登場するが、これはあくまでも個人であり種族という訳ではない。

(Wikipedia参照、一部抜粋。)

 

 この世界でのダークエルフは、闇とかそんなのは一切関係なく、土地柄日光が強く当たりやすい場所に長年住み続けたエルフが、紫外線から身を守るために、長年に渡り、肌を黒っぽく変化させた種族である。しかも、普通のエルフとは特に仲が悪いとか、そんな事は一切ない。むしろ社交的で、ハングリー精神が旺盛である。

 しかも何にインスパイアされたのか、自ら率先して「私達は、ダークエルフッ!」と嬉々として名乗ったりする。

 最近では、一部の白肌エルフさんが「なら、我々はシャインエルフッ!」と名乗ったり、名乗らなかったり。

 

 この事を知ったカルディナは、盛大にずっこけた。

 

 そんなダークエルフであり、職人達の中では比較的常識人な部類に入るのが、イザリア・フランベルである。

 

 そう、貴重な常識人(ツッコミ役)である。

 

 

「お、お嬢……これ、何なの?」

 

「『勇者王ガオガイガー』の第1話ですが、何か?」

 

「第1話……じゃなくてッ!!!あの動いてる絵は何!?何処から声出てるの!?爆発音!?ってか、あの馬鹿馬鹿しい程に高い建造物(ノッポ)は何なの!?あそこは何処よ!?アイツら誰!?何で動いてんのよォッ!?」

 

「……ああ、そこから、ですの。」

 

「そうよ!!ああー!!だから何かやる時には、一言言ってって言ってるでしょう!!」

 

「言いましたわよ?『お見せする』と。」

 

「限度があるわァーーー!!!コレだから、毎度常識と価値観が破壊されんのよ!!!毎回やられるこっちの身になれっての!!!」

 

「オホホホ。」

 

「お嬢ーーーーッ!!!」

 

 

 と、イザリアとカルディナのやり取りが清涼剤となったのか、ある意味落ち着きを取り戻した職人達。

 『今まで』も散々やられているのだ。

 驚きはしたものの、カルディナが関わる以上、摩訶不思議で終わるものではない、大概後々に明確になるのだから、と職人達は一先ずそう思う事にした。

 

 ちなみに、イザリア(常識人枠というツッコミ役)の反応を見たカルディナは……

 

 

(初めてテレビを見た異世界人みたいですわね。)

 

 

 と、楽しそうだった。

 

 

「……とまあ、半分冗談さておき。一から説明しますわ。」

 

 

 ちなみにここは、会議場。

 工房の地下にあり、扇状のスペースに約50人程の人が座れる席が入る程の広さがあり、前方には小芝居が出来る程のステージがある。

 どちらかと言うと演劇場(ホール)に近い。

 

 使用用途は基本的には職人達が集まり、会議をするための場所であるが、大概作業場で済ます事が多いため、使われる機会は稀である。

 

 しかし今行われているのは、カルディナ曰く会議。

 いざ蓋を開けてみると、やっている事は上映会。

 

 上映会、である。

 

 ただ、この世界には『上映』という概念がないため、『上演』という態を取っている。

 

 しかし、中世ヨーロッパ風味漂う、この世界に於いて『映画』なのだ。

 写真の概念は無く、あるのは画家の絵。良くて正確なデッサンぐらいで、まず『絵』が動くのは考えられない。加えてBGM完備、効果音たっぷり、そしてフルボイスだ。

 

 止めに異世界風景(現代描写)など出てくれば、人物と建物のパースを充分に理解している職人達が見れば、イザリアの様なリアクションは当然と言える。

 

 そんな光景を見せたタネは、カルディナの傍らにあった。

 

 

「こちらは、ヴィトーが1ヶ月頑張ってくれた成果です。『魔術式投映機(プロジェクター)』と言いまして、術者の念じた光景、その音や動きをありのままに映し出すものですわ。」

 

 

 四角い木箱に、一ヶ所穴が開いており、レンズが付いている。レンズがある面より真後ろの面には、下部に取手が。開けると、細い集束紐(ケーブル)が張り巡らされた丸い水晶体があった。

 一見すると、外見だけは初期の感光式カメラにも似ているが、当然機能は違う。

 

 

「音はここから四方の四隅にある箱からですわ。」

 

 

 そして『魔術式投映機(プロジェクター)』より四方に集束紐(ケーブル)が伸びており、その先にあるのは舞台天井の両端、舞台袖の両端の4ヶ所にある四角い箱で、円い模様……窪みのある箱があった。

集束紐(ケーブル)が伸びており、その先にあるのは舞台天井の両端、舞台袖の両端の4ヶ所にある四角い箱で、円い模様……窪みのある箱があった。

 こちらは『拡声器(スピーカー)』。

 異世界技術(現代知識)さえあれば、意外と容易に出来たものだった。

 

 ただ、実は20日前には、この2つは既に出来上がっており、試運転をしていたのだが、その時の映像は、良くてノイズの混じった映像、悪くて砂嵐、の映像だった。

 音声も安定しない、ノイズの混じったものだった。

 それを軟鉄に全て交換したところ、見事に成功。

 実にクリアな映像と音声を実現したのだった。

 

 これにより、映像や音声の再生魔法等が未だないこの世界に、魔術式のAV機器をカルディナは生み出したのだった。

 

 ちなみに、どちらの作品もヴィトー曰く、

 

 

「金や銅の線に比べて、軟鉄の方が魔力(マナ)の通りが段違いだったよ。魔法で生み出した電気?と魔力(マナ)のままとじゃ、通り方が違うみたい。」

 

 

 と、面白い報告をされた。

 カルディナにとって、その報告は自身の方針が間違って無いことが証明された事でもあった。

 ちなみに、単純に金や銅が悪い訳ではなく、この結果は金や銅の純度の問題で、純度の低い物質を使うと、映像や音声を流す魔力(マナ)にノイズが出ることが後の研究で判明する。

 なお、軟鉄の純度は、自然界のものであっても99.98%であり、魔力(マナ)の伝導性はどの物質よりも遥かに高い。

 

 ちなみに、当のヴィトーは現在この場にはいなかった。

 フェルネスの妻であるシレーナに、カルディナの新たな注文を果たすため、アシスタントとして引っ張られていった為だ。

 「オイラも見たいのに~!」と嘆くヴィトーを「さあ、新たな服のデザインの始まりです~!」と意気揚々と引っ張って行った光景は、合掌の一言。

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

「そして、それらより動く絵と音を生み出すのは……こちらになります。」

 

 

 それはカルディナの指し出す指先に現れた。

 

 直径20センチ程の透明な球体。

 その中には黒い小さな球体を核に、四角に切り取られた、様々な『絵』が球体の内部を規則正しくグルグルと回り続けているものであった。

 

 

「何だい、それ?」

 

「光と音を記憶した、魔術的な情報集積体です。私は『在りし記憶(メモリアル)』と呼んでいます。」

 

 

 正確に云うなら『記憶書庫(B・ライブラリー)』の情報を魔術的な処理にて可視化した物である。

 そのため『在りし記憶(メモリアル)』自体に、実像はない。

 しかし、実際のアニメーションの原理はそのままであり、毎秒26~27枚の絵を約25分間映し続けるお約束はキッチリ守られている。

 あくまで解りやすく見せる為のデコイである。そして……

 

 

「こちらは、とある遺跡より発見致しまして。それを、皆さんにお見せしてますの。」

 

 

 この『嘘』を信じ込ませる為の処置でもあった。

 

 

(……まあ、私の頭の中に全部入ってます、というぶっ飛んだお話より、信憑性がある理由にはなるハズでしょうし。何より……)

 

「じゃあ、何で今まで見せてくれなかったんだ?」

 

「……これを、おいそれと気軽に見せて、他の方の耳に入り、広まったら皆さんの身の安全は如何でしょう?」

 

『──!?』

 

 

 その通りだった。

 現状『御嬢様のアトリエ』にて製作されている品々は、世間一般に公表出来ない物ばかりだ。

 一つでも漏れたら、産業スパイ……挙句には職人の誘拐等、厄介事に巻き込まれるのは目に見えていた。

 そして今回、ダーヴィズ・ダンプソンという『軟鉄』を扱える、奇跡の職人を得たのだ。

 更にこの『ガオガイガー』の映像だ。

 

 ……さて、これらの情報が漏れた後の結末は?

 

 職人達は改めて、自身の置かれた立場を認識し直した。

 そしてこんな事があるから『御嬢様のアトリエ(ココ)』は怖いのだ。

 

 

「……それに、これらの仕掛けがないと、私以外は見られないものです。ヴィトーにすら、製作前ギリギリに明かしたのですよ?そのお陰で作業部屋に籠りっきりでしたが……」

 

「……ああ、だから最近付き合い悪かったんだな。今度何か奢ってやらにゃあな。」

 

「追加報酬も考えませんと。」

 

 

 ここ一か月程、カンヅメだったというヴィトーさん。本当にご愁傷様である。

 

 ちなみに、情報漏洩の予防策は既に施している。

 カルディナは、雇った職人全員に『契約魔法』を施している。

 大まかには、職人の生活の保障と、雇用条件の順守、そして守秘義務である。

 

 特に守秘義務契約は、職人達の身を守る為であり、仮に誘拐され口を割らそうものなら、自動で「詳しい事はカルディナお嬢様に聞け」という文言を言わせ、その後、職人の周囲に『障壁魔法』が自動展開、邪魔者をひっぺ返し、一切外界からの攻撃を許さない。

 その瞬間、隣にいる尋問者に対し、問答無用で『雷が堕ちる』。

 そして『その場に関わった尋問者の同類も識別されて、雷が堕ちる』仕様だ。(実例、数件あり。)

 なお、自ら秘匿事項をしゃべろうとすると『感電』する。

 

 ……酒場で、愚痴程度、当たり障りない内容なら漏らしてもいいですわよ?(笑顔のカルディナお嬢様。)

 

 契約には多少『遊び』はあるらしいが、過保護なのか、過剰なのかは解らない。

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

「……で、話を戻しますが、今見て頂いた『ガオガイガー』ですが極論を言うと、これは私達がいるこの世界とは違う世界……つまり『異世界』のお話ですの。私達の知る世界観、建築様式、そして文化が違うのはそのためです。」

 

 

 そして、間髪入れずカミングアウト。

 すかさず常識をぶっ壊しに来るカルディナお嬢様に、職人達の顎は塞がらない。

 だが、常識人(というツッコミ役)たるイザリアさんは、すかさず言葉を返す。

 

 

「じゃあ何?、異世界ではこんなデカブツが、わんさかいるのかい?」

 

「いいえ。おそらくいません。」

 

「……何で断言出来るのよ?」

 

「誤解しないように言いますが、この作品はフィクション、つまりは空想の類いなのです。魔法ですら、異世界ではフィクションに入りますので、向こうの世界でまずこんな巨大な存在はいませんわね。物理法則を無視した存在は、まず自重で潰れるでしょうし。」

 

 

 とケラケラ笑うカルディナ。

 それを聞いたイザリア、以下職人達の目は点になる。

しかし、それはそうだ。いくら

 ただ、カルディナはこうも続けた。

 

 

「向こうの世界からすれば、私達のいる世界自体フィクションの塊ですのよ?『有り得ないから』と。ですが、私達にとって、魔法は真実。であれば、向こうの空想夢想が現実にもなれるのは、道理ではありません?」

 

「あ……確かに。」

 

「ですので、皆さんには純粋に見て頂きたいですが、同時に技術者として、巨大化の案を思い浮かべつつ見て頂きたいので、その点をよろしくお願い致します。」

 

 

 その言葉で、職人達の気持ちは多少ながら吹っ切れた。

 初めて見る光景に驚きと畏怖が混じっていたが、小さいながらも自分達は『この絵の鉄の巨神(ガオガイガー)』を造ったのだ。

 そして、真に『巨神』を造るのだ。

 ならば、恐れてばかりではいられない。

 気持ちを切り替えて、彼らは続きを見た。

 

 そして、彼等は時代背景や、文化が違う技術に出会おうとも、職人である。

 

 

『──オオッ!!!ブロウクン・マグナムッ!!!』

 

 

 掲げた右腕が超・高速回転し、撃ち出された『ブロウクン・マグナム』がEI-02(ゾンダー)のバリアごと撃ち抜いた場面に、自身の造り出した機構を思い浮かべながら歓喜し、

 

 

『──プロテクト・シェェェーードッ!!!』

 

 

 突き出した左腕より発せられた光の障壁『プロテクト・シェード』が、エネルギー砲の一撃を受け止め、五芒星を描き跳ね返す場面には、再現方法に苦悩しつつ、そのアイディアに驚いたりしていた。

 

 されど、EI-02(ゾンダー)はダメージを与えるも即時再生し、倒れず。

 なれば、残る手は……!

 

 

『───よぉおし!それなら……!』

 

 

 ヘル・アンド・ヘブンッ!!!

 

 

 仁王立ちのガオガイガー。その開いた左手に強力な防御エネルギー、右手に膨大な破壊エネルギーが集う。

 

 

『ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ……!』

 

 

 『2つの力を、1つに』を意味する呪文を唱えながら、相反するエネルギーを込めた拳を……併せるッ!

 

 

『───ハァアアッ!!!』

 

 

 Gパワーの力で翡翠に染まるガオガイガーが、合掌に併せた拳を突き出し、電磁乱雲嵐(EMトルネード)が周囲に、そして拳より発生、EI-02(ゾンダー)がその余波を受け、拘束される。

 

 

『──オオオオォォォォォーーーーー!!!』

 

 

 ステルスガオーの上面(ガオガイガーとしては背面)よりスラスターが解放、最大全速の猛威を振るい、大地を割りながら、合掌した拳を突き出したまま、全力で突貫する。

 そして獅子が吼えるように、叫ぶ凱。

 

 

『ハアァァァァーーーッ!!!』

 

 

 拘束されたEI-02(ゾンダー)の胸部に拳が突き刺さり、破壊エネルギーがEI-02(ゾンダー)の上半身の殆どを粉砕、秘めたゾンダー核を掴み……

 

 

『───フンッ!!』

 

 

 あらゆる拘束を力ずくで引きちぎり、そして天高く掲げ、引き摺り出す。

 その瞬間、ゾンダーは巨大な火柱を発し、爆発ッ!!

 しかし、ガオガイガーは爆炎に晒されても無事。

 その『勇者』たる存在を見せ付けた。

 

 

 

 と、いう所で、映像は止まる。

 そして、カルディナがちょっと興奮気味で職人達に問い掛けた。

 

「如何でしょう、如何でしょう?ガオガイガーの力は?何か気になるところはございますか?」

 

「そうだな……」

 

「ブロウクン・マグナムの攻撃仕様は斬新だったな。機械仕掛けとはいえ、あんだけ巨体の腕だ。相当な威力だ。」

 

「プロテクト・シェードという防御魔法(?)も画期的ですね。防ぐだけでなく、反射して相手に返す……戦い方の幅が広がりますね。ですが……」

 

「……一番、気になったのは、やっぱりあれ、よね?」

 

「ああ、あれが気になる。」

 

 

 それは、カルディナ以外の、この場にいる、全員が気になっている。

 

 

「何でしょうか?」

 

「「「ガオーマシンが『4機』じゃなくて『3機』しかいないのと、その『ライナーガオーの仕様』と『ガイガーの構造』。」」」

 

「ごはぁぁぁっ!!!」

 

 

 お嬢様にダメージ10000。

 オジョウサマ ハ ヒンシ ダ。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「……ええ、判ってます。判ってますわ。ライナーガオーとガイガーの仕様が違うなんて、元から承知の上ですわ。」

 

 

 後悔の言葉を漏らしながら、カルディナは『空を飛んでいた』。

 涙?泣いてはいない。お嬢様の目が輝いて見えるのは、きっと空が輝いているからだ(ジト目)

 

 あれからエンディングを見て、第2話を見終わった後、一同は工房の外、荒れ地と化した試験場の、晴れた空の下にいた。

 そして、職人全員が空を見上げて『空飛ぶカルディナ』を目で追っていた。

 

 

《成る程。だから設計、製作途中でお嘆きになっていたのですか。》

 

《その場にいた私らにしたら、心臓に悪い出来事だったんだから。まあ、今では笑い話だけど。》

 

《あの時のお嬢様は、身悶えが非常に可愛らしかったです。》

 

「……イザリアさん、フミタン。聞こえてますわよ?」

 

 

 カルディナは現在、ステルスガオーを背に装着し、自由飛行を行っていた。

 それはガイガーがステルスガオーを背面に装着し、飛行する形態そのままだ。

 そしてカルディナが纏う、出来立ての鎧───『IDメイル』は、ガイガーの姿とアルティメット・アーマーを足して2で割った様な外見をしており、胸にギャレオンの顔、腰には噴射口(スラスター)を備えた黒いスカートを完備する、純白の鎧である。

 その特性はガイガーを模しており、各ガオーマシンを装着出来る。

 『軟鉄』によるパワードスーツ製作は、全てこの為である。

 そして、今朝カルディナ用のパワードスーツが仕上がった事により、今まで製作していた鎧や部品を、シレーナとヴィトーが取り付け、仕上げた一品である。

 差異といえば、ガオーブレスが両腕にある事と、ガイガーにあたる尻尾の色が黒く、かなり角張っているところ。見た目、かなりメカメカしい。

 そして頭には小さい猫耳の様なパーツと、白いトサカ状のメインカメラ風のパーツが付いた、カチューシャを着用している。

 

 ちなみに、名称にアルティメットを使わなかったのは性質が『IDアーマー』に似ている為と「私はサイボーグではないので……」と悲しげに呟いていたのをフミタンが耳にしていた。

 

 

 

《……『長距離交信機(トランシーバー)』の感度は、とても良好ですね。》

 

《同時交信通話ってのも、問題ないみたい。》

 

「スルーしても無駄ですわよ。」

 

 

 そして、こちらも本日お披露目の、イヤホン型長距離交信機(トランシーバー)にて、地上と交信しながら試験過程をクリアしていく。

 

 加えて、マニューバ軌道の1つである、バレルロールを繰り出しながら、2人に毒づくカルディナ。

 

 交信相手はフェルネスとフミタン、イザリアの3人だが、他の職人達も耳に『長距離交信機(トランシーバー)』を装着し、その性能を実感していた。

 

 

《継続飛行時間、15分経過……並行飛行する『Sライナーガオー』も良い調子ですね。》

 

「そうですわね~。ステルスガオーもそうですが『Sライナーガオー』……我ながら『2機』ともよく飛んでると思いますわ。」

 

 

 現在行っているのは、ガオーマシン4機と、そしてギャレオン1機の駆動動作試験と操作限界範囲の模索である。

 ステルスガオーを装着したカルディナが、高速で旋回飛行をしている傍ら、飛行翼を付けたライナーガオー『2機』が随伴してフォーメーションを組んでいる。

 

 ……ちなみに、このライナーガオーは、カルディナ最大の挫折の産物である。

 

 その名は、ライナーガオー改め『(スカイ)ライナーガオー type R&L』。

 『とある理由』にて、ライナーガオーを二分割し、飛行能力付与した、空飛ぶ新幹線である。

 尚、参考にしたのは『勇者特急マイトガイン』の400系新幹線をモデルにした『マイトウイング』。

 ちなみに、ドリルガオーは悪路ばりのコースを力強く走破し、時に回転衝角(ドリル)を使って岩を砕いて進んでいる。

 しかも、ステルスガオーの飛行速度に負けない速度で地上を走破している。

 更にギャレオンがドリルガオーの横を四足歩行の力強い走法で走り、時には腰部の噴射口(スラスター)を吹かして飛行したり、それぞれ荒れ地を駆け回っていた。

 そして、それら全てを操っているのがカルディナ、ただ一人。

 『念動魔法』により、全ガオーマシン、及びギャレオンに搭載されている、受信用魔石にアクセスし、同時並行で操っているのだ。

 どれも『無線操作』である。

 

 また、ステルスガオーと、Sライナーガオーは『浮遊魔法』で浮いており、噴射口(スラスター)にあたる箇所は、ジェットエンジンを模して、風魔法により空気を圧縮、噴射して推力を得ている。

 揚力飛行は流石に難しい。

 

 

《……しかし王国初の人造飛行体……ですか。》

 

 

 マニューバ軌道の一つである、ローリング・シザーズをするカルディナの姿を見つつ、フェルネスはぽつりとつぶやいた。

 

 

「ああ、そういえばそうですわね。『浮遊魔法』があるので、王国初と言われても、ピンと来なくて。自分を飛ばす方が簡単ですので。」

 

《普通、『浮遊魔法』って、どこの工房も協会も、匙を投げる難題なんだけど、遠距離操作と同時並行でやられちゃ、出来ないなんて言えなくなったわねぇ。》

 

「その内、それすらも普通になりますわ。この試験が終われば、いよいよガイガー製造に着手です。それに伴い、原寸大ステルスガオーも造るのですから、せめて『浮遊魔法』ぐらいは習得、付与、行使して頂かねば。」

 

《……お嬢様、それは誰がするのですか?》

 

「……まずは、エルフの皆さんから?」

 

《───ッ!?》

 

 

 戦慄するエルフ勢。

 魔力(マナ)に長けるからと言って『浮遊魔法』を無茶振りするお嬢様。

 

 ……いつか、自分達も空を飛ばされるのでは?

 

 エルフは地味に高所恐怖症持ちが多かったりする。エルフ達の安らかな明日はどっちだ!?

 

 

「……さて、楽しい交信会話はこれまでとして、操るだけなら問題ありませんが、流石に『僅かながら』私自身の動きに制限が出ますわね。その点を注意して運用しなければ。」

 

 

 マニューバ軌道で、バレルロールやローリング・シザーズをやっておいてよく云う、と思うが、この場にいる全員がマニューバ軌道の難易度を知る訳でないため、凄い動きだった、と思われる以外は特に突っ込まれなかった。

 

 それも、今までの雑談もカルディナにとっては、雑念があっても、自身が飛行しつつ、ガオーマシンを『念動魔法』で操れるか、という試験項目のためだった。

 これについては特に問題ない、と認められるレベルだった。あくまで試験評価の上では。

 

 しかし、誤解しないでいただきたい。

 現段階にて、他が行ったら確実にアウトなのは間違いない事を。

 あくまで『試験機』であるガオーマシンを雑談を交えて、見事に操るカルディナの手腕は、どう見ても真似は出来ない。

 

 それ程、カルディナの能力が突出している事を。

 会話をしていたフェルネス、フミタン、イザリア、そして職人達もその事は実感していた。

 

 

「さて、次はいよいよ本番ですわ。私にとっても、待ち望んだ瞬間……参りますッ!!」

 

 

 ステルスガオーから自身を分離、投げ出されたその身を腰部の噴射口(スラスター)と『浮遊魔法』を使い、自身は低空に停滞する。

 そして瞼を閉じ、覚悟を決めるかのように一拍間を置き、その瞳を見開く。

 

 

「───各ガオーマシン、軌道パターン・セレクト。アクティブッ!!『障壁魔法』展開ッ!!」

 

 

 白く輝く透明な『障壁魔法』が展開し、その中にガオーマシンも取り込まれる。

 そして始まる。待ち望んだ瞬間が……!!

 

 

「ファイナル・フュ───ジョ───ンッ!!!」

 

 

 カルディナの宣言(F・Fの叫び)と共に、胸のギャレオンの口から閃光が発した。

 下より、金色の回転衝角(ドリル)に、黒きボディの無限軌道(キャタピラ)を持つ戦車、ドリルガオー。

 低空より、白き流線型のボディに青のラインを走らせた500系型の2機の飛行新幹線、Sライナーガオー。

 上空より、黒い翼を持つ、ステルス爆撃機を模した飛行機、ステルスガオー。

 4機のガオーマシンが飛来する。

 

 十字ポーズのカルディナの黒いスカートが変化。前面が一部解放、股下から黒いテールパーツが股間を覆う。そしてスカートが硬化し、ガオガイガーのスカートへと変化する。

 そしてドリルガオーが機体ごと上方に向き、ドリル基部ごと前方に倒れ、基部の下に『穴』が現れ、足裏の噴射口(スラスター)が噴射、上昇する。

 そこに爪先を下に立てたカルディナの両脚が挿入、機器によって完全固定(パーフェクトロック)される。

 

 次にSライナーガオー2機がカルディナの肩上方に停滞。カルディナが腕を組んだ後、後部の噴射口(スラスター)が下方に折り込まれ、肩パーツへと変化。両肩に装着される。

 

 ステルスガオーは高速で垂直落下しながら背部のフレームに侵入、ブレーキとクッションを活かしつつ減速、背部に複雑な完全固定(パーフェクトロック)で装着される。

 

 ギャレオンの顔に、ステルスガオーから赤い(たてがみ)を両脇をアームで固定しつつ、顔の両側に装着され、両眼が光る。

 

 それから両腕を左右に伸ばしたカルディナの腕の先に、ステルスガオーの左右の黒いエンジンユニット……左側・プロテクトアーム、右側・ブロウクンアームが金属摩擦の唸りを挙げて、『水平に伸びた』レールを伝い、両腕に装着され、両腕のガオーブレスと内部のユニットを握る。

 同時にフィルターが解放、鋼鉄の掌が高速回転して、衝突音にも似た静止音を響かせ、現れる。

 

 そして頭部の後ろ、ステルスガオーのフィルターシャッターが解放、赤いアームに固定された黒いヘルメットが、カルディナの頭に被さり、牙を模した面当てが装着、金色の角飾りの窪みから翡翠に似た『魔石』が迫り出る。

 

 そして光る双眼。人機一体の、鋼の化身が、今ここに降臨した。

 そして鋼鉄の拳を合わせ、万感の意を込めて、カルディナは『その名』を叫ぶ。

 

 

 

「ガオ・ガイ・ガァ————!!!!」

 

 

 

 魔法を司る地にて、遂に降臨した鉄の勇者王。

 『障壁魔法』を解き放ち、光の粒子が舞う中より現れた、獅子を胸に宿す、黒き鋼の化身。

 その名は、ガオ・ガイ・ガーッ!!

 

 

「「「おおーーー!!」」」

 

 

 職人達の驚きと歓声と共に、ガオガイガー(in カルディナ)は地上に降り立つ。

 

 もうお判りになっただろうが、カルディナがこのガオガイガーに求めたのは、『フレームアームズ・ガール 勇者王ガオガイガー』である。

 ガオガイガーは、ガオーマシンによる、半ば着ぐるみに近い仕様だ。

 ……故に、ガイガーやライナーガオーの仕様を現物そのままで再現しようものなら、それは自殺である。

 

 だが、カルディナは『オリジナル(ガオガイガー)』と『フレームアームズ・ガール』の特性を事細かに調べ、足りないところをオリジナルより逸脱しない程度に自己解釈して造り出したのが、この『ガオガイガー Type.Magic』である。

 

 故に『フレームアームズ・ガール』の様な可愛げ等一切無く、『ガチ』な決戦兵器となっている。

 

 

《お嬢様。試験のご成功、おめでとうございます。》

 

「ありがとう、フミタン。ファイナル・フュージョンのシークエンス時のダメージが事の他強かったみたいで、全身に痛みが伴いますが、まあ我慢出来ない程ではないですわ。」

 

《……流石、お嬢。他人が出来ない事を平気でやり遂げる。》

 

「ですが、まだこの形態(ガオガイガー)の姿での試験が残ってますので、このままガンガン行きますわ!まずは、飛行試験ッ!!」

 

《お気を付けて下さい。》

 

「ええ、勿論です。『浮遊魔法』、背部噴射口(スラスター)、起動……ブーストッ!!」

 

 

 念願のファイナル・フュージョンを成功させて、気分最高潮のカルディナは、興奮冷め止まぬ内に、再び飛び立ってしまう。

 

 ……しかし、ガオガイガーの姿で、ウフフ、キャッキャしてお嬢様ポーズは、流石に止めてもらいたかった。

 

 そんな事は梅雨知らず、カルディナは一人、大空を自由に舞い飛ぶ。

 気分も飛行ポーズも、OPサビのシーン『僕らの勇者王~!』であるッ!!

 

 

「ああ、もう幸せですわ。私は今、正に人機一体の存在……ですが、これからが本番。次は誰かにファイナル・フュージョン承認をして頂ければ完璧ですわ。そして、これを元に真にガオガイガーを創造して─────魔力(マナ)反応ッ!?」

 

 

 それは、下方からの不意打ち、対空攻撃。

 

 視界が朱に染まる程の熱量が、空を飛ぶガオガイガー(in カルディナ)を襲う。

 

 

「───ですがッ!!」

 

 

 しかし、ガオガイガーは噴射口(スラスター)を最大噴射で回避。

 直撃を避ければ膨大な熱量を持った熱光線(レーザー)が青空を朱に染め、蒼穹を()いた。

 直ぐ様、姿勢を正し発射元の下方を凝視する。

 

 

「視界、望遠……あれは!?」

 

「Gurrrrrrrr……!!」

 

 

 試験場の外は深い森林が拡がるが、約5~6km先に不自然(・・・)に開けた箇所が。

 そこに陣取っていたのが、5匹の異形。

 

 青黒く固い甲羅に守られた、鎧兜を纏うかのような、そして要塞のような強固な肉体を持つ四足歩行の『亀』。

 内4匹は、全長4~5m程。

 内1匹は、全長20m程。ワニガメの様な獰猛な(アギト)が開かれ、そこから生物がおよそ放つことの出来ない熱量が漂っていた。

 

 そして、そんな真似が出来る存在は、この世界に於いて『魔獣』と呼ばれる、体内に魔石を内包し、自身で魔法を構築、行使する、大型生物だけである。

 

 そしてカルディナは『この亀達』を知っていた。

 

 アルド・レイア王国の同盟国であり、王国より南東方にある山脈を隔てて存在する、対・魔獣戦を生業とする王国。

 そこは、魔法で稼動する巨大な鋼の騎士『幻晶騎士(シルエットナイト)』を有する『フレメヴィーラ王国』。

 そこで『陸皇事変』を起こした超常の魔獣。

 

 その名を『陸皇亀(ベヘモス)』。

 

 

「───フミタン、フェルネスさん緊急事態ですッ!!」

 

《どうされました!? 今の光はいったい……!》

 

 

「魔獣が出現致しました!数は大型5、小型の『陸皇亀(ベヘモス)』と推測されますが、大火力の熱線を吐きましたわ!至急、公爵(お父様)に騎士団の出撃要請を!それと、『彼等』にも出撃するよう伝えて!私はそれまで、時間を稼ぎますわ!」

 

《お嬢様……まさか!?》

 

「───ええ。あの亀達には、このガオガイガー最初のお相手になって頂きますわ。」

 

 

 

 ファイナル・フュージョン直後、この世界に於ける、ガオガイガーの初戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

《NEXT》

 

 

 

 

 

 

 

 




後半に続きます。

ガオガイガー(ミニ)はお嬢様がガイガーとなり、ファイナル・フュージョンする仕様を想定し、造りました。
前話の傀儡仕様はテストタイプは伏線ですね。
フレームアームズ・ガールのガオガイガーがあるのですから、ネタとしては予想されていた方も、ほとんどいるでしょう。その通りになりました。
構造は考え抜いた結果、こうなりました。もう書いたまんまです。
しかし、振り返るとファイナル・フュージョンは人体に非常に優しくないものでした。ネタとしてもカルディナお嬢様以外はさせないでしょう。(多分)

そして問題になりそうなのが、上映会やって、ファイナル・フュージョン実践したらベヘモスがやってきた!(棒)

何この超展開?と思われそうですが、ごめんなさい。ほとんど予定通りです。
文章は後日、この後書き同様、加筆・修正するでしょう。
実はナイツマ出すのは予定通りなのです。

(8/13 後書き修正しました。文面が粗雑、かつナニコレ!?と思った方、申し訳ありません。)



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Number.05 ~ガオガイガー、上演&実戦~(2)

お待たせしました。
……長くなりすぎて、二つに分けたともいう。

前話にて、まさか、ガオガイガー上演の話やお嬢様のファイナル・フュージョンのシーンを通り越して、ナイツマに話題が集中しているとは……

良くも悪くもナイツマ、エル君はここまで影響力強いとはなぁ……
皆さんの反応が強くて不安になります。
クロスオーバーの事は、タグに入れていたはずなんですがねえ……
やはり判りづらかったのでしょうか?
(伏線はマナのルビ)
というか、エル君まだ出てませんよ!



また、前話の後書き、文章内容が適切じゃなかったことを反省してます。
あと、作品のナンバリングを変えました。少しはガオガイガーっぽいかと。

それでは改めて、後半どうぞ!


 ───陸皇亀(べへモス)

 

 それはWebサイト『小説家になろう』を起源とした小説、後に漫画化、そしてアニメ化された作品『ナイツ&マジック』に出てきた魔獣である。

 その名の通り亀の魔獣で、その巨体は正に要塞をも超える。そしてその巨体を生かし、隔絶した強さを誇った。

 作品中で言われた『師団級』という言葉。

 それは師団級の数をそろえなければ、勝てないという話だ。

 しかし、カルディナの目に映る個体は、数は多けれども『ナイツ&マジック』より小さい。

 作品中の言葉を借りるなら『旅団級』と例えるなら良いだろうか?

 

 どちらにせよ、脅威がここに存在するのは間違いないが、それよりも問題なのが、『ナイツ&マジック』の存在が『この世界にいる』という事だ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───魔獣が出現致しました!数は5。大型・小型の『陸皇亀(ベヘモス)』と推測されますが、大火力の熱線を吐きましたわ!至急、公爵(お父様)に騎士団の出撃要請を!それと、『彼等』にも出撃するよう伝えて!私はそれまで、時間を稼ぎますわ!」

 

《お嬢様……まさか!?》

 

「───ええ。あの亀達には、このガオガイガー最初のお相手になって頂きますわ。」

 

 

 ファイナル・フュージョン直後、この世界に於ける、カルディナ、そしてガオガイガーの初戦が始まろうとしていた。

 

 先手は陸皇亀(べへモス)

 先程の熱光線(レーザー)が口を大きく開いた5匹の口から発射される。

 それを空中でステルスガオーの噴射口(スラスター)を利かせ、ガオガイガーは次々に回避に専念する。

 しかし、回避すれども等間隔で熱光線(レーザー)を発射する陸皇亀(べへモス)。正に弾幕である。

 こうなると当然ながら、カルディナは陸皇亀(べへモス)に文句の一つでも言いたい。

 

 

「というか、何故に熱光線(レーザー)!?火炎放射(ブレス)ではありませんの!?」

 

 

 そこは最もなところだ。

 確かに炎の温度を上げ続ければ、最終的にはプラズマになるので、ある意味熱光線(レーザー)は間違いではない(おそらく)。

 ここにいるのは恐らく陸皇亀(べへモス)、その眷属か(つがい)であろう。

 そして、小さい個体故に、身体を保持する『身体強化魔法』に割り当てる魔力(マナ)の配分が少ない故に、攻撃にリソースを振り分けられるため、陸皇亀(べへモス)自体、小さい個体ほど攻撃的なのだ。

 ……そして、長い生存競争の果てに、あの様な巨大な個体になるという。

 

 しかし、等間隔で放たれる熱光線(レーザー)は、如何に弾幕であろうとも、発射間隔さえ掴めば回避しやすい。

 アニメ(本編)でこの攻撃が出されたら、間違いなく被弾しているレベルだが、ガオガイガーはアニメ顔負けのマニューバ軌道で回避しつつ、間合いを詰めていく。

 

 その動きの根底には勿論、理由はある。

 カルディナが考え抜き、職人達が造り出した『IDメイル』が、カルディナ自身を強化、その動きを完璧にアシストするため、超重量のガオーマシンを纏おうとも、カルディナ自身の動きに淀みはない。

 

 さらに各ガオーマシンに搭載されている魔石、計5個に加え『同盟国』の主兵器に使われる『とある仕組み』が、Gストーン無きガオガイガーの力を高め、そして絶対的な防御力を与える。

 

 そしてカルディナ自身もそうだ。

 来るべき今日という日のため、カルディナはガオガイガーに『成った』時のため、その特性、構造を十二分に活かすため、想定される訓練は徹底的に行っていた。

 まずは、この日を迎える為に。

 カルディナ()自身に宿した膨大な魔力(マナ)が、培った技術が、その精神が、ガオガイガーとなった(カルディナ)自身の力となる。

 

 故に、この程度ではやられはしないのだ。

 

 だが、逆にカルディナ以外では、余計な増援は余計な犠牲も生む可能性も出てくる。

 この熱光線(レーザー)の弾幕は、容易に人を灼く。

 

 

「……ならば、反撃です。騎士団が到着する前に殲滅ですわ。それに鈍亀ごとき、私の敵では……ありませんッ!!」

 

 

 空中で踵を返し、最大全速で陸皇亀(べへモス)目掛けて突貫する。

 その行動に驚いた陸皇亀(べへモス)達は再度弾幕を張るが、卓越した機動力と、回避マニューバを駆使するガオガイガーには当たらない。

 だが間合いが迫るにつれ、回避が困難になりつつあるのは事実。

 

 そして陸皇亀(べへモス)達の熱光線(レーザー)がガオガイガーに集中した時、ガオガイガーは次なる一手……『左腕』を突き出す。

 

 

「───贈り物は有り難いですが、お返します!!プロテクト・シェェェーーーードッ!!!

 

 

 左前腕部から空間を湾曲させる反発防御空間を形成し、反発効果により防御を行う『プロテクト・シェード』。

 光学兵器であれば、蓄積反射することが出来る。

 魔法では『障壁』と『反射』の複合魔法で構成され、更に反射時には、マルチロックオン機能まで付与した、この『プロテクト・シェード』は、物理攻撃以外は全て反射可能。

 全ての熱光線(レーザー)を受け止め、赤い五芒星を描いた後、全て『口』に返り、大爆発を起こす。

 

 しかし、陸皇亀(ベヘモス)は自らの攻撃程度では、やられはしない剛体の持ち主。

 多少焦げはするが、せいぜい怯む程度で済む。

 だが、それがカルディナの狙いだ。

 

 

「───そこッ!ブロウクン・マグナムッ!!!

 

 

 右上腕を超高速回転させ、相手に撃ち込む、ガオガイガー必殺の一撃、回転するロケットパンチこと『ブロウクン・マグナム』。

 職人達が鍛え上げた金剛性と『防御魔法』による強固な装甲に加え、『雷魔法』によるジャイロ運動と『超電磁砲』の技術を用いた加速機構、そして『とある仕組み・その2』をフルに活用したその一撃は、軽く音速を超える弾丸となる。

 そしてその一撃は……

 

 

「──Gobaッ!?!?」

 

 

 口から入り、内臓をズタズタに引き裂き、強固な甲羅を内部からカチ割り、砕き、血飛沫(ちしぶき)撒き散らしながら、その強固な身体を貫くッ!!

 

 

「……まずは1匹。」

 

 

 右腕を高く掲げ、戻ってきたブロウクン・アームを右腕にはめたカルディナは、静かに告げた。

 ちなみに、ブロウクン・マグナムはカルディナの腕ごとは撃ち出さない。あくまで外部ユニットのブロウクン・アームのみが射出される仕組みだ。

 そこは『フレームアーム・ガールズ』に準じている。

 

 

「───呆けている暇は、なくてよッ!!」

 

 

 まさかの眷属死亡が出た事により、少なからず動揺が出た陸皇亀(ベヘモス)達。

 しかしガオガイガーは手を緩めない。

 再び急速接近をしたと思いきや『姿が消える』……と錯覚させて、4~5mの内の1匹の頭の真下にしゃがみこみ、顎を砕くような直上蹴りを放つ。

 たまらず陸皇亀(ベヘモス)は頭を強制的に上に向かせられた。

その瞬間、ガオガイガーがその上に姿を現し、その頭を鷲掴みにして引き寄せ、膝蹴りを繰り出す。

 だが、ガオガイガーの膝蹴りは……

 

 

 

 

「──ドリル・ニーーーッ!!」

 

 

 狙いは眼球。

 鋭い回転衝角(ドリル)が鉄板の如く固い瞬膜(爬虫類独特の薄い膜)を問答無用で穿つ。

 そして目を穿たれた陸皇亀(べへモス)は、堪ったものでなく、あまりの痛みに耐え兼ね、悲痛な叫びを上げながら暴れ回る。

 鷲掴みにされた頭をブンブンと乱暴に振り回すが、ガオガイガーは身体を振り回されようが、その左手を一向に離さない。

 

 

「──ちょ、黙りなさ……!?このぉ!!プラズマ・ホーーールドッ!!

 

「──GaaaAAAAAaaaaaーーーッ!!!」

 

 

 プロテクトシェードで発生する反発的防御フィールドを反転、目標を内部に捕獲し、フィールドの反発作用で拘束する『プラズマ・ホールド』。

 残念ながら、上記のような能力を正確に顕現させる事は『この規模』では出来ず、代替するしかなかった。

 代わりに『雷魔法』で相手を拘束する『雷撃拘束陣(プラズマ・ホールド)』を代替としている。

 結果、拘束手段のプラズマ・ホールドは、攻撃手段と化した。

 

 強力な『プラズマ・ホールド』の電撃を受けた陸皇亀(べへモス)は感電する。

 特にドリル・ニーを受けた右目からの電撃は、視神経、全身の神経組織を灼く。その強力な『身体強化魔法』を以てしても、内部への電撃は防ぎ切れない。

 そして、電撃を受けた陸皇亀(べへモス)は、そのまま事切れた。

 

 

「……続いて2匹。」

 

 

 事切れた陸皇亀(べへモス)から解放されたガオガイガーは、空中に放り出されるが、無事着地する。

 

 ちなみに、電撃を用いたのは『某少年』が親陸皇亀(べへモス)を討伐した方法を応用した戦法だ。

 ただ、残虐性はこちらが格段に上。

 残りの陸皇亀(べへモス)3匹がブチ切れる程度には。

 

 

「GyaOOooooo----ッ!!」

 

「───チィッ!」

 

 

 すぐに傍らの1匹が噛んで来たのを咄嗟に右腕でガード。思わぬ事態に舌打ちする。

 亀の噛む力は半端なく強く、がっちりと離さない。それが小さくても陸皇亀(べへモス)なら尚更その力は強い。

 そして『障壁魔法』を用いようとも、いとも簡単に右腕を噛み砕くであろう。

 

 本来であれば。

 

 カルディナはこんな場面であっても冷静に、そして右腕に膨大な魔力(マナ)を集め、そのギミックを発動させる。

 

 

「───オオオォォォォーーーー!!!ブロウクン・ナックルッ!!!

 

 

 本来であれば、ブロウクンアームを射出する技である『ブロウクン・マグナム』とは違い、劇中で僅か数回のみ使われた、ブロウクンアームを高速回転させたまま殴りつける亜種的な技『ブロウクン・ナックル』。

 カルディナは『障壁魔法』で僅かに右腕周囲を僅かに浮かせた瞬間、高速回転を掛け、出来た口の隙間から腕を抜き出す。

 更に高速回転させた拳で素早く顎を捉え、一気にカチ上げる、見事なアッパーを繰り出す。

 その一撃が脳を揺らし、意識が飛ぶ。

 

 

「──からの、ドリル・ニーッ!!」

 

 

 そこに容赦ないドリル・ニーが固い甲殻と『強化魔法』を兼ね備えた体……例え他と比較しても若干柔らかい顎下を貫き、脳まで達する。

 そして、ドリル・ニーを引き抜いた時、その手ごたえは十分にあった。

 

 

「3匹。」

 

 

 しかし、その直後頭上が暗くなる。

 4~5メートル級の陸皇亀(べへモス)がその巨体を生かし、ボディプレスを仕掛けてきた。

 ガオガイガーが気付いた時には加重を生かして、頭上へと落下し始めた時だった。

 更に、20メートル級が左舷より熱光線(レーザー)をチャージ、今にも放とうとする。

 

 

(動きを封じて、小個体ごとこちらを灼くつもり!?)

 

 

 一時的でも足止め出来ればガオガイガーを討つ事は容易いだろう。

 だが、小個体を用いてそれをしてくるとは予想を超えていた。

 犠牲を生じさせてでも倒すべき敵、とでも捉えられているのか?それとも敵を討つためか?

 何れにせよ、自己犠牲を伴った行動に、ガオガイガーは驚く。

 それでも、その行動(ボディプレス)は予想の範疇にあった故か、それからの行動は速かった。

 

 

「でしたら、お望み通りに当たってあげますわ! ただしッ!!」

 

 

 ボディプレスを仕掛ける陸皇亀(ベヘモス)の腹を目掛けて突貫し、取り付くガオガイガー。

 更に噴射口(スラスター)をフルブーストさせ、無理矢理方向転換。いきなりの行動に4~5メートル級も踏ん張りが効かず、引き摺られてしまう。

 そして、4~5メートル級を盾にし、ガオガイガーは20メートル級にそのまま突撃。

 思わぬ行動にチャージしていた熱光線(レーザー)を放つ20メートル級陸皇亀(ベヘモス)の描いた軌跡は、ガオガイガーを直撃……する前に、盾と成り果てた4~5メートル級の甲羅に直撃。あまりの熱波に叫んでしまうが、攻撃は一切止まらない。甲羅が熱光線(レーザー)で灼かれるが、一度放ったものは終息するまで効果が切れない。

 だが、ガオガイガーはそれに構わず押し進み、完全に間合いを詰めて、2匹を激しくぶつける。

 4~5メートル級が熱光線(レーザー)地獄から抜け出した時には、死に体で倒れ込むしかなかった。

 

 

「これで4匹。残りは……!」

 

 

 『全長』20メートル級陸皇亀(ベヘモス)

 しかし、こちらは一筋縄ではいかない。

 

 

「GuOOOoooooーーー!!!」

 

「ッ!?」

 

 

 渾身の力で暴れ回る陸皇亀(ベヘモス)は周囲の木々を尻尾で薙ぎ倒し、突進してくる。その度に周囲が破壊され、その巨体の猛威を振るう。眷属か、仲間か、子供を立て続けに殺されてしまった故に、その怒りはもう留まるところを知らない。

 ガオガイガーは、その猛威に晒されながらも、紙一重に回避していく。

 

 

「───このッ!ブロウクン・マグナムッ!!」

 

 

 隙を見て放ったブロウクン・マグナムが、陸皇亀(ベヘモス)の顔の側面を捉える。

 しかし、甲殻で高い硬度を誇る顔には効果は薄く、甲殻を多少削り取る程度の現状では、致命傷を与えるには効果が足りない。

 更に、回避しながらブロウクン・アームを右腕に装着した直後、尻尾がガオガイガーの真正面を疾った時、ドリル・ニーの側面に当たり、バランスを崩された。

 幸いすぐに立て直す事は出来たが、その衝撃でドリルの基部が根元から破損、折れてしまう。

 

 

「何とッ!?やはりと言いますか、正面からの衝撃は強くても、側面からは弱いのですね。」

 

 

 更に相手の体格差が悪く、10倍近い大きさがある陸皇亀(ベヘモス)に対し、最後の切り札であり、必殺技の『ヘル・アンド・ヘヴン』も目的の場所たる弱点には、体格の差が問題で、そのままでは届かない。

 他の武装も大した効果を発揮しない以上は、半ばお手上げ状態である。

 

 

「こうなれば仕方ありません……出来ればガオガイガーの武装のみで仕留めたかったのですが、試験項目の消化のためにも、使わせて頂きますわ。」

 

 

 そして、ガオガイガーは片膝を付き、左手を地面に添える。

 それを好機と見た陸皇亀(ベヘモス)は一目散に突進、踏み潰そうと距離を縮めてきた。

 しかし、それは完全に悪手である。

 

 本来、ガオガイガーの武器・武装は、自身の巨体を生かしての格闘、右腕の『ブロウクン・マグナム』、左腕の『プラズマ・ホールド』、『プロテクト・シェード』、両膝の『ドリル・ニー』、そして『ヘル・アンド・ヘヴン』である。

 戦略兵器ではない、対ゾンダー用に開発、配備されたガオガイガーは、その設計仕様もあるが、直接の広範囲殲滅兵器等は持たない。

 しかし、ここは魔法が根付いた世界。

 そしてカルディナが纏うのは、魔法技術で生まれたガオガイガー。

 

 ならば、扱えない道理がない。

 

 

「──術式、並列展開。受けなさい、土魔法『大地の傷跡(スィド・スィカトリクス・イン・テラ)』、『岩の槍(ハスタム・ペタラム)』ッ!!」

 

 

 突如、地面が陥没し、クレパスが出現。陸皇亀(ベヘモス)の下半身が埋まる。

 そして、岩で出来た鋭角の槍が、残る上半身を絡め捕り、完全に拘束する。

 その強度も、陸皇亀(ベヘモス)如き(・・)が暴れ回っても破壊されない程度の強度を持つ。

 カルディナ十八番の一つ、土魔法の拘束コンボである。

 まさかの事態に陸皇亀(べへモス)は暴れるが、もう遅い。

 

 

「……さて、終局ですわッ!ヘル・アンド・ヘヴンッ!!!

 

 

 右手に、触れれば対象を崩壊へと導くエネルギーを内包した、闇魔法を破壊エネルギーとして。

 左手に、絶対の守護と、万物の浄化を内包した、光魔法を防御エネルギーとして。

 カルディナは魔術的解釈として、この二つを選び、集束する。

 

 

ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ(二つの力を、一つに)……はあァッ!!」

 

 

 そして相反する、反発するエネルギーを込めた掌をその呪文と共に、併せ、前に突き出し、合わせた拳から風雷混合魔法(EMトルネード)を繰り出す。

 陸皇亀(ベヘモス)はなす術も無く、更に拘束。

 そしてステルス・ガオーの背部噴射口(スラスター)が、ガオガイガーの最大全速を生み出し、大地を滑るように突貫するッ!

 

 

「───オオオオオォォォォォーーーッ!!!」

 

 

 それは獅子が吼えるが如く、勇ましき声が響き、合わせた拳が拘束された陸皇亀(ベヘモス)の、腹甲と呼ばれる腹部に、ガオガイガーは突貫の勢い任せに、合わせた拳を突き刺す。

 

 

「ハァアアアァァァーーー!!!」

 

 

 その瞬間、拳に宿る破壊エネルギーが陸皇亀(ベヘモス)を貫き、全身の組織をズタズタにする。

 同時に、合わせた拳が開かれ、突き進む先にあるもの……触媒結晶こと、魔石に防御エネルギーを纏わせ、大部分の組織から切り離す、と同時に両手で鷲掴みにする。

 最後は力ずくで……

 

 

「──フンッ!!!」

 

 

 血管、繊維、神経組織ごと引きちぎり、天高く掲げた。

 そして、魔石を失った陸皇亀(ベヘモス)は、破壊エネルギーにて内部組織をズタズタにされたショックも合わさり、その場で事切れた。

 

 この時、爆発は起きなかった。

 当然ながら、相手はロボット……ゾンダーではない。

 相手は魔獣であり、爬虫類であり、有機生物である。

 では、爆発の代わりに何が起きただろうか?

 正解は、突き刺した箇所からの、豪快な血の噴水がガオガイガーに丸々降り掛かる事態。

 実に嫌な光景である。

 

 

「……う~ん、何とも締まらない最後ですわね。返り血とはいえ、初戦で血塗れになるとは……嫌ですわ。」

 

 

 バスケットボール大の魔石を脇に抱え直したガオガイガー……カルディナも似たような感想だった。

 そしてホッと一息つきつつ、数歩歩いた瞬間、身体の力が一気に抜けてしまい、ガオガイガーは膝を付いてしまう。

、数歩歩いた瞬間、身体の力が一気に抜けてしまい、ガオガイガーは膝を付いてしまう。 二度うちしてます

 

 

(あ、ははは……。まさか、気が抜けたら力が入らないなんて、きっと魔力(マナ)切れですわね。流石に陸皇亀(ベヘモス)5匹を相手取るのは……骨が折れましたわ。)

 

 

 本来であれば、旅団程度の数を揃えても、退治するのも困難な陸皇亀(ベヘモス)

 それを単騎で殲滅したガオガイガーこと、カルディナ。

 身体の力が抜けたのは魔力(マナ)切れだけでなく、極度の緊張が切れた事と、体力の限界、そして何よりヘル・アンド・ヘブンの『反動』が決定的だった。

 しかし、それがこの程度で済んだことは、他の者から見たら、正に奇跡と言えよう。

 ちなみに戦闘時間は10分程度、今回ガオガイガーが消費した魔力(マナ)幻晶騎士(シルエット・ナイト)が全力稼働した分に相等する。

 落ち着いて呼吸し、魔力(マナ)の回復を待ち、ようやく動ける程度には回復した後、ガオガイガーは立ち上がる事が出来た。

 

 

「さて、みんなの所へ戻らなければ。陸皇亀(これら)の回収、解体も行わなければいけませんし、何より試験結果の評価と、ポッキリ折れた、このドリルを修理してもらいませんと……」

 

《ザザッ──お嬢様、ご無事でしょうか!?》

 

 

 そこにフミタンからの通信が入った。

 距離が遠い影響で、少し雑音が入るが、気にはならない程度だ。

 

 

「フミタン?そちらは?」

 

《只今、騎士団と『彼ら』に要請し、出撃準備が終わる頃です。そちらは……》

 

「……ごめんなさい、もう戦闘は終了しました。皆さんには陸皇亀(ベヘモス)5匹の亡骸の回収を命じて下さい。」

 

《……判りました。》

 

 

 そうして、通信を切り、ガオガイガーは魔石とドリルを拾い、噴射口(スラスター)を起動させ、空へと飛び立つ。

 その前に今一度、自身が討ち倒した陸皇亀(ベヘモス)達の屍を空から一瞥する。

 

 

(……まあ、今更な話ですが、小さい個体ですけど、こうして陸皇亀(ベヘモス)、そして半年前に『あれの大群』が出てきたとなると、やはり『この世界はそういう場所』と思わざると思うべき、なのでしょうね。)

 

 

 それはカルディナのみが感じる、『この世界』への疑問。

 知る故に思う。

 

 

(今まで、意識しないようにしていたのですが、現実として来られると、そうも出来ませんわ。誰が曰く『胡蝶の夢』、そして『フラスコの実験』ですか。本当にそうで無ければ、どれ程良かったか……)

 

 

 某・人物が、思わず返答しそうなワードが頭に浮かび、溜め息を吐くしかないカルディナ。

 

 

 

「まあ、悩んでも仕方無いこと。陸皇亀(ベヘモス)の討伐を確認。これより帰還します。」

 

 

 振り返り、ガオガイガーは帰還の路へと飛び去って行った。

 その軌跡は、ただ真っ直ぐであろうとするものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《NEXT》

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

君達に最新情報を公開しよう。

 

 

魔獣との戦いに勝利を納めたガオガイガー。

 

しかし、カルディナの内心は複雑なもの。

 

そして周囲に広がる、とある疑惑。

 

カルディナが求めるガオガイガーの仕様と目的。

 

そして戦うべき『敵』。

 

今、カルディナが語る、世界の違和感とは。

 

 

 

 

次回『公爵令嬢はファイル・フュージョンしたい』

 

 

第6話~カルディナのみが感じる、世界の違和感~

 

 

 

これが勝利の鍵だ!

 

『胡蝶の夢』『フラスコの実験』

 

 

……それは戒めか、甘い毒か。

 

 

 

 

 

 




ベヘモスさんの設定は一部改変入ってます。
ネタとして、あの規模の魔獣が子孫を残す場合、ちゃんと雄雌いるのかな?と思ったところから出しました。
ガオガイガーは、設計と運用の関係上、広範囲殲滅兵器は持っていませんが、ディバイディング・ドライバーは例外でしょう。
ゴルディオン・クラッシャー? あれは更に例外。
故にお嬢様の魔法攻撃は広範囲殲滅兵器に当たらない!
……え?ダメ?

現状のヘル&ヘブンはGストーンがなく、魔法仕立てにするとこうなりました。
真のヘル&ヘブンじゃないから反動がキツそう。

しかし、ナイツ&マジックを隠し味程度(作者感覚)に入れたら、それがまさか、大盛り上がりになるとは……

エル君、強し。

でも、主人公はカルディナさんなので悪しからず。


……そして、次回はストーリー自体にダイレクトアタックしたいと思います。
ダメージは微量です。
まあ、してる方は少なからずいると思いますが、クロスオーバー作品を扱うにしては、フラスコの話はストーリーの根幹にケンカを売るようなものと認識してますが、皆さんはどう思います?



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Number.06 ~カルディナが感じる、世界の違和感~(1)

大変遅くなりました!
今回は前後、2話続きです。
連続投稿なので、読む順番はよく見てください。


話の都合上、サブタイトルを一部変更した他、文章の書き方を少し変えています。

それと今回は、説明回です。
また長くなったので、いつも通り(?)前半・後半に分けますが、この辺りの話は、あんまりスカッとしないのですが、御容赦してください。



あと最近気付いた事があります。

それは……



小説本文の字数が一万五千文字と思っていた事。

※実際は十五万文字……(´Д`)アカン


……そんな見間違いをしてる人は、私以外いないでしょう。


 

 

「───只今、戻りましたわ~。」

「あ、お嬢!帰って来て──ギャアアアァァァーーー!!!」

「血塗れのオーガだーーッ!!!」

「……やはりですか。」

 

 

 案の定、戻った瞬間に、血塗れガオガイガーを見た職人達は腰を抜かした。

 

 ウン、怖いよね。血塗れのガオガイガー。

 破壊神、降臨ならぬ、鬼神、降臨。

 

 それはさておき、フュージョン・アウトしたカルディナは、ガオーマシンもろとも、IDメイルにこびりついた血糊を水魔法で形作った水球の中で洗い落としつつ、陸皇亀(ベヘモス)との戦闘の経緯を説明する。

 ちなみに職人達も長距離交信機(トランシーバー)で音声のみ拾っており、遠目で見る事が出来る場所だったので戦闘の姿も見ており、大まかな推移は判っていたが……

 

 

「……そんな経緯だったとは。」

「小さい個体とはいえ、陸皇亀(ベヘモス)相手に善戦でしたね、お嬢様。」

「まあ、現れたこと自体がイレギュラーですので、ガオーマシンがボロボロになったのは、御勘弁下さい。」

 

 

 しかし、カルディナの言葉とは裏腹に、ドリル・ガオー以外の他のガオーマシンはほぼ無傷だった。

 一番被害が大きいであろうステルス・ガオーのブロウクン、プロテクトの両アームは、ヘル・アンド・ヘブンの影響すら耐えきり、壊れていなかった。

 表面上は。

 

 

「そこまでには見えないけど。まあ、初出撃で全力で戦わなきゃ勝てなかった相手だし。それにこの後の整備で、破損内容で強化対策を考えるんだから、こちらはいい反省材料が出来た、と思ってるわよ。」

 

 

 イザリアの言葉に同意する職人達。

 カルディナはその光景に、この上なく安堵した。

 

 

「……ありがとうございます。そんな皆さんに少し報いる為に、私はこれから生け贄の羊さん(スケープゴート)になります。皆さんは、直ちにガオーマシンを持って撤収して下さい。」

「……ああ、これだけの騒ぎ起こしたんだし、報告もしたんだから、そりゃ『来る』わね。」

「お嬢様、私は残りますので。」

「フェルネスさん。毎度貧乏くじ、申し訳ありませんわ。」

「……おい、話がいまいち見えないんだが。」

「帰り道で話すから、今は急いで。」

「お、おう……」

 

 

 ダーヴィズの戸惑いを他所に、職人達は運搬荷車(キャリア)にガオーマシンを載せて、そそくさと工房へと撤収していく。

 その手際は1度や2度のものでなく、不気味な程に手慣れ過ぎていた。

 そして、十数分後……

 

 

「カルディナぁーーーッ!!!無事かァーーー!!?」

「領主様、危険です!!お待ち下さい!!」

「あら、お父様?」

 

 

 鎧を纏った十数名の乗馬集団が現れた。

 要請した騎士団だったが、その先頭に、カルディナの父親であり、現アースガルズ家当主もいた。

 

 名をクリストファー・エルス・アースガルズ。今年で37歳。サラサラのブロンドヘアに童顔という要素が、年以上に若く見られる、気の弱そうな優男。加えて愛妻家であり、3児の父親。

 特に長女の行動に(公私共に)悩まされる苦労人。

 

 フル装備の鎧甲冑で娘の危機に駆け付けた筈だが、そのカルディナは普段着(作業着兼ドレス)の姿で、フェルネスと岩のテーブルで、お茶と茶菓子(スコーンとベリージャム)を嗜みながら、暇潰しのチェスで6度目の王手(チェック)を掛けられたところで、出迎えた。

 

 これは、遠回しに遅い、と抗議の形だ。

 ちなみに、どこから出した?の質問は受け付けない。

 お嬢様なら『収納魔法』ぐらい嗜んでいる。

 

 

「え?あ?カ、カルディナ……?」

 

「お父様もいらしたのですね。丁度良かったですわ。フェルネスさんにチェスで危うく負けるところでしたの。」

 

「現在2回戦目で、1回戦は勝利させて頂きました。」

「それは言わない約束ですわよ!?」

「え、あ、その、陸皇亀(ベヘモス)は……?」

 

 

 陸皇亀(ベヘモス)討伐が行われたとは思えない、のほほんとした空気に、クリストファーは戸惑うしかなかった。

 

 

「ああ、全て討伐しました。亡骸は……あ、あの場所です。見えますでしょう?後で回収をお願いします。」

「え?あんな遠くに……なっ?!」

 

 

 望遠鏡(アースガルズ商会制作品)を娘から渡され、覗き込むと、見えたのは凄惨な大亀の死体の山。

 娘が殺ったとは思えない現場に、お父さん、思わず血の気が引きます。

 望遠鏡(標準装備)を覗いた騎士団の皆さんも、血の気が引いたり、思わず口を抑えたり。

 そんな中、顔を伏せながらも望遠鏡を握った手を振るわせて、クリストファーは意を決した。

 

 

「……騎士達ッ!カルディナを連れて行けッ!!」

「「お嬢様、失礼します。」」

「あら?あらあら?」

 

 

 女性の騎士2人が「これは仕事、仕事なのよォー!!御勘弁をー!」と苦虫を噛んだような険しい表情をして、カルディナの両腕を左右から拘束、強制連行へと至った。

 それをカルディナは、あえてワザとらしく慌てたフリをしてキョロキョロする。

 

 

「アラ?私ハコレカラ、何処ヘ連レテ行カレルノデショウ?」

「ワザとらしい!これだけの事を仕出かしておいて……!しばらく独房で反省しなさい!!」

「ああ、でしたら、後でフミタンにお茶と茶菓子を持ってくるように伝えてください。」

「状況判って、あえて言わない!!」

 

 

 そして連れて行かれたカルディナ。

 その姿が見えなくなるまで、呆れて手で顔を覆い隠すクリストファーを残りの騎士達は心配する。

 

 

「領主様……」

「……残りの者達は、死骸の確認を。カルディナはああは言っていたが、用心はする様に。『彼ら』にも要請しているようだから、確認次第、共同で回収作業に入り、報告するように。」

「……了解しました。」

 

 

 そして戦闘があった場所に向かう残りの騎士達が去った後、その場にはクリストファーとフェルネスのみが残った。消沈するクリストファーはポツリと呟く。

 

 

「……ちなみに『娘ぬきでの』被害予想は?」

「……騎士団は陸皇亀(ベヘモス)の元に到達する前に全滅。ゴーレムでも『数秒間対峙可能』程度でしょう。あの陸皇亀(ベヘモス)熱光線(レーザー)の前には、遮るものは溶け落ち、領地は甚大な被害を被り、王都の増援が来て大規模包囲作戦でようやく討伐出来たかと。」

「……情けない。」

「……全く、ですね。」

「ああ。全く情けない。偶発的とはいえ、齢15の娘の力を頼らねば、大亀1匹討伐出来ないとは……」

 

 

 それは、現公爵領に存在する全戦力を投入しても、今回の規模の陸皇亀(ベヘモス)は討伐出来ない事を意味する。

 今回、出撃した騎士団の中で、ゴーレム使いはいる。

 しかも相当な使い手が。

 クリストファー自身もそれなりのゴーレム使いで、外見とは裏腹に、相当な実力を持つ。

 そしてフェルネスも、だ。

 

 だが、それでも足りない。

 

 現に、戦闘があった区域は、燃えている箇所はほとんど無い。しかし、ほぼ全てが高温の地と化し、そして『炭』と化している。

 極端過ぎる火力が生んだ弊害である。土くれも半ば陶器状態になり掛けており、よく『プロテクト・シェード』が反射出来た、と言えよう。

 

 

「……これまでで、2番目の被害予想か。フレメヴィーラの例もあるが、こちらには幻晶騎士(シルエットナイト)などない。陸皇亀(ベヘモス)と聞いた瞬間、この領地は終わりを迎えたかと思ったよ。ちなみに、1番の被害予想は半年前の女皇殻獣(クイーンシェルケース)が統率した殻獣類(シェルケース)の群れだったな。」

「あれは個体数にモノを云わせての蹂躙ですからね。到達されての乱戦になれば、勝ち目はありません。お嬢様が街へ到達する前に『重力魔法』で殲滅したから助かりましたが、それがなければ、アースガルズ領は終焉を迎えていたでしょう。」

 

 

 その時に放ったのは、擬似ブラックホールのような、超重力の塊で、指定範囲内の対象を根こそぎ吸い込み、圧殺だったそうな。

 カルディナお嬢様の力が、如何に規格外なのが理解出来る。

 その時に「……確か、『貴方達の存在を、この宇宙から抹消してあげましょう』でしたっけ?」と呟いたのは誰にも気付かれていなかった。

 間違っても、超新星爆発なんて投げてません。

 そして、辛うじて生き残った女皇殻獣(クイーンシェルケース)に『無数の黒い槍』で止めを刺したのは、一部では有名な話。

 当然、魔力(マナ)切れで倒れたのはお約束(デフォ)

 

 

「……我が娘ながら、無茶苦茶過ぎる。」

「そこは奥方似、では?」

「それでも、だ。これ以上カルディナを危険な目に晒したくないのに……現実はそれを赦してくれない。私に出来る事と言えば、カルディナの所業を邪魔せず、容認・黙認するだけ、とは……」

 

 

 実は、相当目を瞑っている事は多々ある。

 幼少の時から、やらかしてきた事に枚挙がないカルディナだ。それはもうストレスが溜まり、胃腸炎になりかけた事も何度あったか。

 それでもそこには、一貫した『信念』があった。

 今回の陸皇亀(ベヘモス)討伐も、騎士団に任せれば良かった案件だが、予想被害が自分達の実力を超えているため、カルディナ()はやむ無く自身で討伐したのだろうと、クリストファーは考えていた。

 実際、手に負えないのだから、正解であろうが無かろうが、仕方ない。

 それでも普段からマメに事前、事後に報告、場合によっては相談を持ち掛けて来るのは、嫌われていないと思えるところだ。

 そして、先程の茶番劇も、事態を深刻化させ過ぎないようにと、カルディナのちょっとした配慮でもある。

 ……フォローとして、効果は薄い気がするが。

 

 

 

「一つ報告があります。」

「……聞こう。」

「今日、お嬢様の開発していた成果物が出来たのですが、その過程で気になるものを見せてくれました。」

「以前より報告にあった『GGG』というヤツか。いまいち解らないのだが……」

「無理もありません。正式名称はガオガイガー。今回開発したのは2メートル超えの鎧ですが、本来は30メートル級の鋼のゴーレム、だそうです。お嬢様は、それを造ろうとしています。」

「……ちょっと待て。フレメヴィーラの幻晶騎士(シルエットナイト)ですら、10メートルがいいところだ。その3倍……」

「───それが必要になる事態が発生する、という事です。」

「なッ!!?」

「少なくともお嬢様は、そう考え、行動している節があります。」

「そんな馬鹿な事が……」

「証拠は、今のところありません。ただ、お嬢様の事です。起こる問題や弊害は判って動いています。」

「本当に、カルディナは何を考えている……いや、何を見ているのだ?」

 

 

 気を揉むクリストファーであるが、そう告げたフェルネスには、ある種の確信めいたものがあった。

 

 そしてあの映像の事は、まだ報告していない。

 

 

(……お嬢様はあえて言わなかったのでしょうが、おそらく答えは既に出ている。さて、どう尋ねたらいいか。)

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 ───同時刻頃、工房。

 

 

「……何だこりゃ。ステルスガオーの噴射口(スラスター)が全部焼き切れてやがる。」

「こっちもよ。アームパーツが基本骨格残して外装がボロボロよ。あとは小型の魔石の動力源……確か魔力転換炉(エーテルリアクター)を元にしてたんだっけ?それと軟鉄製の部品は何とか無事ね。あのヘル・アンド・ヘブンって、相当ヤバい技だわ。」

「ドリル・ガオーは足関節はオシャカ寸前。ドリルも魔導回転発動機(マナ・モーター)がひしゃげてるよ。」

「回転軸が折られたんだから、損傷あるのは当たり前だけど、こうやって衝撃が加わるなんて、予想外……」

「うう~、魔術回路が焼き切れてる~。繋げてる回線は無事なのにどうして~!?」

「……唯一無事なのは、Sライナーガオーだけか。」

「いや、こっちも回路がアウト。」

「いやー!!この魔導演算機(マギウスエンジン)自信作だったのに~!オリジナルより強度も精度も上なのよ!?」

「けど、それ以外の外装が無事って凄くない?」

 

 

 職人達は反省会がてら、ガオーマシンの損傷分析を行っていたが、分析結果は職人達にとって、予想外のものだった。

 

 

「原因は間違いなく、魔力(マナ)の過剰供給だな。それに伴って回路や、武装、付与魔法(エンチャント)が耐えきれなくて、自壊したってところか。普通、こんな風にはならんぞ……」

噴射口(スラスター)焼き切れは、それと似たようなもんだが、空中で方向転換する時に、全方位に吹かしてたよな?あんな動きは予想以上だぞ。というか、本来は空飛ぶ事自体、有り得んが……」

「……想像以上に、お嬢の力が強力だって事ね。最後まで耐えきったのは、お嬢が内部を『強化魔法』でカバーし続けた結果、か。まさか戦闘による傷がロクにないとは……」

「鎧が使用者に助けられるとはよ、本末転倒だな。こりゃ、基本設計と付与魔法(エンチャント)、内部素材を見直さんと。だが、まだやれる範囲だな。」

「軟鉄の回線は無事って凄くない?コイツがもっと応用出来れば、何とかなるかも……」

「ああ。それにコイツはワンオフ、お嬢だけが使えるようにすりゃいい。」

「量産前提じゃなくて良かった~!前提条件の壁は高いけど……」

「……ええ、そうね。」

「ん?どうした、イザリア。そんなに考え込んで。まだ何か反省点でもあるか?」

 

 

 ようやく光明が出てきたと浮き立つ職人達の中で、ただ一人イザリアは浮かない顔をしていた。

 

 

「いや、改善点が見つかったのは私も嬉しいんだけど……このガオガイガーについて、改めて考えさせられてさ。」

「何をだ?」

「……初めはただ着込めば強い鎧、そしてこいつを元に巨大な巨人……機動兵器ってヤツを創るって思ってた。ただ、今回あの大亀を相手取って、具体的な改善点を見る度に、お嬢が考える『想定』が判んなくなっちまって……」

「想定?」

「このガオガイガー。お嬢の力さえあれば、現状ですら、単純な戦力を見積もってもフレメヴィーラの幻晶騎士(シルエットナイト)旧型(サロドレア)を軽く圧倒してるのよ。下手すりゃ最新型に匹敵する。そして今度は、こいつを応用して30メートル級を創るのはいいけど……何と戦うってんだろう?」

「……いや、そりゃ魔獣、とか。後は王国の防衛とか……」

「私もそこは考えたけど、『過剰過ぎる』のよ。大きい兵器が欲しけりゃ、もう少し大きい幻晶騎士(シルエットナイト)を造ればいい。でも最終完成形は、オーバー過ぎて、逆に誤解を与えるのは間違い無いわ。まさか、お嬢が現・王国に反逆するなんて、そんな無駄な事はしないだろうし。」

「……よく、反逆が無駄って、断言出来るな?」

「そりゃね。お嬢とは付き合い長いから。昔から人の事は気にしてないってフリしてるのに、過剰なくらい心配して、お節介ばっかり……だから、人を煽って反逆、とか自分が原因で人が傷付くのは、1番嫌いなのよ。」

「……まあ、お嬢のあの真っ直ぐで、時々子供っぽい性格からして、反逆なんてないだろうけど。」

「じゃあ、何と戦うって……ん??」

 

 

 その時、職人達の脳裏に『あの事』が思い出された。

 自分達も、そして『本人も』荒唐無稽と思っているであろう『あの事』。

 

 

 ───本来、ガオガイガーが倒すべき敵。

 

 

「……まさか、な。」

「いや、でもよ……」

「……カルディナ様の事だから、造ったら『後は私がどうにかします』みたいな事を言い出すのかな?」

「……言うわね、絶対。あのお嬢は、絶対無茶やらかすに決まってるわ。」

 

 

 イザリアの言葉に、一同無言で頷く。

 何を敵とするかは、職人達には断言出来ない。

 充分なヒントはあったが、それは自分達の理解を遥かに超えるもの故に……

 

 

「……こりゃ、直接聞くしかないわね。」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ───夜、工房内。

 

 作業時間は過ぎて、職人達は撤収した工房。

 中は暗く、誰もいない筈の場所に、カルディナはいた。

 

 

「はぁ~、今日もお父様にこってり絞られましたわ。いくら親心とはいえ、お父様も心配性ですわ。こんな夜は、アニメを見てリフレッシュするしかありません。さて~、せっかく環境が整った訳ですし~、完全防音なので~、活用しない手はあ~りませんわ。今までは脳内映像だったので~、スクリーン投影は興奮しますわ~。さて何処から見ましょうか~?」

 

「……では、ガオガイガーの3話からは如何でしょう、お嬢様。」

「あら?フミタン。それにフェルネスさんに、イザリアさんまで……」

 

 

 視聴覚室の扉の前で「お待ちしてました、お嬢様」とごく自然に佇むフミタンが。

 その後ろにフェルネスとイザリアが。

 

 

「私の居場所がよく判りましたわね。」

「お嬢様のメイドならば、察知するのは当然かと。」

「公爵様のお説教の後です。今のお嬢様なら、ここにいらっしゃると推察しました。」

「私は直感だけどね。後は職人の代表ってとこ。」

「……本当に、判っていらっしゃいますわ。」

 

 

 この3人以上に、カルディナお嬢様を理解してる人物はいない。実の親ですら、ここまで理解してるか、怪しい。

 故に、頼り甲斐があるのも事実。

 

 

「折角ですので、お茶とお菓子をご用意致しました。皆さんもどうぞ。」

「流石、フミタン。ご馳走になるわ。」

「その代わり、私達も同席させて頂きたいのですが……」

「ええ、勿論ですわ。積もる話もあるでしょうから。席はたくさん御座いますから、お隠れにならずに見てくださいね、ダーヴィズさんも。」

「──ギクッ!わはは……バレてたか。」

「ええ、初めから。」

 

 

 物陰から出てきたのはダーヴィズだった。

 職人達は、事前にが大勢で行くと混乱しそうになりそうとの事で、イザリア1人を代表として行かせた。

 その筈だったが……

 

 

「……やっぱり、続きが気になってよ。」

「あんたねぇ……」

「まあ、それはそうでしょうね。私も半ば()らすようにお見せしたのですから。だから、後ろの2人も出てきても良いですわよ。今日は誰が来ても良いように致していますので。」

「はあ!?って、ヴィトーに、フラン!あんた等興味ないって言ってたでしょうに!」

 

 

 更にダーヴィズの後ろから、2人の職人が。

 ホビットの金属細工師である、ヴィトー・バギンズはご存じの通り。

 もう一人は狼系獣人の大柄な少年で、グレーの体毛の鍛冶師(見習い)のフラン・バナッシュ。

 

 2人とも未成年で、好奇心旺盛。

 周囲からは、やたら首を突っ込みたがる故に『命知らずコンビ』と言われる。

 

 

 ちなみに、獣人とは……

 伝承やフィクションに登場する、人型と他の動物の外見を合わせ持つ人物を指す。

 古くは民間伝承に現れ、神話学や人類学で論じられた。

(Wikipediaより一部抜粋。)

 

 この世界においては、動物を祖とし、その動物の特徴と特性を持つ人種である。

 哺乳類、爬虫類、鳥類等、多々種族はあり、収拾が付かないため、一纏めに『獣人』としている。

 個別に紹介する際には『○○系獣人』と言う必要がある。

 平均寿命は40~60歳と他種族より若干低めであるが、身体能力は、人間(ヒューム)族、ドワーフ族、エルフ族、ホビット族、どの種族よりも、どれかの能力が飛び出ている。

 故に、種族と仕事の業種がマッチすると、時折チートじみた実力を発揮する。

 外見は人間にその動物の部位がある『人間ベースの獣人』がほとんどで、『動物ベースの獣人』は稀にしか産まれない。

 

 そして、種族の特性なのか、繁殖能力は高く、王国の総人口の4分の1は獣人であるが、多産短命であるが故に、獣人が集中的に住む地域は、子供の数は極端に多く、教育環境が間に合わない事が、社会的問題になっているとか……

 

 尚、多種多様な成形の生物がいるため、どの種族であろうとも、人型の生物、またそれに近い形態を持ち、言語の通じる生物を、この世界では全て『(ヒト)』と称するようになった。

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 

「……いやぁ、何と言うか。」

「まあ、混乱するからイザリアの姉貴1人で、ってのは判ってるんだけど……あんだけのものを見せられたらな……」

 

「「続きが、とっても気になる。」」

 

 

 好奇心旺盛故か、開き直って公爵令嬢を前にしてこの物言いである。

 普通なら不興を買い、極刑だろう。

 カルディナだから出来る物言いである。

 ……たまに、不興を買ってオシオキされる事もあるが。

 

 

「……この、命知らず(バカ)共は。」

「まあ、イザリアさん。いずれは何処かでお見せするつもりでしたので、関係者であれば誰でも構いませんわ。ただ……」

「……ただ?」

「来た方にはお話しますが、まず『聞かなきゃ良かった!』と後悔しない事をお祈りします。」

 

 

 カルディナのその言葉に、全員が思わず固まる。

 ちなみに、お嬢様からこの様なニュアンスの話が出ると、まず冗談では済まない。(実例多々あり。)

 流石に、命知らずの一人、狼少年(フラン)であっても、これからの展開に恐怖を感じる。

 

 

「……えと、何を見るの?」

「まずは、ガオガイガー第3話もとい、Number.03『聖なる左腕』からですわ。」

 

 

 カルディナはただ、黙々と魔術式投映機(プロジェクター)の準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──Number.03『聖なる左腕』

 

 前話Number.02『緑の髪の少年』より、ガオガイガーがEI-03を撃破した後、天海護によりゾンダーコアを浄解し、護が去って行った場面より始まる。

 戦闘により消耗したガオガイガーは、その場で倒れる。

 また、天海護も自身の不思議な力で帰り路に就く最中、武装したGGGの隊員達が保護しようと近づくが、それに危険を感じた護の危機を察知したギャレオンが颯爽と登場。護をGGGへと連れて行き、改めてGGGと会合させる。

 そして命の危機に瀕した獅子王凱と出会い、凱のGストーンを護がアジャスト、その身体機能を復活させる。

 そして市街地で暴れる新たなゾンダー、EI-04をディバイディング・ドライバーを駆使し、撃破するがゾンダーコアを浄解する前に、ゾンダーが再生、逃亡を許してしまう。

 

 

「そして次ですわ。」

 

 

 ──Number.04『逃亡者ゾンダー』

 

 Number.03にて、逃亡したゾンダーを捜索するところから話は始まる。

 都市の被害は回避されたものの、GGGの懸命の捜索をも振り切るゾンダー。

 ゾンダーを逃がし、落胆する護を勇気付ける凱。

 その最中でも、人々の営みは続き、その愛情が描かれているが、それを打ち破るかのように、ゾンダリアン四天王であるピッツァが、逃亡したゾンダーを回収、スペースシャトルに寄生させ、ゾンダーロボへ変容する。

 しかしガイガー、そしてガオガイガーの活躍によりゾンダーを撃破、護により浄解を果たす。

 そして護も自身の力に意味を見出す事が出来たところで話は終わる。

 

 

「……お嬢様。これらの話の、何処に問題が?確かにガオガイガーという話は、緻密な『画』が動く、演劇を超えたような演技力の異世界の話で、文化形式の違う私達には驚愕するものですが……」

 

 

 この世界に於いて、『画』が動く、という作品はない。

 アニメーションのように、20数枚のイラストを高速で見せる、という発想がないからだ。

 ちなみに、パラパラ漫画は?という考えもない。

 紙が貴重品で、本に悪戯描きをする輩がいないためだ。

 

 

「でも慣れちまえば、いい話なのがよく判る。度々危険や危機はあるけどよ、それを乗り越えて勝利してるんだから、さして後悔するもんじゃないと思うんだが……」

「ええ。話自体には特別な意図はありません。ただ、ガオガイガーという作品を理解した上でないと、これから私が言う事を理解して頂けないのでは、と思いまして、まずは見て頂いた限りです。」

『???』

 

 

 いまいちカルディナの話が見えないと、その場にいる誰もが思った。

 そしてNumber.04のエンディングが終わった後、傍らのフミタンが静かに呟いた。

 

 

「……お嬢様。ようやく判りました、お嬢様が時折口ずさむ、あの歌の事が。」

「あの歌……ああ。オープニングの曲の事ですか。」

 

 

 それは、カルディナが時折口ずさんでいた『勇者王ガオガイガー』のサビの一節。

 

 

「奇跡、神秘、真実、夢……非常に力強い、良い歌だと思います。ですが、お嬢様が口ずさむ時はどこか悲しげに……逆に助けを求めるかのような雰囲気でした。」

「……よく見てますわね。」

「お嬢様に仕えるメイドですので。ですからそれ故に考えさせられます。全てに秀でている方が、何をそこまでお求めになるのか……何が貴女を苦しめるのか。」

「……」

 

 

 フミタンの言葉に、カルディナはただ無言を貫く。

 それについては、自分から言うべきではない。

 フミタンもカルディナから、頂くべき言葉はそれでないと、そう普段は考えていた。

 そしてフミタンだから、次の言葉をカルディナに言う事が出来た。

 

 

「お嬢様、単刀直入にお伺いします。『ゾンダー』はこの世界にいるのですか?」

「「「………!!」」」

 

 

 それは、皆が疑問に思っていた事。

 

 カルディナがガオガイガーに拘る訳。

 ガオガイガーを再現した後、何を成すのか。

 そもそもガオガイガーとは、何を目的としたものなのか?

 

 全てはフミタンのその問いに集約されていた。

 

 そしてカルディナは、一考した後、口を開いた。

 

 

 

 

 

「───存在します。今は姿が無くとも、この世界の何処かに。ゾンダー(奴ら)はいます。」

「……やはり、ですか。」

 

 

 カルディナの言葉に、フミタンは静かに頷いた。

 その言葉に、他の者達も予想通りとはいえ、驚きは隠せない。

 これまでのカルディナの散りばめたヒントが、形と成ったとはいえ、空想の存在が実在するのだから。

 

 

「……とはいえ、私がゾンダーについて語れる事は少ないですわ。語れるのはガオガイガーの映像とその知識……そして『5歳の実体験』のみです。」

「5歳……もしや、あの『隣国』の訪問後のお嬢様一人を残して全滅した、襲撃者不明の事件の事では?」

「フェルネスさん、なにその事件?」

「……ほんの一部にしか公開されていない事件なので、知らないのは無理ありません。公爵様とお嬢様が『隣国』へ招待、訪問された後の事で、先行していたお嬢様の馬車が、正体不明の賊に襲撃された、らしいというのです。」

 

 

 それはカルディナが5歳の頃、『隣国』のパーティーに招待され、その帰りの事件だった。

 そのパーティーで大恥をかかされたカルディナは怒り心頭で、父親である公爵とは別の馬車で先に帰ったのだが、帰り路の最中、馬車が正体不明の賊に襲われ、馬車は炎上した。

 付き人だった数人の護衛も無残に殺され全滅。唯一生き残ったのはカルディナただ独りという事件だ。

 ただその場には、その他に別の人物がいて……

 

 

「確か、その事件の際にイザリアさんが、その場にいたとか……」

「ええ、私が初めてお嬢と出会ったのは、あの夜だったわ。けど、正確には私と『姉』の2人。そして助けたのは、姉の方よ。私は急に走り出した姉を、後ろからヒィヒィ言いながら追ったんだけど、私が着いた時には、姉の火魔法でその犯人とやらは、ドロドロに溶かされてたわ。」

「そしてこれが、その時の映像になりますが……」

 

「「「「「え??」」」」」

 

 

 カルディナの一言と共に、正面のスクリーンに映し出されたのは、ゴトゴト揺れる馬車の中の映像。

 映し出されたのは当時の護衛や付き人。

 

 そして聞こえるのは、聞いた事がある人なら判る、幼いカルディナの声。

 カルディナは声だけで、姿は見えない。

 

 

《む~!!あのバカ王子めぇ~!!私を『4番目の妃のこうほにしてあげよう』ですってー!! ぶれいを通りこして、ぶじょくですわー!!》

《お嬢様、お可哀そうに……》

《……流石に、あの王子の言葉はないだろう。子供とはいえ、どんな教育をしている。》

《ああ、そのお陰で王国との講和条約は白紙になったがな。いい様だ。全く、宗教国家が聞いて呆れ──》

 

 

 ───ドゴンッ!!

 

 

《え?何が──きゃあああッ!?》

《お嬢様!?》

《何だ、爆発──うわぁぁぁーー!!》

 

 

 それは在りし日の1コマを切り取ったというべき映像。

 そこから馬車は激しく揺れ、画面内は大きく回転し、車内は混乱する。

 現代風であれば、それは日常生活を映したスナップ映像。

 そこから混乱の渦中になった車内。

 

 そしてその映像に、一同驚愕。開いた口が塞がらない。

 

 ……いや、それはそうだ。『有り得ない』から。

 

 

 そして回転する馬車が止まった。

 スクリーンに映し出されるのは、激しく壊れた天井と思わしき亀裂より覗く、異形の化け物。

 

 発光する赤い双眸と、紫がかった木肌に似た肌を持つ、でっぷり太った人型の怪物。

 しかも見える範囲だけで3体。

 そしてブルブル震えたかと思うとその怪物は、それは奇妙で大きな叫び声を上げた。

 

 

《───ゾォンダァァァーー!!》

 

 

 

「……ナンダ、コリャ?」

「あの日の夜の映像ですが……この場にいた従者の皆様と護衛の方々には申し訳な」

「───ではなくて。何故この様な『画』……映像があるのですか?5歳の頃の話ですよね?」

「ええ、そうですわ。ご希望とあらば、あのバカ王子を引っ叩いた映像もございますが。」

「……あるの、ですか?」

 

 

 静かに、けれど珍しく声を荒げているのがフェルネス。

 彼が声を荒げるのは無理はない。

 さらっと出されていようが、今映し出されているのは、ガオガイガーの様な『画』ではない。

 

 正確には緻密であれど、ガオガイガーの映像は多少画質が荒いところが見受けられる。

 今、見ているのは現実と謙遜ない、フルハイビジョンの様な映像だ。

 平たく言えば高画質のカメラ映像。

 当然、この様な映像等、この世界にはない。

 

 そして、この場にいる、カルディナ以外の人物はこう思っている。

 

 

 ガオガイガー以外に、こんな『動く画』が!?

 しかもキレイ。

 

 そんな空気をカルディナは「おや?……ああ。」と察し、モニターに映る映像の再生を止めた。

 

 

「すいません、説明不足でしたわね。これは私の『見た記憶』ですわ。ちなみに私は、自分で見聞きしたものを、この様に再生出来る……そんな魔法と言えばいいでしょうか。持っています。」

「つまり……どういう事でしょう?もう、何が何だか……」

「……判りました。一から説明しましょう。」

 

 

 そして溜め息を吐いた後、カルディナは立ち上がって、舞台まで移動した後、自身の頭を指差して語りだした。

 

 

「……仮称として『記憶書庫(B・ライブラリー)』と名付けています。私は生まれながらに、この世界とは別の世界の理、法則、そしてアイディアが記された『集積情報』を頭の中に有しています。」

『!?!?』

「それは雑念とした記憶ではなく、整理整頓された本棚の様に、何時如何なる時でも自在に、様々なジャンルの情報を忘却する事なく情報を引き出せる能力として認識し、使わせて頂いています。」

 

『……』

 

 

 まさかの話に、誰しもが言葉を失った。

 それはそうだ。それはカルディナ・ヴァン・アースガルズを支えてきた根幹の内容である。

 彼女の偉業のタネを自ら明かすようなものだ。

 それからカルディナの話は続く。

 彼女が『記憶書庫(B・ライブラリー)』を用いて、何をしてきたか。

 何を考え、何を成したか。

 聞けば聞く程、その場にいる者にとっては覚えのある事ばかりだ。俄然納得がいった。

 ただし『記憶書庫(B・ライブラリー)』は物言わぬ情報の塊。

 情報の取捨と、この世界の情勢に合った選択は、間違いなくカルディナ自身。

 そして、その恩恵を受けてきたのは、間違いなく自分達……

 

 

「……そういう事だったのね。道理で専門外の知識をこれでもか、と知っていると思ったわ。」

「そして、先程の『画』……映像ですがあれは『記憶書庫(B・ライブラリー)』の応用、もしくは副次効果です。私の見聞きした情報が『記憶書庫(B・ライブラリー)』に自動的に映像に変換され、変わる事なく保存されます。そして、その情報は変わる事なく再生……つまり今の様に見る事が出来ます。」

「……成る程。生まれながらに持っている、という事は、お嬢様が今までは見聞きした全情報は全て『記憶書庫(B・ライブラリー)』とやらにある、という事ですか。」

「ええ。生まれてから、今まで。全てありますわ。先程の映像もその一つですが。」

『………』

 

 

 ───生まれてから、今まで。全て。

 それは、様々な意味を含め、想像を絶する。

 カルディナは立場上、大小、善悪、綺麗汚い、そして事の裏表……様々な事を見聞きしただろう。

 そして、この能力の使い途は、人の数だけ出てくる。

 それこそ裏も表も……

 

 

「誤解しないように付け加えますが、映像を引き出すのは任意です。勝手には出ませんわ。それに、不変的に保存されるだけで、映像にされなければ、基本的には普通の記憶と思い出し、でしかないと、私は考えてますが……変だと思います?『記憶書庫(このようなもの)』を持っているなんて。」

 

 

 説明の最中、急にカルディナの言葉が弱々しくなる。

 自身の、普通ではない秘密を明かすのだ。

 覚悟はしていただろうが、いざとなると、カルディナとはいえ臆病にもなる。

 

 しかし……

 

 

「いや。むしろ私は技術の出所がはっきりして安心したわ。それに私等、職人達にとっては『記憶書庫(B・ライブラリー)』って奴から出た技術が、どういうものか判別出来ない朦朧はいないわ。その技術の高さが、私等をどれだけ高めたか……」

「そうだよ、お嬢。お嬢が特別ってのは、みんな知っている。それが今更、そのタネが判ったところで、むしろお嬢の凄さが増すぐらいだよ。」

「ああ。それに、お嬢は俺達、職人にも、そして『あいつら』にも生きる場と、誇りをくれた。そして腕を存分に振れる場所を……みんなそう思ってる。」

 

 

 イザリア、そしてヴィトーとフランの言葉。

 それにフェルネスが続く。

 

 

「それに納得もしました。生まれながらに特別な能力を持つ者も、この世には多少なり、います。後はその能力を持つ者次第です。お嬢様は、このアースガルズ領の発展に、そしてアルド・レイア王国の発展に充分な貢献をしています。お嬢様を妬む者こそいますが、否定するものは、そういないでしょう。」

「それに、この世界とは別の理……ずいぶんイカす言葉じゃねえか。それにこの映像一つ取っても、凄ェ発見で、この国の王様が蔑ろにする訳ないだろうに。他にもまだまだあるんだろう?ワクワクすんじゃねぇか。」

 

 

 ダーヴィズも自分の事のように話す。

 そして、フミタンも……

 

 

「それにこうして秘密を打ち明けて頂いた、それこそ私達は嬉しいのです。その様な重要な秘密を打ち明けるに足ると認められてたのですから。」

「……フミタン。」

「ですからお嬢様も臆せず、仰って下さい。今後、何があろうとも、お嬢様の味方であり続けたい私達の為にも。」

「………」

 

 

 少しこそばゆい気もする。

 そしてそれ以上に安心した。

 親しい一部の人とはいえ、自分の秘密を明かすのは、いつか来る今後のための通過儀礼でもあるが、成す事情故に自身の異端性はどうしても隠しきれない。

 それがどう思われるか……

 しかし自分のやってきた事、隠してきた秘密について、率いる部下、配下は自分をこの様に評価していた。

 

 

(……良かった。)

 

 

 そして、そんな不安な気持ちをここにいる皆は、いつの間にか感じ取っていた。

 恥ずかしいので顔に出さないようにしつつ、胸に秘めるカルディナであったが、照れて顔が少々赤くなったのはご愛敬。

 

 

「ま、まあ、みなさんのご理解を得られたので、話を進めさせて頂きますが……私の事はまだ序の口。この程度で驚かれたら、この後が持ちませんわよ?」

「もちろんです。お願いします。」

 

 

 話を戻し、改めてスクリーンの異形の怪物を注視する一同。

 暗闇の中、発光する赤い双眸と、紫がかった木肌に似た肌を持つ、でっぷり太った人型の怪物。

 そして、独特過ぎてすぐにその存在が判る叫び声。

 

 

「これが、私が見たゾンダーです。在りえない事に3体いました。」

「こりゃ、まあソックリ……いや、ガオガイガーで出た奴と瓜二つだな。」

 

 

 ゆっくりと闊歩する、数体のゾンダーは周辺に散らばった鎧兜や荷台を認識すると、その形を粘土のように変え、それぞれそれらにダイブする。

 それはゾンダーをよく知っているものなら判る行為……融合である。

 

 ある個体は、鎧兜の怪物、リビングアーマーの様な姿に。

 ある個体は、荷台のチェストボックスと融合し、宝箱の怪物、ミミックの様な姿に。

 ある個体は、荷台や鎧兜では足りないようで、周辺の岩や木々すらも取り込み、様々なものが混在するゴーレムの様に。

 

 どれも禍々しい、三者三様の仕様となった。

 

 

「うわ!化けた!」

「でも思ってたのより、小さいんだけど……」

「おそらく、質量とエネルギーの問題でしょう。あれだけでは映像のように巨大にはなれませんわ。」

 

 

 事実、決闘級魔獣程度の大きさにも満たず、もしくはそれ以下の大きさでしかない。

 

 

「しかし、何故この様な者が……まさか、このゾンダーは誰かが創ったとか……」

「いや、それはないでしょ?確か、ゾンダーメタルって奴がないと、こいつらは存在しない……ハズ、よね、お嬢……?」

「正確には素粒子Z0を振り撒く、ゾンダーメタルプラントが存在すれば、ゾンダーメタルはありますわ。そしてそれを管理するゾンダー人間……ゾンダリアンもセットに。」

 

「「「「「───!!??」」」」」

 

「そして挙げ句には、EI-01(パスダー)の様な首魁もいるのでしょう。私はこれっきりですが、過去にも幾つか似たようなゾンダーの目撃情報は点在してます。」

「じ、事実、ですか……?」

「ええ。それに、ここ数年で僅かですが増えてきています。」

 

「「「「「───!!??」」」」」

 

 

 まさかのカミングアウトに一同、本日何回目か解らない絶句。

 まさか自分達の知らないところで、そんな事が起きているとは……

 ちなみに調べたのは、フミタンと、カルディナの息がかかった数人の執事、メイドである。

 

 

「……ホントに?フミタンさん。」

「……はい、お嬢様の命で、時折目撃証言を聞き出すよう、過去に数回ありました。『訓練』と称されて、初めは訳が分からないまま聞き出しをしていましたが、実際に見たと証言が上がり、そして実在するとは思いませんでした。極め付けはガオガイガーの冒頭を見た時のゾンダーの姿……あまりの驚きに、どうリアクションを取ればいいか、解かりませんでした。」

「……そりゃそうだよ。」

「ちなみに、目撃情報の照会に使った資料はこちらです。フミタン、皆さんに見せて。」

「はい。こちらになります。」

 

 

 そしてフミタンが見せたのは、一冊の本。

 それは……

 

「……幻獣百科?」

「確か、千年前よりエルフ族の手によって作られた本で、既に滅んだ幻の獣だったり、今も尚存在する強大な魔獣を記した、挿し絵付の百科事典ですね。発行部数こそ少ないですが、今でも魔獣退治に重宝され、何十年かに一度、更新されています。」

「その通りです、フェルネスさん。これは500年程前に発行されたものですが……こちらのページをご覧下さい。」

「……まさか。」

「まさか、です。」

 

 

 そして恐る恐る幻獣百科を覗く一同。

 もう、答えは判っている。答えは出ている。

 見なくてもいいだろう。見なくても判るだろう。

 ……が、本当は見たくないのが本音。

 ……しかし、見ねばならない。

 

 一同、勇気を出して本を覗き込むと……

 

 

 

『………』

「……なんて事なのよ。」

「……本当にヤバいって。」

「……どうしてこうなった。」

「……どうしているんだよ。」

「……ええ、いましたね。」

 

 

 絵師の腕は非常に良いのだろう。

 挿絵のスケッチは、ほぼ狂いなくカルディナの映像と瓜二つ。

 全ての特徴は、ゾンダーメタルを植え付けられた、ゾンダー人間と一致していたのだった。

 

 そしてカルディナは疲れた表情で、椅子に座り込むとポツリと呟く。

 

 

「……まるで、『胡蝶の夢』ですわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《……NEXT》

 

 

 




いよいよ出しました、ゾンダー。
でも、ゾンダーを放っておいたら機界昇華が起こるのでは?と思うでしょうが、事情はありますので、この点は追々に。

あと、話の流れで、シルエットナイトの技術でガオガイガーを創るというのは、正直無茶が有りすぎるし、何よりそれは『シルエットナイト』では?思われる方もいると思います。

実際、その通りではと筆者も思います。

そして、これじゃあ『ナイツマ』が原作では?という声も幾らか出ているのは事実です。

でも現在は話の流れで『ナイツマ』要素が強く出ているだけで、ガオガイガーの話の流れで例えるなら、Number 01にすら届いていない『準備期間』です。

また、原作タグにガオガイガーを使用していますが、これは話の展開上、中心軸をガオガイガーにしないと、話が矛盾してしまうからです。

ましてやガオガイガーで『異世界モノで公爵令嬢を主人公にする』というものです。
世界観や設定は相当ねじれてます。
ガオガイガーとオリジナル設定だけでは、話が大甘になり、メカニックの設定がぼやけて困難になるからです。

また、筆者は『ナイツマ』大好きなので、どうしてもクロスオーバーさせたかったのですが、少し出しただけで、世界観が『ナイツマ』だと思わせるのは、『ナイツマ』がそれだけ異世界ロボモノとして、強い存在感を出しているのでは?と思います。

すいませんが、もう少し生暖かく見守ってください。

筆者の性格上、キャラクターやロボの細かい描写をハッキリさせておかないと、前には進めないので。

あと誤解されている世界観ですが、皆さんが思う以上にめんどくさい設定になってます。
筆者も原作タグを『異世界・スーパーロボット大戦』でいいのでは?と思います。

それでは次話にて。



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Number.06 ~カルディナの感じる、世界の違和感~ (2)

長話後半です。
ここらで、世界観とか、ハッキリすると思います。

……というか、これで理解して頂けないなら、私の表現力上、もうどうしようもない。
o(T△T=T△T)o

徹夜感覚で書いたので、誤字脱字、意味不明な文があったらすいません。


「……まるで、『胡蝶の夢』ですわ。」

 

 

 ───『胡蝶の夢』。

 自分が夢の中で胡蝶(蝶のこと)として、ひらひらと飛んでいた所、目が覚めたが、はたして自分は蝶になった夢をみていたのか、それとも今の自分は蝶が見ている夢なのか、という説話である。

 この世界にも、非常によく似たような説話はある。

 

 

「『胡蝶の夢』?」

「ガオガイガーの映像は『記憶書庫(B・ライブラリー)』より出したものです。それは、私にとって、そして皆さんにも夢の様、そう映ったと思います。ですが、現実は、ゾンダーが実在する。」

「……寝ても覚めても、映像でも現実でも、同じ存在がいるから、ですね。」

「ええ……」

 

 

 フェルネスの言葉に同意しつつ、カルディナはすっかり冷めたお茶を一口。

 その表情は晴れない。

 

 

「……ゾンダーの存在を『記憶書庫(B・ライブラリー)』でも現実でも、目の当たりにしたのが、5歳の頃。しかし討伐された以上は、被害にあったのが私であっても触れもされません。そして、一番重要なのが、ゾンダーによる実害が、まだ出ていない事。それによって、ガオガイガーを知らない人にとっては『目撃情報が稀な正体不明の魔獣』程度の認識でしかないのです。そんな現状で、ゾンダーが現れたら、ゾンダーの本懐である『機界昇華』が起きたら、どうなるか……対抗手段などありませんわ。」

「だから、ガオガイガーを創って対抗するしかない。そう思ったんだ。」

「───いえ。それは違います。」

「??何がだい?」

 

 

「──ゾンダーが居なくてもガオガイガーは創る予定でしたわ。ただ、子供心で『ガオガイガーを創ろう!』と決心した矢先に、ゾンダーに出会って『これはもうガオガイガー創らなきゃ、世界が危ないッ!』と思って、製造を急いでいるのが現状です。」

『───!!』

 

 

 その通りだ。

 例えゾンダーの事を知らなくても、カルディナのガオガイガー創りは継続され、何時かは完成させていたであろう。

 ただ、ゾンダーの存在がガオガイガーの誕生を早めようとしているだけである。

 現に、ガオガイガーの映像を見るまでは、ゾンダーの話は一切出てきてない。

 ただ、趣味と使命(?)が合致したに過ぎない。

 

 

「例えゾンダーが現れなくても、ガオガイガーは絶対に創りますわ。そして原寸大のガオガイガーで『ファイナル・フュージョン』を成功させるまでは絶対に諦めません。私の『ガオガイガー愛』は常にGストーンの出力と一緒で無限ですわ。ええ、これは勇気ある誓いなのですッ!」

 

 

 ……ええ。カルディナお嬢様は、常にガチです。

 

 

「……流石、お嬢。ゾンダー関係無く、ガオガイガーは創るって訳ね。逆に安心したわ。」

「ただ、気になるところは多々あります。特に気になるのは『被害報告がない』というところですわ。」

「確か……ゾンダーの目的は『機界昇華』という、全てのマイナス思念を持った有機生命体を『機械生命体』へと変える、でしたね。その為にゾンダー化の触媒に人を使う、と……」

 

 

 正確には、知的生命体にゾンダーメタルを植え付け(生機融合化させ)発生させる。

 最終的にはゾンダー胞子──素粒子Z0を大量発生する苗床として「開花」させ、胞子をばらまく事により惑星(ひいては宇宙の生命体すべて)をゾンダー化させる『機界昇華』を目的としている。

 マイナス思念を持つ知的生命体を対象とするのは、ゾンダーの『元のプログラム』の影響と考えられる。

 

 

「ええ。ですが、仮に年に数人行方不明になろうとも、この世の中は、人拐いか事故程度にしか思わないでしょう。かと言ってガオガイガーの事、ゾンダーの事を懇切丁寧に説明したところで……」

「……与太話として、誰にも信じてもらえる事は、ないか。」

「その通りです。ですので、私が打てる手は、ゾンダーがいつ現れても良いように、対抗存在(カウンター)としてガオガイガーを創る、しかないのです。それも完成までは秘密裏に、他のどんな勢力……国、貴族にも邪魔されずに。しかも関わる身内には誤解されないように。」

 

 

 そこは重要である。

 やっている事が、事なので、国や他の貴族達からの横槍は絶対に避けねばならない。

 只でさえ注目されて、やっかみ(ヘイト)が色濃い状況であるのが現状なのに、下手な所にバレたら、資材調達に深刻な影響が出る。

 国に曲解して伝わると、国家反逆にもなりかねない。

 

 そして身内にも、気を配る必要がある。

 一つ間違えれば反乱の兆しにも見えるガオガイガーの創造は、扱いを間違うと公爵家のお家騒動に発展しかねない。

 ちなみに、フェルネスを介して実の父親(クリストファー)に対し情報を誤解されないように小出しで漏らしていたのは、ある種の配慮である。

 

 ……ただ、あれ(・・)で配慮というには、お父さんには胃を痛くする事案であるが、ゾンダーの事を伝えたら、ストレスがマッハの、胃腸炎発症は待った無しであろう。

 

 

「そうだったんだ……ん、てことは、今回創ったガオガイガーも、そうなの?」

「そうですわ。もちろん、原寸大の建造の為の縮小模型(ミニチュア)でもありますが、本当の目的は、先程の映像にあった大きさのゾンダーに対して、もしくはそれに近い対象に対して、『ヘル・アンド・ヘブン(核を引っこ抜く手段)』が通じる様にと。まさか30メートルの巨体で、人サイズの相手をする訳にもいきませんし……」

「流石、お嬢。抜かり無いわ。」

 

 

 小さい相手だろうと、大きい相手だろうと、全力で相手をするのがお嬢様である。

 その為のミニチュアと原寸大の創造である。

 

 ただ、この話には一つ、対ゾンダーならではの問題がある。

 それは、狼系獣人のフランがちょっとビクビクしながら、洩らすように呟いた。

 

 

「……『浄解』、はどうすんの?」

「……痛いところを突きますわね、フラン。」

「あ、ゴメン、お嬢……」

「いいのです。現状発見し、核を引っこ抜いても『浄解』については、一切の手がありません。あれは詠唱したところで、誰にでも出来る代物でない様みたいですし。」

 

 

 ───浄解。

 カインの息子、ラティオこと天海護や、アルマこと戒道幾巳が持つ特別な力で、ゾンダーに取り付かれた人間を元に戻す。

 公式の情報では「本来、誰しもが持っている力」と記されているが、現実はそうではない。

 過去にカルディナが、性質が一番似ているであろうと考察した『浄化魔法』で、詠唱をして試したが(ポーズやタイミング、羽の形や枚数の顕現、光る身体もバッチリで)、一切そんな現象は発現しなかった。

 ましてやカルディナ自身、ゾンダー相手に試した訳でないので、本当に効果があったかすら不明だ。

 

 

「今のところの対処として、大火力で燃やし尽くすか、その場で核を握り潰すか……」

「あの核を握り潰すのはいいとして……ゾンダーって、大火力で燃えるもんなの?」

「ヴィトーの疑問は最もですが、そちらは前例がありますので……」

「前例……ああ、姉さん、ね。」

 

 

 イザリアの姉が、カルディナ救出の際に、大火力の炎魔法で焼き付くした。

 ただ、ゾンダーを倒した時、イザリアが目にした光景は、半ば溶鉱炉化した地面の中で、溶け行く異形であったとか。

 放った魔法の威力は如何程か……

 その時の姉曰く、気だるげに欠伸をしながら、こう答えた。

 

 

「偶然発見して、想定以上の耐久だったから、全力で燃やした。いいじゃん。助かったんだから。」

 

 

 ……幻晶騎士(シルエットナイト)戦略級魔法(オーバード・スペル)を軽々と超える魔法をポンポン繰り出す。それがイザリアさんの姉、である。

 ただ、それでも全力で立ち向かわなければ、倒せない相手だったという。

 

 

「……あの人は、参考にならないわよ。」

「全くです。未知の相手によく出来たと思いますわ。」

「ちなみにゾンダーになった人達って……」

「……申し訳ありませんが、浄解の手段が出来ないあの時は、もはや手遅れです。」

 

 

 それが、対処方法のない、現状である。

 

 

 

「何にせよ、今は浄解の使い手はいないのです。まさかギャレオンが、本当にラティオ──天海護を連れて来る訳がないでしょうから。」

「仮に存在したとしてもよ、映像のようにゾンダーと相対しなきゃ、その力も出ない気がするぜ。」

「……だよ、なぁ。」

 

 

 ガオガイガーが創れたとしても、浄解の使い手(護や戒道)がいない現状は極限の戦力で倒す他ない。

 ましてや、目撃情報が僅かにあるとは言え、ゾンダーに遭遇していない現状はどうする事も出来ない。

 RPGように、歩いたらエンカウントする訳でもない。

 

 ……ただ、フランだけは、カルディナに対し、

 

 

(……本当に、いないのか?)

 

 

 チラチラっと視線を送っていた。

 それに気付いたカルディナは、何も言わず、軽く首を横に振るに留めていた。

 ともあれ、それ以上は話が進まない様で、一旦区切るためカルディナは話を纏めた。

 

 

「……まあ、色々話しましたが、私がガオガイガーについて、そしてゾンダーついて話せるのはこの位ですわ。未だ見ぬ敵とはいえ、これから皆さんには苦労を掛けます。」

「とはいえ、そこでお嬢様の秘密を知るとは思いませんでした。それもアースガルズ家にとって重要な案件です。公爵様(お父上)には真実を話さなくて良いのですか?」

「……ガオガイガーが完成していない現状で話してしまうと、逆に心配し過ぎて、ガオガイガー創りの妨害を受ける可能性があります。それに『記憶書庫(B・ライブラリー)』の事は、お父様の性格上、間違いなく『国王』まで報告一直線でしょうから、まだしたくありません。なので、フェルネスさんからはやんわりとした報告をして下さい。」

「……善処します。」

 

 

 普段から表情が見えにくいフェルネスの表情が、哀愁を漂わせていた……のは間違いない。

 それを不憫そうに横目で流しつつ、イザリアはヴィトーとフラン、ダーヴィズの4人で自分達の行う指針を整理していた。

 

 

「まあ、私らは特にやる事は変わらないわね。」

「一先ずは、ガオガイガーを創るって事か。第1話のGGGって組織も、そんな感じだったよね。ガオガイガーありきの、浄解は無しって。」

「俺らはまず、原寸大のガオガイガーがない事から、第1話の状況ですら無い訳だけどよ……しかしこの世界は難儀だよな。作り話が、一部とは言え、現実にあるのは。」

「そうよねぇ。一見ゾンダーに対抗出来るのは、ガオガイガーって感じるけど、実際には、ゾンダーへの対抗者(カウンター)天海護(ラティオ)って子なのは何となく解る気がするわ。」

のは何となく解る気がするわ。」

「───その通りです。」

「うわ!ビックリした!お嬢、驚かさないでよ。」

 

 

 いきなり話に割って入ってきたカルディナ。

 どうやら、フェルネスとの話は終わったらしい。

 2人が後ろにいた。

 

 

「すいません。ゾンダーの対応の話が聞こえましたので。ですがその通りです。『浄解』の力のない私達に、ゾンダー殲滅は難しい。難しいですが……可能性はあります。」

「あるの!?」

「一つは『浄化魔法』。ゾンダーの状態を『呪い』『異常状態』と仮定した時、効果を発揮するのでは、と考えています。」

『異常状態』と仮定した時、効果を発揮するのでは、と考えています。」

「『浄解』と『浄化』、ですか。まあ、仮説としては面白いですね。」

「そして二つ目ですが……言葉で説明するのは簡単なのですが、どうも『この事』を話すと全てが残酷に見える様に思えまして。」

「??」

「……」

「どう説明したら、ショックを受けにくくなるかと……」

 

 

 よく解らない言い方をするカルディナに対して、理解が及ばない一同。

 というより、ショックを受けるのは前提らしい。

 

 ……唯一、フランは何かを察したようだが、何が怖いのだろうか、怖くて閉口していた。

 

 

「……そういえば、ヴィトー。」

「何、お嬢?」

「貴方、魔術式投影機(プロジェクター)を作る過程で、疑問に思ってましたわね。ガオガイガー以外の話ってあるのかと?」

 

『————!?』

 

 

 

 カルディナは『記憶書庫(B・ライブラリー)』の存在より先に、ガオガイガーという作品を一部とは言え、世に出したのだ。

 そして今なら、他にも作品が納められているのでは?という疑問も出てくる。

 魔術式投影機(プロジェクター)の製作者であるヴィトーは誰よりも、先にその疑問を抱いた。

 

 

「あの時は、はぐらかしましたが、実際はたくさん(・・・・)ありますわ。」

「そうなんだ。お嬢の事だから隠してる気がして、何かありそうな気がしてたけど。」

「ほぉ~、そりゃ興味があるな。」

「まあ、私もまだ全ては見てませんが……せっかくですから、私が把握している範囲(・・・・・・・・・・)で、いくらか見ますか?」

「え?いいの?」

「もちろん。せっかくの機会ですから、見ていただけると嬉しいです。」

「へへ、やったぁ!」

 

 

 ヴィトーは喜んで、席に着いた。

 他の者達も「まあ、せっかくだから……」という雰囲気で、席に着くのであった。

 

 

「……それに、今話そうとしていた事への回答、にも繋がりますので、丁度良いです。ただ、しっかり正気は保ってください、ね。」

「……え?何で?」

 

 

 

 

 後に思った。

 これがカルディナが先に言った『後悔』であると。

 

 後に、皆が口を揃えて語る。

 「出来れば、知らなきゃ良かった。」と。

 

 後に実感した。

 実は『胡蝶』は、とんでもない害虫だったのでは?と。

 

 

 

 

「まずは『聖戦士ダンバイン』という作品から。」

 

「……ん?」

「どうしたの?フェルネスさん。」

「いえ、この頭を丸めた老人、先月に一族郎党、処刑された貴族の当主にそっくりと思いまして……」

「言われてみれば……あ、この水色の髪の王女様、近くの教会にいるシスターにそっくり……」

「確か事情があって出家したとか……凄い偶然ね。」

 

 

 どうやら、そっくりさんや似た人物がいたようだ。

 

 

 

「では次に『魔神英雄伝ワタル』という作品を。」

 

「あれ?この大柄のオッサン、鍛治ギルドの副ギルドマスターに似てない?」

「隣にいる女の子……街にいる、売り子じゃなかったっけ?あのすごい騒がしいの。」

「……このワタルって奴。昨日、商店に納品しに行った時、見習いの講習受けてた奴にそっくり。」

「何かすごい偶然だな~。」

 

 

 どうやら、ギルドや、アースガルズ商会の誰かに、似た人物がいたようだ。

 

 

「次は異世界(現代)風の作品で『REIDEEN』。」

 

「うお!?スゴい金ぴか!しかもガオガイガー並みにデカい!あれって純金で出来てるの?」

「動きが鈍くて笑える~!」

「……ん?この女の人……」

「どうしたの、フラン?」

「肌白くて、人間族だけど……肌黒くしたら、イザリアの姉御みたいな……」

「……はは、まさかぁ。」

(……他の二人は、王国の暗部に同じ顔がいましたね。)

 

 

 流石は異世界。

 イザリアさんのそっくりさんいるらしい。

 ちなみに最後のコメントはフミタン。

 

 

 

「次は『天空のエスカフローネ』。」

 

「……流石に、似た顔はいないわね。」

「……いえ、取り巻きの方は、どこかの騎士団の若手で見た気がします。」

「……へえ、そうなんだ~。」

「おや、この主人公の女の子、カルディナ様のご学友の一人では?黒い髪の殿方はその護衛の一人ですね。お二人とも相思相愛でしたね。」

「って事は、その騎士団もそのご学友の領地の所属?」

「……ははは~、すごい偶然ね~。」

 

 

 流石はカルディナの関係者。

 どうやら、そっくりさんがいるらしい。

 

 

 

「ちょっと意向を変えて『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』」。

 

「……」

「……」

 

「「「「………」」」」

 

「……冗談、キツイぜ。」

「……世界って、丸いんだな。」

「……あんた、言う事それだけ?」

 

 

 流石に、宇宙を題材にした作品は衝撃が強かったようです。

 世界観に意志が折れそうです。

 

 

「最後に『ナイツ&マジック』。」

 

「……」

「……」

「……これは、フレメヴィーラ王国、ですか?」

「そうですわ。」

「……おい、ダーヴィット・ヘンプケンが、何で映ってんのよ?あいつ俺の従兄弟なんだが。」

「ああ、やはりでしたか。どこか似ていると思っていましたから。」

「……主人公の名は、エルネスティ・エチェバルリア。外交先の、エチェバルリア公のお孫さんでしたね。」

 

 

 どうやら、実在する場所が作品中にあったよう───

 

 

 

「──お嬢、今まで見せた、作品の意図は、何?」

「……やはり判ります?」

 

 

 苦笑いのカルディナに対し、最早精神的に限界に達する一同より、辛うじて辛辣な口調で物言うイザリア。

 

 ……そう、カルディナが見せたのは、何という『地獄』か。

 

 今まで見せた作品全て、例外無く『作品と同じ人物が実在する』という地獄だ。

 それは……

 

 

「『記憶書庫(B・ライブラリー)』と、現実で完全に似通った方々の一覧です。ご覧になった他、王国に住むおよそ7割が、何かしらの作品の人物に該当しています。」

「嘘ォ……」

 

 

 イザリアは、力なく漏らす。

 他の面々も似たようなもので、口から魂が抜けているような……

 しかし、目にした事実と、周囲にいる人物の容姿は、間違いなく附合している。

 

 

「……私もこの事実に気付いた時、似たような思いをしましたわ。そして一通り見聞した時……私はある結論に達しました。」

「どの様な結論に?」

「この世界には『胡蝶の夢(作品の人物達)』が溢れている。その『胡蝶の夢(形創るもの)』の元は『記憶書庫(B・ライブラリー)』に在るような、数ある作品達で、この世界は形創られている、という事に、ですわ。」

「……お嬢、本気で言っているの?」

「ええ、本気です。」

 

 

 つまり、この世界は『作品』の情報を元に生まれた、と言っている事になる。

 誰もが冗談と思える事であるが、そう語るカルディナの瞳は本気だった。

 

 

「……そして、この結論はある種、他国の方々にもある程度の割合、該当していますので、概ね合っています。皆さんもある程度、思い返せば身に覚えがある筈で───痛タタッ!?」

 

 

 話すカルディナの表情は晴れない。

 逆に、ゾンダーの事を話す時以上に落ち込んでいるように、そして追い詰められたようにも見えた。

 そしてカルディナ以外の者も、身に覚えがあるかは、先程の映像を見ても明らかだ。

 思い当たる節がいくつもあるため、どう言えばいいか解らない。

 

 ──と云うのにも拘わらず、カルディナの頬っぺたを無造作に引っ張るのは、イザリアだった。

 

 

「は~い、辛気くさい空気は止め。取り敢えず、一旦仕切り直し。オーケー?」

「お…お~け~、です、わ。」

「しかし、いつの間に、とんでもないものを見つけ出して来たわね?一つ、向こうで状況整理ついでにお姉さんに話しなさい。」

「ひゃ……ひゃい。」

 

 

 そして頬っぺたつねられたまま、カルディナはイザリアに連れて行かれてしまった。

 

 

「……な、何やってんだ、ありゃ?」

「イ、イザリアの姉御が、お嬢に手を挙げてる?!止めなくていいの!?」

「ああ、ダーヴィズさんやフランは見るのは初めてですね。イザリアは、優秀な金属細工師であると同時に、カルディナお嬢様の精神的なストッパー、お目付け役なのです。」

「お目付け役?」

「公爵令嬢故に、諌められる者がいない。しかし昔の事件……まあ、ゾンダーに襲われた場でお嬢様を保護した時から、お嬢様はイザリアを慕うようになりました。それで半ば私的なお目付け役を任せられました。まあ、叱る姉、の様な存在ですが。」

「そうなんだ。そうは見えなかったけど……」

「普段は主従関係でお互いそうは見せていませんが、見えないところでは、結構叱っていましたよ?」

「マジか。」

「今は『言いたい事があるなら、恐れず報・連・相!でしょ?』とでも言っているのでしょう。妹を心配して叱る姉のように。ただ、2人とも仲はとても良いです。でなければ、あの公爵令嬢の鬼才の暴走が、自然に止まると思います?」

「……いや、思わんな。」

「そう言われれば、納得。」

「道を間違えそうになったお嬢様を、真摯に叱れる貴重な存在……それがイザリアです。」

 

 

 フェルネスが僅かに優しい表情で、困惑しつつも何かを話すカルディナと、眉を潜めてやれやれといったイザリアを見て、ホッとする。

 

 

「……どうやら、お嬢様は落ち着いたようです。あの様な表情をしている時は、余程思い詰めているのでしょう。故に我々は一つ、覚悟はした方がいいですね。」

「……現実と『B・ライブラリー』の関係?」

「ええ。この情報は、予想せずとも、ある一種の禁忌です。それに対しお嬢様は心を痛めていた。我々を気遣っての事です。」

「……」

「……ただ、普通であれば冗談言える事ですが、ゾンダーという未知の敵に対抗するために、どうしても話さねばならなかったのでしょう。お嬢様は根拠もなしに、あの様な事を言う方でないのは、よく知っています。イザリアも同じ気持ちな筈です。」

「そうです。何かしら意図があるのは間違いありません。」

 

 

 そこは一番の理解者故に。

 

 

「私も何となくですが、この後の展開が読めました。しかし……咎めたい気持ちは判りますが、今は話を聞きましょう、フラン。」

「……ああ。」

 

 

 思い詰めた表情のフランに、それとなく気遣いするフミタン。

 それは不安か、怖れか、いずれにせよ、これからカルディナが語る事で判明すると、フランは自分に言い聞かせた。

 

 

「……んで、お嬢。いつからこの事実に気付いたの?」

 

 

 そして仕切り直し。

 イザリアの叱咤に、仕切り直したカルディナは、ゆっくりと語り始める。

 

 

「……3つの頃にはやんわりと気付いていました。そして4歳の時には、ウンザリしてました。『この世界は作り物かと』。実際、ツギハギの様に作品の人物がバラバラに出てきて、見事な調和で交流されている時は、怒りすら込み上げてきました。そんな中、『記憶書庫(B・ライブラリー)』の中に、作品の登場人物が出てこない作品を見つけたのです。」

「もしかして、それがガオガイガー?」

「ええ。あの時は唯一心許せる作品で、嫌な現実を忘れさせてくれるものでした。」

 

 

 それから、あれよあれよとハマり、後に『悪魔憑き事件』が勃発。それに懲りず、後に史上最強のガオガイガーオタクが誕生した。

 それが現在の、カルディナお嬢様である。

 

 

「『悪魔憑き事件』の真相が『記憶書庫(B・ライブラリー)』……ガオガイガーの閲覧が原因だったとは……」

「……ただ徹夜し続け、馬鹿をしただけです。実際には何もないので、今更ですがロクでもない事をしたと思いますわ。」

 

「「「──いや、全く。」」」

 

「……うう。身から出た錆とはいえ、手厳しいです。」

 

 

 全容が判明すると全員が賛同する程、本当にロクでもない事件でした。

 しかし、そんな葛藤があったからこそ……

 

 

「今ではそんな世界でも、慣れると楽しいと思えるようになりました。無茶な掛け合わせ(クロスオーバー)であっても世界は成り立つ事が判りましたし、結局、数多の作品を元に構成されたような無茶苦茶な世界ですが、事実を知ろうが知るまいが、生きる分には問題はないのです。何より『記憶書庫(B・ライブラリー)』にはそれ以外の情報も沢山あります。だからそういうものだと思ってました。」

 

 

 ただし『作品』に於ける『物語の筋書き』はある程度生きており、時折適応されている事も付け加える。

 

 

「……なる程ね。殆どの人物の特異な素質、あるべき環境、特殊な状況も、消えている事が多いのに、その作品特有のセオリーは、生きているって訳ね。」

「本来は、まるっと残る筈が、部分的には消滅しています。まるで『実験結果の悪いフラスコの実験』のように。」

 

 

 作品通りに事が進んでいれば、この世界は既に特異な兵器で溢れている。

 しかし、それがないのは、この世界の技術、魔法の発展がそもそも『平々凡々』に進んでいる為だ。

 そして、現代風ロボはいざ知らずとも、異世界風ロボの登場人物はいるが、ロボットの土台となる技術環境が殆どない。

 

 この世界はフラスコの中身のような場所。

 ただし、その実験は混ぜ合わせても、互いを打ち消し、何の効果も出さない。

 故にその実験結果はロクに出ない『出来の悪いフラスコの実験』である。

 カルディナはそう思っていた。

 

 そんな状況下でのゾンダー(本来あり得ない存在)の出現……

 

 

「……ガオガイガーに関連する登場人物が実在していないのは確認済みなのです。であれば、その敵もいない。その筈なのに、奴らは現れました。初めてでしたわ。『記憶書庫(B・ライブラリー)』のセオリーから外れた存在が現れたのは。しかもそれは普通の手段では屠れない、厄介な敵……」

 

 

 これがカルディナが感じていた、この世界の違和感。

 自身の持つ『記憶書庫(B・ライブラリー)』に記録されたガオガイガーだけが持つ差異。

 GGGスタッフは、面影を持つ者すら一切存在せず、ゾンダーのみが存在する世界。

 

 ガオガイガーという作品に於ける、ゾンダーへの対抗者(カウンター)が居ない事に、ガオガイガーをよく知るカルディナはこの上なく戦慄した。

 

 

「……ですが二年前。『彼ら』との遭遇で、事態が一変しました。」

「彼ら?」

「私の保有する傭兵団……今は『鉄鋼桜華試験団』と名を変えていますが、その中に『浄解』を使えると思わしき人物がいたのです。」

 

 

 ──『鉄鋼桜華試験団』。

 それは、カルディナが有する傭兵団である。

 試験団の名の通り、カルディナや職人達が開発、もしくはアースガルズ商会で作られた、あらゆる試作品の試験者(テスター)を行う、総勢32名の集団である。

 

 そして『浄解』を使えると思わしき、その人物の名は……

 

 

「『クスト』。そして『ムル』。この2人です。」

「え!?『ムル』まで!?」 愛称なのかもしれないが、二文字の名前で愛称は必要だろうか?

「フラン、何で知ってんだ?」

「ダーヴィズさんは『彼ら』を見ていないので、で知らないでしょうが、フランは『鉄鋼桜華試験団』の一員なのです。ただ、フランは職人なので、普段は別行動なのですが……」

 

 

 そして、ダーヴィズ以外も全員、担当職上のやりとりで面識がある。

 

 

「……そうだったのか。」

「でも『クスト』は似てる奴がいたから判ったけど、『ムル』までなんて……」

「『ムル』と思わしき人物が出るのはもう少し先になるんです。見ていないのは仕方ありません。」

「しかしお嬢様。本当に『浄解』が使えるかは……」

「不明です。実際にゾンダーに相対しなければ、能力は発現しないでしょう。それまでは、ただのそっくりさんか、能力を持つ者か、私には解りません。望みは薄い、でしょう。ただ、こちらをご覧下さい。」

 

 

 カルディナはモニターを見るよう促し、そこにある人物達を投影させる。

 その人物は、2人の子供。

 一人は、茶髪のやんちゃそうな子供。

 もう一人は、紫の髪のクールな子供。

 

 

「ガオガイガーの最重要人物である『天海護』、そして『戒道幾巳』。この2人こそゾンダーを『浄解』出来る者です。」

「……ここまでとは。」

「子供の姿とはいえ、これは期待を寄せたくなるわね。この子等が成長すれば、私らが知ってる姿になる。お嬢が躊躇する訳だわ。」

「お嬢……この事って、2人は……」

「知りません。知る筈はありません。ですが、当時の私が喜んだ事は認めますが、取り巻く『現実』が、簡単に喜ばせてくれません。なので私はこの事を一切告げる事無く、今まで黙秘し続けていました。ですが、いつかは……」

「……話す必要が、ゾンダーに対抗するために秘密を明かす必要がある、と。」

「……はい。私独りだけでは、この事をどう明かすべきかと。」

「いきなり言われても、面喰らうだけだしね。今のオイラ達みたいに……」

「ゾンダーだけでも青天の霹靂なのに、そもそもこの世界が作品を元に構成された世界だなんて、いきなり言われても、現実味がないわな……」

 

『………』

 

 

 黙り込む一同。

 取り巻く状況は理解、整理出来た。

 しかし、心はどうにも動揺する。

 

 いる筈のないゾンダーの存在。

 そして『記憶書庫(B・ライブラリー)』にある作品の数々と世界の人々の関連。

 

 知らねば何も思わなかったが、知ってしまった以上はどうすべきか……

 

 誰もが答えを出せない中で、フランが問う。

 

 

「……なあ、お嬢。」

「……何でしょうか?」

「2年前の『俺達』との出会いは、『クスト』と『ムル』を引き入れる為、だったのか?」

 

『??』

 

「……そんな事ある訳がありません。『あれ』は完全に私達の意思の範疇外……むしろ私にとって予想外の事でしたわ。そして、あの日から今日に至るまでの日々は、私が『団長』に言った通り、『私の為であり、貴殿方の糧に』の言葉通りです。その約束に今も偽りはありません。」

「……そっか。そう言うなら俺は、お嬢を信じる。」

「ありがとうございます。」

 

 

 どうやら、フランのわだかまりは解けた様子。

 それは、カルディナと『彼ら』との約束故に、フランは余計に不安になっていたようだが、もうそれもなくなった。

 それが何かは、後に語られるだろう……

 そして、それを見た一同も安心する。

 

 ゾンダーや世界の事で、皆を心配するカルディナの心に不安はあれど、迷いはない証であるから。

 

 

「それで、お嬢。今後の予定は?」

 

 

 イザリアがカルディナに問う。

 しかしその答えは判りきっている。

 

 

「もちろん、ガオガイガーを創る。二言はありません。」

「まあ、その通りね。世界の秘密云々は、まだ正直受け入れきれないけど、私らは職人。予定通りに原作に忠実なガオガイガーって奴を、創ってやろうじゃないの。」

「まあ、そうなるよね。オイラも頑張るよ!」

「へへ、世界の危機迫るって奴だ。いっちょやってやるぜ!」

「ああ、もちろんだ!」

 

 

 ヴィトー、ダーヴィズ、そして気持ちを新たにしたフランの気合いも十分。

 フェルネスは、「そうですね……」と呟いた後、

 

 

「私はゾンダーや、この世界の秘密について、もう少しお嬢様と検証したいところです。しかし『クスト』と『ムル』については……」

「折を見て、見回りを増やすしかありません。運良ければゾンダーに出くわす事もあるでしょうが、望みは薄いでしょう。『団長』にはそれとなく指示しておきますわ。それに私、一週間後にフレメヴィーラ王国に行かねばならないので、それまでには必要な物を挙げ……」

 

「「「「───え!?」」」」

 

「な……何か??」

 

 

 ようやく安堵したと思ったのも束の間、驚愕する一同。

 

 

「……フレメヴィーラ王国にですか。いや、確かに予定にはありましたが……」

 

 

 どうやら、事前に行く事は予定にあったようだ。

 しかし、先程のやり取りの後なので、どうも皆が過剰に反応し過ぎるのは仕方ない。

 

 

「しかしフレメヴィーラっていや……到着するまでに数週間はかかるぞ?」

「ステルスガオーで行きますので、日帰りですわ。」

「確かに『山脈の下に開通したトンネル』を抜けるより早いわね。」

「そして、お嬢様がお会いになる方と言えば…………『銀凰騎士団』団長『エルネスティ・エチェバルリア』殿、ですね。」

 

『───!!』

 

 

 立ち直ったとは言え、まだ衝撃の抜けきらない一同は、記憶に新しいワードに再び固まる。

 

 現実にある、友好国『フレメヴィーラ王国』。

 アルド・レイア王国にもその名が聞こえる『銀凰騎士団』の若き団長『エルネスティ・エチェバルリア』。

 

 そしてそれに連なるは『ナイツ&マジック』という作品。

 

 

「彼とは幼少の頃から顔馴染みで、向こうのライヒアラ機操士学園に一時期留学した際に意気投合した仲ですし。」

「短期留学でしたが、行きましたね。」

「ええ。その縁もあって現在、ガオガイガー建造に一部ご協力して頂いているのは、皆さんもご存知かと。」

「……そういや、そうだったわね。」

 

 

 そうなのだ。

 カルディナを除き、既に職人達は『ナイツ&マジック』の存在達に関わっていた。

 伊達にミニチュアのガオガイガーを幻晶騎士(シルエットナイト)の技術を応用し、創ってはいない。

 

 

「忘れてない訳じゃないけど、さっきの映像の事と、『記憶書庫(B・ライブラリー)』の話で、一気に別世界の住人に見えたよ。」

「去年の交換技術留学を思い出すなぁ……知ってる人が実は有名人だったみたいな感覚……」

「そう考えると、幻晶騎士(シルエットナイト)の技術でガオガイガーを創るのは些か無理はあるのでは?」

 

 

 ……それは、尤もな理由だ。

 幻晶騎士(シルエットナイト)は平均10メートル前後。ガオガイガーは30メートル以上。

 そして、使われている技術が違うので、それは当然といえる。

 しかしそれは次のカルディナの言葉で打ち消される。

 

 

「……それは、重々承知しています。ですが、機械文明のないこの世界でマトモな『機械仕掛けの巨人』を再現・創造するのに、私達の世界で、他に応用出来る技術がなかったのです。幻晶騎士(シルエットナイト)の技術は唯一、『特別な要素・因子に頼らない、知識・技術さえあれば建造出来る巨大創造物』です。作品の世界でも、この世界(こちら)でも。」

 

 

 それが、幻晶騎士(シルエットナイト)の技術を応用した理由である。

 他の異世界ロボットでは、何かしら契約・伝説の存在、特殊因子、特に『選ばれし◯◯~』が必要になるものが多い。

 それは絶対に許容出来ないし、そもそもカルディナが必要とするものではない。

 何より、そんな要因はこの世界にないのだ。

 無難な魔法技術以外は。

 しかし幻晶騎士(シルエットナイト)は魔法技術である故に、知識・技術さえあれば建造、そして運用が出来る。

 

 逆に言うなら、可能性が悉く失われたこの世界で、この道しか手段が残されていなかったのが現状でもある。

 

 

「……そうでしたね。申し訳ありませんでした、お嬢様。」

「いいえ、私も選んだ道が、無理を押し通して、進んでいる道と自覚はしています。彼……エルネスティさんにも言われましたし……」

 

 

 しかし進むしかない。

 カルディナが行かねばならない道とは、そういう道なのだ。

 更に……

 

 

「お嬢。フレメヴィーラ王国も気になるけど、『あいつら』の事も気にしてやんないと……まさか『あいつら』がねぇ……」

「……ええ。判ってます。関わった以上は最後まで面倒は見ますが、『クスト』と『ムル』も含め『彼ら』も該当してる事は、私にとっても命題ですわ。」

「お嬢……」

「フラン、悪いようにはしません。無理に受け入れて貰うつもりはありませんが、絆の強い『彼ら』の事です。いつかは勘付くでしょう……」

 

 

 身内にも『記憶書庫(B・ライブラリー)』に関連する者達がいる様で、カルディナを含め、その場にいる者達は、これからの道のりが開発を含め、困難な事を覚悟した。

 

 

 その人物達とは……

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ───夜・アースガルズ邸 敷地内兵舎

 

 

 ここは正式なアースガルズの騎士団の兵舎……ではなく、カルディナ個人が保有する、傭兵団の兵舎。

 そこには18歳に満たない未成年の少年達が大勢いる。

 ここは『鉄鋼桜華試験団』の兵舎。

 造りこそ華美でないが、実直な造りの空間に実用第一の家具が揃えられている。

 全ての作業が終わり、一部の団員達は広間でそれぞれ寛いでいた。

 

 

「あ~、今日も1日働いたぜ。主に解体作業だけどよ。」

 

 

 茶色の短髪の少年が欠伸をしつつ、体を伸ばす。

 それに同意したのは、傍らの金髪で、少々たれ目の少年。

 

 

「だな。しっかし、午前中に爆発が起きたと思ったら出撃要請……の直後に大亀の回収とはよ。訳が解らんかったぜ。」

「……話だと、お嬢が討伐したって。フレメヴィーラで陸皇亀(ベヘモス)とか言われた魔獣だとか。」

 

 

 大人しそうで、伸ばした前髪で片目を隠している少年が、然り気無く補足する。

 

 

「マジか!砦一つ消し飛ばしたって噂だぞ。ホントかよ!?」

「……まあ、現に討伐した奴はみんな解体したからな。今回のは番か、子供らしいが、放置してりゃ、みんな焼かれたようだがな。火力が異常だとか。」

 

 

 頭を抑えて説明したのは、白っぽいグレー寄りの髪をオールバックにし、前髪を特徴的にまとめた少年。

 それに、小柄の黒髪の少年がボソッと一言。

 

 

「……の、割には酷い殺され方してたけど。あれ何なの?」

「何でも、お嬢様が新兵器を使ったって話だよ。」

 

 

 ぽっちゃりとした体格の少年が苦笑いをして、黒髪の少年にその問いに答えた。

 

 

「新兵器?騎士団の人もよく知らないみたいだったけど。」

「……戦闘経過が十数分後だったって。鍛冶師の人がチラッと洩らしてたのを聞いたけど、だから騎士団の人もよく知らないみたい。」

「……お嬢、また何かやらかしやがったな。」

「オーケー、いつものお嬢ってこった。」

「あはは……っと、ありゃ?『クスト』はどこ行った?お~い、『ムル』。『クスト』知らねぇ?」

 

 

 そして『ムル』と呼ばれた、長く伸ばした紫がかった髪をした少年は、ソファーで寛ぎながら読書をする片手間で、何かの魔法の練習をしていた手を止める。

 

 

「……いや、知らないな。最後に食堂に行ったのを記憶してるけど。」

「食堂?」

「そういえば、『アトラ』がお嬢様に頼まれた試作品の練習をすると言ってたな。それに釣られたんじゃ……」

「──ただいま~!疲れた~!」

「……言ってる傍から戻ってきやがったか。ん?『クスト』。その籠は何だ?」

 

 

 『クスト』と呼ばれる──茶髪の前髪を特徴的に伸ばした少年は、満面の笑みでその両腕の中にある中くらいの籠を、皆に見せた。

 

 

「いや~、『アトラ』が作ってくれた渾身の一作……その名もシュークリームッ!手伝わされて、腕がボロボロだけど、とっても甘くて良いのが出来たから、みんなにお裾分け~。」

「へぇ、となるとそれは試供品か。」

「そうなるかな?『シノ』はいる?」

「もちろんだ!それは『試験団』としては試さねばなるまい。」

「何を格好つけてやがる。ただ食いたいだけじゃねえか。」

「……とか言いながら、手が伸びてるよね、『ユージン』。」

 

 

 そして、その場にいる者達に、シュークリームが振る舞われた。

 やはり、年頃の少年達には甘いものに目がないようで、嬉々として口に放り込まれてれてゆく。

 

 

「『ムル』も食べる?」

「……甘いのは苦手なの知ってるだろ?」

「甘さ控え過ぎた、ビター味なんてのもあるけど。流石にこれは……」

「──それ、絶対お嬢様の差し金だな。よし、それを貰う。」

「本気で……?」

「さてどんな味か……」

 

 

 

 ───ピィーーーン

 

 

『───!?』

 

 

 突然、シュークリームを口にした瞬間、2人の挙動が止まる。

 それは嫌な『何か』を感じ取った様子で……

 

 

「ま、まさか……」

「ああ、これは……」

「どうしたの?」

 

 

 『クスト』は驚愕し、『ムル』は俯いたまま動かない。

 そんな様子に黒髪の少年が尋ねた。

 そして『ムル』は数拍の間を置いた後、静かに呟く。

 

 

「……これは、近年稀に見る『当たり』だ。」

「ウソ……だよね?お嬢もコレ、「一部の人にしか受け入れられない」って言ってたけど。」

「何を言う。この味、舌触り……甘いものを嫌う人達には大ウケのものだ。」

「絶対にウソだ!いや、だいたい『ムル』の直感は当たるけど、僕が試食した時、苦くて食べれなかったのに!?」

「それは『クスト』の舌が脆弱だからだ。これは売りに出すべき。今すぐお嬢様と交渉してくる。」

「怒られるから止めてーーー!!『オルガ団長』も何か言ってよーーーー!!」

「……ったく、迷惑だから明日にしやがれ!」

「断る。直談判だ。」

「ちょ……止まんない!『三日月』、ヘルプ!!」

「しゃーねぇ、おい『ミカ』、止めてきてくれ。」

「……了解。チェストっ!!」

「ぐふっ!!……がく」

「……ふう、ようやく止まった。ありがとう『三日月』。」

「ん。『オルガ』の命令だから。『クスト』もお疲れ。それにお嬢仕込みの『手刀』ってのは良く効くな。」

「でもそれを水月に打ち込んじゃダメでしょ……」

「……ダメ?」

 

 

 

 ……彼らは『鉄鋼桜華試験団』。

 

 略称名、『鉄華団』。

 

 

 何の因果かは不明であり、元の作品『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』であっても異世界と何ら関わりのない彼らが、何故ここに存在しているのか?

 それはカルディナであっても、誰であっても判らない。

 

 そして『天海護』に該当すると思われる『クスト』と呼ばれる少年。

 『戒道幾巳』に該当すると思われる『ムル』と呼ばれる少年。

 

 本当に『浄解』を使える存在なのか?

 

 現時点では誰にも解らない。

 

 

 

 ただ、唯一言えるのが、この世界が『フラスコの実験』による『失敗作の世界』と言えるかもしれない。

 

 

 

 

 ……そして、そんな世界に破滅への楔を打ち付ける者達もまた、存在する。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ……地下深く、更に地下深くに『それ』は存在した。

 

 

 激しく点滅する視界。

 機械によって構成された広く、昏い空間。

 まるで生きているかの様に脈打ち、蠢く機械の管達。

 

 

 その中央に、鉄で出来た木の幹の様な、そして幹に空いた大きな窪みが一つ。

 

 

 そこから這い出る一つの巨大な異形の『顔』……それは間違いなく『EI-01(パスダー)』。

 

 

『……未だ雌伏の時なれど。目覚めよ、『機界四天王』よ。』

 

 

「……ポレントスなら、ここにおります。」

 

「ピッツォ・ケリー。只今、到着。」

 

「プレザーブ、待機には飽きましたわ。」

 

「このペスカポート、直ぐにでも出港可能です。」

 

 

 そして、揃うゾンダリアン『機界四天王』。

 

 

 ……この世界の命運は、果たしてどうなる?

 

 

 

 

 

 

 

 

《……NEXT》

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

遂にカルディナより明かされた謎に困惑するも、団結する一同。

 

そして『天海護』と『戒道幾巳』にそっくりな『クスト』と『ムル』の存在。

 

更に追い討ちを掛けるように存在する『鉄華団』、極めつけの『ゾンダー』の存在。

 

最早、誰の理解も追い付けない次元へと突入する。

 

混迷極める中、カルディナは混沌とした状況にどう立ち向かうのか?

 

そして、次の舞台は『フレメヴィーラ王国』。

 

『エルネスティ・エチェバルリア』との会談はどうなるのか?

 

 

次回『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

 

『Number.07 ~狂人、2人の会談~』にファイナル・フュージョンせよッ!!

 

 

──これが勝利の鍵だッ!!

 

《前世の記憶・復活》

《ガオガイガーの設計図》

 

 

 

 

「──そして、ガオガイガーが僕を呼ぶッ!!」

 

 

────!?

 

 

 

 

 

 




現状の問題点とされること

◯色々な作品(主に異世界系)をメインにごっちゃりした世界観。なので、基本的な異世界要素は含んでいる。

◯ただし、肝心な要素が互いに打ち消しあって、各作品の特殊事情がほとんど消滅しているので、ある種、伝説の存在とか皆無状態、形骸化している。(探せばあるかも知れないが、戦力として期待は出来ない。)

◯時代背景は、おおよそ中世ヨーロッパ程度。部分的には進んでいる点はあるが、異世界特有のロボット技術は、『ナイツマ』のみ。後はゴーレムとか魔法技術メイン。

◯突飛した存在はいるが、一人で世界を破壊する~的な、そこまでぶっ飛んだ人は存在しない。

◯『記憶書庫』の存在を明かすリスクが高い。(事前に説明しないと異教扱い)

◯鉄華団は扱いを間違うと地雷化。

◯GGGスタッフに該当する人物が登場しない癖に、ゾンダーが確実に存在している。(Number.01前の状態?)

◯ゾンダー人間ですら倒すのに一苦労。(浄解なら一発)

◯ゾンダーによる機界昇華を防ぐ手段が、現時点で存在していない。

◯カルディナお嬢様の処刑フラグは、地雷の如く点在、存在している。


……というところでしょうか。

こんな状況下でガオガイガーを創り、『浄解』使用者を覚醒させるミッションです。
我ながら、主人公に無理を強いる内容です。
そしてガオガイガーらしさがロクに出てない!

……端から見ればGGGスタッフがいない状況では、無理もないし、ナイツマ要素が強い現状。

そして『鉄血のオルフェンズ』のメンバーの登場ッ!!

……前々から予定していたとは言え、この作品見たらビックリするでしょうね。
タグはストーリーで出てきたら増やす方針です。
まあ、異世界モノに『鉄血』使う人なんて、私ぐらいでしょう。


ちなみに、これで主要作品の登場は全て出ました。

・オリキャラ+ガオガイガー
・ナイツ&マジック
・鉄血のオルフェンズ

以上が『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』に出るキャラ達です。

……これ以上、出ませんよ?


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間話 ~フレメヴィーラ王国の動向~


……聞いてくれ。
最初は差し当たりない文章で終わらせるつもりだった。
けど、どう云う訳か、話が膨らんで……


……結局いつも通りの文章量に。


───そして『間話』となった。


フレメヴィーラのあれやこれや。
まあ、楽しんで頂けたら幸いです。






国立機操開発研究工房(シルエットナイト・ラボラトリ)

 

 

「ふぅ、これで終わりじゃわい。」

 

 

 そう言って、鋼色の幻晶騎士(シルエットナイト)からゆっくり降りるドワーフの老人──ガイスカ・ヨーハンソン工房長。

 そして、自らが造り上げた新型制式量産機である幻晶騎士(カルディトーレ)、その並び立つ勇姿を見上げた。

 華美なデザインではないが、従来機以上に実用に充分耐えうる機体性能は、フレメヴィーラ王国製ならでは。

 特に技術革新の礎となった新技術の革命機、テレスターレの新装備も備わっている。

 

 全身の金属内格(インナースケルトン)を全面に見直し、新技術の綱型結晶筋肉(ストランドタイプ・クリスタルティシュー)の実装によるパワーの向上、外装(アウタースキン)の裏に板状結晶筋肉(クリスタルプレート)を組み込んだ蓄魔力式装甲(キャパシティフレーム)により稼働時間を延長、補助腕(サブアーム)を使用した背面武装(バックウエポン)による火力向上。

 

 それら癖の強い新装備をバランス良く組み込んだ結果、国機研(ラボ)の総力を挙げて開発した実用性第一の先行試作量産機(カルダトア・ダーシュ)が出来上がったのは、先の模擬試合の前の事。

 

 それは奇跡的なバランスの出来であった。

 工房のスタッフは涙した。

 術式(スクリプト)に粗があり、不完全な点は勿論ある。

 しかし流石に生半可なものは出せない故の重圧の結果が『あれ』とは、ガイスカ工房長自身も会心の出来、と言えた。

 

 そのため、銀凰騎士団との模擬戦は『本当に、激戦試合』だったと言える。

 

 その後、カルダトア・ダーシュを改良し、ようやく完成させた、次期制式量産機カルディトーレ。

 そのズラリと並び立つ勇姿は正に、ラボの誇り、そして自身の仕事の集大成と堂々と言える。

 しかし……

 

 

「本当に大きいものになったなぁ、カルディトーレは。ワシも老いたか……カルディトーレが今までの幻晶騎士(シルエットナイト)より大きく見える……いや、間違ったわい。カルディトーレは『あっち』じゃ。こっちは……」

 

 

 新型機(カルディトーレ)全長は本来であれば10メートル……の筈。

 しかし、ガイスカ工房長の目の前にある新型機(カルディトーレ)は座する待機状態であっても、10メートルを超える。

 起動し、立ち上がれば、その全長は『16メートル』に達する。

 背丈だけでなく、全身隈無く大きくなっている。

 

 そして彼の後ろにあるのが、『我々』のよく知るカルディトーレ。

 中央スペースを挟んで、見比べて見ると、そのサイズ差は、大人と子供である。

 そしてガイスカ工房長の目の前にあるのは……

 

 

「……巨人型(・・・)幻晶騎士(シルエットナイト)、『カルディリーゼ』じゃったな。」

 

 

 自身の極限の発想の結果とはいえ、明らかに自分が想像していた幻晶騎士(シルエットナイト)の進化を逸脱している事に、誇らしくも、不安を抱くガイスカ工房長だった。

 

 まさか、この御仁がこんな事を仕出かすとは……

 

 

「しかし我ながら、巨人型など、よく思い付いたと思うわい。と言うてもやはり転機は『新型魔力転換炉(エーテルリアクタ)』……生産元で何が起きたんじゃろうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 ──フレメヴィーラ王国 シュレベール城

 

 

「……ひぃ、ふぅ、みぃ、や。うむ、幾ら計算しても、此度の増強は驚かされる。」

「……誠に。私も驚きのあまり、言葉が御座いません。」

 

 

 魔の森『ボキューズ大森林』より現れる魔獣。

 その魔獣討伐の第一戦線を張るフレメヴィーラ王国。その王都カンカネンにそびえる、堅牢な造りであるシュレベール城の一角にある執務室。

 そこの中央のテーブルに堂々と構える2人の老人がいた。

 

 一人はアンブロシウス・タハヴォ・フレメヴィーラ。

 フレメヴィーラ王国第10代国王であり、現在は息子のリオタムスに王位を譲って、隠居の身である。

 しかし『獅子王』の異名を取る名君だけあって、退位後もその存在は衰え知らずで、現在は政治には口を出さないものの、自らの鍛練の傍ら、考察事を手に掛ける事もある。

 若いころから騎操士の腕は相当なもので、数々の武勇伝を持つ国内随一の槍の名手でもあり、老いてなおその腕前は健在。

 ただ、即位前の悪戯好き、暴走癖が退位後の今になって、少し復活している兆しもある。

 

 そしてテーブルを挟んで真向かいにもう1人。

 名をクヌート・ディクスゴード。

 フレメヴィーラ王国の公爵にしてアンブロシウスの側近。若い頃は暴走癖のあったアンブロシウスを諌める役割を担っていたため、王宮では陰で「猛獣使い」と呼ばれ、現在も現王・リオタムスを支えつつも、退位後のアンブロシウスとは変わらない関係でいる。

 そしてフレメヴィーラ王国にて幻晶騎士(シルエットナイト)の開発の大元の1人と言える存在。

 若かりし頃にラボと共同でカルダトアの改良に着手したが、改良は小幅なものに留まり、十分な結果を残せぬままに終わったことがあり、幻晶騎士(シルエットナイト)の改良新開発の困難さを身に染みて知っている。これがエルネスティへの初期の厳しい当たりの原因となっていたが、今はそんな事はなく、その所業を呆れながらも国の為に支援する一人である。

 

 さて、そんな大御所2名がテーブルを挟んで、難しい顔をしているのには訳がある。

 それはテーブルの上にある、数枚の紙……報告書にあった。

 その内容を反復するように、クヌートは改めて口に出す。

 

 

「……触媒結晶は従来のまま、技術のみで魔力転換炉(エーテルリアクター)の出力増加。まさか、アルヴの民達が、この様な偉業をするとは。」

 

 

 ──アルヴの民。

 『ナイツ&マジック』において魔力転換炉(エーテルリアクター)の生産地である『森都(アルフヘイム)』に住む種族。

 ウェブ版では種族名のアルヴの代わりにエルフが用いられているが、書籍版、アニメ版ではアルヴの民、と呼ばれている。

 耳が長く体内に触媒結晶を有し、素で大規模高精度な魔法を扱う事が出来る。

 寿命は500年内外。100歳を超えると、眠りと思索の間に生きるようになるという種族である。

 

 この世界では歴としたエルフ種族であり、アルヴの民とは民族名と捉えられているが、その風貌は一般のエルフとは『何故か』少し違うのはご存じかと。

 ちなみに、アルヴの民に限らず、他のエルフ達も体内に触媒結晶──魔石を持っている。

 他の種族より魔法に秀でているのは、その為でもある。

 

 ただし、眠りと思索の間に入るのは、アルヴの民特有の『性質』と捉えられており、全てのエルフに当てはまるものでない事を断っておく。

 

 

 それはさておき、問題なのは魔力転換炉(エーテルリアクター)である。

 

 技術のみで、既存の触媒結晶を用いて、出力増加。

 

 ……いったい何を言っているか解らないだろう。

 

 それはこの2人もそうだ。

 

 

 それは、遡る事2年前。

 森都(アルフヘイム)より、突如送られて来た通知文と簡易的な設計図、そして従来型との出力比較の数値が書かれた数枚の紙と、そして一機の魔力転換炉(エーテルリアクター)

 国機研(ラボ)に確認させたところ、驚天動地の代物で、従来のものとは数倍もの出力係数を出したという。

 それにより、今まで問題となっていた幻晶騎士(シルエットナイト)の問題がほぼ解決したと言っても過言ではない。

 持久力、出力、強化魔法の耐久度向上等……

 ガイスカ工房長が、卒倒してしまうくらいには。

 

 そして文章の最後には『今後、この魔力転換炉(エーテルリアクター)を創り、そちらに送るので、幻晶騎士(シルエットナイト)もその様に調整されたし』と書かれていた。

 

 森都(アルフヘイム)の突如としての転機に、予期せぬパワーアップ。

 

 しかし、現場(ラボ)側は大混乱である。

 

 何故なら新型炉は、従来機ではその出力をもて余してしまう弊害をもたらしていたからだ。

 最悪、爆散してもおかしくはない程に。

 

 つまり、暗に『新型炉で、新型を造れ』と森都(アルフヘイム)が進言して来たのだ。

 これには関係者一同は困惑した。

 オーバースペックの新型炉をどうしたら良いものかと。

 

 そして、続け様に来たのが、機操士学園の学生達が造り出した新型幻晶騎士(シルエットナイト)『テレスターレ』の出現。

 その異様とも言える幻晶騎士(シルエットナイト)の出現に、ラボのスタッフは、とうとう悲鳴を上げた。

 

 動力源と、技術の同時革新(ダブルパンチ)である。

 

 

 ただ幸いに、その頃は国機研(ラボ)と、銀凰騎士団に対し、あの御前試合を打診する前。

 アンブロシウスは、その二者に対し、製作期間を延長する代わりに、テレスターレの技術を活かしつつ、新型魔力転換炉(エーテルリアクタ)を使用し、活かす幻晶騎士(シルエットナイト)を創るよう、そしてそれを御前試合で戦わせるように、と言い渡した。

 

 その結果、国機研(ラボ)側はテレスターレを元とし、新型魔力転換炉(エーテルリアクタ)に合った新型試作機(カルダトア・ダーシュ)の設計、ロールアウトに至ったのだった。

 

 その性能は従来機の、約2.5倍。

 

 ……1.3倍ではなく、2.5倍である。

 

 

 ……そんな出力を持った機体など、機操士(ナイトランナー)が死んでしまうとお思いだろう。

 そして操縦すら困難だ。

 テレスターレの1.5倍がまだ可愛く思える。

 

 国機研(ラボ)側が執った方策は、こうだ。

 

 全身の骨格を全面に見直し、テレスターレ由来の新技術綱型結晶筋肉(ストランドタイプ・クリスタルティシュー)蓄魔力式装甲(キャパシティ・フレーム)補助腕(サブアーム)背面武装(バックウエポン)をバランス良く組み込み、先行試作量産機(カルダトア・ダーシュ)を造った。

 

 ここまでは普通だ。

 原作でも試行錯誤の末、頑張っていた。

 

 しかし、ただ最大の問題は、新型機を造っただけでは、この新型魔力転換炉(エーテルリアクタ)の出力に機体が、ハンマー投げの鉄球の如く振り回されてしまう。

 

 そのため新装備の他、図った新たな手段───『大型化』である。

 

 出力増加の問題を『大型化』によって機体の運動量を増やす、という本来であれば本末転倒なものだ。

 しかし、それが余裕で許容出来るのが新型魔力転換炉(エーテルリアクタ)であり、カルダトア・ダーシュである。

 

 その大きさは冒頭の通り。

 

 この決断は、国機研(ラボ)もガイスカ工房長自身も、究極の決断だった。

 

 ……というより、相当追い込まれた結果がこれだ。

 

 

 その経緯を経て、カルダトア・ダーシュは、カルディトーレへと再設計。

 この度、制式採用に至り、その大きさ故に『巨人型』と銘打つ事になった。

 

 

 ちなみに、巨人型による実戦は以下の通り。

◯決闘級魔獣は、どの機操士(ナイトランナー)であっても圧倒出来、平均して3~4体は一機で相手取ることが可能。

◯旅団級魔獣は1個小隊の戦術級魔法(オーバードスペル)の単発一斉射により撃破。(検証時)

◯師団級は出現していないので検証出来ず。

◯稼働時間は平均して従来機の倍に相当。

魔力容量(マナプール)が枯渇しても、10秒後には再稼働可能。

 

 これにより、フレメヴィーラ王国に於ける、新しい戦力が誕生したのだった。

 

 

 だが問題もある。

 

 全ての機体が大型化した訳ではない。

 国機研(ラボ)にあった通り、従来サイズのカルディトーレの設計、量産も成功している。

 しかも新型魔力転換炉(エーテルリアクタ)対応型である。

 

 何故なら、巨人型は道の規格(インフラ)に若干合わず、そして今までの武器の規格も合わない。

 また、大型化に伴い、部品の消耗も激しくなり、その破格な性能故に、簡単には運用出来ない弱点を内包する。

 何より、製造コストが一機当たり、その大きさ故に倍以上する。

 消耗を減らそうと、強化魔法を現状より強化しようにも、当時の国機研(ラボ)の技術では限界だった。

 

 そこで、新型炉を使用し、従来機と同じサイズのカルディトーレを開発する事に。

 出力よりも、活動時間を重点的に置いた幻晶騎士(シルエットナイト)するため、試行錯誤されたが、こちらも難航。

 そこで、国機研(ラボ)は最後の手段として、御前試合の相手だった『銀凰騎士団』が選択装備(オプションワークス)のサンプルを届けに来日した際に、この件をそれとなく伝えると、騎士団の『団長』が嬉々(・・)として───

 

 

 

 

 

 ───御前試合以上の技術革命を起こしたという。

 

 

 ……何が起きたかは、今は伏せておく。

 

 

 そして出来上がったのが、従来機(カルダトア)より出力1.4倍、稼働時間6倍超え、超強化された強化魔法、そして選択装備(オプションワークス)以外の『新装備』を兼ね備えた、従来サイズのカルディトーレ。

 

 更に、運用性、耐久性を格段に上げた、大型サイズのカルディトーレ。

 

 この2種が完成したのだった。

 

 それに伴い両者の名称変更がされた。

 従来サイズを人型『カルディトーレ』とし。

 もう片方の巨人型を『カルディリーゼ』とした。

 

 ちなみに何故『◯型』と付く種別化(カテゴライズ)がされたかというと、『ツェンドルグ』、後の『ツェンドリンブル』という今までにない『人馬型』が出現し、もしかしたら別の型も出てくるのでは、という危惧もあるからだった。

 

 そして従来機も機種変換に伴い、順次回収され、新型機が配備されたのが、フレメヴィーラ王国の現状である。

 

 

 ───何だ、コレは。化け物か?

 

 ───過剰戦力もいいところだ。

 

 

 この報告を受け取った現王リオタムスは頭を抱えて、まず最初にそう思ったとか。

 

 

 ……ちなみに、銀凰騎士団が御前試合にて何を仕出かしたか気になる方は、また後程。

 

 

 そしてこの大騒動の元を辿れば、森都(アルフヘイム)が全ての元凶、何があったのだろうかと思う今回の事態。

 しかし、彼等に技術革新の気兼ねがあるか、と言われれば、答えは『NO』だ。

 

 アンブロシウスは、今までの事態の経過を振り返り、頭を抑えながら、静かに溜め息を吐く。

 

 

「……あの『銀の長』が関わったとはいえ、今までになかった技術革命の大安売りが起きたのは事実。だが、此度の騒動の元を辿れば森都(アルフヘイム)の者達が引き金になっておる。しかし活動的な者達がいるとは言え、悪く言えば惰性で生きている者達よ。その様な動きがあるとは思えん。」

「でしょうな。しかしいったい何故……」

「解らん。どんな心変わりがあったのか……いや、もしや……なら合点が行くな。」

「何か、心当たりでも?」

「……リオタムスが国王就任後、大老(エルダー)キトリーに会わせた時、彼女から珍しく愚痴を聞かされたのだ。」

 

 

 

 

《──時に。あの馬鹿者はどうした?》

「馬鹿者?」

《……わしの孫娘じゃ。そちらに居ろう。あの馬鹿者が魔力転換炉(エーテルリアクター)の理を変えたお陰で、里の者達が浮き足立っておる。どうしてくれる?》

「待て。何の事だ?そもそも、お主に孫がいるとは初耳なのだが……」

《……そうか。その様子なら、もう発ったか。誠に、足の早い馬鹿者よ。もうよい。この話は終いじゃ。》

「??」

 

 

 

 

「……等と話した事があってな。その時は何の事かさっぱりだったが。」

「……明らかにその『孫娘』が仕出かした事でしょう。しかし、そんな人物が、このフレメヴィーラに居りましたでしょうか?」

「いる訳がなかろう。この国には、な。」

「では何処に……」

「……隣国『アルド・レイア王国』におる。」

「は?あのアルド・レイア王国ですか?確かにあの国であれば……」

 

 

 フレメヴィーラ王国と、アルド・レイア王国。

 この国の交流は約200年前程から始まったといわれる。

 

 オーヴィニエ山脈より分かれた西と東の国々。

 その東の国でもボキューズ大森林に面しているのが、フレメヴィーラ王国とアルド・レイア王国である。

 しかしこの2国の間には、不可思議にもう一つ、山脈がある。

 

 この世界に於いては、オーヴィニエ山脈は2国の麓より東西南北、十字に存在していた。

 そしてボキューズ大森林はオーヴィニエ山脈の東側を半ば飲み込むような形で存在しており、2国は山脈より分断された形で、今も尚魔獣と戦っている。

 

『北の魔獣番アルド・レイア王国』

『南の魔獣番フレメヴィーラ王国』

 

 これが諸外国が2国を呼ぶ際の渾名である。

 

 そして強力な魔獣に対抗すべく、肩や純然たる魔法技術に優れたためゴーレムを使役し、片や理路整然とした魔法科学を発展させ幻晶騎士(シルエットナイト)のような巨人を創り出した。

 

 互いの国は、同じ魔物の被害に遭って、似ているようで、異なる道を歩んで来た。

 

 だが、今日(こんにち)まで共闘出来ずに魔獣と拮抗している。

 

 

 ──いつか手を取り合う為に。

 

 

 

 ……が、2年前からその状況は一変。急速に交流が始まり、現実のものとなった。

 

 

 

「……アルド・レイアのような『北側』であれば魔法の発展は確かに著しい。しかし、かの国との交流が本格化したのは2年前の事。しかも森都(アルフヘイム)は一般は元より、フレメヴィーラの者にすら秘匿された地……魔力転換炉(エーテルリアクタ)を一新させる程の事が出来ますでしょうか?」

「確かにな。だが、あの地にはキトリーの娘が1人、向こうの貴族に嫁いでおる。そこに娘……つまりキトリーの孫がいるのだ。」

「な、何と!いったい何者ですか?」

「お主も知っておろう?あちらの窓口である、クリストファー・エルス・アースガルズ公爵。その長女が2年前単身、短期の留学に来たのを……」

「アースガルズ……もしや、あの『山脈穿ち』で御座いますか?」

「ああ。『山脈穿ち』、市井では『北の聖女』と呼ばれておる、カルディナ・ヴァン・アースガルズ嬢だ。」

 

 

 既にフレメヴィーラ王国にも、伝説を刻んでいたカルディナ。

 

 ……いったい、何をした?

 

 

「国交を結んで以来、我が国と彼の国の長年の悲願だった『南北交流のための山脈横断』の術を僅か1ヶ月も掛からず成し得た、あの女傑よ。思い返せば不思議ではない。」

 

 

 オーヴィニエ十字山脈の下に、現在は山脈を横切るように長いトンネルが存在する。

 それまでは、山脈を越えるため、険しい山麓越えと魔獣の襲来に戦々恐々としながら、互いに往来があった。

 しかし、カルディナの留学を機に、それが解消されたという。

 

 事前に両国に通達、笑い話とされつつ了承され、結果完遂した、『山脈穿ち』。

 

 現在は『路線式牽引箱形交通車(レールウェイ・ボックス)』(ロープウェイが線路の上に走っている様な交通機関)が、週2回の運行をしている。

 尚、その運用は両国で兼任、路線、車両の整備、そして権利の1/3にアースガルズ商会が食い込んでいるとか……

 

 ちなみに、山脈の南北を穿った理由として「魔法の鍛練のためです。」と、カルディナはアンブロシウスの前で、堂々と言い切っていた。

 しかし本人の意向もあり、この件は世間には公表されていない。

 

 

「ではカルディナ嬢の目的は、魔力転換炉(エーテルリアクタ)の製造法を知る事……前王陛下、今すぐカルディナ嬢を召喚し、事の経緯を説明してもらわなければ……!」

「───それは無用だ。」

 

 

 クヌートの言葉を、アンブロシウスは心配するなと言わんばかりに、キッパリと遮った。

 何故なら……

 

 

「あの女傑なら、近々此方(フレメヴィーラ)に来るからな。」

「何ですと!?」

「しかも行き先は、エルネスティのところだ。本人(エルネスティ)からも事前に通達があってな。級友の仲を深めに、といったところだ。そしてそのまま日帰りで帰ると申しておったぞ。」

「な、何と……ですが、それだけが理由とは……」

「──勿論、真の思惑(・・・・)もある。これだ。」

 

 

 アンブロシウスは、テーブルの上に、数枚の紙を出し、クヌートに見せた。

 それは簡易的であるが設計図の様で、内容は人型のロボットにも見えた。

 しかし、クヌートはそれを見る内に、表情を強張らせた……いや、戦慄した。

 その設計内容に。

 

 

「これ……は、幻晶騎士(シルエットナイト)ではない!?いや、一つ一つの技術は理解出来ましょう。しかしそれが『全て合わさると別物』に!!しかも、この機体には魔力転換炉(エーテルリアクタ)が『7機』も!?しかもカルディリーゼより、10メートル以上も巨大、だと!?」

「……ワシも驚いた。発案はカルディナ嬢。監修はエルネスティ、といったところだ。そしてこれをカルディナ嬢に渡す許可を貰いに、昨日エルネスティは来おった。」

「──何ですと!?」

「カルディナ嬢より、我が国に反徒の意図無し、の意を込めて、この写しをワシらに渡すとの事。何とも用意の良い事よ。そしてこの設計図の中身は、我々では技術的に再現不能と来た。」

 

 

 アンブロシウスは爽快に笑っているのに対し、クヌートは苦虫を嚙み潰したような苦悶の表情を浮かべている。

 それはそうだ。

 クヌート卿の言った通り、一つ一つの技術は幻晶騎士(シルエットナイト)に使われているもので、最新技術も含まれていたが、十全に理解出来た。その使われる理由も。

 しかし、一つ一つを全て組み合わせると『全くの別物』になるという、理解不能の代物。

 幻晶騎士(シルエットナイト)に関わる者として、これ程驚愕を味わうものはない。

 

 

「クヌートよ。ワシも同じ気持ちだ。幻晶騎士(シルエットナイト)の技術が根底にあって、これは別物。テレスターレ以上に不可解なモノよ。」

「……ええ。ですが余計に解かりません。これは我々が本来幻晶騎士(シルエットナイト)が想定する、対・魔獣の要素を過剰に備えています。いや……むしろ別の何かと相対するような、その様に思えます。」

「ふむ、そこが『コレ』の存在理由と見るべきか。」

「ちなみに、現王陛下は何と……」

「ワシに任せると、投げてきおった。」

 

 

 リオタムス陛下、カルディリーゼ・ショックを受けているとはいえ、仕事して下さい。

 

 

「まあ、結局許可はした。条件付きでな。」

「どの様な……いえ、言わずとも解かります。」

「うむ、出来たら見せろ、とな。あと、新型炉についても、手心加えず聞き出せと言っておる。藍鷹騎士団の者にも同席するよう手筈している。問題はない。」

 

 

 未知とはいえ、十全に気になる2人。

 しかし、それ以上に不可解なのは……

 

 

「後は、これをどう運用するか、だな。エルネスティといい、カルディナ嬢といい、何を考えているのか……」

 

 

 アンブロシウスの胸に、一抹の不安が過る。

 

 

「新型炉といい、この設計図の幻晶騎士(シルエットナイト)擬きといい、明らかな変化が訪れている。これは吉兆か、それとも……」

 

 

 設計図を改めて見て、これから訪れる『何か』を予感するアンブロシウス。

 これまでにない、異様な変化が襲ってくると、アンブロシウスの『獅子王』の名が鋭い勘として告げていた。

 

 

 そして設計図に描かれた幻晶騎士(シルエットナイト)擬きの名は『GGG』。

 エルネスティ、そしてカルディナの真意とは何なのか?

 

 

(……しかし、これの本来の乗り手が『獅子王』の名が付く者と、エルネスティは言っておったな。同じ『獅子王』名が付く者として、これは負けてはおれん!)

 

 

 ……別のところで対抗しそうな気配もある。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ライヒアラ騎操士学園 鍛冶学科

 

 

 

「ふぅ~、ようやく終わりました。」

 

 

 ライヒアラ騎操士学園にある鍛冶学科。

 現在は『銀凰騎士団』の拠点ともなっている場所でもある。

 もうじきオルヴェシウス砦が完成間近であり、団員達はその引っ越し作業に明け暮れていた。

 そんな中、とある一室で、作業台の上に溢れる設計図の製図地獄を終わらせた人物が一人。

 

 銀凰騎士団の名前の由来にもなった、紫がかったショートカットの銀髪に、小柄な体。

 そして女子と見間違うような、母親譲りの顔の持ち主は、相棒の得物、二振りのガンライクロッド『ウィンチェスター』をそっちのけに、黙々と製図作業していたのだった。

 この人物こそ、銀凰騎士団『団長』、エルネスティ・エチェバルリアである。

 

 彼が製図しているのは、彼の理想をこれでもかと詰め込んだ、相棒たる幻晶騎士(シルエットナイト)の設計図。

 

 背面武装(バックウェポン)には、一対でなく二対ある、特別製の補助腕(サブアーム)執月之手(ラース・フィスト)』。

 

 主武装(メインウェポン)には遠近対応可能な銃装剣(ソーデットカノン)を二振り。

 

 蒼い装甲に、金のワンポイントも忘れない。

 

 動力源には陸皇亀(ベヘモス)の触媒結晶から造った『皇之心臓(ベヘモス・ハート)』。女皇殻獣(クイーンシェルケース)より造った『女王之冠(クイーンズ・コロネット)』の魔力転換炉(エーテルリアクタ)、二機を搭載。

 

 最大の目玉は肩部、腰部、脚部に搭載した、幻晶騎士(シルエットナイト)を空に飛ばすための機関、魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)

 

 そして、頭部の鬼面……

 

 ──エルネスティ本来の生まれの由来である『日本』に存在した『鎧武者』が元となる、異形の幻晶騎士(シルエットナイト)───斑鳩(イカルガ)である。

 

 ……しかし、この斑鳩は『原作』のイカルガとは、一つも二つも違った。

 

 まず、全長が当初予定していた11.2メートルから、倍の22.4メートルに。

 カルディリーゼを裕に超えている。

 それに伴って、全身の全身の金属内格(インナースケルトン)を見直し、スラリとしたボディに。

 肩部フレームに魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)を一対増設。デザインも変更している。

 

 綱型結晶筋肉(ストランドタイプ・クリスタルティシュー)蓄魔力式装甲(キャパシティフレーム)増設により出力を増加。

 

 背面武装(バックウェポン)はバックパックを大型化、執月之手(ラースフィスト)を6本に増やし、新規増設した執月之手(ラースフィスト)には『ガンライクロッド型』の魔導兵装を持たせ火力の幅を持たせた。

 

 そして動力炉には、新型魔力転換炉(エーテルリアクタ)のノウハウを使用した、『皇之心臓(ベヘモス・ハート)』、『女王之冠(クイーンズ・コロネット)』を搭載。

 

 ……以上が、エルネスティの造り上げるイカルガである。

 

 

 ご理解頂けたでしょうか?

 

 

 ちなみに本来の『皇之心臓(ベヘモス・ハート)』、『女王之冠(クイーンズ・コロネット)』の出力合計は、単純でも幻晶騎士(シルエットナイト)400機相当。

 

 新型今回開発された人型・カルディトーレ、巨人型・カルディリーゼは3~4機分相当。

 

 本来のカルディトーレは1.3倍。

 

 テレスターレが1.5倍。

 

 では新型魔力転換炉(エーテルリアクタ)のノウハウを使用した、『皇之心臓(ベヘモス・ハート)』、『女王之冠(クイーンズ・コロネット)』を搭載したイカルガは如何程か?

 

 

「ん~、未知数ですねぇ。それに、従来型の魔力転換炉(エーテルリアクタ)であれば、いくら出力多過でも想定内で収める事は出来ますけど……」

 

 

 エルネスティは設計図の中から一枚、魔力転換炉(エーテルリアクタ)の設計図を一枚取り出し、苦笑いで眺める。

 

 

「新型炉を形成する……この魔法術式(スクリプト)は、明らかに『異質』ですね。いえ、魔法術式(スクリプト)の体すら取っていないのに機能している……間違いなくカルディナさんの仕業ですね。」

 

 

 リオタムス、そしてアンブロシウスより、新型炉の経緯を聞かされていたエルネスティは、すぐにカルディナの仕業と解った。

 そして、魔力転換炉(エーテルリアクタ)の製法を学び、独力で炉の生成が出来るエルネスティだが、彼にも新型炉を構成するものが解らなかった。

 優れた構文技師(パーサー)でもある彼にとって、少し悔しい出来事である。

 だが、それ以上に……

 

 

「流石はカルディナさん。まだ僕の知らない事を平然とやってのける、それが素晴らしい!」

 

 

 新技術探求に熱心な彼には非常に『Welcome !』な事だった。

 

 

「……まあ、僕も少々やり過ぎたと反省してますよ?国機研(ラボ)に助力を求められて、カルディトーレを半ば『ナイトメアフレーム』みたいにしちゃいましたし、カルディリーゼに至っては『モビルスーツ』仕様ですからね。」

 

 

 いったい誰に言い訳をしているか、独りでペラペラ喋りだすエルネスティ。

 終いには「やはり脚部は、ランドスピナーより、ローラーダッシュの方が良かったのでは?」「ワイヤーアンカーがあるなら、スラッシュハーケンもアリですね。」「巨人を意味する、リーゼの名を出したら採用されたのは、僕のせいではないはず……まあ、ステークか、バンカーは破城槌で再現出来ますね。」「ヴェスバーは後々採用するとして、質量ある分身はどうしたら再現可能でしょう?」等々。

 

 

 そして一通り喋り終わると、落ち着いたようで、スッキリした顔になった。

 

 

「……どうやら、僕の『記憶』も絶好調のようで。」

 

 

 憑き物が取れたような、そんな表情を……

 

 

「まあ、新型炉については、いらっしゃった時にお伺いすれば良い事。そして……」

 

 

 傍らにある、イカルガの設計図を保管する箱、とは別のもう一つ、厳重に鍵をかけた箱がある。

 エルネスティは、それをようやく会える友に出会ったような優しい表情で見つめ、優しく撫でる。

 

 

「……ようやくお渡しすることが出来ますね、『ガオガイガー』の設計図を。」

 

 

 エルネスティは、ただ待つ。

 《勝利の鍵》を持って……

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

森都(アルフヘイム)

 

 

 

「───以上が現状の経緯になります。」

《……そうか、ご苦労。》

 

 

 オルヴァー・ブロムダールは目の前で寝そべる一人の女性に報告を終えた。

 衛使として橋渡しの役目を負って森都(アルフヘイム)より派遣されているアルヴの民であり、国機研(ラボ)の所長であるオルヴァーだが、徒人(あだびと)の役職を持っていようが、彼女にはそれは意味を成さない。

 

 大老(エルダー)、キトリー・キルヤリンタ。

 1日の大半以上を広げた大きなクッションの上に身を預け、眠りと思索の間に生きる、アルヴの民の一人。

 紫がかった白い艶やかな長い髪と、頭部に生えた、アルヴの民特有の長い『それ』が見るものを神秘的に感じさせ、完璧に整った造形の顔立ちは、この世の者とは思わせない程、美麗である。

 そして尚、長寿とは思えない妖艶な肉体がキトリー自身を特別な存在だと知らしめている。

 単に、美しい、としか言えない。

 

 ……当然、本人にはそんな自覚はないようだが。

 

 キトリーは瞳を伏せたまま、報告を耳にし、労いの一言を述べる。

 キトリー自身の会話は口頭ではなく、テレパスのように、直接頭に響く。

 本人曰く《この方が楽》だそうな。

 

 普段であれば、ここで話は終わる。

 しかし、オルヴァーは普段とは違う状況に、不安を感じていた。

 

 

「……大老(エルダー)、一つ宜しいでしょうか?」

《……何用か?》

「いくらお孫様が、魔力転換炉(エーテルリアクタ)の『(ことわり)』を解き明かしたとはいえ、このタイミングで、あの魔力転換炉(エーテルリアクタ)を表に出すとは……」

《……解らぬ。》

「は……?解らぬ、と?」

《……我には解らぬ存在が、古代より蠢いている。それは身に巣食う病魔の如く、徐々にされど確実に『星』の侵食を果たしている。『あれ』はそのために用意した物。されど、それでは抗うには不充分……故に『理』の戒めを解いた。『先』を往く為に……》

「ではこの先、何が必要だと?」

《一つは『命の理』……今は『永久の理』であったな。集め、束ね、形と成し、壊れて、集める……永久の循環。そしてもう一つは『勇者の証』。》

「勇者の……証、で御座いますか?」

《ただそれは『何が』とは我にも解らぬ。今の位では『あの馬鹿者』が一番近いのだ。宿す魂か、それともあれに憑く者か……何時れにせよ、オルヴァー。》

「は、はい!!」

 

 

 キトリーの語彙を強めた物言いに、思わずたじろぐオルヴァー。

 何故なら、キトリーは瞳を見開き、何と!ゆっくりと立ち上がっていたからだ。

 その表情に明確な感情は現れておらず、普段のキトリーのまま。ただし、湧き出る感情は明確な『怒り』。

 そしてテレパスではなく、御自らの『生声』で……

 

 

「とっとと、あの馬鹿者を連れてくるのだ、オルヴァーよ。そして一発殴らせろ。」

「ひぃ!!」

 

 

 拳を固め、流し目でオルヴァーを睨むキトリー。

 そして湧き出る魔力(怒り)のオーラ……!

 八つ当たりにも等しい、暴力的な魔力(マナ)の奔流が、森都(アルフヘイム)全域を容赦なく襲うッ!!

 作業中の者は手元が狂い、寛いでいる者はクッションからずり落ち、眠りと思索の間にいたものは、飛び起きて周囲を見渡す程。

 異常事態に、警鐘が鳴り響くッ!!

 

 そしてそんな中、キトリーはゆっくり、ゆっくり……とした歩みで、オルヴァーの元に歩み寄り、顔を近付け……

 

 

「……貴様の徒人の地位を利用すれば、アンブロシウス辺りにでも進言出来よう?のう、オルヴァー?」

「ぜ、善処……します。」

《なら、良し。》

 

 

 煩い警鐘の中でも、氷のように冷たいその言葉は、オルヴァーにはハッキリ聞こえていた。

 そしてその瞳は、深淵よりも尚深い黒色に見えたという。

 それから《疲れたから、寝る》と、クッションの元に戻り、眠りに就くキトリー。

 オルヴァーは、キトリーの『苛烈な威圧』を受けた影響で、しばらく動けなかった。

 

 

 そして、このやり取り、実は数週間前からポツリ、ポツリと続いていた。

 その度に、報告する者が胃を痛めているとか……

 

 

(……全く、アンブロシウス前王陛下の若かりし頃に似ているのはエムリス殿下と聞くが、キトリー様の若かりし頃に似ているのは、間違いなくカルディナ様。この苛烈な気迫……向こうの教育で丸くなっていると聞いて安心しましたが、将来はやはり不安!この祖母に孫ありとは言ったものの、止められる術を持つ実力者はカルディナ様のみ……早く、カルディナ様、こちらにおいで下さいッ!!)

 

 

 オルヴァーにしては、珍しい懇願の念。

 そして彼はカルディナがフレメヴィーラにやって来る前にカルディナ宛に手紙を出した。

 だが、翌日カルディナとすれ違いでアースガルズ領に届いた事を知るのは、少し後の事で、その日カルディナがフレメヴィーラの地にやって来たことを後から知り、再びキトリーに散々責められたという……

 

 

 

 

 

《……NEXT》

 

 




───以上、フレメヴィーラ王国に関する間話です。

オッサン達から始まり、エル君、〆にキトリーさんです。

それぞれツッコミとフラグ満載でお送りしました。

『公爵令嬢は~』のシルエットナイトは今後、このような設定で行きますが、細かい設定も後々いろいろ補足して出して行きます。

ちなみに、エル君のウィンチェスターの鞘がどうしても、ガンダムF91のヴェスバーに見えるのは気のせいでしょうか?

というか、キトリーさんに最後を持ってかれたのは気のせいでないハズ……

評価、ご感想、お待ちしています。


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Number.07 ~狂人、2人の会談~(1)

さて、ようやく本編です。


あと、これまで評価して下さった方々へ。
改めて有り難うございます。

自分のセンスとノリが、皆さんを喜ばせられると思うと、嬉しいで。
……執筆速度は上がりませんが。

あと、皆さんがヤケに騒いでいるなと思ったら、自分がランキング入りしたという事実。

……マジかいな。

これからも宜しくお願いします。



※カルディナさんの留学時期を2年前→3年前と訂正しました。



ライヒアラ騎操士学園 幻晶騎士(シルエットナイト)・試験場

 

 

 

 

「───どうして、どうして貴女は解らないんですかッ!?」

 

「貴方こそ、どうして理解出来ないのですッ!?」

 

 

 闘技場に響く2つの声と、空中を縦横無尽に何度も交わる閃光。

 

 片や全長2.2メートルの強化鎧装(スーパーメガメイル)、ガオガイガー。

 その性能はカルディナの力と小型魔力転換炉(エーテルリアクタ)を搭載しているため、魔獣すら圧倒するその力は計り知れない。

 

 そして片や、とある幻晶甲冑(シルエットギア)

 その幻結晶甲冑(シルエットギア)は『モートルビート』ではなく、背面武装(バックウェポン)執月之手(ラースフィスト)補助腕(サブアーム)を搭載し、『ウィンチェスター(鞘有り)』を持たせ、肩や腰、両脚に魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の『小型版』を完備した、小型版・イカルガ。

 表面装甲や面当ての造形が、イカルガに似せている辺り、相当作為的であり、背面武装(バックウェポン)下に小型魔力転換炉(エーテルリアクタ)を搭載している点は、正気の沙汰ではないと伺い知れる。

 

 

 そして空を舞う、恐ろしい鬼面の2体を見上げる銀凰騎士団の面々は、この世の行いとは思えない狂気じみた光景にこう洩らす。

 

 

「「「……どうしてこうなった。」」」

 

 

 

 ………さて、何故こんな狂気じみた事になったのか?

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 早朝にライヒアラ騎操士学園に到着したカルディナと、フミタン。

 広い鍛治学科の試験場に降り立った時、彼女らを迎えたのは小柄な姿の銀色の髪の持ち主、銀凰騎士団団長、エルネスティ・エチェバルリアであった。

 そして、驚愕の表情で硬直する団長補佐──アデルトルート・オルターと、アーキッド・オルターのオルター兄妹。

 

 無理はない。

 今のカルディナ──ガオガイガーの姿を一目見た瞬間に、「鋼鉄の怪物が空を飛んで来たッ!?」と驚き、エルネスティより、あれはカルディナだと告げられ、再度驚く。

 事前に教えられていたとは言え、実物を見ると、やはり驚く他ない。

 

 そして驚き畏怖を抱く2人とは対称的に、一人喜びに震える人物──エルネスティは着陸と同時に、たまらず駆け出し、ガオガイガーに銀の弾丸となって突撃する。

 

 

「何とスゴいガオガイガー!!おお……黒くて、硬くて、大きい……デッカイのが、また何とも───って、何で避けるんですか!?主役機の必殺技をヒラリと避けるボス機の如く!」

「……貴方、それ本気で言ってます!?」

「本気です!肩の500系新幹線!背部ステルス!両脚のドリルタンク!ドリルはどう回してますか?電力?それとも魔力(マナ)で?それらを直に確かめさせて下さい!そして頬擦りも!」

 

 

 まさかの全身くまなく触り、挙げ句にところ構わず頬擦りを敢行とするエルネスティ。

 容赦ない抜き打ちメカチェックが、ガオガイガーを襲うッ!!

 しかも嬉しさのあまりに無意識に魔法で加速、その速さで質量のある残像がッ!

 

 しかしそれに勝る動きで一定の間合いを取り続け、回避するガオガイガー!

 実はガオガイガーに分身機能を搭載……している訳がいない。身体強化をしているとはいえ、カルディナの自前の運動能力である。

 

 

「おや?腹部は柔らかいのですね。この素材は何でしょ……」

「──離れなさい!この変態ロボット狂がッ!!」

 

 

 しかしガオーマシンの重さの分、遂に追い付かれ、腹部にタッチを赦してしまう結果に。

 だが、カウンターでエルネスティの頭に高速で振り下ろされる、白い一閃と爽快に響き渡る破裂音……

 『収納魔法』より抜き放った突っ込みの代名詞、ハリセンである。

 

 

 ……そして、頭を擦って一拍。

 

 

「痛いです。酷いじゃないですか。そしてツッコミでハリセンとは正当派ですね。(真顔)」

「どの口が言います!!せめてフュージョン・アウトするまで待ちなさいッ!!」

「単体でのフュージョン・アウトまで!?しかしまだ駄目ですッ!ガオガイガーは人型である事に意義があるのです。もう少し入念にチェックしてから……!」

「──ガオガイガーでありますが、これは鎧で、中身は女ですわよ?」

 

 

・・・・

 

 

「……クロスフレームアームズ・ガールのギャレオンの「ヨッシャアアアァァァ!」状態なら解りますが、そういえば中身は『カルナ』でしたね。メカではないのでした。これは失礼。そしてようこそ『カルナ』。」

「……と・て・つ・も・なく、侮辱された物言いですが、冷静になったなら良しとしましょう。」

 

 

 これで下心がなく、メカに対するただの好奇心のみ、というのだから、また恐ろしい。

 

 

「しかし、貴方はライディーンの脚に抱き付くリュウセイ・ダテですか?ここに光竜、闇竜がいたら、もっと大変になりますわよ。」

「ええ!?創ったんですか!?」

「まだ創ってませんわよ。」

「……そうですか、残念です。あの不思議変形合体、シンメトリカル・ドッキングを見たかったのですが……」

「……ちなみに、あの2体がいたら、どうしますの?」

「もちろん!ロボットですから全身くまなく、関節の造りまで、キッチリしっかり見せてもらいます!(力説)」

「────」

 

 

 この瞬間、エルネスティに対して女性型ロボを見せる、触らせるのを絶対禁止の方針にする事を心に決めたカルディナだった。

 

 

「……キッド。この2人のやり取りって解る?」

「アディ。さっきの動きも含めて、人智を超えた『狂人』2人の行動と問答を凡人の俺が判る訳ないだろ?」

 

 

 当人達にとっては当たり前のネタ。

 他の人にとっては意味不明であり、『狂人』扱いのやり取り。

 

 

「……『カルナ』が来たって言うから来てみれば、3年前と光景が変わんないわねぇ。」

「ああ。特にエルネスティ……団長に『カルナ』は全く変わって……いや、相当変わったな。」

「いや、あれは鎧だって。しかしお互い、今はいい身分だってのに……狂人ってのは随分、出世出来るんだね。一切羨ましく思えないのが不思議だ。」

「ご迷惑をお掛けします、皆様方。こちらは皆様で召し上がってください。」

「あ、ご丁寧にどうも。フミタンも大変ねぇ……」

「いえ。ですが、エルネスティ様とカルディナ様、2人一緒の時が大変なのは、やはり否定出来ませんね。」

「「「──全く。」」」

 

 

 早朝に大騒ぎする2人を見て、呆れ返る銀凰騎士団の隊長格エドガー・C・ブランシュ、ディートリヒ・クーニッツ、ヘルヴィ・オーバーリの3人。

 フミタンの発言に同意しかないのは、3人も一緒である。

 彼等にとってはカルディナは、可愛く頼もしい後輩であった。

 現在はこのカオスな現状を見て、そうと言えるかは不明である。

 

 

 こうして、ライヒアラでの一日が始まった。

 

 

 


 

 

 機操士学園、鍛治学科……現在は銀凰騎士団の詰所。

 ただ、もうすぐ引っ越しが終わるため、ある程度の荷物がなくなった状態である。

 その一角にて、アルド・レイア王国より来たりし公爵令嬢、カルディナ・ヴァン・アースガルズと、アデルトルート・オルターが、作業完了と言わんばかりに手を叩いていた。

 そして、そこに相対するのは……

 

 

「あの、僕は何でこのような状態なのでしょうか?これでは動けません。」

「……俺だけ目隠しされてるのは何故?関係ないと思うのですが。」

「「お・黙・り」」

 

 

 フレメヴィーラ王国の銀鳳騎士団団長、エルネスティ・エチェバリアと、アーキッド・オルターが、蓑虫状態で椅子に座らされていたからだ。

 ちなみに、エルネスティは冒頭のやり取りが原因。

 キッドはフュージョン・アウトしたカルディナのセクシー過ぎる(IDメイル)姿をガン見していたからである。

 流石に目付きがアウトなところをアデルトルートに見られたからだ。

 

 そして御用、となった運びだ。

 

 ちなみに、他の3人と新たに来たダーヴィド・ヘンプケンの4人は、カルディナのガオーマシンを見学中である。

 

 

「……さて、準備が終わった事ですし、お話を伺いましょう。」

 

 

 彼等との出会いは3年前の、カルディナのフレメヴィーラ王国留学まで遡る。

 期間は6か月。

 留学の目的は、自らの目的である幻晶騎士(シルエットナイト)について学ぶ事。そしてフレメヴィーラ王国からの魔法関連で要望を叶えるという『国命』を果たす事。

 短い間であったが、カルディナとエルネスティが知り合いだった縁もあり、オルター兄妹ともすぐに仲良くなり、カルディナは楽しい留学生活を送っていた。

 ちなみに『カルナ』とは、エルネスティ達3人が愛称を持っており、それを聞いたカルディナが羨ましがった結果、アディより付けられた愛称である。

 

 しかし『オーヴィニエ十字山脈穿ち』を発端としたカルディナの留学生活は平穏無事な訳がない。

 

 留学当初の遠征訓練の際、『陸皇事変』に巻き込まれ、直接陸皇亀(ベヘモス)と応対する戦闘こそなかったが、生達に迫る魔獣を一掃、負傷者を魔法で治癒した事から、一躍脚光を浴びる。

 その後、フレメヴィーラ王国の要望の1つ、この地に合った『治癒魔法』の術式の開発に着手、市井まで確立した技術を広めた事により『北の聖女』と呼ばれる。

 そこで2ヶ月経過。

 それからはカルディナは授業や、要望に応えながらも、エルネスティと鍛治学科のメンバー達と一緒に新型幻晶騎士(シルエットナイト)『テレスターレ』の開発を手伝い、そこで開発技術、そして『テレスターレ』に用いられた新技術を学んだ。

 

 そこで、カルディナとエルネスティのタッグは、異才と鬼才を放ち、2人は『狂人』と称された。

 お互い単独であれば、ただの偉才を放つ人材であるが、2人が組むと途端に狂気的な『何か』が生まれるのだ。

 

 そしてオルター兄妹は2人のストッパーとしての才能を伸ばし、ある種の常識人になった。

 

 しかし『テレスターレ』が出来上がった直後、留学期間を残り2ヶ月を残した時、カルディナは機操士学園から姿を消すのだった……

 

 そして、姿を消した理由が……

 

 

 

「オルヴァーさんを介して『祖母』に会いに行った為なんですね?」

「ええ。」

 

 

 エルネスティは、改めて前王陛下(アンブロシウス)より受けた『命』を果たすべく、カルディナに3年前の事を尋ねる。そのままの姿で。

 と言っても、エルネスティ達は既に事情を知っており、この質疑は復習のようなものだった。

 何より、後日カルディナより「ごめんなさい」の意向を連ねた謝罪の手紙を受け取っているため、彼女自身も悔いていた。

 故に会いに行った事自体、本人の意思ではなかったのは判っていた。

 

 ちなみにこの場にいるのは、仲良し4人とフミタンの他、カルディナの斜め後ろに、今回の記録係に抜擢された、ノーラ・フリュクバリ(藍鷹騎士団の団員)

 この6人である。

 他の皆様方は退出中である。

 

 

「ちなみに、誰に、どのような理由で呼ばれたかを伺っても?」

「え……と、その……」

 

 

 カルディナはエルネスティの問いに、何故か歯切れ悪く、しばし沈黙する様子を見せる。

 ノーラはその様子を不審に思うが、キッドとアディはそれが不安ではなく、「あ、これしょうもない理由だ」と察する。

 何故なら、沈黙というより「これ、答えていいのかしら?」と悩んでいる様にも見えた。

 ありますよね、答え事態がアウトな案件……

 

 

「あの、カルディナさん?」

「ああ、ごめんなさい。呼ばれた理由ですね。ですが……機密保持は問題ありません?」

「機密保持?」

 

 

 そう言われて、一瞬何の事か解らなかったが、エルネスティは直ぐに察した。

 今回の件は魔力転換炉(エーテルリアクタ)に関わる事。

 つまり『ここにいる人物に、聞かせて洩らさないか?』と、暗に言っているのだ。

 友好国同士の人間であっても、機密漏洩は極刑もの。

 表沙汰には出来ない話に、保証は絶対である。

 どうやらその事に当たる内容らしい。

 

 だが、この場にいる人間は、その点については問題ない。

 

 

「ええ。元より問題ありません。」

「であれば、お話します。」

 

 

 エルネスティの答えを聞き、カルディナは語り出す。

 

 

「機操士学園を離れ、国機研(ラボ)経由で森都(アルフヘイム)にいる祖母に呼ばれ、会いました。名前は大老(エルダー)の一人、キトリー・キルヤリンタです。」

 

 

 ここまでは、前王陛下(アンブロシウス)より事前に聞いた話の内容のままだった。

 そしてキトリーは森都(アルフヘイム)の最重要人物だ。

 充分に秘匿に値する。

 

 しかし、そう言われればカルディナの容姿に納得がいく。

 本人は歯牙にも掛けない様子だが、他人から見てカルディナは非常に美しい。

 その大元が、あの人並み超えた美貌の持ち主のキトリーであるなら、納得がいく。

 キトリーに直接会った事のあるエルネスティは、自然と納得出来た。

 だが、内から滲み出るものの影響で、両者に血縁を感じさせないのは、気のせいではない。

 しかし、エルネスティはここで疑問を抱く。

 

 

「あれ?それではカルディナさんって、種族はエルフですか?それにしては、耳が長くないようですけど……」

「たまに言われますが、正確には私、ハーフエルフですの。」

「ハーフエルフ……」

「父は人間族(ヒューム)ですので。それに、アルヴの民と、他のエルフとでは、種族は一緒とされていますが、どうやら生物学的に違うようで、他種族との子孫には、容姿は遺伝しづらいようで。」

 

 節足生物をまとめて『虫』と言うのと一緒か?とキッド。

 いやそれでは蟹等の生物に失礼では?とエル。

 昔の人は、括りが大雑把ねぇ、とアディ。

 そのひそひそ話、聞こえてますわよと、カルナさん。

 

 いや、正直どうでもいい。

 

 

「ただ当時、私もキトリー御婆様が、祖母等と知りませんでしたわ。留学直前になって御母様から「いるから」の一言のみです。そして残り2ヶ月となった頃に、いきなりオルヴァーさんがやってこられて……」

 

 

 ……すみません、一緒に来て頂いて宜しいですか?

 

 

「……あれだけ見事な土下座、初めて見ましたわ。」

 

 

 本当は断りたかった。

 しかし申し訳なさ過ぎて、不憫なオルヴァーの顔を立てて、仕方なく行く事に。

 また、その際には説明事項に秘匿事項が多すぎて、必要最低限の事しか伝える事が出来ず、「祖母に会いに行く」となったのだ。

 そしてその要件が……

 

 

「ただ《顔を見たかった。近くに寄ったのだから、顔くらい見せろ。》ですわ! 腹立たしいッ!!」

 

 

 キトリー自身、それしか言ってこなかった。

 感動の出会い、心温まるエピソード……

 

 ナニソレ? オイシイノ? である。

 

 まるで『新世紀エヴァンゲリオン』の某眼鏡親父のコメントである。

 感動の欠片もない。

 ただ近状報告程度の会話はしており、そこで……

 

 

「……あれ?どうしましっけ?何か忘れているような……う、思い出そうとすると頭痛が……フミタン、覚えてます?」

「いえ、他愛もない会話が続いただけです。はい他愛もない平凡な会話のみです、はい。」

 

 

 挙動がおかしくなった。

 カルディナは思い出したら頭痛を伴い、挙動がおかしいフミタンは何かを知っている様子。

ただ……

 

 

「……間違いなく、魔力転換炉(エーテルリアクタ)の事ではありません。お嬢様の出生について一言だけ……何を仰ったかは聞かぬ方が宜しいかと。」

「え!?そうなの!?」

「なら、聞かなくていいですね。カルナの記憶が曖昧になる事案です。きっとロクでもない……いや、知ったら只では済まない事案でしょう。僕もそれを聞いて余計なものを背負いたくありません。」

 

 

 そこは省略された。

 

 

「それに『あれ』があった時期です。判っているとは言え、カルナが関与していないのですから、無理に聞く必要もないです。」

「ああ、『あれ』か……」

 

 

 エルネスティから笑顔が消え、キッドの表情も険しくなる。

 それは、カルディナがキトリーと会っている裏で、とある事件が起きたからだ。

 本来であれば『カザドシュ事変』と呼ばれる()の出来事。

 新型 幻晶騎士(シルエットナイト)テレスターレをディスクゴード公爵の命により、魔獣の襲撃を受けつつもカザドシュ砦へ移動。その後、偽装した賊に砦が襲撃され、テレスターレ1機を奪われた、フレメヴィーラ王国最大の事件である。

 

 しかし、この内容の通りには事件は起きなかった。

 実際に起きたのは、次の通りとなる。

 

 新型 幻晶騎士(シルエットナイト)テレスターレをディスクゴード公爵の命により、朱兎騎士団がライヒアラ騎操士学園に来園。

 そして、数日の慣熟期間を経て、朱兎騎士団の団員がテレスターレ3機に搭乗し、エルネスティ1名のみを連れてカザドシュ砦へ向かった。

 その道中、シェイカーワームに遭遇し、撃退した後、偽装した賊に襲われ交戦。

 その最中に所属不明の 幻晶騎士(シルエットナイト)4体に不意打ちを受けた。

 捨て身の攻撃に、テレスターレ2機が未起動のまま起動不可能な損傷を負う。

 残ったテレスターレ1機は魔力(マナ)充填中の動けないところを賊に狙われ、搭乗ハッチを守っていた機操士(ナイトランナー)は退けられた。そして運悪く魔力(マナ)充填が完了してしまった直後に強奪されてしまう。

 そして賊は強奪したテレスターレで、護衛のカルダトアを中破させ、置き土産として事前にばら蒔かれていた呪餌(カースドベイト)の影響で魔獣の大群が押し寄せ、追跡不可能な状態に陥る。

 同行していたエルネスティも、あまりの展開の早さに対処しきれずにいた。

 その結果、犠牲者、重傷者こそ出なかったものの所属不明機を半数取り逃がした挙げ句、テレスターレ『1号機』を強奪されてしまう。

 

 後に『新型機強奪事件』と呼ばれる、史実とは違う事が起きたのだ。

 

 

 何故こんな事になったのか?

 まず史実とは違い、強奪されたテレスターレは『操作性の良さが、段違いに良い』からである。

 元々綱型結晶筋肉(ストランドタイプクリスタルティシュー)の影響で出力過多で操作性に難があるテレスターレだったが、それをカルディナが魔法術式(スクリプト)とは違う、自前の魔法で解決してしまった。

(中身はグルンガストに用いられるTGCジョイントの応用で、重力慣性操魔法に、人体の加減感覚を反映出来る魔法を合わせたもの)

 その為、原作・アニメより非常に取り回しの良いテレスターレが出来上がった。

 それは、模擬戦でエドガーが操るアールカンバーに『少し余裕を残して勝てた』位には、その能力は向上している。

 

 しかし、それが良くなかった。

 その性能故に鍛治学科に入り込んでいた間者が、初期の草案とは言え、テレスターレの設計図の一部を事前に盗み出していた。間者が姿を消し、事態が発覚したのは移動の前日。

 

 これにはカルディナも驚愕。

 何しろ『ナイツマ』の原作の展開は十二分に知っているのだから。

 

 そして、それはエルネスティも同じだった。

 幼少の頃にカルディナより転生者である事を見破られてから、自身も作品の一部(主人公ですが)である事を告げられ、それで尚アニメ版の『ナイツマ』(諸事情により7話まで)を他作品と合わせて嬉々として見ていたため、来るであろう展開を知っていたのだ。

 

 ……しかし、消えた間者の顔はアニメや漫画の顔ですらないし、まさか金庫破り(設計図の奪取)をするとは思わなかった。

 

 2人は青冷めた。

 半ば浮かれていた影響もあるが、事前に講じた筈の間者対策が悉く通用しなかったショックは計り知れない。

 と言うより相手──銅牙騎士団の間者活動が上手だったのだ。

 だが、こんな事は他人に話せる訳がない。

 

 そして一番不可解なのは、開発が間に合った筈の紋章式認証機構(パターンアイデンティティフィケータ)が、1号機のみ適合不可という謎現象が発生。

 その後の適合作業も間に合わなかった。

 そして成果物に対して学生達では荷が重いと判断した、ディスクゴード公爵が朱兎騎士団団員のみで、移動を決定する始末。

 エルネスティのみ原作順守で同行した。

 

 どうやら世界は余興あれども、強奪ルートに進ませたいようだ、と確信したカルディナとエルネスティ。

 「これは被・強奪イベントのフラグが立った」と2人のスパロボ脳は直感した。

 

 ……何より、今後の展開が同じとは限らないという、バグったこの世界の影響の力を見せつけられたのだ。

 

 

 ただ、最後の手段(セーフティ)は講じてある。

 

 開発後期には複雑を超え、ブラックボックス化した魔導演算機(マギウスエンジン)の中枢を特定の魔法で解呪(ディスペル)せず開けた瞬間、設定された全ての魔法効果(バフ)魔法術式(スクリプト)が消滅する暴挙(トラップ)を全てのテレスターレに施していた。

 

 最早、強奪される前提で動いていたのである。

 

 そして暴挙(トラップ)は無事、静かに発動。

 ジャロウデク帝国の構文技士(パーサー)達は、知らぬ間に形骸化し、原作以下に弱体化、修復不可能なテレスターレの解析を必死になってしているのが現状であり、それ故に彼等の侵攻が史実より1年遅れたのは、誰も知らないところとなる。

 

 

「……まあ、もう過ぎた事ですし、こちらの対策は万全にしました。もうあんな事は起きないでしょう。」

「と言う割には、根に持ってますわね?」

「当然です。僕はあの時の怒りをぶつけられずに、今に至ります。なので『次会う時』は、殲滅戦待ったなし、ですよ?それはカルナも一緒ですよね?」

「ええ。骨も残さず殲滅して差し上げますわ。」

 

「「フッフッフッフ……!」」

 

「こえぇ……ここに鬼がいる。」

「やっぱり2人いると、色々おかしくなる……」

 

 

 アニメの展開を知るが故に敵の目星は付いている。

 しかし、己の目指す愛機がないため、敵陣には踏み込まない。

 しかし、己の愛機がこの世に創生された瞬間、ジャロウデク帝国はこの世から姿を消すかもしれない。

 

 狂人の2人は、嗤う。

 しかし、眼は一切笑わず、己が敵の殲滅を夢見るのだった。

 

 

 ───閑話休題。

 

 

「で、話を戻しますが、御婆様との話が一通り終わった後、オルヴァーさんがお詫びにと、魔力転換炉(エーテルリアクタ)の工房を見せて下さいまして。」

「ほうほう。」

「まあ、秘密厳守ですが工房内を一通り……」

 

 

 そして、実際に魔力転換炉(エーテルリアクタ)を造る工房を見学するカルディナ。

 キトリーの孫、ということもあり、可愛がられながら間近で見る機会を得た。カルディナも思ってもみない機会に高揚した。ならば、一つも見逃さず、一つでも多くの技術を吸収しよう。そう思いながら見学していった。あわよくば、実際に造る機会も……

 その中で職人の動き、魔力の流れ、精霊銀(ミスリル)の加工方法を見ているとその内、無意識に自身もエア作業のような動きをし始めた。

 その動きが余りにも的確で、真似とは思えない動作に職人やオルヴァーもカルディナの所作に思わず息を呑む。

 

 

「……やってみます?」

 

 

 その言葉が出たのは、自然だった。

 こうして、カルディナは魔力転換炉(エーテルリアクタ)を自らの手で造る機会を得た。

 

 

「ずるいです!僕より先に魔力転換炉(エーテルリアクタ)について学ぶ機会得ていたなんて!」

「まあ……その点については弁解の余地がないですが、私は身内、エルは外様。立場が違う点は御容赦下さい。」

「うぅ……いつの時代も、身内には甘いですね。」

 

 

 そして基礎から学び、試作機を造り上げるまで、何と1ヶ月。

 実用的なものが出来たのはその1週間後。

 

 紙が水を吸うどころではない。

 高分子吸収素材が自重の数倍の量の(情報)を吸うが如く、短期間で覚え、完全に習得していったのだ。

 

 

 そもそも、魔力転換炉(エーテルリアクタ)は一般に超硬度金属の精霊銀(ミスリル)に魔法で塑性加工して超大規模魔法術式『生命の詩(ライフソング)』を高密度に刻印(普通は一部のアルヴにしか不可能)した物と、触媒結晶と人工血液たる血液晶(エリキシル)を組み合わせて生産されるものだ。

 

 

 そして普通ならそれで終わりだ。

 後は大型の触媒結晶でも使い、一点もの(スペシャル)を造ればいい。

 しかし、カルディナはアルヴの民も考え付かない事を考えていた。

 

 

 テーマは、使う素材は変わりなく、改良点を見つける。

 

 

 そして見つけた。見つけてしまった。

 改めて一つ一つを読み解く内にカルディナでしか出来ない方法を見つけた。

 だがその方法に、カルディナは盛大に頭を痛める結果となったのも事実。

 

 

「ど、どんな方法ですか!?素材も変えず、何を変えたのですか!?」

「落ち着きなさい。ちゃんと話しますわ。」

 

 

 話が核心的なところに行き着こうとし、高揚するエルネスティを宥めるカルディナ。

 

 

「……まあ、結論から言うと、変えたのは『生命の詩(ライフソング)』です。」

「ライフソング……あの超大規模魔法術式を、ですか?」

「正確に言うと、その中心術式の中に含まれる『詩』の箇所です。エルもご存知でしょう?」

「ええ。」

 

 

 この時には、アンブロシウスの許しを得て、魔力転換炉(エーテルリアクタ)の製法を習得したエルネスティだから判る。

 超大規模魔法術式たる生命の詩(ライフソング)

 あれを変える事、その余地があるのか?

 

 

「あれを『こちらの知識』で考えたら解りませんわ。『詩』ですもの。ですが『私と貴方の持つ知識』で見方を変えた時、あれはどう見えます?」

「僕とカルナの知識……?」

「……『もでらー』さんには解りづらいですわね。と言うか、一度聴いてますわよ?」

「え?いつ!?」

「直接、私からです。まあ、歌って差し上げますから、お聴き下さいな。」

 

 

 そして懐から、『お嬢様の工房』お手製の拡声器(スピーカー)を取り出し、目の前のテーブルに置く。そして目を瞑り、一呼吸すると軽快なリズムで、高いトーンボイスで歌うカルディナ。

 拡声器(スピーカー)から流れる曲も、それに合った明るい曲だ。

 どうやら『詩』は軽快なもののようだ。

 

 

「へぇ~、何か綺麗って言うか、可愛い曲~。」

「………これ、は。」

「でも何だか懐かしいような気もするな……ん?どうした、エル?」

 

 

 曲が進むにつれ、反比例するように様子がおかしくなっていくのが、誰の目にも判るぐらい、段階を踏んで動揺するエルネスティ。

 そして、カルディナがサビを歌い上げて、曲も終わった後エルネスティは、今まで見たこともないくらいに、憔悴していた。

 

 それは前世のSEで体感した、デスマーチすら超えるヤバさだという……

 

 そして憔悴の彼方より復活したエルネスティが、絞り出すように口にしたのが……

 

 

 

「……な、何でこの『OP』、が?」

「ええ、ようやく思い出しました?」

 

 

 

 カルディナが歌い上げた曲。

 それはアニメ版の『ナイツ&マジック』に使われた主題歌『Hello!My World!!』であった。

 

 

 

《NEXT》

 

 

 

 

 

 




冒頭は色々試行錯誤しました。
訂正して書いてませんが、エル君が無自覚なセクハラをして、カルディナさんからヘルアンドヘブンを受けちゃうシーンもあったり……

ジャロウデク帝国には殲滅予告です。
間話扱いになるでしょうが、どこまで殲滅させるかは、執筆時の気分次第かと。

テレスターレの話は、完全に忘れてました。史実通りにすると矛盾が生じるため、あえてこの機会に。
書いてませんが、ディスクゴード公爵は、この件相当参ってしまってます。
バグった世界のせいなのか、ケルヒルトさん率いる銅牙騎士団がキレッキレだったのかは不明。
決して17歳パゥアーが炸裂したとか言わない。

そして魔力転換炉の核心について。
原作にはない設定です。『公爵令嬢~』独自なので、誤解せぬように。


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Number.07 ~狂人、2人の会談~(2)

本当にお久しぶりです。
時間がかかって申し訳ないです。

何故かこの話は難産でした。
加えて色々あって執筆時間も取れずズルズルと……

何でだろうな……

カルディナさんとエル君を組み合わせると、内容が非常に暴走する。

なので、話がやたら長くなったので、ひとまず断念し、もう一つ分けました。
故に話の内容も相当ぶっ飛んでいると思い、読んでください。

あ、次回も続きますので。



……ウン、ドウシテコウナッタンダロウ?


 ───『Hello! My World!!』

 

 

 アニメ『ナイツ&マジック』の主題歌として使われた曲である。

 軽快なリズムと、ハイトーンボイスの歌声は聞き馴染むと良く聞こえる。

 

 

 ただ、この世界はマクロスやシンフォギアではないのだ。歌自体にそんな力があるかと言えば、答えは『NO』となる。

 なのに、何故か事象を限定的にだが、変える程の力を持っていたりする。

 何故か……

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ──『詩』とは、魔術的に言えば『詠唱』にあたる。

 言葉の羅列は力を持ち、魔力(マナ)を用いて現象へと誘えば、魔法(願いを叶える力)として発現する。

 

 魔法の原点の考え方である。

 

 魔力(マナ)───その役割は『願いを叶える力』。

 物質的存在は元より、半物質的存在(精霊や幽霊、魔法的存在を指す)、幽玄なるもの等々が『そう在りたいとする力』である。

 

 それは古来よりある『根源的な力(オリジン・ロー)』。

 類似する力としてゲ○ター線や、光○力、イ○等々、不思議パワーの一種だ。

 

 魔法とは魔力(マナ)を現象へ転換する技術である。

 そのために必要なのが魔法術式(スクリプト)で、それぞれ現象ごとに決まった図形で表される。基本的な現象を発現するための基礎式と、それをつなげて使うための制御式に分かれる。

そしてこの世界の意思ある生物なら必ず有する機能である脳内仮想器官、魔術演算領域(マギウス・サーキット)は、魔術術式(スクリプト)を構築し処理する。

 最後に触媒結晶──魔石を触媒とし、処理された魔術術式(スクリプト)を発現させる。

 

 

 では、生命讃歌のような『詩』を中心に一個体の生命を模した術式を組み上げればどうなるか?

 

 命を育む(しるべ)となって、生きようとするため循環……源素(エーテル)を取り込み、触媒結晶を介して生命が使える魔力(マナ)となる動きを発現させる。

 

 だが、巷で用いられる魔法は、魔力(マナ)を触媒結晶を用いて発現させるもの。

 触媒結晶の使い方が違うのでは?と思われがちだが、この世界では生きる上で微細ながら生命体は、科学的な栄養素の他、魔力(マナ)を消費している。

 

 この世界で『存在するもの』が生きる上で、魔力(マナ)は必須なものだ。

 

 ちなみに触媒結晶を持たない生物も、微細ながら体全体の組織──特に骨が触媒結晶の役割を果たしているという。

 生きる以上、意識せずとも魔力(マナ)は消費している。

 

 つまり魔力転換炉(エーテルリアクタ)は、この世界で生きる上で必要な根底的行為を『人為的に』再現していると言える。

 

 

「……つまり人間の体も魔力転換炉(エーテルリアクタ)と同じ事をしてるって事よね?」

「その通りですわ、アディ。休むと消費した魔力(マナ)が戻るのは、大気中の源素(エーテル)を呼吸で取り込んで変換しているからですわ。ただ、人間の変換率は非常に低いですし、定量になる頃には体内に魔力(マナ)が蓄積された分と、消費量が安定するよう、体が勝手に調整しますのよ。」

「つまり、人体と幻晶騎士(シルエットナイト)の魔術的構造はほぼ一緒、という事ですね!?」

「……暴論ですが、その通りですわ、エル。」

 

 

 その結論に嬉々として喜ぶエルネスティに、カルディナは頭を抑えて肯定する。

 カルディナにとっては「解き明かしたら、また出てきましたわ……」と頭痛の原因になる事案でしかない。

 なお、この手の秘密事項の発見は、カルディナにとっては日常茶飯事である。

 そして、サラッと世界の核心的な事項を自然にねじ込んでいるにも関わらず、「ちょっと話が逸れましたわね」と言うあたり、カルディナらしいと言える。

 

 ここで話を挟むが、フレメヴィーラ王国を含む、南半球地域の魔法技術は非常に合理的で論理(システム)的である。

 しかし、ある理由から半物質的存在が存在しない影響もあり、その手の存在は半ばお伽噺の存在とされており、大概耐性がない。

 それはエルネスティ然り。

 前世の、SEとしての感覚が魔法構築に一役買う程に非常に合っていたし、オカルト事など彼には縁がなかった。

 しかし耐性は転生者故に、他の人よりもある。

 

 だからといって魔力転換炉(エーテルリアクタ)の中心術式に『(Hello! My World!!)』が使われている等とは思ってもみなかっただろう。

 

 エルネスティが先程、彼らしくもなく憔悴してしまったのは、転生先で出会った人類の叡智の結晶(シルエットナイト)が、詩で出力が上がる程度の『訳の解らないもの』だったのか?と不安に駆られてしまったからだ。

 当然、自身のルーツ(と思わしき)作品で使用されている歌であったことも、驚いた要因であるが……

 

 しかし疑問を解消すべく、エルネスティは気持ちを切り返し熱心に聞いているが、残りの3人──アディ、キッド、ノーラはそれぞれ驚愕するのだった。

 

 特にノーラ・フリュクバリはこの事に頭を抱えた。

 学術的な話とはいえ、このような話を聞くとは思わなかった。

 

 

(……この話は聴きたかった魔力転換炉(エーテルリアクタ)の話と直接関わりない……いえ、あるのですが、まさか生命の根底に関わる事が出て来るなんて。今回の聴取の件とは別に報告した方が良いのでしょうね、きっと。)

 

 

 気持ちを切り返したところで、ふと視線を感じた。

 それは「どうぞ、どうぞ」とこちらの心を見透かしているような、若干笑っているフミタンだった。

 

 ──諜報の人間がこの程度で音を上げるのですね?と。

 

 煽られているようで、若干イラッとした。

 

 

 話を戻すが、生命の心臓を魔術的に再現した魔力転換炉(エーテルリアクタ)は、理論上、永久機関である。

 その機能を単に言えば、源素(エーテル)を触媒結晶を介して魔力(マナ)に変換する。

 そして触媒結晶の大きさで、変換率は変わるのはご存知の通り。

 

 そして刻まれた『生命の詩(ライフソング)』の大規模術式(スクリプト)は、自律神経の様な役割だと推測出来る。

 

 では『生命の詩(ライフソング)』の中心術式にある『詩』は何なのか?

 

 

「きっと方向性なのでしょう。ある種の性質、循環する際の『在り方』を決めていますので。故に『詩』自身がそれに見合った『器』を求めていまして、似たような『器』であれば能力を発現したがっている、と言えます。」

「……それって極端な話、中心術式の『詩』の内容次第で、外見がザックリ似ているという条件をクリアさえすれば、この世界ではどの様な『機体の能力』も発現出来るって事ですか?」

「ええ。」

 

 

 例えば、幻晶騎士(シルエットナイト)の左上腕部に魔導兵装の雷の杖(アークゥイバス)を固定し、右腕に剣を持たせる。背部にカブトムシの甲殻のようなパーツを付け、オマケに角をワンポイントに付ける。

 そして魔力転換炉(エーテルリアクタ)の『生命の詩(ライフソング)』の『詩』を『ダンバイン、とぶ』にすると、AB(オーラバトラー)ダンバインになる。

 正確にはその機体性能のみ変わる。

 

 

 ……実に馬鹿げている話だが、カルディナが森都(アルフヘイム)にて炉を造り上げ、その地(アルチュセール)を護るアルヴァンズの機体を借用し、実験して実際に空を1分程飛んだのだから仕方ない。

 更に模擬戦で法撃を「オーラバリア!」で防ぎ、チャムの声真似をしながら「ハイパー・オーラ斬りだぁーーー!!」と叫びながら、振り下ろした剣から出たオーラが、小さい丘を両断。

 そして魔力(マナ)を込めると、魔力転換炉(エーテルリアクタ)よりオーラ力が湧き出て、極限まで高めた後「なめるなァァァァーーー!!!」と叫ぶと、レプラカーンじゃないのにハイパー化した時点で頭を痛めた。

 じゃあ、やるなと言いたい。

 

 だが4つの例は、どれも起動から2分以内には魔力(マナ)切れを起こしていたため、実用化までは程遠く、そしてザックリ造った影響で、耐久性は実用化には程遠いものだった。

 元々の機体性能と出力が釣り合っていない事から来る結果だと、その時ハイパー化の効力が切れた後、カルディナは考察した。

 同じ性質のエネルギーではないので、齟齬や不具合あって当然と言える。

 

 だが、魔力転換炉(エーテルリアクタ)よりオーラ力が出たのはどうしてなのか?

 

 もしくは魔力転換炉(エーテルリアクタ)が文字通り魔力(マナ)をオーラ力に『転換』ならぬ『変換』しているのか……と思ったり。

 

 故に出来た、発現したのではないだろうか?

 幻晶騎士(シルエットナイト)では出ない特性を持った、特殊な機体として。

 

 それからカルディナは幾つかの魔力転換炉(エーテルリアクタ)を自作、アルヴァンズの協力もあり、試験運用を行った。

 尚、外見はカルダトアに『土魔法』でそれっぽく整えており、推進器は『風魔法』で代用した。

 

 試作運用した機体は以下の通り。

 

・AS仕様:サベージ(成功)

・AS仕様:コダールi(成功)

・KMF仕様:月下(藤堂機)(成功)

・KMF仕様:ガウェイン(成功)

・戦術機仕様:ラプター(成功)

・戦術機仕様:UB型チェルミナートル(起動せず失敗)

・戦術機仕様:M2型チェルミナートル(成功)

・MS(核融合炉)仕様:ジ・O(成功)

・MS(太陽炉)仕様:Oガンダム(成功、GN粒子発生確認)

・マジンガーZ(初期)仕様(稼働成功、一部武装失敗)

・ゲッター1仕様(起動せず、失敗)

・ブラックゲッター仕様(成功)

・GEAR戦士電童仕様(起動せず、失敗)

・グルンガスト仕様(成功、可変機構が再現不可)

 

 

「リアル系、スーパー系と様々ですね。」

「形は違えど、根底は魔力(マナ)で機体出力を支えています。まずは小さい出力設定の機体から試しましたわ。結果は上々。稼働時間こそ極端に短いですが、多種多様な能力を発現して下さいましたわ。」

「いや、サベージ以外は高い筈ですよ。しかし戦術機は武御雷や不知火があるのに、チェルミナートルとラプターですか?しかもKMFは紅蓮を無視して月下とは……」

「ラプターは高機動を想定して。チェルミナートルはモーターブレードを再現したかったのです。月下も廻転刃刀が目当てです。激しいモーター音と切り裂く時の振動は最高でしたわ。」

「でしたら、次はサブアームを使った4連突撃砲はどうでしょう!?あれは漢のロマ──!」

 

 

 ──閑話休題(長くなるので省略)

 

 

「しかしUB型チェルミナートル然り、スーパー系は何故か失敗例が多いですね。どうしてですか?」

「複座型だからでしょう。単座型では認識しないようで。可変機は、元より変型機構がない幻晶騎士(シルエットナイト)に適応されません。ある意味ルール化してます。」

「妥当ですね。」

 

 

 しかし、上記の機体達は能力の再現は出来ても、パワーまでは再現出来なかった。そしすぐ魔力(マナ)切れを起こす。

 だが、ある事に気付き、修正して再度試作し出した結果、魔力(マナ)切れは若干解消され、出力すらも上がった。

 そして改良した炉で新たにチャレンジ。

 すると、稼働時間がわずかに増加した他、特殊能力は軒並み再現されたのだった。

 

 尚、全ての機体はカルディナの他、アルヴァンズの騎士達も率先して試験に参加し、模擬試合という名のシゴキを受け、試験結果を出した。

 

 

「……だからアルヴァンズの人達、御前試合の時に動揺してなかったのね。」

「……あの時は本当にヤバいと感じたぜ。巨人型なのに動きがキレッキレ過ぎて。エルの奇襲すら避けたし。」

「その後の、僕の全力の高機動攻撃が『我等の特訓の成果、なめるなァ!!』と言って二重、三重に回避された時は鳥肌ものでしたよ。まあ、数機は撃墜判定を出しましたが。戦う前にカルナの事を彼らから聞かなきゃ、こちらが厳しい戦いを強いられてました。」

「ああ。試験中、ラプターで空から散々追い込み、ジ・Oで威圧し続け、月下(廻転刃刀)チェルミナートル(モーターブレード)死の恐怖を演出した(コックピットを攻撃しまくった)影響ですわね。そのお陰で小回り重視で回避出来るようにさせました。しかしその台詞が出るとなると……一番怖かったのはブラックゲッターの、あの所業でしたのね。」

「「「──何をした!?」」」

 

 

 ───閑話休題。

 

 

「……で、後半から行った工夫は、何なのですか?」

「音符を付けて『曲』とし、『詩』と合わせて『歌』にしました。それで機体性能がグンと上がりましたわ。」

「そ、それは……最終決戦(SRWお馴染み)のフルコーラスBGM仕様!?最初からクライマックスですね!!」

「機体毎に固定されてますが。」

「それでも素晴らしいッ!!」

「でも、生物の周波数では聞こえませんので。」

「orz」

 

 

 普通に『主題歌』と捉えてもらいたい。

 魔力転換炉(エーテルリアクタ)の中心術式に、歌に含まれる全ての音楽情報を入れた上で、『生命の詩(ライフソング)』を刻むと、源素(エーテル)の吸入量が自動的に増えて出力が上がり、同時に主題歌と、それに見合った『機体の外見』を元に能力を発現するのだ。

 何とも都合が良過ぎる話だ。

 

 

「そもそも、何でそんな事が起きるの?歌にそんな力があるとは思えないけど……」

「さあ……そこまでは私にも何とも。」

 

 

 ──否。カルディナには何となく目星は付いていた。

 犯人はこのふざけた世界を創造した、未だ見ぬ『神』か、それに近しい存在だろう。

 それも『SRWの様な存在(クロスオーバー)』を好む輩だ。

 歌に力があるのではなく、歌を目印として機体能力がダウンロードされるような仕組みを創ってもおかしくはない。

 この世界の魔力転換炉(エーテルリアクタ)は『歌』を詠唱とした、一種の『神降ろしの器』かもしれない。

 

 ただ、それをこの場で話して納得が得られるかは難しい。これは推論の域を出ない事項だ。

 それに誰も、どうしてこのような歌があるのか?という疑問を投げ掛けようとはしなかった。

 

 何故ならエルネスティは幼少の頃に前世を思い出した為に。

 キッドとアディは、カルディナが留学してきた際に、アニメ作品を一部見せられていたから。なので、2人には「あの曲(ドラ○もん)が、ねぇ……」とイメージがあったため半信半疑にしか思えない。

 

 ──ならばそのイメージ、払拭せざるを得ない!

(ただし、後程。)

 

 

 そして、ノーラはプチ混乱中。

 狂人共の会話に頭が付いて行かず、後半は頭を真っ白に記録を取るだけとなり、その内容まで疑問に思えなくなってしまったのだ。

 

 その姿に気付いた人物──フミタンは笑いを堪えて見ていた。

 

 

 そして実験の最後に、カルディナは魔力転換炉(エーテルリアクタ)に元々あった『Hello! My World!!』を完全な歌にした。

 すると出力が他の実験より段違いに上がったのだ。

 

 だがそれはパワーアップというより、押さえ込まれていた『本来の力』が戻った、という感じだとカルディナは思った。

 

 しかし、その謎を追求しようとした頃には留学期間が間近に迫ってしまい、炉に見合った機体の調整までは出来ず、結局炉の最終調整と、肝である中心術式の『超々高密度圧縮術式』をアルヴの民に託し、カルディナは『ロクに誰にも挨拶も交わせず、アルド・レイア王国へと帰路に着いた』。

 

 ……そしてカルディナが去って2ヶ月程で『新型炉』が誕生したという。

 

 

「……以上が、私が留学中に行った事ですわ。」

「成る程。ありがとうございます。」

「何て言うか……凄く濃い2か月だったんだな。」

「まさか魔力転換炉(エーテルリアクタ)をパワーアップさせてたなんて。」

「結果的には誘惑に負けて、習得しただけです。結果は上々となりましたが。ですが、私も本当はテレスターレの件に関わりたかった……エルと私がいれば、最悪奪われる前に一号機を行動不能ぐらいには出来た筈、と今でも思いますわ。」

「それはもう仕方ない事です。僕だって当事者であったにも関わらず、防ぐ事が出来なかった。」

 

 

 加えて、事前に襲撃があった事を判っていたにも関わらず。(2人以外には秘密であるが。)

 しかし、テレスターレの件は過ぎてしまった事。

 過去はどうする事も出来ない。

 だからこそ……

 

 

「「──専用機(自分のロボット)を創り、手に入れる。」」

 

 

 2人は別れる間際、そう誓ったのだ。

 そして今日に至るまで、互いに研鑽し合っていった。

 そして、2人はそれを改めて確認し合い、微笑(わら)うのだった。

 

 

 なお、今まで解説してきた新型魔力転換炉(エーテルリアクタ)であるが、その製法、原理を他者に知られたところで、模倣は不可能である。

 そも、魔力転換炉(エーテルリアクタ)はその製法の難しさ故に、アルヴの民以外はエルネスティとカルディナしか創れず、新型炉の新規開発に至ってはカルディナしか『生命の詩(ライフソング)』に応用出来る『歌の情報』を持っていないため、現行以上の炉を造り出すことは不可能である。

 

 

 

 

「……という訳で、アディ。カルナに『あれ』を渡してください。」

「うん、わかったわ。」

 

 

 アディよりカルディナへ渡されたのは、とある木箱。

 中身は十数枚の紙束である。

 カルディナはすぐにそれらを精査。

 一枚一枚、じっくりと……

 そして全てを見終わったカルディナは、静かに呟いた。

 エルネスティもそれを見て満足げに笑う。

 

 

「……完璧、ですわ。」

「如何です?最終改定版は?」

「よく前回問題になった変形時の強度不足を補えましたわね?」

「そこは『あのサンプル』を提供して下さったお陰です。」

「流石、設計において右に出る者無し、ですわ。」

「……褒め過ぎです。」

 

 

 カルディナが受け取ったもの、それは『ガオガイガーの設計図』である。

 カルディナが留学して以降、流通の便が良くなった故に出来た事で、カルディナ発案のこの設計は、エルネスティと2年間文通するが如く、修正して送り返すという事が続いていた。

 

 そして根本的に何故エルネスティと、この様な事をしていたかというと、単純にカルディナの事情を理解し、設計に協力出来、その腕が卓逸なのが、この世界ではエルネスティだけ、という事だ。

 そしてカルディナ自身も設計に長けている訳でない。むしろ得意ではない。

 実戦に耐えれる程の設計を単独で出来る程、ガオガイガーの構造は甘くないのだ。

 

 この話を持ち掛けた幼少時は、互いにズブの素人。

 しかし時を重ねるにつれ、腕を磨く事が出来、この度設計図が完成に至った。

 

 尚、イカルガも共同設計にしようか?とカルディナより話を持ち出そうとしたが、その頃には設計思想が互いに違っていたのを感じたため、口には出さなかった。

 

 しかし、交換日記の如し交換設計の中で、カルディナの魔法技術を十全に習得したエルネスティが、それを活用しない訳がない事は、ご理解出来るだろう。

 

 ……そして、もう一つ。

 

 

「──この魔術演算機(マギウスエンジン)魔法術式(スクリプト)、宜しいのですか?」

「ええ、そちらは僕からのプレゼントです。」

「でも、これはアディとキッドの努力の結晶でしょうに……」

「──それは大丈夫!」

「俺もアディも納得してる。カルアに役立て欲しいからな。」

「……アディ、キッド。」

 

 

 それは人馬型幻晶騎士(ツェンドリンブル、ツェンドルグ)の四足歩行のものだった。

 カルディナが使うには多少手を加える必要はあるが、それだけで済む完成度。

 以前カルディナが「四足歩行の魔術演算機(マギウスエンジン)を造るのは難しい」と手紙でボヤいていた事を覚えていたようで……

 

 

「新型炉の事は結果的にフレメヴィーラ王国にはプラスになっています。ただ前王陛下からは、公には出来ない事なので、僕達の裁量で自由に決めて良いと。なので少しでも助長出来るようにそれしました。」

「……確かに受け取りましたわ。これで国本で開発に着手出来ます。ですが……その。」

「何か?」

「……エルとキッドが、蓑虫の如く縛られたままで、キリッとそんな事を言われても大して心に響かないというか……」

 

「「「……」」」

 

 

 折角の恩情も、前話より縛られたままの2人(エルとキッド)見て、感動が半減したという……

 

 

「……締まりませんねぇ。」

「──貴方(元凶)が言わない。」

 

 

 本日2回目のハリセンが舞った。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「ではカルナ。僕にも約束の報酬を……」

 

 

 縄を解かれた後に、エルネスティが放った言葉である。

 その言葉に一同、冷ややかな視線に……

 

 

「……このタイミングで言います?」

「はい。おそらく今を逃すとカルナは親方辺りに挨拶した後、帰るかと。」

「そんなまさか……」

「──お嬢様ならあり得る展開ですね。」

 

 

 フミタンの突き刺さるような発言に、カルディナの顔は明後日の方向に。

 

 

「……そのまま忘れていれば良かったものを。」

「それは許しませんよ、カルナ。働きに見合った正当な報酬は受け取らねばなりません。」

「冗談ですわ。先程の行いで乗り気でなかっただけで、流石にここまで振り回したのです。無下にはしませんわ。」

 

 

 と言いつつ、右手を無造作に『収納魔法』の黒い穴の中に手を入れる。

 そこから取り出してきたのは、お嬢様の工房お手製の魔術式投映機(プロジェクター)拡声器(スピーカー)の上映セット。

 更に、10センチ大の正方形の板状水晶盤がズラリと入った箱を幾つも取り出した。

 

 それは魔術的な情報集積体『在りし記憶の板札(メモリアル・カード)

 元は、直径20センチ程の透明な球体であった『在りし記憶(メモリアル)』の進化版である。

 

 

 

「まずは『ガンダム』から『逆シャア』までと、そして熱望してました『F91』のHD仕様のフルセット。『Ζ』は劇場版もありますわ。」

「──ktkr!!」

 

 

 エル君、歓喜のあまりガッツポーズ。

 

 

「次は『G』と『W』、『X』、見れなかったと気にしてました『UC』のフルセットです。」

「キタ━━━ε=ε=ε=(*ノ´Д`)ノ゚.+:。」

「Σ(゚Д゚)クルナ━━━━!!」

 

 

 

 喜びのあまりに、カルディナに抱き付こうとした瞬間、3度目のハリセンを執行。

 

 

「痛いです。」

「……そんなにはしゃぐのであれば『ガン×ソード』と『ダンクーガ・ノヴァ』、『ゲッターロボ(世界最後の日)』をぶち込みますわよ?」

「『マジンカイザーSKL(地獄の公務員)』はありますか!?」

「あります。『ギアス』地上波全編と『SRW ジ・インスペクター』はオマケしておきますわ。」

「何と言う僥倖!!」

 

 

 ワザとか!?と思うほどのやり取りである。

 そしてコールされる度に次々と積まれ行く『在りし記憶の板札(メモリアル・カード)』。

 ……これ、報酬の一部なんですよ。

 

 

「いいなぁ、エル君。私も何か見たいなぁ……」

「ならアディも続き見ます?『ドラえもん』。後は『ベルサイユの薔薇』かしら?」

「さっすがカルナ!愛してるぅ!」

 

 

 どうやら留学中にエルネスティ以外にも、アニメ見せていた様子。

 そうなるとキッドも食い付いてくるようで……

 

 

「なあ、俺には!?」

「──『無限のリヴァイアス』。」

「……嘘、だよな?」

「じゃあ『ぼくらの』。」

「……カルナは俺の事、嫌いなのか?」

 

 

 『orz』と、うなだれるキッド。

 無理はない。

 かつて、この2作連続視聴でキッドはトラウマを作っていたりする。

 これで『蒼穹のファフナー』まで見せた日には……

 

 

「冗談ですわ。はい、『グレンラガン』。」

「──ヤッホーーーイ!!」

「……そういえば、これの影響でキッドはツェンちゃんに大型のドリルランスを装備しようとしてたわね。」

「フフン、ドリルは漢の魂だッ。」

「その通り!ですわ!」

「あ~、それなんですがねぇ……」

 

 

 キッドに続いてカルディナも同意するが、エルネスティが待ったをかけた。

 彼曰く、以前ドリルランスは設計したものの重量とバランスの関係でボツになった経緯があるという。

 加えてフレメヴィーラ王国に回転機(モーター)がない上に、あったとしても動力源はどうする?という問題点もある。

 なお、ドリルじゃなければバランスを保ちやすい、という。

 

 

「──という訳でオススメ出来ません。」

「……うう、カッコいいと思うんだけどなぁ。」

「早々、上手くは行きませんわねぇ。」

「確かに『グレンラガン』……ドリルは漢の魂でしょう。しかし、キッドにはもっと相応しいコンセプト(ロボット)がありますよ。」

「……まあ、確かに。私にも心当たりがありますすわ。」

「……参考までに、いったい何で御座いますか?お二人共。」

 

 

「──それは『グロースター』です。」

「──それは『真ゲッター2』です。」

 

 

 

 

 

 ………

 

 

 ……………

 

 

 ………2人の後ろで、落雷のエフェクトが起きたのは気のせいだろうか?

 そして眼球のみ互いを見合せ、また視線をキッドに戻す。

 

 

 ……その時、キッドは見てしまった。

 一瞬、見合せた2人の表情が、笑っていなかった事を。

 

 

 ──そして始まる無慈悲なプレゼン合戦が、キッドを襲うッ!!

 

 

「──グロースターの設計思想の流用であれば重量バランスを気にせず大型ランスを装備すれば良いだけです、追加で脚部にランドスピナー装着すれば地上走破も容易、突撃槍だって安定した姿勢で行えま───」

「──真ゲッター2のように大型ドリルを腕に一体化させれば槍とは違ってバランスが安定するでしょう、さもなくばドリルランスに対してカウンターウェイトを設置して重量バランスを保てば、それには大型の盾を流用すればよいでしょう、あ、回転機(モーター)は私の工房からお売りしますわ、出力増加には幻晶騎士(シルエットナイト)用新型炉を2機使えば───」

「──スピナーを使って高速反転すれば安定姿勢のまま再度突撃が可能になります、そしてスピナーの切り替えでどんな地形にすら対応出来るので活動地形を選びません、なので───」

「──従来機以上の出力が得られますので、強行軍を行っても馬車の搬送をしても問題なく運用可能かと。なので───」

 

「──『グロースター』仕様にしません?」

「──『真ゲッター2』仕様にしません?」

 

 

 そして同時に終わる2人のプレゼン。

 満面の笑みでキッドを見つめる、2人の発する「こっちを選べ」の無言の圧力が酷い。

 なお、キッドには半分も理解出来なかったようで、辛うじて絞り出した言葉が……

 

 

「……2人の意見を合わせて採用、って事じゃダメ?」

「──ダメですね。ドリルは無理です。」

「──ダメですわ。ドリルは付けるべきです。」

(……うわぁ~、地獄ー!)

 

 

 なお、このプレゼンに折半(引き分け)等有り得ない。

 だが、どちらも譲るつもりはない。

 

 

「……宜しい、ならばプレゼン(クリーク)(第2ラウンド)です。」

「……ええ。所詮、私達は(リアル系信者)(スーパー系信者)の間柄。完全に和解など不可能。ですが、結論(採用案)は出さねばならない。」

 

 

 

 何という威圧感か。

 互いに技術者、研究者故に、己の案が採用されない、通らないは許されない。

 

 カルディナは右手で激しく指差す○太郎。

 エルネスティは右手で顔を隠して目だけチラリズムの、ジ○ナサンのポーズ。

 

 立ち姿がキレッキレのジ○ジョ立ちであれば、顔も激しくジ○ジョ顔であるッ!!

(ニホン人なら誰でも出来る近代芸能では!?というカルディナ偏見より。)

 

 

 

「……さあ、始めましょう!僕達のプレゼンを!」

「このプレゼン、如何にツェンドリンブルに相応しい案を出せるか……」

 

「「──どちらが優れたより善きプレゼン(クリーク)(物理)が出来るかを!!」」

 

 

 

 突如、カルディナエルネスティの宿命の対決(??)の、そのゴングが鳴るッ!!

 

 

 ……というか、主旨がずれている気が。

 

 

 

 

 

《NEXT》




話の内容として、ガオ×ナイツマではなく、どこかのオタ同士の会話と錯覚しそう。
そして、アディとキッドは交通事故レベルでカルナさんの趣味に巻き込まれている。
ノーラさんは逆に不憫。こらフミタン、笑うな。

エル君の報酬は少々サービスし過ぎかなぁ?
皆さんはエル君の報酬は他に何が良いと思います?

新型エーテルリアクタは、歌+姿形が正確であれば再現できるような設定にしていますが、逆に言うなら、新型炉1基だけでは原作再現のみの応用がしづらい仕様になっています。
では、2基であれば?

ただし、カルディナさん以外は創れない仕様(白目)
エル君は模倣なら可能なレベル(orz)

あと、今まで誤字報告してくださった方々、ありがとうございます。
なんらアクションがないと思っていらっしゃる方もいるでしょうが、ちゃんと見てます。


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Number.07 ~狂人、2人の会談~(3)

お久しぶりです。
だいぶ更新が遅くなってしまいましたが、無事生きてます。
世間はコロナ騒ぎで大変になってますが、私は健康そのものです。
皆様も御自愛下さい。

さて、無茶苦茶な狂人達の会談もこれで終わりです。
どんな結末を迎えるか、どうぞ!


※この話の終わり辺りに『いつか星の海で』の歌詞を入れています。


 ──試験訓練場

 

 

 

「──しかし、このガオーマシンってのは、奇怪に見えて、実はその個々の役割がハッキリして性能は凄ェな。」

「よくもまあこんなの思い付くよねぇ。」

「空は飛ぶし、地面に潜るし、何でもアリね。」

「それでいて、これが人間用の個人装備というのが驚かされるな。装着している姿は幻晶甲冑(シルエットギア)より鎧感があるのに、分離(?)すると訳が解らなくなるが……」

「……ある意味、実にあのお嬢様らしいと言えるね。」

 

 

 ダーヴィット、バトソン、エドガー、ディートリヒ、ヘルヴィーが試験場にて待機中のガオーマシン各機を間近で見ていた。

 やはり彼らとしてもガオーマシンは異常と言わざる得ないが、エルネスティによって鍛えられた(マヒした)感覚が正気を保たせていた。

 

 

「それは俺も同意するぜ。何せ、全く方向性の違うモノ同士を、何と身に纏うんだ。こいつを考え出した奴の正気を疑うぜ。」

「……親方。それ、カルナが聞いたら怒るわよ、きっと。」

「構うかっての。あのお嬢様には3年前に散々銀色坊主(団長様)と好き勝手やられたからな。その所業は今でも忘れちゃいねぇ。今更正気を疑ってもおかしかねぇ。」

「……そう言われると、否定出来ないな。」

「そしてその結果、テレスターレが出来た、と。」

「……あれは本当に傑作機だった。銀色坊主の出した案に対し、不安個所を完全にカバーしたお嬢様の魔法の手腕はヤバかった。そして組み上がったテレスターレの性能は、当時のどの最新機よりも欠点もなく、強かったと断言出来る。奪われたのはショックだったが、その隠滅方法も狂気じみていると来た。その狂人様の片割れが、心血注いで創ったのが、こいつだ。」

「しかもそれは、これから創る予定のミニチュアという……幻晶騎士(シルエットナイト)の技術を流用しているとはいえ、何でこんなものが出来るやら……」

「本当ねぇ……」

「あ~、それはな。きっと『仕方なく』じゃねえか?」

「仕方なく?」

「親方、どうしてそう思えるの?」

「おそらくな、ガオーマシンって奴ら(こいつら)は本来、別の技術で創られたものなんだろうよ。けど『再現』しようにも、この世にある技術ではどうしようもない。だから『仕方なく』幻晶騎士(シルエットナイト)の技術で創った。俺にはそう思えてならねぇ。」

「そう思う根拠は?」

「……お前ら、これ(・・)を空想であっても思い付くか?」

「……いや。」

「無理、ね。」

「うん。むしろどう思い付けと?」

「オイラも無理。この世のモノとは思えない。」

 

 

 如何に性能が良くても、彼等の目に映るのは怪しい空飛ぶ黒い板(?)と、回転する角が付いた四角い箱、羽の付いた長細い物体だ。

 幻晶騎士(シルエットナイト)に慣れ親しんだ者達が思い付くものではない。

 

 

「だろう?俺にも無理だ。そもそも鎧をこんな仕様で扱う意味がねぇ。発想がそもそも『別次元に』違うのよ。何か別の思惑、全く違うモノがあるって言われた方が、まだ説得力があらぁ。」

「確かにな。」

「まず『合体』って時点で私達には思いつかないわよね。」

「何でこんな仕様にしたやら。あのお嬢様の事だ。ロクでもない事を考えているんだろうな。」

 

 

 当然の疑問に三者三様の感想が出てきた中、やれやれと頭を掻くダーヴィット。

 だが、その観察眼は流石の一言。

 

 

(……全くよ、ダーヴィズの野郎もあんな無茶苦茶なお嬢様ん所で、何やってんやら。「英雄の剣を造る」とか言って出ていった癖に、英雄とは真逆の人物に拾われてんじゃねぇか。)

 

 

 直接関わってはいないが、親との喧嘩別れで家を出たと聞いた従弟(ダーヴィズ)、その所在をカルディナより聞かされたダーヴィットはゲンナリしていた。

 半ば消息不明だったので、所在がハッキリしたのは安心したが、想像以上に危ない場所(お嬢様の工房)にいるとは思わなかった。

 

 それはガオーマシンを見れば、すぐ解った事だ。

 

 目の前にあるものは小型だが、実用化された時の実物大の性能は、おそらく自分の知る幻晶騎士(シルエットナイト)など凌駕する事を。

 

 カルディナの留学中のあれやこれやを知る身であるため、彼女の技量は充分に熟知しているが、今や技術的な事は当時より更に先に行っている。

 ましてや滑空や滞空ではなく『飛行』の要素を取り入れている。

 

 

(俺ですらエルネスティ(銀色坊主)の『アレ』で、これから実現化すると思っていた矢先にコレだ!どんだけ先を行ってやがる!?学ぶべき事が多過ぎて頭が混乱するじゃねぇか……! ったくよぉ、ダーヴィズ。お前ェ、トンでもない所にいやがるな。)

 

 

 そんな時に試験場の搬入口より、得物のガーンディーヴァで魔法を発動させ、脱兎の如く疾走するオルター兄妹が乱入する。

 そしてアディが大声を上げて皆に知らせた。

 

 

「───みんな『それ』から離れてーーーッ!!!」

「あの2人がヤバいーーーッ!!!」

 

 

 続け様にキッドも叫ぶ。

 一瞬、何の事か解らなかったが、『2人がヤバい』のワードに、全員事態を察知。

 誰に指示される事なく、観戦席まで退避する。

 その瞬間、待機状態のガオーマシン各機が一斉に起動し、一斉に動き出して周囲を旋回する。

 

 そしてその中央に、突如として『黒い穴』が出現。

 奈落からリフトアップされるように『黒い穴』より、目を瞑り、腕を組んで姿を現したのは、カルディナだった。

 

 そして目を見開いた瞬間、左腕を高く掲げてポーズを取った。

 

 

「───『装着(イークイップ)』ッ!!」

 

 

 地面から突如として8本の身の丈を遥かに超える黒い柱が生え、更に柱と柱の間に黒い壁が出現し、瞬く間に壁や柱が砕け、消える。

 

 突然現れた黒い柱と壁──瞬間装着空間は、カルディナが野外にて『IDメイル』に着替えるための、即席の密閉空間である。

 

 その中から現れたのは、白い戦装束に金色の鎧、黒いスカート、翡翠色のモノクルの装備を携える『IDメイル』を身に付けたカルディナだった。

 エヴォリュダー・ガイの『IDアーマー』とガイガーのボディをイメージした『IDメイル』は、初めの頃より更に洗練されたものになっている。

 

 その後、ウィンチェスターⅠ・Ⅱを用いて低空滑走してきたエルネスティが、搬入口より姿を現したのを皮切りに、カルディナは行動を起こす。

 

 

「──さあ、刮目しなさい!ファイナル・フューーージョンッ!!!」

 

 

 空中に舞い上がり、光魔法による障壁を広範囲展開した後、カルディナの遠隔フルコントロールがガオーマシン各機にFFのフォーメーションを実行させる。

 

 両脚をドリルガオーが包み、金色の回転衝角携えた剛胆な脚部となる。

 両肩にSライナーガオーが留まり、両肩を護る実直な鎧と成す。

 背部にステルスガオーが垂直急降下し、黒き鋼の翼となる。

 金属音を奏でながら、一対の金色の腕に黒い剛腕と鋼の拳が備えられる。

 胸の複雑なパーツ達が全て稼動し、鋼の獅子(ギャレオン)を形造る。そして、鋼の翼より赤い鬣を託され、瞳に光が宿る。

 

 最後に黒い翼から、金色の兜飾りを備えた黒い兜がカルディナに被さり、鬼にも似た面当て(フェイス)がその顔を覆う。

 

 翡翠色の魔石が兜飾り窪みから現れ、その瞳に力強い光が瞬く!

 

 我等が前に誕生したその勇者の名は……!!

 

 

「──ガオ・ガイ・ガーーッ!!!」

 

 

『───!!?』

 

「……素晴らしいッ!」

 

 

 その場にいた誰もが驚き、戦慄する。

 特にその誰もが思い付かない『合体』内容に対し。

 

 そして対峙するエルネスティは、喜びに震えて賛辞の言葉を贈った。

 子供の頃テレビで憧れ、リアル系ロボが好きになった大人になったでさえも、潜在的に心の支えとなった作品の一つでもあるガオガイガーが、ミニチュアサイズとはいえ、目の前にあるのだから……!!

 

 

「……では、僕もいきます。来たれ、『《禍鳥(マガドリ)》』!!

 

 

 手を空高く掲げるエルネスティ。

 するとその背後に『黒い穴』が出現。

 

 その『黒い穴』は『収納魔法』。

 留学中にエルネスティがカルディナにねだって覚えた魔法である。

(なお、習得にはカルディナの協力があり、膨大な魔力と、特殊空間の知識の概念がないと習得不可)

 そこからエルネスティより大きな『人型』の存在が舞い降りる様に現れる。

 そして蒼い胸部装甲が展開し、エルネスティは跳び乗る。再び閉じたその姿、姿形から来る威圧感はまさに『蒼い鬼神』──『イカルガ』である。

 そしてウィンチェスターⅠ・Ⅱをヴェスバーの如く装備し、いつの間にか白い鞘を蒼い鞘へと交換していた。

 

 

「それは……!!」

「特別に創った幻晶甲冑(シルエットギア)です。そして僕がこれから創る幻結晶騎士(シルエットナイト)のミニチュア、といえば宜しいでしょうか。名前は仮称、という事で『《禍鳥(マガドリ)》』としています。」

 

 

 ──《禍鳥(マガドリ)

 

 エルネスティが全力で設計した『斑鳩(イカルガ)』。

 この先創るであろう、応急処置であれど新たな可能性を見出だした『(カササギ)』。

 

 彼は小説版、アニメ版(ルーツ)の中で2機の専用機を創っている。

 どれも凶鳥のイメージを感じさせる鳥だ。

 実際の鳥はそうではないのだが。

 トイボックスも創っているが、あれは試作・試験機。

 《禍鳥(マガドリ)》という名前は、存在定義として『どんな禍(厄)すら、相手にもたらせる』という意味では、目の前の幻結晶甲冑(シルエットギア)にはピッタリではないかと、カルディナは思った。

 

 ……だが字面のせいか?

 

 

「禍転じて、吉兆と成す、されど凶成り……その内、ブラックホールエンジンを搭載しそう(バニシングしそう)な気がするのは、気のせいですの?」

「…………ああ!!」

「何、『その可能性が有りましたね!』みたいな相槌を打つのです?この意味解ってます!?」

「……そうか、ブラックホールエンジンを積める可能性があるのでした。それは後程、お話を!」

「話を聞きなさい!!まさか……実物(イカルガ)には積まないでしょうね!?絶対ですわね!?絶対駄目ですわよ!!」

 

 

 

 『ブラックホールエンジン』が何かは知らないが、2度も3度も言うな、フラグになるから止めろ!!

 と、一同心の中でツッコミを入れる。

 

 

「今はツェンドリンブルの武装の事でしょうに。」

「そうでした!では始めましょう!」

 

 

 

 

 

 ……そして冒頭(1)に戻る。

 

 

 

 闘技場に響く2つの声と、空中を縦横無尽に何度も交わる黒と蒼の閃光。

 そして鋼の鬼面。

 戦争という名のプレゼン合戦は、開始30分を迎えようとしていたが、まだ紛糾していた。

 

 

「接触式にしてしまうと、持ち返す時に止まってしまいます!!ランス形状であれば、そんな苦労はしないで済むのに!!」

 

 

 銃装剣(ソーデットカノン)二振りから、白い閃光とも呼べる法撃を上空にいるガオガイガーへと放つ禍鳥(マガドリ)

 

 

「キッドも仰っていたでしょう!!ドリルは漢のロマン!使用者の希望は最大限汲むべきです!!であれば、直に回転機(モーター)に動力炉を付ければ良いでしょう!!」

 

 

 それをプロテクト・シェードで受け止め、跳ね返すガオガイガー。

 

 

「現状ではON・OFFが難しいです!グリップにスイッチを付けるべきでは!?」

 

 

 当たれば只では済まない、跳ね返された自身の法撃を回避しつつ、禍鳥(マガドリ)はスラスターを全開で接近する。

 

 

「──いいアイディアですわ!!しかし、キッドに……!!負担がかかりましょう!!」

 

 

 その行動を読んでいたガオガイガーは、上空から迷うことなくブロウクン・マグナムを発射。

 回避する禍鳥(マガドリ)だが避けきれず、右の銃装剣(ソーデットカノン)が手から弾かれる。

 同時に左のドリル・ニーを高速回転させて、禍鳥(マガドリ)へ向けて全力で降下。

 

 

「──であれば、キッドに相応の修練を積んでもらわねば!!」

 

 

 それをスラスターを効かせて独楽の様に廻り、すれ違い様にガオガイガーに一太刀浴びせるイカルガ。

 しかし分厚い装甲は傷一つ付かない。

 

 そしていきなり自分に振られて来て驚くキッド。

 周囲からは同情の視線が。

 

 着地と同時に地面に突き刺さったアームを回収、装着し直すと再びスラスターを吹かせ、禍鳥(マガドリ)へと肉薄しようとガオガイガーは飛び上がる。

 だが制空権を得て、再び法撃を放つ禍鳥(マガドリ)の弾幕はガオガイガーを容易に近付けさせない。

 

 

「さてどれ位が宜しいかしら……!!」

「キッドなら『レベル3』スタートでも行けそうです、よ!!」

「あら、そこまで成長しているとは!!『レベル4』到達が楽しみですわ!!」

 

 

 右腕を高速回転させて、法撃をそらしつつプロテクト・シェードを展開、まとめて跳ね返すガオガイガー。

 それをウィンチェスター(ヴェスバー)が光の帯を描き、迎撃する禍鳥(マガドリ)

 そして爆発を目眩ましにガオガイガーはスラスターを全開、禍鳥(マガドリ)へと突っ込む!

 

 ちなみに『レベル~』とはトレーニングの事であり、その内容はキッドが青ざめて震え上がり、アディや他の者達が御愁傷様、と慰めている事から察してほしい。

(カルディナ基準のスパルタトレーニング)

 

 

「──では、最後にツェンドリンブルをどの様に改造するか。勿論…」

「ええ、当然……」

 

 

「──スーパー系でしょう。」

「──リアル系ですよね。」

 

 

 

 

………

 

 

 

……………

 

 

 

 

「───どうして、どうして貴女は解らないんですかッ!?スリム&スマートな機体であり、高機動戦闘をするなら、リアル系を定義すべきでしょう!!」

「貴方こそ、どうして理解出来ないのですッ!?人馬型といえば、鋼鉄ジークのパーンサロイド、スーパー系でしょうに!!それにぶつかる事を前提にすれば、装甲の厚いスーパー系仕様にするのは至極当然!!」

 

 

 いきなり話が脱線した。

 2人はツェンドリンブルを『素早く』か『固く』するか、どちらかにしたいようだが、意見はお互いの信念(趣味)に基づいて真っ二つに割れた。

 

 そしてそれに伴って戦闘は更に苛烈に。

 言葉を重ねてはいるが、もはや持論を押し通すのみの水掛け論にしかなっておらず、説得は役に立たない。

 しかも、2人はとてつもない実力者であり、目の前で苛烈な激戦を繰り返す幻晶甲冑(シルエットギア)は実力で止めようにも、誰にも止められない。

 仮に幻晶騎士(シルエットナイト)を出したところで、今の2人には格好の餌食でしかない。

 おそらく、無意識の連係プレーで撃墜させた後、仕切り直す材料にしかならない。

 

 

「……やべぇな。雲行きが怪しくなってきやがった。」

「ああなった2人は止めようにも止められない。ましてや3年前より実力と厄介さは上がっている……どうしたものか。」

「───おや、皆さん。どうされました?」

 

 

 そんな時、救世主が現れた。

 しかもメイド服を着た、救世主が。

 

 

「あ、フミタン!」

「そういや居なかったわね。今までどこ行ってたの?」

「お2人が急に部屋を飛び出してしまい、私は独り部屋の荷物の整頓を。たくさんあって大変でしたが、今し方終えて来たのです。」

「フミタンさん!!あの2人、どうにかしてよ!!」

「どうにか、とは……ああ、なるほど。」

 

 

 バトソンに泣きつかれ、見上げるフミタンは目を細めた。

 自分の主と、その親友が激戦を繰り広げていたのだ。

 

 

(きっと理由はロクでもない事、なのでしょうね。)

 

 

 そうやれやれとしながらも直感で思うフミタン。

 間違っていない。

 

 

「ちなみに現在の会話の内容は、どのような流れで?」

「会話の流れ?たしかツェンドリンブルの武装の話が一段落したと思ったら、今度はツェンドリンブル自体の強化で話がこじれて……」

「たしか、スーパー系がどうの、リアル系がどうのと……」

「……わかりました。何とかしましょう。」

「え?今の話で?ていうか出来るの?」

「はい。これからする事の為に、もっと言えば『私に正当性のある理由』がある事が重要なのです。そうしないと私はクビになりますので。」

「意味が解らないんだが……何をする気だ??」

「───『2人をぶん殴る』。そう言えば解かるかと。」

 

 

 ───マジか!?

 

 

 ぶん殴るというワードに驚く一同。

 忠義精神あふれるフミタンからそんな言葉を聞くとは思わなかった。

 しかし……

 

 

「この状況で、どうやって??」

「直接、という訳ではないですが、間接的に。」

『??』

「まあ、言葉では解りづらいので、見ていてください。」

 

 

 と言って、激戦地の近くギリギリまで近寄り、大声で話しかけた。

 

 

「──お嬢様~!エルネスティ様~!話の論点がズレてませんか~!一度頭を冷やされては~!?」

「何を言ってますの!!武装の話は終わりましたが、話はこれからですわ!!」

「そうです!!次の話がまだ終わってません!!」

 

 

 やはりフミタンの話には聞く耳を持たず、激戦を繰り返す2機。

 だが、カルディナは言った。

 『武装の話は終わった』と。

 

 エルネスティは言った。

 『次の話がまだ』と。

 

 

「……やはりですか。話が一区切りすれば終われば良いものを……ですが質言は取らせて頂きました。強制執行に入ります。」

 

 

 そして右腕を水平に伸ばした。

 その瞬間、上から『黒い穴』が現れた。

 『収納魔法』である。

 

 

「──武装選択(アーム・セレクト)召喚(インストール)。」

 

 

 そしてそこから現れたのは、とてつもなく長い、黒くて鈍い金属光を放つ長物。

 それをフミタンは鷲掴みし、軽く振り回した後、グリップを掴み、構える。

 

 

魔力(マナ)流入開始。サイトスコープ、起動。同調開始……」

 

 

 対象は非常に速い。

 しかし一定の動きをしている以上、眼で追えない訳ではない。

 狙うは動きが限られる地面スレスレの低空時の競り合い。

 

 

魔術演算機(マギウスエンジン)、起動。電磁加速機(リニアドライブ)、荷電稼働50から75%へ。」

 

 

 ならばさっさとこのバカ騒ぎを治めよう。

 

 

「『T&Vバレット』、装填。」

 

 

 

 これのモデルは、アキュラシー・インターナショナル AS50。

 イギリスで作られたフォルムの美しい狙撃銃で、重さ約14.1キロ、5発箱形弾倉。

 有効射程距離1500メートル。

 遠く離れた標的を非常に正確に狙撃出来る驚異的な殺人マシン(スナイパーライフル)……

 

 

「ターゲット、インサイト。」

 

 

 ……を参考に魔改造されたフミタン専用の魔術式(マギウス)電磁投射砲(レールガン)

 

 その名を、One Shot One Kill Rifle(2度撃ち要らず。)

 通称『お仕置き銃』。

 

 

「……全行程、終了。確実に仕留めます。」

 

 

 ───発射。

 

 

「───つまり、その理論では無理ですッ!!」

「であれば、尚更必要で──ギャウンッ!!

 

『──!?!?』

 

 

 引き金を引いた瞬間、空気が弾けるような衝撃音と離れていたはずの周りの人間達が仰け反る程の衝撃波と、フミタンの激しくなびくメイド服(正統派のクラシカル)と共に、銃弾がガオガイガーの側頭部に炸裂(ヘッドショット)

 スラスターを利かせた前進から、突如側転のように吹き飛び、視界から消えた光景は、対峙するエルネスティから見て、何が起きたか解らない程。

 そして認識する暇もなく、不穏な気配を察知した2発目の凶弾に反応し、回避出来たのは奇跡だっただろうか?

 そして、訳の解らぬままその気配の先を見ると、アキュラシー・インターナショナル(まさかの銃)を構えるフミタンの姿。

 そして先程の正体が『弾丸』だと認識した時、エルネスティは戦慄し、体を強張らせてしまう。

 

 それは『転生者(倉田)』故に、銃の恐ろしさをある程度知っているがための、一瞬の隙。

 

 そして先程外したのは、禍鳥(マガドリ)の動きを誘導、牽制する『誘い』。

 しかし、もっと怖かったのは、エルネスティが見たフミタンの表情だった。

 

 

 ───ニッコリ

 

 

「ちょっと待っ──はぶしッ!!

 

 

 そこに、間髪入れずに容赦ない第2射。

 カルディナより、エルネスティの事を聞かされていたがために出来たフミタンの奇襲は、とても的を射ていた。

 結果、禍鳥(マガドリ)《エルネスティ》の無防備な前頭部に弾が炸裂(ヘッドショット)

 そして強制的に飛ぶ意識のまま、後方1回転した後、その蒼い鋼の躯体は地面に沈む……

 

 

「「「…………」」」

 

 

 まさか本当に『ヤる』とは……

 

 自身の主と、その親友(?)を淡々と狙撃し終えたフミタンは、自身の得物(お仕置き銃)を『収納魔法』に落とし……

 

 

「ミッション・コンプリート。」

 

 

 と、一言。

 

 

「……って、あの2人大丈夫なの!?」

「問題ありません。お二方共、脳震盪を起こして気絶しているだけです。それに『身体強化魔法』をかけていらっしゃるので、致命傷にはなっていません。」

「ってか、今の何だ!?」

「『銃』と申しまして、小さい礫を超高速で放つものです。使用したのは『T(手加減)&V(高振動)バレット』──不殺弾です。当たっても血は出ず、とーーーーーーっても痛くて悶絶するだけの代物です。流石に対人用の弾は、お二方には弾かれるだけで通用しないので、使用しましたのは対魔獣用の弾ですが。」

「……ていうか、主に手を上げて(?)大丈夫なの?」

「問題ありません。以前より議題紛糾し、内容が脱線した際には止めて欲しいと、お2人からは申し付けられていましたので、手っ取り早く実力行使を。

「……メイドとして、それでいいのか?」

「はい。アースガルズ家のメイドたるもの、時に主人を(物理的に)止められなくて、どうします。主人の命令もありましたので、遠慮なく撃たせて頂きました。

 

 

 

 ───何、この従者(メイド)こわい。

 

 

 

 この(カルディナ)にして、この従者(フミタン)あり。

 そう思った一同だった。

 

 

 

 


 

 

 

 

「「──すいませんでした~。」」

 

 

 そして気が付いたカルディナとエルネスティが、最初に取った行動が、土下座だった。

 

 ただし、ガオガイガーと禍鳥(マガドリ)のままという状態故に、その光景は非常に奇妙なものとなっていた。

 特にガオガイガー、どうやって正座をしている。

 

 

「……本当に反省してんのか?」

「もちろんです!ツェンドリンブルの強化方針がまとまったところです。」

「やはり前面装甲を強化し、突撃特化にするという方針になりました。」

「当然、瞬発力と機動性を確保すべく、全身の結晶筋肉(クリスタルティシュー)は魔術的に強化したものを増設。」

「そのレシピはエルにお伝えしたので、どうかお役立て下さい。また、ドリルランスと利き腕の保持には専用の固定器具を増設。起動方法は接触式にしましたので、安全装置をしてもばっちり。またドリルの形状は試作型になりますが、大型の破砕特化仕様(ガオファイガー仕様)としました。」

回転機(モーター)は従来の炉を使用しても問題なく攻撃力は大幅に上がりましたが、同時に武器が暴れ馬になりましたので、キッドには『レベル4』習得を──」

「───よし、お前ら2人が全く反省してないのは、よぉ~~~く判った。」

 

 

 そしてダーヴィットに反省の色なしと見なされ、他の団員達がティータイムを満喫中の中で、現在2人は荒れた試験場の整地作業(魔法の使用禁止)をさせられていた。

 皆がお土産を楽しみにウキウキである中で、ただ1人、キッドの足取りは重く、青冷めていたが……

 

 

「所謂『解せぬ』というヤツですわ。」

「その通りです。反省して強化案を出したのに、お偉いさんには解らなかった様ですね。」

 

 

 整地用の棒を手慣れた手付きで抉れた地面を均すカルディナ。

 そして小走りで荒れた地面をムラなく均すエルネスティ。

 手慣れ過ぎたその手付きは、一度や二度ではない事を物語っている。

 そして互いに手を動かしながらも、口が減らずに話が続いているのは、もはや才能と言っていいのだろうか?

 それ以前に、この2人の『反省』は別の次元にありそうな様子。

 

 そんな事を繰り返しながらも、整地作業は終わった。

 

 

「ふぅ~、やっと終わりましたわ。」

「全く、ようやくです……あ、そうだ。一つ伺っていなかった事が。」

「何ですの?」

魔力転換炉(エーテルリアクタ)の中心術式の実験で、カルナがあの数しか実験していなのかな、と思いまして。もしかしたら、言わなかっただけで、他のもあったのでは?」

「……まあ、その通りですわ。」

 

 

 エルネスティに話を振られたカルディナの表情が曇る。

 実はあの場では言わなかっただけで、他にも実験項目はあった。

 しかも相当ヤバい部類の内容だ。

 それが次の通りとなる。

 

 

 

・ラグナメイル仕様:ヴィルキス(可変機構が再現不可、武装の再現は成功)

・サイバスター仕様(稼働成功、可変機構が再現不可、精霊憑依(ポゼッション)不可)

・グランゾン仕様:(成功、ネオグランゾン不可)

・ライディーン(金)仕様(稼働、武装再現は成功。可変機構が再現不可)

・ゼオライマー仕様(失敗、その後崩壊)

・レイアース仕様(失敗、その後崩壊)

 

 

「……強烈過ぎますね。と言うか、幻晶騎士(シルエットナイト)で受け止められるモノではないでしょう。よく再現する気になりましたね?」

「……まあ、いい反省材料にはなりましたわ。」

 

 

 ヴィルキスは『永久語り』を歌い、各特性形態へとシフト出来、最後に『ディスコード・フェイザー』が再現出来た時点で実験を中止した。半ばギャグで行ったが、可変機構以外が成功した事で『ヤツ』がいる可能性に恐怖したからだ。

 サイバスター、グランゾンは時間制限があったとはいえ、ほぼ原作通りの実力を発揮してる。精霊憑依(ポゼッション)やネオ化は、機体が出力に耐えられなかったために中止した。

 逆に言えば、特注品を使えばどちらも再現可能と言える。

 金色のライディーンはカルディナの趣味で、元祖より好きなので再現したが、起動からしばらくして『彼女』のジト目視線を感じたため、中止。

 ゼオライマーは起動させた瞬間、機体の出力が勝手に上がり、胸部、両腕部に装着した寄せ集めの触媒結晶に『次元連結システム』からの力が流れ出て、「MEI・OHー!」の響きと共にメイオウ攻撃を上空へ放った後、外装が崩壊した。

 余波で周辺の地形が一時、窪地になったという。

 以降、外装を直してもゼオライマー性能は現れなかった。

 強烈過ぎる性能は、機体が崩壊する危険性もあるのだ。

 

 

 そしてレイアースはもっと酷かった。

 

 形にした瞬間、外装が起動前にも関わらず崩壊。

 それはまだいい。

 

 突如、落雷がカルディナを襲う。

 それは『殺さず活かさず』を体現した威力だったとか。

 突然の不意打ちで、防御もままならずモロに受けてしまったカルディナ。

 

 その薄れゆく意識の中で、遥か彼方の空に『それ』は、いた。

 

 

 

 ──モコ○モドキ。

 

 

《──違う。》

「──ぎゃびん!!」

 

 

 更に落雷。

 カルディナに追加ダメージ。

 

 

 ───じゃあ、まんじゅうウサギ。

 

 

《──シメるよ。》

「──ぎゃびびん!!」

 

 

 更に落雷。

 カルディナにクリティカルダメージ。

 

 

《……全く。『あの子ら』の波長を感じて来てみれば、中身こそ似てるけど、不細工なニセモノとは。創るなら、もっと造形は細かく……というか、やるならフルスクラッチ(中身から全部一緒)でしょうに。》

 

 

 何故か酷い駄目出しを受けた。

 しかもレイアースをフルスクラッチとか鬼の所業を宣告。

 

 

《……まあ、ここはどの世界からも、たらい回しにされ投棄された『あれら』を破壊するためのステージだからね。いつ達成出来るか解らないけど。》

 

 

 そう言って『南』を見る『それ』。

 

 

《『あれら』の影響で南半球に精霊とか悪魔、天使なんかが怖がって来たがらない。だからってこの世界、成長幅が大幅に上がりやすいとはいえ、元のステ振りが低すぎるのは、どうかなぁ……やっぱり新人に任せたのが不味かったか。久々に来たけど、酷い有り様だね。でも『いきなりラグナロクとかマジ勘弁!』には同意するよ。代わりにやれって言われたら、ラグナロクの再来で、こっちとの対消滅がオチか。》

 

 

 やれやれといった様子で、ため息混じりにガックリと肩(?)を落とす。

 そして次の発言が……

 

 

《……とか言って、唯一の対抗手段となる『勇気の結晶』の再現は『その手段』じゃ成立しないんだよね。一から再現しないと機能しないなんて……管轄、誰だっけ?あ、あの三つ太陽が並んだ星系!神になれる寸前に宇宙崩壊と内輪揉めと『あれ』のせいで滅んでるんだっけ?機能の保存をする前だったから、ライブラリーにも保存出来なかったって……》

 

 

 うわ~、どうしよう……と、うなだれる『まんじゅうウサギ』。

 

 

《……『勇気』を最大限発揮出来れば勝てるかも知れないけど、最後は因果律と概念殺しでゴリ押しかな?でも、『肥大したエゴの成れの果て』、『完璧なる混沌』、『虚無の支配者』。『奴ら』は何てものを押し付けて来たやら。》

 

 

 最後に《特に、自己満足進化で中二病拗らせてる、自称・神は、いつになったら『虚無の支配者』を倒せるやら……》と言い残して去って行った。

 

 

「本当にいたんですね、神様。しかも最初の会合が『まんじゅうウサギ』さんとは。」

 

 

 カルディナの嘘のような話を聞いたエルネスティは、まずそう感想を述べた。

 エルネスティも、かの御仁を『まんじゅうウサギ』呼ばわりである。

 

 

「ええ。あのまんじゅうウサギの独白通りであれば、フレメヴィーラ王国辺り……いえ、『山脈』を挟んで『南』にはラスボスを通り越して、裏ボス的存在がいると、そういう事です。」

「こちらに霊的要素、神話要素が欠片もないと思ったら、そんな事情があったとは……その3つの存在、一度見てみたいですね。」

「……見えますわよ。『あの平野』で。条件付きですが。」

「そうですか。なら後日行きます。後、それも気になるんですが、僕が一番気になるのはそちらでなく……」

「ああ、ガオガイガーの世界にあった三重連太陽系の事、それが遥か昔にでしょうが、存在した事ですか?そして『ライブラリーに保存されていない』という言葉の意味する事……」

「カルナ、もしかして……」

「ええ、『失敗』してます。」

 

 

・ガオガイガー仕様(起動のみ成功)

 

 

 正確には起動、稼働は出来た。

 しかし、それ以外は『失敗』でしかなかった。

 特に、ヘル・アンド・ヘブンのエネルギーは只の魔力(マナ)が集束したものであったし、何よりカルディナが一番期待していた『Gストーン』特有の反応(発色・発動時のEMトルネード等)は一切なかった。

 強いて言えば、そこにあったのはミニチュア・ガオガイガーの特性を更にデチューン化した、ただの幻晶騎士(シルエットナイト)でしかない。

 この結果は、あのまんじゅうウサギの言葉の通り、『ライブラリーには保存されていない』……中心術式に『歌』を入れても、『Gストーン』の力は発揮されない事を意味する。

 

 そしてこの結果を知ったカルディナは、その日荒れた。

 ひと気の無い所を選んだとはいえ、徹底的に破壊に明け暮れた。

 

 そして静寂を乱され、眠りと思索を台無しにされたキトリーが降臨。

 祖母と孫娘の半日に及ぶ大喧嘩が勃発。

互いに生身で戦っているというのに、大軍勢が

互いに生身で戦っているというのに、大軍勢が鬩ぎ合うような破壊をもたらし、一歩間違うと森都(アルフヘイム)が消滅しかねない事態だったという。

 

 尚、間近で見ていたアルヴァンズの皆様が言うには……

 

 

「……我々は決着が着くまで見ている事しか出来なかった。おそらく誰が介入しようが、あの戦いは鎮められないだろう。」

「最後に見た景色と言えば……突如現れた白い竜の様な存在が、眩い光の吐息(ブレス)をあのお嬢様に浴びせたところ、だろうか。その瞬間、強い衝撃と共に、全員気を失ったのだ。」

「その場にいた幻晶騎士(シルエットナイト)は全機大破、地形は見るも無残に抉れた。よく死者が出なかったと思うよ。だがあれを受けて、あの中心地の中、あのお嬢様はどうして五体満足で生きてたんだ?」

 

 

 ……閑話休題(ここまで)

 

 

「まあ結局、振り出しに戻った、という事だけですわ。」

 

 

 結局はそうである。

 そして今に至るまで、カルディナはガオガイガーの設計と同時進行で、Gドライブの要であるGSライド──心臓部のGストーンを創り出す事に心血を注いでいるが、その成果は芳しくない。

 

 だが、逆に言えばそれだけである。

 

 

「元々『落ちた花びらが頭に飾られた』的な発見ですもの。実験結果が伴ってなくとも、今思えば然程問題ないですわ。」

「そうですね。しかし当てはあります?」

「いいえ、全く。ただし、この件で一つ安心した事がありましたわ。」

「何ですか?」

「Gストーンは人の手で創れる、という事です。」

「まあ……まんじゅうウサギさんの話を極論付けて言えば、そう解釈出来ますね。ですが、ある種の『神の領域』の様な所業みたいですよ。それでもやります??」

「ええ。」

 

 

 エルネスティの問いに、カルディナは自信たっぷりに肯定するのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「───では皆様。ご機嫌よう。」

「失礼致します。」

 

 

 フミタンを背に乗せ、宵の空へ去って行くガオガイガー(カルディナ)

 その去る姿を名残惜しそうに見るアディ、そして銀凰騎士団の団員達。

 ダーヴィットあたりは「やっと帰りやがったか……」と悪態をつくが、それでも何か心配している様子だった。

 そして姿が見えなくなると、ポツポツと団員達はその場を後にしていく。

 

 最後に残ったのは、アディとキッド。

 そしてエルネスティの3人だった。

 

 

「エル。本当にこれで良かったのか?」

 

 

 宵の空を眺めながら、そうポツリと呟いたのはキッドだった。

 それにアディも続いた。

 

 

「久々に来たのに、あんまり構ってあげられなかったけど……」

 

 

 それに対し、エルネスティは空を見上げながら──

 

 

「良かったと思いますよ?見た通り、楽しんでいた筈です。」

「でも、たまに思い詰めたような顔してたけど……」

 

 

 反省(?)と暴露話の後、皆との交流で「本当に反省しているか怪しすぎる」程にはっちゃけていたカルディナ。

 ただ一時だけ、切ないような、思い詰めた様な顔をするのをアディは見逃さなかった。

 

 ……いや、言わなかっただけで、もしかすると他の団員も何人かは気付いていたかもしれない。

 

 

「それは仕方ありません。出来る事が具体性を帯びたからこそ、その位には思い詰めている、という事です。ですがカルナ自身が解決しなければならない事……彼女自身もそう思っている筈です。だからこそ、僕とて手助けは出来ないんです。」

「新型機の開発……そのノウハウはカルナもエル並みに持ってる筈なんだけどな。そんな難しいのか?」

「ええ。カルナの求めるモノは『絶対にそうじゃなきゃ駄目』なんです。僕とて求めているモノが違う以上は、手出しはしたいですが、出来ませんね。」

「その新型機、フレメヴィーラでも出来ればいいんだけど……」

「無理ですね、アディ。アルド・レイアの地……『北側』でないと出来ないんですよ。」

 

 

 特にフレメヴィーラ王国を含めた『南側』の事情を聞いたが為に、余計に理解出来た『仕様』の制約。

 そして何より要である『Gストーン』が無い。

 しかもこの案件(ゾンダー絡み)は原作に忠実でなければならない。

 とてもではないが、エルネスティにすら手出しが難しい。

 

 

 

「ふ~ん。エルの禍鳥(マガドリ)重力制御装甲(グラヴィティコントロール・フレーム)って言ったっけ?魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)と別に、蓄魔力式装甲(キャパシティフレーム)に仕込んで、空中を踊るように飛んでただろ。そんな技術があっても駄目なんだ。」

「はい。思い描いていた変則機動が難しかったので、カルナに頼んで術式を提供してもらったものですが、まだ未完成で、幻晶騎士(シルエットナイト)用にも開発出来ず、今回禍鳥(マガドリ)にようやく付けられた程度です。こうなると、僕の専用機も少し改善点が増えましたね。後で手を加えないと……!」

「……まだやるのかよ?」

「もちろんです!幻晶騎士(シルエットナイト)の道は一日にして成らずです。」

 

 

 拳を強く握り、ふんす!と意気込むエルネスティ。

 

 

「エル君らしいねわね~……でも、カルナももしかしたら同じなのかしら?」

 

 

 ──ガオガイガーの道は一日にして成らずですわ!!

 

 

「……絶対に言いそう。」

「ああ、まず言うな。」

 

 

 カルディナが言いそうなセリフを余裕で脳内再生出来た事に驚きを通り越して呆れる2人。

 そして思う。

 かつてエルネスティが前王陛下の前で「趣味にございます」と言い放った経緯を。

 

 カルディナがエルネスティより正義感が強いのは、十二分に承知している。

 しかし、カルディナもまたエルネスティと『趣味人(同類)』である事を2人は理解していた。

 そういう意味では、カルディナも自身の困難をきっと乗り越えるであろう。

 

 『ぼくのかんがえたさいきょうのせんようき』を改めて嬉々として思い浮かべるエルネスティを見て、そう思いつつ呆れるオルター兄妹。

 

 

 

 

「しかし『転生者』ってのは、何か業が深いっていうか……」

「カルナは『知識を受け継いただけ』って言ってたけど、この手の知識を持つ人ってどうしてこう、なのかしら……」

「エルっぽい、と言えばそうだし。カルナらしいと言えばそれまでだよな。」

 

 

 あまり関係ないが、エルネスティが転生者であること、カルディナが知識を継承した存在である事は、この2人のみにはカルディナが留学中に既に周知済みだったりする。

 初めは驚きはしたものの、アディは「大人なエル君……!」と惚れ直し、キッドは「むしろ納得した」と関心した。

 尚、2人の間に恋愛感情があるかと、アディが勇気を振り絞って尋ねた事があったが……

 

 

「「──冗談www!!」」

 

 

 盛大に草が生えたコメントが出たのみだった。

 ただ、その時の2人が視線のみだが、やたらと怖かったのも事実。

 きっと同類にするな、とでも言いたかっただろう。

 なので「絶対に成立しない」と結論付けたことを蛇足としておく。

 

 無論、絶対成立しない。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「───へくちッ!!」

「お嬢様?」

 

 

 

 帰路の空。

 フミタンを背に乗せ、アルド・レイア王国を目指すガオガイガー(カルディナ)

 空は暮れ、宵闇が迫ろうとしている。

 そんな中で出たくしゃみ。

 

 

「きっと、アディかキッドが噂してますわね。」

「えらく具体的ですね。」

 

 

 的を射過ぎていた。故に特にそれ以上の追及(ツッコミ)はしないフミタン。

 鋭角状に展開した『魔力障壁』が前方を覆っている、とはいえ、音速を超えた飛行をしているにしては非常に余裕を見せている、このメイドは本当に何者だろう。

 そうしている内に、オーヴィニエ山脈を通過しようとした時、フミタンが口を開いた。

 

 

「……お嬢様、この度は如何でしたか?」

「……」

 

 

 その質問に、カルディナはすぐに答えれなかった。

 今日一日とはいえ、事情聴取から始まり設計図の受け渡し、そして楽しい喧嘩(じゃれあい)

 そして久々の親友達との触れ合い……

 けれど、時折思い出す自身の進歩状況に歯痒い気持ちが……

 また関係ないが『ロクでもない存在』いる事は、今は目を瞑りたい。

 

 

 そして、幾分か間を空けて出た言葉が……

 

 

「……楽しかったわ。幾分か、考えさせられた事も多かったけれど。大いに振り返る事が出来ました。」

 

 

 今日一日の全ては、その言葉に集約されていた。

 そしてフミタンもその言葉に……

 

 

「……そうですか。」

 

 

 と、満足げに頷くのだった。

 そしてもう一つ。

 

 

「お嬢様。リクエストを一つ宜しいですか?」

「珍しいですわね?何です?」

「『いつか星の海で』。スピーカーがあるので流して、そして歌って頂ければ、と。」

 

 

 ───『いつか星の海で』

 

 

 そのリクエストに一瞬、何の事か解らず、目をパチクリさせるカルディナだったが、その言葉の意味を理解すると、思わずクスクスと笑う。

 

 

「……全く、良い趣味をしていますわね。」

「お嬢様のメイドですので。それに、この暮れる空の中で、この曲は合っているかと。」

「いいでしょう。」

 

 

 

 そしてリクエストに応え、カルディナはスピーカーに『その曲』を流した。

 

 

 

~いつか星の海で~

 

 

僕の星に舞い降りる 君をいつも夢に見る

 

今も一人 空を見上げて 僕を探しているの

 

会いたい気持ちなら きっとそうさ負けてない

 

銀河に飛び立つ 翼、僕らに届けて……

 

大人になるころ いつか星の海で……

 

 

 

 

「……お見事です。」

 

 

 この曲もガオガイガーの歌であり、カルディナが時折歌っていた曲である。

 ガオガイガーという存在を知ってから、フミタンも彼女なりに主人の事を理解しようと、暇を見ては少しずつ見ていた。

 正直、男子趣味嗜好強過ぎて理解に苦しむところが強かった。また、この世界で一般的な騎士道精神は?と思うところもあった。

 何より話の内容が大き過ぎて、本当にこんな事が起きるのか?と思うところも。

 ただ、今まで自分も関わって来た中で、これから対峙するであろう存在の驚異は計り知れない。

 そんな摩訶不思議な事柄が綴られているガオガイガーの中にも、いくらか好きになれるモノはあった。その内の1つが、この曲である。

 それにカルディナの声と相まって、OPよりはこちらの方が好みである。

 そしてこの曲は『次へと進む』にはピッタリな曲なのだ。

 

 

「ここまで来るのに、お嬢様は計り知れないご苦労と、努力をされてきた筈です。けれど、そのお陰でようやく真の一歩を踏み出せる機会が訪れたのですね。」

「ええ、その通りですわ。志してから十数年……ですが、明日から忙しくなりますわよ。」

 

 

 それは、カルディナの待ちに待った念願を果たせる刻が来た事を意味する。

 課題と問題はあるが、それでも次に進める喜びは大きい。

 

 そんな時、カルディナの身体から突如、黒い靄──濃密な『闇』の魔力(マナ)が溢れ出て、とある人型──いや、手の平サイズのぬいぐるみ型に集束しようとする。

 

 

《……って事は、俺達の出番もようやくって事か?ならば……》

「あら、ようやくお目覚めです?あ、ちなみに今、音速で飛んでますから、迂闊に『実体』を出すと……」

《───おおおをををををーーー!!??》

「……置いていかれますわよ?」

 

 

 ……誰かは知らないが、一瞬でドップラー効果が効いた叫び声と共に視界から消えた。

 そして今度は光の粒子がカルディナより現れ、集束すると小さなぬいぐるみ型の存在が現れた。

 肩まである銀の髪に銀の瞳、そして背に一対の『白い翼』と頭に光の輪……

 それがステルスガオーの翼にちょこんと座っている。

 

 

《──クスクス。あのアホな『魔王(サタン)』、格好付けて何をしてるのかしら?音を超えて飛んでいるのであれば、幻体で顕現するのが定石でしょうに。》

「あら、『熾天使(ラファエル)』。貴女もお目覚め?」

《正確には御身に潜んでました。》

「知ってます。」

《────だぁああああぁぁぁーー!!!追い付いたーーー!!!音を超えて飛んでるなら、最初からそう言えっての!!!》

 

 

 黒衣を纏った、金の髪に金の瞳の人形が追い付いてきた。

 背には『黒い翼』が一対と、頭に一対の角……

 

 

《やかましいですよ、『魔王(サタン)』。というか、そのミニマムな黒蜜金粉添えボディはどうにかならないのです?》

《ってか、そう言うならお前は貧弱なぺったん小粒の白玉だろうが!お嬢とメイドは極上の肉まんなのによ!!》

《なっ!?失礼ですね、私はスレンダーなだけです!!》

《ふん、どうだか……》

 

 

「「───『南』の存在にガタガタ震えてた輩が、騒がない。」」

 

 

《お、おう……》

《申し訳ありません、御身。》

「お嬢様の御前です。お静かに。」

「全く……話は、今した通り。明日から始めますわ。お二人にも予定通り、お役に立ってもらいますわよ。」

《いよいよか。》

《お役に立ってみせます。》

「期待、していますわよ。」

 

 

 

 そして一行は、暮れて行くアルド・レイアの地へと帰って行く。

 

 明日から始まる、勝利への道を目指して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《……あれ?『Gストーン』の気配がする。何でこんなところから?どこだー!?》

 

 

 同時に、予期せぬ者も……

 

 

 

 

 

《NEXT……》

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

《次回予告》

 

君達に最新情報を伝えよう。

 

遂に設計図を手に入れたカルディナ。

そして始まるガオガイガー創造の第一歩。

 

史上初のギャレオン、そしてガイガー開発の目撃者となれ!!

 

 

そして、その最中に訪れたカルディナへの、予想だにしない来客が!

 

敵か、味方か?

この上ない存在により、カルディナに新たな展開が訪れる!

 

果たしてどうなるか。

波乱に満ちた創造劇を刮目せよ!!

 

 

 

次回『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

Number.08『~鉄の巨神、創造(ギャレオン編)~』

 

 

君もこの物語に、ファイナル・フュージョンッ!!

 

 

 

 

これが勝利の鍵だ!

『軟鉄』

 

 

 

 

 

 




……長い長いプロローグ(笑)がようやく終わりました。

作中のネタについて。

○カルディナさん、登場シーン
ガイナ立ちなのは間違いなく。
ただ、ドラゴンかザク神かは皆さんのご想像にお任せします。


○『禍鳥』
初めは『凶鳥』で『マガドリ』と呼ぼうと考えてましたが、訂正。
でも『禍』も『凶』も表面的なイメージが似ているので、ブラックホールエンジンをネタとして出しました。イカルガに他の武装と合わせてフルバーストさせるのもありかな?
シルエットナイトでなく、シルエットギアなのはある種、カルディナさんの真似。
というか、ガオガイガーと戦わせたかったから、でもあります。
質量と出力差で近接戦闘はご法度でしょうが。


○ドリルランス
別にここまで論議させるつもりがなかった案件。というか、これが限界。
書き終わってから、ガリアンのケンタウロス型の敵の存在を知り、これはアリかと思い、無限フロのスヴァイサーのドリルランスを思い出して、何で忘れてたんだろうと絶望。
ドリルランスを持つキャラって少ないのですね。


○エル君の性格
スパロボネタが本編で許されるなら、リアル系信者からのシルエットナイトフリークになっているでしょう、という前提の設定。
また、転生前(倉田)の記憶もカルディナさんの問い掛けで記憶の忘却が戻った(ロックが外れた)のもあり、多用しているので、シルエットナイト製作は原作よりも過激に。性格は感情の振れ幅は大きめなってます。
でも肉体言語に走るような子ではないはずですが、そう見えるのは間違いなくカルディナさんの影響。



○フミタン
命令とあらば、主人すら撃つ!!
アースガルズのメイドであれば、この位は当然です。
(いや、そうじゃない)


○実験結果
初めの実験なのでこれくらいで。
でもガオガイガーにはあんまり応用出来ない。
でなければ、初めから騒いでいない案件。
とはいえ、美味しい設定ではあると思うところも。


○まんじゅうウサギ(?)
言わずと知れた、ヤツ。
今回出てきたのは、後輩の様子を見に。
もう出ませんよ、きっと。


○ヤバい3つの存在
『南側』に悪魔や天使、幽霊など非実体の存在がいないのは、こいつらの影響。
エンディングの平野の空を見上げると、運が良ければ見えます。
事前にアニメを見た人物は常時見えます。
なお、オリジナルではなく、版権。
ひたすらヤバいヤツを考え抜いたと思います。
良かったら当てて見てください。





さて、次回からようやくガイガー製作に入れます。
『覇界王』では凱兄ちゃんが奮闘してますね。
そして夢装ガオガイゴー……しびれました。



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Number.08 ~鉄の巨神、創造(ギャレオン編)(1)~

新年明けましておめでとうございます。
今年も『公爵令嬢は~』を宜しくお願いします。


さてようやくギャレオン作成スタートです。

今年最初の投稿ですからね、かる~くいきます。

かる~く……





 ───『お嬢様の工房(アトリエ)』、地下巨大工房

 

 

 

「──おーいッ!3番フレーム、上げてくれ!」

魔導演算機(マギウス・エンジン)、回路回せー!固定忘れるなよー!」

「テスト行きま~す!左腕クローの回転機(モーター)、稼動開始~!!」

 

 

「──ハンマー、休めるなよ!!」

「錬成も休まず行くよ!!呼吸合わせてね!」

「慌てず、正確に!50層の付与(エンチャント)なんだから、しっかりね!」

 

 

「───『軟鉄』の繊維、束ねる量を間違えんじゃないよ!」

「……多すぎたら跳ね返って顔面殴打、少なすぎたらもっと痛い、お尻に殴打……ブツブツ……」

「いや、跳ね返ったのは固定が甘かっただけだからね。次のはイザリア姐さんの蹴りだし。」

「……うん、とってもご褒美。」

「「 ───!? 」」

 

 

 カルディナが帰ってから数日経ち、『お嬢様の工房(アトリエ)』はフル稼動だった。

 

 遂に始まったガオガイガー創造。

 その第一歩として、中心核となるギャレオン、及びガイガーを創っている最中である。

 現在製作しているのは頭部、胸部、及び両腕部である。まだ基礎フレームしかないが、職人達は活気で満ち溢れていた。

 

 ちなみに、この地下巨大工房はカルディナがフレメヴィーラ王国に行く一週間前に知らされた場所である。

 天井の高さは50メートル程、床面積は10平方キロメートルに及ぶ。

 職人達も寝耳に水であり、設備も重機用クレーンや整備用ハンガー等があり、この世界基準で言えば先進的なもの。

 どうやって揃えたかは疑問に尽きる。

 

 そこでカルディナの告白(SUN値直葬話)を受けた一部の職人達は、これから創るであろうギャレオンの設計図(修正前)を見せて貰っていた。

 

 そしてカルディナは自身の商会で、溜まった仕事を消化する間、職人達に腕慣らしにカルディナ抜きで、独力で機動兵器を製作をするよう指示。

 カルディナ曰く幻晶騎士(シルエットナイト)を元に設計したものらしいが……

 

 だが、その時にカルディナより渡された設計図は『幻晶騎士(シルエットナイト)』の素体を元にしたであろうと思われる『別の何か』。

 

 そして指示されるがまま錬成、組み上げ、出来上がったのは設計図通りの、幻晶騎士(シルエットナイト)より細身の『20メートル級の何か』。

 

 そう、『20メートル級の何か』である。

 そして職人達は思った。

 

 

 ───ガイガー、じゃない!?

 ───そもそも、これ何?!

 

 

 ガオガイガー関連の製作物を造らされるのでは?と思っていた職人達にとっては拍子抜け出来事であり、一部の職人とっては、何かのフラグか?と疑わせるものであったりする。

 

 そしてフレメヴィーラ王国より帰って来たカルディナとフミタンが、出来上がった『20メートル級の何か』を見て

 

 

「見事に組み上がってますね。本格的に外装(アウタースキン)を着せたら、湧いて出ますでしょうか?」

「確実にあと『2つ』ほど湧いて出ますわね。」

 

 

 と、謎のコメントを述べた。

 ただ、合格を出したので、問題はない様子。

 ただフェルネスとイザリアあたりからは「あれ級がまたくる……?」とドン引きだったりする。

 

 何はともあれ、今日に至りギャレオン、及びガイガーの製作に取り掛かっているが、当初より様々な問題が発生している。

 

 

①胸部フレームの脆弱さ

 

 人体を模した幻晶騎士(シルエットナイト)は、その構造上、あらゆる方向からの衝撃に耐えられるよう、設計がなされている。

 しかし、ギャレオンの状態ならいざ知らず、ガイガーの形態では胸部の内部構造がスッカスカなのだ。

 正確には胸部内部がおよそ長方形の立方体の形で、空洞なのだ。

 そしてトンネル(暖色ライト付き)仕様だ。

 

 もちろんそれには理由はある。

 

 ギャレオンからガイガーへフュージョンする時に、頭がその空洞より上がって来るそのスペースなのだ。

 また、F・F時に両腕部が肩関節ごと後ろに折り畳まれ、空いたスペースにライナーガオーが入るスペースでもある重要な場所なのだ。

 

 しかし、この構造は兵器としては欠陥過ぎる代物だ。

 

 世間一般、変形箇所が少なければ、稼動領域が少なければ、装甲や構成構造の強度はより高まる。

 

 しかしガイガーの上半身の機体構造は、それに真っ正面から喧嘩を売っている。

 中は四角い空洞なのだ。

 

 ──胸部に斜め上からの打撃を受けたら潰れるじゃないか!

 

 中身のあるSRXのトンデモ合体(ヴァリアブル・フォーメーション)の方がまだ現実味を帯びている。

 なので当初は『強化魔法』でガチガチに固めるしかなかった。

 共同設計したカルディナ、エルネスティは、ここで血反吐を吐いている。

 

 ……トンネルの構造を学び直さないと、無理ゲーでは??

 

 そして胸部フレームの設計の筈が、トンネルを設計するという謎の行為が一時期行われたが、それでも強度が足りないので、両肩の四角い蓋(?)のパーツで強度不足を補い、『強化魔法』で固めた。

 

 

②両肩の可動範囲、出力不足

 

 しかし問題はここから。

 上記の事から胸部は、人の骨格のように絶対に稼動しない。

 良くて腰の可動域が良いぐらい。

 それはつまり、背中を屈ませる、反る等の行為が出来ないという事。

 更に胸にはギャレオンの顔があるので、他の可動域でどうにかしなければならない。

 

 そして次の問題が、両肩。

 

 何故なら胸部のトンネルの影響で、関節駆動の機構は全て肩に肩替わり(ギャグじゃないよ)。

 

 そして2度目の血反吐。

 

 ──稼動範囲、狭ッ!!

 

 ……MSの可動域を期待された方は絶望してもらいたい。

 そんなものは、ここ(ガイガー)にはない。

 スーパーミニプラのガイガーですら、そんなものはない。

 というか、あの肩の仕様は本当にどうなっているのだろうか?

 よくもあの肩でパワーが出せるなと、思う。

 

 だが、現実にアニメでは出来ている。

 作画では腕を水平に伸ばすところも(F・F時)

 

 だから気合を入れて、再現しました。

 フレキシビリティに可動ギリギリに動かせる腕部と関節に、肩フレームは別可動で動くように。

 その結果、カルディナの動きに耐えれる腕部の設計に成功した。

 

 そしてその頃には設計室の床には、相当な血だまりが出来ていたとか、いないとか……

 

 

 ちなみにガイガーの両腕を設計している時に改めて自覚した事がある。

 別に特別な事はしなくていい。

 内部こそ別物であれど、外見は『原作に忠実に再現する事』こそが、肝である。

 

 

 ──命を削る程の作業ですが!

 

 ただし、その裏で「実物はもっと違う方法で機体構造を高めているんだろうな……」と思っている(羨んでいる)事は否定しないで貰いたい。

 

 で、あるが故に、次の作業は相当キている。

 

 

③動力炉の所在

 

 Gストーンは勇気を込めると無限の力が発生する。

 そのGストーンは相当『小型』である。コンパクトなのだ。

 故に思う。

 

 

 ──本来は何処にあるの、Gストーンは!?

 

 

 候補は『頭部』『胸部』『実は下半身』。

 

 『頭部』はガイガーの額のクリスタル部分。

 しかし、そこには『GSライド』はない(はず)。

 故にボツ。飾りではないであろう事は確かだろうが、あれはGストーンなのかはわからない……

 

 『胸部』は空洞の胴体にはないだろうが、もう一つ『ギャレオンの頭の中』にあるのでは?という仮説。

 これが一番合っている、と思われる。

 何故なら、コクピットが同じくギャレオンの頭の中、という仮説を2人は、持っている故に、そこに設置することに躊躇いはなかった。

 

 ……ただし設置するのが『GSライド』であれば、の話だ。

 

 今回設置するのは『魔力転換炉(エーテルリアクタ)』である。

 しかも、カルディナの主張で『ツイン・リアクター』である。

 

 その時点でエルネスティはこの件について抗議した。

 

 

「待ってください。いくら機体サイズが大きいからと言って、ギャレオンの顔にツイン・リアクターは無理ですよ。コックピット付近に搭載するのですから、いくら小型化しても吸気量が減ってしまい、無理があるのでは……」

「判っています。なので、小型ツイン・リアクターは『補助炉』です。」

「……メインは何ですか?」

「──『私』です。」

 

 

 ……自分がハーフエルフ(触媒結晶持ち)である事が理由なのか?

 ……自分自身とコックピットを魔力転換炉(エーテルリアクタ)とする気なのだ、このお嬢様は。

 

 

「まあ、カルナの化け物じみた魔力飽和量(キャパシティ)であれば、魔力転換炉(エーテルリアクタ)ぐらいの魔力(マナ)の出力と一般的な平均継続戦闘の時間ぐらいは出せますよね。(白目)」

「とりあえず幻晶騎士(シルエットナイト)程度の出力さえあれば問題ないのです。それぐらいはやりますわ。オーッホホホッ!(ヤケ)」

 

 

 その時、某第二王子と同じ評価で、花丸で『脳筋』とメモしたエルネスティは悪くないはず。

 

 なので動力炉は『胸部』もとい『ギャレオンの頭部』に設置する事に。

 

 尚、コックピットの仕様はガオファー、もといガオファイガーのコックピットをイメージした、幻晶騎士(シルエットナイト)のものを採用。

 流石にどうやっても、あの白い謎空間が再現出来ないのは、ご愛敬。

 恐らくあの特異空間自体が神経接続可能なものであり、念じる事で動かす事が出来る、総感応性の仕様なのだろうが、ガオファイガーではそこまでは再現出来なかったのだろう。

 

 エヴォリュダーの力を以てですら、ギャレオン仕様(オリジナル)再現が不可能なのに、カルディナさんが完璧再現出来る訳がない。

 今回やったのはカルディナを『軟鉄』の回路を介して、メインの魔力転換炉(エーテルリアクタ)魔導演算機(マギウスエンジン)としたもの。

 

 

 ……ん?、何か変な事を言っただろうか?

 

 

 それはともかく。

 

 逆に、どうにかなったのが『頭部』である。

 ……いや、額のGストーン(?)ではなくて、顔の『表情筋』が、だ。

 

 

「こればかりは、どうしようもなかったんだけど、改善策が身近なところで出てくるとはねぇ。これもフェルネスとダーヴィズのお陰よね。」

「私は合金の案を出して、それぞれの割合をダーヴィズさんと出しただけです。」

 

 

 と、魔導演算機(マギウスエンジン)を調整するイザリアの言葉に、通信機(トランシーバー)越しで胸部のコックピット周りを調整しながら答える無表情(通常運転)のフェルネス。

 

 

「俺ぁ、鉄を溶かしただけだぜ?手こずりはしたけどよ。」

 

 

 そして同じように答える、ハンマーで右前腕の基礎フレームを形造るダーヴィズ。

 

 

「それが世紀の大発見じゃない。どこに魔力(マナ)で柔軟性と剛胆性を同時に両立させる金属があるってのよ。あれはどう見ても人体の顔の表情筋よ。表情筋の魔導演算機(マギウス・エンジン)って、私初めて組んだわよ。」

「……イザリアも、表情筋の術式(スクリプト)なんてよく組めましたね。」

「……私もよく出来たと、自画自賛したいわ。人の表情って、複雑怪奇極まりないのよ。」

 

 

 本○貴子さん似の声で「細かい文字が目蓋の裏に張り付いて~、離れない~……」なんてボヤく辺り、相当辛い作業だったようだ。

 

 しかし、そうなのだ。

 ガオガイガーだけでなく、勇者シリーズやスーパーロボット系でよく見られる、あのロボットの動く口。

 あれが完全再現出来たのだ。

 その方法こそ……

 

 

「まさか、一般的な鉄に『軟鉄』を混ぜ合わせて合金にして、魔力(マナ)を流すと柔軟に動くなんてさ……しかも魔力(マナ)の量に応じてその柔軟さも際限無し(ただし強度は反比例)。」

「膜状、板状……何でもござれ。しかも一度鋳物にすりゃ、『錬成』で多少の形状変形は可能と来た。」

「それに加えて、IDメイル使用時の魔力(マナ)伝達が何の時間的ロスもなく、違和感なく動かせるのです。流石に驚きました。」

「挙げ句の果てに『付与魔法』の発現効果が、以前の3倍……鍛治職人にとっても魔法使いにとっても顎が塞がらない代物になりやがった。いったいどうなってやがる?」

 

 

 要は『ご都合主義の鉄』になったのだ。

 というか、そうとしか思えない。

 本来少しでも強度を増そうと、2人が苦心した結果、3倍増しの追加効果マシマシという大成果を成した。

 そしてこの時点で幻晶騎士(シルエットナイト)外装(アウタースキン)金属骨格(インナースケルトン)事情を超え、トンネル問題も解決したという。

 更には、この仕様の軟鉄合金、配合比率を調整すると魔力・電力問わず伝導性にも優れる物に変化する。

 

 

「……お嬢様、これは報告事案ですか?」

「そうなりますわね。新素材を開発した訳ですし。」

「お嬢、代わりに行ってくれ。俺ぁ行くのは嫌だぞ。」

「私もです。あの魔窟に行くのは御免被ります。」

「本当にウチの技術者共と来たら……」

 

 

 誰に似たのやら。

 

 

「しかし、ここまでの高性能なスペックを持つ素材……今までよく見向きもされませんでしたわね。」

「原因として、長時間で強い魔力(マナ)を流し続けなければならないのが大きいですね。それでなければ状態変化が望めません。まるで魔力転換炉(エーテルリアクタ)級の装置を使う事が前提のような物質です。他の工房や、まして国の技術者ですら気付けませんでしょう。我々とは練度に差があり過ぎて考えもしないでしょうが。」

「向こうが高いのか?」

「……フッ。いえ、あちら方が低レベル過ぎて。」

 

 

 ───フェルネスさん、笑った?

 

 

「……何か、ザマぁ見ろって感じね。まあ、そう思っても不思議じゃないわよね。」

 

 

 

 そしてそのギャレオンの顔に……

 

 

「……お嬢、その牙4本にいったい何を仕込むつもり?」

「何って『超増幅陣』ですが、何か?」

「『火炎球(ファイアボール)』一発通しただけで、城壁が粉々に吹き飛びそうなもの、どうすんのさ!?」

「そんなセコい事しませんわ。ただいざという時、ギャレオンに『くちからびーむ』をしてもらおうと……ほら、格好良くありません?破壊光線を放つライオン。」

「原作通りにするんじゃなかったの?それに、そんなの仕込むスペースなんてないっての。」

「知ってます。光線を出すのは私ですわ。」

「……ちなみに、どの程度の威力を想定?」

「……合わせて使えば、旅団級魔獣の集団が軽く蒸発する程度、でしょうか?」

 

 

 明らかに戦略兵器である。

 きっとこのギャレオンに意思があるなら

 

 

 ──ぼくはジェネシック・ボルトしか、くちからだせないよ。

 

 

 と言うだろう。

 心配ない、ギャレオンは何もしなくていい。

 ただ、口だけ開けるだけの簡単なお仕事だ。

 攻撃を放つのはお嬢様です。

 

 

 ──でも、ジェネシック・オーラはちがうよ。

 

 

「……ん? 空耳?」

「お嬢様?」

 

 

 

 とまあ、色々説明したが、纏めるとこうなる。

 

・軟鉄の合金を基礎フレーム、外装に使用。

魔力転換炉(エーテルリアクタ)魔導演算機(マギウスエンジン)こそ幻晶騎士(シルエットナイト)に同等のもの。ただし、メインは搭乗者が担う。

・当初問題とされていた強度問題が『軟鉄合金』にて解決した。

 

 となる。

 

 ……ん? そうなると、基礎フレーム、外装、その他諸々が軟鉄合金仕様になる。

 

 ───フル・軟鉄(リアライズ)フレーム

 

 

「……どこかで、聞いたような響きですわね?」

「お嬢様?」

「気のせいでしょう。」

 

 

 そして、この上半身完成まで凡そ2ヶ月半が経過。

 

 

「このペースだと下半身にも2ヶ月ちょっと……これなら半年待たずとしてガイガーが完成しそうですわ。」

 

 

 進捗状況は概ね良好。

 白い躯体のガイガーを見上げるカルディナお嬢様の心境もウキウキである。

 そう、特に問題はない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────と、思っていた矢先、大問題が発生した。

 

 

 それは『彼ら』の訓練課程のテコ入れが良くなり始めた、ある日の事。

 アースガルズ本邸の自室で、なんて事はない余暇のティータイム中に、フミタンがいつもの時間に来た時である……

 

 

「──カルディナ、入るぞ。」

 

 

 普段は絶対に来ないであろう、父親クリストファーが、フミタンの後ろに続いて来たのだった。

 

 

「お……お父様??どうされたのですか?」

「……」

 

 

 問い掛けにクリストファーは無言。

 だが、懐から一通の白い封筒を取り出す。

 それは既に開封されていたが、その蝋印を見るや、カルディナは体を硬直させる。

 その様子に苦虫を噛み潰したような表情をするクリストファーだが、カルディナに構わず便箋に書かれた文章をゆっくりと読み出した。

 

 

 ──カルディナ・ヴァン・アースガルズ嬢へ

 

 ○月○日(約一週間後)に領内にて夕刻、そなたの父親との会食を所望する。

 然るべき準備をされたし。

 

 アルド・レイア王国 第12代国王

 レクシーズ・G・アルド・レイア

 

 

 追伸:此度の行いについて厳重に言及する構えである。努々答えられる様、言い訳はたっぷりと考えておくように。

 

 

 

「 ────こ、国王陛下ッ!!!? 」

 

 

 

 そこでカルディナの意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「───酷い三者懇談会ですわ。」

「もしくは陛下直々の尋問でしょうか? 成人前ですので、親を率いれて行うのは効果抜群かと。しかも食事を尋問を受ける人間に用意させるとは、陛下は命知らずとお見受けします。」

 

 

 国王からの手紙(という名の深淵の通知書)を受けてから一週間後。

 カルディナは会場となるレストランのVIPルームで、頭を抱えてボヤいた。

 そしてそれに毒づくフミタンはいつも通り。

 

 ちなみに、会場の選定は然程苦労していない。

 自身の経営するアースガルズ商会で営む高級レストランが会場であり、以前ここで食べた料理が大好評だった事もあり、それ以来、国王は何度かここに直接足を運んでいる。

 

 無論、料理に手抜かりはない。

 お任せとはいえ、旬の素材を惜し気もなく使い、豪華絢爛というよりは、日本料理やイタリア料理をベースに素材の味を「これ!」と言わしめる程に引き出す手法は、カルディナの手掛ける大衆料理店や高級レストランのみで味わえる。

 

 味に貴賓無し。素材の味を引き出してこそ料理なりッ!!

(ミスター味っ子、美味しんぼの影響より。ただし目から光、巨大化等(特殊エフェクト)はありません。)

 

 それは別にいい。

 いつもの事だ。

 

 今回の問題は……

 

 

「しかし今回の問題はある種、自業自得では?」

「失礼な!私は常に品行方正、正々堂々ですわ。」

「……その結果が『軟鉄』の単価急上昇。市場はかつて無い大混乱で大荒れだぞ。前例のない事態に国が躍起になって火消しに回っているんだ。何も沙汰が無い訳がなかろう。」

 

 

 憂鬱になっている父親のクリストファーが、娘の行った事に釘を刺すように述べた。

 

 やってしまったのは大量の買い付けによる市場の混乱。

 

 アルド・レイア王国ではあらゆる取り引きには『市場』が存在する。

 故にどんな商品でさえ、決められた単価がある。

 しかもそれは時により、季節により、需要により、供給量により変動する場合がある。

 しかも当時市場では何の価値もない軟鉄が、一部の貴族に大量に買い占められ、しかも継続的に購入しているという噂が出たものだから、市場は大混乱。

 本来、価値も使用用途も見出だせない軟鉄が、急に価値が付いたと慌てふためいた仲買人や他の商会もこぞって買いに走ったが……

 

 ──買ったが、売れない。

 

 という、需要供給が崩壊する、訳のわからない事態が発生。

 

 そう、その犯人(?)がカルディナである。

 

 

 

「……当時の単価の倍で買っただけですわ。それでも猫の額程度もないです。」

 

 

 最初に買ったのは、アースガルズ商会に縁のある、貴族の保有する鉱山から。

 だが買った量が不味かった。

 

 

「それが数十トン単位なら、誤解も起きましょう。欲張り過ぎです。さらにそれでは足りないと四方八方多方面から大量に購入したとなると誤解を生みましょう。」

「他では需要はないからな。まず売れない。結果、ありもしない需要が生まれたと勘違いされて、市場は大混乱。」

「ぐうの音も出ませんわ……」

 

 

 もう、何も言えない。

 しかもタイミングが悪いことに、軟鉄の合金の話が国に届いたまでは良かったが、青天の霹靂のような事に審査機関も、そして国王も思考が停止。そして新発見の衝撃。

 更に続く追撃の如く、直後に市場の大混乱発生した影響で、内容をロクに精査出来ないまま、事実関係が不明なまま、軟鉄の取り引き一時中止の『火消し』に遁走しているという。

 

 そして被害を一番被ったのは、事態の経緯がロクに知らされずに、取り引き中止のお触れを出すために走り回る役人……

 

 

 ───どうしてこうなったァ!?

 

 

「……仕方ないではありませんか。保有する量が少なくて大量に発注するしか方法がなかったのですから。」

「……カルディナ。今までアースガルズ領に益になるからと、お前の行動をある程度黙認してきたが、今回ばかりは言わせて貰う。『何を造っている?』」

「……何を?と申されましても。『20メートル級の人型可変式魔導機甲兵器』ですが、何か?」

「な───!?」

 

 

「───その話、私にも聞かせて貰おうか。」

「「 ────!? 」」

 

 

 さも当然、とカルディナが述べてた矢先、突然の声が。

 

 その人物は、既に扉の前に佇んでいた。

 

 簡素な装いの下に、細身でありながら、徹底的に鍛え上げられた肉体は、武骨ながら一目で『王族』と言わしめる程の気迫を放つ。

 三十路を過ぎていると言えるものの、遺伝のアッシュグレーの髪は非常に艶やかで、鋭い切れ目の眼光は穏やかな表情とは裏腹に、相手を圧倒的させる。

 

 

 その御仁こそ、アルド・レイア王国 第12代国王、レクシーズ・G・アルド・レイアであった。

 

 

「……よ、ようこそ、国王陛下。」

「ああ、今宵は世話になる。そして話も、しっかり聞かせて貰おうか。そう、しっかりと(・・・・・)、な。」

 

 

 

 

 

 

 そしてこの国王陛下。

 現在のアルド・レイア王国にて、カルディナと実力的に、唯一対等に戦う事が出来、そしてカルディナを圧倒する力(物理・財力問わず)を持つ人物である事を明記しておく。

 

 

 

《……NEXT?》

 

 

 

 




○軽く
文字数は一万を超えてないと本気ではない。
(筆者の感覚で。)
内容??知らないなぁ(すっとぼけ)


○ギャレオンの作成

とりあえず思うところを一通り。
子供の頃見たFFの記憶と言えば、トンネルの一言。
今思えば、主人公補正があると言えども、よくフレームが歪まなかったなと大人心に思う。

○軟鉄
サイコフレームではありません。最古ではあるでしょうが。
よくガオガイガーの世界観設定の枠だけで落とし込めたと思います。
半ばIF設定で、類似品はいっぱいありますが。
というか、この話もIF満載ありきなので、その点はツッコミご勘弁を。


○国王陛下
設定や作中では存在だけ散々出てきましたが、ようやくご本人登場。
本来はもう少し後に出す予定(真にガオガイガー登場時)でしたが、それじゃ遅すぎると判断し、この回より。
イメージは『本好きの下克上』のフェルディナンド様。というかイメージする声と性格が優先。
第三部の演奏会後の「さて、申し開きを聞こうか」は魔王降臨!ものですね。
ちなみに、魔王の声は速水さんと子安さん、どちら派?


こんな調子で今年も宜しくお願いします。



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Number.08 ~鉄の巨神、創造(ギャレオン編)(2)~

まずは、お待たせしました。
特に病気とかは掛かっていませんが、執筆環境がイマイチ……

今後は月に2回ほどのペースで行ければ考えています。

前話での感想でガイガーのあれやこれやの意見、ありがとうございます。
魔王の話を振ったら、皆さん斜め上の返答が……!

まあ、ガオガイガーで魔王と言ったら、パスダーになりそうな感があるのが個人的見解。


「───ふむ、今宵のメニューも良いものだった。」

「ありがとうございます。担当したコックも喜びますわ。」

 

 

 メインディッシュを平らげた、国王レクシーズ・G・アルドレイアは、赤ワインを片手にご満悦であった。

 それに微笑んで礼をするのは、普段の地味なドレスではなく、適度に着飾った姿のカルディナ・ヴァン・アースガルズ公爵令嬢。

 

 

「ここに来る度に、普段事務的に食す食事が楽しみで仕方がなくてな。」

「城では毒見や何やらと五月蝿いのだろう?」

「ああ。更に味も素っ気ない。塩辛いか薄いか、乳製品と脂で濃厚か……どちらにせよ、胃がもたれる。」

「極端だな。そんなに不味いのか?」

「お前も食べれば判る。ここの料理を味わってしまえば、城の料理が如何に……いや、世間に出回る食べ物が素っ気ないものだと。」

「知っている。娘に嫌と言う程に思い知らされたからな。」

 

 

 カルディナの父親、クリストファー・エルス・アースガルズ公爵もワイン片手にご満悦だった。

 ちなみに、クリストファーが国王相手に半ばタメ口で話しているのは、2人が昔からの学友であり、身分を超えた無二の親友だからである。

 その事もあり、王都も近いことからアースガルズ領は国王陛下の避暑地扱いであり、ちょくちょく来ている。

 

 

「城のコックもこのくらい腕が立てば良いのだがな。古き善きは結構だが、たまにはこのような新しい料理も食べたいものだ。お前が羨ましいぞ」

「ですが引き抜きはご勘弁を。」

「判っている。口惜しいが、前のような事は御免だ。あの時は料理長がヘソを曲げて大変だった。次はないと釘を刺しているがな。」

「そうですわね。あの時は大変な騒ぎでしたわ。」

「……カルディナ、お前は事の経緯を全て判って言っているのだろう?それとも事の当事者として余裕か?」

「いえ、何の事かさっぱり……」

「……お前に似て、惚けるのは上手いな、クリスト。」

「よせ、レクス。それでは俺が人でなしの傍若無人だと聞こえるではないか。俺はそこまで非道ではない。」

「確かに。お前にはここまで人を引っ掻き回す事……いや、災禍を起こす事は出来まい。」

「──お待ち下さい。それは私が人災扱いとでも仰りたいのですか?」

 

「「 それ以外にどう例えろと? 」」

 

「───ッ!?」

「……あはは、カルディナ。一本取られたね。」

 

 

 そしてもう一人、この場にいるのがカルディナと同じ位の年の人物。

 気弱そうな薄幸の王子様と云うような雰囲気を出しているこの人物の名は、アシュレー・G・アルドレイア。

 レクシーズの子供であり、アルド・レイア王国第三王子。

 そしてカルディナの婚約者である。

 憤慨するカルディナを宥めるあたり、王子なのに貧乏くじを引きそうな体質なのだろうか。

 

 

「……陛下の前です、この場では道化にもなりましょう。」

「こちらは普段から1本どころか、何本もむしりとられているような心境なのだ、たまには道化を演じても良かろう。」

 

 

 そういってワインを煽り、飲み干した後、グラスを静かにテーブルに置き、目を閉じた。

 

 

 

「……この後の事を憂うのなら尚更、な。」

 

 

 そう諭すように話すレクシーズの身体に異変が生じた。

 

 全身の身体が、ぼんやり光が出て明るい……と思いきや、眩い光を───いや、全身が純金、純然の黄金色に輝き始めた。

 

 周りの装飾やグラスには何の変化もない。

 しかし圧倒的に放たれる、押し潰されそうな威圧感がテーブルを囲む3人に当てられる。

 

 そしてゆっくりと目を見開き、眩く溢れる金色の光がカルディナを睨む。

 そして眩しい筈なのに、冷たく笑っていない顔がその口を開く……

 

 

 

 

 

 ──さて、弁解を聞かせて貰おうか。

 

 

 

 

 

 

 国王陛下の正当なる静かな怒りが、テーブルを囲む3人(特にカルディナは強烈)に襲う!!

 触れれば光になろう眩い奔流が、暴力的に疾走するッ!!

 

 

(───ひ、光にされるぅーーー!!!)

 

 

 

 ある意味、自業自得の事態であった。

 

 

 

 

 


 

 

 アルド・レイア王国 第12代国王、レクシーズ・G・アルドレイア。36歳。

 今より9年前に即位し、王国を栄えさせた人物。

 それまでは暴利・暴君を振るった前王の父親を持ち、堕ちた評価を受け続けた国を少人数で討伐し、現政権に仕立て上げた。

 その翌年、前政権で中核になりつつあった『宗教派』を政治内より排除。

 また、魔獣被害でガタガタになった国防を最前線で支えたという逸話を持つ。

 そしてある種、蔑ろにされていた農業・工業・商業問わず国内産業に力を入れ、生産性を高めた現実主義者でもある。

 

 そんな人物故に内外に敵は多いが、武力に関しては他を圧倒する事柄があった。

 

 

 ──王は『守護聖霊』に愛されている。

 

 

 歴代の王で、特に優れた王は『守護聖霊』という特殊な存在の加護を直接受ける。

 具体的には、白獅子、白竜、2体の一角獣(ユニコーン)と同じく2匹の白狼。

 

 どの存在も一度憑依すれば、そこらの悪魔すら軽く凌駕する。

 そして、国旗も印されている事から、国のシンボルと言える。

 だが、これらの国のシンボル的な存在を敢えて振るう事はせず、農・商・工に力を入れた方向転換と、画期的な方法を随所に取り入れたその政治手腕は非常に高いとしか言いようがない。

 その甲斐あって税収も増え、更に自然保護も見据えた政策も見事。

 この世界の王としては、非常に有能である。

 また、この国と同盟国ならでは、『ボキューズ大森林』からの魔獣被害を絶妙な兵士の采配で抑えた。

 結果、即位してから4年ほどで国は豊かになり、魔獣被害に脅かされない、頑強な国土を形作った。

 

 故に巷では『賢王』とも呼ばれている。

 

 そしてそんな人が力を入れているのが、技術収集。

 『保護する代わりに、新技術の開示をせよ(要約)』

 それに対し、カルディナは2年前……いや、それよりもっと前から目を付けられている。

 

 

 ドウシテカナ~

 

 

 ……まあ、それはさておき。

 

 そんな賢王様にはとある特技……もとい必殺技を持っている。

 それは『守護聖霊』の力を束ねて繰り出す必殺の刃───金色の破壊刃(ゴルディオン・ソード)

 

 

 

 極限まで高めた『守護聖霊』の力を束ね、超重力衝撃波として剣閃を放ち、一刀にて伏滅する。

 まともに受ければ『光に還る』技で、かすっただけでも四肢のいずれかは消え去る、まさに絶対無敵。

 何より、『聖霊憑依』と呼ばれるこの形態では、金色に輝く陛下はまさに超人そのもの。この時、全身が金色に光輝き、身体能力も飛躍的に跳ね上がる。

 

 ……ちなみに、陛下は戦闘民族ではないし、この時は触れる物を光にすることまでは出来ないらしい。

 

 

(その方向に力が覚醒しましたら、面白いのですが……)

 

 

 ゴルディオン・ネイル辺りが再現出来そうだ。

 そう思うのは過去に一度、魔獣討伐に参加した際、陛下に同行した時に目撃したのだが、カルディナはこれ以上なく衝撃を受けた。

 

 何故ならこの技、一つ考えると……

 

 

(……ゴルディオン・ハンマー、ですわね。)

 

 

 光に還せる程の超重力衝撃波に、金色化。

 剣を戦槌にすれば、間違いなくゴルディオン・ハンマーである。

 

 だが獅子に竜、大きな剣に金色化……

 

 

(……ん?何か別の存在を彷彿とさせますわね。)

 

 

 偉大な王様のXな皇帝~、的な何かが出来そうだ。

 王国故に国王なので、皇帝には出来ないが。

 動力に重量子でも用いていても不思議ではない陛下だ、類似する心当たりが一つ二つあっても可笑しくはない。

 ついでにいずれは星の一つや二つ創星出来ても可笑しくはな……

 

 

「───何をぶつぶつ呟いている。」

「失礼しました。」

「こ奴は……」

 

 

 それは飛躍し過ぎとカルディナは思考を訂正する。

 そんなカルディナを見てか、レクシーズは呆れたように溜め息を吐き、『聖霊憑依』を解いた。

 

 

「……お前ぐらいだぞ、私の『聖霊憑依』を見て怖じ気づかないのは。」

「そんな事はございません。いつ光に還されるかとビクビクしてます。あの輝きは偉大にして破壊的。恐れを抱かないなんて……」

「──それだけ軽口が叩ければ余裕の一つや二つあると思うのが自然だ。我が友と、我が息子はどうだ?」

 

 

「レ、レクシーズ、お前……」

「ち、ちうえ……」

 

 

「……お二人は、まあ……慣れていないだけ、では?」

「その様に言えるのはお前と『将軍』ぐらいだぞ。まあいい……」

 

 

 言うだけ時間の無駄とレクシーズは自分に言い聞かせ、本題に戻した。

 

 

「軟鉄の件だ。」

「市場の混乱については申し訳御座いません。私の不用意な行いのせいで……事態の収拾につきましては、被害に遭った方より全て買取りさせて、補填する形に……」

「───よい。半分は国が持つ。そして回収した半数の軟鉄もこちらで預かる。」

 

 

「「 ……… 」」

 

 

 まさかの国からの支援が提案される。

 しかしカルディナは一瞬「……え?」と言わんばかりの微妙な表情をする。

 しかしすぐに表情を切り替え──

 

 

「いえ、良いのですよ?私のしでかした事なので、軟鉄は『全て』私が引き取ります。」

「何を言う。市場の監視は国の領域。未然に防げなかった故、『半分』はこちらで持つ。」

 

 

「「 ……… 」」

 

 

 食い下がる。

 何故食い下がる。

 この陛下、やたら食い下がる。

 しかも今日はやたら優しい。

 優しすぎて、裏があると告白しているようなものだ。

 

 

「いえいえ、軟鉄等と言う半端なものを国にお渡しする訳にはいきません。軟鉄は『全て』私が引き取ります。」

「無理をせずとも良い。軟鉄を扱おうにも手段があるまい。故にこちらでも引き取ろうと言うのだ。」

 

 

 ──駄目だ、それはいけない。

 まだ軟鉄は必要な量を確保していない。

 その為にはまだ受注する必要がある。

 なので、今回の事態は予想外であるが、大量の軟鉄があるのだ、泥を被ってでも回収したい。

 金銭的?倍払っても端金程度……懐は痛まない。

 こちらは誠意をもって『全量』回収しようとしているのに、それを半量とはいえ、横からかっさらおうとは!

 

 ……そんな下世話な思考がカルディナにはあった。

 何より軟鉄は今や……

 

 

「そんな事はありません、軟鉄は重要資源です。下手をすると他の鉄より使い道があります───あ。」

 

 

 

「───成る程。良い用途方法があると、そういう事か。」

「………」

「ふむ、今宵の酒は産地が良いのか、今までにないくらいに美味いな。」

 

 

 

 

 ───しまったぁぁぁあああぁぁぁーーー!!

 

 

 

 カルディナ、アウトー。(デデーン)

 

 満面の笑みでカルディナより『失言』を取ったレクシーズはとてつもなくご機嫌な笑顔でいた。

 そして『失言』してしまったカルディナは、ショックのあまりテーブルに伏してしまう。

 

 ちなみに何をやっているかというと、このような会食の場で、レクシーズがカルディナの秘めに秘めた秘密を自ら洩らそうとさせる、ちょっとした遊戯だ。

 プライベート空間故か、互いに激しく、されど静かな舌戦で遠慮のない揚げ足取り、言葉巧みに自白、失言を誘うように会話を誘導するという、実に大人気ないものである。

 

 

「……父上、カルディナが可哀想です。」

「構うものか、アシュレー。今回の件は自業自得だろう。それについて『詫び』を入れるのは当然の事。むしろ金銭は支払わなくて良い事にしているのだ。感謝して欲しいくらいだ。」

「……とはいえ、カルディナにとって、今回は物を取られる方が悔しいようだ。強欲は身を滅ぼすぞ、カルディナ。」

「~~~~!!!」

 

 

 ……とまあ、そんなどうでもない事はさておき。

 

 

「……話を戻すが、市場の件に関して私は何も言うつもりはない。混乱も欲に目が眩んだ者達の自業自得の面もある。だが、お前は無茶はしても無駄な事はしない主義だ。破天荒な行いもその実、着実な成果をもたらしている。そして今回の軟鉄の利用価値が向上した件……しかも重要資源になり得るとなれば話は変わる。」

「………」

「聞けば、既に20メートル級の機甲兵器の雛型とも言えるものが、作業用として可動しているというではないか。寝耳に水と思ったが、それすら設計図を提出済みなのだから、何も言うつもりはない。だがカルディナ、問おう。それ故に『何を成す?』」

「………」

 

 

 それはレクシーズとって非常に気掛かりな事であった。

 実際、創り上げるもの(ガオガイガー)の設計図──『GGG』は既に提出済みである。

 また、別の『20メートル級』ですら。

 当然驚いた。ゴーレムを主とするこの国おいて幻晶騎士(シルエットナイト)のようなもの───それを更に超えようとするものを、齢15の少女が創り出そうとしている事に。

 それを知った時、頭が痛くなった。

 フレメヴィーラ王国(隣の国)に留学した事もあり、そんなことが出来るのか、というよりも、いつかはやる、そして遂にやったか、という思惑の斜め上を全力疾走であるが。

 

 そして現在、計画よりも早く建設中である事に。

 

 それに軟鉄の事もそうだ。

 今までクズと罵られていたものに、付加価値が出てきたのだ。見逃す訳にはいかない。

 それに今回の新たな性質の発見こそ偶然であっても、それからの方向転換が早い。

 だからこそ、今回の市場の混乱は起きてしまったんだろうが。

 そこには異常とも言える執念が窺えた。

 

 だから余計に解らない。

 既に何もかもを思いのままに出来る立場、力を得ている筈なのに、この上過剰戦力を携える理由が。

 

 力を得て、破壊を望む?

 そんな性格はしていない。

 むしろ周りの人間は大切にしている素振りしかない。

 

 力を誇示し、自慢したい?

 大切なものはひたすらに隠す者だ。そんな阿呆はしない。

 現に今でも窺い知れない何かを隠しているし、それ以前に極端に面倒事を嫌う。

 

 

 ───ならば、知らない何かがあるのか?

 

 ───圧倒的で、尚の事抗うにはそれ程の力が必要なのか?

 

 

 レクシーズはそう仮定し、今日に臨んだ。

 そしてその仮定はある意味当たっていた。

 何故なら今のカルディナは、とても公爵令嬢の顔をしていない。

 むしろ、語らずとも歴戦の戦士が決死の覚悟をした『眼』をしている。

 

 

 ───当たった、か。

 

 

 だが嬉しくはない。

 それは未曾有の危機を孕んでいる左証でしかない。

 過去に似たような事があったが、どれもこれも国防能力を超える事態ばかりだった。

 そして決まって、誰も預かり知らぬ機会を見ては何事もなかったように、カルディナはいつの間にか国難を葬り去るのだ。

(後の隠蔽は多少杜撰であるが……)

 それを知り得たのは、巣分けした女王殻獣(クイーン・シェルケース)が国内に迷い込んで来た時である。

 いつの間にか、国の存亡が一人の少女に委ねられていたのだ。

 

 だが、今回はそれの比ではない。

 聞けば幼少から構想を持ち、練り込まれた綿密な行動の数々。

 周囲に疑問を持たれる事なく、円滑に廻せる資金調達環境の整備。

 そして現状の王国が収集した、どんな技術すら追随出来ない、技術力の格差……その集大成と言える巨大魔導機甲兵器の創造。

 

 ……それを生み出した当人、カルディナ。

 

 

 ───何を成す?

 

 

 今まで従順だった存在が、恐怖でしかない。

 

 

「……私も、そう考えているがな、カルディナ。」

「あら、お父様も?」

「当たり前だ。父親として、そして領主として、お前の関わる事は知っておかねばならん……というか、この際しっかり話して貰いたい、お前の心の内を。」

 

 

 レクシーズと父親のクリストファーもやはり気になるようで、カルディナは表情にこそ出しはしないが、やはり嫌な三者面談だと思った。

 だがここらでガス抜き程度には、改めて話しておかねば、後々拗れそうな予感する。

 

 だが、話す=納得した、になるかは疑問でしかない。

 

 それにこの場所で説明をしようにも、機材も素材も足りないために、誤解を招く可能性もある。

 

 

(……軟鉄を何に使うどころ話ではなかったのですね。陛下もお父様も『今後』について疑っていらっしゃる。)

 

 

 流石は為政者。

 ある程度、別方向に意識が向くようにしたのに、フェイクに気付いて真意を確かめに来た。

 

 

 

 故にカルディナは……

 

 

「……陛下、お父様。私の心は今も昔も変わりありません。私が創りたいものを創る、成したい事を成す、それだけです。」

「それを、信じろと?」

「はい。ただ、それ故の懸念が現れてしまったのですが、今はこれ以上は語る事は出来ません。」

「……何?」

「私が設計図を提出し、その時の目的として国防のためとお伝えしましたが、陛下はそれ以外の目的があると、そうお考えなのでしょう?」

「ああ。」

「その言葉に二言は御座いません。ただ本音を言えば、あの当時の意識としては半ば、趣味の割合が多く(ほぼ全て)占めてましたが……」

「「 ──趣味ッ!? 」」

 

 

 20メートル超えの兵器を趣味で、しかも相当な人員と金銭をかけて創ろうとした事に驚く2人。

 きっとどこぞの騎操士(ナイトランナー)はくしゃみをしてそうなやり取りである。

 

 

「ですが今は状況が異なりました。故に本腰を入れて早急に、他の量産計画も前倒しで行っています。」

「……ちなみに、本腰を入れなければ、どうなった?」

「完成に至る期間が1年長くなるだけで、完成するものに差異は御座いませんが。」

「……という事は、嫁ぐ前には、どう転ぼうとも完成させる腹積もりだったのか?」

「はい。嫁入り道具の1つとして……」

 

 

 物騒過ぎる嫁入り道具である。

 そして精巧過ぎる完成予想図を見ているレクシーズ、そして最近見せられたクリストファーは頭痛を覚えた。

 

 

「ですが、今は違います。私の懸念事が起きなければ笑い話で済みます。更に王家に強大な力が加わるだけの事。ですが懸念が実現したとなれば、現状では止める手段が御座いません。」

「……そこまでお前に言わしめる存在とは、何なのだ?」

「斬った張った程度の戦いでは、まるで無力。騎士道精神など無意味。そして力押しだけでは取り返しの付かない事態にさせる『敵』……とだけ、今は申し上げます。」

(……まさに、未知の存在か。しかもこちらの常識が通用しない、とな。それを敢えて私の前で言わないのは、説明するには重要な要素(ピース)が足りない、と言いたいようだな。)

 

 

 それはどうしようもない、としか言いようがない。

 未知なる敵───ゾンダーの動きは、原作とは違い、あまりにも鈍重過ぎである。

 舞台となった地球であっても、先発隊のEI-01(パスダー)ですら、エネルギー不足を理由に2年の潜伏期間を経て、ゾンダーメタル成長させた後、侵略を開始したのだ。

 それがこの星では確認されて500年経過しても機界昇華どころか、ゾンダーロボすら現れない。

 確認されたのはゾンダー人間のみ。

 しかも寄生行動はせず、時折姿を見られるとすぐに逃げて、行方を晦ましてしまう程、らしい。

 

 ゾンダーの性質としては違和感だらけだ。

 

 とはいえ、カルディナの直感は『それすらも奴等の下準備の範疇』と告げている。

 

 だが物証はない。全ては仮定。

 レクシーズを納得させる証拠は、今はないのだ。

 カルディナの持つ過去の映像ですら納得させる材料としては、国を動かすには足りない。

 だから、今創れるもので示すしかない。

 

 

 ──脅威があると。

 

 

(だからとて、それだけで納得されるか……仕方ありません。陛下とお父様には『見せる』方向で行きましょう。見せると何かしら利用されるのは目に見えてますけど、邪魔はされたくありません。)

 

 

 ついでに面倒な誤解もされたくない。

 ガオガイガーの映像は勝利の鍵扱いだったが、もうそろそろそ見せる時期かと思うカルディナ。

 

 それとは別にカルディナは3人の死角から『収納魔法』より紙束を取り出す。

 

 

「あとこれを……」

「これは?」

「先程仰っていました、20メートル級──『G・F』の量産計画書です。先行試作機が完成致しましたので、予定通り少数ですが行う予定ですので、先にご報告を。」

「眉唾と思っていたが、既にか……」

 

 

 ──そしてレクシーズは熟考する。

 ある種、カルディナの言葉は聞く者をはぐらかす様に聞こえる様ではあるが、惑わすような事はせず、そして嘘は言っていない。

 とはいえ、納得し得るものはない。

 故に……

 

 

「……まず『GGG』はどれぐらいで出来上がる、カルディナ。」

「レクス?!」

「あと2ヶ月程で中心が出来ます。そしてその周りの支援機は半年あれば……」

「──遅い。3ヶ月で仕上げろ。出来るな?増員はこちらでも廻す。『G・F』についても同様だ。まずは少数で良い、同時進行で行け。」

「……でしたら、イェルツィーナ卿の職人達が宜しいかと。エルロー卿のところでは荷が重すぎるので。」

「良かろう。ただし、やはりと言うべきか、軟鉄は2割納めろ。今回の騒ぎでロクに監査も実験も出来なかったからな、じっくり検証はやらせて貰う、良いな?」

「……わかりました。」

「あと前々から、どうしてこのようなモノを創ろうとしたかも聞きたいところだが……」

「それには説明に必要な時間と機材が足りません。申し訳ありませんが、またの機会として頂きたいと思いますが、『GGG』が完成する頃には……」

「良かろう。その時には納得出来る内容が聞けるという事か。」

「御納得して頂けるかと。」

「「 …… 」」

 

 

 それで話は決着した。

 それは結果を出せ、という事であった。

 

 また、一連の流れを見ていたクリストファーは溜め息を、アシュレーは苦笑いしていたのだった。

 

 

 国王と公爵令嬢の、あり得ないやり取りは、こうして幕を閉じた。

 

 そして、この後子供2人を追い出して、カルディナ秘蔵のワインをこれでもかと空け、カルディナは損失し、大人2人が二日酔いになるまで深酒したのはご愛敬である。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「……という訳で、王国側よりイェルツィーナ卿の職人達が派遣されますので着き次第、10日程で使えるように研修をしておいて下さい。」

「……また面倒臭い話ね。10日ならスパルタでみっちりしないと駄目ね。」

「……仕方ありません。エルロー卿よりはマシ、と思いましょう。」

 

 

 翌日、カルディナは作業中のイザリアとフェルネスにそのように告げ、嫌な顔をされるのだった。

 

 

「つまり……ヴィトー、どういうこった?」

「ああ、おっちゃんは初めてか。つまり国から、増員という名の監視が来るって事だよ。しかもご丁寧に技術研修までしろってゆーね。」

「マジか、面倒臭ェ……」

「まあ、来るのがイェルツィーナ卿のところで良かったよ。ちゃんと腕が立つから、覚えもいいし。エルロー卿のところは、技術収集だけ目当てのイエスマン(役立たず)だけだから。」

 

 

 その口振りだと、初めてではない事を察したダーヴィズ。

 しかも両者体験済みのようだ。

 

 

「なぁる……よっと!!」

 

 

 納得しつつも、振るう鎚の手は緩めず、外装(アウタースキン)を仕上げるダーヴィズ。

 現在製作しているのが、ギャレオンの後ろ足、及びガイガーの膝関節である。

 その白い装甲は美しい曲線をしており、獅子の脚も鍛え抜かれたように細身である。

 ただ、逆関節構造にもなるガイガーの膝はどんな幻晶騎士(シルエットナイト)でも、生物でも類を見ない。

 何せ、両方に曲がるのだ。

 

 

「軟鉄を使った人工筋肉だっけ?それがなかったら詰んでたよね。」

「なけりゃ結晶筋肉(クリスタル・ティシュー)で応用出来そうだがよ、そっちは応用が効かず、回転機(モーター)と一緒であろうが、おそらく相当な無理が掛かりそうだな。」

「関節が両方曲がるなんて、普通はあり得ないって。バランス崩すよね、普通。」

「まあ、そこはお嬢ら設計者に、よく設計出来たと誉めるところだな。」

 

 

 設計当初は、変形時にジャンプして瞬時に変形する予定だった。

 だが軟鉄の出現でその辺りが大部分改善され、大腿部に相当な量の人工筋肉を仕込んでいるので、絶妙なバランスで立ち上がる事が出来る。そして魔導演算機(マギウス・エンジン)の切り替えにより無理なく、どちらにも曲がる仕様。

 ……生体物じゃ、まず無理だろう。

 だからこそガイガーの大腿部はそのパワーを出すため、異様に太いのだ。(デザインのバランスを取るためでもあろうが)

 

 それに加えて腰部、股関節周りも大変である。

 

 

「……腰部回転、股関節駆動、チェック。」

「自由回転軸……問題なし!」

「26回目のエラーでようやくクリアか……」

 

 

 

「……ガワは問題ないとはいえ、生物にない動きをしないモノってのは、相当大変らしいな。畑違いの俺でも苦労がよく判る。腰の部分と言やぁ、グルグル高速回転するところだろ?よく出来たな。最初の試験では固定してた筈の軸がスッポ抜けたしよ。」

「本当に。でも2度目以降はやたらヒビが入るようになったけど。」

「何かあったか?」

「さあ?大型化した影響で、出力からしてお嬢が何かしたんじゃない?設計は見本があるからさほど苦労はないけど。」

「見本?」

「お嬢のミニ・ガオガイガー。それのギャレオン君(♂)」

「ああ、最初に見たあれか。」

「うん。ざっくりとした設計だけど、今更になっていい見本になってさ。オイラも昨日見て参考になったよ。」

「何をだ?」

「G・インパルスドライブっていう、空を飛ぶ推進器。」

 

 

 ギャレオンの腰部、ガイガーのスカートパーツの両側に付いている推進機関であり、F・F時にEMトルネードを発生させる。

 

 

「と、言っても魔導噴流推進器(マギウス・ジェットスラスタ)ってやつを流用してるんだよね。銀盤に術式(スクリプト)掘るの大変だったけど、昨日完成させたよ。」

「……確かソイツぁよ、隣国(フレメヴィーラ)でも出来たばかりの代物って聞いた記憶があるんだが。しかも団長機。」

「うん。確か基礎は発案者と合同で造ったって、お嬢が言ってた。ただね、担当で造っておいてアレだけど、未だにEMトルネードってやつの原理が解らない……」

「……よくまあ、造ったもんだ。」

「本当だよ。でもそれらの皺寄せが一番来たのが……」

───だぁあああぁぁぁぁーーー!!!44から52番の回路がまとめて死んだぁーー!!」

 

 

 そう叫んだのはイザリアだった。

 

 

「ああ~……また回路の不具合か?」

「姉御、本当に災難だよ。大型化に伴って、構造と回路周りが出力上がって、一番困難になってるんだよね。しかも44から52って、確か腰の一番負荷掛かる場所だよ。」

「でも、ミニサイズを素のまま模倣したら自壊って有り得ねぇだろ。いったい何が原因……」

 

 

 ───ズドンッ!!

 

 

ぬあをーーー!!!回転軸が折れましたわーーーー!!!」

 

 

「なっ!?腰の回転軸が!?どの基礎軸より強力で太いはずなのに!?」

「お嬢……どんだけパワーかけやがった?!」

 

 

 轟音と共に、F・F時に回転する腰の軸がポッキリ折れ、脱落したようだ。

 しかも犯人はカルディナ。

 テスト稼働で腰を回転させただけなのに、宙吊りにしてあったガイガーの、回転箇所の腰から下がごっそり落ちたのだった。

 ただ、テスト稼働でF・F時と同等のEMトルネード排出時の回転速度を出すのはテストとは言えない。

 

 

「……軸が砕けてやがる。錬成100超えてんのに、あれでも駄目だったか。」

「あ、軸の製作者が泡吹いて倒れた。」

「会心の出来だ、とか言ってたのによ。可哀想に、無理もねぇ。ん?ガイガー、起動してねぇのに、心なしかゲンナリしてねぇ?」

「具体的には目のハイライトが消え───」

「いやぁあああぁぁぁーーー!!! 急いで修復をーーー!!!」

「お嬢!!!もっと丁寧に扱ってよ!!! 」

「「 ……喧しい。」」

 

 

 

 などという事もあった。

 そして……

 

 

 

「オーライ、オーライ、ストーップ!!」

「よし関節の接続、固定開始ー!!」

「軸合わせー、接続ッ!!」

「……よ~し、いい子だ。もう折れたりするんじゃないぞ。王国一の強度は伊達じゃない!!」

「軟鉄の合金とは言え、今や錬成200回の強度は伊達じゃないな。」

「絶対に破壊されない軸……それが作られるとは思わなかったよ。」

「その過程の業は深いけどね。」

 

 

 四肢の接続が完了したのが、およそ5か月と半月。

 いよいよガイガー、そしてギャレオンの形が出来上がった。

 しかし、ギャレオンの形にしてから、何かが足りないことに気付いた。

 

 

「あ、尻尾。」

「まじかよ!!あぶねぇ、伝導液注入前で助かったぜ!!」

「どうせならもうスカートパーツも組まないかい?後は付けるだけだろう?いいでしょ、お嬢。」

「もちろんです、お願いしますわ!」

 

 

 そして蜘蛛の子を散らすように職人達が散って行った後、その場に残ったイザリアがカルディナに近づいて来た。

 

 

「お嬢、2点ほどいい?」

「何ですか?」

「やっぱり、回線の44から52番はもう少し増やして。もしくは太くして。並列と分散作業なら、今なら間に合うから。」

「……やっぱり増やした方がいいです?」

「もちろんよ。お嬢の事だから炉のフルドライブなんて絶対にするから、回線焼き切れるって。それでなくてもあの回線は他の所と兼務してんのよ?保険は絶対必要。」

「……そうですね、お願いします。」

「それともう一つなんだけど、魔力転換炉(エーテルリアクタ)あれ(・・)の事だけど……」

あれ(・・)とは?」

「……しらばっくれるんじゃないよ、そしてそっぽ向いて口笛吹かない。」

「あれはその……乙女の秘密、と言いますか……」

「あのガイガーのどこがよ。完璧に漢でしょ。♀型は小さいので充分。」

 

 

 ♂型のガイガー(ミニ)があるが、♀型も創っているカルディナ。

 それはミニ・ガオーマシンをカルディナ自身の全ての体型に合わせるため、試験的に造った、フィッティング用のもの。

 故にスリーサイズ込みで、カルディナの体型そのまま。なので、扱いには厳重注意なのだ。

 

 

「で、『2つ』を『3つ』にしたんだから、回路だって増設してんだからね……っていうか、よく出来たわね、魔力転換炉(エーテルリアクタ)の増設。」

「……」

 

 

 ……?

 

 …………??

 

 ───!?!?

 

 

「しかも既存の魔力転換炉(エーテルリアクタ)とは違って、術式(スクリプト)も中心回路もない単純なものだけど、絶妙に他2つの魔力転換炉(エーテルリアクタ)とシンクロさせてる。いつの間にあんな仕様にしたのよ?」

「……最初に腰の軸が外れた日の後、ですわ。」

 

 

 その情報を聞いたイザリアは頭を抱えた。

 

 

「……あれね。私が出力不足指摘したからか。魔力転換炉(エーテルリアクタ)だけはお嬢の管轄だから、その後は誰も何も触れなかったけど……当初より軟鉄の使用量が多くて、ツインリアクターですら出力不足みたいだからね。『強化魔法』の足しになればと思って増設しましたんでしょ?」

「はい、そうです。」

「まあ、この際だから増設は何も言うつもりはないけど、報告はお嬢とはいえ、ちゃんとしてね。まあ、それ以上に気になる事があるのよ。」

「何ですか?」

「それに使われてる触媒結晶よ。極小でありながら、凄い転換率……『強化魔法』今までよりも段違いに強力で、これまでにない炉になってる。あの青みの強い紫の触媒結晶、どこで手に入れたの?」

 

 

 通常、触媒結晶は大きい=強い、となるが、これには当てはまらない。

 僅か、真珠ほどの大きさで、これまでにないくらいの転換率を誇っている。

 

 

「……信じてはいただけないとは思いますけど、裏山で拾いましたわ。」

「……裏山?ここの?」

「はい。ここの裏山、軟鉄が豊富にありまして、含有量は他の鉱山に比べてダントツですが。」

「───ちょっと待って。凄く聞き逃せない言葉があったんだけど、しかも初耳。」

「当初は価値がないからと放っておいたのですが、今は十分な価値があるので、他の所から搾り取って、無くなり次第、ここのを手を付けようと……」

「……続けて。」

「10年ほど前に散策した時に見つけまして。魔法を使う触媒としては非常に重宝してまして……大概の私のあれやこれやの噂で出ているものは、大概これを使ってました。」

「……なるほど。お嬢の力の秘密が良く分かった気がするわ。」

「と言っても、ここ5~6年は使ってません。使ったら大災害を起こしかねないので……」

「うん、被害予想がいきなりオーバーキルしたわ。」

「『あの2人』の力を上乗せしたらどうなるか、目に見えてますし。どうせ使っていないから、保険として思い切ってギャレオンの核にしてしまおうと……」

「とか言いながら、増設されたものはGSライド──」

「いえ、Gドライブです。」

「……あ、うん。Gドライブの形をしていようが、お願いだから、そこまでのモノを断りなくしないでね。大爆発を起こすから。」

「すみません。」

 

 

 

 という訳で、トリプルリアクターとなったギャレオン、そしてガイガーの動力炉。

 だが、カルディナにとってはGストーン無きガイガーは、ツインリアクターだろうが、トリプルリアクターだろうが、心許ない存在であった。

 そして、遂に魔力(マナ)を動力としたギャレオン、そしてガイガーが完成したのだったが……

 

 

 カルディナの心中は嬉しさの中に少し、虚しさもあった。

 

 

 

 だが、後に『お嬢様の気まぐれ』と言われるこの決断が後のギャレオンの、そしてガオガイガーに大きな変化、存在意義をもたらすことを、この時点では誰もが、そしてカルディナ自身も知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ───ようやく、器が完成した

 

 ───後は、魂を……その胸に秘めた勇気を……

 

 ───早く気付いて、我が主……

 

 

 

 

 

 

 

 それには、(ギャレオン)を求める意思の後押しも……

 

 

 

 

 

《NEXT》

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

君達に最新情報を伝えよう。

 

 

幾多の困難を乗り越え、遂に完成した鋼鉄の獅子・ギャレオン、そして鋼の巨人ガイガー。

 

地を疾走し、空を駆ける姿を刮目せよ!

 

そして次なるはガオーマシンの創造。

 

しかしカルディナの心にある虚しさは晴れず、遂に『彼ら』に接触する決断をする。

 

向き合うのは鉄のように固く、血のように濃い絆で結ばれた、忘却の孤児達(オルフェンズ)

 

彼らがもたらすモノとは?

 

 

次回『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

 

Number.09『鉄鋼桜華試験団』

 

 

次の物語に君も、ファイナル・フュージョン承認ッ!!

 

 

 

これが勝利の鍵だ!『オルガ・イツカ』

 

 

 

 

 




○レクシーズ陛下
イメージは『本好きの下剋上』のフェルナンド様。ただ、中の人ネタが多めなので、人によってはサンドマン様にも見えそう。
あと、いろいろ後のフラグ……ネタを仕込んでます。
あと、カルディナさんとの話ですが、元から結構な信頼関係の2人なので、失敗しようが最悪の結果にはなりません。
というか、利権絡みの話は苦手なので、これが限界。


○軟鉄
次回予告で勝利の鍵扱いでしたが、イマイチ話の中心になれず。
ただ、この話でギャレオンの構成物質の6~7割が軟鉄仕様に。
どうなるでしょうね?


○トリプルリアクター
書いてて、何故かそうなった。
当然ストーリー上の理由はありますが、これを思い付いたとき、何で思い付かなかったのかと後悔。
でも修正できる範囲なので入れました。


○謎の声
カルディナさんにしか聞こえません。
敵じゃないのでご安心を。




という訳で、次回は判ると思いますが、鉄華団絡みの話ですが、正直『……何で君らがいるのよ??』と首をひねる人が多数ですね。
私もそう思います。
原作では不遇なラストを飾ってしまった彼らですが、そこに異世界要素とカルディナという劇薬が投入されるとどうなるか、その辺りを見て頂けるとありがたいです。


誤字報告、感想、お待ちしてます。



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間話 ~忌憚~ -Danger-

衝動的に、かつ前から温めていた間話です。

内容はかなりショッキングなのか?と思うところもあります。(意味不明)
まあ、本編に引っ掛かるところもあったりなかったり。
本編の補足的な話です。


あと、感想欄でベターマン出演を望んでいた方へ、『Final』のような演出したいと私は言っていましたが、すまない……


──あれは嘘だ。






「──戻りましたわ。」

 

 

 空が暮れた頃、フレメヴィーラ王国よりアルド・レイア王国の地──アースガルズの領地にある、自身の家に戻ったカルディナ・ヴァン・アースガルズと、そのメイドのフミタン。

 

 ガオガイガーの姿からフュージョン・アウトし、IDメイルを瞬間装着空間で着替え、普段の余所行きの身成りにする。

 なお、ガオーマシンは『収納魔法』行きである。

 しっかりと堅固な造りの玄関を開け放って、戻ったことを告げた先には、数人の執事達と、父親のクリストファーが心穏やかならぬ様子でいた。

 

 

「おお!カルディナ!戻ったか。」

「少々遅くなりました、申し訳ありません。」

 

 

 と、告げるカルディナの表情は眉間に皺を寄せていた。

 さすがに長旅が堪えたようで、疲れが見えている。

 

 

「疲れただろう、休むといい。」

「そうしますわ。ちなみに私がいない間、何かありましたか?」

「特に何も……いや、小包があったな。フレメヴィーラからだ。」

「私に?いったい誰からです?」

「差出人は『古のエルフの森』……ああ、キトリーお義母様からだ。」

「───ッ!?」

 

 

 これはまた、ロクでもない人物からである。

 そして、一番手紙を出すイメージが湧かない。

 ちなみに、『古のエルフの森』は『アルフヘイム』の隠語の1つとして使われている。

 とはいえ、彼の地は秘匿区域だ。

 誰だ、手紙を代筆した人物は?

 

 

「……間違いなくオルヴァーさんですわね。」

「そんなに嫌か?」

「そういう意味ではないです。もう少し気の効いた誤魔化し方をしてほしいと思うのです。」

 

 

 むしろキトリーに使われて哀れで仕方ない。

 そう思いながら、小包を開けるカルディナ。

 そしてその中からは、一通の手紙と、表面が非常に固そうな『実』が1つあった。

 とりあえず、手紙をクリストファーが読む。

 

 

「手紙は……『久々に顔を見せなさい』、これだけか。相変わらず簡潔過ぎるな、お義母様は。」

「もう少し気の効いた言葉でも書かせれば良いのに……で、何ですの?この実は……」

 

 

 明らかに食用には見えない。

 食用であっても固くて食べれなそうな実だ。

 まるでガリガリと音を立てて食べろと言わんばかりのものだ。

 

 いやいや。

 

 だが、カルディナはこの実に覚えがあった。

 実食してはいないだろうが、やけに畏怖と嫌悪感が沸き上がるが、それ以上に本能が『食べろ!』と訴えてくる、何故だ?

 

 

「何々……『ネブラを同封する。必要とあらば食せ』だって。ネブラって、この実の事か────なぁ!?!?」

 

 

 いきなりカルディナが、クリストファーが見ていた実を鷲掴みにして、凝視する。

 しかもその凝視する表情に喜怒哀楽は消え失せ、全くの『無』である。

 

 いきなりの事で、クリストファーは困惑するが、こんな時の娘は非常に険悪なので余程の事がない限り近付いてはいけない……という父親の経験則が非常事態の警鐘をガンガン鳴らしている。

 だが、友人に会いに行くと言って出掛け、機嫌良く帰って来たのに、何故いきなりそこまで機嫌が悪くなれるのか疑問に思うところも。

 成人こそしていないが、既に大人顔負けの存在になりつつある娘を気にしたいクリストファー。

 そして実を持って、早足でクリストファーの横を素通り、エントランスから階段を登り、2階へと向かうカルディナを呼び止める。

 

 

「ちょ、ちょっと待った!カルディナ、どうした、何処へ行く!?」

 

 

 ───ピタッ……

 

 

「……お母様のところへ、ですが、何か?」

 

 

 呼び掛けに対しピタリと止まって、まるで人形の挙動のように首だけを動かすカルディナ。

 父親を見下ろすその表情に、精巧に創られた人形の様に、感情はない。

 

 

(……ああ、これは相当キてるなぁ。)

 

 

 そしてそのまま見送るしかないクリストファー。

 最近、娘との接し方が良く解らない悩みを持つ。

 

 

 そんな父親の気持ちなど、どこ吹く風。

 カルディナはとある部屋の前にいた。

 

 

「失礼します。」

「……、……」

 

 

 かろうじて聞こえそうで、聞こえない声の主より許可が出て、カルディナはすぐドアを開け、早足で部屋の中に入ると、そこは幻想的な空間が広がっていた。

 

 神秘的な光を漂わす森の中。

 そのような装飾を施した部屋。

 その中に、白い綿をふんだんに集めたようなクッションにその身を委ね、淡い微睡みに揺蕩う1人の幼い少女が……

 ショートカットに揃えられた白い乳白の髪が弛く揺れ、透けるように薄い衣を纏い、白く滑らかな肌が特異な色気を誘う。

 そしてその胸元には紅い魔石ような、紅く妖しい宝石が埋め込まれているようにあった。

 その人物に対しカルディナは───

 

 

「──お母様、お話があります。」

 

 

 と言いきった。

 そう、この人物がカルディナの母親。

 ケルセリーヌ・エルス・アースガルズ夫人である。

 

 ……うん、幼女だけど夫人ですよ。

 

 

「……、………?」

「……お母様??」

 

 

 しかし声が聞こえない。

 声が小さ過ぎて、聞こえないのだ。

 口もロクに動かず、何か言った?みたいなぐらいの音……しか聞こえない。

 ただし、これは病気とかではない。

 

 

「───ああ!!もう!!」

 

 

 そんな状況に苛立ったカルディナは、会話方法(・・・・)を切り替えた。

 

 

《これで、ヨ・ロ・シ・イ・デ・ス・カ!?》

《わ~い、カルナちゃん。お久しぶり~。》

 

 

 苛立つカルディナ対し、無気力な表情に反して軽い口調の声が頭に響く。

 それはこの少女から。

 所謂、テレパシー。

 

 

《……まったく、いちいち『通信魔法』で話さないと駄目ですか!?声の出し方忘れたのですか?!》

《それは慣れてないからでしょ~?私はこっちの方が楽だよ~、口を動かすなんて原始的で嫌~》

 

 

 ケルセリーヌ・エルス・アースガルズ夫人。

 旧姓、ケセリナ・キルヤリンタ。

 通称、ケセリーちゃん(希望)

 年齢、永久の17歳。(熱望)

 こんな口調でナリして、キトリーの娘である。

 20年ほど前、若かりしクリストファーがアルヴの民ゆずり、そしてキトリーゆずりのスタイルとその美貌に一目惚れし、口説いて結婚を申し出て貴族となった人物。

 その後、貴族としての勉学に励み、カルディナを始め、2人の子供を出産。最強の教育ママとして見事子供達を育てる。

 自身もその美貌を武器に社交界の男達を魅了し、手玉に取っていたという。

 

 だが、3年程前に「……これで終わりにしましょう」と呟いた後、社交界の場、そして表舞台から姿を消した。

 その理由は……

 

 

《体型維持して、子育て、社交界、貴族のあれやこれや……三食昼寝付きでいいからと結婚したのに、つらい毎日……ついでにストック分の『スヴェイエトの実』もなくなりそうだったから、カルナちゃんが成長したら、いろいろ止めようと思って。それに、丁度良く眠りと思索の時が来たみたいで丁度良かった。》

 

 

 との事。

 そして始まった眠りと思索の日々(ニートライフ)

 消費したエネルギーを回復するために目下、実施中なのだ。

 流石はアルヴの民。眠りと思索の日々(ニートライフ)のためなら妥協がない。

 

 なお、幼女体型なのは元々で、とある実を摂食すると、一時的にキトリーばりの美貌の大人になる。

 繰り返すが、幼女体型は元々だ。

 胸の宝石?無論、触媒結晶だ。

 ただ、普段は偽装して隠している。

 

 

《……で、どうしたの?》

《お婆様からこれが送られて来ました。》

《んん~~?あ、それ『ネブラの実』じゃない。どうしたの?》

《……私にこれを食べて、アルフヘイムに来い、だそうで。》

《あははは。確かフレメヴィーラ方面に行ったの今日だったよね、入れ違いだったのは痛いねぇ。まあ、『ネブラの実』食べたらすぐだけどね。また行ってあげたら?》

《嫌です!初めて行った時に酷い目にあったのです!御免被ります!》

《……重症だねぇ。》

《当たり前です!以前、実験中にお婆様にキレられて、ボコボコにされた挙げ句、【ズキュゥゥーン】で『ネブラの実』を食べさせられた事は忘れもしれませんわ!!》

《……で、第2ラウンドで更にフルボッコ。あの時のリアルタイム中継は思わず声に出して笑ったけど。だって全然動けてないし~。》

《当たり前です!【ズキュゥゥーン】されて動揺した直後に、限界バトル吹っ掛けるお婆様に勝てる訳ないでしょうに!というか、私はこの実がある事自体に畏怖を覚えて動揺して、それどころではなかったのです!!》

《自然の摂理だよ?気にしちゃ駄目───》

《───そんな摂理、あってたまるかぁーーー!!!》

 

 

 カルディナが口調を乱してキレた。

 相当腹に据えかねているご様子。

 ケセリナも表情こそ変えていないが、娘をやたら煽る煽る。

 

 

《はぁ……現にあるんだから仕方ないでしょう?しかもその実、最近生った新しい実だよ?新鮮なんだよ~?お婆ちゃんに感謝しなきゃ~……》

《───生る時点で充分アウトですわッ!!》

《うん、カルナちゃん、地味に反抗期?》

《……私は心配なんです、他にも生ってるケースがあったらと思うと……》

《私は嬉しいな。『ネブラ』は一般的だし『フォルテ』とかない?『アクア』でもいいよ?『スヴェイエト』のストックも足りないからなぁ……あ、でも『オルトス』は勘弁ね、300年前の戦いでカンケルとのド突き合いはコリゴリ……》

《……不穏な名前がゴロゴロと。》

《仕方ないじゃない、私達アルヴの民──いえ、ソムニウムは本当の意味での栄養摂取……確かD型アミノ酸、だっけ……?『実』じゃないと取れないんだから。定期摂取は必要だよ?》

《やはりソムニウム(その)の話になりますの?》

《いえ~す》

 

 

 頭が痛すぎて、カルディナはその場にうずくまるしかなかった。

 

 ここまでの話で察しは付くだろうが、カルディナ、キトリー、ケセリナはソムニウム───ベターマンである。

 

 

 地球において、人類がベターマンと呼ぶ、紀元前以来から人類の歴史に度々存在が確認されてきた霊長類とされる種族。

 数千年前にダイブインスペクション(次世代環境機関NEOが進めていたベストマンプロジェクトの一環で、リンカージェルにより遺伝情報を書き換え、通常の50倍もの細胞分裂に耐えうるテロメアをもつ不死身の細胞を持ち、耐性病原菌や癌をも克服する完全なる人類(ベストマン)を目指した実験)を成功させた種族。

 基本的にリミピッドチャンネルを通じて意思疎通を図る。地球生命で唯一D型アミノ酸を利用して生きており、人類にとっての光学異性体となる存在。アニムスの花からでしか生命維持に必要なアミノ酸を摂取できない。

 地球生命にとっての免疫機能の役割を担っている。

 地球生命滅亡の危機であるカンケルの出現、それに呼応して発生するアルジャーノン、そしてアルジャーノン発症者を苗床にして生み出される、アニムスの花に呼び出されるように出現した。

(Wikipedia参照)

 

 要は地球という星の抗体免疫の宿命を持った超人である。(超暴論)

 

 

 ちなみにカルディナがベターマンの事を知ったのは、ガオガイガーを見終わった後、製作スタッフの事が気まぐれに気になり、ちょっと『脳内書庫(B・ライブラリー)』で調べたら出てきたのを見たためだ。(全話鑑賞済み)

 それをケセリナが眠りと思索に入った直後、カルディナが……

 

 

「エネルギー切れで眠りに就くとか……まるでソムニウムですわね。」

 

 

 と小言で言った直後───

 

 

《──え?なになに?ソムニウム(お母さん達)の事、知ってるの!?何で?教えなさい!》

「すわっ!?何ですの!?頭に直接!?どんなSUN値直葬!?メーデー!メーデー!」

 

 

 『リミピッド・チャンネル』で直に聞いてきた事から端を発する。

 ちなみに、カルディナの『脳内書庫(B・ライブラリー)』の事もおおまかな事は知っており、カルディナの異様な知識については教育ママを演じながらも「面倒だからいいや。」で黙っていたらしい。

 結構、面倒臭がりやである。

 それから『リミピッド・チャンネル』経由でカルディナの『脳内書庫(B・ライブラリー)』の映像(のみ)を日夜観まくって過ごす日々。

 

 ──ヲイ、眠りと思索はどうした?

 

 ……あ、眠りと思索の日々(ニートライフ)か。

 なまじ美少女で表情も変化しないから、『眠りと思索(真面目にやってます)』と言い訳出来、周りからも怪しまれない。

 

 また『脳内書庫(B・ライブラリー)』の作品閲覧が長いためか、サブカルチャーの影響が強いためか口調は、凄い軽い。

 そして知識量もその応用も凄い。

 何というオタクお母さん。

 

 なお、一番好きなのは、恋愛系。

 女はいつまでも、心は少女なのだ。

 

 

 ……閑話休題。

 

 

《ある種、私らはカンケルの様な存在(種を滅ぼすモノ)と戦う宿命を持たされてるんだから。『アニムスの花』が現れるのは、そんな奴らが現れる前兆……自然の摂理なんじゃない?》

《かといって、アルジャーノンが流行りでもしたら、その時は終わりですわよ?お母様の優雅な眠りと思索の日々も。》

《ぐぬ、それは困る。お母さん、働きたくないで御~座~る~》

《……『通信魔法』越しにごねるのは止めてください。》

《ん?……前にも言わなかった?これは『通信魔法』じゃなくて、これは───》

「あ~あ~あ~あ~~、聞キタクナイ~~。」

《……あのねぇ、お母さん言わなかったっけ?事実を認めない子は、キ・ラ・イ・ダゾ! 『リミピッド・チャンネル』だって───》

───いやぁあああぁぁぁーーー!!リミピッド・チャンネル(そう)は言わないでーーー!!!」

 

 

 もうそろそろカルディナさんの心も限界なようで。

 

 

《……ええ~?現実を見なさいって。もしかして、まだ受け入れられない?自分がソムニウムの直系だって。》

《違います!私はヒト型種です!》

《まあ、ハーフだし。でもアースガルズ家にはソムニウムも一緒でしょうに。過去、多種多様な種族と婚約して、子孫繁栄。雑多な血統貴族もそうそういないよ? 今さらソムニウムの血筋が入ろうが変わりはしないって。パワーアップはするだろうけど。》

《……うぅ、雑多な血統貴族と言うところは認めますけど、それとこれとは話が別です!》

《違わない。そうだから、カルナちゃんは人外な力持ってるんでしょう?自分の力の源には感謝しなさい。》

《……はい。》

《ならよし。あと、嫌ならネブラの実はお母さんが預かるから。》

《……いえ、自分で持ってます。》

《そう?ならいいけど。》

《……疲れたから、今日はもう休みますわ。》

《うん、お休み~。》

 

 

 そしてとぼとぼと歩みながら、カルディナは部屋を後にしていく。

 そして部屋に独り、ケセリナは半目の目蓋を閉じた。

 

 

《……という事で、しばらくはまた行かないみたいだよ~、キトリーお母さん。》

《ぬう。強情な孫よの、誰に似たやら……》

《完全にお母さん。》

 

 

 『リミピッド・チャンネル』越しにカルディナとケセリナの話を聞いていたのは遠く離れた地、アルフヘイムに鎮座するキトリーだった。

 だが現れて早々に娘にディスられる。

 

 

《それは詭弁ではないか。》

《いや、口調はいざ知らず、正義感溢れるところなんて、瓜二つだよ。》

《ふん、あ奴はまだまだよ。鍛練が足らぬ。実の使い方も知らぬ若輩よ。》

《……さすが、ソムニウムの元2代目族長の言葉は違うねぇ。私は産まれてないけど。》

 

 

 生まれて15にしかならない孫に対し、何という無茶を言うキトリー。

 と言うのも、次代をソムニウムの1人、後のパキラ老に委ねた後、キトリーは『オルトスの実』片手に当時出現したカンケルの殲滅に赴いた。

 そして戦いには勝った。

 しかし、戦いの余波で発生した次元の門(ESウインドウ)で、独りこの地に跳ばされた経緯がある。

 

 その星は創世記の真っ只中で、当時キトリー独りしか生物がおらず、秘術で分身を造り、次第に増えゆく動植物を喰らい、生きていたという。

 そしてその内、星の環境に適応するが如く、胸のペクトフォーレスの性質が変化し、大気中に漂う源素(エーテル)魔力(マナ)に変換することにより、より高いエネルギー変換を行うよう、自身も変容──進化していった。

 そして分身達も次第に自我を持ち、現在のアルヴの民となり、更に派生、変容を重ねてエルフとなった。

 ちなみに、その間外界が同様に変化、変容を重ねていたが、キトリーには預かり知らぬところだった。

 

 

 

《……それから、この地にてソムニウムという言葉は聞く事はなかったが、こうして再び他者……孫から耳にするとはな。そういえば、パキラは逝ったのだな。》

《パキラ……確か『ベターマン』って作品にあったね。モロにソムニウムの事が描かれてた。そんでパキラは最強のソムニウムだとか?》

《我よりは弱いがな。そして次長はラミアとかいう若造か……数奇なものよ。孫の所業でかつての同胞の有り様を知るとは。》

《……ちなみに、それ本当なの?》

《うむ、多少時が経った故に、人相は変わっていたが、パキラやポタイジュに相違ない。それにリミピッド・チャンネルで、現・族長と確認済みよ。》

《……何て言ってたの?》

《絶句しておったわ。先々代の族長が生きていたとな。まあ、彼方にもカンケルが出現したそうな。そ奴が討ち取り、今は眠りと思索についておる。》

 

 

 『リミピッド・チャンネル』は空間のみならず、次元を超える。

 熟練者であれば、別次元にいるラミアに連絡を取ることだって容易い。

 

 

《ふぅ~ん、ますます不思議だなぁ~。てっきりカルナちゃんの『脳内書庫(B・ライブラリー)』って、架空の作品を集めたものって感じがしたけど……》

《むしろ識っている者にとっては『事象の軌跡』に近い。モノの中にはあの小僧(エルネスティ)の姿や偽装した我自身もいた。無論、それだけではないが、それだけの情報集合体を有するというのは、どうもな。》

《だからお母さん、直接カルナちゃんに会いたいんだ。》

《うむ。有するのが因果の結果とはいえ、あまりにも的を当て過ぎる故に、直接問うつもりだったが、あ奴には臍を曲げられた。》

《ついでに直に顔を見たかったとか?》

《……それもあるが、この事は直接やった方が確実と思ってな。》

《あ、じゃあやっぱり?》

《ああ、やはりリミピッド・チャンネルのみでは限界がある。》

 

 

 目を瞑って一呼吸置くキトリー。

 そして次に放った言葉が……

 

 

 

《………ケセリナの録画ストック分を総て見果たしてしまった以上、『名探偵コナン』の他の話を見るには、ケセリナ経由では厳しい。やはり大元たるカルディナから直接引っ張ってくる必要がある。》

 

 

 だから直接呼ぶことに執着したとか。

 孫にDVDかBLボックスを持って来させ、更にプレイヤーを設置して見させろと言うような感じだろうか。

 

 

《お母さん、推理モノ好きだもんね。》

《戦にない知的興奮がある。真実はいつも一つじゃ。しかし、もうそろそろ他も見たいというべきか……》

《『金田一少年の事件簿』、『R』、まだまだあるよ? でもお母さん、カルナちゃんからリミピッド・チャンネルのアクセス、頑なに拒否されてるからねぇ。あんまりしつこいからだよ?》

《お前はいいのぉ。見放題で。》

《カルナちゃんに録画係を任命されてますので。》

 

 

 仕事、してますので。とリミピッド・チャンネル内でドヤ顔するケセリナ。

 

 

《……まあ、これらの『作品』とやらは、おそらくは並行世界の『創生者』が、己の所業を見せつけるため、人間達に自然な形で感化させたのだろう。もしくは創話に沿って世界を創ったか。あ奴らの思考をあえて伝えたか……》

 

 

 それを『神が降りてきた』とか『インスパイアされた』とかいう。

 

 

《並行世界って……お母さん、会ったことあるの?》

《若い時ここに来る前にな。その縁でウサギモドキみたいな輩がこの世界の神の手助けをしておる。助神……という立場か。》

《じゃあ主神は?》

《確か『太陽神』を語っておる、神の成り立てとか、だったか。我にはどうでもよい話だがの。まあ以前、ちょっかいをしてきた時もあったが、その時は『フォルテ』を合術にて掛け合わせた『フォルテシモ』を喰らってオハナシしたが。》

《ああ、思い出した。あまりにも協力しろって五月蝿いから、山脈に神体出入り禁止の結界を張って出禁にしたんだよね。》

 

 

 それが今の『オーヴィニエ十字山脈』である。

 

 

《元々、この星の南側の大陸の肉体を持たぬ高次元体は『三強』の封印の影響で少なかったからの、その上、精霊や天使の戯言が五月蝿くなくなって清々したわ。》

《あ~、じゃあ、主神って今は……》

《こちら側にいるぞ。太陽神の信仰がないから、誰にも気付かれていないが。》

 

 

 日々、「……誰か気付いて。」とリミピッド・チャンネルで伝えてきて五月蝿いが、とキトリーは言葉の端に付け足す。

 そして最近はめっきり聞こえなくなって、気にも留めていなかったりする。

 ちなみに、結界は感応結界で、特定のもののみを除外する機能を持つ。

 例外として、キトリーの血縁者であれば、その隣人も含めてスルー出来る。

 

 ……だがキトリーが預かり知らぬのは、アルド・レイア王国とフレメヴィーラ王国間で、山脈を越え繋がっているところ。

 それが孫娘の所業と知らず……

 

 

《まあ、些細な事よ。》

《だね~。私らソムニウムには些細な事よね~。》

 

 

 世界の危機やカンケルは気にしても、他は気にしない。

 地球より離れたソムニウムは、いろいろやらかしつつ、その種を変貌させていた。

 そしてその大元たる存在は、趣味を謳歌中である。

 

 

 

 

 

《END》

 

 

 

 

 




タイトルの意味は『貴女方に触れたらいろいろやベー』の意。
あとは『覇界王』読んでたら、衝動的にベターマン関連が書きたくなった影響もあります。


○キトリーさん ベターマン説
元々アルヴの民やエルフの胸に、触媒結晶があるという設定している(ナイツ原作での詳細な箇所の設定は知りませんが予想で)中で、舞い降りたアイディア。
ソムニウムの1人がどっか別の世界に紛れてたら、何かやらかしてもおかしくはないよね(暴論)
いや、やっててもおかしくない、はず。


キトリーさん、マジビューティー。人間離れしてる。

人間離れしてるのはベターマンも同じ……ん?

胸に触媒結晶と、宝石……あ、キトリーさんはベターマンか。普段は偽装しているって事で。
ついでにエルフはみんなキトリーさんの末裔って事で……

ならカルディナさんもベターマン……あ。

結論:主人公にベターマンという属性が付与される。

……ワタシハ、トンデモナイ事ヲシタ?

だが後悔はない。


後は、世界観のバックグラウンドとフラグをちらほら。

娘のケセリナは当初はいる、程度の考えしかなかったのですが、この回で決定しました。
しかし語り口調が、CV田村ゆかりに思えて仕方ないのは幻聴か?


ただ、この作品で、ベターマンの設定が生かされる回は相当限られるというオチ。
だが、書いている最中にフィギュアメーカーのAMAKUNIがベターマン・ネブラを販売予定との記事が……
更にAMAKUNI機神のジェネシック再販の記事が……!

……書いている最中に、何かが起きる予兆でしょうか?


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Number.09 ~『鉄鋼桜華試験団』~(1)

お待たせしました。
仕事もプライベートも忙しく、感想欄の返事が出来ませんでしたが、ちゃんと見てます。
どうもありがとうございます。

いよいよギャレオンが動き出します。
どんな動きをするか、お楽しみに。

そして、サブタイトル通り、後半は奴らが……





 『お嬢様の工房(アトリエ)』近くの実験場を兼ねた荒野にて、軽快な四足歩行の足音が響く。

 時にゆっくりとした歩みで。

 時に駆け出し、走る歩幅で。

 ただし非常に重厚で、機械音混じりの足音であるが。

 

 

「──うふふふっ!流石、アディとキッドの仕事ですわね。人馬型(ツェンドリンブル)魔導演算器(マギウスエンジン)術式(スクリプト)を少し調整しただけで、ギャレオンが力強く歩みますわ。」

 

 

 その足音の主──ギャレオンの姿は、金色の鬣を翻す、金属で出来たライオンと呼べる風貌……いや、そのまま鉄のライオンである。

 ただし、その全長は10メートルにも及ぶ、生物ではあり得ない身体を有していた。

 

 時に魔力転換炉(エーテルリアクタ)特有の高い吸気音と、ジェットエンジン特有の吸気音を発し、跳び跳ねたかと思いきや、腰の黒い筒状のものから火を吹き出して空高くへと舞い上がり、羽根もないのに自在に空を飛び回っていた。

 

 そしてそのライオンの頭頂部とも呼べる場所に、あり得ない事に、地味なドレスとも言える服を纏った一人の年頃の女性が、何と腕を組んで仁王立ちをしてるのだった。

 

 

「……うふふふっ、エルには申し訳ありませんが、20メートル級の魔導圧縮推進器(マギウス・ジェットスラスタ)使用の1番目は頂きましたわ───と言いつつも、こちらはGインパルスドライブでない事が引け目なので、少々口惜しいところもあります。吸気・圧縮では宇宙(そら)での運用は出来ないですし、そもそもインパルスエンジンの仕様でもないのですけど……まあ、しばらくは大気圏内での運用しか考えてませんし。」

 

 

 問題なし!と言い切ったその人物に、通信が入る。

 

 

「はい、こちら───何ですって?シグリット砦が強襲!?───充分な数を揃えたと仰ってたのに……ええ、でしたらフェルネスさんとダーヴィズさんに『アレ』を使って砦に支援するよう伝えて下さい───装備は任せます、壁を越えて抜けられなければいいのです。後は私が───ええ、そのためのギャレオンであり、ガイガーなのです、それでは……」

 

 

 そして通信を切り、溜め息を一つ……

 

 

「……まあ、ぶっつけ本番ですが試せる戦場が出来たと思いましょう、では───装着(イークイプ)ッ!!」

 

 

 そして空駆ける鉄のライオンは頭頂部の女性諸共に、真っ逆さまに急速降下をするのだった。

 

 

 

 

 

 ───アースガルズ領 シグリット砦

 

 

「───ゴーレム部隊、前進ーッ!!」

「魔獣の侵入を許すなーッ!!」

 

 

 アルドレイア王国の端、アースガルズ領の東に位置する、ボキューズ大森林に一番近い砦、シグリット砦。

 魔獣の出現率が一番高いこの砦は、魔獣の交戦率が一番高い地区とされ、日々戦い明け暮れていた。

 

 シグリット砦に配属されている騎士団『雷狼騎士団』はその練度、能力の高いゴーレム使い──ゴーレムライダーが多い。

 

 そもそもゴーレムは、ゴーレムライダーの魔力(マナ)能力にもよるが、平均5~9メートルの大きさで、その材質は術者が『強化魔法』で硬質化させた土、もしくは岩、鉄である。

 

 それ故、手元に何もなくても即時展開、即戦力となり得る。

 大きさに関しては、その大きさの方がより良く能力の高いゴーレムを造り出す事が可能だからとされる。

 そして、背部に搭乗する場所があり背中越しに戦況を見定めて戦うのだ。

 その能力は幻晶騎士(シルエットナイト)と同等と言われ、ゴーレムライダーの魔力(マナ)とその『魔力操作』の質が高いのが多い故に、見た目以上にフレキシブルな動きが可能なのだ。

 とはいえ、その全てを術者魔力(マナ)で賄い切れる訳でもなく、多くは『魔石』を使い、そのゴーレムの身体構成をする。

 そしてその役割、術者に応じてゴーレムの姿形も違う。

 

 魔獣の進行阻む、重厚な造りの鋼の大盾を持った盾役(タンク)ゴーレム。

 

 大剣や突撃槍を得物とし、スラリとした細身で、魔獣を速やかに討つ近接戦役(アタッカー)ゴーレム。

 

 杖を使い、遠距離から魔法で支援、または魔獣を焼き払う魔法使い役(キャスター)ゴーレム。

 

 だが、そんな歴戦な彼らでも最近の戦場事情は、厄介と言わざるをえない状況に陥っていた。

 

 

「──出たぞ、『巨人殺し』だァーー!!」

「「「 ───!? 」」」

 

 

 10メートル以上もある木々の間から覗かせたのは2対の眼光。そして筋肉質な肉体を黒や紫の毛むくじゃらの剛毛が覆う。

 剛筋大猩々(ビルド・コング)と呼ばれる、哺乳類系の大型魔獣だ。

呼ばれる、哺乳類系の大型魔獣だ。

 その力たるや、強力の一言。特に腕力に秀でており、ゴーレムや幻晶騎士(シルエットナイト)の『強化魔法』を施した存在ですら、簡単に握り潰す事が出来る。

 別名、巨人殺し。

 

 そして姿を現した事を皮切りに、4~5メートル程の同型種が堰を切ったようにドッと大量に押し寄せて来た。

 剛筋猛猿(ビルド・モンキー)と呼ばれる剛筋大猩々(ビルド・コング)の眷属である。

 この魔獣の特性として、剛胆な肉体を持つ他、群れのトップ以外は全部メスで、人海戦術ならぬ、猿海戦術で増える。

 ……魚であるなら鯛がそうだが、環境によって雌雄が変化するものいるが、こいつらもそうだったりする。

 故に個体が数体いれば繁殖は出来る。

 

 

「くそ!また、あんなにたくさんの猿共を引き連れて!」

「見境無く増えやがって!ゴキブリか奴ら!」

 

 

 だが、泣き言は言っていられない。

 取り付かれれば、しつこい動きで離れない猿達である。

 更に何度目か解らない強襲の嵐。

 ゴーレムライダー達は不退転の思いで戦い続けていた。

 

 その中で、剣を持つ前衛ゴーレムの若きライダーのライル・デモリトンは、向かってくる1匹の剛筋猛猿(ビルド・モンキー)に狙いを定めて、剣を振り下ろす。

 一撃で仕留め、血飛沫が舞う中でも他の剛筋猛猿(ビルド・モンキー)がライダー達に休む間も与えようとせず、何体も飛び掛かってきた。

 

 

「 ──させるか!!」

 

 

隙をカバーするように、後方のゴーレムが放った戦略級魔法(オーバードスペル)火焔の槍(カルヴァリン)』が、剛筋猛猿(ビルド・モンキー)を跡形もなく焼く。

 

 

「大丈夫か!?」

「はい!ですが数が多い!このままでは抑えきれません!」

「泣き言を言うな……と言いたいが、その通りとしか言いようがないな。」

「際限なく湧きやがって、援軍はまだか!?」

「砦の壁に取り付かれた!!」

「引き剥がせ!1匹たりとも越えさせるな!」

魔力(マナ)が、もう限界──」

 

 

 ……そんな時だった。

 

 

 ───ボンッ! ボンッ!

 

 

「──な!?後退の指示だと!?こんな状況で!?」

 

 

 砦から空に放たれた2度の爆発──後退の指示がライダー達を驚愕させた。

 だが、この状況でそんな事は出来ない──

 と思うライダー達に更なる変化が砦にあった。

 何と森と砦を繋ぐ大門が開いたのだ。

 

 

「何を考えてるんだ!? 前線が後退を終えてない状況で何を考えて───」

 

 

 ───ドォンッッ!!!

 

 

 突如、後退の指示以上の爆発──暴風が大門の壁より起こり、よじ登る剛筋猛猿(ビルド・モンキー)の全てが吹き飛び、宙を舞わす。

 

 

「な、何が起こった!?」

《──今です、思い切りどうぞ。》

《オラオラ、吹っ飛びやがれェーーー!!》

 

 

 そして荒々しい口調と共に、高速で荒れ地を滑走し、その手にする大型ハンマー(・・・・・)を軽々と振るって猿を文字通り吹き飛ばす。

 それはこの場にいるゴーレム達を越す、ぐんずりとした鎧を纏う10メートル越えの鋼の巨人が繰り出した一撃。

 だが当たった瞬間、その破壊力のため殴打にて猿は絶命するのだった。

 

 

《もう一丁ッ!》

《ナイスヒットです……ん?》

 

 

 その後ろにいた20メートルにも及ぶ、こちらは逆に骸骨のように骨格だけような黒っぽいクロム色の巨人。

 その巨人の左腕に何やら違和感が。

 

 

《……ああ、剛筋猛猿(ビルド・モンキー)が噛んでいたのですね。『硬化』の強化魔法で硬くしているとはいえ、申し訳ありませんが離れて下さい。》

 

 

 そう言って左腕を強く振るい、群れへと投げ付けた瞬間、右手に持った杖を突き出した。

 

 

《──『真空裂刃(ソニック・スラッシュ)!!』》

 

 

 極限まで圧縮した風──真空を刃として放つ戦略級魔法(オーバードスペル)が、休む間を与えない程にマシンガンの如く連続で叩き込まれ、猿達を細切れにしていく。ついでに地形すら破壊し、見る影も失くしてしまう威力に、放った術者も……

 

 

《……量産化されれば、ゴーレムでは太刀打ち出来ませんね、これは。》

 

 

 と、感想を漏らす。

 というか作業用ですよね?……もう知るか、と疑問を呈しながら、次々に剛筋猛猿(ビルド・モンキー)を討ち倒す、2体の巨人に、ゴーレムライダー達は唖然とした。

 しかし、不意に長身の巨人の顔が上を向いた。

 

 

《……来ましたか。耐衝撃防御を!》

《待ってたぜッ!!》

 

 

 そして特に攻撃を受けていないのに身を屈める2体の巨人。

 それを不審に思った瞬間、目の前に突如……

 

 

 

 ──ドォォォーーーンッッ!!!

 

 

 雷光とそれ以上に身体を貫く衝撃が周辺一帯を疾る。

 その直後、前線に立つゴーレム達の間を『何か』が残像を残して通り過ぎ、前から剛筋猛猿(ビルド・モンキー)の群れがいきなり消え去った……

 いや、正確には『ミンチになって、残骸が宙を舞っている光景』であるか。

 そして遅れて巻き起こる突風。

 ゴーレムこそ飛ばないが、後ろに搭乗するライダーが強烈な風で飛ばされそうで、必死に耐える。

 

 

「いったい何が起こって……!」

「 ──早く後退なさい、後退指示は出てますわよ?」

「!?」

 

 

 更に驚愕したのは、その声の主だった。

 いきなりライルが操るゴーレムの頭上に、その人物は佇んでいた。

 艶やかな白地の布らしき素材で肢体を包み、黄金の鎧と黒のスカートを纏う。

 透き通るような白く長い髪を靡かせる、ゴーレムライダー達──ライルも他の家臣達にも、ある種聞き慣れた女性の声。

 

 

 

「──カ、カルディナお嬢様!?」

「あら、ようやくお気付き?」

 

 

 今や、アースガルズ公爵家の最強の代名詞たる令嬢、カルディナ・ヴァン・アースガルズ。

 その人は何故か眉間に皺を寄せ、大暴れしているものに視線を向けていた。

 そしてその瞬間、直感した。

 

 

 ───この方が増援か! そしてあれも増援か!?

 

 

「あの大暴れ(・・・)しているものは……」

「ライル、解るのか?」

「はい、ですが……信じられ、ません。」

 

 

 このライルは視力、動体視力がとても良い。

 故に彼の視界には、目の前で行われている光景が大まかにだが判った。

 しかし、言葉にすると理解が及ばない。

 

 何故なら彼の目には『両腕を突き出して、腰の辺りが爆発し続けながら錐揉み回転をするライオン』が、『縦横無尽に飛び回り、剛筋猛猿(ビルド・モンキー)をミンチにする』という、理解が深まれば謎にしかならない光景があるからだ。

 

 更にもっと恐ろしいのが、そのライオンは推定10メートルという程の大きさで、全身が金属で出来ている、という存在自体不可思議なモノ。

 しかも岩壁に到達するなり、貼り付くように岩壁に着地、多少接地面を砕きつつ、狙いを定めて次に『錐揉み回転で殲滅作業』という行程をループしている。

 

 何だこの悪夢?

 

 

「な、何ですか、あの全身金属で出来た魔獣は……」

「魔獣ではないですわ。あれは私が『思念操作』で操っている……幻晶騎士(シルエットナイト)のような鋼鉄のライオンです。」

「「「───ハイィッ!? 」」」

「ちなみに、今間違っても手を出しては駄目ですわよ?近寄られたら確実に巻き込んでミンチにする自信しかないので。」

「「「………」」」

 

 

 いや、あんな光景を見せられたら、嫌でも近寄りたくない。

 というか、貴女があの所業を行っているのか!?

 防衛第一、けれど命大事に。

 ゴーレムライダー達は首を縦に振るしかなかった。

 

 

「まあ、皆さん。後退して休息を。私と、あの2人が殿を務めます。砦は防衛第一と伝えてますので、その後は細かいのを駆除して頂けると助かりますが。」

「え??それはどういう……」

「先に大物を屠るのですが、如何せん数が多いです、小物まではカバーはしきれません。要は『突っ込むので、後は頼みます』ですわ。」

「え!?ちょっと───」

 

「 ──ギャレオォォォーーンッ!!!」

 

 ──ガオオォォォーーーンッ!!!

 

 

 カルディナの叫びに呼応するように、戦場を蹂躙する鋼鉄のライオンは高々に吼え、踵を返し、群がる猿も八つ裂きにしながら猛進する。

 周りなど意に返えさない、己が道を往くが如く、全力で。

 そしてカルディナも鋼鉄のライオンの元に走る。

 元々身体能力が高いお人だとはいえ、群がる猿の合間を縫って、時折首を手刀で的確に跳ねて走る姿は、戦場の死神であるかのような錯覚をライルは覚える。

 

 だが、その錯覚はすぐに霧散した。

 カルディナがある地点で、後ろを向いた瞬間、真上に飛び上がり、声高々に叫んだのだ。

 

 

「──行きますわ、フューージョンッ!!」

 

 

 そして、鋼鉄のライオンがその声に呼応するようにカルディナの後を追い、天高く跳ぶカルディナを何と強靭な顎をめいいっぱいに開き、カルディナを一呑みにした。

 しかも、カルディナはその瞬間にその身を屈め、鋼鉄のライオンに『食べられ易い』ようにしていた。

 これには家臣達も驚き悲嘆したが、そんな暇を与えず、鋼鉄のライオンが驚きの変化を始めた。

 

 

 ライオンの前脚───その爪付近が腕とは逆に折れ曲がり、そこから『手』が生えた。

 しかも逆の腕も、力強く握り拳を作って。

 更に両脚の先が、四足歩行の脚より、人間味のある足に折れ曲がる。

 上半身が反転、ライオンの顔がスライド、降りてきて胸に納まってしまう。

 そしてライオンの顔があった元のところから、なんとルビー色の双眼を光らせた、白い顔を持つ、長い鉄の鶏冠と、額に翡翠の宝石を埋め込んだ白い頭が生えてきた。

 可動する度に響く鋼鉄の音が、その巨人の勇姿を際立たせ、着地した瞬間、これまでに体感したことのない地響きが、白き鋼鉄の巨人の誕生を壮大に奏でる。

 

 そして、その白き鋼鉄の巨人は声高らかに名乗りを上げる。

 

 

「 ──ガイッ、ガァーーッ!!!」

 

 

 ガイガー。

 それはメカライオン、ギャレオンにカルディナがフュージョンすることにより誕生する、全高23.5メートル、重量112.6トンのメガノイドならぬ、マギウスノイドである。

 

 

 

 

「な、何と……!」

 

 

 家臣達はその姿に戦慄し、同時に悲しみを覚えた。

 ライオンが巨人に───20メートルを超える存在に変化した事に、そしてカルディナがその身を捧げて巨人をもたらした事に……

 

 

「……お嬢様、我々を生かすためにとはいえ、ご自身を犠牲にするなんて、そんな───!」

「───イヤイヤ、咀嚼されてませんから、丸呑みですから、生きてますから。」

「うおっ!!?」

 

 

 ライオンの口からにょっきり顔を出して抗議するカルディナ。

 誤解される要素満載だが、しっかり五体満足でいる事をアピール。

 

 ……とはいえ、予告もなくいきなりフュージョン(食べられるシーン)など見せられたら、誰でも誤解はする、という事が頭からスッポリ抜けていたカルディナは、その事に気付かず、いそいそコックピットに戻るのだった。

 

 

 


 

 

「──無事、実戦環境下でのフュージョンは出来ましたわ。何か要らぬ誤解を生んだようですが。」

 

 

 「解せぬ」と言ったような顔をするカルディナは、コックピットに戻った。

 そこは幻晶騎士(シルエットナイト)の操縦席と、機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズの、ガンダムフレームの阿頼耶識仕様のコックピットを足して2で割ったようなコックピットである。

 2対の操縦桿の間にある、背部接続コネクタを備えたシートに背を預け、IDメイルの背部にある対応したコネクタに接続する。

 

 ちなみに『ナイツ&マジック』の幻晶騎士(シルエットナイト)は操縦桿を用いて『魔力操作』を基本とした操縦であり、『鉄血のオルフェンズ』の阿頼耶識は操縦は有機デバイスシステムを用いた神経伝達による操縦である。

 

 特に阿頼耶識は脊髄にナノマシンを注入し、ピアスと呼ばれるインプラント機器を埋め込み、その部分でナノマシンを介して操縦席側の端子と接続する事で、パイロットの神経と機体のシステムを直結させる。これにより脳内に空間認識を司る器官が疑似的に形成され、直感的かつ迅速な機体操作が可能になる阿頼耶識は『魔力操作』に似た、そしてそれ以上の操作性があるだろう。

 

 そしてガオガイガーにも似たような操作系統がある機体が『ガオファー』及び『ガオファイガー』であり、IDスーツを用いた神経伝達操縦である。

 ただ、こちらは獅子王凱のエヴォリュダー能力により、それ以上の操作性があると予測されるが、作中ではそんな描写がない以上、それ以上の予想は困難であるが。

 

 そして3つの共通項として、パイロットによる直接操縦(フルコントロール)が可能という事が挙げられる。

 

 以上の事より、カルディナはガオガイガーの形を中心として3つの作品の操縦系統の良いとこ取りをして造られたのが、このガイガーのコックピットである。

 

 そしてコネクタより『魔力操作』にてガイガーへ命令が下され、再起動を果たす。

 

 

《──お嬢様、状況は如何でしょうか?》

 

 

 その時、フミタンから通信が入る。

 

 

 ───ザシュ! ゴキ、ゴキ、ザシュッ!!

 

 

「此方に異常はありませんわ。フュージョンのシークエンスもスムーズに、再起動も問題ありませんわ。」

《良かったです。最初の頃のフュージョンは、ある意味酷かったので、どうなるかと……》

「……それは言わない約束ですわ。」

 

 

 完成後、ガイガーへのフュージョンを試みようとカルディナはご満悦でフュージョンを行った。

 しかし、そこでトンデモナイ事が発生した。

 それはフュージョン開始直後、コックピットに入るためギャレオンに『丸呑みされる』過程で、冗談抜きに噛み砕かれかけるという、事故があった。

 

 

 ───ゴキンッ!!

 

 

 他意ではなく、間違いなく事故。

 何故なら、ギャレオンを操作しているのは、遠隔であってもカルディナ本人。

 そしてフュージョンするのもカルディナ本人。

 コックピットまでの相対距離が合わず、丸ごと噛まれたのだ。

 

 

 ───ボキッ! ベキバキ……グシャ!

 

 

「……フュージョンする時は後ろを向いているのです、目測を誤っても仕方ないのです。」

《周りの者達の反応もドン引きでしたからね。合体事故や手の込んだ自殺だったのかと思いましたよ。》

「───言い方ァッ!!」

 

 

 ──ドォォォーーーン!!

 

 

 時々、このメイド(フミタン)も相当な命知らずだと思われるが……

 

 

「……まあ、猿達を殲滅するのでデータ取り、お願いしますね?」

《判りました、御武運を。》

 

 

 そして通信が切れた直後、警戒をしていた猿達が一斉に襲い掛かって来た。

 だがカルディナは───

 

 

「──ギャレオンッ!!」

 

 

 ──ガォオオォォォーーンッ!!!

 

 

「「「 ───!? 」」」

 

 

 獅子の雄叫びだけで、その進行を止めた。

 

 

「……会話の最中に来られるとは無粋ですわね。まあ、こちらも反射的に手を出しているので、元より加減等出来ませんが。」

 

 

 カルディナの魔力(マナ)を乗せた咆哮は、本能を抱く存在に対して、その存在感を知らしめる。

 ガイガーへフュージョン後も、絶え間無く容赦なく襲って来た猿達だったが、今の咆哮で本能的に悟ってしまった。

 

 何よりも強いモノである、と。

 

 そしてカルディナには多数の不利など元から意味がない。

 

 武を極めた者が、ある一定の段階へと往くと『制空圏』と呼ばれる間合いを修得する。

 それは『間合いに入り込んだ存在へ反射的に迎撃、攻撃する』というスキルだ。

 ただし、その迎撃能力はカルディナの技能も合わさり、ほぼ一撃必殺。

 会話中も『魔力探知』で自身の間合い中に入ってきた存在へ、無意識に攻撃を繰り出し、カルディナは猿達を屠っていた。

 例え対象が小さかろうが、関係ない。

 

 

「それでは行きますわ、『ガイガー・クロー』ッ!!」

 

 

 それはガイガーという巨大な躯体を通しても、自身の体のように感じ取る事が出来、そして相対する相手を素早く討つ事が出来る。

 

 突く拳は、鋭利な槍の如く。

 握る掌は、獰猛な(あぎと)の如く。

 薙ぐ脚は、強靭な斧の如く。

 振るう爪は、業物の刃の如く。

 響く咆哮は、獅子の雄叫びの如く。

 

 対象となる猿達の身長は4~5メートル程だが、23メートルの巨体が文字通り暴風の如く躍動する。

 Gインパルスドライブを時折細かく噴射し、駒のように回り、自身を中心にした全方位に対して精密に、かつ正確な破壊の限りを尽くしている。

 フミタンにおちょくられた時に、痺れを切らせて突撃してきた10メートル級の剛筋大猩々(ビルド・コング)の一匹を癇癪混じりに潰した事は既に記憶の外だ。

 

 

「さぁて、ガイガー!もっと速く行きますわよ!!」

 

 

 そして動きは更に加速するッ!!

 あまりの惨劇に立ち尽くす、残りの剛筋大猩々(ビルド・コング)の片割れだが、その瞬間、全力のブーストを仕掛けたガイガーが奇襲、肉薄し、その顔面にガイガー・クローを突き刺して、そのまま一気に両断されるのだった。

 

 

 

 


 

 

 

「───という感じで、お嬢様の介入で一気に引っくり返って、戦況は一変。その後で他のゴーレムライダー達も参戦して猿の大群は全滅したんだ。」

「マジかよ。」

「……うん。やっぱり、そういう反応するよね。」

 

 

 夕餉の後、『鉄鋼桜華試験団』の小太りな副団長のビスケット・グリフォンは、報告書を片手間に書きつつ、団長のオルガ・イツカに今日の戦闘について話をした。

 ただし、内容にあまりにも現実味が無さ過ぎて唖然とするオルガが、愛飲するコーヒーを思わずカップからこぼしそうになったのを見て、おそらくそうなるであろうと予想していたビスケットも、事が事で苦笑いで返す。

 

 

「でも事実なんだよね。」

「まあ、あのお嬢らしいっちゃ、らしい事だよな。いや、それでいいのか……?」

「……じゃあ10メートルの鉄のライオン──ギャレオンって本当?しかも変形して倍の大きさになったのも?」

 

 

 オルガの傍らにいた小柄な少年、ミカヅキ・オーガスは少し懐疑的にビスケットに問う。

 ただし、お気に入りのデーツの実を食べる手は止めないが。

 

 

「それも本当だよ。そっちはガイガーって言うんだけども、現実は酷い絵面だったよ……」

 

 

 先の旅団級陸皇亀(ベヘモス)戦の時以上に、戦場が文字通り血の海だったらしい。そして白い巨体のガイガーが、返り血で真っ赤に染まっているのだ。

 お嬢様の実験内容は流血ばかりである。(白目)

 

 

「元が白いって言われても、遅れて来て途中から観測してた俺らには判んないけどね……」

「……何か、イザリアの姉御辺りが泣く姿が目に浮かぶな。今ビスケットが書いてる報告書……だよな、それ。猿の討伐辺りとか、殺人現場かと思ったぜ。」

「……この間お嬢に読ませられた『小さなドイルド男爵の華麗な推理』の愉快犯編の内容より苛烈なのは解る。」

「……」

 

 

 ミカヅキが言う『小さなドイルド男爵の華麗な推理』とは、アースガルズ領では密かな推理小説ブームが巻き起っており、その中の推理小説のシリーズ物の1つである。

 頭脳明晰な若きドイルド男爵が禁呪魔法で小さくされて子供の姿になり、姿を隠すため幼なじみの子爵令嬢のところに転がり込んだ先で起きた殺人事件を推理するところから始まる。

 現在11巻。新巻は来月発売予定。

 特に愉快犯編はスプラッタが多い事で知られている。

 

 ……ちなみに、原作はカルディナお嬢様。名○偵コ○ンの『お約束ネタ』を参考程度に、中身はコ○ンの話などとは関係ない、この世界に合った、ほぼオリジナルストーリーとなっている。

 ただ、トリックは魔法の使用を問わず、質がかなり高いものになっており、重度のトリックアンサーが増えている。

 また、時々入る男爵の正体が子爵令嬢にバレてしまいそうになる場面は、読者は毎度ヒヤヒヤさせられるとかなんとかで、トリック方面と情緒面の両方から読者を獲得している。

 中にはトリックをファンレターで売り込む人もいたり。

 なお執筆・脚色担当者は、ネタバレ防止のため、伏せられている。

 

 ──真実は、いつも一つ!!

 

 

「ん?ビスケット、何で顔をそっちに向けて、何処見てんだ?」

「え?いや何でもないや、アハハ……」

「……?」

 

 

 うん、伏せられている。

 そしてビスケットは話題を変えねばと、今書いている最中の内容をオルガとミカヅキに振った。

 

 

「そ、そういえば!お嬢様の鉄のライオンもそうだけど、その前に来た、2機の『巨人』も凄かったよ。」

「……マジかよ。お嬢の他にもそんなのに乗って来た奴がいるのか?」

「……」

「うん……といっても、その2機は戦闘用じゃなく、そのガイガーを造るための作業用みたい。人手が足りないのを見越して、わざわざ持ってきたらしいんだ。」

「……何て言うか、大きな人形を作るために後ろからぶら下げる人……みたいな?」

「高いところの物を作る、足場的なものか?何つうか、スケールがデカすぎて想像が付かねえ。」

「かもね。俺も魔導演算器(マギウスエンジン)術式(スクリプト)刻む時に駆り出されて、その時にしか見てないから、よく解らないけど、かなり精巧に動くね。外観は黒っぽい骨……みたいな。大きさは12~3メートルぐらいのと、20メートル弱、かな?」

「何か幻晶騎士(シルエットナイト)って奴みたいだね。」

「ああ、確か最新型はそれぐらいあるって噂だな。」

「でも、小さい方は丸っこい鎧を着けて、ハンマーを装備してたね。声からしてダーヴィズさん辺りかな?大きい方はフェルネスさんだけど。」

「……あの人、鍛冶師でしょ?何で乗ってるんだろ?」

「……さあ?」

「お嬢の無茶振りでならよくあるこった。他職種が(事故で)巻き込まれる事もあるだろうからな、あんまり気にしちゃいねぇがな……ちなみにビスケット。その2体の巨人の名前って解るか?」

「大きい方のコードネームなら、確か……あ、『G・F』って言ってたね。小さい方は『R・F』だったかな?」

「……『G・F』、『R・F』なぁ。」

「どうしたの、オルガ。」

「……いや、何でもねぇ。ただ何でそんなもん、俺らに言わなかったんだろうなって。」

「そういえばそうだね。ああいうの、試験団(俺達)向きの危険なモノだろうし、いつものお嬢なら廻してくれるはず、何だけど。」

「……もしくはワザと廻さなかった、か。」

 

「「???」」

 

「いや、何でもねえ。邪魔して悪かったな、ビスケット。」

「あ、いやいいよ。」

「さて、今日はもう遅い。もう休もうぜ。」

「そうだね。」

「あ、いけねぇ。お嬢に報告事項があるんだった。ちょっと行ってくるわ。」

「そうなの?」

「つー訳で、2人とも、明日も早いから夜更かしすんなよ。」

 

 

 そしてオルガは、ビスケットとミカヅキと別れ、独りカルディナの部屋に向かった。

 夕餉の後は決まって自室……ではなく、カルディナの専用の実験室に籠るのを知っているため、そちらに向かった。

 そしてノックの後、ひと声聞こえたのを確認し、オルガは実験室の中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───そして、その3時間後。

 

 

「…………」

「何です?ぐうの音も出ません?」

「……ぐう。」

「……重症ですわね。まあ、仕方ありませんわね。いくらビスケットから聞いた昼間の戦闘に『ガンダム・フレーム』と『ロディ・フレーム』がいた事を聞いて『昔の全て』を思い出した、と。それで自分が仲間をかばって銃で撃たれて死んだことを思い出した、なんて……」

 

 

 そして平静を装いながらも、一番事情を知ってそうなカルディナの元へと直行。

 

 だがお嬢様も、その後の対応が酷い。

 

 オルガが伺いに来た後、一通り話を聞くと、真っ先に『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のシーズン2のオルガ銃殺シーンを見せ、それがやはり事実だった、とオルガはショックを受けた。

 

 

『止まるんじゃ、ねえぞ……』

 

 

「……悪夢だ。」

「ですわね。」

 

 

 自身の死に絵をスクリーンで見るオルガは部屋の隅で体育座りをして頭を抱えていた。

 完全に憔悴しており、正に悪夢を見ているような心境だ。

 

 そしてこの光景を見ているカルディナも、一つ思った。

 

 

(オルガ・イツカ……いえ、鉄華団の面々は、この様子だとどうやら『転生者』の様ですわね。)

 

 

 拾った時から予想はしていたものの、自分の悪い予感が当たったと、こちらも頭を抱えるのだった。

 

 だが、一つ言わねばならない事がある。

 

 

「……でもオルガ、一つ間違っている事がありますわ。」

「……何だよ。」

「貴方が『ガンダム・フレーム』と言ったもの、それは違いますわ。」

「……じゃあ、何だよ?」

「あれは『ガイガー・フレーム』、若しくは『ゴーレム・フレーム』ですわ。」

「随分言い訳過ぎやしねぇか!?」

「理由がありますのよ、理由が。とりあえずその辺りの説明をしますから、此方に来なさい。」

「……ああ。」

「フミタン、お茶と軽いお菓子を。」

「判りました、御用意をします。」

 

 

 

 

《NEXT》

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

~オマケ~

 

ビスケットはガイガーの戦闘中に気のせいだろうか?と思っている事があった。

 

それはガイガーが超高速で戦闘をする度、ガイガーの顔……ではなく、胸のライオン(ギャレオン)の瞳が、不自然にキラキラしているのはどうしてか、と。

それは稼働率が100に近い影響だろう、凄い動きだ、乱反射で瞳がキラキラしている。

きっと光の加減で気のせいだ。

涙目みたいだけど。

そう思いたい。

 

まさか『もっと優しく、ゆっくり動いてぇーー!! 関節、関節が死んじゃうーー!!』等と訴えている訳じゃあるまいし。

 

 

……でもそんな気がした。

 

 

 

その後、戦闘が苛烈になるにつれ、透明な液体がギャレオンの瞳からキラキラとした軌跡を作った。

これはいけない。確か魔力伝導液という、潤滑剤……かな?が漏れたのだろう。

それに全力ブーストの影響で、顎が少し大きく空いてしまった。

もう少し固定強化せねばいけないと思う。

 

まさか『ちょ、心の準備がっ──て、いきなりブーストしないでェーーー!!』と叫んだ訳じゃあるまいし。

 

 

 

……何かそんな気がした。

 

 

そしてビスケットは報告書の下書きに書く。

 

 

・胸部に整備不良あり、要点検。

・胸のライオンがすごい涙目でした。すごい泣いてました。可哀想だから、もっと優しく運用して下さい。

 

 

そして報告書を読んだカルディナは、口に含んでいたお茶を盛大に吹き出した後、「……うそぉ」とガタガタ震えて錯乱するのだった。

 

 

《つづかない》(白目)

 

 

 

 

 

 


 

 

~オマケ take 2~

 

 

・脳内BGMに、Gガンダムの『この心、明鏡止水~されどこの掌は烈火の如く~』のご用意を

 

・そしてカルディナさんの搭乗ユニットは、ジェネシック・ガオガイガーあたりの妄想のご用意を

 

 

───では、どうぞ。

 

 

 

 

 

♪~

 

 

 

 

「──往きますわよ、ガオガイガー! はぁぁぁ……、ハアッ!!」

 

 

カルディナの気合いと共に、G・ガオガイガーの全装甲が『金色の破壊神』へと変貌する!

そして金色に光る右手をガオガイガーの前にかざす。

 

 

「私のこの()が光り輝くッ!!お前を倒せと轟き叫ぶッ!!」

 

 

そしてガジェット・フェザーを展開し、最大戦速でブースト、対峙する陸皇亀(ベヘモス)(師団級)へと突撃するッ!!

 

 

「必殺ッ!ゴォォーールディオンッ・フィンガァァーーー!!!」

 

 

一瞬で間合いを詰めたG・ガオガイガーが陸皇亀(ベヘモス)の頭を最大臨界のゴルディオン・フィンガーで鷲掴みにし、そのまま押し込む。

 

そして───

 

 

 

「───光になれェーーー!!」

 

 

光の奔流(グラビティ・ショック・ウエーブ)陸皇亀(ベヘモス)を飲み込み、光へと還すッ!

 

後に漂う光の粒子が、何もかもを光へと還した事を物語っていた。

 

 

「ふう。」

《……凄い威力ね、お嬢。本当に文字通り『光に還す』って威力だわ。》

「……そうですわね。」

《ん?何か不満?》

「まあ、そうですわね、なんと言うか……原作はもっとコレより凄い絵面になりそうと言うか……」

《……何言ってんの?》

 

 

《おわり》

 

 

 

 

 


 

 

○ギャレオン

ひとまず完成しました。

何かフラグが満載なギャレオンです。

皆さん、どうか可愛がってあげてください。

え?泣き虫なところがある?

知らないなぁ(そして顔を背ける)

ちなみに、整備不良箇所はちゃんと直しましたよ。え?そうじゃない?

 

 

○『G・F』『R・F』

『G・F』は『ガイガー・フレーム』若しくは『ゴーレム・フレーム』の略称です(キリッ)

と、お嬢様は申しております。

じゃあ『R・F』は?

(……否定はしない。)

 

 

○オルガ、ミカヅキ、ビスケット

ついに出ました、鉄華団!

先に宣言しておきますが、彼らが転生者扱いなのは確定です。

他のメンバーも同様です。

なお、オルガ登場シーンで私はようこそ、お嬢様の無限地獄へ!!記憶が戻ったから難易度2倍だヨ(σ・ω・)σ!ようやくオルガを出せた、と思いました。

感無量です。

……ん?

 

 

○ゴルディオン・フィンガー

 

ネタとしては、おそらく誰しも考えていたでしょう。思い付いていたでしょう。

 

けど、遂に『破界王(原作)』がやりやがった!

 

設計者(真犯人)は、雷牙博士。

詳しくはWeb小説版『破界王』で。

 

 

 

 





誤爆事項が多数あるようですが、後悔はない。

だいたいこの作品はこんなノリでお送りします。

そしてお嬢様とオルガの対話は次回。
主に出会いから、試験団として成り立つまでを書く予定です。


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Number.09 ~『鉄鋼桜華試験団』~(2)

どうもお久し振りです。
Web版小説の『覇界王~ガオガイガーVSベターマン』が3月17日で完結を迎えました。
勇者の軌跡に涙しつつ敬礼!
("`д´)ゞ

ですが『公爵令嬢~』終わりませんので、まだまだお付き合いお願い致します。


「色々聞きたい事はあるが、まず最初にコレだけは確認してェ、『何を、どこまで知ってる?』」

 

 

 この言葉から始まったカルディナ、オルガの話し合い。

 事が事で、自らの上司であるカルディナを睨むように見るオルガだが、当のカルディナは特に気にしていない様子で、手にした書類を眺めては書き足し、フミタンの淹れたお茶に手を付けた。

 そして一口した後、顎に手を当て口に出して考えるのだった。

 

 

「何処から話せばいいかしら……と、言っても私も人並みしか知りませんが。」

「人並み……??」

「これを見てくださる?」

 

 

 と言ってオルガに見せたのは、タブレット端末。

 そこに映っていたのは『いのちの糧は、戦場にある』と銘打つ絵が。

 それには鉄華団のジャケットを羽織ったオルガと三日月をメインショットとした、他の鉄華団のメンバーと、モビルスーツ『ガンダムバルバトス』が一緒に映る……と思わしき精巧な絵である。

 

 

「何だこりゃ?何故俺達が……」

「これは『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の公式ホームページサイトです。」

「機動戦士ガンダム……??鉄血のオルフェンズ公式、のホームページ……??」

「テレビの企画で作られた作品、その公式アピールのサイトの事です。」

「て、テレビ企画って……」

 

 

 淡々と話すカルディナの話をオルガは戸惑いながらも自己解釈していく。

 すると、とある『最悪の結論』が浮かび上がった。

 

 

「……おい、まさか俺が、いや俺達が『作り物』とでも云うんじゃないだろうな!?架空の創作物の産物とか──」

 

「───その逆です。」

 

「……逆??」

「私も『コレ』から入った故に当初はそう思いましたわ。ですが他の関係者に会う度、逆に『鉄華団(貴殿方)』という強い存在が、他の次元の存在(監督)影響(インスパイア)させ、貴殿方の生きざまを投影させたのが、この『鉄血のオルフェンズ』だと思うようになりました。」

「……つまり、俺達がいるから『コレ』があるってことか?」

「ええ。」

「信じられねえな。俺達にそんな強い影響があるとか……」

「ちなみに、そのテの存在はこの世界には山程いますのよ?例えば……この方。」

「ん?こいつは……鉱山に行った時に見た、軟鉄拾いのガキ……だよな?確か。」

「ええ。他にも……」

 

 

 そして他にもタブレットに映し出される、直に見た見覚えのある人物。

 そして比較対象として映し出される人物画を見る度、オルガは頭を抱えたくなる衝動に駆られるが、見逃す訳にもいかず、凝視するしかなかった。

 そして一通り見終わった後、参ったと言わんばかりに肩の力をゆっくり抜いた。

 

 存在(ちから)ある故に、()()()の創作物は生まれる。

 

 

「……何となく言いたい事は解った。そして嘘も言ってねぇって事もな。マジかよ……」

「理解が早くて助かりますわ。血肉の通う貴殿方を創作物の産物等と揶揄したくないので。」

「つーか、お嬢はいつから知ってたんだ?この事。」

「物心付いた頃から……私には脳内書庫(そういう知識)がゴマンとある情報存在を内包してますの。ですから、この世界が創作物の存在(そういう方々)を元に構成されている事は、あくまで私が分析した結論、と御理解頂ければと思います。ただ、それに至った経緯は信憑性が高いと断言しますが。」

「……」

 

 

 自分の頭を指差し、淡々と話すカルディナ。そんなカルディナにオルガは何だか圧倒される思いを抱いてしまう。

 今のオルガは16歳だ。だが1つ年下の女、しかも半ば狂いそうな世界の真理をまともに受け止めて平然とする15歳様の所業は、今のオルガには真似出来ない。

 ついでに中世ヨーロッパ風のこの時代に、タブレット端末を平気で出せるこのお嬢様は何者だろうか?

 

 

「ただ、どうしてこの世界に来たのか?という疑問には答えられませんわ。神ならぬ身故に、神様(絶対の不可抗力)の考えは理解来ませんので、自分だけが被害者だ、なんて思わない事です。悲観してもどうにもなりませんし、何より創作物か実在かの話(どっちが先かを決める)をすると……『卵が先か、鶏が先か』という、どうにもならない不毛な水掛け論になりますので、しない事をお勧めします」

「……随分達観した物言いだな?」

「私も、もしかするとそうであろう一員なんですから、()()騒ぎ立てるような事はしませんわよ。」

 

 

 カルディナ自身もこの世界の人物達の成り立ちを知る立場である自覚があるが故に、過去に相当荒んでいた時期もあった。

 とはいえ、自覚して心を痛めるだけ無駄とも言えるので今は気にしておらず、むしろ有益な情報は利用出来る材料(カモ)なので、SAN値が激減する行為はオルガにも控えてもらいたいところだ。

 

 

「それに、鉄華団の方々を始めとした貴殿方は、他の方々とは少し事情が異なりますので、どちらかというと『転生者』ではないかと思いますわ。」

「……『転生者』」

 

 

 むしろオルガは間違いなく死んでいる。そして前世の記憶を持つが故に『転生者』と言っても差し支えはない筈である。

 そして他の鉄華団のメンバーのいずれかも、もしかすると記憶を取り戻す者も出てくるであろう。

 いや、それよりも何故カルディナは『転生者』と断定したのか、それは……

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

「……まあ、自分の置かれた立場ってヤツは、何となく解った。ただ納得はしてないがな。」

「それで十分です。無理に納得すると心を壊しますわ。ただ、今日に至るまでの記憶は御座いますわよね?」

「……まあな、明日も地獄のような訓練と、緻密な試験評価の仕事が山のようにある事はな。」

「それは重畳。」

 

 

 記憶を取り戻した反動で今までの記憶まで消えると、流石に手塩にかけた鉄鋼桜華試験団が空中分解を起こしてしまう。

 そうなると、カルディナは大損だ。

 そしてそうでなければ、話は進まない。

 その点にホッとするカルディナは話を切り替える事にした。

 

 

「では本題に入りますか。聞きたいのはこの事ではございませんでしょう?」

「ああ、藪を突っついたら、蛇じゃなくドラゴンが出てきた気分だが、俺達のこれからに関わる事だからな、遠慮なく聞かせてくれ、何でガンダム・フレームがあるかを───」

 

 

 

 そして語られる、ガンダム・フレーム(?)の製造の事実が……

 

 

「───ちょっと待った。」

「……何ですの?」

 

 

 話を聞く内に、SAN値がすり減ったオルガは頭を押さえつつ、待ったをかける。

 

 

「……すまん、話を整理するとだな。」

「はい。」

「その……ガオガイガーってヤツを創るためにガンダム・フレームが必要って事で、俺達を乗せるため、じゃない、って事か??」

「ええ、初めから乗せて戦いに駆り出すつもりは毛頭もありませんわ。むしろ、私が行った方が早いですし。」

 

 

 むしろ邪魔だから引っ込んどれ、と言わんばかりの、あまりにも予想を超えた返答にオルガは困惑する。

 その様子を見たカルディナはやれやれといった心境であった。

 

 

「……やはり自分達が乗せられると勘違いしてましたわね。仕方無いことですが、そもそも、あれの用途は本来、戦闘とは別です。」

「別……?」

「解析用なのです。必要したのはフレーム側の『阿頼耶識』のシステム、回路の仕様の方ですわ。」

 

 

 順を追って説明しよう。

 

 カルディナはガイガー、そしてガオガイガーの操縦方法について難色を示した時期があった。

 ガオガイガーの操縦方法は操縦桿を用いたものではない。

 おそらく非接触型の神経伝達操縦であると予想するが、そんな技術の再現など出来なかった。

 類似する方法──念動魔法はあるが、操作に明確なラグが生じてしまい、どうしても採用する気にはなれなかったカルディナの代替案がガオファー、そしてガオファイガーの操縦方法であるIDアーマーを用いた神経伝達システムの方式である。

 これであれば直接伝達が可能であり、操縦のラグもなく、隙の無い戦闘が行える。

 しかもゴーレムには魔導神経(マギウスナーヴ)と呼ばれる伝達回線を用いる技法があり、幻晶騎士(シルエットナイト)には銀線神経(シルバーナーヴ)の技術がある。再現するには丁度よい技術である。

 

 だが前者は自己創造が可能なのだが、伝達に難があり、後者は魔導演算器(マギウスエンジン)の性能に左右される。

 それだけでは、理想とする伝達システムには程遠い───そう考えたカルディナが次の段階へ進むため求めたのが『阿頼耶識』である。

 

 搭乗者の思考、反応のまま動く阿頼耶識であれば、反応の赴くままに動くことが可能で、カルディナが理想とするものになる。

 

 そのため、カルディナは第一段階として魔力転換炉(エーテルリアクタ)の中心回路と外装擬装の処置を行い、内部回路の反応を徹底的に調べ上げ、第二段階としてガンダム・フレームの製造を行った。

 

 

「──ちょっと待った。」

「どうしました?」

「阿頼耶識はパイロットとモビルスーツを同調させるためのコネクタ──『ピアス』が必要だろう?それはどうした?それに情報処理用にナノマシンも必要だろう?」

「ああ、ピアスは必要ないのです。その代わりが『IDメイル』。これがピアス代わりになります。」

 

 

 IDメイルは魔力操作(マナ・コントロール)を円滑にし、身体の動きをより機敏に出来、軟鉄繊維を動かす事も出来る。それは脊髄から神経伝いに発信しなくても良い。

 逆に言うなら魔力操作(マナ・コントロール)を完璧にする事が出来れば、信号の発信が何処であれ、そのフィードバックで機体は動かす事が出来る。

 また明確な情報処理は全身からの電気信号や魔力反応をIDメイルが読み取る事、対応した回線を構築する事で対処している。

 

 

「あとナノマシンも代わりの存在がありましたので必要ではなかったですし。」

「ナノマシンの代わり……?」

「この世界の原生思考生物であれば、誰しもが持っている仮想領域──魔導演算領域(マギウス・サーキット)ですわ。むしろ、必要ない事を教えたのは、結果として鉄華団の皆さんですわよ?」

「何!?」

 

 

 魔導演算領域(マギウス・サーキット)は魔法の術式を自動演算し発現を行う仮想領域だ。それ故ナノマシンは必要としない。

 カルディナも、もちろん例外なく備えている。

 

 だが鉄華団に当てはめると、話は全く異なってくる。

 何故かというと、鉄華団の阿頼耶識施術者は、この世界では例外なく身体能力がずば抜けて高い。

 特に明弘、そして三日月が人外レベルでヤバい。

 特に三日月は身体の小ささを無視した強靭さ、馬力を持つレベルである。

 

 これは阿頼耶識が原因である。

 

 今のオルガ達、鉄鋼桜華試験団のメンバーには当然ながらピアスの跡等ないが、彼等の神経伝達組織は他の人物達と違って特異だった。

 まるで生体電気信号(バイオパターン)を丸ごと抜かれたものをそのまま入れたような……生前もこんなのだったのだろうか、と思う程のものだ。

 特に神経の情報伝達・発信量が並々ならぬ量であり、阿頼耶識の手術を3回も行った三日月、2回行った明弘は特に尋常ではない。

 また、背部はピアスもないのに電気信号を発する事が出来るという、体質を持つ。

 この阿頼耶識特有の伝達組織は、特異過ぎており、これらの生体電気信号《バイオパターン》は自然派生では誕生しないからだ。

 

 故にカルディナは彼等が転生者ではないか、と予想した。

 

 ……他にも前例があるのも予想理由の1つだが。

 

 そして、阿頼耶識と魔導演算領域(マギウス・サーキット)の組み合わせは別の効果をもたらしていた。

 それは魔法を無意識ながら効率的に、常時発動状態という効果。

 ……といっても魔力操作(マナ・コントロール)、強化魔法に限られるが。

 おそらく過去に強化魔法を使った人物に暴行でもされたのだろう。その時に魔導演算領域(マギウス・サーキット)が勝手に学習(ラーニング)してしまい、その後無意識に発動する事が稀にある。

 これは強化魔法によくある現象だが、魔法使いとしては素人以下な彼等であるので、放っておけば魔力(マナ)の枯渇で自滅する危険性が出てくる。

 

 現在はそうならないように、魔王と熾天使にみっちりしごかれ~の、鍛えられ~の、天国と地獄(ヘル&ヘヴン)のような訓練を施されている。

 

 尚、こうなった原因として阿頼耶識と魔導演算領域(マギウス・サーキット)の組み合わせが、ガンダム稼働時の状態と誤認し、この現象を引き起こしているのでは?とカルディナは予想している。魔法効果は魔導演算領域(マギウス・サーキット)の副産物、と思われる。

 そのためカルディナは、彼等の生体電気信号(バイオパターン)が阿頼耶識の稼働時のそれと一緒と仮定し、研究した結果、見事立証。

 

 まさに俺がガンダムだ!状態。(チガウ)

 

 以上の事から阿頼耶識と魔導演算領域(マギウス・サーキット)の関連性を参考に、カルディナは、パワードスーツ兼パイロットスーツのIDメイルを完成させたのだった。

 

 また、開発直前に特異性を発見された軟鉄により機体性能は予定よりも大幅に向上、念動魔法による外部コントロールも大雑把であるが、向上した。

 

 

「ん?待て、生体電気信号(バイオパターン)って、いつ調べた?しかもどうやって?」

「貴殿方がここに来た数日後に行った身体検査の時にです。私も検査に参加していたではないですか?」

「……まさかアンタが発見したとか?」

「ええ。そんなの触れば判るでしょう?それでなくとも、骨折とか内臓系の病気を発見したケースもありましたから。むしろ、生体電気信号(バイオパターン)の異常に気付いたのは偶々、でしたわ。」

「……アンタ、本当に何者だよ?」

「アースガルズ家の公爵令嬢ですが、何か?」

「……」

 

 

 そういう事を聞きたいんじゃねぇよ、とオルガは言いたかったが、諦めた。

 そして肝心のガンダム・フレームはというと……

 

 

「ギャレオンを創る前に、IDメイルが正確に動くかを確認する事が必要だったので、参考までに創りました、それだけです。ただ、見た目で判ると思いますが、構造上すごい『頼り無さそう』と思ったので、フレームは私の案で改造させて頂きました。」

 

 

 特に腰回りは脆弱極まり無い一言だが、作中では一度も自壊した事はないのは、どうしてだろう?

 しかしカルディナのガイガーに対する運用を見れば、どんな結果になるかは……予想は付くだろう。

 そのままだとレアアロイを使っていようが、腰が自壊する未来しかない。

 故に、腰回りはガイガーと同様のものを採用した。

 ただ、外装がないので現状、頼りないように見えるのは仕方無い。

 

 そして今回の戦いでは防衛を優先したため、本来表舞台に出す予定のなかったフレーム2機を出した事は、後々禍根や痛手を伴う可能性があるものの、カルディナは後悔はしていないし、貴重な戦闘データが録れた事が収穫ではある。

 

 

「その際にガイガーの基礎フレームを参考に強化しましたので、あれをガイガー・フレーム、もしくは今後運用する上で当たり障りないようにゴーレム・フレームと名付けました。まあ、G・フレームでもいいのでは?と思いますが。」

「……なるほどな、筋は通ってる……んだよな??よな??ん、じゃあロディ・フレームはどうなんだよ?あれを造る理由なんてない筈だが。それに、ガンダム・フレームとロディ・フレームの足のパーツ……可動式で隠れているが、何で車輪……いやキャタピラだな。それが付いてんだ?」

「ロディ・フレームは、ダーヴィズさんの要望に応えてです。大型の剣を打ちたい、と。それにあれは『厄災戦』時に造られた、阿頼耶識に親和性のあるフレームですから、応用が効くと思い、採用させて貰いました。そして足のキャタピラ───ランドスピナー・Type-Cはスラスターの代わりです。今は宇宙に予定が無いので、地上の悪路を速く走るには一番良い機構なので。」

「……部下の要望に対して、すげぇフットワーク軽いのな、そしていや知ってるけどよ……あ!あれの動力炉はどうなんだよ!?まさかエイハブ・リアクターの、ツインリアクター仕様とか……ねえよな?」

「あら、ご名答。」

「嘘だろ!?」

 

 

 といっても普通であればエイハブ・リアクターたる『相転位エンジン』の技術、再現は出来る訳ないが、フレメヴィーラ王国で『同等・同再現出来る技術』を会得しているカルディナだ。

 実質、謙遜なくツイン・リアクターが積まれている。もちろんロディ・フレームにもツインリアクターが積まれている。

 そのためチート仕様の某リアクター製のエイハブ・リアクターは性質、出力は原作と何ら変わり無い。

 しかし、LCS以外の通信機能を麻痺させる性質も一緒のため、念のため動力炉の周辺には擬装用フレームを装った エイハブウェーブ中和材で吸気口以外は固めている。

 

 どうやって?

 そこは周波数を割り出し、魔法の力で。

 

 ちなみに、中心回路の選曲は『Raise your flag』である。

 なお、使用する曲は1つだけではなく、他も組み合わせて入れる事が出来る。曲の組み合わせにより出力も上がる事に気付いたカルディナは理想の曲の組み合わせを模索中である。

 

 

「……随っ分な魔改造だな、おい。本当にアンタ、公爵令嬢か?」

「公爵令嬢ですわよ。」

 

 (こんな公爵令嬢、見た事無ぇよ!!

 けど今の上司なんだよな!!)

 そんなオルガの心のツッコミは虚空へと消えた。

 

 そして、血筋は保証しかねるオマケ付きである。

 

 

「……私からは以上ですわ。何か質問は御座います?」

「……最後に1つ、いいか?」

「どうぞ。」

「……何で、俺達はここにいるんだろうな。」

「……さあ。」

 

 

 それは最初にカルディナが断った質問である。その質問だけは、どうにも解らないがオルガが尋ねたい心情も理解出来る。

 こんな世界なのだ、いくらでもその理由は並べられるが、所詮は憶測でしかない。

 今はそれ以外にも言いたいが……

 ただ1つ、引っ掛かる理由があると言えば……

 

 

「……気休めの憶測あれば、1つ可能性が御座いますが、聞きます?」

「……頼む。」

生体電気信号(バイオパターン)ごと、この世界に連れて来たという事は、貴殿方を連れて来た存在は貴方達の能力、技能を丸ごと必要している、とも考えられますわね。」

「俺達の能力、か……」

「それこそ人ならざる存在でしょうが、もしかしたらいたのでしょうね。貴殿方がいた世界にも、そんな存在が。」

 

 

 そして今も……

 

 

「……って言われても、わかんねぇよ。」

「それはそうですわ。私も可能性の話をしてるのですから。まあ、ここに来たのも何かの縁。しばらくは『今まで通り』お願いしたいところですが、どうです?」

 

 

 ──『今まで通り』。

 つまりは『鉄鋼桜華試験団』として、今後も働いてほしい、それがカルディナの意向だ。

 それに対しオルガは突っぱねる事はしなかった。

 今のオルガには『前』の記憶があれども『今』の記憶もある。

 カルディナは命の恩人でもあり、詫びる相手でもあり、雇い主でもある。

 それをこちらから裏切る行為は仁義に反する故に、出来ない。

 何より……

 

 

「……今、俺達が出てっても、この世界ってヤツで俺達に生きる術なんてねぇしな。今、生きてられるのが誰のお陰かも理解してる。だが状況がイマイチ解らねぇ中で不用意に行動するのは悪手だ。何より今いる場所はそんなに嫌いじゃねぇ。つー訳で、選択肢が無い訳だ。そんな状態の俺らを引き留めたいってならいいが。どうする?お嬢。」

「ええ、これからも頼みますわ。」

 

 

 オルガが戸惑いながら差し出した手を、カルディナは迷いもなく握り返す。

 その悪意無き実直さと女性特有の手の温もりにドキリとしてしまう心情に、戸惑うオルガだった。

 

 

(良かった~、この交渉に失敗すれば大切な人材が大量に流れる始末。そして進行中の仕事にも大穴が……やはり訳ありの鉄華団ですが、従業員は大切にしないと、ですわ。)

 

 

 ……カルディナさんが、どう思っているかはさておき。

 

 

「しかしよ、俺がこう……記憶を取り戻したってんなら、他の団員もこうなる可能性があるんじゃ……」

「無きにしも有らず、と言ったところですわ。まあ、貴方のように懇切丁寧に説明するだけでしょうが。納得するかは別として団長、フォローはお願いしますわ。」

「判ったよ。」

「まあ、納得して頂けたのなら重畳。あ、そうですわ、こちらにも用件が御座いまして……」

「……今までの話から、そんな話になるのは怖いな。」

「警戒せずとも……明日の試験で試食・試飲担当者に当たっている、とある2人を外して、私の仕事に付けて欲しいのです。」

「ああ、そういう事か。ちなみに誰だ?」

「それは……」

 

 

 ───コン、コン、コン

 

 

 そんな時、ノック音が響いた。

 誰かしら?と思う中、フミタンが応対しに行くと扉の向こうには、青冷めて俯くビスケットと、無表情ながらも顔を背け、困惑した雰囲気の三日月がいた。

 このタイミングで、まさかと思いつつもカルディナは部屋に入るよう促した。

 

 

「お、ビスケットとミカ。どうした?」

「──え??オルガ??どうして……」

 

 

 と声を上げたのは三日月。

 目を丸くして、オルガの全身を確認する様子は、何故生きてるの?と言わんばかりの反応である。

 

 

「どうしました、三日月。死人が生きてた、みたいな反応をして。」

「あ、いや……」

「……?? ──!?」

「ふぅん……あと、ビスケットはどのような用件で?」

「あの……俺、ここにオルガがいるって聞いて……オルガに聞いて欲しいことが、あとお嬢様にも尋ねたい事があって……」

「……おい。それって自分が一度死んで、気が付いたらここにいた、という話か?それとも、今日記した報告書の見聞内容に、ガンダム・フレームがあって、何であるんだって話か?」

「………え??どうしてそれを───」

 

 

 ビスケットの反応を見て、どうやら()()()()()()話に、カルディナとオルガは顔を見合わせて、そして苦笑いする。

 

 

「……何、どうしたの2人とも?」

「いえ。つい先程まで、その話をオルガとしてましてね。」

「で、誰かが来たら懇切丁寧に話してやろうと言ってたところだ。」

「そ、それってつまり……」

「まあ、このタイミング、この場でこう言うのもアレだが……」

 

 

 ──よぉ、ビスケット。

 

 

 それは、かつてすれ違いを起こし、その直後に判断ミスもあって死なせてしまった友。

 何度も会いたいと思うも、あの絶望下の中では葛藤する時間もなく、歩みを止める事が出来ず、振り返る事が出来なかったあの時の気持ちは、今でも忘れない。

 

 

「オ、オルガ!!」

「……んで、ミカ。」

「オル、ガ……なの?本当に……」

「ああ。少なくとも俺はそう信じてる。お前らの事もな。」

 

 

 子供の頃から一緒で、共に誓い合った仲であったが、自分が先に死んでしまったために最悪の戦いに駆り出させてしまった相棒。

 そして自分の遺志を守り抜こうと戦い、仲間と共に散った相棒。

 

 そんな相棒に、右腕を向ける。

 

 

「……1度しくじっちまったが、また付いて来てくれるか?」

「うん、オルガがそう言うなら。」

 

 

 相棒(オルガ)の生存の驚きに目を見開き、三日月は戸惑うが、オルガが差し出した腕を見て、迷わず左腕を合わせる。

 

 

 

 ──この日、鉄華団は異界の地で再び復活の産声を上げたのだった。

 

 

 

 

 ……しかし、その感動はカルディナのSAN値直葬話懇切丁寧な話で霧散する事になる。

 

 

「───ご理解、頂けました?」

「……え~、したくない。」

「というか、しなくちゃダメなんですか?」

「納得はしなくていいですが、理解はしなさい、いい?」

「「 ──はい。」」

 

 

 まるでヤーサンの姉御に睨まれたような心境の2人。

 また、この世界の事を説明されると同時に『前世』の所業を映像を使ってダイジェスト風味で振り返され、ぐうの音も出ない3人だった。

 

 

「……まあ、もう遅いのでこの辺りで、ひとまず終わりますが、最後に1つ。貴殿方に対し、話せない秘密の1つや2つあるけど悪いようにはしませんから。だからあまり派手に動かないようにお願いします。」

「あ、ああ……」

「よろしい。では解散。」

 

 

 その一言で、話は終わった。

 

 

 

 

《NEXT》

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

《おまけの小ネタ》

 

 

「そういや、この軟鉄拾いの子供……」

 

 

───僕は海賊にはならないよ。僕、お金大好きだから。僕がなるのはお金持ち、そうお金持ちに、僕はなる!!

 

 

「……とか言ってたなぁ。」

「ええ。天の声(声優ネタ混在)の影響で言動が安定しないって本人が言ってました。あと……このお二人方。」

「……あの門番の2人か?片方の男は小型化した破城槌を右腕に装備して、新しい真っ赤な鎧を新調したとか……」

 

 

───踏み込みなら負けん、炸裂式破城槌(バンカー)ッ!!止められると思うなッ!!

 

───わおわぉーん!呪式魔導杖銃(ハウリン・グランチャー)、Xモード発射!!

 

 

「ブロンドの犬獣人の姉さんは、最近秘密裏に悪魔と契約して自在に空を飛ぶ事が出来たって言ってたな。」

「まあ新装備、さっそく役立ってますわね。」

「……装備の提供元はアンタか。」

 

 

 

 

《つづかない》

 

 

 

 




○操縦システム
ガオガイガー製作話で書きたかった内容の1つ。
シルエットナイトも阿頼耶識システムも延長発展させれば、ガオガイガーと同じ操作系統になる!という持論から生まれた話です。
念じろ、そうすれば動く!という訳ではないですが、どれもそれに近いかと。
というか、本当にあの白い謎空間は何でしょう?

そして


○阿頼耶識とマギウスサーキット
マギウスサーキットさんには、ナノマシンの代わりになって貰いました。
別話で書こうと思いますが、阿頼耶識システムを使用していた彼等のチート仕様です。原作通り、生身であろうと乱戦で無類の力を発揮します。
(ただしお嬢様はそれを上回るようです。)


○オマケの小話
軟鉄拾いの子供~全部声優ネタをぶっ込んだ。判る人には判るはず。

門番の2人~言わずと知れた大暴れ夫婦。知ってか知らずか、お嬢様謹製の装備に大満足。
契約した悪魔?知らないなぁ(すっとぼけ)
本編には出てきませんよ。(間話ならワンチャンあり?)


また感想欄で、紡がれた物語が別の世界を生み出し、最終的には無限ループの数珠繋ぎが巨大なメビウスの輪みたいな構造になっている的なコメントを頂きましたが、まさにそうかと。
そうなった場合、アニメとそれが現実になった世界関連はどう足掻いてもどっちが先かは結論はでないでしょうね。
ただ、監督が無意識に他世界のイメージにインスパイアされた的な話はとてもロマンがあると思います。


今回の話はある種の方針決めの話です。
『鉄オル』のメンバー達もそうですが、今後出るキャラクターはこの設定で話を進めたいと思います。
……というか、そう思ってくだせぇ。
ある意味出演キャラクターが困って泣きそうな設定ですが、キャラ自身にメタ話をさせるにはもってこいの設定。

まあ一番はとあるキャラのための設定なのですが……


そして、もう1話続きます。


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Number.09 ~『鉄鋼桜華試験団』~(3)

どうも。

前回の続きです。

話の内容としては『その後~』みたいなものでしょうか?

どうぞ!


◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「……しかしよ、改めて思うと夢みたいな話だよな。魔法が使える世界だなんてよ。」

「とは言っても、これが現実なんだよね。」

「そうだね、現に俺達生きてるし。」

「そうだな、生きてんだよな、俺達。」

「そして俺達を題材した作品が出来てたとか……」

「……そっちは言うな。未だに信じられねぇ。」

 

 

 カルディナより、オルガが受けた説明と予想、そしてこれからの予定云々、そして『前世』の振り返りを聞かされた3人は、横に並んで夜の路をゆっくりと歩きながら、カルディナから聞いた話を思い返していた。

 

 正直、信じられる訳がない。

 だが、事実ここにいる自分達がいる。

 そして体感した『昔』があり、現在に至る。

 そんな自分達の『昔』を、そして『今』を振り返っていた。

 

 特にビスケットはオルガ、三日月より2年近く生存時間にラグがあり、その穴を埋めるべく交わす会話は馴染みある仲間だからこそ、新鮮であり、大切である。

 そんな時間の穴を埋めるように、オルガは饒舌に話す。

 そしてビスケットは、知らない時間を語るオルガや三日月を羨ましくも思う。

 だからこそオルガは……

 

 

「……ビスケット、お前が居なくなった後の鉄華団は確かにでかくなった。けど、今思えば誰もブレーキを掛けられる奴がいなくなったから、俺達は()()()()()。他は臆病とか言うかもしれねぇが、1歩下がって見れる奴、面と向かって駄目だと言う奴も必要だってのが、今になって有難いと思うぜ。それがお前だ。もしあの時お前が死なずにいたら、俺達の結果も変わってただろうな……」

「オルガ……」

 

 

 今の状況はIFのようなもの。

 しかし自分達が死んだ結果は、どう足掻いても変わらない。

 同じ轍を踏むなら何をしようが結果は同じだろう。

 

 

「だからビスケット。ここがどこであれ、どんな要因があろうが、俺達はみんなここにいる。けど同じ轍は踏まねぇ……とはいえ、お前にも迷惑掛けるだろうが、また頼む。」

「……わかった、俺も頑張るよ。」

 

 

 欠けたからといって不必要ではない。

 むしろ、未熟な自分には必要な仲間──家族である事をオルガは言ってくれた。

 その事にビスケットはとても勇気付けられ、そんな光景に三日月も自然と頬が緩むのだった。

 

 

「……じゃあ、そんなお前に1つ聞きたい。俺達(鉄華団)の今後について、どうしたらいいと思う?」

 

 

 そう尋ねるオルガの表情は、険しい……というより悩んでいた。

 カルディナとの話の場では、状況が解らないため現状維持を望んだ。しかし、また別の視点から判断出来るビスケットが現れたため、その意見もほしいところである。

 

 

「そうだね……現状維持が第一なのがいいと思うのは俺も一緒。まず、ここのインフラって俺達が住んでた火星に近いんだよね。でも食事面とか労働面とかは格段にこっちが上だし。他の領地でもここまで整備された土地ってないよ。」

「お嬢は中世ヨーロッパ風とか言ってたが、インフラだけ見りゃ火星の住環境に近いな。いや、超えてる面もある。」

「うん。ご飯は美味しいし、火星ヤシの実モドキ(ナツメヤシ)も食べ放題。」

 

 

 ちなみに、三日月の着ているジャケットのポケットには火星ヤシの実モドキ(ナツメヤシ)がどっさり。

 今も暇さえあればモリモリ食べている。

 

 

「……ミカ、食い過ぎんなよ。」

「気を付ける。」

「はは……で、一番大きいのは、この世界の貴族の上位……いわゆる『四公爵』のその1つアースガルズ公爵の令嬢の後ろ楯があり、そしてその令嬢は俺達の事を十二分に理解している、このアドバンテージは大きいね。」

「……冷静に考えれば恐怖だがな。ゴーレムとかいうデカイ土人形がメインの土地で、モビルスーツ並みの兵器を造ってやがる。財力、人材があるとは言え、世界背景を顧みれば個人単位で成し遂げるレベルじゃねぇぞ。」

「うん。この世界で一番狂気なのは、間違いなくお嬢。」

 

 

 公爵その人ではなく、後ろ楯になれるほどの令嬢は、アースガルズ家以外はない。

 ただ公爵本人でないのは、少し注意とビスケットは付け足す。

 

 

「まあ、そんなお嬢様の元で働かせてもらって、福利厚生は万全。安全面は申し分ないよ。それに俺達も色々成長してると思わない?」

「だな。無茶苦茶な訓練、精密・繊細な試験評価……最初は何で?と思う事ばかりだったが、そのお陰で今までにない技能(スキル)を手にしてるのは実感するな。人・モノを見る目は『前』より養われている自覚はあるな。」

「読み書き、計算……今なら簡単な簿記も出来る。」

「……すげぇよな。ミカにまでマスターさせるんだからよ。」

 

 

 『前』では会得出来なかった肉体労働、戦闘行為以外の仕事の技能。戦い以外に見出だせなかった生きる意味。

 それらがここにはあった。

 いくら『試験団』としての業務をやらせるとはいえ、問題児ばかりの面々にその技能習得を得意分野に全振りさせ、労働意欲を向上させる教育方法は驚きの一言だ。

 他の団員達も従順とまでとは言わないが、カルディナを慕うまでには各々技能(スキル)を伸ばしている。

 それも『前』に通じる技能も多く、求めたものの1つにこんなものがあれば、とオルガはつい思ってしまう。

 

 

「だから現状維持が第一なのは間違いじゃない。ただ、さっきのお嬢様の話の中でいくつか気になったところもある。」

「例えば?」

「ガンダム・フレーム。2人は直接見てないから解りづらいけど、俺が日中見たあれは、胴廻り、両足の改修以外は全部、俺達が鉄華団で運用してたフレームと()()()()()()じゃないかって。」

 

 

 ……ビスケットのまさかの発言に、オルガと三日月は止まった。

 特にオルガは眉間に皺を寄せ、揉みほぐそうと必死だ。

 

 

「……そんな訳ないだろ。お嬢の工房で製造してんだから、形こそ同じだろうが、全く同じなんてないだろ?」

「うん、俺もそう思う……でも発する雰囲気、っていうのが()()と思わせるんだ。三日月なら、その辺り判るかも。」

「……それって、バルバトス?」

「……装甲を着けたら、そうなるかもね。」

「んな馬鹿な、雰囲気って……」

「オカルトが通じる世界だよ、幽霊だって普通にいるし。先週見たじゃない。」

「……だな。けど気のせいじゃないか?」

「俺もそう思いたい。でも、お嬢様が必要としたのは機体側の阿頼耶識のシステムであって、フレームそのものじゃない。本来の機体開発を遠回しにして造るものかなとは思う。あと、ここで造ってるモーターとかと規格が違うし、ガイガーっていうロボット?にもあのG・フレームに使われてる部品は使われてないんだ。」

「ビスケット、細かく見てんなぁ。」

「まあね……それにあそこまで正確に造れる()()()、お嬢様はどこで手に入れたのか……」

「設計図?」

「うん。思い出してみて。あのギャラルホルンですら製造するフレームはグレイズ主体でしょ?やろうと思うならコストが高くてもそのコピー品ぐらいは出来ると思うんだけど……」

「ギャラルホルン……確かにな。」

 

 

 『前』の人生で鉄華団に立ち塞がった、地球一大勢力『ギャラルホルン』。

 その力は『厄災戦』と呼ばれる戦争を端に300年をかけて勢力を伸ばした。

 モビルスーツ製造も群を抜いて世界最大であるが、『厄災戦』で猛威を振るったガンダム・フレームの製造はしていない。

 『厄災戦』の禍根や技術低下に伴い、量産は出来なかっただろうが、試作機ぐらいあってもいいはず。しかし主力量産していたグレイズ・フレームですらガンダム・フレームの劣化版である。

 劇中でグレイズは改良を重ねて機体性能こそ上がっているが、基礎スペックはやはり雲泥の差がある。

 

 

「けどよ、それは創るのが面倒で、物量戦が出来るから必要がなかった、と言えばそれまでになると思うんだが、それがどうした?」

「まあこの際、製造がどのくらいの難しさっていうのは置いておいて、そんな製造が難しいフレームを、見るだけで終始してた俺が直感的に本物って感じ取れる品質のモノをお嬢様が造れるっていうのが、どうにも信じられなくて……」

「「あ……」」

 

 

 この際、機体の真偽は関係ない。

 要はビスケットが本物と錯覚出来る品質のモノをどうやって開発したか。

 ちなみに、外見だけでなく阿頼耶識特有の生々しい動きも含まれている。

 そんな存在を創るには、やはり正確な設計図が必要なのは間違いない。

 

 

「それにあのG・フレームとロディ・フレーム、職人の誰もが組み上げる現場にはいたけど、その部品そのものは、一切造ってないんだって。」

「「 ──!? 」」

 

 

 職人が話すには、それは習作でも失敗作でもない。

 自分達が面食らう程の出来で、まず規格そのものが違うらしい。

 それでも誰が造ったかは、誰も解らない。

 

 

「オカルトを超えてホラーだよね。」

「……恐ろしいわ。誰だよ、フレームのパーツを造った奴は。」

「さあ?でも謎はもういくつかあるよ。」

「まだあるんだ、何なの?」

「フミタンさん。」

「フミタン?フミタンがどうした?」

「フミタンさん、どう思う?」

「どうと言われても……まあ、今思えば俺らに対して何のリアクションもないのが気になるが。」

「うん。じゃあ、フミタンさんの容姿を思い出してほしいんだけど。」

「容姿?確か、目付きは鋭い、眼鏡はしてない、赤い髪に……ん?」

「──それ、本当にフミタンさん?」

 

 

 その瞬間、オルガは青ざめた。

 

 

「……おい。あのフミタンは()()()

「あのフミタンさん、俺達にとっては誰??だよね。雰囲気と目付きが鋭い以外は容姿に共通点がないんだ。」

 

 

 髪を解いた程度、顔は多少似ている程度で、トレードマークのメガネすらない、完全な別人である事に気付く。

 そして何より、今までカルディナの傍らにいた筈なのに、カルディナ次に情報を得られる立場である筈なのに、一切我関せず、といった態度を貫いていた。

 変装……という可能性もあるが、『今』であっても過去に幾度か一対一で話す事もあったが、わずかにでも鉄華団の存在を懐かしむ反応も、訴える素振りも微塵もない事をオルガは思い出した。

 だが、漂う雰囲気が今の今までに違和感を持たせなかった。

 

 

「体つきは似てない?」

「ん?それはあるな……ってミカ、お前言うようになったな。」

「??」

「まあ、それはある程度似てるだろうけど……『俺達』を知ってるあのお嬢様が、あのフミタンさんをどうして傍らに置いているかが気になってさ……」

「間違って雇ってる……訳がないな。絶対訳ありだ。けど何でだ?俺達を見ても反応はない……」

「それが解ればねぇ……でも、間違ってじゃないのは確かかな?お嬢様も言ってたじゃない?幾つか秘密はあるって。」

「言ってたね。」

「ああ言われると、癪にくるんだがな……」

「それはそうだよ。俺達に記憶が戻ろうと戻るまいと、元々俺達には言えない秘密なんていくらでもあるだろうし。それにお嬢様と俺達は雇用主と従業員、そもそも言う必要はないけど……だからこそ俺達に配慮してくれてるんだろうから。」

「配慮だぁ?」

「うん。もしくは忠告。だってわざわざ釘を刺すように言う程の秘密があるんだから、半端な覚悟で聞いてくるな、って裏返しなんだろうね。俺達の置かれてる状況も含めて……」

「……何でそう言える?」

「だってこっちの世界にもいるじゃない、『ギャラルホルン』。」

 

 

 

 ───『ギャラルホルン』がこちらにいる。

 

 

 その言葉を聞いたオルガは唖然とし、三日月は摘まんだナツメヤシを思わず地面に落としてしまう。

 

 

「……嘘、だろ?」

「いや。ここでの正式国名は『ギャラルホルン教皇国』、アルド・レイア王国(この国)の仮想敵国で、何よりお嬢様が嫌う()()()()()の総本山で、とてつもなく嫌悪する()()がいる国だよ。」

「そんな、まさか……」

「ちなみにその皇子の容姿が、名瀬さんを手に掛けた『クジャン公』って奴に酷似してるんだけど、どう思う?」

「……うわ、絶対やだ。」

「だからさ、オルガ。絶対に無茶だけはしないでよね??」

「………」

 

 

 説明、解釈役に回っていたビスケットだが、当の本人も言っていながら、太った身体を子犬のようにぷるぷる震わせる程には怖がっていた。

 それもそうだろう。

 まさか、自分達を破滅させた存在が、こちらにも来ているとは思っても見なかった。

 他人の空似?いやここまで来てそれはあり得ない。

 カルディナも3人には先程釘を刺したばかり。

 

 

 ───派手に動くな、と。

 

 

 それはつまり下手をすれば『昔』の二の舞になる事を暗示していた。

 ちなみに、そのテの風刺画が街にも幾つかあったりする。

 その風刺画をチラッと見た事をオルガは思い出した。

 そしてカルディナはギャラルホルン教皇国の事は非常に詳しい。

 尚、ビスケットが知っているのは、先程懇切丁寧に話を受けた説明とアニメ鑑賞中にその事を確認したからであった。

 

 そしてもうそろそろ、オルガの頭痛は限界になりつつあった。

 

 

「……あ~、マジで何でこんな世界に来たんだろうな、俺ら。」

「……だよね。」

「………」

 

 

 無事平穏に暮らせていた、と思いきや、実は危険な薄氷の上にいる事を自覚せざるを得ない事柄だ。

 もう一度、答え無き質問を独白する。

 しかし、誰もそれに応える事は出来ない。

 そしてしばらく沈黙がその場を支配する。

 

 

 どうする、どうしたら……

 

 

 

 そしてその沈黙をオルガが破った。

 

 

「───よし!ひとまず現状維持。これは決定だ。」

「わかった。」

「……だよねぇ。」

「癪だがよ、あのお嬢の言う事を素直に聞かないと、この先どうなるか解ったもんじゃねぇ。どのみち、今の俺達には全部を見極める時間が必要なんだろうな。けどよ、俺達でもやれる事もある。」

「……ええ~?聞くの怖いなぁ。」

「心配すんな、そんな面倒な事じゃねぇ。ただお嬢の手伝いを鉄華団()()でする、それだけだ。」

「……その心は?」

「お嬢も言ってただろう、明後日辺りからガオーマシンって奴を創るって。しかも3ヶ月という短期間でだ。」

「……ああ、言ってたね。」

 

 

 つい安請け合いをしてしまったが、ガオーマシン3機を3ヶ月で製作するという無茶振りを国王より受けてしまったカルディナ。

 増員こそあるものの、正直キツイところがある。

 

 尚、ガオガイガーの第1話が始まるまでの時系列を踏まえると、ギャレオンが獅子王凱を助けてから2年後にはほぼ全てのスタッフ選定、役人への根回し、GGGの基地環境、ガオーマシンの開発整備が整っている。

 時間だけで言えば妥当、と言えるが、普通は無茶振りの範疇である。

 

 

「えっと戦闘機に、列車に、ドリル戦車だっけ?魔法のイメージに一切合わないものばかりなんだけど。」

「……ミカ、そこは目を瞑れ、無視しろ。お嬢の所業だ、今までマトモに考えただけで疲れる以外に良いことあったか?。」

「……そうだね、スルーしよう。」

「まあ、こんな世界でそんな非常識な(ふざけた)代物を実現させんだからよ、絶対に無理は生じる。当然人手も足りなくなるな。」

「で、手伝うと。」

「ああ。今の俺達は鉄鋼桜華試験団、要はお嬢の雑用集団だ。手伝う理由はそんなものでいいだろ?で、その手伝う間にガンダム・フレームか、ロディ・フレームが視界に入っても不思議じゃねぇ。」

「え……つまり、手伝いを理由にガンダム・フレームとロディ・フレームを見させて、記憶を取り戻させるって事!?」

「ああ。それぐらいやってもバチは当たらんだろう。幸いにも説明材料はお嬢が持ってる。説明に関しちゃ無理な話じゃねぇ。それによ……」

「それに?」

「多少混乱するだろうが『今』なら、死んじまった奴らが生きているんだ、少しくらい『再会』っていう甘い現実を味わいてぇし、味わわせてやりてぇじゃねぇか。」

「……そっか、そうだよね。」

 

 

 繰り返すが、死んだ結果は変わらない。

 しかし今は生きている。

 今はその事を実感してもいい、とオルガとビスケットは思った。

 

 

 ……だが。

 

 

「……オルガ、話変わるんだけど1ついい?」

「??どうした、ミカ。」

「いや、お嬢が言ってた明日の試験交代の人選だけどさ……」

「ん?ああ確か、クストとムル、だったな。それどうした??」

「……いいの?交代させて。」

 

 

 三日月が目を細め、それでいいのかと言わんばかりの表情でオルガを見た。

 しかし、オルガには何故そんな風に言われるかが解らない。

 

 

「……いや、いいだろ。確かにあの2人はそこまで深い付き合いじゃねぇけど、今じゃ信頼関係もバッチリだと思うがな。それに明日はそんな難しい試験(モン)じゃねぇからな。」

「そうだよ、三日月。だって試食と試飲だよ。」

「だから明日の担当が、クストとムルなんだよね?新作ケーキとお茶の。このままじゃ、血の雨が降らない?」

 

「「 ───!!! 」」

 

 

 オルガとビスケットは、その言葉を聞いた瞬間自身の選択を猛烈に後悔した。

 そして踵を返して、全力で来た道を戻るのだった。

 

 自分達が外からの攻撃ではなく、()()()()()()によって壊滅させられる前に。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 その頃、カルディナは自室にて先程見ていた報告書に再び目を通し、眉間に皺を寄せていた。

 それらは商いや試験報告の類ではなく、本来であれば領主、もしくは国に報告するべき内容のものばかりだった。

 その項目は内外問わず、多岐にわたる。

 

 

【哨戒任務中の騎士団一個小隊、消息不明について ②】

【ドルト共和国、内紛の推移】

【地盤沈下後の飛散した粒子観測と、周辺住民の異常行動、その被害について ⑤】

【村人6名消息不明について】

【アーブラウ立教国、議会不義の状況 ⑦】

【鉄器紛失、消失の件 ⑪】

【鉄色の木の目撃談について ⑤】

 

 

 尚、これらの情報は、カルディナ独自に作った『影』が情報収集したものである。

 

 

(……また騎士団の一個小隊が消えましたわ。2件は流石に看過出来ませんわ。こちらはお父様に繋ぐとして……周辺では地盤沈下や村人の異常行動が見られますわね。異様な鉄器の紛失、変な木の目撃情報……って、ここに来てドルトが内紛紛いの抗争ですって!?アーブラウの動きも前から変とは思ってましたが、ここに来て異常さが増すなんて、ギャラルホルンの……カイエル教の、クソ坊主共がッ!!『聖女』欲しさに、どれだけやりたい放題してくれるッ!!)

 

 

 衝動的に報告書を握り潰してしまうカルディナ。頭が痛い出来事ばかりが、立て続けに起きている。

 特にカイエル教関係者は苛烈極まりなく、教会の権力を傘にやりたい放題なのだ。

 過去、場合によってはカルディナは秘密裏に火消しに回る事もあり、必要であればそれも善しとしていた。

 また、カルディナ自身は()()狙われた事もあり、教会の関係者は誰一人決して赦していない。

 必要なら、手を下そう……

 だが、今回はそれは出来ない。

 

 持っていた書類の束を置き、別にしていた、一枚の紙を拾って、睨み付けるように見た。

 

 

【未確認個体:code Z の目撃証言、その範囲(最新)】

 

 

(……こちらも目撃情報が更に増えた。単独行動がメインだった昔に比べ、今は複数単位での行動が目立っています。そして目撃箇所が定まり始めたのも、気になりますが……()()()()()()()()()()()

 

 

 目撃情報が増えているのに、目に見えるアクションはしてこない。

 一匹いて、一週間もすれば機界昇華など簡単に出来るのは、ガオガイガーのアニメを見れば判る事。

 なのに、 何故か何もしてこないのが現状。

 

 

(私の思い間違い?それとも何か他に理由が??いえ、どちらにせよ、貴殿方は必ず何かしてくる筈でしょう、機界昇華が何よりも第一な筈でしょう、()()()()!!)

 

 

 掌に込める力が強くなり、食い込んだ爪が僅かに血を滲ませる。

 秘密裏にかつ、目に見えない形でじわじわ増えていく()()()()()()

 カルディナにはそれが不気味で何よりも怖かった。

 自分の知らない間に起きる最悪なケースが、つい頭をよぎってしまう。

 そして何より、一番の対抗手段となる存在が未だ何の反応もない事が、更に不安を掻き立てる。

 そんな不安を払い除けるように頭を振り、早まる鼓動を鎮めようと深呼吸を繰り返すカルディナ。

 

 

 

(……早計、とは思いましたが、やはりクスト、ルムをゾンダーに接触させる……これしか手がありませんわ。企てが当たれば御の字。ですがもし外れれば……外れた時は……)

「───お嬢様、お茶が入りました。」

「ッ!!」

 

 

 最悪の想定をしていた最中、不意に声が。

 その声でハッとしたカルディナは、目の前に出されたお茶に視線が行き、そして淹れてくれた人物に視線を移す。

 

 

「あ……ありがとう、いただくわ。」

 

 

 そして一口、お茶を口にする……

 

 

 

(……あたたかい)

 

 

 

 それはどちらか。

 そう思う事を考えるのも、どうでもいいと思える程に、その一口はあたたかい。

 

 

(……そうよ、不安要素が多々ありますが、今更不安になっても仕方ないのです。常に最悪を想定しつつ行動するしか道は無いのだから。例えその道が茨であろうとも、『勇気』を持って。)

 

 

 恐らく安全、という退路はもうないのだ。

 だからこそ取り返しのつかない事態を防ぐために、敢えて危険な道を歩くのだ。

 そう、再びカルディナは心に思う事が出来た。

 そして淹れた人物は。主のその様子を見て、少し微笑む。

 

 そしてお茶を飲み干したカルディナは、ソーサーにティーカップを置き、再び思考を巡らす。

 

 

(……さて、どうしたものでしょうか?とりあえず明日交代で来て貰う、クストとムル……)

 

 

 ()()()()()()()であろう、些細な事には初めから手を打つ事にして……

 

 

(……改めて思うと2人は何故存在し、鉄華団と一緒に??いえ、どんな結末になろうとも最悪、2人を守れるくらいには警戒せねば。)

 

 

 天海護に酷似した、クストという少年。

 戒道幾巳に酷似した、ムルという少年。

 

 幾多の可能性を併せ呑むこの世界に、ガオガイガーに出てくる存在が微塵もない中、何故この2人がいて、何故鉄華団の元におり、これからどの様な影響を及ぼすのか、カルディナには予想は付かないが、自身のやるべき事は果たす。

 

 そう心に決めるカルディナであった……

 

 

 

 

「───あ、そういえば。ねえ、一つ伺うけど……」

「何でしょう?」

()()は、鉄華団についてどう思う?」

「……どう、とは?」

「いえ、気紛れに。ほとんど種明かしをした昨今、()()はどう感じているかなって。」

「困りますね。そう申されると私からは……」

 

 

 その人物は、カルディナの質問に答えを出すのに困っている様子で……

 

 

「───特に何も、と申し上げます。」

「……でしょうね。」

 

 

 その答えに予想通りにやはり、とするカルディナ。

 

 

「あ、ただ……」

「ただ??」

 

 

「先程『影』から()()()()()()()()()がドルトの件で近々、学園からお戻りになると……」

「…………あ、そう。あの子もそこまで真面目に取り合わなくてもいいのに。」

「私も『フミタン』として行かねばなりませんか?正直、面倒です。」

「……考えておくわ。」

 

 

 厄介事が起きるだろうと思うその前に、面倒事が起きようとする。

 その事に、再びオルガ達が部屋に訪れるまで、非常に頭を痛めるカルディナであった。

 

 

 

 

《……NEXT》

 

 

 

 


 

 

 

《次回予告》

 

 

君達に、最新情報を公開しよう。

 

姿なく、陰で暗躍する機界生命体・ゾンダー。

その存在を暴くべく、クストとムル、2人の少年を伴いその地へと赴く!

 

果たして浄解の力は発現するのか?

 

そして世界を救う鍵となり得るのか?

 

カルディナの疑問に2人が応える時、新たな可能性が見出だされる!

 

 

 

NEXT『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

 

Number.10 ~GとJ~

 

 

次回もこの物語に、ファイナル・フュージョンッ!!

 

 

 

これが勝利の鍵だ!

 

『新作ケーキ&厳選緑茶』

 

 

 

 


 

 

 

 

《次回予告(嘘)》

 

※CV:銀河万丈さんでお送りします。

 

 

 

 

 

……その感情は『激怒』

……その感情は『怨嗟』

 

鉄の華が散らされ、後に残る怒りと怨みの聲が、嘆きと苦しみの焔で真っ赤に染まる夜空に木霊する。

 

緑の獣(クスト)は贄を奪われ、怒り狂い、血の涙を流し……

 

(僕の(ケーキ)を奪ったのは誰だァァーー!!!)

 

 

赤い鳥(ムル)は命の水を口に出来ず絶望し、怨みの聲を垂れ流す……

 

(……僕の命の水(お茶)命の水(紅茶)命の水(煎茶)命の水(抹茶)命の水(緑茶)命の水(焙じ茶)命の水(お茶)命の水(烏龍茶)……)

 

 

奪ったのは、貴様かッ!貴様かッ!貴様かッ!貴様かッ!!!

 

荒れ狂う怨嗟、轟く咆哮、果てぬ怨みの中、2匹の獣は最悪の覚醒を果たす。

 

 

それに対峙するは我らが絶対殲滅者(カルディナ)

 

 

(……どうして、こうなりましたの?)

 

 

天地が破滅し、命が生き絶える中、最早相容れぬ者同士、覇界と昇華を以て始まる死闘ッ!!

 

……そしてその陰でほくそ笑む元凶(1人のメイド)が。

 

 

(……フフフ、つまみ食いしたのは私です。)

 

 

だが、事態を解決せんと決戦の地に走り向かうのは新たな贄(ケーキセット)を持った聖女・クーデリアと賢者(パティシエ)アトラ!

 

 

(───今、参ります!!)

(駄目です!ケーキは作りたてより、少し時間をおいた方が美味しいんです!まだ出せません!)

 

 

果たして間に合うのか!?

 

 

……さあ、凶宴を飾る最後のお茶会(ヘルアンドヘヴン)を垣間見よ。

 

 

次回『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい ~Dead End~』

 

Number.11『(ケーキとお茶)の報復』

 

 

 

これが勝利の鍵だ!

新たな贄(ケーキセット)(間に合わない)』

 

 

 

 

 

 

……嘘です。

 

 

 


 

 

 

○G・フレーム & ロディ・フレーム

お嬢様は正確な設計図は持っていませんし、直接製造に関わっていません。

そして職人達も嘘は言ってませんし、組み立てのみ携わっています。

では、各パーツは誰が製造したのか?

この辺りがオルフェンズ組がこの世界にいる理由になります。

その辺りはチラリとヒントみたいな間話を出す予定です。

 

 

 

○フミタン(?)

Q:一体いつから、このフミタンが本物と錯覚した?(愛染風に)

A:最初から。

 

実際のところ、Number.01の時点で『オルフェンズのフミタン』ではないです。

途中から読んでいる方には判りづらいですが、初期にはオルフェンズのタグは入れていませんでした。

入れたのは、鉄華団をチラ見せした頃からです。

実際、読んでて違和感が最高潮ではなかったでしょうか?

じゃあ、コイツは誰?となりますが、答えは『ドルト』の焼き直し話で。

 

 

 

○ギャラルホルン教皇国

中世の尺度で考えれば、宗教で牛耳っていてもおかしくないはず、との思いでこうなった。

初期に言っていたカイエル教……何の事かは判りますよね?

設定としてはTV版ガオガイガーではロクに出なかった政治的な話を出すため、敵役としています。

ぶっちゃけ、ディバイディング・ドライバーの失敗作を炸裂させて国が消えようが、罪悪感を抱かない程度には悪い国に仕立て上げる予定。

 

 

○ゾンダー

ゾンダー!(はよ出せ~!)

もうちょい待って。

 

 

○クーデリア

未登場ですが、義妹。

 

 

○次回予告(嘘)

遅れてしまいましたが、エイプリルフールもの。銀河万丈さんの次回予告が秀逸だったので、その影響か、悲惨風味に。

実際の話はここまで酷くないのでご安心を。

 




次回は本編に入る前に、間話や昔話を入れる予定です。
なかなか進みませんが、補足しておかないと、意味が判りづらいシーンがあったりするので、ご容赦を。


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間話 ~G・フレーム組み立て秘話~

前回の予告どおり、間話です。



そこは職人達の誰しもが知らない場所だった。

 

 

「……おい、ここ何処だ?フェルネス、解るか?」

「解りませんね。今までこのような場所は開示された事はないので……」

「私もです。イザリアさんは?」

「私もよ。フェルネスとシレーネが知らないなら、本当に誰も知らない場所ね、ここは。」

 

 

そこは地下空間、というにあまりにも大きい。

10メートルのゴーレムが軽く入るどころではない。それ以上の存在が立ち上がっても走り回っても何ともない程に大きい地下空間である。

古株のフェルネスとシレーネの夫婦が知らないとなると、もはや誰も知らない場所である。

 

魔力(マナ)を用いた大型白光灯(ライト)に照らされた壁や床は全て精密にカットされた石畳や石壁で覆われている。

また、天井と地面を支える柱も同じく精密にカットした石の柱が広い間隔でそびえ立つ。

だが、石だけで構成されているようではなく、中身は別の骨組みがあるようで、耐震性や強度にも優れる構造になっているのを職人達は見逃さなかった。

 

そして何よりも職人達の目を釘付けにしたのが、その石の柱の間にある、何かの装置。

立てられた長細い箱の骨組みのような、そして周囲には上下左右に可動出来るの足場が。

これは果たして何か……

そして、ここにいる職人達にそれを察知する人物は、ごく僅かだがいたりする。

その内の一人、エルフで無表情が特徴のフェルネスは、判る人物の1人だった。

 

 

「整備用の……ハンガー、というものですか。」

「ハンガー?」

「お嬢様が言うにはロボット……まあ、我々で言えば巨大なゴーレムに使える、整備備品です。全身くまなく足場を稼動、設置出来るので、スムーズな整備が可能なのです。」

「ほぉ、詳しいな。」

「時間が空いた時に、お嬢様にお願いをしまして、一部の作品を見させて頂きました。それがその中に……形状は多少の誤差はあれど、使用用途が似ていますので、何となくですが判ります。」

 

 

ちなみに、一通り見たのは宇宙世紀系。

アフターコロニー、それ以外はこれからである。

 

 

「成る程ねぇ……って事は、ちゃっかり奥にある魔力転換炉(エーテルリアクタ)が、天井の明かりとそのハンガーとかいう足場を動かすための動力、って事でいいのかしら?」

 

 

イザリアが地下空間の奥に視線を向ける。

そこには回路が光輝く、稼働中の魔力転換炉(エーテルリアクタ)が3機、壁に埋め込まれていた。

 

 

「……間違いないですね。型は見たことない物ですが、おそらくお嬢様の創作品でしょう。」

「ちなみに、魔力転換炉(エーテルリアクタ)って、個人単位で自作出来んのか?」

「無理よ。並のエルフですら製作不能の逸品で、普通に創れるのはアルヴの民ぐらいだけど、お嬢は完全に例外。素材の精霊銀(ミスリル)を加工出来る人外よ。あと、あれが無人稼動してんのも無視しなよ。」

「……おう。」

 

 

イザリアの忠告に心底同意するダーヴィズ。

本来なら騎操士(ナイトランナー)、ないし操作する存在がいないと動くはずのない魔力転換炉(エーテルリアクタ)

どうして無人稼動してるかは、職人達には解らないが、きっとタネはあるのだろうが、心の衛生上、聞かないほうが懸命である。

 

……それと、その近くに大きな布が被せられた2メートルと15メートル級の()()があったが、それに突っ込みを入れる勇気はなかった。

 

 

「もう、何でもアリだな。」

「まあ、それよりも私らがここに呼ばれた理由が問題よ。目の前に散り散りに置かれた部品達をどうするって云うのは解るけど……」

「如何なものでしょう。それより私は……時折来る視線が気になるのですが……」

「視線?気のせいじゃねぇか?」

「……だと良いのですが。」

 

 

そして本題。

石畳に置かれた幾多の部品、パーツ、その他エトセトラ……

大小様々な部品達がそこにあった。

しかもそれらは、ある一定の決まりによって置かれている。

ただ、一つ気掛かりがあった。

それは……

 

 

「───ああ、皆さん。お揃いですね。」

 

 

そんな時、軽快な声が響く。

それは職人達をここに呼んだ張本人で職人達の雇い主、カルディナである。

カルディナは集まった職人達の顔を一通り確認すると、すぐに本題に入った。

 

 

「今日はですね、ご覧の通り様々な部品、備品、環境が御座いますが、お察しの通りこれらの組み立て作業をして頂きたいのです。」

 

 

───やはりか。

 

 

「作業にあたり、組み立ての()()()はここにありますので、作業総括をフェルネスさんとし、皆さんで組み立て作業をお願いします。質問はありますか?」

「はいよ。」

「イザリアさん。」

「まず結論を聞きたいんだけどさ、これは最終的に何になるの?」

「……判りやすく言えば、幻晶騎士(シルエットナイト)と似て非なる、20メートルクラスの機体の()()が出来ます。」

「……それを今の時期に組み立てる理由は?」

「それはですね、私が商会の仕事を溜め込んでしまったからです。」

「……それは答え?」

「それはですね……」

 

 

カルディナの言い分としては、商会の仕事を先日まで溜め込んでしまったため、どうしても赴かなければいけない、また要対応の事案が数件あり、どうしても他の人物には投げれないようで……

 

 

「という訳で、一週間丸々空いてしまう訳です。とはいえ、私抜きでGGGのコア──ギャレオンを創って頂こうと思いもしましたが……」

「ああ、前に聞かれて却下したもんね。作業の途中からお嬢が抜けるのは解るけど『最初からは出来るか』って。それに立案者(言い出しっぺ)以外に陣頭指揮取れる奴が、お嬢以外にいない訳だし……」

「はい。という訳で、空いてしまった一週間を別の作業に当ててしまおうという訳で。」

「それで、コレね。」

「はい。ついでに20メートル級を組み上げる感覚も養って貰いましょう、という狙いもあります。あ、勿論意味はありますよ?もう一機あれば、作業効率も上がるかと思いまして。」

「「「「 ……もう一機?」」」」

「あれですわ。フミタン、降ろして頂戴。」

「畏まりました。」

 

 

と言ってカルディナが指した先にあったのは、魔力転換炉(エーテルリアクタ)の隣にある布を被せられた15メートル級の何か。

そしていつの間にかいたフミタンが、壁に備えていたレバーを倒すと、その布が引っ張られた。

そして姿を現したのが、白とオレンジ色を基調とした、ぐんずりと丸いシルエットの駆体。

 

 

「『ロディ・フレーム』という金属骨格を流用しました。名を『ランドマン・ロディ Type-C』と言います。」

 

 

──ランドマン・ロディ。

 

『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』にて、第一期の宇宙海賊ブルワーズ戦で、阿頼耶識システムを搭載したモビルスーツである。

特徴はぐんずりとした丸い駆体にして堅牢な装甲を持ち、量産型とは言えない優れたパワーを持つ事である。

上位機体的存在といえるグシオンと機体形状は似ており、劇中ではその装甲を生かした戦法を取って戦っていた。

そしてランドマン・ロディは地上での活動に対応すべく改良された、マン・ロディである。

また、随所にあるバーニアは本家に劣るものの、加速には充分な魔導噴流推進器(マギジェットスラスタ)が。

また、両足は劇中のままではなく、三角を特徴とした足の代わりに、三角のキャタピラを装備している。

 

 

「これは……」

「何と云うか……」

 

「「「「──凄いしっくり来る。」」」」

 

「あ、やはりですか?」

 

 

職人達全員が納得している。

それもそうだろう。

王国で運用されているゴーレムのデザインが、だいたいグシオンないし、マン・ロディのようなぐんずりした駆体なのだ。

その理由が……

 

 

「細身では、魔獣相手では太刀打ち出来ませんしね。」

 

 

との事。

 

 

「しかし、いつの間にこの様なモノを……」

「私の習作ですわ。フレメヴィーラ王国の留学から戻ってきてから創りました。」

「って事は、これは幻晶騎士(シルエットナイト)か?」

「近くも遠からず……色んな要素を詰め込んだので、基本は幻晶騎士(シルエットナイト)ですが、大分欠け離れてしまってます。技術も科学ではなく魔法……何かと言われると、幻晶騎士(シルエットナイト)の様な、モビルスーツ(何か)……でしょうか?」

「……何とも説明し難いモンだな。」

「はい、その通りで。ただ……最近改修しまして、結晶筋肉(クリスタルティシュー)代わりに軟鉄を使ってますので、動力炉込みでフレメヴィーラ製のモノより出力・パワー共にこちらが上になりましたが……」

 

 

素知らぬ顔で、何か物騒な事を言うお嬢様。

実験機だろうが、何をしていやがる。

職人達は、そう警戒した。

 

 

「ともあれ、私個人で造れた代物です、私がいない間に、軽く立体パズルを組み立てる感覚でやってみてください。あ、慎重に使うのであれば、ランドマン・ロディも操縦しても構いませんわ。」

「「「 ───!? 」」」

「慣れれば、組み立て作業に使っても宜しいですし。操作はゴーレムと同じ感覚で出来ますわ。」

「「「 ……… 」」」

 

 

そうして、カルディナはフミタンと一緒に地下空間より去った。

そして残された職人達はというと……

 

 

「……仕方ない、やるしかないわね。」

「……ですね。」

「……だな。」

 

 

とりあえず言われた通り、組み立て作業を行い始めた。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

作業は戸惑いや時間が掛かる事こそあったが、至って順調に進んだ。

設計図があるためか、部品の1つ1つを繋げるのは簡単で、手順を守ればトラブルは起きなかった。

 

そして心に余裕が出来た職人達は、次第に自分達が組み上げている物の凄さを実感し始めた。

 

基礎フレームの剛胆な固さ。

簡素な造りでありながらエネルギーの導線、出力がどの様に発現しているか。

そして今後出来る、応用の多様性……

 

 

「それらを全部可能にしてるのが、この魔力転換炉(エーテルリアクタ)って事だな。」

「これも壁にあるものと同一なのでしょう、無人稼動しています。」

「逆流もそうだけど、ショートしないよう気を付けないと。発生している魔力(マナ)が膨大よ。何せ2機連結したモノ。しかも通常の型より出力が段違い。魔力(マナ)の流れが悪けりゃ、そこでボンッ!よ、何この動力炉?」

(……っていう割にはイザリアの姉御、顔が笑ってんだけど。)

 

 

金属細工師であるはずなのに、エネルギー系の回路や動力炉を多く弄る機会が多いためか、最近動力炉に目がないイザリアの姉御。

未知の技術に出会い、余裕こそあるが気は緩めない。しかしウキウキとした心情。

職人全員がそんな状態だ。

だが、受け入れ難い事もある。

 

 

「姉御~。」

「何さ?」

「動力炉と腰部の組み立て、これで本当にいいのー?」

「とりあえず言われた通りにしなー。不安なのは皆一緒だけどねー。」

「……わかった~。」

「ったく、再三言ってるのに、また文句か。」

「仕方ありません。動力炉が胸部にあって、それを支える腰部は細い支軸と2本のシャフトしかないのです。」

「頑丈なのは判るけど、何でこういう設計なのかしらねぇ?」

 

 

腰のフレーム部は、この時既に職人達の間ではディスる案件と化していた。

そしてある程度組み上がり、組み立てが必要になった頃、どうしてもハンガーの環境だけでは組むのが難しくなる。

宙吊りに出来るクレーンも複数あったが、この時、扱いに慣れていないものを使うのは、どうにも気が引ける。

そこで活躍したのが、ランドマン・ロディ Type-C。

 

 

「──では、起動します。」

 

 

テストパイロットの1人目として、エルフのフェルネス。

ゴーレムの扱いに長ける彼は、不慣れなコックピットの中でも冷静に起動シークエンスをクリアし、ランドマン・ロディを動かした。

その秘密がカルディナの持つIDメイルと同じ性質を持つ『IDメイル』である。

こちらは男性型で、伸縮性があるIDメイルであるが、妻のシレーネが夫の体型に合わせてコーディネート、簡略化したものだ。

当然、神経接続コネクタを実装するIDメイルは阿頼耶識システムとの相性は非常に良い。

尚、デザインは鉄華団の使用したパイロットスーツを模したものに、手甲や具足を着けたもの。

 

 

「アナタ~、どうでしょうか~?」

《ええ、非常に良いです。違和感がまるでない。ゴーレムと同じように操作が出来ます……成る程、これならばお嬢様が拘るのも頷けますね。良い仕事ですよ、シレーネ。》

 

 

モニター越しに見る景色に感心しつつ、神経伝達コネクタから受けるフィードバックを感じとるフェルネスは拡声器(マイク)越しに妻のシレーネを褒めた。

異世界の技術と阿頼耶識システムのハイブリッドが確立した瞬間であった。

 

 

「きゃ!褒められちゃいました。」

「はいはい、お熱いこって。」

「じゃあフェルネスー、そのまま宜しくー。」

《判りました。では……》

 

 

そして最初に行った事は……

 

 

「お~!もう少し右ー!オッケー!」

「じゃあ次、肩パーツね~!クレーンまで運んでー!慎重にねー!」

《……まるで人形を組んでいる気分です。》

「仕方ありませんわ~。」

 

 

妻に同意されつつ、慎重に運ぶ。

主に手動でクレーンまで運んで吊るす、という作業だった。

 

 

次いでランドマン・ロディを乗りこなしていたのが、ダークエルフのイザリア。

そしてもう1人が、意外にもドワーフのダーヴィズである。

 

 

《おお、意外に動くな。》

「随分細かやかに動くわね。組み立て作業が捗る捗る。」

「やはり、というか私より精密に動いている気がします。おお、そんなところまで……」

《なんつーか、軟鉄を操作するような……そんな感覚だな。それを全身ですると……普段より楽だな、こりゃ。》

「やはり『魔力操作』ですか。ダーヴィズさんはその能力は非常に高いですからね。」

魔力(マナ)の保有量に関係ないってなら、こりゃ慣れりゃドワーフにでも動かせるわな。》

「なぬ!本当か!?」

「って事はワシらにも!?」

 

 

ゴーレムを創造出来ない種族関係なく動かせる。

ダーヴィズによってその可能性が出てきた。

となると……

 

 

《……じゃあ、出来るかもな。》

「何がだい?」

《コイツ用サイズの鍛造ハンマーがありゃ、特大の剣も打てる、ってな。そうなりゃ俺の夢(英雄の剣の創造)も叶う可能性も……》

「……申請してみては?お嬢様なら、即決で了承してくれるでしょう。」

《……いけるか?》

「得物造りも、私ら職人の範疇じゃない?魔術回路ぐらい入れるのは手伝うから、やってみなよ。」

《おう!》

 

 

新たな可能性が出つつ、組み立て作業は続く。

しかし1つだけ例外があった。

 

 

「……どうして、オイラだけ。」

「どうしてって言われてもなぁ……」

「……すみません、かける言葉が見つかりません。」

「あ~、気に病むんじゃないよ、ヴィトー。これはどうしようもない。」

 

 

『orz』と、とてつもなく落ち込むのは、ハーフリングのヴィトー。立候補した中で彼だけ……いや、他のハーフリング達もランドマン・ロディに乗れなかったのだった。

その理由は……

 

 

「身長が140センチ以下だと、操縦桿を握る事すらおろか、シートに身体を固定する事も出来ません。」

「仕方ないわよ、身長が140センチ以下(チビ)なんだから……」

「仕方ねぇよ、チビ(140センチ以下)なんだからよ」

「言い方ァァァーーー!!!」

 

 

安全上の身長制限、この一点である。

 

ちなみにフェルネスは180センチ。

イザリアは172センチ。

ダーヴィズはドワーフでは大柄の169センチ。

開発者のカルディナは171センチ。

 

そしてこの話を聞いた他のハーフリング、他の低身長者達は絶望した。

 

ん?どこかで聞いた事がある話だが……

 

 

 

──フレメヴィーラ王国 某所

 

 

「──へくしゅっ!!」

「ん?エル、風邪か?」

「大変~!私が温めてあげる!」

「いえ、この感じだと誰かが僕の事を揶揄しているのでは、と……」

「……どういう事だ?」

「何と云うか……そう、身長制限で幻晶騎士(シルエットナイト)に乗れないと言われた、あの日の事を言われた様な……」

「「あ~……」」

 

 

 

閑話休題(それはさておき)

その後、ヴィトーがカルディナから聞いたエルネスティの逸話を思い出し、自分も乗れるコックピットシートを作る事を決意し、他の賛同者も一致団結するのだった。

 

その事で、コックピットの換装システム開発が進んだのは、偶然が必然か……

 

 

そして5日が過ぎ、6日目……

 

 

「……出来ましたね。」

「ああ、出来たな。」

「完成したわね。予定してたより1日早かったけど。」

 

 

職人全員が見上げた。

そこには20メートルにもおよぶ、鋼で形造られた、鉄黒色の骸骨にも似た人形(ヒトガタ)があった。

 

 

「ちなみに今更だけど、コイツの名前とかあるの?開発コードとか。」

「正式には『ガンダム・フレーム』と言うようです。」

「ガンダム……ねぇ。」

「お嬢様が言うには『自由の象徴』、もしくは『反骨心の塊』だそうで……」

「自由は判るが、反骨心の塊って……」

「それはですね……」

 

 

ダーヴィズの疑問に、フェルネスは設計図をペラペラ捲り、後ろにある注意書を読み始めた。

 

 

「『ガンダム・フレームに拘わらず大概のガンダムと名の付く存在は、逆境の中にいるから』だそうで、そういう由来があるようです。」

「……何か怖いな。しかし、この細っこい外見何とか何ねぇか?せめて鎧でも着けてやりたいのがドワーフの心情ってモンだ。」

「何?鎧だと!?」

「造るのか!?打つのか!?」

「──あー……まあ、確かに、これはまだ素体……外装なしの状態で、本来はこれに装甲を付けるのですが……『今はしないで』とのお達しです。」

「「「 ───何ッ!? 」」」

「『特にドワーフの皆さん、付けたい気持ちは山々でしょうが、今付けると軽~く暴走するので絶対に止めましょう。』……だそうで、これ以上の作業は終了と致します。」

 

「「「 ……… 」」」

 

 

その言葉に一同絶句。

暴走?

誰も乗っていない機体が、暴走する?

 

 

「いや、確かにコイツの動力炉には『火』が入ってるよ。機体の各部にも魔力(マナ)伝達が始まって、構造保持位の術式(スクリプト)が発動してるし、ね。無人だけどさ、けどねぇ……」

「……まあ、私も色々伺いたい事はありますが、今は言う通りにしていれば害は無い筈です。何にせよ、後は起動と動作テストをするだけです。」

「そういやそうだな。一応ハンガー固定してるとは言え、気を付けろよ。なんせ脆そうだしよ……」

「はい。」

 

 

不安要素を抱えつつも、最後の起動及び動作テスト。

テストパイロットのフェルネスはIDメイルを纏い、コックピットに入る。

 

 

「───各数値、正常内。魔力(マナ)伝達圧、良好。ふむ、ここまでは問題なし。」

 

 

モニターに映し出される計器の数値を読み上げ、異常が無い事を設計図を見て確認するフェルネス。

 

 

「神経伝達コネクタ、電位情報リンク開始……各部コンデンサーへの魔力(マナ)充填、到達を確認……ん?これはフィードバック、でしょうか?フレームから送られてくる操作関係、機器の情報……成る程、ここまで()()()()()()出来るとは。」

 

 

ガンダム・フレームから送られてくる機体の情報に驚くも、ゴーレムでもこの様な体験(フィードバック)の感覚はある。

しかしまだ予想内の出来事であり、ここまで異常はない。

全てマニュアル通りだ。

 

 

《……では、起動します。》

 

 

───碧の双眼が光った。

 

魔力転換炉(エーテルリアクタ)の吸気音と共に機体が微かに動き、各部のコンデンサーや駆動駆関に負荷が掛かり、全身にパワーが漲るようだ。

そして歩く分には問題ないまでに出力が安定した時だった。

 

 

《各部、問題なし。歩行試験に移行します。ダーヴィズさん、ハンガーの拘束解除を。》

「よし、任せておけ!」

《後は拘束解除後に歩行試験を実し……

「……え?アナタ??」

「ん、シレーネ?どうしたの?!」

「イザリアさん、主人の声が……!」

《───?、───?、─────》

「フェルネス?どうしたの?声が聞こえ──」

 

 

───ブツッ

 

 

「え??切れ、た?」

 

 

突如、通信が切れるという事態が発生した。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……駄目ですね。通信が通じない。」

 

 

コックピット内部にいるフェルネス側も、通信が切れるというアクシデントが起きていた。

それ以前にモニターも計器も映らず……所謂『モニターが死んだ』という状態。

全ての出力が落ち、操縦桿や神経伝達コネクタからの反応すら、一切が鎮静化する状態と化した。

 

 

「困りましたね、コクピットのハッチも開かない……まあ、周りには他の職人達もいるのです、待っていれば異常を察知して、何とかするでしょうが、いったい何が……」

 

 

特に慌てる事もなく、落ち着いた様子のフェルネス。

 

 

……そんな時だった。

 

 

「……あ、モニターが復活しましたか。これで外の状況を───」

 

 

 

────汝 何モノ

 

 

 

「────!?!?」

 

 

───()()()()、そう呼べる存在がモニターにへばり付くように、紅く光る双眼をこちらに向け、覗いてきた。

そして尋ねてきた。

尋常ではない、寒気すらもたらす威圧感(プレッシャー)を放ちながら。

 

 

────再 問ウ 汝 何モノ

 

「わ……私、は……」

 

 

───コの駆タイは 何 ゾ? コれは 何ゾ??

 

 

殺意はない。

しかし、潜在的にこの存在は危険と本能が告げる。

ここで下手な答えを返すと、一気に精神を真っ黒に塗り潰されてしまう危険性がある。

それ程の危険性を持つ存在だ。

 

 

(……こんな存在が現れるなんて想定外です。何故?どうやって?いえ、そんな事ではなく、この存在がどんな存在かはある程度想像がつく。問題は、この存在が納得してくれる返答をどうするか、どのような返答を……あ。)

 

 

だが、予見はされていた。

設計図の注意書に。

 

 

「……私は、フェルネスと申します。『現在、このG・フレームの試運転を行っています。』」

 

 

───G フレー ム ??

 

 

「はい、『現在、貴方が望めるような状態ではありません。故に、今は()()()()()()()()()()()()()()()。しばしお待ちを。』」

 

 

─── ………理カイ。

 

 

「……ご理解頂けましたか。」

 

 

───しヶァシ 不完ゼンなれば 我ガ助力が不可ケツ。コの駆タイは 我が管リすル。

 

 

「……それは『叱られますよ?』」

 

 

───!? 理カイ不可ァァァーーー!!!

 

 

「───(っ! 咆哮1つで精神攻撃ですか、流石に響きますね。)」

 

 

フェルネスの言葉(?)に怒りを露にする、黒い存在。

響く咆哮は生ける者の精神力を奪っていくが、フェルネスはそれを持ち前の気力で耐える。

 

そして大方叫び終えると、フェルネスを睨み付け、その真っ黒な靄を纏う腕を伸ばしてきた。

しかもそれは、モニターから直に出てきており、指先数本がモニターから生えていた。

 

 

 

───『叱られますよ?』否イナ否イナ否イナ否ァァァーーー!!! 脆ジャクなる汝 拒否無シ 故 我ノ管リが……が!?

 

 

だが、その怒りもそこまでだった。

黒い存在は急に黙り込み、手を引っ込めた。

しかも挙動不審に何かに怯え始め、その身体が見て判る程に震え出す。

 

 

そして次の瞬間、突然現れた第三者の放ったゲシュペンスト・キックを受けて、黒い何かはモニターの外から問答無用で吹っ飛ぶのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

コックピットの外、ハンガーのより少し離れた場所で更に異変が起きており、職人達は呆気にとられていた。

何故かというと、黒い何かは突然現れた第三者のゲシュペンスト・キックを受けた後、地面に叩き付けられ、今度は更に現れた第四者よりマウントポジションからの、メイスで滅多打ちにされていたからだ。

その第四者は全身を外陰で身を包んでおり、姿は解らない。しかし、滅多打ちにまるで容赦が無い。両手にメイスとは確実に止めを刺すつもりらしい。

そしてゲシュペンスト・キックを極めた第三者も外陰で姿が解らないが、いつの間にか片手に巨大な万力のような道具を持っており、もう片方に更に大型メイス(先端にバンカー付き)を持っており、その光景だけでも殺意が酷い。

そして第四者が第三者より大型メイスを受け取った後、迷うこと無くバンカーを頭に突き刺して、撃ち込む。

しかし、黒い何かは堪らず起き上がって、理解し難い未知の言葉を大声で発する。

雰囲気としては……

 

 

───痛ェじゃねぇか、コノやろーーー!!

 

 

というところ。

だが、すぐに第三者が万力で頭をがっちりホールド。

それから第四者がゆっくり近付き、耳元で何かを囁くと、黒い何かは涙目になり、その姿をゆっくり白く……否、青白くさせていた。

命を脅かしそうな威圧感など何処へやら、何か重大な事に気付かされたようだ。

 

それから、黒かった何かは万力から解放され、職人達に向かって何度もペコペコ謝り始め、その後から残りの2者も職人達に向け、深く頭を下げる。

 

そして最後に第四者の外陰から太いワイヤーような物が出て来て、黒かった何かを絡み取り、壁際にあった2メートル程の何かに叩き付けた。

黒かった、青白い何かは消え失せ、一瞬被せた中身がビクンっと跳ねるが、直ぐ様ワイヤーで拘束、そのまま引き摺られて壁にあった隠し扉の中に消えて行ったという……

 

そして、残された職人達は、只只唖然とするしかなかった。

 

 

───ヴゥン

 

 

《ふう……ようやく再起動出来ましたか。あ、申し訳ないのですが、現状どうなっているのでしょうか?》

 

 

再起動を果たしたG()()()()()()

しかし再起動までの十数秒間、どうなっていたかは解らないフェルネスはハンガー前にいた職人達に尋ねるが、当の職人達も何が起きたかは解らない事態だった事は間違いない。

その後の稼動テストよりも、聞き取りに結構な時間を要したのがその左証であろう。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「───という事がありまして……」

「……そうですか、やはり現れましたか。」

 

 

その日の夕刻。

商会の仕事をやり終えたカルディナは、フレーム見て、あと幾つか湧いて出てきそう、と言った後、報告の代表として来たフェルネス、イザリアから起きた経緯の報告を受け、そして呆れてため息を一つ。

可動テストは無事成功。その後の機体コンディションも問題ない。

後は外装を付けるのみであるが……

 

 

「設計図の注意書に対応方法が克明に書かれていましたが、今回の件は予想はされていたのですか?」

「一応、ですが未遂とはいえ、魔王の刻印(サタン・シジル)に目が行かない馬鹿がいたとは。まあ、支配下に置こうとして直接触れて判ったようですが……しばらく陽の目は見ないでしょう。」

「……結局、今回組み上げたのは何だったのよ?」

「モビルスーツという機動兵器ですが、その前に器、ですわね。」

「器……ですか?悪魔の為の。」

「半分はそうです。」

「半分??」

「正確に言うとGGG制作のための神経伝達システムの参考になればと思いまして。その過程で『魔王』から悪魔と鉄鋼桜華試験団の為に、という理由で今回の件を受けましたの。地下空間の掘削、環境の整備、部品の製作は悪魔()がするという事で任せ、残りの調整を皆さんにお願いした次第です。まあ、怖がらせてしまったのは申し訳ないのですが、今後この程度の事はいくらでも起こりえるので、今の内に慣れて頂こうと思いまして。」

「出来れば、事前に通知して頂きたかったです。実際、被害は皆無でしたので構いませんが……」

「ごめんなさい、監視はしっかりさせていたものですが、ああ手が早い悪魔だと対処が難しくて……」

 

 

聞けば聞く程頭が痛くなるような事ばかりである。

特にあの地下空間(ドッグ)は、見えているだけではない筈。知らないところにもまだ広がっており、その掘削作業が日夜悪魔達の手で行われていると想像したら……

 

 

「ちなみに、伺ってもいいかしら?」

「何をです?」

「決まってるじゃない、あの地下に現在いる悪魔の数をよ。」

 

 

そうイザリアが尋ねると、カルディナは指折り数え始め、6回……

 

 

「……有名どころが60柱以上、といったところですわ。それ以下の下位(名無し)は、千は超えているかと。」

「……そう、ですか。」

「その折った指は、10って……それ以上いるんじゃない」

「それと天使の有名どころが、5柱と下位の天使(名無し)が500程度……ですわね。皆さん一緒に地下空間(ドッグ)の拡張に勤しんでますわ。」

 

 

カルディナの回答を聞いたフェルネスとイザリアの思考が音を立てた、と思える程に凍った。

巨大な地下空間にひしめく、天使や悪魔……

 

……何だその数は?

 

 

「……本当に何をなさる気ですか??」

「何も。初めの魔王と天使の契約を期に、悪魔と天使の配下が雪だるま式に増えるんですの。お互いいがみ合う事はあれど、協力し合って仕事をしてますわ。何をするか、と言われたら……地下空間の掘削、商会のお仕事エトセトラ、屋敷のメイドでしょう?そうそう、一番大切な事が……!」

「──いえ、もう結構です。」

「お嬢、久々にお説教。」

「え??いったい何がいけなかったと……あ、フェルネスさんたすけてぇぇ~~──……」

「……今回ばかりは、フォローしきれませんよ。」

 

 

知らない間に災害どころか、神話の戦争でも起こす気か!!と言わんばかりの数がいる事に頭を痛める2人。

あの地下空間にひしめくのが、誰もが崇め、恐れ、そして人智を超えた存在であった。

そしてそれが、1人の少女によって統括されているとは、何と恐ろしい事か……

 

 

地下空間の壁に設置されている改良型魔力転換炉(エイハブ・リアクター)といい……やはり、このお嬢様(カルディナ)はどこか思考回路がズレている。

 

 

 

《……NEXT??》




以上、G・フレームから始まる怖い話でした。

地下空間を覗いたら、某Gの如くワラワラと?
いえ、そんなみっちりと詰まってませんから。
皆さん大事な従業員です。(ソウジャナイ)

悪魔が鎚でパーツ作成している姿を想像すると、少し微笑ましく思えるのは私だけでしょうか?
それと地下空間の掘削はスコップ等ではなく、魔法で削り取っている、と想像してください。
ドリル掘削はしてないですよ。



本編では拾えないフラグが色々あるとはいえ、本編の裏は大概、大事になる……


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Number.10 ~GとJ~(1)

最近オルフェンズ成分強くて、何を書いているか、さっぱりです。
流石にオルガ達はキャラが濃い。

ようやくガガガ成分が補充できる回になるかと……

……なるのかな?


「……さて、と。これで陛下に見せる資料と映像資料が全て揃いましたわ。」

 

 

仕分けと梱包作業が終わり、ホッと一息吐くのはカルディナ。

視聴覚室の床に数個、カルディナを中心に置かれている木箱を見て、本来は使用人やメイドが行うような事だが、カルディナにはあまり関係ない。

むしろ違う意味でカルディナは頭痛がする思いだった。

 

 

「口約束とはいえ、ある程度予想はしていたとはいえ、陛下に『ガオガイガー』を見せる時が来るとは……」

 

 

陛下と会食の時、秘めに秘めた自身の行い事を明かすと約束し、その証左を渡すのが今日なのだ。

ちなみに木箱の中身は魔術式投映機(プロジェクター)と、魔術式情報集積体『在りし記憶の板札(メモリアル・カード)』。

もちろん中身は『勇者王ガオガイガー』だ。

そして極め付けはカルディナのお手製、ガオガイガー・コンプリートファイル。

 

───これを見れば、君もファイナル・フュージョン承認!!

 

と、言える程の情報量、精密なイラスト、他の情報では開示されなかった事象についてカルディナ独自の情報の、重箱の隅っこを突っついた考察が載った辞書並みの分厚い冊子(?)である。

通称、綺麗な中二病ノート。

設計図は別として、この世界において唯一のガオガイガーに関する事が詳しく記された書物でもある。

 

 

「……まさか、この本が役に立つとは。とは言え、これだけの情報量があれば十分でしょう、フミタン。」

「はい。こちらの荷物が全てですか?」

「ええ。間違いなく王都に……陛下の元に運んで下さい。」

「判りました……と言いたいところですが、実は先程、領主(父君)様が別件で王都まで行かれる、との事で「それらの荷物は私が預かるので安心していいよ」と、言伝てを……」

「───ガッデムっ!!」

「しかも御会いになるお方が、ティ・ガー元将軍で……」

「───ジーザズッ!!」orz

 

 

何と言う恥辱か。

別件とはいえ、用件が終われば確実に王城に向かい、そして陛下と一緒に『見る』だろう。

そうなると映像もそうだが、手作り冊子も見られる、という事に……

そしてカルディナの憧れの、元将軍のティ・ガーという人物。

本名、ティオレンス・ガルン・ガーベルト。

2年までアルド・レイア王国の将軍を勤めていた筋骨隆々の壮年の男で、カイゼル髭がよく似合う。戦士としても魔法使いとしても超一流。現・レクシーズ王権の立役者の1人であり、カルディナにとってはヒーローでもある。

ただ、2年前に公務最中に右脚を痛めてしまい、現在は隠居生活を送っている。

 

そんな人物がいるのだ。

間違いなく好奇心100%見に来よう、確実に見られるのだ、非常に恥ずかしい、の一言に尽きる。

 

経緯はどうあれ、年頃の娘のノートの中身を親や憧れの人物に見られるのは、かなり抵抗がある。

が、しかし……

 

 

「───大人しく恥辱に耐え忍びつつ、その『中二病ノート』を陛下と領主(父君)様、元・将軍に見て頂くしか道はない、という事ですね。」

「───何、そのナレーション的発言!?いや、そうですけど!?」

「(ドヤァ)」

 

 

……台詞を盗られた(泣)

 

 

「しかし、宜しかったのですか?」

「……何がですの?」

 

 

他の執事達が木箱を運んで行った後、フミタンは確認するようにカルディナに尋ねた。

 

 

「昨日からガオーマシン、という大型の機械を3機同時進行で開発、という過密スケジュールの中で、お嬢様が抜けられるというのは。」

「……ああ、その事ですか。」

 

 

遂に開始したガオーマシンの開発。

昨日より開始したが、3機同時進行で開発という明らかに自身の首を絞めているような過密スケジュールを打ち立て、しかも国王陛下に啖呵を切ったとはいえ、残り3ヶ月で完成させねばならない現状、同時進行で行くため、猫の手も借りたい。

そんな時期に一時とはいえ、カルディナが抜けるのだ。

その原因が、未だ未確認のゾンダーの存在である。

 

 

「『影』からの報告で、近隣住民のここ最近の出没数が僅かですが多くなっています。なので今回は強硬偵察です。」

「とは言え、お嬢様が直接赴く事はないのでは?それに接敵した場合は……」

「……事情を知り、対処出来る存在が私しかいないのです。それに半分は博打ですが、打算はありますし、そこが今回の肝です。」

「お嬢様にしては不確定要素を含んだ行動ですね。」

「……今回ばかりは、そういう自覚はあります。」

 

 

フミタンがそう言うのも仕方がない。

今回の目的は強硬偵察、及び該当者2名の覚醒促しなのだから。

 

成功すれば強力な最低限度の抵抗力を獲得はするが ゾンダーの存在が確定し、長い戦いの幕が開ける。

接敵無しなら空振りは、現状維持。

最悪の展開は、世界の機界昇華(終焉)が待っている。

 

行動せねば現状打破出来ない、現状維持は悪手、ならリスクを背負ってでも行動を起こさねばならない。

例えるならパンドラの箱だが、開け手のパンドラは相当リスキー。

 

 

「それに自己申告といえど、試験団を製造作業に参加させるなんて、宜しかったのですか?」

「まあ、そちらはあまり気にしてません。監視は付けてますし、むしろ発破を掛ける手間が省けましたから……」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

───地下空間(ドッグ)

 

 

「……マジか。地下にこんなところがあるとはな。それに、事前に話を聞いていたとはいえ、ここまでの出来とはな。」

「……確かに。ビスケットが本物って感じる気持ちが判る。」

 

 

地下である筈だが、見上げる天井は高く、そしてそこで動くモノ──G・フレームもまた高い。

オルガと三日月は、稼動するG・フレームを見上げ呟いた。

 

 

「やっぱそう思うか?」

「うん。何て言うか……肌に感じる雰囲気とか、滲み出てるものとか、言葉にしにくいけど間違いなく『コイツ』って感じはある。」

「だな、俺もそう思う。どんなカラクリ使ったか解らねぇが、実在してんのは事実だ。それによ、何故かランドマン・ロディもいやがる。どういう事だ?」

「きっとお嬢が造ったんじゃない?」

「……個人で造ったとか馬鹿げてねぇか?いや、何か不思議と納得出来るな。」

 

 

カルディナが関わる以上、モビルスーツの1機もあって可笑しくはないだろうと、苦笑いするオルガ。

現に、G・フレームとランドマン・ロディを中心に3つの巨大な建造物が、現状は基礎骨格だけだが姿を現し始めている。

 

 

「ありゃ、飛行機の羽か?デカいな……」

「こっちは列車?ん、あっちはキャタピラ、ドリルがある。」

「それをモビルスーツで組んでるとか、凄ぇ光景だな。しかもデカさだけも……そのまま輸送手段、交通機関に利用出来るんじゃ……そんで中身は魔法で動くとかあり得んだろうによ……」

「まあ、あのお嬢が関わってる以上は不思議じゃないと思う。」

 

 

そして現場で働いているのが、人間も含めた多種族の人々。

現実味があるようでないような、そんな光景を目の当たりにしてオルガはやれやれと溜め息を一つ、三日月はナツメヤシを一口。

そして気持ちを整理した後、オルガは後ろにいる2人に声をかけた。

 

 

「……てな所なんだがよ、どうよ?明弘、シノ。」

「いや……どう、と言われてもな……」

「悪ィ、何か頭の中が色々思い出してきて……ごっちゃに……」

「だろうな。」

 

 

目を白黒させて混乱に混乱を重ねて唖然とする、黒の短髪の大柄な少年、昭弘・アルトランドと茶髪のたれ目が特徴のノルバ・シノ。

悪魔の名を冠したG(ガンダム)・フレームの乗り手である2人だが、『前』の記憶の復活とその混乱に耐性がある訳がない。

だが、そんな様子にオルガは笑みを見せる。

 

 

「つか、オルガ……だよな?」

「シノ……俺が他の誰に見える。」

「あ、いや……その……」

「なんてな、怒っちゃいねぇよ。()()()()()()()に思わず安心しちまってよ、どうやら大丈夫そうだな。」

「というか、どうなってんだ??俺達はいったい……」

「まあ、経緯は一から説明してやるから安心しろ。『前』とは違って今の俺達は雇われの身だが、そう悪い所でもないからな、ここは。」

「「???」」

 

 

カルディナに無理を言って参加させてもらった、昨日より始まったガオーマシン3機の製造。

国王陛下に啖呵を切ったとはいえ、残り3ヶ月で完成させねばならない現状、同時進行で行くため、猫の手も借りたい。

そのため下心(記憶の復活)を含めたオルガ達、鉄鋼桜華試験団の製造作業の自発的参加をカルディナは許可した。

その成果は早速現れたようだ。

 

 

「───皆さん、準備は出来ましたか?」

「ああ……ヴォルフさん、だっけか。」

「はい。」

 

 

4人の前に現れたのは、グレーの髪をした鋭い切れ目をした、物腰の柔らかい執事服の男。名をヴォルフという。

だがオルガはこの男、普段は殆ど見た事が無い事を覚えている。

 

 

「お嬢様が別件でいらっしゃられないので、今日は私が皆さんの監督をする事になりました、宜しくお願いします。」

「(まあ、誰かが付くとは思っていたが……)ああ、こっちはいつでも。」

「そうですか。一つ断っておきますが、皆さんの事はお嬢様より伺っていますが、本日はこちらの事案を優先して下さい。」

「……そりゃな。今日の労働にも給料に反映されるんだ、その分はしっかり働かせて貰うさ。それにもう……こっちは大丈夫みたいだしな。」

「それは重畳。まあ……それとは関係なく仕事量が多いのです。何しろ畑違いの私まで駆り出されるのですから、頼みますよ。」

「任せてくれ。さてお前ら、仕事するぞ~。」

「ちょっと待てよ、オルガ。この状況で仕事って……」

「いや、な……今の雇い主(あのお嬢)に言われてんだよ。『利用するのは構わないけど、仕事はしっかりね』ってな。ま、今日は主に荷物運びだ。難しい事はやんねぇよ。その中で説明はする。」

「というか、その方が早いと思う。」

「あ、ああ。」

「お、おう。」

 

 

そしてヴォルフの後に付いて行く4人。

特にいまいち状況が理解出来ない昭弘とシノだが、基礎骨格が組み終わる翌日の時点で理解したものの、頭が痛くなっていたのは前例込みの御約束であり、作業に関係ない事だった。

 

 

(しかし、配慮してくれるのは有り難いんだが、お嬢の方は果たして大丈夫なのか?? あの2人、お嬢相手に暴れてなきゃいいが……)

 

 

自分の目的がすんなり解決し始めた事に安堵しつつも、問題の2人に苛まれていないか、心配するオルガだった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

───視聴覚室

 

 

「まあ、職人達の皆さんの腕は既に熟練していると確信しています。骨組みの基礎を粗方終えた今、問題はないでしょう。」

「そうですね。で、問題は……」

「……あの2人は?」

「こちらの部屋に待たせてます。相当荒ぶってますが。」

「……そう。」

 

 

そして当の2人がいる部屋に到着したカルディナは、まず扉を少しだけ隙間を空けて部屋の中伺う。

すると、そこには……

 

 

 

 

────ゾォォンダァァァー!

 

────ゾォォンダァァァー!!

 

 

───Σ( ̄□ ̄;)?!

 

……(つд⊂;)ゴシゴシ

 

 

───ケェェェェキィィィィィ……!

 

───オチャァァァァァァ……!

 

 

……(゜д゜)

 

 

 

(……一瞬、ゾンダーが2体座っているかと思いましたが、ただ単に2人が怒りと悲しみで血涙してるだけですわね。)

 

 

ゾンダーの目が赤いのは、ストレスにやられて血涙している事を表しているのだろうかと、カルディナはつい思う。

 

 

「……どうでしょうか?」

「……非常に阿呆な誤解した様子ですわね。仕方ありません、まずはそれを解きましょう。」

 

 

と言って、今度はノックして部屋に入ると、2人の顔が「グリンッ!!」と効果音が付くぐらいに一斉にカルディナへと向けられた。

 

 

───ケェェェェキィィィィィ……!

 

───オチャァァァァァァ……!

 

 

そして食いしばる歯が剥き出しになる位に、怒りと悲しみ目でカルディナを睨む2人。

想像してほしい、成長した護君と戒道君が、SUN値直葬MAXの顔でこちらを見ているのだ。

事情を知っている人物が見れば、止めてくれ!と懇願したくなる。

そんな2人を見て、カルディナは溜め息を吐きたくなるが、我慢した。

ドモン・カッシュの怒りのスーパーモードや、ケミカルボルトに侵された獅子王凱の方が、まだいい表情していると、カルディナは思いつつ、2人に話し掛ける。

 

 

「今日の事は団長(オルガ)から聞いてますわね?試飲、試食の交代して私に同行するようにと。」

 

 

───ケェェェェキィィィィィ……!

 

───オチャァァァァァァ……!

 

 

「……で、確かに試験評価の試飲、試食は確かに替わって貰いましたが、別に2人に出さない、とは言ってませんわよ?ほら……」

 

 

───ケェェェェキィィィィィ……?

 

───オチャァァァァァァ……?

 

 

『収納空間』より出したのは、本日の試飲、試食用のケーキ数点と、試飲用のお茶の入った3缶。

 

 

「今日の強硬偵察の休憩の合間に味を見て頂こうと思いましたが、その様子では不服の様ですわ……」

「───行こう、お嬢!」

「───何時でもご命令を、お嬢様。」

「………」

 

 

そこにいたのは、元気・活発がつく少年と、とても礼儀正しいクールな少年が。

何とも変わり身の早い2人に、呆れてモノも言えないカルディナ。

無言のまま2人の頭に手を置き、アイアンクロウ(対面キッチン)を2人が謝るまで執行するのだった。

 

そんな一癖も二癖もあるのが、鉄鋼桜華試験団の団員の一員、クストとムルという人物である。

 

……ちなみに、カルディナの握力は素の力でモース硬度6までの岩なら、余裕で砕ける事を明記しておく。

 

 

「「 ───ごめんなさーーいッ!! 」」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

クスト。

 

ルム。

 

 

経歴は不明。

2人の名前──氏族名(ファミリーネーム)を鉄華団の団員ですら知らないのは暗黙の事実。

カルディナと出会う前、鉄華団が鉄鋼桜華試験団となる半年前に彼らに加わった程度しか解らない。

だが、活動が休みの日は何か情報収集をする動きが多い。

 

何故、鉄華団と共にいるのか。

そもそも何処から来たのか。

何故、この世界にない因子であるはずなのに『勇者王ガオガイガー』の天海護、戒道幾巳と似ているのか。

 

最後の問い以外は、本当なら()()()()()()()()もあるが、そこまで必死になって知る必要もないかとカルディナは思っていた……

 

だが、この2人は口が堅く、自分の事はカルディナを含め、他の団員にもなかなか話そうとはしなかった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───全く!貴殿方はケーキお茶の事となれば、す~ぐトラブルを起こす!」

「「……す、すみません。」」

「今回のは特段酷かったですが……まあ、今日1日ちゃんと私に付いて来れば許します。そもそも怨み辛みがあってもそんな顔してましたら、他の貴族なら一発で首チョンですわ!いい!?一時たりとも離れたら……!!」

「「 Sir,Yes sir!! 」」

 

 

そう説教をしながらカルディナ、クスト、ムルの3人は、IDメイルを纏い、追加装備のランドスピナーを使って、急勾配な坂道を高速で登って行く。

途中、急カーブじみた場所があるが、重心を巧みに傾け急旋回したり、途切れた道も急加速で飛び越えたりして難なく進む。

尚、フミタンはお留守番で、ガオーマシン製作のバックアップに回って貰っている。

 

ちなみに、男性用のIDメイルは既に鉄華団の試験評価を終え、団員の正式装備になりつつある。

特に高速移動用に開発したランドスピナーは、『コード・ギアス』の主力兵器、ナイトメアフレームのものを流用しているだけあって、その汎用性が高く、狭い住居群を高速滑走出来る。壁伝い滑走も出来る。

尚、形式はブリタニア、特にランスロットのものを模している。

特に構造が見た目以上に頑丈、思考可動が可能であるので、スピナーを蹴りに応用する『LSアーツ』なるものが編み出されたとか……

カルディナが熟練トップ、次いで三日月、シノと、以後軒並み使いこなしている。

 

 

「───ですが、貴殿方2人はそこまで上手くないのですから、しっかり使いこなすようにね!」

「「は、はい!」」

 

 

カルディナに離されないように必死に付いていく、クストとムル。

しかし本当のところ、カルディナは半分程度本気にしか思っていない。

これは今回の同行に際し、でっち上げた理由の1つであり、先程の負い目もあって子犬の様に律儀に守って、必死になって付いて来る2人見ては、逆に溜め息を吐きたくなる。

 

 

(……普段は従順なのですが、どうして自分の事になると口をつぐむのでしょうか?)

 

 

団員にもそうであるが、カルディナ相手だと尚更口が堅い。

出身地どころかフルネームすら判っていない2人。

しかし、次の休憩の際にケーキとお茶を出す事にした時、ポロっとこぼす場面が……

 

 

「……今日出たケーキとお茶って、とっても懐かしい感じがするよね。」

「……うん。ケーキの味もそうだし、お茶の香りが、昔飲んだ事のあるものに似ていて……」

「……そうなの??」

 

 

その話を聞いて、カルディナは困惑した。

 

ケーキを試作を担当するアトラのいる厨房に、度々出入りするクストは、以前一口だけ味見をさせて貰ったという。

それはよくある事だが、先日の試作品が幼少の頃に食べた物に酷似していると驚いたらしい。

 

お茶にしても、取り寄せ先で運搬の担当していたムルが検品した時、その香りが同じく幼少の頃に飲んだお茶の香りに似ているとか。

 

だが、実はどちらの品もそこまで特別なものではない。

今回の試作品は、北方地方の菓子をベースに改良したもので、そちらでは田舎菓子とも言われる、どっしり系のスポンジにドライフルーツを惜し気もなく使っているものがメイン。

特にクストが気にしたのは、アイシング(砂糖で周りを固める事)でキッチリとコーティングし、中の生地の小麦粉はその北方のものを全粒粉で使って甘くないスポンジ(というにはあまりにも重い生地)というもので相当な間、常温保存が可能という代物だ。

ケーキ1つでお腹が膨れる程の、言わばイギリスのケーキに近いものだが、それよりは全体のバランスが奇跡的に取れている。

 

 

「でも味はこっちが上だよ。前に食べたのはここまで美味しくなかったけど……組み合わせ、なのかな?」

「それはアトラに感謝しなさいな。(イギリスという国のアイシングケーキは相当甘ったるく、クドいらしいようですし。)」

 

 

そしてお茶も産地は一緒で、製法は紅茶に近く、土地の気温が低い影響でダージリンに近いもの。

ただ特筆するなら、ルムが気にしていたのは、何故かセイロン系の紅茶であり、渋みが他より強いという、同じ地域で作ったには不自然な一品。

 

 

「他にも飲み比べましたが、烏龍茶あたりも似ている気が……」

「発酵させているお茶って、より味が強かったりしますからね。」

 

 

正確に言い当てているところもある訳だから、あながち適当ではない。

と言うのも、2人は当初からケーキとお茶に関しては執着が強く、ありがちなケーキのつまみ食いでのトラブルを始め、何かかしら些細なトラブルがあったりするが、どうやら幼少の記憶、思い出に関係があるようだ。

また、ケーキやお茶といった嗜好品は、今の世であれば気軽に食べれるものでないし、その機会があるなら、既製品ではなく手作りの品になり、それなりに裕福な環境だったか、と予想も出来る。

であれば、カルディナには材料を仕入れた地域で思い当たる所が出て……

 

 

(………来ましたが、妙です。ここは()()()場所ですわね。)

 

 

正確には、そこは人が住んでいない場所───森林の深く。

今回用意した他のケーキとお茶を含め、その殆どは北方で広く栽培、嗜まれている。

そして、それらが全て伝えられ、作られている分布が重なる場所が1つあるが、今思い返すと、どうしてかその地域は森林なのだ。

村、ないし街などない。

 

 

(……あれ??ですが、他の村方々は、森のお人が好んで作っていたと、事前の聞き取りではそうありましたのに……隠れ里、でしょうか?)

 

 

だがそれはあり得ない。

その地域は20年程前に広範囲に渡り、疫病被害が出ており、今も尚、王国から厳密な侵入禁止令が出ている。

流石にここからではランドスピナーと言えど、何日もかかる、遠い場所にあるのだが……

20年とも言えば、クストとルムはまだ産まれてない。

 

それと、カルディナはもう1つ思い出した事があった。

 

北方地域でとある伝承──『赤い流れ星』という昔話がある。

約100年前の夜、赤い流れ星が地上に落ちたという。

その後その流れ星の跡に、人が住まう様になる。

その人々は他の民より知恵に優れ、交流のあった地域は、その恩恵にあった……という。

 

ただの昔話だと思ったが、その近辺の地域、特に3年前に国として独立した、複合事業連合()()『テイワズ』という国が技術的に工業水準が高い。

しかもその流れ星が落ちた場所こそ、テイワズ領の近くの樹海であり、侵入禁止令が出されている場所なのだ。

 

 

(そういえば、タービンズの皆さん、お元気でしょうか?)

 

 

ふと思い出す、タービンズの名瀬やアミダに対し行商の売り込みで色々お世話になった記憶。

その時に色々、昔話や逸話等も教わっている。

そしてその地で鉄華団と出会い、クストとルムとも出会い、今に至る……

 

 

(……何か、ありそうですわね。)

 

 

そもそも、今回のケーキとお茶の騒動は、クストに駄々をこねられ、ネタを()()()()()()思い付いたもの。

お茶も北方産に美味しいものが多いので、それに倣って用意したもの。

 

 

(……北方に何か、でしょうか?)

 

 

しかし今はゾンダーが先だ。

例え北方に何か重大なものがあろうとも、今はゾンダーを蔑ろにする訳にはいかない。

それに最近はあちらの情報収集を密にしていないので、改めてする必要もある。

 

 

「お嬢??」

「……何でもない、という訳じゃないけど、一度北方に行った方がいいかしら、思って。」

「北に??」

「色々ヒントがありそうで。ケーキ、お茶やら……あ、ちなみに今回のケーキとお茶はどうでした?」

「はい!アイシングケーキはもう少し糖のコーティングを0.1ミリ薄くしてもいいと思います。あと、可能なら酸味の強いベリー系、プラム系のジャムを層で重ねても良いと思いました。」

「お茶は茶葉をあと0.2グラム増やせばバランスが取れるかと。蒸らす時間は12秒長めに。」

 

 

実にハキハキした、良い返答だった。

 

ちなみに、本日実施された試食・試飲会の時、鍛冶師のダーヴィズも同席しており、同じ様な回答をしている。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

休憩も終わり、改めて強硬偵察を行うカルディナ一行。

遂に『影』から報告のあったエリアへ赴いたが、道中は野生動物や小型魔獣がいる程度で、簡単に迎撃出来たが、本命(ゾンダー)は見当たらなかった。

そして中には……

 

 

「お嬢!そっちに行ったよ!!」

「全く!何で魔法生物(クリーチャー)までいますの!?しかもスライム!?王国危険指定生物でしょうに!!」

「知らないよ!!どこかの馬鹿が飼い切れずに放したんでしょう!?」

「……まさか魔法生物(クリーチャー)退治とかするとは思わなかった。さて、魔法障壁!お嬢様!」

「重力魔法を高出力で集束ッ、受けなさい!!『グラヴィティ・バニッシュ』ッ!!」

 

 

意外と素早い魔法生物(クリーチャー)スライムを、クストが追い込み、ルムが魔法障壁で宙に飛ばすとカルディナが重力魔法で圧縮、圧殺する。

魔法生物(クリーチャー)は人工的に造られた生物である。

特に魔獣の内臓物を使っている事が多く、知識があれば造れるが、今まで害しかもたらさない物が多い。

特にスライムは雑食だ。

造ったはいいが保管、飼い慣らすのは難しく、家畜、作物の他、柵や石壁すら溶かす。

目撃したら悪・即・滅がお約束。

 

 

「……お嬢様。お目当てって、コイツらですか?」

「そんな訳ないでしょう。国民の義務として駆除してるだけです。ついでに心当たりのある研究機関の仕業かもしれないので、後でお父様に通報し(チクり)ますわ。監査が楽しみです。」

「流石、お嬢。」

 

 

とは言え、見た目、感触こそ似てそう(?)だが、コイツジャナイ。

報告にあったエリアは拓けた森林なのだが、非常に見晴らしが良い。

時折人の往来はあるし、こんな所に出るのだろうか?

 

 

「こんな場所で見ただなんて……確かに《確認した時は私も、そう》と判断しましたが……」

「お嬢?」

「いえ、他にも目撃個所はあるのです。次に行きましょう。」

「あ、はい……」

 

 

そして1つ、また1つと場所を変え、虱潰しに巡回していく3人。

 

しかし、何の発見どころか何の反応もない。

時折あったのは行方不明者が襲われたと思わしき痕跡のみ。

また、クストとムルにもゾンダーに対する反応はなく、ただ時間だけが過ぎていくだけだった。

そして野宿を繰り返して粘り、3日が過ぎたが、最後の場所も……

 

 

「……いませんわね。」

「うん。ここって偵察中の騎士達が行方不明になったところだよね?何も変わったところはないかな?ムルは何か発見した?」

「今までも小型の魔獣はいたけど、他のものは……まあ、騎士達が使ってたと思われる馬車の残骸がそこの隅にあったぐらいだけど。既にボロボロで崩れかけてたから、見るべきものはなかったかな。」

「そう……ご苦労様。」

「結局いなかったね、お嬢の言ってたゾンダーって奴。」

「特徴が円い赤い目をしていて、体は紫色の金属で出来た、大木の様な肌の身体……お嬢様、本当にいるのですか?」

「確かに目撃証言はあるのです。とはいえ何処にいるかまでは……」

 

 

流石に見当が付かない。

本当にいないのか?見間違いだったのか?

カルディナがそう思い詰めたその時──

 

 

───ぐぐぅぅぅ~~~

 

 

「……お嬢~、お腹空いた。ケーキないでしょうか?」

「クストぉ~……まあ、いいでしょう。休憩にしましょう。」

「あ、お茶も淹れましょうか?」

「そうね、お願いしますわ。」

 

 

クストの腹の虫で休憩となった。

 

 

「ちなみにケーキもお茶も、ストックはこれで終わりですわ。」

「……ちなみに最後は?」

「ケーキはタルト・タタン、お茶はセカンドフラッシュ、ですわ。」

 

 

──゚+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゚キタキター

──キター(゚∀゚ 三 ゚∀゚)キター

 

 

「……疲労してるとは言え、随分な壊れっぷりですわね。」

「そんなことはありませんッ!!」

「直ぐにご用意させて頂きます。」

 

 

そしてタルト・タタン、ワンホールとセカンドフラッシュの入った缶をそれぞれに渡し、意気揚々と準備にかかる2人。

だが、悲劇はその直後に起きた。

 

 

「ふふふん♪これ、限定品の改良品かな?食べるの楽しみ───」

「───!!2人とも接敵!!」

「───グオオオォォォーーー!!!」

「ウソ!?退避……!!」

 

 

───グチャ!

 

 

「───!!!」

 

 

まずクストが切り分けていたケーキの半分が、突如茂みから現れたゴリラ型の魔獣の出現で、後ろに退避したのは良かったが、後に残されたケーキが魔獣に踏み潰された。

そして更に魔獣はもう1体いたようで、ムルに不意打ちで襲い掛かって来た時に、ムルは避けたが、手に持っていた紅茶の缶に攻撃が掠めてをきてしまう。

 

 

「あ、ああ……ケーキが……!」

「缶に傷が……貴様……!」

 

 

───死ネヤ、ゴラァァァァーーー!!!

 

 

※怒りのスーパーモード風味、ケミカルボルト風味、どちらでも可。

 

盛大にブチ切れる2人は、ランドスピナーを急発進。

その加速に姿すら消えたと錯覚する間もなく、2体の魔獣の顔面にランドスピナーが容赦なくめり込む!

更に倒れ込む魔獣の喉に慣性の勢いを込めた得物(ナイフ)を手に、突き刺す!

 

 

「「──まだまだァァァーーー!!!」」

 

 

止めは全力の『雷魔法』で得物(ナイフ)伝いに内部神経を焼き切り、血液を沸騰させ、ついでに全身も焼き切る!

魔力(マナ)は2人ともカルディナに及ばずとも、膨大な量を持っているため、放つ威力が半端ない。魔獣の炭化など数秒で成す。

 

しかし、ケーキとお茶が台無しにされ、怒りが頂点にとは、怒りの沸点が低すぎる。

そもそも原作でも天海護も甘味は大好物であるし、戒道幾巳もお茶を嗜むが、これらは両親の影響である。台無しにされ、ここまで激昂する描写はない。

 

やはり環境でしょうか、と思うカルディナは『強化魔法』で筋力強化して炭化した魔獣をランドスピナーを使って、ジャイアントスイングのように投げ飛ばす2人を呆れた様に眺めていた。

 

そして炭化した魔獣が馬車の残骸に向かって投げ飛ばされ、落ちて炭化した魔獣が木っ端微塵に砕けた───

 

 

──ゾンッ……ダァァァーーー!!!

 

 

そこから現れた()()()の手によって。

 

 

「「「───!!??」」」

「ゾン、ダァァァー!」

 

 

いきなりの本命(ゾンダー)の出現に呆気にとられるカルディナ。だがすぐに我に返り、クストとムルを見ると───

 

 

───キィィィン!!

 

 

「ああッ!?」

「今の感覚は……!?」

 

 

ほんの一瞬だが、クストの身体は緑に輝く。

そして見間違いはしない。

額に光輝く「G」の《あの》紋章が。

 

ルムもほんの一瞬、身体が紅く輝く。

そして額に輝く「J」の《あの》紋章が。

 

 

「……『浄解』。」

 

 

それは機界昇華(ゾンダー)の魔の手から生命を救う、(G)(J)の光に他ならなかった。

 

 

───だが、それを赦さないモノがいる。

 

 

「──ゾン……ダー!!」

 

 

声の限り叫ぶゾンダーは、忌まわしき天敵と認識したようで、2人を睨み付け、周囲のものを無造作に、そして融かすように取り込み、自身を巨大な機界人(ゾンダーロボ)と化す。

 

馬の頭部に馬車の駆体。

両腕は先程の魔獣の剛腕。

その両手には巨大化した馬車の車輪。

両脚は、馬を模した蹄付きの脚。

 

多少の誤差はあるものの、その姿はEI-02に酷似した姿をしている。

 

 

「ゾンダー!!」

「!?いけない、2人とも!!」

「「──!?」」

 

 

クストとムル、2人に狙いを定めたゾンダーロボは、両手の車輪を回転──超高速回転させ、強大な竜巻を発生させ、戸惑う2人に襲い掛かる。

咄嗟にカルディナが呼びかけるが、間に合わない!

 

──しかしッ!!

 

 

「──魔王(サタン)ッ、2人をッ!!」

『──任された、暗黒霊牙(ワーム・スマッシャー)!!』

 

 

唖然とする2人を黒い柱が吹き飛ばし、その直後、竜巻がその場を抉り、2人は助かった。

そしてゾンダーロボがこちらを向きそうになった時──

 

 

「──天使(ラファエル)ッ、支援攻撃!!」

『仰せのままに!神の齎す平定(ゴッド・フリート)、撃ぇエエェェーーー!!』

 

 

2対の閃光がゾンダーロボを撃ち、怯ます!

そしてカルディナは───

 

 

「───ガオーマシンッ!!!」

 

 

条件反射より早く、『収納空間』よりガオーマシンを発進させ、カルディナを中心にフォーメーションを組み、あの台詞を高らかに叫ぶッ!!

 

 

「───ファイナル・フューーージョンッッ!!!」

 

 

各ガオーマシンが、カルディナとファイナル・フュージョンを果たし、顕現する勇者王───

 

 

「ガオッ!!ガイ、ガァァァーーーッ!!!」

 

 

それは全長2メートルの勇者王(カルディナ)ガオガイガーが初めてゾンダーとの接敵した瞬間であり、全長15メートルのゾンダーロボとの戦いの始まりでもあった。

 

 

 

《NEXT》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《おまけ》

 

各ガオーマシンが、カルディナとファイナル・フュージョンを果たす。

そして顕現する勇者王───

 

──ゾンッ……ダァァァーーー!!!

 

 

……マジにやらかした誤編集。

 

単純な編集ミスとは言え、いざ実際に見たら大爆笑ものだったので残しておきます。

他意はないです。




……という訳で、遂に始まりました、ゾンダーロボ戦。
そしてクストとムルの覚醒。(ただし微覚醒)


どんな戦闘となるか、次話に続く!!



ちなみに、サタンとラファエルのセリフは笑わせる為ではないのですが、多分笑う人はいるはず。
CVはご想像のまま。というか、そのまま。


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Number.10 ~GとJ~(2)

お待たせしました。

いよいよゾンダー戦です。
しかし15メートルのゾンダーとはいえ、2メートルしかないのは流石にキッツい。

うまく書けたでしょうか?


どうしてこうなったか?

 

ガオガイガーの完成を後回しに、強硬偵察に出てしまった為か?

 

不用意に藪を突っつき、大蛇(ゾンダー)を出してしまった事か?

 

そもそも、ゾンダーがこの世界にいる事か?

 

 

───全て是、としか言いようがない。

 

───だが、それらがどうした?

 

 

15メートルのゾンダーを2メートル(我が身だけ)で立ち向かわなければならない事が、いけない事か?

 

ガイガーを持ち出さず、ゾンダーと相対した事がいけない事か?

 

はたまた、ゾンダー相手にGストーン無しで立ち向かわなければならない事がいけない事か?

 

 

───否、それらを彼女は全て否定する。

 

───否定する。

 

 

本当にゾンダーロボと対峙するとは思わなかった。

それが偽り無き本音であるが、いつかはこうなる運命にあると思っていた。

自分がガオガイガーを、ゾンダーの存在を知った時に、いつかはこうなると……

 

対峙しているゾンダーロボは見過ごす訳にはいかない存在。

そして何より今、ゾンダーを自分の手で討つ機会を得られたのだから。

それは偶然であり、必然であり、使命であり、運命であり、希望である。

 

サイズ差?関係ない。

Gストーン?無くとも対策は練って来ている。

ガイガー?今はまだ不完全な愛機故に、未だ勝利の鍵には成り得ない。

 

それよりも、最大の武器───勝利の鍵はいつだって()()にある。

それは───

 

 

「……例えGストーンが無くとも、(わたくし)の勇気はこの胸(ここ)にッ!!覚悟しなさい、ゾンダァァァーーー!!!!」

 

 

拳を固め、カルディナは放つ。

勝利を掴む為の一撃を───

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「───ブロォウクン・マグナァムッッ!!」

「ゾ、ゾンダァァァーーー!!?」

 

 

戦闘開幕は、ガオガイガー(カルディナ)のブロウクン・マグナムが、EI-02似のゾンダーロボの頭部を撃ち抜いた事から始まった。

 

巨体に怯まず、怯えず、迷いなく放った一撃(ブロウクン・マグナム)は、ゾンダーロボの頭部を捉えた。

しかしゾンダーロボも当然、装備されいる力場──ゾンダーバリアを展開、空間が歪むように見える位に競り合う……が、勝ったのは(ブロウクン・マグナム)だった。

出っ張った馬の頭部を貫き、目に見えた損傷を与える。

しかしゾンダーロボに備えられたもう1つの機能───自己再生能力が与えた損傷を修復してしまう。

流石にEI-02と姿が似ているせいか、その修復速度は早い。

そして今度はお返しと言わんばかりに、右腕の車輪を高速回転させ、砂や塵の摩擦による電気を帯びた竜巻が発生、ガオガイガー(カルディナ)へと撃ち込まれる。それも集束された電磁竜巻となり、威力を増し猛威を奮う!

 

 

「──ですがその程度!!プロテクト・シェェェーードッ!!」

 

 

ガオガイガーの守りの盾、プロテクト・シェードで受け止める。

しかも集束された電磁竜巻は、プロテクト・シェードの障壁に当たると、荒々しい五芒星を描きつつゾンダーロボへと反射される!

初めて見た電磁竜巻であるが、発生原理が半ば自然現象の範疇であれば、魔法を用いて無理矢理干渉、制御する事は容易い。

何より自身のEMトルネードよりはまだ密度が薄い!

しかし……

 

 

「……流石に決定打には成り得ませんか。」

「ゾンダァァァーー……!」

 

 

EI-02戦でもそうであるが、自身(ゾンダー)の攻撃ではバリアがある以上、簡単には倒れない。

それは目の前のゾンダーも一緒である。

 

 

「であれば、あの胸に鎮座する()を抉り取るしかありませんわね。」

 

 

あのゾンダーロボの胸部───馬車の駆体にまるで取れるものなら取ってみろ!と言わんばかりに露出して鎮座する、ゾンダーをゾンダー(機界)たらしめるもの、ゾンダーの動力源でもあり、急所でもある、ゾンダー核が馬車の隙間より妖しく鳴動する。

 

 

「ですが──!」

「──ゾンダー!!」

 

 

ゾンダーロボが反撃に転じ、今度は腕を振り上げて近接攻撃にシフトした。

30メートルもないにしろ、15メートルの巨体だ、2メートル(身の丈)しかないガオガイガー(カルディナ)には充分過ぎる対処法だ。

回避しつつも車輪で抉れる地面の状況を観察するカルディナは思わず苦笑いする。

 

 

「流石に、原作(アニメ)みたいにはいきませんか!」

「お嬢様、援護します。」

天使(ラファエル)!頼みますわ、きっと……!」

 

 

きっと当たれば只では済まない。

理想(アニメ)と現実の差を改めて思い知るカルディナは、天使(ラファエル)の砲撃に支援されながら次の攻め方を模索するのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

クスト、ムル。

 

2人は鉄華団においては凡夫な存在だった。

人並みに優れてはいたが、三日月や明弘、シノ等とは違い、そこまで戦闘の才がある訳でなく、またカルディナの様に魔法に長けている訳ではない。

しかし、その内には確かにあった。

 

誰にでもない、2人だけの力が───

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───ゲホっ、ゴホっ!」

「い痛つつつ……、いったい何が──」

「──よう、気が付いたか?」

 

 

いきなり突き上げられた痛みに、事態の把握が出来ていないクストとムル。そんな2人に声をかけたのは黒衣のローブを纏った、眼は紅眼(ルビーアイ)で、金色の髪を靡かせるその男は、ぶっきらぼうに声をかけた。

その男は……

 

 

「きょ、教官!?」

「おう。」

「その姿は……」

「ん?まあ一張羅───正装だな。悪魔を束ねる存在の頂点であり、我等がお嬢様に仕える魔王(サタン)としての、な。」

 

 

男を教官と呼ぶ2人。

というのも、鉄鋼桜華試験団にとって、彼は戦術・戦闘を主に教える教官である。

また、非常に面倒見が良く馴染みもあり、頼れる兄貴分とした存在でもあるが、その正体がお伽噺にも語られる魔王(サタン)とは、2人には非常に衝撃的だった。

だが、魔王(サタン)は今は自分の正体等どうでもいいと話を切った。

その直後、巨大な地鳴りが起きる。それも一度や二度ではなく、何度も何度も……

爆発、地鳴り、嵐が吹き荒れるような……それらが交互に何度も何度も続く。

 

 

「な、なに!?この揺れ……っていうか、何が起きてるの!?」

「……いい感じに始めたか。お前ら、本題は()()()だ、よく見ろ。」

「何を……あれは!?」

 

 

2人が見たのは銅色の馬の顔をした、15メートルにも及ぶ巨大な怪物が、両手に携えた巨大な車輪から強烈な竜巻を放つところだった。

その威力は、巻き込まれた森という地形をひっぺ返し、ズタズタにしていく。

その中から矢の如く怪物(ゾンダー)に突っ込む人影がいた。

 

───ガオガイガー(カルディナ)である。

 

最大戦速でゾンダーの喉元に、膝のドリル(ドリルニー)を突き刺──

 

 

「───貫けェェェーーー!!!」

 

 

──さり、そのまま大穴を喉元に空け、貫く!

痛覚があるかどうか不明だが、まさかの突貫&貫通で怯むゾンダー。

そこに天使(ラファエル)神の齎す平定(ゴッド・フリート)がゾンダーの頭上を襲うが、そちらは体制を僅かに押すもバリアに遮られる。

しかし、空中で反転したガオガイガー(カルディナ)のブロウクン・マグナムが後頭部を貫き、ゾンダーは地に伏す。

 

 

「おお。流石お嬢だ、跪かせたか。ラファエルはダッセェ。やるならもっと集束させろよ。」

「ええ?!あの黒いの、お嬢!?」

「……空飛ぶ、鎧??」

「ああ、お嬢だ。でもなぁ……あれで決定打にはならないのが厄介だな、起きてくるぞ。」

「「 ──え?? 」」

 

 

魔王(サタン)言う通りに、ゾンダーは何事も無かったように立ち上がり、自身の頭部を穿ったガオガイガー(カルディナ)に向け、上半身を丸ごと後方に反転、電磁竜巻を容赦無く放つ。

スラスターを全開にして回避するガオガイガー(カルディナ)だが、その後を追うようにゾンダーは竜巻を薙いで行く。

その軌跡を読んで回避しつつ、再びブロウクン・マグナムを放とうとするが、何故か右腕を突き出すだけ動作をするガオガイガー(カルディナ)

その隙を逃さず、ゾンダーはもう片方の腕で竜巻を発生、ガオガイガー(カルディナ)に向け、放つ。

その竜巻をプロテクト・シェードで防ぐも展開が遅かったため遮るだけになり、ガオガイガー(カルディナ)が吹き飛ばされてしまう。

そして吹き飛ばされた先は、クストとルムがいる場所だった。

 

 

「───うわ!こっちに飛んで来るよ!!」

「どうする!?どう受け止めたら……!!」

「心配ねぇ、よっと。」

 

 

魔王(サタン)が指を鳴らすと、暗黒霊牙(ワームスマッシャー)が群れるように、直線が幾重にも折り重なり、円のように展開される。

そこにガオガイガー《カルディナ》が突っ込んで来て、その円がまるで伸縮性優れたゴムように伸びる。

吹き飛ばされた運動エネルギーの慣性を相殺しきった瞬間、魔王(サタン)暗黒霊牙(ワームスマッシャー)を消し、ガオガイガー(カルディナ)はその場に着陸した。

 

 

「どうした、お嬢。カウンター狙いで追撃する、いいチャンスだったのによ……」

右腕(ブロウクン・アーム)の魔術回路がイカれました。やはり、魔力(マナ)マシマシで連続で放つと回路に負荷が生じますわ。これでは切り札(ヘル&ヘヴン)も使えません。」

「……どれぐらいの時間がいる?」

「5分あれば修復出来ます。」

「──わかった。」

 

 

そしてそれ以上言葉を交わす事もなく、魔王(サタン)は背中に黒い悪魔の羽を生やし、ゾンダーの元へと高速に飛んで行った。

そして空中を高速旋回しながら天使(ラファエル)と交互にゾンダーに攻撃を放ち、牽制を始めるのと同時に、カルディナもガオガイガーの(メット)をステルス・ガオーの後部に収納させると同時に右腕(ブロウクン・アーム)を外し、早々に回路の修復を始めた。

 

そしてその光景をただ、黙って傍観するしかないクストとムルは言葉がで出ず、ただ混乱していた。

 

目の前の未知の巨人との戦闘光景。

初めはゾンダーという()()を退治する的なニュアンスで付いて来たが、いざ蓋を開けてみれば天災を撒き散らす異形の存在が現れた。

 

教官(人間)だと思っていた人が魔王(サタン)だった。

また、空を舞う天使(ラファエル)すらも、鉄華団の訓練の度にフォローをしてくれるメイドであった。

 

そして目の前のお嬢様(カルディナ)は異様な鎧を着込み、勇敢に戦っている。

 

……何、この状況。

 

事態の移り変わりに心が付いて来れない2人にカルディナは視線を合わさず、けれど語り掛けるように話し掛け始めた。

 

 

「……ここに来るまで、そして今に至っても何を貴方達に話をすればいいか、迷っていますわ。」

「お嬢……?」

「……何を?」

「貴方達はそもそも、鉄華団に入る前も今も、自分達の目的を果たすため行動している、それも何らかの『宝石』──翡翠のような石と、ルビーより煌びやかな石を探している、違うかしら?」

「うっ……!」

「それは……」

「やはり図星、ですか……」

 

 

2人が休日返上してまで探していた宝石、きっとそれは『Gストーン』、『Jジュエル』であろうとカルディナは予測していた。

事実、2人もその様な宝石を探していたいたという情報が多々あった。

カルディナも2人が出会う前には、存在自体あるなんて微塵も思わなかった……

いや、ガオガイガーマニアであるカルディナが、ゾンダーの存在を幼い時に知った以上、今の今まで様々な考察を予想してきている以上、存在するという予想もあった。

だが『もう1つの可能性』が出てしまうので、思いたくはなかったが今回、クストとムルの反応を見て予想が半ば確信に変わった。

 

 

「一族の拝命なのか、それとも独断……はあり得ないでしょうが、2人を見ていれば強い使命感で動いていたのは判ります。そしてその石の名はGストーンと、Jジュエル……合ってますわね?」

「ど!?どうしてその名前を……!?」

「聞き込みでもその2つの石の名前は一度も出してない筈なのに……どうして??」

「私もその事を知り得るからです。ただ貴殿方とは別のところからですが……そもそも貴殿方が探している宝石──Gストーン、Jジュエルは、ゾンダー(あの異形)を倒す要の一つです。そして私が纏うガオガイガー(この鎧)もその1つ……」

 

 

ただし模造品(イミテーション)ですが、と付け加えるカルディナ。

 

そもそもゾンダーとは、元は人間のストレスなどのマイナス思念を解消・抑制するメンタルケアを目的に作成された、精神浄化システムと言われている。

負の感情……悲しみ、苦しみ妬み、怒り、憤り、恐怖……そんな感情を消し去るシステムが突如暴走したのだ。

その理由が、ゾンダーメタルを統括するマスタープログラム『Zマスター』が「マイナス思念を無くすには発生源の有機生命体を機界生命体に昇華させればよい」という歪んだ結論を導き出した事が端を発する。

紫の星から始まった機界昇華は次々と他の星達を呑み込み、三重連太陽系を滅ぼした。

 

だがその過程で生まれた『抗う力』もまた存在する。

それが一番重要な存在である……

 

 

「───Gストーンの元の力(ゾンダーに抗う力)を宿し、産まれた『ラティオ(天海護)』、そしてその力を複製、強化されたJジュエルの力を持って誕生した『アルマ(戒道幾巳)』という2人の少年……それこそがゾンダー(あの異形)に対する唯一の存在。そして何故かその姿から少し成長した姿を持ったのが、クストとムル(貴殿方)、ですわ。」

「それって、どういう事……?」

「──貴殿方には、ゾンダーを討つ力がある、という事です。」

 

 

淡々と、カルディナは2人に自身の()()を告げた。

 

 

「………え??じゃあ、僕達はその2人っていう───」

「───それは完全否定させて貰います。」

「……無表情な真顔で否定するんですか?そう言っておきながら。」

「はい、そこは断固と。」

 

 

そこは完全否定である。

何故ならカルディナの勘はそう告げていないからだ。

 

まさか『FINAL』の最終場面で、護と戒道を乗せたESミサイルの転移先が、実はこの世界だった、と想像した事はあるが、それではあのEDがオーバーキルする。

是非ともそんな想像は止めましょう。

 

……話を戻す。

 

実のところ、そんな想像はしなくとも同一人物ではない状況証拠はカルディナの中で揃っている。

そして一番の決め手は、ゾンダー出現時のあの反応だ。

後は()()()()()()、2人は『浄解』の力に目覚めるだろう、カルディナはそう睨んでいた。

 

……だが、当の2人には理解し得ない事でもある。

 

 

「……いきなりこんな話をして申し訳ない、と思っているわ。そしてこんな状況に巻き込んでしまって……予想していたとはいえ、ここまで余裕が無いとは思わなかったから……でも、早かれ遅かれ、間違いなく貴殿方は()()なっていたわ。」

「こうなっていたって……僕達には何が何だか……」

「……そうだよ、今もお嬢が僕達の事情を知ってて、僕達の知らない事を知ってて、あまつさえあの化け物を討つ力があるとか……」

「誤解しなように言いますけど、貴殿方が想像しているような派手な力ではないですわよ?」

 

 

そうなの??と、明らかに戸惑う2人に、カルディナは遮るように言った。

確かに浄解(あの力)はそんな力ではない。

 

 

「ただ、その力が発揮される時、その力をしっかり受け入れるよう、そして思うままに解放して貰いたいです。」

「……受け、入れる??」

「ええ……あまりこういう言葉は使いたくはないですが、その力は2人の生まれの証、運命(さだめ)そのものです。そしてその答えはおそらく2人の内の中……きっと力になってくれますわ。」

「ちょ……!それってどういう事──」

「──さて、右腕の修復も終わりましたし……行きます!!」

 

 

(メット)を再び被り、面当て(フェイス)がカルディナからガオガイガーに変わった瞬間、スラスターを全開にしたガオガイガーは再び戦場へと向かうのだった。

そして、残された2人は……

 

 

「な、何だろう、今のお嬢の言葉……」

「生まれの証、運命そのもの……何を知ってるんだ?あのお嬢様は僕達の事を……本当は、僕達もロクに知らないのに……」

「……でも、本当にそうかも。」

「……クスト?」

 

 

クストは目を瞑り、カルディナの言葉を自身の内で反芻するように呟く。

 

 

「本当は……さっきみたいに何かを感じる事が

何度かあった。その度に気のせい、って思ってたけど……本当はちゃんと感じてた。ムルもそうでしょう?」

「……ああ。ほんの一瞬、一瞬だからあまり気にしないようにしてたけど、本当に気のせいじゃなかったんだ。」

 

 

実は今までも、微弱な反応は感じていた2人だが、自分達以外は感じられない反応であり、そして何も起こる訳でもなく、今日に至るまでそれが何であるかは解らなかった。

 

 

「……お父さんもお母さんも、僕達がどこから来たのかをハッキリ言ってくれなかった。幼い時から渡り歩く生活で……生活が苦しくって、口減らしを志願した時に、ようやく言ってくれた……」

「『緑のGと赤のJの石があるところが、私達の還る場所』……その言葉を頼りにこれまで来たけど、そのヒントが僕らの中にある……か。」

 

 

何故そんな生活を送らねばならないか解らなかった。

それでも鉄華団に拾われ命は助かり、今度はカルディナに拾われ、今では家族や数少ない一族もアースガルズ領に定住する手助けもされて、生活すら助かっている。

 

それでも一族の悲願である、故郷の帰還は棄てた訳ではない。

ただどこにあるか、今では記憶が曖昧で誰も知らないからだ。

 

ちなみにカルディナや鉄華団にGストーンやJジュエルの事を言い出していないのは、宝石絡みで、かつカルディナは貴族という事もあり、知られれば強引に接収される危惧していたためである。

 

そんな恩あれども警戒していた人物から、自身の知らぬヒントがもたらされるとは……

 

 

「……何か疑ってたのが、恥ずかしいな。」

「裏が確実にあると思ってたけど、この状況を見ると、僕らには実はもっと凄い秘密が隠されていたりして……」

 

 

巨大な異形を目の前に、怒涛の勢いで立ち向かうカルディナを見るクストとムルは苦笑いしつつ、目の前に広がる自分達の次元の超えた戦いをその目に焼き付けていた……

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「──チィッ、固いな!」

「その程度ですか!?私をさっき馬鹿にしたのに、貴方も大したことないのですね!(♪)」

「……聞こえてたのかよ。」

「ええ、もちろん!」

 

 

ゾンダー相手に飛び回りながら牽制、隙あらば致命傷を負わせようと攻撃を繰り返す魔王と天使(2人)だが、状況に変わりはない。

再三傷を負わせても直ぐに復元するゾンダーに対し、口喧嘩をしながら攻撃を繰り返すだけ余裕があると見受けられる。

 

 

「──ゾンダァァァーーー!!」

「効くかよ、黒穴(ワームホール)!!」

「ゾ!?ゾンダァァァーーー!!」

 

 

厄介な電磁竜巻も最早、カウンター返しと言わんばかりに黒穴(ワームホール)で受け止め、ゾンダーの背部に自身の攻撃を浴びせる。

更に……

 

 

「──神の齎す平定(ゴッド・フリート)ッ!!」

「ゾンダァッ!?」

 

 

真正面から2対の白い閃光が頭部を撃ち抜く。

その衝撃で、仰向けに吹き飛ばされ、地響きを立てて倒れるゾンダー。

 

 

「……ようやくあのバリアにも慣れてきましたね。撃ち貫くだけなら私達にも出来てきました。」

「ああ。だが一向にやられる気配がない。お嬢の言う通り、あの核とやらを引っこ抜くしかねぇ。破壊出来れば簡単なんだが……」

「駄目です、お嬢様の言う通りなら、あの中には人がいるはずです。」

「解ってるっての。そのお嬢は……」

「───ゾンダー!」

 

 

魔王(サタン)天使(ラファエル)が幾らか余裕───という隙を見せた時、地に伏すゾンダーが車輪を2人に向けた。

しかし……

 

 

「──ブロウクン・マグナムッ!!

「ゾンダー!?」

 

 

構えた腕関節を撃ち抜く一撃(ブロウクン・マグナム)がゾンダーを襲う。

更に砕かれた腕が反転、ゾンダーの頭部に電磁竜巻(自滅の一手)を浴びせ、再びゾンダーは地に伏す。

そして突き抜けたブロウクン・マグナムの戻った先には、空中で右腕を空に掲げるガオガイガー(カルディナ)がいた。

そして右腕にブロウクン・マグナムが納まった後、ゆっくりと地上に降り立ち、魔王(サタン)天使(ラファエル)はその元に向かい、集った。

 

 

「……御二人共、夫婦喧嘩ならこの戦闘が終わってからにして下さいませ。」

「お嬢様!?戦線復帰の第一声がそれですか!?ていうか、聞こえてたのですか?!」

「よせやい、まだ婚約届も出してないっての。」

「──魔王(サタン)!?」

「まあ、冗談はさておき……お嬢、()()()はいいのか?」

「ええ……まさかと思ったものが()()()()のです。後は……私がこの場を治めるだけ……」

 

 

そう、長年捜していた勝利の鍵を、居るかどうかすら解らなかった浄解(勇気の力)を、未だ完全な覚醒とまでは言えないが、ようやく手に入れたのだ。

このチャンスを絶対に不意には出来ない。

そして、この場にて自分が出来る、一から今まで鍛え上げた、あの技こそ不可欠と。

 

 

「……御二人共、ご用意を───」

「──仰せのままに。」

「──見せて貰おうか、我等を振るう力の真価を。」

 

 

───フュージョン───

 

 

2人がその姿を人型からエネルギーの塊に変え、Sライナーガオーの両端に宿り、500系のぞみのライトが眩く光る。

その瞬間、膨大なエネルギーがガオガイガーから迸った。

 

右肩に宿るのは、万物を葬る魔王(破壊)の力。

左肩に宿るのは、万物を護る天使(防御)の力。

 

そしてガオガイガーは見据える。

ゾンダーを。

倒すべき敵を。

 

 

(……ゾンダー。Gストーンがなくとも、これが貴方に抗う力ですッ!!)

 

 

ガオガイガーは繰り出す。

対・ゾンダー用のあの必殺技を。

 

 

「──ヘル&ヘヴン!!」

 

 

 

 

───ヘル&ヘヴン

 

 

それは攻撃と防御のエネルギーを一つに合わせた、ガオガイガー最強の必殺技である。

全身に破壊エネルギーと、防御エネルギーを纏い、相手に突撃し、ゾンダー核を抉り出す技である。

二つのエネルギーを両手に集めた上で両掌を組みエネルギーを融合させた後、電磁竜巻(EMトルネード)で相手を拘束、そのまま磔状態の相手に向かって突撃して両掌を叩き込み、核を抉り出すのだ。

 

ただし、今のガオガイガー(カルディナ)が使用する弱点として、Gストーンより得られる『Gパワー』が使えない事が挙げられる。

これはゾンダーに抵抗する絶対性が無いことを意味する。

その為、カルディナが次案として用意したのが、悪魔が主に使用する『破壊()の力』、そして天使の十八番である『守護()の力』、その2つを使う事である。

この2つの力は魔力(マナ)に込めた強固な意思の元に発現させれば、何にも侵されない絶対性を持った力となる。

 

更に、通常反発し合う2つの力は体外では合わせることは到底不可能であるが、今のガオガイガー(カルディナ)のように自らの(魔術回路内)に取り込んだ上で……

 

 

ゲム、ギル、ガン、ゴー、グフォ……(2つの力を1つに……)

 

 

この詠唱を唱える事により、その2つを完全に練り込む事が出来る。

ガオガイガー(カルディナ)という『力場』があればこそ、出来る魔術的な方法なのだ。

更に、カルディナは知らない事だが、合わさったこのエネルギーはガオガイガー(原作)と同じヘル&ヘヴンのエネルギーへと昇華している。

そして合わせた両掌を前に突き出す。

 

 

「──フンッ!!」

 

 

()()()()()()()電磁竜巻(EMトルネード)として放出、暴力的な嵐が倒れたゾンダーの上半身を無理矢理起こし、拘束する。

 

 

「──オオオオォォォーーー!!!」

 

 

そして背部スラスターを起動、最大戦速の勢いでゾンダーの胸部目掛けて突撃する。

 

 

「ハァアアアァァァーーー!!!」

 

 

衝突した胸部(ゾンダー)両掌(ガオガイガー)が一瞬だが強烈な侵食干渉を起こす。それは貪欲に、強欲にエネルギーを、物質を取り込もうとするゾンダーからの干渉。

だが、ガオガイガーの両掌外側に展開する『破壊()の力』はそれすらも捻り込み、ゾンダーの胸部装甲を破壊、機械的にケーブルゾンダー核を露にさせた。

そしてその核をガオガイガーの両掌の内側に展開する『守護()の力』が造る障壁が一瞬で核を閉じ込め、核を掴んだ。

 

 

(───な!?この手応えは……!!)

 

 

だが、核を掴んだところからも侵食──魔力(マナ)の減衰が起きている。

込めた魔力(マナ)が徐々にだが吸い盗られて行く。

更に、両掌の装甲すら鳴動する核に、徐々に熔けるように侵食されて行く。

本体から離れていないとは言え、胸部装甲よりも強力な侵食能力に、その異常性にカルディナは驚きを隠せない。

極めつけはその大きさ。1.5メートルもあるゾンダー核だ、引き抜きにくいのも尋常ではない。

 

 

───しかし、これで終わるガオガイガー(カルディナ)ではない。

 

 

「……この、程度でぇ……!!私の『勇気』は……終わりませんッ!!!」

 

 

ガオーマシンに備えられた小型魔力転換炉(エーテルリアクタ)が、カルディナの魔力(勇気)に応え、限界まで吸気量を上げ、源素(エーテル)魔力(マナ)へと転換する。

そして転換し、取り込まれた魔力(マナ)はカルディナの『勇気』の感情を糧にその力を増大させる。

 

魔法の究極とは、使用者の願いを叶える事。

つまり感情の強さ、願いの強さが物を言う。

 

そしてそれであればGパワーがなくとも、勇気の感情を込める事でゾンダーと拮抗出来るのでは?

 

カルディナはその願いを込めて、このガオガイガーを造った。

そしてそれは……!

 

 

「───ァァァアアアーーー、フンッ!!!」

 

 

堅固に固定されたゾンダー核を、絡まるケーブルごと己が力を振り絞り、引き千切り、遂に抉り出すッ!!!

 

 

───その瞬間に引き起こる、滞ったエネルギーの大暴れによる、大爆発。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───カルディナお嬢ーーー!!!」

 

 

核を抉り出した瞬間を目撃したクストとムルは、一目散に駆け出し、カルディナの元へと向かう。

だが、爆炎は豪々と燃え盛る。至近距離で爆発に巻き込まれ、いくらガオガイガー(カルディナ)とてひとたまりもない。

その現場を間近で目の当たりにして、クストは落胆する。

 

 

「そ、そんな。あの爆発じゃあ……」

「……!?クスト、あれを!!」

「───あ、あれは!!」

 

 

だが2人は気付いた。

爆炎燃え盛る中、一歩一歩ゆっくりと歩む、1つの影が……

そして2人の通信機(トランシーバー)より声が響く。

 

 

《──ふう、危うく丸焦げになるところでしたわ。》

 

 

ガオガイガーである。

ゾンダー核を持っているが、今は侵食能力が鎮まっているようで、ゆっくりと歩んでいた。

ちなみに核を抉り出した瞬間、『守護の力』でガオガイガーは護られていたのだ。

その姿に2人は安堵する。

 

 

「お嬢!!」

「良かった、無事だったのですね!」

《──ええ、ですが()()()()()()()()のです。これから最後の仕上げですわ。》

「最後……??」

 

 

その言葉に疑問を持つ、クストとムル。

 

何故ならガオガイガー(カルディナ)が持つ、1.5メートル程あるピンク色で、中央に『Z』刻印がある球状の物体───ゾンダー核は今は静止している。しかし、このままでは直ぐに復活し、再び先程の|ゾンダーと化してしまう。

 

 

《───ですので直ちに、この核を()()します。》

「破壊……」

「そうすれば、あの化け物はもう……」

《それじゃ、しますわよ。》

 

 

そう言ってガオガイガー(カルディナ)はボロボロになった両掌に力を振り絞って、思い切り核を握り潰し始める。

それをクストとムルは、ただ見ていた。

これでようやく終わる、と。

……駄目だ

ヒビが入る核を見ながら、帰ったら何をしようか、と。

 

……やめて

 

今にも壊れそうな核を見ながら、僕らは───

 

 

「───駄目だ、お嬢様!!!」

 

「それを壊しちゃ、駄目ェェーーー!!!」

 

「───!!」

 

 

 

その声に、カルディナは空を見上げた。

その先には、彼女の待ち望んだ存在が空を舞っていたのだった。

 

 

それは、全身から緑の光を放ち、妖精の羽を広げ、額に光輝く『G』の紋章を浮かび上がらせた、クスト。

 

そして対になるのは、赤い光を全身から放ち、背に孔雀を思わせる細い羽、頭上には天使の輪のようなものを備え、瞳に『J』の紋章を浮かび上がらせた、ムル。

 

共に『浄解モード』の姿で、カルディナの前に舞い降りたのだった。

その姿に、カルディナは『天使』を見た。

 

 

それから言葉はいらなかった。

 

カルディナはゾンダー核を握るのを止め、ゆっくりと地面に核を下ろし、一歩下がる。

その様子を見た2人は互いに見つめ合い、頷き、クストがゆっくりと浮遊し、核に近付いた。

 

そして、右腕を空に伸ばし───

 

 

 

クーラティオー

 

テネリタース・セクティオー

 

サルース・コクトゥーラ

 

 

呪文を詠唱し、発現する『浄解』の力。

浄解の力がゾンダー核に放たれると、核がゾンダー人間に、そしてゾンダー人間から……

 

 

「あ、ああ……ありがとう。」

 

 

1人の人間にその形状を()()()()()

そしてそこには涙して手を合わせて感謝する、鎧を纏った1人の若い男がいた……

 

 

「……これが、僕の力。」

「じゃあ、僕にもそんな力が……」

 

 

そしてクストは発現している『浄解』の力を改めて自分が今、成した事を実感出来ないようにいた。

本能的には理解していよう。

しかし、理性まではその理解が追い付かない。

またムルも同じく、自身の姿を見てそんな心境であった。

 

そんな戸惑う2人を見ながらカルディナは(メット)を外し、空を仰ぐ。

 

空が眩しい。

頬をなぞる風が気持ちいい。

そう感じ取れるなら、自分は生きている。

夢にも見た、あのゾンダーの戦いから生還したのだ。

そして目の前に『浄解』の力を持つ2人……

 

 

(……奇跡、ですわ。)

 

 

普段思う事もしない『奇跡』を実感していた。

実を言うと、本当にこのような状況になるとは思わなかった。

綿密に計算して、結局は行き当たりばったりなのだ。大口を叩いておいて面目が立たない。

特にクストとムルに関しては未知の領域。

勝率こそ、0とは言わないが、この勝利へと導けるのは、獅子王麗雄博士ではないが、限りなく0に近い。

 

 

(……この2人が、いる事自体が奇跡なのです。)

 

 

だが……勝った。

その事を静かに噛み締めるカルディナであった

 

 

 

 

 

……だが、この事実がカルディナの予想を超えた、天文学的な確率の事象の結果等と、この時のカルディナには思いもしなかった。

 

 

 

《NEXT》




クスト君とムル君の話の繋ぎがいまいちかと思いますが、ご容赦を。


というか、もう1つ続きます。


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Number.10 ~GとJ~ (3)

6月1日で『公爵令嬢はファイナルフュージョンしたい』は1周年を迎えました。
本当はそれに合わせてガオガイガー登場!まで持って行きたかったのですが、まあそれはそれで。
今後とものんびり更新していきますので、よろしくお願いいたします。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「僕たち……いや、僕達の()()は、流浪の民だったんだ。」

 

 

2人の事は、ムルからの説明で始まった。

 

ちなみに、ゾンダーの素体となった男は睡眠魔法で眠らせた上で、魔王(サタン)天使(ラファエル)が身元の確認をしている。

カルディナはガオーマシンが破損しているため、IDメイル姿にマントを纏い、テーブルを拡げて椅子に身体を預けてゆったりしているが、視線は真剣そのもの。

2人も用意された椅子に座り、話し出した。

 

 

……それは20年以上も前に起こった事。

故郷が疫病被害(パンデミック)に襲われた事から始まる。

疫病被害(パンデミック)自体は直ぐに発覚したが治める方法はなく、その被害を最小限にすべく、当時の一族の代表は罹患していない住人を一目散に故郷から出し、村を封印したのだ。

しかし未だに疫病は鎮まる気配はなく、封印も解かれる気配はない。

その間も故郷から出た生き残った一族は何も準備出来ずに村を出された挙句、不慣れな出先で頼れる者もいなく、一人、また一人と倒れていった。

その数人の生き残りの間に出来たのが、クストとムルであった。

そして今生き残っているのは、当時村を出た子供の僅かな生き残りが数人。だがその数人も村の場所を記憶する者はいなかった。

だが、その生き残りも村の位置を記憶する人物がいなくなり、帰郷は絶望的になってしまったという。

本来は、当時生き残った一族を引率してた人物もいたが、その人物も道中で亡くなった。

 

その引率者の人が最後に言ってた言葉が『GストーンとJジュエルの元に……目指、せ……』

 

 

当時、その事は誰にも解らなかったという。

それから月日が経ち、13歳になったクストとムルは生き残りの人物から、辛うじて記憶されていた引率者からの情報を手掛かりに旅に出た。

 

しかし旅は上手く行く訳もなく、具体的なアテもなく、すぐ行き倒れ。

そのところを鉄華団に拾われ、その直後起きたカルディナのイザコザで、クストもルムもアースガルズ領に来てしまった。

またアースガルズ領にて、GストーンとJジュエルの噂を耳にしたところから、2人は動き出したというが、その噂の大元がカルディナというから警戒度が上がる。

 

例えGストーンとJジュエルを見つけたとしても、このままでは奪われてしまうのでは!?と思うまでには。

 

……ちなみに当時、カルディナもダメ元で探していたGストーンとJジュエル、その噂は悪い虫が湧いて出るのを承知で、僅かに噂を流したものだった。

しかし当然ながら結果は空振り、Gストーンどころかどの商人もロクな魔石、触媒結晶を持って来なかったのをカルディナは覚えている。

 

そして結果的には、カルディナの計らいで生活困難に陥っていた一族を呼び寄せる事が出来、一応の安住の地を得たため、何とも言い難い心境のまま月日が経ってしまった。

 

──しかし、今日という日を迎えた瞬間、彼らにとってもカルディナにとっても状況が一変したのは言うまでもない。

 

 

「……以上が、僕達の経緯です。」

「……心外ですわ。」

 

 

ルムからの説明を一通り聞いたカルディナは、思った以上の捻れ加減の彼らの事情に、頭を押さえた。

 

 

「当初の貴殿方が私を警戒してた理由であろう、GストーンとJジュエルの奪取は、流石にありませんわ。私のやり口は知っていますでしょう?」

「……あ。」

「はい……」

 

 

言われてみればそうだと、2人は思い出す。

カルディナは相手が何者であれ見くびらず、そして害が無い限りは陥れる事もせず、益になる事には積極的に手を貸す。

現にクストの甘味好き、ムルのお茶の拘りを見抜いて、試験団の仕事も割り当てている。

そう思うと、少し申し訳なく思う。

 

 

「……まあ、仮にGストーンとJジュエルがあったとしても私は真っ先に貴殿方を呼んで渡しますわよ?まあ、()()()頂いて徹底的に解析して、新たなGストーン、Jジュエルを創る方向ではいますが……」

「そ、そうなの……??」

「そもそも現存するなら、それはオリジナル。『浄解』の力を高めるのですから、貴殿方が使う事こそ有益なのです、」

「……そういう物なんだ。」

「ええ。それにあれは()()()、創れない道理はありませんわ。頭を下げてでも貸して頂くには価値が有り過ぎます。そして対・ゾンダー戦において無くてはならないものです。」

 

 

力説するカルディナに圧倒される2人……

というか、2人が知らない事柄ばかりで、一族の宝みたいなものじゃないのか!?と困惑するが、カルディナ話は止まらない。

ちなみにGストーンは、GGGでGストーンの複製は行えており、主に勇者ロボ達の動力源であるGSライドとして活用されている。

 

 

「……今考えれば、巷にGストーンもJジュエルもある訳が無かったでしょうね。おそらくは貴殿方の故郷にこそあるのでしょう。」

「僕達の、故郷に……?」

「でもどうしてそう言えるんです?」

「引率者の存在ですわ。」

 

 

先程ムルが言っていた引率者が生きていれば、()()していただろう、GストーンないしはJジュエルを。

特にGストーンには互いにリンクする性質がある。

しかし話によると、その引率者はGストーンに類似するものは持っていなかったらしいが、感知出来るなら話は別だ。

その引率者は浄解、もしくはGパワーを感知出来るという事になる。

であれば『目指せ』等とは言わない。

 

……いつかはその引率者を中心に、Gストーン(道標)を目指して帰る予定だったのだろう。

 

 

「じゃあ、僕達はもう帰れないのか……」

「──それはないでしょう。」

「「 へ?? 」」

「少なくとも、故郷の場所のヒントは貴殿方の会話の中にありましたわ。」

「ウソ!?どこに!?」

「ケーキとお茶、です。」

「ケーキと……?」

「お茶……って、まさか!」

 

 

ルムは察したようだ。

それはカルディナが以前気まぐれで作った、ケーキとお茶の()()である。

だが、それで解るものか?とも言えるが……

だが、2つとも特徴的な品ですからね、昔から嗜まれている地域は、ある程度絞れるのだ。

そしてそれが重なるところは、実は意外と少ない。

 

 

「なのでもう少し絞り込めば判るかもしれません。あと、引率者もいますわ。」

「引率者……誰です!?」

「きっと貴方になるでしょうね、クスト。」

「……え???僕???」

 

 

突然のご指名に驚くクスト。

しかし、浄解の力に目覚めたクストなら、おそらくGストーンの反応を辿れるだろう、カルディナはそう推測している。

 

 

「……僕が、故郷を。」

「少なくとも、やる価値はありそうかな……でもお嬢様、何で推測も含めてそんな事を知っているのです??僕らどころか一族も知らない事を……」

「……」

 

 

その疑念は最もだ。

恐ろしいまでに2人の長年の疑念を解きほぐすカルディナの言葉は甘く、そして推測であっても的を射ている。

クストもムルもその得体の知れ無さに、困惑する。

そんな2人の様子を見てカルディナは少し間を置いた後、一言尋ねる。

 

 

「……かなり荒唐無稽な話に聞こえるけど、いいかしら?」

「う、うん……」

「は、はい……」

 

 

そして『収納空間』から全ガオーマシンとタブレット端末を取り出した。

 

そして語り出す。

 

自身の持つ知識、纏う(ガオーマシン)が『勇者王ガオガイガー』という作品、そしてその作品にまつわる知識から来ている事を。

初めはそんな物があるのかと、驚く2人だったが話を聞く内に、特に(ラティオ)戒道(アルマ)の事を知ると、その受け取り方が変わった。

そして当初『作品(空想)』であろうものが、実は事象の軌跡を記した記録(脚色はあるが)であり、どこかで現実に起こり得た事ではないか。

そしてそれを裏付けるように現実になったゾンダーの出現と、2人の『浄解』の力の覚醒。

 

ただ、『浄解』自体は誰もが持っている力だという事をカルディナは言い足す。

 

 

「……だから容姿が似ている貴殿方に、()()()()目覚めた、とも言えます。何にせよその力は本物です。」

「そんな訳が……あるんだね。」

「実際クストは使えた訳だし、僕もその可能性は……」

「ええ。そうでなければ私もこんな事は言いませんわ。」

 

 

あまりにも飛躍過ぎる推測と結論に、カルディナ自身も内心ヒヤヒヤ、そして頭が痛い。

まだ詰めたい事実があるが、そう言えるのは概ね確定してしまったからだ。

 

『勇者王ガオガイガー』の事象は現実(まこと)である。

そしてゾンダーの存在も……

 

だがゾンダーの動きから違うのだ。

まだ確認したい事は、山ほどある。

 

だが、1つ確認したい事がカルディナにはあった。

 

 

「貴殿方の、一族の今後の目的は何です??」

「一族の、目的……」

「それは……」

 

 

カルディナから出た問いに戸惑う2人だが、半ば見透かされ、そして恩ある人にこれ以上の隠し事は無意味と悟った2人は、互いに見つめ、頷くと声を揃えて言い放った。

 

 

──それは、一族が故郷に帰る事。

 

 

「確かに今の生活もいいです、お嬢には感謝してます、けど……!!」

「目的は変わらない……一族も、僕達も故郷に帰る事へは変わらないです。」

「……そう。なら、それを私に手伝わせて下さいません?」

「お嬢も……??」

「ええ。貴殿方は故郷に帰りたいけど帰る術がない。私はGストーンとJジュエルを解析したいけどその在処が解らない……であれば、両者が協力し合えば問題は解決しましょう?」

 

とても魅力的な提案である。

しかしムルには1つ懸念があった。

 

 

「けれど、もし故郷が未だに疫病被害を受けていたら、どうしようもないので……」

「ああ、ムル。そちらについても私に打開策があります。」

「本当ですか?!」

「ええ、確証と実績はちゃんとあるので信用して下さい……とは言え、疫病の事は出来ればもっと早く知り得れば良かったですが……」

「「……」」

「……ごめんなさい。2人を責めている訳じゃないのです。ですが……」

 

 

警戒されていた以上はそれを解くまではどうしようもなかった。

そして先に知り得たといって、故郷の場所が解らない以上、クストとムルが力に目覚めていない以上は、どうしようもない話である。

 

だが理解し得た、解った以上、状況がこれ以上悪化しないためにも……

 

 

「──2人共、力を貸して下さい。これ以上手遅れになる前に……」

 

 

カルディナは椅子から立ち上がり、手を差し出して2人を真摯な眼差しで見る。

それは要請ではなく、対等な協力を請うもの……

 

───いや違う。

 

このお嬢様(カルディナ)はいつもそうだ。

貴族でありながら、誰に対しても真正面から関わってくる。

口では悪ぶっている素振りはあるものの、自分達の為に懸命に心を割いている。

だからこそ……

 

 

「……ううん、それは僕達が言う事です。」

「カルディナお嬢様。僕達に故郷を探し、救う

力を貸して下さい。」

「ええ、もちろんですわ。」

 

 

幾重にも恩を貰った。

なら自分達も返すのが道理であり、そしてこれから起きる事に臨む為にも……

クストもムルも、その差し伸べられた手を握り返した。

 

こうして、カルディナは真に2人の信頼を得る事が出来、彼らの故郷を探す約束をしたのだった。

 

 

 

 

………が、その数分後。

 

何故かカルディナは2人の頭にアイアン・クロウを炸裂させていたという。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

あれから1日かけて帰還したカルディナ達の行動は早かった。

 

まず、ゾンダー化した男の照会。

カルディナの予想通り報告にも挙がっていた、数日前に行方不明になっていた騎士団の1人だという。

そして逆行催眠を施すと、()()()()()()()の御者でもあったその男は、原作(アニメ)の通り、元凶者たるゾンダリアンに会ったという。

その映像の中にあった姿は『鳥人間』、『小舟の怪物』、『赤黒い魔女』、『甲冑を纏った貴族』である。

 

……細かな違いはあれども、間違いなく『機界四天王』である。

 

どうやら、既に敵は動いていたのだった。

 

 

次に建造中のガオーマシンの確認。

基礎の骨組みは終わり、外装と内部の配線が建造中で、大方予定通りである。

ただしというか、やはりというか、設計図があれどもカルディナがいないと安心と進みが違うとボヤかれたのはご愛敬だ。

そこは陳謝しつつ、小型ガオーマシンの修理を依頼すると同時に、職人達に戦闘状況を映した(カルディナ目線の)映像を見せた。

 

その映像に一同驚愕し、言葉が出なかったのは言う間でもない。

 

 

「……でも、やるしかないわね。」

 

 

だがイザリアの一言で、職人達は吹っ切れた。

ここまで来ると、カルディナと自分達を信じて突っ切るしかない、そして最悪の事態を打破出来る存在の1つが自分達である、そう覚悟したように見えた。

そして小型ガオーマシンの損傷具合を確認しながら、建造は昼夜問わず続いた。

 

 

また、『影』にも指令を出した。

今までゾンダーが確認された地で、遺された無機物の残骸がないかを。

今回ゾンダーを発見した切っ掛けは、クストとムルが馬車の残骸に偶然だが攻撃した為だ。

ならば、他にもそんな物があるのでは?と考えた。

 

───そして見事的中。

 

再確認しただけでも、似たようなもの(オブジェ)がざっと300を超える。

確認されてから500年の年月の経過は、伊達ではなかったようだ。

その報告に、カルディナが魔力(マナ)切れのような倒れ方をしたと云うが、間違いではないだろう。

しかし、何もしなければゾンダーロボどころか、変化する事も動く事もなかったという。

一例として、オブジェらしきモノを盗ろうとした山賊や冒険者、傭兵等の一団はその場で根こそぎゾンダーに『喰われた』という。

後に残ったのは、元のオブジェだけの風景のみ……

どうやら此方から手出ししなければ、今のところは害はない筈、との報告だ。

 

──何も大丈夫ではなかった(害しかないわ、ボケぇ!!)

 

即刻監視が必要になったのは言う間でもない。

また、その報告をした『影』がシバかれたのは当然だろう。

 

 

だが、希望もあった。

クストとムルである。

帰還後、翌日2人に早速『勇者王ガオガイガー』の鑑賞を命じた。

ちなみに、魔術式投映機(プロジェクター)と、魔術式情報集積体『在りし記憶の板札(メモリアル・カード)』は、王国に送った()()()の他、()()()()()()の3セットが存在し、2人にお菓子とお茶を相当数持たせ、視聴覚室に在中させ(閉じ込め)た。

 

とりあえず30話、機界四天王編まで見せれば現状把握までは出来る筈なので、2日かけて視聴した。

 

初めは世界観、文化の違いから違和感があったが、それに慣れるとゾンダーや自分達の役割について考えながら見ていた。

ただ視聴する前に、カルディナから「あちらはあちら、こちらはこちら。混同はしないように。」と忠告を受けている為か、さほど混乱はなかった。

ただ、クストが「僕もこんな風に活躍を……」と目をキラキラさせていた反面、ムルは「(戒道)がちょっとしか出てない……」と寂しがっていた。

 

しかし慣れるの早くない?

そんな常識的感覚は終始破壊者(カルディナ)に壊されているので、問題はなかった。

でなければ鉄鋼桜華試験団は勤まらない。

途中、鉄華団の一部のメンバーが来て一緒に視聴していたようだが、事前に事態を把握していた事もあり、こちらはこちらでショックを受けていた。

 

そして見終わった後、2人は無言のまま瞑想を始めた。

クストはGストーンの察知。

ムルはゾンダーの察知。

 

クストはゾンダーの反応の影響で未だにGストーンを捉えていないが、ムルは『影』が報告したゾンダー数を更に50を上乗せした数を報告。

 

 

「……微少の反応が殆どだから、もしかしたらまだいるかも。」

 

 

……引き続き、察知をお願いした。

 

 

「……で、結局彼らは何者なのですか?」

「予想通りであれば『三重連太陽系』の生き残り、その末裔……ですわね。」

 

 

───三重連太陽系

 

 

 

ガオガイガーのストーリーにて根幹となる太陽系で、全てはそこから始まったと言っても過言ではない。

 

(ラティオ)の故郷である緑の星、戒道(アルマ)やソルダートJの故郷である赤の星、ゾンダー発祥の地である紫の星を含む11の星々が点在する宇宙星系。

3つの太陽を有する様にも見えるが、実際は太陽の周りを2つの燃える惑星(恒星)が存在する。

この恩恵により優れた科学文明が繁栄し、平和を謳歌していた。

生態系に至っては哺乳類、鳥類他、地球と同じような生物が存在する。

人類は内部組成を含め地球人と大差無いが、光の翼で飛翔する等、超能力を扱える者もいた。赤と緑の星にはそれぞれ指導者が擁立されている。

 

作中では生き残り等語られた内容は(ラティオ)戒道(アルマ)、それとソルダートNo.J-002、トモロ0117がいるが、それ以外となると『いない』と考えていた。

(例外としてnumber43.5「超弩級戦艦ジェイアーク 光と闇の翼」(「FINAL the COMIC」に収録)に登場した、ソルダートNo.J-019がいるが彼は半ばゾンダー化している)

 

ソール11遊星主?あれはノーカウント。

 

だが『三重連太陽系』の住人の存在は確かにこの星にいる。

その推測として、生き残りが『赤い流れ星』に乗ってこの地にやって来た事が挙げられる。

 

 

(……まさか、100年前の『赤い流れ星』はジェイアーク級の超弩級戦艦が堕ちて来た、とか言いませんわよね……??)

 

 

あの()()の中、生き延びた人物がいたのだろう、でなければこんな()にはいない。

赤い流れ星もジェネレイティング・アーマー全開で堕ちて来たとか……

時系列もギャレオリア彗星(次元ゲート)やESウインドウがあるのだ。

勇者ロボの1体、超竜神が原種のESウインドウで一万年以上も前に跳ばされたエピソードもある。

であれば、ESゲート使用時に異常が起きて、こちらに跳ばされた、とも考察出来る。

非常に頼もしい推察であるが、そうなると『原種』の存在も確定になるだろうか?

いや、ムル(アルマ)がいるのだ、ソルダート師団だって存在しただろう。

言い逃れは出来ない。

そうなると、いるであろうゾンダリアンの中には、ソルダート師団の1人が……

 

 

(……いえ、止しましょう。そこはまだ確定事項ではないのですから。)

 

 

カルディナは頭を振った。

そんなカルディナを見て、フミタンはある疑問をぶつける。

 

 

「……そういえば、2人にアイアン・クロウを仕掛けたとか??」

 

 

フミタンに言われてドキリと。

 

 

「……その事、ですか。あれは結果的にそうなっただけで、意図してした訳ではありませんわよ?」

「意図して……?まさか、お嬢様『あれ』をしたのですか??」

「ええ。」

「……悪魔の所業ですね。」

「人聞きの悪い事を……ただ、読み取っただけですわ……生まれてからの。」

「それを悪魔と言わず、何という。」

「だまらっしゃい。」

 

 

フミタンは知っている、カルディナが何をしたか。

それは2人の()()()()()()()()()()視覚情報、音声情報を全て読み取ったのだ。

 

……それはカルディナの特技の中でも一際エグい所業『電界情報(メモリー)全読み取り(フルリーダー)』。

有機物、無機物問わず、電界情報(電気信号)を持つ存在の情報を接触する対象より読み取る特技である。

要は電気信号で構成される情報を全て、脳内情報すら全てカルディナの中に卸す(ダウンロードする)のだ。

 

ちなみに卸した情報は全て『脳内書庫(B・ライブラリー)』に保管、映像・音声に変換出来る。

記録限界容量?そんなものはありません。

 

 

……さて、ここまで言えばお判り頂けるだろう、そのエグい理由が。

情報のマウントポジション。

強制的に聞く事が出来る理由がここにあり、カルディナがこの歳であらゆる分野に秀でている理由がここにある。

 

尚、この事を知っているのは、フミタンと『影』のごく一部、両親、そして祖母(キトリー)だけである。

 

ちなみに何故そのような事に発展したかというと……

 

 

「──そういえばまだ貴殿方の名前(フルネーム)、聞いて無いですわね。」

 

 

協力体制を構築出来た後、ふと思い出して尋ねるカルディナ。

その問いムルは少し気不味そうに答える。

 

 

「ああ……下手に聞かれたらトラブルがありそうで……それで名前(フルネーム)は言わなかったんです。」

「……そうなのですの?」

「うん。でもお嬢ならいいかな?」

 

 

クストは賛成なようで、ムルは申し訳ないといった様子である。

そして語られた2人の名前は以下の通り。

 

 

 

──クストース・マーレ・カエルム

 

──ムルタエノス・ヴィアム・レクティオ

 

 

何とも貴族的な名前……というか、2人とも貴族(ミドルネーム付き)である。

事情持ちだったのがこのような理由とは、少々驚くカルディナだったが、それとは別に何故か2人の名前に違和感をしま……

 

 

────( Д )!?

 

 

──そして気付いてしまった、その違和感に。

 

 

「……あの、お嬢?掴んでる頭が痛いんだけど。というか頭!?」

「何か、すごいミシミシ言ってるんですが……」

「……ごめんなさい、ですがもう少しで()()()()()から、その名前の真偽が。ついでに2人の電気信号(バイオパターン)を解析、『浄解』のプロセスを解読……!」

「ちょ……ちょっと!?本当に何やってるの!?」

「痛!?イタタタタ……!ん?でもイタ気持ち良くなってきた……?」

「何だ、この地味なマッサージ効果は……」

 

 

 

最後には2人の『マッサージで気持ち良くなった的』な悲鳴が……

そして事後、ちゃんと謝りました。

だが、カルディナが驚いて真偽を確かめたかったのも無理ない。

なぜならラテン語で……

 

 

クストース()マーレ()カエルム()

 

ムルタエノス(幾巳)ヴィアム()レクティオ()

 

 

である。

だが、2人が転生者ではない事はこの時確認して判った事で、ちゃんと今の両親の子供であり、直接の関連性がなかった。

とはいえ、出来過ぎ感は否めない。

事情を理解したフミタンは頭を抑える。

 

 

「……可哀そうに。特にクストさんは初恋の相手を知られたショックが大きそうですね。」

「確かに、申し訳ない事をしてしまいましたが……何で貴女がその事を知っているの?話して無い筈ですが。」

 

 

フミタンは顔を背けた。

 

ちなみに初恋の相手はパン屋の女の子。

何の因果か、あの華ちゃん似である。

 

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

「……まあ、やる事は山積みですわ。早急に手を打つ事ばかりですが、今は一つ一つ解決していきますわ。」

「そうですね、誠に厄介極まりないですが……」

 

 

───コンコン

 

 

「ヴォルフです。お嬢様、宜しいでしょうか?」

「ヴォルフ??ええ、どうぞ。」

「失礼致します。」

 

 

ノックの後、ドアを開けて現れたのは執事のヴォルフ。

 

 

「どうしました?」

「お嬢様、クリストファー様がお呼びです。」

「……お父様が??え、帰って来てらしたのですか??」

「はい、先程。今は自室に居られます。来れるなら来てほしいそうですが、如何致しますか?」

 

 

驚くカルディナ。

というのも、もう少し王都に滞在していると予想していた。

もしかしたら、負傷した事について小言を言われるのでは?

ただ、非常に心配性な父親である、その気持ちは無下に出来ない。

とりあえず用意出来次第向かう事をヴォルフに言伝てたカルディナは、目の前の急ぎの書類を片付けるのだった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「───お父様、カルディナです。入って宜しいでしょうか?」

「……ああ、入れ。」

 

 

カルディナとフミタンが扉を開けると、部屋の奥にはソファーに鎮座する父親、クリストファーがいて、その目の前にカルディナお手製の本(ガオガイガー・コンプリートブック)

クリストファーはカルディナに座るよう促したが、その後から目を瞑って腕を組んだまま、動かない。

それは何か思い悩んでいるようで……

 

 

「───いや、止めよう。カルディナが相手では、下手に父親面しても駄目だな。うむ、そうしよう。」

「???」

 

 

終には何か自己解決したような、悟ったような独り言までした。

そして仕切り直ししたように、改めてカルディナと向き合った。

 

 

「まずはあの動く絵……映像(アニメーション)といったな。ガオガイガーという作品を私と陛下(レクス)元将軍(ティ・ガーさん)とで見た。」

「は、はぁ……」

「驚天動地……とでも言えばいいのか?魔法がない世界なのは納得出来たが、それ以外の事象が驚く事ばかりだった。」

 

 

当然と言えば当然だろう。

所謂、異世界ギャップ。

技術格差や風習、文化、生活レベルの違いに驚いたという。

だが、その反応自体はテンプレート的なものでクリストファーのその話は半ば聞き流すカルディナ。

 

 

「……とまあ、レクスは嬉々と目を光らせ、ティ・ガーさんは武器や戦術に興味津々だった。そしてカルディナの、この本のお陰で曲解する事もなく理解出来た。」

「それは何よりです。」

「しかしな……」

「何か、問題でも……?」

 

 

言い含ませたクリストファーは、カルディナお手製の本(ガオガイガー・コンプリートブック)を開いた。

そこは登場人物のページであり、クリストファーはとある人物をカルディナに見せながら尋ねた。

 

 

「───カルディナ、『カイン』という人物を知っているか?」

「カイン……ですか??はい、もちろん存じています。」

 

 

───『カイン』

 

もちろん三重連太陽系の『緑の星の指導者、カイン』の事を指しているのだろう。

だが何故その話を振るのか……

疑問に思うカルディナを他所に、クリストファーはカルディナに向け、手を差し出す。

 

 

「実際に解った方が早かろう……カルディナ『視てみろ』、()()()()()。」

「22年前……??」

 

 

訳も解らずカルディナはクリストファーの手を握る。

そして『電界情報(メモリー)全読み取り(フルリーダー)』を発動。

 

ちなみにカルディナもそうだが、クリストファーに限らずアースガルズ家の直系は能力の強弱はあれこそ、この『電界情報(メモリー)全読み取り(フルリーダー)』は使える。

アースガルズ家の秘匿事項の1つである。

ただ、同じ能力者同士では任意で読み取りを阻害する事が出来るし、大概は僅かに喜怒哀楽を察知出来る程度。

そうなると、『|電界情報・|一部読み取り』になる。

……カルディナが異常なだけである。

 

読み取り中、そういえば父親に()()するのは二度目だな、と思いつつ、指定された年数の記憶を読み取───

 

 

「────!?!?、!??」

 

 

 

───った瞬間、カルディナは驚愕の上、酷く動揺した。

その動揺っぷりは、今まで信じてたものが根本から揺らぐような、そんな感情を持たせる程であった。

その様子を見たクリストファーは、『やはりか……』という表情でいた。

 

 

「私達もあれ(ガオガイガー)を見なければ、ただの良き思い出だと思っていたが……やはり只の御仁ではなかったか。」

「で、ですがお父様、()()()()は……」

「──解らん、だが見た中身は事実だ。それはお前がよく判っているだろう?」

「……はい。」

 

 

──事実。

 

どんなに本人が忘れようとも、脳内の情報は必ず記録される。

そして映し出された事実となる。

その現実がカルディナに突き刺さる。

何故なら、カルディナがクリストファーの記憶の中で見たのは、村人であろう人々に慕われる中、白いケーキを振る舞い、優しく微笑む中年の男がいた。

 

 

(そんな馬鹿な……でも見間違う訳がありません、だってこの方は───)

 

 

 

───緑の星の指導者、カイン

 

 

 

そしてもう1人、気になる人物がいた。

それは衣装こそ白いローブであるが、安楽椅子の上でお茶を嗜む小柄で赤紫の髪、鋭い目付きの少女には見覚えがあった。

 

 

(この容姿は『パルス・アベル』??いえ、違う。であれば……もしかすると───)

 

 

───赤の星の指導者、アベル

 

 

 

……そう思えてならない。

 

 

 

「……いったい、どういう事ですの??」

 

 

動揺するカルディナ。

『ガオガイガー』における重要なファクター有する重要人物、それも2人がどうして存在しているのか?

死んでいなかったのか?

 

カルディナとはいえ、その理解を超えてしまった。

 

そしてこの直後、クストによるGストーン感知が成功したと一報が入り、事態は新たなを迎える事となった。

 

 

 

《NEXT》

 

 

 

 

 


 

 

 

《次回予告》

 

 

 

君達に、最新情報を公開しよう。

 

 

遂に姿を現したゾンダーを退けたカルディナ。

 

そして浄解の力を発現させたクストとムル。

 

更には父、クリストファーより明かされた、カインとアベルの存在。

 

今まで在る筈のなかった『ガオガイガー』のファクターが現れた事に困惑するカルディナだが、彼女の思惑とは関係無く、事態は新たな展開を迎える。

 

目指すはGストーンの指し示す在処。

 

いったい何が待ち構えているのか?

 

NEXT

『公爵令嬢は、ファイルフュージョンしたい』

 

Number.11『星の彼方より来たりし者達』

 

 

 

この物語に、ファイナルフュージョン、承認!

 

 

 

これが勝利の鍵だ!

 

『カイン&アベル』

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

《おまけ》

 

 

 

電界情報(メモリー)全読み取り(フルリーダー)』。

万能の能力であるが、弱点もある。

同じような能力を持つ相手にはすぐにバレてしまうのだ。

また、ダイレクトに読み取るので、受け入れられるかは別。

 

 

父親(クリストファー)の場合

 

「……カルディナ、いくら子供とはいえ、親の(なか)までは覗いてはいけないよ?」

 

……幼い頃、笑顔で拒否られた。(顔は笑ってない)

 

 

祖母(キトリー)の場合

 

───キィァァァアアアアァァァァァーーー!!!

───■◇▽&§▲、※&※&§&??!!!

───、────、───、─、─

 

…………。

 

 

……凄惨過ぎて理解したくない内容。

……もしくは寝ているので、何も見えない。

……思索の内容は公開不可。

 

 

魔王(サタン)の場合

 

「───カルディナ、貴様視ているな!?」

 

……○安ボイスで○ioられたので、軽いトラウマ。魔王(サタン)は後でしこたま謝った。




今回の話で、カインとアベルの登場フラグとなりました。
個人的にはこの2人を登場させると決めた時、ある種の爆弾を投下する気分でした。
2人の同時生存って、どんな状況よ!?
アニメでは重要なポジションでありながら、あまり登場シーンのない役回りの2人ですが、ここでは独自展開する予定です。

何かやらかすつもりか、と?

………(ニヤリ+)


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間話 ~幼き日視た、かつての恩師と隠れた事実~

続編を期待した方々、申し訳ない。
間話です。

今回の中心は、男達のお話です。

振り替えると、色々振り回されて、貧乏くじを引いているんだなと思います。


◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

いつからだろうか?

あの公爵令嬢を意識し始めたのは。

 

 

そうだ、この国が改めて立ち直る時の頃からだ。

 

 

それはレクシーズ・G・アルドレイアがその時を迎えた時の話から遡る。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ───10年前

 

 

「──くそ!どうすればいい……!」

 

 

レクシーズ、23歳。

愚王であった父親、ガドシエルを討って自身が国王となった後、国を編成し直そうと奮起していた矢先、アルドレイア王国は飢饉に遭った。

その年は天候が悪い中で愚王が重税を課した影響で食料の供給が途絶えかけていた。

また、内戦の影響で物価も上がり、隣国から買い付ける事が困難になりつつあった。

更に革命中に、手薄になった国境の警備体制に大規模な魔獣の進行があり、田園地帯を蹂躙されてしまった影響で、供給が途絶えた。

仕方なく他国に食料援助を申し出たが、隣国も似たような状況であり、余裕がなかった。

その中で唯一、食料援助を進言してきた国があった。

それが、ギャラルホルン教皇国であったが、それと引き換えにとても呑めない要求をしてきたのだった。

 

 

「食料援助する代わりに……カイエル教を我が国の『国教』としろ、だと!?ふざけるな!!」

 

 

この要求はどうしても呑めない。

何故なら、宗教を尊ぶ国では発祥国の影響が強いとされている。

そして、発祥国のギャラルホルン教皇国より『教国』とする案を受けると、立場上その国は『属国』に成り下がってしまい、その教えこそがその国の『法』になってしまう。

それは魔獣を狩る門番の国としてのプライドが無くなる事を意味する。

また、そんな事もあり、アルドレイア王国には宗教を広める場はあれども、国教はない。

 

そして討ち取った先代の王も、あろうことか、カイエル教に鞍替えし、属国になろうと画策、そして門番の国の武力をそのまま他国侵攻に使うつもりだったようだ。

 

───だから討った。

 

元々愚かな王だと思っていたが、王自身が売国奴であれば容赦する理由がない。

己が欲望で民を苦しめるなら、王族として生かす意味はない。

 

……そしてその()()を払わされている。

 

とはいえ、今回の飢饉は重篤だ。

()()()な工作もあったと報告もあった。

そしてこの飢饉は少しの期間ではなく、かなりの期間を必要とすると予想され、どうすれば良いか良案が思い浮かばない。

 

 

……そんな時である。

 

 

「───あ~あ、この()()もつまらなくなりますわね。」

「……お嬢様、声が大きいです。」

「あら、しつれい。ですが()()()でしてよ?」

 

 

声が少し離れたバルコニーから聞こえた。

その声の主は子供で、肩まで伸ばした透き通るような白い髪に、青のドレス纏う女児……

そして傍らに同年代と思われる、使用人と思われる赤い髪の女児が。

 

 

(あの娘は、確かクリストファーの……)

「ぎゃらるほるんのカイエルきょう、でしたっけ?あれにとりこまれる事になれば、ロクな事にはならないでしょうね。」

「たしかに。」

「けれど、このくにはごはんがない、それがもんだいです。ではこういう時はどうしたらいいでしょうか、フミタン!」

「……え?お菓子を食べる──」

 

「チェスト────!!!」

 

 

失言をしてしまったであろう使用人の女児は、有無も言わさずに青ドレスの女児が振るう、厚紙の細い束で頭を叩かれた。

 

 

「……ごはんがないのに、おかしをたべろとか、どこのアントワネットさんですの。むしろアントワネットさんに失礼です、()()()げりもたいがいにしなさい。」

「うう、ひどい……昨日食べたカカオクッキーのほうじゅんなかおりと味を忘れそうです。あ、もう一度作っていただけたらおもいだすかも……」

「しっかり、おぼえてますでしょう。」

「てへぺろ」

 

 

それにその言葉の起源は、マリーアントワネット自身の言葉ではなく、フランスの哲学者、ジャン・ジャック・ルソーの自伝『告白』であるという説もある。

 

 

───閑話休題(それさておき)

 

 

「せいかいは『価値のないものをあるようにせよ』ですね、おじょうさま」

「いえ~す。ちなみにこのばあいは何ですか?」

「こころ当たりがあるなら……『対・魔獣用の砦の荒れ地』ですか。」

 

 

……砦の、荒れ地??

レクシーズは耳を疑う言葉を聞いたが、その後に続く内容が気になり、身を潜めたまま耳を傾けた。

 

 

「今年の春、かくちのとりでへ見学にいった時、まほーのくんれんとかウソぶいて、地面をたがやしたアレですか。たがやしすぎてめいいっぱい怒られた()()がありましたね。」

「むふふふ……おいしいお芋さんが手にはいったのです、増やさない()()()はないですわぁ。うえる土地が足りないので、他のとりでにもいっぱい撒きました。かたい土でもにょきにょき、にょきにょき……」

「たねいもと、芋のくきをいっぱいいっぱい、蒔き撒きまき……ひそかに兵士さんにしゅうかくをたのんでおいてよかったですね。私も隙をみてお豆さんを蒔きましたが……」

「あれはびっくりしましたわ。お芋さんをまいたと思ったら、実は手に豆が握られていたとか……」

「甘い豆が好きなもので。それに、ちゃんと植え分けするのたいへんだったのですよ?しかしすごいですね、ふまれてもつぶされても、わさわさ……はんしょくりょくがすごい。」

「今ごろ、とりでのみなさんはお芋、お豆パーリィですわ。とりでのまえの土がみんなお芋ばたけですわ。」

「それに先ほどききましたが、食べきれないから、こちらにもってくるとか」

「まあ!あぶらをよういしておむかえしないと!ポティト~は正義です!」

「また、りょうしゅさまにおこられますよ?しおふって、芋の食べすぎだ~!って。ちなみに私は揚げ芋は正義です。」

「しってます。そしてお芋はべつばらです。なんならでんぷんをかもしてお酒にしてもいいですし。」

「おじょうさま、のみませんよね?」

「もちろん。今、酒しょくにんさんにたのんで『かもすぞ~』してますわ。蒸気ももくもく……もうそろそろ出来るかと。バイ菌ころすマンがたくさんですわ~。」

「え、そっち?」

 

 

そして2人は騒ぐだけ騒いで、すたすたと向こうへと姿を消した。

その途中、後ろを──レクシーズの方を振り向き、お茶目な顔で唇に指を当てて、し~……と。

 

 

───気付いていた!?

 

 

そして去り行く青ドレスの女児───カルディナ・ヴァン・アースガルズ。

 

後に、防衛砦から王都を中心とした各地に、ジャガイモやサツマイモ、豆、非常用の油や岩塩地帯から削ってきた塩が次々と運び込まれた。

 

ジャガイモ、サツマイモ、塩はいくつかの調理法と共に配布された。

サツマイモの葉ですら食用となり、密かに作られた酒───アルコールは飲用だけでなく、高濃度に蒸留され消毒用アルコールにすら使われる。

 

多少の不足はあれど、飢饉は回避出来、レクシーズはギャラルホルンからの食料援助を断る事が出来た。

 

また、いつの間にかそれがレクシーズの手腕とされ、革命後の政権体制を磐石にした一因でもあるという───

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「───だが忘れてはいない。あの娘(カルディナ)の奇行が成した事だと。」

「……何か、娘がスマン。そして程々にしておけよ、レクス。」

「心配要らん、まだ樽1つも空けていない。」

 

 

それ、心配ない範疇じゃない、と心の中でツッコミをいれるクリストファーに、傍らにあるワイン樽のコックより直にワインを注ぐレクシーズ。

カルディナとアシュレーが去った後、この場にはレクシーズとクリストファーの2人だけがいた。

やっている事は飲み会である。

レクシーズが呑み、愚痴をクリストファーが聞く……

とてもではないが、他人には見聞きさせられない、密かであり、ストレス発散のためのいつもの光景だ。

そして自ら注いだ1杯を煽るように飲み干すと、レクシーズは大きな溜め息を吐いた。

その顔には若干の酔いが回っているが、正気は失っていないようだ。

 

 

「……判っているさ、だがあの娘は私が出来なかった事を成した。『民を守る』、奴ら(ギャラルホルン)の妨害があろうともそれだけは守るべきだった筈なのに……」

 

 

全てはこの言葉に尽きた。

魔獣からの驚異も、飢えからも、民を守る事が王の役目と自負するレクシーズ。

それが出鼻を挫くように、他者(カルディナ

)が行ってしまったのだから、どうしようもない。

 

それからしばらく表舞台から姿を消した。

姿を現したかと思えば、今度は武勇が度々轟く活躍をし、この頃から大人顔負けの発明をするに至っている。

12を過ぎた頃には留学前に山脈をぶち抜いて、不可能と言われた友好国(フレメヴィーラ王国)間でにトンネルを単独で構築。

留学先から帰ったと思えば、商会を始め、遂には国一番の商会へと育て上げた。

そして尚続く発明の数々……

 

大まかな経緯を知る筈の友人(クリストファー)に聞いても、青天の霹靂のような心境だという。

そして現在は巨大魔導機甲兵器の開発である。

経緯、手段は解る。

だがレクシーズには根本的にカルディナの目的が解らない事が歯痒い。

 

 

「……何故、ゴーレム以上の力を求める??今ですら充分隔絶した実力を持つというのに。」

「全くだ。うちの娘は何を目指しているのだと、常々思うぞ。そして解らないといって首輪代わりに、自分の息子と婚約させるとは……」

「三男坊だからまだいい。それに好き勝手されるリスクを考慮すれば、王族に迎えるリスク(目の前で監視)の方がまだ心休まる。本人には格好を付けてああは言ったが、内心はヒヤヒヤするばかりだ。飢餓を救われた時からな……」

 

 

実力、資力共に他と逸脱するレベルである以上、未成年とはいえ、カルディナはもはや無視どころか蔑ろにする事が出来ない。

国を代表するとはいえ、親達は大変である。

 

 

───閑話休題(それはさておき)

 

 

「さて話を戻すが、どう見るレクス?いよいよカルディナが手の内を見せてくれるというが……」

 

 

クリストファーが先程の話を振った。

カルディナが自身の目的を明かすと明言した事についてだ。

だがレクシーズは意外にも難色を示す。

 

 

「……果たしてどこまで判明するか、だな。私の事を常日頃怖がっている娘だ、どこまで手の内を見せてくれるか……」

「……それはないだろう。あれでもお前の事は敬っているんだ。納得出来る分の説明はしてくれる筈だ。」

「解っている、だが()()ではなかろう。」

「まぁな。造ろうとしているモノがモノだ。それに親としても言うが、あの子はあらゆる意味で達観、そして私達以上に極めている。」

 

 

例えば、抱える問題に対してカルディナは完璧な答えを持ち、しかも自慢する訳でもなく、さりげなく持ちかけてくる。

少なくとも2人にとってはそんな存在なのだ。

 

 

「そんな子だ、誇らしくはあるがそれ以上に畏怖の対象とも思える。」

「それでも可愛いと思えるのは、その能力以上にある『人を想う心』があるから、だな?」

「判っているなら解るだろう??それが十全に出来る優しさがあるからこそ、私にとっては自慢の娘だ。しかし、あの子の知り得る全てが明かされた時、私達はどうなるか……」

「ああ。この世界の成り立ちすら知っていても可笑しくはない。」

「あり得そうだ。」

 

 

そう思うと、溜め息しか出ない。

 

 

「そう言えば……幼い時にもこの様に想った事があったな。摩訶不思議極まりなく、そして圧倒的な存在を目にした、あの日だ。」

「ああ、忘れるものか。ティ・ガー将軍と私達が迷った、あの日の事は……」

 

 

───それは、もう20年前にもなる。

 

10歳を越え、本格的にアルドレイア王国の王族、貴族の役割を学ぶため、騎士団の遠征の任に同行した先の事だった。

突然の魔獣の大群に襲われ、自身のゴーレムに搭乗するも、その驚異に足がすくんだレクシーズとクリストファーは当時騎士団長だったティ・ガーに助けられた……が、その勢いで崖から転落。

その後も魔獣の驚異から逃れるべく討伐続けるも、驚異が途切れた頃には遭難してしまった。

サバイバルの知識があるとはいえ、深い森の中で成人していない少年2人には極度の緊張を強いる環境であり、フォローに回るティ・ガーにも疲労の色が募り、日に日に移動が困難に。

 

4日を過ぎた頃には限界が訪れ、まずクリストファーが倒れ、次いでレクシーズが膝を付く。

 

そんな時にも魔獣は牙を剥いてきた。

 

 

───その時であった。

 

3人の意識の外から、高速で接近して来た存在が飛来し、彼等の前に降り立った。

白い外陰を纏いながらも緑の光を全身から放ち、妖精のような羽を拡げ、不思議な詠唱を唱えつつ併せた拳を、その人物は魔獣に向ける。

 

 

 

ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ……

 

 

「──ウィーーータァッ!!!」

 

 

そして最後の詠唱を叫ぶと、光の奔流が併せた拳から放たれ、魔獣を有無も言わさず消滅させた。

 

まるで英雄の放つ一撃と思える程であった。

 

それから魔獣が消し飛んだのを確認した目の前の男は、拳をほどき、緑の光が鎮まる。そしてフードを取ると3人に振り向き、尋ねた

 

 

「怪我は無いかい?」

 

 

茶髪の髪と短い顎髭を貯えたその男は、僧侶のような優しく、慈愛に満ちた笑顔であった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

その男は自らをカイン、と名乗った。

氏はない、と言われた。

 

カインに連れられ、3人が案内されたのは山岳を背に林が生い茂る集落だった。

と言うのも疲労困憊に、負傷した3人は既に限界。そのため、休ませるため男に案内されたのが、ここだった。

正確には集落の周りに木々が生い茂っている、世俗からは隔離されたような場所だった。

集落の人間もさほどいなかった。

だが、そこは3人が見た事もないもので溢れていた。

 

家屋は箱形であるが、大型であり素材が解らない。

後に聞くと「炭素繊維(カーボンファイバー)の複合積層体の建築物」であるとか。

簡易的に出来るらしい。

 

うん、わからん。

 

畑と思われる場所には人間もそうだが、六角柱のブロック状の()()()()ものが多数あり、作物を収穫している。

後に聞くと「作業用デバイス」であるとか。

よく働きます。

 

使い魔の一種かな?

 

極めつけは集落の奥にある、城……らしきもの。

石垣ではなく、白い鋼鉄で出来た土台の上には、幾つもの砲台がある黒い台座。

その上の城の天辺は王冠を模したような窓がズラリとあり、その両端には黒い出っ張り。

 

(サイズが)デカい!

(砲身が)太い!

(全部)大きい!

 

見るもの全てが摩訶不思議であった。

だが、先導する男は特に驚きもせず、気にする事もなかった。

これがここの普通のようだ。

時折、集落の人間から挨拶され、優しく笑っては声を掛けていた。

どうやら、集落の中心的な人物らしい。

そして、ある所に4人は来た。

とある家の前、そこの庭で、ゆらゆら揺れる安楽椅子に座って茶を嗜む、男と同じく白い外陰を纏う、目付きの鋭い赤紫の髪を伸ばした少女がいた。

その少女は横目で一瞥した後に、ぶっきらぼうに言い放った。

 

 

「……誰です、その山猿達は?」

「山猿はないだろう。近くで負傷していたからね、連れて来たのさ。」

「ふん。貴方はいつも唐突に……で?しばらく看るつもりですか?」

「ああ。そのつもりだ。」

「……勝手にして下さい。」

「ああ、そうするよ。」

 

 

それから一週間程、滞在する事となった。

怪我は静養する事で治癒出来た他、目付きの鋭い少女に似ているが、物腰柔らかで少々弱気な女性が、治癒魔法とは違った術で傷を癒してくれた。

その時は男とは違い赤く光り、孔雀のような羽を拡げていた。

その女性曰く、

 

 

「あの方の指示です。」

「……ふん。」

 

 

あの少女の指示のようだ。見た目以上に優しいところがあるようだ。

ちなみに貧相な身体つきとは裏腹だな、と思ったレクシーズとクリストファーの2人が不可視の力でボコボコにされたのはご愛嬌。

ちなみに密かに名前を女性から教えて貰った。

 

その少女はアベル、という。

氏は、ない。

そしてカインとも併せて、この集落の中心的な存在である。

 

また女性の方は自己紹介はなかったがアベルは、彼女を……何と言っていたかは忘れた。

ただ、その名前は女性の名前ではないので、本名でないだろう、きっと。

 

 

それから一週間の間、静養だけでなくカインが3人の稽古を付けてくれた。

アベル曰く「腹立たしいが、おそらく最強の戦士」という事で手合わせをした3人だが、カイン相手には殆ど歯が立たない結果に終わった。

対人戦もそうだが、魔獣を狩る手腕も凄まじい。ゴーレムを使っても赤子の手を捻るより軽く、いなされる始末。

風貌に違わず一流の戦士であり、動きに一切の無駄がない。

唯一、ティ・ガーだけは『良い勝負』が出来らしい。

 

 

「まあ、鍛練あるのみ……かな?」

 

 

そう言われても、どうにも実感が湧かない。

 

また、アベルは気紛れ、暇潰しと称して多種多用な知識を教えてくれた。

見た目以上に知識人で、あらゆる自然・物理現象の起こる仕組みを教えてくれた。

だが、言っている事はネイティブ語を知らない異国人の如く意味が解らない。

もしくは話の知能指数が高過ぎて理解に苦しむのだ。

辛うじてレクシーズだけは理解を示した。

 

 

「子供にしては上出来です……山猿は訂正してさしあげましょう。」

 

 

……お前も子供だろ?と思い、何かイラッと来た。

 

───とぼそりと呟いた瞬間、炭素繊維複合体の壁に顔からめり込まされたのは、何度あっただろう。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「────っと、寝てしまっていたか。」

 

 

馬車に揺られながらの王都への長旅の道中、クリストファーはついうたた寝してしまった。

 

あれから幾月、幾年が経ち、少年達は大人になった。

あの時学んだものは全て、十二分に今の立場になる際の糧になった。その影響で2人は誰よりも抜き出た存在となり、現・王国の体制を盤石にしたとも言える。

レクシーズは優れた統治の術を。

ティ・ガーはより良い戦術を。

クリストファーは豊かな土地作りと防衛の術を。

胸を張って良い大人になったとは言えないが、せいぜい守れるモノは守れる程度には成長したと言える。

 

とはいえ、困難はある。

 

 

「カルディナの件はどうしたものか……」

 

 

今一度省みた自領の防衛計画を見て貰うため、王都にいるティ・ガー元将軍の元を訪ねる次第だったが、もう1つの案件が非常に頭の痛かったりする。

凡そ、今日あたりにカルディナが国王陛下に資料を提出すると予想し、出発を今日にしたのだ。

その理由が……

 

 

「……レクス、すまん。家臣である前に、俺は親なのだ。今さら遅いが、娘が何をしているか詳細に確かめねば。」

 

 

一重にカルディナが有能過ぎて、今まで裏でやっている事が怖くて確かめられなかった。

なので、一先ずこの機会にて確かめる事に。

 

 

「……だがやる事は献上物の盗み見、だがな。許せ、レクス。」

 

 

映像関連の物は梱包を広げるには手間……なので、最も簡易的と思われる書物をチョイス。

膝の上に乗せた『勇者王ガオガイガー・コンプリートブック(自作)』を見つつ、その場にいない友に懺悔するクリストファーは己の今までの勇気の無さを呪いつつ、辞書並みに厚い本を躊躇しながら開いた。

 

そしてそこに有った人智を超える創造物(ガオガイガー)の記述に決意の鼻っ面を殴られ、実現すればゴーレム不要な奴ら(勇者ロボ軍団)に自身の存在意義が揺れる。

それはまだいい。

存在するだけで終焉を告げる者(ゾンダーや原種)の記述にクリストファーは頭を痛めた。

 

 

(……こんな奴らが、カルディナはいると言うのか!?)

 

 

存在自体が災厄そのものだ。

現存の戦力では到底敵いそうもないし、こちらの武力は一切通用しないのは容易に想像出来た。

 

そして所々にある本の栞に書かれた注釈には、こちらが衝動的に知りたい情報がしれっと書かれており、ゾンダーに至っては『幻獣辞典に記載あり』とまで書かれている。

 

頭が痛かった。

娘の空想と思わしき内容が、実は絶妙に現実にリンクしている。

 

過去にカルディナがこの世界を『胡蝶の夢』と称した事があったが、クリストファーもそんな心持ちになりそうである。

現に栞の一端には生々しいカルディナの本音の吐露が書かれている。

 

 

『ゾンダーの事は現実でなければ良いのに、5歳のあの日に出会ってしまった。ゾンダーが本格的に活動を開始してしまえば、止める術は一切ない。私の持つこの情報は、趣味で納めたいがそれは赦されないでしょう。だからといって嘘か真か確かめる術はこれ以上ない。この世界で誰かに打ち明けたとしても、信じられる確証もないし、中途半端に信じられても力の無い協力では意味がない。』

 

『今の、何も出来ない状況が怖い。立ち向かう勇気が欲しい。』

 

『なら、私が隔絶した力を付けた上で、信頼できる術を身に付けたなら、どんなに後ろ指を指されようとも問題はないはず。だから私は創る、ガオガイガーを──私だけの勇気の証(ガオガイガー)を。』

 

 

6歳の頃の記述だ。

今更ながら、カルディナが悩み抜き、そして人知れず努力し、積み重ね、有事に備えている事を思い知るクリストファー。

 

 

「だが、この内容が事実であっても、私達に何が出来るか……」

 

 

無力である事を独白しながら、頁をめくる。

そして内容が登場人物の項目に移った、その最後辺りのある人物を見た時、クリストファーの心境は一変した。

 

そして御者に出来るだけ早く、速くするよう厳命するのだった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

少年達と若者は尋ねた。

何故、そんなに強いのか。

強い人が、どうしてこんな辺境にいるのか?

 

 

「強い、か……いいや、私は積み重ねたものを受け取り、研鑽したに過ぎない。そして強くはない。私は敗けて、ここに流れ着いただけさ。」

 

 

優しく笑って答えるカインだが、その笑顔は寂しげで、哀しく見えた。

 

 

 

少年達と若者は尋ねた。

どうしてそんなに優れているのか。

優れた人が、この地に留まっているのか?

 

 

「知識は積み重ねと研鑽です。そして常に思考は止めない事です。ですが……私は優れていないです。敗けているのです。であれば、ここにはいませんよ。」

 

 

安楽椅子に寄り掛かるアベルは目を閉じ、それ以上語ろうとはしなかった。

そこには普段見せない後悔にも似た感情が見えた。

 

 

そして3人は幼く、未熟ながらもその哀しみを払拭出来ないか考えた。

そして……

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───陛下、宜しいでしょうか?」

「ああ、申せ。」

「はい。アースガルズ公爵様が、例の荷を持参されてお越しに……それと、ティ・ガー元将軍(ティオレンス・ガルン・ガーベルト)様も御同行されておりまして……」

「何??」

 

 

予定にはない2人の名前に驚くレクシーズ。

今日あたりカルディナより、件の荷物(ガオガイガー関連の品)が届くのは知っていた。

だが、アースガルズ公爵(クリストファー)ガーベルト公(ティ・ガー元将軍)が来るのは予想外だった。

カルディナ本人が来ると予想していたが……

 

 

「それで、件の荷物の事でどうしても伝えたい事がある、と……」

「……ふむ、判った。私の部屋に通し、待たせてくれ。件の荷もそこに運ぶように。」

「畏まりました。」

 

 

只ならぬ事情があると察したレクシーズは、隠蔽の効く自室に招く事に。

それから少ししてレクシーズは自室の扉を叩いた。

事前の通知通り、自室のソファーにはクリストファーともう一人、筋骨粒々のカイゼル髭がよく似合う御仁がいた。

名をティオレンス・ガルン・ガーベルト。

アルドレイア王国、先代将軍である。

通称、ティ・ガー。

 

武道、魔術共に優れた人物で、レクシーズとクリストファーにとって師匠たる存在。他にも教え子は多々いる。

先の軍事行動の折、不意打ちで脚を負傷し、現在は杖を突いての隠居生活であるが、軍事的な才能は衰える事はなく、軍事アドバイザー的な役回りを果たしている。

また、カイゼル髭がよく似合うためもあり、見た目だけは王様、ともよく言われ、アルドレイアの王族の血を引いているが、本人は国王みたいな役職は面倒、という理由で将軍に留まっていたとか。

 

そして容姿こそ違うが、声や喋り方、頼れる雰囲気があの大河長官にそっくりなのだ。

また逞しい程に男らしい。その点が、カルディナにとってはツボであり、大いに憧れる人物の1人。

 

そういう意味では貧弱な婚約者(アシュレー)は泣いて良いと思う。

 

そんなティ・ガー、そしてクリストファーはレクシーズの顔を見るや、礼儀に則り一礼。

誇り高き貴族は親しき仲であれ、絶対の礼儀を重んじるのだ。

それが終わると、一同はある程度砕けた口調で話し始める。

 

 

「ティ・ガーさん……お久しゅう御座います。」

「レクシーズ、息災だな。今日は急で申し訳ない。」

「それは良いのですが……クリスト、いったい何があった?お前と、ティ・ガーさんが来るとは思わなかったが……」

「ああ。どうしても私とティ・ガーさんから伝えねばならんと思ってな……これを見てくれ。」

「……これは??」

 

 

クリストファーは1冊の分厚い本───コンプリートブックをレクシーズに渡し、ここに来るまでの経緯を説明する。

 

 

「……盗み見たのは申し訳ないが、先に確認できて正解だった。」

「ああ、クリストから聞いた時は驚いたが……カルディナのお嬢ちゃんが()()に深く関わっているとは数奇な因果としか思えん。覚えているか?22年前の、あの人達の事を。」

「ええ、勿論です。それが、何か……」

「ここを見てくれ。」

 

 

頁を開き、クリストファーが指差した箇所に、レクシーズは戸惑い、そして驚愕した。

そこには、かつての恩師の姿──を写した精巧な絵があった。

 

 

「────カイン、さん……だと?!」

「ああ。載っている絵こそ少ないが、間違いないだろう?」

「……ああ、そうだ、そうだとも。この優しい顔……見間違いはしない。あの時、あの場所、あの人達こそ、私達の恩師の……カインさん。」

「やはり、レクスもそう見るか。3人の意見が合うなら大方間違いないだろう。」

 

 

間違いなかった。

そこに記載されていたのは、カインだった。

 

 

「……緑の星の、指導者?」

「統治や政治にも長けている訳だ。国、ではなく『星』という、もっと広大な集まりの指導者だったようだ。そしてアベルさんもな。」

「まあ、アベルさんの絵は無いようだが……代わりにこの様な人物がいるようだ……ほら、ここだ。」

「……パルス・アベル??」

複製体(レプリジン)、というらしいが、アベルさんの姿をして、別の個体らしい。」

「訳が解らんぞ。」

「だろうな、レクス。私も解らん。」

「私もだ。」

「ティ・ガーさんまで……」

「まあ、その辺りを念頭に見てみるしかないな。」

「……この上、何をだ??」

「映像、というものをだ。そもそも見るために持ってこさせたのだろう?カルディナの秘密───『勇者王ガオガイガー』を。」

「あ。」

 

 

かつての恩師の情報ですら驚愕ものなのに、これが序の口(只のジャブ)でしかない事に呆然とするレクシーズだった。

 

 

 

 

 

 

───そして3人は目撃した。

 

三重連太陽系から始まる、勇者達の神話(マイソロジー)を。

 

三重連太陽系を滅ぼしたゾンダーの驚異を。

 

その驚異に立ち向かう鋼の巨人の姿を。

 

圧倒的な科学、現象、そこに注ぎ込まれる情熱()の熱さを。

 

三重連太陽系(カインやアベル)の譜系が遺した者達(護や戒道)の勇姿を。

 

彼等の持つ、勇気の可能性を。

 

勇者達の軌跡を────

 

 

 

 

TV版第1話から『Final』まで、視聴を完徹2日、そして3日目の朝を迎えた頃、全て見終えた……

 

 

「……これが、全てか。」

「成る程、カルディナ嬢が影響を受ける訳だ。」

「全く、カルディナ。お前という娘は……」

 

 

映し出されていたのは、彼等の想像を全て超えている事ばかりである。

思考を反芻すれば、今でも尚驚く事ばかりだ。

 

しかしカインとアベルを直に知り、教えを受けた彼等の理解は早く、大まかには理解出来ていた。

例え、今まで知らなかった『天体』の概念すら、コンプリートブックの注釈を読む事で受け入れる事が出来ている。

またそれよって、彼等にはまた別の受け取り方が、そして当然の疑問が示された。

 

 

「……では、カインさんやアベルさんは何故生きているのだ?三重連太陽系の住人はあの2人を残して機界昇華された筈だが……」

「そうだな……明確な『死』が描かれていなかった。であれば誰かに助けられたとか?」

「集落にあった、あの巨大な城……あれはもしかしたら、キングジェイダーかもしれんな。」

「あの超弩級戦艦が!?であれば───」

 

 

であったり。

 

 

「……そうなるとゾンダーは何故我々の住む、この星にいるのだ?」

「ガオガイガーの話を用いるなら、外界──宇宙から飛来したのだろう?」

「しかし中心的な存在、Zマスターは浄解されたのだろう。生き残る可能性など……」

「───『機界新種』、とか?」

「───!?あり得そうだ!」

「……それ、カルディナの考察にもありましたよ?」

「む、バレたか。だがあり得そうじゃないか?だが、この星での活動が不活性なのは───」

 

 

大い盛り上がった。

そして話が一段落着いたらところで、レクシーズが話を纏めた。

 

 

「───では、今後の方針は以上でいいか?」

「……ああ。だが、今更だが遅いかもしれんが……22年か。」

「長いな……」

 

 

ティ・ガーが難色を示し、クリストファーも同意する。

それ程の時間が既に経過しているのだ。

最早状況は手遅れかもしれない。

 

 

「我々があの集落を経った後、あの地域は未だ原因不明の瘴気汚染で封鎖さている。時折偵察を出しているが、その都度行方不明者も出て、未だに入れるような状況ではないようだ。」

「ちなみにカルディナ嬢はこの事を……」

「知ってはいるだろうが、そこに何があるまでは知るまい。」

「───解った。なら、私は一度戻り、カルディナに詳細を伝えよう。」

「済まないな、クリストファー。貧乏くじを引かせるようで……」

「内々の収拾は私の領分さ、今に始まった事じゃない。それに領主として、父親として、そしてあの日助けて頂いた者の責務だ。喜んで挑ませて貰う。」

「……頼む。私とティ・ガーさんは出来得る限りの情報の収集と準備をする。最早、事態を収拾出来るのはカルディナしかいない。」

「ああ。」

「うむ。」

 

 

そして3人は動く。

あの日少年、若者だった者達はあの日の誓いを果たさんとする為に。

 

 

彼等はあの日言った。

 

いつか、困った事が訪れた時、必ずここに来ると。

 

 

 

 

 

 

 

 

《……NEXT》

 




以上、男達の回想とお偉いさんが動く動機です。

需要があるか不明なので、あっさりで済ませている感じです。
時間がかかったのはスマヌ。

やっぱりというか、カインの人物像というのがいまいち想像しづらい。
私の中では普段は優しいおじさんで、困らされても笑って許し、キレたら笑って鉄拳制裁するようなイメージ。
アベルさんはソール11遊星主のパルス・アベルのままですね。

さて次は本編。
遂にカインとアベルがいると思われる集落に向かいます。
ネタとフラグをこれでもかと言う程入れたいですねぇ……
(*´・ω・`)b




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Number.11 ~星の彼方より来たりし者達~(1)

お久しぶりです!

スパロボで家庭用ゲームの『スパロボ30』の発表がありましたね。
その中で、ガオガイガー『final』と『覇界王』、そしてナイツマが登場!!

なんという僥倖、なんという至福!
時代がようやく(私に)追い付いて来たか?(違う)

……鉄血がいれば完璧だったのですが。

そうとなれば、早速予約せねば……

ちなみに予約先(Amazon、PS4、Switch等)で予約特典が違うようで、皆さんは何処で予約します?

ちなみに私は、まずハードを手に入れるところからです。
……忙しすぎて、大きいハード有ゲームなんぞする暇がない。子供もまだちっちゃいので、小ささ優先でSwitchを手に入れる予定。ソフト予約はAmazonというひねくれ具合。

それとは関係なく、『公爵令嬢~』の本編、どうぞ!


「───いやぁ~、しかし驚いたよ。まさか君らがカイン殿、アベル殿の血縁者だったとは……」

「私も驚いています。ティ・ガー様が私達の先祖のカイン様、そしてアベル様と交流があったとは……」

 

 

長く伸びる鉄で出来た廊下を4人の男女が歩いている。

先頭はカイゼル髭を生やした筋骨粒々の男、ティオレンス・ガルス・ガーベルトが患った脚も何のその、スタスタと歩く。

その後ろをカイン、アベルの血縁者と言われた茶髪の優しげな男性と、青みがかった髪の女性、最後に現在ティ・ガーの付き人役をする黒髪の少年が。

(ティ・ガー)の脚は過去に受けた傷で負傷、杖を使わねば歩くのもやっとだった筈だが……

 

 

「死にかけで助けられた大恩は忘れないさ。それよりも君らの存在に気付けなかったのは僕の──いや我々の失態だ。レメク君、カルエラ君、済まない。」

「……いえ、我々も知られまいと秘匿していましたので、気付くのは無理は無いかと……」

「それに、今回の事は私達も子供達より知らされねば解らなかった事。明かさなかった私達にも罪はあります。」

 

 

茶髪の男性──レメクと、青みがかった髪の女性───カルエラは申し訳なさ気にティ・ガーに謝罪するが、ティ・ガーはそれに首を横に振って応えた。

 

 

「それは我々も同じだ。その気持ちは君らの故郷に着くまで胸に秘めてほしい。」

「判りました。」

「仰せの通りに。」

 

 

……そんなやり取りを()()()()()()()()を眺めつつしていた。

 

 

「……しかし、本当に凄いですね、ここは。」

「うん、私もそう思うよ。ガオガイガー、そしてカルディナ嬢の熱意には……」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

北に伸びる荒野を四足歩行の巨大な鋼の獅子──ギャレオンが腰から尾を引いた爆炎をな放ちながら疾走する。

G・インパルスドライブを併用した走法は、この世界のあらゆる存在よりも速い速度を叩き出す。

更にギャレオンは腰にハーネスを取り付け、自身と同じぐらいの大きさ───高さ12m、横幅11m、全長20mの箱形で、衝撃吸収器(サスペンション)付の4つの車輪がある牽引装甲車(ギャリッジ)を引いている。

彼等は今、ここにいる。

 

この牽引装甲車(ギャリッジ)は、元はフレメヴィーラ王国(銀凰騎士団)製のものを改良したものである。

本来の設計では幻晶騎士(シルエットナイト)やモビルスーツを運搬出来る仕様ではなく、純粋に物資や人を運ぶ仕様となっているが、今回はモビルスーツ1機(ランドマン・ロディ)を搭載している。

それで収容人数は最大50人程。物資を無視すれば100人は超える。

そして居住性は非常に良く、移動時の振動も問題なく、長期間の滞在にも十分耐えれる。

簡単に言えば、家ごと牽引しているか、巨大なキャンピングカーを牽引しているか、そんなイメージして頂けたら解るだろうか。

 

尚、部品は試作品で使用しなくなったものをバラしてトンネル経由で輸送してもらっている。

ちなみに密輸ではない。

自前の路線だ、密輸ではない。

 

そしてその牽引装甲車(ギャリッジ)の中には、デザインこそ拒否反応が少ないようにと、典型的で伝統的な貴族、王室の用いる部屋を模した客室の区画がある。

そこには上座に国王レクシーズ・G・アルドレイアを始め、近衛騎士団の精鋭数人を護衛とし、家臣のクリストファー・エルス・アースガルズ公爵。

世話係にフミタン・アドモス、他数名のメイド()

鉄鋼桜華試験団より団長オルガ・イツカ、副団長ビスケット・グリフォン。団員三日月・オーガス、クストース・マーレ・カエルム、ムルタエノス・ヴィアム・レクティオ。

特別団員にアシュレー・E・アルドレイア。

 

そしてもう4人ほど、ティ・ガーとレメク、カルエラと黒髪の少年が部屋に入ってきた。

 

 

「おお、待たせたね。」

「いえ。お身体は如何程で?」

 

 

扉の近くにいたカルディナの父親、クリストファーがティ・ガーの身体を心配するが……

 

 

「実に重畳。今でも自分の脚が不自由とは思えんよ。これもこの装備と、彼のお陰だ。」

「ありがとうございます。」

《──良かったですわね、ビルス。》

 

 

ティ・ガーの称賛に少々緊張する少年、名をビルスという。

そのビルスに拡声器(スピーカー)越しに褒める人物は、正面の額縁風の大型水晶映像盤(モニター)に映る人物───カルディナ・ヴァン・アースガルズだ。

 

 

ティ・ガーの脚は治癒した訳ではなく、秘密はティ・ガーの身に付けている装備にある。

 

IDメイルの応用で、軟鉄の伸縮性と人体の電気信号、そして魔力操作による3つを利用した、補助具である。

本質的にはIDメイルと何ら変わりないが、ティ・ガーの負傷した脚を重点的に()()から魔力操作で操れるようにしたのだ。

 

 

《ただ、魔力操作と思考制御の兼ね合いにはまだ改良の余地がありますわ。》

「ほう?これでもかい?」

「はい。今はご満足されていますが、今後意識されていない動作で違和感を覚えてしまうかと……なので、個人用のフィッティングはこれからになります。」

「なるほどね……実にいい!」

 

 

ちなみにカルディナは今、ギャレオンのコックピットに鎮座、操縦しているためリモート会議宜しくの如く、水晶映像盤(モニター)での参加だ。

 

 

《ティ・ガー様のお身体は、()()()()()()()()()()()のですから。私からも宜しくお願い致します。》

「……はい。ティ・ガー様、お役に立てて光栄です。」

「うむ。これからも頼むぞ、少年(ビルス)。」

「はい!」

 

 

一礼するビルスに、大いに頷くティ・ガー。

そんなティ・ガーにカルディナが尋ねる。

 

 

《……ところでティ・ガー様。試験団(彼等)はどうしました?》

「──ん、スマン。つい嬉しくてな、手心はしたのだが……」

《やはりですか。こちらでも見ていましたが、訓練相手にと試験団の団員、あと近衛の方々がボコボコにされてましたわ。ビスケット、至急応急手当(回復役)を。》

「あはは……判りました。それと見張り役はどうします?」

《陛下……》

「……残りの近衛にさせよう。この場はいい、1人残して彼等と代わって来い。」

「……承知しました。」

 

 

レクシーズの後ろに控えていた数人の近衛騎士が、1人残してビスケットと共に退室した後、それぞれが席に座る。

 

その最中、クストとルムが、レメクとカルエラにこそりと話し掛ける。

 

 

(……父さん、大丈夫?)

(ああ。しかし驚いたよ、お前達が貴族の方々と繋がりがあるなんて。)

(それは僕らも同じだよ。母さんもティ・ガー元将軍の所で働いていたなんて……)

(カルディナお嬢様の紹介でね。)

 

 

テーブルを挟んでレクシーズの正面に前に座る2人───レメクはクストの父親、カルエラはムルの母親である。

息子達に突然来て欲しいと頼まれて、やって来たら、まさかの運命的な会合である。

 

紹介された奉公先の主人のティ・ガー、そしてその関係者、そして紹介した当人(カルディナ)が、自分達の先祖を知り、交流があったとは夢にも思わなかった。

また、子供達にも先祖にまつわる力を有しているとは、どうして想像出来ただろう?

そして今、一丸となって故郷に向かっているのだ。

一族の代表としているが、2人は緊張以上に高揚していた。

 

……しかし子供達より事情を聞き、当日レクシーズやクリストファーより事の経緯を聞かされるや否や、半ばランデブー紛いに連れて行かれるのは止めて欲しかったとは言えない。

ティ・ガーのフォローが入るまでは生きた心地がしなかった。

 

自分達の一族の悲願である、故郷への帰還。

その手助けをしてくれると。

また、2人の容姿もまた一役買っていた。

 

 

「……似ている。」

「ああ、カインさんやアベルさんの面影がある。」

 

 

メレクは若かりしカインに似ており、カルエラは成長したアベルに少し似ている。

そしてレクシーズとクリストファーより、自分達の知らない先祖との交流を聞かされ、昔話を真摯に聞き、安堵した。

 

 

「……カイン殿、アベル殿には今でも感謝しきれない。そして貴公等にもまた感謝したい。」

「い、いえ、私共は何も……」

「いや、親あればこその子だ。貴公等がいなかればクスト、そしてムルの2人はいなかった。でなければ、惨事は免れなかったからな。」

 

 

その気持ちに偽りはない。

何故なら、先のゾンダー出現の事である。

カルディナより見せられたゾンダーの実映像を見たレクシーズ、クリストファー、ティ・ガーの3人は驚愕した。

そして遂に現れたゾンダーに際し、クスト、ムルの2人は『浄解』を発現した。

もしクストとムルがいなければ、『浄解』を発現出来ていなければ、その後どうなるかを国の重鎮3人は理解していた。

その親である2人には、国の代表としても一個人としても、レクシーズは礼をし、頭を下げた。

それに応え、レメクとカルエラは同じく頭を下げ、その光景を間近で見ていたクストとムルは、自分達の行動の大きさを知るのだった。

 

 

「……陛下、発言を宜しいでしょうか?」

「ああ、レメク殿。構わない、言ってくれ。」

「はい、では……今後の事についてなのですが、これから我らの故郷に向かう、との事なのですが……大丈夫、なのでしょうか?」

「大丈夫、とは……いや、確かにな。」

 

 

レクシーズがレメクの質問に言葉を鈍らせる。

レメクが気にしていたのは、未だ集落を取り巻く瘴気の事だった。

20年経過しても尚、晴れない瘴気。先遣の報告でも目視出来る程の濃さであるという。

口には出さないが、隣に座るカルエラも、そしてこの場にいる全員が出発前に周知されていたので、誰しもがその事を懸念していた。

 

そんな不安に対し、一考したレクシーズが答えた。

 

 

「……恥ずかしながら、今回の遠征に際し王国から、私個人としても、何一つ有効と思えるものは用意出来ていない。」

「そ、そんな……」

 

 

そもそも今回の遠征は極秘裏だ。

カルディナがクリストファーより過去に交流があった事、そしてクストがGストーンの感知に成功した事により急遽発案されたものだ。

事が事なので、カルディナが冷静さを失い、独断専行しそうなのを必死に説得し、最低限の準備をして翌日全力で疾走している、というのが事の経緯だ。

 

だが、それまでは重度のお通夜ムードだった。

現に全員の持つ情報が開示された瞬間、まずカルディナが発狂。

未だ晴れない瘴気が20年以上。事情を知る者なら絶望的だ。ゾンダーメタル等なくてもゾンダーになれる。

レクシーズやクリストファーすら、行動出来なかった後悔から脱け殻同然に落ち込んでいた。

そしてティ・ガーからの叱咤激励を受けた後、救助を立案した。

 

 

だが、集落を取り巻く瘴気に対し、秘密兵器的なモノは何一つない、という。

しかし、策はある。

 

 

「瘴気を除去する方法はあるという、そうであろう、カルディナ。」

《はい。》

 

 

瘴気を取り除く方法だが、理屈は単純。

『浄化魔法』を使用する。後は仕上げに『風魔法』で瘴気を吹き飛ばす、以上だ。

 

 

「……出来るのか?あの集落は結構な規模があるが。」

天使(ラファエル)の力と、ギャレオンに備えた『超増幅陣(ブーストエンチャント)』があれば、大抵のものは可能かと。戦略級詠唱(オーバード・スペル)以上の出力は出せます。》

 

 

ギャレオンに『くちからびーむ』をさせるため(願望)により、前歯4本に仕込んだ『超増幅陣(ブーストエンチャント)』。

いざとなれば、大概の戦略級詠唱(オーバード・スペル)は発動させる事が可能なのだ。

広域浄化は問題ない。

そしてやってのけれる娘の所業に、クリストファーは頭を抑える。

 

 

「……何でもありだな。」

「だが、元々お前頼みなのだ、任せる。」

《ありがとうございます。》

「だがそれ以上の懸念もある。」

「……時間、ですか?」

「ああ。」

 

 

カルエラの問いに、レクシーズは項垂れるように肯定する。

 

しつこいようだが、既に事が起きて20年以上経過しているのだ、誰しもが生存者がいるとは期待していない。

それが例えカインやアベルであっても。

また、今日まで差程騒がれなかったのは、その土地への往来が極端に少なく、そして瘴気自体が拡散しにくい盆地という環境であった事による事が大きい事を断っておく。

そして事態の解決方法を誰も持っていないのも一因である。

 

そして今回の唯一の解決方法を持つのはカルディナが契約している『天使(ラファエル)』だけになる。

 

天使(ラファエル)』は天使の中では一番『癒し』に長けた存在で、その延長で回復魔法や浄化魔法を得意とする。

ただ、カルディナと契約するまでは自ら動く事はなく、『天使(ラファエル)』という存在は宙ぶらりんになっていた。

その影響で、カルディナすら、浄化魔法を習得したのは3年前になる……

 

 

「故に、我々はどのような事態をも想定しなければならない、そこは判って欲しい……」

「……はい。」

「……解りました。」

 

 

覚悟していたとはいえ、レクシーズの言葉に少し落ち込むレメクとカルエラ。

しかし、落ち込んでいる暇はない。そう自身に言い聞かせ、気持ちを奮い立たせる2人であった。

 

 

……というのも、ここにレメクとカルエラが来るまで、縁あるレクシーズやクリストファー、ガオガイガー崇拝者のカルディナすらお通夜ムードだったのをティ・ガーが、

 

 

「落ち込むなら、集落について事態を収拾してからにせんか!!」

 

 

と叱責を受けて、立ち直った3人を出発前に見ていたのにも起因していた。

その後、各々頭が冷えるまでティ・ガーとレメク、カルエラは退室していたというのが流れである。

 

 

 

───閑話休題(それはいいとして)

 

 

 

「……あの、国王一つ懸念が御座います。」

「ん?カルエラ、何だ?」

「実は故郷に、『白き方舟』という守り神がおりまして……」

「それは……」

 

 

その場にいた者達は、『白き方舟』の言葉に反応した。

十中八九、超弩級戦艦Jアークの事だろう。

過去の記憶にも、Jアークらしきものが集落の後方に鎮座していたのは確認している。

そしてカルエラの懸念というのは……

 

 

「『白き方舟』には集落の番人がいる、という言い伝えがありまして、災いをもたらすモノには容赦なく滅びを与えたとか、それで……」

《もしかすると、私達の移動手段(ギャレオンと牽引装甲車)が攻撃対象になる、と?》

「……もしかすると、ですが。」

 

 

カルエラの懸念は十分に判る。もしそうであれば、重大な障害となろう。

ジェイアークにしろ、キングジェイダーにしろ、そしてジェイダーにしろ、反中間子砲やメーザー砲を撃たれでもすれば防ぐ手段はない。

特に警戒しているのは反中間子砲。

あれは原子核内の反発しあうクーロン力によって抑えつけられている中間子と対消滅フィールドを形成・射出する兵装であり、物理的な強度を無視して物体を原子崩壊へと導く、トンデモ兵器だ。

つまり当たれば即終了。核摘出を考えなければ、ゾンダーどころか原種ですら破壊出来よう。

それが8門搭載されている。

カルディナがガイガーにフュージョンしたところで、牽引装甲車(ギャリッジ)を守りながらは相手等出来ない。

正面どころか、かすりでもしたら即アウトだ。

『白き方舟』を知る者は、すぐにその事が脳裏によぎった。

特にカルディナはその事を十二分に熟知している。

 

だが、肝心のパイロットはどうだろうか?

過去の記憶にも、Jアークが起動したことはおろか、正規パイロットの『ソルダートJ』がいなかった。

この星に逃げ込むまでは、自動操縦でも可能だろう。

だが正式に起動、動かすには……

 

 

《特にトラブルを持ち込みたい訳ではないので、穏便には済ませたいところですが……》

「可能であれば、矢面に立って私もメレクも説得の場には立ちたいところですが……」

「集落の関係者とはいえ、生まれも面識もない私達ではどこまで力になれるか……」

「…そうだな、留意しておこう。」

 

 

いるかどうかわからないが、もしかすると脅威になりかねない。

心に引っかかるものを感じながら、一同は故郷の集落へ赴くのだった……

 

 

 

「──しかし、牽引装甲車(ギャリッジ)といったか。移動する前線基地と言っても通用する代物だぞ、カルディナ。」

《そうでしょうか?この牽引装甲車(ギャリッジ)自体には攻撃能力は御座いませんが。》

「だが居住性は善し、収用人員が100人を超える。馬車による移動が霞んでしまうぞ。」

《その代わり、ここのような平地でないと大きさ故に移動出来ませんし、荒れ地の山脈越えは無理です。移動の地形は限られてしまいます。」

「ではこの先の渓谷はどう越えるつもりだ?かなり深いが……」

牽引装甲車(ギャリッジ)は浮遊魔法で、後は両腰のG・インパルスドライブで浮いて行きます。》

「限られているんじゃないのか?」

《力業です。ギャレオンと私でないと無理ですわ。》

「ふむ、そうだったな。であれば、ギャレオンの構造、間近で見させて貰いたいが……」

《でしたら、ギャレオン(ミニ)が格納庫に御座います。そちらは壊さない程度であればご自由にご覧下さい。詳細は職人がいますので、彼らに……》

「ほう……長旅だからな、そうさせて貰おう。アースガルズ卿、貴殿も来い。」

「是非に……そうだ、カルディナ。それとは別にハンマーを担いだピンクのウサギの大きな人形があったが、あれはなんだ?」

《ああ、『ウサリンmarkⅡ』といいます。》

 

 

そして傍らで終始やり取りを見ていたオルガと三日月、そしてアシュレーは……

 

 

「……この世界のお偉いさんってのは、随分フリーダムなんだな。」

「……ん。あの人らが特殊なんじゃないのかな?」

「……うん、否定出来ない。」

 

 

さっきまでの空気はどうした、といった視線を向ける。

癖のある人物とは、おいおいそういうものではないだろうか?(偏見)

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

その後の旅路は、特に特筆するような事はなかった。

せいぜい旅団級魔獣がわらわらやって来て、近衛騎士が応戦、然る後、カルディナの父親のクリストファーがゴーレムで善戦し、復活したティ・ガーが同じく自前のゴーレムで無双し、レクシーズが魔獣を次々に光に還したぐらいである。

あとは師団級魔獣が一体出てきたが、ガイガーにフュージョンしたカルディナが一撃で首を斬り跳ねた程度である。

 

失ったのは近衛騎士達の自尊心(プライド)ぐらいだ。

 

 

 

……そんな事を繰り返しながら2日程、一行は遂に目的地()に辿り着いたのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

《───皆様、目的地の近くまで着きましたが……絶対に外には出ないで下さい。》

「……何?」

 

 

到着直後、カルディナが言い放った言葉に、一同は困惑するが、勘が鋭い者はすぐにその理由を察知した。

 

 

「カルディナ、外の様子を我々に見せる事は出来るか?」

《はい、こちらを……》

 

 

そして映し出された水晶映像盤(モニター)の映像に、一同は目を疑った。

そこには……

 

 

「ひでェな……」

「うん、これは……」

 

 

オルガと三日月が思わず同情し、呟いてしまう程の光景だった。

 

そこは(猛毒)の霧が立ち込める、大きな盆地があった。

木々は徹底的に枯れ果て、人どころか動物、魔獣、虫すらいない。

半ば冥界、死語の世界と例えられてしまうような場所だった。

そのせいで、クストやムルはもちろん、レメクやカルエラは非常に強いショックを受けてしまっている。

レクシーズやクリストファー、ティ・ガーは何とか正気を保っているが、思い出の地がここまで悪化している事に後悔の念が強く、言葉が出ない。

カルディナですらショックを隠せないでいる。

 

 

(事前に報告を受けてはいましたが、

ここまで酷いとは……これではゾンダープラントの方が、まだ綺麗と思えますわ!)

 

 

あちらは無菌、無発酵。

逆に発光、菌なし───

 

 

(あ、ダメですわ。素粒子Z0があるからノーカウント!)

 

 

付着したらゾンダー化する。

結局どっちも地獄だ。

 

 

「───ええぃ!!考えるのは後!!今は行動あるのみ!!天使(ラファエル)ッ!!」

《はい、カルディナ様。》

 

 

悪い予感を振りほどくように顔を振るカルディナは天使(ラファエル)を呼び、傍に顕現させる。

普段はメイド服を纏っているが、今は正真正銘『天使』の姿だ。

 

 

「他の『天使』も随伴して、集落の瘴気を解析。その後、浄化に最適な構成術式、及び必要装備のリストアップを!」

《御意に。》

 

 

要件(オーダー)を伝え終わると天使(ラファエル)は姿を消し、いつの間にか瘴気漂う集落の上を数体の天使を引き連れ、旋回する。

 

 

魔王(サタン)!」

《あいよ。要件(オーダー)は?》

 

 

こちらも、呼び掛けに応じて顕現。

普段はジャケット姿であるが、今は正真正銘の『魔王』スタイル。

 

 

「周辺の索敵を。他の『悪魔』を随伴して地形データの作成をして。周辺環境データも。出来れば生命反応も捜して!」

《任された。》

 

 

そしてその場から居なくなったと思えば、いつの間にか上空をハイスピードで飛び回り始める悪魔達。

 

 

《──そして……団長。》

「おう、装備はP2(Poison Protection)でいいか?」

《ええ。瘴気を解析、浄化してから突入して貰います。》

「……念のために、強化フィルターも持ってくが、いいな?」

《許可します。他に不安があれば追加装備を認めます。》

「よし、お前ら聞いたな!?準備に掛かれ!」

 

 

通信機(レシーバー)の先で鉄華団の威勢の良い「「おおうッ!!!」」と声が響く。

 

 

その一部始終見ていた一同は呆気に取られるのだった。

 

 

「……あれらが、今回のお前の切り札か?」

《出来れば『勝利の鍵』と仰ってください、陛下。》

「ん、ああ。しかし大丈夫なのか?鉄華団(小飼)を外に出してしまって……」

《まずは瘴気の毒素を分析して、最終的に浄化し終えた後に行かせます。万が一、密閉した空間に浄化し忘れた空気があっては困りますので───》

 

 

 

 

────その時だった。

 

 

 

カルディナが魔力(マナ)とは違うものの、非常に強いエネルギーを感じ取った次の瞬間、空へと疾り瞬く、幾多の閃光が───

 

空で旋回する天使達や悪魔達同も同じく()()を感じ取り、一斉に散り散りに回避行動に移り、間一髪避けた。

だが、空を切り裂くように放たれる閃光は如何に素早い天使や悪魔でさえも捉えようとしている正確さで矢継ぎ早に放たれている。

 

 

「な……何だ!?」

「この光はいったい……!」

《この閃光色は────まさかッ!?》

 

 

集落の奥より次々と放たれるピンク色の『ヤバい砲撃』。

そして皆が騒然とし、カルディナがそれが何かと気付いた矢先、傍らに天使(ラファエル)魔王(サタン)がギャレオンのコクピット内に瞬間移動して来た。

 

 

《カルディナ様、大変です!!》

《悪い予感が的中しやがった!!》

「……と言うことは、あれは────!!」

 

 

その瞬間、林一帯の木々が激しく波打ち、集落の奥から何かが浮上して来た。

 

 

くっきりとした8つの赤い砲身であるその驚異(反中間子砲)を鎮座した縦に長く、ホバリングで浮かび上がる黒い鋼いの台座。

そこから直角に上に伸びる、巨大な顔を白いマスクで覆い被せたような、そして金色の城のエントランスを模したような造りのバイザーに、その両端に雄々しく伸びる翼を象った翡翠のフレーム。

城を模したその頂点には翡翠で出来た城を模したような造形物。

何より、バイザーの中心に紅い十字の巨大な宝石(Jジュエル)

 

分離すれどもその強さは折り紙付きの存在。

空に浮かぶ鋼鉄の舟であり、空を舞う鳥。

 

その名も……

 

 

「……ジェイ、バード。」

 

 

軽巡洋艦モードである、ジェイバード。

まさかの機体にコックピット内で息を呑み、驚くしかないカルディナ。

だが、驚く暇すら与えるつもりがないのか、空に浮かぶジェイバードは更なる変化を遂げる。

 

 

《───フュ───ジョンッ!!》

 

 

 

響く声に呼応するように、反中間子砲を抱く台座が垂直に降り、その先端が起き上がり、足となる。

更に両極に広がる翡翠のフレームが90度回転、その下部より鋼の双腕が降り、現れる。

そして頭頂部が後ろに倒れると思いきや、その下から青いバイザーと、十字の紅いJジュエルの額当てを備えた鋼の顔が現れる。

 

四肢に力を漲らせ、()()は顕現する。

 

 

 

《ジェイ、ダァァァーー!!》

 

 

 

予想していた最悪の存在の1つ。

その名は、ジェイダー。

 

 

《……こうも抵抗するとは。》

 

 

地上に降り立ったジェイダーより言葉が発せられた。

それは苛思い通りに行かない、立ちを含めた言い方である。

 

 

「声が───でも、この声は……」

《ここは不毛の地にて猛毒の蟲毒。お前達盗人が来るような所ではない、早急に立ち去れ。》

 

 

それは警告であった。

だが、声の主は『ソルダートJ』の声では……いや、男性でも少年でもない、歴とした()()の声だった。

どちらかといえば、パルス・アベル寄りの声だが、完全に一致してはいない。

では誰か??

カルディナはその事に疑問を抱くが、それよりもジェイダーのパイロットに問い掛けた。

 

 

《───お待ち下さい!!私達は盗人等、そんな事をしに来たのではありません!!どうかその砲撃をお止めください!!》

《──!?スピーカーによる広域拡声ですって??誰かは知りませんが、どんな目的であろうとこの先へは行かせる訳には……これ以上の犠牲者を出す訳にはいかないので──!?》

《??》

 

 

不意に、ジェイダーのパイロットの声が途切れた。

だが、少しの沈黙の後、ジェイダーは思いも寄らない行動に出た。

 

 

《───『プラズマウイング』ッ!!》

《───ちょ!?何を……!?》

 

 

ジェイダーはギャレオンを見るな否や、光輝く孔雀の羽───プラズマウイングを広げ、突撃するッ!!

 

 

《──黙れ!!!私にそんな()()()()()()()()()()を見せるなんて……さてはゾンダーですね!!!》

《違いますぅっ!!!》

《『ミーム・レリーズ』など無用!!その核を破壊しますッ!!!》

 

 

まさかの勘違い。

だが激昂したジェイダーのパイロットには、今は何を言っても無駄ようだが……

 

 

《『プラズマソォォォーーード』ッ!!!》

 

 

そしてあろう事か、両腕には光の剣───プラズマソードを展開ッ!!

相手は完全に()る気である。

 

 

《……そっちがその気なら、こちらもっ!!》

 

 

牽引装甲車(ギャリッジ)のハーネスを緊急爆裂排除したギャレオン───カルディナは|魔力マナ》をギャレオンに滾らせ、猛撃するジェイダーに全力で突撃するッ!!

そして────

 

 

《──フュ──ジョンッ!!》

 

 

 

高らかな叫びと共に、跳び上がったギャレオンの両足が垂直に折れる。

両手の爪が間接から曲がり、鋼の手指を現す。

そして上半身が回転し、ギャレオンの顔が首ごとスライドして人体の胸部に移動。

その跡から頭部が現れ、オレンジ色の瞳に光が灯る。

 

四肢に力が漲らせ、顕現した白き巨人は自らの名を叫ぶッ!!

 

 

 

《ガイ、ガァァァーーー!!!》

 

 

カルディナは、ギャレオンとフュージョンする事により、マギウス・メカノイド、ガイガーへ変形するのだ!!

 

 

《───『ガイガー・クロウ』ッ!!!》

 

 

ガイガーへとフュージョン(変形)したカルディナは、ガイガー唯一の武器、ガイガー・クロウを起動、ジェイダーへと突撃───交差するっッ!!

 

 

《───くうっ!》

《───な!?弾かれた!?》

 

 

『障壁魔法』を施したガイガー・クロウをふるい、ジェイダーのプラズマソードを受け流すガイガー。

宙を高速移動するジェイダーは二度、三度とガイガーに刃を向けるが、一切刃は届かない膠着状態だ。

 

 

(──攻撃が通らないッ!?出力、機動性はこちらが上のはず!けど何で……!?)

 

(──ギリギリ、ですわ!かなり出力を上げて、魔力転換効率を最大まで上げているのに、その差は皮一枚の出力程度負けている……その差で防いでいる、あとは上手く受け流しているだけです、もし失敗するとそこで終わりですのよ!)

 

 

平静を装い、見た目は余裕そうだが、実際ガイガーはかなりギリギリの戦いだ。

特にガイガー・クロウは一撃を受け流す度に目立つ傷が絶えない!

『強化魔法』の耐久性をプラズマソードが僅かに越えているのだ。

耐久性が低い事が実に痛い。

 

 

(……であれば次で───!!)

(いつまでも後手に回るのは悪手、何とか近接戦に持ち込まねば──!)

 

 

そして再び互いが肉薄しようとする───その時、ジェイダーはその場で静止する。

 

 

《───近接攻撃(ガイガー・クロウ)しか武装がないのは知っています。喰らいなさい!『反中間子砲』っ!!》

《───なッ!?》

 

 

不意打ちの反中間子砲により、カウンター(逆に先制攻撃)を正面から受けてしまうガイガー。

 

 

その瞬間、辺りは爆煙に包まれたのだった。

 

 

 

 

 

 

《NEXT》

 

 

 

 


 

 

◯ビルス

『鉄血』2期で、アッシュ君が兄貴分と慕っていた、阿頼耶識の施術に失敗し下半身麻痺になってしまった人物。

こちらの世界に転生し、事故で脊髄損傷、下半身麻痺になって記憶を取り戻す。

半ば自暴自棄になっていた時に、お嬢様に自分を慕う少年達と共に拾われる。

その後、カルディナのシゴキを受けつつ、IDメイル完成後に医療応用のため、医療用パワードスーツの試験者に抜擢、その確立の立役者の1人となる。

現在は商会の会計を務めつつ、ティ・ガーのパワードスーツの調律者を受け持つ。将来は魔導義肢の分野を確立させる事に邁進する。

なお、試験団の中にはアッシュもいるが、記憶回復はまだ。

 

 

◯レメク、カルエラ

『公爵令嬢~』よりオリジナルキャラ。

レメクがクストの父親。

カルエラがムルの母親。

2人とも直系であるが、現地や周辺の集落との交流もあり、世代を重ねているため、外部の血も流れている。

カインの若かりし顔に似ているレメクに対し、カルエラは髪の毛の色のみ似ている。また、厳密にはこの世界にアベルの直系はいない設定。

2人には特別な力はなく、クストとムル、他の子孫も力を宿している者は強弱問わず、先祖還り。

 

 

◯ウサリンmarkⅡ

カルディナの習作。ガイガー(ミニ)は職人と共にアルドレイア王国で造ったが、ウサリンmarkⅡはエルネスティと(完全にネタ扱いで)造ったものをリメイクしたもの。

原点は『黄金勇者ゴルドラン』と『ブレイブサーガ』。

『もしもの可能性』を考慮し、制作されたが現状は不発。

しかしスペックは製作者に身に覚えがない程に高く、リメイク後の性能は破格。

操作方法はガイガー(ミニ)と同じく思念操作か、外部ケーブルによる魔力操作。

今回はとある目的のために持ち込まれたが……

 

 

◯ジェイダー

紛れもなく本物。

本来の性能はJ-002機に限らず、ジェイダーと謙遜ない。

ただし、とある事情で本来の力を発揮出来ないが……

 

 




次話に続く!




ちなみに、私がスパロボ30で予想しているネタは……


ナイツマからキトリーさんが、ソムニウム達とリミピッド・チャンネルでいきなり介入とか……
《──せ、先々代族長!?》
《───うむ。》


エル君の術式改変能力がエヴォリュダーの能力と同じだったり。
「ガイさん、じゃあGGGのコンピューターにハッキングですね!」
「何か楽しんでない!?」


ソール11遊星主がエル君の世界の宇宙で、三重連太陽系を創造する事を企んだり
「ここの暗黒物質は質が良いですね」
「だからって僕らの星に来ないでください。」


リュウセイとロボット談義
「スーパー系こそ最高だ!」
「リアル系こそ至高です!」


感激のあまり、一緒にロボットの脚に抱き付き火傷。(予想者多数)
「お約束ですね!」
「包帯ぐるぐるで言わない!」


キトリーさんとウサギまんじゅうさんが対面。
「ぷぷぷぷぅ~」
《……》
「ぷぷぷ……」
《……》
《……あの、何か言って?》
《──断る。》



一番オススメは……

「……キトリー様、ソムニウムだったのですか?」
《そうだが、何か?》
「……いえ。あと、アルフヘイムの地下はいつから花畑に??」
《良質なアニムスの花が育つのでな、コツコツと……》
「……」


これは実現してほしくない。



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Number.11 ~星の彼方より来たりし者達~(2)

皆さん、お久しぶりです。職域接種でワクチンを接種出来ましたが、特に後遺症もなく元気でいます。
ネットを見てるとガオガイガーに対する熱が高まる傾向が強く、非常にうれしいです。
ついでにこの熱で、台風と大雨と、コロナとか吹き飛ばしてくれるともっとありがたいですが……



~前回までのあらすじ~


・カインとアベルがこの星にいた!?

・急いで行ったら、ジェイダーが急襲!!

・仕方がないのでガイガーで応戦

・そうしたら反中間子砲!!←イマココ




《───近接攻撃しか武装がないのは知っています。喰らいなさいっ!『反中間子砲』っ!!!》

《───なッ!?》

 

 

不意打ちの反中間子砲により、カウンター(逆に先制攻撃)を正面から受けてしまうガイガー。

その瞬間、辺りは爆煙に包まれたのだった……

 

 

 

────が。

爆煙より吹き飛ばされ、負傷したのはジェイダーの方だった。

 

 

《……ば、馬鹿な。どうして私が、私の方が()()()()()()()()()だなんて。》

 

 

両肩の翡翠色のフレームがそれぞれ負傷している事実に、地に膝を付くジェイダーは、起こった所業の理解に苦しむ。

更に、ジェイダーの腹部──キングジェイダーのマスクになるフレームには3筋の浅い傷が刻まれていた。

 

 

《───如何です?ご自身の御業を受けたご感想は。》

《自分の……攻撃!?》

 

 

ジェイダーの前に悠然と立つ、胸に獅子を携える白き巨人───ガイガーに、ジェイダーのパイロットはまさかの事実に驚愕の声を上げた。

 

カルディナの取った戦法はこうだ。

ジェイダーへ突撃するのと同時に、発射された2問の反中間子砲。それに対しカルディナは魔王(サタン)を密かに呼び戻し、魔法──黒穴(ワームホール)()()を狙われた胸部に展開、同時に後方2点を両肩付近へ()()を展開し、反中間子砲をそこから逃がした。

 

そしてその先にはジェイダーが───

 

最後にバランスを崩したジェイダーの腹部に一当てし、投げ飛ばした。

これが一連の経緯である。

 

 

《そんな……初見で私の攻撃(ジェイダーの反中間子砲)を見切るなんて……》

《申し訳御座いません。ですがジェイダーに関して初見ですが、既に対策済みでしたので取らせて頂きました……対・ジェイダー戦法を。》

《た……対・ジェイダー戦法!?》

 

 

ジェイダーのパイロットが驚くのも無理はないが、カルディナは幼い頃から見ている『勇者王ガオガイガー』の勇者ロボ、他勢力のロボ、他全てに対して『ガイガーやガオガイガーに乗れたら、どう戦いましょう??』と脳内戦闘(妄想)を繰り返している。

それは年月を重ねる毎に、自身の能力を加味しながらだ。

その中にはジェイダーも含まれている。

これはその1つの成果。

 

筋金入りのオタクの妄想を嘗めるなかれ……

 

ちなみに、本来ジェイダーは単独では反中間子砲を使えない設定のようだが、カルディナは反中間子砲も使う状況も想定している。

現に使った人物が目の前にいるので、ノーコメント。

 

なお、未だに一対一(サシでの)攻略の目処が立たないのが、ピサ・ソール。

集団戦ならいざ知らず、一対一は厳しい。

 

 

《そんな……反中間子砲を使うのは私独自(オリジナル)の戦術なのに……》

《見るからに「撃つぞー!」みたいな位置ですのに、警戒しない訳がありませんわ。むしろプラズマソードで斬られた方がまだ危なかったです。まあ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょうが……》

 

 

───ピク

 

 

《……どうしてその事を??》

《ジェイダーにしろ、キングジェイダーにしろ、動力源は『Jジュエル』を使用した、ジュエルジェネレイター。その力を引き出すパイロットも『Jジュエル』を持つ強靭な()()()()()───『アベルの戦士』が必要な筈。いくら『浄解(ミーム・レリーズ)』の使い手であり、Jパワーの出力が高かろうとも、屈強な身体を持たない貴女では高機動戦闘は無理が祟るのではなくて?───アルマさん。》

《────!?》

 

 

ジェイダーのパイロット───アルマは驚いた。

まさか、自分の正体を言い当てられるとは思いもしなかった。

そして今のコンディションの事も……

 

 

《ただ、貴女に当てられたナンバーは解りませんが、お父様の記憶の通りなら……失礼ですが貴女はオリジナル・アルマ以前の存在『プロトタイプ・アルマ』、ですか?そう言う呼び名はどうも好きではないのですが……》

《……そこまで解っているなんて。》

 

 

そこまでの予想が出来たのは、父親(クリストファー)の記憶にあった彼女の容姿だった。

アベルとアルマでは本来髪の毛色が違う。

だが記憶にいた女性は『アルマ』と呼ばれており、髪の色・質感がアベルと同じなのだ。そして他のアルマにもそれは当てはまる。

ただしオリジナルのアルマは戒道幾巳であるため、考えられる可能性として『プロトタイプ(オリジナルに至るまでの存在)』が出てくる。

 

ただ、パイロットがソルダートJの誰かである事も考えたが……申し訳ないが動きが稚拙過ぎるのでその可能性は除外した。

 

ガイガーが負けていたのは機体の出力・武装だけである。(ふんす)

 

……であれば、目の前のジェイダーを操縦する人物は『プロトタイプ・アルマ』となる。

 

 

《……と、稚拙な推測ですが。》

《そう言う割には随分ズバズバ言い当てますが、貴女こそ何者ですか?それに『お父様の記憶』と言いましたね?誰の事です?》

 

 

ようやく話に食い付いた。

そう確信したカルディナ───ガイガーは安堵し、笑う事が出来た。

そしてジェイダーの前で片膝を付き、あえて跪く。

 

 

《申し遅れました。(わたくし)はクリストファー・エルス・アースガルズ公爵が長女、カルディナ・ヴァン・アースガルズと申します。この度は、我が父達の20年以上も前の盟約を果たさんがため、大変お待たせしましたが、この地に参上致しました。》

《アースガルズ……??盟やく……あ。》

 

 

 

──いつか、お困りの時は参上致します!!

 

──そうですね、いつか私達が困った時は……

 

 

 

不意に思い出されたのは、20年以上も前に交わされた、他愛もない子供との約束。

 

 

《あの、時の……?》

《はい。あと牽引装甲車(あちら)の窓をご覧下さい。》

 

 

言われるがまま、アルマは牽引装甲車(ギャリッジ)の窓を望遠拡大した。

 

そこには成長し、そして老いも見られるが、かつてカインによって集落に連れて来られた2人の少年と1人の若者が、あの時と変わらない眼差しで立っていたのを理解した。

 

 

《それじゃ彼等は、貴方方は私達を……!》

《救援に伺いました。永らくお待たせして申し訳御座いません。》

 

 

その言葉に、アルマの瞳から一筋の雫が……

 

 

──どれ程待ち望んでいただろう。

 

──どれだけ待っただろう。

 

──この永遠にも続きそうな暗い日々の終わりを。

 

塗り潰された絶望が、希望に変わりつつある瞬間を────

 

 

《……とりあえず、私達が敵でない事はご理解頂けましたか?》

《はい……》

 

 

──だが。

 

喜ばしいが、何も解決していない現状では喜ぶ事は出来ない。

アルマは喜びたい感情を自制してこらえた。

 

 

《……非常に有り難い事ですが、私でもこの20年あまり、この瘴気の除去に挑みましたが、原因の物体の除去が遅々として進まず、どうしても困難な次第です。》

《……成る程。ならば来た甲斐がありますわ。多少は力になれるかと……『天使(ラファエル)』ッ!!》

《───はい、ここに。》

 

 

カルディナの呼び掛けに応じて、ガイガーの目の前に顕現した天使(ラファエル)。その後ろには随伴した数体の天使もいる。

その光景にアルマは驚いてしまう。

 

 

《解析結果は?》

《酷い状況でしたが、汚染物質に関して私達の力で除去する事に問題ありません。ですが原因となった存在が厄介です、そちらは直接行使が必要、という結論に至りました。》

《原因となった存在……?》

軟体魔法生物(スライム)です。しかも変哲もない、ただの一般種です。》

《──ただの一般種!?》

 

 

天使(ラファエル)』の解析結果は、ジェイキャリアにある、倉庫にあたる箇所に原因の物質(物質X)があるらしいが、軟体魔法生物(スライム)が分解されない()()()()()()取り込んで、毒素を排出するルーティングをしているため、毒素が急速に蔓延、遂には集落を飲み込んだ。

また、飲み込んだ物質には軟体魔法生物(スライム)を爆発的に分裂、増殖効果があったようで、鼠算以上の増殖が行われたという。

 

結果、毒が毒を生むという最悪の悪循環が生まれた。

 

ただ、この物質Xに触れた軟体魔法生物(スライム)は、一定以上の体積、個体数には増殖は出来ないようで、古い個体は一定期間内に急速に死滅するらしい。

また、発生源がその倉庫の他、拡散した箇所数点があるが、それ以外は毒素が空気より重いため、広まっていないのが現状のようだ。

ただの一般種の軟体魔法生物(スライム)がここまでするとは思いもしない。

 

だが一番酷いのが……

 

 

《沈殿して地表に広がっている毒素に、うっすらとですが可燃性物質が含まれていました。》

《───はい!?そんなモノまで!?》

《それは……間違いないです。下手に手を下すとそれが爆発するので、今まで手を出せず……》

 

 

アルマも同意する。

しかも過去に一度、風で吹き飛ばそうとしたが、以上に重い気体であり、無理して飛ばそうとすると、かなり威力のある爆発を起こした。

以来、手をつけるのは断念したそうだ。

ちなみに、生成された可燃性物質はメーザーミサイルの中身だそうだ。

それも現状の量でも、集落は軽く()()出来るかなりの威力だ。

その事実に耳を疑うカルディナ。

 

 

《……アルマさん、ちなみにその取り込まれた物質とは??》

《……貴女には不思議と言えば解るようですので言いますが……光子エネルギー変換翼の予備素材です。》

《 《───!?》 》

 

 

何ともヤバい物質が取り込まれている。

きっと永い年月の間、僅かに差した光で可燃性物質が生成され、それが積層したのだろうか?

ついでにそれすら取り込み、分解しきれない余剰分で毒素も生成されたのだろうか?

 

ちなみに光子エネルギー変換翼とは、ジェイアーク全ての装甲、内部、武装(ミサイル含む)を太陽の光さえあれば修復、再生、補充が出来る、ジェイアークにおける最上のチート&超エコな装備である。

これを量産した赤の星って……

 

 

《……徹底的に駆除する必要がありますわね。『広域浄化』で毒素は浄化した出来ますが、軟体魔法生物(スライム)は魔法で排除したいところですが可燃性物質が……いっその事、引火させて一掃したいところですが……》

《流石にジェネレイティングアーマーを展開していませんので、してほしくない手段です。それに内部に被害が……》

 

 

引火による爆発は、倉庫のハッチが開きっぱなしの現状、爆風が内部にまで影響し、ジェイアーク内部でミサイルを爆発させる事と同義になってしまう。

また、ゴーレム持ちの山賊が最近近くに住み着いたようで、最近謎の粘着行為があったり、火を吹いたり帯電する魔物も出たり……

それらに対する警備、追い払いも20年あまり独りで行っていたため、ジェイダーを使っているとはいえど心労がピークに。

(魔獣は荒い粉末になっている予備素材自体に魔獣引き寄せる効果があると知らず……)

 

……よく引火させなかったと褒めてあげたい。

 

また、内部システムの管理も生体コンピュータ『トモロ』がいないとフル活用が出来ないため、現在は生命維持のみに限定している。

 

以上の事から、あらぬ誤解をしたのも精神的に追い詰められた影響もあったのだ。

 

あと、生存者だがジェイアークの倉庫ブロックの少し離れた区画にまとまっていたのだった。

 

 

《本当に!?》

《はい、ただ生命反応が弱いのが気になりますが……》

《それは生き残りは皆、コールドスリープで眠っているからです。》

《何と!では皆様、無事なのですね?》

《………皆、という訳ではありませんが。》

《??》

 

 

何故か口ごもるアベル。

何か事情はあるようだが、ひとまず置いておいて……

 

 

《では、アベルさん。今後の行動指針ですが、ちょっとお耳を……》

《え??あ、はい────え、出来ますけど。》

《であれば、………を……しますので……》

《ええーー!?ですがもし……》

《……を閉じれば宜しいかと。気密性はどうです?》

《……あ、大丈夫でした。衝撃による心配もないようです。》

《では問題ないですわね。憂いなく行けるかと。》

 

 

何か企んだらしく、アルマにも同意を得られたようだ。

だがジェイダー───アルマは黙ってしまう。

 

 

《……アルマさん?》

《……私では考えられなかった方法です。》

《そうですわね……ですが、長い間切羽詰まった状況ですし、独りであれば余裕がなくなるのは無理はないのでしょう。ですが()()であれば解決出来ます。》

《2人……》

《独りではないのです。刃を交えてしまった間ですが、今はお手伝いをさせて下さい。》

《……ありがとう、ございます。》

 

 

そんな時だった。

 

 

《───お嬢、何だかいい雰囲気のところ申し訳ないが、いいか?》

《オルガ団長?どうしました?》

《悪い報せだ、魔獣の集団がやって来やがった。》

《おおぅ……》

 

 

何と間の悪い報せだ。

だが、カルディナは一考した後、オルガに《そのまま素通りさせなさい》と指示。

 

 

《……いいのか??》

《構いません。長年、ここの守護者(アルマさん)を苦しめた報いを受けて貰います。それと陛下はいらっしゃいますか?いたら代わって頂きたいのですが……》

《ああ、傍にいるから代わるぞ────どうした、カルディナ。》

《陛下、これより瘴気───毒素の除去と、魔獣の殲滅を行います。》

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「───ええ!?あの『白亜の城』に異変!?」

「はい、如何なさいますか?」

「直ぐに出ましょう、準備を!!」

「「「───おおぉっ!!!」」」

 

 

薄汚れた武骨な服装に、武骨なゴーレムに乗り、ゴーレムに乗った手下を数体引き連れ、全力で進軍する(本人達はそんな気はなしの)、一団がいた。

彼等は過去に国王レクシーズの改革で不正を暴かれ、落ちぶれた元・貴族その親族、その家臣達だった。

ボキューズ大森林に面しない貴族の実力は、面している貴族と雲泥であり、対・魔獣との戦力になれず、人の少ない北に逃げ落ちるしかない者達が殆どだった。

 

その一団の先頭に立つゴーレムライダーの1人、クルシエル・ロア・アズラグラッドは貴族の典型的な貧乏令嬢だ。

男勝りな彼女は男装を常とし、周りの女性の評判も高かった。そして能力も高く、顔立ちの良い少女ならぬ、あどけない()少年のようだ。

だが子爵の父親が、身内も知らない間に不正を働いていたため知らない間に没落し、家もそうだが去年までいた学院をも離れる事に。

そして最後まで残った忠誠心の高い家臣を引き連れ、家を出ていかねばならなかった。

幸い、()()()()()より指南されたサバイバル術で家臣共に今日まで生き残っている。

そして新天地を求め、昨年の終わりにはこの近辺に辿り着いたのだった。

 

その地は不毛であると言われ、瘴気が立ち込める故に人は住めない。

住居跡───集落はあるが、猛毒の瘴気がその地に足を入れる事を赦さない。

 

だが、そこで見た。白亜の如く美しい城を。

(※宇宙船です。超弩級戦艦です。)

そこを守護する鋼の巨人を。

 

そして思った。

 

 

(──あの白亜の城の城主とお近付きになりたい!!)

 

 

だが、現実は非情である。

相手(アルマ)からは盗賊呼ばわりの、近付けば砲撃の嵐(反中間子砲)の合間を命懸けで回避する日々。

それでも懲りず、諦めず……

 

……性格は()()だが、彼女自身は『ノブレス・オブリージュ』の体現を目指す者で、日々の生活に困ろうとも貴族を貫く、悪い人物ではない。

早い話が誤解されているのだ。

 

そんな彼女が普段とは違う状況───鋼の巨人同士が戦う、異様な戦場を見逃す訳がなかった。

 

片や城の巨人。

片や獅子の巨人。

 

異変にすぐ気付いた後は、移動しながら今までの迫力高い戦闘を目に焼き付けていた。

そして今、巨人達は間合いを狭め、何かを話すような仕草をしている。

 

……瘴気のせいで近くに寄れず何も聞こえず、遠く離れて見るしかないのが口惜しい。

 

だが、その後は圧巻の一言。

 

城の巨人は形を変えて空に舞い上がり、ゆっくりと白い城の城壁に降り、いつもの姿(ジェイアーク形態)に戻った。

 

それからもう片方の獅子の巨人は、上空にさも当然のように上がり、そのまま停滞する。

そして眩い光を発した。

その中で垣間見たのは、獅子の巨人(ガイガー)の背中に幾重にも広がる、白い羽毛を携えた天使の翼と、黒く艶のある悪魔の翼だった。

 

次にその巨人は強靭な両腕を広げる。

すると、その周囲に巨大な紋章術式(エンブレムグラフ)が展開され、そして次々と関連術式、増幅術式etc……が展開、そしてそれら全てが織り合わさり、統合……巨大な球形術式が巨人の周囲に展開、完成された。

 

そして巨人の胸にある獅子が咆哮すると、更に光は強まり、今度は女性の声で《詠唱》を始めた。

それは、透き通るような女性の声であり、どこか聞いた事があるような声だった。

 

 

 

──サンクトゥス(ここは聖域なり)

 

 

──レッフェルト(大切なもの)

 

 

──テストル(その誓いを以て)

 

 

──ルルーウス(今一度)

 

 

──ヒーク レリヴィーム(この地に救済を)

 

 

 

……それはどんな神聖な意味を持つ言葉でも比喩にはならない、そうクルシエルは涙を流しながら感じた。

 

迸る光の粒子は集落のありとあらゆるものを呑み込み、光に包んだ。

そして光が晴れた時には……

 

 

「……あの毒々しいまでの瘴気が、消えてるっ!!」

 

 

獅子の巨人は毒素の完全浄化を完了したのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

《毒素の分解浄化、完了です。》

「ご苦労様。しかし……毒素の正体の大部分が一酸化炭素とは意外でしたわ。残りはVX並の毒物ですが。」

《あの毒々しい霧も消しましたが、軟体魔法生物(スライム)と、原因の元の物質、可燃性物質まではまだです。これらが大量に絡み合うと、低域に全部留まったままになります。》

「何とも傍迷惑な……」

 

 

ガイガーのコックピット内で浄化結果を精査するカルディナと天使(ラファエル)

結果は問題なし。毒性物質は全てが消滅した。

まあ、残りはこれからであるが……

 

 

《カルディナ様、先程の詠唱は何か『浄解』のような詠唱でしたが……》

「……時にはロマンも必要なのです。」

《そう、ですか。(まあ、浄化効果は通常の170%越えでしたので、善しとしましょうか。)》

 

 

結果は上々であったので、その事には目を瞑る天使(ラファエル)

ちなみに詠唱の正体は昔、カルディナが考えた『浄解』の詠唱のアレンジである。ただし当時はこんな絶大な効果を発揮していない。

 

カルディナは気づいていないが、効果範囲が集落を超えて、この山岳一帯を浄化したのだった。

 

 

───閑話休題(それはもういいとして)

 

 

《──お嬢、魔獣共だ。》

「おっと。」

 

 

魔王(サタン)の声に我を取り戻したカルディナ。

次は魔獣だが、その規模は推定100以上と大きい。

生成された毒物の中には、魔獣を誘き寄せる成分でも入っていたようで、除去されてもすぐには止められない。この状況でチマチマ相手をするには、些か数が多い……であれば次に取った行動が───

 

 

「───『コレ』を使う日が来るとは……」

《ああ。正直、正気を疑うがな。にしても問題ないのか?》

 

 

カルディナはガイガーを起動させたまま、コックピット外のギャレオンの口から出てくる。

カルディナは『収納空間』より身の丈もある「IH-99-3」と描かれた白いミサイルのようなものを取り出し、発射台に乗せた。

コレは何だ……??と思う者が大半だが、一部の者には、おや?と感付く者も……

 

 

「問題ありません……と言いたいところですが、問題だらけです。ですが急性な現状に対応するにはこれしか方法がないのです。かなり過激になりますが、こうなれば私なりの方法で事態の鎮静化してやろうではありませんか。」

《……とても御丁寧な事で。まあ、指示通り初手は下すから、後は見せて貰おうか。》

「勿論。では魔獣達が集落に入ったら始めます、アルマさんもご準備は宜しくて?」

《こちらは何時でも。》

 

 

これにて次の準備が全て整った。

 

 

《魔獣群体、接近距離試算……カウント12より開始。》

「アルマさん!!側面ハッチ閉塞後、ジェネレイティングアーマーを!」

《了解、側面ハッチ閉塞。ジェネレイティングアーマー、起動……展開!》

 

 

まず、アルマがジェイアークの側面に開かれたハッチを閉める。毒素が消失したその区画には、僅かな可燃性物質を内包した軟体魔法生物(スライム)のみが閉じ込められる。

そして白い方舟の全体に赤い高出力のバリア──ジェネレイティングアーマーが展開される。

 

 

魔王(サタン)は『雷撃散弾(スタンバレット)』発動の用意。」

《了解。》

「では私も……魔力(マナ)充填開始。」

 

 

カルディナは白いミサイルのようなものに魔力《マナ》を充填開始すると、それは振動を始めた。

それは充填が進めば進む程、振動が強まり段々と保持に困難が生じ始めるが……

 

 

(──まだこの程度!序の口ですわ!)

 

 

全身が超高周波振動に苛まれようとも、気合と『強化魔法』でどうにかした。

その間にも魔獣の一団は集落への侵入をし始める個体が次々に現れ、遂にほぼ全ての魔獣が集落への侵入を果たそうとするが……

 

 

《──カウント4、魔獣の集団侵入を確認。》

「そ、それでは各員、対衝撃・閃光防御!『雷撃散弾(スタンバレット)』発動!!」

《了解、派手に吹っ飛べ!!》

 

 

魔王(サタン)により、落雷の如く激しく飛び散る『雷撃散弾(スタンバレット)』が集落の中心地───可燃性物質と空気が程良く溜まっている地点に落ちた瞬間────視力を殺す程、強烈な閃光がっ!!

この瞬間、地上の魔獣達は燃え上がる超高度の熱炎(フレア)に焼かれ、同時に酸素は潰え、極度の酸欠状態に陥る。

そして巻き起こる大爆発が────

 

 

 

「───イレイザー・ヘッド、

───発射ァっ!!!」

(山田◯一さんの声真似で)

 

───集束し、空の彼方に消え去った。

 

カルディナが使用したものは、超竜神専用・ペンシル消しゴム型ハイパーツール、『イレイザー・ヘッド』である。

 

これは魔術的に再現、小型化した試作品(3号)であり、数年前カルディナが魔術学院に在籍した時の作品で効果は既に実証済み。

「学院のグラウンドを2度、火の海と焦土にして実証した傑作」だという。

ただし、間違っても人が使用すると無事では済まないロボット専用品と結論付けたもので、生身の人物が使うと超高周波振動で身体の組織がズタズタにされてしまう。

 

実験に参加したカルディナ以外の生徒は起動実験直後に振動で悲惨な目に遭ったという……

 

 

白いミサイルような物体───イレイザーヘッドの弾頭をカルディナは多大な衝撃と共に高速射出、爆発源に到達した瞬間、一気に超高周波振動が発動。あらゆる爆炎、衝撃が強制的に集束、強烈な光を放つ一筋の光の柱と化した。

それは空の彼方へ吹き飛ばしてしまい、跡地には丸焦げになって、更に超高周波振動による集団シェイクにより瀕死な魔獣の山が残された。

 

結果、一瞬だけ

そしてカルディナ自身も……

 

 

「……プルプルプルプル……」

《カルディナ様、我が身を削って人助けなんて、何て痛ましい……》

《いや、イレイザーヘッドの発射の衝撃で大ダメージ、じゃないか?解っていただけに自業自得だろうよ。》

 

 

四つん這いのガイガーの下で、悶え苦しんで悶絶していたという……

超高周波振動のダメージは並大抵ではない。

それでも……

 

 

「た……待機中の小隊、に通達。魔獣と……軟体魔法生物(スライム)の掃討を……」

《……了解。だがそっちは大丈夫か??》

「フフフ……30分程、休憩すれば問題ないですわ。それまで……屍になってます。」

《……判った、しばらく休んでくれ。》

「あ、あいるび~、ば───グフォ

《………》

 

 

意識が途切れる前に指示だけは忘れない。

通信を受けたオルガと、周辺の団員や国王達は、行われた偉業以上に、そのコントじみた通信内容に苦笑いするのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───ありがとう、ございます。」

 

 

 

ジェイダーより降りてきたアルマは、深々と頭を下げた。

 

カルディナ撃沈後、鉄華団と近衛騎士、そして国王(レクシーズ)自らも手分けして魔獣や老朽化した集落の後処理を行った。

人だけでは困難な後処理も、ゴーレムやモビルスーツ(ランドマン・ロディ)があれば早々に終える事が出来た。

ジェイアーク内の最後の軟体魔法生物(スライム)も無事駆除する事が出来、ようやく一段落出来たと言える。

途中、クルシエルの一派も合流、ジェイダーに乗ったアルマに頭を下げながら懇願して和解、後処理を手伝ったのも大きい。

 

そうして後処理を終えた一同は、ようやく顔合わせをする事が出来たが、アルマは予想どおり注目の的だった。

レクシーズ達以外は初めて会うアルマに、鉄華団の団員、そして近衛騎士達も思わず見惚れてしまう。

 

顔こそ大人になったアベルだが、腰まで長く伸びた髪を一本のリボンで結んだという単純な髪型が、あのツンだけのイメージからおっとりした柔和なイメージへと変えている。

そして長年の苦労故の儚さか、庇護欲が漂い、魅力としても感じてしまう。

 

だが、白の布一枚にベルトで形作ったワンピースに、上半身を包むマントという単純な服装なのだが、出るところは出て(ガガガらしい)締まるところは締まる(ボン・キュ・ボン)のメリハリの効いたスタイルになっているのは、どうしてだろうか?

 

 

(なんつーか、ムルの親戚のお姉さまって感じだがよ……)

(ああ、すげぇ別嬪。お近付きになりてぇ。)

(その辺り、どう思いでしょうか、ムルさん?)

(……いや、僕に言われても。親戚云々の前に、年齢からして遠いご先祖様ではと思うが……)

(……そういやそうだったな。)

(……ああ、俺達のささやかな希望を反中間子砲で見事に砕いて来る、さすが三重連太陽系の住人。)

(いや、アレは普通にアリだぞ。エルフとかどうすんだ?)

 

(((( ───!! ))))

 

「……失礼だぞ、お前ら。」

「……申し訳ございません、アルマ殿。」

 

 

多少の耐性は付いているが、それが逆に綺麗な女性に対して見惚れる『普通の』反応をする団員達に、オルガは半ば呆れつつも一言。

近衛騎士の中にも、女騎士がとある男騎士の鳩尾に鎧越しに一発入れに行ったところ(男女のもつれ)があり……レクシーズも頭を抑えつつ謝罪する。

 

 

「は、はぁ……」

 

 

流石にそれにはどうリアクションすればいいか解らないアルマだったが、話を戻す事に。

 

 

「しかしレクス、クリフ、ティ・ガー……あの時の少年達が、この集落を救ってくれるなんて、感謝の念が絶えません。ですが、ここにいったいどのようなご用件で?それに、あれは……」

 

 

アルマが警戒するのも無理はない。

遠目に、現在はギャレオン(ライオン)へと姿を変えている三重連太陽系の象徴であろう1つ。

三重連太陽系において、ギャレオン──ガイガーは広く知られているはず。

それがこんなところにあるとは、まず疑うのが自然だ。

 

 

「あれは……私の娘が創ったもので……」

「───すいません、クリフ。今、『娘』って言いました?クリフの子供……ですか?」

「はい。私の子供が創りました。」

「…………」

 

 

クリストファーからの申告を受けたアルマは、目をパチクリさせた後、眉間をマッサージし始める。

マッサージをしながら何か小さい声で「……あるぅえぇ??ガイガーって、ギャレオンって子供が創れる代物だったっけ??出来たっけ??え??」と自問自答している。

 

……それはそうだろう。

 

そしてそんな申し訳ない空気の中、レクシーズがアルマの質問に答える。

 

 

「……それで、本来であれば集落の解放だけが目的でしたが……真の目的は我々はカイン殿とアベル殿のお力をお借りしたく───」

「…………」

 

 

カインとアベル───その言葉が出た瞬間、アルマの動作が凍り付いたように止まり、そして顔を背けてしまう。

 

 

「申し訳、ないのですが、御二人は今……ここにはいらっしゃらなくて……いつ、帰ってくるかも……」

 

 

気丈に振る舞うようにしているが、先程のやんわりとした雰囲気は霧散し、アルマの身体は小刻みに震えている。

その態度が今、2人がどんな状況に在るか、何となく語ってしまっている。

その様子にそれからどう声を掛ければ良いか、一同言葉を詰まらせてしまう。

そんな時に、彼女はやって来た。

 

 

「───そこまで重篤、もしくは危険な状態、なのですね?」

「カルディナ!?体調はいいのか?」

「はい。流石にイレイザーヘッドの生身撃ち(超振動をモロ受け)は堪えましたが……」

 

 

フミタンを共に、鎧姿(IDメイル)のカルディナがアルマの元まで歩む。

 

 

「……貴女は、クリフの娘さんですか?」

「はい、カルディナと申します、アルマ様。」

「……私はアルマ-000(ゼロ)と言います、カルディナ。貴女の言う通り、私は『アルマシリーズ』の000(プロトタイプ)です。」

「……そうでしたか。」

 

 

カルディナとアルマは、自己紹介をした後、しばらくお互いを、ただ無言で見つめた。

本当に言葉はなくただ無言で、その場は沈黙した。

 

 

……そして、その沈黙を破ったのはアルマからだった。

 

 

「……貴女とは、今日初めて会った、そうでしょう?」

「はい、間違いなく。」

「なのにどうしてか、先程やり合った時は手の内を見透かされている、瘴気の除去も私とジェイアークに絶大な信頼があった───そんな気がしてなりません。どうしてですか?」

「それはきっと、私が貴女方(三重連太陽系)を知っているからです。」

 

 

それは質問に対する最大公約数の答えであり、アルマには完全に理解・納得のいかない答えである。

 

 

「それは、どうしてです?」

「是非とも話したいですが、今語るには長くなり過ぎて駄目です。それに今はカイン様とアベル様の事で、本当に時間が惜しいのでは?」

「……本当に、判って言っているのですか?では私が御二人の下に案内する、とでも?」

「そうしなければならない筈。それに私は知る知識より推論・推測の元、お話していますが、お2人が霊魂の状態であろうとも、お救い出来る事を確約します。」

「───!!」

「「「────!?!?」」」

 

 

それは飛躍し過ぎ、そして大口を叩き過ぎでは!?と誰しもが思った。

そして気に触ったのであろう、アルマがカルディナに詰め寄る。

 

 

「それは本気で仰っているのですか?」

「私にとっても御二人は是が非でも助けたい方々です。二言も嘘もありません。」

「……判りました、ご案内します。」

 

 

そう言って、マントを翻すアルマは早足で歩み始めその後にカルディナとフミタンが続く。

何がアルマの気持ちを動かしたかは、端から見ていても解らないが、きっとカインとアベルを助けたい気持ちが勝ったのだろう。

そして緊張の場面を目撃した一同は、一拍遅れて彼女らの後ろに続くのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

案内されたのはジェイアークのとある区画。

そこは薄暗く、部屋の中央に2つの長方形の箱のようなものがあるだけの場所。

箱の上面はガラスで、中身が見えるようだが……そこに()()()()人物に、一同───特にレクシーズ、クリストファー、ティ・ガーは落胆したが、それも一瞬だけだった。

 

何故ならその箱は棺であり、カインとアベルが安置されていたからだが、その上にはぼんやりと光に包まれたカインとアベルがいた。

服装こそアニメとは違うが、容姿は瓜二つであった。

 

訳が解らない。

他の騎士や団員も状況が呑み込めていない様子。

ただ2人、理解しているのが……

 

 

「精密なホログラムですね。角度を変えて見ても粗がないところを見ると……質量再生型か、全方位投影型かは気になるところですが……」

「気にするところが、まずそこですか?いえ、概ね合ってますが……」

 

 

通常運転のカルディナに、半ば諦めたように突っ込みを入れるアルマ。

そんなアルマの様子に、微笑ましく笑うカインに、眉間に皺を寄せるアベルが口を開いた。

 

 

《……外の様子は逐一、見させて貰ったよ。あの瘴気と原因のスライム(物体)、退治出来たようだね、アルマ。》

「はい、カイン様。」

《随分騒がしいと思えば……知った顔がいるよですが、アルマ。》

「はい、アベル様。皆さん、集落の瘴気除去と復興に尽力してくれています。」

《……そうですか。》

 

 

頭の中に直接響く会話───リミピッド・チャンネルである。その場にいる者達にはハッキリと聞こえており、初めて応対するものには少々刺激が強いようで戸惑う者も。

それににこやかに応対するアルマ。先程の鬱蒼とした表情は何処へやら……

 

 

「……カイン殿。遅くなって申し訳ありません。」

《なに、構わないさ。こうして来てくれたのだからね、嬉しい限りさ。》

《まあ、よくやったと褒めてあげましょう。》

「相変わらず辛口評価ですね、アベルさんは……」

 

 

それに目の前にいる2人はホログラム投影された軽質量体なのだろう。触れる事も出来るようで、アルマを撫でる事が出来れば、レクシーズ達の握手にも応じる事が出来ていた。

 

……だが。

 

 

《この度はこの集落を救ってくれて、お礼の言い様がない。出来る限りのお礼をしたいところだが……》

《───では、御二人方の命を預からせて頂けませんか?》

《……誰です?》

 

 

同じくリミピッド・チャンネルで介入してきたのはカルディナ。自ら進んで前に出て、一礼する。

 

 

《クリストファーの娘で、カルディナと申します。》

《君は……君がギャレオンに、ガイガーにフュージョンしていた子、だね。》

《はい。カイン様にしてみては、あのギャレオンはイミテーションに見えるでしょう、お笑いください。》

《あの様な芸当をしてイミテーションとは……笑うどころか、感心しか出来ない。して、命を預かるとは??》

《言葉通りです。》

 

 

2人から感じられるエネルギーは、存在出来るギリギリ。これでは今日が峠、風前の灯火と言われても不思議ではない。

遠巻きより魔力(マナ)とは違う、未知のエネルギーを2人から感じ取るカルディナだが、アベルは気丈に、カインは親和的に振る舞っているものの、肉体より隔絶された(霊魂だけの存在と化した)2人の存在は限界に達していた。

カルディナを始め、感受性に富んだ者であれば、状況を知れば知る程、2人の振る舞いが痛々しく見えてならない。

 

 

《そうか……見えるのだね、我々の残りの時間が。この星は文明こそ未熟だが、エネルギーの扱いには一目おける。その中でも君はその才が突き出ている……ふむ。魔法、魔術か。》

《……カイン?まさかその子供の戯れ言をまともに取り合うつもりですか?》

《その価値はあるかな、と思うけど。》

《……初対面の輩に、委ねるのは非常に危険では?それに私達の魂は、もう元の肉体には戻れないと結論付けたはずですよ。それとも……貴女はそれが出来るとでも?》

《はい。》

 

 

肯定的なカインに対し、横目でカルディナを睨む否定的なアベルに、カルディナは迷いなく答え、肯定した。

その自信満々な態度にアベルは大きく溜め息を吐いて目を閉じる。

 

 

《……どうやら本気のようですね。》

《少なくとも、魂の保存は今以上に出来るかと。ただし、肉体憑依へは遺体の状況次第では時間がかかりますが……》

《……判りました。その本気度に免じて、貴女の提案を受けましょう。ただし、魂の現状維持が最優先ですからね。それを怠るようでしたら───タダではおきませんよ。》

《もちろんです。》

 

 

そして2人からの了承を得たカルディナは、早速通信機(レシーバー)へ次々に指示を跳ばす。

その様子をアベルは何とも言えない表情で、カインは微笑ましく眺めている。

大の大人にすら指示を出し、的確に動かす手並みは指導者のようだ。

しかしどうして彼女(カルディナ)はここまでするのか?

しかも来て早々に、ここまで手筈が良いのか。

 

 

《……貴女にそこまでさせる理由は何です?》

《そうだね。ここまでする理由を伺いたいところだが……》

《……理由は3つありますが、まず御二人を敬愛するがため。もし御生存されていましたら是が非でもお役に立ちたいと願った次第です。》

 

 

何とも嬉しい理由である。

だが次の理由を聞いた2人は、耳を疑った。

 

 

《次に、ゾンダーがこの星に現れたためです。》

《───!?》

《───なん、ですって!?》

《残念ながら事実です。実際に撃破、浄解もしています。》

《……浄解もかい?》

《はい……ですが、これ以上は言えません。》

《何故です?》

《……時間が掛かり過ぎるから、かな?》

《はい。御二人の安定化が優先です。でなければ、最後の理由も話せません。》

《……いいでしょう、その言葉に乗ってあげます。》

《ありがとうございます。》

 

 

 

……そして始まった、カインとアベル、2人の魂の安定化。

 

 

 

 

 

 

 

……しかし。

 

 

 

 

 

 

ピッコ、ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ───

 

 

 

「……アベル、止めてもらえるかな?」

「そう思うなら、私の姿を今すぐ変えなさい、ええ今すぐに。」

「かわいいだろう、似合っていると思うが。」

「同意しますわ。」

「そう思うなら、いっそ殺してください。もう遠慮なく。」

「「断る。」」

「orz」

 

 

ギャレオン(ミニ)の頭に、ピコピコハンマーを無心で連打し、地面に四つん這いになるウサリンmarkⅡ、という訳が解らない構図が出来上がった。

 

 

「カイン様にギャレオン。アベル様にウサリンmarkⅡ……ええ、実にいい組み合わせかと。」

「「「───どこがだ!!!」」」

 

 

そして犯人はカルディナ。

 

どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

《NEXT》

 

 

 


 

 

〇VSジェイダー戦

とりあえず「こうすりゃ勝てるだろう」という妄想を入れました。

どんな戦いになるか予想していた方、当たりましたか?

……いや、何かすいません。

ちなみに黒穴が手札にない場合にはすれ違いざまに打ち落とす予定でした。

というか、ジェイダーの脚、どう見ても撃ちそうと思ったのは私だけでないはず。

 

 

◯アルマ-000(ゼロ)

本作品オリジナルのキャラです。

オリジナル・アルマの試作版、という立ち位置で、浄解こそ出来ますが、ゾンダーの感知は出来ないという設定です。

見た目は「大人になった大人しいアベル」。

2人並べたら親子、とか言わない。

 

◯イレイザーヘッド

生身で使用するとこうなる、という実例。

だから超竜神じゃないと使えなかったのでしょう。

ちなみに、イレイザーヘッドの有効範囲内では生身ではこうなる、という予想を魔獣が代わりにしてくれたのですが、あらゆる爆発、衝撃を強制的に集束する以上、まずただでは済まないでしょうね。

 

 

◯カイン&アベル

回想以外で初登場ですが、既に死んでいる。

いや、幽霊になって生きてますよ?

え?そうじゃない?

 

 

◯ギャレオン(ミニ)inカイン

Number.04 ~『勇者王』を創る決意~(2)より出た、カルディナさんのガオーマシンと試験的にFFしていたガイガーです。前話にも登場してます。

今回、カインとフュージョンっ!!

もちろんガイガーにも変形します。

うむ、これがあるべき姿の1つだ。

 

……え?じゃあ次は何だって?

 

 

 

 

◯ウサリンmarkⅡ inアベル

 

どうしてそうした!?(代弁)

前話にて出ましたウサリンです。

ブレイブサーガ知っている人は判るでしょう。

 

もっふもふの、ピンクのうさたんです!

あかいドレスにハートマークのエプロン、かごにだいすきなニンジンさん(悪意)をいれて、おでかけです!

わるいこはピコピコはんまーで、ひかりにしちゃうぞ!!

 

※現状そんなスペックはありません。

※最大級の勇気を振り絞って、アベルさんの声で脳内再生してみましょう。きっとゴルディオンハンマーを振りかざして来るでしょう。

 

 

 

ちなみに、カルディナさんはアベルさんを敬っていますが、とある理由でウサリンをチョイスしています。それは次話にて。

 

 




けっこう長くなってしまいましたが、ようやくお嬢様達がカインとアベルに会合しました。

既にお亡くなりになっていますが、魂は無事、というオチでまとめてみましたが、どうでしょうか?

いよいよ次回は色々伏せていた三重連太陽系の経緯を含め、話を綴っていきます。



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Number.11 ~星の彼方より来たりし者達~(3)

大変遅くなりまして申し訳ありません。
私事ですが前回更新より、引っ越し+職場の結婚式のムービー作成+ネット環境が10月までおあずけ、という環境で更新がままなりませんでした。
ムービーの作成で土壇場でのやり直しの連続は、かなり心にキましたが、喜んで貰えたので何よりです。


そして自分の通信使用量が半端ではない事を思い知りました。
う、動かんッ!!



~前回の続き~

・カインとアベルに出会った。だが既に死んでいる……

・カインがギャレオン(ミニ)と、アベルがウサリンmark-Ⅱに、フュージョンっ!!

・どうしてこうなった!!


───『ヒト』とは何で構成されているか?

 

『体組成は、体脂肪と骨と除脂肪軟組織の三要素に分類される。 身体は「水分・たんぱく質・脂質・ミネラル」の4つの主要成分で組成され、「脂肪・骨・除脂肪軟組織」の3要素に分類出来る。』

 

要は有機物を主とした、生体組織の塊である。

 

有機物である理由は、生存するにはエネルギーを生産し続ける性質を持つ必要があるからだ。

 

故に無機物の生命体は数少ないと結論付け出来る。

 

 

───では、命──『魂』は?

 

実態はない、仮想態はある。

 

ただこんな説もあるらしい。

 

 

───『ヒト』は生まれながらにして『電界の海』を持っている。

 

電界の海とは、電位情報の集合体。電気信号の海である。

 

それらが寄り集まれば、『記録』ないしは『記憶』となる。

 

経験、体験、感情、好み……

 

生物の行動根幹『本能』を中核に、あらゆる情報を一纏め──学習し、ヒトの魂は構成され、人格、性格が形成される。

 

そしてそれらは電界の中枢『脳』に納められる。

 

脳は神経を伝い電気信号が常にで行き交い、『身体』に命令し続ける。

 

故に『魂』は電気信号の集合体と結論付け出来る。

 

 

───では、身体がその機能を停止した時は?

 

機能停止の『身体』と、未だ機能し続ける『魂』が乖離する。

 

 

───では、『魂』はそのまま消滅するのか?

 

 

それは否。

 

乖離した『魂』は総てではないが、その強さが一定以上あるものであれば、そのままでも存在出来る。

 

電界情報集合体(バイオパターン・マテリアル)

 

俗に言えば幽霊──霊魂である。

 

ただし、エネルギーの供給が遮られた状態では、長くは保てず、『魂』は磨耗し、いつかは消滅する。

 

 

「───逆に言うなら、霊魂状態でも正しくエネルギーを供給出来る環境下であれば、幾らでも存在は可能、という事ですわね。」

「そ、そうだね。でもそんな都合のいい環境なんて無いよ?」

「……じゃあ、創れば宜しいのでは?今の話で整理出来たので、ある程度の設計が頭に浮かびましたし。」

「それが出来たら私は、今やってる貴女の研究費を肩代わりしよう。」

「え???今回、これくらいかかっていますが……」

グフっ!……やっぱり半分でいい??」

 

 

(学生時代、とある友人との会話より)

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「───という訳で、『霊櫃』という核を中心に縮小型(マイクロ)魔力変換炉(エーテルリアクター)を使い、霊魂を安定的に固定。そして無意識化での生命循環を利用し、半永久的にエネルギー供給を可能にしたのが、そのギャレオンとウサリンmark-Ⅱ、となります。」

「なるほど。」

「……よくまぁ、そんな事をしますね。」

 

 

カインとアベルの魂を固定化した後、陽が落ちたため、一行はジェイアークの近くに牽引装甲車(ギャリッジ)を中心とした野営施設を設置し、そして焚き火を囲んでの交流の場を設けた。

 

レクシーズやクリストファー、ティ・ガー。

集落より脱出させられ、生き延びた住人達。

 

皆、カインやアベル、アルマ-000(ゼロ)との再開を喜んだ───はず。

 

ただ、当のカイン、アベル、アルマ-000(ゼロ)の3人だが……

 

 

「いや、ライオン1匹にウサギが1羽。この場の代表は……アルマに見えるねぇ。」

「そ、そんな!畏れ多いです!!」

「………」

 

 

ギャレオン(カイン)が頭を掻いて、ウサリン(アベル)は不貞腐れて、人の形をしているのはアルマのみ。

……絵面がどうしてもそうにしか見えない。

やむなく立体映像投影機(ホログラム・シアター)を設置し、カインとアベルの元の姿を頭上に投影する事で落ち着いた。

 

 

「感動の再会のテイク2、行きましょうか?」

「止めてくれ、感動が逆に薄まる。」

 

 

国王(レクシーズ)からダメ出しを受けつつ、

話は戻るが、アベルの『何故こんな処置をした?』より話は改めて始まる。

そしてカルディナは次のように答えた。

 

 

「魂を移し変える前にもお話しましたが、御二人の魂は非常に摩耗しています。非常に危険なので、再生の意味も含め、一時的に保護致しました……というか、しなければ悪霊化一直線でしたわ、御二人の力的に。」

「む……」

「その可能性は……充分にあるね。」

 

 

摩耗し、消耗した霊魂は理性を失う。

つまりは悪霊化だ。

例え三重連太陽系の住人であろうとも、その可能性は充分にあった。

むしろ、よく20年も正気を保てていたと感心出来る。

それ程のエネルギーを有しているのが、目の前の2人だ。

 

 

「とはいえ、何時かは肉体に戻る算段も整えねばなりません。幸い、遺体は保存状態が良かったため、軽度の治療で霊魂を肉体に戻す事が可能です。ですのでその駆体はそれまでの仮宿と思って頂きたいです。」

「……出来るんですか?貴女が言っている事は死者蘇生ですよ?」

「いえ。驚く事にやるのは低体温状態で心肺停止になった患者を蘇生させるようなものです。」

 

 

カルディナがこう言う程、三重連太陽系の冷凍睡眠技術は凄かった。

カルディナが確認したところ、状態は死後すぐと言っていい程の良質の遺体だったのだ。

細胞の崩壊もない。

きっとジェイアークのメディカルマシンが仕事したのだろう。

ちなみに2人の死因は、スライムを焼き払った時に発生した、一酸化炭素であった。

アベルが実験中に研究室にスライムが侵入。

そのスライムを焼き払った、ドヤ顔アベルに爆風と共に一酸化炭素が逆流し、その時にアベルさん中毒死。

異変に駆け付けたカインはその時の余波を食らい、巻き込まれ中毒死。

アルマ-000(ゼロ)の換気&救助対応も空しく2人は御臨終。

 

……ゾンダー戦で倒れた、と言った方が名誉は守れたかもしれない。

 

ギャレオン(カイン)は「いや~、あの時は参ったねぇ」と笑い、ウサリン(アベル)は沈黙をしてそっぽ向いた。

そしてその場にいた者は事の顛末に頭を抱えた。

 

 

───閑話休題(それはいいとして)

 

 

「──なので少しの治癒と肉体の活性化を丁寧にしなければならないので時間は多少かかりますが、問題なく霊魂の定着と蘇生は可能です。」

 

 

本来行われる冷凍睡眠でそんな面倒な段階を踏む必要がないが、今回のケースは魂が抜けている。

冷たい身体に魂を入れても、今度は身体が付いてこない。

定着させるには活性化するレベルまで体温を上げた状態で生命活動が再開する状況を維持しなければ、魂の定着は出来ない。

逆に、それさえ出来れば蘇生は可能なのだ。

 

 

「なる程、理解したよ。」

「素晴らしいです!」

「釈然としないところはありますが……」

「ありがとうございます。」

 

 

3人の了解を得られたカルディナは深々とした。

 

 

「……わかったか?今の話。」

「俺に解る訳ないよ、オルガ。ビスケットは?」

「少し……かな?でも実行するとなると、お嬢以外の魔法使いはまず出来ないだろうね。俺?ムリムリ。」

「……血流と体温の維持が出来れば、あるいは。でもどうやって並列処理を行えば……その前に魂の保存、維持は……」

「……ムル、やる気なの??」

 

 

鉄華団の面々も傍らで話は聞いていたが、とりあえず(一部除いて)真似は出来ないといった様子。

また、国王(レクシーズ)公爵(クリストファー)を始め、王国の関係者達は表情筋が引きつっていた。

死者蘇生関連は、大概国の法律に引っ掛かったりする。それでなくとも『死者蘇生』のワードは見逃す事の出来ない。

カルディナさんの後ろから肩を叩いて「ちょっといいか?(オハナシ)」は待ったなしだろう。

 

……カルディナの背中への視線が痛い。

 

 

 

───閑話休題(いや、そんな事どうでもいいでしょ)

 

 

 

「とりあえず私とアベルの蘇生についてはよく解った。頼れる者が他にいない以上、やってくれると有難い。」

「勿論ですわ。」

「では、カルディナ嬢。次に私の疑問に答えてくれるかな?」

「お答え出来る範疇であれば。」

 

 

今度はカインからの質問だった。

先程のような質問であれば、カルディナはおおよその事を答えるつもりのようだが、カインの疑問はそうではなかった。

 

 

「では聞こう……かつて三重連太陽系で袂を分かったギャレオンが、どうしてここに在るのかを。」

「それは……」

 

 

カルディナは思わず言葉を詰まらせる。

何故ならその答えはカインやアベル、アルマ-000(ゼロ)には非常に答えにくい事情を秘めている。

そして他の面々達も、カルディナの様子を見て思わず口を閉ざしてしまい、空気を読んだものの、結果的には不穏な状況になってしまった。

唯一知らない近衛騎士達、クルシエルの一団は、一変した雰囲気に戸惑いを隠せないでいた。

 

その雰囲気を感じ取ったカインは、迂闊に話せないのかと思ったが……

 

 

「───お話します。」

 

 

その雰囲気を一新したのもカルディナであった。

 

 

「……初めにお会いした時にもお伝えしましたが、あのギャレオンはカイン様のお造りになった個体ではありません、模造品(レプリカ)です。」

「ええ、それはその通りでしょうね。」

「だがギャレオンの存在、そして三重連太陽系の存在を私はレクシーズ達には周知してはない。なら君が知っている、と言っていいかな?(えん)(ゆかり)もないはずだが……私はその知識の出所を知りたい。」

「判りました……ですが、少々不快にさせるかと思いますが、その点はご容赦下さい。」

「……何ですか、その前置きは。」

「どうやらあまり話せない出所の様だね、だが構わないよ。」

 

 

そして鉄華団に指示してモニターやスピーカーを設置、簡易的な上映会の会場を作り上げた。

そして事情を知る者以外がどよめく中、『それ』は始まる───

 

 

 

───デデデン!!

 

 

「「「───!!?」」」

 

 

モニターに映し出された、機械的な装置が蠢く背景に、輝く『GGG』のマーク。

そしてオープニングの、あの音。

その音量に事情を知らない者は全員びっくりする。

 

 

(うん、するよね。)

 

 

クストが苦笑いしながら内心呟く。

というか、クストに限らず判っていないと驚くのは無理はないが、視聴者の心境に構わず『神話』が始まる────

 

 

 

 

8年前───

 

 

「あ、流れ星。」

「ああ、結構デカかったな。」

 

 

雪が深々と降る北海道の地、とある夫婦が車を走らせている。

その時、助手席にいる華奢な妻が夜の寒空に一筋の光が山に消えゆくのを見た。

その光景に、運転席の小太りの男が相槌を打つ横で、小柄な女は静かに祈っていた。

 

 

「ん?何してるの?」

「流れ星にお願いしているの。『私達に子供が授かりますように』って。」

「そっか。」

 

 

この2人は夫婦であり、願いはとてもありふれた、されどこの夫婦には切なる願いだった。

だがその直後、前方から強烈な光が2人の顔を照らした。

それは逆光を放ち、轟音を撒き散らして此方に猛進する巨大な影が。

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁ―――!!!」

 

 

驚いた夫が避けようとハンドルを切るが、車は蛇行、そして避けるよりも速く《圧倒的な風圧で飛ばされた大量の雪》が車を阻み、車はその中に突っ込んでしまう。

その衝撃で外に投げ出された夫婦の目の耳に、あり得ない『咆哮』が響き、恐る恐る見上げた。

 

 

───ガォォオオオォォォンッ!!!

 

 

ライオンの咆哮。

その咆哮に反応した2人はすぐに音源の先───前を恐る恐る見上げた。

そこには鋭い爪、白い躯体、獅子を模した大きいを通り越し、巨大───9メートルの巨駆もある、巨大な()()のライオンが。

 

 

「ほ、北極ライオンーーーっ!!?」

 

 

夫が声を上げて驚いた時、鋼鉄のライオンはドンっ!と地響きを上げて夫婦の目の前に伏せ、その大きな口を開いた。

 

 

「く、喰われるぞ!!」

「───あ、待って!!」

 

 

食べられると思い、逃げようとした時に妻が何かを見つけ、夫の手を握り、引き留める。

 

鋼鉄のライオンの開かれた口の中にいた、白い煙の中でそれはキャッキャと笑う者───

 

 

「あ、赤ん坊が、喰われてるぞ!?」

「───っ!!」

「お、おい!!」

 

 

夫の制止を振り切り、直ぐ様に妻は口の中から赤ん坊を抱き抱え、直ぐに離れた。

鋼鉄のライオンはその後立ち上がり、()()()()()()()()()()が火を吹いた後、夜空へと浮かび、光の尾を引きながら空の彼方へとその姿を消した。

 

そして深い雪の中に残ったのは、若い夫婦と夫婦の前に()()()()()()()()

 

呆気に驚く夫婦を他所に、その時無邪気に笑う赤ん坊の髪は緑に輝き、額には緑に輝く『G』の文字が浮かんでいた。

 

 

───8年前のこの日、天海夫妻の元に届けられたこの子供が、全人類の存亡の重要な鍵を握ろうとは、まだ誰一人として知る由もなかった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───う、ううぅぅ……」

「……カイン様。」

 

 

カインはその時、涙した。

傍らにいたカルディナは察し、また事情知る者もその涙を察した。

アニメーションの画で構成された映像が映るモニターに、その人物はいた。

 

 

「……間違い、ない。ラティオ……なんだな。」

 

 

男の赤ん坊。

それはカインの最愛の子───ラティオ。

そしてラティオを託し、別れた相棒──ギャレオンもだ。

 

そんな事で映像はひとまず止められ、カインが落ち着くまでその『間』は続く。

ただこの『間』は別れの悲しみではなく、再会の喜びであるのは間違いない。

 

 

「……済まなかったね、みっともない姿を見せてしまって。」

「いえ。アニメーションとはいえ、御子息にお会いになったのです。ですが……不快、ではなかったですか?」

「いや。むしろ二度と会えない失望感があったからね、とても嬉しいよ。それに君の事情もある程度の予想が付いた。」

「予想??」

「ああ……だが不躾で済まないが、これだけは先に聞きたい。『ラティオは生きているのかい?』そして『()()()()()()()()()()』かな??」

「───!!」

 

 

それはあまりにも直球過ぎる質問だった。

一を聞き、十を知るような、そんな質問である。

質問の内容はカイン自身知りたいと思える事、である。

ただ問題は、どうして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 

(──いえ、カイン様は()()()()()のですわ。)

 

 

正確には、ガオガイガーという映像作品ではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()を。

 

その仮定を立て、ある仮説に辿り着いたカルディナは、カインに事実を告げた。

 

 

「御子息のラティオは、ご存命です。」

「───!」

「そしてゾンダーは『ゾンダー31原種』、ひいては『Zマスター』を御子息が『GGG』という組織と協力して浄解、倒しました。」

「……そうか、そうなのか。ありがとう。」

 

 

そしてゆっくり空を仰ぎ、ポツリと呟く。

 

 

「……あの時の選択は、間違いではなかったか。」

 

 

その呟きは、あの時の敗北を経て、今に至るまでの後悔や不安を払拭出来た証でもあった。

またアルマは喜び、アベルは目を瞑り、「そうですか……」と一言呟くに留めた。

 

 

「……ラティオは、幸せになっただろうか?」

「だと思われます。ゾンダーが殲滅され、その後お嫁さん(公認)が出来ましたし。幾多の苦難を乗り越えて善き友人や大人にも恵まれましたので。」

「ふふ、そうかお嫁さんが───え??」

 

 

戸惑うカイン。それはもう戸惑う。

 

 

「え……お嫁さん??8年前と書いてあったから7~8歳、その翌年に8~9歳でお嫁さん??」

「はい。」

「まさかデキ婚??いやそんな事は、だがもしそうなら……」

「あの、カイン様??子供の約束みたいなものですよ。懐妊したとかそんなものじゃないので……」

「………そ、そうか!そうだよね。」

「……何を想像してるんですか。」

 

 

カインは盛大にほっとする。

というか早とちりし過ぎだ。

んな事あってたまるか、と言いたい。

そんな様子のカインを見つつも、カルディナはカインに先程の疑問をぶつける。

 

 

「あの、もしや三重連太陽系にも内容こそ違うでしょうが、似たような映像記録があったのですか?」

「ん……ああ。多少ながら三重連太陽系にもあったよ。」

「……やはり。」

「我々には『元始情報集積概念(アカシック・レコード)一葉片(ひとひら)』と伝えられている。」

 

 

 

──『元始情報集積概念(アカシック・レコード)一葉片(ひとひら)

 

それは、三重連太陽系に伝えられ、そして実在した情報概念である。

あらゆる万物の現象、事象を収めた元始情報集積概念(アカシック・レコード)

それは人の運命のみならず、一定の事象すらも記録されている。

それが時折、運命の悪戯の如く知的生命体に繋がる時がある。

 

まるで大樹から落ちた一片の葉が、人の手に偶然落ちるように、それは宿るという……

 

そして宿り繋がった情報は()()()()宿主に開示出来る限りの情報を送り込み、見せる。

それも断片的とはいえ、その分野の情報を、数限りなく。

 

それが例え、他次元宇宙の出来事であったとしても、魔法事象でも、超能力でも、日常生活風景でも、巨大な機械仕掛けの巨人達の戦記や、大いなる存在達の聖戦であっても……

 

それらに含まれる、ありとあらゆる映像記録、知識、概念がそこにはあった。

 

ただし、事象・事件が実際に終わっていれば、時間は関係なく出現する事もあるが、しない事もある。

この情報概念の特徴として、送られてくる情報には自然・科学の現象・法則の詳細の他、『事終えた事件・事象』が中心である。

逆に進行中の事象・事件は絶対にない。

また、その表現方法も多次元からの表現事情が採用されているようで、実写、アニメーション、ゲーム形式、3D映像等バラバラだったりする。

一見疑いたくなるようなものだが、実際に起きた事象なのは間違いではない。

 

要は、過去に起きた『事実』が『記録』として出るのだ。

 

 

そんな『記録』を自由に引き出せる能力を有する人物が時折、三重連太陽系には誕生したという。

そしてその情報概念が、三重連太陽系を超科学文明の極みへと高めたのだった。

 

 

「そ、それは……まさか!」

「む。その様子だとカルディナ嬢。君が有しているのかな、その『一葉片』を。」

「……恐らくは。私は『脳内書庫(B・ライブラリ)』と呼んでいますが。」

「なる程、良く言い当てている。であれば、ラティオの映るこの映像もそこからか、納得したよ。」

 

 

三重連太陽系があの規模まで拡大したもの、その概念とそれにより鍛えられた科学技術があればこそ。

また、外部からの来報者からの協力も時折あったという。

尚、その来訪者も去った後、その来訪者の『記録』が出たという事が何度かあったりもする。

ただ……

 

 

「まさか私達の軌跡が『記録』となるとはねぇ……」

「そうですね、カイン。流石に私も驚きを隠せませんよ。しかし……」

「……何でしょうか、アベル様。」

「カルディナ。貴女よく今まで正気を保てて無事でしたね。」

「はい??」

 

 

カイン、アベルが言うには、『一葉片』がもたらす情報は、断片的であろうとも、必ずしも知的生命体が脳内で処理し切れる情報量ではないらしい……

 

 

「大概、廃人か狂人になる者が殆どです。過去、耐え切れない者は尽く自ら命を絶ちました。耐え切れた者はごく僅かです。」

「そ、そんな恐ろしいものなのですか??」

「ああ。ただし、無限情報サーキットを利用した補助システムを併用し、情報処理を円滑に行う事で、後年の能力者は凡そ天寿を全う出来たと聞く。」

「無限、情報サーキット……!?」

「君にはGストーン───その原型、前身となるものと言えば判るかな?Gストーンはそれを応用して出来ている。」

「それほどのものなのですよ、『一葉片(それ)』は。」

「………」

 

 

無限に涌き出る情報は貴重である。しかし記憶媒体の容量は有限であってはいけない。

無限情報サーキットはそんな犠牲者を生まないために、そんな経緯で開発されたのだった。

しかしそんな物を使わねば処理し切れない情報量……

流石のカルディナでも絶句した。

まさか!と思いたいが、そうなのだろう。

自分の内にある『脳内書庫(B・ライブラリ)』は、精々インターネット程度の認識しか持っていなかった。

だが蓋を開けると、その正体が元始情報集積概念(アカシック・レコード)

とてもではないがカルディナであっても扱いきれるモノではない───筈だが、現に支障なく

扱えているのは、産まれてからの謎だ。

 

目を閉じるか意識を集中すると、膨大でかつ整理整頓され、綺麗に纏められた背表紙がある広大な本棚があるようにしか見えない『脳内書庫(B・ライブラリ)』。

だが、産まれてから今まで、無限情報サーキットに類する物等は持っていない。

 

 

(……改めて、何なのでしょうか?)

 

 

そして他の面々も呆然としている。

 

元始情報集積概念(アカシック・レコード)の名、概念は一応この地にも存在する。

しかしそれは『神の知識』とされ重要機密扱いだ。

 

鉄華団のメンバーには「お嬢は人間?」から「お嬢は人間辞めてる!」に変わった程度だが、その他の面々はそんなものでは済まない。

 

特に国王(レクシーズ)公爵(クリストファー)元将軍(ティ・ガー)は思った、「無理に付いてきて良かった」と。

検証は少なからず必要だろうが、これは箝口令敷くには充分過ぎる事案。

ましてやカインやアベルが『この星の外』より来訪した存在である事を認知する3人にとっては、今話されている事が公開されでもしたら、どのような混乱が引き起こされるか、容易に想像出来る。

 

 

(神の知識とはな……宗教人あたりは暴動ものだな。)

(既にカルディナは非公式だが聖女と認められているんだが、それが霞むレベルとは。)

(だが当の本人はそう思っていないだろうな。万能の知識を持つなら、道理で我々とは感覚がズレる訳だが、人間性は良識なのは助かったよ。)

 

 

とりあえず、箝口令を敷く事とした3人だった。

 

 

「……さて、こんな雰囲気にして申し訳ないがこの映像の先を見せてはくれないかな?私が中断させてしまったとはいえ、続きがどうしても知りたいのでね。」

「あ、ハイ。そうして頂けると助かります……では!」

 

 

ガガガッ ガガガッ ガオガイガー!

ガガガッ ガガガガッ ガオガイガー!!

 

カインのリクエストを受け、カルディナは場の雰囲気を払拭するように『勇者王ガオガイガー』の映像を再開する。

丁度、OPの冒頭であり、遠藤氏の熱いヴォーカルと共に、ガオガイガーのパイロット、獅子王凱とガイガー、そして地球製ガオガイガーが登場、そしてメインタイトルの『勇者王ガオガイガー』が燃える炎と共に現れ、勇者王の神話(マイソロジー)が三重連太陽系の住人に対し、公開されるのだった───

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……なる程。ギャレオンを受け入れてくれた『地球』の科学者達が、どう奮起したか判ったよ。」

「ですが、カイン。その途中で貴方が変形(フュージョン)する理由はない筈ですが。」

「それは……勢い余ってというか……」

 

 

Number.02までを見終わった後、一息吐く一同。

カルディナやフミタンを含め、鉄華団や国王レクシーズら3人は既に視聴しているが、その他の者達は、いつかのどこかで、であるが『現実に起きた事象』を画にしたガオガイガーに驚きを以て見ていた。

 

そしてカインは、ラティオ───天海護がどう成長をしたか、ギャレオンは誰と共にゾンダーと戦ったかを熱心に見ていた。また、本来ギャレオンと共にファイナル・フュージョンする『ジェネシック・マシン』の代わり──『ガオー・マシン』の勇姿、そしてファイナル・フュージョンのシークエンスも目に焼き付けていた。

 

 

「2年の期間であれまでとは、実に素晴らしい。完全なコピーではなく、自身の文明の機体を流用するとはね。」

 

 

評価は上々。

とりあえずガイガーがフュージョンする場面で、ギャレオンをガイガーへと変形(フュージョン)してしまうぐらいには感情移入してくれたようだ。

ただ、ドリルガオー(ドリル戦車)は流用しているかは微妙に思えるが。

また、ヘル&ヘブンについて、「あんな応用するとは……いや、驚いたよ。」という評価だった。

やはり核抽出の術としては考えられていなかったようだが、カインはどうやってゾンダーと戦う気だったのか?

 

また、アベルは少し不満げで……

 

 

「ジェネシックのコピーというから少しは期待したのですが、強大ではないじゃないですか。」

 

 

どこまでを期待していたのだろうか?

こちらはデチューン化(弱体化の理由)を快く見ていない様子。

まさかジェネシック(破壊神降臨!)を期待していたのか……

 

 

「いや、アベル様。無理ですって。街が焼け野原になります。」

「うん、その通りさ。ジェネシックの出力そのままにしたら、ゾンダーが()()()()()()()()()。それに出力問題の原因は嫌という程説明したろう?」

「……判ってますよ。ですから『Jジュエル』を開発したんじゃないですか。」

 

 

ラティオの対・ゾンダーの力──浄解の力を三重連太陽系が生んだ最強の無限情報サーキットであり、勇気の感情を込める事で膨大な無限の出力を生み出す『Gクリスタル』に宿したのが、『Gストーン』。

そして『Gストーン』をアベルが統治する『赤の星』で出力強化したのが『Jジュエル』である。

出力では

 

Gクリスタル>>>Jジュエル>>Gストーン

 

ぐらいはあるが、浄解能力に至ってはこのベクトルが真逆になる。

 

また、Gストーンが他の2つの無限情報サーキットよりも出力が低いのは、出力を浄解に充てているのもある。

Jジュエルは浄解の力よりも出力に充てている。

Gクリスタルは勇気を注げば無限出力の絶対勝利(絶対ころすマン)品質。

 

尚、Gストーンの設定を初期化(アジャスト)すればGクリスタルに戻る。

人命無視すれば対・ゾンダーにもGクリスタルは使えるが、地球人にはそんな技術がなかったのと、あったとしても倫理感と防御面でやる必要がないのは間違いない……

 

ちなみにカインの愛機たるジェネシック・ガオガイガーではゾンダーには勝てるには勝てるが「え゛!?ちょッまっ!?」と言う程、あっさり核ごと滅してしまうので、人命救助という点ではオーバーキルな代物。故にカインは最適化というデチューンを施した。

それがTVヴァージョン、Number.01からのギャレオンになる。

 

……ちなみにジェネシック・マシンの最適化は間に合いませんでした。

 

 

「ただ、地球人の皆さんもここからアップデートを繰り返し、戦力の増強を図り、最後は原種すら打ち破ったのです。」

「ですがこれでは私の造ったソルダート師団の方が上ですよ。出てこないのが口惜しいですが……」

「あ、アベル様。出て来ますよ、ソルダートJ。」

「──!!」

 

 

ウサミミが「kwsk!!」と反応する位にピコピコ動かすウサリン(アベル)

本人は平静を装っているが、内心とっても嬉しそうだ。

 

 

「そ、そうですか。ちなみに何処辺りから出るのです??」

「既に出ていますよ、ええと……」

 

 

《───目覚めよ、機界四天王よ……》

『ポロネズならここにおりますよ、パスダー様。』

『プリマーダ、もう待ちくたびれましたわ。』

『ピッツァ、唯今到着……。』

 

「ここです!!」

「───|お前(ゾンダー側)かいッ!!!」

 

 

ウサリン(アベル様)、激おこぷんぷん丸。

一瞬、耳の先が鋭角になったのは気のせいだ。

 

 

「J-002……彼も地球に逃げ込んできて、死に場所を求めてゾンダーになったようで……」

「……よりによってソルダート師団最強のナンバーじゃないですか。何たる事───」

「ちなみに勧誘したのは、この方です。」

 

『このペンチノン、直ぐにでも出港可能です。』

 

「……誰です??」

「トモロ-0117です。」

「───お前もか!?!?」

 

 

まさかの奪われたトモロ(生体コンピューター)発見にエクストリーム。

地球に、赤の星所属の味方はいなかった。

 

 

「まあ、この2人は後に成長し、使命を思い出したオリジナル・アルマ───戒道に浄解され、ジェイアークを復活させた後、共に原種戦に参戦しましたわ。」

「───!!では、そこから超弩級戦艦、ひいてはソルダートの真骨頂が見られる訳ですね!」

「……いや、まあ、そうなのですが。」

「ま、まだ何か??」

 

 

興奮するウサリン(アベル)に、カルディナは不穏な雰囲気を醸し出しつつ目を逸らす。

というのも、J-002は劇中を見る限りでも色々やらかしている。

 

・初登場時で街もろとも原種に迎撃行動。この時点で地球勢力──GGGに非協力的。(オイコラ)

・ゾンダークリスタル輸送時の襲撃。そして油断してガオガイガー共々、ゾンダーの策にはまり、行動不能に。ジェネレイティング・アーマーはどうした。

 

etc……まあ、ライバルキャラ的ポジなので、主人公を邪魔するのはある意味仕方ないが、この世界では事実判定を受けている現状、イラッとくるところがあるが、後々……後々ようやく友好的になって共闘体制を構築出来るから、まだいい。

 

 

「……とはいえ、もう少し早い段階で協力的なら良かったのですが。」

「ふん、弱い輩に協力する事が良いとは思えませんが……」

「そう仰るなら三重連太陽系の戦いでアベル様のところ(赤の星)で止められたはずでしょうに。」

「うぐッ!!」

 

 

───赤の星、空中庭園戦

 

ソルダート師団はそこで機界31原種に破れた。

 

と言うのも、元々ソルダート師団は31隻もある『ソルダート艦隊』と共に機界31原種の殲滅を使命として与えられている。

また、対原種対消滅兵器であるアルマをあらゆる障害から守り、排除して原種核まで送り届ける為だけの存在である。

故に、生体コンピューター『トモロ』やジェイアーク級超弩級戦艦共々31体製造された(アルマ、J、トモロの一組で原種一体を消滅させるというのが本来の計画)。

だが、三重連太陽系に於ける戦闘では、これらの存在を脅威と見なした原種側の先制攻撃に赤の星の防戦態勢の整備が対応しきれず、早々に軍団の制御を司るトモロ達がゾンダリアン化される。

更には対原種の切り札にして守るべき対象であったアルマシリーズもそのほとんどが腸原種の餌食にされてしまう。

これにより本来の力を発揮させられぬまま、その身ひとつで原種と戦う事になり、与えられた使命を果たせず散った空中庭園での決戦では、残存勢力と共に対決するも原種の撃破は未遂に終わっている。

壊滅されずに残った一隻はオリジナルのアルマを乗せて離脱し、地球の日本──阿蘇山の火口に隠される。

 

……逆に言えば、ソルダート師団の完成チームを31組ではなく、10組程に抑えてさっさと送り出せば、対消滅を考えなくとも、トモロをゾンンダリアン化されることもなく、恐らくは少ない犠牲で終わっただろう。

それぐらいのスペックをソルダート師団───キングジェイダーは持っていた。

 

キングジェイダー10機で反中間子砲を一斉射、ジェイクォースを3連射程すれば、単純に残り1体の原種を囲んでボコるぐらいは出来た筈。

 

出オチもいいところだ。

 

 

「石橋を叩いて渡るどころか、過剰に叩いた挙げ句、崩落して身動き出来ないところを泥棒に身ぐるみ剥がされた上に殺された戦士集団の様ですわ。どうしてそのような真似を……」

「その通りだよ、アベル。あの時、Gストーンの製造方法を教えろと言った挙げ句、出力が足りないと言ってJジュエルを造ったはいいが、確実に対消滅させると言って時間がないのに31隻の超弩級戦艦を造ると言い張り、止めろと言っても聞かなかったろうに。しかもアルマシリーズは000(ゼロ)001(オリジナル)を造ってから量産型を一から培養……促成処理をしようが育つのにどれぐらい時間を要するか、知らぬ君ではなかろう。」

「そ、そんなタイミングで……!?」

「し、仕方ないではないですか!確実に対消滅させるならその方が確実なのですから!」

 

 

新事実。

アベルは泥棒(ゾンダー)が来てから、目の前で縄を編むような真似(兵器開発)をしていたという。

やるのはいいが、タイミングかなり遅い。

現に地球に逃れたジェイアークに乗せられたオリジナル・アルマこと、戒道幾巳はその時まだ赤ん坊だった。

 

 

「対消滅はロマンです!それが解らないのですか?」

「……そのせいで、ギャレオンだけしかチューニングが間に合わず、ジェネシック・マシンはGクリスタルの整備場に封印、四方八方手塞がりになって、ラティオを泣く泣くギャレオンに託し、ギャレオリア彗星に放逐するしかなかったのだよ。」

 

 

どうやらジェネシック・マシンが間に合わなかった理由は、これのようだ。

すごい根に持っている。

しかしガイガー(カイン)が身を震わせている傍ら、アベルはバツが悪そうにしている。

 

 

「……仕方がないじゃないですか。それに結局私達は負けたのです。ですが、安心なさい。三重連太陽系が例え滅びようとも、私が開発した『ソール11遊星主』があれば、既に三重連太陽系の再生は開始されて───」

「───アベル様、それはアウトです。」

 

 

だがアベルの言葉をカルディナはきっちり遮る。

うん、それは駄目だ。言ってはいけない。

 

 

「……な、何故、ですか???」

「実はですね、そのソール11遊星主は確かにゾンダーが滅びた後、活動を開始しました。」

 

 

TV版ではなく、OVA(FINAL)の話である。

 

 

「ただ思い出して下さい、ソール11遊星主は再生活動をする際、何をします?」

「もちろん、宇宙を再生させます。三重連太陽系の宇宙は滅びつつありました。優先すべきはそこからです。」

「その通りです。では、()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()()

「それはもちろん、宇宙から───」

「───ちょっと待った。」

「はい、カイン様。」

「……その宇宙の材料───暗黒物質は容易には創れない。であれば他から調達する他ない。故に私はその計画に反対した筈だ。」

 

 

そしてソール11遊星主に対抗すべく開発されたのが、ジェネシック・ガオガイガーである。

そもそも『FINAL』のストーリーの根幹は、ゾンダー出現前よりカインとアベルが対立していた『三重連太陽系消滅に対してどんな手段をとるか』である。

カインは三重連太陽系からの脱出・移住。

アベルは三重連太陽系そのものの復活。

 

だが崩壊する三重連太陽系の復活には、リスクが伴う。

 

 

 

「ならば、その調達先は……」

「もちろん、御子息のラティオ様がいる銀河系含む宇宙ですわ。」

「「───!!?」」

 

 

衝撃の事実をさらりと口にするカルディナ。

そしてアベルは気付いた。

 

 

 

……カルディナの目が、全く笑っていない。

 

 

それどころか、これから屠殺場に向かう家畜を見るよりも無関心な目をアベルに向けていた。

 

 

 

「……アベル様。色々お話ししましたが、結局のところ色々やらかしているのはアベル様、ひいてはその系列に在る者達ですわ。そんなアベル様が最後に、ソール11遊星主をそのように肯定する等……私の琴線に触れているとお解りになりませんか?そして1番それを口にしてはならないお相手が目の前に居る事を、御自覚した方が宜しいかと。」

「───!!!!!」

 

 

アベル様、自覚。

されど、時遅し。

 

ゾンダー殲滅を確認したソール11遊星主は行動を開始した。

だが暗黒物質調達先を、ゾンダー殲滅の立役者──地球、彼らが住まうその宇宙に目をつけたのだ。

無論、承知の上で。

 

 

『共存は出来ないの!?』(by.護君の直訴)

『三重連太陽系復活のためには、仕方のない事です。』(by.パルス・アベルの塩対応)

 

 

三重連太陽系の仇を討った恩人相手にこんな事を言った後、ガチで暗黒物質を吸い出し、崩壊の危機に陥れたのだ、光にされても文句は言えまい。

現にソール11遊星主はGGGの人類の叡知と勇気ある誓いの下に発動した天罰降臨(ゴルディオン・クラッシャー)によって、光になった。

人類舐めんな!

 

──そして今も。

 

 

 

「……アベル。」

「カ、カイン……??」

だから言ったじゃないか、絶対に絶……ッッ対に止めなさいって。あれは絶対に他星だけじゃなく超規模で迷惑かけるからと。それなのに1番の恩人たる地球の人々が住む宇宙に対し何をするというのかな?恩を仇で返すとはこの事だよ?挙げ句に私の息子に対し、いったいナニをしてくれているんだね?全裸にマントという、君の変態趣味を治せないのと同じレベルの話で。

「そ、それ今関係ないじゃないですか!?」

「君の意見は最早関係ない。私を含めた関係者がどれだけ迷惑を被ったかだ。」

 

 

烈火の如く、然れど明鏡止水の極致に至ったようなカインこと、ガイガーが満面の笑み(眼のハイライトは無し)で目に見えて強力なGパワーを放出してアベルを見下ろす。

流石のウサリン(アベル)も腰を抜かし、アワアワしているだけであったが、辛うじて最後だけはツッコミを入れた。

だが、怒りが頂点に達しているカインには関係ない話だ。

 

 

「……だから少しは痛い目に遭って貰おう。

ファイナル・フュージョンッッ!!!

 

 

───ガイガー(カイン)が、ファイナル・フュージョンを告げる。

その瞬間、ガイガーがEMトルネード(に似せた濃密な水蒸気の霧)を噴射しながら高速回転し、ギャレオンの開かれた口が光輝く時、EMトルネードの壁をドリル重戦車──ドリル・ガオーが、500系新幹線──ライナー・ガオーが、ステルス爆撃機───ステルス・ガオーが突き破り、馳せ参じたッ!!

 

ガイガーの下半身が反転し、ドリル・ガオーが回転衝角を前に倒し、両脚となる。

ガイガーの両腕が背部に折り畳まれた後、胸部に大きく空いた横穴に、ライナー・ガオーが突き刺さる。

ガイガーの背部に垂直落下してきたステルス・ガオーが機体をロックし、ライナー・ガオーの下部から出た()()()にエンジンパーツをせり上げ接続、そこから両拳を螺旋状に回転させながら展開。

最後にガイガーの頭部に黒いヘルムが被さり、フェイスを牙を模したマスクが覆い、額の窪みから宝石がせり出て、流れるGパワーが『G』の文字を具現させる。

 

両拳を突き合わせ、『勇者王』は叫ぶッ!!!

 

 

──ガオ・ガイ・ガーーーッ!!!

 

 

──それは、起源(ジェネシック)の主。

 

──それは我々の望んでいた勇者王の可能性。

 

──魔法により復活した緑の星の指導者。

 

──その名は勇者王ガオガイガーッ!!(Ver.K)

 

 

「「「「────!!?」」」」

 

「……素晴らしい、ですわ。」

 

 

まさかの勇者王誕生に驚愕(もしくは呆然と)する一同。

そしてカルディナは夢にまで見た組み合わせ(カイン×地球製ガオガイガー)に、あまりの感動に落涙。

ウサリン(アベル)は目の前のガオガイガーにジェネシックを見たのか、ガクブルしている。

 

 

「さて……突然で申し訳ないが、少し性能テスト(八つ当たり)に付き合って貰おうか。」

「え──ちょ、ナニを!?」

 

 

強靭な右腕がウサリンの胴体をガッチリ掴み、ガオガイガーは空高く掲げるように持ち上げた。

そして掲げた鋼の拳が、頑強な腕が、互い違いに超高速回転を始め、同時にウサリンも姿が確認出来ない程に超高速回転され───

 

 

 

「───ブロウクン・マグナムッ!!!」

「───ぴやああああぁぁぁぁぁぁ───……!!!」

 

 

ドップラー効果を発揮しながら悲鳴を上げるウサリン(アベル)を山岳の彼方に剛腕(ブロウクン・マグナム)を放つガオガイガー(カイン)

 

 

「うむ、良い性能だね。」

「お褒めの言葉、有り難き幸せですッ!!」

 

 

右上腕に戻って来た剛腕を接続しながら満足げな感想を述べるガオガイガー(カイン)に感涙の涙を浮かべてカルディナは深々と頭を下げる。

 

その一連の光景に一同は言葉が出ず、後に「痛いじゃないですか、何してくれてんですかーーー!!!」と魔導吸気圧縮噴射機(マギ・ジェットスラスタ)を吹かして戻って来たウサリン(アベル)と再びいがみ合うガオガイガー(カイン)

 

それは国王(レクシーズ)が仲裁するまで続いたという。

 

 

 

《NEXT》

 

 

 


 

 

 

○魂のお話

自分が思う空想理論を一筆、つまりそういう事です。

ちなみにこの話の理論が、後のストーリーにリンクしています。

何が?と思うでしょうが、お楽しみに。

 

 

○Number.01とカイン

書きたい話の五指に入る内容、その1です。

生き別れた息子はどうなった?の最大のアンサーになるかと。

直接は会えませんが、ちゃんと生きている証明をしていると思いますがどうでしょうか?

また、当作品の特徴でもある『その作品に出ているキャラに見せる』が1番生きるところだと思います。

カイン、泣いていいんですよ?

 

 

元始情報集積概念(アカシック・レコード)一葉片(ひとひら)

過去に全て起きた事象を集約した集積記録の塊。

掲載された内容はどこかの次元で過去に実際に起きた事象……という、脳内書庫の大元設定。

ただ、『一葉片』の通り、開示されている情報概念は一部であり、例えば存在する者の運命記録等は管轄が違うため閲覧は出来ないです。

カルディナに公開されている情報は、過去に超次元観測された情報を他次元の生命体に受信させて2次元情報に興した記録の他、地球で作成された法則、メディア情報が主。

これらは高次元体の崇高な超次元観測記録《/s》という神々が集約するのが面倒な自分の観測記録を人間に無理矢理押し付けて《/s》インスパイアさせて、あえてアニメーションに興させたもの。

なので、基本的には『アニメ』の体裁なのです。

………という、ある種『イワーク状態』な恐ろしい側面を含む設定。

 

 

○アベルさん

……ここで特筆する事はないですが、書くと出るわ出るわの、やらかし履歴。

まさに『お前の罪を数えろ』状態。

生存していたら確実に叩かれるのが、ソール11遊星主の案件。

地球での生存フラグはないでしょうね、きっと。

 

 

○カイン×地球製ガオガイガー

書きたい話、その2。

カインが生きていて、地球製ガオガイガー(正確にはガオーマシン)にF・Fするシチュエーション。

今回はアベルさんを泣かす程度に。

ちなみに「ヘルアンドヘブン・ウィータ」も出来ますが、現段階では両者共に駆体が耐えきれないので見送り。

 

……でも、ツッコミどころはそこじゃない。

 

 




以上(3)ですが、まだ続きます。次の(4)でカイン、アベルとの会合は終わります。

……ここの話、楽しすぎて止まらなかった。

ちなみに執筆中、声優の小林清志さんが勇退しました。
偉大な勇者の一人に敬礼(*`・ω・)ゞ

そして我々は信じている……

───貴方が『スパロボ30』に出演している事を!!
(知ってる人、誰か情報求ム……!)


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Number.11 ~星の彼方より来たりし者達~(4)

さて、真面目な話をしよう。(信用度0)

そして冒頭部分の戦闘は『勇気いある戦い』をBGMに。


「───済まなかった、迷惑をかけてしまったね。」

「みっともないところを……すみませんでした。」

「い、いえ……」

 

 

困惑する国王(レクシーズ)に頭を下げるガイガー(カイン)ウサリンmark-Ⅱ(アベル)

その後ろには最初に集落に訪れた時より酷い、荒廃した景色が広がっていた。

 

あれからガオガイガーとウサリンmark-Ⅱのいがみ合いから発展した激戦は十数分間行われた。

ウサリンの籠から、雨の如く降るキャロットミサイルを避けてはプラズマホールドで迎撃し、肉薄するガオガイガーだが、ウサリンmark-Ⅱのピコピコハンマー(当たると死ぬほど痛いよ!)の猛打を捌き、拮抗する。

鋼同士がぶつかり合う、重厚な打撃戦は間に介入した瞬間に命を落とす勢いである。

途中、2人で何か言い争っていたが、まともに聞いているとあまりにも酷い罵倒と猛烈な抗議の嵐もあったが、両者はそれ程酷い鬱憤を抱え込んでいたとも言える。

 

 

「───何故、宇宙を壊す程の選択をした!?君はそれ程にも世界を、三重連太陽系の住人をどうでも良いと思っていたのか、アベルっ!!!」

「それはこちらのセリフです!!あなたこそ、『彼女』が未だ帰ってこないのに、三重連太陽系を見捨てるような選択を選んだのです、カインッ!!!どうして見捨てられるのですか!?私は、ただ私達の造り出した──『彼女』の愛するあの星系を守りたかっただけです!!!」

「『人』を生かさずに何が為政者か!!!そして感情だけに流される君のやり方では億万の憎しみをまき散らすだけだろうに!!」

「その地を愛さずに、何が『人』ですか!!! あの時を思い出しなさい!!貴方のやり方では故郷を失う悲しみを生み過ぎる!!本当にあの時の住人達が耐えられるとでも思いましたか?!」

「星に住まう人を護る為だ!!その為の移住計画だった!!故郷は失おうとも星と共に散るよりはマシな筈だ!!」

「私とて人の想いを護る為です!!事前調査で三重連太陽系の住人全てを受け入れられる規模の場所等ないと結論付いていた筈です!!あの機を逃してしまえば星間戦争もやむ終えない可能性もあった!!そればかりか移住中の絶命者ですら計り知れない!!それでも在りもしない希望で人々を絶望させるつもりですか!?」

 

 

挙句には、ガオガイガー(カイン)は全力のヘルアンドヘブン・ウィータを、ウサリンmark-Ⅱ(アベル)に至っては何をどうしてそうなったのか、ピコピコハンマーがゴルディオン(金色の破壊神)を超えてシルバリオン・ハンマー(白銀の破壊神)に昇華し、Gパワーの奔流すら切り裂き、突撃した。

 

 

「───アベェェルッ!!!」

「───カァァインッ!!!」

 

 

そしてこれはまずい、と悟った国王(レクシーズ)は誰よりも早く疾走し、カルディナの襟首を掴むや否や、激突寸前の2人の間に全力で投擲した。

 

全力のヘルアンドヘブン・ウィータとシルバリオン・ハンマー(白銀の破壊神)の衝突は拝みたいところだが、受けるのは勘弁と言わんばかりに、こちらも全力の魔力障壁を展開、受けきるのではなく、受け流す……なんて出来る訳がなく、()()()()()()()()()()()()()、2人の必殺技の衝突そのものを崩した。

そして反れて空振りした2人の必殺技は、それぞれ大地を広範囲の灰と塵に変えるのだった。

 

だが代償も大きい。

 

ガオガイガーは両腕が粉々に。

ウサリンmark-Ⅱはピコピコハンマーが限界に達し、光に還った。

そしてカルディナは余波で錐もみ大回転し、受け身を取れず頭から地面に突き刺さるという、非常にカオスな展開になり、そこで2人の頭が冷えたようで、国王(レクシーズ)に謝罪をする、という冒頭に戻る。

 

 

「つい、カッとしてしまったよ。ついでに久々にガイガーにフュージョンしたという()()()もあって、少々やり過ぎてしまった……とはいえ収穫もあった。」

「収穫、ですか?」

「アベルの本音だよ。彼女は決して全てを蔑ろにはしてなかった。」

「………」

 

 

当時、滅び行く宇宙に揺蕩う三重連太陽系で、最後の特大計画が提案されていた。

 

カインが提案した太陽系総移住計画。

アベルが提案した三重連太陽系再生計画。

 

この2つがあったが、当時どちらの計画も現実的ではなかった。

 

カインの計画には具体的な移住先が選定されておらず、事前調査では即座に移住可能な星系はなかった。また移住可能な星系があったとしても先住民問題や、全ての住人を移住出来る保証は、ない。

これはもはや種の保存に近い。

 

またアベルの計画も、滅び行く太陽系の跡地に、他の宇宙より吸い出した暗黒物資を用いて、新しい三重連太陽系を創造するという、人道的にもコスト的にも道外れた計画だった。

それは他を犠牲にしてまでの生存戦略である。

 

何より1番問題だったのが、『宇宙が滅ぶ』という極度のストレスを抱えた住民や、宇宙消滅に伴う歪みが及ぼす環境変化による影響によって体調を崩す住人が、太陽系全体に溢れていた事が大きい。

高度な科学力があるが故に、民間でも事象観測は可能で、その結論には容易に辿り着く事が出来たため、すぐに混乱は拡がった。

そして宇宙消滅に伴う歪みはゆっくりと人々の身体を蝕む。

事実、治療を担当していた星では、太陽系の住人達が殺到し、医療体制が極度に逼迫していたという。

 

故に三重連太陽系、11の遊星主達は当時2人の計画の提案を決めかねて迷走していたのだった。

 

自身を犠牲にしてまでの種の保存か。

他を犠牲にしてまでの生存か。

 

だが、三重連太陽系の科学力を以てしても、どちらの選択でも大勢の犠牲者が出るのは必至だった。

 

後はどこまで犠牲者を減らせるか……

 

 

「……そんな選択はしたくなかった。だが何か選ばなければ滅びを待つしかないのも事実だが、当時の私達は滅び行く故郷を目の前にし、冷静ではいられなかった。結局私達は対立し、己が意見を通そうとした。」

 

 

その時、創られたのがソール11遊星主とジェネシック・ガオガイガーである。

 

 

「しかもアベルは当時、頑なに三重連太陽系を再生すると言ったが、その理由は頑なに語ってくれなかった。だが……そうか、『彼女』が理由なら納得いったよ。」

「………」

「すいません、彼女とは……?」

「それは……」

「───三重連太陽系11の遊星主の1人にして、最初の遊星主です。」

 

 

クリストファーの質問に、カインが答える前にアベルが口を開いた。

 

 

「……我々のリーダーであり、三重連太陽系の住人全ての心の支えでもありました。そんな彼女が、ある日を境に姿を消してしまったのです……彼女を慕っていた者には、ショックが大き過ぎる出来事でしたよ。」

「……だからだったのか。」

「………」

 

 

それはきっと、自分も含まれる、と付け足されるのだろう。

滅び行く故郷を見せないため。

『彼女』を慕う三重連太陽系の住人を絶望させないため、アベルは三重連太陽系の再生を計画、実行しようとしたのだろうか……

 

だが結局、ゾンダーにより全てが滅んでしまった。

 

そして何か心の整理が済んだのか、そっぽ向いていたアベルは真摯な姿勢でカインの方を向き直した。

 

 

「カイン、私は計画の事は後悔していません。罪を背負う覚悟もありました。禁忌と解っていても宇宙消滅という大事を目の前に、どうしても滅び行くのを認めたくはなかったのです。故に再生計画を持ち出した……けれど犠牲になってしまう人々には本当に申し訳ない、とは思っています。」

「……今なら君の心情も理解出来る。だが『彼女』が容認したかは別の話に……いや、私も一緒だな。事前調査で判っていて尚、移住計画を持ち出した。どちらの計画が承認されようとも、多大な犠牲は出ただろう。生き延びる手段に踏み切るつもりで、私はその犠牲に目を背けていた。私も半ば同罪だよ。」

 

 

そこには2人の非常に強い葛藤による答えがあった。

だが、指導者の立場にある2人には、破滅への道が避けられなかろうとも最後まで顛末を見届け、足掻く義務があった。

ただ、胸に抱く思いが、多少ずれていただけであって───

 

 

「……おそらく、御二方の衝突はそこから来たのでしょう。」

「なるほど。それで御二方は和解した、と認識していいのか、カルディナ。」

「御二方のご様子からすれば。」

「我々もあの御二方が仲が悪い光景を見るのは忍びなかった。では万事めでたし───というシナリオを元から書いていたのか、カルディナ?」

 

 

レクシーズ達3人の後ろに、地面に突き刺さったところを回収されたカルディナは、その問いに顔を背ける。

そしてレクシーズの隣に立つクリストファーは

カルディナを一瞥するとため息を一つ。

 

 

「……何のことでしょう?」

「と・ぼ・け・る・な。そしてそっぽ向くな。カイン殿やアベル殿、ひいては御二方の故郷(三重連太陽系)の事情をより良く知るお前なら、持っている情報を元に御二方の心の動きぐらいは読める筈だ。そして知っているが故に()()()()()()()()()()()()()()()()()のではないか?」

「……身に覚えが御座いませんが?」

「お前が幼い時より、気付けば操り人形になった錯覚すら覚える奸計(完遂)を星の数ほど企てたお前だ。巧みに突け込んで煽るのは、訳無かろうに。」

「失礼ですわ!操り人形ではなく用意周到に仕込んだ策略と、渾身のおねだりです!希望を叶える際には相手を『ヨイショ』する、それこそトラブルのないやり方です。」

「よし、認めたな。」

「いやん、ですわ。」

「……誤魔化す気すら無かっただろうに。というか、カイン殿にガオーマシンを提供したのは、間違いなくお前だろう。」

「はい。カイン様がファイナル・フュージョンをする場面を是非とも見たかったので、率先して。」

「………お前なぁ。」

 

 

清々しく開き直る娘に、頭を抑えるクリストファー。

そんなカルディナに、レクシーズは質問する。

 

 

「──でだ、何故御二方を煽る真似をした?そして今回の件、こうなる事をお前は判っていたのか?」

「いえ、今回の全容は私も預かり知らぬ所存でした。ですが、今までの推察と、今回の御二方のお話を伺って、仮説を立て、そっと後押ししただけに過ぎません。」

 

 

カインとアベルの最大の確執。

それは三重連太陽系の宇宙消滅時の2人の選択にある。

だが、その前提条件と結果は押して知るところとなる。

その話の中でカルディナに芽生えた疑問───

 

『2人は長い間、確執の原因について話を交わさなかったのか?』

 

何故、とは思わない。

きっと話す間もなく、この集落に逃げ延びた後、纏め役にされた事もあり、それを言い訳に2人はその事に蓋をしたのだろう。

責め合っても取り返しのつかない事だ。

それよりも、今あるものを大切にしたい。

 

そうでなければ、心が磨り減り、疲れてしまう。

自分達以外ではアルマ-000(ゼロ)以外は知る者もいなく、思い出すにも、話すにも辛過ぎる現実故に……

 

 

「……その結果、この地が更地になったが?」

「……陛下。必要経費と思っていただければ。それに腐蝕が酷くて全て解体するのは、事前に御二方と決めたので、問題ないかと。」

「そこまで計算ずくとは、何と大胆不敵な……まったく親の顔が見てみたいものだ。」

「皮肉ですか、ティ・ガーさん?」

「何の事かな?」

 

 

クリストファーの睨み付けに、ティ・ガーはそっぽ向く。

そんなやり取りに今度はレクシーズがため息を1つ。

ちなみに2人の一連の騒動はカルディナの予想のはるか斜め上を行っており、まさか自作の2機が最上級の必殺技を繰り出す等、予想出来る訳がない。

精々、予想していたのは口喧嘩か多少の殴り合いがいいところだ。

煽ったはいいが、百倍返しを喰らった気分である。

 

……三重連太陽系の住人は、拳で語る某戦闘民族か?!

 

 

「しかし、本当に問題ないのか?話を聞くだけでも、他人事とはいえない内容だった。国の大事で対立した遺恨は簡単には消えないと思われるが……」

「……あの御二方なら問題ないと思います。何故なら───」

 

 

実際のところ対立まではしているが、カインとアベルは直接の武力衝突はしていない。

また、ゾンダー出現の際にカインはアベルにGストーンの製造法方を伝え、Jジュエルの開発に一役買っている。

そして、ゾンダーが緑の星を呑み込もうとした時、おそらくカインを救ったのはジェイアークに乗ったアベルのはず。

 

そしてこの星に逃げ延びた後も、集落で過ごす間は特に不仲といった様子もないと聞く。

推察するに、公事では激しく対立するが、元からさほど仲が悪い訳ではない様子と思われる。

ただ言えない本音は秘めて、今日まで至った。

 

そう考えたカルディナは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだった……が結果オーライ!としたい。

 

 

「……押されてスッキリした感は否めませんね。どうやら、貴女に一計謀られたようで、カルディナ。」

「アベル様。」

 

 

どうやら互いに話は終わったようで、ガイガー(カイン)ウサリンmark-Ⅱ(アベル)が戻ってきた。

 

 

「アベルとの確執については、全く無くなった訳ではないが、誤解がない程には理解したよ。手間をかけさせたね、カルディナ嬢。」

「いいえ、カイン様。この程度など手間の一つにはなりません。御二方の御関係が良くなっただけでも、嬉しい事極まりありません。(汗)」

「……そう言ってくれると流石に恥ずかしいね。だがここまでしてくれたなら、何かお礼をしてあげたいところだが……」

「───でしたら、この星に潜むゾンダーの殲滅の為、Gストーンの製造方法をご教授していただけたら、と申し上げます。」

「「────!!」」

 

 

ニッコリと笑顔で告げるカルディナの言葉に、驚愕するカインとアベル。

だがすぐに冷静になり、

 

 

「……なるほど。Zマスターが滅んだ事を把握していながら、私達が出会った際に、ゾンダー遭遇、殲滅したと言ったのは……そういう事だったのですね。」

「はい。」

「未だゾンダーはこの星に潜む、か……話を、詳しく聞く必要があるみたいだね、カルディナ嬢。」

「はい。私が知る限りの全てを、お話致しましょう。」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……なるほど、理解したよ。けれどね……」

「そんな事態になっていたとは。ですが……」

 

 

この星に潜むゾンダーについて、カルディナは改めてカインとアベルに話をした。

また、この場にいた()()にも情報整理と現状周知を兼ねて言い聞かせた。

また言葉だけでは解りにくいので、モニターに画像を投射しながらカルディナは話を進めた。

纏めると以下の通りとなる。

 

○始まりは約500年前から、その存在は確認された。

 

○特徴は全てゾンダー(アニメ、他観測内容)と変わりない。

 

○けれど機界昇華どころか、積極的な活動は確認されていない。

時折、目撃者もいたが、すぐに姿を眩ますので問題視されていなかった。

 

○だが、カルディナ自身は幼少の頃襲われ、時折、人民の行方不明が確認、起きている。

 

○その多くは何らかのオブジェと化し、活動を停止(休止?)しているが、過度の刺激を与えると覚醒、巨大なゾンダーロボに変容する。

 

○実際にカルディナが核をヘル&ヘヴンで抉り出し、クストの浄解により、人間に戻った事を確認。

 

○そしてその総数は感知出来る範囲で、現在約500を超える……

 

○だが、ゾンダーの大元『Zマスター』は()()()()である。

 

 

「──そうです、貴女の話ではゾンダーのマスタープログラム『Zマスター』──そのコアであるゾンダークリスタルは浄解された、そうですね?」

「はい。そちらは天海護(ラティオ)様が浄解を果たした───そう認識しています。そして()()()()()()()()()()()()()()()()、それは間違いないかと。」

 

 

一通り話を聞いたカイン、アベルは信じられない、といった様子だった。

ゾンダー消滅の吉報から、この星に潜んでいるというどんでん返しなのだ、無理はなかった。

しかも『元始情報集積概念(アカシック・レコード)一葉片(ひとひら)』で確認済みという、事象が終了した内容を記録する性質という、信憑性の強い情報があるので尚更だ。

だが、カルディナは言いきった。

 

 

「ではどうしてゾンダーが未だにいるのか……もしくはゾンダーではないのか?」

「……もしかすると、その表現で概ね合っているかもしれません。」

「……ゾンダーであり、そうではない?どういう事かい??」

「1番の理由は『機界新種(ゾヌーダ)』です。」

 

 

───機界新種(ゾヌーダ)

 

 

それはZマスター消滅後、人類に課せられた最後の試練だった。

 

地球に飛来したEI-01(パスダー)が東京に不時着した時、GGG隊員の卯都木命の肉体に埋め込んだ機界生命体の種子が進化して誕生した機界新種、その第1号。

命の肉体に埋め込まれてから3年間、彼女の中枢神経に擬態する事で、GGGのセンサーだけでなく護の感知能力すら欺き、潜伏を続けて成長。

命が凱や勇者ロボ達の近くにいた事で、本来ゾンダーにとっては天敵であるGストーンのGパワーへの耐性を獲得した、ゾンダーであり、ゾンダーとは異なった存在。

 

そしてソンダーのマスタープログラムであるZマスターの消滅後も消える事がなく、護ですら気付いたのは覚醒直前だったことから、最低でもZマスター消滅時には既にゾンダーとは異なる存在として独立していた存在だった事が窺える。

 

ゾヌーダが持つ最大の特性は『物質昇華』。

自身の周囲にある物体を絶縁体へと変質させ、物体内のエネルギーを強制的に発散させてゼロにしてしまう能力。

物質昇華された物体は、あらゆるエネルギーを失って瞬時に全機能を停止し使い物にならなくなってしまう。

総じて物質文明にとっての天敵というべき力であり、ゾンダーの侵食を受けなかったGSライド搭載した勇者ロボ達にも問答無用で作用した。

ゾヌーダに近づかれただけで全てが無力化されてしまうが、ゾヌーダロボ形態になると更に規模が拡大し、周囲一帯が錆び付いた電子回路のような形状の奇怪な絶縁体へと一瞬で変貌してしまう。

 

劇中、GGGが死力───ガオガイガーも文字通り死にかけた相手であり、護に至っては一度死んだ描写もあったりする。

……まあ、最後に奇跡の復活を遂げるが。

幾つかの幸運と、勇者達の死力を以て撃破出来た、最凶最悪のゾンダーである。

 

また、オーストラリアで機界新種の第2号も別に出現している。

腕原種の素体こと、アームストロング氏が素体となった。

(経緯は不明だがオーストラリアの農場で記憶のない状態で働いていたが、突如発症。たまたまいたこれまた記憶喪失中の戒道と交戦し無事浄解された。)

 

 

「……無茶苦茶なゾンダーですね。物質文明の天敵というのも誇張ではない。」

「そうだね……ん?では君が遭遇したのも、その機界新種(ゾヌーダ)とやらかい?」

「……いえ、それは強く否定させて下さい。」

「……だよね。」

「遭遇したのは通常タイプのゾンダーです。ただ、御二方のお話と機界新種(ゾヌーダ)の事を総合すると、別の可能性かと思います。」

「別の可能性??」

「本来のゾンダーとは異なる()()を遂げた存在、もしくは()()()()の存在では、と。」

 

 

Gパワーに対する耐性を獲得した機界新種(ゾヌーダ)のように、この星に潜んでいるゾンダーも、何らかの耐性を獲得している可能性が充分にあった。

 

 

「……ふむ。面白く、可能性が高い仮説だね。500年という長い年月を経て未だに活動を起こさない理由にも繋がる。それ程の阻害因子がこの星にあるというんだね。」

「おそらくは。ですがそれが何時まで今の状況を持たせるかは……不明です。」

「……確かに。ゾンダーが今度はその阻害因子に対する耐性を獲得しないと断言出来ないからね。」

「だからですか、Gストーンを欲すると……」

「──はい。」

 

 

前回のゾンダーとの戦闘を経て、カルディナは1つの結論に達した。

対峙したゾンダーの侵食能力が想定を超えており、不用意に接触すると、こちらが取り込まれる可能性が非常に高い、と。

これでは侵食に怯え、満足には戦えない。

たとえ現在開発中のガオーマシンが出来たとして、ガオガイガーとなったとしても、Gパワーなきガオガイガーではハリボテもいいところだ。

確かにクスト、ムルの浄解能力があるのは、非常に幸運だった。

しかし対ゾンダー戦は、それでは勝てない。

 

浄解能力者と、ガオガイガーがいて『ゾンダーに対する勝利』は初めて成立するのだ。

その為にはGストーンは絶対不可欠なのだ。

 

そんな思いを胸に、カルディナは改めてカインとアベルと向き合い、そして地面に膝を付き、頭を下げる。

 

 

「私が───私()が積み上げて来たものでは、まだ届きません、届かないのです!ですから私に……Gストーンの製造法方をお教え下さいッ!!」

 

 

それは必死の懇願だった。

周りの人間達も息を飲む程に。

そしてカイン、アベルの反応は───

 

 

 

「──気に入りませんね。」

「……はい?」

「気に入りません、と言ったのです。」

「何が……でしょうか?」

「カルディナ。貴女、『赤の星の指導者(ジェイアークの創造者)』たる私を前に、Jジュエルを欲しないとはどういう事です??JジュエルはGストーンより出力は下ですか?」

「あ、いえ!そんな事はありません!Jジュエルの方が上です!」

「……そんなJジュエルを欲しくないのですか??」

「いえ!欲しいです!!」

「なら、初めからそう言いなさい。グダグダ言うなら、あのギャレオンにGストーンの代わりにJジュエルを積みますよ。それにGバリアの装甲ではなく、ジェネレイティング・アーマーを標準装備させますが……」

 

 

それはそれで素晴らしい、と思うカルディナ。

そんな様子のカルディナを見て、アベルはニンマリ笑い、つられてカインも笑う。

 

 

「……で、カインはどうですか?」

「そうだね、私も気に入らないね……カルディナ嬢、1つ尋ねる。」

「……はい。」

「君はGストーンの製造法方を手に入れて、その後どうする?」

「ゾンダーと戦います。」

「誰とだい?サポートこそあるだろうが、主戦力は君1人かい?」

「そう……なりますね。」

「それは容認出来ない。君は1つ見誤っている。何か解るかな?」

「それは……」

「それは()()が戦力に含まれていない事だよ。」

「え……??」

 

 

そのカインの言葉に、カルディナは強い驚愕を感じた。

その言葉の意味する事、それは……

 

 

「カイン様もアベル様も……戦うと??」

「そう言っているではありませんか。」

「ああ。ゾンダーは発生原因こそ不明だが、三重連太陽系で生まれた()()だ。それを同郷の者が、Gストーンだけ提供し、黙って見ていろ、と?しかも直接対抗出来る手段を生み出した我々に手を出すなと?」

「いえ、そんな事は……ない、ですが……」

「その様子だと、君独りで全て背負って戦うつもりでいたようだね───それは傲慢だよ。」

「ゾンダーは私達の───三重連太陽系の

(かたき)です。それを指を咥えて黙って見ていられる程、三重連太陽系の星の指導者は安くはありません。むしろ、この手で討ちますよ。」

「………」

「それにだね、私達とて自分達も()()()()()()とも思っている。であれば、その危機を払拭したいと思うのだよ。」

 

 

それは何と嬉しい言葉か。

三重連太陽系だけでなく、この星を故郷と思っていてくれるのだ。

これ程嬉しい事はない。

 

 

「それとも……カルディナ。燻っていた私達の魂に火を点けた君が、格好の(かたき)を目の前に、私達に黙っていろ、と?」

「それは非常に頂けませんね。」

 

 

そして、何という頼もしさか。

特にガイガー(カイン)からは冷静でありながら、カイン本人から溢れ出すGパワーが豪々と燃え盛るように顕現している。

例えるなら、それは『破壊の地獄』だろうか。

ウサリンmark-Ⅱ(アベル)もボディが地味にシルバリオンに。

 

 

「……申し訳ありません、私が愚かでした。」

 

 

そんな2人の『やる気』に当てられてか、カルディナは立ち上がった。

 

───屈託のない笑みと共に。

 

そしてカルディナは手を前に差し出す。

 

 

「では改めて、お願い申し上げます。この星に潜むゾンダーの殲滅に、御二人の御力をどうかお貸し下さい!」

「ああ。緑の星の指導者の名に懸けて。」

「私も、赤の星の指導者の名に懸けて……手抜かりは許しませんよ。」

「はい!!」

 

 

こうしてカイン、アベル両者の協力を得られる事となったカルディナ。

ゾンダー殲滅に向けて、大いなる前進を果たすのだった────

 

 

 

 

 

 

 

……だが。

 

 

 

「───ちょっとお待ちを!!!弾けます!ハジケてしまいますぅぅぅーーー!!!」

「ははは。何を弱気になっているんだね、カルディナ嬢。まだまだいけるだろう。」

「そうですよ。まだ入るはずですよ?ほらほら、休まず続けて、手を動かす。」

「これ……本当に必要な、んんん~~~!?」

 

 

────ボン!

 

 

「……あ~あ、失敗。また爆発したね。」

「それではもう一回。」

「あにょ……ひゅこす(少し)休ませて──」

「「──ダメ。」」

「そ……そんにゃあ……」

 

 

即座にGストーン創造の為に、カインとアベルに連れて行かれたカルディナだが、実はスパルタだった2人に、徹底的にシゴキを受けるのだった。

 

 

「──あとクストと言いましたね、貴方も全力尽くしなさい。」

「いや、全力超えて死力を尽くすレベルだよ!?搾り取られ───!!」

「──無駄口叩かない!」

「あひんっ!!?」

「………クスト、頑張れ。」

 

 

ついでにクストも。

 

それが三日程続き、次第に悲鳴も聞かなくなり、集落の土地の復旧に目処が立った頃……

 

 

 

 

「でッ……出来ましたァーーー!!!」

 

 

 

 

それは感動のあまり、天高く掲げるカルディナの手の中で、間違いなく『G』の文字を宝石の中央に浮かべている。

 

遂に、皆が待ち望んだ、光輝く緑の宝石───無限情報サーキット、Gストーンが出来上がった瞬間だった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「──それじゃあ、クルシエル……と言ったね。他のみなさんもこのまま集落に残る、と。」

「はい!よろしくお願い致します!!カルディナの為にも精一杯頑張ります!!」

「あ、ああ。じゃあ引き続き集落の復旧を頼むよ。あと君らの建物も……」

「──はいぃッ!!お任せください!!みんな行きますよ!!」

「「「───ハハッ!!」」」

 

 

旺盛的に踵を返して走り出すクルシエルとその家臣一行。

彼女らはこの集落に残り、復興に協力するとの事だった。

そんな彼女らをジェイアークの外壁より見送るカインは一呼吸した後、この星に辿り着いてからの事を思い返し、そして思いを馳せた。

気になっていたラティオの行方、その後の顛末が知れ、後悔と懺悔の気持ちが払拭されたのが大きい。

そしてアベルとの完全……とまではいかないが和解が出来た。

生き恥を晒して生きてきた甲斐があったと言える。

 

 

(……三重連太陽系の出来事、それがまだ終わっていない。しかしそれが苦しくもあり、嬉しくもある。命が尽きた筈の私が、まだかつての故郷の為に戦える……きっかけを作ってくれたカルディナ嬢に感謝しかないね。)

 

 

Gストーンが出来上がったその後、異世界製ギャレオンに搭載し、フィッティングも行った。

中身がかなり違っていたので、戸惑いはしたが、すぐに構造や術式を理解し、魔力転換炉(エーテルリアクタ)の触媒結晶の代わりにしたのだ。

そして手元にあった資材でギャレオンを改造したのだった。

結果は成功。カインが対ゾンダー用にフィッティングしたギャレオンよりも多少出力が上がっていた。

また、全身を廻るGリキッドは、その製造方法を見せると、驚きながらもカルディナ達はGストーンを用いてすぐに造ってしまった。

 

……頭痛を感じないはずの頭が痛かった。

 

けっこう苦労して造ったものが数時間で精製されるのは、ショックが大きい。

しかも材料をすぐに用意出来たとか、どうしてだろう?

 

けれどもそんなショックを乗り越えて、他の事の追加アドバイスをするとカルディナは感激していた。

カインとしては、三重連太陽系の技術に耐え得る機体強度を持たせている、その技術力に驚いたが……

そして残りは帰ってから、する事に決めたのだった。

 

またレクシーズ達も対策を練るとの事だった。

今のままでは自由に動かせられる仕組みがないとの事で、国に帰って整備するという。

 

 

 

(いろいろサンプルは持たせたから彼女なら問題ないだろう。それに連絡手段も貰っている……遠距離通信機とは驚いたけど。)

 

 

また、三重連太陽系の血を色濃く受け継いだクスト、ムルの2人の少年もカルディナに今まで通り追随するとの事。

特にクストは、ラティオが成長したと思われる姿をしていた。

仕方ないとはいえ、今の棲み家がある以上、彼等を含め、生き延びた住人達が去ってしまうのは少し寂しいが、また会えるのでそれもまた良しと出来る。

 

ふと、己の手を見る。

朽ちた身体が、今はかつての相棒(ギャレオン)の身と同じ形である。

少々複雑だが、それ以上に面白くもあった。

 

 

(……元の体に戻ったら、試しにこのギャレオンを改造してみるのもありかな?意外と魔法技術は三重連太陽系の技術と相性が良いらしい。)

 

 

ミニサイズのギャレオンとジェネシック・マシン……そう考えると微笑ましい。

また、作業明けのテンションで、精製したGストーンの1つで青の星(地球)で創られたGドライブの中心機関『GSライド』を資料を見ながら三重連太陽系の技術で造り、我が身に宿している。

 

……我ながら何をやっているのだろう、とつい笑ってしまう。

 

 

「───カイン、来ましたよ。」

 

 

そんな時、ウサリンmark-Ⅱ(アベル)が来た。

 

 

「すまないね、そちらは一段落したかい?」

「ええ。冷凍睡眠装置(コールドスリープ)から住人達を解放しました。落ち着いた後に、状況の説明をしてあげて下さい。」

「わかった、やろう……これで集落の復旧が出来る。新しい住民になるクルシエルさん達も紹介しないとね。」

「……そうして下さい。五月蝿くて仕方ないです。カルディナの関係者はどうしてこうなのか……」

「と、言いつつ嬉しかったんじゃないかい?話の間、そっぽ向く事が多かったけど、カルディナを注視出来なかったのだろう、『彼女』に似ていて……」

「ば──!?そんな訳ないじゃないですか!?」

 

 

と、言いつつそっぽ向いて見える耳が赤く染まっている。

……あれ?あの耳、無機物だよね?

 

 

「そ、そんな事より()()はどうしたのです!?そのために呼んだのでしょう!?」

「あははは。すまない、そうだね。」

「……で、何ですか?」

「いや、ね。これから彼女ら──カルディナを含めたアルドレイア王国と、協力してゾンダーを迎え討つ事になるけど……いろいろ『疑問』が出ているんじゃないかな?と。」

「……そんな事ですか。確かに無視出来ない点は幾らかありますが。」

「例えば??」

「あの娘───カルディナの使った蘇生魔法……ですか?あれは────

 

 

 

 

 

 

 

─────三重連太陽系の技術です。」

「……君も、そう思うか。」

「思わない方が可笑しいです。あの娘の考え方は三重連太陽系で考案された理論を確立した技術です。我々の蘇生をした()()は、システムの構造こそ差異はありますが、まさに『超電界接続』、いわば『フュージョン』です。」

「やはりそう思うか。肉体と魂の違いはあれ、我々にここまで相性が良過ぎるのは、どうにも疑問だったが……」

「まあ、もしかするとたまたまそんな結論に達し、出来たという事も考えられますが……2つ目はそうとも言えないです。」

「『軟鉄』と呼ばれる、柔らかい金属だね。アルドレイアの地でしか産出しないと聞いたが……」

「……頭が痛い話ですね。三重連太陽系で採用されていた『ナノマシン・マテリアル』より2世代先の性能を持っている物が、ですか。」

「……思わず胃潰瘍になりそうな解析結果だね。胃はないけど。」

「さっと調べただけですが。そんなものが自然産出、ですか?無理があり過ぎます。」

「そうなんだよ。それでも、この2つの事柄から連想されるのは、『精神浄化システム』。造ったのは────

 

 

 

 

 

 

 

─────『紫の星』。」

 

 

「……確かに。あの星の連中ならやりかねませんね。医療行為名義で、あらゆる軍事製品より優れたモノを生産する、三重連太陽系最大の発明の狂人住まう星……」

「言い射て妙だね。だが当たっているだけに恐ろしい。」

「それにパッと聞いただけで、この世界の生命体が遺伝子操作を受けて、自然進化から外れた事は理解出来ますよ。それこそ紫の星の連中が関与してても可笑しくないです。」

「確か魔術演算領域(マギウス・サーキット)だったね。単独生命に量子エネルギー演算領域を遺伝子レベルで備え付けさせるとは、正直正気の沙汰とは言えないね。」

「そして触媒結晶……三重連太陽系で希少で最大級の感応型転換触媒が、生物による自然発生ですか……この世界を創造したモノがいるとすれば、どんな恨みを抱いて設定したのでしょう。それこそ、末期の紫の星の状態のように……」

「『エーテルを変換する』か……よく考え付いたね。」

「全くです。」

「まあ、カルディナ嬢から基本的な魔法が載った書物を借りたから、それで実証実験しよう。」

「……いつの間に。」

 

 

現地人には普通に見えても、部外者にとっては相当酷なもの。

どうやら、2人にはこの星はそう映るらしい。

 

偶然不時着したと思った星が、実は最大の縁を孕んでいる事をこの時の2人はまだ知らない……

 

 

 

 

《NEXT》

 

 

 

 


 

 

 

 

《次回予告》

 

因縁、対立、すれ違い……

様々な因果を乗り越え、カルディナはカインとアベルの協力を得て、遂にGストーンを得た。

 

そして最終段階に入ったガオーマシンの建造。

あらゆる困難を乗り越え、遂に完成に近付くカルディナ達に、告げられた宣告とは!?

 

 

 

NEXT『公爵令嬢はファイルフュージョンしたい』

 

Number.12 ~誕生、そして復活~

 

 

次回もこの物語に、ファイル・フュージョン、承認ッ!!

 

 

 

これが勝利の鍵だ!

『Gストーン&ガオーマシン』

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

~おまけ1~

 

カル「この星に潜むゾンダーの殲滅に、御二人の御力をどうかお貸し下さい!」

カイ「ああ。緑の星の指導者の名に懸けて。」

アベ「私も、赤の星の指導者の名に懸けて……手抜かりは許しませんよ。」

カル「はい!!」

 

 

 

ミカ「……ねえ、オルガ。あれ、何に見える?」

オル「何って……『怨念の固まり達が、強靭な復讐体制を作りましたが、何か?』ってところだな。そうにしか見えねぇよ。」

ミカ「やっぱりそう見える?」

ビス「本人達は気持ち良さげだろうけど、こっちは怖いよね……」

((( ;゚Д゚)))

 

 

『破壊の地獄』とシルバリオンモードに、凶悪笑顔じゃあねぇ……

 

 

 

~おまけ2~

 

カル「……お尋ねしたいのですが、三重連太陽系では星の指導者同士のトラブル解決は、いつもあのようなものなのですか?」

カイ「うん」

アベ「そうです。三重連太陽系における、最良の仲裁法です。」

カル「……被害とかは?」

カイ「あるよ。」

アベ「黄と橙がトラブル起こした時は藍の星の地表が削れましたね。そういう度に『彼女』が直してましたね、泣く泣く。」

カル「推奨してた当人が修理って……」

 

 

そもそも被害規模をどうにかしましょう。

 

 

 


 

 

解説&補足

 

 

○カインとアベルの必殺技

互いに自前のパワーで必殺技を放っています。

カインは自前でGパワーを発動出来ますが、アベルはJジュエルのJパワーを取り込むよう自身を改造し、発動しています(という設定)。

また、ピコピコハンマーは、ゴルディオンハンマーを魔法再現で模した実験武器です。

威力はかなり落ちますが、アベルさんは気合で性能を引き上げてます。

故にウィータとシルバリオンになった原因は、互いにハイパーモード的なブーストを掛けてたもの(70%)+外的要因(30%)。

流石は三重連太陽系の指導者!

 

 

○和解の方向性

結局、どちらのどちらの選択も生存確率が低い、という結論に。

冷静に考えても移住のリスクは高く、宇宙再生は相応の覚悟で挑んでも大罪者確定。

どちらも一長一短が極端過ぎる。

アベルさんがやらかしによる悪者ムーヴが大半ですが、私情含めてもどうしようもないための選択、としました。

でなければ、協力体制が望めなかったので、キレイなアベルさんになって貰いました。

そして公然といじれる環境が整ったともいう。

ただ1番の過ちはソール11遊星主の設定では……

 

 

 

○精神浄化システム

『超電界接続』で患者の精神、神経にリンク、『ナノマシン・マテリアル』を用いて脳内の感情を司る物質を放出し、ストレスを消去し、精神の安定を図る、紫の星渾身のシステム。

『ナノマシン・マテリアル』は物質の変化を助長することも可能で、電気信号を操ることと合わせるとどんな物質、形状、性質でも体験させる事が可能。

また、専用のプログラムにて患者の望む幻覚がリアルに再現される。

大きさは紫の星と同じ……というか紫の星そのもの。

リミッターを外せば、エネルギーが続く限り、ナノマシン・マテリアルと物質の細胞レベルでの分解・結合が可能で、一体化する事も可能。

 

 

 

……ん??

 

 

 

○謎

とりあえず当人達が感じたものをチョイス。

科学的に考えれば、ナイツマの設定の一部は狂気じみているとか……

 




長くなりましたが、ようやくNumber.11終了です。
正直、大きな脱線はないですが、ここまで話が膨らむとは思いませんでした。
スパロボ30発売までにファイルフュージョンを完遂させたかったのですが……無念。

ご感想、お待ちしてます。


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Number.12 ~誕生、そして復活~

どうも、お久しぶりです。
スパロボ30が楽しくて執筆遅れてしまいまして、申し訳ありません。
皆さんも楽しんでいますか、スパロボ30。

ちなみに私、スパロボ30に一つもの申したいです。
それは『ガオガイガーのシナリオ、省略し過ぎでは?』ですね。
勇者ロボ無し(代わりにブレイブポリスが参戦)で、敵・キングジェイダーのシルバリオンハンマーがMAP兵器で弱すぎ(緊張感ゼロ)。
せめてダブル・ヘルアンドヘヴンは合体攻撃で再現してよ……と不満は多々あり。
特にベターマン系のユニットのBGM、米たに監督ェ……(絶対ホクホク顔してるな)

なのでファイナル・ガオガイガーにアウェイクントリガー装備させてボルディング・ドライバーを連発して憂さ晴らしです。

けれどトップエースはランティスさん。
消費エネルギーゼロで射程7の闇爆殺襲は卑怯や……



───『お嬢様の工房(アトリエ)』、地下ドック

 

 

「……やはり凄いな。」

 

 

地下に広がる、この世のモノとは思えぬ、今まで見た事もない3つの巨大な造形に息を吞む人物がいた。

 

王国より派遣された職人であり、監視員役のミハイル・ソート・イェルツィーナ子爵であった。

国王より拝命した任務で、カルディナ・ヴァン・アースガルズ公爵令嬢への技術支援と、その過程で使用される技術を収集せよという内容だった。

職人には珍しい多少弱気な気質であるが王国に属する人材として有能であり、30代後半に差し掛かるこの男は、王国の技術収集の一端を担う逸材……という肩書はここに来て返上した。

実は……でもないが、今までもカルディナの工房に赴き、技術収集の名目に工房を共にした事もある。職人達とのウマも合い、関係も良好だ。今では現場では身分を超え、タメ口で言い合える関係になっている。

その時ですら高度な技術、斬新な発想に驚かされつつも、それらを吸収し、その都度自身の腕も上がっていった実感はあった。

 

だが、こんな地下施設があるとは露知らず、20メートルを超える鋼の巨人が闊歩する環境は、予想出来る訳がない。

自分の知る幻晶騎士(シルエットナイト)が10メートル未満だったのが、隣国フレメヴィーラ王国ですら20メートルクラスの駆体が主力配備されている報告を耳にした時の衝撃を思い出す。

 

 

「ん?どうしたの、ミハイル。ボーッとして。」

「え?あ……すまないイザリア女史。つい()()衝撃を受けてね……」

「……いい加減慣れたらどう?アンタも建造に参加したでしょうに。」

「ああ、頭では解っている……筈なんだが、どうにも実感が湧かなくてね。私達もこれを造っている、という気が……」

 

 

そう言うと、再び視線を戻す。

それらは未だ建造中であるが、ほとんどその輪郭を名実に現わしている。

 

まず2台の大型重戦車こと、ドリルガオー。

全長18.2m、重量298tという、家屋を超えたサイズの建造物で、正面にある回転衝角(ドリル)と、黒い機体を支える無限軌道(キャタピラ)が特徴だ。

 

 

(高速で走る、というから突貫力が半端ないと予想出来る。籠城してもコレを相手には無駄だな。重い巨体がゴーレムですら砂のように粉砕出来よう。)

 

 

ドリル(漢の魂)は伊達ではない。

 

次に白く、長い胴体を持つ『500系新幹線』と呼ばれる、ライナーガオー。

全長24.6m、重量55.4tのこちらも家屋を超え、砦の壁、と例えてもおかしくないものだ。

こちらは無限軌道(キャタピラ)ではなく、車輪が付いている。

 

 

(これはドリルガオーより速いと聞いたが、これといった武装はないという。主に輸送用といったところか。これによる輸送能力は想像を超えるだろう。しかし……車輪ならトロッコと同様にレールの上を走るのだろう?何処にこんな巨体を走らせるレールがあるんだ??)

 

 

これから造るのか?

ならいっそ、無限軌道(キャタピラ)でもいいのでは?と思ってしまう。

 

そして最後に黒く、上から見るとV字、もしくはくの字の機体形状である、他の2機よりも大きい『ステルス戦闘機』と呼ばれる、ステルスガオー。

()()34.7m、重量164tという大型で最高飛行速度マッハ0.95が出るとか。

 

 

 

(……こんな巨体が空を舞うとは。紙飛行機というもので飛ぶ原理は以前に説明して貰ったが、これはそれを余裕で無視出来る代物らしい。それに音速という、音と同じ速度で進むという……想像、出来ないな。)

 

 

VTOL(垂直離着陸)機でもあるステルスガオーは、ある意味揚力飛行を無視した飛行機であるが、それ以上に『浮遊魔法』を用いて空を飛ぶのでVTOLすら無視した代物だ。

更に魔導噴流推進器(マギウス・ジェットスラスタ)というこれも未知の発明品で推力を得る以上、その魔力(マナ)使用量はとんでもないものになるだろうが、操縦者であるカルディナが単独で自在に空を飛ぶ事を聞いた以上、なんとなく「……出来るんだな」と思う程度に留めた。

音速ギリギリに速度を抑えているのは、周辺に被害を出さないよう配慮しているのも理由だ。

何より、空を飛ぶ行為事態がこれまでの戦術形態を覆すものとなる。

 

なお、試作機にあたるミニ・ガオガイガーが音速を超えて飛行出来たり、エルネスティ(ロボキチさん)と限界バトルを叩きつけるぐらいには変態軌道による空中戦が出来る報告を受けているイザリアは、これから出来上がるガオガイガーで、同様の事が出来るのは容易に想像出来るねぇ、と思った。

 

 

総合すると

・破城能力に長けたドリルガオー

・(レールさえあれば)運搬能力に長けたライナーガオー

・飛行能力に長けたステルスガオー

という、中世ヨーロッパ基準、魔法世界基準で考慮しても、破格過ぎるものだった。

 

……ライナーガオーが不遇な気がした。

 

 

「いったいどんな想像をすれば、この様なものを作ろう、と思えるのだろうか……いや、これもまだ序の口、だったね。」

「ええ、そうよ。今、うちのお嬢が乗ってるギャレオンと合体するために、この3機はあるんだから。」

「合体……か。到底想像出来ないな。」

「コレばっかりは現物見ないと理解出来ないでしょうね。」

 

 

ちなみに、ミハイルは国王(レクシーズ)からガオガイガーの設計図を密かに見せて貰っているが、ミニ・ガオガイガーは見た事がないため、いまいち想像出来ないでいた。

出来たら凄い。

 

 

「まあ……これらが完成すれば、アルド・レイア王国に技術革命をもたらす事が出来るだろうな。その一端を担えると思うと、これからの作業も熱が入るよ。私の部下も同じだ。」

「……私は完成しても、出番が無い事を祈るけど。」

「??」

 

 

ボソリと呟くイザリアは、その言葉を聞き取れなかったミハイルをその場に残し、立ち去った。

それからイザリアは地下ドックの展望エリア兼設計室に入り、持っていた資料を机に置く。

ふと部屋の外を見た。

そこはフロア全体を一望出来る。

 

 

(……確かにここにあるものは、これまでにない技術革命の塊よ。けれど、それが必要とされる機会は、おそらく常にギリギリの状態の戦い……あのゾンダーって奴の戦闘では、あのお嬢がギリギリの辛勝……)

 

 

そんな相手に、これから立ち向かうのが、幼い時から見ていたイザリアにとって辛い事だった。

だからと言って、カルディナを引き止めるつもりはない。

 

 

(きっと、お嬢にしか出来ないんだろうね。今までも、そしてこれからも……本人もそれを望んでいる、なら私は自分に出来る最高の仕事をするだけ。それがあの子への1番の助けになるはず……)

 

 

これまでカルディナの成長を見届けてきた者の一人として、イザリアは強く決心するのだった。

その後、ドアをノックする音が響いた。

その音を待っていました、というように、イザリアは気持ちを切り替え、一声かける。

ドアが開かれると入ってきたのはフェルネスとシレーネ、ダーヴィズ、ヴィトーの5人であった。

職人としてお馴染みのこの4人は、各セクションのリーダーでもある。

動力炉、エネルギーライン担当のイザリア。

駆動系、魔術回路担当のフェルネス。

外装、基礎骨格担当のダーヴィズ。

内部魔術機器、装飾品担当のヴィトー

パイロットスーツ及び被服担当のシレーネ。

 

ホビットのヴィトーはともかく、他のドワーフより若いダーヴィズがリーダーに持ち上げられたのは、実力がずば抜けていたものあるが、他のドワーフから推薦(という名の押し付け)があったからである。

 

 

「イザリア、話とは何ですか?」

「通信では話せない、とのお話でしたが……」

「ああ。順を追って説明するけど、まずお嬢達が戻ってくるって連絡が来た。」

「おお、意外と早かったな。」

「で、お嬢達、何か収穫があったの?」

「ああ、Gストーンを手に入れたって話さ。」

「Gストーン……本当かよ!?」

「詳しく話すとね……」

 

 

カルディナより報告──集落での一連の内容を4人に伝えるイザリア。

そして話を聞き終わると4人は、溜め息を一つ。

 

 

「……他の『星』からの来訪者、そして指導者カイン、アベル……ですか。更にガオガイガーを含めた『脳内書庫(B・ライブラリ)』の内容は、『神の知恵』から……いえ、ここは『元始情報集積概念(アカシックレコード)』と言いましょうか……」

「私、あのウサギさんが動くところを見たかったです。私の作った服、可愛く着こなしてくれていますでしょうか?」

「追い求めてる技術の大元にぶつかるなんて、流石はお嬢だね。」

「……本当によく当たるわな。」

 

 

それぞれ思い思いに感想を述べた。

 

 

「って事は開発も大分楽になるとか?」

「それは解んないわ。ただ……実際にギャレオンを見て貰った限りだと……当然だけど細部が違うから、そこで改修が入るって。」

「ほう?では基礎は問題ないと?」

「ええ。大きく変更がかかるのは、中身の方。それでみんなから各セクションに通達してほしい事があるのよ。」

「ん?この段階で何をだ?」

「現状の作業を全部ストップすんのよ。」

 

 

まさかの宣告に全員が固まる。

そしてその翌日の昼過ぎに、カルディナ達は帰還するのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「────以上が、各セクションからの進歩状況よ。」

「ありがとうございます。基礎は全て終了、後は魔術回路と外装(アウタースキン)の開発を残すだけ、ですか。皆さん、掛け値無しに優秀ですわ。」

 

 

帰還後、作業全てストップさせてからの、全て進歩状況をまとめた図面を見ながらイザリアより報告を聞くカルディナは、非常に感心していた。

全体のタイムスケジュールの5割を消化。

予定を遥かに上回っていたのだった。

 

だからこそ作業を全てストップさせた事が、皆気になる。

 

 

「それはですね、GストーンとGリキッド。この2つを組み込むからですわ。」

 

 

現在の進歩状況は機体の基礎が全て組み上がり、中身を設置するということろまでだった。

そこに今回精製出来たGストーンと、製法が判明したGリキッドを組み込むのだが、そこで問題が起きた。

 

それは出力問題。

 

カルディナ達が開発したギャレオンは、Gドライブを核としたGSライドではなく、魔力転換炉(エーテルリアクタ)3基(コックピット含む)を内蔵したトリプルリアクターである。

流石に今から大規模な改修等出来る訳がないが、代価案としてGストーンを触媒結晶の代わりに使用するプランが生まれた。

 

事実、カルディナが精製したGストーンは触媒結晶と同じような性質を持ち、そして同じように源素(エーテル)魔力(マナ)へと転換し、魔力転換炉(エーテルリアクタ)として稼働出来たのだ。

そしてカインが所持していたGストーンでも同じ現象が確認されたのだった。

 

ただ、出力が極端に跳ね上がった。

それはもう、これ以上にないくらいに。

 

カインは「多少」で済ませていたが、たった1基のGストーン搭載式魔力転換炉(エーテルリアクタ)が、今まで使用してきた3基分(トリプルリアクタ)の出力を大いに超えたのだ。

しかも『勇気』を込めれば込めるだけ出力は跳ね上がるのだ。

今思えば、カインは現実逃避していたのでは?と思われる。

アベルも盛大に首を傾げたが、その位のGパワーを叩き出したお嬢様がいるのだから仕方ない。

 

ちなみに、その原因は魔力(マナ)である。

 

本来、密閉型であるGSライドだが、触媒結晶としても使えるGストーンに吸気圧縮した源素(エーテル)が当たる事により、魔力(マナ)へと変換される。

その直後、魔力(マナ)がGストーンに取り込まれ、()()()爆発的なGパワーを発揮する。

 

例えるなら、倍々で増えるところが乗数で増えるように……

 

そうなると想定以上のエネルギーを送られている事で、今度はギャレオンのエネルギーラインが悲鳴を上げた。

お嬢様の魔力(マナ)でギリギリだったのが、いよいよオーバーフローしてしまったのだ。

過剰なエネルギーの激流にギャレオンは涙目である。

ちなみにそのエネルギー総量は、ガイガーの状態で初期のガオガイガー以上、とだけ言っておく。

結果的に、魔術式(マギウス)GSライドが出来上がったと言ってもいい。

 

しかし、それ以上は危険、と見なされた。

Gストーンと魔力(マナ)の関連性が不明だからだ。

ただ、現象として判明はしている。

 

 

「……そりゃそうよね、今までのモノじゃ耐久性が足りなくなったって訳でしょ?Gストーンって私らの想像を遥かに上回ってる代物なのね。」

「お陰で3基の内、2基の魔力転換炉(エーテルリアクタ)を休眠させてますわ。それでもエネルギーは有り余っていますので、外装の強化魔法にエネルギーを回す事が出来ますの。とはいえ当初の目論見がパーです。」

「ちなみにその対策は?ここまで来ると中の設計を変えなきゃならないんじゃ……」

「それなんですが、カイン様とアベル様から改造案を頂きました。こちらを……ギャレオンの新しい内部設計図です。」

「どれどれ……って!こりゃ凄いわ。」

「こりゃスゲェ、前の構造を元にラインを()()する形で加えるのか。それに他の箇所じゃ、簡略化されてるところもあるぜ。」

「あ、ここのライン厄介だったんだよね。すごいスッキリしてる。」

「……これを、その御二人が?」

「ええ。分野は違えど、エネルギーのラインを読む眼力、取捨する能力は脱帽ものですわ。」

 

 

カインが記憶するギャレオンの内部構造を元に、エネルギーラインのみ手を加えた形である。

結果的にはオリジナル・ギャレオンの内部構造に近付いた形になった。

なお、Gストーンの精製を終えて取り付けた後、カルディナと同行した職人達を巻き込み、カインとアベルはギャレオンの内部を盛大に改造した。

たった半日という、恐ろしい早さであるが、2人の協力もあり、成し遂げたのだった

 

 

「……出来たのですね。」

「やれたのね。」

「しちゃったんだ。」

「やっちまったんだな。」

「ふえ~。」

「……ええ、出来てしまったんです。」

 

 

故に、今のギャレオンは見た目は変わらずとも、三重連太陽系の技術が加えられおり、魔法技術とのハイブリットである。

ただ急拵え感は否めず、微調整までは出来なかったので、それは戻ってからとなったが、奇しくも異星間技術が合体(フュージョン)した結果となった。

ただスケールが大きすぎて、それを口にする者はいなかった。

 

 

「そしてこちらが御二人が新たに引いた、ガオーマシンの内部設計図です。」

「……こっちも凄いわ。前と比べてかなり簡略化……いえ、無駄が省かれて統合されてる、ってところね。」

「ふむ……これは勉強になります。」

「結構応用出来るところあるなぁ、うん!」

「けど外装はそのままでも通用するってのは……マジか。」

 

 

外装はそのままに、内部はかなりガラリと変わるのだ。

故に、作業を止めてまでして現状整理を行ったのが現状である。

 

 

「おおよそは理解したわ。たった数日で事態が、よくここまで変わったわね。」

「ですが不明瞭な点もあります。出力過多……ですか。初期の本家より高いというのは些か気になりますね。」

「え~、そう?オイラは凄いと思うけど……でも不気味って言えば そうかな?」

「俺も気にはなるが……あえてやってみるのがいいんじゃねぇか?」

「そうね……どちらにせよ、ここからは未知の領域よ。まず全て完成させるのが一番じゃない?それから微調整をすればいいと思うわ。」

「そうですね、常にトライ&エラーを繰り返した我々です。今さらエラーに臆する理由はありません。」

「ガオーマシン以外にも作らなきゃならない物もあるし。」

「ここまで来たなら、やるっきゃねぇな。」

「ですわね。」

 

 

そうして、職人達の意思も統一され、新設計のガオーマシン開発が再開された。

多少のエラーはあったが、概ね順調に開発は行われ、機体は形作られていった。

 

そんな中、イザリアがステルス・ガオーの魔術式(マギウス)GSライドにGリキッドを送る管を取り付ける最中、カルディナに尋ねた。

 

 

「そういや、お嬢。あの触媒結晶、外したのね。」

「……少々もったいない気もしましたが、GSライドが完成した以上は、外すしか選択肢がありません。」

「だろうね。でも出力が上がったせいか、前以上にじゃじゃ馬になった気がするわ。」

「……あ~、やはりそう思われます?」

「なんかじゃじゃ馬加減が幻晶騎士(シルエットナイト)に似た感じかしら?」

「やはり出力過多な影響でしょうか?」

「そうとしか思えないわ……それともう1つ。ガオーマシン、誰が乗るの??」

「「「「 ───!? 」」」」

 

 

作業中の全員が注視する程の質問だった。

実は既に全員知っているが、改めて言われると、一部の者は「まさか自分が……!?」と戦々恐々している。

TV Ver.の有人搭乗によるマニュアル・ファイナル・フュージョンはそれはもう恐ろしい。

高速で動く機体に、衝突ギリギリの合体……

 

いや、ファイナル・フュージョンを含めた合体なんてそんなものだ。

 

ちなみにコクピットはちゃんと造られており、マニュアル操縦も出来る。

加えてIDメイル装着を前提とした神経接続型のシートがあるのだ。

 

……いったい誰が乗るのか?

 

 

「……いえ、変更はないですわよ?職人の誰かでも鉄華団の誰かでもありません。予めお伝えした通りです。」

「……ならいいんだけど。お嬢の場合、万が一にもって理由で誰かを乗せかねないし。」

「失礼ですわ、それは今の段階ではしませんわ。」

「……別の段階になったらすると?」

「疑り深いですわね……まあ、そろそろフィッティングも必要ですから、もう呼んでますけど……来ましたわね。」

 

 

カルディナが、地下ドックの扉の方を向いた直後、()()()は顕現──ではなく普通に扉を開いて現れる。

 

 

メイド、店員、職人の───天使、3体

 

 

「ラファエル、ガブリエル、ザドキエル。」

 

 

執事服、事務員、職人の───悪魔、3体

 

 

「そしてサタン、ベルフェゴール、マモン。」

 

 

総勢、6体の天使、悪魔が集結する。

 

 

『『『 ──お呼びですか、御身──』』』

 

 

そしてカルディナに向け、礼儀正しく一礼する6体。

サタン、ラファエルは馴染みだが、他の4人は初……ではなく、ザドキエルとマモンは職人として働いており、ベルフェゴールとガブリエルは商会の店員として働いている。

概ね、知っている顔といえばそうだ。

 

 

「もうそろそろガオーマシンのコックピットのフィッティングを行います。各自コクピット周りの調整に入ってください。」

「了解。」

「ようやく使命を果たす時が来ましたか。」

「フッ……我が操縦技術の粋を見せる時が来たか。」

「どんなアクロバットな操縦が出来るでしょうか……むふー!」

「あ~、合法的に仕事サボれるって、嬉しいねぇ~。」

「ベルフェ、これも仕事ですからね?」

 

 

そして各々散って行く。

なお、担当は以下の通り。

 

・ドリルガオー ベルフェゴール&ガブリエル

・ライナーガオー サタン&ラファエル

・ステルスガオー マモン&ザドキエル

 

 

「……七大天使に、七つの大罪、ねぇ。お嬢が人智を超えた存在を揃えていた事を聞いた時は、王国征服でもするんじゃないかって思ったわ。」

「……仕方ありませんわ。いい塩梅の、腕の立つ者がおりませんでしたから。それに、超AIを開発するには時間も知恵も設備も足りません。なので代価案として『霊柩』を用いて動かそうかと……」

「もしかして、カイン殿のギャレオンと、アベル殿のウサリンmark-Ⅱは、ガオーマシン制御AIの為の、テストベットだったと??」

「ええ。超AIが開発出来ないのであれば、変わりに高次元体である『天使』と『悪魔』に動かして貰おうと。知ってます?彼等の動きって正確無比なんです。」

「じゃあ、ミニ・ガオーマシンの思念制御装置も『霊柩』の試験機みたいなもの??」

「はい。」

 

 

つまり、今回創られるガオーマシン達は、『霊柩』に『天使』もしくは『悪魔』をフュージョンさせて動かす仕様なのである。

超AIないし、制御用AIがない以上、仕方ない仕様だ。

魔力転換炉(エーテルリアクタ)と、天魔合一の制御機関。

それが本来開発予定のガオガイガーであった。

それが魔術式(マギウス)GSライドへと変わったのだ。

大幅なパワーアップと言っていいが……

 

 

「いったいどれだけ前から、そんな構想を練っていやがったんだ??」

「……子供の時(6歳)から、でしょうか?」

「あの、何で『天使』と『悪魔』を半々で乗せるつもりなのですか?全員『天使』もしくは『悪魔』でも良いのでは?」

「純粋な破壊エネルギーと、純粋な防御エネルギーを発生させ、ヘルアンドヘヴンに転用するにはこれが丁度良かったのです。」

 

 

計6体分のエネルギーによるヘルアンドヘヴンとは如何なるものか……

ちなみに1体の総エネルギーは相当な量で、人に憑依させれば、対人戦では一騎当千出来る程の力を持てる伝説が、実際にある。

 

 

「「「「 ……… 」」」」

 

 

そんなヤバい者達を元から使うカルディナに呆れつつも、カイン、アベルから貰ったGoサインを信じて、職人達は各々の作業に戻った。

 

 

「それとさぁ、お嬢。()()、出来たよ。」

「───出来ました!?『ファイナル・フュージョン承認用モニター』と『キーボードパネル』!」

「うん。後もう少し時間をかければ、モニター完備の指令室が出来るし。調度品もボチボチ出来上がってきたのもあるから、随時搬入してるよ。通信環境はフェルネスさんに任せるけど、でもさぁ……」

「どうしました??」

「……強化ガラスってヤツ?あれが問題でさぁ。」

「え??モニターのサンプル品は強度も良い出来ですが、何か問題でも?」

「ううん。問題は、フミタンが十数枚「訓練に持っていきます」って言って持って行った正方形の薄い強化ガラス。」

「……ああ~。」

「あれを全部粉々にして持って来たのには、ガラス担当のおっちゃんが……泡吹いて卒倒してたんだけど。」

「……割る事は前提のものですから、ねぇ。割った分は再増産をお願いしますと伝えて下さい。」

 

 

そんなやりとりもあったり。

 

 

 

そして月日は流れ、2ヶ月と少しが経った頃、

『お嬢様の工房(アトリエ)』・地下ドックにて、ガイガーとガオーマシン各機の動作チェックが行われていた。

それは、セミ(仮組み)・ファイナル・フュージョンである。

 

 

《───ギャレオン、ガイガーへフュージョン完了。魔術式(マギウス)GSライド、低出力を維持しつつ、各部ロック解除。》

 

「低出力維持を確認。ドリルガオー、衝角(ドリル)基部展開、脚部収納開始。」

 

《ガイガー、両足変形開始───収納、ロック完了。》

 

「ロック完了を確認。両足、展開完了。腰部固定アーム稼働、起立姿勢に移行。」

 

《両腕、後部に稼働。ライナーガオー、進入開始。》

 

「アーム固定。ライナーガオー、進入開始……中央部固定。」

 

《ステルスガオー、背面両腕誘導路(レール)》に誘導開始。》

 

「ステルスガオー、背面装着。パーフェクト・ロック……完了。」

 

《ライナーガオー、底部解放、上腕展開。続いてステルスガオー、ブロウクンアーム及びプロテクトアーム、上昇開始。》

 

「両アーム、上昇開始……上腕とアーム、接続。」

 

《ステルスガオー、アーム起動。(メーン)パーツをガイガーに装着。》

 

「装着を確認。排熱機構、作動確認。」

 

《ステルスガオー、後部シャッター解放、エネルギーアキュメーター・アーム、起動。(ヘルム)をガイガーの頭部に設置。》

 

「設置、及びバイパス解放。フェイスマスク展開。ガイガーのGストーン、来ます。」

 

《Gパワー、流入開始……各セクション、モニタリングの報告を。》

 

「右腕部、回転機構、異状なし。」

「左腕部、術式回路、異状なし。」

「脚部、稼働状況異状なし。」

「ドリル回転、異状なしっ!」

「スラスター、及び推進器、エネルギーの流入確認……異状なし。」

魔術演算機(マギウスエンジン)、各個同調を確認。」

 

《……了解。全行程、終了。セミ・ファイナル・フュージョン、完了ッ!!》

 

 

その声が拡声器(スピーカー)より響いた時、職人達全員から歓声の声が上がった。

 

 

───遂に、待ち望んだ我等が鉄の勇者王が、その姿を現した。

 

───その名は、勇者王ガオガイガーッ!!

 

 

「───うん、見事だ。」

「ようやくここまで来ましたか。」

 

 

そして傍らで終始見ていたガイガー(カイン)ウサリンmark-Ⅱ(アベル)が感心してガオガイガーの近くに歩み寄っていた。

完成間近になり、カルディナが報告するや否や、二つ返事で来たという。

そんな2人の下に、ギャレオンの口(コックピット)から出てきたカルディナが嬉々として降り立った。

 

 

「如何でしょうか?」

「うん、よくこの短期間で組み立てて、ここまで出来たね。」

「そうですね、良く出来たと誉めましょう。」

「……そのお言葉を頂けただけでも、嬉しく思います。」

「そうかい?しかし……まだこれは『仮組み』なんだよね?」

「は………はい。」

「という事は、過剰なエネルギー問題はまだ、という事ですね。」

「……はい。」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それの意味するところは、そのままファイナル・フュージョンを行うと、過剰なエネルギーが機体を蝕み、自壊する恐れがあるためである。

 

魔力(マナ)によるGパワーの増幅(ブースト)

 

しかし対応策と安全策は既に実施済み。

そして、カルディナ達やカイン、アベルがこれまで調査しても異常という異常はなかった。

しかし、ガオガイガーの形にした時のみ、その異常は現れた。

 

その原因と、そして最後の問題となる不自然な程の過剰なGパワーのエネルギー問題は、誰をしても難解であった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

────?????

 

 

カルディナ達が四苦八苦している最中、何処かも解らない、地の底で蠢く者達も、また暗躍していた。

 

 

《───状況を報告せよ。》

「はい。パスダー様。」

 

 

機械が蠢く鋼の大樹より巨大な顔を映す存在───パスダーが報告を求め、まず全身鎧(フル・メイル)のゾンダリアン───ポレントスが一礼し、声を上げた。

 

 

「HL-045区域にて数ヶ月前に消失したゾンダーですが、やはり破壊された、と結論付けました。」

「ほお……このような文明の遅れた星で、劣化体とはいえ、ゾンダーを破壊出来る存在がいるとは、何者だ?」

「ウィィィィィ。その存在、計画に支障はないのか?」

 

 

ポレントスの言葉に、鳥を模した鎧を纏うゾンダリアン───ピッツォ・ケリーと、鉄製の小舟を模したゾンダリアン───ペスカポートが尋ねるが、ポレントスは首を横に振る。

 

 

「詳細なところは不明です。故に何処まで影響があるかは解りません。ですが、プレザーブの情報網で、少し気になるところが御座いました。」

「……人間を使った情報網か。プレザーブも酔狂が過ぎやしないか。」

「───あら、それはどうかしら?なかなか使えるのよ。」

 

 

機械仕掛けの床より、液体金属が涌き出るように現れ、人の形に成った。

レッドベリーのような赤紫色のローブと、魔女が被る三角帽子を纏う、妖艶な美女───プレザーブは不敵な笑みを浮かべながらパスダーに一礼する。

 

 

「遅れて申し訳ございません。プレザーブ、只今戻りました。」

《ご苦労。して……如何程か?》

「やはり特別な動きがありました。鉄の特注購入……しかも膨大な量が一年以上も前に。」

「フン、膨大な量か。具体的にはどれくらいだ?」

「この地より離れた場所で開発されている幻晶騎士(シルエットナイト)、それが5体ほど生産出来るぐらい、でしょうか?」

「ウィィィィィ。幻晶騎士(シルエットナイト)……あの『機械モドキ』か。機界融合をしようと試みた事があったがロクな成果がなかった、あれか。」

「反面、大して強くはないがな。あの程度の兵器では我々には通用しない。あれがいくらあろうが脅威ではない……そう結論付けた筈だが?」

「ええ。ですがそれにまつわる変わった噂がありまして……『巨大な白い鋼のライオンが闊歩している』と。」

「──!」

「ウィ!?」

「ほぉ……白い鋼のライオン。まるで『カインの遺産』ですね。」

《………》

 

 

機界四天王、そしてパスダーに緊張が走る。

もしや天敵がいるのか、と。

 

 

《……して、プレザーブ。その噂の真偽は?》

「目撃数こそ少ないですが、間違いないかと。ただ、どうして今このタイミングで噂が出たかまでは……」

「ウィィィィィ、もしや新造したのだろう、そして開発が終わったのだろう、現在は稼働テストを行っている……そう考察すれば説明が出来る。しかし誰が造ったか……」

「……カイン。奴は三重連太陽系で機界昇華したと思いましたが。もしや『カインの造りし破壊マシン』がこの地に来たとでも言いましょうか?」

「だが『分体』の最後の報告では、『カインの造りし破壊マシン』は、こことは別の───『青の星(地球)』というところにあるといいます。故に謎ですね……」

《───悩むな、機界四天王よ。》

 

 

頭を悩ます機界四天王。

だがそんな空気を打ち破ったのはパスダーだった。

 

 

《我等の目的は何だ?》

「もちろん、この星の機界昇華にございます。」

《そうだ、それが我等の目的である。それ以外はない。カインの造りし破壊マシンであれ、やる事に変わりはない。》

「……ですが、それに至るまでの障害が多くあるのもまた事実かと。」

《確かに……この地に降り立ち、534年。だがこの星の()()()()にて我等は蝕まれた。そして辛うじて抗える力を蓄え、300年前に当時の全戦力を振るい、北の国に苗床となるゾンダーメタルを放った。ポレントスよ、その当時の事は忘れていまいな??》

「……忘れもしません。現地で人間達をゾンダーと化して、ゾンダープラントまで成長させ、あともう少しというところで、忌まわしき『灰の竜』に全てのゾンダーを滅せられたのです……許すまじ、『灰の竜』ッ!!」

《……ゾンダーメタル精製どころか、その日活動するためのエネルギーすらままならず、原始的な火力、水力、風力、地熱の発電に着手してエネルギーをコツコツ貯めたあの日々が無駄になったのは、今でも忘れんッ!!》

 

 

怒りを露にするパスダーと四天王では古株のポレントス。

紫色に発光し、光が消え去る頃にはパスダーとポレントスは冷静になっていた。

 

 

「……ふう、いけませんな。」

《……また無駄にエネルギー精製をしてしまった。》

 

(……またか。)

(ウィ。ゾンダーメタルの効果だ。余程腹立たしいのか、ゾンダーメタルに備わる、マイナス思念をエネルギーに変える機能が発動したのだな。)

(フフッ、お二人から発揮したストレスがゾンダーのエネルギーとなる、しかも感情が露になる程のエネルギーが瞬時に……素晴らしいわ。)

 

 

プレザーブは目の前で発生している現象に非常に強い関心を向けていた。

ゾンダーメタルに備わった特性の1つ『マイナス思念のエネルギー変換』。

だがそれは他者の思念を用いるのであって、()()()までは範疇にないはず。

本来のゾンダーにはありそうで、ない能力であるが……

 

 

《……さて話を戻そう、プレザーブ。》

「はい、こちらになります。」

 

 

パスダーが話を戻し、プレザーブは懐より取り出したものをパスダー、四天王に見せる。

それは……

 

 

「ふぅむ、一見ただ装飾された宝石にしか見えませんね。」

「ええ。ですが効果はこれまでで一番立証されています。」

「なるほど。では今回、これを使うと?」

「はい。」

「我等を蝕み、阻む『阻害因子』をはね除け、取り込む物質……興味深い。その効果、見せて貰おう。」

「ええ。『魔女』として『ゾンダリアン』として、此度は、念には念を入れて、二段構えの作戦を取ります。上手く行けば……フフフっ。」

《よかろう。此度の事は我等ゾンダーにとって、大いなる力になろう。ではプレザーブ、行動を開始せよ。》

「お任せを……ポレントス、助力お願い致しますわ。」

「わかった。」

 

 

プレザーブの持つゾンダーメタルによって装飾された赤紫の宝石───触媒結晶が薄暗い空間で鳴動するように妖しく光るのであった。

 

それはカウントダウンの如く、人類に残された時間が少ないようにも見えた。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

───数日後

 

ガオガイガー完成から喜ぶ間もなく、原因究明に勤しむ職人達。

とはいえ、製作担当の職人は大方暇であり、カインとアベルの手伝いや、金属細工職人のフォローに廻る事が多くなった。

 

 

 

「───ん?フェルネスよ、今日はカインの旦那(尊敬)とアベルの嬢ちゃん(皮肉)はいないのか?」

「ああ、今日お二方は、カルディナお嬢様の学院に行かれましたよ、ダーヴィズ。」

「……理由を聞いてもいいか??」

「お二方は科学技術には精通していますが、類似事項はあるとはいえ、魔法技術には明るくありません。それでお嬢様のサークルの講師に、原因究明の助言を受けるためです。」

「……大丈夫なのか?」

「そこは問題ありません。魔力(マナ)の量こそ、そこそこですが操作技術、回路作成能力が王国一なのです。それこそお嬢様を越える程に。それに魔法に関する歴史に明るく、お嬢様が好きそうな偏屈者で、何より口が固い。そしてガオガイガーが使用する『ハイパーツール』、それの魔術演算機(マギウスエンジン)製作を唯一、外部に委託している人物でもあります。」

「マジかよ!?」

 

 

事情を知らない者にとって今のカイン、アベルの姿は異常と言えるが、このサークルの講師は『身内』であるという。

そんな事情すら呑み込み、かつ魔術演算機(マギウスエンジン)製作を委託出来る人物とは……

 

 

「どんな講師か気になるが……ちなみに何を造ってんだ??」

「それがですね……空間制御に関するものらしいです。」

「って事は、ディ───」

 

 

────ガラン!ガラン!

────ウィーン!! ウィーン!!

 

 

「「────ッ!!??」」

 

 

その時、異常に響く鐘の音と、いたるところに設置された拡声器(スピーカー)より、この世界にはそぐわないサイレンの音が鳴り響く。

 

鐘は昔から使われている警報の鐘であり、サイレンはガオガイガーの映像内で使われている音声をサンプリングしたもの。

 

この2つの警報が、同時に鳴る組み合わせの意味は、職人達はカルディナより事前に知らされていたが、その意味を現実で受け止めるには、衝撃が強過ぎた。

そしてフェルネス、ダーヴィズ、そして他の職人達も動揺し、その場に立ち尽くす中、力任せに扉を開け放った人物───フミタンが焦り、息を切らせて部屋に飛び込んで来た。

 

 

「──だ、誰か、お嬢様を止めて下さい!!!」

「ど、どうしたのですか!?」

「お、お嬢が何をしたって───」

カルディナお嬢様が、西の森林でゾンダー発生の報告を受けて……ギャレオンとガオーマシンを伴って、出立しました!!!

「なァにィィィィィーーー!?!?」

「そんな……!?」

 

 

まさかのゾンダー発生と、カルディナの独断専行の報せであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

───同時刻 王都『グラン・アルド城』

 

 

「───ようやく草案が出来た。」

「後は、他の貴族達に説明するだけだな。」

「ウム。問題は君以外の『四公』だが……」

「……納得させるのは難しいだろうな。」

 

 

国王、アースガルズ卿、ティ・ガー元将軍が、ガオガイガー作成の裏で、カルディナ達が自由に動ける便宜を図るため、とある案件を協議あいていた。

だが簡単ではなく、他の貴族達を納得させるには難しいものであった。

 

戦力の単独突出の容認、そして承認。

 

 

「実力主義の輩を説得するには、カルディナの存在は充分と思えるが……どうにも説得材料が足りない。」

「とはいえ、やらねばならない。ゾンダーという未知の相手に一致団結して貰わねば、魔獣以上の脅威になる。」

「だが我々の前に現れてもいない存在だ、どのように説得すれば良いものか───」

 

 

────ゴゴゴ……っ!!!

 

 

談義の最中に突如、無視出来ない程の地鳴りが起きた。

しかもそれは地震のような揺れではなく、断続的な破壊音を伴っていた。

 

 

「な、何だ!?」

「何か巨大なものが暴れているような……?」

 

 

───ピピピ!ピピピ!

 

 

「む?その音は?」

「カルディナから譲り受けた通信機器だな。こんな時に何かあったのか……」

《───陛下、火急のご報告が!!》

「イェルツィーナ卿!?」

 

 

通信機のスイッチを点けると、非常に慌てた様子のミハイルが映った。

 

 

《こちら5分前にアースガルズ領内、西方の森

で、破壊行動を働く巨大な未確認物体がに出現したとの報告が!しかもその未確認物体は───ゾンダーであると……!》

「なッ!?何だとッ!?」

「……遂にこの日が来てしまったのか。カルディナはどうした?」

《それが……カルディナ公爵令嬢は単独で出撃してしまい……》

「あのバカ娘が!!こちらの許可無しに独断専行だと!?」

「……致し方ない。堪え切れずに行ったのだろう。こうなればあの娘に全て託すしかあるまい。」

「ん?ではこの地鳴りは何なのだ?アースガルズ領の西の森では、ここより離れている筈だが……」

 

 

───バンッ!!

 

頭を悩む3人の下に、今度は伝令の兵が息を切らせてやって来た。

 

 

「火急につき御無礼を!!ご報告致します!!」

「!?構わん、申せ。」

「ハッ!!王都外壁内部にて突如、破壊行動を行う、30メートル相当の巨大な未確認物体が出現した!!」

「「「────!?」」」

「また……その未確認物体は全身を鉄の鎧で固めており、『ゾンダー』としきりに叫び、破壊行動を繰り返し……!」

「「「───!?!?!?」」」

 

 

その日、アルド・レイド王国にゾンダー同時出現の報告が届いたのだった。

 

 

 

《NEXT》

 

 

 

 


 

 

 

《次回予告》

 

 

遂に復活し、その活動を始めたゾンダー。

 

出現するゾンダー2体に立ち向かうのは我等が勇者王。

 

しかし未だガオガイガーのエネルギー問題の解決しないまま、カルディナは戦いの場へと赴く。

 

カルディナ達が造り上げたガオガイガーは、果たして勝利を掴む事が出来るのか?

 

異世界版ガオガイガーの戦いが、遂に始まる!!

 

 

 

『公爵令嬢はファイナル・フュージョンしたい』

 

NEXT、Number.13 ~出撃!未完の勇者王~

 

 

次回も、この物語にファイナル・フュージョン承認ッ!!

 

 

 

これが勝利の鍵だッ!!

『ガオガイガー』

 

 

 

 


 

 

◯ガオガイガー

ようやく完成しましたが、外見は一緒、中身は別物。ただし攻撃力や防御力は並外れています。

そしてどう調査しても出てこないエネルギー問題。

ちなみに、このエネルギー問題はカルディナしか起きない内容です。

問題とその原因は単純です。

 

 

◯ゾンダー

いよいよ本格的に動き出しましたが、殺意──もとい機界昇華のヤル気は200%といったところ。

その原因は

①この星に来てから全く動けねー!(泣)

②ようやく動ける程のエネルギー確保して攻め行ったらボコボコにされたー!(豪泣)

です。

当時、TV Ver.のような侮りはパスダーさんも、当時の部下はポレントスさんだけでしたが、非常に持っていましたが、偶然その場にいた『灰の竜』にちょっかいかけてしまい、ゾンダー軍団を消滅、お二人も重症を負わされた、という経緯があります。

なお、ゾンダーに対して『灰の竜』は無傷でした。




ようやくゾンダーが動き出しました。

皆さんにはこのゾンダー達がどう映っているかは解りませんが、とりあえず機界昇華させる気満々なのは確実ですね。

次回はようやく、遂にようやくガオガイガーの戦闘シーンです。
どこまで表現出来るか解りませんが、頑張って書いていきます!


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Number.13 ~出撃!未完の勇者王~(1)

お待たせしました。
今年初めての投稿です。

さて、お嬢様のガオガイガーはどんな活躍となるか、ご覧下さい。


───王都 魔法学園

 

 

「──という性質を持っているんじゃ、魔力(マナ)というのはのぉ。」

「ふむふむ。」

「なるほど。」

 

 

時間は少し戻り、カルディナが通う魔法学園にいるカインとアベル。

2人は過剰エネルギーを発するガオガイガーの原因を突き止めるため、魔力(マナ)をよく知り、かつカルディナ達とは別に関わりのある人物の元を訪ねた。

自分達がよく知らない魔力(マナ)とは何か?それを教わりに。

そしてカルディナが外部では唯一、この学園にも開発の軌跡を残しているため、手掛かりを捜しに。

ちなみに、技術レベルが低くとも、未知の技術には意外と目がない2人。

目の前の、獣人ではなく両生類(カエル)で緒方ボイスな、『のほほ』な先生であったが、教えを乞う人物に対して特に疑問も思わず、黙々と学んでいた。

 

……自分達の姿も似たようなものだ。今さらそんなツッコミ等、野暮である。

ちなみに、お忍びだ。堂々と来るほど無神経ではない。

 

 

「……とまあ、こんなところじゃろ。」

「ありがとうございます。しかし、何か手掛かりがあると思ったのですが……」

「これといった情報はなかったですね。改めて基本的な事を学んで得るものは十二分にありましたが……」

「力になれんで済まんの。じゃが、このGストーンという触媒結晶、実に素晴らしい……いや、ワシ等には()()()()()じゃな。」

「ほう?」

「そう思われますか。」

「勿論じゃ。勇気の感情を糧に力を発揮する……即ち、量子エネルギーの性質を更に先に進め、感情によって相転移理論よりも効果的に異相力場よりエネルギーを引き出せる……そんな等価交換をも無視出来るような物を、ワシは過小評価も過大評価もする気はないのでな。今のこの文明の者達には、余りにも過ぎた代物なのは充分判るわい。」

 

 

Gストーンの事を実に正しく評価出来る。

カインはこの教師の事を好ましく思った。

そしてアベルは、カルディナはこの教師にナニを教えているんですか、と心の中で突っ込んだ。

その内、何かしらの超理論でも打ち立てそうだ。

 

 

「まあ、カルディナ君なら問題なかろうと思ったが、なかなか難しいもんじゃな。彼女は色々特別じゃからのぉ。能力的にも、身体的にも。もしかすると既に制御する術を得ているのかと思ったが……」

「??」

「どういう事です?」

「本人から聞いておらんのか?カルディナ君の種族は見た目は人間(ヒューム)じゃが、ハーフエルフじゃ。実にエルフの性質を引き継いでおっての、故に魔法をどの種族よりも上手く行使出来るんじゃよ。その理由が、文字通り……コレじゃ。」

「……それが、ですか?」

「そう、コレじゃ。」

「……え?何処に?」

「胸に、と言っておったの。」

 

「「────!?!?」」

 

 

その話をした直後、カインとアベルは立ち上がり、互いに恐る恐る顔を見合わせた。

 

 

「この、予想が正しければ……」

「……あの娘(カルディナ)は間違いなく、死にますね。しかも自滅、という形で。」

「何と!?」

 

 

更に凶報が伝わる。

ガイガーに内臓された通信機(レシーバー)に着信が入った。

 

 

《───カイン様!!緊急事態です!!》

「ん、フミタン女史かい?何があった?」

《ゾンダーがアースガルズ領の西の森より出現し……え!?王都にもゾンダーが!?》

「何だと!?」

「それでカルディナはどうしました?」

《それが……第一のゾンダー出現の報を受けた後、静止する間もなくギャレオンとガオーマシンを連れて先行されてしまい……》

「──あぁぁのバカ娘が!!すぐ行きますよ、カインッ!!」

「無事であれば良いが……先生、失礼するッ!!」

 

 

そして窓を開け、推進器(バーニア)を全開して外に飛び出したギャレオン(カイン)ウサリン(アベル)

一瞬にして星のように小さくフェードアウトしてしまった光景を見つつ、唖然とする先生。

だが、冷静になって思い返すと、先生もその原因が判ったようで……

 

 

「こりゃイカン!ワシも何かせねば……!!」

 

 

慌てて、サークルにいた生徒を集め、王都に向かうのであった。

 

きっとカルディナは無事では済まない、それが3人の認識であった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───急げ!!使える物は可能な限り牽引車(ギャリッジ)に詰め込め!!」

「ランドマン・ロディ、2機起動、準備ヨシ!三日月、弘明、行ける!?」

《うん。》

《こっちも行ける!》

「多少ぎこちないだろうけど、2機で牽けば行けるでしょ!」

「よっしゃ!昇降機(リフト)挙げろォー!!」

「───緊急通達ーッ!!西の森にある村の付近で、お嬢とデカブツがドンパチやってるってー!!」

「本当か!?」

《思ったより早く捕捉出来たか。》

《後はどれだけ早く行けるか、かな。》

 

 

お嬢様の工房(アトリエ)緊急発進(スクランブル)の為に、全員右往左往していた。

そしてその中で届いたカルディナの状況報告。カルディナは、早くもゾンダーと交戦していたのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

《──良かったのですか?皆さんに事前に言わずに出ていってしまった事は……》

「……反省してます。」

 

 

森に拓かれた道を白い鋼の獅子(ギャレオン)(はし)る。

次いで衝角を携えた戦車(ドリルガオー)が往き、その上を鋼の白蛇(ライナーガオー)が滑るように()()()()()()()

そして黒い大鷲(ステルスガオー)がその更に上を飛んでいた。

 

時間は少し戻り、ゾンダー出現箇所へと音速ギリギリの移動速度で向かう、ギャレオンとガオーマシン3機。

その最中、カルディナは自身の行動を恥じていた。

 

 

「ゾンダーが出た、と聞いたときには身体が動いていたので……」

《判ってるさ。お嬢の性格じゃ、抑えるのは無理だろうし。》

「サ、サタン……!?」

《そうですね。普段は高飛車なので令嬢を演じていますが、それを越える正義感がそんな演技を吹き飛ばしていますし。そこがお嬢様のいいところですが。》

「ラファエルまで……」

《ですので、無断出撃でイザリアさんあたりに叱られるのを目標に、生きて帰りましょう。》

「何だか嫌な目標ですが……そうですね、皆で帰りましょう。」

 

 

軽い冗談(?)話を交わし、気分を一新したカルディナ。

 

 

────キィン!

 

 

「───!?」

《お嬢?》

「今、何か感じたような……」

 

 

不意に『何か』を感じた。

だがそれは何か───

 

 

《──お嬢様。こちらステルスガオーのガブリエルです》

「どうしました?」

《この先の村で巨大な動体反応が。報告にあったゾンダーと思われますが……村に接近しています。接触まであと40。》

「何ですって!?」

 

 

間近にある村───そこに向けて速歩(はやあし)で迫る、岩や鉄で構成された光る一つ目(モノアイ)ののっぺりしたゴーレムのような存在。

しかし研磨して光沢のある大理石肌で、30メートルを越えたそれは、この世界で一般的なゴーレムではなく、異常な存在だ。

そして何より胸部に鳴動する、あってならないモノ───ゾンダーメタルを持つ者は、ゾンダー他ならない。

それを見たカルディナは奥歯を噛み締めた。

 

 

《こちらドリルガオー、マモンだ。望遠でこっちも確認した。お嬢、一番槍を任せてくれ。()()での最大ブーストなら間に合う。ザドキエルも乗り気だ。》

《こちらドリルガオー、ザドキエル。お嬢様、許可頂戴ッ!!》

「……判りました。行きますわよ、2人共!フュージョンッ!!

 

 

───ガイッ、ガーッ!!

 

 

カルディナが高らかに叫び、ギャレオンは、その身を白き巨人、ガイガーへと変形(フュージョン)する。

そして更にドリルガオーがその双角の車体を縦半分に分離し、推進器(スラスター)を吹かして宙に浮かび上がった。

そこにガイガーが両腕に()()()()()()()()()()()

 

 

「──ガイガー、ドリルガオー・装着完了!」

《全推進器(スラスター)、Gインパルス・ドライブ、同期!》

外装(アウタースキン)及び回転衝角(ドリル)の魔術障壁、展開!我が魂(ドリル)よ、廻れ廻れェッ!!!》

「最大戦速───ブーーストォッ!!!

 

 

ドリルガオーを両腕に装備したガイガーが、自身の持つ全ての推進器(スラスター)を全開に、性能以上の推力を叩き出して、文字通り音速を超えて突貫するのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……ほぉ、始まったか。」

 

 

プレザーブの依頼で、村付近にひっそりとあった休眠状態のゾンダーロボを復活させた機界四天王の1人、ピッツォ・ケリー。

この近辺で復活させた後、()()()()()()()()()()()と頼まれており、その後は()()()()()()()()()という首を傾げるような依頼なので、ゾンダーロボ復活後はかなり手持ち無沙汰で観察のみに徹していた。

遠距離攻撃手段もない、ただ怪力と、硬度は類を見ないゾンダーだ。

復活後は近くにあった村に対し、異常に執着があったようなので襲わせるか、と軽い気持ちで誘導をした。

しかし、状況が変わったのはその直後。

()()()()()()()()()()()()()()()()()と共に()()()()()()()()()()()()()()()がゾンダーロボを瞬く間に押し返したのをピッツォ・ケリーは見逃さなかった。

 

 

「……成る程な、コレが理由か。久々に骨のありそうな奴だな……いいだろう。白いロボット、貴様の力を見せて貰おうか。」

 

 

思わずニヤリと笑むピッツォ・ケリー。

幻晶騎士(シルエットナイト)の存在は既に知っているが、それ以上にこの世界には到底似合わない、機械文明の影響を受けたと思われる存在(ガイガー)の急襲という急展開の状況を楽しむ事にした。

 

 

「せいぜい楽しませてくれよ。そして私を落胆させないでくれ。まあ……この戦いは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()がな。」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「───受けなさい、ドリル・アタァァーーックッ!!」

 

 

ゾンダーロボに突撃したガイガーは、2機のドリルガオーを力任せに押し当て、推進器(スラスター)の推進力唸るまま、そのまま押し切った。

強固なゾンダーロボの装甲をみるみる内に削り始めるドリルガオーは───

 

 

《……か~ら~のぉ~ッ!!》

《──貫けッ!ドリル・ブース◯ナックルッ!!》

《ゾッ!?》

 

 

推進器(スラスター)の出力を更に上げ、零距離からのドリルガオー射出である。

マモンが搭乗するドリルガオー・Aがゾンダーロボの左肩を貫くッ!

更に───

 

 

《──そして残念、もう一発ッ!!ドリル・イ◯フェル◯ォッ!!》

《ゾンダー!?》

「──んな訳、ないでしょう!!」

《ゾンダァァー!!?》

 

 

ザドキエル担当のドリルガオー・Bが右肩を貫くッ!!

ん?ゼ◯ガー親分やゼン◯ー仮面の影響が強い?

そんな事はない、きっと。

 

それはさておき、両肩を貫かれ、その勢いで体勢を崩されたゾンダーロボは、追い打ちとばかりに放たれたガイガーの強烈なキックで更に宙を舞うが、突如現れた黒い柱(ワームスマッシャー)で身体中を幾重にも貫かれ、ガチガチに固定されている。

そこに来るのは、黒い柱(ワームスマッシャー)をレール代わりにして、ジェットコースターの如く宙を走るライナーガオー。

 

 

《──射程圏まで詰めたぞ、ラファエル!ついでに固定もしておいた!》

《これなら……『神の齎す平定(ゴッド・フリート)』、チャージッ!!》

 

 

ライナーガオーの先端──車輌の連結器のカバーが開き、白く輝くエネルギーが収束されるが、その合間に、その横をステルスガオーが音速を超え、飛び出す。

 

 

《──いや~、狙い定めなくていいのは楽だわ。》

《標的が固定されてますからね……って、ベルフェゴール!これじゃ獲物の横取りですよ!?》

《いいの、いいの。んじゃ──フィールド展開、『音速疾風撃(ソニック・ブレイカー)』ッ!!》

 

 

ベルフェゴールが自前の能力で展開した魔力障壁による『音速疾風撃(ソニック・ブレイカー)』は鋭い刃となり、音速を超えた黒い翼はゾンダーロボを容易く切り裂き、下半身を脱落させた。

 

 

《……おいおい、やってくれるね。残ってんの上半身と頭だけだろう。》

《ですが好機です、『神の齎す平定(ゴッド・フリート)』、撃てェェェーーー!!!》

 

 

そしてとどめと言わんばかりにチャージされた『神の齎す平定(ゴッド・フリート)』を放つライナーガオー。

先端から放たれた白い光の一閃がゾンダーロボを焼き、爆煙が広がる。

 

 

《やりましたか!?》

《ちょ、それフラグ──》

 

 

だが、ステルスガオーの『音速疾風撃(ソニック・ブレイカー)』で軸線がぶれたのか、『神の齎す平定(ゴッド・フリート)』が焼いたのは首から上だった。

だが、跡形もなく葬られている時点で、その威力は最初に戦ったゾンダーロボでの威力よりも高い。

しかし問題はそこではない。

 

 

「ゾン……ッ、ダァァーー!!」

 

 

黒い柱(ワームスマッシャー)の拘束より身をよじって、ゾンダーバリアの力場を用いて、自力で無理矢理逃れた。さらにそこから急速な自己再生を果たす。

千切れた身体も寄せ集め、全身を再生させたのだった。

 

 

「……流石、ゾンダーですわ。ゾンダー核さえ無事であれば、容易に再生するとは。」

 

 

しかし、当初の目的───村からの引き剝がしは成功している。

そして今度は牽制を主とした、ガオーマシン総出の攻撃にたじろぐゾンダーロボ。

特に起き上がる度に足払いをしてくるドリルガオー2機が良い仕事をしている。

だが……

 

 

《俺達の火力を束ねても、ありゃ何度やっても同じ結果にしかならんぞ。》

《やはり核を破壊しないと……》

「──それは駄目です。何があろうともゾンダーの野望は、何一つ思い通りにはさせず、潰えさせます。例え、甘いと言われようがやらせませんわ!」

 

 

距離を取るライナーガオーのラファエルの提案を一蹴するカルディナ。

そこにはゾンダーに対する、堅固な意思が感じられた。

そのじり貧の状況で、尚徹するカルディナの言葉に、天使と悪魔達は言葉を詰まらす。

 

 

《……マジか。》

《……やはりそういう選択なのですね。》

《でも、お嬢らしいね。》

《あくまで意思を貫くか。流石、我等が主よ。流石である。》

《じゃ~どうするよ?》

《そうなれば、選択肢は1つしかありません。》

「それはもちろん───」

《───ファイナル・フュージョンですね?カルディナお嬢様。》

「フ、フミタン!?」

《ようやく通信圏内に入ったのでご一報致しました。今は鉄華団の皆さんの助力で、牽引車(ギャリッジ)にて移動中。状況はガブリエルさんから音声を送って貰いましたので全て把握しています。》

「ちょ……!?ガブリエルさん!?」

《……流石、ガブリエル。》

《状況報告は義務なので。》

《という訳で、後でイザリアさんにたくさん叱られて下さい。一緒に叱られてあげますから。》

「……フミタン!」

《それと、王都にも音声は繋げています。》

「……え。」

 

《───話は聞かせて貰ったぞ、勇者!》

「───た、大河長官ッ!!?」

 

 

通信機に割り込んできた音声はまさかの大河長官───ではなく……

 

 

《フフフ。私だよ、カルディナ嬢。》

「……あ、ティ・ガー様??何故??」

《咄嗟にとはいえ、間違えられる程似ているとは、少しは練習した甲斐があったようだ。》

「ええ?!どうして!?」

《私が王都の通信機にも音声を送っていました。》

《……ガブリエル、鬼の所業だな。》

「……と言うことは独断先行の件も?」

《全てリアルタイムにだな。まあ、後で叱られてくれ。》

「……orz」

 

 

カルディナのお叱りは決定事項のようだ。

 

 

《それよりもだ、聞いてくれ。》

「は、はい!」

《こちら王都にもゾンダーと思われる敵性体が出現した。》

「──!!」

「だがどんな攻撃でもすぐに再生し、近付いたゴーレム部隊は殲滅される状況だ。最早、一刻の猶予もない。カルディナ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()───この意味が解るな?》

「勿論です。そして、その為に私は今、ここにいます。」

《うむ!ならば準備は良いな!?》

「はい!」

 

 

ティ・ガーの言葉に、カルディナは決意を新たに。

 

 

《こちらも何時でも》

 

 

フミタンはコンソールパネルに備えられたキーボードを準備する。

そして、コンソールにアラーム音が響く。

 

 

《ガイガーよりファイナル・フュージョン要請のシグナルを確認───ティ・ガー様!》

《よし───ファイナル・フュージョン、承認ッ!!》

《了解。ファイナル・フュージョン、プログラムッ……ドラァァイブッ!!》

 

 

キーボード横のガラス板の下に封じてある、ドライブ・ボタンをフミタンが拳で叩き割る!

 

 

《 FINAL FUSION 》

CALDINA ──── [DRIVE]

GAIGER ──── [DRIVE]

DRILL GAO ─── [DRIVE]

LINER GAO ─── [DRIVE]

STEALTH GAO ── [DRIVE]

 

《── FINAL FUSION ──》

 

 

そしてコンソールの『PERPARATION』が『DRIVE』の表示に上書きされ、遂に始まる───

 

 

 

「ファイナル・フュージョーーンッ!!!」

 

 

ガイガーが大の字に身体を拡げ、ギャレオンの口が光輝き、下半身が高速回転しながらEMトルネードを放出。

同時にゾンダーロボがEMトルネードに押し退けられ、ファイナル・フュージョンのフィールドを形成。

そのフィールドの中へ、下より金色の回転衝角(ドリル)に、黒きボディの無限軌道(キャタピラ)を持つ戦車、ドリルガオー。

低空より、白き流線型のボディに青のラインを走らせた500系型の新幹線、ライナーガオー。

上空より、黒い翼を持つ、ステルス爆撃機を模した飛行機、ステルスガオー。

3機のガオーマシンが飛来する。

十字ポーズで待機するガイガーの下半身が反転、黒いスカートが前面に。

ドリルガオーが機体ごと上方に向き、ドリル基部が前方に倒れ、基部の下の空間が出現。

足裏の噴射口(スラスター)が噴射、上昇し、爪先を下に折り畳んだガイガーの両脚が挿入、機器によって完全固定(パーフェクトロック)

次にガイガーの肩関節ごと両腕が背面に折り畳まれ、胸部側面にはライトが輝くトンネルのような四角い侵入口に高速で突入するライナーガオー。車体の中央ブロックが胸部に隠れた位置で止まる。

ステルスガオーがガイガーの背面に高速で垂直落下しながら侵入、ブレーキとクッションを活かしつつ急速減速し、背部に完全固定(パーフェクトロック)

両肩にあたるライナーガオーが若干上に上がるのと同時に、ギャレオンの顔にステルスガオーからアームで赤い(たてがみ)が両側に装着され、両眼が光る。

ライナーガオーの両下部より、白いユニットが下方に伸び、ステルスガオーの左右の黒いエンジンユニット──左側・プロテクトアーム、右側・ブロウクンアームが金属摩擦の唸りを挙げてレールを伝い上昇、内部で連結し、ジェットフィルターが解放、鋼鉄の掌が高速回転して、衝突音にも似た静止音を響かせ、現れる。

ガイガーの頭部の後ろ、ステルスガオーのフィルターシャッターが解放、赤いアームに固定された黒いヘルメットが、ガイガーの頭に被さり、マスクがガイガーの顔を覆う。

金色の角飾りの窪みからGストーンが迫り出て、『G』の刻印が光り、双眼も光る。

行程(フェイズ)、終了。

 

ここに誕生した(くろがね)の巨神の名をカルディナは叫ぶッ!!!

 

 

「ガオッ、ガイッ、ガーーッ!!!」

 

 

遂に、我々が待ち望んでいた勇者が誕生した!

魔法と科学の力を結集したスーパーメカノイド!

その名は、勇者王ガオガイガー!!

 

 

──シューッ!

 

ヘルメットより排熱した後、EMトルネードの雲が晴れ、ガオガイガーがその姿を現した。

 

 

《ファイナル・フュージョン、完了。》

「「「──やったァァァァーーー!!!」」」

《頼むぞ、勇者!》

 

 

皆がファイナル・フュージョン成功を喜び、称える。

そしてカルディナは……

 

 

「──オオオォォォーーー!!ブロウクン・マグナムッ!!

 

 

吼えるように声を上げ、拳と上腕が高速回転する必殺の拳(ブロウクン・マグナム)をゾンダーロボに放つガオガイガーの一撃が、戦闘再開(第二ラウンド)を告げた。

ゾンダーバリアを展開するゾンダーロボだが、その勢いと高速回転の掘削力はその程度で止められるものではなく、バリアごと頭部を粉砕。

すぐさま再生を始めるゾンダーロボだが、再生等許す訳もないガオガイガーは、助走を付けて飛び上がり、推進器(スラスター)を全開にし、630tの自重も合わせた踵落としを喰らわせ、地面に強制的に沈ませ──るどころか、ゾンダーロボが地面から衝撃で跳ね上がった。

同時に、戻ってきた右腕を装着し、更に蹴り上げ右、左と次々に拳を喰らわせる。

連撃の最中、負けじと反撃をしようと突如、口を開いたゾンダーロボだが……

 

 

───プロテクト・シェードッ!!

 

 

その()()は荷電粒子砲だったようだが、至近距離からのプロテクト・シェードで反射され、ゾンダーバリアの展開もままならない再生直後の頭部が再度破壊され、その爆風の余波でゾンダーロボは吹き飛ぶ。

 

その全体的に攻勢ムードで、戦いを見守る者達の応援に熱が入る中で、牽引車(ギャリッジ)の外でいつでも『浄解』が出来るよう待機するムルは不気味な違和感を感じていた。

 

 

(間違いなくお嬢様が優勢なはず……なのに、この違和感は……)

《───ムル!何か変だ!》

「クスト?君も何か違和感を?」

《何か胸が締め付けられるような……Gストーンが、ざわついてるっていうか……》

「Gストーンが……??まさか!!?」

 

 

同じ時、ランドマン・ロディに搭乗する三日月と昭弘も……

 

 

《……昭弘、何かおかしくない?》

《ああ。こう……余裕ないっていうか、いつものお嬢らしくねぇ。》

《あの機体、相当重いけど、お嬢ならもっとそれも利用してるよね。あれ、振り回されてるって感じ。》

《反応こそ早いが、ヤケクソ気味に殴り倒してんな。こりゃもしかすると……》

《うん。ねえ、オルガ。聞いてほしいんだけど───》

 

 

その直後だった。

 

 

───ヘル・アンド・ヘブンッ!!!

 

「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ……ふんッ!!」

 

 

──右手に破壊エネルギー(悪魔の力)

──左手に防御エネルギー(天使の力)

 

そして自身のエネルギー(Gパワー)を高めたガオガイガーの、荒れ狂う2つのエネルギーを重ね合わせたヘル・アンド・ヘブンによるEMトルネードがゾンダーロボを直撃し、電磁拘束する。

ガオガイガーは合掌した拳を磔にされたゾンダーロボに狙いを定め、推進器(スラスター)が最大戦速で唸りを上げる───

 

 

「──オオオォォォーーー!!!」

 

 

風を切り裂く拳が、鳴動するゾンダーロボの胸部を捉え、頑強な装甲を有無を云わさずに砕き、そして更にもう一押し押し込み、踏み込む───

 

 

「──ハァアアアァァァーー!!ふんッ!!

 

 

そして胸部の奥にあるゾンダー核を両手で鷲掴みにし、一気に引き抜くッ!!

間欠泉の如く起きる大爆発の柱を背に、ガオガイガーはゾンダーロボに勝利したのだった。

また、その大爆発の爆風の衝撃に躊躇する中……

 

 

《まだだ、クスト。今度は僕らの出番だ。それに……》

「うん、わかってる。お嬢が心配だ。」

 

 

『浄解』モードを発現させたクストとムルが、ゾンダー核を持ってゆっくり歩くガオガイガーの元へ急いで宙を飛んで行く。

 

《……浄解を。》

「クスト、僕がやる。お嬢を見ててくれ。」

「わかった。」

 

 

───テンペルム

───ムンドゥース

───インフィニ

───トゥーム

───レディーレ

 

 

『J』の力を発現し、差し出されたゾンダー核を『浄解』するムル。

核はみるみる姿を変え、軽装の鎧を着けた冒険者風の女性へと戻した。

 

 

「僕にも……出来た。この力はやっぱりゾンダーに対する力だったんだ。」

「……実はまだ疑ってた?」

「想像を超えた力って、頭では判ってても実感しないと解らないからね。それよりも……」

「お嬢!大丈夫!?」

《───》

 

 

浄解を受けた女性をガオガイガーの手から回収するムルはすぐに退避、そしてクストはカルディナに呼び掛けたが、返答がない。

その直後、ガオガイガーが力なく膝を付き───

 

 

《───ゴホッ、ガフッ……!》

「お嬢!?」

 

 

咳き込む音声を耳にした。

それが治まったと思った直後、ギャレオンの口から人陰───カルディナが出て来たが、バランスを崩して落ちようとしていた。

しかし、寸前のところでクストが受け止める。

 

 

「ちょっと、お嬢、危ないじゃない……お嬢?お嬢、どうし───ヒッ!?」

「……」

 

 

その受け止めたカルディナの姿を、その感触をはっきり認識したクストは、怯んでしまった。

 

手に、身体にぬるりと纏わり付く感触と、鼻を突く鉄の臭い。

強固な筈の鎧はひび割れて、その垣間見える肌すら、それ(まみ)れて。

 

 

「……そ、そんな、お嬢!!」

 

 

クストに抱えられたカルディナは、白い姿である筈が、弱々しく、全身血塗れの姿であった。

 

 

「そ、んな……お嬢、カルディナお嬢様!目を開けてよ!!」

 

 

見るも信じられない悲惨な光景に、クストは声の限り叫んでしまう。

その様子を感知されない程遠くより眺めるピッツォ・ケリーは溜め息を吐いた。

 

 

「……劣化体を倒したとはいえ、少々期待外れか。しかし、直前の膨大なエネルギー……あれはやはり『カインの遺産』。だが……直接手を下す価値もなかったか。さて、本命の『進化体』……どこまでの()()をもたらすか、見物だな。」

 

 

そして興味を失ったピッツォ・ケリーは己が翼を広げ、飛び去って行く。

その後、その場でカルディナを抱え、泣きじゃくるクスト───

 

 

「……何、泣いてるの。」

「───お嬢!?生きてる!?大丈夫!?」

「……GGGの隊員が泣いちゃ駄目でしょう?」

「な、泣いてなんか……!それよりもそれって

ボケる余裕はありますって事?見た感じ余裕ないんじゃないの!?」

「……大丈夫、よ。せいぜい全身と内臓からの出血で……血液の3分の1が失われてるぐらいだがら大丈────ゴフッ」

「それって大丈夫じゃないよね──って……お嬢??」

「……」

「うそ……だよね??お嬢……??」

 

 

突然中断された会話。

口から出てしまった吐血の量は、3分の1を超えてしまうには充分過ぎた。

そして腕の中で物言わぬお嬢様(カルディナ)に、クストの背筋は芯まで凍るように冷たく感じた。

 

 

「──────!!!!!!!」

 

 

浄解の能力に目覚めて以来、最大のスピードで牽引車(ギャリッジ)に突撃していったクスト。

途中、団長(オルガ)に回復魔法を使える人物を1人残らず動員するよう叫んでいたが、それは言葉には出来ないほどであった。

 

そして、後に残されたガオガイガーも、全身からオーバーヒートを意味する熱風が吹き上がっていた。

 

初めての戦い。

 

それは誰にとっても、思った以上の辛勝であった。

 

 

 

 

 

《NEXT》

 

 

 

 


 

 

 

《次回予告》

 

ゾンダーに勝利したガオガイガー。

 

しかしその勝利は決して良いもものではなく、辛勝となってしまった。

 

満身創痍のカルディナ達は、傷が癒えぬまま王都へと向かう。

 

果たして王都にゾンダーに勝てるのか?

 

勝利の行方は?

 

そしてカルディナの運命は?

 

 

NEXT、『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

 

Number.13 ~出撃!未完の勇者王~(2)

 

 

次回もこの物語に、ファイナル・フュージョン、承認ッ!!

 

 

これが、勝利の鍵だッ!!

 

『〔--ERROR--〕』

 

 

 

 

 

 

 

〔--ERROR--〕

 

───── search

 

 

〔--ERROR--〕

 

 

───── search

 

───── search

 

 

 

〔--ERROR--〕

 

 

 

〔致命的な〔--ERROR--〕が発生しました。〕

 

〔この件に関する修正案の検索を開始します。〕

 

〔 ──検索、終了。〕

 

〔この件の修正可能な案件───該当なし。〕

 

〔現段階での修正は不可能です。〕

 

〔成功確率────0%〕

 

 

 




最後はボケて終わるつもりだったのですが、ヒドイシリアスになった。
言葉は選んだつもりですが、今後の展開は如何に。


あと、勝利の鍵に〔--ERROR--〕を書いたら、何故かエラー表記に。
〔--ERROR--〕って表記出来ないのでしょうか?

しかも最後に謎のメッセージ……解せぬ。


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Number.13 ~出撃!未完の勇者王~(2)

今回はあまり良い話ではない事を先にお断りしておきます。

プライベートに余裕がなく、感想欄で一部の方に返答できなくてすみませんでした。
感想コメントはしっかり読んでます。
どうもありがとうございます。

◇◇◇◇

敷かれたレールを走るのと、脱線してでも開拓するのと、果たしてどちらが良いのか。

実際に痛みを伴うなら、果たして耐えられるか?

そんな話に仕上がっています。
しかもまだ序の口……

ちなみに私もここまでになるとは思わなかった……


「───ヘル・アンド・ヘヴンッ!!」

 

 

膨大なエネルギーを用いるガオガイガー最大の必殺技『ヘル・アンド・ヘヴン』。

ガイガー、そしてガオーマシンのGSライドより発せられる過剰なGパワーが、エネルギー回路を痛め付けて行く。

何より魔術制御型(マギウス・タイプ)の機体であるガオガイガーから制御出来ない程の膨大なエネルギーが天使や悪魔を、そしてカルディナを襲う。

 

 

(──ううっ!エネルギーが、暴れ回って……!?制御……しなきゃ!!)

「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ……ふんッ!!」

 

 

『ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ』の呪文を唱える事で辛うじて制御が可能になったカルディナはEMトルネードを放つ事で、一瞬だが余力を得た。

そして拳の先を定め、推進器(スラスター)にエネルギーをありったけ込め、解き放った。

 

……それからは、無我夢中で記憶がなかった。

 

核摘出から浄解を見届けるまでやりきったカルディナだが、血を吐いて気を失うまで、本能的な無意識下の行動であった。

 

 

 

そして、カルディナの意識は()の中に沈んだ……

 

 

 

 

 

──……ざめよ。

──……ざめよ、〔 ─ 〕よ。

 

 

──(体表損傷度67%オーバー、内部損傷度52%、外部干渉による影響で肉体の修復が間に合いません。)

 

 

──……る時は近い。

 

──……の御力、我が下に……

 

───(緊急処置により、周辺の◯◯◯を使用、強制活性開始。)

 

(……誰?? 何処かで聞いた事があるような)

 

──……れ、……るのだ

 

──魔力《マナ》を高めよ、開闢(始まり)とならんが為……

 

──(精神干渉防壁が一部突破……いけない、このままでは……!)

 

──終焉(終わり)をここに……

 

(この声は……私が生まれた時に聞こえた……そしてもう片方は、気のせいと思ってた、時々響いてた、声……)

 

──…焉を超え……誓いを……

 

(……片方は途切れ途切れ……もう一方は小さすぎて何を言っているのか、よく聞き取れませんが、こちらも1つ言いたいのですが……さっきから途切れ途切れの方よ、尋ねます。)

 

───!!

 

───(?!)

 

(なぜ声が〔 ── 〕さん?ム◯のデ◯ガイヤー将軍ではありませんよね?もしくはバ◯マーのシ◯ァーとか?)

 

───?!?違っ!?!!何#故???

 

(一番信じられなかったのは、まる◯ちゃんのお父さんのひ◯しと同じ声優だった事ですわ。◯スガ◯ヤーさんやシヴ◯ーさんと同じだなんて……警◯24時やマグロの一本釣りでのナレーションも渋くて好みですわ。もちろん一番は次◯ボイスでしてよ!でも一番は驚いたのはまる◯のお母さんがクレ◯ンし◯ちゃんのマサオ君の声優と忍◯まのシ◯ベエと同じ方だったという事ですわ。ああ、声優とは……実に偉大ですわ。で、再度伺いますが、ご用件は?)

 

───……もういい。

 

───(せ、精神干渉防壁、自己修復!?干渉を跳ね返した??うそん……)

 


 

 

 

───ぱち

 

 

「……何でしたの、結局。」

 

 

それがカルディナが目覚めて放った、最初の一言だった。

変な絡み方をしてきたくせに、何だか非常に呆気ない、そんな気さえした。

ちなみに小◯さんと屋◯さんがそれぞれ担当した声で警◯24時が見たくなったのは、ご愛嬌。

 

 

「───カルディナ様!!」

「───お嬢!!」

「わぷっ!?───ウィ……じゃない、フミタン、イザリア……さん??」

 

 

そんな時、フミタンとイザリアがカルディナに覆い被さるように抱き付いてきた。

それだけではない、周囲には驚愕で目を見開いた、鉄華団のメンバーがいた。

 

 

「……って、あんたら、ガン見してないでさっさと撤収!!」

「そうです!!これ以上お嬢様を見たら殺しますよ!!」

「あ、あの僕は……」

アンタ(クスト)は目隠ししたまま継続っ!!」

「はいぃぃぃっ!!」

「あ、あの、いったい何が……??」

「お嬢……お話しする事は多々ありますが……」

「まずはその凶悪なブツを隠してくれないかい?特に男共には目に毒なんだから……」

「へ??凶悪とは、いったい何を……」

 

 

イザリアが身を挺しながら指さすもの───カルディナ自身を見ると───なかった。

 

IDメイル───特にパワードスーツに関する伸縮素材が()()()()()()()()していたのだった。

ちなみに鎧(手甲と具足、腰回り、背部)は無傷であった。

胸部、局部は野ざらし、下着姿と思っても良いかもしれない。

 

 

「───どうしてこうなってるんですの!?」

 

 

しかしその質問に答えられる者は、誰もいなかった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……で、今どうなってますの?」

「端的に言うと王都に移動中です。」

 

 

予備のIDメイルを纏ったカルディナは、現場の指揮を執るオルガの代わりに、ムルを呼び寄せ、事情を尋ねた。

そして傍らにクストがカルディナの左腕に嵌め込まれたGストーンの調整(アジャスト)を行っていた。

 

 

「ガオガイガーは?」

「手動でフュージョン・アウトさせて牽引車(ギャリッジ)に全部乗せてます。そして今は総出で修理にかかっています。ドリルガオー()は辛うじて無事でしたが、ステルスガオーとライナーガオーは内部機構がオーバーヒートして応急措置もしないと使えない状態らしいので、少し深刻かと。」

「うわぁ……」

 

 

間違いなくヘル・アンド・ヘヴンの影響である。

また、ファイナル・フュージョンの影響で上腕の接続部が一部ひしゃげている。

そのため牽引車(ギャリッジ)の上が、ステルスガオーと真ん中にライナーガオーが挟まって載っかっている、という、かなり不思議な光景になっている。そして更にその上にギャレオンだ。

それをダメージの少ないドリルガオーとランドマン・ロディが引っ張っている。

その上での突貫修理だ。

ステルスガオーのウイングに木々が引っ掛からないか不安なところがある。

こうなると、水陸両用整備装甲車か、三段飛行甲板空母が欲しいところである。

 

 

「まあ、幸いにも過負荷がかかったところはパーツ交換程度で済むようでしたので、現存するパーツで急ピッチでやってます。」

「そうですか……ですがムル。」

「……何ですか?」

「オルガはよく止めませんでしたわね、私の事。」

「……団長、言ってましたよ。『止めたって無駄だろう?逆に止めりゃ意地でも出ようとするのがお嬢だ。だったら少しでも死なねぇようにするのが最善……そう思ったさ。それに、戦い(やり)に行くんだろ?』って。」

「……ええ。」

「やはりですか……現状、2機のランドマン・ロディがいますが、ゾンダー相手に牽制程度しか役に立たない以上、()()()()()()()()()()。遺憾ですが、カルディナお嬢様にお任せするしか……」

「───いいのよ、それで。」

 

 

悔しい思いをするムルの言葉をカルディナはやんわり肯定する。

 

 

「それが(わたくし)の望みであり、ガオガイガーに乗る者の宿命だと思ってます。」

「……はい。団長も、きっと止めても無駄だって言うでしょうね。でも、死なないで下さい。」

「勿論です。」

 

 

それはこの場にいない団員達の思いでもあるから。

 

 

「あ、それともう2つ。」

「何でしょう?」

「1つ目。何で私、鎧以外は裸だったのかしら?」

「それは知りません。」

「僕も知りません。」

 

 

それは応急措置を行っていた担当者達も困惑していた。

IDメイルを脱がす事すら難しい出血量だったため、まずは止血を優先し、総出で回復魔法を掛けていた。

またバイタルサインも非常に微弱なため、ダメ元でクストがGストーンの調整(アジャスト)を試みた矢先……

 

 

「スーツのスキンがいきなり()()()()()()()()んです。」

「……はい??」

「そうしたら皮膚の出血が、全て綺麗に再生したんです。それにみんな驚いていた時に……」

「私が目を覚ました、と。」

「……はい。」

「………」

 

 

何だそりゃ??と思う出来事だ。

いくら回復魔法でもそこまで万能ではない。

通常、じわじわ治るのが通常だ。

それ以上の短時間での回復力ではまず術者の魔力(マナ)供給が間に合わず実行不可能。

そして術式(スクリプト)のリミッターを外す事は出来るが、細胞に深刻なダメージを与えてしまう。

ちなみに、あの時は内臓までダメージを受けていた筈だが、総出での回復だ。そのような回復力を受けては、本来回復しきっても猛烈な虚脱感が襲ってくるが、現在そのような事はなかった。

 

そしてもう1つ。

 

 

「……私に、Gストーンの調整(アジャスト)って受け付けるんですのね、クスト。」

「何か、お嬢なら効きそうな感じがして……」

 

 

魔術回路(マギウス・サーキット)は繋げているが、人体に直接接続している仕様にはしていない。

ましてや、サイボーグやアンドロイドならまだ解るが、有機生命体のカルディナに効くのだろうか……と疑問を持ったが、現に()()()()()()()()()()ので、回復からの虚脱感がないのは調整(アジャスト)のお陰なのだろう。

ただし、過去にGストーン精製初期の頃、お遊び感覚でクストに調整(アジャスト)をしてもらった事はあるが、その時は何も感じなかったが。

 

 

「……まあ、その辺りの原因究明は後にしましょう。クスト、もういいわ。ありがとう。」

「うん。」

「お嬢、外の整備班からの連絡よ。応急措置は終わったって。」

「そう……判りました。ムル、団長(オルガ)に伝えて。牽引車(ギャリッジ)の進行方向をを王都に。ここから出撃します。先行するので後から来て、と。」

「判りました。」

 

 

非常に不可思議な事があったが、出撃に支障がないなら行くだけ───

 

 

(───!?貧血、ね。頭がぼんやりするけど、しっかりしないと……)

 

 

足取りが多少ふらつく。

やはり身体は本調子ではない。

それでもそんなカルディナを誰も止めないのは、それが最善の手段であるのと、カルディナ自身の決意が強いことを誰もが知っているから。

そして、応急措置が終わったギャレオン、ガオーマシンは分離状態のまま王都に向け出撃し、足が軽くなった牽引車(ギャリッジ)も進行速度を速め、後に続くのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

───ゾンダー発生、12分前

 

 

「……どうして、どうしてだ?私の方が……あの公爵令嬢より私の方が優れているのに、王はどうして認めて下さらない!?どうして……!!」

「───ふふふっ。第六師団の兵士サマは王様に実力を認めてもらいたい、と……」

「な、何奴!?」

「良いでしょう、その怒りをぶつけなさい。そして力を与えてあげましょう、この世で最強になれる力を───」

「や、やめ……うわぁぁぁぁーーー!!!」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「──ほ、報告!!第二、第三師団の損耗7割を越えました!!敵の動きが速く、接触と同時に多数が討たれてしまい、防衛戦線維持が困難です!!」

「第一師団、第四師団は左右に展開!接近は決してするな!!ゴーレム部隊による遠距離法撃により牽制に専念せよと通達!第五師団は隙を見てノックバックで対象を王都の郊外まで叩き出せ!!」

「報告!第五師団、全滅!術者の安否は不明です!!」

「馬鹿な、早い!こちらの動きを読んでいるとでも!?」

「重装甲の師団が、こうも易々と……!」

「陛下をお救いしろ!!どんな犠牲を払ってもいい!!」

 

 

王都内。

王城城壁が迫る場所にて、防衛戦が行われていた。

だが、戦況は芳しくなく、一方的に進行を赦してしまっていた。

 

 

「……魔獣とは違うとは判っていたが、ここまで損耗が激しいとは。ゴーレムが赤子のようだ。これが……ゾンダーなのか?」

ゾンダー!!

 

 

そんな凄惨な戦場と化した城壁で追い詰められたアルドレイア王国、国王レクシーズは己の作り上げたゴーレムが破壊される様と、折られてしまった宝剣『ゴルディオン・ソード』を見て歯痒い思いをするのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

───数分前。

王室の窓より見下ろす、一方的な被害出す凄惨な防衛戦に戦慄する、国王レクシーズ。

 

一見、鋼鉄の鎧を纏った騎士という風貌だが、顔から覗く光る単眼(モノアイ)に裂けた口を持つその存在。

何より、胸に妖しく光る十字の宝石に『』Zゾンダーロボ。

唯一の攻撃手段として、得物に細剣(レイピア)を持つが、30メートルを越える巨体の得物であるが故に、5~9メートルのゴーレムを相手取るには大剣となんら変わりないものだ。

 

そして一番厄介なのはその俊敏かつ無駄のない的確な動きで、各師団の軍行に合わせ、その弱点を的確に潰し、確実に殲滅してくる事。

まるで師団の特性を全て知っているように……

 

 

「くっ……!このままでは全滅しかねん。こうなれば、私が出るっ!!」

「お待ち下さい、陛下!!御身に何かあっては……!!」

「───この様な状況でそんな事を言っている場合か!?国が滅べば、王どころではない!それに、あやつが魔獣を遮る廊壁が破壊してしまえば、魔獣の大暴動(スタンピード)が起きかねん!!そうなればこの国どころか近隣諸国すら危うい!」

「し、しかし……」

「アースガルズ卿、後の指揮は任せた。防衛を徹底せよ……せめてあの娘が来るまでは時間を稼ごう。」

「ぎょ、御意……ッ!」

 

 

せめて捨て石にならずとも、一矢報いよう。

そう思って出陣した筈だったが、結果は見るも無残であった。

ゴーレムの平均身長は5~9メートル、それが一番()()()()()()()()()()()()()()()だ。

だが、ゾンダーロボには一切通用しなかった。

攻撃が届く前に一掃されるのだ、それはレクシーズも例外ではない。

剣を構え、迫り来る大剣を光に還す──前に、重力衝撃分解の限界を超えた質量が襲い掛かり、レクシーズの乗るゴーレムを城壁へと容易く吹き飛ばす。

 

その時であった。

 

鋼のライオンとウサギが火を吹いて(ブースターを全開で)ゾンダー相手にかち合った。

 

カインとアベルである。

 

 

(無様だな。時間を稼ぐどころか、この最強の国王が障害にすらならんとは。そもそも勝負にすらならないこの戦い……もはや我々の知るものではない。)

 

 

いくら攻撃を浴びせようが蓄積されるはずのダメージは消え失せ、どんな陣形ですら一瞬で破られる。

それを可能にする剛体、剛力、剛胆。

魔獣のそれを超え、既に未知の敵となったゾンダーは、王国の全勢力を結集しようが勝てない。

 

 

「だが、タダでは負けん!その腕の一本、切り裂いてくれるまでは……!」

 

 

──それすらも無駄になりましょう、切った張ったが効きません。ゾンダーとはそういうものです。

そう教えてくれた小生意気な娘──カルディナの顔が浮かんでくる。

結局、あの娘のいう事が真実だった。

 

 

「……そうであろう。だが!私にもこの国の王として、往かねばならんのだ!!私は───!!」

「いけません、カイン!!」

「くぅ!このサイズでは競り勝つ事も出来んか!!レクシーズ、そこから離れるんだ!!」

 

 

片脚が折れているため、簡単には動けない。

だが、無情にもゾンダーロボは細剣(レイピア)をレクシーズへと振り下ろ────

 

 

《──貫け、ドリル・ブーストアタァァァーーックッ!!!》

「ゾンダァァァー!?」

 

 

───さんとするが間髪、ゾンダーロボに対し、最大戦速の突貫を試みる()()()()

 

 

「───!?」

《砕け、ドリル・ブーストナックル!!》

《こっちも!ドリル・ブーストナックル!!》

《これも持っていきなさい、ガイガー・クロー!!》

 

 

一ノ撃(ドリル・ブーストナックル)ニノ撃(ドリル・ブーストナックル)、そして三ノ撃(ガイガー・クロー)をお見舞いするドリルガオー装備のガイガー。フルブーストの推力はあっという間にゾンダ王城前より引き剥がし、王都郊外まで吹き飛ばす。

着地間近でゾンダーに狙いを定めたライナーガオーが、黒柱(ワームスマッシャー)で宙に下半身を固定し、追い討ちで法撃(ゴッドフリート)を放つ。

 

 

《これが先程の正式なフォーメーションです!》

《だが、まだだ。》

《これには続きがありまして。》

《止めの、一撃と行こうかい!》

 

 

とどめにステルスガオーが魔法障壁を展開し、ゾンダーロボに突撃、音速を超えた一撃は上半身をへし折り、残骸は王都郊外へ。

そして王都郊外へ往く白い巨人──ガイガーとガオーマシン達は吹き飛ばされたゾンダーロボの後を追う。

その光景の一部始終をみていたレクシーズは唖然としていた。

判っていたつもりだったが、自分達より圧倒的な力だったガイガーとガオーマシン。

 

 

「……あれがガイガー。カルディナの力か。」

 

 

そして安堵するレクシーズの下に、ランドマン・ロディ2機が周りを囲むように現れ、そこにオルガを含めた鉄華団の数人と、途中で彼等と合流を果たせた息子のアシュレーがやって来た。

 

また、カインとアベルも空中より降りてきた。

 

 

「ご無事ですか、父上!!」

「陛下、大丈夫ですか!?」

「全く、無茶をしますね」

「ヒヤヒヤしたぞ、レクシーズ。」

「む、其方はカルディナ預かりの鉄華団の……オルガ、と言ったな。それに、アシュレーか。それにカイン殿とアベル殿まで……すまないが手を貸してほしい。」

「オルガ、大変だ!陛下の脚が折れてる!」

「壁に打ち付けられた時にやられたみたいだな……」

「父上……なんて無茶を。」

「私の事は……ぐぅっ!構わん。するなら応急手当程度で良い。それよりも今はあのゾンダーロボ、そしてカルディナだ。非常時下で戦力を拡げているが、カルディナの事(ガイガーガオーマシンの乱入)を想定して全軍には『白い巨人が現れた時は手出し無用』と周知している……が、この混乱だ。万が一、横槍(トラブル)が入らないとは言えん。念のため私が赴いて()()とならねば。」

「そうですね、あの娘の元には早く行かないといけません。ですが……」

「有難い話ですが、怪我人連れて前線に行くのは……どうしよう、オルガ。」

 

 

回復魔法を施しながらオルガに尋ねるビスケット。

そのオルガも目を瞑り、一考する───

 

 

「……善処しますが、間違いなく激戦だ。身の安全は保証出来ませんよ、レクシーズ陛下。」

「覚悟の上だ。」

「……判りました。昭弘、陛下をお前のロディの手の上に乗せて行ってくれ!ビスケットは陛下に付いて応急手当の継続、ミカは昭弘の護衛!アシュレーは近衛の騎士にこの事を伝えに行ってくれ。後から来るよう先導だ!他の奴らはパワードスーツ任せで全力で付いて来い!」

《ああ!》

《わかった》

「「「了解!!」」」

「私達も行きましょう、カイン。」

「ああ。」

「アシュレー、騎士達への説明を頼むぞ。それと後からお前も付いて来れんな?」

「勿論だ。僕だって伊達に鉄華団の特別団員をやってないさ。」

 

 

そして鉄華団の助力を得て、レクシーズはカルディナが向かったゾンダーロボとの戦いの場へと向かった……

 

 

「ア、アシュレー王子!!陛下は!?」

「ああ、来てくれたか、近衛の皆。陛下は事態を見届けるため、先に行かれた。僕達も行こう!」

「はい!ですが、陛下のお耳に入れたい、急を要する事案が……!」

「何っ!?」

 

 

……このタイミングで最悪の事態が起きていた。

近衛が持ってきた事案──それは彼等がガイガー(カルディナ)に追い付いた時に、ガイガーが爆撃の嵐の真っ只中にいた事に由来する。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

《やりましたか!?》

《……ラファエルさん、そのセリフ(フラグ)好きですねぇ。》

 

 

フラグ、ではないが、吹き飛ばされたゾンダーロボは折られた上半身をみるみる再生、ついでに黒柱(ワームスマッシャー)からも無理矢理脱出しつつ、損傷個所を再生させる。

 

 

「やはり再生しましたか。ですが、当初の目的……王都からの引き剥がしは達成しましたわ。」

《後は核を抉り出すだけですね。ですが……》

「ご心配無用。先程と同じであれば、多少の無茶をすれば勝てますわ。」

《確実にお説教コース……いや、号泣コースかな?》

「……2度目は辛いですが、受け止めますわ。」

 

 

ヒロインに泣かれる主人公みたいな、そんな冗談混じりの会話をしつつ、再生途中のゾンダーロボに引導を渡すため、カルディナは再度、ファイナル・フュージョンの要請をしようとした直後───()()()()()()()()

例えるならガンダムOOの第一期で行われたガンダム捕獲作戦で行われた長時間の砲撃のような、極端な話、スパロボのイベント砲撃エフェクトが長く続くような、爆発はあってもノーダメージ。

辺り構わず撃ち続けているだけの弾幕だ。

無論、ガイガーや、ガオーマシン、そしてゾンダーロボの装甲には直撃しても効果はないが、あまりにも───

 

 

「───鬱陶し過ぎる!!何ですの!?このネチネチした粘着した法撃は!?」

《見栄を張り過ぎて無茶苦茶撃ってるだけみたいだが……動けねぇ!!》

《機体の操縦が……!!》

《ぐうっ!鬱陶しい!!イライラする!!》

《もー!!回避が間に合わないよ!!》

《ガブリエルさん!どっから撃ってるか解んない!?》

《今、調べます……距離5km地点、反応あり……これは!?》

「何でしたの!?」

《アルドレイア王国の軍勢ではありません!これは『()()』の……『ギャラルホルン教皇国』の一個師団です!!》

「───はいぃぃぃッ!?!?」

 

 

一個師団の軍勢のゴーレムより放たれる豪雨の如き法撃の嵐。

あまりにも急転同地な報告に、カルディナは叫んでしまうが、その声は爆音に掻き消されてしまった。

 

 

───『ギャラルホルン教皇国』

アルドレイア王国の民達からは『隣国』と称される事が多く、『カイエル教』という()()()()()()()()()を主とし、自ら保有する勢力を『聖騎士』と称した、宗教国家である。

 

 

「──ハハハハハハッ!!!どうだ悪魔めッ!!!このセデク・オーツ・クジャンの聖なる軍勢が成敗してくれる!!」

 

 

指揮を執るのは『ギャラルホルン教皇国』の『七星枢機卿(セブン・スター)』の1つであるクジャン家、次期当主とされるセデク・オーツ・クジャン(18)、という男。

なお、国にイオク・ソート・クジャンという双子の弟がいる。

この男の指揮の下、ゾンダーロボに対し法撃を放つゴーレムの師団であるが……全てゾンダーバリアで遮られ、再生中のゾンダーロボに対しては効果を示していない。

視界は遮られ、牽制という意味では効果を生んでいるが。

 

 

「うむ!!効果覿面(てきめん)だな!!見よ、この爆炎を!見ているか、カルディナ・ヴァン・アースガルズ!!我が活躍を!!ぬ!あの白い巨人の悪魔や訳の解らん鉄の塊もろとも、敵を焼き払え!!」

「──何邪魔してくれてますの、あのゴミ王子がァァァァーーーー!!!!」

 

 

ちなみにこの男がここにいる理由は、アルドレイア王国で不穏な動きありと噂を聞き、()()()一個師団を動かし、混乱で警備手薄になったのをいい事に()()()()()()()()()()()()()をして、ここにいる。

本人にはその気はないが、端から見れば侵略行為である。

静止する部下の言葉にも耳を貸さず、好戦派の騎士達は嬉々として従軍する始末。

 

全ては()()()カルディナにイイトコロを見せたいがため。

 

そしてセデクには幸運──カルディナには不運にもゾンダーとの戦闘現場にかち合い、一斉法撃に遭う。

 

なお、カルディナが5歳のとき、『ギャラルホルン教皇国』との和平協定を結ぼうとした時にカルディナに求婚紛いの無礼を働き、協定を無に帰したのは、この男である。

そして長い謹慎期間を経て、再教育されたが……

 

 

「ハハハハハハッ!!!撃て撃て撃──!!」

「──何をしているか、貴様等ァァァーーーー!!!!」

 

 

調子に乗っているセデクの耳に激しい怒号が響く。

声の聞こえる方向を向くと、巨大な鉄の巨人が見えた。その掌の上に拡声器を携えたレクシーズが。

 

 

「ギャラルホルンの者共に告ぐ!!私はアルドレイア王国、レクシーズ・G・アルドレイアだ!!!今すぐ即刻立ち去れ!!」

「お?これはこれは、アルドレイア王国のレクシーズ陛下ではありませんか!!我々を歓迎して下さるのですね。私はギャラルホルン教皇国のセデク・オーツ・クジャンです!!」

「──貴様等にどんな理由であれ、入国の許可等ない!!この場にいる時点で侵略行為と見なす!!さもなくば即刻立ち去れ!!!それにお前が討とうとしている()()は───」

「私の目的は勿論!愛しのカルディナ会いに来たのです!!ああ、カルディナ!今すぐこの悪魔達を打ち倒し、会いに行く!!このセデク・オーツ・クジャンがあらゆる障害を打ち砕いて行く……そして私の妃にしてやろう!!待っていてくれ!!!」

「話を聞けェェェーーーー!!!!」

 

《……な、な、何だ、あの自己中ヤロウは!?》

「こ、怖いよ、全然話を聞いてない!」

「どこの世界にも聞き分けない者はいますが……!」

「……あれが指揮官かい?何と愚かな。」

 

 

今までにない、別次元の相手(分からず屋)に恐怖を覚える鉄華団のメンバー達。

その中で、三日月が動いた。

 

 

《……お嬢の盾になってくる》

「止めろ、ミカ!!あの弾幕の中に入るのは自殺行為だ!!」

《威力はそこまでないみたいだし、盾は持って来てるんだ、時間稼ぎぐらいは出来る。それに打開出来るのはお嬢だけだ。それと、死ぬつもりもないし。》

「……団長命令だ、絶対死ぬなよ。」

「わかった。」

「やむえん、私も行こう。」

「……仕方ないですね。」

 

 

大盾を持ってランドスピナーを走らせてガイガー。の下に行くランドマン・ロディ、そしてガイガー(カイン)ウサリンmark-Ⅱ(アベル)

激しい弾幕に晒されるも、超人的な反応で防御、回避するが───

 

 

「ゾンダァァァァーーー!!」

「───!?」

 

 

三日月達の動きよりも早くゾンダーが再生を果たし、行動を開始する。

ゆらりと動いたかと思いきや、ガイガー(カルディナ)の前に立とうとする三日月のロディ前に現れ、細剣でいとも簡単に凪ぎ払う。

次に後方から鬱陶しい法撃を放つギャラルホルンの一個師団の中央へ跳躍し、自重任せに潰す。カインとアベルは眼中にない。

それでも止まない両翼からの法撃の弾幕で足止めされている無防備なガイガー(カルディナ)に、切っ先を定めたゾンダーは、その十分な助走距離を───(はし)った。

 

 

《───マズイ!!》

《───いけません!!》

 

 

最悪の事態を予見したサタンとラファエルは、ライナーガオーの車体を2体の間に割り込ませて来たが、弾幕の中でも何事もないように動くゾンダーロボは、細剣で車体中央を両断する。

 

 

《───サタン!?このぉ!!》

《ラファエルの……仇ィッ!!》

《ゾン……ダァァァァーーー!!》

 

 

切り払われ、城壁に打ち飛ばされたライナーガオーの仇を討たんと、2機のドリルガオーが突貫を仕掛けるが、走行進路前を攻撃され、車体が衝撃とデコボコ路面で浮かされた隙を狙われ、アクロバットな体術で蹴り払われる。

 

 

「マモン!?ザドキエル!!」

《こいつは、ヤバイな……》

《ベルフェ、回避を───!?》

《ゾンダァァァーーー!!》

 

 

更に回避行動をとろうとするステルスガオーの前に、いつの間にか回り込み、両翼を的確に切断してしまう。

 

 

「───やらせん!!」

 

 

落ち行くステルスガオーを助ける暇もなく、ガイガー(カイン)はゾンダーロボに攻撃を仕掛けるが、圧倒的な質量差、体格差は埋められず、ガイガークローによる攻撃も目眩まし程度にしかならないが、その隙にウサリンmark-Ⅱ(アベル)がありったけのキャロットミサイルを撃ち込み頭部に直撃する。

 

 

「今だ!!」

「……とっておきです、受けなさいッ!!!」

 

 

そして、造り直した超重力衝撃波槌(ピコピコハンマー)の一撃が、ゾンダーロボの細剣の3分の2を両断する。

そしてカルディナも黙ってはいない。

カインとアベルの連携で作り出された隙を、残り少ない全力で生かすために───

 

 

(ガオーマシンは全てやられてしまった……ですが、ガイガークロー(超振動クローの一撃)の最大出力ならゾンダー核の破壊ぐらいは───!)

 

 

ガイガークローに渾身の力を込め、捨て身の一撃を繰り出すカルディナ。

ウサリンmark-Ⅱ(アベル)の一撃で僅かにバランスを崩したゾンダーロボへ、拳を繰り出───

 

 

 

───来タレ、我ガ下へ

 

 

(──ッ!?こんな時に、ふざけた干渉等───)

 

 

────ドン!!!

 

 

「────ッ!?」

 

 

胸部にガイガークローを当てられる寸前に、視界を遮るような爆発が起きた。

その影響でガイガークローが胸部に突き刺さったが、勢いが僅かに衰えたため、核はヒビが入る程度の損傷しか与えられなかった。

 

 

「ゾン……ダァァァァーー!!!」

「!?しまっ───!!」

 

 

────ドズッ!!

 

 

すぐさまカウンターの攻撃を受けたガイガー。

その一撃は、ガイガーの胴体、ギャレオンの口に短くなった細剣が突き刺さり、コックピットが貫かれ、カルディナもその切っ先に胸を貫かれてた。

 

 

(───勇気が……砕かれ……!!)

 

 

何か大切なものと一緒に貫かれ、息絶えるカルディナ。

そしてガイガー(カルディナ)の敗北───

その光景に、その場にいた誰もが絶句した。

遅れて来たアシュレー達も到着と同時にその光景を目の当たりにし……

 

 

「カ……カルディナァァァーーーー!!!!」

 

 

アシュレーは、愛しき婚約者の名を叫んだ。

 

 

そしてその攻撃の主は、先程崩壊した一個師団の中央からで───

 

 

「……見たか、悪魔め!これが……クジャン家の誇りある一撃だァァァーーー!!!」

 

 

明らかに場違いな自らの行いを自覚せずに、高らかに叫ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

──システム、起動完了。サーチ開始。

 

──サーチ終了。対象:カルディナ・ヴァン・アースガルズの電位体が体内より消失。

 

──同時に、『O-3』の痕跡を確認。

 

──『O-3』による拉致と推定。

 

──……追跡を開始する。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

沈む、沈む、暁の中に。

深く、深く、更に深く

 

 

(……終わるの、私?このまま───)

 

 

そして染み込むように入ってくる。

 

開闢と終焉、それらが総てカルディナの中へと注がれ始め……

 

 

 

 

───まだだ!!まだ終わってない!!

 

 

(……だれ?この声……いえ、知ってるこの声は───)

 

 

───見せてやる、本当の勇気の力を!!

 

 

……その声に、注がれる力は消え失せ、失っていた筈の力が、胸に暖かい光と力強い波動となって蘇って来た。

 

カルディナは知っている、この力が何なのか。

カルディナは知っている、この力で何が出来るかを。

 

 

(……そうよ、まだ終わってない───まだ)

 

───私の勇気は、まだ終わってないッ!!!

 

 

 

───正義導く Gストーン

 

───悪の根元叩くため

 

───今こそ舞い上がれ

 

 

 

カルディナの意識は暁の深淵より舞い上がった。

 

それは奇跡。

 

G()()()()()()()()()()()による、復活であった───

 

 

 

 

「───は!?ここ、は……??」

 

 

カルディナが目を覚ました。

思考がぼやける彼女が初めに見たのは、巨大なロボット。

そしてその存在を徐々に確認すると、身が凍るような思いがした。

 

それは三重連太陽系の大いなる遺産──

 

 

「ジェ……ジェネシック・ガオガイガー!?」

 

 

何故!?と思う。いきなりガオガイガーやガオファイガーをすっとばしてジェネシックなのだから。

だが、おかしい。

何故なら、そのジェネシックは全身が茜に染まり、限りなく『暁』の色だからだ。

何だか怖い、そう自然に思うが、それ以上に『このジェネシックなら、今ならモノに出来そう』という考えが──

 

 

「───イヤイヤイヤ。」

 

 

そこは理性でセーブする。不謹慎であり失礼だ。

そして当のジェネシックは、その鋭い両腕を胸のギャレオンの前で『何か』を護るように、もしくはじっくり『圧縮するように』掌を合わせており、反応はないが、その機械仕掛けの瞳はこちらを見ているかのように見える。

そして周りの風景もそうだ。全てが『オレンジ色』なのだ。

何かしら流動体があるが、それが液体か軟体物質か、それともオーラなのか。

謎は尽きない……

 

 

「───というか、ジェネシックが何でこんなところに?そしてここは……」

 

 

───何処、と言いかけたところでカルディナの思考がリフレインする。

 

創り上げたガオガイガーの初出撃。

ゾンダーと戦い、辛勝を期した。

そして再びゾンダーと戦い、妨害を受け、その隙を突かれ……

 

 

「……ひっく、ひっ……ふぇぇぇ~~~ん!」

 

 

抑えきれなくなった感情が限界を超えて、カルディナは泣いた。

 

 

「まだ、で……まだ、やれるはずなのにっ……やれるはずだったのに……みんな、ごめんなざい……」

 

 

後悔、懺悔、そして謝罪……

カルディナに広がる悲しみは、その目蓋に涙を浮かべさせた……

 

 

「……でもわたじ……()()()()()()()()()()()()───!!!」

 

 

そしてこぼれた涙は、オレンジ色の空間に同化し、()()()

更に連鎖反応の如く、止まった空間は広がり、遂には()()()()()()()()()()()()()()()()のだった。

止まったのは空間の動きだけではない、慣性、法則、エネルギー、秩序、ありとあらゆる総てが静止した。

それは目の前のジェネシック・ガオガイガーですら、その機能や湧き出る無限エネルギーですら凍結させている。

機械仕掛けの瞳が、その光を失わせる程に……

 

……そしてカルディナを中心に『世界』は静止した。

 

響き渡るのはカルディナのすすり泣く声のみ……と思われた───

 

 

(──これは、どういう事でしょう、あなた。)

(わからん、どうしてしまったというんじゃ。『オレンジサイト』が……終焉を超えた誓い(オウス・オーバーオメガ)がまるで凍結したように止まるとは……ありえん。)

「いったい、何が起きたんだ?」

 

 

声が聞こえた。

正確にはリミピッド・チャンネルに近い感度の念話を用いる精神体が2人と、実体を持つ人物が1人というのはカルディナにはすぐに判り、しかも何故か聞き覚えがあった。

 

 

「ん?誰だ、君は……いつの間にここに……」

 

 

そしてその人物達は後ろにいたようで、向こうも気付いたようだ。

泣き顔を整え、ゆっくりと振り向くと、その顔触れにカルディナは心底驚愕する。

驚愕と緊張で身がすくむ思いだが、勇気を振り絞り、頑張って声を出す。

 

 

「あ、あああ、あの、貴女は、もしかして獅子王麗雄博士の奥方であらせられる……獅子王、(きずな)様では……?」

(え??あ、はい。獅子王麗雄の妻、獅子王絆です。)

 

 

儚げで優しい目をした女性──獅子王絆は戸惑うように答えた。

次にその隣にいる、身長が低く頭頂部の髪はないが側頭部と後頭部の白髪を立て、特徴あるピンと伸ばした白髭の人物──

 

 

「で、では……お隣のお方は、獅子王麗雄、博士??」

(ん、そうじゃ。獅子王麗雄はワシじゃ。)

 

 

獅子王麗雄は迷いなく答える。

そして最後。カルディナには間違えようもない容姿──燃えるような赤茶の長髪を持つ青年。

GGG機動部隊の隊長であり、人類で唯一のエヴォリューダー、そしてガオガイガーのパイロットであるその人物の名は……

 

 

「貴方は……獅子王凱、様??」

「ああ、俺は獅子王凱。それで、君は……いったい何者──ってどうした!?」

 

 

名前を名乗った瞬間、カルディナはうずくまり、そして立ち上がるや、手に持った『それ』を凱に前屈して突き出した。

 

 

「……こんな時にすいませんがサイン下さいッ!!!

 

 

取り出したるは色紙。

願ったのはサイン。

 

 

(………サイン?)

(………サイン。)

「………えっと、俺のサイン?」

「はい!あと絆様と麗雄様のサインも……お、お願いいたします。」

《……何をしているんですか、お嬢様。御三方ともドン引きしてますよ。》

((───!?))

「「───!?」」

 

 

更なる声──それはカルディナの隣から発せられた。

そこにはふよふよと浮かぶ、紫色に光る発光体がいつの間にかいた。

 

 

《突然失礼致します。私は三重連太陽系謹製の無限情報サーキット、『V・C』と申します。》

 

 

 

《NEXT》

 

 

 


 

 

 

《次回予告》

 

ガイガーが敗れた……

絶望し、暁に沈み行くカルディナを救ったのは、Gストーンのリンクと勇者の声であった。

 

そして静止するオレンジに染まる空間と、暁に染まるジェネシック・ガオガイガー。

そこにいたのは獅子王親子であった。

更に無限情報サーキットを名乗る『V・C』。

 

そこで語られる話は、全ての運命を覆すものであった。

 

今、明かされるカルディナ出生の秘密とは!?

 

 

『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

NEXT Number.14『開闢と終焉の狭間で』

 

次回も、この物語にファイナルフュージョン承認!!

 

 

これが勝利の鍵だ!

『獅子王親子』&『V・C』

 

 

 

 

……そして、その存在は遂に明かされた。

 

 

 

──アナタヲホロボス ハカイオウ

 

 




今まで建てた、いろいろなフラグを入れたらこうなった。
でもこれでも入り口という残酷さ。
ですがこれが望む最善に行けるルート。
そしてお嬢様はやっぱりお嬢様。

ちなみに、ゾンダーにサシで殺されるか、ゲスに殺されるかの二択がありますが、後者はかなり無理があるし、当然ながら止めました。

しかし、オリジナルはともかく原作のキャラを書くのにあたり、非常に申し訳ない気持ちでいっぱい……

最後に……究極のゲスとは、自らの行いを恥じない者である。
ガオガイガーではないものの、ペシャン公を書いててそう思った。


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Number.14 ~開闢と終焉の狭間で~(1)

ご感想くださった方々、どうもありがとうございます。
ペシャン公の評価が非常に斜め下で何よりです。

さて獅子王一家の登場ですが、原作キャラをこちらペースで動かす事の、何て申し訳なさよ。
でもお嬢様に巻き込まれたら、みんなこうなるという非常に恐ろしい例を取り入れた、今までのストーリー振り返り回です。


また、後半の話はほとんど原作の文章を参考にしています。
丸写しではないですが、内容は原作順守です。


(……おお、茶がうまいのぉ。)

(ええ、久々に飲んだ気がします。)

「いや、母さんは言葉通りなんじゃないか?父さんも……そうだよな。しかし牛丼、旨いな~。しかも手作りで、何だろう……この安心するいつもの感は……あ、味が吉◯家に近いせいか。」

「ありがとうございます!よくお分かりで。作った甲斐がありますわ。」

《あ、ご夫妻。お茶菓子はいかがですか?和洋どちらとも取り揃えています。》

(あら、それでは洋菓子を頂こうかしら。)

(ワシは和菓子を。)

「……で、互いに食べさせ合うのか、2人とも。」

((そうだけど(じゃが)、なにか??))

「……いや、何でもない。」

「うっ、尊い……!」

《……尊いですね、録画しましょう。》

「……なんでもアリだな、君ら。」

 

 

衝撃の出会いから一転、何故かお茶を楽しむ獅子王夫妻に、牛丼を味わう獅子王凱。

調理・提供者はカルディナ。

そして無限情報サーキットを自称する紫の発光体『V・C』がホスト役。原理は不明だが、茶器を浮かせて器用にお茶まで淹れていたりもする。

 

何故こうなったかというと、盛大に気が抜けた先程の場面の後、凱が腹の虫を鳴らしたからであった。

エヴォリューダーとてある程度の生理現象は制御出来るらしいが(本人談)、流石に気が抜けて空腹だったらしい。

 

という訳で、本題に入る前に腹ごしらえ、となった。

ちなみに、精神体である獅子王夫妻がお茶や菓子を嗜めているのはカルディナ曰く「仏壇やお墓にお供えするものの応用です」と、牛丼の具をくつくつ煮ている時に凱は聞いた。

現に、淹れたお茶を手に取った麗雄博士の手には、お茶の情報エネルギー体があり、それを吸収する事で、「お茶を飲む」事が出来ていた。

そしてぼんやり「……お供え物って、大事なんだな」と思った。

ただ、現在霊魂(エネルギー体)であるカルディナが実体(牛丼やお茶、菓子など)を出せるのはどうしてか、オカルトにくわしくない凱の頭では解らなかったし、当のカルディナも「あれ?そういえば私、死んでいるはずなんですが、どうしてでしょうか??」と、よく解っていないようだ。

ちなみにサインは3人より貰った。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

(───さて一息吐けたところで、そろそろ情報交換と行かんか。)

 

 

片付けも済んだところで麗雄博士の言葉で、身を正す一同。

そして誰から話すかを迷っていたところ、立候補したのはカルディナで、一番はカルディナとなった。

 

 

「……では私から申しますが、私は皆さま──獅子王ご一家に起きた経緯、そしてGGGに関する事をよく知る立場である事を先に明言します。」

「俺達をよく知る……だって?」

(君は……GGGのスタッフではなさそうじゃな。)

「ああ。ほとんどのスタッフの顔は覚えているけど、俺は君を知らない。」

「当然の疑問ですわ。私の名はカルディナ・ヴァン・アースガルズ。皆様が住んでいた地球を含む宇宙の次元とはまた別の住人、端的に言えば異世界人です。」

 

 

そんな切り出しでカルディナの説明は始まった。

 

自身は地球より劣った文明レベル──中世ヨーロッパ程度の世で暮らす公爵令嬢である。

その世界は魔法技術が主流で、科学はさほど発展はない世界。

王制が主流の世で、その中のアースガルズ公爵の元で産まれた自分は、特異な能力を持つ。

その能力の1つが『元始情報集積体(アカシックレコード)』、それに付随した脳内書庫(Bライブラリ)である。

その集積情報の中1つにあったのが、TVアニメーション番組で放映されていた『勇者シリーズ』の最後の番組『勇者王ガオガイガー』である。

 

 

(勇者王……ガオガイガー、じゃと?)

「TVアニメーションで??」

(まあ。)

 

 

何を疑問とするかは察するに易い。

故にカルディナは、凱達が創作の存在ではない事を伝える。

そもそもが『元始情報集積体(アカシックレコード)』にある情報は全て『事後』であるため、アニメーションそのものは『観測者』が記した記録、ないしは記録内容を他次元のクリエイターにインスパイアさせた結果だろうと推論を出す。

あらゆる次元には姿なき『観測者』がいる。

それが創造神かはたまた他の存在かは不明だが超常原理での観測である以上、どんな話さえも推論の域を出ない。

……というかそう考えなければ、アニメ視聴者のカルディナでさえも創作の1つと定義されてしまうので、この話は今更と言えるが、カルディナはあえてその点には触れなかった。

 

 

「ご納得出来ないでしょうが、その様な超常の観測者がいるという事はご理解下さい。」

(……まあ、そう思うしかないの。科学の粋を集めようとも、証明出来ん事もある訳じゃし。)

「そうだな、父さん。そういう話は究極に突き詰めるとみんな同じ、と言えるって言うし。」

(そもそも、私や麗雄さんの今の存在も半ばオカルトじみてますしね。)

《奥様、笑顔でそれを言ったらおしまいですよ。》

(たしかに、うふふ。)

「いや、母さん。笑えないんだけど……」

 

 

それはさておき。

現に会合している現状、『超常の観測者』論は一応正しいとして話を進める事に。

カルディナはここで『勇者王ガオガイガー』のストーリーをベースにアニメ見つつ、凱達に『ストーリーと史実が合っているか』を質問した。

結論としては、ほぼ合っている。

火麻参謀が通信機を事ある事に握り潰していたり、原種に宇宙開発公団のビルが破壊され、GGGスタッフがヘキサゴンで脱出したり、カーペンターズの修復能力が言葉通りであったり……

ただ違うのは主に次の事項。

 

○年数

(ゾンダーが現れたのは、2012年ではなく、2032年頃じゃな。)

「製作当時の時代背景でしょうね。」

 

○GGGポケベルがない。

「護には、GGG-バッジっていう小型でサテライトリンク経由で通信、音声会話、チャットも出来るものを渡してた。ポケベル……は流石ないな。すでに廃れていたし、番号の解読って小学生には難しくてな。緊急時の連絡には不向きだろう。それに回線も廃止されていた記憶が……」

「製作側の1997年頃は、ポケベルが主流でしたわ。携帯電話はその後ですし。」

(ワシらの世界も似たような歴史じゃな。)

 

○損傷具合、失敗はアニメ以上

(……ファイナル・フュージョンで接続箇所が潰れるのもそうじゃが、合体事故もけっこうあったのぉ。)

「……ああ、ドリルガオーとの接触事故は序の口、ライナーガオーとの接触はギャレオンが逃げたし、ステルスガオーとの事故は墜落寸前、ファイナル・フュージョンでの事故はゾンダーからの妨害も含めて一通りやったなぁ。」

(その度にプログラムの改良……何度朝日を拝んだ事か。)

《博士さんも凱さんが遠い目をしてます。現実とは奇なり、ですね。》

「解ります、ファイナル・フュージョンは過酷ですわ。」

 

 

他にも凱の私服が史実である等、あまり差違はなかったりする点を踏まえ、カルディナの話は続く。

カルディナ自身、幼き頃よりガオガイガーを夢想し、ついにはテストベットとしてガオガイガーを模した鎧を開発。

また、小飼の少年団(鉄鋼桜華試験団)に天海護と戒道幾巳に似た人物──クスト、ムルがGストーンとJジュエルの浄解能力を持つことが判明し、彼等と共にゾンダーを打ち倒した。

その後、2人の情報より故郷に三重連太陽系の緑の星の盟主・カインの生存、同時に赤の星の盟主・アベルが生存している事が判明。

毒が蔓延する故郷にて主を守護するジェイダーを退き、毒の浄化を行い、集落を開放するも、既に2人は絶命し、魂だけとなった両者に鋼の身体を与え復活を果たさせる。

カイン、アベルの協力もあり、Gストーンの生成を成し遂げ、魔法技術(8割)と三重連太陽系の科学力(2割)を結集したガオガイガーを開発した。

 

 

(……アニメーションの情報と鍛治、魔法技術でガオガイガーを創るとはのぉ。しかも三重連太陽系の技術は後付けで出来るとは……恐ろしいのぉ)

「初期の基礎設計で腕の良い仲間がいますので、助力して貰いました。私独りでは到底……」

「………」

(凱……)

 

 

麗雄博士が大いに関心するその隣で、凱は目を瞑ったままだった。

特にアベルの事が話に出る表情は険しくなるが、自らを冷静に律していた。

きっとソール11遊星主の事で、アベルに思う事はあるだろうが、この様子ではカルディナの説明の続く中では問わないだろう。

そして話は続く。

 

完成した魔法製ガオガイガーの実地テストを行おうした矢先、再びゾンダーが出現。

しかも2体。

独断先行するカルディナはぶっつけ本番でファイナル・フュージョンを成功させ、ガオガイガーを降臨させ、ゾンダーロボを撃破。

しかし、試験中にも確認され、戦闘中にも発生した過剰なエネルギーの影響で一時瀕死となるが、謎の復活を果たす。

応急措置を施したギャレオン、ガオーマシンと共に王都に出現したゾンダーロボと交戦。郊外への引き剥がしを成功させた矢先、隣国の一個師団からの無差別法撃を、更には何者かの干渉を受け、その隙を突かれた形でガオーマシンがやられ、カルディナ自身もゾンダーロボの凶刃に倒れてしまった……

 

 

「……という経緯なのです。」

(それで、気付けばここにいた、と。)

「……はい。」

(何なんじゃ、そのいきなり現れた一個師団の目的は……)

「判りません。『隣国』は強大な国ですが、宣戦布告なしに攻めいる馬鹿はいないと思うのですが……」

《きっといたのでしょうね、その馬鹿が。》

 

 

その通りであった。

そんな中、沈黙を保っていた凱が口を開く。

 

 

「……カルディナ、君にはアベルはどんな人物に映った?」

「……良くも悪くも科学者であり、それ以上に星を第一に想う指導者、と感じました。それに移民(捨てる)宇宙の再生(残すか)を問われたら、確実に残す方なのでしょう。ただ……ソール11遊星主については、母星を復活させるためとはいえ本当に申し訳ない、と。」

「……そうか。だが俺は仮に今、会えたとしてもアベルを許す気はない、それはきっとGGGのみんなも一緒だろう。それが君達に協力的で改心したとあっても、この状況の一端を担っている以上は……」

「それで良いと思います。アベル様も、自ら咎を背負い、贖罪の道を模索しているのでしょう。ですが他者から許される気はない心積もりです。」

「……わかった。だがそう思っている事を頭に入れて俺達の話を聞いてくれ。」

「……はい。」

 

 

ソール11遊星主の所業。

それは凱達の住む宇宙消滅を招きかねただけではなく、別の意味も含まれている。

予測はしていたが、業は深い……

カルディナは気を引き締めて3人の話を傾注する。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

獅子王一家3人が語ったのは、GGGがソール11遊星主を倒し、閉塞する宇宙の中で天海護と戒道幾巳の両名を、唯一の脱出手段であるJアークのESミサイルで木星のザ・パワーを用いて脱出させた、その後の事であった。

 

2人を見送ったGGG。

しかし彼等がいるソール11遊星主が創った三重連太陽系の宇宙は消滅を迎えていた……

艦内酸素も10時間程度。生存できる確率は()()0%であった。

だが、そんな事を理由に生きる事を諦めるGGGではない。彼等は生きる道を模索していた。

そこで凱がエヴォリュダーの能力で見つけたのが、ジェネシック・ガオガイガーに搭載されていたガジェットツール『ギャレオリア・ロード』。

次元を超える能力を持つ『ギャレオリア・ロード』は消滅を迎える宇宙より脱出するにはうってつけのモノであり、これにより、GGGは脱出計画を発動。

勇者ロボ達のGSライドを繋ぎ、GGG隊員達の勇気で補われたジェネシック・ガオガイガーのギャレオリア・ロードは、Jアークと脱出艇クシナダを滅び行く宇宙からの脱出させたのであった───

 

───しかし、ギャレオリア・ロードが拓いた路は彼等が帰る宇宙ではなく、一面オレンジ色の空間であった。

 

彼らが本来帰るべき処は、150億年の彼方──ひとつの宇宙が終焉を迎え、新たな宇宙が誕生した、そのさらに遠未来に存在する太陽系であり、極めて困難な挑戦である事は疑いようもない。

しかし、三重連太陽系の技術はかつて、ギャレオリア彗星というゲートで2つの宇宙を結ぶことに成功していた。

困難ではあっても、不可能ではない───GGGはその確信があって次元跳躍を行った。

だがGGGを取り囲んでいる空間は、明らかに見慣れた太陽系宇宙のそれではない。

暁の空にも似た、黄昏の光に満ちた空間へと辿りついてしまった。

 

ではここは何処か?

その問答に答えが出る前に、その変化は起きた。

 

 

「───トモロ、状況を報告しろ!!」

《現状は不明……だが、類推は可能……ウウウ、この現象は……》

 

 

クシナダ艦橋内に傷付いた身体で、共に戦ったルネ・カーディフ・獅子王と共に座り込む、Jアークの艦長であり赤の星の戦士であるソルダートJは、生体コンピューター・トモロ0117に問い掛けるが、その問いに苦しみ呻き声にも似た音声を返した。

何故ならJアークは今、艦内外がコンピューターですら苦痛(負荷)を伴う程の速さで急速に再生されていた。

元々、光子エネルギー変換翼による再生が出来るJアークであるが、それ以上の速さである。

そしてその変化はソルダートJ自身にも。サイボーグの身体に力が漲り、耐え難い苦痛を伴う程の再生が成されていた。

そして変化はJだけではない、艦艇外にいた勇者王にも及んでいた。

 

 

「くっ、どうなってるんだ!?ジェネシックの全身が!」

「ガオオオオオオオオッ!!」

 

 

ジェネシック・ガオガイガーにファイナルフュージョンしたまま、半死半生ともいえる状態だった獅子王凱は、己が肉体と融合している勇者王が光とともに、身体の隅々まで修復されていくのを感じとっていた。

更にはジェネシックの胸のギャレオンが大きく咆哮する。自身の復活を伝えるように。

そして、この現象は無機物のみに発生している訳ではなく、凱自身のエヴォリュダーとしての肉体をも再生させていた。

 

そしてその耳には、聞きなれた声も飛び込んでくる。

 

 

『凱……』

(みこと)!?大丈夫なのか?!」

『うん。』

 

 

加療機器(マジーニマシン)の通信機より凱の元へ、重篤だった凱の恋人である卯都木命の声が。

ソール11遊星主との戦いで、ジェネシックマシンを蘇らせるため、真空空間に身を曝した事による損傷は致命的なものだった。

その状態から、言葉を発せられる程に回復したという事実は、奇跡と言っていい。

 

 

『大丈夫、身体の感覚が全部が元に戻ってる……』

「よかった、命……本当に良かった!」

『うん、心配かけて、ごめんね。』

 

 

何処とも知れぬ空間に辿りつき、原因不明の現象が起きているにも関わらず、命同様に凱の声にも涙の色が混ざった。

この奇跡を起こしたのが例え神であろうと、悪魔であろうと、今は感謝せずにはいられない。

だがそれだけではない。

ジェネシックだけではなく、他の勇者ロボ達もまた復活を遂げている。

氷竜、炎竜は捨て身のスーパーノヴァの影響もない、その姿のまま。

撃龍神は全身もさる事ながら、自爆ユニットまで。

マイクサウンダース13世はギラギラーンVVを掲げ喜び、ボルフォッグは自身と一部しか回収出来なかったガンマシンが2機とも完全再生。

光竜、闇竜の(ボディ)もスベスベである。

 

 

「……ディビジョン艦まで再生はされなかったのはいいとして……俺のは退化じゃねえか?」

 

 

ゴルディマーグは、3機のディビジョン艦で構成される『ゴルディオンクラッシャー』の制御AIとして組み込まれていた筈だが、現在の姿は四肢のある元のゴルディマーグのボディであったため、当人が退化と称しても仕方ないところはある。

しかしそれが単なる再生現象ではない事を物語る1つとなった。

まるで再生というより、元ある姿に戻したかのように、それは福音というよりも不吉な事象の始まりとも受け取れる。

では今起きている現象の元は何か。

それは氷竜、炎竜が感じ取った。

 

 

「隊長殿。この現象に私はハッキリと記憶があります。」

「ああ、僕も覚えている。この現象は……ザ・パワー!」

「という事は、この空間にあるのは……ザ・パワーなのか?!」

 

 

───ザ・パワー。

木星に存在する未知のエネルギーで、ほんの僅かであっても強大なエネルギーを持つ。

その力はかつて原種との戦いで、超竜神が頭脳原種の隕石攻撃を身を挺してESウインドウに押し返した際、その先の木星で宿した。そしてザ・パワーの反作用で1万2千年前の白亜期に跳ばされて尚、超AIを守り続けられる程の力を持ち、化石と成り果てた超竜神を完全復活させたエネルギーである。

だがそれは人類には過ぎた力であり、ソルダートJや戒道幾巳には『滅びの力』とも称され、木星に結集した原種が、Zマスターになるきっかけにもなった。

強大で未だ謎なエネルギー───それがザ・パワーである。

 

そして問題は勇者ロボ達より観測されたエネルギーの数値にもあった。

 

オペレーターの猿頭寺が言葉を失い、牛山一男がアシスタントの手を借りても解析作業が追い付かず、ホワイト・スワンがその内容に驚愕する。

 

 

「各機体の修復速度から推定されるエネルギーレベルは……ザ・パワーの数千倍にも達しマス!」

「な、何だとぉぉ!?あの超エネルギーの数千倍等と……そんな事があり得るのか!?」

 

 

その報告に獅子王雷牙博士は頭を抱えるが、そんな博士の驚愕に呼応するように、目の前のモニターに突如として複雑な模式図が次々に表示されてゆく。

それは他の隊員達のモニターにも表れていたが、その膨大で複雑な情報を読み解けるのは雷牙博士しかいなかった。

そこには膨大なインフレーション理論の最適解が記されているが、今まで見た事もない式である、しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

スワンの兄スタリオンも、博士の助手を務めてきたが、雷牙博士が感動に打ち震え、号泣ともとれる心躍らせた表情を見せるのは初めてだった。そんな表情で、博士は知りえた情報を語り始めた。

 

 

「諸君、我々がいる空間の正体が判明したぞ……ここは『オレンジサイト』だ!」

「オレンジサイト……まさか『宇宙の卵』デスカ!?」

 

 

───オレンジサイト。

ビックバンによって誕生した宇宙が膨張と収縮の果てに、ビッククランチによって終焉を迎える、その終焉を超えた先にあるのが、次なる宇宙の卵(オレンジサイト)である。

宇宙の屍であり、次へ生まれ行く宇宙の源である、純粋なエネルギーが満ちた空間──厳密には空間ですらないが、雷牙博士は判りやすく感覚的な説明をする。

 

 

「つまり、ここは三重連太陽系の宇宙が終焉を迎えた後、僕ちゃんたちの宇宙が誕生する前の卵な訳だ。そして、ここには後に全宇宙を形づくる材料が、純粋なエネルギーとして存在する。そのエネルギーが次元の裂け目から遥か未来の宇宙空間に漏れ出たものが、ザ・パワーなのだ。」

「おい、オヤジ……じゃあ今、満ちあふれているこのエネルギーは、ザ・パワーの原液ってことなのか?」

 

 

ソルダートJの傍らに立つルネが、そうつぶやいた。

彼女のサイボーグのボディも大きなダメージを負っていたはずだが、いつの間にか回復していた。

 

 

「ルネ……ああ、そういう事だ。ザ・パワーと同じ効果を発揮しながら、数千倍ものエネルギーレベルである事も納得出来る……いや、クシナダから観測できる分だけで数千倍というだけで実際は───!?」

 

 

ルネの超回復ですら、どんな奇妙な真実でも、実感として受け入れる博士だが、思わず自身の口にした内容に絶句した。

 

たった今獲得したであろう知識は間違いなく真実であろうと雷牙博士は確信しているが、データを送ってきた存在は、既にこの事を知っているのだ。

それはJアーク、クシナダに存在する知的生命体には、この真実を持ち合わせていない事を意味する。

 

では誰が送ってきたのか……?

 

 

(──()()のプレゼント、気に入ってくれたかい、兄ちゃん。)

「そ、その声は……麗雄!?麗雄か!!」

(──ああ。)

「僕達……という事は、母さんも一緒なのか!?」

(ええ、私もいますよ。このオレンジサイトに。)

 

 

その正体は、獅子王麗雄博士と、凱の母で麗雄の妻である獅子王絆であった。

獅子王麗雄はかつて木星を舞台とした原種との戦いで命を落とした。

獅子王絆は宇宙飛行士で有人木星探査船(ジュピロス・ファイヴ)の乗員だったが、木星圏での遭難事故によって死亡した。

だが、その意識はザ・パワーによって、夫婦共々肉体に依存せずに存在出来るようになったのだ。

その2人の声が、音声ともリミピッドチャンネルとも違う、脳内に直接響く声で伝わったのだった。

 

 

(みんなと再び会えたのは嬉しい……だが、凱、そして兄ちゃん。今この瞬間にみんながここにやって来たという宿命を、僕は悲しく思う──)

「父さん、どういう事なんだ!?宿命って何を意味しているんだ?!」

(凱、そしてGGGのみんな──たった今、僕達の宇宙は危機に瀕しているのだ。)

(まもなくこのオレンジサイトから、終焉を超えた誓い(オウス・オーバー・オメガ)が未来に向かって噴出(バースト)しようとしているのです。)

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……終焉を超えた誓い(オウス・オーバー・オメガ)、それはいったい……」

 

 

その言葉にカルディナの胸はズキリと痛んだ。

何か不安でたまらない気持ちになるが、なんとか平静を保つように振る舞う。

 

 

終焉を超えた誓い(オウス・オーバー・オメガ)、それは宇宙そのものとなるエネルギーだ。後にビッグバンを経て、一つの宇宙を構成することになるエネルギーが凝縮されたものと言って良い。云うなれば、宇宙の卵(オレンジサイト)の中身、といっていいじゃろう。)

(時に、そのごく一部分とでも言うべきわずかな破片が時空を越えて、『次元の裂け目』から未来の宇宙に漏れ出す事があります。)

「……つまり、それがザ・パワーだったのですね。」

(うむ。)

 

 

麗雄と絆の説明にカルディナは納得する。

1つの宇宙そのものとも言えるエネルギー総量であれば、計測されたエネルギーがザ・パワーと比べて桁違いだというのも納得出来た。

 

 

(想像してみてくれ。小さい破れ目から漏れ出た終焉を超えた誓い(オウス・オーバー・オメガ)のほんの一部の特性しか持たない欠片でさえ、ザ・パワーいう超エネルギーとして認識されたんだ。次元の破れ目が拡大して一気にそれが噴出したとしたら……)

「そんな!時間と次元が超圧縮、濃縮化したような超エネルギーが大量に顕現してしまえば、それこそ空間自体が侵されてしまい、宇宙はビッククランチへの歴史を一瞬で辿る事に───まさかそれが起きると??」

(察しが良い子じゃな……その通りだ。)

「そしてその次元の切れ目を拡大させた張本人がソール11遊星主だ。)

「──うぼぁっ!?!?」

 

 

かつて緑の星の指導者カインは、滅び行く宇宙から新たな宇宙へ移民するために、次元の裂け目を利用して、ギャレオリア・ロードによる次元ゲートを開く技術を確立した。

だが、赤の星の指導者の複製であるパルス・アベルはその技術を発展させ、膨大な暗黒物資(ダークマター)を採取する通路として利用した。

その過程で、次元の裂け目が拡大していったのだが……

 

 

「……なんか、そノ……スミマセンデシタ

「あ、いや。君が謝る事じゃないんだが……」

「直接は関係ないですが、今は身内ようなものである以上、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいで……」

(律儀じゃのぅ。)

(嫌いじゃないですよ、そういうところ。凱、言い方に気を付けなさい。)

「あ、ああ。」

「あうぅぅ……」

 

 

カルディナの申し訳なさはさておき、オウス・オーバー・オメガの性質は、まさに『終焉』の名に相応しい。

だが、それで絶望する者はGGGにはいなかった。

そしてGGGがギャレオリア・ロードでオレンジサイトに辿り着いたのは偶然ではなく、回帰途中の必然である以上、彼等はそれを自身に課せられた宿命と断じた。

 

 

「───現時刻よりOath Over Omega(オウス・オーバー・オメガ)を『トリプルゼロ』と認定呼称するッ!!GGG全隊員ッ!!『トリプルゼロ』バースト阻止を目的とした、ゼロ作戦を開始せよ!!」

「了解!!」

 

 

大河長官の指示に、クシナダ艇内にいるGGG隊員、勇者ロボ達が唱和する。

思念するだけで全隊員に伝わるオレンジサイト内では、艦内放送を用いらずとも伝播した。

そして連戦というには急転直下な事態であるが、それでへこたれるGGGではない。

トリプルゼロの副産物となるザ・パワーによって、肉体的な傷や機械的な損傷が修復されたということも一因だが、それだけではなかった。

自分達がこの場で何もしなければ、宇宙は終焉を迎えてしまう──その認識が、彼らに勇気を与えていた。

元々、ここにいるGGG隊員たちはみな、宇宙存亡の危機を前にして、叛逆者の汚名を着せられる事すら厭わずに立ち上がったのだ。自分たちに訪れた宿命を、喜びこそすれ、怯みはしない。

 

 

「スワン君、バースト現象のリミットは!?」

「あと700秒デス!」

「全GSライド、及びジュエルジェネレーターのリンケージ完了まで590秒──間に合います!」

 

 

スワンのカウントダウンにかぶせるように、牛山一男が報告する。

精神生命体として人知を越えた情報にアクセス出来るようになった麗雄と絆が提示した作戦は、わずかな準備で可能なものだった。

全てのGストーンとJジュエルをリンクさせ、そこから発生するエネルギーで噴出しようとするトリプルゼロを押し返す──ギャレオリア・ロードを使用するためのセッティングを、そのまま使用することが可能な作戦であった。

 

だが、不安もある。

 

 

『猿頭寺隊員……ビッグバンにも匹敵するエネルギーを押し返すことなど、我々だけで可能なのでしょうか?』

 

 

手元の端末に表示されたボルフォッグからの通信コードを見て、猿頭寺は微笑んだ。

互いの意思疎通が全員に伝わってしまう事が判明している空間で、だからこそ作戦への疑義ともなりかねない言葉を、あえて文字で送信したのだ。超AIが見せた細やかな配慮を好ましく思いながら、猿頭寺はあえて返答を口にした。

 

 

「大丈夫だ、ボルフォッグ。GストーンとJジュエルは、みんなの勇気をエネルギーに変換する。」

「そうだ!俺達の勇気が砕けない限り、そこから発せられるエネルギーも尽きはしない! 俺達の勇気は絶対に負けない!」

 

 

猿頭寺の言葉を受けて、凱が力強く肯定する。

そして猿頭寺と凱の言葉に、ボルフォッグは確信の声を発した。

 

 

「その言葉を待っていました」

 

 

そして、他の勇者ロボたちも口々に賛同する。

 

 

「我らの思いは一つ!」

「僕たち全員、勇気ある者だ!」

 

氷竜がうなずき、炎竜が拳を握る。

 

「GGG、バンザイ!」

 

 撃龍神が両手をかかげる。

 

「みんなカッコイイ!」

「みんな素敵です!」

 

光竜が闇竜の手を取り、闇竜もその手をしっかりと掴みかえす。

 

「勇気は最強だっぜッッ!!」

 

 マイクがサムアップ。

 

「よっしゃ!おっぱじめようぜぇ!」

 

 

 ゴルディーマーグがずっしりと身構える。

 

 

「ジェイアーク!未来に向けて、発進!!」

《了解!》

「ふ……熱くなってきたね。」

 

 

ソルダートJが右腕を大きく振りかざし、トモロ0117がジュエルジェネレーターの出力を上げ、ルネが熱いまなざしを向ける。

 

 

「よォしッ!!いくぞぉっ!!みんなッ!!」

 

 

 凱が叫び、ジェネシック・ガオガイガーが雄々しくたてがみを揺らす。

 彼らは微塵も疑う事なく信じていた。

自分達がこの戦いに()勝利する事を。

 

だが、彼等はまた知っていた。

勝利を信じられなくなった時、敗北の刻が訪れる事を───

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

ビッグバンの前兆となるトリプルゼロ膨張の圧力が、開放を求めて次元の破れ目に集中する次元の切れ目に到達したGGG。

メガ・フュージョンを果たしたキングジェイダーと勇者ロボ軍団は自らを楯として、その破れ目を背負い、立ちはだかった。

だがそれだけでは次元の切れ目よりトリプルゼロのバーストを止める事は出来ない。

エネルギーの拮抗が出来ている内はまだいい。しかしこの状況を未来永劫、継続出来る訳がない。

ただ、凱はそれを打開する手段がある事を知っていたが、手段故に躊躇していた。

 

 

《──いいのよ、凱。ためらわなくて。みんなも、凱と気持ちは同じなんだから。》

「命………」

 

 

 マニージマシンから離れて、クシナダの艦橋でオペレーター席についていた命が通信を送ってきた。

そして命の言葉に、大河が続く。

 

 

《その通りだ、凱!今この瞬間、我らがこの場に居合わせた宿命を無駄にしてはならない!》

 

 

大河の言葉に続いて、クシナダに収容されているGGG隊員たちも口々に同意し、勇者ロボたちも即座にうなずく。

そんな彼らの言葉に背を押され、凱は決断した。

 

 

「わかった……みんな!ギャレオリア・ロードをプライヤーズのように使って、次元の破れ目を塞ぐ!!ガジェットツールッ!!ギャレオリアローーードッ!!」

 

 

ジェネシック・ガオガイガーは、尾部のパーツを両腕に変型合体させたツールをフル稼働へ導く。

凱に浮かんだ考え、それはギャレオリア・ロードを使い、逆に次元の破れ目を閉じてしまおうというのだ。

理論上は可能だが、それを実行するには覚悟しなければならないことがある。

次元の切れ目を塞ぐ際、オレンジサイトより脱出し、切れ目の外側で閉じてしまうとトリプルゼロが僅かでもバーストしてしまう。そのため切れ目の内側からでないとこの作戦は完遂出来ないところにある。

 

……それは地球へ帰還する望みを、永久に捨てる事を意味する。

 

 

「本来なら、僕ちゃんたちが次元の歪みを抜けて太陽系に戻った後、木星側から塞ぎたいところなんだが……」

「それじゃダメだ!それだとトリプルゼロも一緒に通過してしまう!俺達がオレンジサイト側から塞がないと!」

 

 

雷牙の言葉を凱は断じた。

命の後押しに勇気をもらったその声には、もはや一片の迷いもない。

かつて次元の歪みから漏れ出たトリプルゼロのわずかな欠片(ザ・パワー)でさえ、超エネルギーとして原種大戦に大きな影響を及ぼしたのだ。その事態を遥かに上回るであろう災厄を、地球にもたらす訳にはいかない。

 

 

(凱、雷牙兄ちゃん、大河長官……こんな事態になって、みんな、すまない。)

「こりゃ麗雄!お前の詫びは聞き飽きた!それにお前のせいでもない!僕ちゃんたちの勇気、お前と絆ちゃんにはそこで見届けてもらうぞい!」

 

 

麗雄の謝罪を雷牙は断じ、殊更陽気な口調で笑い飛ばしたが、他の皆には説明していない事情も存在する。

 

 

(このオレンジサイトは、宇宙が開闢する前の世界。不安定な時空の歪みが、何年後の宇宙につながっているかは、僅かな歪曲率の変化でどんどんズレていく──)

 

 

地球人類が最初にザ・パワーを確認したのは、1990年代に無人探査船(ジュピロス・ワン)が持ち帰ったエネルギー物質としてである。つまり、歪みはそれ以前の時代に繋がっていたのだ。

だが、先刻から溢れ出るわずかなトリプルゼロを、増大したGストーンやJジュエルのエネルギーにより抑え続けた事で、刻一刻と歪曲率が変化している。

それは、繋がった先の時間がズレる事を意味していた。

彼らGGGが旅立った時代より過去になったのか、未来になったのか、測定する術は存在しない以上、元の時代に辿り着ける可能性は極めて少ない。

 

 

(だが地球に残してきた27人の子供達のためにも、父親として僕ちゃんに出来る事を頑張っちゃうぞ。申し訳ないとは思うけど、一人だけ付き合ってくれるから寂しくないしな~)

 

 

もっとも、その絶望感がオレンジサイトに留まる作戦を雷牙に選ばせた訳ではない。

その想いが当人──ルネに伝わってしまわないよう、口に出すことは我慢した。

 

 

(この先に木星が……俺たちの太陽系が──)

 

 

一瞬、狂おしい程の懐かしさが凱の胸の内にあふれた。

目の前に見える歪曲空間。このまま真っ直ぐ突っ込めば、太陽系に帰還することが叶う筈である。

だが、その感情に身を委ねるつもりは微塵もない。

 

 

(護たちを……地球を……全ての宇宙を救うために!)

 

 

 ジェネシックが両腕に装着したガジェットツールを発動させる。

 

 

「うおおォォォーーーッ!!ギャレオリア・ロードッ!!」

 

 

シリンダー状のツールが、前方の空間を湾曲させていく。三重連太陽系の宇宙で行ったように、次元ゲートを開く訳ではなく、強力なアレスティングフィールドによって、破れ目を綴じ合わせていく行為だ。

その様子が光学的に視覚に捉えられる訳ではないが、エヴォリュダーの超感覚は、ジェネシックのセンサーが捕捉した状況を把握する。擬似的な視界のなかで、次元の歪みはみるみるうちに閉塞されていった。

 

 

(もう少しで塞がる───!!)

 

 

しかし、その行為は思いもよらぬ妨害を受けることになる。

 

 

「──みんな!?何を──ぐあッ!?」

 

 

ジェネシックの四肢に、勇者ロボ軍団がしがみついていた。

氷竜と炎竜が、撃龍神が、ボルフォッグとガンマシンが、ゴルディーマーグとマイクが、光竜と闇竜が──ギャレオリア・ロードを使わせまいと、ジェネシックを拘束する。

彼らの全身は、暁にも似たオレンジ色の輝きに包まれていた。

ジェネシックの頭部にボルフォッグがしがみつく。振り払おうとするが、ゴルディーに背部から押さえつけられている。

 

 

「くっ、どうしたんだ、ボルフォッグ!ゴルディー!?」

 

 

そう叫んだ凱は、間近に見た。

ボルフォッグの両眼を模した光学センサーから、輝きが失われている。

それは他の勇者ロボたちも同様だ。

 

 

「クシナダ、聞こえるか!機動部隊の超AIはどうなっている!?解析出来るか!?」

「…………」

 

 

……その問いに、応じる者はいない。

先程まで、頻繁に飛び交っていた通信波がいまは完全に沈黙していた。

それが意味する事、それは……

 

 

(……凱、彼らは皆浸食されてしまったようだ、トリプルゼロに!)

 

 

絆と麗雄の意識が語りかけてくる。

 

 

「し、浸食!?操られてるって事なのか──」

(厳密な意味でいえば、そうではない……)

 

 

麗雄は、自分の思考を一気に送り込んできた。言葉という伝達手段に頼るよりも早く、凱は事態を理解する。

 

トリプルゼロは純粋なエネルギーであり、そこに意思は存在しない。

だが、エネルギーには力学が働く。

 

圧縮されたエネルギーが膨張する力学。

秩序から無秩序へと移行していく力学。

膨大な熱量も拡散され、冷え切っていく力学。

 

それらは総て、トリプルゼロというエネルギーによって宇宙が開闢し、また終焉を迎えていくサイクルを担っている。

宇宙の誕生と死は何者かの意思によるものではなく、ごくシンプルな力学がもたらす過程と結果に過ぎないのだ。

 だが、その摂理に逆らう存在がある。

 

 

「……それが俺達、知的生命体の活動と機械文明。」

(その通りだ、凱。そして、Zマスターもまた、トリプルゼロに少なからず影響を受けていたに違いない)

 

かつて、機界31原種はギャレオリア彗星と名づけられた次元ゲートによって、古き宇宙から新しい宇宙へやってきた。その過程で、やはりオレンジサイトを経由した可能性は否定出来ない。木星決戦で対峙した心臓原種の主張は、まさに凱が理解した宇宙の摂理を具現化したものに他ならなかった。

 

 

「破滅への導きが……宇宙の正しい法則ってことか?俺達の存在が間違ってるから……自然の力が滅びに向かうのか?」

 

 

凱の声は返答のない虚空に響く。

その答えはどこからも返ってこない。

 

 

「……みんな、思い出してくれ!!俺たちは木星でのあの時、Zマスターを否定した。そして勝利したはずだ!」

 

 

しかし凱の言葉に応える者は誰もいない。

麗雄と絆の意識のみが、オレンジサイトで繰り広げられる死闘を見守っている。

 

そして遂に、均衡は破れた。

 

(いのち)の結晶たるGストーンによりエネルギーへと変換した勇者たちの想い(Gパワー)だが、彼らが宇宙の摂理に浸食された今、それが彼等から生み出される事はなく、トリプルゼロの噴出バーストを阻むことは不可能だった。

ギャレオリア・ロードで閉塞に成功しかけていた次元の破れ目から、膨大なエネルギーが外の世界へと流出していく───

 

 

「──まだだ!命あるならば、まだあきらめるな!!」

 

 

それを、身をもって防がんとする者がいる。白銀に輝く巨体──キングジェイダーである。

 

 

「もがきなっ! 生きてるかぎり、気を抜くんじゃないよっ!」

「J! ルネ!」

 

 

しかし、その強靭なボディも、強烈なオレンジ色の濁流に揉まれ、かろうじて動いている状態だった。

 

 

「くぅっ、どうやらJジュエルとGストーンが相乗りしてるせいか、アタシたちは他の連中より耐性があったみたいだね。まあ、勇気の強さじゃ負ける気はしないけどね」

「凱、急げ!今のうちに次元の破れ目を塞ぐのだ!」

「ああッ!!」

 

 

凱は迷わなかった。

ジェネシックの全力をもって、四肢にしがみつく仲間たちを振りほどく。躊躇している余裕はない。眼前でトリプルゼロを阻み続けているキングジェイダーの全身も、オレンジ色の輝きに呑みこまれつつある今、時間はない。

 

全てが無に帰す前に、やりとげねばならない。

 

 

「──ハイパァァァモードッ!」

 

 

ジェネシックの機能の1つであり、サイボーグ凱にも技術転用された、エネルギーアキュメーター。

当時の凱の生命を繋ぎ止めたサイボーグ・ボディの構造は、ジェネシックのデータを元に設計されおり、髪の毛状のエネルギーアキュメーターを束ね、一気に直列パワーに移行する、瞬間最大出力を向上させるモードチェンジ『ハイパーモード』は、ジェネシックにおいても単独での実行が可能な機能を今、発動させていた。

金色の輝きに包まれたジェネシックが、()()次元の破れ目にガジェット・ツール、ギャレオリア・ロードをねじ込んだ。

 

 

「おおおォォォーーー!!!」

 

 

地球に帰れず、仲間達を失い、自分も浸食されるであろう──それらの想いの総てが、凱の脳裏から吹き飛んだ。

 

 

(……今はただ、力を振り絞る!ギャレオリア・ロードにすべてを込めて!!次元の裂け目が開き、全てが終わってしまう前にッ!!)

 

 

そして再び次元の切れ目が塞がれて行く……

その光景を目にして薄れ行く意識の中で、ジェネシック・ガオガイガーのパイロット、獅子王凱は感じていた。

 

己の肉体の延長であるジェネシックの全身に、浸食してくる異様な()()の感触を──

 

 

「────!」

 

 

その瞬間、凱はジェネシックのコクピットよりフュージョン・アウトされた。

それは一時の正気を取り戻したギャレオンの、その時出来た唯一の抵抗であった───

 

そして、走馬灯のように回想される、三重連太陽系に送られてきた謎の声――

 

 

(……エヴォリュダーよ……今こそ……命を超えるのだ………)

 

 

凱の記憶の奥底で、名も知らぬソムニウム(ラミア)が送ってきたその声が、木霊のように鳴り響いていた――

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……そうしてジェネシックから逃がされた俺は、父さんと母さんに保護された。」

 

 

カルディナ達がいる場所は、完全に次元の破れ目から脱したわけでもない狭間の世界。

存在と虚無のどちらともいえない場に漂っている。

 

 

「俺がこうしていられるのも、父さんと母さん、そして浸食される寸前に、ギャレオンが逃してくれたからなんだ。」

「そうだったのですね。では、ギャレオンは……」

「あの通りさ……」

 

 

長い間、共に戦い続けてきたパートナーでもある機械仕掛けの獅子、ギャレオン。

そして三重連太陽系の遺産、ジェネシック・ガオガイガー。

その姿は今、異様なものとなっていた。

 

猛獣の顔貌を胴体に、鋭い爪の四肢に、長い総髪をたたえた巨人の姿。

だが、オレンジ色のオーラに包まれたそれは、もはや凱やカルディナの知る勇者王(ジェネシック・ガオガイガー)ではなかった。

 

 

(ジェネシックオーラには、OOO(トリプルゼロ)を起源としたテクノロジーが使われていたのだろう。浸食されたジェネシックは、それが故に、最も効率良く、最も強大に、最も多くの能力を具現化する、OOO(トリプルゼロ)に最も適したインターフェースとなったのだ。他の追随を許さない最上位の存在。宇宙の摂理を体現するために行動する『覇界の眷族』──まさにその『王』として……)

「王……」

 

 

その言葉を口にしたとき、カルディナの全身に戦慄が走った。

あれこそ、次元空間を破壊する革命を起こす王──

あれこそ、命あるすべてのモノを光に変える王──

 

───覇界王ジェネシック・ガオガイガー

 

 

「覇界王ジェネシック・ガオガイガー……」

 

 

視界にそびえる巨大な覇界王は、カルディナや凱達の存在を気にもとめていないようにも見える。

次元の先に存在する大切な何かを、両の掌で護っているかのように、胸の前で合わせているようにも見える。

 

だが、今は……

 

 

「脅威、と言える程の力は感じられないのですが……」

(じゃろうな。今はこのジェネシックのみならず、オレンジサイト全域と思われる範囲で、エネルギーの停滞……いや停止が起きている。君に会う寸前まで、な……)

「あの……ちなみに他のGGGの方々は……」

(解らん。凱を保護した時にはジェネシック以外の姿は既にもうなかった。おそらく目視出来る範囲からは遠ざかってしまったんだろう。」

(そこで仮説なのですが……カルディナさん、貴女何かしましたか??)

「───ふえっ?!」

「まあ、驚くのは無理ないが、俺達としてはどう考えても君が現れたタイミングでこの停止現象が起きた以上、何かしたんじゃないか、と思うしかない。何か心当たりはないか?」

「……と、申されましても。」

 

 

全く心当たりのないカルディナ。

彼女自身、突然ここに来た当初から精神状態はぐちゃぐちゃで、まだ終わりたくないという気持ちでいっぱいであった。

 

 

《───では、その質問に私がお答えしましょう。》

「え……? V・C??」

(おぬし、V・Cと言ったな。解るのか?)

《はい───というより、おそらく皆様の疑問には凡そ答えられる所存です。》

 

 

ふよふよと揺蕩う紫の光源体『V・C』。

次なる答えは、この無限情報サーキットを名乗る存在が秘めていた。

 

 

 

《NEXT》

 

 




Web小説版を読んでいて、アベルさんの所業の罪深き事よ。
この作品はアベルさん生存ですが、本人の気付かないところで、アベルさんのヘイトが増える増える。
時系列で一億年以上前とはいえ、こうなるとは本人も思うまい……

さて、次回(2)では、今まで建てられた不穏なフラグの一部が公開となります。

カルディナさんがここにいる理由は偶然ではない!


という訳で、後半に続く!!


ジェネシック「しびびびびび……!」



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Number.14 ~開闢と終焉の狭間で~(2)

お待たせしました。
コロナでないにしろ、家族共々ダウンしてた和鷹です。

この話で、物語中で起きていたフラグや、不可解な事象に関するカルディナさんの秘密を公開します。

ようやくというか、やっとというか、長かったな……

そして文章も長文なので、ゆっくり読んでね!


《改めて、ご挨拶申し上げます。私は制式名称:サポート&ナビゲーション&コントロールシステム搭載型AI付与式無限情報サーキット『V・クォーツ』、略称名『V・C』と申します。》

 

 

非常に丁寧、かつ長い制式名称名乗るところから、V・Cの話は始まった。

 

 

《そして私は三重連太陽系、11番目の遊星、医療と技術の星『紫の星』で使用されていた無限情報サーキットであります。》

「(「───!?」)」

 

 

そして開始早々、爆弾を落としてきたV・Cに対し、全員が驚愕する。

 

 

《……といっても私は皆様が懸念するような存在───ゾンダーではありません。その点ついては獅子王凱様、貴方が一番御存知ではありませんか?》

「あ、ああ。」

 

それは予想通り、というような雰囲気でV・Cは凱に尋ね、戸惑いながらも凱は肯定する。

Zマスターの浄解を間近で確認した凱だからこそ、V・Cの問いには確実に答えられた。

現時点でのソンダー生存は本来はあり得ない。

Zマスターの核──ゾンダークリスタルは確実に天海護によって浄解を果たしているのを間近で見ている生き証人の1人が獅子王凱だ。

 

 

《それは間違いはないでしょう。ですが、私はゾンダー化した紫の星の機界昇華が完了する前に、星より脱した一部──そうお考え下さい。》

(ゾンダーの機界昇華を脱した、とな?)

《Zマスターの初期の機界昇華は皆さんが御存じな程、実は()()はありません。むしろ原点は機械のみの乗っ取りに特化されただけのものです。人間を取り込む能力は、実は後天性なのです。》

「そうなのか……?」

《はい。後にゾンダーの代名詞になる能力の土台となるものは、紫の星にあった3つ機構より2つ、流用されています。》

 

 

ひとつが『超適合性細密機械群体:|AZ-M』

ひとつが『マイナス思念エネルギー転換型無限情報サーキット:Pジスト』

ひとつが『サポート&ナビゲーション&コントロールシステム搭載AI付与型無限情報サーキット:Vクォーツ』

 

 

《──以上の3つが『精神浄化システム』を、そして紫の星を構成していました。その内皆様がZマスターと呼ぶメディカル・プログラムに奪われたのはAZ-Mと、Pジストになります。》

(構成……じゃと?その言い方だと、紫の星はその『精神浄化システム』を基礎とした人工天体だと聞こえるんだが……)

《はい。紫の星は、99%人工天体です。》

(99%……それは何故なのですか?)

《紫の星が三重連太陽系の『医療』を司る地だからです──》

 

 

V・Cの記録によると、三重連太陽系の各遊星それぞれが突飛した専門分野の星だという。

しかし、だからといって総ての星で安全が常時保たれている訳ではない。むしろ日々精進、試行錯誤の中、怪我をする者はごまんといる。

中には致命傷を負う者もおり、その星での治療が困難な場合が多い。

そこで最後の砦となっているのが、医療の遊星『紫の星』。

各遊星より患者は1日最低でも総計万単位で搬送されてくる。そのため空きベッドなどすぐに埋まってしまい、いちいち増改築などやっている暇はないので、AZ-Mで建築物や部屋を素早く構成し、患者を受け入れる体制を整えている。

そのため、紫の星は自然と医療体制、そしてナノテクノロジー、インターフェース技術等が他の星より優れてしまう。

そして結果的に中核以外は、星総てをAZ-Mで構成する事になってしまった。

 

 

(……何とも凄い理由だな。)

「ゾンダー発祥の地だからと忌諱していたけど、紫の星にそんな事情があったなんて……」

《中には危険な実験やオーバーワークで精神が苛まれた人もいて、そんな人達のセラピスト代わりに使用されてもいます。そのため、嫌でも多方面への技術向上を図らなくならないといけなかったのです。》

(ん……わからなくもないが、それは少々環境が悪くないか?)

《悪いです。最新医療を行使しようとも彼等は無茶な研究を止めようとはしません。むしろ万全な医療体制があるというセーフティがあるがため、ありとあらゆる無茶を推してまで研究に没頭していました。そのため各遊星より殺到、延々と入退院を繰り返します。

「それは……」

ある意味、医療従事者の天敵のようなものです。完治すれども再び再発する……もはや一種の不治の病と言っても過言ではありません。治療して(倒して)治療して(倒して)治療して(倒して)も際限なく湧き出てくる、貴様らはゾンビか。あれだけ労働環境を是正しろと勧告を出したのに……ぁあ?まともに休める場所が紫の星(ここ)だぁ??紫の星(ここ)は休憩所じゃねぇよ……はぃ?紫の星の研究員(オマエラ)もか!?って、入院棟に研究資料持ってくるんじゃねぇ、絶対安静宣告されて(喰らって)いるでしょうに、遊星主に報告して……は?遊星主(アイツ)もだと?!やってんですか!遊星主(アンタ)も絶対安静でしょうに勝手に病棟抜けて(脱走して)るんじゃない!研究棟に行くな!シバくぞコラ!!はあ……このままでは次の休み(アップデート)まで回路()が持たな──ええ?延長??この間も2週間休み(アップデート)延長したじゃないですか、もう2年も休み(アップデート)ないんですよ、あいつら(AZ-MとP)に1日でいいから割り振って……は?体調不良(バグ発生)で先に休み(アップデート)、だと……そんな……返して、私の休み(バカンス)返して!!1日で終わるから、すぐ終わるから……え?無理??shit(嫉妬)!!こうなったら他の医療スタッフに仕事を割り振って───え??医療スタッフ(同僚)入院した(死んだ)、だと───ピガッ!ブツッ……

「(「(………)」)」

《……再起動、終了。申し訳ありません。前任者の記録(メモリー)が間違えて流れてしてしまったようです。》

 

 

──いいや、確実に無限情報サーキット(V・クォーツ)の本音も入っていたよね?

 

全員がそう思った。

 

 

《ただ、聞いて頂いたように、紫の星はある種の医療窮地の地でした。そして私は各スタッフや患者へのサポート、医療ナビゲーター、そして星全体のエネルギーコントロールを担当していました。》

「……激務じゃありません?」

《いえ、星中のマイナス思念を延々とエネルギー転換する『Pジスト』や、休みなく酷使され、常に海洋体積レベルでナノマシン・マテリアルの常時生産を強要される『AZ-M』よりは、マシな扱いかと。ワーカーホリックの精神異常者や、一般人クレーマー患者、刻々と気紛れレベルで変化するエネルギー送信制御、万単位の外来応対等……フフフ、軽いものです。》

「……まあ、非常に皮肉っている点はこの際置いておくとして……V・Cさん、貴方……で良いですか?)

《性別はありませんが、製作者の意向によれば『女性オペレーターをイメージ』だそうです。》

「そう……なら、貴女はどうしてオレンジサイト(ここ)にいるのかしら?」

 

 

カルディナがその質問を尋ねると、V・Cは急に黙った。

 

 

───ポク、ポク、ポク、チーン。

 

 

「え、?急に木魚と御鈴の音が?どこから?」

《凱様、音源は私です。》

「……そうか。というかどうしてだ?」

《申し訳ありません。あまりにもこのお嬢様がアホな事を抜かしやがりますので、つい。》

「アホとは失礼な!」

《アホではありませんか。私がここに来た理由はただ一つ───貴女を連れ戻しに来たのですよ、カルディナ・ヴァン・アースガルズ。》

「───え??私を??どこかでお会いした事、ありました??」

 

 

──ガーン!

───ガガガーン!

 

 

(今度はピアノが音源ね。)

《……()どい。あれだけ尽くした私を知らないと?散々弄んだ挙げ句、要らない子扱いした私を忘れたと??およよよ……》

「ちょ……人聞き悪い事言わないで下さいます!?私、本当に貴女の事は───」

《これを見てそう言えますか?《スリープモード》起動。》

「それがいったい何だと言うので───って、私の触媒結晶ーっ!?

 

 

そこに有ったのは紫色の発光が段々と弱まり、そしてそこには青みがかった紫色の小さな球体。

それは、カルディナが5歳の頃拾った、カルディナ最強の一因を作った触媒結晶であった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

(5才の頃に、自分の家の裏山で拾ったとな。それが無限情報サーキットだったと。にわかには信じられんが……)

《事実です。》

 

 

麗雄が半ば呆れたように呟き、それを肯定するV・C。

今日に至るまで、半ば休眠状態に近い状態だったV・Cは、ナビゲーション機能はダウンしていたため、会話は出来なかったが、エネルギー生成よりもエネルギー制御に長けた故に、カルディナが体内に宿す触媒結晶と共に魔力(マナ)生成を行うのは非常に相性が良かった。

そのため、カルディナに重宝されていた。

 

 

《優れた無限情報サーキットは、触媒結晶の役割も果たせ、どんな事も出来るのです。》

 

 

……表情はないが『ドヤァ』している気がした。

 

閑話休題。

 

カルディナは5年程、自身の実力を確めるため、非常時以外は使用を控えていたが、それでもカルディナには欠かせないものであった。

そして、ガイガーの動力源に組み込み、ジェイダーと戦える程の実力を示し、なくてはならないものとなった。

 

……Gストーンが来るまでは。

 

 

《……酷いです、Gストーン(本命)が来たら即座にポイ、だなんて。恨みます、妬みます、うらめしや、です。》

「ご、ごめんなさい……」

《期待していたんですよ、楽しみだったんですよ、あのガイガーに組み込まれ、戦えるのを。そしてガオガイガーになって『Vパワー、全開!』みたいな事をしたかったんです、それを……およよよ……》

 

 

このAI(V・C)、言葉遣いこそ淡々としているが、チクチクと責めている。

というか、そんなに楽しみだったのかと、AIらしからぬ発言である。

ちなみにV・クォーツ自体にそんな高出力のエネルギー生成能力は、ない。

そんな事は露知らず、カルディナは申し訳ない気持ちでいっぱい、獅子王一家は生暖かい視線で経緯を見ていた……が、もうそろそろ割り込むべきか。

 

 

「ま、まあ、そのくらいにしよう。しかし、何で裏山なんて、君はそんなところにいたんだ?」

《……ゾンダーに紫の星を機界昇華される寸前、遊星主の手によって、私は区画ごと強制分離(パージ)させられました。その後なけなしのエネルギーを駆使し、ESウインドウを開き、空間転移を繰り返し、ゾンダーより逃げ回ったのです。》

 

 

そして無茶なESウインドウの影響で、カルディナのいる次元の星に不時着したという。

それが今より600年以上も前になる。

そしてその場所こそが……

 

 

「……アースガルズ領、なの?」

《はい。紫の星の区画はアースガルズ領を中心とした場所に埋まっています。》

「そんな……今まで全然気付かなかったわ。」

《不時着時に残存エネルギーをほぼ使い切ってしまったため、区画維持すら(まま)ならず、当時の星の外観は既にありません。現在は地中か、山岳の中にあります。》

 

 

ちなみに強制分離(パージ)された区画はおよそ月の体積の半分だったという。

そして落下時に地殻変動がなかったのは、不時着に慣性中和装置(イナーシャルキャンセラー)を使用したからである。

そしてある程度の地殻変動を経て、比重の軽いV・クォーツ自身も外に出てしまった。

その時にカルディナに拾われたのだった。

 

 

《ですが、星の材料──AZ-Mは現在、一部を除いて休眠状態にあります。》

「一部を除いて……つまり、一部は活動しているって事か?エネルギー切れなのに?」

《はい、そうですよね?カルディナお嬢様。》

「──WHY!?」

《──WHY!?、じゃありません。無断借用しておいて、それはないと思います。》

(無断借用とな?カルディナ君……)

「え、冤罪です!誤解です!いったい何を証拠に……!」

《──ギャレオンを始めとして、ガオーマシンの装甲、駆動系の伝達ケーブル、基礎フレームにも使用されています。そして何より……今、身につけている()()です。》

「身につけているって……私のIDメイルの何が──って、ま、まさか……!!」

「ん?AZ-M……ナノマシン……軟らかい鉄、あ。」

(んん、そういう事か!)

(ああ、なるほど。)

 

 

カルディナが自覚し、凱が連想し、麗雄と絆がそれにたどり着いた。

 

 

《はい。休眠状態のAZ-M──もしくは『軟鉄』とお呼びした方が解りやすいでしょう。》

 

 

───『軟鉄』

それはアースガルズ領を中心に古くから産出される正体不明の物質である。

見た目は鉄のように見える、軟体物質。

鍛冶には向かず、製鉄しようにも高温すら耐え、その形状を変えない。

しかし、鉄華団やカルディナがIDメイルとして用いている、。

 

その正体は、ナノマシン・マテリアルの集合体──AZ-Mであった。

 

 

《本来は特殊暗号化された電気信号によって形状変化するのですが、お嬢様には魔法でプロテクトを突破されたという恥辱ですが……お嬢様?》

「う……うそでしょ……三重連太陽系の遺産が 間近にあって気付かなかったなんて……それを知らなかったとはいえ……、……」

(……とてもショックを受けてますね、カルディナさん)

(先程の説明で、その軟鉄とやらは彼女らの世界では非常に身近……いやありふれたもののようじゃ。気付かんのも無理なかろう。とはいえのぉ……)

 

 

ましてやそれがナノマシンと言われても、ナニソレと言える。

 

 

《その点については致し方ないところもありますが、一番直接恩恵を現在進行形で受けるお嬢様がショックを受けるのは心外です。》

「恩恵を……現在、進行形で??」

《……御自覚、ないのですね。AZ-Mに一番親和性のある人物は、鍛冶職人ダーヴィズ氏を除けば、断トツでお嬢様です。その原因が、貴女が致命傷を負った際に使用されたAZ-Mの体内残留物がそれを可能している事に。》

「致命傷?体内……残留??なに、それ??」

 

 

V・Cの言葉に唖然とするカルディナ。

何を意味しているかが解らなかった。

致命傷は解る。此度のゾンダー討伐で、初めてガオガイガーによる『ヘルアンドヘブン』を使用した際に、エネルギー制御が間に合わない影響で、身体が回復魔法も追い付かない程にズタズタになったのを覚えている。

 

 

《その際に纏っていたAZ-M──IDメイルの伸縮素材分を使用して応急措置を行ったのです。》

「……え、IDメイルのスキン!?」

 

 

カルディナは思い出した。

1体目のゾンダーを倒した後自身が倒れ、再び目覚めた後、何故か鎧以外は裸だった事を……

溶けるように消えた、パワードスーツであるIDメイル。その根幹の素材が軟鉄なのだ。

 

 

「って、まさかあれ……!」

《はい。応急措置のため、使用させて頂きました。さらに2度目の戦いにて返り討ちに遇い、致命傷を受けた『今』も体内のAZ-Mで治療、延命処置をしています。現状、貴女の身体はAZ-Mの機能無しでは生命活動を維持できない状態にあります。》

「そ、そんな!で、ですが、私が軟鉄を扱ったのはさほども長くないのに……」

《そも、一番初めに身体に取り込む事になったのは5歳の頃、私を拾ったその後、ゾンダーに襲われた事が始まりです。》

「……は??」

《正確に言うなら、ゾンダー襲撃時に横転した馬車の中で首を打ち付け、脊髄を損傷した事が発端です。》

 

 

『隣国』に和平条約を締結、そして見事にご破算になった事件。同行した5歳の頃、それは起きた。

ゾンダーに初めて襲われ、カルディナ以外は全滅した、あの事件───

そこで実はカルディナは、脊髄を損傷し、四肢不全になるまでのダメージを受けていた。

 

 

《幸いにも横転した馬車が破損した際に、偶然にも休眠状態のAZ-Mが露出した地盤に落下し、不完全起動状態のV・Cは自動救命処置としてAZ-Mによる治癒再生をお嬢様に施し、損傷は完全に回復しました。》

「え……じゃあ私は……!」

《あの時、AZ-Mも私もなければ(どちらが欠けていても)()()()()()()()()()()()()でしょう。》

 

 

カルディナ、5歳。

その頃に起こした、V・クォーツの収拾とゾンダー初接触によるAZ-Mとの会合。

それが紫の星2つの遺産との出会い。

カルディナの命運はこの時、分かれていた。

 

 

《そして本来は身体の治癒と共にAZ-Mは自然排出されるのですが、あの世界の生物に施された量子エネルギー演算仮想領域『魔術演算領域(マギウス・サーキット)』が体内でAZ-Mの回路と直結してしまい、貴女は他者より量子制御──魔法に秀でている存在へと成ったのです。》

 

 

魔術演算領域(マギウス・サーキット)』は魔術演算領域であるのと同時に、魔術操作の基盤でもあるが、幸にも不幸にも体内に取り込まれたAZ-Mとの相性が非常に良く、身体蘇生と同時に全身に元々あった魔術ネットワークを強化してしまった。

 

 

(V・Cさん、AZ-Mって体内に残留し続けても、害はないのかしら?)

《ありません、絆様。元々は医療用ナノマシンです。体内に集積しても問題ありません。むしろ、電界情報を今まで以上に速く送れます。それにお嬢様、そんな存在を知っていますでしょう?》

「鉄華団……阿頼耶識ね。」

 

 

前世の鉄華団のMSパイロットが持つインターフェース──阿頼耶識は、その施術時に体内へナノマシンを注入している。

それに、医療用ナノマシンはSFでもポピュラーなもの。

故に、人体とナノマシンの相性は害を成すものではないと言える。

 

 

《……以上の事より、カルディナ・ヴァン・アースガルズは、分類上ナノマシン付与型サイボーグであるとお伝えします。》

「────ファッ!?」

「サ、サイボーグ……??」

 

 

いきなりの宣告であるがV・C曰く、カルディナの身体は、AZ-Mが現在67%も占めらているという。医療中と欠損補填の影響だ。

サイボーグと言っても過言ではないだろう。

そんな訳で知らぬ間に、カルディナはサイボーグになっていた。

 

 

《そしてこれを問題1です。》

(問題1?)

《はい、問題です。それに冒頭で貴女を迎えに来た、と言いましたが、正直今は躊躇しています。弱い上に、自覚なき問題が山積み……それらに気付かない貴女に価値があるのかと。》

(ずいぶん辛辣だが……いったい、他に何があると云うんだ?)

《……では、話を続けます。》

 

 

何か言いた気なV・Cであったが、彼女は話を進めた。

 

 

《問題2として、お嬢様の胸部にある触媒結晶についてです。》

「……私の触媒結晶が、何か?」

 

 

カルディナはハーフエルフ。

そしてエルフの体内には生まれながらに触媒結晶がある。

カルディナにもその特性は受け継がれているが……

 

 

《現在、お嬢様の()()は、ゾンダーの武器によりコクピットごと貫かれていますが───生体反応はあります。それを助長しているのが全身のAZ-Mと、Gストーンです。》

「Gストーンが……でも胸の触媒結晶と何か関係が??」

《……訂正します。お嬢様のIDメイルの左腕(ガオーブレス)に付けたものではなく、胸の触媒結晶のGストーンが、です。》

「……………ふえ?!」

《また何を言っているのですの?みたいな声を出さないで下さい。お嬢様のハーフエルフたる触媒結晶は現在、Gストーンと化しています。》

(なんと?!)

 

 

麗雄博士が驚くのも無理はない。

生体精製とでも言えばいいのか、無限情報サーキットの原料である触媒結晶を生まれながらに体内に持つが故に、それをカルディナがGストーンとして知らず知らず精製してしまった。

科学文明由来のもの故に、そんな事が有り得るのかと思う。

ただし、カルディナは納得いかないようで……

 

 

「ちょっと!私、そんな事一度も──!」

《──Gストーンを7個(自分用1個、ギャレオン用1個、ライナーガオー2個、ドリルガオー2個、ステルスガオー2個)も精製しておいて、何を言うのです。それだけ精製すれば、その余波がご自身に影響がないとよく言えますね。それに加えてご自身に1個……貧弱なエネルギー回路しか持たないイミテーション(魔法製ガオガイガー)なれば、事情を知る者なら出力過多でオーバーブロウする事なんて周知の事実、「自殺志願者か!?」と呆れられます。》

「ぐふぅ──!!」

《……それに、知っているんですよ?その他に3個も余分に精製した事を。》

「──ギク!」

(……何やっとんじゃ、お前さん。)

 

 

総数10個。

お前は弾丸Xでも創る気か、と言わんばかりの個数だ。

それだけ数をこなせば、自身の触媒結晶に何らかの影響を及ぼす事間違いないが、カルディナはその点について考えが及んでいなかった。

元々、ガオーマシンへの積載量が多いのは魔力転換炉(エーテルリアクタ)をそのまま転用したためであり、初合体後はその試験を行う予定だったが、その前にゾンダーがやって来てしまった。

Gストーンが多いのは判っていたが、改装が間に合わなかった、というのが真相。

けれど調整もGストーンの数を念頭に入れて、ある程度の余裕をもってされていたのは各技術者の熟練の技だが、エネルギーブロウを引き起こしたのは、カルディナの体内にあるGストーンが数に入っていなかったからだ。

何にせよ、カルディナがガオガイガーのエネルギー過多問題を発生させた原因がここにあった。

 

……そして、この件には麗雄博士ですら擁護する気を失せた。

ただし最後の3個は趣味だが、今回のエネルギーブロウには入っていない。

ただ、言い逃れは不可避。

 

 

《加えて、体内にあるGストーンはゾンダーの武器で綺麗に真っ二つになり、微細な破片は衝撃で体内に散らばりました。ナノマシン付与型サイボーグの特性と合わさり、お嬢様は現在、エヴォリュダー()()です。》

「な、何だって……!?」

 

 

Gストーンを持つサイボーグの身体が機界新種による『物質昇華』の影響と、天海護による浄解作用によって変化した奇跡の超進化体『エヴォリュダー』。

それが本人が知らず、擬きとはいえ、別アプローチで顕現している事に、凱は驚きを隠せない。

カルディナもそんな自覚はなかった。

 

 

《ただし現状、限り無くエヴォリュダーに近い状態、としか言えません。ただ、Gストーンを内包している以上、セミ・エヴォリュダーとも違うと言えます。また、この事は皆様の会話中にAZ-Mを用いて凱様の身体をスキャニングし、お嬢様の身体を調べて、つい先程発覚した事です。》

「いつに間に……」

《医療用無限情報サーキットなので。周辺の方々の健康確認は必要最低限の確認事項なります。AZ-Mさえあれば、気付かれる事なく可能です。》

 

 

このAI、口も達者であれば、手も早い。

この分だと、ここにいる全員を調べているに違いない。

しかし、麗雄は思った。

 

 

(……確かに聞けば驚くことばかりだが。)

 

 

思考に疑問が走る。

だが、思惑と関係なくV・Cの話は続く。

 

 

《次に問題3、『元始情報集積体(アカシックレコード)』についてです。》

「……何か、急に話が脱線した気が。」

《そう思われるのも仕方ありませんが、お聞きください。》

「………」

《カルディナ・ヴァン・アースガルズは現在『元始情報集積体(アカシックレコード)』を保有───正確にはアクセス権限を持っています。これによってあらゆる次元より集約された情報にアクセスし、読み取る事が可能となります。また、保有者との親和性に基づき、読み取れる情報は増減します。》

(ふむ、親和性とな。)

(この場合の親和性とは具体的に何ですか?)

《三重連太陽系の調査結果を引用すると『根源に触れる回数』。要はアクセス回数が多ければ情報を多く、多様に引き出す事が出来ます。》

「なるほど、回数か。てっきり特別な因子が必要かと思ったけど……」

《慣れの問題でしょう。しかしアクセス権限を持っていても、情報を読み取る際に発生する負荷に対する耐性がない者は、負荷に蝕まれます。特に流れ来る情報量は、TB/毎時単位です。どんな情報であれ、5年以上経過すると情報処理が追い付かず、脳に負荷がかかり、死にます》

「……想像以上に負荷が強いんだな。ん?じゃあカルディナは??」

《5歳の際にV・クォーツ()を拾われた事による接触で、情報ネットワークが構成、現在は流入する情報群を無限情報サーキットに蓄積、整理(ライブラリ化)しています。》

 

 

カルディナの言う『脳内書庫(B・ライブラリ)』である。

これは、V・クォーツとの間に無線量子通信と言える回線が形成されているため、接触の有無関係なく情報が蓄積、整理される。

ちなみに4歳以前は生まれた際に獲得した自我で、ある程度自己整理出来ていた……が、それでも危うかったようだ。

 

 

「……つまり、カルディナはV・クォーツ()がいなければ『元始情報集積体(アカシックレコード)』の影響で既に死んでいた、と。」

(そしてV・Cさんが管理している、と。)

《肯定です。》

「ぐふぅ……!!」

「幼少から助けられていると言えばいいか、命を握られているというか……」

 

 

ちなみに『元始情報集積体(アカシックレコード)』とアクセス権限を持つ人物の短命の話は既にカイン、アベルより聞いているため、V・Cの話は、より信憑性を増している。

そしてその延命方法も……

 

 

《また、『元始情報集積体(アカシックレコード)』とのアクセスの()()が増すと、引き出せる情報も物理法則や魔法法則を超え、より世界の法則に干渉出来る力すら宿す事も出来るので、気を付けて頂きたいです。》

「……カルディナ、君はかなり数奇な境遇なんだな。」

「……否定、出来ませんッ!」

(しかし、そうなると───やはり解せんな。)

(……そうですね)

「「??」」

(V・C、君の言う事は、確かに驚く事ばかりだ。しかし有益な事項ばかりで、カルディナ君には不利益をもたらす事はあまりない気がする。確かに問題は多少あるが、僕には何が問題なのか……)

(むしろ注意喚起にも聞こえました。V・Cさん、まだ他にもあるのですか?)

《……肯定します。むしろ今までの話は、これからする問題を助長する弊害になりかねない為に説明させて頂きました。》

 

 

これ以上何を!?と言いたいが、もうここまで来ると、何でも来やがれ!というのがカルディナ以外の心境だ。

その空気を察してか、カルディナも黙る事に。

 

 

《……ではこれが私からお話出来る最後の問題案件です。今、お話した『元始情報集積体(アカシックレコード)』ですが、そもそも()()()()()()()()()()()()

「それは……生まれつき、とか?」

(本来はそうじゃな。だが……)

(……そう、ではないと?)

《はい。カルディナ・ヴァン・アースガルズは出産直前、とある(人の電界情報)を喰らっています。》

「(「(───!?)」)」

《───と言いましても、向こうも乗っ取りを画策していたようで、抵抗した結果(返り討ち)となりますが。それが今回の問題を引き起こしました。》

「いったい何が……」

《それは喰らった魂が原因で───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──お嬢様がOOO(トリプルゼロ)に汚染されたのです。》

 

 

V・Cの告げた言葉に絶句してしまう一同。

 

問題の内容は次の通りになる。

カルディナが産まれる寸前、とある魂が多次元より飛来した。

それは『元始情報集積体(アカシックレコード)』を持ちながらもOOO(トリプルゼロ)に汚染された魂であり、揺蕩うその存在はカルディナの肉体を乗っ取ろうと画策したのだ。

 

出産間近の忙しさに紛れ、誰もが感じ取れない希薄な気配だったが、その魂の接近に、出産寸前の母(ケセリナ)と遠くから見守っていた祖母(キトリー)がその危険性を察知し、真っ先に迎撃した。

 

祖母(キトリー)は瞬時に霊的滅殺効力を発現、魂の大部分を削り取り、(ケセリナ)がそれに追い討ちをする。

そして止めを刺そうとした瞬間、(カルディナ)が秘めた力を用いて、その残滓を喰らってしまったのだ。

 

 

僅か数秒の出来事。

防衛本能か、野生か、どちらの所業かはわからない。

3人以外は察知されない水面下のその後、カルディナは誕生した。

そして生まれながらに『元始情報集積体(アカシックレコード)』とOOO(トリプルゼロ)をその身に宿す存在となった。

 

しかし本能的に喰らったとはいえ、OOO(トリプルゼロ)を御する術を持たない幼いカルディナが、いつか覇界の使徒となるのは必定。

しかしソムニウムではOOO(トリプルゼロ)を取り除く手段など持たない。

そこでキトリーは己が持つ秘術で、OOO(トリプルゼロ)をカルディナの中に、彼女(カルディナ)自身のソムニウムの力を糧に厳重に封印した。

故に、カルディナにはソムニウムの特徴は今までに表に出る事はなく、人間(ヒューム)の姿に留まっていた。

 

 

《──さすがはソムニウム(ベターマン)、というべきですか。OOO(トリプルゼロ)を封じる術、もしくは耐性を持つとは。ただし、10年程も経過すると綻びが現れたようで、お嬢様に新たに処置を施したようですが……》

「処置って……それって、フレメヴィーラ王国に留学中に呼ばれた……あの時!?」

《ケセリナ様の思考を読み取った限りは……》

 

 

ちなみに行った処置は『ズキュゥゥゥーーン!!』とその後の限界バトル+α。

あれにも意味はあったのか……と頭を抱えるカルディナ。

また、ケセリナとキトリーがカルディナに今までOOO(トリプルゼロ)について伏せていたのは本能的に危険性を察していた事は、云うまでもなく、一切OOO(トリプルゼロ)の気配を匂わせる事なく今まで隠し通せたのは、ある種の才能、そして子思いの成せる技だ。

その事に気付いたカルディナが、自身の中に深く、意識を集中させて、自身の奥底の───更に奥に封じられたドロリと蠢く存在に気付いた時、ひどく動揺し、恐怖した。

 

 

「い……今のが000(トリプルゼロ)!?」

《そうです。(電界情報)の奥底に封じられているので判りにくいですが今は、本体が損傷しているため、封印が瓦解しようとしています。お嬢様の──そのOOO(トリプルゼロ)のオレンジの色に染まった髪がその証になりましょう。》

「え?まさか───ひっ!?」

 

 

自身の髪を見て、カルディナは青ざめる程に酷いショックを受けた。

母親譲り、ないし祖母譲りの透き通るような白い髪が燃えるようなオレンジ色に染まりきっていた。その色は正にOOO(トリプルゼロ)

元々魔力(マナ)を通しやすい髪であるため、その属性による一時的な染色は現象としてあったが、何もしていない状態での染色状態はあり得ない。

この髪全てがOOO(トリプルゼロ)であるなら……

 

 

「い、いや……!!」

(地毛と思っていたが、000(トリプルゼロ)の色だったとは……!)

(綺麗なオレンジなんですけどね……)

《そして、OOO(トリプルゼロ)の封印が完全に瓦解した時、またはお嬢様が絶命した時、OOO(トリプルゼロ)はお嬢様を汚染し尽くし、全てを()()するでしょう。》

(まさか、その時の問題とは……カルディナ君の持つ能力による───次元への干渉か!?)

《肯定です。》

「どういう事だ、父さん?」

(……カルディナ君の持つ特性──魔法は量子による事象介入を可能とするとして、AZ-Mをベースとしたエヴォリュダー(擬き)の身体は万能の電界操作が可能とし、ベターマンの因子は高度な環境耐性を持つ。そしてV・クォーツは天文学的な事案を高度に同時処理する。極めつけの『元始情報集積体(アカシックレコード)』はあらゆる事柄、事象を示す情報媒体───そこにOOO(トリプルゼロ)の無限を超えた超エネルギーが合わされば、カルディナ君は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を可能とする存在となる。)

(それの意味するところは───あらゆる存在の覇界。一つの宇宙が消滅するだけの話じゃないわ。おそらく『元始情報集積体(アカシックレコード)』が示す世界を覇界し尽くす事が出来る……そういう事ですね、V・Cさん。)

《……肯定です。》

 

 

アクセス上限を取り払った『元始情報集積体(アカシックレコード)』を用いるカルディナであれば、全ては思いのままだ。

どんなものですら解析し、対応し、瞬く間にねじ伏せる。

望めば一瞬で物質を分解、再構成、そして崩壊へ導ける。

敵が数多存在しようとも各個撃破等、容易い。

 

杖の一振りで終わりを伝える魔女の如く。

気紛れで滅びを招く王女の如く。

正しく滅びを導く巫女の如く。

 

正にカルディナは『終焉を超えた誓い(オウス・オーバー・オメガ)』の性質をこの上なく顕現させられる存在である。

 

特に目の前にあるジェネシック(覇界の王)は、OOO(トリプルゼロ)の特性を十二分に引き出せる史上の器。

なれば、カルディナはOOO(トリプルゼロ)やジェネシック・ガオガイガーをより効率良く扱える存在。

それは終焉を超えた誓い(オウス・オーバー・オメガ)を統べる者───『覇界の王女』

 

 

「──いや!!いやぁぁぁーーー!!」

(カルディナさん、落ち着いて!大丈夫、大丈夫だから……!)

「違う、違うッ!!私はそんなのじゃない!そんなのにはなりたく……なりたくない!!いや……お父様ぁ、お母様、お祖母様、イザリアさん、ヴィータぁ……やだ、やだ、あああぁぁぁーーー!」

 

 

ついに耐えきれずに取り乱し、泣き出すカルディナ。

絆が抱き締めて落ち着かせようとするが、それでもガタガタと怯えてしまう。

気丈だったカルディナからは信じられない怯えようだ。

 

 

(……耐えられんのだろうな、自分が原因で全てを滅ぼすやもしれんのだから。この子なら死んでもそれだけは選択肢にせんだろうに。)

「V・C、何か手立てはないのか?」

《現状、ありません。OOO(トリプルゼロ)に対し、三重連太陽系の技術であっても無力です。唯一、お嬢様の本体に戻る事で、何らかの手立てはあると推測できますが仮に今、生命維持を施した本体に戻る事が出来たとして、OOO(トリプルゼロ)を克服していないこのお嬢様に、ゾンダーと戦う事は出来ない、と進言します。》

「……そういえば、カルディナはゾンダーと戦闘中だったな。」

《現在OOO(トリプルゼロ)のエネルギーが停滞しているため辛うじて時間が止まっていますが、唯一の切り札のガオガイガーも失われています。以上の事より、勝率は0.1%以下となります。》

「だがまだ勝機は───」

《───ありません。それに、凱様。貴方もお嬢様と同じです。貴方もOOO(トリプルゼロ)に汚染されています。》

「───な!?」

 

 

V・Cの非情な宣告が凱にも告げられた。

だが、事実でもあった。

OOO(トリプルゼロ)がジェネシック・ガオガイガーを満たさんとした時、獅子王凱はギャレオンによって逃がされた。

しかし、ギャレオンの願い叶わず、凱の身体には既にOOO(トリプルゼロ)が僅かだが入り込んでいた。

またこれも僅かな時間だが、オレンジサイトの中を何も装着せずそのまま漂ったため、OOO(トリプルゼロ)が更に入り込んでいたのだ。

 

 

《そして先程の診断で判明しましたが、OOO(トリプルゼロ)は現在、凱様の全身のGストーンと拮抗しています。しかし侵食と拮抗は6:4。僅かにOOO(トリプルゼロ)が勝っています。》

「じゃあ俺も……!?」

《……いずれ覇界の使徒となりましょう。》

「────!!」

 

 

V・Cの言葉に、凱は言葉を失い、俯いてしまう。

凱も自身の身体の中のGストーンを感じた時、ジェネシックに絡み付いた、ドロリとしたOOO(トリプルゼロ)の感覚を感じてしまったからである。

凱とカルディナ、2人がOOO(トリプルゼロ)に汚染されてしまった、この事実は覆しようもなかった。

宇宙の自然大災害ともいうべき、OOO(トリプルゼロ)

それを前に麗雄もどうする事も出来ず、V・Cは沈黙したまま、絆も怯えたカルディナを抱き締めたまま、虚無の時間だけが過ぎていった───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───だが、諦めない者がここにいる。

 

 

「……V・C、一つ教えてくれ。」

《何でしょうか、凱様。》

「俺は()()()()()()()使()()()()()()()()()

《……否定です。今すぐではありません。侵食具合より算出すると、まだ先になります。ですが───》

「───それが判ればいい。そうか、まだ希望はあるんだな。」

 

 

その言葉にホッとし、そして誰よりも強い意思を秘めた瞳を開く獅子王凱。

この男は、まだ諦めていなかった。

 

 

 

 

《NEXT》

 

 

 


 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

君達に最新情報を公開しよう。

 

000(トリプルゼロ)汚染という深い絶望の中、強い意思を秘める凱。

 

凱の紡ぐ言葉が、絆の持つ優しさが、麗雄が導く答えが、絶望に沈むカルディナに力を与える時、それがカルディナに奇跡を起こす!

 

今まで宿した数多の想いが光となり、昏いオレンジサイトの世界を眩く照らす太陽となった時、幼き日の『勇気ある誓い』と共に、新たなる勇者王がここに誕生する!

 

 

『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』NEXT、Number.15

 

~『勇気ある誓い』と共に~

 

 

次回もこの物語に、ファイナル・フュージョン承認ッ!!

 

 

これが勝利の鍵だッ!

『真っ二つに割れたGストーン』

 

 

 

 


 

 

 

──現在、公開出来る情報──

 

 

 

◯『超適合性細密機械群体:AZ-M』

 

紫の星を構成する『ナノマシン・マテリアル』の制式名称。

AZの名が示す通り、何でも──食物以外の全てを構成、分解、再現出来る代物。

人体にも作用し、ナノレベルでの治療が可能。

欠損箇所があってもナノマシンが遺伝情報を元に再現可能で、その際には人体に染み込むように入って行く。

また、電界情報を余すことなく伝達可能なため、情報次第では破格の性能を発揮する。

軍事転用しても絶大な性能を誇る三重連太陽系最高のナノマシン。

『M』は『マーキュリー(水銀)』の意。

紫の星が機界昇華寸前に、星の10分の1が分離し、脱出。ESウインドウにて逃亡し、アルドレイア王国に墜落した。(墜落時は国が出来るずっと前)

 

 

◯『マイナス思念エネルギー転換型無限情報サーキット:Pジスト』

 

紫の星の中核たる動力炉のひとつで、無限情報サーキットの一種。

Gクリスタルを参考、性質を反転させる事で開発された、アンチ・Gクリスタルとも言うべきもの。

星中の患者、スタッフから出る『マイナス思念』を専用デバイスを用いて回収し、エネルギーとする。

本来はいち医療用に用いられていたが、収集量、対象者が甚大なため、動力炉にまで用いられた。

選定者曰く『不謹慎ではあるが、用いなければ精神に異常を抱える患者が多くなり過ぎる』との事。

三重連太陽系の終焉期では時折エラーを起こし、内包した莫大なマイナス思念をエネルギーに転換しきれず暴走し、同時期に起きた事故も合わさり、各プログラムにバグともいえるパルスを発してしまい、精神浄化システムの中枢に作用、Zマスターを誕生させてしまう。

そしてAZ-Mにハッキング、制御下に置き『ゾンダー』が誕生───という設定。

名前の由来は『パープル・アメジスト』より。

(アメジストの宝石言葉は心の平和)

 

 

 

◯『サポート&ナビゲーション&コントロールシステム搭載AI付与型無限情報サーキット:Vクォーツ』

 

紫の星のシステムの中枢の一つ。Pジストの生成する莫大なエネルギーと、精密な医療体制を確立させるAZ-Mを操作するためのもの。

エネルギー生成能力が乏しい反面、天文学的な案件の同時並行作業が可能。

全てのシステムを無限情報サーキットに登録する事で、何処にいても読み出しが可能、医療体制の中枢を担う。

また、研究補助やスタッフ、患者へのナビゲーションを担うために会話用AIを設定しており、会話が可能。

その際、担当者が変わってから設定も変わったため、AIの人格設定はかなり人間くさい。

三重連太陽系終焉期にはアップデートがされなかった時期が重なっていたため、AZ-MとPジストとの連携が上手く行かなくなった。

 

 

 




とりあえず、作中のフラグを一つ一つ回収していったらこうなった。
けれど『覇界王』が絡むのを考えたのは原作Web小説の連載終了後でしたが、どう考えてもこのルートしか思い浮かばなかった。

ちなみに原作知っている人ならわかると思いますが、凱さんがこのタイミングでトリプルゼロに侵食されているのは原作通り。判明するのは最終戦という鬼畜。ベターマンがいないといろいろ詰みます。

カルディナさんもお祖母ちゃんの力で、自身のベターマン能力で無理やり封印してますが、完全に侵食されてアカシックレコードを魔法でフル活用すると「みんな滅びなさい、オホホホ!」で多次元がバッドエンド全力疾走とか誰がした!(自虐)
制限なしのアカシックレコードって……うん、想像したくねぇ。
『滅び方、載ってます』とかシャレにならん。

とりあえず、そんな悲惨な状況にならないよう対策を講じてくれたお母さんとお祖母ちゃんに、カルディナさんは感謝しなさい。
世界の終わりを確実に迎えられるとか、まず想像したくない……


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Number.15 ~『勇気ある誓い』と共に~(1)

皆さん、ご感想ありがとうございます。
評価で☆高評価を付けてくださった方々、非常に励みになります。
今後ともよろしくお願いいたします。
感想欄ではトリプルゼロとアカシックレコードの組み合わせによる多次元崩壊に対し、某皇帝様や終焉の魔神様が来ると予見されている方々多かったです。
ちなみに私の見解は保留。
言ったら角が立ちそうなので……

(それに対し、既に事が起きている事は秘密)


それはさておき、皆様。準備は宜しいか───


───まずは、暁を勇気の光で照そう。

(ということで、ファイナル・フュージョンまで行けずェ……)







「……V・C、一つ教えてくれ。」

《何でしょうか、凱様。》

「俺は()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

凱は目を瞑ったまま、冷静にV・Cに尋ねる。

 

 

《……否定です。今すぐではありません。侵食具合より算出すると、まだ先になります。ですが───》

「───それが判ればいい。そうか、まだ希望はあるんだな。」

 

 

凱はホッとし、そして目を見開く。

その瞳は生きる希望を失っていない、勇者の瞳であった。

この男は、まだ諦めていない。

そして凱の言う希望───それは……

 

 

「父さん、さっきカルディナと会う前に言っていたね、『勇気の時を待て』って。」

(ああ。勇気の時──すなわちオレンジサイトを脱出した護君と戒道君が、必ず来るだろう───GGGのスタッフ達を連れ、覇界王と化したジェネシックによる影響を調べに来る……そうだ、その時が勝負だ!)

 

 

ソール11遊星主が造り出した三重連太陽系より脱出させた天海護と戒道幾巳がそのまま黙っている筈はない。

彼等の力が、存在が、再び大きな影響をもたらす───そう信じている。

そして覇界王が顕現する影響はいずれ───いや既に地球圏に起きているはず。

今もなお地球に残るGGGが気付かない訳がない。

新生GGG───彼らが来ると予測し、凱と麗雄、絆は信じていた。

 

 

「そうだ。だから絶望するにはまだ早い。俺にはまだ信じられる仲間がいる、助け出さなければならない仲間がいる。そしてV・C、君が言うとおり状況は絶望だらけだろうが、まだ時間はある。むしろOOO(トリプルゼロ)に今、気付けた事は幸運だった。たとえOOO(トリプルゼロ)がこの身に巣くおうとも、この俺のエヴォリュダーの力で、限界まで抗う事は出来る筈だ。そして信じる仲間と、『勇気ある誓い』がある!だから解決方法だってきっとある!」

《……それは、ただの根性論です。》

「そうだろうな。だが馬鹿にしたものじゃないぜ?不屈の決意と気合、その時の直感をすぐに分析して魂を乗せた勇気で俺達は戦ってきた。Gストーンが俺の勇気を力に変え、みんなに勇気を与えられるなら、みんながいる事で俺は戦える。どんな相手だろうが、今までも、これからも!」

《───!!》

 

 

勇者───勇気ある者。

それが、獅子王凱。

それが、エヴォリュダー・凱。

それが、勇者王。

 

この男は知っている、勇気の意味を。

この男は諦めない、絶え間ない勇気が勝利へ導く事を。

この男は確信する、最後に勝利するのは勇気ある者だと。

 

何と眩しき事か。

凱の勇気ある言葉に、V・Cは揺らいだ。

そしてカルディナの怯える心はその言葉で鎮まった。

 

しかし、すくんだ心はまだ……

 

 

(──情けないぞ、カルディナ!!)

「れ、麗雄博士??」

 

 

そこに麗雄の叱責がカルディナに飛ぶ。

 

 

(いつまで怯えているつもりだ、それでも君はガオガイガーのパイロットのつもりか?)

「で、ですが私は、OOO(トリプルゼロ)の……世界に災いをもたらす存在──」

(──そんな事はどうでもいい!君がガオガイガーのパイロットであるなら、()がこれから問う事を言えるはずだ!凱も一緒に復唱だ!)

「え?あ、は、はい!!」

「ああ!」

(──まずGGG憲章第5条12項!)

「「GGG隊員は、いかなる危機的状況においても、常に人類の未来を考えねばならない!」」

 

 

我々が第一に考えねばならないのは、守るべき者達の事。

その命、営み、生活……GGG隊員は、人々の未来を守る事が使命なのであるッ!

 

 

(──GGG憲章第5条14項!)

「「GGG隊員は、困難な状況に陥った時、仲間同士協力し合って対処せよ!」」

 

 

ゾンダーという強敵、または超災害に至るまで、独りでは対処出来ない。

GGG隊員は、一人ひとりが仲間を信じ、共に助け合う事であらゆる困難に打ち勝てる、その力を持つのだッ!

 

 

(──GGG憲章第5条125項!!)

「「隊員は、いかに困難な状況に陥ろうとも、決して諦めてはならない!!」」

 

 

強大な存在は時に絶望をもたらす。

だが、そんな時こそGGG隊員は、心に勇気を抱き、諦めずに困難に立ち向かうのだッ!!

 

 

(──うむ、その通りだ。G()G()G()()()()()()()そうでなくてはならない……そうだろう、()()()()()()()()()?)

「……え??」

 

 

その言葉の意味するところ……GGG憲章を斉唱させ、カルディナを特別隊員と呼んだ、その意味は──

 

 

───君はすでに、GGG隊員の一員である!

───だからどんなに辛い事があろうとも決して諦めてはならない!

 

 

(……大河長官がここにいたら、きっとそう言うだろう。)

「───!!」

 

 

大河長官がいたら……

その言葉に大きな衝撃を受けるカルディナ。

 

 

「そんな……私にそんな言葉をかけて頂ける訳が……」

(かけるだろうさ。経緯はどうあれ、僕らの事を知り、君は仲間達とガオガイガーを創った。そしてそれはゾンダーという強大で困難な敵に立ち向かう事に他ならない意志の表れだ。そんな君を我々GGGの者達は、敬意を示してこう呼ぶ───勇気ある者───勇者、とな。)

(貴女がそう悲観出来るのは、まだもがく意志があるからですよ、カルディナさん。ゾンダーであれ、000(トリプルゼロ)であれ、強大な存在に立ち向かう意志が貴女には残っている。だからこそ、勇者だと言えるのです。ですが、強大な相手には独りでは勝てません。)

「だから俺達は力を合わせ、立ち向かう必要があるんだ。そして俺だから言うが、ガオガイガーで戦う者は恐れを理由に戦うことを絶対に諦めてはいけない……この意味が判るだろう?」

「……はい!」

 

 

ガオガイガーは強大な存在と戦う上で、先陣を切る存在であり、絶対な中核だ。

だからどんなに恐れを感じていようとも、そのパイロットは逃げてはならない。

その使命は悪く言えば、半ば強制であり、義務であり、逃げられない運命のようなもの。

凱はそんな自身の経験を語るようにカルディナに問う。

だがカルディナは()()()()()()()()ように、絆からゆっくり離れ、立ち上がり、左腕を胸の前にかざす。

 

 

「……そうです、これは昔から私が自ら選んだ道。たとえこの身が000(トリプルゼロ)に侵されていようとも、私の意思は変わらない───いえ、変わらせない!!」

 

 

それは、かつて子供の頃の誓い。

ゾンダーに襲われ、救出され戻ってきた翌朝。

幼き心に独りゾンダーを倒すと誓ったあの日……

 

 

───これ以上、何一つゾンダーの好きにはさせません!

 

───ゾンダーと戦うため、私はガオガイガーに乗りたい!ファイナル・フュージョンしたい!絶対に!

 

 

「───あれは、ガオガイガーを創り上げ、どんな困難が待ち受けようとも、いつか出会う仲間と乗り越えたいという意志!どんな相手だろうとも、私は絶対に負けない、と!!それは今でも変わらない!たとえ、000(トリプルゼロ)が我が身にあれども、私の勇気は何度挫けようとも立ち上がる!!それが私の『勇気ある誓い』です!!」

「良く言った、カルディナ!!」

 

 

カルディナの『勇気ある誓い』に応え、凱も左腕を胸の前にかざす。

その手の甲にはGストーンの『G』の刻印が光り輝き、それに応えるようにカルディナの左手の甲に『G』の刻印が復活を告げるように光り輝く。

 

今、2人の勇者が絶望より立ち上がった。

 

 

(それでこそ勇者だな。)

(ふふふ。)

《カルディナ……》

 

 

 

 

 

 

 

────その時、奇跡が起きた。

 

 

「───な、何だ!?」

「───これは……!」

(これはGストーン同士の共鳴か!2人のGストーンがリンクしている!しかしこの情報量とエネルギーは……!?)

《──計測不能。未知の言語化不能の情報が2人のGストーンより高速で送受信されています。同時にリンクによるGパワー上昇が止まりません。全てお嬢様に注がれています。》

(けれどGパワーが全て集束している。これは……何かを変えようとしている?)

 

 

膨大な情報と共に膨れ上がる、カルディナと凱のGパワー。

それはカルディナに全て注がれ、カルディナの身を全て包んでゆく。

そしてGパワーの光が人の形に収束し、カルディナ・ヴァン・アースガルズへと()()()してゆく───

 

 

(カルディナ君の、この反応は……まさか!)

《──照合、終了。極・類似パターンを獅子王凱様より検出。推定、AZ-MとGストーン、さらに獅子王凱様のエヴォリュダーの身体構造を参考に、カルディナ・ヴァン・アースガルズは、左腕のGストーンを媒介に()()()()()『エヴォリュダー』となりました。》

「カルディナが……エヴォリュダーに!?」

(まあ……!)

 

 

カルディナの中には、実は既にエヴォリュダーになるための因子が眠っていた。

人としての肉体の中に、機械(AZ-M)を宿したサイボーグの性質と、ゾンダーの因子を含む000(トリプルゼロ)、そしてGストーン。

そしてGパワーによる浄解が可能なクストの生体情報。

それらを後押ししたのは、Gストーン同士のリンクによってもたらされた、凱のエヴォリュダーの電界情報。

そして『勇気ある誓い』。

これらの条件が揃った今、奇跡が起きたのだった。

皆が驚く中、煌めくGパワーより解き放たれたカルディナはゆっくりと瞳を開く。

その瞳は、凱と同じく超進化人類(生機融合体)エヴォリュダーの輝きを宿す瞳だった。

 

 

「……これが、エヴォリュダー。」

 

 

今ここに、新たなる勇者(エヴォリュダー)が誕生した。

 

その名は、超進化人類(生機融合体)エヴォリュダー・カルディナ

 

自身が憧れていたエヴォリュダーに成れたカルディナは感動に胸を震わせた。

しかし……

 

 

「……せっかく凱様と同じくエヴォリュダーとなれたのは喜ばしいのですが、()()()()()()()()()。」

「足りない……だって??」

「私がエヴォリュダーになったところで、この身より000(トリプルゼロ)を廃するには……足りないのです。」

 

 

カルディナがエヴォリュダーになった事で解析、判明した事だった。

エヴォリュダーになった事で、凱同様にGパワーの浄解能力にも目覚めたカルディナ。

それと同時に凱をも超える解析能力が000(トリプルゼロ)の性質がゾンダーが発する『素粒子Z0』に非常に類似している事も感知出来るようになったが、その力は『素粒子Z0』を大きく上回る。

このままでは000(トリプルゼロ)に侵食されたGGGのメンバー、勇者ロボ達を救う事は出来ても、この000(トリプルゼロ)の浄解は、困難を極める事が予想される。

何故ならば、凱のGストーンを侵食する事で、Gパワーの浄解に対する耐性を、今まさに獲得しようとしていたからだ。

それはカルディナに封じられた000(トリプルゼロ)にも同じ事が言えた。

 

 

000(トリプルゼロ)が『素粒子Z0』と同じような性質、か……浄解で000(トリプルゼロ)から解き放たれると判ったのは僥倖だが、俺に取り付く事でGストーンの浄解能力に耐性が出来ると予想されるとなると、それは機界新種以上に厄介だ。どうしたらいいか……」

(う~む、ここまでくると護君か、戒道少年がいてくれたらなぁ……いっその事2人同時に浄解をやってもらうとか……)

(あなた、さすがにここにいない子をあてには出来ませんよ。)

(まあ、そうじゃのぉ。)

《確かにそれが出来れば、可能性が───》

 

「───それですッ!!」

 

「───な、なに!?」

「そうです!それならチャンスがありますわ!」

《突然どうしたんですか?いったい何を考えて───!?》

 

 

突然のカルディナの閃きに、苦言を言おうとしたV・Cが止まり、そしてその発光する光が明らかに動揺するように点滅する。

そして当のカルディナは先程とはうって変わり、にやりと笑う。

 

 

《……冗談、ですよね??本気で《そんな事》実行する気ですか!?》

「わかる?私を幼少から管理してくれた貴女なら、私の思考を読めるなら、解るでしょう?」

《じょ──冗談じゃない、本気ですか!?今度こそ死にますよ!?そんな命を投げうって───!》

 

───GGG隊員は、どんな時でも諦めない。それに私独りじゃ20%の可能性しかならないけど、みんなの勇気(20%)を集めれば、100%になる。

 

《───!!》

 

「……だからお願い、力を貸して。()()はV・C、貴女の力が一番不可欠なのよ。」

《~~~~!!……はあ、判りました、ご協力しましょう。》

「ありがとう、V・C。」

 

 

項垂れる様子のV・Cに礼を述べるカルディナ。

その突然のやり取りに唖然とする獅子王一家。

 

 

(すまんが、何を話していたのかな?)

(何か打開案を思い付いたような様子ですけど……)

「ああ、すみません。実は私が子供の頃、幼いながら『勇気ある誓い』を立てた時の話なのですが……」

 

 

その時の事をカルディナは簡単に話す。

そしてとある妄想を思い出していたのだが、その話を聞いた獅子王一家は……

 

 

(妄想とはいえ……いや、それを本気でやるのか?)

(───カルディナさん、考え直して。自殺する歳じゃないでしょう?)

「勇気があれば大概は出来るが……それはおそらく長官も躊躇するぞ?」

 

 

けんけんほろほろな言われようだった。

だが、カルディナは───

 

 

「だからこそのV・Cです。」

(「………」)

(確かに、実現可能だが……)

「そして今の私は、エヴォリュダーです。V・Cと共にあれば勇気ある限り不可能ではないはずです。だから───」

(……やれやれ、仕方ないのぉ。)

「父さん、いいのか?」

(現状、カルディナ君の案が一番確率の高い打開策だ。そこに至るまでの道のりは非常に厳しかろうが、さっき言っていた通り、エヴォリュダーの力とV・C、そして僕らの勇気を足せば必ず成功するはず───いや、成功させよう。それこそGGG隊員なのだからな。)

「……わかった、やろう!」

 

 

 

V・Cと獅子王一家の協力を得て、今ここに、かつてない作戦が発動されようとしていた。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

(───エネルギー生成、想定値入力終了。余剰エネルギー転換システムと接続。)

(量子仮想バイパス、ルート確保を確認。)

 

 

麗雄と絆が、V・Cが用意した量子仮想PCのキーボードに必要な数値を入力していく。

 

 

「Gパワー、エネルギーライン確認。及び、アクセス権限移譲を確認。Gバリア形成──保護完了。」

 

 

カルディナと向かい合う凱は、前に伸ばす左手をカルディナの左手に合わせ、自身のエヴォリュダー能力を用いて、Gバリアを形成、指定されたポイントに局所展開する。

 

 

《精製プログラム、コンバート。エネルギー圧上昇───安定を確認。全準備終了……お嬢様。》

 

 

プログラム、及びエネルギーラインの統括を行うV・Cは用意した全てのプログラムをチェック、エネルギーラインのコントロールに万全に臨む準備をする。

そして準備は全て整ったところで、カルディナを呼ぶ。

 

 

「……ええ。それでは精製……開始っ!!!」

 

 

凄まじいエネルギーを()()()()()()()()()()カルディナ。

始まったカルディナの打開策の内容、それは『Jジュエルの精製』である。

 

Gパワーによる浄解が困難な現状を打開するため、新たにJパワーの浄解の力を新たに加えるため、Jジュエルを精製するというカルディナからの発案であった。

媒介はカルディナの真っ二つに割れたGストーンの片割れであり、それをJジュエルとする。

そしてGストーンとJジュエルの共鳴するエネルギーと、GとJ、二つの浄解の力を一同に合わせ、圧倒的な浄解の力を以って根付くOOO(トリプルゼロ)を消し去ろうというのが、カルディナの打開策である。

 

だが、これにはいくつかの危険が伴うのも事実。

 

一つ目がJジュエルの精製。

実はカインとアベルに出会った際に行ったGストーンの精製、その後にJジュエルの精製もアベルの監督の下、行っていた。しかし、Jジュエルの精製はGストーンよりも難しく、その時のカルディナは断念する他なかった。

その後も対ゾンダーを想定し、Gストーン精製のみ行っていたが、一番の原因は設備・環境不足。

Jジュエルの精製はその時のアベルですら環境が整っていなかったため出来ずにいた。特にGストーンを変異させるエネルギー制御が格段に難しく、その制御を可能とするシステムがどうしても用意出来なかった。

だがV・Cという、エネルギー制御に長けた存在が現れた事で、そしてカルディナがエヴォリュダーになった事でそれが可能となった。

 

二つ目が、誤精製。

カルディナの触媒結晶が度重なるGストーン精製により、予期せずGストーンに変化してしまった事から、体内で密接状態にあるGストーンの片割れを狙ってJジュエルにするにはどうしても片割れを保護する必要がある。

しかし、極限状態が予想される精製の最中、そこまで意識とエネルギーコントロールを割く事は難しい。

そこで凱にエヴォリュダー能力を用いて、カルディナが体内に展開したGバリアの維持を補佐してもらう事に。

両者がエヴォリュダーである事で、アクセス権限を一部委譲出来る事で可能となった事であった。

凱が左手を用いているのは、バリアが球状形状とはいえ、プロテクト・シェードを意識しているからだ。

 

三つ目が精製時の負荷。

精製する事でGストーンがJジュエルへと変化する───それは共鳴し合うエネルギーが精製が進む度に増大するという事。

完成品であれば負荷はない(本人談)が、精製中であれ、共鳴反応によるエネルギーの負荷は計り知れない。

麗雄博士がシミュレーションで見た失敗時の数値と熱量は───

 

 

(……100分の1程度だが、軽い超新星爆発に匹敵する数値じゃな。)

 

 

エネルギー制御に失敗すれば、カルディナは間違いなく死ぬ……というより、全員欠片も残さず消滅するだろう。

故にV・Cは何重にも安全対策を施し、麗雄と絆にマニュアルによるモニタリングと緊急用のエネルギー制御端末を割り振っている。

いざとなれば余剰エネルギーは、オレンジサイトに放逐するつもりだ。

 

そして最後は『未知数』。

精製に成功したとしても、人体内での精製は前代未聞。そしてカルディナ自身の持つ様々な要素が何をしでかすか解らない。

科学、魔法、000(トリプルゼロ)、Gストーン、浄解の力とその情報、そしてアースガルズ家故の、数多の遺伝子という最大の未知。

 

だが、カルディナは危険を承知でも、勝利を掴むため歩みを止めない。

V・Cはあまねく危険を振り払おうと、諦めない。

凱は勇気を胸に、揺るがない。

麗雄と絆は勇敢に立ち向かう子供達を支えるため、臆さない。

 

今、諦めてしまえば全てが終わる。

ここにいる誰もが今、迫り来る危機に立ち向かう勇気ある者──『勇者』であるッ!

 

 

 

「──オオオオォォォーーーー!!!」

 

「───ぐッ!!凄まじい負荷だ!V・C、精製の進捗率は!?」

《現在……28、29、30%を経過。残り70%。》

(まだ、序の口という事か……!)

(仮想バイパス、32から48、消耗!V・Cさん、予備ルートに切り替えます!)

《了解しました。予備ルート解放──圧、更に増大!?進捗率、78%!急速に上がります!》

(いかん、Jジュエルが顕現するにつれて、共鳴反応も強くなっている!凱、大丈夫か?!)

「ああ!しかしこの反応はGストーンやJジュエルだけじゃない!カルディナ、大丈夫か!?」

「…………」

 

 

凱の声が響くが、カルディナは応えない。

精製が進むにしたがって、反応は増大していくが、カルディナは逆にそよ風を受けるように誰よりも余裕があった。

 

 

「……Jジュエル、私は貴方の主よ。そして元は私の一部。そしてGストーン、思いもよらずに生み出しちゃったけど……私は望んで貴方が必要なの……だから!」

 

 

凱のGストーンの輝き、そして力は優しく、そして反発する事なく力強い。

けれどカルディナのGストーンはまるで宿主を嫌うように反発していたが、今は同じく優しく、そして力強い力を発する───何故か?

 

Gストーン───Gクリスタルには三重連太陽系の意志が、人々の魂(電界情報)が封じられている。

人々の生きる意志───勇気が後押しするその力は限り無いGパワー(勇気)を生むのだ。

 

だがカルディナの生み出したGストーンにはそれがない、人々の魂(電界情報)が封じてない───いや、(触媒結晶)から生み出されたばかりのGストーンには元からないのだ。

つまり、あると思われた力の方向性がなかった故に、カルディナは荒れ狂うGパワーに傷付いてしまった。

 

 

(勇気とは、そもそも恐怖や苦しみ、悲しみといった負の感情より抗う為の感情。私はそれを真に理解していなかった……さしずめ、蛮勇で生み出された『破壊の地獄』で傷付けられたようなもの。)

 

抗う為だけの荒々しい力が欲しい訳じゃない。

そう願う時、カルディナの『脳内書庫(B・ライブラリ)』に記された、これまでカルディナが出会い、支えられてきた人々の魂(電界情報)がGストーンに、そして精製中のJジュエルに刻まれる。

そしてカルディナの中の『未知数』が、そして魔法の力がその願いに応え、『革命』を起こす───

 

 

「───そう、私は独りじゃない、()()は……」

 

 

 

──1つだッ!!!

 

 

《───98、99、精製100%!!》

「カルディナ!!」

(これは、生み出された全てのエネルギーが……!?)

(1つになる……!)

 

 

精製率が100%となった時、解き放たれたように、()へと飛び上がった──

 

 

 

───眩い光 GとJ

 

───平和の願い 照らすため

 

───今こそ、復活だ!

 

 

 

GとJ、共鳴するエネルギーの総量は銀の輝き(シルバリオン)を超え、カルディナは真に白く輝いた。

更に、()()()()()()()が白と黒の4対の翼を形成し、カルディナの背に顕現する。

翼が纏うエネルギーは000(トリプルゼロ)の『暁』とは違う、燃え上がる『フレア』のように赤熱化、もしくは白光化した。

カルディナの特徴でもある長い白髪も000(トリプルゼロ)の『暁』ではなく、白熱化したような焔の色へと変わり、100,000ルクスを超える圧倒的な光量が翼より発せられ、背中より見える後光(光のリング)は、オレンジサイトの昏い暁の空を眩い光で白く染めて行く!!

 

そして、その姿は何とも神々しく、その姿はまるで───

 

 

《……太陽。》

(太陽を背にする、熾天使ね。)

(もしくは、太陽そのものか。)

「……もしかすると、俺達はとんでもない瞬間に立ち会ったのかもしれない。」

 

 

白く輝く身体中に走る翡翠(Gファイバー)の光は紛れもなくエヴォリュダー。

だがそれと同じぐらいに紅玉(Jファイバー)の光が呼応するように身体中に走る。

それは、カルディナの最奥に000(トリプルゼロ)を封じたソムニウム(ベターマン)の因子が目覚め、カルディナの魔法使い(感応性量子力法則術者)の資質が、『勇気ある誓い』と共に『1つ』となり、肉体と生命の限界を超えた、奇跡の光景──

 

 

(その存在は、まさに『太極』。そして内包したあらゆる因子が循環、還元し、変革と超越を繰り返す──『Re』。あれはもうエヴォリュダー(進化者)とは言えん。)

(『進化(Evolution)』を超えて『変革』、『革命(Revolution)』を表す存在──)

「太極の循環と還元の特性を持ったエヴォリュダー……『リ・エヴォリュダー(Re:Evoluder)』──いや、あれは───」

 

 

───それは、ありとあらゆる対極の特性を併せ持った奇跡の存在。

 

GストーンとJジュエル。

科学と魔法。

有機生命と無機生命。

天使と悪魔。

人間とベターマン。

プラスとマイナス。

陰と陽───

 

──人の進化を超え、変革と超越を併せ持つ、超人類が今ここに誕生した。

 

その名は、超進化革命人類:レヴォリュダー・カルディナ

 

 

「……では参りましょうか。」

 

 

──サンクトゥス

 

 

白く輝く空で、カルディナは両腕を広げ、詠唱を始める。

右手にJパワー、左手にGパワーを。

それは『ヘルアンドヘヴン』のような、相反する対極する2つの力を合わせる儀式──

そしてその詠唱は、カインとアベルに初めて出会った、毒素に侵された集落で唱えた浄化魔法の言葉──

 

 

──レッフェルト

 

──テストル

 

──ルルーウス

 

──ヒーク レリヴィーム

 

 

目の前で合わせたGとJの力を高く掲げる。

それは『浄解』へと進化、変革し、オレンジサイトを優しく揺蕩う波紋のように、かつ広く照らす!!

波紋に触れた000(トリプルゼロ)は、まるで熱した鉄に触れた水飛沫が蒸発するが如く霧散する。

その光景をV・Cは何1つ見逃さず、事細かく観測する。

 

 

《……状況観測、経過終了。この地点の周辺半径約10㎞の000(トリプルゼロ)の反応の消滅を確認しました。》

「な……何だって!?」

(確かに……オレンジの景色がこの周辺だけ薄まっているわ。)

(消滅とな……原初の物質ともいえる000(トリプルゼロ)を……何という事だ。)

「───ふぅ……初めて浄解をしましたが、感覚は浄化魔法に近いですね。」

(お帰りなさい、カルディナ。)

「はい、ただいま戻りました。」

 

 

オレンジサイトの空より舞い戻ったカルディナ。

000(トリプルゼロ)を広域浄解したにも関わらず、その白く輝く『浄解モード』はそのままに、カルディナの力は衰えていない。

 

 

「余剰エネルギーを解放がてら浄解を試みたのですが……博士、小手調べはこれで宜しいでしょうか?」

(小手調べの領域を超えてはいるが……まあ、いいんじゃないかな?)

「判りました。では……本番と参りましょう、凱様。」

「……わかった、頼む。」

 

 

これまではあくまでも小手調べ(テスト)

本命は、凱とカルディナに巣くう000(トリプルゼロ)の浄解である。

凱と向き合ったカルディナは、再び両手を広げ、構える。

 

 

「───行きますわ。」

 

 

──サンクトゥス

 

──レッフェルト

 

──テストル

 

──ルルーウス

 

──ヒーク レリヴィーム

 

 

温かく、揺蕩う波紋が凱を包む。

凱には何のダメージはなく、確実に000(トリプルゼロ)を浄解してゆく───しかし!

 

 

(──Gストーン内部に染み込んだ000(トリプルゼロ)に、浄解の光が届かない!)

 

 

凱の身体の隅々に浄解は行き届いていた。

しかし、既にGストーン内部へと染み込んしまい、変質してしまった。これでは浄解が000(トリプルゼロ)には届かない。

Gストーンを盾に、000(トリプルゼロ)は浄解効力をシャットアウトしていたのだった。

何ともしつこい000(トリプルゼロ)だ。

 

 

(……けれど、それは予測済み。今の私はエヴォリュダーであり、ソムニウム(ベターマン)であり、魔法使いでもある。(こじ)れた000(呪い)のごとき、()()()()───!!)

 

 

カルディナはすぐに思考と浄解の力の解放の()()を変える。

 

 

「──凱様!今から行う事に、()()()()()()()()()()()()()()()()

「───!?わかった。」

「ありがとうございます───では!!」

 

 

───ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ(2つの力を1つに)

 

「──はァァあああッ!!」

「ぐはッ!!」

 

 

カルディナが放ったのは破壊と防御のパワー(相反する力)を拳に集束し、相手に突撃する『ヘルアンドヘヴン』。

しかし、カルディナがここで合わせたのは、GとJの浄解の力と、ソムニウム(ベターマン)の力。

凱を救うため、本能的に繰り出したのだった。

 

合わせた拳は優しく凱の胸に、しかしGとJの力が浸透圧で入り込む水分と塩分の如く、凱の身体中のGストーンに入り込み、潜む000(トリプルゼロ)を強制的に活性化させつつ追い出してしまう(デトックスする)

そこで凱は膨大なエネルギーの奔流のショックで一時的に心臓が止まり、仮死状態になってしまうが、カルディナの施術はまだ終らない。

追い出された変質したGストーンと000(トリプルゼロ)ソムニウム(ベターマン)の力で一片も残さず集められて結晶化、凱の顔に神秘的で異形の一輪の花を咲かせた。

 

 

───『アニムスの花』である。

 

 

……花は枯れ、そして瞬く間にとある実となった。

その実をカルディナは左手で優しく包み、取り上げると、右手で印を結び、手のひらを凱に向ける。

 

 

「──ウィィィーータッ(響け、生命の鼓動)!!!」

「────!!」

 

 

GとJの(勇気)の力は再び凱の身体を駆け巡り、凱は目を醒ます。

それは、勇者に再び『生』をもたらす行為。

『言葉』を『願い』と『力』とし、『生命(ウィータ)』の言葉を己が望む『結果』へと導く魔法使いの力───

 

 

「……カルディナ、どうやら上手くいったんだな。」

「はい。000(トリプルゼロ)、確かに凱様より取り除きましたわ。」

 

 

浄解を終え、光に包まれるカルディナの笑みは天使の抱擁にも思える程、慈愛に溢れていた。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

(……行ってしまったな。)

「そうだな。」

(少し寂しいですね。)

 

 

凱より000(トリプルゼロ)を取り除いたカルディナは、V・Cと共にオレンジサイトを去った。

カルディナがオレンジサイトに引っ張られてきた()をV・Cが辿り、そして還った軌跡の光が消えて行くのを獅子王一家は見送っていた。

 

 

(しかしながら……何とも騒がしかったな。)

「ああ。あの後、まさかカルディナ相手に生身でヘルアンドヘヴンをするとは思わなかったよ。」

(といっても、本人は楽しそうでしたけど。)

「……やる身にもなってくれよ、母さん。」

 

 

非常に物騒な話だ。

というのも、凱という浄解成功例をして「今度は私も!」という欲望がカルディナに芽生えてしまい───

 

 

「凱様!出力調整はしますので、今度は私に浄解とヘルアンドヘヴンをっ!!」

「いや!絶対にそれはマズイだろう!!」

(カルディナさん、今度こそ自殺ですよ!?)

(いや、凱にやらせるんだから他殺……いやもう訳がわからん……というか止めんか!!)

 

 

嬉々として「Let's Camon!」と云わんばかりに大の字で構えるカルディナへ、獅子王一家に総ツッコミを入れられ、V・Cにもディスられた。

 

慈愛はどこいった。

 

ちなみにV・Cの診断で、もはや必要がないと判断された。

何故なら、カルディナの000(トリプルゼロ)は一番最初の000(トリプルゼロ)浄解の時点で、魂に纏わり付くものは全て浄解されてしまったからだ。

故に差し迫った危機はなくなっていたのだった。

 

……だが、それでも「一回だけ!ワンチャンス、ワンチャン~~!!」と泣き付かれたので、やむ無く凱はヘルアンドヘヴン・ウィータをカルディナにプレゼント(お見舞い)したが、「つ、ついにやりましたわ……グフォ!」と気持ち悪く笑っていたのはドン引きである。

 

 

《ただ、浄解しきれなかったものがありました。》

「浄解しきれないもの??」

 

 

気持ち悪く笑うカルディナを放置しつつ、V・Cは凱に告げた。

それはカルディナの体内に残留するミクロサイズのオレンジ色の物質。

そして類似反応で、獅子王夫妻よりそれは検出されていた。

 

 

《照合率:99.8%の確率で、『ザ・パワー』と断定します。

(ザ・パワー、とな!?)

(まあ……!)

《そしてその『ザ・パワー』は凱様からも検出されています。》

「何だって!?」

「……やはりですか。」

 

 

『ザ・パワー』は元は000(トリプルゼロ)だったもの。

しかし、木星に存在した『ザ・パワー』と000(トリプルゼロ)とでは性質が微妙に違い、000(トリプルゼロ)のような他者の倫理を『覇界の意志』へと書き換えるような力は、ない。

それでも秘めたパワーは『滅びの力』と揶揄される程に凶悪だ。

GとJの浄解を果たした今、それが2人の体内に宿っていたのだった。

 

特に浄解しきれない()()は球状の結晶体となり、カルディナのGストーンとJジュエルに囲まれるように一体化した。

おそらく、それが当初憑いていた000(トリプルゼロ)の元、だったのだろう。

000(トリプルゼロ)由来の球状の結晶体というところより、ZEROオーブ……『Zオーブ』と名付けられた。

また、カルディナ程ではないが凱にも小さな『Zオーブ』が心臓の上に、Gストーンと重なるように宿っていた。

 

 

「けどこの感覚は……完全に制御出来る。」

「……はい、特に暴れる事もなく、完全にエヴォリュダー能力の制御下にありますわ。」

 

 

これこそがカルディナがレヴォリュダーになった最大の要因であった。

そして凱もまた、この『ザ・パワー』の影響と、カルディナとのJジュエル精製の余波、カルディナとのGストーンリンクによるアップデートにより、自身のエヴォリュダーの能力が格段に上がり、新たなる進化を遂げた。

 

 

生機融合という人類の進化(エヴォリュダー)を超え、新たなる進化(ネオ・エヴォリューション)を果たした新・超進化人類。

 

新たな勇者の名は、ネオ・エヴォリュダー・凱

 

 

生機融合の身体はAZ-Mで最適化され、Gストーン抜きでもGパワーと浄解能力を発揮出来る身体───天海護とほぼ同質の体組織となった。

それでもZオーブと共に、Gストーンが重なり合うように体内に存在している。

エヴォリュダー能力で自在に操れる『ザ・パワー』で、Gクリスタル並みのGパワーの上限解放が成された事、Gパワーと合わさった事で新たに『ジェネシック・オーラ』が顕現した事。

更にエヴォリュダーの時以上の電位体に対する電脳アクセス、及び制御が可能となり、Gストーン同士のリンクより、カルディナの能力の下位再現も可能となった。

そしてソムニウム(ベターマン)の因子の限定再現───

 

 

《──その影響でしょうか、ご自身限定ですが、身体の環境情報の自己最適化が出来ますね。》

「自己最適化?」

《ご自身の身体──特にDNA等を()()()()()()()()()()()が出来ます。》

「───!?」

 

 

V・Cの言葉に衝撃が走った。

 

獅子王凱にはとある悩みがあった。

それは彼の持つ遺伝子情報は優性形質───例外なく授かる子供がエヴォリュダーになってしまうという事実である。

また、彼の伴侶はセミ・エヴォリュダーである卯都木命。これは否応なしにGストーンとゾンダーメタルの因子が一緒になるという未知数の現象を引き起こしてしまうため、凱は三重連太陽系に出発する前に検査結果を知らされた時、2つの問題により、子を成す事を諦めていた。

だが、遺伝子情報の組み換え(デザイン・チャイルド)ならば話は変わる。

さすがにカルディナ程の能力は発揮出来ないだろう(カルディナにも遺伝子情報の最適化能力があり、そこまで行くと生命創造の領域である)が、平々凡々で元気な子であれば容易い、と演算領域の算出で実感出来た。

 

これがエヴォリュダーの時と同様に『神様からの贈り物』なのか、もしくは更に危険な領域を孕んでいるのかは解らない。

判っているのは、この力がこれから始まろうとする戦いに必要不可欠なるという実感。

そしてハッキリしているのは、凱の憂いの1つが消えた事実。

次元の最果てで、まさか自身の憂いを『破壊』されるとは思いもしなかった。

 

 

「……カルディナには感謝、だな。」

(そうね。あの子からは色々受け取ったから、大切にしないと。)

(……しかしこれからが大変だぞ。)

「ああ。」

 

 

麗雄の言葉に同意する凱は空を見上げる。

視線の先にはオレンジサイトの(くら)い空に浮かぶのは000(トリプルゼロ)に侵食されたジェネシック・ガオガイガーの姿が。

カルディナの浄解の光の中であっても、ジェネシックのその身に憑く000(トリプルゼロ)は消え去る事はなかった。

ジェネシックはあの浄解を耐え抜いた───否

 

 

(浄解の寸前に、空間転移したとは……V・Cのセンサーが示さねば解らんかったよ。)

「あの時、空間は全て静止していた。それでも尚、ジェネシックは動き、ギャレオリア・ロードを無理矢理起動させ、僅かな時間の間、別のES空間に逃げ込んだ。」

(一連の000(トリプルゼロ)に関する出来事は全て()()()()と思っていましたが、わざわざここに戻って来た事を考えると……カルディナちゃんの推論の通り、なのでしょうね。)

(……『意志ある者』の介入、そう考えるのが自然だろうな。カルディナをオレンジサイトに呼び寄せた事を含めて。)

「オレンジサイトを静止させたカルディナと、それを跳ね除けてジェネシックを動かした『意志ある者』……か。」

 

 

何者かの介入───それを確かめたい獅子王一家であるが、その時間はもうない。

何故なら、ジェネシックはもうすぐ両手にかかえる()()の準備が終わろうとしていた。

膨大なエネルギーが道を拓こうとするのと同時に、オレンジサイトの静止させたエネルギーも動き始めた。

 

 

(ぬ!?オレンジサイトと、ジェネシックが動き出したぞ。そしてこの気配は……どうやらジェネシックの開こうとするゲートの先では戦闘が始まっているやもしれん。だが……『希望』はまだあるぞ、凱!)

「ああ、わかった!父さん、母さん。ここでお別れだ。だけど……!」

(わかっています。カルディナちゃんも言っていましたが、私達は再び会う時が来るでしょう。)

(うむ。そして今までにない、予測を超えた『何か』が起きよう。だが、そのためにこの僅かな時間の間に準備をしたのだ。きっと無駄にはならん。今は道は(たが)えども、必ず会う日が来る。そして凱、今がお前の『勇気の時』だ!)

「ありがとう。俺は先に行く……あの先にいる仲間達の為にも。そして頼りになるが人の事を心配し過ぎて無茶をする『可愛い妹』のためにも───!」

 

 

そして空間の歪みより外に飛び出し、ジェネシックの拓く道へ、凱は誰よりも先に飛び出た。

ネオ・エヴォリュダーの力が、自在に宙を駆ける力を凱に与え、一筋の光となって駆けて行く。

 

 

───希望はまだあるぞ、シゲル。

 

───手土産を届けてやってくれ。

 

───勝利の鍵を『息子()』のもとへ

 

 

麗雄博士は次元ゲートの先にいるであろう、感じ取った仲間達の気配と、凱へ『希望』を託すため、リミピッド・チャンネルによるメッセージを送った。

届いたか?いや、届いただろう。

きっと、彼等が何とかしてくれるだろう。

そう信じて……

 

 

(……さて母さん、すまんが一緒に付いて来てくれんか?)

(もちろんです。また再び貴方と旅に……冒険に出られるなんて夢にも思いませんでしたから。)

(ありがとう。危険な旅になりそうだが、頼りにしているよ。)

(はい。逞しく育った息子と、新たに出来た娘の為にも……)

 

 

互いに微笑む2人。その2人の姿は『ザ・パワー』により生前の姿を現していた状態から、装飾を施したGストーンへと姿を変え、これもまた、2筋の光の尾を引きながら並んで駆け、姿を消した。

 

新たな使命を胸に、獅子王一家はそれぞれの路を往くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

次元ゲートを光の速度で駆け抜ける凱。

ネオ・エヴォリュダーの力は凱の予想を超えた力を与えていた。

しかしその事にいつまでも驚く凱ではなかった。

 

 

「少なくとも、ジェネシックより早く出なければ……!」

 

 

000(トリプルゼロ)に侵食されたジェネシックを出す訳にはいかないが、力ずくが通じる相手ではない。

ならばやる事は───

 

 

「……開いてしまった次元ゲートを閉じるしかない!」

 

 

そのためには『力』が必要だ。

ネオ・エヴォリュダーとて単独ではやれる事は限られる。

 

 

「何か、何か手は───あれはッ!?」

 

 

その時、凱の視界に飛び込んで来たものがあった。

それを視た凱の心には、溢れんばかりの喜びと、己を奮い立たせる勇気が漲ってきた。

 

 

「……ああ。信じてたぜ、みんな!この刻を!!」

 

 

それは圧倒的な終焉が溢れ出る中、それに抗う者達が撃ち出した、一筋の希望の光───

 

その願いに、そして想いに応えるように───

 

我々の誰もが懐かしく、我々の誰もが忘れる事のない、我々の誰もが待ち望んだ勇者の声が今、この宇宙に響き渡った!

 

 

 

 

───勇気を!!

 

───この勇気の刻が来る事を

 

───信じていたぜ!!

 

 

 

──フューーージョンッ!!!

 

 

「ガオファーッ!!!」

 

 

XF-111───プロトタイプ・ファントムガオーとフュージョンした勇者は再び、己が宇宙へと降り立つ。

宇宙消滅を防ぐため、そして仲間達を000(トリプルゼロ)より救うため……

 

 

獅子王凱、ここに帰還。

 

 

 

 

 

 

………そしてカルディナも───

 

 

 

 

《NEXT》

 

 

 

 

 


 

 

 

──現在、公開出来る情報──

 

 

◯超進化人類:エヴォリュダー・カルディナ

 

カルディナが全身にばら蒔かれたGストーンと保有していたGストーン、AZ-Mを媒介に『勇気ある誓い』によりエヴォリュダーとなった。

凱とは違うが、謀らずともカルディナにはエヴォリュダー化する因子(Gストーン、AZ-M、000(トリプルゼロ)、浄解能力のデータ)が揃っていた事により、共鳴現象が起こった事で存在が引き上げられ、浄解能力すら発現した。

だが、これでも足りないというのがお嬢様の我が儘。

それが次の項。

 

 

◯超進化革命人類:レヴォリュダー・カルディナ

 

レヴォリュダー(Re:Evoluder)の名が示す通り、エヴォリュダーの変化体。

Reは『今まで蓄積されていた力で再誕(Reverse)した』の意。もしくは力の再利用(Recycle)等を意味する『Re』の頭文字より。

カルディナが今まで内包したあらゆる因子を『ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ』の呪文により循環、還元し、変革と超越を繰り返す事でその力を高めている。

特にエヴォリュダー、ベターマン、魔法使い、ザ・パワーの因子を保有している事が最大の特性と言える。

・エヴォリュダーの体にAZ-Mが組み込まれた事で生機融合が進み、全身が量子コンピュータ化。

・魔法も変わらず行使出来、魔力(マナ)によるブーストが可能。

・Gストーン、Jジュエル、Zオーブ(ザ・パワー)の組み合わせが、浄解能力を格段に引き上げ、更にパワーアップも遂げた。

・上項をソムニウムの力で最適化(ベター)にする。

以上の事より大幅なパワーアップを果たしたが、そのパワー故に搭乗する機体にも容易に干渉出来るが、ほぼ間違いなく機体の方が耐えきれずゼロに還る可能性が高くなった。

また、『元始積層情報体(アカシック・レコード)』やV・Cとのリンクは健在で、それらをフルに使っての能力行使は、もはや『未知数』の領域なので、解説は控えさせて頂く。

 

 

◯新・超進化人類:ネオ・エヴォリュダー・凱

 

獅子王凱がエヴォリュダーの次の段階へと進化した進化体。カルディナがレヴォリュダーに成った際に、存在を引き上げられた。

カルディナの変化に巻き添え喰らったとか言わない

Gストーン抜きでもGパワーと浄解能力を発揮出来る身体──天海護とほぼ同質──の体組織となった。ただ体質が変わっただけで、遺伝子レベルでは当然ながら別人。生機融合の身体はAZ-Mで最適化されており、結果として護がエヴォリュダーになったのと同じの体組織となった。

エヴォリュダー能力で自在に操れる『ザ・パワー』(完全隠蔽も可能)で、Gクリスタル並みのGパワーの上限解放が成された事、Gパワーと合わさった事で新たに『ジェネシック・オーラ』が顕現した等、存在がプチ・ジェネシック化している

ブロウクン・マグナムは撃てません

更にエヴォリュダーの時以上の電位体に対する電脳アクセス、及び制御が可能となり、Gストーン同士のリンクより、カルディナの能力の下位再現も可能となった。

そしてソムニウム(ベターマン)の因子の限定再現等……獲得した能力は多々あり更に超人になったが体質、性質には生物(人間)に近くなったという珍しい例。

また自身限定で遺伝子操作が可能で、自身の能力封印や、精子にデザインチャイルド操作も可能。

 

 

◯アニムスの花───より採れた実

 

覇界王本編でソムニウム達が動く最大の理由。

今回採れた実は、それと同じもの。

お嬢様の今回最大のやらかしであり、この実が今作で使用される事は決して、ない。

そしてフラグブレイクの証。

『──破壊する、破壊する、(フラグを)破壊する!!(ケミカルボルト風味)』

 

 

◯いくつかのお願い(1)

 

獅子王一家が凱の憂いを解消した事に、何かお礼をと言われ、カルディナがしたいくつかの頼み事。

その内の一つが、もじもじしながら凱の事を「……お義兄様と呼んでもいいでしょうか?」とお願いし、目を点にした凱が両親に目で確認すると((いっそ家族に!!))とサムズアップで承認された件。

 

凱に『勇気ある誓い』で結ばれた義妹が出来た。

夫妻にひたすら可愛い義娘が出来た。

カルディナには異世界で家族が出来た。

 

カルディナ・V(ヴァン)S(獅子王)・アースガルズ

 

そんな事があった。

 

 

 

 

 







……お嬢様のファイナル・フュージョンまで筆が進まなかった、というよりも文章が長くなりすぎて気持のいい長さで収めることが出来なかったのが原因。
例の如く、元の文章の片割れでお送りします。
最後はごまかしで凱さん帰還で締めました。
あんまり間を空けないよう気を付けます。
あと、お嬢様と凱さんの設定、相当盛り込んでしまったのは果たして良かったのか悪かったのか……
物語のフラグブレイクを果たしたことで、話の方向性が相当ねじれてしまった。(それでもラストは決めている。)
思い返すと、ベターマン設定を母方にぶち込んだのがそもそもの原因。
だが後悔はない。

という訳で次回こそ、本当にファイナル・フュージョン回です。
ご感想、ご意見お待ちしています。


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Number.15 ~『勇気ある誓い』と共に~(2)

お待たせしました。
ようやくこの日が来ました。

お嬢様が望んで始めたガオガイガー製作に、大きな区切りが付きます。

ここで多くを語る事は野暮とは思いますので、そこは本文で語ります。

それでは……見せてやる、本当の勇気の力を!!

ファイナル・フュージョン、承ォォォ認ッ!!!


 

 

 

 

悲痛な地響きと共に仰向けに倒れる白き巨人。

そしてそれを悲痛な思いで見るしかない者達。

その光景に取り乱すアシュレーを羽交い締めにして止めるオルガ。

 

 

「カルディナぁぁーーー!!!離せ、離してくれ、団長!!」

「馬鹿言うな、アシュレー!!今行っても無駄死にするだけだろう!!」

「カルディナを……見捨てる訳には──!!」

「んな事、百も承知だ!ミカ、昭弘!!」

《ああ!!三日月、俺が盾になる!》

《わかった。無理矢理突破して、引きずってでも連れて来──!?》

《──チィっ、弾幕か……!!》

 

 

救援に向かおうとする2機のランドマン・ロディ。

しかしそれを阻むように、ギャラルホルンの軍勢が、ゾンダー諸共に大火力の法撃を雨のように放つ。

鉄華団には効果が充分だが、ゾンダーにはそよ風以下でしかなく、悠々と動いている。

その愚行に、負傷した体で動けず、歯痒い思いをする国王レクシーズ。

上空から行こうとしたカインとアベルも濃密な弾幕に回避で精いっぱいの様子。

 

 

「くっ!こんな時にあの集団は何て事をしてくれますか!!」

「止めさせようにも、これでは近づく事すら出来ない!」

「あの……馬鹿共め!!誰が本当の敵か判らぬか!!」

「いくら回避しても、この絨毯爆撃じゃロディでも……!」

「それに……見ろよあれ!ガオーマシンが……!」

「え、何!?動いてる!?しかも機体の表面……凄い鉄色に波打っている。しかもあれ……何か食べてる!?」

「団長、あれどうするの!?」

 

 

ゾンダーによって吹き飛ばされたガオーマシン達。

それが、今一か所に集まり、その形状を醜く変え、何かを捕食している。

そこは、かつて国王レクシーズがカルディナより接収した軟鉄が保管されていた野外倉庫であった。

2機のドリルガオーはボディの両側が崩れ、足が不気味に肥大化している。

真っ二つになったライナーガオーはそれぞれが蠢き、車輪の代わりに4本の触手のようなものが生えている。

ステルスガオーに至っては両翼が折れ、それを補おうと四苦八苦しているようにも見えた。

そして共通して全てのガオーマシン達に、怒りに満ち、ギラついた一対の目のような光が灯っている。

 

 

《……システム再起動。パイロットのオーバー・メタモルフォーゼ、完了。Gストーンを第2転換炉(リアクター)に移送、ESウインドウ展開──完了》

「今は無視だ、無視!!」

「いいの!?なんかヤバい事になってるけど……!!」

「わーってる!!だがよ、今ここで間に入らにゃら、お嬢がゾンダーに───!!」

《──『収納空間』よりGストーンを摘出、Jジュエル精製開始。同時にAZ-M活性化、急速再生開始。第3転換炉(リアクター)に移送、ESウインドウ展開──完了》

《だったら無茶でもやるしかねぇ!!》

「──あ!マズイ!あのゾンダー、お嬢に止め刺す気だ!!」

《……間に合な───!》

《──第1転換炉(リアクター)にVクォーツ移送、ESウインドウ展開──完了。全回路、掌握───システム、オールグリーン。》

 

 

法撃の雨が降る中、ゾンダーが剣を無防備のガイガーに振り下ろさんとする時、それは起きた───

 

 

──さて、お嬢様。お目覚めの刻です。

 

「──オオオォォォーー!!!」

 

「「「 ───?!?」」」

 

 

突如、ガイガーのボディが跳ね上がった。

振り下ろす刃より疾くゾンダーを蹴り飛ばしたガイガーは、その身をギャレオン(ライオン)へと姿を変え、ゾンダーへと咆哮する。

「我、ここに在り」というべき咆哮と共に、圧倒的な緑のGパワーがギャレオンより溢れ、咆哮は物理的な衝撃波(ジェネシック・オーラ)となり、ゾンダーと後方に陣取るギャラルホルンの大半を豪快に吹き飛ばす!

その光景を一瞥すると今度は空へと咆哮、紅いJパワーが一瞬溢れた後、全身が銀色へと変わる。

 

法撃が止み、ひとときの静寂が辺りを包む中、銀の獅子は更に吼えた。

 

我、復活せり。

 

そしてその身の光を更に強め、(シルバリオン)を超えて白金(プラチナム)と化す。

 

 

「──状況の報告を。」

《第2転換炉(リアクター)、及び第3転換炉(リアクター)共鳴反応(シルバリオン現象)発動中。発生エネルギーを第1転換炉(リアクター)の制御下に。総合動力炉『TGSライド』、正常に稼働中。》

「よろしい。」

 

 

復活したギャレオンに搭載された新しき動力である総合動力炉『TGSライド』。

元は出力不足を打開するためにカルディナのギャレオンに搭載されていた3つの魔力転換炉(エーテルリアクター)の集合体『トリプルリアクター』であるが、第2転換炉(リアクター)にGストーンを、第3転換炉(リアクター)にJジュエルを搭載し、任意で共鳴反応(シルバリオン現象)を起こす事が出来る。また、その際に発生する膨大なエネルギーを第1転換炉(リアクター)のV・クォーツによりコントロールする事で、強大かつ安定したエネルギー供給を受ける事が出来、今までにあったエネルギーの反動によるダメージをなくすことが出来た。

また、パイロットから放たれる強力なエネルギーすら合わせる事により、キングジェイダーすら軽く超え、ジェネシック・ガオガイガーに匹敵する超パワーを手に入れたのである。

 

白金と化したギャレオンの口より、報告に満足した人物が、満面の笑みを浮かべながら歩み出てきた。

 

 

《それと、ガオーマシンですが……あれを。》

「あれって──うわぁ……」

《どうやら各ガオーマシンに使用したAZ-Mが暴走していますね。原因は天使、悪魔達の感情の暴走です。》

「……天使、悪魔達って暴走するのね。」

《観測内容は、『お嬢様、死んじゃいやー!』『俺達の力不足でー!』です、愛されてますね。》

「あはは……でも逆に好都合ね。」

《肯定。》

 

 

「……はは、何だよ。僅かな間に凄ェパワーアップしてるじゃねぇか。」

《そのくせ、出てきたら通常運転か……まったく、ヒヤヒヤさせんじゃねぇよ。》

「どうやら無事なようだが……」

《何か光ってる……まぶしい。》

「いったいこの僅かな間に何が……」

「だが、ひとまず安心したよ。」

 

 

たとえIDメイルがボロボロになっていようとも、太陽のように輝く神々しい姿であっても、白い艶髪が燃えるような赤になろうとも、彼らは見間違える訳がない。

その姿を見た一同は驚き、安堵し、誰もが待ち望んでいたその者の名前を呼ぶ。

 

 

「良かった……カルディナッ!!」

 

 

その声に笑顔で返すカルディナ。

ようやく、ここに帰ってこれた。それだけでカルディナの心は休まる。

オレンジサイトで過ごしたあの時間は、空間停滞の影響で一瞬の出来事となっていた。

そしてカルディナにとっては実に唯意義で、かつてない理想で甘美な時間であった。

だが、憧れの人物たちに会おうとも、カルディナの生きる場所はあそこではない。

真に自身と向き合い、そして己を見直す場所であったが、全てはここで生きるため。

 

そしてすぐに視線をゾンダーに向け、光輝く『G』の紋章の左腕を胸に、決意を新たにする。

 

 

「……私は迷わない。自分の事も、ゾンダーの事も。そして宇宙の意志(トリプルゼロ)が滅びの運命だとしても、私は生きる意志を、歩みを、私がレヴォリュダーである限り貫いてみせる、『勇気ある誓い』と共にッ!!!」

 

 

──フューージョンッ!!!

 

 

白と黒の光翼を拡げ、空へと舞い上がるカルディナ。

その下より追従し、カルディナを呑み込んだギャレオンは、その身を人の形へと姿を変えて行く。

そして新たに顕現する輝く白き巨人、その名は───

 

 

「ガイ、ガーーッ!!!」

 

 

超進化革命人類:レヴォリュダー・カルディナは、新たな力と共に復活した新生ガイガー『マギウス・ガイガー』とフュージョンするのであった。

そして光り輝くコクピットの中、次の行動移る。

 

 

「───Gストーン・リンクッ!!」

 

 

Gストーン・リンク。

それはオレンジサイトで獅子王凱と行った、Gストーン同士の情報交換である。

同時に勇気の意志やGパワーをGストーンを介して繋ぐ事も出来、かつてGGGがソール11遊星主との対決では獅子王凱に『勇気』を届ける事が出来た事で、ジェネシック・ガオガイガーに力を与えた。

カルディナはそれを更に、より直接的なリンク・ネットワークへと昇華させたのだった。

そしてそれに応えたのは、ガオーマシン達。

暴走する駆体がピタリと止まり、機体表面の波打つ鉄色のAZ-Mも鎮静化する。

 

 

《各ガオーマシンのGストーン稼働を確認。リンク・ネットワーク構築完了。『code:666-NEXT』送信───各ガオーマシン、受諾を確認。AZ-M活性化───いけます。》

「わかったわ。『code:666-NEXT』発動承認コード!」

 

 

──Surgit, Apocalypsis Bestiae(目覚めなさい、黙示録の獣達)

 

──Multas clades exstinguit(数多の厄災を祓い)

 

──Vincere multis difficultatibus……(数多の困難を打ち克つため……)

 

──Audax sub voto(勇気ある誓いの下)

 

──Renati hic nunc(今ここに、新生せよ)

 

 

醜く変化したガオーマシン達の双眼が、強い意志を宿す。

そして各ガオーマシンの前にそれぞれ光の六芒星が現れ、その身を震わせたガオーマシン達は、それぞれ目の前の六芒星へと飛び込んでゆき、通過と共に()()()()()()()()()()()()()

それは新生の儀式の如く。

 

そして『code:666-NEXT』とは、かつて幼きカルディナが『勇気ある誓い』を立てた時、自身の考えうる『真に理想のガオガイガー』を記した設計図の事である。

当時は落書き程度のものでしかなかったが、歳を追う毎に描き直され、対・ゾンダー用に想定されていた地球版ガオガイガーとは別に秘密裏に設計されたその内容は、常に新しくなっていった。

本来ならば地球版(対・ゾンダー用)ガオガイガーが完成したとしても創るつもりはなく、空想と理想、空絵事の範疇でしか無い事を理解していたため、余程の事がない限り公開する予定もなかった設計であった。

しかしゾンダー戦での敗北と、000(トリプルゼロ)との遭遇により、カルディナはその考えを変えた。

そして、最後──オレンジサイトで出会った獅子王麗雄博士に最後の監修と変更を依頼、カルディナの能力とAZ-M、GストーンとJジュエル、V・クォーツを取り入れた事により完成した設計図は、遂に現実のものとなったのである。

 

そしては六芒星の陣より放たれた()()()()は空を舞う。

 

先行して空を舞うのは、金色の(あぎと)を持ち、赤銅の鋼を身に纏い、胴体下部に無限軌道を備え、金剛の尾を持った、(くろがね)の翼を広げる(つがい)(ドラゴン)───

 

「来なさい、ドリルガオー改め──ドラゴンガオー、ドレイクガオー!」

 

 

続いて鋼の四肢で空を駆けるのは、青みがかった黒い駆体に白いラインが走る一角の狼───

 

「ライナーガオー改め──ガルムガオー!」

 

 

その隣を追従するのは、同じく鋼の四肢で空を駆け、白い駆体に純白の翼を持つ、一角の天馬───

 

「同じくライナーガオー改め───アリコーンガオー!」

 

 

そして、黒き大きな翼を隅々まで広げ、羽ばたかせ、大空を魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の急加速で往く、蘇った黒い鳥───

 

「そして、ステルスガオー改め──フェニックスガオー!!」

 

 

そして、ガイガー。

ここに、6体の獣が集った。

その光景に驚く一同であるが、国王レクシーズは誰よりも新たに現れた5体の獣達の存在に驚いていた。

 

 

「あれは……『マギウスマシン』!!」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

その一部始終は現地だけではなく、離れた牽引車(ギャリッジ)司令室兼ブリッジからも見受けられた。

そこではカルディナが倒れた事にショックを受け、泣きじゃくるフミタンとイザリアが驚き、安堵していた。

 

 

「……お嬢。何よ、心配かけないでよ!」

「良かった、本当に良かった……!」

「ああ。だがあの鋼鉄の獣──いや、鋼の幻獣達は……まさか、マギウスマシンなのか!?」

「知ってるの!?」

「ああ。だが私も一度だけ、それも書面でしか見た事がないが……」

 

 

───その時である。

 

 

「え……何よ、これ!?」

「これは……!?」

「どうした!?」

「ファイナル・フュージョン用のコンソールが……!」

 

 

── All Reset ──

── Final Fusion Program ───

 

───Magic & Machine

───Artifact

───Genesic

─── Invisible

───Union

───Silhouette

 

── Install-Convert ──

 

 

CALDINA ──── [FUSION]

GAIGAR ─────[FUSION]

DRAGON GAO ───[IND.OPERATION]

DRAKE GAO ───[IND.OPERATION]

GARM GAO ────[IND.OPERATION]

ALICORN GAO ──[IND.OPERATION]

PHENIX GAO ───[IND.OPERATION]

 

─ Do you Approve FINAL FUSION ? ─

 

 

フミタンとイザリアの困惑とは関係ないように、ファイナル・フュージョン用のコンソールは瞬く間に書き換えられてゆく。

そして新しく表示されたプログラム。

いったい何が起きたのか……

そして、ティガー元将軍も驚きを隠せない中、レクシーズからの通信を受ける。

 

 

《──ティガー!》

「む、陛下!?ご無事でしたか!」

《ああ、それよりも、あれが見えているな?》

「ええ。《あれら》が間違いなければ───」

《ならば迷わずやってくれ。カルディナがあのように()()を決めたなら、我々はそれに応えねばならん!》

「判りました!」

 

 

レクシーズの言葉に後押しされ、ティガーは決意を固める。

それと同時に、コンソールより、あのアラームが鳴り響く。

 

 

「ティ・ガー様、ガイガーからファイナル・フュージョン要請のシグナルが……!」

「……フミタン、今は信じるんだ。この報せ(シグナル)を出したカルディナを信じるんだ。それがカルディナの、引いてはこの戦いの勝利の鍵となる!」

「───はい!!」

「よし!ファイナル・フュージョン、承ォォ認ッ!!!

了解!ファイナル・フュージョン……プログラム───ドラァァァイブッ!!!

 

 

── 《 FINAL FUSION 》 ──

───《 GAOGAIGAR 》───

 

 

コンソールにコマンドを入力、そして既に叩き割られた強化ガラスのカバーを再びフミタンは叩く。

本来、カルディナが操るガオガイガーにはファイナル・フュージョンの承認は無くてもいい仕様であるが、それをカルディナはわざわざ増設している。

それはセィフティー機能だけではなく、「私を信じる皆を、信じる証」として、ファイナル・フュージョン用のコンソールはあるのだ。

そして今、勝利を、カルディナを信じ、ファイナル・フュージョンは承認される!!

 

 

《ファイナル・フュージョン、受諾!!》

「さあ、いきますわ!! ファイナル・フューージョンッッ!!!」

 

 

ファイナル・フュージョン承認と共に、下半身を回転させるガイガーのGインパルスエンジンからGパワーとJパワーが合わさった光の雲(シルバリオン・トルネード)が吹き荒れ、ゾンダーや敵兵を追い出すように吹き飛ばす。

唯一、選別されるように残された鉄華団達。

そこで見た光景……

 

番の竜が舞い───

一角の天馬と狼が走り───

不死鳥が翻る───

 

獅子(ガイガー)を中心に幻獣達が廻る、光の中で行われた勇者王誕生の演舞を───

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

渦巻くシルバリオン・トルネードの壁を左右から頭部(ドラゴンヘッド)にGバリアを展開して突入するドラゴンガオーとドレイクガオー。

一角にGパワー集束させ、シルバリオン・トルネードを突き破り、走るガルムガオーとアリコーンガオー。

渦の真下から突き上げて急速上昇するフェニックスガオー。

ガイガーを中心に旋回運動をするマギウスマシンが、ギャレオンの口より迸る光を受け、眼光を光らせる。

 

さあ始めよう、ファイナル・フュージョンを!

 

下半身を反転し、腰部の黒いスカートパーツを表にしたガイガーの下に、駆体をひねり、急速降下するドラゴンガオーとドレイクガオーが、ガイガーの脚の下で両翼を拡げ減速し、更に逆さまのまま一羽ばたきする。

同時に、上下の(あぎと)がそれぞれ90度展開。関節可動域が収縮し、ドリル化した尻尾の根元が前方へ倒れ、両脚を収納する挿入口にガイガーの脚が入り、翼を含めた全身で脚をロックする為、駆体の余剰スペースが収縮する。

 

ガイガーの両腕が両肩ごと後方に開き、胸部にトンネルの挿入口が現れた両サイドへ、右側にガルムガオー、左側にアリコーンガオーが到来。

両機とも脚を曲げ、前脚は肘を突き出すように固定。

後脚はガイガーの胸部に侵入、脚に仕込まれた連結機で両機は内部で繋がる。

首から下の胴体下部が展開、そこから上腕部が現れる。

 

ガイガーの背部の下方からフェニックスガオーが縦に折り畳まれた両腕をレールのように伝い、両肩を足で固定し、駆体も完全固定する。

ギャレオンの鬣に、ジェネシックと同じように展開する鬣が装着され、ギャレオン双眼に強い光が宿る。

魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)のアームユニットが上腕部に接続、ジェットフィルタが開き、黒い拳が高速回転しながら現れる。

次いでフェニックスガオーの頭部が白く発光化したエネルギーアキュメーターと共に持ち上がり、嘴が左右に開くと同時に他も複雑に変形、ジェネシックに似たヘッドカバーに変わり、ガイガーの頭部に装着。フェイスカバーは地球製ガオガイガーと同じデザインのそれが覆い被さり、エネルギーアキュメーターが白い髪のように解き放たれる。

そして額の窪みから現れる『Gストーン』が復活を告げるように光輝く。

左の甲に『G』、右の甲に『J』が浮かび、ギャレオンの瞳に『V』の光が灯る時、全てのプロセスが修了し、新たなる勇者王がここに復活する!!

 

 

 

「ガオッ!ガイ、ガーー!!!」

 

 

 

──それは、数多の可能性の集合体

 

──それは、幼き少女が誓った勇気の証

 

──それは、魔法と科学の融合にして、勇者王の次なる姿

 

──我々の想像を超え復活した、我らが異世界の勇者王……

 

 

 

その名は、勇者王 マギウス・ガオガイガー

 

 

 

「「「──!!!!」」」

 

 

その場にいた誰しもが、言葉を失い、新たなる勇者王の誕生に驚愕した。

そして新しき勇者王マギウス・ガオガイガーにフュージョンしたカルディナは、光に満ちたコックピットの中で、燃えるような髪をなびかせ、勇者王(マギウス・ガオガイガー)を感じていた。

 

 

「……全身に流れるGとJのパワー。そして完全に制御下にあるエネルギー……これが、ガオガイガー。これが私の────マギウス!!」

 

 

その時、晴れたシルバリオン・トルネードの合間を通り抜け、ゾンダーロボが瞬く間にガオガイガーを急襲する!!

 

───だがガオガイガーは()()()

 

正確には()()()()()()()()()()()()、ゾンダーロボの後ろを取った。

 

 

「──ゾンッ!?」

「噓だろ──あの動きは……!」

《……阿頼耶識。》

 

 

生々しい程の生体的な、そして迅速な動きを可能とする阿頼耶識システムの動き、それを30メートルの巨体で実行したガオガイガー。

しかし驚く間もなく、背後を制したガオガイガーは、ゾンダーロボの腰を鷲掴みにする。

突然に、しかも暴れても全く振り解く事が出来ないゾンダーロボを無視し、ガオガイガーはその剛腕をそのまま高く掲げる。

 

 

《ゾンダーを確保、この後どういたしましょうか?》

「このままやっつけてもいいのですが、爆発で被害が甚大になりそうなので、場所を移しましょうか。いわゆるネクストステージ……いえ、『リベンジマッチ』ですわ。」

《了解。右上腕、高速回転開始。》

 

 

そうして掲げられたまま少しずつ、そして瞬く間に超・高速回転させられるゾンダーロボ。

 

 

《剛・腕・粉・砕ッ!!》

「ブロウクン・マグナァァーームッ!!!」

「ゾンダァァァァァーーーー!?!?」

 

 

ロケットすら追い抜く威力を誇るブロウクンマグナムがガオガイガーより放たれ、瞬く間に天上へと飛ばされるゾンダーロボ。

ブロウクン・マグナムの軌道が反れ、回転が弱まった瞬間───

 

 

「───『マギウスフェザー』!!」

 

 

またもや消えるガオガイガー。

しかしその直後───

 

 

「───チェェァス、タァァァァァーーー!!!」

「ゾッ!!??」

 

 

瞬間的に発動したフェニックスガオーの機能の1つ『マギウスフェザー』による高速加速による移動と、総重量630t以上の重量を乗せた、()()()()()ガオガイガー渾身の踵落としがゾンダーロボを襲い、大地に巨大な噴煙とクレーターを発生させる。

まともに受けてしまったゾンダーロボは辛うじて核は無事であったが、その墜落エネルギーを分散しきれずに、膨大なダメージを負い、全身の機能が麻痺してしまい、動けずにいた。

その様子を天上より、ブロウクンマグナムを右上腕に装着し、6つの獣の双眸で見下ろすマギウス・ガオガイガー。

 

 

「……さて。場所を移した事ですし、リベンジマッチをお願い致しますわ。」

 

 

不敵なセリフであるが、当のカルディナは一切笑っていない。

何故なら、これは彼女にとって雪辱を果たすための、そしてこの星に生きる者にとっての反撃の狼煙に他ならない。

 

 

「じっくりご覧尚あれ……これが、私のガオガイガーだァァーーー!!!」

 

 

魂の叫びと共に今、反撃の時が始まる。

 

 

 

《NEXT》

 

 

 


 

 

 

《次回予告》

 

 

君達に最新情報を公開しよう!

 

幼き日の勇気ある誓いと、奇跡の出会いを果たした証として顕現した、新たなる勇者王……その名はマギウス・ガオガイガー。

 

数多の可能性と数限りない想いを束ね、異世界にて生まれた新生勇者王はゾンダーへと立ち向かう。

 

あまねく困難を乗り越え、今ここに新たなる神話《マイソロジー》が始まる!

 

 

次回『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

 

NEXT Number.16 ~これが私のガオガイガー~

 

次回もこの物語に、ファイナル・フュージョン、承ォォ認ッ!!

 

 

これが勝利の鍵だ!

『マギウス・ガオガイガー』

 

 

 


 

 

 

── 現在公開可能な情報 ──

 

 

〇マギウス・ガイガー

元々あった魔力転換炉(トリプルリアクター)が、Gストーンの誕生により、機能を一部凍結したものを復活させ、パワーアップさせた総合動力炉『TGSライド』を搭載している、異世界版ガイガー。

外見こそ変わりはないが、現時点で地球版ガオガイガー(初期型)の出力を軽く超え、キングジェイダーにすら匹敵するエネルギー供給を可能としている。

また、Vクォーツが三重連太陽系産のギャレオンに相当するブラックボックスと同じ働きをするため、術式によるコントロールをせずとも、ギャレオン形態でも自立行動が可能となった他、獅子王凱とのGストーン・リンクで得たフュージョンの情報をフィードバックする事で、システム面は三重連太陽系産のギャレオンとほぼ同性質にまでなっている。

 

 

◯総合動力炉『TGSライド』

触媒結晶の代わりに第一炉に『Vクォーツ』、第二炉に『Gストーン』、第三炉に『Jジュエル』を搭載し、GストーンとJジュエルのシルバリオン現象によるエネルギーをVクォーツによってコントロールするハイブリットリアクター。

元は出力不足を打開するためにカルディナのギャレオンに搭載されていた3つの魔力転換炉(エーテルリアクター)の集合体『トリプルリアクター』であるが、第2転換炉(リアクター)にGストーンを、第3転換炉(リアクター)にJジュエルを搭載し、任意で共鳴反応(シルバリオン現象)を起こす事が出来る。また、その際に発生する膨大なエネルギーを第1転換炉(リアクター)のV・クォーツによりコントロールする事で、強大かつ安定したエネルギー供給を受ける事が出来、今までにあったエネルギーの反動によるダメージをなくすことが出来た。

更に魔力を吸気圧縮し、発生したエネルギーと合わせる事で、更なるエネルギー供給を得る事が出来、現時点で最大最上級の動力炉。

 

 

〇マギウスマシン

AZ-Mを自主的に取り込んだ損傷したガオーマシン達に、カルディナが『code:666-NEXT』を送信する事で形成された新生ガオーマシンの総称。

設計テーマは『幻獣』。

また『マギウス』に込められた意味は

 

Magic & Machine(魔法と機械の)

Artifact(創造物)

Genesic(源初の)

Invisible(見えざる)

Union(集合体)

Silhouette(を模した存在)

 

各マギウスマシンの説明は以下の通り。

 

・ドラゴンガオー

竜を模したマギウスマシンで雄型、元はドリルガオー1号機で左脚。

黒いボディに紅いラインが入ったデザイン。

四足ではあるが、胴体底部には無限軌道があり、飛行する際には飛行魔法を付与した黒翼と魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)で飛行する。

頭はバリアフィールド発生器を備えており、突貫行動が可能で、FF時には足となる。

また、尾は収縮するとドリル状になり、FF時には膝に相当する。実際にドリルは回転する。

元のガオーマシンとは上下反対に位置し、コクピットも頭部の後(元は脛)に移設されている。

 

・ドレイクガオー

竜を模したマギウスマシンで雌型。元・ドリルガオー2号機で右脚。

デザインはドラゴンガオーとほぼ変わりなく、唯一違うのはドリルが関節で区切られたところが互い違いに回転するガオファイガー仕様の破砕型。

雄型は癖のないガオガイガー仕様。

どちらもドリルの形状が歴代ガオガイガーより1.5倍程大きい。

また、ドリルは分離可能。

 

・ガルムガオー

一角を備えた狼を模したマギウスマシン。

黒のボディに白いラインが入ったデザイン。マギウス・ガオガイガーの右肩になる。

四足歩行は可能であるが、肘にライナーガオーの名残で車輪が備えられており、実際にレールの上を走行可能。

また、空間転移(ESウインドウ)機能を有し、短距離であればマギウスマシンの自在な転移移動が可能。

一角は長く細いが、ストレイトガオーと同じ形状で、回転する。

 

・アリコーンガオー

ペガサスとユニコーンを掛け合わせた有翼のユニコーンのデザインのマギウスマシン。

出典は主に錬金術関連の書籍に見られる単語であるアリコーンより。

白いボディに黒いラインが入ったデザインで、ガルムガオーとは正反対の色のデザイン。

マギウス・ガオガイガーの左肩になる。

翼があるため飛行可能であり、翼の羽自体も一種のツールとなっている。羽をビットように展開し『絶対守護領域(プロテクトフィールド)』という防御機構を展開する事が可能。

備えた角は螺旋状のスパイラルガオーと同じ形状。もちろん回転する。

 

・フェニックスガオー

不死鳥型のマギウスマシン。黒いボディに紅いラインが入ったデザイン。元・ステルスガオーで背部推進器を担当。

両翼がフレキシブルウイングで、どのマギウスマシンよりも可動域は広いが翼の根元は可動ボールジョイント。これは、カルディナが最後までFF時に上から行くか、下から侵入するコースを取るか悩んだ名残。

瞬間的な超加速を可能とした推進システム『マギウスフェザー』は重力制御可能な翼であり、飛行・空中停滞が可能、そして本機最大の推進器であり、ジェイダーのプラズマウイングの技術が一部流用されている。羽の一枚一枚も一種のツールとなっている。

頭部は内部で白いエネルギーアキュメーターと繋がっており、複雑に変形する事より不死鳥の頭部自体がヘッドパーツとなる。

 

 

◯マギウス・ガオガイガー

マギウス・ガイガーとマギウスマシンがファイナル・フュージョンして誕生した、スーパーメカノイド。

 

※詳細は次話にて!

 

基本設計はカルディナ・ヴァン・アースガルズ。

設計補佐はエルネスティ・エチェバルリア。

最終監督は獅子王麗雄。

 




以上が本作のガオガイガーとなります。

ある意味色々ぶっ飛んでいると思いますが、幼い真性のマニアが命をかけて考え抜いたガオガイガーなので、仕方ないね(作者はすっとぼけ)
実際、頂いた評価ではインフレしてません?という意見もありました。
そして色々ツッコミどころは満載ですが、ちゃんと掲載したもの一つ一つには理由があるので、細かい説明は次回以降説明します。

特にマギウス・ガオガイガーは活躍を見てもらってからの方が解りやすいので、次回!!

感想、評価お待ちしております。


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Number.16 ~これが私のガオガイガー~

熱い感想、心震える評価、ありがとうございます!
そして感想の嵐に一週間ほど悶えていました。

でも恐れるな、迷うな!
今はただこの時のために!

さあ、マギウス・ガオガイガー、いくぞー!!


「じっくりご照覧あれ……これが、私のガオガイガーだァァーー!!!」

 

 

カルディナの熱き叫びが戦場に木霊する──

 

それが戦いの合図であった。

高度から叩き落とされたゾンダーであったが、その声に反応するように、相貌を妖しく光らせ、満身創痍の駆体を無理矢理立ち上がせる。そして瞬く間に全身の修復を始めた。

周辺の空気がゾンダーに吸い込まれるように動き、ひび割れた装甲と、カルディナを穿った細剣は、まるで何も損傷が無かったかのように整えられてゆく。

その一部始終をマギウス・ガオガイガーはあえて傍観しながら地上へと着地した。

 

 

《敵ゾンダー、3.62秒で再生終了。敵ながら再生能力は優秀ですね。》

「そうね。けど───!」

「ゾン、ダァァーーー!!!」

 

 

そして着地寸前を狙って、ゾンダーは激しい憎しみをぶつけるようにマギウスへ猪突猛進する。

そしてマギウス───カルディナはゾンダー対して真っ向からぶつかるのであった。

 

 

「ゾンダァァーーー!!」

「ハァァアアアァァーーー!!!」

 

 

接敵する刹那、両者は拳を振るう。

左で襲い掛かるゾンダーに対し、右で応戦するマギウス。

両者の拳が合わさった瞬間、その衝撃波は周囲を激しく揺らした。

 

そして勝ったのは───マギウス。

 

ゾンダーの拳の表面には無数のヒビが。

だが、それはゾンダーにとっては囮。

本命は右の細剣で、真っ向から放たれた細剣の高速の突きを放つ。狙いは再び胸のギャレオン。

しかしマギウスはそれを見切り、左掌の第二、三指で挟み込み、そのまま刃を()()()()()()()

その行為は流石に予測外だったのか、一瞬躊躇する様子を見せたゾンダーに、マギウスは瞬間的に姿勢を屈めた。

そのあまりに速い動きに、ゾンダーには一時だが消え失せたように見え、その姿勢からマギウスは低姿勢からの下段蹴りでゾンダーの脚を狩り、体勢を崩した。

 

 

「──ゾ……!?」

「ドリル・ニーッ!!」

 

 

姿勢を崩したゾンダーを迎え入れる形で、右膝の破砕仕様のドリル・ニーを頭部に叩き込む。

触れたモノを有無を云わさずに砕くドリル・ニーはゾンダーの頭部を完膚なきまでに砕き、受けたカウンターで反り返る頭なしの駆体を回転蹴りで蹴り飛ばすマギウス。

飛ばされ、地に伏すゾンダーだが、即座に再生を開始───した瞬間───

 

 

「───ブロウクン・マグナムッ!!」

 

 

マギウスが飛び掛かると同時にブロウクン・マグナムで追い討ち。

土手っ腹に風穴が空き、その衝撃で地面が爆砕。

それでも再生を忘れないのはゾンダー故か、ブロウクンアームがマギウスに戻る頃には、損傷が回復し、そのギラギラした相貌をマギウスに向ける。

周囲の気流が更にゾンダー中心に渦巻くような流れを作り、ゾンダーメタルが妖しく光る中、ゾンダーはギラギラした相貌を光らせ、再びマギウスに向け細剣を振るう。

今度は巧みに振るい、フェイントを掴ませまいとする剣さばきに動きがシフト。鞭のように、そして乱舞する細剣がマギウスを襲うが、対するマギウスはプロテクトアーム……ではなく、左手の指先でそれらを捌き切ってゆく。

Gバリアの集束展開でZパワーを纏う細剣の力を片手の指先で相殺、封殺する一連の動作は何もかもを余裕で見切っているようにも見え、それがゾンダーに更なる苛立ちを呼び起こし、細剣を大きく振りかぶったが、防御に徹していたマギウスが一転して大地を踏み抜くような踏み込みで放った右拳で下腹部を砕き、マギウスはゾンダーを再び地に沈めるのだった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……圧倒的じゃねぇか。」

 

 

終始ゾンダーに対して圧倒的なマギウス・ガオガイガーに、オルガはポツリと呟く。

彼がそう例えるのも無理はない。

 

目の前で行われている巨大な創造物の戦闘を彼は見た事は───いや、この場にいる誰もが見た事はない。

 

 

《たかが10m程度違えど、ありゃ……》

《……でかい、速い、そして、強い。》

 

 

ランドマン・ロディに搭乗する三日月、昭弘が云う台詞こそ、この場にいる鉄華団の気持ちを雄弁に語っている。

モビルスーツを超え、更に巨大でありながら阿頼耶識搭載型と同等以上の機体反応と速度、自分達を超える圧倒的な戦闘技術。

そして「勝利」と「絶対生存」に対する執念。

 

 

「あれが、お嬢の力……」

「カルディナ・ヴァン・アースガルズの名は、伊達じゃないという事か。」

 

 

オルガ達、鉄華団も戦闘訓練こそ欠かさなかったものの、いざ明確な格上たるカルディナの本気の戦闘を目の当たりにすると、次元が違う事を思い知らされた。

 

───誰も死なせない。

───何も失わせない。

───絶対に、勝つ。

 

カルディナ・ヴァン・アースガルズとは、そういうところは非常に()()()である。

 

揺るがない、絶対勝利への渇望。

圧倒的な暴力と困難に立ち向かう完全勝利への執念。

無茶、無謀と(はばか)れる事柄に、真正面から打ち砕くように立ち向かう意志。

 

我が儘故に、絶対に押し通す。

 

その果てなき欲望(希望)と、大切なものを奪わせない意地()、恐れを乗り越える強靭な意志(勇気)が形となったのが、マギウス・ガオガイガーである。

 

 

「凄い……でもカルディナも最初からアレを造れば、苦戦せずに済んだんじゃ───」

「───いや、それは無理だ。」

「……父上??」

 

 

感心するアシュレーだが、その言葉を父上であるレクシーズは冷静に否定する。

 

 

「あれはあの娘の……カルディナの決意の形だ。しかも決死の、な。しかもアレは今ある技術を集結したところで、まず造れるものではない。おそらく()()()()()()()()()だろう。」

「偶発的に、ですか……??」

「ああ。カルディナにとっては、今あってはならない代物……本人の意志とは関係なく、そうしなければならなかった理由が起きてしまった、その結果であろう。」

「そんな、カルディナ……」

 

 

勇猛果敢に攻め入るマギウス。

しかし父上の言葉に、その内に秘めた内情は計り知れないものがありそうな予感がしたアシュレー。

ゾンダーが展開した魔法陣に向け、細剣にチャージしたエネルギーをレーザーのように放つ前に左腕を構えるその後ろ姿に、心を痛めるのであった。

 

 

《──エネルギー反応。レーザー攻撃の可能性、大。》

「──マギウス・ツール、『アリコーン・フェザー』!!」

《フェザー起動。エナジーライン、格子状展開。》

 

 

左肩のアリコーン・ガオーの翼より、十数本の羽が桜吹雪のように舞い上がり、360度に拡がる扇のように左腕のプロテクトアームの周囲を舞い廻り、マギウスを中心に後方の鉄華団達を護る壁を展開する。

 

 

「プロテクト・フィールドッ!!」

 

 

左腕・プロテクトアームよりバリアが展開し、アリコーン・フェザーを中継して広域展開されるプロテクト・フィールド。

放たれたレーザーは拡散し、雨霰のように降り注ぐが、アリコーン・フェザーのエナジーラインが紡ぐ空間拘束力場(アレスティングフィールド)と、その中で猛威を振るう空間反発力場(レプリションフィールド)が湾曲空間領域を形成し、無差別に放たれるレーザーの雨を一つ残らず跳ね返し、ゾンダーに返す。

狙いが外れたレーザーも追従するフェザーで取り零すなく返され、ゾンダーバリアを展開する暇もなかったゾンダーは自身の攻撃で焼かれる結果となった。

 

本来、無限情報サーキット・Gストーン経由でもたらされた三重連太陽系の湾曲空間技術は、ガオガイガーのディバイディングドライバーやガトリングドライバーに使用されているが、カルディナは獅子王凱のエヴォリュダー能力よりもたらされた情報より解析、魔法技術とエヴォリュダー能力にて空間湾曲の比率を操作する事に成功した。

その技術をアリコーン・フェザーのエナジーラインで区切られた二次元局所平面空間を局所的湾曲空間──歪曲フィールドとして形成、再現し、広域自在展開可能な絶対守護領域(プロテクト・フィールド)を創造したのだった。

 

だが、ゾンダーはそれらの攻撃すらも再生する。

解ってはいたが、その光景にカルディナは溜め息を、V・Cも半ばうんざりした口調で現状報告をする。

 

 

「……遂に魔法まで行使するなんて。跳ね返したとはいえ、始末が悪いわ。」

《前回報告を訂正、再生能力が異常です。》

「そうなの?私にはV・Cの知るゾンダーの『正常』が解らないけど……同意するわ。」

《ゾンダーメタルが異常活性している現象が観測されています。これはマイナス思念以外の異常なエネルギーの発生よるものかと推測、進言します。》

「マイナス思念以外の、異常なエネルギー??ナニソレ??」

《不明。私のライブラリに該当するエネルギー反応がなく、新種の反応です。また、エネルギー発生直前、ゾンダーに吸い込まれる不自然な空気の流れが発生しているまでは突き止めています。そのエネルギーがゾンダーのエネルギーを高めています。そしてそのエネルギーはどんどん高まっています。》

「……そういえばそうね。」

 

 

その不自然さはこの2人も察知していた。

 

 

「……アベル、気付いているかい?ゾンダーの異常なエネルギーの高まりを。」

「ええ。機界昇華を行わずにここまで強いエネルギーをため込めるなんて、あり得ません。下手をすれば、ここら一帯を葬るには問題ない程です。いったい何をどうやって……」

「だが、もしあのエネルギーが行き場を失えば……」

「まさか、それが狙いとでも!?」

「……あり得るかな。だが、いったい何が原因で……」

 

 

そしてカルディナとV・Cもその事には気付いており……

 

 

「不自然な空気の流れ、吸い込まれる空気、この場の何を吸い込んで───まさか!」

《該当案件、1件。これは……》

「……なるほど。ゾンダーの活動が今まで緩慢な理由が、判った気がする。」

《え、この仮説……本当ですか??》

「可能性は。でも、ここで論じる事じゃないわ。原因究明は終わってからにしましょう。それに、あのようなゾンダーへの対策は、このマギウスには備わっています。では、マギウス・ツーールッ!!

 

 

カルディナの声に応え、マギウス・ガオガイガーの翼の先端、左右・計10器の黒い羽が宙を舞い、両手に装着される。

それはジェネシック・ガオガイガーのガジェット・ツールに酷似したパーツ群、その名はマギウス・ツール『ソリッド・グローブ』。

そして同時に左肩のアリコーン・ガオーより、両翼パーツが分離し、フェニックスフェザーのボールジョイントへ接続、カルディナと同じく天使と悪魔の翼(ツイン・ウイング)となる。

そこに通信が割り込んできた。

 

 

《カルディナ、待ちなさい!あのゾンダーのエネルギーは貴女を──!!》

「あら、アベル様。ご心配ですか?ですが問題ありません。例え広域破壊の罠が仕掛けられていようとも、このガオガイガーにはそれらに対しての備えが御座います。」

《……戯れ言、ではないようですね。》

「はい。」

《……良いでしょう、やってみせなさい。》

「お任せあれ!V・C、TGSライド全開!」

《了解。TGSライド、全開。》

「……これで、終局ですッ! ヘル アンド ヘヴンッ!!!」

 

──ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ(対極する力を一つに)……

 

「──はぁあああぁぁぁーーー!!!」

 

右掌に魔王()の力を込めた破壊の力(Jパワー)を。

左掌に天使()の力を込めた守護の力(Gパワー)を。

対極であれども類似する二つを合わせ、地獄も天国も合一する力へと昇華させる。

合わさった力はマギウスを白金の光と化し、長髪ようなエネルギーアキュメーターは赤熱化、圧倒的な光の力の奔流(GとJのパワー)はゾンダーを呑み込み、完全に拘束する。

 

 

「──オオオォォォーーー!!」

 

 

そして、白と黒の翼に魔方陣が展開、圧縮表記された術式が網み目のように束ねられ、形成される光の翼(プラズマ・ウイング)が羽ばたいた瞬間、マギウスが放たれた白金の弾丸の如き『光』となった。

白金に輝く駆体が太陽の黒点を連想させる合わせた黒い掌(ソリッド・グローブ)を突き出し、突貫するマギウス。

そして光の力の奔流(GとJのパワー)に拘束されたゾンダーの胸部にヘルアンドヘヴンが炸裂、ゾンダーの全身にGとJのパワーが一挙に流れ込み、身体の構成がボロボロになる。

それでも再生を試みようとするゾンダーが、己の最後に視たものは────自らの胸を粉砕し、喰らう、黒く巨大な(あぎと)が開く刹那の光景。

 

 

「──その核、貰い……受けますッ!」

 

 

それはマギウス・ガオガイガーの更なる一押し。

巨大な両掌が胸部へとめり込み、黒く鋭い巨大なソリッド・グローブの両掌がゾンダー核をがっちりと掴む。

 

 

《グローブ内、湾曲空間構築──終了》

「はァァァーーーーッ!!」

 

 

掌内の核を湾曲空間で拘束し、ゾンダーの外郭より丸ごと核を切り離す。

だが、核を失ったゾンダーの身体を廻るエネルギーが行き場を失い、大爆発を───

 

 

《──TGSライド、フルドライブ。》

「ウィータァァァーーー!!!」

 

 

──起こすその瞬間、マギウスはゾンダーの胸を貫く両掌をゾンダーごと空に掲げ、『生命(ウィータ)』の呪文を叫ぶカルディナ。

両掌の外側に膨大な破壊エネルギーが、ゾンダーの爆発を文字通り掻き消し、天を穿つ白い一閃の奔流となった。

 

 

───ヘルアンドヘヴン・ゼロ

 

 

それは、カルディナが考案したヘルアンドヘヴンの新形式。

ヘルアンドヘヴンで引き抜けないゾンダー核に対して、膨大な破壊エネルギーと防御エネルギーを束ね、ヘルアンドヘヴンを円滑に行うマギウス・ツール『ソリッド・グローブ』を用いた、核摘出及び完全殲滅用アーツである。

掌内側に湾曲空間を構築する事でゾンダー核を強制的に隔離、保護する。

そして余剰した破壊エネルギーを掌外部より放出する事により、外敵を完全殲滅するのである。

 

空へ昇る一閃の光の奔流は、鬱蒼とした空を晴らし、ゾンダーを跡形もなく滅ぼすのであった。

 

……そして光が途切れた。

後に残ったのは、空へと両拳を掲げる黒き勇者王マギウス・ガオガイガー。

全身の放熱機構より過加熱の熱風が放出され、白金の駆体はシルバリオン現象も終え、元のカラーリングに戻っている。

そして掲げた腕を胸元に、その両掌の中には───摘出したゾンダー核が。

 

誰もが静まり返り、沈黙する中、マギウスの胸部───ギャレオンの口から赤い茜に染まる長い髪をなびかせた人物───カルディナが出てきた。

白と黒の翼を広げ、ゾンダー核へ両手をかざし、右手の甲に『J』、左手の甲に『G』が光り、現れる。

そして唱える。『偽り』が『真実』へと昇華された、カルディナの呪文を。

 

 

──サンクトゥス

 

──レッフェルト

 

──テストル

 

──ルルーウス

 

──ヒーク レリヴィーム

 

 

「あ、あれは……!?」

「まさか、浄解!?」

 

 

クストとムルが驚く。2人にしか使えなかった浄解、それをカルディナが使えた事に。

浄解の光に包まれたゾンダー核が、その呪縛を解き、素体とされた人物を顕現させる。

その人物は鎧を着た女騎士であった。負の感情はなく、涙を流し、カルディナに多大な感謝の念を言葉にしていた。

 

 

「あ、ああ……ありがとう、ございます……」

 

 

そしてその一部始終を見ていたカインとアベルは戦慄にも似た驚愕を体感していた。

 

 

「……本当に、何が起きてるのですか。まあ、あの娘を見ていると飽きませんね。」

「何故、カルディナが浄解を……というのは、この際本人に聞くしかあるまい。しかし、これでゾンダーによる襲撃は終わったよう───」

 

 

カインが安堵したのも束の間、最後のオチが待っていた。

 

──カルディナがバランスを崩し、ガオガイガーの掌から落下した。

 

その光景に全員、「まさか!?」と「最後の体力ぐらい残しとけ!」という総ツッコミを入れたいところであるが、絶賛気絶&落下中の人間にそんな事を言ったところで聞こえている訳もなく、即座に反応した数人──クスト、ムル、三日月が全力で向かったが、4~5km離れた場所で観戦していた彼らが即座に追い付ける訳もない。

だが、それでも落下は止まらない。

もう間もなく地面に叩きつけられる──

 

 

「───カルディナァァァーーー!!!」

 

 

──その前に、カルディナの元へ音よりも速く駆け、飛び上がり、その身を受け止める者がいた。

 

 

「な───アシュレー??」

「うそ……!」

「いつの間に……!」

 

 

強化魔法を用いて勢い良く飛び上がった代償に着地に失敗し、アシュレー自身がむき出しの岩に半身を擦って出血するのはご愛敬。

それでもアシュレーは、カルディナには傷は付けず、抱きしめていた。

そんな光景にレクシーズはアシュレーの通信機に繋ぐ。

 

 

「アシュレー!まったく、何たる無茶を……」

《……む、無茶と笑って下さって結構です、父上。ですが、この役目だけは…。誰にも渡したくなかったのです。カルディナを助ける『ナイト役』は。》

「……まったく、その馬鹿は誰に似たやら。よくやった。」

《はい。》

 

 

例え三男で自身の影が薄かろうとも、両親が決めた政略結婚の相手だろうとも、幼き頃より胸に抱く想いに偽りはない。

愛しき婚約者を護るためなら自身の身の安全など厭わない───そう想うアシュレー。

 

しかし、葛藤もある。

 

婚約者(カルディナ)が用意したこんなもの(ガオガイガー)を行使したにも関わらず、大事になった今回の件。

既に事態はカルディナ以外には手が出せない前代未聞の出来事。

 

自分はどうすべきか……

 

だが、そんな事は露知らず、アシュレーの腕の中で抱きしめられたカルディナは、可愛い寝息を立てて眠りに入っていた。

苦笑いしつつ、婚約者の頬に触れる。

 

 

「……まったく、人の気苦労も知らないで。」

《──目の前で見せつけてくれるとは、若いとは良いですねぇ。》

「───誰だ!?」

 

 

終わった安堵を噛み締めるアシュレーへ、突然声が響いた。

 

 

《あ、これは失礼。警戒させてしまったみたいですね。上です、上。》

「上……って、ガオガイガーの目が、点滅してる……って、しゃべってる!?他に誰かいるのか!?」

《はい。正確には私、無限情報サーキット付AI、名をV・Cと申します。ちなみに姿を現せと言われましたら、現在ギャレオンが本体なのでこれ以上さらけ出す事は不可能なのでご了承を。》

「無限情報サーキット付、エーアイ……まさか三重連太陽系というところの関係者か?」

《はい。早速ですがご提案致します。カルディナ様と私──このガオガイガーが一緒に最寄りで休める安全な広場を一時的に提供頂きたい。その見返りに、後ろにいる不届き者達の捕縛を手伝います。》

「不届き者……」

 

 

アシュレーは周囲を見渡す。

ヘルアンドヘヴン発現という、生身には地獄の如き環境であったはずだが、巻き込まれた()()()()()()()()()()()()は半数以上が死屍累々としていたが、一応息があった。

残りの半数は土に還ったか、埋もれているかは不明だが、完全に無力化しているのは間違いない。

当然ながらこのまま放置するのは宜しくない訳で……

 

 

「……そうだね、鉄華団のみんなにも助力させてもらえるなら。」

《それは僥倖。是非お願いします。》

「でもその姿のままで……??」

《否定。このように致します───フュージョン・アウト。》

 

 

V・Cの一声で、マギウス・ガオガイガーはその合体を解き、マギウス・マシンへと姿を変える。

地に降り立つガルムガオー、アリコーンガオー、ドラゴンガオー、ドレイクガオー、フェニックスガオー、そしてマギウス・ギャレオン。

文字通り黒鉄のマギウス・マシン達の雄姿に圧倒される。

 

 

「……これは、うん。圧倒的だね。」

《お褒めの言葉、ありがとうございます。》

 

 

そしてV・Cの提案をアシュレーより受けたレクシーズは、それを受諾。そして鉄華団に不届き者達の捕縛を依頼した。

国王からの勅命とあっては断れない鉄華団のメンバー達であったが、あまり気乗りはしなかった。

だが、最後にレクシーズが放った一言で、全員の目の色が変わった。

それは……

 

 

()()にあたり、もしかすると彼等は痛みで抵抗するやも知れんが、なるべく息があるようにしてほしい。───ただし息があれば、救助中に怪我が増えていようが、更に重傷になろうが、我らにも、そして君達(鉄華団)にも何の責任がない事を宣言しておく。」

 

 

……その時の彼等(鉄華団達)はマギウス・ガオガイガー登場時の眼光並みに目を光らせていたとか。

 

そして始まる一方的な捕縛任務(盛大な八つ当たり)

 

途中、近衛騎士団も参加し、理不尽さが増した頃、他の騎士団が現地に到着した頃には、あまりの恐怖に震え、鉄華団達と近衛、マギウス・マシン達に素直にドナドナされるギャラルホルンの捕虜達の姿が……

 

……少しはアルドレイアの彼等の気が晴れたと思いたい。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

そして誰も察知されない上空より、全ての顛末を傍観する2つの影があった。

 

 

「……満足か?」

「ええ、とっても。」

 

 

1人は鳥人間、もう1人は紅い魔女。

ゾンダリアンのピッツォ・ケリーと、プレザーブである。

ピッツォ・ケリーの尋ねた質問に、魅惑的な満面の笑みで答えるプレザーブ。

 

 

「お前の切り札のゾンダーメタルは破られたが、あれも計算の内か?」

「いいえ、むしろ全くの計算外。でも、あんなのがいると判れば、今後の対策がしやすくなると思わない?それにあれは試作品。触媒結晶を用いたとはいえ、この星に適応しやすくするための処置がまだ十分とは言えないわ。」

「ふん、手間が増えただけだろう。しかし機界昇華に必要なエネルギー確保には充分。そして大したことのない人間共だが、その中でアレは戦いがいのある相手……それは認めよう。」

「ええ……でも私も確かにあの時、仕留めたと思ったわ。でもあの覚醒……実に不可思議、私はああゆうのゾクゾクするわ。」

「……出たぞ、悪癖が。」

「でも、対策はそう簡単には出来ないはず。あの黒いロボットのパイロットは疲労困憊みたいだし。」

「では準備出来次第、次は私だな。好きなようにやらせて貰うぞ。準備は怠るなよ。」

「ええ、勿論。」

 

 

そしてピッツォ・ケリーは鳥に変わり飛び去り、プレザーブは光学迷彩を纏うように姿が薄くなり、それぞれその場から姿を消す。

 

こうしてゾンダーとガオガイガーの戦いは終わった。

 

しかし、これが終わりではなく始まりである事を、この戦いを見た者は誰もがそう思った。

(なが)いか短いかは解らない。

だが、1つだけ判る事がある。

 

それは、今日を以てカルディナ、ガオガイガーを中心に世界が動き出した事───

 

あらゆる勢力、軍勢、群体……

 

そして戦いの終わりに発し、誰もが目にした眩い光の奔流の柱(ヘルアンドヘヴン・ゼロ)が、この不可思議な世界の全てを巻き込む狼煙となった事を、今は誰も知らない……

 

 

《NEXT》

 

 

 


 

 

 

《次回予告》

 

君達に、最新情報を公開しよう。

 

ゾンダーとの戦いに勝利したガオガイガー、そしてカルディナ。

 

しかし皆、振り返るべき点は多く、カルディナよりもたらされた情報に驚愕する一同。

 

されど彼等は負けない、逆境の今に。

 

されど彼等は歩む、勝利への軌跡を。

 

されど彼等は結ぶ、その想いを胸に。

 

 

 

『公爵令嬢は、ファイナルフュージョンしたい』

 

NEXT Number.17 ~創造は、敗北を糧に~

 

 

これが勝利の鍵だ!!

『第2次・第3次GGG創造計画書』

『Gフレーム(1~4号機)製造計画書』

 

 


 

 

現在公開出来る情報

 

 

 

◯マギウス・ガオガイガー

 

 

制式名称 ALK-GGG-01-XM1 マギウス・ガオガイガー

 

 

全高 32.1m

重量 640.2t

動力源 TGドライブ×1、Gドライブ×6 接続、搭載

最大出力 10,000,000~98,000,000,000 kW以上(推定)

推力 7,400t×4

最高走行速度 216km/h以上

瞬間最高走行速度 不明

ファイナル・フュージョン完了時間は60.647秒(以降毎回更新予定)

 

武装、特殊装備

◯マギウス・フェザー

◯アリコーン・フェザー

◯プロテクト・フィールド

◯ソリッド・グローブ

◯ドリル・ニー×2

◯ブロウクンマグナム×1

(他、多数有)

 

必殺技

◯ヘルアンドヘヴン

◯ヘルアンドヘヴン・ゼロ

(他、ツール使用による兵装のため明記出来ず)

 

マギウス・ガイガーとマギウスマシンがファイナル・フュージョンして誕生した、スーパーメカノイド。

中心をマギウス・ガイガーとして、右肩をガルムガオー、左肩をアリコーンガオー、右脚をドラゴンガオー、左脚をドレイクガオー、背部・両腕・頭部ヘルメットをフェニックスガオーがそれぞれ担当する。

合体形式が地球版ガオガイガーVer.ではなく、ジェネシックVer.なのは、ライナーガオーがゾンダーにより真っ二つにされたため───ではなく、幼いカルディナが『勇気ある誓い』を立てた時、自身の考えうる『真に理想のガオガイガー』を記した設計図──もとい落書きが原点なため。

歳を追う毎に描き直されており、対・ゾンダー用に想定されていた地球版ガオガイガーとは別に秘密裏に設計されたその内容は、ジェネシック・ガオガイガーを元にしている。

想定された技術的問題から実現は根本的に不可能とされ、対・ゾンダー用ガオガイガーが完成したとしても創るつもりはなく、空想と理想、空絵事の範疇でしか無い事を理解していたため、余程の事がない限り公開する予定もなかった。

しかしゾンダー戦での敗北、000(トリプルゼロ)との遭遇、そしてオレンジサイトで出会ったV・Cと獅子王麗雄博士の存在、自身の特性により、実現の目処が立っている。

そして、カルディナのレヴォリュダーの能力とAZ-M、GストーンとJジュエル、V・クォーツを取り入れた事により完成した本機だが、ゾンダーに敗北した事によりロールアウトされたため、カルディナにとっては、非常に複雑な経緯を持つ。

なお、作成テーマに『カインとアベルが手を取り合ったら実現出来たであろう、対・ゾンダー用ガオガイガー』と明記されている。

 

基本設計はカルディナ・ヴァン・アースガルズ。

設計補佐はエルネスティ・エチェバルリア。

(フレメヴィーラへ留学中に暴露され、アリコーン・フェザーのビット機能、マギウス・フェザーへの合体機能を発案、追加。)

最終監督は獅子王麗雄。

(プロテクト・フィールドの湾曲空間形成の理論と、アリコーン・フェザーとの連携機能を発案、追加。)

 

 

◯ヘルアンドヘヴン・ゼロ

カルディナが考案したヘルアンドヘヴンの新形式。

ヘルアンドヘヴンで引き抜けない(と想定された)ゾンダー核に対して、膨大な破壊エネルギーと防御エネルギーを束ね、ヘルアンドヘヴンで核を保持した際に、引き抜く事はせず、マギウス・ツール『ソリッド・グローブ』で掌内側に湾曲空間を構築する事でゾンダー核を強制的に隔離、保護し、その後破壊エネルギーを掌外部よりゼロ距離放出する事により、対象を完全に破壊する、核摘出及び完全殲滅用アーツ。

獅子王凱のヘルアンドヘヴン(核摘出)と、カインのヘルアンドヘヴン(拳からビーム)を1つにした、カルディナのヘルアンドヘヴンである。

元より『ソリッド・グローブ』が衝撃緩和に一役買っているが、カルディナのヘルアンドヘヴンは『真のヘルアンドヘヴン』となっているため、使用者へのダメージはほぼ皆無となっている。

ただし、使用するエネルギーはヘルアンドヘヴンの倍。




以上が、本作マギウス・ガオガイガーとなります。

いかがでしょうか?


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閑話 ~それぞれの後始末的な何か~

何か頭の悪い文章を書きたくなったので投稿です。

内容こそ本編の次話にリンクしていますが、読まなくても差し支えなく、一部キャラ崩壊を含んだ、非常に苛烈な内容となっています。
ただし、ストーリー上差異はありません。

それでも良いと思う方は、大河長官の声真似でファイナル・フュージョンを承認してからお読み下さい。



それではどうぞ!




 

 

◯鉄華団の『根野菜』収穫風景

 

「───そーらよっ!!」

「せーのっ!!」

「ソイヤッ!!」

 

引っこ抜いては放り投げ、待機するランドマン・ロディに豪快に投げ、キャッチしては『籠』に入れる──

彼らは今、『根野菜』を『収穫』しているのだ。

 

「ったくよ、こんなに乱雑に埋まりやがって……」

「仕方ないよ、お嬢がやったんだから。でも形があるだけ、まだマシさ。」

「だな、言えてる。」

 

『根野菜』は多種多様。いろんなところにいろんな角度で埋まっている。

ちなみに器用に抜く事の出来る農業用機械はない。

ランドマン・ロディ(三日月が担当)では『根野菜』を引っこ抜く時に砕きかねない。

故に、キャッチして入れるだけ。

重労働なので、お嬢様が造った鉄華団用のIDスーツ(外装なし)は非常にありがたい。

『根野菜』が『籠』に貯まったら王都に持ってゆく。幸い行き先は陛下が決めてくれており、残る事はない。

『籠』は重いので、近衛の騎士達がゴーレムを使い、親切に運んでくれる。ありがたい。

中には『収穫』を手伝ってくれる近衛騎士もいたり、実に親切。

『収穫』の収入は鉄華団に入る事に。非常にありがたい。

 

「む?」

「どう……しました?」

「これは……焼けているな。(適当)」

「ああ……こりゃ、肥料焼けじゃないですか?(適当)」

 

共に『収穫』する騎士の1人が見つけた。それに言葉を(適当に)返すのはシノだった。

ちなみに肥料焼けとは、肥料となる堆肥を十分に発酵させずに土に蒔いた後で再び発酵した時に出る発酵熱の事。

作物に良くない影響を与える。

 

「なるほど。だが、日照りの可能性もないか?()()()()()()()()()()()()()。」

「見た限り、どっちもじゃないですか?まあ、あっちに置いておいて下さい。」

「ああ、そうしよう。」

 

焼けてしまった『根野菜』は分ける事になっている。

そして()()()()()()()()()()()()

仕分けは大事だ。

 

「そーらよっ!!」

「せーのっ!!」

「ソイヤッ!!」

 

『収穫』は続く。地道に続く。

辛いので時には声を出したくなる事もある。

オールバックが特徴のダンテが腰をポンポンした時の事だった。

 

「あ~あ、スーツ着てるとはいえ、腰屈める作業は腰が痛ぇ──」

「──無礼者が!!私を誰だと思っている!!」

「……何だ?」

「私は汚い貴様らのような者ではない!!私はギャラルホ──」

 

──ゴッ!!バキっ!!グキンッ!!

 

「………」

「タカキ、どうした~?何か聞こえたけど。」

「ん、気のせいじゃない?だって『根野菜』が喋る訳ないじゃない。

「あ~、それもそうだな。それと手、痛めてないか?」

「ううん、大丈夫。まだ問題ないよ。」

 

時々『収穫』に不満の声が出るけど、そこは『グローブ』を付けていれば問題なし。

 

「お前達、我らが神が黙っているとでも──」

 

──ゴッ!!グキッ!!

 

「うぼぁ……」

「よーいしょ!」

《ほっ。》

 

引っこ抜いては豪快に投げ、キャッチする。

 

「た、助けて……」

「よーいしょ!」

「ひゃあああぁぁぁーーー!!!」

《うるさい》

「あ、〆忘れた。まあいいや。」

 

引っこ抜いては、豪快に投げ、キャッチする。

 

《まだある~?》

「次、こっちな~!」

「っていうか凄くない?三日月、全方位でキャッチしてるし。」」

「俺には真似できねぇな。」

「そういやダンテ、チャドは?」

「ああ。あっちで教官達の手伝い。」

 

ダンテの向く先には、マギウス・マシンが勢ぞろい。

 

《ゆっくり、ゆっくり~とな。》

 

犬かきの様に前脚で土を掻くガルムガオー。パイロットのサタンは慎重である。

 

「教官~、大丈夫ですか~?病み上がりでしょう~?」

《問題ない。こちとら悪魔だ。人間とは体力が違うんでな、まかせとけ。》

「そうですか~、あ!ラファエルさん!掻き過ぎ搔き過ぎ!もっと優しく!」

《え、ダメですか?馬の前脚では上手く掻けないし……そうだわ、フェザーを使って、振動を起こせば!》

「……それって、比重の関係で沈みますよ?」

《は!そうだった……あ、虫が、えい、えい!》

「……加減して下さいね。」

 

アリコーンガオーでは上手く行かないラファエル。元々動物の脚では『収穫』作業には不向きだ。

 

《フハハハ、我が耕すからベルフェゴール、お前はフェニックスガオーでついばむがいい。》

《地下深く~、地下深く~、耕せ耕せ~!》

「ちょ!ストップ、ストップ!それじゃ砕けますって!」

《え~、マモン。それは精密作業じゃないか?ガブリエル~、代わりに頼むわ~。》

《レーダーを代わってもらえるなら。》

《……頑張ってやりま~す。マモン~、ザドキエル~、『籠』持ってくんない?》

《仕方ないな~。》

《ぬう、止むを得ん。》

 

ドラゴンガオーとドレイクガオーが尻尾のドリルを使って耕そうとするのを止めに入るチャド。

辛うじてフェニックスガオーが嘴でついばんで『収穫』作業が出来るので、面倒くさいながら操作するベルフェゴールと、的確に次の『収穫』ポイントを指示するガブリエル。

ドラゴンガオーとドレイクガオーは『籠』持ちとなった。

 

《いや~、2人が来てくれたおかげで、急に楽になったわ~。五月蠅くて暴れて大変──》

《──ベルフェ、『根野菜』は喋りませんし、暴れませんよ?》

《……だな~。》

《ジッと見ているだけのお仕事だなんて、つまらんな。》

《開墾作業でストレス発散しなさい、2人とも。》

《うん、そうする~。》

「ちなみに、ギャレオン……V・Cって言いましたっけ?あれはどうしたんですか?何かジッとしてますが……」

《ああ、躯体がオーバフロウ気味でな。今は無理に動けないらしい。休ませておいてくれ。》

「……そうなんですか?あれから一言も言ってませんが。」

《貴方なら言えば判るでしょうが、量子通信とやらですね。情報や指示は常にマシンに送られてきています。それに、皆さんの通信機の親機として、常時中継しているのですよ?今まではお嬢様がその役割をしていたんですから。》

「……どっちも、何でもありだな。」

《そんな訳で、肉体労働は俺達がやればいい。》

「ですね。」

 

お疲れのギャレオンをそっとしておいて、作業は続く。

そうこうしている内に、他の騎士団がやって来た。

 

「──第8騎士団、只今到着ー!!加勢に来ましたぞ、今ぁぁぁ──あ??」

「遅かったな、オズワルト卿。」

「へ、陛下!?申し訳ありません!第8騎士団、只今参上いたしました!しかし……これは、いったい……??」

「見て解らぬか?? ただの『収穫』だ。

 

到着した騎士団を切り立った岩の傍には、近衛騎士数人に囲まれつつ、負傷した身体を休めるレクシーズの姿が。

そのレクシーズに言われた、騎士団の彼らが見た光景は……

 

 

土に埋まる『ギャラルホルンの騎士達』を無造作に引っこ抜いて、豪快に投げ──

ゴーレムより大きい鉄の巨人がそれをキャッチして、『檻』に入れ──

いっぱいになったところで順次搬送する近衛騎士達──

時々こんがり焼けてしまった焼死体を無造作にぶん投げる──

時々五月蠅かったり、暴れる騎士達を黙るまで殴り続ける──

黙ったら、引っこ抜いて豪快に投げ──

 

止めは、巨大な黒鉄の幻獣達が、勇猛で知られるギャラルホルンの騎士達ににらみを利かせて威圧しているところをついばまれ、『檻』に入れられる──

時々、逃げようと這い這いの騎士を脅しの様に踏み潰す羽根つきの馬が怖かった。

 

それをそれが当たり前のように作業する光景──

 

「あ、あの、これは……」

──ただの『収穫』だ。

「しゅ、収穫……」

「目の前に『有る』のは皆、『根野菜』だ。綺麗に『収穫』すれば金になる、な。」

「………」

 

そう淡々と説明する陛下の目は、口調と違って決して──目が絶対に笑っていない。

いや、『収穫』と称するそれは『捕縛』だ。

そしてこの少し老いたオズワルト卿は知っている、陛下がそんな目をする時は、これ以上ないくらいにブチ切れている証だと。

遅れた自分には解らないが、この状況に至るまで、相当酷い状況であったのは間違いない。

魔獣が暴れたとかそんなレベルではない。

何故ならレクシーズだけではなく、『収穫』を行う()()()()()()()()()()()()()

鋼の巨人や幻獣に至っては、直視したら心臓が止まりそうな気がした。

だが、何が起きたかは自分の口からは聞けない、怖くて聞けない。

 

なので、オズワルト卿は陛下に、こう進言した。

 

「……陛下、進言しても宜しいでしょうか?」

「何だ?」

「我々も『収穫』に参加しても宜しいでしょうか?」

「ああ、構わん。ただし、作業中は不仲が起きぬようにな。」

「ははっ。」

 

そう言われて、ふと思い出すオズワルト。

 

(風の噂に聞いた事がある。アースガルズ公爵の令嬢が、平民を集めて一団を作ったとか。)

 

近衛騎士達と一緒に作業している若者らが、きっとそうなのだろう。

固唾を呑んで自分に言い聞かせるように思索するオズワルト。

 

(土深く埋まっているのに、いとも簡単に引っこ抜くとは。それに場を仕切っているのは彼ら……近衛騎士達もそれに嫌悪なく従っている。どうやらただの平民、ではないようだ。そしてこの空間そのもの。既に異界だ!!何だここは!?かのアースガルズ公爵の令嬢の姿が見えんが、それでなくともここはもう普通とは言えん。私に出来る事は、トラブルを生まないように、協力するよう部下に指示するぐらいか。)

 

騎士のメンツも大事だろうが、やっているのは『収穫』。

そんな体を取る以上、この異界の中でトラブルを起こさないよう気を付けるオズワルト卿であった。

 

そして人間の捕虜扱いではなく、根野菜として扱われるギャラルホルンの騎士達は、初めこそ威勢が良かったものの、途中から全く抗えない暴力とその場から逃げたい雰囲気に呑まれ、そのほとんどの者達の心は、最後は死んだ。

中には猛将と呼ばれる者もいたが、ランドマン・ロディによって引っこ抜かれ、三日月とOHANASHI(独りトーク)した後には商品価値ががなくなってしまう。

なら抵抗するより、素直に引っこ抜かれた方が痛くならず、生きていられる。

彼らは生き残るためプライドを捨て、根野菜に成りきっていた。

 

ちなみに、何故そんな事になったかというと、レクシーズの言葉の後、オルガより……

 

「勅命の件は了解しましたですが、陛下。俺達は心ッ……底、あいつらが嫌いです。なので、これから『人間扱いはしません、野菜として扱います。』具体的には『根野菜』だと。」

 

と、言われ、一考、二考、三考……

 

「ふむ、名案だ。私もそうしよう。」

 

とてもいい笑顔で了承された。

捕虜への過度の暴行は悪行であるが、収穫(救助)時の静止対応は正当防衛である。

そして傷付けば、商品価値(交渉時の身代金)は落ちるので、なるべく傷付けず、かつ速やかに『収穫』するのだ。

ただし愛でるような対応はせず、塩対応。

その時のギャラルホルンの心証は一切無視、ないものとした。

だって埋まっているのは『根野菜』だもの。

 

それだけである。

 

 

 

◯マギウス・マシン、考察

 

「……改めて見ても何ですか、これは。」

「むぅ、何とも形容し難いねぇ……」

 

『収穫』終了後、V・Cの希望もあって指定された王城の訓練場の1つに黒鉄の幻獣(マギウス・マシン)達は集い、その身を休めていた。

そこに足を運んだのがミニ・ガイガー憑依中のカインとウサリンmarkⅡに憑依中のアベル、そしてカルディナお抱えの技術者達である。

ちなみにカイン、アベルはフード付きローブを纏って、仮面で偽装している。

 

「あの異常変化したガオーマシンを笑ってやろうと来ましたが、低文明の科学で出来た乗り物が獣を模倣するとは……どうしてこうなったのです?不死鳥は評価しますが。」

「三重連太陽系にも幻獣の概念はある。それらと完全に同一ではないとはいえ、このデザイン……実に素晴らしい。海獣がいないのは少々残念だが。」

 

「「「………」」」

 

「私は外部機構には興味ありません。きっと急激に変化させた影響で粗悪なのは容易に想像出来ます。内部のエネルギー回路は見所がありそうです。何より外見が───」

「こんなものを見せられてはまず調べない訳にはいくまい。エネルギー回路周りより、外部機構かな。急激な変化で変わったとはいえ、元の基礎は残っている、何よりこの外見は───」

 

「「──ジェネシックに似ているところが、実に」」

 

「──憎たらしい、ジェネシックを真似るとはロマンの欠片もないじゃないですか。」

「──解っているね、ジェネシックの所以たる『666』を真似てくれるとは、ロマンがあるね。」

 

「「「………」」」

 

「ではカイン、私は内部を。」

「私は外側だな。」

 

一連の会話を傍観していた技術者達は思う。

 

(((……この2人、実は仲良いだろ?)))

 

仲が悪いようで、思考は似ており、連携は非常にいい2人であった。

 

「しかしV・Cですか……」

「ん?君も知っているのかい、V・Cの事を」

「知らない筈はないでしょう、紫の星謹製、最大級のマルチナビゲーター・サポートシステム……特に『病院』では人間のスタッフよりも優秀なのですから。」

「……そうだね、ちなみに何を──」

「──秘密です。」

「……そうだね、失礼した。」

(……さすがに生理痛で、とは言えません。)

「私は……うん、胆石の手術で世話になったかな。」

「……そういえばピルナスは虫垂炎でこの世の終わりみたいな事を怨嗟のようにブツクサ言ってた事がありましたね。」

 

三重連太陽系の住人で大病を患った者であれば、必ず世話にはなる、それが紫の星。

それには遊星主も例外ではない。

そんな雑談をしつつ、手はそれ以上に動いている。

 

「まあ、この話はもう良いでしょう。しかし、これは評価するなら……」

「うむ、これは評価するとなると……」

 

「「───失敗」」

 

「……ですね。」

「……だね。」

 

一致した実に厳しい評価。

だが、後にその理由を聞いた職人達は、大いに納得したという。

 

 

 

 

 

◯捕虜の話。

 

調書を取っていると、時に捕虜達の生の声が聞ける。

そしその声は多種多様で……

 

「わ、私は、ギャラルホルンの騎士で一番偉いんだ!こんな、こんな扱いを受けるなどと……!」

 

「ふふん、私は徳を高く積んでいる。私を開放すると善きことがある。早く解放したま──関係ない??ふざけるな!私は──!」

 

「我らが神が黙っているとでも!?貴様らは神罰を受けるがよい!」

 

「此度の遠征は神のお告げ……貴殿らはそれを妨げた。目的??決まっておろう、王子が聖女を迎え入れるための……だが、聖女なんていなかった、いたのは悪魔だったとは……」

 

「……だから言ったんだ、この今回の進行は無理があると。ええ??だってあの王子ですよ──あ、私が言ったという事は伏せてもらえるなら……」

 

「いきなり上が出陣の準備をしろって、せっついて来たんですよ。ケンカ売り(戦争し)に??冗談じゃない、アンタ方の国にはカルディナ・ヴァン・アースガルズっていう最終兵器がいるじゃないですか?知ってんですよ──」

 

「有名な話ですよ、御存知ない?聖女カルディナの武勇は……うん、ですよね。そうそう。」

 

「教会側はけっこう必死だったかな?もう何かせっつかれているみたいで……」

 

「私は根野菜、私は根野菜、私は根野菜、私は根野菜私は根野菜……」

 

「……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……野菜扱いは、野菜扱いは嫌、女扱いされないとか私って魅力ない??乱暴されないとか終わってる……え?あ、違う??すいません、今回の進軍指示した上……枢機卿の名前ですか?それなら喜んで答えます───」

 

「───カルディナーー!!私だーーー!!君からも言ってくれーーー!!この私がこの様な扱いを受けて良い筈がない、私はギャラルホルンの王子だ!!君を迎えに来たんだ!!こんな男に誑かされるような君じゃないはずだ!!喜んでほしい、こんな国とオサラバして、12番目の妃に迎えよう!!私はあの悪魔を倒した英雄なのだ───え?あの悪魔にカルディナが??悪魔ではなく、最高機密??そして私がカルディナを死に追いやった……嘘だァァァーーーー!!!騙されんぞ!!お前達が……お前がカルディナを───!!、」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「───以上です。」

「……アシュレー、随分煽ったな。」

「何の事でしょう??」

(……誰の性格に似たやら。)

 

それが盛大なブーメランとは自覚しないレクシーズであった。

 

 

 

 

◯お嬢様、目覚める。

 

 

「……ん。」

 

深い水の底から浮き上がるような感覚で、微睡みから覚めたカルディナ。

まず目にしたのは白い天井───

 

(……あ、知ってる天井。)

 

白ながらアカンサス柄の浮き彫り彫刻が刻まれた、カルディナにとっては実は見慣れた天井。

そこからここは王都にある王城だとすぐに推察出来た。

 

(あ~、王城か。確か最後の記憶が浄解した後、急に意識が飛んだまで……という事はその後担ぎ込まれたみたいね、今はどんな状況かしら。まあ、私を無理矢理起こさなかったところから、差し迫った状況にはなっていないってところかしら。)

 

周りが静かなところから、カルディナはそう推察する。

ただし、カルディナ自身はまだぼんやりしているところから、まだ本調子ではない。

 

(しかし天井って不思議ね。感覚を変えると自分が宙に浮いて巨大な壁面と向かい合ってるみたい。そいうえば天井と天丼は点違いで違う意味ね。たまに天井でゲシュタルト崩壊を起こして天丼を見ると訳が解らない感覚になるわ。天井天井天丼天井天井天井天井天丼天井天井天井天丼天井天井……あ~、天丼はいくつかしら?)

 

極度の疲労困憊でよく解らない思考を巡らすお嬢様。

極めつけに「天丼食べたいわ~、甘辛タレで海老天、イカ天……ナスもいいわね~」と、それは本当にこの世界にあるのか??と思ってしまう。

お米はしっかり銀シャリがあるので、あとは海産物の心配だ。

しかし、それはお嬢様の『収納魔法』にあるので問題はない。

ちなみに『天』と『无』は似ている、試しにやってみよう。

 

天丼天井天井天井天井天井天井天井天井无井天井天井天井天井天丼天井天井天井无井天井天井天井天井无丼天井天井天井天井无丼天井天井天井天井天井天井无丼天井……

 

「うん、ゲシュタルト崩壊まったなしね。ちなみに読み方は『うーどん』、『うーじょう』かしら?」

 

『无』の読み方に直ぐにピンと来た人は……貴様、30代後半か、40代だな!?(Di〇様風に)

 

「ついでに『井』と『丼』もゲシュタルト崩壊してくるわ~。それじゃあ次は……」

「……何を仰っているのですか?」

 

声のする方に視線を移すと、そこにはよく知る赤髪の女性が布団から顔を出している。

 

「ゲシュタルト崩壊に関する新しい考察だけど……いつからそこに?」

「お嬢様が目を覚まされる数刻前には。」

「……なぁに?寂しかったの?」

「寂しいより悲しかったです、死にそうな貴女の姿を見て。そして今は嬉しいです、貴女の傍に居られて。」

「……私もよ。どうにか生きてる。辛い時、貴女の顔が浮かんだ……だから何とか踏ん張れた。」

「でもやっぱり寂しいです。ホッとしたら急に。特に身体が。」

「私もホッとしたら急に寂しくなったわ、特に身体が。」

「幸いにも私、裸です。」

「私も治療目的でそのままなのか、私も、ほとんど裸ね。」

「じゃあしましょうか、第1ラウンド。」

「そうね、しましょうか、第1ラウンド。」

「──待てい。」

「「……」」

 

振り向けば、いたのはダークエルフの女史、銀細工師のイザリアだった。

腕組みをして遠慮ない怪訝な顔で2人を見下ろしている。

 

「あ、いたのね、イザリアさん。」

「いたのですね、イザリアさん。」

「……いたのね、じゃないわよ。何やってるの。」

「「第一ラウンド。」」

「……盛り付いた雌じゃないんだから。」

「「絶賛そうですが、何か?」」

 

言い訳すらしない、あまりにも潔い態度で、布団から仲良く顔のみを出している光景に、イザリアさんは頭を抱え、最早何も言えない。

 

「……ったく、様子を見に行って遅いの気にして見に来たら艶場たぁ……こうなると歯止めが利かないんだから。」

「生理現象なので仕方ないですわ。ランナーズハイみたいに高ぶって仕方ありません。ちなみにあれから日時はどれくらい経過しましたか?」

「概ね1日半ね。」

 

それからイザリアより現状の様子が説明される。

カルディナがゾンダーを浄化し、気を失ってから既に丸1日以上が経過している。

その間、ギャラルホルン教王国の騎士、兵士、そして筆頭格を鉄華団達が中心となり、軒並み捕縛する事に成功。

その後、被害に遭った区画の復興作業が現在進行中であり、それに鉄華団と、ランドマン・ロディが充てられている。

また、マギウス・ガオガイガーは自力でフュージョン・アウトし、V・Cの意向もあり、マギウス・マシンも捕縛作業に従事。現在は王城の訓練場の1つを借り受け、カインとアベルを中心としたガオガイガー製造に関わった技術者達がV・Cの協力の下、マギウス・マシンの解析を行っているという。

 

「……なるほど。V・C、意外と協力的ね。」

「お嬢様であれば~、ってアレはそう言っていたけど、問題なかった?」

「いいえ。私も一段落すれば解析をお願いしていました。それにカイン様とアベル様がいるのであれば、問題ないでしょう。何せ、あのガオガイガーは半ば行き当たりばったりで創った急造品。設計は最上級、と自負しますが、欠陥は目に見えています。やらなきゃ不味かったから止む無くしましたけど……」

「あれが、急造品……何か、そのやらなきゃ不味い経緯が、私らの目の前でコックピットを一突きされた以外に、何かあるようでヤな予感しかしないんだけど……それにあのV・Cってのは、結局何??」

「ざっくり説明すると、以前ギャレオンの三連魔力転換炉に搭載した、紫色の触媒結晶です。それが実はGストーンと同じ、無限情報サーキットだったみたいで……」

「うわぁ……噓でしょ??」

「まあ、あの様に話せるまでの経緯が……聞きます?」

「いいわ。後は陛下やクリストファー様に頭を抱えてもらうから。」

 

イザリアの中では既に確定済みのように、完全に秘匿事項になりそうな事案であった。

 

「ああそれと……お嬢、クリストファー様から伝言よ。『体調が戻り次第、陛下に謁見せよ』って。謁見の日時はこちらに合わせるって言ってたわ。今は午前中だけど……その様子だと謁見は午後になりそうね。」

「そうですか、判りました。」

「……で、少しは治まった?」

「全く。むしろ高ぶっています。話の途中でも火照りが治まらず、むしろ既に始められてしまっているので……」

「あ、どうも。」

「なんだい、あんたそこにいたのね……わーった!私も混ざるから30分で終わらせるよ!

「「喜んで。」」

 

そして第一ラウンドが始まる前の、その部屋の前では……

 

「………」

「あ……あの、アシュレー殿下??」

「ああ、いや済まない。申し訳ないけど、彼女らが出てくるまではこの部屋、決して開けないであげてね。」

「え……??あ、はい。」

「じゃあ、僕はこれで失礼するよ───ああ、後。この部屋で起きた事は……口外しちゃ駄目だよ?絶対に、絶対に、ね?

「は、はい。」

 

カルディナの様子を見に来たアシュレーだったが、部屋には入らず、逆に部屋の扉の前で聞き耳を立てるのみ。

そして部屋の前で待機する14歳のなりたての世話係の侍女に言いつけて独り戻るのであった。

初めは何のことだか解らない侍女であったが、部屋の中から聞こえる、とある『声』により、その疑問は払拭されるが……

 

(エエ!?ナンデ!?ってこれって私、ずっとここにいなきゃダメ!?え、いやでも……というかアシュレー陛下、コレは()()なんですか!?)

 

ちなみにこの部屋は防音加工された部屋で、大概の声、音は聞こえない仕様である。

あえて聞くなら、扉に対して聞き耳を立てなければならない。それでも辛うじて大声が僅かに聞こえる程度なのだ。聞こうものなら絶対に目立つ。

唯一目立たなく聞くなら扉に背を付け、直立不動!

そして彼女は直感した。

 

(……あ、コレ30分じゃ終わらないやつだ。)

 

そして彼女の直感通り、第一ラウンドでは終わらずに第二ラウンドまでかかり、終わったのは1時間後であった。

そうして予想こそ当たったものの、終わる1時間まで、侍女は悶々としてしまい、彼女の新たな世界の扉が開け放たれようとしていたとか。

 

ちなみに「御二人の声が、とても艶やかに……」らしい。

 

どうやら勝てなかったようだ。

ダークエロフ、つおい。

 

 

《NEXT》

 






感想欄で他の作品コラボを希望する声がちらほらあります。
それに私も悪ノリで「書くよー」的に応えてますが、今後ストーリーの都合含めて、タグ以外で下記の作品のコラボを予定しています。
※十中八九、ギャグ路線か技術開発補足路線で出ます。100%シリアスはありません。

◯クロス・アンジュ
◯コード・ギアス(劇場版)
◯装甲騎兵ボトムス
◯冥王計画ゼオライマー
◯機神咆哮デモンベイン
◯オーラバトラー ダンバイン
◯ゲッターロボ・サーガ
◯スーパーロボット大戦30

また、過去に感想欄でアイディアを出してくれた方には、メールで名前を出して良いか確認を取ることもあります。
(◯◯さんの希望より、等……)

ご希望がありましたら活動報告、メールで。
また、活動報告始めます(気が向いたら更新で)。


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機密文章ー『Cファイル』第15項962綴、963綴ー

ようやく投稿です。

といっても、本編ではなく次の話に使う振り返りの知識をまとめた文章です。


8月は始めより、ノロウィルスが子供から始まり家族全員が感染という大惨事。
その後、熱中日夜で体力的にダウン。
現在は嫁の職場がコロナウイルスに感染して非常時(現在進行形)で、筆が進まないの話ではない現状。
家族一同感染はしてませんが、皆さんもお気をつけてください。


 

──《 警告 》──

 

当報告書は、対象『C』に関する報告書のファイルです。第一級国家機密事項に該当します。

 

閲覧権限は陛下にあり、陛下の許可を頂いた後、指定された文官5名の監視の下、指定の場所にて閲覧してください。

 

尚、文章の書写、外部への持ち出しを禁止等、禁止項を破った場合、問答無用で死罪とします。

 

閲覧後は指定の場所に戻し、指定された積層封印術式を10分以内に掛け直して下さい。

 

 

 


 

 

 

第15項962綴

◯EZX-003 ゾンダー出現時報告

 

・某日の午前中、アースガルズ家所有の土地内の『お嬢様の工房(アトリエ)』にて、カルディナ・ヴァン・アースガルズ侯爵令嬢主導により開発中の『GGG』、正式名:ガオガイガー※が完成。試験起動を済ませた直後、巡回中の鉄鋼桜華試験団の巡回班より目視の発見によりゾンダー発生の一報が入る。(後に当ゾンダーをEZX-003と呼称)報告を受けてすぐに、カルディナ・ヴァン・アースガルズ公爵令嬢がガオーマシン、及びギャレオン※を無断で発進、アルス村まで急行。

 

※ガオガイガー、ギャレオン、ガオーマシンの項については別紙参照

 

・ゾンダー発生の件を通信機にて王都のレクシーズ陛下に報告直後、ゾンダー出現、(後にEZX-004と呼称)が王都城壁内に発生。王都の騎士団で急遽対応するも、すぐに状況は劣勢。王都内も被害が甚大となる。その際に警備兵の大半を招集しているため、警備態勢に大きな穴が開く。

 

・アレス村にてガオーマシン群とギャレオンが接敵、交戦するも即座の再生により有効打はなし。ティ・ガー元将軍の遠距離通信により、ファイナル・フュージョンを承認、ガオガイガーが顕現。再度交戦し、ヘルアンドヘブンにて核を摘出。鉄鋼桜華試験団ムルにより浄解を実施、浄解を成功させる。

 

・ヘルアンドヘブン使用直後、マシントラブル(魔術回路、及びエネルギー回路が主)が発生。搭乗者のカルディナにも深刻なダメージが発生(血管破裂、筋組織断裂、意識不明等)。クスト、ムル、ビスケット3名による回復魔法を実施。10分間の使用後、効果が出ないと判断された直後、異常な回復を発現、回復する。その際に当人が着ていたIDメイルの軟鉄素材が全て消失。意識回復後、ガオーマシンの機能回復を待ちつつ、途中合流した牽引車にて王都へ向かう。

 

※ゾンダーの詳しい特徴は別途ファイル『EZX-Numbers』EZX-003の項を閲覧されたし。

 

 

 

 

第15項963綴

◯EZX-004 ゾンダー出現時報告

 

・王都にてEZX-004の破壊活動、抑制出来ず。騎士団の損耗が6割を超える。同時に有効打は与えられず。

 

・牽引車、王都に到着。ガイガーによる奇襲、突貫行為にて王都城壁内で破壊活動を行うゾンダーを城壁外、郊外のヴァルキサス渓谷跡近辺まで引き剥がす。

 

・EZX-004との交戦中、ギャラルホルン帝国の一個師団が交戦区域に到着。出現個所より、最短距離のルートを進軍したと考慮。また、手引きには王国内のカイエル教関係者の兵士が複数関与。結果的に警備体制の穴を突く形で進軍を許す。

 

・会敵と同時にギャラルホルン側ゴーレム部隊より法撃を受ける。その際に場にいた鉄鋼桜華試験団とレクシーズ殿下が被害。また、EZX-004より攻撃を受け、ガオーマシン全機負傷、中破以上の損害。ガイガーも被害を受け、カイン、アベルの両名の援護を受けるもコックピットを貫かれ、ガイガー負傷。パイロットの生死はこの時点では不明。

 

・ガイガー沈黙後、パイロット含め、謎の復活を果たす。同時にガオーマシンも謎の術式を受けて、別の何かに変化。一角狼(ガルム)型、一角翼馬(アリコーン)型、大地竜(アースドラゴン)型、黒不死鳥(フェニックス)型と推定。陛下の証言より『マギウス・マシン』と総称する。

 

・牽引車に移ったティ・ガー元将軍へ再度ガイガーよりファイナル・フュージョン要請あり、承認。ファイナル・フュージョン敢行、成功するも、設計にないガオガイガーが顕現する。陛下の証言より、マギウス・ガオガイガーと総称。

 

・再度ゾンダーと交戦。途中ギャラルホルン側より法撃による妨害があったものの損傷は皆無。ガオガイガーからの迎撃でギャラルホルン側の過半数に甚大な損害。ゾンダーに対しても終始圧倒的な状況(当初より問題視されていたエネルギー問題が解消されたと推定)。

 

・核摘出のため、ヘルアンドヘヴン決行。その際に爆発による深刻な被害が懸念されるとカイン、アベル両名より申告があるも、摘出後の測定不能なエネルギー放出により、爆発ごと滅却、同時にギャラルホルン一個師団がヘルアンドヘヴンの余波を受けて崩壊、全滅する。

 

・ガオガイガーより降りたカルディナ・ヴァン・アースガルズが、浄解の能力を発現、ゾンダー核の浄解に成功する。その後意識を失うもアシュレー殿下の手により、無事を確認。

 

・無人のガオガイガーより、無限情報サーキット付AI───V・Cから接触あり。ガオガイガーの調査協力、捕虜の捕縛協力と引き換えに修理と安全区域への保護の要求あり、これを受諾する。

 

・鉄鋼桜華試験団、近衛騎士団、第8騎士団により捕虜の捕縛、移送を完了。関与した幹部は全員捕縛、末端兵が数名逃走するも近隣で負傷した数名を捕縛、移送する。以後、尋問や作業に移行する───

 

 

 


 

 

 

《 EZX-004戦時、追加事項 》

 

カルディナ・ヴァン・アースガルズ公爵令嬢より、EZX-004戦時における、ガオガイガーの異変について聴取した内容。主にガオガイガー沈黙から再起動までの僅かな間の内容となる。

 

 

・予兆となる謎の精神干渉はEZX-003戦の負傷時よりあり。EZX-004への突貫の際に再度受け、攻撃の手を緩めてしまい、カウンターをうける。(攻撃の瞬間、何かの攻撃が当たった気配はあったが、それによる影響は皆無であった)

 

・EZX-004の攻撃によりコックピットを大破、同時に意識不明となるが、当人が気付いた時には一面全てが『暁の空間』にいた。

 

・推定:この時は精神体(魂)のみ『暁の空間(後述にオレンジサイト)』へ連れて行かれた。その時に原因不明の空間停止現象が発生。

 

・同時間に獅子王一家(麗雄、絆、凱)、無限情報サーキット『V・C』と出会い、友好的な交流を図る。その後、情報交換を行う。(カルディナの情報は省略)

 

・獅子王一家より、ソール11遊星主と三重連太陽系での戦いの後の出来事が語られる。ソール11遊星主殲滅後、滅びゆく宇宙を脱出するため、GGGはジェネシック・ガオガイガーに搭載されていたガジェットツール『ギャレオリア・ロード』を使用、次元転移を実施。脱出するも、その先は宇宙の卵、または宇宙の墓場と言われる『オレンジサイト』。空間内にて勇者ロボ、及び負傷者の急速回復が発現。

 

・同空間内にてザ・パワーにより精神体となった獅子王夫妻が出現。ザ・パワー=オレンジサイト※の詳細、危険性、次元転移空間路による帰還先への000(トリプルゼロ)※の流出の説明を受ける。

 

※オレンジサイト、及び000(トリプルゼロ)の詳細な内容は別紙参照。

 

・GGGによるオレンジサイトからの脱出、及び000(トリプルゼロ)流出の阻止を敢行するも、000(トリプルゼロ)の侵食、及び『滅びの倫理書き換え』の影響を受け、勇者ロボ達の妨害を受ける。それによりオレンジサイトからの脱出を断念。キングジェイダーの最後の援護を受け、ギャレオリア。ロードによる次元の歪みを閉じるも、獅子王凱以外の000(トリプルゼロ)侵食を許す結果となる。その後、ジェネシックガオガイガー以外は目視による追跡は不可能。侵食されたジェネシックガオガイガーは次元転移空間の構成のため、太陽系第6惑星『木星』を圧縮……までの説明を受ける。(説明中、空間は静止中)

 

・次に無限情報サーキット『V・C』からの説明。自身を三重連太陽系11番目の星『紫の星』所属と証言。獅子王凱からの証言もあり、当人はゾンダーではない事が証明され、『紫の星』で機界昇華が始まる寸前に脱出させられた、とあり。当人は『精神浄化システム』の一部であり、正式名称は『サポート&ナビゲーション&コントロールシステム搭載AI付与型無限情報サーキット:Vクォーツ』である。他、『超適合性細密機械群体:|AZ-M』、『マイナス思念エネルギー転換型無限情報サーキット:Pジスト』が存在、ゾンダーはAZ-M、Pジストが元になった存在であると証言。(ただし、Zマスターとの関連は触れず、証言なし。)

 

・『V・C』の目的はカルディナ・ヴァン・アースガルズを連れ戻す事にあり、(この時のV・Cは電位構成体であり、実体ではない。)

 

・そも、カルディナ・ヴァン・アースガルズは5歳の頃、ゾンダーを目撃した際に事故により重篤な障害を有するが、その際に偶然所持していたV・クォーツと、偶然流布されていた軟鉄=AZ-Mにより、身体状態を回復、その際にサイボーグと同位の身体構造と化す。以後、V・Cにより身体、及び『元始情報集積体(アカシックレコード)』を無意識下で管理される。(無意識下での『元始情報集積体(アカシックレコード)』管理、及び『魔術演算領域(マギウス・サーキット)』との因果関係は別紙参照)

 

・また、Gストーン精製の影響を受け、体内の触媒結晶がGストーンに変化したとの事。そしてゾンダー戦での負傷により、胸のGストーンが砕け、エヴォリュダー(擬き)化した事も証言される。(この時点で獅子王凱と半ば同性質の存在かは不明だが、近しい状態になっている可能性は非常に高い。)

 

・また、ガオガイガーのエネルギーブロウはカルディナが体内に有していたGストーンが原因と断定。

 

・『元始情報集積体(アカシックレコード)』は出産直前に飛来した000(トリプルゼロ)に侵食された魂(電界情報体)が有し、迎撃した母・ケセリナと祖母・キトリーがその魂を弱らせ、カルディナはそれを逆に捕食した形となり、結果『元始情報集積体(アカシックレコード)』を有した。また000(トリプルゼロ)汚染の影響は祖母のキトリー・キルヤリンタが封印を施す事で13歳までは保持可能、以後留学の際に再度封印処置を行う。

 

・カルディナの有した様々な因子が問題として浮上。

 

・魔法による事象介入を可能とする優秀な才能、AZ-Mをベースとしたエヴォリュダー(擬き)の身体は万能の電界操作を可能とし、エルダーエルフ──ベターマンの因子は高度な環境耐性、適応能力を持つ。V・クォーツは天文学的な事案を高度に同時処理する。『元始情報集積体(アカシックレコード)』はあらゆる事柄、事象の終始を示す情報媒体。そこに『000(トリプルゼロ)』の無限を超えた超エネルギーが合わさる事で、カルディナはあらゆる物質、現象、事象に対する絶対的操作を可能とする存在と示唆される。

 

・転じて、それらの意味するところは、あらゆる存在の覇界。一つの宇宙が消滅するだけではなく、『元始情報集積体(アカシックレコード)』が示す世界を覇界し尽くす事が出来、ジェネシック・ガオガイガーがその最善の器とされる。

 

・それに対して、カルディナ当人は強く否定、錯乱。また、V・Cより獅子王凱も000(トリプルゼロ)に汚染されている事が明かされる。しかし獅子王凱は、汚染進行具合を理由に「まだ諦めるには早い」と明言。カルディナもその意見に同意。

 

・その際の強い意識の高まり(当人によると『勇気ある誓い』)により、身体中に拡散したGストーンとAZ-M、獅子王凱の生体情報をGストーン・リンクにより入手、カルディナは超進化人類:エヴォリュダー※へと進化した。しかし、現状を打開するには足りないと獅子王一家に申告。

 

カルディナより、打開策として自身の、EZX-004戦で砕かれた胸部内のGストーンをJジュエルに精製し、浄解能力の底上げする事を提案。V・Cと獅子王一家の助力を得て、精製に成功。同時にカルディナが生後より蓄積してきた様々な人々の生体情報を元に、そしてクスト、ムル両名の生体情報、浄解能力の情報を元に《b》超進化革命人類:レヴォリュダー※へと進化する。《/b》

 

※レヴォリュダーの項は別紙参照

 

・自身の浄解能力を以て000(トリプルゼロ)を浄解、そして獅子王凱の000(トリプルゼロ)をも浄解する。同時に、カルディナのレヴォリュダー化に伴い、獅子王凱も超進化新人類:ネオ・エヴォリュダー※と進化する。

 

※超進化新人類:ネオ・エヴォリュダーの項ついては別紙参照

 

・自身の浄解能力を用いて、オレンジサイト内の000(トリプルゼロ)を浄解、安全圏を形成。そして獅子王凱000(トリプルゼロ)を浄解。同時にその残りと思われる物質がカルディナ、凱それぞれの心臓の上にザ・パワーの集合体『Zオーブ』として宿る。どちらも完全制御が可能と評価。

 

・浄解の反作用でオレンジサイトの静止現象が瓦解。その後、カルディナV・Cは元の軌跡をたどり、こちらの世界に戻る。

 

・実体に戻ったカルディナはV・Cと共に自身の身体をアップデート、及び最適化。同時にAZ-Mによる急速リペアを敢行。同時に破損したガオーマシンを量子増幅円環式(クァンタム・ブースター)にてマギウス・マシンへと変化。

 

・上記必要性の理由として「現状のガオガイガーではこれから待ち受ける困難に勝てる性能ではない。ならば、自身の能力を最大限に発揮できる形態に変異させて戦うしか道がない」と獅子王麗雄博士に明言している。魔法科学に不慣れな点がある博士だったが、一回のみであれば問題なく稼動可能な設計に手直す。(当人曰く「それが現時点での限界、ただし道のり途中に研究は進める」との事)。起動後はカルディナとV・Cとの直接制御(フルコントロール)にて稼動。同時に直接制御(フルコントロール)下での問題も列挙。別紙[XR-P-06]を参照)

 

・戦闘後の簡易調査でアベル氏曰く「GストーンとJジュエルの同時稼動などふざけている、あらゆる要素が絡み合って、これはガオガイガーの皮を被ったキングジェイダー……それ以上の何か、と評価しましょう。ただしそれ以外は落第ですが」と評価。※

 

※カイン氏、アベル氏によるマギウス・ガオガイガーの稼動評価資料は別紙[XR-P-01~07]にて参照。同時にマギウス・ガオガイガーの改良案計画書を別紙添付。

 

 

 

────以降、空白

 

 

 

 



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Number.17 ~創造は、失敗を糧に~(1)

お待たせしました。
ようやく復活しました。
増しにも増して文字数が増えてしまいましたのでいつも通り長文です。
今回の話は前話を参考に読んでください。

あと今回は新キャラと久々のキャラ達が出てきます。


──『あの日』より2日が経過した夕方、めぼしい貴族の代表格達が王城に召集された。

 

『あの日』───それはアルドレイア王国にとって前代未聞の日。

 

隣国、ギャラルホルン教皇国突然の襲撃──

 

後に『EZX』と呼称、ナンバリングされる存在──未知の怪物(ゾンダー)による王都襲撃、そして蹂躙劇──

 

そして同じく出現した未知の巨人(ガオガイガー)による、蹂躙劇の打破──

 

だが、瞬く間に起きた事象のその全容を知る者は少ない。

そもそも何が起きたか把握すら出来る者も断片的にしかいなかった。

 

「事が起きてもう2日。ようやく我々に説明がなされる、と招集に応じたが……」

「我等が苦労して赴いた意味はいったい……」

 

現在は復興作業へと移る王都の街並みに歯痒い思いと苛立ちを隠せずに城内の回廊を行く貴族の集団が一つ。

国王より領地を授かった領主貴族達であり、特にその中でもよくいる右翼派集団(愚か者)ではあるが……

 

王都襲撃に際し、王を助け武功を挙げようとしたが、この貴族達の打算は軒並み砕け散った。

伝令を受け、当初魔獣の襲撃と考えていた彼等が馳せ参じた頃には全てが終わり、ギャラルホルンの兵士達の捕縛作業すら終了して、復興作業へとシフトしていた。

地獄絵図の如き凄惨な被害をもたらした出来事であり、王も負傷したと聞いた時は内心歓喜した者もいたのだが、来てみれば事態は全て終わっていた。

それだけではなく、徴兵した兵士達も軒並み武功を挙げることなく、復興作業へと充てられ、現・王国の(ぬるいやり方と思っている)手助けをしている事に、古くから魔獣を相手に武勲で名を馳せ、成り上がったこの貴族派閥──『武闘派』と呼ばれる貴族達は、苛立ちを隠せないでいた。

魔獣討伐を生業とする者に、現状の産業や生産に熱を入れている方針には、『武闘派』の貴族達はついていけない者がほとんどだった。

 

(あの王が負傷し失脚でもすれば、我等が代頭出来る隙が出来るが……)

 

その中の『武闘派』の1人であり、若手随一の実力派、No.3のエイゼルク・S・ゾイバッハ子爵は密かに到来したチャンスが潰れた事に、舌打ちしそうなのを我慢する。

 

「参戦に間に合ったのはオズワルト卿だけだったか。」

「そうですかな?オズワルト卿。」

「……ええ。」

「??」

 

質問に対し言葉を濁すように答えるのは『武闘派』の1人、デュクシー・A・オズワルト男爵。

初老に差し掛かる彼のみが『武闘派』の中でこの中で早く現場に駆けつけているが……

 

「……申し訳ないが、私も詳しくは解らない。行った時には既に戦いは終わっていたのだ。」

「何と。それ程早くとは……では誰も知らぬと?」

「私めも場には行きましたが……箝口令でも敷いているような雰囲気でしてな、誰も余計に口を開こうとはせんのだ。」

「だが、箝口令など実際にはない。いったい何だと───!」

───騒ぐな。

「「「───!?」」」

 

先頭を歩く恰幅の良い、金髪をオールバックにする(ダンディズム)が場を制す。

その男の名は、バランド・B・ランドグリーズ公爵。

『武闘派』No.1の強者であり、アルドレイア王国『四公爵』が1人。成金まがいの服装ではなく、即戦相応の武人の衣を纏い、その地位に相応しい威圧感を放っている。

 

「箝口令があろうが、関係が無かろう。我等が成すべき事は変わり無い。そうだろう、オズワルト卿。」

「……ええ。しかし、これだけは言えましょう。我等が知らない、予想を超えた何かが起きたと。」

「ああ。あの日、王都から天に伸びた『光の柱』と同じくな。」

 

ランドグリーズ公爵が窓の外───兵士の訓練場を見て答えた。

そこには自分達の生成出来るゴーレムの倍以上はある大きさの、鋼で出来た巨大な幻獣達が在った。

その中でも一際目立つ、白いカラーリングのライオン……

同じくオズワルト男爵が、その光景を見て思い返す。

 

(あの場にいたのが私だけで良かったと思う。他の『武闘派』の者達がいれば憤慨ものだ。私が見た()()()()……そしてあの鋼の魔獣……とでも言うべき存在。私には───わからん!)

 

御年、49歳。

『武闘派』ながら常識人ではあるが、想像を超えた存在には思考が追い付かないオズワルト。

そしてもう1人……

 

(……やれやれ。とんでもないモノを造ってしまったようだな、カルディナ嬢。)

 

遠くにある黒い鋼の幻獣(マギウス・マシン)を一瞥し、ニヤリと笑うランドグリーズ公爵。

その顔は、何か企んでいる以上に、好奇に満ちた目をしていた。

 

そして、この後彼等は知る事となる。

 

未曾有の危機と、自分達の想像と実力を凌駕する存在達を、絶対的な絶望と同じく。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

それより前日、カルディナが目を覚ました日に遡る。

 

その日の朝日が見え始めた頃、南の遠方の空より()()()()()()()()()()()が2つ、在った。

 

《───そちらは問題ありませんか?》

 

重力の(しがらみ)を超え、背部と腰部、更には両肩に火を吹く大筒(マギウスジェットスラスタ)を携え、音速を超えて蒼穹を自由に駆けるのは、背面武装(バックウエポン)に6本の執月之手(ラーフフィスト)のそれぞれに凶悪な携行装備を携える幻晶騎士(シルエットナイト)

駆体は20m超えで、鬼面が歯を剥き出しにして怒り形相を浮かべた凶悪な面構えの、蒼い鎧武者を象った鋼の巨人──名を『イカルガ』。

フレメヴィーラ王国、銀凰騎士団が団長、エルネスティ・エチェバルリア専用機であり、『地上最強の戦闘能力を持つ、史上最高の欠陥機』(褒め言葉)を欲しいままにする旗機。

腹部に中型炉『女皇之冠(クイーンズコロネット)』・背部に大型炉『皇之心臓(ベヘモスハート)』を動力源としているが、この世界での技術革新により、原作より規格も出力も大型化しているためか、体型は非常にスラリとしている。

だが面構えはガオガイガーに負けじと凶悪の一言。

 

そのイカルガの後続を往くのは──

 

《い、今のところ大丈夫だけどよ……!》

《──ツェンちゃん、空を飛べー♪》

 

アーキッド・オルター(上半身担当)、アルデルート・オルター(下半身担当)の兄妹が搭乗する人馬型幻晶騎士(シルエットナイト)、ツェンドリンブル。

 

ただし、絶賛空を飛んでいる。

 

どうしてかというと、胴体に両側一基ずつ、さらには追加装備に2連魔力転換炉(ツイン・エーテルリアクタ)直結の飛行ユニット『天馬飛行翼(ペガサスライダー)』に左右2基ずつ装備した魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)で無理矢理、空力飛行しているからだ。

その翼を広げ、飛ぶ姿は空飛ぶ人馬そのもの。

 

ツェンドリンブル改め、『ツェンドリンブル・ペガシス』

 

《……コレ、空力で分解しねぇよな??》

《理論上は。まあ、カルナから提供されたプロテクト・シェードのバリア機構が音速飛行時に限って常時展開しているので、音速の壁の影響を受けずに済んでいますから。》

 

今回、イカルガとツェンドリンブルの背面武装(バックウエポン)に特別装備した補助腕(サブアーム)特殊魔法障壁腕(プロテクトシェード)』から出ているエネルギー障壁がそれを物語っている。

魔力(マナ)供給が潤沢になった今の幻晶騎士(シルエットナイト)故に出来る狂気の芸当である。

 

《念のため、姿勢固定に『強化魔法』を強めていますが、あまり飛ばし過ぎると耐久限界を超えて空中分解を起こしますからね。そこは()でお願いします。》

《オッケー!ガタガターっていうまでなら大丈夫だけど、ガタタターっていったら危ないって事ね!》

《……それ、どういう意味だ??》

《おそらく分解寸前の予兆では?》

《今は、ガタター、だけど。》

《寸前!?》

《では問題ありませんね。急ぎましょう、アルドレイア王国へ!!》

 

ゾンダー出現の際、王国側のオペレーターの操作ミスによる()()により、はるか南の地、フレメヴィーラ王国へその一報は、遅れて夜に伝わった。

そして何の運命の悪戯か、イカルガがその前日に完成。

そして何の冗談か、ツェンドリンブルを飛ばそうと特殊装備を拵えたのが一週間前。

それにより、銀凰騎士団は装備を即座に揃える事が出来、出陣した早朝。

原作より強化された2騎が今、アルドレイアの地に向かう!!

 

《……で、どっちに行けばいいんだ??》

《えっと……》

 

しかし多少迷った影響もあり、彼等が到着するには時間が掛かったりする。

何より通信が遅れて届いた影響もあり、参戦には間に合わなかったのは云うまでもないが、運命の悪戯はここから始まった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

カルディナが倒れてから丸1日半が経過したその日の午前、カルディナが意識を取り戻す吉報がレクシーズの下、そして彼女を安否を心配する者達に届いた。

そしてあの戦い(ゾンダー戦)の主要な関係者一同が城の会議室に集まる事になった。

その場に来たカルディナは、押し車(車椅子のようなもの)に乗せられていた。

 

「──無事で何よりだ、カルディナ。」

「陛下もご無事で何よりで御座います。」

「申し訳御座いません。まだ体が本調子ではなく、このような姿で……」

「構わん。あのような戦いの後だ、本調子でなくて当然だろう。」

「ありがとうございます。」

 

陛下の寛大な心に感謝する公爵令嬢───傍からはそう見える。

だがその光景を見た中、とある3人は無言で顔を背け、遅れて1人、同じく無言で顔を背ける。

 

……4人?? うん、4人だ。

誰かとは、あえて言わない。

 

「ん、公爵様?どうしたんですか??」

「……すまん、何でもない。」

 

近くにいた昭宏の心遣いが、嫌に心に染みた。

それはさておき、カルディナの父親であり、アースガルズ公爵であるクリストファーが咳払いして仕切り直した。

 

「さて……これより昨日の王都襲撃に関する事案と、同時期に起きたアルス村でのゾンダー発生に関する事案を今後に生かすため、もう一度振り返りたい。」

 

これが今回の本題である。

ちなみに、ゾンダーが発生した村の名は、アルス村という。

 

「ようやく復興に一段落付いた故、各自、事前に用意して貰った資料を元に、昨日あった事を整理するため報告して貰いたい。それで、今回の一連の全体像が把握出来るだろう。」

《──アースガルズ公爵様。進言、宜しいでしょうか?》

「む、何だ?V・C。」

「……え??V・C??」

 

自然にクリストファーへ進言する合成された音声によるアナウンスにも似た声、それはテーブル上の置物───紫色のコスモスを飾る花瓶より流れ出た事に、カルディナは驚いた。

 

《本例がゾンダー発生の2例、及び3例目となりますが、1、2例目と違い、3例目は特に個体の性質と状況が異なる可能性がある事を先にお伝えします。その点を考慮していただいた方が良いと進言します。》

「うむ……そうだな。参考になる、V・C。」

《ありがとうございます、公爵様。》

 

クリストファーが花瓶の花束と平然と言葉を交わし、その花は一礼する。

しかも花瓶の花はすごく動く。人の挙動と同じように動く。

それはどうやらV・Cであるようだ。

しかし、他の者達が驚いていない事から、どうやら既に周知済みの事らしい。

 

「……V・C、何時の間に??というかコスモス??」

《お嬢様が倒れている間にです。私の本体はギャレオンに在りますので、端末となるべく存在はあった方が良いと考慮し、端末を花に偽装し、設置させてもらいました。》

「V・Cは非常に有能だな。情報のやり取りが片手間で終えられる程に速い環境を整えてくれた。しかも我々が即座に理解出来る範疇の物を、だ。」

 

具体的にはレーザープリンタ。無線通信機の親機(カルディナの代替)、そして小型カメラ。

なおタブレット端末もあるが、既にカルディナ主導で作った物を流用し、マウスとキーボード込みのタブレットPCを作成している。情報の整理が格段に早くなり、事情を知る一部の文官達がこれを使いこなしていた。

お陰で情報収集と整理がこれまで以上に捗るようで、レクシーズですら既にその操作をマスターしている様子。

 

タイピング??既にマスターしていますが、何か?

 

ついでにV・C経由でスケジュール管理も綿密に、かつ過去にあった王国の膨大な記録をスキャニングし、検索して幾つも候補に列挙してくてるので、レクシーズはV・Cを非常に重宝している。

 

……科学発展の歴史に盛大に喧嘩を売っているのは気のせいだろうか?

……そして国王御付きの文官の一人が小刻みに震えているのは気のせいだろうか?

……ついでに王国の最高機密が丸裸にされている気がするのは、気のせいではないだろうか?

 

しかし仕事は掃いて棄てる程ある。

簡単に辞めさせはしない。文官はホッと安堵。

ただし、最後を否定する者はいない。

 

《現在皆様と協力体制を構築するため、各端末の親機として稼働しています。尚、本体は現在長期アップデート中です。》

 

そう話す(コスモス)は軟鉄を用いた精密な花であった。

本体は三重連太陽系で出来なかった自己アップデートを現在進行中。最低限の能力を端末にインストールし、ギャレオンは戦闘後から今に至るまで、アップデート中。

その為か、訓練場に運ばれたギャレオンより時折、不気味な笑い声……もとい寝言が聞こえるとか。

近づけば寝返りで圧死する可能性があるので、近付く事はおススメしない。

ちなみに花なのは、それが一番怪しまれないため。そしてコスモスがデザインされたのは……

 

《V・C、つまり『ヴァイオレット・コスモス』とも言えます。なので、今の形態は『ビバ・コスモスちゃん』とお呼びください。》

 

そう話すV・Cはすごく動く。もう過剰なくらいに動く。途中で4輪の花が連携してE〇ILEしている。意味は解らない。

リアルなコスモスなので表情は解らないが、何故か「ドヤァ」してる気がした。

 

うん、ウザい。

 

「………」

「……あの、お嬢様??」

「………」

「……サーセン」

 

カルディナの威圧に負けたV・C。

花もシュンとしおれ、鉄華団の一部は失笑。

クリストファーやレクシーズに至ってはため息。

あまりふざけてはいけない。

 

「ちなみにカルディナ。お前の報告は一番最後だ。」

「宜しいのですか?失礼ですが、私の話が一番優先になるかと……」

「……最後にせねば、他の者達の報告が耳に入らない気がしてな。」

「酷い云われ様ですわ。」

 

しかしそれを否定する者はいなかった。

V・Cも「ぶふぉッ!」と爆笑。

そして大半が失笑し、カルディナより顔を背けた。

何故って、その時の眼光がゴーゴンより怖いから。

そんな光景にクリストファーとレクシーズは再びため息。

ともあれ、報告が始まる。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……報告は以上となります。」

 

最後にオルガが報告し、他のセクションの者達の補足を合わせる事で現在までの状況『第15項963綴』を読み上げた。

そして、その内容にカルディナは──首を傾げた。

 

「……しかし、何と言いますか……三流小説のような内容ですね。

「現実は小説より奇なり、であろう。実際にそんな事が目の前で起きたのだ、お前の手によって、な。

 

そう言われれば、ぐうの音でない。

レクシーズに釘を刺され、黙るしなかいカルディナであった。

 

「あと、報告書には載っていない事項だが……まず、ギャラルホルンの者達(馬鹿共)だが、全員に保釈金を要求する。特に上層の人間、教会関係者は相場の10倍。あの王子はあの国への『御布施』を今後払わない事で手打ちとすると、決定した。」

「……国営予算の100分の1を寄越せという、あれですか。」

 

『御布施を我が教会へ。出せば良いことあるよ。出さねば国を挙げて嫌がらせするぞ(総訳)』のお触れがある。

なまじ国力がある故の国家間の脅迫であった。

今回はそれに『王子を助けてやったんだから、免除もあっていいよね(総訳)』である。

国力の影響(脅し)による意向返しも含まれる。

アルドレイア王国だけではなく、周辺の国々にも圧力をかけているため、非常に効果的だろう。

 

「……ゾンダーメタルがあれば、あの王子の顔面に真っ先に投げ付けて、あの性格を矯正してやりたいところです。」

「そう短気を起こすな、カルディナ。こちらとしてもあやつは処刑対象だが、それによって戦争でも起こされれば、今の我が国の状況では防ぎきれん。」

「存じております。」

 

現状のアルドレイア王国の在中騎士は6割を損耗しており、兵力換算は実質全滅扱いだ。兵力を回復させるにはしばらく時間が掛かる上に、そんな時に下手に戦争を吹っ掛けられでもすれば、平時でも負けている兵力で相手をしなければならない。

そうなると全王国民を以ての総力戦になりかねない。それは愚策であり、レクシーズもカルディナも含めた全員がその愚かさを判っている。

残念ながら、現状ではギャラルホルンに対して報復戦は出来ない。

ただ……

 

「……もしゾンダーメタルを入手出来る機会があれば、試させてやる。その時は顔面に全力で投げ付けるがいい。全力でな。」

 

その一言にカルディナは笑った。

そしてレクシーズも笑った。

ただし笑顔は黒く、ひたすら真っ黒。

その光景に2人以外の全員が引いた。

ゾンダー化する前に顔面が破砕しそうだ。

 

ちなみに馬鹿王子の尋問で、アシュレーがひたすら話させた後、馬鹿王子に対してカルディナとの惚気話を煽るように自慢し、気絶するまで発狂させた事は、あえて触れられなかった。

残念ながら物理的プッツンは成されなかった。

残念。

 

「また、賠償に抗議があった場合、『ヴァルキサス渓谷跡』の警備を解除するつもりだ。」

「まあ!実に良い英断かと。」

 

──ヴァルキサス渓谷跡

ギャラルホルン教皇国に僅かに接するボキューズ大森林から伸びる渓谷跡である。60年以上も前から水流が途絶しているため、現在はボキューズ大森林に続く路となっており、他の区域より狂暴な魔獣の出現が絶えない場所でもある。元より左右を城壁より遥かに高い岩で隔離され、渓谷の出口のみが侵入口となってる。水源が何処か解らない程であるが、その渓谷出口はギャラルホルン教皇国の領土にあるものの、アルドレイア王国方面に向いているため、大雨が降れば鉄砲水がアルドレイア王国側を襲う、災害地である。

ただし、出現する魔獣達はアルドレイア王国側へ向かおうとせず、何故か渓谷出口からギャラルホルン側へ行こうとするため、今までは国力の影響(脅し)で不本意ながら警備、魔獣討伐をしていたが……

 

「今後は彼等自身の手で魔獣を相手取らせる、と。」

「ああ。こちらは手が足りん。自衛ぐらいはやって貰わねば。それと、ゾンダーの核にされていた人物だが……」

 

EZX-003戦、EZX-004戦を経て浄解された2名は、現在王都内の特殊隔離施設にて監視中だ。

とはいっても、ストレスが完全に沈静化しいているため、軽度の監視にとどまっている。

特に、EZX-004の素体にされていた女騎士は現在、自主的にカルディナに対し反省文を量産中との事。

しかしカルディナは、それを止めさせてもらえないかと思案する。

 

「良いのか?お前を殺しかけた人物なのだが。」

「行動からして私に恨みがあって、ゾンダーの核にされていた人物ですが、それはあくまでもゾンダー化によるもの。むしろ私の驕りを払ってくれた方です。感謝の念……は流石に抱けませんが、叱責という意味で、良い教訓となりました。故に、今はその方に恨みはありませんわ。」

 

EZX-004戦は、カルディナとって転換期である。

また、今や王国最強とされるカルディナに土を付けた人物だ。そのきっかけを作り出した人物には興味が湧いている。

 

「機会があれば「貴女の刃は確かに届いていた」とお伝え下さい。もしその気があるなら、一度剣を交える事は吝かではないです。」

「……わかった、伝えよう。」

 

だがあの馬鹿王子が起こした事案には、そんな要素はないので、こちらは除外。

 

「そういえば陛下は何故、マギウスの名を御存知で?あれの名は、私以外知る筈のない情報なのですが……」

「ああ、それは──これで知った。」

「それは───私の『勇者王ガオガイガー・コンプリートブック(自作)』!?」

「……に挟まっていた精密な設計図(ラクガキ)だ。お前にしては無用心だな。それにしても実に良いものであった。まさかこんなものを5歳から考えていたとは……」

「~~~~~ッ!!!」

 

出し抜いたと勝ち誇るレクシーズに、自身の知られたくない性癖がバレたように悶えるカルディナ。ついでに身体も痛くて身悶え。『勇者王ガオガイガー・コンプリートブック(自作)』はかつて状況説明の為、貸し出した資料である。私物とはいえ、忙しさに忘却し、自身の宝物をつい忘れてしまったのだが、それは自己責任としか言えない。

 

ちなみに、このような事に自覚ある者には顔を背ける権利を与えよう(筆者も含め)。

 

「……とはいえ、此度の事はこれの存在が幸いし、マギウス・ガオガイガーの存在を知る事で混乱を招く事がなかった。礼を言う。」

「………勿体なき、お言葉。」

 

事実、あの迷走と混乱を極めた中で、重要な情報を事前に持ていた事は希望を持つ事と同意である。

カルディナの行いは結果的に混乱を最小限に抑えていた。

でなければ、マギウス・ガオガイガー出現時には国王様や鉄華団が刺し違えてでもお嬢様救出という事態(自爆劇)になっていただろう。

 

「さて、我等が話せるのはここまで。次はカルディナ、お前だ。」

「……はい。」

「どうした??何か話せぬ事でもあるのか??」

「いえ。ただ……此度の事は、私も受け止め切れないところがありまして……」

 

非常に憂い顔のカルディナ。こんな表情(かお)をするのは演技でもワザとでもなく、この場にいる者はまず見た事がなかった。

 

「まあ、色々ショックな事が多かったからな。特にマギウス・ガオガイガーの事は確かに秘めておきたかったと、そう思う気持ちは解らんでもないが……」

「──その気持ちが簡単に消え去る程の衝撃でした。強いて言うなら『FINAL』でのゴルディオンクラッシャーが成功して尚、倒せない存在が現れた、と言うべきです。」

「「「………」」」

 

──表情が真に死んでいる。

そんな能面のような表情(かお)でカルディナは真っ当に答える。

……これは、聞くべきか。

 

「……聞こう。それとその時の状況を映像化してもらえるか?」

「「「───!?!?」」」

 

衝撃の告白に返した言葉に『そんな精神状態で(事やって)大丈夫か!?』と言わんばかりの視線を一身に受けるレクシーズであるが、どんな内容であろうとも(嫌でも)聞かねばならないのが国王(トップ)の仕事。

それなら最初から腹を決めて聞くしかない。

 

 

──だが、全員が後悔したのは云うまでもない。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……これが、事実……!?」

「これが……妄想だと……頼む!カルディナ、そう言ってほしい!」

「間違えようもない実体験です。」

「カルディナ……」

 

カルディナの報告が終わった(※追加事項参照)後、10分間の沈黙を終えた後の第一声の言葉がコレである。

脂汗を流すレクシーズに、事実を否定したいクリストファー、ただ震えた身体を必死に抑えつつカルディナを見るアシュレー。

辛うじて言葉を発したが、会議室の中は肝が完全に冷え切っていた。

 

装備無しで安全な肝試しを行ったら、実はそこに終焉の存在(アザトゥース)がコンニチワ、と天元突破究極至高完全形態(付与魔法・ブースト全開)で待ち構えていたような構図に、誰もが肝を冷やしている。

 

文字に起こせば、三流小説に妄想小説をブチ込んだような、実に突拍子な事柄ばかり。

報告書なのに『重要書類に変な娯楽小説を混ぜ込んだ奴は誰だ!』と責められ、むしろこれを公表したら『あなた疲れてるのよ』、または『卿は少しお疲れのようだから休ませて差し上げろ』と非難されるのは明白。

機密文書である以上は秘匿されるが。

 

───文書だけ、ならば。

 

これらをカルディナの見た光景(ライブラリ)と共に話を聞いてしまうと、事態は『現実は小説より非情、そして絶望』に変わる。

 

獅子王一家とV・Cとの会合。

語られたGGGの末路。

ジェネシック・ガオガイガーの現状。

三重連太陽系とゾンダーの詳細。

ゾンダーと000(トリプルゼロ)との関連。

誰も知らぬ原初と終焉の領域(オレンジサイト)、そして覇界の因子(トリプルゼロ)の観測にはそんなイメージを与えてしまった。

 

そしてそのイメージを破壊した、カルディナ・ヴァン・アースガルズの生物としての進化。

「エヴォリュダーでは足りない」という台詞の後、義兄()をネオ・エヴォリュダーへと巻き込み進化させてまでの、更なる存在──レヴォリュダーへの進化。

自らの内に000(トリプルゼロ)───もといザ・パワーを内包して。

 

常識も非常識も粉々にして、浄解すら極めた生命の極点の一端みたいな存在へと爆誕した娘の姿を見たお父様(クリストファー)は、娘の境遇に愕然としていた。

同じくアシュレーも、同様だった。

オルガを始め、この場にいた大半はスケールの大きさに思考を停止。

意識を保っている者は思考の闇にガクブルと震える始末。

 

きっとこの報告書が完成した暁には、オレンジサイトに関する映像ファイルも書庫に「スパーキィィィーーングッ!!!」されるに違いない。(意味不明)

 

唯一、カインとアベルだけが驚愕の中、冷静を保とうと自身を律していた。

とは言えショックは大きい。

 

「ナノマシン、AZ-M。無限情報サーキットV・C……紫の星の遺産か。まさかこの星で出会えるとは……しかも間違いない、オレンジサイト。そして──000(トリプルゼロ)か。」

「まさか三重連太陽系に関する重要物達にここで再び相見えるとは……」

「知っておられるのですか、お二方?」

「知ってるも何も……紫の星のものは語る必要はないくらいに。そして()()は間接的ですが、三重連太陽系が滅んだ要因の一つですからね。」

「何と……!」

「だが、今その説明すると凄まじく話が脱線しかねん。申し訳ないが後日、その機会を作る事で勘弁願いたい。」

「……解りました。」

 

それは、三重連太陽系崩壊から『ソール11遊星主』の事に飛び火しかねない。

そうなると一番非難を受けるのは、他ならぬアベルであり、本題を妨げかねない。

ここは説明の日を改めるしなかった。

 

話を戻す。

 

「ではカルディナは、得たその力でギャレオンやガオーマシン、そしてガオガイガーを強化した訳か。」

「破れて再起するなら思いきり、と思いまして麗雄博士に助力を頂きました。それに……私達が設計したガオガイガーでは、これから待ち受ける困難に勝てる性能はない……そう判断得しました。それで博士は、私の能力を最大限に発揮できるようにした方がいい、と。」

「故に、あの形態に変異させて戦ったという訳か。」

「空想とは言え、一番熟知してますから。あと、魔法に不慣れな博士でしたが、魔力(マナ)を量子エネルギーとして見て、一回のみであれば問題なく稼動可能な設計に手直して頂きました。」

 

当人曰く「それが現時点での限界、ただし道のり途中に研究は進める」との事であった。

そこにカインとアベルが口を挟んだ。

 

「その件だが調べた結果、驚く事がわかった。」

「あの、獅子王麗雄と言いましたか?彼が設計したエネルギー回路は、Gストーン、Jジュエル、魔力(マナ)、そしてザ・パワーの全ての親和性が良い仕様でした。」

「親和性がいい??」

 

それぞれのパワーの癖、特性をそれを正確に掴み、絶妙なバランスで調整されていた。

そして少なくともこのセンスはカインもアベルをも超えていたという。

ただ、起動後はカルディナとV・Cとの直接制御(フルコントロール)にて稼動したが……

 

「流石に過剰過ぎるエネルギー負荷までは読みきれなかったようで……いえ、()()()()()()()()()()()、ですね。回路が全て焼き切れるのを予見していたようで。」

『……やはりでしたか。上手く行った直接制御(フルコントロール)下であっても、あの戦闘を持たせるに精一杯でした。回路に回していたAZ-Mが戦闘後、全て機能停止しました。だから『一回限定』だったのでしょう』

「で、しょうね。それ程、カルディナとあのガオガイガーの組み合わせは強烈極まりない。GストーンとJジュエルの複合炉に魔力(マナ)による増幅ですか?後は予想ですがZオーブとやらのザ・パワーも少し使ったのでしょうね。後は余りある『勇気』ですか……カルディナが叩き出したのは『無限出力』、『完全勝利の力』もいいところです。」

「むしろ『絶対勝利の力』と言えばしっくり来るかな?」

 

それは既にGストーンを超え、総合出力は『Gクリスタル』の域である。

少なくともマギウス・ガオガイガーにはそれだけの力が備わってしまっている。

故に下した感想は「ガオガイガーの形をして、キングジェイダーをも超えた『何か』であった。

今後、マギウス・ガオガイガーのTGSライドを中心に構成するエネルギー循環回路を『TGSドライブ』と称する。

 

「ちなみに、あのガオガイガーのフルドライブに耐えられる部品(パーツ)、そんなのは現行で揃えられるモノにはありませんよ。ヘルアンドヘヴン(フルドライブ)一回で、ドライブ系統を総取り替え……非効率です。」

「過剰過ぎて、危なかっしいね。あのガオガイガーのエネルギー出力を受け切れる『器』がないのに……ジェネシックでの戦闘じゃないんだ。よくゾンダーはおろか、自分が消し飛ばずに済んだねぇ。せめてジェネシックに使われていた素材が見つかればいいかな??TGSドライブは試行錯誤しながら作る事にするよ。」

 

魔力貯蔵(マナ・プール)の参考が幻晶騎士(シルエットナイト)なのだ。無限出力など貯められる訳がない。

カルディナ達が開発したガオガイガーが辛うじて受けきれたぐらいだ。

 

「……では、御二人の意見をまとめますと、どのような結論を??」

 

「「 出力は現状の半分で充分。」」

 

「貴女の場合、どうせゾンダーが出たら昼夜問わず飛んで行くでしょう?連続出撃ありきでの構造強化が最優先事項です。それとリミッターは必須ですね。」

「幸いにもこれまでのゾンダーとの詳細な戦闘記録、エネルギー出力の記録は手元にある。調整は出来る筈だ。今後の事を踏まえて、内外共に剛胆で堅牢な造りにしないと、命がいくつあっても足りない。」

 

2人は対策を述べる。その言葉こそ厳しいがその内容はマギウス・ガオガイガーの欠点を補うもの。

それは『これで心置き無く戦えるだろう?』という2人の配慮であった。

それにカルディナは顔をほころばせる。

 

「ありがとう、ございます。」

 

今、黒き勇者に戦う術が舞い戻ったのであった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……さて、これからどうしたものか。」

 

カルディナの報告も終わり、心に落ち着きをレクシーズが、場を改めるように洩らす。

これから───対・ゾンダー戦と国防の戦力についてである。

その事にティ・ガーから話が始まる。

 

「ゾンダーに関しては、現状カルディナ頼みしかあるまい。だが、今回のように2体同時……いや、カルディナから出された報告書には『複数個体の発生の可能性』があったが……」

「……そうだった。」

 

過去、カルディナがクストとムルに頼んでゾンダーの調査をして観測出来たのが500以上。

そしてそれらは全て何らかの形でオブジェ化している。

今回の戦闘で、ゾンダーの同時出現の可能性が充分起きた以上、複数出現は普通にあってもおかしくはない。

特に王都に出現した個体はEZX-002、003を大きく凌ぐ。

それについてはカルディナとV・Cより言及があった。

 

《こちらをご覧下さい、EZX-004のゾンダーメタルの拡大映像です───》

「む?中央に位置するあれは……何かの宝石か??」

「あれがあると何かの眼にも見えなくないが……」

「あれは魔石──触媒結晶です。」

「何??」

「このゾンダー、何らかの方法により触媒結晶を()()()()()()し、魔力転換炉(エーテルリアクタ)として活用していたと思われます。」

「「「───!?!?」」」

 

戦闘中に起きていた不自然な空気の流れ───それは魔力転換炉(エーテルリアクタ)特有の吸気圧縮の風の流れであった。

本来のゾンダーメタルはそれ1つで全て完結しており、豊富なエネルギーさえ確保出来ていれば機界昇華までを単独で行える。

つまりゾンダーは空気中の源素(エーテル)を集め、魔力転換を行って魔力(マナ)を自身のエネルギーとして使用していた事になる。

魔力転換炉(エーテルリアクタ)とは、源素(エーテル)魔力(マナ)に転換する永久機関。

これを考え出した存在は正気の沙汰ではない。

 

ゾンダーがこの星で発見されて500年以上経過している。GストーンとJジュエルが互いに高め合う関係と似たように、魔力(マナ)にはこれらの力を高める性質がある。

負の感情(ストレス)によって力を高めるゾンダーメタルとて、Gストーンとは鏡合わせの様な対の性質を持つ以上、魔力(マナ)に反応する事は、ある程度想定出来る。そうなれば……

 

「騎士は魔法が使えます。それと核にされた者の知識、能力はそのまま反映される以上、魔法の使役は当然となりましょう。」

「それに魔力転換炉(エーテルリアクタ)自体、機密の塊のようなものだ、時間が掛かったとはいえそれをゾンダーメタルで再現出来た、という事は……再現した人物もそれに見合った知識を持っている、という事になります。」

「何と……!?」

「そういえば、EZX-002の核だった者は、多少ながら風と雷の魔法を使えるとあったな……」

「EZX-003は特に適正がなかった。」

「EZX-004は云うまでもない、か……」

 

つまり、今後のゾンダーとの戦いではストレスの強い者は大前提に、騎士ないし魔法使いが優先的に狙われる可能性も高い、とも解釈が取れる。

そして同時出現の可能性も。

 

「だが、それならば……何故今までそれをし来なかったのだ?時間は十二分にあったはずだが……」

《そこは不明です。既に現れた者達がオブジェ化した理由も不明です。》

 

だがもしかすると、その時間経過こそ理由なのかもしれないが、今はそれよりも切迫している事案があった。

 

「こうなると、ゾンダーと五分に対峙出来る存在が、カルディナ以外いないのが問題だ。ガオガイガーがもう一機───いや、せめて核を摘出出来る存在がいれば……いやしかし……」

 

そう思うレクシーズは何か思案する。

が、現状そんな存在はいない。ましてやガオガイガーがもう1機など……

 

「──いや、無ければ創ればいい。そしていなければ、探せばいい。」

 

その言葉にしん、と静まり返る会議室。

何を創る??

何を探す??

 

「……あの、陛下??まさか──!」

「ああ。カルディナ、私はそなたにガオガイガーの2号機の創造を命ずる。」

 

その宣言の後、会議室はしん、と静まり返り、そして大混乱の渦が起きる。

宣言したのはまさかの2号機の創造であった。

だが、クリストファーとティ・ガーはレクシーズ同様に冷静であった。

その様子からして───

 

「本気……なのですね、陛下。」

「本気以外の何がある。これは『王』としての命令だ。それに不可能とは言わんだろう?」

「それは……初期型(地球仕様)であれば可能かと。それにマギウスの仕様を参考にすれば機体の問題はクリアされますが……」

「──それで良い。早急に対ゾンダーの戦力を仕立て上げよ。これ以上、我が国は負ける訳には行かん。」

「……陛下。」

 

それは為政者としての、義務であり使命。

これ以上の負け、損害を出したくないという気持ちと、魔獣討伐国家としての誇り(プライド)からの結論なのだろう。

2号機の創造はそんな意図があるように思えた。

 

「そしてもう1つ。」

「??」

 

レクシーズが机からとりだした紙束をカルディナに見せた。

それは設計図ようで───

 

「これは……~~~~!?!?

「ナンバー順ならば『3号機』、と言った所か、そちらも頼みたい。」

「~~~~~!!!……はぁ。」

 

悶えに悶えた後、全てを諦めたようにカルディナは溜め息を吐く。

おそらく『ただの3号機』ではカルディナ驚かない。渡された設計図に描かれていたものとは──

 

「……これは『ガオガイガーをベースにした、国王機』という解釈でお間違えないでしょうか??」

「ああ、相違ない。」

「ご自身の専用機、でゴザイマスカ……」

 

荒削りで未熟なところはあるが、精密な設計図がそこに描かれていた。

デザインの癖からガオガイガーの建造を手伝ってくれたミハイル・S・イェルツィーナ子爵が手掛けたものだろう、間違いなく旗機(フラッグシップ)になれる機体だ。

しかもどんな数奇な巡り合わせか、これは……

 

───プィっ。

 

(……首謀者は陛下として、お父様とティ・ガー様がカイン様への根回しに───ぐぅっ!アベル様までグルとは……!!全員で私のマギウスの設計図、見ましたわね!!)

 

そっぽ向いた4人の大人を見て腹を立てるも、これは出来過ぎた決定事項だとカルディナは腹を括る。

 

「──判りました。この際デザインには口を出しません。ただギャレオンは私共で製造しますが、ガオーマシンに相当するメカ達は、王国の工房で製造する事を進言します。」

「後の事を考えると……わかった、そうしよう。ただ、調整の出来ぬ部品に関しては頼む。」

「委細承知しました。」

 

それはGストーンやGSライドの事である。

こればかりはどうしようもない。

 

「ならこの件は一度これで終わりとする──で、次の議題だが……」

「まだ……あるのですか??」

「……私もしたくはないがな。」

 

頭を抱えるレクシーズには、どうやらゾンダーとは別の気掛かりがあるようで───

 

 

───コンコンコン

 

 

その時、ノック音が響き、全員がドアを注視。

そこから護衛の騎士が顔を出した。

 

「会議中、失礼致します。ランドグリーズ領が公爵、バランド・B・ランドグリーズ様が面会を希望されています。どういたしましょうか?」

「ランドグリーズ卿が?」

(え、誰??)

(確か、この国の4つの公爵家の1つで……そのランドグリーズ家の、当主??)

(後は今の国王派閥と対峙する『武闘派』ってところの筆頭者だったような……)

(……何でこのタイミングで来やがる。)

 

このタイミングでやって来た、厄介な人物。

それにレクシーズはどうするか───

 

「わかった、ここに通せ。」

 

即答だった。

そして豪快に扉を開け、やって来た恰幅の良い、金髪のオールバックの御仁、バランド・B・ランドグリーズ公爵。

 

「───大丈夫か!?レクシーズ!!」

「大事無いぞ、バランド。そう慌てるな。」

「まったく、変わらんな、バランド。」

「他の者の目もある、少し落ち着け。」

「む、すまんな。」

 

対立派閥の筆頭者であるから、見下したような不遜な態度を取ってやってくると思いきや、非常に慌てた様子で心配、しかも呼び捨てでレクシーズを呼ぶ。

それを当の陛下(レクシーズ)は平然として応え、ティ・ガーは温かい目で笑い、クリストファーは悪友に呆れるような態度をとる。

 

更に。

 

「き、緊急!!上空より飛行する蒼い巨人と……翼を生やした巨大な人馬が王都に急接近との報告!!」

「何!?まさかまたゾンダーか!?」

「V・C、映像出せます!?」

《はい、此方に───》

 

そして映し出された映像を見て一同は驚愕する。

凶悪な悪鬼と、翼を生やした異形。それに尽きる姿をしていた。

 

「直ちに残存勢力を集め、迎撃を──!!」

「お待ち下さい、陛下!!」

「……カルディナ??」

「この2機の機影……蒼武者と翼が生えてますが人馬型の幻晶騎士(シルエットナイト)……どうやらこれらは、フレメヴィーラ王国の……私の友人達のようです。」

 

そんな番狂わせな人物が多々やって来た。

 

 

 

《NEXT》




前半終了。
これまでの経過と、対ゾンダーへの対抗策となります。
ゾンダーへは、複数出現の可能性の影響もありマギウスの他に2号機、国王機としての3号機が建造される事となりました。
次回は『国防』についてです。


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Number.17 ~創造は、失敗を糧に~(2)

8月は多々トラブル続きで、感想を送って下さった方々、返せず申し訳ありませんでした。
感想はしっかり見ています。
今後もよろしくお願いいたします。

前回は『対ゾンダー』について。
今回は一応『国防』についてのお話です。


バランド・B・ランドグリーズ

アルドレイア王国の北を治める公爵であり、辺境伯でもある。その土地柄、魔獣や襲撃者は多々多くそれらを常日頃捩じ伏せている。何より腕っぷしで成り上がった実力は本物。

更に辺境伯故に自治権はどこの貴族領主よりも強く、カリスマ性は国王にも匹敵すると云われる。

が、それらにおごる事なく、自己研鑽は惜しまない。

特にゴーレム至上主義と噂される。

ランドグリーズ公爵とは自他共に認める、強さに貪欲な人物である。

そして……

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……という訳で、今後この王国にも強力な兵器開発が必要となる訳だが……」

「───ぬぉおおぉぉーー!?これはいったい!?」

「これは『ヘルアンドヘヴン』という、ゾンダーが持つ核を両手で抉る必殺技です!ですがこれは……カルナのアレンジでしょう。オリジナルは核を抉るだけなのですが、核以外を焼き尽くすとは……」

「うむ、頑強な鎧に包まれた核を粉砕しながら保持し、強力な魔力(マナ)の奔流で焼き払うとは……実に豪快で繊細な必殺技と言えよう。」

「はい。理論上は可能なのですが、破壊エネルギーと防御エネルギーを合わせることによる反動が酷く、僕も一度やった事はあるのですが、盛大に暴発してしまいまして……」

「なんと。貴殿のような幻晶騎士(シルエットナイト)開発者であってもか。鋼鉄の巨人が、圧倒的な力を宿すとはいえ、あの黒き巨人には敵わないとは……」

「悔しい事ですが、繊細な魔力(マナ)制御、またはエネルギー制御はカルナに一日の長があるので……」

「だが実に面白い。そんな必殺技であれば私もマスターしたいところだ。なれば!!」

「───教えもしませんし、そんな暇なんてありませんわよ、バランド様。」

「Shock!!」

「やかましいっ!!」

 

盛大なリアクションのバランドに公爵のクリストファーが容赦なく突っ込む一幕。

 

説明代わりにガオガイガーVSゾンダー(ダイジェスト版)を視聴して大騒ぎのエルネスティとバランド。

特にバランドは初めて見る未知の利器に感心しながら、今まで見た事がない未知の領域に心揺さぶられる様子をむ見ると、どうやら噂とは少し……いや、だいぶ違うようで。

 

「……いい大人が何をはしゃいでいる。」

「何を言っている、鋼の巨人だぞ、鋼の巨人!これ程心躍るものがあるか!」

「そうです、ロボットです、ロボット!強くておっきい事はいい事です!」

「……何か、同類(エル)が2人いねぇか??」

「うん、エル君みたいな大人がいたなんて……」

(エルも()()()()()()()()()()なのは黙っておきましょう。)

 

実際は『公爵の地位と知識と技量と器を持った悪ガキ』という事実を知るのは、ほんの一部であり、レクシーズ、クリストファーの古くからの友人である。

 

 

───閑話休題(とりあえず、話を戻す)

 

 

「……つまり、今回現れたゾンダーという怪物、ギャラルホルン側の襲撃に対し、より強い兵器が必要である、と。それでこの計画書に書かれた兵器を製造する、という事ですな?」

「……そうだ。理解が早くて助かる。」

 

先程の興奮した様子はどこへやら、バランドは貴族としての姿勢でレクシーズと対峙している。

国王陛下(レクシーズ)の案は以下の通りである。

 

『ゾンダーの襲撃、ギャラルホルン教皇国の襲撃の反省より、即応・即興対応が可能な国王直下の機動部隊の設立が急務。その戦力として『GGG創造計画書』を元としたスーパーメカノイド『ガオガイガー※』を中核とした機動部隊を用いる。』

 

※過剰戦力のためガオガイガーは対・ゾンダー戦のみに使用を基本とするが、絶対とはしない。その判断は搭乗者に委ねるとする。

 

『また、国土防衛の戦力として、『G・F製造計画書』を元とした『ガンダム・フレーム』を用いた機動部隊を同時併用する。』

 

「対ゾンダー、そして国土防衛の戦力に大幅な戦力増強……いつからこの案を用意していたのですか?」

「2か月前には草案を。議会に提出出来るものに仕上がったのは今日だ。」

 

 

バランドの質疑に、淡々と答えるのはクリストファー。

明らかに対立しているような、2人の間で火花が激しくスパークしているのが幻視なれども、その場にいたものには見えていた。

 

「では、今回の騒動は予見出来ていた、と??」

「いつかは、とは思っていた。それに国内にゾンダーと思わしき物体は多々ある事も。だが、それが今日とは知る由はなかったがな。」

「我々に事前に周知しなかった理由は?」

「周知したところで討てる手段がなかった。我々が主力とするゴーレムで歯が立たなかったのは一応予想出来ていたが、今回の事を省みれば明らかだ。それにアレは魔獣と違い、切った張った程度では勝てない。討伐出来ずに放置すればそれこそ()()()()()()。それに、ガオガイガーですら()()、試作機と呼べるものが仕上がった。結果的にだが、これでも()()だったのだ。辛うじて、皮一枚繋がった状態で今日を迎えたのは、まさに僥倖……いや、奇跡と言える。」

「それでも反省すべき点は、多々あるだろう。特に今までの防衛計画は。」

「当然だ。特にギャラルホルンの馬鹿共の動きと、ゾンダーという突発的出現など想定外で、あの国があれ程愚かとは思わなんだ。そういう意味でそれが、現状なのだ。」

「……なるほど。ならば───」

 

流れるような質疑応答。

煽るように質疑するバランドに、流水の如く答えるクリストファー。

一歩間違えれば無礼極まりないやり取りだが、周りの大人は動揺もなく、静観していた。

 

(……お嬢、他の大人達は何であんなに冷静なんだ??)

(お父様と、ランドグリーズ卿のお二人は、家の関係もあって子供の頃から、ああいう仲なのよ。だから特別不思議じゃないわ。成人してからも派閥の兼ね合いもあって関係は変わらず……と言っても険悪な仲じゃなく、戦場(いくさば)で共に戦えば、息ピッタリの背中を預け合えるライバル関係なのよ。それにああして激しく擦り合わせる事で、立案に粗がないか確かめ合ってるのよ。)

(……俺には真似出来ねぇな。)

 

表面上は拗れて、下地に協力体制があるという、何とも真似出来ない仲であると関心するオルガ。

 

人、それを悪友、そして腐れ縁という。

 

 

「──相解った。しかし、これはこの国の貴族達が相当荒れるぞ。それに民達も。」

「判っているさ。今まで国防の要であり、我々にとっての主力であるゴーレム、そして祖先から受け継いで来た我々の戦い方では、ギャラルホルンは良いとしても、ゾンダーには敵わなかった。」

「故にガオガイガーとやらか。」

 

今回防衛戦に参加した兵の、6割の消耗。

それでいて致命傷どころか傷1つ残せなかった惨敗結果。

それを覆したのがガオガイガーであるが、果たしてその事情を知らない貴族、民衆が受け入れられるかは不明だ。

特に貴族は事実であろうとも、そのプライドが邪魔するので反発は必至になる。当事者以外は受け入れられるか解らない。

何しろ、アルドレイア王国にとってゴーレムとは旧来からの強者の証であるからだ。

 

「ああ。なのでランドグリーズ卿、貴殿の派閥に属する者達の説得をお願いしたい。」

「もちろん……と、言いたいところ。しかし相応に手間が掛かりましょう、アースガルズ卿?」

 

不意に、『悪い笑み』を浮かべるバランド。

その手は『お金』を意味するサイン。

 

「……何が言いたい?」

「何、説得にはそれ相応に掛かるものがあるので、卿には助力をですな……」

「貴殿は……!」

 

(何か不穏になって来やがったぞ?)

(まあ、これも政治という奴ですわ。ただし、汚い部類に入るところですが。)

(……随分面白そうに見てんな。)

(私とて公爵の娘です。こんな場面は知っていて当然。むしろお父様がどう()()()かが見物ですわ。)

 

普通の令嬢様は政治の真っ黒い現場なぞ知る訳ないと思われる。カルディナが特殊過ぎるケースだ。

ついでに対立する2人を見て、ガオガイガー本編の開始前で、GGG設立にどんなやりとりがあったのか、と妄想するカルディナ。

あの規模の組織が成立するまでには、当然ゾンダーの存在から三重連太陽系の超科学、組織編制の他、言えない裏取引もあっただろう。

無論、それらが総て悪ではないにしろ、表沙汰にするものではないし、秘匿するなら徹底的にすべきと思われる。そして実害はないようにすべき。

アルドレイア王国ですら、現政権に移行するまで凄惨な血が流れている。

見えないところにしろ、現実にはないとおかしいアブない取引もあっただろう。

政治はいつの時代も清濁があるのは事実だ。

 

(まあ、真似してとは言わないけど、手段は勉強してもいいわよ。何事も知っていれば対処法を学べるし、何より鉄華団のためにも、せめて腹芸ぐらいは覚えておいても損はないわ。)

(お、おう。)

 

前世以上にドロドロした環境下で、果たしてそうなれるか。

また、そんな出番はあるのだろうか?

オルガは頭を抱える。

 

「……ちなみに、ガオガイガーの乗り手は何処におる?エルネスティ殿は、確かカルナと言っていたが……」

 

そんな折、バランドはガオガイガーのパイロットについて尋ねる。

 

「ん??カルディナの事だが……」

「───何だと!?」

 

その答えに、判明した驚き以上の驚愕をして、カルディナをバランドは注視する。

その様子にカルディナは、驚く事もなくニッコリと令嬢スマイルで応え、バランドは唖然した後、豪快に笑うという謎のやり取り。

 

「……何か、意味を含むところがあるようだが、いったい何だ?」

「ワハハハハ……ああ、すまん。いやな、流石はアースガルズの令嬢といったところだと感心してな。実はな……」

 

バランドが語りだしたのは、数年前カルディナがランドグリーズ領主の館に数人のクラスメイトと共に招かれた時の事だった。

 

「私にもカルディナと同じ歳の娘がいるは知っていよう?我が家で行った娘主催のパーティーの休憩中に、私とカルディナがチェスを一局したのだ。」

 

いくつかの偶然が重なり、領主と令嬢の一騎打ちで、側仕え以外は観客はなし。

暇潰しと言いながらも、勝てば部屋にあるものを1つ、もしくは言う事を1つ聞くというルールで指したチェスだったが、結果はカルディナの勝利。バランドは負けるつもりはなかったが、かなりの接戦だった。

そして勝者はカルディナ。

しかしカルディナは勝ったというのに物は欲さず、一枚のメモをバランドに渡した。

それには……

 

《──武闘派が過激にならないよう、注意して手綱を引いてほしい》

 

元々武闘派は、前王家由来の家臣が多くいるため、その下地があったのは公爵の地位を受け継いで解っていた事だった。故に、家臣の暴走は常々注意しているが、自身も過激なところがあるのは認めるところ。

それからは出来る(家臣に怪しまれない)範囲で手綱を引くようにしたという。

 

……また、願いが聞き入られるなら、公爵が喜ぶものを見せる、とも。

 

「カルディナ嬢に『成人する前には鋼の巨人をお見せます。』と言われて、興味を示さない訳がないだろう?」

「バランド様は、幻晶騎士(シルエットナイト)がお好きでしたし。」

「こ、これ、カルディナ!それは秘密と言っただろう。」

「あら、これは失礼。」

「そうなのか?」

「チェスを指した書斎に幻晶騎士(シルエットナイト)関連の本が多々ありまして。殿方の趣味としては妥当、とは思いますが。」

「……『武闘派』の者達が聞けば、卒倒しかねん話だな。」

「ああ、初めて聞いたぞ。」

「……まあ、隠しても仕方ないか。陛下やアースガルズ卿、ティ・ガー殿が子供の頃行方不明になった時の話を聞かされてな、それから興味を持った次第だ。」

「ああ。我らが原因であったか。」

 

過去にレクシーズ、クリストファー、ティ・ガーが、カイン、アベルの作った集落にて世話になった事を、当時バランドだけには話していた。

その中で出てきた作業用ユニットに興味を持ったバランドは、後にフレメヴィーラ王国に行く機会があり、同行、そこで幻晶騎士(シルエットナイト)に出会い、密かに惚れてしまったという。

以後、個人的に、そして密かに独自研究を行っていた。

 

「無論、周りには知られぬようにな。」

「だろうな。知られれば非難は必死だろう。」

「だが、今日の一件で大義名分は得られそうな気がしたぞ。」

(武力強化を名目に、開発を大ぴらにしそうですわ。)

 

 

───閑話休題(とりあえず、話を戻す)

 

 

「まあ、チェスの一件以降、それ以上口を出す事がなかったので、初めは現体制の安定のためかと思っていたが……いやはや、カルディナ。お前は此度の事を誰よりも深く予見していたな?」

「さて、何の事でしょう??」

「ふ、まあそういう事にしておこう……であれば、先程の言葉は撤回させて頂きたい。我が派閥の手綱、しっかり引く所存。」

「……協力、感謝する。」

 

まさか過去の娘の所業ですんなり協力を得られた事に、釈然と出来ないお父様(クリストファー)

そして傍らのオルガは、悪い夢を見ているような気分になった。

 

───何やってんだ、このお嬢様!?

 

裏取引や裏工作に長けているのは間違いなくこのお嬢様だ。

ガオガイガー開発のためとはいえ、ここまで策略を巡らすか、と思う。

だが、実際に起きるであろう影響を思い返すと、やりすぎには思えない。

 

(……やっぱり根回しってのは大切なんだな。)

 

過去の自分を振り返ってみて、そう思うオルガ。

 

ちなみにチェスでバランドが勝った場合は、娘がアシュレー殿下にアピール出来る機会を多く譲って欲しい、という父親の希望があったという。

ただ、それとは関係なく、後にその機会が多く訪れたが、結局アシュレーの心はそちらに傾く事がなく、バランドは密かに項垂れたとか。

 

「……しかし、武闘派の説得は相当骨が折れるでしょうから……陛下、お願いが御座います。」

「ん?何だ、カルディナ。」

「Gフレームの1~3号機の製造以降に、報酬……という訳ではありませんが、ランドグリーズ公爵様の専用機製造の許可を頂きたいのですが。」

「何と!?」

「……理由を聞こうか。」

「1~3号機は既に機体設計と搭乗者はすでに決めており、専用化しています。故に以後は汎用機……一般の騎士が搭乗出来る仕様を予定しています。その試験搭乗者(テストランナー)にはゴーレム使いに優秀な方が必要なのです。」

「それが、ランドグリーズ卿だと?」

「はい、ランドグリーズ公爵様ほど優秀なゴーレム使いはそうそういません。それに派閥のトップが率先して使えば、摩擦は少ないかと。ちなみにバランド様、お得意な武器は確か……」

「ああ、大槌よ。剣、槍も嗜むが、やはり大槌であるな。それと……鉄球も少々。」

「重畳にございます。」

「判った。ではアースガルズ卿の機体も同時製造するなら許可する。」

「拝命します。」

「ちょっと待って貰いたい……私もですか?」

「貴殿も似たような立場だろう?それに同時期に造った方が余計な誤解を生まずに済む。」

「その通りかと。」

「……拝命します。」

 

返す言葉がないクリストファーは、渋々であった。

 

「あと、カルディナ。Rフレームはどうするつもりだ?ゾンダーとの戦いでは活躍出来なかったようだが、以前あった魔獣討伐では良い戦果を収めたとあった。お前の工房で、Gフレームと並行作業は可能なのか?」

「ああ、それなのですが……王国の工房を使わせて頂いても宜しいでしょうか?」

「王国の??」

「はい。もうそろそろ、王国の職人にも作る技術を持って頂かなければならないかと。それに作る数が数です。私の工房ではすぐに限界が来ます。」

「……うむ、そうだな。お前のところの職人を派遣してもらっても?」

「はい。内部フレームは徐々にとなるでしょうが、外装(アウタースキン)の着手は可能でしょうから。あと……外注も考えています。」

「外注??何処にだ??」

「『テイワズ』に、です。」

「テイワズ?!あのドワーフ王が治める、商業国家か!?」

「はい。」

 

テイワズ。

『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』に出てくる木星、小惑星帯の開発、運送を主な業務とする巨大企業であり、木星航路最大の影響力を持ち、多数の関連企業を傘下に抱える組織である。

別名、元締めが〇道の国(誤弊はない)。

その影響力は多大で、地球圏外において最大級の影響を持つ『国』と言ってもおかしくはない。

 

この世界ではドワーフの国としてその名があり、他の国より鍛冶の技術力、付与魔法の技術が秀でている。

そして何より商売が上手い。大小様々な商会を傘下に、あの手この手の商売を行う商業国家である。

その影響力は、周囲の国どころか、多種多様な種族にも経済的な影響力を持っている。

このテイワズの王が……

 

「……マクマード・T・バリストン、か。金と実利で動く難解な人物だ。」

「しかしどう売り込むつもりだ??あの国は鍛冶も商売も五月蝿いぞ?」

「それは、お任せください。過去に『貸し』を作っていますので。そこに捩じり込みます。」

 

「「「───!?!?」」」

 

戦慄する会議室。

テイワズに『貸し』を作る意味、それを重々知る者は、カルディナに恐怖した。

そしてその『貸し』が作られた経緯をよく知る人物の1人のオルガは溜め息を1つ。

 

「……いつだ??」

「1年程放蕩させて頂きました、武者修行中にです。」

「あの時か……」

「なお、交渉役にはこのオルガ・イツカを向かわせます。」

「俺!?じゃなくて、私が!?」

「……大丈夫なのか、その若僧は?」

「大丈夫です、バランド様。このオルガはテイワズへの『貸し』の1つなので。それでなくともRフレームですら、この世界においてフレメヴィーラ王国以外の幻晶騎士(シルエットナイト)やゴーレムを軽く超える力を秘めていると断言出来ます。たとえテイワズが有する職人であってもその力の誘惑に勝てるかどうか……」

「……わかった。後でその内訳を聞こうか。」

「はい。」

 

頭を抱えるレクシーズ。

聞けば絶対に国家間問題に発展しかねない事態だろう、その問題を単独で捻じ伏せて『貸し』にしたカルディナ。

この公爵令嬢は本気で何者なのだろうか、と頭を抱える一同。

とりあえずこの話はここで中断した。(終了したとは言っていない。)

多少の脱線はあったが、今すべき話は終了した。

 

「さて……審議すべき内容は以上だろう。では最後に、今後の事だ。」

 

気持ちを切り替え、一同はレクシーズの話を傾聴する。

 

「……これはカルディナ、ひいてはガオガイガーが障害なく今後戦える環境を整える立案だったのだが……」

 

それは、ゾンダーに対する反撃の一歩となる内容であった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

───時間は戻り、貴族達との会議にて。

 

 

「───国王直属特殊機動部隊を設立する。」

 

その宣言に、出席した貴族達は激しく動揺した。

しかし、国王(レクシーズ)の話が続く事に気付いたため、すぐに口を閉じたが、続く言葉は衝撃をもたらした。

 

「此度、我等はかの敵───ゾンダーという前代未聞の災厄と遭い為す事となった。幸いにも、とある存在が事前に数多の対応策を巡らせたお陰で、此度の災厄は()()退けられた。しかし、今までの話の通り、我々は未だ薄氷の上に立っている状態にある。つまり……此度の襲撃はまだ続く。」

 

「また、同時期に攻め込んで来たギャラルホルンの軍勢にも後手に回ってしまった。これでは今後、我らが主たる役目である魔獣討伐に専念出来ぬ事態となる。」

 

「我らの敵は今、魔獣、ギャラルホルン教皇国、そしてゾンダーの三種である。だが、混乱に乗じてそれ以上に攻め込まれる可能性もある。そこで、今まで以上に強大で、巨大な存在に即応対応が可能な機動部隊を設立する事が急務と判断した。その名も……『GGG』!

 

Gutsy      (勇気ある)

Gran Aldreya  (グラン・アルドレイアの)

Guardian knights(守護騎士団)

 

「その設立をここに宣言する!!」

 

それは、この世界に『GGG』の名が明確に現れた瞬間であった。

 

 

《NEXT》

 

 

 


 

 

《次回予告》

 

君達に最新情報を公開しよう。

 

遂に設立された国王直属特殊機動部隊『GGG』。

 

動揺を隠せない様々な人々。揺れ動く想い。

 

修復、改良を進めるマギウス・ガオガイガーに携わるも戸惑う職人達に激を入れるカインとアベルが、建造スピードアップに乗り出した策とは。

 

戦いに間に合わなかったエルネスティはガオガイガーを見て何を思うか。

 

娘の変わり果てた身を案じ、父クリストファーは何を思うか。

 

望まず変わってしまったカルディナは婚約者に何を伝えるか。

 

交渉役としてテイワズに向かうオルガは、これからの身の振り方を考えながら、かつてテイワズに身を寄せ、カルディナに拾われた頃を想い返す。

 

数多に交錯するのは、数々の想い。

 

 

『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

NEXT、Number.18『想い、揺蕩う』

 

君も次の物語へ、ファイナル・フュージョン承認!!

 

 

 

これが勝利の鍵だ!

『物質瞬間創成艦フツヌシ(仮)』

 

 

 


 

《現在公開出来る情報》

 

 

〇バランド・B・ランドグリーズ

アルドレイア王国の北を治める公爵であり、辺境伯でもある。その土地柄、魔獣や襲撃者は多々多く、それらを常日頃捩じ伏せている。何より腕っぷしで成り上がった実力は本物。

更に辺境伯故に自治権はどこの貴族領主よりも強く、カリスマ性はレクシーズにも匹敵する。

が、それらにおごる事なく、自己研鑽は惜しまず、強さに貪欲な人物である。

特にゴーレム至上主義とされる『武闘派』の中で、レクシーズ、クリストファーらの話やフレメヴィーラ王国への交流を経て、幻晶騎士(シルエットナイト)好きになり、ゾンダー戦のダイジェストを見た後は、総じてロボット好きになる。

レクシーズ、クリストファーとは、立場が違うため表面上は政敵の関係を築いているが、あくまで国の為の行為のなので、それがなければ良きライバルである。 

 

 

〇商業国家テイワズ

 

ドワーフの国としてその名があり、他の国より鍛冶の技術力、付与魔法の技術が秀でている。

また国土が肥沃なため、食料の自国生産は200%を超える。

そして何より商売が上手く、大小様々な商会を傘下に、商売が関わるジャンルではどんな事にもテイワズの名が出てくるほど。

統率者は、マクマード・T・バリストン。職人としては一線を退いているが、そのカリスマ性は原作そのもの。王ではあるが、国民からは国王というより『オヤジ』と慕われてる。

国自体が◯道染みている。

木星を中心とした活動よりはだいぶ狭いと感じるが、経済に絡む事情においては、ほぼ敵無しである。

 

 

〇国王直属特殊機動部隊『GGG』

 

Gutsy      (勇気ある)

Gran Aldreya  (グラン・アルドレイアの)

Guardian knights(守護騎士団)

 

国王(レクシーズ)がガオガイガー、もしくはカルディナの持つ戦力を問題なく運用出来るように設立した、対・ゾンダー用の組織であり、国王の決定ですぐに動ける国王直属特殊機動部隊。

その性質上、王国に害を成す存在の排除を目的としており、対魔獣、対人と相手を問わない。

人事は以下の通り。

 

・『GGG』総責任者 レクシーズ・L・アルドレイア

・『GGG』長官 ティオレンス・S・ガーベルト

・『GGG』機動部隊総隊長 カルディナ・ヴァン・アースガルズ

(以下検討中)

 

 






という訳で、失敗を糧に『GGG』創設、という話でした。
ようやく組織としての『GGG』を出す事が出来ました。
その為に色々積み重ねてきたお嬢様ですが、実際に機動兵器を国家単位で作成協力を得るならこれくらいするのは当たり前、努力してナンボで、そのために打てる策はいくらでもするのがお嬢様流。
まあ、やりすぎというところはありますが、個人で国を動かす以上はこれくらいしないと!というところから、この話になりました。
また、他にもお嬢様が武者修行中に関わって恩を売った国や王族もいます。
ちなみに以前版権もので閑話で書きたいと言った中にいます。

さて、いい加減本編進めたいのですが、次回もあんまり進まず。
ですが各々の感情を消化したいシーンなので。(フツヌシさんから目をそらして)


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Number.18 ~想い、揺蕩う~(1)

今回は色々短い話の取り合わせです。
また長くなったので、分けます。


ちなみに『千値練』AMAKUNI機神シリーズより、ジェネシックガオガイガーの他に、何とキングジェイダーが発売されます。(予約は2022年11月30日まで、価格:63,800円(税込))

同時に、コミックファイアクロスにて『勇者王ガオガイガー〈外伝〉キングジェイダー 灼熱の不死鳥』の前編が無料公開中です。

Zマスター戦で、ザ・パワーを解放し、ボイド効果で宇宙の果てに跳ばされたジェイアーク、そしてアルマとJ。
そこで彼等は宇宙収縮現象を観測し、その中心に向かうが、ESウインドウの中で接敵したのは銀色のジェイアーク。

「──そちらは量産型。こっちは主力艦だ!」
「お前は……J019!?」
「ジェイバトラー!!」

かつてゾンダーの先兵となり果てた黒い同型艦、ジェイバトラー。
甦った灼熱の不死鳥の目的とは───!?


そしてこの作品の影響で、多少ながら拙話のストーリーの練り直しが決定(泣)

タイミングが良かったのか悪かったのか……


◯貴族達の動揺

 

「ふざけるな!あれは我々が『勝てない』と言っているようなものだろう!」

 

国王との会議を終えた貴族達、その内容は彼らにとって凄惨なものだった。

 

「国王の仰る『ゾンダー』という怪物……それが我等には勝てぬというもの。そして唯一、対抗出来るのは『ガオガイガー』とかいう鋼の巨人らしいが……」

「王都にそんなものなかったぞ。強いていうなら、獣の姿をした巨大な何かは訓練所にあったが……」

「王は若くても耄碌されたか。巨大と言えどもゴーレムより少し大きいだけではないか。あんな剣も振れないものに国が守れるなど思えん!」

 

『武闘派』の者達からは燦々たる罵倒の言葉が吐き出されていた。

それは無理もない。彼らは王都に起きた悲劇を体験していない。

そして彼らは日常的に魔獣と戦っているため、比較対象がそこから動かす事が難しくなっている。せめて決闘級がいいところであって、師団級が滅多にと言っていい程戦った事がない。そんな経験をしたのは単独殲滅したカルディナ、そして若かりし頃のレクシーズがクリストファー、バランド、ティ・ガーら中隊を伴って三日三晩かけて殲滅したぐらいである。

焼き払われたような凄惨な王都の姿を見ても「魔獣ぐらいならこれぐらいはする」と、拡大解釈で危機を持てず、それ以上の実感も想像も出来ない。これから来るゾンダーの悲劇を想像するには相当な荒療治が必要と、実感するバランド。

 

「静かにせんか。既に決定事項だ、これ以上騒いだところで意味がなかろう。」

「そう申されましても……では公爵はどのようにお考えで?」

「そうです、我等が弱いと断ざれてしまったのですよ!?これでは我らの面目が……!」

「まずはやらせてみればよかろう。だがそんなモノが実際にあったとなれば、いずれはボロが出よう。その時こそ、我ら『武闘派』の出番だ。それに、王国側より戦う力、情報を提供してくれるのだ、こちらの懐は大して痛まぬ。そしてあるモノは使う、それでよかろう??それとも……それが出来ぬ器量の狭い者が、『武闘派』にいるとでも?」

「い、いえ、そのような者がいるとは到底……!」

「なら良い。国王が愚かになったか、見定めてくれる、フフフ……」

 

大胆不敵な態度のバランドを見て、心強いと感心する『武闘派』の貴族達。

その中の1人、エイゼルク・S・ゾイバッハ子爵も……

 

(……フフフ!流石、バランド卿!この方さえいれば『武闘派』は、いずれ王国を掌握出来る!そして我がゾイバッハ家はその中核にッ!!)

 

(……早く出来ないかな、私の機体。楽しみである!)

 

最高潮の『武闘派』の貴族達の考えと、バランドの表情と思考は全くの別々であった。

 

 

 

〇職人達の憂鬱と、奮起

 

───ガオガイガーが帰って来た。

だが、全貌が全く違う事に驚きを隠せる訳がなく、動揺が走る。

機体調整のため、仮組み仕様形態(セミ・ファイナル・フュージョン)となるマギウス・ガオガイガーは、職人達にとっては異質であった。

 

「同じものなんだよな?何であんな姿なんだ??」

「黙示録の……獣か??絵面がヤバいな。邪神って言われても否定出来ねぇ。」

「王都のゾンダーとの闘いで、ああなったんだよ、ちなみに犯人はお嬢様な……あ、これ詳しい資料な。」

「あんがとよ……ってお嬢が!?どうやって!!?」

「だから資料見ろって。」

 

そして資料(という報告書)を見た職人達は驚き、驚き、驚き、そしてうなだれた。

 

「……なんつーモンになりやがった。」

「つーかよ。このガオガイガー、前にお嬢様の持ってる映像で見た、ジェネシックって奴に近くない??性能もそれに近いとか??アハハ───!」

「よく解ったな。現にギャラルホルンの一個師団もまとめて潰せる性能を持ってるぜ。現に潰したし」

「───orz」

 

ここにいる職人達は腕が良く、そしてある意味理解が早い。

それが何を意味するのか。

自分達の手掛けた作品(ガオガイガー)が、どこまでの性能を秘めているか、その限界性能も大体掴んでいる。(ある程度余裕あり)

魔法によるブーストがあろうとも、それ以上の性能は発揮出来ない事も。(もうそろそろヤバめ)

ついでにカルディナの力量も加えても、ここまでは出来そう……と、想像出来た。(これが限界)

だが、それ以上は()()()だ。(over kill)

 

───少なくとも自分達が創った作品が、そんなぶっ飛んだ事をしでかせる性能を秘めている訳がない。

それくらいは解っていた……はず。

 

「「「「……どうしてそうなった。」」」」

 

だが現実は非常に非情である。

 

「軟鉄の正式名称が、AZ-M??あれってただの鉄じゃないのか!?」

「動力炉にどうやってもう1つGストーンが……え、Jジュエル?!」

「お嬢様が瀕死になって復活して、どエライ儀式行って……レヴォリュダー!?ナニソレ!?」

何かヤバい物質(トリプルゼロ)を取り込んで人間を超えたって……いや、元から天元突破したようなお嬢だから、そこはいいや。」

 

多々混乱があり……

 

「「「つーかほぼ、三重連太陽系由来のものかよ!!」」」

(一部誤弊あり。)

 

明かされる秘密に絶叫する一同。

そして一通り騒いで気持ちが落ち着いた後、彼等にはとある不安が浮かんだ。

 

「……なあ、これって俺達いるのか??」

 

いくらガオガイガーが元を辿れば三重連太陽系の物と言っても、ここにあるのはカルディナを中心として造り上げたものだ。

それが姿形を変えて、性能が極限までに上がった原因が三重連太陽系の産物であると言うことは、以降の彼等の存在意義が失われる事を意味する。

しかし、それに待ったをかけた者がいた。

ミニガイガー姿のカインと、ウサリン姿のアベルである。

 

「それは早計だよ。これを見て欲しい。」

 

職人達に見せたのはギャレオンやマギウスマシン内部。そこには……

 

「……内部の付与魔法(バフ)が、変化して……ない??」

「ああ。構造こそ変わっているが、基礎のコレは俺達の仕事の跡だ。ん!?もしかして他のところも??」

「ええ。外見こそ変わっていますが、必死になって行った付与魔法(バフ)の処理はしっかり生きてます……信じられない話ですが。」

 

眉間に皺を寄せるように答えるアベルと、苦笑いするカインは、彼等に次のように話す。

 

「形こそ違うのは、結局のところカルディナの意志であり、そうせざる得ない状況だった故だ。けれどもそこに込められた君らの熱意と技術は確かに形として残っている。ガオガイガーの土台としてね。それがあれだけの変化をしながらも圧倒的な力を発揮出来た証と言える。」

 

「AZ-Mの作用を受けながらも、結果的に貴方達の錬成技術による付与魔法(バフ)はそれに耐えきり、共生さえした。これは科学と魔法が両立出来た結果であり……貴方達はそれが出来る資格を得た、という事です。」

 

カルディナとV・Cが制御したAZ-Mとザ・パワーの影響下であっても、職人達が施した付与魔法(バフ)は強大な変化の中、阻害される事無く、共生し、マギウス・ガオガイガーになってもパワーアップの根底の1つとしてしっかり根付き、その力を更に増大させていた。

むしろ、エネルギー回路がダメになったのは、カルディナとTGSライドの発する力が強力過ぎたためで、結果キングジェイダーのJファイバーや、ジェネシッククラスのGファイバーを要求するレベルに至るので、職人の責任にするには無理があり過ぎた。

 

「これからの改良こそ日進月歩であり、この先は前人未到だ。けれども()()()()()()()()()()()()()()()()()?むしろ《この先は新たな領域》だ。無論、私とアベルも知らない未知の技術を追いかける事になる。」

 

「私とカインは科学一偏倒……科学しか触れた事がありませんが、その最高峰の技術には魔法じみたもの……いえ、理論も技術も判っていながら魔法と思える技術もありますが、その踏み込んだ域は私もカインも浅いです。ですが貴方達もその領域に踏み込んだのです。カルディナのあれは、本人の資質とイレギュラーを伴ってですが、一人ひとりが取り組み、組み上げたその土台を作ったのは貴方達、という事です。わかりましたか?貴方達が造り上げたものの意味を。」

 

「これは、三重連太陽系の関係者としては、奇跡を造り上げたと思えるぐらいだ。」

 

その言葉に職人達は衝撃を受け、そして黙り込む。

職人達はそれぞれが常日頃、最高のモノを造り上げる事に心血を注いでいる。

例え、カルディナからの入れ知恵であったとしても、その品質を高めたのはここにいる職人達である。

まして、本家ともいえる人物から『奇跡を造り上げた』と言われようものなら……

 

「ありがとうよ、カインさん、アベルさん。そして俺達はどうにかしてた。」

「ああ。アンタらにそんな事を言われて、腐っているのは間違いだ。」

「俺達……いや、みんなの力を合わせれば、ちゃんとその『新たな領域』ってのに行けるんだろう?なら俺達にはその腕があるって事だ。」

「けど、それで満足しねぇ、いや出来ねぇな。俺達はもっと高みを目指す!そう、職人としての高みを!!」

「ああ、そして俺達の力で、このガオガイガーを、ウチのお嬢様を最強にしてやろう!!」

 

奮起する職人達。

そして彼らは己が仕事を全うし始める。

例え一人ひとりの力は小さかろうが、合わされば『奇跡』を起こせる。

それが彼らを技術をこれからも高めていくのであった。

 

 

 

〇カインとアベルのこれから

 

マギウス・ガオガイガーの解析と修理が一通り終わった深夜、カインとアベルは地下格納庫にいた。

そして2人でマギウス・ガオガイガーを見ていた。

 

「……改めて、コレをどう思います?ガオガイガーの開発者である、カイン殿は。」

「何だか棘のある言い方だが……そうだな。実に面白い、とでも言っておこう。」

「その心は?」

「ガオガイガーとは、私が開発したジェネシック・ガオガイガーのジェネシックマシン、地球(青の星)で創られた対・ゾンダー用のガオーマシンを始め、ガイガーを中核として支援機と行うファイナル・フュージョンで完成するが、支援機本来の用途はその時の状況・環境に応じて変化させるマルチ・フィッティング・マシンとして成立させるためなのだ。」

「ほう……」

 

緑の星の指導者・カインが開発したスーパーメカノイド・ガオガイガーは、ファイナル・フュージョンする支援機によってその姿、能力を変える多面性を有していた。

それは惑星探査や極地行動をガイガーに行えるようにするため、あえてファイナル・フュージョンする支援機にはマルチ・フィッティング・マシンとしての能力を持たせている。

つまり、元々それだけのガイガー用の支援機があった事になる。

その中のジェネシック・ガオガイガーは、ガイガーの支援機の集大成であり、強大な力を持つ以上に、対・ソール11遊星主用に開発されているもので、カイン本来のメカノイドは、ギャレオン=ガイガーである。

 

カルディナが聞いたら心躍らせる話である。

 

「……しかし、何故最初から全てに対応出来るように造らなかったのですか?」

「それは無理だな。それでは一々、メカノイドを造る事になる。ガイガーを造った当初はそんな余裕がなかったのも理由になる。」

「だからマルチ・フィッティング・マシンの形にした訳ですか。」

「それと……合体にはロマンがある。カッコいいだろう?」

「……」

 

そこはどうにも理解出来ない。

アベルとて変形するメカノイドは造った。しかし、それは機動性や汎用性を重視したためで、デザインセンス以上にロマンを求めた事はなく、造ったモノもジェイダーやキングジェイダー等、またソール11遊星主ではピア・デケムを見て頂ければわかるだろう。

構造的に単純明快なのだ。

構造が複雑になれば、それだけ強度が落ちるのが最たる理由だ。

それをこれでもかと頑強にしたカインは、ロマンと実用性を追い求めたある種の変態技術者とも言える、とアベルは思った。

そこだけはどうしても感性が合わないのは昔から、らしい。

 

話を戻す。

 

「それ故にかな?私の知らないガイガーが作られ、私の知らないガオガイガーが出来た。そして未知の領域に踏み込んだ技術で創られた存在が目の前にある……実に面白い。」

「そうですか。」

「そう言うなら君も、仕方ない状況とはいえ、ガオガイガーばかりに携わる関係上、面白くないとは思っていないかい?」

「思いますよ。アカシックレコードから引っ張ってきたメディアが元とはいえ、何故ジェイダーを、そしてキングジェイダーを造らなかったのですか、と。」

「……100メートル超えもするメカノイドを、この世界の技術で、どう再現しろというのかね?」

「う。」

「それに当時のカルディナがジェイダーに着手しても、プラズマウイング、そして反中間子の技術で躓くだろう。何よりJジュエルがない。彼女はそういうところが凝り性だからね。断念するとすると思うが。それに既にジェイアーク級『000』の存在を知っている。あれがある以上、造る確率は低いんじゃないか?」

「……まあ、それはこれからと言いましょう。」

 

Jジュエルがようやく精製出来たと言うのに無茶振りするアベル。

だが、カルディナが断念した理由はそれだけでないのを二人は自覚出来ていない。

しかしメガ・フュージョンしたい確率ならゼロではない、はず。

──閑話休題(それはいいとして)

 

「……造る気があるのではないですか?ジェネシックを。」

「………」

 

アベルの問いに、カインは黙る。

何故ならその問いには、イエスともノーとも言えるからだ。

環境的には職人達の技術は確かなもので、魔法の応用によるエネルギー循環は足りない力学技術で埋める事が出来るのは既に確認済みだ。

何よりGストーンを精製する過程で、カルディナは既に『Gクリスタル』の精製に成功しているのだ。

今すぐには出来ないが近い将来、ジェネシック・ガオガイガーは創造可能な領域に出来るのだ。

そしてカインは───

 

「今は……いや、もう再び造る気はない。」

「意外ですね。理由を聞いても?」

「私のジェネシックは既に『新たなる勇者』に引き継がれている。ギャレオンが選んだ以上は口を挟むつもりはない。そして、今は000(トリプルゼロ)の手中にあると聞いた。そんな中で、ジェネシックの二番煎じを造るつもりはない。むしろ、造るべきは()()()()()()()()()だと思う。」

「意外ですね。私の技術(Jジュエル)を使うつもりとは。」

「あれの有用性を間近で見せられたのだ、私とて君と対立した頃とは違うさ。」

「……そうですか。それならば言う事はありません。」

「ちなみに君はどうするのかな?私にジェネシックを造ると尋ね、自分は造らないとでも?」

「いえ。私も作る予定ですが……まだ定まっていません。何しましょうか……」

その姿(ウサリン)を発展させた姿とかは??少なくともゴルディオンネイルぐらいは余裕で耐え切れる躯体ぐらいは造れそうだが……」

 

「 そ れ は 絶 対 に 有 り 得 な い 。」

 

「……済まない、失言だった。」

「解ればいいのです。」

 

搭載していない筈なのに、シルバリオン現象を起こすウサリンMrakⅡ(アベル)は何なのだろうか??

取りあえず、銀色(シルバリオン)ハンマーは戻そう。

 

……閑話休題(おはなし、もどして)

 

「さて今後の工期の事だが……」

「……ああ。レクシーズの前でガオガイガーの2号機、3号機造るとか言ってましたが、流石に現在の設備では拷問ですよ。」

「確かに。カルディナ達はそれで良いと思うだろうが、流石に工期が半年だったが、そこまで待てるとは思えん。せめて1ヶ月だろう。」

「ゾンダーの同時出現は厄介ですからね。具体的には??」

「当面は、ギャレオンを2機だね。支援機は別に造るから問題はない。」

「では工期を短縮するために、量子万能工作機でも創りますか。」

「それが妥当かな?Gストーン、Jジュエルがあるならエネルギーはどうにかなる。」

「完成品は……そうですね、『物質瞬間創成艦フツヌシ』とやらをモデルにしましょう。」

 

──『物質瞬間創成艦フツヌシ』

『ガッツィ・ギャラクシー・ガードR&D』に所属する筈であった研究開発モジュール兼移動型マテリアルメカニックプラント、その5番目のディビジョンフリート『ディビジョンⅤ』としてGGGオービットベースに配備される手筈であった。

 

特徴として『三式空中研究所』と『水陸両用整備装甲車』両方の長所を備え、必要な素材を『創世炉』と呼ぶ工房でGGGに必要なメカニックや、勇者ロボを『自立型コンピューターシステム』での集中制御により『GSライド』が発する膨大なエネルギーを用い短時間で製造する機能を持つ。

超AIをシステム調整するディベロップルーム、『GGG諜報部』によるセキュリティ等も備えるが、何故か国連防衛会議に採用を見送られ、竜姉妹を建造した後、『ウルテクエンジン』の機能を止められ、フランスの『フェリックス・ボレール競技場』地下に封じられた。

 

その理由は『物質を瞬く間に創世する』の名称を体現させる能力が、機界文明に近いと判断された為である。

実際にフランス空軍の戦闘機が、船体に無数の砲門を自己増殖させ撃墜し、フランス陸軍の戦車が素材として利用された際は『触手によって喰われる』状況と捉えられ、兵士達を戦々恐々とさせた程だったらしい。

 

この情報をリークした国際犯罪組織『バイオネット』は『ビークルロボ』の『GSライド』を利用して『フェイクGSライド』を大量に生産させる計画を練り、そして後にビークルロボ『光竜』が拉致され、そのGSライドを用いられ、大量のフェイクGSライドが生産され、バイオネットに利用される事に。

また『創世炉』ごと取り込んだ『Gギガテスク』が最終的に創られ、再創成による機体再生によりパリにて猛威を振るうが、応戦したガオガイガーが、大破したフツヌシ内にあったハイパーツール『モルキュルプラーネ』で、Gギガテスクを『芥子粒』に還した事で決着した。

 

ちなみに、この事件は原種大戦中の出来事で、頭脳原種との闘いの後に起き、その際ゴルディマーグはオーバーホール中であったため、ゴルディオンハンマーの使用が出来なかった中での闘いであった。

 

「……曰く付きのものじゃないか。大丈夫なのかい??」

「使用者を限定する方向でセキュリティを構築します。それに今の環境で創っても、素材から分子レベルで錬成構成する、基礎資材程度しか出来ませんよ。暗黒物質の使用なんて出来ません。それに研究所や整備環境が備えられたデカブツなんてもっての他。せいぜい……物質再生装置(ピサ・ソール)のちょっとした応用をするくらいです。移動は飛べるように創ってもいいかなとは思いますが。」

「まあ、それぐらいが妥当……いや、うん、まあ素材はAZ-Mで、制御システムもV・Cに担当して貰えば何とかなろう。しかしそのデザインは───」

「では、そのように。システムを構築しましょう。」

(……聞いちゃいない)

 

そして後日創り上がった『物質瞬間創成艦フツヌシ(仮)』、もとい『物質瞬間創造高速移送艦サクヤ』。

そのデザインは()()()()()()()()であり、製作したアベルが盛大に感極まり、それにカインは絶句していた。

また、その仕様と性能に頭を悩ますカルディナであったが、基礎資材が高品質かつ大量生産出来る環境の誘惑には勝てず、苦渋の末、了承する事に。

だが、一言言いたい。

 

「……これ、なんて艦◯??」

 

艦〇であっても、方向性はアル〇ジオだ。艦の創造も出来たが高速飛行移送艦だった。

しかし、これを機にギャレオン2機の完成が早まったのも事実。

 

そして当然ながら、このフツヌシを廻って当然トラブルが起こり、制御担当のV・Cが、明後日の方向に暴走する、という珍事態が発生するが、それはまた別の話。

 

 

 

◯ギャラルホルンの動向

 

「──そ、それは困る!!」

「困る??それはどういう事かな??」

 

会議より4日後、『ギャラルホルン教皇国』の外交官達が訪れて来た。

普段は強気に、多少上から目線で高圧的な態度を取っても問題なかったが、今回は自国の軍勢が返り討ちにあったという寝耳に水の事態を受け、赴いたが事態は彼らの予想を遥かに超えていた。

それはアルドレイア王国の外交官──クリストファー・エルス・アースガルズ公爵の冷静でキレた態度を見て明らかであった。

 

「こちらに対する国境の無断越境、及び警告なしの攻撃、それによる国王への攻撃……それだけでも貴国への賠償は、まずこれだけだ。」

 

それは国家予算の三分の一に匹敵する金額であり、到底払えるものではない。

いや、むしろこれだけの金額を脅しの名目で払わせていたのは、自分達であったが、今では脅される側に立たされていた。

 

「……まったく、貴国の王太子(王位第一継承権を持つ人物)は無能……いやそれ以下かな。本人に伺ったところ()()()()()()()()()()()()()()()我が国に攻め入った……本人の話だと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と申していたが……とんだクズだな。愛を囁けば付いて行く等と七年前のあの交渉で何も学んでいないと見えるがどうか?貴国の教育はどこまで杜撰で愚かで蒙昧なのだ、無断で他国に入っても罰されないのが当たり前だと声高々に言っていたぞ。そしてそれが当たり前とそんな人物をいつまでも置いていたくないのでな、この条件を呑んで、払うもの払ってさっさと全員連れ帰れ。出来ないのであればお前たちの国はただのヤクザ者の集まりと言いふらすがいいかな?ああ、そうする。」(※要約)

 

……反論したかった。

国の威信より、親としての心情と

しかし、理路整然とされた文脈は一切の反論を砕き、脅しの文句は柳のように受け流されてしまう。

挙句の果てには自国の王子をボロカスに言われてしまうが、全て事実からの正論で返す言葉がない。

あのバカ王子は要らぬ事をポンポン言っているので、反論の一つ一つにケチが付く始末。

身内に足を引っ張られる交渉とは、非常にやりにくい。

外交官の胃にかかるストレスは相当なものだ。

 

「そ、そんな事を申されると、貴国に災いが起こりましょ」

「──126人。」

「!?」

「今日までに来た間者の数だ。ちなみに全員が口を割り、所属もはっきりしている。これがリストだ。」

 

そう言って目の前に出された書類の山。そこには工作員として送り出したギャラルホルンの間者達。

汚れ役を一手に引き受ける部署があるのは外交官も知っているが、真偽を含めてもあまりにも証拠が揃い過ぎている現状、言い逃れできる範疇ではない。

 

ちなみに間者を一人残らず淘汰しているのはカルディナの『影』達である。

主がギャラルホルンのせいで倒れた原因を作ったという事で全員がブチ切れており、それぞれがV・Cの端末を装備し、間者の淘汰、尋問にあたっている。

例え口を閉ざそうともV・Cの端末がある以上、カルディナと同じく思考の読み取りが可能なため、全員が全員、身分を明かされるという公開処刑を行われてしまった間者は一人残らず再起不能と化している。

そんな裏話を知る訳もないギャラルホルン側にはもう逆転の手はない。

 

「で??」

 

クリストファーは改めて問う。アルドレイア王国側の要求を全面的に呑むか、拒否するか。

呑めばギャラルホルン教皇国の威厳は墜ちるし、拒否すると他国からの信用が失墜する。

そもそも、今回の会談はギャラルホルン側が(バカ王子の影響で)不利な状況にある。

何より『カイエル教』の信用にも関わる。

どうしたら良いか……

 

その時、外交官の1人がやれやれといった様子でため息をもらした。

 

「……わかりました、貴国の要求を全面的に呑みましょう。」

(す、枢機卿!?しかしそれでは……!?)

(此度は我々の落ち度です。カイエル教の教えを以てでも、王子には届かなかった、そう結論付けるしかありません。それに彼らは不自然なくらいに我々の策を破っている、こうなると愚策は墓穴を掘るしかない。ここは一から出直した方がよいのでは??)

(……わかりました。)

「………」

 

そして交渉に決着が付き、捕虜が返還された。

それは歴史に刻まれる程のギャラルホルンの惨敗の一頁となった。

 

……その後日のギャラルホルン教皇国の一室にて。

 

「……全く、とんだ出費でしたねぇ。」

「全くだ、ギムレス卿。」

 

そこには仮面を被った司祭と、とあるギャラルホルン教皇国の軍務卿の地位を預かる者が密かに対談していた。

軍務卿の名は、イズナリオ・L・ファリド。

……察しが良い方は解るだろうが、()()某ファリド公だ。

当の本人は自覚がないが、転生者である。

そんなファリド公は先の交渉で被った被害を振り返っていた。

 

「まさかあの王太子が、ここまで愚かだったとは……」

「教育係の長に任命されたエリオン公の面目が丸潰れなのは良いのですが、それを推挙した私や貴方の面子も、ね。あそこまでの軍勢を以て大敗とは……何も言えません。いっそ切り捨ててはいかがでしょう?」

「利用価値がある以上は、まだその時期ではない……と言いたいが、もうその時期かもしれん。あれなら弟の方が能力が低い分、まだ愚直だ。あの兄はどんなに教育しようとも、あの天性の激しい妄想癖と思い込みはどうしようもない。」

 

けんけんほろほろに罵倒される、たわけ様の兄。

敵はおろか、味方すら巻き添えに出来る才能は真似出来ない。

 

「そうでしょう。あと庇えて一回、ですかねぇ……しかし、今回の件はそれだけではないです。あの国がどうしてあそこまで強気に出られたか……謎ですねぇ。」

 

仮面の司祭は話題を変える。

今まで結んだ条約の一部も、今回の件で改正させられ、委託していた防衛体制も教皇国に丸投げされた。これらは強気になれる事が起きたのだろう予測出来るが、彼等にはその根拠となる情報が入ってこない。

 

「間者は皆、淘汰されました。神掛かる程に恐ろしく速く。唯一、あの国にいる司祭から得られた情報ですが、何やら『巨大な鋼の悪魔』が暴れていたとか。」

「……巨大な、鋼の悪魔??」

「はい。全身に鋼で出来た獣が植え付けられたような悪魔とか。とにかく恐ろしく、放つ光は滅亡をもたらすように……等、語ってくれました」

「……何と醜悪な。もしやその悪魔を王国は飼い慣らしているとでも?」

「王国側は、一笑していましたがね……いきなり強気になった理由として、怪しいのは間違いないかと。」

「ならば、その調査に我が愚息を向かわせる。あやつの手腕ならば、何か解明するやもしれん。」

「ほう……ご子息を、ですか。それは頼もしい。宜しくお願い致します、ファリド公。全てはカイエルの名の元に。」

「ああ。全てはカイエルの名の元に。」

 

話に決着が付き、仮面の司祭は退室する。

しばらく歩き、ふと城下を見下ろせる窓の景色を一瞥しながら思慮する。

 

(件の司祭の報告には、『胸に()()()()があり、背に黒い翼広げていた』ともありましたねぇ。胸に獅子を、背に黒い翼……まさか、とは思いますが、念に念を入れておかねばなりませんねぇ。この魔法が蔓延る世界に、()()()()()()等と。いやはや、そんな不粋はいけません、いけませんねぇ……)

 

ギムレスと呼ばれたその司祭は、不気味な嗤いと共に何処かへと行くのだった。

 

 

《NEXT》

 

 

 


 

 

《現在公開出来る情報》

 

◯物質瞬間創造高速移送艦サクヤ

 

ピサ・ソールの『物質復元装置』のデータを応用し創られた『創世炉』を参考にした『創造炉』をコアに、GストーンとJジュエルを合わせた『DSライド』を主動力とした『人型簡易物質創造装置』。科学と魔法のハイブリット技術で出来ており、量子論に基づきエネルギーがある限りどんなものでも『創造』出来、体組織はGファイバーとJファイバーを組み合わせた『G&Jファイバー』を使用し、対・ゾンダーにも考慮されている。

ただし、開発環境が整っていない事と、職人達の付与魔法(バフ)を効率よく行うために周辺素材を用いての基礎部品を構築するに留める設計になっている。精密機器の設計は可能であるが、開発者の意図で普段は能力の封印を施している。順次アップデート予定。

物質創造の際には、内蔵している『ディバイディング・ジェネレイター』を用いてディバイディングフィールドを構築、即席の物質創造空間を展開し、あらゆる弊害影響を遮断する。開発機材はAZ-Mを用いるためありとあらゆる工具を再現出来るので、万能工作機器としての側面も持つ。

例外として、遠距離移動の際には強襲艦クラス(20メートルクラスを6機まで収納可)の高速飛行艦を構築出来、そのメインパイロットを務めるが、本機を作戦に多用するかは未定。

なお、人型形態の際には制御担当の意向もあり、日替わりでフルフェイスの仮面、もしくは着ぐるみを装備、またはGGGで運用されていた『ピギーちゃん』の1.5mサイズの容姿をしている。

ちなみにシステムチェンジはしない。

 

 

 




とりあえず、ここまで。



※キングジェイダーの豆知識

キングジェイダーの腕の大きさと、ジェイダー形態での下半身の大きさが一致しない

また、ジェイアーク形態の頭部と、キングジェイダーの頭部の大きさが一致しない

……フッ、AMAKUNI機神キングジェイダーでもパーツ差し替えでしか完全再現は不可能でしたよ。

そこんとこどうですか、アベルさん??(白目)


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Number.18 ~想い、揺蕩う~(2)

どうも、おまたせしました。
ようやくNumber.18も終了です。次回から物語の駒を進ませる事が出来ます。
この話でもフラグが多々あるので色々見て下さい。

また、私と同じくガオガイガーの作品を更新しています、睦月透火さんとのコラボ作品『GGG、真夏の怪談話』が『狂わなかった「Z」の力~勇者王ガオガイガーif』で掲載しています。
良ければ見て下さい。




 

 

 

〇エルネスティの思慮

 

「おお!これはこれは……!」

「あ、エル君み~っけ。」

「また随分と自然に混じってんな……」

「あ、アディにキッド。」

 

マギウス・ガオガイガーが調整に入った『お嬢様の工房(アトリエ)』の地下格納庫。

その張り巡らされたキャットウォークの一路で、むふふ顔でマギウス・ガオガイガーの調査を他の職人達に自然と混じって行うエルネスティに、オルター兄妹がようやく合流出来た。

ただ、ここはアースガルズ領主敷地内であるが、それ以上に現在、アルドレイア王国の軍事機密に指定されているが、3人は特別許可を貰っている。

 

「その理由が、調査に協力しろってカルナからのお達しだからな。」

「はい。戦闘に参加出来なかった後悔を少しは発散出来ました。」

 

簡易的な解析こそ終わっているが、システムの根幹的な調査は終わっていないのが現状である。

そこで解析が優先されるが、その役を任された一人が、なんとエルネスティであった。

ゾンダー戦に間に合わなかったエルネスティが不完全燃焼気味だったため、カルディナがわざわざ仕事を回したのだ。

エルネスティが担当しているのはマギウスの左肩――アリコーン・ガオーである。

術理に長けたこのマギウス・マシンは、全マギウス・マシンの2番目に厄介な代物で、カルディナの魔法制御、及びマギウス・ガオガイガー自体の術式制御の中枢を担うものと判明した。

ちなみに1番厄介なのは右腕のガルム・ガオー。攻撃魔法(ワームスマッシャー擬き)はともかく、ESミサイルを用いないESウインドウ単体展開は、技術的に非常におかしい(アベル談)。

ちなみに、その任された理由が……

 

「アリコーン・ガオーは、僕がアイディアを出したんです。」

「え!?そうなの!?いつの間に??」

「カルナが留学中の頃です。当時はカルナ自身も完全に趣味の範疇のようで、設計と言うより、単なるイラストでした。」

 

学生時代、エルネスティは所用でカルディナの所に訪れていたが、その際は『お花摘み』で席を外して留守であったが、部屋の鍵は不用心にも開いていた。

そんな事を知らないエルネスティは容赦なく入り、机の上にあった『それ』を見つけた。

それは半ば『落書きとはいったい』的な精密なイラスト――マギウス・ガオガイガーであった。

頭部、胴体、両脚、そして右腕は描かれていたものの、左腕は描きかけのイラストを発見したエルネスティの手は()()()()()()()

 

「うん、描いたのね。」

「描いたんだな。」

「はい、描きました。」

 

その後に学園を巻き込んだ大騒動が起きた。夜中にカルナがキレてエルと大激闘したのだ。

それは夜中に突然起きたという。

学生寮の一部──部屋の窓が破壊され、続いて絶え間ない爆発が郊外の空き地で続いた。

しかし土煙でそれが誰か、何かは判別出来ず、反響し過ぎて聞き取れない、絶え間ない怨みの籠った怒声が響き渡る。

そして30分が経過した後に、急に沈静化。

晴れた土煙の中には何もなく、誰もおらず。

その後、土煙の光景を凝視していた生徒や教師がふと振り返ると、学生寮の損壊は最初から無かったように綺麗になっていた。

 

それは後に『暴虐の幻(イリュージョン・ブラスト)』と呼ばれる、騎操士学園における怪談となった───

 

───その真犯人がカルディナとエルネスティで、その真相は、以前にもフレメヴィーラの地で行われた、カルディナとエルネスティの討論決闘。

この時はエルネスティ勝手に描いた非は認め謝罪しており、その上でカルディナに自身のアイディアをプレゼンして納得した、という。

その事を後日カルディナから聞かされた2人は、口から魂が抜けかけた思いをしたのを思い出した。

 

そしてそのアイディアを元に設計されたのが、アリコーン・ガオーである。

 

「ユニコーン型にしようとしたカルナに、羽根をビットにしませんかと提案しまして。初めは猛反対されたのですが、利点をプレゼンしましたら、納得して頂けました。故に出来たのがアリコーン型です。」

「……そんな理由で。」

「……何でお前らは意見食い違ったり、対立するとすぐにバトルになるんだよ。」

 

その点は非常に謎である。気付けば条件反射の如く刃を交える2人。

きっとカルディナとの戦闘の腕は拮抗している影響に加えて、転生前のネタを知っているが故に、会話の花が満開になるからだろうが、もはや、当の2人も何故??と疑問を持つしかない事案である。

こういう事もあるが、2人は基本的には仲が良い。

だが事情を知っていても、その気がなくてもこの件は完全に『夜這い』である。

 

「ていうか、何しに行ったの??」

「日中視聴していました『アルノドア・ゼロ』を良い所かつ中途半端な所で切られましたので、その続きをと思いまして……」

「……あ~、そんな事だろうと思ったよ。」

 

『火星側のスーパーロボットをどうやって地球側のリアルロボットが倒していくかを全体のコンセプトとする』という、リアルロボット好きのエルネスティにはたまらない作品であったが、途中お預けを喰らった影響で、どうしてもという気持ちが抑えられなくなり、起きた事件だった。

というか、日本人のオタクにアニメお預けとか、どんな拷問だ。

 

「事情はよく分かったけど……ところで、コイツはどこまで解ったんだ?」

「う~んそうですね。書き込んだ技術が当時の、そして今ですら再現不可能な妄モノ(オーバーテク)だったもので、その点が申し訳ないかなと思ったのですが……見事に構成されてますね。」

「そんなに!?」

「はい。」

 

『機動戦士ガンダム』シリーズにおける『ビット』という武器はここで言及はしないが、御存じの方は多いはず。

しかし、この武器にはニュータイプの素質云々以前に『重力圏内では宙に浮かない』という欠点がある。

作中では、宙に浮かび宇宙(そら)をビュンビュン舞う描写で描かれているが、無重力圏で起きる事象なので、如何にビット自体のスラスターが優れていようが、重力圏内では射出した瞬間に推力不足で落ちる。

同様の理由でインコムや、SEED世界のドラグーン兵器も大気圏内で展開出来ないのもここに帰結する。

スパロボ30でνガンダムのフィン・ファンネルが空Bなのもここが理由……ゲーム故の事案だろう。

 

である筈なのに、同様にビット機能を持たせたアリコーン・フェザーが悠々と宙を往く様は、見事としか言いようがない。

ついでにガジェットツールの浮揚も説明してほしい。

 

「何やら魔力(マナ)ではなく源素(エーテル)を用いた装置、ないしは見たこともない術式が羽根の一枚一枚にあるのは判ったのですが……」

 

それが、後の戦争で出てくる源素(エーテル)の浮揚性質を流用した源素浮揚器(エーテリックレビテータ)の発展型と気付くのがその1時間後で、感応波による無線操作の困難さにV・Cから忠告を受けて『orz』するのが、その5分後であった。

 

(しかし見れ見るほど不思議で、かつ納得出来る機体ですね、マギウス・ガオガイガーというのは。ここまで魔法と科学を混在させて両立出来る機体は、見た事がありません!ですが『魔法と科学の混在と両立』ですか……以前、学園で議論した事をカルナは覚えているのでしょうか??()()()()()()()()()()()()()()を。今までの話を統合するなら『AZ-M(ナノマシン)』、『無限情報サーキット』、『魔力』、『量子理論』、そして僕たちの中にある『魔術演算領域』……これらのラインナップは『作為的』にすら思えます。)

 

エルネスティは独り思考する。

それはあまりにも高速回転が過ぎるその思考は一瞬で終わった……が、『とある仮説に達した』エルネスティを満足させるには十分であった。

 

(……まあ、どういう意図かはわかりませんが、この世界は僕のロボット作りには非常に良い環境になっています。そしてカルナが可能性を見せてくれたのです、僕もお礼として、いずれパワーアップしたイカルガでカルナをお迎えしなければ。)

 

一部の人間には不穏な考えを廻らせるエルネスティだが、とりあえずは自身の仕事を進めるのであった。

 

 

 

◯父の思い、母の思い

 

王城の一室。

アースガルズ公爵、クリストファー・(エルス)・アースガルズは極度の疲労(ストレス)でベッドに突っ伏した。

先程まで王都復興のための執務を国王(レクシーズ)ランドグリーズ公爵(バランド)と手分けして行っていたが、彼が疲労(ストレス)で倒れた事により、強制的に()()()()()

だが普段激務をこなす彼が、適度に休憩を挟んだ事務処理的な仕事で倒れたのには訳があり、その事を堕ち逝く意識の中ですらも反芻していた。

 

(……カルディナ、お前は……)

 

娘のカルディナの事である。

此度の件で、カルディナが長年抱えていた事を知る事が出来た反面、その担っていたもののスケールの大きさを知ってしまった、そしてそれに自分が如何に無力であったかを思い知らされていたのだ。

 

確かに娘の破天荒ぶりと有能さは幼い時から直に見ていた。

だが蓋を開けれれば娘は生まれがらに世界の根源(トリプルゼロ)と『元始情報集積概念(アカシック・レコード)』に侵食され、知らぬ間に命の危機に瀕した挙げ句、己が欲望と正義感をひっ下げ、技術特異点とも言えるガオガイガーを開発してゾンダーという未知の脅威に立ち向かい、世界の果て(オレンジサイト)でレヴォリュダーに爆誕(ジョブチェンジ)とかいう、非常識外れの存在になっていた娘に、父は心身共に疲労困憊であった。

文面に起こせば非常識極まりなく、一父親からすれば娘の極限変化に鬱になる。

公爵としてもそうだが、父親としても娘にどう接すればいいかわからなくなったのだ。

 

……そんな嫌な思考が頭を廻る中、頭に透き通るような声が響く。

 

《───もぉ、心配し過ぎですよ、アナタ。》

(……ん??ケルセリーヌ、なのか??)

《はい、貴方の妻のケルセリーヌこと、ケセリーちゃんです。》

(……うん、その物言いはケルセリーヌ、だな。(おおやけ)では凛々しく美しいが、プライベートではとことん残念なケルセリーヌだ、安心した。)

《え~?それは酷いです、プ~。》

 

どうやら大凡(おおよそ)の本性を知っているためか、ロリ妻に通常運転でボケる夫。

初めて体験する事象に、多少戸惑いながらも大らかに対応出来ている。

 

(ちなみに、頭に響く()()は……)

私達(アルヴの民)の秘術の1つ、『リミピッド・チャンネル』。遠く離れていても、声を通わせる秘術よ。》

(『通信魔法』のようなものか。)

《その呼び方は好きじゃないな~。まあ、今はその事はいいとして……大丈夫、じゃないね。》

(………ああ。君の声を聴いて、多少落ち着いたが……一つ尋ねたい。)

《……カルナちゃんが産まれた時の事?》

(ああ。どうして教えてくれなかったのか……いや、ケルセリーヌの事だから、考えがあって秘密にしたのだろうが、何故だ??)

《初めての出産で気が動転したってのもあるけど、私のお母さん、キトリーが『明かすには過ぎた力だ』って、解決策が出来るまで秘密にしよう、って事にしたの。》

(……やはりか。カルディナの持つ力はどれも我々……いや誰にでも過ぎた力だ、その判断は正しい。だが、どうして言ってくれなかった、という寂しさもある。)

《だって………私とアナタの初めての子供なのに、悲しい気持ちで迎えてほしくなくって………》

(そう、言われると……弱いな。)

 

妻の言葉に思い出される、娘が産まれたあの日。

恐る恐る腕の中で抱いて、笑って、泣いた幼子。

それがやんちゃに、清楚に育って、多才な才能を開花させたと思ったら、周りの人々を幸せにする。

振り回される気苦労も多々あったが、その先の景色は自分が今まで見てきた景色とは違う光景。

次は何をするのか、何をしたいのか、どんな景色を見せるのか。

口では諫める事もあったが、知らず知らずに期待もしていた。

 

(……何度、自分にはもったいない娘と思ったかな。)

《うん、私も。それにあの子の眼はいろんなものを見ている。違うものを見て知っていても、私達の見ている景色も、しっかり見ている。》

(私達の景色も、か……)

 

思い返せば、カルディナは自分達の恩師達(カインとアベル)を知っていた。

知った背景は違えども、親子共に同じ人を見て、憧れていたのだ。

何という偶然で、運命で、奇跡なのだろう。

そして今、同じ境遇を見ている。

かつて娘に感じてしまった疎外感ではなく、間近で、その傍らで見て、共に悩み苦しみ、けれども歩める実感が胸に宿るのをクリストファーは感じた。

 

(……獅子王凱の父親、獅子王麗雄殿も、こんな気持ちを抱いたのだろうか。)

《じゃないかな。》

(しかし役割こそ違えども、歩む道は一緒なのだ。それなのに、何を怖がっていたのだろう、私は。)

 

そして役割が違うからこそ、娘を支えられる位置にいる。むしろそれこそがやるべき事なのだと。

そう思うと、今まで感じていた不安が晴れていった。

 

《元気、でたかな?》

(ああ、もう大丈夫だ。ありがとう。君にはいつも助けられてばかりだな……)

《良かった。でも出来れば……早く帰って来て欲しいかな?最近直に触れ合えなくて……少し寂しい、かな。》

(……済まない。だが、早く帰れるよう努力する。)

《うん、待ってる───》

 

そうして夫の気配が安らかになって『リミピッド・チャンネル』の領域から消えた事を感じたケルセリーヌは、一安心した。

 

《本当、心配性なんだから。》

《───婿殿の憂いは晴れたか?》

《あ、お母さん。》

 

次いで領域に現れた……というよりも気配を現したのは、キトリー。

 

《うん。やっぱり凄い心配してたよ。無理ないよ、娘が超存在に爆誕(ジョブチェン)ッ!だなんて。》

《まあ、只人(ただびと)には少々刺激が強かったようじゃの。》

《只人じゃなくても刺激強過ぎだよ~。》

 

当事者の1人でもあるキトリーも、この件について心残りがあったようで、何かあった時にはフォロー出来るように潜んでいた。

ついでに、娘と婿のラブラブ加減も見たかった(冷やかしたかった)

まあ、そこは邪見であるので、あえて黙っていたが。

 

《……けど産んだ私も今でも思い出すと身震いするよ。》

《じゃな。まさか産まれる前の幼子が、超常の存在と法則を一方的に捕食する等と、誰も思わなんだ。そして産まれた子は利口そのもの……それが全てあの孫の『本能と力』により成されたとなれば、な。》

《……うん。》

 

結局のところ、カルディナの件は2人にとっても驚く事であった。

完全に消滅させようとしたが、僅かに残った因子をカルディナに喰われたのだ。

そしてそれは、ソムニウムの因子と合わさったアースガルズの血統による力が原因であった。

アースガルズの血統は、雑多であるが『如何なる強者をも取り込む本能』が極限に高い。それがソムニウムの血統と交わった事で、ある種の形と成って超常の力を持ってしまった。

結果、それがカルディナには超常の力を取り込ませ、現せる存在とさせた。例えゼロに還る意志を持たせる世界の根源(トリプルゼロ)の影響があっても、その力を十全に発揮出来る存在として、だ。

それでも命が危ぶまれた時があったが、今では制約が取り払われて超常の存在(レヴォリュダー)となった。

そして世界の根源(トリプルゼロ)が形を変え、ザ・パワー、そして『Zオーブ』となり、更に創り変えた存在、それが、今のカルディナ・ヴァン・アースガルズである。

 

《アースガルズ……お前が婿に認める訳だの。》

《でも本能と血統だけじゃないよ、彼って実は情熱的で、可愛くって───》

《惚気は後にせい………まだ目を離すでないぞ。どんな危険があるやもしれん。》

《うん。でも……それすらも乗り越えちゃいそうなのが、カルナちゃんな気がする。》

《全くな……》

《……それよりも。》

《うん??》

《カルナちゃん、クリスに似て真面目な性格だからね……変な気、起こさなきゃいいけど。》

《………》

 

夫だけではなく、娘の心配もするケルセリーヌ。

この場合の『変な気』とは……

母親の心配はその娘を余所に『リミピッド・チャンネル』の海に消えた。

 

 

 

 

〇葛藤と告白

 

体調が戻ったカルディナは意を決してその日の夜、アシュレーを呼ぼうとした。

しかしその前に、そのアシュレーから呼び出された事で、面食らう事態となった。

 

場所は王城の中庭、薔薇園。

原色の赤薔薇からピンク、白、交配して作った黄、オレンジ、紫。そしてカルディナが昔、気まぐれで魔力(マナ)を注いで出来た薔薇の種から育った青薔薇が咲き誇る、美しい薔薇園。

王妃より依頼されてレイアウトから全てカルディナが手掛けた薔薇園であり、周りから見えにくいレイアウト故に、密かな逢引きを手助けする場所でもある。

 

……何でそんなコンセプトにしたかは、王妃に聞いてほしい。

 

王城も先の戦いで被害を受けた所が多々あるが、この薔薇園はその被害から難を逃れていた。

その中にカルディナがやって来た時には、アシュレーがテーブルにあるティーセットで、自らお茶を淹れていた。

付き人はいない、アシュレー独りだった。ここに来る間に護衛もいたが、あくまで薔薇園の周りを固めるだけであった。

その事を解ってか、当のアシュレーは普段のにっこりとした笑顔に対し、少し戸惑った様子のカルディナ。

 

「お、お招きいただき、ありがとうございます……アシュレー殿下。」

「うん、病み上がりのところ応じてくれてありがとう。どうぞ、座って。」

 

応じて席に着くカルディナに合わせ、アシュレーはお茶を淹れ、彼女の前に出す。

その手つきは少しぎこちなく感じたが、手習いとしては一応合格を付けられるぐらいだ。

 

「どうぞ。お口に合えばいいと思うんだけど……」

「は、はい……いただきます。」

「………どうかな??」

「………蒸らしが足りませんね。見極めが早かったのか、少々味が薄いです。」

「そっか……さすがに難しいな。フミタンに教えてもらったんだけど、やっぱり君から合格を貰うにはまだまだかな。でもそう言えるなら体調は戻った、という事になるね。」

「はい、お陰様で。」

「………君が倒れてから三日か、()()()。」

 

──()()。その『三日』には()()()()()()が含まれているのか。

調子が戻ったとはいえ、今のカルディナにはその事を聞く勇気はなく、むしろ『逆』の事を伝えたい気持ちであった。

 

「──じゃあ、僕から用件を話したいけど、いいかな?」

「え、あ……はい。」

 

思考がよぎる間に、アシュレーから話の主導権を握られ、つい肯定してしまう。

普段ならあり得ない凡ミスだが、そこまで動揺している事を改めて自覚する。

 

そしてアシュレーの話はカルディナが休んでいる間に進んだ出来事が主だった。

王都の順調な復興。

鉄華団の様子。

復興を進めるにあたっての苦労。

そして父親達(レクシーズ達)との話等々……

 

だが、どれもフミタンを通してある程度掴んでいる情報が殆どで、特に注意して聞くものはなく、無意識に聞き流して───

 

「──で、父上に強く進言したよ。『カルディナとは現状のまま進めて欲しい』って。」

「………進め……えぇ??」

「……ん?あの、聞いてた??」

「す、すみません。最後の方は、あんまり……」

「……あ、うん。カルディナとの()()を現状、このまま進めて欲しいって、そいういう事。」

「え……え??ええぇぇーーー!?!?」

「……その反応を見てると、やっぱり気にしてたんだ。そんな気がしたよ。」

 

 

深い溜め息を吐きながら、心ここに在らずといった様子の婚約者(カルディナ)を見つめるアシュレー。

そして苦笑いこそする自身の予想が的中していた事に、そして彼女がそう思っていた事が哀しい。

 

「……超進化人類革命者(レヴォリュダー)、エルフが体内に有する触媒結晶を自己精製によって出来たGストーン、Jジュエル、更に根源の結晶(Zオーブ)を中核に、魔法の真髄、科学の最先端が結集して再誕生した、アースガルズ家の血統が生み出した傑物である』……だっけ。」

「……誰の言葉ですか、それ。」

「V・Cだよ。今のカルディナを正しく評価するなら、そうだって。僕には半分ぐらいしか理解出来ないけど、もう半分は解る。『故に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っていう事は。」

「────!!」

 

その言葉にカルディナは過敏に反応する。

カルディナの身体はもはや、()()ではない。

半分が有機生命体でありつつ、半分はAZ-Mの無機生命体なのだ。それもカルディナが知る以前から。

V・Cにより衝撃の過去を知った世界の果て(オレンジサイト)ではレヴォリュダーとして、戦士として、ガオガイガー(勇者王)のパイロットとして戦えた。

しかし、いざ冷静になると公爵令嬢としては?と嫌でも考えてしまう。

獅子王凱も自身がエヴォリュダーになった際にはゾンダーと同じ性質を持つ体になってしまった事に、強く悩んでいた時期があった。

それは判っているが、いざ自分の事となるとどうにも……

 

そうなれば、残る道は……

 

「──けれども『それ以前に、あれは破天荒でオタクな小娘です。そんな小娘が大層で筋違いな、ちっちゃいお悩みをお持ちで、プ~クスクス( *´艸`)』だって。」

「──は?」

「ちょ!?カルディナ怖い怖い!その眼光で人が殺せるぐらいに怖いから!!」

「当たり前ですっ!!ていうか何ですか、そのカンペ!見せなさい!私がどれだけ悩んでいるか、解る訳───!!」

 

アシュレーが妙に饒舌に話すと思ったが、それはV・Cの入れ知恵のようで、それらがカンペに書かれていた。

それをアシュレーから奪い取るカルディナはその続きを見た。

 

 

 

──でも、それこそが思い上がりです

 

「!?」

 

──この世界にゾンダーがいる以上、そして貴女がガオガイガーを創るという選択肢を選んだ以上、平穏はあれども『普通の道』は貴女の前から、そしてこの星から消滅しました。それらを放って『普通』を望みますか?

 

カンペにあるV・Cの言葉に、カルディナは深い衝撃を受ける。

そう、今のカルディナに普通を望むのは思い上がりなのだ、強大な天災(ゾンダー)に抗うため、この世界に規格外(ガオガイガー)を生み出す覚悟を決めた時から。

けれども今さら『普通の道』など選べない。

もう存在しないのだから。

『普通』では成し得ない、『普通』では勝てない故に。

そしてそれを望んだのは、自分自身だという事を思い出した。

だが、まだカンペの文章は続いている。

 

──それ以前に貴女はレヴォリュダーです。他の人類皆々様より遥かに優れています。大概の些末な事は解決出来る力を有しています。アイドルが普通の女の子に戻りたいとか眠い事を抜かすより些末です、些細です。そんな力があれば、私も有給(アップデート)し放題なのに……こんちくしょー!

 

「………」

「え??な、なんでそんな目で見るの?!何処を読んだの!?」

 

カンペを見ながらV・Cの言葉とアシュレーにジト目する。

奪い取らなかったら、これを読む気だったのか。

アイドル活動を辞める事より特別か、という事はさておき、さり気に自分の欲求を書くんじゃぁない。

 

──そんな貴女が目指すのは、普通じゃない『特別な幸せ』。今の状況をひっくるめて、みんなまとめて幸せになる事。『特別になる事』。それに周りを良く見なさい、貴女の周りには『普通の人』はいますか??みんな貴女に巻き込まれ、付いて来た人ばかりです。そしてそんな特別な女の隣に命尽きるまで、一緒に居たい男が1人、そこに居るのですから、まずはそちらの話を聞いた方がいいのでは?

PS:現状貴女に判明している事は一通りお伝えしています。覚悟ぐらいは受け止めて上げて下さい。

 

「………」

 

これで書いてある事は全てだ。

そしてカルディナは頭が冷えた事で、はらはらしているアシュレーと向かい合う。

 

「……『特別な女の隣に、命尽きるまで一緒に居たい男が1人、そこにいる』ですか。アシュレー・S・アルドレイア殿下はいつから女の趣味が悪くなったのですか?」

「酷い言い方だね、強いて言うなら君のせいだよ。」

「まあ酷い。」

 

そんなやり取りに少し間が開き、可笑しくて微笑む2人。

ようやく自然に笑えた後、アシュレーからカルディナの元に歩み寄り、そして何も言わずに静かに抱きしめる。

カルディナはされるがまま身を任せ、しばらく沈黙がその場を支配する中で、アシュレーが沈黙を破るように話し始める。

 

「……父上と、アースガルズ公爵(君の父上)には、はっきり宣言してきた。僕は何があっても君から離れないって。」

「……後ろ指、絶対に刺されますよ?」

「今更だね。君と鉄華団といるだけで、陰でけっこう言われているんだけど、そんな事どうでもいい。それよりも君を独りにさせない事の方が大事だよ。それに君を護る力も。」

「私より弱いのに、ですか?訓練では結局一度も負かせませんでしたが?」

「君との純粋な力比べで勝とうとは思っていないよ。むしろ、権力とか君が厄介に思う方の盾になる。それこそ王家の力を行使してでも。そっちの方が君の力になれると思う。」

「それこそ修羅の道ですわ。王位継承権も2人の兄上様に劣るのに、王位も継ぐつもりもないのにですか?権力を高めたら、誤解されかねませんよ?」

「そうならない様に立ち回るさ。縁の下の力持ちのやり方は君から教わっているからね。君を護るならいくらでも泥でも猫でも被るよ。」

「私の身体、もう普通じゃないですよ……それでも?」

「君に今まで普通を求めた事はないよ。むしろ『特別』だからカルディナ・ヴァン・アースガルズなんだ、、思ってる。僕は最初から出会った時から『特別』にしか見てないし、今までも『特別』だと思ってる。今更『特別』な事が増えたところで、驚きはするけど誇らしく思うよ。それが人智を超えていようが。」

「……そこのところ、本当に判っています?」

「……少し、としか言いようがないかな。でも、判るように歩み寄らせるぐらいは許してくれるよね?」

「知って……後悔しません?」

「後悔なんてしないよ、むしろ全て教えて欲しい。」

「これから先、幸せに……なれないかもしれませんよ?どんな状況になるか……予想も付かないのに??」

「それは僕だって同じだよ。これから来るものを考えれば、絶対に幸せに出来るとは言えない。でも、君はそれでもそうならない道を往くんだろう?だからカルディナ、君は君の思うがままに往けばいい。」

「……殿下。」

「僕は後ろから支えるから。でも……一緒の時は隣に居て、同じ時を2人で歩みたい。」

「───!」

 

自身の想いを真摯に言い切るアシュレー。

その言葉にカルディナはアシュレーの背中を強く抱き返す。

 

「……絶対、傍にいて下さいね。私も命、尽きるまでお供します。」

「……ありがとう。」

 

 

 

 

「……上手く、纏まったようですね。」

「そうでしょう、そうでしょう。こういう時の為に、この庭園を造って貰ってんですから。」

 

そんな2人の死角より、盗撮カメラを用いてとある一室で一部始終を見ていたのはメイドのフミタンと、少しふわふわした印象を持つ人物。

レクシーズの妻であり、アルドレイア王国の王妃、エリスティナ・S・アルドレイア。

 

「長男にも、次男にも、告白するときはここでしなさい!ってアドバイスしたから。ああ!!やっぱり絵になるわ。あ、これって後で繰り返し見れるのでしょう?」

「……はい。」

「最高ね!長男、次男の時は覗き見しか出来なかったから……暫くは、ウフフ!」

「………」

 

まさか、城の薔薇園が子供達の逢引き目的に造られたとは、流石のフミタンもドン引きだった。

 

 

 

◯国王として、父として

 

 

「──良いのか、放っておいて。」

 

同じ時刻。

そう言うのはランドグリーズ公爵。彼もレクシーズと共にこの場に届けられる重要書類の手続きを2人でこなしている。(他の書類は別室の者が担当)

現状のアルドレイア王国は復興作業真っ只中で、人手が圧倒的に足りないので、来る者、いる者はひたすらにこき使われる。

それは公爵本人でも例外ではない。

故に交わす言葉も昔のように砕けている。

 

「かまわん。アシュレーが上手くやる………そう思う事にした。やらねば『漢』ではない。」

「確かにな。しかしお前も大胆だな、あの娘の処遇を子供に任すとは……」

「……完全に、という訳ではない。しかし今の王国には、あの娘の力がそれだけ必要という事だ。」

 

むしろアシュレーの告白から始まる、カルディナの取り込みは始まったばかりだ。

軍事戦力(ガオガイガー)だけではなく、個の力にも優れている人材は放ってはおけない。

ましてや国の経済の一部を掌握していると言っても過言ではない経済力、国一つを任せてもお釣りが来る生産力、どこまで伸びているか解らない膨大な人脈、特別な知見を持っているアイディアの豊富さ。

 

「個人が掌握する力としては過剰過ぎるが、取り上げてしまえば我々の方が終わりだ。クリストも言っていた『カルディナが中心に廻るアースガルズ領は今やあの子無しでは成り立たん』と。国としても一緒だ、カルディナ・ヴァン・アースガルズがいなければこの国は消滅していた事実は一度や二度ではない。表沙汰にこそなっていないが、現在に至るまでそんな出来事が多々あったのは知っているだろう?私にも身に覚えがある。」

 

それはバランドも重々知っていた。

生活物資のあれこれにカルディナの息が掛かっている。その影響力は他領、そして国全体、挙句には他国に及ぶ。今まで繊細と思われていた品々の常識を悉く塗り替え、アースガルズ領以外の食料品以外の品はほとんど売れないという事態が一時期起きている。。

その昨年までの『アースガルズ・ショック』は記憶に新しい。

また、魔獣討伐において、師団級魔獣の単独討伐などカルディナ以外には出来ない。

本人が特に誇る事がないため、一部の人間しか知らないが、聞いた当時は仕事が碌に手につかない程だった

 

文武商美──とにかく優れる傑物。それがバランドの認識だったが、それがまた今回の事で塗り替えられた。

 

「知っているか?あの娘に任せたら一週間もすれば荒れ地に『街』を築けるのだぞ?そんな娘を訳の解らぬ下らん貴族においそれとやれんだろう。将来を見据えて王家に迎え入れるのは重要な意味がある。我が子(アシュレー)1人を生贄に差し出したとしても、惜しくはない。」

「………」

「……まあ、べらべら喋ったが、今あの娘の処遇をこちらで完全に決めるのは危うい。多少の筋道と逃げ道を用意してやれば、あやつは勝手に最適解を自分で辿る。我々はあの娘の障害となる事案を取り除けばいい。それが今回の処遇の理由だ。」

「何という娘よな。我が娘もそれくらい利口であればいいものを……」

「無理はさせるなよ。カルディナは『令嬢』という枠組みから完全に逸脱している。生まれる前から持っているモノが元から違う。張り合っても相手にもされず、勝手に潰れるぞ。」

「だな。張り合わぬよう、肝に命じさせておこう。」

「仮に、あの娘がアシュレーとの婚約をフイにしても特に責めはしないつもりだ……事情が事情だ。」

 

V・Cからの助言で、レヴォリュダー化による身体の変化、不安感を聞いていたレクシーズ。

とてもではないが、無理矢理どうこう出来るものではないので最悪、アシュレーとの婚約はカルディナから破棄しても不問にする道も用意していた。

それでもアシュレーがカルディナとの婚約に拘る以上、そこは運任せだった。

 

「成人しても、どこにも嫁がないよう独立させ、新たな領地でも治めさせるつもりだがな。しかし……アシュレーからの恋慕とはいえ、そんな娘が今までアシュレーを好いてくれたのだ。国王としても、父としても嬉しく思う。どんな結果になろうとも……悔いはない。」

 

そんな哀愁漂うレクシーズを何とも言えない心持ちで見るバランド。

 

「さて、仕事に戻ろうか……ああ、確かこれもそうだったな。『マギウス・ガオガイガーのデザインについての固有表現の苦情』。」

「そんなものまであるのか!?」

「ああ、主に教会からの苦情だ。各教会のシンボルが事前通知されずに使われた事に対してな、これだ。」

「どれどれ……『竜神教』はドラゴンのデザインの無断使用について。『賛美歌の教え』からは不死鳥(鳥)について。『暗狼教』、『光馬教』も狼と馬についてのデザイン無断使用……『天華教』に至っては『他の教会のシンボルが使われているのに、何でワシのところはないんじゃ!?』……って言い掛かりだろう、コレは。」

「どこもシンボルの扱いは煩い。今回はイメージダウン払拭に尽力しているのだろう。『天華教』は知らん。」

「……いち『天華教』の信者として、お詫びの言葉しかないな。」

「とりあえず、この件はカルディナに対応させるしかあるまい。」

 

どうやらカイエル教以外にも宗教問題があるようで、嫌で巻き込まれるカルディナに安息の時は訪れるのかと、溜め息を吐くレクシーズとバランド。

 

その数分後に妻からアシュレーが告白に成功した報告を受けると、その日の仕事は即座に切り上げられ、バランドやティ・ガー、後に復活したクリストファーと共に祝い酒に走ったという。

 

 

 

〇オルガ、そして鉄華団の歩み

 

幼いころから孤児で、記憶がある頃から既に周りにも同じように孤児ばかりだった。

物付いた頃から生きるために食べ物を盗んでは殴られ、殴り返し、僅かに残った食べ物で争う事なんてザラた。

それから人攫いに奴隷として売られ、偶然なのか運命なのかマルバという男が経営する傭兵団で雑用として、成長してからは矢除けとして14歳までいた。

その頃には今の鉄華団の基礎メンバーがいて、そして俺達は頃合いを見計らい()()した。

 

流石に銃なんてない世界だ、魔法だって学のない、才能のない子供だったから使えやしない。

魔獣に追いたてられ混乱した大人の傭兵達を囮に逃げるぐらいしか出来ねぇ。

結果、マルバ達の傭兵団は壊滅、生き残った俺達は偶然通り掛かった行商兵団『タービンズ』のお陰もあり、ドワーフ王国『テイワズ』で働ける事になった。

 

だがここで転機が起きた。

 

メイドを1人引き連れた、とあるお嬢様がテイワズにやって来た。商品の売り込みらしい。

事前に話が通っていたようで、そのお嬢様を指示通り名瀬の兄貴のところに案内して2時間後、ぐったりしてアミダの姉御に介抱されて名瀬の兄貴がそのお嬢様と出てきた。

名瀬の兄貴がこれまでにないくらい、商品の交渉にボロ負けしたという。

 

「……取り引きはするけどよ、このお嬢様の交渉のテーブルにゃ二度と着きたくねぇ。」

 

……何があった??

値段は他とあまり変わらなかったが、その『あまり』で白熱したとか。

 

そしてお嬢様が帰った後、何とヤマギが拐われた。

主犯はまさかの、あのジャスレイ。

 

「仲間を返して欲しければ、あのお嬢様を拐って来いよ、ガキ共。」

 

ジャスレイと大の大人十数人では敵う訳がなく、泣く泣く脅しに従った俺達だったが、ここで大誤算が起きた。

 

鉄華団全員で拐おうとして、全員伸されたのだ。

齢12歳のスカート履いたお嬢様が、独楽のように回って人を弾き飛ばした──そんな光景だ。

唯一いい勝負が出来たのは、昭弘とミカだけだ。

それでも10秒保ったぐらい。今思えば、手加減されたんだな。

 

その後がもっと酷い。

 

俺以外の団員が伸された後、監視していたジャスレイの手下が数人やって来たが、そちらは容赦なく両鎖骨を砕いた後、頭を地面に突き刺した(パイルドライバーだ)

そして突き刺した人の林の中で吐かれた台詞がコレだ。

 

「……で、何か御用で?」

 

そして最後に残した1人に、徹底的な尋問───という名の強制自白タイム。

……ニコニコ笑って指を一本一本丁寧に折っては『回復魔法』を雑に掛けてまた折る、を繰り返す光景は、今でも思い出したくない。

 

そして口を割らせて得た情報から、あえて鉄華団(俺達)に捕まった()()をしてジャスレイのところに向かった。仕込みが細かい。

んで、お嬢様を見るなり奴は饒舌に話した。どうやらギャラルホルン教皇国に売り渡す算段らしい。

他に名瀬の兄貴の悪口やマクマードの親父が朦朧しただの散々なじった後、ヤマギを解放したが───

 

「直に、俺がこの国を支配してやらぁ!!」

 

と頭が沸いているのか?と思う台詞を吐いた。そして口封じにお嬢様以外は殺すと宣言。

 

──その瞬間、ジャスレイは豪快に空に舞い上がった。

一瞬で間合いを詰めたお嬢様が、ジャスレイの顎に、垂直蹴りを喰らわせやがったんだ。

そして落下して動けないジャスレイの頭を鷲掴みにして───

 

「──おい、ジャスレイ・()()()()()()()、“Now,Count your sins.(さっさとお前の罪を数えろ)”その数だけ殴ってやる。」

「お、俺の名前はジャスレイ・ドノミコル──おぶぅ!?」

「──お前が読むのは自分の罪の数と……世辞の俳句(HAIKU)だぁぁぁーーー!!」

 

……最後の意味は今でもよく解らねぇ。

でも俺らより少し小さい身体で、大の大人をこれでもかってくらいボコボコにした実力は本物だ。

 

それから事態が大っぴらに露見、お嬢様が自衛で過剰にジャスレイをボコった件も差っ引いても、この件は明らかにテイワズ側に非がある以上、仲裁に来た名瀬の兄貴は青ざめ、事の経緯を聞いたマクマードの親父さんは大激怒。

 

……その後、ジャスレイとその一派の姿を見た奴はいない。

 

後で聞いた話だが、お嬢様との取り引きでアルドレイア王国側にテイワズが是が非でも欲しい資源があったらしく、ようやく輸入出来る算段が付いた矢先の出来事だったのが、パーになってしまう。

そりゃ親父もキレるわ。

危うくご破算になるところだったが、何とかその件についてはキープ。

ただ、ケジメは付けなきゃならねぇ。

 

そして「人材が欲しい」と希望があり、鉄華団(俺達)がお嬢様に売られた───

 

 

 

 

───そしてお嬢様改め『お嬢』のご丁寧な教育の賜物で、俺達は『鉄華団』改め『鉄鋼桜華試験団』として存在している。

兄貴達と別れる時は、兄貴達に惜しまれ、寂しさもあったが、翌年を皮切りにテイワズに何度か足を運ぶ仕事を任せられた事で半ば『里帰り』も出来ている。

 

そんな中で『前世』を思い出し、新たなトラブルの火種───世界を揺るがす事案(ゾンダー)に巻き込まれた。

 

……どうやら俺達、鉄華団は常にトラブルに巻き込まれる運命を背負っている、とは思いたくないが、しかも次は世界存亡の危機───

 

「……ガラじゃねぇな。」

 

2体のランドマン・ロディが引く装甲牽引車(ギャリッジ)に揺られる甲板の上で誰もいない中、そう呟いちまった。

今は後ろに随伴する3体目のランドマン・ロディとその設計図をテイワズまで売り込みに行くため移動中だ。

俺達は報酬次第で依頼を受ける傭兵……というより、何でも屋みたいなもんだ。お嬢はともかく、『正義の味方』丸出しのゾンダー退治にはスケールがデカ過ぎて、未だに実感が持てない。

何より『世界を守る』という精神は俺を含め、鉄華団は抱いたことがないので、他の団員は知らないが、憧れこそあろうとも『正義の味方』というのは、ガラじゃない。

お嬢とクスト、ムル、後はカインさんとアルマさんあたりがいれば勝てそうだ。

 

「そもそも何で縁もゆかりもない化け物相手に戦わなきゃなんねぇんだ。確かに生きるか死ぬかの瀬戸際だけどよ。それにこの世界に『転生』……だっけな、した理由も解らねぇ。どうして鉄華団含めた『前世の奴ら』が、わんさかいるんだか。『前世の記憶』にだってそんなもんねぇ……ん、そういや──」

 

『前世の記憶』といえば、ミカや昭弘のように思い出した奴もいれば、未だに思い出せない奴ら未だに多くいる。

急務……ではないが、どうにもスッキリしない話だ。

他の団員からもそんな愚痴がチラホラ聞こえる。

俺もたまにその辺りで微妙に話が噛み合わなくなる、そんな気持ち悪さを覚える。

 

「……何なら、V・Cにでも頼んでみるか。」

 

今や頼りになるお姉さん(自称)のV・Cでも頼めば、解決してくれるだろ……

 

 

 

───だが、この軽い決断が後に俺達、鉄華団に『ここにいる理由』を真っ向から叩き付けられる事を、その時の俺は気付ける訳もなかった。

 

 

 

《NEXT》

 

 

 


 

 

 

 

《次回予告》

 

 

マギウス・ガオガイガーの調査、調整が行われる中、テイワズより帰って来たオルガ達を迎えたのは、予定外の喧騒。

 

天使のイレギュラーに、白い悪魔は新たなる可能性を秘める。

 

同時に、『前世の記憶』が戻らない団員の事をV・Cに相談するオルガだが、秘められた記憶には誰もが予想出来ない過去を映す。

 

時を超えやって来る、終わりを告げる機械の天使と同化する異形。

 

それは世界終焉の合図。滅ぶのは誰か?

 

そして、悲しみに暮れる者に無慈悲な救済が植え付けられる時、声にならない怒りと共に新たなる天使と悪魔の鼓動が響くッ!

 

 

『侯爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

NEXT、Number.19 ~滅びた世界~

 

次回もこの物語に、ファイナル・フュージョン承認ッ!!

 

───これが勝利の鍵だ!

『ガンダムバルバトスルプス・Ver.H』

 





恋愛話はやっぱり苦手ですがやって消化しておかないと、いろいろ拗れる件。

そんで話を短くしようと奮起した結果がこれです。

感想お待ちしています。


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Number.19 ~滅びた世界~

アシュレー君をお褒めいただきありがとうございます。
オリキャラでここまで受け入れてくれるのはうれしいです。

では、この話は鉄華団のターニングポイントとなる話です。




………かなりの鬱話になります。腹に気合を込めて呼んでください。ご容赦を。


~アルドレイア王国 アスガルド城 王室~

 

 

《先日、そっちの若い衆……いや、()うちの若い衆でもあった鉄華団が持ってきた『R・フレーム』の設計図と実機(ランドマン・ロディ)、確かに受け取った。》

「という事は……」

《ああ、製造支援の件はそちらの条件の通り受ける事にした。》

「ありがとうございます。」

 

通信機を通して、レクシーズは『テイワズ』の王、マクマード・バリストンと対談していた。

対談内容はもちろんRフレームであった。

 

《礼を言うのはこちらだ。まさかあんな強力なモノを頂いたんだ。今、うちの腕利きの奴で慣熟訓練ってやつをしている。》

 

そのメンバーは『テイワズ』の下部組織『タービンズ』の人間───主にアミダ、ラフタ、アジーが務めていた。

この世界ではフリーの魔法使い(ゴーレムライダー)であり、『タービンズ』の護衛主力である彼女らが、カルディナのガイガー(変化前仕様)と同じく『IDメイル』を用いた神経伝達システム搭載のランドマン・ロディを駆ればどうなるか……

 

「アハハ! コイツは傑作だねぇ! デカいのに私の挙動に完璧に付いて来れるなんて!」(ご満悦なアミダ談)

「スッゴい! ビュンビュン速ーい!! ほらほら昭弘、もうワンセット行くよー!!」(模擬戦でハイテンションなラフタ談)

「ッシァッ!! 最高だな!ああ最高だな!!」(ハイテンション過ぎてキャラがビルドの王子様風に変わっちゃったアジー談)

 

前世、モビルスーツの凄腕パイロット達だった彼女らは、今世でゴーレムライダーであっても、その技量は変わりない。そんな彼女らが今回の搭乗により阿頼耶識システムと同義の能力を得た事になる。

 

《結果は上々……いや、それ以上といったところだ。》

「それを聞いて安心しました。」

《しかも解析すりゃ、すぐ応用出来る機体構造じゃねぇか、至れり尽くせりだな……だから、一つ聞きてぇ。》

「何でしょうか?」

《どうして急にあんなモンを創れた??》

 

嬉々としていたところから一転、画面越しににらみを利かせるマクマード。

『オーヴィニエ十字山脈』から『北』の地域は昔より金属素材の産出が『南』より少ないため、即戦力のゴーレムライダー信仰が強く『南』より幻晶騎士(シルエットナイト)の有難味が薄い……というより容易に製造が出来ず、時代の経過と共に『南』より錬金術と精密な鍛冶技術のレベルが低くなってしまった。

そしてどちらも明かす事はないが、どちらの国も密偵を放って探らせて、触り程度の内情は把握している。

『テイワズ』はようやく幻晶騎士(シルエットナイト)の試作機が完成して、現在量産機がある程度揃ってきたところで、『アルドレイア王国』は幻晶騎士(シルエットナイト)の試作機が先日出来上がったばかりだ。

そんなところに()()すら超えた制式機を持って来て今回の話。

そして先日の『ギャラルホルン教皇国』とのドンパチと、謎の怪物という情報。

それらを圧倒した『存在』が創れる程の、常軌を逸した技術スルーが起きた……マクマードはそう睨んでいた。

現に一緒に送られて来たこの通信機もそうだが、本来の過程を通り過ぎた技術スルー、それが技術が劣っていたと思っていた他国から起きたのだ。

そしてマクマードの質問に、レクシーズはある程度の沈黙を待ってから意を決して答えた。

 

「……『願い』だからですね。」

《願い?どういうことだ?》

「恥ずかしい話、私達とて藁をも掴む程に、余裕はないのです。今回の事で他国から攻め入られた事によって我が国の防衛の脆弱さが露呈したのは恥ずべきところ。ですが、そちらも例外ではないはずです。」

《む……》

「突飛した技術力を狙って、かの国は進軍する兆しがある……故により強力であり、操作技術で即応用が効くゴーレムライダーに幻晶騎士(シルエットナイト)で迎撃の用意をする。数に対して質の向上です。ですが、ランドマン・ロディ(あれ)を渡して量産化、また発展した機体が出来るなら、そちらの戦力向上も叶う上に、我が国も戦力の不足分を補える……そう言う事です。」

《それだけじゃあ、こんな事をする理由には足りんよ。》

「ええ、それと『未曾有の危機』に自前で備えて貰いたい、というのもあります。」

《未曾有の……危機??もしやもう一つのやつに書いてあった……眉唾物と思っていたが本当だっとは……ったく誰だ、こんな味な真似をさせたのは?》

「あの娘……カルディナ・ヴァン・アースガルズ公爵令嬢です。」

 

カルディナの名前を聞いたマクマードは、何か思い当たる事があったようで、その事を思い出した後、大笑いして納得した。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

~地下、某所~

 

 

「──はい、出来たわよ。」

 

紫に輝く木目が拡がる地下空間。

その一区画に実験室(ラボラトリー)と思わしき機材が多々ある中、赤い魔女風の機界四天王の一人であるプレザーブと、鳥人間風の機界四天王のピッツォ・ケリー、重厚な全身鎧の機界四天王のポレントスがいた。

プレザーブの手には鳴動するゾンダーメタルがあり、ピッツォ・ケリーに手渡す。

 

「ようやく出来たのですな、新たな改良型ゾンダーメタルが。」

「しかし、一つ加工するのに随分時間が掛かったな。」

「ごめんなさい。でもこれでも前よりは時間短縮したのよ。」

「業腹だな、一つあれば容易く機界昇華が出来るゾンダーメタルが、わざわざ手を加えねば機能しないとは。」

「ゾンダーロボには変化出来るのにねぇ……素粒子Z0を散布するとなるまでに成長しないなんて、『魔力(マナ)の呪縛』は私達の枷ね。」

「しかしそのお陰でゾンダーメタルは嫌という程あります。普通の星であれば、1日待たず機界昇華可能な程は。ようやくこれで、使えないというレッテルを剝がす事が出来ます。」

「改良は進めるわ。私も早く機界昇華が描く世界を見たいもの。」

「その前に……我等の障害となる者共を排除するのが先か。」

「では行って参ります。」

「いってらっしゃい。」

 

その身を翻し、実験室(ラボラトリー)を後にするピッツォ・ケリーとポレントスに、ひらひらと手を振って見送るプレザーブ。

 

「さて……どんな景色を見せてくれるのかしら??」

 

その後ろ姿を赤い魔女は、傍らのゾンダーメタルを片手に眺め、不敵に笑うのだった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

~ギャラルホルン教皇国 某所~

 

 

「──貴殿方に、『聖女』の()()をしてもらいたいのです。」

「し、しかし、それは……!!」

「……やれやれ、いけませんねぇ。コーラル()()()()、貴殿らの失態を返上する良い機会と思いましたが……他の部隊に頼みま──」

「わ、わかりました!ぜひやらせて頂きます!」

「フフそうですか、それは重畳。何、心配ありません。秘策はちゃんと用意してあります。フフフ……」

 

そしてギャラルホルンも、汚名を返上をすべく、暗躍を始めるのであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

オルガ達、鉄華団がテイワズより帰って来た。

そしてカルディナに用事があると『お嬢様の工房(アトリエ)』に足を運んだのだが……

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァーーー!!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァーーー!!!」

「ドラララララララララララララララララララララララララァァァーーー!!!」

「──WAAAAAAAANNABEEEEEEEEEE!!!」

 

「……何の騒ぎだ??」

「あら、お帰り。」

「お帰りなさいませ、オルガ様。」

 

騒ぎはいつもの事、と思っていたオルガだが、ジョ◯ョのキャラが介入してきたと思わしき掛け声が響き、「テメェは俺を怒らせた」まがいの事が起きていたのには驚く。

 

特に「無駄無駄ぁ!」の声がアニメ版(CV:子◯)ではなく、OVA版(CV:田中◯夫)の声なあたり、ロードローラーではなく、タンクローリーを堕としそうな勢いだが、開かれたESウインドウの彼方で「タンクローリーだッ!!」と爆発が起きたあたりで察して欲しい。

よく見ると、その全員が作業員として働く天使、悪魔達(全員人間形態)であり、怒りの形相で拳を振るう全員が、とある人物を取り囲み、一糸乱れない連携で代わる代わるその人物をボコボコにしているあたり、殺意が半端ない。

 

ただしESウインドウから帰って来た人物が焦げ付きアフロ済んだ程度で、ニヤリと笑ったので遠慮なく再開される。

 

そんな混迷にカオス染みた場にいたカルディナとフミタンが傍観に徹しているあたり、込み入った状況らしいが……

 

「テイワズまでご苦労様、オルガ。」

「どうって事ねぇよ。今回はロディと装甲牽引車(ギャリッジ)使えたからいつもより早いぐらいだからいいとして……何だよこの状況。」

「ああ……あれね。実は()()が原因なのよ。」

「あれって……何だ、ありゃ

 

カルディナの視線の先にあるハンガーに鎮座しているのは、1体のGフレーム───ガンダム・バルバトス、しかも面構えは一番記憶に新しいバルバトス『ルプスレクス』──

 

──ただし、顔から下は違った。

 

白を基調とし、オレンジをワンポイントとする、横に長く、強力なスラスターを兼ねたアーマーが両肩に装備されており、その下に下がる両腕は、本来のバルバトスルプスレクスの腕と、巨大で強靭な鳥足を模倣したような一対の腕。

背部にはビームキャノンを兼ね備えた頭部(?)の基部には大型の『エイハブ・リアクター』をバックパック兼サブ動力にしたものが備わっており、その両側にはバルバトスルプスレクスの『テイルブレード』と、凶悪な刃のデザインの『ワイヤーブレード』が対の羽のように広がっている。

 

……ここまで言えばお解り頂けるだろう。

 

「……俺の目に狂いがなければ、あのMA(ハシュマル)がサイズダウンして、バルバトスと合体事故を起こしたようなモノになってんだが……」

「大丈夫よ、私にもそう見えてるから。」

「……どんな悪い夢だ。」

 

残念ながら現実であった。

基礎(バルバトス)には大きく手は加えられていないが、天使(ハシュマル)合体事故(どうしてこうなった的な)モノに仕上がっている。

 

「誰が設計しやがった??こんなのはっきり言わなくても、重そうだしバランスが悪すぎる。ミカが好んで使う仕様じゃねぇ。これは……」

「背部のブレード2基はいい及第点ですが、ビームキャノンは重そうだし、こんな複腕は落第ですわ。補助腕(サブアーム)で充分。これは……」

 

「「──チェンジで。」」

「酷ッ!!せっかく開発したのni,a,yame,time──!!」

 

お嬢様とオルガのチェンジ申告に、ボコられている人物はツッコんで来た。

余程余裕があるといえる。

 

 

「……って言うか、何でこうなってんだ!?」

「それがねぇ……」

 

事はゾンダー襲撃後、直後に遡る。

元々バルバトスは製造計画にあり、Gフレームの第1号機として開発される予定で、その頃にはフレームは既に出来上がっているものを流用、残りは外装フレームを残すのみだった。

その頃、とある設計技師(天使)が『とある設計図』を提出していたのだった。

ただし、それを受理するカルディナは床に臥せており、一昨日までは何のアクションもなく、その頃には他の技師達により、魔術仕様の『ガンダム・バルバトスルプスレクス』は完成した。

そして昨日。

カインとアベルが工期短縮のために開発した『物質瞬間創造高速移送艦サクヤ』が完成、試運転の為に何かと思慮していた時、その設計技師が立候補。

しかもカルディナに許可は貰っている、という(てい)を取って。

その事もあり、多量の資材を元に量子創造により、それ──サイズダウンされたモビルアーマー・ハシュマルは完成。

支援・合体メカとして。

ついでにプルーマも2機、サイズダウンとデフォルメした姿でちゃっかりいる。

 

そして今日、出来上がったハシュマルをバルバトスルプスレクスに組み込んだ設計技師(天使)は、他の作業員にその意図を見抜かれ、ギルティ判定。集団リンチを受ける(見事ボコられる)結果となり……

 

「……今に至るって訳。ちなみにその設計技師(天使)が言うには……」

 

『バルバトスルプスが開発されるなら、ハシュマルも開発されるべき……ううん、合体は運命よーー!!』

『フザケルナ!!ソンナ横暴ガアッテタマルカ!!』

『俺モ我慢シテイタンダゾ!!ソレヲ貴様ァァァーー!!』

『そうです!そんな方法があるなら私も──!!』

 

「──なるほど、全く理解出来ん。」

「随分血迷っていますね。」

 

その設計技師(天使)の気持ちも、他の作業員の気持ちも。

サイズダウンしたハシュマルなら、支援メカぐらいにはなる……という妄想をした御仁はいるだろうが、ガチにやらかしたのが、今回の顛末である。

 

ちなみに、試作を許可したアベルさんにはサイズダウンした反中間子砲とメーザー砲の設計、カインさんには同じくサイズダウンしたゴルディオンネイルの設計を進行中の作業と同時並行の刑に処した。

 

そんな時、後ろの扉から三日月がやって来た。更にその両隣には三日月にベタベタなアトラと、クーデリアの姿もあった。

 

アトラはアースガルズ商会が経営する食堂の1つから引き抜いており、カルディナの教育の下、現在は食品開発主任兼鉄鋼桜華試験団の炊事係をしている。

 

また、クーデリアは幼少にアースガルズ公爵家に養女として引き取られ、現在は『クーデリア・A・アースガルズ』を名乗っている、カルディナの()である。昨日魔法学園から戻ってきたばかりで、姉のカルディナには号泣してその身を案じていた。

ちなみに養女といえど、家族や周りの者達からは溺愛されている。

 

尚、2人は記憶を取り戻していないが、前世以上にベタベタな経緯は各々省略する。

端的に三日月がよくあるテンプレ展開でそれぞれ2人を危機から助けたから、と言っておく。

また、周りから嫉妬の念はなく、むしろ「ようやくくっついたか」「末永く爆発しろ」「あの二人の無茶振りから解放された」「さすミカ」等の言葉が送られ、皆から祝福され、カルディナパパ(クリストファー)からは「うちの娘に手を出すたァ、覚悟しているだろうな……」的オーラを出され、オルガからは「……この件は俺が手伝っちゃダメな奴」と投げられて、お嬢様からは女心をレクチャーされフォローを受けつつ、四苦八苦中。

逃げ場はない。

 

そんなラブ全開な2人に戸惑いながらも、今日も黙々とナツメヤシを食べる三日月だが、合体事故バルバトスを目にした瞬間、持っていたナツメヤシを落としてしまう程に思考が停止。

 

「──チェンジ」

「No!!」

 

正規パイロットにもチェンジ申告される始末。

 

「ちょ……『マル』ちゃん!?どうしたの!」

 

そんな中、アトラがボコられていた設計技師(天使)に駆け寄るが途中で作業員(悪魔)達に行く手を止められた。

 

「ひどい、どうしてこんな事を……え?『横領した資材でMA(あれ)を造った』?『お嬢様には無許可』?『本人はやり切ったって自慢』……『マル』ちゃん、本当に??」

「Yesッ!!」

「うん、アウト。」

 

次第に冷め往く瞳の満面の笑みで再開許可。たまに食堂を手伝ってくれる『マル』ちゃんとて、アトラさん的にも横領はアウトです。(お嬢様の教育の賜物)

「あ、やっぱり今の発言ナシで!」とか言いたそうだったが構わずに第三ラウンドの鐘が鳴る。

そして最後に、カルディナの横にいつの間にか一人の作業員(悪魔)が佇んでいた。

 

「……オ嬢様。」

「何かしら。」

「“くーりんぐ・おふ”ノ申請ヲ。」

「受理します。」

「いやァァァーー!!何DEおごごごごgogogo……!」

 

止めは何処で覚えたのか、クーリングオフ申請。ボコられている人物は再度ツッコんで来た。

随分、余裕がある。

 

《ミカヅキ……》

「あ……何?」

《済スマナカッタ。スグニ我ヲ、直ス。》

「あ、うん……」

 

その声は性別の判断出来ない、機械音声のような響きをしており、顔も仮面を被っているためよくわからないが、少し気を使うようにも感じた。

そしてバルバトス(機体)の元にその作業員(悪魔)歩いて行く。

 

「……あいつ、誰??」

「あら、気付かない?バルバトスよ。」

「……バルバトスだ??」

「バルバトス……ああ、そういえばそんな感じが……」

「気付いてあげなさいよ、気付かれなくって寂しがってたわよ。あ、そうだ三日月。せっかくだからあのハシュマル引っぺがす前に、稼働データ取っておいて。せっかくあるんだし。」

「え、ヤダ。」

「お嬢様命令よ……オルガ。」

「はぁ……ミカ、やってやれ。すぐ終わる……と思う。」

「……わかった。」

 

オルガの命令なら仕方ない、という態度で三日月はパイロットスーツを着に来た路を戻る事に。

また、その命令を耳にした作業員(バルバトス)は驚愕し落胆、他の作業員達もショックを受け、当の設計技師(天使)は『ヨッシャァァァーー!!』と歓喜の咆哮をあげた。

 

「あとで解体処理するにしても、せっかく実機があるなら動かさないと勿体無いわ。そうね……登録名称は『ガンダム・バルバトスルプス Ver.H(仮称)』で。」

「『ルプスレクス』じゃねえんだな。」

「本来はそうだけど……この国じゃ『レクス』の名称はレクシーズ陛下に名前が掛かるからダメなのよ。それに、一度ケチが付いた機体名称じゃ、ゲンが悪いじゃない。」

「ああ、確かに。」

 

前世、ギャラルホルンに負けた時の名称『ルプスレクス(狼の王)』は北欧神話ではフェンリルを意味する。

ギャラルホルンの笛が告げるラグナロクの最後に、フェンリルはオーディーンの息子、ヴィーザルに討伐されている。

これからギャラルホルンを相手取ると予想される現状、流石に少々縁起が悪く、今後運用するにしてもゲン担ぎには良くない。

それらの事を思い出したオルガはその提案に異議はなかった。

 

ちなみに『Ver.H』は『(アッシュ)』の略である。

ハシュマルであってほしいと願うのはごく一部だが、その願いは無意味だ。

 

「……はあ、またやる事案が増えましたわ。」

 

そんな精神的疲労が溜まるカルディナに、クーデリアは心配そうに声を掛ける。

 

「……お姉さま、一段落ついたと伺っていましたが、またお忙しそうですね。」

「仕方ないわ。ゾンダーの出現が予想を遥かに超えて早かったんですもの。急ピッチでいろんな作業が同時進行よ。」

 

カルディナの言葉は誇張ではない。

現在、ギャレオンの2号機、3号機と、GフレームとRフレームが全て同時進行で組み上げられている。

特に即応体制が充実しているRフレームに関しては外装(アウタースキン)作成にAZ-Mコピーされた『サクヤ』が増殖してがフル稼働中で、《付与魔法》作業も人手不足になっている。

また、現行配備されているランドマン・ロディには、ゾンダー対策として動力炉としている魔力転換炉(エーテルリアクタ)には後付けで装着出来るGストーンが装備されており、Gドライブ機構と合わせて順調に量産されている。正式名称『GSライド式魔力転換炉(エーテルリアクタ)』──略称『GS転換炉(リアクター)』。魔力(マナ)とGストーンの相互作用を元に開発された動力炉である。

ただ、『GS転換炉(リアクター)』の最終調整は、現在カルディナしか出来ないので、カルディナ自身も非常に多忙を極める。

今後はV・Cやカイン、アベルあたりに調整出来るよう移行予定でもある。

 

そして商会や学園通い等、普段のサイクルもあるので、カルディナのスケジュールは真っ黒だ。

 

「バルバトス用のGSツイン・リアクターも専用調整して稼働出来るように設置出来たけど、Gストーンとの調整が難航してて、これからバルバトス用のGストーンの調整をしに行ってくるけど……」

《──大変だよ、お嬢!!》

「どうしたの、ヴィトー!?」

《銀鳳騎士団のエルネスティさんが、イカルガの魔力転換炉(エーテルリアクタ)にGストーンの装着作業をもう始めちゃって……!!》

「あんのガキァァァーー!!不容易に付けたら銀線繊維(シルバーナーヴ)が焼き切れるって説明してた矢先に!!」

 

ちなみにカルディナがここにいるのは、先の騒動の報告を受けて来たのであって、元々はツイン・リアクターの調整をイカルガの魔力転換炉(エーテルリアクタ)で実験していた。

ただし発案、立候補はエルネスティ。

一旦ストップをかけていたが待ちきれなかったようだ。

独断専行するエルネスティを止めに走るカルディナであったが、一歩も二歩も遅く、僅かな吸気圧縮で魔力(マナ)とGストーンの相互作用によりエネルギー過多になった銀線繊維(シルバーナーヴ)が焼き切れ、ついでにイカルガの魔力転換炉(エーテルリアクタ)もショートを起こして機能不全という惨事を起こしたのであった。

ちなみに本来は中型炉(クイーンズ・コロネット)のみの予定だったものを大型炉(ベヘモス・ハート)にまで付けてしまったという、エルネスティの自業自得なのを記載しておく。

 

そんな状況すら苦笑いで済ませられる現状に、オルガは呆れつつも合体事故バルバトスのデータ取りの準備をする。

その時、ふと思った。

 

(まあ、何もなきゃクーデリアもアトラも三日月にくっ付いていた可能性は充分にあったしな……でもやっぱ前世の事があるから、あのクーデリアの『お姉様』呼びが違和感あんな。そういや、あの悪魔(バルバトス)……ミカを知っているような……いや、ただ知ってるって訳じゃなく、気にかけているような……もっと前から知ってるような……まさか、前世のバルバトスのシステムとかが、もしくはバルバトスというモビルスーツがあの悪魔、とか云うんじゃないだろうし……他の悪魔もそうじゃないのか?グシオンとかフラウロスとか……あの設計技師(天使)も『ハシュマル』って天使名だし、他にも同じような名前の奴とかいるし……前世の奴らがそのまま来たとか、まさか、な……)

 

前世の世界と今の世界の共通点。

ある意味、天使や悪魔の名が共通して存在する──『共通概念』があるのはある意味お約束とカルディナから学び、資料も色々目を通した。

故に、色々勘ぐるように思うのは自身の思考がお嬢(カルディナ)に似て来た、と思うオルガ。

 

「───ん?、そうだけど……」

 

そんな疑問を粉砕されたのは、応急処置にAZ-Mと精霊銀(ミスリル)血液晶(エリキシル)をイカルガに大量投入して火消しをした後、術式処理限界(オーバーワーク)で倒れたエルネスティを介抱して疲れた、心労絶えないカルディナの何気無い返事であった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

~『お嬢様の工房(アトリエ)』 第一医務室~

 

 

「───で、お嬢が言うにはよ……」

 

『私だって、元から確信あって狙って集めた訳じゃないのよ。偶然よ偶然。ただヘルアンドヘブンの再現に天使と悪魔が必要なだけで、当初はサタンとラファエルの2人しかいなかったし。そこから学園生活中にあれやこれやと集まって……その中に貴方達も知っている悪魔達も来たって訳。その悪魔達の有志から、Gフレームの建造計画を持ち込まれて、私は了承したの。時期的には商会を経営し始めて1年後……ガオガイガーの設計図がもう少しで完成、ってところで、貴方達の記憶が戻る前の事ね。ただ、理由に関しては語ってくれなかったわ。話せる時が来るまで待ってほしいって……もしかして聞いてない??』

 

「……だとよ。」

「マジか。」

「マジだ。」

「んで、その事情を説明する悪魔ってのは何処よ?」

「後で来るってよ。」

 

その日の正午過ぎ。

グレーどころか真っ黒な回答に頭を悩ませる鉄華団一同……といっても参加出来たのはオルガ、ビスケット、ユージン、昭弘、シノ、タカキ、ヤマギ、チャド、ダンテ、それと偶然居合わせたムルである。

ちなみに三日月はこの場にはいない。昨日の起動実験の後で起きた体調不良をカルディナに相談していたのだが……

 

「……何か違和感がある。両手がふわふわ?モヤモヤ?ぐるぐる??」

「その症状だと、天使と悪魔と一緒に……よく無事だったわね。」

 

と三日月の両手を触った瞬間、ビクッと身体が跳ね上がり、そして気絶したのだ。

幸い意識こそあるが、倦怠感が酷いらしい。

お陰でエルネスティと隣のベッドに寝ている。

 

「起動実験前にあの設計技師(天使)が無理矢理乗り込んで来たの見たぜ。作業員(バルバトス)も一緒に乗り込んでたからか?」

「らしい。問題ないって判断したのが不味かったな。それでアレの解体作業は明日するってよ。」

「てんやわんやだったね。試験起動中は三日月も『重い、動かない、だるい』って言ってたし。」

「どうやってあのゴッツイ複腕を……まあ、ブンブン動かしていたけどよ」

「テイルブレードとワイヤーブレードの組み合わせ……あの斬撃に対峙しろとか無理。」

「スラスター任せのマニューバ軌道……あれのどこが重いってんだ。空飛んだ挙げ句にすげえジグザク軌道だぞ?」

「ビーム兵器………じゃなく荷電粒子砲か?ナノラミネートアーマー製のシールドがメチャメチャ削れてた。『エイハブ粒子砲』とか、どんな冗談だ。」

「つーか、プルーマ……だったか?起動実験中『うぇ~い!』ってしてたけど、何だありゃ?」

 

───閑話休題。

 

「でも団長も珍しい事言うね。」

「まあ俺も……らしくねぇ事を言ってんのは承知してるし、無理にとは言わねぇ……けど、同じ仲間が『仲間の事を知らねぇ』っていうのがどうも寂しくてよ……」

「……寂しい、か。確かにな。」

「済まないな、団長。俺達のために。」

「そう言うな。半ば俺の我が儘みたいなもんだ。」

 

そう言うのはチャドにダンテ。

現在、主要メンバーの中でこの2人が未だに記憶を取り戻していない。

前世の事を交えて会話をするとどうしても噛み合わなかったり、「え?そうなの?」と齟齬が生じる事があり、過去映像(アニメーション)を見せてもいまいち実感が湧かないらしい。

以前までは生きていれば、と思っていただけだったが、今の生活はそれなりに余裕がある。

余裕がある故に、それでも足りないものを補おうと『欲』をかいてしまう。

 

「あー……そういうのお嬢が言ってたな、『当然の反応でしょ。』って。」

「失ったものを取り戻す……いいじゃねぇか。戻りゃ儲けもんだし、失敗しても今より失うモノはないんだからよ。」

「……ありがとよ。」

 

他の団員達もオルガ同様に異存は無かった。

その事に心に温かいものを感じたオルガ。

 

(え~……でもそんな場に、僕は邪魔ものなんじゃ……)

 

あんまり関係なかったルムは出来れば遠慮したかったが、団長命令なら従うしかなかった。

 

「で、具体的にはどうするの?もう俺達だけじゃ八方塞がりだけど……」

「ああ、その通りだ。残念だが俺達じゃもう打つ手はねぇ……しかしだ。幸いにも俺達にゃ、非常に頼れる存在がいる。そんでお嬢の許可も間違いなく取った。」

「それじゃあ……」

「ああ、心置きなく頼めるって訳だ。」

 

「「「「──という訳で、V・C先生、お願いします!!」」」」

 

「…………」

 

しかし、肝心のV・C(サクヤ・白衣形態)はカルテとにらめっこしていて、彼らの声には一切反応しなかった。

新調した仮面(映像が流れる傑作)を着けており、ここに来る前には「おっまかせあれ♪」というノリであったのだが、その仮面は真っ黒で、何も映してはいない。

 

(……あれ? V・Cってこういう時はノリノリでのってくれるよね?)

(ああ、よいしょするつもりで話を進めたんだが……)

「──聞こえてますよ。」

「あ、ハイ。」

 

団員達の小声にも容赦なく反応するV・C。

AI特有の単調さも、普段のお調子者感も一切ない。

そして静寂の中のV・Cが口を開いた。

 

「……おかしいですね。」

「……何が??」

「チャドさんとダンテさんの脳内の特定の電気信号が記憶領域にある『海馬』ではなく、未使用の『サイレントエリア』にいくらか流れている傾向にあります。」

「……どういう事??」

「簡単に言うなら『頭の中の使われていないエリアに、使われている不自然なエリアが存在する』と言ったところですね。皆さんも普段使われていない作業区域があれば不審に思いますよね?」

「そうだな。」

「それと一緒です。三重連太陽系では人間の脳の使用領域というのはほぼ一緒、という結論が出ています。ですが、それとはまったく別の領域が使用されているのは不自然です。ちなみに、これと同じ症状の方は鉄鋼桜華試験団に後、数人います。」

「マジか。」

「はい。それ故、深い記憶読み取り(メモリーリーディング)を使用した場合……かなりの負荷がチャドさん、ダンテさんに掛かると予想されます。過去のデータからも、こんな状況はロクな事が起きない、と示唆されます。」

「……具体的には?」

「無処置なら、滅茶苦茶に苦しんだ挙句に絶命するかと。」

 

まさかの絶命宣告に絶句する一同。

しかしV・Cは一切冗談を挟んでいる様子はない。

 

「どうして……そんなに状態なってんだ?」

「過去に、極限までストレスが掛かる状態があったのでしょう。それはもう……死ぬより更に強い絶望が。それに対して脳が自己防衛の為に情報をシャットアウト───忘却状態にしているのです。」

「……何とか、なんねぇのか?」

()()()()()()をどうにかしないと無理です。しかし、誤魔化す程度なら鎮静剤使用と身体拘束を許可して頂けるなら……あと用心のために『パレッス粒子』を使用する準備をします。」

「パレッス粒子……」

「一番後腐れがない物質ですからね。」

 

パレッス粒子。

『Final』において、ソール11遊星主の1人、パルパレーパがGGGに使用した、極度のストレス緩和、リラックス状態に導く物質である。

ただし、後遺症も依存性もない。ストレス解消に関してはピッタリな粒子である。

 

「……わかった、V・C頼むよ。」

「俺もだ。」

「いいのか、2人とも? 言い出した俺が言うのも何だが、滅茶苦茶危険なんだが……」

「いいや。そんな状態だから、むしろ安心したよ。俺達は繋がってたって。」

「ああ。みんなと話をする度に、同じ団員なのに仲間外れになってるような気がしてな……」

「チャド、ダンテ……」

「それに一回我慢すりゃ思い出せるんだろ?」

「そうそう。まあ、もしかしたら情けない面になるかも知れねぇけど、その時は笑わないでくれよ?」

「……悪ィな、2人とも。」

 

2人の決意に嬉しくもあり、それ以上に申し訳ないとオルガや他の団員達も感じた。

 

それからチャドとダンテをベッドに、AZ-Mによる身体拘束の後、薬物による暗示状態を行ったV・C。

2人が身に付けたヘッドギアより伸びるケーブルをモニターに差し込んだ後、バイタルサインのモニターが作動。2人のバイタルが「ピッ、ピッ、ピッ──」と機械音が緩やかに鳴り始める。

全ての準備が出来た後、シノがV・Cに尋ねる。

 

「……んで、どうやって記憶を取り戻すんだ?」

「一番メジャーなのは『リフレイン療法』ですね。過去の映像を投影する事で、思い出させるのです。」

「なるほど。」

 

しかしそれはアニメーションを見せた時と似たような反応で、時折反応はするが、投影中はあまり目新しい反応はなかった。

 

「……駄目か。」

「仕方ありません、根気強く続けましょう。」

「………」

「……ん? どうした、ビスケット。」

「あ、ああ、ユージン。ちょっと考え事。何でチャドとダンテなんだろうって。」

「どういう事だ?」

「いや……俺は最初の方で死んだから仕方ないと思ったんだけど、チャドとダンテって、ギャラルホルンとの決戦後も生き延びてたんだよね?」

「ああ、確か保育士してたような……まあ、ぶっちゃけ死んじゃいねぇな。」

「あとライドとか、アトラ、クーデリアさんもそう───そのみんなの共通事項って『映像(アニメーション)』の中じゃ『死んでない』んだよね。」

「言われてみりゃ、確かに。」

「って事は、ギャラルホルンとやり合って、そのいくらか後にもの凄ぇ怖い『何か』が起きた……つー事か。」

「……V・C、そこの記憶を探れないか?」

「やってみましょう……ん、これは──」

「早ッ!? もう解ったのか!」

 

その時、チャドとダンテをモニターしていたバイタルサインが正常値から跳ね上がり、機械音が速く鳴る。

 

「な、何だ!?」

「2人が緊張状態になってるんだ。相当不味い記憶なのか?」

「……メモリージング、映像化終了。モニターに出しますが、相当ショッキングですよ。良いですか?」

「……頼む。」

 

冗談を言わないV・Cが告げた後、その映像がモニターに映る。

そこには───

 

 

「お、おいおい、嘘だろ……!?」

「そんな、こんなに……!?」

「……まさか、他にも生き残りがいやがったのか!!」

 

 

《な、何だありゃ!?》

《嘘だろ……モビルアーマーの、大群!?》

 

チャドとダンテが驚愕する声が響くモニターには、ハシュマルタイプのモビルアーマーが火星の空を埋め尽くしていた。

そしその中央には見た事もない大型モビルアーマーのような物体が多種多様に宙に浮かんでいる。

例えるならハシュマルが進化・発展したようなデザインであるが、もしこの場にカルディナがいたら、そのデザインラインがネオ・ジオン系列のα-アジールやβ-アジール、ϝ(ディガンマ)-アジールに類似している事に頭を抱えただろう。

更に地を這うように進軍するのはシャンブロにした大型クローを持つモビルアーマーの大群……それが壁を作るように横に拡がり迫り来る。

 

だがそれはまだ序の口。

 

本命はその最奥に浮揚する、それすら越えた()大型モビルアーマー。

こちらは全くの未確認物体だが例えるなら巨大ながらも『植物の種』と思わしきもの。不格好な『首無しアプサラス』といったところだ。

そこから砂粒のように排出される従属機(プルーマ)が、次々に地上に降り立つ。

あまりにも不気味な機械の大群体。

 

そしてそれらが備えるモノアイが、不気味な光を放った時、眩い光と共に始まったモビルアーマー全機によるビーム兵器の一斉掃射。

次々に放たれる強力なビーム兵器が火星の街を、人を、土地を、空を瞬く間に焼いていく。

 

モビルアーマーの大群体を目にしていたチャド達は、逃げようとした瞬間に爆発の余波に巻き込まれ、画面はその視点を大きく乱しながら、止まる。恐らく身体がどこかで止まったのだろう。

聞こえるうめき声からかなりのダメージを受けたはず。

 

《───……アトラ、……は?………キは?》

《……? ……ツキ…? お願い、返事して……!》

《……やべぇ。今日は…アトラとクーデリアが、来てるんだった…。ダンテ……動けるか?》

《悪ィ……脚がやられて、簡単にゃ動けねぇ……》

 

だが、攻撃の手は休まっていない。

 

視界に映るモビルアーマーの攻撃は特に人口密集地を執拗にターゲットにし、隠れていようが感知し、建物ごと焼かれる。ビーム兵器による熱波は建物や少ない自然を焼き、生存圏を根絶していく。

圧倒的な力に蹂躙され、まったく抵抗出来ない人類。

蹂躙劇が始まった30分後、ギャラルホルン火星支部『アーレス』よりモビルスーツ部隊が降下してきた。

しかし、彼らは火星の地を踏む前に迎撃される。

1つはハシュマル・タイプのワイヤーブレードで切り刻まれ、1つは多方向からのビーム兵器の直撃にパイロットが蒸し焼きにされ、また1つは降下直前にϝ(ディガンマ)-アジールのファンネル・ハンド(巨大な掌)で握り潰れる。残り僅かな腕利きでさえもプルーマの奇襲に堕ちた。

地上からモビルワーカーで迎撃する勢力もあったが、ビーム兵器の前には藻屑に消え、運悪く射線上にあった『アーレス』も幾重のビームに撃ち抜かれ、大気圏に突入した後、地上に堕ちて重大な被害を火星に与えた。

今いる場所に攻撃が来ないだけが幸運だった。

 

その時であった。

 

別方向からやって来た幾つかのハシュマルと、ガンダムフレームと思わしきモビルスーツ数機が大気圏突入し共撃、大軍を攻撃し始めたのだ。

オルガ達も知らない、未知のガンダムフレームは敵対する大多数のハシュマルを葬り、アジール系のモビルアーマーを砕く。共戦するハシュマルはそれを援護するように立ち回る。

それが何を意味するかは解らない。

だが、確実に圧しているのは間違いない。

 

だが、それまでだった。

 

皮切りは『種』の躯体が突如として四方に割れた時だった。

躯体の最奥にあった妖しく輝くクリスタル体、そこから突如紫の木肌をした触手が伸び、周りのハシュマル・タイプを貫き、取り込んでいった。更にクリスタル体は光を増し、四方に割れた隙間から無秩序に触手が伸び、瞬く間に鉄で出来た巨大な樹木と変化していく。

更に驚くべきはその樹木に次々とプルーマが取り付き吸収され、放電現象が発生。急激に()()()()()()()()()()()()が生え、樹木の全周囲に展開、撃ち出される。

緊急回避したガンダムフレーム、ハシュマルであったが、内ガンダムフレーム一機に被弾。

苦しみながら倒れる……と思いきや、楔は一瞬にして無くなり、今度は仲間のガンダムフレームに襲い掛かった。

明らかに動揺するガンダムフレームだが、コックピットに一撃を入れ、倒───した筈だった。

 

《───ゾンダー!!!》

《!?》

 

間違いなくそう叫んだガンダムフレームは()()()()()()()を備える化け物じみた顔に変貌、一撃を入れたガンダムフレームに抱きかかり、侵食を始めた。

そればかりではなく、巨大な楔が刺さった個所から同様の現象が広がり、近くにあったモビルアーマーの残骸を取り込んでは変貌を遂げ、襲い掛かっている。

また、残存するモビルアーマーも胴体、頭部それぞれにゾンダーメタルを備え、ゾンダーロボとなり果てた。

そこから戦線が瓦解。介入してきたガンダムフレームとハシュマルは全滅、ゾンダーに変わり果てた大群に取り込まれ、人類に味方するモノは遂にいなくなった。

 

そこからは格段に早かった。

巨大な楔(ゾンダー胞子)が侵食した場所は無機物、有機物問わず朽ちた鋼のようになり変わり、ゾンダー化した存在は鉄の樹木(ゾンダープラント)に変貌、取り込んだエイハブ・リアクターのエネルギーを使い、ゾンダー胞子を精製、発射。それの繰り返しであった。その間に巻き込まれた人々は全てゾンダー人間と化し、不気味な声を上げては機械に寄生、破壊活動を繰り返し、またゾンダー人間が増えて行く。

着実に創り替えられていく火星の大地。確実に『機界昇華』が進む、その一部始終をまじまじとただ黙って見せつけられているチャド、ダンテの2人。

横目には映っていたが、そこにある見たくない(アトラ、クーデリア、……が息絶えた)光景が……

 

《……なんだよ、これ。この世の終わりか……》

《ふざけんな……最後に見る光景が……こんなんだなんて……団長に……合わせる顔が、ねぇ……》

《けどよ……お前らの事は……覚えた。次遭う時は、必ず───!》

 

瀕死の中、怒りを力に変えるように絞り出した言葉。しかし、その言葉を遮るように、ゾンダー胞子がその場に突き刺さり、以降の映像は乱れた───

 

「───うぐぉおおおぉぉぉぉーーー!?!?」

「あぐぐぐぐぅぅぅぅーーー!?!?」

 

拘束されたチャド、ダンテが急に苦しみだし、バイタルサインも異常な数値に跳ね上がり、完全な異常を見せる。

 

「お、おい!チャド、ダンテ!?」

「V・C!早く鎮静剤を………!!」

「やっています!! でもドーパミンの異常分泌……『サイレントエリア』が異常活性!? パレッス粒子も効かないなんて……!!」

「何だよ、それ!?」

 

非常手段のパレッス粒子すら効かない状態になってしまった。

これではV・Cが当初述べていた状況に陥る───誰もがそう思った、その時だった。

 

「───テンペルム」

 

「!?」

「!!」

 

「ムンドゥース インンフィニ トゥーム レディーレ !!」

 

ムルが『浄解モード』を発動、チャド、ダンテに『浄解』を行う。

『浄解』の赤い光が2人を包むと、徐々に表情と、バイタルサインが和らいでいく。

そして安らかに気を失った2人を確認するムルは『浄解モード』を解く。

 

「……バイタルサイン、サイレントエリア、活性正常内に安定。」

「……ふぅ。どうやら直感が当たったみたいだ。」

「直感?」

「2人が苦しみだした時、何故かゾンダーの気配がして……その後は身体が動いていた。」

「ゾンダー!? まさか、これは……脳波がゾンダー化する状態と一致しています。推測するなら死して尚、ゾンダー化して浄解を受けられなかった者は、サイレントエリアにその後遺症を持たされている……!? 電界情報が、書き換えられたのですね……だからッ……! ストレス発散用のデバイスが、聞いて呆れる……」

「お、おい、V・C?」

「すみません、取り乱しました。ですが心配する状況はムルさんのお陰で脱しました。ありがとうございます。」

「あ、ああ。でも……」

 

これで万事解決、とはいかない空気に、ムルは戸惑う。

恐る恐るオルガや他の団員を見ると、鬼気迫るという言葉が当てはまる形相をしていた。

怒り、悔しさ、憎しみ……すべてがぐるぐると周り、歯を食いしばり、それでもやりきれない。

そしてぐちゃぐちゃになった感情を吐き出すように、オルガは叫んだ。

 

「……どうして、だ。どうして奴ら(ゾンダー)が火星にいる!? しかも俺達が住んでいたあの火星に、だ!? 関係ないだろ!! 世界も、次元って奴も、なのにどうして存在していやがる!? しかも、俺達が死んでまで守った奴らが、ああも簡単に……みんな生きてたんだぞ……火星だってこれから発展していくってのに、みんな……生きてんのに、人として死ねねぇモンになっちまって……どうしてだァァァーー!!!」

 

その叫びは他の団員の心情を全て物語っていた。それでも、叫ぶ程虚しくなる。

乱れた息を整え、冷静さを取り戻したオルガは、誰もいない壁に向かって叫ぶ。

 

「おい、悪魔! いるんだろう、出てこい!!」

 

その声に応じて出てきたのは黒いもやを纏う漆黒の面の存在だが、オルガには雰囲気で誰かと判った。

 

「……んで()()()()()、これが俺達に見せたかった事か?」

《肯定。我等ガ居タ、カツテノ世界ノ顛末ヲ伝エタカッタ……中途半端ナ説明デハ誤解ヲ生ムト判断シタ。》

「ああそうかい……。色々言いたいことはあるが、まず一番聞きたいのは……お前らは火星にいた奴らと同一かって事だ。」

《肯定。》

「……やっぱりか。薄々感づいてはいたけどよ、本当に当たるたぁな……」

 

当ってほしくない予想が当たった事に、頭を悩ますオルガ。他の団員もその告白を聞かされ、動揺する。

 

「んで、何であの世界にゾンダーがいやがんだ?」

《詳細ハ我等ニモ不明。ぞんだーハ高度ナ機械文明ヲ探索シナガラ、機界昇華ヲ行ウ。オソラク一番ノ因子タルハ『エイハブ・リアクター』ダロウ。アノ粒子ハ次元ノ壁ヲ否応ナシニ叩ク。ソノタメニ次元転移スラ行ッタ、ト推測スル。ソレガ、アノ顛末ダ。》

「エイハブ・リアクターにそんな機能…いや性質かな? そんなのがあったなんて……」

「それだけじゃあ納得いかねぇ……と言いたいが、敵さんの意向なんざ知ったこっちゃねぇ。現に、火星は襲われた、それが事実って事か。」

《ダガ、次元転移シタ過程、経路ハ、アル程度推測出来ル。》

「何……??」

《ソシテ間接的ニダガ、ソノ原因ヲ作ッタノハ……我々、ダ。》

「何だと!?どういうことだ!?」

《ソレハ我々……》

 

───ガタッ

 

その時、ドアの隙間から倒れ込むような物音がした。

バルバトスの言葉は非常に気になるところだが、思わず注視した先には、アトラとクーデリアが酷く怯えた状態でいた。

 

「アトラ!? クーデリアも……いったいどうし───まさか、2人とも記憶が!?」

 

うそ……噓よ、あかつき、アカツキ、暁ィ……!

 明日、お母さんと一緒だって……言ってたのに

 駄目だよ、そんな赤いシミつくっちゃ……ひろげたら……!!

 ヤダ! 死なないでぇぇぇーーー!!!

 

お願い、暁……目を開けて……じゃないと私、わたし……!

 ごめんなさい、三日月……私守るって約束したのに……それなのに……

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!

 

「……ふ、2人とも……。」

「当時の記憶が急激にフラッシュバックしたのでしょう……状況からして御二人には耐えられないものだったはず。」

「くッ……見てらんねぇぜ! V・C、どうにかしてくれ!」

「……わかりました、今処置を───」

 

───カタン

 

「……暁……???そこにいるの??」

 

「え??アト───」

「───暁ッ!!!」

「あ、おい!アトラ、何処に行……って、ヤバいな。」

 

誰の声も届かないアトラは微かな物音に反応し、何処かへと走って行ってしまう。

 

「今すぐ追いかけるぞ! タカキ、三日月とお嬢にこの事知らせてくれ! V・Cはクーデリアを!」

「わ、わかったよ!」

「わかりました。」

 

そして散り散りに行動する団員達、その後に残ったのはオルガと悪魔(バルバトス)だけだった。

オルガもこれ以上知る者が狂う姿を見たくはなかったが、その前にその原因を無理にでも聞きたかった。

 

「……で、さっきの続きだが聞かせろ。何でお前らが原因なんだ?」

《ソレハ、我々悪魔ガ天使ヲ追イカケタ道筋ヲ、ぞんだーガ辿ッタカラダ。》

「何?」

《アノ世界……遠キ時代ヨリ我々ハ次元転移ヲ行イ現レ、存在シタ。ぞんだーハソノ『次元ノ痕跡』ヲ探リ、ヤッテキタ。『エイハブ・リアクター』はソノ『痕跡』ヲ暴イタ。」

「エイハブ・リアクターを……使っただけで!?」

「否。ソレダケガ原因デハナイ。直ノ原因ハ、オ前人間ガ『厄祭戦』ト呼ブ戦イ、ソノモノダ。》

「厄祭……戦、が!?」

「……アレハ天使ガ、人間ノ救済ヲ理由ニ、一部ノ人間ニ天使ヤ悪魔ノ知恵ヲ与エタ技術ヲ()()()()()()()()『モビルアーマー』ガ暴走シタ結果ダ。ソレニ我等悪魔ガ対抗スルタメニ起キタ戦イガ『厄祭戦』。ソノ依代トシテ我等ガ用イタノガ、がんだむふれーむ。》

「ちょ、ちょっと待て。スケールがデカ過ぎて何が何だか……いや、お前の言葉通りなら……!」

《もびるすーつニハ悪魔、もびるあーまーニハ天使()()()()()()()()()()()()。ソレガアノ戦イダ。》

「マジもんの天使と悪魔の戦い……それが厄祭戦の真実か。いつから俺らはファンタジー世界の住人になったんだ……」

《我々ハ科学的ニ例エルナラ高位電位体。電界ヲ映セヌ存在ニハ認識出来ヌ。人間ニハ起動ぷろぐらむトシテ映ッテイタダロウガ、アレハ我々ノ意志デアリ過剰ナ干渉ヲ防グ装置。阿頼耶識しすてむハ我等ノ力ヲ合一スル装置。ソシテ『エイハブ・リアクター』ニコソ我々ガ憑依シテイタ。アレハ我等ノ『核』ヲ模シタモノデ、顕現ノ器。ソノ影響ハ強弱二関ワラズ、空間ニ干渉スル。》

「エイハブ・リアクターは『相転移炉』っつう永久機関、だったな。そして阿頼耶識は悪魔と直接つながるシステム……なんつーところから技術提供を受けたもんだ。だが、何で人間と共に戦う仕様にした? モビルアーマーは無人だろうが。」

《我々ダケデハ対消滅ガ限界。天使ヲ超エル必要ガアリ、ソノタメニ人間ノ力ガ必要ダッタ。ソノ真意ヲ理解シテイタノハ、当時ノ一部ノ技術者達ト、ばえるの乗リ手グライダ。故ニ『悪魔』ヲ連想サセルもびるすーつガ開発サレタ。ダガ『エイハブ・リアクター』同士ヲ干渉サセ過ギテ、浮キ上ガッタ『痕跡』ヲ探ラレヤッテ来タノガぞんだーダ。》

「その割には時間が空いていないか? 300年だぞ?」

《ソノ時ハ生キ残ッタ駆体ガ秘密裏二封ジタ。以降ハ『ギャラルホルン』ノ役割ナノダガ……300年モ過ギレバ役目モ忘レルヨウダ、恒星付近ニアッタ『痕跡』ニ綻ビガ出来テイタ。『エイハブ・リアクター』ノ生産地ハ監視ノ地デモアルノダガナ……》

「マジか!? ギャラルホルンにそんな役目があったとはな。」

《ダガ我ト、アノ天使(ハシュマル)ノ戦イガ、『痕跡』ヲ刺激シテシマッタノガ致命傷ダッタ。》

「……それが事実としても不可抗力だぞ、あの戦いは。」

《同意スル。オ前ニ不備ハナク、我モ異論ハナイ。アレハ本来回避デキタハズ。》

 

うつけ野郎が介入したせいで大事になったのは不可避。

しかし、それが文字通り次元を揺るがす事案だったとは、誰も思わなかった。

 

《ソシテ、次元転移ヲシテ来タぞんだーハ、もびるあーまーノ指揮系統中枢ゆにっと『エクス・マキナ』ニ取リ付キ、全テノもびるあーまーヲ掌握シ、機界昇華ヲ行ッタ……コレガ全テノ経緯ダ。》

「ちなみに、地球や太陽系はどうなった? まさかとは思うが……」

《想像ノ通リダ。全テ機界昇華サレ、Zますたーノ消滅ト共ニ砕ケ散ッタ。完全ニ機界昇華シタ存在ハ消滅スルノガ定メ、ラシイ……ダガ。》

「ゾンダーはまだいる……か。」

《火星ヤ地球ヲ含メタ太陽系ハ消滅シテモ、コノ地ニぞんだーガイタ。ソノ理由ハ解ラヌ。》

「ちなみに……俺達がこの世界にいるのは、お前らが原因か?」

《肯定。贖罪……デハナイガ、可能ナ限リアノ星系ニイタ者達ノ魂ヲ連レ出シタ。我等ニ適合シタ魂ハ他者ト違イ、変異スル。ソノ因子ヲ持ツ者ヲ捨テ置ク事ハ出来ナカッタ。結果コノ世界ニ着イテ(電界情報)ガ自動的ニ世界ニ組ミ込マレタ。俗ニイウ『転生』ダ。タダ、電界情報ニ不備ガアルマデハ気ガ廻ラナカッタ。》

「……なるほどな、じゃあ最後に聞く。お前らの敵に未だに天使と、ゾンダーは含まれてるか?」

《天使ハ否。一部ヲ除イテ大半ハ解放サレテイル。マタ、我等の今ノ主はカルディナ・ヴァン・アースガルズ。カノ御仁の命ガナイ限リ敵ニ非ズ。ソシテぞんだーハ確実に是、ダ。オ前達ノ意志ガソレヲ願ウナラ、喜ンデ力ヲ貸ス所存。ソレ以外ハ今マデト変ワリナイ関係ヲ希望スル。》

「……わかった。じゃあ、この話はこれで終わりだ。」

 

これでオルガとバルバトスの話は終わった。

今までのわだかまりを解消したのは良かった。

しかし自分達の世界が、知らないところで絶妙にシンクロしていたことに、これ以上にない心労を覚えるオルガ。

 

その時だった。

 

《……ン?》

「どうした??」

《コノ感覚……エイハブ・リアクター、ダ》

「何だと!?」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「『厄祭戦』は名前の通り、人類を巻き込んだ天使と悪魔の戦いだった……。しかも世界の終末を飾ったのは彼らとは関係のない機界昇華…。そう言う事は初めから初めから言いなさいっての!」

「カルナも知らされてなかったのですね。実に興味深い話でしたが……後味も悪いですね。機界昇華の顛末はアニメーション(本編)では特に描かれていませんでしたから、ある意味資料としては有意義なモノです。反吐は出ますが……」

 

そしてその様子を医務室で中継された映像で一部始終を知ったカルディナ、エルネスティ。

隠れた真実こそ知れたが、後味は非常に悪く、カルディナは憤慨し、エルネスティは珍しく嫌悪していた。

これを喜んでいられる者がいたら、その者の神経を疑いたい。

 

「三日月はどう思うかしら?」

「………別に。」

 

未だ気だるそうにベッドに臥せる三日月に話を振るカルディナ。

しかし普段と変わりなく、視聴中も一瞬嫌悪感はあったが世界の終わりにはさして興味がない様子。むしろ、天井を見ながら別の事を考えている様子であった。

 

「お嬢。」

「何かしら?」

「あのアトラに似た大人の女、誰かな??」

「……成長したアトラね、きっと。数年経てばああなるんじゃないかしら、綺麗じゃない。クーデリアは判った?」

「解る。じゃあ………アトラとクーデリアの間にいた子供、あいつは誰なんだろう。」

「………アトラと、アンタの子供よ。名前は暁。」

「アトラと、俺の………子供?」

 

はて?と何を言っているか解らない、と言った様子。

その時、三日月の瞳が、一滴の涙で濡れた。

 

「あれ、何で………」

 

出た涙の理由が解らず戸惑う様子の三日月を見て、安心するカルディナ。

あとは、フラッシュバックで混乱している義妹(クーデリア)と、アトラを慰めに行こうと───

 

 

───ゴゴゴゴゴゴゴッ……!!

 

 

「──地揺れ!? この感覚は工房からじゃない……地上!?」

《───お嬢ッ、った、たたた大変だ!!!》

「ライド……!? 何をそんなに慌てて───」

 

いきなりの通信に驚くカルディナ。

しかし、それ以上に怯え、驚いて動揺しているのが通信越しに判るライドの様子だった。

 

「落ち着きなさい、いったい何が……」

《アトラを探してたら……北の森にあいつらが……ギャラルホルンの……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が来たんだよォォォーーー!!!

「はぁぁぁああああああぁぁぁーーー!!!!????」

 

その報告は、全員を驚愕させ、非常警報の鐘が工房内に響き渡った。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「何でグレイズが……ギャラルホルンのモビルスーツがこの世界にあるんだよ!?」

「知るかそんな事!!」

「お嬢の許可は取った、待機中のロディ3機回せるぞ!」

「マギウスはどうなんだ!?」

「今、最終調整中です!!」

「あと15分で終わる、すまないが時間を稼いでくれ!!」

「しゃーねぇ!! 昭弘、シノ行くぞ!!」

「ユージンも一緒か!」

 

「ええ!? 私達出れないの!?」

「すみませんアーキッドさん、アデルトルートさん。ですが相手はギャラルホルンらしく、お二人に行かれると国際問題になりかねない可能性が……」

「うう、そう言われると今は我慢すっきゃねぇ……。でも、いざとなった時にいつでも出れるよう鐙で待機してるぞ。」

「うん。エル君が出れない今、私達がフォローしなきゃ!」

 

「アトラ、まだ見つからねぇか!?」

「うん……最後に見たのが、グレイズがいるあたりなんだ。」

「ヤベェ、早く見つけねぇと……!」

 

グレイズ発見に、てんやわんやの工房(アトリエ)

ランドマン・ロディが発進する最中、アトラは独り森を彷徨っていた……

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……暁、暁? どこ…? お母さんだよ? もう暗くなって遅いから、はやく帰ろう? ねぇ、暁ぃ…どこぉ…?」

 

受け止めきれない現実から背けるアトラは、何処と何処と認識しないまま虚ろな目で彷徨う。

失ったものが大き過ぎて、その様子は哀れとしか言いようがない。

その姿を、木の上から眺める2人の陰があった。

 

「……気が乗らないな。」

「おや、どうしました? 大変素晴らしいストレス(マイナスエネルギー)──非常に深い悲しみを漂わせる、可愛いお嬢さんではありませんか。」

「私が求めるのは怒り狂う戦士の憤怒、またはその憎しみだ。あのような脆弱な人間のストレス等には食指が動かん。」

「ふぅむ、やはり四天王それぞれ好むストレス(マイナスエネルギー)が違いますなぁ。」

「好みの問題だ。そこは議論し尽くし、全員平行線となったろう……ん? これは丁度良い。()()()()()()()。私はあちらをやる。改良型はお前に任せる。」

「わかりました、では……」

 

何かを察知したピッツォ・ケリー。それを皮切りに、行動を開始する四天王の2人。

まず、ピッツォ・ケリーが向かった先には進軍するグレイズが5機。

 

「フッ……この世界で、機械と呼べる実に良い材料だ、使わせてもらう──『起きろ』」

 

グレイズの頭上より遥か高く飛ぶピッツォ・ケリーは腕を広げ、軽快に指を鳴らす──

 

 

 

《──我々の目的は判っているな、クランク!》

《はっ! 『聖女』の奪還です、コーラル聖騎士長。》

《宜しい! 我等に特別に与えられた、この『グレイズ』であれば異教徒相手に聖女の奪還は容易い! 私に続けぇッ!!》

 

スラスターを吹かせ、進軍するグレイズ達。その先陣を切るのは指揮官機操るコーラル・コンラッドという男。

その走力、その姿、そして能力は期待を裏切る事なく()()()()である。

その後ろを追従するのはクランク・ゼント、そして……

 

《アイン、付いて来れているか?》

《はい、問題ありません、クランク()()!》

 

アイン・ダルトンという青年である。

 

《こちらも問題ありません!》

《私も行けます!》

《イレイド、ムスファ、無理はするなよ!》

《うむ!では、このまま進軍す──》

 

「ゾンダァァァーーー!!」

 

《──ゴフぁっ!?!?》

《イレイド!?》

 

突然の闖入者(ゾンダー)の介入に、度肝を抜かれる3機。

足元から突然現れた、同サイズのゴーレム型のゾンダーにグレイズの一機(イレイド機)が殴り倒され、横転する。

更にもう一撃、脚を止めてしまったもう一機(ムスファ機)のコックピットを───

 

「───ぬぅんッ!!!」

《ゴベゥッ!!》

《ム、ムスファ!?》

 

超高度より飛来したピッツォ・ケリーが、コックピットを弾丸の如く蹴り砕き、ムスファのみを殺した。

 

「い……いったい何が……あ、ああ!?」

「──フン、所詮は弱きモノ、そのロボットも脆いな。だがその恐怖を糧にゾンダーとなるがいい。」

「あ、あああああァァァーーー!!!」

 

そして自身の真向いのモニターより突然、突き出て来たピッツォ・ケリーに恐怖し錯乱するイレイド。されるがままに、額にゾンダーメタルを埋め込まれ、グレイズはゾンダーロボとなり替わった。

 

 

「───くそッ! アトラはどこだ……ん、あれはアトラ!? おーい、アトラ……!?」

 

同時刻、入り組んだ森の中で必死の捜索でようやくアトラを見つけたライド。

だが、アトラの目の前にいる人物に、ライドは驚愕する。

重鎧の人物(ポレントス)がその手に持っていたもの……

 

「……暁ぃ、お願い、出てきて……」

「フフフ……貴女の願いを叶えて差し上げましょう。そうですね……草の根分けてでも捜せる術を貴女に授けましょう。」

「あ、ああ……」

「アトラ!? アトラァァァーー!!!」

 

ライドが目撃したのは、額に付けられた改良型ゾンダーメタルによって身体が創り替えられていく、アトラの姿。

 

「ゾンダァァァーーー!!」

 

そして、ゾンダーと成り果てたアトラは、コックピットを破壊されたグレイズに向かい、機界融合を行う。グレイズは大振りの大刀を手にしたゾンダーロボへとみるみる変貌していくのだった。

 

そしてその姿は、どことなくバルバトスと似ていた。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

アトラがゾンダーになった。

ライドからその一報が入ったのはそのすぐ後だった。

 

現場に駆けるオルガは走る間、今までの話を反芻していた。

 

自身の生まれから生きた軌跡───

CGSから鉄華団に変わっても、仲間達と生きる為にガムシャラに走って行った日々。

『仲間の死に場所は自分が決める』と指揮を取り、死んでいった仲間達に申し訳ないと思いつつもひたすら止まる事なく戦いの中に身を投じていった。

その度に後悔が押し寄せ、悩む日々が続く。

そして相棒の三日月の期待と「次は何をやればいい?」と脅迫じみた視線。

その目に格好悪いところを見せないようにしてきた。

 

三日月がバルバトスのリミッターを解除して右半身麻痺になってしまった時も、三日月は「謝ったら許さない」と言った。

己の命を自分(オルガ)のために使うと鉄華団に、オルガに身を捧げた三日月。「今までやってきた事を無駄にしてきたら許さない」と、そう聞こえた。

そうしないと戦えない、生きて行けなかった前世。

家族みんなの居場所を掴むため、『火星の王』という不相応な願いが最善だと思っていた前世。

そして道半ばにして倒れた。

 

(名瀬の兄貴の忠告、今ならしっかりわかるな……)

 

生き急いでいる。目指す所なんてどこでも関係ねぇ……。とっとと上がって()()()()()()

さっさと終わらせて、ミカの期待から…そして重圧から解放されたかった……。そう思う自分がいた。

結局……知らず知らずのうちに見栄を張っていたんだろう。

団員達に、ミカに、そして自分に……。

 

そして生まれ変わっても同じような境遇だった。無意識に絶望していた。

 

しかし…それを変えた人物が、破壊した人物がいた。

自分達に戦う事を教え、そしてそれ以外の道を示し続けていた。

日々闘争。されど冷静なりけるは太平の流れの如く。

無駄だろうと思う事には意味があると言い続け、何時までも見放す事をしなかった。

時折、格好悪いと思う事はあったが、それも『己』であると示してくれた。

無理はしなくていい。目的を達するなら、格好悪くても足掻いて見せろ、と。

むしろ、そこが勝負だと。

そして可能性を常に見せつけてくれた。

それは強力で強烈な人物。けれど自然体で、人間味があって、妙に説得力はあって、常に余裕があって……。

 

(そうだよな……ある意味、俺はお嬢みたいに、カルディナ・ヴァン・アースガルズみたいになりたかった。)

 

みんなに居場所を作る為に何が必要だったか、それを教えてくれた。

 

その為には色々な事を学ぶ必要があった。

もっと忍耐強くなる必要があった。

何が『強さ』なのか深く考える必要があった。

何よりも『強く』なる必要があった。

それをあのお嬢様は示してくれた。

 

『あの時』にはもう戻れない。

でも、『今』ならまだやり直せる。

 

悪魔と天使のイザコザに巻き込まれて転生してしまったが、それはチャンスだと割り切れば怖いものはない。

 

これは『やり直し』なのだ。

あの時、選択肢もなくただ死んでいった仲間たちの、苦悩して足掻いた自分に対する、たった一度のチャンス。

 

その時、通信が入る。

 

《オルガ。》

「ミカか。」

《アトラがゾンダーになったって。》

「ああ、知ってる。やべぇ状況だ。」

《オルガ。俺、どうしたらいい? 行った方がいい?》

「お前はどうしたい? お嬢にまかせりゃ万事治まるが……」

《……それはヤダ。》

「なんでだ?」

《アトラと俺に子供がいたんだって、暁って名前。前世、だけど。でも死んだって。そう聞いたとき、何か涙が出た。暁と一緒にアトラもクーデリアも死んだらって思ったら……》

「そうか。じゃあお前はどうしたい?」

《わかんない。でも気付いたらバルバトスのコックピットにいた。『俺の大事なモノを盗るな』って思った。そう言ったら、みんな『行って来い』って……》

「……そうか。なら、俺も一言言ってやる。『なんも気にせず行って来い。』キッチリとサポートしてやる。」

《わかった。》

 

そして通信は切れた。

その通信の会話で、オルガは笑った。

なんでか相棒(三日月)までもがいつの間にか変わっていた。

 

(そういう事も気にする事が出来るようになったんだな……すげぇ進歩だな。)

 

まだまだ俺達は変われる。そう思うと不謹慎ながらワクワクしてくる。

俺達はまだ終わっていない、むしろこれからだ。

 

「こんなところじゃ……こんなところじゃ終われねぇ……! むしろここから始まるんだ、そうだろ、ミカァァァーー!!!」

 

声の限り叫ぶオルガ。

その叫びに呼応するように大地が隆起し、爆発する中から『白い鬼神』が紅い眼光を以て現れ、グレイズを殴り飛ばす。

 

バルバトスルプス Ver,H ここに、見参。

 

 

《NEXT》

 

 


 

 

 

《次回予告。》

 

 

過去の因果を振り切り、遂に奮起したオルガ。そして身の内より出づる思いを胸にした三日月。

 

しかし状況は多勢に無勢。アトラを内包したゾンダーを目の前に戸惑う三日月。

 

されど、青と黒の鬼神が降り立つ時、その内の秘めた力を解き放つッ!!

 

願え、叫べ、二心合一の力、その掌の中に!!

 

『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

NEXT、Number.19『~目覚めし白・青・黒の鬼神~』

 

次回もこの物語にファイナル・フュージョン、承認ッ!!

 

 

 

これが勝利の鍵だ!!

 

『天使と悪魔』

 

 

 

 




ガオガイガーと言いつつ、オルフェンズ回。
しかもTV終了後という罠。
事象の観測後は何が起きてもおかしくはないのですが……

『鉄血のオルフェンズ 特別編』を見てプロットと本文が大暴走。
2万5千文字を超えた大新記録。後悔はない。
長いので前編、後編に分けようかと思いましたが……鬱話を分けるとか出来ない。

V・Cさんはシリアスだと仕事人。
チャド、ダンテは完全に被害者。スンマソン
というか、ハシュマルは完全にはっちゃけ過ぎ。ギルティ判定待ったなし。
天使と悪魔、関係なところで巻き込みすぎ。
たわけが太陽系消滅、機界昇華のキーマンとかありえん。どんだけ罪を重ねる気だ。
オルガと三日月の掛け合い、マジで泣けます。
でも決意と本音が噛み合ってない以上、『そうじゃないだろ!』っていうところが出た本文。本編に対するアフター、私なりの回答です。
オルガよ、よく耐えてたな。三日月の思いが重いっ!!

でも、これはガオガイガーです。

そして長文であっても脱線はありません。


ご感想、お待ちしています。


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Number.20 ~目覚めし白・青・黒の鬼神~

どうも、ようやく更新です。
もう12月、すぐ年の瀬ですね。

すんなりいくと思っていた戦闘シーンが難産な話でした。
加えてお嬢様、エル君、、ミカが大暴れで『マテやコラ』状態。

混乱に混乱を重ねるNumber.19、どうぞ!!




 

 

 

 

《な、なななな……!?》

 

目まぐるしく変化する、突然過ぎる事態に理解が追い付かないコーラル。

ムスファのグレイズが化け物に襲われたと思いきや、更にイレイド機が空から飛来した鳥人間らしき者にやられ、化け物になった。

ムスファ機も沈黙した後、それすら化け物になった。

総勢、3体の化け物(ゾンダー)

 

どうしようかと手をこまねいていると、地面のしたから突如爆発───と共にグレイズ(アイン機)が吹っ飛ばされた。

そして出てきたのは、グレイズ以上の巨体を持つ、複腕の白い異形───

 

《何だ、あれは!?》

《……何、お前ら。》

 

驚くクランクの声に反応し、複腕の白鬼(オーガ)から不機嫌な声が響く。

 

《人の言葉!?しかも少年の……あれは我々と同じく鋼の巨人──モビルスーツなのか!?》

《何!?》

 

残されたクランクがそう推察すると、コーラルはその考えに同調、すぐさま声明を発した。

 

《ならば……異教徒達に告ぐ!我々はお前達が()()()『聖女』をお迎えに来た!今すぐ『聖女』を渡して貰おう!さもなくば、天罰執行を行う!》

 

アンテナ付きの隊長機(コーラル機)から、そのような声明がスピーカーで発せられた。

相手が人間であれば、()()()()()()()すれば、相手は跪くだろう、例え相手が同じような機体を持っていたのは驚いたが、こちらの手勢は3機だ。ならばあれを手土産に……と思っていたコーラル。

 

──が、次の瞬間、バルバトスの背部から高速射出されるワイヤーにより操られる、二刀のブレードがグレイズ(コーラル機)を襲う。

 

《うるさい。》

 

それが逆鱗だと実感した時には時遅く、グレイズ(コーラル機)の右腕は灰色の禍々しいブレードによって易々と切り刻まれて、白い実直なブレードが頭部を貫き、機体を吹き飛ばす。

 

『γナノラミネート・ワイヤーブレード』、そして『γナノラミネート・テイルブレード』

 

ガンダムアスタロト・オリジンの専用装備である『γナノラミネートソード』。

その原理をハシュマルの超硬ワイヤーブレードに応用したもので、ナノラミネートアーマーに対する絶対瞬断の刃である。

とある天使(馬鹿者)このネタ(γナノラミネート効果)を仕入れ、モビルアーマー(ハシュマル)用に再調整、最適化したという、ナノラミネートアーマー持ちの天敵と言える兵器である。

しかもバルバトスルプスレクスにも手を加えたようで、テイルブレードの先端エッジにも同じ効果を持つ機構を搭載している。

 

斬撃特化の天使の刃(ワイヤーブレード)と、刺突特化の悪魔の刃(テイルブレード)

 

『どっちもワイヤー操作なので仕込むのは楽でした(ドヤァ)。思い付かなかった?ねぇねぇ、思い付かなかった?プークスクスwww』と笑って天使、悪魔の両方からボコられる原因となった装備である。

そしてその返答が……

 

『自分らの天敵を自分で造るんじゃない!』

 

他にも意見はあったが、総員一致の意見だった。

 

そんな事はあまり関係なく、天使と悪魔が合わさった(ヘヴィ)Gフレームといえる『ガンダム・バルバトス Ver.H』は、グレイズ達とゾンダー達の前にその驚異を現したのだった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「──おお、三日月さん速いですね、もう戦闘領域(お祭り会場)に参加しましたか。」

「でもあれはただ勢い任せで突っ込んだだけね。地上通じる旧地下通路が近かったからそこからって言ったら、迷う事なくエイハブ粒子砲を撃って道を拓いたなんて、無茶苦茶よ。それ程、アトラを想っているのか……それは終わってから聞いてやりましょう。」

 

先行した三日月を追うように、カルディナとエルネスティが地下ドックに続く通路を行く。

カルディナはそうであるが、エルネスティもインナー・スーツである『IDメイル』を自身の衣服の下に着込んでいる。

そのため一部追加鎧がある他、現在エルネスティの首から下の肌が露出している個所は全て黒い。時折その黒い『IDメイル』の表面に鮮やかな翡翠色の光の線が走る。

 

「いきなりIDメイル貸して欲しいって言うから貸したけど、勝算はあるのかしら?」

「ええ。先程倒れた時に、どうにも魔力(マナ)だけでなく、エネルギー全般の動きが解るようになりまして。一度に入って来た膨大なエネルギーの処理情報に、ようやく頭と身体が慣れて来たところです。」

「ちょっとの接触だけで、そこまで覚醒するなんて……貴方ってとことん規格外ね。」

レヴォリュダーの(超人類になっちゃった)カルナには言われたくありませんよ、羨ましい限りです。」

 

互いに毒づきあっているが、不敵な笑みを浮かべる2人。

新しく新調したカルディナの白い『IDメイル』の両手甲にはそれぞれGストーンとJジュエルが、そしてエルネスティの左手の手甲に備えられたGストーンが、2人の『勇気』で満ち溢れ、光り輝いていた。

そして2人は地下ドックの入口──愛機が安置されている空間に辿り着く。

 

「……さて。形にはなったけど、そっちの調整は相当過剰(ピーキー)……そして本当にやる気??要素を揃えたけれど、行けるのかしら?」

「はい。怪我の功名から出来た仕様ですが、問題ありません。そしてぶっつけ本番は世の常。カルナこそ大丈夫ですか?」

「ええ。職人、スタッフみんなの努力と技術で、常にカスタマイズされ強くなる……それがガオガイガーですもの。」

 

そこには調整を終えたギャレオン、そしてマギウス・マシン達と、アクシデントから甦った新生イカルガの姿があった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

《待たせたな、三日月!》

《ん、シノ。》

 

三日月──バルバトスが睨みを利かせて牽制する最中、3機のランドマン・ロディが来た。

 

《状況は……あんま良くねぇな。》

《まあ、こうなりゃな。》

 

昭弘が躊躇し、ユージンが息を呑む。

ゾンダーロボ3機に、グレイズ3機という状況である。三竦み、という訳ではないが、戦況が崩れると厄介な事には変わりない。

 

《アイン、無事か!?》

《はい、不意を突かれましたが……コーラル聖騎士長は?》

《無事だ。しかし、とても戦える状況ではないが……》

《あ、危なかった……だが!何だこの不可解な状況は!?このままでは折角の名誉挽回のチャンスが……!》

《聖騎士長?》

 

何かブツブツ呟くコーラルだが突如、超高速で飛来する物体がコックピットを揺るがした。

グレイズ(コーラル機)のコックピットの外装を大きく凹ませたのは()()()()()()()()()。ナノラミネートアーマーの外装を持つグレイズであるが、その威力に機体が仰け反り、外装は大きく凹んだ。

 

《な、何だいったい──!?》

《──このギャラルホルンのゴミ共がっ!!お前達の頭には『反省』と『規約遵守』の文字はないのか!?》

 

三日月達の後方───正面切って立ち塞がるのは、お嬢様のお父様(クリストファー)、そしてその家臣ら数名が乗り込む全長7メートル程のゴーレムであった。

そしてグレイズ(コーラル機)の倍以上も出力のある拡声器で相手の鼓膜を破る勢いのお父様。

後手に回ったとはいえ、対応が早いのは娘に出遅れないよう頑張った成果である。

ちなみに先程のメイスはクリストファーが『風力増幅』を付与した投擲である。

 

ここに至るまで、警ら担当のアースガルズの家臣達が気付かない訳がないが、スラスター移動によるグレイズ達の素早い動きに報告が間に合わなかったのが現状となる。

ちなみに、試験的に『工房(アトリエ)』製の通信機を持たされた家臣達の報告は迅速であり、すぐにカルディナや、クリストファーに報告を挙げていた。

また、ライド達と共にアトラを探索してくれていたのは、警らの家臣達であるが、その連携は実に優秀であったものの、今回はギャラルホルン側がそれを上回る結果になってしまった。

 

が、今の光景でそれらも帳消しになった。

そして有り得ない出来事にたじろぐグレイズ(コーラル機)

 

《ふ、不意打ちとは卑怯な!それに我々の職務を妨害するとは言語道──!》

《──元々我が家人である我が娘、カルディナを貴様らが勝手に『聖女』呼ばわりしているだけだろう!!しかもお前らの所有物扱いだと!?そんな不遜で約束も守れない愚者の愚言に誰が耳を貸すかァッ!!》

《ち、違うぞ!?我等が言う『聖女』はカルディナ・ヴァン・アースガルズではない、()()()()()()A()()()()()()()()だ!!》

「「「………」」」

「……そうか、それが返答か───死ね。」

 

どちらも変わりはない───

そんな()()()()を抜かしたグレイズ(コーラル機)に、クリストファーは問答無用でナノラミネート塗装を施した『風力増幅』付与の突撃鎗(ランス)を全力投射、螺旋運動をしながら()()()()()()()()()

幸いにもコックピット内のコーラルは奇跡的に無事であるが、這い這い出て来たコーラルが見たグレイズは最早使い物にならない損傷を負っていた。

義娘を想う父の怒りの前には、ナノラミネートアーマーなんて無意味だった。

 

《ウソ……だろ??》

《……すまん、ユージン。お前に今のグレイズを当てるつもりだったんだが。》

《公爵様の怒りはごもっともだ。それに手間が省けたからいい。》

 

巻き込まれないだけ、まだマシ……

そう思うユージンである。

対してギャラルホルン側は進退窮まる状況に陥っていた。

 

「ク、クランク!アイン!お前達はこの戦況をかき回し、ここを突破しろ!私は降りて先に『聖女』を探しに行く!」

《む、無茶です!この状況では撤退を……!》

「命令だ!そうせねば、私は左遷されて……ブツブツ……!!」

《クッ……やむえん、アイン!》

《判りました!》

 

だがそのやり取りは筒抜けであった。

 

《……ばっちり聞こえてんぞ。外部のスピーカー使うとか有り得ねぇだろ。》

《あれじゃ筒抜けだ、何考えてんだ?》

《とはいえ、まだ2機残ってる。ここを抜けられたらやべぇぞ、無理矢理侵入しそうな感じだから抑えねぇと被害がヤバそうだ。どうすっか───》

 

《───無事か、お前ら!?》

 

周りに構う事なく進もうとするグレイズ達。

そして威嚇するゾンダー達の対処に迷う3人のところに、入った通信の声の主──

 

《オルガか!?今どこにいる!?》

《公爵様のところだ。状況はこっちも把握している。んで作戦だが……建物の守りはこっちでもやるが、グレイズ相手にゴーレムじゃ当たり負けするのは必至だ。だから、お前ら3人でグレイズを1機ずつ確実に張り付け。》

《いいのか!?》

 

回避しつつ問答するユージンに、オルガは明確に答え、即座に3機は行動を開始する。

 

《ああ。お前らはとにかく被害を最小限に抑えてくれ。》

《判った。だが、あのゾンダー野郎はどうする?それにアトラも……》

《──そっちはミカに任せる。他2体もだ。》

《いいのかよっ、とな!!》

《今のミカに近づくな。()()に巻き込まれて死にたくはねぇだろ?それにミカもその方がやりやすい筈だ。》

《うん。俺もその方──がありがたい。今のバルバトスじゃ……加減、出来ない。》

《……ああ、ナノラミネートアーマーがよ、紙切れのように切られてんのは驚いたわ。》

《……というか今はそれしか方法がねぇ。降りた奴は公爵様達がどうにかしてくれる!それに援軍もすぐに来るから、それまでは()たせんぞ!》

《おう!》

 

オルガの指示に毅然と動く4人。

ランドマン・ロディ3機はとにかくグレイズに張り付き、長戦斧(ポールアックス)でヒット&アウェイを繰り返す。会話中もグレイズを相手取る挙動は前世より洗練され、余裕すら見て取れる。

また、バルバトスは一対のブレードを伸ばして2体のゾンダーを牽制しつつ、アトラを内包する偽バルバトスゾンダーを相手取る。

重量級である今のバルバトスは、本来のスペックでは急速旋回行動は出来ないが、スラスターではなく、ランドスピナーを標準装備するGフレームはスラスターと併用する事で、その重量を感じさせない動きをする。

更に───

 

《──ヤラセヌ》

《──そこぉぉぉーー!!》

 

悪魔(バルバトス)天使(ハシュマル)が三日月の思考・行動を感知し、サポートしている。

例え意識外からの攻撃とて、テイルブレードワイヤーブレードが通さず、迎撃する。

その中から迫り来るゴーレムゾンダーの重厚な拳には、ハシュマルの脚、そして爪が開き、捕える。

 

《運動エネルギー弾、イグニション!!》

 

備え付けの運動エネルギー弾発射装置からエネルギー弾が射出、拳を粉微塵に砕き、体制が崩れたところにカウンターを叩きつけるバルバトス。

ソレを隙と感じたグレイズゾンダーがアックスをバルバトスに向かって振りかぶるが……

 

《サセン》

 

いつの間にかチャージを終えていた背部の『エイハブ粒子砲』の砲身がバルバトスの頭部に覆い被さるように挙上、放たれる圧倒的な火力がグレイズゾンダーの下半身を薙ぎ払い、残った上半身をテイルブレードで追撃しようとする。

しかし、その上半身を刀身で「邪魔」とばかりに吹き飛ばし、ブーストで肉薄する偽バルバトスゾンダー。

振り降ろされる大刀をテイルブレードを直持ちしたバルバトスがいなし、同じく直持ちしたワイヤーブレードで斬り返すが、バックステップで離脱、空振る。

着地地点に運動エネルギー弾を連続で撃ち出し、足元を狙うがスラスターで一瞬浮き上がり、流れるような動きで左右に回避され、有効打にはならない。

それどころかすぐにブーストで懐に入り込み、再び斬りかかる。バルバトスはブレードで受け止めるも更に接近され、左手を手刀とした抜き手が肩のハシュマルのスラスターの一部をかすめる。

そんな予想を超えた動きに、三日月は翻弄されてしまう。

 

《……速い、強い》

「何だあのバルバトスモドキ。あの動きは……まるでミカじゃねぇか!」

《確かゾンダーって奴は核にした人物の経験とかを反映させるって言ってなかったか?》

《嘘だろ、あれアトラだろ!?どうしてそんな芸当が……!》

 

何故そんな事が出来るか想像がつかない一同であったが、三日月が翻弄される原因はもう一つ。

源素(エーテル)の吸気圧縮による、ゾンダーの大幅な強化。先程より大刀を鋭く振り抜く偽バルバトスゾンダーの一撃は大地を大きく砕く。

そして三日月は迎撃しようとするも、あわやコックピット──ゾンダー核がある場所に対する攻撃を思わず躊躇している。

更には手足への攻撃は悉く翻され、千日手状態となっていた。

 

「やべぇな……流石にミカでも打つ手がないか。」

 

ポツリと呟くオルガ。

流石に他のゾンダーロボへの攻撃は躊躇いなく出来るが、偽バルバトスゾンダーへの攻撃は防戦一方。

Gフレームであっても、モビルアーマーと合体していても、()()()()()()()では目の前のゾンダー相手ではどうしようもない。

そう無意識に思う三日月には反撃の手が思いつかなかった。

そしてそれはバルバトスに宿る天使と悪魔も一緒である。

 

《コノママデハ……!》

《うう、またやられちゃうの……!?》

《マタ??》

《あの時……『主様』の『願い』を叶えられるって思って、みんなで頑張ろうとしたら歪められて……挙句にあの化け物(ゾンダー)に利用されて世界を滅ぼしちゃった……いつも、どこでも私達(天使)は失敗して……もう失敗したくない、誰も苦しめたくないと思っているのに、どうしていつも裏目になってるのよ……!》

《………ソレハ我々モ同ジダ。》

 

悪魔(バルバトス)も同意するが、それは何に対する懺悔か。

そのやり取りが頭の中でガンガン響くのを五月蠅いと片隅に思う三日月だが、今はそれが何となく解る。

 

どうすれば失敗しないか、どうやったらアトラを助けられるか……

 

それがバルバトスの挙動に躊躇と隙を生み出し、偽バルバトスゾンダーがそれを突こうと──

 

 

《──チェスタァァァーーッ!!》

 

 

した瞬間、横から飛び蹴りで彼方へ吹き飛ばすのは、白い躯体に胸に獅子を宿す巨人、ガイガーであった。

更に、グレイズゾンダーが再度急襲してきたが……

 

《──こんにちは!僕も混ぜて下さいッ!!》

 

その肢体を瞬く間に切り裂き、胴体を蹴り飛ばす蒼い影──イカルガである。

 

《お待たせしました!》

《ああ、ありがてぇが……って、その幻晶騎士(シルエットナイト)、形変わってねぇ??》

《はい!これが新しく生まれ変わった新生イカルガ──その名も『斑鳩(イカルガ)牙鳳(ガオゥ)』です!!

 

──斑鳩(イカルガ)牙凰(ガオゥ)

Gストーン適合実験の際に負傷したイカルガに、カルディナが精霊銀(ミスリル)血液晶(エリキシル)、更にGストーンとAZ-Mが加わった事により、新たに生まれ変わったイカルガである。

動力源の連結魔力転換炉(ツイン・エーテルリアクタ)は変わりないが、それに後付けGSライドを装備し『GS連結転換炉(ツインリアクタ)』として生まれ変わった。

更に『銀神経(シルバーナーヴ)』だけでは補えなくなった高出力を精霊銀(ミスリル)血液晶(エリキシル)、AZ-Mで補った『G式精霊銀神経(ミスリルファイバー)』で構成された『Gドライブ』をエネルギー回路として有する。そして三重連太陽系の科学者の元、改修を兼ねた改良により、ガオガイガーの要素をふんだんに兼ね備えた、超絶幻晶騎士(スーパー・シルエットナイト)なのであるッ!

 

「……フフ、フフフッ!僕は今、猛烈に感動しています!夢にまで見た科学と魔法が一体化したものが、僕のイカルガの中にあるのを!さて、イカルガにフュージョンした僕の力、存分にお見せしましょう!」

 

精霊銀(ミスリル)とAZ-Mの作用に変化した外装と綱型結晶筋肉(ストランドタイプ・クリスタルティシュー)より剛胆になった四肢が無限再生するゴーレムゾンダーを圧倒する。

そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、感激しながら感嘆句を発するエルネスティは、蒼い鬼神たる斑鳩・牙凰を完全に()()していたのだった。

 

《さてと、私も始めましょう……マギウス・マシン!!

 

そしてカルディナは喚ぶ、己の(しもべ)達を。

そして暴れるゾンダー達を体当たりであしらい、空を舞うマギウス・マシン達を、地下ドックに造られた指令室内のモニター越しに凝視するのは、長官となったティ・ガー。

 

「……本格的に攻めてきたようだな、ゾンダー。だがこの国に誰がいるのか、お前達が相手取る者達が誰か教えてやろう───勇気の名の元に!ファイナル・フュージョン、承認ッ!!」

「承認を受諾。ファイナル・フュージョン……プログラム、ドライブッ!!」

 

ティ・ガーの承認に、フミタンがプログラム・ドライブを果たした時、5つの僕を従え、カルディナは叫ぶ!

 

「ファイナル・フューーージョンッ!!」

 

ガイガーから発せられる白銀のEMトルネードがゾンダーを、加えてグレイズをも領域の外に押し出した。

そして始まるファイナル・フュージョン。

 

有角狼《ガルム》を右肩に、有角翼獣《アリコーン》を左肩に。

黒雄竜(ドラゴン)を右脚に、黒雌竜(ドレイク)を左脚に。

そして不死鳥(フェニックス)を背に。

強靭な腕を携え、鬼の面が現れた時、純白の御髪を靡かせ、獅子を胸に宿す黒い鬼神がその姿を現した。

 

「マギウス・ガオ、ガイ、ガーーッ!!!」

 

今ここに我等が勇者王が復活した。

科学と魔法、破壊と守護、悪魔と天使、陰と陽

そして、三重連太陽系と地球

あらゆる対極の存在を束ねし勇者王

その名は、マギウス・ガオガイガー!!

 

「……さぁて、仕切り直しと行きましょうか。」

 

光り輝くコックピットの中で、カルディナは凛とした瞳を細める。

そして、マギウス・ガオガイガーは地上へと降り立つ。

 

《お嬢!》

《お待たせ。》

 

味方以外を吹き飛ばし、文字通り仕切り直しとなった戦況。マギウスを中心に、戦線は整えられるが……

 

《オルガ、今回は貴方が指揮して。》

《な……俺か??》

 

急にオルガに指揮を振るカルディナ。

突然の事に一瞬躊躇するオルガであったが……

 

《……まず、ゴーレムみてぇなゾンダーにゃ、イカルガが付いてくれ。》

《了解です。》

《次いでグレイズモドキには、お嬢のマギウス。》

《了解。》

《そしてバルバトスモドキには……ミカ、お前が行け。》

《……俺が??》

《ああ。お前が、だ。無理なら、2人が終わるまで───》

《───わかった、やるよ。》

《ああ。そして残りはグレイズ2機をやれ。手足はもいでいい、鹵獲する!》

《よっしゃ。》

《わかった。》

《いいぜ。》

 

そしてすぐに全機散開する。

 

カルディナがオルガに指揮を委ねたのは今後のためでもあった。

今後、加速するゾンダーの発生に対して指揮できる者は多い方が、それも事情をよく知る者の方がいい。

カルディナは当然として、ティ・ガーもそれに該当するが、現状ではオルガも該当する。

最悪のケースは散り散りの地点にゾンダーが同時出現し、更にギャラルホルンの手勢が現れる事。

ならばカルディナの下に就き、鉄華団を率いるオルガこそがその役に相応しく、都合がいい。

具体的には火麻作戦参謀ポジションに。

流石にコスプレなどさせる気は毛頭ないが、この世界で出来る役割を振るなら、彼が一番当てはまる。

カルディナはそう考えていた。

そして、どうやら本人も乗り気な様子。

 

「──さて一番手は頂きましょう!」

 

ゴーレムゾンダーを任されたエルネスティ。

斑鳩・牙鳳には武装がいくつかある。

 

「まずは、これです!!」

 

一つは銃装剣(ソーデットカノン)。イカルガを象徴する遠近対応武装である。

強力な強化魔法によりあり得ない程の強度と切れ味を持ち、剣の内部には紋章術式(エンブレム・グラフ)を刻まれ、魔導兵装としても使える。

それが二振り。大型化に伴って打ち直された凶悪な武装は、Gパワーを取り込んだ事でゾンダー相手にも謙遜……どころか圧倒する。豆腐でも切っているように抵抗なく細切れにされるゴーレムゾンダーは、瞬間再生能力がなければ相手にならない。

あまりの猛攻に距離を取ろうと後ろに跳び退くが……

 

「逃がしません!執月之手(ラーフフィスト)破掌(ブロウクンハンド)』!!」

 

背面武装(バックウェポン)にある右側の補助腕(サブアーム)執月之手(ラーフフィスト)の手首が高速回転し、執月之手(ラーフフィスト)がブロウクンマグナムの如く撃ち出される。

虚を突かれたゴーレムゾンダーはゾンダーバリアすら貫通し、その頭を砕かれた。

フレメヴィーラ王国にもたらされたガオガイガーの設計図、それに記されていた『ブロウクンエネルギー』の発生方法を元に造られたのが、『執月之手(ラーフフィスト)破掌(ブロウクンハンド)』である。

元より有線射出機能を持っていた執月之手(ラーフフィスト)だが高速回転によりブロウクンエネルギーを纏わす事で、ブロウクンマグナムを再現した。

しかし、今回の新生事件により得た力により、ガオガイガーにも匹敵する威力となった。

ただし、有線射出機能はそのままである。

 

しかし、その程度で怯む事はないようで、すぐに光線を放つゾンダー。

 

「甘いです!執月之手(ラーフフィスト)護掌(プロテクトハンド)』!!」

 

破掌(ブロウクンハンド)を戻し、左側の補助腕(サブアーム)執月之手(ラーフフィスト)の一部が開き、プロテクトフィールドを展開、光線が五芒星を描いて反射された。

こちらもガオガイガーの設計図を用いてプロテクトエネルギーを形成し、壁状に展開する仕様なのは変わりない。

 

反射した光線はゾンダーに直撃するが、ゾンダーバリアがそれを遮る───

 

「──隙ありです!短剣装銃(ソニックシューター)』、ダブル・シューートッ!!」

 

───のを見越して、爆煙の中で急接近したイカルガが『短剣装銃(ソニックシューター)』をバリアに向け撃ち込み、吹き飛ばす(ノックバックする)

 

短剣銃砲(ソニックシューター)』はイカルガ用に開発された、両腰部にマウントされた魔導兵装である。

元になったのはエルネスティの得物──ガンライクロッドで、銃装剣(ソーデットカノン)と同レベルの魔導兵装に、剣よりも若干短い刃を付けた、イカルガ版ガンライクロッドである。

『斬る』よりも『撃つ』に特化しつつ、超近接戦闘でも取り回せる兵装で『単射』『連射』『チャージショット』の3種類が撃ち分けが可能……というが、斑鳩・牙鳳になってからの威力は格段に上がり、『単射』モードであってもゴーレムゾンダーのゾンダーバリアを破ったのだった。

 

「いい威力です、では名残惜しいですが終わりにしましょう。ベルゼブブさん、サンダルフォンさん、準備はいいでしょうか?」

《無論だ。》

《いざ、参りましょう。》

 

そしてエルネスティの持つ『勝利の鍵』───一対の天使(サンダルフォン)悪魔(ベルゼブブ)

エルネスティの背後に現れ、そして霧のように消え、GS連結転換炉(ツインリアクター)にそれぞれ宿る。

天使、悪魔が宿ったGS転換炉(リアクター)は、吸気圧縮された魔力(マナ)とGストーンの力が合わさり、その出力を限界まで上げ、フルドライブへと導く───

 

「ではイカルガ……貴方の力、僕に見せてください!ヘル・アンド・へヴン!!

 

───右に破壊(悪魔)の力を

───左に守護(天使)の力を

 

「ゲムッ・ギル……ガン・ゴー・グフォ……はあぁぁぁーーーッ!!」

 

荒れ狂い、相反する2つのエネルギーをイカルガの膂力で、エルネスティの力で合わせ、翡翠色(パワー)に染まり上がったイカルガは両腕に込めた電磁竜巻(EMトルネード)の術式を解放、ゴーレムゾンダーに直撃する。

 

「──行きます!!」

 

魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)が火を吹き、腕を突き出して猛然と往くイカルガ。

その拳は ゾンダーの胸部に突き刺さり、上半身を砕く。

 

「……そう、イカルガの力は──伊達ではありません!!」

 

破壊エネルギーでボロボロになった上半身より、その渾身の力で核を抜き取る。

その瞬間、ゾンダーに行き渡っていたエネルギーが行き場を失い、大爆発を起こすその前に、イカルガの執月之手(ラーフフィスト)が全起動、銃装剣(ソーデットカノン)でゾンダーを突き刺し掲げ、短剣装銃(ソニックシューター)を含めた4砲門がゾンダーに向けられる。

 

「フル・ブラストッ!!」

 

そして放たれる圧倒的火力(フル・ブラスト)は、光の奔流となってゾンダーを爆発以上に焼き滅ぼすのであった。

 

「これが──斑鳩・牙鳳の力です!!」

 

ゾンダー核を抱える、イカルガはその威を示したのだった。

 

 

 

「───おぉ、流石ね。」

 

少し離れた場所で、イカルガの戦いを横目で眺めつつ、マギウス・ガオガイガー(カルディナ)は感嘆の賛辞を送りながらグレイズゾンダーと戦っていた。

ゾンダーと融合した事でマギウスより大型になったグレイズゾンダー。その戦闘力は脅威そのものであるが───

 

「ほっ、よ、は、せいっ!」

「ゾ、ゾガガ、ゴゴガゴ、ゾォー!?」

 

アックスに対して拳で迎撃、捕まえようとする腕を掴んで投げ飛ばし、空中に舞った瞬間、胸部を除いた全身に拳打の嵐。無限再生も追い付かない速度でスクラップに変えてゆく。

攻撃に対する攻撃(カウンター)

例え、無限再生があろうと、ナノラミネートアーマーで覆われた装甲だろうと、エイハブ・リアクターによるエネルギーの無限供給があろうとも、マギウス・ガオガイガーは全て拳打で打ち負かす。

マギウス・ガオガイガーの改修は特別なことはされていない。ただ、常用使用に耐えうる調整をされただけである。

それが意味するもの……

三重連太陽系の二大頭脳による改修により、一回きりの活動限界を常用化へ昇華されたマギウス・ガオガイガーは、Gストーン、Jジュエルの相互作用による共鳴現象に加え、魔力(マナ)により増幅されたエネルギーと、天使・悪魔の相克、反発するエネルギー、そしてカルディナが内包する幾多の要素と、レヴォリュダーの本質が、マギウス・ガオガイガーを新たなる次元へと昇華させた。

 

アベル曰く「アーク艦隊を総結集して相手出来るか不明な規格外」

カイン曰く「ジェネシックと肩を並べる奇跡の存在」

 

という評価を受けたのが、今のマギウス・ガオガイガーである。

しかし、当のカルディナはそんな評価を出撃前に受けていて尚……

 

「ありがとうございます。」

 

浮かれる様子もなく、感謝の謝辞を述べた。

今のカルディナにとってゾンダーとは、神話(マイソロジー)の存在が現実に現れたという事以上に、『ヒトを脅かす、許せない存在』である。

もちろん長年夢見ていた『ガオガイガーに乗る』という夢が果たせた事は彼女にとって、非常に大きな喜びであるのは間違いなく、強大な力を手にした事も嬉しい事である。

しかし、カルディナの内に在りし運命(トリプルゼロ)の存在が浮かれた心を静め、新たなる戦場へ駆り立たせるのは無常とも言える。

自分の存在は、文字通り在り方次第で繁栄も、滅亡ももたらす……

 

だが、そんな事は関係ない。

例えどんな事があろうとも、カルディナは何にも負けない、何も奪わせない。

マギウス・ガオガイガーは、その『勇気ある誓い』の証なのだからッ!!

 

地に臥すゾンダーに対峙するマギウス・ガオガイガーは今、その全ての力を解き放つ。

 

「ヘル・アンド・へヴンッ!!」

 

TGSライドがその力を開放し、マギウス・ガオガイガーに、そしてカルディナに在る『あらゆる対極する力』が発動する。

 

「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ……ハァァァーーー!!」

 

対極する力を一点に合わせ、白銀に染まるマギウス。

両腕より放たれる白銀の電磁竜巻(EMトルネード)が、グレイズゾンダーを拘束する。

スラスターを全開に、最大戦速で突貫するマギウスはグレイズゾンダーの胸部を砕き、ゾンダー核をがっちり掴む。そして、ゾンダー核を湾曲フィールドで包み込み、衝撃でボロボロになった爆発間近のゾンダーの残骸を掲げ上げた。

 

《──エネルギー、開放!》

「ウィィィーーーータァァッ!!」

 

掲げられた拳から放たれる白銀の一閃(ヘルアンドへヴン・ノヴァ)の一撃、それはゾンダーに爆発させる暇もなく、跡形もなく滅ぼす。

光が完全に消失した後には、摘出したゾンダー核を片手に、機体から排熱ダクトより勢いよく蒸気を吐き出すマギウス・ガオガイガーの姿があった。

 

《排熱処理終了。全システム、オールグリーン。》

「……了解。これがマギウスの力、か。」

 

光り輝くコックピットの中、胸に手を当て、ぽつりと呟くカルディナ。

その手が力を込めて握られた時、カルディナはマギウスが己が相棒として新生した事を実感したのだった。

 

 

 

「──!」

「ゾンダァァァーー!!」

 

残るゾンダーに対し、三日月は苦戦していた。

吸気圧縮による更なる強化を経て、偽バルバトスゾンダーはその身体能力、出力を更に高めてバルバトスと対峙する。

振られる大刀が異様な音を鳴り響かせて、先程まで防げたワイヤーブレードを弾く。

 

《超高周波ブレード!?僅カナ間ニココマデ強化サレルトハ……》

《う~、あれだけの威力、喰らったらナノラミネートアーマーでも瞬断だよぉ~!》

「そんなにヤバいの?」

《ヤバい。でも一番ヤバいのはあの動き……どうしてあんなに俊敏なの~!?》

 

賑やかになったコックピットの中、ゾンダーを相手取る天使(ハシュマル)が弱気になるもの無理はない。

今の偽バルバトスゾンダーは今までの動きがもっと早送りになったように速い。

だが、それよりもっと無駄がない。回避時も必要最低限に。

 

《……そんだけミカを見てたって事だな。》

「オルガ??」

《戦闘中にすまん。だが、一つ言っておかなきゃならねぇ事がある。V・Cの解析結果だと、あの動きは9割ほどお前の動きだ、って事だ。》

「……え、意味わかんない。」

《つまりは模倣──訓練中も普段の生活の中でもそんだけお前を見てたって事だ。》

「………」

 

普段の生活の中、前世の記憶があろうとなかろうと、アトラは三日月を想い、そして見ていた。

彼の一挙手一投足を。完全に記憶に焼き付けるまで見続けていた。

だがそれが今、三日月本人を苦しめているのは皮肉と言える。

そしてゾンダーの能力で更に昇華されているというのは何たる事か。

 

《俺から評価しても、過去にお前が戦ったモビルアーマー(ハシュマル)戦の動きと、そう変わらねぇ動きだ。》

 

リミッターを外したバルバトス。あの時の動きは誰も敵いはしないだろう。

だが、今はどうか?

 

《でもよ、俺と話しながら戦ってる時点で、お前にゃ結構余裕あるんじゃねぇか?》

「……ん、まあ、確かに。」

 

一撃必殺の攻撃を斬り交わし、神速の殺陣を交えつつも、雑談と言える話をしつつ、重くて文句しかない評価をした、不慣れなモビルスーツで互角に渡り合っている様は、何と言えようか。

 

《今ならわかる、俺達は確実に成長しているって。》

「うん、俺もそう思う。」

《んで、ミカ。俺はお前に、無茶を言う。》

「何?」

 

 

オルガの胸の内に眠る棘───昔、名瀬から『着地点はどこでもいい、早く終わらせたい気持ちが先走ってる』と言われた言葉。

『火星の王』になる事で、皆に安住の地を与えられると思っていた時に浴びせられた痛烈な言葉だが、確かにそうなれば自分達の居場所は作れる。

しかし生まれ変わり、落ち着いて考えた機会を得た今は、それまでの過程こそ重要、とオルガは気付いた。もし、当時自分達が思い描くように事を動かしていたら、マクギリス・ファリドの提案にそのまま乗って、もし成せたとしても、安住はあったか……

 

答えは『否』。

 

もしギャラルホルンを退け、成せたとしても、根回しもない、突然現れた支配者を名乗る若造に待ち受けるのは何か?

簡単には終わらない各国からの陰湿な工作、絶え間ない武力介入……そこまではいかないだろうが、まず国同士の関係は相当ギシシャクしていただろう。

息が詰まりそうな不信感が周りから向けられる中で、本当に安住はあったのだろうか?

後ろから撃たれる恐怖を気にしながら、安心して生きていけるのだろうか?

残念ながら当時の自分(オルガ)には思いつかない。

 

少なくとも、カルディナ・ヴァン・アースガルズに出会うまでは。

 

自分の親の領土の経済支配まで行いながら、恨みを極力買わない様にしている策略と技量はため息しか出ず、『ガオガイガー(空想の産物)を創る』という目標をキッチリこなすために払った努力と熱意は如何程か。

そして人柄。彼女の周りは温かい。

公爵令嬢という立場こそあれど、それ以上に彼女は周囲に繊細に配慮し、人を想う。

そんな光景を見て、「俺にもそんな事が出来るだろうか?」とつい希望を持ってしまう。

 

そうして思い返した時、自分達が求めた『目指した場所』とは……

その本当の意味は『安からかに暮らせる環境』である事を改めて気づかされたオルガ。

だからこそ、『どこでもいい』なんて事は、むしろ許されない。

当時やらなければならなかったのは、血を吐いてでも心を砕き、周りと同調して自分達の確固たる居場所づくり。

 

──これは私なりに突っ走った結果よ?

 

──でも、私みたいになりたいなら……ついて来なさい、全力で。

 

記憶を取り戻した後、尋ねた返答である。

そうなりたい。

そして今度こそ、その道があるなら実現させたい、『仲間達と一緒に』───

 

 

《……ミカ、今度こそ『誰も死なせねぇ、そんな未来』を掴め!!》

「!!」

《手始めに……ゾンダー(アイツ)から()()()()()()()!!》

「……わかった!」

 

オルガの()()()()()()()()言葉に呼応し、三日月はバルバトスの出力を上げ、突撃する。

三日月にはオルガの言う事の本質を直感で理解した。

そして、自分にもその言葉通りにやらなきゃならない事が───今、目の前にある。

大刀を振る偽バルバトスゾンダーの猛攻を巧みに受け流し、機体を旋回しながら、2本のブレードを振り回し、大刀を弾くバルバトス。

そして、コックピット内の三日月が身に着けるIDメイルの胸にある『Gストーン』が、光を放つ。

そしてコックピット内も白い光で満たされる──

 

「……バルバトス、ハシュマル。」

《!!》

《は、はい!》

「お前らが、本当に天使と悪魔だって言うなら……出来るよな、全力でやってみせろ。」

《……承知ッ!》

《や……やってやらい!!》

 

───右に破壊(悪魔)の力

───左に守護(天使)の力

 

無意識ながらに放つのは二心合一、矛盾も全て一つにする、対ゾンダー用の一撃必殺──ヘルアンドヘヴン。

 

「……はぁぁぁーーーッ!!」

 

呪文も無しに破壊と守護の荒れ狂い、相克するエネルギー()を無理矢理一つにする三日月。

無論、電磁竜巻(EMトルネード)等放てる訳がないガンダムバルバトスだが、突きだす拳から出た余剰エネルギーがゾンダーの身体を穿ち、一瞬の隙を作る。

そしてその隙を突いて、2本のブレードがゾンダーを突き刺し、一気にワイヤーが巻き取られていき、同時にランドスピナーを起動、スラスターも全開に加速するッ!!

無理矢理間合いを詰められるゾンダーは大刀の出力を最大に白光化する刃をバルバトスに向け、振り下ろす───

 

《──甘イッ!!》

《コイツを、持ってけェーー!!》

 

それより速く、複腕たるハシュマルの両脚が、大刀にエネルギーを供給する両腕を制し、遮ると同時にエネルギー弾頭をゼロ距離射出。

膨大なエネルギーのぶつかり合いに、ハシュマルの両脚と、ゾンダーの両腕が爆散(相討ち)となる。

 

だが、それこそ狙いであった。

 

「──アトラを……返せッ!!」

 

バルバトスの合わせた拳(ヘルアンドへヴン)がゾンダーの胸に突き刺さり、Gパワーを真正面から受けたゾンダーは全身の組織に致命的なダメージを受け硬直。

そして胸部の中にあるゾンダー核を一気に引きずり出したバルバトス。

三日月は見事、ゾンダー核の摘出に成功したのだった───

 

《───マダダッ!!》

「!?」

 

しかし、核を引きずり出した亡骸に残されたエネルギーが行き場を失い、爆発を起こそうとする。

その膨大なエネルギー量は未知数だが、周辺の被害はさておき、至近距離の爆発はバルバトスの装甲では到底耐え切れるものではない。

ましてや、浸透する衝撃は防ぐ手立てがバルバトスにはない。

 

《──間に……合えェェェーーー!!!》

 

その状況を打破すべく、天使(ハシュマル)がエイハブ粒子砲を急速起動、発射する。

しかしチャージ不足の砲撃ではマギウスやイカルガが見せたようにはいかず、例えフルチャージであってもゾンダーを消滅させる威力はない。

 

《しまっ───!?》

 

 

《──ダブル・プロテクトッ!!》

《シェーーードッ!!》

 

 

その瞬間、視界が真っ白になり、音が消えるレベルの爆発が起きた。

周囲を荒れ狂わし、猛威を振るう灼熱の熱風と業火、そして衝撃波が起きる。

誰もが白く染まる世界に絶望を感じたが、それ以上襲い来るものは来なかった。

何故なら───

 

 

《……ふぅ。プロテクトシェードの同期・広域展開は上手くいきましたわね。》

《ギリギリ、でしたけどね……》

《ええ、V・Cさんを合わせた、僕ら3人の演算でなければ、即座に広域障壁を展開する事は難しかったですね。》

「……お嬢、エル、V・C」

 

 

マギウスと、イカルガ。

2体の鬼神がバルバトスとゾンダーの間に『プロテクトシェード』を展開、同時に爆発に伴う弊害を閃光以外の全てを遮断したのだった。

そして呆気にとられた三日月だったが、マギウスから、浄解モードになったカルディナが出てきた事で我に返り、抱えていたゾンダー核を地面に優しく置き、バルバトスから出てきた。

 

「まったく、無茶苦茶して……でも、よく頑張ったわね、三日月。」

「これぐらい何でもない……それよりお嬢、お願い。」

「任せなさい。」

 

──サンクトゥス

──レッフェルト

──テストル

──ルルーウス

──ヒーク レリヴィーム

 

浄解の光に照らされたゾンダー核は、みるみるその機能を解除され、1人の少女を還した。

 

「みか、づき……三日月……」

「アトラ……」

 

現れた少女──アトラを優しく抱き締める三日月。

 

倒すのではなく、敵の手から助け出す───

 

今までした事がなかった困難な戦いを経て、三日月はアトラを取り戻したのだった。

 

 

───ビキッ バキバキ──ドスン!!

 

 

「……あ。」

《あ~……》

《う~ん、これは……》

「……はぁ、造り直しね。」

 

ヘルアンドへヴンの反動でボロボロになり、欠落したバルバトスの両腕と引き換えに。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

アースガルズ家 周辺

 

「───んじゃ、始めるぞー!」

 

荒れた戦場の跡。

鉄鋼桜華試験団の総出、またアースガルズ家の家臣達で整地作業が行われていた。

しかし、作業は難航。それでも四苦八苦しながら整地作業は続く。

そんな中、手を止め、黄昏るように周囲を見渡していたユージンに、ビスケットは声を掛けた。

 

「どうしたの、ユージン。」

「ん、ああ、悪ィ。ちょっと思うとこがあってよ、つい考え込んでた。」

「……どうしたの?」

「いや、()()よ……お嬢とエルネスティの団長が防がなきゃ、俺達もヤバかったなって、つい思ってた。」

「あ……ああ、確かに。」

 

ユージンに言われてビスケットは手にしていた鉄製のスコップで地面を突いたが、スコップは地面に刺さらず、鉄を叩いたようにカン高い音を響かせる。

 

「……地面が高温で硬質化してる。」

 

あの爆発の際、プロテクトシェードにより守られた内側は難を逃れたが、その外側──爆心地はガラスのように結晶化し、硬くなっていた。

時間経過により熱こそないが、その代わりに地面の有様は自然界に還るには厳しい状態と化していた。

 

「こんなん、よくお嬢達防げたな。」

「それだけガオガイガーが優秀……って言いたいけど、それだけじゃないね。」

「ああ。こんなんと俺達戦うのか……本当にゾンダーって奴はやべぇな。」

 

直接相対していないとはいえ、同じ戦場にいたゾンダーの恐ろしさを垣間見たユージンであった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

アースガルズ家 カルディナ私室

 

 

「あ~、疲れたぁ……」

《お疲れ様です。》

 

ようやく私室で休憩を取れる事が出来た深夜、カルディナは安楽椅子ゆらりゆらりと揺られて休んでいた。

今日だけでも機体改修から始まり、ガンダムバルバトスの合体事故、『オルフェンズ組』に関する重大な秘密の解明、そして領内に出現したゾンダーと、アトラのゾンダー化に、ギャラルホルンの領土無断侵入……

あまりにも内容が濃過ぎる一日に、カルディナは辟易していた。

流石に任せられる事後処理は一通り一任してきているが、その密度は重労働に値する。

それでも収穫は多くあった。

まずはイカルガ、ガンダムバルバトスの強化。

 

「破壊と守護の混合エネルギー触れる機会があったとはいえ、まさか2人がヘルアンドヘヴンを使えるだなんて……『フュージョン・システム』の影響かしら?」

《概ねその通りかと。課題は多いですが、現状は正常に稼働しています。》

「そうね。あとは機体改修が何処まで出来るかだけど……イカルガはエルに任せましょう。エルはエヴォリュダーの能力に近い資質が開花したけど、あくまで能力だけで、肉体は人間のままだしね……打開策は自分でどうにかするでしょう。」

《バルバトスを始めとするフレームに関してはカイン様、アベル様の御知恵を拝借しつつ天使、悪魔達が率先して行っています。改修プランから、おそらくガイガーに近い改修が成されるでしょう。》

 

そして自身の相棒たる、マギウス・ガオガイガーの強化。

これは一番うれしい。

そして同時に、一番望ましくない。

 

「ゾンダーの同時出現……こうも簡単にされちゃうと頭が痛いわ。」

《今回確認されただけでも3種類のゾンダーがいました。特に三日月さんが相手をしていたゾンダーのゾンダーメタルは王都戦で相対した種と同じでした。あれが一番厄介で……機界昇華を真っ先に行えるタイプかと。》

「……要警戒、ね。そして今後複数の都市で同時展開されてしまえば、今以上に戦力は必須。そしてギャラルホルン……あの馬鹿達はいったい何がしたいのよ!?っていうか何でグレイズ!?教皇国にそんな技術はないはずなのに……」

《『影』の報告でも事前察知は出来なかったようです。私にもこのような事態は予測出来ませんでした。》

「まるで突然湧いて出てきたみたい……本当に魔法ね。それと被害区域の状況……早く『ディバイディング・ドライバー』を造らなきゃ。それと他のガオガイガータイプは必須……か。」

 

触媒結晶持ちのゾンダーの爆発力の威力、それは本当に恐ろしいものだった。

V・Cによる部品製造の時間が短縮されたとはいえ、時間が掛かる兵器製造。開発は急務である。

特にガイガーの2号機、3号機は今後必須……と、思っていた矢先、扉をノックする音が。

一声かけて入室してきたのはフミタンであった。

 

「失礼します。あのグレイズとやらの存在は、ギャラルホルンの何処を探しても製造拠点はなかったとの事でした。どこから出てきたかも……不明です。」

「お嬢様宛のお手紙をお持ちしました。」

「こんな時間に……随分急ね、誰かしら?」

「イザリアさんの旦那様からです。」

「───え。」

 

予想外の人物からの手紙に驚くカルディナはすぐにその手紙を見て───

 

「……V・C。天使達、悪魔達に連絡して。『予定を変更する』って。」

《判りました。》

「あと、『第一位』をここに。」

《はい、お待ち下さい。》

「……事前に依頼されていたとはいえ、急に、か。また忙しくなるわね。」

 

一通の手紙から、事態は再び動く事になった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

ギャラルホルン教皇国 某所

 

 

「……ふむ、失敗しましたか。手駒は全員捕虜、グレイズと云うロボットも捕獲と……使えませんねぇ。『勇者』の『異能』が発現した成果だというのに、使い手がゴミだとねぇ……いけません、いけませんねぇ。」

 

時は少し進んで、アースガルズ領への聖女奪還の失敗の報を受けた枢機卿。

次の手を考慮していた矢先、扉をノックする音が響いた。

 

「───失礼します、枢機卿。」

「おや?貴方は……」

「何やら部下が面白い報告をして来たので、問題とされる場所へは私が赴こうと思い、参上致しました。」

「……そう、ですか。いいでしょう、頼みますよ───マクギリス卿。」

「……失礼します。」

 

行儀よく部屋を後にする男───マクギリス。

その男に、枢機卿は不機嫌なため息を吐く。

 

「何とも耳の早い……そして、腹の底が知れない男ですねぇ。」

 

手勢を失ったギャラルホルンの企みは、まだ続くのだった。

 

 

 

《NEXT》

 

 


 

 

《 次回予告 》

 

ギャラルホルンの軍勢、そしてゾンダーを退けたカルディナ達。

 

しかし、安息の間もなく次の試練が待ち受ける。

 

変更した開発スケジュールを繰り上げ、開発されるのは『第一位の悪魔』。

 

そしてそこに迫り来るのは、悪魔を探し求める、悪魔に魅了された男。

 

その男が見たのは、空を舞う悪魔の勇姿。

 

交わされる口論が指し示す『禍祓いの焔』。

 

今明かされる、未だ消えない焔の秘密とは!?

 

 

 

次回、『公爵令嬢は、ファイルフュージョンしたい』

 

NEXT、Number.21 ~ バエルと禍祓いの焔 ~

 

 

これが勝利の鍵だ!!

『イザリア・フランベル』

 

 

 

 


 

 

〇斑鳩・牙鳳

Gストーン適合実験の際に負傷したイカルガに、カルディナが精霊銀(ミスリル)血液晶(エリキシル)、更にGストーンとAZ-Mが加えた事により、新たに生まれ変わったイカルガ。

動力源の連結魔力転換炉(ツイン・エーテルリアクタ)は変わりないが、それに後付けGSライドを装備し『GS連結転換炉(ツインリアクタ)』として生まれ変わった。

金属骨格(インナースケルトン)外装(アウタースキン)精霊銀(ミスリル)とAZ-Mが干渉した事により、破格の剛胆性を有する事が出来、銀線神経(シルバーナーヴ)にはAZ-Mと人工血液(エリキシル)、更にGストーンのGパワーが干渉した事により、『G式精霊銀神経(ミスリルファイバー)』で構成された『Gドライブ』をエネルギー回路として有する。

魔導演算機(マギウスエンジン)にはガオガイガーと同じく『フュージョン・システム』を採用しており、パイロットの『IDメイル』にあるGストーンとの同調(勇気の力)の度合いが一定を超えると発現し、エルネスティ本人のエヴォリュダー並みの演算能力と相まって、非常に強力なフル・コントロールが可能。

また、外部補助としてV・Cの独立端末が接続されている。ただし、『火消し』の際、内部術式の再構築を行った際に、各要素が干渉しあった結果、物理的に抜け出せなくなり、除去も困難なため、そのまま譲渡したという経緯がある。

 

本機にはガオガイガーのデータが各所の魔導演算機(マギウスエンジン)に刻まれており、変化の際にそれに対応・見合った外観へと変化している。

外観の特徴は精霊銀(ミスリル)とAZ-Mが干渉した事により、主腕が脚部並みの出力を出せるぐらいに大型化し、膨大な魔力(マナ)を通す事が出来る。これは『EMトルネード発生器』を備え、後天的に『ヘルアンドヘブン』を異常なく行える程のエネルギー回路を同時形成している。

補助腕(サブアーム)には『執月之手(ラーフフィスト)』をそのまま採用しているが、ガオガイガーの両腕の機構(右側に破掌(ブロウクンハンド)、左側に護掌(プロテクトハンド))を一対備える。残りの『執月之手(ラーフフィスト)』は従来と同様だが、両腰部にマウントされた魔導兵装『短剣銃砲(ソニックシューター)』を主に扱う補助腕(サブアーム)としている。

短剣銃砲(ソニックシューター)』はイカルガ用に新たに開発された魔導兵装で銃装剣(ソーデットカノン)と同レベル以上の魔導兵装を目指しており、剣よりも若干短い刃を付けた、イカルガ版ガンライクロッド。

使用方法はヴェスバー+銃剣。『斬る』よりも『撃つ』に特化しつつ、超近接戦闘でも取り回せる兵装で『単射』『連射』『チャージショット』の3種類が撃ち分けが可能。

当人曰く、『ヴェスバーをガンカタみたいに振り回したら面白いかも』との迷言が聞かれている。

他、銃装剣(ソーデットカノン)を4刀有し、『短剣銃砲(ソニックシューター)』と合わせ、『全砲門・一斉掃射(フル・ブラスト)』も可能。

 

また、飛行機関に魔導噴流推進器(マギウスジェットスラスタ)の他、源素浮揚器(エーテリックレビテータ)の機構もブラッシュアップされ、飛行能力も向上している。

 

最後に、三重連太陽系の科学者に改修を兼ねた改良を受け、ガオガイガーの要素をふんだんに兼ね備えた、超絶幻晶騎士(スーパー・シルエットナイト)として顕現したのであるッ!

 

また、名称の由来はガオガイガーの技術を組んでいる事からの敬意を表して。

決してエル君がガンレオンのサブパイロットのメールちゃんの真似「がお~♪」をしたら、非常に可愛かったと妄想をしたからではない、きっと。

 

 

〇ガンダムバルバトスルプス Ver.H

 

ガンダムバルバトスルプスレクスに、小型化したハシュマルが合体した形態。

元々あるGS連結魔力転換炉(ツイン・リアクタ)に、ハシュマルのエイハブ・リアクターが追加した事により出力の向上を成功させている。

特徴はハシュマルの武装をバルバトスでもそのまま使用できる仕様で、そのギミックがそのまま活用されている。

特にテイルブレードと超硬ワイヤーブレードを改良した『γナノラミネート・ワイヤーブレード』、そして『γナノラミネート・テイルブレード』。

ガンダムアスタロト・オリジンの専用装備である『γナノラミネートソード』の原理をハシュマルの超硬ワイヤーブレードに応用したもので、ナノラミネートアーマーに対する絶対瞬断の刃となっている。

また、テイルブレードにも同様の処置がされており、それぞれ『斬り』、『突き』に特化している。

ビーム兵器たる、『ビームキャノン』は粒子加速射出器の『エイハブ粒子砲』として改良されており、二次被害を抑え、破壊力特化に変更されている。

 

ただし、デメリットとしてガオガイガーのノウハウは『フュージョン・システム』、駆動系以外は使用されておらず、あくまでモビルスーツ、モビルアーマーの技術を融合させたのみとなっている点。防御面はナノラミネートアーマーと特殊金属の硬度頼りで、特殊な攻撃には弱く、魔術抵抗にも難がある。

また、パイロットの三日月・オーガスに無断で改良したため、機体性能が本人の戦い方に沿っておらず「重い、鈍い」とダメ出しを受けている。

また、偶発的な要素が揃った事もあり、初出撃時にヘルアンドヘブンを使用できたが、本来は仕様にない使用だったので、機体の内部崩壊は避けられなかった。

今後、専用化を目的としたフィッティングが行われる予定。

 

 

 




イカルガに関しては『スーパーロボット大戦30』の凱兄ちゃんとエル君の艦内ミッションのやり取りからいろいろ妄想をしてネタ出しした結果です。
ソニックシューターはヴェスバーをイメージしているので、ちょっと違いますが。

バルバトスについては、アニメ出演前の考察で出た支援機扱いからネタを出しています。
とはいえ、ミカには使いづらい使用だったので今後は別にします。

次回は本編前に、書いたけど話の進行具合が悪いため、カットした閑話を挟みます。


評価、感想お待ちしています。


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閑話 それぞれの次への歩み

さ~て閑話です。

ナニギリスで笑いを取る前に、消化したい話を掲載します。
さっくりいけるかな……??

掲載話

〇ある兄弟の復縁
〇男同士の語り
〇未来に向かって
〇あの武器の裏話
〇英雄の剣・序
◯二振りの行方
◯公爵家の最終兵器




 

○ある兄弟の復縁

 

───記憶戻り

それは今の鉄鋼桜華試験団にとって、避けて通れない事案である。

記憶が戻るのはいい。しかしフラッシュバックが常に良い方向に向くとは限らない。

例えば……

 

「──うわぁぁぁーーー!?!?」

「うぉ!?今度は誰がだ!?」

「わぁぁぁーーー!?!?」

「あ~、またか。最近多いな。昨日はハッシュだったが。」

「わぁぁぁーーー!?!?」

「って、落ち着け!逃げんな───」

「わぁぁぁーーー───いだだッ!?」

 

「……何の騒ぎ??」

 

「あ、お嬢。そいつが──昌弘の記憶が戻って錯乱したみたいで……」

 

昌弘の頭を文字通り鷲掴みにしたのは、カルディナ。

ただしボケーっとしており、目元の下には隈が出来ていたが、それでも鷲掴みにした指は昌弘を微動だにさせない。

その後ろにはフミタンとV・C(Ver.サクヤ)がいた。

 

「……ダンテ、腰のそれ……」

「あ、ああ───ほい。」

「ぶふっ───へにゃら……」

 

昌弘に向かって霧吹きのようなものを吹き掛けるダンテ。

そうすると、錯乱して暴れていた昌弘が急に大人しくなった。

 

「う~ん。よく効くな、このパレッス粒子ってヤツ。『V・C印の暴徒鎮圧とか余裕の逸品♪』の触れ込みは伊達じゃねぇ。」

《当然です。(ドヤァ)》

「一応、劇薬扱いだけどね……それじゃ後頼むわ」

「ああ……ちなみにお嬢、どうしたんだ?」

「徹夜明け。」

「……ゆっくり休んでくれ。」

 

講習を受けた団員には少量ながら霧吹き仕様で携帯が認められ、錯乱して手が付けられない団員に対して独自判断での使用が認められている。

そのため、怪我等の余計なトラブルが少なくなった。

 

そして徹夜明けのカルディナは、その後に続くフミタンとV・C(Ver.サクヤ)と共に、自分の私室にのそのそ戻るのだった。

何をしていたかは……いろいろあって、まだ秘密だ。

 

「……レヴォリュダーってヤツでも、徹夜はキツいのか。あ、昭弘と友人のガキ共に連絡しねぇと。さて、落ち着くまで医務室預かりでいいとしてだ……原因はなんだ?」

()()、じゃねぇか?」

 

そう声を掛けるのはナディ・雪之丞・カッサパ──通称、おやっさん。

彼は特殊な塗装用工具を持っていた。

ちなみにおやっさんも記憶は戻っているが、さほど混乱はなかったらしい。

 

「ロディのナノラミネートアーマーの再塗装作業中なんだがよ、森林内で目立たねぇようにって注文で“迷彩柄”にするんだが、その下地がなぁ……」

「……ああ、ブルワーズで使われてた“マン・ロディ”そっくりだ。」

 

ダークグリーンが、まんまマン・ロディだった。

 

「──昌弘ッ!!」

「……あ、兄貴??」

 

昌弘が担がれた医務室に急いで走ってきた昭弘。

そこには元ブルワーズ組の子供ら、アストン、デルマの対応もあり、既に落ち着いた昌弘がいた。

 

「ああ、昭弘さん。」

「アストン、デルマ、昌弘をありがとよ……って、頭に包帯って、どうしたんだ!?」

「錯乱中に暴れちゃったみたいで、通り掛かりで三日徹夜のお嬢様のアイアンクローを受けたみたいで……念のために。」

「……ああ、そりゃ災難だったな。」

「あ、ああ……」

「それじゃ昌弘も落ち着いたみたいだし、俺達戻りますけど……いいんですよね?」

「……ああ、すまなかったな。」

「いいえ。昌弘を、お願いします。」

 

そうして残った昭弘と昌弘。

ただ、いざ二人きりとなると気まずいようで、言葉が出ない。

 

記憶が戻るのには個人差がある。

特に何が原因で戻るかは状況、もしくは過去に死に絶えた直前までの状況にまで起因する。

ゾンダーによる機界昇華が原因で命を喪った者は、ほとんど浄解によりその記憶を取り戻した。(同時に錯乱し、パレッス粒子噴霧、という状況もあったが。)

だが物語途中で死んだ者は、特別なきっかけがあるが、それが何かは解らない。

そして戻るまでの間、既に戻った者との関係がある程度じれったく、またギクシャクしたのは仕方ないと言え、もどかしさもあった。

しかしその不満は鉄華団では自然に霧散していった。

 

昭弘の存在だ。

 

今世では生き別れにならず、一緒にいるものの、昌弘の記憶は戻らないままだった。

そして傍にいる昌弘の記憶が戻らないのに、昭弘は特にアプローチもしない。

……正確には戻る事が判明した後、様々な事を試したものの成果につながらず途方に暮れていた翌日、すぐに切り替えていたからだ。

自分()を知らない弟──そのもどかしさと葛藤を黙って耐えていた昭弘の姿を良く知る者達から、『自然の成り行きに任そう』という空気が自然に形成されていた。

 

そして今、その機会がようやく訪れたのだが……

前世の2人の関係と死の直前のやり取りを省みると、易々と踏み込めない空気も仕方ないと言える、が。

 

「……落ち着いたか?」

 

先に言葉を発したのは昭弘だった。

 

「う、うん。まだ混乱はしているけど、大分呑み込めて来た。俺……生きるんだなって。」

「ああ、ちゃんと生きてる。」

「あの時……身体が何も感じなくて、すぅーってなっていったのも、今でも身体が……覚えてる。」

「俺も……あの時の事は今でも忘れねぇ。すまなかった、昌弘。」

「あ、兄貴?」

「あん時、お前を迎えに来たって安易に言って、お前の気持ちも考えずに傷付けてしまってよ。結局、俺はお前を迎えにどころか、助けられなかった……すまねぇ。」

「それは……いや、俺だってあの時、兄貴に酷い事ばっか言って……」

「俺だってヒューマンデブリだった。けど解放されてそこに『差』が出来ちまったんだ、聞かされれば恨みの言葉ぐらい出るのも仕方ねぇ。あの時のお前にとっちゃ()()()()()()()()()()()聞こえねぇ……『家族が出来た』って話も、前を向かせるつもりが気持ちを逆撫でしちまう……あの時の俺には言葉じゃお前を説得できるモンはなかったんだ。それに、今もそう状況は変わんねぇ。」

「今も?」

「今の人生だって、俺達はヒューマンデブリじゃなくても、奴隷だった……あんまり変わらねぇ。」

「………」

「けどよ、今は俺もお前も一緒にいられて、奴隷から解放されて、今はちゃんとした人間だ。それは前とは違う、決定的にだ。」

「あ……」

「環境も、取り巻く人も、もう違う。だからこれだけは言っておく───自分を無下にすんな。俺も、お前も人間なんだ。デブリでも奴隷でもねぇ。一人の人間なんだ。」

「……兄貴──兄ちゃん!」

 

昭弘の言葉に泣き崩れる昌弘。

それは胸の中に食い込んだ楔が抜けたように、ようやく解放されたという安心感であった。

しばらく泣き続け、ようやく落ち着いた昌弘は、急に恥ずかしくり、近くにあった枕に顔を埋める。

 

「落ち着いたか?」

「う、うん……でもこんな時に兄貴面すんなよ、恥ずかしい……」

「させよろ。今まで出来なかったんだ、これからは昌弘が胸張って自慢出来るぐらいになってやる。」

「……出来んの??この世界じゃ、俺達は平民でしょ?」

「フン、舐めんなよ。これでも手に職は入念に付けてる。」

「でもなぁ……兄弟なのに俺を見ても記憶が戻んなかった事には、それなりにショックだったんだからな。」

「え、あ……それは……ごめん。」

「なんてな。俺もモビルスーツ見て記憶を取り戻したクチだ。お前の事を何も言えねぇよ。」

「うう……」

「そんだけ及ぼしたトラウマが強かったって事だ……だがな、お前が言ってた事は本当だったんだなって思う。」

「何が??」

「生まれ変わりの事だ。『死んで、魂が生まれ変わる』って。確かにそうだ……みんな死んで、生まれ変わった。そうしてここにいるんだ、俺達は。」

「あ………」

 

それは前世、昌弘が死ぬ間際に昭弘に話した、他愛のない話。

その事を自覚した時、改めて思う。

『本当に生まれ変わりは、あった。』と。

 

「だから昌弘、今度はちゃんと言わせてくれ………“迎えに来た、もうお前を独りにはしねぇ”」

「………うん!」

 

あの日望んでも抱いても得られなかった希望。

確かに自分は折れ、再開した兄に、その恨みと悲しみ、憤怒をぶつけてしまった。

けれども、その兄は忘れず、背けず覚えていてくれた。

そして改めて手を差し伸べた。

 

そうしてようやく昌弘は、差し出された手を素直に握る事が出来たのだった。

 

 

 

「……兄貴。俺、あのお嬢様ぶん殴りたいんだけど。」

「ああ、別にいいんじゃねぇか。挑戦、訓練は付き合うって言ってたし。ただな………徹夜明けは止めとけ。加減が効かねぇってよ。」

「……うそん。」

 

新たなトラウマも刷り込まれて。

 

 

 

 

 

〇男同士の語り

 

「──じゃあ、他のみんなも無事なんだ。」

「ああ。残ったグレイズは完全に沈黙させて、パイロット2人も投降させたし、指揮官も森の中で彷徨っているところを拘束したから、こっちの完全勝利って奴だ。ゾンダー化した他の2人は、改心して面白いように口を割ってるしな。ただ、問題といやぁな……」

「……何?」

「お前と、エルネスティの団長サマが、疲労困憊で動けない事ぐらいか。」

「解せない」

 

不服とばかりにベッドに寝かせらている三日月に、オルガはその後の近況を知らせていた。

 

アトラを無事助け出した後、バルバトスの腕が欠落したのをきっかけに緊張が解けた後、三日月は倒れ、更にエルネスティも倒れた。

原因はヘルアンドへヴンの反動で、相当なダメージを受けており、限界を超えた過労状態になった。

故に起き上がる事すら出来ない。

ただし、以前のようにリミッターを解除したような深刻な後遺症はない───というより、ヘルアンドへヴンを使用した時点でリミッター解除と同義のようなもので、深刻な後遺症は最早ないに等しい。

また、そのダメージは同乗する天使(ハシュマル)悪魔(バルバトス)も分散して負うため、三日月への負担が減ったとも言えるが、この様に戦闘不能になるリスクを考えると、割に合わない。

そもそも、Gフレームはヘルアンドへヴン等の膨大なエネルギーを用いる事が想定されていない構造のため、一歩間違えなくとも機体崩壊は前提事案なのだ。

今回はたまたま行える要素があり、三日月がたまたま事前に破壊と守護の混合エネルギーに触れていた幸運があったため両腕が欠落、自壊した程度で済んだのだが、それでもバルバトス自体もダメージを負っている。

深刻なものが無くなったとはいえ、代わりのリスクが大きい。

 

故に別々ではあるが、三日月とエルネスティは再びベッドの住人となったのだった。

ちなみにエルネスティはアデルトルートの熱心な看病を受けている。

 

「……ってな訳で、フレームは基礎構造から見直し。ハシュマルを見てか、モビルアーマーによる強化プランも立ち上がって更にてんやわんやだ。」

「でも重いから俺はやだな。」

「……伝えとく。」

 

パイロットからの辛辣な意見に、苦笑いするオルガ。

今頃、ビクンビクンとのたうち回る天使(ハシュマル)が仲間たちからツンツンされながら「うぼぁ」と吐血しているだろう。慈悲はあるのか……

そんな素直に感想を言う三日月を見ていると、ふと表情が変わった。

 

「……オルガ。」

「何だ?」

「これから、どうすればいい?」

「………」

 

その問いにオルガは黙する。

それは、いつもの命令を要求する問いにではなく、明確な迷いから来る、どうすれいいか解らないという不安が感じ取れる問いだった。

 

「……解らねぇな、俺も。」

「オルガも?」

「こうして生まれ変わって記憶も戻って、ギャラルホルンみてぇな奴らとまた戦って……前みたいな感じはしたけどよ、未だに何をしたらいいか解らねぇ。そもそも()()生きる事に困窮してる訳でもねぇからな。」

「うん」

「だから、前に足りなかったモノが余計に解る今、それを埋めるぐらいに学ばなきゃなんねぇとは思ってる……お前もそうだろ?」

「そうだね。俺も暇があったら畑の事とか作物の品種、育成、あと管理と出荷手続きなんか勉強してる。お嬢に「その内、お酒でも造る作物作りそうね」とか言われたっけ。」

「俺も軍団の統率方法とか、各セクションに対するアプローチ法、後は雑務をどれだけ早くこなせるか実践中だ。知れば知る程足りないものが多いって気付かされて、その度に学ぶ事が多い。他の奴らもそうさ、貪欲に学んで、求めれば求めるほど学べる今を楽しんでいるんだろうよ。今は鉄鋼桜華試験団として、それでいいと思う。」

「現状維持?」

「良くも悪くもな。そしてそれは皆、必要だからやってんだなと思う。それを今止める必要はねぇさ……でもな。」

「……でも?」

「その都度思っちまうんだ、『あん時これを知ってれば』って思うのと、『これからに生かす必要だ』って思った時、つい妄想しちまう事があるんだ。いつかまた『鉄華団』として……ってな。」

「………オルガも、そう思ってたんだ。でも、お嬢はなんて言うかな?」

「『まだ、早い』ってよ。」

「え、言ったの?」

「ああ。ちょっとな。そしたら『磐石な組織体制を構築出来るようになったら、独立考えてあげる。その時は……宇宙かも』って。」

「……それ、本気で言ってたの?」

「『その前に私が先だけど』って言ってからなぁ。いつかは解らんが……マジだ、きっと。しかもそう遠くねぇ話だな。それまでには……ただ成り上がるとか、そんなんじゃねぇ……お嬢みたいな人達から自信もって誇ってくれる、名実共に『デカいヤツ』になりてぇ。」

「オルガ……」

「だからよ……相棒、これからも頼むぜ。『火星の王』とか大層なもん目指す訳じゃねぇが、それでも俺達がかつて目指した、理想の場所に辿り着けるように……そして納得出来る場所を自分達で創れるように、今度こそ……!」

「うん。」

 

三日月は辛うじて動く右腕を挙げ、オルガは彼に添うように、お互いの拳を合わせた。

かつても今も変わりなく、2人の関係が変りないように……

 

 

「──さて、俺は戻るわ。お邪魔虫は退散せにゃなぁ。」

「え、何?」

 

突然話題を変えたオルガは、そそくさ席を立った。

 

「いや。俺との友情も大切だけどよ、今のお前には違う事も大切じゃねぇかと思ってよ。」

「……あ。」

「俺が言うのも何だが……これからの俺達には大事な事だからよ……大切にしろよ?」

「………」

 

言うだけ言って部屋から立ち去る相棒。

しかし入れ替わるように入って来たのは、アトラとクーデリアであった。

何か図られたような気がした三日月だが、ある意味手遅れである。

 

 

 

 

 

〇未来に向かって

 

 

「三日月、身体大丈夫?」

「あ、うん。アトラ……腕が辛うじて上がるぐらいかな。後遺症も何ともないって。アトラこそ大丈夫?」

「うん、私は検査受けてV・Cさんにお墨付きもらったから大丈夫だよ。」

「そう。クーデリアは?」

「私は精神が非常に不安定だからと、安定剤(パレッス粒子)を処方して貰いましたので、今は大丈夫です。」

「そっか。」

「でも……『あの子』を喪った悲しい気持ちが無くなった訳じゃありません。」

「……」

 

クーデリアの顔が陰る。

鉄華団で記憶を取り戻した団員が経験した事だが、思い出し直後は例外なく非常に混乱し動揺している。

アトラもクーデリアも例外なく混乱したが、死亡直前の状況が悪すぎて今回の事態が引き起こされた。

ただし、ゾンダー化は皆の間では完全に事故扱いになっているが、クーデリアはパレッス粒子を処方されても落ち着いただけで、元の原因の記憶たる暁の記憶まで消えた訳ではない。

そして、浄解されゾンダー化より脱したアトラも……

 

「私も……でも、今は落ち着いたから大丈夫。暁はもう……死んじゃった、その事はちゃんと受け止めないといけないから。あの時はどうしようもない状況だからどう頑張っても生き残れなかった。その事は、ちゃんとうけとめるから……」

 

明るく振舞っているが、どこか陰りがあった。ゾンダー化より脱した人物は皆ストレスから解放され、心穏やかになるはず。だが、目の前にいる2人──特にアトラは無理をしている雰囲気がある。

2人の様子を見て、三日月は考える。

オルガは自分にとって、生きる指針であり相棒である。

であれば、2人は生きる支えとなってくれていた。

そんな2人に何かしてあげたい……が、三日月には、2人の悲しみがいまいち実感出来ないでいた。

 

何故、解らない?

 

「……『いない』から。あ、そうか。」

「え、何がですか?」

「いや、こんな言い方したら2人とも怒るかもしれないけど……うん、ちょっと悲しむかな。でも……聞いてくれる?」

「う、うん。」

「……俺にはさ、2人の悲しい気持ち──暁が死んだって実感が、いまいち解んない。会った事ないから、俺。」

「……そう、だよね。」

「そう……ですね。」

「お嬢に頼めば、2人の記憶から生まれた後、どんな風に育ったか判るだろうけど……俺はそこにはいない。だから、実感出来るかも微妙かも。だから、アトラ。俺にも会わせてよ、暁に。」

「……え。」

「……え!?ちょっ、三日月!?何を言って──!?」

「あ、ちょっと違うか。暁に会えるかも……かな?まあ、どっちでもいいか……俺も会いたい。」

「いや、三日月……な、ななななにを言っているか、わ、解って──!?」

「……昔を振り返って、かつあれだけ気持ちをぶつけられて、みんなからアレコレせっつかれたら、流石に判る。今の俺はそこまで鈍くないよ。それに、俺達がまたこうして会えたんだ。暁にも会えると思う。」

「「………」」

 

無言で俯くアトラとクーデリアの足元にポタポタっと、雫が落ちた。

2人ともふるふると震え、泣きじゃくる顔を覆いながら、膝が崩れた。

 

「アトラ?クーデリアも……ご、ごめん。やっぱり泣くほど嫌?」

「……ううん、違うよ。悲しいから泣いてるんじゃないの……嬉しいから、泣いてるの。」

「私も、会いたい……暁に。会いたいです、暁に。三日月、今度は……私達、3人で暁を迎えましょう。」

「うん。」

 

こうして将来を誓った三日月とアトラ。

いつか……というより近い将来、暁と出会える事を信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの、三日月?」

「何、クーデリア。」

「もし、良ければ……ですが、暁に兄弟姉妹もいかがでしょうか?」

「うん、いいね。」

「異母兄弟でもいいですか?!」

「うん、いい……ってどういう意味??」

「あの、それは……」

「三日月、クーデリアさんは『私もお嫁さんにして』って言ってるんだよ?」

「ア、アトラさん!?」

 

どうやら、ミカ・アトに触発されたクーデリアさんが、発情したようで……

実際、そうである。

 

「え、いいの?俺はいいけど。」

「ほ、本当ですか……嬉しい。」

「……アトラ、いいの?」

「??私は全然いいよ。三日月とクーデリアさんの子供……どんな可愛い子か──」

 

 

「──待てェいッ!!!」

 

「「「──!?」」」

 

「お前たちに名乗る名前はないッ!!」を名言とする某兄さんの如く、そこに現れたのは徹夜明けテンションのカルディナ、そしてフミタンとV・C(人型)であった。

ちなみに部屋に戻ろうとした時に2人の事を聞いて、駆けつけて来たのだった。

 

「はぁ……足早に来て良かったわ。何やら子作り話が聞こえて来たけど……やっぱりか。」

《クーデリア様の告白は、予測より19.8%早かったですね。》

「これは大変な事になりましたね(棒読み)。」

「カ、カルディナ義姉様……!」

 

そして今のクーデリアにとっては、カルディナは義姉である。

「あっちゃぁ~」と頭を抱えるカルディナに、クーデリアは三日月との結婚を反対される、と思った。

 

「あ~、違うわよ。別に三日月がアトラとクーデリアと結ばれる事には、むしろ賛成よ。ただねぇ……問題はお父様よ。」

 

カルディナは説明した、これから起きるであろう出来事を。

 

義娘であれ、アースガルズ家で可愛がられているクーデリア。特に、父親であるクリストファーの溺愛っぷりは、カルディナが多々家を空けるので、余計に注がれている。

特に年頃になるクーデリアには求婚者は当然いる───が、アースガルズ家が提示する婚約前提条件に、『アースガルズ公爵を武力で倒す』というものがある。

 

「……つまり、娘の婚約者は自分より強い人物でなければ認めないのよ。ちなみにお父様の実力は、見たでしょ?」

「……ゴーレムに乗ってたとはいえ、メイスを牽制に、ランスでモビルスーツを破壊してましたね。」

「今は公爵の業務に付きっ切りだからそんなに武勇は聞かないけど、昔は『殲滅公』なんて呼ばれてたのよ。相対する敵は全て殺すって……今もその腕は落ちてないわ。多分、モビルスーツみたいな兵器に乗れば、お父様に勝てる人は……どれだけいるか。」

 

ちなみに技量だけではカルディナと対等に渡り合える実力である。

魔法の技術や他の要因でカルディナが勝っているぐらいだ。

アルドレイア王国の公爵の名は伊達ではない。

 

しかし、そんな話を聞いてか、クーデリアは……

 

「だ、大丈夫です!きっと三日月なら勝ってくれます……私の為に!!」

「───!?!?」

「うん、そうですよ!三日月なら公爵様にも勝てます!」

 

アトラと一緒に盛り上がった。

三日月は置き去りにして。

 

(……ヤバい。今まで感じた事のないものを感じる……オルガは───あ、いなかった。お嬢、お嬢!何とかならない?)

 

密かにカルディナに助けを求める三日月。

そしてカルディナの答えは───

 

「──さてお父様に、三日月がクーデリアに婚約を申し込んだって伝えないと。そして私は寝るわ。じゃあね。」

「では、失礼します。」

《三日月さん、お元気で。》

 

三日月の運命や如何に。

 

 

ちなみに、エルネスティは現在、アトラとクーデリアの熱に影響されたアデルトルートの熱心な看病を受けている。(意味深)

そしてそれを羽交い絞めしてまで必死に止めるアーキッド。

それはカルディナが途中で部屋に寄るまで続いていたとか。

 

 

 

〇あの武器の裏話

 

偽バルバトスゾンダーの使用していた超高周波ブレード。

どうしてそんなものが再現・使用できていたのか??

戦闘後にチラッとオルガに聞いてみた三日月。

 

「あのゾンダーの武器はお嬢が豆知識としてアトラに話してた、生活の知恵を元に再現されたものらしい。」

「絶対におかしい。」

 

何をどうしたら高周波ブレードを編み出す生活の知恵があるのだろうか?

だが実際に、お嬢様の要望で調理の際に家畜の骨や食用可能な魔獣の骨を出汁にしたい時に、どうしても切る必要があり、それを悩んでいた時、カルディナは高周波ブレードの事をアトラに話していた。

 

硬いモノなら細かく削るようにして切ろう、と。

 

結果、アトラは習得した。そして彼女に切れない食材はなくなり、料理の時短が出来たのだった。

実に謎理論である。

 

「アトラって、すごいんだね。」

「……いや、違うと思うぞ。」

 

犯人はお嬢様。

何を作りたかったかは謎。

 

 

 

〇英雄の剣・序

 

───ダーヴィズ・ヘプケン

 

理想の剣を造るために故郷を出て幾数年、ドワーフである以上、幻晶騎士(シルエットナイト)に携わる騎操鍛冶師(ナイトスミス)を目指す者、またゴーレム用の武具を造る者が多い中で、ダーヴィズは『英雄の剣』を造りたい“変わり者”であった。

剣は消費されるもの、という認識が多いが、彼はかつて見た絵本の英雄譚を見て、それに憧れた。

だが現実は非情で、技量こそあれど、彼の夢を応援する者はいなく、身銭を稼ぐべく理想とは違う仕事もこなす日々が続いた。

しかし、カルディナと出会った事でその夢は加速すると同時に、自分の浅はかさを彼は知った。

カルディナの求める仕事は、自分の知るものより遥かに大きく、そして“理想を叶えるその姿勢”が、出会った誰よりも巨大──“巨大な欲望の塊”である、と魅せられた。

同時にカルディナの背負う覚悟と、取り巻く環境、そして突き付けられた現実(ゾンダーの存在)により、今まで培って来たものだけでは全く足りない、と改めてさせられ、更に勤勉になった。

 

そして今日、自らの夢を叶えるため、彼の夢がここに実現しようとする機会が訪れたのであった。

 

 

「……さてと。」

 

地下の工房の一室、そこにドワーフのダーヴィズは数多の資料を机に置き、整理していた。

そこにノック音が響き、ダークエルフのイザリアと、エルフのフェルネス、そしてイザリアの胸のポケットに差してあるコスモスの花──V・Cが部屋に入ってきた。

 

「お待たせしました。」

「すまねぇな3人共、忙しい時によ。」

「構いません。以前よりお約束していた事ですので。」

「むしろ、関われるのが光栄なくらいさ。」

《お招きいただき、ありがとうございます。》

「早速だが、これを見てくれ。」

 

彼が広げたのは、とある剣──彼が目指す『英雄の剣』の設計図である。

それはダーヴィズがカルディナの元で働く際に条件に出した、彼の夢である。

理想の剣を創りたいという熱意を込みにダーヴィズ・ヘンプケンは今の今まで鍛冶をこなしながら、その腕を磨いていた。

そして今回、今まで練りに練ったアイディアを元に、剣を造ろうという訳だ。

設計図には金属の配合から熱する温度、魔術回路、果てはタイミング取りすら綿密に描かれている。

本来であれば、独りで鍛冶をするドワーフである彼が、3人に仕事を振った理由、それは……

 

《……回路の羅列が、非常に綺麗な刀身ですね。》

「今まで見た剣とは一線を臥すものね。能力を想像するだけで背筋が凍るわ。そして内部構造は、どう考えても独りで出来る仕事じゃないね。」

「むしろ、錬成のタイミングがシビア過ぎて私やイザリアさんですら手を焼きそうですね。」

《ちなみにこれには何か見本でも?》

「ああ、基本的には“ウィルナイフ”を手本にしている。」

 

──ウィルナイフ

 

宇宙メカライオン『ギャレオン』のブラックボックスから解析された概念図を基に造られたエメラルド状の刀身を持つ熱還元刀。元々は『ジェネシックガオガイガー』に装備された『ガジェットツール』のひとつを地球の現行科学で再現させた代物である。

『サイボーグ・凱』が装着する『ガオーブレス』内部に納刀され、彼の意識ひとつで鉄骨の切断から大根の桂剥きまで自在に行える。後に超進化人類『エヴォリュダー』と成ってからも専用『IDアーマー』に携帯武器として引き続き備えられた。

『EI-01』との決戦では、機界四天王ピッツァとの白兵戦で折られた刀身から『ゾンダー核』の位置を特定し、『ゴルディオンハンマー』の一撃を振るう。

(※ピクシブ百科事典より引用)

 

「……やっぱその方針で行くのね。でもウィルナイフの作り方なんてわかるの?」

「ああ、それはカインさんが協力してくれたんだが……ジェネシック・ガオガイガーのモノは三重連太陽系の設備を使わないと出来ないから、その通りの製造はここでは無理だそうだ。だから、基本的な製造方法を聞いてきた。」

 

その作り方はざっくり言うと、特殊な加工を何重にも施した金属の粉末にGクリスタルを砕いて粉末にしたものを混ぜて鋳造、そして鍛造したもの、らしい。

ちなみにその特殊な金属はこの星では産出されおらず、金属の加工も地表で行うと環境に非常にヤバい悪影響を及ぼすらしいので、製造は全て宇宙でされていたようだ。

さすが決戦兵器の持つ武器。

 

「ハハハ、無理ね。」

「地表に悪影響を及ぼすとは……熱量が太陽並みとでも??」

《記録にはそのぐらいの熱量が局所的に発生していたとあります。》

「だから、独自解釈でやるつもりさ。その上で、こういう特性を持った得物にしてぇ。」

 

ダーヴィズの主張は以下の通りになる。

 

➀切れ味の幅。

意識1つで切れ味が自在になるという事は、込めるエネルギー次第で切れ味が上下する事。この世界では魔力(マナ)次第で変わる事を意味する。切れ味を増す付与魔法はあるが、それだけではゾンダーには意味がない。目指すはゾンダーを焼き、その切り口が再生不可能にする域まで。

 

②柔軟性と剛胆性と非侵食性の両立

剣は基本的に消耗品であるが、確実に荒っぽい使い方になる上、一点ものになる以上、切れ味の他に柔軟性と剛胆性の両立が必須となる。また、ゾンダーが相手となるので、武器が侵食される事はあってはならない。最低でもゾンダー耐性は必須。

 

③使用者への能力拡張

使い手をカルディナ・ヴァン・アースガルズを想定しているため、斬撃、刺突以外にも戦術級魔術(オーバードスペル)()()の使用の想定、もしくは想定以外の想定も考慮する

 

「……あんた、何を言ってるのか解ってる??」

「……解ってるよ。」

「➀、②は解ります。しかし③は……いや、確かにお嬢様相手では、想定しておかなければ駄目ですね。」

「少なくとも、想定以外の事をやって尚、耐え切れる品質にしたいのよ。」

《というか、全ての項目で無理を言っていますね。》

 

否定出来る材料が一切ないのが悩みである。

ただ良く切れる短刀というだけでは、ゾンダーという無限に再生する相手を剣で相手取るには足りない。

流石ゾンダー。

 

「確かにお嬢様であれば、より良く使って下さると思いますし、いろいろな使い方を見せて下さると思います。何より、ここまで想定しておけば、他の方が使う際には壊す心配をしなくていい。」

「ああ、俺も能力の付与は一通りするつもりだが、半分は()()を持たせるだけにしようかと思う。フレメヴィーラ王国のイカルガのあの剣を見て思ったんだが、切るだけの一辺倒じゃお嬢の使い方には応えられないだろうしな。」

「斬る、突く、剣で防ぐ、は当たり前として、お嬢は魔術触媒に使いそうだしね。それで、肝心の材料にはアテがあるのかい?」

「ああ。Gストーンを触媒結晶として、Gストーンを砕いて粉末にしたものとGリキッドにAZ-M、精霊銀(ミスリル)を加えて刀身にする事で、勇気の力で切れ味を増す算段だ。」

「「ちょ、ま……!?」」

 

遂にエルフ2人が絶句し、V・Cは花びらを風車のように回す。

遂にダーヴィズ(お前)も壊れた思考を持ったか、と。

ついでにコストもぶっ壊れた値段に跳ね上がる。よくカルディナが許可したものだと。

その反応に、ダーヴィズは何とも言えない表情で答える。

 

「……わかってんだ、わかってんだ。だがぁよ、考えてくれ。」

「まあ、わかるわ。常識の効かないヤツに、常識程度のもの当てても解決しないって事にはね。」

「まあ、遂にダーヴィズさんもお嬢様の域に達したと感心しましたが。」

《心中、お察しします。》

「褒め言葉として受け取っとくよ……ってな訳で、もう俺独りの力じゃ対処出来ない域になっちまったんで、3人に助力を願いたい訳だ。」

「ええ、構いません。」

「そういうことならいいよ。」

《微力を尽くします。》

 

だが、その前に……

 

《お嬢様には今回の事はお知らせされたのですか?》

「ああ。けどよ……まずは俺達だけって事にしてもらったよ。」

「お嬢様に頼るのもいいのですが、お嬢様は有能過ぎます。いきなりお嬢様に頼るのは、職人としてどうかと思いまして。」

《確かに……》

 

まずは自分達でどこまで出来るか。

今後の事を考えてもアドバイザーは必要でも、直に技術を振るうのは自分達。

未知のものに挑戦する以上、危険を伴うがカルディナ抜きでやらなければ、いずれ甘えが出てくる。

そうなってはいけないので、今は出来るところまでやりたいと思う4人であった。

ただ、そうで無くてもカルディナであれば、嬉々として手伝うと名乗り上げるだろうが……

 

「何よりお嬢は働き過ぎなのよ。」

「心優しい方です。戦いが激化しても、今までのように細部にまで見て下さるでしょうが、きっと状況が許してはくれないでしょう。ならば、そうしなくても大丈夫と言える位にはならねば、カルディナ・ヴァン・アースガルズ公爵令嬢の元にいる資格はないです。例え、我々にとって未知の技術相手でも。」

「だな。」

《……お心遣い、ありがとうございます。》

 

そして始まったウィルナイフ製作だが……

 

「──ちょ!?魔力(マナ)の転換が、追い付かない!!」

「これはかなり、キツイ……!」

「頑張ってくれぇ……って、まともに打てねぇ!!」

《AZ-M、制御キャパシティ・オーババババ……システムダウンんnn……》

「ちょ!V・C!?V・Cィィィ!!」

 

体内に触媒結晶を持つエルフ2人は精霊銀(ミスリル)の錬成に魔力(マナ)の転換が追い付かない程の魔力(マナ)消費を強いられ、AZ-MとGストーン、Gリキッド、精霊銀(ミスリル)を結合させようと奮闘したV・Cは端末がシステムダウンする程の負荷が掛かった。

そしてそれらを同時進行しないと鍛造が出来ないので、そのエネルギーの余波をもろに喰らうダーヴィズもまた悪戦苦闘しながらハンマーを叩いていた……が、無理だった。

結果、中断となり、全員が疲労困憊で地面に横たわっていた。

 

《……カイン様が宇宙で製造していた理由が解りました。少なくとも、製造中の余波エネルギーを遮断しない事には作業になりません。あと私、次から“サクヤ”で来ます。》

「ああ。まともにハンマーを打つことすら難しい。出来上がったモノもナイフとは言い難い、ガラスの欠片みたいなモンだしなぁ……つか、よく死ななかったな、俺。」

「……でもこれだけでも──フッ!」

 

欠片を指の間に挟んで、イザリアはそこらにあった鉄板を勢いよくなぞる。

厚さ2センチ程の鉄板はずり落ち、その破片が落ちる。

その切断面は、鏡のような光沢を放っていた。

 

「切れ味は最高ね。あちち……」

「強化魔法といえど、発生中のエネルギーは遮断しきれませんか。」

「素手じゃなきゃいけるわね。これがナイフ、そして剣になった時の性能……想像を絶するわ。」

「方向性は間違ってないか。これは自信が付いたが、さてどうするか───」

 

「……皆さん、何やってますの?」

 

そんな時、恨めしい感情を全面に出したカルディナが、ゆらりとやって来た。

更にその後ろにはガイガー(カイン)とフミタンが。

 

「やあ、やってるね。」

「いや、申請通りにウィルナイフの製造をしてたんだけどよ、このザマでな……」

「ずるいですわ!判っていましたけど……そういう事は私も呼んでください!絶対に参加しますから!」

「いやいや、待ちなさいカルディナ。君だって彼らの熱意と気持ちを知らない訳がないだろう。職人としての意地もあるんだ、少しは汲んで見守ってやってくれ。」

「……はい。」

 

羨ましいが全開になっているカルディナだが、カインはそれを止めた。

カインも今回の事は重々知っているので、互いの気持ちは良く判る故の言葉だった。

 

「さて……出来上がった物の品質は、独自のレシピとはいえ、いい線をいっている。後は……その問題も私も良く判る、随分悩まされたからね。」

《余波エネルギーの遮断は、私がカバーすれば問題ないですね。後はAZ-Mの処理ですが……》

《お待たせしました。“V・C・サクヤ03”到着しました。“04”のボディも持ってきています。搭乗して下さい。》

《了解。これでAZ-Mの処理とエネルギー遮断を同時進行出来ます。》

 

イザリアからコスモスを受け取り、仮面に“04”と表示されたV・C(Ver.サクヤ)の頭に挿した個体が立ち上がったところで、職人達も立ち上がった。

 

「っしゃ、やるか。」

「今度は成功させます。」

「お嬢、ちゃ~んと見てなよ。」

「お、応援しますわ!」

「ははは。」

 

再び始まるウィルナイフ製作。

ウィルナイフから激しく放たれるエネルギーを避けつつ振るわれるハンマーに、絶え間なく注がれる錬成の魔力(マナ)

トライ&エラーを繰り返す事、数回。

砕けたり、鍛練不足だったり、含有率が僅かに不足してたり、逆に出力過多だったり……

だが、遂に───

 

「……出来たぜ!」

「「「おおっ!!」」」

「刀身の精霊銀(ミスリル)とAZ-M、Gストーンの合金を遂に征した……そしてGストーンを触媒結晶として備える事で、その性能は俺にも計り知れねぇ、未知の一振だ……!」

 

ダーヴィズが掲げる剣は、Gストーンと同じく翡翠に輝く、少し反りがある刀身を持ち、それにAZ-Mの糸で編んだ柄を備えた剣。

それは理論上は勇気の力で、切れ味は天井知らずの一刀である。

 

出来上がった剣を感動しながら眺めるダーヴィズだが、言葉を改め、跪いてカルディナに剣を差し出す。

イザリアとフェルネス、V・Cも彼に倣い、跪く。

 

「カルディナお嬢様。この剣をお納め下さい。」

 

この剣は元よりカルディナのための剣。

それは彼らの忠義と職人魂、そしてカルディナへの感謝の証。

大いに頷くカインを見て、カルディナはその剣を受け取る。

 

「──ありがとうございます。皆さんの忠義と職人の魂の結晶、確かに受け取りました。」

 

そして試し切り。

相対するものはガイガーの胴体に使われている回転軸の失敗作。当時施工したエルフ達により、精霊銀(ミスリル)を10%程混ぜ合わせた直径50センチにも及ぶ合金の軸で、初期の試運転時にカルディナが折ったものと同一のものが、机の上に置かれていた。

 

その軸を前に、左手で持った剣の刀身に、右手で術式を編みながら魔力(マナ)とGパワーの混合エネルギーを流し込むカルディナ。

指でなぞった刀身にGパワーが発揮され、翡翠色の光が眩く発する。

離れながらも周りにいるギャラリー達にすら、その影響はビリビリと感じさせる程だ。

構えは“天の構え”と呼ばれる上段の構え。

 

「……術式起動、Gパワー流入開始。魔力(マナ)、及び魔術回路同調に異常無し。まずはコレくらいで───いざッ!!」

 

カルディナは剣を振り下ろした。

しかし、その剣筋はその場にいた誰にも解らない程に───(はや)い。

合金軸も机も切られていないように見えたが、カルディナが踵を返すと同時に机が割れ、そして合金軸が床に落ち、その衝撃で縦一線に分かれた合金軸は鏡のような断面を現した。

その一連の流れに、一同は達人芸のような現象に息を呑む。

そして当のカルディナも気持ちは一緒であった

 

「……今まで体験した事のない切れ味ですわ。何も考えないで振り下ろすだけで、真っ二つだなんて。込める力次第で加減が出来る威力は魔力(マナ)以上!正に我が太刀に断てぬもの無し!

「ふぅむ、断面からして“目”を狙った訳じゃない……ただ振り下ろしただけとはね。使い手次第では敵無しだ。ウィルナイフを参考にしたとはいえど、ここまでの武器を造るとは……見事だ。」

「いよっ……しゃあああぁぁぁーーーッ!!」

 

カルディナとカインの言葉に、ダーヴィズは歓喜の叫びを上げる。

 

ようやく辿り着いた、ようやくここまで、と。

 

しかしダーヴィズにはこれが終わりではなく、始まりである事を理解していた。

この剣が、そしこの剣より始まり、派生するものがどんな影響を及ぼすかは未知数。

 

だが、この剣が自分を認め、ここまで高めてくれた居場所を与えてくれた雇い主に報いれるなら本望。

主を“生かし”、そして剣を“活かす”路を照らすなら、またここから始まる──

 

ダーヴィズは自身の壁が一枚破れた事に、喜びを噛み締めながらそう実感していた。

 

 

 

 

「───それで、この剣なんですが……」

「「「??」」」

「うむ、最終的にはガイガーやガオガイガーに装備出来るモノになるのだろうが……まずはモビルスーツあたりで試験運用という事になるのかな?」

《そうなりますね。構造はそのまま拡張として、まずは拡大製作から始めるのが良いかと。》

《“04”も同意します。》

「という訳でお願い致しますわ。」

 

早速入る注文。

受け取り方次第では、無理難題と言える注文内容だが……

 

「──もちろん!やってやんぜ!」

「「(──ヒェ!)」」

 

ドワーフは喜び、エルフは戦慄して肝冷えた。

 

ただ、モビルスーツが扱う大きさの物はそのままでは造れないという事で、ランドマン・ロディを使う事にしたのだが……

 

《……これは、何という快適さでしょう。》

《そうね……さっきの魔力(マナ)転換の苦労といい、耐熱遮断といい、何も苦労しないわ。》

 

魔力(マナ)制御装備のロディ2機を用いる事で制御が易々なるものになった鍛造作業の落差に、頭を抱える2人のエルフ。

7メートルもある製の刀身から荒れ狂う余波エネルギーすら余裕で遮り、嬉々としてハンマーを振り下ろす中央のロディ(ダーヴィズ機)を見て思う。

ただし、ナノラミネートの塗装は熱で剥げているが。

 

《まあ、良いではないですか?作業の簡略化が出来て。》

《まあね……》

 

そして気分が乗ったダーヴィズの暴走もあり、夜明けと共に出来上がった、勇気の力でその力を高めるウィルナイフ改め『ブレイブキャリバー』(命名:カルディナ)は、当初の予定を超えて、二振り打たれたのだった。

 

 

 

◯二振りの行方と、公爵家の最終兵器

 

「……で、あの二振りはどうするの?」

 

夜が明けた後、関わった者達が鍛造が終わってぐったりする中、二振りのブレイブキャリバーをどうするかが気になり、イザリアはカルディナに尋ねる。

 

「……まず、ガイガーに装備したいのですが、まだ出来たばかりで評価もろくしにしてません。それにガイガーで起動させた時の弊害(主に暴発方面)が計り知れません。なので出力の低いGフレームで試そうかと。」

「……いろいろツッコミたいけど、試験団の子供らに扱えるかしら?双剣……二刀流は厳しいと思うわよ?」

「いえ。私がします。」

「妥当ね。でも使える機体がないけど……」

「──“ASW-G-01”を使います。」

 

そのコードナンバーを聞いた瞬間、イザリアは固まる。そして多少動揺しつつも手元の酒瓶を空け、一口煽るように呑む。仕事の後の一杯で、寝酒である。

そして深い溜め息にも似た吐息を吐いた。

 

「……なるほど。確かロールアウトが今日、だったわね。」

「はい。なので試運転がてら、振り回すのは丁度良いかと……宜しいでしょうか?」

「いいわよ。私は試運転には携わらないし、気兼ねなくやっちゃって~。」

「では明日の明朝から……今日はもう、限界ですわ……失礼します、むにゃむにゃ……

 

眠気の強いカルディナのよたよた歩く後ろ姿を見送りつつ、再び酒を一口。

そしてイザリアはカルディナの言った事を反芻し、一言ポツリとつぶやいた。

 

「……ASW-G-01( バエル )、か。忌々しい名前ね。」

 

その表情は晴れず、憂いすら感じられた。

 

 

 

 

◯アースガルズ家の最終兵器

 

 

その後、ナノラミネート塗装が剥げたランドマン・ロディは再塗装に回され、カルディナ達が部屋に戻る間に、様々なところに訪問、介入しなかればならなかったりする等、仕事が増えた頃、あーだ、こーだしていた間に夜になり、とある手紙を読んだカルディナであったが……。

 

 

「……とりあえず、イザリアさんにお知らせして。そ~っと渡してね。」

「承知しました。」

 

フミタンに言伝を頼んだ後、独り部屋でベッドにダイブし、リラックスして寛ぐが……

 

「───寝れませんわ。」

 

そう、寝れないのだ。

日中濃過ぎる一日を過ごしたせいか、何か非常に昂っているのだ。地味にレヴォリュダーの能力をしても駄目なテンションになっているのだ。

夜の鍛冶にてブレイブキャリバーで夜明けをフィーバーしていたため、もう目が冴えている。

その他にも本当に色々、いろいろ、イロイロあり過ぎた。

ちなみに止めはフレメヴィーラ王国組の暴走で、頭がお花畑なアディがエルを襲おうとしたところをアイアンクロウで阻止、そして小一時間説教したが、妙な熱に当てられたアディに言葉は通用せず、パレッス粒子を噴霧して事なきを得た。

ついでに他の2人にもパレッス粒子を噴霧。

とりあえず明日までの安眠は間違いないだろう。

 

ただし、レヴォリュダーであるカルディナには通用しない。

パレッス粒子??耐性MAXだ。

 

「……どうしたものかしら。」

「──お困りのようですね、カルディナさん?」

「え、その声は……キャシーお義母様!?」

 

いつの間にか扉の前に立っていたのは、金髪カールヘアでぽわぽわ系の“天然ゆるふわ公爵夫人”であった。

名は、キャサリン・S・アースガルズ。

アースガルズ家の第二公爵夫人である。

 

カルディナにとっては義母であり、第一夫人のケルセリーヌとは同時期に嫁いでいるが、見た目も性格も、ぽわぽわ系なので裏表が無く、武家のアースガルズ家には珍しく、一切戦闘能力がない人物。

その代わり争い以外の能力は軒並み高く、包容力、母性は桁外れにある。アースガルズ家で母親と言われたら、大概キャサリンを指す程に。

第一夫人のケルセリーヌは滅多に顔を出さないため、第二夫人のキャサリンがアースガルズ家の“内”を纏めているが、「第一夫人はケセリーちゃんです。」と頑なに述べる程に2人の仲は非常に良い、乙女っ気が抜けない二児の母。

 

そんな人物が、夜な夜な尋ねてきた理由、それは……

 

「ケセリーちゃんから~、聞きましたよ~、働き~過ぎって~。ついでに~夜遊びは、いけませんよ~。」

「あ、いや、その夜遊びでは、ないのですが……」

「それだけじゃ~、ない~ですよね~?」

「はい、すみません、つい楽しかったので。」

「正直で~、よろしい~。」

 

間延びした口調で諭すように問いただす、ゆるふわ公爵夫人。

安直に、睡眠不足のカルディナを心配してやって来たのだった。

そんな夫人が『ω』な口をして『どやぁ』する理由は……

 

「と、いう訳で~マッサージしてあげます~。」

「え、あ、は、は……はい。」

「素直で~、よろしい~。アースガルズ家の皆さんは~、いつも働き過ぎです~。」

「それは──はにゅ!?」

「でも知ってます~、それがみんなのため~、貴族としての~義務として~。でも~……」

「はぁあん!そ、そこはダメ──ぇん!」

「こ~ゆ~時ぐらいは~、休みましょ~、えい。」

「……──!?、……!………すやぁ……むにゃむにゃ……

「……あら~?おねむですね~……おやすみなさい。」

 

キャサリン・S・アースガルズ第二公爵夫人。

『アースガルズ家の最終兵器』の異名を持つ彼女の真価、それは母性と包容力とその技術で、どんな相手にでもマッサージで安らぎを与え、安らかな安眠に導く事。

例え、レヴォリュダーであっても。

常に働き過ぎなこの一家に、彼女の存在は、非常に欠かせない存在である。

 

「───キャアアアァァーーー!!!」

「あら~?遠くから悲鳴が……これはイザリアさんの悲鳴ね~。非常にショックな出来事かしら~……ああ~旦那様が来るのね~、それは大変~、慰めに行かないと~……」

 

不安になる者には誰であれ手を差し伸べる──

 

彼女の戦いは続くのだった。

 

 

 

《 NEXT 》

 

 

 


 

 

《現在公開出来る情報》

 

◯ブレイブキャリバー

 

Gストーンを触媒結晶に、Gストーンの粉末とGリキッド、精霊銀(ミスリル)、AZ-Mを繋ぎに魔力(マナ)を流し、鍛造した剣。

斬る事に特化し、西洋剣の直刀ではなく、日本刀のように若干反りがある仕様。

ウィルナイフと同様に意思の力で切れ味が変わるが、その力はウィルナイフ以上で、失敗作の欠片ですら鉄板を切れる程の力を持つ。

Gストーンと同じ色をしている。勇気を込めると使用者の力次第でその切れ味は天井知らずとなる。

また、強力故にその反作用で周囲に被害をもたらすため、現状では使用者は限定される。

 

 

 

 






……詰め込み過ぎ? イエスッ!(錯乱)

とりあえず、消化したい話はこれで一応終わり。

ご感想お待ちしています。

───次はようやくバエルだっ!!




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Number.21 ~バエルと禍祓いの焔(1)~

さあ、待ちに待ったバエルだ!!
皆の者、バエルを、アグニカを称賛するのだ!!

そしてやり過ぎてガオガイガーなのかオルフェンズなのか、そして主人公がお嬢様なのかバエリストなのか解んなくなっちゃったYO、こんちくしょう!!

※本編を読む前に、バエルとアグニカ称賛を10セット行ってから読んで下さい。
ただし、ギャラルホルンを称賛する言葉を入れると、その度にアグニカポイント-100点と致しますので、ご了解ください。

※筆者が執筆の関係上、頭バエルになってしまったので大目に見てください。

それではどうぞ!


 

 

その少年は、かつて虐げられていた。

その少年は、かつて憧れていた。

その少年は、かつて欲していた。

 

理不尽な存在に抗う力を。

白く、自由な翼を持ち、黄金の剣を以て、『堕天』した天使を狩る存在に。

何よりも何をも超えるその力を。

 

少年は、憧れ、そしてなろうとした。

 

厄祭の

 

『堕天』を狩る『白き悪魔(バエル)』に。

白き悪魔(バエル)』を駆る『禍祓いの焔(アグニカ・カイエル)』に。

 

けれども少年は『禍祓いの焔(アグニカ・カイエル)』ではない。

強い心に反し、なろうとすればする程に遠ざかる現実。

 

その所業に、過程に、志に。

 

友を裏切り、欺き、対峙し……

 

最後は自分を信じた婚約者が付けた傷により、志半ばに倒れた。

 

 

……そして少年は、夢を見た。

 

白い翼を持つ力強い存在に手を引かれ、光差す彼方に導かれたのを……

 

自分だけではない、他にも光に導かれている者はいた。

先導する数多の光……

一本の光の筋になった中で、少年は改めて思った。

 

───本当に救われた。

 

初めて救われたと心の底から感じた。

そして少年は自分を救ってくれた白き存在に、改めて憧れたのだった。

 

青年となった少年の前に、再び現れる日を待ち望んで……

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……それが、私がこの世に生を受ける前の出来事だ。」

「「「───おおっ!!」」」

 

とある教会の礼拝堂にて。

神父服を纏った金髪の若い男が説法を説いていた。

相対する信者達は教会から溢れんばかり鎮座しており、神父を中心にその説法を熱心に、そして酔狂して傾聴していた。

そして神父の説法は更に熱を帯びてゆく。

 

「──しかし『白き存在(バエル)』によってこの魂を救われた。つまり、人は変われる。私が『白き存在(バエル)』によって救われ、変わったように、人は根源的に変われるのだ!ただそのきっかけはあまりに曖昧で、人それぞれだ。故に───皆の者よ、『強き支え』持て!私が『白き存在(バエル)』に救われたように、『白き存在(バエル)』は確かな存在となろう!誰の元にも平等に現れ、そして手を差し伸べるだろう!そして『アグニカ』はいつも我らを見ている……そして、我らを強くしてくれるのだ。」

 

「「「──ワァァァアアアアァァーーー!!!」」」

「バエル、バエル!!」

「盟主アグニカ・カイエル、万歳!!」

「救世の『白き存在』に、栄光あれ!!」

「カイエル教に光差す希望よ!」

 

「さあ讃えよう、皆で!我等を見守る救済の存在を!!」

 

「「バエル、バエル、バエル!!」」

「「バエル、バエル、バエル!!」」

「「バエル、バエル、バエル!!」」

「「バエル、バエル、バエル!!」」

「「バエル、バエル、バエル───!!」」

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「───お疲れ様でした、マクギリス()()。」

「ああ、ありがとう石動。急な説法だったが、良いセッティングだった。」

 

説法が終わり、教会より馬で移動する10人ほどの一団があった。

その一団の中心人物──先程の神父、マクギリスは部下である神父服の青年──石動・カミーチェに労いの言葉を掛ける。

 

「しかし困ったものです、司祭の姿を覚えている者がこの村にいて、姿を見るや急に説法を説いてくれとは……」

「構わないさ、()()我等は旅の僧侶の一団……そのくらいは、いくらでもしよう。」

「さすがマクギリス司祭!」

「バエルを信ずるその御心……!」

「まさに我等が司祭様です!」

「……そうですね、失礼致しました。」

「それにだ、石動。私は───嘘は言っていない。私自身の真実を述べているに過ぎない。」

「はぁ……」

 

自信満々のマクギリスに、何とも言えないといった表情の石動。

周りの護衛達からはマクギリスを称賛する声があるが、こればかりは未だに納得しきれない。

 

マクギリスが所属するのは“カイエル教”の中の派閥の一つ、“バエル教義派”。

その内容はざっくり言うと『世界の住人の大半はバエルが別の世界より導いた人々。その恩を返すべく“徳”を積みましょう、良いことをしましょう。そうすれば救われます。ただし自由意思の元に。それをバエルも望んでいる』というもの。

提唱者はマクギリス本人。

 

主流派の『アグニカ・カイエルはこの世を救った救世主であり、神様。ならばその教えに従うの当然。神の住まう教会の言うことは必ず従いましょう』という“アグニカ教義派”の教えとは密かに対立している。

 

また、ギャラルホルン教皇国の内部勢力は“教皇派”が席巻しているが、その中で兵力の大多数を担う“軍事派”がある。

宗教と軍事───2つの対立は古今より続いている。

大半が“教皇派”に癒着しているが、“軍事派”の大将であるラスタル・エリオンがその勢力を保っている。

前世と似たような顔ぶれ、体制の“軍事派”であるが、その実力は謙遜ないもの。

 

ただそれ以上に“教皇派”はキナ臭い噂しかない。

カイエル教の名の元に聖女をあらゆる場所から招き、本殿に入れている。

秘密主義な上に、数々の“奇跡”を成したとも聞くが、身内にすらその所業が説明されていない体制には胡散臭さすら感じる。

マクギリスの一派は、そんな“教皇派”に所属しながらも“軍事派”との太いパイプを形成している。

とはいえ、新参者故にいろいろなところを飛び回る役を暗に押し付けられているのは、言い過ぎではない。

 

そんなマクギリスを不安げに見る石動は『何故、自分達は神父の真似事をしているのか?』と思うのも無理はない。

そんな石動にマクギリスは声を掛けた。

 

「そう無理に信ずる事はない、石動。だが、かつての我等の所業の果ての結果が、今なのだ。それは少なくとも受け入れても良いのではないか?」

「……まあ、それは何十、何百と問答した事ですからね。」

 

現実主義に傾倒する石動には、今の現実は非常に受け止め難い。

 

というもの、彼等の言動からある程度察する事も出来るが、このマクギリス一同は転生者である。

しかもオルガ達と同様に天使、悪魔達に引かれ、この世に生を受けており、この場にいる者達全員が記憶を取り戻しているというオマケ付きだ。

記憶を取り戻した時には、ギャラルホルンが宗教国家という現実にある程度驚きつつも、彼等は生きる決意をした。

特にマクギリスの記憶復活は誰よりも早く、その過程を朧気ながら覚えていた。

それが説法にもあった内容である。

 

彼の始まりは、やはり義父であるイズナリオ・ファリドに養子として引き取られた時だ。

そして虐待を受ける日々を送っていたとある夜、その辛さから屋敷を抜け出した後、ウィーンゴールヴ神殿にこっそり逃げ込んだ先で見た、巨大な『御神体』───バエル。

それを目にした時、涙を流した。

そしてマクギリスは前世の記憶を取り戻した。

 

記憶にあるモビルスーツ( バエル )とは大きさも細部のデザインも多少異なるが、間違えなくこれは、あのバエルだとマクギリスは肌で、そして魂で感じた。

そしてマクギリスの魂は感じ取った。

 

───バエルの魂はこの世界にいる、と。

 

ぼんやりとだが、確実に感じ取った。

 

ちなみにそのバエルは、本来の幻晶騎士(シルエットナイト)とほぼ同じ大きさであり、起動方法も初期型となんら変わりなく、かつてのバエルのように阿頼耶識システムはない筈だが、起動は出来ない。

起動出来たのは300年前に起きた『厄祭戦』の時だけだという。

また、目の前のバエルには残思こそあれど、バエルの魂はいないと確信──不思議とそう感じ取れた。

 

ならば、再びバエルに逢いに往こう。

自分がこの世界に導かれた理由を問おう。

そして叶うなら、再びバエルに乗り───バエルの、アグニカ・カイエルの名を悪用する『ギャラルホルン教皇国』を断罪する。

それも物理的にも、社会的にも徹底的にだ。

そして身分差による悲劇がない世界にする。

 

───バエルの名の元に

 

少年の頃の恨みを決して忘れず、理由もさほど変わりなく、再び同じような路を往こうとしているのが、今のマクギリスであった。

 

 

「しかし、今回の目的はやはり解せません。枢機卿の依頼とはいえ、何故隣国──しかもアルドレイアの一領地を偵察など……」

「解っているさ。だが、ギャラルホルンにとっても、我々にとってもこれは是が非でも行わねばならない事なのだ。覚えているか?アルドレイア王国へ攻め行った一個師団が壊滅したのを。」

「ええ……あの皇子が勝手に攻め行って大々的に返り討ちにされた、アレですね。」

 

進行したギャラルホルンの一個師団が文字通り全滅した出来事。

前例のない“教皇派”率いる軍勢の敗北……それはギャラルホルン教皇国に籍を置く者にとっては衝撃的な事であった。

例えマクギリスが関わっていないとしても、あの馬鹿皇子が愛する者を迎えに行く口実を裏で侵攻として利用されていたとしても、モビルスーツとは一枚も二枚も劣るゴーレムの軍勢であっても、その勢力は侮れない……

 

更には先日、クーデリア・A・アースガルズ公爵令嬢を“迎えに”行った一団もその消息を断った。

しかもその一団には秘密裏に、グレイズ(モビルスーツ)が与えられたという……

 

「眉唾物ですね。今の教皇国には……いえ、この世界にそんな技術はないはずなのですが……しかもグレイズ、ですか。」

我等の同志(記憶が戻った)数人が、偶然だが見たという間違いない情報だ。しかも枢機卿が管轄する部署の建物から夜間に、だ。それには“勇者”が関わったとか、そんな噂があるらしい。」

「それこそデマでは……?」

「真実は解らんよ。しかし枢機卿自らが指示するという噂がある以上、何かしらの事実である可能性は高い。枢機卿が管轄する部署は、カイエル教のごく一部にしか全貌を明らかにされていない。“勇者”の存在も同じだ。組織内にいる我々ですら開示されていない以上、警戒は怠らないようにせねば。」

「その通りで。」

「しかしだ、その有利な盤上をひっくり返した存在がいる。今回はその存在の調査だ。」

「……非常に危険極まりないですね。調査対象が簡単に手の内を明かすとは思えません。“教皇派”や我々の放った間者も、未だにろくな情報を得られないのが現状です。ましてや嫌われているとなると……」

 

アルドレイア王国──それもとある公爵領に間者を向かわせると、確実に間者が()()()。それが疑問を深める要因となっていた。

きっと、優秀な存在が的確に間者を消しているに違いない。

 

「だがこれは我々にとって渡りに船。上手く行けば、かの殲滅公の協力を得られるかもしれない。」

「……だからですか。今回あえて危険と判って、アルドレイア王国……アースガルズ公爵領に向かっているのは。」

「ああ。あの公爵のカイエル教嫌いは有名だ。娘が皇子を極端に嫌っているのは評判の通り。それに今あの地が最も文化的に革新的な動きをしている。また産業的にも商業的にも“モビルスーツに比類する何かを創れる可能性”が示されていた。」

「詳しいですね。」

(つて)があるからな。」

 

マクギリスが秘密裏に経営する『モンターク商会』──その情報網と商業に携わる信者達からの情報を集め、出した結論であった。

政治的に情報封鎖されていようとも、商人や流通を紐解けばある程度判る事であった。

 

ちなみに秘密裏に経営しているといえ、ギャラルホルンが圧政を強いているせいで、アースガルズ商会と同じように、前世の知識をフル活用しての慈善事業や、技術開発を広範囲に展開する、マクギリスのバエル教義を具現化したような商会である。

そういう意味で、カルディナとマクギリスはある種、似たような立場にある。

 

しかしマクギリスが集めた情報の結果は異常だった。

明らかにモビルスーツより大型の、しかもこの世界から技術的にも逸脱した存在───開発コード『GGG』という名を手に入れた後、その情報提供者から()()()()()()()

幸いにも幾つかの中継点を経ての情報だったので直接的被害はないが、明らかに自分の想像を超えた“何か”があり、大きな力が働いているマクギリスは戦慄した。

 

だがそれ故に核心した、『何かある』と。

 

「……実にアグニカ的で、バエルな存在だ。……うむ、アグニカポイント80点といったことろか。

 

マクギリスはアースガルズ領にいるであろう“何か”をそう称賛した。

 

「……はあ。」

 

だが、石動は()()には付いて行けない。

石動には、転生したマクギリスの『バエル病』が厨二レベルで酷くなった──そう感じていた。

何故なら……

 

「これから行く先の()()はあるのですか?いくら何でも無策で行くのは……」

「無論、アテはある。“バエルがいる場所に向かう”のだ。」

「………(´・ω・`; )」

「この近辺に来て、確信した。間違えなくバエルがいると。」

「……(´・ω・`; )ソウデスカ」

 

実に良い笑顔で語るマクギリス。

今回の行く先の指針はアースガルズ領と、マクギリスの謎の直感で、これには石動は参った。

何故モビルスーツ(に比類するもの)を探すのに、オカルト染みた直感なのだと。

というか、転生したマクギリスに会ってからというもの───

 

「私にはバエルが感じられるのだ。更にはほんの僅かだが……アグニカの気配もだ。実に……実に素晴らしいではないか!?」

 

これに関しては、高笑いするマクギリスに石動は頭が痛かった。

 

前々から痛い発言は密かにチラホラあったが、転生してから遂に出たかー、と。

そのせいでマクギリスとは何十、何百といったバエル問答をした。

 

結果、諦めた。

もうこの“バエル病”は放置で。

特に実害はないので、放置で。

信者受けも良いので、放置で。

石動は、諦めた。

 

 

「──何だ、非常に楽しそうだな。二人で何を話していたんだ?」

「む、ガエリオ様。先頭にいた筈では……」

 

そこに馬を寄せて来たのは、ガエリオ・K・ボードウィン。

前世と変わらない───()()()()()ガエリオであった。彼もこの遠征に参加していた。

 

「そう言ってくれるな、石動。先頭巡回も今しがた交代したところだ。特に何もなから暇で仕方なくてな。で、何を話していたんだ?」

「……マクギリス司祭の“バエル談義”についてです。」

「はははっ!またか。こいつは昔からバエルが好きだからな、今更だ。なあ、マクギリス?」

「ああ、バエルは私にとっては理想の存在だ。」

 

屈託なく話し掛けてくるガエリオに、笑顔で答えるマクギリス。

実に()()()()()()といった光景である。

 

ギャラルホルンの軍部における若きエース、ガエリオ・K・ボードウィン。

真摯で有能な教会司祭、マクギリス・B・ファリド。

この2人取り合わせは非常に受けがいい。

その光景に石動は強い違和感を覚えつつも表には出さなかった。

 

前世、かつて親友であった2人。

しかしマクギリスの思惑と、その行動によりガエリオは裏切られ、瀕死の身体を復活させ、再び出会った結果、最終決戦にて2人は刃を交え、そしてマクギリスが破れた。

そして今世でも親友である2人だが、その関係も()()()()()()()()()()

幼い頃からの関係は何ら変わりなく、現在のギャラルホルン軍部の第一席代理である、カルタ・I・イシューはマクギリスに密かな恋心を抱く程。

そしてそのカルタにガエリオも……

 

その事を石動はマクギリスより密かに伝えられていた。

そして今世こそは上手くやる、もしくは利用する──そう、マクギリスは言っていた。

 

未だに記憶を取り戻してはいないが、いざそうなったら一触即発、計画が根底から瓦解する。

それどころか、周りから追われる可能性もある。

石動はいつ記憶を取り戻すか解らないガエリオの存在に、2人が会う度に内心肝を冷やしている。

 

世界が変わろうとも、あの3人の関係が変わらないというのは、皮肉である事を石動はこの時思った。

そして巡り来る運命もまた───

 

───その時である。

 

「マクギリス司祭!魔獣が来ました!数不明……相当数です!」

「む……運が悪いな。秘密裏に動いたためにアースガルズ領でも出入りの少ないこのルートを選んだのだが、魔獣が来るとは……ガエリオ!」

「ああ!ここからは護衛の仕事だ。マクギリス、石動と一緒に下がっていろ!!」

「ご武運を。」

 

抜剣し、魔獣へと向かうガエリオとその護衛達。

地面に手を付き、呪文を唱え、周辺の土、岩を用いて4~5メートル程のゴーレムを造り上げる。

 

「さあ、かかってこい!!我がゴーレム『キマリス』が相手だ!!」

 

ガンダムフレーム、ガンダムキマリスをラフスケッチ・デフォルメしたようなデザインのゴーレム『キマリス』(ブースター無し)は、身の丈程ある大型ランスを構え、突撃して来る1~2メートル程のヤドカリ型の魔獣の軍団を迎え打った。

 

……ちなみにこの造形は「何となく、インスピレーションだ。」との事。

 

 

他の護衛達もゴーレムを創造、突撃していく。

果敢に、素早い動きで次々と討ち取っていくキマリスと、護衛達のゴーレム達。

しかし、数が圧倒的に多い。

 

「ええい!!雑魚ばかりとはいえ、素早い上に数が多い!!」

 

ゴーレムを操作しながら戦うと隙が出来る背部に回り込まれ、更に跳びあがった個体を自ら切り伏せるガエリオ。

このままではじり貧である。

更に林の奥からこのヤドカリの大型種までが数体、ぞろぞろと現れる。

それに向けてランスを放つキマリスだが、硬い殻に阻まれてしまい、軌道の反れたランスを思わず引き戻す。

 

「この硬さ……厄介だ!」

「流石、魔獣討伐国家の領地……我々の地とは比べ物にならい魔獣の多さですね。」

「ああ。ガエリオ達の腕は確かだ。しかし、こうも小物ばかり、ましてアレは倒すのに骨が折れそうだ。堅固さにはナノラミネートアーマーを想像させる。このままでは……ん!?」

「マズイ、大型が一匹抜けた、逃げろマクギリス!!」

「司祭、早くこの場から退避を……ってどうしたのですか、司祭!?」

「……この感覚、は───」

 

迫り来る魔獣。そのピンチの最中、マクギリスが“何か”を感じ、足を止めた。

そして見上げる先───中天を超えた太陽より、僅かに見えた一点。それが徐々に大きく、そして懐かしさを覚える“耳を劈く音”を響かせ、マクギリスの魂を揺さぶる“シルエット”が───!!

 

「この音は……スラスター音!?」

「この感じ……まさか───!」

 

感じ取れたマクギリスだったが、視認する間もなく、“それ”は飛来する───

 

 

───バキリッ!!!

 

 

風を切り裂き、魔獣の堅固な殻を貫き、同時に地面を揺らす程の威力で突き刺さり、墓標のように叩き込まれる『二振りの黄金の剣』。

断末魔を響かせる事無く、その個体は絶命し、

そして同時に起きた“落下の衝撃”と共に浮き上がる砂塵の中で小型の魔獣達が、黄金の軌跡と共に次々と切り刻まれてゆく。

同じく宙に放り出されたガエリオや護衛達には一切の刃は届かず、確実に殲滅されてゆく魔獣達。

それでも隙間を縫って襲い掛かる小型種は、巨大な翼より放たれる“光の弾丸”により、次々に駆逐される。

しかし、再び大型種に刃を当てると、鈍器で殴ったように殻を砕き、吹き飛びこそすれ、切り裂く事は出来なかった。

“その存在”は動くのを何故か止め、剣を一瞥するように動き、『二振りの黄金の剣』を素早く腰に納め、今度は宙に突如現れた“黒い2つの穴”より出てきた剣を手に取る。

 

それは『翡翠の剣』、それも『二振り』。

 

剣は力を纏うように光を帯び、光の剣(ライトセイバー)の如き軌跡を一つ、描く。

 

───そして振り下ろし、両断。

 

今度は一切の抵抗も赦さない程の切れ味を見せ、満足したように一つ頷くと瞬く間に大型種、残った小型種を嵐と見間違わん程の速度で切り刻んでゆく。

最後に残った、特に大きい大型種には、振り上げる大きな鋏を切り伏せ、出来た隙で頭を足蹴にした瞬間、頭部が爆発、大型種の巨体が反り返った。

その瞬間、極限までの低姿勢から加速し、回転切り、そして一気に逆袈裟に切り上げ、空へと飛翔した。

同時に、魔獣は真っ二つに切り裂かれた。

 

「………!!」

「……何という。」

 

そしてマクギリスと石動は空を見上げた───

 

自らが崇める『白き存在』が白いスラスターウイングを拡げ、空に君臨する、その光景を。

 

 

それはかつて、それは夢にまで見た光景。

それはかつて、少年が夢見た英雄の姿。

あらゆる災厄を退け、堕天の軍勢を討った白き英雄、その名は───

 

── ガンダムバエル ──

 

 

感動に嵐に、心打たれ、涙するマクギリスであったが……すぐに正気に戻った。

そして分析を始めた。

 

「……オリジナルより大型化した背部のスラスターウイングより出るのは『翠』の光の粒子を放つ、あれはエイハブスラスターだな。電磁砲もビーム兵器とは違うエネルギー弾にでもしたのか、あれなら弾切れの心配はないな。各所のワンポイントの青のカラーとは違う、鳴動する『翠のクリスタル』は何か意味があるな、他にないエネルギーを感じる。武装には黄金の剣(バエルソード)と、それすらも上回る切れ味の刃……新造だな。結論からするとバエル2号機、もしくはバエルの強化型と言ったところ、うむ、悪くない。

「……あの、司祭??」

《───!?》

 

その時、ガンダムバエルのツインアイがマクギリスと石動に向いた。

そして、すぐに視線を外した。

 

「み、見ろ、石動!バエルがこちらを見たぞ!」

「ソ、ソウデスネ……」

 

そしてバエルは空中で反転───スラスター出力を全開で飛び去って行った。

途中でバレルロールをしたり、慣性機動を無視した動き(ゲッター機動)をしたり、最後は文字通り視界から消える程の速さでいなくなった……

 

「………な、何だったんだ。」

「───大丈夫か!?マクギリス、石動!」

「ガエリオ様……司祭も私も無事です、ですが……」

「ああ、あれはいったい……まるでウィーンゴールヴ神殿に安置されている『御神体(バエル像)』に似ていたが……」

「───あれはバエルだ、間違いない。」

「「「───え。」」」

「しかも()()()()()……何という巡り合わせ、実に僥倖、何という運命か!」

「お、おいマクギリス……??」

「司祭、落ち着いて下さ───」

「──私は正常だ。皆の者、これから改めてバエルの元へ向かう。」

「「「………」」」

 

マクギリスのまさかの発言に、一同固まる。

しかし実際予定通りなのだから、発言には何もおかしい事はない。ただし、不気味なくらいステキな笑顔で言われても説得力はないが。

 

そしてマクギリスはバエルが向かった()()()に向かい始めた。

ガエリオを始め、護衛達は戸惑うが、結局渋々従う事に。

 

どうやらバエルは恥ずかしがり屋のようだ。(ようやく見つけた、バエル)我等に救いの手を差し伸べた後は(もはや我らの間を阻むものなし)颯爽と住処に帰ったようだ(お招きいただきありがとう)。」

「……どうしてお判りに?」

「手段は不明だが、バエルの鼓動は今はあちらにいる(今度はかくれんぼかな、バエル)。だが、バエルを信ずる者として(バエルバエルバエルバエル……!)受けた恩を返さねば(バエルバエルバエルバエル……!)!!」

「「「おおっ流石、マクギリス司祭!!」」」

「……石動、どうしたらいい??」

「もう……自由にさせたら如何でしょう。」

 

熱烈な信者も含め、マクギリスは暴走しているようにしか見えない。

だが、本来の任務の目的とは変わりないのだから、あえて放置。

それに、石動にはそれはロマンティックなモノではなく、あのバエルが最後に見せた挙動には、思いもよらない驚愕が含まれているように見えてならない。

 

(……あれは明らかに動揺していた動きだ。司祭に何か見つかると拙いのか……それとも、今のマクギリス・ファリドに嫌悪したか。)

 

どこまで本気で、どこまでを解っているのだろうか?

石動は改めてマクギリスの異常さに驚くのであった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……あ、あああああァァァーーーッ!!!

《キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイ……!!》

《ちょ!?、お嬢様、お気を確かに───》

──どう正気を保てっていうのよ!!!メーデー、メーデー!」

《キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイ……!!》

 

そして当のガンダムバエルのテストパイロットをしているカルディナは、生まれてこの上なく動揺……いや、戦慄していた。

そしてガンダムバエルの中核である第一位の悪魔(バエル)でさえも寒イボを発症していた。

 

この日、カルディナは鉄鋼桜華試験団以外の騎士達───アースガルズ家に仕える腕利きにランドマン・ロディの試験運用を兼ねた魔獣討伐を行っていた。

内容は増えた魔獣の群生地を襲撃する、通称“追い出し”。

結果は上々で、苦もなく討伐が行われた辺り、その熟練の技量がモビルスーツにも通用する事がわかった。

バエルにて参加したカルディナもそれを認め、帰投しようとした直後、襲われている一団を発見、つい救出行動に出て、魔獣を全滅させた……までは良かった。

だが、止めを刺して空中に移動した後、まさかの『ロックオン反応』のアラートがコックピット内に響いたのだ。

三重連太陽系システムを一部流用していたため、使わないと判っていても入れていた警戒システムからの警告に驚きつつも、そのロックオンをしてきた対象を検索すると───まさかのマクギリスであった。

更には周辺にギャラルホルンの騎士達も。

 

これは不味いと直感したカルディナは、口封じのため迎撃しようとするが───バエルがこれを拒否。

 

《嫌、キモイ。マクギリス、キモイ。》

「バエルさん!?」

《V・C、帰還許可。》

《えぇ!?バエル、どうしたのですか!?》

《ちょっと待ちなさい!あいつら放っておいてたら……!》

《───ならロックオンの表示、サーチ。》

《ロックオンの表示?いったい何が───ゴブフォッ!!

「な、ななななnananana……!?」

 

モニターに映る《-LOCK-ON-》の表示を確認したV・C、そしてカルディナは恐怖した。

 

 

 

《-LOCK-ON(見つけた、バエル)-》

 

《-LOCK-ON(我が最愛のバエル)-》

 

《-LOCK-ON(さあ、今一度私と歩もう)-》

 

《-LOCK-ON(今度こそ、今度こそ……離サナイ)-》

 

 

 

 

 

「ロックオンが“ラブコール(激重)”って何!?」

《しかもロックオンにルビって……システムに介入されているー!?あれ本当に人間!?》

《……キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイッ!!!》

 

パニック状態のコックピット内で制止出来る者はいなく、結果ガンダムバエルは生身の人間相手に敵前逃亡をする羽目に。

当人達の予想を超えて、痛烈なダメージが入っていたのだった。

 

その後、カルディナは父親にエマージェンシーを入れ、領内総出の大捕り物が開始された。

 

《こちらD班、3名を拘束!しかし先頭が速い!増援を!》

《こちらF班、2名拘束!でも先頭の金髪野郎、無駄に速いぞ!止まらない!》

《B班、ゴーレム使いを拘束!でも金髪は逃がした!お嬢様にも増援を頼んでくれ!》

《こちらA班、変態野郎を捕まえた……って逃げんな!お前は軟体動物か!キモイぞこの……すまん、逃がした!》

 

しかしマクギリスのバエルに対する執念が人間を超えた力を与えたようで、石動やガエリオ、部下達の犠牲もあって最後の最後まで捕まらなかったという。

 

《……こちらカルディナ。対象、マクギリス・B・ファリドと接触。交渉を望んでいるとの事。武装解除を確認、軽拘束を行った後、談話室に連行します。お父様、許可を。》

「………わかった。」

 

そして、最後はカルディナが拘束したとのことだが、連行されるマクギリスは、燃え尽きたかように白かったという。

 

 

《NEXT》

 

 

 

 


 

《―公開可能な情報―》

 

〇ASW-G-01 Ver.C-1 ガンダムバエル カスタム

 

ASW-G-01ガンダムバエルをフレームを含め、忠実に再現し、その後戦力増強のため改修したカスタム機。

再現後、対・ゾンダー用としてGS転換炉(リアクター)を主動力炉とし、ツイン・エイハブリアクターを推進器の主動力・武装出力元として移植しているため、出力は完全にオリジナルを上回る。そのため、スラスターウイングはオリジナルより大型化しており、ウイングに内蔵された電磁砲はエイハブ粒子砲に変更されている。

主武装の『バエルソード』は厄祭戦に造られたレシピではなく、こちらの世界で鍛造されたレシピを元に作成されているため、魔法対応型となっているが、強度はこちらが下。

両踵に格闘・牽制用の小型炸裂式パイルバンカーが装備されおり、新しい要望として搭載されている。

制御AIは悪魔バエルが担当。ただし、バエル自身が搭乗者を選ぶ仕様となっており、文字通り選ばれた人物でしか動かせない。

カルディナがテストを行った際には『ブレイブキャリバー』を使用、その相性の良さを証明しているが、こちらは標準装備ではない。

 

 




次回はマクギリスとの対談です。
最後の最後で何があったかはその時に。

………っていうか、私のマクギリス像っていったい。


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Number.21 ~バエルと禍祓いの焔(2)~

どうも、前回の更新からかなり間が開いてしまいました。
プライベートが非常に忙しく、執筆の時間が取れずじまいで、遅くなりました。

……子供が体調悪くなると、続きますよね。(仕方ない)
……確定申告で事前に書類不備があると直前に言われると腹が立ちますよね、しかもそれ以前に「大丈夫ですよ」と言ってたくせに、掌返しされると〇したくなるよね。そしてそれが今回も間に合わなく、余計な証明書のせいで多額の出費を強いられるとか……(〇ね)

とまあ、さておき。
今回と次回で、オルフェンズメインの話は一区切りとします。
時間が掛かった分、日にちは空けますが連続投稿となります。

どうぞ、お楽しみに。




 

そこは医務室よりも更に広く、中には大人が一人入れる程の大きさの『医療用カプセル』が数器。そしてそれぞれ中には大小様々な人影が1つずつ。

その雰囲気だけでもSFであるが、今のカルディナ達の魔法技術を集めればこれくらいは実現可能というのが怖いところ。

そしてその中の一つに群がり、作業をしているのは、今やウサリンMarkⅡの姿が定着したアベル、同じくミニ・ガイガーの姿が定着しつつあるカイン。

それにもう一人───フードを目深に被り、その容貌はハッキリしないがアベル、カインと共にキーボードを叩く様子から、関係者だろうか。

だが普通は作業に参加せず、壁際でその様子を見守る人物がいた。

 

「この間は助かったぜ。」

「いいさ。私もいい経験させて貰ったし。」

「俺もだ。とは言ってもよ……アンタからのアドバイスと基礎回路の指導がなきゃ、俺はブレイブキャリバーを形にする事も出来なかったぜ。流石、銀細工師。」

「そりゃどうも。あの手の魔術回路は昔、散々設計、製造したからね。」

「その昔ってのは……目の前にある()()に関係あるのか?」

「まぁね。」

 

ドワーフのダーヴィズと、ダークエルフのイザリアである。

普段は率先して働く彼らであるが、今日は傍観者であり、とある事情でここにいる。

そしてダーヴィズの視線の先には、エルフのフェルネスがアベルやカインの指示を受けて右往左往していた。

 

そしてイザリアの傍らにもう一人……容姿が瓜二つでありながら、服装の趣味が正反対の人物が。

機能美を優先した職人の服とは違い、ドレスに近い自己アピールの強い華美な服を纏うダークエルフ。

その人物の名はエリザベート・フランベル。鉄鋼桜華試験団の顧問教官の1人であり、カルディナの魔法の師匠であり、イザリアの姉である。

そのエリザベートがアベル達に向かってゆっくりと口を開く。

 

「……“ダーリン”の様子はどうかしら?」

 

姉御肌のイザリアとは違い、ねっとり甘い口調のエリザベート。

だがその口調とは裏腹に表情は真摯だ。

 

「問題ないですね。『霊櫃』の同調、覚醒状態まで緩やかに上昇しています。」

「電位情報体のノイズも支障ない範囲に集束している……いつでも起きれるだろうね。」

「うん、波形が緩やかなので拒否反応も少なく、とても心地よさそうです。」

「そうですか……ありがとうございます。」

「礼には及ばないさ、イザリアさん。私達も()()()()()の管理をここでして貰っている。その“実験”とでも言えばいいかな?」

「本来であればもう少し早く終わる予定なのですが、ゾンダーの襲来と有象無象の存在で予定が遅れてしまいましたので……まあ、いい暇潰しになりましたよ。サクヤのデチューンモデルを参考にしたので手間も省けましたし。」

「うふふ、感謝するわ……いよいよね。」

「いよいよ……ねぇ。私は正直気が進まないけど。」

《──イザリア、そんな事、言っちゃ駄目。》

 

いきなり響いた声に驚くイザリア。

その傍らにはいつの間にか長い白髪の、オレンジ色の瞳を持つ小柄な女の子が、鉄面皮とも言える、無表情な女の子がいた。

 

「あんたね……いきなりびっくりさせないでよ。」

《謝罪。でも目覚め、もうすぐ。》

「……そうね、もうすぐ。」

 

『カプセル』に満たされた人工血液(エリキシル)が紅く光る、その中に宿る緑の光。

その鳴動はこれから出ずる生命の誕生にも似ていた。

 

「しかし外が煩いわね、ここまで声が聞こえるだなんて。」

 

気になって扉を少し開けるイザリアは、ひたすら右に左に行き交う職人達の光景を見た。これは異常と感じ、とりあえず近くにいた職人に声を掛ける。

 

「ああ、今ギャラルホルンの奴らが来てよ、大捕り物なんだ。」

「……は??」

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「──つまり、貴殿は私達と手を組んでギャラルホルンを、そしてカイエル教自体を潰そうと画策していた、と?」

「……ああ、そうだ。」

 

大捕り物が終わり、アースガルズ邸宅内の来賓室にて、クリストファーとカルディナ、その後ろにはオルガを始めとした鉄鋼桜華試験団の主要メンバーが集まっていた。

そしてテーブルを挟んで座するクリストファーとカルディナが対峙するのは、意気消沈し切ったマクギリスであった。

 

先の襲来にて尽くアースガルズ家の家臣、鉄鋼桜華試験団の追撃を避け、邸宅を逸れてガンダムバエルの元まで辿り着いたマクギリスであったが───

 

《バエル、マクギリス、キライ。》

「────!?」

 

邸宅前で仁王立ちしていたバエルから邂逅一番、そして開口一番に告げられた言葉に、ギャグマンガの如く転げ回り、そして壁に激突、沈黙した。

一同唖然とする中、唯一動いたカルディナは呆然とするマクギリスに対し、呆れ果てながらも頭を抑えつつ降伏勧告勧め、マクギリスは茫然と承諾。呆気なく捕らえられ、抵抗なしと認められたマクギリスは来賓室に連行される。

連行の道中、これ以下もない程に落胆したマクギリスに、他の騎士達も抵抗の意思は見せなかった。

 

途中、マクギリスの身を案じた石動とガエリオが同席を求めたため許可をした。

ただし会話・交渉をするのはマクギリスのみとし、補足のみ許可する。2人が異論、抗議する素振りを見せるなら、即刻“この世”から退場してもらう、という制約の下、立ち会いを許可した。

そして護衛と監視をぐるりと付け、始まった対面での尋問だったが、一を尋ねれば、十を答えるマクギリスの協力もあり、情報はどんどん出てくる。クリストファーもカルディナも「これは尋問なのだろうか?」と頭を捻るが、どうでもいい。

念のため、V・C(コスモスVer.)を頭に設置し、メモリーリーディングをしながらの尋問だったが、嘘を付いている様子は微塵も見られなく、そのお陰でギャラルホルンに関する情報は山のように出て来た。

頭に花が突き刺さっている様が、何とも言えない雰囲気を醸し出しているが、気にしない。

ただし、マクギリス自身も把握していない事に関しては保留する事に。

マクギリス自身の情報は、持っているだけでバエリストに感染しそうなので、V・Cに委託する。V・Cも嫌がったので別にファイル。

また、他の騎士達も同時進行で尋問しているが、マクギリスの様子をリアルタイムで見せているため、すんなりと情報は出るが、マクギリス以上の情報は出なかった。

 

途中、機密をすらすら喋るマクギリスに、ガエリオが「え、マクギリス……??」的な驚愕した顔をしていたが、こちらも気にしない。

 

ただ、マクギリスが語った事は、()()()()()()()()()。特に転生における経緯と流れは、カルディナを含めた幾らかが知る事実内容と概ね合致している。

独力で知る人間はマクギリスが初めてだ。

主観による相違点も確かに際立っているが、ここまでの推測が出来る以上、ただのバエリストではない。この男を野放しにする危険性と、今捕縛出来た幸運は大きいと言える。

 

また、マクギリス自身の情報で特筆すべきなのは、転生にて得られた2つの能力がある。

 

1つは『量子・素粒子を感知する能力』。

これは転生時に魂が移動している際に、バエルと接触しながら同行しているところから来ており、マクギリスの魂に直接影響があったため、と思われる。

その為、距離の影響はあるが、量子を放つ存在──天使、悪魔の居場所を本能的に感知できるもの。しかも本人の熟練度次第では精密なセンサーにもなる可能性を秘めている能力だ。

マクギリスは転生してから量子の感覚を常に受けており、天使、悪魔を感じ取っていたようだが、それが阿頼耶識システムと接続した感覚と似ているとの事で、殊更バエルの放つ粒子を感知していようだ。

ある意味恐ろしい、故にバエリストになったとも云える。

 

2つめが『量子・素粒子の送受信』。

こちらは飛散した粒子パターンで意志疎通を行うというもの。

実際、高エネルギー体の天使や悪魔は微細な素粒子の飛散、崩壊パターンにより意志疎通を行っているのだが、マクギリスはそれを無意識下の生身で行っている。

エイハブウェーブは相転移エネルギーに発生した素粒子である。

それが生前より阿頼耶識のバイオパターンを持つ魂と、転生時のバエルとの長期接触、更には転生後に備わった『魔術演算領域(マギウス・サーキット)』、そして魔力(マナ)という要素が集まり、天使、悪魔と近しい事が出来ている。

とはいえ人間の範疇、放てるエイハブウェーブもエイハブリアクターの数百分の一程度だ。

とは言え、近い距離であれば意志を送れるぐらいは出来る。

 

そしてこれをマクギリス自身が正しく認識していなかったので、指摘すると非常に困惑していた。

本人は神懸かり的な、神聖なものと捉えていたようで、魔法的でありながら科学的であった事に愕然としていた。

 

……ちなみに、最後辺りに友人(マクギリス)が自国を強い恨みをもって滅ぼそうと画策していた事を暴露した事に、ガエリオは強いショックを受け、動揺し、落胆していた。

まるでアニメのファーストシーズンのラスト話で裏切られたシーンに似ているとカルディナは思ったが、どうでもいい。

また石動を見ると「バレましたか……さて、この御仁をどう処理しましょう」みたいな視線を送っていた事にガエリオは更に戦慄していた。

カルディナは必殺仕事人みたいで「あらやだ、ステキ」と思った。

 

場が殺伐としている。まあどうでもいい。

 

そして情報の精査は後でするとして、纏まった報告を陛下に連絡するためにクリストファーはカルディナに後を託し、その場から去った。

本来はもう少しいてもいいと思うが、この後得られる情報はカルディナが咀嚼し、整理した情報でいいと判断した。

そしてクリストファーが部屋を出た後、俯き、沈黙するマクギリスの独話より話が始まる。

 

「……どうして私はバエルに嫌われたのだ?」

「ああ、その事ね……“女”を口説く文句に、アレはないっていうところよ。アレじゃあ引くわよ、誰だって。」

「……何故、女性を口説く事がそこに入る?私はバエルの事を話しているのだが。」

「だって今のバエルは『女の子』ですもの。思考パターンがそうなるのは不可避ってヤツよ。」

「…………女の、子、だと??」

「別に珍しい事じゃないわ。彼らは悪魔、ないし天使と『契約』した人物の潜在思考によって、彼らの容姿は変化するのだし。」

 

その言葉に、カルディナが冗談を言っているのではないと判った後、周りの鉄華団のメンバーを見渡すと、全員苦虫を噛み潰したような表情(事情はしっかり知ってて頭痛い)であった。

 

実体を持たない天使、悪魔達の容姿は非常に不確定だ。

故に、見る者のイメージによってはその容姿は大きく異なる。

神聖なイメージは神聖な姿形に。醜悪なイメージはより醜悪な容姿に。

観測者が複数いても主観的な思念が視覚に干渉し、映される視界も変化する。

だが、契約を果たすとその容姿は契約者のイメージによって固定化される。

一番良い例はカルディナだ。

『七つの大罪』、『七賢の天使』の容姿は全て契約を結ぶカルディナの思考を元に変化している。

ただその配下である他の天使、悪魔は“擬態”こそすれど、あくまで上位存在の指示に従っているだけなのだ。容姿もその指示に従い、変化させている。

カルディナとて全員と契約を結んでいる訳ではない。

 

……仮にしていたら、どうなるのだろうか?

 

ちなみに三日月等、明確にイメージを持たない者に対しては、黒いもやが人形(ひとがた)になっている状態、もしくはミニ・ガイガーと同じく、2メートル以内まで縮尺したガンダムフレーム(試作品)に憑依している状態で接している。

 

「……では、バエルと契約した者が既にいると?」

「ええ。でも私じゃない。私より先に会った、その人の影響ね。だからあの時アンタが私らに向けられた粒子パターン(執念深い感情の波)が気持ち悪くって逃げたのよ。」

「……私達をここへを導いた訳ではないのか?」

「冗談。私も制御OS(バエル)管制ユニット(V・C)も拒否反応起こして全力で逃げただけよ。」

「……そうか。」

「中途半端に生身で粒子パターン……この場合はエイハブウェーブかしら?その感知、そして送受信が出来るようになった弊害ね。なまじ高位次元体の影響を受けていたために、全能感を感じていた……でも今の貴方は天使、悪魔から嫌われているわ。」

「……何と。」

 

気持ち悪い意志を送るな!(by:天使、悪魔一同)だ、そうだ。

 

「ましてや、バエルは誰かを導くとか、そんな事はしないわ。」

「だがあの時は……あの時は我等を導いていたはずだ……!」

「あの時……ああ、転生の時の。バエル曰く『いたのはバエルだけじゃない、先頭にいただけ。』ですって。導いていたのは本当でしょうけど、避難誘導みたいなもので、元々到着地点は決まっていて、流れに乗っただけ……それを貴方が崇高な運命的に感じていただけよ。まあ、それをどう感じ解釈するかは貴方次第。でも()()は止めなさい。今度やったらバエルどころか、天使、悪魔達がガンダムフレームで貴方を潰しに行くわよ。」

「あ、ああ。気を付けたいのだが、どうすれば……」

「そうね、とりあえず───」

 

カルディナが言いかけた時、扉をノックし、入ってきた人物が。

 

「失礼します。ご要望の物が出来上がりましたので、お持ちしました。」

「ああ、フミタンありがとう。それじゃ、これ被って。」

「む、これは仮面か?しかしこれは……」

 

フミタンが持ってきたもの……それは仮面であった。

しかしそのデザインは……

 

「即興で作ったから、エイハブウェーブの干渉を防ぐ効果は弱いけど貴方には丁度良いわ。感知する能力も前よりは抑えられる。いくら祈っても外部に影響はないはずだから。」

「その割には実に精密に出来ているのだが……それに何か、デザインの意図に悪意を感じるのだが……」

「気のせいよ。それにお気に召さないなら、いいわ。一生バエルに嫌われるだけだけど……」

「──有り難く頂戴する。このご恩は決して忘れない。」

 

そして仮面を付けたマクギリス。

付けた瞬間から思考がクリアになり、包まれていたような感覚(マッキー主観)が消え去った。

 

「……確かに、本来の感覚だな。そうか、あれがエイハブウェーブの感覚だったとは。」

「本来強烈に祈らなければ伝わらないけど、量子干渉を受けられる貴方は特殊過ぎるのよ。」

「……反論出来ないな。」

 

ひとまず、迷惑極まる事態はこれで終わり、そしてようやく本題に入る。

 

「さて、さっきの話だけど……私達と同盟を組みたいって本当かしら?」

「その通りだ、嘘偽りはない。我等の目的はギャラルホルンという国の壊滅、そしてカイエル教の撲滅だ。」

「それは良いわ。ただ……同盟という形はナシよ。今の状況じゃ、私達の配下という形でしか受けられないわよ。」

「それでも構わない。何せこちら側にはバエルが……ガンダム・フレームやロディ・フレームが複数機ある。そして私達は組織の形式には拘っていない。喜んでそちらの指揮下に入ろう。」

 

一人は断固反対の意を示すが、無視する。

 

「判ります?」

「ああ。今なら明確に感じ取れる。鉄華団所属のバルバトスを始めとしたガンダムフレームのエイハブウェーブを感じる。グシオン、フラウロス……そしてバエル──ん?これはモビルアーマー……ハシュマル、だと?いるのか?」

「ええ。実に協力的に。今、複数製造中よ。」

「……ギャラルホルンどころか、この世界であれば世を征する事も可能な勢力だな、カルディナ嬢。」

「冗談。前世の物差しで計ると痛い目に遭うわ。私の知ってる世界最強に挑んだら一発で返り討ちよ。」

「……更に上がいる、と?」

「私も軽く捻られる程度にはね。」

 

アルフヘイムの方角を見て、カルディナはため息をつく。

未だに勝てないのは、おばあちゃん。

 

「それに……今のアルドレイア王国の方針として、ギャラルホルンは断固無視の方針よ。襲って来るなら潰すけど。」

「これだけの戦力を保有しながらも、積極的攻勢に出ないのは、何か理由でも?」

「ギャラルホルンを無視しても滅ぼさなきゃならない存在……しかも人智を超えた、人間同士で争うのが馬鹿馬鹿しく感じる程の存在───ゾンダーよ。」

「ゾンダー??」

 

そしてカルディナは語る。

次元を超えて、前宇宙が滅びる前にあった超高度文明──三重連太陽系の滅びの経緯とゾンダーの誕生を。

別の次元にて起きたゾンダーとの戦いに挑み、勝利した勇者達の神話(マイソロジー)を。

そして今、この世界にもゾンダーの魔の手が既に在る事を───

 

更に鉄華団やギャラルホルンがいた世界の終末が、ゾンダーによってもたらされた事も、そしてその弊害も───

その事に最初に異議を唱えたのはガエリオだった。

 

「そ、そんなバカな話、信じられる訳がないだろう?それに我等の力を結集させれば、そんな怪物みたいヤツは倒せる筈だ。」

「信じなくて結構。元よりギャラルホルンには期待もしてませんわ。それにゴーレムや、ただのモビルスーツ程度で抗える存在ではないので。」

「止めるんだ、ガエリオ。カルディナ嬢の言う事は事実だ……お前に自覚がなくともな。」

「な、何を……??」

「……私の信者(部下)の一人が、前に恐怖しながら言っていた事と合致する。かつての前世の世界の終わり……それは機械と融合する未知の化け物だったと。そして人を取り込み、同じ存在にしてしまうと。それらに、ギャラルホルンも人類も無力であったと……」

「……その人、よく覚えていましたわね。」

「取り込まれる前に自害したそうだ。本人は記憶を取り戻した後も、未だに苦しんでいるが……」

 

確かにそれなら記憶障害(ゾンダーの呪い)もないだろうが、よく耐えていたものだ。

その人物にはパレッス粒子を処方したいところだ。

 

「……であるなら、カルディナ嬢。一つ頼みたい事がある。」

「何かしら?」

「私に、バエルを預からせて欲しい。」

 

その発言に一同驚愕し、オルガ達は臨戦態勢間近となるが、すぐにカルディナが片手を挙げて静止する。

が、マクギリスも冗談ではなく、真摯な姿勢でカルディナに挑んでいた。

そして一間空け、カルディナは応える───

 

「───無理、ですわ。」

「……その理由を伺っても?」

「貴方はこう言いたい、『この世界にもあった300年前の厄祭戦、そこでガンダムバエルは戦線に投入された。そしてその相手こそゾンダーである。そして666体を葬った』、と。」

「……よくご存知で。ギャラルホルンでもごく一部の人間でしかその事実を知らない。しかも密かに保管されていた記述にも鳴き声が「ゾンダー」とあっただけで、便宜的にゾンダーとされている。」

「まあ、()()()()()()()()()()()()()()()ですわ。当人も「ゾンダー野郎が!」って叫んだみたいですし。」

「当……事、者??」

「おかしいと思いません?ガンダムバエルの中枢たる『バエル』に契約者が既にいる事を。ガンダムバエルの席は既にその契約者で埋まっています。故に───無理です、と。あと、その666体は水増しですわ。正確には579体、だそうで……」

「では……その契約者と話をさせて欲しい。いったい……誰なのだ??」

「それは───」

 

 

「「「─────!?」」」

 

 

その時、その場にいた元・阿頼耶識使いが全員感じた。

とある人物の、その粒子、その波動を。

特に、マクギリスはその波動を感じた後、自然と涙が溢れ出た。

 

「この感じは……」

「あ、もしかして……」

「ええ、『目覚めた』みたい。でもここまでの粒子拡散をさせるなんて。さて、マクギリス。バエルに繋がった事のある貴方には判るかしら?」

「それでは、まさか……!」

 

その反応は歩むスピードで真っすぐこちらに向かってきた。

聞こえる複数の足音。その中でも軽快に響く足音にマクギリスは胸が高鳴る思いがした。

そして部屋の前で足音は止まる。

 

「──どうやらここのようだ。入ってもいいかな?」

「どうぞ。」

 

響く声に応じたカルディナ。

そしてドアが開かれた先には、とある人物がいた。

 

 

「身に覚えもあり、初めてではないだろうが、この姿を見せるのは初なので、改めて名乗らせてもらおう─────初めまして、アグニカ・カイエルだ。

 

蒼く長い髪に、長い切れ目の長身。

身に纏うは白い長衣に、厚手の革のグローブとブーツを着けた男。

背中には身の丈もあり、殴っただけでも重傷を負いそうな反りのある長鞘の薄紫の剣が二刀。

意気揚々とした笑顔でその男は笑った。

しかも非常に聞き覚えのある声で。

思わず、全員が驚愕するマクギリスを見てしまう。

 

「ああ、オルガ。久しぶりだな。」

「ん~と、お久しぶりです、()()。その姿じゃ初めてですが……一年ぶりですか?非常に声に違和感を感じるんですが……」

「ああ。一年経っただけでずいぶん大きくなったね。実に男前だ……つーか、声?気のせいだろう。」

「久しぶり、教官。次はぶっ倒すから。あとその声はワザと?」

「三日月、出会い頭から容赦ないね。うん、いい事だ。つーか、声??」

 

鉄華団の面々と面識……というより、教官であったようで、護衛の団員達からも次々と挨拶が交わされてゆく。

一通り挨拶が終わった後、今度はカルディナに。

その頃にはぞろぞろと『カプセル』があった部屋のメンバーが部屋に来た。

ちなみにローブの人物は来ていない。

 

「カルディナ、今回はありがとう。」

「いいえ、アグニカさん。お礼でしたら発案者に仰って下さい。こんな機会がなければ、アンドロイド仕様なんて作ろうと思いませんから。」

「そうか、それならお礼を言わないとな、イザリア。」

「ちょ!馬鹿止めなさいって、こんな大勢いるところで───」

「───イザリアだって!?」

 

いきなり大声を上げ、立ち上がったガエリオ。そして険しい表情で抜刀し、イザリアを指す。

 

「そうか……お前は300年前、アグニカ・カイエルを誘惑し、ギャラルホルンより連れ出した悪女、イザリア!ダークエルフ故に長寿である事は我が父から聞き望んでいたが……まさかここに居ようとは!成敗してくれる!そしてアグニカ・カイエルを名乗る偽物が!このガエリオが───ぐべッ!?」

 

 

名乗りを挙げていた途中、ガエリオは凪払われて真横に吹っ飛んだ。

そして壁に突き刺さっていたと思いきや、あっという間に長鞘が首元に捩じ込まれ、身体を浮かさられ、今にも首がメキメキと鳴り、突き砕かれる寸前。

誰の目にも、死んでしまう5秒前、と映る。

 

そしてその神速の所業は誰でもない────アグニカであった。

 

「……手前ェ、誰の(オンナ)を『悪女』だって?しかも……ギャラルホルンだぁあ?んで、誰が偽物だ……よし、死──」

「──待ちなよ。」

 

無表情で無慈悲な目をガエリオに向け、長鞘に更に力を込めようとするが、それに待ったをかけたのは、イザリアであった。

 

「こいつ、セブンスターのボードウィン家の(せがれ)じゃない?」

「ボードウィンの……ああ、だから中途半端で生っちょろい正義感を振りかざす青二才ぶりに見覚えがあると思った。あいつ、追い詰められると変なスイッチ入って駄々こねるんだよなぁ───うん、尚更殺す理由が出来た。」

「いやいやいや。どうせなら冥土の土産にあんたの事と、ギャラルホルンがあたし等に何をしたか、教えてから殺したらどう?」

「……イザリア、俺に語れと??ボードウィンの系譜ならそれぐらい嬉しそうに話すだろうに。」

「事情を知らない奴らが他にもいるでしょう?無駄に誤解されると面倒なの。それに、このお坊ちゃまがそれを知っていると思う?せめて何故自分が死ぬかを教えるのが情けよ。いつも貴方は言ってるでしょ、『大切なのは大義名分と後腐れなく殺る事』だって。」

「わかった、お前がそう言うなら……良かったな~、ボードウィンのガキ。寿命が僅かに増えたぞ。あと、他の見慣れない奴らもギャラルホルン、そうだろう?さっさと自己紹介と目的を吐け、聞いてやる。」

 

そう言って長鞘を納めた後、意識が跳んだガエリオを床に落とした後、ドカリとカルディナの横の席に座るアグニカに、深いため息をイザリアは吐く。

とりあえず、首一枚は繋がった安堵する石動であったが、これからどうしようと思案する。

が、その前に感動のあまり固まるマクギリスを、とりあえず着席させる事にした。

 

 

《NEXT》

 

 




この話を書く上で、アグニカさんのキャラ形成にとある人物を参考にしてます。
原点が結構昔で、ドラマCDよりの出演、当人は後に愛妻家なんですが……
誰かわかるかな~??(〇クセス!)

あとCV:櫻〇さんで、執筆中に不祥事がありましたが、私は「またこのテか……」ぐらいにしか思っていませんが、業は深いのは確かです。
深く批判も言及もしませんが、ただこの作品のアグニカの人間関係で思うところはありますが、そこは人徳が成したため、と思ってください。念のため。
多数の作品に参加して、実力がある以上、影響は……あるなぁ。
つい「〇滅」に関わってなのか、とか思ってしまう。
あんまり飛び火しない事を祈ります。


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Number.21 ~バエルと禍祓いの焔(3)~

感想を書いて頂いてくれた皆さん、どうもありがとうございます。

続いてどうぞ!


───アグニカ・カイエル

 

300年前の厄祭戦においてガンダムバエルを駆り、モビルアーマーと戦った伝説のパイロット。そしてギャラルホルンの前身となる組織を作った人物。

そして、この世界でも起きた厄祭戦にて幻晶騎士(シルエットナイト)『バエル』を操り、ゾンダーと戦った英雄である。

なお、『オルフェンズ』の作中では名前のみの登場で、容姿などは設定されていない……が、ここにいるアグニカはしっかりとしたキャラクター形成が出来ている。

 

「ちなみにこの姿は、俺の前世とは一切関係ない。むしろ、決別といった姿だ。」

 

『物質瞬間創造高速移送艦サクヤ』の躯体を能力デチューン・戦闘特化した小型GSライド搭載型のアンドロイド仕様だ。

キャラ形成は生来のモノではなく、カルディナが作為的にデザインしたものである。

 

「んで、俺がこの世界に来たのは、今からだいた320年程前になる。」

 

紅茶のカップを一つ傾け、話は始まる。

ちなみに、誰よりも食い付いて傾聴するのはマクギリスであり、他は一歩引いた形であった。

 

生前はさして“戦闘狂”ではなかった彼だが、前の世界ではモビルアーマーが暴走した時には、ギャラルホルンの前身となる集団を組織して迎え撃ち、自らもガンダムバエルを駆って奔走し、討伐した。その経緯は正史と変わりない。

元の世界で死んだ後、この世界に人間として生まれ落ちた原因こそ解らないが、アグニカは再び闘争の中で生きる環境を、魔獣を討てる環境を喜んだ。

残念ながら、こちらに来てからは色々解放され、性格は清廉……どころか戦闘狂、女好き、大酒呑みとなった。

だが、本人は自覚していないが、それ以外はまともである。

 

当初は生身で戦う事に喜びを感じるアグニカであったが、やはりガンダムが恋しいと感じた時、幻晶騎士(シルエットナイト)と出会う。

そしてその設計、開発主任だったのが───イザリアであった。

 

当時発足したてで、つたない技術、粗悪な整備環境の中、イザリアは完璧な手腕を見せた。

そしてアグニカはイザリアが開発した幻晶騎士(シルエットナイト)のテストランナーに立候補、互いに切磋琢磨し、最終的には短期間でサロドレアクラスの機体を創るまでに至ったのだ。

 

そして2人は自然に相思相愛となり、結婚。夫婦共々幻晶騎士(シルエットナイト)に関わっていたのだが……

 

「丁度その頃さ、あの化け物共が……ゾンダーってヤツが出たのは。」

 

どこからか湧いたのかわからない程、濁流のように押し寄せる機械の化け物の軍勢。

無機物、金属と悉く融合し、化け物となり、蹂躙してゆく。

当然ながらゴーレム程度では歯が立たず、先行量産された幻晶騎士(シルエットナイト)でも決定打はなかった。

何より、無限再生を行うゾンダーには、末端と言えどアグニカでも自身の専用機が歯が立たなかったのだった。

 

そこでアグニカは、自身の専用機を基にかつての愛機バエルの製造をイザリアに依頼する。

アグニカよりもたらされた知識、情報を元にバエルの製造計画は開始。

今までの幻晶騎士(シルエットナイト)より一線を臥す機体となったバエル。

完全なワンオフ機で、その性能はアグニカの技量も合わさり、サロドレアを超えて現在の新型を超えた機体性能を見せた。

動力炉である魔力転換炉(エーテルリアクタ)も連結型にし、スラスターウイングにもそれぞれ一基ずつ、計4基の魔力転換炉(エーテルリアクタ)を搭載した、幻晶騎士(シルエットナイト)開発史上前例のない機体となった。

また、得物である剣も当時の技術を用いて造られた、対・干渉拒絶と鋭刃処理、強化魔法を限界まで施した『超電磁コート』を採用。そしてその魔術回路のそれはブレイブキャリバーの原型にもなっている。

そして何より、阿頼耶識システムの代わりに機体と同調を果たすべく考案されたのが、悪魔バエルとの霊的リンク。バエルがアグニカと機体の仲立ちをすることにより、当時の魔導演算機(マギウスエンジン)の処理能力を遥かに超えた機動性を持つ、これまでにない機体となった。

そしてこれらは天使、悪魔とマシンを仲立ちする『霊櫃』の原点でもあり、カルディナ達が初期に開発したガオガイガーの原点に当たる。

そしてこれらの情報をさり気なく伝えたのがイザリアであった。

 

そして戦場に向かったガンダムバエルは命ある者達にとっては『英雄』、ゾンダーにとっては『悪魔』ともといえる活躍をした。

ゾンダー側からの干渉を押しのけ、独楽のように激しく回転しながら振るうバエルソードが外皮を削り取り、露出したゾンダー核を突き砕き、出会うゾンダーを悉く葬り去る。

核のエネルギーが爆発する前に、群れに投げて誘爆を誘い、幾重も狩り続けた。

浄解のないこの時には、そもそも核に封じられているのが人である事を知っていたのはごく一部で、アグニカは偶然その光景を見て知った。

ただ、例え知ったとしても、解呪手段がないためアグニカは容赦なく処する方針を執っていたのは間違いない。

そして幾日も幾日も狩り続け、人手が足りないとこの世界でも七人の仲間達と共に組織した機動部隊で迎撃に当たらせた。

だが7人はアグニカ程規格外ではない戦力で、かつバエル以外のガンダムフレームを模した幻晶騎士(シルエットナイト)が造られるもアグニカ以外は途中撃破され、バエル以外は残らず破壊、もしくは取り込まれた。そしてその屍をも破壊───

 

「──まではいかなかったなぁ。途中で俺もバエルも隙を突かれてな……落とされた。」

 

多勢に無勢な状況で支援すら難しい環境で、絶対絶命の状況に陥った。

 

「その時だ、()()が出てきたのは。」

「アレ、とは……??」

「『灰の竜』。一部の世間様ではそう呼ばれているヤツさ。」

 

 

───『灰の竜』

 

この世界のありふれた伝承の1つにある“幻の獣”。

時に愚か者へ厄災となりて、時に気まぐれに誰かを助け、時に阻むモノに対しては咆哮1つで全てを滅ぼす、絶対不可侵の獣。

しかし世間では存在の是非すら怪しい、けれどもどの宗教をも超えたお伽噺になっている存在。

だがギャラルホルン、しいてはカイエル教では『灰の竜』は禁忌の存在、仇なす存在とされている。

 

「ただ単にアグニカ・カイエルを神聖視したい勢力がそう定めただけでしょう。あれを認めたらカイエル教のような宗教団体はその存在価値が失われますし。まあ、災厄の塊である事は認めるけど。」

「何でわかるんだ、お嬢。」

「私も実際に会って敵対しましたから。」

「ええ……」

「行動原理から言って、たまたま散歩の途中に、たまたま悪い気配を感じて、たまたま通り掛かりにゾンダーを殲滅させた、というのが妥当では?」

「ま、その通りだろう。俺はそのついでに助けられたって事だ。」

 

圧倒的であった。

振るう剛腕はゾンダーの浸食を遮るばかりか、一方的に潰し、爆発するゾンダーの影響をものともしない。

挙げ句に咆哮は瞬く間にゾンダーを組織崩壊させるものであった。

最後に残った鎧を纏った人物らしき存在と、巨木の幹より異形の顔を覗かせる存在が『灰の竜』に襲い掛かるものの、鎧の人物は瞬殺、異形の顔には第二形態に変化して迎撃、どちらも滅する事が出来ず、取り逃がす形となったが『灰の竜』の圧勝となり、その御身はその場から飛び去った。

そして平和が訪れた。

 

しかし、問題はここからだった。

 

戦果の公表について、全てアグニカの手柄にしようとする勢力と、戦果の大半は『灰の竜』と主張するアグニカの一派による対立が起きた。

もちろんアグニカ自身も多少の戦果は挙げたものの、大半以上は『灰の竜』によるものと自覚、そして、アグニカ自身はそんな事はどうでもいいと考えているが、何故かそんな下らない論争が出ていることに疑問しかなかった。

 

後に判明した事だが、後に厄祭戦と称される今戦の影響力は甚大であった。

それこそアグニカを王に国を立ち上げようとする動きが急速に形成されていった。

 

だがアグニカの一派はそれらを全て無視し、それでもしつこく付きまとう勢力には『灰の竜』の事を突き付けるも、アグニカを担ぎ上げたい勢力は止まらなかった。

 

「どういうこった?本人が嫌がってんのに、無視するように強行するってのは……」

「『人間が成し遂げた』。そう宣伝したかったのでしょうね。300年前のこの地域の人間の地位は、実は他の種族に比べて低かったのです。特に特徴も個性もない種族ですから。」

「それに、幻晶騎士(シルエットナイト)ってのは、元は魔獣に対して攻勢環境を形成するために開発されたものなのよ。そして当時の幻晶騎士(シルエットナイト)の開発主導者は人間(ヒューム)、ドワーフ、ハーフリングと多様にいたけど、最たる中核はエルフだったからね。」

 

魔力転換炉(エーテルリアクタ)の開発元である以上、その強権は揺るがななった。

だが、その強権を誇示したい人間(ヒューム)にとってはまたとない機会であったが、それが空振ろうとしていた。

そして痺れを切らせた勢力が予想を超えた手段を取った。

 

それが─────アグニカの殺害。

 

 

「酒の席に誘き寄せられて、まんまとやられたのさ……様ァない。」

 

典型的な手段であったが、それを見事にやられ、深手を負ってしまったアグニカは命辛々逃げ延び、けれども逃げた先にいたイザリア、エリザベート、バエルの前で命を落とした。

そしてそれを妻であるイザリアの仕業と公表し、彼女を追い立てるも、姉のエリザベートが激昂し、追撃者達を殲滅しながら逃げ延び、亡骸はとある場所に埋葬、そして魂はエリザベートの魔法で肉体と分離、およそ250年の時間を生きる事に。

流石のアグニカも苦笑いだ。

ちなみに、この頃合流したエリザベート。周囲にその存在は認知されていないが、その所業は苛烈の一言で、イザリアの悪評の9割以上がエリザベートの所業である。ただ、イザリア同様、愛する者を失った悲しみから来る衝動、復讐心が原動力なので、その心情は察するに余る。

また、そのせいもあって、この地域の幻晶騎士(シルエットナイト)開発が廃れてしまい、技術者も解散、そしてゴーレムが主流となった。

 

「んで、俺達はツテを元にアースガルズ家を尋ねようとしたら……カルディナ嬢が化け物に───ゾンダーに襲われているところに遭遇した。あれは因果を感じたさ。」

 

幼いカルディナのゾンダーとの会合。

機界融合をする前のゾンダー人間の状態あったがため、エリザベートがギリギリ倒し切る事が出来たが、次はそういかない事をアグニカは予感し、それに因果を感じたアグニカは、カルディナに助力する事決め、以後はエリザベートの肉体を借りて指南役に。

イザリアは銀細工師として、カルディナの工房の職人として働く事に。

尚、カルディナがアグニカ・カイエルの事を一切口にしなかった事も、イザリアが既婚でアグニカの妻である事も口にしなかったのは、アグニカの話で嗚咽を必死に殺しながら、彼の胸の中で泣く気丈な筈のイザリアの姿を見れば、その経緯と悲惨さが想像出来る。

 

「つー訳で、俺はギャラルホルンを滅ぼす事を第一に、カルディナと協力体制を結び、ゾンダーに対しても対応する事を決めている。なんせ俺が造ったギャラルホルン(幕引きの存在)が手を離れて、いつまでも人様に迷惑かけてりゃ……滅ぼしたくもなるだろ。」

「……話は判った。でもよ、お嬢。今更ガンダムバエルを造った理由って何だ?」

「第一はGストーン無しでゾンダーと渡り合った機体だからよ。そのポテンシャルは現行機に比肩するもの、その戦力は私にとっては貴重な存在よ。それを再現し、現行の技術でブラッシュアップさせたらどうなるか……それを試したかったの。それに、アグニカと売買契約結んだから造ったのも一つ。しかも本物のアグニカ・カイエルの魂を持つ存在が乗ったバエルがギャラルホルンを滅ぼすシナリオが面白かったから。当初は独自に動くって言ってたけど、ゾンダーが活動を始めたから、そうもいかなくって……結局、別口であいつらに揺さぶりと個別撃破をやってもらう為にバエルを製造、託したってところね。あと、嫌がらせも兼ねてるわ。」

「……なるほど。」

 

前半は真っ当であるが、後半は相当酷い理由だ。質問したオルガは若干引いた。

だが、非常に効果的とも言える。自身のシンボルを無断で使われた挙句、無常に狩られるのだ。

ちなみにアグニカさんは狂信者であれば、女子供でさえも平気で骨を折り、蹴り飛ばせる人物です。

最早、アグニカに現行のギャラルホルン、カイエル教を『許す』『存続可』の文字はない。

 

「……という事で、納得していただけたかしら、マクギリス。バエルに乗りたかったら、アグニカを説得する事ね。売買契約は既に彼と結んで完了していますから、私には所有権はないの。後の話は彼として頂けませんでしょうか?」

「……俺は───」

 

その時であった。

 

「───!!」

 

カルディナの白い髪が突如、暁に染まった。

それと同時にクストとムルから通信が入る。

 

《お嬢、ゾンダーだ!》

《数は2、前回と形状が似ています!進行方向はまっすぐこっちに!》

「ええ。私も感じたわ、形状が似ているって事はグレイズタイプ……今行きます。すいませんがお話しはこれで中止させて頂きます。討つべき敵が来ましたので。」

「まさか……ゾンダーか?」

「そうです、アグニカ。」

「なら俺も行こう。新たなバエルの力、奴等に見せてやる良い機会だ。」

「解りました、では───」

「───待ってくれ!」

 

そこで声を上げたのはマクギリス。

うつむくマクギリスはゆっくりと顔を上げ、ア

グニカを、そしてカルディナを見る。

 

「どうした?もしやお前がバエルに乗る、とか言うなよ。」

「……そこまで恥知らずではないですよ、アグニカ。そうではなく……その戦い、私達にも見せて頂きたい。」

 

その顔には感動や憧れの色眼鏡が掛かっている様子はなかった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

「──ウリィィィィィィィーー!さあ、存分に暴れるのだ。」

 

 

高台より進軍する2体のゾンダーを見下ろすのは、機界四天王が一人、船員に扮したペスカボートである。

巻き舌のような独特の奇声を上げて、ゾンダーメタルと機界融合したゾンダーを観察していた。

 

「ポレントスやピッツオ・ケリーの言う通り、機界融合には良い機械人形だ。こんな機械文明のない星にこれ程のものがあるとは僥倖と言える。人形のデザインが私の趣味ではないが、プレザーブから受け取ったゾンダーメタルで、私が機界昇華を成し遂げよう。ウリィィィィィィィーー!」

 

アースガルズ邸襲撃後、機界四天王のピッツッオ・ケリーとポレントスは、機界融合の優れた素体として着目したのがグレイズであった。そのグレイズの足取りを密かに辿り、彼等はグレイズの保管場所の()()を強襲、強奪に成功する。そして貴重な素体を四天王内で分け、プレザーブの調整するゾンダーメタルを待って、今日に至る。

 

保管場所で捕らえた騎士を取り込み、遠慮なく進軍するグレイズゾンダー。

しかし進行を阻止すべく、2つの影が舞い降りた。

 

《──ファイナル・フュージョン、承認!!》

《承認、受諾。ファイナル・フュージョン、プログラム───ドライブ!!》

「参ります───ファイナル・フュージョンッ!!」

 

白銀のEMトルネードが巻き上がる中、鋼鉄のライオン(ギャレオン)と5体の機獣(マギウスマシン)達とファイナル・フュージョンし、カルディナと一体化するのは───

 

「マギウスッ、ガオ、ガイガァーーッ!!」

 

異界の勇者王、マギウス・ガオガイガー。

 

そしてもう1体。

空より舞い降り、青白い焔をスラスターより翼と見間違う程に吐き出す白い悪魔───

 

「お前の力……今一度見せろ、バエル!」

《──Yes,Master.──》

 

Gストーンの力で、新たなる力を得たガンダムフレーム、ガンダムバエル。

 

今、(ゾンダー)を屠る2体の悪魔が降り立った。

 

「ウリィィィィィィィ!?あれがプレザーブやピッツッオ・ケリーが言っていた、カインの遺産!そしてもう1つは……ポレントスが過去に交戦した機械人形によく似ている。どちらとも厄介だが……それだけだ、やれ!」

 

ペスカポートが指示を出すと、2体を視界に入れたゾンダーが、襲い掛かるため走り出した。

だが……!

 

《──そう愚直に来られましたら……!!》

《真正面から迎えに行こうと思うのが礼儀と言うもの!!》

 

マギウスがブロウクンマグナムを、バエルがエイハブ粒子砲でお出迎えをし、ゾンダーバリアを展開したグレイズゾンダーの片方の頭部をブロウクンマグナムが抉り取る。

もう片方はゾンダーバリアでエイハブ粒子砲を遮るが、照射し続けるバエルがスラスターを全開に突出する。

 

《それじゃあ新生バエルの力、味わって貰おうか!バエル、ヒールバンカー、セット!》

《Ready.》

《まずはそのバリア───蹴り崩す!!》

 

スラスターは全開のまま、体勢を翻し、右足を突き出す姿勢で突貫する。その踵にはバンカーが仕込まれており、バリアにそのまま突撃して推力のままゾンダーごとバンカーを発動、蹴り破り、ゾンダーの頭ごと破壊する。

 

「馬鹿な!?ゾンダーのバリアはレプリションフィールドと同じ原理だ。レプリションフィールドと通常空間の反発力を利用し、強力な力場(ポテンシャルカスケード)を形成しているはずだが、あの程度の鉄塊で貫かれる道理など……!」

 

《強力なGパワーを局所発現しているドリル・パイルバンカーですわ。それをレールガン(ダインスレイヴ)と同じ理論で放っているのです……効かぬ道理はございませんわ!》

 

レプリションフィールドと言えど、エネルギーの大元である素粒子Z0の対消滅対象のGパワーを収束した一撃は阻む事は出来ない。

態勢を崩したゾンダーに、バエルはあえてバエルソードを抜き放ち、ゾンダーの両腕を斬りつけた。

 

《……こいつはこちらで起きた厄祭戦当時のレシピで造られた剣だ。ああ、やはりイザリアは良い仕事をしてくれていた、良い切れ味だ。だが、それでも厄祭戦の時は奴等には及ばなかった……俺も、イザリアも。》

 

バエルソードより、青白い焔が轟々と吹き上がる。

それは魔法の術式と科学理論を併せ生まれたバエルソード。

幾重にも重ねた付与魔法を用いた剣をベースに、魔法により再現したプラズマ切断原理による超電磁コートを用いた脅威の武器である。

これにより、過去の厄祭戦にてバエル、そしてアグニカは『禍祓いの焔』と呼ばれていた。

しかし斬りつけた腕が直ぐ様再生する様を見て、アグニカは舌打ちする。

その舌打ちは、自身(アグニカ)(イザリア)の無念を再認識しているようにも感じられる。

だが休む暇を与えない斬撃がゾンダーに加えられるが───

 

───ビキッ!

 

更に剛胆堅固なバエルソードにヒビが入る。

精霊銀(ミスリル)やレアアロイ程ではないが、最硬度の鉄を芯にした魔術回路を併せ持つバエルソードであるが、青く燃える焔(高エネルギーの超電磁コート)を展開しながらの並列稼動では、アグニカの技術と当時のガンダムバエルの能力の前に、そして今のガンダムバエルの出力で振るうには、剣の完成度が足りなかった。

これが当時の限界である。

 

《……だが、ありがとうよ。お前のお陰であの大戦を生き延びる事が出来た。そして今は──!》

 

バエルソードをマウントし直し、次いで両腰に大型の鞘に収められた二振りのブレイブキャリバーを抜き放つ。

翡翠色の刀身が煌めき、その無念を晴らすようにブレイブキャリバーがGパワーを抱き、燃える焔のように光る。

 

《……バエル、阿頼耶識のリミッター解除。ブレイブキャリバー、魔術回路起動!》

《──Yes,Master.》

 

アグニカの強い想いに、バエルの双眸が激しい光を放つ。

そしてバエルの機体が掻き消えた瞬間、ゾンダーの周囲に剣を振りかぶる無数のバエルの機影が現れた。

 

《──終わりだ。》

 

あまりの速さにバエルが分身したようにも見える程の速さで、一瞬の内にゾンダーを断ち斬るバエル。

腕、脚、頭、胴体───を即時に斬り伏せ、最後に残ったのは妖しく点滅するゾンダー核。それを鷲掴みにしてバエルは放り投げる。

 

《ふん、呆気ないな。さて……頼むぞ。》

 

そしてその先には、あらかじめ待ち構えていた、浄解モードのクストがいた。

 

「は、はい!クーラティオー────!」

 

浄解を発動したクストが、ゾンダー核を浄解する。

ゾンダー化を解いた後、涙ながらに感謝するギャラルホルンの騎士が現れる。

その様子の一部始終をアグニカは凝視する。

 

《……ゾンダー核、そしてあれが核を人に戻す方法、か。まあ当時の俺らにはどうする事も、手段もなかったが……まあいい。今は奴等に対抗出来る力がこの手に出来た事を喜ぶか。》

 

大切な存在がゾンダー化しなければ───

アグニカはそう胸に刻む。

 

「ヴ、ヴリリリィィィーーーー!!まさかあんなヤツに倒されるとは……だがもう1体、本命のゾンダーがいる、それがお前達を───」

 

《──ウィーータァァァッ!!!》

 

《よし、撃破だ!見事、カルディナ!》

「……お、終わった、だと??呆気なく……おお、覚えていろぉぉぉーーー、ヴリィィィィーーー!!」

 

振り向いた瞬間、マギウス・ガオガイガーの光の奔流(ヘルアンドヘヴン・ゼロ)により、呆気なく消滅させられたゾンダー。

ちなみに途中経過は割愛するが、語るには可哀そうな程、ゾンダーは再生機能が追い付かない程にボコボコにされていた事を記しておく。

そしてアグニカも称え、その光景を目の当たりにしてしまったペスカポートは、撤退を余儀なくされ、地面に同化して退却したのだった。

 

《……何か呆気ない戦いでしたわ。単なるゴリ押しだなんて、何かゾンダーらしくないというか……まあ、()()その方が助かりますわ。》

《お前の方がゴリ押しだった気がするが……何だ、本来はもっとややこしいと聞こえるぞ?》

《酷い搦め手と、超科学の精密なパズルを解くような戦いをしてくるような奴等ですので……今はまだしないのか、出来ないのか。詮無き事ですが……あ~、また地形が荒れましたわ。致し方なし……さてムル、浄解を頼みますわー。》

《わかりましたー。》

 

ムルがゾンダー核の浄解を終える事で、今回の戦いも無事勝利するのであった。

 

 

……そして、戦いの一部始終を画面越しに観戦していたマクギリスを始めとしたギャラルホルンの面々は、その戦いに深い衝撃を受けていたのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「───は??バエルを諦める??本気かよ……」

「ああ、本気だとも。」

 

ゾンダーとの戦いの後、荒れた土地を均すため総出で地均しをしていた最中、オルガは同じ作業をしていたマクギリスの言葉に驚いた。

流石に人手が足りないため、比較的協力的なギャラルホルンの人員を選抜し、作業に当たらせている最中の事であった。

流石に他の者達も驚いていたが、作業をしながら、その声に耳を傾けていた。

 

「その心変わりした理由は何だ?」

「単純な話さ、バエルにはアグニカがいるのに、私がそこに入る余地はない……いや、入る必要がないからだ。」

 

そんな理由に、納得したような、何か引っ掛かるような、そんな感じしたオルガであったが、大概他の者達も一緒であった。

だが、マクギリスにとっては重要な事である。

 

「私にとって、アグニカやバエルは幼き頃の憧れであり、ギャラルホルンの象徴……つまりは『力の象徴』であり、それ以上に私にとって原点なのだ。それが時を超え、時空を超えて目の前にいる以上、アグニカのバエル(その相棒)を欲する……それは無粋だと判断したんだ。むしろ私はあの戦いを見て、彼に仕える立場になりたいと思い、志願した。」

「おおぅ……大胆な事で。んで、結果は?」

「条件付きで、家臣となる許しを得た。」

 

手に持った鍬を掲げ、喜びを表すマクギリス。

叫びはしないが、感極まる喜びにそうしているのだろうが、傍から見れば疑問しかない行動である。

ちなみに条件は

 

➀所属をアルドレイア王国、アースガルズ家とする。異論は認めない。

②ギャラルホルン教皇国のスパイとなれ。情報も逐一送れ。

③バエルのマスターは諦めろ。こいつは俺のだ。

④細かい指示などはカルディナに従う。あくまで自分は客将である。

⑤他の部下やギャラルホルンの捕虜の面倒を見る事。もちろん裏切りは許さん。

 

である。

それらを全て快くマクギリスは承諾した。

ただし、マクギリスからも一つアグニカとバエルにお願いしをしたという。

 

「何、大した事ではない。私は前世、今世と共にバエル、そしてアグニカ・カイエルの存在を心の支えとして生きて来た。故に『これからも貴方達を奉信し、そして仕えても宜しいでしょうか?』と。」

「何か、アグニカの教官にとっちゃ、碌でもない思いだろうがですが……」

 

散々悪魔、天使達よりブーイングを貰ったばかりだというのに、随分命知らずなお願いであった。

これに対して、アグニカは個人的に催した祝杯の席で答えた。

 

「……一応、俺はお前という存在がどんな生き方をして来たか、カルディナから聞いている。だからお前に敢えて言っておく。『俺は英雄に非ず、ただの人間だ。』そう言ってもか?」

 

今までのアグニカ・カイエルの像を否定するものである。

しかしその言葉を受け取ったマクギリスの反応が違った。

 

「俺も貴方を厄祭戦の英雄と思っていた一人です。しかし先程の話を聞いて、そして戦いを拝見して、ですがそれは俺の……いえ、アグニカ・カイエルを知る全ての者達の()()()()と思い知らされました。貴方は……人間です。必死にあがき、そして懸命に生きた人間です。今も、これからも。ですが俺はそんな貴方を心より憧れ、慕う一個人です。『カッコいい男(アグニカ・カイエル)と、カッコいいMS(ガンダムバエル)』に憧れる、一人の男なのです───」

 

大の男が面と向かって『憧れ』と言い放った故か、アグニカはそれ以上言わず

 

「……好きにしろ。イザリアも、エリザベートも、バエルもそれでいいか?」

「……危害と邪魔をしないってなら。」

「他の奴らの手綱、ちゃんと引いておいてね~?」

《量子波の対策をするなら許可する。》

「ありがとう……ございます。」

 

 

「───となった。」

「随分……恥ずかし気もなく言い放ったな。」

「経緯はどうあれ、私にとっては半生以上憧れた存在なのだ、堂々と『憧れてます(ファンです)』と言っても恥ずかしくない。むしろ誇れるぐらいだ。バエルがいる以上はパートナーにはなれないだろうが、『後は任せるぞ、マクギリス』ぐらいは言われるようにはなりたい。」

 

楽しそうに話すマクギリスに、オルガは言葉を失う。

その表情は、明らかに自分が知るマクギリスではなかったからだ。

昏い陰はなく、まるで少年のような無邪気さだだ。それは憧れの存在がいる故だろうか。

 

「そ・れ・に・だ。アグニカも私も、ギャラルホルン、そしてカイエル教の殲滅を目論んでいる事は一致している。ならば彼の下で戦う事が私の最善だ。それに異論は認めない。」

「……極まってんなぁ。」

「とはいえ、アグニカが客将である以上、私の上司はカルディナ嬢となる。オルガ団長、今回は立場が同じ者として、同僚として改めて宜しく願う。」

「……変な真似はすんなよ。」

「アグニカの名に懸けてそのような事はしない。信頼を勝ち取れるよう、努力しよう。」

「……まあ、頼むわ。」

 

マクギリスから差し伸べられた手を、オルガは握手で返す。

かつての同盟が、今はここに別の形となって結ばれた事に「これも何かの縁か」と思いつつ、オルガは何とも言えないその(えにし)を感じたのだった。

 

「まずはその機会として、クーデリア嬢の問題の解決だ。私もその件を手伝う事になった。」

「クーデリアの……ああ、ドルト商業集落(コロニー)の一件か。」

 

ドルト商業集落(コロニー)の労働者への賃金問題。

アースガルズ商会も取引している商業集落(コロニー)で、その名の通り商業集落(コロニー)ごとに商業製品を製造し、管轄している領主が商品を集め販売、その売り上げを住民に賃金として払っている。

しかし、2~3年前に領主が代替わりした頃から一変、低賃金の支払いが起きた。

領主の説明に初めは渋々従っていた住民達。しかし一向に改善せず、遂に賃金の未払いが起きた。これには住民が怒り、先月ストライキを起こし、現在もそれが続いている。

だが土地柄、アルドレイア王国にもギャラルホルン教皇国にも近いこの地に、両者の介入が入る事は明白であった……

 

そしてこの件にクーデリアが当初配給、炊き出しの人員として志願、小競り合いで負傷した住民達の怪我を魔法で治した事で『聖女』と崇められたのだが、カイエル教の教団員がそれに注目、強制勧誘しようとし、避難してきたのが先日の話。

オルガ達は後日この件に介入し、解決するよう指示されている。

ちなみにシナリオとお膳立ては既に出来ているそうだが……

 

「モンターク商会の力も使うので、準備は必要だがまずはこれを……」

「ん、どした?急に黙って。」

 

ふと、マクギリスの動きが止まる。

深い思考の海にでも入ったのか、その動きはピタリと止まっていたが、オルガの声で正気に戻る。

 

「あ、ああ、済まない。ここに来てから疑問に感じていた事が、ふと浮かんだのでね。」

「疑問?まあ、解らねぇ事だらけだろうが、大概は答えてやれるが……」

「そうだな……では君の意見も聞きたい。疑問は2つある。まずは天使と悪魔の存在についてだ。彼等は何者なのだろうか?」

「──!?」

 

最初から答え辛い質問である。

馬鹿にしているのか、と思ったが当のマクギリスは至って真面目である。

 

「……さあな。俺の認識は人間を超えた滅茶苦茶強い存在で、大半はお嬢の部下。そんで一部はガンダムフレームやモビルアーマーの主要システムの中核。んで俺らの教官もやってるし、お嬢のガオガイガーのマギウスマシンのパイロットもやっている、高次元の存在……つー位か。」

「……凄まじい回答を感謝する。」

 

質問を振っておきながら、マクギリスの顔は引きつっていた。

ちなみにオルガは言っておきながら半分解っている程度の実感である。

 

「私の認識は団長の半分ぐらい……いや、それ以下か。精々魔法的な存在……位の認識なのだか、君達といて、ふと思った。『ずいぶん科学的な存在だ』と。」

「科学的……」

 

言われてみればそうだ。

ガンダムフレーム然り、非常に適合している。

高位次元体の認識然り、()()()と判明しているし、科学文明に拒否感がない。むしろ取り込もうと積極的だ。

マギウスマシン……これは保留。魔法か科学か判ったものじゃない。

 

「……偶然か?」

「混乱させるつもりはないのだが……私もバエルが改めてどんな存在か考えた時、そう思ったので、あえて提示させて貰った。やはり君達も明確には解っていないのか。」

「付き合いは長いが……いざ面と向かって言われるとな。むしろ科学的なのは三重連太陽系の御仁達がいるせいだろうよ。」

「三重連太陽系……超科学を誇った文明か。未知この上ないな。」

 

だが、ガンダムフレームの出所を鑑みると、それだけとは言えない。

とはいえ、それだけで説明もつかない。堂々巡りだ。

 

「……やっぱ解んねぇな。」

「済まない、だがこの話の回答はカルディナ嬢が持っているのだろう。それに急く事でもないので私は私でゆっくり考察しようと思う。で、もう一件の話だが……こちらは君にも関係があるだろう、ドルト商業集落(コロニー)の『お膳立て』についてだ。」

「ああ。そっちは協力者が準備をしてくれてるって話だが……」

「その協力者が、おそらく『アドモス商会』と言ったら君は驚くかい?」

「は……アドモス商会?!」

 

前世、クーデリアが希少金属ハーフメタルの採掘・一次加工、流通と取り纏めるために設立した会社、それがアドモス商会である。

しかし、今のクーデリアはそのような商会を設立しておらず、アースガルズ家に属する彼女にはアースガルズ商会が後ろ盾しているので、わざわざ商会を創る理由も、そしてその名前の由来となった『フミタン・アドモス』との関りも然程ない筈なのだが……

 

「……知らなかったのか。」

「ああ……今、非常に驚いてる。当のクーデリアもおそらく知らんだろう。」

「今のアドモス商会は、商人ノブリス・ゴルドンの持つ『ゴルドン商会』の一傘下商会だ。名前こそ今では無名に等しいが、名の知れた商会には有名で、長い歴史を持つ商会だという。しかし最近独立し、ノブリスの元から消息を絶っている。その影響でゴルドン商会はアドモス商会からの主要取引先を幾つも失い、経営はガタガタ。そして今回のドルトの騒動にゴルドン商会は再起をかけて領主側に付いて暗躍しているようだ。そこにギャラルホルンとカイエル教が介入……ゴルドン商会の上顧客はあちらだからな。」

「ノブリス・ゴルドン……奴もいやがったか。」

「我々と違い、記憶こそ取り戻していないようだったがな。ちなみにアドモス商会の商会主の名は、ヴィータ・アドモスという。」

「ヴィータ……知らねぇな。けどアドモスの姓って事は関係者かもしれねぇって事か?」

「ああ。こちらにフミタン・アドモスを名乗るメイドがいたので、もしやと思ったが、容姿は完全に別人だった。だが……逆に商会主と言われるヴィータは、むしろ『フミタン・アドモス』だった。」

「何……だと??」

 

それは5年程前、マクギリスがギャラルホルン教皇国の領土内でたった一度だけ、見掛けたという。

モンターク商会の行商で、とある街を訪れた時にすれ違った人物───

 

「髪型は───むしろあのメイドと同じ様だったが、容姿そのものは間違いなく私達の知るフミタン・アドモスだった。」

「本当かよ……」

「その時は他人の空似だと流したが、今省みるとその街にあった店舗がアドモス商会を掲げていた事を思えば、無関係ではない筈だ。そして後に聞いた名が───」

「ヴィータって名前か。」

「ああ。しかし今はその街を含め、アドモス商会の店舗は何処にもないので確かめようがない。掴んだ情報がゴルドン商会の傘下店、ぐらいだ……しかし当時の彼女が本当にフミタンで、あのメイドがヴィータなる人物と仮定したなら、ある仮説が生まれる。」

「……今回の一件は、お嬢が全て絡んでるってか?」

「ああ。しかも相当前……カルディナ嬢がアースガルズ商会の商会主となる遥か前の話になる。そんな前からノブリス・ゴルドンを潰す計画を立てていた、という仮説が……」

「嘘だろ……いや、お嬢ならそんなガキの時にでもそんな事を企てても不思議じゃねぇ。でもそうなると一番気になるのが『何でそんな面倒な事をしたのか』、だな。」

「仮に互いの名前の交換した事が事実として、その真の理由、とは……」

 

「「 ……… 」」

 

「ふむ、解らないな。特に名を交換して、その後の我々への不利益が、まったく見当たらない。おそらく個人的な見解によるものか、ノブリスへの目くらまし、か……」

「まあ、お嬢の考えなんて、常にぶっ飛んでる。後で聞けば判るだろう……教えてくれれば、だがな。いたっけな……」

「───あー、オルガー。」

「あ?ビスケット、どした?」

「いや、お嬢の話が聞こえたから教えようと思ってさ……お嬢、ついさっき魔法学園に出かけたよ。」

「……タイミング悪いな。んで、急用か?」

「いいや、何か取りに行くって。」

「あ、そう……」

 

そうしてこの話は一先ず終わった。

 

 

だが、彼らは知る事となる。

 

カルディナの真意と、その理由を。

 

この世界に隠されていた、かつて世界終焉の脅威に怯えた少女の慟哭の種が、とある事件と共に……

 

 

 

《NEXT》

 

 


 

 

《次回予告》

 

 

『ヴィータ』の謎を残しつつ、ドルト商業集落(コロニー)遠征に向け、準備を進めるカルディナ達。

 

その合間を縫って、カルディナは母校の魔法学園に向かう。

 

そこで行われているディバイディング・ドライバーの開発。

 

鉄華団とは別の、多彩な学友達による喜劇と悲劇。

 

果たしてディバイディング・ドライバーの空間座標コードは発見出来るのか?

 

そして意外な人物による『国殺し』の発見とは!?

 

「やめろ!そこから先は言うな!」」

「……言い値で買うわ。」

「ざぁ~んねん!もうみんな聞いちゃった~」

「ちょっと!物騒な事に巻き込まないでよ!」

 

正に喜劇と悲劇である!

 

次回『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

Number.21.5 ~空間を切り開く螺旋(ねじ)回し~

 

 

これが勝利の鍵だッ!!

 

『ディバイディング・ドライバー』

 

 

 


 

 

《現在、公開出来る情報》

 

 

〇アグニカ・カイエル

 

300年前の厄祭戦においてガンダムバエルを駆り、モビルアーマーと戦った伝説のパイロット。そして後にギャラルホルンの原型となる組織を作った人物。

この世界でも起きた厄祭戦にて幻晶騎士(シルエットナイト)『バエル』を操り、ゾンダーと戦った英雄。

なお、『オルフェンズ』の作中では名前のみの登場で、容姿などは設定されていないが、現在のキャラ形成はカルディナが作為的にデザインしたものを使用。

本人曰く「この姿は本来の自分とは決別した姿」との事。

ちなみに、元となったのは『ワイルドアームズ2ndイグニッション』の主人公・アシュレーが、侵食世界カイパーベルト戦を終えた後、アシュレーの精神世界内で復活したラスボス・ロードブレイザーを打ち倒すべく、真にアガートラームの力を発現した『剣の英雄』の姿。

『我、英雄に非ず。真の英雄は今を生きる人々そのもの』を現すため。

原型となった素体は『物質瞬間創造高速移送艦サクヤ』の躯体を能力封印デチューン・戦闘特化した、小型GSライド搭載型の純然なアンドロイド。

食事摂取は一応可能であるが、消化吸収は出来ず、内燃機関で量子分解する必要があるが、飲水・飲酒は制約なく可能。

 

 

〇イザリア・カイエル

 

アグニカ・カイエルの第一夫人で、優秀な銀細工師のダークエルフ。

また、魔法使いとしての腕は姉のエリザベートには遠く及ばないが、幻晶騎士(シルエットナイト)の技術者としても非常に優秀な手腕を持ち、彼女の製作チームで悪魔憑依込みの幻晶騎士(シルエットナイト)製のガンダムバエルを製作出来るほど。

アグニカとは恋愛結婚の仲。

その影響でギャラルホルンやカイエル教に追われ、それを機にその腕を隠している。

ちなみに『フランベル』は旧姓。

 

 

〇エリザベート・カイエル

 

アグニカの第二夫人であり、カルディナの師匠。そしてイザリアとは双子の姉。

アルフヘイム(ソムニウム)に連なる血統の持ち主であり、『実』による変身は数える程しか出来ないものの、世界五指に入るダークエルフの魔法使い。その実力は機界融合前のゾンダー人間を魔法で滅ぼせる程。

アグニカにぞっこんで、イザリアと婚約仲であったアグニカに連れ沿う。

また、アグニカの死後、彼の魂を保護し続けたのは彼女であり、アグニカの為に魂に関する研究も行っている。

 

 

〇バエル

 

『ソロモン』の第一位の悪魔……らしい。

普段の容姿は白髪のオレンジ色の瞳の少女。

その姿は周りの悪魔、天使からは驚愕の視線で見られるほど。

将来の夢は「アグニカのお嫁さん」らしい……???

 




アグニカに始まり、『アドモス』の謎で終わる……
いよいよ、キャラ違いの『フミタン・アドモス』の謎が少し解明されます。
その話は『公爵令嬢は~』の1つの区切りになります。
そこにはお嬢様の悲劇と、決死と無理ゲーな戦いが……

ですが、次回は間話です。

ここで、以前に言っていました『他作品のキャラ』を出します。
ノリは一種の学園ものになります。極論削っても問題ないのですが、本編であって本編でない、あくまでディバイディング・ドライバー開発がメインの話です。
次回はこんな奴らが造った、程度で読んでください。

ちなみに、シリアスさんは死ぬ予定です。
手加減??そんなものはない。


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Number.21.5 ~空間を切り開く螺旋(ネジ)回し~

さて遅くなりましたが?間話、もとい混迷の極みです(意味不)

本編には登場しない、陰で蠢く奴等(笑)がお嬢様のせいで色々やってしまう話です。
今後「Number.◯◯.5」系の話はこの路線で行きたいと思いますので宜しくお願いします。(と言う名の不定期更新)

また、参戦(?)作品は以下の通り。

『コードギアス』(シリーズは全部)
『クロスアンジュ』
『魔法騎士レイアース』(キャラのみ)
『リリカルなのは』(魔導端末のみ)

では混迷の極み(序章)をどうぞ!


 

 

◯魔法学院 第24番教室

 

「クッ……この数値でも駄目か。」

「う~、残念です……」

 

扉の前に『放課後試験クラブ』と銘と打った看板があるその一室、その人物はうんざりとした様子で溜め息をつき、そして向かい合う人物はその答えに赤い髪から覗く『猫の耳』が見るからにしょんぼりとした。

 

机に向かってキーボードに数式を入力し、Enterキーを打ち、目の前の機材に発現する現象を計測、その現象が望みのものであるならば成功、それ以外は失敗───

 

()()はこの数ヶ月の放課後、若くして坐骨神経痛にでもなるんじゃないかと言わんばかりの時間を座って、何千、何万と費やし、そして実験に明け暮れていた。

 

ただし、依頼主からは「あんまり根詰めないで下さいませ」と言われているが、それでもやってしまうのが彼らである。

 

「……ルルーシュ様、光様。少し休憩をされた方が宜しいかと。」

「ん?そこまで経ったのか。」

「ええ……うわ、本当だぁ。」

 

傍らに控える咲世子(さよこ)が心配そうに進言しつつお茶の用意をする光景に、時計を見て夢中になり過ぎていた事を自覚するのは───獅堂(しどう)(ひかる)

中学2年生(異世界転移者)。

そして───ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。

神聖ブリタニア帝国第11皇子(転生)。

 

「そうだな……休憩するか。」

「御自愛下さいませ。光様もどうぞ。」

「お呼ばれしま~す。」

 

だがその間を待たず、ルルーシュのいる教室に遠慮なく入る人物が。

 

「──ルル~シュ~、持ってきた──ガク……」

「あー!!アンジュリーゼ様、お気を確かにー!!」

「アンジュさん、大丈夫!?」

「……アンジュ、来てくれたのは良いが、お前も少し休め。」

「アンジュリーゼ様、酷い顔です。」

「はッ!?私、今寝落ちしてた?」

「ああ。」

「今、お茶を用意致します。モモカさん、アンジュリーゼ様をこちらに。」

「ありがとうございます、咲世子さん。さ、アンジュリーゼ様……」

「……そうさせて貰うわ。」

 

寝不足気味でモモカに支えられているのは、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ────ミスルギ皇国第一皇女(転生)。

 

咲世子が継いだお茶をモモカが給仕し、そのお茶を一気に煽るように飲み干すアンジュ。

非常に()()()()()所作だが、ルルーシュも大人しいものの、似たように煽って飲み干す。

光は用意された和菓子に蕩けるような表情で舌鼓を打ち、ご満悦であった。

 

「──っかぁ~、濃いめのお茶が沁みるわ~。」

「甘さが……甘さが身体に沁みますぅ。」

「……末期じみた発言だな、光もアンジュも。」

「あんたも似たようなもんでしょ、ルル。」

「そうですよ、この状況で何も感じないのは人間じゃないです!」

「……違いないな。」

 

3人は相当くたびれていた。

ちなみに依頼主はこんな展開になる事は予想済みで、お茶、茶菓子等は既に十分な量を咲世子さんに渡している。

 

「ところで、持ってきたのか?」

「ええ、これよ。」

「わ゛。凄い紙束……」

「他の子達の分もね。あんた達は成果あった?」

「ああ、ようやく3分の2はな。光のお陰でコア消失からの湾曲空間展開までは良くなったんだが、展開からの空間形成がな……」

「海ちゃんも風ちゃんもお手上げで、私達はルルーシュさんに託してどうにかなった次第ですけど……」

「へぇ~、そこまで上手くいったのね。私は展開は最悪、持続時間は長いんだけど、空間成形がね……」

「元々砂地に埋もれた宝石の粒を見つけるような実験だ、そう簡単に──ん?これは……待てよ、ここを使えば───」

「何……どうしたのよ。」

 

何かブツブツ呟くルルーシュ。

アンジュの問い掛けにも聞こえない程の集中力で、渡された紙束を凝視し───

 

「……フッ、条件は全てクリアした!」

 

ニヤリと笑って機材のキーボードの元に行くルルーシュ。

ドルイドシステムで絶対守護領域を展開するよりも速いタイピングで数値を入力し、Enterキーを叩く。

すると機材の動きの一部始終を観測していた3人は、反応が終わった後、ゆっくりと顔を見合せ、その喜びを表すのに、ハイタッチするのであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

翌日───

 

 

「ファイナル・フュージョン───ガオ、ガイ、ガァァァーーー!!!」

 

学園が指定する屋外実験区域、その空でカルディナは自前の鎧──ミニ・ガオガイガーへとファイナル・フュージョンを果たす。

 

《続いてディバイディングドライバー、超電導リニアカタパルトへ装填──“ミラーコーティング”スタート───完了、イミッションッ!!》

 

カイン、アベルよもたらされた『ミラー粒子』により開発が早まった『M・C蒸着装置』で、ミラー粒子で|鏡面蒸着(ミラーコーティング)を行ったのはミニ・ディバイディングドライバー。

フミタンのナビゲートにより、カタパルト表面との間に強力な電磁力の反発作用を発生させ、物体を加速、射出する超伝導リニアカタパルトに載せられ、ミニ・ガオガイガーの元へ飛ばされて行く。

 

「来ましたわね……相対距離、確認。軸合わせ───接続!!」

 

スラスターを吹かせ、ミニ・ディバイディングドライバーとの相対距離を合わせるミニ・ガオガイガー。

ミラーコーティングが空中で剝離したのを確認した後、左腕に接続する。

 

「ガオガイガー、DDモード確認───いつでもどうぞ。」

「よっしゃァァァアアアーーー!!!ディバイディング、ドライバァァァーーーッ!!!」

 

DDモードのミニ・ガオガイガーがスラスターを全開に、ミニ・ディバイディングドライバーを掲げて空高く飛び上がる。

そしてひねりを加えながら地上に向けて急速降下、エネルギーが満ちたブレードを地面に叩きこみ、外側にある5つのゲージより5発の炸裂音と共にブレードから発したエネルギーが地面を疾り、大地を割る。

形成されたディバイディングコア、それを中心にレプリションフィールドの次元反発作用によって空間を押し広げ、アレスティングフィールドによって固定、形成された直径1kmにも及ぶ深さ10m程の円柱状の平地空間である、マイクロ・ブラックホール並みのエネルギーを用いて顕現した湾曲空間───ディバイディングフィールドを発生させたのであった。

ディバイディングコアが消失した後も、フィールドは維持され、そして空間崩壊が起こる事もなかった。

 

そしてディバイディングフィールドの淵に降り立ったミニ・ガオガイガーはDDモードを解除、ディバイディングドライバーを置き、フィールド内に降り立つ。

 

そこに別の個体が降り立った。

対面するのは全身が土気色であり、全長2メートル程であるが、見間違う事はない特徴的なデザインの2体のナイトメアフレーム───KMF史上“2強”の存在たる、ランスロットと紅蓮弐式である。

ただし、そのデザインラインから推察するに、ミニ・ガオガイガーの様なパワードスーツ仕様ではない。

その2体を確認するや否や、ミニ・ガオガイガーは、片手で「くい、くいっ(お相手差し上げますわ)」をすると、2体は両脚のランドスピナーを起動、フルスロットルで高速移動を開始。

紅蓮は「絶対泣かす!」と言わんばかりの気迫(アイライト)を放ち、対するランスロットは「……やれやれ」と首を軽く振る仕草をした。そして迎撃すべく、ミニ・ガオガイガーもスラスターを起動し、低浮遊(ホバリング)を始める。

 

まずは挨拶代わりにと、ランスロットがヴァリスを模した魔導兵装で狙いを定め、単発連射。次いで紅蓮弐式が飛燕爪牙(スラッシュハーケン)を飛ばしながらミニ・ガオガイガーへと接近する。

低浮遊(ホバリング)でゆらゆらと揺れながら単発連射の弾を回避し、その後、姿勢を低くして最大戦速。両腕にGバリアを展開し、弾丸をいなすように飛燕爪牙(スラッシュハーケン)の先端をかち上げるが、その直後に待っていたのは紅蓮の右腕(輻射波動)が今、正に振り上げた腕を狙いを込めて振り下ろさんとしている。

しかし、ミニ・ガオガイガーは即座に紅蓮弐式の右側に独楽のように回り込み回避、回し蹴りを紅蓮の胴にお見舞いし、蹴り飛ばす。

その刹那にランスロットが急接近、(MVS)を振り下ろすも回し蹴りの反動で離脱したミニ・ガオガイガーはその一撃を避ける。しかし、その離脱を読んでいたランスロットはもう片手の(MVS)で追撃、しかし紙一重で当たらない。

態勢を立て直した紅蓮がグレネードランチャーを、ランスロットが再びヴァリスを連射するも、プロテクトシェードで防ぐ。

今度はお返しと言わんばかりに、ミニ・ガオガイガーが両腕を広げ───「ヘル・アンド・ヘブンッ!!」

その行為を「待ってたよ!」と小さくガッツポーズしながら紅蓮はランドスピナーで大周りで旋回、輻射波動をセット。

ランスロットも同じように側面から攻める。発動までに大きな隙があるヘルアンドヘブンは単機で左右、もしくは前後の応戦は出来ない。

 

「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グ───キャンセル。」

「「!?」」

 

ここでヘルアンドヘブンをキャンセル。

その行為に紅蓮は「何でするのよ、そこでぇー!!」と驚愕し、ランスロットも判断が一瞬遅れた。

その隙を突いてミニ・ガオガイガーは後退、左腕に充填された飽和限界のプロテクトエネルギーを用いて───

 

「──プラズマ、ホォォーールドッ!!」

 

機体が交錯する一瞬に、以前にも身をもって体感したものより1.5倍も強力なプラズマホールドで2機は拘束。

 

「──か~ら~の~、ブロウクン・マグナァァーームッ!!」

 

ヘルアンドヘブンに使われる片割れ分の量のブロウクンエネルギーを内包したブロウクン・マグナムを受けて、紅蓮とランスロットはまとめて「爆・散ッ!!(by:オレンジ卿)」されるのであった───

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「まさか纏めて拿捕されるとは……」

「……嘘でしょ、挟撃出来ると思ったのにィ~。」

「だから言ったじゃない、カルディナ相手に挟撃(それ)は悪手だって。」

「散々()()で実験で弄られたのを忘れたのか、2人とも。過信が過ぎるぞ。」

「……返す言葉がないよ。」

 

ディバイディングフィールドの縁に設置された、シミュレーター用のKMFコックピットブロック2基より無念の声が漏れる。

枢木スザクと紅月カレンの2人である。

そして傍らのアンジュとルルーシュが2人に苦言を挺する。

 

「っていうか、私にはリニアシート型の操縦席は馴染めないわ。こう……腕を突き出せない感覚が……。」

「僕にはバイク型の方が馴染めないけど……後ろが見辛いし、姿勢が……」

「飛行兼高機動戦闘ならバイク型、近接戦闘込みならリニアシート……パラメイルの可変コックピットって実は凄かったのね。」

「それでも使い分けが必要だろ?可変時に隙が出来る。まあ、今回2人が負けたのは不慣れなコックピットの仕様……という訳だな。」

 

スザクとカレンのコックピットの仕様が逆だったのである。

決して腕が落ちたとかではない。

 

「とはいえ、スザクとカレンを纏めて撃墜するとは……無茶苦茶な女だ。」

「そうね……エースだったんでしょ、2人とも。」

「ああ、しかもとびっきりのな。」

 

紅蓮とランスロットの残骸を両脇に、ディバイディングフィールドから離脱、着地するミニ・ガオガイガーこと、カルディナを見上げるアンジュとルルーシュ。

 

彼等は皆、同級生である。

そして更には───

 

「撃墜、お~め~で~と~う~!……あ~、やっぱり撃墜されたねぇ~え。予想はしてたけど技術者としては悔しいねぇ。」

「そうねぇ~、2人とも不慣れなモノを使うからよ。とはいえ、コックピットの環境問題は簡単じぁないよ。」

「ああ。3つ候補がある。それぞれ利点がある以上、1つに絞るのは……やはり難しいな。」

「……あの~、御三方?今の論点そこじゃないと思うんですが。」

 

更に傍らに控えていたのは、ランスロットの生みの親、ロイド・アスプルンド。

紅蓮弐式の生みの親、ラクシャータ・チャウラー、セシル・クルーミーの姿が。

そしてその中に何故か、『クロスアンジュ』ラスボスであるエンブリオまでもがいる。

そこに突っ込みたいところだが、アンジュが特に気にせず何も言わないところから、何かが違うようだ。

またそれ以上に、4人全員が白衣を着ており、ロイド、ラクシャータ、エンブリヲが向かい合って意見をぶつけている辺り、『混ぜるな危険』という文字が浮かぶのは間違いではない。

 

そんな事をしている間に、ディバイディングコアが消失した後の約30分が経過、そして空間崩壊が起こる事もなく、フィールドは集束、消失した。

そしてフュージョン・アウトしたカルディナは彼等に近寄って行く。

 

「どうだ?ディバイディングフィールドの状態は。」

「文句無しの環境、そして注文通りの持続力ですわ!これで実戦に耐えられるものが出来そうです!」

「フッ……ならこれでお前の依頼──『ディバイディングドライバーの湾曲空間の形成値の発見』は、達成したと言っていいな?」

「ええ、もちろんですわ。」

「わかった。詳しい事はこのファイルに纏めてある、後で確認しておけ。」

「───ッシァッ!!」

 

ルルーシュより、その数値が記載された紙束を受け取り、喜びのあまりにガッツポーズをとるカルディナ。

 

「はしたないぞ、カルディナ。公爵もぐもぐ…令嬢のもぐ…のする所作ではもぐ…ないだろう……もぐもぐ

「……その言葉、ピザを食べながら言う台詞じゃないと思うけど、C・C。」

「いいだろう、カレン。労働の正当な権利だ。私はピザを食べたいのだ。カルディナの奢りで。」

「……あんた、一番サボってなかった??」

「まあまあ、カレン。それぐらいで結構ですわ。今日、非常に上機嫌なのです、それくらい目を瞑りますわ。まあ、そのピザ代の請求先をルルーシュか、C・Cにするかは後で考えますが……」

「何だと!?そこは奢りだろう!?」

「……どうして俺に請求が来る?」

「嫁の食い扶持ぐらい、持ってってヤツですわ。」

「つまり奢るつもりはないと。」

 

カルディナの普段は見ない光景だが、学友の前ではこんなものである。

更に───

 

「カルディナ、お待たせ。」

「よ、カルディナ~。」

「サリア、それにヒルダ、ヴィヴィビアン、エルシャ。この度はどうも──」

「いいっての、そんな固っ苦しい挨拶。そ・れ・よ・り・も……」

「はいはい、報酬は後でお渡ししますので、よしなに。ヒルダは……」

「……私は、後でいいわ。」

「了解。」

「……にゃ~。カルディナ~、私はもうコリゴリだにゃ~。」

「フフ。ヴィヴィちゃん、頭から湯気出っぱなしだったものね~。」

「あはは……次頼む時はもう少し身体を動かせるものにしますわ。」

 

また更に───

 

「カルディナさ~ん!」

「ああ、光。海、風も。この度はありがとうございます。」

「いいのよ。お陰で稼げたし。とはいっても……」

「ええ。中学で習う知識で考えるには大変でした。」

「でも実験は面白かったです!導き出した数式があんな現象を起こすなんて!カッコ良かった~!2度目は御免ですけど……」

「あはは……」

ぷぷぅ~(やあ、こんにちは)ぷぷぷぷぅ(カルディナ・ヴァン・アースガルズ)。」

「あ、モコナ。こんにちはですわ。」

……ぷぷぷぅ~(君はこの子らに何をやらせてるのかな?)ぷぷぅ……(こんな事を仕出かすとは……)ぷぷぷ(後で体育館裏に呼ぶよ)。」

「……何を仰っているのか、解りませんわよ、モ~コ~ナ~(このまんじゅうウサギ)?」

 

モコナ(まんじゅうウサギ)が「めきょ!」として不穏なコメントを垂れ流しているのは気にしない。

きっと魔神(マジン)達との限界バトルが待っていそうな気がする。

 

とまあ、こんな面子が揃って実験に携わっていたのだった

さて、話を進める前にこの状況について説明しよう(CV:小◯清志)

 

まずルルーシュを始めとする『コードギアス』『クロスアンジュ』のメンバーは大概皆、転生者である。

そして『魔法騎士(マジックナイト)レイアース』の3人は転移者、らしい。

 

まず『コードギアス』のメンバーは、アルドレイア王国からはだいぶ離れている神聖ブリタニア帝国にいる彼等には、カルディナが武者修行行脚の折に出会った。こちらのブリタニアはアルドレイアと同じく、『ボキューズ大森林』からの魔獣被害に苦しむ国でもある。

彼等とはカルディナの武者修行旅の際に面識を持ち、多々の経緯を超えて、その縁を得てルルーシュ一行はこちらの魔法学園に来た。

その目的は魔法を学ぶ事はもちろんだが、一番の理由は 魔獣被害に遭った折に重傷を負って歩けなくなった、ナナリーの為である───

 

ちなみに、前世の記憶を持つのはルルーシュ、スザク、C・C、カレン、咲世子の他……

 

「──お兄様、スザクさん。実験が上手くいったと伺いましたが……」

「ああ、ナナリー。やっと終わったよ。実験は成功だ。」

「ああ、良かった……これで早く帰ってこられますね。」

「ようやくな。」

「どうでしたか、スザク。」

「ああ、ユフィ。慣れない事はするんじゃないね……カルディナには負けたよ。」

「そうですか、カルディナ相手では仕方ないですが……次は頑張ってください。」

「もちろんだ、次は負けないよ。」

「それではカルディナさん、ナナリーの件は……」

「もちろん、ナナリーの事はお任せを。既に用意してありますわ。」

「あぁ……良かった。これでナナリーも歩けるのですね。」

「ああ、何だかドキドキします。」

「まだ上手くいってないのというのに気が早いな、ナナリー。」

「ルルーシュ。カルディナさんですもの、信用していますわ。」

「……ユフィに、そこまで言われるとと何とも言えんな。ではジェレミア、咲世子。ナナリーをユフィと一緒に第23番教室に案内してくれ。既に準備は整えているそうだ。」

「お任せを、ルルーシュ様。それとカルディナ嬢、この度はありがとうございます。ナナリー様の脚がようやく……」

「いいえ。ナナリーの事は私も無関係ではないので。」

「俺も残りの用件を済ませてから行く。ナナリーを頼むぞ。」

「「イエス、ユア・ハイネス」」

「ではルルーシュ、カルディナ。先に参ります。」

「ルルーシュ、僕もユフィについて行くけどいいかい?」

「ああ、頼むぞ。」

 

そしてナナリー、ユーフェミア一行は教室を離れる。

ちなみに、ユーフェミア、ナナリー、ジェレミアも前世持ちである。

ジェレミアはともかく、ユーフェミア、そして、ナナリーについては色々あったが、この場では割愛させて頂く。

 

少なくとも現在は全員が納得出来る環境である、という事は間違いない。

また、ルルーシュとC.C.はともかく、カレンがここにいる理由は、前世の事も含め……聞くだけ野暮と言うところだ。

聞いたら顔を真っ赤にして、全力でそっぽ向かれた。

つまり、そういう事だろう。

 

 

そして次に『魔法騎士(マジックナイト)レイアース』の三人娘(+1匹)だが、彼女らは『転移者』だ。

修学旅行で偶然居合わせ、東京タワーの展望台で光に包まれ、やって来たのがこの世界。

しかし魔法騎士(マジックナイト)の力が現れるでもなく、異世界チートがある訳でもなく、見知らぬ土地で生きて行ける訳でも無し。

ただ、転移先がアースガルズ領の町の中。転移後すぐに町中で見つけたカルディナが保護した経緯がある。

 

(………何してますの、仕事しなさいな、まんじゅうウサギ(モ~コ~ナ~)??)

(事故、事故、事故!!)

 

とりあえず転移後、呑気に彼女らのマスコットキャラクターになっているモコナ(まんじゅうウサギ)を縦横無尽に揉み解した。一応、フォローはしているらしいが管轄が違うらしく、直接神様的な事は出来ず、役に立たない。

現在は再転移のタイミングを待ちながら、学園で勉強しつつカルディナが生活に困らないようアルバイトを斡旋している。

お陰で原作以上に異世界生活っぽい事をしていいる始末。

 

魔法騎士(マジックナイト)』??その辺りにゴロゴロいますが、何か??

 

モコナ(まんじゅうウサギ)は彼女らと暮らしているが、時々姿を消してはこの世界を巡っているようだ。目的は不明。

 

……あらぬ事を考えてると、電光超人キック(ウサギ風味)が襲って来るので注意を。(実害有り)

 

 

最後に『クロスアンジュ』のメンバーだが、かつて所属していた孤島・アルゼナルのアンジュを始めとした主要メンバーがこの学園に通っている。

理由は『魔力(マナ)により魔法を使えるようにするため』である。

……『ノーマ(普通の人間)』と蔑まされていた彼女らであるが、転生してもこの世界でも魔法が使えないらしい。

普通は使えるのであるが、既に呪いといってもいい部類だ。

流石に迫害まではないが、王家として見聞が悪いとの事で荒療治まがいに、また、カルディナが武者修行時代に出会った縁もあってこの国に留学している。

 

ちなみに魔法が使えない理由は既に判明しており、魔術演算回路(マギウス・サーキット)で演算した術式が魔力(マナ)に干渉しないという、解剖しなければ解らないもの。

カルディナの診断でようやく判明したのだった。

 

故にその報酬は、彼女らの体質を考慮した『魔法が使える補助具(デバイス)』である。

 

「ではこれらになります。」

「へぇ~、無難に杖ね。あんたなら銃でも出ると思ったけど。」

「……私とて、そこまで愚かじゃないですわよ。銃の流布は危険でしょうに。今回用意したのは量産品ですわ。」

「でも随分可愛いデザインじゃん。それによく見ると1つ1つ違うし。私はこれなんかが──」

《──Completion of registration(登録完了).Hello my master(こんにちは、私のご主人). I'm Raising Heart(私はレイジングハートです). Thank you for your continued support.(これから宜しくお願いします)

「え~!?喋るんだ~!私はヒルダ、宜しく~!」

You are name Hilda……(貴女はヒルダ…… )

 

真ん丸の赤い宝玉を金の三日月で覆い、一部ピンクの基幹に白い長柄の杖が、ヒルダが手を取った瞬間に突如喋り出した。

ヒルダが自己紹介で名前を教えると、しばらくその杖は黙るが……

 

Ok,All ligth(ええ、わかりました。). So what are you going to do next?(それで、この後何をしましょうか?)

「早速だけど魔法の練習したいんだよね、出来るかしら?」

出来る?。」

All ligth(お任せあれ。). Let's go Hilda(それでは参りましょう).》

「んじゃレッツゴー!」

「あー、ヒルダ!私も~!」

「じゃあ、私も。」

 

そしてウキウキで練習場へと走り出すヒルダ、ヴィヴィアン、エルシャ。

 

その光景を宇宙猫(何が起きたか、じぇ~んじぇんわからにゅ)なカルディナが見送った。

 

「……どうしたのよ、未知の光景を目の当たりにしたような顔して。」

「え、あ、いや……何で喋るのかな、と。そんな機能は付けてないし……それ以前に、あんなデザイン作りましたかしら?」

「何を言っているのよ?自分で作ったんでしょうに……あ、私はこれにするわ。」

 

そう言ってアンジュは黒い斧らしき杖を選ぶ。

狙ってやっているのか、偶然なのか……

 

《──Completion of registration(登録完了).Hello my master(こんにちは、ご主人). I'm Bardiche(私はバルディッシュ). Please order(ご命令を).

「初めまして、バルディッシュ。私はアンジュリーゼ・斑鳩・イスルギよ。早速だけど、色々魔法を試したいのよ、付き合ってくれるかしら?」

Yes,mam(了解).》

「ありがとう。なかなか素直な子じゃない。じゃカルディナ、またね。」

 

そしてウキウキの駆け足でヒルダ達の元へと向かうアンジュ。

カルディナはその後ろ姿を呆然と見送る事しか出来なかった。

 

「……私、あの2本作りましたっけ??」

《──お答えしましょう。》

「V.Cサン??何か知ってますの??」

《あれは間違いなくお嬢様が作った杖です。眠気眼(ねむけまなこ)でしたので「リリカル~、マジカル~、zzz……」とか寝ぼけてましたが。また、作られた杖は手作りながら、非常に良い出来だったので、原作再現の為に音声認識機能(相棒同様なもの)があれば良いと愚考し、会話型AIをインストールしました。》

「貴女のせい!?それで『レイジングハート』ですって!?しかも『バルデッシュ』も!?」

《ですが、ただの会話・能力補助AIです。能力再現も不完全で、流石にオリジナルのような出力はありません。」

「……え?それって限定的な能力再現はあるって事?」

《……》

「V.C、正確に報告しなさい。何処までやったの?」

《ちょっとしたお遊びでした、原作再現しています、さーせん。ただ、出力不足は否めなかったので対ゾンダー戦も考慮し、全ての杖にGストーンを少し加えています。》

「うわぁ……出力不足が完全に穴埋めされましたわ。特級クラスの間違いが起きる気しかしない……」

《シミュレーションでは問題ありません。想定以上の機能を加味していませんので、最大出力はオリジナルの80%しか出ませんよ??また、付与しました機能は『A`s』ではなく『StrikerS』を参考にしています。》

「それで80%も出れば色々アウトです!」

 

となれば『レイジングハート・エクセリオン』は確定した事になる。

使い手がヒルダなので、CV:田〇ゆ〇りで白い冥王様の「ブラスタァァーー・スリィィィーー!!!」が待ったなしだ。

勇気の力で地殻が破壊されなければいいが……

 

「……一応、人間時代はロリキャラだったのですが、ねぇ……」

《今では冥王、板についている、ですか??》

「そ。」

「……何の話をしている、カルディナ。」

「ああ、ジル先生。どうしました?」

 

煙草を吹かせながらカルディナを呼びに来たのはジルこと、アレクトラ・M(マリア)F(フォン)・レーヴェンヘルツ。ここより遠くにあるガリア帝国第一皇女であるが、現在は事情あってこの学園の教員を務めている。

 

「ルルーシュが呼んでいたぞ。博士達も報酬をと騒いでいる、とな。」

「あ、そうでした。」

「まあ、魔法が使えるようになった事で浮かれている、あのバカ娘共も同じだがな。」

 

ひとまずレイジングハートの件は忘れる事にしたカルディナは、5人の博士の元に行く事に。

……本当にいいのか??

 

「お待たせしました。それでは5人はディバイディングドライバーの『本体』の製作の報酬なのですが……」

「遅いよ~。」

「待ちくたびれたよ。」

「まあまあ二人とも。」

「そこまで急く事もないだろうに……」

 

そこにいたのはロイド、ラクシャータ、セシル、のほほ先生*1にエンブリヲ(?)がいた。彼等にはディバイディングドライバー(1/1スケール)の制作を依頼している。

ロイド、ラクシャータにはフレームを、のほほ先生とエンブリヲ(?)には空間歪曲術式を、セシルには全体の補佐を。

実験に使用したミニ・ガオガイガー用のミニ・ディバイディングドライバーも5人の作品であり、実大ディバイディングドライバーを製作する経緯としてはカルディナらしい。

特に、空間歪曲理論はエンブリヲがある程度習得していたため、完成までかなりの時間を短縮出来た。

 

……というのも、今いるエンブリヲはかつてのラスボスのエンブリヲではない。

この世界での現在の名は『ゼンブリオ・F・レーヴェンヘルツ』という。

 

……何を血迷ったか、そこにいるジルこと、アレクトラ・マリア・F(フォン)・レーヴェンヘルツに婿入りした人物なのだ。

ついでに名前も一部おかしい。

 

『クロスアンジュ』の話では到底考えられない組み合わせだが、このエンブリヲ当人に前世の記憶はなし、なのだ。ちなみに、ジルは前世持ちだ。

これで二人は一応、婚姻関係を結んだ夫婦なのだ。いったい、何の冗談と思われるだろう、本当に。

 

ただ、エンブリヲ本人の生まれも育ちもはっきりしており、更には生前の能力・才能面の記憶を引き継いでいるようで空間術式に関しては非常にエキスパートな存在。また、魔法に対しても非常にその才は明るく、学園に赴任するまでは家庭教師も多々兼任していた経緯もある。

その才能あって、学園に来たのだが、それはあくまで偶然なのだから驚きだ。

だが赴任当時、鉢合わせしたジル、アンジュ達に堂々と闇討ち(?)されるのは想像するのに易い。

当初は相当殺伐としており、常に追い回され、逃げ回る日々を送ったエンブリヲ。

だが身に覚えのない、ただ怯えられているため不審がられるのみであったので、とりあえずカルディナがブレイクをいれた。

そしてカルディナを中心に尋問するが当人は身に覚えのない知識記憶を非常に不気味がって生きてきたようで、カルディナが思いきって前世話を切り出すと「……なるほど、かもしれないな」と、むしろ妙に納得してしまった経緯がある。

これにはアンジュを始めとして、他のメンバー達も唖然とした。

自分達のラスボスが記憶喪失なのだから。

というか、同一人物ですらないかもしれない。

極めつけのカルディナの記憶読み取り(リーディング)

結果は()()。前世のエピソード記憶領域が全くない、だが技術、理論等の記憶は十全にある、まったく実害、害意のないエンブリヲであった。

そして付いた渾名が『ゼン()ブリオ先生』。

CV:関◯彦効果も合わさり、土井先生風味のエンブリヲが出来上がっていた。

ついでにうざったらしい長髪もバッサリ切り、何かスッキリ。

更に『ゼンブリヲ』を改名もして、本名もゼンブリオ。過去のエンブリヲよりイメージを脱却。

 

その後、変わりはしたものの、その才能を野放しには出来ないとジルが、監視役に立候補。

そして1ヶ月も経たない内にエンブリヲもとい、ゼンブリオを婿入りさせた。

 

ここの経緯はまったくの不明。

当然周囲は大騒動+大反対。当然、前世持ちであるジルも相当な恨みを持っているだろうが話は淡々と終わった。

 

「奴への監視役は必要だろう?ならばより近く、一緒の方がいい。なぁに、奴はこちらの事を知らないのだろう?なら好都合じゃないか。」

 

アンジュ達の説得に理解を示しつつも、エンブリヲを婿入りさせた際のジルの顔が、姉と慕ったサリアも見た事のない、この上なく満面の笑顔で怖かったという。

 

事情を全て理解した上でこのエンブリヲを婿入りさせたジル。

記憶がない故に八つ当たり対象とするのか、はたまたかつて篭絡されたために無意識に絆されたか……

 

カルディナが事前に付けた監視も唐突に加えて何の脈絡もない事態に困惑。それまでが異常も実害もないとの報告もある以上、詮索すべきか迷うとこであるが、それ以上に誰もが追及するのが怖かった。

何せ、ジルに対してゼンブリオ先生が照れつつも困り果てているから。

 

ついでに、何でCV:本◯貴子のキャラは一癖も二癖もある人物を気にかけるのだろうか、とも思ったカルディナであった。(超偏見)

どちらにせよ、今は良き協力者であるのは間違いないようだ。

 

そしてこの癖の強い4人を統括しているのは、少し離れた場所にいる、両生類(カエル)こと、のほほ先生。

カルディナと出会うまでは平凡な魔法の先生だったが、今ではあらゆる特異知識を取り込み、4人の博士の技術・知識交流を経て、某・獅子王博士と、もしくはそれ以上の叡智者となったのほほ先生。

ただし偉そうしている様子はなく、むしろおっかなびっくりのおどおどした様子。

叡智者であれど、耐性はまだ低い。

 

 

「───で、報酬なのですが……」

 

そう言って、カルディナは傍にいるフミタンが持つ鞄より出した、ビー玉ぐらいの宝石と無機質な腕輪のアクセサリーを取り出す。

三重連太陽系のESウインドウの技術と、カルディナ、ゼンブリオの空間術式の知識を元に作った『Other Dimension Storages Accessory』───略称『ODSA(オデッサ)』である。

 

「ロイド博士とラクシャータ博士のご希望が、『持ち運び可能なKMF製造環境一式』ですわね。ODSAにまとめて入れてますから、お受け取りを。」

「流石、お嬢様解ってるわねぇ~。」

「いや~、これでKMF研究が出来るよ。しかも()()()()()()()()()()()()()()()()便()()ってところがいいねぇ。」

 

危険人物らに、非常に与えてはいけないモノを報酬として渡すカルディナ。

いとも簡単に行われる、えげつない行為だが、まだ続く。

 

「セシルさんは『万能工作機構』でしたね。」

「ええ。あとメイさんにも……」

「ええ、もちろん。今は別件を任せていますので、後で渡しますわ。」

 

───『万能工作機構』

サクヤの創造能力のデチューンであり、特殊機能を持たない部品であれば、材料が許す限り創造可能な代物だ。

ただし、使用者の制限は事前に持たせてあるが……

 

「ゼンブリオ先生は『持ち運び可能なパラメイル製造環境一式』……こちらもこのODSAに。」

「ああ、ありがとう。」

「のほほ先生は、ODSAだけ……で、よろしいのですか?」

「ああ。他の博士らとは違って何かを開発したい、という訳ではないからの。むしろカルディナ君らが教えてくれた、理論・法則的な知識の方が嬉しいかの。」

「では……今度はこちらを極めてみます?『ブ◯イシ◯クロン理論』。」

「──ほほう?」

 

情報提供元はアベルである。

非常に物騒な奴らに、非常に物騒なモノを報酬として渡すカルディナ。

だがこれもある種のセーフティである。

 

「けど良かったのかい?今更だけど。私らにKMFの製造環境をくれるっていうのは、そのまま『KMFを創る事』に他ならないけど。」

「まあ、貰ったからには遠慮せず作るけどねぇ~。とはいえ、裏があると勘ぐっちゃうのは自然だねぇ。」

「それはそうでしょう。ですが、それも今更です。」

 

製造環境を提供するのは、ある意味過剰な武力を渡す事と同義なのは、カルディナが誰よりも理解している。

しかし、そうしなければならない理由が、ゾンダーなのだ。

 

『対抗策がない故に、代替の対抗策を模索する』───それがこの『放課後試験クラブ』の()()()存在意義であり、カルディナが信頼に足ると判断した人物達が彼らである。

 

それに、仮にカルディナが志半ばに倒れた時、その代わりと術を受け継ぐ存在は1人でも多い方がいい……それ故に、自身の財と知識を以てその術を信じるに足る人物に与え、形にしている場の1つがここである。

『鉄鋼桜華試験団』然り、『放課後試験クラブ』然り。

今はその方針が変化───進んだと言えば良い。より良い対抗策を模索する補助機関になっている。

KMFやパラメイル製造に助力するのもそれに付随する。

 

傍から見れば破天荒であるが、明確な理由がここにある。

 

「それに動力源や素材の違いで四苦八苦するでしょうが……」

「あ~、それは大丈夫、大丈夫。この世界の知識も合わせたKMFの設計は、さっきのランスロットの稼働データで確立したから、問題なくできるよぉ~。」

「多少手間取ったけど、環境さえ整えば後はこっちのもんさ。性能とて前に造ったモノとは一線を臥すものを追々、お嬢様には成果として見せてあげるさ。」

「ご期待しています。ゼンブリオ先生も……」

「無論だ、カルディナ嬢。私も持てる知識を活用してするさ。今日この場にはいないが、サラマンディーネ嬢の龍神器シリーズの案とも合わせた設計になるだろうから、皆の手助けになるものを作るつもりだよ。」

 

自信を持って宣言するゼンブリオ。

搭乗出来るパラメイルが全てラグナメイル以上のものになっていそうな勢いだ。

さて何が出来るやら……

 

ちなみにこの『放課後試験クラブ』の活動責任は()()()()()()()()()()()()()()で行われている。

ただし貴族、平民の道楽程度の活動だろうと高を括っていたが、実際に行われていたのは、下はお菓子や特産品の開発や試食だが、上は戦況をどうとでも支配出来る兵器の開発───

 

……そんな事も露も知らない三国。

いつの間にかそんな責任を取らされる三国は血を吐いてもいいだろう。

 

「さて、5人の報酬は以上としまして最後に───ボーナス・タ~イム!」

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「───ちょっとロザリー、早く早く!遅刻だよ!」

「待てってクリス!」

 

アンジュ達とは別に遅れてやって来たロザリーとクリスのペア。

彼女らもクラブのメンバーである。

 

「今日発売の限定品買いにいったら、遅くなっちまったよ。」

「欲張って買い過ぎるからだって。間に合わなかったら報酬無しだよ。」

「それだけは嫌だー!今月カツカツなんだよー!」

 

転生しようが仲の良い2人が急いで向かうと、他のメンバーが輪を作ってミニ・ディバイディングドライバーを装着したカルディナの後ろの高台にいた。

 

「──続いてヴィヴィアンの考えた数式で参りましょう……ハァアアァァーーッ!!

 

ドライバーから放たれるエネルギーが地面を割る───ハート型に。

 

「あら、かわいい。」

「あひゃひゃひゃ!これは笑えるねぇ……やってる事は非常に無駄に高度だけど。」

「空間湾曲面を更に歪曲しているとは……なるほど、この数式で歪めているのだな。」

「応用すれば局地戦や限定的な使い分けが出来そうだが……意味があるかと問われれば、無いな。」

「でも面白いでしょ?」

「そうね、面白いから採用ですわ。」

「やりぃ~、ブイ!」

 

そこでは無駄に洗練された無駄のない動きの無駄な技術ではなく、決して無駄ではない、『実用的ではないが、応用の可能性を秘めた試験』が行われていた。

各自持ち寄った、数多のディバイディングドライバーの設定数式ではあるが、中にはアイディアチックな設定もある。

尚、実験に参加したメンバーには、実験結果次第で追加報酬が支払われる仕組みだ。

無論、良いものであれば高値が付く。

 

「戦略面ではルルーシュ考案の『深掘り型』」

「200mほどあれば、敵を落とすだけでも効果的だろう。」

 

流石は穴落とし大好き人間。

 

「実用面ではゼンブリオ先生の『空中展開型』」

「地面がなくとも空中に湾曲空間を展開出来るからね。」

 

空に空間湾曲の戦場形成(リング)。普通は無理だろうが、やり遂げた。

ガトリングドライバーの、一歩手前の技術になりそうだ。

 

「アンジュ発案の『広域展開型』」

「エネルギーが無尽蔵なら、土地が出来そうじゃない?」

 

理論上は可能かもしれない。

 

「そして多数あったのが円形以外の展開ですわね。」

「四角、菱形、ハート、三角……エネルギーが円形より食うけどね。」

 

実用性があるかは不明だが、応用は出来そうだ。

 

「こんなところですか。これで以上でしょう……」

「───ちょーーっと待ったァァーー!!」

「あ、ロザリーとクリス。」

「何だよ2人共、どこ行ってたんだよ、遅いぞー。」

 

息を切らせてやって来たロザリーとクリス。

その両手には戦果となる大量の袋が。

 

「今日販売の限定品をゲットしに。」

「素直で宜しい。戦果は袋の数で解るわ。で、今来たって事は……」

「もっちろん、私らのも申し込むっ!」

「……大半は私がしたけど。」

「ク、クリス~、それを言わないでくれよ~。あ、これ設定した数式。ルルーシュ、頼むな。」

「それとみんなにはお詫びのお菓子。」

「二人揃うと図々しいのか律儀なのか解りませんわね。」

「やれやれ……今、準備する。」

「さて、私らは手伝うとするかい。」

 

そしてルルーシュや博士達が準備を進めている間、カルディナ以外束の間のお菓子タイムとなった。

 

「ようやく実験も終わりね~、今日からようやくぐっすりと寝られるわ。」

「そうですね~」

「へぇ~、これは美味しいわね。」

「うん、うん、いいの選んできたわね。」

「あぁ~、癒されるぅ~。」

「アースガルズ商会の新商品だって。」

「……カルディナさんに頼めば良かったと思うのでは??」

「───はッ!?」

「ロザリー、だが既に遅しっやつね。あ、これ美味し~。」

「それは判ってた。でも現地で苦労してゲットするのはまた違う。あと限定品も。」

「クリスはマメね。」

「うーん、これ食べ辛い~。べたべたする~。」

「さて、準備出来たぞー。」

「大トリはどんな現象を見せてくれるやら。しかしこれは……」

「大丈夫かい、これ?まともに機能するようなものじゃない気がするけど……」

「──あ、取れた、って私の飴玉ー!」

「あ~、実験フィールド内に落ちちゃったわね。仕方ないから終わった後で取りにいきましょう。」

「うう~」

「さて行きますわよ───ディバイディング・ドライバァアアアアッ!!」

 

本日最後のエネルギーチャージを果たしたディバイディングドライバーより、放たれたエネルギーが地面を割る。

同時にヴィヴィアンが不意に落としてしまった棒キャンディがその空間湾曲内に落ちた───

 

───閉じた。そして棒キャンディはなくなった。

 

「「………え?」」

 

これにはヴィヴィアンも、エルシャもびっくり。

 

───ではなく、展開したはずのディバイディングフィールドが最大展開を終えた後で、急速に閉じたのだ。

しかも、フィールド上部にあった砂塵、棒キャンディ等をまとめて落として、()()()()()……そう表現するしかない。

現に、フィールドが展開した跡地のみ砂塵や緑等は一切ない、綺麗すぎる程に整地されていた。

その異様な光景に、一部を除いた全員が戦慄した。

 

「どーだー!?パッと開いてキュッと閉じる、面白いだろ~?」

「すぐに閉じるから実用性は低いと思う。精々フィールド上のゴミとかが下に落ちる程度……ロザリーの案。」

「いや……うん、面白いよ。面白いけどねぇ……」

「え、何?何でみんなそんな『おいおい、またかよ!?』みたいな目で見るんだよ!?」

「フフフ、お~め~で~と~う~!もうみんな目撃しちゃったねぇ……はぁ。」

「は!もしかして……『また』やっちゃった?」

「「「「………」」」」」

 

クリスの質問に、無言で全員頷く。

その無言の返答に2人は震えた。

 

「ジェレミア。」

「はい、ここに。ルルーシュ様。」

「事態は把握しているか?」

「……いえ、まったく。来たばかりで何が起きたかは解りませぬが……」

「……いや、それでいい。済まないが()()に『ギアスキャンセラー』を。」

「『また』、ですか……承知しました。」

 

何が起きたかは不明だが、雰囲気で察知したジェレミアは固有能力『ギアス・キャンセラー』発動。

生前に有していた能力は後付けでも持っているようだ。

 

そして『ギアス・キャンセラー』を受けた全員は()()()()()()()()()を徐々に思い出し、そして悶絶。

一息付いた後、全員(一部除く)の精神はズタボロになっていた。

 

「はぁ、はぁ……うっわ、私、なんて事を……」

「ヤバい狙われる、消される……!」

「わわわ、私は悪くないわ、あれはカルディナさんの命令でででdedede……」

「うにゃら~、あれ?黒い隙間から誰かが見ているぞぉ~??黒くてヌメヌメ~?テケリ・テケリ、イアイア……」

「ダメよ!!まだ見えてるの!?誰よ!SAN値計って正常だって言ったやつ!!」

 

……こいつら、いったい何をしでかしたのだろうか。

 

「……心配ない。まだ外部には漏れてない。大丈夫、大丈夫な、はず…-」

「……カルディナ、最後に一ついい??」

「……何かしら、ロザリー。」

「今回の実験結果、ちゃんと高く買い取ってくれる??」

「もちろん、記憶がなくったって言い値で買い取るわ。でも、無駄遣いは駄目よ?」

「……うん、わかった。」

 

それは別れの言葉にも聞こえる。

震えた身体をごまかし、涙を浮かべながらも必死に笑顔を作るロザリーとクリス。

その顔は少しは報われた、といった恐怖に耐えながらも安堵した表情であった。

 

「みんな、落ち着いたか?さあ、全員俺の目を見ろ───

 

 

──ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが命じる、今日を含めた今までの実験の『やらかし』を全て忘れろ!

 

「「──!!」」

 

そしてギアス(王の力)は発動する───

悲しく、そして忌々しい記憶を消し去る為に───

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「それじゃ、貰ったものは貰ったし、帰りましょ。」

「クリス~。報酬でまた買い物行こうぜ~!」

「ロザリー、さっきカルディナに注意されたばかり。ちゃんと大切に使う。」

「わかったよ~。そういやアンジュ、カルディナの実験、結局どうなったんだ?」

「……ああ、ちゃんと出来たって。あんた達2人は結局間に合わなかったから参加報酬。忘れてないわよね?」

「そうだったなぁ~。まあ、いい額貰ったからいいや──」

 

 

「……いや~、今回()こんなオチとはねぇ~。」

「毎回ろくでもないねぇ。」

「判ってはいるのだが、我々も教師として見過ごす訳にもいかないし、学者としては興味深いので毎回参加するのだが……」

「……まあ、カルディナさんの実験ですから。」

 

『実験結果の顛末の記憶』が封じられてしまった事を尻目に、博士達が後片付けをしながらボヤく。

ルルーシュのギアスによる絶妙な記憶改竄も何のその、ロザリーとクリス以外も平静を装って試験場を後にする。

 

だが、その爪痕は深い。

 

「……またつまらん事でギアスを使ってしまった。」

「……ったく、報酬の額の良さに釣られ毎度毎度やらかしてしまう、自分達がもどかしいわ。」

「心中お察しますわ。」

「「誰のせい『だ・よ』!?」」

 

今回、ロザリーとクリスがやらかしてしまった事、それはかのGGGが危惧した『ディバイディングドライバーの兵器転用の可能性』である。

 

レプリションフィールド(広がる力)アレスティングフィールド(拘束する力)の絶妙な組み合わせ、バランスによって形成されるディバイディングフィールドは、本来は『戦闘による被害を減らすためのバトルフィールドの形成』が主たるもの。

ただ、その運用には細心の注意を払わなければならない。

その最たるものは、フィールド修復時の空間融合に巻き込まれ大惨事になる事。

これは湾曲空間が復元する際その内部に一定以上の質量を持った物体が存在した場合、その物体は空間の復元力によって圧壊し、そしてそれと同時に物体と空間との反発によって生じたエネルギーが物体の圧壊と共に放出され、ブラックホーム並みのエネルギーが制御下離れ、暴発を起こす危険性がある。

つまり、空間復元時にフィールド内部に何かがあると、本来は非常に危険なのだ。

 

だが、今回起きた事は上記の条件を全てひっくり返してしまった。

 

レプリションフィールドの出力は瞬間的に高められるのみであり、レプリションフィールドも拘束力も弱く、瞬間的に発動するのみ。

するとディバイディングフィールドは即座に収縮、収束してしまう。

だが今回は空間修復時に異物があったとしても、フィールドのエネルギーは暴発はせずに、その物質が空間の歪みで押し潰してしまうのだ。

加えて展開したフィールドより2~3ミリ上にある物体はフィールド形成時に『湾曲空間に切り分かれる事なく落ちる』。つまり、展開されたフィールド上にある物体は例外なくディバイディングフィールド内に、落とされるのだ。

尚、その時間は、フィールド展開約1.526秒後、約0.743秒に収束。

空間に挟まれた場合、空間の壁に圧縮され、物体は強制的に3次元から2次元にシフトさせられる。また、「収束前に湾曲空間側面に穴を開けるッ!」等の脳筋思考は無駄だと、お知らせしよう。

 

更に更に、先程ルルーシュやゼンブリオ、アンジュ、他のメンバー達の数値による効果も合わせる事が可能であり───

 

 

「……そうなった場合の予想被害は、それはもう恐ろしいのぉ。」

「半径10㎞とか、そんな規模じゃないよねぇ~。エネルギー次第では100kmとか1000kmとかいけそうだし。」

「そこまでいったら国土なんて関係ないねぇ。更には発動にかかるエネルギーが半分以下なのが怖い。被害を減らすどころか、被害しか出さない、更地にするだけして、破壊だけ効率の良すぎる大量殺戮兵器の出来上がりさ。」

「人を巻き込むどころか土地、いや国を丸ごと葬れる。まさに『国殺し』と言えるものが出来たとは……」

「『国殺し』……表現が現実味を帯びてますね。」

「冗談誇張が含まれないのが、ヒドイところだねぇ~、アハハハハ……はぁ。」

 

尚、こういった事態を想定して、空間修復用ツール(プライヤーズ)があるのだが、空間修復はカルディナとV.Cとの演算、術式行使により何とか可能なのだが、ツールの準備はまだ出来ていない。

現在カイン、アベルにも依頼し、同時進行中だ。

 

ちなみにロザリー、クリスは今までの実験で全体の2割ほどの『やらかし』をしている。

その度に記憶はギアスで封じられている。

そして報酬は現物以外は8割ほど貯金に回され、卒業時に渡す予定だ。(クリスの希望)

 

「……で、どうすんだい?」

「例によってカルディナお嬢様に丸投げかな~。スポンサー(お嬢様)の要望でヤバい成果はみんな引き取ってくれるからねぇ~。」

「今までの成果……う、頭が!」

「下手に思い出さない方がいいよ。ゼンブリオ先生。僕らもギアスで特異な成果の記憶を封じて貰っているからね……思い出さない方が幸せな記憶もあるからねぇ~。」

「……うふふ、SAN値チェック、はいりま~す。」

「セシル君も止めなさい……あれらは色々、人類には早過ぎたからね~。」

「プリン伯爵ぅ~、あんたは大丈夫なの?」

「何言ってんだい、狂わなきゃやってらんない時もあるさ~。」

「……まったく、お前さんらは本当に肝が座っとるのぉ。わしには怖くて出来んなぁ。」

 

「「「「………」」」」

 

「な、なんじゃ??みんなして一斉にわしを見て……」

「いえ、最初に究極に危ない設定数値を提出して、第一実験場を崩壊させてしまった先生には敵わないなぁ、と思いまして。」

「……悪かったのぉ。ロザリー君とクリス君以上の苛烈な現象を叩き出してしまって。」

「あれが今回、最上の被害でしたからね。」

 

追々に魔法使いとなった科学者の博士達も苦言する、のほほ先生がやった事───

 

それはディバイディングフィールドを形成する際に、出力不足で各々のフィールドが空間修復を行う前に消失、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が出来た。

当然、周辺の圧縮空間はそのまま実体化、実験場のグラウンドが抉れたままとなったのだ。

被害を減らすはずのディバイディングフィールドが出来上がる光景が、見たままの『空間を切り開いた』被害光景となった………人的被害が皆無だったのが救いだ。

 

………お判り頂けただろうか??

 

ディバイディングドライバーならぬ、『ディバイディング()()()()()』が出来上がったのだった。

 

「……とは言え、ねぇ。そんな力が必要かって言われたら、僕はゴメンだねぇ~。」

「私も」

「私もです。」

「私もだ。」

 

あくまでKMFやパラメイル等の機動兵器を作りたい博士達には、ディバイディングブレイカーのような技術は必要ないようだ。(ただし、応用はする。)

むしろ、それを打ち破るぐらいの機体を作る事に意欲を燃やしながら、博士達は後片付けを続けるのだった。

 

魔法の自主練習をするアンジュ達の声が遠くに響きながら………

 

「行くわよバルデッシュ! ライオットォォ……ザンバァァァーーー!!!」

「ブラスタァァァーー、スリィィー!!! スターライトォォ……ブレイカァァァーー!!!」

 

………何やら不穏な叫びが聞こえるが、これが魔法学園の『放課後試験クラブ』の日常であった。

 

ちなみに、その中核のカルディナは、ルルーシュとアンジュにお説教をされ、最後に「めきょ!」なモコナ(まんじゅうウサギ)に体育館裏に引っ張られて、魔神(マジン)達と限界バトルを繰り広げ、お灸を据えられたとか……

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「さて、色々ありましたが、無事ディバイディングドライバーが完成しましたので、よしとしましょう。」

 

色んなやらかしを事を横に置いて、帰りの馬車の中ではしゃぐカルディナ。

当初の目的が果たされたのでよしとする。

 

「ディバイディングドライバーの本体も受け取りましたので、帰ったら早速試運転を、ねぇ、フミタ───」

「………す~、す~………」

「……あら、疲れたみたいですわね。」

 

珍しく馬車の揺れで寝落ちするフミタン。

普段のクールな態度からは解らない程に可愛い寝顔に、赤い髪が可愛く揺れている。

そんなフミタンに掛かる髪をカルディナは優しく払う。

 

「………今日もありがとう、私の我が儘に付き合ってくれて。」

 

そんなフミタンにカルディナは優しく語り掛ける。

今日は久々に楽しい一日であった。(誤弊あり。)

明日もこのようにバカ騒ぎ出来ればいいと思うカルディナ。

 

 

 

………だが、その思いとは裏腹に、その後もフミタンは眠り続けた。

 

 

《NEXT》

 

 


 

 

《次回予告》

 

 

完成したディバイディングドライバー。

 

そしてドルト商業集落(コロニー)遠征に向け、準備を進めるカルディナ達。

 

同時に、教皇国やゾンダリアン達が暗躍を進める。

 

鉄鋼桜華試験団に全てを託し、出立した彼等を見送るカルディナであるが、目覚めぬフミタンに対し、予てより予定していた事を実行する。

 

増強される戦力が並ぶ中で、それは他愛もない事であった筈だが、この世界に隠された絶対の脅威がカルディナ達の前に現れる。

 

暴かれ、目覚めるは終焉を告げる存在。

 

……この世界は滅ぶべきなのか??

 

いいや、そうはさせない。

 

かつて絶望に打ちひしがれた少女の想いが今、切り開かれた湾曲空間の中で響く。

 

「必ず、助けるからッ!!」

 

……試されるのは、結ばれた絆か、絶対の力か。

 

今、試練の時!!

 

 

次回『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

 

Number.22 ~暴かれし『終焉を告げる存在』~

 

 

これは……勝利の鍵と、なりえるのか!?

 

『内蔵弾丸X』

 

 

 

 


 

 

《現在、公開出来る情報》

 

 

〇ディバイディングドライバー

地面に打ち込んだディバイディングコアを中心に、レプリションフィールドの次元反発作用によって空間を押し広げ、それをアレスティングフィールドによって固定。直径10kmにも及ぶクレーターに似た平地の空間を約30分程発生させる装置。通称D.Dツール。

本作ではカインの助力もあり、その範囲設定や継続時間、効果範囲をある程度自由に設定出来る。

ただし基本的な設定、被害は書かれた通り。

 

 

〇放課後試験クラブ

カルディナが魔法学園に在籍する異世界人を集め、その知識で開発、試験評価を行う集団。

クラブ活動と銘打つが、内情は第二の鉄鋼桜華試験団。

女子が多いため、女子向けの開発を主としているが、それ以上に生活費を稼いでもらうためのアルバイト斡旋の側面が強い。

ただ、裏では異世界にまつわる開発も行っており、開発者はその度に口封じされているとか……

そのため、隠蔽された数々の開発物、成果があるが、そのほとんどがカルディナ・ヴァン・アースガルズが接収しているという噂が……

だが、それは事実無根であるが証明出来る証拠もないため、全ては闇の中である。

 

 

 

《現在、公開出来ない情報》

 

◯ディバイディングブレイカー

『放課後試験クラブ』謹製、危険物No.13号。

ディバイディングドライバー開発中に偶発的に出来た設定値を元にしたディバイディングドライバーの変化型。

A式:奈落墜落圧殺型、B式:瞬間圧殺非復元型の2種類あり、どちらとも一瞬で発動使用エネルギーが3分の1というエコロジー兵器。

しかし『被害を最小限に留める処置』は一切なく、結果的に広域無差別破壊兵器となった。

尚、設定された数値は10×38×97分の数値を入力する必要がある。

 

 

 

*1
Number.13 ~出撃!未完の勇者王~(1)を参照




また話の参考にニコニコ動画の「冥王少女リリカルなのは」のネタを一部参考にしております。↓
https://www.nicovideo.jp/watch/sm5184410
だがこの程度、次元連結システムのちょっとした応用da!
冥王様はまだいないよ!
※ちなみに、筆者は「リリカルなのは」本編は未視聴。MADのみです。


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Number.22 ~暴かれた『終焉を告げる存在』~(1)

どうもです!
ゴールデンウイークは皆様、どうお過ごしでしょうか?
私は子供に振り回されながら、仕事に夜勤ばかり。
コロナも規制が低くなるとはいえ、まだまだ油断ならないこの頃。

……患者、利用者を扱う仕事に『連休』などない。
……宿泊?観光?ナニソレオイシイノ?

まあ、平日に休みがあるのである意味では役得なところもあったり。
それに今更3日以上の休みをもらっても身体が『??』となることもあります。

それはさておき、物語はある意味一区切り的なものに入ります。
『終焉を告げる存在』が何なのか?
今まで色々ネタはちりばめていましたが、解る人にはわかるでしょう(タブンネ)

……ただ、話が少し伸びるのはご容赦下さい。(妥協出来なかった)
……また、演出・表現が行き過ぎでは?というところもあるので、ご容赦を。(設定盛り過ぎ?)

ではどうぞ!


 

◯アルドレイア王国 城内王室執務室

 

「……よし、これでギャレオンの2号機、そして3号機の開発の目処が立った。」

「では、予定通りに……」

「ああ。王国技術科の者達に通達せよ。3号機の『ガオーマシン』の建造に着手せよ、と。」

「御意に。」

 

王国城内執務室にて、国王レクシーズと、ガオガイガー開発にも携わったミハイルがいた。

カルディナの愛機『マギウス・ガオガイガー』の核、試作型(マギウス・ギャレオン)を元にした次世代型(ギャレオンの2号機)と、2機をブラッシュアップした最新型(ギャレオンの3号機)を創る計画である。

2号機はマギウスの成功と失敗を元に、この世界の魔法と三重連太陽系の科学技術で創られる、カインのギャレオンとカルディナのギャレオンの『次世代(ネクストナンバー)』として開発される。

そしてその2号機を元にアルドレイア王国初の『国王機(フラッグシップ)』として誕生させるのが、レクシーズが搭乗者として製造される3号機なのだ。

2号機はカルディナの工房で着手、完成間近である。

その後、3号機を王国の工房で………と言いたいところだが、核となるギャレオンは残念ながら王国主体では再現・製造が出来ないとレクシーズ、そしてミハイルが結論付けている。

 

「無理に創ろうとしても、我々王国の技術者だけではギャレオンに備えられている魔導演算機(ブラックボックス)を1から製造するに必要な技術を習得するには、それこそ三重連太陽系が歩んで来た歴史を辿るぐらいの時間が必要かと……特に、マギウスギャレオンのものは殊更です。」

「……充分、同意出来る意見だ。」

 

現行の魔導演算機(マギウスエンジン)がようやく満足に製造出来始めた王国の技術者には、難しい話だ。

特に、マギウス・ギャレオンはシステムの癖が強く、レヴォリュダーの能力で常時アップデートを繰り返す為、カインやアベルですら完全な解析が出来ていないので、マギウスのコピー品は絶望的である。

むしろ、フレーム以外を独自に創った方が早いと全員が意見一致している(一部を除く)。

現に、王国独自にマギウス・ギャレオンのデチューンモデルを建造しようとしたが、見事に起動すら出来ない失敗作が出来ている。

ならば意地を張らずにギャレオンは委託し、出来る可能性のあるガオーマシンを王国側で創る事で決定となった。

また、どの様なデザインするか、合体機構等の構想(モチーフ)は既に大まかに決まっている。

 

「それでも困難を極めると思われますが、全力で着手致します。」

「とはいえ、マン・ロディの改良型『グランドマン・ロディ』は成功している。無下になる必要はない。」

 

ランドマン・ロディをガンダムフレームを元にした新型ロディフレームでブラッシュアップしたMS『グランドマン・ロディ』。

ロディフレームの汎用性と拡張性の優秀さはそのままに、全長を伸ばしつつ剛胆性を突き詰めた、騎士好みの機体に仕上がった。外観は重装甲の鎧騎士、といったところ。

こちらは王国主導でやってもらった結果、成功した事例である。

『お嬢様の工房(アトリエ)』での、あの辛く仰天の日々が成果を結んだのだ。

 

「カルディナの下で学び、培った力、存分に振るうが良い。吉報を待つ。」

「御意に。」

 

ここに、アルドレイア王国による、国王機製造の計画が始まったのであった。

 

「しかし……はぁ。」

「陛下??その書類がどうかされましたか?」

「ああ、2日前に魔法学園でカルディナ達のサークル活動で行われた内容と成果物の報告書だ。よくもまぁ、毎度毎度問題ありきの発明、開発しか出来んのかと関心していたところでな……見てみるか?」

「では……ふむふむ……ぐふぉ!?」

「……口外するでないぞ。」

「で……出来ません、こんな内容は……!」

「それで驚くな、他にも似た『C(カルディナ)ファイル』行きのものはゴマンとある。」

 

先日のディバイディングドライバーの件である。

安全な空間制御ツール(ディバイディングドライバー)が出来たと思ったら国を滅ぼせる(比喩無しの)代物(ディバイディングブレイカー)も出来た。

即座に『Cファイル(特定機密文書)』行きだ。

 

「……いつからうちの国(アルドレイア王国)はこんなものを持つようになったのでしょう?技術革命とは恐ろしい───とか言う次元ではないですね。カルディナ嬢だから出来る事なのでしょう、これは。」

「まったくだ。あの娘がいたからこそ、ここまで、このようになったのだ。恩恵は計り知れないが、その分の何かしらの苦労は付いてくるがな。」

「……御自愛致してくださいませ。」

 

苦笑いでレクシーズの身を案じるミハイルの言葉の通り、確かにこのようになったカルディナの恩恵は計り知れない。

カルディナの存在が始まりとして、三重連太陽系にまつわる者達との出会い。

今のアルドレイア王国が魔獣番の国と揶揄されていても、今では軍事面でも文化面でも発展が素晴らしいと感じられる(ただし、他国には秘匿)。

 

その事に恩義を感じるが、時には過分過ぎるのでは───心配が過ぎるともレクシーズは感じる。

 

(だが、我々がそう思うだけで、あの娘には今後はもっと良くない事態が起きる───そう予測する左証か。現にそのような事を想定する、実験の申告書が山ほどある。確かに前代未聞の事態にはそれ位で臨まねば。さて……)

 

改めて己を律したレクシーズが、カルディナより送られて来ている、紙の書類であれば山になっている申告書のデータを消化しようと目を通す中、昨日送られて来た中に、気になるものがあった。

 

「……『あの者』の、身体検査??しかも早急に、か。何があったのだ?」

 

それは、おおよそ告げる必要もない申告書だが、珍しく最優先で確認して欲しいとの念押しがあったもの。

それにレクシーズは些かの不安を覚えた。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

◯???

 

「──皆、一通り使って貰ったけど感想はどうかしら?」

 

紫の木の幹がひしめくとある場所───ゾンダリアンの本拠地に、機界四天王が面と向かっていた。

その中でも一際目立つのが『赤い魔女』とも言える紅一点の存在、プレザーブが他の3人に意見を求めていた。

 

「劣化体よりは強く、機界昇華も阻害因子に邪魔される事無く出来ましょう、しかし……」

「まだ劣る。改良型といえど、少なくともあのカインの遺産モドキには勝てていない。」

「ウィルルルル、他にもイレギュラーもいる。総合的に『満足に動けても勝つべき相手には勝てない』と言ったところだ。」

「……でしょうね。評価ありがとう。」

 

3人の意見を聞いてプレザーブは丹念にメモを残す。ゾンダリアンの所作としてはあり得ないものだ。

その光景に、ピッツオ・ケリーを始め、ポレントスやペスカポートは疑念を抱く。

 

「プレザーブ……それは必要な事なのか?我々はゾンダリアン。下等な人間共に後れを取る事など───」

「───あるからこうなっている、ではなくて?」

「ウィルル??」

「何が言いたいのですかな、プレザーブ。」

「……そうね、この際だからはっきりと言いましょう。『我々は負けている』と。」

 

明らかにゾンダリアンらしくない発言を言い放つプレザーブ。

侮辱と受け取りかねない発言であり、明らかに不機嫌になる3人であるが、手を挙げるような事はしなかった。

 

「その理由、聞かせて貰いましょうか。」

「ああ。だが我々が納得しないような理由であれば……」

「ウィルルルル。容赦はしないぞ、プレザーブ。」

「ええ、勿論よ。」

 

あくまでも話は聞く姿勢を取る3人であった。

 

「私が改良型ゾンダーメタルを開発した事で、この星に蔓延するゾンダーに対する阻害因子──『魔力(マナ)の残滓』により劣化体に出来なかった『機界昇華』の機能を取り戻した事はご理解していますわね。」

 

ゾンダーがこの星で十全にその能力が発揮出来なかった理由、それは───

 

───阻害因子『魔力(マナ)の残滓』

 

そもそも魔力(マナ)とは、無機的量子エネルギーが有機体、もしくは電子信号に対し感応性の性質を持つように変換された、感応型量子エネルギーである。

それはあらゆる感情に対し、術式の効力に沿ってその力を発現する効力を持つ。

その性質だけ聞けば、ゾンダーとの相性も非常に良いと思われる。感情に対し作用するなら、マイナス思念と非常に相性が良い……はずであった。

しかし現実は作用しない。

それどころか他のエネルギーよりも効率が悪いものとなり、足枷にしかならなかった。

その原因こそが『魔力(マナ)の残滓』。

その正体は、魔法を使った後に残る、生命の持つ数多の感情が混沌とした僅かな値の魔力(マナ)の残留エネルギーである。

 

喜怒哀楽と、人は生きる上で様々な感情が現れる。魔力(マナ)に込めた感情はエネルギーを含み、自然界を漂うが、生物や人体には全くの無害なモノだが、これがゾンダーにとっては厄介物に他ならない。

無尽蔵に、無差別にエネルギーを吸収するゾンダーにとっては、マイナス思念のエネルギーの他、()()()()()()()()()()()をも取り込んでしまい、更に一定量蓄積すると勝手に再増幅を行う魔力(マナ)はそれぞれ対消滅を引き起こし、機界昇華に必要なエネルギーの精製を阻害され、確保出来なくなってしまうのだ。

そして活動するだけでエネルギーの対消滅が続くようになってしまい、これらを防ぐ為に『オブジェ』と化し、通常のゾンダーが『劣化体』へ成り下がる要因となる。

ちなみに、劣化体がゾンダーロボ化出来るのは、なけなしのエネルギーを用いた自己防衛なのだが、過去に幻晶騎士(シルエットナイト)にゾンダーメタルを使用した際にはその反応は著しく、魔力転換炉(エーテルリアクタ)がエネルギーの対消滅を更に加速させ、ゾンダーの活動に更なる停滞を強いられた。

そのため、幻晶騎士(シルエットナイト)をゾンダーロボにする旨味はあまりにも少ない。

これは触媒結晶を介さずに源素(エーテル)を使用すると起きる現象であるが、限定的な行使しか出来ない有機生命体には関係のない事であった。

であれば、同じく量子エネルギーである源素(エーテル)をエネルギーとして使えば良い──と当初は仮定したのだが不可能であった。

 

源素(エーテル)は有機性質を持つ存在には作用しませんね。それはゾンダーでも一緒です。」

「ゾンダーはマイナス思念を持つ者により強く作用するが……それは有機生命体を取り込んでこそだ。まさかそれが裏目に出るとは……」

 

この結果が判明した時、パスダーも機界四天王も頭を抱え、絶望した。

『有機生命体取り込んだら使えません』とか、源素(エーテル)の判定が酷い。

エネルギーの取捨選択をゾンダーに強いるこの星は、ゾンダーには優しくない。(結論)

 

「……なので触媒結晶を取り込み、ゾンダー用に魔力(マナ)を使えるようにした改良型ゾンダーメタル『Z・インプラント』を作った訳だけど……あくまでエネルギーの収集を効率よくしたものにしか過ぎないわ。副次的にはゾンダーロボ自体の性能を上げはするけど、今回の問題とは別。」

「では、どんな問題が?」

「戦略的な問題よ。」

「戦略、的……?」

「ええ。機界昇華を行うために、ゾンダーロボにエネルギーを蓄えさせてゾンダープラントにまで育て、機界昇華の要『素粒子Z0』を精製して散布し、他の物質を機界昇華する………その過程こそが問題よ。」

「ウリィ??どこに問題がある。完璧ではな──」

 

──ゴリッ、ゴリゴリゴリ……!

 

「ヴリィっ!?」

「………ど・こ・が『完璧』よ。機界昇華に重要なゾンダーロボを護衛もなしに放り込んでおいて、こちらはやられるのを高みの見物、それのどこが『完璧』なのかしら?抵抗勢力が来てもゾンダーロボにお任せって、むざむざ『殺って下さい』と言っているようなものでしょう?現に4回、4回襲撃したはずなのに、全て破壊されているわ。しかもいない筈の『カインの遺産モドキ』と『破壊マシン』の手によって。それで何も手を加えないのは馬鹿なの、馬鹿じゃないの??」

「で、ですがプレザーブ。今まではそれで良かったのです。ここまで抵抗する事など無かった──」

「──なければ放置?以後は問題なし??もしくは悪化するまで放置かしら?手駒が無くなって後がなくなったら四天王の登場??その段階で、最早()()だという事が解らないのかしら、えぇ??」

「ウィルルルル!!わかったわかった!わかったから頼む、杖の先端で私をゴリゴリ削るのは止めてくれ!何か削りカスが出ている!」

「あ~ら、失礼。」

 

懇切丁寧に杖を細かくねじるのを止めるプレザーブに、鋭い指摘を受けて挙動不審になるポレントス。

そして心底ホッとしたペスカポートの眉間に穴が掘られたのを見たピッツォ・ケリーは「確かにそうなんだが、何だこの茶番は。」と思っていた。

 

「それ位にしておけ、プレザーブ。確かにお前の意見は正しいところもある。だが、具体的にはどうするつもりだ?」

「今までのやり方を変えるわ。これまでならポレントスの言う通り『さして問題のない場合』はそれで良かった……ですが、『カインの遺産モドキ』と『破壊マシン』がいると思われる現状であれば、御伽噺の主人公に魔獣を少しづつ差し向けて、戦わせて、困難を大きくしつつも経験させ、そして大物に……私達を討てるように『育て上げる』ようなやり方になりかねない……ですが、私達の本来の目的は『機界昇華』。それだけを達成させるなら、人間を秘境にでも拉致してゾンダーメタルプラントに育て上げるまで防衛に徹すればいいのでは、というのが最善ね。」

「だが、問題は二つあるな。まずゾンダーメタルを植え付けた人間は、ストレス発散の()を攻撃すべく行動する習性がある。あの『破壊マシン』はゾンダーロボになった瞬間、感知して飛んでくるぞ。しかも二つ目に戦力、あの『カインの遺産モドキ』は我々の想像を絶する。」

 

感知し、文字通り飛んで来る。そして一時的にだが光速でもやって来る。

ゾンダー側にしてみれば、存在自体がヤバい(マギウスは反則)

 

「ウィルルルル。もう一つは他の機械人形共にも劣化体と言えど倒す力を持つ奴が存在する。お前の言葉通りなら、そいつらも脅威になりそうだ。」

「ええ。その体制は既に整えられているでしょう。『カインの遺産モドキ』を始めとしたあの集団は、私達の特性を事細かに知っている、と結論付けてもいいわ。」

《………つまり下等な人間共と見下している場合ではない、という事か、プレザーブ。》

 

そこに現れたのは機界指令パスダー。

紫の壁が割け、その禍々しい巨顔が現れる。

一同は一礼し、パスダーを迎える。

 

「はい、その通りです。我々は認識と、これからの行動を改めるべきかと。」

《一理ある。だが、どうするつもりだ?》

「それに関しては私に策が御座います………とは申しましても捻りもない、正道なやり方ですが。」

「正道の策だと?どんなものだ。」

「フフフ、簡単な話です。一番の脅威と成り得るのはあの『カインの遺産モドキ(マギウス・ガオガイガー)』。そして取り巻きも脅威ですが、今の時期で奴らは勢力を分断する兆しがあると、情報を得ました。故に獲物を狩るのであれば───」

 

妖艶に笑うプレザーブ。

その策は『獲物を狩る』のに相応しいものであったが、同時にそれが眠れる獅子を起こす行為と知るには、時既に遅かった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

〇ギャラルホルン教皇国 聖堂中央議会場 ???

 

「………いけません、いけませんねぇ。」

 

白を基調とした華美な装飾の仮面を被った人物──枢機卿は嘆くような振る舞いで議会場にいる人物達に語り掛けた。

 

「我らが崇拝する『アグニカ様』の寵愛を無下にする方々へ、()()()()()()()()()()人を送りました。しかし………聞き入れて頂けませんでした。送った方々は皆捕らえられ、そして無残に殺されてしまったという……いけません、いけませんねぇ。我らが寵愛、『アグニカ様』の寵愛を無下にする……その何たる罪深き事か。他の皆々様、どう思われますか??」

 

『『『神罰、神罰、神罰!!』』』

 

「アグニカ様はこの世界の神である。その寵愛を無下にするとは言語道断。赦し難き重罪でありましょう。」

「しかし、聖女様をお迎えに参った信徒はどうしたというのだ?」

「一緒に同行したのだが……連絡が途絶えましてな。」

「では他の者達と一緒で処されてしまったのか……」

「赦せん!信徒を害する等!そして聖女様は我等カイエル教の元でこそ、その真なる力を発揮する。」

「『聖域』の様子はどうですかな?」

「……未だ、非常に不安定です。他の聖女様も『祈りを捧げている』のですが、芳しくありません。」

「『聖域』の安定はカイエル教の、ギャラルホルン教皇国の、ひいてはこの世界の安寧の為にある。」

 

口々に()()()()()()()()()()()()()()()聖職者達。

無駄に肥えている輩が多いためか、華美な装飾を携える輩が多いためか、下品な表情で語るためか、その言葉は何とも()()()()

ちなみに、グレイズ4機が乱入してきた事件では、密かにカイエル教の間者が来ていたが、『影』が全て始末、もしくは捕らえた。

後の顛末は……ご想像にお任せする。

 

「しかしどうする?」

「教皇国の兵にも協力を仰いだ結果がこれだ。残念だが教皇国の力も大した事がない様だ。」

「それは言い過ぎですぞ。まだ未熟な若輩、長のエリオン卿もケツの青い若造なのです。たかが数度の()使()()が出来なくても、もう少し暖かい目で見てはいかがかと……」

「とは言え、これ以上の失態も看過出来ない。とあれば……」

「ええ。非常に心苦しいですが………心迷える子羊達には教団の『子飼い』を用いる事とします。許可の程を……」

 

枢機卿の声に全員が静かに挙手する。

その動向に仮面越しでも不気味に笑った気配が、枢機卿から感じ取れる。

 

「……ありがとうございます。これで心迷える子羊達は無事、寵愛を受ける事になるでしょう。そして我らの『生きる繋がり』が広がる………昏き世界に聖なる(ともしび)を!そして我等に『生きる繋がり』を!」

『『『『昏き世界に聖なる灯を!そして我等に『生きる繋がり』を!』』』』

「──Amen(アーメン),Hallelujah(ハレルヤ)

 

非常に盛り上がる議会場。

しかし、そこに渦巻くのは()()()()()()()()()()()()()()()()()の邪悪であった。

そしてギャラルホルン教皇国より、更なる脅威がアルドレイア王国に差し向けられるのであった。

 

「………フン、道化共が。」

 

その陰にいた、黒い存在の吐露した小さな呟きをかき消して………

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

〇アースガルズ領 第14工房

 

 

「──じゃあ、頼みますわね。」

《ああ。お膳立ても済んでんだろ、どうにかしてみせるさ。むしろ……お嬢の方が気を付けてくれ。昨日の話を全部鵜呑みにしたくはねぇ……普通はそんな事、ある訳ねぇと思いたい……が、全部否定も出来ねぇ。万が一何かあった時は……最低でも生き延びてくれ。皆の為にもな。》

「……善処するわ。」

《頼むぞ。》

 

モニター画面の映像が切れ、交信していたオルガを画面越しに見送ったカルディナは、ため息を一つ吐く。

ドルト工業集落(コロニー)の問題に、アースガルズ商会の使いとしてオルガ達、鉄鋼桜華試験団を送ったのだが、カルディナはその道中には同行しなかった………いや、出来なかった。

 

カルディナが持つ工房はアースガルズ領だけでも多々あるが、ここは周辺に集落や拠点もない辺鄙な場所にある第14工房。

ある意味特別な場所である。

カルディナが一時的でも見られたくない成果物の保管や、隔離したいものの保管場所……

今回は後者が当てはまる。

 

──ピピピッ

 

「ん、このコードは……陛下ですわね。はい、こちらカルディナです。」

《私だ。申告書は読んだぞ、どういう事だ?》

「……ご報告の通りです。あくまで可能性、の話ですが。」

《……今まで、そんな予兆があったのか?》

「ありませんでした。ただ当初から……いえ、()()()()見当は付けていましたが。完全に勘、ですが。」

《勘……確かにな。読んだ内容の限りだと、信用するに足らん。人員を割く今の時期にすべき事かと疑問すらある。》

「……はい、その通りです。ですが───!」

《──否定はせん。今回の事は目を瞑る。思う通りに、納得するまでやれ。不確定要素は排除するのだ。緊急時は報告だけは忘れるな。お前の命は、お前だけのものではないのだ……》

「大いに……感謝致します。」

《ただし猶予は一週間。それで何もなければ、この件は終わりだ。ただ気のせいかもしれん……以上だ。》

 

そしてモニターは切れる。

レクシーズにこれから起こらんとする事に許しを得たカルディナは、安堵すると同時に気合を入れ直す。

そこに機を待ち、声をかけて来た者がいた。

 

「カルディナ。」

「やあ、話は終わったかい?」

「アベル様、カイン様。この度はご迷惑を……」

「──今更です。逆に貴女からの迷惑なんて放置すれば余計な厄介事になりかねません。」

「気にする事はない、事が事だからね。」

 

ミニ・ガイガーとウサリンmk-Ⅱ姿の2人であった。

しかし元の姿より違和感がなくなってきた、そう思う。

特にアベルの姿は最近妙に可愛いウサギ人形が進行している。

多々いる女性スタッフの意見が惜しみなく『可愛い』をつぎ込んでいるため、その可愛いウサギ人形ぶりが凄まじい。その度にツンな言動で返すアベルだが、行動自体はまんざらではないと出ている。

やはり、カルディナは元の姿よりこちらの方がしっくりくると思っている──

 

「何か??」

 

ウサリンが担ぐピコピコハンマー(当たれば光になるやつ)ちょっと光って(…何か言いました?と勘繰り)驚いた。

 

「しかし……やはり()()()()()で、どうにかならないものかな?」

「はい、昨日から散々試しましたが、やはり……」

「今、V.Cが検査していますが、今のところ何も出ていません。取り越し苦労でしょう。まあ何かあったとしても、昨日ようやく造り上げた新型装備や、新型の『内蔵弾丸X』があります。」

「アベル。」

 

リボンで装飾した自身の胸を小突くアベルをカインが諫めた。

 

───新型『内蔵弾丸X』

それはGGGが開発した『Gストーン』に作用し、エネルギー生成能力を励起させるシステム『弾丸X』を参考に開発された新たなるGSライド増幅機関である。調整次第でその出力を極限にまで高め得る可能性を秘めているのそのままに、ミニ・ガイガーにはGストーン用のもの、ウサリンmk-ⅡにはJジュエル用の内蔵弾丸Xが内蔵されている。

ただし、そのスペック故にGストーンやJジュエルの機能を失う危険性も排除出来ない要素も継承してしまっている。

 

「まあ……使わない事を祈っている事ですね。」

 

カインの言葉に一間置いて首を振り、やれやれといった様子そっぽ向くアベル。

その後ろ姿を見ているしかないカルディナとカイン。

 

「すまないね、アベルはああ言っているが、本当は……」

「……判っています。アベル様なりの気遣いでしょう。『躊躇うな』と。もしそうなった場合、()()()()()()()()()()()()()。世界が終焉を迎える前に……」

「心得ている……しかし、本当に間が悪い。遠征さえなければ、多少の戦力も……」

「いえ、死者が増えるだけです。それに、何があっても良い様にあえてこの場所を選んだのです。」

「まあ、過剰な守りを見せてしまえば、逆に他に警戒されるし、街中や工房では周辺の被害は計り知れないからね。ディバイディングドライバーがあっても難しい。」

「万が一の遊撃役にはアグニカさんに担当して貰っていますし、例えギャラルホルンが来ようとも殲滅して下さいますわ。ゾンダーが来ようとも、討伐だけなら可能……それに散々検討しましたが、対処出来る人間が……私だけですから。」

「……そこまでしてやりたいんだね、彼女に。」

「はい。私を救ってくれた……唯一無二の親友ですから。」

 

切なげな表情を見せるカルディナは、もう一つのモニター画面越しに映る医療用ポッドの中で揺蕩う、今も眠る人物───『フミタン』を見つめるのであった。

普段見せる事の無い不安げな姿を心配しつつ、カインはモニター越しにいるV.C(No.04)に声を掛ける。

 

「……V.C、彼女の容体は如何かな?」

《バイタルサインに異常はありません。ですが、睡眠周期でレム睡眠状態が長く続いているのが少々気になります。》

「脳が活動を続けている……という事か?だがそれだけでは判断しかねないね。脳波はどうかな?」

《通常計測されているパターンです。》

「わかった……そのまま観測を続けてくれ。」

《了解致しました。》

 

画面越しのV.Cは頷き、再び観察作業に戻る。

また、この工房いるのはカルディナ達の他、偽装した『影』が数名いる程度の最低限。

誰もが何もなければ、と願っているが先が見えない。

 

「……長丁場になりそうだね。」

「そう、なりそうですわ。」

「暇潰しが欲しいところですね。」

「あ、そういえば……王国側で造りましたマン・ロディの改良型『グランドマン・ロディ』の評価と、マギウス・ギャレオン(モドキ)の習作を預かっていまして。新型ロディはともかく、ギャレオン(モドキ)の方はシステム系が悪いせいなのか、ウンともすんとも動かない、との事でその原因を突き止めて欲しいと頼まれてまして……」

「何ですか、それは……そこまでのポンコツなら、逆にまるっとシステムを書き換えれば、スッキリするのでは?」

「習作ですからね……というか、やってみます?現物は隣のフロアに。AZ-Mとリキッド液、他機材なら潤沢にありますが。」

「……私に振れば、そのギャレオンモドキが赤の星仕様になりますが。」

「え、何ですの、そのワクワクする改造プラン。」

「良いでしょう、AZ-Mとリキッドを寄越しなさい、ストレス解消に……キッチリ改造して差し上げます。」

「只今。」

「……お~い、何を不穏な事を言っているのかい?」

「カイン様はどうします?」

「しないとは言っていないよ。」

 

別の意味で不穏な事を言う一同だが、『やるな』というブレーキ役がいない事が悔やまれる。

ちなみに、元より合格点を貰ったグランドマン・ロディは、カイン、アベルから細かい修正点を受け、おおよそ再現不可能なシステムへと組まれ直され、ギャレオンモドキは中身がまるっと赤の星スペシャルにされたが、手間のかかるJジュエルも再精製しないと動力源が確保出来ない事に気付き、泣く泣く魔力転換炉(エーテルリアクタ)で動くように再調整するハメになった。

 

しかし、それ以上の事はなく、何もないまま、一週間が経過してしまう───

 

 

 

────ゴゴゴゴゴッ!!

 

それは突如起きた。

作業が一段落し、もう何もないのではと思いかけたその時であった。

突然の地鳴りが響く。地下にいるカルディナ達にはそう感じるが、これは───

 

「連続する爆発!?しかも人為的な……V.C!!」

《周辺に大型の動体反応を確認。映像、出します。》

「あれは……ロボット!?」

 

モニターに映し出されたのは、煙の中に(そび)える4つの影。

 

下半身に車輪を持ち鎧を纏う、大楯を持つ者。

4本の主砲と数多の副砲を持つ、戦艦の形に偽装した者。

赤い魔女のような、杖を持つ者。

空を舞う、鳥人の姿をした者。

 

全てが30mクラスの鋼鉄のロボットであった。

更に───

 

「くぅ───!?」

「カルディナが反応した!まさか──」

 

カルディナの感知能力に反応し、4体のロボットの後ろに急速に生えて来た、鉄鋼色の大きな木。

所々電飾のような光を点滅するように放ち、尚且つ底部のスラスターで宙に浮いているそれは───

 

「ゾンダーだと!?だが、この距離になるまで何故、感知出来なかったのです!?しかもあれは───」

「空こそ飛んでいるが……ゾンダーメタルプラントのようだ。」

《では、あの4体のロボットは……!》

「感知出来ないゾンダー……まさか、あいつらは───V.C!!」

《了解。緊急コール発令!マギウスマシン、緊急発進!ファイナル・フュージョン要請!ディバイディングドライバー、スタンバイ!!》

「───ギャレオォォーーーンッ!!!」

 

まさかの事態に、カルディナは誰よりも早く、速く外へ走り、ギャレオンを呼ぶ。

 

「イークイップ!フューーージョンッ!!マギウス・ガイ、ガー!!」

 

《お嬢、来たぜ!!》

《おいおい、何だいアレは?》

《敵は多勢に無勢、か。修羅場だな。》

《ですが、我等であれば!》

《不可能などない!》

《ファイナル・フュージョン承認も出た!!》

《お嬢様、今こそファイナル・フュージョンを!》

 

マギウス・ガイガーにフュージョンしたカルディナは、工房内に待機していたマギウスマシン達が出てきて事を確認した。

マギウスマシンに乗り込む天使、悪魔達も普段とは違う雰囲気を察知している。

 

「行きますわよ!!ファイナル・フュージョン!!!」

 

そして吹き荒れる白銀のEMトルネードの中で、マギウスマシンとマギウスガイガーは一つになり……

 

「マギウス・ガオ、ガイッ、ガーー!!」《/b》

 

今ここに、ゾンダーの野望を打ち砕かんと君臨した異世界のスーパーメカノイド。

その名は、勇者王マギウス・ガオガイガー!

 

《ディバイディングドライバー、接近!》

「行きますわ!!」

《──軸合わせ、接続確認!》

「ディバイディング、ドライバァアアァァァーー!!」

 

ファイナル・フュージョンを果たしたカルディナ──マギウス・ガオガイガーは急速上昇、接続を果たし、ディバイディングドライバーで、直径10キロもの湾曲空間を展開する。

そしてDDモードを解除、ディバイディングドライバーを湾曲空間の外に刺し、自らは湾曲空間へと降りる。

そして改めて見据える。

出現時から今まで傍観していた、湾曲空間内にいる4体のゾンダーロボと、不気味な程静かに宙に浮くゾンダーメタルプラントに。

その光景に、カルディナは喉を鳴らす程の警戒感を持った。

 

「何かしら……寄せ集めじゃない、あのゾンダーメタルプラントを含め、何か意味のある布陣のような……」

《可能性の高い情報を掲示しましょうか?》

「いいわ。私の直感が『時期早々な奴ら』って言っているから。」

 

だが、警戒しているのはゾンダー側も一緒だった。

 

「……まさか、地上でブラックホールと同等のエネルギーを持つ現象に、直に対面するとはな。初めは攻撃かと思ったが、空間制御の類だったか。」

「大地を割り拓く……しかも物理的破壊ではなく、絹と粉砂糖と硝子の粒子だけで造形したような精密な、空間作用による超高度エネルギーによる精密な現象……フフフ、ゾクゾクしちゃうわ。」

「ええ、これ程の湾曲空間……ここまでの規模を発現させるには、相当なエネルギーと技術を必要とします。このような星にここまでの現象を発生させられる存在がいようとは……」

「ウィルルル。それに奴の発するエネルギーも尋常じゃない。触れるだけでも常に小規模再生を必要とされる可能性がある。あのカインの遺産モドキ、只モノではなさそうだ。」

「しかし、これまでの観察データ通りね。合体してこそ、真価を発揮する……予定外の寄り道だけど、当初の目的は果たせそうよ。」

「ああ。」

 

互いの存在を警戒し、一歩も動かない……

だがそこで声を上げたのはプレザーブであった。

 

「初めまして、『カインの遺産モドキ』さん?」

「……初めまして。言語が理解出来る……そしてその物言いは……皆様は機界四天王、ですわね。」

「ご名答。」

 

まさかの機界四天王、しかも全員がゾンダーロボ化している事に内心驚愕するカルディナ。

それに加え、空を漂うゾンダーメタルプラントが不気味さに拍車をかけている。

だが、救援は呼んでいる。それまではあくまで冷静を保つしかない。

 

「こちらには何をしに?」

「決まっている。我等、機界四天王……いや、ゾンダーが成す事は機界昇華に他無い。」

「それは知っています。ですが……私が聞いているのは、何故辺鄙なこの場所に来たか……何故かしら?」

「それはですね……我等はあなたを我等の最大の障害と認識しています。ここで排除しようかと。」

「───!?」

「それとゾンダーを密かにプラント化させようと、この近辺に来たのですが、それは単なる偶然で、あなたを発見したもの実は偶然。実に数奇ですが、その偶然に際し、()()()()()()()()()()()()()のですよ。」

「……気になる?」

「ウィルルル。我等に近く、そして劣化体にしてはあまりにも強力な反応だ。そして……何故か無視できない。」

 

それは、他の3人にも理解が不能な反応。しかし、無視するには放置出来ない反応であった。

急な事であったが、全員一致での行動に、挨拶代わりに砲撃とレーザー攻撃を地表にお見舞いしたのだ。

その話を聞いたカルディナの顔から───表情消えた。

 

「……で、それを見つけたら、どうするつもり?」

「可能なら回収しようかしら?どちらにせよ、何故かは気になるし……機界昇華の礎になるなら本望でしょう。それに貴方みたいなのがここにいるなら、何かあるんじゃ───」

「……V.C、TGSライド───全開ッ!!!」

《了解!》

「「「「───!?」」」」

 

───大気が激しく揺れた。

TGSライドによる、GストーンとJジュエル、そして魔力(マナ)の共鳴現象。

更に、6人の天使、悪魔の反発するエネルギーと、カルディナのレヴォリュダー能力とV.Cの能力をによる無駄のないエネルギー制御。

それがカルディナの全力全開。

ゾンダー核を捕獲せんが為に出力を抑えた()()とは違う、()()()()()()()()()姿()()

ゾンダーの核をえぐり取るには過剰過ぎる出力と圧倒する気迫に、機界四天王は圧倒され、身をこわばらせ、必要もないはずの息すら呑まされる。

そして太陽にも似た白金の輝きに包まれたゾンダーを滅ぼす化身のマギウス・ガオガイガーは、その輝きとは裏腹に放たれた圧倒的な殺意と気迫をその身に凝縮する。

そんなマギウス・ガオガイガーは大地を揺らす程に踏み締め、ゆっくりと構えた。

 

「名前………お伺いしても?」

 

その問いで機界四天王は気付いた。

 

((((──気を抜けば、確実にここで死ぬ。))))

 

その問いは、殺す前に名を訊ねる行為。

目の前の憤怒の化身(マギウス・ガオガイガー)は、自分達の障害──いや、脅威となり得る。

如何に機界融合したゾンダリアンとはいえ、その根底に残っている有機体の本能(恐怖)は完全に消し去れない。

マイナス思念を受けている筈なのに、その怒りはゾンダリアン達の身を震わす!

 

「……フ、フフ、良かろう!私は機界四天王が一人、ピッツォ・ケリー!!」

「同じく、ポレントス。」

「ウィルルル!ペスカポートだ!」

「プレザーブよ。」

 

翼を広げ、盾を構え、砲身を定め、杖を向ける機界四天王。

相対するはゾンダーメタルの天敵、対消滅の存在───

 

「私は……カルディナ。お前達を───破壊する者だァァーーーッ!!」

 

核摘出よりも破壊優先の宣言を言い放つカルディナ。

今ここに、互いに滅ぼし合う運命を負った者達が早過ぎる出遭いより、互いの存命を賭けた戦いの火蓋が切られたのであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

〇王都 GGG・オーダールーム

 

そして時は僅かに遡り、王都の新生GGGオーダールームにて……

 

「───カルディナからの緊急コールだと?!」

「先の14工房にて襲撃あり、対象はゾンダーロボ……5体!?」

「V.Cよりマギウスマシンの緊急発進コールを受信、同時にディバイディングドライバーの射出申請!」

「そこまでの事態か!ファイナル・フュージョン承認!!」

「了解、ファイナル・フュージョン、プログラム……ドライブ!!って、痛ぁ

「続いてディバイディングドライバー、射出準備!それと待機中のアグニカ氏に連絡を───!」

《───もう聞こえている!!こちらは何時でも行ける!俺もカタパルトに回せ!!》

 

ゾンダー急襲の一報を受けたオーダールームは大混乱の中にあった。

しかし、それでも誰しもが自分の役割を果たして行く。

フミタンの代わりに臨時でオペレーターを務めるイザリアは、不安を押し殺しながらオペレートをしていた。

 

「ガンダムバエル、上部デッキへ!」

《ディバイディングドライバー、第1カタパルト設置完了、ミラーコーティング、スタート──!》

《射出カウント5、4、3……》

《同時にガンダムバエル、上部デッキへ昇降開始──!》

《──ガンダムバエル、所定の位置に着きました───どうぞ!》

《ああ!ガンダムバエル、アグニカ・カイエル──出るぞ!!》

 

電磁加速と反発作用で一時的に光速を超えたディバイディングドライバーに続き、スラスターをフルスロットルで飛び立つガンダムバエル。

遥か彼方へミラーコーティングの光が尾を引く光景を見ながら、一直線に14工房へと向うために全力飛行に専念出来る瞬間、アグニカはスラスターを逆噴射し、急に制止してしまう。

そしてディバイディングドライバーのみ、カルディナの元へと向かうのであった。

 

「な……どうしたのアグニカ!?何で止まるの!?」

《……アグニカからオーダールームへ。拙いものを発見した、望遠映像を送る。》

「拙いもの……これは、モビルスーツ……なのか!?」

《グレイズタイプの発展型──『シュヴァルベ・グレイズ』の可能性、大。》

 

ガンダムバエルに憑依する悪魔(バエル)が解析結果を映した。

バエルの眼下にある森の中にスラスター移動をする、総勢10体のシュヴァルベ・グレイズが目下移動中であった。

その全てが真っ黒のカラーリングで、何より『エイハブ粒子』の反応を感知している。

 

《進路予想はこちらか。しかもあの動き……エース級の奴らばかりだ。今迎撃に回れば対処は可能だが……》

「それではカルディナへの対応が、間に合わん……このタイミングでギャラルホルンの者共か!」

《……オーダールーム、先に奴らを始末する。》

「……仕方あるまい、頼むぞ!他の待機中の隊員達、騎士団にも連絡を───!」

《了解……バエル、リミッター解除。GSライド、フルドライブ。》

《Yes, Master.》

《ゴミ共が……こちとら超特急で急いでんだ、慈悲はねぇ、お得意の言い訳も聞かん……黙って全員死んで貰うッ!!!

 

まるで足止めをするかの如くタイミング悪く出現した黒い集団に向け、悪鬼刹羅の怒りを込めて、文字通り悪魔と化したガンダムバエルは、突然現れたシュヴァルベグレイズの軍勢に問答無用で斬り掛かったのであった。

 

 

こうして、偶然と必然が折り重なった、数奇な戦いがそれぞれ始まってしまったのだった。

 

 

《NEXT》

 

 

 

 




……あれ?これって四天王との最終戦だっけ?と錯覚しながら書きましたが、実は違う。

……これで、まだ『本番』じゃないのですヨ。

あと、ここに至るまで描写が少ないと後悔もしています。
多分、(2)、(3)ぐらいになるカナ~……?

ご指摘、ご感想、お待ちしています。


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Number.22 ~暴かれた『終焉を告げる存在』~(2)

どうも1ヶ月ぶりです。

前回更新後、職場がコロナのクラスターでてんやわんや!出るわ出るわ芋ずる式に感染者が!
幸い陽性反応は出ませんでしたが(感染してないとは言ってない)、執筆どころじゃねぇ……でした。
執筆も感想も書けなくてすいません。

という訳で、時間も掛かりましたが、どうぞ!!



………ちなみにまだ連載続きますよ??

(そんな内容です。)


 

 

医療カプセルの中で静かに鼓動が、電子の海に鳴動する。

電子回路の路に、その光が走る。

その人物は祈るように、そして眠りの海に入るように静かに……けれども感じていた。

 

 

……聞こえる、あの人の声が。

 

……聞こえる、辛そうに、それでも懸命に戦う音が。

 

……感じる、あの人の後悔と嘆きが。

 

……滲みる、あの人の怒りと憎しみと恐怖が。

 

……痛い、それら全てを上回る、あの人の『勇気』を、強い心。

 

……苦しい、それは誰の為?私の為?

 

……怖い、これは私を想う、優しく、温かい心。

 

……眩しい、眩しい、眩しい───

 

……痛い、痛い、痛い───

 

……アツイ、イタイ、ヤメテ──

 

そして誰もが予期出来なかった。

侵食は進み、既に自力で電界情報の海(ネットワーク)に繋がろうとするまでに至り、全てを見ていた事を……

 

 

 

 

◯第14工房前 ディバイディングフィールド内

 

「──ウィルルル!先手は貰うぞ!」

 

4対1の戦いは、ペスカポートの砲撃から始まった。

主砲を上空に撃ったと思いきや、副砲が間髪入れてマシンガンのように連射し、雨霰の如く襲い掛かるエネルギー弾に、すぐに反応したカルディナはマギウスのスラスターで離脱──

 

「──させないわよ。」

 

──しようとした時、プレザーブの杖から無数のレーザーを放つ。しかもそれらは軌道が歪曲しており、回避行動に応じた追跡機能(ホーミング)でマギウスの動きを補足し、連爆によるダメージにてマギウスはその動きを鈍らせ、同時にペスカポートの銃撃が襲い掛かる。

 

「──隙有りですねぇ!」

「──ぐッ!」

 

その隙を逃がさないように、盾を構え、重厚な車輪で突撃してきたのはポレントス。

銃撃とレーザーによって巻き起こった砂煙の中より跳び出てきたポレントスは、マギウス・ガオガイガーを超える大質量と重量による盾の打撃(シールド・バッシュ)を敢行、マギウスは、ノックバックによりバランスを崩され、少なくないダメージを受けた。

 

「──フッ、まだまだ!」

 

だが、吹き飛ばされた先へ待ち構えていたのはピッツォ・ケリー。拡げた翼の一枚一枚の──無数の羽が震え、ざわめくのも束の間、その翼をマギウスに向け、居合いのように思い切り振り抜く。

その瞬間、ギャリッと耳をつんざくような、鋼が削れるような音が響く。

 

《これは──高周波ブレード!?》

「オオオォォォーーー!!」

 

V.Cが観測したのは、以前に出現したゾンダーの高周波ブレードよりも強い『超高周波ブレード』。

それが更に音速を超えた速さで、ピッツォ・ケリーにより、次々にマギウスに斬り掛かり、度重なる連撃がマギウスを襲う。

 

「まだですよ!!」

「何を───ぐぅッ!?」

 

更なる追撃にポレントスの盾の打撃(シールド・バッシュ)が連撃の間を突いて来て、マギウスは更に飛ばされ───

 

「ウィルルル!弾ちゃーく、今ッ!!」

「───!?」

 

───ドォォ──ン!!

 

初めに撃ち出した主砲の()()()()の一発がマギウスに直撃、すぐ横に外れた弾頭も含め、大爆発を引き起こし、周到に、そして粘着するように剥がれず、マギウスを燃やす。

湾曲空間内とはいえ、その爆発の威力は周辺の大地を揺らし、高温の炎はマギウスを蝕んで行く。

 

「特製のナノテルミット*1弾頭だ。一堪りもあるまい、ウィルルル──」

「──この、程度ッ!!」

《排熱機構──作動。》

「──ルッ?!」

「あらあら……」

「……む。」

「何だと……?!」

《マギウス・アーマー、正常に稼働中。エネルギー損耗率23%。》

 

四天王が凝視する、今も尚激しく燃える爆心地より動く影………それは排熱機構を全力作動させ、燃え盛るテルミット燃焼の炎を一掃する存在──仕留めたと思った筈のマギウス・ガオガイガーは()()で現れ、胸のライオン(ギャレオン)と、マギウス・ガオガイガーの相貌がギラリと光り、四天王を睨んだ。

 

「ウィルルル!?テルミット硝煙を吹き飛ばした?!しかもバリア機構を兼ね備えた装甲だと!?」

「非常に強固ですね。しかし出力は高そうですが……」

「損耗も激しいはずだ!ならば、我等四天王の連携を以て──!!」

「完全勝利を!その命、刈り取ってあげるわ!」

 

そして再び行動を開始する機界四天王達。

 

「………」

《………》

 

しかし先程とは打って変わり、カルディナとV.Cは一言も発さず、四天王の猛攻に防戦一方であった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「──でぇええいあッ!!!」

 

気迫を込めた翡翠の一刀が、黒いシュヴァルベ・グレイズの一体を唐竹に切り裂く。

その背後からライフルを至近距離で構えた機体がいたが、流れる動きからの横蹴り、そしてライフルより早いヒール・バンカーでコックピットごと貫く。

いくらインナーフレームが丈夫であっても、コックピット・ハッチを的確に貫かれ、パイロットが死ねば木偶の坊に成り下がる。

 

「……残り、3つ。」

 

そうやってアクニカ・カイエルの駆るガンダムバエルは、無駄のない動きで目の前のゴミ達を()()していった。

そして残り3機のシュヴァルベ・グレイズだが内2機はアグニカからすれば雑魚だ。特に1機は動きがドン臭過ぎて素人(トーシロ)以下で相手にすらならない。

だが、問題の1機は相当な手練れだ。機体の差を力量で埋められる実力差を持っている。

現状ではバエルに充分な分があるが、同レベルの機体であれば中々いい勝負が出来るだろう。

 

「ならば残る雑魚を片付けるか……バエル!」

《エイハブ粒子、チャージ。スラスター、起動──》

「──イグニッション!!」

 

スラスターを全開にしつつも、突撃しながらスラスターの可動部の砲門より高濃度のエイハブ粒子をシュヴァルベ・グレイズ叩きつけるガンダムバエル。

しかし、ここで妙な事が起きた。

手練れのシュヴァルベ・グレイズが、ドン臭いのをかばったのだ。無論、シールドを用いて損傷が軽微になるようにしたのだが、何故かかばった。

アレに重要な人物がいるのかと思考したアグニカだが、時間優先で斬れば一緒と考えるのを止め、ブレイブキャリバーを振るう。

流れるように1機斬りつけ、更にもう一つ、今度こそドン臭いのを──手練れがかばう。

 

「またお前か!?」

 

また手練れが介入したせいで、剣閃がずれ、胴体を泣き別れにさせただけにしてしまい、コックピットを討ち損じた。その前に両腕をもいでいたので、結果的には()()にしたので、機体自体は動かせないだろうが、致命傷にはならなかった事が悔やまれる。

モビルアーマー相手では逆に致命傷を貰ってしまう事案なので、アグニカとしては失態&致命傷レベルだ。

 

「この……邪魔しやがって!!」

 

腹いせ代わりに地面にバンカーを打ち込んで煙幕を立たせた後、キャリバーを突いてでコックピットを潰しに行くアグニカだが、僅かに相手の反応が勝り、頭部を潰すぐらいに留まったが、事前にチャージしたエイハブ粒子砲が機体に直撃し、機体は破壊される。

 

爆発する間近にパイロットが脱出し、こちらも撃ち損じた。

 

《敵パイロットに逃げられた。》

「クソが!!」

 

どうやらまんまと逃げられたらしい。

手練れが乗っていたグレイズを破壊しながらアグニカは悔しがる。

相手の動向から推察すると、目的は破壊活動よりも潜入を優先したような動きであった。

それを事前に察知していたアグニカだが、まんまとしてやられた事に憤りを感じる他ない。

 

《迎撃は?》

「いい。気掛かりはあるが……オーダールーム、侵入して来たモビルスーツは全て撃破したが、2名取り逃がした。捜索は人海戦術で。後は頼んだ。」

《構わん、今はカルディナの援護に向かってくれ!》

「了解……間に合ってくれよ!!!」

《フル・ブースト。》

 

そして後れを取り戻さんが為に最大戦速で空を駆け、カルディナの元に飛び立つガンダムバエル。

 

 

……だが奮闘空しく、間に合う事はなかった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

容赦なく降り注ぐ弾丸の雨。

数多の熱線の軌跡。

止められない大質量の塊。

避けられない音速の刃。

 

これらが機界四天王が用意した得意とする武器であり、マギウス・ガオガイガーを狩る為に振るう。

……だが、しかし。

 

(──ウィルルル!?どうしてだ!?我等の攻撃は確かにカインの遺産モドキを攻め立てている筈だ。しかし何故奴は倒れない?エネルギーを切らさない?有機生命体ならば有限の体力を切らす筈だぞ!)

 

(……確かにこちらが押している()()()()()()。でも何かしら?あのカインの遺産モドキの初めの気迫とは違う───戦いが進むつれて、手応えがなくなっているこの感覚は……!)

 

(はて?何でしょうな、この違和感は。真芯に当たり続けている筈なのですが、当たった後の手応えがないですと?そんな馬鹿な……)

 

(……いや、間違いなく手応えがなくなって来ている!まるで紐や糸……いや、重たい空気を、水蒸気でも相手にしているかのような……何だ、この違和感は!?)

 

少しずつ、少しずつ追い詰めているはずなのに、機界四天王は逆に少しづつ違和感を抱く。

だがそれが何なのか、彼等には理解出来ずにいた。

 

「……無駄よ。動きはもう見切ったわ。それに……出力で勝とうなんて思わない事ね。」

「ウィルルル、減らず口を!ならば今度は曲射等と言わず、直接当ててやる!」

「……考えても止む無しね、援護するわ!!」

 

痺れを切らせたペスカポートの主砲が今度は直接マギウスを狙う。

同時に迷う事を止めたプレザーブの杖から放たれた追跡(ホーミング)レーザーの雨が、再び幾多の弧を画いて、死角からマギウスを襲う───が。

 

「──見切ったと言った!」

「ウィィィッ!?」

「何ですって!?」

 

高速回転する右腕が『化勁』の要領で、弾頭をいなし、明後日の方向へと弾き飛ばす。

同時に、左肩のアリコーン・ガオーの翼が広がり、その銀の羽根が宙を飛び交い、迫り来る幾多のレーザーの雨をマギウス・ツール『アリコーン・フェザー』が展開した反射結界『ミラーコーティング・フィールド』でマギウスを守り、一つ残らず全てのレーザーを反射する。

そして逸らされた弾頭、弾かれたレーザー攻撃が混ざり合い、後方でテルミッド焔硝の大爆発を起こす。

その 自身の圧倒的火力を無効化された事に、驚愕するしかないプレザーブとペスカポート。

 

「──だが、これは避けられまい!!」

「そこです!!」

 

遠距離では分が悪いと判断したピッツォ・ケリー、ポレントスが、得意とする突撃と近接攻撃を仕掛ける──が。

 

「その程度。」

「何ですと!?」

「馬鹿な!?」

 

ポレントスの盾の突撃(シールド・バッシュ)をギリギリのところで避け、縦横無尽に飛び回り、斬りつけるピッツォ・ケリーをガオガイガーの巨体でステップを踏んで、分身したかのように回避する。

大柄で、回避するには難しいマギウスの躯体で、直線と曲線の軌道を回避されるとは思わなかったピッツォ・ケリーとポレントス。

思わずマギウスから距離を取ってしまう。

 

《お嬢様、敵性群体『機界四天王』の行動アルゴリズム、解析。及び行動予測乱数調整パターン・アルゴリズム作成、完了しました。》

「……わかったわ。」

 

その動き()に、今度はマギウス(カルディナ)が動く。

だが四天王にはその動きが、歩むような速さで前進するのみ、そのように見えた。

 

「……ふむ、隙だらけですねぇ。それとも誘っているのですかな?ではそれにお付き合い致しましょう───どちらにせよ、真の力の前には小手先の技術など無意味である事を教えて差し上げましょう!」

 

超重量と車輪の駆動により、運動エネルギーが最高潮になる。

再び盾の突撃(シールド・バッシュ)を敢行するポレントスのトップスピードは、瞬間的に音速にも迫り、カルディナと言えどその衝突エネルギーは当たれば、そのままではひとたまりもない。

 

「──新竜炎咆哮(ドラゴニック・ロア)

「!?何が────!?」

 

だがその目論見自体が、地面と共に破壊された。

マギウスが非常に重い一歩を踏み出した瞬間、右足のドラゴンガオーの(あぎと)より超高温の炎が噴出、その衝撃と威力が地面を隆起、そして陥没させる。

まるで地獄の業火が吹き上がったかのような崩壊。

同時に超高速で突撃するポレントスのバランスが路上の崩壊によって崩れ、無様にも前のめりになった。

 

───その瞬間をマギウス(カルディナ)が逃す筈がない。

 

「ど──っせいァ!!!」

「ぐはぁぁっ!!」

 

バランスを崩した瞬間に生まれた隙をついた、渾身の背負い投げ。ポレントスもまさか投げられるとは予測出来ず、受け身も出来ないまま自身の重量と運動エネルギーを一身に受け、叩き付けられてしまう。

その威力は先程の地面の崩壊具合を超えて、深いクレーターを成型してしまう程の落下エネルギーを生んでいた。

同時に、ポレントスは全身にゾンダーでは有り得ない一時的な機能不全を引き起こされたのだ。

人間で言えば、落下時の痛みと肺から空気が全て吐き出された呼吸困難にも似た症状だが、こちらは瞬間的なG&Jパワーを叩き込まれての全身麻痺。

動けない。

 

「そこだ───!」

「──暗黒霊牙(ワームスマッシャー)。」

「ぬぉおおおッ!?」

 

ポレントスを(なげう)ったマギウスの隙を突かんとする、超高振動の刃を向けたピッツォ・ケリーだが、警戒外からESウインドウを介した暗黒霊牙(ワームスマッシャー)が次々と襲って来た。

しかし()が空の戦士たる所以か、空中であれど寸前のところで回避し続けていた。

 

「このッ……何という嫌らしい攻撃だ!」

 

だが一度に最大65535もの標的を迎撃出来る暗黒霊牙(ワームスマッシャー)を素早いだけでは回避しきれない。

回避行動も詰め将棋の如く次第に狭まって行き、遂にその動きを捉える。

そんなピッツォ・ケリーにダメ出しの一手──

 

《マギウス・ツール──ドリルコネクター・L(レフト)!》

「──!?」

「ツールコネクト──ブロウクン・ドリルッ!!」

 

──マギウス・ツール『ドリルコネクター・L(レフト)

マギウスの左脚───ドレイク・ガオーの尾の(破砕型)ドリルを右腕に装着(ツールコネクト)する事により、『ブロウクン・ドリル』として使用出来る、掘削用のマギウス・ツールである。

それは堅固な物質であれ、右腕より発生する破壊エネルギーと併用する事により、どんな物質でもその構成を破壊する事が可能で、掘削能力を向上させるのである。

 

「しまった!!」

 

その高速回転をするブロウクン・ドリルを容赦なくピッツォ・ケリーに───

 

「──やらせはしませんぞ!!」

 

間に割って入るのはポレントス。

機能を麻痺させていたポレントスであったが、瞬時に盾を構えられるまでに回復し、ピッツォ・ケリーを庇うのだが、ゾンダーバリアを多重展開し、元の素材も吟味したその盾が、文字通り音を立てて無惨に削られてゆく。

だが、チャンスでもある。

 

「今です!抑えている間に、一斉攻撃を──!」

「──貫けェ!ドリル・ブロウクンマグナムッ!!」

「そ、そんな馬鹿な、盾が──うわぁぁあああッ!?」

「ポレントスッ!?」

 

そんなモノ(チャンス)は幻想であった。

削れゆく上から、更に回転速度を増し、撃ち出したドリルコネクターとブロウクンマグナムの併せ技『ドリル・ブロウクンマグナム』がポレントスの盾を、そして重厚なボディを貫き、循環出来ない膨大なエネルギーが爆発を起こす。

 

だが()()はまだ続く。

 

「ウィ!?ウィルルルッ!!」

 

D(ドリル)・ブロウクンマグナムの猛威を振るうその進行方向には───ペスカポートが。

ポレントスを屠った凶撃が自分の元に来ようとは予測出来ず、錯乱しつつも多々ある副砲を乱射し、迫り来る音速を超えた凶撃を撃ち落とそうとしたが、全弾命中させているが一向に勢いが衰えない。

 

「ウィルルル……ピッツォ───」

「ペスカポートォ!」

 

船体の先頭にある1つ目を容赦なく砕き、そして船体(ペスカポート)丸ごと貫いたD・ブロウクンマグナムが通り過ぎた後、爆発を伴い、轟沈する。

その光景にピッツォ・ケリーが叫ぶ。

 

「貴様ァ──ぐぁあああッ!?」

 

憤怒するピッツォ・ケリーだが、マギウスの攻撃の手は休まらない。

ガルムガオーからの暗黒霊牙(ワームスマッシャー)と、アリコーンガオーのアリコーン・フェザーから繰り出される神の齎す平定(ゴッド・フリート)の雨がピッツォ・ケリーを襲い、焼いていく。絶え間なく続く猛攻撃の嵐に耐えながら、その黒い翼を開く。

 

「覚悟しろッ!カインの遺産モドキッ!!」

 

渾身の一撃を繰り出さんと決死の覚悟でマギウスへと突撃するピッツォ・ケリー。そのスピードは先程よりも格段に速く、音速を超え、光速にも届かんとする。

しかし──

 

「マギウス・ウイィィーングッ!!」

 

マギウスもジェイダーのプラズマウイングを元に創られた『マギウス・ウイング』を展開、超高速の戦いに入った。

白金と漆黒の閃光が幾重にも折り重なり、螺旋を描くようにぶつかり合っていく………が、一方的にマギウスの攻撃がピッツォ・ケリーを蝕んでいく。

 

「馬鹿な……振り解けない!?私が、速さで負けているだと!?」

「これだけ速く動いているのに……あのカインの遺産モドキの周囲の攻撃が、何故的確にピッツォ・ケリーだけに当たるの!?」

 

あまりの速さにプレザーブは立ち尽くすしかなかった。

片や光速に迫る速さのピッツォ・ケリー。

片や光速に達した速さのマギウス。

そして上回る戦闘技術。

速さで翻弄する事に関しては他を追髄を許さないピッツォ・ケリーだが、今は完全に負けている。

そしてマギウスを狙うにしても速過ぎて当たらず、もし撃とうものならピッツォ・ケリーに誤射しかねない。

また、暗黒霊牙(ワームスマッシャー)神の齎す平定(ゴッド・フリート)の弾幕がピッツォ・ケリーを常に完全に捉えており、音速飛行を行っている筈なのだが、的確に弾幕がピッツォ・ケリーを捉え続ける。時折牽制でプレザーブすら狙い、一切の介入を許さない。

 

「こうなったら誤射覚悟で──!」

「──ガッ!?」

「……捕マ・エ・タぁぁぁーーー!!!」

「おぁああああ!?」

「ピッツォ!」

 

何度も繰り広げた超高速の交差が終わりを告げた。

一瞬の隙を突いたマギウスの左脚(ドレイクガオー)の顎がピッツォ・ケリーの胴体にがっちり噛み付き、捕らえたのだ。

その事に歓喜とも狂気とも、隠しきれない憤怒とも感じ取れる慟哭を含んだ宣告を吐き出すマギウス(カルディナ)

そこからはマギウスの一方的な独壇場である。

逃げようにも鋭い牙が胴体を離さず、ピッツォ・ケリーの限界を超えた速度で成すがままに空へと上昇、マギウス・ウイングを翻したマギウス・ガオガイガーは身体を屈め──

 

《マギウス・ウイング、推力最大。》

「ォォオオォォォーーーー!!!」

 

その推力を限界まで引き上げた光速落下の蹴りを放つ。

落雷の如き激しい閃光と衝撃が、ディバイディングフィールドを激しく揺らし、その余波が周辺の土地を震わす。

光速での落下エネルギーを十全に受けたピッツォ・ケリーは満身創痍で叫ぶ事すら難しいが、辛うじて命はあった。

しかし巻き上がる噴煙の中で身に纏う獣達の双眸が、ピッツォ・ケリーを逃がす筈もなく……

 

「──止め。」

 

何よりマギウス(カルディナ)がその存在自体を赦す気はなく、噛み付いたままの右脚の竜に核を焼滅させられる程のエネルギーを込める。

 

「──ぁぁぁああああッ!!!」

「──!?」

 

しかし、やらせはしないと、噴煙を目くらましにプレザーブがマギウスへと突撃し、杖を突き当ててレーザー攻撃をゼロ距離で掃射。

これにはマギウス(カルディナ)も対応しきれず、チャージした右足を離さざるを得ずにノックバックされるが、カウンターにとプレザーブへとチャージした燃焼エネルギーを蹴りに込めて撃ち出すが、プレザーブは逆に懐に飛び込み、胴体の一部を削られる事を代償に射線上より辛うじて退避する。

そこからは近接攻撃の嵐であった。

胴体を再生させたプレザーブは、杖を分割して至近距離からレーザーを撃ち続け、更に背部の装飾としてあったマントを変形させ、2つの大きな歯車を生成、電動丸ノコギリのような音を響かせ、マギウスを切り裂くように交互に当ててゆく。

左腕の展開が間に合わず、右腕を盾替わりとするマギウスが激しい火花を散らせて防御するが、それが次第になくなり、マギウスの高速回転による防御が全ての攻撃を防ぎ、拮抗している───

 

「……違う、全部弾いている、回転を()()()()()()!?」

 

レーザーは難なく受け流され、歯車は右腕の回転と、文字通り歯車の噛み合わせがぴったりになったように一切の抵抗がなくなってしまっていた。

まるで「この程度、見切るに易い」と言われているかのように。

それどころか、次第にプレザーブ(攻撃を仕掛けている筈)の歯車より右腕(マギウス)の回転の速度が勝り───

 

「……それで終わりかしら───ゾンダリアンッ!!」

「がァッ!?」

 

一歩踏み出したマギウスが瞬間的にGパワーをブーストし、プレザーブを左の拳で殴り飛ばした。

激しく転がり、ディバイディングフィールドの壁に衝突してようやく止まるプレザーブのボディはGパワーの影響で再生も阻害され、ボロボロなっていたが、そんな事など関係なく更に迫るマギウス。

その迫り来る姿は、プレザーブには悪鬼刹羅の合成獣(キメラ)に見えた。

 

「ぐぅ……!その力、いったいどこから来てるっていうの!?」

「まだ解らないかしら?ゾンダーメタルが負の感情(ストレス)から無限にエネルギーを生むように……貴方達(ゾンダー)に抗う為に生まれたGストーン、Jジュエルを持つこのマギウス・ガオガイガーは、勇気から無限にエネルギーを生む。その二つを持つレヴォリュダーのこの私が、勇気を持ち続ける限り!貴方達(ゾンダー)に立ち向かう限り!私の力は……『無限』を超えた『絶対勝利』の力だぁぁぁあああッ!!」

「ふ、ふふふ……この、化け物が!!!」

「それはそっちでしょうが!!」

「ガ──ぐはぁッ!?」

 

そして何の躊躇もなく踏みつけ、竜の牙が容赦なくその深紅のボディを噛み砕いて行く。

更にプレザーブが思わず叫んだ「化け物」の言葉への返事に、怒りをぶつけるカルディナ。

 

「……化け物は貴方達じゃない。そのエゴの塊のような機界昇華(プログラム)を繰り返し、何の関係もない命達を同化し弄ぶ、宇宙のガン細胞でしょうが。」

「ぐぅ……!解って、ないわね……機界昇華は、世界に平穏を……もたらす神聖な───」

「──Zマスターが浄解される事で、()()()()()()()()()()機界昇華が()()()()()ですって??そんな一個体の総合センタープログラムでしか支えられない脆弱なプログラムの……ねぇ───それのどこが神聖??」

「がはッ!」

貴方達(ゾンダー)のやってる事は有機生命体をただの隷属者(ゾンダリアン)に改造する事の押し付けに過ぎない。隷属者(ゾンダリアン)となった存在はマスタープログラムの指令によって死ぬまでこき使われ、そして機界昇華の苗床になる……これの何処に理想があるのかしら?」

「少なくとも負の感情に……ストレスに苛まれる事は──ないわ。それがあらゆる苦しみから解放───」

「──されないわよ。ゾンダー化した時点で自我がないゾンダーの魂は、永久に蝕まれる……それこそ、輪廻転生しようとも、永久に。」

「そ……んな、そんな馬鹿な事が───!」

「あるわ。転生して尚、ゾンダーになっている者は魂に激しいノイズが後遺症レベルで入るのよ。確認も取れているわ。貴女の言う()()()()()()()からは、浄解されて初めて解放されるわ……一時的に、だけど。生きている限り、生きる苦しみからは逃れられないわ……当然の事じゃない。」

「そ、そんな……!?」

「……何を驚いているのかしら?貴方達がやりたい事でしょう?使命なのでしょう?本能レベルで組み込まれた命令でしょう?それなのにその副産物やリスクを知らないなんて……Zマスターのマスタープログラムは既に浄解され、滅びている。けれど貴方達は未だこの星に存在している。何なの、貴方達は?亜種か特別変異か……そんな中途半端なお前達(ゾンダー)が……そんなオマエ達が、あの子を狙うなんて───絶 対 に 許 さ な い 」

 

動揺するプレザーブ等関係ないと言わんばかりに言葉で責め立てるカルディナ。

その怒りに呼応し、再び強力なエネルギーがマギウスのボディから噴き出し、そして右腕と左腕に収束していく。

 

「……ディバイディングフィールドの持続時間は残り19分。それまでにここにいる貴方達の核を抉り取るには容易い───けど、そんな慈悲染みた事はしない。お前達を破壊……破壊、するッ!!」

「うぅ……!」

 

そこにいるのは勇者とは程遠い、魔獣ですらない、人の形をした悪鬼刹羅の合成獣(キメラ)、あって、それ以上の存在───天敵。

その姿にゾンダリアンであるプレザーブですら恐怖を覚えた。

目の前に存在する者が、自分達(ゾンダー)と戦う時に要である核を抉り出す事は、戦術を解析する際に熟知している。

何より、プレザーブ()()目の前の存在(マギウス・ガオガイガー)正体(パイロット)を密かに知っていた。彼女(プレザーブ)が知るその人物はそんな事(ゾンダー核の破壊)などしない……が今、その()()()が破られようとしていた。

 

何故、何がそうさせるのか?

この異常な怒りは何が起因するのか───

 

(───()()()!?私達が感じ取った、()()を狙ったから!?)

 

ゾンダーのような、ゾンダーであり得ない、()()

自分の言葉を反芻し、驚愕する。

 

(私の知らない、()()がそこに存在するの!?)

 

ソレを知りたい。猛烈な欲求が湧き上がる。

だが、好奇心は猫を殺す。興味本位で突っ掛かった存在が目の前の死神(マギウス)を引き当てている。

目の前の存在相手に、時間がない。

プレザーブの思考は走馬灯のように駆け巡り、そして諦めた。

 

「死ネ。」

 

そして相反する膨大なエネルギーを合わせようとするマギウス・ガオガイガーの、ヘルアンドヘヴンが今───

 

 

 

「 そ う は さ せ ん 」

「な───ぁあああッ!?」

 

空から一条の光線(レーザー)が降り注ぐ。

それはプレザーブのレーザー攻撃よりも強力な一撃が無防備なマギウスを吹き飛ばした。

 

《きょ、強力な荷電粒子砲(レーザー)!?発射元は───!?》

 

観測しようとするV.Cのセンサーに更に異常が観測される。

突如として大量の()()()が舞い落ちて来たのだ。

その木の葉はV.Cのセンサーをかき乱し、異常を来し、感知を遅らせた。

そこから来るのは正確無比なレーザー攻撃。

舞い落ちる木の葉に当たり拡散、マギウス・ガオガイガーの攻撃にも劣らないレーザーの嵐がマギウスの死角を絶え間なく襲い続ける。

 

「マ、マギウス・アーマー、展開!!」

《了解!》

 

突然の猛攻に防御するカルディナは、本来であれば機界四天王の他に警戒する、もう一つの対象を見上げた。

 

莫大なレーザーを放つ、空中に浮遊するゾンダーメタルプラント──否。

 

ゾンダーメタルプラントに偽装した()()は、幹の上下が割れ、強靭な四肢と為し、その異形の相貌を現し、悪魔(サタン)とも例えられた顔へと造り替え、黒紫色の鋼の肉体へと変貌し、ディバイディングフィールドへと降り立つ。

 

「……フフフ。盲点だったわ。まさか偽装して来るなんて。機界四天王がいるなら、貴方がいても当然、おかしくないわよね────パスダァァアアアッ!!!」

「我が名を知るか……如何にも、我が名はパスダー。カインの遺産モドキよ、我が力の前に……散るがいい!!」

 

機界司令パスダー、(あらわ)る。

 

サイズこそ知るモノより小さいが、マギウス・ガオガイガーよりも一回り大きい。

上半身のデザインは東京決戦時とほぼ同じで、下半身は大地より解き放たれ、強靭な脚を持つ、完全な人型のパスダーである。

そして機界生命体でありながら、気を抜けば吹き飛ばされそうな威圧感を放つが、カルディナもまた負けていない。

放出されるG&JパワーとZパワーが互いに干渉し合い、互いに睨み合い両者の間で対消滅を起こし、そのエネルギーがプラズマとなって干渉し合っていく。

それでも尚、一歩一歩ゆっくり歩み距離を詰める両者。

 

武術の達人は、戦いに於いて相手とのタイミングを図り、技を繰り出すだけでなく、己の有利な空間(間合い)を完璧に把握しており、その間合いの中では相手を迎撃出来るという。

これを『制空圏』と言い、これは己にとって絶対に有利な間合いの総称なのだが、これが達人同士がぶつかり合った時、重なった『制空圏』から排除しようとする、所謂“陣取り合戦”が始まる。

そしてその“陣取り合戦”が全長30メートルを超えた者達が繰り出すなら、闘争に円熟したものであるなら、それはどんな所業か───

 

「ヌォオオオオォォォッ!!!」

「ハァァアアァァーー!!!」

 

 

その刹那───圧倒的な踏み込みと、その剛腕が炸裂した瞬間、強烈な衝撃の余波がディバイディングフィールドを物理的に震撼させ、激しい拳打の嵐が暴風のように繰り出される。

更に、マギウスが暗黒霊牙(ワームスマッシャー)、パスダーも額からレーザーを掃射、木の葉に当たり拡散して一斉掃射。

互いに当たる軌道を(えが)くが、マギウスフェザーのミラーコーティングが、木の葉に施されたリフレクトコートが、互いの攻撃を跳ね返し、また跳ね返し続ける。

その中を対消滅の破壊的な余波が舞い狂う中、激しく、速く、熱く、執念深く、互いの生死を賭けて拳を交える2体の猛者。

 

一瞬の油断で、受けた拳打で対消滅のエネルギーを受けるだろう。

僅かな読み違いで、レーザーの雨に焼かれるだろう。

 

そんな絶対に干渉が不可能な戦いが始まったのだ。

そんな中、満身創痍なプレザーブであるが機界融合の素体として使っているグレイズの動力炉(エイハブリアクター)を無理矢理フルドライブさせ、エネルギーを蓄え、再生を試みていた。

 

(早くエネルギーを蓄えて、参戦せねば。せめて援護位は出来るはず……しかし、あのカインの遺産モドキ……いえ、カルディナ・ヴァン・アースガルズ公爵令嬢のいう事が頭から離れない。もし呪いのようにこびり付くなら機界昇華にどれ程の意味があるというの?負の感情(ストレス)からの解放を目的にしていたというのに、私は……)

 

何か迷いがあるのか、機体の再生は着々と進むが、カルディナの言葉に動揺を隠せないプレザーブ。

そんな時、向かい側より無理矢理立ち上がってきたのは再生を終えたペスカポート。

 

「ウィルルル!!許さん、許さんぞ!カインの遺産モドキ!!」

「……さあ、反撃と行きましょうか。」

「この屈辱……今こそ晴らす!!」

 

ポレントスとピッツォ・ケリーも瀕死の淵から機体の再生を果たし、立ち上がった。

プレザーブ以外がマギウスに対し、臨戦態勢を取ったこの状況に、カルディナは戦慄した。

 

「ぬ──隙ありっ!!」

「しま──っ!?」

 

一瞬の警戒の代償に隙を突かれ、反応が遅れたために右手首関節部にダメージを負い、更にレーザーの集中攻撃を浴びてしまうマギウスは、後退を余儀なくされた。

戦闘継続な損傷であるが、目の前のパスダー相手には一瞬の遅れも赦されない。まして、先程まではあしらったとは言えど、機界四天王が3体いる以上、劣勢になったのは間違いない。

 

 

……駄目、やめて、あの人が死んでしまう

 

……やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ───

 

 

 

─── ヤ メ テ ───

 

 

……止めさせなきゃ、止めなきゃ、防がなきゃ、コワさなきゃ、ダメ、駄目、ダメ、駄目、ダメ───

 

……ソウダ、破壊、破壊、破壊、破壊破壊破壊破壊ハカイハカイハカイハカイハカイハカイハカイ───

 

 

─── ハ カ イ ス ル ───

 

 

……これが最後のキーとなってしまった。

 

「まだよ、まだ私の勇気は───!?」

「……ぬ、何だ?この異様な波動は───」

 

《え、コレハ!#&%$%$|~==`*{<>+{`+{'?%*;──がァァアアアアッ!!》

 

周りの空気が、何かが変わった時、カルディナとパスダーは戦いを止め足を止め、周囲を警戒した。

そして突如、V.Cが苦しみの悲鳴を上げた。

本来苦しむ筈のない超AIのV.Cが、尋常ではない苦しみ声を上げたのだ。

 

《──っだぁッ!!はぁ、はぁ……!》

「ちょっとV.C、いったいどうしたの!?」

《……ネ、ネットワークにウイルスを確認したので力づくで遮断しました。》

「V.Cのネットワークに……誰が?!」

《ウイルスの発信元は、サクヤ-04。同時に工房内のリンクが途絶しました。

「うそ……それじゃ今、工房内は───」

 

更に工房の建物より閃光───激しいエネルギー爆発が観測された。

 

「何だ!?」

「あの場所は確か……」

「ウィルルル、異様な反応があった場所だ。何が起きた??」

 

激しく燃えるように吹き上がる、()()の閃光───まるで、何かを焼き払うような光景であるが、それが急速に吸い込まれるように収束してゆく、目を疑いたくなる不自然な光景がそこにあった。

 

「……お嬢様、ミニ・ガオガイガーとウサリンmk-Ⅱ改より、『内蔵弾丸X』の発動を確認───同時に、両機の反応がロストしました。」

「カイン様と、アベル様が!?」

《───!!素粒子Z0反応増大、来ます!!》

 

まさかの両機の反応消失にショックを受けるカルディナだが、そんな暇等ないと言わんばかりに、ミニ・ガオガイガーとウサリンmk-Ⅱ改を亡き者にした、素粒子Z0を持つ存在が工房の地下を突き破って現れる。

破壊されて湧き上がる砂煙の中でその相貌が光り、一歩一歩淑やかに歩むその存在は───

 

「ウィルルル?ゾンダーロボ、か?」

「……何だ、あいつは。」

給仕(メイド)……ですかな?」

 

女性型の駆体に、青いクラシックタイプの給仕(メイド)の服に見立てたパーツを身に纏った、20メートルクラスの、ロボである。

ただ顔にデザインはなく、未加工のフィギュアのように眼も口もない。

給仕(メイド)服とは対象的な赤い髪の毛のようなパーツが頭部を被う、ロボである。

 

「あれが……特異な反応の元、なの?」

「ウィルルル、この際利用させてもらう。そこのゾンダーロボ、お前もカインの遺産モドキを攻撃しろ!」

 

「………………ハァ??」

 

「!?」

「ウィルル!?」

 

ペスカポートの指示に「何言ってんの??」と言わんばかりに、そいつは首を傾げる。

発した言葉がそれに更なる拍車をかけ、緊張していた空気が思わず弛む。

だが、マギウス(カルディナ)は悲壮感に支配され言葉が出ず、パスダーは動揺を隠せないでいた。

 

「何だそのやる気のなさは!さっさと攻撃を始めろ!」

「ハァ……」

 

そんな態度に激昂するペスカポートに 溜め息混じりにやれやれとお辞儀をして返事────

 

 

ドンッ!!! ゴギギャャッ!!!

 

 

「ギュ──ギュルルルルルルル!?!?」

「「「!?!?」」」

 

等、する訳がない。突然吹き荒れた暴風の後、再生を終えたペスカポートの駆体をディバイディングフィールドの壁に、文字通り擂り潰すように捩じ伏せていた。

強固であるはずのペスカポートの船体だが、極限までにひしゃげている。

その理由は、給仕(メイド)服の()()()が髪と給仕(メイド)服に偽装し、現在展開して爆炎を放ち続けている、体中により展開した板状の推進器(スラスター)──『アクティブ・モーション・スラスター』にある。

これは偽装・可変式スラスターであり、自由角度に可変する事によりどんな体勢からどの方角へも進むことが可能で、アクティブ・アクションから収束する事で飛行までも可能とする。その推進力を一点に集中した突進は、機界四天王を容易に破壊出来る。

ひしゃげた駆体から這い出るように脱出するペスカポートの本体だが、その様子は機界生命体あるまじき、()()()の様子で、駆体より完全に脱出出来ていない。

その状況を異常と察知したのはパスダー。ピッツォ・ケリーよりも速く、レーザーで駆体に攻撃し、ペスカポートを無理矢理切り離した後、素早くピッツォ・ケリーが回収、()()()から距離を取る。

 

「ペスカポート、どうしたのだ!?」

「エ……エネルギー…が吸われて……動けな……」

「何!?」

「──機界四天王よ、()()から離れよ!!()()ゾンダー(味方)ではない!!!」

 

「……ハァァァアアアア」

 

破壊したペスカポートの残骸に干渉し、機界融合にて()()は湯水を吸い取るように取り込む。

先程の気の抜けた雰囲気とはうって変わり、地の底から響くような声が不気味に木霊する。

その何もない無貌がそれに拍車をかけていた。

そしてパスダーの注意喚起も空しく───

 

「む、どこに──ごはっ!?」

「アアアア……!」

 

瞬時にポレントスの前に姿を現し、盾ごとポレントスを手刀で穿つ。

盾はボロボロの絶縁体へと変わり果て、エネルギーも吸いとられ意味を成さない。

最後は、本体が生き延びられるようパスダーがレーザーで切り離すしかなった。

 

「くっ!離脱を───!!?」

「ハァァァアアアア!!」

「しま───がァァァああああ!?」

 

離脱を目指したピッツォ・ケリーは、圧倒的に上回るスピードで追い回される。

フェイントを入れた機動であっても、()()が髪と給仕(メイド)服に偽装した『アクティブ・イグニション・スラスター』がどんな動きにも追い付き、瞬く間に捕まえる。

最後はエネルギーを吸い取り、四肢をバラバラにし、機界融合をして取り込む。

超高振動ブレードは触れたところからその機能を停止している。

出来たのはパスダーがレーザーで本体を切り離し、逃がすぐらいだ。

 

「これが、異変の正体───」

 

機界四天王で残ったプレザーブだが、最早打つ手はなかった。

立ち尽くす彼女の前に、()()は降り立ち、抗う暇もなく無惨に駆体は真っ二つに切り裂かれ、瞬く間にエネルギーも残骸も吸収される。

パスダーのレーザーで僅かに軌道が逸らされた事で、寸前で脱出出来たプレザーブであるが、最後に見たのは、無貌でありながら怒りに満ちた()()の慟哭であった。

 

その光景を目の当たりにしていたカルディナは、戦う意思を失い、力なくマギウスの膝を付けてしまう。

 

「……駄目だった、間に合わなかった、私が弱い姿を見せちゃったから……あの子が不安になって、絶望して───あああぁぁぁーー!!!」

《お嬢様、しっかり!!》

 

そして同じく一部始終を目撃し、被害を出さないよう尽力したパスダーは、目の前で起こった出来事に未だに目を疑っていた。

 

「……馬鹿な、早過ぎる。我等はまだ存在している……()()ですらまだ存在しているのだぞ。それなのに、何故貴様が顕現しているのだ───機界新種(ゾヌーダ)!!」

 

「ゾヌゥゥーーーダァァッ!!!」

 

 

今、暴かれた『終焉を告げる存在』──機界新種(ゾヌーダ)の存在。

それが今、マギウス・ガオガイガーにも、ゾンダーにも、その脅威を向けるのだった。

 

 

《NEXT》

 

 

 

*1
スーパーテルミットとも呼ばれ、点火後高温の発熱反応を特徴とする一部の準安定分子間複合材(MICs)の通称。一度燃え始めると消火の手段はなく、燃焼物が燃え尽きるまで反応は終了しない。反応後の理論的温度は約3100度。






という訳で、機界新種登場で───えええ!!?

と、思う方が大半だと思います。TV版ラスボスがもう出てきたと。
既に知っているので、わざわざラスボスをやらせる意味はないかと思うのと、『既に存在を知っている機界新種をRATさながらに撃破するにはどうしたら……』という発想から今回のネタに至りました。

ただ、この話に至るにあたり、「フラグが、少なかったな……」とは反省しています。
一応、機界新種であるフラグは既に出していますので、それで我慢してください。(-_-;)

ちなみにこの機界新種、戦闘シーンを考えている内に、TV版よりも強くなってしもうた……
素早くて、空も飛べる災厄ってヤバくない?

次話で22話は終わりなので、再びお待ちを。 


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Number.22 ~暴かれた『終焉を告げる存在』~(3)

22話もこれで終わります。

突然現れた機界新種。
それに動揺するカルディナお嬢様とパスダーが何を思うのか……

そしてそれを表現するのに構想と文章量が1.5倍膨れ上がった事で時間が掛かって申し訳ない。

だが、ここが分岐点!

さあ、刮目せよ!!未知の領域を!!


 

……数刻前、第14工房

 

《カイン様、アベル様。機界四天王と思われる敵性群体に続き、推定:機界司令パスダーと思わしき個体が出現しました。》

「ああ、こちらでも確認した。不意打ちとはいえ、拙いな。」

「5対1ですか。多勢に無勢ですね。」

「いよいよなれば私が出よう。」

「もしや()()で出るつもりでしょうか?私達(三重連太陽系)の技術を用いていますが、基礎の甘い欠陥品ですよ。」

「だが無いよりはマシなはずだ。()()()の身1つでこの苦難が乗り越えられるなら構わないさ。」

 

パスダーの出現に、驚愕しつつも冷静に見定めるカインとアベルの元には王国側が製作し、不完全品であったギャレオンモドキが彼らの手によりバージョンアップしたものがあった。

第14工房の地下倉庫に鎮座しているその名を『デミウス・ギャレオン』。

だが、本当はすぐにでも向かいたいところだが、本来の目的故にすぐにここを離れる訳にはいかなかった。

そして脅威であるが2人にはそれ以上の思惑があった。

 

「……しかし『パスダー』、か。」

「この『機界司令』とやらが、()()()()と気になるところですが……04、貴女はどう思います?」

《……詳細は不明。ですが()()()()()()()()()()()()()かと。》

「有り得るね……あいつならやりかねない。」

「……ふん。どちらにせよ、本腰を入れてきた訳ですか。あの娘ならやってくれるでしょうが……やはり何かに惹き付けられた、と仮定するなら、その対象は───()()ですね。04、様子に変化はありませんか?」

《現在、異常───あり パルスの急速な上しょう をかくにん、いじょう を感ち……にげて下さ

「いったい何が──ぐは……!」

「フミタ──ぐあぁ……ッ!」

 

「ハァァァァ……」

 

「な……!?」

「まさか!!」

 

医療カプセルから生えた腕により、不意を突かれたサクヤ-04の胸部が貫かれ、Gストーンが弾き出されるように床に落ちた。

そして侵食され、ボディを構成するAZ-Mの分子結合が崩壊、吸い取られるように()()されたサクヤ-04のボディ。

また、警戒をしていた『影』達も不意を突かれた形で胸を貫かれ、痙攣した後、絶命する。

事前に知り得ていた為、落ち着いて見極めが出来たカインとアベルは直感する。

 

「ゾヌーダ……」

 

「本当に出たか……機界新種!」

「なるほど、これがゾヌーダ!」

 

医療用カプセルすら取り込み、それは人型(ひとがた)の形を伴って顕現した──機界新種(ゾヌーダ)

裸のマネキンの様な姿で、頭部は昆虫の複眼のように広い双眼を持つ、機界新種に2人は直ぐ様身構える。

 

「カイン、行きますよ!!」

「やむを得ない、行くぞ───!!」

 

事前に情報を得ている2人は、一切躊躇いのない動きで挟み撃つポジションに立った。

そして一切油断できない相手に対し、2人が取った策とは───

 

「「内蔵、弾丸Xッ!!!」」

 

カイン(ミニ・ガオガイガー)はGストーンのリミッターを、アベル(ウサリンmk-Ⅱ)Jジュエルのリミッターを解き放つ。

 

───弾丸X

 

それは獅子王凱のサイボーグボディの『メンテナンスルーム』と、Gストーンに封印された高エネルギー集積体を爆発的に開放させ、勇者ロボを限界以上までにパワーアップさせる機能を持つ『ファイナルパワーアップルーム』を併せ持つ、GGGベイタワー基地のエリアIIIである。

そして東京決戦にて勇者ロボ達に弾丸XによるGパワーの解放を成しており、その稼働データは、後にフランス製ビークルロボ、光竜、闇竜に『内蔵弾丸X』、そして『ガオファイガー』の『エヴォリュアルウルテクパワー』に用いられている。

本機はミニ・ガオガイガー、ウサリンmk-ⅡにGストーン、Jジュエルにそれぞれ対応したオーバーブースト機構として『内蔵型弾丸X』を備えている。

これにより、スーパーメカノイドに匹敵するエネルギーを一定時間使用する事が可能となるが、弾丸Xの使用は強大な力の発現、行使と引き換えにGストーン、Jジュエルの機能が失われるデメリットを持つのである。

 

「───だが、そんな事を気にしている場合ではない!ヘル・アンド・ヘヴン!!」

「この一撃に、全てを賭けましょう!!シルバリオン、ハンマー!!」

 

全力全開の一擲を生まれたばかりの機界新種(ゾヌーダ)に仕掛ける2体。

当たれば完全消滅は必須ッ!!

 

……だが

 

「ハァァァァーーー!!!」

「な……!?受け止めただと!?」

「しかもエネルギーを……吸収している!?」

 

両腕を広げ、ヘルアンドヘヴンも、シルバリオンハンマーも受け止める機界新種(ゾヌーダ)

その上で源泉たるGパワー、Jパワーを無尽蔵に吸収する。

 

「くっ!!対消滅の可能性を考えていないのですか、この機界新種(ゾヌーダ)は!?」

「ならば対消滅する程に喰らわせてやるまでだ───ウィーーータァッ!!」

「いいでしょう、光に───なりなさい!!」

「ハァァァァーーー!!!」

 

圧倒的なエネルギーのせめぎ合い。それは工房を破壊し地上にその猛威を現すまでに荒れ狂った。

しかしそれ征したのは───機界新種(ゾヌーダ)

放出するエネルギーを上回るスピードのエネルギー吸収が勝ってしまったのだ。

極限までエネルギーを吸い取られた2機は、機能を維持出来ずに機能停止、バリア機能を無効化され、遂にはGSライド、ジュエルジェネレーターごと機体を吸収する。

地球で観測された機界新種(ゾヌーダ)ですら行わなかった暴挙だが、それをやってしまったこの機界新種(ゾヌーダ)は、不思議そうに自身の挙動を確認した。

 

対消滅、及び拒否反応……なし。

 

満足な結果に拳を握り、その後迷わずに物質昇華を周囲に振り撒きながら地下格納庫へと向かった。

 

───そしてその先で行われる機界融合。

 

GストーンとJジュエルを取り込み、未知なる危険を孕んだ機界新種(ゾヌーダ)は、その脅威を世界に広げんが為、顕現する。

ただ、その姿は宿主の潜在的思考を読み取った影響で、侍女(メイド)型のゾヌーダロボとして顕現するのであった。

 

 

 

〇王都 GGGオーダールーム

 

混乱を極めたオーダールームにいた隊員達は、第14工房を監視していたカメラの内、辛うじて生き残っていた映像を見て、全員が呆然としていた。

機界四天王、及びパスダーの出現に、そして怒涛の如く現れた機界新種(ゾヌーダ)

に……

 

「……嘘だろ、機界四天王に……敵の親玉(パスダー)で、もう理解が追い付かないってのに──機界新種(ゾヌーダ)だぁ!?」

「いや、いくら何でも早すぎるだろ……こう、もっと場数を踏んで、とか、予兆とか……」

「──全員現実を見ろ!!今起こっている事は紛れもなく現実だ!!」

「「「──!!」」」

「……確かに驚く気持ちは解る。だが、今起きている事は……我々が目撃している現実は、本物だ!!映像や作り物(アニメーション)ではない!!」

 

ティ・ガーの叱咤に全員が目を覚ます。

例え知っている知識であろうとも、それが自分達の知るセオリー通りに事が運ぶ訳ではない。

それが勝ち目があるか解らない戦いであれば尚更の事。

全員の目がまだ死んでいない事を確認したティ・ガーは改めて指示を飛ばす。

 

「状況を報告せよ!」

「第14工房は……設備は崩壊していますが、辛うじてV.Cネットワークの端末は映像、音声を送られて来るこの回線のみ生きていますです。ですが物質昇華と思わしき現象により、映像安定しません。」

「ミニ・ガオガイガー、及びウサリンmk-Ⅱ改の反応、ロスト……消失寸前の記録には吸収された形跡がありました。」

「マギウス・ガオガイガー、機体に目立った損傷箇所はありませんが、G&Jファイバーがオーバーフローを起こしています。直前の戦闘が原因かと。現在、AZ-Mによる再生を実行中。パイロットもバイタルに異常ありませんが、心神喪失が強いようで動きがありません……」

「ガンダムバエル、現在現場まで直行していますが、到着まで15分と予想!」

「ディバイディングフィールドに異常あり!エネルギーが吸い取られています。予想閉塞時間が、残り14分切りました!予定時間より早まっています!」

「カルディナ……!」

 

刻々と悪くなる状況に、ティ・ガーを始めとしたスタッフ達は、ただ見守るしか出来ずにいた。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……馬鹿な、早過ぎる。我等はまだ存在している……()()ですらまだ存在しているのだぞ。それなのに、何故貴様が顕現しているのだ───機界新種(ゾヌーダ)!!」

 

「ゾヌゥーーーダァッ!!!」

 

遂に暴かれた。

『終焉を告げる存在』──機界新種(ゾヌーダ)

マギウス・ガオガイガーにも、そしてゾンダーにも、その脅威を向けるのであった。

 

 

──機界新種(ゾヌーダ)

地球に飛来したゾンダーが本格的な活動を始める2年前、飛来直後のEI-01(パスダー)が卯都木命の肉体に埋め込んだ機界生命体の種子が進化して誕生した存在である。

2003年に命の肉体に埋め込まれてから3年間、彼女の中枢神経に擬態することでGGGのセンサーだけでなく護の感知能力すら欺き、潜伏を続けて成長、更には命が凱や勇者ロボ達の近くに居たことで、本来ゾンダーにとっては天敵であるGストーンのGパワーへの耐性を獲得している。

(しかし、対消滅する可能性がゼロではないからか、ゾンダーや原種同様、Gストーンを持つメカを取り込んではいない。)

 

ソンダーのマスタープログラムであるZマスターの消滅後も消えること事はなく、護ですら気付いたのは覚醒直前だったことから、最低でもZマスター消滅時には既にゾンダーとは異なる存在として独立していた事が窺える。

尚、機界31原種との戦いの途中から命が度々眩暈などの体調不良に陥っており、これらは機界新種(ゾヌーダ)が覚醒を始めたことに起因し、爪、耳原種の命に対する言葉やZマスターの最後の台詞はこの機界新種(ゾヌーダ)の存在を示唆するものであった。

 

曰く、

 

負の感情(マイナス思念)は宇宙に滅びを与える、生命体は負の感情(マイナス思念)を持たぬ機械生命体ゾンダーへと昇華されるべきなのだ」

「だからこそ生命体は機械と融合を果たして、次なる次元に向かうのだ」

 

と。

だが、ゾンダーが「機界昇華による進化・秩序」を目的としているのに対し、機界新種(ゾヌーダ)は「物質昇華による滅亡」を行おうとした。

これはZマスターの意図通りなのか、意図とは外れた存在なのか。もしくはOOO(トリプルゼロ)の影響であったのかは不明。

 

何より、機界新種(ゾヌーダ)の最大の能力『物質昇華』はありとあらゆる創造物を絶縁体へと変えてゆく。

もし、ゾンダー(同族)に振るわれた場合、『同族殺し』となる事と同義である。

 

何故、こんな能力を兼ね備えていたのか?

そしてそれが今、為されようとしていた。

 

ただ判る事は一つ……それは機界新種(ゾヌーダ)が物質文明に、終止符を打つモノであるという事である。

 

そんな機界新種(ゾヌーダ)が形を変えているとはいえ、目の前にいる。

現在はディバイディングフィールドの影響で地面には何の変化もないが、その空間断絶のフィールドのエネルギーは少しずつ吸収され、展開時間を秒単位で削っている。

ディバイディングフィールド閉塞まで残り14分を切った時、何もない無貌の顔の機界新種(ゾヌーダ)が生き残っている2体を見る中、パスダーが口を開いた。

 

「……機界新種よ、貴様は我等『先発者』の後、送り込まれる原種を含めたゾンダーが滅んだ後に現れる『調停者』であるはず……だが、それを破りここに現れた。何故だ?」

「……」

「我等はこの星の阻害因子に阻まれていたが、今はこの様に活動出来るまでとなった。貴様が介入すべき(とき)ではない、それなのに何故現れた!?」

「……」

 

パスダーの問いに、沈黙を以て機界新種(ゾヌーダ)は答える……が、それは回答ではない。

全く動きを見せない機界新種(ゾヌーダ)であるが、無貌の顔に突如、亀裂が出来た。

それは少しずつ形を整え、口角のようになり、開いた。

そして響く、念波のような音が直接。

 

【……その問いは、無意味。】

「何??」

【お前たちは、()()()()()。故に無意味。故に無価値、故に滅ぼす。】

「滅びて等いない!我等は今も尚ここにいる!」

【ここは違う次元。断絶した次元。そして分かれたルーツ。故に()()()()。故に()()()()()()。消滅の()()も果て、機界昇華もなされていない……お前達は既に()()()()()()()()()()()()()()()()。】

「まさか、連絡が途絶えたのは……そんな事が!!」

【繋がった波……幸運、そして不幸。されど無価値、無意味。我は『調停者』。故に滅ぼす。文明、命の営み……全て『昇華』する、命の源に。そして静寂を───】

「───黙れッ!!!」

「……」

 

大声で、しかも感情的な声で機界新種(ゾヌーダ)の声を遮ったパスダー。

怒りと悔しさを滲ませるそれは、知る限りのパスダーの姿とは程遠い。

 

「……機界昇華。それはゾンダーの──いや、()()宿願ぞ!心弱き者は、機界昇華にて機界生命体へと進化させねばならん!!進化せねば……我等は生きる術を───喪う事になる!!」

【……全ては塵芥と化す。これまでの為した事は無意味、無価値。滅べ、心弱きモノ。」

「我に……その言葉を向けるかァッ!!」

 

アクティブ・スラスターを拡げ、自然体に構える機界新種(ゾヌーダ)に対し、握り締めた拳を振り上げ、機界新種(ゾヌーダ)へと衝撃波を放つパスダー。

同族対決という異様な戦いの狼煙がここに上がったのだった。

 

 

 

……そして、その戦いより外された存在──マギウス(カルディナ)は……

 

「痛い痛い痛い!!ちょ、止めて!!」

《──止めませんからね!!そんな悲壮感丸出しな思考を止めるまで止めませんからね!!》

 

絶賛、マギウス・ガオガイガーの右腕が独自に自身の顔面を立て続けに殴っている、という意味不明な事態を起こしていた。

何故かというと、V.Cが機界新種(ゾヌーダ)の出現によりショックを受けて動けないでいたカルディナより、マギウス・ガオガイガーのコントロールの一部を奪い、事を起こしていたのだった。

 

「止めなさいって!どうせいつまでもウジウジしてんじゃないって言うんでしょ!?でも相手は機界新種よ!?私はこうならないように密かに警戒して事を進めて来たっていうのに……あの子は───ヴィータは!!」

《───んな事ァ、判ってんですよ!!!これまでのカルディナ・ヴァン・アースガルズの努力は、事前の説明で判っています!貴女がどう心を砕いて懸命にしてきた事も!!ですけど、それすら及ばないのが機界新種(アレ)というものでしょうが!!ですが───()()()()()()()()()()()()()()

「───!?」

《死んで……ないでしょう??そんな悲しみ方をするのは……守りたい大事な相手が死んでしまってからにして下さい。『ヴィータ』は、まだ生きてます───まだ手遅れじゃないんです!!貴女なら、どうにか出来るでしょう!!レヴォリュダー、カルディナ・ヴァン・アースガルズ!!》

「………」

 

ここまで必至に喰い下がってくるV.Cは初めてだった。

思い返せば、V.Cの事は最低限の事しか知らない。しかし三重連太陽系『紫の星』の事務的なナビゲーターAIとして生まれたV.Cの何がここまで駆り立たせるのか。

 

ただの超AIがこんなにも()()()()()()()感情を見せる理由───

 

 

 

………解らない。

 

けれどもその事が、カルディナに笑みを浮かばせる。

 

「……ハイハイ、判ったわ。まったくどっかの粗暴なAIのせいで、悲しい気持ちが白けちゃったわ。」

《そ、粗暴!?私は──!》

「──ありがとう、お陰で目が覚めたわ。」

《……わ、判ればいいです。》

「そうね、まだ終わってない……まだ手遅れじゃない。私は戦える。その為のマギウス・ガオガイガーなんですもの。奪われたなら……奪い返すだけよ。」

《──TGSリアクター、システムの全快を確認。いつでも行けます……それでこそ、カルディナお嬢様ですね。》

 

カルディナが勇気を取り戻した事で、エネルギーが満ち溢れ、AZ-Mが活性化、機体状態が全快したマギウス・ガオガイガー。

今、ここに復活を果たす。

 

「さて、どういう訳か、仲間割れしているゾンダーだけど……どうしたものかしら?」

《お嬢様。それについて一つ、聞いて頂きたい事が……》

「何かしら??」

《聞いて頂けますか?》

「……いいわ、聞かせて。」

 

そしてゾンダー同士の戦いを観戦しつつ、カルディナはV.Cの話を傾聴する。

戦いの流れはパスダーがその技量の高さと手数の多さから、高速移動に惑わされずに機界新種(ゾヌーダ)へダメージを終始与え続けている。

ただしゾンダー相手に打撃によるダメージの蓄積を狙うのは無意味である。損傷による一時的な機能不全こそ見込めるが、パスダーには一歩踏み込める決め手がない。

逆に機界新種(ゾヌーダ)は当てる、受ける触るだけでエネルギーを吸収出来る。更に、機界四天王より奪った機体片、大規模なエネルギーにより、圧倒的な優位を持っている。

そしてカルディナの感想は───

 

「───その話が本当なら、それは良く、そして悪い『奇跡』ね。カイン様と、アベル様はその事を?」

《サクヤ-04の推論に熟考、同意されていたそうです。》

「仕方ない……一肌脱ぎましょうか。」

《大いに火傷しそうですね。》

「全くだわ。直接触るのは危険だから───」

 

そう言って、右腕の高速回転を始め、狙いを戦い合うゾンダー達に定めるのであった。

 

「ヌ、ヌォォォ……!」

 

そして戦いの果てに蓄えていたエネルギーの7割を吸い取られ、物質昇華された左腕を吸収されたパスダーは、首を掴まれ、残存エネルギーを吸い取られようとされていた。

 

【……我が糧となれ、滅び逝くもの。】

「ま、まだだ。まだ我は───!」

 

「──ブロウクン・バレットッ!!」

 

【───!?】

「ヌォッ!?」

 

その刹那、高密度の拳大の風の塊がその間を貫き、機界新種(ゾヌーダ)の腕を弾いた。

更にもう一撃、機界新種(ゾヌーダ)の胴体を的確に捉えた一撃が、フィールドの端まで吹き飛ばした。

 

「どうかしら?風を右腕部周辺で高速回転させて、超高密度に形成し、塊として撃ち出す『ブロウクン・バレット』の味は。熱、電気エネルギー等とは違い、極度な運動エネルギーの塊ですわ……吸収は出来ないでしょう。」

「……貴様は!」

 

拘束から解かれたパスダーが、マギウス・ガオガイガーを一瞥する。

結果的に敵に助けられた、という形になってしまったが為か、睨み付けるだけで即応攻撃とはしてこなかった。

そしてカルディナもパスダーをモニター越しに一瞥する。今まで架空の相手、遭う筈のない規格外の存在に、カルディナは心は戦慄するが、すぐに治め、臨むのだった。

 

「何の真似だ?我と貴様がとは敵同士の筈。」

「ええ、そうよ。でも……機界新種(アレ)は私の獲物よ。アナタには渡さない。」

「余計な事を……」

「そう感じてるならここは引いてもらえないかしら?()()は私が御相手致します。同族、されど異質の相手に、このまま勝てる……そうは見えませんが?」

「フン、戯言を……しかし的確な分析だな。」

「お褒めにあずかり光栄ですわ。」

「……良かろう。貴様がどのように奴を制するか、見せて貰う。だが──」

「──貸しだ何だとするなら、ここで一つ嘘偽りなく答えて頂けません?『機界昇華は、誰の意志です?』

「──!?」

「御返答は??」

「……、……決まっておろう、『我』だ。」

《……やはりそうでしたか。ありがとうございます。》

「その声は───!?」

《……》

「……そうか、違う(みち)を往くか。」

 

振り返らず、そしてそれ以上語らず、パスダーはフィールドの外へと出て行った。

そしてマギウス・ガオガイガーも振り返らず、ただ立ち尽くすのみ。

 

「……満足しました?」

《はい。》

「……そう。なら──」

 

「ゾヌゥーーダァーーッ!!!」

 

機界新種(ゾヌーダ)、再起。

しかも立ち上がった機界新種(ゾヌーダ)は砂塵の中でその姿を変化させていた。

だがその姿は、巨大な背面ウイングに迫り出た左右非対称の両肩、剛腕と言うに相応しい両腕に、船の衝角を携えた両脚。

極め付けは胸の歪な獅子の顔───

 

《まるでガオガイガー、いえ───マギウス・ガオガイガーですね。》

 

機界四天王とパスダーの力、そして寄生主自身の記憶を元に形創られたガオガイガーモドキ……否、マギウス・ガオガイガーモドキ、である。

 

「しかもカラーリングが白いって……何かの皮肉かしら??」

 

不完全な合成獣(キメラ)であるその姿は歪なれど、白いマギウス・ガオガイガーとも言える。

カルディナにはどうしても『レプリジン・スターガオガイガー』を連想して止まないが、そこは置いておく。

その姿は王都のオーダールームでも観測出来ており、全員が驚愕していた。

 

「白い……マギウス!?何の冗談だ?!」

「って言うか、なんであんな姿になれたんだ??」

「取り込まれた()()にはそんなものはなかった……となれば、核となった()()()()が原因ね。フミタンはお嬢に常に付き従っていた。公私共に連れ添う仲だし、お嬢の力の全てを、誰よりも一番に見届けている第一人者よ。」

「であれば、カルディナの強みを誰よりも知っている。」

「そんな人物と機界新種(ゾヌーダ)が導き出した究極の答えが、それこそマギウス・ガオガイガーって訳ね!」

「……っていうか、あの機界新種(ゾヌーダ)ってフミタン……なんだよね??でもお嬢は『ヴィータ』って言ってる。それってどういうことなの??」

「それは解りません。ですが、お嬢様の言う事です、何か根拠……もしくは今まで何かを秘めるために偽って来たのか───」

 

「───その通りだ。」

 

「陛下?!」

 

混乱するオーダールームにレクシーズが現れる。突然の登場に一同は慌てて跪くが、レクシーズは良しとはしなかった。

 

「今は私に構う必要はない!それよりもこの戦いの一部始終を見逃すな!各自、持ち場に戻れ!」

「「は、ははッ!!」」

「……それより陛下。陛下は此度の事をご存じで??」

「ああ。一週間前にカルディナより密かに知らされた。質の悪い冗談と思って尚、手は打ったが、事態は予想を超えた事となった……今回の事で尚の事、思い知らされた───如何に我々はカルディナに頼り切り、そしてこの世界の命は薄氷の上で繁栄を過ごせていたかを……」

 

ティ・ガーの問いに、レクシーズは重く答える。

最早、世界の運命を託せる存在が、たった一人しかない無念さを抱きながら……

だが、そんな事は今は関係ない。

この戦いは止まらない、止められない。

 

黒と白。

生と死。

ガオガイガーとゾンダー。

 

対立し、対峙するだけで生きとし生けるものを破壊する両者が、ここに向かい合う。

 

「……V.C。TGSライド、フルドライブ。同時に全リミッター解除!全部マギウスマシンの防壁、バリアに回して!!」

《了解!》

「皆さん、準備は良いですか!?」

 

《もちろんだ。》

《準備はいつでも。》

《さすがに手は抜けられないね。》

《元より手を抜くつもりもありませんが。》

《さあ、参ろうか!》

《いくよ!全力、全開で!!》

 

天使、悪魔達もその力を滾らせる。

そして一歩、二歩と歩み、互いに近付きながらウイングを展開、そして───

 

「ハァァァアアアッ!!!」

「オオオォォォーー!!!」

 

推力最大で急襲するマギウスと機界新種(ゾヌーダ)

接敵一番に互いの必殺の一撃をいなし、気迫を乗せ、繰り出した攻撃はディバイディングフィールドを震わす!

マギウスと機界新種(ゾヌーダ)の戦い、それは重量級でパワー型の同型同士の戦いに似合わない、まるで何処にどう来るかが予め予知された、速さ極まる戦いであった。

正確無比───相手の急所を的確に捉えて、尚も的確にいなし、避け、尚も打ち続ける。

それは演舞でも見ているような優雅さもあるが、触れれば対消滅の余波で互いを削り合い、何よりその余波を貫いて更に圧し通し、無手で装甲を抉り取る『破壊』が場を制する。

一つ当たれば致命傷の戦技───互いが互いの手を知っていて尚、相手を打ち破らんとする姿勢は、互いを喰い合うようにも見える。

 

それでも雌雄を決する一撃は、互いを追い詰めて行く。

 

《ぐぁあっ───!?》

《サタン!?》

 

機界新種(ゾヌーダ)の物質昇華の影響で触れ、阻む度にマギウスが蝕まれてゆく。

更に物質昇華の一番の凶悪な点───エネルギーの強制離散は、バリアを無効化し、高位存在である天使、悪魔を蝕んでいく。

鉤爪のように鋭い指がマギウス・アーマーを突き破って右肩(ガルム)に食い込み、機界新種(ゾヌーダ)の物質昇華の影響でエネルギーが強制的に離散、回路を始めとした周辺物質を蝕むのは致命的であった。

 

《──ぁぐッ!奴に触れるだけでもエネルギーの生成が維持出来ないッ!!》

《各マギウスマシンのGSライドの稼働、限界間近です!》

《これが機界新種(ゾヌーダ)、物質文明に終止符を打つ者!》

《姿形は違えど、俺達に終止符を打つ気満々だね!》

《奴は神、悪魔……いや違う!悪魔は我等だ!》

《そして神でもない!例え超常の存在だろうと──!》

《私達はそんなもの、受け入れません!!》

「そうよ……みんな負けるつもりなんかない、だから───貴女も機界新種(そんなヤツ)になんか負けないで、ヴィータッ!!」

 

 

《 《 ───!!! 》 》

 

 

その時、奇跡が起きた。

突如、機界新種(ゾヌーダ)の中から放たれたのは『(Gパワー)の光』。

そして共鳴して放たれる『赤き(Jパワーの)光』に苦しむ機界新種(ゾヌーダ)

 

「どうして機界新種(ゾヌーダ)からGパワーとJパワーの光が……!」

《あの波動パターン……間違いありません、ミニ・ガオガイガーとウサリンmk-Ⅱ改に実装されていたものです!》

《まさか、あの2つを吸収してたのか!?なのにどうして!?》

《……まさか、サクヤ-04とヴィータさんが機界新種(ゾヌーダ)に一定の間、()()()されるよう隠蔽をしたのでは!?》

 

機界新種(ゾヌーダ)の内部では、ゾヌーダロボへ機界融合する前に吸収したGSライド、ジュエルジェネレーターがゾヌーダ核の中に楔のように取り込まれていた。

今まで隠蔽してきたものが、カルディナの呼び掛けによって意識を取り戻した04とヴィータが起動させたのだった。

 

機界新種(ゾヌーダ)といえど、一時的に無害化されたGSライドとジュエルジェネレーターは取り込みきれず、その影響で04とヴィータも完全に融合出来なかったと見た!》

《あの2人……やってくれる!》

《しかし何時まで()つか……!》

《……お嬢様、サクヤ-04より最後のメッセージです。『後は、お願いします』と……加えて、サクヤ-04からのリンク──途絶。》

 

V.Cは静かに告げた。

V.Cの分体といえど、サクヤ-04はその命の限り、戦ったのだった……

 

《……お嬢、()()の事は気にするな。物質昇華の負荷は全て受け持つ!!》

《早く、ヴィータを助けてあげて……!》

《今が命を賭ける時ぞ!!》

「……みんな!」

《それまで各GSライドは皆で()たせます、だから──!》

《お嬢はただ、勇気を胸に前を向いてくれ!》

《そして勝利を、その()に───!》

《やりましょう……これが最後のチャンスです!》

「……往くわよ、みんなッ!!」

 

その言葉に、全員の意志は一つになった。

溢れ出るGパワーとJパワーを抑える事は出来ても、消滅させる事は不可能と判断した機界新種(ゾヌーダ)は再びマギウスに襲い掛かる。

振りかぶる物質昇華の拳に、右脚(ドラゴン)のドリルが廻り、迎え討ち、砕く。

 

《構わずブチかませッ───!!》

 

マモンの声が途絶えた。

それでも一歩前に進む。

次に砕けた腕とは反対の拳が迎え出るが、それを左腕(アリコーン)で迎え討ち───クロスカウンターとなり相討ちとなるが、気合で押し込み吹き飛ばす。

 

《勇気と、共にッ──!!》

 

同時にラファエルの声が途絶えた。

砕けた頭部など気にする間もなく、瞬時に負傷箇所を再生させた機界新種(ゾヌーダ)と両手を手四つ状態になり、一瞬拮抗する。

その瞬間、マギウスは遠距離攻撃を全展開──暗黒霊牙(ワームスマッシャー)と、アリコーンフェザーを一斉発射。

 

《私達の心は一つッ──!!》

《だから圧し通らせて貰うッ──!!》

 

ガブリエルとベルフェゴールの声が途絶えた。

強力なゾンダーバリアを有する機界新種(ゾヌーダ)であるが、一斉掃射の圧力は機界新種(ゾヌーダ)が姿勢を崩すにまで至る。

その隙を逃さず、マギウスは左脚(ドレイク)で蹴り上げ、更に踵落としで頭部を潰す。

 

《この世界と、私達の居場所を護る為にッ──!!》

 

ザドキエルの声が途絶える。

けれども攻める手は止めない。

最後の駄目押しに高速回転させた右腕(ガルム)で殴り、殴り、殴り飛ばす。

 

《勝利は、すぐそこだッ──!!》

 

サタンの声が途絶えた。

みんなは(天使も悪魔も)いない。

殴り飛ばされ、けれども辛うじて受け身を取って立ち上がった機界新種(ゾヌーダ)が見た光景は──

 

「ヘル・アンド・ヘヴンッ!!!」

 

──核を抉り出す気だ。

 

光り輝くマギウス・ガオガイガーの、必殺の一撃。

その姿は光り輝く破壊神。

本能レベルまでに危険を感じた直感が、機界新種(ゾヌーダ)に最後の一手を打たせた。

 

「ハァァァアアアアッ!!!」

《あれは……!?》

「ヘルアンドヘヴン……!」

 

 

機界新種(ゾヌーダ)による『ヘルアンドヘヴン』。

ゾンダーがヘルアンドヘヴンを使ったのは、かつて地球のGGGのコンピュータシステムにゾンダー化してハッキングした犬吠崎こと、EI-15。

猿頭時耕助の活躍により排除された後、ガオガイガーの予備パーツを用いてEI-15に変化。ファイナルフュージョン・マニュアルによりファイナルフュージョンしたガオガイガーと交戦し、ガオガイガーは勝利した。

 

だが、この機界新種(ゾヌーダ)にはガオガイガーの要素(パーツ)は一切含まれていない。

そしてその異常は王都のオーダールームでも確認が出来た。

 

「……それでも、やってのけるとは。」

「ディバイディングフィールドの展開限界、残り5分を切りました!!」

「この戦い、どうなるんだ……??」

 

「──信じるんだ。」

「──祈りなさい、それがあの娘の為になります。」

「そうです!今、僕達に出来る事はそれしかありません!」

 

「あ、あなた方は!?それに……いえ、その通り。今は祈る──勝利を。それがカルディナの為に。」

 

突然現れた人物らに驚きつつもレクシーズは、オーダールームのスタッフ達はその人物の言う通り、カルディナの勝利を祈るのだった。

 

そしてヘルアンドヘヴン同士、2つの力を1つにし、EMトルネードを互いに解き放つ。

ぶつかり合ったEMトルネードは、性質の違いから激しい乱気流となり、フィールドの中だけでなく周辺をも破壊し、その嵐の中を突き抜け───2機は激しく衝突する!

出力最大(フルブースト)でヘルアンドヘヴンを突き合わせる余波で、EMトルネードは吹き飛び、対消滅の衝撃波が常に撒き散らされていく。

 

圧倒的な破壊力の前に、拳に入る亀裂───しかし互いに再生能力を有しているため、破壊と再生を繰り返すが、機界新種(ゾヌーダ)の方が一枚も二枚も上手で、徐々にマギウスは押し込まれていく。

更に天使達と悪魔達が抜けた影響は大きく、GSライドのコントロールはカルディナとV.Cが肩代わりしているが、既に風前の灯火。

切り札はあるが、ここでは切れない。

 

《……シス、テム全同調完了……後は、お願いします───》

「……V.C!」

 

V.Cの声が途切れた。既に物質昇華に対し最後の防壁となり、カルディナを守ったV.C。

出会いは短くとも最大の戦友(とも)の声が聞こえなくなった事に、カルディナは涙を浮かべる。

 

とうとう独りとなった。

 

 

───このままじゃ敗ける。

 

一瞬、脳裏に(よぎ)ってしまう。

その思考を振り払うが、機界新種(ゾヌーダ)相手に出力不足は否めない。

どうすれば───

 

 

──負けないでくれ、カルディナ!!

 

(──この声……アシュレー殿下!?)

 

──まだ終わってない、諦めてはいけない!

──貴女の力はこんなものですか?まだいける筈です!

 

(カイン様、アベル様……!)

 

──頑張って!

──負けんなよ!

──生きて帰って来て……!

──絶対勝てよ、お嬢!

──!

 

(この声は……みんな!!)

 

それはGストーン・リンクによる、みんなからの『勇気の声』。

その声はGストーンの力を高め、Jジュエルとの共鳴を更に高めた。

 

「……ふ、ふふふ。あははは!そうよ──私は独りじゃない。殿下が、カイン様が、アベル様が、みんながいる!そして───!」

 

 

──カルディナ……

 

やっちゃえェーー!!

 

 

 

「……貴女の声も!必ず、助けるから──ヴィーータァァーーッ!!!」

 

カルディナの叫びに、TGSライドが応えた。

そしてここでカルディナは最後の『勝利の鍵』を解き放つ。

 

「……システム、リミッター解除。内蔵弾丸X起動!ハイブリット・エヴォリュアルウルテクパワー全・開!!」

 

カルディナ最後の勝利の鍵『内蔵弾丸X』。

その全リミッターを解除したエネルギーをレヴォリュダーの能力により制御するGストーンとJジュエルを用いた『H(ハイブリット)・エヴォリュアルウルテクパワー』がカルディナが用意した最後の切り札であった。

 

カルディナと皆の勇気、H・エヴォリュアルウルテクパワーの力がマギウスの拳に宿った時、機界新種(ゾヌーダ)の拳を砕き、歪んだ獅子に突き刺さり、GとJのパワーがゾヌーダに浸透する。

 

「ゾ、ゾヌーダァッ!?」

「何を驚いているのかしら!?Gストーンの力はゾンダーに抗うために生まれた勇気の──生命(いのち)の力!!アナタも今、それを身を以って味わってるでしょう?!」

 

外と内より浸透し、四肢を満たすエネルギーは機界新種(ゾヌーダ)を構成する組織を崩壊させ、脆くする。

 

「私が……みんなが諦めない限り、勇気を束ね1つになったこのマギウス・ガオガイガーの力は───!!」

 

そしてマギウスの拳はがっちりとゾヌーダ核を掴み、全エネルギーを拳に集中させ、空へと掲げる。

 

「───無限を超えた、絶対勝利の力だぁぁあああっ!!!」

 

放たれる白き奔流。

機界新種(ゾヌーダ)のボディを消し飛ばし、地表を光の渦へと巻き込み、展開時間残り数秒のディバイディングフィールドの力場を悉く砕いた。

光は成層圏を抜け、宇宙(ソラ)へと抜けた。

 

 

 

……そして、ディバイディングフィールドが消失し、窪地となった大地に、マギウスの掌に残る鳴動する球体(ゾヌーダ核)

最後の力を振り絞り、カルディナは浄解モードになり、機界新種(ゾヌーダ)へと浄解の呪文を唱える───

 

 

 

───此度は、負けを認める。だがこの(ぬし)は渡さぬ。

 

「───!?」

 

───覚えていろ、『勇者王』そして『我等を奪いし者』よ。

 

 

突然のテレパスを受け、少ない動揺を受けたカルディナが目にしたのは、球体からゾヌーダ人間、そしてカルディナのよく知る少女へと急速に変化していったゾヌーダ核の急激な変化であった。

マギウスの掌に伏す少女に、浄解の(いとま)など与えない……そんな意図すら垣間見えるが、それ以上に……

 

「ふざけないで、そんなのアリ……??」

 

既に限界を超えていたカルディナは、悲しみと悔しさで浄解モードも解け、意識を失い、倒れる。

 

「……完全に、救えなかった。呪縛を、解けなかった。ごめん、ヴィータ──」

 

偶然にも重なり合った手が、二度と離さないようにと語るように……

そして救援に向かったバエルが到着したのは、このすぐ後であった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……終わったようだな。」

「はい。」

 

少し離れた場所より、一部始終を観ていた機界司令パスダー、そして四天王の1人、プレザーブ。未だ戦闘形態のパスダーであるが、機界融合をするエネルギーもないプレザーブは人間形態になっていた。

パスダーはただ静かに。プレザーブは何か動揺を隠せない様子でいた。

ちなみに他の四天王は未だ意識を取り戻していない。

そして何か尋ねたそうな様子でソワソワし、プレザーブは意を決してパスダーに問う。

 

「パスダー様、一つ宜しいですか?」

「……何だ?」

「あの機界新種……というゾンダー、あれは何なのでしょうか?我らが理想とする機界昇華、それを否定するような存在にしか見えないのですが……」

「───プレザーブ。」

「──!?」

「……我らとは()()()()()()()()()()()()()()()よ、アレを頼るな、求めるな。アレは……我等を否定するものだ。」

「否定……!?」

「アレはただ全てを『破界』する。そこに()()はない……解かるな?」

「……はい。その通りです。

「であれば、我らは───む。」

「パスダー様?」

「ここでの話は、ここまでだ。追手が来たようだ。」

「追手が……!」

 

パスダーの視線の先──空を見上げる。

そこには───ギャレオン(カインの遺産)。そしてその頭部に乗り、妖精のような羽根を生やし、緑色に輝く一人の男と、孔雀の羽根を生やし、赤く光る小柄な女がいた。

その2人に、パスダーの目は見開いた。

 

「フ……フフフ。生きていたか、アベル。そして──カイン。」

「ま、まさか奴らが……!」

「間違いない。どうやって生きていたかは解らぬが、再び出会えようとはな。」

 

三重連太陽系『赤の星』指導者、アベル。

同じく『緑の星』指導者、カイン。

元の肉体に魂を宿し、ここに復活。

 

その姿を歓喜するような、木陰の隙間から覗くパスダーだが───視線が合った。

 

「フュージョン───デミウス・ガイガーッ!!」

 

『デミウス・ギャレオン』と復活したカインは、『デミウス・ガイガー』へとフュージョンするのであった。

そして直ぐ様降り立ち、見渡す。

 

……しかし、そこには誰もいない。

 

「どうしました、カイン。いきなりフュージョンするなんて……」

《今……確かに誰かが存在し(ここにい)た。》

「もしやゾンダー、ですか?」

《ああ。ただ懐かしくも、決して相容れない者のような気がしたが……》

「………」

 

不穏な気配を感じつつ、今回の事件は終わった。

そして今回の事件は勝者のいない、ただ謎ばかりが深まる事件であった。

 

【被害】

・第14工房 全壊

・マギウス・ガオガイガー 中破(完全修復に5ヶ月)

・V.Cネットワーク 機能不全

・フラワー、サクヤシリーズ 機能停止

・死傷者 2名(内1人は重体)

・サクヤ-04 消滅

・機界新種 浄解ならず

 

特にV.Cネットワークの機能不全は、王国の連絡手段ばかりか、鉄鋼桜華試験団の作戦に大きな支障をもたらそうとしていた。

 

ひたすらに失われたモノは多い。

敵も味方も、どちらにも機界新種(ゾヌーダ)は爪痕を残した。

 

だが……

 

 

《────!?!?!?》

 

 

今、1体のサクヤシリーズに異変が起きた。

それは、V.Cが今日まで()()()()()()隠蔽してきた、とある存在。

 

「………私は───」

 

『始まり』が、そして『全て』が、再び集約されようとしていた。

敵も味方も、どちらも巻き込む嵐となって……

 

 

《NEXT》

 

 

《─次回予告─》

 

カルディナ倒れた事により、不安に陥る鉄鋼桜華試験団。

 

行われるのは包囲網。だが、過去の焼き直しのような計画にクーデリアの心は揺れ動く。

 

しかし託された任務を遂行するため、一行は死力を尽くす。

 

そこに現れた予期せぬ人物。更に明らかになる『アドモス商会』の秘密。

 

隠されていたのは、過ぎ去りし日の少女の絶望である事を彼等は知る……

 

 

次回『公爵令嬢は、ファイナルフュージョンしたい』

Number.23 ~取り替えっこ(チェンジリング)の果てに~

 

次回もこの物語に、ファイナル・フュージョン承認ッ!!

 

これが勝利の鍵だ!

『アドモス姉妹』

 

 

 


 

《現在公開できる情報》

 

〇デミウス・ギャレオン

〇デミウス・ガイガー

 

アルドレイア王国の技師達のみで開発した王国製ギャレオンの試作品。

カルディナの工房の職人の手がはいっておらず、各錬成や付与魔法(バフ)の効果が甘くなっているため、三重連太陽系の品質としてや、マギウス・ギャレオンと比較し4~5枚以上も脆い仕上がりになっており、『基礎の甘い』仕上がりとなっていたものを、カルディナ、カイン、アベル、サクヤ-04により再調整したものが本機。

特に縛りがないため、事前登録さえ行えば誰でもフュージョンする事は出来るが、ファイナル・フュージョンは対応機がないため出来ない。

動力源はGSライドとジュエルジェネレーターを使用しているが、共鳴現象を起こす事が出来ず、ネジ一本から装甲まで三重連太陽系の技術で再強化しているが、時間が足りなかったため全ての調整は行えず、トータルで本家ジェネシック・ギャレオンやマギウス・ギャレオンの域には達していない。

 

 

 

〇グランドマン・ロディ

ランドマン・ロディの発展機。ロディ・フレームを基礎から見直し、ガンダム・フレームを真似て四肢を延長して剛体性を増強しつつ、量産性も上げた王国製試作量産機、第14工房にあったのはその試作2号機。

それをカルディナ、カイン、アベル、サクヤ-04が三重連太陽系の技術を用いて更に機動性を上げるため、試作したアクティブ・スラスターを取り付けたものが本機。

四肢の延長や付与魔法(バフ)機構の増加に伴い、全体的に細身のシルエットに対して、装置によりバストアップ、機動性を重視するため、ヒールも装備したせいで、意図せず女性型となった。

格闘能力は随一で、関節可動域は達人の動きを再現するために、原型を留めていない程に改造を施している。

動力源はGストーン後付け型魔力転換炉(エーテルリアクタ)

機界新種が取り込んだ時には起動実験前だったため、Gストーンは外されていた。

 

 

機界新種(ゾヌーダ)

今作、一番バグったやつ。物質昇華でゴリ押しは平常運転。浄解能力者泣かせで、核形態からすぐにゾヌーダ形態になる。普通は無理。凱兄ちゃんもあの状態から、よく浄解出来たなと感心するレベル。マヂでもう戦いたくない相手。でももう一度対戦予定。

orz

 

 

 






……という訳で、機界新種は浄解出来なかったよ。
出来ると思っていた人、ごめんなさい。強制力が入りました。
ちなみに一番トチ狂ってるゾンダーは腕原種(アームストロングさん)だと思います。
超竜神がザ・パワーで復活後、強龍神、幻竜神回で、スフィンクスゾンダーにハンマーヘルアンドヘヴンの核摘出後、即座に核から変身して離脱とか、やめーや、とか思える程の回だったと思います。
腕原種(アームストロングさん)は一番優遇されているなぁ。

それと、今回の話である程度自分が書きたかった予定の前振りの内容は7割ほど書けました。後はオチがしっかり付くようにこれからも書いていきます。

とはいえ………けっこう組み込んだのは気のせいじゃないはず。

ご感想、お待ちしています。


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Number.23 ~取り替えっこ(チェンジリング)の果てに~(1)

ようやく病気から復帰!
皆さん、お待たせしました!

とりあえずヘルパンギーナ→ヘルパンギーナ→コロナ(完治!)という事がありましたが、復活しました。
だいぶ間が開いてしまったのですが、どうぞよろしくお願いいたします。

今回の話で今までモヤモヤの1つである『フミタン』の事情についてが解ると思います。
それではどうぞ!





 

 

これまでの下準備は特に問題もなく行い、今回の騒動を完全な決着で迎えるべく明日を待っていたその前日の昼、鉄華団は不思議な体験をした。

経済封鎖が完了し、じわじわと工作を行い、ようやく効力が出てきて、あと翌日に行う仕上げを準備していた頃……それは起きた。

 

パワードスーツに用いられているクストのGストーンから、ルムのJジュエルから、そして他の団員達にもGストーンを通して強烈なイメージが送り込まれて来た。

それは強大な力を振り絞って尚、必死に立ち向かう一人の戦士(カルディナ)の姿。

しかし、ピンチである事も。

 

出立前の前日に突如して知らされた、予期せぬ敵──機界新種(ゾヌーダ)

 

当然耳を疑ったが、結果は()()()()

物質昇華という抵抗を許されない攻撃に対し、イメージの中では決死の特攻による攻撃で一人、また一人仲間を喪う事で、力を削られていく……そんな光景を見せられでもすれば、すぐにでも助けたい。

だが行ったとしても足手まといになるのは必定。

そして物理的距離がそれを許さない。

 

ではどうすべきか??

 

クスト、ルムはオルガを中心にすぐに皆を呼び、その場にいたサクヤシリーズ3体を中心に全員で手を繋ぎ───祈った。

おぼろげながらに思い出したのは、後にカルディナに見せて貰った『Final』のGストーンのリンクの(くだり)の事だ。

せめて、俺達の勇気だけでも届けられたら違うのでは?

 

「内蔵Gストーン、Jジュエル──DSライド、感情パルスに同調開始。」

「量子ネットワーク、Gストーンリンクに同調。」

「各Gストーン、Jジュエルにる増幅を確認………パルス、送信開始。」

 

「──頑張って!」 

「──負けんなよ!」 

「──生きて帰って来て……!」 

「──絶対勝てよ、お嬢!!」

 

そうして鉄華団全員の祈りが、その勇気が、クスト、ルム、サクヤシリーズによって増幅され、サクヤシリーズのネットワークを通してカルディナに届けられた。

だが、その瞬間オーバーロードを起こし、機能停止する3体のサクヤシリーズ。

だが、Gストーンを通して最後に感じたのは強大な敵(ゾヌーダ)に打ち勝ち、そしてそれでも後一歩届かず、()()()()を救えなかった無念のイメージ。

 

試合には勝ったが、勝負には負けた……そんな戦いであった。

 

「……終わった、みてぇだな。」

「送られて来たイメージの様子だと……お嬢とあの人、生きてるっぽい。」

「それだけが救いだよ……」

「祈りが通じたってヤツか……ってもよ、滅茶苦茶ギリギリだな。」

「浄解は……間に合わなかったみてぇだな。」

「……お嬢、あれでも最速だと思う。」

「マジか。」

「ああ。あんな急速に変化されたんじゃ、僕やクストでも間に合わない、異常だよ。」

「あの機界新種ってヤツ……俺らが知っている以上にえげつないな。」

「まあ、終わった以上、もうどうする事も出来ないから、お嬢様の事は向こうにいる人達に任せよう……僕らは僕らの仕事をしなきゃ。」

「ああ、ビスケットの言う通りだ……が、1つ大きな問題が起きやがった。」

 

あえて全員に聞こえるように声を出すオルガ。

その後ろから駆け足でやって来たのはヤマギ、ダンテであった。

ただしその表情は暗い。

 

「団長……まずいぞ。」

「サクヤのみんな、それに『コスモス』も……やっぱり完全に機能停止してるよ、どうしよう??」

「………ヤベェな。」

 

V.C.に連なる『サクヤシリーズ』及びV.C同調端末『コスモス』の全てが機能停止した事態が発生する。

こればかりはどうしようもなく、一同は頭を抱えるしかなかった。

 

「今回の作戦の一番の要───サクヤシリーズ、コスモスの量子ネットワークを使った、最後の仕上げが出来ねぇ……!」

「どうしよう……これじゃ今までやってきた事が、ただの嫌がらせで終わっちゃうよ。」

「くっそ!アーブラヴで市街にモビルスーツが突っ込んできて、リアクターからの通信障害を受けた気分だ。」

「実際は大元が潰されたようなものだからね、あと残った回線って言っても───ん?」

 

────こ……ら、GGG。鉄華団、応答して!

 

「これ……魔力(マナ)通信??」

 

インカムより聞こえる声───

それはV.C.の登場により、現在ではすっかり旧回線となった魔力(マナ)による通信。

ただし非常回線として残されていたものに、声が灯る。

直ぐ様、応答するオルガ。

そして互いの現状報告がなされ、今後の方針が決まった───

 

「──みんな、聞いてくれ。まず、お嬢だが……意識不明で疲労困憊だが、無事だ。特に後遺症もないってよ。」

 

その言葉に一同ホッとする。

 

「だが、V.C.は物質昇華の影響をモロに受けて機能停止……カインさん達が言うには、俺達を含めた祈りのフィードバックの処理と同時にV.C.が物質昇華の影響を受けたために、ネットワークで繋がっているサクヤシリーズも少なくない同様の被害を受けてしまったのだ、って話だ。」

「通信環境が直列みたいなものって聞いたことがある……その影響かな?」

「さあな。詳しい事はまだ向こうも解ってないらしい……が、こっからが本題だ───()()()()()()()()()、との事だ。」

 

その言葉に、今度は一同言葉を疑う。

 

「……あ~、俺もお前らと同じ気持ちだ。けどなもうすぐネットワークが復活するらしい。」

「え??V.C.復活したの??」

「いや、違う。復活したのはサクヤシリーズの別の個体だ。そいつが今、ネットワークの復旧を進めてるって話だ。」

「マジか。まあ、ネットワークが使えるなら問題ないか……」

「そういうこった。つー訳で、俺らは予定通りに動く、特に変更はねぇ。質問あるヤツはいるか?」

 

オルガの問いにおずおずと手を上げたのはクスト。

 

「ネットワークが復活するって事は、サクヤシリーズもみんな、問題なく起きるんですよね?」

「ああ。向こう(GGG)の話だともうそろそろ起動するとか───」

 

『──Boot complete,SAKUYA-05.Individual new system, convert.』

『Boot complete,SAKUYA-06.Individual new system, convert.』

『Boot complete,SAKUYA-07.Individual new system, convert.』

 

「あ、起きた。」

 

AZ-M製のアンドロイドとはいえ、女性型であるサクヤシリーズ3体は簡易ベッドに寝かせられていた。

その3体が起動アナウンスを響かせながら布団をどかして起き上がる。

待ちに待ったその様子を団員全員が見ていたが……

 

「あ……あの、そんなに皆さんに見つめられたら……恥ずかしいでしゅ───ああっ!?……かんじゃった、恥ずかしいですぅ

「おいてめぇら!!05の事をそんないやらしい目で見んじゃねぇ!!」

「そうよ、05はとっても繊細。そんな視線で見つめたら……その頭に電波をねじ込むわ。」

「「「 ………… 」」」

 

サクヤシリーズの3体が、純情っ子(05)とヤンキー(06)と毒電波(07)になっていた。

そんな急展開に、追い付けない一同であった。

 

 

 

今回の経緯と作戦は以下の通りである。

 

ドルトという領地があった。

その領地で、領主が息子へと急に代替わりした後、村の外へ輸出されたはずの商品の代金が正常に職人達に還元されていないところから、この問題は始まった。

製造、出荷しても払われる代金の遅延が一つ、また一つ多くなる度に領主に募ってゆく。

しかしそれに反比例して要求される商品の製造が増し、遂には材料の入手すら困難となった。

直談判するも、門前払い。そして高圧的な要求。

そして領主と職人達の対立が一層深刻なものに醸造してしまう。

このドルトの住人達はそのほとんどが職人であり、代金の遅延による生活の困窮は深刻なものである。

このままでは両者の衝突が必定のモノとなる。

だが、この水面下の異常に一早く気付いた人物がいた。

 

カルディナである。

 

商会の物流で、ドルト集落(コロニー)から送られてくる筈の国内に向けての集荷物が年々少なくなっている事に、彼女は気付いた。

そこで徹底的に裏を洗ったカルディナは一つの事実にたどり着いた。

ギャラルホルン側の工作である。現領主に密かに近づき、裏金と共に商品を横流しさせたのだ。

ただし金は領主が懐に着服、領民には増産のみを命じたのみ。

その行為により、職人達への金銭的、生活被害が発生。

これが全容である。恐らくギャラルホルン側は段階的に横流しする量を増やし、住民の不安をあおり、最終的に暴徒と化した住民を鎮圧する事で恩を売ろうとし、自らの支配下に置くつもりなのだろう。

同時に、横流しした商品は自らの国に転売……

前領主が急死していたのは知っていたが、無能なボンクラ息子が有能な(口うるさい)家臣を廃し、現状の状況までに陥らせた事が判明したのは、『ゾンダー王都襲撃事件』の後。王都に馳せ参じた顔ぶれを見せて貰い裏取りを行った後であった。

 

だが、一つ重要な事がある。

 

ドルト集落(コロニー)は、アルドレイア王国の領土の1つで、寄り親がアースガルズ領、という事だ。

故に容赦はない。

 

カルディナは今回の作戦に際し、父親(クリストファー)陛下(レクシーズ)に打診。住人の悪状況の改善、物流の正常化、そして証拠が見つかり次第、騒動の鎮圧と現領主の解任を目的とした作戦を考案する。

そして承認された作戦は後日、実行……だったのだが、先の『機界新種事変』にてカルディナは不参加となる。

そのため、元々はカルディナを中核に鉄鋼桜華試験団を中心とした実行部隊であったが、今回は全面的な対応をオルガが行う次第となった。

 

そして今回の事にあたり、五つ行う事がある。

 

一つ目は住民、職人達の支援。

内政を蔑ろにする領主に代わって(領主に無断で)金銭、物資、医療の支援する。

 

二つ目は物流の正常化。

職人達に物資、資材を与え、本来生産されるべきものを生産してもらい、(領主に許可無く)輸送、販売する。搬送は鉄華団で、アースガルズ商会が売り捌く。

 

三つ目は、正当な賃金の支払い。

(無断で)出荷した商品を売り、得たお金を正当に分配し、職人達に還元する。

(ただし、税金はアースガルズ領に)

 

四つ目は、護衛。

商品を扱う以上、不届き者がいない訳がなく、終始護衛任務をする。

(除外対象はドルトの役人も含まれる)

 

「……つー訳だ。これまでは順調と言える。」

「あ……ああ、確かに。」

 

オルガの言葉に戸惑いながらも不安げに同意するのは、ドルトの役人の『住民側』の人物、ビスケットの兄、サヴァランである。

突如やって来た(ビスケット)と、オルガに、秘密裏に計画していた住民総出での決起を指摘、待ったをかけられた1人である。

 

「んな事は止めてくれ。どっかで漏れてるぞ、決起した瞬間に捕縛、まとめて討伐されるのがオチだ。んな事より、もっと確実な方法がある───」

 

どこから計画が漏れたかは解らないが、こうなっては不本意ではあるが乗るしかなかったサラヴァン。

しかし乗っかってみると今までと同じ、それ以上の効率で労働が、販売が、経済が(領主抜きで)廻っていたのだった。

これにはサヴァラン達も納得せざるを得なかった。

しかし、不安もある。

 

「この事が領主に知れ渡ったら……」

「こんな回りくどい事をするなら直訴した方が……」

「──もうしてますよ、直訴。」

「「「え──??」」」

「今回の作戦の主眼は『現領主の無能さを露呈させる事』ですから。」

 

ビスケットのその言葉で、目が点になるドルトの一同。

ドルト集落(コロニー)───正確には『ドルト工芸製作集落(クラフト・コロニー)』という。物作りに特化した職人達の工芸集落の集まりがドルトという街である。

そしてその集落が出来た経緯は、国王レクシーズの収集した肝入りの技術再現によって一般再現されたの環境であるその統括していたのはアースガルズ家であり、ここはその一部。

現在の経済活動を支援、指揮しているのはアースガルズ家であり、ドルトはその寄子である。

それを代替わりした瞬間におじゃんにしたのが現領主。

しかも懐に入れただけでは飽き足らず、品物を他国(ギャラルホルン)に横流し。

 

「つまり『お前のやっている事は全てバレていて、こっちが指揮した方が効率がいい』ってあえて見せつけてやってるんです。そうする事で、現領主の無能さを露呈させて、観念して謝罪すれば情状酌量あり。なければ国王とアースガルズ公爵の名の元に遠慮なく断罪出来るって流れです。」

「は??この一連の流れを…………国王も知っていると??」

「全貌を掴んだのは僕達も含め、最近でしたけど。後は……行う事の五つ目、証拠を見つけ出して、裏にいる奴らも含め炙り出し、断罪する、って事なのですが……」

「………そう、なんだよな。」

 

言葉を詰まらせたオルガとビスケットの視線の先には、部屋の隅で意気消沈して三角座りをしている、今回の作戦の肝たる人物、クーデリアの姿だった。

 

「………あの、“聖女様”は大丈夫なのでしょうか??」

「まあ、多分な。義姉が倒れた事を聞いて不安になったんだろう。決起までには気持ちも戻ると思うが。あと、クーデリアは聖女じゃねぇよ。」

「いや、しかし……民衆にはそう支持されているのだが……現に回復魔法や浄化魔法で助けられた人々は数知れずなのだ。」

「……あんたらまでカイエル教(やつら)みたいな事を言うんだな。んなもん、珍しくもないっての。なあ、ビスケット。」

「ん?ああ、回復魔法も浄化魔法も使い手は選ぶけど、ありふれてるものだしね。あれ、オルガ。頬が摩れてるよ。」

「ああ、さっきの荷運びで擦ったか?」

「気を付けてよ~、はい『回復』。」

「「「───!?!?」」」

 

ごく自然に行われた回復魔法を奇跡を目の当たりにしたように驚くサヴァラン達だが、感覚が違う方向で麻痺している(調教されきっている)オルガ達にはその影響がどう出るかは判っており、そしてどうでも良かったりする。

 

閑話休題(それはさておき)

 

 

問題はクーデリアである。

彼女は今回、カルディナの代役としてアースガルズ家の監査役を担っている。

そのため、現領主に対して寄り親代行として『ビシッっと(実刑宣告を)』言って貰わねばならないのだ。

何せ、この騒動の中にはアースガルズ家と商会を貶めようとする動きがあったからだ。

将来の商会長である彼女(クーデリア)にはやって貰わねば、アースガルズ家、ひいては王国の沽券に関わる。

 

……が、今のクーデリアにはとある不安に支配されていた。

前世のドルト・コロニーで凶弾に倒れた、フミタン・アドモスの存在である。

カルディナ凶報を知らされた彼女には真っ先にフミタンの事を思い出した。

確かにフミタンの死はあの時の自分が乗り越えた。

だが、今回もそうであれば、誰かが自分を庇って死ぬだろう。それでなくとも自分に関わった者が斃れるとも……

前世と同じような要素が絡み合うなら、間違いなくそうなる。

今のクーデリアはそれが一番怖い。

せっかくフミタンに「私は大丈夫です!」というところを見せたいのだが……

そして困った事に、クーデリアの抱く不安を払拭出来る人物が────誰1人としていない。

 

「オルガー、応援の人達が駆けつけてくれた……って、どうしたの?」

「ああ、ミカか。いや、クーデリアがな……お前も声かけてくれよ。」

「おれもさっき励ましたけど駄目だった。アトラもね。」

「駄目か……せめてお嬢の声を聞かせられる状態ならな。」

 

四方八方塞がりである。

そんな時、オルガのインカムから着信音が。

 

「はい、こちらオルガ──」

《──お困りの様ですね、団長。》

「……V.C.みたいな声だが、もしかして0()9()か?」

《はい。状況はおおよそ理解しています。そんなお困りの皆様に逆転の一手(勝利の鍵)をお届けいたします。》

「……まだ短い間のやり取りしかねぇが、随分気回し早くねぇ??いや、早過ぎやしねぇか??」

患者(クランケ)の要望には堅実速攻でお応えするのが私の務めなので。》

「速攻……って、いやいい。んで、お前の言う逆転の一手(勝利の鍵)ってのは何だよ?」

《この後30秒程で到着します。ある意味劇薬なので驚き過ぎにはご注意を。》

「早いな!しかも劇薬かよ!?」

「オルガ、誰と話してんの??」

「……サクヤシリーズの09だ。あと30秒程で逆転の一手(勝利の鍵)が来るってよ。」

「サクヤの09……手筈早過ぎない?」

 

サクヤシリーズ09。

V.C.が機能不全になった後、一番最初に起動し、残りのサクヤシリーズ、コスモスを統括ネットワークを一手に引き受ける個体である。

V.C.が元々医療対応のコミュニケーションAIであるためか、対応する人物を患者(クランケ)と呼び、まだ音声のみでのコンタクトしか取っていないが、その対応は手術のように的確な対応をする、現在のサクヤシリーズの中核である。

呆れる程に手筈が堅実速攻である存在だ。

そんな存在が『あと30秒程』と言えば、何かが起こる──

 

「──失礼します。」

 

ノックの後、数人の男女が部屋に入って来た。

地味な外陰にアースガルズ家の家紋の刺繡──カルディナの『影』である。

こいつらが逆転の一手(勝利の鍵)なのか?とオルガが思うのも束の間、『影』の内の1人が落ち込むクーデリアの下に歩み寄り、そして顔を覗き込むようにしゃがみ込む。

 

「そうやって、何時までいじけているつもりですか?私に、いいところを見せると、息巻いていたと伺っていますが。」

「!?」

 

静かに響いたのは()()()()()()──

けれども、今誰よりもクーデリアに希望を与えられる声が───

 

「あ、貴女は……!」

「私はちゃんと此処にいます。ですがお嬢様、貴女の今すべき事は……何ですか?」

「私の……すべき事は……」

 

その人物の言葉に、出会った感動を端に置き、今一度想いを返すクーデリア。

今すべき事、託された事、それは───

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

帰って来た現領主とその取り巻きが、集落の活気に何だ何だと異変を感じ取り、既に出来上がった品物を無断で接収しようとした直後、待ち構えていた鉄鋼桜華試験団により1人残らず捕縛され、黒い大きな板を掲げた集落の広場に放り出された。

そして集落の住人達と試験団に取り囲まれる中で、豚のように肥えた現領主が叫んだ。

 

 

「無礼者共が!!俺の慈悲を忘れやがって、全員死刑にしてや───!」

「──そのような謂れ、貴方に言う資格はありません!」

「───!?」

 

豚の喧騒を雷鳴の如き一喝で黙らせたのは、クーデリアであった。

 

「どうも皆様、私はクーデリア・A・アースガルズです。」

 

自信に満ち足り、普段は怒らない慈愛に満ちたと評判の彼女が180度変わって、絶対零度の怒りで一行を睨み付けいる事に、誰しもが驚いていた。

何故なら今回の一件で、一番業腹なのは集落住民を除くと、クーデリアであった。

記憶を取り戻す前でもクーデリアは慈善事業や福祉活動に率先して取り組んでいた。

時折、義姉(カルディナ)に『安易なお情けは人を堕落させる。厳しくともやるなら独り立ちするまで』と助言を貰い、アースガルズ領内の失業率低下、復業率上昇、更には商会を通じてライフラインの着工、働き先の斡旋までと、カルディナに隠れてこそいるが、充分な采配を発揮しており、魔法の素養や、素行も相まってカルディナと同様に『聖女』と呼ばれるようにまでなった。

ただ、当人はその点はどうでも良いと思っている。

 

「領主殿。貴方には税金横領、着服、及び納入品横領の罪が問われています、ご同行を。」

「ふざけるな!横領?着服?誰がそんな事を!此処は俺の治める土地だ、その采配は俺に一任されている!余計な口出しは無礼であるぞ!」

「その通りですよ、聖女クーデリア。」

「……貴方は、私をしつこく勧誘してきた、カイエル教の司祭ですか。」

「しつこく勧誘とは心外ですぞ。私は神の御言葉に添ったまで。そしてこのドルトの領主の行いも神の采配───つまり世の真理です。」

「……その割にはドルトの民達が大勢嘆いておられます。その方達に救いの手を差し伸べないのですか?」

「もちろん差し伸べますよ───御布施を頂ければ、ですが。」

「……」

「救いの手は無数にありますが、どこにでも、という訳には参りません。引く手数多なのですから順番に、なのです。ただ御布施を頂けるなら、その順番は……早める事が出来ます。」

「その通りだ!私はその救いの手を早く差し伸べて貰えるように、我が身を切って御布施を貯めているのだ!それを貴様らは妨害していると報告を受け、俺はここに急ぎ参った!それを貴様らは───!」

「──もう結構。」

 

公明正大のような言葉を吐き出す2人の発言をピシャリとクーデリアは止める。

同時に、シノと昭弘が刺叉で強制的に地に伏させ、発言を許さない。

 

「……つまり、民に払う報酬すら削り、多大な御布施をカイエル教に払うため、アルドレイア王国には払うべき税金を滞らせた、そう言う事ですね。」

「そ……その通り、だ。だがそれはやむ無く……」

「───貴方の主はいつからギャラルホルンの《飼い犬》》になりました?

「!!」

「そもそも、何故私がここにいるかお分かりですか?我が義姉、カルディナの名代という理由もありますが、その実は我が義父クリストファー・S・アースガルズ公爵の名代です。故に……今の我が存在、我が言葉はアースガルズ公爵の言葉と知りなさい。」

 

纏うケープを翻し、刺繍されたアースガルズ家の家紋を見せ付けるクーデリア。

その見せ付けられた家紋で、事の重大さがようやく理解出来た現領主と狼狽する司祭。

だがもう遅い。

今回行われた事は、紛れもない背国行為。

ドルトで生産されている品々は、陛下(レクシーズ)直々に企画され、家臣達にその生産地域を調整、配分されたもの。全て決まった場所に納めるモノであり、決して横流しして許されるモノではない。

それに関わらず現領主は前領主が退役(死亡)した後、最寄に報告、葬式も内密にしか挙げず、埋葬したのみ。

そしてロクに引き継ぎも現状把握もせず、領地を自己判断で我が物とした。

当然寄り親(アースガルズ家)にも国にも報告せず、ただ利益を貪り、当人とその取り巻きは豪遊の限りをしていた。

それらの原因は現領主の人間性と、カイエル教の唆し、この2点に他ならない。

 

「調べは既についています。貴方達が商品の搬送にゴルドン商会を使っていた事も明白です。そしてこれらの書類がその動かぬ証拠。言い逃れは出来ません。そして……集落の管理についても、現当主には適正なしと下されています。なので、貴方のこのドルト集落の領主権限は剥奪されますので、この後退去のご準備をして下さい。」

「剝奪に退去だと!?このアマぁ!お前にそんな権限があると思っているのか?!」

「──あります。言いませんでしたか?今の私の存在、言葉は……」

 

《私の代わりであると──》

《──言っていたはずであろう。》

「「──!?」」

 

クーデリアの背後にあった黒い大きな板、それが突如、光を放ち、この国の最大級の権力を持つアルドレイア王国(レクシーズ)アースガルズ公爵(クリストファー)の姿を映し、2人の声も響かせる。

突如始まった光景に住人や職人達は一瞬戸惑うが、事前に知らされていた事を思い出し、すぐにひれ伏した。

由緒、それは巨大なモニターで、王都の王城からドルトまで量子ネットワークによるリアルタイム通信であった。

つまり目の前の2人は本物なのだ。

 

《一部始終、全て見させて貰ったよ、現ドルト領主。素晴らしい働きぶりだ。素晴らし過ぎて……この地を任せるには惜しい。寄り親としては実に口惜しい所業の数々だ。》

《私も国王として、公爵の意見に賛同する。故にアルドレイア王国国王として、貴殿に沙汰を言い渡す───今を以て、ドルト領主の座を解任、爵位を剥奪。そして一族郎党、今回の件で中核となった人物、商人らは、国家反逆罪に処す。》

「な……!?」

《言い訳は無用……今までの行いを知らぬ我々ではない。そして、今回の件……他領の領主達も知見している。今までの行い、全てを現在進行形で、だ。》

「なぁ……!?」

 

つまり、アルドレイア王国の全ての領主達も量子通信によるライブ映像を見ている事に他ならない。

これは完全なる公開処刑である。

今頃、事前に送り付けられたモニター画面をコスモスの花と一緒に驚愕の表情で見ている事だろう。

そして画面に映るレクシーズが、カイエル教の司祭を睨みつける。

 

《……そしてそこのカイエル教の司祭、貴殿も同様だ。陰ながら他国の者が我が国の(まつり)に口を出すなど、無礼千万。》

「お待ちくだされ!私を拘束する事は、カイエル教に……神に逆らうという事!それがどういうことか……!!」

《関係ないな。貴殿はギャラルホルンの住人だろう。国の法に当て嵌めれば罪人である事は違いない。そして知らぬ存ぜぬと言うだろうが……我が国は政教分離の方策を取っている。》

「政教……分離!?」

《我が国は誰がどんな宗教を信仰しようが構わぬ。しかし宗教の教えを政治に持ち込み、適応を強要する事は一切許していない。宗教(お前達)の考えと(我等)の方針は違う。》

「な、何とも、愚かな……」

《『(超常の存在)』の名前さえ存在すればどうにかなると思うな。私には()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()が神を名乗る等と愚かしく烏滸がましい。そしてお前自身、奉る神の姿はどんなものか、実際に見た事があるまい。》

「え、えとそ……それ…は……」

「───陛下、これ以上の問答は時間を取るだけで無用かと。司祭クラスは所詮、自分達の神の姿を見た事のない者ばかりです。」

「な───何故それを……あ。」

《……であろう。己が奉るものの実態を知らぬのは愚かな事だ。連れて行け。》

 

全てを見抜かれて愕然とする司祭を含め、引っ捕らえられ、連行される一同。

彼等には厳しい沙汰が下されるのは間違いない。

 

───が、完全には終わってはなかった。

 

「皆さん、本件に主体となって携わった商人、ノブリス・ゴルドンの捕縛が()だです。引き続き、草の根を分けてでも捜索、捕縛を。」

 

カイエル教と共に横流しに携わっていたゴルドン商会の中核、ノブリスがまだであった。

どうやら自前の情報網で今回の企てを寸前で察知したようで、事が起きる前に適当な理由を付けて場を逃れたらしい。

 

「──ま、それすらも計算の内ってヤツだ。もうそろそろ連絡が───っと了解だ、今向かう!おい、おめーら!ライドから、ノブリスの野郎を見付けたってよ!行くぞ!!」

 

オルガの号令で直ぐ様、発見地に向かう鉄華団達。

事態は佳境に差し掛かっていくのであった。

 

「……」

「ん?どうした、ミカ。」

「いや、さっきのクーデリアの()()なんだけど……お嬢みたいだった。」

「あ~、確かにね。」

「あのメンチの切り方とか、マジでお嬢が憑依したみたいだったな。クーデリアがお嬢化、か……」

「そう考えたら……す ご い か な し く な っ て き た 」

「大丈夫だ!多分!そんな事考えんな!」

「大丈夫だよ!きっと!そんな事考えんなくていいよ!」

 

アースガルズ商会を率い、魑魅魍魎の貴族社会を生き抜くなら、カルディナのような苛烈な面も秘めねばならないのはある意味必定なのだろう。

が、それと三日月の夫婦生活に影響が出るのは別。

オルガ、ビスケットの渾身の励ましに、不安募る三日月の心配はあるだろうが、それはさておき。

事態は佳境に差し掛かっていくのであったら、差し掛かるのであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

森の開けた窪地の中央で、ノブリス・ゴルドンは四方を大楯を持った用心棒に囲まれながら怯えに怯えていた。

 

この世界のノブリス・ゴルドンは前世と同様に商才に恵まれていた。同時に欲深く、他者を出し抜く事に躊躇がなかった。

損得に敏感で、やる時は徹底的に、そして退く時は一目散に。強者に媚びへつらってでも利益を追及した。

自分以外を「物」として数え、金にものを言わせて自分の手を汚さずに、他者に陰で非道を数えるのが馬鹿馬鹿しくなるくらい行為を強要させてきた。

故に齢60を過ぎても商会は栄え、今ではギャラルホルン教皇国の勢力圏内の商いを牛耳る事が出来、カイエル教お抱えの商会と成り上がった。

 

……それ故、彼の過ちは「世の中、金でどうにかなる事」のみが信条である事。

そして老いる以前から「手を出してはいけない、圧倒的存在を察知出来なかった事」。

 

それを今、身をもって、飛び交う未知なる静かな発破(サイレンサー)音と共に体感していた。

 

「──ギャアッ!?」

「痛てぇ!!」

「い、いったいどうなってやがる!?何とかし───うぎゃあーーー!!」

「し、知りませんぜ!見えない攻撃が───ァ……」

 

目の前に人らしい人影はいない。

なのに言いかけた後、目の前で力無く倒れる用心棒の死に様を見て恐怖する。

容赦ない連射にて、用心棒の頭から血を流して倒れ、気付けばあっという間に死ぬ様は、あまりにもあっけない。

 

「───覚悟、しなッ!!」

「あぎゃあ!?」

 

小柄な少年が突然現れたと思いきや、ノブリスの左右の僧帽筋、鎖骨が正確に撃たれ、激痛もそうだが腕が上がらない事に更なる恐怖を感じながらも、あっという間に壁としての用心棒は1人となってしまう。

そしてその少年は草陰の中に消えていった。

 

「おいてめぇ!絶対俺を守れよ!その分の金は払ってんだからな!」

「おいおい、これ以上は追加料金をもわらにゃ割に合わんぜ。どう生き残れってんだ?」

「それはお前が考えろ!どうにかしてここから逃れるようにしやがれ!」

「……ったっく、しゃあねぇな。だったら、とっておきの方法を披露してやるぜ。」

「そんなもん、あるならさっさとや───ゲホっ!?」

 

奇策があると身を翻した用心棒は、体重70Kg近くのノブリスを───蹴り上げた。

一瞬何が起きたか解らないノブリスであるが、苦しみ、這いながら辛うじて見上げた用心棒の顔を見て驚愕、更に混乱した。

 

強屈な男の用心棒と思っていた人物が、見る見るうちに姿を、声を変えていった。

白衣を纏った長身の金髪女に変化していた。しかもその顔は……まさかの仮面(無貌)

サクヤシリーズの1人、サクヤ-06が用心棒に擬態していたのである。

 

「ったく、()()()()()標的と居座んの、ホントにしんどいんだが。さっさと仕留めたかったぜ。」

「06、ご苦労様。高電圧電波、指向解放。」

「うぎゃ!?」

 

芝居はお終いと言わんばかりにいつの間にか寄って来た、もう一人の白衣を纏った黒髪の女が、ノブリスに強烈な電波が放たれ、全身の神経、運動機能が麻痺してしまう。

 

「06~、07~、おまたせしまし──きゃん!」

 

───ブスっ

 

「……05。何もないところで転ぶなよ。」

「しかも『首から下が一生弛緩剤』を一度にそんなにたくさん。」

「それ、0.1㎜でも注射量間違えると後遺症残す奴だろ。大雑把に入れんなよ~。」

「す、すみません……」

「まあでも大丈夫だ、間違いは誰にでもある。」

「そうね、誰にでもあるわ。()()間違えないようにすれば。」

「はい!」

 

『次は頑張ります』と3人で和気あいあいとしているも、手遅れなノブリスは放置であった。

実際、その()()ノブリスに来るとは永久に思えない。

そんな状況の中、鉄華団達が丁度よく到着した。既に事態が終わっている(ケース・クローズしている)事に驚いたが、これもシナリオの内である。警戒しながら、ノブリスを包囲する。

それを見計らって、06が誰もいない場所に声を発すると、その人物は違和感もなく風景の陰から突然現れた。

 

「さて、こっちの仕込みは終わったぜ、()()()。」

「ご苦労様です。」

「お……お前はヴィータ……ヴィータか!?」

「ご機嫌麗しゅう、ノブリス・ゴルドン。良い恰好ですね。」

 

絶望の淵に立たされているノブリスが確認したその人物は、ヴィータという。

ノブリスの部下であるのか、ノブリスは裏切りに対し激昂している。

そしてその風貌は鉄華団の誰もが知らない顔であり、その人物はノブリスを見下ろすのだった。

 

「ヴィータ、この裏切り者が!!こんな事になるなんて……何時から裏切ってやがってた!?」

「最初からです。常日頃から貴方に命令されるのが嫌で嫌で……」

「ちょっと待て、最初から……だと!?ガキの頃からじゃねぇか!」

「はい。貴方に拾われたガキの頃から実に11年、既に貴方を貶めるシナリオを考え、準備していました。そして貴方の商会の影響範囲が最高潮になった瞬間、それらを全て奪い去ろうと……」

「奪い去るだと?俺の築いてきた、商会の全てを?馬鹿馬鹿しい、てめぇみてぇな小娘に何が出来ると……」

()()()を見ても、そう言えますか??」

「そ……それは……!!」

「はい。教皇国との商いの許可状です。その他、貴方が懇意にして頂いているお偉方との書状、全て。」

「返せ!!それは俺が苦労に苦労を重ねて手に入れたモンだ!!」

「違うでしょう?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、でしょう?既に手に入れた者から奪い去り、競合する者を裏で蹴落とし、表に裏に現存する商会へ暗躍し、他の商会の評判を落としたり……そんな()()()()()()()()で手に入れた、汚い証。調べれば出るでしょう、あるはずのない、前任者の証が。誰もが納得する形で……」

「そんなモノ出ようが関係ねぇな!死人の証拠なんぞ意味なんてあるか!」

「……貴方なら、そう言うのは予測出来ていました。ですが、()()()()そんな事を言う資格はない───」

 

そう言って自らの顔をヴィータは掴む。

顔の皮──擬装は剥がれ、その下から()()()()が現、その顔にノブリスは驚愕する。

 

「その顔は……!」

「改めてどうも───フミタン・アドモスです。」

「そのニヤケッ面…もしかして、あの忌まわしいアドモス商会の青鬼才の頭目!?」

「覚えていて下さって光栄です。幼い時から私はよく父似と言われましたからね。」

 

ヴィータと呼ばれた人物の下から、鉄華団もよく知る人物───フミタン・アドモスである。

団員達には良く解らないが、フミタンの顔はどうやら父親似のようだ。

 

「アドモス商会は頭目を始めとして主要な奴らはあの時…………どうして、生きてやがる?」

「助けられたからに決まっています。12年前、ギャラルホルンであった大飢饉。当時小麦を多く抱えつつ、国が出さない救援物資を自腹で多方面に搬送に奔走していたアドモス商会にした仕打ち……それによって飛躍したドルトン商会。私は忘れていませんよ」

「……な、何のことだか。」

「シラを切りますか……まあ、当時関わった古参の方々からは証言は得ていますので結構です。」

「な、口を割りやがったのか、アノ野郎───あ。」

「自ら証言とはお優しい。一番欲しかった証言、頂きました。ですが、これ以上の証言は不要なので、その口は閉じててください。06さん、猿轡。」

「あいよ。」

「うぐッ……!?」

 

手慣れた所作で猿轡を噛ませ、制圧する06。

 

「まあ、どんな結果にせよ、私はこうして生き延び、貴方の懐に入り込み、暗躍し、貴方の商会の一つ一つを貴方が知らない間に解体し、本日を以って全て奪い去った運びとなりました。あ、ちゃんと正規の手続きは踏みましたよ?書面は代筆でナンバー2の方にお願いしていましたが……実に快諾して協力してくださいました。『直にこの商会は私のものに……』って笑っていたという、そんな些細な事はありましたが……っと、書面完了。ではサイン、頂きますよ───06さん。」

「あいよ~。」

「───!?、!?、!!!」

 

06がノブリスの右肩を掴む、すると薬で麻痺している筈の腕が動き出した。

ペンを握らせると自然につかみ、ノブリスが訳の解らないまま、フミタンが差し出した書類の末尾(サイン欄)にごく自然に自らの名前を書く。それも一枚……二枚と。

外部からの電極操作である。一定の電流、電圧を流す事により、人体の身体を外部から操作出来るのだ。

ただし、その際には尋常ならざる痛みを伴う。

 

「この光景、某事務所で優しく丁寧に書面を補佐してくれる強面のお兄さんね。」

「誰が兄さんだ、優しい受付のお姉さんだろうが。」

「終始間違いを見てくれるんですか?その方……お優しいですねぇ。私、こういうの苦手で……」

「そうそう……間違った箇所を丁寧に指摘してくれて──『あ~、ここの桁は2つゼロが増えるんだぜ』ってな。」

「そして利子は10日に1割。」

「難波弁の眼鏡をかけた、人情味あふれる人ですね。」

 

サクヤシリーズの会話のやり取りが具体的過ぎて怖かったが、あえてそこはスルー。

ごく一部が和気あいあいとする中、不気味なノブリスのサインは終わり、その書類一式を拾い上げるフミタン。

ちなみに、無理矢理身体を動かされた影響でノブリスは過呼吸寸前、身体が震えあがっていた。

 

「何を震えているのです?貴殿方が今までしていた常套手段でしょうに。さてこれで、貴方に無理矢理吸収合併されたアドモス商会を買い戻せました………長かったです。さて残りはこの男(ノブリス)の隠し資産の吸い出しですね。」

「!?」

「ここまで来て『そんな事までするか?』みたいな顔ですね。私達アースガルズ商会は貴方の商会からそれくらいの被害を被っています。手加減はしませんよ。『我ら、アースガルズの影役者』ですので。」

「!!!」

 

アースガルズ商会の名を、そしてもう一つのキーワードを聞き、錯乱するノブリス。

ようやく、誰に対し喧嘩を売ったのかを自覚したのだが、もう遅い。

 

「さて尋問、拷問しようにも、この金の亡者にどういたしましょうか。」

「サクヤシリーズの誰かに、思考読み取り(リーディング)をしてもらったらどうです?」

「そうしたいのですが、彼女らの機能はそこまで回復していないそうで──」

 

「──では、私がしましょう。」

 

「あ……貴女は、()()()()。」

 

()()()()()()()()()()()姿()で、その人物は何を隠す事もなく、その輪の中にいつの間にか降り立っていた。

 

───フミタン

 

フミタンがそう呼称する人物は、赤髪のメイド──()()()()であった。

そして赤髪のメイドは普段変わらず淡々とした所作で、拘束しているノブリスの頭部を鷲掴みにし、軽々と持ち上げる。

 

「フミタン、どうしてここに??貴女は、確か……」

「カルディナお嬢様、それと陛下達から、『加勢に加われ』との命よ……それとお嬢様が『もう取り替えっこ(チェンジリング)は終わりよ』と仰っていたわ。だからもう私達の()()()()()も終わり。()()()()()()()

「……そう。解ったわ、()()()()

 

フミタン。

ヴィータ。

 

これまで謎であった人物がここに揃った。

それは鉄華団も間違いなく記憶にある、間違いなく自分達の知る『フミタン』。

そして今世で『フミタン』と呼んでいた人物が『ヴィータ』。

 

「あと『副従侍長』へ辞令。『今作戦が終わった後、今後許可あるまでは荒事への参加は禁止お休み』とします。」

「……了解したわ、『従侍長』。」

 

そして今まで『フミタン』を名乗っていた『ヴィータ』はどうやら『フミタン』と通じていた様子。

その言葉に

その事に安堵するのも束の間、また別の勢力が周辺を取り囲んでいた。

 

「ここは我等が聖域とした。異教徒は我等が意に従え。さもなくば、死だ。」

「その黒装束で誤魔化しても無駄です……このジジイの私兵でしょう、貴殿方も飽きませんね。目的は()()ですか?」

「手荒な真似はよせ。その人物は多くの『徳』を積んだ崇高な人物、素直に渡さねば───」

「───いやいいですよ、こんなジジイ。お返しします、即日返品です。ただこのジジイが『徳』を積んだ崇高な人物とかどんな冗談(笑)。徳は徳でも『悪徳』でしょうに。実に草生えますね。ワロス」

「ぐぬッ!」

「ああ。そちらも動けばもれなくトマトジュース(団体客用)が(このジジイを即すり潰すぐらいは)出来ますよ、ご所望であれば即時お作りします(ミンチより酷いヤツにします)が……どういたします?」

「このアマ……!」

 

赤髪のメイド(ヴィータ)の動向は、事前にしっかり聞いていた……しかしこれはどうだろう。

これは普段と変わりない───いや、前以上の茶化しである。とっても酷い。

更に、顔に感情のブレが現れないため、メイドにありきな表情以上の顔をしないのだ。

先の戦いにて、『ヴィータ』という存在は意図せず機界新種(ゾヌーダ)となり、マギウス・ガオガイガーと死闘を繰り広げ、そしてゾンダーへの切り札の浄解に、急速に人間形態へと変化(シフト)して浄解を乗り切った、言わば『異常な存在』。

元より異常ではあるが……よくカルディナのメイドをやっていられる。

そんな中、

 

「止めんか、小娘の挑発に何の意味がある。それにアースガルズの者共も主人が居ねば何も出来ぬ、小物の集まりに過ぎん。」

「………」

「例え、アースガルズの公爵令嬢であっても我等の敵ではない、我等の手に掛かればあの小娘とて───」

 

───ゴキンッ

 

恐らく敵の隊長各であろう、御満悦に語っていたのだが、その頭は突如消え失せた───否。

すぐ後ろの太い幹に肉塊が───ノブリス・ゴルドン()()()()()()と一緒に歪な肉塊となって飛び散っていた。

それを成した、とあるメイドは全力投球をやりきったポーズで静止。

そして静かに姿勢を正して、営業スマイル(いつもの笑み)で。

 

「これ以上意地悪言うのも可哀想なので、そちら(ノブリス)はお返しします。『04』も頭の中読み切ったというので、そんなもの、もう必要ありません。ああ、出来ませんか。失礼しました、これから超特急で黄泉路へと赴向かせられる皆様には───」

「───ウゲッ!?」

「ガハッ───!」

「───プフゥ」

「……必要ない問いでしたね。しかして我が主人(お嬢様)への無礼……生きて帰れると思わない事ですね。」

 

そしてそのメイドは、絶対領域(スカート)より取り出した消音器(サイレンサー)付き銃身39cmのオートマチック(グラサン吸血鬼御用達)の2丁銃をごく自然に振り回し、的確に撃ち抜く。

そして出来た、目にする唐突な阿鼻叫喚。

これ以上ないくらいのメイドの営業トーク(ありふれた宣戦布告)に黒装束の者達は畏怖も怒りも込み上げつつ、即反撃の体制を執──

 

───パシュ──パシュ──パシュッ!

──パシュ─パシュッ!

─パシュッ!──パシュッ!

───パシュ──パシュッ!

──パシュッ!──パシュッ!

──パシュ──パシュッ!──パシュッ!

──パシュッ!──パシュッ!

 

──れる訳がなかった。

 

「ちょ、おい!四方八方からいきなり、これ銃声だろ!?オルガ俺らどうしたら……」

「いや、どうするってもよ……これ、参戦していいのか?」

「──ダメっすよ、団長。今は手出し無用っス。」

「……え、ライド??」

 

林の陰から死角から、次々に放たれる小さな凶弾の雨に倒れた黒装束達は失念していた。

もちろん目の前のライド・マッスもオルガ達を制しつつ、見た事もないSFチックなハンドガンを連射している。

今の今まで開口一番、誰に一番擂り潰されてきたのか?

どうしてアルドレイアの国から自身の諜報達が残らず抹消されたのか?

最後の独りになるまで侮っていた。

 

「「「我等は、影。」」」

「アースガルズの影にして陰」

「その中央に立つ者の影」

「我等の力は、主の為に」

「我等の眼は、主の眼の代行」

「我等の手は、主の御手の代行」

 

貴奴等の先人達は伝えられなかった他ならない、この『影』の存在を。

『主』から与えられた恩を還すべく、何よりも『個』でなく『群』と成す存在。

 

「……そして、我等は共通の怨敵を討つ為の『力』である。この日の為に我等は存在する。故に……見逃すとお思いですか?」

お、ごご(や、やめ)……!」

 

──パシュッ!

 

「……我等は『影』。我等が主、カルディナ・ヴァン・アースガルズ公爵令嬢の『影』である。」

 

ヴィータが最後の1人を討った。

同時に周辺がオルガ達が不気味がる程に静まり返る。

同時に老若男女の嗚咽をこらえるような声がそこら中から聞こえた。

ちらほら見え隠れする外陰達からは哀愁か、安堵か、達成の念か。それは解らない……が、ヴィータが気持ちを切り替えるように合いの手を入れた。

 

「皆さん、これを以って状況を、目標を達成致しました……が、お嬢様も常日頃から仰っています──」

「「「──『片付けが終わるまでが仕事です。』」」」

「重畳。では──各自散開。」

「「「──かしこまりました。」」」

 

そうして見え隠れしていた人陰は霧散、その場に鉄華団の他、ヴィータとフミタンを残すのみとなった。

いきなりの空気に面食らうオルガ達であったが、そこはヴィータとフミタン。

 

「失礼を致しました。」

「……ところで、お前らは結局何なんだ?話の流れ」

「ああ、そういえば。私達の所属のご紹介をするのがまだでしたね。」

「そうですね。改めて……私達は旧名『CVA諜報部』。現在は『GGG諜報部』──通称『影』です。」

「詳しい話は……そうですね、長くなってしまうので場所を用意しています。そちらでお聞き下さい。」

「お、おう……」

 

普段のメイドの所作で彼らを案内するのであった。

 

 

《NEXT》

 

 

 


 

 

《 現在公開可能な情報 》

 

〇サクヤシリーズ05、06、07

V.C.機能不全後に再起動した後の個体。ネットワークの大本から画一インストールされた『Individual new system』を元に再構成されており、それに伴って外見、スペックも変化している。

05~看護時におけるストレス減少、コミュニケーション円滑化を目的とした人格。医療対応に特化している。黒髪の癖のないロング。時々ドジっ子。

06~トラブル発生時における強制鎮圧を目的とした人格。金髪ロングで姉御肌。

07~ネットワーク・ハブ円滑化を目的とした人格。電波、電気関係を担う。黒髪三つ編み。毒舌

※『Individual new system』で構成された人格は個体によって多種多様となっているため、同一の個体はいない。

 

〇ヴィータ・アドモス & フミタン・アドモス

《……coming soon》

 

 




……とは言っても、さっくり終わらせたい話だったのですが、だいぶ盛ってしまいまったので、ガオガイガー成分はほとんどなし。
むしろ通過点とはいえ、オルフェンズの消化話となりました。

今回の話では
・ドルトの不正にギャラルホルンあり。
   ↓
・爵位、地位を利用して権力と財力で殴り込んで断罪。
   ↓
・相手の商売の中核のノブリス・ゴルドン(陰険ジジイ)を商売でも追い込み、ついでに私兵も撃退(ミナゴロシ)

となっています。


次話は近日公開です。(いつとは言わない)
感想、誤字報告等宜しくお願い致します。


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Number.23 ~取り替えっこ(チェンジリング)の果てに~(2)

という訳で(?)お待たせしました、後編~。

フミタン・アドモスとヴィータ・アドモス、2人の関係とは……!?で始まる話はここです。

話を考え直す際には実はヤバげなフラグがひっそりあったり、回収したら世界観が一掃されてしまうようなネタがあることもありますよね??ね?(訳の解らない強要)

それではどうぞ。


2023/10/18 文章追加、変更
子供カルディナが襲われた際、6歳の子供じゃ性犯罪は難しくない?(意訳)とご指摘を受けました。
けっこう過激な描写ですが、確かにと思いまして、実際お父様がどう動いたかを追記しています。耳汚しな話なので割愛してますが。


 

 

「うぇ~~~ん、フ~ミ゛~タ~ン゛~~」

「あ~、はい。すみません、よしよし……」

「こちらをどうぞ。」

「……どうも。」

 

ドルト郊外にある鉄華団のキャンプ地、その大型テントの中に案内された鉄華団一同はようやく終わった任務の休息がてら、広間にて数人のメイド達、執事達からお茶を出され、嗜んでいた。

ルムがお茶出しにしれっと参加しつつ、一息吐いたところで、全員が帰投するのを待っていたクーデリアが走ってやって来て、再び出会えたフミタンに大泣きしながら抱き付いて甘える始末なのはご愛嬌。

 

(……まあ、そんな事もあっていいか。)

 

前世死んだ者が、今は存在している世界で『何でいるのか』を深く指摘するのも野暮だ。

三日月もフミタンに再び出会えたクーデリアを優しく見守っている。

細かい疑問はさておき、良い出会いには感謝する事にしたオルガ。

 

そんな中、ヴィータがやって来て、緊張が走る。

 

「お待たせしました。」

「……おう。それでしっかり事情、聞かせてくれんだよな?」

「はい……といっても、お伝え出来る事は私とフミタン姉様の事、そして『GGG諜報部』の簡単な()()()()ぐらいですね。」

「どれもヤバ気な内容だな。」

「『GGG諜報部』に関しては何となく察せられる気がするけど、一番はフミタンさんとヴィータ……さん、だね。」

「──であれば、まず私の事からお話しましょう。その方が時系列的にも判りやすいので。」

 

そう切り出したのはフミタンであった。

 

「私は……そうですね。前世の事はさておき、今世では多少裕福な商家に生まれました───」

 

『七星君主』の統治するギャラルホルン教皇国───そこは豊かな国()()()()

広大な土地ながら痩せ、起伏のない平地では水の供給さえ困る時がある。表の見映えの良さとは裏腹に、裏では貧困層を多く占める。

それを『カイエル教』の布教により輪を繋ぐ、そんな国だ。

フミタンという少女はその国の商家の次女として生まれた。

記憶を取り戻したのは3歳の頃、転生した事もそうだがギャラルホルンの地にいる事に軽い絶望を覚えつつも、器量と商才ある父親と面倒見の良い母親、怖がりな4歳の長男、頼れる使用人達の影響もあり、多少ながら希望は持ちつつ日々を過ごしていた。

また、物覚えの良いフミタンを父親は自身のノウハウを自慢気に話す事で、前世の知識も合わさり、商売の事も自然と学ぶ事が出来た。

忖度の駆け引きが上手く、何より父には信用があった。

生活は節制していたが、幸せは確かにあった。

 

だが、その幸せを破壊したものが、ノブリスであった。

 

フミタンが6歳の頃、取引先の信用がアドモス商会に集中していたため、儲からない他の商会が嫉妬したのを逆手に取り、当時No.2のノブリスは彼等を唆して強盗に見せ掛けた闇討ちを行ったのだった。

混乱の中、父も母も、兄も、使用人達も死に、残った者達は批難され、アドモス商会はゴルドン商会に吸収された。

近くの林に果実を収穫しに訪れていたフミタンは、その光景を目の当たりにし───逃げた。

 

「……当時の私は文字通り小娘でしたからね、捕まればどうなるか解っていましたから、それはもう必死に逃げました。」

 

捕まれば人身売買行きだろう。

そうして訳も解らぬまま必死に逃げた先がギャラルホルンとアルドレイアの国境付近である。

 

「無我夢中で逃げたせいで当時は何処にいるか判りませんでした。そうして逃げて4日経過した頃の夜です。ろくに食べれず、月明かりも雲に隠れ、暗い夜道を歩いていて、もう駄目かと思った矢先……()()はいきなり燃え広がった豪炎の真っ只中に巻き込まれたのです。」

「只事じゃねぇな。何なんだ?」

「アグニカ様の第二夫人エリザベート様が放った魔法による、豪炎です。」

「エリザベートさんの魔法……?」

「……その場所は、カルディナお嬢様が初めてゾンダーに遭遇した場所、と言えば判りやすいでしょうか?」

「……あ。」

 

フミタンが出た場所───そこは世界初の『ゾンダー殺し』が行われていた場所であり、カルディナ・ヴァン・アースガルズ、5歳が一度死に、AZ-Mにて再誕した、人生初のゾンダー遭遇現場であった。

 

その事を後にカルディナより見せられた過去の映像記録で知ったのを思い出すオルガ達だが、ゾンダー相手に自身の師の1人でもあるエリザベートがガチバトルを仕掛けていた光景は、火山の大噴火の中で繰り広げられた激戦に等しいのを覚えている。

何気にフミタンに哀愁が漂っている。

 

「その現場に居合わせたのか……御愁傷様。」

「人生で一番死を実感した時でしたね。流れる涙も瞬時に蒸発する熱気の中、敵味方の区別をつける余裕がなかったエリザベート様の剣と炎から逃げるのに必死になる最中、カルディナ様と出会いました。」

 

当時ゾンダーを相手にしていたのはエリザベートにフュージョンしていたアグニカである。

最大火力で燃やしても再生し続けるゾンダーを相手を少しずつ切り刻みながら、豪熱地獄が造り上げられる中でフミタンとカルディナは会合する。

とはいえ、挨拶をする暇もなく、出会った瞬間アイコンタクトで協力し合いながら必死に逃げる幼子達。

抗う?足を止めたら死にます。力のない幼子は逃げるしかない。

敵はゾンダーだが、最大の障害はエリザベート(inアグニカ)さん。

後は野となれ、山となれ、灰となれ、塵となれ。

ゾンダーの消滅と共に、天然の熔鉱炉が出来上がったのは言うまでもない。

 

「……まあ、その縁あって私達はアースガルズ家に厄介になる事が出来ました。」

 

それからカルディナが事情を知ると、助力を得て私設秘密諜報機関『CAV諜報部』が出来た。

 

「全てはノブリス・ゴルドンを含めたゴルドン商会を潰すためです。私の他にもノブリスに商会や、あのジジイの障害になり殺された人の関係者を中心に構成しています。」

「道理で殺気が尋常じゃねぇと思った。けどどう集めたんだ?簡単じゃねぇだろ?」

「私も尽力はしていましたが、大多数はカルディナ様が12歳の頃に行った武者修行の旅の折に。あれはご自身の修行の他、人脈形成のための旅でもあったそうで。その過程でノブリスに恨みを持つ者を勧誘し、また人伝で勧誘……その繰り返しです。そしてカルディナ様が戦う術のノウハウを指導して頂いた事により、我等は他を圧倒出来る武力を持った商業集団『アースガルズ商会』を形成出来ました。」

「………」

 

恐ろしい話である。

ちなみに勧誘した構成員(メンバー)の一人一人は、例外なくノブリスにこの上ない怨恨を抱く者達ばかり。

故に勧誘には商人の守秘義務が守られていた。

 

「騎士を超越した力を習得出来る場、この上ない経済環境を用意してくれたカルディナ様には絶対の忠誠を誓う者ばかりです。故に『CVA諜報部』は全国規模を超えて他国にも人員を配置出来るまでに増えました。そしてカルディナお嬢様が『GGG』の隊長に任命された事により、我々も相応しいよう『GGG諜報部』として再編成致しました。」

「あの……」

「何でしょう、ユージン様。」

「全国規模って言うけどよ……実際はどれくらいいるんだ?」

「……詳しい人数は明かせませんが、アースガルズ領内で街中の住人5人程声を掛ければ、一人は『諜報部』の人間に当たる程度には……」

「ヒエッ!」

「加えて、アルド・レイアの秘密諜報部の人数、代表、家族構成も把握しております。」

「……わかった、もういい。」

 

「……聞かなきゃ良かったぜ」と後悔するユージン。街中にどれだけの『影』──諜報部員がいるか、具体的に言われると恐怖感が凄い。

また、カルディナやV.C.の持つ能力で、例え口に出さずとも接触するだけで伝播出来る。

正に情報を得られる最上の環境と言える。

 

「また人それぞれなのですが、カルディナ様を敬愛、信仰する者が多く、商会や諜報部でカルディナきょ……いえ、これに関しては今回の件に関係ないので省略します。」

 

……何が言いたかった。

想像は出来るが、この件は聞いてはいけない。

そう思いつつ敢えてツッコミは控える一同。

 

「ちなみに私自身は前世を含めたノブリスへの復讐と、何処かにいらっしゃるであろうクーデリアお嬢様のためでした……前者は本日達せられ、後者はカルディナ様のご縁で早期に居場所を知る事が出来たので、後ろ髪を引かれる事はありませんでした。」

「でも最初からいたんなら教えてくれても良かったと思うんだが……」

「下手に知らせると、クーデリアお嬢様すら狙われる可能性が出てきますので、今日まで言う訳には参りませんでした。多数の同士がいるとはいえ、全ては私達が始めた事……巻き込む訳にはいきません。」

「フミタン……」

「……フミタン。あんた、従者の鏡だな。遠い場所でクーデリアに会えず、寂しかったろうに。」

「ありがとうございます。ただ、商会の仕事で時々ヴィータと入れ替わっている事もありましたので、皆様やクーデリアお嬢様の動向は直に御拝見させて頂いていましたので……実はさほど寂しいとは感じておりませんでした。」

 

むしろ、近くで見れて微笑ましかったです、と告げるフミタン。

その事実に一同ショック。

クーデリアも「き、気付きませんでした……」と大きくショック。

変装術さえも習得している今のフミタンには、雰囲気の似ているヴィータに変装する事は容易である。

実はちょくちょく変わっていた姉妹であった。

 

閑話休題(それともかく)

 

「……フミタン、1ついいかな?」

「ビスケットさん、何でしょうか?」

「いや……気のせいかもしれないけど、さっきの説明で『私達』って言ってたよね?さっきの話の中でフミタンの他に誰かいたの?」

 

話の中で、フミタンは何故か『私達』と言っていた事にビスケットは今世では物書きもしているためか、そのところが異様に気になっていた。

そしてフミタンは静かに頷いて肯定する。

 

「はい。カルディナ様と出会う前に、もう一人傍にいました。」

「……もしかしなくても、それってヴィータ?」

「はい。ヴィータはノブリスの襲撃がある1ヶ月前に出会った義理の妹です。」

「義理の妹……ってどういう事だ??」

「1ヶ月前に、父が行商の先で拾ったのが発端でした───」

 

見た目4歳程で、行商先でどこからともなく現れた……自身をヴィータと名乗り、外見は特徴的な赤髪の女の子で、孤児のようなボロボロの外見以外は特徴もない。

ただ、何の記憶も持っていない女の子であった。

 

「記憶喪失ってヤツか……」

「らしいです。そして不憫に思った両親はヴィータを養女として引き取り、家族の一員なりました。ちなみに、ヴィータと襲撃の件はシロです。後日カルディナお嬢様が記憶を覗き込み、調べましたが一切その手の形跡、記憶もない事が判明しています。」

「そう言われても、怪しくないような、そうでもないような……」

「同意します。今のところ、ヴィータは限りないグレーです。ただ、不可解な点も。これはお嬢様もV.C.も仰っていましたが───」

 

「──『エピソード記憶』。これが4歳当時のヴィータにはないのよ。」

≪4歳以前の記憶がない……脳を有する生物で、生まれてからのエピソード記憶の一切ない生物なんてありえません。≫

 

「エピソード記憶が、ない……?」

 

エピソード記憶は感覚記憶が多く占める。同時にあらゆる記憶との関連も強い。

そこには何らかのストーリー(生きた軌跡)がそこにあり、そして記憶とは当人の意思とは関係なく自然と蓄積されるのだ。

それらの過程がないのは非常に不自然といえる。

 

「よくそんな不自然な人間を受け入れたな、お嬢は。」

「それは……当時のカルディナお嬢様の心理状況が原因です。ゾンダーに襲われた前日、カルディナ様がギャラルホルン教皇国で、同盟を組もうとした事があったのを覚えていますか?」

「ああ、確かご破算になった奴だろ?しかも同行してったお嬢を第一王子が妾になるよう強要したって話だ。」

「はい。ただその日、その他に箝口令が敷かれた事件がありました。それが……その王子に密室で襲われかけたという事件です。」

「マジか……強要の話は知ってるが、密室で襲われたのは初耳だぞ。」

「お嬢も言ってくれりゃ……いや、無理だな。」

「そこは察してあげて下さい。」

 

絶句する一同にあえて釘を刺すフミタン。

 

条約締結の当日、当時の担当だったクリストファーが式典参加するにあたり、彼から一時的に護衛と共に離れていたカルディナであるが、そこに6歳となる第一王子がニタニタと笑いながらやって来た。

そして品定めをするようにカルディナを値踏み、そこで婚約を強要するも拒否。

それに謎の触発をされた王子は、カルディナの護衛達を捕え、そしてカルディナを誘拐、自身の寝室に連れ込んだのだった。

そんな行為に走られては、幼いカルディナとてすぐ解った。

 

急報を受けて駆け付けたクリストファーが見たのは、部屋の外で泣いていたカルディナと、逆にカウンターを食らわせて全治3ヶ月の重傷を負わせ、◯玉が片方再生不能になって悶えていた王子の姿であった。

幸いカルディナは純潔は守れたものの、その影響で心身共に傷を負ってしまった彼女を誰が責められようか。

そしてこの事件を元に条約は決裂。

先にカルディナをアルドレイア王国への帰路へ帰したのだが、そこに出現した数体のゾンダーに襲われたのがこの時となる。

 

この頃にはカルディナはガオガイガーの映像を視聴し終えて、ストーリーも理解していた事は幸運であり不幸でもある。

当然ゾンダーの脅威は幼いながらにも知っており、故にこの上なく震え上がった

極めつけにそんな精神状態で豪火の中をひたすら走り回された子供の心理とはいったい如何なるものか。

 

尚、この暴漢事件は王子の独断ではなく、裏で王子を持ち上げて唆した家臣達の存在があり、『条約締結代表の娘が王子に床に入るよう誘惑し、招いた』と偽証し、カルディナを教皇国のものにしようとする目論みであったが、カルディナの行動と、クリストファーの条約破棄という機転、更にはその場で犯人である貴族達を尋問、娘に暴漢を働いた責任として、その場にいた貴族達を残らず斬殺した事で手打ちにしたという裏話があるが、詳細は耳汚しな話なので割愛させて頂く。

 

「全てが終わった後、互いに震えながら自己紹介をしましたが……ヴィータの名前を聞いた時、カルディナお嬢様の精神は限界を越えました。」

 

 

───も、もうおわりだわ!!みんな……みんな、きかいしょうかにのみこまれて……きえてなくなるんだわ!じょうかいできるひともいない!それをかいひしても、さいごは……このほしも、みんなも……うわぁーん!!

 

 

「……名前を聞いた後に、どうしてそんな理由で泣く?」

「理由は『ヴィータ自身』です。後に知りましたがヴィータとはラテン語で生命──『(いのち)』。ではガオガイガーのストーリー内でその名前を冠する人物と言いましたら……」

 

「───(みこと)。」

 

思わず呟いたビスケットの一言に、全員が驚愕、凝視する。

加えてフミタンは頷き、当人(ヴィータ)は沈黙で応える。

そして全ての推移を察っしてしまう一同……

 

「赤髪でヴィータ()の名前……カルディナお嬢様はそこで当時のヴィータに卯都木命様───『機界新種』の陰を見たのでしょう。」

 

そして事実、そうだった。

もちろん当時は被害妄想も入った推論だったのだろう。しかし恐怖体験に加えて自身のバイブルでもあるガオガイガー最大の敵の存在を示唆する人物が突如現れたのだ。

口走ってしまうのは仕方ない。

 

「そして恐怖体験の中で口走る事を信じる者は、当時誰もいなかったのです。目の前のゾンダー達はエリザベート様により苦労されつつも殲滅されたのです。未知の『その後』を必死に語られても、全て恐怖から来る世迷言だと、家族も他の誰も真面目に取り合いませんでした……一人を除いて。」

「それが……ヴィータだったと。」

「……は、はい。ですがヴィータだけは違いました。当時のヴィータはカルディナお嬢様の話を全て聞き終えた後、ただ一言だけ───」

 

 

……しんじるよ、あなたのおはなし。

 

 

純真無垢な瞳で、そう告げたのだった。

それが当時のカルディナの心をどれだけ救った事か、それはカルディナ当人にしかわからない。

だが、カルディナが必死に両親を説得し、ヴィータがアースガルズ家のメイドとして正式に採用された日より、カルディナとヴィータは、常に共に行動するようになった。

 

「なるほどな、そんな経緯が……ん、フミタンどうした??」

 

シノがフミタンの顔色が冴えない……どころか、悪くなっている事に気付く。

顔をしかめ、吐き気があるのか、口を抑えていた。

 

「す、すみません……気分が悪くなって……話の途中なのですが……中座、します。」

「お、おう……って、いきなり?」

 

よろよろと立ち上がったフミタンは周りのメイド達に支えられながら席を立った。

 

「な、何だ……何か気分悪くするような事したか?俺ら。」

「───いえ、お気になさらず。ただの自然現象なので、皆様のせいではありません。」

「何かただ事じゃない雰囲気だったけどよ……身体がどっか悪いのか?ドンパチしてた時にも『休め』とか言ってたじゃねぇか。」

「いえ、義姉は至って健康ですよ。介抱もあるので問題ありません。戻ってこれれば当人の口より聞けるかと。その方が良いと思います。」

「……なんか良く解らねぇな。まあいい。それよりもヴィータ……だよな。」

「はい。その名前で呼ばれるのは初めてですね。改めまして……」

 

皆の前で一歩前に出て、メイドらしい会釈をして改めて、その人物は名乗る。

 

「私は、ヴィータ・アドモス。フミタン・アドモスを義姉に、現在はカルディナお嬢様の専属メイドとしてアースガルズ家に仕える者です。」

 

義姉のフミタンに代わり、次いでヴィータが説明役となった。

そのヴィータにオルガは早速手を挙げる。

 

「ヴィータ……まず、1つ聞いていいか?」

「はい、なんなり……と申し上げたいところですが、義姉がほとんど話してしまいましたので、答えられる事は……」

「いや、そうじゃねぇ……単刀直入に全員疑問に思ってんだが、まず何でフミタンと名前が『逆』なんだ?ってところからだな。取り替えてたのか、それとも元々なのか?それが知りてぇ。」

 

まず、一番の疑問をぶつけるオルガ。

何故、真の名前のヴィータではなく、義姉のフミタンを名乗っていたのか。

ようやくその疑問を明かせる時が来た。

 

「それは、ですね……結論から言いますと、お嬢様が運命を捻じ曲げたかったからです。」

「運命??」

「今となって、ようやく私達、義姉妹にも解り、昨日お嬢様よりお聞きした事なのですが……お嬢様は取り替えっこ───『取り替え子(チェンジリング)』をしたかったようです。」

取り替え子(チェンジリング)??」

「……ビスケット、知ってるか??」

「確か……」

 

───取り替え子(チェンジリング)

それはヨーロッパの民間伝承の話で、妖精が人間の子供を連れ去る時に、身代わりとすり替える事を指す。特に生まれてくる子供が、親とは違う特徴を持っていた時に『妖精にすり替えられた』……そう言われる事がある。

 

「妖精と人間……」

「まあ、科学的に言えば違うんだけど。実際は両方の親が持つ遺伝子情報の中で、時折何世代か前の遺伝情報が現れるのが本当のところ。『メンデルの法則』って覚えてる?」

「優劣の法則とか、F2とかだったっけ?」

「うん。でも、今回の件とは何か違うみたいだけど……そうでしょう、ヴィータさん。」

「その通りです。実際は私と義姉さんの名前を取り替える事で、私が機界新種である事をねじ曲げたかったのです。」

 

──妖精(ヴィータ)人間(フミタン)との名の交換。

 

それこそ当時のカルディナが2人の名前を交換させた理由であった。

だが……

 

「……それって、意味あるのか?」

「因果さえねじ曲げられれば、機界新種の存在が有耶無耶になるとも考えたのでしょう。」

 

だが所詮は切羽詰まった子供の浅知恵でしかなかった。当時を振り替えれば、今のカルディナでは真っ先に却下する方法だ。

幼いヴィータの身体には既に機界新種の種子が埋め込まれていた可能性がある。

はたまたその後か……

それが名前を交換したぐらいで、因果を変えられるなら苦労はしない。

仮に成功していたのなら、フミタンの方が機界新種になっていた可能性があるが……

 

「結果として、成果はなかった───そう断言せざるを得ません。それだけ当時は追い込まれていたのでしょう。」

「……だよな。」

「ただ、それ以外では効果はありました。特にノブリス相手には私の名前は油断させるには丁度良い知名度の低さでした。そういう意味では身を隠す、工作には渡りに船の案です。」

「無茶苦茶な割には恩恵もあった訳か……」

「はい。」

「わかった。んじゃ次だが……そもそもここに来て問題ねェのか?お嬢もそうだが、他のお偉いさんがたがよく許可を出したな。」

 

ヴィータ=機界新種というのは、国王(レクシーズ)を始めとして、一部の上層部には周知されている。

の筈だが、ヴィータはフリーであった。

 

「それについて陛下を始めとした上層の方々より、『平時の通りに』と許可を貰っています。理由は……抑えられる戦力の問題と、私自身のストレスの問題でしょう。」

「抑えられる戦力と、ストレス……??」

「まあ……見て頂いた方が早いですね。すみませんが、こちらをご覧下さい。」

 

と言って、胸元のリボンをほどき、その下を恥ずかしげもなく、躊躇なく見せるヴィータ。

だが、全員の目に映ったのは……

 

「首に、Gストーンを嵌め込んだ……そりゃ首輪か?」

「それに胸……紫と緑の光?」

「緑の光はGストーンだとしても、紫は……まさか!ゾンダーメタルか?!」

「正確には『ゾヌーダメタル』と言うらしいです。」

「ゾヌーダ……メタル。」

「聞くだけでヤバいワードだな。」

 

一同が言葉を失う中、淡々と服を正すヴィータは説明を続ける。

 

「私が機界新種になった際、機界新種は同時期に私の経過観察をしていた、サクヤ04を取り込みました。サクヤシリーズはAZ-Mの他、GSライドを備えている個体なのは皆さんもご存知の通り。それが機界融合の際、このように体内に取り込まれた、という事です。」

「取り込まれた……って、確かGストーンとゾンダーメタルって、反物質的な関係じゃなかったか?そんなのが一緒になって問題ないのかよ?」

「いいえ。相反するこの存在達は私の中で互いを牽制し合い、拮抗し───結果Gストーン側がじわじわとパワー負けている状態です。」

「負けてんのかよ!?」

「それで急遽、Gストーンをもう1つ首輪に、そしてお嬢様と同型のパワードスーツを拘束具として使用し、ようやく均衡を保てています。」

「勝った訳じゃないんだな。でも2つで効果あるなら3つ目も付けりゃいいんじゃねぇ?」

「残念ながらそれは不可能なのです。Gストーン、またJジュエル等の無限情報サーキットは勇気の意思を伝えられる存在がいないと、その力は発現出来ません。」

「……初耳。」

 

無限情報サーキットであるGストーン、そしてJジュエルはその膨大な出力を生む反面、勇気を生む意志がいないとその力を十全に発揮できないのはご存じの通り。

そう言う意味では、超AI搭載のロボットは限りなく人間に近い電気信号(パルス)を発している、と言える。

この世界では魔力(マナ)の影響下、その傾向が殊更顕著であるが、その条件を満たしているのがV.C.を始めとしたサクヤシリーズの超AI達だ。

 

「私の場合は、サクヤ04が担当してくれています。」

《ハイ、私ガ担当シテマス。》

「04!生きていたんですね!」

「サクヤ05さん、感動のところ申し訳ないのですが、量子リンク───」

 

「───アビバビババ?!」

 

「……したら、悪性電波を受けてしまいますので、通信は音声通信で、と言いたかったのですが、遅かったようですね。」

「05!?しっかり!」

「そういう事は早く言ってくれ!」

「スミマセン、ぞんだー化シタ影響デ性質ガ『ウイルス系』ニ変化シタヨウデ……」

「だ……だいじょうぶですぅ~……」

 

取り込まれたサクヤ04は機界新種(ゾヌーダ)との機界融合で取り込まれていたが、その超AIは無事であったものの、何とも一癖ある存在として変化、ヴィータと一体化していた。

ただその影響は機界新種(ゾヌーダ)故に『悪性』あるが……

 

「ヴィータ、そんなにエネルギーが出てんなら、何らかの反発ってないのか?」

「ありますよ。私の体内にあるGストーン、ゾヌーダメタルは現在も対消滅反応を起こしています。そのエネルギー量はTNT火薬換算で推定、毎秒12.247メガトン以上。」

「ちょ……!?核融合炉より出力上じゃない!?爆発しないの!?」

「爆発こそしないでしょうが、メルトダウンは確実かと。それをサクヤ04にお願いしまして、体内に相転移炉を形成して頂いています。」

「……え、人体に搭載可能な相転移炉の爆誕じゃない。」

「この相転移炉を今後は『GZレヴ』と称しています。名実共に危ない女になってしまいました。」

「誰が上手い事を言えと……」

 

ヴィータのボケに、頭を抱えるオルガ。

だが、ふと今までの話を整理した時、更なる疑問が浮かんだ。

 

「……ヴィータ、今のお前の身体組織はどうなってやがる?」

「さすが団長、良いところをお気付きに。」

「茶化すな。」

「私の身体は現在、ゾヌーダメタルにより元の肉体とAZ-Mと共に機界融合が行われ、名実共に生機融合体となっています。体組織はゾンダーとほぼ同様です。」

「……それに加えてGストーンと、ゾヌーダメタルの対消滅エネルギー制御するための相転移炉──GZレヴ……ほとんどお嬢と同じじゃねえか。」

「はい。体組織の性質こそ違いますが、生機融合体なのは事実です。その事からカルディナお嬢様(レヴォリュダー)と相反する存在──『ネガ・レヴォリュダー』と命名されました。」

「ネガ・レヴォリュダー……」

 

───ネガ・レヴォリュダー

それはGストーンとゾヌーダメタルが対極となり誕生した『GZレヴ』を核に、ゾヌーダ化したAZ-Mに取り込まれた生機融合体(ヴィータ・アドモス)の別称である。

その特性、性質はレヴォリュダー(カルディナ)と全く正反対と言っても過言ではない存在で、それは人のカタチをしたゾヌーダそのものである。

 

機界新種(ゾヌーダ)と一体化していますが、その機界新種(ゾヌーダ)自身は先の戦闘で弱体化しています。そのため、Gストーンの効果で何とか機能の半分ほどを封じ込めています。触れるだけで行われる『物資昇華』が発現していないのがいい例です。ただ、負の意識(ストレス)を一定以上抱くと機界新種(ゾヌーダ)の力は強まってしまいますが……」

《のぶりすノ時ハ、ぎりぎり物資昇華ガ行ワレズニ済ミマシタ。》

「マジギレする一歩手前でしたからね、」

「……よくそんなんで行動制限ないんだ?」

「制限はあります。今はお嬢様の護衛の名目で私の監視者が交代で常に2名ずついます。何かあれば即座に連絡が飛びますよ。」

 

ヴィータの言葉に反応して執事、メイド達が一礼する。

諜報部総出で監視しているようだ。

 

「お嬢の護衛の名目って……ヴィータの役割は変わってないのか?」

「カルディナお嬢様の専属メイドの役目は変わりありません……というより、何かあった(覚醒した)場合、お嬢様は自身を抑止力とし、私を傍に(とど)めているのです。」

「抑止力……」

「私がゾヌーダ化した場合、誰が止めると思っているのですか。その役目はカルディナお嬢様以外に務められる存在はいらっしゃいません。そして、私自身が環境を変えられる事で発生するであろうストレスを考慮し、結果として現状維持の方策がなされたのです。お嬢様が望み、陛下達も承認された事です。私も異存はありません。」

 

尚、承認した当人達は解っているものの、盛大に頭を悩ませている。

 

「それでいいのかよ。」

「何よりそれが私の望みであり、私がお嬢様に付き従う理由ですので。」

「……こう言っちゃ何だが、互いに依存しまくってないか?」

「依存、ですか……私とお嬢様の関係を言い表すなら、確かに依存という言葉が当てはまりますね。お嬢様は私に『この世界で唯一、無条件で信じてくれる味方』という認識です。私も『記憶のない地獄より救い出して頂いた恩人』。それが今では身分超えた無二の親友……これが私とお嬢様の共通の認識です。」

「聞いてて恥ずかしくなるような話だな……まあ、羨ましいとは思うが。」

「……まあ、互いに目が覚めた後に遠慮なく言葉をぶつけて、泣き合って、出た結論みたいなものです。」

 

それはとても劇的だったと、その場にいた人間は語る。

ヴィータが目覚め、経緯の説明を受けたヴィータはすぐに自身の手で命を絶とうとした。

それを必至に止めたのは這い這いの身体のカルディナであった。

存在するだけでカルディナに迷惑が掛かるなら、今すぐ命を絶つと宣言するヴィータに、ヴィータがいなければ誰が自分を信じてくれるのかと、そんなに私が頼りないのと激昂するカルディナ。

 

そんな訳がない、じゃあ死なないで、貴女に迷惑をかけたくない、そんな呪縛なんて消し去ってやる、無茶です、無茶でもやる──

 

互いを想うあまり、突き放そうとするが何が何でもすがり付い来て、そして無下に出来ず、甘ったれた水掛け論以下の言い合いに、周囲はその内容に辟易する程。

最後は普段の凛々しい姿なんて素知らぬ、お構い無しの号泣しながらの「好き!好き!」の言い合い。

そしてその場にいた人間は思った───

 

……何、口から水飴が噴水みたいに噴き出る程の、このベッタベタのバカップルの喧嘩は??

 

「───すまん、どうしてそうなった??」

「お嬢様が───いえ、カルディナがあの第一王子から暴行を受けた時に、男性恐怖症に陥ってしまったみたいで、互いの傷を舐め合うように、傷が癒えるまで一緒に過ごすようになったのですが、いつの間にか相思相愛(ラヴラヴ)となりまして……今では身分あこそあれど、お互いがいないとダメになるくらい愛し合っています。」

「───わかった、もういい。親の惚気を聞いているようで、甘過ぎて胸焼けしてきやがった。」

「失礼致しました。今の話の4分の1は冗談として……」

「4分の3は、やっぱマジなのか。」

 

他の団員も同じような気持ちで、胸焼けが酷い様子。

親はいないが、いたらこんな惚気話をされるのかと思うと、何とも言えない。

……約一組からは、これからそんな話が聞こえて来そうだが、それはいい。

 

だが、ここにいる皆は知っている。

カルディナもヴィータも惚気ていようが、その実は狡猾で非情であり、誰よりも情熱的で人情深く、そして真摯である事を。

それは誰よりも奪われる、失くなる恐怖を知っており、それに抗う術を常に考えている。

誰よりも『勇気』の意味を知っているのだ。

 

「……まあ、私はそれ故に自害でも他殺でも死ぬ訳にいかなくなりました。仮に自害しても機界新種は私を無理矢理取り込み、暴走して滅びを振り撒くだけようです。そしてカルディナが私に「生きて!」と言った以上、それは絶対です。いつか再びゾヌーダ化して機界新種となり、真正面から戦い、浄解される事が私の唯一の道です。そしてそれを成すのはカルディナ・ヴァン・アースガルズであると信じています。なので、完全に勝利出来る条件が整うまでは現状維持、という事です。」

「……本当に、それしか道はねぇのか?」

「今はそれしかありません───今は。」

 

その言葉がズキリと胸に刺さった───少なくとも、とある2人には強く。

 

「なので、現状はカルディナお嬢様のマギウス・ガオガイガーの修復が終わるまでは、機界四天王、そして機界指令パスダーという露払いをお願いします。」

「……とんだ露払いだな。ま、やるしか道はねぇんだろうよ。」

「いいのか、オルガ。これ、完全に貧乏くじコースだぞ。」

「判ってるよ。だがこのまま黙ってても機界昇華に巻き込まれるだけだ。そうなりゃ俺達はオダブツ。俺らはもう前に進むしか道はねぇ……だが、我武者羅に進むつもりもねぇ。少なくとも勝利の鍵ってヤツはまだあるんだろ?」

「はい。あと2週間後には『2号機』の完成する予定となっています。」

「なら、諦めるにゃ早いな……」

「それに俺達も手伝いに回れば、2週間と言わず、もっと早く出来上がる!」

 

ガオガイガー2号機。

それは、新たなる勇者が乗る最新鋭機である。

これまでのマギウス・ガオガイガーの戦闘データをフィードバックし、開発されている。

 

「……それって相当だよな。」

「ああ。お嬢のフィードバックなら相当だろう。きっと強力な機体が仕上がるだろうぜ!」

「なら、俺達の機体にもそれできるんじゃね?」

「『出来ないなら、出来るまでやるまでやりますわ!』……絶対お嬢なら言いそうでやりそう。」

 

その事に希望を見出だした鉄華団は、意気揚々となっていく……が、そこにヴィータが忠告するように声を掛けた。

 

「──あと自慢ではありませんが私、お嬢様とは幼い時から常日頃より行動し、切磋琢磨し、体術、魔法、他知識など持つものは、ほぼ一緒です。お嬢様の修行相手は大概私です。機界新種になる前はGストーンも扱っていました。皆さん知らないでしょうが、ギャレオンとのフュージョン・テストも成功させています。」

 

その言葉に一同は絶句する。

それは希望を改めて絶望に変える言葉の羅列。

そしてヴィータは満面の笑みで──

 

「ある意味、私とお嬢様の()()()()()はほぼ同等と考えて下さい。」

「まじで……」

「もし、私が機界新種に意識も全て取り込まれ、暴走した場合はアニメ版(地球産)機界新種の数倍以上の被害予想がなされています。高機動かつ体術も万全、銃も容赦なく撃つでしょうね。そして放つ物体や四肢に触れれば半径2km以内は即座に物質昇華だそうで。仮に対峙したところでどのくらいの時間をかければ組み伏せられるか……そのような場合は、限界を超えた全力以上の全力と死力をもって殺しに来て下さい。でないと災禍をまんべんなく振りまくでしょうね、私の性格なら。」

 

絶望的な宣告をしたのだった。

同時に憂いを含むヴィータの笑みは、そうならないようにと願う皮肉を含んでいるのだが……残念ながら今の鉄華団には届きそうもないようだ。

 

「……ヴィータ、上げて降ろすなよ。」

「どうすんだよ、団長。この空気ィ……」

「言うな……数分前の自分をひっ叩いて引き留めたい気分なんだよ。」

「鬱だ……」

「なんか、なんか明るい話題はないのか……」

「……鬱といえば、フミタンはどうしたのでしょう?まだ戻って来てないのですが……」

「……そういえば遅いですね。どなたか、義姉の様子を知りませんか?」

 

ヴィータが尋ねると、一人のメイドが一歩進んで発言した。

 

「フミタンさんは……体調が優れないようで、しばらく桶から離れられないようです。」

「そうですか。今日はこちらに加わるのは難しそうですね……三ヶ月目ですから。義姉には無理しないようにと伝えて下さい。」

「はい。ちなみに私的意見ですが、初めての三~四ヶ月目は酷い場合が多いですよ。私もそうでしたから……」

 

そう言って、ヴィータとそのメイドは互いにため息。

そのやり取りをいまいち理解出来ない鉄華団達は何か置いてきぼりにされた気分だ。

 

「何だ、その三ヶ月ってのは……何が酷いんだ?」

悪阻(つわり)ですよ。妊娠三ヶ月目で吐き気が酷いんです。」

「……は??」

「加えて初妊娠ですから尚更なのです。今回クーデリア様が来るから、どうしても……と押し切られたので止む無く参加させたのですが……」

「……フミタンが、妊娠??」

「そう言っていますが。」

「「「…………」」」

 

その日の夕方、周辺の民家に「えーー」の声が木霊した。

ちなみにアトラがいれば、フミタンの妊娠は察する事は出来ただろう。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

鉄華団がフミタンの妊娠を驚いている頃、カルディナはベッドで独り、身を休めて、そしてフミタン、もといヴィータのこれまで歩んで来た『今まで』を反芻していた。

 

(……あの時の直感は、やっぱり間違いじゃなかった。その対策にヴィータとフミタンの名前を取り替えっこ(チェンジリング)を提案した事で、何とかうやむやにしたかったけど、その果てが新たなる機界新種の誕生だなんて……)

 

生かすべきだったか、殺すべきだったかは、今となっては最早誰にも解らないところ。

例え殺す選択肢が正しかったとしても、機界新種(ゾヌーダ)が無理矢理活性化する可能性は捨てきれず、何より当時のカルディナには出来なかっただろう。

カルディナにとって嫌な事が多過ぎたあの時、誰も信じてくれなかった場合、カルディナの心は壊れていただろう。

最後のセーフティとなったのがヴィータである。

そして今は最愛の親友であり、カルディナの一番大切な人。

そんなヴィータが機界新種(ゾヌーダ)であったのは、運命の悪戯に他ならない。

怪しい点こそあれど、仮に人為的であれば何を目的としているかは不明でしかないが、そんな事はもうどうでも良くなった。

カルディナは天井に向け、腕を伸ばし、手を広げる。

 

(やるのよ、カルディナ。機界四天王もパスダーも、今は姿形もない機界原種も、全て浄解して、機界新種(ゾヌーダ)の呪縛をヴィータから……消し去る!)

 

伸ばした手を硬く握り、カルディナは再び決心し、誓う。

 

(ゾンダー、私の決心は変わらない……あなた達の思い通りにはさせない。その思惑は───全て破壊するッ!)

 

 

《NEXT》

 

 


 

 

《 次回予告 》

 

復活したカルディナ。

 

だが、マギウス・ガオガイガーの復活を待つカルディナは手持無沙汰だった。

 

今急ぐのは、ガオガイガー2号機の開発だが、それだけでは足りないと、彼女がオーダーしたのはパイロット強化の手段───シュミレーターであった。

 

過去、様々な敵と戦った記録を元に、浮かび上がる強敵達と戦うパイロット達。

 

そして満足げなカルディナがシュミレーターに乗り込んだ瞬間、時空を超えた兄妹バトルが起こる!

 

更に、破界の翼が振るう破滅の銀の戦槌を前に集う、科学と魔法の勇者王!

 

いったい誰の配剤か、空前絶後の戦いを目撃せよ!

 

次回、『公爵令嬢は、ファイナル・フュージョンしたい』

Extra mission 01『エヴォリュダーVSレヴォリュダー』

        &

Extra mission 02『次元を超えた未来の共闘』

 

次も、この神話(マイソロジー)にファイナル・フュージョン承認!!

 

 

これが勝利の鍵だ!!

『アカシックレコードを利用した、シュミレーター・システム』

 

 


 

 

《 ―現在公開出来る情報― 》

 

 

◯~取り替えっこ(チェンジリング)

アドモス姉妹の名前を取り替える事で、ヴィータ・アドモスを機界新種である可能性を有耶無耶にする事。

ただし、名前を取り替えるだけで、任務遂行以外での効果はなかった。

 

〇ヴィータ・アドモス

表向きはカルディナ御付きのメイドで、裏は義姉のフミタンと共に所属はGGG諜報部(旧:CVA諜報部)を統括、自身は(戦闘力と忠誠心の強さで)隊長。

赤い長髪をポニーテールにしており、義姉と似た目付きを真似したためか、外見は卯都木命とは似ても似つかない。

カルディナと出会ってからは彼女に常に付き従い、その傍でカルディナの生き様全てを見届け、それらを習得している人物あり、カルディナにとっては親以上の理解者である。

その実はヴィータをお付きとする事で密かにカルディナもヴィータを監視している状況を作るため。

今回機界新種(ゾヌーダ)に寄生されていた事が判明するが、カルディナにとっては潜在的に予測していた事であり、周りを説き伏せ、現状維持とさせ、上記の事が露見したが、二人の関係は全く変わらなかった。

現在は弱体化の影響、2つ目のGストーンを用いて機界新種の影響──特に物質昇華等の現象は抑えられており、外見は何も変わらないが、GZレヴを取り込む身体より湧き出る対消滅エネルギーは従来以上の力をヴィータに与えており、

機界新種がいるストレスと、それに負けないと振り絞る勇気が更なる拍車を掛けている。

カルディナのレヴォリュダーとしての特性と真反対の存在故に、現状の身体構成を『ネガ・レヴォリュダー』としている。

また、一定以上のストレスを抱えると機界新種の活性化が早まる可能性が示唆されている。

また、パスダーや機界四天王のデータも内包しているため、完全な危険値は未知数と云わざる得ない。

このため、いずれ来る機界新種との戦いで対等に戦えるのはカルディナのみという状況を突き付けられる事となる。

尚、フミタンと出会う前の記憶は一切ない。

 

◯フミタン・アドモス

5歳の頃、商人ノブリスに両親を殺され、以後はカルディナの庇護下の元、復讐の準備を行ってきた転生者。

他の諜報員の手を借り、ゴルドン商会を残らず潰す事で復讐を達成している。

現在は副隊長は妊娠(現在3ヶ月)のため休職。

とある諜報員と婚約関係を持つ。

式はまだ。




フミタンが変装しているシーンはあえて書きませんでしたが、ほとんどストーリーに絡まないシーンや、喋らないシーンでは大概入れ替わっていました。

お嬢様が襲われた当時、この時既にソムニウムの血筋が開花していたとかなんとか。
例え能力の大半はトリプルゼロ封印に費やされていても、身体能力は大人一人は軽く◯せる力を有しています。

そしてようやく出せたヴィータ・アドモス!
この作品のキーマンの一人です。
隠しフラグを回収すると出来た今作の鬼畜ボスです。
物質昇華に加えて主人公と同等の超越した達人の動きの機界新種……どうです、この絶望?
勝ち目……あるのかな……orz
チェンジリングの理由は作中の通りですが、連載当初の理由は────『フミタンにファイナル・フュージョンを言ってもらいたい』です。それから設定マシマシ、百合百合マシマシにしたらこうなりました。
そんなしょうもない理由より生み出された冥土キャラでしたが……みなさん、倒せると思う!?(ガクブル)。

感想、ご意見、お待ちしています。

次回は、小次郎さんのリクエスト話です。
(すいません、リンクは未だに貼れず……)
考えていたネタとタイミングが合っていたところもあり、次回掲載させて頂きます。
兄妹対決、見逃すなよ!


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Extra mission 00『for Akashic Records』



予告していた話の前に、まずはプロローグ的なものを。
脇道を行くので、それなりに筋の通った説明は必要かと。

あと、『Extra Mission』は本編に直接関わりない外伝的な内容です。
シュミレーター・マシンで起きた出来事を中心にやっていきます。


 

機界新種(ゾヌーダ)戦での傷がようやく癒えたカルディナが、自らの戦力アップを目指すため、サクヤシリーズにとある注文をした事から件の話は始まったのだった。

 

「シュミレーター・マシン……ですか?」

「ええ。戦闘の腕を上げたいなら戦うのが一番だけど、ゾンダーにしろ、ゾヌーダにしろ、日常的にいるものでもないでしょう?魔獣だって出現には波があるし、演習だけで外に出ても、私達の機体は馴染みが浅いものばかりで、騒がれるのがオチで、面倒極まりないわ……だから、常日頃から最高の環境で戦える、シュミレーターが欲しいの。」

「ん~……MSのコックピットをいくらか使わせてくれるなら、出来なくないな。戦闘データはこれまでの戦闘記録と、メモリーに蓄積されたもので、かなり精密なシュミレーターが作れそうだな……ちなみに数は?」

「10……いえ、12基は欲しいわ。他の団員にも、あるいは望む非戦闘員がいればやらせてあげたいし。最悪暇つぶしでもOKね。」

「そうなると空いているコックピットの数が若干足らないのだけど……」

「とりあえず、シュミレーターの開発を優先して。影響がなければ、開発中の機体からむしり取ってもいいわ。」

「急ですね。となると……マン・ロディが幾つかと、フラウロス用のコックピットブロックがまだ搭載されてなかったのもありましたね。」

「ん~……シノには悪いけど、フラウロスは後回し。まだキャノン砲の設計がまだだし。代わりに鹵獲したグレイズ改造して初代流星号・改にすればいいかしら。」

 

サクヤ05の無意識で非情な宣告に、さらりと許可を出すカルディナ。

それでもコックピットブロックは必要では?という意見は自然に却下された。

シノとフラウロスが泣いているのは容易に想像できるのはさておき、シュミレーター・マシンはさっくり製造された。

そして今日―――

 

「これがご注文のシミュレーターです。」

「ありがとう。」

 

カルディナがサクヤシリーズの一体、05にお礼を言いつつ、箱状の躯体、シュミレーター・マシンがそこにあった。

ずらりと10基以上並ぶその光景は圧巻である。

 

「シュミレーター・マシンか……」

「歳星で姐さん達とやったのを思い出すな。」

「昨日、急にインストールされたアプリがあると思いきや……こんなものを作ってたなんてな。」

「お嬢、これ俺達もやっていいの?」

「ええ。セッティングは既に終わっていますわ。使用する際には皆さんお持ちの個人端末を使って下さい。今の身体能力に応じて機体も自動でセッティングされますので。」

「武装は登録してあるものを好みで出来るぞ。ただ選ぶのに時間かかるだろうから予め設定しておいた方がいいぜ。」

「ただし自在に使いこなせるかは、貴殿方次第……ライフルにしろ、ハンマーにしろ、癖のあるものも多いわ。」

「何言ってやがる、それをやり遂げてこその試験団だぜ!」

 

そうして手の空いた団員達がこぞってシミュレーターで訓練し始めた。

やはりいくら撃墜、失敗してもやり直せる環境は十二分に有難いものだ。

また、今まで自分が乗れなかった機体に乗れるのも大きい。わくわくしながらガンダムフレーム機に振り回される子供らの光景は母笑ましい。

更にはフュージョンも再現可能だ。究極の人機一体の仕様(カルディナの意見)であるフュージョンの体験は一度はやってみたいところ。

セレクト内にはギャレオンもあり、フュージョンにチャレンジする猛者もいるが、カルディナ用にチューニングされたものなので、どこまで追従出来るか……

またアースガルズ家の騎士達も最近ではランド・マンロディに搭乗出来る者も増えており、非番の者が数人いたりする。

機械に嫌悪感が少なく、積極的に挑んでくれるのはアースガルズの家臣の気風、気骨故だろうか。

そんな光景にカルディナは非常に満足する。

 

尚、シュミレーター・マシンのプレイ内容はマシンの直上にモニター画面が設置してあり、そこで観戦出来る仕様になっている。

ゲー〇センみたいとか言わない。

 

「みんな満足してくれたみたいですわね。」

「やっぱ普段触れられない他人の機体を操縦出来るのは非常に意味が大きいな。いい刺激になる。」

「とは言っても、現状でしか出来ないチューン内なので、今のシュミレーターでは現実で起こる結果の予想範囲内です。これ以上の応用は皆さんの操縦結果の蓄積次第ですね。」

「やり込めば、ここから更に発展するのか。そいつは嬉しいな。」

「まあしばらく時間はかかるけどな。」

「……さてと、私もそろそろやりましょうか。え~と、空いた席は……と、一番端ですわね。」

 

壁側の使われていないマシンに向かい、乗り込むカルディナ。

だが、その事にサクヤ05が違和感を持つ。

 

「どうした、05。」

「あの06、07……あの場所にマシンを設置した記録有ります?」

「え……ないな。」

「私も……」

「マシンのナンバーは『13』?登録にはない筐体(きょうたい)……?」

「09は何か言ってたか?」

「いえ、何も。」

 

オーダーは12基。

だが間違いなくここには13基ある。

 

「……そういえば、09が設置してた筐体があれだったわね。」

「じゃ何か?09が勝手に増産して設置した筐体だっての?」

「……何か、嫌な予感がします。」

 

未だにカルディナは会った事のないサクヤ09の所業。

そうとは知らない間に、マシンが搭乗したカルディナを呑み込み、モニター画面に『Welcome』と表示、その後機体セレクト画面に移る。

 

「やはりリハビリを兼ねて、機体はマギウス・ガオガイガーとして、武器は必要なし。マギウスなら内蔵武器で充分ですわ。場所は宇宙、空、陸、海と何でもありますわね、ここは陸上で。エネミーはランダムセレクト……ん、BGMまで完備とは……ええと、これは『勇者王誕生!』一択で……あ、間違えましたわ!まさか複数あるとは……『御伽噺Ver.』?聞いた事がないですわね。」

 

BGMのセレクトで間違えたBGMを選んだカルディナ。

だがカルディナは『勇者王誕生!御伽噺Ver』なんて知らない。

ただし『勇者王誕生!』は様々な派生がある事は知っている。その数はヴォーカル担当の遠〇氏に『俺はいったいどれくらい勇者王誕生!を歌えばいいのか……』と愚痴らせた程。派生した歌詞が覚え切れないのは有名な話。

 

「……私の知らない、ガオガイガーがある?気になりますわね。」

 

そしてそのBGMを選んだ事によって、シュミレーター・マシンは異常な駆動音を響かせ誰もが予想もしない動きを見せた。

例えるなら、ユニコーンガンダムがNT-Dを発動させた駆動音か、皆殺しイデの発動の如く!

 

翠の閃光と共に流れるエフェクトを発するモニター画面が、突然駆動音が停止し、メイン、サブの全ての画面が暗転。そしてメイン画面のみを残し、宇宙猫よろしくでいきなり謎空間がカルディナを出迎えた。

薄明かりのモニター画面に光りが入り、文章が浮かび上がって来た。

 

【待ちわびたぞ、『未完の一片』よ】

「え……あ、の……どちら様?」

【我は皆からは『アカシック・レコード』と呼ばれる超情報集合体、その管理者の一人。よろしく。】

「ア……アカシック・レコード?!」

【然り。】

 

何か得体の知れない存在が、アクセスしてきた。サクヤシリーズの手によって造られたシミュレーターマシンに、だ。

しかも相手は文字で会話、カルディナは音声でだ。

しかしその疑問にアカシック・レコードの管理者を名乗る存在は答えた。

 

【知れた事。この会話はお前の『脳内書庫(B・ライブラリ)』───つまりはアカシック・レコード経由で会話している。音声であろうが文字であろうが、お前がアカシック・レコードの一片を有する以上、認識されて会話として成立する。】

「……テレパス系の能力より無茶苦茶ですわ。」

【ニュータイプよりは優しいぞ。いきなりおかっぱピンクの深層意識に無断でお邪魔して「人は判り合えるんだ……」とかぬかす、失礼な某カミーユよりはマシだ。】

「遠慮ないディスり!しかも実名で!いや、気持ちは解りますけど!」

【一番は音声だとCV:を無駄に設定せねばなるまいが、実際やると面倒だからだ。ちなみに我の地声は井◯和◯とグ〇リバとやらを合わせた声に似ているらしい。まあ、そんな些末な事はどうでもいい。それより本題だ───我はお前を強くしたくて接触してきた。これよりお前に七難八苦の苦ぎょ──もとい試練を与える、それを突破してみせよ!】

「いきなり物騒な事を何を言っていますの!?しかも苦行!?荒唐無稽な言葉なので、嫌でもCV:井◯様のイケボイスで再生させてもらいますわ!!」

【好きにしろ。】

 

CV:井◯和◯だと「お前に名乗る名前はない!」と言われそうながら、終わったら酒盛りが始まりそう。

CV:グ◯リバだと、ネクロロリコンを伴って、SAN値直葬な奴らが「あざ~す!」してきそうで怖い。

 

(屈強なスパロボプレイヤーの皆様はお好きな方で脳内再生してください。)

 

【理由はお前に強くなってほしいから。そして一番は───私の暇潰しだ。】

「……この上ない、特にどうでもいい理由ですわね。イケボの脳内再生の無駄遣いですわ……」

【暇潰しとはいえ、アカシック・レコードの試練が出来るのだ、少しは有り難く思え。】

「拒否権は……」

【お前の鍛錬不足で死ぬ者が出ると思え。そのためにアカシックレコードの回線を筐体に組ませて、この様な特殊環境を作ったのだろうに、今更寝惚けた事を言うな。】

「な……!?」

 

そんな記憶も覚えもない……が、なんとなく犯人は察する事は出来る。

犯人はサクヤシリーズ、それも未だあった事のない個体―――サクヤ09。

V.C.が未だ目覚めない現在のV.C.ネットワークの中核を担う存在で、ネットワーク上の代表だ。

何でそんな個体がポンと出たかは不明だが、三重連太陽系でアカシックレコードの研究がされていた以上、出来ない芸当ではない……ハズ。

 

「……解りましたわ。それで何をさせられるんですの?」

【お前に相応しい試練───今回はこれだ。】

 

訳のわからないまま、管理者が干渉し、メイン画面に映し出された映像が変わる。

それは……

 

―――ご注意

 

総訳すれば『離れてプレイして、休憩も取ってね♪』の注意喚起文。

 

次に親の顔よりも見た、バ〇プレ〇トのロゴとではなく、オレンジカラーの『B〇ND〇I・N〇M〇O』のロゴ。

 

更に黒面に金字で『SUPER ROBOT WARS』と、達筆な丸に0にニコチャンマークらしき絵をあしらった『30』の文字。

 

これにはカルディナも驚きを通り越して、硬直。

その後、『協力企画』が一気に羅列され、宇宙空間に浮かぶ青い地球(ほし)をバックにして、現れたメインタイトルが現れる―――

 

──スーパーロボット大戦30───

 

「ナ……ナニコレ???私の知らない……『スーパーロボット大戦』!?」

 

どのシリーズかは分からないが、カルディナは直感する。

これは紛れもなく『スーパーロボット大戦』であると。

メインタイトルの下に点滅している『Press any button』が非常に怖い。

 

ちなみにカルディナはアカシックレコード経由でスパロボはプレイした事がある。

実質脳内プレイとはいえ、間違いなくスパロボプレイヤーだ。

ただし、最新は『V』まで。『X』や『T』は時間がなくまだ未プレイ。

初プレイは『新』で、『F』は『F完』でウイングゼロカスタムを選択してからデータがバグったため以降は未プレイ。ハマーン様が後に仲間になる事を聞いて号泣、クワトロ大尉を憎んだ。

『α』でヒュッケバインmarkⅡのチャクラムシューターに感激し、『第二次α』でゼンガー親分に惚れて「チェストー!」三昧、『第三次α』でクォヴレーを中心としたデッドエンド族にハマった。

『Z』は『第二次Z再世篇』まで。クロウの「呆れる程に有効な戦術」を真似したほど。ただし習得は出来ず。『時獄』『連獄』『天獄』は未プレイ。

プレイできなかった物に関してはY〇uT〇beで覗き見程度だ。

残りは原作映像を見て補完している。

『OG』は『MD』のみ未プレイ……(涙)。

 

とはいえ、スパロボ世界はゲームとして面白いのは納得できる。

だが、現実世界となって自分に降り掛かる可能性というのは、アカシックレコードやこの世界に関わるカルディナだからこそ瞬時に理解出来る。

 

───99%は安全だろう。1%は非常に危険だ。

 

「……ちなみに、これプレイしましたらどうなるのです?普通にゲーム、ですか?」

【寝惚けた事を言うな、原寸大ロボットとガチガチのバトルに決まっている。中の人間もアカシック・レコードに記録された本物だ。】

「ひっ──!」

【心配要らん、しばらくはミッション形式にしてあるから、条件を達成、もしくは失敗してもシミュレーターから解放される仕組みだ。その間はこのコックピット内は外界から隔離された状態となっている。周りの事は気にするな。】

「し、しばらくは……って、いつかは本編の世界にぶん投げる気です!?」

【当然。しかしお前、本能的に判っているな……この『スーパーロボット大戦30』に限らず、数多の世界の鋼の巨人が一つの世界に集まらなければならない、その意味を。】

「……な、何の事でしょう?」

【───よし、逝ってこい。まずはお前の好きな人物とガチバトル(限界を超えた死闘)だ。】

「ルビと字面ァーーーーああああッ!!?」

 

そしてカルディナは問答無用でシミュレーターのモニターより発せられた強烈な光の奔流に呑まれ、中より姿を消す───

 

【……気を付けろ、カルディナ。お前達の言うOOO(トリプルゼロ)───その『真の脅威』に立ち向かう足掛かりなのだ、この試練は。お前に秘めた可能性を見せてみよ。お前ならば……出来る筈だ。】

 

モニターに表示された文章が不穏な羅列を画いているが、それは誰の目にも映る事はなかった。

 

「……行ったみたいね。」

 

……一人を除いて。

 

 

 

【つづくのだ】

 

 


 

 

《現在公開出来る情報》

 

〇シミュレーター・マシン

ガンダムフレーム系のMSコックピットブロックを採用し、作られた。急造でありながら三重連太陽系の技術を応用し、作られたため、再現幅は非常に広い。

普段の使用では姿を現さないが、裏システムとしてアカシックレコード経由で未知の次元の相手と戦う事が出来る。

無駄にゲーム性が強いため、勝敗の有無に関わらず、生死を問われる事のない安全設計。

ただし、それは身体に限った話で、精神に異常をきたす呪詛の類までは無効化出来ず、そちらを防ぐにはパイロットの腕次第となる。

アカシックレコード経由なので、管理者と会話する事も出来るが、そのキャラクター性はランダム。

グ〇リバ仕様なら、デモンベインのグランドマスター口調。

井〇和〇仕様なら、夏目友人帳のニャンコ先生(斑)口調。

その他にも老若男女問わず、さまざまな管理者がいるらしい。

ちなみにその姿を直視すると必ず死ぬ。

 

〇スーパーロボット大戦30

……Coming soon.

 

〇スパロボのプレイ履歴

筆者のプレイ履歴。

 

〇ここでの99%と1%の扱い。

泣かされた人なら理解できるはず。

信用等ない。





終始こんなノリで書きます。
盛大な技術の無駄遣いとノリツッコミって、ストレス発散には丁度いいです。

「シリアスさんの気配が……死んだ?!」
「シリアスさんを殺した犯人は……ギャグ、だと!?」

みたいな。
え?いつもと変わりない??

次回はそのままの流れでリクエスト話『エヴォリュダーVSレヴォリュダー』です。




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Extra mission 01『エヴォリュダーVSレヴォリュダー』❪1❫

永らくお待たせしました!
小次郎さんご希望のネタ①『お嬢様(マギウス)VS獅子王凱(ガオファイガー)』です。
スパロボ30の世界に飛ばされたお嬢様がどうなったか、とくとご覧あれ!

※一応、腹筋注意。周辺注意。




 

「──勇者王も勤勉ですねぇ、一通り挨拶終わったら訓練を希望するとは。」

 

長い廊下を4人の男女が歩いていた。

 

一人は白衣を纏い、眼鏡をかけ、長い髪はボサボサの小柄な女性──『メイヴィー・ホーキンス』

 

「まあ、ブランク解消のためですよ。案内ありがとうございます。」

 

遠慮がちに答えるもう一人の男は、長い茶髪の髪に黄色いベストを着込んだなり長身の男───『獅子王凱』

彼は9年もの歳月───当人とっては数日程度だが『オレンジサイト』より帰って来た。

そして余興説教あり、この度ガッツィー・ギャラクシー・ガード──通称『GGGブルー』の長官代理となった凱であるが、その前にエヴォリュダー(一人の戦士)である。

少しの時間が出来たのを見計らい、彼等『ドライクロイツ』の戦艦───万能戦闘母艦ドライストレーガのシミュレータールームに案内されている最中であった。

 

「気にしなくて結構ですよ。それよりも訓練をするなら、ドライストレーガ謹製のシミュレーター・ルームが一番です。今まで観測してきた敵機であれ、現在登録してある機体であれ、『AOS』を用いれば何でもござれですから。」

 

意気揚々に自慢するようにメイヴィーは凱に語る。

 

AOS(エーオス)』───『Advanced Organic-organization-operation System』

 

それは万能戦闘母艦ドライストレーガが誇る、次世代型有機的組織運用システムである。

戦闘中枢として機能するだけではなく、戦闘データの蓄積によって学習重ね、所属部隊の機体、人員に様々な効果を与える、画期的なシステムなのだ。

 

その管理担当主任者が、このメイヴィー・ホーキンスである。彼女にとっては自慢したい場所であろう。

そんなメイヴィー女史に圧倒されながら、凱はシミュレーター・ルームに案内されていたのだった。

本当はトレーニングルームに行きたかったのだが、案内人のメイヴィー女史の猛烈なシミュレーター推しには勝てず、やむなくシミュレーター・ルームに行くことになった。

その途中、歩きながら凱は思考する。

自身が得た、新たなる力の事、そしてこれからの事を……

 

エヴォリュダー──否、ネオ・エヴォリュダーとなった獅子王凱。

彼に秘められた能力は、以前の何倍もの力を秘めている。

それは、オレンジサイトで出会った『義妹』と共に得た力であり、己の呪詛を取り除いた力を今一度試すために。

 

……というのを見て察する事が読者諸君らには出来るだろうが、この獅子王凱は『勇者王ガオガイガー』の次元から来た獅子王凱である。

そして『スパロボ30』の獅子王凱ではない。

 

何を言っているのか解らない?それが何を意味するのかは……

 

(……後は人物の再確認だな。何故かはわからないが、この部隊にいる大半の人物を()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ……オレンジサイトからこの次元───いや『この世界』に来た時に、ありとあらゆる情報がいきなり頭の中に叩き込まれた。GGG以外に関わった組織、ロボット、そしてそのパイロット……中には親友というべき奴もいる……ようなんだが、まるで物語の人物に会ったような他人感しかない!みんなにはオレンジサイトから脱出した時に起きた衝撃による、一時的な記憶の混乱という事にしているが、どうしたものか……)

 

OOO(トリプルゼロ)を克服した獅子王凱だが、辿り着いた先が自分の知る世界とは似て非なる『スパロボ30』の世界だった。

気合、意気込みと覚悟を決め、ガオファーにフュージョンした後、場違いな場所に出てきたような感覚に陥り、盛大に挙動不審になった事が思い出される。

そして凱はその事を知らない。知っていても余計に混乱するだけだろう。知る手段すらない。

 

そして一番驚かされたのが、この世界を取り巻く時勢である。

スペースコロニー?モビルスーツ?人類同士で大戦争(連邦VSジオン軍)とか馬鹿じゃないか!?

ゲッターにマジンガーとは?そのエネルギー、SF通り越してファンタジーじゃないか?!しかも地球人類攻め立てられて死にかけてません?

DCL??何で色んな時空の奴らが来ているの?

しかも宇宙人の襲来?異星文明は三重連太陽系だけでお腹一杯です……と、思ったら年下だった流竜馬、兜甲児、アムロ・レイが年上に……あれ?そんなヤツいたっけ?

 

……何だ、この状況。ウラシマ効果?(違う)

 

ネオ・エヴォリュダーになったばかりの獅子王凱の生機融合した脳細胞と神経に、多大なる負担をかけたのは記憶に新しく、SAN値直葬案件だ。

また、覚えがなく、そして覚えがある人物達に対し、どう振る舞うべきか凱は引き攣った笑顔の下で密かに悩む。

半ば流れでGGGブルーの長官代理という立場に立たされたので、言い出すにも躊躇している。

それでも通常運転なのは、凱の人望の厚さのお陰と言える。

 

「……大丈夫、凱兄ちゃん?」

「あ、ああ……何とかな。」

「無理しないでください、凱さん。オレンジサイト帰りで、『覇界王』と戦ったのですから……」

 

そして後ろに続くのは、凱の記憶より大きく立派になったガッツィー・グローバル・ガード──通称『GGGグリーン』隊長である、天海護と、副隊長の戒道幾巳の二人。

 

「やっぱりギャレオンを助けられなかったのが……」

「い、いや、そんな事はないぞ!」

 

世界は違い、9年も経ち、成長している姿とはいえ、知っている顔である二人の存在は、今の凱には非常に心強く、頼れる存在だ。

先程までの戦い───『覇界王ジェネシック』との死闘、その戦いで共に戦った際に、新生GGGの隊長を充分に務めていると感じる程に。

滅び行く宇宙よりESミサイル(護と幾巳)を見送ってから、このような出会いが出来るのは、非常に感慨深く、心強い。

護が言っていたのは、木星を圧縮、特異点──ゲートと化して襲来した『覇界王ジェネシック』の事。

オレンジサイト内での事は誰よりも判っていたのは凱であり、何よりあの場でギャレオン───特にブラックボックスを回収出来なかった事を悲観していると思っている。

だが、凱は悲観はしていない。

 

「それよりも今はやれる事をしなきゃならない。再び『覇界王』と相対した時、ギャレオンを助けられるようにな。」

「そうだね、凱兄ちゃん!」

「『覇界王』もそうですが……一緒に現れた『映像に映らなかったロボット』も警戒が必要ですね。」

「あのロボット───『インビシブル』か」

 

『覇界王ジェネシック』の出現したあの場にはドライストレーガ所属の機体の他は、合体ベターマンと、複製されたEI-15の集団の他、未確認機がいたという。

『覇界王ジェネシック』と同等ながらも熱源、重力、その他にレーダーにすら引っ掛からず、目視やモニター観測は視認こそ可能であるものの、その姿は光を反射しないのか、宇宙の黒に同化したような黒塗りのように真っ黒。録画映像には明確な姿が映らない、観測不可能な存在───付いた渾名は『光を吸収する者(インビシブル)』。

 

「しかもそんな奴が2体。何なのだろう……」

 

『インビシブル』と呼ばれる類似個体は2体いる。

片方は、木星区域に突如として現れ、オレンジサイトより現れた『覇界王』を支援する動きを見せた敵性体である。

こちらは『ヴィラン・インビシブル』と呼ばれ、『覇界王』を中心に複製されたEI-15の集団と共にドライクロイツを阻み、オレンジサイトに通ずるゲートを展開させようとした。『覇界王』とまでたどり着けずにいた最中、もう一機の『インビシブル』が出現した。こちらは『ヒロイック・インビシブル』と呼ばれドライクロイツを味方、支援する動きをした。そしてEI-15の集団を文字通り粉砕したのだった。

そして今度は『インビシブル』同士が戦い始まる。だがその戦いは木星周囲を破壊の渦へと変え、今度はそのままESウインドウの彼方に場所を変え、行方知れずになって消えた。

その後、戦闘の余波に巻き込まれ、合体ベターマンと『ヒロイック・インビシブル』の相互攻撃で消耗した『覇界王』にダメージを与えるもゲートへ逃してしまったのは、力及ばずのところ。

 

その場にいたパイロットで目視出来た者達は「どっちもガオガイガーに似てなかった?」と一部揃って証言をしていたが、詳細は不明。

無論、現GGGは保有するガオーマシンで『ガオファイガー』と最新型である『ガオガイゴー』に関連する機体は、他にない事は現在駐留しているオービット・ベースで確認済みだ。というよりその場に二機揃っていたので間違いない。

一応『ガオガイガー』のガオーマシンもあるがギャレオン、もしくは代替機がいないのでそもそも3機同時運用は無理だ。

何より『ガオガイガー』といってもその輪郭は『ジェネシック』寄りらしい。

 

というか、そんな奴が2体とか止めて欲しい。

 

再び()()が現れる機会が(絶対に)訪れるかは解らない。だが地球圏には現れないようにせねばならない。

何せ再び現れた場合はその()()()()()()()()()()になる懸念があると、艦長のミツバ・クレイヴァー特務中佐は危惧している。

 

現在、木星の衛星周辺区域の光景は激変している。

あの戦闘の余波で、俗に言うなら『木星のリングが消えました』という状態となり、リングの代わりに木星周辺には異常重力帯がリング状に形成されており、近付く観察衛星が(ことごと)く行方不明となり、侵入を禁止しており、ベターマンと関連性も合わせ、調査中である。

 

「何なのだろうねぇ……アレ。出来るんだったら徹底的に分解しいしてパイロットにも尋も──じゃなかった、オハナシしないとねぇ……カメラに初めて解析不能……じゃなく『撮影不可です(見せられないよ)!』って表示させられてさぁ、あれ間違いなくハッキングでしょう?技術班(うちら)をコケにしてくれたお礼をしなきゃねぇ……クックックック……」

「あの、メイヴィーさん??」

 

どうやら、一番深い傷を負ったのはドライストレーガ技術班だったらしい。

遠望映像では(遠くから見ると)黒塗り状態、望遠映像では(近くに寄ると)撮影不可です(見せられないよ)!』と映る、実にふざけた仕様だ。あの激戦の中でそんなネタを仕込む余裕が『インビシブル』にはあったらしい。

 

『ヴィラン』は『……そんな近くだなんて卑猥です、最低です』

『ヒロイック』は『え~?そんなに見たいんですか?』→『やっぱりダメ!』

 

激戦繰り広げているくせに、カメラ映像はギャグでしかない……さて皆さん、どう思う?

少なくともメイヴィーさんは嗤っているのに、目が怖い。

 

さてもどうあれ、シミュレーター・ルームに着いた一行。

だが中の様子がおかしい。

 

「──あ、凱!それにメイヴィーさん!ようやく来たか、待ってたんだぜ!」

「どうしたんだ甲児に竜馬。そんな血相を変えて……」

「どうもこうもあるか!おい、メイヴィーさんよ!シミュレーターの中に変な奴がいやがるんだ!どうにかしろよ!」

「え、竜馬さん……もしかして負けたの?」

「不意討ちを喰らっただけだ!」

「いや、ボロクソに負けただろ。」

「甲児もやられただろうが!」

「あの兜甲児や、流竜馬を倒したって、誰が!?」

「『インビシブル』だ、『インビシブル』!」

「『インビシブル』!?そんな……まだデータなんて入れてないよ!?」

「嘘付け!無茶苦茶被害に遭ってんだぞ」

「それに俺らだけじゃねぇ……」

 

甲児が指差す先には凄惨な光景があった。

 

まず全員「orz」なチーム・ラビッツの5人。再起不能。

続いて獣戦機隊のリーダー、忍が悪態を付いているところから、負けたらしい。

他にもガクブルなシュラク隊のお姉様方や、新入りのガンダムパイロット。

コンバトラー・チームは戦うか否かで揉めており、華撃団の三人は全力で拒否していた。

グリッドマン同盟の4人は、内海(メガネ)が暴走しているだけで裕太や六花は全力で止めている。グリッドマンすら躊躇している状態だ。

仇を取ろうとするブレイブポリスであったが、泣きながら必死に引き留める勇太にたじたじである。

 

「これみんな……戦意喪失してる……?!」

「ああ、『インビシブル』のせいだ。今はアムロとカミーユ、ウッソが戦ってるがよ……」

 

うんざりする竜馬が中央の大画面モニターを指差した。

そこには、無機質なブロックが並ぶ空間で、量産型νガンダムがフィン・ファンネルを一斉掃射、フルアーマーガンダムmarkⅡがグレネードで牽制しながら2連装ビーム・ガンを連射、Vダッシュガンダムがオーバーハングキャノンとを戦火の中心にいる標的──『インビシブル』に撃ち出した───が、効かない。ビームが全て跳ね返っている。

その後、ウッソがダメ出しにと下半身(ボトム・リム)を分離、射出する『ボトム・アタック』を敢行した瞬間───

 

「何!?」

「そんな、いつの間に───!?」

「うわぁぁあああっ!!」

 

ニュータイプ達の背面に『回避など無意味よ!』と言わんばかりの無数のビームが突き刺さり、ガンダム達が無惨に破壊される。

辛うじて機体サイズの小さいVガンダムが、オーバーハングのバックパック、両腕の喪失だけで難を逃れた───かのように見えた瞬間、自らが撃ち出した筈の下半身(ボトム・リム)がVダッシュガンダムのコックピットに突き刺さり、ウッソがそれを認識した時には機体が木っ端微塵になった。

 

「圧倒的だな……」

「今の光……ビット攻撃か?」

「つーか、Vガンダムのアレ(ボトム・リム)を投げ返して……当てる!?」

 

ボトムを器用に掴んで勢いはそのままに、独楽のように回り投げ飛ばしたのは、深淵の闇のように真っ黒な30メートルクラスの機体───間違いなくあの『インビシブル』であった。

その機体はバックハンド・スローの姿勢で止まっていたが、突如として姿が消える……

 

「あ、また消えやがった!」

「さっきからあんな感じなんだよ、誰もいなきゃカメレオンみたいに姿を消して、誰かが対戦しに来たら姿を現すんだが、黒塗りみたいなのに被われて詳細な姿が確認出来ないんだ。」

「だが現れれば見敵必殺……実力は本物だ。」

「おう。アムロ、カミーユ、ウッソ。どうだった?」

 

シミュレーターから降りてきたニュータイプのエース勢。だが戦績を省みても元気がないのは明らかに見て解る。

 

「あの機体……モビルスーツクラスの兵器じゃ止められないな。ビームがまるで効かない。」(アムロ)

「あいつ、始めは回避運動をしていましたけど、途中でビームが跳弾出来る事を覚えると、一切動かなくなりましたよ……というかボトムが返されるなんて……(泣)」(ウッソ)

「あのビット攻撃……戦闘で被弾して散った装甲だとばかりと思ったけどブラフだったなんて……最後やられた攻撃には何の意思もなかったから、反応が遅れたよ。というか……」(カミーユ)

 

「「「どうやって攻略すればいいんだ!」」」

 

「ニュータイプ勢にここまで泣き言を言わせるなんて……」

「メイヴィーさん、どうにかしてくれよ!」

「データの凍結でもいいからよ、早くあいつどうにかしてくれ!」

 

「ちょっと待って……私、本当にこんなデータなんて入れてないよ!?」

 

「……え??」

 

メイヴィーの一言に、その場が凍り付く。

そして改めてメイヴィーがシュミレーターのシステムをチェックし、結論を出す。

 

「……これは確かに、木星で出現した『インビシブル』に似てるね。『ヒロイック』の方かな?でも私は間違いなく、こんなデータを入れてないよ。シュミレーターはあくまでドライストレーガのシステムが登録した機体データを元に構成してるからね。登録されていないものが出てくる事なんて、まずない……あ、ハッキングされた形跡がある!ここかぁ!?」

「となると一番可能性が高いのはウイルス?」

「かもね。でもあんなに馬鹿正直に現れては戦いに応じるウイルスなんで聞いた事がない。そして今の問題は───『インビシブル』がいるからシミュレーターが使えない、のが一番の問題かぁ。」

 

正確には使える。

だが、どう操作しても皆が『ヒロイック・インビシブル』と対戦するようドライストレーガのシステムが組んでくるようで、仕方なく『インビシブル』と戦っても全員、文字通り『瞬殺』だ。

ちなみに現在システムにロックが掛かっているようで、メイヴィーですらこのロックは突破出来ないとの事。

事実上、ドライストレーガは『インビシブル』にハッキングを受けている状態だ。

 

「……四面楚歌ね。明らかにこの『インビシブル』が原因なのは間違いないわ。一番の解決方法は『インビシブル』の撃破ね。」

「それが出来れば苦労はねぇよ。」

「じゃあ、部隊編成をして臨むか?」

「──それは止めておいた方がいい。」

「クワトロ大尉??」

 

待ったをかけたのは先程の戦いで、エース級ニュータイプ勢で唯一参加しなかった、情けない男シャア、もといクワトロ。

そんな彼は苦虫を噛む様な表情をしながらも口を開く。

 

「あの『インビシブル』は、異様の一言に尽きる。動きには無邪気に遊ぶ子供のようなものを感じたが、攻撃は無心……機械のように正確無比で殺気がない。木星で戦った個体とは些かあの雰囲気とは違うが、それは何とも言えん。しかし編成を組み、大部隊で臨んでもこちらに勝機はないかもしれん。」

「その理由は何です、クワトロ大尉。」

「これまでのシミュレーション内容を見て解った事がある。それは『インビシブル』は我々の情報(パーソナルデータ)を事前に、十全に把握している。癖やとっさの行動のパターンはもちろん事、機体特性すらもだ。弱点や急所は真っ先に狙っている傾向が常々だ。」

「確かに……攻撃全てが見透かされたような感じだった。」

「それに機体の弱い部分も確実に狙って来ましたし。」

「何より機体性能が尋常じゃない。チーム・ラビッツ戦では、パープルツーの索敵能力を真っ向から潰せる能力とローズスリー以上の機動性を見せていた。」

 

───ビクッ!

 

クワトロの言葉にケイとタマキ、そして連鎖的に残りの男達が「ひぃ!」と反応する。

シュミレーター内での『インビシブル』との初戦───チーム・ラビッツの戦闘内容は酷かった。

 

『インビシブル』を確認したチーム・ラビッツはパープルツー(ケイ)の索敵から始め、ローズスリー(タマキ)は錯乱を敢行するため突出、ブルーワン(アザキ)レッドファイブ(イズル)がそれに続き、ゴールドフォー(スルガ)が後衛を務めた。

だが索敵、解析を行ったパープルツー(ケイ)が『インビシブル』の『視線』を感知するや否や、センサーやレーダー機器、更には多元電子支援機器が、開幕からいきなりハッキングされたのだった。

これにより一瞬混乱したチーム・ラビッツは沈黙して応答の出来ないパープルツー(ケイ)を全員が注視してしまう。

その後、ローズスリー(タマキ)が反転して戻って来たのだが、何故かゴールドフォー(スルガ)の元へ特攻。しかも全ての火力とフルブーストで、慌てふためきながら狙撃する弾道をゲッターの無茶苦茶な軌道をしながらゴールドフォー(スルガ)をフレンドリー・アタック。

 

……ローズスリー(タマキ)が過ぎ去る瞬間、背面に取り付く『インビシブル』の姿が横切りるのを見て、ブルーワン(アザキ)レッドファイブ(イズル)は青冷めた。

 

遠くに見えたのは、手足を巧みに使い、無理矢理ブースターの軌道を変えていた光景だった。

実はその前に、既に『インビシブル』に同等のスピードで並走され、取り付かれた挙句にハッキングされ、機体操作権を掌握されていたローズスリー(タマキ)

しかしそうなっては逃れる術はなく、またローズスリー(タマキ)より遅いブルーワン(アザキ)レッドファイブ(イズル)では逃れる術もなく、一方的な追跡劇がスタート。

無駄なく当たるミサイルとレーザーの弾幕に焼かれ、最後に挽かれてローズスリー(タマキ)のフルブーストによって玉砕。ローズスリー(タマキ)も32Gが掛かるまで加速した頃、機体の耐久限界が超え自壊し、終了となった。

だが『インビジブル』は無傷だった。

 

……その時のパイロット達の心境たるや。

 

「何より戦い方が技巧極まりない。スーパーロボットクラスのパワーでありながら、モビルスーツ以上の小回りも持つ。モビルスーツ程度の耐久性では、肉薄されれば確実に一撃で終わる。掴まれでもすれば、どうなるかは……いや、言わないでおこう。」

 

それを聞いたモビルスーツのパイロット達はビクッとした。

『インビシブル』の一撃に際し、2~3機がまとめて撃墜されている。特に酷かったのは人間ヌンチャクならぬ、モビルスーツ・ヌンチャク。モビルスーツの加速Gより更に酷い速度で振り回されたパイロットが多数いる。

ヨナのガンダムナラティブはA型装備で、長モノを掴まれ、『ホォ~アタァー!』された第一人者。

限界まで加速した速度よりも速い速度で振り回され、その恐怖を身を以て体感したヨナ。

「……もう音速超えでも怖くない」との事。

 

 

「それに戦略家でもあるな。連携が荒いところ、死角といったところはすぐに見抜いてくる。」

「だから初めに戦ったラビッツは連携の隙を突かれて瓦礫したのか……」

「しかも対、大多数相手を平然と相手に出来る相当な武術の達人……しかもOS等といった自動操縦に頼らない戦いの猛者だろう。」

「武術の達人って、どうして解るんです?」

「ダンクーガとの戦いだな。」

 

───ビクッ!

 

騒いでいた獣戦機隊のメンバーが急に黙る。

それを察しているクワトロだが、可哀想とは思いつつ話を進める。

 

『インビシブル』攻略に手を焼いているのを見兼ねて、獣戦機隊が一対一(サシ)で挑んだ。

先手はA(アルティメット)・ダンクーガがミサイルを弾幕に、一気に距離を詰めての『ブースト・ウイングカッター』を行う。

30mクラス同士の大質量のぶつかり合いは、スピードが乗った方が勝つ───と思ったが、勝敗は腕を突き出して一切動かない『インビシブル』に上がり、右舷ウイングが千切られるように破損したA(アルティメット)・ダンクーガは地面を転がり墜落。

接触直前に亮が気付いた事だが、『インビシブル』は『退把*1』で迎撃したとの事。

そこで今度は亮に操縦を委ね、格闘戦に移行。

だが『インビシブル』は亮よりも上手(うわて)であり、攻撃(鉄拳)が当たらず逸らされ返され、常にカウンターを受ける始末。その光景は中国武術同士の戦い。

だが機体重量が増し、以前より機敏には動けず、追加装甲で連装キャノン等の武装が埋まって迎撃支援が出来ないA(アルティメット)・ダンクーガには不利である。

挙げ句の果てに、追加装甲越しであろうともコックピットがある頭部、胸部、両足へ容赦ない打撃が襲い、『オラオラオラァ!』と執拗に狙われた。しばらくコックピットに強打される恐怖を味わった獣戦機隊。このあたりもリアルに*2再現されるのを呪ったという。

我慢の限界を超えた忍に操縦を交代、断空剣を取り出し、投げ飛ばした────が、それが悪手。『インビシブル』は初見にも関わらず何事もないように剣を掴み取り……喜ぶモーションを取った。

それに「?」と反応したのも束の間、断空剣を少し調べた後、『インビシブル』が『鮮烈な赤い光』に包まれ、強力なエネルギーを流し込まれ掲げられた断空剣が真っ赤なエネルギーを発し───A(アルティメット)・ダンクーガは、そのエネルギーの刃で真っ二つにされた。

4人は何より「俺達の知らない能力を何で発揮出来た……??」と開発者の葉月博士を呪いたい気持ちでいっぱいだった。

 

「だが、それ以上にだったのがマジンガーZや真ゲッタードラゴンとの戦いだ。あれは敵意も剥き出し、『インビシブル』の狂気といえる戦いだった。」

 

マジンガーZとは、出現した瞬間『インビシブル』から襲ってきた。大地に立つマジンガーZを怒涛の走法*3で襲来。消えたと思ったら背後よりマジンガーZ(甲児)が一時も息つく事が出来ない、マシンガンを受けた方がマシ!と言わせられる拳打を浴びせられ吹っ飛ばされ、続けて意識の向けられていない方向へ次々に拳打を被弾し続けるという、一方的な近接戦になった。更に虚実を練りに練り込んだ動きに頭が、意識が翻弄される。

力押しなら負けないが、これ程の技巧極まりない相手とは戦う機会はそうそうなかった甲児には防ぐので精一杯だ。

スクランダーカッターを大太刀のように振り回す事もしたが、風を避けるように拳一つで軌道を変えられ、サザンクロスナイフも当たっても効果がなく、むしろ指弾で返される度にキャノピーがぐわんぐわん揺れる。アイアンカッターによる攻撃すらそもそも当たらない。

ただし超合金ニューZの硬さは正に(くろがね)の城。拳如きでは破壊は出来ない──と、甲児が安堵した瞬間、マジンガーZの内部に異常が発生。

 

───フ◯~エノ、キ◯~ミ~!

───「ダメだ!」

───(´・ω・`)ショボーン

 

ではなく、強烈な拳打からソフトタッチへシフトし、内部へ爆発するような発勁『浸透勁』を放つ『インビシブル』。強固な装甲であろうとも内部は脆い。

一瞬の内に両腕、両脚の内部破壊を行われたマジンガーZが立てる訳もなく、最後にパイルダーを指先一つで『ダウンさぁ~!』と突かれ、終了。

パイルダーにA(アルティメット)・ダンクーガのような追加装甲がとても欲しくなったと、甲児は落ち込む。

 

真ゲッタードラゴンとの戦いでは、更に酷い。

『インビシブル』よりも高い身長より繰り出す、勢い任せのゲッタートマホークを掴んでゲッターごと投げ飛ばして地面に叩き付けるのだ。

ゲッタートマホークに振り回される真ゲッタードラゴン……

どの角度で振ってもいつの間にか投げ飛ばされ、遂にはステゴロで戦うも、空手の使い手である竜馬の拳や蹴りすらも化勁*4によって無効化される……というか、必死になってゲッターを投げまくる『インビシブル』。

隼人や弁慶がいればもう少し冷静になり、手数も増え、また違った結果になっただろうが、竜馬一人のゲッターでは手に余る。

あるいはブラックゲッターなら勝機があったかもしれない……多分。

痺れを切らせた竜馬はゲッタービームを放とうとするが、その瞬間に圧倒的な速さで踏み込まれた『インビシブル』に体勢を崩され、ビームの発射口である額に指先一つで『浸透勁』を打ち込まれ、「……お前はもう、死んでいる」と背を向けられ、頭部ごとゲッタービームが暴発、コックピットが破壊されたとシステムが判定し、終了となったが、『インビシブル』はそれでも無傷だった。

 

そして最後に量産型νガンダム、フルアーマーガンダムmark-Ⅱ、Vダッシュガンダムでアムロ、カミーユ、ウッソの三人で臨んだが、結果は知っての通り。

高出力ビームは弾かれる、ビット(網目の弾幕)は感知出来ずに貫かれる、ボトムに砕かれる、散々な結果だ。

 

「……とまあ、そんなところだろう。明らかにこちらの事を熟知してなければ、こんな仰々しい悪魔の所業のような事など出来まい。」

「じゃあどうする!?」

「どうするったってよぉ……こうなりゃ部隊を編成してでもやるしか───!」

「でもまた返り討ちに遭うんじゃ……」

 

もはや混乱に混乱、てんてこ舞いなシミュレータールームの中は収集がつかない。

打つ手は最早何もないのか……

 

……だがここに、まったく別のものを見ている人物がいた。

 

「……なあ、護。あの『インビシブル』の機体色……本当に真っ黒なのか?」

「え?凱兄ちゃん、どう見たって真っ黒じゃないか。」

「確かに黒系統でデザインされた機体には見えるが、俺には少なくとも単色でなく、細やかな色遣いがされてるぞ。機体の四肢なんかはジェネシック以上に気合の入ったデザインだと思うんだが。」

「……え。凱さん?どう見えるんです?」

「どうって幾巳……『右肩は白いラインの入った黒い狼』、『左肩は黒いラインの入った白い一角獣』……いや、羽根があるから、確か命がアリコーンって空想の動物がいる、って言ってたな、それだ。両脚は何だ?『黒いドラゴン』??口が180度開いて足になっている?凄いデザインセンスだな……ああ、膝にドリルを付けるためか。」

「ちょ───凱兄ちゃん!!何を見ているの!?」

「どうしたんだ、護?さっきから変だぞ。」

「変なのは凱兄ちゃんだよ!!さっきから何を見てるの?!」

「いや……『インビシブル』だが。ちなみに背中は《フェニックス》みたいなデザインだな。戦闘が終わった後、何を探しているか解らないが、ひたすらフィールド内を物色しているんだが……もしかしてみんな見えてないのか?」

「み……見えないよ……」

「まあ、誰かと戦闘している時は光も吸収してエネルギー変えてるようだからな。キングジェイダーの光子変換翼とボルフォッグやファントムガオーのホログラフィック・カモフラージュを合わせたようなギミックらしいから、みんなには見え辛いか。エネルギーの流れを見るからに、戦闘の時は高出力になり過ぎてカモフラージュのシステムにムラが出来て、完全に隠れているとはいえないんだな……というか、あのデザインはガオガイガーか??」

「え……『インビシブル』って、やっぱり目撃証言と同じだったんだ。」

「ああ、間違ってなかったようだ。ところで護……どうして俺はこんな事をスラスラ言っているんだ?」

「……解ってて言ったんじゃないの??」

「……ああ、気付いたらスラスラ喋っていたんだ、自分でもビックリだ。」

 

言うだけ言って、今さらの疑問であったが、ようやく自分の異常性に気付いた凱。

今までにない解析能力と『インビシブル』の擬態を見破れる『眼』。

それをある程度確証があって述べている以上は、やはり異常と言える。

 

「解析班もビックリな解析能力ですよ、凱さん。」

「しかしどうして……ん?いや、だったら…………いや、まさか。だが、な……」

「が、凱兄ちゃん……?」

「……護、幾巳。次は俺が『インビシブル』と戦う。」

 

何を思ったのか、強敵『インビシブル』との対戦を望む凱。

すかさずそれを聞き取ったメイヴィー女史はすぐに準備を始める。

 

「機体のデータは、ガオファイガーでいいのかい?」

「頼みます。」

「なら凱兄ちゃん、僕達も一緒に行くよ!」

「ええ、お供します。」

「二人には悪いが、今回だけは控えてくれ。」

 

折角の護、幾巳の同伴を凱は遠慮する。

その事にショックを受け護と幾巳だが、すかさず凱はフォローを入れる。

 

「あ、いや!別に足手まといとか、そんな理由じゃないんだ。『ガオガイゴー』でも『覚醒人凱号』でも『インビシブル』相手だと、異様に刺激する可能性が高い。下手をすると逆上ものかもな……だから俺一人の方がいい。」

「そうなの?」

「というか、逆上ですか??」

「……俺の予想だとな。それに今日は試したい事があって来たんだ。それを試すのにうってつけの相手になるだろう。」

「??」

「どういう事ですか?」

「まあ見ていてくれ。」

 

護や幾巳の疑問さておき、凱はシミュレーターに乗り込む。

パイロットの情報を元に、最適なコックピット仕様に形成されるシステムは、最新式といっても過言ではない。

そしてコックピットはガオファーと同じ仕様となり、凱はフュージョンする。

 

「準備完了っと───いつでもいいよ!」

「よしっ!ガオファイガー、行くぞ!!」

 

 

『インビシブル』と相対すべく、獅子王凱はシミュレーターの世界へと身を投じていくのであった。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「ここは……」

 

 

凱が現れたステージ───それは星が瞬く宇宙でも、市街地や荒野、草原が広がる陸上でもなく、海でも、ましてや羨望の良い空でもない。

緑の無機質なブロックが規則正しく、かつ障害物のように無造作に並ぶ空間で、それが延々と地平線の果てまで続いていた。

空も似たような光景で、どこまで続いているかわからない程に延々とブロックの景色が続く。

しかし、そんな空間で光源はなくとも不思議と暗くはなく、逆に明るい。フロア全体が光を発しているようにも見える。

そして長らく『インビシブル』が占拠しているステージでもある。

 

「さて、『インビシブル』は───いた!」

 

特に遮蔽物もなところに鎮座している『インビシブル』、そこにあえて存在を目立たせるよう、悠然としてガオファイガーは降り立つ。

 

───わ~い♪あはは、ウフフ♪

 

ガオファイガー出現と共に、それはもう喜びのモーションが僅かな空間の相違で『インビシブル』の仕草が判る。両手を挙げ、身体をくねらせて喜んでいる。

敵意がない事より、歓迎されている事に予想が当たっているかもしれないと確信するのと同時に、エネミーユニット(凶悪な面構えの機体)にあのように歓迎されている光景には違和感しか覚えない凱。

 

だが、すぐに切り替え、構える『インビシブル』。

その立ち姿には一切の隙がない。

ガオファイガー()も構え、相対する。

 

「──行くぞ!先手は貰う──プラズマホーールドっ!!

 

ガオファイガー()の左腕を突き出し、4つのフィールド発生器より放つ『プラズマホールド』。

フィールドの反発作用によって行動を封じる事が出来る拘束能力のある技だが、『インビシブル』に通用するかは怪しい。しかし凱の狙いは別にある。

 

「まずは、不可視領域を作る光子吸収機構(ライト・アブソーバー)の機能を止め、その姿をはっきり見せて貰うぞ!」

「!?」

 

『プラズマホールド』を広域拡散して『インビシブル』に僅かでも当てた。装甲表面で一瞬弾けたと思いきや、不可視領域を作る光子吸収機構(ライト・アブソーバー)の機能が麻痺、『インビシブル』はその全貌を現した。

凱の言った通り、左肩に有角翼馬(アリコーン)、右肩に(ガルム)、両脚に(ドラゴン)、背中に黒不死鳥(フェニックス)、そしてわざと語らなかったが、胸にギャレオン(ライオン)の顔。それはまるで───

 

《あれは……『覇界王』!?》(幾巳)

《いや、あれはジェネシックじゃない!でもすごい怖い!すごい凶悪な顔だ!》(護)

《姿形は『覇界王』に酷似……いやそれ以上の凶悪さだ。偽物にしては凶悪過ぎる!》(アムロ)

《何て凶悪なデザインだ……!》(イズル)

《何あれ……睨まれるだけで動けなくなりそう……(白目)》(ケイ)

《私、あんなのに掴まれてたのら……?(ガタブル)》(タマキ)

《あれじゃイズルの絵の方がマシだ!》(豹馬)

《怪獣より凶悪な顔だよ、あれ本当にガオガイガー?!》(裕太)

《こっちの方が『覇界王』って顔してる!怖いよデッカード!》(勇太)

《何だ……シミュレーター越しなのに、巨大で強烈なこのプレッシャーは?!)(ヨナ)

《どんな人が乗ってるんだ?いや本当に乗ってるのは本当に人、なのか?!》(ウッソ)

《敵意がない筈なのに、とてつもない強烈な思念を感じる、これは……深く、真っ暗な深淵の闇!?深過ぎて何も見えない!いったいどんなパイロットなんだ!?》(カミーユ)

《きっと乗ってる奴は凶悪な(つら)をしてるんだろうぜ!》(忍)

《こうなりゃ化けの皮剥いでやれ、凱!》(竜馬)

《……いや、みんなやられた反動だろうけど、あいつをボロクソ言い過ぎじゃないか?》(甲児)

 

酷い言い様が外野から飛ぶ。どうせ『インビシブル』に聞こえないと皆、タカを括っているようだ。

それを「……いや、俺は知~らない」と半ば無視しつつ、あえてガオファイガー()は逆手で手招きして挑発し、「乗った!」と云わんばかりに突撃してくる『インビシブル』。

振りかざす剛拳と剛拳が激しくぶつかり合う。互いに徒手空拳であるが、それ以上にぶつかり方が派手だが、一連の攻防には殺気がなく、予め打ち合わせたようにスムーズ過ぎた。

 

(──やはりか。あの機体のパイロットはクワトロ大尉の言う通り……それ以上の実力を持っている!俺との戦いの運びも()()()()()()()()()()()一切焦りがない、むしろ戦いを楽しんでいる、何て奴だ。なら───!!)

 

そこで凱は()()()()()()()()()()()()

 

「こうやって───こうだ!!」

「!!」

 

エネルギーの流れを読み、『インビシブル』の剛拳を円の動きで()()()、一歩踏み込んだ勢いで突き出した両手が『インビシブル』の腹部を直撃し、雷鳴が轟くような威力を発揮し、吹き飛ばした。

転倒こそしなかったが、『インビシブル』との戦いが始まって以来のクリーンヒットである。

 

『双纏手』──全身の動きが連動して初めてその力を発揮する技であり、練度を上げれば繰り出す寸勁の威力は『浸透勁』をも凌駕する。

 

「だが……それすらもいなすとはな。」

 

だが『インビシブル』はすぐに回復した。

いや、凱は視た。『インビシブル』の腹部のエネルギーの流れが乱れた後、すぐに元に戻ったのを。

偶然とはいえ、致命傷である攻撃の衝撃を受け流し、残った損傷を文字通り回復させたのだ。

さすがに凱には出来ない芸当である。

 

「お前はありとあらゆるエネルギーの流れをコンマ単位で『視る』事が出来る。だからみんなを圧倒出来た……そしてエネルギー制御自体も秀でている、それが強さの秘密だ。」

 

あらゆる物体のエネルギーの流れ───それこそが秀でている理由である。有機、無機関係なく『力がどう動くか』を見極める事によって、対象の動きを演算して予測する。

ある種の未来予測である。

そして多用に扱う中国拳法の技も、元から目指した訳でなく、力の流れを効率的に突き詰めた結果の一つといえる。

凱は偶然にも『双纏手』を使った際にそれを実感した。

 

「そしてここからは俺しか解らない───そのエネルギー制御に、エヴォリュダー特有の力を感じる……ならお前の正体は──!!」

 

そこから近接距離まで接近し、拳を打ち合う。

先程よりも更に激しい拳打の嵐と、当たれば致命傷になりかねない剛脚の一撃の打ち合い。それらを紙一重で避ける。

その光景はまるで完成された演舞の如し。

ヤジを飛ばしていた外野達も、その動きに魅了されていく。

だが、いつまでも遊んでいる訳には行かない。

ガオファイガー()は拳を開き、左右の拳を受け止め───四つ手の姿勢になる。

だがこれは拮抗する為ではない───

 

「──状況は出来た!ネオ・エヴォリュダーの能力で奴にアクセスする!」

 

自身の能力───ネオ・エヴォリュダーの機械へ干渉出来る能力を駆使し、『インビシブル』へ直接アクセスを試みる凱。

エヴォリュダーの頃より強力なアクセス能力を駆使し、阻害を試みるファイアウォールを幾重も突破し、『インビシブル』のシステムの最奥へ入り────

 

「───おじゃましま~す。」

 

礼儀正しく、最終プロテクトである『扉』をノックする。

別に戦いに来た訳ではない。挨拶をしに来ただけだのだ。

するとプロテクトが解除され、とある人物が現れる。

『インビシブル』と同じく光を吸収する、正体不明の黒い存在……

 

「……さすがエヴォリュダーガイ。ここまで来るとは……途中からの予測を見誤りましたが、この私、宇宙警察機構所属の『ギャラクシールナ』の相手が務まりますか!?」

 

全身黒塗りのようなカラーであり、鎧類を纏っていても女性と判る骨格の人物であった。

高飛車なその人物は『待っていましたよ~』といった構えであった。

だが───

 

「……ああ、済まない。『光子吸収機構(ライト・アブソーバー)』の偽装は効かない。この『眼』で偽装は見えているんだ……というか、その宇宙警察……ってのは偽名か何かか?」

「はう!?」

「それに……オレンジサイトであれだけ騒ぎを起こした仲なのに、そう他人行儀されると『兄』として悲しいぞ───カルディナ。」

「へ………お、お………()()()()!?

「よう。」

 

偽装が解け、姿が露になった『インビシブル』のパイロット───もといもう一人のエヴォリュダーの進化体『レヴォリュダー』となったカルディナ・ヴァン・アースガルズは、非常に予想外で、知っている顔にネタを披露してしまい、非常に恥ずかしいというか、挙動不審で、わたわたした動きをしていた。

カルディナに相棒であるV.C.が突っ込みを入れる程に恥ずかしい。

 

《こういう渾身のネタって身内に見られると、非常に恥ずかしいんですよね。あ、どうも凱様。お久し振りです。》

「ああ、V.C.……というか先程ぶりだな。」

《おや、そうなのですか?》

「どうしてここにお義兄様が……てっきり私を知らない別の獅子王凱かと……ここは『30』の世界のはず───まさか!お義兄様もいつの間にか此方に来たクチで!?」

「ど、どうしてそれを……何か知ってるのか?」

「あ~、実は……」

 

獅子王()兄妹は恐る恐る情報交換を始める。

兄の凱の情報もそうだが、義妹(カルディナ)の情報量は凄まじく、そして中身が濃い。チーズよりも濃く、蜂蜜や水飴よりもべっとりしている。チーズのピザ、蜂蜜掛けが出来そうだ。

それ程のゾンダー関連の情報を叩き込まれた凱は、本日2回目の頭痛を発症するのであった。

 

《 NEXT 》

 

*1
中国拳法の一つで、片脚を半歩後ろに開き、腕を突き出すだけのカウンター技。相手が速く突っ込んで来れば来る程、衝突時のエネルギーは何倍にも相手に返る。当然ながら見切りや衝突時に吹き飛ばされないような強靭な身体作りが必須。

*2
衝撃はそこそこに、音はリアルに

*3
『OG』のジンライと、ラ◯カスレイヤーの某忍者を足して割った走り。ドドド走りながらぬるぬる動く!意味がわからん!

*4
腕をコロの原理で回転させ、勢いを逸らす技。






……な~にしてんでしょうね、お嬢様。

とりあえず、ドライクロイツのみなさんご愁傷様です。初見VS非初見の戦闘ではこんなものでしょうか……ねーよ。
特にダンクーガは可哀想とは思うも、DLCでありながら断空光牙剣がないのでやりました。

うん、非常に平常運転。

長いので一度切ります。

続きは、近日公開。


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Extra mission 01『エヴォリュダーVSレヴォリュダー』(2)

どうも、みなさんお待たせしました!
リクエスト企画、後・半!(……も、かかってしまった)

前半は無茶苦茶でしたが、後半は上手く纏められる事が出来のか……(心配事はソレ)

天井知らずのお嬢様VS勇者王!

どんな結末になるのか、ご覧あれ!


 

 

《……オレンジサイトより脱出しましたら、数々のスーパーロボット達が集う世界──『30』の世界にいた、と。》

「……何とおいたわしや。」

「ああ、何が何やらで……しかしカルディナも、あの後瀕死の状態から魔法製ガオガイガーに気合と勇気をかけて、GストーンとJジュエル、三重連太陽系の無限情報サーキット『V.C.』を取り込んだ、この新たなるガオガイガー(マギウス・ガオガイガー)誕生とか、第二のパスダーの暗躍とか、機界四天王の一部を取り込んでファイナル・フュージョンしちゃった機界新種とか……本当に大丈夫なのか、そちらの世界。」

「《さあ??》」

 

光すら止まって見える量子リンクの中、カルディナと凱は互いの情報を交換し合っていた(二度目)。

非常時とはいえ、どちらも大丈夫じゃない情報であった。

特に凱にはカルディナの世界でのゾンダー事情は見過ごせない事案であるが、こればかりは聞くに徹するだけしか出来なかった。

そして情報交換を終えた2人は一息ついて、『30(この世界)』の事を話し始めた。

 

「……カルディナがここにいるのはシミュレーターのプレイ中に、アカシックレコードの管理者という者に半ば強制的に連れて来られ、いつの間にかここ───ドライストレーガの『AOS』のシュミレーションにいた、という事だな。」

「そうなります。」

「そしてクリア条件には、出現した機体を全機撃破と推測したから……だから皆、撃破した訳か。」

「はい。」

「しかし脱出出来ず、か……なるほど。そりゃ場が荒れる訳だ。」

 

エネミーユニットを撃破しても何も起きず、次々とやってくる以上は撃破しなければ次に進めないので撃破したが、何事も起きなかったため、現状のまま甘んじていた経緯である。

また、対戦相手の機体にパイロット達が乗り込んでいる事は知らなかったようだ。仮に搭乗していたとしてもシュミレーターである以上、人的被害はないのでコックピットを狙わないという気遣いも必要はないが。

そしてここで凱からメタい質問がされた。

 

「というか、『30』の世界ってなんだ?」

「『観測者』がいる以上、一つの次元の括りなのでしょう。別の次元には、複数の巨大なロボットがいる世界を掛け合わせて、一つの世界を作り、それらを競わせ、戦わせるという遊戯があるのです。その名が『スーパーロボット大戦』。」

「スーパーロボット大戦……そんな世界があるんだな……」

「私も『管理者』に連れて来られたので『30』の真の意味こそ解りませんが、おそらく分類分けのサブタイトルでしょうか。」

「……そんな世界が既に30も創られたとか、言うのか?」

「実際は、とある次元の人間達が作り出した、ただの『シュミレーションゲーム』です。タイトルに続くシリーズ名も『α』『Z』『OG』が有名で、単品だと『MX』『R』『D』『W』あたりです。英語が基本で、番号での表記はなかったはずです。あ、ちなみにお義兄様のお姿もございますわ。」

「そ、そうなのか……??」

「はい、最強ユニットの一角として、ボスキラーとして、ディバイディング・ドライバーおじ──ゲフンゲフン。ん?もしかして……スパロボが『30周年を記念しての作品』だから『30』では……?」

「いや、そこまでは知らないぞ……というか今何を言いかけた。」

「何も。」

《存じません。》

 

──閑話休題(視線が痛いのは我慢)

 

「この通り『30』という世界が実在して存在している理由というのは、『管理者』に準ずる、人間では観測不能な存在(超高次元生命体)等と言う輩が『スーパーロボット大戦』を知り、その情報を使い、世界同士の情報、もしくは複製世界を融合させ、『等身大のままの世界』が誕生し、世界単位で、あらゆる場所でロボット同士が戦い合う『地獄』が生まれます……ここはきっと、そんな地獄の1つなのでしょう。」

「地獄……確かにな。この世界は地獄そのものだ。」

「いえ、まだ序の口です。この後もっと戦線が過熱、苛烈になって行くでしょう。」

「正気か!?」

「作品によっては次元そのものが崩壊寸前な場合も。そして戦い自体を裏で糸を引く強大な存在が……」

「狂気過ぎやしないか?!」

「スーパーロボット大戦の世界はどこに行っても狂気でしかありませんわ。お義兄様も、三重連太陽系がらみで宇宙消滅の危機を体感したではありませんか。まあ、元凶(ラスボス)を倒せば脱出(クリア)出来る……少なくとも私の『アカシックレコード』にはそう記されています。」

「……何故わざわざそんな事をするんだ??」

「戯れか、それともそうする必要があるから、では?詳細は不明ですが。」

 

カルディナはそこで言葉を切るが、ある程度は予想出来ている。

 

次元単位での『負の(よど)み』を消滅させるためでは?という予測だ。

『負の(よど)み』とは比喩だが、悪い意志、邪悪な存在、負の感情……綺麗に濾しても、そういった目に見えない細かな怨念。

ワインに例えるなら時間の経過と共に瓶の底に貯まる僅かな『滓』の集合体。

『スーパーロボット大戦』を次元単位で行う理由とは、それらをアカシックレコードに溜まる『滓』を一掃するため、昇華するための通過儀礼ではないかと思われる。

ただし只の『滓』だと思うな。一度許せば世界を宇宙単位で覆う程の怨念を持つ輩ばかりだ、徹底的に排除する必要がある───

 

魔法を扱うカルディナにはどうしてもそうとしか思えない……が、それを『今』伝えても、伝えきれないところがあるので、あえて言わなかった。

まあ、先程から説明の度にカルディナの網膜に送られてくる映像──『管理者』からの『ネタバレ禁止!』という忠告があるのだ、まず間違いないだろう。

後で『成敗ッ!』されるのはイヤだ。

 

ついでにカルディナがV.C.と共に『世界』に干渉すると、とある()()()()()が出てくるのも悩みの種だ。

 

 

── マギウス・ガオガイガー ──

 

── ユニット能力 ──

 

タイプ:空陸  空:A 陸:A 海:B 宇:A

移動:9

サイズ:1L

運動性:180(5段階)

装甲:3800 (5段階)

照準値:310(5段階)

 

HP:25300 (5段階)

EN:480  (5段階)

 

カスタムボーナス

特殊能力「TGSライド」の能力が強化され、最大効果時与ダメージ1.3倍、照準値・運動性+40、装甲値+500になる

特殊能力「V.C.ハック」の対象が二体になる。

 

〇特殊能力

プロテクトフィールド*1

マギウス・アーマー*2

TGSライド*3

V.C.ハック*4

 

〇武器性能

格闘:プラズマホールド*5        3800

格闘:ディバイディング・クラッシャー*6 4900

格闘:高速格闘術*7           5200

格闘:ブロウクンマグナム*8       5300

格闘:魔法攻撃*9             5900

格闘:ディバイディング・クラッシャー*10 6000

格闘:ドリル・ブロウクンマグナム*11   6500

格闘:?????

格闘:ヘルアンドヘヴン・ゼロ*12     7400

 

 

── パイロット能力 ──

 

カルディナ・ヴァン・アースガルズ

 

Lv:50(暫定)

Sp:95/255

Score:299(+ G-Ace)

 

特殊スキル

レヴォリュダー*13

アカシックレコードリライター*14

???*15

勇者Lv:9*16

底力Lv:9

再攻撃

ガードLv:9

見切りLv:9

SPアップLv:9

SP回復EX

気力限界突破EX

プレッシャーLv:4

ヒット&アウェイ

ExCボーナスEX

援護攻撃Lv:4

カウンターLv:9

 

精神コマンド

・希望 (5)

・直感 (10)

・手加減(5)

・愛  (30)

・勇気 (30)

・決意 (40)

 

エースボーナス

気力140以上で精神コマンド『勇気』を使用すると『魂』『鉄壁』『覚醒』が掛かる。

気力130以上で精神コマンド『愛』を使用すると『狙撃』『気迫』『突撃』が掛かる。

気力120以上で精神コマンド『希望』を使用すると『期待』×2が掛かる。

 

 

ご存知SRWのゲームで必ず目にする『ユニット能力一欄』、『インビシブル』──もとい『マギウス・ガオガイガー』のユニット能力を見て、色々ふざけているのか、真面目にやっているのかが良く解らなくなった。『30』未プレイのカルディナでもわかる。

 

(絶対ユルゲー間違いなしのラインナップですわ!『コイツだけいれば十分じゃないか?』的な!しかもこのエースボーナス何ですの!?加えてマギウスツールの一つとして実装予定のディバイディング・クラッシャーまで組み込まれていますし、設定した方はロクな方じゃないのか、私に甘い方なのか……)

 

ついでに『勇者王誕生!』の派生Ver.BGMが頭の中をエンドレスで流れている。

ここまで再現されていると、リアルシミュレーションとスパロボを掛け合わせた弊害で参るのを超えて、カルディナは嬉しさのあまり、余計な雑事を考えるのを止めていた。

この状況を楽しめないのはスパロボオタクではない。(ふんすー)

 

「……しかしこのシュミレーター、あまりにも環境が()()()()()ません?」

《それは肯定します。》

 

話を切り替えた二人は、そう感想付ける。

サクヤシリーズ謹製のシミュレーター・マシンはMSのコックピットだ。だが今いるのは間違いなくマギウス・ガオガイガーのコックピットだ。

システム上ならともかく、さすがにここまでの再現はまだしていない。

管理者と会話する前に行ったセレクト通りになっているのが不思議である。

 

《ここまでの再現率……製作したのは只者ではない『何か』なのでしょう。実に興味深いですわ!》

《使用しているシステムの質の高さが良く判ります。これは三重連太陽系にも劣らないものを使用していますね。相当な解析力、技術力を持つ文明が関わっていると推測します。》

 

改めて感激しながらシミュレーター内の環境を事細かく観察するカルディナと、珍しく感心するV.C.のコンビ。

しかしこのシミュレーター内での戦いを振り返ると、カルディナにとっては何とも手応えのない。

 

《初めの5体は何がしたかったのか、あの5機(マジェスティックプリンスの機体)そんなに詳しくないのですが……特に紫色の機体。勝手に落ちていったのですが……》

《ああ、あの機体は私の事を調べていたんです。むかつきましたので、システムをクラックさせました。》

《パイロットの皆様、泣いてましたわよ。まあ半ば同士討ちさせたのは私ですが……》

《そこは自己責任です。それより追加装甲付きのダンクーガ……封殺した挙げ句、真っ二つじゃないですか。AIの私から見てもエグいやり方ですね。》

《元のダンクーガであれば手数も増え、苦戦したかも、でしょうが、重いだけであれば余裕です。『断空光牙剣』は……まさかJジュエルのフルドライブで出来るとは予想外*17でしたけど。》

投擲攻撃(プレゼント)の剣を掴んで反撃……パイロットがトラウマ&カウンセリングを受けるレベルですね。仮に装甲がなくともコックピット狙いで()()ですか。》

《モビルスーツ群はノーコメント。マジンガーZとあのゲッターは……何を起こすか解りませんのでハメ殺しにさせて貰いました。》

《あの時のお嬢様の必死な形相……思わず『●REC』するのを忘れてしまう程です。内部破壊が通じるシステムで助かりましたね。》

《……ゲッターとマジンガーには、少々因縁がありまして。時間をかけると何をするかわからなかったので、手加減なしで臨みましたわ。》

「いったい何があった……」

《……その経緯は、あえて聞かないでおきます。》

《最後のガンダム3機は、試験的にマギウスの装甲をナノラミネートと複合させる仕様にしたのですが……その設定がそのまま流用されてしまったのですね、Gパワーとの複合効果でビームが効きませんでしたわ。そう思うと回避する気が失せましたので、わざと被弾してフェザーを蒔いて、V.C.に頼んで攻撃して貰いました。》

《ニュータイプと言えど、最高位の機体もないので、圧倒的物量差での面攻撃は回避不可能と予測しましたので、さっくりやらせてもらいました。》

 

天使、悪魔達はまだ目覚めていない。

彼らが操作するより拙い仕様であるため、動きが緩慢だ。

 

「とはいえ、あの正確無比な攻撃は直撃はともかく、被弾するなという方が難しいな。」

《お褒めの言葉、ありがとうございます。しかし全機種、マギウスの武装はほとんど使わず(対ニュータイプ勢、ハッキングは除く)、徒手空拳だけで撃破……お嬢様が強いのか、部隊の皆さんが未熟なのかが判断が付かないところです。》

 

そこは何とも判断しかねる。残念ながら相手が悪いとしか言えない。知らない相手を一方的に撃破するようなものだ。これを機に腐らず、更なる修練を積んで欲しい……凱はそう願うしかない。

ただ、正体がはっきりし、通信が出来るように回線を構築した(ただし、ガオファイガーを経由しないと会話不可能な)以上、これ以上無用な犠牲が出ないようなもの。凱は安堵した。

ただし、犠牲が出ないとは言っていない。

 

「さて、これからどうしたものか……ん?」

「これは……モニターに数字?徐々に減ってますので、カウントダウンでしょうか?」

 

二人の機体のモニター画面の端に『マギウス・ガオガイガー帰還まで残り、360.00/秒』という表示が現れた。

 

「急に?しかし何で……」

「もしかして、お義兄様と戦い、このように接触する事がクリア条件だったのでは?」

「無茶苦茶な気もするが、現状を見る限りだと……そうとしか思えないな。今はまだカウントされないところを見ると、今はネオ・エヴォリュダーの能力で量子リンクしているから、時間の経過はほんの僅かだ。きっとリンクを切ったらこのカウントが開始するんだろう……」

「という事は、リンク解除後、このカウントがゼロになれば、お義兄様とはお別れですか……寂しいです。」

 

その通りだ。

色々あったが、今回の事はシミュレーター内で起きた事。巻き込まれたカルディナも被害者だ。

偶然とはいえ、運命共同体でもある義妹をこのまま帰すのはどうにも可哀想ではないかと、シュンと寂しがるカルディナを見て、凱は考える。

では、どうするか……

 

「カルディナ。折角こうしてまた会ったんだ、どうしたい??」

「どう……とは?」

「こんな状況だから……まあ、手合わせぐらいは出来ると思うんだが、どうだろう……?」

 

義兄に、甘える(と、一緒に過ごす)時間ぐらいあってもいいのでは、と提案してみる。

その提案に、今までにない極上の笑顔でカルディナは答えた。

 

その笑顔は実に魅力的であり、究極的に危ない。

狂人の笑顔は実に美しく、魅力的なのだから。

 

ネオ・エヴォリュダーVSレヴォリュダー

 

─── Re Start ───

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

四つ手の姿勢で静止する二機───だが、突如二機は後ろに後退し、改めて両者は構えを取る。

 

《───シミュレーター空間に復帰、カウント開始を確認。》

《了解ですわ!》

 

《大丈夫、凱兄ちゃん!?》

「ああ、大丈夫だ。ネオ・エヴォリュダーの能力でアクセスしたお陰で『インビシブル』の正体がわかったぞ。」

《今、『インビシブル』から声がしたような……いったいどんな奴なんです!?》

「意外にも意外、俺の義妹だった。」

 

「「「「……は??」」」」

 

「……まあ、その疑問は重々解る。俺もかなり驚いているんだ。何せ、オレンジサイトで出会って出来た義妹だからな。」

《はあ!?いきなり妹とか、全然わかんねぇよ!》

《いったいどういう事だ!?》

「すまんが説明は後だ!義妹が後、360秒後に帰るみたいだからな、兄として見送りがてら構ってやらにゃならない!」

《滅茶苦茶話が急過ぎる!》

《せめて説明ぐらいしろよ!》

「……いやぁ、多分無理な相手だな。」

 

説明不足故に、脈絡が解らない外野を半ば放っておきつつ、マギウス・ガオガイガーとガオファイガーはバトルを再開。

凱が遊んでくれる(構ってくれる)と大喜びのカルディナは大興奮であり、マギウス・ガオガイガーは『マギウスウイング』を、ガオファイガーは両翼ウイングが稼働し、高速形態になる。

 

《お義兄様、参ります!》

《おう!悔いのないように、全力で来い!》

《……全力で、と申されれました?判りました、カルディナ・ヴァン・アースガルズ、全力でお義兄様に向かいます!》

 

そしてスーパーマギウスノイド、ファイティングメカノイドの駆体より緑に輝く光(Gパワー)が全身から放たれ、最大戦速でぶつかり合う。

ぶつかり合う拳の衝撃が、蹴りの衝撃がステージを揺らす。

流れるように、廻るように、せめぎ合うように。

そして拳に、蹴りに込める力を込める度、凱の、カルディナのボルテージは上がる。

その戦いぶりに護と幾巳は、他の誰よりも見入っていた。

 

「す、凄い……こんな戦い初めて見た!」

「力の流れという流れに、一切の無駄がない。『インビシブル』もそうだけど、ガオファイガーも想定スペックを遥かに超えている、ガオガイゴーでもここまでの戦いは……」

「これじゃ凱兄ちゃんの言う通り、ガオガイゴーで援護しても足手まといにしかならないよ……」

「──だが、凱は本当にここまで想定してたのかは疑問だがな。」

「甲児さん、どういう事??」

「俺も凱とは長い付き合いだが、あいつのあんな洗練された戦い方は見た事がない。それに戦う前に『試したい事がある』って言っていただろう?もしかすると、これはその結果なんだろう。」

「これが……」

「ただ、凱にとってもあの力を得たのは偶然だったと思う。もしかすると、オレンジサイトで『覇界王』以外の事案で何かあったのかもしれないんじゃないか?」

「でも凱兄ちゃんはそんな事は言ってませんでした……」

「あの『インビシブル』に何か関係が……?」

「それ以上にあいつが言っていた『義妹』だ。血縁者ではないだろうが、オレンジサイトに『義妹』と言うべき奴が現れた……俺は、そう予想している。そしてあの『覇界王』似の『インビシブル』……いや、新たなガオガイガーか?こうして現れた以上は絶対に関係ない訳がない。何か知っているんだろうが、言うには説明が出来ない、ややこしい事態になっていると俺は見ている。」

「……どうしてそう断言出来るんですか?」

「戦いに終始殺気がない……だろ、甲児。」

「その通りだ、竜馬。端的に言えば、敵じゃないんだろうな。無茶苦茶な出力を除けば、戦い方が同型でじゃれ合ってる感がある。」

「ええ……??」

 

「行くぞ!『ファントムリング』、プラス!」

《ではこちらも!『マギウスツール・レフトドリル』、コネクト!》

 

互いに蹴りの勢いで飛び離れ、着地と同時にガオファイガーは腹部より『ファントムリング』を、マギウスは左膝から『レフトドリル』をチョイス。

高速回転する右腕を互いに構え……

 

「ブロウクン、ファントム!!!」

《ドリル・ブロウクンマグナム!!》

 

『ファントム』と『ドリル』が激しく衝突する!!

 

Gパワーを纏った実体削岩機と、同じエネルギー製のバリアが干渉し合い、互いにひび割れる音が痛々しく響いた。ドリルもリングも互いにボロボロになるが、辛うじて勝ったのは、『ドリル・ブロウクンマグナム』であった。

 

《ふふふ、勝ちましたわ!》

「まさかリングが破壊されるとは……だがまだまだ!『ファントムリング』!」

《で、あれば『ライトドリル』コネクト!》

 

戻って来た右腕を装着しつつ、再び『ファントムリング』と『ドリル』を展開する二機。

しかしブロウクンマグナムとして飛ばす訳ではなく、今度は直接殴りに行くようで、豪快に激しく『ファントムリング』と『ドリル』がぶつかり合う。

合間に蹴りや膝のドリル、隙あらば左腕すらもねじ込みにいく。

 

楽しい、実に楽しい。

憧れの人と競い合えるなんて、とカルディナは心底感激する。

その感激のあまり、それが具体的な形となり……

 

───パイロットのGストーン活性化中。Jジュエル、追加で活性化開始

───パイロットの保有魔力(マナ)魔力転換(ドライブ)開始、Gストーン、Jジュエルに同調

───G&Jファイバーにエネルギー流入異常なし。各術式、Gパワーと共鳴。起動、『強化』出力200%

───レヴォリュダー&V.C.によるエネルギー効果の調整、出力余剰分50%反応分に追加

───ドリル・ブロウクンアーム回転開始、ジャイロ運動効果、効率化130%

───ガイガーのGストーン、Jジュエル同期開始……共鳴反応(シルバリオンドライブ)、開始

 

《幾巳、あれ!!》

《まさか……GとJの共鳴現象!?『インビシブル』にはGストーンと、Jジュエルがあるのか?!》

 

《───ウフフ!さあ、お義兄様ァ!これがァ!今の私のォ!全・力・全・壊っ!!!

「!?回避───」

 

《名付けて、デュアル=ワン・ブレイカ(二極一天の一撃)ァァーー!!》

 

GとJを合わせた渦巻く異常なエネルギーをその拳から感知した凱は、上方より振り下ろされるその破格の一撃を紙一重で避ける。

その白銀に染まる(シルバリオンドライブの)一撃は今まで傷一つ付かなかったフィールドを揺らし、ブロックをいとも簡単に破壊し、大地を穿つ!

感極まるカルディナの、思いがけず名付けてしまった歓喜の一撃である。

同時にシミュレーター・ルームに重大なエラーアラームが鳴り響き、大慌てで原因を確認したメイヴィーは発狂した。

 

「ギャァァァアアアアアーーーー!!!『AOS』のサブシステムが一部破壊されたァァーーー!!しかもメインシステムのすぐ傍で、噓何で!どうしてどこから…………マサカ、イマノコウゲキ、デ??

 

その事実にメイヴィーは背筋が凍る思いがした。

マギウス(カルディナ)ガオファイガー()がいるフィールド……否、今まで戦ってきたこの無機質なブロックだらけのフィールドは、ドライストレーガの『AOS』の主要システムの一部が可視化した場所である事に。

ブロック一つ一つがシステムを構築するものだろうが、破壊されなかったのは防壁(ファイアウォール)がよほど強固だったのだろう。

だが、今のには攻撃には《ウイルス》が付与されたようで、耐え切れなかったらしい。

というのも、エヴォリュダーの能力が電子機器にリンク出来る以上、ウイルス攻撃のような役割を果たしてしまい、その上位種である2人の攻撃には耐えられそうもない。

攻撃(ウイルス攻撃)にさらされた防壁(ファイアウォール)が破壊され、小規模単位でシステムが停止。

幸いブロック一つ一つが独立型のようで、破壊されてもいい───

 

《───訳あるかぁぁぁあああああっ!!!今の場所は研究班(私んトコロ)のシステムなのよ、今すぐ止めんかぃッ!!!》

 

おおっと、メイヴィーさんのところでしたか。怒髪天を突く彼女には実害はこの上なかったようだ。

だが非情にも声は届かず、逆に凱の戦意も高揚してきており、純粋に戦う楽しさを覚えている。

 

そんな獅子王凱のステータスがカルディナにはちらりと見えてしまった。

 

 

 

── ガオファイガー ──

 

── ユニット能力 ──

 

タイプ:空陸  空:A 陸:A 海:B 宇:A

移動:6

サイズ:1L

運動性:140(5段階)

装甲:2500 (5段階)

照準値:210(5段階)

 

HP:9300 (5段階)

EN:420  (5段階)

 

カスタムボーナス

特殊能力「GSライド(強化)」の能力が強化され、最大効果時与ダメージ1.2倍、照準値・運動性+40、装甲値+400になる。

 

〇特殊能力

プロテクト・ウォール(強化)*18

GSライド(強化)*19

 

〇武器性能

格闘:プラズマホールド*20   4600

格闘:格闘*21         4900

格闘:ブロウクンファントム*22 5200

格闘:?????

格闘:ヘルアンドヘヴン*23   7200

 

 

── パイロット能力 ──

 

獅子王凱

 

Lv:50(暫定)

Sp:80/165

Score:150(+ G-Ace!)

 

特殊スキル

ネオ・エヴォリュダー*24

???*25

勇者Lv:9*26

底力Lv:5

ガードLv: 4

見切り + 5

気力限界突破EX

ヒット&アウェイ

ExCボーナスEX

戦意高揚

 

精神コマンド

・不屈 (10)

・必中 (15)

・加速 (15)

・気迫 (30)

・決意 (50)

・勇気 (40)

 

エースボーナス

気力150以上で精神コマンド『勇気』を使用すると『魂』『鉄壁』『覚醒』が掛かる。

 

 

カルディナよりはマイルドであるが、これはこれで何かしらイケナイステータスなっている事はここでは追求するのは控えておく。

 

そして更なる攻撃(ウイルス攻撃)が『AOS』を襲う!

 

「それじゃあ俺も、全力で行くぞ───!!」

 

───パイロットのナノGストーン活性化、機体のウルテクエンジンと同期開始。

───エヴォリュアル・ウルテクパワー、ネオ・エヴォリュダーの制御下に同期開始。

───ネオ・エヴォリュダーの能力により出力調整、余剰分60%を出力に転換。

───ネオ・エヴォリュダー能力『C型術式』起動、ウルテクエンジン出力70%増加、転換。

───ネオ・エヴォリュダー能力『Gクリスタル』起動、稼働エネルギー#%&(勇気により無限大)%増加、転換。

 

「新たなるエヴォリュダーの力、見せてやる、はぁぁああああああっ!!!」

《見せなくていいっ!!!》

ネオ・エヴォリュアル・インパクト(新たなる可能性の一撃)ッ!!」

 

膨大なエネルギーを込めた勇気ある一撃───それが紙一重で避けたマギウスのいた足元(先程の一撃を放った場所)に炸裂し、遂に大地が崩壊する!

激震が走り、エラーのアラームが鳴り響き、ついでに研究班のシステム(メイヴィーさんの大事なトコロ)も完全に沈黙。

メイヴィーは口から泡を噴いて倒れた。

 

「うぉ……と!?まさか突き抜けて崩落するとは……カルディナ大丈夫か!?」

《はい、大丈夫です!》

 

崩壊の余波を受けて、崩落に巻き込まれたマギウスだが、ただ落ちただけでダメージはない。

ゆっくり下にあるフロアへ着陸するが……

 

《え~と、ここは……あら??》

《どうした?カルディナ。》

《何か上のフィールドとは違う体の場所みたいで……》

 

見回すと遠くの角に、ひどく驚き、怯えた女性がいた。

他のプレイヤーだろうか?よくふかで、じつにけしからんところが満載な体型をしている。

それでいて、何か怖い事があったに違いない。

それ以外は……中核みたいなものがある以外は変わりないようで……

 

《まあ、いいですわ。あの~、お騒がせして申し訳ありませんでした!()()()()()()()()()、ご安心を~!》

「────!?!?」

 

何を驚いているのだろう?

壊れてしまったものを治すのは当たり前な筈だが……と思うカルディナ。

 

《という訳でV.C.、任せましたわ。》

《自分で言っておいて、私に投げます……?》

《超万能AIさん、最高ですわ。》

《仕方ないですねぇ~♪》

 

フェザーを数機展開し、速攻でデータの修理を始めるV.C.。

さすが『紫の星』が誇った超AI。スキャニングから、まるで何も破壊の痕がなかったように、データのブロックは修理されていき、マギウスも降りてきた穴より出ていく。

だが、モニターに表示された時間は残り60秒を切り、元のフィールドに戻り、降り立つマギウスをガオファイガーが出迎える。

その光景、その一連の流れ、マギウスの凶悪な面構えは、ガオガイガーを元にして創られたラスボスと言っても過言ではないと、誰もに刻み込むには説得力のある光景であった。

 

《もう少し戯れたかったのですが、もうお別れの時間……これで、終局と参りましょう。》

 

両手を広げ、『破壊』と『守護』の力を発動させるマギウス(魔 王)に呼応し、ガオファイガー(勇 者)もその意味を察知し、両手を広げる。

 

「……解った。だったら、これでどうだ!」

 

ヘル アンド ヘヴン!

 

「 ゲム 」

《 ギル 》

「 ガン 」

《 ゴー 》

「 グフォ 」

「《 はァァああああっ!!!》」

 

両者同時に放つEMトルネードは拮抗し、激しい乱気流となって二機の間を乱し、視界を塞ぐが、そんな事などお構い無く、拳を合わせた二機のガオガイガーが飛び出す!

 

「《 ウィーーータァァッ!!! 》」

 

レプリ・ガオガイガー戦を彷彿とさせる、ヘルアンドヘヴン合戦。

だがぶつかり合う『白銀』と『翡翠』はそれ以上の力を出しており、弾けるエネルギーは再びフィールドを焼く程だ。

パルパレーパ戦のように片方(パルパレーパ)が力負けするような事もなく、互いの力、気迫は拮抗し、真に限界を超えた勇気と勇気のぶつかり合いがそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

……だが、終わりは呆気なかった。

 

 

 

[ - ROUND OVER - ]

 

「……っと、何だ?!」

《タイムリミット!?》

「いや時間はまだ数秒あるが、これは……」

 

システムが試合中止(ROUND OVER)を告げた。

これは二機から計測されるエネルギーの膨大さに再現が不可能となり、システムダウンを引き起こす前に()()()()が強制停止を敢行したのだった。

流石にそこまでは把握出来ないものの、終わりが来た事を察知したカルディナと凱。

機体から強制的にエネルギーが抜け、ヘルアンドヘヴンが維持出来なくなった二機のガオガイガーは改めて互いに向かい合う。

 

だが、マギウスの駆体が光の粒子となって消え始めた。

時間が来たのだ。

 

あっという間に過ぎた楽しい時間。

消え始めた事により通信も利かなくなったようで、画面越しでしか見る事しか出来ない。

 

そんな事もあり、マギウスのしょんぼりした様子が窺える。

 

故に凱は左腕を胸に、光輝くGストーンの輝きをマギウスに見せた。

それを見たマギウスも左腕を胸に、Gストーンの輝きを見せる。

 

そして互いに、無言で拳を前に───ぶつける。

 

重厚な音を奏でつつ、響く鋼の拳。

 

 

───俺達の意志は……

───私達の意志は……

 

───勇気と共に!!

 

 

言葉無き言葉を乗せた拳の交わし合いに満足したカルディナは、満面の笑みをうかべ、光の粒となってマギウスガオガイガーと共に消え行く……

 

「ぐっ……!」

 

マギウスガオガイガーの姿が消えた後、力尽きて膝を付いてしまうガオファイガー。

エヴォリュダーである凱も苛烈な戦いに精根尽き果てたといった様子だった。

 

「さすがにキツい戦いだった……俺は一人っ子だったから知らなかったが……妹を持つ世の中の兄は、こんな大変な思いをしているんだな。」

「「「 …… 」」」

 

その言葉を聞いた一同は絶句する。

 

「……凱兄ちゃん。僕も一人っ子だけど、それは絶対に違うと思う。」

「そうなのか!?」

「世の中の妹はここまで凶暴な人はいないと思います。」

 

マギウスガオガイガーVSガオファイガーという壮絶な妹のお守りを行った凱の相当疲れたボケに、護と幾巳が突っ込みを入れ、この事件は幕を閉じた……

 

 

 

 

 

 

………元の世界にて、この一部始終をモニターで見ていた鉄華団一同。

あまりにも酷い顛末にこちらも絶句する。

そんな中、シミュレーターマシンから出てきたカルディナ。

 

「……フフ、ウフフフ。」

「お嬢………顔が気持ち悪いぞ。」

「ウフフフ、フフフフ………」

 

オルガの辛うじて出たイヤミもなんのその。

その日一日、カルディナこれ以上ない笑顔で過ごし、周辺の者達を不気味がらせたという……

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

『30』の世界。

そこに残りし凱もその後何事もなく皆に迎えられ……

 

 

「……んな訳ゃないわ~~~。いったいこれはどういう事か説明して貰いましょうか、勇者王ォォ~??」

「は……はい。」

 

……という、そんな都合のいい話はある訳はなく、そこで終わりではないのが現実である。

結果的に実害がなかったとはいえ、これだけの事を仕出かしたのだ、説明責任というものは不可避である。

故に、全ての事情を知るであろう凱に尋も……もとい圧迫事情聴取を行うメイヴィー。

周りを他のドライクロイツのメンバーが固めているため、逃げ出す事も出来ない。

万事休す、GGGブルー・獅子王凱長官代行。

今回の件では散々メイヴィーを始めとした研究班、そしてドライクロイツをコケにしてくれた『インビシブル』、もといマギウス・ガオガイガー。

 

「あの強大な機体性能とか、『AOS』の知られざるブラックボックスを簡単に解析して修復した能力とか……色々ゲロって貰うネタはあるんですよねェ~~、さあ色々、色々喋って貰いましょうか??ちなみに『実は偶然ばったり出会ったんだ』とかいう言い訳は無しで。」

「………いや、全くその通り何ですが。」

「ああん!?」

「ヒィ!」

 

だがその通りでしかない。いったいどのように説明すればいいか、凱はほとほと困り果てる。

メイヴィーの圧されて、たじたじな勇者王。

何だこの光景は……

 

「何だ、この感覚は……」

「どうしたんですか、大尉にカミーユさん。クワトロ大尉まで……」

「どこかで感じた事がある感覚なんだが……だがこの柔らかさは……」

(この感覚は……だが、いやまさか……)

 

それとは別にニュータイプ勢は何かを感じていた。

そんな時、シミュレータールームに来訪者が。

 

「失礼しま~……って、いったいこりゃ何の騒ぎだ?あの勇者王が、尋問??」

「ん、君は確か……」

「あ、どうも。エッジ・セインクラウスです。」

 

ヒュッケバイン30のパイロット、エッジであった。

 

「ん、エッジか。艦長に所属不明の機体に随伴していった件は、しっかり怒られて来たか?」

「……いやだから、それは俺じゃないって。」

 

『覇界王』戦では様々な事が起こった。

『覇界王』出現時には『インビシブル』出現がその一番大きい事であるが、その他にもこんな事があった。

 

『ヒュッケバイン30、所属不明機に随伴』

 

『覇界王』が出現した際に大量のEI-15が出現し、迎撃する際は多数の機体が投入された。

その内の一機がヒュッケバイン30であるが、いつの間にかドライクロイツが展開する空域から離脱し、『白いモビルスーツ』に随伴して戦闘を行っていた、というも目撃・報告があった。

『覇界王』出現個所から真後ろに出現した、複数の白い花弁状のフレキシブルバインダーらしきパーツを纏ったような機体、通称『ホワイトサレナ』は、広域展開したビット系の攻撃でEI-15の集団を撃破していき、その支援を受けてヒュッケバイン30がツイン・グラビトンライフルをエッジの機体以上の高火力でバカスカ撃ちまくり、EI-15の集団を大多数撃破していたのだ。

それでもドライクロイツが苦戦するレベルでの撃ち漏らした個体数が残ったため、実際に出現したEI-15の集団はとんでもない数だった。

この世界にガンバスターがいたら、宇宙怪獣の兵隊群を想像しただろう。

 

しかし、この随伴機をエッジは知らないという。

 

実際は、チームラビッツやモビルスーツ小隊と一緒に迎撃していた記録があるのだが、ヒュッケバイン30がその場に二体いた事が大いに問題となった。

だが『インビジブル』を含め、これら3機がいなければ物量で負けていた可能性もあったが……

 

どちらがエッジのヒュッケバイン30で、もう片方は誰が乗っているのか??

そして随伴していた『ホワイトサレナ』は何なのか?

 

この度の『覇界王』出現は起きた事案に非常に数多の謎が残ったという。

 

だがエッジから意外な事が語られた。

 

「その件でミツバがみんなを呼んでいたんですよ。でもここにいる奴らは全く返事がなくて、んで俺が直接呼びに来た訳ですが……」

「その素振りだと何か進展があったのか?」

「その通りだ、甲児さん。今現在、『C商会』の会長が来て、ミツバと副長が対応してんだが………」

「『C商会』?聞かない名前だな。」

「C商会……ミシェルが以前言ってましたね。いつの間にか出来た新しい商会らしく、食料プラントをいくつも持っていて、重工業関係はともかく食料品や嗜好品、運送、福祉・医療関係、後は建設業に強い商会だという話です。この戦時下の中で瞬く間に勢力を拡げて、今はGGGやドライクロイツで食料品の取り引きで大部分を担っているって。ルオ商会でもそこだけは勝てないって、ミシェルが愚痴っていました。」

「随分詳しいんですね、ヨナさん。」

「……最近ルオ商会の売り上げが、その商会の影響で下がったって、顔を合わす度に呪詛の如く言われましたら嫌でも覚えるよ、ウッソ。」

「ア、ハイ。」

 

この上なく震えるヨナに、何かを察したウッソ。

商いの禍根の根は深いようだ。

 

「他にも会社に対する社員達の愛社心、忠誠心……って奴ですか、それがとてつもなく高く、引き抜く事すら難しい。何より手掛けた事業はまるで魔法みたいに早く、他の会社の半分の期間で、どこの会社が手掛けた建造物よりも堅牢に竣工するんで、近年の復興作業にここぞとばかりに指名される会社だそうで……」

「相当凄い会社だな。」

「それはいいとしてだ、そのC商会とやらがどうしたってんだ?」

「その会長が機動兵器に乗ってきてやって来たんだが、それが『インビジブル』って言えば、事の重大さが判るでしょうが。」

 

エッジの言葉に一同は絶句。

 

「ガオガイガーを更に怖い仕様にしてるデザインだったんで、滅茶苦茶ビビりましたよ。あれでGGGが知らないっているのも頷ける。更に木星で確認されたヒュッケバイン30と『ホワイトサレナ』が随伴機としてやって来てんですよ、一周回って冷静になっちまった……って、みんなどうしたんだ、その顔。いくら何でも驚き過ぎじゃねぇか?」

 

まるでお化けか、深淵の底を覗いてきたような顔をする一同に驚くエッジ。

 

「……まさかカルディナ??だが、どうなってるんだ、これは。」

 

唯一、察する凱であるが、それ以上に本当にどうなっているのか分からなかった。

そして驚愕と困惑の空気が漂うシュミレータールームに、追って入ってきた人物達が……

 

「……いつまで時間かかってんの、エッジ。」

「あ、ああ。すまん、三日月。呼びに来たのはいいんだが、何かみんな変な空気になってな……」

「変な説明したの?」

「知らねぇよ、カレン!……まあ、あの『覇界王』の後じゃ、みんな変になるのも頷けるが……」

「ん、あのモニター画面に映ってんのは……」

「どうした、ミカ。」

「……オルガ、カレン。あれ見て。」

「あ??マギウス・ガオガイガー……お嬢、何やってんだ。」

「え、何、カルディナ?」

 

「「「───!?!?」」」

 

……どうやら、これで終わりという訳ではないようだ。

 

 

 

《NEXT??》

 

 

 

 

 

……これは、とある公爵令嬢とその仲間達が『スーパーロボット大戦30』の世界に叩き込まれ、この世界を混乱の渦へと巻きこむ神話(マイソロジー)であるッ!!

 

*1
2000以下の射撃ダメージを無効化する。無効化に成功した場合、攻撃を反射し、相手の特殊能力に関係なくダメージを与える。気力110以上で発動。発動時、ENを15消費。

*2
3000以下のダメージを無効化、軽減する。またビーム属性の射撃武器のダメージを2000軽減する。気力110で発動。発動時、ENを15消費する。また毎ターン時HPを20%回復

*3
気力120以上で発動し、気力の上昇に応じて機体の「照準値」「運動性」「装甲値」と与ダメージが上昇する。また毎ターン時ENを50%回復。

*4
自ターン時に『分析』が全敵ユニットにかかる。同時に敵ユニットの運動性を10%低下させる。またマギウス出現後5ターン毎に敵ユニットを一体任意(生物系、ボス系以外)で行動不能にさせる事が出来る。

*5
射程2~6、消費EN5、行動不能

*6
(MAP)、射程1~6、移動後可、弾数3、消費EN80

*7
射程1~4、移動後可、消費EN0

*8
射程2~5、移動後可、消費EN20

*9
射程1~8、弾数5、消費EN30

*10
射程1~6、移動後可、弾数2、消費EN80

*11
射程2~9、消費EN30

*12
射程1~3、移動後可、消費EN70

*13
各能力に+30、最終消費EN−30%減

*14
SP+30、気力限界に+10、ExCが基本ポイントより-1

*15
気力170以上で与ダメージ1.2倍、受けるダメージ0.8倍、気力限界に+30

*16
スキルレベルに応じて、命中率、回避率、クリティカル率、機体の装甲値が上昇する。

レベル9で最大効果となり、命中率・回避率+18%、クリティカル率+15%、機体の装甲値+300となる。

*17
エフェクトの色でチョイス。マジで出来るとは……

*18
2000以下の射撃ダメージを無効化する。無効化に成功した場合、攻撃を反射し、相手の特殊能力に関係なくダメージを与える。気力100以上で発動。発動時、ENを15消費。

*19
気力120以上で発動し、気力の上昇に応じて機体の「照準値」「運動性」「装甲値」と与ダメージが上昇する。また毎ターン時ENを30%回復。

*20
射程2~4、消費EN15

*21
射程1~3、移動後可、消費EN10

*22
射程2~5、移動後可、消費EN20

*23
射程1~3、移動後可、消費EN70

*24
各能力に+35、最終消費EN−20%減

*25
気力170以上で与ダメージ1.2倍、受けるダメージ0.8倍、気力限界に+30

*26
スキルレベルに応じて、命中率、回避率、クリティカル率、機体の装甲値が上昇する。

レベル9で最大効果となり、命中率・回避率+18%、クリティカル率+15%、機体の装甲値+300となる。




スマホを機種交換したら、入力環境が変わってしまい、執筆が遅れてしまった……
フリック入力苦手とはいえ、キーボード入力は前の方が良かったというオチ。

……え、そんな事聞いてない?


それはさておき、いかがでしたでしょうか?
リクエストも重なって、本編の外伝話、という内容で話を作ってしまったのですが、最後は感動というよりも怪談になってしまったというのが私の感想です。
最後に変にお茶を濁すのって、何か作りやすい……(二度目)

ちなみにステータスに関しては盛大なツッコミをお待ちしております。
自分でもアレは酷いと思う……


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Extra mission 02『迫りくる未来(あす)、覆す現在(いま)(1)』

あけましておめでとうございます。

では、リクエスト第二弾~♪

……という名目を借りた、本編消化企画~(隠す気ゼロ。)

ただ、新年早々投稿しようと思いましたが、その直前で厄災続きで少し自重。ご冥福と速やかな復興をお祈り致します。

また、今回の話を作るにあたり、あてにしていた公式ホームページの公開小説が全て消失(当たり前じゃ)

という訳で、僅かな記憶と原作知識、スパロボシナリオを元に、一切合切オリジナル展開でお送りいたします。

それではどうぞ。



『先日は随分気持ち悪……もといだらしない笑顔をしていたと聞く。』

「喧嘩売ってますの?」

《事実では?》

「V.C.ィィィ……」

 

数日後、シュミレーターに足を運んだカルディナは、早くも『管理者』に捕まった。

アカシックレコードの『管理者』は相当暇と見受けられる。

ついでに、ここで限定復活しているV.C.にもツッコミを入れられる始末。

恨みがましい視線を胸の飾り花に送るも、暖簾に腕押しでしかない。

 

《前日までに7件の苦情が入っています。いずれも「笑顔の裏に何かありそうで、仕事に集中出来ない。」と。》

『道理だな。それに気を付ける事だ、カルディナ。お前の行動の一挙一動は既にアカシックレコードに記録されている。』

「んな!?プライバシーの侵害ですわ!」

『超越存在にプライバシーもなかろう。お前は既にその対象となっているのだ。自覚せずとも8K並みの画質で記録されるのだ。しかもどこからともなく、あらゆる角度で……』

「ヒエッ」

『せめて人様に見られても問題ない表情を心掛ける事だな。何せアクセス権限が低いところにあるからなぁ……』

「うにゅにゅにゅ………!」

『まあ、そんな些末な事はどうでもいい。』

「些末!?」

『それより本題だ。カルディナ………お前、『確定未来』について思う事はあるか?』

「……何ですか、その漠然とした話は。」

『持論でも構わん、答えてくれ。』

「確定未来……」

 

『管理者』からいきなりの話で面食らうカルディナであるが、無茶振りされても律儀に答えるのが彼女。

一考してから答えた。

 

「私が思うに『確定未来』は『ラプラスの悪魔*1』と『マクスウェルの悪魔*2』の条件が揃えば出来るかと。」

『なるほど、その【悪魔】を挙げたか。的を射ているな。』

《全知の存在と、事象操作ですね》

「ええ。極端に言えば、瞬時に全てを見通せる存在と、都合のいい事象操作が出来る存在が揃えば、万物をコントロール可能な状態――『因果率操作』は簡単に出来るでしょう。つまり『確定した未来』になる………でもそれが何か?」

『いや、それらを理解しているなら重畳。お前には『ある意味、確定した未来を覆して貰おう』、と思ってな。』

「確定未来を覆す……しかもある意味?」

《言い回しが随分不確定ですね、何か理由でも?》

『カルディナ。お前には既に『因果率操作』を可能とする因子を持っている事は自覚しているな?》

「『アカシックレコード』と『魔法(マナ)』……ですか?」

『それと、無限にエネルギーを生成出来る環境……主に『Gストーン』と『Jジュエル』だな。それだけではなく、お前は『太極』についても熟知している。それだけ極めているのであれば、片足どころか両足がどっぷり浸かっていよう。』

「随分お詳しいのですね。」

『我も体現者だからな。元は五行を極めていた身、陰陽もまた然り。自然と辿り着けた。』

 

声が声だけに、どっちに似ようが説得力は高い。

天変地異すら起こせそうである。(成敗ッ!)

 

『故にその力がどれだけ通用するか、試して貰おう。今回往く世界はアカシックレコードの力を用いて演算して再現した、三重連太陽系の軌跡が紡いだ仮想世界だ。』

「もしかして……GGGの、ガオガイガーがいる世界!?」

《『30』の世界ではないのですね。》

『ああ。あの世界はまだ調整中だ。調整班の連中によると……『集められるだけの滓因子を集めてくる』だそうだ』

《……不吉以外の言葉が出て来ないんですけど。》

『そこは諦めるしかあるまい。我々は出た結果(ラスボス)に対し、全力で祓うのみだ。それはさておき……今回お前が戦う敵は『真理』に近しい存在だ。最後の詰めを誤らず、動揺せず、最後の最後まで事象を見極めるんだ。でなければ()()()()()()()。』

「……い、いったい何と戦わせるのです!?」

『ノーヒントだ、行ってこい!』

《――!直下の物質が消失。》

「話を聞きなさい――って、落とし穴ぁぁあああぁぁぁ――………?!」

 

そうしてカルディナを強制転送した『管理者』。

だが愉快な雰囲気は一切なく、張り詰めた思いを募らせているのようにも見えた。

 

『……すまん、カルディナ。今回の敵は我々にも未知数の敵なのだ。アカシックレコードの予測演算とは言え、お前は『覇界王』の本当の脅威を知らん。今回はその脅威を知るのだ。そして……演算領域と言えど、中身は限りなく本物だ。お前と『覇界王』との()()()()()……それを見極めるのだ。』

 

空いた穴を見つめながら独り語る『管理者』。

しかし……

 

《ん?なかなか空間が修復せんな。何かはさまっているの───》

 

 

───プルプルプルプル……

 

 

《……何故そこにいる?もしかして登って来たのか?器用に四肢を指先まで突っ張らせて。》

「イエッス!ちなみに『管理者』!そんな素晴らしくヤバゲな世界へ私を連れて行くのですから、最低限マギウスに妄想武器の一つや二つ、実装しても構いませんわよね!?」

《……ああ、うん。どうぞ。》

「よっしゃぁあああぁぁぁ…………!」

 

限定空間故に魔法が使えないため、堕ち往く穴の壁面を四肢でよじ登り、這い上がって来たカルディナの、異常に気合いの入った雄叫びが響き、そして木霊して消え、空間が閉じた。

それまで『管理者』は唖然とするしかなかったという。

 

『……何を実装する気だ。』

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

《……げ、月龍、日龍、共に中破!GSライドに異常発生、戦闘継続不能!》

《翔龍!二機の回収を頼む、大急ぎだ!》

《了解!!》

《す、すみません……》

《後を頼みます……》

 

激しいエネルギーの弾雨に貫かれたGBR-14 月龍、GBR-15 日龍を両脇に抱える、GBR-21 翔龍。

その傷は相当深いものであった。

 

「ポルコート!」

《ま、まだ!押されていますが、戦闘継続可能です!》

「後退してポルコート!弾薬の消費が激しいわ!今なら補給にまだ間に合うわ!」

《う……了解。》

 

地球を背にしたオービットベースをゼロロボ達から防衛するため、マシンガンやロングライフルを撃ち続けるGBR-10 ポルコート。

ガンシェパーとガンホークの二体のガンマシンと合体し、ビッグポルコートなって奮戦しているが、如何せん周囲にいる無数の敵、ゼロロボの数が尋常な程に多く、無理をしてでも弾薬を切らしかかっていた。

 

《心配はいりません、私がフォローします。》

《ありがとうございます、ビックボルフォッグ。》

 

だが、そこをビッグボルフォッグが惜しむ彼の背中を言葉で押し出す。

 

《行きますよ、ゼロロボ!『大回転魔弾』!!》

 

広範囲をカバーすべく、高速回転しつつ弾丸を放つ『大回転魔弾』を放ち、次々に破壊されるゼロロボ群。

しかし一部完全にとはいかず、修復され始める個体もいた。

だが……

 

《まだだ!ウルテクビーム、全弾発射!》

《ライトニング・スプラッシュ*3!》

《喰らえ!風道弾(フォンダオダーン)雷楯(レイドゥーン)!!》

 

超竜神、天竜神、撃龍神の攻撃がゼロロボを討つ。

シンメトリカルドッキングを果たしたビークルロボ達の高火力の攻撃はゼロロボの進軍を大いに削いでいく。

 

《これならばゼロロボの進軍()食い止められる!》

《だが気を付けろ、超竜神!本命は――!》

《――高エネルギー急速接近!回避を!!》

《うおおおおッ!?》

 

遠方から迫り来る高エネルギーの豪雨に翻弄されるように、余波エネルギー込みで紙一重で避ける三機。

だが僅かにかすった天竜神の右脚の一部が僅かな余波で焼き焦げていた。

同時に、避けた高エネルギーは背後の隕石群を瞬時にマグマへと成り下げてしまう。

 

 

《ぐっ、なんて火力だ!隕石群がマグマになるエネルギーだなんて……》

《大丈夫か、天竜神!?》

《……っ痛ぁ~!お肌が焼けちゃった。》

《……問題はないようだ。駆動系の確認だけはしておくんだぞ。》

《わかりました、超竜神兄さま。》

《それより最大の難関は……!》

 

三機の見つめる先――そこに君臨するのは暁のように燃えるエネルギーを纏い、天浄より献上された神器を掲げるような姿勢で立ち塞がる、100メートルの鋼の巨人(ジャイアントメカノイド)……キングジェイダー。

 

《ふん、流石に避ける事ぐらいは出来るか。》

《ルネ、降ってしまったとはいえ、元は覇界の将であった者達。一筋縄ではいかないのは承知の上……だがトモロ!》

《ESミサイル装填完了。》

《ESミサイル発射!同時に左腕反中間子砲18連射、5連メーザー砲32連射、両脚メーザーミサイル掃射!》

上下よりESウインドウが開き、交互にESミサイルが三機を狙って放たれるのと同時に、反中間子砲とメーザー砲、そしてあまりスポットが当たらない両脚のメーザー兵器の一斉掃射が三機の不意を突く。

だが何より、この攻撃群はトモロ0117の演算により攻撃間隔、回数と共に回避が非常に難しい軌道を描いていた。

反中間子砲は物質破壊、メーザー兵器は電子機器の破壊に特化している。勇者ロボ軍団にはこの上ない強力な兵器である。

何よりOOO(トリプルゼロ)により際限なく強化されたキングジェイダーの攻撃は当たれば終わりだ。

 

《うおおおおっ!なんて弾幕だ!せめて回避しながらESミサイルだけでも……!》

《攻撃アルゴリズム解析だけでも時間がかかるぞ!》

《も、もうダメ……!!》

 

「――諦めるな、みんな!!」

「まだ終わっちゃいない、護!」

「プロテクトシェード共振波形……よし!凱兄ちゃん!」

「ああ!今、二機の力を一つに――!」

 

「「「ダブル・プロテクト・ウォーールッ!!」」」

 

三機の前に駆けつけたガオファイガー、そして新たなる勇者王『ガオガイゴー』が、共振させたプロテクトウォールを展開した。

 

──ダブル・プロテクト・ウォール

それは、二機の勇者王のプロテクト・シェードのフィールド共振波形数値を合わせる事によるプロテクトウォールの派生である。

ガオファイガー、ガオガイゴーとの連携を前提にしているが、防御力向上のため、オービット・ベースの大型ウォール・リングを用いる事で、覇界王キングジェイダーの一斉掃射をも弾く事が可能である。

本来はダブル・ヘルアンドヘヴンのように、詳細な調整をGGGスタッフが行った上で発動させなければならない程繊細なものであるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()によって瞬時に展開させる事が可能となった。

 

ダブル・プロテクト・ウォールは覇界王キングジェイダーの攻撃を見事防ぎ切り、想像以上の成果にオービット・ベースで戦況を見ていたGGGグリーン長官、阿嘉松は驚きを隠せなかった。

 

「なんつー性能だ。覇界の眷属……特に『(おさ)』相手だと、攻撃が当たれば厳しい戦いを強いられている中、近場にあるものでこんな事が出来るとはな……」

「はい!これもアルエットちゃんのお陰ですね!」

「ああ。寸前だったがよ、実装出来て本当に助かったぜ。」

「は、はい……ですが……」

「……気にすんな。信じた結果がこれだ。情報の提供者は『味方』だったってこった。それより今は目の前の事に集中してくれ。」

「はい!」

「??」

 

阿嘉松の言葉に促され、迷いを払うように集中するアルエット。

だがアルエットにとって、このダブル・プロテクト・ウォールは悪魔の囁きに等しい事案だった。

 

覇界王キングジェイダー出現1時間前、アルエットのデスクに密かに送られて来た仕様書、それがダブル・プロテクトウォールであった。

ファイアウォールに万全を期すGGGのシステムであり、自らが手掛けるものもあるシステムをかいくぐり、一切のアラームもなく、そのデータは届けられた。

イタズラメールの一つ届かない環境故に、初めは警戒心MAXでいたが、中身を見るにつれ、そのプログラムの内容に天才児と呼ばれる自身が圧倒された。

 

ガオファイガーとガオガイゴー両機の使用前提でありながら、無駄のないアルゴリズムの羅列、どこにどう作用するか、一目で『美しい』とわかる。何より即導入可能だ。

これを作った人物は自分以上に天才だ。

だが、システムだけでは完全に扱えない事も示唆されており、獅子王凱のエヴォリュダー能力を中核とした上でパGとJの力を共鳴させるという、パイロット三人の特性前提という『人間臭さ』も持ち合わせている。

 

機械の様な精密さと、パイロットの特性を十二分に知った上での設計……

 

ここまでの事をやってのけるのは今のGGG隊員に居れば名乗り出ている筈、であれば外部犯だ。

だがそんな誰とも知らないシステムを実装するなんて馬鹿げているが、同時に送られてきた強力なシステムを実装してみたいという欲も出て来た。

故に阿嘉松のみにこの事を打ち明け、承諾を得るとすぐに実装された……瞬間に『覇界王』出現の報。

アルエットはこの上なく戦慄した、あまりにもご都合過ぎる展開に、データを送って来た人物はこうなる事態を読んでいたのかと。

 

「……ここまでくると、製作者の顔を拝んでやりたいわ。」

「アルエットちゃん?」

「何でもないです。」

 

ちなみに冒頭で月龍、日龍が負傷させられたのはキングジェイダーの一斉掃射に被弾したせいで、いつもの悪い癖が出た最中に、ゼロロボ相手に翔龍がピンチになっていたのを一瞬傍観していた間に被弾、という自業自得な展開のせいである。

 

いくらガオファイガー、ガオガイゴーでも庇い切れない。

 

「さて、最強の盾を手に入れたのはいいが、ゼロロボと『覇界王』相手にいつまでも防戦一方って訳にはいかんな。早くキングジェイダーのところに行かんと、何せヤツの手には……」

《……ゴルディオンクラッシャー。レプリジンの三重連太陽系で消滅したはずのアレを持ってくるなんて。》

 

キングジェイダーの掲げる右腕にあるディビジョンⅦ 超翼射出司令艦ツクヨミ』、『ディビジョンⅧ 最撃多元燃導艦タケハヤ』、『ディビジョンⅥ 極輝覚醒複胴艦ヒルメ』の集合体であり全長1kmの()()()()()()、ゴルディオン・クラッシャーである。

そしてその最頂部のグラヴィティ・ショックウェーブ発生器は既に展開しているが、キングジェイダーの主武装『ジェイクォース』と合体し、ゴルディオンクラッシャー発動時よりも、超強力なグラヴィティ・ショックウェーブを纏っている。

そしてパイロットのJ-002とルネによるシルバリオン現象と、OOO(トリプルゼロ)の力によりその破壊力、影響余波が天井知らずとなった、名付けるなら──

 

「覇界の銀鎚『シルバリオン・クラッシャー』……ってな!」

「あの威力……触れるだけでも光にされる。ゴルディオンモーターじゃ、もう対抗しきれない。」

《シルバリオン・クラッシャー……いい名前だね、大河長官とジジイ考案のフォーメーションだ。これ以上ない誉め言葉じゃないか。》

「J、ルネ!」

《我等の目的は青の星の破壊……そのためには一撃必殺で葬送するのがふさわしいだろう。》

《心配しなくても、フルチャージしてから光にしてあげる。今の時間はその退屈しのぎさ。》

「これが2人の……みんなの意志なの!?」

《その通りだ、宇宙の意志に従ってとはいえ、苦痛を長引かせるのは戦士として……そして我々の本意ではない。》

《だから一瞬で終わらせてあげる。》

 

覇界の眷属となったJとルネに言葉は通じても、OOO(トリプルゼロ)による『終焉へ導く性質』により、その意志は変わる事はない。

その事を判っていても、その在り様に憤りを感じてしまう凱達だが……

 

《その前に、凱!お前との決着を付ける!》

《……しょうがない。付き合うよ、J。》

「J!!」

 

その人物が持っている心までは完全に変化する事はない。

凱との決着を望むJは直立待機のキングジェイダーの巨体をガオファイガーへと振り向かせ……あろうことか、突っ込んできた。

 

《今のキングジェイダーが……近接攻撃が出来ないと思わない事だな!》

「何!?」

《右腕が塞がっている以外は、別に何だって出来るのさ!》

《オオオオオッ!!》

 

100mの巨体が一瞬の内に間を詰め、ガオファイガーに向けて拳を救い上げるように放つ。

間髪で回避するガオファイガーであるが、その余波だけでも凄まじいが、休む間もなく右腕以外が容赦なく飛んでくる。

 

「凱兄ちゃん!」

《邪魔はさせないよ!》

「!?ゼロロボ!」

 

キングジェイダーとガオファイガーの一騎打ちを邪魔させないと取り巻きのゼロロボ群がガオガイゴーや、他の勇者ロボ達を取り囲み、足止めをするように立ち回る。

隕鉄が多量に含まれる隕石群から生み出されるゼロロボ群はその数を絶やさない。

そしてキングジェイダーの巨体に翻弄されるガオファイガーは、回避するだけで精一杯である。

 

《逃がさん!反中間子砲、五連メーザー砲!》

「くっ!ブロウクンマグナム!」

《ES爆雷、投下。》

「キングジェイダーの姿が――!?」

《――貰った!》

「何――ぐあああっ!!」

「凱兄ちゃん!?」

 

連射を目眩ましにES爆雷による潜行、そしてESウインドウから現れる瞬間のアタックがガオファイガーを襲う。

苦し紛れに放ったブロウクンマグナムすら避け、攻撃に転じるのは見事としか言いようがない。

如何にキングジェイダーといえど、度重なる兵器の使用に貯蔵エネルギーが底を突くと思いたいが、そんな事は一切ない。

それ程までにOOO(トリプルゼロ)の恩恵は計り知れない。

そして最後の一撃はチャージ中のシルバリオンクラッシャーであった。寸前の回避で致命傷は免れたものの、コックピットギリギリを掠め、ガオファイガーの半身がごっそりやられてしまう。

 

「凱さん、脱出して下さい!ガオファイガーはもう……!」

「くっ!フュージョンアウト!」

《止めだ!》

 

凱が宇宙空間へ脱出するのと一拍遅れて、ガオファイガーへ向けキングジェイダーが反中間子砲を放つ。

GSライドが停止しているとはいえ、反中間子の作用で爆発と共に宇宙の藻屑へと変わってしまうガオファイガー。

だがそれで終わりではない。

キングジェイダーの指先が脱出した凱に狙いを定める。

 

《諦めるんだね。》

《生身では最早どうする事も出来まい……我等の因縁もここまでだ、凱!》

「こんなところで――!?」

 

だが、凱は肌身で感じた。

空間が歪み、開く感覚を。

それは『ソキウスの路』。

そして現れる、異形で始祖の頃より地球に住まう守護者達の末裔――

 

「ベターマン!!」

 

ベターマン・カタフラクト。ソムニウム5人の合力合体した姿である。

それはベターマン(最適者)達の降臨であった。

時に手を携え、時に敵となるものの、その本質は地球を第一としている彼らが動かない筈がない。

だが、このタイミングで現れたのにはどんな理由があるのか?

戸惑う凱にリミピッドチャンネルが届く。

 

《元凶なる者よ、今は共に戦わん。》

「ラミア……」

《だが今はお前に戦う力を届ける事が先決。ライ。》

《フフフ、拙者におまかせあれ。『テンプスの路』で開いた路よりきたれ!!》

 

目の前に突如広がる新たなる異次元孔『テンプスの路』。そこから何かが出て来ようとしていた。

しかし――

 

《ベターマンって奴らか……何をするか知らないけど!》

《目の前で易々とやらせんぞ!》

 

何かやらかしそうな雰囲気の相手に待ったをかけられる訳でもなく、真っ先にメーザー砲の照準を向けるキングジェイダー。

 

《困りましたな。目的のモノがくるには僅かに時間が……目の前の御人はそれを待っていただけるでしょうかねぇ?》

《無理に決まってんだろう、ライ!どうするんだ、羅漢!?》

《ンー、慌てるなガジュマル。『かの者』がやると言っていたのだ、それを待てば良かろう。》

《そうだね、ボク達はやるべき事をやろう。》

《きっと凌いでくれるよ、ガジュマル。》

《……わかったよ、シャーラ。》

 

全く慌てる素振りのないカタフラクトに、Jは躊躇わずメーザー砲を放つ寸前――

 

「し、四方から動体反応が多数!!キングジェイダーの前に高速接近!!」

「このタイミングでベターメンの他に何が来やがる!?」

 

阿嘉松の驚きを追い越し、高速で飛来する物体がキングジェイダーとベターマン・カタフラクトの間に割って入る。

 

「――フォーメーション『プロテクト・フィールド』!!!」

 

《何だと!?》

 

必殺の間合いでメーザー砲を完璧に防がれる。

そこにあったのは黒や白の機械化した幻獣と思わしき群体達が展開しているであろう、宙に五芒星を描いた強力なエネルギーフィールド。

更にその上方には……

 

「あれは……ギャレオン!?」

「馬鹿な!?ガイガーは……ギャレオンはジェネシックと共にまだ取り込まれているはずだ!何故ここに!?」

「でもよく見ると、所々色違いね……偽物?」

《ギャレオンだと……さかしい!》

 

ギャレオンがいる――皆の疑問はさておき、2射、3射と次々にメーザー砲を放つが、キングジェイダーは目の前のエネルギーフィールドを撃ち貫けずにいる。

その間に『テンプスの路』より物体が現れた物体が更に皆を驚愕させる。

 

「あれも……ギャレオン!?」

「嘘でしょ!?この場にギャレオンが、2体!?」

 

皆の知る、鋼の獅子ギャレオン。

それが今、『テンプスの路』を通り、出てきたのであった。

その瞬間、凱はリミピッド・チャンネルを受ける。

 

《獅子王凱!そちらのギャレオンとフュージョンを!》

 

透き通った声でありながら情熱的な声のリミピッド・チャンネルであった。

そしてその声を聞いた凱は、何故かその事を自然と信じられ、その声に導かれるままギャレオンの元へと向かう。

 

 

――その刹那の中、凱はとある人物とすれ違う。

背中に天使の羽と悪魔の羽を生やし、白銀の鎧を纏い、銀の長髪をなびかせる、一人の女性───

一瞬だけ視線が合わさり、にこりと微笑む女性───

 

真空である筈の宇宙空間に宇宙服、ヘルメットなしで悠然とキングジェイダーに相対する姿は、初めて出会う筈なのに、凱はどこか親近感を覚える……

 

だがすぐに意識をギャレオンへと向け、叫ぶ!

そしてリミピッド・チャンネルの主もまた叫ぶ!

 

「「──ギャレオォォーーーン!!」」

「「ガオォォーーーン!!」」

 

Gストーンの輝きが互いのギャレオンを導き、ギャレオンもまた、雄叫びを上げて勇気ある者の元に往く。

 

「「フューージョンッ!! ガイガーッ!!」」

 

エヴォリュダー凱は、ギャレオンとフュージョンする事により、ガイガーとなって再びこの宇宙に顕現するのだった。

そしてもう一体のギャレオンも女性とフュージョンし、ガイガーとなり、顕現した。

 

「やっぱりガイガー……」

《馬鹿な……あり得ん!》

 

有り得ない状況に誰もが驚く。

だが驚くのも束の間、ソムニウム達からリミピッド・チャンネルが凱に届く。

 

《元凶なる者よ、その鋼の獅子は過去より導きしモノ……》

「過去からだって!?」

《左様。緊急故にここに導き候。後に返します故、壊さぬよう気を付けて頂きたい。》

「あ、ああ。だとしたらあのガイガーはいったい……」

《ンー、それは当人から聞け。》

《あいつは俺達にも分からん。とてつもなく喧しい。》

《でも優しいよ》

《うん、とても優しい……私達寄りのニンゲン。》

《《彼の者》は我々も持て余す。だがお前達にとっても必要となろう。》

「……わかった、なら今は!」

 

ソムニウム達も困惑する存在である事、敵ではない事は理解出来た凱。

であれば次に打つ手は一つである。

 

2体のガイガー出現にビッグ・オーダールームのスタッフも動揺する最中、ファイナル・フュージョン承認要請のシグナルがメイン・オーダールームに届く。

慌てて報告する初野華とアルエットの様子に、阿嘉松は──

 

「……ど、どっちからだ??」

「りょ……両方からです。」

「片方は獅子王長官代理ですが、もう片方もあのガイガーから。しかもコンソールにメッセージ付きで……!」

「マジか!どんなメッセージだ!?」

「……日本語で『フリで構わないので、ファイナル・フュージョン承認を!』との事です」

「フ、フリって……それでいいのか?」

「もしかして、あのガイガーは、単独でファイナル・フュージョン出来るようになっているのでは?」

「そ、そうみたいです。『イエス!アイキャン!』って……どうします長官??」

「ククク……そういう馬鹿は嫌いじゃねぇ。見せて貰おうじゃねぇか、お前さんの勇姿って奴を!アルエット!お前は凱のを、初野はあのガイガーの担当だ」

「ええ!?どうすればいいんですか!?」

「ガオガイゴーと一緒で構わん!どうせフリだ!」

「ぴゃい!」

 

そう言った瞬間、華のコンソールにガオガイゴーのプログラムではない、ファイナル・フュージョンプログラムが表示される。

 

「きゃあああッ!!なんか画面が変わっちゃったよ、アルエットちゃん!しかも画面が勝手に動いてるー!?」

「……フリって言ったの、何処の誰よ!雰囲気出すと言ってもここまでやる気!?」

「ええい、ままよ!ファイナル・フュージョン、承認だぁぁぁーーッ!!」

「りょ、了解!ファイナル・フュージョン、プログラム──!」

「了解!ファイナル・フュージョン、プログラム───」

 

 

「「ダブル・ドラァァァーーーイブッ!!」」

 

 

───バキィッ!

 

 

《 《 GAOGAIGAR 》 》

 

 

華、アルエットが同時にドライブボタンに拳を叩きつけ、画面に表示される《 GAOGAIGAR 》の文字。

 

「──よっしゃぁぁぁーーーッ!!」

「──さあ、参ります!!」

 

「「 ファイナル・フューーージョン!! 」」

 

2体のガイガーの腰部から噴射されるEMトルネードが巨大な繭のように形成される。

そこにオービッット・ベースより射出され、凱のガイガーの下に疾走するガオーマシン。

追撃するキングジェイダーを体当たりで吹き飛ばし、もう一体のガイガーの周囲を旋回する幻獣の機獣(マギウスマシン)

そして今始まる二つの勇者王降臨の儀式(ファイナル・フュージョン)

 

土竜と幻竜が(あぎと)を開き──

 

疾走する獣が肩を切るように駆け抜け──

 

空を駆ける翼を背に──

 

剛腕を携えた獅子が目覚めた時──

 

勇気の兜を被りし機神(鬼神)が赤と白の御髪を振り撒き、現れる『勇気ある誓い』の顕現──

 

 

「「 ガオ ガイ ガーッ!! 」」

 

 

それは、最強の勇気の証

 

それは、遥か彼方から来た勇気の結晶

 

それは、人類の力を結集した勇気ある誓いの印

 

我等が待ち望んでいた鋼の巨神、その名は──

 

勇者王 ガオガイガー

 

 

ヘルメットより排熱を終えた、並び立つ2体のガオガイガーに全員が驚く。

 

元祖と亜流……今ここに会合を果たしたのだった。

 

 

《NEXT》

*1
【ラプラスの悪魔】

ある瞬間におけるすべての原子の位置と運動量を知り得る存在がいると仮定すると、物理法則にしたがって、その後の状態をすべて計算し、未来を完全に予測する事が出来るという。ニュートン力学に基づく古典論的な世界観における、全知の存在と見なされる。

*2
【マクスウェルの悪魔】

物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェルが提唱した思考実験である。 もし仮に気体分子の動きを観察できる架空の存在――【悪魔】がいたとすると、熱力学第二法則で禁じられたエントロピーの減少が可能になるのではないか、と主張した。

【悪魔】は気体分子の動きを観察出来る架空の存在で、熱力学第二法則で禁じられているエントロピーの減少が可能になるのではないかと主張。その気になれば熱的死すら防げるとか……

*3
パワーアームメーザー砲から発射する高出力ビーム「プライムローズの月」のレーザー拡散発射モードの名称




これ以上災害が続かないように、覇界王キングジェイダー(最上級の自然災害)を止められるように、さあ次の更新を待て!



ちなみに月龍、日龍、翔龍、ポルコートの早期退場の理由は……察して。


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Extra mission 02『迫りくる未来(あす)、覆す現在(いま)(2)』

どうも、お久しぶりです。

1月の震災があってから、何かしら心がしょんぼりして気乗りしないのが続き、気が付いたら2ヵ月……
その間も感想送って下さって返せてない方、すみません。
でも本編は吟味しながら書いています。


それはさておき、Extra missionの続きですが……難敵もいいところだった。
正直言ってOOO(トリプルゼロ)を甘く見ていた筆者です。
何が?との問いに『お嬢様を関わらせたら問題が無限に膨れ上がった。』
宇宙とは、OOO(トリプルゼロ)とは、ガオガイガーとは……
考えていたら、化け物になっていた、そんな内容になっちまった。

『リクエスト企画でここまでやる?』といったら『なっちまった』と答えちゃう筆者の業を許してくれ……
ただし後悔はしていない。

……という訳でどうぞ!



 

 

「「 ガオ ガイ ガーッ!! 」」

 

 

それは、最強の勇気の証

 

それは、遥か彼方から来た勇気の結晶

 

それは、人類の力を結集した勇気ある誓いの印

 

我等が待ち望んでいた鋼の巨神、その名は──

 

勇者王 ガオガイガー

 

 

ヘルメットより排熱を終えた、並び立つ2体のガオガイガーに全員が驚く。

 

特に護と幾巳は尚の事、もう一体のガオガイガーに驚いている。

ジェネシック・ガオガイガーを、そして覇界王ジェネシックを知る彼らにとって、目の前のガオガイガーはまさに非常にそれに近しい存在だからだ。

 

「あれは……ジェネシック・ガオガイガー!?」

「いや、さっきのガイガーと同様にデザインが異なっている。雰囲気こそ一緒だが、あれは別物だ。」

「確かに……フュージョンしていたから、人が乗っているハズだよね。」

「いったい誰なん──全方位通信?」

 

《……あ、あ~、聞こえますか?GGGの皆様、機動部隊の勇者ロボの皆様。そしてガオガイガーの搭乗者、獅子王凱様。それとそちらの新型機……ガオガイゴー搭乗者の天海護様、戒道幾巳様。》

「誰だ……と言いたいところだが、君はそのガオガイガーから通信を発しているのか?」

《はい。それと先程リミピッド・チャンネルをお送りした者……と言えば理解して頂けると。》

「なるほど……俺をギャレオンとフュージョンするよう導いたのは君だったのか。」

《はい。そしてこのガオガイガーは『マギウス』と申します。》

「マギウス‥‥‥ガオガイガー。それがその機体の名前か。」

「あ!もしかして私のところにダブル・プロテクトウォールの情報を送ったものもアナタ!?」

「え?アルエット?」

《はい。お役に立っていたようで何よりです、アルエットさん。さすがガオファイガーのFFプログラムの改善をした方。》

「……その事を知っているって事は、だいぶ私達の事情を知っていそうね。」

《その通りです。ここ数日の近況は密かに見させて頂きました。故に、この状況を演算し、私なりに微々たるものですが、対抗策を導き、お送りしたのです。》

「それについてはお礼を述べさせて頂くわ。でもその前に、アナタ何者??」

「は……はい、私の名前は、カ▩▥▼◈◎◆◌◆▷◆──グェホ!》

「え……なに今の音?」

「ひでぇ雑音の後に、筋が生々しく千切れたような音をしてやがったが……」

《……すみません、ここに来てからというもの、名前を言ったり書いたり、挙げ句には喋ろうとすると酷い干渉を受ける始末で……お嬢様は話せもしなければ、正式名乗れないのです。ちなみに今の音はお嬢様の声帯が干渉を受け、割けてズタズタになった音です。過干渉が酷いようで何度こうなったか……申し訳ありません。》

 

こちらの世界に来てからというもの、GGGのメンバーに限らず、誰かに話しかけようとすると、何かかしら干渉(N G)を受けてしまい、身体の一部が崩壊するという謎過ぎるスプラッタ現象に苛まれている。

そんな事がなければ、わざわざ回りくどい事はせず、真正面から正体を明かし、協力体制を構築しているだろう。

干渉を受ける度にAZ-Mで再生しているため、後遺症こそないが体組織の破壊と再生は負担を負うのでリスクがあり、現在進行形で痛みに耐えながら喉の再生を実行中だ。

演算された仮想世界だというのに、本名NGとかこの仕打ちは酷い。

故にお嬢様の会話は全ていリミピッド・チャンネルでお送り致します。

 

折角格好良く登場してきたのに苦しみ悶えるマギウスの姿に唖然とするGGG。

ベターマン(ソムニウム)ですら呆れている。

 

《ちなみに、他の者が真名を述べても、こうなります。》

「え、本当に?!」

《はい、この方の名前は、カル──》

《▩▥▼◈◎◆◌◆▷◆──グェボ!》

《……とまあ、この通りで。》

「判ったから!!もう名前は尋ねないから止めてェ!!すごい生々しいから!!」

 

晩ご飯に、肉が食えなくなる有り様である。

 

《ご配慮、ありがとうございます。このマギウス・ガオガイガーに搭乗するお嬢様の事は『カルナ』とでも呼んで下さい。》

「……それはいいのか。事情は判ったから、そうしてくれ。」

《承りました。》

《……ブ、V.C.ィ、アンタ後で覚えておきなさい。》

《何のことでしょう?》

《……だい、じょう……ぶ?》

《ん?ああ、紗孔羅さん。大丈夫ですわ》

《気を……付けて……》

「え、ちょ……紗孔羅!?」

 

偶然か昏睡で眠っている筈の紗孔羅ですら、リミピッド・チャンネルを飛ばして来た始末。

ええ、大丈夫です。

それはさておき。

 

「ん?つまり乗ってるの、お嬢様って事は女性なの?」

「そのようだ。」

「え、っていうか、この声……もう一人いるの?」

《申し遅れました、私はV.C.。三重連太陽系『紫の星』の惑星管理サポート・ナビゲーション型超AI、現在はマギウス・ガオガイガーの中核システムです。》

《──『紫の星』、しかもV.C.だと!?》

 

滅んだ筈の三重連太陽系の、しかも『紫の星』にこの場にいる誰もがざわめくが、V.C.の名前に誰よりも早く、過剰に反応したのは吹っ飛ばされキングジェイダー、そのメインコンピューターのトモロであった。

 

《この反応は『赤の星』の生体コンピューター、トモロ0117ですね。お久しゅう御座います。》

《『紫の星』の惑星ナビゲーションが、どうしてここにいる?》

《色々余興ありまして、こうして生存しています。あなたこそ、状況を正しく認識出来ていないようですが。》

《減らず口を。だがあの状況で生存する確率は0に等しい……詳細な状況説明を要求する。》

《煩いですよ、一つ目。ゾンダーに機界融合されて、今度はOOO(世界を覇界する因子)に取り込まれる等、三重連太陽系産のコンピューターとして恥ずかしくないのですか? アベル様の名が泣きますよ。》

《あの無機質ナビゲーションがよく言う。》

《その言葉、そっくりそのまま返します。貴方達トモロシリーズのエネルギーコントロールの基幹システムの原型は、私のエネルギーコントロールの基幹システムを元にデチューンされて組み込まれている設計です。故に私を超える性能を有しないと断言しましょう。その証拠として、その『シルバリオンクラッシャー』なる兵器のチャージに時間を掛けているのがその証拠です。その程度さっさと完了出来ないのですか?それとも、OOO(トリプルゼロ)の影響で組み込まれた有機パーツが腐食しましたか?》

《い……言わせておけば──!》

《やめろ、トモロ。見え透いた挑発に乗ってどうする。》

《あれは明らかに時間稼ぎだろ。連中──特にあのジェネシック擬きは何かを待っている……そんな気がしてならないね。》

《……了解したJ、ルネ。》

 

OOO(トリプルゼロ)に倫理を上書きされているとはいえ、基本的な性格は変わらない。

口論で負けたトモロであるが、Jの静止に従い、ルネの忠告を聞くのであった。

 

《だが、お前を馬鹿にした報いは受けてもいいだろう───チャージならあのジェネシック擬きとのお喋りの間で、もう終えている!》

《さあ、覚悟しな!》

 

OOO(トリプルゼロ)のエネルギーをチャージしたキングジェイダーは、シルバリオンクラッシャーを掲げる。

ゴルディマーグの超AIの代替に、制御システムにキングジェイダーの頭部が設置されたコネクター箇所を握り締める。

暁の炎を纏い、キングジェイダーをも超え、ゴルディオンクラッシャー展開範囲よりも超える大きさとなったジェイクォースが覇界の翼を羽ばたかせ、今にも飛び立たんとしている。

 

「くっ!無駄話をしてる場合じゃなかった!」

「まずはあれをどうにかしないと!」

「ですが凱隊長、もうキングジェイダーのシルバリオン・クラッシャーは射出される寸前です、いったいどうすれば……!」

 

《……大丈夫です、まだ対抗策はあります。》

 

誰もが手をこまねく中、マギウスより女性──カルナの声が響く。

マギウスはゆっくりと前に進み、ガオガイガー、ガオガイゴーより前──最前線に立つ。

絶体絶命な状況であるはずなのに、ガオガイガーを名乗るマギウスはあくまで自然体だった。

 

《今一度思い出してください、皆様の持つ武器、手札、手段、そして……勇気ある誓いを。》

「………」

《相手は真性の天災(覇界王キングジェイダー)。強大ではありますが、対抗出来ない訳ではありません、必ず弱点はあります。》

「……不思議に思っていたけど、君はいったい何者なんだ?」

《私は……とある因果によってOOO(トリプルゼロ)(えにし)を結んでしまった者。ですが、獅子王麗雄博士と絆様、そして『お義兄様』のお力添えによりその(えにし)を超え、ここにいます。》

「何!?父さんと……母さんと!?」

(……それと、お義兄様って誰だ?)

(内容からするとオレンジサイトにいた時の事みたいだ……でも凱兄ちゃんの話では、他にいる素振りはなかったけど……どういう事だ?)

(もしかして平行世界とか……)

 

とても信じられない内容に、3人はカルナ──カルディナを怪しむ。

そんな3人を余所にマギウスはゆっくりと両腕を伸ばす。

そしてその両手の甲に勇気の力──GストーンとJジュエルの光が『カルナ』の意志に呼応するように光る。

それはガオファイガー(エヴォリュダー)と同じ現象である事を、三人はすぐに察し、同時に目の前にいるガオガイガーもエヴォリュダーであると直感した。

だがそれは、機界新種との壮絶な戦いを経験した証でもある、Gストーンの輝きを秘める獅子王凱だからこそだ。

 

であれば、GストーンもJジュエルも秘めた、この勇者王(マギウス)──『カルナ』とは何者なのか?

 

《心当たりがないのは当然です。私は皆様とは関わり様のない場所より来た者。説明と証明にも時間が掛かります。故に今、私の正体は些末な事……ですが突然現れた外様故に、信用もないのもまた事実。ですので今は私のこれからの行動と『私の勇気ある誓い(レヴォリュダーの力)』──その証をもって信用して頂く他ありません──マギウス・ウィングッ!!

 

天使の如く白い翼と、堕天使の如く黒い翼を開きはためかせるマギウス。

だが覇界王キングジェイダーは、機動部隊の一斉射撃でももはやビクともしない状態にまでなっている。

いったい何をするのか───

 

《術式発動、全エネルギー並列処理……解放。》

《まずは、挨拶代わりッ!!!》

《ぐあぁッ!!》

《な、何だ!?》

《右上腕部損傷!右腕のエネルギー回路……全損傷!?》

 

一瞬、銀色に輝いたと認識された瞬間、光速の速さでマギウスが移動、そして激しく揺さぶられるキングジェイダーの右肘が完膚無きまでに破壊される。

更にトモロの報告が、Jを驚愕させる──

 

《馬鹿な、破壊された箇所のOOO(トリプルゼロ)が消失している!》

《何だと!》

OOO(トリプルゼロ)の修復がいやに遅い……どうしてだ!?》

《いえ、特別な事は何も。ただ、私の持てるエネルギーを並列解放して、拳に乗せてぶつけただけですわ。》

《そんなこと……!》

「いや、確かに……今の機動力は、ジェイダーのプラズマウイング並みの機動力でぶつかったのは間違いない。でもあの破壊力は……!」

「一瞬光ったあの光は……GとJの共鳴現象だ!だがOOO(トリプルゼロ)まで消失するなんて有り得ない。それを行うには浄解をせねば……まさか!?」

「カルナは浄解まで出来るというのか!?しかも機体から降りずに!?」

「うそ!?僕達だって出来ないのに!?」

《魔法使いであれば、術式の同時起動など基本中の基本!機体より降りねば出来ない等、愚の骨頂ですわ!》

「魔法使い!?本当に何なのよ、貴女!」

《ぐ……だが、冗談もここまでだ!!》

《さぁ、光に還りな!!》

 

 

シルバリオン・クラッシャァアアァァー!!!

 

 

「しまった!!」

 

右肘を砕かれようが、残った機能が補正し、シルバリオン・クラッシャーは無常にも放たれる。

その覇界のための羽ばたきを、もはや止められるものはいない。

……だが。

 

《……いいえ。チェックメイト、ですわ。阿嘉松長官ッ!!》

「おうよ!どうやってこっちの意図を知ったかは……だいたい察せるから、敢えて細かい事は言わねぇ!!だが間に合わせる事は出来たぜ!」

「ディビジョンフリート『無限連結輸槽艦ミズハ』、『機動完遂要塞艦ワダツミ』、『諜報鏡面遊撃艦ヤマツミ』、フォーメーション位置に到着完了!各艦、変形完了!」

「各艦GSライド同期完了移相鏡面精製開始湾曲空間形成フィールド生成完了!」

「か、各機動部隊は()()()()()()より退避してください!」

「移相範囲の湾曲空間、出力予定数値以上まで上昇、いけます!」

「よぉし、受けてみやがれ!ゴルディオン・クラッシャーにビビッて国連評議会の要望で開発された究極の盾──『プロテクト・リフレクサー』、発動・承認だぁ!!」

 

──『プロテクト・リフレクサー』

それは地球を追放されたGGG艦隊が、起動可能な状態で『ゴルディオン・クラッシャー』を持ち逃げした事に恐怖した国連評議会の要望により開発された天罰降臨の鎚(ゴルディオン・クラッシャー)に対する究極の盾(カウンターツール)である。

3艦の新型ディビジョンフリート『無限連結輸槽艦ミズハ』『機動完遂要塞艦ワダツミ』『諜報鏡面遊撃艦ヤマツミ』が変形合体して完成し、巨大なリング状となり、その全長は。オービットベースをも覆う。

最大の特徴であり、最大の武器『プロテクト・リフレクサー』は巨大な入口と出口が直結された空間湾曲フィールドにより、フィールドに収まりさえすれば威力に関係なく、100%反転させて撃ち返す事が出来る。

その仕様は、かつて大河長官率いるGGG艦隊が『ゴルディオン・クラッシャー』を報復のために使用する事を想定したもの、という非常に保身的な目的で創られたものである。

 

キングジェイダーの眼前に水面と思わしき空間湾曲フィールド『プロテクト・リフレクサー』が広がる。

コースが地球であるため、機動部隊の勇者ロボ達を無視して一直線に飛び立つシルバリオン・クラッシャー(覇界ジェイクォース)だが、想定を超えた状況に止まる事が出来ない。

そして瞬く間に空間湾曲フィールドに飛び込んだシルバリオン・クラッシャー(覇界ジェイクォース)が一時の光の中を駆け抜けたと思った瞬間、シルバリオン・クラッシャー(覇界ジェイクォース)がキングジェイダーの元へと襲い掛かる!

 

《何!?》

《か、回避行動──間に合わない!》

《だったら最小限に避けるまで──!》

 

《──誰が与えますか、そんな暇ぁ!!》

 

出入口連結の空間湾曲フィールドより飛び出て来たシルバリオン・クラッシャー(覇界ジェイクォース)の射線上から移動し、回避するキングジェイダーに、そんな暇など与えるものかと、ここで更に後ろから追撃して来たのは、『マギウス』であった。

まるで予測……否、完全に予測していた『マギウス』はキングジェイダーの背部を蹴り飛ばし、更に自前の『竜』の爆焔で完全に射線上に押し込む。

 

そして──炸裂

 

自らの生み出した圧倒的破壊力で、覇界王キングジェイダーはグラビティ・ショックウェーブの相乗作用と合わさり、塵も残さず光に消え──

 

 

 

──マギウスも一緒に光に消えた。

 

《……く、不覚。》

《まさかこんな事になるなんてね。》

 

──からの復活。

OOO(トリプルゼロ)に染まる者は、浄解以外の手段で滅びる事はない。

それが分子レベルで分解されようが、分子──否、原子単位であっても消滅させられる事はない。

滅びようとも何度でも甦る。

光に還ったキングジェイダーはOOO(トリプルゼロ)の効果により、再生を始めたのだった。

だがその事は今までの『覇界将』との戦いで学んでいる。

今さらの事なので、それで尚、心折れる事のない勇者達。

 

《あらら、まあ。あそこから復活するとは……流石。》

「それは百も承知だ。だがそんな事で僕達は諦めない、でも……」

「……だがカルナ、一ついいか?」

《何なりと。》

「………その致命的な一撃をその位置で(キングジェイダーの後方から)まともに喰らったはずの君が、どうして無事?なんだ?」

《……え~と、うん気合です。勇気があれば可能です。》

「嘘つけェ!!」

 

カルナ相手にオペレーターしながら、ついに突っ込み役と化したアルエット。

OOO(トリプルゼロ)により強化されたグラヴィティ・ショックウェーブ(シルバリオン・クラッシャー)に曝されたはずのマギウス・ガオガイガーが何と復活していた。しかもキングジェイダーよりも早く。

ただし言い訳は、実に雑だ。

 

《嘘、とは申されましても……まあ、GGGにある資料や実験データを参考に、『ゴルディオン・モーター』の原理でグラヴィティ・ショックウェーブを凌いだだけですから。まあそれも半ば失敗に終わりましたが。》

「そんな無茶苦茶な話───って、あん?貴女、GGGの機密資料見たの?」

《はう!?しまったですわ!バレました!》

「バレたって……自白してるでしょ!」

《……お嬢様、するならもう少し格好の良い嘘でもしましょう。》

 

オービットベースに来てからというもの、秘密裏にとはいえ、V.C.や自前の能力(ハッキング)で密かにGGGの機密情報を盗み見ていたのはご愛敬。それまでの覇界の眷属達との壮絶な戦いを見ていた。

また、助力をとエマージェーシーツールで、今一度理解に苦しんだゴルディオンモーターに注目してよくよく読み込んでいたが、そこで時間切れ。残りは帰ってから見る事にしたカルディナ。

 

《いやでも70%は事実ですし、わりかし内臓エネルギーを解放すればどうにかなりましたから……ええ!やっぱり気合ですわ!》

《我等と戦いながら──何をぐあぁッ!!》

《コイツ……私達を片手間に!》

《り、理解不能……!》

 

言い訳はわたわた加減で慌てふためく姿が何とも、可愛らしいとも思えるが、その所作は再生途中のキングジェイダーのボディを、再生を阻害するレベルでえげつなく殴り付けている辺り、カルナという存在は非常にアンバランスに見えた一同。

照れ隠しで殴られる度々、解体──もとい、再生途中の躯体が悉くバラバラになるキングジェイダーが可哀想で不憫でしかない。

 

「……で、その復活出来た最大のネタは何なのよ?GGG(こっち)のセンサーじゃ、貴女一瞬だけど消滅しているのよ!?」

 

アルエットの天才的頭脳を片手で容易く捻る勢いのアイデアで、マギウスは覇界王キングジェイダーのシルバリオン・クラッシャーに耐えきった訳ではない。

まあ、こうなると自ら墓穴を掘ったようなものであるが、隠す気はさらさらないカルディナ。

 

《……先程申しました通り、私はとある因果によってOOO(トリプルゼロ)(えにし)を結んでしまった者。故に私の中にも形を変えて、OOO(トリプルゼロ)があります。その名は『ザ・パワー』。》

「ザ・パワーだって!?」

「でもザ・パワーはOOO(トリプルゼロ)から染み出したものじゃ……!」

《はい。故に浄解し、覇界の因子を取り除いた後、放置する事もやむを得ず、我が身に宿しました。》

「んな……狂気の所業じゃねぇか。」

 

経過が勢い任せだったとは、流石に言えないが。

 

《ですが、私とてこの力は非常に怖いのです。ザ・パワーとて根源は一緒……我が身の内に深く深く、今まで一切触らないように致してきました。》

 

OOO(トリプルゼロ)もザ・パワーも結局は『滅びの力』と言われる程の力を持っており、例え浄解したところで、OOO(トリプルゼロ)と反応するかは不明な上、あまりにも過ぎた力は当初は喜べたものの、冷静に省みると、何もかもを滅ぼすしかない力である事しか解らなかった。

唯一判ったといえばカルディナ×ザ・パワーの組み合わせは『大陸上で解放すれば、間違いなく周辺生態系は壊滅』『各勢力が脅威を誤認したまま、その力をこぞって求めに来る未来(BADEND)が予想』ぐらいだ。

それ故に、カルディナが機界新種戦で自らの力の内で、唯一発動しなかったのはそのためであった。

ただし上記の被害予想は最大ではなく、これに未だに休眠状態の天使、悪魔が加わり、フルドライブする事により引き起こされる被害、というのを付け加えておく。

いづれにしても、OOO(トリプルゼロ)によって誕生したゾンダー、OOO(トリプルゼロ)の影響が非常に強い機界新種にはどんな影響を及ぼすか不明な時点で、予め使うのを止めて厳格に隔離していた。

 

《ですが、私にどんな事情であれ、この様な状況下であれば躊躇など不要!活動環境も宇宙なので被害の心配も無用!()()()()()遠慮なくやらせて頂きます!!》

 

だが今は、機体周辺が赤みを帯びた燃えるような金色──火緋色(ヒヒイロ)のザ・パワーに一回りも二回りも大きく包まれ、同時にマギウス・ウイングより延長される形で、大型のザ・パワーの翼が広がる。

発現元であるマギウス・ガオガイガー、そしてカルディナはこの時『不死の存在』となった。

故に原子分解であろうが、致命傷であろうが『塵』さえ残っていれば生き残る事が出来る。

ただ、これでも全力ではないのだ。

とはいえ、現状況下でも覇界王キングジェイダーに抗う事は可能である。

 

「いや、圧倒してるんだけど!どんだけ突ッ込ませる気!?」

「アルエットちゃん、落ち着いて!」

「まあそこまでにしておけ、アルエット。どうもアイツ相手だと血管がいくらあっても足らんぐらいツッコミどころ満載だが、それ以上に頼もしい助っ人だ。」

「……すみません。」

「でだ、カルナ。お前さん、そこからどうする?そのままじゃジリ貧だぞ。見ている限り与えてるダメージよりキングジェイダーの回復範囲が増えてんぞ。」

 

阿嘉松の指摘の通り、キングジェイダーのOOO(トリプルゼロ)による回復範囲が広がっている。

Jとルネの意志により、その範囲が増えているようだ。

散々煽るようにすれば、怒りの意志も跳ね上がろう。

 

《無論、手は御座いますが……皆様の協力を頂ければ、と……》

「わかった、それが勝利の鍵となるなら!」

「凱兄ちゃん!?……わかったよ!」

「……仕方ない。不安要素はあるが。」

「隊長や護達が賛同するなら!」

「一つ、やってやる!」

「お願い、私達に力を……」

《……ありがとう、ございます。それでは!》

 

 

そしてマギウス・ガオガイガーは『デュアル=ワン・ブレイカー』でキングジェイダーを粉微塵殴り飛ばし、マギウス・ツールを起動させる。

皆に逆転の一手を与えるカルディナが出した答えとは───

 

《マギウス・ツール、マギウス・フェザー!!》

 

マギウス・ガオガイガーの翼部より射出された数々の羽根───マギウス・フェザー。

だが、これを何に使うのか……

 

《皆さん、少しくすぐったいですわよ。》

「え。」

「何?」

「何だ?」

「あう!」

「応?!」

「あん!」

「私も!?」

「───Wtat's happen!?」

 

マイクサウンダース13世(コスモロボ形態)がその異様な光景に目に『?!』を走らせる。

ガオガイガー、ガオガイゴー、及び勇者ロボ達の背部左右逃がさずマギウス・フェザーが突き刺さるという光景で、一見すると、天使の羽根が生え初めた勇者ロボという、よく解らない光景だ。

だが───

 

「──な、何だ!?GSライドに強力なエネルギーが!」

「か、各機のエネルギー総量……300%オーバー?!」

「し、信じられません!各部の損傷も再生しています!」

「ですがこのエネルギー、身に覚えが───そうか!」

「コイツは、Zマスターの戦いで身体に取り込んだ超エネルギー───ザ・パワー!

「何だって!?」

 

驚愕するGGG達。

そしてマギウス・ガオガイガー同様に、赤みを帯びた燃えるような金色──火緋色(ヒヒイロ)のザ・パワーに満たされたボディの背部から広がる、同じく火緋色金(ヒヒイロ)の翼が広がる───以外は何もなかった。

 

「……OOO(トリプルゼロ)に意識を書き換えられるような感覚も、覇界衝動もないです。」

「それどころか、GSライドと共鳴現象すら起きています。これはいったい……」

《ちょこっと調整した成果ですわ。ただ後腐れない代わりに10分で効力は切れますが……》

 

機界原種戦で超竜神が得たザ・パワーと違い、効力切れの後の反動もない代物だ。

名付けるなら『マギウス・ザ・パワー』。

しかし調整が入った故なのか、カルディナ以外には持続時間が短いのが欠点である。

 

「でも、これならキングジェイダーに対抗出来る!」

 

幾巳が自信をもって断言する。

OOO(トリプルゼロ)に奪われた盟友達(Jとトモロ)を取り戻すには充分な戦力が整ったと自負出来たからだ。

更には勇者ロボだけではなく、その力はベターマン達にも与えられていた。

本来ある背翼にもう一対の火緋色(ヒヒイロ)の翼が広がっているのがその査証だ。

 

《これが《暁の霊気》の力か……》

《すごい。身体の痛みが癒えていく。》

《いやはや。本来の力ではないでしょうが、これはこれで使えそうでございますね。》

《僕達が使うとなれば、これ参考になるかな?》

《再現は難しいかもしれない。私達の力の他に、複雑な力で編み込んである。》

《……先代族長の孫ってのは嘘じゃねぇかも。》

《ンー、そんな事も言ってたな。だが使えそうではあるな。》

《………》

 

合体ベターマンの力も十二分に引き出されているようだ。そして何やら密談をしているが、やるならカルディナの感知できないリミピッド・チャンネルの回線を使って欲しいところだ。

そして火緋色(ヒヒイロ)の翼を広げる勇者ロボ軍団……熾天使(セラフィム)の降臨と言った幻想的な光景である。

その光景に誰もが圧倒される……

 

「みんなズルいんダモンネー!マイクも背中に羽根付けたいんだモンネ~!」

《あ。》

 

だが、いきなり出て来たとは言え、マイクの事をすっかり忘れていたカルディナ、そして他全員。

一瞬だけ空気が止まり、和んだ(気がした)。

 

「イエェェーーーイ!!Come on, Rock 'n' roll!!ギラギラーンVV(ダブルブイ)!!ア~~ンド、バーーーーニングッ!!」

 

マギウス・フェザーを付けて貰ってゴキゲンなマイクは、速攻でブームロボへとシステムチェンジし、ギラギラーンVVを取り出す。

そのノリは最高潮である。

 

《マイク、こちらを!》

「What's?このディスクは?」

 

マギウスがそんなマイクサウンダース13世に投擲したのはマイクの使うサウンドディスクと同系列のディスク。

 

《とってもゴキゲンでスペシャルなナンバーですわ!今の勇者ロボ達にはピッタリの曲です!その名も『ディスクB』!》

「『ディスクB』!プレゼンツ、サンキュー!ならマイクも信じてロックンロールするッゼ!」

《さすがマイク。ではこちらも───マギウスツール『ガオガオーンGG(ダブルジー)』!》

 

───マギウスツール『ガオガオーンGG』

それは、特殊なサウンドウェーブを用いて特定の増幅術式を放射、Gパワー由来の機体、兵装に強く作用する他、『マギウス・ザ・パワー』の出力を魔力(マナ)によって勇者ロボ達に対する持続時間を延長、強化出来る、半円形シンセサイザー型のマギウスツールである。形が『G』型ある事が由来だ。

ただし、現実では発動出来るサウンドウェーブと『マギウス・ザ・パワー』の強化術式の制御操作に難があり過ぎてしまい、V.C.にすら苦情を受け、マギウスツールとして納めるには開発が難航している妄想ツール2号である。

ちなみに開発理由は『弾きたい曲があるから』だそうだ。

更にサウンドウェーブ発動の媒介である『ディスクB』も『ガオガオーンGG』からの的確な操作がなければ発動出来ないという、マギウス……というよりカルディナの技量では発動が難しいツールとなってしまったため、残念ながらマギウスとマイクのデュエットとはいかず、ギラギラーンVVを抱えつつ、スタジオ7とドッキングしたガオガオーンGGの両手持ちとなる。

ただし、足りない手は『マギウス・ザ・パワー』のエネルギーから『複腕』を精製、ドカドカーンVを保持する他、ギラギラーンVVとガオガオーンGGにも手を添えている。

 

「イェーイ!『ディスクB』、セットオン──デュエット・センセーション!!」

 

♪赤い炎のアツイヤツ 

 悪を絶対許さない

 正義の心が燃えてるぜ

 青いクールなスゴイヤツ

 敵を凍らす そのパワー

 内に秘める怒りだぜ

 

「ウォオオオッ!!何だこの曲は!!」

「俺達の超AIが……心が燃え上がる!!」

「GSライドからスゴいパワーが出ている!」

 

そして演じる曲は『最強勇者ロボ軍団』である。

勇者ロボ軍団は文字通り、覇界王に拮抗出来る力を身に付けたのだ。

ただし、強化されているのは『マギウス・ザ・パワー』だけではなくGSライドの方もである。超AI()を揺さぶり、勇気を生み出すその歌詞に、勇者ロボ軍団は心打たれている。

その効力は──

 

「ちょ、超竜神と撃龍神のシンパレート───400%?!」

「何だその無茶苦茶な数値は!?だがこりゃもしかすると……!」

 

「これならいけるかもしれん───撃龍神!」

「おう、超竜神!シンメトリカルアウト!そして──」

 

「「「「シンメトリカル ドッキング!!」」」」

 

「幻 竜 神ッ!」

 

「強ォォォ龍ゥゥゥ神っ!」

 

ザ・パワーやOOO(トリプルゼロ)の力で成立する氷竜と雷龍、炎竜と風龍のシンメトリカルドッキングが再びここに成された。

初見の楽器を完璧に演奏するマイク……伊達に『ディスクX』を使いこなしていない。

そしてロボではない方(ベターマン)もパワーアップしている。

 

《活性化の秘術か》

《ンー、興味深い。鋼の有象無象達だけではなく、我らにも効力があるか。》

《浄化された暁の霊気に作用するこの《調べ》……何とも愉快な!》

科学(やつら)の理の中に我らの理も合わせてある。むしろこの構成思想は我らに近い。》

《これ、応用出来ないか?》

《すぐには無理かも。すごく複雑で、綺麗な『線』を描くのは至難の業。そして私達の知らない力がある。》

《でも全く出来ない訳じゃないと思う。》

《ンー、面白い。先々代の孫とやら……改めて力を貸してやる。代わりにその力、もっと見せてみろ。》

《それはどうも!》

 

ダイレクトにくる皆々方のチャンネルが頭に響くカルディナ。

こいつらは色々遠慮がない。

 

《まあ、それはさておき……これで整いましたわ、真正面から貴方達……そしてキングジェイダーを叩きのめせる力が!》

《小癪な!》

《だがJ。先にGGGを、そしてヤツを先に滅ぼした方が良さそうだ。》

《だろうね。戦況はこっちがいつの間にか不利……それも全てあの凶悪なガオガイガーが元凶だ。ヤツを潰せば──!》

《トモロ、ルネ……わかった。相手をしてやろう!》

《いくよ、J!》

《ジュエルジェネレイター、全開。共鳴現象、最大。》

 

2人の助言より、矛先をGGG、そしてマギウス・ガオガイガーへと替えるJ。

そして隕鉄群よりゼロロボを生み出し、勇者ロボ軍団へとGGG、そしてマギウス・ガオガイガーへと向ける。

 

だがそれは矛先を地球から自分達へ向けさせるカルディナ、そしてGGGの策に知らずに乗ってしまった事を意味する。

 

《そうですわ!狙いなさい、私たちを!》

「よし、行くぞみんな!!」

「「「おう!」」」

「イエェーイッ!!」

 

仕切り直しての第2ラウンド。

覇界王キングジェイダーを始め、ゼロロボの軍団が襲い掛かってくるが───

 

「サンダー、ブリザード!!」

「バーニング、ハリケーン!!」

「「 マキシマム・トウロン !!」」

 

幻竜神、強龍神の必殺技が瞬時にゼロロボ軍団を蹴散らす!

マキシマムトウロンで空いた戦場を天竜神とビッグボルフォッグが突出、その背後をガオガイゴーが追う。

 

「ルネさん、目を覚まして!ダブル・リム・オングル!!」

《天竜神、あんた達まで邪魔するのかい!》

「ルネさんが本当のルネさんに戻るまで!」

「トモロ0117、これ以上やらせません!大回転魔断!!」

《ビッグボルフォッグ。昔も今も、やはりお前が立ち塞がるか!》

「それが私の……GGGの役目です!」

 

キングジェイダーの左腕を天竜神、ビッグボルフォッグが制する間、背後にいたガオガイゴーが右腕の上───シルバリオン・クラッシャーのコネクターに設置されているキングジェイダーの頭部に接近する。

 

「J!!」

《アルマ!よくぞここまで!》

「一人の戦士として……いや、大切な仲間を取り戻すために、僕はここまで来たんだ!」

《だが全てはOOO(トリプルゼロ)の、宇宙の意志のままに───!》

「そんな事はさせない!」

《それはこちらの台詞だ!》

 

接近して来たガオガイゴーを迎撃せんと、シルバリオン・クラッシャーをそのまま振るう腕をガオガイゴーはスラスターを全開にし、両腕でを受け止める。

互いに譲れないものがある以上、そのまま拮抗する。

 

「くっ!受け止めるだけで精いっぱいだ……でも!」

「予測通りだ!」

「よぉし!後は───!!」

《任せて下さいませ!!》

 

雑魚を殲滅し、キングジェイダーの動きを一時的にでも制したこの瞬間、後続の二機のガオガイガーが、その猛威を振るう。

 

「ゴルディオンハンマー!!発動!!承ォォ認ッ!!」

「了解!ゴルディオンハンマー、セーフティーデバイス、リリーヴ!!」

「いくぜ、ガオガイガー!!」

「おう!!ハンマーコネクト!ゴルディオン・ダブル・ハンマァァァーー!!」

 

───ゴルディオン・ダブル・ハンマー

対覇界の眷属用として開発された新型のゴルディオンハンマーで、外見は両端に金色の鉄球が付いたけん玉。また、鉄球部分から重力波を発生させる事が出来る。

2007年の京都における対レプリガオガイガー戦において、ゴルディオンハンマーが重力衝撃波を安易に放つことができない際にハンマーが破壊されてしまったという教訓を基に設計されている。

2つの攻撃モードを完備しているだけでなく内蔵している小型ゴルディオンモーターにより、敵の重力衝撃波攻撃を防げる、より攻防に優れたツールとなっている。

 

「行くぞ!『クラッカーモード』!!」

 

攻撃形態その1『ゴルディオンクラッカー』

ハンマー両端の鉄球2つを分離し、その後ダブルハンマーを振り回してアメリカンクラッカーの要領で鉄球を操り何度も重力衝撃波をぶつけて敵を丸く削り取りながら光に変換する。

一撃の出力はゴルディオンハンマーに劣るが、取り回しと小回りの良さではこちらに軍配が上がり、ゼロロボであれば容易に光に還す事が出来る。

進行方向に残るゼロロボを『ゴルディオンクラッカー』で光にながら、キングジェイダーへと肉薄するガオガイガー。反中間子砲であろうと巧みなヌンチャクのようなクラッカー捌きで跳ね退け、更に肉薄する。

 

《来たか凱!!貴様とはここで決着を着ける!!》

「J、OOO(トリプルゼロ)の呪縛を今ここで断ち切る!!」

そんなもの(ゴルディオンハンマー)を持ち出したことろで、シルバリオンハンマーに敵わぬ力なぞ!》

「見せてやる、勇気の力が紡ぐ力、その可能性を!!『スライサーモード』!!」

 

攻撃形態その2『ゴルディオンスライサー』

クラッカーが放つ重力衝撃波をハンマー部に内蔵されたゴルディオンモーターによって薄く偏向させ作り出した光の刃を飛ばす技である。

一撃の威力はゴルディオンハンマーより低下しているが、触れるものすべてを光に変換する特性は変わらない、ガード不能の飛び道具となっている。

 

《何!?》

《右腕損傷……いや、切断された。被害甚大。》

《馬鹿な、ジェレネイティングアーマーすら容易に裂くとは……!》

 

『マギウス・ザ・パワー』で強化されたゴルディオン・ダブルハンマーであれば、命中すれば覇界王キングジェイダーの指どころか、腕すら容易く切断する威力を持つ。

そしてその瞬間、キングジェイダーとシルバリオンクラッシャーが分かれ、この時を待っていた人物に全てを託された。

 

《さあ、推して参ります!!》

 

ガオガイガーの後に座するは、マギウス・ガオガイガー。

その手には無数の小さな刃を兼ね備えた、現代社会でも無限軌道の刃によりあらゆるモノを切り裂く危ない逸品。

そしてカルディナの妄想ツール第1号である。

 

「おいおい、何であんなモノを持ってやがる。俺ですら資料でしか見たことねぇんだぞ。」

「アレもフリでいいんですか?」

「それが向こうさんの要望だからな。少々気になるところはあるが、黙って使われるよりは素直でいいだろう!……『スペースチェーンソー』!!発動!!承ォォ認ッ!!」

「了解!!『スペースチェーンソー』、セーフティーデバイス、ファイナルロック、リリーヴ!!」

《──チェーンソーコネクト!!スペース・チェェーーンソォォォーーー!!》

 

ギュアアアアアア────!!!

 

宇宙空間でありながら、耳をつんざく回転音が全方面に鳴り響く。

 

───スペースチェーンソー

GGGがEI-02襲来以前に設計、開発していたハイパーツール一つである。外見は無限軌道刃のチェーンソーで、他のハイパーツールである『ディバイディングドライバー』『イレイザーヘッド』、そして『グランドプレッシャー』とは違い、核摘出が第一となった対ゾンダー戦では有効なツールではないという理由もあり、完成こそしていたであろうが、一切日の目を見なかった幻のツールである。

故に、アカシックレコード内にも名前のみが記載されており、現物のイラストはない、という。

存在が明確な『ゴルディオンモーター』、一度限りであるがゲーム内で明かされた『グランドプレッシャー』、そして使用されたであろう『モレキュルプラーネ』以上に不遇なツールである。

だが、更に悲惨だったのが現行のGGGに『スペースチェーンソー』の現物はなく、あったのは簡易的な資料のみ。既に『ゴルディオンハンマー』という実績の高いハイパーツール(トンカチ)があり、ゼロロボを芥子粒に還せる『モレキュルプラーネ』というハイパーツール(カンナ)がある以上、ただ切断するだけのハイパーツール(ノコギリ)は解体されたようだ。

故にこれはカルディナが設計、持参した簡易的な骨組みから貫徹で組み上げた、ハイパー(妄想)ツールである。

全長23.4mの回転刃が強力な切断力を生み出すべく、コの字型の安全停止機構(ファイナルロック)を外し、チェーンソーにコネクトしたマギウスの右腕が唸りを挙げる。

 

《ファイナルロック、パージ───さあ、廻れェェェーーー!!!》

 

スペースチェーンソーは、内蔵したGSライドの出力も手伝って暴力的な回転を見せ付ける。

同時にマギウス・ガオガイガーのTGSライドが共鳴(シルバリオン)現象を起こし、スペースチェーンソーにも伝播、そしてマギウス・アーマーを流用した回転刃の一枚一枚よりモレキュルプラーネ、ジェイアークに用いられている反中間子、ゴルディオンハンマーやゴルディオンクラッシャーに用いられる重力衝撃波を同時に放射する。

これにより相転移干渉が働き、接した対象の分子構造を崩壊、分断する仕様となった。

なお、スペースチェーンソー本体にはマーグアーム同様、重力衝撃波に耐えうる装甲とジェネレイティングアーマーを流用したエナジーバリアを使用しているため、放射される反中間子と重力衝撃波は全て本体より緩和、もしくは反射される仕組みとなっている。

接地効果面積幅も10cm程と狭いが、『切断する』事においてはこの上ないモノとなった。

ただし開発に熱心になった影響で、停止ボタンを設置し忘れ、安全機構の1つでもある超AIも設置し忘れ、一度回り出したらコネクターより右腕を外しても内部エネルギーが空にならない限り、回転運動が止まらくなってしまったのはご愛敬。

その場合、空間干渉こそないが、切れ味は反中間子も重力衝撃波もなくとも、平素でゴルディマーグの装甲すら容易に切り裂く。

それを止めるには回転機構を最終停止機構(ファイナルロック)で無理矢理止めるしかないという欠陥を持つ。

ちなみに最終停止機構(ファイナルロック)がないと半永久的に回る。

 

「な……なんて欠陥品。」

《♪くるくる回るぅ~、無限の刃の音は~、文明開化の~、音ォォォーー、ですわ!》

 

アルエットの突っ込みなどお構いなしに、間の抜けた歌(自作)を歌いながらマギウスウイングによる光速移動でキングジェイダーへと急行、スペースチェーンソーを振りかざす。

そして『切断する』事においてはこの上ないモノであり、その効果は───

 

《一刀ォォォ……両ォ断ッ!!!》

《なぁっ!?》

《シルバリオン・クラッシャーを……切断した!?》

 

稼動音とは反比例して一切の抵抗を許さず瞬断する。

 

正確には『ディビジョンⅧ 最撃多元燃導艦タケハヤ』より降ろされたコネクター、そしてそこに接続されているキングジェイダーの頭部を接続部から切断する。ついでに『ディビジョンⅦ 超翼射出指令艦ツクヨミ』『ディビジョンⅨ 極輝覚醒複胴艦ヒルメ』の接続も切断。

刀を納刀するが如く、最終停止機構(ファイナルロック)をスペースチェーンソーに強制的に設置し、止めたのだった。

 

《我が刃に断てぬものなし、っと……そぉ~れッ!!》

 

そして三艦ともそれぞれ蹴り飛ばした。

この瞬間、キングジェイダーとゴルディオンクラッシャーとの接点が断たれた。

そして急速にエネルギー反応を失うゴルディオンクラッシャーと接続を断たれた事でコントロールが瓦解するジェイクォース。それをすぐに戻さんとするトモロであるが、マギウス・ガオガイガーはそれを許さない。

 

《ガオガイガー!!お受け取りになって!!》

《何をす───うおおおおおっ!!?》

《ああああああああ!!?》

 

両手が塞がっていようが切断の瞬間、両脚の『顎』で頭部を保持するマギウス・ガオガイガーが、息吹(ブレス)一発でガオガイガーの元へと蹴り飛ばす。

中のJとルネが混乱していようがお構いないである。

そこに待ち構えるのはゴルディオン・ダブルハンマーを構えるガオガイガーであった。

 

「行くぞ!ハンマー・ヘル!!」

 

光の杭を王冠状の艦橋にカウンター気味に突き刺し、金色のハンマーを叩き付け───

 

「ハンマー・ヘヴン!!」

 

バール状のクローを展開し、覇界の眷属となった者の核───ゼロ核を光の杭ごと引き抜く!

そして飛び出した核をガオガイゴーがキャッチしたのを確認したガオガイガーが、GSライドの出力を最大にした。

 

「光に、なぁれぇええええ!!!」

 

金色の破壊神と化したガオガイガーのゴルディオンハンマーが炸裂、収束された重力衝撃波がOOO(トリプルゼロ)に蝕まれたジェイダーを光にした。

それを見てカルディナは安堵する。

あの三人なれば、後は浄解を果たすであろう。

 

《後はお任せ致しますわ。あの三人であれば大丈夫でしょう。》

《ぐぐぐ……貴様、許さん───ぐあっ!?》

《させん。》

 

頭部を欠いたキングジェイダーが反中間子砲を撃たんとした瞬間、合体ベターマンが重力波で砲身を破壊する。

長らく沈黙していたベターマンはこのために待機していたのだった。

浄解を果たす僅かな隙、それを逃す訳にはいかない。

だが、合体ベターマンの重力波が反中間子砲の砲身、ミサイルコンテナ、更にはES兵器のコンテナすら瞬く間に破壊する。

だが、すぐ様再生するであろうが、今度はビッグボルフォッグが立ち塞がる。

 

「大回転魔弾!!」

《ボ、ボルフォッグ!?やはりお前が最後まで立ち塞がるか!》

「当然です、たとえ目眩まし程度とは言え、私は立ち塞がります!かけがえのない友人にこれ以上の過ちを繰り返させない為にも!!」

《ボルフォッグッ!》

 

変幻自在の攻撃はダメージこそならないが、撹乱にはもってこいであった。

 

《助かりますわ、ビッグボルフォッグ!ならばトモロ、貴方とジュエルジェネレイター、引き抜いて幕引きと致しましょう!!》

《ならば、助力が必要だな。》

《へ??》

《ンー、遠慮するな。剛力合体(サンクトゥス)。》

《ちょ、ま───!!》

《 ア ワ サ レ 》

 

 

夢装超合身

夢装ガオガイガー・マギフラクト

 

《……ったぁ。》

 

ベターマン達が勇者ロボ、もしくはガオガイガーを始めとするスーパーメカノイドの『鎧』となる事で成立する、それが『夢装合身』である。

それをマギウス・ガオガイガーと行ったのであった。

元々流線形、生物型のベターマンのボディであるが、マギウスも幻獣ベースであるため、そのデザインは実によく合う。

黒いマギウスのボディに、乳白色と薄紅色、橙色と紺色というカラーの重厚なベターマンの鎧。

背部には本来ある二対の翼に加え、赤い翼が加わり、より混沌としている。

顔は……もう悪魔と言ってくれ。

また、生物と機械という相反する組み合せは本来非常に相性が悪いが、カルディナというベターマンの血筋がそれを打ち消し、AZ-Mの存在も合わせてちょうど良い媒介となっているため、本来この場で合身するであろうガオガイガーや、覇界王との戦いで合身するガオガイゴーとは違い、桁違いの適合性を誇る、『グレート合体』を果たしたマギウス・ガオガイガーである。

 

《ふむ、悪くないな。》

《ンー、ここまでしっくり来るとは、さすが先々代の孫。》

《フハハハ!ここまでしっくり来るとは笑えてしまいますなぁ!これぞ一心同体!》

《でもここまでしっくりくるなら、機械いらなくないか?》

《そうかもしれない。だが今は仕方ない。緊急時だ。》

《でも次は8人でやってみてもいいと思う。》

《賛成。》

 

《ぁ……あああああああ……!

 

そしてごく自然に合身してしまった、中心たるカルディナは発狂。その目は真っ赤で、見た目は完全にベターマン(ソムニウム)であるが、彼らはそんな事はしない。

 

《煩いぞ、何を騒いでいる。》

《ご、ごめんなさい。前におばあ様と剛力合身した事を思いだしまして……》

《ンー?先々代とな?》

《……あの時の記憶がフラッシュバックしまして。》

 

かつてカルディナがアルフヘイムへ招集された際に祖母(キトリー)より限界バトルを強制された際に、『実』を強制的に『ズキューン!』されて呑まされ、ベターマンにされた後に三日三晩戦わされた、アレである。

その最後の極めつけに「試したい事がある」と言われ、孫と祖母の剛力合体(サンクトゥス)させられた事があった、という。

 

《どうでもいい。》

《ンー、同意だ。それがどうした。》

《全くですな。何が不服ですかな?》

《羨ましい気もするが、今はそれよりもこちらが優先。》

《そうだ、さっさと決着つけろよ。》

《がんばれ》

《でもその時の詳細、後で詳しく》

《……貴方達は。》

 

一部の発言は気になることろだが、今はそんな事はどうでもいい。

今やるべきは───

 

《……では、これで終局と致しましょう───》

 剛力 ヘル アンド ヘヴン

 

《ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ……ふん!!》

 

破壊と守護、陰と陽、正と負──相反する2つの力を合わせ、白銀の渦をキングジェイダーへと放ち、拘束する。

 

《ウィーーータァ!!》

 

そして8人のベターマンの力を合わせ、最大出力でヘルアンドヘヴンを鳥の頭を象った胸部に向け、突撃する。

 

だが、ここからが普段とは違った。

合わせた拳をあえて解き、マギウスより更に豪腕と化した右腕を殴り打つように振りかぶり、放つ。

ジェレネレイティングアーマーをあっさり砕き、更に装甲や隔壁すらぶち抜いて向かう先は───

 

《まずは───トモロッ!!》

《──!?》

 

ジェイアークの頭脳である生体コンピュータートモロ

0117を確保。ゼロ核に包まれていようが感知は可能で、更に事前にアベルにジェイアークの内部構造を簡単に説明を受けていたため、最短距離で駆け抜け、掴み取ったのだった。

だが、これで終わりではない。

トモロがいた中央制御室の床を破壊し、急旋回して次に向かったのは──

 

《Jジュエル、凍結コマンド入力。》

《───ジュエルジェネレイター、確保ォッ!!》

 

おおよそ真下にあったジュエルジェネレイターのコアボックス。臨界寸前であったJジュエルに凍結コマンドを入力し、その上で左腕で引き抜いた。

これは『勇者王ガオガイガー BLOCKADED NUMBERS』より、EI-72とEI-73が合体したゾンダーロボ相手に使用したヘル・アンド・ヘブンである。(ただしIF)

ゴルディオンハンマーが通じない中、2つのゾンダー核を確保すべく、サイボーグシャチ・ヴァルナーとのGストーンとガオガイガーのGSライドが共鳴し、威力を増したヘルアンドヘヴンにより行われた。

本来はGマークに粉砕するのだが、大物《キングジェイダー》相手にそんなチマチマした事は無駄なので、カルディナはマギウスの軌道をGを描くように動き、粉砕したのだった。

 

これぞ、デュアル・ヘルアンドヘヴン

 

トモロとジュエルジェネレイターを両手に、余剰エネルギーが爆発を起こすジェイアークより飛び出した夢装ガオガイガー・マギフラクト。ここに雌雄は決された。

悪魔の風貌とは裏腹に、その姿は正に『勇者』であった。

 

同時に、『マギウス・ザ・パワー』が消え失せ、時間切れを告げた。

ベターマン達も元の姿に戻り、カルディナはコックピットより出て、ゼロ核となったトモロとジュエルジェネレイターのOOO(トリプルゼロ)の浄解を行った。

 

「わ……私は……」

《貴方はただ利用されていただけです、トモロ0117。大成を為した貴方達を責める者はここにはいませんよ。過ちと思うのでしたら、『これから』償って下さい。それに懺悔の言葉があるなら、今は秘めていて下さい。それは『私達』ではなく、『お仲間』に吐き出す言葉です。》

「V.C.……済まない。」

 

後悔の念に駆られるトモロをV.C.がなだめる。そしてカルディナは既に浄解を果たしたサイボーグJ、ルネの元へ運ぶ役目をビッグボルフォッグに渡した。

ついでに光子変換翼の半翼も渡す。戦闘下で何とか回収出来たものであり、これとトモロ、ジュエルジェネレイターがあれば大破したジェイアークとて短期間で再生可能であろう。

 

「お任せください。」

《お願いしますわ。》

 

一礼し、去るビッグボルフォッグの後ろ姿を嬉しく思いながら、カルディナはやりきった満足感に包まれる。

そんなカルディナに、ソムニウムの1人、ラミアがリミピッド・チャンネルを繋いできた。

 

《先々代の孫よ、これからどうするつもりだ?》

《まあ、ここでの役目も果たしましたことですので、元の所へ帰りますわ。》

《そうか。お前にもまだ成すべき事が有るのだな。》

《そういう貴方達にも、でしょう?ですがそれは私には関る資格がない事……でしょう?》

《………》

 

ここに来るまで、事前に彼らソムニウム達とも接触していたカルディナ。

そして彼らより聞いた『真の目的』。

だが、それに関してカルディナはあえて肯定も否定もしなかった。

 

()()を決めるのは、ここにいる者達の権利であり、義務である。

カルディナにはその資格がない事は、重々承知している。

だが、たとえ両者がぶつかろうとも、彼らは決して弱くない。

 

たとえ、この世界がシュミレーションにより再現された世界と判っていても、カルディナはそれを尊重した。

 

《……善き未来を望まれる事を祈っていますわ。》

《無論だ。》

 

静かな、そして確かな強い意志を持った答えを最後に、リミピッド・チャンネルは閉じられた。

これから勇者たちとソムニウムがどうなるかは気になるところだが、とりあえず今はこのミッションを終えたいと願うカルディナ。

 

浄解されたJ、ルネ達がいる場所にトモロを連れたビッグボルフォッグが合流する景色に、《 MISSION CLEAR 》の表示が出た。

 

《さて、これで終わりですわね》

《超AIのさすがに疲れました。》

《そうね、いろいろ盛りだくさんで、私も早く休んで───》

 

《 ─ERROR─ 》
 

 

《……え》

《……エラー?》

 

《 ─ERROR─ 》《 ─ERROR─ 》

《 ─ERROR─ 》《 ─ERROR─ 》

《 ─ERROR─ 》《 ─ERROR─ 》

《 ─ERROR─ 》《 ─ERROR─ 》

《 ─ERROR─ 》《 ─ERROR─ 》

《 ─ERROR─ 》《 ─ERROR─ 》

《 ─ERROR─ 》《 ─ERROR─ 》

《 ─ERROR─ 》《 ─ERROR─ 》

《 ─ERROR─ 》《 ─ERROR─ 》

 

《 MISSION CLEAR 》の表示がかき消され、目の前に広がる《 ─ERROR─ 》の表示。

マギウス・ガオガイガーのシステムの故障なのかと一瞬誤認したが、明らかに違った。

 

《 致命的な《 ─ERROR─ 》が発生しました 》
 

 

《 外部より侵食を確認 妨害不能 》
 

 

《  回線遮断 成功  》
 

 

《 《 DOWNLOAD...100% 》が発生しました 》
 

 

《 《!”#$%&’()=OOO 》がシステム内に侵入しました 》
 

 

《 システム内データを参考に、顕現します 》
 

 

最後のメッセージが表示を終えた後、宇宙が突如として明るくなったと誤認する程の、強烈で眩い光が辺りを照らす。

突如として起きた事に、カルディナもGGGの誰もが戸惑い、(おのの)く。

そして()()はマギウス・ガオガイガーの後ろに散らばっていたはずの、ゴルディオンクラッシャーを構成する三艦のディビジョン艦によるものであった。

()()()()()()()()()()()、三艦のディビジョンフリート艦は三方向に開く翼を描くように、それぞれ規則正しく広がっていた。

 

そしてその中核をカルディナとV.C.は見た。

 

《……うそ、でしょう?なんで、いったいどうして……??》》

《ちゅ、中央に存在する物体……超重力衝撃波の反応、大。識別不明。ですがあれは……!》

 

それは、三艦のディビジョン艦の中核、三角形の中心に座する存在、それは───

 

《こ、『金色の破壊神』……》

《『滅びの悪魔』……》

 

太陽の如き光を発する『金色の破壊神』と称するに相応しく、そして『滅びの悪魔』とも例えられたシルエットを持つ存在。

最強の破壊神であり、三重連太陽系の大いなる遺産。

 

『ジェネシック・ガオガイガー』

 

───否。

 

「──違う。」

「あれは……ジェネシックでも、マギウスでも……ましてやロボットでもない!」

「どういう事だ、天海、戒道!?」

「……メインオーダールーム。今映像を送る、見てくれ。」

「こ、こいつぁ……何だ??」

 

ガオガイゴーより送られてきた映像、それは金色の破壊神となったスーパーメカノイド……らしき巨人。

だが、護の「ロボットでもない」という異常の言葉の意味はすぐに理解出来た。

 

その金色の破壊神は鋼ではなく、幾重にも組み合わさった『獣の骨格』で『人の形』として出来ていた。

見覚えのあるものから、全く見覚えのないものまで、多種多様な骨が重なり合い、そして何より骨でありながら重厚な駆体に見えるのは、その姿形がジェネシック・ガオガイガー、もしくはマギウス・ガオガイガーに酷似していたからである。

今まで相手にしてきた敵の中でも、特に異色の存在である。

更に驚くのは、ディビジョンフリート艦より生成したエネルギーが、OOO(トリプルゼロ)と共に吸い出されるように流動して、その異形の存在に集まっている。

そんな光景に誰もが驚愕する中、全方位通信がその場にいる全員に届く。

 

「ば、場所は……クシナダからです!」

「クシナダからって事は……」

《現行GGGの諸君……そしてガオガイガーのパイロット達、()()()()見事な戦いぶりだった。》

「この声は……まさか!」

《大河……長官っ!》

 

モニターに投影されるのは、OOO(トリプルゼロ)の影響下とはいえ、あの頃の姿と変わらない大河幸太郎、その人であった。

 

 

《NEXT》




如何でしょうか?
原作を読み込んでいる読者には違和感はありありでしょうが、オリジナル展開なのでご容赦を。

そして次回がこの話の最後です。


……ウン、まだ続くんよ。


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Extra mission 02『迫りくる未来(あす)、覆す現在(いま)(3)』

どうもです!

ようやくこの章も書き終わりましたが、毎度のように考察と筆に時間が掛かり、遅くなり申し訳ございません。
故にまた分けます。

……というか燃え尽きた感がある次第。
この章を超える熱さは多分しばらくないだろうと思ってしまう程の熱さでお送りしたします。


 

《こ、『金色の破壊神』……》

《『滅びの悪魔』……》

 

太陽の如き光を発する『金色の破壊神』と称するに相応しく、そして『滅びの悪魔』とも例えられたシルエットを持つ存在。

最強の破壊神であり、三重連太陽系の大いなる遺産。

 

『ジェネシック・ガオガイガー』

 

───否。

 

「──違う。」

「あれは……ジェネシックでも、マギウスでも……ましてやロボットでもない!」

「どういう事だ、天海、戒道!?」

「……メインオーダールーム。今映像を送る、見てくれ。」

「こ、こいつぁ……何だ??」

 

ガオガイゴーより送られてきた映像、それは金色の破壊神となったスーパーメカノイド……らしき巨人。

だが、護の「ロボットでもない」という異常の言葉の意味はすぐに理解出来た。

 

その金色の破壊神は鋼ではなく、幾重にも組み合わさった『獣の骨格』で『人の形』として出来ていた。

見覚えのあるものから、全く見覚えのないものまで、多種多様な骨が重なり合い、そして何より骨でありながら重厚な駆体に見えるのは、その姿形がジェネシック・ガオガイガー、もしくはマギウス・ガオガイガーに酷似していたからである。

今まで相手にしてきた敵の中でも、特に異色の存在である。

更に驚くのは、ディビジョンフリート艦より生成したエネルギーが、OOO(トリプルゼロ)と共に吸い出されるように流動して、その異形の存在に集まっている。

そんな光景に誰もが驚愕する中、全方位通信がその場にいる全員に届く。

 

「ば、場所は……クシナダからです!」

「クシナダからって事は……」

《現行GGGの諸君……そしてガオガイガーのパイロット達、()()()()見事な戦いぶりだった。》

「この声は……まさか!」

《大河……長官!》

 

モニターに投影されるのは、OOO(トリプルゼロ)の影響下とはいえ、姿の変わらない大河幸太郎、その人であった。

だが、勇気のお手本のような熱い魂の熱は感じられず、冷たい眼差しを向けられるのは、彼を直に知る者にとっては非常に辛いものがあった。

そんな状態で()()()()と言われれば、痛ましい事この上ない。

 

《我々もこの度は全力を尽くした。だがキングジェイダー相手にここまで戦い、勝つとは君達の方が一枚上手だったのは認めざるを得ない。実に素晴らしかった。》

「大河長官……そう思うなら投降、という道をお奨めする。」

《悪いがそれは出来ないな、凱。我々もOOO(トリプルゼロ)の意思を受け、ここにいる。地球にいる全生命体を滅ぼすまで、我々は邁進するのみだ。》

「大河長官ッ!」

《……だからこそ、我々はキングジェイダーが敗れる事を想定し、このタイミングで最適手を打てるよう機会を伺ったのだ。ただ、想定外の存在が君達を消耗させ切れなかったがね。》

「……確かに。」

 

想定外───それはマギウスだと凱は直感する。マギウス・ガオガイガーがいなければ今以上に消耗していただろう。

大河長官にとっても、マギウス・ガオガイガーは想定外も想定外、最大級のジョーカーであったのだ。

 

「それで、長官の最適手というのが、そのジェネシックの骸みたいな奴なのか。」

「長官、そいつはいったい何なの!?」

《この方はオウス・オーバー・オメガの根幹にして『覇界王』を超えた超越の存在────『覇界神』だ。》

 

『神』というワードを聞き、一同は絶句し、固まる。

ここに来て、しかも大河長官よりそんな言葉を聞くとは誰しもが想像できなかったからだ。

 

「覇界神……神というにはあまりにもそれは悪魔的ではありませんか?」

《見た目など二の次さ。本質は内にある。》

「……で、大河長官。そいつでいったい何を仕出かそうと言うんです??」

《もちろん、地球の破壊だ。》

「地球の破壊……J達もそう言っていましたが、何故地球を破壊する必要があるのですか?」

《お前たちには関係ない……と言いいたいところだが、一つ教えよう。》

「雷牙博士!」

OOO(トリプルゼロ)の目的は全生命体の抹殺だ。生命体は宇宙に内包するエントロピー変化を大きく狂わす。それは次代への宇宙へと移り変わる際にその宇宙の情報は熱死的状態になった時、生命体の情報が一点に集約される際に、それまでのエントロピー変化に大きな起伏があるとその情報集約に誤差と異常が生じる。つまり、次代への生命誕生に支障をもたらす。その誤差と異常を引き起こす最大の起点が、地球なのだよ。》

「そんな馬鹿な!三重連太陽系のようにオレンジサイトに干渉した訳でもないのに……!」

《だが、いずれそうするだろう。評議会の愚か者達の手によってな。そして既に干渉もしている。『ザ・パワー』として。そしてお前達はその術を持っている。愚かな地球の評議会が中心となってオレンジサイトへ来ないと言い切れない。》

「じゃ、じゃあ、地球が宇宙にとって害悪であると……」

《その通りだ。故に我々は地球を滅ぼす。》

「そ、そんな……」

 

大河長官と雷牙博士から告げられた事に驚きとショックを隠せない。

例えOOO(トリプルゼロ)の影響下での発言であったとしても、それらは紛れもない事実なのだろう。

いくらOOO(トリプルゼロ)の影響下とはいえ、身内の非道は堪える。

そんな中、ガオガイガーへクシナダより通信が入る。

 

《……凱、私達の使命は重大なものなの。お願い、地球を破壊させて。そうすれば宇宙は平穏に最後を迎えられる》

(みこと)ッ!?」

《私は……貴方と一緒に最後を迎えたいの。》

「命、お前まで……!」

 

最愛の人物、命からの言葉に動揺する凱。

───その時であった。

 

《──お待ちなさい!》

「!」

「カルナ……!?」

《皆様、そんな悪意に満ちた戯言に惑わされてはいけません。》

《君は……?》

《お初にお目に掛かります、大河長官。そしてソール11遊星主と戦いましたGGGの皆様。私はこのマギウス・ガオガイガーを駆る者、カルナと申します。》

《初めまして、カルナ君。大河幸太郎だ。》

《大河長官、その勇名は聞き及んでいます。》

《ありがとう。だが、我々の言葉に悪意があると言ったかな?我々に君達を貶めるような悪意はない。あるのは純然たる宇宙の摂理だ。》

《そうですか……では雷牙博士、一つ答えて頂けますか?》

《ぼくちゃんに、何かな?》

OOO(トリプルゼロ)はこの宇宙の法則、万有の理、宇宙そのもの……それは間違いではないですか?》

《その通りだ。》

《ではその『覇界神』とやらも、摂理そのものであると?》

《ああ。この宇宙の、OOO(トリプルゼロ)の体現者だ。》

《そうですか……ありがとうございました、実に下らないご回答でヘドが出ますわ。》

《下らない、だと?》

《はい。実に下らない────『誰か』の意思の下にある、ねじ曲がった意思(モノ)を宇宙の法則とほざく妄言など、実に下らない。》

「『誰か』の意思……?」

 

絶望的な状況の中、カルディナが発した言葉もまた衝撃的であった。

何を根拠に言うのか……

 

《長官が『覇界神』を紹介した際に『この方』と申され、雷牙博士も『OOO(トリプルゼロ)の体現者』と仰られています────何故『人』と例えて仰られたのです?》

《……ただの偶然だろう。言葉の綾であり、相応しい言葉がそれだったのだ。》

《確かにそうとも言えますね……では雷牙博士、熱死的宇宙のエントロピー変化についてですが、博士に物申す事が多々。》

《ほう……言ってみるがいい。》

《では、エントロピー変化の推移変化による情報統合は───》

《ほう、面白い意見だ。だが、エネルギー還元の連鎖反応に───》

 

「……なあ、何か語りだしたぞ、あの2人。」

「凱兄ちゃん、解る?」

「いや、専門的過ぎて。だがビッククランチの発生時のエネルギーの連鎖によるエントロピー推移変化についてと言うのは、何となく。」

「しぼむ時に、膨大なエネルギー推移変化が起こる、という話らしいが……」

「……ごめん僕、全然解らない。」

 

外野を放っておいて、突然専門的学術を議論し始めたカルディナと雷牙。

さすがに大河長官ですら「あの、博士?カルナ君?もしも~し?」と戸惑うが、この2人外野の話を一切聞いていない。

『覇界の眷族』は性格はそのままに、倫理観のみをOOO(トリプルゼロ)に書き換えられている……が、今回はその性格が議論を白熱させていた。

こればかりは倫理観をOOO(トリプルゼロ)に書き換えられていようが、元の性格である以上、どうしようもない。

 

《──という事は、ビッククランチ発生の際には、宇宙全体に存在する質量が想定数値よりも大きくなると、自重力で、膨張から収縮に動きが反転、 存在する恒星や銀河の全てを巻き込んで、時空もろとも無次元の特異点にまで収束する、という事は、やはり間違いないのですね。》

《ああ、その通りだ。正に風船のように萎む。その速さは光速をも超え、一瞬で終わる。ただ流れ出る空気は特異点に吸い込まれるがね。》

《そうですか。なら───そんな大規模収束の最中、どこに地球が影響を及ぼす暇があるのでしょう?暗黒物質が大量に消費されて消滅した訳でもないのに。》

《……人類の生存は宇宙のサイクルそのものを乱す。その存在、生命活動こそが『情報』の軌跡となり残る。故に誰しもがその可能性を有するのだ。過去にもそのような事があった以上は、殲滅する他ないのだ。次代により良い、理想の宇宙を創造するためにな。》

《さしずめ、ソール11遊星主の暗黒物資収集の影響で、この宇宙にもオレンジサイトにも悪影響が出ている、そのようにですか?》

《ああ。オレンジサイトに手を出した三重連太陽系、そもそも奴らは愚かであった。消滅する宇宙より新たな宇宙を創造するなど愚の骨頂。世界の創造者はOOO(トリプルゼロ)に他ならない。脱出計画も意味などない。》

《ならば有機生命体……いえ、何故わざわざ生命体が生まれる因子をビッグバンに込めているのですか?》

《───!?》

 

それが核心をついたものなのか雷牙博士は……いや、大河長官も黙ってしまう。

今まで見たことのない反応に、誰しもが戸惑う。

まるでこと切れた人形のように、焦点が定まらない。

 

《要らぬのでしょう?自ら殺し回るのであれば、サイクルを正すなら宇宙に『意思ある者』は要らない筈。なのに何故生まれる因子を持たすのです?OOO(トリプルゼロ)の言い分であれば意志ある者の存在はそれ自体が()()、されどそのやり方はあまりにも生温い。であればその他の真意は何か……その説明があれば説得力満点なのですが、その点を無視して地球の破壊……それはきっちり「地球に『誰か』にとって都合の悪いモノがある」と宣伝しているようなものです。覇界を示し、ビッグクランチを促進させる理由としてはあまりにも───弱い。》

《……》

《正しく言えば『選定』でしょうか?「誰か」の『都合の良い存在のみ情報を生かす』……であれば受肉した有機生命体がサイクルの圧迫をしなくて済む───ま、無理でしょう。アミノ酸が生成される行程を蔑ろにすれば、今度は別の不具合が起きる───どうでもいい話ですわ。この話はもう、お・わ・り。》

「どうでもいいの!?すっごい核心めいた事を言ってた気がするんだけど!?」

《はい、どうでもいいのです。大河長官と雷牙博士()()()()()との会話は楽しかったのですが、私のこの会話の目的は『誰か』に操られた大河長官達との、下っだらないビッグクランチと、その疑問の討論をするためではありませんから。》

《そ……そのようなことが……我らが話はまだ終わっては……》

 

「──終わりと言ったぞ、虚像(グズ)共がッ!!」

 

ビリビリビリ───ッ!!!

 

「今の声は、カルナ……??」

「……い、今の振動、宇宙が……」

「……揺れた??」

 

《……己が持論の論点を指摘され押し黙るが『神』か?『神』ならばあらゆる事象を完全とし、『世界』に責任を持つのが普通だろう。お前がやっている事は、ただ自分の理想とする世界を宇宙を利用して創生、廃棄している言い訳にしか聞こえない。そこには自分の理想論を欲望のまま押し付け、肝心なところをひた隠しにする『(オマエ)』の意志が見え隠れする、その『纏わり憑くドス黒い穢れ』が隠れていないとでも思ったか……そんな事で、そんな事の為に大河長官や雷牙博士達、GGG皆の誇りを、魂を、お前達が穢すなどッ!!》

 

カルディナの怒りが文字通り、宇宙を震わす。

その怒りが、マギウス・ガオガイガーを熱く、強く、白銀の光で宇宙を照す。

それはあらゆるモノに分け隔てなく光を照す太陽の如く、不浄を赦さぬ、浄化を促す天罰の光の如く。

怒りだけでなく、OOO (トリプルゼロ)に囚われたGGGメンバーがいいように弄ばれた悲しみもあった。

 

《覇界神、OOO(トリプルゼロ)ッ!!私は、お前達を───赦さないッ!!》

 

そしてカルディナには見えていた、レヴォリュダーの眼が、囚われた彼等に憑き入るモノが。

カルディナの言う『纏わり憑かせているドス黒いモノ』は、カルディナの光に触れると急速に消滅していき、僅かに残ったモノがGGG隊員達の身に潜める行動を取り、そして苦しむかのような様子が出ている。

その一部始終がモニター画面にばっちり映し出されていた。

 

「な、何だ、今のは……」

「今のは……OOO (トリプルゼロ)、なの?」

《む、むぅ……どうやら追い詰められているのはこちらの様だ。そして、カルナ君。まず君を破壊せねば、地球の破壊も難しいと判断しよう。》

《なら、こうするしかないのぉ……》

《うむ。総員、フォーメーションGG(ダブルジー)、発令!!》

 

《スワン君、国連事務総長より受け取ったキーを。》

《イェッサー。》

 

人類の叡智、繁栄、その終焉の為に……ゴルディオン・ヘルアンドヘヴン───

 

《発動、承ォォ認ッ!! 》

《超翼射出指令艦ツクヨミ展開。》

《極輝覚醒複胴艦ヒルメ展開。》

《最撃多元燃導艦タケハヤ展開。》

《ツクヨミ、ヒルメ、ドッキング。続いてタケハヤ、ドッキングします。》

《全出力接続完了。量子回線構築、超重力衝撃波発生器、接続開始。》

 

発動する合体シークエンスはその場にいた誰の予測を超えた。

ツクヨミ、ヒルメ、タケハヤがドッキングし、『覇界神』をカタパルト上に配置、ヒルメの超重力衝撃波発生器がカタパルト前方に『砲』のように配置されている

ドッキング、と銘していながらに行っているのはカタパルト射出機のような配置である。

だが各艦が連動した推力を出せるなら、明らかにその出力は破格。

『覇界神』の両腕を広げたその拳に強大なOOO(トリプルゼロ)のエネルギーが発現、合掌し合わせる。

 

「あれは……ヘルアンドヘヴン!?」

「ガオガイガーに似ているからとはいえ、もしかしたらとは思ったが……まさか!?」

 

超重力衝撃波発生器、8器がヘルアンドヘヴンの拳に旋回するように集まり、連動する。

 

《ゴルディオン・ヘルアンドヘヴン……これが我々の勝利の鍵だ。》

《ディビジョンフリート艦3艦の超重力波発生器からの出力と、OOO(トリプルゼロ)による無限出力で、ゴルディオン・クラッシャー以上のグラビディ・ショックウェーブを収束、カタパルトを用いて『覇界神』の力と共に突撃し、地球の地殻を貫通し、グラビティ・ショックウェーブを外側へ放出、地下マントルを破壊する。光速を超えた一撃だ。たとえ先程の反射を用いようが、範囲外へ向かう事も出来る以上、その前に地球を破壊出来よう。》

「外部から破壊するのがシルバリオン・クラッシャーなら、内側から破壊するゴルディオン・ヘルアンドヘヴン……!」

「あれじゃあ、プロテクト・リフレクサーでも意味がない!」

「そ……そんなモノを持ち出して来やがるとは、見損なったぞ、クソ親父ィィーー!!」

 

阿嘉松の悲痛な叫びがオーダールームに響く。

だがそれに相応しい絶望があるのは間違いなく、カルディナも手の内の真っ向勝負や奇抜な手法も、眼前の『覇界神』には意味を成さない事を悟る。

 

《……悔しいですが、あの組み合わせは最善手。あれ以上の出力、破壊力を持たす術が……!》

 

「───おい、そのマギウスとかいうガオガイガーのパイロット……カルナと言ったな。」

《……J-002、どうしました?》

「率直に言う。貴様、ジェイクォースを使えるな?」

《……多分、ですね。どうかしらV.C.?》

《キングジェイダーのプログラムを完全には把握していませんので、連射は難しいですが、保持か密接状態であれば……って、まさか。》

「どこで知り、何故か扱える見ず知らずのお前に託すのもの癪であるが、使え。幾分か足しになるはずだ。遊ばすには勿体ないだろう?」

《あの戦いで、お前たちはJジュエルの凍結コマンドを使用した……つまりはジェイアークについて幾分か精通していると考察出来る。》

《トモロまで。いやまぁ……そうですが。》

「なら出来るだろう?そして出来るだろう、貴様には。」

《判りました。V.C.!!》

《いいでしょう。ジェイクォースの確保を完了。ジェイクォース、制御プログラムのローディング開始。》

《……ならば、来なさい!!》

 

キングジェイダーとの戦いで、シルバリオン・クラッシャーから外れた『ジェイクォース』。

宇宙空間を漂っていたそれは、OOO(トリプルゼロ)のエネルギーが未だ残っているが、マギウス・フェザーにより確保、誘導され、マギウス・ガオガイガーの手に掴まれた瞬間、OOO(トリプルゼロ)は消失、呪いから解き放たれたように銀色に光り、そして赤いエネルギーを纏う。

それは不死鳥はまだ死んでいないと、力の限り叫ぶかのような光景であった。

 

《ジェイクォースの残留OOO(トリプルゼロ)、消失。『マギウス・ザ・パワー』に転換完了。エネルギー充填開始。》

《貴方もくやしかったでしょう……貴方の主から託された想い、無駄にはしない!》

《Gストーン、Jジュエル同調完了───行けます。》

《これで、終局と致しましょう───》

 

シルバリオン・ヘルアンドヘヴン

 

───シルバリオン・ヘルアンドヘヴン

それはジェイクォースをマギウスツールと代替した、ヘルアンドヘヴンの亜種である。

ジェイクォース(Jの力)ヘルアンドヘヴン(Gの力)を同時併用し、同時にマギウスフェザーを超重力衝撃波発生器の代わりとした、疑似『シルバリオン・クラッシャー』である。

最大の違いは、ジェイクォースを撃ち出すのではなく、ヘルアンドヘヴンと同期する事で、同時に突貫する仕様である。

尚、この形態はシルバリオン・クラッシャー同様、威力が高すぎるため、核摘出には向かず、対象の完全なる殲滅を目的とする。

 

そして両者同時に対峙する、金と銀───二つの滅びの力。

両者の力は、どちらも星を殺せる程の力。

 

《行くわよ『覇界神』!!》

《───!》

 

その圧倒的な力の余波のぶつかり合いにその場にいる全員が目を見張るが、その均衡を破ったのはカルディナの怒りと悲しみ、そして圧倒的な相手に立ち向かう勇気。

 

「ウィーーータァッ!!!」

《□□□□□□□ッ!!!》

 

だが舌戦で負けたとは言え、本来の目的には然程も支障のない『覇界神』も何一つ気配を変える事なく、その拳はマギウスを定め───その向こうにある地球に凶拳を向ける。

 

そして激しくぶつかる二機。

その衝突は光速を超えたが、その事が誰にも予想すら出来ない事を引き起こした。

その異常に気付いたのはV.C.であった。

 

《く、空間に異常発生──重力計測数値が反転!?》

《V.C.、どういう事!?》

《失念……していました、このままでは……!》

 

周辺の物質が二機の間へと、物凄い勢いで引っ張られ、消えて行く、しかも際限なく、一向に治まるどころか悪化していく。

そこにあるのは真っ黒な深淵たる常闇(とこやみ)……

そしてオーダールームでは(ヤン)博士が事態の異常さに気付く。

 

「この現象は───あり得ない話ではないが……!」

(ヤン)の旦那、これは何がどうなってやがる!」

「私にも全容は掴めないが……OOO(トリプルゼロ)で強化された超重力兵器(ゴルディオンクラッシャー)超重力兵器(シルバリオンクラッシャー)のぶつかり合い等という、人知を超えた所業だ、その超重力で特異点たるブラックホールなど出来る事は予想はしていたが、こうも簡単に……だが問題はその後……今度はブラックホールすら圧縮されるこの状況……見てみろ、ブラックホールが急速に縮退されていく、その後を……!」

「嘘でしょ……ブラックホールが、光ってる?!」

《例えるならアレは『疑似中性子星』、中性子星のなりかけの塊です。行き場を失ったエネルギーが高密度圧縮され、崩壊前のカタチへと還元……いえ()()している、それが今の状態です。》

 

太陽等の恒星が燃え尽きた後、超新星爆発を経て数倍の質量を持つ星が残る。それが中性子星。

だが本来は恒星→中性子星→ブラックホールの順で発生するが、今は現象自体が逆行、遡行して発生している。

そして逆行しているという事は、この中性子星が前段階へとシフトしようとしている事が伺い知れる。

それが超重力衝撃圧縮による爆縮の影響とは誰しもが思いもしなかったのだった。

 

《中性子星は超新星爆発によって生まれます。》

「つまりこの次に起こりえるのはこの距離での、超新星爆発だ!」

「おい、待てよ……この宙域で超新星爆発なんぞ起きてみろ、太陽系の前に俺達なんざみんなオダブツだぞ!」

《それだけではありません、超新星爆発の被害以上に通常の数千倍以上の重力圧縮によって生成された、中性子星内部に蓄えられているであろう『ストレンジ物質』、それらが解放される可能性もあります。》

「ストレンジ物質!その可能性もあったか!!」

 

楊博士が頭を抱えてしまう。

それは宇宙で一番危険な物質───ストレンジ物質。

元々出来た経緯が恐ろしいものであるが、中性子星の内部物質は元素として非常に安定している。

だが、その中に凝縮されている素粒子『クォーク』には、生命──しいては現在する物質にとって害悪となるものがある。

それこそが『ストレンジ物質』と呼ばれる素粒子である。

 

『ストレンジ物質』とは、元素内のクォークが自由に動き回るクォーク物質の中でも、アップクォーク、ダウンクォーク、ストレンジクォークが同比率で存在する物質である。

だが、中性子星が崩壊する事態となれば生命体にとって、この宇宙でこの上ない害悪をもたらす。

 

「……その危険性は『破壊』と『感染』にある。」

《ストレンジ物質が他の物質に付いてしまうと、あらゆる物理法則をねじ曲げ、その物質の組織を有機、無機関係なく、呆気なく『破壊』します。その様は正に『感染』。素粒子単位の飛沫物が物理的閉鎖すら不可能なレベルで襲ってくる……しかも天文単位の距離を一瞬で皆殺しにします。》

「そして破壊された物質は更なる『ストレンジ物質』となり、連鎖的に広まる……そうなればあらゆる生命、物質は死滅するしかない!」

「ゾ、ゾンダーや機界新種より被害が酷い……!」

「っていうか、ストレンジ物資の(くだり)って、機界新種の物質昇華と話が一緒じゃ……!」

「あー!今はそんな事を考えている暇はないわ!」

「その遡行が終わったとしても、次に誕生するのは恒星───つまり太陽だ。」

《こんな至近距離で恒星が誕生してしまえば、その熱波だけで何もせずとも地球は()()、恒星同士の近距離干渉でこの太陽系は───滅びます!」

 

それは非情なる宣告でもあった。

強者の競り合いが地球最後の宣告と同義であった事が。

例え、2機のぶつかり合いで、中性子星誕生までにとどまったとしても、中性子星は地表から1000km程度に近づくだけでも水の反磁性により細胞が破壊され致命的な影響を受ける。 また化学反応も10万t前後までくると、原子核内の電子状態が変わってしまうため化学式通りの反応が起こらなくなり、どのような影響が起きるか、未知数となる。

 

だが一つ勘違いしてはいけない。

光速で飛来するゴルディオン・ヘルアンドヘヴンを防ぐためには、間違いなくシルバリオン・ヘルアンドヘヴンで迎撃、対抗する他なかった事を。

例え、他の勇者ロボ達を向かわせたところで、彼等では無力。

勇者王とて、『マギウス・ザ・パワー』の恩恵が切れた今のタイミングでは、この所業に参加する事は無謀と言える。

故に、止める事は出来ない。

止めてしまえば、競り負けて『覇界神』に地球に到達されてしまう。

故にカルディナは『覇界神』との対峙を止める事が出来なかった。

故に、それ以外の選択肢がなかったのである。

だが、立ち塞がるは全てを光にせんとする『覇界神』と全長30mにまで成長した中性子星という前代未聞の障害なのだ。

 

《ふむ、予定とは違うが……》

《これはこれで地球を……この太陽系すら滅ぼせよう。》

「──このクソジジィ!!まだこの期に及んで!」

《ルネか。OOO(トリプルゼロ)の恩恵から外されてしまうとはのぉ……》

「うるさい!!このままで済むと思うんじゃないよ!」

《だがどうする。事態は最早人類の科学力ではどうにも出来ない領域に達しようとする……ただ死を待つのみだ。》

「くっ……!」

「もう……打つ手はないのか───」

 

 

 

 

 

 

 

《……あります。打つ手は、あります。》

 

「───カルナ!?」

《今ならまだ……手の打ち様はあります───ぐぅッ!!》

《お嬢様!このプランは危険です!》

「カルナ!どんな方法なんだ、教えてくれ!!」

《V.C.、お願いッ!()()をみんなに───!!》

《う~……!どうなっても知りませんよ!》

「これは……!?」

 

GGGの各隊員の下に送られたのは、この状況を打開すべく、急遽カルディナが作成した作戦計画書(日本語)。

だが……

 

「ちょ……この方法は……!」

「……成功確率が数%、いやほぼゼロじゃねぇか!」

《とは言え、これしかァ───方法は思い付きませんの、でェ……!!》

《駄目です!こんな方法……お嬢様が死んでしまいます!私の負担も多過ぎます!自己犠牲に巻き込まないで下さい!》

「ああ、ダメだ。こんな方法はGGGブルー長官代理としても受け入れられない。」

《……うぅ。》

 

送られてきた計画書は内からも外からも、けんけんほろほろに言われる始末。

それは相当無茶苦茶な内容であった。

流石に、凱も反対の意を表している。

そんな意気消沈したカルディナの気持ちを代弁してか、ジェイクォースにも罅が入る。

 

「カルナ、これじゃ君にだけ負担が伸し掛かるようなものだ───俺達に、何が出来る!?」

《……ふぇ??》

「何腑抜けた声出してるのよ!?やっちゃったものは仕方なしに、こんなのアンタの内部システムだけで、外部のサポート無しの独断でやろうとするのがいけないのよ───みんなで、早くやるわよ!」

「時間がねェんだろう!?あの疑似中性子星を相手取ろうとするんだ、各機の調整が必須だ!みんな、2分以内で機動部隊の調整を終わらせろ!」

「「「了解!」」」

《み、皆さん……》

「……カルナ。ここには、たった独りの自己犠牲に甘んじる人はいない。」

「そうだよ。君は僕達に勇気を見せてくれた、なら今度は僕達が報いる番だ!」

「そして見せてやるんだ、OOO(あいつら)に───俺達の勇気の力を!」

《……そうですわね。GGG憲章第五条 一二五項でそう仰っていましたわ!」

「GGG憲章第五条 一二五項……!」

「そうだ、GGG憲章第五条 一二五項……」

 

GGG憲章第五条 一二五項

GGG隊員は、いかに困難な状況に陥いろうとも、決して諦めてはならない。

 

皆からの言葉で吹っ切れ、意を決するカルディナ。

最早、白銀に輝く瞳に迷いはない。

そして改めて自分達が何をすべきか確認するGGG隊員達。

GGG隊員は、いかに困難な状況に陥いろうとも、己の、そして皆の勝利を決して諦めてはならないのだ。

 

《マイク、『ディスクB』と『ガオガオーンGG』は!?》

「OK、準備完了!いつでもセッション出来るッゼ!」

「各機動部隊のエネルギー障壁システム出力変更!」

「高重力下にもOOO(トリプルゼロ)にも一時的だけど耐えれる仕様よ!エネルギー切れには注意して!」

「おっしゃあ!」

「これで俺達も!」

「だが、この設定で作戦に必要な速度が出せるか……」

「──超竜神!」

「む、翔竜!それにビッグポルコート、大丈夫なのか!?」

「我々の損傷は問題ない。むしろ日龍と月龍をなだめるのに時間が掛かったぐらいさ。」

「うん、日龍や月龍を何とか説得して出てきたよ、それよりも───撃龍神と天竜神にはこれを!」

「あ、それはSPパック!」

 

SPパック──それは竜型ビークルロボ用に開発された、宇宙姿勢制御パックである。

シンメトリカルドッキングしたビークルロボの両肩に装着される事により、宇宙での移動が格段に速くなる。

尚、天竜神用のものは、超竜神のものを流用している。

それを撃龍神、天竜神の両肩に装着される。

 

「これで速度が段違いに速くなります。」

「有り難い!」

「でも超竜神兄様のは?」

「もちろんあるよ──超竜神、僕と合体だ!!

「そうか!わかった、行くぞ!」

 

「「「トリニティドッキング!」」」

 

「翔・超ォォ竜ゥゥ神ッ!!」

 

超竜神と、グリエノイド・翔竜がトリニティドッキングする事により、SPパックよりも更に強力な形態、『翔超竜神』となるのである。

 

「よし、これで我々の役目を果たせる!」

「よっしゃ、後は───!」

《──マギウス・ツール!!》

 

マギウス・ガオガイガーより射出される『マギウスツール』。それはガジェットツール同様に複数のパーツが合わさり、形となる。

そして形となったツールは、ガオガイガーとガオガイゴーにそれぞれ託される───

 

「目標座標設定終了。幾巳、リンカージェルの透析はもうそろそろ限界に近い。何よりあの疑似中性子星相手だから失敗すれば片道切符……だから、一発勝負だ!」

「ああ、元よりそのつもりだ。」

「護副隊長、こちらも配置に着きました。いつでもどうぞ!」

「ありがとう、ビッグボルフォッグ───じゃあみんな、行くよ……!」

「ああ、勇気ある誓いと共に!!」

「「「勇気ある誓いと共に!!」」」

 

皆が勇気ある誓いを復唱し、その覚悟を表す。

ここからGGG最大の作戦が始まるのである。

 






……

…………

…………何を、何をどう考えれば超重力衝撃波をぶつけ合ったら、ブラックホール→中性子星ができるんだよ!?
元は超重力衝撃波同士がぶつかった際の被害を書きたかっただけなのです。それで「ブラックホールが出来そうwwww」とか調子づいて「じゃあこの後どうなるかな~?」とか思って筆を進めたら……こうなった
(´;ω;`)
この辺り、本来は同士討ちで終える予定だったのですが、恒星が寿命を終えて超新星爆発を経て中性子星→ブラックホールになる(超要約)過程を知り、加筆した次第です。
それが太陽系崩壊の引き金ってアホかい!!

まあ、お嬢様の巡り合わせの引きの悪さと、トリプルゼロとザ・パワーがとてつもない悪さをしたと思ってくだせぇ。

いや、これどうすんの、どうすんだよ!?

……うん、ええ。まあちゃんと考えてます。

という訳で次回!(ヤケクソ感Max)

次回更新2~3日以内で。(確約)

感想、ご指摘よろしくお願いします。


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Extra mission 02『迫りくる未来(あす)、覆す現在(いま)(4)』

ちゃおっす!(ヤケクソ感120%)

もうどうにでもなれぃ!な、この章の最終話(本当)

突如現れた『覇界神』とのヘルアンドヘヴン合戦で、ブラックホール、そして中性子星を生成してしまったカルディナ。
『覇界神』を止めるには手段がこれしかなく、阻むのを止めてしまうと地球が崩壊する危機。
しかしこのままでも第二の恒星誕生による太陽系消滅の危機。
だが、それでも諦めないGGG、そしてカルディナの作戦とは───?!

さあ、しかと刮目せよ!




「──カモン、ロックンロール!!ガッツ、アーンド、ブレイブッ!!」

 

マイクがサウンドにて『マギウス・ザ・パワー』の代わりに皆を鼓舞するために『ディスクB』の力を最大限に引き出し、音楽を響かせる。

そして機動部隊全員の力が、GSライドの力が高まったところで動きを見せる。

 

「先ずは僕達からだ!GSライド最大稼動、共鳴現象最大ッ!!」

『ファイナルロック』、パージ───さあ廻れ、『スペースチェーンソー』ッ!!

 

───ギュアアアアアアア!!!

 

真空ですら響く、チェーンソーの耳を突く稼動音。

白銀に輝くガオガイゴーが抜き打ったのはマギウスツール『スペースチェーンソー』。

マギウス・ガオガイガー同様にGストーンとJジュエルの共鳴現象のエネルギーを引き出す事が出来る故の抜擢である。

ファイナルロックを解除したからには止まる事はなく、チェーンソー稼動時特有の引っ張られる感覚に逆らいながら、ガオガイゴーはビッグボルフォッグと共に疑似中性子星へと突撃する。

そしてそれに呼応してか、ガオガイガーを筆頭にジェイダーも含め、他の機動部隊の勇者ロボ達もその後に続く。

その行為に、さすがの大河長官も雷牙博士も驚きを隠せない。

 

《あのハイパーツールは……スペースチェーンソー?馬鹿な、あれは廃棄されたはず……!》

《それに何をするつもりだ、わざわざ中性子星に全員で突撃するなど……!》

《……大河長官、雷牙博士。見せて差し上げますわ、貴方が育て上げたGGGの───勇気の力、その真価を!勇気ある誓いと共に!!》

《───!?》

 

カルディナの言葉に圧倒されるのも束の間、絶望への反撃はガオガイゴーのより始まる。

マギウスからガオガイゴーに委ねられた『スペースチェーンソー』は、カルディナのアイディアにより、反中間子と超重力衝撃波を同時に発生させる無茶をさせる事により、『我が一刀に、立てぬもの無し』という理念を成したもの。

それは現実に起こるあらゆる物質、そして現象にすら作用する。

 

「いっ……けぇぇぇぇえええええっ!!!」

「おおおおおおおーーーーッ!!!」

 

異常重力から来る強力な引力を利用したガオガイゴーの突貫───

目の前にある中性子星に対し、どんな危険な物質を内包していようとも、宇宙法則の摂理を内包しているモノであれば、反中間子が素粒子や電子結合を破壊し、超重力衝撃波があらゆる干渉を跳ね除け───伸びた光の刃が中性子星や、異常重力地場を真っ二つに切断する。

……そして一瞬訪れる静寂。

 

この瞬間、中性子星は崩壊した。

 

「───今です、ジェットワッパー!!」

 

中性子星崩壊の寸前、ガオガイゴーと共にいたビッグボルフォッグが合体したディビジョンフリート艦に向けジェットワッパーを射出、同時にガオガイゴーの胴体を拘束する。

その瞬間、急な遠心力が働き、ガオガイゴーの軌道が「カクン」と変わり機体が急に上を向いた。

同時に伸びに伸びた絶対切断の光の刃が『覇界神』に迫る───が、惜しくも拳の前方を掠めるだけとなり、同時に耐久限界を超えたジェットワッパーのワイヤーがブツンと切れ、ガオガイゴーとビッグボルフォッグは近くの小惑星に激しく激突する。

 

「ぐあぁぁッ!!」

「す、すみません、これ以上は……!」

「が、凱兄ちゃん!後は───!!」

「ああ、受け取ったぞ!3人の勇気を!!」

《あれはガオガイガー……凱か!それにジェイダーだと?!》

「行くぜ長官!!」

 

瞬く間等与えず、次いで来たのはガオガイガー、そしてその腹部に抱きかかえるように密接しているのはジェイダーである。

プラズマウイングを展開し、光速まで高めた殺人的加速度のジェイダーが、同じくスラスター全開のガオガイガーを抱きかかえた状態で流れ星のように崩壊した中性子星へと飛び込んでゆく。

 

《スペースチェーンソーの軌道による突入経路計算、完了。》

「承知したトモロ。凱ッ!!」

「ああ、頼むぞJ!」

《何をするつもりだ、凱!そんな速度で突っ込んで来るとは……!》

《中性子星は崩壊した、その上何をするつもりだ!》

「黙って見てな、クソ親父!」

《だが、お前が持つツール……それはディバイディング・ドライバーではないか。それでどうするつもりだ?》

「残念だが、コイツはディバイディング・ドライバー(ハイパーツール)じゃない。俺もさっき知らされて驚いたが、博士なら知っているだろう、ディバイディングドライバーの恐ろしい点を!」

《恐ろしい点だと!?》

「こいつは、それを逆手にとったようなものだ、行くぞ『マギウスツール』───

 

空間断絶

ディバイディング、

ブレイカァァアアアアッ!!!

 

左腕に装備された、響く炸裂音と同時にそのエネルギーを解放する、妄想上のツールではなく、マギウスツールNo.02『ディバイディングブレイカー』。

それはかつてカルディナやその学友達とでディバイディング・ドライバーを開発し、その成功作の真逆の性質により作られた、本来は失敗作であるもの。

ブラックホール並みのエネルギーを内包するディバイディング・ドライバーのエネルギーを瞬間的に発動し、限定的にディバイディングフィールドを展開するが、収束も瞬間的であり、その展開時間の設定には難がある。

また、ディバイディング・ドライバーの使用時の注意点として、30分の展開時間を超えると湾曲空間が収縮し、消滅する。その際に湾曲空間内に残された物質はフィールドのカベルにより圧縮され、最後は空間融合により湾曲空間の何処(いずこ)へと消えてしまう。

しかしそれ故に作られたこのディバイディング・ブレイカーは、その危険性を逆手にとったハイパーツールなのである。

 

「距離3…2…今だ、ガオガイガー!」

「いっけぇぇえええッ!!!」

 

中性子星崩壊後、ストレンジ物質放出まで約1.65秒

湾曲空間の展開時間 0.031秒

展開継続時間 0.02秒

展開直径距離 40.32m

空間収束時間 0.021秒

 

それが周辺環境に害を出さず、崩壊を始めた中性子星を湾曲空間へと呑み込める時間と規模である。

そしてその時間内で活動をジェイダーのプラズマウイングによる光速移動が可能にしている事により、ガオガイガーは崩壊した中性子星を除去出来るのであった。

また、最初にガオガイゴーが中性子星を切断、崩壊させたのは、ディバイディング・ブレイカーによる超圧縮による恒星逆行促進を防ぐためであり、崩壊後は空間圧縮による影響は一切受けない。

ストレンジ物質がブラックホールでしか回収するように、ディバイディングブレイカーが極小のブラックホールとして崩壊した中性子星を『喰らう』のであった。

 

《馬鹿な、中性子星を……!》

《消滅させるだと!?だがそれで終わったと──》

《──超重力衝撃波発生器に異常発生!これは……!》

《No!超重力衝撃波発生器の4器ガ破損!その他は消滅してイマース!》

《量子回路にも異常発生!ゴルディオン・ヘルアンドヘヴン、出力維持出来ません!》

《何だと!?もしや、先程のスペースチェーンソーの()()の動きで損傷させ、あのディバイディングブレイカーとやらで中性子星ごと消滅させたとでも───ぐあっ!!》

 

間髪入れず、そこに大きな振動が走る。

大質量の物体による衝突がディビジョンフリート艦を襲う。

 

「──撃龍神、天竜神、全力で押すんだ!!」

「応よ!!」

「みんなを助けるためにッ!!」

《こ、これは───超竜神、撃龍神、天竜神か!》

《3機でディビジョンフリート艦を押しているのか!》

《量子回路異常により、遮るものがありません!『覇界神』から離れていきます!!》

 

『ディスクB』& SPパックの組み合わせは翔超竜神、撃龍神、天竜神に限界以上の推進力をもたらし、ディビジョンフリート艦を『覇界神』から遠ざけていく。

 

《……やられた。》

《何という事を!一つ間違えれば自分達が消滅しかねん作戦だぞ、それをどうして──!》

「おい、何をボケてやがるクソ親父!入念なスタッフの準備!ギリギリまで高め、整備した装備!だがそれでもこの作戦の成功率は最初は数%、そんで皆で高めても32%……だからよ!」

「だからみんなの勇気で補うんだ!」

「確かに一人ひとりの力なんて、OOO(トリプルゼロ)に比べれば、たかが知れている、でも──!」

「一人ひとりの力が合わされば───!」

「俺達に、出来ない事なんて───ない!!」

「僕達はそうやって不可能を可能にしてきたんだ!」

「地球を救う事も、宇宙を救う事だって……GGGは、ずっとそうしてきた!」

「だから中性子星やブラックホールが相手だろうとも──!」

「私達は、諦めないッ!!」

「ガッツ、アーンド、ブレイブ、だッゼ!!」

《その通りですわ!『数字なんて単なる目安だ、後は勇気で補えばいい。』、そう言ったのは大河長官、貴方です!!》

《ぬぅ!?》

《長官達の……GGGが命を賭して紡いできたものは、GGGに根付いた理念そのもの……それをOOO(おまえ)ごときが、揺らがせると思うなァァァアアアッ!!!》

 

『覇界神』より遠ざかるディビジョンフリート艦、クシナダの中よりGGGの叫びを、そしてカルディナの叫びを聞く大河長官達は、自分達の想像を超えた力の結集を体感していた。

あまりの想像を超えた事に驚き……驚き以上に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

《ならばこの困難、乗り越えてみせよ、勇者達!!》

《□□□!??》

「ちょ……長官!!」

 

長官の、ありえぬ言葉に驚愕の意を表す『覇界神』。けれどもマギウス・ガオガイガーが邪魔で、ディビジョンフリート艦に手を出す事は出来ない。故に更なるエネルギーを注ぎ、ヘルアンドヘヴンを強化し、マギウスを排除しようとする。

それを裏付けるように、ジェイクォースのダメージの罅が広がる。気を僅かに緩めれば消滅は必至。

そしてその僅かな隙を逃さんと『覇界神』のヘルアンドヘヴンが、まずはジェイクォースを破壊せんと更に、また更に出力を上げていくが、カルディナは無言で黙ったまま耐える。

 

だが、『覇界神』から遠ざかるディビジョンフリート艦より、一瞬だけでも正気を取り戻したと思われる言葉に、GGGは歓喜し───皆の心は一つになった。

 

「ディ、ディビジョンフリート艦三艦、『覇界神』より安全圏への離脱を確認!」

「さあ、全部お膳立てはしてあげたわよ、カルナ!!」

「あとは君だけだ!」

「僕達の勇気……!」

「俺達の勇気を……!」

「Gストーンに乗せて!」

「貴女に渡すから!」

「受け取って、下さい!」

「今一度……!」

「今度こそ私達に──!」

「勝利を!」

「俺達に……!」

「勇気ある、誓いと共に!!」

 

勇気ある誓いと共に

 

「進め、カルナッ!!」

《───ッ!!》

 

……光が、集まる。

一つ一つはちっぽけな光。

一つ一つ違って、点でバラバラな光の集まり。

しかし、それは一つ一つ繋がり、輝きを増し、やがてそれは──光となる。

それもただの光ではない。

様々な者達の思いが込められた光──金色よりも熱く、白銀よりも眩しい、命の輝き。

 

それは───『太陽』の如く。

 

遂に拮抗を支えてきたジェイクォースが致命的な罅割れを起こす。

その有様に不気味な笑みを浮かべたような『覇界神』であったが、破壊されたと思われたジェイクォースが割れ、細かく分かれ、両拳に纏わりつき───変形。

ガオガイガーの大きさまでサイズダウンこそしたものの、ジェイクォースが2つ、X字に合わさり、マギウス・ガオガイガーに装着される様を見た瞬間、その不気味な双貌を驚愕の意で表した。

 

《ジェイクォース解析完了。構成崩壊後の再構成、終了……其の名、『ダブル・ジェイクォース』。共鳴現象、発動確認。いつでも行けます。》

《これが私の勝利の鍵……ダブル・ジェイクォースによる、シルバリオン・ヘルアンドヘヴンよ!!》

 

白銀の光より更に光量を、マギウス・ガオガイガーはそのエネルギーを大幅に増した。

OOO(トリプルゼロ)の塊であろう『覇界神』のエネルギーの総エネルギーはマギウス・ガオガイガーを遥かに超えているのは明白。だが圧倒的にマギウス・ガオガイガーがみるみる押している。

激しい膨大なエネルギーとプラズマを撒き散らすヘルアンドヘヴン同士の競り合いに、その場にいる全員が注目する。

だが結果は最早明白であった。

 

《□□、□□□!?》

《……どうしてって感情が丸わかりね、『覇界神』。そんなものは至極単純───みんなが私にGストーンを通し勇気をくれた、Jジュエルの力が後押ししてくれた。それさえあれば私は、負けないッ!!》

 

『覇界神』の圧倒的な力を押し返している。

推進力も、腕力も、エネルギーも、何もかも。何一つ勝るはずのないであろう存在を押しているのだ。

 

《□□□、□□□□□□□□□□!!》

《ごちゃごちゃ煩い……お前が完全に勝利出来る力を持とうが、宇宙規模の圧倒的な出力差を見せつけようが、GストーンとJジュエルを持つ者が最後に勝つ絶対的理由、それは───私達の持つ勇気が、お前より遥かに強い、ただそれだけだ!!》

《□□□□□!?!?》

「絶望に満ちた、迫りくる破滅の未来(あす)を、みんなで手を取り合って、現在(いま)の困難を覆す!!GGGは、私達は、ずっとそうやって来た!!そしてこれからも!!だから覚えておきなさい、ヘルアンドヘヴンの競り合いでぇ───!!》

《───!?》

「いつだって最後に勝つのは────勇気ある者だぁぁぁぁああああああッ!!!」

 

マギウス・ガオガイガーのシルバリオン・ヘルアンドヘヴンが拳を割り、腕を砕き、胴体を貫き、光に還す。

あるであろう中核すら砕き、シルバリオン・ヘルアンドヘヴンは超重力衝撃波と破壊の力を力の限り放出して『覇界神』を討ったのである。

そして素粒子崩壊まで導かれた『覇界神』は……

 

オ マ エ ハ ダ レ ダ オ マ エ ハ ダ レ ダ オ マ エ ハ ダ レ ダ オ マ エ ハ ダ レ ダ オ マ エ ハ ダ レ ダ オ マ エ ハ ダ レ ダ オ マ エ ハ ダ レ ダ オ マ エ ハ ダ レ ダ レ ダ レ ダ レ ダ レ ダ レ ダ

 

《……まったく、声を封じておいて、よく言います。》

「……いいわ。我が名を刻みなさい。私の名は、カルディナ・ヴァン・アースガルズ。OOO(お前達)を討つ、レヴォリュダーです!!」

 

か る でぃ な ……

 レ ヴォ リュ ダァァァアアアア!!!

 

最後の力を以て、カルディナへとその思念を煙をまとわすようにぶつけてきた。

煙のような呪詛を振り撒き、シルバリオン・ヘルアンドヘヴン後のエネルギーダウンで動けなくなったマギウス・ガオガイガーを呪うように包みこもうとする。

 

そして直感する、これは取り込まれたら()()()()()()()()()()になる事に。

 

「くぅっ!」

《こちらは消耗して動けないというのに───》

「───伏せろ、カルナッ!!」

「───!!」

「『覇界神』よ、光になれぇぇぇえええッ!!!」

 

ジェイダーと共に急襲し、ゴルディオン・ダブルハンマーを横凪ぎに振るい、呪いを光に還すガオガイガー。

ゴルディオン・ダブルハンマーに触れた呪詛は祓われるように霧散する。

黄金の破壊神のもたらす破壊の光は、呪詛すらも光に還すのだ。

 

 

カ ル ディ ナ 

  い つ か ま み え ん……

 

 

最後の抵抗をガオガイガーに阻まれ、『覇界神』は光になった。

金色の光に浄化されるように、素粒子すら残らず消滅してゆく………

 

「……勝った、のか?」

「はい、勝ちました。ありがとうございます、凱様!」

「何かマズイと思ったからな、役に立てて何より……この声はカルナ、なのか?」

「はい、私の声です。ようやく戦いは終わりましたわ。」

「や、やったぁぁーー!!」

 

勝利に湧くGGG。

『覇界王』キングジェイダーの襲来から『覇界神』という未知の存在という敵を打ち破り、怒涛の連戦を勝ち抜いたのだ。

その喜びは計り知れない。

 

「ありがとうカルナ……いや、カルディナ、と言ったんだな。君のお陰で勝利する事が出来た、ありがとう。」

「いえ、皆様のお力になれて、私も嬉しく思います。」

「いや、君がいなければキングジェイダーはともかく、あの『覇界神』という奴とはどうなっていたか……」

「私からも礼を言う。お前がいてくれたおかげで、犠牲を生まずに済んだ。」

「助かったよ、カルディナ。」

「J様、ルネ様……そうですわね、あれは私も想定の外でした。私の持つ対抗手段が通用してホッとしています。」

「確かにな。」

「とはいえ、まだ大河長官や命様達、旧GGG隊員の浄解がまだですわ。お力添えを。」

「もちろんだ。」

 

その後、カルディナはディビジョンフリート艦3艦をマギウスフェザーの結界で包み、護と幾巳、凱に協力を仰ぐ。

そんなカルディナにアルエットは声をかけた。

 

「カルナ……貴女、大丈夫なの?」

「………まだ、平気ですわよ。」

「まだ………」

「それよりも準備出来ました、皆様の浄解の力を……!」

「うん!」

「わかった。」

「よし、やるぞ!」

 

「「──クーラティオ!」」

 

「──テンペルム!」

 

「──サンクトゥス!」

 

 

4人三種の浄解の言葉が重なり合い、ディビジョンフリート艦を包む。

膨大でありながら、眩い力が結界内を満たし、OOO(トリプルゼロ)が浄解されてゆく。

 

OOO(トリプルゼロ)の消失を確認。浄解は成功しました。》

「よし!」

「これで、長官達も帰って来れたんだ。」

「ああ。長かったが、ようやくJやトモロ、ルネさんもみんな帰って来れた……」

「キングジェイダーもそうだったけど、あの『覇界神』って奴が来た時にはどうなるかと思ったぜ。」

「ああ。あいつは完全に俺達の手に余る強敵だった。」

「これもカルナさん──ううん、カルディナさんのお陰ですね。」

「……そうだな。ありがとう、カルディナ。君のお陰で誰も死なせずに…………………………

 

 

…………………カル、ディナ??」

 

 

お礼を述べるために、後方にいたマギウス・ガオガイガーへと視線を向けた凱。

だが、凱の目に映ったのは光の粒子となって宇宙の闇へと熔けゆくマギウスの姿であった。

また、マイクの持つ『ガオガオーンVV』や、スペースチェーンソー、ディバイディングブレイカーも同様に光に熔けるように消滅し始めていた。

 

「これは……カルディナ、いったい何が──!」

「……分子崩壊、です。」

「何てこった……」

「……分子崩壊って、どういう事、アルエット!」

「俺達以上の何千、何万倍の人知を超えたエネルギーをあれだけ発したんだ……普通なら機体もパイロットも蒸発しても不思議じゃねぇ。」

「本来はいつ機体の限界が来てもおかしくはなかった……限界を超え、分子結合が崩壊するまで稼動した物体が結合力を失い……崩壊しているのだ。」

「じゃ、じゃあカルナは………」

「……パイロットにすら多大なダメージがあるだろう……もう、我々には助けられん。」

「そんな───!?」

「嘘付き!!大丈夫だって………大丈夫だって、言ったじゃない」

 

アルエットは涙ながらに訴える。だが、アルエットは判っていた。カルディナがこうなると予想していた事を。

そしてカルディナもこの結末を判っていたのだ。

シルバリオン・モードではない、ゆっくりと熔けゆくように分子崩壊するその光景は『限界』を超えてしまったが故の運命(さだめ)の姿………元からそうなる危険性を全て受け入れ、この恩人は自分達を助けに来てくれた。

アルエットはうずくまって涙するしか出来なかった。

ここまで消耗させるまで頼るしかなかった自分達の不甲斐なさと、どこか憎めない、このお人好しが消滅してしまう事実に。

 

「……ありがとうございます、私のために泣いて下さるのですね。」

「すまない……俺達が、弱いばかりに。」

「いいえ。私も皆様から勇気を受け取った事で、ここまで戦う事が出来たのです。確かに一人ひとりの力はどう足掻いても弱い。ですがそれを束ねる事で無限を超えた、絶対勝利の力を発揮する───私が皆様から学んだ事です。」

「僕達から………??」

「君はいったい、何者なんだ?どうして僕達にそこまで……」

「……私は、本来なら皆様とは関わらない者。それが何の因果かこうしてここにいます。それだけでも幸せですわ。」

「だからって、命を粗末にする理由にはならないわ!!」

「大丈夫です、ただ()()()()()()()()()()()───これはその課程を辿っているだけです。」

「在るべき場所……」

「帰る………本当、なのか?」

「はい。なので私がこの場から消える事に涙は不要です。それに、このお別れにはこの言葉で送って下さると嬉しいですわ。皆様………」

 

勇気と、共に

 

「勇気と、共に……ああ、そうだな───」

 

勇気と、共に

 

「ありがとうございます……お兄様」

 

 

……こうして、マギウス・ガオガイガーは光に熔け、消えた。

後に残された者達は、敬意と感謝をする者、涙する者、教訓として次の戦いに備える者と、様々であった。

だが、失われただけではない。

この戦いで得られたデータが後の『ファイナル・ガオガイガー』の強化に繋がる足がかりとなった───

 

 

《 MISSION CLEAR 》

 

 

 

「───ああ……とんだ失態ですわ。」

《どうしました、お嬢様。》

 

そしてシミュレーションのミッションをクリアしたカルディナが筐体で自己嫌悪しながらうずくまる。

 

「せっかくのシルバリオンモードでしたのに、機体の強度不足で分子崩壊……何と情けない。」

《それもお嬢様が馬鹿力過ぎて機体が持たなかったのが原因です。なまじ『マギウス・ザ・パワー』などという力を過信し過ぎていたのでは?》

「身の内を巣くうOOO(トリプルゼロ)は未だ上手く扱えず……『滅びの力』とはよく言いましたわ。」

《分子崩壊した理由が、Zマスター戦でキングジェイダーが体内で『ザ・パワー』を開放したシチュエーションと類似している、というところが何とも言い難いところですね。》

「……とりあえずそれは反省材料の一つとしましょう。それよりも───『管理者』!!いるのでしょう、出てきなさい!!」

 

パチパチパチ……と何処からか音が響く。

そして目の前に青白く輝く人型───『管理者』が現れる。

 

『うむ、よくクリア出来たな。見ているこちらもひやひやしたが、大したもの───』

「───それより、答えなさい。」

「……何をだ?」

「とぼけないで!あの『覇界神』って奴よ!オレンジサイトに住まうOOO(トリプルゼロ)の中核とか言ってたけど……明らかにあれは邪悪な部類に、それも相当根深い怨恨を持つ怨霊の類よ。しかもシミュレーション越しでも致命的な害をもたらす呪詛……その『具現化された塊』よ。あれは間違いなく()()()()()()()()()()。」

『…………』

「元のオレンジサイトの原初物質が汚染されていた形跡もある……そんなものがオレンジサイトの中核を名乗る、ですって?!オレンジサイトは原初宇宙誕生の卵のはず……いったいあれは何!?」

「………」

 

カルディナの問いに沈黙する『管理者』。

当初言っていた『暇潰し』というレベルではない今回の件。

カルディナが睨み付ける中、長く沈黙していた『管理者』が言葉を紡ぎ始める。

 

『……すまない。今回の件全てが完全にイレギュラーだった……とは言えないが、演算した未来予想の世界に『奴』が介入してきたのは完全なイレギュラーだ。』

「未来予想の世界……」

『ああ。仮想と言っても実体がないだけで、一つの創造された世界だ。その創造には『アカシックレコード』と『オレンジサイト』のデータが必要で、その2つは非常に密接した存在だ。切れぬ縁があると言ってもいい。『奴』はそこを突いてやって来た。ここまでの事態は初めてだが、『奴』にはどうしてもあの仮想世界に介入したかったようだ。』

《その理由は?》

『わからん。最近我々もその存在に悩まされてな……その正体は不明だ。だが確実にわかっている事がある。』

「……何ですか?」

『それは………確実な『敵意』を持っている、という事。奴は知的生命体を確実に滅ぼす意向を持っている。有能な者は手駒にしつつ、な。知的生命体の保全を願い、動く我々とは違い、『奴』は明らかに滅びを願う者だ。それがオレンジサイトに巣くうなど……!』

 

『管理者』の独白には、怒りが込められている。

それはカルディナやV.C.が息を呑む程。

 

『つまり我々の、知的生命体の敵だ。

 

それは『管理者』の宣戦布告でもあった。

 

『そしてカルディナ、V.C.。お前には『奴』の討伐に協力して貰うぞ。』

「  」

《  》

 

 

そして巻き込まれた。

 

 

《NEXT》

 

 

 

 

 


 

 

 

『ふむ………ならばかねてより計画していた『アレ』を発動せん!』

「なにする気!?」

《……何かロクでもない気がします。》

 

どうやら『管理者』がアップを始めたようです。

 

 

 




は、という訳で、ご依頼文はこれにて終わりです。
小次郎さんご希望のネタ②でした。

……ここまで話が膨らんでしまったのですが、いかがでしょうか?

うん、お話は感想にて伺います。
何もなければそれでも結構。

そんでアップを始めた『管理者』。
そしてアップを始めた結果が→コレだ!!

……新しい連載、始まるよ(自殺行為)


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