魔導物語 Seven Catastrophe (アヤ・ノア)
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00「物語の序章」

物語のプロローグです。
伝説の三剣士と七人の狂戦士、この十人の戦士が動きます。


 この世界は、人の生活に交じって人ならざる者が暮らしている。

 人に危害を加える魔物も、人に友好的な亜人も、この世界には存在する。

 それでも、大きな争いはほとんど起こらない、絶妙なバランスで平和が保たれていた。

 

 だが、その世界のバランスは、異世界から様々なものが来ている事で、

 今や危ういものとなってきている。

 一つ歯車がずれれば崩壊してしまう……そんな危機に立たされていた。

 

 もちろん、それを狙う存在が、いないわけではない――

 

「……この世界は今、バランスが崩壊している」

 泉の中から世界の様子を見ているのは、白いローブを纏った性別不明の人物だ。

 その人物の傍には、同じローブを纏った七人の人物が立っている。

「……ふむ、確かにこの世界は穢れているな。一度破壊する必要がある」

「ねぇねぇ、ちょっと面白い事になってきたんじゃない? 私達で滅茶苦茶にしましょうよ」

 女性が男性に甘えるように話しかける。

「キラー、口が過ぎるぞ」

「あ、ごめ~んクラッシャー」

 キラーと呼ばれた女性がクラッシャーと呼ばれた男性に注意され、口を塞ぐ。

「……しかし当然、邪魔者は入ってきますよね?」

「そうだ。故に、お前達カタストロファーセブンが邪魔者を排除し、世界の終焉を手伝うのだ。

 よいか、絶対に失敗は許されないぞ」

「御意」

 ローブを纏った人物がそう言うと、人形を持った男性はその人物に敬礼をした。

 彼が連れている人形も、カタカタと笑っていた。

 

「さぁ、世界を終わらせるぞ!」

『はっ!!』

 七人が敬礼すると、その姿は消えた。

 

 一方、その様子を見ていた三人の剣士がいた。

「まずいわね……」

「これは、本格的に動くしかなさそうだな」

 茶髪に青緑の瞳を持つ中年男性と、

 金髪碧眼の女性的な魅力を持つ青年が危機感に満ちた表情をしていた。

「「セイバー」」

「うん、分かってるよ」

 セイバーと呼ばれた緑の髪と黒い瞳の少女剣士が、二人の言葉を聞いて頷く。

「私達トライブレードは、世界が危機に瀕した時のみ動く存在だ。つまり、そういう事だよ」

 トライブレード――それは、人間でありながら神の領域に近付いた、伝説の三剣士の事である。

 絶大な力を持つ代わりに、世界が危機に陥らなければ動く事はできない。

 つまり、彼らは世界にとっての白血球と言える。

「私はアルルを探しに行くよ。エッジとソードは、他に仲間がいないか探してね」

「ああ」

「ええ」

 エッジと呼ばれた中年男性と、ソードと呼ばれた青年は、空間を破って飛び出したのだった。

 

「世界の破滅……必ず阻止してみせる!」

「世界の終焉……必ず実現してみせる!」

 

 こうして、世界を破滅に導こうとする七人の狂戦士と、

 世界を守ろうとする伝説の三剣士が動き出した。




~次回予告~

いつものように平和に暮らしていたアルル、アミティ、りんご、アリア。
しかし、そんな彼女達を、ある大きな脅威が襲う。
そして四人は、様々な世界に散り散りになってしまった……。


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01「日常の終わり」

ここから、物語が始まります。
最初からぶっ飛んだ感じになっています。


「今日も平和だね~、カーくん」

「ぐー♪」

 アルルは、いつものようにカーバンクルと共にふれあい広場で楽しく暮らしていた。

 といっても、家がないアルルはここにいる事が多いのだが。

「やっほー! アルル、おはよう!」

「おはようございます」

「あ、アミティにりんご……に、アリア!」

「私はついでですか」

 そんな彼女のところにやって来たのは、

 同じAの頭文字を持つアミティ、りんご、アリアだった。

「ねぇ、今日は何して遊ぼっか?」

「今日は陽の日で学校も無いし、たまには未完の塔にでも行ってみようか!」

「塔かぁ……懐かしいなぁ」

 アルルは、塔を舞台とした二度目のぷよ地獄を思い出した。

 一方、未完の塔とは、ほほうどりが建設している未だ完成していない塔である。

「あたしも久々に行くし、りんごとアリアは初めてだよね?」

「はい……名前を聞いたのは初めてですから」

「私も、です」

 二人にとっては初めてとなる、未完の塔。

 一体、そこはどういう場所なのだろうか。

 そんな期待を込めて、アルルと共に四人が未完の塔に行こうとした、その時。

 

「こ、この空は何……!?」

 突然、空が暗雲に包まれた。

 アルルが空を見ると、暗雲の中心から無数の魔物達が降り立った。

 そして、それは四人の前にも立ち塞がった。

「ぷよぷよ~~~~」

 四人の前に現れたそのぷよは、目つきがつり上がっていて、

 明らかにアルル達に敵意を向けていた。

「こ、これって……あの時の!」

 以前、アミティは凶暴化したぷよに襲われた事があり、既視感を感じていた。

「……倒しましょう」

 アリアは杖を構え、戦闘態勢を取った。

 アルルとりんごも凶暴化したぷよを倒す事にした。

 

「フレイム!」

 アミティがぷよを炎魔法で攻撃するが、倒すまでには至らなかった。

 そこにりんごのコサインが入り、ぷよは倒される。

「水の精霊ミスティよ、我が敵を薙ぎ払え! ミスティウェーブ!」

 アリアは水の精霊ミスティを召喚してぷよを薙ぎ払い、ばたんきゅーさせる。

「あいたたたたた! でも、あたしは、負けたくないよ!」

 アミティは、以前は襲い掛かってくるぷよを攻撃したくないと思っていた。

 しかし、数々の戦いを経て、そんな甘い気持ちは今の間だけ捨てる事にしたのだ。

「ダイアキュート、ア・アイスストーム!」

 アルルが増幅呪文を唱えた後、ぷよを吹雪で一掃する。

「ブラストビート!」

「タンジェント!」

 アミティがぷよを風で吹き飛ばした後、りんごが電撃を放ってぷよを痺れさせる。

「地の精霊グランよ、我が敵を破壊せよ! グランクエイク!」

 最後にアリアが地の精霊グランを召喚し、

 地震を起こした事により全てのぷよはばたんきゅーした。

 

「……はぁ、まさかまたぷよぷよがこうなるなんて思ってなかったよ」

「それでも、敵はみんなやっつけたんだし、早く未完の塔に行こう!」

「ぐーぐぐ!」

「……うん、分かった!」

 

 凶暴化したぷよを倒したアルル、アミティ、りんご、アリアは、

 当初の目的通りに未完の塔に向かった。

 今はこんな異変なんて、どうでもいいと思ったからだ。

「ホッホホーゥ! ん、アンタ達、見ない顔っスね」

 未完の塔には、ほほうどりが立っていた。

 どうやら、ほほうどりはりんごとアリアの事を知らないようだ。

「あ、私はあんどうりんごです」

「アリアと申します」

 りんごとアリアはすぐに彼に自己紹介をして、ここに来るのは初めてと言う。

「ふーん。アンタ達も修行に来たっスか?

 それならば是非、ここの天空の階段に挑戦してほしいっス」

「天空の階段、ですか?」

「無限に続く階段っス。修行には最適の場所っスよ」

「なるほど……。挑戦したいですね。私の実力が外で通用するか、を」

「無限に続くなら、興味深いです」

 知的好奇心が旺盛なりんごは、天空の階段の謎を知りたがっていた。

 アリアは、純粋に実力を試したいために挑戦しようとしていた。

「よし! じゃあ、早速天空の階段に……」

 ほほうどりがそう言いかけた、その時。

―ピシャーン!

「ピヨッ!」

 突然、未完の塔に雷が落ちてきた。

 驚いたほほうどりが尻餅をつく。

「ど、どうしたの、ほほうどり?」

「か……雷が落ちたっス……。何かやばそうな気がするっス……」

「なーんだ、それなら大丈夫だね。よし、早く天空の階段を登るよ!」

 そう言って、アルルが天空の階段に挑戦しようとした時。

 

「……あれ?」

 何故か、元の場所に戻されていた。

「なんで……天空の階段に行けないの?」

「アルル、どうしたの?」

「あ、アミティ……あのね、どうしても天空の階段に進めないんだ」

「「どういう事(っスか)?」」

 アルルの言葉に首を傾げるアミティとほほうどり。

 その時、背後から不気味な笑い声が聞こえてきた。

 四人と一羽が驚いて振り返ると、そこには黒い道着を着た金髪金眼の男が立っていた。

「この空間を閉ざしたのだ」

「空間を閉ざした……? どういう事なの?」

「ああ、名を名乗るのを忘れていたな。俺はブレイカー、世界を破壊する者……」

「なんだって!?」

「ぐぐぐー!」

 アルルはブレイカーと名乗った男に怒鳴る。

「キミの勝手な行動、許さないよ! ファイ……」

 アルルが炎魔法で攻撃しようとした瞬間、三つの悲鳴が彼女の耳に入った。

「みんな!?」

「ここで俺を倒すのならば、こいつらが死んでも文句は言えないな?」

 アミティ、りんご、アリアは、ブレイカーの手によって拘束され、

 アルルの目の前に突きつけられていた。

 ここでファイヤーを唱えれば、三人は炎に焼かれてしまうだろう。

 アルルはすぐに魔法詠唱を止めた。

「人質を使うとは、なんと卑怯な!」

「何とでも言うがいい。……さて、この後はどうするか?」

 ブレイカーは顎に手を当て、首を捻る。

「……そうだ。確か、お前は元の世界に帰りたいのだろう?」

「どうして知っているんだ」

 アルルが聞き返すと、空間が震え出した。

 これは、ブレイカーが魔法を使ったのだろう。

「アルル……!」

 アミティ達がアルルを助けようとするが、魔法の影響なのか身体が動かない。

「ああ、安心するがいい。他の世界にももうじき、軍勢が来る。

 ……さぁ、望み通り、お前を元の世界に返してやろう!」

「やめてぇぇぇぇーーーーーっ!!」

「ぐぅーーーーーーーーーーっ!!」

 アルルとカーバンクルが絶叫すると同時に、空間が大きく揺れ、塔全体を飲み込んだ。




~次回予告~

謎の男・ブレイカーによってバラバラになってしまったアルル達。
アルルが飛ばされたのは、なんと、元の世界だった。
そこで彼女が出会ったのは、謎の女剣士だった。


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02「懐かしき故郷」

~前回までのあらすじ~

ブレイカーがプリンプタウンに襲い掛かり、アルルは元の世界に戻ってしまった。
帰れたのはよかったが、アミティ、りんご、アリアとはぐれてしまう。
そして、アルルが元の世界で出会ったのは、少女剣士だった。


「……う、う~ん……。ここは、どこ……?」

 アルルが目覚めると、彼女は塔の中にいた。

 きょろきょろと辺りを見渡すと、カーバンクルがいない事に気づいた。

「カ、カーくん!? カーくんはどこ!? ねぇ、カーくん!!」

 長年の相棒がいなくなった事により、アルルは一気にパニック状態になった。

 そして、アルルが塔から出ようとすると、どこかから声が聞こえてきた。

「アルル、こんなところにいたんだね」

 それは、自分を知っている少女の声だった。

 アルルはますますパニックが治まらなくなり、何もできずに蹲ってしまう。

 そして、少女の足音がどんどん近付いていく。

 もう駄目だ、自分はここで殺されるんだ……アルルがそう確信した、その時だった。

 

「カーバンクルは、ここにいるよ」

 その少女は、優しい顔でそっとカーバンクルをアルルのところに下ろした。

「ぐーーーーーー!」

「カーくん! 無事でよかったよ!」

 相棒との再会に喜ぶアルル。

 しかし、その喜びはすぐに一つの疑問に掻き消される。

「……でも、どうしてキミは、ボクの事を知ってるの?」

 アルルは、カーバンクルを抱えていた少女の顔を見る。

 すると、少女は当然であるかのようにこう言った。

「アルル、私達は親友でしょ? 覚えてないの?」

「ごめん、キミの事……ボクは知らないんだ」

「ええっ!? 嘘でしょ!?」

 少女はアルルが自分を覚えていない事に驚いた。

「覚えてないの? 私だよ、トライブレードのセイバーだよ!」

「セイバーって……誰?」

「ま、まさか君、記憶喪失!?」

「ボクは元からキミの事を知らないってば! トライブレードって何? セイバーって誰?」

「え、えええええええ!?」

 今度は逆にパニック状態になるセイバー。

 しかし、親友にこんなかっこ悪いところを見せたくないと、

 深呼吸をした後、落ち着いてアルルを見る。

「……ふぅ。やっぱり、君は私が知ってる『アルル・ナジャ』じゃないんだね」

「キミがそう言うんなら、そうだよ」

 セイバーは、目の前にいるアルルが『アルル・ナジャ』ではない事を改めて確認した。

「……それにしても、ここはどこなの? 見たところ、未完の塔みたいだけど……」

「未完の塔? 違うよ、ここはサタンが二度目のぷよ地獄を開いた塔だよ」

「え……? じゃあ、もしかして……ボク、本当に元の世界に帰ってきちゃったの……!?」

 そういえば、意識を失う直前に、ブレイカーが言っていた。

 「お前を元の世界に返してやろう」と。

 そしてブレイカーはそれを実行し、アルルを魔導世界に飛ばしてしまったのか。

 アルルはショックのあまり、茫然自失としていた。

「ぐーぐー、ぐーぐぐーぐー」

「アルル、そんな目に遭ったんだね」

「……カーくん、セイバー……」

 そんな彼女を、カーバンクルとセイバーが慰める。

「でも、安心して。私が一緒にいるから。絶対に、この異変を解決するよ」

「ぐーぐぐっ、ぐっぐぐーぐ。ぐぐぐ、ぐーぐ、ぐーぐぐー」

「……ありがとう……」

 最愛の相棒と『親友』の少女剣士に、アルルはゆったりと身を委ねた。

 

「……例え君が別の存在だったとしても、君は私の知っているアルルだよ」

 

「……さて、少し落ち着いたかな? そろそろ、この塔を出よう」

「うん」

 落ち着きを取り戻したアルルは、カーバンクル、セイバーと共に塔を出た。

 外は一面緑が広がっており、一見すると平和なように思えた。

 だが……。

 

「ギィィィィ!」

「キィィィィ!」

 異変の影響で、魔物が凶悪になっていた。

 普段は矮小なゴブリンも力が強く、より強靭な肉体になっている。

「うわぁ、なんでゴブリンがこんなにいるの?」

「ぐぐぐー」

「あいつらのせいだろうね……。これも世界のためだ、斬らせてもらうよ!」

「うん!」

「キィー!」

「うわっ!」

 セイバーが剣を構え、アルルと共に戦闘態勢を取った瞬間、

 ゴブリンがアルルに襲い掛かってきた。

「アルル!」

「平気だよ、これくらい……いたたっ」

 アルルの傷を見たセイバーが剣を握る手を強める。

「せいやっ! つ……固い!」

 セイバーの剣はゴブリンの固さに阻まれた。

「剣がダメならこれで! ファイヤー!」

 アルルは炎を放ってゴブリンを焼き払う。

 しかし、ゴブリンはそれを受けてもけろっとしていた。

「全然効いてない!?」

「タフで強くなったんだよ。だから、威力の高い攻撃を当てていかなきゃね!」

「これならどうかな? ファイヤーアロー!」

 アルルは炎の矢を放ってゴブリンを攻撃した。

 ゴブリンを倒すまでには至らなかったが、かなりのダメージを与える事ができた。

「強甲破点突き!」

 セイバーは敵の武装を狙って、気を纏った剣で突いた。

 すると、ゴブリンの武装が破壊され、ゴブリンが怯んだ。

「よし、今だ! アイスストーム!」

 そこに、アルルの吹雪が入り、ゴブリンの群れが凍り付く。

「不動無明剣!!」

 そして、セイバーが剣を振ると衝撃波が飛び、ゴブリンの群れを一撃で倒した。

 これにより、アルル達を襲った魔物は全滅するのだった。

 

「……みんな、どこに行っちゃったんだろう」

「誰の事?」

「アミティ、りんご、アリアの事だよ。

 未完の塔に行って、試練を受けようとしたら、

 ブレイカーに邪魔されてバラバラになっちゃって……」

「ふーん。よく分からないけど、それも君の友達?」

「うん、異世界のね」

 アルルは、セイバーにアミティ、りんご、アリアの事について話した。

「なーるほどね。この世界のアルルは、別の世界の人とも仲が良いのか」

「だから『この世界の』ってのはやめてよ……」

「ごめんごめん。じゃあ、元の世界……いや、君にとっての異世界に帰るために、私も戦うよ!」

「ありがとう、セイバー……」

 

 第二の故郷へ帰るために、アルルは少女剣士・セイバーと行動を共にした。




~次回予告~

アミティが飛ばされた世界は、プリンプタウンだった。
しかし、そのプリンプタウンは、元の世界とどこか違っていた。
困惑するアミティの前に現れたのは、剣士だった。


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03「並行世界」

~前回までのあらすじ~

ブレイカーの襲撃で、アルル達は異なる世界に飛ばされてしまった。
アルルは元の世界でトライブレードの一人、セイバーと出会った。
そして、アミティが出会ったのは……。


「うぅ……ここは、どこ……?」

 アミティは、気が付くとナーエの森に飛ばされてしまっていた。

「あ、そうだ! みんなはどこにいるの?」

 きょろきょろと辺りを見渡すアミティ。

 しかし、周りに知っている人は誰もいなかった。

「どうしよう……誰もいないよ……。早くみんなを探さないといけないのに……」

 ふらふらとアミティはナーエの森を歩く。

 草木はいつも通り生い茂っていて、生き物もいつも通りに動いている。

 だが、自分以外に他の人間はいない……その事がアミティを不安にしていた。

 

すみませーん! 誰かいませんかー!

 アミティは大声で人を呼び、助けが来るのを待つ。

 だが、人が来る事はなく、ただアミティの声が森に木霊するだけだった。

「……やっぱり誰もいない……。あたしは永久に一人ぼっちなの……?」

 寂しさから、アミティはぺたんとナーエの森に座り込んでしまった。

 

「……よし、魔物はもういないな」

 茶色い短髪の剣士が魔物を全滅させた後、剣をしまい、青緑色の瞳で森を見渡す。

「他に、この森にいる奴は残っているのか? それを見つけたら、戻ろうか」

 剣士は他に人がいるかどうかを探すため、森の奥に向かって歩いた。

「……おや?」

 すると、剣士は何かを見つけたようだ。

 剣士がその方向に向かって歩いていくと、赤いぷよを模した帽子を被った少女を見つけた。

「あれ? キミはもしかして、ここに迷い込んできたのか?」

「迷い込んできた……って、どういう事なの?」

「ここは、ナーエの森であって、ナーエの森ではない。詳しい事は、この森を出てから話す」

「え、ちょっと!」

 そう言って、剣士はアミティを立たせると、彼女の手を引いて、ナーエの森を出た。

 

「つまり、今あたしがいる世界は、パラレルワールドって事?」

「そういう事になるな」

 剣士は、アミティがプリンプタウンのパラレルワールドにいる事を話した。

 プリンプタウンであってプリンプタウンではない……

 そんな世界にいるという事実にアミティは困惑した。

「……はぁ、みんなに会えないだなんて悲しい……」

「オレはキミとは初対面だが、どうしてそんなに悲しいんだ?」

「あ、実はね……」

 アミティは、剣士に今までの事情を話した。

 

「なるほど。それでキミは、試練の最中にいなくなった友達を探しているのか」

「うん」

「だが、ここにはもういないと思う」

「そっかぁ……」

 剣士の言葉にアミティは落胆する。

 そんな彼女の肩に、剣士は手を置いた。

「安心しろ。絶対にオレ、エッジがキミの友達を見つけてやる。だから、落ち込むな」

「ありがとう……エッジさん……」

「さんはいらない、エッジと呼んでくれ」

「うん! それじゃあ一緒に行こう!」

 アミティはすぐに元気を取り戻し、エッジと行動を共にする事にした。

 

「あ、あたしはアミティだよ。よろしくね!」

「ああ、よろしく」

 

「……そういえば、娘は元気なんだろうか」

「娘? 誰か子供がいるの?」

「ああ、オレの娘のルルーは妻に似て綺麗だけど、お転婆で手を焼くな」

「え、えええええええええ!!」

 アミティは、エッジがルルーの父親であるという事に驚いた。

 確かにこの男性は40代半ばといった感じで、子供がいてもおかしくないような年齢だ。

 しかし、アミティはまさか彼の娘があの格闘女王だったなんて……という顔をしていた。

「まぁ、驚くだろうなぁ。オレとルルーは腕力以外似てないし」

「まぁ、ルルーはちょっと苦手だけどね……;」

 談笑しながら二人が歩いていると、目の前に二体の巨大な犬が現れた。

「うわぁ、おっきな犬だ!」

「気を付けろ、こいつはヘルハウンドだ。火を噴くし力も強いぞ!

 ……さぁ、魔物よ、この剣の錆となれ!」

 エッジは剣を構えてヘルハウンドを迎え撃つ。

 アミティも彼に続いて戦闘態勢を取った。

「悪いけど、あたしは負けないよ! ブラストビート!」

 アミティはヘルハウンドに風の塊を飛ばす。

 だがヘルハウンドはそれを吸い込んで飲み込み、口から火を噴いてアミティを攻撃した。

「危ない! スピードファング!」

 すぐにエッジは剣で火を防ぎ、ヘルハウンドを斬りつける。

「きゃああ!」

「うぐぅ!」

 アミティとエッジはヘルハウンドに噛みつかれて浅くない傷を負う。

 異変の影響か、顎の力が強くなっているようだ。

「くそ、なんという強さだ! 体力を大きく削られてしまった……」

「回復するよ、ヒーリング!」

 アミティは回復魔法を唱え、エッジの体力を回復させる。

「助かる」

「炎の魔物にはこれが効くよ! ブリザード!」

「よしっ! ソニックバスター!」

 アミティは吹雪を起こしてヘルハウンドを凍らかせる。

 その隙にエッジが剣を抜刀し、凍っているヘルハウンドを衝撃波で切り裂いた。

「よし! 倒したね!」

「待て」

 アミティが喜んで先に進もうとすると、エッジが制止した。

「なんで?」

「あいつらはまだ……生きている」

「えっ? わ、わわっ!」

 エッジの言う通り、ヘルハウンドは大ダメージを受けながらも立ち上がった。

「攻撃力だけじゃなくて、体力も上がってるの!?」

「全体的に能力が上がってるんだ、当然だろう。気は抜くなよ」

「もちろんだよ、ライトニングボルト!」

「スピードファング!」

 アミティは雷を落としてヘルハウンドを痺れさせ、

 エッジは素早く剣を抜いてヘルハウンドを斬りつける。

 ヘルハウンドも執念深くアミティ達を襲ったが、連続攻撃を受けて体力が減っていった。

「これで、とどめだよ! アクセル、アクセル、ブ・ブ・ブリザード!!」

 そして、アミティが増幅呪文を唱えた後に両手から吹雪を放つと、

 ヘルハウンドは氷の像となり、砕け散った。

 

「プリンプに、こんな強い魔物っていたっけ……?」

 戦闘を終えた後、アミティが汗を拭う。

 平和なプリンプタウンのはずなのに、強い魔物がいるなんて、アミティは信じられなかった。

「どうやら、奴らはこの並行世界にも手を伸ばしているようだ……。

 奴らを倒さない限り、この世界も平和にならない」

「奴ら?」

「世界を破滅に導こうとする七人の狂戦士、カタストロファーセブンだ。

 そいつらが手始めに魔物をばら撒いたのだろう」

 つまり、アミティ達が倒した魔物は、カタストロファーセブンの尖兵だったらしい。

「奴らを止めなければ世界は滅んでしまう。アミティ、オレに協力してくれるか?」

「な、なんだか壮大になったけど……断る理由はないし、もちろんOKだよ!」

 そう言って、アミティはエッジの手を握った。

 それと同時に、彼女の腹の虫が小気味よく鳴った。

「……あ、その前にご飯食べてからね」

「あ、ああ……;」

 

 こうして、赤ぷよ帽の少女は、格闘女王の父親と行動を共にする事になった。

 人間の中では自分よりもかなり年上だが、持ち前の明るさで仲良くなれるだろう。




~次回予告~

あんどうりんごは、アルル同様元の世界に戻ってしまった。
プリンプタウンに簡単には戻る事ができず、りんごは困惑した。
チキュウで出会ったのは、美しい剣士だった。


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04「チキュウへの帰還」

~前回までのあらすじ~

アミティは謎の敵の襲撃により、別世界へ飛ばされてしまった。
彼女が飛んでいったのは、プリンプタウンのパラレルワールド。
そこには、伝説の三剣士の一人、エッジがいた。
アミティはエッジと共に、この世界を抜け出すために冒険する。


 りんごが飛ばされた場所、そこは……。

 

「チ……チキュウ!?」

 彼女の故郷である「チキュウ」だった。

「私、もしかして……本当に、故郷に帰って来たんでしょうか」

 りんごはきょろきょろと辺りを見渡す。

 自分はさっきまで未完の塔にいたはずなのに、何故いつの間にかチキュウに帰ってきたのか。

「どうしよう……プリンプタウンに戻れない……」

 りんごが困っていると……。

 

「あ~ら、可愛い女の子がいるわね~」

「うわっ!」

 長い金髪と、青い瞳を持つ青年がやってきた。

 その端麗な容姿に似合わず、女性のような言葉遣いをしている……所謂、オカマだった。

「だ、誰ですか貴方は!」

「誰ですか、って……。アタシはトライブレードの一人、魔導剣士のソードよ?」

「なんでそういう口調なんですか?」

「こんな見た目だからこうなったのよ♪」

 ソードと名乗った青年がりんごに向かってウィンクする。

 りんごは若干それに引いたが、ソードに今聞きたい事を話す。

「……で、ここは本当にチキュウなんですか?」

「ええ、そうよ。こっちにも敵が攻めてきてるみたいだし……アタシが何とかしないとね♪」

 こんなところに敵なんていたっけ、とりんごは首を傾げた。

 すると、向こうから足音が聞こえてきて、それと同時にソードは腰に携えていた大剣を抜いた。

「……と、話の途中で悪いけど、早速敵がおでましみたいよ」

「な、なんですか!」

 剣を構えているソードは、あの明るい表情とは打って変わって真剣そのものだった。

 りんごが驚いていると、体長1mほどの蟻が大量に現れた。

「ぎゃあああああああ! 蟻がぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 蟻自体はそんなに怖くなかったが、

 巨大化していてしかも数が多かったためりんごはパニック状態になった。

「アナタは下がってなさい、アタシが全部片付けてやるわ」

「お、お願いしますっ……!」

 恐怖しているりんごに代わって、ソードが巨大蟻の相手をする事にした。

 

「せぇいやぁっ!」

 ソードが勢いよく巨大蟻に大剣を振り下ろすが、巨大蟻は素早い動きでソードの攻撃をかわす。

「ったくもう、ちょろちょろと! 消えなさい、サンダーストーム!」

 ソードが呪文を唱えて巨大蟻の群れに手をかざすと落雷が発生し巨大蟻に大ダメージを与えた。

「あれ、ソードさん、その魔法……」

「気にしたらダメよ! サンダーブレード!」

 りんごがソードの魔法に既視感を覚えたが、

 ソードは剣を構え直して巨大蟻の群れに突っ込み、雷を纏った剣で薙ぎ払う。

 巨大蟻を切り裂いたソードは飛び上がり、今度は炎を放って巨大蟻を焼き払った。

 その威力は剣に勝るとも劣らないほど高かった。

「ソードさんって、剣も魔法も得意なんですね……」

「当然よ、アタシは魔導剣士なんだから。さ、もうちょっとで敵は全滅よ♪」

 そう言ってソードは大剣を振り回し巨大蟻をなぎ倒していく。

 オカマなのにこんなに強いなんて……りんごは少し悔しくなり、ぎゅっと拳を握る。

「あの……私は……」

「アナタ、あのでっかい蟻が怖いんでしょ? だからアタシが守ってあげてるのよ」

「……」

 確かに自分はソードの言う通り、巨大蟻の前に怯えてしまった。

 しかし、何もできずに黙って見ているだけなのは、りんごのプライドが許さなかった。

「……私も、戦います!」

「ちょっと、お嬢ちゃん!?」

「お嬢ちゃんじゃありません! 私にはあんどうりんごという名前があるんです!」

 りんごはソードの制止を振り切り、本を構えて呪文を詠唱した。

「タンジェント!!」

 りんごが手を突き出すと、雷が現れ、巨大蟻に命中すると電光が弾け、周囲を襲った。

「やるじゃない、りんごちゃん!」

「私も戦えます。守られてばかりじゃないんです! ネオスペル、マ・マグマチュード!」

 りんごは増幅呪文を唱え、マグマを噴き出して巨大蟻の群れを攻撃した。

 これにより、巨大蟻は残り一体となった。

「後はアタシがやるわ! ファイアスラスト!!」

 そして、ソードが炎を纏った剣を振り下ろすと、最後の巨大蟻は真っ二つになり、

 炎に焼かれ灰になった。

 

「怖くなかった? りんごちゃん」

「正直、怖かったです……。美味しいところも持っていかれましたし……」

 何とかソードのおかげで巨大蟻を倒せたが、

 チキュウでこんな魔物と出会うなんて想定しなかったらしく、

 りんごの胸はまだドキドキしていた。

「大きな蟻とオカマの剣士がいっぺんに出たら、そりゃ誰でも驚きますよ」

「ごめんなさいね~、でもどうしてもここに来なきゃいけなかったのよ」

「なんでですか?」

「ここに、もしかしたらアタシ達が追ってる敵が来てるかもしれないからよ」

「敵?」

「世界を滅ぼそうとする狂戦士集団、カタストロファーセブンよ」

 そう言って、ソードはどんどん前に進んだ。

 りんごは彼女……ではなく彼の言っている事が分からず、

 きょとんとしながら後ろを歩いていた。

「要は、放っておくとアナタの世界も滅亡しちゃうって事!」

「……よく分からないけど分かりました」

 りんごは、プリンプタウンで多くの危機を友と共に救ってきた。

 しかし、この世界にも敵が来ているため、りんごはもう呆れてしまっていた。

「大丈夫よ! いざとなったらアタシが守ってあげるわ。この剣と魔法で、アナタを、ね」

 ぽんぽんとりんごの肩を叩くソード。

 ソードは奇妙な口調だったが、意外と優しい性格だった。

「……はい。ありがとうございます」

「ふふ、りんごちゃんは素直ね~♪」

 

 こうして、りんごは奇妙なオカ魔導剣士と共に、チキュウの危機を救う事にしたのだった。

 りんご本人は、まだ乗り気でなかったが……。




~次回予告~

唯一、正史世界のプリンプタウンに残ったアリア。
しかし、プリンプタウンにも、魔物は襲来していた。
ピンチに陥るアリアの前に現れたのは……。


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05「召喚士、再会する」

~前回までのあらすじ~

謎の敵の襲撃でチキュウに戻されたあんどうりんご。
そこで彼女が出会ったのは、女言葉を操る剣士、ソードだった。
彼(?)の変わった口調に翻弄されつつも、りんごはプリンプタウンに戻るため、
ソードと共に冒険をするのだった。


「く……プリンプタウンに、こんなに魔物がいるなんて……!」

 アリアは、精霊を召喚して魔物達を倒していた。

 平和なはずのプリンプタウンに魔物が襲撃してきたため、アリアはその対処をしていた。

 だが、状況は良くなるどころかますます悪化してきていた。

「まったく……平和ボケし過ぎたから外部の侵入を許したのですよ……!」

 悪態をつきながらアリアは魔物を炎で焼き、風で吹き飛ばす。

 そんな彼女を嘲笑うかのように、魔物の数はどんどん増えていく。

「……仕方がありませんね。グラン、ミスティ、フェーゴ、エア、『具現化』を命じる」

 アリアは自身が契約している四体の精霊を具現化するように話した。

 具現化とは、精霊を一時的に呼び出すのではなく、

 精霊を具現化させて様々な願いを叶える上位精霊魔法だ。

 メリットは非常に大きいが、かなりの精霊魔法の能力がなければ使えない特殊な魔法だ。

 ルフィーネを具現化させなかったのは、今のアリアの技量では不可能だからである。

「四大精霊よ、ここに!」

 アリアが呪文を唱えると、彼女の周囲にグラン、ミスティ、フェーゴ、エアが姿を現した。

 精霊はそれぞれの武器を構え、アリアと共に戦う事を選んだ。

 

「断罪!」

 フェーゴは炎の大剣を構え、小さな羽が生えた魔物の群れに振り下ろした。

 エアは風を操ってフェーゴが倒し切れなかった分の魔物を切り裂く。

 アリアはというと、戦っている精霊のサポートに専念していた。

「皆さんは私の大事な仲間……死なせるわけにはいきません!」

 ゴブリンやインプの攻撃を杖であしらうアリア。

 その動きはぎこちなかったが、彼女なりに精霊を守る姿勢の表れであった。

「ド・ゲイト・デ・テラ・マ・ギ!」

 アリアは杖から魔法の矢を放ち、魔物を倒した。

 彼女は今、精霊を具現化しているので、精霊魔法を使う事ができない。

 なので、初級魔法で精霊を援護しているのだ。

「グォォォォォォォォ……!」

 スケルトンソルジャーがグランとフェーゴを剣で薙ぎ払う。

 グランは防御魔法で魔物の攻撃を防ぎ、フェーゴを庇ってダメージを受けた。

 フェーゴはゾンビの攻撃をかわし、

 炎のブレスを吐いてゾンビとスケルトンソルジャーを焼き尽くした。

 そしてエアとミスティが呪文を唱えると水と風の竜巻が起こり、ゴブリンは倒れた。

 

「……」

 どれくらい時間が経ったのだろうか。

 魔物の数は減ってきているが、アリアの魔力が尽きかけ、疲労していた。

 精霊を具現化し、彼らを魔法でサポートしたのだから、もう限界が来つつある。

「何故……何故、こんな事に……。私が……私がやらなくてはいけないのに……。

 ここも、私が守らなくてはいけないのに……。……お願い、みんな、助けて……」

 アリアが弱音を吐いた、次の瞬間。

 

「頼むぜ、ギスカン!」

 青年の声と共に青い精霊が現れると、残っている魔物が一瞬にして全滅した。

「その声は……!」

 アリアが、その声のした方を向いてみると――

 

「よぉーアリア、久しぶりだな」

 その魔法を放った張本人――青緑色の髪と橙色の瞳を持つ青年がやって来た。

「ベストールお兄ちゃん!」

 思いもよらない助っ人に、アリアはぎゅっと青年の胸に飛び込んだ。

 青年の名はベストール。

 アリア同様にシュルッツ出身で、精霊を召喚する魔法を覚えた一族の生まれである。

 アリアは幼い頃に8歳年上の彼を慕っていて、

 普段は冷静な彼女もベストールの前では年相応の振る舞いを見せる。

「見ないうちに随分大きくなったじゃないか」

「ふふっ、ベストールお兄ちゃんこそ、立派な召喚士になりましたね。

 ……あれ、そういえば他の皆さんはどうしましたか?」

 アリアはきょろきょろと辺りを見渡した。

 実はベストールの他に、アリアと仲が良い召喚士は四人いるのだが、

 今はその全員がいなかった。

「ああ、実は魔物の襲撃ではぐれちまってよぉ……。

 急だったから対応しきれず、俺だけがここに逃げてきたわけだ」

「みんな若いですからねぇ……」

 はぁ、と溜息をつくアリアとベストール。

 しかし、ここで立ち止まっている暇はなかった。

 アリアは、ベストールに優しい声でこう言った。

「そうだ、ベストールお兄ちゃん。

 良かったら、私も一緒に仲間を探しに行ってよろしいですか?」

「ああ、俺もちょうど探していたところだったし、目的が一致したな!

 一緒に行こうぜ、アリア!」

「……はい」

 

 こうして、アリアはベストールと共に、仲間を探す事にするのだった。

 まだ見つかっていない、四人の召喚士を。




~次回予告~

アルルと女剣士セイバーは、魔導世界で見習い巫女チコと出会う。
大量発生する魔物に、チコは防戦しかできなかった。
果たして、アルルとセイバーは、チコを助ける事ができるのだろうか?


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06「見習い巫女との出会い」

~前回までのあらすじ~

プリンプタウンには、たくさんの魔物がいた。
アリアは召喚術を使って応戦するが、魔物の数は増えるばかりである。
倒されようとしたその時、同じ召喚士のベストールが現れ、アリアの窮地を救う。
アリアはベストールと共に、いなくなった召喚士を探しに行くのだった。


 ブレイカーの妨害によって魔導世界に帰って来たアルルは、

 セイバーと共にプリンプタウンへ戻るための方法を探していた。

 だが、手掛かりは一切見つかっておらず、ただ時間だけが過ぎ去っていた。

「……そもそも、ブレイカーって一体何者なの?」

「カタストロファーセブンっていう、世界を滅ぼそうとする七人の狂戦士の一人だよ。

 私達とは決して相容れぬ存在なんだ」

 セイバーからカタストロファーセブンについて説明してもらうアルル。

 アルルは「へぇー」と感心しつつ、どうすればプリンプタウンに行けるのかを考え続けていた。

 セイバーはどうしたんだろう、とアルルに声をかける。

「……アルル、プリンプタウンって場所にまだ執着してるの?」

「うん……だって、ボクの第二の故郷だもの。そりゃあ、ボクは元の世界が好きだよ。

 でも……ずっとプリンプタウンに住んでるうちに、捨てたくなくなっちゃって……」

「ぐーぐー、ぐっぐぐぐー」

 アルルとカーバンクルは寂しそうな目で空を見つめていた。

 それは、いつか戻りたい第二の故郷、プリンプタウンを見ているようだった。

 セイバーはそんな彼女の様子を見て、納得したかのように頷いてにこう言った。

「ここもプリンプタウンも好きだって事は分かったけど、

 やるべき事をやらなきゃいけない事は変わらない。

 まずはこっちの異変を解決してから、プリンプタウンに回ろう」

「そうだね、セイバー!」

 

 その頃……。

「あぁ……どうしましょう……」

 赤い髪を三つ編みにした少女のチコが、おろおろしながら魔物と戦っていた。

「こんなに魔物が来るなんて、信じられません。今まではこんな事、なかったのに……」

 チコは杖から光の矢を放ち、魔物を攻撃する。

 彼女はあまり攻撃は得意ではないらしく、攻撃魔法も弱い魔物にしかダメージを与えられず、

 強い魔物には防御魔法での対抗が精一杯だった。

「うぅ……攻撃魔法は持ってはいるのですが、強力なものは魔力を多く消費しますし……

 そもそも私は支援魔法の方が得意なので……」

 何とかチコは魔物相手に防戦しているが、彼女の体力ではもつかどうか心配だ。

「こんな時に、都合良く援軍が来る展開になるわけ……」

「あるんだよ!」

「アイスストーム!」

 そう言って、セイバーはチコの前に現れ、目の前にいる魔物を剣で切り捨てた。

 アルルも彼女の後ろを追いかけながら氷の嵐で魔物を氷漬けにする。

「あっ、アルルさん……と、あなたは?」

「私はセイバー、通りすがりの剣士だよ」

 チコはセイバーの顔を見てきょとんとするが、

 セイバーは自分の名を名乗った後にアルルとチコを守るように前に出る。

「私が前に出るからアルルと君は後方支援を頼むよ」

「はい……分かりました!」

 チコはセイバーの後ろに下がり、なるべく攻撃を受けないようにした。

 

「ファイヤー!」

 アルルが襲ってくるコボルドを炎魔法で攻撃する。

 コボルドはそれを受けても倒れなかったが、チコが光の矢を放った事により倒した。

「せいや!」

 セイバーが剣を持ってコボルドに斬りかかる。

 その時、コボルドリーダーがチコを棍棒で殴ろうとしたが、セイバーが盾で受け止める。

「セイバーさん!」

「君は前だけ見て。私が守ってあげるから」

「分かりました……抱擁の風!」

 チコは風を起こして味方を守りつつ、夢幻の天や魅惑の月でコボルドを打ち倒す。

「ダイアキュート、サ・サンダー!」

 アルルは増幅呪文を唱えた後、雷を大量に落としてコボルドの群れを一掃した。

「凄いですね、アルルさん」

「いやぁ、ボクもまだまだ見習いだよ」

「私も、アルルさんやセイバーさんに後れを取りたくありません! 太古の神よ、我に力を!」

 チコは神に祈りを捧げ、杖から雷の光線を放ってコボルドリーダーを貫く。

 それによりコボルドリーダーは一撃で倒れた。

「や、やりましたぁ」

「まだまだ! 敵は多いよ!」

 コボルドリーダーを倒したが油断はせず、セイバーは剣と盾を構え直す。

「ラウンドスラッシュ!」

「アイスストー……うわぁ!」

 セイバーは剣を振り回し、周囲にいるコボルドを全て斬りつけた。

 そこにアルルが氷魔法でとどめを刺そうとするが、コボルドの数の多さに詠唱が中断される。

「アルルさん!」

「油断しちゃったよ……もうちょっとで終わるところだったのに」

「大丈夫です、後は私がやります。大地の神よ……ガイアキューブ!」

 チコは大地の神に祈りを捧げ、地震を引き起こしてコボルドの群れを攻撃した。

 全員、地に足を付けているコボルドはこの地震に耐えられず、大地に飲み込まれ、倒れた。

 

「……はぁ、ちょっと疲れちゃいました」

 チコが杖を持ちながらはぁはぁと息を切らす。

 魔物の数は予想以上に多かったらしく、それが彼女の体力を削っていたという。

「どうして、こんなに魔物がいたんでしょうか……。セイバーさん、何か知っていますか……?」

 チコが息を切らしながらセイバーに質問すると、彼女はチコに今の状況を説明した。

「カタストロファーセブンっていう狂戦士集団が、

 世界を滅ぼすために各地に魔物をばら撒いているの。それがこっちにも飛び火したんだよ」

「うぅ……そのためだけに私達を苦しめるなんて、何という外道な集団でしょう」

「そのために私達トライブレードが、色んな世界に赴いているわけ。

 あ、私の仲間には後、エッジとソードがいるよ」

 セイバーはエッジとソードについてチコに簡単に紹介した。

 エッジはルルーの父親で片刃剣を使い、ソードはシェゾの異父兄弟で大剣を使う、と。

「皆さん、個性的なんですね。会ってみたいです」

「ふふ、期待するといいよ」

 セイバーがにっこりと微笑むと、腹の虫がぐきゅるるると鳴った。

「……あ、その前にお昼を食べなくっちゃね」

「そうだね! じゃあ、近くにある宿屋に行こう! ……今は無事かどうか、分からないけど」

「ぐーぐ、ぐっぐぐーぐ!」

 そう言って、アルル、カーバンクル、セイバー、チコは、疲れを取るために宿屋へ向かった。

 しかし、そんな三人と一匹を見ている影が一つあった。

 

「……ふふふ。世界滅亡のカウントダウンは、もう始まっているぞ……」




~次回予告~

アルル、カーバンクル、チコの二人と一匹は、セイバーの目的を果たすため、洞窟に向かった。
だがそこにも、凶悪な魔物は多数おり、アルル達に襲い掛かってくる。
果たしてアルル達は、目的を果たす事ができるのだろうか。


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07「闇覆う洞窟」

~前回までのあらすじ~

魔導世界に戻ってきたアルルは、見習い巫女・チコと出会う。
襲い掛かる魔物に防戦一方のチコを助けたアルルは、セイバーと共に彼女を仲間にした。
魔導世界の魔物が強力になる中、
果たして、アルルはプリンプタウンに帰る事ができるのだろうか。


「いただきます」

 宿屋に来たアルル、カーバンクル、チコ、セイバーは、昼食を食べていた。

 アルル達はカレーを注文したが、チコはカレーが苦手なので代わりにパスタを注文した。

「いや~、まさかここでチコに出会うとはね」

「ぐっぐぐー」

「単なる偶然……かもしれませんし、精霊の導き……かもしれませんしね」

 チコはパスタを食べながらアルルにそう言った。

「ところで、セイバーさんってこの世界に住んでるんですか?」

「うーん、正確に言うとちょっと違うかな」

「どういう事でしょうか」

「昔の魔導世界って言ったら分かるかな?」

「? ? ?」

 チコは、セイバーの言葉に困惑した。

 セイバーは「分かりにくくてごめんね」と謝りつつカレーを食べていく。

 

 昼食を食べ終わった後、セイバーがこれから何をしようかを話し出した。

「この世界にカタストロファーセブンが来てる事は確実だから、討ち取るための準備をしよう」

 そう言って、セイバーはぎゅっと剣を握りしめる。

「居場所は分からないけど……近くに魔物がいれば、そこにいる確率は高い」

「どうしてですか?」

「カタストロファーセブンは魔物を撒き散らしてこの世界を混乱に招いている。

 その魔物の親玉が、カタストロファーセブンって事だよ」

「そうですか……」

 なら、地道に探すしかないね……とアルルは思ったが、

 その時、チコが精霊魔法を使える事を思い出す。

「そうだ、チコ! 精霊の力を借りて、どこにいるかを探す事はできる?」

「ええ、できますよ」

 そう言うと、チコは目を閉じて精神を集中させた。

「万物に宿りし数多の精霊よ、我が声を聴き、

 彼の者が探せし敵の居場所を今ここに指し示し、我に教え給う!」

 すると、チコの周囲に精霊が集まり、彼女に「声」を届けている。

 精霊の姿はアルルやセイバーの目には雲にしか見えなかったが、

 チコにははっきりと見えるようだ。

「敵はここから東に行ったところにいるようですね」

「本当!? ありがとう、チコ!」

「ぐーぐぐぐーぐー!」

 アルル、カーバンクル、セイバーは、チコの導きにより東に向かうのだった。

 チコも杖を持って彼女についていった。

 

 三人と一匹が東に向かっている途中で、セイバーはいきなり足を止めた。

「ど、どうしたのさセイバー」

「……一応、準備はしてきてるよね? らっきょとか、魔力を回復する薬とか」

「してるってば」

「ぐぐぐーぐぐ」

 アルルは鞄を開けて、中身をセイバーに見せる。

 その中には……ほとんど何も入っていなかった。

「……やっぱり、準備が必要みたいだね」

 

 店に行って道具を購入したアルル達は、敵がいると思われる場所に向かった。

 そこは、中から禍々しい気配が漂っている洞窟だった。

「なんか、いかにもって感じのダンジョンだね」

「ここに敵はいるみたいだ……みんな、行くよ!」

「うん!」

「ぐー!」

 アルル達は、その洞窟に足を踏み入れた。

 洞窟の中は暗かったので、アルルがライトの呪文を唱えて明るくした。

 ある程度歩いていくと、毒々しい色合いの魔物が襲い掛かってきた。

「気を付けて、これはポイズンスネークだよ! 牙に噛まれると毒が身体に回るよ。弱点は寒さ」

「じゃあ、氷魔法だね! アイスストーム!」

 アルルは吹雪を起こしてポイズンスネークを凍らせる。

「ぐぅっ!」

 ポイズンスネークに腕を噛まれたセイバーの顔が青ざめていく。

 セイバーがポイズンスネークが持つ毒に侵されたのだ。

「ピュリファ!」

「恩恵の雨!」

 すぐにアルルとチコが回復魔法で毒を治療すると、

 セイバーは剣を構え直してポイズンスネークに剣を振るがかわされる。

 ポイズンスネークは攻撃をかわした後、再びセイバーに噛みついて重傷を負わせる。

「あうぐ!」

 盾で防御した事により何とか毒は免れたものの、セイバーは重傷を負ってしまう。

「セイバーさん、無理はしないでください! ガイアヒーリング!」

 チコはセイバーを下がらせた後、高位の回復魔法でセイバーを癒す。

「ふぅ……ちょっと無茶をしちゃったよ」

「当たり前でしょ、キミを死なせたくないんだから! ダイアキュート、ア・アイスストーム!」

 アルルは増幅呪文を唱えた後、広範囲に吹雪を起こしてポイズンスネークを凍らせる。

「ガイアキューブ!」

 そして、チコが地震を起こすと、ポイズンスネークは全滅するのだった。

 

「大丈夫だった、セイバー?」

 アルルが疲れているセイバーを心配する。

 体力自体は魔法のおかげで回復しているものの、

 何度も毒を受けているためかスタミナが減少しているのだ。

「ちょっと疲れちゃった……。栄養剤でも飲んで、休もう」

 そう言って、セイバーは休憩できる場所を探しに行った。

 

「ここなら安全だね」

 アルル達は敵が入ってこない安全地帯を見つけ、セイバーは疲れを取るために栄養剤を飲んだ。

「ふー、生き返ったー」

「セイバー、世界を救いたいって気持ちは分かるけど、そればっかりに気を取られないでよ」

 アルルの心配に対し「大丈夫だよ」と答えるセイバー。

 やはり無理しているな……とアルルは感付いていたため、彼女の肩に手を置く。

「それが一番良くないんだよ、セイバー! キミが疲れてるの、ボク、お見通しなんだから!」

「あはは……友達の君にはバレバレか」

 アルルの言葉にセイバーは苦笑しながら頭をぽりぽりと掻いた。

 カーバンクルはな~に~? といった様子で首(?)を傾げている。

「友達、という事は……アルルさんとセイバーさんって、仲が良いんですか?」

「ボクはセイバーの事は全然知らないんだけどね、

 無茶してるセイバーを見たら心配になっちゃって……やっぱりボクってお人好しだよね~」

「ぐーぐぐー」

 お人好しなのは人間味があっていいじゃないか、というように鳴くカーバンクル。

 楽しく会話をしている時に、セイバーの疲れは心身共に取れてきていた。

 勇者としての使命、彼らならば共に請け負ってくれるかもしれない……と。

 

「じゃ、そろそろ休憩もおしまいにして、先に進もうか」

「ええ」

 

 休憩を終えたアルル、カーバンクル、チコ、セイバーは、

 魔物を倒しながら洞窟の奥に進んでいく。

 暑かったり寒かったりと極端な気温の変化はなかったが、

 辺りに漂う闇の影響で魔物が凶暴になっていた。

 それでもアルル達は負けないように、魔物と、環境と、戦っていく。

「よし、これでこの辺にいる魔物は全部倒したね!」

 ふぅ、とアルルが汗を拭うと、彼女の目の前に小さな鍵がからん、と落ちた。

「あ、これがもしかしてこのダンジョンの鍵なのかな?」

「そうみたいですね。あちら側から、邪悪な気配を感じますし……」

 チコが指差した先には、灰色の、禍々しい気を纏った扉があった。

「あ! 本当だ! もしかしたら、この鍵を使えば……!」

 アルルは扉に向かって鍵穴に鍵を差し込んだ。

 すると、ガチャリと鍵が開き、ギギィと扉が重い音を立てて動き出した。

「さぁ、行くよ!」

「ぐー!」

「はい!」

「うん!」

 アルル、カーバンクル、セイバー、チコは、この先にいる狂戦士を倒すため、

 この先の地に足を踏み入れるのだった。




~次回予告~

カタストロファーセブンの一人と遭遇したアルル。
世界を滅ぼそうとする狂戦士と、世界を守ろうとする剣士は反りが合わなかった。
油断しては、カタストロファーセブンの野望を許してしまう。
アルル達は、この狂戦士を倒す事ができるのだろうか。


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08「狂戦士バスター」

~前回までのあらすじ~

魔導世界で、アルルはセイバー、チコと共に異変を解決するべく回る。
魔物を退治しつつ敵を追っていくと、闇に包まれた洞窟に入る。
そこで待ち受けていたのは、カタストロファーセブンの一人、バスター。
果たして、アルル達はバスターを倒す事ができるのだろうか。


「どうやら、来たようだな……」

 洞窟の奥に立っていたのは、赤い髪を持つ上半身に何も纏っていない筋骨隆々の大男だった。

「俺様はバスター! カタストロファーセブンの一人だ!」

 バスターと名乗った男はアルル達に拳を突き出す。

 彼の拳からは、瘴気が湧き出ていて、触れただけで気分が悪くなりそうだった。

「俺様はこの世界をぶっ潰したいのさぁ! でもまずは、てめぇらからぶっ潰してやるぜ!」

 バスターの言葉を聞いたセイバーは、鞘から剣を取り出して構える。

「悪いけど、私達も世界を守るために戦っているんでね。君みたいな奴に潰されてたまるか!」

「そうだよ!」

「ぐーぐー!」

「あなたのような侵略者に、負けるわけにはいきません!」

 アルルは戦闘態勢を取り、チコも杖を構える。

 二人の様子を見たバスターが鼻で笑う。

「てめぇらもその女と同じ目的か」

「ううん、違うよ。ボクがキミを倒すのは、世界を救うためじゃない。みんなのためなんだ!」

 バスターの言葉にアルルは首を横に振る。

 アルルが守りたいものは世界ではなく、この世界に住む全ての生命なのだ。

「私は……あなたのせいでみんなが悲しむのを見たくはないんです。だから私も……戦います!」

「へっ、そうかよ。なら、てめぇらと相容れる事はないな! 全力でかかってこいやぁ!」

 狂戦士バスターとの戦いが、始まった。

 

「ウィンドカッター!」

 セイバーは手から風の刃を放ってバスターを切り裂く。

「おらおらおらぁ!」

「危ないよ、チコ!」

 チコにバスターの拳が当たろうとしたところで、チコが盾を使って彼女を庇う。

「ファイヤー!」

「魅惑の月!」

 アルルは火炎弾を、チコは三日月弾を放つ。

 その隙にアルルはショックでバスターの動きを止めようとするが、

 バスターはその魔法を打ち消してチコに突っ込んでいく。

「そんなへなちょこ魔法なんて効くわけねぇだろ。食らえ、雷神拳からのストレート!」

「そんな攻撃、効くか!」

 セイバーは盾でチコを庇い、バスターの攻撃を防ぐが、バスターはにやりと笑みを浮かべる。

 彼の目論見通り、セイバーの身体に電撃が流れ、彼女を痺れさせた。

「ぐわあああああああ!!」

「俺様がただの脳筋だと思ったら大間違いだぜ!」

「くそ……魔導拳も使えるのか……!」

 電撃攻撃を受けたセイバーは脂汗を掻いていた。

「セイバー、あまり無茶はしないで。いざとなったらボク達が守ってあげるから!」

「ぐーぐ、ぐーぐぐー!」

「ああ、ありがとう、アルル……」

 アルルはセイバーを「友達」ではなく「仲間」だと思っており、

 彼女を守りたいのもその理由であった。

「やっぱり君は、私の友達だよ。だからアルル、私も君の期待に応えるよ!」

「抱擁の風」

「ウィンドソード!」

 チコがセイバーの剣に風を纏わせた後、セイバーはその剣でバスターを斬りつけた。

 

「……ふ、やるじゃねぇかよ、勇者とそれに付き従う小娘」

「は、勇者とは言うじゃない。……私は『彼』とは全然違うんだけどね」

 セイバーは息を切らせながら剣を握り続けている。

 対するバスターはまだ体力が残っており、余裕な様子だ。

「せっかくぶっ潰してぇのに、なんで抵抗し続けるんだよ。とっとと楽になれよ」

「……それは、私が君に言う言葉じゃないかな?」

「ダイアキュート、ダイアキュート、ダイアキュート、ダイアキュート……」

 アルルは大ダメージを与える準備として、増幅呪文を唱え続けた。

 バスターはアルルの詠唱を阻止しようとするが、

 そこにセイバーとチコが入ってアルルを守るように攻撃する。

 セイバーはバスターの拳を盾で受け止め、反撃でバスターを斬りつける。

「アルル!」

「うん、準備オッケー!」

 チコとセイバーがその場を離れると、アルルは魔力を溜めた手をバスターに突き付けた。

「いっくよー! ファファファファファファファイアーストーム!!」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 アルルが魔力を解放すると、炎の嵐がバスターを包み込み、光や熱と共に大爆発を起こした。

 

「よし、やった!」

「……フラグ立つよ」

 アルルが喜ぶのも束の間、バスターはボロボロになりながらもゆっくりと立ち上がった。

 その目には未だに、闘争心が宿っている。

「よくも、やりやがったなぁ……。こ、こうなったら……俺様の本気、見せてやるぜ……!」

「本気? ……まさか!」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 バスターの身体を禍々しいオーラが包み込むと、彼の姿が見る見るうちに変化していく。

 頭から黄金の角が何本も生え、腕は四本に増え、肌は赤くなり装甲が身体を包み込んだ。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 第二形態に変化したバスターがチコに襲い掛かる。

「グォォォォォォォォォォォ!!」

「抱擁の風!」

 バスターは拳をチコに向かって振り下ろす。

 チコは何とか風の魔法を唱えて攻撃を防いだが、大きく仰け反ってしまった。

 なおもバスターの連続攻撃は続き、リバイアを使ったがパワーの前に結界が壊れてしまう。

「アイスストーム!」

「ウォォォォォォォォォォォ!!」

「魔法が効かない!?」

「くそ、剣も効かないよ!」

 アルルの氷魔法を跳ね返すバスター。

 セイバーの剣もバスターの強烈なパワーで弾き返した。

 

「なんというパワー……これが本気の彼でしょうか」

「ぐー、ぐぐーぐー!」

「……」

 カーバンクルとチコがバスター第二形態のパワーに驚愕している時、

 バスターは既に必殺技の構えを取っていた。

 あれを食らえば、ひとたまりもない。

 チコは何としてでも、バスターの必殺技を止めなければ……と考え続けた。

 一体どうすればいいのか、と考えていた時、バスターが目の前に突っ込んでいった。

「!!」

「みんな、攻撃をかわして!」

「ウオォォォォォォォォォォ!!」

「うわぁ!」

 攻撃をかわそうとするアルル達の周囲に、大量の岩が落ちてきた。

 これで必殺技が必ず命中するようにするためだ。

「ウガアァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 そして、バスターの四本腕による一撃が、まさに命中しようとしたその時。

 

「グ……ッ!?」

 突然、バスターの動きが止まった。

 一体何をしたんだ、とバスターが狼狽える。

 その時に彼が見たのは、光っている杖を持ったチコの姿だった。

「チコ!?」

「必殺技が来る瞬間にスネアを使って、動きを止めたんです。

 魔法が効いている間に、決着をつけましょう!」

「うん……分かった。ダイアキュート! ダイアキュート!」

 バスターが動かなくなった今がチャンスだ。

 チコに助けてもらったアルルは、自分とセイバーにダイアキュートをかける。

「ジュ・ジュゲム!」

「グランドクロス!」

 アルルが放った爆発魔法と、セイバーが放った十字の剣閃が、バスターを纏う装甲に命中した。

 攻撃が命中した装甲は砕け散り、角にもパキパキと罅が入っていく。

「グオオオオオオオオオオオ!!」

 そして、角が砕け散ると同時に、バスターは塵となって跡形もなく消滅した。

 

「やったぁ!」

 今度こそ本当にバスターを倒し、この世界の脅威を1つ退けた。

「私達の勝利ですね!」

「ぐーぐぐーぐー!」

 アルル達は互いに勝利を喜び合った。

 すると、洞窟を覆っていた闇が徐々に引いてきた。

「バスターがいなくなったから……」

「この洞窟も、だんだん平和になっていきますね」

「これを見たら、本当にボク達、勝ったんだなぁ、って思うよ」

「ぐぐーぐー」

「それじゃあそろそろ、この洞窟を出ようか」

「うん!」

 アルル達は喜びながら、洞窟を後にするのだった。

 

「これで、世界を奴らの手から少し解放できたね」

 目標を達成したセイバーは、晴れ晴れとした様子で周囲を見渡していた。

 一息ついたところで、セイバーはアルルとチコの方を振り返る。

「二人ともありがとうね。君達がいなかったら、私はあいつに勝てなかったよ」

「どうして?」

「ぐーぐぐ?」

「どうしてですか?」

 セイバーは一人でも十分強いはずなのに、どうしてそんな事を言ったのだろう。

 アルルとチコが疑問に思っていると、セイバーはこう答えた。

「私は、力は強くても心は強くないからだよ。

 強い力には相応の強い心がなければ、すぐに人は力に飲み込まれてしまう。

 末路は死か、生き残っても堕落だよ」

 セイバーの言葉に、アルルとチコはごくり、と唾を呑んだ。

「私はトライブレードのリーダーだけど、エッジやソード、そして父さんと違って、

 心なんてまだ全然強くないよ」

「父さん……?」

 セイバーの「父さん」という言葉が気になったアルルはセイバーに聞こうとするが、

 彼女は「気にしないで」と話を続ける。

「とにかく、君達がいたおかげで、私は精神的に支えられたって事」

「うん、だってキミはボクの仲間だから」

「だーかーらー、友達って言ってるだろうが!」

「だからボクはキミの事を友達だって知らないし、友達も仲間も一緒でしょ?」

「全然違うってば!」

 ムキになるセイバーを見て、チコは何とも微笑ましくなっていた。

「二人とも楽しそうですね。こっちまで笑顔になってきました」

「あっ、チコ! そ、それはね……!」

「し、下心なんて私にはありませんよ?」

 三人が楽しく会話をしていると、突然、空が揺れ出した。

「! 空が……!」

「もう、世界は終わりつつある、って事だね……どうする?」

「一度、宿屋に戻ろう。休息もいつかできなくなると思うと……」

「……そうだね」

「ぐーぐぐー」

 アルル、カーバンクル、チコ、セイバーは、疲れを取るために宿屋に向かうのだった。

 今この時間から、刻一刻と、世界は終焉に向かっているのだ。




~次回予告~

アミティはプリンプタウンに戻るため、エッジと共にパラレルワールドを冒険する。
そこは、プリンプタウンよりも危険な世界であった。
しかし、アミティは諦めず、脱出のための方法を考えるのだった。


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09「そこはプリンプだが、プリンプではない」

~前回までのあらすじ~

魔物が大量発生している魔導世界で、
アルル、チコ、セイバーはその原因が潜むという洞窟の中に入る。
そこでカタストロファーセブンの一人、バスターと出会う。
世界を終焉に導こうとする彼に苦戦するアルル達だったが、
激闘の末、ついにバスターを撃破するのだった。


 プリンプタウンのパラレルワールドに飛ばされたアミティは、

 エッジと共に魔物を倒しながら元の世界に帰る方法を探していた。

 その途中、アミティは空腹になったので、この宿屋で昼食を食べているというわけだ。

「ここのハンバーグ屋さんって結構量が多いよね。あたし一人じゃ食べ切れないよ」

「ん、そうか? オレにとっては普通の量だが?」

「エッジ、そんなに食べるの……? まぁ、ルルーのお父さんだから、だよね」

 アミティがそう言うと、エッジは彼女の口に手を当てた。

「キミ、ルルーの前でそんな事を言ったら究極女王乱舞を食らうぞ」

「ご、ごめんなさい」

 今回は、ルルーがいなかったからよかったものの、

 いたら間違いなくエッジの言う通りになるだろう。

「それで、ここがパラレルワールドってのは分かったけど、具体的にはどんな場所なの?」

「それはまだ、キミに教えるべきではない」

「うん、分かった」

 意外にあっさりアミティが引いてくれたため、エッジはきょとんとしていた。

「何、聞かないのか?」

「言いたくないなら無理に言わなくていいよ。答えはあたし自身が見つけるんだもん」

 エッジはアミティの意志を見てうんうんと頷いた。

 そしてハンバーグを食べ終わった後、エッジはある提案をする。

「そうだ、アミティ」

「何?」

「後でパラレルワールドのみんなに挨拶しに行こう。

 キミなら、別世界の人であっても分かり合えるはずだ」

「うん、いいよ」

 アミティは喜んでエッジの提案を受け入れた。

 これからアミティが出会う人物は、

 彼女が今まで出会ってきた人物とは似ているようで別の存在である。

 エッジは、アミティが彼らと上手くやれるかどうか心配だったが、

 彼女の態度からそれほど心配する必要はないと判断した。

 

「じゃあ、行こうか」

「うん!」

 

 アミティとエッジが宿屋を出ると、二人の目の前にインプとスライムが現れた。

「……というわけにはいかないみたいだな」

「魔物が来たよ! 倒さなきゃ!」

「いくぞ!」

 エッジはスライム目掛けて剣を振り下ろしたが、衝撃を吸収してダメージを受けなかった。

「うわぁぁぁぁぁ! フレイム!」

 スライムが身体を伸ばしてアミティを丸呑みにしようとした。

 しかし、食われる直前でアミティが炎魔法を使ったため飲み込まれずに済んだ。

「子供に変な事はさせるなよ!」

「ライトニングボルト!」

 アミティは多少粘つきながらも何とか雷魔法を放ってスライムを一撃で倒した。

 スライムは物理攻撃に強いが、魔法攻撃には弱いのだ。

「おお、やるなアミティ」

「物理攻撃が効かないなら、魔法を試せばいいだけだよ」

「そっか……オレは魔法使えないしな、そっちはキミに任せるよ」

 エッジが剣を構え直すと、スライムがエッジに体当たりしてきた。

「援護するよ、フレイム!」

「助かるぞ、火炎斬!」

 アミティがエッジの剣に炎を纏わせると、エッジは勢いよくスライムを斬りつけた。

 炎属性に弱いスライムは一振りで蒸発した。

 

「よし、スライムは全滅っと!」

「後はインプだけだな」

 インプはケケケと笑うとエッジに闇の魔弾を大量に飛ばしてきた。

「うあぁぁぁぁぁぁぁ!」

「エッジ!」

 それをもろに食らったエッジが重傷を負う。

「オレが魔法に弱い事を知って攻撃したんだな?」

「魔族は下級でもそれなりに賢いってあくまさんから聞いたんだよ。ブリザード!」

「メテオドライヴ!」

 アミティはインプ達を吹雪で攻撃し、

 エッジは飛び上がって落下エネルギーを加えた一撃を叩き込んだ。

「サイクロワール!」

「旋風斬!」

 アミティの援護を受けたエッジが風を纏った剣を振り下ろすと、

 鎌鼬が起こりインプはずたずたに切り裂かれた。

 インプはキィキィと鳴きながら短剣でアミティを攻撃し、続けてエッジに闇魔法を放った。

「くそっ! このままでは死んでしまう。アミティ、回復魔法は使えるか?」

「うん、ヒーリング!」

 アミティはエッジに向かって回復魔法を唱えると、彼が負っている傷が治った。

「ああ、助かるぞ」

「それほどでもないよ、エッジさん」

「さんはいらない。……さて、もうすぐ終わりそうだな。一気に片付けるか!」

 エッジは剣を構え直し、気を剣に込める。

 そして、エッジは剣をインプの群れ目掛けて振り下ろした。

「ブレードパルサー!」

 すると、気が衝撃波となって、その場にいたインプに一気に大ダメージを与えた。

 これによりほとんどのインプが倒されたものの、まだ一体だけ生き残っていた。

 インプは大急ぎでアミティとエッジから逃げ出そうとする。

「逃がすか!」

 エッジは素早い動きでインプに突っ込んでいく。

 逃げられたら、人里に被害が及んでしまうからだ。

 だが、インプの動きは予想以上に速く、エッジでは追いつけそうにない。

「く、どうすればいいんだ……」

「あたしに任せて! ライトアロー!」

 アミティは光の矢をインプ目掛けて放った。

 その速度はまさに光速で、逃げるインプを正確に追いかけて命中し、最後のインプも消滅した。

 

「これで、魔物はみんな全滅したね。さぁ、みんなに挨拶しに行こう!」

「ああ」

 

 アミティとエッジは、パラレルワールドのプリンプタウンに向かった。

 二人が最初に出会ったのは、ラフィーナだった。

「ラフィーナ! こんにちはー!」

「あら……あなたは、誰ですの?」

「えっ、アミティだよ! あたしだよ!」

 この世界のラフィーナが自分を知らない事にアミティは愕然とする。

「だから言っただろう、ここはパラレルワールドなんだ。

 ここにいるラフィーナは、ラフィーナであってラフィーナではない」

「よく分かんないけど……あたしの知ってるラフィーナじゃないって事?」

「そういう事だ」

「二人とも、何をおっしゃってますの?」

 アミティとエッジの会話にキョトンとするラフィーナ。

 だが、アミティにとっては、目の前にいる人物がラフィーナだという事実には変わらない。

 彼女はラフィーナの手を握ると、満面の笑みを浮かべてこう言った。

「じゃあ、よろしくね! この世界のラフィーナ!」

「……ええ」

 

 その後も、アミティとエッジは、この世界の皆に挨拶をしていった。

 アミティが元いたプリンプタウンとこの世界のプリンプタウンの違いの1つとして、

 魔法を学ぶ者の人数の違いが挙がる。

 前者は魔導学校に通えば誰でも魔法が使えるのだが、

 後者は素質がない者は魔法を使えない故に魔導学校に通わない……つまり、魔導世界と同じだ。

 さらに、人を襲う魔物も多くいるため、各地に兵士としての力をつける訓練所もあるという。

「なんか、あたし達の世界と全然違うねー」

「だろうな。……しかし、この世界にも奴らの脅威が潜んでいる。

 とっとと終わらせてやりたいところだ」

 エッジは青緑色の目で、遠くを鋭く見つめていた。

「うん……あたしも、早く元の世界に帰りたいしね」

 アミティがそう言った瞬間、空が揺れ、僅かに裂け目が現れた。

 それを見たエッジが真剣な表情になる。

「まずいな……こうしている間にも、世界はどんどん崩れていっている。

 いつ崩壊してもおかしくはないな」

「……そう、だね……」

 

 希望の世界か、世界の終焉か。

 それは、アミティ達の行動にかかっている。




~次回予告~

あんどうりんごとソードは、チキュウからプリンプタウンに戻ろうとした。
だが、二人には容赦なく魔物が襲い掛かってくる。
果たして、りんごは無事にプリンプタウンに帰れるのだろうか。


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10「近付く終焉の足音」

~前回までのあらすじ~

プリンプのパラレルワールドで、アミティとエッジは脱出のために冒険する。
そこにも魔物はたくさんいたが、エッジの活躍で何とか撃退できた。
あまりにも本来のプリンプとは違うプリンプにアミティは困惑するが、
そんな彼女を支えてくれたのは、エッジと、この世界のラフィーナだった。


 りんごとソードは、チキュウからプリンプタウンに戻るための方法を考えながら冒険していた。

「サイン!」

「マジックブレード!」

 その途中で魔物と出会ったため、りんごとソードは魔法や剣で退治している。

「なんでこんなに魔物が……」

「カタストロファーセブンを全滅させるまで、魔物は現れ続けるって事よ」

「そんなぁ……」

 りんごは、しばらく戦いは終わらないなと諦めた。

「コサイン!」

 りんごは手から電撃を放つが、ポイズンフラワーは蔦で弾き返す。

 さらにポイズンフラワーは蔦を伸ばしてソードの足を絡め取った。

「剣がダメなら、これでいくしかないわね! シャドウエッジ!」

 ソードは闇の刃を生み出し、ポイズンフラワー目掛けて飛ばした。

 次の瞬間、ソードは軽いアレンジを加え、

 まるで意志があるかのようにポイズンフラワーを捉え、切り裂いた。

 さらに、命中した部位がポイズンフラワーの急所だったため、かなりのダメージを与えられた。

「く……速いわね……! でもそんな攻撃、アタシには効かないわよ」

 ソードはポイズンフラワーの蔦を捌けずに命中するが、全て防御魔法を使って攻撃を防ぐ。

「サイン! うぅ、当たりませ~ん」

「だから仲間がいるのよ! ソードブラスト!」

 りんごの雷魔法をポイズンフラワーはかわすが、

 ソードがフォローするように大剣で斬りつける。

「今度こそ! 狙いを定めて……ネオスペル、マ・マグマチュード!」

 りんごはしっかりと相手に狙いを定めた後、

 増幅呪文を唱えてマグマを呼び出し、ポイズンフラワーにとどめを刺した。

「やるじゃない」

「植物には炎が効くんですよ」

 りんごがそう言うと、ポイズンフラワーがりんごに毒の蔦を伸ばしてきた。

 あれに当たれば、毒を浴びてしまう。

「このっ!」

 ソードは毒の蔦を魔力を纏った大剣で受け止め、りんごに攻撃が当たらないようにする。

「ありがとうございます、サイン! ってうわぁ!」

「当たらないわね」

 りんごはお礼を言ってポイズンフラワーに電撃を放つが、明後日の方向に飛んでいった。

 ソードも剣を振り回すが蔦に阻まれてなかなか当たらない。

「ここは、心を落ち着かせて……ヒートシフト、からのオーガスラッシュ!」

 ソードは精神統一で心を落ち着かせた後、

 大剣を大きく振り下ろしてポイズンフラワーの蔦を全て切り裂いた。

 攻撃手段を失ったポイズンフラワーは暴れ回る。

「よし、今がチャンスです! ネオスペル、ネオスペル、マ・マ・マグマチュード!」

 そして、りんごが増幅呪文を唱えた後、最後のポイズンフラワーをマグマで焼き尽くした。

 

「これでポイズンフラワーは全滅したわね。次は……誰が来るのかしら?」

「分かりません……」

 ポイズンフラワーを倒したからといって、敵が全滅したとは限らない。

 今の状況では増援が来る可能性が非常に高いのだ。

「ここは次の敵に備えて、準備します! ネオスペル!」

「そうね、その方がいいわ! ダイアキュート!」

 りんごとソードは増幅呪文を唱えて、次の敵に備えた。

 すると、二人の予想通り、二体のガーゴイルと、それを操っているダークメイジが現れた。

「ス・スティンシェイド!」

 ソードはガーゴイルに突っ込んで、増幅した影の棘を至近距離から叩き込んだ。

 魔法はガーゴイルの急所を突き、大ダメージを与える。

 ダークメイジはりんごとソードに近付き、呪文を詠唱すると、辺りを闇が包む。

「な、何!?」

「気をしっかり持ちなさい……相手の思うつぼにならないようにね」

 りんごとソードが警戒していると、闇の中から大量の棘が降り注いだ。

 あれをまともに食らえば、確実にばたんきゅーしてしまうだろう。

「「リバイア!」」

 りんごとソードは何とか耐えるべく結界を張って大量の棘を受け止めた。

 だが、量が多すぎるために半分防いだところで結界は砕け、

 残りの棘がりんごとソードに降り注ぐ。

「「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 多くの棘が刺さったりんごとソードは、かなりのダメージを受けてしまう。

「ヒーリングオール!」

 りんごは何とか、覚えたての範囲回復魔法を使い、受けたダメージを回復させる。

 だが、相手の攻撃は激しくなるばかりだった。

「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。ダークメイジから先に倒しましょう!

 ネオスペル、タ・タンジェント!」

 りんごは増幅させた電撃弾をダークメイジ目掛けて放った。

 ダークメイジは隙を見せていたのか、攻撃はダークメイジの急所に命中し大ダメージを与えた。

「やりました!」

「シャドウエッジ!」

 今度はソードが闇の刃をガーゴイルに飛ばし、瀕死の重傷だったガーゴイルを倒した。

 その後にダークメイジに突っ込んでいき、大剣を大きく振り下ろしてダークメイジを攻撃した。

 ダークメイジはふらつき、それだけで体力が残り僅かである事が分かる。

「後は私がやりますよ! イ・イ・イ・インテグラル!!」

 りんごはダークメイジに近付き、魔力を纏った本で思いっきり殴った。

 ダークメイジは反応できずに大ダメージを受けてしまい、霧となって消滅した。

 最早、残ったガーゴイルは雑魚同然でしかない。

「逃がしませんよ! サイン!」

 りんごは手から電撃を放ち、逃げようとするガーゴイルの動きを止める。

 ガーゴイルは反撃として爪でりんごを引っ掻こうとするが、

 ソードがりんごを庇い、大剣で攻撃を受け止める。

「これでとどめです! ネオスペル、ネオスペル、パ・パ・パーミテーション!!」

 そして、りんごは無数の花弁でガーゴイルを包み込み、跡形もなく消滅させた。

 

「こんな魔物もチキュウに攻めてくるんですか? これじゃあ、ゆっくり休めませんよ」

「奴らは世界を終わらせるためなら手段を選ばないのよ」

 りんごが困った顔でぼやく。

 奴ら、すなわちカタストロファーセブンが厄介な存在である以上、

 世界を平和にするためならば、どんな手段を取っても構わないという。

「だから、今のアタシ達には休みがない。もう、とっくに日常は終わっているのよ」

 ソードがそう言うと、突然、地震が起こった。

 揺れはすぐに治まったが、りんごが向こう側を見ると、街の一部が消失してしまっていた。

「街が……!」

「ほらね。世界は徐々に滅んでいるわ。だから、早く奴らを止めなきゃ……」

「私達もいずれ、こうなるんですね」

 りんごの言葉にソードはそうよ、と返事した。

 カタストロファーセブンを倒さねば、この世界に未来は訪れないのだ。

 りんごとソードは改めて決意をし直すのであった。




~次回予告~

プリンプタウンの外で、アリアはベストールと共に精霊使いを探す。
だが異変の影響で、今まで以上に魔物の数は増えていた。
果たしてアリアとベストールは、無事に召喚士を探す事ができるのだろうか。


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11「召喚士を探して」

~前回までのあらすじ~

チキュウに戻ってきたりんごとソードは、プリンプタウンに戻るために冒険していた。剣も魔法も使えるソードと、魔法が得意なりんごのコンビネーションで魔物を倒していく。しかし、カタストロファーセブンの魔の手は、まだ止まらなかった。


 アリアとベストールは、はぐれた他の召喚士を探すため、プリンプタウンの外に出ていた。

 ベストール曰く「ギスカンはこの町には反応しなかった」ためだとか。

 しかし、平和(今は平和とは言えないが)なプリンプタウンの外は危険が多く、

 魔物もいつもより増え、強くなっていた。

「行くぜ、相棒!」

 ベストールは相棒のギスカンをけしかけて次元蜘蛛を痺れさせる。

 次元蜘蛛とダークエルフはベストールとギスカンに襲い掛かって牙で噛みついた。

「いってぇ!」

「ベストールお兄ちゃん、大丈夫ですか?」

「これくらいの傷、どうって事ない。ヒーリング!」

 ベストールは回復魔法を唱えてギスカンと自分の傷を治す。

 安心したアリアは炎の精霊フェーゴを召喚し、炎に弱いダークウルフにけしかける。

 炎に包まれたダークエルフは悶えており、かなり効いている事が分かった。

「次はこっちだ!」

 ベストールはギスカンを方向転換させ、再びギスカンを次元蜘蛛に突っ込ませる。

 ダークウルフと次元蜘蛛の攻撃を、

 アリアが召喚した地の精霊グランが防ぎつつ、フェーゴを召喚して攻撃する。

「これで、終わりだ!」

 そして、ギスカンが激しい光を放つと、ダークウルフと次元蜘蛛はばたんきゅーした。

 

「まさか、こんなに魔物がいるなんて……」

 異変の影響か、今まで以上に魔物との戦いが多くなっている。

 これは早めに助けなければ、探そうとしていた召喚士達は既に死んでいたという結果にもなる。

 そんな最悪の結末を避けるためにも、アリアとベストールはどんどん先に進んでいく。

 

 その頃、ベストール以外の他の召喚士は……。

「! みんなの様子がおかしい……!」

 血走った目の人間が、ゆらゆらと彷徨っていた。

 ゾンビのように見えるが、肉体は腐っていないのでアンデッド系の魔物ではない事が分かる。

 四人はもう既に彼らに包囲されているようで、戦いは避けられない。

「みんな、迎え撃つわよ!」

「そのつもりっス!」

 四人はパートナー精霊を呼び出し、狂った人を迎え撃った。

「あたしとローゼマが牽制を担当するから、キミ達は攻撃を担当してくれっス!

 でも、殺しちゃいけないっス」

 マーベットはそう言って、精霊のラビスケを狂った人にぶつけた。

 元は人間だったので、なるべく殺さないように手加減している。

「燃えなさい!」

 ティルラは炎の精霊キューコをマーベットが攻撃した狂った人に突っ込ませ、炎で包み込んだ。

 これが決定打になったらしく、狂った人は唸り声を上げて倒れた。

「コマーナちゃん、ティルラを勇気づけて!」

 ローゼマはコマーナの力でティルラにやる気を起こさせ、もう一度行動できるようにした。

「身体の調子が良い……よし、これならいけそう!」

「「「ウォオオォォオオオオオオオオ!!」」」

「キューコ、あいつらを燃やして!」

 狂った人は一斉にマーベットに襲い掛かって来たが、

 ティルラがキューコに指示を出して彼らに攻撃を仕掛ける。

 相手は怯んでいないが、少しずつ、確実に体力を削っていった。

「ヒロインを敵が集中攻撃するのは小説の華っスね」

「マーベットさん、そんな事言ってないで、攻撃に集中してください!

 わたしが防御しますから!」

「はいは~い」

 狂った人の攻撃を、ローゼマはコマーナの力で防いでいく。

「いっけーっ、ダイギンガオー!」

 アルガーは精霊ダイギンガオーに指示を出し、

 ダイギンガオーが持つ剣が狂った人を切り裂いた。

 もちろん、マーベットの指示通り、峰打ちである。

「ラビスケ、『薙ぎ払え』っス!」

 マーベットがそう指示するとラビスケは宙を舞い、天から大量の弾を狂った人に落とした。

 相手の攻撃は鈍かったので、全弾命中し、かなりのダメージを与える事ができた。

 ティルラも隙を突いてキューコに攻撃を指示し、瀕死の重傷を負った狂った人を気絶させた。

「これであと一人だな! ダイギンガオー、とどめだー!」

 アルガーが最後の狂った人を指差すと、ダイギンガオーの拳を光が包み、

 狂った人に勢いよくその拳が振り下ろされた。

 

「ふぅ……これでみんな大人しくなったわね」

 ティルラ達はその場にいた狂った人を大人しくさせたが、どうやらまだ残りがいるようだ。

 その残りのうち一人が、向こうに去っていった。

「まずいっス、これは追うしかないっス! 『敵の生き残りは、本拠地に逃げていった!』

 よし、小説の題材になるっスね」

「逃げていった方向は分かるけど、もうちょっと手掛かりが必要ね」

「あ、それならラビスケに任せてほしいっス。足跡とかが見つかれば十分っスよね?」

 そう言って、マーベットはラビスケに手がかりを探すように指示した。

 結果、向こうの足跡をラビスケが発見した事で、全員、迷う事なく後を追う事ができた。

 

 視点は、アリアとベストールの方に戻る。

「本当にここで合っているんですか?」

「ギスカンが精霊の魔力を感じ取ったからな、この洞窟の中で間違いないぜ」

 二人が着いた場所は、狭い洞窟だった。

 ベストール達失われし秘術の使い手は、精霊同士で魔力を感じ取る事ができる。

 距離がかなり離れていても、精霊さえ無事ならば場所が分かるのだ。

 また、洞窟には明かりが灯っているため、明かりの心配はいらないだろう。

 

「待ってろよ、ティルラ、マーベット、ローゼマ、アルガー。俺達が必ず、助け出してやるぜ!」




~次回予告~

アリアとベストールは、いなくなった召喚士を探して洞窟を冒険していた。
だが、その洞窟の中にも、たくさんの魔物はいた。
その魔物を指揮していたのは、カタストロファーセブンだった。


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12「見つけた召喚士」

~前回までのあらすじ~

バラバラになった召喚士を探すため、アリアとベストールは冒険していた。
魔物が強力になる中、二人は召喚術を駆使して魔物を倒していく。
果たして、召喚士は見つかるのだろうか。


 アリアとベストールが洞窟の中腹まで来ると、

 そこは広い空間になっていて、魔物がたくさんいる。

 魔物は二人に気づくと、一斉に武器を抜いた。

「来ますよ!」

「ああ! 蹴散らしてやろうぜ、アリア!」

「はい!」

 アリアは地の精霊グランを召喚し、地震を起こしてコボルドの群れを攻撃する。

 続けて、ギスカンがコボルドに体当たりしてダメージを与える。

 ゴブリンソードマンが剣を振り回してアリアとベストールを攻撃したが、

 グランが変化した壁に阻まれて攻撃が届かなかった。

「エアウィンド!」

 アリアの声と共に風の精霊エアが現れると、機敏に動き回ってコボルドの群れを翻弄した。

 その隙にギスカンがベストールの指示によってコボルドの群れを攻撃して倒していく。

「ギスカン!」

 ベストールのギスカンがオーガを攻撃し、大ダメージを与える。

 だが流石にタフなオーガ、それだけでは倒れなかった。

 オーガはベストールを集中攻撃していくが、アリアがグランを召喚して防御する。

 それでもダメージは蓄積していき、ベストールはふらふらしていた。

「くそ……アリア、頼めるか……!? 俺はもう、限界に近い……」

「分かりました、ミスティ! 彼らを流しなさい!」

 アリアはベストールの前に立ち、水の精霊ミスティを召喚する。

 ミスティは広範囲を攻撃できるが、その分、威力は低めなのだ。

「えぇいっ!」

 アリアの援護を受け、ミスティが魔物の群れを大波で流す。

 魔物が波に飲み込まれた隙にアリアは風の精霊エアを召喚し、一気に切り裂いて攻撃する。

「そこから、竜巻を起こしてください!」

 そして、エアが竜巻を起こした後、魔物は全て一掃された。

 

「まったく、手ごわい魔物だったぜ」

 鞄に入っているポーションを飲みながら、ベストールが不満を漏らす。

「そりゃ当然ですよ……今、世界はおかしくなってますから。

 ベストールお兄ちゃん、洞窟の壁を見てください」

「ん? ……うわ!」

 ベストールが壁を見てみると、そこにぽっかりと黒い穴が開いていた。

「な、なんで穴が開いてるんだよ……」

「世界が崩壊しかけている証です。

 このまま崩壊が進めば、いずれこの洞窟も消えてしまうでしょう」

「……お前、本当に14歳なのか?」

「14歳ですが何か?」

 未成年(この世界では16歳が成人)とは思えない発言に、ベストールはたじたじとなった。

 

 なんだかんだで、アリアとベストールは洞窟の奥までやってきた。

 奥には真っ黒な穴が開いており、

 そこを守るように屈強な肉体を持つトロールと半身半蛇のラミアが立っていた。

「なんだ? あそこにある穴は……」

「また、世界が滅んでいるのでしょうか? でも、魔物がいるという事は……」

「ソウダ! コノサキハ トオサナイ!」

「おほほほほほほほほほほ!!」

 トロールは片言の蛮族共通語で話し、ラミアは蛮族共通語で高笑いした。

「……これは、倒すしかなさそうですね。相手は魔物ですし、遠慮はいりません!」

 そう言って、アリアは杖をトロールとラミアに向けた。

「もちろん、俺とその相棒もだぜ!」

 ベストールも、ギスカンを召喚して戦闘態勢に入った。

 

「まずは魔法が使えるラミアから仕留めるぜ!」

「フェーゴボム!」

 ベストールはギスカンをけしかけ、ラミアの急所を突いてダメージを与える。

 アリアは炎の精霊フェーゴを召喚してラミアを燃やした。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「敵を減らせば被害も減ります、厄介な敵から倒すのも戦略なのです」

「ウオォォォ! コロス!」

 トロールはアリアに突っ込んで拳を振り下ろした。

「く……!」

 アリアは地の精霊グランを召喚して防御するが、

 その攻撃力はかなりのもので、グランの力では防ぎ切れなかった。

「燃えな!」

「うわっと!」

 ラミアはアリアに火炎弾を放つが、アリアは前転して攻撃をかわす。

「ギスカン、次はトロールだ!」

 ベストールはギスカンにそう命じると、

 ギスカンがトロールに張り付き、至近距離から電撃を食らわせる。

「私も援護します! フェーゴボム!」

 アリアは炎の精霊フェーゴを召喚し、

 トロールにけしかけるが、ラミアの援護魔法によりかわされる。

 しかし、その後ろにあった壁にフェーゴが弾かれ、攻撃に移ろうとしたトロールに当たる。

 ベストールがアリアの周囲をよく見ると、彼女の近くに光の精霊が浮かんでいた。

「ルフィーネ……ありがとうございます」

 トロールは炎に包まれ、そのまま跡形もなく焼失した。

「……後はお前だけだな、ラミア」

 ベストールは冷たい目でラミアを睨みつける。

 ギスカンはラミアに突っ込んでダメージを与える。

 ラミアは高笑いした後、無数の魔法弾を放った。

「グランウォール!」

 アリアはグランを召喚し、グランが変化した巨大な壁を作ってダメージを最小限に抑える。

 その隙にミスティを召喚して癒しの滴で体力を回復する。

「後は一気に攻めるだけです! エアストーム!」

「ギスカンアタック!」

 ベストールはギスカンを、アリアはエアをラミアにぶつける。

 まだラミアを倒すまでには至らなかったが、かなりのダメージを与える事ができた。

 ラミアはベストールに絡みついた後、噛みついて彼の血液を吸って体力を回復する。

「ぐえぇ! こいつ吸血種かよ! ふらふらするぜ……」

「でもあと少しです、頑張ってください!」

「おうよ!」

 瀕死のラミアはベストールとアリアに魔法弾を放つが、

 ベストールとアリアは軽々と攻撃をかわす。

 ベストールとアリアは精霊を強化する呪文を唱え、ギスカンとフェーゴの攻撃力を高める。

 そして、電撃と火炎がラミアを包み込むと大爆発を起こした。

 

「これで魔物は全部倒しましたね」

「……この先に、ティルラ達がいるんだな」

 ベストールは真っ黒い穴を真っ直ぐに見据える。

 この空間の中に、恐らく召喚士達はいるだろう。

「早く助けに行きましょう。死んでいたら……元も子もありませんから」

「ああ……入るぜ」

 そう言って、アリアとベストールは黒い穴の中に入っていった。

 

 その頃……。

「く……! なんて強さなの……ぐふっ」

「あ~、残念ねぇ」

 青い髪をポニーテールにした金色の瞳の女性が、鞭を持って倒れたティルラ達を見ていた。

 四人を倒したにも関わらず、女性は不満そうな表情をしていた。

「ここにいる男は一人、しかもまだガキ。

 いたぶれそうな男が一人もいないじゃな~い……あ~、ホントに残念だわ!」

「どこが……だよ……!」

「でも、安心しなさい、ボウヤ」

 そう言って、女性はアルガーの傍に寄って鞭を叩きつける。

「後で私が、あの世に送ってあ・げ・る・か・ら!」

 

「ティルラ! アルガー!」

「マーベットさん! ローゼマさん!」

 その時、アリアとベストールが、黒い穴を通って洞窟の奥にやって来た。

「! 誰なの?」

 女性は声のした方を向くと、ベストールに気づいたのかすぐに彼に駆け寄る。

「……ってアンタ、かな~りイケてる男じゃない。ちょっと、私と遊んでいかない?」

「断る、俺はこういうふしだらな女に付き合うつもりはないのでな」

「ふしだらな女ですって!? 私はカタストロファーセブンが一人、キラーよ!」

 キラーと名乗った女性は、アリアとベストールに大きく鞭を振り下ろした。

 彼女こそ、世界を終焉に導こうとするカタストロファーセブンの一員なのだ。

「せっかくいたぶれそうな男を見つけたのに……私に付き合わないなんて、最低な男ね」

「最低な女……あなたよりはマシだと思いますけど」

 アリアは笑顔で杖をキラーに向ける。

 もちろん、その目は笑っていなかったが。

「ふん、蛆虫のように汚い小娘だこと……今すぐに消え失せなさい!」

 そう言って、キラーは魔物を呼び寄せ、ベストールとアリアに襲い掛からせた。

 今ここに、狂戦士と召喚士の戦いが始まった。




~次回予告~

ついにカタストロファーセブンの一人、キラーと遭遇したアリア達。
美しい容姿とは裏腹にサディストなキラーは、魔物を操る能力を持っていた。
アリア達はキラーを倒す事ができるのだろうか。


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13「戦闘! キラー」

~前回までのあらすじ~

プリンプタウンの洞窟で、アリア達はカタストロファーセブンの一人、キラーと出会った。
召喚士を痛めつける彼女に、怒りが湧き出るアリア達。
キラーを倒して、プリンプタウンを魔物の脅威から救えるだろうか。


「行きなさい、ホブゴブリン!」

「ケケケケケーッ!」

「エアトルネード! フェーゴフレイム!」

 アリアは風の精霊エアを召喚し、キラーが使役しているホブゴブリンをまとめて攻撃する。

 続けて炎の精霊フェーゴを召喚してホブゴブリンを燃やす。

「ホブゴブリンはタフでとっても強いのよ。さぁ、こいつらを仕留めておやり!」

 キラーがホブゴブリンに指示を出し、アリアに棍棒をブーメランのように投げつける。

「く……グランウォール!」

 アリアはグランを召喚して攻撃を防御し、棍棒はホブゴブリンの手元に戻ってくる。

 だが攻撃は通ったらしく、アリアはそこそこのダメージを受ける。

 次に来るホブゴブリンの攻撃を、アリアはエアを召喚して受け流す。

「ラ・オシ・ド・スカト!」

「グオォォォォォ!」

「わぁぁ!」

 キラーはホブゴブリンに強化呪文を使う。

 攻撃力が増したホブゴブリンはベストールに近付いて思いっきり棍棒を振り下ろし、

 ベストールを吹っ飛ばし壁に叩きつけた。

「いってぇ!」

「ベストールお兄ちゃん、今回復します! ルフィーネヒール!」

 アリアは光の精霊ルフィーネを召喚し、傷ついたベストールの身体を癒す。

「ギスカン、こいつらを倒せ!」

 ベストールはギスカンをけしかけ、瀕死の重傷を負ったホブゴブリンにとどめを刺した。

「フェーゴアタック!」

 アリアはフェーゴを召喚し、炎によってホブゴブリンを焼き尽くした。

 そして、ホブゴブリンを倒したフェーゴは、

 その勢いで残ったホブゴブリンに突っ込んでとどめを刺した。

 

「ちっ、よくも私の魔物を! 次はこいつらよ!」

 キラーが鞭を地面に叩きつけると、二体のスライムが現れた。

「これは……物理攻撃は通りづらそうですね」

「俺達の攻撃は魔法攻撃だから問題はないが、問題は酸の攻撃なんだよなぁ」

 そう、スライムが飛ばす酸は、防御を貫通する効果があるのだ。

 なので、なるべく攻撃を受けないようにしなければならない。

「敵から距離を取って……ギスカン!」

 ギスカンは手から無数の弾丸を放ってスライムを撃ち抜く。

「ミスティレイン!」

 アリアはミスティを召喚し、スライムに雨を降らせる。

 集中できずに狙いを誤りそうになったが、その攻撃は何とかスライムに命中した。

「いきますよー、グランクエイク!」

 アリアはグランの力を借り、地面を揺らしてスライムをよろめかせる。

「……ところで、キラーさんは戦わないのですか?」

「この魔物に勝てないようじゃ、私と戦う価値もないって事よ」

「ちっ、んじゃあ遠慮はいらないって事だな!」

 言葉で分かり合えないと知ったベストールは、改めてキラーと全力で向かい合う事にした。

 しかし、アリアの様子はどこかおかしかった。

「どうした、アリア」

「うぅ……ベストールお兄ちゃん、もう魔力が切れかけています……」

 アリアは、何度も召喚術を使ったため、魔力が限界になりかけていた。

 もしここで魔力が尽きれば、キラー側が圧倒的に有利になるだろう。

「仕方ねぇ……とっておきだが、タイムバック!」

 ベストールが懐中時計を取り出して掲げると、アリアの表情が活気を取り戻した。

「ありがとうございます……今、何を?」

「この懐中時計を使って、俺とお前の時間を戻したんだ。

 消耗が激しいから一発しか使えねぇが……これでもう大丈夫だろ」

「ありがとうございます。これで召喚術をまた思いっきり使えますね」

「ふん、どうやろうと結果は同じよ! 行け!」

 キラーがスライムに指示を出すと、スライムが二人に粘液を飛ばしてきた。

 ベストールは攻撃を回避し、ギスカンを突っ込ませてスライムを倒した。

「うおっ!」

 だが、もう一発の攻撃をかわす事はできず、ベストールはダメージを受ける。

 その後、スライムは自らの傷を修復した。

「こいつ、再生能力まであるんだな」

「油断はできませんね」

「ほほほ、そのまま消えなさい」

「へ……消えるのはお前の方だよ! 行けっ、ギスカン!」

 ベストールはギスカンをキラーにけしかけるが、

 スライムがキラーを庇って代わりにダメージを受ける。

「馬鹿な! スライムは知性が低いはずだぞ!」

「知性は低くても私の命令には従うのよ。分からないのね、お・ば・か・さ・ん?」

 キラーに馬鹿にされたベストールが逆上しようとするが、

 アリアに「落ち着いてください」と宥められる。

「そうか……逆上したら相手の思う壺だな。ああ、落ち着きを取り戻したぜ」

「そうですね……フェーゴボム!」

 アリアはフェーゴを召喚し、フェーゴはスライムの前で爆発する。

「よし、このまま一気にいくぜ!」

 ベストールがギスカンに指示を出すと、ギスカンはエネルギー弾を放った。

 しかし、スライムはギリギリのところで回避し、エネルギー弾はあらぬ方向へ飛んでいった。

「ちっ、悪運の強い奴め。だが、これでとどめだ!」

 ベストールはもう一発、エネルギー弾を放った。

 今度はまともに命中し、スライムを倒す事に成功した。

 

「……やるじゃないの」

 キラーは、スライムとホブゴブリンが全滅したのを確認すると、

 羽の生えた小型の魔族を引き連れてアリアとベストールの前に現れた。

「どうやら、私も本気を出すしかないようね。特別に、私が直々に引導を渡してあげるわ」

 そして、キラーはインプと共に、アリアとベストールに襲い掛かった。

「ポイズンリキッド!」

 キラーは毒の体液を分泌させ、鞭に塗った。

 それは、彼女が人ではない事を証明するものであった。

「これで、おしまいよ」

「それはこっちのセリフだ! ギスカン、弾をばら撒け!」

「エアウィンド!」

 ベストールの指示でギスカンが弾をばら撒いて、インプの群れを攻撃する。

 続けてアリアがエアを召喚して鎌鼬に変え、インプを一体切り裂いて撃破した。

「よくもやったわね! スピンウィップ!」

 キラーは毒を塗った鞭を振り回してアリアとベストールを攻撃した。

「ぐぅっ!」

「きゃっ!」

 攻撃は命中し、アリアとベストールの身体に毒が回る。

「そのまま悶え苦しみなさい」

「誰が悶え苦しむものか……!」

「私達は……あなたに、絶対に負けま……せん! ルフィーネヒーリング!」

 アリアは光の精霊ルフィーネを召喚し、二人のダメージを全回復した。

 だが、回復したのはダメージだけで、毒までは治せなかった。

「うぅ……辛いぜ……」

「今、解毒をしますから!」

「そうはさせないわよ! やっちゃいなさい!」

「「キキィーッ!」」

 アリアが毒消しを使って毒を治そうとしたが、インプの魔法攻撃に阻まれる。

「解毒できないなら……とっとと片付けてから解毒するぜ!」

「そうですねっ!」

 ベストールは震えながらギスカンをけしかけてキラーを集中攻撃する。

 アリアも、威力が高いフェーゴを召喚して火柱に変えて燃やした。

「あちちち!」

「このまま一気に攻めますよ。フェーゴブラスト!」

「きゃぁぁぁ!」

「エアポゼッション!」

 アリアはフェーゴを爆発させた後、エアを自分の身に宿して杖を槍に変える。

「とどめは任せたぞ!」

「はい! さよなら……大人しく消えなさい。トルネードランス!」

「ば、馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 そして、アリアは槍を持ってキラーに突っ込み、彼女に槍を突き刺すと竜巻が起こる。

 竜巻に飲み込まれたキラーは、大きく空に吹っ飛び、地面に叩きつけられて戦闘不能になり、

 その後、マナとなって消滅した。

「ギィィィィィィィ!」

「キィィィィィィィ!」

 キラーが消滅したと知ったインプは、すぐさま魔界へと姿を消した。

 

「ピュリファ! ……よし、解毒は終わったぜ」

「……後は、倒れている皆さんを治すだけですね」

 アリアとベストールは解毒を終えた後、倒れている四人に回復魔法をかけた。

「……ん」

「あれ……」

「ここは……」

「どこだ……?」

 ティルラ、マーベット、ローゼマ、アルガーがゆっくりと起き上がる。

 四人はばたんきゅーしただけで死んでいなかったため、

 アリアとベストールは「よかった」と安堵した。

 ローゼマとアルガーは素直に二人に感謝し、マーベットは「良い展開になったっス」と言った。

 しかし、ティルラだけはどこか悔しそうな表情をしていた。

「私があんた達に助けられるなんて屈辱だわ」

「そんな、屈辱だなんて……」

 ティルラの言葉に対しアリアは困った表情になる。

 ベストールはアリアをフォローするために彼女にこう言った。

「ティルラはあまり仲間との協力を好まない性格だから、ああいう事を言ったんだ」

「そうでしたか……」

「失礼ね、冒険を通して少しは学んだわよ」

 そう言って、ティルラはベストールに軽く拳骨を浴びせた。

「そういえば、キラーを倒しましたので、その後はどうしますか?」

「しばらく、あなた達と一緒にいますよ。レイリーとジルヴァが見つかるまでね」

「レイリーとジルヴァって、誰っスか?」

 マーベットは二人の名前を知らないようで、アリアがその二人について説明する。

「私の仲間ですよ。今ははぐれていますがね」

「じゃあ、その二人が見つかるまで、わたし達と一緒って事ですか?」

「……まぁ、そういう事になりますね」

「ありがとうございます! あの……名前を教えてくれませんか? わたしはローゼマです」

「アリアです」

 喜ぶローゼマに、アリアはあの「愛を語る少女」を一瞬だけ思い出すのだった。

 

「では、そろそろ洞窟を出ますか」

「やっと明るい場所に出られるぜー」

「これでまた一歩、小説を進められるっスね」

「帰ったらコマーナの料理、食べましょうね」

「はいはい」

「みんな、本当に無事でよかったぜ……」

 召喚士達は、意気揚々と洞窟を出るのであった。




~次回予告~

プリンプタウンに帰るため、アルル達は魔導世界で冒険をする。
だが、魔導世界にいたのはアルルだけではなかった。
その人物と出会う時、アルルの運命が動き出す……。


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14「思わぬ再会」

~前回までのあらすじ~

召喚士を助けるため、アリアとベストールは洞窟に入る。
そこにいた魔物を倒しつつ奥に行くと、
カタストロファーセブンの一人、キラーが待っていた。
魔物を操るキラーに苦戦するが、アリア達は何とかキラーを倒すのだった。


「ふぅ~、疲れたぁ」

 宿屋にて。

 アルル、カーバンクル、セイバー、チコは、翌日に備えて休んでいた。

「今日は色々あったよねぇ。セイバーと出会って、チコと出会って、狂戦士の一人を撃破した」

「ええ……でも、世界はまだまだ平和じゃない……」

 カタストロファーセブンの襲撃を受けてから、世界全体のバランスが崩れ始めていた。

 魔物の大量発生、世界の一部の消滅。

 あのトライブレードが動いたほどだから、史上最大の危機である事は間違いない。

「早く、平和になってほしいなぁ……」

「ぐぅ……」

「私達が平和にするんだからね。でも、気持ちが不安定だと難しい。

 そのためにも、まずは一度、休んでおこう」

「そうだね、セイバー。こんな調子だと寝付けないけど……それでも、休まなきゃ」

「はい……。アルルさん、お休みなさい」

「お休み」

「ぐーぐぐ」

 アルル達は明日に備えて、眠りについた。

 

 翌日。

「んー、すっきりした! やっぱり寝たから気分が良いよ」

 アルルが背伸びして起き上がる。

 その表情に、昨日までの不安は無かった。

「おはようございます、アルルさん」

「おはよう」

「ぐぐぐー」

 続けて、チコ、セイバー、カーバンクルが起き上がる。

 ベッドから出たアルル達は、朝食を食べに向かっていく。

 

「「「いただきます」」」

 この朝食を食べるのも、最後になるかもしれないという思いが、三人の中にはあった。

「このポトフ、温かくて美味しいね」

「食べやすい量で嬉しいです」

「これを食べて、英気を養おう。みんなが元気じゃないと、今の世界で生きられないからね」

「うん!」

「ぐー!」

 それでも、今はこの平和を大事にしていこう。

 三人はそう思いながら、朝食のポトフを食べるのであった。

 

「くっ、魔物がこんなにいるなんて!」

「力も数も今まで以上に多いぜ……」

 その頃、外では青い髪の女性ルルーと、銀髪の青年シェゾが、魔物の群れと戦っていた。

「破岩掌!」

 ルルーは掌底を勢いよくぷよぷよにぶつける。

 ぷよぷよは身体を一時的に硬くして攻撃を受け流した。

「この、ぷよぷよの癖に生意気ですわね!」

「これも異変のせいなのか?」

「そうっぽいですわね。おっと!」

 ルルーはキャリオン・クロウラーの触手攻撃をかわす。

「せやっ!」

 シェゾは闇の剣でぷよぷよを真っ二つにした後、次のぷよぷよに魔法弾を放った。

「ったく、ちょこまかと! 草薙脚!」

「ぷよよよ~」

 キャリオン・クロウラーの攻撃をかわしつつ、

 ちょこまか動くぷよぷよを蹴って弾き飛ばすルルー。

 続けて残ったぷよぷよを攻撃しようとするが、彼女の脇腹を何かが掠った。

「い、いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!?」

 ルルーは強烈な痛みに耐え切れずに蹲る。

 彼女を攻撃したのは、鋭い牙が生えたハムスター、ヴォーパルハムスターだった。

 先程の痛みは、ヴォーパルハムスターが身を隠してルルーに不意打ちをしたものだった。

「なんという痛みですの……!」

「ルルー! 回復できるか!?」

「それどころではありませんわ! 相手がすばしっこいですもの!」

 ヴォーパルハムスターはルルーのパンチをひらりとかわし、その鋭い牙でシェゾに噛みついた。

「ぐあぁぁぁっ!」

 シェゾはルルーと同じ痛みを受け、蹲る。

 そこにキャリオン・クロウラーの触手をまともに受け、シェゾは麻痺した。

「くそ、まともに動けねぇ……」

「シェゾ、今回復しますわ!」

 ルルーはバッグから薬草を取り出し、シェゾに使って体力を回復させた。

「ああ……だが、まだふらふらするぜ……」

「シェゾ、危ない!」

「こんな攻げk、うおぉぉっ!?」

 シェゾは麻痺しているのか、キャリオン・クロウラーの触手攻撃を食らってしまう。

「ここは、私がやりますわ! 炎神掌!」

 ルルーは前に出て、炎を纏った掌底を繰り出し、

 ヴォーパルハムスターを炎で包んで一撃で倒した。

 

「うぅ……俺は、まだ……」

「ちょっとシェゾ、あんた麻痺してるんでしょ? 麻痺を治せないなら駄目ですわよ!」

「それなら自力で治せるぜ、コンディア!」

 シェゾは麻痺を治す魔法で身体の痺れを取った。

「よし、これで大丈夫だぜ」

「さぁ、行きますわよ!」

「あぁ!」

 キャリオン・クロウラーが頭の触手をルルーとシェゾに伸ばしてきた。

 二人は麻痺毒を受けないように動き回り、キャリオン・クロウラーを剣や拳で攻撃する。

「鉄拳制裁!」

 最後にルルーが強烈なパンチを放つと、キャリオン・クロウラーは吹き飛んだ。

 

「うぅ……流石にもう、きついですわ……」

「誰か、助けてくれ……」

 

「まずは、どこで異変が起こってるのかを探さなくちゃね」

 外に出たアルル、カーバンクル、セイバー、チコは、まず、辺りを見渡した。

 すると、向こうに女性と青年の姿が見えていた。

 アルルは、二人に見覚えがあった。

「待って、セイバー。人がいるよ」

「あ、本当だ!」

「その前に、そっちの方に行くからね」

 アルル達がその方向に行くと、ふらふらとしている女性と青年がいた。

 二人はある程度進むと、アルルの前に倒れ込む。

 その顔は、かなり疲労していた。

「ルルーに、シェゾじゃない! どうしたの?」

 思わぬところで、腐れ縁の二人と再会するアルル。

「ま、魔物、が……」

「い、まし、た、わ……」

「魔物!? くそ、ここにも来ていたのか!」

 二人の言葉を聞いてセイバーはぎりりと歯ぎしりを立てる。

「……ど、うし、ました、の……?」

「まずは、キミ達を安全地帯に運んでからにするよ」

「そ……れが、いい……」

 

 アルルはルルーとシェゾを安全地帯に運んだ後、チコと共に回復魔法をかけていた。

「うん、これで大丈夫かな。おーい、二人とも起きてー」

 アルルが軽く二人に声をかけると、ルルーとシェゾはむくりと起き上がった。

「その声は……」

「アルルじゃない! やっと会えましたわね!」

「ずっと戻ってこなかったから心配したんだぞ」

 意識を取り戻したルルーとシェゾは、すぐにアルルに近寄った。

「本当によかったよ、キミ達とまた会えるなんて」

「えー、なんで喜んでるんだろうね?」

 アルルはルルーとシェゾとの再会に喜んだ。

 セイバーは自分とアルルが出会った時は最初は困惑していたのに、

 何故二人と出会った時は喜んだのか疑問に思ったためアルルに聞いた。

「まぁ、腐れ縁っていったところかな。

 ボクに迷惑をかける時があるけど、今のボクが一番信頼している二人だよ」

「「迷惑を、ってねぇ……」」

 アルルはルルーとシェゾにずばっと正論を言った。

 しかし、そんな事を言えるのは、アルルが二人を強く信頼している証なのだ。

「……もしかして私って、置いてけぼり?」

「いえ、セイバーさん。アルルさんはルルーさんやシェゾさんと、一番仲が良いんですよ。

 あなたをおざなりにしたわけではありません」

 置いてけぼりになったセイバーを、チコは優しく宥めた。

「で、早速再会したところ申し訳ないんだけど、少し休んだらまた、異変解決に行こうか」

「どうしてですの?」

「今も、この世界は終焉に近付いているからだよ。魔物が大量発生しているのも、その結果だ」

「う~ん、確かに」

 先程、ルルーとシェゾはキャリオン・クロウラーやヴォーパルハムスターなど、

 強力な魔物に襲われた。

 ぷよぷよも、いつもより硬く、強くなっていた。

 魔物の力が強くなっている証拠だ。

「だから、君達も一緒に私と協力してくれないかな。大丈夫、決して妬んだりはしないよ」

「それなら一安心ですわ。私、アルルは放っておけませんもの!」

「俺達の強い絆は永遠だって事を、あの魔物どもに教えてやるさ」

 セイバーの提案を、ルルーとシェゾはあっさりと受け入れた。

「アルル……こんな友達も、君にはいたんだね」

「まぁ、友達っていうよりかは、腐れ縁なんだけどねぇ」

「ぐー」

 あははとアルルは笑う。

 

「……腐れ縁、か……」

 セイバーは、アルル、ルルー、シェゾの腐れ縁トリオを少し複雑な目で見ていた。

 腐れ縁、それは良くも悪くも強い絆で結ばれているという証だ。

 アルルが二人を信頼しているのも、それが理由だ。

「やっぱり、あの三人には、勝てないなぁ……」

 セイバーは三人に完敗したのか、ふぅ、と溜息をついた。

 だけど、とセイバーはアルルの方を向いて、彼女に聞こえないように小さくこう言った。

「それでも、私は君を、友達として、仲間として、ルルー達と一緒に支えていきたいよ。

 それもまた、私の望みだから」




~次回予告~

アミティがいる世界の魔導学校が、魔物に襲撃された。
見た事のない異形の生物に立ち向かう生徒達だったが、徐々に押されていく。
そこにアミティ達が現れて、助けに向かった。


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15「魔導学校襲撃!?」

~前回までのあらすじ~

アルルは、プリンプタウンに戻るために魔導世界でセイバー達と冒険していた。
だが、戻るための手掛かりは見つからず、魔物も強くなるばかり。
そんな中で、アルルは腐れ縁であるルルーとシェゾと再会。
彼らを仲間に加えて、戻るための手掛かりを探すのだった。


 プリンプタウンの並行世界も崩壊しつつあると知ったアミティは、

 おしゃれなお店で準備をしていた。

「うん、これで十分だね。ありがとうございます、おしゃれコウベさん」

「どういたしまして」

 アミティの鞄には、たくさんの薬草と魔法薬が入っている。

 もちろん、この世界のおしゃれコウベは別人ならぬ別骸骨なのだが、

 アミティは物怖じせずに話していた。

「アナタの顔はどこかで見た事があるような気がするけど、全然違う人なのね」

「う~ん、あたしまだ元の世界に帰れてないし~。ところで、この世界のあたしって……」

「おーい、アミティー。もう終わったかー?」

 アミティがそう言いかけた瞬間、エッジが向こうで自分を呼ぶ声がした。

「はーい! あ、今行くからね!」

 アミティはすぐに、エッジの下へと向かった。

 

 その頃、プリンプ魔導学校では、生徒達がアコール先生とロージィ先生から訓練を受けていた。

「では、次にこの的を破壊してください」

「はーい」

 アコール先生が魔法で的を作り出す。

「それじゃ、ラフィーナ! これを壊してねっ」

「はい。ネージュ!」

 ラフィーナは氷を纏った掌底を繰り出して的に打ち付けた。

 しかし、的は壊れなかった。

「え、なんで壊れませんの!?」

「多分、これは氷属性に耐性があるからかな。よし、ここは……イグニス!」

 クルークが鬼火を放つと、的は呆気なく壊れた。

「この的には、炎属性の魔法が良く効いたのさ」

「そうだよ。敵を知るにはまず、弱点を知る事」

「そうしなければ、この先の困難は乗り越えられませんよ」

「はーい」

「では、次の人……」

 

「お待たせ、エッジ」

 アミティは買い物を終えた後、エッジのところへ向かった。

「おう、これで十分のようだな。さて、まずは異変がどこで起こっているかを探そう。

 ああ、それと、アミティ、オレからは離れないでくれ。魔物がいない場所を通るから」

「うん、分かった」

 アミティがエッジの言う通りに進んでいくと、魔物に一度も会わずに道を通り抜けた。

「エッジ、すご~い。魔物に一回も会わなかったよ」

「今、凄く死にやすくなっているからな」

 アミティ達が戦ってきた魔物は、質も量も今まで以上に強くなっている。

 なので、エッジは戦闘を避け、目標となるカタストロファーセブン討伐を優先している。

「無駄な戦闘はなるべく避けろ。やり過ごせる敵はやり過ごせ。これが、オレの今の言える事だ」

「あたしも元の世界に帰りたいしね」

「そうだったな、すっかり忘れていた。

 やはりトライブレードをやっているとこういうところに手が回らないんだ」

 トライブレードが戦うのは、世界のため。

 アミティが戦うのは、自分のため。

 守るべきものがそれぞれ異なるために、このような事になっている。

「……」

「どうしたの、エッジ?」

 アミティがエッジに声をかけるが、彼女の声が耳に入っていないのかエッジは何も言わない。

 5分後、エッジは小さくこう呟いた。

「……プリンプ魔導学校が騒がしい。一度、プリンプ魔導学校に戻るぞ」

「えっ、なんで?」

「向こうから、魔物の臭いがするからだ!」

「魔物だって!?」

 エッジはいきなり方向転換すると、プリンプ魔導学校の方に走り出した。

 アミティは彼の突然の行動に驚きつつも、彼についていくのだった。

 

「皆さん、絶対に私から離れないでください!」

「魔物が大量に出るなんてね……でも、勝てない相手じゃないよ。気を抜かないで!」

「フラーム!」

「セルリアン」

「テクトニック!」

「ウラガーノ!」

「スタンプ!」

「ファイアボール!」

「アイスニードル!」

「ライトニング!」

「フォトン!」

 アコール先生とロージィ先生に守られながら、この世界のラフィーナ達は、

 技や魔法でプリンプ魔導学校に襲撃してきた魔物を倒していく。

 前衛型のラフィーナとタルタルは前に出て、シグ、オーディ、アポロは二人の遊撃を担当する。

 クルーク、リデル、ジュディ、メーガンは後衛から五人の援護を行った。

 ゆらゆらと歩くゾンビはシグの光魔法とラフィーナの炎技が焼き尽くし、

 無数の虫を、アポロの雷魔法がなぎ倒す。

「アレ・クロア!」

「紅時雨!」

 アコール先生とロージィ先生は、生徒達が倒し損ねた魔物のとどめを刺した。

「こんな時に、アミティさんがいれば……っ」

「でも、アミティーはいないー」

「一体どうすれば……きゃあ!」

「ラフィーナ!」

 いきなり出てきたゾンビの爪に引っかかれ、ラフィーナは転倒してしまう。

 オーディは急いで彼女の救援に入り、剣でゾンビの攻撃を防御した後に切り裂く。

 だが、ゾンビは物量でラフィーナとオーディを攻めていき、二人に浅くない傷を負わせていく。

「ヒーリング!」

 何とかアコール先生が回復魔法で傷を治すが、その間にも敵はどんどん襲い掛かる。

「ウオォォォォォォォォ……!」

 別の方向から異形の戦士が最前衛のタルタルに襲い掛かってきた。

 しかし、異形の戦士が斧を振り下ろそうとした次の瞬間、

 風を纏った剣が異形の戦士を真っ二つにした。

 

「今、助けに来たぞ!」

「アミティさん!」

 エッジとアミティが、ラフィーナ達を助けるために姿を現したのだ。




~次回予告~

この世界のプリンプ魔導学校を守るため、アミティ達は救援に入る。
魔物は容赦なく襲い掛かるが、諦めずに立ち向かうアミティ達。
そして、魔物を率いていたのは、なんと……!?


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16「魔導学校を守れ!」

~前回までのあらすじ~

並行世界のプリンプタウンから元の世界に帰ろうとするアミティとエッジ。
二人はおしゃれなお店で買い物をした後、魔導学校の襲撃現場に遭遇する。
生徒達が魔物の強さと多さに苦戦するなか、
アミティとエッジは、生徒達を助けるために現場に向かうのだった。


 アミティとエッジは、この世界のラフィーナ達を助けにプリンプ魔導学校に向かった。

 しかし、プリンプ魔導学校には魔物が襲撃してきて大変な事になっていた。

「スピードファング!」

 エッジは一瞬で間合いを詰めて飛蝗の大群の魔物、ダークスウォームに斬りつける。

 ダークスウォームはアミティとシグに襲い掛かるが、ラフィーナが身を挺して二人を守る。

 タルタルも頑張って追いつこうとするが、足が遅いため間に合わずダメージを受けた。

「ふごぉ~、やっぱりオイは駄目なんだなぁ~」

「雑魚を足止めする壁としては役に立っておりますわよ」

「うおぉー! ラフィーナが褒めてくれたんだなぁー!」

(まったく、タルタルは単純なんだから……)

「デルタレイ!」

 オーディは呪文を唱えて光の短針を作り出し、杖を振ってダークスウォームに射出した。

 闇の存在に光属性の攻撃は効果が抜群で大ダメージを与えた。

「アクセル、サ・サイクロワール!」

 アミティは増幅呪文を唱えて風の刃を放ち、残ったダークスウォームを切り裂き、塵に変えた。

「いーくぞー、セルリアン」

「サンダーブレード!」

 シグは光魔法、アポロは雷魔法でダークスウォームを攻撃する。

 エッジは二人が倒せなかった分のとどめを刺した。

「お前の攻撃は遅いよ、オレには届かない」

 リビングデッドの群れがエッジに襲い掛かる。

 エッジは攻撃を全てかわした後、容赦のない一撃を叩き込んだ。

「は、速い……!」

「俺の目には映らなかったぜ……」

「何、あの動き! もう人間じゃないわ」

 オーディ、アポロ、ジュディはエッジの足の速さに脱帽する。

「オレは人間であって人間でない存在だからな」

「どういう事?」

「あまり深く考えない方がいい。せいっ!」

 エッジは剣を大きく振り回し、リビングデッドを一撃で倒した。

「ウラガーノ!」

「アースクェイク!」

「ファイアストーム!」

「サイクロワール!」

「ステラ・イネランス!」

 リデル、タルタル、オーディは広範囲を攻撃する魔法で、

 ダークスウォームや異形の戦士の群れを一掃する。

 アミティとクルークは狼の姿をした魔物、ダークビーストを強力な魔法で一撃で倒す。

「アヴァランシュ!」

「デモンズランス!」

 ラフィーナが冷気を放ってスライムを凍らせた後、アポロが闇魔法でスライムを粉砕する。

 アミティ達は、プリンプ魔導学校を守るべく魔物を倒していく。

 その時、一体の魔物が窓を破って教室内に入り、それについていくように魔物が入っていく。

「あっ、魔物が学校に入ってくるよ!」

「くっ……皆さん、二手に分かれましょう!」

「アタイ達は校内を担当するよ! アンタ達は魔物を指揮している者を倒して!」

「はい!」

 校内の魔物をアコール先生、ロージィ先生、リデル、タルタル、オーディ、アポロ、

 ジュディに任せ、アミティ達は魔物の指揮官を探すために足を速めた。

 しかし、魔物は容赦なくアミティ達に襲い掛かる。

「やめろー」

 シグは異形の魔導師の攻撃を受けてよろめく。

「私達を近づけさせないつもりですのね……」

「でも、それくらいで立ち止まるオレではない!」

 エッジは剣を振って邪魔な魔物を斬る。

 続けてエッジは飛び上がって猛烈な嵐を生み出し続ける魔物、闇の嵐を斬りつけた。

 闇の嵐の中心には、黒い宝玉状のコアがある。

「よし、あれを叩け!」

「セルリアン」

 エッジの指示でシグはコア目掛けて光魔法を放ったが、闇の嵐は突風を起こす。

 一行は何とかそれを耐え切り、再び攻撃をしようとするが、

 闇の嵐は空を飛んで攻撃を回避する。

「高いところにいる敵に攻撃は届かなさそうだな」

「それなら、あたしに任せて! ライトニングボルト!」

 アミティは雷を落とす魔法、ライトニングボルトで闇の嵐を撃ち落とした。

 その隙にラフィーナは接近して炎を纏った掌底を叩き込む。

「あまり、効果的ではありませんわね……」

「それでも結構ダメージを与えたよ! 後は一気にコアを叩こう!」

「ああ!」

 闇の嵐は暴れ出して大嵐を起こす。

「セレスト」

 シグは防御魔法で嵐を防いだ後、赤い左手で闇の嵐を引き裂く。

 その隙にエッジは闇の嵐の懐に飛び込んだ。

「アクセルスマッシュ!!」

 エッジは闇の嵐に連続で斬撃を浴びせ、最後にコアを剣で貫いて闇の嵐を消し去った。

 魔物が全滅したのを確認したアミティ達は魔物の指揮官を探していく。

 すると、どこからかナイフが飛んできてエッジの肩を掠り、そこから血が流れた。

「ぐぁっ!」

「エッジ!」

「どこからきたんだー」

「あそこだ!」

 クルークが、攻撃が飛んできた方を指差す。

 そこにいたのは、ピエロの人形とそれを操っている小柄で年老いた男だった。

「お、お前は誰だ!」

「私はカタストロファーセブンの一人、デストロイヤー」

「何っ、カタストロファーセブンだと!?」

 男の正体を知ったエッジがデストロイヤーを睨みつける。

「おや、まぁ、それを知ってどうするのです? 私を討ち取る気ですかねぇ?」

 当たり前だ、と叫ぶエッジ。

 デストロイヤーはそれをものともせず、人形と共にけたけた笑った。

「私は無益な争いなんて好みませんよ。ほら、私って、結構貧弱でしょう?」

「……」

 デストロイヤーは、自分が貧弱である事をアピールした。

 堂々とそんな事を言えるなんて、何か裏があるのではないかとエッジは見た。

「その手にはかからんぞ、デストロイヤー!

 お前はその人形を操って、オレに不意打ちを仕掛けた!」

「そうですか?」

「これを見ろ!」

 エッジは自分の肩に負った傷をデストロイヤーに見せた。

 すると、デストロイヤーは目を大きく見開いた。

「おやおや、そうでしたか。……しかし、私が直接やったわけではありませんよ?」

「確かにそうだけど……それでも、人形を操ったのはキミだから、キミがやったんだよ!」

「じゃあ、これならどうですか?」

「えっ……!?」

 そう言って、デストロイヤーはアミティに向かって糸を伸ばした。

 糸がアミティの手足を捉えると、彼女の表情から感情が消えた。

「アミティー……?」

「アミティさん?」

「さぁ、やりなさい!」

「……」

 アミティは虚ろな表情で、ラフィーナ達に襲い掛かった。

「危ないですわ!」

「うわぁ!」

 間一髪、ラフィーナはアミティの攻撃をかわす。

「他人を操るなんて、卑怯な……!」

「仲間が一人減るのは嫌でしょう?」

「お前のような卑怯者に、負けるわけにはいかない! アミティ、少し大人しくしてくれ!」

「……」

 エッジは急いでアミティに向かって走り、組み付こうとする。

 アミティは人形のように抵抗しなかった。

「よし、待っててくれ。オレが今、解放してやるから!」

「させませんよ」

 エッジは剣でアミティの糸を切ろうとするが、

 デストロイヤーに操られたアミティは組み付きから抜け出した。

「くそ!」

「さぁ、今度こそ。やりなさい!」

「……」

 アミティは無言でシグに向かって風の刃を放つ。

「セレスト。アミティー、やめろー」

 シグは防御魔法でそれを防いだが、

 アミティが自分に攻撃してきた事にシグは驚きを隠せなかった。

「どうして……」

「シグ、アミティは今、操られているんだ。まずは、正気に戻さないと」

「そうか」

「アミティさん、正気に戻りなさい!」

 ラフィーナはアミティに組み付き、攻撃をさせないようにする。

 エッジはその隙にアミティに近付いて彼女を操っている糸を切った。

 次の瞬間、アミティは正気を取り戻した。

「……あれ、あたし、何をしてたの?」

「大丈夫だ、アミティ。キミは悪い夢を見てただけ」

「悪い……夢?」

 アミティを安心させるように微笑みながら優しく言うエッジ。

 しかし、すぐにエッジは真剣な表情になる。

「……彼女を操ったお前には、ますます消えてもらわなきゃな」

「やれるものならば、やってみなさい!」

 エッジの剣と、デストロイヤーの操る人形がぶつかった。




~次回予告~

人形を操るカタストロファーセブンの一人、デストロイヤーとの戦いが始まる。
しかし伊達に狂戦士を名乗っていないだけあって、デストロイヤーは攻撃が多彩だ。
果たして、アミティ達はデストロイヤーに勝てるのだろうか。


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17「狂戦士デストロイヤー」

~前回までのあらすじ~

並行世界のプリンプ魔導学校が、魔物に襲撃された。
アミティとエッジは援護をするべく、襲撃現場に突入する。
魔物を倒していくうちに、ある一つの脅威に出会う。
そう……カタストロファーセブンの一人、デストロイヤーだった。


「あなた達を宴に(いざな)ってあげましょう!」

 そう言って、デストロイヤーはさらに二体のピエロ人形を召喚し、アミティ達にけしかけた。

「牙を突き立てる! スピードファング!」

 エッジは素早く間合いを詰めてピエロ人形を斬りつける。

 剣はピエロ人形の急所を的確に突き、大ダメージを与えた。

「プロミネンス!」

 クルークは炎を発生させ、デストロイヤー目掛けて放つ。

 相手を火傷させて受けるダメージを増やす事を期待していたが、

 デストロイヤーは火傷を意に介さず行動する。

「ふふふ……私にそんなものが通用するとでも? マリオネット!」

 デストロイヤーは再び糸を伸ばして仲間を操ろうとする。

「させないよ! サイクロワール!」

 アミティは風の刃を放ってデストロイヤーの糸を切り裂き、攻撃を阻止した。

「ふ……しかしこれならどうですか? はぁあっ!」

「うわぁ!」

 デストロイヤーはピエロ人形を操ってアミティを引っ掻いた。

 アミティはそのスピードに反応しきれずに攻撃を食らう。

「でも、あたしは負けないよ! フレイム!」

 アミティは炎を放ち、エッジが大ダメージを与えたピエロ人形にとどめを刺した。

「おやおや……私の人形を破壊するとは、なかなかやりますね。

 しかし、私の人形はまだ残っていますよ。舞いなさい!」

 デストロイヤーはピエロ人形を操り、クルークに向かってナイフを飛ばす。

「こんなもの、かわしてやる!」

 クルークは身体能力が低いながらも、飛んできたナイフを何とか全てかわした。

「へっ、そんなものボクに当たるか!」

「果たしてそれはどうですか?」

「えっ?」

 すると、ナイフが急に曲がり、クルークの方向に飛んできた。

「くっ……! ネブラ・mうきゃーーーーっ!!」

 だが、詠唱が間に合わず、ナイフが全て命中しクルークはばたんきゅーした。

 

「クルーク!」

「まずは一匹、虫が消えましたか。お次はあなたですね!」

 デストロイヤーはピエロ人形を操ってアミティにナイフを飛ばす。

 アミティはクルークのようにはなるまいと、リフレクションを使ってナイフを全て弾き返した。

「よし、後はリザレクティアでクルークを復活させないと! リザレク……」

「させませんよ」

 デストロイヤーは糸をアミティに繋げてアミティを操作状態にし、詠唱を阻止した。

 再びアミティは操られてラフィーナ達を攻撃しようとする。

「助、けて、み、んな……」

「アミティー!」

「この、なんて卑怯な!」

「いいですよ、あなたのその言葉」

「だったら、あなたをぶっ潰して差し上げますわ!」

 ラフィーナはデストロイヤーの挑発に乗って彼を攻撃しようとするが、エッジが彼女を止める。

「何するんですの!」

「あの人形を操っているのはあいつだ。

 あいつが操らなきゃ人形は暴走して、さらに攻撃力が高くなる!」

「くぅっ……!」

 エッジの言葉に歯ぎしりを立てるラフィーナ。

 デストロイヤーはその様子を見て人形と共に壊れたように笑った。

 そんなラフィーナと倒れているクルーク、

 そして糸に捕まったアミティを見たシグのスイッチが入った。

「これ以上アミティを操るな。これ以上アミティを傷つけるな。これ以上アミティに触るな。

 アシッド、アシッド、シ・シ・シレスティアル!」

 シグは凄みのある表情で、増幅したシレスティアルを放った。

 赤と青の光は正確にアミティの糸とデストロイヤーだけを狙い、直撃した。

「う……あたしは、何を?」

「はやく、メガネを起こして」

「は……うん! リザレクティア!」

 糸から解放されたアミティは急いでクルークに近付いてリザレクティアを唱えた。

「ん、ここは……」

「クルーク、まだふらふらする?」

「ちょっとね」

「じゃあ、休んでる?」

「うん」

 アミティはクルークを安全な場所に置いた後、デストロイヤーと向かい合う。

「容赦はしない! アクセルスマッシュ!」

 エッジは剣に気を込めて振り下ろし、デストロイヤーを切り裂いた。

「ライトニングボルト!」

「セルリアン」

 アミティの雷とシグの青い光がピエロ人形に命中し、爆発する。

「覚悟! フォルト、フ・フー・ダルティ!」

 ラフィーナは太陽の気弾をピエロ人形に放つが、明後日の方向に飛んでいき、爆発する。

「くっ! この私が!」

「ではいきますよ、マリオネット!」

 デストロイヤーは大技を放って隙ができたラフィーナに糸を繋げ、操り人形にする。

「……こ、ろ、す」

「ラフィーナ!」

 エッジはいきなり襲い掛かって来たラフィーナの攻撃をかわす。

 そして飛び上がってラフィーナの糸目掛けて剣を振り下ろしたが、

 デストロイヤーはラフィーナを巧みに操って攻撃を回避した。

「ぬあああああ!」

 ラフィーナが飛び蹴りを繰り出し、目の前にいたシグを攻撃しようとする。

「ネブラ!」

「ぐ……!」

 クルークが直前で煙幕を発生させたため、

 ラフィーナは狙いを誤り地面に激突してダメージを受けた。

「よし、今だー!」

 シグは左手で思いっきりラフィーナの糸を引っ掻いて切り裂き、ラフィーナを正気に戻した。

「まったく、私を操るなんていい度胸ですこと」

「そうですねぇ……しかし私が人形だけを操れると思ったら大間違いですよ?

 イリュージョンアロー!」

 デストロイヤーは手から幻の光弾をエッジに向けて撃ち出した。

 光弾は障害物をすり抜けてエッジに着弾しようとする。

「させるか!」

 エッジは武器に気を込めて魔法を受け止め、ダメージを最小限に食い止める。

「ねぇ、エッジさん、ちょっと離れてくれる?」

 そう言うアミティの手は、白く光っていた。

 エッジは魔法を発動させるとすぐに理解した。

「ああ、分かった。それと、さんはいらない」

「あ、はーい」

 エッジは攻撃を食らわないよう一旦横っ飛びする。

 そして、効果範囲内に味方がいないのを確認したアミティは、勢いよく腕を振り下ろす。

「エ・エ・エクリクシス!」

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 次の瞬間、聖光が爆発してピエロ人形とデストロイヤーを巻き込んだ。

 ピエロ人形とデストロイヤーはかなりのダメージを受け、さらに目が眩んで動けなくなる。

 その隙にシグとエッジは突っ込んで爪と剣でピエロ人形を真っ二つにして破壊した。

 

「後はお前だけだな」

 そう言って、エッジはデストロイヤーに近付いた。

「ま、ま、待ってください! ほら、私の人形はもうなくなりました!

 だから、命だけは助けてください!」

 瀕死の状態にあり、しかも人形を全て失ったデストロイヤーは必死で命乞いをした。

 しかし、エッジは冷酷な表情で剣を突きつける。

「黙れ! その手には乗らないと言っただろう! お前はオレ達トライブレードが倒すべき敵。

 だから、ここで死んでもらう! 世界のために、な!」

「あぅ……っ」

 そして、エッジがデストロイヤーの胸に剣を突き刺すと、

 デストロイヤーは呻き声と共に消滅した。

 

「あっ……!」

「魔物が消えていくよ!」

 デストロイヤーが消滅すると同時に、アコール先生達が相手をしていた魔物が消えた。

「まさか、魔物の元締めを倒したのか?」

「そうじゃないと多分あり得ないよ。ねぇ、アポロ?」

「ああ……そうだな」

 

 こうして、プリンプ魔導学校が魔物の脅威から救われた後、

 アミティ達は魔物を相手していたアコール先生達と合流する。

「貴方達のおかげで、プリンプ魔導学校は魔物から守られました」

「しかし……」

 校内は、魔物によって半壊状態になっていた。

 人的被害は無かったが、ロッカーや机は壊れ、道具はバラバラになっていた。

「見ての通り、校内は悲惨な事になっているよ」

「うわぁ……」

 当然、このままでは授業ができない。

 アコール先生は、生徒達に優しくこう言った。

「学校は、私達が責任を取って直します」

『お前達はよく頑張ったニャ。後始末は先生の役目だニャ。ゆっくり休むのニャ』

「分かりましたわ、アコール先生。今日は休ませていただきます。

 ほら、皆さん、そろそろ帰りますわよ」

「はーい」

 ラフィーナは丁寧にお辞儀をした後、生徒達を連れてプリンプ魔導学校を去っていった。

 残ったアミティとエッジも、彼女の後を追うように外に出た。

 

「……これからどうするの、エッジ?」

「どうするもこうするも、オレに迷いはない。この世界のために、戦うだけだ」

「ねぇ、エッジ。世界世界って、自分よりもそっちの方が大事なの?」

「その通りだ」

「そんな……」

 自分や他人よりも世界を優先させるエッジに、アミティは不安になった。

 エッジは表情を変えずにアミティにこう言った。

「……オレ達トライブレードは、世界の危機以外では動けない。

 世界のためにしか動けない運命なんだよ……」

 半ば諦めたように言うエッジ。

 そんな彼を、アミティはアミティらしく心配する。

「キミはどうして、その運命に抗おうとしないの?」

「できないからだ。強大な力を得た以上、この運命からは決して逃れられない」

「……でも! あたしはそんな運命を乗り越えられるって信じてるよ!

 キミは絶対に運命なんかに縛られない! キミはキミだよ!」

「子供だな」

「そんな……そんなのって……」

 トライブレードは世界のために動かなければならない。

 しかしアミティは、まだ大丈夫だという可能性を信じていた。

 そんな彼女の単調で素直過ぎる「子供な」考えが、「大人」のエッジはどこか羨ましかった。

「……キミは子供だ。だが、今の世界には、キミのような考えの奴も必要だと理解した。

 ……ありがとう、アミティ」

「どういたしまして!」

 エッジがにかっと歯を見せたため、アミティも釣られて笑みを浮かべた。

 

「アミティ。これからも、オレ達のために笑顔でいてくれないか?」

「もっちろんだよ!」




~次回予告~

なおもチキュウを脱出できず、りんごとソードは途方に暮れていた。
すると、りんごとソードは、謎の建物を発見した。
果たして、そこには一体何が隠されているのだろうか。


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18「物理部勢揃い」

~前回までのあらすじ~

並行世界のプリンプタウンが、魔物に襲撃された。
魔物を操っていたのは、カタストロファーセブンの一人、デストロイヤーだった。
彼の操り人形戦術にアミティ達は苦戦するものの、
見事デストロイヤーを倒し、並行世界のプリンプタウンを救うのだった。


 その頃、りんごとソードは、チキュウの公園で休息を取っていた。

「ふぅ~、生き返る~」

 アクエ○アスを飲んですっきりするりんご。

「カタストロファーセブンを倒すためにも、まずは英気を養わなきゃ、ですね」

「そうよ~りんごちゃん、しっかり体力はつけないとね」

 ソードはそう言って、りんごのものと同じアクエ○アスを飲んだ。

 

「……はぁ。果たして、私は本当にプリンプタウンに帰れるのでしょうか」

「せっかく故郷に帰れたのに、まだそれにこだわるのね」

「私の第二の故郷でもありますからね、プリンプタウンは」

 りんごは、プリンプタウンに戻りたいという気持ちもあった。

 今はまだ無理だと分かっていても、

 またアルル、アミティ、アリアと一緒になりたいという願いが、彼女にはあった。

「だけど信じていれば、必ず夢は叶うわよ。だからそれまでは、アタシと一緒に頑張りましょ!」

「はい! 分かりました!」

 

 こうして、二人が休息を取り、体力を十分に回復させた後。

 二人は、公園を出ていき、次のダンジョンへ行くための準備をした。

「アタシは剣も使えるけど、アナタは魔法が主体だからね。魔力を回復する水は買いましょう」

「私もソードみたいに上手く武器が使えたらよかったのに」

「人にはそれぞれ得意不得意があるから気にしなくていいわよ。

 アナタの良いところを伸ばさなきゃ」

 ソードは自分の大剣をじっと見ているりんごを励ました。

「……そうでしたね。私には頭脳と魔法という最大の武器がありますからね!」

「そうこなくっちゃ! しょげてるアナタなんてアナタじゃないわよ!」

 

「で、カタストロファーセブンがいる場所ってどこなんですか?」

「ちょっと調べてみるわ。デ・ポプル・ラ・テラ・マ・ギ!」

 ソードは魔力を感知する呪文、ディテクトマジックを唱えた。

 すると、ソードの目が光り出す。

「あ、あっちに何かあるわ! 行きましょ!」

 りんごがソードに手を引っ張られて辿り着いた場所は、非常に大きな建物だった。

 3つの塔を集めたような形をしていて、見たところ、

 最も大きな塔の入り口には何か文字が書かれている。

 また、中に入るための入り口は最も大きな塔の正面にしか見当たらないが、

 その入り口は鉄のシャッターで閉ざされているようだ。

「ここって……ショッピングビルディング?」

「知ってるの?」

「知ってるも何も、私はチキュウ人ですから」

 りんごはさらに、鉄のシャッターは防火シャッターだと分かり、

 さらに防火シャッターなら外からも開けられるような非常用開閉装置がある事を思い出す。

「どうやってシャッターを開ければいいのでしょうか……あ、ソード! 何かありましたよ!」

 りんごとソードが入り口を探索していると、

 透明な板のカバーの奥に手回し式のレバーを発見した。

「もしかして、このカバーを開ければいいんじゃ?」

「ちょっと待ってくださいね、サイン!」

 りんごは透明な板を魔法で壊し、レバーを回した。

 すると、鉄のシャッターが開き、建物の中に入れるようになった。

 

 建物の床は土砂で埋もれており、テントや鉢植えなど野外で扱うものが散乱していた。

 さらに、フロアの奥には羽の生えた小型の魔族と手足のあるキノコがおり、

 それらは地面を掘り起こそうとしていた。

 だが、彼らは二人の方を見ると攻撃を仕掛けてきた。

「ここのお宝は渡さないぞ!」

「世界のために、アナタ達を倒すわ!」

 ソードは大剣を構えて、魔物に戦いを挑んだ。

「キキキッ!」

「わっと!」

 りんごはインプの闇魔法をかわし、インプにコサインを放って攻撃する。

 絶叫お化け茸はりんごに恐ろしい声で叫んだが、りんごはバリアで防御した。

「きゃ!」

「アンタのへなちょこな攻撃は通用しないわよ! せぇいやあっ! ……かわされた!?」

 りんごは絶叫お化け茸の体当たりを食らってよろめいた。

 ソードは大剣で絶叫お化け茸の攻撃を受け流し、インプに斬りかかったが攻撃をかわされる。

「ケケケ、大振りだなぁ!」

「すぐにその顔を泣きっ面に変えてやるわよ。ライトニング!」

 ソードは大剣を構え直し、雷魔法を唱えて大剣にそれを纏わせる。

 そしてすぐには撃たず、相手の隙を見計らう。

「そこね! ライトニングブレード!」

 インプが短剣を持って突っ込んできたところで、ソードは大剣に封じた魔法を解放する。

 鋭い雷が正確にインプを捉え、命中すると大爆発を起こした。

 インプは鋭い叫び声と共にマナの塵と化して消滅した。

「まずは一匹倒したわ!」

 残っているのは絶叫お化け茸のみ。

 恐ろしい叫び声を除けば、体力は低く二人にとって大した敵ではない。

「声に気を付ければ余裕で倒せるわ。それなりに気を引き締めていきましょ」

「了解! ネオスペル、コ・コサイン!」

 りんごは電撃を絶叫お化け茸に放ち、大ダメージを狙う。

 一撃では倒せなかったが、絶叫お化け茸を瀕死の状態に追い込んだ。

「スピンスラッシュ!」

 ソードは大剣を円を描くように振り回し、りんごが攻撃した絶叫お化け茸を倒した。

「後はこれで一気に終わらせます! ネオスペル、ネオスペル、マ・マ・マグマチュード!」

 そして、りんごが増幅呪文を唱え、弱点の炎魔法を絶叫お化け茸に向かって放つ。

 マグマは絶叫お化け茸を包み込み、跡形もなく灰に変えた。

 

「うん、これ以上敵はいないみたいね」

 敵が全滅した事を確認したソードは、かちりと大剣をしまう。

 床の土砂はほじくり返された跡が多数あるが、歩くには問題はなさそうである。

 見たところ、上に向かう階段が2つ、下に向かう階段が2つ、

 そして後ろに地図が書かれた受付らしい場所と、扉の閉ざされた小部屋がある。

 だが、下への階段は土砂で埋もれているため、降りる事はできないようだ。

「まずは、左の階段から上りましょう」

「そうね」

 りんごとソードは、左側の階段を上った。

 このフロアには四角い紙製の箱やよく分からない衣装らしきものが散らばっていた。

 奥には隣に通じる通路と、上に行く階段も見えた。

 だが、ところどころで天井が崩れそうになっているため、移動には注意が必要そうである。

「慎重に調べましょう、りんごちゃん。天井が崩れたらおしまいだから」

「……分かりました」

 りんごとソードは、天井に気を付けながらこのエリアを調べた。

 すると、この部屋から麻雀牌を見つけた。

「あ、これは麻雀牌ですね。

 使い物にはならないけど、売ったらお金になりそうですし持っていきますね」

 

 りんごとソードは次に、A館の三階に向かった。

 このフロアには、ベッドや箪笥といった大きな家具が置かれていた。

 その箪笥を開いては中を確かめている魔族の姿が見えた。

「ここにも何もない……これじゃあ怒られそうだぜ、ギギッ」

 魔族の傍には、倒れている紫の髪の少年と獣人がいた。

 りんごは、二人に見覚えがあった。

「あ、まぐろ君にりすせんぱい……!」

 りんごは魔族に聞こえないように小声で話す。

「どんな人なの?」

「私の友人です。かなり傷を負っていますね。

 でも、まだ相手は気付いていません。奇襲ならチャンスですよ」

「ええ……分かったわ。行くわよ!」

「はい!」

「ギッ」

 りんごとソードは勢いよく魔族の前に飛び出したが、魔族は二人の気配に気づいてしまう。

「しまっ……!」

「見つかった!?」

「ギギッ、こいつはいい。お宝見つからなかったのは人間のせいにしよう」

「しょうがない……正面から行くしかないわね!」

 ソードは大剣を構えた後、魔族の剣士、デビルソードマンを斬りつける。

 しかし、デビルソードマンはその硬質な皮膚で大剣を弾き返した。

「そんな攻撃が効くかよ!」

「うわっ!」

 デビルソードマンは段平をソードに振り下ろした。

 ソードは何とか攻撃を防ぎ、軽傷に抑える。

「武器がダメなら、これです! サイン!」

 りんごは指から雷魔法を放つもデビルソードマンはそれをかわす。

「かわした!? 今度こそ! コサイン!」

 りんごはゴブリンソードマンに向かって雷の球を放つ。

 今度はクリーンヒットし、デビルソードマンは大きく吹っ飛ばされ箪笥に叩きつけられる。

 その衝撃でデビルソードマンは嵌ってしまう。

「これで、とどめよ! サンダーストーム!」

 ソードは異父兄弟のシェゾが使う雷の嵐で、デビルソードマンを倒した。

 

「やられた、ギ……ギ……」

 そう言い残し、デビルソードマンは塵となった。

「大丈夫ですか、まぐろ君、りすせんぱい!」

「う……ここは、どこ……?」

「私は……何、を……」

「ちょっと待ってくださいね、応急処置しますから。ヒーリング!」

 りんごは回復魔法を唱え、まぐろとりすくませんぱいの傷を癒した。

「ふぅ、助かったよ★」

「まさか、私達が魔族にやられるとはな。油断してしまった」

「という事は、まぐろ君もりすせんぱいも、あいつのせいでここに帰って来たんですね?」

「あいつ?」

「それについてはアタシが教えてあげるわ」

 カタストロファーセブンについてソードが説明すると、二人は納得したように頷いた。

 

「そういえば、君は誰なんだい?」

「あぁ、まだ名乗ってなかったわ。アタシはソード、魔導剣士のソードよ」

「僕はささきまぐろ、よろしくね★」

「りすくまだ、よろしく頼むよ」

 お互い、自己紹介をし合うまぐろ、りすくませんぱい、ソード。

「それにしても、こんなところで再会できるなんて思いませんでした」

「でもなんで、こんなに魔物が……」

「あれはカタストロファーセブンが蒔いた種なのよ。世界を終わらせるために、ね。

 それを防ぐのがアタシ達、トライブレードの役目よ」

「へぇー。あ、でも、ちょっと待って。箪笥の中身を見てみようかな?」

 そう言ってまぐろが箪笥の中身を見てみると、中は空っぽだった。

「……どうやら、みんなが探したいものはここにはないみたいね。別のエリアへ行きましょ」

「はい」

 

 こうして、物理部の三人が揃うのであった。




~次回予告~

召喚士と別れたアリアは、プリンプタウンに戻ろうとしていた。
だが、魔物は容赦なくアリアに襲い掛かってくる。
その道中でアリアは、謎の少年と出会う……。


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19「謎の少年ナイアック」

~前回までのあらすじ~

プリンプタウンに戻るため、りんごとソードは冒険していたが、
二人は廃墟となったショッピングモールの中に入る。
魔物を退けながら探索していくと、まぐろとりすくませんぱいと再会する。
そして、りんご、まぐろ、りすくませんぱいの物理部三人が揃うのだった。


「んじゃ、俺達はここまでだな」

「皆さん、ありがとうございました」

 アリアは、冒険を終えた召喚士に別れを告げた。

 ティルラ、マーベット、ローゼマ、ベストール、アルガーはシュルッツに帰っていった。

 

「さて、私もそろそろ、プリンプタウンに戻りましょうかね。どうなっているかは知りませんが」

 アリアは、精霊と共に第二の故郷、プリンプタウンへ行く道を歩いていた。

「……っ!」

 その時、足に痛みを受け、アリアは蹲る。

「誰がこんな事を……! く、魔物ですか!」

 アリアの足に噛みついたのは、巨大な蜘蛛の魔物、ビッグスパイダーだった。

「魔物め! 消え失せなさい!」

 アリアはその魔物の弱点が炎だと見抜き、炎の精霊フェーゴを召喚してけしかけた。

 しかし、ビッグスパイダーは機敏な動きでアリアの攻撃をかわす。

「かわされた!? なら、こうすれば……!

 地の精霊よ、彼の者を縛りたまえ! アース・バインド!」

 アリアは地の精霊グランを召喚し、蔦を呼び出してビッグスパイダーの動きを制限する。

「フェーゴフレイム!」

 そして炎の精霊フェーゴを召喚して巨大蜘蛛を炎で包む。

 巨大蜘蛛は炎に弱く、大ダメージを与える事に成功した。

「よし、このままいけば! フェーゴボム!」

 その後、フェーゴが爆発し、巨大蜘蛛は消滅した。

 

「せっかく帰りたかったのに、なんで魔物が……。早くプリンプタウンに戻りたいのに……」

 アリアはぶつくさ言いながら、プリンプタウンへの道を歩き続ける。

「何事もなければ、いいのですが……」

 しかし、今のこのプリンプタウンで、何かが起こらないわけがなかった。

 アリアの目の前に、暴走したサラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノームが現れた。

「……っ! 精霊!? 暴走してますね! これも異変の影響でしょうか。

 ですが、私が取る事はただ1つ! 行きなさい、ミスティ!」

 アリアは杖を構え、水の精霊ミスティを召喚する。

 彼女はミスティを水に弱いサラマンダーにけしかけて大ダメージを与えた。

 暴走した精霊はアリアに魔法を放ったが、アリアは攻撃を全てかわす。

「ミスティレイン!」

 アリアが杖を振りかざすと、ミスティが雨を降らせる。

 サラマンダーは大ダメージを受け、マナの塵と化した。

 

「まずは一体倒しました、次もいきましょう!」

 アリアはもう一度杖を構え直し、精霊を召喚して攻撃しようとする。

「きゃあ!」

 しかし、暴走したノームの攻撃を受けて詠唱が中断される。

 さらにウンディーネの水の鞭を受けたアリアは転倒し、シルフの追撃が入ってしまう。

「あいたたた……こんなに連続で攻撃が来ると、持たないかもしれませんが、私は諦めません!

 フェーゴボム!」

 アリアはフェーゴを召喚し、ウンディーネに向かって放つ。

 ウンディーネは爆発の衝撃で大きく吹き飛ばされ、

 アリアはその隙に杖からエアが変化した風を放つ。

「これで、倒れるはずで……あぁっ!?」

 アリアが安心したのも束の間、ウンディーネは起き上がって水の鞭を振りかざした。

「しまった! 当たる……っ!」

 アリアが思わず目を閉じた瞬間、ウンディーネは何者かにより真っ二つになった。

 

「え……?」

 アリアは目を見開いた。

 彼女の傍らにいた緑髪の少年剣士は、静かに長剣とレイピアを納めた。

「あなたは……?」

「僕はナイアック。世界を救うために来た」

 ナイアックの、少年とは思えない落ち着きぶりに、アリアは何も言えなかった。

「カタストロファーセブンの進撃は、もう、君一人では止める事はできない。

 僕達が止めなければ意味がない」

「ナイアック……」

「だから、少女。一緒に戦ってくれ」

「分かりました。ナイアックさん、私の名前はアリアですよ」

 アリアは突然現れたナイアックに困惑しつつも、彼と共闘する事にした。

「ミスティヒール!」

 アリアは水の精霊ミスティを召喚し、自身の体力を回復する。

「グランクエイク!」

「ツインスラッシュ!」

 続けて、アリアは地の精霊グランを召喚して岩を飛ばし、シルフに大ダメージを与える。

 ナイアックは双剣から衝撃波を飛ばし、ノームを切り裂いた。

「僕は足が速くてもそんなに打たれ強くはない」

「私もです」

「だから、短期決戦で行くよ! 撃鉄撃連刃!」

 ナイアックは右手の長剣でシルフを斬った後、左手のレイピアでシルフを貫き、

 暴走したシルフをマナの塵に変えた。

「あと一体! エアブレード!」

 アリアは風の精霊エアを召喚してノームを切り裂き、大ダメージを与える。

 その隙にナイアックが双剣を振るってノームを斬りつける。

「とどめです! エアトルネード!」

 そして、エアが竜巻に姿を変えるとノームを包み込み、切り刻んだ。

 竜巻が消えると、ノームはマナの塵と化した。

 

「まさか、こんなところにも魔物が現れるなんて」

「だから言っただろ? カタストロファーセブンの進撃は止められないって。

 ほら、世界は徐々に崩れているし」

「あ……」

 アリアが建物の壁を見ると、亀裂が走っていた。

 少しつつけば、間違いなく建物は崩壊するだろう。

「嘘でしょう?」

「事実だ。もう、平和な世界じゃなくなっている。早くしなきゃ世界は崩壊してしまう」

「もう、安全地帯はないという事ですか……」

 はぁ、と溜息をついて落胆するアリア。

 ナイアックは彼女の肩に手を置いてこう言った。

「全ての希望が失われたわけじゃない。僕達が希望の光になるんだ。

 カタストロファーセブンという闇を払う、ね」

「……そうですね、ナイアックさん。希望が潰えるのは、嫌ですからね!

 さあ、私と共に戦いましょう、フェーゴ、ミスティ、エア、グラン、ルフィーネ!」

 

 こうして、アリアは謎の少年剣士と共に、世界を守るために戦うのだった。




~次回予告~

ルルーとシェゾと再会したアルルは、食事をとりつつこれからの事を考える。
戦いが続く中、アルル達はひと時の休息を取っていた。
だが、その休息の最中にも、魔物は容赦なく襲い掛かった……。


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20「蠢く者達」

~前回までのあらすじ~

召喚士と別れたアリアは、プリンプタウンに戻ろうとするが、
暴走した精霊が彼女に襲い掛かってくる。
何とか精霊魔法で応戦するが、数は多く、アリアは追い詰められる。
絶体絶命の危機を救ったのは、謎の少年ナイアックだった。


 魔導世界でルルーとシェゾと再会したアルル。

 セイバーは強い絆で結ばれた三人を少し羨ましく思っていた。

「三人とも、私が入れる隙間がないくらい仲が良いよね」

「まあ、長く付き合ってる身だしね」

「その割に身体はまだちんちくりんのままじゃない」

 ルルーはつんつんとアルルをつついた。

「う~、そりゃルルーと比べればだけど……せめて発達途上って言ってよ」

「ぐーぐー」

「世界を救うために、お前らが欲しい」

「お前ら『の力』ね」

 アルルは、シェゾの言葉抜けを指摘した。

「ねえアルル、シェゾってこういう人なの?」

「見た目はかっこいいんだけどね、いつもこういう言葉使うから変態扱いされるんだよ」

「ぐぬぬ……遠慮なく言いやがって……」

 遠慮なくシェゾの短所を言うアルルに、シェゾは握り拳を作った。

 しかし腐れ縁だからこそ、アルルはこんな事を言えるのだ。

「まあ確かに、皆さんの力は必要ですね。

 今は一人でも仲間が多くなければ、カタストロファーセブンに勝てませんから」

 アルル、チコ、セイバーだけではパーティバランスが悪かった。

 しかし、前衛で戦えるルルーとシェゾが入った事で、一気にパーティの安定感が増した。

 これで安心して、カタストロファーセブンやそのしもべと戦えるだろう。

「だけど、戦ってばかりじゃ疲れちゃうよ」

「そうだね……でも、そうしている間にも敵の侵略は進んでいるよ」

「そうやって自分を追い詰めて、何が楽しいの?」

 戦う事を優先するセイバーに、流石のアルルも呆れた。

「楽しくはないよ。だけど私達は、世界のために戦う存在。

 君みたいに個人の目的では戦えないよ」

「セイバー……」

「君達がいなければ、私は壊れちゃう。どうか、勇者である私を支えてくれ」

「もちろん! だってキミは、ボク達の仲間だもんね!」

「ぐーぐ、ぐっぐぐーぐ、ぐぐぐ!」

「まったく、仕方ありませんわね……。乗らないわけがありませんわ。

 セイバー、あなたも私と共に戦いなさい!」

「勇気のない奴は勇者とは言えない。勇気を失ったら勇者失格だぜ。あいつが泣いちゃうぞ」

「あなたは勇者である以前に一人の人間なんです。人間の心をずっと持っていてください」

「……ありがとう、みんな」

 アルル、カーバンクル、ルルー、シェゾ、チコの励ましに、セイバーはニッコリと微笑んだ。

 

「それじゃあ、昼食を取りに行こうか」

「はい」

 

「いただきます」

 この異変の中、まだ無事なレストランにて。

 アルル、ルルー、シェゾはマーボーカレー、チコはスープスパ、セイバーはひやピリ中華、

 カーバンクルは大盛マーボーカレーを食べていた。

「うーん、麻婆豆腐とカレーって、合うのかなぁ?」

「このお店だと定番らしいけどね」

 セイバーによれば、マーボーカレーは普通のカレーと違うベクトルの辛さを味わえるという。

 しかし、彼女にとってはゲテモノらしいので、代わりにひやピリ中華を食べている。

「好みは人それぞれだし、気にしない方がいいよ。

 しっかり辛さと美味さを味わって、英気を養ってよね」

「うん。もぐもぐもぐ……ん~美味しいっ!」

「ぐ~ぐっ!」

 マーボーカレーを嬉しそうに味わうアルルとカーバンクル。

 ルルーとシェゾは、味を楽しみながら食べていた。

「本当に美味しいですわ。まるで、今起きている異変が嘘のように」

「このままずっと、平和だといいんだけどな……」

 

 こうして、昼食を食べ終わり、レストランを後にしたアルル一行は……。

「ふぅ~、お腹いっぱい」

「ぐぐ~」

「みんな元気になってよかったね。この調子で、カタストロファーセブンから世界を解放しよう」

 セイバーは剣と盾を構え直す。

 その様子は、世界を救わんとする勇者そのものだ。

「でも、全然敵の様子が見えないよ?」

「それが敵の狙いなんだよ。奴らは正面から向かっては来ない、私達の隙を伺っているのさ」

「なら、警戒が必要だな」

 そう言って、シェゾは前に出て警戒を強める。

 隙を見せないように、いざ敵が来ても備えられるように。

 

「ウガァァァァァァァァァッ!!」

「ぐっ、敵か!?」

 その途中、突然、シェゾの目の前に血の気のない肌をした男が襲い掛かってきた。

 シェゾは攻撃を紙一重でかわしたが、男が正気を失っている事は分からなかった。

「何故、いきなり襲い掛かってきた!」

「シェゾ、相手をよく見て。どう見ても正気じゃないでしょ」

「そっか、言われてみれば……。とりあえず、気絶させるしかなさそうだな」

「先手必勝! ファイヤー!」

 アルルは手から炎を放ってハンマーを持った男を燃やした。

「草薙脚!」

 ルルーはアルルが攻撃した男に素早い蹴りを放ち、動けなくした。

 もう、この男を助ける事はできないようだ。

「ニグヲヨゴゼエェェェェェ!!」

「うわっ、今度はたくさん来たよ!」

 男が倒れた途端、先程の男と同じような様子の男や女がアルル達に襲い掛かってきた。

「やっぱり油断大敵だったみたいだね。ファストブレード!」

 セイバーは素早く剣を振り、魔物化した女魔導師を斬りつける。

「俺もただ、魔法を使えるだけじゃないってところを見せてやるぜ! ダークスラッシュ!」

 シェゾは闇の剣を構えて女魔導師を真っ二つに切り裂いた。

 彼は魔法だけでなく、剣の腕もなかなかなのだ。

「やるね、シェゾ」

「ああ、お前の剣もなかなかの腕前だ」

「ウオオォォォォォォォォ!」

「ぐぁっ!」

「カウンターアタック!」

 魔物化した戦士がシェゾとセイバーに向かってハンマーを振り下ろす。

 セイバーは盾で攻撃を防いだ後、反撃で戦士を斬りつける。

「夢幻の天!」

「ウオオオオォォォォォォォ!」

 チコと女魔導師が魔法を撃ち合う。

 杖から光の矢と氷の矢が飛び交い、ぶつかると派手な爆発が起きる。

「理性がない以上、全力でやるしかないようですね……」

 手加減をしていては、いずれこちらがやられる。

 チコは攻撃魔法は苦手ながらも、一生懸命に女魔導師と戦っている。

「ウオオオオオオオオォォォォォォ!」

「……きゃぁ!」

「危ない、チコ!」

 チコは戦士の叫び声で竦んでしまい、女魔導師の攻撃を食らいそうになる。

 その直後にセイバーが盾で攻撃を防ぎ、剣で女魔導師を斬りつけた。

「カタストロファーセブンめ……罪のない奴をこんな目に遭わせるなんて、許せない!」

 セイバーの目に熱い炎が宿る。

 彼女は、弱き者を魔物に変えたカタストロファーセブンを許せないのだ。

「今すぐに倒れろ! ソニックブラスト!!」

 そう言って、セイバーは剣を振り、大きな衝撃波を飛ばした。

 その衝撃波は魔物化した者達を真っ二つにし、一瞬で戦闘が終了した。

 

「……これで終わりだね」

 セイバーは剣をしまい、魔物化した人間がいた場所を見る。

 死体は赤い霧となり、空の彼方へ消えていった。

「こんな事までするなんて……なんて酷い奴だ!」

「カタストロファーセブンは、無力な人達の事を何も考えていないのですね……。

 本当に、何もできない私が、恨めしいです……」

「本当に最低ですわね。私自身で叩き潰してやりたいですわ!」

 シェゾとルルーは、カタストロファーセブンに対する怒りに満ちていた。

 チコも、無力な自身を恨んでいた。

「……行こう、みんな。私達は絶対に負けないって事を、あいつらに教えてやる!」

「そうだ! こんな小物なんかにボク達が住む世界を潰されてたまるか!」

「ぐー! ぐっぐぐーぐ!」

 これ以上の犠牲を生まないためにも、カタストロファーセブンは倒さねばならない。

 アルル、ルルー、シェゾ、チコ、セイバーは改めて決意を固めるのであった。




~次回予告~

アミティとエッジは、次に何をするべきかを考えていた。
だが、時には休息も必要である事を知った二人は休息を取る事に。
そこで何故か、単独のレイくんと遭遇するのだった。


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21「破壊するもの」

~前回までのあらすじ~

アルルは魔導世界でルルーとシェゾと再会した。
腐れ縁トリオの復活に喜ぶのも束の間、魔物になった人間が襲い掛かる。
魔物になった人間を倒し、アルル達はやるせない気持ちになり、
同時に、カタストロファーセブンを許せないという気持ちになった。


 アミティとエッジはプリンプ魔導学校を後にし、次に何をするべきかを考えていた。

「次の敵は倒したし、どうしようかな」

「戦ってばかりで疲れるから、休もうか」

「そうだね~。あたしももう、くたくたになっちゃったし~」

 戦うだけでなく、時には休息も必要だ。

 肉体や精神に負担がかかれば、この先、世界を救う事が極めて困難になる。

「まだ安全な場所は残っている。ここに向かおう」

「知ってるの? エッジ」

「オレについてこい」

 

 エッジに連れられてアミティが辿り着いた場所は、プリンプタウンホールだった。

「ここなら、安心して休める」

「魔物が襲ったりしてこないの?」

「一応、確認だけはしておこう」

 エッジは魔力を集中し、プリンプタウンホールにかかっている魔法を確認した。

「……ああ、大丈夫だ。ここには魔物が来ない結界が張られている」

「よかったぁ」

「……うらめしや」

―びくぅっ!

 いきなり耳元で少年に囁かれたエッジが驚く。

 エッジの近くにいた少年は幽霊のレイくんだった。

「ちょっとレイくん、ユウちゃんがいないからって初めての人を驚かす事はないでしょ?」

 アミティがレイくんを注意し、レイくんは小声で「ごめん」と謝った。

 エッジは彼を初めて見るようでアミティに誰なのかを聞こうとする。

「待ってくれ、アミティ。ユウちゃんとか、レイくんとかって誰なんだ?

 あの幽霊がレイくんなのか?」

「そうだよ。ユウちゃんとレイくんは双子の姉弟なんだ。

 今は、ユウちゃんはいないし、このレイくんもあたしが知ってる彼じゃないけど」

【よろしくお願いします】

 レイくんはプレートに文字を書き意思表示をした。

「キミとは初めまして、といったところだな。オレはエッジ、剣士をしている。よろし……あ」

 エッジはレイくんと握手しようとしたが、その手がレイくんをすり抜けたため叶わなかった。

「すまんな、キミの手を握れなくて」

【いいんだよ。きみとこうしてお話できるだけで、ぼくは嬉しいから】

 レイくんは幽霊だったので、最初、エッジは危害を受けるかと思っていた。

 しかし、その様子を見て無害であると分かったためエッジは気さくに彼と話す事ができた。

【それで、何か用?】

「あたし達はカタストロファーセブンって敵と戦ってるけど、ちょっと疲れちゃって。

 ここで休ませていい?」

【いいよ】

「ありがとう!」

「よし、休息といこう」

 レイくんの言葉に甘えて、アミティとエッジはしばらくの間、

 プリンプタウンホールで休む事にした。

 しかし、その裏で暗躍する者がいる事に、三人は気が付いていなかった……。

 

「よぉし……お前を葬ってやるよ」

 プリンプタウンの路地裏で、金の瞳が光っていた。

 その周囲には、不気味な赤い光がちらついていた。

 

「エッジの作った焼きそば、すっごく美味しいね!」

「一応、材料とかは店で買ったけどな」

 アミティとエッジは、焼きそばを食べていた。

 この焼きそばはエッジが作ったものであり、その味をアミティが絶賛する。

 レイくんは物を食べる事ができないため、二人を羨ましそうに見つめている。

(ぼくも、身体があったら、きみ達みたいに食べ物を食べられたのに)

 しかし流石に乗り移ろうなどという勇気は、レイくんにはなかった。

 ユウちゃんがいたら、平気でアミティ達に乗り移りそうだが……。

「エッジって、男なのに料理が上手いんだね」

「娘は料理が大雑把すぎるし、そもそも妻は料理をした事がない。

 だから食事はほぼ全部、オレが担当した」

「下手なの?」

「下手じゃないし、味は悪くないけど……う~ん、ただ材料を入れただけとか、

 一言で言うと『ワイルド』な料理だ」

 ルルーは、今はミノタウロスと離れているため、一人でサバイバル生活をしている。

 なので、料理は味自体は悪くないが、調理方法がまともではない。

「色々大変だねぇ……」

「……だな」

 暢気に平和に焼きそばを食べるアミティとエッジ。

 しかし、そんな平和なひと時は、次の瞬間に断たれた。

 

きゃーーーーーーーーーーっ!!

 遠くから、少女の甲高い悲鳴が聞こえてきた。

 彼女の声は、レイくんにとって聞き覚えのあるものだった。

「その声……ユウちゃん!?」

 姉のユウちゃんの悲鳴を聞き、

 レイくんは飛び出そうとするがアミティが「待って」と制止する。

「ユウちゃんが危ないのに……」

「キミがいなくなったら、ここを守れる人がいなくなっちゃうよ。あたしとエッジに任せて」

「でも……」

「大丈夫だ! オレは強い」

「あたしも魔法使えるから!」

 アミティとエッジは自信満々に胸を張る。

 二人の堂々とした態度にレイくんは勇気づけられ、「分かった」と小声で言って頷いた。

「声はどっちの方から聞こえたの?」

「あっち」

「つまり、オソロ墓地の方だね! 行こう! エッジさん!」

「ああ! ……アミティ、さんはいらないぞ」

 

 ユウちゃんを助けるため、オソロ墓地の方に向かったアミティとエッジ。

「一体どこにいるんだろう……」

 アミティがきょろきょろと辺りを見渡していると、エッジが彼女の前に出て剣を構える。

「ど、どうしたのエッジ?」

「待て……敵がいるぞ」

「え、敵って……うわぁぁ!」

 アミティとエッジは既にゾンビに包囲されていた。

 ゾンビは生ある者への憎悪のみで、アミティ達に襲い掛かろうとしていた。

「バーストブレイカー!」

 エッジは剣を振って気を敵に叩き込み、気を破裂させて周囲の敵を巻き込む。

 ゾンビはまとめてダメージを受けるが、感覚を持たないゾンビは怯まずに突っ込んでいく。

ウガアァァァァァァァァ!

「うわあぁ!」

 油断したアミティがゾンビの拳を受けてダメージを受ける。

「アミティ!」

「力が強いし、臭いよ……」

「ゾンビはもう死んでるからリミッターが外れてる。だから、恐れずに突っ込んでいく。

 動きは鈍いがタフだから、一気に強い攻撃を当てて倒せ!」

「うん! アクセル、アクセル、フ・フ・フレイムビロウ!」

 アミティは強力な炎の波をゾンビ目掛けて放った。

 炎はゾンビを飲み込み、まとめて火だるまにし、ゾンビは身悶えして動きを止める。

 アンデッドは炎属性に弱い事を利用した攻撃だ。

ウガアァァァァァァァァ!

 ゾンビは暴れ回ってアミティとエッジを破れかぶれに攻撃する。

 相手の行動は変わっていないためアミティとエッジは落ち着いて攻撃を見切り、反撃する。

「アクティーナ!」

 アミティは手から光線を放ちゾンビを打ち据える。

 不浄な者には炎だけでなく聖なる力も有効なのだ。

「ウアアァァァァァァァァァァ……」

 ゾンビの群れは不気味な唸り声と共に、塵となって消滅した。

 

「はぁ、はぁ……」

 アミティ達は集まってきたゾンビを倒した。

 このゾンビを操っているのがどこにいるのか、探さなければならない。

「敵はどこにいるんだろう……」

「奥に進んで、手掛かりを掴むしかないな」

 エッジを先頭に、敵の手掛かりを探す事にした。

 しかし、二人が探すのは幽霊であり、幽霊は足跡を残さないため捜索は難しい。

 そこでアミティは、魔力を探知する魔法でユウちゃんの魔力を探す事にした。

「ここから右に38歩、上に25歩行けば、ユウちゃんを見つける事ができるよ」

「具体的だな」

「あたしだっていつまでも頭が弱くないからね」

 

 アミティの導きにより、エッジは何とかユウちゃんの居場所を探る事ができた。

「……アミティの導きが合っていれば、この近くにいるはずなんだが……」

 アミティとエッジの目の前には、黒いローブが宙に浮いていた。

「これは……?」

「……!」

 アミティとエッジは黒いローブの魔物に奇襲を仕掛けたが、見つかってかわされる。

 しかも、二人は近くで蛆の群れを見てしまう。

「気持ち悪い!」

「狼狽えるな、攻撃しろ!」

「う、うん! フレイ……うわ!」

 黒いローブの魔物、ラルヴァーは手から氷の礫をアミティに放つ。

 アミティは詠唱中だったのかダメージを受け、詠唱を中断される。

「いくぞ、アクセルスマッシュ!」

 エッジはラルヴァーに近付いて連続で攻撃を浴びせる。

 黒いローブは意外と頑丈で斬撃を通しにくかったため、連続攻撃を重視した。

「こいつ、硬いな……」

「硬いなら魔法で行けばいいよ、サイクロワール!」

 アミティは風の刃をラルヴァーに放ち、攻撃はラルヴァーに効いたのか苦しみ出した。

 しかし、ラルヴァーは反撃として闇の刃を二人に向けて放った。

「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「エッジ!」

 アミティは何とか攻撃をかわしたが、エッジはかわし切れずに食らい、そこから血が流れ出す。

「大丈夫……!?」

「これくらい……ぐぅっ!」

 エッジは痛みに耐えながら立ち上がる。

 その様子は苦しそうだった。

「ヒーリング!」

 アミティは回復魔法を使いエッジの傷を塞いだ後、

 もう一度サイクロワールでラルヴァーを切り裂く。

「とどめだ、メテオドライヴ!」

 エッジは飛び上がり、ラルヴァーの胸元に剣を突き刺した。

 ラルヴァーはその一撃で倒れ、中から大量に蛆の死体が飛び出した。

 

「これがラルヴァーの本体か」

「うぇ……吐きそう。こんな魔物までオソロ墓地にいるの?」

「十中八九カタストロファーセブンの仕業だな」

「早く、ユウちゃんを助けなきゃ……!」

 

 アミティとエッジはオソロ墓地の奥に向かった。

 オソロ墓地の奥には、アミティが見覚えのある男がいた。

 黒い道着を身に纏い、金の短髪と金の鋭い瞳を持つ男……ブレイカーだ。

 彼の近くには、白い布切れが落ちていた。

「来たか」

「ユウちゃん……!」

「ほぅ、この布切れはユウちゃんと言ったか。ほれ、俺が消し去ってやったぞ」

 ブレイカーは落ちていた白い布切れをアミティとエッジの前に突き出す。

「そ、そんな……!」

 エッジは歯ぎしりを立て、剣を抜いて構える。

「アルルを、りんごを、アリアを、あたしを、バラバラにしたキミは、許さない……!」

 ブレイカーは、アルル達をバラバラの世界に飛ばした張本人だ。

 この三人と仲が良いアミティは、絆を断たれた事に怒っていた。

「ふん、それがどうした?」

 しかし、ブレイカーは開き直っていた。

「絶対に……キミを倒す!」

「お前のような清々しい悪がいれば、オレは全力で戦う事ができるよ」

 当然、二人はブレイカーに同情などできなかった。

「さぁ、次に俺の犠牲者になるのは誰だ?」

 ブレイカーはそう言うと、二人の前に出た。

 カタストロファーセブンとの戦いが、始まった。




~次回予告~

ついにアミティ達は、最初に出会ったカタストロファーセブンの一人、ブレイカーと戦う。
世界を救うためには、彼らを倒す以外にないのだろうか。
そして、この戦いでついに、アミティは……。


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22「狂戦士ブレイカー」

~前回までのあらすじ~

アミティとエッジは、プリンプタウンホールでユウちゃんとレイくんと出会う。
彼らと楽しく会話をし、休息をしていた時、ユウちゃんが何者かに襲われる。
彼女を襲ったのは、カタストロファーセブンの一人、ブレイカーだった。


「フレイム!」

「そんなものは効かん」

 アミティは手から炎を放つが、ブレイカーは手を振って攻撃を打ち消す。

 ブレイカーは続けてアミティに近付き、氷を纏った拳をぶちかました。

「冷たっ!」

 アミティは凍傷で動きが鈍り、ブレイカーは続けてアミティを蹴る。

「あぐぅっ!」

 凍り付いた場所を殴られてアミティは苦しむ。

 エッジはアミティにポーションをふりかけ、体力を回復させる。

「うぅ、相手の攻撃が強烈だよぉ……」

「もっと凍らせてやるよ。ド・ゲイト・ド・イス!」

 ブレイカーは飛び退くと呪文を詠唱し、大量の氷の矢を降らせた。

 あれに命中すると、その部位が凍り付いてしまう。

 アミティとエッジは何発か攻撃をかわしたが、残りはかわしきれなかったため防御魔法で防ぐ。

「格闘技だけじゃなくて魔法も使えるの!?」

「力だけだとは思うなよ」

「ならばこれで反撃だ! スピードファング!」

 エッジは間合いを詰めて剣でブレイカーを斬りつけた。

「ぐおぉ!」

「アクセル、アクセル、ラ・ラ・ライトニングボルト!」

 ブレイカーがよろめいた隙にアミティは増幅呪文を詠唱し、大きな雷を落として攻撃する。

 よろめいたところにさらに強力な一撃が入り、ブレイカーは大ダメージを受ける。

「この程度で……」

「今のうち、ヒーリングオール!」

 アミティはその隙に全体回復魔法を唱え、負っていた傷を治す。

「おのれ……よくも俺が与えた傷を……。大人しく倒れろ! 鉄山靠!」

 ブレイカーはアミティとエッジの傷が塞がったのを見て不快になり、体当たりを繰り出す。

 エッジは剣で攻撃を受け流した後、反撃でブレイカーを斬りつける。

「ブリザード!」

「効かんと言っただろう」

 アミティは吹雪でブレイカーを凍らせようとするが、

 ブレイカーは魔法を打ち消しながらアミティに突っ込んでいく。

「獅吼弾!」

「させるか! ファイアエッジ!」

 エッジはアミティを庇いながらブレイカーを炎を纏った剣で攻撃する。

 攻撃が命中した後、エッジは切り返してもう一度ブレイカーを斬りつける。

「ちぃいっ! 今度はこれだ! ラ・レクス・ラ・ロタ・マ・ギ・ド・テネブ!」

 ブレイカーは闇を呼び起こす呪文を唱え、アミティとエッジを闇で包み込もうとする。

 あれに当たれば、瀕死は免れない。

「何とか、かわさなきゃ!」

「ああ!」

 アミティとエッジは、闇が当たる直前で動き、攻撃をギリギリで回避した。

 エッジは回避した後、ブレイカーに飛びかかって剣でブレイカーの身体を貫いた。

「ぐああぁぁぁぁぁ!」

「どうだ」

「まだまだいくよ! アクセル、ブ・ブリザード!」

「うあああぁぁぁぁぁぁ!」

 アミティは強力な吹雪を起こしさらに追い打ちをかける。

「疾風怒濤! アクセルスマッシュ!!」

 そしてエッジは連続で斬撃を浴びせ、最後に風を纏った斬撃でブレイカーを切り裂いた。

 

「ぐぅ……」

「降伏するんだな。いや、お前では絶対に降伏しないか」

「当たり前だろう! ここでお前達を倒さなければ、神様の願いは叶わないんだ!」

「神様?」

 ブレイカーの口から出た言葉、「神様」。

 それが本当の神かどうかは不明だが、もし願いが成就すれば世界は終わるだろう。

「そうはさせん、お前は必ず俺達が倒す!」

「できるかな? ド・ホル・ラ・ロタ・ド・シー!」

 ブレイカーは手から高圧力の水流を放出した。

「させない! ライトニングボルト!」

 アミティは攻撃を食らわないように、水流を雷魔法で打ち消す。

 ブレイカーは舌打ちし、手からアミティ目掛けて気功を放つ。

 エッジは飛んでくる気功の軌道上に入り込んでアミティを庇い、攻撃を打ち消した。

「次はあたしの番だよ! アクセル、アクセル、ア・ア・アクティーナ!」

 アミティが増幅呪文を唱え、手から無数の光線を放つ。

 当たれば、大ダメージは避けられない。

「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 光線をまともに食らったブレイカーは吹っ飛び、体勢を崩した。

「アキュートアングル! バスターブロウ!」

「サイクロワール!」

 エッジは剣でブレイカーを貫いた後、気功を放ってさらに追撃。

 そこからアミティが風の刃を放って追い打ちをかけた。

 しかし、風の刃が消えた後、ブレイカーは戦意も露わに立ち続けていた。

「しぶといな……。後はオレがやる」

 エッジは剣を構え直してブレイカーに突っ込んでいく。

 しかし、ブレイカーは力を溜め、両手に気を纏わせる。

「剛掌破!!」

「うわぁぁぁぁ!」

「ぐわぁぁぁぁ!」

 そして、ブレイカーは両手から圧縮した闘気を放ち、アミティとエッジを吹っ飛ばした。

 

「う……うぅ……」

「どうした? 勢いはそれだけか?」

「あ……あたしは……負けない! キミなんかに世界を渡さない!」

 アミティは傷つきながらも立ち上がって最後の力を振り絞った。

 すると、彼女の体が眩い光に包まれ、

 それと同時にアミティが胸を押さえる――魔力覚醒が始まったのだ。

「魔力覚醒……!? やらなきゃ……!」

「おいアミティ、やめ……!」

 アミティはエッジの前に立ち、覚醒する魔力を放つために両手をブレイカーに突き出す。

「フェ・フェ・フェ・フェアリーフェア!!」

 巨大な光の柱が、ブレイカーを包み込む。

 ブレイカーの身体は徐々に浄化されていき、光の中に消えていった。

 

「畜生……! この俺が負けるとは……」

「聞かせてもらう。お前が言った『神』とは誰なんだ? そいつは実在するのか?」

 エッジは剣を戦闘不能のブレイカーに向ける。

 ブレイカーは情報を話すつもりはなく、ただ黙っていた。

「神様って本当に悪い人、じゃなくて存在なの?」

「……」

 ブレイカーはアミティの言葉にも動じない。

 アミティは悲しそうな目でブレイカーを見つめ、情報を聞き出そうとしていた。

 すると、ブレイカーは懐からナイフを取り出し、それを自らの胸に突き刺し、消滅した。

 

「くっ。どうやら、自殺したようだな」

「自殺ー? つまりそれって、幽霊になっちゃったって事?」

「あ、ユウちゃん!」

 しばらくして、戦闘不能になっていたユウちゃんが復活する。

「あたし、ブレイカーから情報を聞きたかったんだけど、ブレイカーが自殺しちゃって……」

「大丈夫! ユウちゃんは次に行く場所を分かってますずし!」

「おい、知ってるのか?」

「はーい! それは、アルカ遺跡でーす! そこに手掛かりはアルカ?」

「そっか……よし、休んで準備したらアルカ遺跡に行くぞ」

「うん!」

 

 かくして、四人目のカタストロファーセブンとの戦いは終わった。

 次にアミティとブレイカーが行く場所は、アルカ遺跡だ。

 果たして、二人は世界を守る事ができるだろうか。




~次回予告~

まぐろとりすくませんぱいと再会したりんごは、ソードと共にショッピングモールを探索する。
廃墟と化した建物に気分が悪くなりながらも、四人は探索を続ける。
その中で、りんご達が出会ったのは……。


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23「異界の塔で」

~前回までのあらすじ~

プリンプタウンホールを守るべく、アミティとエッジはブレイカーに戦いを挑む。
最初に出会い、またアルル達をバラバラにした張本人である彼に、
アミティ達は気合を入れて戦いを挑む。
苦戦はしたものの、アミティ達はついに、ブレイカーを撃破したのだった。


 りんご、まぐろ、りすくませんぱい、ソードは、

 ショッピングモールのB館4階に上がった。

 このフロアには鍋や包丁といった、台所で使う道具が散乱している。

 上への階段は瓦礫で埋もれて登れなくなっており、

 隣のフロアに移動する連絡通路も途中で亀裂が入っていた。

 だが、亀裂には椅子がかけられているため、隣のフロアに移動はできそうだ。

「台所用品は落ちてるけど、今の私達に必要はありませんね」

「ボクがちゃーんと持ってるしね★」

 まぐろが調理道具を取り出して一行に見せる。

「うむ。それで、上に行きたいのだが……」

「階段は登れませんし、連絡通路も亀裂が入ってますし……」

「亀裂がある場所を登るしかなさそうね」

 そう言って、ソードは折り畳み椅子を使い、亀裂がある場所を乗り越えようとした。

「あ~らよっと★」

「おっ、とっ、と!」

 まぐろは華麗な動きで向こう側に渡る事に成功。

 りんごもあまり運動神経は良くなかったが、何とかまぐろと共に向こう側に渡った。

「問題発生っ!」

「りすせんぱい!」

 しかし、りすくませんぱいが渡ろうとした瞬間、

 りすくませんぱいは足を踏み外して落ちそうになる。

「危ない!」

 ソードは急いで彼の腕を掴み、ダッシュで折り畳み椅子を駆け抜けた。

 結果、全員が落ちる事なく、隣のフロアに移動する事ができた。

「はぁ、ひやひやしましたね」

「危うく落ちるところだったな」

 

 一行はC館4階に辿り着いた。

 このフロアは様々な道具が置かれていたようだが、

 ケースが割れていて、その多くが持ち去られていた。

 しかし、あら荒れている割に裕香はとても綺麗で、塵一つ落ちていなかった。

 そして、その床に何か丸い物体が動いており、

 赤いランプを点滅させながらだんだんとりんごに近付いてきた。

「あ、これ知ってます! ロボット掃除機ですね。でも、トラブルが発生してますね……」

 エラー番号は一応表示されているが、りんごに対処方法は分からなかった。

 床が綺麗だったのは、ロボット掃除機が掃除したからだ。

「直せる手段はありませんし、上がりましょ」

「はい」

 

 A館5階には多数の動物用の檻やケース、水槽といったものが並んでいた。

 それらの檻やケースの多くは倒れており、中身は空であった。

「うわぁ……酷い有様だね★」

「ここって、動物がたくさんいた場所でしょうか」

「……」

 ソードはりすくませんぱいをじっと見つめたが、りすくませんぱいは何も言わなかった。

 天井からは看板らしきものがぶら下がり、何か文字が書かれていた。

 だが、それを調べるよりも早く、床を這うようにして多数の蛇が姿を見せて襲い掛かってきた。

「そんな攻撃、通じないわよ! ソードブラスト!」

 ソードは大剣から衝撃波を放って毒蛇を切り裂く。

「ふりけん★」

 まぐろは弱った毒蛇に剣玉を叩きつけてばたんきゅーさせた。

「サイン!」

「アイラブユー」

 りすくませんぱいはりんごの援護を受け、雷を纏ったフラスコを投げつける。

 フラスコが爆発すると毒蛇は痺れ、その隙にソードは毒蛇を連続で斬りつけた。

「きゃあ!」

 しかし、ソードは油断して腕を猛毒の牙で噛まれてしまう。

 幸い、利き腕ではなかったが、身体に毒が回りソードの顔が青ざめる。

「ソード!」

「うぐっ……毒がきついわ……」

 ソードは毒でどんどん体力を失っていく。

 りすくませんぱいはすぐに解毒しなければと走り出す。

「ソード君、ぐぅっ! そこをどけ!」

 だが、りすくませんぱいの行く手を蛇が阻む。

 りすくませんぱいはフラスコを投げて攻撃するが、大したダメージにはなっていない。

 このままでは、ソードが毒で戦闘不能になってしまう。

「ピュリファ!」

 その時、りんごがりすくませんぱいに解毒魔法を唱えて毒を治した。

「すまない、あんどうりんご君」

「後はボクに任せて★ 稲妻落とし!」

 まぐろは雷を纏った剣玉を毒蛇に振り下ろし、毒蛇の頭を潰してばたんきゅーさせた。

 

「毒蛇はみんな倒しましたし、看板を見ましょう」

 りんごが天井の大きな看板を見ると、「世界の様々な蛇ペットフェア」と書かれていた。

 ここはどうやら、動物を扱っていた場所らしい。

 見たところ、他に動くものは見当たらない。

 上への階段は2つあり、どちらも問題なく登れそうである。

「どっちに行こうかな?」

「でも右の階段、瓦礫で埋まっちゃってるわよ」

「ホントだ★ じゃあ、左に行こう★」

 

 四人は左の階段を登った後、もう一つの階段を登ってA館7階に着いた。

 どうやら食堂が多数ある場所のようだ。

 人はいないようだが、食堂の外には美味しそうな料理がたくさん置かれている。

 また、階段も見えるが片方は瓦礫で埋もれているため、もう片方しか使えないようである。

 そして、その階段はどうやら外に繋がっているようだ。

「わぁ、美味しそうな料理ね! これ、食べられるの?」

「ふむ……。いかにも食べたら美味そうだな。だが、これは食品サンプルだ。食べられない」

「なんだ、残念。じゃあ、もう少し調べてから階段を登りましょう」

 りんごが部屋を調べてみると、生肉、野菜、果物、さらに簡単な傷薬が3つが出てきた。

 階段を登るとこの建物の屋上らしきところに出た。

 見ると、テーブルや椅子が多数並んでおり、屋台のような小屋やステージらしき場所があった。

 隣の建物も同じような感じだが、本来あるはずの連絡通路が壊れているため、

 行くためには建物と建物の間を飛び越える必要があるようだ。

 だが、その隣の建物には、黒い煙のような姿をしたモノがいた。

「エコロ!」

「やあ、りんごちゃん。君とここで会うなんてね」

「りんごちゃん、この人は誰なの?」

 ソードがエコロを見た後、彼が一体どういう存在なのかをりんごに聞く。

「ああ、この人はエコロって言って、色んな世界を旅しているんだ。

 ……ちょっと、性格に問題はあるけどね」

「なるほどね、大体分かったわ」

 うんうんと頷くソードに、エコロは悪い印象を植え付けられたと落胆した。

「ちょっと、君達に話したい事があるんだ」

「話したい事?」

「一度しか言わないからちゃ~んと聞いてね」

 エコロの言葉に四人はとりあえず彼の方を向いた。

 

「カタストロファーセブンは、種族としての人間じゃないんだよ。

 神様が作った、人間のようなものなのさ。

 彼らは今の世界を嫌っていて、世界を自分の都合の良いように作り替えようとしている。

 世界が崩壊しているのは、その余波からさ」

えぇぇぇぇぇ!

 カタストロファーの野望を知って、まぐろは驚く。

 エコロは話を続ける。

「今のところ、生き残っているのはイレイザー、クラッシャー、スレイヤーの三人で、

 イレイザーはアルカ遺跡、クラッシャーはシャッテン霊廟、スレイヤーはサタンの塔にいるよ」

 エコロから、残りのカタストロファーセブンがどこにいるのかを教えてもらった。

 しかし、りんごは情報源がどこからなのか知りたかった。

「エコロ、それをどこで知ったの?」

「サタンっていうおじさまからだよ」

「やっぱり……」

 エコロが教えてくれた情報に、りんごは落胆した。

 しかし、この世界を救える鍵になるかもしれないという希望も抱いた。

 アルカ遺跡とサタンの塔はこの世界にはないが、

 アルル、アミティ、アリアが何とかしてくれるとりんごは信じていた。

「じゃあ、この建物はもう用済みだから壊すね~!」

「えっ……!」

 その時、エコロが指パッチンをした。

 すると突然、爆発が起こり、建物が傾き始めた。

 倒壊に巻き込まれる前に、急いで脱出する必要がありそうだ。

「に、逃げますよ~!」

「は~い!」

「みんな、アタシから離れないでね!」

「無論!」

 

 りんご、まぐろ、りすくませんぱい、ソードは、何とか倒壊する建物からの脱出に成功した。

 エコロはテレポートで姿を消したのだろう、彼の姿はどこにも見当たらなかった。

「次に私達が倒すべき敵は、クラッシャーですか」

「そういう事になるな」

「りんごちゃん、もしもカタストロファーセブンを全員倒したら、どうするの?」

「今は別の世界にいるアルル、アミティ、アリアとまた会いたいです」

 アルル、アミティ、りんご、アリアはカタストロファーセブンのせいでバラバラになった。

 だから、カタストロファーセブンを倒して、みんなを取り戻さなければならない。

「カタストロファーセブンを倒すのはアタシ達トライブレードの役目でもあるの。

 だから、アタシに最後までついていくという事になるのよ。

 みんな、分かったわね? 今は絶対に、離れちゃダメよ」

「「「はい(うむ)!」」」

 

 残る敵はあと三人。

 果たして、りんごは仲間と共にカタストロファーセブンを撃破し、

 アルル達と再会できるのだろうか。




~次回予告~

謎の少年ナイアックと出会ったアリアは、戦いのために準備をする。
情報収集や物品の購入など、冒険者らしく万全の態勢を整える。
そして情報収集をしようとした時、アリア達が出会ったのは……。


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24「エコロ見参!」

~前回までのあらすじ~

ショッピングモールを探索していたりんご達は、異次元の旅人・エコロと出会う。
エコロから情報を聞いて、この世界の異変を知った。
次に倒すべきカタストロファーセブンは、クラッシャー。
果たして、りんご達はクラッシャーに勝てるのだろうか。


 アリアとナイアックは、おしゃれなお店でアイテムをいくつか購入した後、

 情報収集に行こうとしていた。

 

「さて、準備はできましたし、私達は情報収集でもしましょうかね」

「そうだね。情報が集まる場所といえば、プリンプタウンホールだ」

「ナイアックさん、どうしてそれを知っているのですか?」

「何でもないよ」

 アリアはナイアックがプリンプタウンについて知っている事を怪しむ。

 それをナイアックはさらりと否定した。

 アリアは彼に疑いをかけるが、こうしていても仕方がないと思い、

 彼の言う通り、プリンプタウンホールに行く事にした。

 

 しかし、二人がプリンプタウンホールに辿り着くと、黒い影を見た少年幽霊が怯えていた。

「……! ……! ……!」

 アリアは杖、ナイアックは剣とレイピアを抜いてその影に突っ込んでいく。

「何するんですか! その子から離れなさい!」

「わ、ちょっと待ってよ! 僕を殺さないで!」

 その影は、アリアには見覚えがあった。

「って、あれ? エコロさんじゃないですか」

 アリアはその影がエコロだと分かるとすぐに杖をしまった。

「ど、どうして武器をしまうんだ!」

 ナイアックはアリアが武器をしまった事に驚く。

 アリアはナイアックにエコロが敵意を持たない事を話すと、ナイアックも武器をしまった。

「まったく、どいつもこいつも僕に危害を加えようとするんだから」

「申し訳ありませんね」

 エコロはあまり面識のない少年と少女にすら敵意を向けられている事に呆れた。

 少年幽霊ことレイくんは怯えながらアリアとナイアックの背後に隠れる。

「こ、この人は……?」

「異次元の旅人エコロです。よく分からないのですが名前はりんごさんに教えてもらいました」

「ふ、ふ~ん、そうなんだ……」

 ナイアックはじっとエコロの顔を見つめた。

 エコロは「何だよ」と言いながら、ナイアックから顔を逸らす。

「それで、私達に何か用ですか?」

「君達に伝えたい事があるんだ」

「伝えたい事?」

「それはね……」

 エコロは、残るカタストロファーセブンの居場所をアリアとナイアックに話した。

 

「なるほど……つまり私達が倒せるのは、アルカ遺跡にいるイレイザーですね」

「そういう事。敵は後3人だから君達の冒険もあと少しってところだよ」

 カタストロファーセブンも、もう既に半分以上を撃破した。

 世界も、あと少しで救われるだろうと思うと、アリアは少しだけ安心した。

 しかし油断してはならない。

 幹部の数が残り僅かになった事で、

 残っている彼らの士気が大きく上昇している可能性があるのだ。

「……ですが、エコロさん。何か忘れている事はありませんか?」

「な~に~?」

「アルルさんとアミティさんとりんごさんです。今、この三人は違う世界に飛んでいますよ」

 アリアの言葉でエコロはそういえば、と思い出す。

 彼女は溜息をついた後、話を続ける。

「この三人をこの世界に戻すには、どうすればいいんですか?」

「それなら、僕の魔法でちょちょいのちょいだよ。いっくよー、ワールドポーター!」

 エコロは世界を移動する魔法、ワールドポーターの呪文を唱えた。

 しかし、何故か何も起こらなかった。

「あれー? おかしいなぁ」

「エコロ、ふざけていますか?」

 アリアが黒い顔でエコロに杖を突きつける。

 エコロがあまりにもふざけているために、アリアは怒っているからだ。

「ふざけてなんかいないよ!」

 エコロは真剣な表情でアリアにそう言う。

「アリア、この人もこの人なりに真剣に言ってるんだから、攻撃しても意味ないよ。

 それどころか、情報を聞けなくなる可能性が高い」

「……仕方ありませんね」

 ナイアックに諭されたアリアは渋々杖をしまった。

「どうやら、他人を別の世界に呼び出す力は封じられちゃってるみたい」

「君はどうしてその人を連れていかないんだい?」

「僕、実体がないから無理なんだよね。まぁ、今はボスを倒すためにアルカ遺跡に行けって事!」

「君、大雑把すぎ」

 エコロの発言にナイアックはツッコミを入れざるを得なかった。

 

「それじゃあ、アルカ遺跡に行ってらっしゃい!」

「「行ってきます」」

 こうして、アリアとナイアックはエコロに見送られ、アルカ遺跡に行くのであった。

 

「じゃ、僕もみんなに知らせてきます!」

 エコロも、テレポートで別の世界に行くのだった。




~次回予告~

アリアとナイアックは、エコロに目的地を言われ、
カタストロファーセブンが潜むアルカ遺跡に潜る。
理由はもちろん、世界を救うためである。
そんな遺跡の中で、アリア達が出会ったのは……。


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25「遺跡探索」

~前回までのあらすじ~

アリアとナイアックは、エコロから情報を手に入れた。
行方不明になったアルル、アミティ、あんどうりんごを呼ぼうとするが、
エコロが三人を呼び戻そうとしても呼び戻せなかった。
どうやら、異世界に飛ばす力は封印されているらしい。
アリアは落胆しながらも、ナイアックと共にアルカ遺跡に行くのだった。


「久しぶりに、アルカ遺跡に来ましたね……」

 アリアとナイアックは、カタストロファーセブンの一人、

 イレイザーを倒すためにアルカ遺跡に入ろうとした。

―おーい!

「その声は……!」

 すると、背後から声が聞こえてきた。

 その声は、アリアには聞き覚えがあるようだ。

「レイリーさん、ジルヴァさん!」

 その二人は、アリアの仲間のレイリーとジルヴァだった。

「どうしてここに?」

「あの変な生き物がアリアの居場所を知らせてきたからなのだ」

「きっと俺達の仲間だろうと言ったからな」

「……そうでしたか。ありがとうございます」

 レイリーとジルヴァの言葉を聞いて、アリアはエコロが言ったんだな、と思った。

 とはいえ、仲間が揃ったアリアは素直に喜んだ。

 

「うわ、魔物がいますね……」

 既に入口の扉は開かれ、その周辺では多数の魔物が周囲を警戒している。

 入口を守る魔物達を倒さないと、遺跡の中に入るのは難しそうだ。

「人間ども、遺跡の探索にでも来たか? 残念だが、ここから先は通行止めだ」

「近付く者は始末しろと命じられている。この日、この場所を訪れた事を悔やめ!」

「来るのだ! ソードダンス!」

 レイリーはゴブリンの群れに突っ込んで小剣で舞うように切り裂いた。

「ワイドスラッシュ!」

 ナイアックもレイリーに続けてゴブリンの群れに剣とレイピアを振る。

 しかしゴブリンの一体はナイアックの攻撃をかわした。

「くそ、何故当たらん」

「イレイザーサマノ カゴダ!」

「ダカラ クラエ!」

「うあぁぁぁぁっ!」

 オーガはナイアックを殴りつけ、かなりのダメージを与えた。

 今の魔物はイレイザーの加護によって強化されている。

 動きも速くなり、力も強くなっているようだ。

「ゴブリンの攻撃も速いのだ~っ!」

 レイリーはゴブリンの攻撃を、その身軽な動きでギリギリながら回避する。

「ぐあぁぁっ!」

 しかし、ゴブリンの攻撃がナイアックにクリーンヒットし、大きく吹っ飛ばされる。

「大丈夫か、ナイアック!」

「ああ、僕はまだ大丈夫だ……うぐっ!」

「無理はするな、今回復するぞ。ド・オヴァ・デ・シー!」

 そう言って、ジルヴァは回復魔法を詠唱し、ナイアックの体力を回復した。

 アリアはその間に風の精霊エアを召喚し、ゴブリンやオーガを切り刻む。

 だがイレイザーの強化は続いているのかゴブリンを一匹だけ撃ち漏らしてしまった。

「くぅ……速い!」

「アリア、敵は俺が攻撃する! ホーリーアロー!」

 ジルヴァは弓を構えた後、聖なる力を纏った矢を、アリアが撃ち漏らしたゴブリンに射る。

 矢はゴブリンを貫いてダメージを与え、怯ませる。

「えぇい、当たるのだー!」

「ギャア!」

「ギャアア!」

 レイリーは小剣を振り回してゴブリンを二体倒すが、

 それでもオーガとゴブリンには当たらず、苦戦する。

「はっ!」

 ナイアックは剣から衝撃波を飛ばしてオーガを切り裂いた。

 痛みを感じながらもオーガはナイアックにパンチを繰り出す。

「ううぅ!」

 そこにゴブリンの追い打ちが入ろうとした。

 しかし、ゴブリンは足を滑らせ転んだため、攻撃は命中しなかった。

「大人しくしなさい! フェーゴボム!」

「アローレイン!」

「ギャアアアアアアアア!!」

 そして、アリアは炎の精霊フェーゴを召喚し、ジルヴァは弓から大量の矢を射る。

 火柱と矢が魔物の群れに命中すると魔物は叫び声と共に倒れるのだった。

 

「……さて、魔物は倒し終えましたし、遺跡の中に入りましょう」

「オッケーなのだ」

 

 アリア達がアルカ遺跡に入ってしばらくすると、そこそこの広さがある部屋に出た。

 部屋の中央には亀裂が走っており、これを越えないと先には進めなさそうだ。

「どうやって渡るのだ……?」

「何もないように見えるな」

「でも、何かがあるはずです。サモンスピリット!」

 アリアは下級精霊スピリットを召喚し、この亀裂に何があるのかを探してもらった。

 すると、透明な材質で作られた床を発見した。

「見てください。亀裂の上に、透明な床があります。

 ここを渡っていけば、亀裂を飛び越えられますよ」

「やるな、アリア」

 流石は14歳の秀才召喚士アリア、見えないところも発見するとは。

 全員、余計な手間をかけずに先に進む事ができた。

 

 亀裂を越えてさらに先に進むと、分かれ道に行き当たった。

 通路には魔物の足跡が無数に残されている。

 アリアが足跡を調べると、通路に残った足跡は二手に分かれており、

 左の通路へ進んだ集団の方が数が少ない事が判明した。

「左に行っても魔物を叩ける確率は少ないですね。なら、右に行ってみましょう」

「アリア、凄いのだ~」

「俺達より年下なのによく色んなところに気づくな」

「流石は召喚士だね」

「……いえ、私はただ精霊と暮らしただけです」

 レイリー、ジルヴァ、ナイアックは、アリアの勘の鋭さに感心した。

 繰り返すが、アリアは14歳で、レイリーやジルヴァより年下である。

 

 分かれ道の先に行くと、広い部屋に出た。

 そこに、魔物の姿はなかった。

 閑散とした部屋の中で目を引くものといえば、

 隅っこに転がっている木箱と、奥に見える扉ぐらいだ。

「よし! わたしもアリアに負けないように、あの箱を調べてみるのだ!」

 そう言って、レイリーが木箱を調べてみると、毒ガスの罠が仕掛けられていた。

「ん、罠がかかっているのだ。わたしは罠を外すのは苦手だから……ジルヴァ、

 この中で手先が一番器用なきみがやってみるのだ」

「……ああ」

 ジルヴァは木箱に近付き、毒ガスの罠をギリギリで外す事に成功した。

 木箱の中には、ポーションが2つ入っていた。

「みんな、良い役割分担ができているね。

 僕は戦闘しかできないから、探索が得意な君達がいて助かるよ……」

 ナイアックが一人一人の様子を見ながらそう言う。

 一人だけでは、このダンジョンを突破する事は難しい。

 しかし、仲間がいれば、ダンジョンを突破できる。

 ナイアックは、改めて仲間が大切だという事を知るのだった。

 

「あ、鍵がかかっていますね……」

「わたしが調べるのだ」

 そして、レイリーは先に行くための扉を調べる。

 すると、魔法を放つ砲台の罠が仕掛けられていた。

 もし、罠が発動すれば、パーティのうち誰かが大ダメージを受けてしまうだろう。

「罠を外すのは俺がやるんだろ?」

「そうなのだ!」

「任せろ」

 そう言って、ジルヴァは罠を外し、扉を安全に開ける事に成功した。

 

 魔物との戦いと罠を突破して奥に飛び込むと、

 そこには黒いローブを纏った男と、無数の死霊が宙に浮いていた。

「う……お化けがいっぱいいるのだ……!」

 幽霊があまり好きではないレイリーは、アリアの後ろに縮こまりながら隠れる。

「あなたが……カタストロファーセブンの一人」

「イレイザーだね……!」

 アリアとナイアックが真剣な表情で武器を取る。

 二人の姿を見た男はにやりと口角を上げた。

「そうだ。私は死霊使いのイレイザー。最近、雑魚の相手ばかりで退屈していてね」

 どうやら、今までにイレイザーと対峙した相手は皆、倒されてしまったらしい。

 雑魚だった魔物を強化したほどだから、どれほどの強さか分かるだろう。

「ストレス解消に、お前達を血祭りにあげてやるよ。せいぜい、楽しませてくれるんだね」

 イレイザーはそう言うと、さらに高く浮遊してアリア達に近付く。

 死霊達も、彼に付き従うように浮遊した。

「こいつ……今まで私達が戦ってきたボス以上に強い気を感じます。ですが、私は……!」

 アリアはイレイザーが放つプレッシャーに押し潰されそうになる。

 しかし、ここで屈するわけにはいかない。

 世界のためにも、仲間のためにも、彼を倒さなければならない。

 

「精霊よ、私に力を貸してください!」

 死霊使いイレイザーとの戦いが、始まった。




~次回予告~

アリア一行はカタストロファーセブンの一人、イレイザーと遭遇した。
死霊を操る彼の戦法は、狡猾にして、卑怯だった。
果たして、イレイザーを倒す事ができるのだろうか。


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26「狂戦士イレイザー」

~前回までのあらすじ~

レイリーとジルヴァと合流したアリアとナイアックは、
カタストロファーセブンを倒すため、アルカ遺跡に入る。
魔物が凶暴化している中、アリア達は知恵を生かして遺跡を冒険する。
そして遺跡の最奥で、四人はイレイザーと遭遇するのだった。


「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 イレイザーは死霊を呼び出し、自分の体に憑依させる。

 彼の周りを不穏なオーラが覆い、アリア達は口を押さえる。

「ひぃぃぃぃぃぃ!」

 お化けが苦手なレイリーはアリアの背後に隠れる。

「お、お、お化けなのだ!」

「その娘は死霊が苦手なのか……ならば」

「うあぁぁぁぁぁぁ!」

 イレイザーは追い打ちをかけるようにレイリーに死霊をけしかける。

 レイリーは当然、避けられずに精神ダメージを受ける。

「な、なんて卑怯な……! レイリー、私が勇気を与えてあげますよ!

 炎の精霊よ、彼の者に勇気を! フェーゴブレイブ!」

 アリアは炎の精霊フェーゴを召喚し、レイリーに勇気を与えた。

 レイリーの青くなった顔が元に戻った。

「ふ、ふぅ……助かったのだ」

「ちっ、気を取り戻したか」

「今度はお化けに怯えないのだ! ジゴロ、ク・クリケット!」

 レイリーは魔法で自身の身体能力を上げた後、剣舞により、舞うように死霊達を攻撃した。

 彼女の小剣は魔法で強化されているため、

 物理攻撃が通らない死霊にも問題なくダメージが通った。

「ふん……ならばこれでどうだ。ファントムアタック!」

「そ、そうはいかないのだ!」

 イレイザーは死霊をレイリーに向けて飛ばした。

 死霊とは思えないほど素早かったが、レイリーは素早く飛び上がって攻撃を回避する。

 しかし、アリアの魔法で恐怖を克服したとはいえ、本能的な部分は治せず、少し体勢を崩す。

「や、やっぱりお化けは苦手なのだ……」

「レイリー、この戦いはすぐに終わらせる」

 ジルヴァは怯えるレイリーを優しく宥めた。

 彼女のためにも、イレイザーは片付けなければならない。

「双破連斬!」

 ナイアックはイレイザーに突っ込んで剣を振り、素早く左腕を動かしレイピアで急所を突く。

 死霊がナイアックに手を伸ばしたが、彼はそれを回避して反撃で斬撃を叩き込んだ。

「水の精霊よ……ミスティウェーブ!」

 アリアは水の精霊ミスティを召喚し、

 イレイザーとレイリーが倒し損ねた死霊をまとめて薙ぎ払う。

「ホーリーアロー!」

 ジルヴァは弓を引き絞り、聖なる矢を放ってイレイザーを刺した。

 彼には死霊が憑依しているので、聖属性の攻撃が有効だと考えた。

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 イレイザーは死霊ごと大ダメージを受け、苦しむ。

 さらに、憑依した死霊が身体を蝕み、イレイザーの体力が減少した。

「わぁっ!」

「マ・ギ・ド・スカト!」

 弓を持った死霊はイレイザーの敵と言わんばかりにレイリーを矢で射る。

 ジルヴァはレイリーに光の盾を張って矢を防ぐ。

 

「グググ……ナゼダ、ナゼタオレン」

 気迫を失わないジルヴァ達を睨むイレイザー。

 死霊をたくさん使役しているのに、諦めない事がイレイザーには理解できなかった。

 それに対し、アリアは真剣な表情でこう言った。

「これは、私達には負けられない戦いなのです。

 あなたが世界を破壊するのならば、私達は世界を再生しましょう!」

「ラ・オシ・ド・スカト!」

 ジルヴァは身体能力を強化する魔法をナイアックにかける。

「こんな雑魚なんか、わたしがやっつけちゃうのだ! アイソレーション!」

 レイリーは弓を持った死霊を舞うように切り裂く。

「行くぞ! 剛・魔神剣!」

 ナイアックは大きな衝撃波を飛ばし、相手の攻撃範囲外から安全に攻撃した。

「グ、グヌゥゥゥゥ……」

「諦めるんだな、イレイザー」

「オノレ! キサマハコウシテヤル! ファントムアタック!!」

 挑発するジルヴァを見たイレイザーは、身体を震わせて大量の死霊を飛ばした。

 ジルヴァもこれはかわせる……と思ったが、死霊の不規則な動きを見極められずに命中する。

「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「サッキマデノイキオイハドウシタ!」

 肉体的ダメージよりも精神的ダメージの方が大きかったらしく、

 ジルヴァはレイリー同様にふらふらしながら立ち上がった。

 イレイザーはこうして、精神が限界に達するまで攻撃していくらしい。

 魔法を使っても精神力を少し消費するため、アリア達は徐々に追い詰められていた。

「精神力をさらに消耗しますが……。倒れるよりはマシです。ルフィーネヒール!」

 アリアは光の精霊ルフィーネを召喚し、全員の体力を回復する。

 光の精霊が発動する回復魔法は、今のアリア達を全快させるには十分であった。

「ワタシノダメージヲムニシタダト!?」

 イレイザーは、自身が与えたダメージが無意味になった事に驚くも、

 すぐに体勢を整え直し死霊を使役する。

「そんなもの、効かないよ! 双刃突穿撃!」

 ナイアックは死霊の攻撃をかわし、

 剣でイレイザーを突いた後、レイピアでイレイザーの胸を刺した。

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」

 攻撃は両方ともイレイザーの急所に当たり、イレイザーの体力が残り僅かになった。

 アリアはとどめを刺すために、魔力を溜める詠唱をする。

「今だ、アリア!」

「はい! ……狂戦士イレイザーよ、この世から跡形もなく消えなさい。

 ル・ル・ル・ルフィーナレイ!」

「グアアアアアアアアアアアア!!」

 そして、アリアが呪文詠唱と共に杖を振り下ろすと、眩い光の柱がイレイザーを包み込んだ。

 イレイザーは死霊に完全に飲み込まれており、最早完全に死霊そのものと化していた。

 そのため、浄化の力には耐える事ができなかった。

 

「カインヨ……ワタシヲタオシタクライデ……イイキニナルナヨォォォォォォォ!!」

 そして、イレイザーがそう言い残すと、光の柱と共にこの世から完全に消え去った。

 

「よし、後は雑魚死霊だけだな」

 イレイザーが消えた以上、残っている死霊は雑魚同然であり、アリア達の敵ではなかった。

 

「……これで、カタストロファーセブンは」

「あと二人……」

 残るカタストロファーセブンは、クラッシャーとスレイヤーのみ。

 不思議と、厚い雲も晴れてきたような気がした。

「帰りましょうか」

「そうだな」

「……うっ!」

 アリア達が帰ろうとしたその時、ナイアックが頭を押さえた。

「……ナイアック……!?」

「……」

 ナイアックの様子がおかしくなったため、アリアは彼の顔色を覗き込んだ。

 すると、ナイアックがぽつりと口を開いた。

「……僕は……いや、私は、ナイアックではなく、カインだ……」




~次回予告~

謎の少年・ナイアックの正体は、カインだった。
人類最強の剣士である彼に、アリア達は驚きを隠せなかった。
そして、プリンプタウンとパラレルワールドが繋がり、
アリア達はいよいよ、プリンプタウンに戻ろうとする……。


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27「ナイアックの正体」

~前回までのあらすじ~

アルカ遺跡でレイリーとジルヴァと再会したアリアは、
カタストロファーセブンを倒すべく、遺跡を探索する。
ナイアックの活躍もあって苦戦せずに進み、ついにイレイザーと出会う。
アリア達はイレイザーを撃破するが、ナイアックの正体が明かされる。
彼の正体は、なんと、人類最強の戦士カインだった。


「カイン……!? あなたは……ナイアックじゃ、なかったんですか……!?」

 アリアが青ざめながらそう言った途端、ナイアックの身体が突然光り出した。

 あまりの眩しさにアリア、レイリー、ジルヴァは目を覆う。

 そして、光が消えると、目の前に鎧を着た大柄な双剣士が現れた。

「……そうだ。私が人類最強の剣士、カインだ」

 そう、ナイアックの正体は、ソードマスター・カインだったのだ。

「あなたが……ソードマスターなんですか?」

「いかにも。セイバーは私の娘だ。……そして」

「そして?」

「ありがとう」

 カインは屈むと、アリアの頭を撫でた。

「え……どうして……? 私、あなた達に感謝される覚えなんて……」

「私がナイアックに姿を変えていた時、人々は皆、私を疑っていただろう。

 しかし、君達は私を疑っていなかった。それが、嬉しかったんだ」

「じゃあ、なんで偽名を使って姿まで変えていたんですか?」

「万が一娘と出会った時、私との関係がばれないようにだ」

 カインの言う通り彼とセイバーは親子関係にある。

 もしも出会ってしまったらセイバーは勇者の宿命に押され、しょげてしまうと思ったからだ。

 幸い、今はセイバーとカインは別の世界にいるため、ここで変身を解いても平気なようだ。

「……今、忙しいところ申し訳ないのですが」

「なんだ?」

「私はアルルさん達が少し心配なんです」

 アルル、アミティ、りんご、アリアはカタストロファーセブンのせいでバラバラになっている。

 アリアは、それについて心配しているのだ。

「皆さんがカタストロファーセブンの力によって別々の世界に飛ばされてしまっているんです。

 皆さんを集める方法はありませんか?」

「安心しろ。そのためにこれを持って来てある」

 そう言ってカインが取り出したのは、キラキラと光る小さな石だった。

「これは?」

「次元を移動できる魔石『次元石』だ。これさえあれば、周辺の世界を自由に行き来できるぞ」

「本当か!? ちょっと貸してくれ!」

 ジルヴァがカインの持っている次元石を取って掲げる。

 しかし、次元石が僅かに太陽光に当たって光っただけで、何も起こらなかった。

「何も起こらないぞ! 不良品か!?」

「持っていく途中でカタストロファーセブンに襲われて魔力を奪われてしまってな。

 彼らを倒して魔力を取り戻すしかない」

「はぁ……。私達には、戦うしか道はないのですね……」

 やはり、カタストロファーセブンを全滅させるという目的は変わらなかったようだ。

 アリアは落胆し、渋々戦いの準備をしようとした。

 

「はーい! ユウちゃんでーす!」

「レイくんでーす……」

 その時、アリア達の前に、ユウちゃんとレイくんが現れた。

「ふ、二人とも! どうしたんですか?」

「聞いて聞いて、幽霊達からいい情報が入ったんだ」

「本当か!?」

 どうやら、ユウちゃんとレイくんは幽霊ネットワークを通じて情報を収集したらしい。

 ジルヴァは食いつこうとしたが、ユウちゃんは「ちっちっち」と指を振る。

「まぁまぁ、慌てない慌てない。『泡出ないシャンプーは役立たず』ってねぇ!」

「……」

「や、やめるのだジルヴァ!」

 意外に短気なジルヴァは、懐から弓矢を取り出そうとした。

 レイリーがジルヴァを制止した後、彼女は落ち着いて二人に話しかける。

「二人とも、すまないのだ。ジルヴァは短気なのが玉に瑕だからなのだ。

 だから、もう少し落ち着いてから話すのだ」

「はーい!」

「はーい……」

 

 ジルヴァが落ち着きを取り戻した後、ユウちゃんとレイくんは幽霊ネットワークを開く。

「というわけで【朗報】プリンプタウンとパラレルワールドが繋がりました!」

「どんどんどん!」

「ぱふぱふぱふ~」

「な、な、なんなのだ?」

 パラレルワールドという言葉を聞いて、レイリーは首を傾げた。

「あ~、パラレルワールドっていうのは、似てるけど違うような世界の事です!」

「事で~す」

「そこにはなんと! アミティが飛ばされた、とパラレルワールドのアタシから聞きました!」

「!」

 アリアは驚くと同時に期待感を抱いた。

 アミティがパラレルワールドに飛ばされているという事は、

 世界が繋がった今、再会できる可能性があるからだ。

「で~も~、あくまで繋がっただけで、そこに行くためのゲートはまだ開いてません!」

「開いてません」

「そう、なのだ……」

 レイリーは残念そうに肩を落とした。

 レイくんは彼女を慰めるためにそっと近づくが、レイリーは叫び声を上げて後ろに下がった。

「だ、だからわたしは幽霊が苦手だと何度言ったら分かるのだ!」

「ごめんね」

「ただ、幽霊達の情報によれば、ゲートの根源は隣町の魔導学校にあるそうで」

 どうやら、隣町であるコメートに行けば、

 プリンプタウンとパラレルワールドを繋げるゲートを開く事ができるらしい。

 だが、そこに行くには広大なピット砂丘を越えなければならない。

「移動魔法が使えればいいのですが」

「私なら使えるが」

 そう言って、立候補したのはカインだった。

「カイン?」

「確かに砂漠は歩きにくいが、フロートという魔法をかければ、地面に浮いて歩きやすくなる」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 カインが助けてくれる事に喜ぶアリア。

「まぁ、魔法はこれくらいしか嗜んでないがな」

「それでも、歩きやすくなるだけで助かります」

 

 長丁場が予想されるため、

 回復アイテムは多めに用意しておいた方がいいと思ったアリアは、

 おしゃれなお店で薬草などの回復アイテムをいくつか買った。

 そして、アリア達はコメートに行く準備をした。

「コメートに行けば、アミティ達に会えるのだ。そして、必ず世界を救ってみせるのだ!」

「「「「おーーーーー!!」」」」

「お待ちなさい……!」

「ん?」

 コメートに行こうとしたアリア達の背後から声が聞こえてくる。

 振り向くと、そこにはラフィーナ、シグ、クルーク、リデル、タルタル、

 そして担任のアコール先生、ルゥ先生が立っていた。

「プリンプ魔導学校の皆さんじゃないですか!」

「皆さん、世界を救うために必死なんですって?」

「はい……でも、どうして皆さんが私達のところに来たんですか?」

「あの黒い奴から情報を聞いたんだよ」

 どうやら、ラフィーナ達はエコロから情報を貰って、ここに来たらしい。

「わたし達は何もできませんが、皆さんを待つ事だけはできます」

「オイは一生懸命におまえを応援するんだなぁ~」

「アミティさんがいなくて寂しいですが、貴方達の存在が、私達を元気づけます」

「必ず世界を、みんなを、守ってほしい」

「がんばれー」

 ラフィーナ達は、四人の勇者を応援した。

 彼らがついていっても、足手まといになるだけだ。

 世界を救うのは勇者達に任せ、自身は彼らの帰りを待つ。

 それもまた、ラフィーナ達の役目なのだ。

 

「それでは、行ってきます」

 こうして、四人の勇者は、アミティと再会するために旅立った。




~次回予告~

アミティと再会するために、
アリア達はいよいよパラレルワールドのプリンプタウンに行った。
飛ばされた彼女は、隣町・コメートにいる。
ピット砂丘を抜ければ、ついにアミティと再会できるのだ……。


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28「再会のはずが」

~前回までのあらすじ~

ナイアックの正体を知ったアリア、レイリー、ジルヴァ。
だが、その正体を知っても、三人は一人の人間として接した。
そして、ついにプリンプタウンとパラレルワールドが繋がった。
三人の目的地は隣町・コメート。
果たして、アミティ達に再会できるのだろうか。


 アリア、レイリー、ジルヴァ、カインは、アミティと再会するために隣町を目指していた。

 そのためには、非常に広大なピット砂丘を乗り越えなければならない。

「砂嵐が強いですね……。こうすれば平気だと思いますが……」

 アリアは、砂嵐を防ぐために、地の精霊グランを召喚して一行の目を膜で覆った。

「おお、痛くないのだ」

「まるでゴーグルのようだな」

「さらに楽に進める」

 四人が歩いていくと、ビッグスコーピオやサンドワーム、

 ブラックドッグなどの魔物の群れが現れた。

 アリア達は戦闘態勢を取って魔物を迎え撃つ。

「フレズノ!」

「ダブルスラッシュ!」

 レイリーが小剣を振ってビッグスコーピオに飛ばし牽制した後、

 カインは剣でビッグスコーピオを斬りつけてレイピアで甲羅の薄い部分を突く。

「水よ、ミスティレイン!」

「ふっ!」

 アリアが召喚した水の精霊ミスティが雨を降らせ、サンドワームを飲み込んで溺死させる。

 ジルヴァは矢に魔力を付与し、サンドワームを撃ち抜いた。

「うぐぅっ!」

 ビッグスコーピオが尻尾をジルヴァに刺す。

 ジルヴァは防御しようとしたが防御しきれず、ダメージを受け、顔が青ざめる。

「ぐ……毒、か……!」

「ジルヴァさん!」

「心配いらん……すぐにな……」

 ジルヴァが解毒魔法を唱えようとすると、ブラックドッグが炎のブレスを吐いてきた。

 彼はそれを避けるため呪文を中断する羽目になる。

「魔物は私達が食い止めます、ジルヴァさんは下がってください!」

「……ああ」

「エアトルネード!」

 アリアはジルヴァを下がらせた後、エアを召喚し広範囲に竜巻を起こす。

 魔物に攻撃の隙も与えずに薙ぎ倒す姿に、カインは少し感心した。

「君は、本当に優秀な魔導師なんだな」

「いえ、私は召喚士です。炎の精霊よ、彼の者に力を与えたまえ! フレイムパワー!」

 アリアは自身が魔導師ではない事をカインに告げた後、

 炎の精霊フェーゴを召喚してレイリーの攻撃力を高める。

「助かるのだ! バタフライ!」

 強くなったレイリーは小剣で舞うようにブラックドッグを斬りつける。

「私も援護します、ミスティレイン!」

 アリアは弱ったブラックドッグを弱点の水魔法により一撃で倒す。

 ブラックドッグがいなくなったのを確認したジルヴァは、アンチドートで自身の毒を解除する。

 そして、弓を構えて残りのサンドワームを撃ち、ピット砂丘にいた魔物は全滅した。

 

「ピット砂丘に、こんなに魔物がいるなんて……」

 本来はただ広いだけのピット砂丘に、たくさんの魔物がいる。

 カタストロファーセブンによる異変は、どの場所でも逃れられない事が分かった。

「……カタストロファーセブンめ。絶対に許さない……」

 カインは拳を握りしめ、歯を食いしばる。

 勇者の父親だけあって、カタストロファーセブンを強く憎んでいる。

「ええ、それは私も同じ気持ちです」

「わたしも、アリアに賛同するのだ」

「……平穏な暮らしを邪魔する者は、誰であっても容赦はしない」

 アリア、レイリー、ジルヴァも、カインと同じ気持ちを抱いている。

 それは、彼らもまた勇者の一員である事の証明だ。

「行きましょう。立ち止まってなどいられません」

「アリア。俺は最後まで、お前についていこう」

「ジルヴァ、『達』を忘れているのだ。わたし達はみんな、仲間なのだ」

「そうだな。一人だけでは、この異変は絶対に解決できないからな」

 

 こうして、四人は魔物に遭遇し、何度か野宿を繰り返しながら無事にコメートに辿り着いた。

「久しぶりにコメートに着きましたね」

「やっぱり、広いし、建物が大きいのだ……」

「シュルッツ以上に都会と言える場所だな」

「ここが、プリンプタウンの隣町、コメートか……」

 コメートは、プリンプタウンやシュルッツと比べてかなり近代的な町である。

 魔導で動く機械もいくつかあり、文明の発達度もかなりある。

 ふと、アリアは中央にある大きな建物を見た。

 あれが、コメート魔導学校だろう。

 

「こことゲートが繋がって、アミティさんがいるのですね」

「早く行くのだ!」

「待ちなさい、レイリーさん!」

「え?」

 レイリーがコメート魔導学校に行こうとした時、正気を失った人々の群れが襲ってきた。

 腐臭も漂っており、ゾンビである事は誰が見ても明らかだった。

「何故こんなにゾンビが……」

「不死者に良心を見せるのは白魔導師ではない。仕留めるぞ、セイントアロー!」

 ジルヴァは矢に聖なる力を纏わせ、ゾンビの群れに向かって放つ。

 聖なる矢が全てのゾンビに命中し、そのままゾンビは塵となって消えた。

「こっちだ、急げ!」

「はい!」

「ゾンビの群れを相手にしている暇はないからな」

 

 ジルヴァの導きによって、アリア達はコメート魔導学校に辿り着いた。

 しかし、アミティの姿はどこにもなかった。

「あれ……? アミティさんは……?」

「残念ながら、戦える状態じゃな・い・わ」

 すると、長い紫の髪にリボンをつけた、ゴスロリ服を着ている小柄な少女が現れた。

 彼女の名はフェーリ、コメート魔導学校の生徒だ。

「フェーリさん」

「レムレス先輩がいない間、アタシは魔導守護隊と一緒にここを守っていたんだけど、

 アミティが『あたしも戦う』と聞かなくて……」

「魔導守護隊?」

「その名の通り、防御術に優れた魔法部隊よ。

 彼らがいるおかげで、このコメートは魔物が寄り付かないのよ。

 なのに、これだけ魔物がいるという事は、それだけ魔物の数が多かったって事よ……」

 魔導守護隊の力でも、魔物の群れを阻止する事はできなかった。

 フェーリは、その事実に落胆した。

 

「……そういえば、アミティの様子はどうなのだ?」

「アミティは保健室にいるわ」

 

 アリア達はフェーリに保健室に案内してもらった。

 すると、そこには羽のついた帽子を被った桃色の髪の女性と苦しそうな様子のアミティがいた。

「うーーー、がーーー、うーーー」

「……アミティさん……」

「アミティは今、ゾンビ化の症状を自分の意志で抑えているわ。

 でも……そう長くはもたないみたい」

「彼女は?」

「あら、名前を名乗るのを忘れていたわ。私は魔導守護隊の戦士、リレシルよ。

 ここにあるシャッテン霊廟から出た呪いで町の人達がみんなゾンビになっちゃったのよ。

 それで、アミティって子がゾンビに噛まれちゃって……」

 リレシルと名乗った女性は、現在の事情をアリア達に話した。

 ゾンビに噛まれ、死んだ者はゾンビになるというのは、アリアには既知の事だったが、

 まさかアミティが犠牲になるとは思えなかった。

「でも、呪いだとするなら、発生源を断ち切れば元に戻るだろうな」

「だったら、シャッテン霊廟に急ぐのだ! みんな、一緒に来てくれるのだ?」

 レイリーがフェーリとリレシルを誘うが、フェーリは首を横に振った。

「アタシはアミティを看病するために残るわ」

「そっか、残念なのだ……。じゃあリレシル、一緒についてきてくれるのだ?」

「ええ」

 リレシルは、防御術に優れている。

 派手な容姿ながらもその実力は侮れないのだ。

 

「それじゃ、よ・ろ・し・く・ね」

「はい!」

 アリア、レイリー、ジルヴァ、カイン、リレシルは保健室を後にし、

 アミティを助けるためにシャッテン霊廟に向かうのだった。




~次回予告~

アリア達は魔導守護隊の一人、リレシルと共に、
アミティにかかった呪いを解くためシャッテン霊廟に向かった。
アンデッドが無数にいるダンジョン、そこは恐怖の地だった。
しかし、アリア達はアミティを助けるためにも、諦めるわけにはいかなかった。


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29「呪われし霊廟」

~前回までのあらすじ~

ついにプリンプタウンに戻ってきたアリア、レイリー、ジルヴァ、カイン。
アミティと再会するはずだったが、アミティは呪いでゾンビになっていた。
リレシルによれば、呪いはシュッテン霊廟から現れているという。
アミティを助けるため、アリア達はシュッテン霊廟に向かうのであった。


 呪いを解いてアミティを助けるため、

 アリア、レイリー、ジルヴァ、カイン、リレシルはシャッテン霊廟に入った。

 アリアが入り口に足を踏み入れた瞬間、生暖かい風がアリアの頬を直撃した。

「う……」

「大丈夫か、アリア」

「はい、平気です。……やはり呪いというのは本当でしたか」

「呪い……やっぱり怖いのだ」

 屋内であるにも関わらず、生暖かい風が吹く。

 やはり、これも呪いのせいだと思うと、レイリーは少し震えた。

「もちろん、私は張本人を許すつもりなど微塵もありません。

 だから安心してください、レイリーさん」

「あ、ありがとう、なのだ、アリア」

 アリアに撫でられたレイリーは、顔を赤くした。

 

「分かれ道がありますね」

 左には休憩所らしき部屋が見え、右には大きな部屋がある。

「どっちから先に行くのだ?」

「右側でお願いします」

「分かったのだ」

 一行はレイリーを先頭にして、右の部屋に入った。

 部屋の壁にはいくつかの鎧が立てかけられている。

「鎧か……使えるものはあるかな?」

 カインが鎧を調べると、それは錆びていて防具としての価値はなかった。

 レイリーはそれ以外に何かないかを調べてみた。

「……うーん、何も見つからなかったのだ」

「あら、珍しい」

 シルヴァン族のレイリーの直感が珍しく働かなかったため、アリアは少し驚いた。

 レイリーは「こういうのもあるのだ」と言い、仲間と共に大きな部屋を後にした。

 

「次は、まだ調べていない左の部屋に行くぞ」

「はい」

 ジルヴァはそう言って、左の部屋に行った。

 部屋の隅には大きな暖炉があり、鎧などが置いてある。

 ここは、どうやら戦士達が眠る場所のようだ。

 ジルヴァが近寄ると、骸骨の戦士がむくりと起き上がった。

「……っ、敵か! 来るぞ!」

 ジルヴァは急いで弓を構え、

 アリア、レイリー、カイン、リレシルも彼に続いて戦闘態勢を取った。

 

「デミルーン!」

 レイリーは小剣をブーメランのように投げ、スケルトンを攻撃する。

 スケルトンは盾で攻撃を阻んだが、その隙にリレシルが衝撃波を放ってスケルトンを切り裂く。

「せいっ!」

 カインは双剣を振るったが、骨の身体に剣は届かなかった。

「くっ、やはり剣は効果がないか」

「ラ・ステラ・ド・オヴァ・マ・ギ!」

 ジルヴァは呪文を唱えて光を発生させ、スケルトンに大ダメージを与える。

 アンデッドに光属性の攻撃は効果的なのだ。

「パーヴォ・エスクド!」

 骸骨戦士は剣を振り回してジルヴァとカインを斬りつけるが、

 リレシルがそれを防御魔法で防ぐ。

「エアカッター!」

 アリアは風の精霊エアを召喚してスケルトンを攻撃した。

 しばらくすると、スケルトンの体力が回復していった。

「こいつ、再生能力まで!」

「これもやっぱり、呪いのせいでしょうね」

 スケルトンに再生能力がついている理由を、リレシルが推測する。

 呪いのせいであるならば、アンデッドが強くなっているのも納得がいく説明だ。

「だが、倒してしまえばそれまでだ! 疾風剣!」

「骨には打撃が効果的、なのだ! リーボック!」

 カインは双剣からは無数の風の刃を放ち、スケルトンの体力を大きく減らす。

 とどめにレイリーが飛び蹴りを繰り出し、スケルトンをバラバラにした。

「魔神剣!」

 カインは双剣から衝撃波を放ち、スケルトンを牽制する。

 2体のスケルトンはカインとジルヴァを長剣で斬りつけた。

「エスクド!」

 リレシルは魔法で盾を作り攻撃を防ぐが、それでも相手の攻撃は止まない。

「雑魚の癖に……これでも食らえ! ラ・ステラ・ド・オヴァ・マ・ギ!」

 これでジルヴァの闘志に火がついたのか、光の魔法でスケルトンに大ダメージを与える。

「バタフライ!」

「フェーゴボム!」

 レイリーは回転しながらスケルトンを小剣で切り裂き、

 アリアが放った炎が爆発してスケルトンは倒れた。

「やったか!?」

「フラグですよそれは」

 アリアが突っ込みを入れると同時に、スケルトンはバラバラの身体を繋ぎ合わせて復活した。

「しぶといな」

「それがアンデッドモンスターの特徴だ」

 そう言って、カインは双剣に風を纏わせ、一閃してスケルトンを一撃で倒した。

「ムーンウォーク!」

「セイントアロー!」

「ミスティレイン!」

 レイリーの連続斬り、ジルヴァの聖なる矢、

 そしてアリアの水の精霊が出した雨がスケルトンに命中し、敵は全滅した。

 

「敵は何を落としていったのかな」

 ジルヴァが落としたものを確認すると、ヒールストーンと万能薬が落ちていた。

 ヒールストーンは、使うと全員の体力を回復するもので、貴重な全体回復手段の1つだ。

「おお、ヒールストーンだ! ありがたくちょうだいしよう」

 カインはヒールストーンと万能薬を鞄に入れた。

 もうこの部屋には何も残っていなかったため、アリア達は左の部屋を後にした。

「次は、真っ直ぐ行った場所にある、一番大きな扉を開けましょうか」

「一番目立つところだし、何か隠されていそうだし、ね」

 五人は、早速大きな扉に近付いてみた。

 しかし、扉には鍵がかかっていた。

「鍵がかかっているな。こじ開けられるか?」

「やってみるのだ」

 レイリーは扉の開錠に挑戦してみたが、失敗した。

「う~ん、ダメなのだ」

「よし、俺がやる……いくぞ!」

 ジルヴァは体当たりで扉をこじ開けようとした。

 だが、それでも扉は開かなかった。

 一行はどうするべきなのかを考えていると、リレシルは何か閃いたようで扉の前に立つ。

 リレシルが取っ手に手をかざすと、やっぱり、と確信するかのように頷いた。

「これは……魔法の鍵がかかっているみたいね。道理で普通に開かないわけよ。

 アンロックの魔法で開けましょう。それ!」

 リレシルがアンロックの魔法を扉にかけると、ガチャリという音がした。

 そしてアリアが取っ手に手をかけると、その扉はあっさりと開いた。

「リレシルさんの言う通りでしたね」

「うふふ、どういたしまして」

 

 五人が玉座の間に入ると、ゾンビの少女がいた。

「ひっ!? ゾンビは怖いのだ~!」

 ゾンビを見たレイリーは、震えながらアリアに抱き着いた。

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないのだ! わたしはアンデッドが苦手なのだ!」

「……だが、このゾンビに敵意はないぞ?」

 カインの言う通り、ゾンビの少女に敵意はなく、玉座の近くをじっと見つめている。

 本当かどうか確かめるためにレイリーがじっと待っていたが、

 ゾンビの少女が攻撃する事はなかった。

「あ、本当だったのだ」

「もしかしたら、俺達が進む道を示してくれているのかもな」

「……ありがとうございます。では、早速」

 ゾンビの少女の案内に従って、アリアは玉座を調べた。

 すると、なんと隠し通路を見つけた。

「やっぱり! このゾンビは、私達の味方でしたね。皆さん、隠し通路が見つかりましたよ!」

「おお、あ、ありがとう、なのだ」

「魔物は悪い者ばかりではないのね」

 レイリーは震えながらもアリアに感謝した。

 リレシルは良い魔物もいるんだな、と知った。

 

 ゾンビの少女に案内されてやってきたのは、無数の死霊と、

 それらを従えるようにして立っている黒い鎧の男と、彼らと戦っている魔導守護隊の姿だった。

「くっ……持ちこたえていろ、みんな!」

 隊長のアージスが隊員達に指示を出しながら自身も防御魔法で攻撃に耐えていたが、

 攻撃は激しくなり、バリアに罅が入っていた。

「ダークスラッシュ!」

「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 そして、男の剣が一閃し、ついにアージスが張ったバリアが砕け散った。

「隊長!」

「アージスさん!」

「アージス!」

 テラ、フェーン、セリティが急いでアージスを助けようとするが死霊が彼女達の行く手を阻む。

「無駄だよ……このクラッシャー様の前に、おまえ達は皆、死ぬ運命なのさ」

 

「待ちなさい!」

「ターンアンデッド!」

 その時、アリア、レイリー、ジルヴァ、カイン、リレシルがクラッシャー達の前に入ってきた。

 ジルヴァが死霊に退魔魔法を使って全滅させ、テラ、フェーン、セリティの退路を作った。

「救援か!?」

 アージスが突然の救援にそちらを振り返る。

「こんなところにいたのね、みんな」

「ああ……。ん、リレシルじゃないか」

「うふ、久しぶりね♪」

 リレシルがウィンクしながらアージスに挨拶する。

 だが、悠長に話している暇などなかった。

「……やはり、魔導守護隊をこうした相手はカタストロファーセブンだったか」

 クラッシャーの姿を見たカインが目を光らせる。

「ああ、そうだよ勇者様! 俺はクラッシャー! この世界を終わらせるために来たのさ!」

 クラッシャーが勝ち誇ったように言う。

 魔導守護隊相手に一方的に戦ったため、かなり余裕そうな表情だ。

「……その慢心も、そこまでだ。と言ったら?」

 ジルヴァはクラッシャーに矢を射る態勢に入る。

「もちろん、力ずくでも殺すさ」

「……一応聞いておくけど、あなたがシャッテン霊廟に呪いをかけたの?」

「それがどうしたんだ?」

「本当?」

「……ふん、教えるわけないだろう」

 リレシルがクラッシャーに呪いについて問うが、クラッシャーは恍けた表情をしていた。

 彼女は諦めずにクラッシャーに質問するも、やはり答えは返ってこなかった。

「……倒すしかないようね」

 リレシルは戦闘態勢を取った。

「魔導守護隊のみんな! 戦ってほしいのだ!」

「わたしは疲れたから……無理」

「ふぇ~ん、ぼくもう魔法使えませ~ん」

「俺も、流石に連戦続きで無理だ」

「みんな魔力が切れてるから、このまま戦っても負けるだけにゃ」

「残念なのだ……。じゃあ、わたし達が代わりに戦うのだ」

 レイリーが魔導守護隊に一緒に戦うように言う。

 だが、皆魔法を使いすぎて魔力が切れているため、この状態では戦闘に参加できない。

 レイリーは仕方なく彼らを下がらせた後、小剣を抜いて彼らの前に立つ。

「女が三人もいるじゃないか。俺の敵じゃないな」

「……私達、強いですよ?」

「舐めたら困るのだ」

「私を侮った罰を受けてもらうわよ」

 アリア、レイリー、リレシルがにこりと笑う。

 だが、その目はクラッシャーに馬鹿にされたため、全く笑っていなかった。

「おまえら全員、切り殺す!!」

 そう言って、クラッシャーは魔力を使って大剣を生成した。

 カインも双剣を抜き、戦闘態勢を取った。




~次回予告~

シュッテン霊廟にいたのは、カタストロファーセブンの一人、クラッシャー。
死霊を操る攻撃に、アリア達は苦戦する。
だが、アミティのためにも、ここで勝つのがアリア達の目的だった。
果たして、狂戦士に勝つ事はできるのだろうか。


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30「戦闘! クラッシャー」

前回までのあらすじと次回予告は、ここからパスで。
書く余裕がないのが、理由ですが。

なお、この話はボス戦です。


 カタストロファーセブンの一人、クラッシャーとの戦いが始まった。

 

「いくぞ、アローショット!」

「リフレクション」

 ジルヴァは弓を構え、クラッシャーに矢を射る。

 しかし、クラッシャーの鎧はジルヴァの矢を易々と弾き返した。

「くそっ、弾かれたか!」

「俺に物理攻撃は通用しない」

「ミスティレイン!」

「雷鳴剣!」

「ぐああああああ!」

 アリアは雨を降らせてクラッシャーをずぶ濡れにした後、

 カインの雷を纏った双剣が一閃する。

 水に濡れた身体は、電気を通しやすくなっているのだ。

「ちぃ、やるじゃないか。なら、これは防げるかな? ファイアボール! アイスニードル!」

 クラッシャーは魔導守護隊目掛けて火炎弾と氷の矢を撃ち出した。

「しまった!」

 クラッシャーとの戦いに夢中になっていたため、魔導守護隊に目を向ける事はできなかった。

 このまま魔法が命中しそうになったその時だった。

「リオン・デファンス!」

 アージスが少ない魔力を振り絞り、テラ達を光の壁で覆い魔法を受け止めた。

「隊長!」

「アージス!」

「心配するな。魔導守護隊の隊員を守るのは俺の任務だからな……くっ」

 だが、アージスは魔法を使った反動か、苦しそうな表情でよろめいた。

「ふっ、弱いな」

「何だと!?」

 クラッシャーに舐められたアージスが乗るが、セリティが「やめて」と制止する。

 今突っ込んでも、魔力がない以上、殺される可能性が極めて高いからだ。

 セリティの助言を聞いたアージスは、敵の攻撃が届かない場所に隊員と共に隠れた。

「クロススラッシュ!」

「アイソレーション!」

「効かん」

 カインとレイリーの剣を鎧で弾くクラッシャー。

 やはり、彼に物理攻撃は効果的ではない。

「おまえにとっておきの物理攻撃を浴びせてやる! ギルティブレイク!」

 クラッシャーは一気に距離を詰め、剣をレイリーに振りかざす。

「危ない!」

 だが、直前でカインが彼女を庇ったため、レイリーはダメージを受けずに済んだ。

 クラッシャーは舌打ちし、剣を引いて飛び退く。

「ち、おまえ物理攻撃が俺に通用しない癖に立ち向かうつもりなのか?」

「ああ! それが私の使命であり、運命だからだ! だからお前にも、負けるつもりはない!

 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 そう言って、カインは双剣に魔力を溜めた。

 カインは攻撃魔法は得意ではないが、

 魔導剣はそこそこ使えるのだ。

七星風神剣!

 カインが双剣を振ると突風が起こった。

 クラッシャーが吹っ飛んだ隙にカインは彼に突っ込んでいき、

 双剣で斬りつけると、カインの鎧に僅かに罅が入った。

「ぐはぁ! な、何故、俺の鎧に傷を……」

「これはただの双剣術じゃなくて、魔導剣なんでね」

 そう、先ほどカインが放った剣術は魔導剣で、魔法的なダメージを与える物理攻撃なのだ。

 これならクラッシャーにダメージを与えられるだろうとカインは考えたのだ。

 そしてカインの狙い通り、クラッシャーにダメージを与える事に成功したのだ。

 

「凄いのだ……わたしの剣技より凄いのだ……!」

 剣術もそれなりに使えるレイリーも、カインの剣技に惹かれた。

 人類史上最強の剣士の名は、伊達ではないのだ。

「わたしの踊りを見ていくのだ♪ クリケット!」

 レイリーはクラッシャーの動きを止めるため、身体をくねらせて踊った。

「う……くっ」

 その踊りを見たクラッシャーは催眠術にかかり、動く事も考える事もできなくななった。

「みんな、その間にクラッシャーを攻撃するのだ!」

「はい! フェーゴボム!」

「フォトン!」

「フエルサ!」

「雷鳴剣!」

 レイリーが踊っている間に、

 アリア、ジルヴァ、リレシル、カインは無防備なクラッシャーを攻撃した。

 クラッシャーは何もできず、一方的にダメージを食らい、体力がどんどん減っていった。

 このままいけばクラッシャーは倒れる……そう思った時、レイリーが疲れたため動きを止めた。

「ふぅ、疲れたのだ」

「あっ、レイリーさん……」

「チャンスだ、ルナティックソード!」

 レイリーが動きを止めた事で催眠術が解除されたクラッシャーは、

 勢いよくジルヴァの脳天に剣を振り下ろした。

「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」

「ジルヴァさん!」

「くっ……」

 ジルヴァはふらふらしながら頭を押さえる。

 その勢いでジルヴァの脳が少し傷ついたのか、自分が何をすればいいか考えられなくなった。

「俺は……何をすればいいんだ……」

「攻撃をしていればいいんですよ」

「そうか……攻撃か! アローショット!」

 そう言ってジルヴァは魔力を付与せず矢を放った。

 発狂しているジルヴァは、細かい指示を理解できないのだ。

 当然攻撃は弾き返され、ファイアボールの反撃を受ける。

「まずいわね……あの茶髪の子、発狂しているわ」

「どうすれば……」

「私が彼を落ち着かせるわ。あなた達はクラッシャーを倒しなさい」

「分かりました」

 リレシルにジルヴァを落ち着かせる役割を与え、アリア達はクラッシャーを倒す事を優先した。

 

「ほら、落ち着いて。ね?」

「う……あぁ……ぁ……」

「エアトルネード!」

「ムーンウォーク!」

「七星雷鳴剣!」

「フレイムソード! ライトニング!」

 リレシルがジルヴァを正気に戻している間に、

 アリア、レイリー、カインはそれぞれの技でクラッシャーを攻撃する。

 クラッシャーも負けじと、魔法や剣で反撃をしていった。

 攻撃が中断される事はあれど、アリア達は攻撃をやめずにどんどん技や魔法を使っていく。

「体力が減って来たな……。ここは、この技を使うか。太陽剣!」

 カインは双剣を太陽の如く輝かせ、クラッシャーに向けて振り下ろした。

 双剣が命中すると同時にカインの体力が回復した。

 太陽剣は、与えたダメージ分、自身の傷を癒す特殊剣技なのだ。

 

「……ふう」

「もう大丈夫?」

「ああ……ありがとう、リレシル」

 ようやく落ち着きを取り戻したジルヴァは、リレシルと共に戦線に復帰する。

「……よくも、この俺を狂わせたな」

「はっ、それがどうした」

「ちっ、こうするしかないか。フォトン!」

 ジルヴァは自らを発狂状態にしたクラッシャーに怒りの矛先を向けるも、

 クラッシャーはそれがどうした、と開き直っていた。

 救いようのない悪だな……と感じたジルヴァは、光の魔法をクラッシャーに叩きつける。

「フエルサ・パラグアス!」

「ぐああぁぁ!」

 リレシルは傘に大気の力を乗せて投げつける。

 傘がクラッシャーに刺さった後、すぐに傘はリレシルの手元に戻ってきた。

「あの、リレシルさん。傘はそうやって使うものじゃありませんよ」

「それもまた、魔導守護隊の戦法なのよ」

 アリアの突っ込みをリレシルは笑顔で受け流す。

「グランクエイク! フェーゴボム!」

「バタフライ!」

 アリアはグランを召喚して地震を起こした後、続けてフェーゴを召喚して爆発を起こす。

 爆発のショックで怯んだ隙にレイリーは回転しながらクラッシャーを斬りつけた。

 

「畜生! なんでこの俺が追い詰められるんだ! 俺はカタストロファーセブンなんだぞ!」

「きみのような悪い奴に、わたし達が負けるわけがないのだ!」

「ちぃ、どこまでも俺を虚仮にしやがって! こうなったら、一か八かだ!

 これで、おまえらを殺してやる!」

 クラッシャーは一か八か、自身の魔力を全て使い切って剣を巨大化させた。

「ウルトラ……ソード!!」

 そして、クラッシャーは巨大な剣を振り下ろした。

 あれが命中すれば、パーティは壊滅してしまう。

 剣が巨大なために、避ける事すらできない。

 最後の最後で逆転負けしてしまうのか……とアリアが防御の体勢を取った、その時だった。

 

「魔法の使用を許可する。皆、やれ!」

「フェザー・ケージ!」

「レプス・アルマ!」

「パーヴォ・エスクド!」

「ミーツェ・ヴァント!」

 なんと、リレシルを含む魔導守護隊の隊員達が、

 隊長のアージスの指示によって自身の魔力を振り絞って巨大剣を防いだのだ。

「みんな……! どうして……!」

「隊長がいてもたってもいられなかったから……わたし達に魔法を使わせた」

「みんなを守りたいから、魔法を使ったんです」

「だって、魔導守護隊が何も守れなかったら、

 魔導守護隊の名が廃るでしょ?」

「キミ達が倒れたら申し訳ないと思ったからよん」

 テラ、フェーン、リレシル、セリティが各々事情を話す。

 アージスは「ただ、守りたかっただけだ」とだけアリアに言い、彼女も彼らに感謝した。

 これにより、ウルトラソードは完全に防がれ、パーティが壊滅する事はなくなった。

「ちく……しょ……う……」

 そして、魔力を使い切ったクラッシャーは倒れ、戦闘不能になった――アリア達の勝利だ。

 

「これで、戦いは終わりましたね」

「そうだな……」

 クラッシャーが敗れたため、残るカタストロファーセブンはスレイヤー一人。

 冒険も終盤に差し掛かった、とアリアは感じた。

 すると、カインが持っている次元石が光り出し、クラッシャーの遺体が次元石に吸い込まれた。

 そして、次元石が強く光ると、アリア達の姿は消えた。

 

「……ここは?」

 気が付くと、アリア達はコメート魔導学校の保健室に立っていた。

「どうやら、わたし達は戻ってきたみたいなのだ」

「……」

 レイリーによれば、次元石の力によってアリア達はダンジョンを脱出したらしい。

 カインは、しげしげと次元石を見つめていた。

「そうだ! アミティは一体どうなったんだ?」

 ジルヴァは、アミティの様子を見に、彼女が寝ているベッドに行った。

 クラッシャーが倒れて呪いが解けたなら、アミティも正気に戻っているはずだ、と。

 

「大丈夫よ。アミティは元通りになっているわ」

 フェーリの言う通り、アミティの顔色はすっかり良くなっていた。

 やはり、クラッシャーが呪いをかけていたのだ。

「ありがとありがと、すっかり元気になったよ!」

 呪いが解けたアミティがリレシルに抱き着く。

「ま、まあまあ……どうして私に? 呪いを解いたのは私じゃなくて、この子達よ?」

 リレシルがアリア達を指差して言う。

「あたしはアリア達を手伝ってくれたリレシルにありがとうって言いたいんだよ!

 だって、あたしの友達を助けたんだもん!」

「……本当にあなたは良い子なのね。私にも優しくしてくれて、ありがとう」

 アミティは友達思いだが、それ以外の人を蔑ろにする事は決してない。

 その気持ちが伝わったのか、リレシルはアミティに大きな感謝をした。

 

「アミティさん……また、会えましたね」

「アリア……」

 ようやくアミティと再会したアリアは、彼女の手をぎゅっと握り締めた。

 カタストロファーセブンのせいでバラバラになった四人のうち、二人が再会できたのだ。

 まだ全員揃っていないが、これだけでも大きな成果だ。

「私達の絆は、カタストロファーセブンには断ち切れない、と証明されたでしょう?」

「離れていても、あたし達はずっと一緒! アルルも、りんごも、絶対にまた会えるから!」

「……友達だから、ですか?」

「そうだ……よ?」

「何でも友達に結びつけるなんて、ちょっとおかしな考えですね」

 アミティの言葉にアリアは突っ込みを入れる。

 それでも、アリアがアミティから目を離していないという事は、

 彼女を信頼している証なのだ。

 

「……もうすぐ戦いは終わります。行きますよ、アミティさん」

「うん!」

 アリアはアミティの手を引き、彼女をベッドから降ろすと、レイリー達に合流するのだった。




戦いはまだ続きます。
世界は、平和になるのでしょうか。


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31「仲間との再会」

ついにアミティ、りんご、アリアが揃います。
アルル? それはね……。


「それじゃ、ここでアタシ達とお別れね」

「はい。ありがとうございました」

「さ・よ・う・な・ら」

「隣町は俺達がこれから守っていく、お前達は自分の大切なものを守っていけ」

「はい!」

 カタストロファーセブンの一人を倒し、隣町の呪いを解いたアリア、レイリー、ジルヴァ、

 カイン、アミティは、フェーリと、アージスら魔導守護隊と別れて隣町を後にした。

 

「もう次元石は使えるようになったな」

「そうですね……」

 次元石は輝きを取り戻しており、既に他の世界に行けるようになっていた。

「これで、バラバラになったみんなを呼べばいいのだ!」

 レイリーは次元石を使って、

 いなくなったアルルとりんごをすぐにプリンプタウンに呼ぼうとしていた。

 

「やあ。ここにいたんだね」

「その声は……!」

 しかし彼女が次元石を使おうとしたその時、背後から青年の声が聞こえてきた。

 レイリーが振り向くと、そこにいたのは銀髪に緑の服を着た青年だった。

「レムレスじゃないか!」

 そう、彼は隣町の魔導学校の生徒にして現役の魔導師である、レムレスだ。

「これから隣町に帰るのか?」

「うん。黒幕の情報もだいぶ分かってきたしね」

 どうやら、レムレスは今回の異変の黒幕について知っているようだ。

 異変を起こしたのはカタストロファーセブンじゃないのか、というカインの問いに対し、

 レムレスは実行犯はね、と答えた。

「本当の黒幕は『古のもの』、つまり“神”だよ」

「神?」

「カタストロファーセブンが崇拝している、文字通りの『神』だよ。……紛い物の神だけどね」

 レムレス曰く、黒幕である古のものは多神教の神ではなく、

 一神教の神のような存在らしい。

 当然、彼は紛い物の神として処理しているため情けはかけなかった。

「確かに、この世界には神様がたくさんいますね。

 だからあなたは、“神”を紛い物と呼んだのでしょうか」

「うん」

「それで、その古のものについて他に何か分かる事はあるか?」

「う~ん……カタストロファーセブンに力を与えて、この世界を滅ぼそうとしている、

 という事だけしか思い出せないなぁ」

 どうやら、レムレスは一部の情報が思い出せないらしい。

 アリアは、彼なら徹底的に情報を調べるだろうと考えているため、

 誰かに記憶を消されたと判断した。

「あの、場所までは分からなかったんですか?」

「うん、残念だけどね」

 情報を抹消されている……という事は、それほど重要な情報なのだろう。

 アリアはそう推測して、答えを待つのだった。

 

「ねえねえ、おじさん、その石光ってるけど、何?」

 アミティがカインの持っている次元石に興味を示し、視線をそれに向ける。

「あのな、アミティ。私はおじさんではなく、カインという名前があるんだぞ」

 アミティにおじさんと言われたカインは、彼女に名前を名乗る。

「そっか、カインって名前なんだね。それで、その光る石はどんなものなの?」

「次元石と言って周辺の世界に行き来できるものだ」

 カインはアミティに次元石について説明した。

 つまり、これさえあれば、皆は元の世界に帰る事ができるらしい。

「じゃあカイン、今すぐそれを使って、アルルやりんごをここに連れていこう!」

「分かった。で、今、その二人はどこにいるんだ?」

「うーん。多分、それぞれの

 元いた世界に戻っちゃってるんだと思う」

 アミティは、アルルとりんごが元の世界――すなわち、

 魔導世界とチキュウに戻った事をカインに話した。

 カインは頷いた後、次元石を使う準備をした。

 この世界の周辺世界はチキュウだけなので、まず、次元石でチキュウに行く事にした。

 そしてカインが次元石を掲げると、それは眩く光り出し、

 その光が消えるとカインの姿はなくなった。

 

「消えちゃった……」

「多分、チキュウに行ったんだと思います。私達はカインさんを待ちましょう」

「そうなのだ」

 

「っと! ここがチキュウだな。りんごという子はどこにいるんだ……」

 プリンプタウンからチキュウに転移したカインは、どこにりんごがいるのかを探していた。

 カインが辺りを見渡していると、遠くの方から「何か」を感じ取った。

「……ん? 誰かが向こうにいる……?」

 そう言って、カインは「何か」がある方に走っていった。

 すると、金髪碧眼の中性的な青年と、赤い巻き毛の少女、紫の髪の少年、

 栗鼠のような熊のような中学生がそこにいた。

 青年はカインの姿を見るとすぐさま彼の方に翔けていった。

「あぁ~~~~ん、会いたかったわカイン様ぁ~~~~~~!!」

「ソード! ソードじゃないか!

 やっと会えた! ああ……私の仲間だ……」

 その青年は、トライブレードの一人であるソードだった。

 仲間と再会できたため、カインは今以上に喜んだ。

「ソードは、あの人の仲間だったんですね」

「同じ剣士同士だからな……」

「まぁ、推測はできるよね★」

 りんご、まぐろ、りすくませんぱいは、ソードとカインの関係を知るのだった。

 

「ところで、再会したところ悪いのだが、この辺に、りんごという子は……」

「あらま、りんごちゃんを探してるのね? ちゃーんと、アタシの傍にいるわよ?」

「……はい」

 そう言って、赤い巻き毛の少女が小さく返事した。

「なるほど、この子がりんごというのか」

「私はあんどうりんごと申します、よろしくお願いします」

「ボクはささきまぐろ、よろしくね★」

「私はりすくまだ、せんぱいを付けて呼んでくれ」

「そうか……君達がりんごの友人なんだね。

 私はソードマスター・カインだ、よろしく」

 りんご、まぐろ、りすくませんぱいは初対面のカインに挨拶し、カインも三人に挨拶した。

 だが、ソードマスターという言葉を聞いたりんごが素っ頓狂な声を上げた。

ええええええええええ! カインはソードマスターだったんですか!?」

「そうだけど……」

「最強の剣士が私の目の前にいるなんて驚きです! 是非、私に剣術を教えて……」

「……」

 いきなり饒舌になるりんごに、カインは苦笑した。

「ってな具合だよ★」

「それでカイン君、私達に何の用かね」

「ああ、実は……」

 カインは、今までの事情をソード達に話した。

 

「……まさか、古のものは神様だったんですか」

「ああ、そうだ。だが、君達が信じている神様ではない……いや、ニホンで言う言葉じゃないか」

「何を言ってるんですか?」

「いや、何でもない。まぁ、簡単に言うとラスボスというわけだ」

「ラスボス……」

 今、この世界に異変が起きているのも古のものとカタストロファーセブンの仕業。

 つまり、古のものを倒せば、世界は平和になるというわけだ。

 りんご、まぐろ、りすくませんぱいは、ぐっと拳を握り締める。

「私達の世界を乱そうとするなんて、許しません……!」

「何があっても、ボク達は負けないからね★」

「愛のない世界など、あってはならないのだ」

「アタシもトライブレード、世界のために戦うんだから!」

「さあ、皆さん、気合を入れましょう! えい、えい、おー!

 いつの間にか、その場をりんごが鼓舞していた。

 

「ただいま。ちゃんとりんご達は連れて帰ったぞ」

 カインは、りんご、まぐろ、りすくませんぱい、ソードを連れてプリンプタウンに戻ってきた。

「りんご……無事でよかった……!」

「アリア……また会えましたね……!」

「アミティ……もう、離れたくありませんよ」

 Aの頭文字を持つ者が、これで三人集まった。

 三人は、再会できた喜びを涙に表していた。

 

「さあ……戦いは、あと少しで終わります」

「必ず、この世界を救いましょう!」

「元通りの生活を送りたいから!」

 そう言って、アミティ、りんご、アリアは手を合わせ合った。




カタストロファーセブンは残り一人になりました。
物語は大きく進んでいくでしょう。


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32「サタンの塔へ」

魔導ARS組のターン。
終盤のダンジョンに潜っていきます。


 その頃、アルル、ルルー、シェゾ、チコ、セイバーの五人は、

 最後のカタストロファーセブン、スレイヤーを倒すためにサタンの塔へ向かっていた。

 サタンの塔といえば、アルルが以前にぷよぷよ地獄を体験した事がある場所だ。

 そこにアルル達が目指す最後の敵がいるため、五人は気合を引き締めていた。

「……ボクが、色んな奴とぷよぷよ地獄をした場所が、最後の舞台、なんだね……」

「ぐーぐー」

 本当は最後じゃないだろ、とカーバンクルが突っ込む。

「そこに、カタストロファーセブンの一人、スレイヤーがいるんだよ」

 セイバーは真剣な表情で剣を抜く姿勢を取る。

「やる気満々だね、セイバー」

「当たり前さ……こいつが最強の狂戦士だからね」

 スレイヤーを倒せば、カタストロファーセブンによる世界の異変は治まる。

 そのためにも、絶対に負けてはならない戦いだ。

「それじゃ、早速入るぞ」

「はい! ……きゃっ!」

 塔の中に入ろうとした瞬間、チコが強い力で飛ばされた。

「な、何故……!」

「それは、私が結界を張ったからだ」

「……!」

 チコが呆然としていると、塔の入り口からエコーがかかった男の声が聞こえてきた。

 声が聞こえてしばらくすると、

 女と見紛うような美しい銀髪をたなびかせた吟遊詩人風の男が現れた。

「う……なんか、ソードに似てる……」

 その姿を見たセイバーがソードを思い出す。

「……あんたが、セイバーの言ってた最後の狂戦士、スレイヤーね」

「その通りだ。そしてこの塔は、今は私が支配している」

「……支配?」

 支配、という言葉を聞いたルルーの額に筋が立つ。

 この塔は、元々サタンが使っていたものであったからだ。

 それを誰かが支配するのは、ルルーにとって許しがたい事なのだ。

「……サタン様に何をしましたの?」

「サタン? ああ、あの魔族なら、塔の頂上に封印しているよ」

「な、何ですって!?」

 サタンが封印された事に、驚きを隠せないルルー。

 同時に、目の前にいる男に対し、顔には出していないが怒りを表していた。

「よくも、サタン様を! 破岩掌!」

 ルルーは男に向けて掌底を繰り出した。

 しかし、ルルーの手は男をすり抜けた。

「残念だけど、今、君達の前にいる私は幻影さ。本物の私は、塔の六階で待っているよ。

 フフフフフ……私の試練、突破できるかな……?」

 スレイヤーは不気味な笑みを浮かべながら、アルル達の前から姿を消した。

 

「結界を張っておいてそれはないだろ!!」

 今、サタンの塔には結界が張られていて入れない。

 それなのに、試練を突破しろというスレイヤーの言葉に、シェゾは怒っていた。

「……スレイヤーは支離滅裂な事を言うね。この結界を破れるかどうか、確認しよう」

 そう言って、セイバーは塔の入り口に手を当てた。

「ん? 意外と結界は薄いじゃない。この剣で、壊してみようかな!」

 セイバーは剣を両手で持ち、結界に向かって振り下ろした。

 すると、結界はパリーンという音を立てて砕け散った。

「なんだ、簡単に割れたじゃない」

「見掛け倒しだったね~」

「ぐっぐぐ~」

「じゃあ、今度こそ入ろう!」

 そう言って、アルルは塔の入口に足を踏み入れた。

 カーバンクル、ルルー、シェゾ、そしてセイバーも、次々と塔の中に入っていく。

「私も今、行きますね!」

 そして、チコも塔に入ろうとした途端、再び塔を結界が包み込んでチコを弾き返した。

「うぅ~、やっぱり私はこの中に入れないみたいです~」

「どうやらこの塔には四人しか入れないみたいだね。チコ、君はお留守番みたいだ。ごめん」

「いいんです。今の私では、皆さんの力にはなれないって感じましたから」

 チコはアルル、ルルー、シェゾ、セイバーと違って戦闘や冒険の経験が少ない。

 彼女はそれを自覚しており、自らサタンの塔を登らず、アルル達を待つ事にしたのだ。

 

「じゃあ、ボク達はこれから塔を登るからね!」

「ぐーっぐぐぐー!」

「サタン様を封印したスレイヤーは、絶対にボコりますわよ!」

「言っておくが、俺は死なないからな」

「うん……みんなが支えてくれている。

 父さん、エッジ、ソード、そしてアルルやルルー、シェゾ。

 一人じゃできなくても、みんながいれば、できないものなんてない」

「いってらっしゃい! 私、皆さんをずっと待ちますからね!」

 チコは、塔を登っていくアルル、ルルー、シェゾ、セイバーを見送った。

 

 まずは一階、八部衆が待ち構えていたエリアだ。

 光の精霊ウィル・オ・ウィスプがぼ~っとしながら宙に浮かぶ様子を見ていると、

 イフリートとウォーターエレメントが現れて力試しを挑んできた。

「アイスストーム!」

 アルルはイフリートに吹雪を放って攻撃し、イフリートを一撃で倒した。

「サンダーストーム!」

 シェゾはウォーターエレメントの弱点となる雷を放ったが、

 ウォーターエレメントは攻撃をかわし反撃として水を放ったがシェゾはその攻撃をかわす。

「風神脚!」

「疾風剣!」

 ルルーとセイバーの、風を纏った一撃がウォーターエレメントに入ると、

 ウォーターエレメントは怯んだ。

 そこにアルルのファイヤーが命中し、ウォーターエレメントは跡形もなく消滅した。

 精霊達は鍛え抜いたアルル達の敵ではなかった。

「あ、階段が現れた! 次に行こう」

 どうやら、精霊達を倒すと階段が現れたようだ。

 アルル達はそれを登り、二階へと進むのだった。

 

 四人と一匹は二階、六歌仙が待ち構えていたエリアに入った。

 部屋の中央に石棺が置かれていたが、アルル達は無視して先に進んだ。

 四人と一匹が部屋の中ほどまで進んだところで、天井から瓦礫が降ってくる。

危なぁーーーーいっ!

 アルル達は全速力で走り出し、何とか瓦礫に潰されずに済んだ。

 魔導師のアルルは、かなりギリギリなところであったが。

「ふぅ……危なかった」

「アルル、よく潰されなかったね。大丈夫?」

「うん、ボクは平気……でも、カーくんが」

「あ……」

 アルルは潰されずに済んだものの、カーバンクルが瓦礫の下敷きになっていた。

「……ごめんね、カーくん」

「ぐ~~~~……」

 もう少しで死ぬところだった、という顔をしながら、

 カーバンクルはアルルに助けられるのだった。

 

「さて、階段は……ん、ここにはなさそうだね」

「待てアルル、階段は隠れているかもしれない。俺が魔法で探してやる」

 そう言って、シェゾはディテクト・マジックの呪文を唱えた。

 すると、東の通路がシェゾには光って見えた。

「向こうに階段があるぞ!」

「え? ホント?」

 アルル達が光った方に行くと、確かに階段が魔法で隠されていた。

 シェゾはディスペルで魔法を解除した後、階段を登り三階へ行くのだった。

 

 三階、五人囃子が待ち構えていたエリア。

 そこには、目を隠した像、耳を隠した像、口を隠した像が置いてあった。

「え~っと、何々……『障碍者と遊戯せよ』?」

「障碍者っていう言葉が嫌だけど……要は目や耳や口を使わずに遊べるものを選べって事だよね」

「そうなりますわね。

 で、遊びの内容は……川下り、ぷよ数え、かくれんぼ、弾避け、クイズの5つね」

 アルル、ルルー、シェゾ、セイバーは、どの像にどの遊びをするかを考えていた。

「前が見えないのに川下りなんてできないし、ぷよも数えられない」

「ぷよを数えたか聞いても聞こえない人にぷよ数えをやっても意味はありませんわね。

 とにかく、言葉を使わない遊びをこの像と遊ぶ必要がありますわ」

「喋る必要がない遊びは、これだね!」

 川下りは目を使い、ぷよ数えとかくれんぼは目・耳・口を使い、弾避けは目と耳を使い、

 クイズは耳と口を使う、という事は……。

 

 しばらくして、アルル達は像との遊びを決めた。

 目を隠した像はクイズ、耳を隠した像は川下り、口を隠した像は弾避け。

 結果、問題なく遊ぶ事ができたため、目の前に階段が現れた。

「よし、次は四階だな!」

「何階まであるんだろう」

「ボクの記憶だと……あと二階、かな?」

 

 四階、四天王が待ち構えていたエリア。

 奇妙な機械を無視して先に進んでいくと、再び二体の中位精霊が現れた。

 今度は風のアイオロスと地のタイタンだ。

「かかってこい!」

 シェゾがタイタンを挑発すると、タイタンが彼に突っ込んで襲い掛かった。

 その攻撃をシェゾはかわし、闇魔法で攻撃する。

「ウィンドスラッシュ!」

 セイバーは剣から衝撃波を放ち、タイタンを切り裂いた。

 タイタンには風に弱く、大きなダメージを受ける。

「鉄拳制裁!」

 ルルーが拳をタイタンにぶつけるも、大したダメージは与えられなかった。

「くぅ……! 固いですわね。でも、もう一度! 精神一統、鉄・鉄拳制裁!」

 ルルーは精神を集中し、強烈な拳の一撃を放った。

 今度はクリーンヒットしたようでタイタンの身体が少し歪む。

「地属性にはこれだよ、トルネード!」

 セイバーは竜巻を起こし、タイタンに大ダメージを会えた。

「うわっ! でも、反撃だよ! ストーン!」

 アルルはアイオロスから風の刃を食らうも、石を落とす魔法で反撃し、倒した。

「よし、あと少しだ! サンダーストーム!」

 シェゾはタイタンに向かって雷を放った。

 しかし、地属性のタイタンには通用しなかった。

「ふん、ならばこれでどうです!? 天舞脚!」

 ルルーは光の衝撃波を足から飛ばしてタイタンにダメージを与えた。

「よし、いい調子だなルルー!」

「ええ! サタン様を助けるためですもの、このくらいで弱音を吐くわけにはいきませんわ」

 サタンはスレイヤーが封印したと言っていた。

 片思いの魔王のためにも、

 この塔を最上階まで登らなければならないとルルーは決めているのだ。

「ルルーがそう言うなら、俺もやる気になったぜ。

 ダイアキュート、ダイアキュート、ア・ア・アレイアード!」

 シェゾは増幅したアレイアードをタイタンに放ち、タイタンを闇で束縛する。

 その隙にセイバーは風を纏った剣で斬りかかり、タイタンの弱点を突く。

「これで、とどめですわよ! 女王乱舞!!」

 そして、ルルーがタイタンに凄まじい連続打撃を与えると、タイタンは跡形もなく消え去った。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 強力な技を何度も放ったのか、ルルーの表情には疲労が現れていた。

「ぐ……っ!」

 身体に負担がかかり、ルルーは膝をついた。

 それでも、彼女はサタンのために立ち上がろうとしたが……。

「無茶しないでよ、ルルー!」

「なん、ですの……?」

いくらサタンを助けたいからって、キミ自身が死んだら意味がないんだよ!

 キミの死んだ姿をサタンが見たら、どう思う!?

 その一言で、ルルーは目が覚めた。

 目の前の事だけを考えていたら、自分がボロボロになりかけていた。

 もし、アルルが気付かなければ……ルルーは最悪の結末を迎えていたかもしれない。

「そうでしたわ……。私、大事な事に気が付いていませんでしたわ……。

 ……アルル……。あなたの言う通り、私は少し、休みますわ」

「……ありがとう、ルルー……」

「……どういたしまして、アルル……」

 こうして、アルルとルルーの絆が、さらに強まるのであった。

 

 五階、噂の二人が待ち構えていたエリア。

 そこで、アルル達の行く手を阻むかのように多数の魔物が現れた。

「もう! どうしてこんなにいるんだよ!」

「ぐーぐぐー!」

 ルルーが休んでいるにも関わらず、魔物は大群で容赦なく襲い掛かってきた。

 三人はルルーを守りながら、魔物を倒していき、階段を目指して進んでいく。

「秋沙雨!」

「ファイヤー!」

 セイバーは無数の突きをヒュドラに放ち、アルルが炎魔法で焼き払う。

「サンダーストーム!」

 シェゾは二体のケルベロスを雷の嵐でまとめて攻撃した。

 ヒュドラがルルーにたくさんの首を伸ばして襲い掛かってきたが、

 シェゾとセイバーが剣を使って攻撃を弾いた。

「ダイアキュート、ヘ・ヘヴンレイ!」

 アルルは増幅呪文を唱えた後、光の柱を呼び出してケルベロスを浄化した。

 ケルベロスは闇の存在であるため、光属性に弱く、

 アルルはこれを使って効率よくダメージを与えていった。

 しばらくするとケルベロスは弱っているルルーに狙いを定める。

 ケルベロスの攻撃をルルーに向けるわけにはいかない。

 アルルは何もない場所に雷を落とし、ケルベロスの注意をそちらに向けた後、

 ヘヴンレイでケルベロスを浄化した。

「後は、ヒュドラが再生しないように……クリメイション!」

 セイバーがヒュドラを火葬し、この戦闘はすぐに終わったのであった。

 

「……ふぅ」

「ルルー、もう歩ける?」

「ええ……休んだら体力が戻ってきましたわ」

「よかった……」

 どうやら、ルルーの疲れは取れてきたようだ。

 これで、安心してサタンを救出する事ができる。

 四人と一匹は、最上階へと続く階段を登るのであった。

 

 そして、塔の最上階、例の三人が待ち構えていたエリアにて――

「よくぞここまで」

 階段を上がった先に待っていたのは、スレイヤーと、レリーフに封印されたサタンだった。

「しっかりして、サタン! ボクだよ、ボク! 分からないの!?」

「ぐー! ぐー!」

 アルルとカーバンクルがサタンに呼びかけるが、当然サタンは反応しない。

「無駄だよ。今、こいつはどんな声も聞こえない」

「アレイア……」

「おっと、このレリーフを壊したら中の人の命はないぞ」

「ちっ……」

 シェゾは、レリーフを破壊しようとするが、スレイヤーにそう言われて詠唱を止めた。

 どうにもならないもどかしさにシェゾは舌打ちする。

「ははははは。皆、驚いたかね? 魔王が封印された姿を。

 さぁ、最後の試練だ。君達に私を倒せるかな?」

 サタンを封印したスレイヤーは、勝ち誇ったように笑っている。

 どこまでも四人と一匹を馬鹿にした様子に対し、ルルーの怒りはついに爆発した。

 

よくもサタン様をこんな姿にしましたわね!!

 ルルーの表情は悪鬼羅刹のそれであり、スレイヤー以外の全てのものは恐れおののいた。

「スレイヤー!

 私は、あんたをこの手でボッコボコのギッタギタのメッタメタにして

 死体は海に投げ捨てて鮫に食わせましてよ!!」

 ルルーはここぞとばかりにスレイヤーに罵倒を浴びせた。

 最早、ルルーに見えるのは、スレイヤーの姿のみとなっていた。

「……ルルーがこうなった以上、ボク達じゃあどうにもならないよ。

 キミを倒さない限り、ルルーのキミに対する怒りは治まらない!」

「ルルーの性格はよ~く分かってるんだからな。お前もしっかりと刻んでおけよ?」

「カタストロファーセブン最後の一人、スレイヤー。君を倒して、この世界を元に戻す!」

 アルル、シェゾ、セイバーも、ルルーに震えながら戦闘態勢を取った。

 すると、それまで微笑んでいたスレイヤーの表情は一変した。

「虫ケラどもに何ができるというのだ。私を倒す? それは不可能だ。

 何故ならば……私には、これがあるからだっ!!

 スレイヤーが両手を広げると、凄まじい突風がアルル達を襲った。

「うわっ……!」

「みんな、気をつけて……! これは、魔力だよ……!」

「ああ……すげぇ力だ……!」

 セイバー、アルル、シェゾは、戦意を奪われないように気を保った。

 四人の中で唯一魔力を持たず、魔力も感知できないルルーに影響はなかった。

 その後、スレイヤーを魔力の壁が覆った。

 

「さぁ、宴の始まりだ!」

「いくよ、みんな!」

「ぐぐー!」




ちなみに舞台となった塔は、「ぷよぷよ通」と同じです。
次が最後のカタストロファーセブンとの戦いです。


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33「戦闘! スレイヤー」

最後のカタストロファーセブンとの戦いです。
スレイヤーはロマサガのワグナスを意識しています。


「果たしてこの私を倒す事ができるかな? ヒートバリア!」

 スレイヤーは呪文を唱えて炎と雷に強くなった。

 元々、魔法で結界を張っているため、意味のない事だとスレイヤーは思ったが、

 遊ぶためにわざと使用したのだ。

「赤い結界は物理攻撃を弾くが魔法攻撃は吸収する。

 青い結界は魔法攻撃を弾くが物理攻撃は吸収する」

「どこまでもボク達をバカにして……! ダイアキュート、サ・サンダー!」

 アルルは増幅呪文を唱えた後、青い結界に向けて雷を落とした。

 だが、青い結界は強く光ってアルルの魔法を弾き返した。

「その結界にその攻撃は通用せんよ」

「キィーッ! 許しませんわ! 鉄拳制裁!」

 ルルーは赤い結界に鉄拳をぶちかますが、赤い結界は易々と鉄拳を弾いた。

「私の風魔法も通らないよ!」

 セイバーは呪文を唱えて風の衝撃波を飛ばし、スレイヤーを直接攻撃しようとした。

 だが、それも赤い結界が阻び、スレイヤーにダメージはなかった。

「この結界がある限り、私を攻撃する事はできない」

「だったら青い奴から壊してやる! フレイム!」

 シェゾは炎を青い結界に向けて放った。

 その威力はかなりのものであり、青い結界に僅かだが罅が入った。

「よっしゃ、罅が入ったぞ!」

「そこをさらに攻めるよ! ファイヤー!」

「アイスニードル」

 アルルは結界の罅が入った部分を炎魔法で攻撃しようとするが、

 スレイヤーの邪魔が入り魔法を打ち消された。

「君がそこを攻めるのもお見通しだ」

 どうやら、アルルの行動はスレイヤーに読まれていたらしい。

 セイバーはウィンドブレード、ルルーは風神脚で赤い結界を壊そうとしたが、

 僅かなダメージしか与えられなかった。

 その間にも、スレイヤーはルルーにストーンブラストを放って大きなダメージを与えた。

「きゃああ!」

 ルルーは何とか防御の姿勢を取って致命傷を防ぐ。

 アルルはすぐさま、ルルーにヒーリングをかけて彼女の体力を回復した。

 

「スレイヤー、随分と余裕だね」

 セイバーは剣を持ち直しスレイヤーを睨みつける。

 スレイヤーは2つの結界があるため、攻撃は自身に絶対に届かないと思っており、

 四人との戦いでも慢心していた。

 この結界を何とかしなければスレイヤーを倒せないが、絶対的な防御力の前に攻撃は阻まれた。

「ああ、余裕だとも。私に攻撃は『絶対に』通らないからな」

「その余裕、どこまで続くかな!」

 そう言って、セイバーは飛び上がってスレイヤーに剣を振りかざした。

 結界を飛び越えて、スレイヤーに直接打撃を与えるつもりだ。

「ダークバインド」

 しかし、スレイヤーはそれも見抜き、セイバーに闇の触手を放って束縛した。

「うぐぅぅっ! こんな触手くらい、私の手で……うあぁ、動けば動くほどきつくなる……!」

 触手がセイバーの四肢を締め付ける。

 セイバーは必死で触手を振りほどいていたが、

 彼女が動けば動くほど、触手は彼女をきつく縛っていた。

「フフフ……トライブレードとあろう君が、こんな触手で無力になるとは……。

 やはり、君も根は女の子なんだな」

「この野郎! “ヘンタイ”は俺一人で十分だ! ダイアキュート、フ・フレイム!」

 シェゾは、自身を“ヘンタイ”だと自覚した上でスレイヤーに炎を放ったが、

 赤い結界がそれを吸収する。

「なんとしてでも、この結界を壊しますわよ!」

「うん!」

 セイバーが動けないため、アルルとルルーが彼女に代わって結界を壊している。

 アルルは青い結界にファイヤーやアイスストーム、

 ルルーは赤い結界に破岩掌や風神脚を当てていた。

 何発も攻撃を食らったのか、結界に入った罅は大きく、数も多くなっていた。

「たとえ、どんなに罅が入ったとしても、この結界は壊せない。

 つまり、君達は絶対に勝てないんだよ」

「てめぇ……! だったら気合で破壊してやる!」

「やってみせよ」

 スレイヤーの挑発に乗ったシェゾは、闇の剣に自身の闇の魔力を最大まで込めた。

 1つでも結界を破壊しなければ、スレイヤーに倒されてしまう。

 だから、シェゾは今ここで、スレイヤーの結界を破壊したかったのだ。

闇の剣よ……切り裂けぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

 シェゾの、渾身の力を込めた闇の剣の一撃が青い結界に命中すると、

 パリーン、という音と共に砕け散った。

 

「なっ! 私の結界を破壊した、だと……!?」

 スレイヤーは、その出来事に驚いた。

 この四人に結界は破壊できないはずだったが、シェゾがそれを破ったからだ。

 しかしスレイヤーはすぐに表情を戻し、呪文を詠唱する。

「ファイアストーム!」

「「シールド!」」

 スレイヤーは炎の嵐を起こし、ルルーとセイバーを飲み込んだ。

 アルルとシェゾは魔法でバリアを作り、ルルーとセイバーの攻撃を防いだ。

 バリアは炎の嵐を吸収して威力を削いだ。

「う、ぐ、負け、て、たまるか!」

「ダイアキュート、ラ・ライトニングボルト!」

「ぐああああああああ!」

 必死で触手を解こうとするセイバーに、無数の雷の矢が飛んできた。

 セイバーは避ける事ができず、全てまともに食らって叫び声を上げる。

「どうだ、セイバー。このまま死ぬがいい」

 セイバーはなすすべもなく、一方的にスレイヤーに攻められていた。

 自分は伝説の剣士のはずなのに、仲間達の方が活躍しているため、

 セイバーは悔しそうな表情であった。

 だが、セイバーは未だに触手に縛られていて動けない。

 このまま何もできずに終わってしまうのか……セイバーの心が折れかけた、その時。

 

ぐーーーーーーーーー!!

 突然、カーバンクルの額の宝石からビームが出て、セイバーを束縛していた触手を破壊した。

「カーバンクル!」

「今のはラッキーだよ、カーくん!」

 カーバンクルが放つビームは、邪悪を浄化する効果がある。

 しかし、いつビームが発動するのかはカーバンクルの気まぐれだ。

 だが、発動したという事は、形勢を逆転するチャンスが生まれたという事になる。

「よし! 一気に決めますわよ!」

「ふん……たとえ触手がちぎれても、私に勝てるはずがない」

「果たしてそうかしら? 真・女王乱舞!!」

 ルルーは構えを取った後、凄まじい連続攻撃を赤い結界に浴びせた。

 真・女王乱舞は壊滅的な威力の技だが、自分の身体にも負担がかかる諸刃の剣だ。

 ルルーはこの技によって赤い結界を破壊するつもりのようだ。

「これで終わりですわ!」

 そして、ルルーの最後の蹴りが赤い結界に命中すると、赤い結界は粉々に砕け散った。

 

「ぬおぉ……。私の結界を破るとは」

「私に屈辱を与えたお返し、させてもらうよ! イリュージョン・レイヤー!」

「アクアプロテクション」

 そう言って、セイバーは分身を作り出し、その分身と共にスレイヤーに斬りつけた。

 その攻撃を、スレイヤーは防御魔法で完全に防ぐ。

「くそっ!」

「駄目だな。全然駄目だ。……さて、そろそろおしまいにしようか」

 スレイヤーは、長い呪文の詠唱に入った。

 これで、アルル達を全滅させるつもりだ。

 この攻撃を阻止しなければ、アルル達の敗北は決まってしまう。

「まずい……! 早く止めないと……!

 ダイアキュート、ダイアキュート、ダイアキュート、ダイアキュート……」

 アルルも増幅呪文を唱え、自身の最大呪文を発動する準備に入った。

 スレイヤーとアルル……果たして、どちらが勝つのだろうか。

 ルルー、シェゾ、セイバー、カーバンクルは、固唾を飲んで見守っていた。

 

ジャッジメント!!!

ジュ・ジュ・ジュ・ジュ・ジュゲム!!!

 アルルは大爆発をぶっ放し、スレイヤーは裁きの光を解放し、押し合いになる。

はぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

うおおぉぉぉおおおおおおおおお!!

 お互いの、全力を尽くした魔力が、それぞれの魔法に混ざり威力が上がる。

 アルルが押し、スレイヤーが押し……そんな展開が、何度も何度も続いていた。

 魔力はスレイヤーの方が多かったが、アルルは気合は負けていなかった。

 そして数分後――塔全体を覆うほどの大爆発が、この場で、起こった。

 

「ぐぅ……うぅぅぅぅぅ……っ」

 大爆発が治まった時、スレイヤーは膝をつき、アルルは彼を見下ろすように立っていた。

 この戦いは、アルル達の勝利に終わった。

「スレイヤー……」

 セイバーは、スレイヤーの傍に寄った。

 スレイヤーはここまでか、というような表情をしていた。

「……」

「え?」

 スレイヤーの小さな声に、セイバーが首を傾げる。

「そこの……青い髪の、女、が、魔王、に、口づけ、を、すれ、ば……封印、は、解け、る……」

 そう言って、スレイヤーは目を閉じる。

 スレイヤーの身体は、光の粒子となって消滅した。

 

「要するに、私がサタン様にキスをしろって事ですの!?

 そ、そんな、私、恥ずかしいですわ……」

「でも、こうしなきゃサタンの封印は解けないよ?」

「ぐぐぐーぐ?」

「で、ですけど……///」

 ルルーは、サタンの封印を解く方法を聞いて赤くなった。

 何故こんな方法にしたのかは不明だが、とにかく、サタンの封印を解かねばならない。

 シェゾとセイバーはサタンのレリーフを運ぶ。

「じゃあ、キスしろよ」

「わ、分かりました、わっ……!」

 そう言って、ルルーはサタンの頬にキスをした。

 すると、レリーフがみるみるうちに解けていき、中から生身のサタンの姿が現れる。

 レリーフが解け切ると、そこには生身のサタンが立ち尽くしていた。

 

「はっ!? 私は……」

「サタン様!」

 低い声が聞こえると、ルルーはいてもたってもいられずにサタンに抱き着いた。

「ああ……助かった。スレイヤーに不覚を取ったとはいえ、

 私が助けられるとは……感謝の言葉はたくさんありすぎて、何を言えばいいか分からない」

「サタン様がこんな事を言うなんて、あり得ませんわね」

 ルルーはサタンの感謝の言葉に、プライドを捨てたのか? と思っていた。

 しかし、アルル達にサタンが助けられた、という事実は変わっていない。

「……塔から邪悪な気配が漂わない。本当に、カタストロファーセブンを全員倒したんだ……」

 サタンの塔から、邪悪な気が消えていくのをセイバーは確認した。

 アルル達はようやく、カタストロファーセブンとの戦いが終わった事を実感した。

「……そうだな。残っているのは、古のものだけだ」

「古のもの……」

「そいつを倒せば、世界は平和になる。……当然、お前は放っておくわけにはいかないだろう?」

 そう言って、サタンはセイバーの方を振り向いた。

「な、なんで私の事を知ってるのかなぁ。私は君を知らないはずなんだけどなぁ」

「何故って……私は『サタン様』だからだ! フハハハハハハハハハハハ!!

 サタンは立ち上がった後、腰に手を当てて高笑いした。

 それを見たアルルは「やっぱり、いつものサタンだな」と思ったのだとか。

 

「さあ、もう私がいるからには大丈夫だ! みんな、プリンプタウンに戻るぞ!」

「「「おーーーーっ!!」」」

「……プリンプタウンって、どこ?」

 

 こうして、アルル達はカタストロファーセブン最後の一人、スレイヤーを倒しサタンを救出した。

 これで、プリンプタウンに皆を呼ぶ事ができる。

 アルル達は意気揚々と、塔を降りるのであった。

 

 ……セイバーはプリンプタウンを知らなかったが。




次回でついにあの四人がプリンプタウンに再会いたします。
そして、ラストダンジョンへ突入する準備をします。


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34「戻ってきた四人」

ラストダンジョン前の休息回。
ここで一気に伏線を回収していきます。


「はぁ~。やっとこれでカタストロファーセブンはみんなやっつけたね」

「ああ……。長い戦いだったな……」

 カタストロファーセブンとの戦いに、とりあえず終止符はついた。

「お帰りなさい、皆さん」

「ただいま! チコ! ボク達、勝ったんだよ!」

「本当ですか? よかった……!」

 サタンの塔を降りたアルル達は、塔の外で待っていたチコにそれを報告する。

 報告を聞いたチコは満面の笑みを浮かべた。

「ああ、本当に、あなた達を待っていてよかった! アルルさんを信じて、本当によかった!」

「チコ……ボクからも、お礼の言葉を言うよ。『ありがとう』」

「はい、アルルさん、ありがとうございました!」

 

「そして、私達が倒す敵は、あと一人」

「『古のもの』だよ」

 残る敵は彼らのリーダーである「古のもの」のみ。

 セイバーは、古のものを倒そう、と意気込んで、剣を強く握り締めた。

 サタンも、彼にしては珍しく真剣な様子だった。

「……父さん……。どこに、いるんだろう……」

「お父さん?」

「私の父さんは、カインっていう人類史上最強の剣士だよ」

「え、そうだったの!?」

 アルルは、セイバーが人類最強の剣士カインの娘であるという事を初めて知った。

 確かに、セイバーは剣の切れが鋭かったが、最強剣士の血を引くとは思わなかったからだ。

 一方のセイバーは、そんなアルルを不思議そうな顔で見ていた。

「う~ん、アルルは私の友達だから知ってると思ったんだけどなぁ」

「だからボクはキミの事をあんまり良く知らないってば!」

「ごめんごめん……」

 セイバーは、目の前のアルルが

 今のアルルではない事をまた忘れてしまったようで彼女に突っ込まれる。

「で、サタン、肝心の古のものって奴はどこにいるんだ?」

「それは一度プリンプに戻ってから話をしよう。みんな、しっかり捉まっていろ」

「……うん!」

「テレポート!」

 サタンは転移魔法を唱え、プリンプタウンに転移した。

 

「うわっとと!」

「ぐー!」

「おっと!」

「「よっと!」」

「……よし、来たな」

 アルルは、テレポートによってプリンプタウンホールに降り立った。

 その後、カーバンクル、ルルー、シェゾ、セイバーが次々と降り立ち、

 最後にサタンが降り立った。

「ボク達……ようやくプリンプタウンに“帰って”きたんだね!」

「ぐっぐぐー!」

 アルルはようやく、故郷の魔導世界から現在の居場所であるプリンプタウンに帰ってきた。

「みんなは……みんなはどこにいるんだろう」

「ぐっぐぐー?」

「まずはこの三人から探すからね」

 アルルはまず、アミティ、りんご、アリアを探して辺りを見渡した。

 すると、三時の方向に複数の人影が見えた。

 アルルは、あそこにアミティ、りんご、アリアがいるのかな、と走っていった。

 

「あー! 向こうから誰か来た!」

 アミティが遠くから近付いてくる人影を指差した。

「え、どこですか?」

「アミティさん?」

 りんごとアリアは釣られてアミティが指差した方を見る。

 すると、人影――アルルとカーバンクルが、自分達に向かって走り出しているのを見た。

みんなーーー! ボクだよーーー! アルルだよーーー!!

ぐーーー!!

「本当だ! 本当にアルルだ!」

「幻じゃ……ありませんよね?」

 アリアは、アルルの手を握った。

 その手は暖かく、アルルが本物である事が証明された。

「暖かいですね。アルルさんは本当に、プリンプタウンに戻ってきたんですね」

「当たり前でしょ! ボクが倒れるわけないじゃない!」

 経験を舐めないでよね、と自信たっぷりに言うアルル。

 アリアも、アルルの経験は知っているため頷く。

「カタストロファーセブンはみんなやっつけたよ」

「だから、あたし達を邪魔する人は、もういない」

「二度と、私達がバラバラになる事はありません」

「四人の絆が永遠だという事が、証明されました」

 ようやく、アルル、アミティ、りんご、アリアが、プリンプタウンに揃った。

 四人は二度とバラバラにならないように、それぞれの手を重ね合ってこう言った。

 

「世界が違っても、居場所が違っても」

「あたし達の絆は」

「永遠に」

「不滅です!!」

 

 一方、トライブレードの一人セイバーは、

 感知能力で仲間のエッジとソード、そして実父のカインを見つけ、そして再会した。

 ルルーとシェゾもセイバーを追って、それぞれの家族と再会する――

 アルル同様、本当は別の存在だが。

「ただいま、父さん!」

「おお、お帰りなさいセイバー。よく一人で頑張ってこれたな。それだけで父さんは嬉しいよ」

「ううん、私は一人じゃないよ。アルルやルルー、シェゾがいたから頑張れたんだ」

「君は戦士である以前に、一人の人間だからな。

 人間は一人じゃ何もできないけど、集まればどんな困難も乗り越えられると言うからな。

 よしよし、いい子だ、セイバー。これからも私の傍にずっといてくれ」

「うん、分かったよ」

 

「お帰り、ルルー。別の世界にいた父を許してくれ」

「……? まぁ、許して差し上げてもよくってよ」

 

シェゾ、会いたかったわぁ~~~!

 アタシのたった一人の兄弟だもの~~~~!!

「お、おいおい、何抱き着くんだよ、俺はお前の事は知らないっつーの」

 

 カインとセイバーの親子は、カインの方がちょっと親馬鹿な雰囲気だった。

 ルルーとエッジの親子は、どこか噛み合わない雰囲気だった。

 シェゾとソードの異父兄弟は、傍から見るとホモっぽい雰囲気だった。

 

 一方、こちらはサタン、エコロ、レムレス、アコール先生、ルゥ先生の情報収集組。

 彼らは記憶のプロテクトが解けたようで、それを少しずつ思い出している。

 ちなみに、アコール先生とルゥ先生は、四人が集めた情報をまとめる役割をしている。

「ふぅ……ようやく記憶が全部戻って来たぞ」

「お疲れ様です、サタン様」

 長くレリーフ化していたのか、サタンは思い出すのに時間がかかったが、

 6分後に全ての記憶を取り戻した。

 10分もかからなかったのは流石は魔王といったところだろう。

「それで皆様、古のものについて、話せる事はありますか?」

「ああ、それはだな……」

 サタン、エコロ、レムレスは、古のものの情報をアコール先生とルゥ先生に全て話した。

 二人の教師は、三人の話のメモを取っていた。

 

「メモは全て取りました。ありがとうございます」

「うむ。では、私達は他の人にやるべき事を言ってくる。お前達は準備をしてこい」

「分かったよ~」

 

 サタンが皆に連絡をした後、何人かのメンバーがプリンプ魔導学校の体育館に向かっていた。

 メンバーは、アルル、アミティ、りんご、アリア、セイバー、エッジ、ソード、カインだ。

「そういえば、ラフィーナとシグはどうしてるの?」

「サタンが連絡してたみたい、ルルー、シェゾ、ラフィーナ、シグ、まぐろ、りすくませんぱい、

 レイリー、ジルヴァはプリンプタウンを守れって」

「私達にしかできない事なんでしょうか?」

 呼び出しを受けたのがこの八人なので、りんごはどんなことが起こるのかをある程度推測した。

「だろうね、何しろトライブレードと私の父さんも呼ばれているんだから」

 そんな会話をしながら教室に入ると、そこではサタン、エコロ、レムレス、アコール先生、

 ルゥ先生、あくまが待っていた。

 アコール先生は他に誰も人がいないかを確認すると、コホン、と少し咳き込んだ。

「それでは、説明をいたします。この異変の黒幕と、私達がするべき事を。

 ルゥ先生、あくまさん、この話が外部に漏れないように警備をお願いします」

「分かったよ~」

「承知したま」

 あくまは結界を張り、ルゥ先生は弩を構えた。

 レムレスは二人の行動を確認した後、口を開いた。

 

「これは、僕がコメートを離れて集めた情報だよ。

 かつて、この世界をより良くするため、古のもの――神がこの世界に降り立った。

 でも、知識はあってもまだ何も知らない古のものには、

 どのような人が暮らすどのような世界が良い世界か分からなかった。

 だから、それはそこにいる生命達に任せ、さらには自分の存在を隠した。

 だけど自然に任された世界は人の欲を肥大させた。

 利益のため、競争に勝つため、そして己の保身のため……。

 醜悪な我欲が蔓延する世界を見た古のものは絶望し、裁きとしてこの世界を滅ぼそうとした」

「……!」

 アルルはその真実に目を見開いた。

 自分達の世界は、愚かな人間のせいで一度、滅亡しかけたという事を。

「でも、この世界にいた正しい心を持った七人の人間が、古のものと戦い、勝利し封印した」

「正しい心を持った、七人の人間……?」

 アルルは七人という人数に引っかかったが、そのまま黙って話を聞く。

「世界は救われてめでたしめでたし……というわけにはいかないのが真実だ。

 古のものに滅ぼされる心配がなくなったため、

 人々の腐敗はどんどん進んでいき、七人の英雄達の誇りも失われた。

 英雄は狂戦士となり、自らをブレイカー、バスター、キラー、デストロイヤー、イレイザー、

 クラッシャー、スレイヤー……カタストロファーセブンと名乗った」

「嘘でしょ……!!」

 なんと、アルル達が戦ったカタストロファーセブンの正体は、

 我欲に飲まれた英雄の成れの果てだったのだ。

「古のものは再び目覚めようとしたけど、封印されていたためそれは叶わず、

 せいぜいカタストロファーセブンの意志を操るくらいの力しか出せなかった。

 でも、君達がカタストロファーセブンを倒したから古のものの封印は完全に解けてしまい、

 この世界と一体化してしまった。

 そして、この世界で最も異世界に近い場所……『時空の狭間』で自らのテリトリーを築いている」

「そんなぁ!」

「でも、また封印すればいいんじゃないんですか? 目覚めたものは仕方ありませんけど……」

 りんごの提案に、レムレスは首を横に振った。

「残念だけど、古のものがこの世界と一体化している以上、

 古のものを封印すればこの世界も封印されるよ」

「やっぱりダメでしたか……」

 りんごはがっくりと肩を落とした。

「だから、君達にできる事は二つだけ。

 次元の裂け目に行って古のものを倒すか、古のものの支配を受け入れるかだよ」

「どういう事?」

「古のものを倒せば世界は解放される。

 だけど、何か悪い事が起こっても二度と大いなる者は助けてくれなくなる。

 古のものが支配すれば世界は平和になる。でも、それは偽りの神に全てを委ねる事になる」

 つまり、神を討ってヒトだけの自由な世界にするか、

 神を受け入れ平和だが束縛された世界にするか。

 アルル達には、その二人しか道はないのだ。

「でも、サタンとエコロはどうしてそれを知ってるの?」

「古のものが復活した事によって、

 流石のサタンも危機感も覚えたのか魔界に戻って情報を調べたらしいよ。

 エコロは……彼の話を魔法で盗聴したんだろうね」

「あったり~♪」

「サタン様が黒幕じゃなくて当然ですわよね!」

「あいつらは、トラブルは起こすけど世界を危機に落とす事はしないからな」

 ルルーは自信満々にそう言い、

 シェゾもサタンとエコロの潔白が証明できたようで清々しい表情だった。

 その後、アコール先生は全ての話をまとめてアルル達にそれを話した。

「古のものが復活した事により、最早この世界は古のものそのものとなっています」

「つまり、コンピューターウイルスを駆除するか、

 コンピューターウイルスを野放しにするかですね」

「そういう事です」

 りんごの例えにアコール先生は頷いた。

 

「……さて、皆さん、これからどうしますか?」

「えっ?」

「時空の狭間に行って、古のものと戦いますか? それとも、このまま休みますか?」

「どっちを選んでも構わないよ~」

 アコール先生の選択肢に対し、アミティは珍しく迷いのある表情をしていた。

「……あたしは古のものと戦うよ。でも、どうすればいいのかは……分からない」

 アミティは古のものの処遇を迷っていた。

 もし、大いなる者がいない世界になれば、レムレスの言った通りの世界になるかもしれない。

 だが、古のものが統制する世界になるのも、アミティには納得がいかなかった。

 一方、アルルの表情はアミティとは正反対だった。

「古のものの時間は、封印された時から止まったままだと思う。

 カタストロファーセブンを操ったのも結果的に無駄な行動だったし、ね。

 世界を救うためにやってる事が、より多くの世界の危機を生んでる矛盾に気づいてないよ。

 だから……ボクは、古のものを止める」

「私も同じだよ。トライブレードは世界を救うために戦うんだから」

「古のものに挑まないで、何がトライブレードだ」

「今の世界もちゃ~んと守らなくっちゃね!」

「セイバーだけじゃない。みんなを守るのが、私達の使命だ」

 トライブレードとカインもアルルの言葉に続けた。

「何か悪い事が起こっても大いなる者は助けてくれない。ほんの少し、心配になってきました」

「神様に支配されるのは嫌ですが……それが本当かどうかを確かめましょう」

 りんごとアリアは、アミティと同じく古のものの処遇に迷っていた。

 頭の良い二人は、古のものが統制する世界も良いのではないかと考えていた。

 

「決まったか?」

「うん。あたし達は、古のものと戦う」

「だけど、ボク達は古のものを倒さない。止める」

「私達の言いたい事をあいつにぶつけて、それであいつが世界を壊すのをやめればいい」

「今ある世界を、古のものに変えられるわけにはいきませんからね」

 アルル、アミティ、りんご、アリアの四人は、古のものと戦う事を決意した。

 セイバー、エッジ、ソード、カインの四人も、彼女に続くように剣を構えた。

「……分かったよ。それじゃ、古のものがいるところに向かう、という事でいいんだね?」

「「「「「「「「うん(はい)!」」」」」」」」

 八人は声を揃えて頷いた。

 彼女達の表情からは、真っ直ぐな意志の強さが感じられた。

「……ありがとう」

 レムレスは、八人の決意を受け取り、彼らを時空の狭間に送る事を決めた。

 

「一緒に頑張ろうね、アミティ、りんご、アリア」

「はい!」

「うん!」

「分かりました!」

 

「これが最後の戦いだよ、エッジ、ソード、父さん」

「おう!」

「ええ!」

「ああ……」

 

 最終決戦は、もう目と鼻の先だ。




次週はいよいよラストダンジョン突入前の準備です。
世界を守るために、彼らは戦います。


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35「神の住む地へ」

ラストダンジョン突入回。
パーティーは最初からこうすると決めていました。


 準備を整えたアルル、アミティ、りんご、アリア、セイバー、エッジ、ソード、カインは、

 レムレスが作った転移魔法陣に乗り、古のものが待ち受けている時空の狭間に来た。

 ついでに、ルルー、シグ、まぐろ、レイリーも同行者として来てくれた。

 シェゾ、ラフィーナ、りすくませんぱい、ジルヴァは、

 守りたいものを守るためにプリンプタウンに残った。

 

「……ここが、時空の狭間……」

「なんだか、不気味ですね……」

 時空の狭間は、古のものが復活した影響で、かなり混沌としていた。

 ところどころに穴が開いており、地面も歪んでいて不安定だった。

 一歩道を外せば、真っ逆様になるだろう。

「でも、ここに古のものが待ち構えている」

「オレ達が倒すべき最後の敵……この戦い、負けるわけにはいかない」

「アタシ達の世界……そして、この世界を救うんだから!」

「勘違いされがちだが、トライブレードはあくまで世界が選んだが、心は“人間”に過ぎない。

 セイバーもエッジもソードも私達の大切な仲間だ。世界だけを救うわけないじゃないか」

 セイバー、エッジ、ソード、カインは、時空の狭間の奥を真っ直ぐ見据えていた。

 トライブレードとカインは、世界を救うために戦っていて、

 その最後の敵と戦おうとしているからだ。

 

「古のものなんてボコボコにして差し上げましてよ」

 ルルーが拳をぶんぶんと振り回す。

「あ、あははは……ルルー、すっごい闘志に溢れてるね。っていうかボコボコって……」

「サタン様を封印した奴の親玉なんだから、こうしないと私の気が済みませんのよ」

 カタストロファーセブンの一人、スレイヤーによってサタンは封印された。

 彼女にとって、カタストロファーセブンは許しがたい存在であり、

 当然、彼らの親玉である古のものの存在も許せなかった。

 

「アミティー、おまえ、心配だから来た」

「シグ、ありがとう。来てくれたんだね」

 最終決戦に赴くアミティのために、シグも一緒についてきた。

「この世界の命運がかかっているんだ。でも、一人だととっても難しい。

 でも、シグがいれば、安心できるよ」

「ありがとー」

 アミティとシグは、お互いの手をぎゅっと握り締めた。

 この二人の絆は、永遠のものである。

 

「りんごちゃん、ボクがいればもう大丈夫だよ★」

「まぐろ君……!」

 姉弟のような仲であるりんごとまぐろ。

 もちろん、次元の狭間にも、一緒に来ていた。

「私とまぐろ君は、本当は戦えない一般人でした。

 でも、巻き込まれた以上、最後まで戦わなければいけません」

「ここで逃げたら恥を掻いちゃうしね★」

 りんごは本、まぐろは剣玉を構える。

 二人の戦闘能力はそれほど高くないが、強い心だけは他のメンバーにも劣らなかった。

 

「いよいよ、古のものと戦う時が来ましたね」

「そうなのだ」

 アリアとレイリーは、それぞれの使用武器を構えていた。

「こいつのせいで、プリンプタウンが壊れかけているのだ。わたしは絶対に許さないのだ」

「私は信じています。この危機も、私“達”が救う事を」

 今まで、どんな強敵にも勝ってきたアリア達。

 今回もまた、倒す事ができる……そう信じていた。

「大丈夫です。私達には仲間がいます。

 一人じゃダメでも、みんながいればできる。カインさんが言ってたでしょう?」

「いくらでかい奴が相手でも、みんなで戦えば怖くないという事なのだ!」

 

さあ、来いっ!

「終わったら、たくさんお菓子をあげるからね」

 そう言って、八人はレムレスに見送られ、時空の狭間を突き進んだ。

 

「来たね!」

 時空の狭間に突き進んだ瞬間、魔物達がアルル達に襲い掛かってきた。

 今までアルル達が戦ってきた魔物の姿を模したものだが、力もスピードも段違いだった。

 それでも彼らは怯まず、前に進んでいく。

「アイスストーム!」

「ブラストビート!」

「タンジェント!」

「グランクエイク!」

 ぷよ、どんぐりガエル、おにおんを、アルル達は魔法で攻撃していく。

 前にいる敵は、トライブレードとカイン、ルルー、レイリーが倒していった。

「前は私が守りますわ! あんたは安心して攻撃しなさい!」

「ありがとう、ルルー!」

「アリア、こんな雑魚なんかに怯むんじゃないのだ。全力は古のものにガツンとぶつけるのだ!」

「ふふ、助かりますよレイリー」

 応援を受けたアルル達の表情は、さらに凛々しくなった。

 

「魔神剣!」

「ツインエッジ!」

「サンダーブレード!」

「流星剣!」

 セイバー、エッジ、ソード、カインは、邪魔な魔物を剣で切り裂いていた。

 途中、時空が歪み、周囲の状況が良く分からなくなった。

「そんなもの、私には当たらん!」

 カインは双剣で、落ちてきた岩を防いだ。

 そのまま、カインは岩を双剣で切り裂いた。

 

 トライブレードとカインを先頭にしてアルル達が歩いていると、

 12人の前に混沌の化身が現れた。

 混沌の化身はしばらく揺らめいていたが、この中で最も強いカインに姿を変えた。

「! 敵が来た……しかも父さんの姿を真似てる!」

「セイバー、ここは私達に任せなさい!」

「絶対にかってやるー」

「キミのお父さんをキミは一番傷つけたくないでしょ? だからボクが代わりにやってあげる★」

「一つ目の試練を、まずは突破するのだ!」

「……ありがとう」

 混沌の化身に挑んだのは、ルルー、シグ、まぐろ、レイリーの四人だった。

 セイバーはお礼を言った後、混沌の化身との戦いを四人に任せた。

 

「さあ、来るなら来なさい!」

「わたし達が相手になるのだ!」

「やーるぞー」

「どこの部分からやられたいかな?」




AAAばかり目立つ事への反感として、ARSを目立たせています。
これが私の信念なのです。


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36「連戦」

ラストダンジョンで三剣士とARSが魔物を倒しに行きます。


「破岩掌!」

 ルルーは勢いよく掌底を混沌の化身に叩きつける。

 混沌の化身は身体を変形してルルーの攻撃を防ぐ。

「く、単純な攻撃は通用しないんですのね」

「アイソレーション!」

 レイリーが舞うように混沌の化身を切り裂くも、混沌の化身はすぐに身体を元に戻した。

 混沌の化身は自らの身体を変形し、ルルーに向かって腕を伸ばしてきた。

 ルルーは攻撃を回避し、混沌の化身を蹴った。

「ラピスラズリ」

 シグは瑠璃色の光を放って混沌の化身を攻撃する。

 光属性は混沌の化身の弱点なので、大きなダメージを与える事ができた。

「セレスト・オール」

 シグは全員に光の結界を張った後、混沌の化身に突っ込んで爪で引っ掻き、怯ませた。

「バタフライ!」

「鉄拳制裁!」

 レイリーは怯んだ混沌の化身に舞うように斬りかかり、防御させる暇もなくダウンさせる。

 そこに、ルルーの容赦ない拳の一撃が入り、混沌の化身に重傷を負わせた。

 混沌の化身は立ち上がってルルーに闇を放ったが、

 シグが張ったバリアのおかげでダメージは受けなかった。

「バリアのおかげで大した事はありませんでしたわ」

「わーい」

「地球回し★」

 まぐろは剣玉を振って混沌の化身を縛った後、空中に浮かせて地面に叩きつける。

 彼の攻撃が致命傷となったのか、混沌の化身はこの世から消え去った。

 

「やったぁ、ボスを倒したよ!」

「ぐぐー!」

 混沌の化身が撃破されたため、アルルとカーバンクルは喜んだ。

 だが、四人の剣士は緊張を崩さず、前をじっと見据えていた。

「どうしたのだ? もう敵は倒したのだよ?」

「……まだ、強敵が残ってるのよ……!」

 ソードがそう言うと、12人の目の前に、

 ドスンという音と共に、何かが落ちてきて、土煙が舞った。

 土煙が晴れると、そこにいたのは、岩のように巨大な竜、グランドドラゴンだった。

「お、おっきい……!」

「全長は何mくらいでしょうか?」

 見上げるほどの大きさに驚くアミティと、興味深そうに見るりんご。

 ドラゴンは12人を邪魔者と認識したのか、大きく息を吸い込み、

 その場にいる全員が卒倒するほどの叫び声を上げた。

 その叫び声が止んだ時、立っていたのはセイバー、エッジ、ソード、カインの四人だけだった。

「……皆、大丈夫だったな?」

「あ、ああ……」

「みんな、気絶してるわね」

「こいつの相手をできるのは私達だけだね。みんな、必ず倒すよ!

 世界を救うためなら、どんな障害も乗り越えて見せる!!」

「「「おーっ!!」」」

 リーダーのセイバーが号令をかけ、グランドドラゴンとの戦闘が始まった。

「バーサーク!」

 ソードは気を高めて自らの防御力と引き換えに攻撃力を上げる。

「フレイムブレード!」

 カインは双剣に火炎を纏わせ、グランドドラゴンに振り下ろす。

 しかし、グランドドラゴンの鱗に阻まれてダメージは与えられない。

「結構硬いな」

「うん、見た目に違わないね」

「この一撃でどうだ! 大地斬!」

 エッジは片刃剣を抜き、グランドドラゴンに衝撃波を飛ばした。

 衝撃波がグランドドラゴンに命中すると爆発し、グランドドラゴンにダメージを与えた。

 グランドドラゴンは吹き飛ばなかったが、ダメージを与えただけでも良い結果だ。

「いいね、エッジ!」

「ああ、セイバーも続け!」

「OK! ホーリーブレード!」

 セイバーは剣に力を溜め、光り輝く刀身にした後、グランドドラゴンに斬りかかった。

 グランドドラゴンは守りの牙で攻撃を防いだためダメージは受けなかったが、

 鱗に少しだけ亀裂が入り、グランドドラゴンの動きが一瞬だが止まった。

「スピンスラッシュ!」

「グオオオオオオオオ!!」

 その隙を突いて、ソードが勢いよく大剣を三回振り回す。

 グランドドラゴンに防御の隙を与えず、大ダメージを与える事に成功した。

 

「グルルルル……」

 グランドドラゴンは唸り声を上げながらソードに爪を振りかざした。

 巨体を生かした攻撃に当たれば、致命傷は避けられない。

「イクリプス!」

 ソードは何とか、防御魔法を使い、グランドドラゴンの攻撃を防いだ。

 しかし、流石は巨大なドラゴン、

 ソードの防御魔法を貫通するほどの破壊力でソードにダメージを与えた。

「……っつー。何という力なの? 耐久力も馬鹿高いし……」

 グランドドラゴンは攻撃力も防御力も、これまで戦ってきた魔物と比べて段違いに高く、

 四人の消耗も激しくなっていた。

「幸い、動きは遅い。早めに攻撃して、倒すのが一番良い作戦だ」

 四人は改めて、武器を構え直した。

 古のものは、グランドドラゴンによって彼らを時間稼ぎしているに違いない。

 もしそうであるならば、一刻も早くグランドドラゴンを倒さなければ、

 古のものによって世界が終わってしまう――

 彼らの闘志に、より一層激しい火がついた。

 

「スウィフトブレード!」

「撃鉄撃連刃!」

「パワークラッシュ!」

 セイバーとカインの親子は剣を巧みに操ってグランドドラゴンを攻撃する。

 ソードはグランドドラゴンの攻撃を防御魔法で防ぎつつ、魔力を纏った大剣で斬りつける。

「アキュートアングル!」

 エッジは片刃剣を抜いてグランドドラゴンを貫く。

「ラ・フィン!」

 ソードはエッジが攻撃した部分を大剣で思い切り斬りつけ、さらなるダメージを与える。

「ヴァニシング・レイ」

 セイバーは剣から無数の光線を放ってグランドドラゴンを打ち据え、目を眩ませる。

 さらにセイバーは続けて剣に光を纏わせてグランドドラゴンを一閃した。

「やるじゃない、セイバー。よーし、アタシもやってやるわよ! ライトニングブレード!」

 ソードの大剣がグランドドラゴンに命中すると共に、雷がグランドドラゴンに落ちた。

 剣技と魔導の二段重ね攻撃が、グランドドラゴンに炸裂したのだ。

 そして、カインがグランドドラゴンにとどめを刺す準備に入る。

「これがっ、私のっ、全力全開だっ!! 十二黒天……翼刃!!」

 カインは間合いを詰め、全方位から剣撃をグランドドラゴンの身体に叩き込んだ。

 彼の十二連撃によってグランドドラゴンはバラバラになっていく。

 そして、最後の一撃が当たった後、グランドドラゴンは塵となって消滅した。

 トライブレードとカインは、二体目のボスを撃破する事に成功した。

 

「よし、終わった。後はみんなが目覚めるだけだね」

「もう大丈夫よ、中ボスはみんな倒したから!」




トライブレードの活躍を上手く描写しました。
ちょっと無理矢理感が出てしまったかと思いますが……。


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37「プリンプを守る者」

サブキャラクターにも焦点を当てました。
最近はAばかりが目立って、RとSの扱いが適当になってるので、
小説の中で大きく活躍させました。
マジカルウォールシリーズも、活躍しますよ。


 その頃、プリンプタウンではシェゾ、ラフィーナ、りすくませんぱい、ジルヴァが、

 プリンプタウンに襲ってくる魔物を撃退していた。

 四人が戦っている魔物は、どんぐりガエル、おにおん、そして蜘蛛女のアルケニーだ。

「フォルト、ア・アヴェルス!」

 ラフィーナは力を溜めた後、思いっきり地面を殴って群がる魔物を一掃する。

「アイラブユー」

 りすくませんぱいは爆発するフラスコを投げて凶暴化したどんぐりガエルを倒す。

「フラーム!」

 ラフィーナはリビングアーマーを炎を纏ったアッパーで攻撃する。

 この攻撃は硬い防御に阻まれダメージを与えられなかったが、

 リビングアーマーは宙に浮き上がった。

「食らえ! サンダーストーム!」

 シェゾは防御できないリビングアーマーに雷を落とし、リビングアーマーを一撃で倒した。

「マンイーターアロー!」

 ジルヴァは生物に効果がある矢をアルケニーに向けて射る。

 アルケニーは糸を放ったがジルヴァは攻撃を回避してさらに矢で追撃した。

「サランヘヨ」

「ディシャージ!」

 りすくませんぱいはアルケニーに粘り気のある薬品が入ったフラスコを投げて動きを止める。

 そこに、ラフィーナの雷を纏った回し蹴りが入り、アルケニーは倒された。

 今、ここにプリンプのRとチキュウのRの、息の合ったコンビネーションが炸裂したのだ。

 

「ふっ、なかなか愛の溢れるコンビネーションだったな」

「ええ……って、私は愛よりもこの筋肉の方が大事ですのよ?」

「そうだったか。しかし、この戦いに、果たして本当に愛はあるのだろうか」

「少なくとも、アルルさんやアミティさんよりはマシだと思いますけど!」

 

 続いて、四人に二体のバンパイアが襲ってきた。

 シェゾはフレイムでバンパイアを焼いた後、闇の剣で追撃する。

「アルマージュ! フォルト、グ・グレール! フォルト、ネ・ネージュ!」

 ラフィーナは身体能力を高めた後、氷を纏った連続攻撃でバンパイアの体力を減らす。

「サランヘヨ」

 りすくませんぱいは素早くフラスコをいくつも投げつける。

 バンパイアは最初の攻撃をかわしたが、実はそれはりすくませんぱいのフェイントで、

 次の攻撃は避けられずにダメージを受けた。

「シャープネス、ホ・ホーリーアロー!」

 ジルヴァは光の矢をバンパイアに放ち、大ダメージを与える。

 バンパイアは自分に傷を負わせたジルヴァに空を裂く爪で反撃した。

 ジルヴァはバリアで攻撃を防ぐも、僅かにダメージを受け、バンパイアの体力が回復した。

 

「ちっ、バンパイアは攻撃して体力も回復するのか。しぶとい奴め」

「倒すのに時間がかか……問題発生っ」

 さらに、もう一体のバンパイアが空を裂く爪でりすくませんぱいを引き裂いた。

 流石は上級の魔物、そう簡単に倒されるつもりはないようだ。

「ヒーリング!」

「助かる」

 ジルヴァはりすくませんぱいが負った傷を回復魔法で治す。

 りすくませんぱいはお礼に加速薬をジルヴァに投げて素早さを一時的に上げ、

 バンパイアより早く動けるようにした。

「ウォーアイニー」

 りすくませんぱいはフラスコをバンパイアに投げつけ、

 バンパイアの目を逸らそうとしたが僅かに攻撃は届かなかった。

 しかし、りすくませんぱいが次に投げた大量のフラスコを見ていなかったらしく、

 もう一体のバンパイア諸共全弾命中し、ダメージを受けた。

「やるな」

「君もあの魔物達に愛を与えたまえ」

「愛は愛でもこんな愛だがな! ジャッジメント!」

 ジルヴァは裁きの光をバンパイアに降らせ、体力を大幅に減らした。

 バンパイアは体力を回復するべく、空を裂く赤い爪でりすくませんぱいを切り裂こうとした。

「危ねぇ! サンダーストーム!」

 シェゾはりすくませんぱいの前に立って闇の剣を振り、

 赤い爪を打ち消した後、雷魔法で反撃する。

「フォルト、オ・オラージュ!」

 ラフィーナは雷を纏った回し蹴りでバンパイアを痺れさせた後、腹部に思いっきりパンチする。

 今の攻撃でバンパイアが怯んだ隙に、シェゾは上級呪文の詠唱に入る。

「アレイアード!」

 シェゾが最も得意とする闇魔法がバンパイアに命中し、闇に包み込んだ。

 バンパイアに闇属性は効果が今一つのはずだが、シェゾの高い魔力が属性耐性を貫通したのだ。

 その結果、バンパイアは大きく吹き飛ばされ、りすくませんぱいが攻撃を食らう事はなかった。

 

「今頃、アルルはこいつら以上に強い奴と戦っているんだと思うと」

「手を抜けばりんご君に申し分が立つな」

「当たり前ですわよ! 負けたらプリンプタウンがなくなりますのよ?」

「そして、シュルッツも入っている」

 今、プリンプタウンを含めた世界は、古のものと配下の魔物が蹂躙しようとしている。

 もしも、このまま放っておけば、あらゆる世界が滅んでしまうだろう。

 それを阻止するためにも、エコロや、アザトースの時以上に全力で戦わなければならない。

 四人は今一度、気を引き締めて、バンパイアとの戦いに臨んだ。

 

「ジュテーム」

「プロテクション」

 りすくませんぱいは煙幕が入ったフラスコを投げてバンパイアの目を眩ます。

 バンパイアは衝撃波をジルヴァに大量に飛ばし、身体を引き裂こうとしたが、

 ジルヴァの張ったバリアが衝撃波を全て弾いた。

「フォルト、フォルト、シ・シ・シエルアーク!」

 ラフィーナは気を高めて攻撃力を上げた後、虹の軌跡を描く蹴りでバンパイアを浮かせ、

 両手で思いっきりバンパイアを地面に叩き落とした。

「アレイアード・スペシャル!!」

 そして、シェゾの闇の剣と闇魔法の複合攻撃がバンパイアに炸裂し、

 バンパイアは塵となって消えた。

 

「まったく、しぶとい相手だったぜ」

 一体目のバンパイアを倒し、ふぅ、と息をつくシェゾ。

 こんな奴がまだ残っているのか、とシェゾは悪態をついた。

 ジルヴァは聖なる力を弓と矢に込め、バンパイアを勢いよく撃ち抜いた。

「きゃあっ!」

 バンパイアはラフィーナの体力を吸い取るべく、空を裂く爪を飛ばした。

「……と思いまして? お返ししますわ! デファンドル!」

 だが、ラフィーナは技を見切り、背負い投げで反撃した。

 デファンドルは、発動しなければ隙ができるが、発動すれば遠距離攻撃に反撃できる技だ。

 近距離攻撃には対応していないが、遠距離攻撃が苦手なラフィーナには打ってつけだ。

「ふん、私の血を吸おうだなんて100年早いですわよ!」

「ああ……吸うなら他の奴にしろよな! アレイアード!」

 シェゾは闇の力をバンパイアに叩きつけた後、残った魔力を闇の剣に込める。

「闇の剣よ……切り裂け!!」

 シェゾが闇の剣を振ると、巨大な斬撃が発生し、バンパイアを飲み込む。

 闇の剣は本気を出すと空間も切り裂くと言われる通り、空間ごとバンパイアを切り裂いたのだ。

 そしてバンパイアにとどめを刺すため、

 ラフィーナ、りすくませんぱい、ジルヴァは奥義の構えを取った。

 

アイシテール!

シエルアーク!

エンジェルレイン!

 三人が同時に叫ぶと、虹と炎と光が現れた。

 三つの技と魔法が混ざった攻撃がバンパイアに命中すると、

 激しい大爆発がバンパイアを飲み込む。

 大爆発の中、聖なる光がバンパイアを浄化していき、

 やがてバンパイアは跡形もなく消え去るのだった。

 

「よし、終わった……な」

「アミティさん、死ぬんじゃありませんわよ……!」

 

 一方、プリンプタウンの隣町、コメートにも魔物が迫ってきていて、

 残っている人達がそれらを撃退していた。

「ラーファガ!」

 リレシルの風の弾丸が魔物を一掃した。

 彼女は、何度も魔法を放っているため、その表情には疲労が溜まっていた。

 それでも、リレシルは守るべきもののために、一切、妥協をする事はなかった。

「きゃ!」

「危ない、リオン・デファンス!

プリンシパル・スター!

ドゥンケル・プファイル!

 そんな彼女に魔物が容赦なく襲い掛かる。

 だが、アージスが結界を張って攻撃を防いだ後、フェーリとセリティが魔物を一掃した。

「ありがとうございますわ、皆さん」

「魔導守護隊が何かを守れなかったら、それは魔導守護隊とは言えないぞ」

「大人しくキ・エ・ナ・サ・イ。レムレス先輩とこの町のた・め・な・の・よ」

 彼女達も、古のものの魔の手から「今」を守るために、戦っている。

 

 そして、アコール先生は、ポポイと飛翔の杖を握る手を強め、ルゥ先生と共に天を仰いでいた。

「……アルルさん、アミティさん、りんごさん、アリアさん……」

「大丈夫だよ~。ぼくはきみ達を信じてるから~」

「だから、必ず生きて帰ってきてください……!」

 二人は、四人の無事を祈り、待った。




ぷよクエキャラはいかんせん技が少ないので、オリジナル技を考えるのに少し苦労しました。
でも、作っている時は楽しかったです。
この物語はあと少しで、終わりますよ。


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38「最終決戦ちょっと前」

アルル、アミティ、りんご、アリアは、
この世界に異変を起こした黒幕と対峙しようとしています。
黒幕は、何を望んでいるのでしょうか。


「……う……」

「大丈夫だった? 今、起こしてあげるね」

 そう言って、セイバーは倒れているアルルにゆっくりと近付き、

 ビンタでアルルの目を覚ました。

「いったぁい! 何するのさ、セイバー!」

「……もう、中ボスはみんな倒したんだよ」

「え? ど、どういう事?」

 困惑するアルルを後目に、セイバーはエッジ達にアイコンタクトを送る。

 すると、エッジ、ソード、カインは倒れている他の七人を次々と起こした。

「う~ん……何が起こったのだ?」

「キミ達はあのドラゴンの叫び声でみんな倒れてしまった。

 だから、オレ達が代わりに戦って倒したんだ」

 エッジがレイリーに事情を説明すると、レイリーは納得したように頷いた。

「……つまり、あたし達の代わりにボスをやっつけたって事なの?」

「そういう事よ」

「ありがとう、みんな!」

 そう言って、アミティはセイバー、エッジ、ソード、カインに次々と抱き着いた。

 アルル、りんご、アリアの三人は屈辱的だったので何もしなかったが、

 アミティは純粋に、助けてくれたために彼らに感謝したのだ。

「アミティさんはとても純粋ですね」

「ええ……私と同い年なのに、大違いです」

「ボクは何度もダンジョンを探索したのに……伝説の三剣士とはいえ、ちょっと悔しかったな」

「ぐっぐぐー」

 

 こうして混沌の化身とグランドドラゴンを倒した12人は、

 古のものがいる場所へと進んでいった。

 それを阻むように、魔物が次々と目の前に現れる。

「アルル! ここは私に任せなさい!」

「えっ!?」

 すると突然、ルルーがアルルの前に立った。

「あんたはそこにいる人達と一緒に、古のものって奴にガツンと一発食らわせるのよ!」

 どうやら、この場にいる魔物は、全て仲間達が相手してくれるらしい。

 ルルーの掛け声に乗ったのか、シグ、まぐろ、レイリーも彼女に付き添うように立つ。

「アミティのじゃまはさせないー、相手してやるー」

「悪いけど、りんごちゃんの願いを叶えるためにも、時間稼ぎに付き合ってもらうよ★」

「わたしは……おまえなんかに絶対負けないのだ! アリアはわたしを信じているのだ。

 だからわたしも、アリアを信じて勝つのだ!」

 シグ、まぐろ、レイリーが右手を掲げて魔物と戦う準備に入る。

 もちろん、まぐろとレイリーは、あらかじめ武器を抜いていた。

「トライブレードは勇者だけど」

「やっぱり、最後はアナタ達に任せないと、ね」

「オレはルルーも世界も大切にしたいけど、それと同じように、キミ達を大切にしたい」

「君達が希望の光とならんことを。必ず……勝って帰ってくるんだぞ」

 続いて、トライブレードとカインも、

 アルル達を庇うように武器を抜き、魔物の前に立ち塞がった。

「みんな……」

「ありがとうございます……」

「こんなに頼れる仲間がいるなんて……」

「信じられ、ますね……」

 頼もしい仲間の存在に、アルル、アミティ、りんご、アリアの目から少し涙が零れる。

 四人はうん、と頷いた後、奥へ奥へと走り出す。

 

「さあ、勝負だ! かかってこい!」

「トライブレード最後の活躍、いっくよー!」

「アタシ達を怒らせるとどうなるか、アンタ達に教えてあ・げ・る・わ・よ」

「伊達に人類史上最強の剣士と呼ばれていない事を思い知らせてやろう」

 

 アルル、アミティ、りんご、アリアの四人は、ようやく次元の狭間の最奥に辿り着いた。

 しかし、そこには何もなかった。

「何もありませんね……」

 りんごはうーんと顎に手を当てており、アリアも何か考え事をしていた。

 すると、アミティが何かに気づいたらしく、それがある方向を指差した。

「ねえねえ、これ見て。何か小さい穴があるよ」

「あ……ホントだ!」

 りんごの目には、僅かに開いた次元の歪みが映っていた。

「よく見つけましたね、アミティ!」

「えへへ、ありがとう」

「でも、そこが敵の住む場所なら、どうやって通れるんでしょう……」

 次元の歪みは、四人が入れるような大きさではなかった。

 どうすればいいかを考えていると、突然、カーバンクルがとてとてと歩き出す。

「カーくん?」

「ぐ……ぐーーーーーーーーーーーーっ!!

 カーバンクルの額の宝石、ルベルクラクが光ったかと思うと、

 そこから真っ赤なビームが発射された。

 ビームが次元の歪みに命中すると、次元の歪みは大きく開き、人一人が入れる大きさになった。

「次元の歪みが開いた! 凄いよ、カーくん!」

「ぐっぐぐーぐ!」

 次元の歪みを開けてくれたカーバンクルに、アルルは大いに感謝した。

 カーバンクルのビームはいつ発射するのかは気まぐれだが、

 それが彼女達が歩む道を開いてくれる事は、他の三人にも分かった。

 

「……いよいよ、だね……」

 この中に入れば、もう二度と戻れなくなるかもしれない。

 もしかしたら、空間の中で息絶えてしまうかもしれない。

 りんごは、そう思ったのか身体を震わせた。

「どうしましたか、りんごさん?」

「怖いです……。もし、二度と戻れなくなったなら……」

「大丈夫です。私達を信じてください。古のものは必ず倒せますから。

 だから、怯えないでください」

 怖気づくりんごをアリアは優しく励ました。

「はい……分かりました!」

 りんごは頷くと、真っ直ぐ次元の歪みを向いた。

 アルル、アミティ、アリア、カーバンクルも、

 彼女に合わせて次元の歪みの方に目線を合わせ、そして互いに目配せして頷く。

 

「よし……みんな、行くよ!」

「「「せーの!!」」」

 アルルの号令で、アルル、アミティ、りんご、アリアは次元の歪みに飛び込んだ。

 カーバンクルも遅れて次元の歪みに入った。

 

 四人が飛び込んだ空間は、まるで宇宙空間のように重力がなかった。

 全員が空中に浮かんでいて、地面すら把握できないが、

 四人は落ち着いて辺りを見渡し、真っ直ぐ進んでいった。

 すると、四人は人の形をした、しかし人とは程遠い何かを発見した。

「貴方が……ラスボス、古のものですね!」

「左様」

「ボク、本気を出すからね」

「ぐぐー」

 そこにいたのは、この世界で起きた異変の黒幕、古のものだった。

 アルルは全力を出すために、杖を抜く。

 古のものはアルルとりんごの声を聞くと高く浮かび上がり、四人の頭の中に声をかけてきた。

「う……これは、テレパシー!?」

「小娘よ……ここまで来たからには、我の望み――この世の浄化を止めるという事だな?」

「あ……当たり前だよ! この世界が滅びるわけにはいかないからね!」

 古のものが望むのはこの世の浄化……すなわち、世界を滅ぼす事である。

 そんな事はさせないと、アミティは古のものを止めようとしたが、

 古のものは悲しそうな声で語りかける。

「我は悲しんでいるのだ」

「何……?」

「古きものを好み、新しきものを貶す者。新しきものを好み、古きものを貶す者。

 国を背負うはずの国民の堕落。他者を労わず、ただ働かせるだけの姿勢。

 このような闇に光を照らそうと、人は誰かのために動くだろう。

 しかし、人の為と書いて偽と読む。

 誰かのために動こうとも、欲が勝り、結果的には誰かを、ひいては自身をも破滅させる。

 これだけで、人が世を汚くしている事は確実だ。

 ……美しき世は、失われた。もう、こんな穢れた世に価値などない。

 故に、この世を浄化する事を決めたのだ」

「だけど、それを良くしていくのも人なんだよ!

 みんなを殺しちゃったら、もう二度とこの世界は良くならないんだよ!」

 アミティが反論するが、古のものは首を横に振る。

「最早国民は今の世に、将来に、希望を持たぬ。期待していた我は、完全に失望した。

 己自身の手で滅びを迎える前に、我自らが滅ぼそうではないか」

 放置して人類が自滅する前に、古のもの自身が人類を、世界を滅ぼす。

 それが、古のものの望みなのだ。

 

破滅で世界を救おうだなんて、そんなの本末転倒だよ!

ぐーぐぐー!

 しかし、アルルは古のものの望みを、カーバンクルと共に真っ向から否定した。

 そして、古のものに強くこう言った。

「キミは、世界を滅ぼした後は、どうするの?」

「世界をもう一度作り直すのだ。もう二度と、絶望が生まれないように。

 愚かな人が、生まれないように」

「作り直すって……じゃあ、みんなをキミの思い通りに動く人形にするって事なの?

 そんなのって……嫌だよ!」

「みんなが貴方の定めた通りに生きる。つまり、可能性がなくなるなんて、面白くないです!」

 全てが分かり切った事しか起こらない世界は、アミティとりんごにとっては空しいものだ。

 二人はどんなものが出てくるのか分からず、

 また、可能性にも満ちている、今の世界を望んでいるのだ。

「可能性とは即ち危険性でもある。だから世界は腐っているのだ!」

 それでも古のものは頑として譲らない。

 アリアは杖を構え、古のものに向けてこう言った。

「確かにあなたの言う通り、世界は腐っています。ですが、それらは皆、どこかで繋がっている。

 だからこそ、世界は保たれているのです」

「私達は私達の世界を続けていきたい。

 貴方の独りよがりで、世界を変えていいわけがありません!」

 古のものがやろうとしている事は、結局は古のものの自己満足に過ぎない。

 そう思ったりんごも、古のものを倒すために本を取り出した。

 古のものは呆れて、ゆっくりと降りた後、哀れみの目を四人に向ける。

「そこまで汝らが言うのであれば……その思いが本物か、我自らが試すとしよう!!」

 古のものが叫ぶと、その姿は見る見るうちに変わっていき、

 三対の大きな黒い翼と赤い瞳が現れ、空間全体を覆うように巨大化していく。

 その姿は、まるで異世界に存在する「邪竜」のようだった。

 アルル、アミティ、りんご、アリアは、古のものの姿を見てごくりと唾を呑んだ。

 だが、これで怯むわけにはいかなかった。

 

これが……最後の戦いだよ!

 Aのイニシャルを持つ四人と、古のものの最終決戦が、始まった。




次回が最終決戦となります。


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39「決戦! 古のもの」

ラスボス戦です。
テイルズオブリバースのユリス戦をイメージしました。


 世界を滅ぼそうとする古のものとの決戦が、始まった。

 

「フェーゴブレイブ!」

 アリアは炎の精霊フェーゴを召喚し、四人の攻撃力と命中率を上げた。

 補助魔法により短期決戦に持ち込む作戦のようだ。

「キミの野望は、必ず食い止める! ファイヤー!」

「サイクロワール!」

「タンジェント!」

 アルルは炎の弾を発射し、古のものを牽制する。

 次にアミティが風の刃を次々と飛ばして古のものを足止めした後、

 りんごが雷を落として大ダメージを与えた。

「汝らの命を食らう」

 古のものは、開けば数mにも及ぶ巨大な顎で、手近な対象――アルルとりんごに噛み付いた。

「リバイア!」

「リフレクション!」

「シールド!」

「グランバリア!」

 四人は防御魔法で攻撃を防ごうとするが、牙がバリアに命中すると砕け散り、

 そのまま牙はアルルとりんごに突き刺さった。

 刺さった部分から血が流れ出し、アルルとりんごは痛みに悶絶する。

「い、痛い……!」

「ただの中学生にはとんでもない痛みです」

「魔法が使える時点で『ただの』とは言い難いですが、まあいいでしょう。ヒーリングオール!」

 アリアは光の精霊ルフィーネを召喚し、アルルとりんごの体力を回復した。

「汝らの力は、その程度か。もっと我に傷をつけるがいい」

「言われなくても……! アイスストーム!」

 古のものの挑発に乗ったアルルは、吹雪を起こして古のものを凍らせようとした。

 だが、古のものがバリアを張ったため、アルルの魔法は阻まれた。

「その程度の魔法、我には傷一つつかない」

「やってみなきゃ分からないでしょ! ブラストビート!」

 アミティは風の塊を放ったが、やはり古のものにダメージは通らない。

「コサイン!」

「ミスティボール!」

 りんごは電気を放ち、アリアは水の弾丸で古のもののバリアに攻撃する。

 古のものは闇の波動により、アルル達の動きを止めた後、口から暗黒火炎のブレスを吐いた。

「「うわああああああ!」」

「「きゃああああああ!」」

 四人はブレスに飲み込まれ、大ダメージを受ける。

 一方、古のものの体力は、まだたっぷりと残っていて、余裕な態度を見せていた。

 流石は神と呼ばれし古のものである。

 だが四人も、世界や自身のためにも、負けるわけにはいかなかった。

 

「あたしは、キミに勝って、プリンプタウンに帰りたいんだ! アクセル、ブ・ブリザード!」

 アミティは増幅呪文を唱え、猛烈な吹雪を起こし、古のもののバリアを剥がそうとする。

 彼女の攻撃が功を成したのか、古のもののバリアが弱まっていった。

「タンジェント!」

「エアウィンド!」

 さらに、りんごは古のもののバリアが剥がれた部分に雷の球を撃ち、

 アリアは風の精霊エアを召喚して疾風により追撃していく。

「ダイアキュート、ダイアキュート、ブ・ブ・ブレインダムド!」

 そして、アルルが増幅呪文を二段重ねしたブレインダムドを発動すると、

 古のものを守っていたバリアが砕け散り、同時に古のものの体勢が崩れた。

「やったぁ! バリアを壊した!」

「ぐっぐー!」

 バリアを破壊したため、アルルとカーバンクルは喜んだ。

 古のものは体勢を整え直すと、不気味な声で四人に語りかけた。

「我の結界を崩したか……。ならば、汝らに手番を譲ろう。だが、次はこうならないと思え……」

 四人は、次に来る事を察知して、ごくりと唾を呑んだ。

 

「何か、とんでもない攻撃が来るかもしれない……。でも、準備をしっかりすれば大丈夫だよ!」

「そうですね……ミスティプロテクション!」

 アリアは水野精霊ミスティを召喚して、全員の防御力と魔法防御力を高めた。

「確実に当てるよ、マジックミサイル!」

 アルルは動き回る古のものに攻撃を当てるために、

 追尾魔法を唱え無数の魔法の矢を古のものに撃つ。

「エクリクシス!」

 アミティは光の球を放ち、それが古のものに命中すると大爆発を起こす。

「インテグラル!」

「エアトルネード!」

 さらに、りんごとアリアが次々と上級魔法を古のものに叩き込み、体力を大きく減らした。

 

「あと少しで古のものを倒せるよ!」

「世界はいよいよ、救われます……!」

「次はこうならないというのは、やっぱり嘘でしたか?」

 アミティ、りんご、アリアは、古のものをもうすぐ倒せそうだ、と喜んだ。

(……? どうして、攻撃をかわしてないんだろう……)

 しかし、アルルだけは、

 古のものが防御も抵抗もせずに攻撃を受けているのに違和感を抱いていた。

 アルルは古のものならば、魔法をかわしきった後に、

 強烈な攻撃を叩き込んで瀕死にすると読んだ。

 だが、古のものは攻撃をかわさなかった……そのためアルルの中にもやもやした何かが現れる。

 

「フフフフ……」

 すると、古のものが不気味な笑い声を出した。

「な、何がおかしいの!?」

「我は、この時を待っていたのだ!」

 古のものは巨大な顎を開き、魔力を吸い込んだ。

 すると、空間全体が地震のように揺れ、古のものの周囲に強大なエネルギーが現れた。

「汝らが我に与えた攻撃魔法の威力を、全て我が魔力に変えているのだ」

 そう……古のものが攻撃を避けなかったのは、大魔法のエネルギーを溜めるためだったのだ。

「させません!」

 りんごが古のものに突っ込んでいくが、膨大な魔力に阻まれて吹き飛ばされる。

「ばよえ~ん!」

「そんなものか」

 アミティが相手を感動させる魔法を使うも、古のものには効果がなかった。

「……何も、できないのですか……!?」

 アリアは、ただ相手の様子を伺っていた。

「永遠なる世界となるがいい! エタニティワールド!!」

 そして、古のものが口から魔力を吐くと、

 莫大なエネルギーがビッグバンを思わせる大爆発を起こした。

 攻撃が来る直前に、アリアが張ったバリアが四人の前に現れる。

 しかし、あまりにも威力が桁違いだったため、バリアは砕け散る。

 そして、全てのエネルギーが放たれると、この空間の中にいたのは、

 宙に浮いた古のものと、致命傷を負ったアルル、アミティ、りんご、アリアになった。

 

「……」

 四人は体力も精神力もボロボロになり、最早完全に戦意を失うのも時間の問題となった。

 立ち上がろうにもできず、また、まともに魔法を使えない状況ではその行動は無意味だった。

 

……ない……で……

 ふと、四人の目の前に、セイバー、エッジ、ソード、カインの幻影が現れる。

 さらに、ルルーやシグなど、一緒についてきた仲間達の幻影も現れる。

(ああ、これが死ぬ間際に見る、幻なのかな……)

(シグ……みんな……ごめんね……。あたし、古のものに勝てそうにないよ……)

(このまま、世界は滅ぶのでしょうか……)

(でも……ゆっくり休むのも、悪くはありませんね……)

 四人は永遠の安らぎに身を委ねようとした――

 

 その時だった。

 

諦めないで!!

「み……んな!?」

 なんと、八人の幻影が、実体と見紛うように鮮明な姿で現れた。

「大丈夫だ、魔物はみんな倒した」

「だから、アタシ達が力を振り絞って、向こうにいるアナタ達に思念を送ったわ」

「私達は君達を信じている。だから、君達も私達を信じてくれ」

 トライブレードの表情は、今の絶望的な状況を打開するためか、希望に満ち溢れていた。

「アルル! しょ気てるんじゃないわよ! あんたが負けたら誰もあいつを倒せなくなるのよ!」

「アミティー、絶対にまけるなー。約束はちゃんと守れー」

「あっれ~? りんごちゃんはこんなところですぐに諦めちゃうのかな?」

「アリア! わたしはきみを信じているのだ!

 だから、諦めるのは早いのだ! 希望の光は消えていないのだ!」

 続いて、ルルー、シグ、まぐろ、レイリーが四人を励ます。

 彼らは、アルル、アミティ、りんご、アリアが古のものに勝つ事を信じているのだ。

 仲間達の表情を見て、アルル達の表情に明るさが戻ってくる。

「みんなが応援している……」

「あたしを信じてくれている……」

「こんな人の約束を破っちゃうなんて……」

「絶対、ダメ、です、ね……」

 四人はゆっくりと身体を起き上がらせる。

 すると、八つの幻影が光り出し、四人の中に吸い込まれていった。

「……これ、は……」

「体中の傷が治っていきます!」

「それだけじゃない、魔力と精神力も!」

「みんな……ありがとうございます……」

 四人の傷と魔力は見る見るうちに回復し、さらに不安や絶望などの負の感情も消えていく。

 八人の、アルル達を信じる思いが、彼女達の心身を完全に癒したのだ。

「……完全に回復したか。だが、それだけで我を倒せるとでも?」

「みんなで力を合わせてキミに勝つ! ジュゲム!」

 そう言って、アルルは杖から光の弾を放ち、古のものに当てて爆発を起こす。

 古のものは巨体を生かして爪を振りかざし、四人の身体を切り裂こうとした。

「リバイア!」

 しかし、アルルが瞬時に周囲にバリアを発生させて攻撃を防ぐ。

ガァァァァァァァァァ

「アクティーナ!」

 古のものは続けて大きく開いた口から暗黒のブレスを吐く。

 その攻撃をアミティはかわし、光線を連射して古のものを貫く。

「我が風の津波を受けよ!」

「パーミテーション!」

「ルフィーネレイ!」

 古のものは翼を大きく羽ばたかせ、それに呼応して風が四人に牙を剥く。

 それに対し、りんごは花弁を散らす魔法で防ぎ、

 さらにアリアが光の精霊ルフィーネを召喚して極太の光線を放つ。

「食らえ……」

「「ダブル・ばよえ~ん!」」

 古のものが噛みつこうとすると、アミティが花弁を散らして動きを止めた後、

 アルルがたくさんのおじゃまぷよを降らせ、とどめに太陽ぷよを落とし大ダメージを与えた。

「我が……押されている……?」

「ルフィーネジャッジメント!」

 アリアは空中に浮き上がった後、天空から古のものに無数の光線を落とした。

「効かないな」

「果たしてそうですか? インテグラル!」

「ぐあぁぁぁ!」

 古のものは光線を全てかわすが、かわした方向にはりんごがいて、

 りんごは思いっきり本を古のものに叩きつけた。

 すると、古のものの様子がおかしくなった。

 

「……見事だ……!」

 古のものの姿が、人の形をした何かに戻っていく。

 アルル達に追い詰められた事で、世界を滅ぼそうとする意志を失っていたのだ。

「……よし! 古のものは滅びの意志を失った。後は、ボクが何とかするよ!」

 そう言って、アルルは古のものに近付いた。

 すると、古のものは哀れむようにアルルに語り掛けた。

「待て」

「どうしたの? もうキミは、戦えないんだよ?」

「思い出せ……あの言葉を……」

「え……!?」

ぐー!? ぐっぐぐーぐ!?

 古のものに言われ、アルルは思い出す。

 そうだ……古のものを倒す事だけを考えていて、後の事は忘れてしまった……と気付く。

 

『だから、君達にできる事は2つだけ。

 次元の裂け目に行って古のものを倒すか、古のものの支配を受け入れるかだよ』

『どういう事?』

『古のものを倒せば世界は解放される。

 だけど、何か悪い事が起こっても二度と大いなる者は助けてくれなくなる。

 古のものが支配すれば世界は平和になる。でも、それは偽りの神に全てを委ねる事になる』

 

「つまり……キミを倒したら、ヒトだけで生きていくって事なの……!?」

「左様。ようやく気付いたようだな。我の処遇で、この世界の未来がどうなるかを。

 最後の最後だというのに……汝は、肝心な部分で愚かだな」

「あ……ああ……あ……」

 アルルは、最後の最後で衝撃を受けた。

 ヒトを信じるか、神を信じるか……その選択によって、未来は変わる。

 どちらが最善か……それは、誰にも分からない。

 

「……ボク、は……」

 果たして、アルルが選んだ「選択」は――




次回が魔導物語SCの最終回です。
二つの結末を描いた、この物語を見届けてください。


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40「二つの結末」

某ゲームを元にしたため、結末は二つになっています。
それはどちらも正しく、どちらも間違っているのです。

アルルが選んだ選択は……。


 ――神を討たない場合。

 

「……ごめん、やっぱり、ボクには神様なんて、倒せないよ……」

 アルルはからん、と杖を地面に落とした。

「……我を討たないのか」

「考えてみれば、ボク達だけじゃ、世界はどうにもならないよ。

 だって現に、キミが住む現実世界のニホンは、もう終わりかけてるし……」

「そ、そんなわけ……!」

 最早、アルルに戦意はなかった。

 りんごは彼女を止めようとするが、アルルは「もういいよ」と諦めたように吐き捨て、

 そして古のものにこう言った。

「ねえ、神様……古のもの、だったよね? こんな腐った人類と世界、キミに全部あげるよ。

 キミならきっと、世界を良くできるよね?」

「うむ……」

「ぐー! ぐーぐ、ぐぐっぐー!」

 カーバンクルは「やめて」とでも言うようにアルルにしがみつく。

 しかし、アルルの意志は揺るがなかった。

 古のものはアルルの言葉を受け取り、頷く。

「汝の意志、しかと受け取った。これより、我、古のものは、この世界を再構築する――!」

 

 そして、世界は古のものに支配された――

 

 古のものの統治下において、人は己の欲のために動く事はなくなった。

 美しい自然が広がり、景気も良くなり、戦争も、差別も、偏見も、全て存在しない。

 それが、この再構築された世界の日常だ。

 

「カーくん、今日のカレーは美味しいね♪」

「ぐー♪」

 アルルは、いつものようにカーバンクルと共にカレーを食べていた。

 ルルーとシェゾは、いつものようにわちゃわちゃと痴話をしている。

「あ、また騒いでる。やっぱり喧嘩友達だな」

 笑いながらアルルが二人を見ていると、空から角の生えた男が現れた。

 自称アルルのフィアンセ、サタンだ。

「アルル! それにカーバンクルちゃんも! 私と星空のハネムーン☆に」

「却下」

「ぐーぐ」

 サタンの求婚をアルルはプイっと無視した。

 これも、いつも通りの光景だ。

「今日こそ、あたしと決着を……」

「まさか、美少女コンテストの!?」

「ふふん、あたしの美しさに敵うと思って……じゃなーいっ!! ぷよ勝負よっ!」

 ドラコが、いつものようにアルルに勝負を吹っかけてくる。

 アルルはやれやれといった様子で、彼女と勝負をした。

 

 一方、アミティが暮らすプリンプタウンでは。

「では、1時間目、魔導学の授業を始めます」

 プリンプ魔導学校の1組で、アコール先生がいつものように授業をする。

 今頃2組では、同じような授業を受けているだろう。

「ふむふむ……なるほど……」

(平和だねぇ。何も波風は立たない……ううん、立てないんじゃないかな?)

(ZZZ……)

 クルークが真面目に話を聞いている中、ぼんやりしているアミティと、

 目を開けて寝ているシグを見たアコール先生は、眼鏡を光らせて二人にチョークを投げる。

「いったぁ!」

「なにをする」

「アミティさん……シグ君……授業はちゃんと聞いてくださいね」

 アコール先生はニコニコ笑っていたが、閉じている目は笑っていないのだろう。

 アミティとシグは怯えながら、アコール先生の方を向いて彼女の話を聞くのだった。

 

 一方、りんごが暮らすチキュウでは。

「へえー。○○と××が婚約したって。結ばれるといいですね」

 りんごは、チキュウの自宅で新聞を読んでいた。

 隅々まで読んでいるが、以前は見慣れていた暗いニュースは全くなく、

 明るくて読みやすい新聞となっていた。

「本当に、チキュウは平和になったんだなぁ……」

 窓から外を見ると、美しい自然が広がっていた。

 動物達の鳴き声も聞こえてきて、

 まるで、この世界にいながらファンタジーの世界にいるようだ。

 何の苦しみもなく、誰も彼もが幸せに暮らしている……これが、今のチキュウだ。

 

「まぐろ君、りすせんぱい、おはようございます」

「やあ、おはよう」

「おはよう、あんどうりんご君」

 りんごは自宅を出て、まぐろとりすくませんぱいと合流する。

 いつものように、三人で学校に向かうのだ。

「本当に、平和になったね」

「はい。今も昔もチキュウは平和です」

 古のものが思考も作り変えているためか、

 今の三人には最初から平和だという記憶しかなかった。

「おっと! 立ち止まってはいけないんでした。早く学校に行かなきゃ!」

「そうだね」

「では、帰りにまた会おう」

 

「……平和、ですね……」

 アリアは、古のものに支配されたプリンプタウンの、ふれあい広場のベンチに座っていた。

 元々、大きな異変以外の事件が少なかったプリンプタウン。

 いずれ、このプリンプタウンでも、戦う必要が完全になくなり、

 大規模な攻撃魔法は衰退していくだろう、とアリアは感じた。

 五人の精霊も、古のものが力を強めた事で力を失い、

 小さくなっていくのも、アリアには感じ取れた。

「アリア、何をぼんやりしている」

「あ、ジルヴァ……ごめんなさい。私、もう戦えないかもしれません」

 ジルヴァがアリアの隣に座る。

 彼はアリアが困った表情になったのを見て、心配なのかアリアに声をかける。

「世界は平和になりました。でも……本当によかったんでしょうか」

「何を言う、平和はいいんだろう?」

「誰かが支配した形での平和って、本当に平和なんでしょうか……」

 確かに、全ての世界は平和になった。

 しかし、大きな存在が支配し、正しく導いているからの平和だ。

 アリアは、そんなものは平和ではないと思ったのだ。

「まったく、お前は14歳の癖に考えすぎだ。少しはあの赤ぷよ帽の女を見習え」

「おや、アミティさんを見習えというのは、珍しいですね」

「考えすぎると疲れるからだ。頭を休ませろ」

「……はい、分かりました……」

 アリアはジルヴァの言葉に従い、今はこの平和な世界に生きる事にした。

 

 所変わり、異世界にて。

「……失敗した。世界は平和になったが、守る事はできなかった」

 この世界にとっての異世界に戻ってきたトライブレードは、

 今回の出来事のレポートを書いていた。

 古のものを倒せず、世界が彼に支配されて平和になった、と。

「え、失敗? なんでそう書くのよ。平和な世界になったんでしょう?」

 ソードがそう言うと、セイバーは首を横に振った。

勇者(わたしたち)の使命は、今の世界を守る事。

 たとえ悪い未来になるとしても、世界を大きく変えようとするものは、

 排除しなきゃいけないんだよ」

「だから、失敗したと書いたのね」

「そうだよ。はぁ……だから、勇者っていうのは、こんな事もしなきゃいけないのさ」

 セイバーは、レポートを書きながら溜息をついた。

 勇者、それは勇気ある者の事を指す。

 彼らにとって大切なものを守るために、どんなに強大な敵にも勇気をもって立ち向かう者。

 たとえ、潰れるほど重い使命や、多くの命を救うために人間を滅ぼす使命を背負っても、

 勇者が勇気を失えば、勇者ではなくなるのだ。

「まあ、平和にはなったし、何より、オレ達はそこまで頑張ったんだ。結果オーライだろ?」

「エッジ……」

「それに、古のものが暴走したら、また止めればいい。私達はそのために勇者になったんだから」

「父さん……」

 エッジと父カインが、落ち込むセイバーを元気付ける。

「……そうだね。ありがとう。じゃ、これを書き終わったら、私は少し休むからね!」

 

 ――たとえ、神が管理する仮初の平和だとしても。

 ――四人の勇者が、任務に失敗したとしても。

 ようやく、世界は完全に平和になったのだから、この幸せを謳歌しようではないか。

 アルル、アミティ、りんご、アリアは、

 神が築いたこの永遠の楽園の中で、いつまでも幸せに暮らすのであった。

 

 魔導物語 Seven Catastrophe

 ~神による新たな時代~

 

 完

 

 ――神を討つ場合。

 

「……こんな我儘な奴に支配される世界なんて、ボクはもう、嫌だ!」

 アルルは毅然とした表情で古のものに杖を向けた。

「我儘な奴……だと?」

「そうだよ!

 いくら世界を良くしたいと言っても、キミみたいな我儘な奴じゃ、すぐにダメになっちゃう!」

 古のものは、世界を滅ぼし、新しく作り直す事で自分にとって良い世界を作ろうとした。

 だが、そんな事をしても、また悲劇が繰り返されるだけだ……。

「それに、あたしは他に世界を平和にする方法を知りたい。

 今はまだ分からないけど、いつか必ず見つける!」

「それを見つける前に世界をもう一度やり直すのは、まっぴらごめんです!」

「私達は、人の可能性を信じます。だから……」

 四人は頷き合うと、呪文を詠唱し、古のものにとどめを刺す準備に入る。

 

あなたを倒します! レインボーブレイカー!!

私は、私自身の手で未来を掴み取る! パーミテーション!!

自分で答えを見つけるのが最高の結末だよ! ルミネシオン!!

ボクが欲しいのは今だけだ! ばよえ~ん!!

ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!

 四人の思いがこもった大魔法が、古のものにとどめを刺した。

 

 そして、古のものは倒れ、世界は彼の脅威から救われた――

 

「……終わった、んだ」

 全ての戦いは、終わった。

 それにより次元の裂け目が消え、アルル達は不思議な力で元の場所に戻っていた。

 世界を支配しかけていた古のものが消えた事で、この世界は人の手に委ねられる事になった。

「うん……終わったね」

 古のものという大いなる存在がいなくなり、新たな世を託す事となった、人。

 それは、世界を支える者が、大いなる者から、小さき人へ代替わりする、一大転機。

 かつての神話時代と、今の人の時代のようだった。

「……という事は……」

 古のものが消えた事で、

 これからは、何か悪い事が起こっても大いなる者が助けてくれる事はない。

 もしも、人が道を外せば、この世界は「本当に」滅んでしまう――

 だからこそ、今を一生懸命に生きなければ、と四人は思った。

「今度からは、私達がしっかりする必要があるようですね」

「ぐっぐぐー」

「すぐには上手くいかなくても、みんなが力を合わせれば、きっと、世界は良くなるよ」

 世界がこれからどうなるのかは分からない。

 唯一分かっているのは、人が秩序を作る、という事だけ。

 人が正しく生きれば、世界は正しくあり続ける。

 そうある事を、四人はずっと願っていた。

 

「これからは、ボク達が世界を支えていく番だ」

「だから、キミはゆっくり休んでいてね」

「大丈夫です、もう安心してください」

「私達が、これからの未来を紡いでいきますから」

 

「まったく、復興作業も大変だな」

「そうだね~。ま、これもさぼった報いからかな?」

 サタンとエコロが瓦礫を運んでいき、アコール先生がくすくすと笑いながら見守る。

 カタストロファーセブンや魔物、古のものの攻撃によってボロボロになった世界は、

 住民の懸命な復興作業によって少しずつ元に戻っていった。

 被害は大きかったが、だからこそ、「協力する」という心が求められるのだ。

 

「もう、神様はいないのね……」

「ええ。でも、神様はいつでも私達を見守っている。そうよね、アージス隊長?」

「ああ……。もう、彼らの役割は終わった」

「今度は僕達人が背負っていく番、というわけだね」

「そうだな」

 フェーリ、レムレス、リレシル、そして魔導守護隊長アージスが天を仰ぐ。

 古のものを失い、アルカディアは以前とは確実に異なる、新たな世界を迎えた。

 人々も、大いなる者に縋れなくなった事で、この世界に責任を持ち始めていた。

 そう、世界は人と共に、良くなっているのだ。

 

「あれ? トライブレードのみんなはどこに行ったの?」

「ああ……それなら、こんな手紙が届いてますわよ」

 そう言って、ルルーはアルルに手紙を渡した。

 その手紙には、こう書かれていた。

 

 私達は、世界の「今」を守るという勇者の使命を果たしました

 でも、この手紙が届いている頃には、この世界にはもう私達は現れないでしょう

 何故なら、私達はもう、この世界を救うという役目を終えましたから

 でも、安心してください

 私達はずっと、この世界の外から君達を見守っていますよ

 トライブレードの代表 セイバーから

 私の友達 アルルに宛てる

 

「……セイ、バー……」

 手紙を読んだアルルが、涙をぽたぽたと流す。

 紙にはアルルが流した涙が落ち、濡れていった。

「ちょっと、アルル、なんで泣いてますの?」

「だって……ボク、やっと分かったんだよ……。ボクとセイバーが、友達だって事を……!」

 自分の父親がそうだったように、本当に大切な人なら、ちゃんと手紙をよこしてくれる。

 つまり、セイバーは、『アルル』の事を、

 別世界の存在ながらちゃんと大事に思ってくれていた事が証明されたのだ。

「ま、二度と会えなくても、セイバーや父、ソード、それにカインは絶対に死にませんわよ?」

「あいつらは『勇気ある者』だもんな。どんな事があっても勇気を捨てたりしないさ。

 お前のように、な」

 そう言って、シェゾはアルルの肩に手を置いた。

「ちょ、シェゾ! ボクはこっちじゃ勇者じゃない、ただの見習い魔導師だよ!」

「あはは、アルル顔が赤くなってる~」

「本当だ、照れてますか?」

「ふふっ」

「アミティにりんごにアリアまで、ボクをからかわないでよ~~~!!」

「ぐぐぐぐ~~~!!」

 三人にからかわれるアルルは、ぷんぷんと湯気を立てるのだった。

 今、アルルの味方は、カーバンクルだけだった。

 

 所変わり、異世界にて。

「世界を古のものから救う事に成功。

 これにより、プリンプタウン、魔導世界、チキュウは人の世界となる」

 この世界にとっての異世界に戻ってきたトライブレードは、

 今回の出来事のレポートを書いていた。

 古のものを倒し、世界を救った、と。

「ふふ、世界を救えてよかったわね」

 ソードは微笑みながらそう言った。

 セイバーとエッジも彼に釣られて笑みを浮かべる。

「これからは人類(わたしたち)が世界を支えていく時代だ。ちょうど、神々の時代が終わったみたいに、ね」

 数万年前は、神や竜などの大いなる者が世界を支配していたが、今は人の時代になっている。

 それと同じだとセイバーは言っているのだ。

「そうだな……この世界と同じだ、な。どこも、時代の流れには逆らえないんだな」

 エッジはふぅ、と溜息をついた。

 時間は前にしか進まない、すなわち時代の流れには逆らえない。

 無理にせき止めれば、世界は壊れてしまうだろう。

 だから、今の現実をそのまま受け止める事が、彼らにできる唯一の事なのだ。

「これからの世界がどうなるかは誰にも分からない」

「でも、人の気持ちはだんだん良くなっている」

「この気持ちがずっと続けばいいんだけどね」

「私は信じているさ。人の強さ、人の輝きを。

 人は一人ではただの明かりだけど、集まれば世界を照らす光源となるよ」

 

 ――世界は、古のもののの手から解放された。

 ――時代は、確実に変わっていった。

 それでも、人は大いなる者の力を借りずとも、世界をより良くできるだろう。

 アルル、アミティ、りんご、アリアは、

 人の時代となった世界を守るため、より一層努力をするのであった。

 

 魔導物語 Seven Catastrophe

 ~人による新たな時代~

 

 完




どちらが正史なのかは、皆様の想像にお任せします。
というわけで、魔導物語のカタストロファー編セガぷよアレンジは完結です。
読んでくださった方々、本当にありがとうございました。


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