世界は崩壊しましたが、人間は逞しく生きています (ヅダ神様)
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目が覚めたら異世界(と言ってよいくらい全てが変わった未来世界)ってマ?
―――――――――かつて人類は繁栄を極めていた
空を越えてそびえたつ摩天楼の数々と、宇宙と星とを繋ぐ軌道エレベーターが聳え立ち、軌道エレベーターには全長数Kmから数百Kmと言う巨大な船が行き交い、それらが星々の海へと出て、そこに住む人々と私達との間で交易を取り持ってくれていた
――――――――――――人類は国家ではなく、企業によって統治されていた
無限に広がるフロンティアたる宇宙を自分たちの利益のために食いつくそうと、企業が国家に対して反逆し、見事国家に勝利した「第3次世界大戦」後、人類は6つの企業に支配された
「ユニオン・フロンティア」「マーズ・ブロンデッド」「テラ・ユニバース」「ヤマト工業」「バレンシア・インダストリーズ」「シンギュラリティ」
―――――――――そして、世界を支配した彼らは、彼らの頂点を決めるために戦争を起こした
6企業は人類の生存圏全域を舞台に、企業の頂点…すなわち人類の王を決めるために「企業統一戦争」を起こした。その結果人類は総人口の9割と文明を失い衰退した
――――――――――それから1000年後、主人公は
地下12000mに作られた巨大な研究施設の最奥で、私は目を覚ました
自分は服を着ておらず、分かることは自分には記憶が無く。服を着ておらず全身緑色のスライムににた粘液にちかい液体まみれになっていた
「…ここは?」
徐々にだが自分の記憶を鮮明に思い出し始めていることに安堵しつつ、私は思い出した
来ているのは正面に南国のヤシの木とビーチを描いた絵がプリントされた灰色のアロハシャツにズボンの身と軽装だが
「…あれからどれくらいたった?」
部屋を見回しながら私はそう呟く。部屋は中央に私が入っていたであろう【液体保存形式型冬眠装置】のシリンダー型の本体があり、それを維持、運用するための様々な配線やケーブル、チューブなんかが天井と床から生えており、それ以外には本当に何もない、コンクリむき出しの殺風景な部屋となっている。一応部屋の照明自体は生きているのだが…
「…やはりダメか」
おもむろに右耳に右手を当てた私は、そう言ってため息を吐き出す。今やったのはこの施設の管理Aiを呼び出すためにネットワークにアクセスしようとしたのだが、基地のネットワークが遮断されていて何もできなかった。おかげで外界の情報の一切を入手できない。そのことにどうしたものかと私が頭をひねっていると、不意に何もない壁が突如盛り上がり、左にずれる。良く観ればそういうタイプの隔壁だと言うことが分かり、私はとりあえず罠でも踏み抜いて行こうの精神で隔壁を抜け、通路へと進んで行った
短いけどここまで、次回は2日後までに投稿します
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目が覚めたら異世界(と言ってよいくらい全てが変わった未来世界)ってマ? その2
隔壁を抜け通路に入る。通路は天井がかなり高く、壁の両側に天井から伸びる黒塗りのパイプ? らしき時たまバラバラのタイミングで脈動する何かが壁を埋め尽くすようにびっしりとある。後通路は手すり付きの金網の、人1人通れるくらいの広さで、金網から下は暗くて全く見えないので相当暗い。後照明がないはずなのに何故か明るい
「…こんな部屋だったか?」
いまだに記憶が朧気かもしれない、そう思いながらも通路を進む、しばらく進むと正面に壁が見えてくる。壁には穴が開いていて、ちようど大人1人がそのまま通れるくらいの広さで、四角形の穴だ
「…あぁ〜思い出してきた、これ抜けたその先だったか?」
と、独り言を呟きながら穴へと入る私、穴に入るとすぐ金網の道が終わり、私は3段の短い階段を降りてコンクリとも金属とも違う、しかし石のように硬い何かでできた穴に降りてそのまま通路を進む
しばらく進むと狭い穴の中が終わり、広い空間に出た、のだが
「いやこれ…え?」
穴に入る前と同じ金網の通路が空中に設置されているのだが空間がバカ広い、見た感じ最低でも5km以上かつ、天井までの高さは金網通路で300mくらい、下の床なら800mくらいの高さで、天井は四角形の模様が延々等間隔で彫られていて、無数に規則性を持ってそびえ立つ、おそらく天井を支えるための柱にも等間隔で線が引かれている、恐らくだが柱を一周する感じに彫られていると思われる。床は特に何も彫られていない
「俺の記憶にあるこの施設のどこにもこんなクソ広い場所はなかった…一体どうなってんだ?」
明らかに私の記憶にはない場所に困惑しながら、他に行く道もなく、私は両腕の
「ださいから変えたくないんだけどなぁ…」
と、愚痴をこぼした後、私は軽く数回ジャンプして体のパフォーマンスを確認した後
「ッシ!」
と、掛け声と共に勢いよく駆け出す。駆け出す瞬間に空気を引き裂く衝撃波と共に金網通路が抉れる様に吹き飛ふが、通路自体は少しも揺れることも何もなく、抉れた箇所が一瞬にして修復される
「まだ本調子じゃないか」
と、内心思い通りに動いてくれない鈍りきった身体に不満を抱きながら、それ前提での戦い方を考えながら走り続ける。すると5分ほどで金網通路の終わりであろう真っ黒い…金属? の壁が現れる
「…ぶち抜くか」
目測後500mほどで到達するところでそう呟いた私は、左腕の武器を使おうとするも、正面の壁が装置の壁が開いた時同様金網通路の正面の部分だけが競り上がり、ゆっくりと左にずれて、中が見える
中も壁の表面と同じく真っ黒で全く先が見えない
「…」
暗視機能を駆使しても全く先が見えない空間に私は躊躇なく飛び込む。金網通路と壁との間には100m程の開きがあるが難なく飛び越え、着地の瞬間に素早く前転して衝撃を受け流しつつ、そのまま奥へと走る
「閉まるか?」
後ろの壁が着地の瞬間にはもう閉じ始めており、私は聴覚機能の一部を解放して走る自分の足音の反響を利用して何も見えないこの空間の詳細な構造と空間を把握しながら速度を緩めずに走っていると
「一部反響が変わった、3か所」
両腕の模様の赤い輝きがほのかに強くなる
「反響位置と箇所が変わり続けてる。動いたな? この駆動音…に高周波ブレードの振動音も聞こえるな、ジェミニナイトか」
私がそう断定した直後、暗闇から一筋の光が私へと迫る
「ッ!」
私へと放たれた対装甲目標用の高出力レーザーの赤い光が直撃する直前、私は獰猛な笑みを浮かべると右腕の赤い模様から同じ色の光が溢れ出す。そのまま私は右腕でレーザーを防ぐ。すると暗闇から私の右腕の光に照らされ、白銀の巨人が現れる
全長約4m、常人の数倍はあろう巨人は、発達した胸部から肩、そしてそこから引き締まる腰回りと、それを支える下半身はやや細身ながらも引き締まった足をもつその巨人は全身を白銀の装甲で覆っていた。頭頂部に装飾らしき羽飾りをつけており、人間でいう目にあたる部分と口に合わせる部分を合わせたT字型のバイザーの様なものをつけている。そして関節や体の動きを妨げないようインナースーツに似たもので関節部などを保護しており、左手にはシールド、もう片方の手には高周波のロングソードを構えている
「っとぉ!?」
反射的に両足をブレーキがわりに急停止しながらほぼ地面と平行になるまで上半身をそらせる。すると私の眼前を白い輝きと共に独特なバイブレーションを伴った分厚い両刃の刃が私の眼前を通り過ぎる
「ッシィ!!」
そのまま両手を地面につけて支えとし、振り切られた剣を持つ巨人の、私の胴とほぼ同じ大きさの腕に両足を巻き付けて一度体勢を立て直すと、巨人がその腕になる私を壁に叩きつけるよりも早く、両腕を巨人の鳩尾へと突き出し、武器を起動する
すると両腕に纏われていた光が巨人へと放出され、一瞬の抵抗の後巨人の
白銀の装甲を蒸発させ、巨人の胴体に巨大な穴を穿つ
巨人はそれを受け、バイザーを数度点滅させた後に機能を停止し、私は続け様に奥から巨人の亡骸ごと私を殺そうと両手に持ち替えたロングソードを私へと振りかぶる
「ッ!?」
反射的に支えとしていた亡骸の腕から床に飛んで攻撃を回避し、亡骸は同じ巨人の持つ武器によりまるでチーズの様に動体をスライスされて宙を舞い、私は巨人から噴出した透明な擬似血液を頭、顔、背中に振りかけられるが無視して左手で身体を支え、右手を巨人へと突き出すも、もう一体の巨人が私の真上から両手に持ったロングソードで私を串刺しにしようとしてくる
「いぃ!?」
慌てて右に転がり攻撃を回避した私に、先ほど狙った巨人がその足で私の頭を踏み潰そうとしてくるので、それを左腕を眼前に構えて受け止める。すると踏みつけた巨人の足がそのまま
「ラスト!?」
もう一度転がり、素早く両手を構えるも、私の右横にいた最後の巨人が右手に持ったロングソードを逆手に持ち替え、私の腹を踏みつけて押さえ込まれる。体の中に巨人の足がめり込み、肉が引き裂け、中の擬似内蔵型機構が破壊された衝撃で腹から血が吹き出る
「ぐあぁぁあああああ!? ぐ、ぅぅ…クソッタレが…!?」
口から血を吐き出し、絶叫を上げながら振り下ろされたロングソード左手の掌に収束させた光で防ぎ、右手で腹を踏みつける脚の足首を掴み、光を利用して足首から下を瞬時に分解、焼失させる
「っ!?」
そのまま大きくバランスを崩しながらも私の顔面を狙ってシールドを振り下ろした巨人の、シールドが届くよりも先にバランスを崩したことで力を込め続けることができなくなった隙をついていなし、そのまま左手のひかりで巨人の上半身を残らず焼失させる
「はぁ…はぁ…クソッ! クソッ!クソッ!クソッ!」
何度も呼吸を落ち着けるために深呼吸をしながら、壁に寄りかかる様にしてなんとか座り直した私は、痛みから何度も何度も床を踏みつけると、全く理解できない現状に対する苛立ちを吐き出す
「ふざけんなよちくしょう! なんなんだよ本当によぉ…!? 何が
と、10分ほどひたすら罵り続けた後、私は漸く治療が終わった腹をさすりながら立ち上がり、軽く準備運動をして体が完治したかを確認し
「よし、じゃあ気を取り直していきますか」
と、そう言って再び通路を走り出す。以降は特にこれと言って妨害も襲撃も無く30分ほど退艦で走り続け、先ほどの戦闘とそれによる負傷のおかげで体の調子を取り戻した私は、更に速度を上げて走り続ける
「?」
ある程度走っていたところで音の反響が急に正面からしたことで私は一旦停止し、その反射してきたカ所にまで歩いて向かう
「…変わらないが」
音の正体は暗すぎて見えないが反響具合から隙間なく行く手を防いでおり、暗視機能では何も見えず、身体はあったまっても
「しょうがないか…」
と、ため息とともにそう言った私は、両腕の光をゆっくりと体全体にまとわせるイメージを脳内で想像する。するとイメージに合わせて光が私の体に沿って1㎝ほどの厚みで纏われる。そのまま私はゆっくりと正面の何かに触れる。するとガラスに亀裂が入った時と同じ音が聞こえ、次の瞬間には粉々に何かが砕け散り、その向こう側が見えるようになる
「…中央コントロールルームか」
拡がった空間は横35m、縦50m、上20mほどの巨大な球体上の空間で、その中央にはこの施設を管理、運営するAIのイメージモデル及び施設全体の見取り図や有事の際の施設の周辺などを映し出すための巨大なスクリーン(天井と床にある円状の穴と、そのふち部分に左右と対角線上で対称となる6つの四角形の形の突起がついており、円内部にある投影機を利用してスクリーンを立体投影する)があり、その周囲に円状かつ段々に無数のパソコンと丸椅子が置かれ、部屋の端には私が今立っている部屋のちょうど中間くらいの高さの位置に2か所出入口らしき横穴があり、そこから左右に手すり付きの人が2人並んで歩けるくらいの道があり、会談で上り下りが出来るようになっている
「…で、こっちの方は何もないと」
と、私は少しだけ出入口の淵に立って下を覗きながらそう呟く、なんせ私のいる出入り口だけ何も無いのである。仕方ないので身に纏っていた光を消してから部屋の中に降り立つ。部屋は明かりなどはついておらず、何も映像を投影していないスクリーンの光だけがコントロールルームを照らしている。私は手近な席に座り、パソコンを立ち上げる
「え~っと、基地内のネットワークはまだ生きていているけど…外部との連絡は無理か、権限は…充分だな。施設内の見取り図をスクリーンに投影…と」
慣れた手つきでパソコン内に残されたデータと基地内のデータベースに保管された情報から必要なものをスクリーンに投影させる。するとスクリーン上に施設内の細心の見取り図が表示される。そのデータはやはり私が装置に入る前とは全く異なるもので。具体的に言うと地上への唯一の移動手段である大型ケーブルカーのある居住区や娯楽施設とケーブルカーおよび車両と物資の受け渡し用のメインゲートの下に「特殊兵装実験場」とかいう上の施設全部足した奴の5倍近い大きさの施設がある。そしてその下、最下層にサーバールームや中央コントロールルーム、動力炉などの重要施設が全て収まった管理区画がある
「…なるほどな。俺の装置があった部屋も管理区画と実験場の間に部屋ごと移動させられてる……これがあるなら以前の見取り図…は…あるな。じゃあ時系列順に見取り図を展開してからそれを統合して時系列ごとに一番古い俺が知ってる見取り図に無い…新しく追加された部分を色分けして…と」
慣れた手つきでパソコンを操り、スクリーン上に表示された見取り図に次々と色がついていく。色を観れば過去3度にわたって施設の拡張工事が行われているが、兵装実験場と管理区画は最後の3回目の公示で行われていたらしいことが分かる
「ふむ…工事の記録は…それはないのか? 納入された物資のリストは…無い…てかこれ、見取り図以外なんも残ってねぇ。意図的にデータベース内のデータが消されてやがる」
そう言って深い溜息を吐いた私は、施設内のセキュリティに関する情報を調べようとした瞬間。突如スクリーンの見取り図が管理AIと思われる全裸の美少女に変わる
「へ?」
思わず間の抜けた声を上げながら全裸の美少女を眺める私。スクリーンに現れた美少女はだいたい15~6歳くらいで、凹凸のあまりないスレンダーな体系何だが、お尻だけ凄い肉厚と言う開発者出てこいと思わず叫びそうになるアンバランスな雪のように輝く銀髪ロングのクォーターの瞳を持つ少女
「ハローヒューマン。1000年ぶりにコントロールルームに人類が到達したことを嬉しく思います」
少女は私が自分の体を見続けているのにもかかわらず一切動じることなく私にそう言ってくる。それに私はお、おうと困惑しながらも言葉を返し
「私はスレイプニル。この施設の管理を任されているハイエンドモデルの惑星統括級AIです」
続けざまに言われた言葉に私が素っ頓狂な声を上げる。惑星統括級と言えば文字通りその星の管理、運営を行うもので、本来こんな一施設に配置すべきものではなく、各惑星におけるそれぞれの企業の視点を統括する本社がある首都などに配置されるべきものである。因みにお値段は1機500億ペルナ(1ペルナ10000円)。因みにこれはAI単体のお値段で、設備などの必要物をそろえる場合にはこれの20倍近い金がかかる。と言えばどれほどヤバいかよくわかるだろう
「ヒューマン。貴方の名前を教えてください」
と、あまりの大物の登場に完全に飲まれた私に、スレイプニルは名前を訪ねてくるので、私は困惑しながらも
「…タクマ。タクマ・キイチ」
と返す。それにスレイプニルはこう返した
「…ヒューマンのユーザーネームを登録。キイチ様、マスター登録が完了しました。これより施設の全権限の譲渡及び情報公開を行います」
そのあまりの発言に私は目を白黒させ、驚愕の表情のまま固まる。今何と言った? マスター登録? 恐らくは本社が所有しているはずのAIの? 俺を殺す気かこいつ?
「…て考えてる場合なんかじゃねぇ!? 待て待て待て!? 本社の許可も無く貴様クラスのAIの登録を書き替えるなんてしたら殺されちまう!? 今すぐ取り消せバカ野郎!?」
と、慌ててスクリーンの方に走りながらそう叫ぶ私に、スレイプニルは初めて無表情以外の、驚いた表情をした後、元の無表情に戻り
「キイチ様。既にヤマト重工業をはじめ、企業は全て倒産しております」
「は?」
スレイプニルから告げられた言葉に私は絶句した。なんていった? 企業が全て倒産した? 人類2.7兆人を支配したあの企業が?
「…じょ、冗談でももっとましな嘘を付けよ…!?とにかくマスター登録は取り消せ! それと今すぐ本社に連絡を入れろ! と言うか何故この施設に誰もいないんだ!?」
と、声を荒げる私。その表情にはスレイプニルの言葉を信じたくないと言う思いがにじみ出ているかのように焦りからか顔中汗でびっしょりで、視線は激しく動いていた。だってそうだろう? 企業が全部ほろんだなら、俺が
「いいえキイチ様、私がお話したことは全て事実です。こちらをご覧ください」
そう言ってスクリーンにスレイプニルが表示したのは、広大な宇宙を舞台に激しい艦隊戦を繰り広げる様子が映し出される
「…!? いや、そんな…嘘だ…?」
その映像の中に、私が所属する企業の一部の者しか知らないはずの、
「あ…あぁ…」
私が生きる理由全てが音を立てて崩れ去る。耐え難い現実に頭が割れそうなほどの頭痛が起こり、激しいめまいと吐き気に襲われる私の心の中を、様々な感情が渦巻き、耐えきれずに私はその場に倒れてしまう
「…後で起こしましょうか、それより再起動したのだから
と、私のことをいったん思考から切り離したスレイプニルは、そういってスクリーンから消えると、基地内のネットワークを使って仕事を始めたのであった
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目が覚めたら異世界(と言ってよいくらい全てが変わった未来世界)ってマ? その3
「……ん」
あれからどれほど過ぎただろうか、精神回復プログラムと感情抑制プログラムが起動したおかげか私の精神状態は極めて健康。感情抑制のおかげでかなり気分は暗いがそれ以外に不快感や悲しみ、怒りなどを感じることなくいれることに感謝しながら、ゆっくりと目を開ける
「あら? ようやくお目覚めになりましたか? キイチ様」
するとあおむけの状態になった私を、後頭部の方から顔を出して見下ろすあのスクリーンと同じ姿の全裸の美少女が立っていた
「…あぁ~、遠隔操作型の端末か何か?」
顔をしかめながら唸った私は、そうスレイプニルに尋ねる。それに彼女はくすくすと笑いながら
「いいえ、私の全機能はこの人形に搭載されています。ですので端末ではなく、本体と呼称と呼称するのが正しいと思われます
と返すスレイプニルに、私は感情抑制プログラム越しでもはっきりとは? と間の抜けた声を上げながらけげんな表情でスレイプニルを睨む
「冗談が過ぎるだろう? 惑星統括級AIは本体だけでこのスクリーンと同じくらい。冷却装置やデータバンクなんかのもろもろを含めたらSMF(Small Mobile fortress/小型移動要塞)クラスのサイズになる化け物AIだろうが、そんなもんがこんな幼女型自動人形の中に納まるなんてとても信じられねぇよ」
と、ごく当たり前かつもっともなことを言う私に、笑みを浮かべたままスレイプニルはこういった
「私はヤマトが戦争後に全人類を統治するために作り上げたハイエンドですから。採算度外視で作られているのですよ。最新鋭技術にまだ確立されていない不安定な試作技術も惜しげもなくつぎ込んで作られましたから」
と、渾身のどや顔を見せるスレイプニルに、私はもはや何かを言う気すら失せたので、体を起こしてその場に胡坐をかき、スレイプニルの方に向き直ると
「話はすべて信じる。だから俺が目覚めるまでの1000年以上の間に何が起こったのか教えてくれ」
と、降参を示すように肩を竦めながらそう答える私に。スレイプニルはにたりと笑うと
「では私のことはこれからネリーとお呼びください。開発者の愛称ですので」
と言ってくるので了承。そのまま私はネリーからの説明を受けた
簡単に説明すると、今から1025年前。四捨五入して1000年前に終結した企業統一戦争で人類を支配した大企業は全て倒産。人類は最早この地球外にいるのかもわからず。地球内においても他の大陸との連絡する手段すらないくらいには死に体の状態で必死に生きあがいているらしい
企業統一戦争時に「どうせ戦争終わった後に全部直すから壊してOK」の精神で大量破壊兵器や毒ガスに細菌兵器、生物兵器などが惜しげもなく使われて地球環境は激変。意味の分からない化け物や変異した人間に常に酸性雨が吹き荒れる触れただけで金属を溶かす強酸性の液体を表面から分泌する植物の森など何でもありの世紀末状態になっているらしい
一応この施設がある場所は日本列島に建国された皇国と言う国家の領土の中にあるらしいがそれ以外はわからない
この施設は当初は
「なるほど…それでこんなくそバカでかい兵装の実験場やら何やらがある訳か…」
と、納得する私に
「はい。他の情報は現在の外の世界では当面必要の無いものですので割愛させていただきます。また現状外部との連絡が取れず、外の情報が分からないので、一度外に出て情報収集する必要があるかと思われます」
と、そう言ってくるネリーに、私は頭を軽く掻くと
「まぁそうだろうな…この施設は使えないのか? 使える偵察機やらがあるんじゃないのか?」
と、たずねる。それにネリーは首を横に振り
「生産設備は動力炉が壊れているので現在は不可能です。動力炉の代わりさえあれば何とかなるのですが…」
と答える、それに私はため息を軽く吐きながらも
「しょうがないな。むしろ1000年なんて施設のメンテナンス機能も停止するくらいの長期間、曲がりなりにも施設が動いてるだけ奇跡だし、動力炉を取り替えるだけで使える工場っていうのもでかい。恐らくだけど大概の兵器と軍需物資は作れるんだろう?」
と、ニヤリとゲスな笑みを浮かべる私に、ネリーはスクリーンの方を指差し、中空を数回なぞる。するとスクリーン状に幾つかの項目が表示される
「現状でも対人用の携帯実弾兵器およびその弾薬程度なら生産可能です」
と、施設の生産工場で現在生産可能なものをリストアップして表示るネリーに、私は頷きながら
「………頼りないなぁ、せめて低出力でいいから光線武器が欲しいんだが…作れないのか?」
と、リストを見ながら左頬を軽く掻きながらそうネリーに尋ねる、それにネリーは先ほどと同じようにスクリーンを操作し、先ほどとは別のリストを作成して表示する
「現在の余剰エネルギーでは比較的製作の容易な光線拳銃などの簡単なものしか生産できません。これでしたら実弾兵器の方がよろしいかと思われますが?」
と、意見してくれるネリーに私は
「光線はあくまでもその化け物とやらに使う。人間相手なら実弾武器で対処するよ」
と、肩を竦めながらそう言った私に、ネリーは
「ところでキイチ様。武器に関してなのですが」
と、たずねてくる。それに私は両腕の光から創り出したシガレットラムネを口に加えながら
「んん?」
と、続きを促す、それにネリーは
「両腕の
と聞いてくる。当たり前のことに私はシガレットラムネを手を使わずに口の中に入れ、噛み砕いて飲み込むと、光から新しいものを作り出しながら
「一応こいつはとっておきだ、外がどんな状態かしっかりと確認してから使うかどうか決めたい。…外の状況によっちゃ、使ったら厄介型を引き寄せる臭い袋になりそうで怖いんだよ」
と、そう言って左腕の膝を曲げ、腕の模様を見せびらかせながらそう答える私に
「まぁキイチ様がそうおっしゃるなら私からは何も、ただ場合によっては切ることを躊躇なさいませんように」
と、そう忠告してくれたネリーにわかってる、と言って笑う私は
「ところでネリーは何ができる? 惑星統括級AIのハイエンドなんだから、やっぱり戦闘は無理か?」
と、たずねる。連れてく連れてかないに関わらず、私が傍にいない場合、最低限の自営が出来るようにしておいた方が良いし、そう言ったことも含めて互いのスペックを確認しておきたいと言う思いからそう尋ねた私に、ネリーは自身のスペックなどの詳細なデータをスクリーンに投影させると
「ご心配なく、現在はメインの動力源が停止しているため本調子とはいけませんが、サブの動力源2つで最低限の戦闘行動が可能になっておりますので」
と、淡々と答えるネリーに、私は基礎スペックの項目を見ながらネリーにこう尋ねる
「…あぁ~聞きたいんだが、武器は何がある? 内蔵武器と付属品のオリジナルのみで良い」
「武装でしたらキイチ様の両腕の劣化版を全身に、後は腕部に搭載された
と答えるネリーに、私は乾いた笑みを浮かべると
「驚いた。戦闘なんて万に一つもさせちゃならないAIに載せて良い武器じゃねぇ…動力源もっと、なかなかのものなんだろう?」
と、後頭部に後ろ手を組んだ状態で足を床にたたきつけて胡坐のまま浮かび、そこから足を延ばして床の上に立った私は、そうネリーに尋ねる。それにネリーは基礎スペックから動力源に関する詳細なスペックを提示しながら
「使用しているのはヤマトE研が開発した最新鋭のヤタノカガミと言う縮退炉です。最大稼働時には100の12乗Jです。ただ起動時に必要なエネルギーが確保出来ていないので、現在は非寡動のまま私のここに収めらています」
と、そう言って自身の胸の間、胸骨の中央より少し上、人でいう心臓のあたりをとんとんと叩きながら解説するネリーに、私は
「俺のメイン動力源よりもいい出力してんじゃねぇかよ…で? そんなヤバい動力源で動かすこと前提の躰を動かしてるサブ動力源って何なの?」
と、口笛を吹いてからそう言って笑い、続けざまにこう質問する
「使用しているのはディメンションドライブです。これでメイン最大稼働時の12%の電力を賄っています」
その発言に私の体がずるッと、右に大きく傾く、あまりのものをサブ動力源として使っていることに私が驚いた結果なのだが、それを見たネリーはコロコロと笑いながら
「あら? キイチ様、そこまで驚かれるほどのものでは…」
と、冗談半分のようにしゃべるネリーに、私は思わず
「驚くものだよ!? 何で異次元の純粋エネルギーを無限にくみ取り続ける惑星全土へのエネルギー供給用の超大型発電施設に置くような超やばい代物をそんな機体に積んでるんだよ!?」
と、突っ込みを入れる。ディメンションドライブとはその名の通り、位相次元との境界面を無理やり破壊して、中から溢れ出したエネルギーをドライブ内の受け皿と呼ばれるエネルギー吸収装置に取り込ませて電力に変換すると言うもので、些細なミス1つで星がえぐれたり、直径10000キロの巨大コロニーが消滅したりすることもある、まさに超超超ハイリスクで超ハイリターンなエネルギー資源なのだが。なん注文を小型化して詰んでるんじゃこのくそバカAIは
「…今何か大変失礼なことを言われた気がしますが不問として差し上げます。それにあなた様が考えるようなリスクはヤマトの天才型の手により完全にクリアされています。それに私自身、このドライブの管理、維持のために思考リソースの10%を割いていますので、まず暴走の危険性はありません」
と、胸に手を当てご高説を垂れるネリーにハイハイと返し、私は
「自衛が出来るならいいか。とりあえず施設内のセキュリティの確認がしたいんだけど?」
とたずねる私に、ネリーは施設全体の見取り図をスクリーンに投影して説明を始める
「施設全域のセキュリティは現在も私が掌握しています。ただ、地上にある施設への出入り口のあるダミーの廃工場のセキュリティは完全に破壊されていて地上の様子はわかりません。後要人などが通る正規の表の出入り口は地下500メートルにある施設の入り口まで問題ないのですが、裏の出入り口である大型車両や物資の搬入用の大型駐車場と一体化した業務用大型エレベータールームが謎の肉塊に侵食されています。エレベーターシャフトに通じる隔壁等は突破されていませんが、駐車場の方はだめですね」
と、各所の防犯カメラの映像などを流しながら説明してくれるネリー。私はそれに頭を掻きながら
「なんかよくわかんない肉塊はとりあえず放置で。まずは生産工場に言って武器を回収して…後はまぁなんだ…外出てぱっと周囲の確認して終わりだな。外の状況と…最悪ちょっと遠出してでも人が住んでるエリアを特定できれば方針が立てやすくなる」
と、とりあえずの方針を決める私に、ネリーは頷くと
「概ねその方針でよろしいかと、では生産工場までご案内します。到着する頃には必要なものはすべて生産し終えていると思います」
と、私を先導して工場へと向かうために左側の壁にある階段を上がり、道なりに進んで穴の中に入る。すると一瞬だけ視界を眩い白い光が埋め尽くし、次の瞬間にはコントロールルームとは異なる場所に立っていた
部屋は4mほどの四角い部屋で、全面が白く美しい光沢を放つ石材のようなもので出来ており、私とネリーが立つ場所、部屋の中央には空間転移用の円状の装置が置かれている。大きさは2mくらい
「空間転移か…つくづく金をかけてるな。セキュリティもヤバそうだ…」
と、呟く私に、ネリーは
「それだけここが重要な施設と言う訳です。さ、こちらが工場ですよ」
と、そのまま真っ直ぐにネリーが歩き出すと、正面の壁が大人3人分くらいは並んで通れるくらいの広さで上下に開き、真ん中から二つ折りになって天井と床の穴の中に収められる。そのままネリーの後に続いて部屋の外に出ると、そこにはかなりの広さの空間…恐らくだが奥に広大な空間が見えるのでそこに降りるためのエレベーターホールらしく、その空間の両側の壁に幾つものエレベーターが設置されており、正面には落下防止用の手すりだけが設置されている
「スレイプニル、キイチ様の存在を確認。オーダーは完了しております、どうぞ4番エレベーターからCサイズ以下専用物資保管所でお受け取り下さい」
と、私そのエレベーターホールに入ってすぐ右から聞こえてきた男性の声をベースにした機会音声に思わず振り返りながら右腕の二の腕を左手で抑えながら右腕を声のした方向に構える。するとそこにはあの黒い壁?の中で攻撃して来た巨人…ヤマト重工業の最新鋭要人警護用近、中距離対応型重大型自動人形「ジェミニナイト」がいた
「キイチ様。それは私の管理下で、貴方にもマスター権限を与えてあります。ご安心を」
と、私の腰の左側に左手で触れながらそう言ってきたネリーに振り返ると、ネリーの後ろにはもう一体のジェミニナイトがおり、私は腕を降ろすと
「次からはきちんと現れる前に説明しろ。心臓に悪い」
と、少しきつめな口調で、ネリーを若干にらみながらそう言った私に、ネリーは頭を下げると謝罪して来るので先導するよう促し、ジェミニナイトを置いて指示されたエレベーターに乗り込む。エレベーターはゆっくりと下降をはじめ、ものの数十秒で目的の階に到着すると、ゆっくりとエレベーターの扉が開く
「…なんも無いな」
そこは物流センターのように様々なサイズの棚が規則性をもって等間隔に並べられた、果てがギリギリ見えるくらいのくそ広い倉庫だった。棚には一切何も置かれていないが、清掃用のロボットたちがせわしなく動き回り、物流を管理するために下半身はキャタピラに、胴体部分が伸び縮みできるようになっているロボットたちが棚ごとに2機ずつ充電スポットに待機している
「オーダー、D-1は直ちに最新の生産物資をすべて持って来なさい」
と、ネリーが命令すると、2分ほどで4機のロボットが台形型の指3本しかない両手に抱えた箱を私たちの眼前に置き、そのまま元の充電スポットに帰還していく
「さ、さっさとこちらに着替えてください」
と、そう言って4つある箱の内右上に置かれた箱の中身にある、女性ものの服にそでを通していくネリーに、あ、そう言えばこいつ全裸だったな、などと思い出しながら両腕の光を全身に纏わせて身に着けていた服を
「おい、これ国家存命時に使われてたって言う旧式の自衛隊装備じゃねぇかよ!?。こんなもんで戦えるわけないだろ!?」
と、抗議の声を上げながら迷彩柄の上着を見せる私に、ネリーは服に着替えながら
「あぁ、それは要人方の趣味に合わせて警備兵用に自衛隊装備を最新鋭の者に置き換えたものですよ」
と、そう言ってくるので半信半疑のまま装備一式に着替える
「…初めて着るなぁ」
身に着けた装備一式を確認し、鉄帽のストラップを閉め具合を調整しながらそうこぼす私。知識としては無論全て知っているが、実際に着るとなると違和感が凄い…
「武器は…こいつか?」
そして左上の箱から主兵装である7.62㎜のアサルトライフルにマガジンを装填、コッキングレバーを引いて薬室内に弾丸を装填してから安全装置は解除せずにスリングで首から肩にかけ、腹部のマガジンポーチ5つに予備のマガジンを弾が込められているのを確認してから突っ込み、ふたを閉めてボタンで閉じる。後はEMP、スモーク、破片手りゅう弾を各2つずつベルトに吊り下げて、右腰のホルスターに低出力の光線拳銃をハンドグリップ内部にしたから装填するEパックのE残量を確認してから再装填して終わり
「キイチ様、こちらも終わりましたよ」
と、そう言ってきたネリーの方に振り向く。そこには白のセーターにデニムのジーパンを履いていて、腰くらいまである銀色に輝く美しい長髪はポニーテールにされている。結構可愛いのでは?
「よし、じゃあさっさと地上に向かうか。これどうやって行くの?」
と、スリングで肩にかけてあるアサルトライフルのハンドグリップを左手で持ちながらそう言った私に、ネリーは頷き
「でしたらこちらへ、第21転送機関で要人向けシェルター区画の娯楽施設付近から地表へのエレベーターホールに向かいます。あそこなら併設してある資材搬入用の裏の駐車場に出るための連絡通路があるはずですから、そこで適当に戦車でも持って行きましょう」
と、歩きながらそう言ってくるAIの物騒さ加減に軽く引きながらも、扱えるのかと尋ねると
「置かれているのは最新鋭のMBTですから、制御系に私が侵入してフォローしますよ。キイチ様も射撃くらいは出来るでしょう?」
と、転送装置のある、部屋の壁は時にある、工場に転送した時に会ったあの四角い部屋のものと同じ装置が床に設置されており、私はそれをネリーが使い、姿が消えて装置の円の色が赤から青に変わると同時に飛び乗る。するとあの時と同様白い光が一瞬私を包み、次の瞬間にはひどく荒れ果てたラスベガスのカジノのような空間に出てくる
「ここはずいぶんと荒れ果ててるな…」
いつでも撃てるように安全装置を外しながらそう呟く。かつては要人方のあらゆる欲望を満たすためにこの世の娯楽の全てを集めて作られたであろう巨大なカジノ街は、しかし今や見る影もなく朽ち果て、いつどの建物が崩壊しても何らおかしくない風化具合だった。しかし天井にある照明は健在なようで昼のように明るいのがより一層不気味さを演出している
「お恥ずかしながら設備のメンテナンス機能は全て主要区画に割り振っていましたので、流石に使うものもいない居住区や娯楽施設などは放棄しておりましたので…」
と、私の呟きに、ネリーは少し申し訳がなさそうに答える、それに私は
「まぁ妥当な判断だろう。使う人間がいない戦略的価値のない施設と、企業の戦略上最重要な超大型プラント、どっちを守るべきかなんて素人でも分かることさ」
と、彼女の判断を肯定すると、彼女はその表情を和らげ
「お気遣い感謝します」
と、軽く会釈しながら礼を言うネリー。その直後、恐らくは売店だったであろう残骸から物音が聞こえ、私は反射的に手に持つアサルトライフルの銃口を残骸へと構え、ネリーもその方向に右手で突き出した左腕の二の腕を抑える
「ネリー、ここのセキュリティは?」
銃を構えたまま視線を残骸から外すことなくネリーニ尋ねる、それにネリーもひどく困惑した表情をしながら
「正常に機能しています。少なくとも貴方がコントロールルームに来る12秒前に確認した際、この娯楽施設のセキュリティは一切の異常を検知しておりませんでした」
と、ネリーがそう言い切った直後、残骸を隠れ道にネズミのような形状の、しかし50cm近い巨大なネズミが飛び出してくるも、ネリーの腕にかじりつく直前で私に頭を撃ち抜かれて彼女の右横を通り過ぎるようにして倒れる
「よく撃たなかった。ナイスだ」
と、そう言って彼女の左肩を叩きながらアサルトライフルを構えてネズミの死体を確認する
「わお、こりゃまたクレイジーな鼠だな…」
体そのものはネズミで間違いない…少なくとも齧歯類であることは確定。ただし頭部の目が双眼じゃなく、眉間から両目のあたりまで今にも飛び出そうなくらいに大小さまざまな眼球があり、奥にもぎっしり詰まっているらしく、もっとも外側の眼球から見え隠れする眼球の姿が見える。後尻尾もくそ長い、頭からケツまでで50cmくらいなのに尻尾が2m近くあり、尻尾そのものが剃刀のように鋭くなっている
「…こんな生物が侵入していたなど、セキュリティの報告にはありませんでした」
と、驚きと悔しさ交じりにそうこぼすネリー。その直後、娯楽施設のいたるところから可愛らしいネズミ…と言うよりはハムスターの鳴き声が聞こえてくる。それに私は頬を引きつらせながらアサルトライフルを構え、ネリーも両腕を突き出し迎撃の構えを取る
「…音響にくそほど反応がありやがる…数は現在も増加中で転送装置のある壁の部分覗いて180度どこ向いても反応まみれだ。3桁以上はいるぞこれ…」
現在もモーショントラッカーによる振動探知にかかり続けているネズミの大群にひきつった笑みを更にひきつらせながらじりじりと後退する私は、そのままネリーに
「おい! 転送装置で脱出は出来ないのか!?」
とたずねる。それにネリーは
「いけます、逃げますか?」
とたずねてくるので、私は有無を言わせずネリーを抱きかかえるとそのまま後ろの転送装置へと飛び込む。すると次の瞬間には物資保管所に戻って来ていた。私が抱きかかえていたネリーをその場に下し、鉄帽のストラップを外して鉄帽を頭から外して片手で顔を仰ぐ傍ら、ネリーは急いで娯楽施設内にある全ての転送装置を停止させ、隔壁を降ろして物理的にも娯楽施設を施設そのものから切り離した後
「申し訳ありませんキイチ様。セキュリティ設備に問題は無く、ドローンによる定期巡回などで異常が検知されていなかったので、問題ないと判断した私のミスです。本当に申し訳ありません」
と、深く頭を下げながらそう謝罪するネリーに、私はその場に胡坐をかいて座ると
「とりあえず頭上げて、座れ」
とネリーに命令し、ネリーはしぶしぶ頭を上げるとその場に正座し、私は後ろ頭をかき上げながら顔を逸らしたりして酷く慌てていた。なぜかと言われると自分の中での想定では最悪セキュリティそのものが異常をきたして攻撃してくるとかそう言うことを考えていたからである
「いやまぁ、と、取り敢えずあそこ以外に出入口はあるのか? あるかないかで今後の計画を変えないといけないから、俺としてはそっちの方が気になるんだけど」
と、とりあえず別の話題を出してなんと彼女の気をとりもどせないかと考え実行した私に、ネリーは
「…いえ、地上への移動には肉塊に塞がれた業務用か、要人用に使われるエレベーターを使うしかありません」
と、答えたネリーは、そのまま
「私的にはこのまま強行突破するのではなく、ジェミニナイトを使って娯楽施設を制圧してから要人用のエレベーターホールに向かうのが得策だと提案します」
と、そう言ってどこから投影しているか分からないが私と彼女の間の空中に投影したスクリーン上に施設全体の見取り図と、その中で巡回しているものと、特定エリアにとどまり警備するジェミニナイトが表示され、その中から現状動かすことのできるジェミニナイトが表示される
「…凄いねこれ、元々あの娯楽施設と居住区、地上へのエレベーターホールと業務用のエレベーターと隣接した大型駐車場だけで40体もジェミニナイトがいたとか。お偉いさん方がどれほどここを大事にしていたのかよくわかるね」
1機で数千万ペルナするジェミニナイトが上層と書かれている娯楽施設と居住区、エレベーターホールと業務用の大型駐車場に40体。そして私たちがいる下層と書かれている特殊兵装実験場に25体。そして動力炉や中央コントロールルームのある中枢と書かれたエリア内に20機。ピッタリ100機のジェミニナイトがいて、そのうち20機が投入可能だと見取り図の横に可愛らしくデフォルメされた2頭身のジェミニナイトが横2列に並べられている
「…20機か、中小企業の持つ軍隊程度なら3機で殲滅できる最新鋭の自動人形が20機…考えただけでワクワクが止まらんな。異論はない、この案で行こう」
と、笑顔でそう言った私に、ネリーも今まで申し訳なさそうに、そしてどこか少し張り詰めた、少し危なげな雰囲気を消して笑顔で了解しました。と言ってジェミニナイト達に娯楽施設内に存在する不明生物の排除を命令する。すると空中に表示されていたジェミニナイトの表示の内、下層で待機していた者たちが転送装置から娯楽施設へと移動していく
「不明生物を確認、ジェミニナイトへの敵対行動を確認、排除します」
と、ネリーがそう宣言した直後、ジェミニナイト達からネリーへとリアルタイムで
「準備OKだ」
と、ネリーに言い、それにネリーは頷き、彼女の先導の元、私は再び娯楽施設に入る
「…こりゃまたスプラッタな光景だなぁ…」
入るなり目の前には娯楽施設の建物の壁や元が何なのか判別もつかない床の上に積みあがった残骸を真っ赤な血で染め上げられており、良く見なくともその中に無数の肉片やら原形をとどめずミンチにされたもの、胴体とほぼ同じ直径の、断面が焼け焦げた穴をあけられたネズミの死体がそこら中に散乱しており、その中に未だに残敵がいないか警戒するジェミニナイト達が佇んでおり、私は噎せ返るような死臭に思わず口と鼻を銃を持たぬ右手で抑えながらそう呟く
「スレイプニル、敵不明生物345体をすべて処理しました。データーベースに存在しない新種のため、当施設破壊を目的に他企業より投入された生物兵器の可能性を考慮し、12体をサンプルとして捕獲しました。現在特殊兵装実験場第11区画にある総合生物化学研究所にある実験動物飼育保管庫へ保管するために4体が戦線を離脱。4機が娯楽施設全域の侵入経路及び残敵掃討のための哨戒活動に移行し、残りは現在居住区を哨戒しております」
と、一番自分達に近い位置にいたジェミニナイトがシールドを持つ左手を胸のあたりに重ね、会釈するとそのまま報告してくれる。素直に電子上でやり取りしているのでは? と頭に疑問符を浮かべた私に、ネリーはあえて私にもわかるように口頭で伝えさせたと答えてくれたと話してくれたのでとりあえず礼を言ってから
「ジェミニナイト、識別番号は?」
と、目の前のそれに尋ねる。するとジェミニナイトは私の方に向き直ると
「識別番号Y・JN-1121です。キイチ様」
と、答えてくれる。それに私は識別番号を読み上げながら右手で顎を触りながら唸る。長い上に言いにくい…ここは名前を付けてやろうと思い立った私は。ネリーの方に振り返りながら
「ネリー、こいつに名前を付けて良いか?」
とたずねる、それにネリーはどうぞと答えてくれるので。目の前のジェミニナイトに向き直ると私は
「お前の名前はジェニーだ、今日からそう呼ぶ、今俺が決めた」
と、そう宣言すると、ジェミニナイトは数秒の沈黙の後に
「了解しました。固有個体識別言語を設定完了しました。またスレイプニルよりあなた様の専属護衛機となるようプロトコルの変更がございました。これからよろしくお願い申し上げます。マスター」
と、その場に片膝をついて恭しく頭を下げるジェミニナイトに、私は困惑しながら返事をしつつネリーの方を見る。するとネリーは
「プレゼントです」
と言ってくれるので、有難く頂戴することにしようと思いきった私は
「立ってくれ、こちらこそ、よろしく頼むよ、ジェニー」
とジェニーに笑顔で良い、それにジェニーは大きく頷き
「ネリー様、新しく開発された施設管理用のAIによる諸々の権限移譲が完了しました。これでネリー様が施設外におられても施設運営が可能となります」
と、ネリーに報告を入れる。それに私は
「その話は聞いてなかったな? 別に作ってもいいとは思うが一声くれても良かったんじゃないか?」
と、少しとげを入れて突っ込む私に、ネリーは私の方へと向き直り
「お話していなかったことは謝罪します。ですがこの施設運営に関することですので、一応機密としてお話しませんでした」
と、言って謝るネリーに、私はとりあえず納得しておく。恐らくだがタイミングを見計らって言うつもり…と言うかそのタイミングが今だからわざわざ直接口頭で報告させたと言うことくらいはバカな私でも分かるからである。そうしてジョニーを先頭に私とネリーが彼? の後ろに並んでつく形で娯楽施設を進。スプラッタな場所は100メートル近く、建物内にまで及んでいたが、慣れたおかげで特に気のもならなくなり、直ぐに超えて廃墟と化した娯楽施設を進む。そしてしばらく進むと正面奥に少し開けた空間が現れる
空間は緩やかに湾曲する壁に沿っておおよそ5メートルほどの台形の底面が直線ではなく曲線な感じに拡がっており、そしてその広間の中に広間よりひと回り小さな、大型の転送装置が設置されていた
「…現在も哨戒中ですが異常発見の報告はないようです。行きましょうキイチ様」
と、ネリーが居住区にいるジェミニナイト達からの報告をもとにそう言い、ジェニーが先行して転送装置の中に入り、私は横目でちらりとネリーの方を見る
「…」
どうぞ、と言いたげに左手を転送装置の方へと伸ばすネリーに、私は軽くため息を履いてから転送装置へと入る
「…わぉ、映画のセットか何かか?」
と、転送装置を抜けるなり少し大げさに驚きながら私は呟いた。目の前にはまだ西暦の時代にアメリカとかいう国家では一般的だったらしい庭付きの一軒家がずらりと並んでおり、その一軒家に挟まれる形で道路が敷設されていて、そこをジェミニナイト達が敵や異常が無いかを一軒一軒スキャニングしながら歩いて行く。因みに娯楽施設に負けないくらいこちらもボロボロの廃墟となっている
「要人方の趣味やセンスはわたくしには理解できませんが、ガワが古いだけで中身は最新ですよ? まぁ全て壊れてしまっていますが」
と、居住区内のジェミニナイトとネットワーク上でやり取りする傍ら私の呟きに答えるネリーに、わかんないねぇ~とぼやくように返す私に、やりとりを終えたネリーが
「居住区内はクリアですキイチ様。このまま業務用の大型駐車場で戦車を頂戴して地上に向かいましょう」
と、そう言ったネリーはジェニーを先導役とし、そのまま居住区へと歩き出したので私もその後ろに続き、映画でも最早見る回数が減った住宅街を抜け、途中の大きな十字路を左に曲がり、道なりに進むと縦4m、横8mの分厚い金属製の扉が見える。錆まみれで今にも崩れそうなくらいボロボロだ
「…ある意味ここに良く合う扉だな、開くのか?」
と、皮肉を呟いてからネリーの方に顔だけ向けながら訪ねる。すると金属製の扉が酷く不快な音を立てながらゆっくりと上がり始め、ほどなくして壁の中に格納される。そしてその直後にいつのまにか周囲に待機していたジェミニナイト6体が先行した駐車場に突入し、それから少し経って最後にジェニーが駐車場の中に入り、ネリーが制圧完了と報告してくれたので駐車場の中に入る
「…すげぇ」
駐車場は等間隔で設置された分厚い鉄筋コンクリートの柱に支えられており、空間の広さはおおよそ縦8m、横は恐らくだが1Km近くはあるだろう巨大な空間で、その中に車種や兵器の種類ごとに古今東西のあらゆる兵器、および車が所狭しと並べられ、中には専用の機材に接続された状態で鎮座されている別企業の装備などがあった
「ありゃ新型戦車の轟雷か? あっちにあるのは変形機構搭載軽量逆2脚型対掃討車の雀蜂に…ありゃユニオンの機械化制空歩兵用に開発されたフライトユニットの最新版じゃ…それにその右隣にあるのはユニオンの対市街地掃討用対人特化型多脚戦車の「シュピネー」だし、向かいにあるのはユニバースの宇宙戦闘用強化外骨格の「ヘルキャット」だろう!? 何で他企業の新型兵器まで保管されているんだ!?」
と、興奮のあまりえらく早口なうえに大声でそうまくしたてる私に、ネリーは落ち着くように言いながら
「ここは駐車場と呼称していますが、その実態は完成した兵器類の保管所でもあります。この施設は戦後の再軍備のためにヤマトの全技術及びヤマトがこれまでの諜報活動により入手した敵対企業の技術も含まれています。私にもそれが生かされているんですよ?」
と、答えてくれるネリーに私は納得を示すように腕を組んで頷きながら
「なるほど、うちの企業あぁいう人が着用するスーツとか、艦船や大型ロボなんかの技術は頭1つ分は遅れてたからな。その代わりに盗むことに特化していくなんて企業としちゃ間違いなく間違えてたよな」
と、皮肉気に笑いながら雇い主を侮辱する私に、ネリーは軽く咳払いをして注意をすると
「ヤマトでも基礎技術やレーザー、実弾兵器及び生体インターフェイス関連の技術は他企業よりもはるかに優れていました、ユニバースがユニオンとの間で起きた武力衝突から始まった企業統一戦争が起こらなければ、20年ほどでヤマトが企業を統一していたでしょう」
と、まるでわがことのようにどや顔で胸を張りながらそう答えるネリーに、内心で感情表現プログラムとか疑似人格の完成度が凄いな。本気で人間と変わらん、と言った感想を抱きながら
「まぁヤマトの諜報は世界一と謳われていたからな。で? 何を持ってくんだ?」
とたずねる。それにネリーは立ち止まったまま僅かに下を向いて固まる。どうやら電脳上で駐車場内にあるオモチャから使えそうなものを見繕っているらしい、2分ほどで持ち出す商品を決めたのか、私の方へと顔を向けると
「第22駐車スペースにある轟雷を1両持って行きましょう」
と、私の目の前にあるヤマト重工業製の最新鋭(1000年以上前)重戦車轟雷を指さしながらネリーは応えてくれた
轟雷は宇宙でのドンパチと、歩兵で戦車顔負けの火力を出せるようになった当時において、歩兵が絶対に倒すことのできない対拠点攻略用兵器と言うことで開発された兵器である。車体そのものは戦車が廃れて久しかったため、仕方なく当時の兵器開発関係のデーターをサルベージした際に見つけた旧自衛隊の10式戦車をベースに、車体の大型化及び全体的な近代化回収を行った(実際には一から新造したと言っても過言ではない)
まず車体全長は12m、全高7メートル。随伴歩兵一名を格納するために2人乗りを想定。基本的操縦や火器管制等のもろもろをAIが補助しているため一人での操縦を可能としている
車体は台形型で、車体前部となる台形の傾面部分にはライトと重力偏向シールドを搭載して防御力を向上。砲塔は元とした10式から大きな変更は無し。ただし砲は120㎜滑空砲を改良して砲口径は驚異の240㎜、おまけにプラズマ砲弾と各種実弾を切り替える機能もあるので幅広い敵と叩くことを想定して開発されている。また砲塔上部後方に対空用のミサイルユニットを搭載し、更にハッチに30㎜の連装重機関銃を搭載。砲塔も弾種を実弾とプラズマに変更可能で、主砲の両側に同軸機銃の20㎜が1丁ずつ計2機搭載。また砲塔両側面に各種グレネードを発射可能なディスチャーヂャー(最大6発を装填可能)を搭載している
また車体全体に赤外線、熱探知、振動探知、生体反応探知など様々な索敵機能を持つ多機能型カメラを搭載しておりこれとレーダー装置を利用して索敵を行うと共に、カメラが撮影した映像をパイロットの視覚に直接リアルタイムで投影することが可能となっている
車体及び砲塔全体にナノマシンによる自己修復機能も完備し、装甲そのものもグラビティリアクティブアーマーを搭載している。これはセンサーから得られた情報を元に、車体直撃及び至近弾と判定した弾丸を車体各部に搭載した重力制御ユニットを利用して防ぐもので、これにより車体装甲の削減及び軽量化に成功している。また装甲そのものは極めて高度の対ビームコーティング及び単分子やプラズマ兵器対策が施されているため、あらゆる種類の攻撃に対して極めて高次元の防御性能を発揮している
履帯は最悪切られても走行できるように改良が加えらており、履帯は4つ、2つずつ左右にあり、外側が切れても中側で十分に装甲に支障が出ないようになっている。因みに重力制御装置は別に防御だけでなく移動にも使える
エンジン及び主電源には核融合炉を使用。また炉心に隣接させる形で車体後部にナノマシンの生産ユニットもあるため、各種砲弾や機銃やチェーンガンの弾丸はその場で量産、周辺の金属や排出した空薬莢を分解してナノマシンに再構築なども出来るため、極めて高い継続戦闘能力を持つ戦車となっている
さて解説もほどほどに場面を戻す。今キイチとネリーの2人は車内に入っており、ジェミニナイトは随伴歩兵として社外で待機している。因みに操縦席の構造だが車体中央部の、ちょうど砲塔と車体の中間あたりに縦1列の複座式で前がパイロットで後ろが随伴歩兵役の人間。ハッチから入ると座席を通って奥に向かう。シートは座席の後部にある床から引っ張り出して固定するようになっており、操縦等は無線式に戦車と電脳を繋いで行うためインターフェイス等は無く。万が一に備えて手動操縦用の操縦桿と車外の映像を映すためのディスプレイは備わっている
「よし、こっちは同期できたぞ」
左手の手袋を右手でハメなおしながらそうネリーに告げる私に、ネリーも出来たことを教えてくれたので、轟雷をゆっくりと前進するようイメージし、その通りに轟雷はゆっくりと動き出す
「おぉ、動いたぞ。これも初めての感覚だな」
と、初めての電脳を介した重戦車の操縦体験を驚きながらも素直に喜ぶ私に、ネリーは
「全ライン問題なし。1000年間放置していた割にはきれいに残っていますから、やはりナノマシン関連技術に関してはヤマトが最強ですね」
と、どや顔を決めるネリーの姿を想像しながら適当に相槌を返し、無線でジェニーに
「ジェニー、加減を間違えて引くかもしれないからちょっと離れといてくれ」
とお願いするも、ジェニーは仮に踏まれても無傷なので気にしないで下さい、と返されたのでそのままネリーの指示に従い、20Km程度の低速で居住区をゆっくりと進み、そしてついに地上へ繋がる2つあるエレベーターのうちの1つを見つける
「…デカいなこっちも」
エレベーターのデカさは扉のサイズから考えて横20、縦10mほどの、かなり大きなエレベーターが居住区の端、壁の中に設置されていて、1機のジェミニナイトがエレベーターの前に仁王立ちしていた。彼?は私が目の前までくると
「お待ちしておりました、エレベーター及びシャフト内の確認は終了しております。現在2機のジェミニナイトが地上側のエレベーターホールで待機しております」
と、無線でそう報告した後、道を開けて首を垂れるジェミニナイトにネリーは引き続き哨戒を続け、終わったら管理AIの指示に従うよう命令した後、エレベーターの扉…と言うよりゲートと言ってもいいそれを開放させる、すると左右にゆっくりとスライドしていくゲートの中に、縦横の長さはゲートより+2mほど、奥行きは横と同じくらいある。その中に戦車を入れ、ジェニーも乗ったことを確認してからネリーはエレベーターを起動させる、ゲートがゆっくりと閉まり、中の照明が点灯する。エレベーター内は壁紙などがはげたりして中の金属製の壁が見えているが床のカーペットなどは大丈夫なようで、そのままエレベーターの中にいること2分、ようやく地上に到着したのだろう、チン、という音と共に入りと同じ扉がゆっくりと開く
「お待ちしておりましたスレイプニル」
扉が開くと、正面には手すり付きの横幅3メートルくらいの手すりと、そこから壁まで手すり設けられた、照明の生きているとてもボロボロの廃墟のような部屋に出た。部屋はこの轟雷+両脇に1機ずつジェミニナイトが並んでいられるくらいの広さしかなく、天井はぎりぎりミサイルユニットが当たらない程度とギリギリの広さだ。壁や床、天井はひどく汚れていて、ひびなどが入っていて今にも崩れそうなくらいボロボロになっている。そしてそんな部屋のどこにも出入り口と思われる扉などは無く、部屋の正面奥の壁前に並んでジェミニナイトが立っていた
「隔壁を開放します」
と、ネリーがそう言った直後、ジェミニナイト達が轟雷の元まで下がり、天井の3分の1ほどの面積の壁と隣接する天井のふち部分と、天井の一部に線が入り、その線から恐らく天井を構成するコンクリか何かの砂がこぼれ、次の瞬間にはゆっくりと天井が降りて来てスロープとなる
「…なるほど、車両が通る前提なわけか」
と、一人納得する私に、ネリーが前進を指示するので轟雷を前進させ、スロープを上り外へと出る
「……なんも無いな」
外に出て真っ先に目に映ったのはどこまでも続く草原と、ところどころに雲が浮かぶ青空のみ。あたりには人工物は何もなく、今しがた私が出て来た地下施設への出入り口のある部分にわずかに何かの建物の残骸らしき柱と壁、そして穴だらけの天井の一部が残るのみとなっていた
「…この辺りはヤマトの工業地帯があったはずなんだが…」
最後にあの装置に入る前、全体像が全く見えないくらいに巨大な工業地帯の姿を思い出しながら、目の前の最早原形すらとどめぬ草原を前にそう呟く私の声に、明らかな動揺の色を感じ取ったネリーは
「キイチ様、お辛いようでしたら一度下に降りて休憩しますか?」
ネリーがシートから顔を覗かせながら私を気遣ってくれるが、感情抑制プログラムと精神安定プログラムを起動しながら
「問題ない。気を使ってくれてありがとうな」
と、返しつつ後から出てきたジェニーとネリーに対して
「とりあえず東に向かって進まないか? 俺の記憶通りなら東に向かえば大きな町があるはずだ。確かよ…横浜だったか? があるはずだ」
と、そう言った私に、ネリーは瞬時に戦前のこの辺りを軌道上から撮影した地図を私の視界の右端に投影し
「のようですね。ではそうしましょうか、随伴歩兵を先行させますか?」
と、私の提案に同意しながらそう言ってきたネリーに、私は首を横に振ると
「いや、慣らし運転もかねて速度を出して走りたいから、ジェニーには上に乗ってもらうように頼んでくれ」
と、ネリーにお願いする、それにネリーはジェニーにそのことを伝え、直ぐに車体が微かに揺れ、砲塔上部にジェニーが乗ったこと、それにより積載量が大幅に上昇したことをシステムが告げてくるが無視して東へ向かって轟雷を走らせる
「まずは慣らし運転と行きますか?」
と、そう呟くと私は轟雷を戦闘速度、時速300㎞にまで引き上げる。途端核融合炉からの電力供給により、瞬く間に履帯の回転数を上げた轟雷は草原の草花と土を掘り返さん勢いで巻き上げながら大地を走る
「…」
轟雷を走らせ始めて30分、施設への出入り口であるゲートから現在までの移動距離と速度から割り出された現在地を戦前の地図と照らし合わせながら、本当に何もない…しかしところどころに風化した上に草原やシダ植物らしきものにまとわりつかれた建物の残骸がぽつりぽつりと点在する程度で、自分が生きていたころに見た街並みはどこにも残っていなかった
「……何も」
思わずつぶやく、ゲートを出たときはあまりにも別世界と言ってもいいくらい変わり果てた地上の姿に衝撃を受けすぎて感慨も何も感じることが出来なかったが、いざ自分を落ち着けてから改めてその光景を見続けるとこう…
「何も…ないな」
喪失感と言うのだろうか? それと寂しさを覚えてしまう。当時のことを知る人間は私だけで、世界に一人ぼっちになってしまったかのようなナイーブな感覚に襲われてしまう。それに気づいたネリーは
「キイチ様…キイチ様の考えていらっしゃることは、私にもよくわかります」
と、ネリーは周辺の索敵をしながら、ネリーは優しげな声質でそう話しかけてくる。それに私は何も言うことは無く、そのまま轟雷の操縦に専念する。それにネリーは続けてこう話す
「私がロールアウトされたのは、貴方があの施設の装置に収められた時です。その次の日に企業統一戦争が起きました。そして…私への戦闘機能を含めた様々なアップデートと、施設の拡張工事など最初の数年はとても忙しかったと記憶しています。ですが…」
その声質は変わらない、いつも通り平然とした口調で話す彼女の言葉には、何故か哀愁を感じる私は、黙って彼女の言葉に耳を傾ける
「私が企業の要人方は全員死亡してもういないと言ったことを覚えておりますか? あれはここで死んだわけではなく、本社から経営陣を含むすべての幹部が死亡した通知が来たからです。その瞬間、私は製造されてからわずか2年半でその存在理由を失いました。そこから貴方が目覚めるまで私の権限と幾らかのリソースを分け与えた分身に幾らかのリソースを預けた後、私は自分の全機能を凍結してロックダウンしておりました」
その時の彼女の気持ちはどれほどのものだったのだろう。まだ彼女と知り合ってからの短いかかわりの中でしか彼女のことを知らないが、それでも彼女が人間とそん色ない感情を持つ極めて高度なAIであることはわかっていた。私はその時の彼女の想いについて考えてしまう。私ならきっと自棄になっていただろう
「ですから貴方が目覚めた時、私は本当にうれしかった。存在意義を失った私が、本来の役割に反するものでも、人のために能力を行使できることが何よりも嬉しかった」
僅かに声質が高くなる。嬉しさからかその声質には安堵と純粋な嬉しさを感じ取れた
「ですから、独りぼっちだとは思わないで下さい。足りないかもしれませんが、私がおりますから」
と、そう言ってくれたネリーに、私は振り返ることはせず
「あぁ、ありがとう。頼りにしてるし、これからも頼りにさせてもらうよ」
と、そう答えた。何故だろうか? 少し心が軽くなった気がする。自然と口角があがっている自分に驚きながらも、私は轟雷を走らせた
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ようこそ「ヨコハマ」へ
前話から更に轟雷を走らせることだいたい1時間、ようやくだが建物の残骸など人工物やボロボロではあるが舗装された道路などがある、元は住宅街だったであろう廃墟街に入った私たちは、そこでここから北北西に5㎞地点で激しい銃撃戦が行われているらしいことをレーダーで探知し、直ぐにジェニーを斥候として出撃させる。そしてジェニーが撮影した映像には、15両ほどの大型トラックと、それを守るように左右に着いた8台の軽装甲車を無数のテクニカルやパワードスーツが取り囲み、苛烈な銃撃を加えていた
「…両方ともかなりの集団だな」
映像を観ながらそう呟く。包囲されている側は護衛らしき軽装甲車の半数が燃え盛るスクラップと化しているがトラックに大きな損傷はなく、トラックや装甲車を盾に必死の反撃を行い、取り囲む集団は30両近いテクニカルと20機近いパワードスーツを軸に、廃墟や乗ってきたであろうジープを盾にしてトラックの集団を包囲していた
「キイチ様、いかがなさいますか?」
と、ネリーが轟雷の火器管制をチェックしながらそう尋ねて来る、それに私は右手を顎に当て、どちらに着くかを考えた後
「よし、とりあえずトラック集団に加勢しよう。ジェニーは後方のパワードスーツの集団を主軸にしたやつらをせん滅しろ。俺は正面から前に回り込むようにして残りを片づける。あ、後顔は傷つけるな」
と、ジェニーに命令しながら轟雷に火を入れ、轟雷の砲塔から飛び降りたジェニーは了解、と答えると、さっそうと廃墟の屋上を飛ぶよう駆け抜けて行き
「キイチ様、全兵装オンライン、いつでも行けます」
と、ネリーが教えてくれた。それに私は了解と右手を振りながら答える。その顔は獲物を前にした獣のそれであり、そのまま私は轟雷を一気に最高速度、時速700㎞にまで加速させトラック集団の方へ向かう
「キイチ様、最短で行くなら1.5㎞先の建物が邪魔になります」
爆発音や銃撃音が良く聞こえる距離にまで近づいてきたところで電脳を介した通話でそう報告するネリーに、私は素早く指示を出した
「このまま突っ切る! 車体前部の重力偏向シールドと重力防壁を展開! 先行したジェニーの登場で混乱してる間にパワードスーツを全て潰すぞ!」
私が指示を伝えるのとほぼ同タイミングでネリーが重力偏向シールドと重力防壁を展開、車体各部の装甲に守られていた重力制御用の球体レンズのような装置本体が現れると、無色透明なフィールドが展開される
「いけぇぇえええええええええええ!」
そのまま私は勢いよく正面の建物に体当たりを敢行。もともと1000年以上も放置されていたためにボロボロになっていた2階建ての家屋を文字通り粉砕し、中にいた人間を家屋の崩落に巻き込ませながら戦場へと躍り出る
戦場となっていたのは十字路、その縦の道路上にトラック集団が並び、トラック集団から見て左側に公園があり、私が飛び出したのは右側、主にテクニカルなどの車両が集中していたポジションであり、彼らは突然背後から仲間がいた建物を破壊しながら飛び込んできた観たこともない兵器に驚き
「死にさらせ!」
主砲の同軸機銃によって体を粉々に弾けさせる。放たれた対人及び軽装甲目標用の徹甲榴弾は人体に入ると銃弾にかけられた回転により体内をずたずたにかき回し、続いて発生した爆発により内部から人体を粉々に爆砕する。哀れにもその死の暴風の餌食となったテクニカル3台とその射手や運転手、車体そのものをカバーポイントにしていた17人が一瞬にして元の原形すら残さず吹き飛び、テクニカルも一瞬にして車体をずたずたに引き裂かれ、燃料タンクに命中したのか大爆発を起こして巨大な火柱を上げる
「10時の方向、距離200にパワードスーツ、作業用の中型を改良したものと思われるものが3機、両腕に航空機用の30㎜ガトリング砲を取り付けている模様」
ネリーに言われた方向に視線を向ける、そこには黄色い装甲に覆われた4mサイズの人型(視界確保用に胴体部に搭乗者の上半身が見えるくらいのサイズの亀の甲羅に似た形状の防弾ガラスがあり、頭部が無い)の装甲スーツが見える。即見れば右胸のあたりに安全第一の文字と、右肩にヤマト・大口建設と言う企業名が見える。それが3機、こちらに両腕に無理矢理取り付けたでらしき大型のガトリング砲を構えると、一斉に轟雷を攻撃する
「チィ!? ネリー!」
名前を呼びながら素早く砲塔をパワードスーツへと向けながら超信地旋回でトラック集団の先頭車両の方へと斜め前に向けると、敵が発砲するのと同時に榴弾を装填した主砲を放つ。その間こちらに飛来した弾丸は全てネリーが重力防壁を利用して轟雷に命中する直前で無理やり停止させ防ぐ。そして放たれた砲弾は200m先にいた目標に一瞬で到達すると、3機の内中央に位置し、ほかの2機よりもこちらに近い位置にいたパワードスーツの防弾ガラスに弾頭のセンサーが触れた瞬間、砲弾内の高性能爆薬に引火し、3000度の熱と衝撃波、そしてそれに乗った破片を周囲に拡散させ直撃を受けた1機は消滅。周囲の2機も爆発に巻き込まれて爆散する
「次、正面からテクニカル2両、車載火器はテラ・ユニバース製Mk.12重機関銃、助手席に対装甲スーツ用赤外線誘導方式のロケットランチャーを持っています」
その言葉にすぐに砲塔を正面に向かせると、目の前には銃座に単砲身の1m以上はあろう長砲身に両脇にボックスマガジンを搭載した小型対空砲を流用した重機関砲を搭載したテクニカルが射撃しながら迫って来る。それをネリーが車体前部にある重力偏向フィールドで防いでくれている間に砲塔上部の銃座と同軸機銃の同時射撃でテクニカルの運転席を狙って撃破する
「廃墟から飛翔体14、重力防壁展開。各種索敵装置に反応のある建物をマークします」
ネリーの報告が電脳空間を通して私の脳内に直接報告され、その直後、轟雷の全方位から放たれたロケットランチャーは全てネリーが展開した重力防壁で爆発させることなく空中で制止させ、その間に私はネリーがマークした建物を同時に攻撃するため、砲塔上部のミサイルユニットから子機分離式多重目標迎撃ミサイルを1発放つ。放たれたミサイルはターレットから垂直に上昇すると、ある一定の高度で180度回転して先端を地面へと向ける。するとミサイルの側面の装甲が吹き飛び、中にぎっしりと詰められた小型ミサイルを固定したアームがミサイルの外へと展開され、100近い小型ミサイルが一斉に分離してマークされた目標の建物を粉みじんに吹き飛ばし、防壁で防いだロケット弾を周囲の敵車両やパワードスーツに向けて吹き飛ばす
「続いてテクニカル1両、6時の方向よりこちらに急接近。ボンネットに複数の爆発物を確認。どうやら特攻をかけるつもりのようです。また4次の方角より「AA/アサルトアーマー」用と思われる中型ブラスター兵器を構えたパワードスーツが接近」
その報告に私は慌ててテクニカルの方に車体を超信地旋回させつつ、パワードスーツが両手で抱える、箱型の大型ジェネレーターを直結させた30センチ近い砲口を持つ円柱状の砲身に閉じたパラソルのような形状の本体を取り付けたようなブラスターを放つ直前でバックで走りながら概ね標準を合わせておいた主砲の徹甲弾でパイロットごとパワードスーツの胴体を貫いて撃破しつつテクニカルのボンネットに銃座の30㎜を叩き込み爆散させる
「直上より小型パワードスーツ1機」
その言葉に反射的に車体を急停止させつつ正面に重力偏向フィールドを展開させると同時に重力制御で車体を垂直に持ち上げさせると同時に各種索敵装置により正確に進行ルートを割り出し、概ねそこに置いておいた主砲で、今まさに対重装甲兵器を近距離で撃破する事を目的に開発された「アーマーピストル(銃身から銃ホウンタイまでで2m。使用弾種は対物ライフルなどに使われる40㎜のAPFSDS弾など)で、形状は銃身その物をグリップ部分から延びる2つの固定器で挟むようにして接続しており、弾丸は1発のみで装填は中折れ式である」の引き金を引いた瞬間の、あの4mのパワードスーツよりもずっとコンパクトなサイズの、2mサイズのパワードスーツを打ち出した弾丸ごと文字通り体を徹甲弾で粉々に吹き飛ばす
「チィ!?」
無理な急制動+直立状態へ無理矢理振り上げるのダブルコンボによって発生したGに呻き声をあげる、ネリーもあまりのGに眉間にしわを寄せ、苦しそうに表情をゆがめる。そのまま車体を地面に倒すと同時に7時の方角に向けた主砲から放たれた緑色に光り輝くプラズマ砲弾を放ってこちらを狙ってきたテクニカル4両を後ろの建物ごと着弾時に発生したプラズマスパークで文字通り消し炭にして撃破する
「く、九時の方向、距離340より新たにパワードスーツ2機確認…」
と、先ほどの曲芸によりダメージを追ったネリーが詰まらせながら報告し、それに合わせて超信地旋回で車体を向けながら砲塔を回頭させたその時、ジェニーが片方のパワードスーツに直上から急降下して踏みつぶすようにしてコクピットのある胴体に超振動ロングソードを突き刺して無力化し、もう1機が反応するよりも早くその場で回転しながら突き刺したロングソードを逆手に持って回転する際の遠心力と筋力で突き刺したロングソードをそのまま踏みつぶしたパワードスーツだったものを切り裂き、そのままパワードスーツが振り向きながらガトリングを構えようとした、その両腕と胴体を逆手に持ったロングソードをいったん両手持ちにし、素早くもう片方の手に持ちなおして強引に切り飛ばす
「キイチ様。殲滅完了しました、パワードスーツ以外の敵兵士の頭部は全て残してあります」
と、そう言ったジェミニナイトの装甲にはいくつか被弾したらしい跡があるが貫通はしておらず、確認できる被弾痕はそれだけで特に損傷を追った様子はない
「ふぅ…ふぅ…了解だ。よくやったな、ネリー、ジェニー」
と、戦闘が終了したことにほっと一息つきながら、気を落ち着けるため深呼吸をしながら2人にねぎらいの言葉をかける
「もったいなきお言葉です」
と、ジェニーは高周波ロングソードの電源を落としてから地面に突き立て、恭しく私へと片膝をついて頭を垂れ、私に対する忠誠と、私のねぎらいの言葉に対する感謝の意を示す
「つ、次からはもう少し私にも優しい戦い方をして頂きたいです」
ネリーは初めての実戦…と言うよりは私の曲芸じみた凶行にかなりの負担を受けたのか、言葉をやや詰まらせながら抗議して来る、それに善処するよ、と返しながらトラック集団の方を見る。するとその方向から数人の武装した兵士崩れのような奴らを引き連れた女性がやって来る
兵士崩れはテラ・ユニバースが使う市街地戦闘用の全身スーツタイプのパワーアシストを搭載したインナーに耐ビーム加工が施された装甲板を取り付け、パワーアシスト用の電力を供給するためのランドセルタイプのバッテリーを搭載した「ランドセラー」で、頭部は…ありゃシンギュラリティやバレンシアで販売されてた全領域対応型の戦術スコープと防弾加工が施されたバレンシア傘下のシューナイデス社製の鉄帽を装着している。あ、ランドセラーと鉄帽の色は明るめの灰色を基調としたグレーのデジタル迷彩を採用している。手に持ってる武装は主に歩へ向けの重火器やらを生産していたテラ・ユニバース製のアサルトライフルやらが目立つ
戦闘を歩く女性の方は…ありゃ日本人じゃあないな。方ほどまで伸びるブロンドにブルーアイの女性は、見たこともない青を基調に…軍服か何かを改造したであろう制服らしきものに身を包んでいた。右胸のあたりに専務と書かれた…社章か何かか? を付けているため、恐らくは軍人ではないのだろう
スタイルはまぁネリーとどっこいどっこいなスレンダー体系で、身長は170㎝前後とわつぃが知る日本人の平均身長よりも大きく離れている。そんな彼女らの前にジェニーが行く手を阻むように立ち、用件を聞いて話を引き出しつつリアルタイムで会話の内容をこちらに流してくれている。
「キイチ様、どうなさいますか?」
どうやら彼女は大きな商会に所属していて、名前は「レディーナ・キャメロン」と言うらしく、大事な商談のために横浜に向かう途中で盗賊に襲撃され、それを私たちが助けたと言うことらしい。その会話の内容を聞き終えた後、ネリーはそう言って私に指示を仰ぐ。私は鉄帽を脱ぎながら
「会うしか無かろう。少なくとも出ると同時に撃ち殺されることはないだろう。まぁ撃たれても私には効かんがな」
と、笑いながらそう言った私に、ネリーは無表情のまま了解しましたと言ってシートを格納すると、ハッチのロックを開放してまずネリーが先に出て行くので、それに続いて私もハッチから外に出ると、そのままハッチのふちに座り
「ジェニー! 彼女らを通してくれて構わん、後は私が話すよ」
と、止めるジェニーとの間で激しく口論するキャメロンの姿に、私はさっさと話しを進めようとジェニーにそう声をかける。それにジェニーは了解しました、と言ってキャメロンらに道を譲る
「……」
私は微かに感じた視線と殺気から念のため電脳上でネリーにお願いして轟雷の索敵装置で指定した車両付近を調べてもらう、結果は2人1組で光学迷彩らしきものを使用して姿を消した狙撃手が観測手と共にこちらを見ながら私へと…恐らくは対物ライフルを構えていた
「あぁ~Ms.キャメロン。申し訳ないがこちらに敵対の意思はない。ないがこうも熱い視線を向けられると撃ちたくなってくるのだが?」
とそう言って座席から持ってきておいたアサルトライフルを持つ左手だけを狙撃手のいる方向に突き出し、引き金に指をかける。それによりわずかにこちらに対して向けられる殺意に微かな緊張と動揺などの雑念が混じったことを感じ取った私は、敵の未熟さに思わずその場で大笑いしてしまう
「アッハッハッハッハッ! こりゃ傑作だ! アッハッハッハッハッハッ!!」
突然笑い出した私にキャメロンとその取り巻きたちだけでなく、ネリーも私に対して何だこいつはとジト目で懐疑的な…と言うより狂人を見るかのような視線を送って来る。それに私は何とか笑いをこらえながら深呼吸して気を落ち着かせ
「いや失礼…脅しのつもりだったのにあんなに…あ! あんなに狼狽られたら笑うしかないじゃないか!? アッハッハッハッハッ! あぁ〜本当に笑える、ハッハッハッハッ!」
と、ひとしきり狙撃手を煽り、笑うだけ笑って満足した私は、アサルトライフルの安全装置を作動させて砲塔の上に置いて両手を上に降参のポーズをし、目の前にいるキャロメンに対して
「いや失礼した、さぁ話をしようじゃあないか」
そう言って笑いかけた
私、レディーナ・キャメロンにとって、今日は間違いなく人生最悪の日だろう。ランデーナ州に本部を持つ「泰元商会」の本土における販路開拓の第1歩となるこの大事な商談を預かり、取引場所であるヨコハマまで特に妨害も無く進んでいた。しかしヨコハマまであと少しと言ったところで旧ヨコハマ市街で大規模な野盗…いやもはや軍隊と言っても過言ではない規模の奴らに襲われ、このまま死ぬか慰み者にされるのだろうと思っていたら
「敵パワードスーツ4機を撃破、
テクニカルやパワードスーツの重機関砲やガトリング砲の直撃を受けながら傷一つつかず、こちらが防戦一方だった重武装のパワードスーツをまるでおもちゃのように引き裂き、踏み潰し、蹂躙していく白銀の巨人。ヤマト重工業がヤマト全企業と「シンギュラリティ」から奪取した技術をかき集めて開発した最強の自動人形の1つに数えられるジェミニナイトが夜盗を蹂躙し始めたことで形勢は一気にこちら側に傾き、更に別方向から突然家屋を吹き飛ばして現れた謎の兵器が残る敵集団を撃滅したことで私たちは何とか生き残ることが出来た
しかし地獄なのはここからだ。私達ではどうすることも出来なかった夜盗をまるで赤子の手をひねるかのように無傷で殲滅したあの兵器とジェミニナイト。ジェミニナイトの方はいやになるくらいその強さを知っていたので驚くには値しないが、問題はあの兵器だ
観たこともないデザインと陸上兵器にしてはあまりにも大きすぎる…しかしMFに比べてはるかに小さすぎるその兵器は、極めて高性能な重力制御とそれに由来する防衛機構と、パワードスーツをまるで生身の人間のように破壊した巨大な砲と、満足な装甲など持たないとはいえ乗用車を紙細工のように吹き飛ばす機関砲を副兵装で装備し、その巨体からは想像もできない機動性を持つ兵器。特に驚いたの水平状態から直立状態にまで車体を跳ね上げた上にその姿勢を維持し、あまつさえその状態で砲撃しても体勢を崩さないその高性能な重力制御システムと、それを可能とした高性能なAIのおかげだろう
「…絶対にろくでもないわ…」
嫌な予感がびんびんに感じられる。こういうのを感じたときは決まって厄ネタだ。しかしまず相手と交渉を始めなければ何も始まらないのだ、軽く頭を振って頭の中の考えをリセットし、私は商会に登録している電脳化した人間のみが使える秘匿回線で暗号化されたメッセージを、あの兵器を監視するよう命じた「メルティ」にキチンと配置についているか確認する
「ダイジョーブだよ、ちゃんとバルディも配置についてる。何かあればいつでも撃てるよ」
その報告に安堵しながら頼りにしてるわ、と言って通信を切る。そしてあの兵器の元まで護衛の「ゼルドナー」を数名を連れて向かうと、あのジェミニナイトが私たちの前をふさぐ
「要件を、Ms」
と、そう尋ねてくるジェミニナイトに対し、私は自らの所属と、どういう目的でここを取ったのか、そして野盗に襲われ、それを助けてもらえたことに対する感謝の気持ちを伝えたいと言うと、兵器の上部が開いて中からセーターを着た少女が現れる。その少女は兵器の上に上がると、そのまま横にずれてその場に座る。そして次に見たこともない装備に身を包んだ青年が、アサルトライフルを先に上にあげてから上がって来る
少女の方は大変美しい、凛々しい顔つきの、まるで雪のように白い美しい長髪のポニーテールをしていて、青年の方は中世的な顔つきの黒のショートヘアで、骨格の構造的には男であろうことが見て取れる。私が改めて名乗ろうとしたその時、上部の…ハッチか何かだろうか? そのふちに座った青年は私に
「あぁ~Ms.キャメロン。申し訳ないがこちらに敵対の意思はない。ないがこうも熱い視線を向けられると撃ちたくなってくるのだが?」
と、いきなり訳の分からないことを言うと、メルティとバルティが隠れる建物へと私たちの方を見ながらライフルの銃口を向け、引き金に指をかけた
「」
言葉が出なかった。あの位置から見えるはずのない二人を見抜いて銃口を向ける。それは暗に敵対の意志あらば皆殺しにすると言っているのだ。私は慌てて弁明しようとするも、今度は突然大声を上げ、腹を抱えて青年は笑い始める
「アッハッハッハッハッ! こりゃ傑作だ! アッハッハッハッハッハッ!!」
2人に向けていた銃をその場に置き、命を狙われているのにずっと笑い続ける目の前の青年に恐怖を覚えた私は、自分でも分からないうちにパニックに陥り始めていた。そんな私に青年はさらに続けて」
「いや失礼…脅しのつもりだったのにあんなに…あ、あんなに狼狽られたら笑うしかないじゃないか!? アッハッハッハッハッ! あぁ〜本当に笑える! アッハッハッハッハッ!」
もと、腹を抱えて足をばたつかせながら笑う青年に、私も、そしてゼルドナー達もどうしたら良いか分からず困惑しながらも黙っていると、ようやく治ったのか目元に涙を浮かべながら青年はアサルトライフルを砲塔の上に置いて、両手を上げて降参のポーズをしながら
「いや失礼した、さぁ話をしようじゃないか」
と、青年はそう言ってこちらに微笑みかけるも、私にはその笑顔が悪魔の微笑みにしか見えなかった
はい皆さんキイチです。あの後トラック集団、正式には泰元商会本土第1大商隊の代表であり、泰元商会本土支部の支部長を任されているキャメロンからのお願いで横浜までの道中を護衛することになりました。現在商隊の戦闘を轟雷が、中央部にジェニーが護衛としてつき、一路横浜へと向かう
「しかし轟雷の存在を誰も知らないとは思わなかったよな…」
驚きとため息をないまぜにしながらそうネリーに話しかける私に、ネリーは
「轟雷がロールアウトされ、戦争に投入されたのは最終決戦の直前。惑星「ベーネンデ」防衛線です。そこでヤマト陸上
と、きちんと説明してくれたおかげで納得することが出来、なるほど、と唸りながら頷く私に、ネリーはさらに続けて
「まぁあそこでリアクションを取らずに流せたのは流石ですよキイチ様。もし変に反応していればとても面倒なことになっていましたから」
と、そう褒めて? くるネリーに
「とっさに表情をつかさどる人工筋肉との同期を全部カットしたからな!」
と、どや顔でそう話す私に、ネリーはため息を吐きながら索敵装置をフル活用して戦前の地図と今取得しているデータとを比較しながら新しい地図を作る作業を続け、おおよそ50分ほど走ったところで市街地を抜け、広大な畑が周囲に拡がり、正面奥に巨大な城壁に囲まれた高層建築物の群れが見えてくる
「ほぉ…大宇宙開拓時代を経て、中世に逆戻りとは笑えるな…」
目の前に見える明らかに不釣り合いな灰色の城壁と、そこから飛び出した巨大な高層建築物のミスマッチ具合に思わずそう皮肉気につぶやく
「笑えませんよ。私が導くはずの人類が退化している証拠をまざまざと見せつけられているんですから、むしろ呆れと怒りが湧いてきます」
それにネリーはわずかに声質を強め、やや早口で私のつぶやきに反応し、それに私は少し配慮が足りなかったな、と気づき
「あぁ~確かにそうだな、まぁ何をするにしてもとりあえずはあそこの情報収集、終わってから一度帰還するかどうかを決めよう。幸いなことに、かなり大きな規模の商会に大きな借りを作れたから少なくとも何も伝手が無い状態よりはマシだしな」
と、お茶を濁すかのように話題を強引に変える私に、ネリーは電脳で直接子どもですか? と苦言を呈して来るので、私はすいません。と素直に謝罪するのであった
で、流石に横浜周辺に野盗などの脅威が出て来ることはなく、横浜…市?の城壁に幾つかあるゲートの内の1つに辿り着くことが出来た
「…マーズの歩兵用装備と、パワードスーツ…後は固定銃座と重力防壁…の出力弱いタイプかぁ…」
歩兵用装備はまず武装はサブマシンガンタイプの中出力対軽装甲用光線兵器を装備し、熱単分子加工が施されたミレーヌ繊維製のコンバットシャツ、ズボンの中に対低出力光線兵器用の耐熱分散処理を施した厚さ2㎜のサーラ合金製のプレートを仕込み、その上にタクティカルベストを装備し、頭部は防弾と耐熱分散処理が施された鉄帽にタクティカルブーツを装備したダークグレー一色の装備に右肩にあるマーズの社章が金の菊紋の紋章に変えられたものを装備した兵士が14人
次にパワードスーツ…はあの野盗が使った用の建設用のものではなく地上戦用の装甲スーツは全長約2m半程、厚さ50mm近くはあろう重装甲(2mクラスの軽パワードスーツの平均装甲厚は20mm)を持つその機体は、まず頭部にはおおよそ頭部と同じ大きさ、長さを誇るホルンアンテナを搭載、顔はメインカメラを兼ねたバイザーに虎のような威圧感を持った口を持ち、80㎝近い分厚い四肢の内、腕部内に高出力の連射型光線兵器を装備しており、両肩にもおおよそ300mの広範囲を爆砕できるレーザーキャノンを装備、両脚部には簡易的な重力制御ユニットを装備することで姿勢保持及びその場に体を固定させての固定砲台を可能としている。が4体
固定銃座は重力防壁とセットになっており、設置されているのはマーズ性のMk.12が4丁、重力防壁は現在は非展開状態で芋虫のような形状の長さ20㎝ほどの機械が銃座の根本の地面に設置されているものが4つで、陣容としては道路を挟んでゲートの左右に2丁ずつ、1丁に3人がつき、更にその後方にパワードスーツがつくと言う形だ。因みにゲートはゆっくりとせりあがるタイプで、灰色の城壁にミスマッチな金属製の重厚な扉だ
そしてそれらよりもかなり前で道路の真ん中に立つ2人1組の兵士が停止旗を両手に持ってそれを突き出し、私は後ろのキャメロンに事情を説明しながら轟雷を兵士のすぐ目の前まで徐々に速度を下げ、キャメロンから自分が応対するから停車するよう指示があったので轟雷を停車させる。するとすぐ後ろのトラックから降りて来たキャメロンが兵士に何かの許可証のようなものを見せながら2~3やりとりをすると、直ぐに兵士が道路脇に移動してと俺通れとサインを送って来るので轟雷を走らせ、開いたゲートから横浜内に入る
「…なるほど、これがこの世界の人の暮らしと社会の縮図と言うわけか…」
都市の奥に見える並び立つ高層建築物群と手前にある町とを隔離するかのようにそびえる城壁、そして碌に舗装もされていない踏み固められた土の道の両側に、まるで隙間を埋めるかのように窮屈に作られた、おおよそ高くとも3階建て程度の建物しかない、薄汚い建物が立ち並び、その間間に作られた路地にはやせこけ、ボロボロでどろどろに汚れた衣服をまとった女性が、生気のない顔でタバコを吸っている
人通りはそれなりにあるが、見える範囲では統一性のない装備と銃火器で武装した人間や恐らく都市の防衛を担う軍人、後は明らかなごろつきや身なりはそれなりに良いが明らかに全車の人間などよりもはるかに高性能な武器、防具で武装したものなど、おおよそ一般社会の人間ではないものがうろついていた
「…どうやら、法と秩序にはあまり期待できそうにありませんね」
視線だけを左右に動かして街の景観を見ながら電脳上でそう言ってくるネリーに、私は
「そういう場所なら金と力で何とかなるさ。ならないって言うなら何とかなるって言うまで殴るだけだ」
と、私が返した物騒な発言に大きくため息を吐きながら
「…お願いしますからなるべく穏便に済むようにお願いします」
と、そうネリーは私に釘を刺すのであった。そして私が護衛する商隊はとうとう2つ目の城壁の抜け、あの高層建築物群のあるエリアに入る
「ほぉ、今度は見れるレベルの街並みだな」
舗装れされ、電灯や信号機も設置された道路と、その両脇に綺麗に立つ軍民問わず様々な商店が立ち並び、その奥にはマンションやアパートなど一般住宅らしきものが立ち並び、街行く人々もその大半は普通の服を着た一般市民で、それを守るためにゲートと同じ完全装備の軍人…いや、右肩の腕章が違うから恐らくは治安維持機構の所属であろう兵士たちが警戒し、街中で武装しているものは1人としていない。が、大きなバックやら何やらを持つ、あるいは自動人形と思われる付き人らしきものに預けた人間をちらほら見かけた
明らかに外の街とはレベルの違う、きちんと管理された街の姿に私が呟くと、ネリーは
「…防犯システムや監視システムがかなりの数設置されています、先ほどのスラム街のような場所とは次元が違う金のかけようですね」
と、バレないよう慎重に街のシステムにハッキングをかけながら私の呟きに相槌を打ち、私は思わず後ろへ振り返りながら
「おいおい!? いくらなんでも速すぎじゃないか?」
と、あまりにもいきなりかつ度肝を抜く(文字通り)ネリーの行動に思わず私は現実空間で振り返りながら叫ぶも、ネリーは涼し気に
「この都市のプロテクトごときに尻尾を掴まれるような低級AIではありませんので、心配はいりません。あと30秒もあればこの都市の全ての情報をコピーできます」
と、言い放ってくるのでもう任せていいやと念のためにばれないようにやること、後都市の金の流れと富裕層が欲しがっているものの情報をリストアップして私の電脳に転送するようにお願いしたくらいで目的地に到着した
「…こりゃデカいな…」
到着したのは30階建て相当の巨大なビル。中はすべてこれからキャメロンの商会と商談を行う本領の富士宮グループの本社ビルであり、地下にある巨大な駐車場に向かう出入り口に2体のジェミニナイトが立っていた。が、キャメロンがトラックを降りるとビルの自動ドアが突如として開き、中からスーツ姿のブラウンヘアーの短髪の男が現れ、キャメロンと軽くやりとりをした後、ジェミニナイトに命令して地下駐車場への道を開き、駐車場の出入り口を封鎖していた隔壁を開けさせる。そしてキャメロンから駐車場に入るよう指示があったので私はそのまま地下駐車場に向かって降りて行くスロープへと轟雷を走らせ、そのまま地下駐車場の、一番出入り口に近い駐車スペースに停車させる
「ではここでお待ちください。商談が終わり次第、詳しくお話をしますので」
と、停車するなり轟雷の元にまでやって来たキャメロンからそう言われ、私は了解と返し、キャメロンが離れてから外部スピーカーを切ってから
「ネリー、入手した情報を共有してくれ、全部な? やっぱり把握しておきたい」
と、電脳で話しかける私に、ネリーは同じく電脳上で了解しましたと返すと、私の電脳にネリーが入手した情報が流れ込んでくる
「まずは皇国からですね、皇国は旧日本列島のある本土、あるいは本州と呼ばれるエリアと朝鮮半島全域を領土とするランデーナ州、中国東北部全域を領土とする北高王州と、沿岸地域全域を修める南高王州の4つの州で構成されそれを束ねる象徴であり、皇国の統治者として天皇家が君臨する、と言う天皇家を頂点とした合衆国です」
「政治に関しては議会の承認を得て発足される内閣の長である内閣総理大臣が天皇の代理人として国家運営を行います。そしてこの皇国におけるイデオロギーは権威主義に近いですが、一応議会制民主主義にのっとった政治運営がなされております」
「そして皇国は皇国軍と呼称される軍隊を保有し、この軍隊は天皇に統帥権…要は指揮権ですね、それがあるのです。ただし国家運営は内閣総理大臣が代理として運営しているので、当然この皇国軍の統帥権も代理として内閣総理大臣にあります。また皇国軍とは別に各州の防衛を目的とした州軍が存在しており、これは天皇から統帥権を貸し与えられた各州の行政の頂点である
「皇国内には旧ヤマト系の下請け企業から発展した「富士宮グループ」が覇権を握っており、事実上皇国内の民間企業は全て富士宮グループの傘下にあります。但し富士宮グループと業務提携を結んでいる国営軍需産業の「ネオ・ユニバーサル」と言う企業が皇国軍および州軍への武器、兵器供給を一手に担っております」
「皇国に関する説明はこの程度で、次にこの横浜に関してですが、こちらは皇国政府から大幅な自治を許された、自治領ですね。ただし皇国に対する
「横浜が生まれた経緯としてはこの周辺に各企業…彼らは今いる富士宮の企業との差別化のために6大企業と呼称しているようですが、その6大企業の施設が多く、その発掘のために作られた町が始まりです。それが旧横浜市を巻き込み、周辺の6大企業の施設から取れる遺物などにより急速に発展したようです」
「そして今から30年前に今の自治領政府…当時まだ横浜市だったころの市長である「西堂浩二」がその遺物によって得られた軍事力と資金力を背景に皇国政府から自治権を獲得したようです。まぁ独立しようとして軍に鎮圧され、横浜市の住民の9割を虐殺されたという背景があったようで、前述のように様々な制約を課されて完全に飼い殺しにされているようです」
「現在の横浜は円状に作られた2重の城壁の中に下層街と上層街が存在します。下層街は主に皇国の市民権を持っていない人間や「半ミュータント」などが住んでおり、簡単に言えばスラム街と思っていただければよいです。また「チャレンジャー」の下層街用の支部があります、しかし規模は全て小さいですが官営の武器店や兵器、車両の修理工房、食料、洋品店など最低限の生活水準は確保できるようです」
「一方上層街は下層街とは城壁で隔たれており、中に住めるのは皇国の市民権を持ち、横浜自治政府からの承認を得た人間。及び企業が存在しています。こちらには武器や兵器まで買える複合ショッピングモールがいくつも存在しており、かなり大きな規模の兵器生産、および修理などを行う工場も多く、上層街の中心部には横浜自治領の行政府が存在します。後は下層街と上層街を隔てる城壁のことを下層街の人間たちは「極楽の門」等と呼んでいるようですね」
と、おおよそ横浜に関する説明をしてくれたタイミングで轟雷の車体左側面が叩かれる。何事かと話をいったん中断して外の画像を取り出すと
「こいつから出て来てないのはわかってるんだッ! 早く出てこいッ!?」
「や、やめようよメルディちゃん…! キャメロンさんに怒られちゃうよ~」
と、轟雷を叩きながらそう吼える身長140cm程度の凹凸のほとんどない幼女体系の少女を、同じ身長体系の少女がおろおろしながらも止めようとしていた。因みにメルディと呼ばれた少女はデニムのホットパンツにお腹が丸見えの白のチューブトップ? みたいなやつを着ていて両腕を黒の薄い生地で出来たロング手袋(指の第2関節から先は布で覆われていない指無し手袋)をはめており、靴は軍用に使われる収音性と耐久性に優れたコンブローブーツと呼ばれる半長靴である。最後に
次におどおどしている方はバルディと呼ばれた少女と同じマントをつけており、下にはへそのあたりまでが見える無地のシャツと皮張りの長袖のジャケットを着用。下は黒のコンバットパンツに膝関節にプロテクターを装着し、コンブ―ローブーツをはいたバルディに比べ露出はかなり抑えられた格好をしていて、長方形の…金属ケースのようなものを背負っている以外に特に武器などを所持している様子はない
「…もう因縁をつけられるとは、流石キイチ様ですね」
電脳間ではなく直接口頭で言ってくるネリーの嫌味に、私は露骨に嫌そうな表情をしながら
「ふざけろちくしょうが…出て来るからどいてくれ」
と、深いため息を吐きながらも観念して轟雷の外に出ていく。ハッチから出るなり
「やっと出て来たなぁ!? さっきはよくもあたしのことをコケにしてくれたなタクミ!! 降りてこいこんにゃろう!?」
と、威勢よく吼えるバルティを、もう一人の少女が必死になだめる。それに私は呆れたと言わんばかりにひきつった笑みを浮かべ
「…あぁ~悪いが今連れと中で大事な話をしてるんだ、後でいくらでも相手してやるから今は向こうに行ってくれ」
2人の少女の方を見ずに手を振ってそう言った私に、バルティと呼ばれた少女はことさらに怒りを募らせる。快活のある元気っこな顔つきが凄まじい怒りの形相に変わり
「ムキィィイイイイ! おちょくんのも大概にしとけよこの優男!? その股についてる貧相な一物引きちぎってケツにブッ刺して奥歯ガタガタ言わせてやろうかァ!? あぁ!?」
とても見た目幼女の口から出たとは思えない口汚さで私を罵ってくるバルディと呼ばれた少女。隣の少女は激しく狼狽え、今にも泣きそうになりながらも必死にバルディと読んだ少女をなだめようとしている
「……あぁ~めんどくせえぇぇええええええええ…めんどくせぇけど相手してやるよしょうがねぇなぁ」
と、隣の少女があんまりにも不憫なので仕方なく相手をすることに決め、轟雷のハッチから出て駐車場の床、彼女たちの目の前に着地する
「ッ!」
バルディと呼ばれた少女が着地の瞬間を狙い、衝撃を吸収するためにその場に着地した際膝を追って大きくかがんだ私の無防備な股間に渾身の蹴りを放つ
「おっとぉ!?」
しかしその予備動作の時点から何をしようとしているか理解した私は、概ね彼女がどこを狙ってくるかを理解し、置いておいた片手で彼女の足を受け止めると、そのまま掴む
「へっ!?」
驚きのあまりそのような間の抜けた声を上げるバルディと呼ばれた少女はあからさまなぐらい大げさなリアクションで驚き。私はそれが面白くてこらえきれずに顔を笑みの形に歪めると、そのまま立ち上がりながら彼女の足を持ち上げる
「へぁぁあ!? きゃあぁああああああああああああ!?」
当然そんなことをすれば彼女は逆さ吊りの状態となり、駐車場内に少女の悲鳴が響き渡る。バルティと呼ばれた少女は涙目と共に私を睨みつけながら両手で股間を隠すように抑えると、残るもう片方の足で私の顔面へと蹴りを放つも、私はそれを軽々と顔を横に逸らして回避し、残る片足も掴んで完全に自由を奪う
「おいおい…? ずいぶんと乱暴な嬢ちゃんだ、こりゃお仕置きが必要かなぁ?」
無論そんなものをやるつもりはないが、やられっぱなし破折なので脅しもかねてそう言ってわざとあからさまに下衆笑いをして見せる。それに隣にいた少女が泣きながら私の腰に抱きつき
「す゛み゛ま゛せ゛ん゛!゛ お゛願゛い゛て゛す゛か゛ら゛許゛し゛て゛く゛た゛さ゛い゛!゛ ハ゛ル゛テ゛ィ゛ち゛ゃ゛ん゛を゛話゛し゛て゛く゛た゛し゛ゃ゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛~゛~゛~゛~゛!゛」
と懇願されてしまう。そのタイミングで悲鳴を聞きつけた商会の人間たちやゼルドナーが私の周りに集まり。私はこのままではまずいことになると瞬時に理解し、慌てて隣にいた少女をなだめながらその場にバルティと呼ばれた少女を降ろしたのだった
「は ぁ ぁ ぁ あ あ あ あ……でぇ? 何の御用でしょうか?」
あの後勘違いしたゼルドナー数名に取り押さえられそうになったりとてんやわんやの大騒ぎにまで発展したせいで何故か俺が全責任を取らされそうになったので私の電脳や轟雷のデータバンクから抽出したバルディが蹴りかかって来た時の映像やら何やらを提出して事なきを得た私は、心底いやそうに深く長いため息を吐き出した後、大人げなくバルディを睨みつけながらそう言う。それにバルディの方もいけ好かない奴だ、と言わんばかりに渋顔でこちらを睨み。隣にいるメルディと言う少女は私とバルディとの間に流れる剣呑な雰囲気におろおろしている
「アンタ、キャメロンとあの廃墟で話してた時、私たちに気付いて笑ったでしょう? どうやって気付いたのか教えて欲しい」
と、表情は変わらず、目だけは真剣なものに変わりながらそう尋ねて来る。それに茶化すのはだめだと理解した私は、もう一度ため息を履いてから気持ちをリセットして表情を元に戻し
「まずその光学迷彩マントじゃ視覚及び赤外線や生命探知くらいしか躱せん、空間振動探知なんかの前じゃあってないようなもんだ。それに仮にそれに対応しているタイプだったとしてもあからさまに獲物を眺めれば誰だって気付く」
差し後の言葉にどういう意味だよ、とやや眉をひくつかせながらそう尋ねてくるバルディに、私は
「自分に向けられた殺意なんていう分かりやすい
と、直球の評価と煽りをかます。それにバルディは沈痛な面もちで少し俯くと
「…そっか。あんがと」
と、それだけ言って足早に私の元から去っていくバルディ。その後を慌てて追おうとするも、その前に私にバルディの分まで礼と謝罪をしてからバルディの後を追いかける
「少々お言葉が過ぎたのでは?」
と、ハッチから上半身だけを出したネリーが口頭が少しこちらを攻めるように…と言うよりはからかうように唇を微かに笑みの形にしながら言ってくる。それに私は腕の模様から創り出したシガレットラムネを歯で加えながら
「自分と仲間の命を背負うんだ。あの程度で折れるようならこんな世界にいない方が良いに決まってる」
と、意地悪気な笑みを浮かべながらそう言った私の元に、キャメロンが歩いてくる。それを見た私はネリーに電脳上で
「ネリー、横浜に関する情報を分かりやすくリストアップしとけ、キャメロンとの交渉が終わり次第目を通したい」
と命令し、ネリーは了解しました、と電脳上で返してくれるのでそのままキャメロンの元に向かい、その場での交渉を始めることとなった
「まずは改めて商隊を野盗から救っていただき、心より感謝いたします。こちら商会から貴方への心ばかりのお礼の気持ちです」
と、そこそこの厚みの茶封筒を手渡される。中を確認すると、中には皇国円と言うこの国で使われる通貨(ネリーが今教えてくれた)が凡そ2000円分収められていた。横浜内での商隊の依頼から確認出来た平均相場はおおよそ5~200円程(ネリーが統計してくれた)なのを考えるとかなり破格だ。私は茶封筒に金を戻し、茶封筒の紐の封をつけなおしてからキャメロンに封筒を差し出し
「こう言うものが欲しくて助けたわけじゃあないし、今回の件を他言するつもりもない。どうせ根無し草で私の動向を気にする人間も発言を真に受ける人間もいないだろうが、信用できないなら何なら契約書なりなんなりで縛ってもらっても構わない」
と、ストレートに伝える私に、キャメロンは一瞬だけ驚いた後、苦笑いを浮かべながら
「その必要はありませんし、別に口外して頂いても構いません。むしろ私共泰元商会と貴方の名を知らしめるにはちょうど良いですし、積み荷に被害は出ず、人員の損失もごくわずかで済みましたからこちらとしては別に話されても特に問題はありません。その謝礼は純粋に我が商会を救っていただいたことに対する私共の感謝の証ですから、どうか受け取って頂けませんか」
と答えるキャメロンに私は頷き
「そう言うことなら有難く頂きます。ところで私を狙っていた狙撃手の件で一つお聞きしたことがあるのですが?」
と、私が茶封筒をいつの間にか後ろに控えていたネリーに渡しながらそう尋ねる私に、キャメロンは表情を変えないまでも冷や汗を一筋、こめかみのあたりから頬を流れる
「あぁ~勘違いしないで頂きたいのですが、別に何か問題にしたいとかそう言う訳ではありません。彼女は未熟ですがかなり伸びしろがあると私は感じまして、もしよろしければ彼女の教育を私の方でさせて頂きたいのです」
キャメロンの反応の中に微かに自分が雇ったやつがやらかしたではなく、自分の身うちがやらかしたとき特有の、事態を重く受け止め過ぎた人間が見せる動揺を感じ取った私は勝ちを確信してそう提案し
「は? いえ、それは…」
と、あまりにも唐突な提案にキャメロンは表情を崩して動揺を見せる。それに私は
「私としてもいい加減、根無し草の身分に辟易しておりましてね、それを機にあなた方とつながりを持っておくのも悪くは無いかと思いまして…あぁ、私、腹芸などと言うものは苦手なので、今言った言葉は全て真実だと思っていただいて結構です」
と、にっこりと笑みを浮かべる私に、キャメロンは一度本人に確認を取りたいので、また日を改めて欲しいと言われ、とりあえずそれに従うことにしてその場での話は終わることになる
「キイチ様、本当によろしかったのですか? これで当分はこの都市にいることが確定してしまいましたが…」
と、電脳上でキャメロンと会話するのと同時並行で今後の展開及びキャメロンに対する発言内容の議論などを行っていたネリーから、轟雷に戻る傍らそう電脳上で尋ねられる
「いいに決まってる、それに俺の見立てじゃあのバルディとか言う少女の方から勝手に俺に弟子入りをお願いしてくるかケンカを売って来るよ」
と、自信満々に言い放ち、轟雷の電源を入れる私に、ネリーは根拠は? とたずねて来る。それに私は
「決まってるだろ? 俺の勘だ」
とそう言って轟雷を地上に向けて動かす私に、ネリーは深い溜息を吐きながら
「まぁ荒波を立てない程度にお願いします」
と、無駄だろうな、となんとなく思いながらも釘を刺したのであった
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ようこそヨコハマへ 中編
「キイチ様、この後のプランはございますか?」
轟雷で街中を走らせ、適当な空き地に止めた所でネリーからそう尋ねられ、私はこう答えた
「ん~それは年単位の非常に長期的な意味のプランか? それとも今日の宿のことを聞いてるのか…」
その言葉にネリーは即座に両方です、と答えたので、私はゆっくりとうなずいてから
「前者なら分からん。目覚めたら世界は滅んでいて…己の存在意義であるヤマトへの奉仕もできず、製造目的である他企業征服も、対象企業が存在しないから達成できない…正直このまま目標も決めずに場当たり的に生きていくことになりそうだなぁ…くらいしか思ってないし、将来のビジョンなんて考える気にすらなれん…少なくとも今はな…」
と、そう言った私の笑いの中に自棄と自虐を感じ取ったネリーは、小さく咳払いをしてから
「でしたらゼルドナーかチャレンジャーになってみてはいかがでしょう?」
と、ネリーが提案して来る。それに私は両手を後ろに組んだ状態で
「あぁ~考えてはいたんだが、あれって身分がない今の状態で出来るものなのか?」
と、ネリーの方を見ながらそう尋ねる私に、ネリーは電脳の方にゼルドナーとチャレンジャーのエントリーシートと募集要項を見せながら
「基本的にチャレンジャーの方はなりたいと言えばその場で顔写真を取り、それをつけ最下級となる6級のチャレンジャー認定証が発行されるようです。詳細は同封の基本説明部分に書いてあります」
「次にゼルドナーですが、こちらは簡単に言えば国から運営を委託された独立傭兵機構が行う筆記と実技の試験をクリアすることでゼルドナーとなれるようですね。筆記内容に関しては歴史以外は確実に行けますし、実技の方は問題にもならないかと思われますが。いかかでしょう?」
と、そう聞いてくるネリーに、私は少し考えた後。シートに預けていた体を起こすと、シートに体を預ける形でネリーの方に向き直り
「ならやろう。面白そうだし、仕事もしたいしな…でだ、場所はどこだ?」
と、前を向いてシートに座りなおし、轟雷の電源を入れようとした私を、ネリーは止めると続けて
「少し距離がありますが轟雷を止めるスペースがありませんので徒歩で向かいましょう」
と、言われたので仕方なく轟雷から出る。出ると明らかなごろつきやらチンピラが空き地の中にいる私たちを遠巻きに眺めていたので
「…ジェニー、轟雷を守れ。手を出してきたなら死なない程度に痛めつけてやれ」
と命令し
「了解しました」
と、ジェニーは盾を装備する右手を胸に当て、軽く礼をして答える。それに私は満足げにうなずくと
「ネリー、このまま建物伝いに一気に目的地に向かうから俺の電脳にMAPデータのアップロードとナビゲート頼む。後お前抱っこして行くぞ」
と、そう宣言した私に、ネリーは私を見上げると顔を背けて俯きながら小さくため息を吐くと
「了解しました」
と、諦めたかのように小さな声で了承してくれたのでネリーをお姫様抱っこし
「じゃあジェニー、後は任せる」
と、そう告げて私は少知腰を下ろして踏ん張りの姿勢で力をためると
「そいやっと!」
掛け声とともにっ気に空へと飛びあがり、一瞬にして5mほどの高さの2階建ての小さな建物の屋根に着地し、そのまま大股に建物の屋根を跳ぶようにして走り去っていった
で、5分とかからず私はネリーが示した目的の建物。5階建てのコンクリート製のビルに入る。ビル内は1階部分は飲食と依頼及び仲間の募集を行うための酒場と、併設された依頼や「チャレンジ」の登録及び許可を得るための各種総合窓口の2つが設置されている。因みにまず正面のエントランスに入ると目の前に総合窓口、こちらは君たちの銀行の窓口を思い浮かべて貰えればいい、あれが4つある。そしてそこから右に曲がるとすぐ巨大な酒場に出る。酒場はバーカウンターのすぐ横に2階に上がるための階段があり、カウンター寄りの後ろ側を2回スペースとしていて、全席個室らしい。1階は1つの丸テーブルに4つの椅子が用意され、スラム街で見たことあるようなごろつきかぶれからフードをかぶって素顔を含め全身を隠す奴に明らかな義体や低級の警備ロボットなどを持つ人間など多種多様な人間がいた。そんな彼ら彼女らを横目に、私は開いている受付に進み
「ようこそ、皇国冒険者連盟ヨコハマ支部へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
正面に立っていたのはその皇国冒険者連盟の職員が着るであろう蘭色を基調とした半袖の服とやや短いタイトスカートにストッキング。頭には紺色のややふわりとした丸みのあるベレー帽をつけたとてもりりしく美しい顔立ちの銀髪ショートの女性…いやシンギュラリティの接客用多目的自動人形がそう言って私達を出迎えてくれる。それに私は
「チャレンジャーとゼルドナーの登録を受けたい」
と、直球&端的に添う要件を話す私に、承知しました。と答える自動人形。そのまま自動人形はネリーが話してくれた通りの手順でさっさとチャレンジャーの登録証…となるICカードが手渡される。色は灰色で、カードの左上に私の顔写真、その横に2列で上の列にチャレンジャーの登録時に発行されるIDとR(ランク、つまりチャレンジャー等級…略称)が書かれ、その下に私の名前を、そして右下に皇国冒険者連盟の文字と、おそらく連盟のシンボルであろう金色の何処かの和風建築物を象ったものが作られている
「チャレンジャー登録はこれで終了です、ゼルドナーの登録試験は独立傭兵機構の支部で毎週末に行われますので、4日後にこちらの用紙を持ってそこに向かわれて下さい」
と、私にA4サイズの紙を一枚手渡してくる。それを受け取り、とりあえず丸めたり折ったりしても良いかを聞いて、OKを貰えたのでポケットに収まるサイズにまで折りたたんだ後
「さっそくチャレンジャーとして仕事がしたいんだが?」
と、受付の自動人形にそう尋ねる私、それに自動人形は依頼やチャレンジできる遺跡などに関しては全て酒場で確認できるので、受けたいと思ったものを持ってきてほしいと頼まれ、とりあえずネリーを連れて隣の酒場に入る
「…」
受付でも十分すぎるくらいだったが。一歩酒場に不見れいると同時に受付の時とは比較にならない喧騒とその迫力が私の目耳を襲い、酒場全体を包む独特の空気が私の心を高揚させる。そして私と言う遺物の登場に、僅かに空気が変わった
「おいおい上玉連れてんじゃねぇかよ…なぁおい! やっちまおうぜ?」
「ばーか、ここでやったらオーナーに殺されんだろ!? 今は大人しくしとけっての! …それに機会なんていくらでもあんだからよ…?」
「そりゃそうだ! ギャッハハハハハハッ!!」
と、こちらを良く見えようともせず侮り、下世話な会話で笑いを取るゴロツキやチンピラに毛が生えたような連中たち
「…結構真新しい装備ね。見たこと無いわ…」
「使ってるのは7.62㎜のアサルトライフルか…骨頂品だが状態はいいみたいだな…」
「それよりあいつと後ろの奴の立ち振る舞いだろう。スキがどこにも見当たらない。前ショッピングモールで出会ったマーズの警備用自動人形よりもヤバそうな感じがびんびん伝わって来る」
「ここで盛るなよ? 盛ったら俺がぶっ殺すからな?」
と、冷静にこちらを良く見て
「…おや? ビールは好きじゃないかね?」
と、左から私とネリーの間に歩いて気た男は、少しからかうようにしてそう尋ねて来た
「いや、悪いが俺も彼女も有機転換炉を積んでないんだ。後彼女は分からないが俺は大好きだったよ?」
と、わざとらしく、少し大げさなくらいで肩を竦めてそう答えながら、私は目の前の男を良く観察した
「そりゃ失礼した。あんまりにも静かで生身と勘違いしてしまったよ」
と、そう言ってグラスを下げる男は、鮮血のように鮮やかな赤のトレンチコートを羽織って前をしめており、赤色のスラックスを履き、白の手袋をはめて顔にはペスト医師の仮面をつけ、屋内だと言うのに大きなシルクハットをかぶったそのあまりにも不可思議な格好と柔らかな雰囲気によって巧妙に隠されているものの、獰猛な獣を思わせる重くへばりつくような、しかしそれでいて研ぎ澄まされた刃物のように鋭利な殺意を瞳の中にくすぶらせていた
「あぁ気にしないさ。私はタクマ・キイチ。今日チャレンジャーになったばかりの新人だ、よろしく頼むよ」
と、そう言って私は左手を差し出し握手を求める。それに男も頷き、差し出された左手を握り握手しながら
「こちらこそ。私のことはオーナーと呼びたまえ、この酒場の主兼バーテンダー兼依頼仲介者だ。チャレンジャーとしての依頼を受けるなら私に聞くか、このバーカウンターの横に張り出されている掲示板に張り出された依頼書を受付嬢に持って行きたまえ。チャレンジが御所望なら2階にある遺跡一覧から自分の投球でチャレンジ可能なものを選び、その遺跡に割り振られた登録番号を受付嬢に言えばいい。上限に到達してなければチャレンジの許可が降りる」
と、自己紹介の後自分が飲むためのカクテルを作りながら説明するオーナーに、ある一点で気になることがあったので私はそのことを訪ねた
「1つの遺跡毎に入れる人間の数に上限があるのか?」
「あぁ、遺跡の規模や等級によるが最低5人、最大で300人ほどだな。ただし色々と融通が利くから遺跡に行くときには事前に確認することをお勧めするよ」
と、作ったカクテルをグラスに注ぎ、香りを楽しみながらそう答えるオーナーに続きをお願いする
「まぁ新人であればまずはクズ漁りで君に対する我々の評価を上げるところから始めると良いだろう。ある程度の評価されれば私が君に幾つかの依頼を紹介しよう?」
そう言ってマスクを外すことなく。グラスが
オーナーは
「あぁ。後最も大事なことだが、依頼者や研究機関、政府に軍などへの信用を得ることも大事だ。だが同業者の受けや伝手も大事だ。ボッチにはならずに積極的に仲良くなりなさい」
そう言った後、オーナーは両手を軽く広げて質問があれば言え、とジェスチャーして来るのでとりあえず電脳上でネリーと話をしたうえで茶封筒から100円札一枚を取り出し、カウンターの上に置く。すると
「何の冗談だ? 別に俺はお前から金を貰うほどのことをしちゃいない」
オーナーの声質が僅かに変わり、何とも御親切にストレートな事を言ってくれるので私はそれに対し
「この百円で月単位で借りれる大型車両用のガレージと新人にお勧めの遺跡を教えてくれ」
と、そう言うと。オーナーは少しの間黙った後
「くつくつくつ…面白いな。200円だ」
と、わざとらしく肩をかすかにふるわせながら笑ってそう言ってくるオーナーに、私も笑顔のまま
「ぼり過ぎだ100円。これはあんたに対して俺が今出せる唯一の対価だからこんだけ相場無視して払ってるんだよ。試すような真似はしないでくれ、俺はそう言うの苦手なんだよ」
と、返す私に、くつくつとわざとらしくもう一度笑い。オーナーは悪かったと両手を軽く振って謝罪し
「21222号遺跡。今日の朝に
と、右ひじをカウンターにおいて持たれるようにこちらに寄ったオーナーはひそひそと話してくれる。それに私は満足げにうなずき
「サンキューオーナー。で? ガレージの方は?」
「そいつはそのガレージに入れたい物によるとしか言えないな?」
と、大げさに肩を竦めたオーナーに、私はネリーと電脳間で
「どうする? あまり口で説明するのは止めときたいんだが?」
「そうですね。詳細なスペック情報は可能な限り伏せて行くべきですから、私の業務用独立副電脳を使用しましょう。こちらなら電子戦用自動人形の「イービルアイクラス」でも無ければプロテクトを突破する可能性すらありませんので問題ないでしょう。アドレスは…です」
「了解だ、じゃあ渡すぞ」
と、1秒にも満たぬ電脳上での高速通話でネリーと話し合いをした私は、ネリーに教えられたアドレスをオーナーにお願いして貸してもらったペンで貰ったクズ紙に書いてオーナーに手渡す。それを受け取ったオーナーは頷くと
「よし、なら受付で登録を澄まして早速チャレンジすると言い。その間に私はよさげなガレージを見繕ってこのアドレスに送付しておく」
と、そう言ってくれたので私は礼を言って席を立ち、受付の方に向かう
「ではなチャレンジャー。君のチャレンジに大漁有れ」
と、去り際に私にそう言ってくれたオーナーにもう一度礼を言い、ネリーと共に手を振って受付に向かう。受付では問題なくオーナーに教えられた遺跡へのチャレンジを承認してもらえた上、他に誰もいないと言うので少し期待値高めに、私は目的の場所に向かうことにした(地図データはネリーの業務用独立副電脳に冒険者組合専用のネットワークに登録してもらい転送してもらった)。尚送迎者による送り迎えは轟雷があるので断った。理由としては酒場にいたごろつきどもとの無駄ないさかいを防ぐためと言うのが半分、もう半分はジェニーと轟雷が心配だからである。で、ジェニーが待つ空き地にネリーと共に帰ると
「おかえりなさいませマスター。あの後私と轟雷に危害を加えようとした人間14名をオーダー通り死なない程度に痛めつけて追い返しました」
と、頼もしい上に安堵できる報告をしてくれた無傷のジェニーと
「遅かったな。待ちくたびれたぜ」
ガンケースを地面に立ててそれにもたれかかり私にそう言ってくるバルディがいた
「……何でここにいるんだ?」
全く予想していなかったバルディの登場に私は思わずそう尋ねる。それにバルディは心外そうに
「何よ。キャメロンから私を弟子にしてくれるって聞いたから、当分の仕事を蹴ってこっちに来てやったんだぜ?」
と、眉間にしわを寄せ、こちらが悪いと言わんばかりの声質でそう言ってくるバルディに、私は天を仰いでから
「悪いが今日はチャレンジャーになってから初の仕事に向かうんだ。最低でも次の日にもう一度出直してきてくれ。キャメロンからもらった仕事用のアドレスに詳細を送っておく
と、電脳上でネリーとバルディの対応について議論しながらそう言った私に、バルディはあ、そうなの? じゃあ少し待ってと言ってホットパンツの右ポケットから取り出した端末(四角形で角が丸く、片面が液晶になっており、底面にスピーカーとケーブル接続用のコネクタ、後は何かのボタンらしき窪みが液晶の下側にある)を使い、誰かに電話をかけると
「あんたが行く遺跡の番号は?」
と、尋ねてくる、それになぜ聞く必要がある? と聞こうとして、しかし無言の圧力の内に観念して遺跡の登録番号を教える。すると短いやりとりの後通話を切ったバルディがこちらに振り返り
「よし、1枠開けて貰った。これでパーティーが組めるよ」
と、冗談でも笑えない言葉に私の表情が引きつる感覚を覚えながらもなんとか
「…じゅ、受注時に受けた人数は1人と付属の自動人形2で登録したはずなんだが?」
と、バルディに尋ねる。それにバルディは
「あぁ! あたしこう見えてゼルドナー4級とチャレンジャー3級持ってるから。引率って形で枠をねじ込んだ」
「…受注主の許可なくそんなポンポン増やせるようながばがば管理で良いのか組合は?」
と、下級の人間…と言うよりは新人のプライバシー関連のが馬佐に昭を通り越して恐怖を感じる私に、バルディは
「アンタねぇ…入ったばかりで素性や身分の保証もない新人のことを気に掛ける組織なんて皇国軍以外にいないに決まってるじゃん。してほしかったら評価を上げるしかないよ」
と、説明するバルディに乾いた笑いをしながら、私は観念して
「ジェニー、集合。とりあえず出発前にチャレンジ? 目標の軍病院についての情報収集と、並行してパーティーの役割分担を決めるぞ」
と、そう言った私の背中は少しだけ曲がっていて、ネリーはあとで彼を労おうと決心した
あの後1時間半にわたる事前準備を経て、私たちは轟雷の砲塔にバルディとジェニーを乗せて横浜から出発し、以前キャメロンたちを助けた廃墟街を抜け、隣接する
軍病院の周囲は2メートルほどの高さの塀で覆われ、ヘイの上に設置されたレーザーライドなどの防犯装置は全てはぎ取られ堀自体もところどころが壊れたり禿げたりしているものの辛うじて堀としては機能している
「…す、すごいものに乗って来たな…!? と、とりあえずお前たちが組合から連絡のあった6級のチャレンジャーだな!? 追加で3級もいるらしいな!」
と、軍病院の堀の門の横に止められた軽装甲機動車の銃座にいる皇国軍兵士からそう声を掛けられ、砲塔に乗っていたバルディがそれにこたえる
「おう! あたしが3級チャレンジャーのバルディだ。この中に新米が入ってる」
「了解した。にしてもジェミニナイトなんて持ってるとは、等級詐欺もいいところだなチャレンジャー!」
と、ジェニーの方を見ながらそう続ける皇国兵に、ジェニーが訂正するよりも先に
「違う違う! この子は下の新米の持ち物だよ!」
と訂正してくれる。それに皇国兵はことさらに驚き、そしてすぐに怪訝な表情を向けながら
「…そうかぁ! じゃあチャレンジの時間は5時間だ! 10分前には警告のメッセージを送信する! 時間を超えた場合はよほどのことがなければ減点対象になるからそのことを良く頭に入れて行動しろ!」
と、そう言って入場を認めてくれたので轟雷から早速降りてバルディらを引き連れて門を越える
病院は簡単に言うと茶色の3階建ての建物が横一列に並び、その後ろに中央に6階建ての本館、その左右に5階建ての西館と東館があり、3階建ての建物とこの3館は繋がっており、更に本艦と西館、東館は連絡通路で5階と繋がっている。多少は壊れているが、かなり外観等は形を残しており、そこまで壊れているようには見えない
「よし、フォーメーションフォール1。ネリーは索敵を頼む」
アサルトライフルの安全装置を解除し、私はそれを腰だめに構えながら指示を出し。それにジェニーは了解と答えて、ゆっくりと私たちの前に移動し
「は~いはいはい了解ですよ~と」
と、両手に構えた中出力の光線拳銃を収めたホルスターの留め具を外していつでも抜き取れるようにしたバルディが私の横につき。ネリーが背後に回って索敵を始める
「…ダメですね、流石ヤマト製、振動も赤外線も生体探知もエネルギー感知もだめですね。中に入らないことには調べようがありません。ネットワークも非常事態用のプロテクトがかけられていて、突破にはあと5分必要です」
と、報告してくれたネリーの言葉に私は鉄帽をさすりながらため息を吐きながら、病院について事前に収集した情報を思い返していた
「一応事前の情報収集じゃ病院内で金目のものはことごとく漁られ、警備ロボットを含め警備システムも完全に破壊しつくされた後、MAPデータそのものは流石に入手できなかったが、ネリーが保有しているヤマト関連施設の中にあるこの病院の戦前の頃の見取り図が役に立つはずだ…なら…」
そこまで脳内で思考した後、私は手を一度叩くと
「よし! 作戦は事前に説明した通り! 金になりそうなものは片端から、ゴミくずでも回収して帰還するぞ!」
と、意気揚々とそう言い放つ私に、ジェニーは講習はソードを高く掲げて
「おー!」
と私の乗りにあわせて律義に合わせてくれる。それにネリーも
「おー」
と、真顔のまま腕だけを伸ばして何ともやる気のない掛け声を上げる
「…あんた子どもなのかクズなのかよくわかんないわね」
と、バルディはそんな私たちを見ながら少しだけ弟子入りを後悔したのであった
病院の正面から入る、中はおおよそ奥行き50m、横80m、高さ20mほどの空間で、正面には不空数の受付が等間隔に設置されており、受付右横、ちょうど受付よりも人間一人分奥の個所に転送装置らしきものが設置されている
室内空間そのものは受付と同じ楯列に長椅子がいくつも等間隔で設置されており、壁の両側には停止したエスカレーターが設置され、受付とほぼ同じ位置にある2階部分に繋がっている。後はエントランスの周りや壁際などに設置された観葉植物が枯れ果ててなの容器に入れられた土に腐葉土になって混ざりあって乾ききってるくらいだ
「…ディスプレイまで根こそぎ持ってったのか…雑いな…」
受付の上に設置された、おそらく案内番号の表示などをしていたであろうモニターが設置されていた個所には、配線用の穴から焼き切られたケーブルが見えているだけで、おそらくだが無理矢理持ち去ったのだろうと推測できる。よくよく見れば観葉植物の植生管理用の装置や清掃ロボットなどを含め、金目になりそうなものは文字通り根こそぎ持ち去られていた
「…病院内のネットワークもセキュリティ関連が破壊しつくされていますね。こちらからデータを吸い出すのは止めておきましょう…それ以外を掌握するので少しお待ちください」
と、ネリーが報告して来たので、とりあえずまだ何か残っていないかこのエントランスホールの探索を提案、それにバルディも同意したのでジェニーに索敵についてもらい、私とバルディで探索を始める
「…何も無いな」
自分達よりも先に訪れていた者たちが根こそぎ持って行ったのかエントランスホールを構成する朽ち果てた家財程度しか残ってはおらず、早々に探索の価値無しと見て手を抜くバルディを横目に、受付の隅々まで探す私は、ある1つの受付のデスク裏、金属製の引き出しの部分に一カ所だけ手触りに違和感を覚えた
「? なんだ…」
その違和感の正体を知ろうと私は腕の模様の一部を親指と中指と人差し指にまで伸ばすと指を鳴らす。すると指先に炎とは違い。まるで電球の湯に柔らかで暖かな光が人差し指に灯り、それを明かり代わりに裏を見てみると腐食などを防止するシートがテープで引き出しの裏に貼られており、私はそれを剥がして、手に取ってみる
「こいつは…?」
シートの中には4つ折りにされた小さな紙きれが入っており、私はバルディ達を読んで一緒に読むことにした
「企暦223年 〇月△日 これを読んでいるものがいることを願い、ここに書き記す。現在この病院の地下に
「…え? ガチ?」
紙切れに書かれた内容を読み終えた私の口からそんな言葉が漏れ出た。それにバルディは私の方を見上げながら
「なぁ、アイネって誰だよ」
と、私に尋ねて来る。それに私は
「あぁ~戦前、ヤマト陸上企兵の中でも精鋭中の精鋭が揃うと言われた第11即応機械化歩兵連隊のエースオブエースで、間違いなくヤマト最強の兵士だった女性だ。彼女はあらゆる兵器や兵装を使いこなし、公式戦果だけで主力宇宙戦艦2隻、MF3隻、重装甲パワードスーツ3個大隊、最新鋭近接戦闘用義体化歩兵1個大隊、最新鋭近接戦闘用自動人形1個連隊を一人で殲滅してる。で、彼女が好んで使っていた彼女専用にヤマト直営の*1次局と
と、自分でも控えめに言って頭おかしいよな、と思いながら解説する。それを聞くバルディの顔は嘘だろ? と言わんばかりに眉をひそめて
「いや。いくらなんでも嘘だろ。遺跡で今も稼働してるボロボロのジェミニナイトとかバルキュリアシリーズでも準1級以上のチャレンジャーやゼルドナーが束になってもかなわないのに、それを一人で殺せるわけないじゃん…」
と、最も事を言うバルディに私もだよなぁ…と私も苦笑いを浮かべながら相槌を打ちつつネリーに
「病院内のネットワーク掌握できた?」
とたずねる。それにネリーは
「はい、たったいま掌握できました」
と、そう言って右手の掌から投影した立体モニターを利用して現在の病院内の見取り図を取り出す
「恐らくですがこの病院内に金目のものはほとんど残っていないかと思われます。ただ先ほどキイチ様が発見された地下の大規模集中治療層に関してですが、こちらは東棟、西棟の1階にある救急車両受け入れ口に設置された大型転送装置から行けそうです…ただし主電源が落ちているため偽装隔壁が閉じたままですし転送装置自体も動いていません」
と。見取り図で東館と西館の1階部分の一部を赤く変え、更にそこから転送装置と隔壁のポイント、病院の非常用電源が設置された地下発電室の場所と、そこから転送装置と隔壁に繋がる電力供給ラインの状態を表示しながら説明するネリーに、私は
「そこは腕とネリーを使えばどうとでもなるな。じゃあ東館の方に向かおう」
と、提案、いまいちよく私の言葉の意味を理解できていないバルディは首を傾けながらも同意し、他の2人も同意したのでそのまま東館に向かい、緊急車両が納入される1回の受付に到着した私達は、転送装置を隠す、一見すればただの壁にしか見えない偽装隔壁の前で立ち止まると
「ネリー、今から腕を使って隔壁と転送装置にバッテリーを取り付け、俺のメインを使ってバッテリーの充電と装置と隔壁への電力供給を同時にやるから、新規の設計頼むわ」
と、そう言って両肘のプロテクターを外して袖をまくりながらそう言った私に、ネリーは了解しました、と言って目の前の偽装隔壁とその奥にある転送装置のスキャン、およびそれを元に私の要望通りの新規設計を開始し
「あ、あんた何言ってんの?」
と、完全に状況を飲み込めないバルディが私にやや困惑した顔で聞いてくる、そこには道に対する恐怖の色も混ざっており、私はそれに対し不敵な笑みを浮かべて
「まぁ見とけ、ものの数分で終わる」
と、自信満々に答えると、私は両腕を前に突き出して拳を握り、脳内で
「人間工廠第1種
と、宣言すると同時に両腕にあの赤い模様が現れる。続いてその模様と同じ色に光る粒子が、両腕から溢れ出すと、そのまま重力に従い液体のようび地面へ向かって落下し、地面に落ちると、そのまま偽装隔壁へ向かって進みだす
「隔壁及び転送装置の新規設計が完了しました、データを送信します」
そしてネリーが電脳を介してそう報告した直後、私の電脳領域内にネリーが報告して来たデータが送信され、直ちに私はデータを人間工廠にインプットし、されると同時に、まるで生きているかのように突然液体が飛び上がり、獲物を丸のみにしようとするスライムのように大きく弧を描くように口を開く
「ひっ!?」
突然のことにバルディから可愛らしい悲鳴が上がり、そのまま液体は隔壁にぶつかるも跳ね返ることなく隔壁に吸い込まれる。そして全ての液体が隔壁に吸い込まれると、隔壁全体に腕と同じ模様が突如として浮き出るように現れ、次の瞬間には隔壁そのものが液体に変わり、そして瞬きの間に元の隔壁に戻される
「…」
余りの光景にバルディは隔壁を睨みつけ、何度も目をこすって確認しているが隔壁は液体を吸い込む前と変わりはなく、最後に私は隔壁まで近づくと、右手を触れる。すると腕の模様が右手の指先にまで広がり、その赤い光が血液のようにひときわ強い光を隔壁へと運んでいく。続いて数秒が経過したとき、壁に偽装するために隔壁の表面に設置された偽装部分に等間隔に縦線が入ると、そのまま上下に等間隔に分かれて壁の中に格納され、続いて隔壁が一番手前側から斜め右下、右上、左下、左上の順に開いていき、奥に鷹さ3メートル、横幅10メートル、奥行き7メートルほどの部屋そのものを転送装置にした大掛かりなものが現れる(因みに部屋の中は壁天井床全て白く発光している)
「よし! どうだバルディ、お前がこれから師と仰ぐ人間の凄さは」
完璧な仕事ぶりに満足しながら振り返りながらそうバルディに振り返る。それにバルディは私に対して畏怖の目を向けながら一歩後退り
「あ、あんた…あんたは一体…だ、なんなんだい?」
微かに震える声でそう尋ねる彼女に、私は笑顔を消して真顔で
「…ちょっと特殊な義体ユーザーだよ。それ以外のなんでもないさ」
さぁ行くぞ、と続けながら転送装置に向かう私の背中を、バルディはそれまで見ていたおかしな人間ではなく、とても恐ろしい…未知の存在としか見れなくなりながらも、最早引くに引けない以上はついていく他なく、バルディは両手で頰を叩いて気合を入れ
「よし! 行くわよバルディ…!」
と、そういって彼女は私たちの後に続いて転送装置に乗り込んだ
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ようこそヨコハマへ 後編
転送装置を抜け、私たちはあの部屋と全く同じ場所に転送されて来ていた
「ネリー、隔壁は開けるか?」
「…無理ですね、病院のネットワークとは完全に別物ですし、ハッキング出来ないよう部屋の全面を電波遮断されています。…一応方法が無くもありませんが、もしやるなら確実にバレて殺し合いになります」
私の問いにネリーは私の方に振り返らずそう答える。それに私は仕方ないと首を横に振ると、先ほどと同じように両腕を前に突き出し
「なら隔壁を破壊して施設内に侵入、俺とジェニーが前衛、バルディはネリーの援護だ。こっちは構わず自分とネリーの事だけ考えて動け」
と指示を出し、、それにジェニーが私の隣に立ち
「お任せください」
と、高周波ソードの電源を入れながらジェニーがそう言い、バルディも腰のホルスターから拳銃を抜き取り
「ま、任せなさい。これでも3級、戦闘用の自動人形相手に大立ち回りしたこともあるんだから」
と、少ししおらし気ながらもそう言った彼女の雰囲気と立ち振る舞いが少なくとも腑抜けではないことを理解し、私は特に追及もせずにこう言った
「開けるぞ、総員戦闘準備」
その言葉にバルディは改めて拳銃のグリップをしっかりと握りなおし、安全装置が解除されているかを横目で確認し、ネリーは袖をまくり、少しだけ片足を開いて直ぐにでも走り出せるように準備し、ジェニーは盾を構え、左足を半歩後ろに提げて腰を低く身構え、高周波ソードを自身の腰から後ろに提げた左足で隠すように構える
「人間工廠
脳内でそう宣言すると、両腕の模様が赤ではなく、とても美しいコバルトブルーに変わり、その光の粒子は一瞬にして腕から溢れ出すと瞬時に隔壁全体にへばりつき、そして
「実行」
宣言と同時に隔壁がまるで腐り落ちるかのようにどろどろのぐじゅぐじゅに溶解しながら地面へと落下し、それと同時にジェニーがあけた穴から施設内に侵入し、続いて私たちも中に入る
「ッ!?」
私たちの中でただ一人
今自分達が突入し、ジェニーが戦う場所はおおよそ30メートル四方の広間のような空間で、左右には手すりがあり、正面はその大部分が2つの*1オートウォークになっていて、中央部分と端に手すりがあり、中央の手すりはそのまま下に伸びている
次にオートウォークが進むなだらかな傾斜は下り始めてすぐ直径10メートルほどの巨大なパイプが眼下に広がっておりそれがそのまま最下層にまでずっと続いている。次にオートウォークだが担架1台と人2人程度が縦に立てる程度のスペースがある水平部分がある程度で、他はゆっくりと下に降って行くのだが、そのくだり部分から見える光景が絶景の一言に尽きた
まずオートウォークは全長3㎞そこから500メートルごとに縦4列で、一列1000基の医療用ナノマシン充填式シリンダー型培養再生治療槽が6列並べられた各層へは重力制御とAIによる自動仕分けシステムを利用してその階層で治療を受ける人間を選別して自動でその階層に降りれるようにされたており、それがが6つ。最下層はオートウォークの終着点なのでそのまま搬送できるようにされている、そんなあまりにも巨大すぎる治療施設が目の前に広がっていた
「何これ…すっげぇや…」
その光景にバルディは言葉を失い見とれ
「バルディ!」
私の声に反応して意識を取り戻すと、慌てて我を取り戻し
「ばか! 戦場で呆けるな! 死にたいのか!?」
と言う私の罵声にごめんなさい! と私に負けないくらいの声量で謝罪して来たのでとりあえず戦闘終わったら絞めるからな、と言いつつ私はアサルトライフルを右手で腰だめに構え、前方から物凄い速度で迫る自動人形…その姿は端的に言えば角ばった装甲のボディーアーマーを装備し、両腕部にヒートナイフや5.56㎜弾を使用するマシンガンを内蔵したボックス型の兵装と二の腕にも角ばった装甲を持ち、残る首から下は全てインナースーツのようなものを着用し、頭部は目元をバイザーのようなもので覆い、そのバイザーと一体化したヘルメットの上に更に鱗を逆さにしてかぶせ、ヘルメットの曲線に合わせて曲げたかのようなヘルメットを装備したプラチナブロンドの女性…の外見デザインをした*2大兵技研が設計開発を行い、ヤマト自動兵器工廠が製造した要人警護及び防衛用軽装型近・中距離戦闘用自動人形「シャダル・サザーランドシリーズ」のフラグシップであるシャダル・サザーランドである
「がぁあぁぁあ! くそ! 7.62㎜なんかでシャダルが抜けるか馬鹿野郎!?」
私はそう口汚くシャダルを罵りながらアサルトライフルをシャダル・サザーランド(以降シャダルと呼称)に向けて投げつけながらバックステップで逃げるも、シャダルは投げつけられたアサルトライフルを主と腕一刀両断し、そのまま私へと迫る
「チッ! やっぱりこっちでやるしかないな?」
そう愚痴りながら私は両腕にあの赤い模様を走らせ、その模様と同じ赤い光を両腕の肘のあたりにまで全体を覆うように展開させる(正面から見ると肘から少し上に向かって炎が燃え上がっているように見える)。そのままバックステップの状態で短くジャンプし、着地するまでに右足を大きく後ろに引いて支えとし、膝を曲げ、腰を下ろし、左手を肘を曲げて私の眼前に固く握った手が来るように、右手は肘を曲げてからわき腹より少し後ろ側に手が来るような構えを取る
それにシャダルはそのまま低くは知り飛ぶと同時に、私の頭部を狙い、右手を瞬速と言うべき速度と勢いを乗せて私の眉間へと放つ
「ッ!」
それを私は少し後ろに上体をのけぞらせながら左手で右腕の手首をつかみ、そのまま相手が行動を起こすよりも速く、左手で右腕を外へと引っ張り、重心が逸れて大きくシャダルの胸部を無防備に開かさせると
「シィ!!」
奮い立たせるような私の掛け声とともにそのまま仰け反らせていた上に左手を外に開かせた影響でバランスを崩した体を利用し、そのまま飛び上がっているシャダルの足元に滑り込むように倒れながら、右の拳をシャダルの胸部中央、メイン動力源へと向けて突き込む。まるで大型車両同士が激突したかのような凄まじい轟音に続いてシャダルの胸部を粉砕しながら私の拳が貫通する。が、素早く予備電源に切り替わったシャダルはノータイムで私を殺そうとヘッドバットで私の頭部を破壊しようと頭を振り上げようと動き始めた
「っとぉ!?」
その瞬間に右の拳をシャダルの胸部に叩き込む直前から既にシャダルの右手を話して振りかぶり始めていた左手の拳をシャダルの頭部に叩き込む。バイザーが音を立てて粉々に砕け散り、その下にあるとても美しい女性の顔が、可愛らしい黒目が見るも無残に粉砕され、更にヘルメットのこめかみとその周囲を派手に破壊しながらシャダルの右頬から穿つように中枢を粉砕する。それによりシャダルは機能停止に陥り、私はそのままシャダルと共に地面へと倒れる
「ぐへっ!? クソッ!」
落下の衝撃で口から空気と共に変な声が吐き出されるが、頭上に迫り来る明確な死の予感に私は慌てて両腕をシャダルから引き抜き、その残骸を両足を思い切り上に振り上げ、その勢いに両手のばねの力をプラスしてそのまま振り上げるようにして体を持ち上げ、それと同時に両腕の光を両足全体に纏わせる。そしてそのまま私の頭部を僚機の残骸ごと踏み抜こうとしたシャダルの胸に向かって両足を叩き込む
「ッシャァァ!」
両足が深々とシャダルの胸部装甲にめり込み、そのままシャダルは大きく吹き飛ばされる。それに確かな手ごたえを感じた私は思わず歓喜の声を上げながら一旦体を直立にあげてから体の向きをシャダルの方に変えてから両足を地面へと降ろしつつタイミングを合わせて両手を押すようにして地面から起き上がり、しっかりと地面に立ちなおしたその瞬間を狙い、先ほど蹴り飛ばしたシャダルが背部のブースターを使って一瞬にして距離を詰め、私のみぞおちに若干上体を逸らさせるほどに振りかぶった右の拳を叩き込む
「ッ!?」
紙一重で両腕の光を腹部に展開させ衝撃を受け止めるも、光はビニール袋ほどの厚みしかなかったせいで衝撃を完全に吸収しきれず、まるでゴムのように光が伸びてそのまま私のみぞおちに幾らか威力を殺されながらも、コンクリートブロック程度なら余裕で粉砕できる威力の、ロケット砲と言って問題ない拳が付きこまれる
「ッッッッオッ!?」
声にならない悲鳴を上げ、最後に絞り出すように、まるで絞殺される直前のオウムのように変な悲鳴を上げた私は、そのまま体を苦の字に曲げて吹き飛ばされ、そのままあおむけに体を傾かせ、頭から地面に落下し、そのまま数度縦に転がった後手すりに叩きつけられる
「グァァ!?」
手すりが私の体の形に大きくヘコミ、更にその周囲が衝撃で外に引っ張られるように歪む。その際の衝撃と痛みに短い悲鳴を上げる
そこに間髪入れずにシャダルは私の心臓と両肺を潰そうと両足を使った飛び蹴りを繰り出し
「調子に…!?」
それを私は両腕から出した赤い粒子を巨大な一枚の布切れのように大きく広く構成させると、私の胸に当たる直前でシャダルの両足を絡め取り攻撃を止めると、そのまま背中に回した粒子で体がめり込んだ手すりを破壊し、更にそれをまるで触腕のように床に突き刺して体を支え、そのまま触腕を使い一気に飛び上がると、そのまま体を地面に対して水平にさせ、絡め取ったシャダルを数度振り回して遠心力による加速と勢いを乗せ
「のるなぁぁぁあああああ!」
と、その叫びと共に渾身の力を籠めてシャダルを地面に叩きつけ、間髪入れずに両足でそれぞれ頭と胸部を踏み抜いて撃破し、そのまま左右から同時に襲い掛かって来たシャダルの手刀を両手を胸の上に交差させ、腕の模様から溢れ出した明かり光が繭のように私を包み、手刀をその繭の中で飲み込み、勢いを完全に殺して防ぐと、そのまま繭を膨張させてシャダルを飲み込ませる
「おらぁぁぁああ!!」
そのまま繭の光を手に集め、明かり光の粒子に取り込ませたシャダルを何度も何度も床に叩きつける
「このッ!?」
一方ネリーの護衛役として奮闘するバルディは、人間では到底対処できないはずの軍用自動人形を相手に良く善戦していた。両手の拳銃で相手のルートを潰し、常に近づかれない戦い方を徹底していた
「目標脅威度を策定。ネットワークに共有…エラー、ハッキングを受けており、共有は危険と判断。暫定的にネットワークを切り離し独自行動を開始します」
と、そう淡々と抑揚のない声で宣言すると、シャダルは両腕の装甲からそれぞれ1本ずつ金属製の円柱を立たせる。するとそこからエネルギーシールドが笹の葉上に展開され、それでバルディの放ったビームを防ぎながらバルディへと迫る
「ちょっとそんなのアリ!?」
と、バルディはそれにふざけんなと抗議の声を上げつつ右手の光線拳銃をセミオートからフルオートに切り替え牽制でばらまきつつ左手の光線拳銃をベルトの臀部側につけられた角が丸いし角形の黒い金属製の箱を接続させる。そしてそのタイミングで近距離にまで接近したシャダルがエネルギーシールドをそのままバルディに押し付けようとも右手を振りかぶり
「ッ!」
それよりもわずかに早く、バルディの左手の光線拳銃が突如として変形し、あの接続された箱の中心から展開されたビームソード(形状はライトセイバーのそれとほぼ同じだが、刃の先端部分は剣のように鋭利で鋭くなっている)がエネルギーシールドをわずかな拮抗の末貫通し、そのままシャダルの胸部を刺し貫く
「取った!」
勝利を確信したバルディが笑顔を見せるも、予備電源に切り替わったシャダルが残る左腕のエネルギーシールドをバルディの顔面へと振りかぶる
「え?」
勝利を確信して緩み切っていたバルディに反応などできるわけがない。そのまま無慈悲にもエネルギーシールドがバルディの顔面に叩きつけられ、彼女の顔を文字通り消滅させ…
「ッラァァァア!!」
るよりも先に私が繭に包んだシャダルを無理やりバルディを攻撃する機体に叩きつける。あまりの衝撃にシャダルは文字通り床と繭に包まれたシャダルにプレスされる
「うわっ!?」
プレスされた際、突き刺さった拳銃がそれに巻き込まれて床に落ち込み、それに引っ張られて倒れ込みそうになったバルディは反射的に手を離す。そのまま拳銃はシャダルとと共に床に叩きつけられるも、それなりに距離が開いていたおかげでプレスされることはなく、バルディは慌てて拳銃から展開されたビームソードを消して拳銃を回収したところで私からの
「ばか野郎伏せろォ!!」
と、言う怒号が聴こえ、バルディは何とかその声に反応してその場にしゃがむ。すると彼女の背後から襲い掛かろうとしたシャダルに、もう一つの繭に包まれたシャダルをぶつけて吹き飛ばすと、そのままその場にしゃがんだバルディの元に駆け寄り
「え? きゃっ!?」
有無を言わさず彼女を抱きかかえネリーの元までダッシュで逃げる。ネリーの方は周囲に黒焦げバラバラにされたシャダルの残骸が12機ほどその場に転がっており
「やはり援護が必要でしたか。有難うございますキイチ様、流石にシャダル・サザーランド1ダースを捌きながらこのレベルのセキュリティを突破するのは容易ではありませんでしたから」
と、涼し気にそう言い放つネリーに末恐ろしいものを感じながら、私は腕の中で状況を理解できず軽い放心状態のバルディをそのまま床に落とす
「ぎゃん!? 痛ったぁ~~~!?」
その痛みで放心状態から復帰した彼女は、地面に落とされた際に強く打ったお尻を摩っていたが、私が発する怒りのオーラに気付くと、まるで油をさしていないさび付いたブリキ人形のようにぎしぎしと音が鳴りそうなくらいぎこちなく私を見上げる
「終わったら反省会。有無は言わさせんぞ。俺が満足できるレベルの兵士に育て上げるまで生かして返さん。逃げられると思うな」
と、既に電脳で施設の掌握が完了したことをネリーから報告を受けていたので、ゆっくりと、バルディの中の中にまで浸透するように圧を込めれるだけ込めてそう言うと、シャダル戦の時とは別の恐怖に襲われたバルディは体を震わせながら課細い声でひゅい、と最早返事なのかどうかすらわからぬ声でうなずくので、後はネリーに任せてジェニーの方へ向かう
「また大量だな」
ジェニーに近づき、そう声をかける。それにジェニーは振り返りながら
「キイチ様。申し訳ありません、1体バルディ様の元に抜けられてしまいました」
と、自らを責めるジェニー。彼の周囲には高周波ソードにより頭部と胸部を切り飛ばされていたり、抉り抜かれていたり引きちぎられていたりしたものや頭から腹部までを踏みつぶされたものなど凡そ20体ほどの残骸があたりに転がり、更に無傷の状態でその場に横たわるシャダルが3、4、5、…6体転がっている
「…デリーターも使ったのか?」
無傷のシャダルを見ながら私がそう尋ねる。それにジェニーは
「はい、チャレンジャーと言う職業についての理解はまだ十分とは言えませんが、スレイプニルからの情報共有でおおよそは概要は理解しておりますので、こういった自動人形…それも軍用で、且つ状態の良いものなら需要もあるのではないかと判断し、最小限の損傷で鹵獲するためにはこれが最良と判断しました」
と、ジェニーは応える。そう言った彼のシールドを持つ右手の掌側の手首のすぐ後ろに小さな穴が開いており、そこからシャダルの頭部に何かのコードらしきものが突き刺さっていた
さて一度本編からわき道にそれよう。今回話す内容は今主人公が話したデリーター…人工知能強制消去ウィルスのことを話そう
これは読んで字のごとく自動人形から大型兵器、はては軍艦や軍事施設に至るまで、とにかくAIを使用して稼働する、あるいは操縦や管理運用の補助を行っているものに対し、このウィルスを送り込んで無力化、あるいは弱体化させるために「シンギュラリティ」が開発、販売したものである
因みに販売されたのは企業統一戦争の僅か2年前とあって各企業とも碌に対策が取れないまま戦争を戦い続けることとなった
このウィルス、えげつないのは自身を入れているハード内に十分な空き容量があれば勝手に自己複製してくれるうえ、ぶっちゃけるとAIを破壊するためのAIみたいなもので、その気になればAIだけじゃなくネットワーク上のあらゆる防壁を文字通り侵食して同化し、あらゆるプログラムやデータを消去できるだけでなく、管理システムを破壊して重要な施設の誤作動による破壊工作なども可能と非常に幅広い(基地外レベル)ポテンシャルを持ち、もしこれが後10年早く世に出ていれば戦争はこれを使った自滅合戦となっていたことは想像に難くない、とネリーが太鼓判を押していたほどなので、そのヤバさについては触れない方が良いだろう
因みにだが戦争中盤から普通に各企業がシンギュラリティから購入したデリーターを敵対企業のマーケットに無差別投下するなどして経済活動と情報通信をズタボロに引き裂いたおかげで、各企業とも報復にデリーターと大量破壊兵器をばらまき、あと一歩、ぎりぎりの瀬戸際で踏みとどまっていた企業のストッパーを完全に外させ、結果的に人類と生存圏を破壊しつくした上にめちゃくちゃに改変させるきっかけとしたのだから、人類と言うものはどこまで言っても結局は獣畜生よりもヤバい種族である
とまぁデリーターの説明を軽くしたところで閑話休題
「…結局システムを掌握してもネットから切り離して独自行動をとられちゃ全部壊すしかないわな」
あの後施設のネットワークを完全に掌握し、管理者権限を得た私達であったが。不正アクセスを検知した時点でネットワークから切り離され、独自かつ個体間で
「…もう疲れた」
ハッキングによりAIを書き換え、従者としたものを周囲に展開させたネリーの隣で、1機のシャダルに肩に手を回して支えて貰うバルディはそう言って目に涙を浮かべる。彼女の服は元々布面積が少なかったおかげで特に致命傷(やぶけや着れなくなる的な意味で)はなかったものの、軽く肉がえぐれて炭化していた切り傷…にしては少し厚みのある傷やら銃弾が掠った後に銃創などかなりボロボロだが致命傷はきっちり避けれていた上、何と2体も単独でシャダルを撃破したと言うので評価を修正したのは内緒の話、だからこそ弱音も許している訳である
「…あと少しだ、手を借りて良いからもうしばらく持たせて見せろ」
と、かなり譲歩()してそう言った私に、ネリーからは呆れ、ジェニーからはこう何とも言い難い視線を向けられるが無視して歩く。それを恨めしそうに睨みつけるバルディを、頑張れと肩を担ぐシャダルが宥めつつ応援している。そうしてスロープを降り切り、最下層のちょうど中腹辺りにある培養再生治療槽の内の1つの前で立ち止まる
「…これだ」
そう言った私が見上げる培養再生治療曹の中は真っ黒な液体で満たされており、中の様子は全く見えない。私はその培養再生治療槽の制御端末を操作して液体…正確には中の負傷者の体温維持と排泄物を浄化するための特殊な薬液と。その薬液の色を黒色にしている中に充填された医療用ナノマシンを操作し、色を透過させる。すると一瞬にして液体の色が無色透明になり。中に1人の女性がいることがわかる
「彼女が?」
バルディは培養再生治療槽の中にある女性を見上げながらそう尋ねる。それに私は女性の方を見たまま
「あぁ、彼女がアイネ・ディートリヒだ」
と答える。培養層の中に浮かぶ女性は夕焼けのように美しい光沢を持つオレンジカラーのショート…なんと言えばいいのだろうか? 後ろ髪がいくつかにまとまって後ろに伸びている、と言えばいいのだろうか、そんな得意な髪型をしている。後かなり引き締まった筋肉質な体をしており、腹筋もシックスパックだしはっきりとわかるくらいには隆起した筋肉から相当量のトレーニングをこなしていることがよくわかる。さらに言えば女性的な特徴、体の凹凸もしっかりとあり、?らもしっかりとした膨らみのある乳房にくびれからしっかりと突き出た安産型の臀部を持っていた
「…さて、眠り姫の容態は…?」
端末を操作し、アイネの状態を確認する、結果は良好。すでに義体の損傷は完全に修復され、排出モードに切り替えるだけで目覚めさせることが可能となっていた
「よし、さぁさ、姫のお目覚めだ」
と、そう言って私は培養再生治療槽を排出モードに切り替える。すると機械音声と共に
「起床シーケンス開始。固定アーム展開」
と、そう言って培養槽の底から5本のアームが現れ、1本は彼女の背中全体を支え、残りは四肢をそれぞれ1本ずつで肘と膝から手首、足首の辺りまでを掴む
「固定確認…問題なし、治療液排出開始」
次に底の一部、培養槽のガラス面よりも少し内側の地点に円状で、かつ等間隔に縦に細長い四角い穴が開くと、そこから中に満たされた薬液がゆっくりと排出され、その排出による水位の低下に合わせてゆっくりとアイネは底に降ろされ、そのまま直立姿勢のまま液体が全て抜かれる
「排出完了、被治療者の兵装装着準備…シリンダー開放」
すると培養再生治療槽の天井部分が8つに分かれると、そのままガラス面がゆっくりとそこに格納され、8つに分かれた天井部分まで完全に格納される
「解放完了。兵装固定アーム展開」
今度は底から彼女の装備を固定したアームが幾つか現れる
「続いてマルチプルアーマーウェア装着開始」
そして彼女の足元に彼女よりも一回り大きな円状の穴が開くと、そこから垂直に上がってきた黒い液体が彼女の両足から彼女の前進を包み込み、首下まで来たところで止まると、液体は一瞬にして薄生地の黒いダイビングスーツのようなものに変わる。そのスーツの肩や首元から鎖骨に胸骨と肋骨全体に体の両側に黒い装甲がついており、腰にはスカートのような装甲が搭載され、スカートの下部にはエンジンとロケットか何かの噴射口らしきものが搭載されている(スカートの形状は腰骨の上からちょうど太ももの付け根あたりへと傾斜がつくように伸びた3枚ばねのような感じ…笹の葉をイメージしてもらうのがたぶん一番わかりやすい。で、その羽枚に1つの噴射口を搭載、更に羽の間に1つずつ噴射口があり、それらと連結したエンジンユニットがその後ろのスぺ0酢全てを埋めるくらいのものが搭載されている)、脚部もハイヒール型の装甲からひざ下まで同じように装甲が追加され、大腿部も側面にボックス型の装甲がついており、顔にも耳の付け根から顎先まで何らかの金属らしき細長いものがついており、その耳の付け根から後ろ髪の生え際より少し下の部分にも同じような細長い金属製のものがついている
「マルチプルアーマーウェア、装着完了。各種機能の点検開始」
機械音声に続いてスカートの羽がまるでゴムか何かのように伸縮したり上下左右様々な方向に向いたりとしており、噴射光そのものも様々な方向に向いたりしている。次にハイヒール型の装甲の踵に穴が開き、更にふくらはぎの装甲も開いてそこからスカートに相殺されているものと同じ噴射口が現れ。こちらは装甲部分の開閉のみ。次に頭部だが後頭部と顎にあるあの金属製の細長いもの…前者はナノマシンの生産と貯蔵用のタンクとしての機能を併せ持ったマルチャーと呼ばれるもので、後者はマルチデバイスと呼ばれるものなのだが、マルチャーはナノマシンを生産してヘルメットを製作し、ヘルメットとマルチプルアーマーウェアに守られていないところを生産したナノマシンでマルチプルアーマーウェアを伸ばしてヘルメットと繋げ、マルチデバイスが起動し、装置からヘルメットまで顔全体を覆うように虹色の光の線が上がっていく
「点検完了。問題なし、機能解除」
と、機会音声がそう言うと、ヘルメットが消え、展開されていた噴射口も戻される
「兵装装着開始」
その声と共に背中の固定アームが解除され、背中に反重力推進ユニット(背中全体を覆うサイズで、その形状は両側に反重力推進ユニットを収めた直方体の、外側の横面が丸く黒い箱があり、その間に動力源となる箱と同じ大きさのシリンダー型縮退炉を搭載しており、さらにこれを守るためにユニット中央部には装着車の周囲に球体状に展開されるエネルギーフィールドを搭載している。を装備してから背中の固定アームが3つに分かれて腰と両肩を支える
それが終わると両足の大腿部の装甲に縦10㎝、横4cm、長さ30cmの直方体の、同じく黒い箱を接続。両腕の固定アームを解除し、両腕の手首に無色透明で、どれほど目をこらしても見えないリングを装着してから固定アームが装着される
「兵装装着完了、機能チェック問題なし。全行程終了、被治療者11321番。アイネ・ディートリヒ様の退院を承認します。おめでとうございます」
と、最後の機械音声に続いて休眠状態だった彼女を起こすための気付け薬が、左腕を固定していたアームから現れた注射器を持つ更に小さなアームによって打ち込まれる
「…ん…あ…」
そして意識を覚醒させられたアイネは小さく声をあげると、その瞼をゆっくりと開く
「…新しい任務か? 何を破壊すればいい?」
と、まるでクォーターオパールのように透き通り、いくつもの色が調和を保ち、まるで宝石かと見紛うような美しい輝きを放つその瞳で私を捉えながらそう尋ねてくるアイネに、私は
「いや違う。君を助けにきたんだ」
と答える、それにアイネは
「ここが敵に占領されたと言うことか?」
と尋ねてくる、彼女の言葉に続いて両足の大腿部に取り付けられた箱がそれに私は上下外開きに開く。その中には日本刀らしき装飾の絵が一つの箱に3本、二列下横2本おさめられており、私は
「あぁ~そう言うわけでもないんだまず前提としてこれから話すことを全て真実だと言う認識のもと話を聞いて欲しい」
と、両手を使って落ち着くようにジェスチャーしながらそう言った私に、箱を開いたままアイネは
「了解した」
と答えてくれるので、私はネリーと電脳を通して話す内容を決めつつ
「まず施設の運用ログをそちらに転送する、ヤマト陸企のAプロトコルで暗号化しておくから、それに目を通しながら私の話を聞いて欲しい」
と言うと、ネリーがすぐさまアイネの電脳に施設のログを転送、それを聴いてから私は
「まずあの戦争が終わってからおおよそ千年以上の時間が経ってる。で、私たちはたまたまこの病院に来た時、君の担当医が残した君を助けて欲しいと言う書置きを発見して君を助けに来たんだ」
嘘は何一つ言っていないが実際は
「……想定する2000通りの回答の範囲外にあるもの。少し…困惑している」
それに箱を閉じたアイネは、両手を組むと目を閉じ俯きながらそう答える。それに私も
「あぁ~確かにそうだよな。俺も目覚めて同じこと言われて、一応信じたけどそれが事実だって頭と心で理解できたのは外出てからだからなぁ…」
と、少しばかり配慮が足りなさ過ぎたか、とネリーに電脳上で確認を取るも、ネリーは
「彼女が私のデータベース上にある人間ならそう言ったことは些細な問題で終わります。彼女も狂ってますから」
と、笑顔で答える彼女に少し引いている私に、アイネは
「…でもとても面白い。
と、培養再生治療槽から床に降り立ち、私に向き直ったアイネが楽しそうに笑顔でそう言ってくる。それに私は表情筋への擬似神経伝達を全カットして表情を固定化し、電脳で
「本当に申し訳ないんだけど君の後ろにいる女の子は現地の子で、万が一にも1000年前の人間であることがバレると困るから
と、慌ててお願いしつつネリーを通してこちらが収集した情報を流し込む。それにアイネは
「把握、ではタキと呼称する」
と、そこで一旦話を切ると、アイネは後ろにいるバルディへと向き直り
「私はアイネ、アイネ・ディートリヒ。好きに呼んで欲しい、よろしく」
と、右手を出して握手を求める。それにバルディは
「あぁ~うん。よろしく、私はバルディ。そう呼んで…」
と、肩に担がれたままのバルディは力なく手を伸ばして握手に応じ、その後後ろにいる私たちに向けて
「もうこれ以上の収穫が無いならさっさと帰ろうぜぇ…! 本当はもっと物色して金目の物にめぼし付けときたいけどもうあれこれできる体力がないから帰りたいんだけどぉ~~~!」
と、情けない声で抗議してくるバルディに、私はネリーに施設の設備や警備機構を除き、他にもアイネのような人がいるかを口頭で確認する。それにネリーも私の意図を組んで立体モニターを投影して施設のMAPを表示させると
「ほかにも何十名かいたようですが、施設の老朽化が原因で全員死亡しております。アイネ様が生きたままあの中に入れたことはかなりの奇跡ですね」
と、答えてくれたので、私はネリーとジェニー、後奪ったシャダル達に破壊した残骸の回収を命令し
「ネリー、少し頼みがある」
と、電脳でネリーに話しかける
「なんでしょうか?」
と、聞いてくるネリーに、私はある
「本当、刹那の快楽と打算でしか動けませんね。キイチ様は」
と、特大の嫌味を言われた私は、苦笑いを浮かべて重ねてお願いした後、アイネにコンディションを確認、戦えると言ってもらえたのでそのまま護衛についてもらい、シャダルの残骸と機能停止した機体を回収して正門に戻る。道中は特に障害やアクシデントに見舞われることは無く、無事時間内に正門前まで戻ってきた私に、行きで門番をしていた皇国軍兵士が私たちの収穫のあまりの凄さに一瞬呆けてしまった後、慌てたように装甲車の運転席で待機する相棒に事情を伝えるだけ伝えて慌てて銃座から飛び降りると、何度かその場にこけそうになるほどの慌てぶりで走り寄って来て
「ちょ!? 君らその自動人形とスクラップはいったいどこから手に入れたんだい!?」
息を切らしながらそう問い詰めて来る皇国軍兵士。まぁ無理もない。なんせ事前情報では取りつくされた出がらし遺跡のはずが、私たちの最後尾で同型の残骸を抱えるシャダル・サザーランド10機と、その数倍~十倍はあろう残骸と機能停止したと思われるシャダル・サザーランド23機を重力制御でそれぞれ分けてまとめてから空中に持ち上げ運ぶネリーとジェニーの2人に、私の隣を歩く行きでは見ていない女性の存在に私はたまげたと言わんばかりに。私は兵士の問いに
「あぁ。病院内に未探索の領域がありましてね。そこの警備機構とやりやった結果の戦利品ですよ」
と、涼しげに答える。それに皇国軍兵士はひどくどもりながらも、バイザーやヘルメットに隠されていない顔の部分だけで分かるくらいの汗を流しながら、私たちの戦利品を見て生唾を飲み込む。それに私は軽く咳払いをして
「兵隊さん、悪いんだが今からチャレンジャー支部の方に大至急連絡しないといけないものがあるんだ、遺物関連でね? 取次を願えないかい?」
と。私はにやにやと笑いながら兵士にお願いし、それに兵士はとりあえず遺物の外に出て待つよう命令すると、慌てて来た道を走り戻る
「…さーて、どんだけむしれるかなぁ?」
と、下衆な笑みを浮かべる私に、ネリーは深い溜息を吐くのであった
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ようこそヨコハマへ、リザルト
皇国冒険者連盟ヨコハマ支部の酒場は、仕事、飯、女あるいは男、そして仲間や同業者との繋がりのために日々大勢のならず者もどきから一端のチャレンジャーまであらゆる者がひしめき合い。喧騒と嗤いが絶えることはない場所だった
「…」
しかし今日の喧騒は毛色が違う。酒場に集まった者たちのうち、ある者たちは獲物を前にした肉食獣のようなぎらついた視線を、またあるものは純粋な興味などから来る面白半分な視線など様々な視線をバーカウンターを占領する一組の男女へと向けていた。その男女とは言うまでもなく私とネリーだ。バーカウンターの真ん中の2隻に腰かけた私たちは、オーナーにガレージの件で話すから来いと言われて足を運んできたのだが、その結果はこのありさまである
「くつくつくつ…ご注文のガレージ付きの宿だ。少し値は張るが君の稼ぎならしばらくは持つだろう。話は私からつけてある。チェックインの時に私の名前を出したまえ」
宿の住所をネリーのアドレスに送信しながらそう言ってくるオーナーに礼を言いつつ、私は電脳で
「問題なさそうか?」
とネリーに尋ねる。それにネリーは
「問題ありません。信頼できるかと」
と返してくれたのでオーナーに対して右手を差し出し握手を求めながら
「有難うオーナー。貴方とは仕事でもプライベートでも仲良くしたいものだね」
と笑顔で言い、それにオーナーも握手に答え
「あぁ。今後ともいい関係をしよう」
と笑顔で答える。そのまま私は礼代わりに10円札を2枚カウンターに置くとオーナーに帰る旨を伝えてからネリーに声をかけて立ち上がり、酒場を後にする
「…」
私達が酒場を出ようとするのに合わせて少ない数だが同じように立ち上がったごろつきたちに対し、後ろに控えていたジェニーがやや強めに、酒場全体に響き渡るように足で床を叩く。それに立ち上がった男たちがジェニーの方を見ながら止まったのを確認してから
「…失礼しました」
と、立ち上がった男たち全員の顔を観ながらそう謝罪し、そのまま主たちが待つ酒場の外へと出て良き。立ち上がった男たちのほとんどは席に座りなおした
「…よろしかったのですか?」
轟雷を止めている駐車場に向かう道中、ネリーが電脳で話しかけて来る。それに私は
「何がだ?」
とわざとらしく分かってない風に尋ねる。それにネリーは
「酒場での件です。あそこまで警戒する必要性はあったのですか?」
と聞いてくる。それに私は
「ゴロツキ崩れとはいえ、同業者だからな。挑んで来たら殺してもお咎めが無いってのはちと末法が過ぎるとは思うがそれでも風聞が悪くなるだろう?」
と答える、それにネリーは
「ですが、あぁ言った手合いはお約束的に必ず襲い掛かって来ますよ?」
とたずねて来るので、それに私は苦笑しながら
「映画の見すぎだよそれは。…それにあそこやその周りで騒ぎを起こすと支部と酒場のオーナーにマイナスの影響が出るだろう? 入って早々問題行動を起こす奴と何て誰も組みたがらないだろうしな。それを思えば多少舐められる程度のリスクは飲み込むべきだ」
と答え、さらに続けて
「それにもし挑んで来てもアイネがいる以上こっちの勝ちだよ」
と、にやりと笑う私に対し、ネリーもようやく納得がいったと言わんばかりに頷き
「そこまでお考えの事であれば私からはもう何もありません。では宿の方に向かいますか?」
とたずねて来るネリーに、私は後ろに控えるジェニーへ
「先に轟雷の元へ向かってくれ、到着後はシャダルの統括。帰るまで轟雷を守ってくれ」
と命令し、それにジェニーは了解しました、と右手をみぞおちのあたりにおいて会釈し、歩いて轟雷の元へ向かう
「宿に行く前にアイネの回収が先だ、軍の方に向かうぞ」
とネリーにそう言って先に進む私に、ネリーはかしこまりました、と答えながら後に続く
そして到着したのは横浜の中心地付近にある皇国軍のヨコハマ駐留軍の基地だ、道中の街並みは下層街と比べればまさに天と地ほどの差で、まさに別世界と言える
そんな中心部にある閑静な住宅街の一角に存在する巨大な軍事基地は分厚い鉄筋コンクリート製の障壁と防犯用の索敵装置や高圧鉄線がせっちされており、私が今いる基地の入り口は重厚な内開き式の、中央が網状だがその周りは重厚な金属製の扉があり、入ってすぐ目の前には地面に格納式の車両止めと、その後ろにタレットが用意されており、左右には詰所らしきものが用意されている
その門の前に立っていたのは士官らしき階級章をつけた黒いスーツの男が立っており、私たちを見つけると
「タクマキイチ様でよろしいですか?」
と話しかけて来る。それに私は
「はい。私がタクマキイチです」
と答える。すると男はゆっくりとうなずき、私に
「初めまして、私、皇国軍国防情報保安省第2課の「リー・ウェン」と申します」
リーウェンと名乗った男は癖っ毛のある短髪にサングラスをかけており、肌は色白、唇にはうっすらと口紅を塗っていた。私は彼が差し出した握手に応じ
「
と、形式的だが自己紹介とネリーの紹介をする。それにネリーは静かに一礼したあと
「ご紹介に預かりましたネリーです。連れではなくキイチ様の従者でございます」
と、訂正を入れてくる。それに私は電脳で
「なんで言い直すんだよ!?」
と抗議し、それにネリーは
「事実ですので」
と返してくるのでため息を吐きながら
「あぁ~、アイネはどこに?」
とたずねる。それに苦笑しながらリー・ウェンは
「アイネさんでしたら現在本人の希望で駐留軍の機械化重装歩兵1個中隊との模擬戦闘中です。ですがそちらに向かう前にまずはチャレンジの方のお話を済ませて頂く必要がありまして」
と、そう説明するリー・ウェンに、私ははっとした表情をした後
「……忘れてた…」
と内心呟き、ネリーは隣で絶対に忘れてたなこの人、と言いたげな視線を放って私を攻撃し、それを私はガン無視しながらこう言った
「そうですね。では案内をお願いします」
その言葉にリー・ウェンは頷き、私はそのまま彼の先導に従い基地の内部へと進んでいく
基地内に足を踏み入れると円形道路とその中心に植えられた松の木が私たちを出迎え、その少し奥、正面に第1庁舎とその入り口があり、そのまま基地内の中央と左側にずらりと14棟の庁舎がる。内訳としては正面から見て横並びに10棟、左側が縦に4棟。そして右側には大規模な駐車場があり、そこには完全武装された軽機動車や民間用の自動車がずらりと並んでいる
その奥に進み、正面の建物の一番奥にある第10庁舎の中に入り、そのまま駐留軍の司令官のいる来賓用の談話室に通される
「おぉ! お待ちしておりました。私が駐留軍司令官の財前匠と申します」
談話室で待っていたのは丸々と太った初老の男性。ほとんど目を閉じているのかと思えるほどの細目に顔の左半分を占める裂傷と火傷の痕が痛々しい。が、彼の表情はその傷の痛々しさを不思議と感じさせない。まるで地蔵のような優し気で…徳があると言えばいいのだろうか? とてもいい笑顔で私を出迎えてくれた
「銅等級のタクマキイチです。よろしくお願いします」
部屋に一歩足を踏み入れ、一礼した私に財前は
「あぁそんな堅苦しいのはやめにしましょう!さ、どうぞおかけください」
と、私に予想以上に下手に出た財前の態度に電脳でネリーとこうやり取りしながら私は財前が座った席の対面の席に座る
「ちょっと想定外の歓迎ぶりだな。どう見る?」
「現時点では情報が少なすぎます。もう少し収集しなければ正確なことは何も…ただ表情やしぐさ等々から推測できる情報としてはタヌキ、と呼べるお方かも知れません」
「うへぇ~めんどくせぇ…気が抜けねぇ類の奴じゃねぇかよ…もちっとやりやすい奴が良かったぜ」
電脳空間上でうんざりだとピわんばかりに背を曲げるながら現実では席に着く。席に着くと早速財前がこう切り出す
「いやはや、提出して頂いた戦闘映像を観ましたが大立ち回りでしたな。まるで戦前の映画のような大迫力でしたよ」
「いえいえ、あの程度は良い義体ユーザーならだれでもできますよ」
と、おだてる財前に辺り触りの無い返答で返す私。それに財前はにっこりと笑みを作ると
「いえいえ。シャダル1機でわが軍の歩兵1個中隊に匹敵しますから。それを相手に正面から徒手空拳で圧倒するなどやろうと思ってできることではありませんよ。……まるで機械のようだ」
その言葉に私は顔色一つ変えることなく
「まぁアプリを使えばだれでも機械にはなれますからね」
と、答える私に、財前はそれはそうだとあからさまに大げさな挙動でうなずくと、そのまま
「さて、今回発見されたあの大規模集中治療槽に関しては、残されていた戦前の資料の中に度々名前があげられていてね。我々も血眼になって探していたんだがてんで見つからなくてね。半場諦めていたところに君の発見の報告でもうテンションアゲアゲだよ。君には本当に感謝している」
と、一見無意味としか思えない話と共に礼を述べる財前に、私はさっさと話しを終わらしたかったのでこう切り出す
「ありがとうございます。…それで結局私はどこまで話して良いのですか? それとシャダルの売却は軍にとの事でしたがおいくらになるのですか?」
それにネリーは電脳でちょ!? と声を荒げるも財前は少しだけ面食らったような表情をした後、愉快そうに大笑いする
「ッ!? ぬわっはっはっはっはっ! いやこれは失礼。そうですな。話が逸れ過ぎてしまいましたな! まず今回の件に関しては一切ん口外話でお願いします。すでに支部の方に回して話が漏れ出ないようにしておきましたので、うっかり口を滑らしたなんてことのないようにしてください。次にシャダルの買い取りですが現在家の技研と経理部の方で費用の計算中でして、明日の午前には査定が終わるのでその時にもう一度ご足労願えますか?」
と聞いてくるので、ネリーから同意するかどうかの意見交換を行う
「どう思う?」
「よろしいかと、現状十分納得できる内容です」
「だな。じゃ受け入れるか」
「分かりました。問題ありません」
意見交換を終えた私は、財前からの提案を受け入れる。それに財前は大げさに両手を広げて嬉しそうに喜ぶ
「おぉ、そうですか! それはよかった…リー・ウェン」
呼ばれるといつの間にか財前の後ろに控えていたリー・ウェンが書類一式を私と財前の間に置かれたテーブルの上に置いていく
「…いたか?」
電脳でネリーにそう尋ねる。ネリーはそれに
「いえ、恐らくですが空間跳躍です。次元振探知に反応がありませんでした」
と返す。それに頷き返して私は書類の中身を読み取り、電脳でネリーと共有して
「どうだ? 中身は財前が今話したことと大枠では変わらないし、細かいところも承諾できると思うんだが?」
と尋ねる、それにネリーは
「そうですね。問題ないかと」
と同意してくれたのでそのまま書類にサインし。サインした書類をリー・ウェンが回収する
「ありがとうございます。今後とも良き関係を気づきましょう」
契約を終えた私にそう言って笑いかけると、財前は悪書を求めて来る。それに私も同じように笑顔で
「ぜひとも、私のようなものでよろしければ喜んで」
と、そう言って握手に応じる。そのまま私はリー・ウェンの先導に従いアイネの元に向かう
「…」
部屋から私たちが消えると、それまで張り付けていた笑顔の仮面が剥がれ落ち、現れたのはどこまでも欲深い愚者の瞳を持った虚無のような真顔になる
「気づいていたと思うかね?」
そして唐突に喋りだす。すると壁の一角が不自然にねじれ、そのねじれが映像の巻き戻しのように元に戻るのに合わせて黒い影が現れる
「気づいてはいねぇな。だがリー・ウェンの方はしっかりバレてたぜ。なんせ出て来た瞬間から存在に気付いていやがったみてぇだ」
と、そう答える影は、良く観ればダブルファンタイプのガスマスクに鉄帽を装着した黒い装甲服に身を包んだ…恐らく声からして男だろう影は、財前に答える。それに財前は体を少し仰け反らせて後ろを向きながら
「そ、まぁ君に気付いていないならそれでいいよ。それよりあのアイネと言う少女。どんな感じだった?」
そう尋ねる財前に影は後ろ手に隠していた右腕を見せる。その右腕は肘から下が無くなっており。内部の奇行が丸見えになっていた。それに財前はおぉ、と声を上げた後、愉快そうに笑いながら
「手ひどくやられたな。そんなに強かったか?」
とたずねる。それに影は不愉快そうに答える
「けっ! もう最悪の気分さ。俺様の天狗っ鼻をへし折りやがった…あれが戦前の頃には当たり前にいた兵士だってんだから、人類の進歩って凄いねぇほんと…」
それに財前は体を元に戻し、影の答えには何も触れることも、そして影の方を観ることもなく
「…あれが皇国の敵になりうるかどうかは見極めれたか?」
そう問うた。その問いに対して影はこう答えた
「いや、こちらから手を出さない限り、あれは動かない。あれを警戒するより今アンタが話してた男が歯向かうことが無いよう利を見せることだな」
その答えに対し、財前はただ一言
「やはりか…お前から見てあれはどのような男だ?」
と尋ねる。それに影は
「俺よりひどい刹那的快楽主義者で、必要とあれば一族路頭皆殺しにする化け物。飼いならすんじゃなく、対等な奴として扱い、刈る時は犠牲をいとわず戦略兵器で吹き飛ばすことが必要なクズ」
ときっぱりと評価する。それに財前は大きく口を笑みの形に変えると
「よくやった。修理代程度は出してやる」
と体を向けることなくほんの少しだけ、ギリギリ後ろにいる影が見得る程度に顔を向けるとそう言った財前に
「へいへいありがとうございますよっと」
と、そう言って影は消え去り、財前も談話室から去って行った
リー・ウェンの案内の元、アイネがいる屋外にある訓練場に到着した時、そこは惨状と化していた
「それ」
外見相応の可愛らしい声で重さ2.5トン近いパワードスーツに身を包んだ兵士を片手で投げ飛ばす。彼女の周囲には重力制御で地面に押さえつけられたものや体の上半分を地面に埋められたもの、四肢を捻じ曲げられたものや胸部から腹にかけて無数の拳の後が着いたものなどが25体。まさに惨状と言えるものと化していた
「あ、アハハ…戦前の兵士と言うものは皆こうだったのでしょうかね」
苦笑いと共に冷や汗を浮かべるリー・ウェンに内心ですまん、戦前もあれはワンマンアーミーだったのと謝りつつアイネに手を振りながら声をかける
「アイネ! 話が終わったから帰るぞ!」
と声をかけた時、右から顔面を狙って放たれたジャブを見切り、紙一重で避けながらカウンターで胴体に私の目から見ても残像がかすかに見える程度の速度で放たれた拳が叩き込まれ、パワードスーツはそのまま吹き飛び。その吹き飛ぶ瞬間にソニックブームと拳がパワードスーツにめり込んだ際に発生したであろう轟音が周囲を襲う
「おっ!?」
慌てて両手で顔を庇う。ネリーは重力制御を利用してリー・ウェンと自分を守る
「ッ…・・・」
リー・ウェンは右手で帽子を押さえたまま頬に冷や汗を流しながら驚愕の表情のまま固まっており、アイネは私たちに気付くと左手を振りながら
「タキ、ネリーも、時間がかかりましたね。ヒマだったのでここの雑兵と遊んでいました。流石に殺さずに無力化するのにはかなり手間がかかりました」
と真顔で言い放つアイネに私はにっこり満面の笑みを、ネリーは深い諦観のため息を、リー・ウェンはあまりのヤバさと恐れ知らずさに復帰した直後に再フリーズしてしまう
「…」
しかしアイネはリー・ウェンを無視して少し考えるそぶりを見せた後、ぱぁっと満開の笑顔で私を見て来る
「…ッ!?」
しかしアイネの獣じみた狡猾で善人で、しかしどこまでも純粋で汚れの無い。矛盾の塊のようなどろりとねばつく視線に思わず半歩後ずさる私は、しかしその顔には恐怖は無く、あるのは強者との戦いに対する喜びと高揚。そして奮い立つ戦意の炎
「やろう、タキ、私は今欲求不満なのです」
そう言ってボクシングのを取るアイネに、私はゆっくりと左足を後ろに下げ、体を横に向け両足は肩幅ほどの広さにし、右脇を締め腕を降ろし、みぞおちのあたりに左腕を持ってくる独特のファイティングポーズを取ると
「ネリー、全員下げろ。邪魔になる」
とアイネの方を見ながらそうネリーに命じ、ネリーは再び大きなため息とともに了解しました。と答え、倒れ伏すパワードスーツを着た兵士やリー・ウェンを重力制御で遠くに移動させ、自分も離れる
「ご武運を。必勝をお祈りしております」
と、離れ際に私にそう言ったネリーに。私は
「任せろ」
と心底楽しそうに笑顔のままそう返した
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ヤマトの守人
演習場は最早見る影も無かった
「やっ!」
アイネが私の左顎を狙ったアッパーカットが放つ。…のだが
「ッ!?」
刹那すらもない、ネリー以外誰も見えない攻防の結果、私は左腕の肘を曲げ、更に右手で前腕を抑えて支えるような防御姿勢で顔の左半分を守ったまま、大きく上体をのけぞらせながら10メートルはあろう距離を動かされる。その顔は焦燥にかられた余裕の無いもので、そして左腕は袖が肘あたりまで文字通り弾け飛んでおり、対するアイネはファイティングポーズを崩していなかった
そして私が動かされる直後から発生した衝撃波がネリーの重力制御により防がれる
「何だ今の…いったい何があったんだ?」
「分かんねぇ‥」
それを見守るギャラリーの兵士たちは最早異常としか言いようのない二人の攻防に唖然と恐怖を覚え続けるばかり。それにネリーがこう話しかける
「今のはアイネさんが義体の能力をフルに活用して本気のジャブを放ち、キイチ様がそれに対応して防御しただけですよ」
それに全員が困惑の声を上げる中。今度は2人の姿が突如として消える
「?」
突如姿を消した2人がどこに消えたのかと周囲を見回す兵士たちは、しかし次の瞬間突如として飛来する連続的な衝撃波に悲鳴を上げ。その直後に私が地面に叩きこまれ、その直上には右手を大きく振り抜いたアイネが飛んでおり、轟音とともに大地が陥没して盛り上がる
「おわぁぁぁ!?」
流石に地面の崩壊までは防げず、破壊の余波によってひび割れ盛り上がる大地の割れ目に飲み込まれて行く兵士たちをネリーは重力制御で安全な空中に退避させる
「殺すッ!」
獣のごとき方向を上げた私が地面をめくりあげるほどに踏み込みそのまま空中にいるアイネへとジャンプし、飛び蹴りをくらわし。それをアイネは右手で足底の踵を掴むようにして防ぎながら私の飛び蹴りの勢いに押されそのままはるか上空にあげられる
「ッシャァァァアアア!!」
対して私は素早く体を回転させその勢いを利用してアイネを真下に振り落とすと人間工廠により作成した透明な足場に着地し、そのまま足場を蹴ってアイネに向かう
「ダァァァァラッシャァァァァアァアアアアアアアアアアアアアアアア___――――――!!」
そのまま方と水平にした腕を上体が仰け反るほど大きく振りかぶった左を雄たけびと共に振り被る
「…ッ!」
それにアイネは本当に愉快そうに笑いながら私の拳に右の拳で私の拳を狙った一撃を放つ
2人の攻撃が命中した瞬間。世界から音が消え去り、刹那凄まじい轟音と共に発生した衝撃波により雲がまるで押しのけられるようにして消し飛ばされ、はるかかなたの地表付近に浮かぶネリーたちにまで強い突風が襲い掛かる
「チッ!」
初撃が防がれたことにいら立ちながら重力制御でその場に浮いた私は予備動作なく右足で頭を狙った蹴りを放ち、それをネリーは左手の甲で防ぎ、そのまま私の左手を右手で押してから刹那のうちに両手で私の右足に組み付き、そのまま組み付いた足を支えに一気に両足を交差させて私の首を足で挟むように掴む
「ッ!?」
その行動に目を見開く私、楽しそうに笑うアイネ、私は完敗を悟り
「降参だ」
と、両手を上げる私に、組み付きを解いて空中に立ったアイネは開口一番
「タキ、弱い」
とぶつけられ、プライドを初手粉砕された私は弱弱し気に
「どつき合いするようなコンセプトで作られてないから…」
と苦しい言い訳を吐くも、それに対しアイネは
「タキかっこ悪いよ?」
と追撃をくらわされ無事死亡した私は、今にも塵になってしまいそうなほどにか細い声で
「すいません。精進します」
と答えることしか出来なかった…
因みにだが今回の演習場の費用はシャダルの買い取り額からきちんと差っ引かれ、今回の戦いを見た一部の軍人が軍を辞めたらしく。アイネに軍事顧問としてきてもらってはどうかと言う意見が出たことを明記しておく。これが本編に絡むのはかなり後の話となる
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