TSエルフさんの事象研究日誌 (井戸ノイア)
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序章

 私は変わり者のエルフだ。

 変に前世の記憶などというモノを継承してしまったがために、エルフの時間間隔に馴染めないでいる。

 例えばだ。エルフの寿命は前世であったヒトとは比べ物にならないほど長い。中には数千年を生きるエルフだって存在する。

 なら、そんなエルフの暮らしはどうなのだろうか。

 

 正解は単純。ひどくのんびりとしている。

 おおよそヒトの一日を数日間に引き伸ばしたかのような暮らしである。

 魔力なんてものが存在し、その魔力を使用することで、一年程度なら何も食べなくとも生きていける。

 そんなことも相まって、社会性は皆無であり、皆好きなように生きている。

 子を持ったにしても、ほとんど放任。

 野生の血が濃いのか、生まれて数年程度でエルフは自立を覚え、私から見れば怠惰にしか見えない生活を始めるのだ。

 

 さて、エルフの時間間隔に馴染むことの出来なかった私は人間社会へと身を置くことにした。

 人の街に住むエルフは総じて、変わり者であると言われる。

 そりゃ、必要の無い社会性を求めるのだから変わり者であることに否定はしない。

 

 そんな街に住む変わり者の私であるが、果たして時間は腐るほど存在したが、やることが無かった。

 私の生は気が遠くなるほど長い。

 そんなに長い時間を戦いを生業とする職業で過ごす気もしなければ、かといって定職に就くというのもパッとしない。

 こちとら、平和ボケした元日本人なのだ。働くということに疲れた日本人なのだ。

 何故必要も無い就労を、生まれ変わってまでしなければならないのか。

 だが、やることが無い。

 趣味をするにしても金は要りものだ。

 

 で、私はふと思った。

 この世界。魔法があるから、で済まされてしまっている事象が多すぎやしないか?

 一番身近なところで言えば、この身体だろう。

 数千年生き、一年以上何も摂取しなくても問題が無い。

 そんな生物いるのだろうか。

 いや、いるにはいるのだろうが、それにしてはエルフの身体は造りが複雑過ぎやしないか。

 そもそもどういう進化をしたら、ヒトと類似した姿形でこれほどまでの寿命を得たのか。

 

 調べてみると答えは、魔力によって身体が補完されているからと考えられるみたいな文献が一個だけ見つかって、それ以外には大したものは出て来なかった。

 魔法が使えるのは、魔力があるから。

 エルフの寿命が長いのは、魔力があるから。

 魔物が特殊な能力を得るのは、魔力があるから。

 

 いやさ、魔力があるからで思考放棄しているでしょう。

 

 だから、私は決意したのだ。

 この長い長い寿命は、世界の神秘を暴くことに使おう。

 前世では、ほとんどの事象は科学で証明されてきた。

 つまり、あらゆる事象にはそうなり得るべくして、なった過程が存在するのだ。

 理不尽に事象のみが起こっているのではない。

 それを証明してやるのだ。

 

 これは、私が疑問に思い、その過程を暴いてきた論文である。

 もしかしたら、この知識が後世を救うことになるかもしれない。

 だから、私は私が体験してきたことと共に、この世界の事象の真実を暴いて、この論文に残していく。

 

 論文と言いつつも、学があまり無いがための論文的では無い文章には目を瞑って読んで欲しい。

 






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ゴブリンの生殖について

※R-15タグ追加しました。
 そういう内容が含まれています。


 あれは、今からあー……何年前だったか。

 まあ細かいことはいいか。

 

 あれは、私が研究しようと思い立ってすぐの頃だった。

 

 当然のように、エルフの里には金銭は存在しない。

 物々交換が主流で、それさえも物欲があまり無いエルフにとってはただの挨拶や娯楽のようなものだろう。

 つまるところ、人間社会に出てきた私にはお金が無かった。

 エルフの里から持ってきたものを適当に売って、最低限の宿は確保したものの、食事は諦めざるを得ない。

 エルフの謎の機能に感謝したのは、この時が初めてだったかもしれない。

 

 で、研究をしようと言っても何の実績も無いエルフの小娘が出資を募ったところで、何も集まらないだろう。

 大規模な実験、検証は難しく、多少の心得はあるとはいえ、あまりに凶悪な魔物を研究出来るほどの強さも無い。

 要するに、研究対象に出来るものがあまり無かったのだ。

 それでいて、その研究でもって多少の稼ぎは生み出し、次の研究へと繋げなければならない。

 

 そこで私が目を付けたのは『ゴブリン』だった。

 ゴブリンは醜悪な見た目の深緑色の肌をした小人のような魔物である。

 大した強さは持ち合わせていないが、集団で行動し、時に人間への被害が出る魔物である。

 

 奴らが人間を襲う目的は生殖行動。

 種が違うというのに、ゴブリンはあらゆる他種族の雌を孕ませることが出来るのだ。

 これは不思議なことだ。

 

 種が違えば、DNAが違う。

 本来ならば受精率など、キメラが出来るような低い確率になるだろう。

 しかし、ゴブリンの受精率は100%と言われるほどに高い。

 被害に遭い、孕んでいなかった女性は未だに一人も見つかっていない。

 

 これが、人間相手のみに起こるのであれば、進化の過程でヒトへの寄生をする方向になったという解釈も可能かもしれない。

 だが、奴らは本当に雌ならば、何でも良いのだ。

 狼にだって、別種の魔物にだって、平気で受精させる。

 そして、生まれてくるのはハーフなどでは無く、純正のゴブリンだけである。

 

 さらに言えば、ゴブリンには雌が存在しない。

 ゴブリンから派生したと考えられているオーガや、グレムリンには雌が存在するというのに、だ。

 果たしてそんな生物が存在するのだろうか。

 種の保全を完全に他種族へ依存させる進化なんてあり得るのだろうか。

 

 私は、違うと考えている。

 それは生物の全うな進化では無い。

 故に、一つの仮説を立てた。

 それを証明するために、私はゴブリンを探しに出掛けた。

 

 研究者であれば、こういった場合は冒険者ギルドなんかに依頼をして、護衛を雇うなりすることによって、安全を確保のうえ、出掛けるべきだろう。

 私も出来るなら、そうしたいが、何しろ先立つものが無いのだ。

 まあ、ゴブリン程度なら問題は無いだろう。

 そう楽観して出掛け、実際に何の問題も無かった。

 

 数百匹規模の巣を見つけ、広範囲魔法により、殲滅。

 ゴブリンは常に獲物を見つけるために、何匹かは外へ出ているために巣の前で待ち伏せして、二匹ほど生け捕りにした。

 このまま街に戻ると、魔物を連れてきたとして犯罪になりかねないので、魔法で簡易な土の豆腐ハウスを作成し、そこで実験をする。

 理論は分からないけど、魔法万歳! いつかこれも解明したい。

 

 

 さて、実験になるが、正直なところ非常に気が進まない。

 比較的簡単に、かつお金のかからず、ある程度の自信を持って仮説を立てていなければ、絶対にやりたくない。

 私は、前世が男であったとしても今生は女なのだ。いや、男であったとしても触りたくはないか……。

 持参した手袋を二重にして、ゴブリンの汚い一物へ触れる。

 いや、採取したくない……

 でも、しなければ……

 

 葛藤の末、なんとか手を一回前後に動かしたら、白いナニカが勢いよく飛び出した。

 うわ、早すぎる。

 何の準備もしていなかったがために、手にも少しかかってしまった。

 最悪だ。

 

 とりあえず、早いということを意識して、先に道具を用意。

 一度やってしまえば、多少は慣れたのか、二度目は上手く採取が出来た。

 で、嫌悪感がひどいので、その二匹は用済みとして処分。

 残ったのは丸いガラス球の内部にこびりついた、白いドロドロ。それが二つ。

 そのうち一つのガラス球を人肌程度に温めながら、私は今回の仮説を思い浮かべた。

 

 

 私が、ゴブリンの生殖行動に立てた仮説は、ゴブリンは雌雄同体もしくは単為生殖を行っているのではないかということだ。

 意味合い的には単為生殖に近いか。

 簡潔に述べるならば、母体はただの入れ物のような役割でしか無く、ゴブリンが生まれる過程には他種族は関与しておらず、ゴブリン単独で増えているのではないかということだ。

 

 私も詳しくはないのだが、前世でそんなような生物もいると見た気がする。

 もし、これが正しいのならば、人肌程度に温めたガラス球は、子宮の役割を果たし、ゴブリンが自身の遺伝子のみで増えているならば、この中で新たな命が誕生するだろう。

 片方だけ温めているのは、対照実験のためである。

 温めた方のみに生命が発生した場合、ガラス球が誕生に関わっている訳では無いという証明になる。

 

 ゴブリンが生まれるまでは凡そ、三日程度と言われている。

 食べる必要も、一週間程度なら寝る必要も無いエルフの身体はつくづく実験に向いているなと思った。

 

 さて、実験の顛末になるが、これがとても上手くいった。

 温め続けたガラス球のドロドロは一日目には静かに形を変えていき、徐々に色が変わり、三日目にはゴブリンをそのまま小さくしたような姿になり、そして、そのまま餓死した。

 一方、温めなかったガラス球は、二日程経過したところで形を変え始め、完全体になる前に変化を止め、不完全なゴブリンが出来上がった。手足も呼吸器も作られなかったのか、小さく痙攣してすぐにそのゴブリンは死んだ。

 

 私はその結果に満足し、文章に改め、冒険者ギルドへと提出したのである。

 冒険者ギルドは情報の買い取りも行っている。

 それは新種の魔物の情報であったり、毒物、薬草などの目撃情報。魔物の習性などと多岐に渡る。

 言ってて何だが、煎じて飲むだけで傷が急激に治る薬草って、不思議の塊だ。いづれ研究しようと思う。

 

 で、しばらく情報の精査などをされたのだが、結論から言えば金にはならなかった。

 要するに、これが分かったからと言って冒険者の生存率に何の影響があるのかと。

 

 確かに、仮説ばかりが先に立って、何に役に立つかまで考えていなかった。

 結果が出れば金になるなどと考えていた私の思慮が足りなかった……。

 私の一度目の論文は大成功でありながら、大失敗に終わったのであった。

 

 

 が、次には繋げることが出来た。

 ギルドから研究機関を紹介され、そこで論文が認められたのだ。

 残念ながら、論文自体に金銭的価値が付かなかったものの、人脈を得られたと考えれば、前向きになれる。

 

 そして、研究機関より可能であれば調査して欲しいという依頼まで任された。

 長年、疑問に思われながらも解明されてこなかった事。

 少額ながら、資金も渡され、成果に応じて金銭が得られる。

 

 次の研究は……




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ダンジョンとは何ぞや ①

平日はあまり書く時間が無いのです。
在庫持たずに書き次第放流するスタイル。





 ダンジョンとは何だろうか。

 

 冒険者がよく探索する洞窟のようなもの。

 壁は自己修復され、一定周期で宝物が生成される。 

 中には魔物が湧いており、奥深くまで続いているが、最奥に何がある訳でも無く行き止まり。

 ただし、徐々に大きくなっていく。

 

 古代文明の遺跡であるとか、魔力が溜まったことによりスポット的な異界が生じているなど、多くの意見があるが、そのどれもが証明には至っていない。

 

 

 

 

 ゴブリンの論文を発表した一週間後のことである。

 相も変わらず安宿に泊まり、人に役立つ、有り体に言ってしまえば金銭に換わる研究とは何だろうか。

 そんなことを考えながらボーっとしていた。

 不可思議なことは前世に照らし合わせてみれば、いくらでも思い浮かぶというのに、それらは解明したところで何が役に立つのか分からなかったり、途方もない時間がかかりそうな手探りでしなければいけないことが多い。

 まあ、だからと言って切羽詰まっている訳でも無いので、ダラーっとしている。

 精力的に働くのは嫌だ。

 

 とまあ、グダグダしていたら宿の女将に呼ばれた。

 何でも会いに来た人間がいるらしい。

 街に知り合いなどいないし、誰だろうかと部屋を出て、未だに使用したことが無い食堂へと顔を出すと、一人の青年が座っていた。

 

 眼鏡をかけて、白衣を身に纏った黒髪の青年は正に研究者という出で立ちであった。

 その若さを除けば。

 どうにも衣装に着られている感じが抜けない。

 

 閑話休題

 

 その青年こそが私に会いに来た人間らしく、元気な挨拶をされ、名刺を渡された。

 異世界に来てまでこんなものを渡されるとは。人の行きつく先は似たり寄ったりなのだろうか。

 

「ケンキ・ユースル・ネッシーン?」

「どうもお初目にかかります! ケンキと申します」

 

 研究者らしく無い彼が語った経緯はこうだった。

 どうやら彼はこの国の貴族の四男坊で、継承権など皆無であるからと、自身の趣味も兼ねて国に様々な未解明のものを究明する研究所を作成したらしい。

 現在そこに勤める人間は彼含めて三名。

 簡潔に言うと、研究所へのスカウトだった。

 

「貴女が提出してくださった『ゴブリンの生殖について』という論文……研究日誌? にですね、非常に可能性を感じまして。我々とは異なる感性・視点を持ち合わせているであろう貴女に是非とも研究所へ来て頂きたく」

「嫌だ」

 

 こいつ貴族の癖にやけに丁寧に喋るな、なんて考えながらも否定は即答だった。

 働きたくなくて、好きなことやっていたくて研究しようとしているのに、何で組織なんぞに所属しなければならないんだ。

 私はノルマだとか、決まった時間に行動だとかしたく無いんだ。

 組織に所属するくらいならば適当に魔物を狩っていた方が気楽な生活を送れるだろう。何せ朝好きなだけ眠っていられるのだから。

 寝なくても良いと、二度寝の気持ち良さは結び付かないのだ。普通に二度寝が恋しい。

 

 と、そんなことをつらつらと語ると、嘱託扱いならどうだろうかと言われた。

 何でも、まだ出来たばかりの組織であるがために、実績が欲しいとのことで、いくつかのテーマを定めており、それらの見解や調査を纏めることで情報を買い取ってくれるというのだ。

 研究所へ行く必要も無く、テーマ以外にも有用な情報が得られればギルドのように買い取ってくれる。唯一デメリットがあるとすれば、それらの実績はいちおう研究所所属という形で発表されるくらいらしい。

 いや、普通に美味しいじゃないか。

 ギルドはあくまでも、冒険者の生存率や、直接的に金銭に結び付く情報にしか価値を見出してくれない。

 しかし、ここならば例えば、前述の「ゴブリンの生殖について」に関しても価値を付け、少額ながら金銭が支払われるらしい。

 まあ、既にギルドに提出してしまっているが故に、今から買い取るなどは難しいそうだが……

 

 と、そんな訳で。

 美味しい話に釣られた私はまんまと研究所の嘱託所属員となったのである。

 生活的には何も変わっていないが、未来が明るくなるのを感じる……!

 

 で、せっかくなので現在のテーマを聞いてみた。

 

「まだ、人数が揃っていないところもありまして……。実はテーマの方もざっくりとしたのがたった一つあるだけなんですよ。増えればいくつか設定し、チームに分けて調査とかしたいと考えているのですけどね。とりあえず、現在のテーマは『ダンジョンについて』になります」

 

 ダンジョン。

 そういえばそんなものもあった。

 この世界のダンジョンはゲーム的なものを思い浮かべて、そこからいくつかの要素を抜いたようなものになっている。

 

 まず、入り口は複数ある。

 何キロも離れた場所と繋がっていたり、すぐ近くに現れることもある。

 形態としては地下洞窟状のものしか確認されていない。

 そして、ゲームで言えばお決まりといったボス部屋みたいなのは無いし、扉とかも存在しない。ひたすら歩きにくい道が続いているだけだ。

 そして、魔物は棲み着いているが、奥に行くほど強くなる訳でも無く、最奥に何かがある訳でも無い。

 しかし、宝物は点在する。ランダムに豪奢な剣であったり、金塊であったりが転がっているのだ。

 

 ゲームで言えば、それはダンジョンだからで終わってしまうし、小説でダンジョンを運営するなどと言ってもそれらの不思議な現象は魔力の一言で片づけられてしまう。

 いやはや、考えれば考えるだけ興味深い。

 エルフの里から抜け出す時にも使ったというのに何故忘れていたのだろうか。

 いやまあ、巨大過ぎて研究対象には不適と勝手に脳内で振り分けていたのかもしれないが。

 

 で、詳細を聞くにまだプロジェクト自体は始動しておらず、残りの二人もスカウトに走っているらしい。

 もし、この研究に協力するならば、以前の研究を買い取れなかったことを考慮して、研究資金を少額ながら出しても良いとまで言っている。

 

 いや、そこまで言われたらやるしか無いでしょう!

 さあさあ、この世の謎を丸裸にしてやろうじゃないか。

 

 研究のタイトルはそうだな……

 『ダンジョンとは何ぞや』

 

 かな。

 



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ダンジョンとは何ぞや ②

ゲームに書く時間奪われる……
筆が乗れば、数時間で書けます。。。


「論文のタイトル付けるセンス無いですね!」

「煩いわ!」

 

 なんかまだ居るし、タイトル呟いたら罵倒された。

 いや、私にセンスが無いことは分かっているのだが、独り言に対してそこまで言わなくてもいいじゃないか。

 

「もし、研究所の方へ顔を出して頂けたら、書き方とか色々お教えしますよ! これ、場所と研究資金です。それでは」

 

 と、余計なことばかり言ってケンキは帰っていった。

 誰が、行くものか。

 いや、でも論文作ったら行かなければならないのか……?

 まあ作ってから考えよう。

 

 研究資金として、置いていったのはざっと100G(ギメル)。大体日本円にして、1万円くらい。まあ、信用も何も無く、いきなりで置いていってくれた額としてはそれなりだろう。

 きっと、今後貢献していけば、もう少しは出してくれるはずだ。

 

 で、この資金でどうしようかと考えた。

 ダンジョンの研究をするならば、最低限ダンジョンへ出向いて実地調査とかしなければ、話にならないだろう。

 だって、この世界の文献大したこと書いてないのだもの。

 何なら冒険者同士の噂話とかの方が興味深い話が聞けるくらい。

 

 下手に万能な力を誰もが使えると、そこに疑問を覚える人や、発展させようとする人がなかなか出てこなくなるらしい。

 街こそ立派な出で立ちをしているが、魔力が無ければ原始生活とほとんど変わらないような文化水準だ。

 

 

 さて、頂いた研究資金は少量の食べ物と、魔力灯、それとサンプル採取用に小瓶やナイフ、それらを仕舞うポーチを買ったら無くなってしまった。

 研究資金というよりも、これから研究するための装備を整えて終わってしまったな。

 食べ物いらないとか言われるかもしれないが、娯楽は大事なのだ。

 それにエルフでも一年くらい何も食べなければ、段々と弱ってきてしまう。

 ……まだ、ほぼ丸々一年は大丈夫だけれど。

 

 という訳で実地調査に赴こう。

 ダンジョンにはそこに生息する魔物の強さによってランク分けが存在する。誰も踏破したことの無いS級から、ゴブリンなんていう低級の魔物しか出てこないF級までに分けられており、世界中に点在しているのだ。

 ランク分けにダンジョンの深さは関係が無い。あくまでそこに棲み着いて生態系を築いている魔物の強さによってのみ分けられる。

 自然に湧くわけでは無いため、時にはダンジョン内の魔物が一掃されることもあるが、どこからともなく、いつの間にか魔物が侵入して増えていくため、全く魔物が現れないダンジョンは、街中にある国に管理されたダンジョンくらいだ。

 それらは国の財産として、大切に管理されているのだ。

 

 向かう場所はそんな国の管理している安全なダンジョン……は、一般人には公開されていないため、町の近くに存在するF級ダンジョンだ。

 出掛ける前に調べたのだが、エルフの里から抜け出す時に使ったダンジョンはD級に数えられるらしい。

 つまり、そこを特に何も思わず抜けてこられたのだから、D級以下のダンジョンならば調査をしていても、魔物の襲来などに気負わずに調査が出来るというものだ。

 

 街の近く故に当然、すぐに魔物は狩られていき、昔はE級ダンジョンだったらしいが、今ではF級として少数のゴブリンが巣くうのみのダンジョンだ。

 旨味こそ少ないが、国が管理しているわけでもないため、一攫千金を狙った人間が多数出入りをしている。

 このダンジョンは大した深さではないため、その程度であるが、遠方にある非常に地下深くまで続いているF級ダンジョンは、宝の類も深さに比例して現れるため、連日連夜大盛り上がりらしい。

 これは、冒険者たちの噂話。

 

 

 

 で、急ぐわけでも無いため、テクテクと歩くこと十数分。

 巨大な穴の前にいくつかの屋台が賑わい、ちょっとした広場になっている場所へとやってきた。

 ここがダンジョンの入り口だ。

 街と違い、城壁などに囲まれてはいないため、野生動物や魔物が近寄ってきそうなものだが、そこはF級であってもダンジョンの入り口。

 野生の狼や、ゴブリン程度なら簡単に伸してしまう冒険者ばかりが集まっているのだ。街の周りなどという人の生存権に棲まう動物などでは手も足も出ない。

 何なら変なのが出てきてもすぐに街にまで逃げ込める。

 

 巨大な穴と称したダンジョンの入り口。

 それは地面にポッカリと開いた文字通りの穴である。

 穴の周囲には10cmほどの地面の盛り上がりが出来ており、半径にして数メートルはありそうな巨大な穴。

 底は暗く、最初に飛び込んだ人間は何を考えていたのだろうか、などと考えてしまう。

 このダンジョンは底まで大人二人分くらい、大体3メートル前後らしいが、中には底にたどり着くのも、地上に上がってくるのも魔法無しでは不可能な数百メートルもの大穴が入り口となっているところもあるらしい。

 

 さてはて、調査といってもまずは何からしようか。

 穴の周囲の盛り上がりが気になり、近くにいた人を適当に捕まえて聞いてみると、各国が行っているダンジョンと、ただの大穴などと見分けるための目印らしい。

 特にダンジョンそのものとは関係が無いようだ。

 じゃあ、降りるしかないか。

 

『風よ』

 

 魔力を練り、自身の周囲に軽く上昇する気流を発生させた。

 それを身に纏いダンジョンの中へ飛び下りる。

 上昇気流と合わさり、ゆっくりと降下し、そしてすぐに底に着地した。

 

 魔力って不思議だよね。

 例えば私が、同じ『風よ』っていう詠唱を唱えても、意思一つで攻撃から、上昇気流、追い風と全く別の現象を起こすことが出来るのだもの。

 そもそも、詠唱の言葉だって、各々が独自のものだし、魔法陣何かが現れる訳でも無い。

 誰に教わる訳でも無く、使える人は使えるし、使えない人は何も分からない。

 ちなみにエルフはほぼ全員が風を使える。

 

 それでいて、そういうものとなっていて、師弟関係で教えるとかもなければ、習得方法なんていうモノも無く、感じられるヒトにとっては手足のように、ただただ使える。

 それなのに起きる現象は、自然ではあり得ない、むしろ個人で起こすこと自体が奇跡のような力ばかり。

 魔法が使えない人間も鍛えるだけで、それらに対抗出来るほどに強固な身体を手に入れることが出来るのだって、意味が分からない。

 

 あ、いや思考が全く別の方向へ飛んでいた。

 今はダンジョンを調べることに集中すべきだろう。

 いくらF級とはいえ、危険が存在していることに変わりはないのだから。

 

 私は魔力灯で周囲を照らしながら、ダンジョンへの一歩を踏み出した。

 



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ダンジョンとは何ぞや ③

明日完成するつもりが、
何故かこんな時間に完成していた……



 さて、ダンジョンに降り立った私であるが。

 このF級ダンジョンで目撃されている敵性生物はゴブリンと野生の狼程度である。

 では、それらは何を餌に生きて、繁殖していっているのだろうか。

 

 その答えは、私の目の前でうにょうにゅと常に形を変えながらゆっくりと移動をしている不定形の謎生物、スライムだ。

 ダンジョン内には水が湧き出る場所があり、そこで水分を。

 そして、食物は何故か無限に湧いて出てくるこのスライムを食べているとされている。

 実際にスライムをお食事中だったなどという目撃例は数多く存在するらしく、当たり前のこととして受け入れられている。

 このスライム、栄養がそこそこあるらしく、人が食べても問題が無い。味はお世辞にも美味いと言えたものでは無いが、とりあえず食い繋ぐことくらいは出来るのだ。

 

 スライムはダンジョン内で必ず発見され、またダンジョン外では発見例がほとんど無い。

 通説的にはダンジョンが生み出している魔物ということになっている。

 戦闘力に関しては皆無であり、襲ってくることも無いのだから不思議なものだ。

 

 で、こういった一連の現象を見て私はふと思った。

 これって、体内とかと似たような構造をしていないかと。

 

 詳しくはないのだが、人の体内では数多の細菌が身体に良い役割をもたらしたり、悪影響をもたらしたり、またそれらを退治するための機構が存在している。

 例えば、このダンジョンが体内と同じ環境だったと考えよう。

 棲みついた魔物は、共生関係にある細菌などと同じ。それらが栄養を補給するためのスライムは酸素を運ぶ赤血球だろうか。死人や倒した魔物をスライムが取り込んでいたなどという話も聞いたことがあるし、どちらかといえば白血球だろうか。

 似通っている気がする。

 が、そもそもこれが生物だとしたら、消化器官などが無いのもおかしいし、そもそも生物の定義はどんなだったろうか。

 確か、代謝(食べる等のエネルギーの流れ)と子孫を残すとかだった気がするが……。

 あまり思い出せない。

 

 そう考えると、違うような気もするし、例え合っていたとしてもこれを証明するのは非常に難しい。

 もし、これが生物だったとしても、壁を削っても落ちてくるのは石ばかりですぐに再生されてしまうため、臓器の類があるかも分からない。

 そもそも、石と完全に同化しているようなものであれば、私に調べる術は無いのだ。

 私には前世の記憶という、科学の常識が半端にあることだけが研究への利点であり、前世で研究者だったり科学を専攻していたりした訳でも無いのだ。

 お金が急務だったからこうして頭を悩ませているだけであって、本来ならばエルフの長い時間を使ってのんびり手探りでやっていこうなんて考えていたのだ。

 

 いや、だとすると研究所に誘われたのは良かったのか、悪かったのか。

 今だけで見ればこうして装備も整えてダンジョンに来ることが出来ているという点では良いが、これが何十年と先になったとしよう。

 当然、人であるケンキとエルフの私では時間の流れが違う。

 で、研究所発足当初からいるメンバーであるとか、絶対に厄介ごとが舞い込んでくる立場になるだろう。

 目先の利益にとらわれて、重大な選択ミスをしたのかもしれない。

 

 でも、エルフの感覚で言えば数十年などあっという間であるが、人間だった前世の記憶で言えば考えるのも馬鹿らしいくらいの年月なこともあって。

 その辺りの価値観が混同していて、研究によって前世のことを思い出していたがために目の前にばかり目線が行っていたのかもしれない。

 もう少し長期的に見なければ。

 

 ああ、また思考が明後日の方角へ走って行ってしまっていた。

 私はひとまず、ダンジョンの壁の土をナイフで軽く削り、小瓶へと回収した。

 で、この壁の奥の方にもしかしたら、臓器とかが隠されているのかもしれないと考えると、可能な限り破壊してやりたくなった。

 という訳で、ダンジョンの入り口などという何も無い地点で魔力を練り上げる私。

 

 イメージはとにかく細く、そして鋭く。

 壁をぶち抜いてその向こう側にあるものまで到達することをイメージし、指先へと風を集めていく。

 最初は荒れ狂っていた風は徐々に収束し、球状へ。

 その大きさからは考えられないほどの濃密な魔力を保持したそれに、さらに力を籠め、限界まで小さくしていく。

 そして、ダンジョンの壁へ向かって、解き放つ!

 

『バレット!』

 

 銃弾の名を冠すこの魔法は、されど銃弾とは比べ物にならない破壊力を持って壁に着弾した。

 ただただ、まるで障害物など無いかのように壁の中へのめり込んでいく風の球体。

 土壁が削れることによって生じる土煙すら、その内部の暴風によって取り込まれるせいで、その様子はよく観察することが出来た。

 

 やがて、壁の中を1m程度通過していったところで風の球体は失速していき、やがてパッと消えた。

 私程度の実力では精々1mが制御の限界だった。

 

 さて、親指ほどの大きさの穴が開いた壁の中を照らしてみれば、奥までは見えないものの、既に再生が始まっているようだった。

 私は急いで、小瓶を穴の入り口に構え、風を動かすことによって消える直前に削られたはずの土を回収する。

 ものの1分も経たないうちに穴は完全に塞がれてしまった。

 手に入れた土は、見た目は表層の壁の土と何ら変わりが無い。

 だが、よーく見てみると僅かに奥の土には魔力が籠っている……ような気がする。

 

 とりあえずと購入しておいたラベルにそれぞれのサンプルの名前を書いて、小瓶に張り付けた。

 これで間違えることは無くなるだろう。

 所詮研究といえば、資料を集めてのトライ&エラー。

 よくよく考えれば考えるほど、即座の金銭獲得には向いていないな。

 この土も戻って様々な試行錯誤を繰り返して、ようやく使い物になるかもしれない程度のものだ。

 

 もういくつかサンプルを採取したら一度戻ろうか。

 そういえばスライムも気になるし、小瓶に入れれるサイズだけ切り取って持ち帰ろうか。

 

 いやはや、興味は尽きないものだな。

 次から次へと調べたいものが出てきてしまう。

 

 その後、私はダンジョンの中間層、深層にて同様にダンジョンの土を。

 ついでとばかりにスライムの切れ端を二瓶と、襲い掛かってきた野生の狼の血を一瓶に採取して帰るのであった。

 その際、たまたまではあるが、良質な鉄塊を見つけ街に戻るとそこそこで売れたために、お金の心配が少し減ったことをここに追記しておこう。

 




当然の如く、この世界に精錬技術なんてものは無い


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エルフさんの研究日誌 『ダンジョンとは何ぞや』

たくさんのお気に入り登録に応援されて
無意識な梅が二時間でやってくれました。


〇月◇日

 

 この世界に暦という概念は無いが、四季はある。

 そのため、凡その間隔上で日付を入れることとした。

 あくまで、覚えであって、大した意味は無い。

 

 ダンジョンから帰ってきて始めにしたことは研究所へ足を運ぶことだった。

 使い勝手の良い魔道具なんかがあれば、借りていきたかったからだ。

 なんだかこのままズルズルと引き込まれていきそうだが、無い袖は振れないもので、気になることを調べるためにも行かなければならない。

 最悪経費とかで落ちないだろうか。

 

 教えられた場所へと行くと、まあ普通の一軒家の建物だった。

 研究所にはどう見ても見えないと思っていたが、中に入ると継承権が無くとも貴族様の立てた建物であったと思い知らされた。

 

 扉も、ノックしても誰もいないというのに空いていて不用心かと思えばそういう訳でも無い。

 内側を見ると何やら複雑な魔法陣が描かれていたのだ。専門では無いため、推測であるが、おそらくこの場所を教えられた者にしか、この扉を認識出来なくなる魔法だろう。

 某魔法使いの活躍する学園モノでも似たような魔法が存在したが、便利な魔法として行きつく先は同じということだろうか。

 

 中に入ると外観からは想像が付かないほど、広い空間が広がっており、高価と思われる魔道具や、真新しい机、そして真っ白な連絡板と書かれたいわゆるホワイトボード、そして様々な資料と試料。

 真新しい匂いがして、出来たばかりなんだなというように思う。

 立地としては街の中心にほど近い、それなりに良い場所。

 私が泊っている、安くて最低限の部屋割りのある宿からは徒歩20分。

 近いのか遠いのか何とも言えない距離だな。

 

 まあそんなことはどうでも良いのだ。

 いや、せっかくだから忘れぬように、研究所の位置をこの研究日誌にも書いておこうか。

 どうせあのタイプの認識阻害は、許可された人間によって知らされなければ、認識出来るようにならないのだ。

 とにかく、私はいくつかの魔道具を見繕って、ただそのまま持っていくのは拙いと思ったため連絡板に借りたい旨を記入しておいたのだ。

 

 今日は自身の力だけで出来る簡易的な検査をしよう。

 

 で、宿に戻ってきて、採ってきたサンプルを取り出す。

 皆、見た目はただの土であるが、やはりというかどの位置で採取した土も壁の奥から採取したものには微量ながら魔力が宿っており、表層のそれには魔力が無いことが分かる。

 何となく、深層に近い部分から採取した土の方が魔力の保有量は多いような気がするが、流石にこれほどの微量な魔力の多寡を感じ取るのは個人の力では難しい。

 これはあの魔道具を借りてきてから調べるとしよう。

 

 さて、魔力が含まれている土であることは分かったが、それが生物に由来するものなのかはイマイチ分からない。

 例えば、ミスリルなど。この世界には魔力を保有する無機物だって存在する。

 だが、異なる地点において、壁の奥からのみ魔力を含んだ土を採取することが可能ということはやはり、何らかの条件はあって、ダンジョンは成り立っているのだろう。

 それを解明したい。

 

 

〇月▽日

 

 前述の翌日のことだ。

 再び研究所へと足を運ぶと相も変わらずもぬけの殻であった。

 しかし、連絡板を見るとそこには、追記がされており、持ち出す備品の名前を紙に移し、キチンと返すならば、何を持って行っても良いと書かれていた。

 追記の横には頭文字でも取ったのか、『K』と書かれている。ケンキか。

 

 ちなみにこの世界にしっかりとした文字の文化は存在しない。

 これは共通語なんていうものにも当てはまる不思議であるのだが、魔力を通して、自身に意味が分かる文章を書けば、それはそのまま相手に伝わってしまうのだ。

 魔力万能説がまた一歩前進してしまった。

 

 そんな訳で、私がこの研究日誌を日本語で書こうと、英語で書こうと、私がそれを文字として認識さえしていれば、身体から漏れ出る余剰魔力だけで、十分に万民が読める文章として成り立ってしまうのだ。

 故に識字率は最高であるが、文化としては最低なのである。

 原始人でも、少しは独自の形態を築き上げていたのではないだろうか。

 

 話がだいぶ逸れてしまった。

 魔道具を借りてくることが出来たため、再度魔力量の調査を行った。

 結果は私の想像通り。深層に近い箇所のサンプルの土の方が僅かながら、保有魔力が多かった。

 最も、最初よりだいぶ魔力も抜けてしまい、もう数日もすればこのサンプルは使えなくなってしまうだろうが。

 

 そして、借りてきたもう一つの魔道具は、現代で言うところの遠心分離機だ。

 簡単に言えば、物質をガチャガチャのカプセル程度のこの魔道具の中に入れ、魔力を注ぐことで、魔力が強烈な渦を作り出し、中のものを魔力への親和性毎に分離するというものだ。

 これを壁の奥から採取したサンプルに使用したところ、土は二層に分かれた。

 

 まず、9割以上を占める魔力を全く含まない土の層。

 そして、微量ながら魔力を占める残りの5%未満の層。

 こちらはよく見ると何となく茶緑色のような色をしている。

 

 要するにこちらのほんの少しの層がダンジョンの本体になるのではないだろうか。

 私の仮説のようにダンジョンが生物であるとするならば、これはその生物の表皮か、それとも内皮の一部なのか。

 対象実験のためにいちおう表層の土も分離するが、分かれるまでも無く、土のままだった。

 

 もう少し奥まで掘ればもしかしたら、何か別のものが現れるのかもしれない。

 だが、それは難しい問題であった。

 ダンジョンには自己修復機能がある。もちろん実力者を探せば、私が穿った以上の深さまで掘り進めることも出来るだろう。

 しかし、それを依頼するのに一体どれほどの対価が必要になるのか。

 そもそも、その先を見れば本当に新しい発見があるのか。

 

 ダンジョンの正体の有名な噂話には魔力が形成した異界への門だというものがある。

 もし、本当にそうだとしたら。

 そこに穴を穿てば、自分は二度とこちらの世界に戻ってくることが出来なくなるのではないだろうか。

 そんなリスクを負ってまで、協力してくれる人がいるのだろうか。

 

 そもそも、私が調査したのはたった一つのダンジョンだけだ。

 世界にはいくつものダンジョンがあり、それらが全く同じである保証などどこにも無い。

 せめて、三つ四つ、通常に考えれば十は別のダンジョンからサンプルを取り寄せる必要がありそうだ。

 

 私には科学の常識という武器があるが、その仮説を証明するのは一筋縄ではいかない。

 まあ、焦ることは無いのだ。

 私には時間があるからこそ、こんなことを行っている。

 十のダンジョンから、それぞれ十のサンプルが必要ならば、何年もかけて、集めていけば良いのだ。

 

 私はこれらのサンプルを小瓶に戻した。

 可能であれば、顕微鏡みたいなもので細かく観察したいところだが、そういった魔道具があるとは聞いたことが無い。

 無ければ作れば良いなどと言うかもしれないが、私に顕微鏡の仕組みの知識は無いし、錬金術の知識も大して持ち合わせていない。

 

 この世界には謎が満ちている。

 一日二日で解明できるはずも無いのだ。

 まあ、気長にやっていこうではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小瓶の中は静止した世界だろうか。

 生き物がいないならば、そこに変化は訪れない。

 しかし、その小瓶の小さすぎる変化に、私は気が付かなかった。

 その変化は確かに迷宮の正体に近づくためのものであったが、この頃の私には、知識も道具も経験も、それに気付くには何もかもが足りていなかったのだ。

 




掲示板とかやってみたいの

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研究所連絡板 その①

書いてて楽しかったけれど、書きなれない形式だからか、
時間かかりました。。。
その割に文量は大したこと無いので、連日更新で誤魔化し。





for L

せっかく来たのに誰もいない。。。

魔道具とか良さそうなのあったし、使いたいから借りて行っても良いか?

 

 

for K

借りたものをどこかにメモして、しっかりと管理すれば問題無いです。

 

 

for U

↑Kは分かるけれど、Lは誰だ?

 

 

for L

また誰もいない。。。

メモ、張り付けていくから、借りていく。

 

 

for Y

U無視されてるの笑うわ

 

 

for K

Lは私が勧誘しました。

我らが研究所の外部研究員第一号です(`・ω・´)ゞ

 

 

for U

YもKに無視されてて笑えるww

私たちも最低限のメンバーを早く揃えなきゃ……

 

 

for K

ちなみに、彼女は例のゴブリンの日誌の提出者です。

感性が非常に独創的なので、何か行き詰まったら雑談してみるのも良いかもしれません。

 

 

for Y

ところで、この連絡板って使い方これで良いのか?

よく見るのは、予定などの管理に使用しているみたいだが

 

 

for U

そりゃ、予定何てまだ何も無いし……

とりあえず、最低でも五名は集めないと機関として認可が下りないのだもの。

ここの魔道具もほとんど、Kの私物でしょう?

 

 

for K

元々、私がやりたくて始めているので問題ありません。

予定も、この研究所に皆が集まることの方が少ないので、ひとまずはこんな使い方でも良いと思います。

 

 

for Y

ひとまずあと一人が集まるまではこんな使い方で了承した。

というか、Lは魔道具借りてどこで使っているのだ?

ここをそのまま使えば良いと思うのだが。

 

 

for U

何でだろうね。

Kは分かる?

もしくは、Lはあれから来てる?

 

 

for K

おそらく、自分のやりたいように自由にやりたいからかと思われます。

組織に所属することは嫌がっていたので。

そのうち慣れたり、研究が一段落ついたら来るのではないでしょうか。金銭に困窮しているようでしたし。

 

 

for U

なるほどね。

あっ、今日新しく候補の子をやっと見つけたから、もうちょっと待って。

勧誘中……

 

 

for K

遂にですか。

期待しております。

私も引き続き探していきます。

 

 

for Y

研究何て人気無いものな。

皆、自分が使用、利用しているモノが何なのか気にならないのだろうか。

 

 

for U

気にならないのでしょう。

そりゃ、便利なものが何不自由なく使えているのに、その仕組みにまで興味が湧く人は少ないでしょう。

世間から見れば私たちの方が奇特な人種でしょうね。

 

 

for K

大体の発見は偶然から見つかっています。

故にそれを意図的に、専門に扱おうという人はやはり少ないのでしょう。

 

 

for U

勧誘成功した!

今度、顔合わせしたいね。

Lにも会ってないし。

 

 

for K

では、人も揃ったということで、次の陽の日の朝に集まりましょう。

次回はなるべく来て頂きたいですが、それ以降は自由参加で定期的に集まりましょうか。

 

 

for Y

上記了承した。

あれから、Lは来ていないようだが、どうする?

 

 

for K

もし、前日までに書き込みが無いようでしたら、私が直接伝えてきます。

 

 

for U

了解!

 

 

for T

誘われました!

よろしくお願いします!

 

 

for L

何か見ない内にすごい大量に書き込まれてる……

 

 





L:主人公 本名は次々回
K:ケンキ 研究する熱心
Y:    奇特な人①
U:    奇特な人②
T:    勧誘された奇特な人


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エルフさんの研究日誌 『スライムの生態系は?』

書いてる内にタイトルが変わりました()
本当に書き出せばすぐなんですよ……


〇月§日

 

 ダンジョンは置いておいて、今日はスライムを調べたいと思う。

 適当に採ってきたスライムの切れ端だ。

 ダンジョン内において、スライムは無限に等しいと言って良いほど、いつだって、どこにだって湧いてくる。

 スライムが生態系において、最下層に位置することは知られているが、その生態については知られていない。

 所詮、いくらでも湧く栄養素程度の認識で詳しく調べる人間はいなかったのだろう。

 食べられることだけ分かっていれば、それ以上は命がけのダンジョン探索において、余計なこととして切り捨てられる発想である。

 だが、スライムの生態は考えてみれば、考えるだけ不思議だ。

 ヒエラルキーが最下層に位置しながら、ダンジョンという閉鎖空間で増え続けることが出来るのは、植物の光合成のように自身でエネルギーを作り出すことが出来るのか、はたまた何か別の現象によってエネルギーを得ているのか。

 

 そもそもスライムという形態自体が様々な種類がある。

 もちろん、この世界でスライムといえば、動きが遅く、粘性の液体の塊のことであるが、前世の記憶と照らし合わせると、ゲームや設定では様々なものがあった。

 某勇者のゲームのスライムなんて、顔が付いていて妙に愛嬌があるが、あれはどういった生物なのだろうか。もしかしたら、裏設定なんかが用意されているのかもしれない。

 もう一つよく見かけるのは、中心に核があるタイプのスライムだ。

 核を潰せば終わり。

 それを守る周囲の粘性液体はカタツムリなんかでいう殻の役割なのだろうか。それとも、スライムは超巨大な単細胞生物だったりするのだろうか。

 千差万別な強さと形態を持つ、スライムに思いを馳せると、思考が止まらない。

 

 だが、あくまでこの世界のスライムは上記で述べているように、核が無く、粘性液体の塊で、生態系の最下層に位置すると考えられ、栄養が豊富であるということくらいだ。

 もしかしたら、核が小さい単細胞生物なんかであるかもしれないと考察したが、それは私が採ってきた破片によって否定された。

 小さな破片は大きさを変えることなく、小瓶の中でうにょうにょと蠢いている。

 単細胞生物であるならば、切り取ったところで復活なんかはしないだろうし、私の知っている生物で当てはめるのならば、プラナリアなんかが近いのだろうか。

 半分に切ると、それぞれが頭を持ち復活するヤツ。小学校の理科の授業なんかでは人気者だったんじゃないだろうか。

 しかし、あの生物の存在は知っていても、その仕組みは私は知らない。

 しまったな、生物をもっと勉強しておくべきだったか。

 

 まあそんなことを今更考えても仕方がない。

 とりあえず、このスライムがプラナリアと同様の性質を持ち、破片が復活しているのだと仮定しよう。

 そうであるならば、この破片はいずれ元のスライムと同様の大きさにまで戻るのではないだろうか。

 ならば、それを観察するためには大きさを戻すためのエネルギーをスライムに与える必要がありそうだ。

 スライムは何を食べるのだろうか。何でも食べるようなイメージがあるが、どうなのだろう。

 研究というよりも、スライム育成日誌になりそうだ。

 

 

〇月¶日

 

 スライムに色々と与えてみた。

 が、何を与えてもスライムが吸収する様子は無い。

 始めは果物の破片から、ダンジョンの土、私の血、魔力を注ぐなどいろいろ試してみたが、変化は無い。

 心なしかスライムの動きも鈍くなっているように見える。

 小瓶の中にはゴミとしか思えないような破片やらが吸収されることもなく落ちていて何だか寂しい。

 魔力は小瓶に注いでみたところ、スライムに変化は無く、そのまま空中へと溶けていった。

 

 

〇月Ψ日

 

 結局スライムは何かを食べることも無く、動きがどんどん鈍くなっている。

 最初はうにょうにょと元気に蠢いていたのに、今ではプルプルと時々身体を震わせるくらいである。

 よく考えてみれば、スライムはある意味で栄養満点の食糧になり得る。

 簡単に増やせるのならば、今頃巷にもっと流行しているはずだ。

 

 不味いというのは一見マイナス要素に見えるが、それは食べ方が開発されていないだけなのではないかと私は思う。

 要するに、美味しい食べ方が何かしら存在するとしても、わざわざそこまでして食べる必要が無かったり、そもそも安定して確保することが難しいものは、食文化として成長していかないのではないかと思う。

 スライムは後者だ。

 ダンジョン内ならば無限に湧くといえど、ダンジョンの外で育成が難しいのであればわざわざ流通させる必要も無い。

 いくら弱いダンジョンでも、油断をすれば命を落とすこともあるのだ。

 常食にそんな危険なものを採用するはずがない。

 

 さて、スライムが何も食べずに弱るばかりというのは本当に困ったな。

 どうしてこうなるのだろうか。

 

 

〇月Σ日

 

 スライムは結局動かなくなってしまった。

 ダンジョンから持ってきて5日目の出来事であった。

 

 こうなったからにはここまでの観察で、仮説を立てなければならない。

 故に私はこう考えた。

 スライムはダンジョンと何らかの寄生もしくは共生の関係にあるのではないだろうか。

 

 まだハッキリとはしないが、私はダンジョンは生物であると考えている。

 そうであるならば、そのダンジョン内でのみ生息し、そして無限に等しいほどに湧いてくるスライムの間には何かの関係があるはずだ。

 スライムが一方的に利益を掠め取っているのか、ダンジョンにも良い何かがあるかは分からないが、ダンジョンから取り出しただけで、弱っていき、いづれ死ぬ。

 それは何らかの栄養をダンジョンから与えられていたのではないかと考えたのだ。

 

 そうか、もしそうだとするならば。

 

 

〇月Γ日

 

 ダンジョンにやってきた。

 スライムを前回同様に細切れにして、いくつかの小瓶に採取する。

 もし、ダンジョンから何らかの栄養素を得ているのであれば、しばらくしてからダンジョンに放せば個体ごとに変化が見られるはずだ。

 今回は10個ほどに分けて確保した。

 いくつかのパターンを見てみよう。

 

 

〇月ζ日

 

 スライムが若干弱ってきたので、ダンジョンへやってきた。

 今回はダンジョンの入り口において、小瓶から取り出し一定の範囲以上にいけないように囲った個体、小瓶に入れたままダンジョンへ置いた個体、厳重に密閉した容器に入れた個体、そしてダンジョンの外に置いたままの個体へと分けた。

 そして、一つだけだとそれが偶然なのか必然なのか判断も付かないため、二つずつ設置した。

 

 そして待つこと数時間。

 ダンジョン内に置いた個体はいずれも、元気を取り戻しているようだ。

 厳重に密閉したスライムでさえである。

 反対にダンジョンにほど近い位置に置いたスライムには変化が見られない。

 つまり、弱ったままだ。

 

 スライムはダンジョンから何かを供給されて、生きているのだろうということが分かった。

 保有魔力を見る魔道具を使用しても、スライムの魔力量に変化は見られない。

 魔力を受け取っているのではないのだろう。

 

 では何を受け取っているのだろうか。

 ダンジョンにはまだまだ私の知らない未知のエネルギーが存在しているのかもしれない。





next 変人達の集い


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変人達の顔合わせ

ギリギリ一週間以内
やはり、会話は切りどころが分からず難しい
主人公以外の人物との書き分けが苦手なのです。




 ちょっとスライムやらダンジョンやら弄っていたら、いつの間にやら研究所が本格稼働するとかで、一度全員集まろうという告知がされていた。

 いや、あまり行きたく無いのだが、この感じを見るに無視していてもケンキが迎えに来て強制連行などされるだろう。

 借りた魔道具がケンキの私物だったのもあって、流石に出なければならないか、という気分にさせられる。

 順調に外堀を埋められているようだ。

 

 まあそれでも、良いか。

 人は流される生き物だ。自身の行動に絶対的な確信を持ってマイノリティへと邁進出来るものなど、そうはいない。

 エルフという人ならざる者でも、根底にあるものは同じだ。

 きっと、こういうのは、一人では生きて行くことが出来ず、社会性を身に付けたからこそ起こった必然の思考なのだ。

 責任を負うつもりはあまり無いが、どうせ長く退屈なエルフの一生を過ごしたくないと、出てきた身。数百年単位で人の中に身を置くつもりならば、ある程度の身分も必要になるだろう。

 そう考えれば、一つの機関に属するという選択肢もそう悪いものではない。

 それにここはかなり自由だ。

 自分のやりたいことをやっていれば、ある程度生活が出来るならば、どこかしらで妥協も必要だろう。

 

 そうやって、自分を騙し、ついでに確認したはずなのに、普通に集合を忘れ、朝からケンキの顔を拝むこととなった。

 短く切り揃えた黒髪と、若い相貌なのに片眼鏡をはめ、優しく微笑んでいる様は言われなければ貴族というよりも執事のようである。

 実際のところは、片眼鏡は何かしらの魔道具だろうし、何なら服装はどこにでもありそうな服装の上に白衣を羽織るという台無しなものだし、顔以外は実に研究者らしい出で立ちだ。

 

 笑うという行為は本来相手を威嚇するような、怒りの表情ということをよくよく認識しつつも、丁寧語は崩さないケンキに付いて、かなり遅れて研究所へとやってきた。

 中には他に三人が談笑していた。

 ……おそらくお酒を片手に。

 

 その光景を見て、がっくりと肩を落としているケンキを見るに予定されていた行動では無いらしい。

 そして、顔を真っ赤にした男がこちらへと近づいてくる。

 整えられた跡が辛うじて残る茶髪で、高身長の男だ。見た目はキッチリとしていそうなのに、雰囲気は非常におちゃらけた感じだ。

 

「おーおーようやく来たか! あんまりにも遅いもんで持ってきたワインを先に開けちまったぜ」

「……はぁ。ヤーンは何故ワインなど持ってきたのですか? 今日は顔合わせと施設の案内をすると言ったはずですが……」

「そりゃ、歓迎会をするなら酒だろうよ! そっちのエルフさんに、こっちの娘っ子は初めましてだろう? なら酒を酌み交わすのが仲良くなる第一歩ってもんよ! という訳で俺はヤーン! 連絡板のYは俺の事だ!」

 

 いや、流し見しただけだが、キャラが全然違わないか?

 何だかもっとこう、生真面目で堅実なイメージがあったのだが。

 私の表情を察したのか、ケンキが注釈を入れる。

 

「ヤーンは普段は見た目通りに寡黙で、生真面目なやつなのですが……お酒が入るとあんな感じに砕けて饒舌になってしまうのです……。まあ、おそらくお酒の力を借りて話そうとでもしたのでしょうが……待ち人が来る前に飲ませるなんて彼女しかいませんよね……」

 

 と、ケンキと私の視線を感じた女性がニコリと手を振る。

 水色の派手な髪色がとてもファンタジーという感じだ。

 一体どういう遺伝子を引き継いだらあんな鮮やかな水色の髪になるのだろうか。

 それでいて、身体に青系統の色素が生まれているようにも見えず、肌は白く透き通っている。

 彼女の祖先に青色の髪が有利になる環境があったとして、それは一体どういった状態なのだろうか。

 もしかしたら、海の中に住んでいたとかはあるかもしれない。人魚のいる世界なのだ。

 黒よりも青系統の色の方が生存確率が高く、そういった髪色を持った者の子孫になるのかもしれない。

 ダンジョンとか、魔物とかこの異世界にしか無いものを調べるのも良いが、ああいったファンタジー特有の現象についても調べてみたい。

 でも悲しいかな、私には髪が黒い理由が分からない。

 つまりは、彼女の髪を調べるためには、まずは人が何故黒から茶系統の髪色を持っているかを知る必要があるのだ。

 そういえば、金髪はどういった括りになるのだろうか。

 自分の髪で調べるのも良いかもしれない。

 

 ここまで、およそ10秒ほどの思考である。

 

「髪、切ろうかな……」

「何故、彼女を紹介しようとしたら、そんなところへ思考が飛躍しているのですか……? ここには変人しかいないのでしょうか」

「大丈夫よ、ケンキ。貴方も十分変人の枠に入るわ。つまりここには、私を除いて変人しかいないのよ」

「聞き捨てならないですね! こんなにも可愛い僕が変人とは! ここには僕以外変人しかいないようです!」

「そうだそうだ! 俺と酒を酌み交わせ! 素直になって話そうじゃないか!」

 

 ここには自分は変人では無いと思い込んでいる変人しかいないようだ。

 あれ? そうすると私も自分は普通だと思い込んでいる変人になってしまう……? いや、そんなはず無いだろう。

 私は一般常識を持っている普通のエルフだ。

 つまり、こうした客観的な視点を持つことが出来ているということは、私だけは変人では無く普通なのだ。

 

 と、そんな他愛もない思考を続けていると、このままじゃ終わらないとでも思ったのか、水色髪の女性が声を上げた。

 

「私は、ユビキタス・ライリーよ。と言っても、そこのエルフさん以外とは既に顔見知りではあるのよ。ちなみに、分かると思うけれど連絡板のUは私ね。で、こっちが人数合わせに来てくれたトラッシュ君よ」

「初めまして! 服装自由と聞いて来た僕が、トラッシュです! 研究に興味はあまり無いけれど、可愛い服装してても許されると聞いて来ました!」

「ちなみにこんな成りしているけれど、男の子だから気を付けてね」

 

 そう紹介された彼? は純白のワンピースに身を包み、自信満々の笑みを浮かべている。

 桜色の髪をポニーテールにしている彼を見て、一目で性別が分かる人はいないだろう。

 

「あー、男の娘ね。遅れたけれど私はエルフのレリーフ。好きなように呼んでくれて構わないよ」

「おっ、おっお! レリーフちゃんは僕のこと分かってくれているようなイントネーションを感じましたよ! 是非是非、今度どこかでお茶でもしながら可愛いについて語りましょうよ! 酷いんですよ! 僕はこんなにも可愛いのに、どこに行っても男なら男らしい格好をして働けって。働く服装くらい自由にして欲しいものです!」

「ところで、ユビキタスさんは何故、ヤーンにお酒を飲ませたのでしょうか? 返答次第では、怒りますよ?」

「よく分からないトラッシュ君と、寡黙過ぎるヤーンの二人を相手に空気が持たなかったのよ。こっちの方が楽しいし、まだ楽でしょう? 緩衝材にケンキがいないと、流石にあの空気は無理よ」

「ケンキもそう怒らなくても良いじゃねぇか。ほら、お前も酒を飲めば怒りなんて忘れて、楽しくなれるぞ? そっちの二人ももっと飲んだらどうだ?」

「そもそもですよ? 男だからと言って可愛い服装が駄目だなんて誰が決めたんですか! しかも、それが似合っていないならともかく、僕は最高に可愛いでしょう! 可愛いは正義! だから僕がルール! だから、あそこのお店のウェイトレス衣装だって僕に着させれば良かったんですよ! 何が男はこっちの服装ですか!」

「あの……誰かトラッシュ君を止めて貰えないだろうか。この子、止まらないのだが」

「ほれ」

 

 ヤーンさんから、グラスを渡された。

 あれ、私この世界で生まれてから一度も飲んだことが無い……?

 いいや、どうとでもなれ!

 

 皆が思い思いに話す酒宴は止まらない。

 それが良い思い出になるかはともかく、突発的に始まってしまった酒宴は確かに顔合わせの意味だけは果たしたようだ。

 顔も名前も知らない仲から、酒を酌み交わす仲へ。

 予定していたことは何も終わらなかったが、むしろ酒に溺れた者達によっていくつかの魔道具は壊れてしまったが、親睦だけは深まったようだ。

 

 

 翌朝、目を覚ました皆が皆、深く反省したというのは、

 変人であろうと、善人の集まりであることの証左なのかもしれない。







名前よりも先にイニシャルが決まる彼ら

レリーフ ← LeRife ← ReLife

ヤーン ← yearn

ユビキタス・ライリー ← Ubiquitous Library

トラッシュ ← トランスセクシュアル

から派生した。


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