緋弾のアリア Reversi (長財布)
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邂逅

最近ホームズを題材にしたドラマや映画を見ていたら書きたくなった者です。
不定期更新かつ亀更新だと思います。


「またお前か、茨木レオ・・・」

 

尋問科担当の綴先生はため息を吐きながら俺の前に座った。ここは東京武偵高校の生徒指導室、自慢ではないが俺はここの常連だ。

 

「報告書を読む必要もねェ、どうせまた命令違反だろ?」

 

「そうですね」

 

俺は答える。綴先生はさっきより大きなため息と共に紫煙を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

『狙撃班村上、配置完了』

 

『坂本、準備完了です』

 

『牧田、いつでもいけます』

 

「茨木、大丈夫です」

 

俺は皆と共にインカムで狙撃の態勢が整ったことを報告する。およそ500メートル先にある銀行の建物に向けて愛銃であるKar98aを構えた。

 

平日の白昼に起きた立てこもり事件、犯人は銃で脅し金を要求、中の客と従業員を人質に銀行内に立てこもっているのだ。

 

店舗はガラス張りなのだがブラインドが降ろされ中の様子は見えない、今情報科の生徒たちが必死に犯人との交渉を行っているが進展はない。

 

「ん、なんだ?」

 

すると突如としてブラインドが上がり始める。このままでは内部が丸見えになってしまう。狙撃班からしたら犯人を無力化できるチャンスだと思っただろう。

 

しかしそう甘くはなかった。

 

『これは・・・』

 

『マズいぞ』

 

『最悪だ・・・』

 

 

文字通りの肉壁だった。犯人は人質を窓際に一列に並べ、盾にしていたのだ。その中には子供や老人もいた。

 

「血も涙もねぇヤツだな・・・」

 

人質の後ろに犯人が銃を向けている、公開処刑も一緒にできるって訳か・・・

 

『狙撃班!誰か対応できる者は居るか!?』

 

指揮を執る情報科の一人が無線で問う。

 

『無理です、対象の体が人質でほぼ隠れています。狙撃は危険です!』

 

『撃てないことは無いですが9条に抵触してしまいます・・・』

 

次々と聞こえてくる無線に俺は苛立っていた。何が9条だ、人質の人命が優先だろうが・・・

 

『各員、指示あるまで待機せよ』

 

マジか・・・

 

俺は絶句した。そんな悠長な事やってる場合じゃねぇってのに。

 

そして嫌な予感がした。俺が今ここで撃たないと最悪の事態になる、そして俺の人生

経験からこの予感は大体当たる・・・

 

 

「狙撃班茨木、制圧します」

 

そう言って引き金に指をかけた。スコープのクロスラインはしっかりと男の頭部を捉えている。

 

『待て茨木!不確定要素が多すぎる。待機だ!待―――』

 

俺は引き金をゆっくりと引いた。

 

 

 

 

 

 

「非殺傷弾です」

 

俺の言葉で綴先生は面倒くさそうに頭を掻いた。

 

撃ったのは訓練でも使用されるゴムスタンと呼ばれる非殺傷弾だった。その証拠に弾丸は狙い通り頭部に被弾したが脳震盪を起こしただけだった。そこに俺が突入命令を下し強襲科が突入、無事犯人を無力化することができた。

 

後から分かったことだが犯人の男は事件当時薬物による極度の錯乱状態であったらしい。交渉が難航するのも当然だった。

 

「あのなぁ・・・非殺傷弾とはいえ一応は実弾なんだぞ、当りどころによっては死ぬ可能性だってある。それに人質に当たったらどうする?ゴムスタンは空気抵抗や風の影響を受け易い、人質に当たってたら大騒動だ。ただでさえ今武偵への風当たりが強いってのに・・・」

 

「当たらないと思ってたら撃ってません」

 

飄々と返す俺に苛立つ綴先生は2本目のタバコに火を点ける。紫煙を燻らせながら彼女は俺に1枚の紙を渡した。

 

「情報科がシミュレートした資料だ。お前があのタイミングで撃ってヤツを無力化できた確率は17%だとよ」

 

「その数字は下方修正されてます、肝心なところで手柄を取られた俺へのあてつけでしょう」

 

「・・・」

 

綴先生はしばらく黙った後立ち上がった。これ以上埒が明かないとでも思ったのだろう。

 

「今回も結果が結果だけに厳重注意しかできないがこれだけは覚えとけ、お前のやり方は危険すぎる。いつか取り返しの付かないことになるぞ」

 

「・・・肝に銘じて置きます」

 

これもお決まりのやり取りになりつつあり、綴先生は俺の返事を待たずして生徒指導室から出ていった。

 

太陽もすっかり傾いてしまい下校時間はとっくに過ぎてしまっていた。残っている生徒もほぼ居ない、俺もさっさと寮へ帰ろうと校門に向かおうとした時だった。

 

「ここに居ればキミに逢えるって聞いてたけど本当だったんだね」

 

ふと背後から声をかけられた。振り返ると一人の女子生徒が立っていた。

 

髪は腰まで届くかというほどのキレイなくせっ毛の無いブロンド、目鼻立ちのくっきりした顔立ちと女子にしては高い身長で痩身、明らかに欧州系だ。それに真っ白な肌と上品な佇まいはまるで人形のようだ。

 

「アンタは誰だ?」

 

スカーフからして同級生、だが知らない顔だった。

 

「人に名前を聞くときは自分から名乗るのがマナーじゃないのかい?」

 

「俺を待ってたかのような言い方して名前を知らないわけがないだろうが・・・」

 

「正解、私はキミを知ってる。私は鷲宮エリー、よろしく」

 

エリーは俺に右手を差し出す。一応その右手を握っておいた。

 

転校生か・・・でもこんな時期にどこから?

 

その疑問は彼女の襟を見たらわかった。4つの旗、ライオンとユニコーン、イギリスの紋章だ。しかもその下にもう一つピンバッジをつけている。おそらく家紋、名家の出だろう。

 

イギリスの貴族が多く通う武偵校といえばロンドン武偵校。少し前に似たような転校生が居たから覚えていた。

 

「大方キミの予想通りだよ、茨木レオ君」

 

「俺の目線ですべてを察したのか?さすがホームズの国だな」

 

するとエリーは不機嫌な表情を見せる。

 

「その名前はあまり好きじゃないんだ。できれば私の前でその名前を出すことを控えてもらえると嬉しいかな・・・」

 

「それは悪かったよ」

 

一応謝っておいた。

 

シャーロック・ホームズは現代武偵制度の祖となる人物だ。イギリス人で武偵なら彼は神様のようなもの、憧れの存在だとばかり思っていたのだが、珍しいな。

 

「さて、お返しにキミについて話そう」

 

彼女はズイっと俺に近寄る。互いの鼻が当たってしまうのではないかと思う距離に俺は反射的に上体を仰け反らせてしまう。

 

「名前は茨木レオ、専攻は狙撃科、使っている銃は古いボルトアクション式のライフル、地面に伏せる姿勢じゃなくて座った状態で撃つスタイルのようだね。生徒指導室から出てきたことからなにかやらかして指導を受けていだ、でも出てくる時間が早いのと荷物が少ないことから軽い処分だった。担当したのは尋問科の綴梅子先生、彼女の吸う独特なタバコの匂いが付いてる。そしてキミはこれから学校を出てすぐのローソンで晩御飯を買おうと思ってた。支払いは口座直結のデビットカード、スマホでPontaカードの提示も欠かさない。どう?当たっているかな?」

 

「・・・」

 

耳元でマシンガンのように次から次へと俺のことを言い当てるエリー。俺は彼女の超人的な観察力、推理力に言葉が出なかった。

 

おそらく事前に仕入れていた情報は名前だけ。持っている銃と射撃姿勢は指の傷と服の皺、コンビニのことは生徒指導室を出てすぐスマホでポイントカードのアプリを開いたから、その画面と手帳型スマホケースに入れてあるカードから推測しだのだろう。

 

「アンタがどんなヤツかはわかった。それで?俺になにの用だ?」

 

わからない事はそこだった。転校生がいきなり俺に話しかける意図がどうしてもわからなかった。

 

彼女は俺の両手を握って言った。

 

 

 

 

「私と付き合って」




最近見たホームズを題材とした作品はミス・シャーロックです。


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聴取

「はぁ?」

 

突然の告白に素っ頓狂な声を上げる俺。

 

「キミもそんな表情をするんだね、言い方を変えよう、私とコンビを組んでくれないかい?」

 

「あぁ、そういう事か・・・」

 

茶目っ気を含んだ笑みを見せるエリーに俺は内心安堵していた。

 

「でもなんで俺なんだ?」

 

「報告書を読んだんだよ。例の立てこもり事件のね」

 

エリーは紙の束を見せた。さっき生徒指導室で綴先生が見ていた資料と同じものだ。

 

「不謹慎に思うかもしれないけどあの事件、私は最悪な結果で終わると思ってた。でも結果は違った。キミが犯人を制圧したお蔭で一人の死者も出ることなく事件は解決した。正直驚いたよ、私の予想をこうも鮮やかに裏切ってくれる人が日本に居たなんて思いもしなかった」

 

若干興奮気味の口調でエリーは続ける。

 

「私はある事件を追って日本まで来たんだ。それは曽祖父の代から続く因縁も絡んだ大事件でね、それを解決するために協力してほしい、もちろん報酬も弾むし単位を与えるよう教務課に掛け合ってきたよ。お互いwin-winで行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は彼女の要請を受けることにした。金の為じゃない、正直言って俺の今までの所業から後難度クエストを一緒に受けてくれる人間はあまり居ない。

 

それに彼女の追う大事件というのも気になっていた。そして何度も言うが金の為ではない、断じて。

 

コンビを組むに当たってまずはエリーの部屋へと案内された。東京タワーの足元、芝公園近くのマンションにだった。外観を見ただけで高級マンションだとわかる。

 

エレベーターが階数ボタンを押すんじゃなくてカードをかざすと自分の部屋の階に止まるタイプのもの、ガチなヤツだ・・・

 

「さぁ、狭い部屋で申し訳ないが入ってくれ」

 

「いや、ひとり暮らしするには十分すぎるだろ・・・」

 

まるで高級ホテルの一室のように高そうな装飾品であしらわれたエリーの部屋だが彼女の自室であろう部屋だけ雰囲気が違っていた。

 

壁一面に貼られた資料、座り心地が良さそうなふかふかのソファの周囲には何やら難しそうな本がうず高く積まれている。

 

俺はその資料のいくつかを手にとった。

 

「クルマ、船、バイク、自転車、バスのハイジャック・・・もしかしてお前がおっている事件って武偵殺しの事なのか?」

 

武偵殺し―――

 

最近武偵業界を騒がせている腕の立つ武偵ばかりを狙った殺人事件だ。つい最近も武偵校生徒を狙ったチャリジャック、バスジャックがあったばかりだった。

 

「50点、私が追っている事件はもっと大きい存在、彼らを裏で操っている奴らだよ」

 

「裏で操ってる?」

 

「武偵殺しだけじゃない、私の予想では何人もの犯罪者に資金、武器、戸籍、知識をを提供している組織があると思っている」

 

「もしかしてお前、一人でバカでかい闇の組織みないな奴らにカチコミキメようとしてんのか?」

 

「そうだよ?」

 

私なにかおかしいことを言いましたか?みたいな感じで返すエリーを見てマジかと思った。

 

だが乗りかかった船だ、報酬と単位のこともあるし地獄の2丁目まで付き合ってやろうと思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あれ?」

 

休日の朝、俺は部屋から聞こえる物音で目を覚ました。部屋には俺以外誰も居ないハズなのだが。

 

リビングに向かうとキッチンに人の気配がした。

 

「おはよう、朝は紅茶で良いかな?」

 

なんかエリーがいるんだが・・・

 

「なんで居る?」

 

「今日はある人物に会いに行こうと思ってね、迎えに来たんだ」

 

「いや、それはお前がキッチンでメシ作ってる答えにはなってないぞ」

 

エリーはゴミ箱を指さした。

 

「キミ、食事はいつもコンビニ弁当だろう?私とコンビを組むな常に最良のコンディションを維持してもらわないと困る。ほらできた」

 

「おう、さんきゅー」

 

久々の手料理を堪能した後、俺達は武偵校のある学園島へと向かう、彼女のジャガーCX-75を運転しながら・・・

 

こんなスーパーカー初めて運転したぞ。

 

「なんでこんなバカ高そうなクルマ持ってきてるんだ?」

 

「移動手段があった方が便利だろう?」

 

にしてももっと他にクルマあっただろうに・・・

 

イギリスのスーパーカーでしばしの首都高ドライブ、しかし目的地の武偵病院に近づくにつれてエリーの表情がどんどん曇っていく。

 

「どうした?酔ったか?」

 

「いや、私から誘っておいて何だけど、これから会う人物は個人的にはあまり会いたい人物じゃないんだ。だからキミにも来てもらおうと思ったんだけど・・・いざ会うとなると・・・」

 

「へぇー、お前もそういうコトあるんだな」

 

「私だって人間だよ?合う人間合わない人間だっているさ。それに彼女は、私の家とかなり確執がある家系でね、あまり気乗りしないんだ・・・」

 

レインボーブリッジが見えてきた当りから彼女の顔色はどんどん悪くなっていく、それは本当に心配になってくるほどに。

 

「本気で大丈夫か?なんなら日を改めても・・・」

 

「いや、いまじゃないとだめなんだ。そうでないと手遅れになってしまう」

 

俺の提案をエリーは即座に拒否した。

 

そうまでして事件の情報を集めるとは、さすがの信念だ。

 

学園島インターチェンジを降りて東京武偵高校付属病院へ到着した。中へと入りエレベーターで個室病室へと向かう、入り口に掛けてあった名前には

 

『神崎・H・アリア』

 

とあった。



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感知

「へぇー、まさか私の他にも武偵殺しの捜査をしてる人がいたなんてね・・・」

 

病床で資料を読み漁る神崎・H・アリア、彼女もまた武偵殺しの事件を追って遥々ロンドンから東京にやってきたのだ。

 

ちなみにエリーはアリアのことを知っているようだがアリア本人はエリーのことを知らない様子だった。

 

「正確には武偵殺しを操ってる黒幕だけどね」

 

エリーが答える。彼女は終始複雑そうな表情だった。

 

「だから武偵殺しについて知っている事を教えてほしいんだ。どんな小さいことでも構わない」

 

たまらず俺が彼女の言葉を継ぐ。

 

「知っていることもなにも・・・武偵殺しは手がかりを何も残さないのよ」

 

手詰まりか、分かってはいたがそう安々とシッポを掴ませてはもらえないんだな。

 

エリーはゴミ箱に入っている紙束を見つける。何やら報告書のようだが・・・

 

「これバスジック事件の報告書だよね?もらっていい?」

 

「えぇ、構わないけど手がかりになるようなことは何も書いてなかったわよ」

 

「ありがとう、じゃぁ私達はこれで失礼するよ」

 

そういってエリーはさっさと出口に急ぐ。

 

「え、もう良いの?」

 

困惑するアリア。

 

「あぁ、あ・・・そうだ、貴女はどうやって武偵殺しの出現を察知してるのかな?」

 

最後にエリーはアリアに質問する。

 

「武偵殺しは遠隔操作で乗り物を乗っ取るの、その時の電波をキャッチしてるのよ」

 

「なるほどね、ありがとう」

 

そう言って今度こそエリーは病室を後にした。

 

静かな病室に残された俺とアリア。

 

「じゃぁ俺もこれで、ええと、なにか情報を掴んだ俺たちにも教えてほしい、コチラもなにかあったらそっちに伝える」

 

「わかったわ」

 

俺はアリアと連絡先を交換しておいた。

 

 

 

 

 

 

俺たちは捜査資料にかかれてあったバスジャックのルートを走っていた。横に座るエリーは時折資料に目を落としつつ外をしきりに見回している。

 

「なにかわかったか?」

 

「たしかに彼女が捨てるのも分かるね」

 

「一旦帰るか?」

 

「あぁ、部屋に戻ってゆっくり考えたい」

 

俺は首都高に乗ってエリーのマンションへと向かう。

 

部屋に戻り彼女は例のソファに座って考えを巡らせていた。彼女だけに見える情報の断片をパズルのように組み合わせている。

 

「武偵殺しは周到なヤツで痕跡を一切残していない、セグウェイやルノーにも手がかりは無し・・・」

 

ブツブツと独り言を言いながら手を動かしていく。

 

「唯一引っかかるのは武偵殺しの事件にはアリアが絡んでいること、それに遠山キンジも、二人は今年の春に出会ったばかりなのにいくつかの事件をすでに解決している」

 

「待てよ、確か彼女は武偵殺しが遠隔操作をするときに発する電波を察知して居ると言っていたか、武偵殺しはどうして毎回彼女に感づかれているにも関わらず手法を変えないんだ?」

 

「こういったタイプの犯罪者は事件を起こすことを楽しんでいる節がある、自分は逮捕されないという自信の現れか?」

 

エリーは手を左右に振って今の仮説を払い除けた。

 

「いや違う、目的は彼女にあると考えるのが妥当だ。決まってキンジをそばに置くのも仕組んでの事、不特定多数を狙っていると見せかけてターゲットはあの2人だったのか」

 

「でもなぜ遠山キンジなんだ?待てよ・・・豪華客船のハイジャック事件で殉死した武偵の名前は確か遠山・・・そうか、そういう事か!?」

 

ハッと目を開いて俺の方を見る、その目つきはまるで獲物を眼の前にした虎のようだった。

 

「武偵殺しの目的は分かった。後は犯人探しだね。早速準備に取り掛かりたいところだが頭を使いすぎて今日は疲れた。物事を成功に導く上で休息も大事だよ、キミもしっかりと休んでおくように。それに銃の手入れをしておいてくれ、キミの狙撃が必ず必要になってくる。クルマは自由に使っていいよ、持ってきたのは良いけどあれは大きすぎたしキミのほうが色々と動く上で便利だろう?」

 

矢継ぎ早に伝えたエリーはそのままバタン、絨毯の上で寝てしまった。

 

エヴァンゲリオンみたいなやつだな・・・

 

俺は彼女を抱えベッドまで運ぶ。お言葉に甘えてCX-75のキーを持って俺はマンションを出た。

 

地下駐車場に降りて機械式駐車場からCX-75が出てくるのを待っていたときだった。

 

「うわっ!?びっくりさせんなよレキ・・・」

 

俺と同じ狙撃科のレキが横に立っていた。狙撃手らしいと言うか人間らしくないと言うか、所作がいちいち無機質でよくわからないヤツだ。

 

「良くない風が吹いています」

 

そして言っていることもよくわからない。彼女のいう風とはある種の彼女の行動原理のようなものだ。

 

「俺にか?」

 

「はい、近いうちに貴方は迷います」

 

「確かにエリーと一緒に捜査し始めたときからなんか変なイメージが付いてまわってるんだ。うまく言葉では表せないがな・・・」

 

銀行強盗事件のときにも感じたいわゆるイヤな予感って奴だ。俺は武偵殺しの黒幕という確かに存在するだろうが実態が全くつかめない組織に対する恐怖心からくるものだろうと思っていた。

 

しかしレキの口ぶりからすると違うようだ。

 

「迷いの元はもっと身近にあると思います。貴方は今後を左右する重大な選択に迫られますそれに貴方はとても悩み、困惑するでしょう」

 

普通の人なら胡散臭いオカルトだと一笑に付すだろうが武偵という職業柄無視することもできなかった。

 

「でも自分の選択を信じてください。そして自信を持って行動してください。では・・・」

 

ちょうど良いタイミングでCX-75が駐車場から出てくる。レキの姿はもうなかった。

 

「全く・・・相変わらず変なヤツだぜ・・・」

 

そう呟いて俺はCX-75に乗り込んだ。そしてエンジンを掛けようとボタンに手を伸ばしたときだった。

 

「ん?」

 

ふと手元に握っていたキーに視線が向かう

 

Ellie・M・Washimiya

 

キーホルダーに彼女のフルネームが刻印されていた。

 

「M・・・アイツのミドルネームか?」

 

彼女はイギリスの名家の出だ、ミドルネームがあってもおかしくないだろう。俺は特に疑問に思わずCX-75のエンジンを掛けた。

 

近所迷惑になるんじゃないかってくらい大きくて甲高いエキゾーストノートが駐車場に響き渡る。

 

俺はアクセルを踏み込んでマンションを後にした。

 



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吟味

「悩むな・・・」

 

俺は悩んでいた。

 

「おいレオ、早く決めてくれないと後ろが詰まっるんだぜ?」

 

「え、あぁ・・・済まない」

 

武藤に急かされ俺はボタンを押す。下からB定食と書かれた食券が出てきた。

 

エリーの捜査に協力することで俺は彼女から少なくない額の報酬をもらっている。いつもはラーメン一択なのに昼食のメニューを選ぶ余裕が出ててしまった。

 

それに彼女から常に良いコンディションを維持するようにと言われ、栄養バランスを意識するようにもなった。

 

机を囲うのは俺と車両科の武藤と強襲科の不知火、探偵科のキンジだ。

 

「お前最近噂になってるぞ、イギリスからの転校生と付き合ってるらしいじゃないか?」

 

「!?」

 

武藤の唐突な言葉に俺は味噌汁を吹き出しそうになる。

 

「な、何だよそれ・・・俺はエリーに捜査協力してるだけだ」

 

「ふーん、でも放課後に彼女がキミに告白してるところを見た人も居るらしいよ」

 

不知火が悪ノリしてきた。コイツめ・・・背中に気をつけておけよ・・・

 

「あれは彼女のイギリスンジョークだって」

 

「テンパるんじゃねーよレオ、それを言うならイングリッシュジョークだろ?」

 

「お前がなんで女絡みの話し振るか分かってるぞ、また星伽さんにアプローチして失敗したんだろ?」

 

「チキショー!それを言うのは反則だろ!」

 

「はい俺の勝ち~」

 

机に突っ伏す武藤に俺は高らかに勝利宣言をした。気にすることなかれ、いつもの馴れ合いだ。

 

 

 

 

 

 

武藤たちとの楽しいランチの後、俺は装備科棟へ向かった。平賀文から預けていたKar98のアップグレードが完了したとの連絡を受けたからだ。

 

「平賀、入るぞ・・・」

 

「茨木君!待ってたのだ!」

 

ガラクタだらけの工房の奥から小さい体がガサガサと音を立てながら出てきた。少しは整頓しろよな・・・

 

平賀は俺の前にガンケースを置く。

 

「古い銃で苦労したけどとてもやりがいのある仕事だったのだ!開けてみるのだ」

 

俺はガンケースを開けて愛銃の姿を拝む。

 

外見で大きく目立つ変更点はフォアエンドとストックの形状変更、俺は基本シッティングポジションの構えを取るため、シャシーとストックが膝、肩、腕に密着するような形状にしてもらった。

 

更にチークパッドが調節できるようにした事と20ミリレイルシステムの取り付け、ストレートボルト化した事、後は各部品の精度出し、かなり無茶のある改造だが平賀は喜んで引き受けてくれた。

 

「気に入ったのだ?」

 

「勿論!マジ最高!」

 

試しに構えてみたがフィッティングがハンパない!

 

「そこまで言ってくれるととても嬉しいのだ。こんな大口依頼も久しぶりだから弾代と申請代行手数料はサービスしとくのだ」

 

「ホント感謝するよ」

 

勿論このカスタマイズはかなり高くついた、しかしこれだけはケチってはいけないところだ。

 

平賀と支払いについて相談した後その足で狙撃科棟で試射をした。思ったとおり、満足のいく出来栄えだった。これなら1000m級の狙撃も難なくできるだろう。

 

これで準備も万端。武偵殺しよ、いつでもかかってこいだぜ!

 

 

 

 

 

 

 

帰り、俺はガソリンスタンドに居た。CX-75はガソリンをめっちゃ消費するのだ。

 

ハイオクのノズルを突っ込んで満タンになるのを待っているとふと向かいにあるホテルの前に止まったシトロエンDS9が目に留まった。

 

『外』と書かれた青い横長のナンバープレート、外交ナンバーだ。上2桁の数字は27、フランスの外交関係者が使用する公用車ということだ。

 

ホテルから2人の人影が出てくる、その中のひとりはよく知っている人物だった。

 

エリ―!?

 

フォーマルな格好をした鷲宮エリーだった。彼女は初老の外国人男性と一緒にDS9へと乗り込む。俺はさっさと支払いを済ませて例のDS9を追うことにした。

 

とはいえすこぶる目立つクルマ故あまり接近できない、4台の一般車を挟んで尾行を開始した。

 

「どうしてエリ―はフランスの外交官と会ってるんだ?」

 

全く訳がわからない・・・

 

DS9は東京湾の埠頭がある方向へ向かう、そろそろ尾行するのもしんどくなってきた。CX-75に乗っているのを後悔してしまう。

 

ついにエリー達の乗っているDS9は人気のない倉庫街の方向へ曲がっていったために尾行を断念した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫かい?なにやら顔色が悪いみたいだけど・・・」

 

「いや、別に俺は元気だぞ?何も問題はない」

 

次の日、俺はエリ―の部屋で捜査の報告を聞いていた。しかし内心報告どころではない。

 

別に彼女に昨日のことを聞こうとも思っていたのだが聞かない方が良いとも思ってしまっている。

 

「だったら良いんだけど・・・ともかく武偵殺しについて分かったことを報告するよ。」

 

エリ―の報告をざっくりとまとめるとまずヤツの目的は自分の存在を誇示するために事件を起こしている。手口は最初不特定多数を狙いターゲットにだけ分かる手がかりを残す。そして次のターゲットは神崎・H・アリアと遠山キンジである。

 

「なぜあの二人がターゲットなんだ?」

 

「彼女に関しては家柄が関係しているんだ。なんせ彼女の実家は、その・・・ホームズ家だからだよ」

 

「てことは神崎はあの名探偵の末裔って事か?」

 

「そういうことになるね」

 

マジかよ・・・

 

確かに彼女の病室に言った時、神崎・H・アリアとあった。あの『H』はホームズのHだったのか・・・

 

それでエリーが彼女を訪ねたときに調子悪そうにしてたのか。確執のある家の直系の末裔に会いに行っていた訳だからな。

 

「家が関係していると言っていたが犯人もイギリスの名家って事か?」

 

「名家という点は合ってるけどイギリスだけとは限らないよ、キミが思っている以上にヨーロッパは狭いんだ」

 

・・・まぁイギリスは歴史的に色んな国にケンカ売ってきたからな。

 

「だったらキンジはどうして狙われる?」

 

「キミだってあの小説のことはしっているだろう?あの探偵のそばには誰が居た?」

 

「ジョン・H・ワトソンだろう?あぁ・・・相棒が居るってことか?」

 

「そういうコト、どうして武偵殺しが遠山キンジを相棒として選んだかはわからないけど豪華客船で兄を殺害、自転車に仕掛けた爆弾、偶然ではないだろうね」

 

しかしあの二人、あまり上手くいっているわけではない様子だ。神崎は一人で突っ走る癖がある、それに普段のキンジじゃ使い物にならないだろう。

 

「それでここからは私の予想だけど武偵殺しは私達にかなり近い人の中にいると思う」

 

「・・・もしかして生徒の中に武偵殺しが居る可能性があるということか?」

 

「あぁ、考えてもみなよ?この学園島、住人の多くは武偵校の関係者だ。そんな人達の中で白昼堂々と爆弾テロをやって見せるんだ。外部からの犯行なら絶対誰かが気づく、教務課だって捜査してるのに一向にシッポを掴めないということは灯台下暗しってことも十分にありえる、日本の捜査機関っていうのはそういったことに弱いからねぇ」

 

報告を聞き終えエリ―の部屋を後にする。犯人逮捕に関する詳しい作戦は情報を揃えてまた連絡するとのことだ。

 

俺は首都高を走りながら考えを巡らせていた。

 

エリ―の様子はいつもと変わらなかった。外出した形跡も無し、俺が昨日見たのは見間違いだったのだろうか・・・

 

答えは出ぬまま結局男子寮の駐車場へと到着してしまった。

 

「ん?こんなクルマあったっけか?」

 

俺のスペースの隣に見慣れないクルマが停まっていた。確か名前はエイキロン、フランスのジェンティオートモービル社が製造している1000馬力オーバーのモンスターカーだ。

 

不審に思いながらも俺は横にCX-75を駐車する。この区画だけまるで高級ホテルのようだ。

 

俺がクルマから降りると隣のエイキロンのシザーズドアが開く。中からスーツを着たキレイな外国人女性が出てきた。

 

「貴方が茨木レオ君?」

 

流暢な日本語で俺に話しかけてきた。

 

「そうだが?アンタ何者?」

 

「リディアーヌ・シュヴァリエです。よろしく」

 

リディアーヌと名乗った彼女は懐から名刺を取り出して俺に差し出した。フランス語で色々と書いてあるが唯一分かった文字がある。

 

DGSI(Direction centrale du Renseignement intérieur) フランス国内情報中央局、日本で言う国家安全保障局、アメリカだとCIAに準ずる組織だ。

 

「フランスの情報機関が俺に何の用だ?」

 

俺はフランスに渡航経験も無いしフランスの機関に目をつけられる心当たりが全く無いのだ。

 

リディアーヌさんから見せられた写真を見て俺は驚愕した。暗い所で撮ったものだろう、画像を処理して明るさを上げているため少し荒いが俺が昨日見た初老の外国人とエリ―がはっきりと写っている。

 

「鷲宮エリ―について聞きたいことがあるの」




話がぜんぜん進まず焦っております。


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