勇者パーティから追放された武闘家の男、最強すぎる彼が追放された理由はふんどし一丁だから!? (平成忍者)
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1話 突然の追放~謁見前の控え室で

「ハダマ、この条件が飲めなければ君はクビだ」

 

「そ、そんな・・嘘だろ」

 

勇者パーティのリーダー、ルクスから言われた突然の言葉に俺は唖然とする。

最初は冗談かと思ったが、野営中の焚火に照らされた仲間たちの表情は真剣だ。

とても冗談を言ってるようには見えない。

 

 

「何故だ!俺たち仲間だろう!?どうして急に・・」

 

「全部アンタのせいでしょうが!」

 

 

焚火の反対側に座る魔導士の少女が吐き捨てる。

肩まで伸ばした黒髪に気の強そうな碧い瞳。

少しばかり目つきは悪いが、とても美しい少女だ。

黒のローブは体の線が出にくいというのに、大きく押し上げられた胸元からは彼女の発育の良さが伺える。

彼女の名はマナ。

若くして『災害』の二つ名を持つ才女だ。

 

 

「これに関しちゃオレも同意見だ」

 

「ザンまで!?」

 

 

マナの隣に座る青年の名はザン。

『剣王』の異名を持つ青年だ。

短く刈り込んだ茶色い髪に、餓狼のような眼光を宿している。

顔が怖くて口調も乱暴だが、このパーティで一番優しい男だということを俺はよく知っている。

親友のザンはまるでマナを守るかのように隣に寄り添っている。

 

 

(なんだよ!俺が一体何をしたっていうんだ!)

 

 

俺は訳も分からず叫びたくなる気持ちを押さえつける。

仲間たちが意味もなく自分を切り捨てるはずがない!何か理由があるはずだ。

 

 

「ルクス!教えてくれよ!なぜ俺がクビなんだ!?」

 

「・・・」

 

 

クビ宣言の後、ずっと黙り込んでいたルクスに縋るような視線を向ける。

ルクスには普段の優しい雰囲気が微塵もなく、珍しく苛立っていることがわかる。

ルクスはどこか遠い目をして言葉を探す。

そして絞り出すように言葉を紡いだ。

 

 

「ハダマ、君がパンツ一丁だからだよ。・・なんで服着ないのさ?」

 

 

俺は目を見開く。

何だ、それは。一体それはどういった冗談なのか。

たかがその程度のことで仲間を追い出すとは人のやることとは思えない。

それ以前にこれはパンツではない。

 

 

「前から言ってるがこれはパンツじゃない。“ふんどし”だ。俺はフンドシストとしてふんどしの文化・魅力・効果を宣伝する義務があるのさ!」

 

 

俺はそういうと漆黒のフンドシが良く見えるようにポーズをきめる。

ベヒーモスの皮で作った特注品だ。

ちなみにふんどし以外は一切身に着けていない。

武闘家の俺にとって、この鋼の肉体こそ武器にして防具。

服など不要だ。

決して鍛え上げた肉体を見せつけたいからこんな格好をしているわけではない。

 

 

ルクス達3人は熱弁する俺を見て深くため息をついた。

それを見て苛立ったように俺は声を張り上げる。

 

 

「別に迷惑かけてないからいいではないか!」

 

「何言ってんだオメーは!?しっかりかけてんだっつーの!」

 

 

ザンの鋭いツッコミが入る。

だが俺にはパーティのみんなに迷惑をかけた記憶がない。

一体どういうことかと俺は首を傾げる。

 

 

「ハダマ、お前マジで記憶にないってか」

 

 

ザンは信じられないといった表情を浮かべる。

ルクスはため息をつくとゆっくりと口を開いた。

 

 

「先月、教皇様にお会いしたよね?その時のことを覚えてないのかい」

 

 

ルクスの言葉に俺は先月の記憶を辿る。

確かに教皇様とお会いしたがそんなに失礼なことをしただろうか?

俺はあの時に何が起きたのか、もう一度順番に思い出すことにした。

 

 

 

 

宗教国家ロマリア共和国。

教皇を中心に政が行われる聖王教会総本山だ。

首都システィーナの中央には荘厳なエルトロ大聖堂がそびえ立つ。

純白の穢れなき宮殿は一生に一度は観ておきたいと、旅人や巡礼者は必ず見物に来ることで有名だ。

そんなエルトロ大聖堂の一室で、勇者ルクス一行は教皇との謁見に備えていた。

 

 

「ほら、ザン。胸を張って」

 

「あ、ああ」

 

 

ザンは平民出身でこういった事に慣れていない。

彼は先ほどから儀礼用の衣装に身を包み、窮屈そうに縮こまっていた。

恋人のマナがザンの緊張を解しつつ、衣装をチェックする。

服に着られている印象が強いが、まあ及第点だろうとマナは判断した。

 

 

「ルクス様。儀礼用のお洋服、とてもお似合いですわ!」

 

「ありがとう。聖女殿」

 

「もう!私のことはカタリナとお呼びください」

 

 

花が咲くような笑顔で美しい少女がルクスにすり寄る。

彼女の名はロマリアの聖女カタリナ。

腰まである金色の長髪はまるで絹糸のように美しい。

青い瞳は水晶のように透き通り、すべてを見通すかのようだ。

 

 

元伯爵家の次女であったカタリナだが、幼少期に高い回復魔法の適性を見出され、教会へと預けられた。

稀代の神聖魔法の使い手として成長し、齢15にして聖女となった才女だ。

 

 

貧乏な男爵家の息子で、勇者に任命されるまでは村人とあまり変わらない生活していたルクスにとってカタリナは雲の上の人であった。

そんな相手に様つけで名を呼ばれることに未だに慣れない。

 

 

そんなルクスの気持ちを知らず、無邪気な笑顔でカタリナはグイグイと距離を詰めてくる。

美少女に詰め寄られてルクスの心臓が高鳴る。

 

 

(お、落ち着け!これはきっとハニートラップとかいう奴だ)

 

 

ルクスは深呼吸して気分を落ち着かせる。

危ないところだった。

カタリナが幼女体型でなかったら篭絡され、教会の意のままに動かされていたかもしれない。

ルクスは自分が巨乳好きであることに初めて感謝した。

 

 

ルクスが落ち着きを取り戻すと、勇者一同の待つ控室が開かれた。

迎えの者が来たのかと視線を向けた勇者一同は目を見開いた。

やってきたのはハダマだ。

それ自体は別におかしくない。

彼もパーティの一員で一緒に謁見をするからだ。

問題なのはその格好である。

純白のフンドシのみ。

彼はそれ以外を一切身に着けていなかった。

 

 

 

◇◇

 

「えっ?ちょっとお前それで謁見いくのかよ」

 

 

ザンが恐る恐る尋ねてきた。

珍しく怯えを含んだ表情だ。

俺がいない間に何かあったのだろうか。

 

 

「当たり前だろ?見ろよ、特注品だぜ!絹でできているんだ」

 

 

俺は宝物を見せびらかすようにフンドシを風になびかせた。

 

((この男、マジでこの姿で謁見に行くつもりだ))

 

 

ザンは二の句が継げず、ルクスは遠い目をする。

何故か表情の抜け落ちた顔つきのマナとカタリナはピクリとも動かない。

 

 

「勇者ルクス御一行、謁見の準備ができました。速やかに教皇の間へ・・え」

 

 

若いシスターがやってきたが、彼女は俺を見て絶句する。

一体どうしたのかと俺は首を傾げた。

だが、すぐにその理由に思い至る。

 

 

(ああ、俺の肉体美に身惚れたのか)

 

 

俺はなんと罪作りな男なのか。

だがまあ、それも仕方ないことだろう。

今日のためにしっかりと鍛えこんできたのだ。

今宵の俺の肉体は一味違う。

 

 

俺が最高のスマイルでウインクをすると、シスターはかすれた声を出して後退りした。

シャイな彼女には少し刺激が強すぎたのかもしれない。

 

 

「よし!みんな準備はできたな?さっそく行こうか」

 

 

ルクスを差し置き、俺ははルンルン気分で教皇の間へとスキップしていく。

きっとルクス達はお偉いさんとの謁見に緊張しているのだろう。

こういう時は俺が自慢の肉体で彼らの盾になるべきだ。

ルクス達が慌てて後を追ってきたが一足遅い。

俺は教皇様との謁見の間へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

「先に入っていったな・・」

 

「嘘だろ・・」

 

謁見の間の手前で、勇者ルクスはごくりとつばを飲み込む。

仲間達の表情も硬い。

ふとルクスは圧倒的な魔物の大群に立ち向かい、死を覚悟した時のことを思い出していた。

あの時よりも遥かに恐怖を感じるのは気のせいだろうか。

 

 

 

 

 



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2話 謁見前の控室~聖女へのプレゼント

純白のエルトロ大聖堂、その謁見の間で教皇エイジスは驚愕に目を見開いていた。

周囲の司教達など、あんぐりと口を開けている。

 

 

彼らの視線の先で半裸の男が一人胸を張っていたからだ。

見慣れない白い下着は布面積が少なく、見えてはいけないものが見えそうだ。

だというのにその男、武闘家のハダマはは恥ずかしがるどころか逆に誇らしげだ。

 

 

(何だこれは?一体何なのだ?)

 

 

何があっても動じぬ男と言われる教皇エイジスは久々に狼狽えた。

だが彼は聖王教会のトップなのだ。

情けない姿を見せるわけにはいかぬと気持ちを切り替える。

 

「ようこそ、勇者ルクス一行」

 

どうにか声を絞り出す教皇。

少し声が震えていたのはきっと気のせいだろうと自分に言い聞かせた。

 

 

 

少しばかり面食らった様子の教皇様だったが、すぐに慈愛に満ちた笑顔を浮かべる。

もしかしたら俺の絹のふんどしに心を奪われていたのかもしれない。

作りはシンプルだが職人によって精巧な刺繍がされた逸品だ。

純白のふんどしには聖王教会のシンボルが刺繍されている。

ここまで注目してもらえるなら教皇様のふんどしも作ってもらうべきだった。

俺は気遣いの至らなかった自分を恥じた。

 

 

「勇者ルクス一行よ。あなた方の働きで大陸の東に移住できるようになりました。

これは素晴らしい働きです」

 

「いえ、勇者としては当然ことをしたまで」

 

 

教皇様のお褒めの言葉にルクスが胸を張る。

俺たちの住む大陸の東は、ほんの100年前まで危険な魔物が跋扈する魔境だった。

そこでは魔物の突然変異である魔王種が定期的に生まれ、魔物の大群を引き連れ、人類の生存圏に攻めこんで来ていた。

攻め込まれる度に甚大な被害を出し、人類絶滅へのカウントダウンがゆっくり進んでいたらしい。

それを重く見た当時の勇者は各国の英雄たちを束ねて連合軍を結成し、逆に東へと攻め込んだのだ。

彼らが東征を成功させなければ人類は滅んでいたらしい。

 

 

だいぶ東の土地からは危険な魔物は減ったが、まだ奥地にはヤバいのがゴロゴロいる。

俺たち勇者パーティの使命は民間人が安全に移住できるようにすることだ。

今のところうまくいっているが、まだやらなければならないことは山積みだ。

そう考える俺たちに教皇様がさらなるお言葉をかけてくれた。

 

 

「私はあなた方に期待しています。そして確信しています。あなた方はいずれ100年前の勇者を越えると」

 

 

俺は教皇の言葉に目を見開く。

後ろのルクス達からも驚きの気配が伝わって来た。

冒険者にとって「100年前の勇者を越える」というのは最大の称賛なのだ。

 

 

教皇からの最大級の励ましの言葉に俺は純粋に喜びを感じた。

最近はルクスやザン以外の視線がきつくて町でも不審者扱いを受け続けている。

声援を受けるのはいつも自分以外のパーティメンバーばかり。

称賛の言葉など久しぶりだ。

というか初めてかもしれない。

喜びのあまり、俺の良く鍛えられた大臀筋・中臀筋が隆起する。

それがいけなかったのだろう。

 

 

絹のフンドシは激しい筋肉の隆起に耐え切れなかった。

バチリと絹が裂けて、天才芸術家が作ったかのような俺の美しい肉体が晒されてしまう。

 

 

だが俺は慌てない。

この肉体に恥ずべきものなど何もないからだ。

むしろ美の最大放出だと褒めるべきだろう。

俺の美しすぎる肉体の魅力に抗おうとしたのか、教皇様は静かに目をつぶった。

 

 

「…少し疲れました。勇者たちよ、すまないが私は少しばかり部屋で休ませてもらいます」

 

 

(なんと!体調が優れぬのに俺たちに時間をとってくださったのか!?)

 

 

感動した俺は最大級の敬礼で教皇様を見送った。

もちろん全裸でだ。

教皇様はまるで逃げるかのようにフラフラと謁見の間を後にしていった。

 

 

 

 

 

「・・みんなどうしたというのだ」

 

 

俺は一人きりの部屋でそう呟いた。

謁見の後、皆は気分が悪くなったということで部屋にこもってしまったのだ。

せっかくエルトロ大聖堂に宿泊できるというのに。

ルクスやザンと大聖堂をこっそり探検する約束をしていたのだが・・・。

 

 

せめて自分だけでもエンジョイしようと大聖堂の中を見物して回る。

様々な絵画が飾られているが、芸術品に対する知識がないせいでよく分からん。

マナやカタリナがいればこういった事を説明してくれたのだが。

 

 

「む、そういえば・・」

 

 

カタリナにふんどしを勧めたことがなかったのを思い出した。

同じパーティのメンバーだというのに悪いことをした。

たしかこの時間帯は湯あみにいっていると聞いたな。

俺は気配を殺してカタリナのいる場所を目指した。

 

 

 

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「いや、何か動いたような・・?気のせいか」

 

 

ある部屋の前で2人の女聖堂騎士が見張りをしていた。

彼女たちは聖女カタリナの警護を務める実力者だ。

湯あみをしているカタリナに不埒な者が近づかぬように入り口を固めていた。

 

 

そんな彼女たちの後ろを横切る白い影がいた。

それはそっと脱衣所へと音を立てずに侵入していった。

 

 

 

 

「さすがは聖堂騎士、良いカンをしている」

 

俺は脱衣所の前で見張りをする騎士を一目見て気づいた。

かなりの手練れだと。

もちろん戦えば俺が勝つが、俺の目的はふんどしを聖女カタリナにプレゼントすることである。

 

 

戦わずに済ませるため、俺は石灰を砕いて体に塗りたくったのだ。

世の芸術家がこぞって欲しがるような肉体美を彫刻のように白く染め上げれば、美しいホワイトなマッチョマンの誕生である。

 

 

「ふんどしは・・これにするか」

 

 

脱衣所にてカタリナの着替えの上に一枚のふんどしを置く。

黒い絹のふんどしだ。

カタリナの護衛の話を盗み聞きしたが、彼女は大人に見られたがっているらしい。

だからこそこのチョイスだ。

 

 

カタリナは幼いころからずっとこの聖堂に住んでいるらしい。

窮屈な場所に囚われた彼女のストレスは相当なものだろう。

そんな彼女にこそふんどしがふさわしい。

ふんどしによって窮屈な下着から下半身を開放することで腰痛、肩こり、冷え性、便秘や下痢に効果がある。

きっと喜んでくれるはずだ。

 

俺はそっと脱衣所を後にした。

 

 



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3話 追放

今回は短めです


 

俺は教皇様との謁見した日の事を思い出すが、特に問題は起こしていない気がする。

一体ルクス達が何を怒っているのか理解できない。

 

 

「俺は何か失礼なことをやらかしただろうか?」

 

「いやいや!オメーは教皇の前で全裸晒したろうが!?」

 

「む?失礼なことか?」

 

「失礼すぎるわ!」

 

 

ザンのツッコミに俺は困惑する。

美しすぎる裸体を見せることのどこが失礼なのだ。

 

 

「ハダマ。君のやらかしはそれだけじゃないぞ。聖女殿にも失礼を働いたようだな」

 

「なに・・?」

 

 

素敵な一品をプレゼントしたが、失礼なことは全くしていない。

眉を顰める俺にルクスがさらに口を開く。

 

 

「君は聖女カタリナの入浴中に脱衣所に忍び込み、黒いふんどしを残してきたそうじゃないか」

 

「ん?あれは良い品物を布教、いやプレゼントしようとしただけだが・・」

 

「おい、こいつ布教っていったぞ!」

 

 

ザンが鋭く突っ込んでくる。

だが良いものを広めることの何が悪いというのか。

 

 

「そもそもなぜふんどしを布教しようとする!?」

 

「ふんどしにもかなりの種類があってな。締め過ぎないことから健康によい。おしゃれだってことを少しでも知ってもらえたらと思って」

 

「いや、興味ある奴でそれが仲いい友人なら話は分かるよ?でもさ、聖女にふんどし勧めるなよ!今ここに彼女がいないのはハダマのことを怖がってるからなんだよ」

 

「むうぅ」

 

 

たしかに正論だ。

実はあの後、聖女の着替えを黒いふんどしに変えたことでドン引きされたのだ。

まさかあそこまで嫌がるとは思ってみなかった。

なんども健康に良いとアピールしたのだが・・・。

表情の抜け落ちた聖女はまるで汚物を見るような視線で俺を見てきた。

危うく妙な性癖が目覚めるところだった。

 

 

「とにかく今のままだと君をパーティから追放することになる。わかるね?」

 

 

有無を言わさぬルクスの視線に俺は怯む。

こんなルクスは久々に見る。

 

 

「そんな・・、俺にどうしろっていうのだ!?」

 

「だからオメーが服を着りゃいいんだよ!?上からマント一枚羽織ればいい話だろーが!」

 

 

ザンがすかさず突っ込みを入れる。

服など来たらこの俺の肉体美が見れなくなるがそれでいいのだろうか。

 

 

「服を着るか追放か。選んでくれ、ハダマ」

 

 

これはきっと最終通告だ。

ルクスはマジだ。

まさか服を着るか追放かの二択を迫られるなんて!

選べないほど残酷な選択肢に俺は目の前が暗くなった気がした。

俺に一体どうしろというのだ。

 

 

師匠はこういう時どうしろと言っていただろうか?

 

『困ったときは自分が一番美しいと思う選択をしなさい。

あなたの美しい筋肉は嘘を吐かないわ』

 

「っ!?」

 

ふと俺の脳裏に師匠の言葉が思い浮かんだ。

そうだ、そうだったな。師匠。

 

 

「できぬ」

 

「は?」

 

「服は着れないといったのだ。俺にも信念がある!男には曲げられぬ信念があるのだ!」

 

「いや、ちょっとお前・・。冗談だろ?」

 

 

まさか仲間も追放を選ぶとは思わなくて呆然としているようだ。

そんな仲間たちに苛立ちが募る。

 

 

「ことあるごとに服を着ろって、フンドシしてるからよいではないか!

人の些細な違いを責め立てるなんて間違っている!ひどいじゃないか!

お前らそれでも俺の友達か!?バーカ!もうお前らなんて知るかこんちくしょー!!」

 

 

俺はそう叫ぶとダッシュでその場を離れていった。

 

 

 

 

「お、おい!行っちゃったぞ!?」

 

「仕方ない、追いかけるか」

 

 

ルクスとザンは後を追おうとするが、その前にマナが立ちふさがる。

 

 

「マナ、どういうつもりだ?」

 

「ほっときなさいよ、いつもの事でしょ?」

 

 

マナの言葉にルクス達は黙り込む。

服を着ないハダマに注意する度にこういったことは良く起きていた。

さすがに追放を盾に服を着ることを迫ったことはなかったが。

 

 

「明日になれば帰ってくるでしょ。ほっときなさい」

 

 

だが、三人の予想に反してハダマは一週間経っても帰ってこなかった。

 

 

 



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4話 やけ酒の武闘家

 

「俺の何がいけないというのだ・・!」

 

 

今日も俺は一人酒場で飲んだくれていた。

ここは開拓村の酒場で、数か月前まで俺たちが滞在していた場所だ。

当時はここを拠点にして危険な魔物を狩っていた。

かなり発展したようで村というより町と言っていい規模だろう。

酒の種類もだいぶ増えているし。

 

 

「旦那ぁ、少し飲みすぎじゃねえですかい?」

 

 

目線を上げて声の主を見ると、店主だった。

彼は心配そうな表情で俺の目の前に水の入った器を差し出す。

店主の気遣いに、ザンやルクスと飲み会をしていた時の事を思い出した。

当時もよく酒のつまみをサービスしてくれたものだ。

 

 

他にも俺がイスに座るときだけ、イスにクッションを置いてくれた。

あの時は店主のサービス精神に感心したものだった。

のちに生尻でイスに座って欲しくなかっただけだと知ったが。

 

 

「ふっ。まだまだ飲めるさ。そうだな、酒樽を一つ丸ごといいか?」

 

「旦那、仕入れが大変なんでそいつは勘弁してくださいよ」

 

「冗談だ」

 

 

困り顔の店主に俺は金貨を放り投げる。

店主はきょとんとした顔で金貨を見つめる。

 

 

「旦那、お代にしては多すぎじゃありませんかね?」

 

「迷惑料込みだ。受け取ってくれ」

 

 

店主は俺のために早めに店じまいしてくれたのだ。

元勇者パーティの者が飲んだくれているなど外聞が悪い。

このくらいはしてやらねばなるまい。

 

 

「そういうことなら!いやぁ、金貨なんて久々に見ましたぜ!」

 

 

店主は金貨に嬉しそうに頬ずりする。

気持ちは分からなくもない。

なにせ金貨を使用するのは貴族や大商人くらいのものだからだ。

俺も初めて金貨を見たときはテンションが上がったのを覚えている。

平民は日常生活で大銅貨と銅貨の2種類しか使わない。

中には銀貨すら見ないで一生を終える者も多いと聞く。

 

 

嬉しそうな店主だったが急にハッとした顔になる。

どうかしたのだろうか。

 

 

「旦那、なんかこの金貨あったかいんですが・・。これ、どこにしまってたんで?」

 

「む?ふんどしの中だが・・」

 

 

店主の顔から表情が消えた。

どうやら俺のふんどしが汚いと思ったようだ。

俺は毎日ふんどしを洗濯しているというのに。

 

 

まあでも、店主の懸念も分からなくはない。

長期の依頼を受けた冒険者は、荷物を減らすために着替えを最小限しかもっていかない者が多い。

そう、彼らは下着を何日も変えないのだ。

なんと不衛生なことか。嘆かわしい。

こういう者がいるから冒険者全体が変な目で見られるのだ!

 

 

「安心しろ。俺は毎日ふんどしを変えているからきれいだ」

 

「そ、そうですかい・・」

 

 

ぎこちない笑顔で店主はそっとテーブルに金貨を置いた。

それと同時に酒場に扉が開く音がした。

入ってきたのは小太りの男だ。

 

 

「む?店主よ。知り合いか?」

 

「ええ、酒を扱う商人の方でさぁ」

 

 

酒商人はまっすぐにこちらに向かってきた。

今日はこの村に泊まるのだろうか?

もうじき日が暮れる。

この辺りは俺たち勇者パーティの活動で危険な魔物は狩りつくしたはずだが、それでも魔物がいないわけではない。

夜の移動は非常に危険な行為だ。

 

 

「やぁ、どうも。どうしましたか?次に来るはまだ先だと聞いていましたが?」

 

「いえ、気になる噂を聞いたので・・」

 

「気になる噂ですかい?あっ、そうだ。この金貨で仕入れをお願いしたいのですが・・」

 

 

店主はテーブルの金貨を指さす。

会話を続けようとしていた酒商人の目が金貨に釘付けになる。

彼も金貨の魅力には逆らえなかったらしい。

酒商人は壊れ物を扱うようにそっと金貨を拾い上げた。

そして愛する人を見つめるような視線でうっとりと金貨を眺める

そんな金貨より俺の肉体美の方が美しいと思うのだが・・。

 

 

「いいですねぇ、金貨は」

 

 

店主は金貨に頬ずりする酒商人を気の毒な目で見つめていた。

そんなに手放したかったのだろうか?

俺のふんどしが汚いと思われていたようで少しショックだ。

 

 

「おっと!話がそれましたな。先ほど兵士たちが避難民を連れて逃げていくのが見えましてな。何か事情を知っていたら教えてほしくてきたのですが・・」

 

「なんだと?」

 

 

兵士が避難民を?

開拓中の村々には兵士が駐在する決まりになっている。

彼らが村を放棄したなら理由はただ一つ。

兵士たちの手に負えない魔物が出たということだ。

これは俺の出番かもしれない。

俺が腰を浮かせた時だった。

 

 

「全員避難しろ!魔物の大軍勢が襲ってきている!」

 

 

叫びが酒場に飛び込んできた。

俺は慌てて酒場の外に飛び出す。

外では数人の兵士が村中を駆け回っていた。

彼らは喉を破る程の声量で叫び続けている。

 

 

「魔物の大群は万を超えている!

今は勇者様たちが押さえ込んでいる!みんなは今すぐ逃げろ!」

 

「なんと!?」

 

 

さすがのルクス達でも俺や聖女のいない状態では万を越える軍勢は倒せない。

下手をしたら死ぬ可能性もある。

 

 

「行くしかあるまい!」

 

「旦那?ケンカしてたんじゃ?」

 

 

遅れて酒場を飛び出した店主が口を開く。

彼は貴重品を詰め込んだ皮の袋を大事そうに抱えていた。

さすが開拓村の住民だ。

このくらいは出来ないとこの場所では生きられない

 

 

「俺たちは仲間だ。たかがケンカ一つで揺らぐような脆い絆ではない!」

 

 

店主にそう叫ぶと俺は開拓村を飛び出した。

待っていろよ、ルクス!ザン!マナ!

仲間を救うのだ。

 

 



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5話 ルクス達の戦場~最強の武闘家

 

切りがない。

カマキリと甲虫を合わせたような虫型の魔物が地平線を埋め尽くしている。

圧倒的な物量を前にルクス達は立ち続けていた。

もうどれだけ時間が経ったのか分からない。

数時間か、それともまだ数分か。

 

 

「離れすぎるなよ!飲み込まれるぞ!!」

 

「言われなくても!!」

「分かってるっつーの!!」

 

 

こんな状況で生き残れると思う者は間違いなくイカれている。

かといって諦めるのは勇者として論外だ。

彼らは人類の希望なのだから。

 

 

(住民の避難時間を稼がねば・・!)

 

 

そのためにやることはただ一つ。

魔導士のマナを死守すること。

今彼らが戦い続けていられるのはマナのおかげだ。

ルクスやザンが時間を稼ぎ、マナの極大魔法で一気に薙ぎ払う。

先程からこれの繰り返しだ。

 

 

次の群れが押し寄せる合い間に、マナが回復と支援魔法を飛ばす。

聖女カタリナほどではないが、マナは初級回復魔法を扱える。

マナがいなければ長く持たないだろう。

ルクス達はマナを中心にして離れすぎないように戦い続ける。

 

 

「オラオラっ!こんなもんかよ雑魚どもが!!」

 

 

血で真っ赤に染まりながらもザンは叫ぶ。

少しでも恋人のマナから注意をそらすために。

 

 

「マナ!まだ余力はあるか!?」

 

「誰にモノを言ってんのよ!余裕に決まってんでしょうが!!」

 

 

気丈に叫ぶマナだが、顔色は悪い。

彼女だけは無傷だが、極大魔法の連続使用でその疲労は相当なはず。

限界は近いだろう。

 

 

マナだけではない。

ルクス達全員の疲労はピークに達している。

一瞬の気のゆるみ、油断が全滅につながるだろう。

まさに崖っぷちだ。

 

 

ルクス達の奮戦で魔物の死骸は山のように転がっている。

だが押し寄せる魔物の数は一向に減らない。

それが三人の心に重くのしかかる。

 

この状況で敵を全滅できるとは思っていない。

彼らはそこまで無謀ではない。

住民の避難と軍の迎撃準備が整うまでの間だけでいいのだ。

そこまで時間を稼いだら逃げればいい。

もっとも黙って逃がしてくれるはずがないが。

 

 

同胞が殺され、虫の魔物も学習したのだろう。

取り囲むように、散開して襲ってくるようになった。

明らかに前衛のルクス達ではなく、後衛のマナを狙っている。

 

 

(マズい!)

 

 

数が多いうえにこの魔物はなかなか手ごわい。

体は鋼より硬く、その一撃は音より速い。

おまけに体を真っ二つにしても向かってくる生命力。

群れれば竜ですら彼らの餌食となるだろう。

 

 

そしてついにルクスやザンの防衛線が破られた。

数匹の魔物がマナへと押し寄せる。

 

 

「おおおぉぉっ!!!」

 

 

雄たけびを上げるするザンが背中を切り裂かれながらマナを守り切る。

だがその代償は高くついた。

ザンの出血が酷く、顔色は死人のようだ。

回復魔法で治せるのは傷だけで、失った血液までは戻らない。

彼はいま気合だけで立っている。

もう戦えないだろう。

 

 

「すまねぇ・・。マナ、お前を守り切れなかった」

 

「・・いいのよ。最後にカッコいい所見せてくれたしね」

 

 

ザンとマナの会話を黙って聞いていたルクスは悲壮な決意を固めた。

 

 

「逃げろ、二人とも。僕はこれから聖剣の力を解き放ち、自爆する」

 

 

その言葉にザンとマナは呆気にとられる。

 

 

「お、お前・・何考えてんだ!?」

「そうよ!・・アンタだけは聖剣を持って帰らないと!」

 

 

2人の言葉を無視してルクスは走る。

敵陣深く切り込んだルクスは全魔力を聖剣に込める。

ルクスがなにかを仕出かすことが分かったのだろう。

魔物は一斉にルクスへと飛び掛かった。

 

 

「よせ!ルクスゥゥッ!!」

「やめなさい!バカ勇者!!」

 

 

ルクスが自爆しようする直前。

凄まじい轟音が響いた。

ルクスも魔物たちも爆風に吹き飛ばされ、転がっていく。

 

「な、なんだ・・!何が・・」

 

 

狼狽するルクスの前に見慣れたものが映った。

ひらひらと風に躍る黒い布切れ。

よく鍛えられた、見事な筋肉。

その肉体美は芸術家が作り上げたかのようだ。

 

 

その肉体の主は夕暮れの光の中、満面の笑みでサムズアップした。

 

 

「待ぁたせたな!!」

 

 

 

 

俺が戦場にたどり着いた時、仲間たちは満身創痍だった。

傷の深さからどれだけの死闘だったのか容易に想像できる。

俺は静かに、それでいて闘志を秘めた目で敵を見つめる。

仲間を傷つけた貴様らをを許さぬと。

そして俺は魔物の大軍の間に立ちふさがった

 

 

先走ったのか、一匹の魔物が突っ込んできた。

その瞬間、魔物の頭部が弾けた。

俺のアッパーカットがさく裂したのだ。

 

 

飛び掛かった魔物が頭部を失い、地でもがいている。

即死しないとは中々の生命力だ。

他の魔物は何が起きたのか知覚できなかったのだろう。

僅かだが困惑している様子だ。

だがその混乱は長く続かない。

 

 

戦場に妙な音が聞こえてきたのだ。

虫の羽音だろうか?

聞きなれない音の発生源を探すが、距離が遠すぎて分からない。

混乱していた魔物はその音を聞いてすぐに統制を取り戻す。

 

「ほう…」

 

 

もしかしたらこの大群を操るボス敵存在ががいるやもしれん。

油断は出来ない。

 

 

魔物たちは俺という強敵を取り囲み、ギチギチと不快な警戒音を漏らす。

数千の魔物は津波のように押し寄せ、俺を飲み込もうとする。

俺は臆せずにそれに突っ込む。

恐怖なぞない。

俺の体は『気功』によって強化されているからだ。

気功とは前衛職にとっての必須技能で、外気功と内気功の2種類に分かれている。

外気功は体表の硬化、内気功は身体能力を10倍以上も強化が可能だ。

この気功によって俺の肉体はオリハルコン並みの強度を誇る。

生半可な攻撃は俺には一切通じない。

 

 

俺は敵に全力で突進する。

音速を突破した際に生じるショックウェーブをまき散らしながら。

俺のふんどしがベヒーモスの皮じゃなかったら今頃全裸だっただろう。

 

 

俺の突進を受けた魔物の大軍は竜巻の前の木の葉のように吹き飛ぶ。

バラバラになった魔物の手足が雨のように降り注ぐ中、俺はただ突き進む。

立ちふさがる魔物に腕を振るうたびに魔物の体が砕け、千切れ飛ぶ。

 

 

「こんなものか!?」

 

 

まるで歯ごたえがない。

このまま魔物を殲滅しようとした時だ。

またあの羽音が聞こえてくる。

その瞬間、カマキリの魔物が壁のように俺を取り囲む。

何かとてつもなく嫌な気配を感じた。

俺の相棒が、全身の筋肉たちが危険を知らせてくれた。

何かが空気を引き裂きながらまっすぐに向かってくると。

とっさに腕を突き出し、体を守ったのは正解だった。

壁のように立ち塞がる魔物から白い閃光が走ったのだ。

 

 

「ぬうぅっ!?」

 

 

その衝撃は凄まじく、周囲の魔物の大群が蒸発するほどだった。

さすがの俺も尻もちをつきそうになる。

 

なんということだ!俺の筋肉が押し負けただと!?

まだまだ鍛錬が足りぬ。

もっと良質なプロテインを摂取せねばなるまい。

 

 

この戦いが終わったら訓練メニューを見直す必要がある。

俺はそう決めると目の前の敵を見据える。

二回りは大きいカマキリの魔物が立っていた。

明らかにボスっぽい。

さっきの妙な音を出していたのもコイツかもしれない。

 

 

他の個体が黒いのに対して、このボスっぽいのは白い。

俺が持つ秘蔵の品である絹のふんどしのような純白だ。

 

 

息つく間もなくボスっぽい魔物が追撃を放ってくる。

凄まじい速度だ。

斬撃を凌いだ俺の腕にいくつもの傷ができ、血が滲んでいる。

オレハルコンに匹敵すると言われた俺の筋肉を傷つけるとは!

 

 

「やるではないか!!」

 

 

予期せぬ強敵に俺は獰猛に笑う。

久々に楽しい戦いになりそうだ。

 

 

 

 



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6話 死闘~俺たちの絆はダイヤモンドだ

 

「ぬうっ!!」

 

 

俺は閃光の如き乱撃を受け続けていた。

耐久力は俺、力と速度は魔物が上だ。

久々の命がけの戦いに笑みがこぼれる。

やはり戦いとはこうでなくては!

惜しむらくは敵の攻撃がワンパターンなことだろう。

 

 

先ほどまでは受けるだけで精一杯だった。

だがすでに見切った。

確かにパワーもスピードも精確さもすさまじいが、この魔物には欠点がある。

攻撃が単調でフェイントを一切使ってこない点だ。

 

 

強すぎる殺意と目線でどこを狙っているのかバレバレなのだ。

いかに素早い攻撃でもそこに来ると分かっていれば対処できる。

俺は斬撃の嵐をすべて捌き、一歩ずつ進んでいく。

間合いに入ったら一撃で終わらせてくれる!

 

 

だが俺が近づいた瞬間、それは起こった。

魔物の背中から第3、第4のカマが飛び出てきたのだ。

 

 

「なんと!?」

 

 

敵の手数が二倍になり、俺は再び防戦一方になる。

だが問題ない。

目が慣れればすぐ対処できる。少しの辛抱だ。

僅かに気を緩めたのがいけなかったのだろう。

魔物は俺を抱きしめるように突進し、両手両足を捕んできたのだ。

 

 

「むぅっ!?」

 

 

魔物は両手両足を封じられた俺を引き寄せると、鋭い牙の生えた口を大きく広げた。

このまま食い殺すつもりか!?

俺は慌てて振りほどこうとするが、がっしりと捕まれ動けない。

慌てる俺の視界に頼りがいのある仲間の姿が映った。

 

 

ルクスだ。

魔物の死角から近づいたルクスが剣を魔物の首へと一閃させる。

直前で危険を察知した魔物は紙一重でそれを躱し、俺の足から手を放してルクスを迎撃しようとした。

そのスキを俺は逃さなかった。

 

 

俺は渾身の蹴りを放つ。

音を置き去りにしたその一撃は魔物のカマを粉々に砕く。

それに怯んだカマキリの両腕をルクスの斬撃が切り落とす。

魔物の腕は残り1本。

 

 

自由の身になった俺はルクスと魔物を挟撃しようとするが距離を取られてしまう。

中々に素早い。

じりじりと距離を詰める俺たちの後ろで巨大な火柱が立つ。

薄暗くなった空を紅蓮に染め上げるそれは俺たちにとって馴染み深いものだった。

 

 

マナの極大魔法『フレアランス』だ。

岩すら瞬時に蒸発させるほどの熱量に思わず魔物は後ずさる。

瞬時に反転して羽を広げると、凄まじい速度で低空飛行していく。

 

 

「まずい!逃げる気だぞ!」

 

 

そう叫ぶルクスと共に追いかけるが、魔物の方が速い。

逃げられる!

そう思った瞬間だった。

逃げようとする魔物の前に逃亡を遮る人影が現れた。

剣聖のザンだ。

逃亡を予期して回りこんでいたのだろう。

 

 

さすがに無茶だ!

出血でザンの足元はふらついている。

 

 

「ダメだ!ザン、無理をするな!」

 

 

ザンの身を案じて叫ぶ俺だが、ザンは怒ったように叫び返した。

 

 

「俺を誰だと思ってる!?剣聖ザンだぞ!俺を、仲間を信じろや!!」

 

迫る魔物に一歩も引かずにザンは構える。

直後、ザンへと閃光が走った。

 

 

「ギギギィ!?」

 

 

魔物は驚愕の叫びを漏らす。

振り下ろされたカマへとカウンターを合わせたザンの刃が最後のカマと羽を切断したのだ。

硬い甲殻の隙間を縫うような斬撃。

まさに神業といえる。

 

 

羽を失い、倒れこんだ魔物に俺は一瞬で近づく。

そして魔物に組みつくと、俺は全力で空へと放り投げた。

 

 

「マナ!!あとは頼んだぞ!!」 

 

「任せなさい!筋肉ダルマ!!」

 

 

逃げ場のない空中でもがく魔物をマナの『フレアランス』が包み込む。

熱量と衝撃で粉々になった魔物は肉片一つ残ることなくこの世から消え去ったのだった。

 

 

 

 

戦いは終わった。

後に残ったのは山となった魔物の死骸。

これは後で焼かねばなるまい。

きちんと埋葬するか、焼かなければアンデッドとして復活するからだ。

さすがに今から処理するのはキツイ。

最寄りの開拓村で応援を呼ぶべきだろう。

 

 

俺がそう考えていると、ルクスが隣にやってきた。

とても真剣で、すまなそうな顔つきだ。

 

 

「助かったよ、ハダマ」

 

「何を言う。俺たちは仲間だろう?」

 

 

仲間なら助け合う。

足りないところがあれば補い合う。

それは当然のことだ。

俺たちは今まで苦難を共に乗り越えてきた。

たかがケンカ一つで揺らぐような脆い絆ではない。

俺たちの絆はダイヤモンドにも勝るはずだ。

俺はそう確信している。

 

 

「・・そうだな。なぁ、ハダマ。譲歩するよ、だから戻ってきてくれ」

 

「む?」

 

 

譲歩とはなんだろうか?

もしや勇者パーティ全員がふんどしを着用するということか?

ペアルック・・いや、パーティルックといえばいいのか。

俺は勇者パーティが皆お揃いのふんどしを着けているのを想像する。

ふむ、悪くはない。

悪くはないが、聖女カタリナとマナが怒りそうだ。

 

 

俺は以前マナにふんどしをオススメした時に魔法で焼かれそうになったことを思い出した。

うむ、やはり無理強いは良くないな。

健康に良いとはいえ、自ら望んで着けてもらいたいしな。

 

 

「下は履かなくていい、せめて上着を着て布面積を増やしてくれ・・!」

 

 

そう考えていると、ルクスは断腸の思いといった感じで声を絞り出した。

そうきたか。

俺は悩む。

出来れば俺は信念を貫きたい。

だがその結果どうなった?

大事な仲間を危うく失うところであった。

 

 

俺は自分の信念と仲間の命どちらが大事なのか。

そんなのは分かり切っている。

ルクスたちは譲歩してくれた。

ならば俺も・・。

 

 

「・・分かった」

 

「・・え!?いいのか!?」

 

 

ルクスは目を見開いて驚く。

そんなに驚くことはないだろうに。

 

 

「なぁに、自分の信念と仲間。どちらが大事なのかは言わずもがなだろう?」

 

「ハダマ・・」

 

「さて!もう行こうか。ザンの手当てをしなければな!」

 

 

俺はザンへ視線を向けると、出血多量で気絶していた。

命に別状はなさそうだが急いだほうが良さそうだ。

俺はザンを背負って町へと駆け出した。

だから俺は気づかなかった。

マナがルクスに耳打ちしていたことを。

 

 

 

 

「いい?こうやって一枚ずつ服を着せていくのよ」

 

「わ、分かったよ・・・」

 

 

女ってやっぱ怖い。

ルクスはふとそう思った。

 

 

 

 

 



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7話 開拓村の朝~俺の名は・・・

時刻は早朝、開拓村のはずれにある泉。

そんな人気のない場所へ青年が一人やってきた。

開拓村に住む男だ。

用心深く辺りを見渡していて、なにやら挙動がおかしい。

彼は近くの泉から水音が聞こえると、ごくりと生唾を飲み込む。

 

 

(あそこでマナさんが水浴びをしているんだ・・!)

 

 

彼がここに来た目的は覗きである。

黒髪巨乳美人であり、『災害』の二つ名を持つ少女があそこにいるのだ。

この時間帯に彼女が一人で水浴びをしているのを掴むのにかなり時間がかかった。

かなり危険な橋を渡ったが、ついにやり遂げたのだ。

 

 

正直に言うと、村にとって命の恩人である彼女の裸を覗くのに良心が痛む。

だがここで覗かなければ一生後悔するだろう。

やらずに後悔するならやって後悔した方がいいに決まっている!

男はそっと茂みをかき分け、泉を覗き見た。

 

 

その瞬間、彼は息をのんだ。

 

朝の日差しで照らされた見事な肉体美。

まるで天才芸術家が作った彫刻のようだ。

筋肉が割れて、スジがみえる程美しい

 

 

筋肉は分厚く、肩の僧帽筋が並ではない。

上腕二頭筋なぞ山脈のように隆起している。

大胸筋がすごく仕上がっていて、まるで大胸筋が生きて歩いていると思ってしまうほどの躍動感。

お尻なんてプリッとしていて、まさにグレートケツプリといった感じだ。

もう自分でも何を考えているのか分からない。

 

 

分かることはただ一つ。

ここに彼の求める女体はなく、むさい筋肉男しかいないということだけだ。

男が失望のあまりため息をつく。

その瞬間、筋肉男と目が合ってしまった。

 

 

「なんと貴様!!覗きか!」

 

 

泉から筋肉男が上がってくる。

もちろん全裸でだ。

股間のモノをブラブラさせながら風のように迫る巨漢の男に青年は恐怖した。

慌てて逃げ出そうとするが、あっさりと捕まってしまう。

 

 

「なんという男だ!いかに俺の肉体美が羨ましいからと・・!」

 

「ち、ちがうって!てっきりマナさんがいるのかと・・!」

 

 

 

慌てて弁明した男は思わず口が滑ってしまったようだ。

それを聞いた俺は顔色を変える。

 

 

「なんとハレンチな!?貴様それでも男か!!」

 

「ひいっ!?」

 

 

俺に胸倉をつかまれた男はその剣幕に怯えあがる。

マナにはザンという恋人がいる。

それをこの村人は知っているはず。

さすがにこの行為は許せぬ。

これは罰を与える必要がある。

俺はにやりと笑った。

 

 

「貴様、そんなにみたいのか?」

 

「え?ええ、そりゃあまあ・・。もしかして覗きを手伝ってくれるのかい?」

 

 

この期に及んでたわけたことを。

俺は残酷そうに口を歪める。

俺は村人を押し倒すと、この男の顔を太ももで挟んだ。

もちろん全裸でだ。

 

 

「そんなに見たいなら見せてやるわ!!俺のお稲荷さんを・・ゼロ距離でな!! この俺の肉体美で貴様の邪念を払ってくれる!」

 

「ひいっつ!?そ、そんな汚いモン近づけ・・!うっ・・うぎゃぁっつああぁっ!!!???」

 

 

村はずれにスケベ男の絶叫が響いた。

 

 

 

 

 

時刻は昼。

見回りを終えて村に戻ってきた俺たちは休息をとっていた。

ルクスはカタリナと花畑へピクニックに行き、ザンは村の子供たちに乞われて剣術を教えていた。

少し離れた場所ではマナが自作のガーゴイルをセットしている。

なんでも魔物が村に近づいた時に迎撃するように設定したらしい。

これで俺たちが村にいない時も安心というわけだ。

 

 

ちなみに俺は一人で鍛錬中で回りに村人はいない。

以前に比べればだいぶ村人が話しかけてくるようになったのだが、まだ壁を感じる気がする。

俺は自分の今の姿をチェックする。

 

 

上半身は袖なしの毛皮のジャケット、たぶんノースリーブとかいうやつだろうか?

布面積が異様に少なく、着ている意味をあまり感じない。

下半身は黒いベヒーモスのふんどし。

以上だ。

 

 

「おかしい所は特にないな・・」

 

 

俺は首をひねる。

ならば何故寄ってこないのだろうか。

そろそろ弟子の一人でも取ろうと思っていたのだが・・。

何か問題があるはずだ。

あるとすればやはりこの上着か?

なんとなく蛮族のようにも見える。

 

 

「そういえば以前倒した山賊の頭領もこんな上着だったな」

 

 

たしか奴の服装はノースリーブの毛皮のジャケットに皮の腰巻、頭には鬼熊の頭骨をかぶっていたはず。

ふんどしという大きな違いがなければ今の俺も山賊のような姿と言える。

もしや村人が恐れているのはそのせいか?

 

 

「む?つまり上着を脱いでふんどし一丁になればよいのでは・・」

 

 

俺がそう考えていると、背後から小さな気配を感じた。

振り返ると村に住む少年が一人で近づいてきた。

年のころは10~12才位だろうか

 

 

「おじさん。僕、あなたみたいに強くなりたいんです!僕を鍛えてくれませんか!」

 

「なんと・・」

 

 

予想外の言葉に俺は驚く。

弟子が欲しかった俺にとって、まさにグッドタイミングではないか。

それに嬉しいことを言ってくれる。

 

 

「ふむ、少年よ。つまり君は俺のように美しい筋肉を、そしてふんどしを求めるのだな?」

 

「え?え?筋肉?フンドシ・・?」

 

 

少年は首を傾げる。

もしや少年の言葉を聞き間違えたか?

まぁでも誤差というやつだろう。

気にする必要はないだろう。

 

 

「少年よ、俺の訓練はきついぞ?耐えられるかな」

 

「やります!」

 

 

少年の瞳はきれいでとても澄んでいる。

まるでダイヤのように無垢な輝きだ。

こういう目をしている者は皆、己の目的へとまっすぐに進んでいく。

彼は良い戦士になるだろう。 

 

 

「よし、俺がお前に筋肉の正しい鍛え方、戦いの心得を教えてやる!

まずはお前にプレゼントだ」

 

 

俺はそういうと近くに置いたリュックへと手を伸ばす。

きれい整頓されたふんどしは履く用、布教用、観賞に分けてある。

その中から布教用からシンプルなふんどしを選ぶ。

初心者には白がいいだろう。

俺は畳まれたふんどしを3枚だすと少年に手渡す。

 

 

「あの・・これは?」

 

 

おそらくふんどしを知らないのだろう。

少年はきょとんとした顔をしている。

これはつけ方も教える必要があるな。

 

 

少し不安そうな少年の肩を優しくつかみ、俺は最高のスマイルを浮かべる。

 

 

「これはとても体に良いものだ。いいか、俺がお前を一人前の武闘家にしてやる!

なにせ俺は勇者パーティ最強の武闘家、ハダマなんだからな!」

 

 

 

       ~fin~

 

 

 

 

 




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